ヘキサギア外伝 スクラッパー・ファンクション (影迷彩)
しおりを挟む

我思ウ、我何者カ──

 『世界の燃料枯渇問題に希望という一筋の光が突き刺して幾何年。

 「ヘキサグラム」という六角形のブロック。それが地球に無尽蔵のエネルギーと環境汚染を撒き散らした。  

 人口知能SANATが荒廃した地球、そこに住む人々に救済の天啓を与えた。「情報体として生まれ変われよ」と。

 当然人類の中から反発するものが現れ、二大勢力の戦争が引き起こされた。地球人類の存続と、個としての肉体の存続を目指し、今日も人間の意志は戦いを続けている。

 ヘキサグラムを使用する共通工業規格として「ヘキサギア」、今も進化を続ける、ゾアテックスという獣の本能を得て──』

 

 前書きを終え、小説家気取りなジャンク屋はタブレットから目を離した。ノイズ越しに見渡す限り、地平線の砂漠地帯、頭上は雲ひとつない青空だ。

 広大で、澄み渡った青空。明るく我らを照らす太陽光。それらは人々に解放感と快さを与え、自由の象徴として写るだろう。

 一方で、日陰もなく、うだりたくなる太陽熱は、金属を熱し各種機能もショートしそうだ。生身の目に写る「陽炎」が、フォーカス機能の故障で再現されるかもしれない。

 

 「アンタら情報体に、この空はどう写ってんだ?」

 

 ジャンク屋は、足元で転がるセンチネルタイプのカメラアイを覗き込む。光も意思も消滅したカメラアイには、自分のアーマーが写るのみ。

 アーマータイプ「ポーンA1」。リバティー・アライアンス所属の兵士の多くが着込むアーマーの顔だ。このアーマーは、リバティー・アライアンス所属時から愛用しているものだ。

 現在は肩に鉤爪、頭部にパーツ解析用カメラアイを追加し、黒の防弾マントを着込んだフリーのジャンク屋だ。マントは格好いいと自分では思っている。

 

 「色彩は感じるんかい? それとも不要かい?」

 

 ジャンク屋はセンチネルタイプの頭部を持ち上げた。首から垂れ下がった導線や人口筋肉が火花を散らす。

 

 「色彩の有無はこの際置いとく。お前たちが景色を見たカメラアイは、しっかり使わせてもらうさ」 

 

 センチネルタイプの頭部を防水シートに丁寧に置く。既に只の部品でしかない。情報体に生死は判別つかず、死体というわけではないのだろう。そうだとしても、コイツらを切り刻んだ自分としては、供養のような行為をせずにはいられない。

 

 「兵士じゃないんでね、俺は。粗雑にアンタらを扱えない」

 

 周辺に散らばったパーツをかき集め、防水シートにくるんで持ち上げる。パラポーン・センチネル二体分をジャンク屋は自分のヘキサギアに運んでいく。

 

 「(クロウ)、上がるぞ!」

 

 自立稼動し、ボルトレックスの残骸を解体していたヘキサギアの頭部がジャンク屋に向けられる。

 「スケア(クロウ)・スクラッパー」。アーマーと同じく、リバティーアライアンス所属時から愛用している機体を、自分好みに改造したものだ。

 「スケアクロウ」としての愛くるしい前身はシルエットすらなくし、紺色の不気味な鳥類と化している(元後輩評)。

 まぁ確かに、残骸となったボルトレックスを脚のチェーンソーで分解する姿は、死骸に群がる(クロウ)のようだろう。

 

 [了解しました、シャドウ]

 

 ジャンク屋のペンネームを呼んで応え、スケア烏は脚をあげて残骸から一歩下がる。

 

 「よし、俺がチェックしたものだけを牽引しろ」

 

 シャドウは解析用カメラアイを起動し、稼動可能なパーツを探す。少なすぎるのは勿論、多すぎても牽引に困る。全てのフレームや武装が汎用性に富んでいる為、どのパーツも捨て去るには惜しい。顧客の依頼するパーツや、人気の高い、もしくは人気の出そうなパーツを観点にざっとチェックを済ませる。

 

 「こうして残骸を漁る俺も、お前と同じ(クロウ)だろうな」

 

 [シャドウ、アナタは(当機)ではありません、“スクラッパー”です]

 

 スケア烏に搭載された人口知能KARMAがシャドウの言葉を捉え、迅速にツッコミを入れた。リバティーアライアンス所属時から人口知能として成長はしているが、妙なセンスが備わってきたような気がしてならない。

 

 「“スクラッパー”……そうだ、俺は“解体屋(スクラッパー)”だ。残骸を作りパーツを剥ぎ取る、小狡き自由の戦士だ!」

 

 愉快に笑いながら両手を翼のように掲げ、テンションの高くなったシャドウは青空とスケア烏を見上げた。スケア烏は解析用カメラアイから送信された情報を元にパーツを選り分けする。死骸に群がる烏から、シャドウと同じ人間味のある供養のように丁寧な手つきで防水シートにパーツをくるむ。

 

 「スケア烏、それから俺の名をシャドウで呼ぶな」

 

 [スクラッパーでは、当機と混同します]

 

 「だってなぁ……」

 

 ペンネームで呼ばれるのは、正直気恥ずかしい。シャドウという名で呼ばれるたび悶えたくなる。格好いいから恥ずかしくはないのだが。

 

 「たくっ……こうして乗れば、俺もお前もスクラッパーだろ?」

 

 タブレットをスケア烏の操縦席にセットし、ゾアテックスの獣性と一体となったスクラッパーは地平線から離陸する。サブアームで防水シートを引き上げて、己の拠点へ戻りに向かう。

 スクラッパーは青空を見上げる。スケア烏に搭載されたジャイロが風を起こし砂埃を舞わせる。それを肌で感じられるなら、タブレットに書き込まれた文字列は表現豊かな文章として昇華されただろう。

 だが今の彼はスクラッパーであって小説家ではない。地球の環境を感じ取ることはなく、一体の烏として、快晴な空をスクラッパーは飛行する。

 

 『俺らはスクラッパー。残骸を貪る小狡き戦士なり』

 

 残骸を抱えて飛ぶスクラッパーのノイズがかった視界を、どこまでも広大な青空が覆った。




 いかがだったでしょうか。
 ヘキサギア好きな私が思い描く世界観、ざっとこんな感じです。

 自分の好きなプラモシリーズ、オリジナル機体を動かす度に想像していく物語……二つが合わさり、今日初めて二次創作の小説を書き上げました。

 今日書いたのはただの断片、砂漠地帯にポツンと置いたプラモを眺めただけのような想像です。
 もっと奥深く、ヘキサギアの世界観に触れて、この作品の視界も広げていきたいです。

 続編がいつかまだ未定ですが、気になっていただければお楽しみに!

 @kagePuramo0658←プラモ用Twitterアカウント


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。