PINO DAY (メグリ)
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1話

ただいまぁ。

 

ケータが帰宅すると珍しく母は不在だった。

リビングの食卓の上には【ケータへ。お買い物と銀行に行ってきます。宿題やっておくようにね。】と書かれたメモ。

こんな時に限ってジバニャンもウィスパーも不在。

ケータは自分でも絶対認めたくないのだけど、家に自分ひとりというシチュエーションは高学年になった今でも、ちょっとだけ苦手なのだった。

 

1,2年の頃は、ひとりで留守番がどうしても嫌で、泣きっ面で玄関前で待ってたことがあったなあ。

 

苦笑しつつ洗面所に向かい、きちんと石鹸で手を洗いうがいもする。

インフルエンザが流行っているから、帰ったら手洗いうがいを忘れないように。

母の教えを留守宅でも守っている、天野景太は基本的に素直でいい子なのだった。

 

宿題終わったら公園にでも行ってみようかなあ。

 

6時間授業の今日は、すでに外の日差しは大きく傾き、電灯をつけても隅のほうにたまっている薄暗い空気に、ケータの心もなんとなく浮かない。

2階に向かい、自室のドアを開けた。薄暗い室内の中でベッドがこんもりと盛り上がっている。

 

あ!

 

ドキンとして、一気に心拍数が高まる。

カッと頬が熱くなった。

 

来てる!ようやく!久しぶり!!

 

電気をつけようとしていた手を慌ててひっこめ、ケータはそっと布団に近づく。

そのまま布団の端をめくって覗くと、思ったとおり。

オロチが猫のように丸くなっていた。

目はしっかり閉じられ、藍色の髪が白い輪郭をなぞっている。

 

「ふふっ」

 

ケータは湧き上がる喜びを抑えられないまま、オロチの寝顔に見入る。

そろそろ来てくれるって、思ってたんだよね。

 

「ケータ、おかえり。」

 

寝ていると思ったオロチが目をつぶったまま呟き、寝返りをうって仰向けになる。

 

「あ、ただいま。オロチ起きてたの?」

 

笑い声で起こしちゃったかな、とケータはちょっと慌ててしまう。

 

「ケータが家につく少し前から気配に気づいていた。」

 

オロチは目を閉じたまま薄く笑い、それからゆるゆると目を開けた。

金色の瞳が薄闇の中でも煌く。

 

「外が寒すぎて、布団を借りていた。」

 

オロチは起き上がりかけて、部屋の冷気にブルッと震えると、再び布団にもぐりこみ顔だけをのぞかせた。

オロチの目は少し眠そうだ。

冬が苦手で寒がりなオロチ。

元は人間だったというけれど、今は「オロチ」というくらいなのだから蛇の部類の妖怪なのだろう。

蛇といえば、冬眠している姿を図鑑で見たことがある。蛇って寒さに弱いのだろうね。

冬眠。

冬の間ずっとケータの布団でオロチが冬眠していたとしても、ケータはそれなりに嬉しいのだけど。

何かと物騒な彼の周りではいつ何時何者かが襲ってこないとも限らない。

そんなことを心配しながら学校に行くのは俺にはとても無理!

それに、寒がりオロチへの対策も、実はここ最近ずっと考えてたんだ。

 

「ちょっと待ってて!」

 

ケータははりきって作戦開始する。

 

まず部屋の暖房をつける。

それからリビングにあった大きな加湿器を、少し苦労しながら部屋に運び込み、それもスイッチオンする。

お母さんの部屋に走りこみ、母お気に入りのカシミヤのカーディガンを

「ちょっとだけ、ちょっとだけね」と呟きながら拝借し、また走って自分の部屋に戻りオロチに手渡す。

 

「これ着てみて。すっごくあったかいよ!」

 

そして部屋の明かりをつけ、カーテンをひくと、部屋にはホンワリと暖かい空気が流れる。

 

「それから、もうひとつ、最終兵器!」

 

ケータは引き出しから出したものを、ジャジャーンと得意げにオロチに見せる。

 

