ウルヴァリン/ゴブリンスレイヤー (爪の男)
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爪の男(前編)

MCUにウルヴァリンこーーーーい!


  サイコロ勝負に神は飽きちまって様々な生きモンとそいつらの住む世界を作り出した。この世界じゃな。だが俺の世界とはちっとばかり違う。

 ミュータント。突然変異の超人たち。世界を壊し、世界を救った。そして俺もミュータント。ウルヴァリンだ。

 

 

                  Ⓧ

 

 饐えた匂いが漂う。匂いの正体は牛たちの垂れ流した糞尿だ。クーラーの効いた涼しい部屋でパソコンをいじってるようなやつには耐えられないだろう。ローガンは鼻をしかめつつ糞尿のそうじをする。ローガンの肉体ははち切れてしまいそうなくらいの筋肉と野獣のような体毛でできている。身長はけっして大きくはないが殴り合いでは誰にも負けない。そう断言してもいい。一目で誰もが悟るのだ、彼は戦士だと。そんな戦いだけのために生まれてきたような男の仕事が牛小屋掃除だ。人生というものはなんて奇妙なのだろうか。やりたくないがとなりの牧場夫は朝早くから作業を始めている。彼を見たとき友人のコロッサスを思い出した。真面目で頼りになるいい男だからだろうか。牛の世話で鍛え上げられた体つきの牧場夫と赤毛で豊かな胸をもつ心優しい奥さんには一宿一飯の恩がある。平和を絵で描いたような村。その一角に夫婦の家があった。

「朝からお疲れさまー!ご飯にしましょう」

牧場夫の愛妻の優しい包み込むような声が聞こえる。机の上には出来たてのパンにチーズにベーコンが用意されてある。

「君ってやつは性格だけじゃなくて飯もうまいんだからズルいぜ」

チーズの甘い匂いが鼻腔を癒やす。

「昔は下手だったわよ。彼が教えてくれたの。手を取っててね」

ローガンはうんざりしたようにつぶやいた。 

「その話は100回はきいたぜ」

牧場妻は困ったようなしかし喜びを抑えきれないような笑みでつぶやいた。

「そうかしら…」

 この元気でおしゃべりな妻と無口だが正直で心優しい夫。結婚してまだ2年らしい。

「ローガン、あんたが聞かないといけない惚気の数はこんな者じゃないぞ」

牧場夫は助け船を出してくれるわけじゃないらしい。

「裸でグーグー眠ってるあんたを助けたんだからな」

牧場妻もそれに続いた。

「記憶がないだなんてねありえるらしいわね」

牧場妻は不思議に思っている。

「あんたたちには感謝してるさ」

彼らがたまたま通りかからねば殺されていたらしい。なんでも全裸で地面に横たわっていたとか。ウェポンXのときのように。

「ゴブリンも知らないなんてね」

牧場妻は不思議で仕方ないらしい。ゴブリンーーーーー数ばかりが取り柄の、緑色の最も弱い怪物らしい。なんでも村の家畜を襲い女をさらう。村の近くに現れることがあるので牧場夫は日頃から見回りをしているらしい。最近近くでの目撃情報が相次いでいるらしい。彼の見回りのおかげで今こうしてごちそうにありつけているのだ。

「感謝してもしきれねぇな」

ローガンの人生は悪意と嘘にまみれている。彼らの優しさは、消えてしまいそうな自分の人間らしさを思い出させてくれる。

「明日は余裕がある。町にいってみよう」

牧場夫は見ず知らずの男の人生を心配し助けてくれている。朝早く出て町に行って帰ってきたらもう真っ暗らしい。とても申し訳ないがローガンはその誘いに乗った。町にいけばわかるかもしれない。目が覚めたら何故、月がふたつもある世界に紛れこんでいたのかを。

                 

 

 

                  Ⓧ 

 

  ミュータント。それはまさしく突然変異だった。目から理不尽を破壊する光線が、大空を翔ぶための翼が、仲間たちを導く声が、例を挙げればきりがない。何故生まれたかなんて誰も知らない。ローガンももちろんミュータントだ。しかもただのミュータントではない。能力を悪用するミュータントを止めるヒーローチーム、X-MENの一員だ。正義の心を持つ仲間たちとともに何年も戦ってきた。絶体絶命のピンチなんていつものことだし、いつも乗り越えてきた。しかし今度ばかりは難しそうだった。(月がふたつなんて珍しいモンみちまった)この世界にはパソコンもなければテレビもない。車もなければ愛するバイクもない。おまけに月が2つもある。ミュータントもいない。ここは自分の世界じゃない。帰るための情報。町でちょっとでもいい。絶対につかまなければいけない。

