いずれ至る、極晃星に (馬の人。)
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黄昏/Twilight

英雄ならばできる。この程度の試練はたやすく乗り越えよう。

まだだ。まだ高く、もっと高く。
我が英雄は、己を超えて覇者となるのだ。
この身に半端は許されぬ。
英雄を磨くのは、立ちふさがる試練の大きさこそなれば。
この体躯、喜びと共に醜き巨人(カミ)となり果てようぞ。


いざ英雄よ、この暴君を討ち果たせ。
いかな歴史、神話であろうともこの身を越すこと許さじ。
わが覇道を踏み越え行くのは、祝福の英雄のみなのだ。
巨人の屍を切り捨てて、いざ行けよ神統べる世界へと。
神々しいほどの邪悪(ヤミ)は、輝きを放ち歴史へと刻まれる。
世界は浄化の(ねつ)を浴び、その身を覆う(かね)を焼き払う。
現れし黄金(こがね)の時代を、次代へと受け継ごう。

ゆえに、わが運命の名はガイア-Ω。
巨神の時代の終わりを示すものなり。


――太陽の書・英雄審判編より抜粋





 

 

「大いなる神」ウラーノスに挑むのは、人世界最強の一人だけ。

それは最初から決めていたことだった。

 

何せあちらは黒幕、下種な手段など朝飯前だろうし、

前世知識(ラノベ)を参考にすると仲間を蹂躙される→怒りから主人公覚醒の、

いわばお約束の発動条件が整ってしまう。

 

―そしてなにより、俺と英雄(グレイ)以外は戦力になれない。

 

ここまでは多対多の戦場が多かったために、

手が足りないところを補ってもらうことも多かった戦友たちだが、

申し訳ないながら1対1となれば戦力差が隔絶しすぎている。

 

ならば二人で戦えばいいじゃないのかと思う人もいるだろうが、

考えても見てほしい。主人公と、その兄が、二人で神に立ち向かう。

 

―特大の死亡フラグである(俺の)。

 

確実に弟をかばって、もしくは捨て身の一撃を放ってから

遺言を残して死亡し、主人公の覚醒を促すとしか思えない。

 

踏み台ならバッチコイだが、さすがに生贄はノーサンキュー。

 

ならば、ここで最後の踏み台として仕事を果たし、

死にかけながらも決戦からフェードアウト、

EDでその後の活躍が描かれる…というライバルルートを通るしかない!

 

そんなわけで、俺は英雄たる弟に人間族最強を決めようと持ち掛けるのである。

悪いな、弟よ。このイベントは強制戦闘だ。

そしてお前(シュジンコウ)が勝つまでコンティニューする、確定勝利のイベント戦である。

なお、難易度は狂気的(ルナティック)

これが俺の踏み台人生の集大成となるのだろうし、

出し惜しみなしで奥の手を出し切るつもりである。

 

 

 

 

周囲は切り立った崖、草木の一本も生えない荒野。

どちらから誘うでもなく、いつか道を違えたはずの兄弟は、

運命に導かれるように相まみえていた。

 

 

「行くぞ、シルバー。」

「――いや、今こそこう呼ばせてくれ……グレイ(我が弟)

 

「あぁ……兄さん」

 

ついに再会した兄弟。しかしながら絡み合う運命は、

二人の英雄に手を取り合うことを許さない。

 

ただ、互いの意思を確かめ合うよう剣を構えた。

 

 

 

「お待ちくださいお兄様!二人が争うことなどありません!」

 

「そうですシルバー!私たちに力が足りないのはわかっています……

ですがそれでも、お二人で力を合わせれば大いなる神にだって!」

 

かけられる優しい言葉に、しかし二人は頷かない。

 

「下がっていろ……二人とも」

 

「心配かけてごめん。でも、あの力に対抗するには協力じゃ足りないんだ。

 どこまでも絶対的な、無二の力」

 

「そう、それこそが神の支配に抗う唯一の手段」

 

「ゆえに」「だから」

 

ああ、決めたからには――

 

「「"勝つ"のは、俺だ!」」

 

――果て無く、征くのみ。

 

 

「来いっカオス!」

 

「えぇ、行きましょうグレイ。あなたの憧れに、今こそ追いつく時だわ。」

 

「ああ!俺はもう、憧れから目をそらさない!」

「ずっとずっと、兄さんが羨ましかった、妬ましかった!」

「俺が手に入れられなかったもの、失ったもの、全部掴んで離さない兄さんが!」

 

「でも今は、カオス(こいつ)がいる」

「俺は一人じゃ何もできない、弱いままだ。」

「けど、もう一人じゃない。ずっとみんなが支えてくれている」

「だから今こそ、兄さん(理想)を超えてみせる!」

 

(正直貴方の力も大概なのだけれど…)

「その意気よ、グレイ。」

「私たちの絆、見せつけてやりましょう?」

 

 

 

「原初の精霊か……我が弟が世話になったな」

 

世界を創造した大いなる神、その身の片割れ。

二分されたとはいえ、その力はほかに比肩するものがない。

 

正しく形容する言葉などありはしない、

圧倒的な存在感と魔力の支配。

 

そこに在るだけで、この場すべてを掌握するほどの絶対的な力。

 

 

「だが……」

 

――しかし、この男に限って言えば、臆する理由になどなりはしない。

  男が恐れるのは唯一、今まで礎になった者たちに背くこと。

  すなわち、選んだ道を違えることにほかならない――

 

「この道を譲るわけにはいかん。"勝つ"のは俺だ。来るがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦端を拓いたのは、同時。

 

 

宇宙へ響け英雄譚(heiß,warm)

 

撃砲よ、輝星を呑め(Mk.Chaos)

 

輝く太陽を貫いて!(  will fortis  )

 

混沌之型!( Canonen )

 

 

銀河を貫く焔と、総てを飲み込む混沌の渦。

その衝突は、荒野に深き断層を刻み、雲をかき消し。

 

互いの力量を知るのに十分な衝撃を発揮し――

両者は歓喜に端正な顔を歪ませ、観戦している者たちはドン引いていた。

 

(いやいやいやいや絶ッ対におかしいですわお兄様!)

 

(その力、十二分に知っているはずでしたが…やはりこの二人は次元が違いすぎます……。)

 

(相殺?噓でしょう!?今の一撃には四大精霊すら吹き飛ばす威力を込めたはずなのに……!)

 

己が全力を出し切った一撃も、しかし目の前の英雄を倒すには至らない。

故に負けを認める、諦める、道を曲げる……

 

 

 

 

――総じて、否。

 

「さすがだグレイ……お前はいつも、俺の想像を超えていく……だが!」

「さすがは兄さん……俺とカオスの全力を正面から断ち切るなんて!でも!」

 

「「まだだ(・・・)!!」」

 

 

両者は互いを認め合い、同時に覚醒(・・)を果たす。

 

限界など、意志と気合で越えていけると信じぬくその姿はまさに光の英雄(ドレイ)

しかし人間である以上は持てる力にも限界があり。

初撃に全力を込めた以上、消耗は激しく、星の出力は当然のごとく縮小の一途を辿る……

 

 

 

 

――断じて、否。

 

そんな常識など知ったことかとばかりに心の炉に魂をくべ、

精神力が総て出し尽くしたはずの身体を秒単位で補強し、書き換え――

 

踏み込んだのは全く同時、音を置き去りに距離を詰めた二人は技にもならぬ、

しかし生涯最高の一撃を叩きつける。

 

 

「ぐっ……!」「がぁっ!」

 

―硝子がひび割れるような、甲高くもどこか悲哀を感じさせる音が響く。

―同時に手指は砕け、衝撃で眼球は潰れ、骨格は歪み。

―もし医学の心得があるものが見れば、瞬時に再起不能と判断するほどの損傷……

 

 

 

 

 

 

 

――いいや(・・・)()

 

骨折?

失明?

だからどうした(・・・・・・)

 

気合を込めれば体は動く。ならばそれ以外など総じて些末。

未来を目指して歩む限り、人の可能性は無限大なのだ。

 

――すべてはこの心ひとつ!

 

――勝利をこの手に掴むため!

 

繰り出す剣戟は、放たれる光に比例するように威力を増し、

その余波だけで周囲に絶大な破壊をまき散らしている。

 

「破ァッ!」

ウルカヌスが光すら両断せんとばかりに凄惨なひと振りを放てば、

「疾ッ!」

グレイは己が(うち)の光と闇を引きずり出し、鮮烈な二刀で迎え撃つ。

 

 

爆発的に膨れ上がる魔力が、周囲を書き換えてゆく。

 

広がるのは両者の銀河(法則)

 

都合十合も交えただろうか。

 

輝きを増す英雄たちの戦場はすでに荒野より、森羅万象を意志で塗りつぶす

 

――支配の争いへと移り変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

必要なのは、物理法則を覆すほどの意志力。

そして、比翼が対となり、同じ願いを抱くこと。

 

――今ならできる、と確信し、その言葉を告げた。

 

「天征せよ、我が守護星。鋼を銀河に刻まんがため。」

 

 

――あぁ、アレについてか。別に示し合わせたわけではないさ。

  ただ、(アイツ)ならついてくる、俺なんか越えていく、と確信だけがあったんだ。

 

 

「荘厳な太陽(ホノオ)を目指し、我が英雄は天駆けた。

 太陽(ホシ)が掲げる覇者の王冠。英雄は武功とともに、汝の覇道を奪い去る。

 

 ――約束された末路にしかし、嘆きも恐れもありはしない。」

 

「天に煌めく神話こそ、今も気高きわが憧憬。

 勝利の光で天地を照らせ。清廉なる祈りとともに、新たな時代が訪れる。」

 

 

――あの時の記憶?あれは教えてもらったわけじゃないんだ。

  ただ、その背中が導いてくれたような気がした。

  ついてこれるか?ってさ。

――絶対あの場に私、いらなかったわよね……。

 

 「なお燃え盛れ、不滅のヘリオス!

  恒星(ホシ)は輝き尽きても我が憧れ、我が先導(シルベ)、我が誇り。

  その焔は、この胸で永遠に燃え続けよう。」

 

「是非もなし――さらば英雄、我が半身。穢れ総てよ、永劫我が(うち)で死に絶えるがいい。」

 

神界(オリュンポス)を統べるが如く、銀河に輝けヘラクレス!

