「君との婚約を破棄する」と言われたら呪いが解けました ~呪われ令嬢は夜を支配する吸血鬼へと返り咲く~ (曇天紫苑)
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「君との婚約を破棄する」と言われたら呪いが解けました ~呪われ令嬢は夜を支配する吸血鬼へと返り咲く~
「キミとの婚約を破棄させて貰おう」
星のひしめく夜空の下、花畑の中で告げられたのは屈辱の宣言だった。
周囲には王子の配下である兵士達。囲まれ、逃げ場は失われている。
驚きはしない。そうなるのは、容易に想像がついていた。
「あまりにも罪深い。幾らキミが地位ある人間だからと言って、許すわけにはいかないぞ」
「待ってください! 私はこんな」彼女が王子の腕を掴む。
「良いんだ。キミが許せる人なのは分かっている。だが、私が許せない」王子の視線が、私に移る。「許せないんだ」
鋭い言葉を受け、身体が勝手に震えた。
……まあ、仕方が無いだろう。そうなるだけの事はした。
彼女への嫌がらせ、風説の流布、権力を使った威圧に、取り巻きを言葉で操って暴力行為に走らせた。ひどい時には食事に毒すら盛ったのだ。
この国の制度や常識を思えば、その様な人間は外道である。
婚約破棄されたとしても何一つ不思議ではない。
「そ、そのような!」だが、私はこう口にする。「わたくしはただ、貴方様の為に……!」
「黙れ! ……お前が犯した罪を思えば、今目の前に居る事すら罪深い!」
一喝されて身体が萎縮し、声が上手く出せない。涙が浮かんできた。
その涙がどんな感情から来たのかも分からない。
彼女が王子に抗議をしているが、小柄だからかしがみついている様にしか見えなかった。
いつもは花の中で嬉しそうに踊っているその足が、今は花びらを踏みつけにしていた。
「わ、私は本当に大丈夫ですから! そこまでしなくても……!」
「いや、私が納得いかないんだ。心配しなくても、彼女を処刑はしないさ」
なだめられつつも、彼女は納得できぬと抗議を続けている。
こちらを何度も見てはどこか心配そうな面持ちとなり、また王子へ食ってかかっていた。一度生死の境を彷徨った割には元気な物だ。私の役には何一つ立たないが。
善人ぶった顔を見ていると腹立たしかった。その魂を感じる度に憤怒がこみ上げて、状況を置いて口は開く。
「へ、平民風情がっ! 私を視界に入れるなど!」
「黙れ!」その大声で周囲の景色が歪む。魔力によるものだ。「黙れと、そう言ったはずだが? キミの発言は聞くに耐えない」
耳が腐りそうだ、と王子が小声で口にしている。流石にらしくない発言は抑え込んだらしい。
「でも、きっとダメなんですっ」
「いいや!」
彼女を抱きしめて、王子はキスをした。愛おしみながら、私へと見せつけるように。
長めのキスが終わり、彼が再び冷たい表情となった。
「彼女がキミの助命を願い続けなければ、キミを処刑したかったが……感謝するといい、キミの家とは、生涯幽閉という形で決着がついている」
「……う、嘘ですわ! お父様がそのような!」
「キミは敵を作りすぎた。勘違いしないで欲しいが、この子は一言だってどうにかしろとは言わなかったぞ……それが、余計に我慢ならん」
強烈な怒りが周囲に伝播し、どこか空間が赤色に染まり出す。
「私は悪くない。この平民が貴方様を狙っていた。きっと貴方を操って悦に浸っている。貴方は騙されているのだ」と。
そう主張しても、認められない。
王子は渾身の怒りを発露し、私を捉えていた。最初に会った頃は、愛など一生縁の無さそうな、ひどく冷たい男だった。
だが今では術も炎を使いこなし、一人の女性だけを全身全霊で愛する男になっていた。
「だ、だめです」
「安心してくれ。彼女には何もさせないよ」
「ダメなんです……」
彼女の弱々しい制止の声を背に、じり、じりと兵達が距離を詰めてくる。
用意周到な物で、中距離には魔法使いが控えており、我々の会話を油断なく睨み付けている。
私が抵抗すると思っているのだろうか。
「その、私は全然大丈夫ですから」
「だが、危険な陰謀に巻き込まれたのは確かだろう?」
「それは……そうですけど……でも、あの人を恨んでる訳じゃないんです。私は、貴方と一緒に居る時間があれば」
「私もだよ。だがね、さっきも言っただろう。我慢できないと。私に感情をくれた君の命を奪おうなどと、考えるだけでもおぞましいというのに……」
思わず彼女を、私の『恋敵』を睨み付けた。私の本心からの行動だった。
呪い殺さんばかりに感情をこめたが、奴は私から目を逸らさない。
忌々しい事に、この平民の女は心だけは達者で、めげなかった。その末に王子の心を愛で埋めたのだ。
