Fate/Arkham (にわかに信じがたい)
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序章
あ、あとまだFate シリーズを見始めて3ヶ月程度のにわかですが、一部の設定などは個人的な解釈だと受け取ったりして、暖かい目でくれると嬉しいです。
深夜、人の気配が完全に消えたアメリカの道路に車が一台走っていた。
その車はアメリカのエセックス郡北部の学術都市[アーカム]の道を一直線に走り抜けていく。
周囲は無人の野原や丘であり、人の気配はおろか動物の気配すらも無くまるで大洪水によって全ての生命が滅ぼされてしまい、自分だけがのうのうと生き残ってしまったのかというほどに寂しく感じられた。
しかし、走っている車はタクシーであり、現在人を乗せて運んでいるようなので、荒野の真ん中で1人という状態では無かった。
ニューヨークのある空港からタクシーに乗って5~6時間程ほぼ休み無しで車は走っており、話のネタが既に尽きているのか、運転手も乗客も無言の状態で、ただただアーカムへの道をひたすら進んでいる。
そうして荒野を進む最中、突然乗客が右腕を見ながら呟いた。
「もうそろそろでアーカムか。」
「はい、あと10~20分程で着きますが…どうしてお解りに?」
「令呪だ。マスターの資格である令呪が俺の腕に浮かび上がった。」
「本当ですか…!?。強力なサーヴァントを従える事ができるマスターの権限が浮かび上がったという事は…」
「あぁ、無事にマスターの資格を得ることが出来たようだ。」
「…本当にお覚悟はよろしいので?」
「あぁ…。恐らく俺が魔術師として生まれた時から、この運命は既に決まっていたのだろう。」
口を開いて出てきた言葉は運転手と乗客の関係ではない、いわば従者と主人の行う会話に近かった。
それでも会話の内容には不明な点が多かった。
「…それにしても、アーカムで聖杯戦争が行われるなんて本当なんでしょうか。」
「確かに噂程度で収まっていて怪しい。それに時計塔の魔術師達も噂を嘘りのものだと受け取っている。だが、たとえ嘘だとしても、それを求めるのが魔術師であると思わないか?」
「…ハァ。貴方は昔からそうですね。自身が魔術師でありたいと強く願う。お伽話のような魔術師と、我々は真逆の存在であるのに貴方はその2つを重ねて考えている…。魔術師らしくあろうとするあまりに魔術師らしく無くなるという矛盾した存在です。」
「そうだな。だが、俺はこの生き方を変えるつもりは毛頭ない。お前が言う矛盾というのが俺を形成しているのだ、それを取ってしまっては最早俺ではない。」
「…そうですか。あ、そろそろ着きますので準備をしてください。」
どこまでも頑固な方だ、と思いながらもそれを声には出さず運転手は違う言葉を言う。
頑固なのは彼自身解っている。それに、今更そのことについてつべこべ言っても仕方ない事である。
「あぁ、準備は出来てる。」
タクシーが一軒の家の前に止まった。
乗客がタクシーから降りて言った。
「ありがとう、ラルク。もう会うことも無いかもしれんな。」
「…吉報をお待ちしております、ジェイル。私に言えるのは、それだけです。」
そういうと、タクシーはすぐに去っていった。荷運びは既に終わっていて、タクシーに乗せていたのは手荷物だけである。
タクシーを見送りながらジェイルと呼ばれた男は考えていた。
「あいつにも迷惑をかけたな。俺の執事として、長い間面倒を見てくれた。」
ジェイルの家は魔術師の家系であり、代々その魔術が受け継がれてきた。
養子として引き取られたジェイルもその例外ではなく、魔術に関しての事を全て頭に叩き込まれた。
家に魔術刻印という物は無かった。ジェイルを引き取った時既に50代だった両親にはおそらく子供がいたのだろう。
その子供に受け継がれた魔術刻印は、子供の死によって積み重ねてきた全てが水泡に帰したという。
しかし、だからこそ、魔術刻印を受け継げない養子を育てるという考えができたのかもしれない。