 果てなき神話(タビジ)を描き出せ!」

 

「「巨神の最期(ティタノマキア)は、此処にある。」」

 

  

「「超新星(Metalnova)

 

  冥冥煌煌、統べて臨めよ皇の御階(Exceeding Sphere Ruler)!!」」

 

瞬間、奔る光は戦場すべてを呑み込み。

 

天地万物はたった二人の英雄に敗北し、

物理法則は上書きされ、相対性理論(運命)は崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

――極晃星が降り立つ。

 

共鳴する感情は、英雄に認められる自分でありたい。

 

創世された輝く力は星を統べるもの、すなわち星辰征奏者。

 

願いは、自分が憧れる英雄を銀河へ知らしめたい。

 

その勝利(こたえ)とは、どこまでも高い踏み台()となることで、

 

自らを超えていく英雄を輝かせる光の道となること。

 

互いを英雄だと認め合った二人の星は、共鳴しあい、高めあいながらも

決して道が交わることなく天へと駆け抜けていく。

 

 

しかし、この極晃は大いなる神との戦いにおいて、切り札とはなりえない。

 

あくまでも「英雄を育てる」ことこそが両者の願いであり、

現時点(・・・)でのスフィアのすべては互いを高めるためにしか用いられない。

 

 

ゆえに、必然。

 

英雄を決める戦い(他者視点)は、銀河規模で激化の一途をたどっていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




つづくかも?


以下元ネタ要素の設定文章。

エクシーディングスフィアルーラー
冥冥煌煌、統べて臨めよ皇の御階(二人)
境界超越、闇を蝕め烈なる光 (ウルカヌス)

ウルカヌスは単体でも使用可(身体と魂が同調するため)。グレイはウルカヌスとの同調時のみ使用可。

基準値:A (A)
発動値:AA (EX)
収束性:B (EX)
拡散性:EX (D)
操縦性:B (E)
付属性:B (B)
維持性:A (E-)
干渉性:AA (D)

※()内はヘリオス☆ビーム使用時。


相手こそを英雄だと意識している両者は、

英雄(アイツ)ならば自分(この)程度は越えていくだろう」

「低い踏み台()に意味などない」

の2つを共通のイメージとして持つため、自らの研鑽に一切の余念がない。

それどころか、互いの成長すら想像(妄想)しながらそれ以上の成長を重ねるため、
限界を突破する速度さえ更に更にと加速していく。

その能力は、世界に溢れる星辰(アストラル)を自らの性質、光へと書き換え、統率すること。
※星辰(アストラル)――英雄たちの力の源。作中で出ている用語だと、マナみたいなもの。


ゆえにその名は星を統べる者(スフィアルーラー)

書き換えられた星辰はさらに周囲の星辰を書き換え始めるため、
その拡散性は一切の限界を超え、星どころかいずれは銀河すべてを覆いつくす規模である。

また、光を放つという性質から干渉性にも優れており、生半可な星では戦うどころか、
収束しきれない自らの星辰光すら放つ端から書き換えられ、反転して光を放つ特異点と化す。

そして、切り札はその汎用性を捨て去り、統べた光を収束する必殺の一閃。

干渉性の一切が発動値へ、拡散性の一切が収束性へと変換されることで、
一瞬限りではあるが銀河に広がったすべての星辰光を一手に集めることが可能となる。

太陽を背負うその姿はまさに煌翼。奏者に実体がある以上、
原点(救世主)たる因果律崩壊能力までは再現できないものの、

※元ネタの救世主サマは頭突きで光速を突破したり、首を切り落とされてから気合で復活したりしました。

ヘリオス☆ビーム[Mk.Tachyon Gungnir]は光速を突破し、
放った時にはすでに過去で命中している因果の逆転を引き起こす。

無論、発動値と収束性、その両方で限界を突破するために犠牲にするものは多く、
拡散性は相手に届く最低限、操縦性に至ってはまっすぐ光を放つだけになり、
維持性は一閃の間のみしか保たず、干渉性は放つ光に死の概念を乗せることにしか役立たない。

しかし、それで十分。

回避不能なのだから、まっすぐ相手に届けば事足りる。
一撃必殺なのだから、一撃放てれば事足りる。
光の出力のみで消し飛ばせるのだから、余計な装飾など不要。

まさに光の英雄の象徴たる、極限の奥義。

斯様な性質の変換を可能にしたのは、歴代の極晃星にはなかった特徴。
[想いを共にする両者どちらもが主体性を持っている]ゆえである。

拡散性・干渉性に優れたグレイと、出力・収束性にすぐれたウルカヌス。
互いに認め合い、尊重するが故の結果であった。


上記のビームの打ち合いが発生した場合、地球の1/3を大気ごと余波で消し飛ばし、
世界は崩壊、Bad endとなる。

なお、天敵は干渉性で上回る銀狼の逆襲。放ったもの、書き換えたもの問わず星辰を無効化され、
逆に無効化された後の反星辰には一切の干渉が不可能。
奇襲を受ければ勝ちの目は一撃を耐えてからの「まだだ」しかなく、
一手で首を刈るゼファーは相性最悪。
さすがコールレイン少佐だ!



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終曲/Finale

仲間たちを異世界に幽閉され、共に歩んできた精霊を封印され、
兄はここまでの道を切り拓くため、力を使い果たして倒れた。

大いなる神にたった一人で立ち向かうことを選んだ英雄は、
比類するものがない力に恐怖を感じないわけはなく、しかし臆することはない。

人の英雄は恐怖総てを飲み干すほどに蒼く、
深く澄んだ海をその瞳に湛えていた。


しかし、大いなる神はお前と戦う価値などないと、
英雄の真実を告げる。






 

―――本当に疑問に思ったことがなかったか?

 

今まで、この世界は自分に都合が良いと思わなかったのか?

今まで幾たび神の力で救われたと思っている?

 

 

お前が家族に疎まれ、幼い頃、森へ捨てられたのも。

 

幼い脆弱な体で生き延びることができたのも。

 

原初の精霊へと出会い、絶大な力を手に入れたのも。

 

偶然(・・)盗賊に追われる少女と出会い、偶然(・・)得た力によって救い、

偶然(・・)その家族に温かく迎え入れられたのも。

 

お前が今まで成した全ては、神が気まぐれによって起こした娯楽。

 

 

お前の真実は、神の玩具(シュジンコウ)だ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ心が折れぬ……人の子(エンデュミオン)よ」

 

大いなる神は目の前の取るに足らない存在に、

違和と不快を同時に感じていた。

 

今までの自分を否定され、心の拠り所も全て砕いてみせた。

守るべき者も戦う理由も全ては偽りだったのだと示した。

 

 

――なのになぜ、神を恐れているはずの弱者が、

  絶対な強者である己に立ち向かえるのか。

 

 

 

「ウラーノス。たとえ神に操られた結果だったしても。

 俺はこれまでを恥じたりしない。」

 

「始まりが全て、神の意志だったとしても。

 救われて嬉しいと思った感情は、決して嘘じゃないから」

「今までこの手で救えたものは、決して無意味なんかじゃないから」

 

「その力を、きっかけをくれたのが神だって言うのなら、俺はアンタに感謝しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。家族と、出会わせてくれて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

何を言っているのかわからなかった。

なぜ否定されたはずの過去を肯定し、あまつさえ感謝など告げてくるのか。

 

「既に教えたであろう。貴様の家族とやらは全て、我の操り人形であると」

 

……そうだ、これでいい。ここまで念入りに否定すれば如何に強い意志だとしても、

 

 

 

「それは嘘だ。アンタさっき言ったじゃないか。

 

 家族に俺は疎まれた(・・・・・・・・・・)って。」

 

「じゃあどうして、兄さんは魔の森で俺を捜そう(・・・・・・)としたんだ?」

 

 

 

 

「……ッ!」

 

そうだ。何故か、あの男(ウルカヌス)だけは完全に支配することができなかった。

創造主たる神の支配を逃れる術など、この世界(・・・・)では生まれようがないと言うのに。

唐突な行動で計画が乱れ、流れを修正するために骨を折ったこともある。

 

 

 

 

 

 

 

 

腹立たしい。不快で、不愉快だ。

所有者(カミ)の手を煩わす奴隷(ヒト)など、不敬の極み。

極刑ですら生ぬるい。

 

神託は下った。逆らう愚を悔い改めぬならば。

 

「では、その兄もろとも消し飛ぶがいい」

 

星など、不快なものごと消したあとで創生(つく)り直せば良い。

 

創世神の極限の一撃(X-ray)が、英雄ごと星を粉砕しようと迫り―――

 

 

 

 

 

 

 

「いいや、まだだ(・・・)。」

 

 

 

覚醒(めざ)めはじめた英雄の本来の力に"呑み込まれた"。

 

予想だにしない光景に、神の動きが止まる。

 

何故、力が防がれた?

 

英雄(エンデュミオン)は人の中では優れているものの、所詮は人の域。

出力に優れていると言うだけで、それを活かす才が足りず、

故に闇の精霊と出会うまで無能と評価されてきたはずだ。

 

精霊や、あの兄の力を借りるならいざ知らず。

そういった素振りが全く無く、しかし事実として神の力を防いでみせた。

 

今までの戦いで、そんな能力を見せたことはなかった。

出し惜しみなど不可能であったはずの、兄との戦いにおいてもである。

 

即ちそれは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして神の攻撃を防げたのか、自分でもわからない。

わからないが、防げると知っていた。

体が勝手に動いていた。

こんなことは今まで――

 

 

――あった。兄さんに導かれた、あのとき。

 

 

紡ぐべき言の葉は、魂に刻まれている。

そうだ、鍵となるのはこの言葉。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を───我らは煌めく流れ星」

 

 

 

 

朧気に、理解した。どうして自分は、カオスと出会うまで、

どんな属性を操ることもできなかったのか。

 

カオスと出会ってから……魔力の扱いを覚えてからも、闇の魔法(・・・・)しか扱えなかったのか。

どうして兄さんと思いを共有してから、光の魔法(・・・・)が使えるようになったのか――

 

 

「天躯翔の姫君たる女神よ、どうか私に教えてほしい」

「荘厳な太陽(ほのお)に其の身を焼かれ尚、如何して貴女は微笑むのか」

「あるいは何故、暗黒の宇宙(せかい)の中でこそ、貴女は美しく輝くのか」

――光がなければ、漆黒の闇の中で貴方は(わたし)に気付かぬでしょう。

――闇がなければ、白銀の光の中で貴方は(わたし)に気付かぬでしょう。

 

 

 

全て、物語の始まりから記されていた。

気づいていない、だけだった。

 