「お、お前……その方に……平民の、学園の恥……お前ごときがおこがましい……恥知らずな女……」
言葉の羅列に王子はより不快げな表情となっていた。斬りかかって来ないのは理性を保っているからだ。
だが、この分では幽閉先で暗殺者が送られてくるだろう。
この結末に違和感はない。しかし、不服は不服で、まったくもって受け入れられない。
自分の意思が一切入らない身の破滅なんて、誰が歓迎できるものか。
「このような茶番に、私の時間を使わせるなんて……ふざけた真似を、私にこんな、馬鹿げた舞台に立たせるなど!!」
「何?」
王子が顔色を変えた。今までとは、少し違う。
「……あら?」
どこか戸惑いのある声音を受けて、やっと自分の言葉が理解できた。
「あら? ふむ、あらら?」
「貴様……一体、何が言いたい?」
思わず首を傾げてしまった。あんな恨み言は、口に出来るはずがない。
『口にする前に呪いで止められてしまう』筈なのだから。
「……罪を認めきれずに、狂ったのか?」
「ふん、ふざけた真似を口にするものではないわよ、青二才」
昔の口調を試してみると、全く問題なく滑らかに言葉が紡がれる。
修正も、制限もかけられていない。
「あら、あら、あら?」
「黙れっ」
「あら、あら? あら、あら、あらあらあら?」
「黙れと言ったのが聞こえないか!」
「あらあらあらあらあら? ふふ、ふふふふふふふふふふふッ!」
声が溢れてきた。
十八年! 十八年だ! 己が心の内をさらけだすのは!
……なんてことだ。笑い声もあの腐れた高笑いではなくなっているではないか!
「そうなのね、これが、そう!」腕を広げ、月の光を全身に浴びた。活力が身体を満たした。「婚約を破棄される! それが私の呪いの『隙』だったのね!」
呪い。私を無理矢理人間の身体に埋め込み、言動を制限させる呪い。
だが、そう。この時、呪いが綻んだ。
私の抵抗で弱まっていた呪いが、ここにきて、最後まで守り通していた隙を見せたのだ。
開放感で声が張る。およそ十八年ぶりに感情を震わせて喋った気がする。
「やっと……っ! やっとよ! やっと!」
「彼女を拘束するんだ!」
連中は混乱した素振りだが知ったことか。
すわ乱心かと兵どもが近づいてくる。そこそこの地位の魔法使いどもも急いで術を発動した。王子は剣を引き抜き、女が抱きついて止めていた。
こんな有象無象が、私に何をしようというのか!!
「ああ! 人生とは牢獄、運命とは我が呪い!」
思い切り腕で心臓を貫いてひねり出し、呪いを引きずり出して潰してやった。
即座に傷は再生し、力がみなぎり魂が吠える。
大賢者が国と己の全てを賭けた死闘の末に、全てを犠牲に発動した呪い。
今、ようやく完全な形で呪いは消えた。私が、潰したのだ。
「おさらば、我が……人生よ!」
気配が響き、視認できる寸前の圧力が周辺の全てを巻き込んだ。花が私の復活を祝福し、月明かりが喝采を送ってきた。
万に届かんばかりのコウモリの大群が身体から溢れかえって空を埋め尽くし、夜空が私の支配下となる。
闇が形を持ち、マントを生成した。大きな紋章をあしらったこの生地を背にしていると、身が引き締まる思いだった。
どこまでも人間であった肉体は瞬時にかつてのそれへと返り咲く。顔立ちはさほど変わらないが、髪は厄介な金の巻き毛が解け、癖のない銀に戻っていた。
両手を何度か握りしめ、その力を実感する。久しぶりの自分の身体は、非常に居心地が良いものだ。
「ようこそ、我が夜よ」
兵達は等しく崩れ落ちていた。私という存在格の発揮に耐えられる者は一人もなく、完全に気を失っている。
意識を保っているのは私だけ。いや、それに加えて目の前の二人だけだ。彼女と、彼だけが。
「はっ、はっ、はぁっ……」
「……流石ね」
「キミは、一体っ……なんなんだ!?」
剣を杖の代わりにしながら、彼はひどく混乱した声で問いかけてくる。
この男、決して凡ではない。いや、むしろ神がかった才気と努力に裏打ちされた力がある。封印されていた私と互角に渡り合えるのだから大した人だ。
今だって指が震えているが、それだけだった。一応、婚約者として認められるだけの男ではあったのだ。
「私は、夜」
「よ、夜だと……? ……まさかっ!?」
「そう。あなた方の知るところで言えば吸血鬼」
マントを翻し、悪趣味なドレスを燕尾服に作り替えた。
歯を見せて笑うのは好きではない。口元で弧を描き、仄に笑みを作った。
「くだらない呪いのお陰で随分と手こずったけれど、ようやっと解放されたわ」
「くっ……!」
「ふふ、ああ、王子様。いいえ、戦士よ。礼儀として私から出向きましょう」
一歩。
彼ら彼女らへ近づいた。それを妨げる者は誰一人として存在しない。