たとえ魔術師の家系といえども、魔術回路は無くなる一方であるがしかし、もう一方で時たま一般人ながらも魔術回路を多く持つ人間もいる。その1人がジェイルだった。
両親よりも魔術回路が豊富にあったジェイルは、その精神が未熟な頃から魔術についての一切を頭に叩き込まれた事によって精神が歪んでしまったのだろう。自分自身歪んでいる事に気付いているが、その歪みが無くなれば自分は何を目標として生きていけばいいのだろう。というような自身の歪みがなくなる恐怖がすぐそこにあった。
そんな彼が、1番接したのがラルクだった。唯一無二の親友とも言える相手だったのだ。
ジェイルは心の中で再び彼に感謝しながら、背後にある家へと入る。
別荘として購入したジェイルの魔術工房である。
中古で買った家のため、アーカム特有の屋根の形をしていて、また所々ボロボロである。
二階建て+地下付きの一軒家は既に引越しが終わっており家具などもセットされている。
「…ったくラルクの奴め。どれだけ俺に恩を渡せば気がすむんだ。…ん、今の言い方は意味不明かもしれんな。次からは気をつけよう。」
そう言いながら上着を脱ぎハンガーにかけると、次は地下へと向かった。
「英霊召喚か…。しっかりとしたサーヴァントだといいんだがな…。」
そう言いながら地下にある英霊の召喚陣の前に立つ。
指先を噛み切り、召喚陣に血を垂らしながら呪文を唱え始める。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を、四方の門は閉じ、王冠より出で、王国へと至る三又路は循環せよ
閉じよ(満たせ)。
閉じよ(満たせ)。
閉じよ(満たせ)。
閉じよ(満たせ)。
閉じよ(満たせ)。
繰り返すつどに5度。
ただ満たされる刻を破却する。
ー告げる。
汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
瞬間、陣を循環していた血が輝きを増し、赤い閃光が地下室全体を覆った。
「お前が、俺のマスターか?」
サーヴァントが問いかけた。
因みにこの作品は元々身内でFate TRPGを作ってみてやってみようみたいな感じで作った結果。キャラクターの設定がなんかそれっぽくなったので書いてみた感じです。
あ、サーヴァントのクラスなどは次回。
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0日目〜聖杯戦争開始〜
これも全てあるサーヴァントのロールプレイがしにくいから…(言い訳)
「お前が、俺のマスターか?」
目の前に現れたサーヴァントは、奇妙な格好をしていた。
呼び出されたのは、東洋の、ある島国。和とも呼ばれる文化の服装を着こなす少女。その額には二本のツノが生え小さな悪魔のようだった。
こんな少女が聖杯戦争を生き残れるのかと、ジェイルは不思議に思うが、その考えはすぐに覆された。
体から溢れ出る濃密な魔力。それは、神代の頃にあった真エーテルにも勝るとも劣らない程なのでは無いだろうか。
「お前が俺のマスターかと聞いているんだ。」
現代では神そのものとも言えるかもしれないその濃密な魔力を受け、それに見惚れてしまったジェイルは、少女の言葉を聞き、ハッとする。
「あ、あぁ。俺がマスターだ。」
その溢れ出る力に怖気付きながらも、ジェイルははっきりと答える。
少女は返答に対し何かを感じたのか、満面の笑みでうんうんと頷く。
「ど、どうした。何がおかしい。」
「いや、ようやく俺を呼び出すようなマスターを見つけられたからな。俺はアーチャー。俺の真名は…っと。監視は居ないか?。」
「大丈夫。だと思うぞ。専門職で無いにしろ防音の結界ははったし。この部屋自体がもともと防音室だからな。」
「いや、そういう問題じゃないんだが…。聴覚ではなく、視覚で誰かが見ている。この気配。サーヴァントだ。」
「何だと!?。しかし、俺は感じないぞ…。」
「じゃあこの視線は俺にしか向けられていないようだな。ふむ、敵意は感じないが、試すような意思を感じる…。」
「そんな事がわかるとは…さすがサーヴァントだな。」