"輝く神(ウルカヌス)"の名を持つ兄さんが、美しく光り輝くように、

あるいは"光以外(カオス)"と名付けられた彼女が、混沌(ヤミ)を呑み優しく微笑むように、

 

"交わる白と黒(グレイ)"とは、光と闇が揃ってこそ、定義されるということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠(とわ)の夢より醒めて、この心も女神とともに」

「悠久の祈りを天鏡へ捧げよう」

 

 

 

超新星(Metalnova)――永久に、夜天へ響け月奏恋歌(    Silverio Sky     )

 

 

 

 

 

 

裡に秘められた、女神が目覚める。

彼女こそは己の能力(ちから)そのもの。

あるいは、本来の自分の姿、とでも言うべきだろうか。

 

気がつけば空いていたはずの手に、剣が握られていた。

一方は、もっとも敬愛する兄の、白金の長剣。

 

もう片方は、最も見慣れた黒の直刀……

 

「カオス!」

 

「えぇ、私よ。待たせちゃったかしら?」

 

……最高の相棒。

 

 

しかし、久方ぶりに姿を見せたその美しい髪は、かつての漆黒から輝く銀へと転じていた。

 

「あぁ、(これ)?封印を解くのに本来の貴方の力を借りたんだけど、

 そのときに影響されちゃったみたい。今の私は半分貴方の分身みたいなものよ」

 

視線を感じたのか、その姿について説明してくれる。

 

見れば、ドレスやアクセサリーも今までの黒一色から、

白銀を散りばめたより豪奢なものへと変わっている。

 

 

「私としては貴方とお揃いなのも悪くないと思うんだけど、どうかしら?」

 

裾をつまみ、頬を赤らめながらそんなことを聞いてくる。

 

思わず、「どんな姿でも、カオスは最高に綺麗だよ」

なんて歯の浮くようなセリフが突いて出る。

 

「ふ…ふんっ!どんな姿でも、なんて褒め言葉としては落第よ?」

 

おや、手厳しい。

 

「次の機会には、勉強しておくよ」

 

「しょうがないわね。もう一度だけ、貴方にチャンスをあげましょう」

 

なんて、いつものように掛け合い。

 

 

「それじゃあ、次の機会のために」

 

「ええ、サクッと勝って終わらせましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――やはり、エンデュミオンに特殊な力など無い。

先程防いだ力は、覚醒めたカオスがその力で防いだのだろう。

いつの間にか握っている双剣から、闇の精霊の力を感じる。

 

力を開放した今でさえ、人の子の星辰は無色のままで。

むしろカオスに影響されてか、その左腕はわずかに漆黒に染まっている。

 

警戒する必要などなかったかと、わずかに落胆しつつも次なる手を用意する。

 

「創生"灼熱恒星"」

 

たった一つの言霊で、描き出されるのは太陽の熱量を遥かに上回る天体。

これこそ神の扱う灯――核融合の焔である。

 

青く染まり、近づくだけで星そのものすら蒸発しかねない熱量。

ましてエンデュミオンは肉体としてはただの人間である。

為す術もなくて当然……

 

 

 

 

 

 

 

否。

否否否、否である。

あの兄弟に一体幾度、予測を覆されてきた?

死んで当然、心が折れて当然、などという見立ては、

しかしその全てを覆して神の前にまでたどり着いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

果たして、絶火の収まったとき、眼に映ったのは全身を灼かれ、満身創痍であり。

然して未だ戦意を残す英雄だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の熱量に対し、グレイが選べる手段はたった一つだった。

 

――避けたり、弾いたりしたらこの星が保たない。

  真正面から、打ち克つ以外にない。

 

 

「カオス!」

 

「無茶言わないで!

この炎、私と相性最悪なのよ!」

 

そう言いながらも限界まで闇の出力を上げ対抗するが、

防げるのはあくまでも余波。

 

本命の焔に対し、カオスの力は届かない。

 

「くっ!」

 

せめても星辰を身に纏い、灼かれながらもその身を盾に僅かな時間を稼ぐ。

 

カオスの言うことは正しい。

かつてカオスを産んだ神が、カオスに勝つために採った手段だ。

彼女を対策していて当然。

 

カオスの力では、届かない。

なら、自分は(・・・)

 

言霊がこぼれ出る。

瞬間、躰が書き換わる。

 

 

 

 

 

星詠み(Astrology)

 

読込(Load)"光の英雄"(Vulcan)!」

 

 

 

 

 

 

 

灰色から、白と黒を取り出すこと――

それが、俺自身の能力。

 

そう、俺の星辰は"色"を持たない。

だから、どんな属性も扱えなかった。

 

しかし、その星辰を染め上げることができたなら?

染め上げる、手本があったのなら?

 

 

「行くよ、兄さん」

 

ここに居ないはずの相手を呼ぶ声に、

 

「待たせたな、英雄。」

 

虚空から返事(こたえ)がかえる。

 

それは正しく、英雄の星辰光(アステリズム)――

実体化した、極晃星(スフィア)

 

「この身は所詮、極晃星の残滓に過ぎん。長くは保たん」

 

「わかってる。一撃で、決める。」

 

グレイの右腕に、黄金の星辰光が纏われる。

白金の長剣が輝き、無色の星辰を光で染め上げる。

それはまるで、いつかの極晃のようで――

 

 

 

 

 

烈刃一閃、星霜さえも斬り伏せて・英雄之型(    Mk.Tachyon   Gungnir    )!!」

 

 

 

 

 

 

 

その一閃は、あくまで模倣。

故に、原点ほどの力は持たず、ただ静かに消えていく。

 

だが、それでも。

恒星(ホシ)一つ、斬るには十二分に過ぎた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり、やはりやはりやはり。

こちらの予測はもはや無意味に等しい。

――認めよう。人の成長は、既に我が掌中に無く。

  其の力、侮ることはできん。

 

「やはり、貴様は危険だ、人の子(エンデュミオン)。」

 

「神の力を断つなど、許しておける所業ではない。」

 

「故に、我が最大の一撃にて争いの幕を引こう」

 

 

 

 

 

 

 

In principio creavit Deus caelum et terram.(    神は初めに天と地を創った    )

Dum fata sinunt(運命が許す限り、) vivite laeti.(仮初の生を謳歌せよ)

Fiat eu stita et (たとえ世界が終わるとしても、)piriat mundus.(正義は成される)

 

 

 

 

 

 

 

「[Great Wall]……銀河を束ねた城壁に、圧し潰されるが良い」

 

襲い来るは、星の奔流。

神の鉾たる銀河剣。

神代にも前例無き、絶滅の神具である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、この子ったら。いつでも兄さん、兄さんって、私だけじゃ不満だとでも言うのかしら?」

 

 

「ごめん、カオス。でも、二人が居て、初めて俺は自分を見つけられた」

「だから、最後まで三人で戦いたいんだ。」

 

 

 

「ほんとにもう、しょうがない子ね。」

 

「お前が望むならば、応えよう。」

 

 

 

()きましょう、グレイ。運命なんてつまらないもの、私が呑み込んであげるから。」

 

「障害は全て斬り拓こう。お前の軌跡(奇蹟)を、過去の遺物に刻んでやるといい。」

 

 

 

今まで、何度も間違えてきた。

光に見せられ、闇に呑まれて。

焔に()かれて、影に()われ。

 

 

でも、だからこそ。

そんな俺だからこそ、辿り着ける星がきっとある。

 

 

 

 

兄さんと描いた星は、全てを過去にし裁ち斬る、荒々しくて雄々しい光の極晃。

 

カオスと紡いだ星は、全てを許容(ゆる)し呑み込む、優しくて残酷な闇の極晃。

 

 

 

 

どちらも正しく、どちらも間違っているのかも知れない。

あるいは、正しいものなんてまだ無いのかもしれない。

 

けれど、もし。

そんな相反する二つの世界が、もしも共存できたなら?

雄々しくて優しい、そんな星を産み出せたなら?

 

 

それはとても素敵で、素晴らしい世界(こと)だと思うから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そう。それは奇しくも、異世界で英雄が選んだ道。

    ()は対話によって、共有という勝利(こたえ)を手にした。

   境界線に立ち、光と闇を繋いでみせた。

 

 

    しかし、それは彼のみの星。再現など出来ない――

 

 

 

 

   ――いいや、否。

 

   光と闇は、相容れない。

   それが世界の法則だとしても。

   きっと隣り合い、助け合うことはできるから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高の家族(兄さん)の魂が籠る長剣と、

最愛の女性(カオス)そのものたる長刀。

 

 

光と闇を携えて。

 

 

「天来せよ、我が守護星―― 鋼の夜天(そら)に夢を描いて」

 

 

「荘厳な太陽(ほのお)に憧れ、月の女神は闇夜に舞った。」

 

「天に煌めく神話こそ、今も気高きわが憧憬。

 勝利の光よ、銀河を照らせ。清廉なる祈りとともに、新たな時代の幕が開く。」

 

「灰燼と化す罪業(かこ)が、猛き焔に抱かれながら浄化の熱を浴びるのだ。」

 

 

 

"共に神話の先を見よう。巨神の最期より続く、新たな道を目指す為に"

 

「是非もなし―――――さらば英雄、我が半身。

穢れ総てよ、永劫我が(うち)で死に絶えるがいい。」

 

 

 

太陽()の象徴とは不死なれば、絢爛たる輝きに恐れるものなど何もない。」

 

「されど今、響く悲しみの音色は何なのか。」

 

 

 

"大好きよ、グレイ。あなたに会えて、本当に良かった"

 

「ただ(こいねが)う、愛しい人よ───どうか記憶(うしろ)を振り向いて。

 

 (ひかり)で焼き尽くされぬよう、優しい無明(やみ)(ひた)りましょう。

 

 二人の煌めく思い出は、決して罪では無いのだから―――」

 

 

 

「魔性宿すその瞳。太陽(ひかり)宇宙(やみ)をも魅了して、(セレネ)は夜を支配した。」

 

「星天を統べるがごとく、銀河に輝け月の女神!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「これが我らの理想郷(Shangri-La)」」」

 

  

超新星(Metalnova)―――銀河織りなす理想郷(    Gracing )響き合うは闇と光の成層圏(  Sphere     Layer   )!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「莫迦な!?その力は、神の――」

 

今度こそ、驚愕を隠せない。

 

極晃星に至った英雄は、一見特筆する点がない。

 

しかし、ウラーノスの目には正しく、彼らの纏う星が見えていた。

 

