オリー主で進むリリカルなのはシリーズ (鳥になりたい)
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プロローグ

いつだって世界は残酷でできている。

何も悪いことをしていない者が突然事故で亡くなるなんてことはザラだし、たまたま病気になり亡くなってしまう者もいる。

 

いつだって世界は理不尽でできている。

人は平等だというが、生まれながらにして既に周りとの差は歴然だ。

金に困ることのない御曹司の子供と今日を生きるのも精一杯な家の子供のスタートラインが同じなはずがない。

 

いつだって人生は空模様のように移ろいでいく。

ずっと天気が晴れにならないように。

ずっと天気が雨にならないように。

幸せは続かない。

不幸は続かない。

 

運がなかった?

間が悪かった?

運がなければ文句も言えなくなってしまうのか?

間が悪かったのならどんな理不尽も起こり得るのか?

それを理由に納得できる者がいるとすれば、それは人間を超越したナニカだ。

理不尽には怒るのが人間だ。

 

もし、たら、れば。

歴史にたらればは不要と言うが、なるほど、歴史にifを求めてもどうしようもない。

周りの出来事も同じ、ifを求めても現実が変わることはない。

 

それでも、誰もが一度は思ったはずだ。

 

『あの時、こうしていれば。あの時、あんなことしなければ』

 

全てを受け入れられるほどの心の器を持つことは、不可能なのかもしれない。

 

なら、自分の思い通りにしようとすればどうか。

相手が自分の意思や願いを尊重してくれるとは限らない。

当然、敵は尊重してくれない。

それが現実だ。

 

だからこそ。

 

偽りの自分を乗りこなし。

理想の自分を演じ続け。

生き続けなければならない。

 

いつか花は枯れ、枯れた花は腐って土に還り、またその上に花が咲く。

幸福も不幸も流転するものだが、さて。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

所謂、これが生の『二度目』というものなのだろう。或いは転生と呼ぶべきか。

勿論、人間の構造上、転生などありえない。

人間の思考は脳によって左右される為、一度死んだ人間の思考が赤ん坊に宿るなど現実的にはありえない。

分かってはいるが、今の俺の主観で言えば、それは二度目、もしくは二周目、と言っても過言ではない状況だった。

地球という惑星で、現代の日本という社会で、父と母のいる家庭に生まれ、子供の脳だというのに知識を所持していることを認識した時、それは確信に変わった。

転生したのだと。

 

物語の題材としてはあまりに使い古されている転生。

探せば百はゆうに超える数を持つ題材だ。

もし俺の転生を物語として語るのであれば、あまりにも平穏過ぎて、人を楽しませる娯楽を提供できる物語とは到底言えない。

おそらく、話せば一時間もせずに語り終えるくらいの物語。

いや、それなら子供に向けて話すのであれば十分な量かもしれない。

 

閑話休題。

 

物語と言えないぐらい、この人生での最初の数年はありふれたものだった。

言葉にならない言葉を発し、自由に動くことすらままならない故に、瞑想&妄想でもしていた程度。

思考できても身体が動かないというもう二度と経験したくない時期を過ぎ、成長しきった頃と比べれば不自由ではあるが、それでも乳児と比べれば手足と指が自分の意思で自由自在に動かせるようになった頃、幼児が持つ学習能力の高さを利用して新たな知識を叩き込んだ。

一説によれば、一定の年齢までに人間の言葉に触れずに育った人間は、語学を習得できないとされており、それほどまでに幼児期とは大切なものなのだ。

それはさておき、知識を叩き込んだのは二度目故の勉強が好きになったなんてご都合主義ではない。

今度こそ勉強して無双してやるぞい、なんて浅はかな動機である。

我ながら浅はかな動機だと自覚はあるものの、結果はいい方向へと向かったのが幸いか。

ようやく口をきけるようになったレベルの子供が勉学に励む。

今思い返せばそれは年相応の子供の振る舞いとしては無理のある行為だったが、今生の両親がそれでも酷く喜んでくれたのは印象に残っている。

 

家で両親の庇護のもと、本を読んだり、近所のちびっこ達と遊んだり、前世? ではあれほど嫌だった勉学に励んだり、少し成長して幼稚園に通ったり。

あまりに精神年齢のかけ離れた幼児に混じっての生活は二度目の俺では疲れる、などと言うつもりはない。

寧ろ、二度目の幼稚園生活は楽しかったとすら言える。

別に精神年齢が幼児と等しい、という非常に悲しい理由ではない……ないと思いたい。

ただ好きなものを好きだと言い、建前のない関係が素晴らしいと思っただけ。

年相応の振る舞い方を出来ているかは不安であるが、育てて貰っている以上、両親が心配しないようにするのは勿論、喜んでもらいたいと思う程度には彼等の子としての愛情というものがある。

 

他の人ではありえない経験のおかげで、スタートが二手、三手進んでいるどころか王手間際といっても過言ではないかもしれない。

日本語を覚える、ひらがなを覚えるという退屈ですらある学び直しを繰り返す中で、しかし、俺は一つの発見をした。

前回……前世? では、ついぞ見ることののできなかった、体験することができなかったもの。

 

『魔法』

 

これが魔法なのかどうかは曖昧であったが、一番近いものとしてそう表記する。

 

それはアニメや漫画、映画では当たり前のように登場し、作品によって魅せ方は様々ではあるが、科学とは違った魅力にやって人々を魅了してきた。

杖から炎を出す、箒に跨り空を飛ぶ、面妖な呪文を唱えて物理法則を超える。

媒体によって表現、具象は異なるがそれが魔法だ。

 

魔法という概念は前世? でも存在していたが、アニメや漫画、映画で見るようなファンタジックなものを現実で見る、又は使用するなんてことはあり得なかった。

あり得ないが故に、人々は焦がれ、『もし使えたら』なんて想像をしていた。

過去には嘘か真か、魔法(魔術)を使うものは次々と訴迫、裁判、刑罰、酷い時は法的な手続きを取らない私刑なんてことにされたと聞くが、果たして彼等は本当に魔法などを使っていたのか。

現代では、歴史上の魔女狩りの事例の多くは無知による社会不安から発生した集団ヒステリー現象であったと考えられているが、真相はいかに。

 

それはさておき、体験したという表現は少し変であったか。

もっと簡潔に言えば、幸か不幸か俺は所謂魔法使いになれる素養があったらしい。

これは、本来ならばあり得ない二度目というイレギュラーが原因なのか、はたまた単純な親からの遺伝なのか、全く関係のない理由なのか、第三者によるものなのか。

 

どのような理由でソレがあるのかわからないが、それ故に慎重にもなった。

実はこの世界は前とは異なり科学ではなく魔法が発達しており、皆がその力を持っているのか。

寧ろできて当たり前、この程度は落ちこぼれなんていう未知の世界は勘弁願いたかった。

そうなった場合、二度目ということが逆にマイナスになりかねない。

周りにとっては常識でも、俺にとっては常識ではなく。

俺にとっては常識でも、周りにとっては常識ではなく。

 

そんな恐ろしことに直面するわけにはいかない。

そう思い図書館や新聞などを駆使し(前回死亡時よりも前の時代である為にネットやスマートフォンなどという便利なものはまだ普及していない。ガラケーと呼ばれる携帯が普及している時代であった)調べた結果、この世界でも魔法とはお伽話の中のものであることがわかった。

やはり過去には魔法と呼ばれる技術があったような記事があったが、オカルトの域を出ないのでそこはご愛嬌。

 

原因や理由は不明だが、この事実に心が踊らなかったと言えば嘘になる。

他人は使うことのできない、自分にだけ許された、まるでアニメとでも言いたくなるような力があるとわかったのだ。

 

自分の内から感じられる、今までなら感じることすらなかった熱いナニか。

普段の生活上使い所のない、寧ろ使うことによって問題となる、意識することによって出せる炎や風。

 

物語などで登場人物が超常的な能力を与えられて周りを見下したり、天狗になっていたのも今なら理解、共感できる。

実際、この能力を研究していけば悪用の方法など一つや二つすぐにわかることだろう。

俺も、もしも間が悪かったのなら、そういう連中と同じ道を辿っていたかもしれない。

 

小学校に通い始め、たまたま隣のクラスの名簿を目にしなければ。

この力を持つものが、この先に起こるであろう事件で襲われる可能性を秘めているという事実に、辿り着かなければ……。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

歩きやすいよう整備された道路とは違う、人を歩くことを想定していない道をざり、ざり、と進んでいく。

理由は至極単純。

人のいない場所、を思い浮かべると山や森が真っ先にでてきたため、安直ではあるが森を選んだのだ。

海も近いため別に海でも良かったのだが、少し開けすぎている。

万が一ことを考えれば、やはり森である。

森のような人混みによる騒音からかけ離れた場所ならば静かだとばかり思い込んでいたが、鳥の羽ばたきや動物の鳴き声、風によるざわめきなど案外静かとは言えなかった。

静かになると逆に音が響きやすくなるが、ただのざわめきがここまで聞こえてくるとは思わなかった。

 

自然に触れ合う機会の少なさからくる新たな発見を実感しつつ、木々によって光が遮られた不気味な道を歩く。

自分の年齢を考えると、大人の同伴なしでこんな森の奥まで来たとなったら説教は免れないものではあるが、大人が同伴していては一人でここまで来た意味がなくなる。

 

「ここ、でいいか」

 

立ち止まり、見上げた先には、やはりこれまでの道程と何一つ変わらない、草木の生い茂る道の斜面。

街からは遠く離れ、ジョギングコースからも大幅に逸れているこの場所ならば人目につくということもあるまい。

この場所で問題ない。

 

「ふぅ……」

 

周囲に人が居ないのを確認し、精神を集中。

自宅から持ち出したペンダントによく似た何かをズボンのポケットから取り出して顔の前まで持っていく。

 

家にあった。

たまたまあった、なんておかしな話はないだろう。

 

だが、今はそのことを考えている余裕はない。

引き継いだ知識と予想……魔力による反応を合わせて、半ば確信はあった。

奇跡は起きないかもしれない、魔法なんてものはまやかしなのかもしれない。

だというのに。

 

 「────覚きろ、『デバイス』」

 

ペンダントのようなもの……ストレージなのかインテリジェントなのか、アームドかは不明だが、チカチカ、と光り反応する。

ひとまず安心。

これで反応もせず、ただのペンダントでした、なんて状況は笑い話にすらならない。

 

『システム起動。データの確認中…… 』

 

「新規登録者設定、フルオープン」

 

ダメ元であったがチカ、チカ、と一定のテンポで光り、恐らくは俺のリンカーコアを読み取り使用者として登録しているのであろう。

足元には赤色の魔法陣が広がっている。

 

デバイスによる魔法の経験など当然ではあるがなく、自らの中途半端な知識でどこまでやれるかはわからないがやるしかない。

 

ようやく、最初の一歩だ。

俺から溢れ出る魔力で滲む視界が、持ち上げた手を映し出す。

ロボットのような灰色の装甲に包まれた、自分の手。

金属鎧のようで、魔力によって作られたバリアジャケット。

自分の身長に匹敵するバルディッシュに似た槍のデバイス。

 

「戦える」

 

『推定魔力量、AAA』

 

とある執務官曰く、魔導師ランクがAAAクラスならば本気で戦うと街が1つ消し飛びかねないらしい。

丁度いい。

原作主人公達と同じスタートライン、それくらいでようやく意味がある。

戦いに巻き込まれるかもしれない。

いや、違うか。

自ら戦いの場に赴くのか。

だが、何もできずに襲われるくらいならば、戦えるだけ余程マシだ。

魔法なんてものに関わらないのが一番だが、関わる云々以前に素質があるだけで襲われる可能性があるから対策は練るべきだ。

最悪死ぬかもしれない。

でも巻き込まれて死にたくない。

他所の世界の厄介事に巻き込まれて死ぬなんて吐き気がする。

その次の事件も、その次も、そのまた次も。

理不尽に、ただ運がなかったから巻き込まれたなんてものは、絶対に御免被る。

 

「だからこそ」

 

 

何故このようなデバイスが俺の家に置いてあったのか不明。

でも、いまは考えてられない。

 

「いくぞ、『ヴァリアント』」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

地球とは違う、異世界であるミッドチルダからやってきた少年ユーノ・スクライアが発掘した『ジュエルシード』と呼ばれるロストロギアから全ては始まった。

娘であるアリシア・テスタロッサを失った悲しみから、ジュエルシードによってその蘇生を試みようとするプレシア・テスタロッサの凶行。

プロジェクトFによって生み出されたフェイト・テスタロッサと高町なのはの出会い。

闇の書と呼ばれるようになってしまったロストロギアによる悲しみの連鎖。

敬愛する主を救おうと独断で魔力蒐集を始める守護騎士たちと確実に死に向かいつつある今代の闇の書の主・夜神はやて。

死に向かう星を、愛する家族を守るために決裂する姉妹と、鍵となる夜天の書。

 

海鳴市は、悲しき戦いの舞台となろうとしていた。

 

 

 




○転生のオリー主
現代社会に生まれ変わってヒャッホウしてたらリンカーコアあった
なんか隣のクラスには高町なのはとかいう女の子がいた
たまたま、偶然の同姓同名だろと思っていたけど、よく考えたらここ海鳴市だし、自分は聖祥大附属小学校に通っててチェックメイト
なのはの父親は喫茶店を経営してるし、そのほか地元のサッカーチームの監督もしている
リリカルなのはというアニメもとらいあんぐるハート存在しない
むしろあったら怖い
もっと早く気づけたような気もするけど、普通アニメの世界に転生なんて思わないからね、仕方ないね

ところで、リンカーコア持ってるんだよねぇ
魔力量AAA!? 魔力変換素質を『炎熱』『風』の二つ持ち!? すごいじゃないか!
そんだけすごい量ならさ、闇の書の収集に大いに役立つよねぇ!
闇の書が暴走しても、暴走を止められれば地球無事だから!
時空管理局のお偉いさんは既に闇の書の所在知ってるし問題ないよ!
大丈夫! その前に何故か地球にジュエルシードとかいうロストロギア落ちてくるから、それ解決しないとまず闇の書事件まで生きられないから!
ジュエルシードだって使い方を間違えなければ次元震も次元断層も起きないし!!

みたいなのを考え出したら怖くなってしまう
実際やばい事件だと思うんだ

なんか家にデバイスあるし、めっちゃ高性能だしおかしいね
砲撃形態兼槍のジャベリンとあと一つの形態になれる
強度的にアームドデバイスの気もしなくはないけど高性能なAIを積んでるしインテリジェントデバイスな気もする
カモノハシみたいな性質してんなこいつ

○なのはちゃん
小学三年生なのにもう将来の事について悩んでいる自称『ごくごく普通の小学生』
口癖は語尾に「なの」らしいけど見返してたらタイトルぐらいしか言っていなかった
父親は事故ったけど生きているので『なのちゃん』にならず仲の良い夫婦あんど兄姉に若干の疎外感を感じるてる……闇が深い
ちなみに「父の事故の原因となった相手を憎むことは簡単だが、それで悲しみが終わるわけじゃない―― すでに起きてしまった悲しみを止める方法など、そう簡単には存在しない―― 」として当時のことを振り返っているので実は彼女も転生者だったりしない?

一年生ではなのはと転生のオリー主は別クラス
この設定が活きるかどうかはよくわかんない


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1 壊れやすい日常

幸せってなんだろうか。

『幸せの青い鳥』のように本当の幸せとは、どこか遠くにあったり探し求めるものではなく、ごく身近にあるものだと思う。

寝て起きて、食べて学校に行って、友達と遊んだり、また来るであろう明日を待つ。

確かにそれは幸せだろうが、そうは言っても幸せの定義は人それぞれ、それこそ千差万別といっても過言ではないだろう。

 

なら幸せってものはなんだろうか。

……あまりにも漠然とし過ぎているので、例えば最初に起こるであろう事件の人物に焦点を当ててみよう。

 

フェイト・テスタロッサ。

彼女にとっての幸せとはなんだろうか。

愛する母親に認めてもらい、彼女の記憶にあるような家族で共に笑いあって過ごすことだろうか。

 

では、プレシア・テスタロッサ。

彼女にとっての幸せとはなんだろうか。

魔力駆動炉の暴走事故で失った愛娘であるアリシアを蘇らせ、本来あるはずであった過去と未来を取り戻すことだろうか。

 

家族であるはずの二人でさえここまで幸せが違う。

幸せが違うことは問題ではない。

問題なのは、致命的にまでズレた二人の幸せが共に叶うことはないこと。

つまり、アリシアが生存するとプレシアは幸せになるだろうが、フェイトは幸せ以前に生まれることはない。

フェイトが生まれるということはアリシアは死亡する……。

 

そしてアリシアが生存しているとプレシアは物語のように狂うことなく優しさに満ちた母親のままであるが、 フェイトは生まれないし、仮にアリシアの願いである『妹が欲しい』を叶えて妹を作ったとしても、その妹にプロジェクトFのコード名を付けることはないだろうし、そもそもプロジェクトFに関わらないだろう。

それはもうフェイトとは違う別の誰かだ。

 

シビアな世の中である。

 

アリシアの死はもう時系列的に確定しているのでそこは変えられない。

ならば、未来はどうだ。

 

プレシアも元は優しいママンだったわけであるし、悲願さえかなえばフェイトのこともアリシア復活の功労者として、 自分の娘、そしてアリシアの妹として普通に可愛がるようになっていく可能性大なのではないか。

妹を欲しがっていたアリシア的にも幸せだし、アリシアが蘇ればプレシアは幸せだし、プレシアに娘として可愛いがわれるならフェイトも幸せ。

将来的にアリシアとフェイトは仲のいい姉妹になるかもしれない。

 

事実、とある世界線ではその幸せは実現されていた。

 

……全員幸せのハッピーエンドなんてものを夢見ている訳ではないが、やはりそれはあまりにも厳しすぎる。

仮に俺に死者を蘇らせるような魔法、ないし能力でもあれば全て丸く収まるのかもしれないが、生憎そんなものは持ち合わせていない。

 

数々の特許を持ち、超一流の魔導師……大魔導師と呼ばれるプレシアですら長年の研究をもってしても生命蘇生に辿り着けなかった。

多くのプロジェクトの主任に任命されるほどの研究者ですら、だ。

魔法についての知識がほぼないと言っても過言ではない素人な俺に一体何が出来るというのだろうか。

なにしろ、持っているのは起こった事件とそれに関連する人物達という限定的な知識だけ、それも俺というイレギュラーが介入することによってその予備知識もどこまで通用するか分かったものではない。

 

そもそも俺という存在でどの程度物語が変わるかわからない。

もしかしたら今回は誤差と呼ばれる範囲で済むのかもしれない。

なるほど、もし誤差の範囲内で済むのであれば俺の知識も大いに役立つことだろう、それほどまでに情報は力となる。

だが次は? その次は?