「マスター、呑気にしている場合ではないぞ。何者かはわからんが、俺たちの場所を知っているのだ。いつ攻められてもおかしくは無い。」
「あ、ああ。そうだな。」
ジェイルは、促されるまま、警戒態勢を強める。
ゆっくりと、階段を登りながらチョークを手に持つ。
「それが、マスターの武器。というわけか。」
その様子を見た少女は、感心しながらジェイルの前へと立つ。
「いや、これは非常用のチョークだ。ていうかお前、何で前に立つんだよ。」
「馬鹿者め。貴様、マスターが死んでしまえばもとも子も無いのだぞ。」
「あぁ、そうだったな。すまん。」
「ちゃんと気をつけておけば良い。」
ゆっくりと地下室の出入り口の扉が開く。
扉の隙間から周りを警戒する少女は、しばらく観察した後「大丈夫だ。この家の周りに敵は居ない」とマスターに合図をし、地下室を出た。
「どうやら敵では無いらしい。」
「何を言ってるんだ。というかお前さっきからめちゃくちゃだぞ?。敵に見られているだとか敵じゃ無いだとか。」
「解りにくい性格で悪かったな… 。だが、相手が敵では無いというのは本当かもしれん。」
「それは、どういう。」
「サーヴァントにはあらかじめ、聖杯戦争のルールがインストールされている。って言うのは知ってるよな。」
聖杯戦争のルールのインストール。それは聖杯戦争を行う上で、戦いの主軸となるサーヴァントだからこそ、大切な聖杯からのバックアップの1つでもあった。
「聖杯戦争やる上での大切なルールだからな。そりゃ、知ってる。だが、それがどう関係してるんだ?。」
「何者かは知らんが、そいつのメッセージがそのルールのようにして頭の中にインストールされている。」
それは、ありえない。ジェイルはそう言おうとして、気付く。
サーヴァントとは、人類史上にて重要な役割を担った人。である英雄達の霊。つまり英霊を使い魔として召喚したものである。
いかに聖杯戦争に挑む魔術師とて、その英霊一人一人の逸話を覚える事など出来はしないだろう。
その為、ジェイルが知らないだけであっても、そう言う事の出来るサーヴァントもいるのかもしれない。
目の前のサーヴァントの真名すら予想をする事の出来ないジェイルは尚更、そういったサーヴァントがいないとは言えない。
「そうか、そいつは何て言っているんだ?。」
「この感じだと、俺が通訳みたいになるのか…。」
少女は、全力で嫌そうな顔をする。
それはなんだか、自分が何かの仲介役となる事に対して嫌悪しているように見えた。
「…仕方無いってか。まぁ、ちょっとそいつと話してくるからマスターはここで待ってろよ。」
「おい、話が飛躍している。というか魔力供給が出来ないだろ?」
「その相手が直接呼んでんだ。俺一人で来いってな。それに俺は単独行動が出来る。…今更だが、クラスがアーチャーだからな。」
アーチャー、弓兵のクラススキルである単独行動は、マスターからの供給が断たれても、ある程度の戦闘が行えるアーチャーのスキルである。
だから少女は1人でも行けるのだが、ジェイルにはどうしても納得が出来ない。
「いくら1人で来いって言われたとしてもだ、勝ちに行くなら出来るだけ状況を確認しておきたいし、俺としては戦いの主軸であるサーヴァントをできるだけ温存したい。だから、どうしてもというなら行動を共にするのが一番だ。」
「それでも駄目だ。相手は多分、俺よりも遥かに格上だ。そんな所で襲撃されたとしたら、俺はお前を守り切る事は出来ない。」
「なら、俺をこの家に置いたままで行く方が断然リスクが少ないと。そう思った訳か。」
「魔術師が1番力を発揮できるのはその魔術師が住む家の中。なんだろう?。」
魔術師の工房がある場所は研究の秘匿という目的から、侵入者を必ず始末する仕組みになっている事が殆どだ。
彼女はその情報からジェイルの家の対侵入者用の機構を見抜いたのだろう。
「……わかった。言って来い。ただ必ず情報を持ち帰ってくれ。」
「あぁ、じゃあ。行ってくるぞマスター。」
そう言って彼女の姿が搔き消える。
霊体化をし、姿を隠したのだろう。
その証拠に、ジェイルはアーチャーの気配を捉えていた。