 

 

「星を斬るでは飽き足らず、星と成る……だとぉ!?」

 

 

 

 

人を外れ、星に至った英雄は、自らを核に無数の星辰を「累ねる」ことで、

理想郷たる星を作り出していた。

 

光も、闇も、相反するものもすべてが、核たるグレイによって

許容(ゆる)され、認められ、あるいは延ばしあるいは(ただ)しあるいは繋ぎ、

グレイという惑星を形作る「層」となる。

 

グレイの身体には光と闇が同居し、手にした双剣は神星鉄(オリハルコン)の輝きを放つ。

 

 

 

 

 

 

グレイが本来持つのは、望む形に姿を変える多様性のみ。

しかし同調するカオスが、銀河を受容する容量体(キャパシタ)となり、

ウルカヌスが彼方の星まで接続(アクセス)する補助電源(ブースター)となる。

 

結果、顕れる現在・過去の無数の星辰光。

 

紙の上に異なる絵具を重ねて一枚の絵画が描かれるように、

無数の星辰は総てが理想郷に生き、あるいは活かしている。

 

 

これこそが彼らの至った勝利(こたえ)――

誰もが許し合い、認め合い、助け合う共生の理想郷の創造。

 

それは正しく、神の行う「世界の流出」。

 

 

 

 

――しかし、所詮は惑星。

 

「神の領域を犯すとは不遜の極み。しかし、そうしたところで高々星が一つ。」

「数億の星の奔流に飲まれるがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「いいや、まだだ!」」

 

「兄さん!」

 

「ああ!人々の幸福を未来を輝きを――守り抜かんとする限り、俺達は無敵だ!」

 

 

鋼色の外殻(グレースケイル)型式(Type.)-英雄之刃(Gungnir)!」

 

 

 

神星鉄の双剣から光が零れる。

星を"斬り拓く"星辰光(アステリズム)が、解放を()たずしてあふれ出ている。

その出力は、先ほどの一閃を優に飛び越え、あるいは征奏にも届きうる。

 

 

 

 

 

――だが、届かない。

 

「先の光の刃を、星の出力で後押しするか。だが、無意味だ。

 その程度の小細工で揺らぐほど、小さな天秤ではない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ、まだよ!」

「あぁ、まだだ!」

 

 

 

「――さぁ、お披露目よ?」

「女神の輝きを、今ここに!」

 

 

 

 

 

「―慟哭せよ冥府の女王、罪には救いと贖いを(     Power of Chaos     )―」

 

 

 

 

 

瞬間、極大化した星辰光は想像を絶する密度によって、刀身から流れ出る。

遠大な光の帯は、その果てが見えぬまま宇宙へと消えている。

 

 

「……Power、だと?」

 

その言葉は複数の意味を持つ。

力、権限、強い、多数の、そして神や悪魔。

しかしこの場において、もっとも相応しいとすれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

累乗(Power)、だ。」

「一つの星辰光に、カオスの持つ無数の星辰を累乗する――

 小さな力も、(かさ)ね合わせれば銀河でさえも越えられる。」

 

「これが、俺たちの至った、理想郷(シャングリラ)だ。」

 

混沌を掛け合わせた英雄の光は、1.0*10^25 mに渡って続く。

あえて言語化するとすれば、約10億光年となり、銀河系の直径のおよそ1万倍にまで至る。

 

それは、Great Wallにすら収まらず。

 

「この一撃が、俺達から神に贈る十字の幕引き」

 

 

 

 

 

 

 

―――冥月よ、十字を斬れ(Trivia,Soteira)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如何なる力か、神の剣は残らず砕かれ、星々は四つに裂かれて散った。

 

神の身には麗しく凄惨な十字が刻まれ、幾ばくも保たぬのが見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、大いなる神。世界を生んでくれて、ありがとう。」

 

 

 

「……見事。ならばこそ、我への“勝利”を、その背に負って進むがいい」

 

「祝福しよう、人の子(エンデュミオン)よ。貴様の末路は、英雄こそがお似合いだ。」

 

 

皮肉げにかけられた言葉は、しかし。

 

「光栄だ。強い光と共に、優しい闇と共に。きっと(だれか)を救ってみせる」

 

 

そして、僅かに見えた微笑みは気の所為だっただろうか、

静かにその躰は崩れ去り。

 

 

 

荒廃した世界は咲き誇る花によって、(いろ)を取り戻した。

 

まるで、理想郷のように―――

 

 




なぜか筆が乗ったので仕上げちゃいました!
設定とかはそのうち追加したいです!
添削が不十分でしたらドシドシご指摘ください!


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夢現/Somnium 前編

閲覧頂きありがとうございます!
拙作「F/GL」のほうで行っているアンケートで、
意外と本作の要望が根強かったためサラッと新話です!
いや~書きやすい!!!!

前後編の予定ですが、もしかするともう少し長引くかも……?
原作にないシナリオは好きに書けるので、
筆が乗るとサクサク書けてしまいますね……すばらしい。

つい最近知ったのですが、原作者様が本編の続きを書かれておりました。
当然読了したのですが、その全てを盛り込むと拙が必死に盛り込んだ、
フラグやら伏線やらが吹き飛ぶことに気づき、ぐぬぬと唸りながら
盛り込める箇所を探りつつ筆を執っております。

ですが本作は二次創作です!
恐れることなくオリキャラを出していきましょうとも!

ということで本作は原作の2話以降とは齟齬が多く発生しております。
F/GLにおいてもそうですが、未完結作品の二次創作はどうしても、
こういった事態が起こりえますため、プロット作成時点での時空では
出ていなかったんだな、と温かい目で見守っていただければと思います。

私はラグナロクとアヴェスターを履修しておりません!()

では本編を、お楽しみください!


みなみなさま、初めまして、御機嫌よう。

 

わたくし、ウェヌス・エウメニデス・フェリクスと申します。

 

神座教会より、恐れ多くも「聖女」を名乗るよう仰せつかっています。

また、個人としましては栄えあるリュミエール学園の3回生にして、

生徒会副会長を務めております。

 

……もっとも、本学園において副会長とは「執務机を持つ会長秘書」、

といった方が精確でしょうか。

 

 

本来、学園の生徒会長および副会長は2回生が務めることが

伝統となっております。

 

しかしながら、先期より会長職を務めあげられた御方、

ウルカヌス・イグニス様が諸処の事情によりまして、

昨年に続き再び、御出馬されたのです。

 

 

……そして当然かのように、全生徒数の9割をゆうに超える得票率にて、

  ご再選なさいました。

 

他候補に投票された方は、ご家系が長年学園の保守派で凝り固まっており、

どうしてもその意向に背けなかった、と開票の後にお話しくださいました。

 

もっともご本人は、先期の結果を超えられなかったことで

「より一層の精進を約束する」、と自戒なされておりましたが。

 

 

 

 

――昨年の結果とは、有効票の全てを集められた完全選挙。

 

 

 

学園規則では出馬した者及びその推薦者は票を投じることが

禁止されておりますが、それでも本校の長い歴史の中で

初めての快挙だったそうです。

 

 

 

 

 

 

 

そのような過程を経て、わたくしはウルカヌス様より、

先期に続いての副会長を拝命いたしました。

 

なんでも御出馬を考えられた時から、わたくしに決めてらしたとか!

他の役職は、来期以降の備えとして1回生で固めていますのに、

「副会長は君にしか頼めない」、ですって!

 

大貴族も外部入学生も区別なく。

誰にでも分け隔てなく公平に、を体現されるウルカヌス様の「特別扱い」など、

女生徒(おとめ)冥利に尽きる、というものです。

ああ、わが父たる主よ、感謝の祈りを捧げましょう!

 

 

 

 

 

 

……そのお話をされる際に、

  「大切な話がある。俺と君の今後の話だ」

  と呼び出されて、

  すわ"違うお話"かと期待をしてしまったのは、内緒です。

 

 

 

 

 

そのような訳で普段の放課後は、ウルカヌス様と執務室で二人きり(・・・・)

リュミエール学園の雑務をこなしております。

生徒会室から扉を一枚隔てた執務室は、実質学園における

ウルカヌス様のプライベートルームのようなもの。

 

 

日ごろより、四大貴族筆頭の嫡男として昼夜を問わず公務に追われる

ご多忙なウルカヌス様は、学院でも空き時間を見つけては

こちらのお部屋でお仕事に励んでおられます。

 

もっとも、ご不在の折は余人に立ち入られないとはいえ、

わたくしはその立場から執務室への入室を常に許可されております。

 

そのことをご本人に確認したところ、彼は

「構わない。もとより君に隠すべきものなど何もない」

などと!仰いまして!!

あぁ、これもひとえに日ごろの信仰の賜物でしょうか!!

 

 

 

 

とはいえ、あまり喜んでばかりもいられません。

 

わたくしにも公人としての立場があり、無作法なことは

他の方々よりし辛い、というのも踏まえてのことだとは思いますが、

ウルカヌス様はときに警戒心がひどく緩むことがあり、

そういった際はわたくしの自制心が試されてしまいます。

 

 

 

 

 

たとえば、そう。

先日の放課後、執務室に立ち入った際のこと―――。

 

 

 

 

 

普段なら既に燈されているはずの魔力灯が消えており、違和感を持ち。

ああ、そういえば昨日まで騎士団は遠征に出ていたのだ、と

思い出しました。

 

 

 

 


 

 

 

近年、人類の天敵たる魔族の動きは活発化の一途を辿り、

その暴威が人民を襲うたびに、"王国の剣"たるイグニス家は王国騎士団を

率いて討伐に繰り出していた。

 

しかしながら、相手は人理で測れぬ魔族たち。

遠征のたび騎士団は傷つき、時には命で以て魔族を誅し、

あるいはその命を人民の盾とした。

 

 

 

その状況が変わったのは、5年ほど前。

イグニス家の嫡男が、初陣を迎えてからだった。

 

前々より非凡さが(うた)われていた、"火のイグニス"の秘蔵っ子。

噂では、(よわい)5つの時分には、既に新たな魔法理論を構築しており、

神話解釈においても、神学者たちと言論を競い、讃え合う間柄だったとか。

 

その天賦の才は留まるところを知らず、

あるいは大精霊の化身か、あるいは災厄の前触れか、

と一族の者を震え上がらせたという。

 

 

……まぁ、大貴族の嫡子である。

明らかな問題児でなければ、幼いうちはやんちゃが大志、

大人しければ深謀遠慮と、誰も彼もが神童とされるものだ。

 