何人か立ち上がろうとしていたが、横目で視線を送ると再び気を失った。令嬢一人捕まえる為に準備された兵達では、意識を保つには実力不足。
二歩。
多少落胆させられる。本来の私を討伐する為に呼ばれた戦士達であれば、多少鈍ったとしても倒れる事は無かった。私に呪いをかけた奴に至っては鼻で笑っていた始末。あの腹立たしい面構えを忘れた事など一瞬たりともない。
三歩。
倒れた花を避けて土を踏み込んだ。その忌々しい賢者の面影を残す顔が、王子の隣でこちらをじっと見つめている。
「短い間でしたが、貴方との婚約者生活、楽しませていただきました。嫌いではなかったのよ?」
四歩。
王子が剣を油断なく構えて、私の挙動を全て観察している。見たければ好きに見ればいい。
五歩でようやく、腕が届く距離だ。
王子は、私を敵であるとはっきり認めていた。人間を罰する姿勢だった先ほどまでとは違い、討伐せねばならない怪物として。
このような視線も、懐かしい。このような表情で攻め込んでくる者を正面から潰したのは、一度や二度ではきかない。久方ぶりに私らしい事が出来ると思うと、年甲斐も無く胸が弾んだ。
一撃で仕留めても構わない。腕を上げ、弓のように腕を引き。
その時である。
王子と私の間に女が割って入り、私の腕を掴んだ!
「……」
「あら……っ!」
膂力に任せて腕ごと相手の身体を引っ張り、その身へ軽い突きを放った。
しかし、彼女は身を僅かに寄せて避けきり、空を切った私の腕を二の腕と腋の間で挟む。
一瞬、私の姿勢が崩れた。その隙を彼女は見逃さなかった。
「やあぁっ!」
彼女の瞳に、炎が宿る!
「……お見事!」とっさに身体を霧に変え、瞬間的に背後へ飛んだ。「やるわね」
再度人の形へ戻り、ふ、と息を吐いた。
遅れてしまえば、突きを返され胸を貫かれていたかもしれない。なるほどなるほど、間違いなく強い。
「……そんな抜け出し方はずるいです」
「これは私の身体の機能よ? 身体を霧に、四肢をコウモリに、魂を闇に溶かす。使える物を使って何か不満が?」
「それは、確かにそうですが」
彼女は二の腕や腋から血をぼたぼたと流していた。が、動じていない。魔法による防御が働いているとはいえ、小柄な女はこの瞬間のみ山の如しである。
両腕をだらりと下げているが、どこから攻めてもそれなりに対応するだろう。彼女の前世が、そうだったように。
「あなたはやっぱり、爪を隠していたのね」
「その、人前で使う機会が無かったので」
「……あなたを襲った連中が返り討ちにあったのは、そこの王子の仕業だと思っていたけれど。ひょっとして?」
「はい。私がぶっ飛ばしてやりました」
どこか自慢げに言い切る様は、私の知る彼女とは異なった。隠していた。いや、そういった面を表に出す必要が無かったのかもしれない。
顔立ちが見知った存在に近い分、そして魂が同じ分、余計に気になる者だ。
「予感はしていたわ、恐らく強いのではないかと。ええ、分かっていた。あなたの前世はかのご高名なお方。こんな呪いを……! 私にかけた張本人……!」
思い返した瞬間に憤怒が増して、ぎり、と握り込むと爪が手のひらに突き刺さった。
怒りの余り、暴れ回ってしまいそうだが、ぐっと堪えた。
獣であってはならない。理性と誇りあれ、胸を張らねばならないのだ。そうでなければ、一体誰が私に仕えるというのか
「……貴女が、本当はこんなことしたくないんじゃ無いかって、ずっと思っていました」
切なげな視線に、ほんの少しだけ怒りに水を浴びせられた。
鎮火はしない。今もなお、相応の報復をせよと告げている。
「気づいていたの?」
「はい。その、吸血鬼の国の事を先生が話していたの、覚えていますか?」
「そんな事もあったわね……だから?」
「あの時の苦しそうな顔が忘れられなくて。貴女の事はあまり嫌いになれなかったんです」
「そう言う割には、好きでも無さそうね?」
見られていたのか。呪いの上からでも漏れた激情の発露を。
彼女が目を伏せた。
「……ひどい事をされたのは本当ですから」
「ふふっ、確かに。確かにその通り。呪われていたからといって、別に私を許す必要はない」
「え、許す……? 特に恨んではいないですよ?」
脳天気な女なんだな、と改めて思う。
あれほど酷い目に遭わせたというのに、恨むどころか会話へ穏やかに応じているのだから
「どうしてだろう。私は貴女を嫌いになれなかった……罵倒される度に、毒を盛られる度に、なんて酷い事をさせられているんだろうって、そう思っていました」
「……あなた、前世の事を?」
全てを覚えていたというのか。その上で、私を利用していたと。
だが彼女は首を横へ振った。そして、ひどく悲しげな顔をした。
「何となく、というだけです」
「ふむ」
「貴女はとても哀れな人に見えました。可哀そうな人……」