そうしてジェイルは変わらぬ表情で彼女を見送った。
ふと、何処からか現れた金色の粒子が、霊体化しているアーチャーを包む。
初めは数えられる程度だったその粒子は時間を経るごとに増加し、更に広くアーチャーを包んだ。
「どんな英霊だというのだ、あやつは…!。」
ある種の昂揚感を含んだその声は、黄金の粒子が含む異空へと消えていく。
「お、おい待て!。」
アーチャーの気配が声の様に黄金の粒子に呑まれかかっている事にジェイルは気付き彼女を引き戻そうと手を伸ばすが、時既に遅し。間に合わずその手は虚空を掴んだ。
「クソッ。いきなりアーチャーがいなくてなっちまったし。何がなんだかわかんねぇ…。」
「ここは……!」
目を開くと、見渡す限りの黄金。
先程自らの体を包み込んだ黄金の粒子にも引けを取らないどころか、それを超える程の輝きを放つ黄金が、目の前の景色を埋め尽くしていた。
黄金で出来た煌びやかな杯や装飾の無い、しかし単純な美を含む武器群、天を貫く様な輝きを放つ鎖などが、きちんと整理され展示されている。
宝物庫。そう形容するしか無いような空間であった。
「ふむふむ。」
中には中国の方天戟や、日本の刀なども飾られており、この宝物庫の主人が、かなりのコレクターである事がうかがえた。
「うむ?」
ふと隣を見ると、武器とも関係無い物が置いてあった。
現代でいうコンピュータやバイクなども、しっかりと並べられて置いてある。
その列は、宝物庫果てまで並べられていて、この宝物庫には、人類が獲得した全ての叡智が集まっているのでは無いかと思える程である。
「ふむ。これがあいつの宝具か…。」
その事には、感嘆するしかない。人が神をも超える威光を持つ宝物庫を作り上げるなど。アーチャーのいた時代では考えられなかった。
不意に気配を感じ、アーチャーが振り向く。
広がる黄金の空間の中心あたり。
そこに7つの黄金の粒子が現れた。
その全てが敵であろうサーヴァントの気配である。
おそらく、その内1つが今回の監督役として聖杯に召喚されたルーラーであると考えられる。
直後、景色が急激に変化する。
周りに金色の壁がせり上がり、四方への視界を断絶させた。
その為、視線は自然と壁の無い上方向へと向かう。
そこには、1人の美丈夫が当然のように空に立ち、こちらを見下ろしていた。
黄金と遜色ない綺麗さ、そして黄金にはない流麗さ。その両方を含んだ絹のローブを羽織るその男は、圧倒的なカリスマを以って自然とアーチャーを威圧した。
何故か、すぐにでも彼を敬服してしまいたいという気持ちを駆り立たされる呪いにも似たカリスマ。それはおそらく壁の向こうにいるだろうほかのサーヴァントの全てが威圧されているだろう。
たとえカリスマがなかろうと、その戦闘力はほかのサーヴァントの追随を許さず。オールバックにした微塵の汚れも無い金髪と、その赤い双眸が、自然と周りを引き寄せ、魅了しただろう。
「ふむ。面子はまぁまぁか…。貴様らに我が財をくれてやるつもりは無い…が、取り敢えず観戦は余興程度にはなるだろうな。それに、なかなか面白い願いを持った愚輩がいるかも知れん。」
そのサーヴァントの真名は英雄王ギルガメッシュ。
それは、頭にインストールされた情報に書かれてあったクラスルーラーの英霊であった。
聖堂協会の手が回っていないこのアーカムでの、聖杯に呼ばれた"監督役"であるらしい。
おそらくそれは他のサーヴァントも知っているのだろう。
「さて、ここに貴様らを呼んだ理由だが…。ルーラーとして、聖杯戦争の始まりをここで宣言しようと思ってな。」
サーヴァント七人しか聞いていない中で、宣言しようと恐らく意味は無いだろう。なにより、狂化したサーヴァントがこのルーラーが話したことを、マスターに伝える事が出来るのかというのが気になるところである。
ルーラーは周りを一度見渡すと、
「異論は無いな。では、これより聖杯戦争の儀式を執り行う事を宣言したい、のだが、生憎と我も召喚されたばかりなのか、この体が馴染んでいないため、この戦いの後片付け、つまり神秘の秘匿が出来ない状況にある。そのため、開始は明日の夜にさせてもらう。」
