ハツコイ (クロロ)
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プロローグ

「優。早くしないと入学式遅れるわよ。」

「へいへい。」

姉貴の声に俺は部屋からでる。今日から高校に通うと思うとうんざりしてしまう

「んじゃ行ってくるから戸締りよろしくな。姉貴。」

「えぇ、今日は遅いから。」

「全く。んじゃ飯は冷蔵庫に入れとくからな。」

姉貴は実家の家業を継いでいるので、仕込みがあるんだろう

「はいは〜い。そっちも中学校みたいに入学式で寝るのやめなよ。」

「まぁ善処する。」

「それ絶対にしない奴だよね。」

だってつまらない話をする偉い人が悪いだろ。

「はぁ、お母さんとお父さんが海外の職人さんに指導に行っているからってサボらないでよ。私が怒られるのだから。」

「へいへい。仕込みはどうしたらいい?」

「いいわよ。それよりもあんたは、高校生にもなって和菓子のことばっかり。せめて友達の一人でも連れてこれば?」

「……うっせ。行ってくる。」

そして家を出るとお店の方の入り口に多くの渋滞が見られる

和菓子屋 さくら

凡矢理市の和菓子屋でお菓子の世界大会に出るほどの実力者で平日にも関わらず多くの賑わいが見られる。

季節をモチーフにした生菓子と、和洋にとらわれない外国人向けのジャムを使った焼き菓子の生成。さらに和菓子のケーキを作るなど、普通に美味しい和菓子と和菓子の概念を崩した和菓子の両方を味わえることで有名だ

味も確かで、世界一のお菓子を決める大会に出場し、去年初優勝したこと、またスィーツガイドでミチュラン2つ星を獲得したことにより、世界一の和菓子と言うことで一躍有名店になっている

レシピを考えるのは俺で作るのは姉貴

俺も多少は作れるのだが、仕上げが苦手で形が悪いことが多いので仕込みや生地、味見、売り子などを行なっている。

俺の家は和菓子屋でありながら、生クリームやフルーツ、チョコレートクリームを使った和菓子を提案したり和菓子のケーキを作ったりしていた。

最初は邪険に見られていたのだが、一度取材に入ったことと世界大会に姉貴と俺が出場しその年の最優秀賞に選ばれたこともあり、開業して5年で世界有数のスウィーツ店へと変貌した

実際俺のアイディアで姉貴は世界一に輝いたしなぁ

俺に任されているのはどら焼きくらいだしなぁ。

洋菓子や普通の料理においては俺の方が腕はあるんだけどなぁ

和菓子作りは好きなんだけど、やはり才能が違うのか姉貴の方が美味しいしなぁ

「……はぁ。」

ため息を吐いてしまう

そして街の中を歩いていく。すると

「ねぇ、学校なんかいいから。遊ぼうぜ。」

多くの男性に怯えている女子が見える

うちと同じ学校の多分同級生であろう

涙目になりながら震えている

……仕方ないか

「おい。待ったか。」

すると怯えている女の子は俺の方を見る

俺は近くに行き小声で

「話合わせろ。」

とだけ言う

「すいません。いとこなんですけど、ちょっと男の人が苦手らしくて。ちょっと勘弁してくれませんかね?」

適当にはったりをかます。なるべく愛想よく、そして笑顔で対応するのが基本だ。

顧客のクレームだと思えばいい。こういった場面には俺慣れている。

ここら辺最近物騒でギャングとヤクザの小競り合いが起こるしなぁ

「ほら行くぞ。」

「えっうん。」

俺は女の子の手を引き少し急ぎ足で歩き出す。

そして学校の方向に歩く。そしてしばらくしてから後ろを見ると誰もいないことを確認する

「これくらい行けばもう大丈夫だろうな。」

俺は手を離すときょとんとする女子

「大丈夫か?」

俺は女の子の方を見る。すると何か呟く

「えっと。聞こえるか?」

「あっ。うん。聞こえてるよ。」

「なら良かった。大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ。えっと凡高だよね。」

「あぁ。多分同じ学年だと思うぞ。」

緑色のネクタイなので今年からの入学生のはずだ

「一応大丈夫らしいけど気をつけろよ。去年あたりからヤクザとギャングの小競り合いが頻発してここら辺の治安が悪いんだよ。まぁ、さっきのやつはそのどちらでもないけど、気をつけろよ。」