「……へえ?」
瞬間、神速の手刀を走らせ、片腕を切り落とした。
「侮辱でしかないわ」
今度は、一切の容赦もしない。反応もさせない。
ぼとりと腕が落ち、王子は悲鳴ともつかない声をあげた。
そして凄まじい勢いで剣を握る。当然、私の行動の方が早い。
だが、私が動き出すより前に、彼女が王子の手を止めた。
「やめてくださいっ! あの人に手を出さないで」
「なっ……! だが!」
「……私は大丈夫だから。だから、動かないで!」
残った腕で剣を下ろさせ、その背で王子を抑え付けている。
ゆっくりとこちらを振り返った。悠然と直立し、流れる血など目もくれない。
血を垂れ流しているというのに、この落ち着きようはなんだ。あくまで単なる平民の筈なのだが、前世の影響だろうか。
痛み一つ漏らさない。歯を食いしばって、汗を浮かべてはいる。
だが僅かな声すら漏らさなかった。逃げようとすれば即座にこの場の命を刈り取るつもりだったが、それもない。
魔法の防御すら行わず、身を守る行動すら取らず、あっさり私の攻撃を許しているのも凄まじい胆力であった。
「そんな訳がないだろう! さあ早く逃げるんだ! ここは私が食い止める!」
ひどく憔悴しながらも、彼女の盾になり私に立ち向かってくる。
その身は隠しきれない恐怖があったが、それでも彼は王子であり、勇者であった。
だが、彼女に聞き入れる気は全くないようで、愛する者の勇気をただ無為にしている。
「夜の御方」
「私には名前があるけれど、まあ、教えても仕方ないわね」
「知っています。でも、こう呼ばれる方が好きじゃないですか?」
「……まあね」
こちらに微笑みかける所に、悪意は一つもない。
だからこそ私も今すぐ首を跳ね飛ばしたり、心臓を貫いたりはしないのだ。狙ってそう振る舞っているのであれば、かなりの演技だと言わざるを得ない。
私の気勢を削いだまま、彼女は問いかけてきた。
「あなたはきっと、ここに居る私達全員を殺し尽くすつもりでしょう?」
「あら、その通りよ」
当然のようにそうする予定だ。ここは敵地で、しかも敵の本拠地本陣近くでもある。残酷に、理性を持って滅ぼす事に何の迷いがあろうか。
しかし、王子はそう思っていなかったらしい。
「貴様、皆殺しにするつもりか……!」
「夜中に吸血鬼が現れて、人が死なずに済むとでも?」
このまま私が黙って帰るとでも考えていたのだろうか。かなり暢気な男だ。
ぽん、と手を叩く笑い声が聞こえる。
「ああやっぱり。そうなんですね。うん、ここまでやられて黙って帰るなんて、許せないですよね」
「……ええ、そうね」
冷酷な笑みを作る裏側で、調子を狂わされている自分を自覚する。
朗らかな調子から彼女は狂っているのではないかと疑ったが、その瞳はどこまでも正気だ。
さっとマントを振り、中からコウモリが羽ばたいた。私の一部である。解放すれば、逃げる間もなく館の中の人間まで全て死に絶える。人間の国との戦いに当たっては出来る限り恐怖を煽り、気勢を削がなくてはならなかった。そうしなければ、守れない物が多すぎる。
……呪われていたとはいえ、ここには思い出もあるのだが。
「敵国の王子とその恋人、それに護衛を皆殺し、というのは復活祝いには中々悪くないんじゃないかしら。これでも昔は世界で最も恐れられていた吸血鬼のつもりよ」
「そこを、私一人で済ませて貰いたいんです」
彼女は踏み込んできた。生命のある声に、勇気ある一歩。
このまま近づき、一気に血を吸い尽くして死を与え、その後全てを殺戮する。これは簡単だ。だが、それではいけない。片腕一つ落としても揺るがぬ意思に、耳は傾けなければならない。
「私を十八年もこんな茶番の詰め合わせに閉じ込め、特に愛してもいない男を取り合うなんて恥を晒させた後始末を、あなた一人で?」
「はい。殺してくださって結構です」
「ふむ。この場には他にも多くの人間が居るけれど……それでも、あなたの命一つで?」
「お願いします」
じっと見つめたままで、声はしっかりと誠意が籠もっている。
ようやく話が飲み込めたらしく、王子が騒ぎ出した。
「待て! 一体どうして、そんな話になる!?」
「私の前世が彼女に呪いをかけたからです。あの人の怒りは全て私が元なんですよ」
問いかけられても彼女は振り向かない。ひたすら私の姿を捉え続け、願いを口にしていた。
王子の悲痛な声を聞いても小揺るぎもしなかった。どうでもいいのだろうか。
「お願いできませんか?」
なるほど、本気で言っている。命などいらぬと。
どの道みな死ぬとはいえ、平然と、愛し合った男を放置して命を捨てに来ているのだ。
「ふむ……彼の事は愛していないの?」
「愛してますよ」
自信満々の断言に、私も思わず聞き入った。