「電気湯たんぽ。これもすっごくあったかいんだよ。」

 

コンセントを入れ、カーディガンを着込んだオロチの膝の上に乗せた。

カーディガン着てるオロチって、なんだか新鮮だ。

ちょっとサイズが大きいみたいだけど。

ケータはまたも、ふふっと微笑む。

 

「湯たんぽ、すぐ温かくなってくるからね。ちょっと待ってて。」

 

テキパキと動くケータを、ちょっと呆気に取られたような顔をして見ているオロチに満足感を覚えつつ、

ケータはウキウキと階段をおりる。

オロチ、びっくりしてるなあ。

なんたって俺、この日のためにバッチリいろいろ考えてたからね。

 

冷凍庫を開けると、【俺の!食べないで!ケータ】とわざわざ貼り紙をしておいたピノを取り出す。

ピノとは。

パッケージの中に、チョコでコーティングされた一口サイズのアイスが入っている商品である。

ケータは昔からピノが好きでよく食べていた。

 

オロチが来たら、寒がりのオロチのために思いきり部屋を温かくして、一緒にピノを食べる。

これが、ケータがここ最近地道に進めていた計画だった。

 

そもそも1週間前、世はバレンタインイベントに沸き立っていた。

オロチはバレンタインなんて知らないだろうけど、もしその日にオロチが遊びに来たなら、一緒にチョコを食べてもいいかもしれない。

同性にチョコレートを贈る。愛をこめて。

なんて仰々しいことをケータが考えていたわけではなくて、ただ、もし

万一そんなちょっとしたイベントにも、オロチが嬉しそうな表情を見せてくれたら、

俺も嬉しいなあ、なんてことを単純に考えただけだった。

そんなわけで、オロチと一緒にチョコを食べる計画は、

まずは部屋の防寒対策として【暖房・加湿器・母の自慢のカシミア・そして湯たんぽ】、

ここらへんはすぐに思いついたのだけど、

問題はチョコレートだった。

 

どう考えてもオロチって甘いもの好きじゃなさそうだし…。

 

じゃあ、彼の好きなマグロの刺身でも出せばいいのか。

いやいやいや、でもやっぱりそれじゃ意味ないんだよ。

オロチが今まで知らなかったことを一緒に体験したいんだし!

 

悩むケータは毎夜机に向かい、思いついたことを片っ端からメモしていったのだった。

 

・ホットチョコレート(甘いものが嫌いでも飲むなら抵抗ないかも)

 

→あ、駄目だ。なんかオロチって猫舌で熱いもの苦手な気がする…。うん、たぶん、絶対、猫舌だ。

 だから体温低いくせに冷たい刺身が好きなんだ。

 熱い食べ物はやめておこう。そのかわり、部屋の中をうんと暖かくしよう。

 

・チョコレートクリームケーキ(なんかチョコレートの王道って気がするし)

 

→・・・俺は好きだけど。俺は好きだけど!これはそうとうスイーツ好き向けだよ!コッテリしすぎだよ!

 オロチ、俺に気を使って食べてくれるかもしれないけど、俺今回そんなの求めてないし!

 気を使うんじゃなくて、ほんとに喜んでもらいたいし!

 

・生魚のチョコレートフォンデュ

 

→あれ?これって新しいんじゃない?オロチって魚好きだし。

 うん、うんうん、これってなかなかいいかも!

 こんなの俺だって食べたことない。

 これならオロチも喜んでくれるはず!きっと!