神童も十を過ぎれば、すわ才子か、それとも只人か、と世間の目線が

色眼鏡から急に厳しくなる。

 

 

 

 

 

   そんな時期に、お披露目会が如く初陣を迎えた、彼は。

 

   その一太刀で以て、「ウルカヌス・イグニス」を世界に刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

魔族の中でも特級とされるデーモンロードと、

配下の死霊術師たち。

そして操られた、2頭のドラゴンゾンビ。

 

此度の敵の陣容は既に知られており、それは普段より死線に沿う

騎士団の面々でさえ、改めて死を覚悟せざるを得ないほどの戦力。

 

中でもイグニス家の庇護を受ける中堅貴族は、主家の嫡男を

生かして帰すためにと、悲壮な決意を固めていた。

 

 

しかし渦中のイグニス家当主は、開戦の寸前、軍議にて周囲を驚愕させる。

 

 

「私事ではあるが、此度の遠征は我が愚息の初陣となる。

 そこで、猛る勇者各位には申し訳ないが、先陣を息子に命じたい。」

 

 

ここまでの散発的な魔獣等の戦闘では一切顔を出さなかった

幼き嫡男に対して、諸侯の眼が探るようなものとなる。

 

 

そして当主()に対し、言葉を返すウルカヌス。

 

「光栄の至り。先陣、受け賜りました。

 望外の晴れ舞台、楽しまなくては損というもの。」

 

 

 

「つきましては、随伴は不要(・・・・・)

 単騎にて思うさま、力を振るいたく思います。」

 

 

 

諸侯は考える。

これほどの大部隊を率いてさえ、敗北を想定する戦力に向けて、

単騎での突撃など自殺に等しい。

そしてその令を、顔色一つ変えずに受けたウルカヌス。

 

即ちこれは、事前の取決めあっての出来レースであり、

つまりは単騎駆けを装った処刑ではないか。

しかしウルカヌスはイグニス家の嫡子であり、他に兄弟は妹しかいない、

なれば何がしかの策略によって、嫡男を戦場から離すためかと。

 

ついに当主が狂ったかと、疑いの声を上げる諸侯もいたが

それらをすべて黙殺して、単騎駆けは実現する。

 

そして、ただ一人、魔族と対峙したウルカヌスは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   唯の一振りを以て魔族を両断し、

   魔法に拠りて死霊術師達を焼き滅ぼし、

   精霊の力のみでドラゴンゾンビたちを浄化して見せた。

 

 

 

 

 

 

戦闘とも呼べぬ虐殺を終え、陣幕に戻った英雄(ウルカヌス)

神を、あるいは化物を見るような諸侯に対して彼は、こう漏らしたという。

 

 

 

 

 「知恵の無い竜は、ただのトカゲでしたね。」

 

 

 

 

敢えて断わっておくなら、勿論、そのようなことは一切ない。

ドラゴンゾンビの恐ろしさは、その残虐性と巨体から来る膂力、

そして生命力だ。

 

不定形の魔物たちすら上回るほどのそれは、

死してもなお衰えぬ竜麟の強度と相まって、災害にすら例えられる。

 

 

戦闘が長期となれば生命力は僅かずつ漏れ出すため、

過去の幾たびかの発生において、人類は互いを磨り潰すような

持久戦によってドラゴンゾンビを滅ぼしてきたのだ。

 

 

歴史に残る幾人かのドラゴンスレイヤーを見ても、

「ドラゴンゾンビを単騎で討伐した」などといった例は一切存在しない。

 

短期においては、完全なドラゴンを上回る驚異の暴虐。

それをただ精霊の力だけで浄化し切ったなど、

あるいは戯曲や法螺話としても笑い飛ばされよう。

 

 

 

そしてそれを従えるデーモンロードの実力は言うまでもない。

一人当たりの戦力が軍団に例えられる、高位魔族たち。

首を刎ねられようとも、あるいは戦い続けるような

魔の(おう)たち。

 

 

間違ってもただの一振りで滅ぼされるような存在ではなかった。

 

 

 

だからこそ、それを為したウルカヌスの異常が際立つ。

 

それも、未だ幼さを残す11歳である。

もしも、もしもその才が更に育ったとしたならば。

 

 

――其は果たして、人の器に収まるのであろうか。

 

 

 

 

 

 

その一件を以て実力(ちから)を示した英雄(ウルカヌス)は、

それ以来、大規模遠征には学園を休学して従軍し、

実績を積み上げていく。

 

 

 

 

 

そして人々は、謡い、語るのだ。

 

此れは、もっとも新しき英雄譚。

 

 

 

 


 

 

 

中等部のころより続く、ウルカヌス様の遠征。

それはただ戦力としてだけでなく、対外に向けたアピールでもあるそうです。

 

イグニス家の今後の飛躍と、その剣が仕える、王国の盤石さ。

それこそが、数年の後、代替わりによって莫大な利益を齎すと、

そういった狙いがあるのだと教えてくださったのは司教様でした。

 

 

 

さて、そのようなわけで遠征に出られたウルカヌス様は昨日、

凱旋パレードにて中央の馬車上で、集った国民を

勇気づけておられました。

 

今回の遠征は、数百年振りに発生した、とある魔獣の討伐でありました。

その巨大さと暴虐な性質は記録に残るだけでも天災級とされており、

精強を誇る王国騎士団でさえかなりの被害は免れないであろう、

というのが(ちまた)でのお話でした。

 

 

しかしながら、パレードにおいては出征時と比べ、人数が減っていたり

大きな怪我をしている者の姿もございませんでした。

唯一目立ったのは、いつも毅然としておられるウルカヌス様が、

僅かに疲労の色を見せたことでしょうか。

 

もっともそれは刹那のことで、余人に気付かれるものではなかったと

思いますが、常日頃より彼の輝きを目にしているわたくしにとっては

わかり易いほどのモノでした。

 

 

 

そのため、本日は大事を取り、屋敷にてご休養を取られているはずです。

さて、魔力灯を燈して本日の職務を彼の分まで果たそうか、

と部屋に立ち入ったところで、ようやくその光景に気づきました。

 

 

 

来客時の応対のため用意した、大きな多人掛けのソファ。

 

 

 

 

そこでウルカヌス様が、お昼寝されていたのです!!!!!

 

 

 

 

ああ、なんて素晴らしい光景でしょう!

戦場ではあれほど(・・・・・・・・)凛々しく、雄々しい眼差しで

人々を魅了するウルカヌス様。

それがこのように(かんばせ)を緩め、隙を晒されているとは。

恐れ多くもその姿に、「可愛らしい」という感情が湧き出てしまいます。

 

しかしウルカヌス様は、お休みの際には普段から魔力を感知する結界を

張り、暗殺等に警戒なされているはず。

 

現在は執務室の結界の中とはいえ、それらを咄嗟に行使できないほどに

お疲れである、ということでしょうか。

 

 

 

 

つまり今、何をされてもウルカヌス様はお気づきにならないのでは……?

 

 

 

 

あんなことやこんなこと、やりたくてもできなかったことは

山程ございますが、ああでも、お疲れの彼に

そのようなことなどとてもとても……!

 

自らの内に潜む邪悪と戦っていたわたくしを、現実へ引き戻したのは

寝苦しそうな吐息でございました。

 

見ればウルカヌス様が寝返りを打ち、横を向かれたものの枕が無く。

広い肩幅と長い首筋によって負担が掛かっているご様子。

 

ソファはわたくしが就任した際に納められた、多額の寄付金によって

揃えたものの一つであり、少々長身のウルカヌス様が横になっても

ゆうに収まるほどの大きさと、沈み込むような柔らかいクッション性を持つ

自慢の一品でございますが生憎、枕がなくてはお昼寝に向かないようです。

 

 

その光景を見たわたくしは、それまでの邪念を全て忘れ去り、

これまでの人生の中でもっともと断言していいほど迅速に、

今後これ以上はない、というほどの細心の注意を払い、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルカヌス様に膝枕することに成功したのです!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

意識が浮上する。

久し(数ヶ月)ぶりの熟睡の結果、俺はかなり寝惚けていたらしい。

目が覚める中で感じていた、頭の下の柔らかな暖かさと、

髪を撫ぜる優しげな手。

それを認識しつつ、疑問にも思わぬまま、数秒ほどが経過し。

ようやく意識がはっきりとした俺は、状況を認識するべく瞼を開いた。

 

まず初めに目に入ったのは、暖かな慈愛を湛えた微笑み。

次いで美しき白金の御髪(おぐし)に、我らが学園の制服。

 

 

「ウェヌス、か。」

 

誰かは理解しつつも、認識するために口に出す。

当然自己完結の行動であり、反応を求めていたわけではなかったのだが。

 

 

「ええ、はい。

 貴方様の、副会長でございますよ。」

 

 

こちらを見つめる、碧を帯びた深い一つ瞳。

普段どおりに静やかな、それでいて芯の通った声音が

耳朶(じだ)をくすぐる。

 

 

彼女はウェヌス。ウェヌス・エウメニデス・フェリクス。

その身に過度なほどの加護を受けて産まれ。

厳かな名前のとおり、代々聖職につき、司教や法王を務める家系に属し。

「聖女」の通り名で親しまれている、

リュミエール学園高等部、副生徒会長である。

 

 

 

目を覚ましたからにはいつまでも淑女の膝を痺れさせるわけにも行くまい、と、

名残惜しく感じながらも(たい)を起こす。

――と、額に乗った小さな手から、か弱いながらも抵抗を感じる。

 

 

「ダメですよ。

 結界を張り忘れるほどお疲れなんですから、

 もう暫くお休みになって下さいな。」

 

む、しかし失礼ながら彼女は同年代と比べ少々小柄である。

成人男性と変わらぬ体躯の自分が頭を預けては負荷が大きかろう、と

口に出すも、

 

 

「人の心配よりも自らを省みて下さい。」

 

 

と取り合ってもらえない。

しかしこちらも熟睡してはいたものの、結界は張っていたし

心配は要らないと話す。

すると彼女は、

 

 

「他人の魔力を感知すると魔力壁で接近を防ぎ、

 術者を瞬時に回復させる結界、でしたか。

 ウルカヌス様がご自分で構築した理論で編んだ、

 自身以外の誰にも突破されない、との謳い文句で御座いましたが。」

 

「その結界が張ってあるというのならば、わたくしが

 こうして貴方に触れられているのはどうしてでしょう?」

 