「そうなの?」

「あぁ。てか、もしかして余所者?」

「ううん。私尾鳥女子中出身だから。」

尾鳥女子中出身って珍しいな

元々エスカレーター式の学校だから高校も尾鳥女子高に行くことが多いんだが

「まぁ、結構本当に気をつけたほうがいいぞ。一回うちの店で拳銃ぶっぱした奴を警察に引き渡すことになったし。」

あの時本当に迷惑だったんだよなぁ、被害も少なからずでたし、最近じゃ出禁にしている。

「ふ〜ん。私との約束を破って春は男の人と学校に行ってるんだ。」

「へ?」

「あっ、ふうちゃんごめ〜ん。」

すると後ろの女子生徒に助けた女の子が話しかけてくる

「悪い。こいつナンパに巻き込まれていたから助けてたんだよ。んで少し震えてたから落ち着かせてたってわけ。」

「えっ?」

「あっ、そうなんだ。えっと。」

「あぁ、秋葉優。一応凡矢理中出身。」

「私は彩風涼。みんなからは風ちゃんって言われてます。」

「あっ。私は小野寺春。」

「そう秋葉くん。春のこと助けてくれてありがとう。」

「別に。と言うか行こうぜ。初日から遅刻とかまじで笑えないし。」

「そうだね。んじゃ行こうか。」

と俺たちは歩き出す。しかしこの時は気づかなかった

……この二人が俺の人生を変えることになるなんて。



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トモダチ

クラスの振り分けを見ると全員同じクラスであったことあったのだが

席が一番後ろのそれも綾風の隣で斜め左が小野寺。

……名前から席が近くなるのはわかっていたけど

「……はぁ。」

俺の周り女子しかいねぇ

俺一番後ろの席とはいえこの配置はおかしいだろ。

てかまじで助けてくれ

男子どころか女子しかいないってどんな地獄だよ

「どうしたの?」

ホームルームが終わると

「いや、見たらわかるだろ。」

「……どうしたの?」

綾風が2度聞いてきたので仕方なく答える

「……女子に囲まれているのがちょっとな。」

女子に囲われるとかちょっと面倒臭いというか、去年もそうだったのだが自分の机を勝手に使われるなどの行為を受けていたからなぁ

「ふ〜ん。」

「……なんだよ。」

「春と自然と話しているのを見てると女子と話すのに慣れていると思ったんだけど。」

あぁなるほどな

「俺、一応自営業で接客で家の手伝いしていたから話すのは苦じゃないんだよ。一応今は姉貴と家業継いでいるし。」

「…へぇ〜秋葉くんお姉ちゃんいるんだ。」

「あぁ。4つ上のな。」

まぁ、去年から本格的に家業を継いで市や県のコンテストだけではなく、世界中のコンテストに出るきっかけを作ったのは姉貴だしなぁ

すると綾風は少し考えてからふと呟く

「……もしかして、お姉ちゃんの名前って秋葉桜さん?」

「そうだけど。」

「……えっ?風ちゃん知っているの?」

「う、うん。春は知らないの?多分今一番和菓子を扱っている人では有名だと思うんだけど。」

「和菓子職人の名前覚えている方が少ないと思うけどな。」

俺は苦笑していると

「そんなに有名なの?」

「う、うん。洋風の和菓子を扱うことで有名な和菓子屋で和菓子で国際大会優勝したり、雑誌にも多く取り上げられている有名店だよ。ミチュランにも2つ星で獲得しているし。」

「えっ?」

「洋風の和菓子ってなんか矛盾しているけどな。まぁ有名になったのはここ数年だし、寮生活してたら情報入ってこないだろ。」

寮生活がどんな物か知らないけど女子校なので夜間外出とかはかなり厳しいと聞いたことがあるしなぁ。

「洋風の和菓子ってどんな物?」

「和菓子でできたケーキとかフルーツやクリームを使ったどら焼きとかだな。ぶっちゃけ和菓子屋からはふざけてるとか言われているけどな。」

「でも、普通のどら焼きも美味しいんだよねー。餡が程よい甘さで生地がふわふわで。多分春も気にいると思うよ。特に餡が美味しいから。」

「…あれ?綾風は食べたことあるのか?でも店に足を運んでくれたことはないよな?」

俺が基本店に出ているけど見覚えがないんだけど

「うん。お父さんが買ってきてくれたの。」

「あ〜なるほど。俺の家、持ち帰る客少ないから覚えているはずだと思ってたんだけど。」

「和菓子のケーキも買ってきてたんだけど、お父さんとお母さんが食べちゃって。」

「まぁケーキといっても小さいしな。カップケーキほどだし。」

「でも色々な種類の和菓子をミルフィーユにしてそれも美味しくすることなんて難しいのに。」

「和菓子って癖が強いからな。あれ作るのに2年ちょっとかかったんだぞ。」

和菓子のミルフィーユ。うちの看板商品の一つでもある。癖の強い和菓子を幾つかの層にして四季を表しており、多分綾風の両親が食べたのはそれだろう。

「でも、春の和菓子も美味しいんだよ?」

「小野寺も和菓子つくるのか?」

「うん。私の家も和菓子屋だから。」

すると少しだけ苦い顔をしてしまう

「あ〜うん。なんていうか悪い。」

「えっ?」

「いや、和菓子にクリームとかチョコとか使っているとやっぱりあまりいいと思わないだろ?」

発案者としても最初売れるとは思ってなかったしな。

「まぁ、いい気はしないけど。」

「そういうこと。まぁ、普通のどら焼きも売っているんだけどな。」

「私はそっちを食べたんだけど。でも美味しかったよ。」

「まぁ、売れていない時はずっとどらやきで食い繋いできたし。元々どらやきは生命線だったからな。」

「そうなの?」

「てか元々餡子が食えない姉貴用に作ったんだよ。カスタードクリームで。そしたら急に親父がこれを店で出しますっていいだして。それでトントン拍子に進んだんだよ。それでいつの間にかジャムやチョコクリームと生クリームで作ったり。今は洋ナシとかマンゴーとかもできているんだよなぁ。考えたのは俺だけどそれでも流石にこうなるとは俺も姉貴も思ってんかったんだよ。」

「それ、本当に和菓子?」

「う〜ん。それが微妙な線なんだよなぁ。まぁ、でも一番オーソドックスなのは普通のどらやきが売れているかな?カスタードクリームも結構売れているけど。やっぱり普通の餡子ほどじゃないし。」

「なんかたい焼きみたいだね。」

「元々は回転焼きの真似をしただけなんだけどな。まぁ、餡子は丹波産の小豆を使用しているからな。おいしくないはずがないんだよなぁ。」

仕入れは大変だけど俺はそこの小豆にこだわっているからな

「へぇ〜美味しそう。」

「ついでに苺大福もオススメ。少し前まで雪だるまを大福で表していたやつを売って結構評判よかったんだよ。あとは秋になったら栗餡の最中や栗大福もおいしいぞ。夏は今年から発売される梅のジャムで作ったどらやきがオススメかなぁ。どらやきに会うために思考錯誤したし。それにフルーツ大福を売り出すし。あとは天の川っていう羊羹も発売するんだ。羊羹に金箔を降らせて氷水にキンキンに冷やしてそれを店で」

「……あの、秋葉くん。みんな見ているよ。」

「……へ?」

すると視線を感じる。つい熱くなっていたのか立っているし、大声になっていたらしい

「……あ、すいませんでした。」

俺は座ると顔が熱くなってしまう。またやってしまった

中学に上がる時も同じように話変人認定されてしまった。

学習しないな俺も

「でも、本当に食べてみたいな。おいしそう。」

「うん。でもすごく人気で昼過ぎには売り切れているらしいよ。」

「そうなの?」

「あんまり量出せないんだよ。外注なしで全部手作りでやっているのを売りにしているから。」

その分値段も結構高めに設定しており、高校生の財布には結構響く値段になっている

「……まぁ、少しくらいなら出せるけど。」

「へ?」

「これ。試作品だけど。夏に向けて新作。」

俺は夏用の和菓子の箱を取り出す

「金魚をテーマにして、数個作ってみたんだけど。まぁ形は俺が作ったから少し崩れているんだけど。」

「これで崩れているの?」

「仕上げ少し甘いだろ。ここの寒天なんか少し割れているし。」

「あっ、本当だ。」

「姉貴だったらこんなミスありえないんだよなぁ。味も少し落ちるし。調理は少し苦手。まぁ味見程度になるけど商品としては売り出せないものだから。できれば感想だけ聞かせて。」

「うん。それじゃあ。」

和菓子を二人は食べ始めると一口食べたところで箸を止める

「美味しい。」

「ありがと。んで和菓子屋としてならどう思う?」

「え〜っと。少しだけ酸味が強いかな?」

「梅餡の影響かなう〜ん。爽やかさを出したかったんだけど。」

少し酸味を違うやつにした方がよかったか?