 

「ケータくん…」

 

さりげなーくケータのメモ書きをチラ見していたウィスパーがたまらず声をかける。

 

「さすがに生魚のチョコレートフォンデュはないでウィス…。そんなの出したら大やけど級の大失敗になりますよ…。」

 

「そうニャン。そんなの食べさせたら、顔を見るたび味を思い出して避けられるようになるニャン。」

 

ジバニャンまでウィスパーに同意する。

 

「う、うるさいなあ二人とも。なんで覗き見してんの!」

 

ケータは真っ赤になってジバニャンとウィスパーを部屋から追い出した。

プンプン憤慨しながら、あんまり憤慨したので、もしかしたらウィスパーとジバニャンが

自分の計画に気付いているかもしれないなんてことにはケータは思い当たらない。

机に戻り、はたと自分のメモ書きが目に入る。

 

生魚のチョコレートフォンデュ・・・。

 

ないわー。これは、ない。

 

ウィスパーとジバニャンのおかげで、熱くなった頭に少しブレーキがかかったのか

ケータはようやく自分の恐ろしい発想に身を震わせる。

俺ってほんと、センスないなあ…。

そのまま机に突っ伏す。

やっぱり、オロチに甘いもの、しかもチョコレートなんて…無理かも…。

オロチにとって甘いものって、せいぜい粒餡の饅頭くらいかも…。

 

そのまましばらく突っ伏していたケータだったが、急にガバッと上体を起こした。

 

「そうだ、思いついた!!」

 

そして早速、次の日の放課後。コンビニで目当てのものを購入したのだった。

 

それがピノ。

ピノだったら、きっと大丈夫!

甘いけど冷たいし、冷たいと勢いで食べられると思うし。ちゃんとチョコだし。

冷凍庫に入れておけるし。

これなら、もしオロチがバレンタインデーに遊びに来なくても(来てくれたら嬉しいけど)、

いつ来たってすぐ出せるように凍らせておける。

これだよ、これ!

 

ケータは自分の案に満足した。

あとはオロチを待つだけ。

 

が、オロチは案の定バレンタイン当日に現れなかった。

次の日も。そして次の日も。

ケータは帰宅するたびに軽い落胆を覚えつつ、きっと明日は来るだろうと思いながら毎日を過ごした。

 

そしてバレンタインから早くも1週間。

ようやくオロチがケータの部屋に来たのだ。

ケータは嬉しさが顔ににじみ、感情が素直に表情に出ていることにも気付かないままはしゃいだ。

 

「お待たせ!」

 

ピノを握り締めて部屋に戻ると、オロチが膝の上の湯たんぽをしげしげと見つめながら手をあてている。

 

「これは便利なものだな。」

 

だいぶ温まった湯たんぽにいたく感心しているらしい。

 

「湯たんぽ気に入った?俺はオロチほど冷え性じゃないから、今度オロチにプレゼント・・・

 あ、でも、電気ないと使えないんだった。お湯を入れて使う湯たんぽもあるから今度探してみるね。

 あ、そんなことより、ねえ、これってピノって言うんだよ!」

 

ケータは上擦りながら、オロチの横に腰掛けた。

 

「これ、食べてみて!」

 

バリッとパッケージをあけると、かわいらしく小粒なアイスが並んでいる。

イチゴ味だから色もかわいいピンク。

しかも!

並んだアイスの中にハート型があった。

 

「うわ、俺、ハート型ってはじめて当たったーー!!」

 

大喜びのケータを眺め、オロチは不思議に思う。

今日のケータはなんだかすごくはりきっている。

ピノってね、他に星型とかもあるんだよ、俺昔からピノ好きで・・・

嬉しそうに喋り続けるケータを見ながら、ケータが何故はりきっているのかわからず、

でもはりきっているケータは可愛らしくて、オロチも律儀に相槌を繰り返す。

ケータがはりきっているなら、その気持ちを壊したくなかった。

 

「はい、これ!」

 

パッケージの中に一緒に入っていたピックに、まずは普通の丸い形のピノを1つ刺し、ケータはオロチに差し出す。

 

「・・・これを食べるのか?」

 

「そうだよ!おいしいよ!」

 

オロチは一瞬怪訝な表情をしたが、ケータがドキドキ心配しながら見つめている様子に気付くと、すぐにその表情を打ち消し、それを受け取った。

マフラーに指をひっかけちょっと下にずらすと、ピノをパクッと口に入れる。

 

「・・・どう?」

 

ケータが窺いながら聞くと、モゴモゴと口を動かしながらオロチはコクンとうなずいた。

 