今回の事件は誤差で済むかもしれないが、バタフライ・エフェクトというものもある。

 

つまり、恐ろしいのはこの誤差は非常に些細なズレであるけれど、これが様々な要因を引き起こして知識から大幅にズレていくことだ。

そうなると話は変わってくる。

逆に中途半端な情報のせいで翻弄され、良い方へと向かうはずが悪い方へと向かってしまう可能性すらある。

 

果たして、何が最善の行動なのか。

 

『イメージトレーニング、開始。ターゲットを全て破壊して下さい』

 

こうして、未だ魔法を満足に使いこなせないせいで空き時間の全てをイメージトレーニングに費やしている俺が。

いったい、俺に何が出来るのだろうか。

 

考えるのをやめた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

己の武器であるデバイスを手に持った少年が目を細める。

人の身だけでは決して行くことのできない大空、目に見える範囲には、少年のデバイスによって設置されたターゲットを除けば少年しか居ない。

そこはデバイスによって展開されたイメージ空間、本物の空ではないし、航空機が飛び交うということもない。

 

ランダムに設置されたターゲットを確認し、この場における最適解を模索する。

 

トレーニングの開始を告げるブザーがなると同時に、ターゲットから空飛ぶ少年へと一斉に模擬弾が襲いかかる。

その数はゆうに十を超える数となっており、そのまま受けるようならばスタート早々失敗となるだろう。

 

「シールド」

 

『展開』

 

彼にとっての防護服であるバリアジャケットを展開し、避けきれない最低限の弾を部分展開したシールドで防ぎ、残りを戦闘機さながらのバレルロールしながら避けていく。

常人に空を駆け、このありえない機動をもたらすのは、魔力とそれを補助するデバイスがあればこそ。

ターゲットからの弾幕は途切れることはなく、側から見れば当たるのも時間の問題と捉えるだろう。

事実、少年の逃げ道を減らすように弾幕の密度はトレーニング最初よりも濃くなっており、少年の動きは制限されている。

しかし、ただやられるばかりの少年ではない。

 

『フォトンランサー』

 

「ファイア」

 

体の周囲に生成した発射体(フォトンスフィア)から、魔力変換素質である炎を纏った槍のような魔力弾を発射する。

高速で発射されたそれは、避けようとするターゲットに一直線に向かい、ターゲットを次々と破壊していく。

回避と攻撃を同時に行い、ターゲットの数はみるみる少なくなっていき、弾幕もそれに比例するように少なくなる。

が、ターゲット破壊による煙の中から他のそれとは比べものにならない大型のターゲットが大量の弾幕と共に出現する。

 

「大型は今回のイメトレに含まれないはずじゃ?」

 

『戦場にアクシデントはつきものです。臨機応変な対応を心がけて下さい』

 

臨機応変、いやに胸に突き刺さる言葉だ。

少年は心の中で悪態をつきつつ、フォトンランサーを撃つが大型とは思えない旋回スピードで避けられてしまう。真っ直ぐ飛ぶというある意味単調なフォトンランサーでは破壊出来ないと判断、しかし砲撃魔法を使えるような弾幕ではないためバレルロールのスピードを更に上げる。

瞬間。

大型ターゲットが両断された。

そこにあったのは、炎を纏わせたジャベリンのデバイス、それを振り抜いた少年の姿だった。

大型ターゲットはズリ、とずれた後爆散し跡形もなく散る。

 

「これで全部か?」

 

『いえ、残り一つ』

 

「え」

 

残り一つ言われるもターゲットは周囲には見当たらず、幻術魔法などで隠匿している気配もない。

当然、少年は困惑。

周りになければ、隠れているわけでもなく、いったい何処に残りのターゲットがあるというのか。

 

『目標、前方100km』

 

「……そんな距離、肉眼で捉えられないんだが」

 

『狙撃を推奨』

 

ターゲットを肉眼で捕捉することすらできない常識外の距離のため、デバイスによる精密照準に頼らざるをえない。

間に障害物などがないため、遠くにあるターゲットに砲撃魔法を当てるという至極単純なものではある……が、やはりその距離が問題であった。

いかせん馬鹿みたいに遠い。

 

愚痴を嚙み殺しながらカートリッジをロードし出力を上げて、狙いを定める。

圧倒的な距離。

それでも……

 

「狙い撃つ」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

『トレーニング、終了』

 

「今回のスコアは?」

 

『60点、と言ったところでしょうか』

 

ちょいと厳しすぎる点数に気分が落ち込む。

魔法自体は使っていて楽しいし、何より空を飛べるというのは想像以上に爽快だ。

そんな魔法をより上手に使えるための努力など苦ではない……が、スコアがどうも伸び悩む。

デバイスを手に入れて早三年、自分を追い込む勢いで鍛錬してきた。

それこそ、そんじょそこらの魔導師に負けないほど強くなったという自負もある。

実際に戦ったわけじゃないけど。

 

だが、言い換えれば今の俺の実力はそこいらの魔導師に負けない程度の実力しかないということだ。

これから対峙するであろう者達ははっきり言ってエリート、チートな奴らばかりである。

彼等に対抗するとなると、やはりこれだけの実力では全くもって足りない。

やはり誘導制御型の射撃魔法の導入も検討すべき頃合いなのかもしれないが、正直言って苦手だ。

それに今更魔法の選択肢を増やすのも躊躇われる。

 

魔力変換素質の『炎熱』をもったお陰で逆に純粋魔力を放出するのが苦手になってしまった。

しかし、問題はもう一つの変換素質である『風』だ。

これの使い道がどうもよく分からない。

原作で使ってるやつなんていなかったし、術式が今のところない。

どうにも『風』はイメージしづらい。

理由として、他の属性と違い『風』はエネルギー的な要素を持たず、また視認できる確たる物体として存在し得ないからだ。

原作に存在する変換素質、火、雷、氷はいずれも明確に視認できる特徴を持つが、生憎と風はそうではない。

代表的な熱風や冷風なども火や氷のエネルギーがあって始めて成立するものであり、風はただ熱や冷気を運んでいるに過ぎない。

そして付加される属性ダメージにしても、燃える、焦げる、凍る、感電するなどそれぞれ特徴的な症状が発生する他属性に対し、風はイマイチ想像し辛い。

強いて言えば真空または極端な低気圧によるかまいたちで裂傷状態に陥る可能性はあるか。

はたしてこんな状態で風の魔法なんて習得しても意味があるかだうか。

 

新たに魔法を習得していくことを悪いとは思わない。

使える魔法が増えるというのはそれだけで戦力が増えると同義であり、様々な場面で対応、活かせることとなるだろう。

だが、それは適切な場面で適切な成果を出してこそ戦力として成立するものであり、意図せぬ結果や予期せぬ結果を生み出すものを戦力と呼ぶことはできない。

新たな魔法という選択肢が多すぎれば目移りしてしまい、選んでいる時間が隙として認識される長さにまで伸びてしまう、なんて事もあるだろう。

扱いきれない変換素質に振り回されるようでは、この先対峙するであろう、数多の戦場を渡り歩いてきた守護騎士達にとってはこれ以上にない隙だ。

 

風の変換素質が弱いとは決して思わない。

己の知らない物を全て弱いと判断するのは非常にナンセンスだ。

もし使いこなせるというのならそれに越したこともないだろう。

だが、使いこなせないのならば、或いは未だ不慣れであるというのなら、最初からあるものを単純に伸ばしていった方がいい。

シンプルに強い、それは派手さとは正反対の方向のものかもしれないがそれは違う。

シンプルとは洗練の極み。

ステータス、レベルが高いだけで一定以上強いのと同じように。

 

獣を超える人がいる。

魔を超える人がいる。

人を超える人がいる。

であれば、人を超えた先に立ち向かうためには「技」を極めるしかない。

どれほど小さな石ころでも積み重ねていけば、いつかは城塞に達することもできるだろう。

それが「俺」としての歩の進め方である

 

「風用に新しい魔法でも覚えた方がいいかね?」

 

『その必要はまだないかと。現在扱える魔法を極めることを最優先にすべきです』

 

「ですよね」

 

悲しきかな、やはりわかってはいたが宝の持ち腐れだ。

 

しかし早いものでもう小学三年生。

始まりの事件であるPT事件が三年生の四月に始まるのでもう猶予はほとんどない、というか事件はもう目の前まで迫ってる。

海鳴市から離れようとも考えたが、未だ未成年どころか義務教育すら終えていない俺にとって、引っ越す自由など何もなく、仮に離れられる自由があったとしても次元断層ではどうにもならない。

 

……現実的に考えれば、原因であるロストロギアを封印、確保して安全に保管してユーノに預けるのが最善だ。

更に言えば、時空管理局であるアースラのメンツが来るまでの時間稼ぎ。

ジュエルシードが集まらなかった場合のプレシアの動向が気になるが、最悪、傀儡兵と共に暴れ出してもクロノ達ならばギリギリなんとかなる範囲のはず。

確かにプレシアは大魔導師ではあるが、戦闘の訓練を受けた人間ではない。

犯罪者を相手するために訓練を受けたクロノと武装隊ならいける……と信じたい。

 

なんて、格好つけて色々と考えてはみたけれど。

 

「ごはんできたわよー」

 

「はーい」

 

考え事と同時進行で進めていた宿題をそのままに、椅子から立ち上がる。

慣れてはきたがマルチタスクというのはどうも苦手だ。

なのはは授業中にイメージトレーニングを平行してやっていたというが、本当に小学三年生なのかとツッコミたくなるほどの頭脳と精神だ。

 

俺の小学校低学年時代なんて授業を受けるだけでも精一杯だったのに……恐ろしい子。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「新しいクラスはやっていけそう?」

 

「んー、まぁ友達いるしなんとか」

 

「可愛い女の子とかいた?」

 

「それは内緒」

 

母さんと二人での食卓は、それほど会話が盛り上がるという訳でもないが、気まずくなるほど静かという訳でもない。

一般的な同年代の男子と比べるとまた違う形ではあるが、それでも母さんは愛情を注いでくれるし、こんな食事の時間も俺の幸せの一つだ。

幸運なことに両親は真っ当な性格で愛情をもって接してくれているので、周りと少し違う子供である俺を虐待などといったことせずに育ててくれている。

親の性格というものは子供である自分が生活していく上で密接に関わってくるもので、自分の力だけではどうしようもない部分でもある。

その点、この両親の下で暮らせることはやはり幸運な部類と言わざるをえない。

 

「今回の父さんの単身赴任は長いの?」

 

以前まで父さんが座っていた空席の席を見ながらふと聞いてみる。

ここ最近、残業などで一緒に夕飯を食べれていなかった。

俺は父親がどんな仕事をしているのか詳しく聞いたことがない。

……いや、どんな仕事だろうが、このご時世での仕事というのは定時ぴったりに帰れる事がそうそうないということぐらい、前の一生で身に沁みて理解しているつもりであったが。

残業続きの次は単身赴任ときた。

 

「あぁ……そうねぇ、少し長いけど……やっぱり寂しい?」

 

ご飯を食べる手を止めずに、でも、少しだけこちらを心配そうにしている。

寂しい気持ちは母さんも一緒だろうに、それでもなお俺の心配をしてくれるのはやはり母親故か。

精神年齢で言えばとうに子供を通り過ぎているが、それでもやはり、父親がいないというものは寂しいものだ。

 

「一年で帰って来れそうとは言ってたけどねぇ」

 

「そっか。一年、か」

 

「たまには電話でもして声を聞かせてあげましょ」

 

一年。

つまりは、これから始まる事件の間は父さんは海鳴市にはいない。

果たして長いのか、短いのか。

もし事件を乗り切らなければ、もう会うことはない。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

大丈夫、といえば、おそらく、大丈夫な筈だ。

父さんにも母さんにも魔力反応は見つからなかったからリンカーコアはないはずなので、原作通りならば守護騎士に襲われるということはないはず。

守護騎士の目的は蒐集であり、無差別の通り魔ということではないので襲われる可能性は皆無。

 

それでも、不安が消えたわけではない。

母さんがうっかりジュエルシードを拾って巻き込まれるということだってありえるし、プレシアをなのはや管理局が止めることが出来ずに次元断層によって地球壊滅もありえなくはない。

守護騎士に襲われなくても闇の書の暴走に巻き込まれないわけではないし、ナハトヴァールが地球を滅ぼさないとも限らない。

安全な場所に逃げようにも、そもそも地球が滅ぶ時点で安全な場所なんてないし、仮にあったとしてもいきなり引っ越してなんて言える筈もない。

 

プレシアを止めることは出来ない。

でも、やりようはある。

後にPT事件と呼ばれるこの事件で。

周りに露骨に被害が及ぶジュエルシードや回収できるものは、どうにかして介入して回収する。

危険は最小限に、正体は決してバレないように。

なのはやフェイトにバレても問題は発生しないが、三脳とジェイル・スカリエッティは別だ。

彼らにバレないよう、その上で、出来る限り、家族がジュエルシードに関わらないようにする。

知識にある分しか、介入はできないけれど。

 

「それもうまくいけば、の、話か」

 

できればやりたくない。

正体がバレて追われるような展開も御免だ。

同時に、できれば、父さんにも母さんも巻き込みたくない。

そして、たぶん。

俺には、それをするための力がある。

それで、絶対にどうにかなる保証はないけれど。

 

『聞こえますか……? ボクの声が聞こえますか……?』

 

「やってみるさ」

 

遂に時はきた。

できればやりたくない。

 

でも、最初から諦めるつもりはない。

 

 




○トレーニング大好きマン
自分で魔力負荷かけて授業中も休み時間もほぼやってる
でも正真正銘小学三年生なのに同じことやりだす女の子がいるんだって、凄いね
イメージトレーニングなら場所とか必要ないし、怪しまれはするかもだけどすごく便利で外でも家でも安心
全部のデバイスがレイジングハートさんみたいにイメージトレーニングできるのかは不明だけどヴァリアントくんはできました
多分ストレージデバイスだったら出来ないんじゃないかな……バルディッシュもできそう
100km先の目標撃てとか言われたけど勿論外したので点数は大幅減点
カートリッジシステムは搭載されてるけど、カートリッジの補充は自分での作製以外方法がないので実戦ではほぼ使わない、使えないマン
魔力変換素質の炎は便利で使いやすいけど風は現状使いこなせないので、もし使うなら日常で使うならパンチラを意図的に起こすぐらいか
犯罪だね

父親は出張、母親は一緒
ママンは専業主婦なので家におります
よく昔のなのはの二次小説にいた転生者たちの親は何故か両親共にいない設定ばかりだったけど、この歳で両親が家にいなくて一人暮らしとか警察沙汰だと思うんだ。なおはやて……
いない方が書くの楽かもしれないけど、親がいた方が主人公を頑張らせる動機にもなるし
まぁ最悪殺すなり人質なりにすれば主人公の心曇らせられるかな、なんて
嘘です、忘れて

○キツめな点数を叩き出すヴァリアントくん
カートリッジロード、ガション、ガション、シャキーン!
ガションガションいって変形して、カッコいい効果音と共に魔法陣展開する今時のデバイス
最近のデバイスはガションガション変形するけど、実はレイジングハート以外のデバイスはコア部分や性能、変形機構などをあらかじめ設定した上で造られており、初の変身シーンでなのはのイメージを基に一から構造を構築しているレイジングハートさんは異端だったりする(それ故にロストロギアなんて言われたり)
ちなみにヴァリアントくんもオリー主くんのイメージで作られたりしてる
ワザマエ!


次回、絶対対話するウーマンを放置からのフェイトそんと接触。襲われる前に襲ってしまえの精神によって発生する通り魔事件をお楽しみに



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2 いざ、出陣

フェレットもどき———ユーノ・スクライアを抱えた高町なのはが家への帰路へとつく。

初めてのレイジングハートの起動、そしてジュエルシードの封印は問題なく終えることが出来たようだ。

もし何か問題が発生してジュエルシードの封印が出来なかったら代わりに封印しようと遥か上空で待機していたが、どうやらその心配は杞憂で終わった。

実はなのはさんの魔力量が少なかったり、砲撃魔法に適正ありませんでした的な展開になったらどうしようかと思ったが、バカ魔力で砲撃バンバン撃っていたので問題ない。

初めての魔法の癖に俺より砲撃強いとか恐ろしい子。

 

彼女は戸惑いながらではあるけれど、持ち前のセンスと魔力量で一撃でジュエルシードを封印する様は見ていて呆れるどころか逆に清々しいまである。

ユーノが張った結界のおかげで一般市民への被害もなし。

道路は多少ヘコんでいるが……まぁ、ここまでは許容範囲内と言えよう。

 

しかし、こんな分かりやすい反応があったにも関わらずフェイト・テスタロッサ一行が介入しなかったことからまだ地球に来ていないと考えていいだろう。

目的のジュエルシードの発動、及び複数個あったというこの状況、もし現地入りしているフェイトからすれば見逃す理由なんてないはずだ。

もっとも、今はいなくとも彼女らがこちらに来るのも時間の問題。

 

こちらに来てジュエルシードを安全に封印するだけなら問題ないが、おそらく早さを優先して街中で強制発動するだろうからそこが問題。

ある意味地雷とも呼べるジュエルシードが街中にあるだけでも厄介なのに、それを強制発動させるときた。

原作は問題なく終わったのだから無視するという選択肢もあるが、自分達の足元に地雷が埋まっているのがわかって、呑気に過ごす気分になれるだろうか。

俺はなれない。

すぐ真下に地雷が埋まってる、とまではいかないが、この一帯に地雷が埋まっていていつ爆発するかわからない程度には心が安らがない。

よくも、まぁ、海鳴市にジュエルシードをばら撒いてくれたものだ。

 

全威力の何万分の一の発動で次元震の発生、レイジングハートやバルディッシュを酷く破損させるまでに至ったのだ、強制発動だけは見過ごせない。

最悪、他の発動前のジュエルシードならフェイトにくれてやってもいい。

いや、本当は良くはない。

できることならばジュエルシードはこちらで全て回収か、もしくはなのはやユーノに回収してもらうのがベストだ。

けど、フェイトと戦闘をしたところで勝てるかどうかもわからないし、殺されることはないだろうが仮にプレシアに目をつけられるようなことになりたくない。

 

他のジュエルシードをフェイトに回収されるのは危ないといえば危ないが、数個程度であればプレシアの計画を遅らせることもできるだろうし、後のことは絶対対話するウーマンに対話してもらって頑張ってもらおう。

 

……目をつけられたくないが、一度彼女らと自分にどれほど差があるかは見極めておきたい。

なのはは正直どうでもいい。

今のなのはには負ける気がしないし、そもそも彼女の目的を考えれば争うようなことにはならない。

未来のなのはさんには勝てる気がしないが……今は勝っている、というどうでもいい優越感にでも浸っておこう。

 

やはり問題はフェイト。問題ばかりの問題児だ。

彼女の速さがどの程度なのかこの目で確かめてみたいし、なにより争う可能性大だ。

だが、俺もこの三年間何もしてこなかったわけではない。

少し前に比べ、魔力や技術は驚くほどに強化されているので無力だった頃とは違う。

伊達や酔狂で三年間、遊びをほとんど断りトレーニングしていない。

友達が減ったような気がしなくもないがそれはそれ。

魔力が増えれば増えるほど闇の書のいい餌になるが、どうせ元から狙われるのは確定していたし、リンカーコアが完全に覚醒していないからヴォルケンリッターに狙われないとも限らない。

それはともかくとして。

 

「眠い」

 

本来、今は良い子はお眠りの時間なのだ。

俺が良い子かどうかは置いといて、やはり夜遅くというのは子供の身体には厳しいものがある。

前世の学生時代なら夜更かしorベットでスマホいじりなんてして当然、むしろ夜起きてないと勿体ない精神で過ごしていたものだが今はできそうにない。

 

坊や〜↑良い子だねんねしな↔︎

そんな歌を歌いながら帰る様は他人からしたら気持ち悪いだろうが見た目は子供、勘弁してほしい。

ぐっすり寝られるかと問われれば怖くてノーだが、寝ないことには明日に響く。

なのはも無事に魔導師になれたことだし(彼女はまだ魔法少女だと思っているようだが、あんな砲撃ボコスカ撃つのは断じて魔法少々ではない)しばらくは任せても問題なかろう。

その為のチートフェレットなのだ。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

一つ言い訳をするならば。

別に俺は盗聴が趣味でも日課でもなんでもない、一般人である。

クラスメイトの美少女たちの会話を秘匿性の高いサーチャーで聞いているのは一重にチートフェレットの行方を探るため。

普段こんなことはしていないし、いくら周りにバレないからといって盗み聞きばかりしていたらなのはのプライバシーなんてあったのもではない。

……本当に普段はしていない。

というか、もしバレようものならばなのはやユーノに要らぬ疑いを持たれてしまう。

 

今回はもしチートフェレットがなのはの家にいれないとなると問題が発生するため、心痛めながら、仕方なく盗聴しているだけなのである。

なのはは基本、昼になると友人であるアリサとすずかと共に屋上へと行ってしまうため会話を聞き取ることができない。

俺も屋上で昼食をとれば解決なのだが、普段行かない俺がわざわざ彼女らの会話が聞こえる範囲で食べようものなら別の意味で疑われる可能性がある。

それはそれでめんどくさい。

よって、魔法という素晴らしい能力に頼ることにしたのだ。

 

さて、なのは達は教室を出て屋上へ向かった。

 

屋上が解放されているのは中々に珍しい学校だ。

そこいらの学校では屋上なんてまず使用することもなければ、許可を出してくれないところばかりなのに、やはり私立というのが大きいのかもしれない。

しかし小学生に屋上の解放は如何なものか。

小学生だと事故で落ちそうな気もするが、まぁ、なのはなら仮に落ちても飛べるしいいか。

 

周囲を見回す。

ユーノの気配、無し。

レイジングハートさんからの警戒、無し。

周りの友人が気づく気配、当然無し。

あったら困るけど。

 

鞄からお弁当を出すフリをして。

ヴァリアントを起動して、サーチャーをちょいと飛ばす。

勿論、レイジングハートにバレないように細心の注意を払って。

 

弁当を実際に取り出してあら不思議。

ヴァリアントさんから念話で彼女らの会話が聞こえてくるではないか。

不思議な事もあるものだ。

いやはや、参った参った。

 