その事に異論があるサーヴァントなどはいなかった。
神秘が衆目に晒される場合、それは神秘ではなくなる。
つまり神秘の持つ力が弱くなるのだ。聖杯とてそれは例外ではない。
万能の願望器である聖杯の神秘が薄まると、聖杯の叶えられる願いに制限ができてしまうほか、聖杯の補助があり、無事召喚されたサーヴァント達にもそれぞれ影響が出るだろう。
バーサーカーだとしても、他のサーヴァントにしてもこれを理解出来なかった者は居ないだろう。
「では、召喚され、ここに集いし英雄達よ、各々のマスターに伝えておくがよい。せいぜい我を楽しませろ。とな。」
無理である、満ち足りていて尚何処か空虚であるこの男を楽しませる事には相当な苦労と力が必要だろう。
それこそ、特別なサーヴァントが召喚されていない限りは。
ふと腕を見ると、黄金色の粒子によって包まれていた。
その粒子は先程とは違い、渦をなし、急速に体を飲み込んでいく。
やがて、その渦がアーチャーを完全に飲み込むと同時に、他のサーヴァントもまた、粒子に呑まれ消え、ルーラーのみがその場に残っていた。
「うむ?」
アーチャーが金色の粒子と共にジェイルの家へと戻ってくると何故かジェイルは床に仰向けのような状況で倒れ込んでいた。まるで何かに驚いたかのような姿勢だ。
「どうしたんだ?マスターよ。なんで倒れてんだ。」
「いや、お前がいきなり出てくるからだろ。」
その状態のまま、ジェイルは返した。
「あぁなるほど、驚いたというわけか。マスターは意外と面白いのだな。」
「まぁ、そうなんだが……。」
「なんだ、言い返してこないとは、意外とつまらんかも知れないな。」
「どっちなんだよ。」
「どっちなんだろうな?」
アーチャーは嬉しそうに笑った。
ギルガメッシュはめんどくさい。
……ルーラーギルとかいそう。
あ、見た目的にはキャスターギルみたいな感じ?ですかね。
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0日目〜動き〜
「そういえばアーチャー。戦闘は明日からだったよな?。」
話が終わり、寝ようとするのかと思えば、ジェイルは不意にそうアーチャーに聞く。
「まぁ、そう言われたが……。」
「じゃあ取り敢えず、使い魔を放とう。偵察ならありだろう?」
「確かにそうだが、今更放つのか。というか、使い魔なんぞ既に放った後だと思ってたぞ。」
魔術師にとって使い魔を使役する事は、ある意味呼吸に等しい行為であり、聖杯戦争ならなおさらである。偵察から護衛まで何でもござれの使い魔を使うのは常道である。
「……すまない。」
「はぁ…」
アーチャーはやれやれ、といった風にため息をついた。
こんなマスターのもとで、聖杯まで辿り着くことは出来るのかというのが不安である。
「まぁ、今燕を1匹放った。取り敢えずアーカムシティのイーストタウンに向かわせておく。」
アーカムには、ノースサイド、イーストタウン、ダウンタウン、商業地区、リバータウン、キャンパス、フレンチヒル、アップタウン、サウスサイドの9つの地区があり、イーストタウンは、今は寂れて貧しい地域となっているが、数代前へ遡ると、上流階級の人々が住んでいた地区である。
そのため、この土地に住み着く魔術師の家は、おそらくこの地域にあるだろう。
そう考えて、使い魔を空に放った。
「あの鳥は……。燕か?」
アーチャーが呟く。
ジェイルが飛ばした使い魔は、諜報に重宝するようなコウモリなどではなく、燕という北半球に主に生息する鳥であり、日本では、益鳥として所々で愛されるような鳥である。
「あぁ、「燕は、急旋回に優れ、魔術師の秘奥とも言われる固有結界。それと同じ事象を剣のみで起こす力が無ければ、仕留める事は出来ない」なんてことを言ってラルクは他の鳥を使い魔にする事を断固拒否していた。」
時々、良い思い出を思い出し苦笑しながら、ジェイルは語る。
この男は本当に魔術師なのだろうかと、アーチャーは思う。
というかラルクとは誰の事なのだろうとも彼女は思った。