柑橘類は数点考えるか梅餡を改良した方がいいのか?

……う〜んやっぱりもう少し姉貴と相談だな

さっぱりした甘さは俺としたら美味しいかったから結構使ったんだけど

それか梅は梅オンリーの和菓子を使った方がいいか?

大人にはこの梅餡はあうと思うし

「あの、春。食べ過ぎると、昼食たべれなくなるよ。」

「……えっ?」

いつの間にか10個あった和菓子は後一個にまで減っていた。

「だって美味しいんだもん。」

「まぁお口にあったんならいいけど。苺大福もあるけど……。」

「えっ?いいの。」

「あ、あぁ。」

でも、結構量あったんだけど。俺と綾風で3つしかたべてないのに。

「これも美味しい!!」

まぁ、幸せそうな小野寺を見るとどうでもよくなってしまう

「まぁ、気に入ったんなら試作でいいなら数個持ってくるけど。」

「いいの?」

「別に。練習にもなるし。それに家族以外の評価って売上に直結することも多いから。」

それに小野寺があまりにも幸せそうに食べるしなぁ。

「それなら春も和菓子作ってきたら。」

「えっ?」

「日本一って言われている和菓子職人に食べ比べできるなんて凄いことだよ。」

「日本一はうちの姉貴だけどな。」

「でも試作作っているってことは秋葉くんが和菓子の案を考えているんでしょ?」

「まぁ。洋風どらやき以降うちの作品は全部俺が考えた奴だけど?作れるかどうかは別として。」

元々俺がやってみたいと思った物は基本やってみることになっている

「でもいいの?」

「いや断る理由がどこにあるんだよ。俺も和菓子は好きだし。試食させてくれるのなら。別にいいけど。」

「うん。それじゃあ決定ね。」

「なんで綾風が決めるの?まぁいいけど。てかお前は小野寺の和菓子が食べたいだけなんじゃねーの?」

「あっばれた?」

「ふうちゃん!!」

やっぱりか。

そうしながらも和菓子の話題は途切れず、小野寺が職員室にプリントを運ぶまで俺たちの話は途切れることがなかった。

なお、プリントを運ぶのを手伝ったのは言うまでもない。



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センパイ

「そういえば、秋葉くんは一条先輩のこと知っているの?」

翌日、昼食時に小野寺はそんなことを言い出す。あれから結局この3人で行動することが多く今も昼食で弁当をたべているところだった

「一条?……あぁ、集英組のヤクザの組長の息子か。」

「あっやっぱり知っているんだ。」

「まぁ、凡矢理では結構有名だったしな。」

俺は苦笑する

「でも、なんかほとんどがデマっぽい噂しか流れてなかったんだよなぁ、リムジンで登校している姿を見たことがあるくらいだからな。見かけは優しそうな人だったし。」

「へぇ〜。」

「でもそれがどうかしたのか?ぶっちゃけ学年も違うしあんまり関わることはないと思うんだけど。」

「え〜っと、それが。噂なんだけど、美人の彼女さんがいるにも関わらず、他に美人の女の子を侍らせているってらしいの。」

「へ?あの先輩が?」

俺はキョトンとしてしまう

「う〜ん。あまりそうだとは思えないんだけど。あの先輩がもてているって言うのは聞いたことないし逆に親がヤクザだから怯えられているっていうのが事実だろうな。あんまり中学時代モテているって聞いたこともないし。」

「そうなの?」

「実際悪い噂はそれくらいだったしな。親がヤクザだからってなにか問題を起こしたことはなかったはず。俺が知っている限りは。」

「う〜ん。やっぱりデマなのかな?」

「そうじゃねーの。まぁ、俺が見た印象を言っただけだから、本性は違う可能性はあるんだけど。」

「う〜ん。それじゃあ実際見た方がいいのかな?」

「まぁ、気になるんなら見にいけばいいんじゃないのか?俺は一応凡矢理の先輩で一人だけ常連さんがいるからアポ取れるけど。」

「えっ?いいの?」

「多分大丈夫だと思う。親同士仲がいいし。」

俺は唯一知っている先輩にメールを送る。そして数分後

「あっ。オッケーだって。今日の放課後でいいか?」

「う、うん。」

「えっと行くのは、俺は確定として、後は」

「ごめん。今日は少し用事があるから。」

「……ん。小野寺は?」

「私は行くよ。」

「了解。それじゃあ二人っと。」

俺はスマホを操作し用事の要件を伝える。

「これでよしっと。それじゃあ今日の放課後に2年の教室行くか。ついでに先輩に噂になっている先輩にも残ってもらえるように頼んだから。」

どら焼き7個を作る約束をしてだけど。

「秋葉くん私も気になるからどんな人なのか教えてくれないかな?」

「いいけど。」

と雑談を挟みながら飯を食う

去年までのボッチ飯ではなく、二人と話している時間がこれからは当たり前になるような気がした

 