会話を聞くに、どうやらフェレットもどきはなのはの家で預かることにしたそうだ。

いや、本当に良かった。

これならチートフェレットを放置して、イメージトレーニングに集中出来そうだ。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

チートフェレット改めミッドチルダの魔導師・ユーノが高町家にしばらく泊まることが確定したのはいいが、フェレットになって女の子の家に泊まるとか冷静になって考えると大分ヤバイ状況だけど、歳が歳だし逆に安心か。

多分ね。

 

そんなことは置いといて今回の目的を再確認しよう。

この前の観察でレイジングハートさんが「魔法少女の杖」ではなく「魔導師の端末」へと完全に変化していて、さらには収納型のグリップとトリガーまで追加されているのを確認できた。カッコいい。

それを踏まえて、覚えている限りの情報がこの世界でもなんら変わりがなければ。

高町なのはとフェイト・テスタロッサが子猫が発動させたジュエルシードを求めて初めて出会う日。

それを狙う。

 

フェイト・テスタロッサ。

インテリジェンスデバイス、『閃光の戦斧』の二つ名を持つバルディッシュを所持。

この時点ではデバイスフォーム、サイズフォーム、シーリングフォームが使用可能でフルドライブであるザンバーフォームはまだ使用不可(そもそもベルカ式のカートリッジもまだな為搭載されていない)。

使い魔には狼が元となったアルフ。

AAAクラスの優秀な魔導師で身体能力も高く、射撃・砲撃・広域攻撃・近接格闘とオールラウンダーな能力を持っているが、彼女の自慢のスピードを生かすため中・近距離格闘を得意とする。

また、魔力変換素質『電気』があるせいか、彼女の攻撃魔法には雷が多い。

 

悲しきかな、初戦にしては強すぎる相手である。

が、プレシアによる虐待と睡眠不足で全力で戦えないだろうという希望的観測。

この時は使い魔のアルフとは別行動しているという都合の良さ。

 

勿論、今の俺がAAAの魔導師と同等の戦闘能力を持ってる訳ではない。

鍛えているが、それでもフェイトのそれと比較して技術や経験が勝るというわけでもない。

だからこそ本調子でない、アルフもいないこのタイミングという訳だ。

それに、実戦経験なしのトレーニングオンリーの戦闘技術であるという現状に何時迄も甘んじている訳にはいかない。

フェイトと真正面からぶつかってどれだけ戦えるかを確認し、その上で更に鍛えなければならない。

……まぁ、別にフェイトと敵対したいわけでもないが、それは仕方ない。

俺の介入でなのはとフェイトのジュエルシードの数が増減するかもしれない。

それでフェイトがプレシアが虐待されたとしても、諦めよう。

元からフェイトはプレシアに虐待を受けている以上、彼女の傷は減らせない。

 

「先生さようならー」

 

「はい、さようなら。気をつけて帰ってね!」

 

何食わぬ顔で先生にあいさつし、学校を出る。

もしジュエルシードが発動しなかったら、その時はフェイトを探して本意ではないが襲うしかないか。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

基本的に、ジュエルシードの発動は魔力反応が大きいため近くにいる魔導師ならすぐわかるのがいい。

発動前は不安定なため、だいたい場所を把握する程度しかできないが発動してしまえば別だ。

物理的な被害が出てわかる場合もあるが、それは後手に回り過ぎているので良いか悪いかでいえば悪い。

今回のは、生き物である子猫が発動。

ジュエルシード単体の暴走体よりも、動物である子猫を取り込んで実体がある分、手強くなっている。

TV版ではただ大きくなっているだけ(正しい願いが叶った結果なのかは不明)だったが、映画版では大きくなるだけでなく性格も凶暴となって見た目も翼が生える、もがれた翼が独自に動くなど大幅に変わっていた。

この時、フェイトはアルフを連れていなかったため結界を張っていない可能性が高い。

 

もしジュエルシードを取り込んだ子猫が人のいる方へと向かったら被害は確実に出る。

そのことを考えると、フェイトを襲う前にまず確実にジュエルシードを封印しなければならない。

もっとも、手強いと言えどもこの時点で戦闘経験のあるフェイトと才能の塊であるなのはの敵ではないだろうし問題ないといえば問題ない。

が、楽観視することもできないので、不意打ちで最大出力で封印するか……

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「ヴァリアント、行くぞ」

 

金色の魔力が天に昇る勢いで展開されているのを確認し、道路を歩いていた少年はネックレスを手に取る。

いつの間にかネックレスは身長ほどの砲撃杖へと変化。

これこそが、彼のパートナーであるデバイス・ヴァリアントの基本形態である姿。

ジャベリンフォーム。

 

『バリアジャケット、展開』

 

ヴァリアントが機械的な音声で言うと同時に、少年は赤色の魔力に包まれその身を隠す。

彼の衣服が魔力に包まれるとそのまま消え、代わりに魔力で編まれた服、バリアジャケットを身体に纏う。

魔導師にとっての地球での鎧と違い、防護服であるバリアジャケットは、衣服の部分だけでなく衣服に覆われていない部分やデバイス本体も防御フィールドを生成して身を守ったり、空気抵抗までも無効化できる。

バリアジャケットのデザインや防御力には個人によって差があり、少年のバリアジャケットは黒を基調としたもの。

しかし、今回は正体を隠すために仮面を付け、追加で幻術で声をあらかじめ変えておく。

 

変身が完了すると同時、周囲に人影がないのを確認して地を蹴り空高く舞い上がる。

安全確保や空間把握能力、飛行魔法の安定出力と他の魔法の同時使用することによって高高度飛行をすることができるのが空戦魔導師の特徴だ。

陸戦魔導師には不可能な三次元の戦いで相手を翻弄し、時には頭上という地の利によって戦いを有利に進めるのが空戦魔導師だ。

今回の戦いの場は主に空。

 

少年にとってこの乱入はある種の賭けであった。

あからさまに自分を狙うイレギュラーの攻撃に対して、フェイトがどの様な反応を示すかは、アニメや漫画、映画にある彼女の情報程度の知識しかない。

ジュエルシード集めの障害になるとして早々に排除を試みるのか、それともイレギュラーに余計な時間は掛けていられないとジュエルシードを素早く回収して戦闘もせずに逃げるのか。

フェイトは転移の魔法も使えるため、それで逃げられた場合は少年に彼女を追う手段はない。

 

「……ひとまずは」

 

フェイトと戦闘中であるジュエルシードを取り込んだ猫に意識を向け、ヴァリアントを手に持つ。

見ると、なのははまだ現場に到着していないようだ。

 

ジュエルシードを取り込んだ猫は翼を生やしており、見た目は猫というよりも凶暴な虎に近い。

だが、やはりフェイトにとっては脅威ではないらしくバルディッシュのサイズフォームによって片方の翼を容易く切り裂かれていた。

切り裂かれた翼はバラバラになると同時に蛇を模した様なモンスター化け物へと変わり、フェイトに襲いかかる。

完全な奇襲であるそれすらも彼女は避け、魔力を電気へと変換してモンスターを対処する。

側から見る少年からしても、鮮やかと言わざるを得ない。

それほどまでに流れるような戦闘動作だ。

 

しかし、少年もただ見てるわけではない。

フェイトが蛇を模したモンスターへと対処してる隙にジュエルシードを封印すべく猫の方へと全速で向かう。

ジュエルシードを取り込んだからといって、猫に複雑な思考が可能になったわけではない。

目の前に獲物がいる。

他には邪魔する奴がいる。

邪魔するなら、先にソイツからやってしまおう、程度のものしかない。

意識は完全に自らの翼を切り裂いたフェイトの方へと向かっていたので、全速で飛んでくる少年への反応が遅れた。

魔力刃によって今度は一対の翼が切り裂かれて、それに加えて手足すらも同時に切り落とされた。

 

先程、フェイトに翼を切り裂かれても即座に新たな翼を生やしたのだ。

翼に加え手足を切り裂かれようともジュエルシードの力によって僅かな時間で修復を終えてしまうだろう。

だが、修復が完了するまでの僅かな時間、確実に隙が生まれる。

その隙は、こと高速戦闘においては致命的。

その隙を少年が見逃すことはなかった。

 

「ジュエルシード、封印」

 

ザシュ、と、 

左右に割れる。

或いは、そのまま動かずにいたのなら、繋がったのかもしれない。

しかしそれは、この場この時において、左右に割れて驚愕の表情を晒しながら消滅する化け物においては、関係のない話だ。

 

キン、と、間の抜けた音。

それは、ジュエルシードを封印した音。

 

核であるジュエルシードを失ったことで、まるで何も無かったかのように、子猫がその場に横たわっていた。

 

 




○悪い悪いと思いつつも盗聴と監視をしてしまうマン
なのはとユーノの動向が気になって監視とかしてるけど普通に許されざることよ
ついでにアリサやすずかの会話も聞いているのでギルティ
普段は別にそんな犯罪ちっくな行動してるわけじゃないから勘弁な
それでもトレーニングだけは怠らずやっているので、盗聴しながらイメージトレーニングというヴァリアント君を酷使しまくってる
でもそれは三年間共に過ごして生まれた絆があるからなんやで
方針がまだ曖昧なので、ひとまずジュエルシードの封印は絶対としてその他はどうしようか悩んでる
理想としてはジュエルシードを封印してなのは及びユーノにあげてプレシアにジュエルシードを一つも与えないことだけど、普通にフェイトの方が現場に到着するの早かったし無理なんじゃないかと悟りつつある
どっちにしろこの時点でアルフはジュエルシード手に入れてるし、理想通り行くならアルフも襲ってジュエルシードを奪わないといけないから、多分それやったらフェイトから普通に嫌われると思う
プレシアに雇われるルートなんてものもあるけど、それをやると次元犯罪者になってしまうので平和に暮らしたい人にはオススメできないルート
でもそっちのルートならフェイトに嫌われないよ!
魔法初心者のなのはに砲撃が既に負けてて悲しくなったけど未来のこと考えたら当然だと思う
別に砲撃得意じゃないしそもそも純粋な砲撃形態をもたないヴァリアントが悪いと責任転嫁
悔しくないしとか内心言い訳してるけどスピードはフェイトに勝てないから逆に長所はなんだって考えてる
フェイトと戦いたかったけどジュエルシードの暴走体はやっぱ放置できないから先にそっち優先
フェイトが注意を引き、オリー主がトドメをさしたから側から見れば協力したように見えるけどフェイトからしたらいきなり現れた不審者なので全然協力じゃなかったり
でもなのは視点じゃ協力して戦ってるように見えるから、多分次回の冒頭とかでやったりするかも
簡単に言えば美味しいとこ取り、ハイエナして封印しただけだけど、次回は安心してフェイトと戦えるね!
ジュエルシード欲しいなら俺を倒してけ的な感じで立ちはだかる

○親孝行なビリビリ娘
困っていたら助けるし、欲しいものは集める、どんなお願いも聞いて母親のために頑張るぞ!
母親が求めるものじゃないと背中に傷が増えるけど剣士じゃないから別に恥でもなんでもない
立派な虐待じゃないか(驚愕)
今回はジュエルシードを集めるよう言われたけど、なんか仮面被った怪しいやつがきて困惑
でも見た目の怪しさから管理局じゃないと思うからそこは安心かな
お母さんのために頑張れフェイト、負けるなフェイト!
映画見直してたら、この頃の髪型ってお姉ちゃんであるアリシアとそっくりでウルっときた
この頃フェイト(本当はアリシア)とプレシアの写真を持ち歩いているけど、なんかの拍子で誰かに破らさせたりするのはどうだろうか?(ゲス顔)
きっと素晴らしい表情が見れるんだろうけど、愉悦部以外にはオススメできません


○チートフェレット
ジュエルシード封印できなくてどうしようと悩んで誰か助けてとエースオブエースを呼んだ神引きフェレット
もし自分より弱いやつだったらリセマラしたのかな? でもユーノ君は性格もイケメンだからそんなことしないぞ!
デバイスなくても魔法使えるし、空飛べるし補助魔法得意と完璧なサポート役の人
2ndA'sで影が薄くて寂しかったのは俺だけじゃないはず

○プライバシーのへったくれもない娘
まだなのはさんにはならないぞ
まだ本格的な特訓も開始してないし、フェイトにも出会ってないから魔法知識はゼロに近い
なので運動音痴、知識ゼロ、のツーコンボでしばらく戦うが、そのうち化けて魔王となるので問題ない
一期と映画でデバイスもバリアジャケットも一番変わってて正直どうしようか悩んだ
けどカッコイイから映画の方を採用します

○ジュエルシード
ドクンとなる青く輝く、美しい宝石
魔法科学で生み出された結晶体らしく、手にしたものに幸運を呼び、さらに持ち主の「望み」を限定的に叶える力がある
が、本編で正しく叶えたことはない
とある紳士な方の下着が欲しいという願いまで叶えてしまう変態な宝石
ギャルのパンティおくれと同レベル願いな気がする
正しい使い方を知らないものが使用すると非常に危険らしいけど、使い方を知ってれば望みがちゃんと叶うのだろうか
コイツのせいでオリー主くんは心を悩めることとなる

フェイトとの戦闘は次回やる
前回も次回に通り魔やるって言った気がするけど、次回やる
やろう
やってみます
暇な時に書くんで、それでもよければ次回も気長にお待ちください


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3 初見

ビリ、ビリ、ビリ。

まるで雷でも落ちるかのように、少女の周りに電気に変換された魔力が帯電している。

少女の名は、フェイト・テスタロッサ。

 

フェイトの目の前には顔をすっぽりと仮面で覆い隠した怪しげな男が、彼のデバイスであろう長斧で肩を軽く叩きながら、飛行魔法で浮遊していた。

明らかに不審人物の姿に、仲間ではないと判断したフェイトは己のデバイスを構えて警戒していた。

フェイトの周りにはフォトンスフィアが展開され、目の前の人物を警戒しながらも目的の物であるジュエルシードの方へと一瞬目を向ける。

視線の先には封印されたジュエルシード。

彼女がそちらへ視線をズラしたのは男を侮ったのか、そもそも眼中になかったのか、或いは己の目的を優先したからか。

 

「……魔法文化のないこの世界に魔導師がいるなんて。ロストロギアの探索者か」

 

問う。

距離は離れている。

だが、決して声の届かない距離ではない。

無駄な魔力を消費する戦闘をするつもりはフェイトにはないが、相手に敵意があるのであれば話は別。

返答次第では、と考えているフェイトであったが、これはジュエルシードが男のすぐ真横にあったからだ。

ジュエルシードを回収して帰ろうにも、男の存在を無視出来ない。

 

「それを、渡してください」

 

沈黙。

男は数秒の間を置き、視線をジュエルシードから外す。

仮面によって隠された瞳、バリアジャケットの一部であろう仮面の目が、フェイトを貫く。

仮面に隠されているせいで、感情が読み取れない。

無機質、とも言えるような視線。

母や使い魔であるアルフが向けるそれとは、確かに違うのだろう。

 

「コイツをお前に渡さないのが目的なんだ、悪いな」

 

呟き。

不鮮明かつ、男とも女とも、若者とも老人ともつかない幻術で加工された不明瞭な声。

残忍というわけでなく、しかし冷酷いうより、無感情な、或いは、感情を押し殺した様な響き。

己の要望に対する明確な否定と同時に敵対宣言、最終的には感情の込められていない謝罪で〆られた言葉。

 

ならば、フェイトのとる行動は一つ。

 

『Scythe form Set up』

 

「では、力づくで頂いていきます」

 

『Fire』

 

フォトンランサーを撃ち、フェイトが駆ける。

速い。

僅かに残像が残る程の加速は、速さを長所とするだけあって他の魔導師であるなのはのスピードとは比べ物にならない。

電気を纏ったフォトンランサーと共に加速して襲いかかるだけで厄介だというのに、その太刀筋には迷いの欠片もない。

 

『フォトンランサー』

 

「ファイア」

 

フェイトから発射されたフォトンランサーは、こちらは炎を纏ったフォトンランサーで相殺、振り下ろされる大鎌に合わせるように槍を振り下ろし、その刃と刃を真正面からぶつけ合う。

火華が散り、ぎゃりぎゃりと音を立てながら合わせたままの互いの刃を振り抜く。

膂力にそれほどの差は無い。

けれど、魔力を電気に変換して攻撃してくる様に男は舌打ちをする。

 

猛然と大鎌を振り回すフェイト。

その一撃一撃がまともに受ければ男の身を包むバリアジャケット越しにダメージを与える程の威力を備えている。

男は大鎌を槍で受け流し、避け、時に真正面から斬り付け、防ぐ。

互いに振るう刃が空を斬り、しかし、決着は付かない。

 

フェイトにとってみればこの戦闘は明らかに時間と魔力のロス、意味のある行為とは言えない。

だが、母のためにジュエルシードを集める上で、『渡さないのが目的』と言ってきた男を放置することは今後のことを考えれば今のうちに対処しておきたい相手であった。

殺さないにしても、自分がジュエルシードを集め終わるまでは行動不能にしておくのがベスト、そのための非殺傷設定だ。

母の為にも、不安の芽はここで摘むいでおきたかった。

 

接近戦へと縺れ込んだこの戦闘では火力で押し切ろうにも砲撃魔法を撃つ暇などない。

それに対し、フェイトはバインドによる拘束からの砲撃魔法を撃ち込むのではなく、持ち前のスピードで決め切ることした。

この程度であれば、速さで勝てる。

根拠はない。

けれど、確信に近い自信があった。

 

男が振り下ろす動作を始めたのを確認したフェイトはその動作よりも早く、最速で回り込むように背後をとりに行く。

男は生半可な攻撃では傷一つ付かないバリアジャケットを身に着けているが、ならば防御を抜ける攻撃をすればいいだけのこと。

 

『Scythe slash』

 

『プロテクション』

 

持ち前のスピードで男の背後へと回り込むフェイト。

男はプロテクションで受け止めようとしたが急造なプロテクションは突き破られ、フェイトのサイズスラッシュを辛うじてヴァリアントで受け止める。

 

鍔迫り合い。

 

キチキチとお互いのデバイスが鳴き声を上げるのを聞きつつ、男はヴァリアントに込める力を抜いて右脚を跳ね上げる。

狙ったのはバルディッシュの石突き。

不意の方向から力を掛けられ、黒の処刑鎌は持ち主の意志に反して振り被られた。

そのチャンスを男は見逃さなかった。

 

『クロススマッシャー』

 

「スマッシャー!」

 

ぼん、と、木々を揺らして響く轟音。

 

赤の魔力光と共に、爆発に巻き込まれた薄紙の如く、フェイトは吹き飛ばされた。

 

ふっ、と、軽さすら感じる音だけを残し、フェイトは迷わず爆風と共に後ろへ飛んだ。

速さを優先して耐久に難ありのフェイトに、連続で攻撃を打ち込まれて防げる程の防御は無い。

だが、間を取ること容易い。

そのための速さだ。

 

逃げではない。

素性のわからない襲撃者を相手に、相手のペースで戦うのは不利に過ぎる。

 

「チッ」

 

舌打ち。

爆風を利用して距離をとったフェイトに向けられたのは、苛立ちの込められたそれであった。

 

「当たらなければどうということはないってか。当たるだろ、さっきのは」

 

苛立たしげに、デバイスをクルリと一回転させる仮面の男。

フォトンスフィアを再び周囲に展開しだす仮面の男に対し、フェイトもまた舌打ちをする。

面倒なことこの上ない。

アルフと念話を飛ばして合流しようかと思ったその時、

 

「あ、あの! 待って……!」

 

第三者の声が響いた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

高町なのはは学校からの帰り道、ジュエルシードの反応を感じ取り、協力しているユーノに連絡を入れてすぐ現場へと向かった。

魔法のことはまだよくわからず、デバイスであるレイジングハートのこともまだ扱いきれていない。

それでも、ひとりぼっちのユーノを見て、放っておくことなど出来なかった……同じく、独りを体験したなのはには。

困っている人がいて、自分にはそれを助けてあげられる力がある。

ならば、なのはに迷うことはなかった。

 

なのはは現場へと駆け出す。

ユーノは自分が行くまで待て、と静止するが、ジュエルシードの暴走体を既に見たなのはは止まれなかった。

あの恐ろしい化け物が暴れるとなると、人や生き物が巻き込まれる可能性は高い。

或いは、襲う為に街へと行ってしまうかもしれない。

前回は上手く封印できた。

だから、今度も。

 

「レイジングハート……これから努力してもっと経験積んでいくよ! だから教えて! 魔法の上手な使い方!」

 

『If that is what you desire……and you are willing to put in the work(全力にて承ります)』

 