「出発しようローガン」

牧場夫がローガンに声をかけた。馬車の中には牧場で作られた食品が倒れたりしないように固定されている。荷台の空いたスペースにローガンは座った。むかつくが小さくて助かることはそこそこある。

「いってらっしゃいあなた、それとローガンさんもね」

牧場妻は夫を力強く抱きしめた。牧場夫のそれに負けない強さで抱きしめ返した。一時の別れでも彼らには十分すぎるらしい。ローガンは二人の幸せを願った。ローガンは愛する人を失いすぎた、自分のような人間はだしたくない。思わずローガンは自らの手を見た。殺戮の爪が眠っていることを思い出した。奪った命。失った命。ジーン、真理子。もう会えない。二度と。

                  

                  Ⓧ

 

  ローガンは後悔していた。いくら暇だからとはいえ新婚さんにまたなりそめをきいてしまうとは。牧場夫の口は休憩時間を持たないらしい。

「そのときの彼女はまるで女神だった」

牧場夫は真面目な顔してこんなことばかり言っている。マジで。食品の中なので葉巻を味わうこともできない。クリードとの死闘よりも、ハッキリ言ってつらい。

(新婚さんにゃ悪いが昼寝でもするかね…)

そうウトウトしていたローガンに牧場夫の大きな焦り声がきこえた。

「なんなんだこれは!」

パニックになった馬たちが暴れ出した。こうはなりたくないと。飛び起きたローガンは目を疑った。                                                                                                                                                                                                                                       それは死体というよりも残骸だった。脳みそや臓器が道のあちこちに散らばっていた。茶色の地面は赤黒く染め上げられて地面には見えない。牧場夫はその場で吐いた。あまりにも惨すぎる。これは人の死に方ではない。牧場夫は現実を認めるのに少し時間がかかりそうだった。しかしローガンは異常なほどに冷静だった。もちろん理不尽にたいする怒りもあるが死体の状態に疑問がわいたのだ。

「死んでるのは男が二人に女が一人、それに…子供が一人か」

男の一人は革の鎧を着けていたようだ。剣と盾も持っていたらしい。しかし防衛にはなんの意味もなかったようだ。鎧には拳の痕があった。剣はへし折れ盾は真っ二つに。襲撃者はすごい力の持ち主らしい。もう片方の男は布の服を真っ黒にしている。背中には何本も弓が刺さっている。だがどれも(どれも急所は避けてある…どうやらもてあそんで殺したわけだな)女の両腕はあさっての方をむけている。また顔が潰されていて表情がみえない。一番ひどいのは子供だった。両腕と両足が引き抜かれている。途中で絶命しただろうがこれはひどすぎる。この少女は痛みと絶望のループの中で死んでいったのだ。牧場夫はひどい顔をして言った。

「ゴブリンは男はすぐ殺すが、女は裸にしてもてあそんで殺す。それにゴブリンはあまり力は強くない。これは別の怪物だ」

埋葬してやりたいが

「誰がやったかは今はいい。嫌な予感がするぜ…。町行きは中止して帰るぜ。急ぐぞ!」ローガンと牧場夫は元来た道を回れ右して大急ぎで向かった。胸騒ぎがしていた。

 

                                                            

                   Ⓧ

 

 

  そこに村はなかった。村人も家畜も皆平等に殺されていた。家々は音をたてて燃えていた。平和な村なんてものはもうない。あるのは絶望だけだった。生き残りなんてものはない。怪物どもは一人残らず遊びつくしたらしい。牧場妻ももちろん殺されていた。おなかに大きな穴が空いていた。目からは涙があふれていた。会いたいと、死にたくなかったと冷たい目が語りかけてくる。