放課後、俺と小野寺は2年の教室に来ていた

俺が扉を開けると一斉に俺の方を見る

「失礼します。宮本先輩いますか?」

「あら、遅かったわね。」

すると宮本先輩は呆れたようにしているのだが

「ちょっと連れが学校で目を離したうちにいなくなっていたんで。」

「うぅ。」

小野寺がいつの間にか3階にいるはずだったのに何故か玄関前にいるという不自然な行為になっていたのだ

「あれ?連れって春のことだったの?」

「知り合いですか?」

「えぇ。なるほど。そういうことね。」

納得したようにしているけど俺は意味がわからず首をかしげる

「まぁいいわ。約束の物は。」

「今度学校で。」

「えぇ。それじゃあ紹介するわね。」

すると目の前には2人の男の先輩と4人の女の先輩が立っている

「こちらは噂の一条くんで、……なんであなたがいるの?」

「いや〜るりちゃんの後輩って聞いたからつい気になっちゃって。」

その男性はメガネをかけているのが特徴的の先輩だったが俺は見覚えがあった。

「あ〜舞子先輩でしたっけ?確か文化祭の実行委員になっていた。」

「およ。知っていたんだ。」

「はい。結構女子の人気高かったですし。後輩では結構有名でした。」

俺は少し苦笑してしまう

「あれ?お姉ちゃん!?」

「へ?」

「春!?どうしてこんなところに?」

俺が見るとすると小野寺と女性の先輩が話し込んでいる

「えっと。まぁいいや。初めまして。秋葉優です。すいません急に呼びかけてしまい。」

「いいわよ。全然。」

「私は楽様と一緒ならば。」

「えぇ、宮本様の後輩は不本意ながら気になっていましたし。」

あの時の反響は大きかったしなぁ

「まぁ、その話は後々。それで付き添いが小野寺なんですけど。もしかして知り合いなんですか?」

「いえ。多分あの子と私以外は初めてだと思うわよ。」

「えっと小野寺自己紹介くらいはしとけよ。先輩いるんだし。」

「あっ。うん。」

すると頭を下げる

「小野寺春です。お姉ちゃんの妹です。」

お姉ちゃんと言われる女子を見る。あれ確か

「小野寺?……一条。あっ思い出した一条先輩に出会い頭にあっつあつの中華丼をぶっかけた小野寺先輩か。」

「…ちょ。」

「なんでそんなこと知っているの!!」

「いや、一年の時噂になってたんで。あれって嘘だと思っていたんですが。」

まさか本当に一条先輩の頭に中華丼をかける人がいたなんて。

「お姉ちゃん何やっているの?」

「うぅ。」

さすがに呆れたようにしているけど

「そういや、一条先輩と付き合っている先輩はどちらでしょうか?」

俺は本題に入るとすると手を上げる

「私だけど、どうしたの?」

するとハーフの女性が手をあげる。

まぁ、可愛いというよりは綺麗と表すべき先輩であろう。金髪の髪が特徴的な先輩だ

「…なるほど。それじゃあ一条先輩のことを好きな先輩方は。」

「へ?」

すると直球すぎる質問に驚いているのだがその反応でだいたい分かる

あっ、これ天然で女性を落としているパターンだ。

「ちょ、ちょっと何言っているのよ。」

「いや、一条先輩の噂に美人の彼女さんがいるにも関わらず、他に美人の女の子を侍らせているらしいって噂があって。それを調査しているところだったんですが。」

「……なんだその身も蓋もない噂は。」

「いや、美人な先輩を5人身近にいればさすがに噂になると思いますが。」

俺はさすがに苦笑してしまう

「まぁ、側から見たら一条先輩後々ナイフで後ろからさっくりいかれてもおかしくない状況ですよ。」

「ちょ。」

それもそのうち4人が一条先輩のことを好意的に思っているとしたら

後ろにいる先輩も頷いているし

「あれ?もしかして気づいたの?」

俺は周辺を見回すと小野寺の方に先輩達が集まっているのをみる

「えぇ、というよりも分かり易過ぎです。隠す気あるんですかっていいたいぐらいです。」

「そこについては同意だわ。」

「まぁ、比較的嘘が苦手なメンバーだからね。」

どうやら同じ意見の宮本先輩と舞子先輩

「だとしてもこれはひどいと思いますが。」

「でも面白いからいいじゃん。」

「いや、そういう話ですか?てか噂って一応本当ぽいですね。俺から見ても一条先輩が先輩たちを侍らせてるようにしかみえないんですが。ただ、それを自分からそうしているっていうのはまた別の話ですが。」