「レイジングハート……セーット、アーップ!!」

 

そんな彼女の決意を他所に、仮面の男がフェイト・テスタロッサと共にジュエルシードを封印したのは、なのはが現場に到着する前の事だった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「来ちゃったかぁ……いや、元々来るのは確定していたしなぁ……」

 

ジュエルシードを隣に確保しつつ膠着状態となった空の上で誰にともなく独りごちる。

 

「?」

 

え、なに、とでも言いたげに首を傾げるなのはを他所に、誤魔化す様にごしごしと髪を掻き混ぜる。

状況を全く把握できていないなのはを放置して戦闘を続行してもこちらは構わないが、フェイトはそうはいかないだろう。

フェイトからしたらまた新手の魔導師が現れたのだ、そちらを放置して戦闘など出来ないはず。

それに、いつ対話砲が飛んでくるかもわからない。

 

「ここまで、か」

 

収穫が無かったわけでもないし、欲張りすぎるとそれは仇となって襲いかかってくるもの。

ユーノもこちらに向かっているだろうし、こうなってはフェイトの使い魔であるアルフもいつ合流するかわからない。

ジュエルシードはこちらで確保することが出来たわけだし、フェイトとの戦闘を経験することも出来た。

なら、今回はそれで満足するとしよう。

 

だが、予想に反してフェイトはまだやる気満々のようだ。

 

「あの、あなた達もそれ……ジュエルシードを捜しているの?」

 

「それ以上近づかないで」

 

「あの、お話したいだけなの。あなた達も魔法使いなの? とか、なんでジュエルシードをとか……」

 

あなた達、なんて言ってるけどなのはの視線の先にはフェイトしか映っていない。

そんなに怪しいか、俺。

仮面つけて声を少し弄ってるだけなのに。

まあなのはがフェイトの注意を引きつけてくれでるお陰で逃げやすくなるので非常にありがたい。

この辺りで退場しておくのが吉だろう。

 

「ピカッとすんぞ」

 

「えっ」

 

聞こえるかどうか。

聞こえなくとも問題ない。

誰に言うでもない独り言の様に、投げやりな声で吐き捨てられたその言葉に、少女は身を竦める。

なのはと違い、フェイトは逃がさないとばかりにバルディッシュをこちらに向けて来ているが、もう遅い。

閃光弾を三人のちょうど中央に位置する場所に発生させ──

ジュエルシードをヴァリアントに収納して悠々とその場から飛び去り、逃走した。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

そもそもの問題として、あのまま二人を放置して何も起こらずさあ解散、とならないのは予想はついていたが、まさか戦闘まで発展するとは思わなんだ。

サーチャーで聴いてればなのはは怪我をしたとかなんとか。

ジュエルシードを手に入れることができなくて、尚且つなのはが対話したいなんて言う(多分)もんだから少々フェイトの気が立っていたのかもしれない。

いや、そこは見ていないから知らんけど。

 

だが、なのはが怪我をしたという点はよろしくないが、魔法を学んでいくのに前向きになることは良いことだろう。

どのみち、なのはの性格上フェイトを無視するなんてことはないだろうし、いつかは向き合わなければならない問題だ。

迷いながら進むことが出来るやつも強いが、なのはのように迷いなく進むやつもまた強くなれる。

動機は人それぞれだけれど、どうせならできるだけ悲しむ事も苦しむ事もなく、前向きに魔法を扱うのに慣れていってほしいと思うのが同じ地球出身魔導師としての俺の思いだ。

この先のことを考えれば、次の事件、そのまた次の事件でもなのはの力は解決のために必ず必要となってくる。

普通の少女ならそんな力はいらないだろうが、魔法に関わってしまったのでこの先の事件で無関係ではいられない。

他人事ではあるが、是非とも力をつけていってほしい。

 

全て俺だけの力で片付けられる、なんてカッコいいことでも言えれば苦労しないのだが、世の中そう甘くない。

こんなはずじゃなかったことばかりとは、よく言ったものだ。

 

ジュエルシードを暴走させることなく封印しなければならない。

ジュエルシードを集めるべく動くフェイトに対応しなければならない。

プレシアも……どうにかしなければならない。

 

時の庭園に引き篭もるプレシアに対して、俺はあまりにも無力だ。

今の俺の力で、プレシアを止める、倒せるビジョンがまるで思いつかない。

如何に研究職とはいえ魔導師ランクが「条件付きSS」クラスのプレシアに一人で真っ向からぶつかってどうやって勝てというのか。

そしてそのあまりにも重い悲しみ、娘への愛のせいで、説得できるかも未知数。

 

プレシア打倒の為になのはを鍛えるか?

それも手ではあるのだが、まずなのはに俺が教えられることなど限られていて正直に言うと、俺なんかよりユーノやレイジングハートの方がよっぽど教えられる。

それに、俺もまた来るべき日に備えて自らを高めなければならない。

今回のフェイトとの戦闘によって術式などの改良点も見つかり、ヴァリアントから新たな形態も提案された。

その戦闘スタイルを高めていきたいところだが、鍛える時間もそう多くない。

ぶっつけ本番に近いか。

 

俺と同等の力を持つ魔導師、そんな都合のいい相手は海鳴市には居ない。

レイジングハートによって鍛えられていくなのはは当然その可能性を秘めてはいるが、現状、俺への不信感はマックスだろうし、俺の知らないところでユーノとレイジングハートを教官にして鍛えていくことだろう。

正体を明かして一緒に特訓しよ、と誘えば快く受け入れてくれるかもしれないけど、保留。

 

こうなると今の今まで放っておいた、管理局との接触も視野に入れていかなければならない。

どうやって接触するかは、考え中。

いや、悩み中と言うべきか。

 

次元震の観測で地球に来たアースラメンバーに接触するのが一番だが、どうも正体バレをしたくない。

アースラのメンバーは皆良い人であるのはわかってるし、何より権力も持っているので今後動く際に何かと頼りになる存在だ。

けれど、時空管理局という巨大な組織は当然一枚岩ではないし、全員が全員信頼できるかと言われればできないだろう。

そもそもトップが三脳でやばい。

 

「うーん……」

 

「どうしたの?」

 

「いや、これからどうしようかなって」

 

「学校のこと?」

 

「色んなこと」

 

夕食であるお手製のハンバーグを食べながら、母さんが聞いてくる。

 

「前に比べて外に遊びに行くのも増えたし、新しい友達でもできた?」

 

友達……友達ではないなぁ。

別にこれは決して、なのはやフェイトが嫌いという意味でも名前を呼んで呼ばれてもいないからという理由ではない。

なのはにはクラスメイトで魔導師であるにも関わらず正体を明かしていないし、フェイトに関しては彼女の目的であるジュエルシード集めを今日邪魔をしてきたばかりだ。

そんな俺が友達だなんて恐れ多い、いや口が裂けても友達とは言えないだろう。

 

「そんな感じ」

 

「んー……あなたの好きにしなさい。元気いっぱいな小学生、何事も経験よ」

 

笑顔が眩しい。

いい人なのは間違いないのだけど、それ故にこんな内緒事は少しだけ後ろめたくなる

 

「うん。ありがと、母さん」

 

自慢じゃないが、それでも最高の両親と言えるだけの愛情は受け取ってる。

だからこそ、こんな当たり前を続けていきたい。

不運な事故で壊されてたまるものか。

 

ああ、でも。

フェイトに恨まれるだろうなぁ。

フェイトの母であるプレシアがジュエルシードを捜してこいって言ったのに、横取りをしてしまった。

プレシアのしていることは犯罪だ。

それを止めるための行動なのだから善か悪かで問われれば、おそらく善なのだろう。

けど、彼女の事情を知らなければ、こんな罪悪感なんてなかったのに。

 

またこんな形でフェイトに会うのは、正直、辛い。

 




○自分のせいで虐待が酷くなるのではとビクビク怯えるけどこっちもこっちで必死やってるマン
最悪ジュエルシードをくれてやってもいいと言ったな、あれは嘘だ
フェイトは可哀想とは思うけどプレシアは次元断層を意図的に起こそうとしてるからやっぱジュエルシードは渡せないなって
フェイトと戦ってみた感想は思ったより速いし紙装甲じゃないやんとビックリ中
まぁ元々なのはのディバインバスター受けて耐えきるだけの耐久はあるし……直後にSLBで吹っ飛ばされてたけどあれはなのはさんがおかしい
多分他のメンツと比べて耐久低いんだろなぁ知らんけど
なのはへの盗聴行為は未だ続行中! まだバレてへんバレてへんと思ってやってると多分そのうちユーノかレイハさんにバレると思うゾ
普通に考えて犯罪なのでやめようね?
現段階ではなのはと関わる必要ないので放置
別になのはと戦う必要なんてないし正体明かすつもりもないんで日常でも関わりがない
でもサーチャーを通してなのはと(一方的に)顔合わせてるしある意味関わってるとも言える
フェイト関連で鬱になりそうになってるけど、多分もっとジュエルシード奪うことになるので主人公の罪は止まらない、加速する
でも今日が普通に終わって明日が普通にやってくる、そういう普通のためにオリー主は日々戦っているのだ
なお、自分からドンドン普通とかけ離れていく模様

○どんなに装甲を薄くしようとも当たらなければどうということはないを地でいく露出狂
プレシアの自身への仕打ちや自身の記憶の曖昧さなどをまったく疑わずジュエルシードを集めをする純粋な子なのに、仮面をつけた怪しい奴が邪魔してくるんだって
最低だね
主人公のクロススマッシャーは本当は当たったけど爆風と共に距離取るしピンピンしてるのは魔導師としてフェイトの方が先輩だし、これぐらいはね
いきなりジュエルシード取るし、あげないとか言われて舌打ちしたいのはこっちの方
後から来たなのははジュエルシードに関わらないでって言った後にフォトンランサーで撃ち落とした
コワイ!
でもちゃんとゴメンと謝れる良い子なんですよ奥さん
どっかの誰かさんも見習って謝ってほらほら


○元祖クロススマッシャーの使い手、対話したい少女
クロススマッシャーという魔法は2期映画の対ヴィータ戦で使っていた片手で放つ高速接近砲で、格闘戦を得意としないなのはが学習した反撃の一手として用意した魔法
便利です
ジュエルシードを封印しようと意気込んでいったけど少し到着が遅れて事は終わっていた
別に主人公に妨害されて遅れたわけではない、ないったらない
対話したいのに片方はそそくさと逃げるし、もう片方は話す暇なく襲ってきた
地面に叩きつけられてビリビリしてたけど無事な子猫を見て安心するぐらいには強い子
敗北を知って人は強くなるっていうし、これからのなのはちゃんはなのはさんになるべくドンドン特訓する
具体的にはどこかのサイヤ人の如く特訓する
プライバシーを未だに覗かれてる不憫な子

○使い魔たち
使い魔たちって言ったけど一匹は使い魔ではないらしい
私は悲しい……(ポロロン)
次回出番はあるかなぁ……
狼の見た目で街を歩くと周りの人が怖がっちゃうから散歩は気をつけてね
フェレットは珍しいけど可愛いで済まされそう

TV版と映画と漫画をごちゃ混ぜして闇鍋状態になってきたけど、一期は上手く纏まるだろうし多分なんとかなる
A'sに関しては完全にノープラン
頑張るけど頑張れなかったならこのSSは司令官のように爆発する

因みに、私が書いているSSはこの作品のみです
ユーザーページへのリンクを切っているのは、以前書いたSSで何故か同一人物から大量のヒロイン要望が送られてきたからです
とある作者様ではないので、勘違いさせてしまったのなら申し訳ございません!

話の展開もこのペースだとめっちゃゆっくりで投稿もゆっくりだと思いますが、それでもよければ気長にお待ちください


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4 嵐の如く

遅れてごめんなさい
ゴールデンウィークと言う名の地獄のせいで死ぬかと思った
毎年ゴールデンウィークは死ぬ死ぬ言ってるから今年も無事更新できたと思うとなんか感慨深いものがあるのかもしれない
サービス業は休みが稼ぎ時だからね…許して許して
ゴールデンウィーク稼いだ同士の皆さんはお疲れ様、楽しめた方には祝福を



 

海鳴市・市街地、PM11:40。

多くの店やビル、民家が生活の光を灯しながら建ち並ぶその街の遥か上空に、獣耳と尻尾を生やした一人の女性がいた。

 

「広域サーチ、第四区画終了……っと。ふむ……こりゃーなかなか手強いね」

 

街にいる多くの日本人……一般人とはかけ離れた容姿をした女性は自らの顎を撫で付けながら、目の前に広がるモニターを見つめながら言葉を漏らす。

目的のモノであるロストロギア、ジュエルシードは海鳴市と呼ばれる土地に落ちたということで大体の場所は予測できるが、それでもこのように広域サーチを使って探しても容易には見つからない。

 

人間とそっくりの外見をもつ、日本では少し目立ってしまう服装をした使い魔である女性……アルフの目の前に、機械音と共に新たなモニターが追加される。

モニターには黒服を纏った金髪の少女が映し出され、慈愛に満ちた視線を向けた後、己の使い魔であるアルフに労いの言葉を掛ける。

 

『アルフ……お疲れ様』

 

「フェイト♪」

 

画面に映る主人の姿に思わず尻尾が揺れる。

その主人であるフェイトを喜ばせようと懐にしまっていたジュエルシードを取り出して、モニターに映るように掲げる。

 

「発動前のをさっき一個みつけたよ。今夜中にはこの辺一帯をサーチし終わると思うから、あと何個かみつけられるかも」

 

『夜遅くまでごめんね……しっかり休んでね?』

 

アルフを心配しての一言。

けれど、儚い笑顔を浮かべたフェイトを見るアルフの視線もまた儚い。

フェイトの台詞は、アルフが最近言おうと思っていた台詞だ。

魔法を扱いきれるようになり、相棒であるバルディッシュを持つようになってから、フェイトは母親であるプレシアからのお使いによく行くようになった。

ある時は実験の材料を。

ある時は書物や文献を。

しかしプレシアの求めるものではなかったとして、フェイトは八つ当たりされ傷が増えていった。

それからだった、フェイトがあまり休まなくなったのは。

 

「……」

 

『わたしは一つ見つけたけど、ごめん。盗られちゃった……』

 

「フェイトとぶつかった仮面の魔導師だね。まさか管理局じゃないよね? いまんとこ追われるような事はしてないはずだし」

 

フェイトとの平穏な暮らしを求めてるアルフからして、時空管理局に追われるような事態は必ず避けたいものだった。

たとえ辞めようと言っても、フェイトは大丈夫と言って母の願いを聞き続けることになる、ならば、少しでも安全にジュエルシードを捜すのがアルフの願いだった。

だが、管理局に追われるようになってはそれどころではない。

次元犯罪者。

それは平穏とはかけ離れたものだ。

 

『違うと思うよ。白い子と違って魔法をちゃんと扱えていたけど、管理局ならあそこで逃げることなんてしないだろうし』

 

「それもそっか」

 

管理局ではない、というフェイトからの言葉を聞き、アルフは胸を撫で下ろす。

時空管理局に追われるようになっては、遠からぬ未来で、自分の大好きな主人が犯罪者になってしまうのではないか、と、不安に思っていたところだが、一安心。

 

「ま、もし会ったらあたしがそいつをブチのめしちゃる! フェイトの邪魔はさせないからね!」

 

『……ありがと、アルフ』

 

モニターから目を逸らし、ごそごそ、と懐から大事そうに写真を取り出すフェイト。

写真に写る人物は、幼い頃のフェイトと母であるプレシア。

ピクニックに行った時に撮った、その写真に写るプレシアの顔は今ではほとんど見ることのなくなった笑顔で満ち溢れていた。

最後にいつ母が笑ったかもわからない。

それでも、少なくとも、今回のお使いであるジュエルシードを集めれば笑ってくれる可能性はある。

 

また求めるものと違って怒らせてしまうかもしれない。

勿論、その可能性だって大いにある。

 

『……母さんが待ってるんだ』

 

迷いがない訳ではない。

フェイトは魔法を使うこと自体に躊躇いはなく、寧ろより強くなることを望んでいるが、それは決して人を傷つけるために力を望んでいるのではない。

魔法を使うことによって母に認められたい、役に立ちたいだけだ。

普段は穏やかで心優しい少女が、白い魔導師の少女を傷つけて罪悪感を抱かなかったわけではないけれど、それでも躊躇して立ち止まっていることはできない。

 

『早く見つけないと……きっと母さん、すごく心配してる』

 

アルフはフェイトのその言葉に疑問を投げかけようとしたが、やめた。

この疑問に意味はない。

 

目的の物を探してこいと言われて探し出してみれば、プレシアの見たい事が載っていないという理由でフェイトに対して八つ当たりをする。

そんな事は日常茶飯事になってきた。

プレシアの、フェイトの母親の異常さは今に始まったことではないが日に日に酷くなっていく。

母というものを持たない人口生命体かつ使い魔であるアルフですら、これはおかしいと断言できた。

 

(フェイトはいったい、いつになったら幸せになれるんだい)

 

母の命令を文句言わず遂行し、犯罪に近い行為にまで手を染めて。

それでも、フェイトは止まらないだろう。

自分達の師であり姉であったリニスはもういない。

ならば、使い魔であり、友達であり、姉妹である自分だからこそ。

あの時、命を救ってもらったからこそ。

たとえそれが、他人を傷つけることに繋がろうとも。

 

アルフは一人、決意をした。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

と、アルフが決意をした矢先。

 

ビュー、ビュー、ビュー、と。

まるで嵐の中にいるような強風が、静寂を保っていた空を塗りつぶす様に大きく響く。

時刻はもうすぐ日を跨ぐ、0時前。

空に浮かぶアルフの目の前には頭をすっぽりと顔を仮面で覆い隠した怪しげな男。

つい先程まで話題に出ていた、夕方に主人であるフェイト・テスタロッサを襲った張本人がビルの屋上の柵にもたれ掛かり、何故か男を中心に風が吹き荒れていた。

まさかこんなすぐに会うことになろうとは、アルフはあまりの早さに驚かされた。

 

明らかな不審人物の姿に、もし近くに帰宅途中の一般市民でもいようものなら関わらないように避けたか、警察に通報していたことだろう。

落下を防ぐ為の柵の反対側にいるものだから、見方によっては今から飛び降り自殺をするようにも見えるからだ。

が、幸か不幸か、場所が時間的に人目につくということはない。

正面、落下防止の柵に身体を預けたままの男は、まるで見せびらかすように、己のデバイスからとあるモノを取り出す。

取り出したのは宝石に似た青い石、ジュエルシード。

あえてアルフの目の前に取り出したのは挑発するためか、それともプレゼントするためか、或い考えなしか。

 

目的のジュエルシード、それも主人を邪魔をした人物が持っているとなればする事は決まっている。

力づくで奪うのみ。

拳に魔力を込める。

 

目の前の仮面の魔導師がフェイトの邪魔をしたことは既にアルフも承知している。

圧倒的な速さを誇るフェイトの攻撃にすら対応する相手に速さ勝負など意味無し、そもフェイトより速さで劣るアルフは持ち前のパワーで勝負するしかない。

怒りに染まった瞳でアルフが目の前の仮面の魔導師を睨むけれど、睨みなど全く意に介さずジュエルシードを手で弄ぶ不審な男。

 

「なんであんたもジュエルシードを狙ってるんだい」

 

「理由を言ったら素直に引いてくれんのか?」

 

「悪いけどそれは理由次第だね」

 

口ではそういうが、勿論、どんな理由であれ主人であるフェイトに刃を向けたこの男をアルフは許す気はなかった。

 

「フェイトに言ったとおりだ。お前もジュエルシードを渡せ」

 

「渡す理由が見当たらないね。初対面だけどアタシ、あんたのことが嫌いなんだよ」

 

フェイトの邪魔をする、それ即ち、フェイトがよりプレシアに虐待される事態が増えるということなのだ。

フェイトの背中の傷は治るどころか、逆にドンドン増えていく。

自分の愛する主人が虐待される機会を増やす使い魔がどこにおろうか。

相手が相手の思惑で動くように、アルフにはアルフの思惑で動いていくだけ。

 

仮面の魔導師は既にフェイトからジュエルシードを一つ奪い取っている。

ならば、アルフは敵対するのみ。

彼女は拳に魔力を込め、いつでも戦えるよう構えを取る。

一触即発。

そんな空気の中、彼女の人を殺せそうな視線の先にいる仮面の魔導師は肩を竦めて見せた。

 

「嫌われてるな」

 

「好かれると思ったのかい?」

 