「この人を愛しているのは間違いなく私です。だけど、私にとっては、誰かを呪って操って、その末に手に入れた幸せなんて……だから構いません」
「あなたの恋人はそう思ってないようだけれど」
彼女の前へ回り込み、王子は思い切り抱きしめた。剣も捨てて背中まで手を回し、そっと撫でている。私のことなど完璧に忘却の彼方だ。
あまりに強く抱きしめ過ぎて、彼女は顔をしかめていた。ただ、それ以上に嬉しそうだった。
「キミが死ぬ必要は無い! 私が行くさ、行くとも! これでも私には地位がある。そうだろう? この命で何とかしようじゃないか!」
私の方から顔は見えないが、恐らく、王子は本心からそう口にしている。
それが、いずれ国を背負う男の言葉か。無責任にも程がある。言葉にはしないものの、呆れかえるようだった。
物事を己の感情でしか計れない。その愛が故に何もかも捨ててしまえる愚かしさ。獣のように感情のまま叫ぶ姿。
……なぜ、悪い気がしないのか。
「私の命なら気にするな! 私が死んでも弟がいるんだ。分かっているだろう? 私よりずっと賢い弟だ。問題はない!」
「私は!」彼女はうめきながら答えた。「私は、こんな幸せは受け取れません。こんな、誰かを都合良く操っていたなんて! あの人がどんなに辛かったか!」
「それはキミが責任を負うべき事か!? 彼女を操っていたのはキミの前世であって、キミじゃないんだぞ!?」
私に背を向けてまで、王子は彼女を説得していた。
この様な状況で背後を襲う気はない。
だが、私のことなどすっかり忘れた風な背中を見ていると、どこかにあったかもしれない呪いの未練が小さく唇を噛んでいた。
「認めない、絶対に行かせないぞ、私は!」
「はい……分かってます。そういう貴方が好きです」
ふわり、と彼女は笑った。
王子の背に魔方陣が現れて、それが光ると、ぽん、という小さな音を立てた。
一瞬ビクリと王子の身体が震えたと同時に、彼は崩れ落ちた。
「まて、まってくれ、いかせない……死ぬな!」
「ごめんなさい……ワガママですが、通させてください」
「だめだ……行かないでくれ!」
無慈悲な二発目が王子を襲った。
今度は言葉も紡げず、花の中に寝かされた。傷一つつけず、見事に意識のみ飛ばしている。
術を組み上げ、瞬く間に発生させ、有無を言わさない。まさしく、私を呪った奴の手法である。
流石に修練の差は見て取れるが、その経験に裏打ちされた行使速度と流れるような術の選択は拍手するより他に無い。
そうやって小さく拍手を送ると、彼女は頭を下げてきた。
礼儀はいまいちだったが、感情がこもっている。呪われていた頃はここまで真摯な態度は見なかった。
「見事」
「……ありがとうございます」
顔を上げた彼女は、薄く笑っていた。
自分の恋人に攻撃を仕掛けて気絶させた割には、彼女の面持ちは凪いでいる。
柔らかな風が私達を撫でて、花を傾かせ、土を飛ばす。私の髪が背後で揺らめくのが分かった。何かの術で作られた風ではなかった。
「本当に動じないわね」
「はい。貴女のお陰ですよ?」
「私の?」
「それはもう、貴女から毎日のように嫌がらせを受けましたから。前々からいつか殺されると思ってましたし」
「……言うじゃないの」
「ふふ、はいっ。もちろん言います。言いたかったんですから」
なぜ、こんなにも穏やかな会話が成り立つのだろうか。
通常であれば逃げ道の一つくらい探るものだし、戦うのであれば隙くらい見つけようとする物だが、そういった振る舞いすらもない。
腕を落とされても私を哀れんでいるのであれば、ひどい勘違いだ。
しかしながら、彼女はそうではないと首を振った。
「言葉が溢れてくるんです。今までこうして面と向かって話せる機会、そんなに無かったじゃないですか。貴女は取り巻きの人達に囲まれていたし、話しかけても罵倒か嫌味しか帰って来なかった」
「そうね」
「ひょっとしたら、私の前世はあなたとこういう風に話がしたかったのかも」
「……の割には、私を愚かしく踊らせたけれども?」
どこか困り顔で、彼女が頷く。
「きっと性格のひどく悪い人だったんですよ、構われたがりで……」
「ああ、そういう奴だったわ」
「やっぱり。こんな呪い、酷すぎますよね」
ふん、と残った手で握り拳を作っている。
我慢強さも前世と変わらない。
私が頭を吹き飛ばし、身体を粉砕したというのに、魂だけになって戦い続けただけはある。
「私が仕掛けた呪いの責任です。だから、私がみんなを守らなきゃ」
「貴女と前世は関係ないでしょうに。ずいぶんな心意気ね……死ぬわよ」
「覚悟はできてます。何せきっと、二度目の人生ですから」
「悔いは?」
「あります。でも、命を使う時があるとすれば、今だと思いました!」