正しいところを判断する。

「つまり。」

「一条先輩は女の敵って感じですか?気づかずに女性を堕としていく一番タチが悪い奴。」

「まぁ、あっているわね。」

宮本先輩は頷く

「しかし、相変わらずね。」

「日頃から顧客のことを見てないと商品は出て来ませんし。何は気になってるのかを見つけるのは日頃からの癖みたいなものなので。」

「そういえばどこの和菓子屋なの?るりちゃんがおすすめのお店は美味しいし。」

すると女性の先輩が話しかけてくる

「えっと。一応和菓子屋さくら。」

「「「えっ?」」」

すると全員が俺の方を見る

「あの、和菓子屋さくらってあのさくらか?」

「るりちゃん私もそのどら焼き欲しいんだけど。」

「ダメよ。これは妹の分もあるのだから。」

「そんな〜。」

「えっちょっと楽どういうこと?」

先輩達はざわめきだす

「……あの、話進まないので後からにしてもらっていいですか?えっと小野寺は一条先輩のことどう思う?」

俺は強引に話を変える。これ以上は正直長くなりそうだしって

「なんで教室のど真ん中で抱きついているんですか?」

俺は少し頭痛を覚える

「……ふふまだまだお子様ですね。愛とは貫くものなんです。例え障害があろうとも愛があればどんなことでも乗り越えられるんですよ。」

直感的に理解する

あっ俺この人苦手だ

多分この人話通じないタイプだ

「おい。橘万里花。一条楽から離れろ!!」

すると拳銃?らしきものを取り出す男装をした女性がいた

「へ?」

パキューンとかの漫画みたいな音ではなく完全に発砲音が繰り広げられ、それを一条先輩は自分の二次災害が広がらないように避けている。

俺と小野寺はその風景を見て呆然としてしまう

えっとあれ本物じゃ

「こら万里花。」

すると俺たちがいるにも関わらず喧嘩をし始める。

「えっと小野寺先輩?いつもこんな感じなんですか?」

「う、うん。」

多分俺は少しため息を吐く

「……えっと、宮本先輩。俺帰ります。お礼は週明けの月曜日に。」

「えぇ。悪いわね。」

「小野寺は?」

「えっ?それじゃあ私も帰ろうかな。もう何やなんやら。」

「うん。俺もそんな感じ。それじゃあ失礼しました。」

俺は頭をさげ教室をでる

……俺は多分二年生の教室には行くことはないだろうな

そんなことを思った



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ワガシヤ

高校が始まって最初の土曜の夜

「優。明日の焼き菓子できた?」

「一応全部袋詰めは終わっているぞ。」

土日は午前営業で全部売り切ってしまうので午後は比較的に明日の焼き菓子を作ることになる

「それじゃあ、優は明日はオフだから。」

「へ?」

「いや、優働き過ぎだから。今週も学校から帰ったらずっと厨房入っていたでしょ?いい加減あんたがいると弟子が休めないで困るのよ。」

「いや、和菓子を作るのが俺にとって。」

「いいから。やすみなさい。」

「え〜。やることないし。」

「全く。それと明日は家の中いるのも禁止。というよりもGW丸ごと弟子達でイベント行うから。」

「それってもちろん。」

「えぇ、優は出すの禁止。というより優が出したらそれが一番売れるに決まっているでしょ?これは弟子のためにGWの試験なんだから。」

「ちぇ〜。それじゃあどら焼き10個残しといて餡は5つにあとは適当で。」

「別にいいけど、どうしたの?」

「和菓子屋仲間がいるからそいつの和菓子と食べ比べる。」

「……へ?」

すると今度は姉貴が手を止める

「和菓子仲間?だれ?」

「同級生。んでこの近くの和菓子屋って言ってたぞ。」

「この辺りの和菓子屋?……あぁ、小野寺さんのところね。」

「知っているの?」

「えぇ。確かお父さんとお母さんが小野寺さんのお母さんと同級生なのよ。」

「へぇ〜。知らなかった。」

親父も母さんもか

「……へぇ〜それじゃあ明日覗いてみようかな?小野寺いなくても和菓子の勉強になると思うし。」

「本当あんたは。」

呆れ顔姉貴に俺は苦笑する

「はぁ、せっかく遊園地のチケットあげようと思ったのに。」

「遊園地?別に興味無いからいいや。」

「……まぁ、一応持っておきなさい。まぁ小野寺さんの娘さんと一緒に出かけてこれば?2枚あるんだし、せっかくなんだからGWにでも行ってきなさい。」

「……なんか最近母さんぽくなってないか?」

「お母さんならもっと甘やかすわよ。あんたも私も。」

「……親父が海外行くって言った時一悶着あったしなぁ。」

「あの甘々夫婦どうにかならないのかなぁ。前に写真送ってきたけどいい年してキスしあっている写真はさすがにきついよ。」

俺の親父と母さんはおしどり夫婦ということで有名で仲が良すぎることで有名だった。

「まぁ、いい年って言ってもまだ40だろ?……まぁ、俺も親父と母さんのキス写真みるのは嫌だけどさ。」

「40であのラブラブっぷり。私なんか結婚どころか彼氏すら一人もできたことないのに。」

「来年成人だろ?婚活にも参加しているけど、まだ焦る時期じゃ。」

「……職場で男性なんか弟子くらいしかいないのに?」

「……悪い。」

姉貴の地雷を思いっきり踏み抜いたらしい

「……えっと、晩飯何がいい。」

「チャーハンとラーメン。」

「……了解。」

俺は気まずい雰囲気から脱するためにキッチンへと向かうことにした

 