二人の間に僅かにある距離を、フッとビルの屋上から飛行魔法で浮かび、仮面の魔導師はジュエルシードを手に持ったまま話しかけてきた。

 

「プレシアは壊れたままか?」

 

「何だって?」

 

思わず、アルフは構えていた拳を下げかける。

フェイトの素性はバレていないはず。

なのに普通ならば聞くことのない単語、プレシアという予想外の言葉に、まさかプレシア側の関係者だったのか、と、そんな思考が浮かぶ。

フェイトに仮面の魔導師が現れたと念話で送ろうかと思ったが、壊れた、なんて言葉で思い留まる。

 

「まぁフェイトの動き的に予想はできてたけど。やっぱ虐待してんのか……」

 

ちっ、と、槍状態であるデバイスをくるんと一回転させる仮面の魔導師。

 

「申し訳ないが、プレシアにジュエルシードを渡すわけにはいかないからコレはやれない、諦めてくれ」

 

すっ、と、ジュエルシードを己のデバイスに収納してアルフを見据える仮面の魔導師。

そして何故かデバイスを待機モードにし、無手状態となる。

拳を下げかけたアルフだが、仮面の魔導師の言葉でそうもいかなくなった。

 

「そうはいかないよ!」

 

わざわざ敵の目の前で武器であるデバイスを待機モードにした好機を、アルフは見逃さない。

拳に魔力を再び纏いながら、構え、自分の出せる最大のスピードで突進する。

その、飛翔とも突撃とも付かない軌道が、確かに宙を飛ぶ仮面の魔導師へと追いすがる。

 

しかし。

 

『疾風』

 

突如、嵐の如く風が吹き荒れる。

唐突な電子的な機械音に意識を僅かに削がれたアルフの視線の先には、先程までは確かにいたはずの仮面の魔導師が、まるで嵐でも来たのかというほどの豪風と共に姿を消していた。

次いでアルフは幻術魔法を使ったのかと疑ったが、それは違うと即座に理解した。

 

自分の後ろに仮面の魔導師が飛んでいるのだ、それも、アルフが先程まで持っていたジュエルシードを手にして。

あまりに速い。

しかし、事実、仮面の魔導師はジュエルシードを手に飛んでいるではないか。

 

不意に、アルフが叫ぶ。

 

「何で……どうしてアタシらからジュエルシードを奪う!?」

 

「いやだな、危険だからだよ、危険。……プレシアが仮にジュエルシード二十一個全て集めたらおしまいだからな。その可能性は今の内に潰しておかないと」

 

「何の事だい!」

 

「この先どうなるか知らないけど、集められるうちは自分で集めとかないと、な?」

 

動きが見えなかった。

フェイトと同等、いや、それ以上の速さ。

一瞬にも満たない速度で、懐のジュエルシードを奪われてしまった。

 

「アンタ、いったい何を知ってる?」

 

「俺に質問する前にプレシアに問いただしな。意味ないと思うが、アルフなら遅かれ早かれ、聞き出すだろ?」

 

悪意の欠片もない、純粋な疑問。

更に問いただそうとするが、気づけば仮面の魔導師はその場からいなくなっていた。

転移魔法を使ったのか、或いは純粋な速さで逃げたのか。

だが、今のアルフにはどうでもよかった。

 

異様。

 

他人なら知り得ないフェイトの傷のことなどを知っているのでプレシアの関係者かと思うが、アルフに心当たりはない、いや、仮面を被って正体を隠しているのだからそれは当てにならないか。

しかし、ここ最近テスタロッサ一家は他人との交流がほぼ断絶しており、家に誰かが来るということがない。

目の前の存在は何故プレシアの目的を知っているのか、また、プレシアの目的を知っていながらあえて邪魔をするというのか。

プレシアの目的が仮面の男の利と一致しない?

 

確かにプレシアは娘であるフェイトにすら目的を話していない。

が、それでもまだギリギリ他人の迷惑になるようなことはしてこなかったはずだ。

だからこそ、まだ管理局に目をつけられたりなどしていないのだ。

 

考えれば考えるほど、謎は深まるばかり。

 

しかし、まるで全ての事情を知っているかのような仮面の魔導師の動きは、アルフにとって不気味だった。

 

「いったい、何が起こってるんだ……」

 

誰に言うでもない独り言の様に、掠れた声で吐き捨てられたその言葉は、誰にも届かず消えていく。

しかしジュエルシードを奪われるという失態、そのことに心を悩ませるアルフ。

取り返そうと思えど、このままここにいてもラチがあかないと考え、ひとまず拠点へ帰還することにした。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

結果として、ヴァリアントの提案した『風』の使い道は予想以上の効果を発揮した。

フェイトの高速移動を参考にしての俺オリジナルの高速移動、『疾風』によって無駄な戦闘をせずにアルフからジュエルシードを奪うことに成功した。

風の変換によって進行方向への抵抗を0に近付け、高速推進することを可能にした。

が、正直に言うと改良の余地ありどころか改良しなければ今後は使い物にならない。

風を操って高速戦を仕掛けるのは響きはいいが、今の状態だとフェイトをも超える速さを出すために嵐の中に身体を入れてるのとそう変わらないことをしているので負担が半端なく多い。

てか、身体が千切れるかと思った。

 

今回の相手であったアルフが初見かつパワータイプということもあり、とても相性の良い相手であったという幸運のおかげで通用したが、この状態のままではいずれこっちが先に潰れる。

 

この調子で攻撃に風を転用しようと考えてみたが、風で切り裂く、風で物を切るのは訓練で試した結果、事実上不可能だった。

恐ろしく高圧の空気を高速で吹き出したとしても、ターゲットが切れる前に風圧で吹き飛んでしまう。

相手を吹き飛ばすという意味では非常に強力ではあるものの、現状遠距離戦が苦手な俺が自分から距離を離すなど論外。

 

結局、風は扱いきれないのでブタに近い手札としてカウント。

基本は炎熱、移動の補助に風が基本になるか。

移動のメインとして使うにはまだまだ道のりが長い。

『疾風』がまともに使えるようになれば、その状態で炎熱を使って戦う事でスムーズに事が運べるとは思うのだが、それは今後の鍛錬次第だろう。

しかし、こうして実戦で使ってみると風ではなく電気か氷結の変換資質が欲しかった。

別に変換資質が無くてもそれらが使えないわけではないが、変換技術自体が非常に難しく、変換することすらできなかった。

もし仮に氷結でも使えるようならば、攻撃のバリエーションがさらに増えて困ることはなかったのだが……。

なんでも氷結魔法は温度変化魔法に分類され、フィールド魔法でしか防げず、防御が難しいため利点は他より大きいとかなんとか。

しかし、今更無いものねだりをしてもどうにもならない。

隣の芝生はなんとやら、である。

 

ぴぴぴぴ、と、セットしておいたアラームがヴァリアントから響く。

時刻は夜八時半。

この森の中にある空き地から家までそう距離がある訳ではないが、歩くとなると近いとは言えないし、飛んで帰れば話は別だが非常時でもない限りそれは避けたい。

今日は友達と遊んでくると事前に母さんに言ったものの、そんな遅くに帰宅してはいらぬ心配をかけてしまう。

手に持っていたジャベリンフォームのヴァリアントを待機状態にして、鍛錬を終える。

一応、ヴァリアントの他の形態の訓練もしているのだが……それは使わないことを切に願う。

何の鍛錬もせずに炎熱や風の力を万全に使いこなせればこんな事をしないで済むのだが、使えないのだから仕方ない

別に魔法の鍛錬自体は、嫌いではない、が。

 

「……はぁ」

 

空を仰ぎ、何度目かわからない溜息を吐く。

本来見えるはずの名も無き星たちは、今は雲に隠れて見ることが叶わない。

彼女達も同じ空を見上げているのだろうか、なんて考えるのはいくらなんでもセンチメンタリズムすぎるか。

同じ空を見上げてようと、何も意味ないのに。

視線を街の方へと向ける。

 

街には星明かりよりも明るい多くの光が灯っており、その数だけ人の生活がある。

それらは、今後の事件の成り行きによっては全て一瞬にて消え失せることとなる。

辛い。

最悪の結末を知っているせいで、余計に辛さが増して来る。

 

ペンダントとなったヴァリアントをポケットにしまい、帰路につく。

続きは家でのイメージトレーニングにてやろう。

本当はイメトレではなく実際に使って体感したいのだが、流石に家で炎熱なり風なり使うと部屋が荒れるどころか家が瓦礫の山となってしまうので却下。

 

鍛錬に終わりはない。

新学期が始まったばかりだというのに、そんなのは状況が許してくれない。

フェイト陣営は俺の介入によって本来手に入れるはずであったジュエルシードを二個も失ってしまった以上、次は盗られてたまるかと躍起になって行動を起こして来るはず。

先の二回の戦闘はどちらも一対一のタイマンかつ、相手は初見だがこちらは相手の手札を知っている有利な状況だからこそジュエルシードを奪うという立ち回りが出来た。

これからはそう上手くいかないだろう。

 

これからフェイトに起こるであろう出来事には同情だってするが、俺には俺の事情がある。

はいそうですか、とジュエルシードを渡すわけにもいかないんだ。

 

──なんで小学生なのにこんな非日常を送ってるんだろう。

PT事件を乗り越えようとも、次はもっと難易度の高い闇の書事件がやって来てヴォルケンリッターと戦いを繰り広げなくてはいけなくて。

休息や安らぎは、やって来るのだろうか。

もし仮に管理局に入ったら、もっとなさそうだな……。

 





○小学生だけど厳密には小学生じゃない窃盗大好きマン
この子の近くの嵐はクシャルダオラちゃんをイメージしていただければ
実戦で戦力にカウントできるかと問われればノー。近いうちに戦力になると思われ
最初の頃はピンボールの如く跳ね回って目が回る〜どころか曲がってはいけない方向へ身体が曲がり出したりしたり
コワイ!
夜の空を寂しく飛び回ってアルフの捜索
親にバレたら大変なので寝たのを確認してから出てきたり出てこなかったり
これが夏休みだったりすれば行動しやすいのかもしれないが、残念ながら新学期が始まったばっか
まだ不登校になるには早いぞよ
手に入れたジュエルシードはまだ二つ…俺たちの戦いはこれからだ!

○母さん大好きっ子
フェイトってこの頃殆ど睡眠とらない食事とらないなんてやばい生活してたらしいけど、よく戦えたね
そんな状態でジュエルシード取られるわアルフからも盗まれるわでもう散々
でも母さんのことを思えばなんのその
肉体的にも精神的にもダメージは蓄積されてる
アルフから仮面くんの速さのことを聞いてもっと早くなるフラグを立てるかもしれないけど立たないかもしれない

○犬じゃなくて狼
目的の人物いたのにフェイトに連絡せず戦おうとしてジュエルシードを盗まれた戦犯
でも悪いのは主人公だからしゃーない
アルフって使い魔の癖に戦闘力ありすぎな気がするけど、双子の使い魔然り、そういうものだろうか?
主人がみんな優秀すぎて、弱い使い魔がいない風潮

次回も多分遅れる
余裕ができてくればまた早めに更新していこうと思いますが、よくわかんない
感想も時間でできてから返していこうかと
疲れ切った身体を癒してからまた頑張ろうと思うので、そんなんでもよければ気長にお待ちください


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5 嵐の前の

期間が空いたので、前回までのあらすじ


盗聴、窃盗、なんでもござれ



私立聖祥大付属小学校 AM8:10

 

人それぞれに意見、考えというものがあり、上手く伝わらずぶつかってしまうことがある。

大人のように相手に合わせるのが苦手な子供ともなれば、必然的にその数は多くなる(大人でも周りに合わせない者も当然いるが)。

人に合わせるのが良いかどうかは置いといて、ぶつかれば喧嘩になる。

と、なると

 

「いーーーかげんにしなさいよっ!?」

 

「ア、アリサちゃん……?」

 

「いや、え、ええと……」

 

「ここ最近ずーっと何を話しても上の空でぼーっとして、ぼーっとしてないと思ったら周りを気にしてるし!」

 

アリサのなのはに向けての怒鳴り声でクラスの空気は一気に変わっていく。

いや、これは別に正常か。

むしろ、この状況を無視してテレビや流行りのことで談笑していたら随分と嫌なクラスがあったものだ。

まだまだ幼さが残る小学三年生、ピリピリとしたこの空気でどうすればいいか分からず、皆がオドオドしている。

仲裁に入るべきか、そっとして置くべきか、あの三人に話を聞くべきか。

 

どんどんヒートアップしていく前に仲裁に入るのが解決への早道なのだろうが、こういうものは早く解決すればいいというものでもないし、あの三人と特に交流のない俺が仲裁に入れるのかと聞かれれば否。

俗に言うコミュ力が高ければまた違ったのかもしれないが、生憎とコミュ力は低い方であると自負している。

 

何故低いかと言われれば……まぁ、理由は色々とある。

小学校に入学してからずっと友達と遊ばずに自宅に一直線、他人との交流は最低限にしていて魔法訓練に時間を費やしてきたせいで交友関係が狭い狭い。

流行りの漫画や番組に疎いせいで会話も入りにくいし、気づいたら女子との話し方を忘れた。

べつに悲しくない。

悲しくないったら悲しくない。

気の合う友達はいるし。

ふと隣を見れば、その友達内の一人がオドオドしながら近づいてきた。

 

「ね、ねぇ、ヤバくない?」

 

「ヤバイね」

 

「あの仲良し三人が喧嘩とか珍しくない?」

 

「珍しいね」

 

「せ、先生呼んだ方がいいのかな!?」

 

「……どちらかが手をだしたら呼ぼうか。あの三人の問題に周りが余り口出しすべきじゃないし」

 

まだ先生は呼ばなくてもいいだろう。

それこそ取っ組み合いにでもならない限り、呼ぶ必要は無いと思う。

アリサも別になのはが憎くて怒鳴ってるわけじゃないし、むしろ心配している、力になりたいからこその衝突だ、お互い手を出すことはまずないだろうし、嫌な言い方ではあるが放置で問題あるまい。

周りのざわめきもすぐに落ち着くだろう。

 

「……でも不思議だよね」

 

「ん、何が?」

 

「高町さんだよ」

 

友人が声を潜め、ちらとなのはの方へ目を向ける。

つられて目を向ける。

あんな出来事の後だからか、なのはは目に見えて落ち込んでいる。

しょうがないと言えばしょうがない。

鞄から教科書などを取り出して机の中へと移し変えており、今は流石にぼーっとしてる、なんてことはないようだが。

はて。

 

「最近さ、周りをよくキョロキョロしてるし、何かあったのかな?」

 

「え」

 

知らなかったのか、とでも言うかのように不思議そうに見つめてくる。

椅子に座る直前だったので座るよう促され、なのはの方を見ながら自分の席へと腰をかける。

この友人は俺なんかと違い、他にも多くの友人を持っているので、おそらくそこ経由で手に入れたのだろう。

 

「結構みんな話してるけどなぁ。高町さん、幽霊でも見えてるんじゃないかーって」

 

「……初耳だよ」

 

はぁ、と、友人は大げさに肩をすくめて呆れる様に溜め息を吐いた。

 

「君は常に教科書と睨めっこだもんね。休み時間とかは少しぐらい教科書を手放してみたら?」

 

「そんな教科書ばかり見てないぞ」

 

「見てるよ。普通にしてれば、高町さんの異変ぐらい気づくよ」

 

「……そっか」

 

別に好きで教科書と睨めっこばかりしているわけではない。

マルチタスクで誰かと喋りながらでもイメトレは出来ないことはないが、出来なくはないだけで俺自身はやりたくない。

かといって、自分の机でイメトレをしていては、周りから見ればひたすらぼーっとしているようにしか見えない。

そんな頭のおかしい奴に見られないようにし、かつ、誰かに喋りかけられない状況を作る妙案が教科書で勉強している様に見せかけることなのだ。

周りは俺の全力の話し掛けるなオーラで問題ないし、担任から見たら勉強好きな真面目くんに見える……万事解決。

 

しかし、なるほど。

フェイトとアルフからジュエルシードを奪ってからはイメトレ重視でなのはの監視を二の次にして分からなかったが、それほどのものだったのか。

監視はヴァリアントに一任し、もし何か問題があった場合にのみ報告するように頼んでいてのでそこまでは把握していなかった。

問題なし、という報告しかなかったので特に気にしていなかったが、ううむ、たしかにクラスメイトからすれば問題ありだろう。

 

『ヴァリアント』

 

『なんでしょう、ご主人様』

 

『なのはが授業中とかにキョロキョロしてるのに気づいたか?』

 

『もちろん把握しています。ミッドチルダの魔導師であるユーノ氏やレイジングハートとの会話から察するに、サーチャーでの監視がバレたのかと』

 

『……それ、問題発生してるだろ。バレてんじゃん、監視』

 

『いえ、問題ありません。こちらの素性はバレていませんし、元々監視自体がバレるのは時間の問題だったので。現に、高町なのはにご主人様のことがバレていないでしょう?』

 

思わず仰け反ってしまった。

そもそもの問題として。

高ランクの魔導師にもバレないような秘匿性の高いサーチャーの術式なんて知らなかったし、術式を構築する暇もなかったからただのサーチャーに幻術でちょいちょいとイジっただけのモノで監視してるからバレる可能性はあった。

だからこそ、監視しているのがバレたら即座に監視を止めようと思っていたのに。

サーチャーで監視する、というのも、監視されると思っていない&まだ魔法に触れたばかりでそういったものに疎いから実現できたことであって、バレたまま監視するのはとてもではないが現実的とは思えない。

補助魔法に秀でたユーノならば、或いは逆探知の様なものでこちらの素性を探ってくる可能性だってあるのだ。

 

『……中止だ』

 

とてもじゃないが、続けられない。

 

『よろしいのですか?』

 

『いや、続けたいとは思うが、この調子じゃいつバレるかもわからん』

 

『了解しました。ついでに、高町なのはの使う魔法をいくつかラーニングしておきました。後でご確認を』

 

『マジか。いつの間にそんな素晴らしいことを』

 

優秀なデバイスで、多分だけど、性格的にも問題無いと思う。

フェイト専用に設計されたコスト度外視のバルディッシュ。

遺跡から発見された(ロストロギアの疑いのある)レイジングハート。

この二つに勝るとも劣らない性能を持つヴァリアントは素晴らしいの一言だ。

当初は出自不明の役に立つ道具程度にしか思っていなかったが、インテリジェントデバイスは心を持っているということをこの数年で実感した。

ヴァリアントとの会話は、機械と話しているのでなく、まるで人と話しているのではないかと錯覚させる。

正直な話、彼女(女性音声だから多分彼女のはず)でなければ、ここまで来れなかったとすら思える、そんな気がしてしまうほどヴァリアントを信頼している。

だが、いや、だからこそ、これまで以上に。

 

「もっと話し合わないとな」

 

「え、それは誰と、何を?」

 

「色々だよ」

 

「たしかに、君はもっと人と話した方がいいと思うよ。そんなに自分の殻にこもってちゃ女の子にモテないよ」

 

「ほっとけ」

 

小学三年生のくせにもうモテるモテないの話をしだすのか。

この友人は女子の友達も多くいるし、こういう奴らが将来のリア充になっていくのだろうか。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「そっか……アリサちゃんと喧嘩、しちゃったんだ」

 

「ううん、私がぼーっとしてたから……アリサちゃんに怒られちゃっただけ」

 

「親友、なんだよね」

 

「うん。入学してすぐの頃かな、その時からずっとね」

 

思い出すのは、三人のはじまりの時。

アリサがすずかのリボンを盗ってはからかっていた時に、なのははその場へと介入してアリサの頬をぶったのだ。

なのはは伝えたかったのだ、他の人からしたら大した物でなくても、当人からすればそれはかけがえのない物であり、ぶたれた痛みよりもずっと心が痛いんだということを。

当時のアリサは素直ではなく、やめなよって言われてもやめることができなかったため、その後はなのはと大喧嘩。

アリサは当時のことを、「心が弱かった」と振り返っていたが、それはなのはも一緒。

もっと上手に伝えられる方法はなかっのかな、と。

 

それでも、今ではもう、大切な思い出だ。

 

「ゴメン、なのは。僕が巻き込んでしまったばっかりに……」

 

「ゴメンはなしだよ。ユーノ君を手伝うって決めたのは私だもん。だから、これは私の責任」

 

「なのは……」

 

「それよりも、やっぱりわからない? あのサーチャー? を使ってた人のこと」

 

気になるのは当然、サーチャーを飛ばして来た人物。

覗かれていたことよりも、それを実行してきた人物の方がなのはは気になったのだ。

無論、なのはとて乙女。

覗かれても恥じらいがないわけではないことを記しておこう。

 

「あのフェイトっていう子か、仮面を付けていた魔導師だとは思うんだけど、二人の魔力のパターンもまだよくわからないし、今の僕じゃ二人のどちらかとしか……」

 

「そっか。じゃあ、やっぱりお話、聞かなきゃだね!」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

フェイト・テスタロッサは焦っていた。

この状況に彼女が焦るのは当然であった。

母であるプレシア・テスタロッサから頼まれたのは海鳴市に落ちたジュエルシード二十一個全ての回収。

使い魔であるアルフと共に管理外世界である地球に来てそれなりの期間が経過したが、彼女が手に入れたジュエルシードの数は未だにゼロ、この展開は最悪と言っても間違いではない。

いや、手に入れる機会自体はあったが、手に入れた後、もしくは、手に入れる前に妨害されて、ことごとくジュエルシードは奪われてしまった。

その結果がゼロ。

 

彼女自身、別にジュエルシードに拘りがあるわけではない。

ロストロギアと呼ばれる代物であることは知っているが

「ああ、綺麗だな」

ぐらいの認識でしかない。

 

『母さんが喜んでくれる』

 

ひとえにその理由だけで彼女はジュエルシードを探している、いや、その理由だからこそ彼女は探している。

母さんの為、その理由は他のどんな理由にも勝るものだから。

 

だが、ここにきて邪魔者が現れたのだ。

「お前に渡さないのが俺の目的なんだ」

は、実に理不尽ながらかつ予想外な仮面の魔導師の言葉だ。

「プレシアはまだ壊れたままか?」

は、彼女の使い魔が聞いた、愛する母を侮辱する理解不能な言葉だ。

 

貴方に何がわかるの!?