「美味いな。」

 

本当のことを言うと、その冷たい味がオロチはなんだかよくわからなかった。

しかし舌が慣れてくると甘みが広がり、普段ほとんど食べない甘さは、なんとなく心をほぐす気がする。

 

「でしょ!もっと食べていいよ!」

 

ケータはオロチの反応に目を輝かせ、もうひとつ取ってオロチに差し出す。

 

「俺、最近ずっと考えてたんだよ。ピノって思いついた時、自分でもナイス!って思ったもん。これ絶対いい思いつきだって思った!」

 

「・・・なぜ私にこれをくれるんだ。」

 

オロチは差し出されるままにもうひとつのピノを口に入れ、率直に疑問を投げかけてみたが、

そのとたんケータがエッと言葉に詰まり、それはえーと、なんていうか・・・と困りだしたので、

あまり追求しないことにする。

オロチは自分も、丸いピノを取り、

 

「ケータも昔からこれを好きなんだろ。」

 

ケータに近付けた。

 

「え、あ、ありがとう」

 

ケータがピックを受け取ろうとすると、オロチはさりげなくその手を交わし、

そのままケータに食べさせる。

 

「…おいひい。」

 

モゴモゴしながら、ケータは赤くなってきた自分に気付いてさらに頬を赤らめる。

オロチが、食べさせてくれた。

オロチは何も言わずにケータを見つめているが、その目は普段のけわしい雰囲気と違って、穏やかで優しい気がした。

オロチって優しいなあ・・・。

ケータはピノを飲み込む。

俺、きっと、オロチのこんな顔が見たかったんだ。

ケータにジンワリと満足感が広がっていく

いつものオロチの目って、何か寂しそうというか・・・俺なんかにそんなこと思われたくないだろうけど・・・

うまく言えないけど・・・そう、すごく寂しそうに見えるときがあって・・・。

 

なんとなくオロチと目を合わせられなくなってうつむくケータを、

うながすことなくオロチはそのまま待つことにして、ピノをいったん膝の上に置く。

 

ふたりだけの時間、もっといろいろ話したいことがケータにはあったのだけど、

それが何だったのか頭がグルグルしてしまってどうしても思い出せなくて焦ってしまう。

無言が続くとオロチに申し訳ない気がして、懸命に言葉を探すほど、ケータはうつむき加減になる。

 

「・・・話したいこと、たくさんあったんだけど。学校のこととか・・・。

 なんかうまく思い出せないや。

 オロチがしばらく遊びに来てくれなかったから・・・。」

 

ケータの言葉に、オロチが少し困った顔をして「そうだな」と小さい声で答える。

 

最近、エンマ大王とばかり一緒にいるから・・・。

 

ケータは続けて出そうになったセリフを、飲み込む。

オロチをもっと困らせそうだと思ったから。

困った顔をさせたいわけじゃない。

ケータはオロチに笑ってほしかった。楽しい気持ち、嬉しい気持ちになってほしかった。

 

「で、でも、良かった。オロチにピノ、食べてもらいたかったんだ。

 ハートのピノまで入ってたし!」

 

ケータは無理やり笑顔を作って、顔を上げる。

 

「ハートのピノは幸運を呼ぶんだって!入ってるとすごくラッキーなんだよ。

 ハートのピノ、オロチが食べなね。」

 

「そうか。でもなかなか入ってないのだろう。ケータが食べたらいい。

 私はケータに幸せになってほしいから。」

 

オロチに穏やかに返されて、ケータはアワアワとまたも口ごもってしまう。

ケータに幸せになってほしい。

サラリと言われた言葉に、嬉しさと恥ずかしさと、ケータにはまだ形容することのできない気持ちが渦巻いて

ギクシャクしてしまう。

 

「じゃあ、さ。オロチと俺とで一緒に食べようか。半分こしようよ。」

 

そしたらオロチと俺、おんなじ幸せが舞い込んでくるかもしれないから。

 

「そうだな。ケータがそうしたいなら。」

 