 

フムフム、成程。

俺が休む際は必ず結界を張ることを知っていた彼女は、

昼寝中の俺に近づけたことで、

「結界を張り忘れるほど衰弱している」と判断してしまったのか。

 

そして暗殺を阻止(・・・・・)するため、膝枕という密着する手段で

周囲を警戒してくれていた、と。

 

相変わらず、他人に甘いというか、自分を大切にしない聖女である。

己こそ普段から、様々な目的で狙われているだろうに。

 

 

 

しかしながら件の結界には一つの弱点、というより特徴があり、

彼女はそれを知らないようだ。

 

術式を教えた相手にはセットで伝えているが、彼女の場合

生まれ持つ自己防御の加護が結界よりも優秀であるため、

教えていなかったのである。

 

 

よってそれを伝えるために口を開く。

 

「ウェヌス。君の言うことは尤もだが、この結界術式には一つ、

 欠陥がある。」

 

 

「心から信頼する相手には効かない。」

 

 

「どれだけ研究を重ねても改善できなかった、

 この術式唯一の弱点がそれなのだ。」

 

 

 

と。彼女の反応は、梨の礫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……数秒後、顔を真赤にした彼女に頭を抑えつけられ、

 

 

「いいから!魔法の説明とかいいですから寝てくださいまし!」

 

 

と強引に寝かしつけられてしまった。

 

やれやれ、熱を出した?相手に休まされるとは。

 

 

 

 

俺の行動にも生徒会活動に慣れており、

仕事を安心して任せられるスペック(・・・・)を持っていた彼女に

今期も副会長を任せたとはいえ、やはり遠征中の仕事を任せるのは

負荷が高かったのだろう。

 

彼女に普段振っている仕事は、俺が熟す仕事量と大差ない。

 

まぁ自分は公務もこの執務室に持ち込んでいるせいで多く見えるが、

彼女は帰宅してからが常に公務のようなものだ。

その重圧は並大抵ではないのだろうな、と想像する。

 

そして俺が不在の間、生徒の相談役は彼女一人だったはずだ。

普段は男子生徒を俺が、女子生徒をウェヌスが受け持つようにしているが、

彼女の容姿や肩書に釣られた男が妙な相談事を持ち込んでいないとも

限らない。

 

起きたらまずはそこを確認し、

彼女を言葉と形あるもので労ってやらねば、と心に決め、

後頭部の柔らかさを堪能しつつ、俺の意識は再び闇に飲まれていった。

 

 

女性に贈るなら、何がいいだろうか。

花言葉は覚えていないし、センスある渡し方が思いつかない。

ここはやはり、宝石のネックレスでも贈ろうか―――。




ついに、ヒロイン?登場。

時系列的には黄昏の1年弱前を想定。


ウェヌスちゃんは完全オリキャラです。
外見上の特徴は、
薄い金髪を普段は結い上げており、碧玉の瞳。
少々小さめの体躯と、それを侮らせない母性・慈愛を湛えた微笑み。
小柄ながら女性らしい体つきで、
きちんと出るとこは出て、腰はくびれているイメージ。
ただ、そのスケールが小さいだけなのです。
成長は止まったため、ボンキュッボンとなることはない(無慈悲)。

Sクラス3回生で、ウルカヌスの同級生。
年齢自体は英雄弟よりも更にひとつ下で、英雄妹と同い年?
とはいえSクラスは自主性を重んじ、自己課題と
その成果報告が学績となるため、普段の授業で顔を合わせることは
あまり多くはない。

聖女と呼ばれる、教会のお偉いさんの義理の娘。
ウルカヌスを尊敬し、あるいは崇拝しているのかと疑われることも度々。

かつて戦場でウルカヌスを直接目にする事態があったらしいが、
詳細は不明(多分後編で明らかに)。
しかし英雄の光に灼かれていない、稀有な存在。


本人は直接肯定しないが、仄かな想いをウルカヌスに
向けているのは明らかで、周囲の面々(生徒会メンバーや弟くん、英雄妹など)
には周知のこと。

しかしながらウルカヌスには「弟のハーレムメンバー」と目されており、
そのため意識されることは無い。

逆に意識されていないことで、英雄による無自覚ムーヴをモロに受けては
深みにハマっていく、悪循環な哀れな子。


「君に隠すべきものなど何もない(キリッ」
=見られて困るようなものは流石に持ってこないから大丈夫大丈夫~。

「副会長は君にしか頼めない(キリッ」
=お兄様の人脈は広いけど友達は少ないからね……
 そして実利的に彼女しかいなかった件。

etc...


ウルカヌスが彼女を副会長に決めたのは、

・遠征による休学期間が多いため、補佐は仕事に慣れた人がいい
・会長職は生徒の相談を受けることが多く、
 自分が男性なのだから女生徒の相談を受けるためには女性が望ましい
・グレイの学園イベントの起点になりがちなのが生徒会であり、
 ヒロイン間違い無しの彼女を生徒会に入れることで接点を増やす狙い
・純粋に頭が良く、ほか候補に比べて仕事をお願いしやすい
・付き合いが長い

などなど実務的な理由がほぼ全てであり、アオハルな理由はない。

しかしながら口に出せば千年の恋も冷めるその自己都合を
一切口に出さず、意味深ムーヴと無自覚な深読み誘導により
聖女は上記の理由に気づくことは生涯無い。無いったら無い。
ウルカヌスマジウルカヌス。爆発しろ。


なお、英雄弟は既に最高のヒロイン・カオスと出会っており、
家族同然の付き合いの少女もいるため純粋な友人判定。

むしろウルカヌスの自己犠牲精神を理解し、
同様の自己犠牲精神でもって支え合おうとする聖女には
ぜひとも兄の大切な人になって欲しいと聖人小舅モードに。

英雄が自分を大切にすることがあるとすれば、
それ即ち英雄の特別な相手が願ったときだけであると、
彼は自身の性質から既に理解していたのだ。


これ、後編で風呂敷どうやって畳もうか()


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夢現/Somnium 中編

今話より勘違いタグを追加いたしました。
ウルカヌス・グレイ視点以外だと確実に勘違いが入るので、
是非もなし。

話が想像の3倍くらい進まない……!
でもウェヌスちゃんの描写考えるのは楽しい……!

つまり、3倍文量書けばいいんだ!

そんなわけで中編です。
本編をお楽しみくださいませ!



「英雄」とは、何でしょう。

 

 

英雄、と言われて思い浮かぶのは何でしょうか。

 

歴史上、大きな分岐点を乗り越えた人物。

奇跡のような勝利をもたらす人物。

どのような状況でも諦めず、立ち向かう勇気を持った人物。

 

恐らくはこのほかにも、各人にとり、様々な英雄像があることでしょう。

 

 

――然しながら、(わたくし)自身にそれは当てはまらない。

傑物とされる現騎士団長、建国王、統一王ですらもが、

"英雄"には、不足。

 

私にとって"英雄"とは、個人を指す言葉。

 

他の全てに見捨てられた私を、

救い上げたのは"彼"だけだったのですから。

 

 

かつては、主を恨めしく感じたこともありました。

 

ああ神よ、なぜ私ばかりをお試しになるのか、と。

 

 

しかし、いまの私は違います。

 

――主よ。数々の試練の果て、私は真実を手にいたしました。

  全ては神の導きの賜物。

  我が生の尽きぬ限り、祈りを絶やさぬと誓います。

 

 

 

そう、私の人生(過去)は全て、英雄に――

 

――ウルカヌス様に出逢う為にあったのです!!!!

 

 


 

 

私は、物心の付いたころには既に

神座教会の孤児院に預けられておりました。

 

 

私の髪色は女神フォルティナの加護を示す、淡い金。

それが様々な噂を生みました。

 

さるやんごとなきお方の庶子であるとか、

精霊の落とし子であるとか、

あるいは行きずりの娼婦が産み捨てていったのだ、ですとか。

 

 

それを本人の耳に入るように噂するのですから、

聖職者も所詮は人間、と嘆くべきでしょうか。

 

 

さて、そんな私は"巫女"となるべく、

日々を祈りと修練に充てておりました。

 

「巫女」とは10年に1度、"混沌の森"に捧げられる供物のこと。

伝承では、そこには永く生きる龍が居り、

傍仕えを王国に求めたのだと。

 

しかし、10年で代替わりするはずの巫女が

生きて帰った記録は未だかつて無く、

実際には魔物に凌辱されて野垂れ死ぬだけであるとか、

10年の役目が終わった後、龍に食べられるのだ、など、

様々な憶測が語られていました。

 

いずれにせよ、巫女の命が続くことはない。

 

 

ただ、死ぬために育てられている。

それが私の、運命でした。

 

 

もっとも、私はそのことを悲観してはおりませんでした。

巫女に求められるのは教養と美しさ、何よりも清浄さ。

私は腐りきった職員たちから隔離され、

孤児と思えぬほどに恵まれた生活を送っておりました。

 

 

外出は禁じられておりましたが、衣食は十分に与えられ、

 

幼児に向かって、手慰みに振るわれる暴力。

 

あどけない少女たちを襲う、穢れた欲望。

 

肥えた職員と対照に、子供たちが抱く飢え。

 

そのどれもが、私に降りかかることはありませんでした。

だからそう、幼心に巫女の使命は代償なのだと、

思い込もうとしていたのです。

 

 

 

――けれど、そのような事情が子どもたちに理解されるはずがありません。

なぜ一人だけ優遇されているのか、という歪んだ平等主義。

向けられる視線は次第に悪意へと変わってゆき、

悪意が直接的な暴力に変わるまで、さして時間はかかりませんでした。

初めは素手で。次第に足で、鈍器で、火で。

私を傷つけることが正義の、閉鎖世界。

 

私の顔に手を上げた子は爪を剥がされ、

芋虫のように手足を毟られ見せしめとなりました。

 

しかし職員も、教団員たちも、見える場所に跡を残さなければ、

子供たちを注意したりはしませんでした。

 

私刑は子供たちを団結させ、自分たちより下がいると思い込むことで

反逆の意志を削ります。

職員にとっては都合がよく、止める理由もありません。

 

 

私が(すが)れるものは、主だけでした。

 

幸いにして、祈りの作法は教団員たちに

教え込まれており、困ることもありません。

 

日々の自由時間が、祈りの時間に変わるのは

直ぐのことでした。

 

「主よ、哀れな子羊を導きたまえ。」

 