そんな気持ちを叫び出したくなるのを、誰が責められようか。

たしかに、彼女の母であるプレシア・テスタロッサは変わった。

優しく微笑んでくれることはなくなったし、食事を一緒に取ることも殆どなくなった。

研究に没頭することが多くなり、その研究が上手くいかず八つ当たりを受けることもあった。

母さんの使い魔兼フェイトの教師のリニスがいた時はまだ暖かかったが、そのリニスがいなくなってからは庭園の雰囲気もプレシア自身もガラリと変わった。

 

ただ、フェイトにわかるのは事故によって母が、少し、変わってしまったこと。

前の職場での事故が原因で眠っていたらしいが、フェイトはよく覚えていない。

幼い頃や事故から目が覚めた後の記憶はハッキリしているが、事故の直前の記憶だけはボヤけて思い出せない。

 

昔のように笑ってほしい、愛してほしいともおもうが、母さんがあまり余裕が無い事を知っていればこそ、自分の気持ちを押し付けていいものかと悩んでしまう。

それこそ、具体的なことは知らないが何かの研究精一杯なのだ。

自分に構ってくれる余裕があるのだろうか、自分が迷惑をかけているのではないか、と。

そんな葛藤があればこそ、多くの母さんの願いを叶えてきた。

時には材料集めを、時には過去の文献集めを。

時折見る他人の家族の幸せそうな光景から湧き出る気持ちを、心の奥底にしまい込んで。

 

そこに、新たな機会が巡ってきた。

曰く、ジュエルシードと呼ばれるロストロギアを集めれば、母さんの研究は大きく進む、いや、完成すると。

以前までの研究は全てが手探り状態で進展も少なかったらしいが、今回のはゴールが見えているとかなんとか。

ようやく、長かった母さんの研究に終わりが見えてきたのだ。

 

ようやくなのだ。

これで終わりかもしれない。

この研究が完成することによって母さんに余裕が生まれ、また昔みたいに家族で仲良く暮らせる幸せな時間を過ごせるかもしれない。

そんな希望が見えてきたのだ。

 

必ず集める。

何があっても。

どんなことをしてでも。

 

「アルフ、次のジュエルシードの場所は?」

 

「おおよそだけど掴めたよ。多分、街の中心」

 

「……そんなとこにあったんだ。早く見つけ出さないと」

 

また邪魔をされる。

渡さないのが目的ならば、仮面の魔導師は今回も現れることだろう。

わかっていても、その魔導師を出現を食い止めることはできないが。

 

「あの白い子も来るだろうし、誰よりも先に見つけないと」

 

「その、フェイトは、平気なの?」

 

「平気だよ。私、強いんだから」

 

「でも……」

 

アルフの懸念はフェイトの現在のコンディションだ。

三食食べることはなく食事は最低限、睡眠も仮眠ばかりでしっかり寝ることはない。

彼女の主人の実力は使い魔である彼女自身がよく知っている、そこに疑いはない。

けれど、今の状態ではどうだ。

魔力も完全に回復しきっていない状態で、コンディションが万全とは言い難いこの状況で、果たして戦闘になった場合、勝てるのだろうか。

 

白い魔導師と仮面の魔導師が仲間なのかはわからない。

フェイト曰く、会った時の状況からしてその可能性低いと言っていた……が、二人ともフェイトとは敵対している。

敵の敵は味方、という、この世界の言葉がアルフの頭をよぎる。

手を組まれれば数の差ではあちらが上、戦いとは基本、数がものを言う、それこそ圧倒的な実力差でもない限りそれは覆らないだろう。

今のフェイトの状態で、その差があるのかどうか。

 

「ねぇフェイト、次のジュエルシードを回収したらちゃんと休まない? あたしはフェイトが心配だよ。広域探索の魔法は体力使うっていうのにフェイトってばろくに食べないし休まないし……このままじゃ、いつか倒れちゃうよ」

 

「ありがとう、アルフ。今度、ちゃんと休むから」

 

「約束だよ? 絶対休んでおくれよ」

 

何度も交わした約束に、アルフは不安を通り越して一種の絶望と共に、やんわりとした口調で諭す。

 

「フェイトがあの人を大切に思うのはわかるよ。でも、あの仮面の魔導師が言ってたことも少しは理解できる気がするんだ。……壊れてるって」

 

「……なんで、そう思うの?」

 

「だって、おかしいじゃんか! フェイトはこんなにも頑張ってるのに、褒めるどころか鞭で叩いてるんだよ!?」

 

「それは違うよ。ただ、母さんは今、ちょっと余裕がないだけ」

 

「違わないよ!」

 

使い魔のその姿は先程までと比べても明らかに小さく弱々しく見える。

うつむくその顔が見えない程に影に覆われている錯覚すら覚えた。

神妙な顔つきになったフェイトが、重々しく口を開く。

 

「今は研究で手一杯な母さんだけど、ジュエルシードを集めれば研究がひと段落つくって言ってた」

 

「……うん」

 

「ジュエルシードを集めて、母さんのとこに帰ろ? きっと、全部上手くいくよ」

 

「一つだけ聞かせて、フェイト」

 

「……何?」

 

「また邪魔が入ったら、どうするんだい?」

 

「──今度はもう、容赦しない」

 

 

 

 

 

 

 

 




○盗聴がバレてしまった小学校に入学して友達百人作れなかったマン
心の友であるヴァリアントがいるからセーフセーフと思ってるけど側から見ると痛い人やで
バレなきゃ犯罪じゃないんですよという素晴らしい名言を頭に入れてやってたらバレたので普通に犯罪ですよ、大丈夫かなこの子
もっとコミュ力があればなのはとアリサの仲裁に入るイケメンムーブが出来ただろうけど、普段人と会話しなさすぎて多分二人からは誰? みたいな扱い受ける
ああ、クラスの端っこの方にいたね、みたいな
コミュ力あれば二人の間に入れたかと問われればよくわかんないけど……相当勇気がいりますよあの場面
入ったところで事態をややこしくするだけだから何もしないということはある意味ファインプレーなのかもしれない。誰か褒めてあげて
出会った敵の技をラーニングして使うってなんだか主人公っぽいなって思いましたまる
友人自体は数少ないけどいるから完全なボッチではない

○やっぱり対話したいウーマン
ディバインバスターorスターライトブレイカー
多分そのうち「分かり合う気はないのか!」って言いながらディバインバスター撃ってくる
ついでにトラ○ザムとかする(未来視

○邪魔するものは容赦しないウーマン
激おこプンプン丸

GW終われば時間できるかもと思っていた考えが甘かった
全く展開進んでないし、早く進ませたい
書きたい内容はいっぱい思いつくのにそこまでまだまだ道のりがあるとはこれいかに
後書きも随分寂しくなってしまった……いつか量増やそうかと
時間が取れることを夢見ながら書いていくので、それでもよければゆっくり気長にお待ちください


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6 衝突、しかしそれは

前回のあらすじ

主人公、ぼっち。





平和が一番であると思う。

バイオテロが起きて街にゾンビが蔓延するのは勘弁して欲しいし、宇宙人がいきなり地球にやってきて侵略されたくもないし、核兵器によって世紀末になるのも勘弁願いたい。

無論、これらは現実に起きるかと言われれば答えに困るものばかりであるが、魔法があるので可能性がゼロとも言い切れない。

もっとも、魔導師の力があれば挙げた例の半分くらいは制圧できそうな気もするが、当然したくないのでしないし、その様な事にならないことを切に願う。

 

さて、魔法文化なんてものが無い地球ではあるが、実際魔法関連のものが見つかった場合は一体どうなるのだろうか。

地球に幾つの魔法文化所縁のものが流れ着いているのかは知らないが、ジュエルシードや闇の書が流れ着いていることを考えると探せば他にもロストロギア関連のものがあるのではないかと勘ぐってしまう。

それに、今回の鍵であるジュエルシードなどといったものが見つかった場合は大騒ぎになるのではないか?

闇の書みたいなものであれば逆に見つかろうとただの本にしか見えないだろうし、主人でなければ起動できないので見落とされるかもしれないが、ジュエルシードはとにかく派手で問題がありすぎる。

いや、本来のヤバさで言えば闇の書の方が圧倒的にヤバいのだが。

 

ジュエルシードは見た目だけ見れば綺麗な宝石に見えるし、手に持ってしまえば自分の願いが歪な形で叶えられようとしてしまう。

余程の事情でもなければ、大半の人物はこの見た目に惹かれて拾い、ジュエルシードを意図せずに暴走させてしまうのではないか、というのが俺の考えだ。

実際、原作ではサッカー少年がジュエルシードを拾って街中で暴走させるという大惨事を引き起こした。

 

が、こちらではその事件は起こっていない。

理由は単純。

暴走する前に盗った。

 

原作のサッカー少年の名前を知っていれば対策は楽だったのだが、残念ながらわからなかったため、彼女持ち或いは女の子にモテるサッカー少年を監視してジュエルシードを拾わないか覗き見させてもらった。

やはりというか、案の定なのか、イケメンのとあるサッカー少年が拾っていた。名前は聞いたけど忘れた。

そのままという訳にはいかないので、幻術を使ってちょいちょいと盗ませてもらった。

女の子に渡す予定だったらしく、ガッカリしていたが、そこは諦めてほしい。

街中で二人仲良く木になられたら周りが困るどころの騒ぎではないのだ。

誰かこのファインプレーを褒めて欲しい。

 

今回は未然に防げたから良い。

問題はこの先。

なのはとフェイトによる衝突で発生する次元震。

 

魔導師同士の衝突に巻き込まれれば、ジュエルシードによって次元震が発生する可能性があり、最悪、次元断層が発生して地球が壊れる。

原作ではプレシアによる中規模の次元震で海鳴市に地震を発生させ、次元間航路がしばらくの間不通となり、チートフェレットが帰れなくなるという問題があった。

どの程度の地震かはよくわからなかったが、地震を自然とは別に起こしてるだけで異常で、海に面してる海鳴市じゃ津波の可能性もある。

次元間航路は、別にいいや。

不通になろうとそこまで地球に問題ない……と思う。

 

次元断層はどうしようもない。

海鳴市に問題が起きる、というものだけでも大事件だというのに今度は地球規模ときた。

アニメなら問題が起こらないとストーリーが始まらないので深く考えてなかったけど、今、普通に考えると、地球の危機はすぐそこまで迫っている。

迫っているどころか、その次にも地球を壊滅させる危機が待ち構えているので最悪な状況だと言っていい。

はっきりいって誰かなんとかしてくれ、そのための管理局だというのにまだ到着すらしていない、なのはに頑張ってもらいたいけど実は彼女、精神はかなり大人びているけどまだ小学三年生、それもたった一人に地球の未来託すとか冷静に考えなくてもヤバい。

 

だから、今日も今日とて空き時間の全てを鍛錬と魔法関連の勉強に費やす。

 

思えば、ヴァリアントには事情を話して今後のことを相談してもいいのかもしれない。

既に己の半身と言っても過言ではない存在となっているヴァリアントだ、相談ついでに話すのは一考の価値がある。

少なくとも原作キャラ達にはこちらの事情なんて話せないんだし、絶対したくないし、例え話したところでこの特殊な生い立ちを信じてもらえそうにないのだから隠しきるしかない。

プレシアやスカリエッティといった研究者は俺の生い立ちに食いついてきそうではあるが、絶対に知られたくない。特にスカリエッティ。

やはり知られたくないと思うのならば、可能な限り情報を秘密にして、漏れる口を極限まで減らすしかないのかもしれない。

噂とは怖いもの、いつ、どこの誰がそれを広めるかわかったものではない。

 

思えば、ヴァリアントと私生活の話をするのは殆どなかった。

話すのはいかに効率の良い鍛錬をするか、どのような戦闘スタイルが合っているかなど、魔法関連の、それも荒事ばかりの会話しかしてこなかった。

学校や友人関係で相談なんてする必要性が感じられなかったし、趣味についての話などもってのほか。

初めての魔法以外の話。

彼女の性格からして周りに秘密を漏らす様な事はないとは思うが、彼女と出会ったばかりの頃の会話が引っかかる。

 

『私はいわば、乗り物なのです。単体では何も出来ず、人に使われてこそ本領を発揮します。つまり、人に使われなければ、私の存在する“意味”が無くなってしまうのです』

 

『使われず、大事にするという建前の言葉で飾り物に成り下がるなんて、嫌なのです。自分ひとりで戦うことも出来ない。使ってくれる相手もいない。それは、なんて地獄』

 

『もし、ご主人様と共に全力で戦い、その果てに壊れるのであれば、私は本望です』

 

この言葉にどのような意味が込められていたのか。

壊すほど使い込め、ではあるまい。壊れたら使うデバイスが無くなっちゃうし。

レイジングハートやバルディッシュも似たような考えを持っているのか凄く気になる。

恐らく、ヴァリアント特有の考えなのだろうが、これ以外のなにか深い意味を持たせた言葉だったりしたら、と思うと、どうもスルーできない。

そも、魔法文化のない地球でただの一般人の家庭であるはずのうちにあった、という点がもう怪しい。

闇の書みたいに流れ着いたロストロギアか?

それとも、誰かが両親に託したのか?

 

不思議に思い、その事についてヴァリアントに話を聞いても、答えはいつも同じ。

 

『該当データなし』

 

製作者を聞いても、何故うちにあったのかを聞いても、答えは全てがこれ。

いやに機械的だ。

まるで、これ関連の話の時はヴァリアントではない『ナニか』と話しているよう。

言えないようにそれ関連のデータにはプロテクトなりロックが掛かっているのか、或いは消去されているのか。

どちらにせよ、今の俺にそれを知ることは叶わない。

 

デバイスに表情はないため分からないが、表情が仮にあったのだとしたら、彼女の表情は恐らく無表情でいることだろう。

 

……また一つ、鬱屈としたものを飲み下す。

問題は、どうやら解決されそうにない。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

ヴァリアントが誰に造られようが何処で造られようが、別に俺のやるべき事に変わりはない。

学校から自宅へ寄り道せずに真っ直ぐに帰り、部屋にこもってイメトレをしつつ、時折休息がてらにヴァリアントと共に魔法の勉強をする……。

部屋でたった一人、癒しなど全くない時を過ごしながら、ふと今回介入する件を思う。

 

魔導師二人とその使い魔二匹?……二匹と表現していいのかわからないが、彼等による衝突。

今までの小競り合いに近い衝突とは少し違うぶつかり合い。

そう、アースラメンバーが来る契機にもなった、次元震を発生させるぶつかり合い。

元々、アースラが地球に急行したのはユーノ・スクライアが呼んだから……ではない。

ユーノも地球に来る前に管理局に連絡したらしいが、残念ながらその時に管理局が対応することはなかった。

彼等が地球に来たのは定時巡回中に高エネルギー反応を関知した為であり、『パトロール中に騒ぎがあったから駆けつけた』という程度の動機だったりする。

 

アースラメンバーはこれ以降、ジュエルシードに関する事件の全権を持った。

その後は高町なのはやユーノ・スクライアは、民間協力者としてアースラのメンバー、主にクロノと行動を共にすることになるのだ。

本来なら現地人であるなのはや嘱託魔導師ではないユーノは、ジュエルシードの件からは離れるべきであったのだろうが、二人の魔導師としての強さやフェイト・テスタロッサへの思いにより、協力していくことになる。

 

何を言いたいのか、を一言に纏めるならば。

次元震が起きないとアースラが来ない。

 

別に次元震は起きないのが一番だし、何も起こらないのであればそれに越したことはない。

ただ、アースラが来なかった場合、これ以降、俺やなのは達だけで事件を解決に導く事ができるのか、という話。

勿論、自分一人で解決できる、フェイトもプレシアも止めてみせる、なんて自惚れはしていない。

していないが、アースラが来ないならやらなければならない可能性が出てくる。

 

はっきり言って無理ゲーである。

 

プレシアを止めるという事は、時の庭園の場所をなんらかの手段で突き止め、暴走寸前のジュエルシードを複数個を封印、かつ、時の庭園の駆動路の暴走も止め、その後にプレシアを倒す、ないし、プレシアがアリシアを蘇生しようとするのを阻止しなければならない。

ましてや、時の庭園には防衛のために傀儡兵を配置している。

これら全てを個人で対処するのは不可能に近い。

アースラをこちらに呼ぼうにも連絡手段はなく、仮にあったとしても、今度はこちらの身バレの危険性が出てくる。

勿論、状況によっては身バレなど気にせずに動くが、バレないに越したことはない。

個人個人の管理局員の善性を信じることはできる、アースラのメンバーやこの先関わるであろう人達は皆が尊敬できる人物だが、関わらないで済むのであれば、できるだけ関わりたくない。

トップである三脳によって生み出されたスカリエッティしかり、最高評議会とそれに通じる地上本局の人物が自分たちの望む秩序の為と戦力確保の為、違法研究である人造魔導師や戦闘機人の研究をしているのだ。

転生……なんて、マッドからしたらこれ以上にない玩具の様な身体なのだ、狂気をこちらに向けられない保証は一切無い

 

俺は困っている人全てを助けたい、悲しみや不幸を減らす、なんていう殊勝な考えを持っている訳ではない。

少なくとも、今回の事件は地球が舞台だから戦っているが、これが遠くの世界であったとしたら放置していた事だろう。

けれど、舞台は地球、ここには父さんと母さんが居る。

それに……フェイトの境遇を知っている以上、可能であればなんとかしてあげたい、とも思っている。

 

できるかどうかはわからない。

全てが無駄になるかもしれない。

……それでも、動かなければならない。

それが辛いことでも、嫌なことだとしても。

望む結果を出したいのであれば、たとえ可能性が低かろうと、始まる前から諦めるわけにはいかないのだから。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

と、いうわけで街へ。

幸い、原作知識のおかげでジュエルシードの大まかな位置は把握している。

把握はしているのだが……夕方から探しているにもかかわらず、未だにジュエルシードを見つけることができていない。

反応が微弱なせいでサーチにも引っかからないせいで、ヴァリアントも必死になって探してくれているのだが未だに成果なし。

 

人が多い街中で魔力を撃ち込んで見つける、なんて荒技を使うのわけにもいかないし、生憎と俺は結界といったサポート系の魔法に適性がなさすぎて、ユーノが使っていた広域結界などでカバーすることができない。

砲撃魔法も適性なくて、結界といったサポート系もなし。

砲撃はともかく、結界を自分で張れないのがまぁ痛い。

こうしてみると、なのはとユーノの組み合わせはベストマッチであったのだと改めて思い知らされる。

自分に出来ない事を仲間に任せ、仲間に出来ない事を自分がやる、これぞチームワーク。

俺はボッチだから無理だけど。

 