オロチも同意してくれた。

そして2人で同時にオロチの膝の上のピノの箱に目をやって、2人同時に「あ。」と固まった。

 

オロチの膝の上には、先ほどケータが持ってきた湯たんぽ。そしてその上にピノの箱。

当然、中のアイスはドロドロに溶けていた。

さっきまで可愛らしいピンクのハート型だったものが、無残にも原型を留めない。

 

「・・・すまない。私がこんなところに置いたからだ。」

 

オロチが申し訳なさそうにケータを窺う。

 

「いや・・・オロチのせいじゃないよ。俺がバカだったんだ・・・。」

 

ケータは自分でもビックリするくらいがっかりしていた。

 

「アイスクリームなんて簡単に溶けちゃうものなのに・・・

 湯たんぽなんて持ってきたから・・・。」

 

思わず涙ぐみそうになるのを必死にこらえる。

俺って、本当にダメだ・・・。一生懸命計画したつもりだったのに、こんなことになることも予想できないなんて・・。

ただオロチと一緒に食べることができたらそれで良かったのに、だらだら話しかけてハートのアイスを溶かしちゃうなんて・・・。

 

「ごめん・・・せっかく幸運のピノが入ってたのに、食べられなくなっちゃったね・・・。」

 

しょげかえったケータをオロチはしばらく見つめていたが、

やがてクスッと笑うと、ケータの頭をポンポンと優しくたたいた。

 

「溶けてしまったが舐めることはできる。ケータと私で半分こしよう。」

 

オロチの指がアイスクリームをすくい取り、それはそのままそっとケータの口に入れられた。

頭が真っ白になったケータは、オロチに目で促され、夢中で舌を動かしオロチの指からクリームを舐め取る。

そうするとオロチはまた指でアイスクリームをすくい取り、ケータの口に運ぶ。

何度か繰り返すと、溶けきったアイスは容器からほとんど無くなった。

 

でもオロチが食べてない。

 

ケータが言おうとした瞬間、ケータの口から引き抜かれたオロチの細い指は

ケータの顎にかけられ、そのまま顔が近づいた。

ケータの唇に柔らかいものが重なり、それがオロチとのキスだったと気付く間もなくそれは離れ、

代わりにオロチの舌がペロリとケータの唇を舐め取った。

 

「甘いな。」

 

オロチがもう一度、クスッと笑う。

楽しそうな表情だった。

 

「これでケータと私、幸せを半分こだ。」

 

オロチの指が、ケータの頬を優しく撫でて、そして離れていった。

 

 

 

 

-----------

 

天野景太は、ベッドにもたれかかったまま、動けなかった。

 

オロチが部屋を出て行く時に開けた窓の、わずかな隙間から入ってくる冷たい夜風が、

火照ったケータには気持ちがいい。

 

さっきのことが嘘みたいに感じられる。

何もまとまって考えられないのだけど、浮かんでくるのは

キスした時に近づいたオロチの顔。

肌が透き通るように白かったこと。綺麗な顔、してた。頬に触れたオロチの髪がフワフワと柔らかかったこと。

オロチの薄い唇が、自分に軽く重なったときの感触。

混ざり合ったピノの甘くて冷たい香り。

その後、唇をなぞったオロチの舌。くすぐったかった。

頬を撫でたオロチの指。

 

ケータの心は真っ白になったまま、シーンだけが何度も何度もリプレイされる。

 

窓から入ってくる夜風は冬のものなのに、なんだか甘酸っぱい。

もう春が近いからなのか。

枕元には、つい先ほどまでオロチが着ていたカーディガンが、丁寧に畳まれて置かれている。

そっと撫でてみても、彼の気配はもう残っていなくて残念に思う。

 

天野景太は目を閉じる。

今日のことは、オロチと俺、2人だけのヒミツ。

幸せを運ぶアイスクリームのおかげ。

 

母が帰宅し、気を利かせて家を離れていたウィスパーとジバニャンが戻っても、

しばらくケータはその場を動けなかった。

 

 

 

 

 

 



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