翌日俺はスマホのナビを見ながら和菓子屋おのでらへと歩いていく

家から歩いて10分くらいであるその場所にはおのでらと書かれた暖簾がかかっている

雰囲気は違い本当の和菓子屋みたいな店だった

のれんをくぐると甘い香りとケースに置かれてある和菓子が置かれている

そういや、よその和菓子屋って俺かなり久しぶりだな。

中学生の夏休みをフルで使って京都の職人に弟子入りしたときくらいか

「あら、いらっしゃい。」

すると小野寺の母だろうが女性の定員が立っている

「こんにちは。えっと。」

ととりあえず俺はいつものように簡単な生菓子を頼もうとすると

「あれ?秋葉くんいらっしゃい。」

「えっ?」

すると小野寺先輩が店の制服姿で出てくる

「あっ。こんにちは。先輩。」

「もしかして春に会いに来たの?」

「いや、店が姉貴の弟子の新作コンペ開いていて休暇を強制的に取らされたので小野寺の店によったんですよ。俺が作ったら勝負にならないって言われて追い出されました。」

少し苦笑してしまう

「秋葉?もしかしてまさちゃんの直志くんの息子さん?」

「あっはい。秋葉優と言います。」

「へぇ〜。大きくなったわね〜。ってことは和菓子作れるわよね?」

「えっ。まぁ、姉貴みたいに上手じゃないですけど。」

「それなら、ちょっと厨房に入って手伝ってくれないかしら?丁度今厨房に春と一条くんがいるんだけど少しペースが落ちていて。」

「……あの、本気ですか?」

一応他所者の一人なんだけど

「もちろん給料はだすし、少しでいいから。」

「……別にいいですけど。それなら作業着貸してください。それとレシピを教えてもらってもいいですか?」

「えぇ。そのくらいなら。」

まぁせっかくだし少し作ってみるか

そして作業着にはおると俺は厨房に入ると

「一体何をしているの!!」

大声で叫ぶ多分小野寺のお母さんに叱られている一条先輩と小野寺

叱られている二人を見ながら戸惑っている小野寺先輩

……よし

「小野寺先輩レシピ教えてくれませんか?」

「えっ?あれ?秋葉くん?」

「う〜んでも。」

「えっと、すいません。小野寺のお母さんですよね?先作ってますね。」

「えぇ。少し説教してくるから。その間お願いね。」

「うす。それじゃあ小野寺先輩お願いします。」

「うん。」

すると残念そうにしている小野寺が見えたけどそれは気にしないでおこう

そしてレシピを教わりながら俺は餡づくりから入っていった。



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ワガシヤ②

一通り作り終わるとそこには生菓子が一つ作り終えていた

俺はそれを一つだけ口にくわえると

「……」

ちょっと甘みがくどいな

砂糖が多かったのか分からないのだがしつこい甘さが気になる

「わぁ〜美味しそう。」

「…そうっすか?ちょっときついように食べた時に思いますけど。」

「えっ?」

「ちょっと甘さがしつこいかなって。」

「どれどれ。」

すると小野寺のお母さんが食べると

「……えっ」

小野寺先輩も俺の作った餡を食べると

「……ねぇ。それ本当に言っているの?普通に美味しいよ。」

「…そうですか?なんか少ししつこいような気がしたんですけど。」

「しつこいって。」

「……確かにさくらのどら焼きの餡からしたら少しうちの餡って少し甘さが残るよね。」

すると小野寺がそういう。

「そうなの?」

「そういえばさくらのどら焼きるりちゃんにお願いして一つもらったんだけど……あれは即完売するのもわかる気がするな。甘さ控えめだけど、どこかさっぱりしているよね?」

「うちって外国人も多いですからね。外国人の人が和菓子のザラザラした甘さが嫌いな人が多いので。餡のレシピは俺と姉貴しか知りませんよ。」

それも今日みたいな日以外は姉貴でさえ餡を作らないしな

「……そういえばあなたのところって二店舗目って出さないの?もう一躍有名店じゃない?」

「あ〜俺のところは一店舗で儲けは出ているので。それに元々趣味で始めたお店ですし。元々拡張することはやめているんです。欲を見るよりも今は軌道に乗せたいので。」

「……あなた母親によく似ているって言われない?」

「よく言われます。けどよくわかりましたね?」

「あなたにそっくりなのよ。性格が。」

「……いい意味で言われていないことが分かりました。」

そんなに似ているのかよ

「そういえば、秋葉くん。あなたって春の知り合いだったの?」

「いえ、ちょっと入学式の日に絡まれているのを助けたんですよ。この辺りって最近治安悪いじゃないですか?」

「治安が悪い?」

「小野寺先輩は知りませんか?ヤクザとギャングがちょっと暴れ回っているんで。この辺り。うち一回大乱闘が店内で起こってガラス4個と発砲騒ぎで姉貴が驚いてギックリ腰になっていたあげくに商品が全部ダメになりましたし営業停止が5日ほど。被害想定300万はいきましたから。」

「……そ、それは。」

「……流石に同情してしまうわね。」

「リーダー格の奴らはすぐに逃げられましたけど数人は営業妨害で警察に引き渡しましたよ。」

事実営業妨害が響きどれだけの迷惑をかけられたか

「……えっと、そのヤクザとギャングの名前って覚えているか?」

「忘れるはずないじゃないですか。確かクロードっていう金髪のいけ好かないやつと竜っていう和服のやつですよ。全くどれだけ被害受けたと思っているんだよ。って一条先輩どうしましたか?」

「いや、別に。」

少し頭を抱えている一条先輩は置いておいて

「以降俺の家ヤクザ、ギャングは禁止って書きましたしそれ以降規制を強める用凡矢理市にいいましたもん。一条先輩ももし、その人をしっていたならば言っておいてください。今度は絶対賠償してもらって警察に引き渡すんで。」

「……あぁ。」

やっぱり見に覚えがあるのかうなだれている

「……話しながらでも手はしっかり動かしているわね。」

「マスクしてますし唾液の心配もないですしね。」

「……ふ〜ん。よし。」

すると小野寺のお母さんが笑い

「あなたうちにお婿にきなさい。」

「……は?」

俺はキョトンとしてしまう。

「いやいやいや何言っているんですか?」

「お母さん何言っているの!!」

「いや〜春もいい男連れてくるじゃない。」

「ちょ、お母さん秋葉くんはそういうことじゃなくてえっと。」

「そうですよ。てか小野寺は俺なんかもったいないでしょ。可愛いし。」

「かわっ。って秋葉くんも何言っているの!!」

「いや、普通に可愛いだろ。てか、小野寺入学してそうそう告白されたって綾風から聞いたけど。」

「風ちゃん何言っているの!!」

綾風が自慢げに話してきたからなぁ。

「…それに俺って和菓子のことばかりで恋愛とか、そういったことはさっぱりなんで。友達すらできたことないですし。」

「「「……」」」

「あなた、いつから家業手伝っているのよ?」

「俺は小三のころからほぼ毎日厨房には入っていますよ。経営がぎりぎりでいつ潰れてもおかしくなかったですし、それに和菓子作り好きなんで。」

「しょ、」

小野寺先輩は驚いているが俺にとっては普通のことだ。姉貴もそれくらいから厨房に入っている

「……なるほど。そりゃ春や小咲より腕は確かなはずだわ。」

「現場入っていると見えてくるものもありますしね。それに楽しかったんで。あ、これ終わったんで。」

「えぇ。ありがとうね〜。急に厨房入らせちゃって。」

「別にいいですよ。慣れてますし。」

「……ねぇ、本当にお婿にこない?今なら小咲もつけるわよ。」

「「お母さん!!」」

「あの、一条先輩。」

「こういう人だからな。」

「は、はぁ。」

俺は戸惑っていると

「そういえば、一条先輩遊園地とか興味無いですか?」

「遊園地?」

「姉貴が婚活会場でもらってきたらしいんですけど、相手が見つからなかったらしくて。ペアチケット俺にくれたんですよ。俺行く相手いないんでもし良かったら桐崎先輩と行ってきたらどうですか?」

「千棘?」

すると首をひねる一条先輩。

「いや、デートに遊園地に行けばって言ったんですけど。」

「あ、あぁ、そういうことか。」

「「……」」

俺と小野寺は少し首を傾げる。やっぱりおかしいな

「……まぁ、ってことでこれあげます。俺いらないんで。」

「えっ?春と行ってこればいいじゃない。」

「カップル対象の遊園地チケットですよ。こういった時は彼女持ちの人に押し付けた方がいいじゃないですか。それに女子と二人で外出なんてデートじゃないですか。小野寺、男に苦手意識持っているから俺と二人っきりって結構辛いと思いますし。」

「春ちゃんって男の人が苦手なのか?」

一条先輩は知らないのか

「女子中出身らしくて。入学式の日も男に絡まれて震えていましたからね。助けましたけどそれでもあまり二人っきりにならない方がいいと思いますよ。男子と話す時ちょっと無理して話している時あるんで。」