ばっと片腕を広げていた。何一つ、抵抗する姿勢が見当たらなかった。
「どうか、お願いします! 私の命で、この場に居る人達の命! 助けていただくことは、出来ないでしょうか!」
本当に、ごく自然に、彼女はこの場の全てより自分一人の方が価値があると思い上がっている。
呆れかえるほどの増上慢。だが、その意思は真実である。
「じっとしていなさい」
「はいっ……!」
私の言葉に彼女は頷き、直立して待った。顔も、腕も、全く動かず私を捉えていた。
目の前まで近づいても全く変わらない。動いているのは、腕の断面から流れ落ちる血だけだ。
「……」
落ちつつあったその血を、指で掬って舐めた。何年も血を飲んでいないからか、少量でも嬉しいものだ。
毒が仕掛けられていないのは見ればすぐに分かった。
この場に咲いた花と同じで穏やかだが、同時に若々しさと力強さが秘められている。
久しく手にした味わいを、口の中で踊らせ飲み干し、一息吐いた。
私が味見を追えるのを、彼女が待っている。僅かだが「美味しかったですか」と聞きたがっている様に見える。
答え代わりに彼女の首へ手を伸ばし、片手で鷲掴みにした。
指先の感覚が、私にとある確信を伝えた。
「あなた……?」
本当に小さく、触れなければ分からないほどに僅かだが、血の流れが恐怖と緊張、生への渇望を現している。
抑え付けて、顔色にすら出さなかったのか。
「う……っ、いつでも、どうぞ」
このまま力を入れれば彼女の首は折れて、死ぬ。肩から血の全てを吸い尽くしても死ぬ。
だけど、灼熱の瞳は大きく開かれ、動揺は欠片もない。肉体の怯えがまるで嘘のよう。
思えば、彼女の前世もこのような目をしていた。
未練はあるだろう。恋人を残して死ぬ事は苦痛だろう。
だが、その血に全てを内包しつつも、己の命を使う事に迷いはない。
何の変哲も無い顔と、平凡な性格。
だけど、いざ必要となれば現れる、熱く強い覚悟。
ひょっとすると、彼女に惹かれた男はこういう部分を理解していたのかもしれない。そう考えてみると、訳の分からない敗北感がやってきた。
種族としては負ける気などない。立場も、誇りも、力ある存在としても。
だが、恋愛では一枚上手を行かれたらしい。
呪われた茶番だというのに、私自身が、納得してしまっている。
……ああ。つまり私は。
「……ふ、ふふ、くふふ」
天空に向けて口を開いた。大口を開けて笑うなんて。品のない。
だが堪えられない。彼女の首から手を離し、腹を抱えて高笑いだ。
「アッハッハッハッハっー! アッハハハハ!」
しばらく笑い続けて、何とか落ち着かせた。
「ああ……良いでしょう! その誇りに幸あれ! すっかり見くびっていたわ!」
私の左腕が解けて闇色の液体になると、彼女の右腕の切断面を埋め尽くし、一本の腕へと変えた。
今度は私から呪いをかけてやる。その腕が彼女の誇りと意思を守るようにと。
「え、あのっ……?」
彼女は怪訝そうに首を傾け、私の表情を覗き込んでいた。
痛みはもうないらしく、復活した右腕を撫でていた。
「その意思に敬意を払って、貴女の命を奪わずにおきましょう」
「一人で生き残れって事ですか?」彼女が僅かに震えた。気持ちは分かる。それは恐ろしい事だ。
「ああ、勘違いさせたわね。貴女の気持ちを受け取って、八つ当たりはこの辺にしておく、と言ったのよ」
左腕を作り直して振って見せた。
かつての私であれば無慈悲な蹂躙を始めただろうが、もはやそのつもりはない。
「さて」堂々と、語りかける。「宿敵よ」
花々が月に照らされ、輝いている。青と白の花びらが淡い光を放つ中、私は彼女と向き合った。
「私は私のあるべき所に帰る。貴女もそうすればいい。自分の在るべき所へ、自我の赴くままに。強くなりなさい。暗殺にも、平民への風当たりにも負けないくらいに。強く、強く」
コウモリが足下から溢れた。私の周囲を飛び回り、徐々に視界が黒く染まっていく。
「そしてもしも、再び私の前に立ち塞がるというのなら……今度こそ、魂すらも滅ぼしてあげる」
黒が完全に私を包み込んだ瞬間、それらは収束して翼に変わった。
勢いのままに空へ飛び上がり、羽ばたく。そして一瞬空中で止まった。彼女が声をあげている。
「どこへ行くんですか!?」
「もちろん夜へ!」声を大きく。どこまでも響くように。「私の城へ!」
眼下の花畑が遠のいていく。彼女が王子を助け起こしながら、私の姿を目で追っていた。それくらいは見て取れた。
花畑の前にある館、私の住んでいた屋敷の方角、そして最後に学園を眺めた。
私の存在に気づき、誰かが騒いでいる。彼方から幾らかの術が届くが、片手で弾き飛ばした。逆にコウモリを砲弾にして軽く脅かし、逃げ惑う様を放って更に高くへ。
目を細め、そして瞑る。