ああ、神の声は聞こえません。

けれどほかに縋るものがない私は、

ただ一心に祈りを捧げたのです。

 

 

結局、私が巫女となる12の歳まで、

私刑がやむことは(つい)ぞありませんでした。

 

 

見せしめがあっても、平等の為という正義があっては

加減を忘れる者も時折あらわれます。

 

私を連れた教団員が混沌の森に向かった時、

既に右眼の視力は無く、片耳も聞こえず、

味覚は辛味を除き感じられなくなっておりました。

怪我の主犯は食事を禁じられ、飢えて、

最期には蛆の餌となりました。

皮肉にも、それ程の怪我をしても

私は健康体だったのですが。

 

 

 

「ああ、主よ、哀れな子羊を導きたまえ。」

 

それでも私は祈り続けました。

神が人を救うことなどないと、気付いていても。

 

――今思えば、心はとう(・・)に罅割れていたのでしょう。

 

 

 


 

 

私を乗せた馬車を置き去りに、

教団員たちが乗った馬車が急いで走り去ります。

 

それも当然のこと、ここは魔の森、混沌の森。

人間が立ち入れば、いずれ瘴気に侵され死に至り。

その遥か前に、魔獣たちに食い散らされるであろう場所。

 

澱んだ空気のなか聞こえてきた絶叫が、

彼らの最期を伝えました。

 

 

 

 

 

外に出る。

あるいは物心ついてから、初めての外出、でしょうか。

 

 

 

他にすることもなく、主へと祈りを捧げる。

もはや習慣となった祈りの姿勢。

 

 

 

ふと気づけば、周囲から生命の気配が消えていて。

そして響く、地鳴りのような足音。

遅れて聞こえる、木々の悲鳴。

 

 

――ああ、死がやってくる。

 

「主よ。まもなく御身が身許(みもと)に向かいます。

 哀れな子羊を――」

 

 

――突如、体が宙を舞う。

受け身も取れず、無様に地を這う。

 

幸い(・・)にして、周囲の枯葉や腐葉土がクッションとなり、

骨が折れることはありませんでした。

 

 

身体が動くことを確かめた私は、顔を上げ――

 

 

見て、しまったのです。絶望の顔を。

 

 

 

 

「ひ――、」

 

「ヒ……ぃぁああああアアアアア!?」

 

 

 

 

木々の隙間から覗き込む、巨大(おお)きな瞳。

それは縦に割れた瞳孔で、獲物()を縛り付ける。

 

その下に備えた煌めく(あぎと)は鋭く、

幅が2メトルはありましょう。

身に纏う鱗は鮮やかに煌めき、されどその殺意は隠せない。

 

 

 

 ――宝石竜。

 

 存在だけはさまざまな冒険譚で謳われる、

 全身に宝石の鎧を纏った、地竜の一種。

 

 存在が希少で、かつその身からしか手に入らない鉱物も

 あり、一獲千金の獲物として名高い。

 

 

 しかし、宝石竜を狩ろうとする冒険者はいない。

 宝石竜はその希少性よりも、危険性が有名だからだ。

 

 宝石で編まれた外殻は魔力を纏った金剛石(ダイヤモンド)月長石(ムーンストーン)

 それぞれ物理と魔法に強い耐性を持つ。

 その陰から伸びる黒曜(オブシディアン)の棘は、

 鋼鉄すら飴のように切り裂く。

 体の各所に配置された宝石たちは、対応する属性を

 反射する性質を持つ。

 

 地竜であるがゆえに熱息(ブレス)は放たないものの、

 強靭な脚力を用いた突進(チャージ)は何もかもを磨り潰し、

 極大な轍を残す。

 

 その攻防揃えた強さは格上殺し(ジャイアントキリング)を赦さず、

 上級冒険者のパーティでさえ出遭えば全滅を覚悟するという。

 

 


 

 

生を諦め、死を覚悟していたはず。

たった今、助かる術はないと理解したはず。

 

だというのに、私の体は。

死にたくないと、生を求め、叫んでいる。

 

これが、恐怖。

ひび割れた心から、光が漏れる。

 

 

"死を想え(Memento mori.)"

"生を想え(Memento vivere.)"

 

 

冷え切った魂に、火が燈る。

 

 

助けて、と。

誰か、と。

 

叫ぼうとした喉を、反射的に握る。

力を籠めすぎて呼吸が阻害されるが、

気にしてなどいられない。

 

 

――神は、人を救わない。

――人は、人を救わない。

 

 

たかが12年、されど12年。

 

手を差し伸べられることは無かった。

だからこそ、自ら手を伸ばす。

 

生を掴め。

生き汚くとも、足掻け!

 

 

"諦めないからこそ、奇跡(・・)は起こる"

 

 

咄嗟に手近な石を掴み、投げつける。

ダメージなど期待しない、意識が一瞬逸らせればいい。

 

宝石竜の瞳孔が僅かに蠢き、焦点がズレた気がした(・・・・)瞬間、

身を翻して走る。

 

未熟な体はすぐに悲鳴を上げるが、構ってなどいられない。

 

駆けっこに勝ち目はない。

なら前提(ルール)を覆せ。

 

勝利条件は生き残ること。

敗北条件は死ぬこと。

 

制限時間もなく、ルール違反もない。

 

 

――生存戦争(サバイバル)

 

 

 


 

 

 

気が付けば、空は分厚い雲に覆われ、

黒い雨が森を濡らしている。

洞窟の入り口にほど近いところで、

私は座り込んでいた。

 

逃げて、隠れて……私はまだ、生きている。

肌は切り傷だらけ、気力も体力も擦り切れて、

お仕着せの巫女服は襤褸布(ぼろぬの)のよう。

それでも、生きている。

 

そろそろ日没か、と空を見上げて、

既に方角がわからないことに気づき苦笑する。

 

 

 

 

予感がする。

もう、この洞窟は見つかっている。

 

まだ生きていられるのは、泳がされているため。

心を折り、確実に捕えるためなのだろう。

 

「……冗談じゃ、ありませんわ。」

 

 

最後の最後まで、生を諦めはしない。

 

決意を固めると同時、死の気配が近付く。

 

震える足を叱咤して、立ち上がる。

 

 

「さぁ、いらっしゃいな。」

 

眼は、逸らさない。

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の入り口に、影が差す。

 

影は、やおらに剣を抜き(・・・・)――

 

 

「……え?」

 

 

待たせたな、と男性の声。

呟きが耳に入ったけれど、反応はできなかった。

 

 

刹那、男は剣を振るい。

直後、周囲の木々が爆炎に飲まれる。

いかなる術技か、半径10メトルほどの木々は全て伐り倒され、

それらを燃料として焔が盛る。

 

しかし、魔法の火は彼の竜に効果がない。

炎の海を踏み越え、宝石竜が姿を現す。

その体躯には煤も付かず、焔は触れた先から消えていく。

 

 

逃げて、と叫ぶ。

否、と男が返す。

 

「――この森で喪うなど、もう二度と(・・・)御免だ」

 

 

轟音が響く。

宝石竜の咆哮が洞窟を震わせる。

怒りに満ちた絶叫が、魂を揺さぶる。

 

 

「ッあっ!?」

 

振動する地面に足を取られる。

棒になった足ではバランスを取れず、

咄嗟に座り込む。

 

この調子では、逃げることさえ難しい。

他人を巻き込みたくなど、ないのに。

 

もう、彼に任せるしかない。

 

 

突如、雷が落ちる。

それはあまりにも大きく、強く、神の雷霆を思わせる。

 

しかし男は一顧だにせず。

ふと覗けた、柄に刻まれた紋章は"(イグニス)"。

その表情は幼さを残しつつも精悍。

恐らくは少年と呼べる年嵩(としかさ)でしょうが、

それを侮らせない、凛々しさと清々しさ。

 

そして(なび)く髪は――黄金。

 

被った剣を、振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

星鍛つ絶剣、運命を断て(ステッラ・ファトゥム・ディヴィダレント)!!」

 

 

 

 

 

 

 

かの一振り、雷ごと雲海を裂く。

宝石竜は、音もなく割断された。

 

後に残るは、美しい夕日に照らされた、残心のみ。

 

 

 


 

 

 

夕陽の明かりのもとで身なりを見て、気付く。

外套に刺繍()まれた印は、高位貴族の当主および

嫡男のみに赦される、王国統一章ではないか。

教会の資料で一度見たのみだが、

「太陽と女神に獅子」を用いた精緻な刺繍など

他に例もない。

 

 

「……あ、あの。」

 

身分の違いに、話しかけることすら気が引けてしまう。

しかし助けて頂いた礼だけは、

何としても返さなければ。

 

 

そんな思いで声を掛けた私でしたが、

少年の次の行動で頭が真っ白になりました。

 

無表情のまま歩み寄ってきた彼は、

おもむろに私の手を取ると、

目線を合わせるように跪いたのです。

 

「!?……あ、あの、お膝が汚れます!」

 

 

斯様(かよう)な上等な衣服、汚してしまってはこの身を売り払っても

弁償などできません。

焦る私に対し、彼は小動(こゆるぎ)もせず、

真摯な眼差しで私の目を捉えます。

 

 

「無事で、よかった。」

 

 

その声を聴いて、私はようやく、自らが未だ

生きていることを見つめられました。

 

張り詰めた糸が、切れる。

 

 

 

 

 

 

 

――そして私は彼の胸で泣きはらし。

  彼は困ったように顔を逸らしつつ、よく頑張った、と

  頭を撫で続けてくださいました。

 

 


 

 

落ち着いた私は彼から身を離すと、

羞恥から顔を上げることも出来ずに

謝罪の言葉を繰り返しました。

 

綺麗な上服は涙でぐっしょりと濡れてしまい、

ついた膝は泥で汚れています。

 

しかし彼はそれらを気にも留めずに、

外套を脱ぐと私に纏わせます。

 

そういえば逃走劇の結果、私の粗末な(巫女)服は襤褸布と化し、

今は半裸と言って差し支えない姿でした。

 

 

 

……先ほど彼が眼を逸らしていたのは、

古い打撲や火傷の跡が残る、

醜い肌が直視に堪えなかったのでしょう。

 

 

この時ばかりは、孤児院を恨みました。

もともと貧相な体躯(からだ)は変わりませんが、

それでも。

 

 

彼に醜いところを、見せたくは、ありませんでした。

 

 

「……見苦しいものをお見せして、申し訳ございません。」

 

 

なんなら今この場で無礼打ちされても、

文句が言えないほどの醜態でした。

 

だと、いうのに。

 

 

「君の肌は外に晒さないでくれ。

 男は俺も含めて、(けだもの)だからな。」

 

 

 

 

――なんて気障(キザ)で、罪作りなお方。

 

 


 

 

その後、自己紹介を交わし、

彼がかの四大貴族"火のイグニス"の嫡男だと知った私は、

自らの行動に卒倒しそうになりつつ、

どう御礼をすべきか考えておりました。

 

 

[ウルカヌス、か]

 

その時、頭に声が響きます。

それも、鼓膜を通した音ではありません。

 

感応話(テレパス)、でしょうか。

託宣のほか、調律に特化した魔導士が

真似事を使えると、司教様に伺ったことがありますが。

 

 

「久しぶりだな、長老。」

 

 

少年――ウルカヌス様が語り掛ける。

お知り合いなのでしょうか。

 

 

[お主が訪れなくなって、もう10年程度にはなるか?]