笑顔が引きつったり少しだけど震えていたりしているし、男子のこと少し苦手意識を持っていることは確定だろう

「……ふ〜んよく見ているわね。」

「仕事柄噂や人のことをよく見る癖がついているので。」

「でも、春も男嫌いなの少しは直さないといけないでしょ?秋葉くんならまさちゃんの息子さんだし、信用できると思うんだけど。」

すると口調がふざけた口調ではなく本当に心配にしているのが分かる

これで断ったら断ったで後味悪いし

「小野寺次第ですよ。俺は克服したいっていうんなら手伝います。家の方は手伝いは基本高校生ではしなくてもいいって言われてますし。」

「あら、そうなの?」

「俺、働き過ぎって親からも姉からも言われているので。」

好きでやっているし、テストもそっちのけだからな

凡矢理にも推薦で入ったもんだし、それに

「姉もそうだったんですけど、学校生活を楽しんでほしいらしく、制限ついているんですよ。俺は」

1日三時間。これが俺が入れる厨房の時間である

土日もおかげで厨房に入ることができず、俺の部屋にある小型IHと簡易調理場で試作を続けている日々だ。

それに最近壁にもぶつかっているし、気分転換代わりにもなるか

「小野寺が治したいんなら付き合いますよ。せっかくの和菓子仲間だし、それに友達ですし。」

「……ふ〜ん。」

どこかニヤニヤしている小野寺のお母さんに俺はため息をつき俺は一条先輩にチケットを渡す

「とりあえず、これは一条先輩が行ってください。せっかくのカップル限定のイベントなのですから。」

「お、おう。ありがとう。」

ちょっと引きながらもチケットを受け取る一条先輩

「……はぁ。そういえば今日の仕事って。」

「えぇ。これで今日はいいわよ。ごめんなさい。急に厨房に入らせてしまって。」

「別に慣れているんで。」

俺は苦笑してしまう。家で忙しくなってからは急に仕事に忙しくなるときは俺も応援に入るからな

「……それじゃあ、帰りますね。」

「あれ?うちの和菓子いらないのかしら。」

「和菓子は買っていきますよ。どら焼き3つ。」

「どら焼き?あなたのところにも置いてあるでしょ?」

「好きなんですよ。俺が。」

俺は厨房を出る。

どら焼きは俺にとって思い出深く、そして一番好きな食べ物だ



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ヨウガシ①

入学して二週間がたち学校生活が慣れてきたころ

俺たちはエプロンをつけ家庭科室に集合していた

女子の目線と男子のそわそわしている様子が俺たちの班に降り注ぐ

「……はぁ、ダル。」

「もうせっかくの調理実習なのに気が滅入る事言わないでよ。それに、今回は秋葉くんのせいでしょこうなったの。」

「……まぁそうだけどさぁ。お前のせいでもあるだろ。」

綾風の言葉に俺は項垂れる。まぁ昼休みにあんなことを話したことから始まった

 

「ありゃ?優じゃん。」

「あれ。舞子先輩お久しぶりです。」

俺は昼休みに家庭科室に余裕を持っていこうとしていたら舞子先輩がコーヒーを持って歩いてきていた

「珍しいですね。一条先輩といないなんて。」

「そりゃ、俺だって楽以外にも友達いるから別の友達と話すことはあるって。」

まぁ当たり前か。舞子先輩は男子の友達は多そうな性格だし

「もしかして調理実習?」

「はい。ケーキ作るらしいんですけど。あんまり本格的にできないので。」

「そういえば優は雑誌で洋菓子も一応作れるんだよな?クリームやカスタードクリームもほとんど優が作っているんだろ?」

「はい。一応、世界大会に出た時に準グランプリの人からレシピ交換をしてアレンジを加えた物になりますけど。」

「まぁ、実際美味しかったしね〜。」

「先日はお買い上げありがとうございました。」

俺は頭をさげる。先週末に二年生の先輩たちが全員で俺の家の和菓子屋に立ち寄り和菓子を食べていったのだが

……物の見事に平均金額5000円くらい食べていったからなぁ。

特に桐崎先輩も餡が気に入ったのか餡を購入までしていったし橘先輩はカロリー、小野寺先輩と一条先輩は財布の金額を気にしていたのが面白かった。

「それで、優はどんなケーキを作るつもりなの?」

「ジャムを使って複数の様々な苺の味を楽しめる苺ケーキを作ろうと思ってます。抹茶とどちらか迷ったんですが、試作品のジャムがあったので。」

「おっ。もしかしてそのジャムある?」

「ありますよ。少し舐めますか?」

俺は瓶を一つ取り出すと舞子先輩に小型のスプーンを差し出す。

そして一口加えると

「……」

「どうですか。」

「……これってもしかして自家製?」

「はい。俺特性の苺ジャムです。来年のメニューに組み込もうって。これはとちおとめですね。んでこっちはあまおうに。様々な苺を一度に味わえるようにジャムでコーデしたんで。」

「余ったら俺にくれない?」

「流石にダメです。これで試作まだするつもりなので。」

結構気に入ったのか本当に残念そうにしているのだが

「そういや、今年もやるのかな?去年と同じこと。」

「去年何かあったんですか?」

「去年の調理実習で好きなやつにケーキを渡すっていうバレンタインのようなことをやっていたわけなのよ。」

「へぇ〜そんなことあったんですか。まぁ、こっちはやらないんじゃないですか?去年よりも早いペースで調理実習するみたいなんで。」

「そっか〜これを伝統行事にしたら面白いと思ったんだけど。」

「仕掛け人先輩なんですか?」

まぁこの先輩なら女子への根回しも完璧だろうしバレるヘマもおかさないだろう

まぁ多分誰かさんのためだと思うが

「でも、流石にやらないと思いますよ。」

と適当に雑談をしたのを近くにいた女子に聞かれていたらしくするとざわざわと俺のクラスで盛り上がり、気になっている異性にあげるという構図ができあがったのだ

 