「よっと、視界同調……完了。操作可能、確認っと。よし、イーストタウンに全速前進だ!ツバメ!。」
「せっかくなんだから名前でもつけとけば良いものを……。ツバメはひどいだろうに。」
使い魔を操るジェイルとは、正反対に、アーチャーは暇であった。
何もする事、出来る事がない今の状況は、彼女にとって精神的に苦痛であった。
しばらく無言の時が続き、そうして、我慢しきれなくなったアーチャーが口を開いた。
「なぁ、マスターよ。暇なんだが、やる事はなくて良いから、何か暇を潰せる物を持ってないか?。」
「そんな物無い。…筈だ。ただ、ラルクが勝手に荷物に入れているかも知れないが…。」
「ふむ、仕方ないな。じゃあ偵察が終わるまで大人しくしてるとしよう。」
そう言うと、彼女は霊体化し、何処かへと消えていった。
ジェイルは再び集中し、燕の視覚や操作に意識を傾けた。
みると、燕は現在ジェイルが陣取っている地区であるアップタウンと、目指すイーストタウンのちょうど中間に位置するミスカトニック川のちょうど真上を飛行していた。
対岸同士を繋ぐ三本の大きな橋には、深夜なためなのか人の気配など露ほども無く、アーカム特有の不気味な静寂が辺りを支配している。
その不気味さに若干気圧されながらも、彼はそのままイーストタウンへと直行する。
「この辺りか……」
しばらく経ち、ようやくイーストタウンの上空へと燕が到達する。
イーストタウンは、やはり静かである。
橋と比べ、人通りは多いが、その大半が怪しげな姿をした人間であり、中には体の一部を失った一団がぞろぞろと動いていたりもしている。
家の過半数は古びた館であり、その暗がりでは、背徳的な賭博や宗教、果てには名状するのもおぞましいような行為が日夜繰り広げられているだろうということが感じられた。
「アーカムってやっぱり不気味だな……」
その光景を見、想像力を働かせてしまった彼はつい、そう口にする。
そして「これは一生かかっても慣れることは無いだろう」と、付け加えた。
そうしてしばらく飛行していると、不意に、ある館の地面が光った。
古びた館が立ち並ぶ治安の悪い地域であるにも関わらず、しっかりと手入れの行き届いた庭園に、蔦も貼らない綺麗な館に対しては、異質感を拭うことが出来なかった。
そうして1秒もしない内に何らかの物体が姿を見せる。
地面から打ち出されたであろうその金属塊は、刃だった。
その先端は燕の中心を狙っていた。
咄嗟に旋回し、回避をしようとするも、投擲されたその刃は回避する事をまるで予測していたかのように燕の胴へと命中し、視界が途切れる。
共有していた感覚にはあり得ない程の衝撃が走り、その痛みに思わず膝をついた。
「あれが…サーヴァントの戦闘能力か…。」
噂程度には聞いていたものの、想像をはるかに超える強さであった。
だがしかし、最後に見た投擲されたあの刃、それは恐らくあのサーヴァントの宝具であろう。
であるとすれば、剣を扱うセイバー、それか暗殺が得意なアサシンが妥当だろう。
「お、どうした?。いきなり床に膝をついて…。まさか、攻撃でもされた訳ではあるまい。」
アーチャーが再び姿を現し、ジェイルに問う。
「いや、燕は潰された。視界が途切れる直前、刃が見えた。
恐らくイーストタウンの地主のサーヴァントのクラスは、セイバーかもしくはアサシンだろう。」
「なんと、燕がやられ、サーヴァントがどちらかと。で、刃はどのような形をしていたのだ?。」
「口で説明をするのは難しいな…。」
そう言いながら彼は、片付け途中の自分のバッグから薄く四角い物を取り出した。
一般的にノートパソコンと呼ばれるそれは、魔術師にとっては使うことのない、科学の結晶である。
「これはノートパソコンという物だが、知ってるか?。」
「原理はわからんが使い方ぐらいはわかる。その文字を叩けばいいのだろう?。」
「それは合っているのか、間違っているのか判断しづらいところだな。まぁ、そうだな。」
そう言って彼はデュランダルと検索にかけ、1枚の画像をネットから取り出した。
「恐らくこの剣だろう。」