十八年、最悪の経験だったがこれもまた因果であり、この過程をどの様な結果に繋げるかは私の今度によって決まるのだ。
きっかり三秒だけ記憶を反芻し、そして視界を開いた。
雄大なる夜空が私を迎え入れた。
こんなにも自分の命と力を感じるのは、一体何年ぶりだろう。
子供だった時代を思い出す。力はあっても、あの頃は日々が大変で、苦難の連続で、積み重ねていった全てが私を作り上げた。
城を手に入れた時もそれはそれは大変だった。やっと掃除が終わってさあ開城と思ったら、痩せた男の子が迷い込んできて。あの時の私はつい格好付けて、夜の支配者だなんて。
私を慕ってくれる姿に応えなきゃと思っていたら、心が育って。
気づいた時には、夜をその手に。
「くすっ」
ああ、懐かしい。
風が身体を引き裂くが、消し飛ぶ傍から再生していく。
本来であればこんな風如き防御は容易い。
けれど、全身で衝撃を感じるのが小気味よくて、ついそのまま受けてしまう。
臣下がまだ帰りを待っている。五感の全てがそう伝えてくる。
まだ国が残っているのも、腹心である彼が生きているのも知っている。嫌というほど聞かされた。あらゆる歴史を無粋な連中に悪し様に言われ、貶められ、屈辱極まった。私ですらそうなのだ。彼らはもっと苦痛だったろう。
どれほど痛かったか。苦しかったか。彼らがどんな気持ちで彼の地を守っているかを思うと、胸が張り裂けそうだった。
できればそのまま身体が飛び散り、コウモリとなって飛んで行けたら良かったのに。そう願った事も一度や二度ではなかった。
今、ようやっと私は飛べるのだ。
+
今日の集会を終えて、私は城内を歩んでいた。
塵一つなく完璧に清掃された床、蜘蛛の巣はあるが、丁寧に磨かれたそれは繊細な布細工の如き美しさである。
この光景は十八年前から僅かにも変わっていない。かつて、この城へ迷い込んだ私にとって、ここは神々の宮殿であった。だが、座するべき御方は王である。
昔はこの城の管理も、あの方はお一人でこなしていた。汚れきったこの城を、一人で美しく飾ったのだと。
その言葉をどこか自慢げに告げた相貌は、一瞬たりとも忘れた事などない。
「領民達の為に戦え。領地を守る為に生きなさい。私達は今、世界と戦っているのよ」
そんな風に私達を鼓舞していた彼女の声も、もうずいぶんと聞いていない。
今でもまるで色あせないその記憶は、一日に何度も私の頭で響いていた。
空の玉座の前に跪き、己が内から溢れる礼をその仕草にこめる。報告事項を誰も居ない場所へと告げて、ただ、静かに顔を下げ続けた。
時間通りに顔を上げてもそこには誰も居ない。もはや落胆にすら慣れてしまった。
玉座から離れて階段を下り、また廊下を歩む。バルコニーから月明かりが漏れていた。
こうして空を見る一時も、かつての私にとっては栄光の日々だった。
だがどうだろう。あの偉大な夜を失ってしまえば、もはやあの輝きを感じない。
主を失い、十八年。
何とか勢力圏を維持し、守っている。
今のところはまだ、侵略により領地を奪われるような事にはなっていない。
だが我々は死んでいた。
熱は失われ、ただ力と義務でのみここにある。
夜を生きる種族をお一人でまとめ上げ、そして我々を育て導いた御方。
悠久を生きた方が消えるなど想像もしていなかった。彼の瞬間より、我々は道を見失ったのだ。
情けない事だと思う。あれほど導いていただきながら、何一つ自分の足で歩めないなど。
本当に、情けない。
夜の光は雄大で、このような私の心にも幾ばくかの癒やしを与えてくれる。
太陽はあれほど眩しいというのに、どうだろうこの、優しさは。
遠く、遠い景色が闇の中に溶け込んでいた。
仄かな明かりの数々が生活を、領民の存在を思わせた。彼らの為にも、膝を屈するなど許されない。
だが、それでも、未来の希望が何も見えない。
歩みを止めて、ただ今を守り続けるしか道が無い。
どこかに我々の願いを聞き入れる者があるならば、どうか私達が行くべき先を教えて欲しいと。そう考えてしまった。
これではいけない、小さく首を振って、また空を見上げた。
そこに、何かがあった。
夜空の果てに蠢くものがいた。コウモリの大群だろうか。いや、そうではない。そうだが、そうではない。
夜だ。
深黒の闇の中で光がきらめき、夜空を支配している。十八年ぶりに見つけたその輝きが、視界の彼方に現れた。
言葉が出ない。夜がそこにある。涙が浮かぶ。
拭う間もなく飛び出した。執務を終えた通りがかりの狼人が目を剥くが、空を指さして叫んでやると、奴も同じ御方を目撃し、同じように叫んだ。泣いていた。
城の中の、あるいは領地の全てに向かって叫んだ。喉から血が噴き出さんばかりに。
夜が戻ってきた! 王が帰ってきた!