「それで秋葉くんは誰かにあげるの?」

「……あげるわけないだろ。本当は綾風と小野寺に食ってもらおうと思っていたんだけどパァだよ。普通に一人で食う。」

材料的にホールなんだけどなぁ

「あれ?私たちに分けるつもりだったの?」

「ホール一つのケーキ食い切れないし。姉貴行きかな。こりゃ。」

俺はそうしてタルトの生地を作り始める。世界大会行った時に俺は洋菓子や和菓子など世界中のパティシエからレシピの交換をしていた

洋菓子では姉貴の好物だからよく作ったことも幸いし、テンポよく制作していく。

そして一時間半が経過して最後の苺を乗せ終える

「よし完成っと。」

「……うおっ。すげぇ。」

すると近くにいた男子が俺のケーキを見た途端驚いている。

苺を満遍なく使ったタルトは苺を1パック丸ごと使い苺のジャムを三種類使うことで味の変化も楽しめる

「……なぁ、秋葉。少しこれ食べてもいいか?」

「は?」

「頼む。この通り。」

すると頭を下げるクラスメイト

「お、おい。……まぁ別にいいけどさ。」

「本当か?」

「……秋葉くん。私も食べたいんだけど。」

すると綾風が俺に聞いてくる

「別にいいぞ。てかもういいから全員で分けろ。またいつでも作れるし。」

すると歓声が聞こえいちごのタルトが食べられていく

俺は廊下の方に向かい歩きだし少し歩いたところでしゃがみこむ

『君は和菓子よりケーキ作りに向いている。だから私の元にこないかね。』

つい半年前に言われた言葉を思い出す。もう何十年も世界一のパティシエと呼ばれる人の声が今でも耳に残る

「……はぁ。」

分かっている。そんなことは

だから今でも悩んでいる。

……俺は和菓子作りの道に進むべきかを

「秋葉くん。」

「あっ、小野寺か。どうした?」

「秋葉くんの姿が見えたから。少し心配になって。」

「あぁ、目立つの苦手だから逃げてきただけ。小野寺はケーキ食べないでいいのか?」

「私はいいや。……隣いい?」

「はぁ。……制服汚れるぞ。」

「クリーニングかけるから大丈夫だよ。」

「なら、別に許可はいらないけど。どうしたんだよ。」

「えっと、これ作ったんだけど風ちゃんが秋葉くんのケーキ食べにいっちゃったから。これ食べない?」

すると小野寺の手元には抹茶のケーキがふたつ分置かれている。

「まぁ、それじゃあ一つ。」

俺は一口手でつまんで食う。まっちゃの渋みと少し甘めの生クリームが上手く組み合ってる

「上手いな。てかケーキも普通に作れるのか。」

「秋葉くんほどじゃないけどね。」

「俺は昔から勉強も運動もできない分料理に特化しているからな。まぁ、赤点をとるほどじゃないけど。」

あとはよく歌が上手いと言われるくらいか

ついでに凡矢理にも推薦で入ったくらいだし、推薦じゃなければもう3ランクぐらい下の学校に入ることになっていたところだ

てか

「お前今日もらいすぎじゃね?」

小野寺の手には箱に包まれたケーキがたくさんあり、それも青色とかのラッピングをされている

「えっと、断ったんだけど。」

「ふ〜ん。」

普通に可愛いし、俺たちのクラスのアイドルみたいな感じになっているから当たり前なんだけど

「そういえば、何で私にくれたんだろう。」

「お前に気があるからじゃねーの。」

「どういうこと?」

小野寺知らなかったのか

「舞子先輩と俺の話をクラスの女子に聞かれて。気になる奴にケーキを渡すって風潮になったんだよ。」

「えっ?」

「去年舞子先輩達がやったことを話してたら綾風が知り合いの女子に広めていって。男子もそれに乗っかる形だったからな。」

「風ちゃん何しているの?」

まぁ、あいつも少し舞子先輩とタイプは似ていそうだしな

「そういや、秋葉くんはケーキ貰ったの?」

「一個も貰ってない。てか俺なんかもらえるわけないだろ。」

「……そうなの?」

「あぁ。まぁ、サンキュー。ケーキ美味かった。」

お世辞抜きで美味しかったな。シンプルだけどどこか懐かしい味だったし

俺は立ち上がる

いつのまにかブルーな気持ちが消えていて、気持ちが晴れやかになっていることに俺はまだ気づけなかった



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テツダイ

「……いらっしゃい。ってまたあんた?」

「あの、俺が言える立場じゃないんですけど、小野寺に呼ばれてきたんですけど。」

「あぁ、あの子秋葉くんに頼んじゃったの?プールは?」

「泳げないので断りました。」

「……納得。それじゃあ入る?」

「よろしくお願いします。」

最近じゃ土日はほとんどこっちに来ているのでもはや定番

元々俺の給料は自分が作った和菓子の利益の3割なので……正直なとこぶっちゃけ1日の給料がおよそ12万くらい。

それを毎日。さらに土日は増えるので正直なところ月に400万くらいは儲けている。

さらに4月は紅白饅頭やお祝いの席でさらに搬入が増えるのでさらに収入が増えるのだが。

……所得税がごっそり取られるのだけど

まぁ基本は貯金しているのであまり関係ないのだが、それでも、かなりの所得を得ていると思う

作業着に着替えて俺は和菓子を作り始める

今日は小野寺がプール掃除に行くらしく、俺は泳げないのでバイトを請け負ったんだけど

「……あの。これ俺がやってもいいんですかね?」

というのも俺は新商品の開発として練り切りを今作っていた。

姉貴曰くせっかくだし、修行がわりにやってみたらと言われて結局押し切られたんだが

「いいわよ。というよりもあなたじゃないと上がらせてないわよ。」

「……外枠から既成事実を作らないでくださいよ。はぁ。」

と言いながらも俺は和菓子を作っていく。

「あれ?秋葉くん?」

「あっお邪魔してます。加藤さん」

「また手伝いに来てくれたんだ。そういえば予選どうだった?」

「地区予選は突破したので次は全国ですね。一応東京なんであまり関係ないですけど。」

というのも先週に俺と姉貴は第8回東京和菓子コンクールという和菓子の全国予選がありそして金賞をとり予選大会を突破したのだ。

「やっぱすごいわね。今年で3連覇でしょ?」

「そうですね。一応老舗の俺たちの世代の有名店は出ているので結構睨まれますけど。」

「開業5年でそこまでできれば上出来どころか出来過ぎでしょ?」

「……そうっすけど。でも少し物足りないですよ。最近じゃ営業時間まで短くなりつつありますし。和菓子作りが少し単調化し始めてますし。なんか刺激がほしいんです。」

「刺激って。」

「もう何年も同じことをやり続けているとさすがに客が少し飽きがくるつーか同じ商品作り続けると……俺の店って固定客があまり居ませんし。」

「あぁ。そういえば新規来店者が多いんだっけ?」

「取材とかも多いですよ。その分顧客を固定できないので少し常連さんがよく来る店って少しいいなって思うんですよ。ぶっちゃけ今日もテレビで姉貴は取材受けてますし。」

「……相変わらずね。まぁうちもおこぼれでお客が増えているからいいのだけど。」

まぁ、ここのも普通に美味しいからな。

「そういえば、あなたはコンクールでないの?」

「俺はでませんよ。そういうの興味ないんで。サポーターとしてでるくらいです。」

事実興味のある大会くらいしか出ることがない。

「まぁ、最近逆に審査員としてはでることがありますけど。」

「「……えっ?」」

「あの、一応これでも俺も結構有名なんですよ?舌は確かなんで食べ歩きとかでブログ更新しますし。小学生でも作れる和菓子を動画で公表したりしているので。最近じゃ凡矢理春の和菓子コンクールでさくら代表ででてますし。」

一応web関連は全部俺の仕事になっており、一応英語、韓国語、中国語は話せるしな。

「……そういえば普通に手伝ってもらっているのだけど天才プロデューサーだったわね。」

「それもむず痒いんでやめてほしいんですけどね。」

俺はそう言いながらも苦笑してしまう

そうしながらも今日も変わらないと思っていた。



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