「ふむ、デュランダルか…。俺は極東のサーヴァントであるため、ようわからん。」
「そうか、デュランダルといえば有名な名剣らしい。使い手は、その剣を天使に授けられた、『シャルル王』さらにそのシャルル王からそれを受け取った騎士『ローラン』そして、その剣の元の使い手だったとされるギリシャの英雄『ヘクトール』。その三人だろう。クラスはセイバー。最優と呼ばれるクラスだろう。たとえどの英雄だろうと油断はできない。」
「しかし、1人だけでも英霊のヒントが得られて良かった。ということか。それにしてもお主、聖杯戦争について知らない事が多い癖に令呪や最優のセイバーについては知っているなど知識が偏ってはいないか?。」
アーチャーがジェイルをギッと睨む。
「聖杯戦争に関してはちょっと日記を読んだだけだからな。」
「日記?。そんな物がどうして…」
「うちの義祖父の日記だよ。義祖父はとある亜種聖杯戦争に参加した。その時の日記を読んだんだ。うちの義祖父は最優であるセイバーを呼び出し、六体のサーヴァントの戦いの中で見事に勝ち抜いた。その結果てに入ったのは小規模の魔力リソースだったとかなんとか。そのリソースがどうなったのかは知らないが、聖杯戦争の大まかなルールはそれで掴めた。」
「ほう、その程度には知識があるのに覚悟も無いままに聖杯戦争に参加するなど、随分とバカじゃないか。……そういえば、マスターの願いを聞いていなかったな。教えてくれても良いのではないか?。」
「魔術刻印の復活だ。」
「その程度か…。折角なのだからもっとビックな夢を持って欲しいぞ。」
「その程度って言うなよ…。うちの家は魔術刻印を失ってしまってな。だから俺は魔術師の養子になることになった。養子になる前はそこそこ貧しかったからな。義理とはいえ両親にそれなりの孝行もしたい。だから、俺が水泡に帰してしまった刻印を再び家に帰したい。」
「まぁ、それなりだな。」
「そうか……そう言うお前はどうなんだ?そんなに言うんだったらちゃんとした目的があるんだろう?。」
「げっ」
アーチャーは明らかにしまったという顔をしてジェイルを見る。実際、彼女にははっきりとした目的が無い。人間を見ているだけでも楽しめる。というのは極論だが、彼女はそういった存在なのである。
「俺の目的はもう半ば達成されたも同然だ。というわけで聖杯にかける大層な願いは無い。」
「なんだよそれ。つまりもし俺たちが勝っても聖杯は下らないことに使われる訳だな。勿体無いな。」
「それもそれで良いじゃ無いか。神秘が薄れた今、聖杯など役には立たんし、何より世界を壊すような願いを持つような奴らに渡すよりはマシだろ。」
「そう願う奴なんていんのかね。というかそんな破壊願望なんてすぐ破滅するだろう。」
「そういえばマスター。参加者にそういった願望がある場合。聖杯はそれを察知してルーラーと呼ばれるサーヴァントを呼び出すらしい。」
「そういえば、この聖杯戦争にもルーラーがいたな。つまり、今回の聖杯戦争に、聖杯が危険だと判断した人物が紛れ込んでいると。」
「そういう事だ。気をつけておく事だ。」
「あぁ、忠告感謝するよ。今日はもうやれる事は無い。寝るか。」
そう言って、彼は二階にある寝室へと向かった。
◇アーカムシティの北東部[イーストタウン]
深い静寂に包まれたとある館の中。
深い暗闇で、騎士らしき男と、小太りの男性が喋っていた。
「まさか使い魔を寄越してくるとはねぇ、禁じられたのは戦闘だけだったけども、それでも偵察してくるとは思ってなかったわ。」
「そうか、使い魔が来たか。これは明日の夜程に乗り込んで来る可能性もあるな。しっかりと防衛を頼んだ。」
「へいへいマスター。しかし防衛だけでいいんで?。」
「勿論だ。今回の聖杯戦争の序盤は生き残る事が目的の1つだからな。」
夜はだんだんと更けていく。
空に浮かぶ満月は何かを祝福しているように感じられた。
次回も遅れてしまうと思います。
申し訳ございません。
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