喝采せよ! 城主がご帰還なされるぞ!
何度も同じ事を叫び、そして城の至る所から私と同じ様な無様を晒す声が響いた。人間も、夜の種族達も関係なく。
バルコニーから身を乗り出し、よく目をこらして焼き付けた。
私の視線を感じ取ってくださったのか。途端に夜の塊が勢いを増して、またたく間に顔が見えるほど近づいていて。
あの御方は若き少女のように手を振り、深く微笑んでいた。
そして、闇夜の塊がバルコニーに着弾した。
風と音が衝撃となって城の全体に響き、意識が一瞬だけ飛んだ。
だが、きっと怪我をした者は居ない。
霧とコウモリがその身に集まり、城のあらゆる所から闇夜が集まって、やがてマントの中で一つの人型を作り上げる。
記憶通りの御方であった。
恐ろしく美しい銀の髪。真実、夜を支配するその姿。
月光を背に悠然と歩むその様。己の領地を見守る慈悲深き面持ち。間違えようもない。
夢ではないだろうか? 幻覚ではないだろうか? いいや、そんな筈が無い。身震いするほどの存在格は、ただ同じ場に居るだけで私を跪かせているのだから。
「我ら一同、この瞬間を一日千秋の思いでお待ちしておりましたっ……!」
ひれ伏し、嗚咽を抑え付けて声をあげた。見下ろす視線を一身に感じ、震え上げるほどの歓喜に包まれる。
あらゆる感覚が御方の存在を捉えている。
沸き立つ闇と霧が御方の内にて力となり、私にまで伝わってきた。
余りにも過大なお力。
ああ、これだ。魂が震える。身体もだ。
「……ふ」
その漏れ出す笑い声はかつてと変わらぬそれである。
私の顔を上げさせ、御方は膝を下ろしてしゃがみ込んだ。
「みっともない。私の右腕ともあろう男が」
「申し訳っ……ありませんっ……!」
「鼻水まで垂らして。涙もろくなったのね。ほらハンカチを使いなさい。知ってる? 人間の貴族社会ではこんな会話一つが権威の見せびらかしなの」
「そのような事をなさらずとも、王は偉大でございます」
「不覚を取って二十年近くも実質引退していた者が? 真に偉大なのは、ここを維持してのけた貴方達の方でしょうに」
視線を合わせた。鮮烈な深紅の瞳。
両肩をゆっくりと掴むと、御方は同じ高さで眼前にまでおいでになる。
そして、まるで同格の存在の様に敬意の籠もった手つきで、私の肩を撫でてくださった。
「よく、守ったわ。貴方達の努力とその意思に……深く感謝しましょう」
一言を耳にするだけで、十八年の全ての苦悩と苦難が幸福に変わった。
何か言わねばと言葉を探すも、出るのは泣き声と意味になっていない歓喜だけで、息をする度におかしな声が溢れ出す。
これほどの喜びの中で、満足に言葉を紡げる筈もない。
そんな私をしばらく眺めて、どこかぎこちなく微笑みかけてくださった。
「……ただいま」
照れるような、まるで少女のような仕草。
かつての御方よりどこか穏やかで、しかし、変わらず真摯に我々を見てくださる。
一瞬、ぽかんと口を開けてしまった。だが、言うべき事が見つかった。
「……お帰りなさいませっ!!」
押っ取り刀で飛び込んできた臣下共の泣き声を耳にしながら、私は意思を固めた。
今度こそ、彼女の導く先を見失わない。道を知り、先を目指す。
そう、私達は再び歩み出すのだ。この夜の御方と共に。
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