が、独りだからこそ出来ることもある。

が、それはそれとして、焦りが募る。

理由はフェイト。

俺がフェイトとアルフからジュエルシードを奪っているせいで恐らくだが、彼女達の所持数はゼロのはず。

プレシアへの定期報告を考えると、いや、報告云々かかわらずに今回は絶対に取るのだとと意気込んでいる筈だから、早いとこジュエルシードを見つけてずらかりたい。

もしジュエルシードを見つけるタイミングが被ってしまえば彼女らとの戦闘は絶対に避けられないし、そうなった場合は二対一。

まさに数の不利。

なのは達が合流してくれれば一応は数の不利はなくなるけれど、正直、仲間とカウントしていいのかわからないので期待はしない。

 

やっぱり数の不利は消えないと思う。最悪だ。

どうしようとヴァリアントに相談したら、気合いで頑張りましょうと言ってくれた。

根性論を出してくるあたり、ヴァリアントもなかなかにいい性格をするようになってきた。

良い傾向だ。

この調子で製作者をゲロってくれ。

気合いで吐け。

それはともかくとして。

 

「とっとと見つけて、家に帰るぞ」

 

『勿論です、ご主人様』

 

最悪の事態が起こらぬよう祈りながら、改めて帽子を深く被り、できるだけ自分の顔を隠す。

まだ身バレしていないとはいえ、ジュエルシードを探して歩いているなのは達に会った時用に顔は隠す。

何事も用心が大事なのだ。

なのはからすれば、たまたまクラスメイトに会ったから挨拶してきただけなのかもしれないが、こちらとしては彼女に声を掛けられただけで精神がすり減ってしまう。

そうならない為にも会わないのが一番いいのだが、お互いが同じ物を探しているからには会う可能性はどうして高い。

会いたくないけれど、まぁ、会ったらその時はその時だ。

人間、なるようにしかならないのである。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

海鳴市、午後八時六分。

ビルの屋上にて。

フェイト・テスタロッサと彼女の使い魔、アルフが佇んでいた。

 

アルフは人型ではなく、本来の彼女の姿である狼の姿。

フェイトは既にバリアジャケットを身に纏い、バルディッシュを待機状態からアックスフォームへ。

 

二人がいるビルの下には、帰宅途中の会社員や遊び途中の学生、買い出しの主婦など多くの老若男女。

しかし、彼女達の目的はそんな人達を眺めることではなく、ロストロギアであるジュエルシードを見つけること。

大まかな位置は掴めているものの、まだ目的の物を見つけるには至っていない。

 

「この辺りだね。乱暴な方法だけど、魔力流を撃ち込んで強制発動させよう」

 

「アイツらが近くにいたら見つけられちゃうかもしれないよ?」

 

「大丈夫。その時は私の方が先に封印するし、邪魔するなら手加減しないから……」

 

「ん、じゃああたしが魔力流を撃ち込むよ」

 

「大丈夫? 結構疲れるけど……」

 

アルフからの提案はフェイトにとっては嬉しいことではあったのだが、それと同時に心配でもあった。

ジュエルシードの大まかな位置はわかるものの、正確な位置がわからない為、魔力流を撃ち込もうものなら、広範囲かつ大量に流し込まなければならない。

全力で魔力を撃ち込む、というわけではないが、仮にそのまま戦闘に移行して問題ないかと問われれば、ある。

 

「フッ、このあたしを一体誰の使い魔だと?」

 

アルフがフェイトを見返した。

 

「こんなの屁でもないよ」

 

仮面の魔導師にジュエルシードを奪われっぱなしだったせいで、心の余裕がなくなってきていたフェイトは、アルフの言葉のおかげで少し和む思いがして、「ありがとう……」と笑って応じた。

 

「そんじゃー……」

 

魔力流が撃ち込まれ、空高くに魔力の柱が昇る。

多少空は曇ってはいたものの、雷雲というわけでもなかったはずなのに空は黒く染まり、ゴロゴロという音と同時に雷が鳴り響く。

そこから、雷は鳴り響くだけにとどまらず、自然現象ではありえないほど大量に地上に落ち出す。

雷が大量に落ちるという、明らかな異常気象に通行人は騒めき、いや、いつ近くに落ちてもおかしくない状況に怯えだす。

 

至る所に雷が落ちる。

魔力の消費が大きく性質上どうしても目立つ荒技ではあるが、位置のわからないジュエルシードを探す効率を考えれば、決して悪くない手段である。

だが、この手段は魔力消費が多い、他人の目に触れるだけでなく、無関係な人への被害が出やすい。

ジュエルシードの近くに人がいないとは限らない。

強制発動をした時に近くに人がいれば、当然それに巻き込まれる。

だが、それを気にしていられるほどの余裕は、焦りに心を蝕まれたフェイトにはなかった。

眼下に見える人々は誰一人としてこの事態がなんなのか知る由もないことに、心の中でごめんなさいと、フェイトは胸中で謝り続けた。

 

「これって……! ユーノ君!!」

 

「わかってる!」

 

だが、この異常事態になのはとユーノが気づない筈がない。

少し離れた場所では、雲海を貫いて空と地を走る雷をフェレットに変身したままのユーノが愕然とした面持ちで眺めていた。

探し物であるジュエルシードと、もう一つの目的である、会って話がしたい少女が見つかって、なのはが動き出さないわけがない。

 

そして、気づくのはなのはやユーノだけではない。

辺りを探していた仮面の魔導師もまた思わぬ事態に、これはいったいなんの冗談なのかとばかりに、慄然と凍りついていた。

 

「こんな魔力流の撃ち方……正気か!?」

 

しかし、それも束の間、本能的に不味いと察したらしい仮面の魔導師は、ジュエルシードを見つけることができなかった焦燥を心の隅へと追いやり、何をすべきかを考えた。

 

「アイツら、自分のやってることわかってんのか……!」

 

『フェイト・テスタロッサ及び使い魔の捕捉、できています』

 

仮面の魔導師は自身に認識阻害の幻術をかけつつ、ヴァリアントを待機状態からジャベリンフォームへと変化させ臨戦態勢に転じた。

フェイトのジュエルシードの収集状況からして焦っているであろうことはわかっていた。

しかし、いくらフェイトが焦っているとはいえ、街中で結界も張らずにこんな乱暴に仕掛けてくるとは思いもよらなかったのだ。

このままでは怪我人が出る、そう思った矢先、街中から人々の姿が消え、その空間に結界が張られた。

 

『結界魔法の発動を確認。ジュエルシードの発動もまた……』

 

「ユーノか!」

 

いいタイミングだ、と胸中で呟きながら急いでフェイトとアルフ……いや、ジュエルシードの方へと飛翔する。

結界が張られたからといって安全になったわけではない、謂わば応急処置、このままでは何が起こるか予想できたものではない。

しかし、ジュエルシードを確保しようにも仮面の魔導師の位置は一番遠い場所となっており、フェイトとなのはの方がジュエルシードに近い。

建物の関係でジュエルシードを目視することもできず、

 

「間に合わないっ!?」

 

雷鳴のごとき閃光と轟音を響かせながら、ジュエルシードは封印された。

封印に成功したのであれば、この先に起きうるのはジュエルシードを巡っての戦闘。

なのはとフェイトが今ここでぶつかり合えば、ジュエルシードはその余波に影響されて脈打ち始め、それに気づいた彼女達によって確保しようとして、そして……。

 

そして今、少女達はぶつかり合っている。

 

『疾風』

 

最悪の展開を回避すべく、ごう、と、渦巻く風を纏いながら彼女達へと急ぐ。

目的のためにぶつかり合ったり競い合ったりすることは仕方のないことかもしれない。

けれど、今回だけは……次元震、もしかすれば次元断層が起きるかもしれないコレだけは見逃せないのだ。

誰かが怪我をする、では済まされない規模の事が起きるのがコレだ。

 

止めなくてはいけない。

起こさせてはいけない。

それが彼の目的。

その為だけに手に入れた力。

それを胸に、仮面の魔導師はその過剰な速さでビルの間を抜け、デバイスで斬りかかった。

 

「くっ」

 

魔力を炎を纏ったデバイスを一気に押し込み、疾風の速さも相まって仮面の魔導師の圧倒的な膂力に押されながら、フェイトは地面へと墜落していく。

彼から攻め寄せる圧倒的な力に、フェイトは堪らず叫びをあげた。

 

「フェイトッ!」

 

アルフの呼びかける声がフェイトの耳に届く。

邪魔が入ることは予感していたが、やはりわかっていても忌々しいものだとアルフは舌打ちする。

目的の物であるジュエルシード目の前だというのに、あと少しだったというのに、どうしてこのタイミングで邪魔が入るのかと思わずにはいられなかった。

 

「コイツはあたしが止める! フェイトはジュエルシードを!!」

 

魔力で強化した拳を全力で打ち込み、仮面の魔導師はビルの壁を抉りながら地面へと吹き飛ばされる。

地面にめり込むように倒れながらも、彼はデバイスを握りしめたまま耐えた。

そして、急いでフェイトを止めようと再び飛行魔法を発動させようとするが、アルフは魔力を拳に集中させて、声を発した。

 

「行かせないってんだよ!」

 

「クソっ!」

 

展開されたシールドにひたすら拳を打ち込むアルフ。

彼女の戦闘スタイルを表すならば、己の拳で肉弾戦を挑む豪腕タイプ。

狼を素体とした使い魔であるアルフは主人であるフェイトとは違い、速さではなく力に趣を置いている。

生半可な防御魔法であれば一撃で破壊するほどの威力であると、師であるリニスから太鼓判を押されたほどだ。

一瞬の隙を見てシールドを解除し砲撃槍で大砲の如き拳を受け流す。

見えない程の速さでもなく、格闘家のそれのように洗練された殴り方をしている訳でもない。

だからこそ受け流す事ができた。

だが、シールドで受けて感じたその拳の重さに思わず息を飲む。

受けるべきではない攻撃だ、少なくとも、これ以上は耐えきれない。

拳を受け流した動きの延長で、アルフの背を蹴って距離を離す。

 

アルフが仮面の魔導師を睨みつけたまま、じり、じり、と歩きながら間合いを詰めていき。

仮面の魔導師は炎を纏う砲撃槍を腰だめに構え、隙を探る。

瞬間、二人に緑のバインドが絡みつく。

 

「バインド!?」

 

第三者――ユーノによる拘束により、二人は一時的に身動きが取れなくなる。

 

「黒い魔導師の使い魔に仮面の魔導師……! なんで君たちはジュエルシードを集める!? アレは危険なものなんだ!」

 

「ごちゃごちゃうるさいよ! クソッ、なんて硬いバインドなんだ……」

 

仮面の魔導師の乱入に一時呆気に取られていたユーノであったが、なのはがフェイトの方へ向かったので、なのはの邪魔させないよう二人の足止めをすることを選んだ。

防御や結界生成・解析、回復や捕縛、転送等の後方支援魔法に高いスペックを誇るユーノが使用するバインドは、あのナハトヴァールに通用するほど。

二人の動きを止めることなど造作もない。

 

「馬鹿っ! 俺たちなんかより早くジュエルシードを確保しろ! 次元震が起こるかもしれないんだぞ!」

 

「え」

 

エネルギー結晶体――ジュエルシードはその性質上、流し込まれた魔力を媒体として何かを引き起こすものであるとユーノは推測していたが、その何かが次元震だとすれば……。

だが、何故目の前の仮面の魔導師がそれを知っているのか。

そう疑念を抱いたユーノの集中力は削がれ、二人をを縛っていたバインドは僅かではあるが緩んだ。

その隙を見逃さず、仮面の魔導師はバリアジャケットをパージすることによって己を縛っていたバインドから逃れた。

 

「あ、待って!」

 

「ジュエルシードなら後でくれてやる! 今はあの二人を止めないと!」

 

再び独自の移動魔法である疾風を発動させ、最速でなのはとフェイトの方へと飛翔する。

ジュエルシード近くでは既に二人による戦闘行動が開始されており、このままではジュエルシードに衝撃を加えられるのも時間の問題。

 

フェイトは仮面の魔導師が向かってくるのを予期していたらしく、その進路上にフォトンランサーを設置、迎撃の態勢へと移行していた。

しかし、仮面の魔導師はフォトンランサーを避けるでも防ぐでもなく、炎の刃で斬り裂いてみせた。

そして、フォトンランサーを斬ると同時にデバイスをフェイトに向かって投擲した。

 

「なっ!?」

 

デバイスとは魔導師が使う杖であり、魔法を使う際の補助として用いる道具で、杖なしに魔法が使えないわけではないが、それが無ければ戦力が低下するのは明白。

そんな魔導師にとっての最大の剣であり盾であるデバイスを投げる、という愚かな行為に虚を突かれたものの、フェイトはバルディッシュで投げられたデバイスを上へと弾いた。

 

「デバイスを投げるなんて……え、あの人は!?」

 

弾いたのはいいものの、先程までいた仮面の魔導師の姿が見当たらない。

何故、という疑問がフェイトの思考を埋め尽くす。

だが、実際に起きたことは単純だ。

フェイトがデバイスを弾いた瞬間、上だと理解した仮面の魔導師はその場から跳躍。

遥か上へと跳躍し、大剣(・・)へと変形したデバイスを手にとっていたのだ。

彼女が過ちに気付いたのは、その体を貫く衝撃を受ける直前。

まるで絶対零度にいるような寒気、次いで感じるのは体を焼く熱とそれに伴う激痛だ。

フェイトは、その体を落下させながら袈裟懸けにばっさりと斬り付けられていた。

 

「チッ、浅いか」

 

バルディッシュによる自動詠唱による防御魔法、ディフェンサーによって寸前のところで軌道をずらすことができた。

体勢は崩れたものの、僅かな時間で立て直すだろう。

 

だが、体勢を立て直す僅かな時間、確実に隙が生まれる。

その隙は、こと速さを競う今においては致命的。

 

「白い魔導師っ、早くジュエルシードを!」

 

「え、あ!」

 

なのはは一瞬迷ったものの、脈打ち始めたジュエルシードの方へと飛んでいく。

そして、仮面の魔導師もまたジュエルシードへと向かっていく。

 

脈打つジュエルシード。

先程までなのはとフェイトの流れ弾による魔力の意図せぬ流し込み。

辺りに充満する魔力。

最悪を起こす条件は満たされている。

 

仮面の魔導師が裸で吹雪の中に立ち尽くす様な寒気を感じたのは、そのすぐ後だ。

後ろを振り返ると、そこには砲撃魔法を放つ体勢へと入ったフェイト。

その射線上には、仮面の魔導師、高町なのは、そして……ジュエルシード。

 

「まさか」

 

最大出力のサンダースマッシャーが放たれたのだった。

 

 

 

 

 




○盗聴と窃盗に慣れすぎてて息を吐くようにリア充相手にやっちゃうマン
実はサッカー少年からも盗っていたので、所持するジュエルシードはなんと三つ
これは発動していたらヤバい案件だけど、発動しなきゃ正直一番楽なところなんじゃなかろうか
ジュエルシードの持ち主は、サッカークラブに所属している、好きな相手、もしくは既に恋人がいる奴って判明してるからこれを特定してあとは幻術とか使ってちょいちょいって盗めばいいだけよ、楽勝楽勝
サッカー少年からジュエルシードを盗んだ後、少年が女の子と翠屋でケーキを二人で美味しそうに食べているのを見てほっこりした
ちなみにサウンドステージであったプール回には、主人公は介入してません
サーチャーで覗いてただけです
後付けじゃないよ?
だってそもそもなのは達とプールに行くって流れに絶対ならないし、ボッチでプールに行くってありえないとは思うのだが、読者様の中に一人でプールに遊びに行ったことがあるという経験をお持ちの方がいればお知らせください
ヴァリアントとは普段、鍛錬の話について熱心にお話して、私生活などの話、報告は一切無し
バルディッシュさんがいっぱい喋っただけでフェイトそんが驚いてたし、多分みんな話してない
そういう話は友達とかにしようね
友達、あっ……(察し)
事件の解決が最優先だけど、困ってる人がいたらなんとかしてあげたいと思う程度には良い人だけど、フェイトの境遇を考えてなんとかしたいって思ってるけど互いに目的があってぶつかり合ってるからしょうがないんやで
じゃあ良い人の定義とはなんぞやってなるけど、窃盗とか盗聴といった犯罪行為をしない人ってのは間違いない
アルフとの戦闘中にチートフェレットにバインドされても邪魔されて怒るのではなく早くジュエルシードを取れ、と言えるぐらいには物事の優先順位がつけられてる
次元震とか次元断層が起きたらたまったもんじゃないしね
実は転生者ですって中々言えないもんだけど、上手く伏せるなりして多少なりとも話さないとこのままだと自己完結して勝手に介入していくだけだから理解者得られないけど大丈夫?
逆に全部ベラベラ喋ったらスカさんと仲良く脳みそ実験ルートだけど
実際そのルートを書くとは言っていない
アルフの相手したりユーノに言いくるめ?したりフェイトと戦ったりなのはとジュエルシードを取りに行ったり忙しい子
こいつが言いくるめロールとか自動失敗しそうだけどジュエルシードの知識のおかげで成功
言いくるめロールする前にこぶしを振らなかったやっぱり良い子なのでは?
今回もジュエルシードもろたで工藤!

○フェイトちゃん
ジュエルシードの所持数がゼロなので周りへの被害を気にせず動いてしまうほど心の余裕がない
魔力流を撃ち込むのは原作通りの流れだけど、範囲と出力が段違いで簡単に言えば落ちた雷に当たれば怪我では済まぬ
お願い、誰も当たらないで……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいって感じで心の中では謝っているので、本当は心優しい少女なのだ
プレシアから虐待同然の酷い仕打ちを受けながらもここまで懸命に尽くそうとするなど、強い意志の持ち主であると同時に依存しているような気もするので被虐待症候群かなって思う
だから虐待があるかもって思っても必ずプレシアの元へ帰るよ!
でも今のところ戦果無しだよ!
つまりは虐待が待っている!
せやかて工藤!
手加減しないって言ったから今回はいけるかもしれへんで!
背中を見せるのがあかんのやで、その背中に全力サンダースマッシャーや!
これならいけるな! ほなな!
周りへの被害がこれを機に凄い勢いで増えていくけど裁判を担当するクロノ君は頑張ってね
できるだけ無罪に近づけないとA'sに間に合わなくなるから……
このSSはストーリーを追っていく目的として書かれているが、主人公という異物がいて基本思いつきを書いている超即興物なので後の事なんて考えてはいけない
プロットはどうしたとかも言ってはいけない

○なのはちゃん
フェイトちゃと話そうと思って戦ってたのにいきなり乱入されてとっても迷惑
でもちゃんと見えないところで自己紹介と目的話したからギリチョンセーフ
影が薄い気がしなくもないけど原作A'sでもバトル描写除くと序盤くらいしか彼女の出番がないという主人公か疑われる展開なので問題ない
まだ無印だけどな!
ユーノに出逢ってしまったのでこれから思いも寄らない世界や戦いへと導かれていく事になるけど結果的に見れば闇の書事件に一般人の身で巻き込まれずに済んだので、『結果的』には良かったのかもしれない

○アルフさん
狼形態が意外と好き
人間形態の見た目的にフェイトより歳上に見えそうだけど、出会った当初はアルフの方が小さかったりする
動物の年齢を人間に換算するとややこしくなるから詳しくは知らんけど
戦闘スタイルはひたすら殴るスタイルなので隙あらば殴るけど、土手で殴り合って友情を育んだりはしない
主人公的には最終的にプレシアと敵対するアルフと戦うメリットは実はあんまなかったりする

○ユーノくん
なのはとベストマッチなやつ
なのはの火力とユーノの防御兼サポート、強い(確信)
結界はれたりめっちゃ硬いバインドしたりとマジで優秀なサポーターやな
アルフと主人公が戦ってるのを見てどっちもバインドで縛ったけど、正直ユーノからしたらどっちも同じに見えるから正しい
疑わしきは罰せよの精神

こんだけジュエルシードが取られてるんだから、フェイトがなりふり構わず動く、みたいなシチュを書きたくて書いてみたけどどうでしょう
どうでしょうと言いながらも不評だろうともう書いたのでもう変えたりはしないけど
フェイトの焦りを書いたつもりですけど、焦ってるように見えました?
見えなくてもそれはそれ!
思いつき、その時の自分の流行り、たまたま見たアニメに影響されて書いていくので、プロットなんてものは消えた、我は悲しい
思いつき次第なので気長にお待ち下されば幸いです


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7 不安の芽

前回のあらすじ

雷、ピカピカ。


七話

 