 

 

「せいぜいが2年だ。ついに呆けたか?」

 

 

[ふん、毎日顔を出した小童が、今はもうおらなんだ。

独り過ごす10年など、瞬きの内よ。]

 

 

「そうか。それは悪いことをしたな。」

 

 

随分と親しげに話す、謎の声とウルカヌス様。

全く話についていけない私は、つい口を挿してしまう。

 

「あの、ウルカヌス様?こちらの声は……。」

 

 

「ああ、すまない。この声は"混沌の森"の主、

 老神龍(エルダードラゴン)のものだ。」

 

 

「……はい?」

 

どらごん?一頭で国を滅ぼせる、あのドラゴン?

 

 

「ついでに伝えておくと、君が捧げられた相手でもある。」

 

 

……ああ、なるほど。

確かに巫女とはそのような伝承でありましたね。

 

頭を抱える私を尻目に、

それからも脳に響く声とウルカヌス様は言葉を交わす。

 

 

[この娘が此度の贄か。]

[()くも容易(たやす)く同族を捧げるとは、人間は相変わらずだの。]

 

「そう思うならこんな風習、無くせばいいだろう。」

 

[なに、ちょうどいい退屈しのぎなのでな。]

 

「どうせ1年もすれば帰らせるのだろうが。」

 

[捧げられたものを他所に捨てているだけよ。]

 

「魔石や宝石、加護を持たせてか?」

 

[あれらも我には不要なもの。抱き合わせるのが当然だろう?]

 

「相変わらずなのはお前も同じだな。」

 

[たかが年月(・・)で何が変わるという。]

[我らを変えるものはただひとつ、出会いだけよ。]

 

 

随分と楽しそうにお話しされておりますが、

纏めると今までの巫女は1年ほどで解放されて、

別の国で生きている、のでしょうか。

それも、宝石や加護を与えられて。

 

 

[それにしても、伝承までよく調べたものだ。]

[森の出入りは、既にお主の網の中か。]

 

「ああ。俺はもう、この森に子供が捨てられるのを

 許容するつもりはない。どんな背景があろうとも。」

「それでも、今回は動きが遅れた。

 彼女が諦めていたなら、間に合わなかっただろう。」

 

気の昂ぶりを鎮めるためか、胸元を掻き毟るウルカヌス様。

同時に顔は険しく、何か良くないことを

思い出しているようでした。

 

 

 

 

少々経つと落ち着いたのか、

ウルカヌス様が再び話しはじめます。

 

 

「巫女殿。いや、ウェヌス・ヴェスタリア。」

「これから君を、(かどわ)かす。」

 

 

……???

 

 

「あの、」「悪いが、拒否権はない。」

 

「えぇと、」「君を()から救い出し、巫女の儀礼を終わらせる。」

 

「……。」「この暴挙を起こした連中はイグニスの総力で鏖殺(おうさつ)しよう。」

 

「」「その後は、不自由ない生活を送れるよう、尽力すると誓う。」

 

「俺に、任せてくれないか。」

 

 

……はぁ。鈍感な御方ですこと!

わざわざ(ことわり)を説かずとも、最後の一言だけで、十分ですのに。

 

「はい。私の人生(これから)、貴方にお預けします。」

 

だって、私はあの洞窟で死んでいた筈。

それを救い上げられたのだから。

返品は、効きませんとも。

 

神は人を救わない。人は人を救わない。

この考えが間違っているとは、今もまだ思わない。

 

だからこそ、私を救った彼は、そのどちらでもなく。

 

「宜しくお願いいたします、私の英雄(あなた)様。」

 

 

――それから、巫女儀礼の撤廃を老神龍に認めさせた彼は、

  精霊の力を用いて私の身体を治療し、

  そのまま王都へ凱旋。

  宝石竜についてはその素材が余りに高価であることから、

  経済への影響を加味して撃退したとの報告に留め、

  砕いた黒曜の棘と、金剛石の爪のみを国庫に納めたとか。

  

  件の孤児院と、協力していた教団員は弾劾し、

  一人残らず処分されたそうです。

  

  

  また、その後の私の処遇については、

  イグニス家の分家の養子に、との案もありましたが、

  最終的にはウルカヌス様が貴族家に縛ることを拒否。

  教会の中道派司教、フェリクス家の養子として、

  迎えられることになりました。

  

  あの出会いは、数年経つ現在でも、吟遊詩人たちの語り草です。

  「恐ろしき竜に立ち向かう英雄と、それを祈りで癒した聖女」、として。

  噂に尾ひれは付き物ですし、仕方がありませんね。

  

  私も、フェリクス家も、それ(・・)を否定する必要など無いのですから。

 

 


 

 

これが、わたくしと、ウルカヌス様の出逢いです。

その後、現在までフェリクス家とイグニス家の親交は続いており、

義父は次期、大司教への昇格がほぼ確実だとか。

 

ウルカヌス様は、その後も混沌の森に通い、

老神龍の無聊を慰めると共に()て子を保護していたようです。

 

 

 

出会いから半年ほどが経過した時期に私は彼に呼び出され、

[服を脱がされ、全身を愛撫]されました。

 

――治療のために。

 

彼はあの時手に入れた宝石竜の血をエーテル化し、

治療薬を作るべく奔走していたそうで。

 

混沌の森で調達した材料に、ウルカヌス様の魔力を込め、

老神龍の加護を受けた治療薬(それ)はもはや神薬(エリクサー)

化しており、病・怪我、そのほぼ全てに有効であるとか。

 

そのような貴重なものを、私の後遺症などのために

使おうというのです。

当然、畏れ多すぎて抵抗いたしましたが、

「君のために作った」とまで申されては、固辞することの方が

失礼となってしまいます。

 

なにより、憧れのお方にそのような事を言われて、

嬉しくないわけがありません。

 

せめてもの反抗として、医者と言えど肌を無用に晒したくはない、

と強く主張し、彼自身の手で塗ってもらうことに。

 

かつての孤児院の飢えずとも質素な食事に対し、

贅沢ではなくともバランスの良い、フェリクス家の食事。

それを半年とはいえ頂いた私の身体は、かつての痩躯から

僅かに成長し、女体らしさを多少は取り戻しています。

わずかでも意識してもらえれば、と思いましたが、

意外に効果は深かったようで。

 

手の届かぬ背を塗って頂いている最中、

私がくすぐったさに身を(よじ)るたび、

彼はその手をすぐさま浮かせ、(しばら)くして恐る恐る、

壊れものを撫でるように触れるのです。

 

大切に扱われている、その事実だけで、はしたなくも私は

彼に全てを奪われたくなってしまいます。

純潔(はじめて)も、(さいご)も、全てを。

 

 

目と耳の治療の際には、頬に触れた手に頭を擦り付けると

固まってしまって、私が右目を開くまで

微動だにされません。

 

そうして右眼の視力、右耳の聴力を与えられた(取り戻した)私は、

片目を閉じ、片耳を塞ぐ動作が癖になっております。

 

――そうすれば、(まぶた)の裏、脳裏に焼き付いたあの方の姿が、

  声が、いつでもはっきりと現れるのですから!!!

 

(くだん)の治療薬は、「体を正常に戻す作用」が強いようです。

すなわち、私にとってはその影こそが正常、ということ。

ああ、なんて素晴らしい異状(せいじょう)でしょうか。

 

 

これも主が課された試練の結果。

そう考えれば、今の立場で日課とされた祈りも苦になりません。

 

 

おお、神を讃えよ(ハレルヤ)!!

 

 




はい、というわけで中編です。
後編は別視点からのネタバラシがメインになります。
まさかウェヌス視点だけで1万字近くなるとはこの海のリハク(ry
もう一個イベント入れようと思ったんですがそれも5000字程度の見込み、
分割するしかありませんでした……。

ウェヌスちゃんは内外共通して、文字通りの聖女です。
既に、一般人とは違ってウルカヌスという絶対の物差しがあり、
彼女の中では神も人もが測られる側に過ぎません。

内心病み病みでもウルカヌスに悟られないよう
絶対に表に出さないため、ほかヒロインに対しても寛容に見えます。
見えるだけともいう。
なお本人は病んでいる自覚なく、自分の信念を貫いているだけの模様。
これはメインヒロインの風格(白目)。

前話に比べ、回想では多少幼い感じが出ていますが、
12歳の過去編と14歳の現在を想定しているのでこんな感じかな?と。


そんな彼女が光に焼かれていないのは、偏に「英雄」を
人外のモノと定義しているため。
人である自分が目指せるものではなく、
憧れることも烏滸がましい。
けれど英雄の感情を向けられ、聖女(自ら)を捧げることに
至上の幸福を覚える、かなりサイコな価値観をお持ち。

自分は巫女として死に、英雄の所有物として
生まれ変わった、といった認識を時間経過とともに固めていきます。
混乱から覚めた1年後の彼女は英雄に褒められると照れますが、
全裸を見られようが痛めつけられようが一切抵抗しません。
ただし自ら英雄を求めることは恥ずかしく、
あくまで誘い受けを徹底。

なお、彼女は身分・種族違いの愛にも深く理解を示します。
理由は語るまでもなく。

これもある意味、英雄の毒かもしれません。

そして作中出てくる吟遊詩人の詩。
大衆向けだから当然、英雄と聖女は――。
そしてそれを否定しない聖女とフェリクス家。
いや、放置しててもデメリットがないだけですって。

ちなみに今作、ネタをかなり深く盛り込んでいます。
人名は特に、調べてしまうとネタバレの嵐ですのでご注意ください!

それでは、読了ありがとうございました!



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