激しい雷鳴の音と共に、仮面の魔導師の背中へと向かって雷が飛来していく。

その射線に気づいたのは仮面の魔導師にとって幸か不幸か。

避ければ白い魔導師こと高町なのはに直撃し、ジュエルシードにも被害が及ぶことだろう。

だが、避けなければその身でサンダースマッシャーを受けることになりタダでは済まない。

シールドを展開しようにも時は既に遅し、間に合わない。

 

避けるか、その身で受けるか。

 

仮面の魔導師は、咄嗟にその身で受けることを選択した。

自分でシールドを張ることは叶わなずとも、デバイスがオートでシールドを展開してくれたおかげで無防備な体に直撃とはならなかったが、それは一瞬で破壊されて気休めにもならなかった。

降り注ぐ雷をその身で受けながら、初めて、彼はフェイト・テスタロッサの表情を目にした。

彼の知る寂しそうながらも足掻く表情など何処にもなく、あるのは今にも泣きそうなほど臆病な表情。

それでも、彼に降り注ぐ雷の威力が落ちることはなく、身に纏うバリアジャケットを黒く焦がしてはその身を痺れさせる。

いや、痺れなど生温い。

全身にハンマーで叩かれたような衝撃が走る。

 

一般的な例として、最も身近な電気の痛みとしては、静電気でピリッと痛みを感じる電圧が約3キロボルト程度と言われている。

もっと大きな電圧で、手全体を強打したくらいの痛みを感じる場合は12キロボルトほど。

これに対して落雷を受けた場合に流れるのは、電圧にして200万~1億ボルト、電流にして1000~20万アンペアという比較にならない巨大な電気である。

勿論、今回の彼女の雷は自然のものでも儀式魔法による天候操作でもなく、砲撃魔法によるのもなので全く同じというわけではないが、それでもそれ相応の雷撃が仮面の魔導師に伝わる。

如何に非殺傷設定にしてあるといえど、無傷という奇跡のような設定なわけでもない。

 

身が雷に焼かれる。

バリアジャケットはあちこちが焦げていて機能を発揮するかと言われれば既に怪しい。

一瞬前まで展開していた飛行魔法は消失し、その身は重力に逆らうことなく堕ちていく。

幸い意識まで失った訳ではないので、飛行魔法を再展開するのは難しいことではない。

だけれども、全力の砲撃魔法を直前に喰らったその身体で、再び動こうとするには遅すぎた。

 

ひゅう、と、仮面の魔導師は空から堕ちていく。

受け身を取ることなく地面に衝突。

それを見たなのはは一瞬動きを止め、フェイトはジュエルシードへと向かう。

たとえ一瞬でも動きを止めたなのはと、最大加速するフェイトの距離が縮まるのは必然であった。

加速、更に加速。

互いにジュエルシードを捕獲しようと己のデバイスを突き出す。

人知を遥かに超える魔力を内包する宝石が、まるで雄叫びをあげるかのように鼓動し──光を放った。

 

少女達は目を見開く。

先程、彼女達の手によって封印されていた筈のジュエルシードを先に捕獲しようと、我武者羅に突き出したデバイス同士がぶつかり合い、そして、

 

 

ぴつ、と。

 

双方のデバイスに罅がはいる。

もし、その前兆に気づいてその場から離れていたのなら、避けられたかもしれない。

しかしそれは、この場この時において、ジュエルシードから溢れんばかりの光と衝撃が放たれていた事態においては、たらればの話にすぎない。

 

ぼん、と、彼女達の想像を絶するほだの爆発音。

 

逃げる暇もなく、光に包まれたその場所は隕石落下の如く、辺り一帯を吹き飛ばした。

 

 

―――――――――――――――――――

 

失敗した。

ジュエルシードの起こした次元震の衝撃波に吹き飛ばされることによって、次元震の発生を食い止めることが出来なかったのだと嫌でも実感されられた。

知識にあるそれと同規模なのか、或いは規模が違うのかは判断つかないが、人的被害が出てないのが不幸中の幸いか。

そもそも、フェイトがジュエルシードを見つける為に原作よりも過激な行動をしている時点で察するべきだった。

 

「……ヴァリアント、無事か」

 

『問題ありません。フレームに軽度の損傷がありますが、修復可能範囲内です』

 

「そうか」

 

横に落ちていたヴァリアントを拾い、大剣状態であるソードフォームを維持したまま杖代わりにして、立ち上がる。

膝が震えて力が上手く入らないのは多分、いや確実に砲撃魔法の直撃したからだろう。

砲撃魔法が直撃したのだから魔力ダメージも半端なく大きいが、雷撃が伴っているせいで見た目以上にダメージが大きい。

少なくとも、これからフェイトとアルフを相手するのは無理、という事だけは確実に言える。

こんな状態で戦えるか。

イメトレのおかげでそれなり以上に経験した俺ではあるが、相手からの攻撃、それも一流魔導師の砲撃魔法を喰らったのは今日初めてだ。

イメトレで被弾するのと実戦で被弾するのは当然違うと頭ではわかってはいたが、やはりというか実際にその身で受けると全く違う。

魔法がダメージを与えるのは攻撃対象の魔力値に対してであり、基本的には身体的な損傷を伴わないとなっているが、それは、基本的には、だ。

非殺傷設定は酷く外傷を負うという事を避けられるだけで、実際にはそれなりの衝撃や痛みがある。

それに、非殺傷のスタン設定を施していたにも関わらず、柔らかい眼球に被弾したことで失明したキャラもいるし……。

拳銃よりはクリーンではあると思うが、喰らった側からすると全くクリーンなものとは言い切れない。

手足が無くなってないだけ儲けものと考えるべきなのか。

 

「クソ」

 

問題の、次元震を起こしたジュエルシード、なのだが。

封印状態では当然なく、まだ、ドクン、と脈打っている。

辺りを見渡せば、なのはとフェイトは少し離れた場所で気絶しており、各々のデバイスも中破して無事とは言えない。

爆発の中心にいたのだ、それも当然か。

それでも、あれだけの爆発の直撃を受けたにも関わらずコアが無事なのは流石、高性能デバイスといったところか。

損傷は酷いだろうが、直せる範囲の損傷だろうから、自己修復機能でなんとかなるだろう。

見れば、使い魔であるアルフとユーノがそれぞれの主人の元へと駆け寄っている。

どうやら彼らは無事だったらしい。

俺はフェイトによって吹き飛ばされたのが幸いしてか、ジュエルシードの爆発に直撃することはなかったが、当然余波によって重症とはいかずとも無傷では済まなかった。

もっとも、フェイトの攻撃の所為で重症だが。

 

「……さて」

 

二人が気絶している、この状況ならば。

ジュエルシードを楽に封印出来ると捉えるか、それとも、こんな状態でも自分で封印しなきゃいけないと捉えるか、要はプラスに考えるかマイナスに考えるかの違いだ。

正直に言えば、俺は後者だ。

 

生憎と、俺は怪我をすることに慣れていないし、痛みに耐える訓練もしていない。

身体を動かせば激痛が走るし、何より先ほどの叩きつけられた衝撃で視界がハッキリとしない。

一応気休め程度の回復魔法は習得しているが、そんな悠長に回復していられる程、目の前のジュエルシードは待ってくれそうにない。

既に一度次元震を発生させ、未だに脈打っていることを考慮すると、恐らく一度次元震を発生させたからもう終わり、なんてことは考えづらい。

そんな状況で自分しか動けないと言うのが最悪。

近くにユーノとアルフが気絶せずに残っているが、ユーノは魔力戻っているか不明で封印出来るか怪しくて、アルフも単体で封印出来るか不明だし、仮に封印出来たとして俺に協力してくれるかと言われれば怪しい。

自慢には決してならないのだが、現状、邪魔ばかりをする俺はアルフに相当嫌われている気がする。

 

最悪な状況だ。

生憎、俺はそれほどジュエルシードに関しての知識を持ち合わせてはいない。

せいぜい、持ち主の願いを歪に叶える、衝撃を与えると次元震もしくは次元断層が起きる、ぐらいしか思いつかない。

原作に描写があっただけの機能しか有していないのか、それとも俺の知らない機能を実は有しているのか。

どちらにせよ、今は激痛が走る身体に鞭を打って目の前のジュエルシードを封印しなければならない。

 

出来なくは、ない。

ジュエルシードの封印自体の経験あるし、魔力も消費してはいるが不足しているわけではない。

砲撃も、苦手ではあるが出来ないわけではない。

それに、砲撃に拘らずとも他の魔法で幾らでも代用できる。

フェイトは気絶してるので邪魔してくることはないだろうし、アルフもそんなフェイトを放置してこちらに襲いかかってくることはないはずだ。

なのはとユーノも同様。

ヴァリアントも損傷は軽微なので、このまま使用を続行しても問題なく封印できるだろう。

ジュエルシードを封印して今回の騒動は終わり。

何も解決せずに、終わり。

 

「ジュエルシード、封印」

 

ソードモードのヴァリアントから斬撃魔法を放ち、無事に封印完了。

 

さて、問題の二人、なのだが。

振り返れば、ちょっと遠くにアルフ背中が見える。

どのタイミングで逃げ始めたか、と言えば、そう遠くまで離れていないことを考えて、俺がジュエルシードを封印しようと行動したタイミング。

言ってしまえばアルフはフェイトを抱え、ジュエルシードを諦めて逃げ出した、という事になる。

 

難しい話だ。

今回はギリギリではあるがジュエルシードを封印できた。

そう、今回は。

次回も上手くいくとは限らない。

さっきのフェイトの行動から察するに、フェイトの精神状態がよろしくないのは明らかだ。

これ以上余計な刺激を与えると、本当に何が起こるかわからない。

一つも目的のモノであるジュエルシードを確保できていないが故の行動なのだろうが、最悪、今回のは一般人に被害が出ていてもおかしくはなかった。

被害を抑えようと考えて介入した結果、原作よりも被害が大きくなるところだった。

街中で強制発動までは知識の通りだったが、あちこちに雷を落とすとは思わなかった。

非殺傷設定であったと信じたいが、どうだろう。

 

しかし、今更怖気付いて介入をやめます、なんて馬鹿げた真似はできない。

フェイトがなりふり構わず動くようになったのは、ジュエルシードを確保できてないから……つまりは俺の所為でこうなったのだ。

その責任は取らねばなるまい。

元を辿れば、こうなったのは何処かの誰かさんが地球にジュエルシードをばら撒いたからで、もっと先を辿れば、研究所の馬鹿共が安全確認もせずに実験を強行してアリシアが死んだ所為なのだが、まぁいい。

本当は全然よくないけど仕方ない。

今回の騒動で、時空管理局も動き出すことだろう。

つまり、被害が大きくなりそうにはなったが、アースラがこちらに来ると考えれば結果オーライとも言えなくはない。

有能で人道的且つ正義感もある、頼れるメンバーが揃う、これほど素晴らしいことはない。

彼らが来なければフェイトを無罪にする事ができなくなってしまう訳で、闇の書事件を解決するために必要なキーパーソンを牢屋に入れてしまったらそれこそ本当に取り返しがつかない。

元々優しく他人を思いやれる人は、牢屋なんて馬鹿げた場所なんて所ではなくもっと暖かい場所がふさわしい、それが本来のあるべき姿なのだから。

 

できればフェイト達の寝床も知りたかったが、ひとまずそれはやめておくことにする。

わかったところで俺にできる事があるかと問われれば、特にはない。

別に現状、フェイトはジュエルシードを持っていないので襲う理由はない。

それに彼女はジュエルシードを集めるうえで障害となる者であって、敵ではない。

この事件の元凶はプレシア・テスタロッサであり、仮にフェイトの寝床を突き止めて襲撃したところで何の解決にもならない。

今日見た感じ、焦っているのは確定ではあるが、魔力の残りや疲労、バルディッシュの損傷を鑑みるに、暫くは行動を控えるだろう。

この時期は確かプレシアの元へ定期報告もあったはずだから一度、時の庭園へ戻るはず。

暫く放置でいいだろう。

 

後ろを振り返る。

ジュエルシードの起こした次元震に吹き飛ばされたためか、なのはは未だ気を失ったままだ。

衝撃波から咄嗟に逃げる、というのはあの状況では思い浮かばなかったのか、バリアジャケットが所々破けていて、もろに受けたのが見てとれる。

が、ユーノが回復魔法をかけているのですぐに回復することだろう。

レイジングハートも損傷しているが、見たところ、コアは無事なので原作のように自己修復機能で直る範囲なので問題はなさそうだ。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

次はもう失敗できない。

今後もこのような展開が続くようならば、この先の方向性を見直さなければいけなくなる。

原作ですら公務執行妨害や民間人への魔法攻撃といった罪を犯してるのに、一般人(現地人)への被害を出してしまえば、それこそクロノの言っていた数百年以上の幽閉が確定してしまう。

先ほど封印したジュエルシードを手に持ったまま、ユーノに近づく。

自分で持っているのが一番だが、くれてやると言った手前、渡さない訳にもいかない。

 

ジュエルシードを投げ渡す。

軽い放物線を描きながら、ユーノの元へと。

しかし、フェレット状態で投げられたジュエルシードを受け取るのは困難かもしれないが、もう後の祭り。

ユーノは顔面でジュエルシードを受け止めるファインプレーを見してくれた。

ナイスキャッチ。

 

「やるよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

「なんだ?」

 

このまま無視して帰る、なんて選択肢もあったが、流石にこの状況で無視するわけにもいかないので立ち止まる。

夜も遅い。

もうそろそろ家に帰らなければいけないので、手短にお願いしたい。

良い子は早く帰るのが鉄則なのだ。

 

「どうして僕にジュエルシードを渡してくれるのさ」

 

「渡さないで欲しかったのか?」

 

「いや、そういうわけじゃ……」

 

しゅん、と落ち込むように顔を俯かせるフェレット。

うまく言葉が出てこないのか、口を開けては閉じるを繰り返している。

見ているぶんには面白いだろうが、待たされている身としてはこれ以上は勘弁願いたい。

 

「……別に、俺はジュエルシードをどうこうしたいわけじゃない。アイツらに渡したくないから、集めただけだ」

 

「アイツらって……、待って、君は彼女らの事情を」

 

「それじゃ」

 

長居は無用。

ヴァリアントを掲げて、魔法を行使する。

 

「シーユーアゲイン」

 

「えっ、わ!」

 

閃光弾を撃ってその場から飛び去る。

困った時は、この手に限る。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

『よかったのですか?』

 

母さんにバレないようこっそりと家に帰ると、ヴァリアントに真っ先に問われた。

 

「なにが?」

 

主語がないとわかりません。

日本語って難しい……、いやこの場合は会話が難しい、なんてふざけた考えをする暇はない。

ヴァリアントから聞こえもしないはずの溜息が、聞こえた気がした。

 

『ジュエルシードのことです』

 

「本来の持ち主の元へと返ったんだ、なんもおかしいことはないだろ」

 

『彼らが所持していては、黒い魔導師に奪われる可能性があります。不安の芽はつむべきなのでは?』

 

不安の芽をつむ、それ自体は大切なことだ。

望んだ未来を手に入れようと思うのならば、やはり不安の芽はつむ、もしくは小さいうちにつむのが近道となる。

ジュエルシードをプレシアの元へ渡らせるということは、それだけ危険が大きくなるということなのだ。

規模の小さい次元震でさえ、これだけの爆発と衝撃があったのだから。

 

もっと安全に、もっと確実に、もっと気楽さを。

そう思う気持ちが胸の中にあるのは事実だが、それはおそらく無理だ、という気持ちの方が強いのもまた事実。

魔力量がチートの様にあるわけでなく、戦闘のプロフェッショナルでもなく、何かに突出してもいない。

どれだけ思おうが、それは無理なのだと思い知らされるのにそう時間はかからなかった。

 

はっきりと思い知った。

不安の芽は自分なのではないか、と。

自分の介入によって、フェイトの行動が変わり、悪い方向へ向かっていると考えるとそう思わざるを得ない。

正しいと思ってやったことが裏目に出てしまう。

いくら努力しようが、自分なんかではもう……。

 

「白い魔導師……高町なのはは俺よりも強い。技術面の話じゃない、心の話だ。だから、少しは信じてみようと思う」

 

『……私は、ご主人様を尊重します』

 

「それに、今のうちに高町なのはやユーノ・スクライアに媚びを売っとけば、管理局が来た時に多少なりとも有利になるだろ」

 

『希望的観測で物事を考えるのはよくないかと』

 

相変わらず、ヴァリアントさんは手厳しい。

 

 

 

 




七話 後書き

○後ろから砲撃モロに食らって止めようと思って介入したのに結局止められなくてジュエルシードを持ち主に投げ渡しちゃうマン
別にユーノはジュエルシードの発掘主であって持ち主じゃないけど細かいことは気にしない
子供のようにただ憧れを求めるだけじゃ何も見つからないのでこの子はきっと何も見つけられない
砲撃を食らいながら、殺傷設定でないことがわかりフェイトに良心が残っていることにホッとして、その後にフェイトの顔を見て自己嫌悪
この後、フェイトはプレシアの元へ報告に行って虐待確定だけど大丈夫?
このままだとフェイトの傷跡を見て発狂ルートもありえるけど
発狂するとは言っていない
ユーノにジュエルシード渡しとけば多少なりとも印象が良くなるだろうという算段
実際に良くなるかは不明
今まで集めた分は渡してないぞ! あげるのは一個だけ!
フェイトが荒い方向へ向かってるのはヤバイけど、逆にそのおかげでアースラが来るという喜んでいいのか悲しめばいいのかわからなくなってる
多分そのうちわかる
逃げる時は必ず閃光弾使ってる気がするような
オリー主の異名は『閃光の魔導師』とかどうだろうか
閃光のマリアンヌ的な感じする
え、しない?
知ってた(真顔)

○ジュエルシード君
大爆発
願いを叶えるとか謳い文句あるくせにまともな願いの叶え方してないし、暴走しかしていないから運用方法間違っているのではないかと邪推してしまう
衝撃加えたり魔力撃ち込んだりすれば次元震なり次元断層とか起こせるんだし、コイツの運用方法って実は暴走させて爆弾みたいに使ったりするのが一番賢いのではなかろうか
そう思うとプレシアってある意味まともな使い方をしようとしていたのかもしれない
strikersでも出てきてたけど、マジで何も関係なくて笑ったのはいい思い出
フェイトそんに対して嫌がらせできたから関係なくはない……のかなぁ
設定自体が曖昧だし、多少オリジナルっぽい描写してしまうかもしれへんけど……ええよね?

○可哀想なフェイトそん
今回もジュエルシードを手に入れられなかった
もうおしまいだ!
一個も持ち帰らずに報告に行くから多分酷い目にあう
どんな心境なのかは次回に判明すると思う
悲しみを乗り越えていくのがリリカルなのはなのだ

○リリカルマジカル、なのはちゃん!
没ネタでオリー主君とお話ししようとして
「話すことはない」
「話を、聞いてってばー!」
みたいな感じで戦闘を挟もうかと思っていましたが、こんなジュエルシードが次元震起こした後なのに戦うなんてちょい急展開だなと思って没に
そのおかげでより一層影が薄くなった
ちゃんと見せ場は考えてあるから勘弁な!
今回みたいに没になるんじゃないかって?
言うな

○ヴァリアントくんちゃん
これで形態が出揃ったので改めて解説を
砲撃兼槍形態のジャベリンフォーム
見た目はまんまバルディッシュ・ホーネットのジャベリンを思い浮かべていただけたら
基本これ
大剣形態のソードフォーム
前回から登場した実体剣かつ、刀身に魔力刃を発生させる構成
その為、後に出てくるバルディッシュのザンバーフォームよりは燃費が良い
見た目はデスティニーガンダムのアロンダイトを想像してください
フルドライブはソードフォーム
カートリッジシステムを搭載していますが、現状使っていません
理由は後々書いていこうかなと
今度書きます
書くったら書く
忘れてたらゴメンね

やっぱり全然進んでないじゃないか(憤怒)
フェイトは不幸だしなのははいるのかわからないレベルに影が薄いけど、もうそろそろどうにかしようかなと
いい加減物語を進展させたいですしね
ようやく落ち着いてきて執筆時間が取れそうなので、多分次からは早くなる
関係ありませんが、デスティニーガンダムって良いですよね
アロンダイトにパルマフィオキーナ、光の翼、悪役チックな顔が私の厨二心をくすぐります
シン君も好きだし
もし知らないよって方がいたら是非デスティニーガンダムで検索
あとエクバ2 でも使ってます
残像特射いいよね、強化はよはよ
最近はクアンタに浮気気味ですが、ちょくちょく使ってます

そんな訳で自分の好みを盛り込んだssではありますが、次回も気長にお待ちください


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