「どうして…。なんで…。嘘だ、現実じゃない。嘘嘘嘘嘘ちがうちがう!!!!」

牧場夫は倒れてしまった。ローガンは牧場夫を馬車に連れて行き毛布を掛けた。そして

「クソ…。クソッ!クソおおおお!」

ローガンは拳を木に叩きつけた。何度も。何度も。いつもこうだ。自分はどうなってもいいのに大切な人ばかり傷つく。本気で殴っているのに傷はできない。ヒーリングファクター。この能力は自らの傷のみ直す。自分だけにしか使えない役立たず。もはや自分のできることはたった一つ。SNIKTと音がする。 皮を、肉を裂きあらわれる殺戮の爪。殺意が体中からあふれて止まらない。奴らを、怪物どもを根絶やしにする。

「俺にかなうやつなんていない」

元SHIELD、元ウェポンX。ウルヴァリンが目覚めた。

 

                                  

 

 

                              

 

 

 

          




オールドマン・ローガンは、いいぞ。


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爪の男(後編)

コメントくれた人に申し訳ないので後編だけやります。ほんとすいません。ローガンの声は山路さんで再生してます。


 ゴブリンたちは歓喜の雄叫びを上げていた。前々からあの村を狙っていたのだ。見回りをするなど邪魔くさいことをしていたようだが何一つ意味がない。豊かな森の恵みを受けていたのは人間だけではない。ゴブリンたちだってそうだ。人間の汚いところ全てを煮詰めたゴブリン。少しの危機感と平凡な日常しかない人間。同じ環境で育ったなら、戦えば勝つのは悪意の強い方に決まっている。

 

「GOOB! GOOBRB!!」

 

あの村は幸せで太り過ぎた。村の男たちは弱かった。こん棒で頭を殴れば目玉を地平線の彼方まで飛ばした。壁の色を脳みそで塗り替えた。

 

女たちは旦那や父親の死体の前で犯してやった。嫌だ、やめて、誰か助けて。彼女たちの絶望はゴブリンたちの下半身を更に熱くした。助けなんてない。そいつを分からせてやることがこんなに気持ちいいことは。初めての略奪は最高の結果で終わった。

 

美人の女は引きずって巣に持って帰った。もちろん女たちは泣き叫び続けたが、殴ってやめさせた。さらに気持ちよくなった。 こんなに気持ちいいことで種を繁栄させることができる。

 

この世に生まれてきたことに感謝した。仲間たちと笑い喜びあった。最高の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルヴァリンがやって来るまでは

 

 

 

 ぶくぶく太っていたのは村の人間だけでない。自分たちが襲われるなんて一ミリも考えていない。小鬼どもの巣はたったの一時間で見つかった。全てが杜撰だった。驚異的な嗅覚を発揮するまでもない。女たちを引きずった跡がローガンを導いた。巣の入り口には見張りも居らず、奥から小鬼どもの歓喜の叫びが聞こえた。人間どもの絶望は蜜の味だと。奴らの叫びが怒りを強くした。

 

 ローガンは自分のことを嫌っていた。誰かを傷つけるしかできない。大切なモノを守れないロクデナシ。だけど今この時だけは、自分がミュータントであることに感謝した。ウェポンXであることに感謝した。

 

 

 SNIKT!!! 

 

 巣の奥はまさしく地獄だった。女たちの体は傷だらけ、生きている者もいたが遅かった者もいた。女の肉と家畜の肉を味わう最高の夜。小鬼たちの天国。報復されるなんて一ミリも考えてない。小鬼どもの数はたったの十五、十六匹。楽勝だ。バケツをかぶって手を縛っていても勝てる。ローガンはすぐ近くの一匹を血祭りにあげようとしたが、流石に野生の獣。人間がやってきたのを察知した。女なら最高だったのだが、出てきたのは、どチビの男。とりあえず殺そうと、こん棒を手に取ろうとした瞬間

 

 首がくるんとマヌケな音を立てて飛んだ

 

「GOOBR?」

 ゴブリンたちは何が起こったのか分からなかった。何が起きたんだ? 辺り一面を塗り替えたのは何なんだ? その一瞬はゴブリンたちから最初からほぼ無いに等しい生存率を下げた。

「今度は俺たちの番だぜ」

 ローガンは体に埋め込まれたアダマンチウムの爪で近くの小鬼の頭を引き裂いた。ゴブリンの脳ミソをぶちまける。

「GOOBRB!! GOOBBBB!!!」

 ゴブリンたちは一斉に武器を取った。こいつは殺す。じゃないとこちらが死ぬ!!!

 ローガンの爪が一匹、また一匹とぐちゃぐちゃにする。喉を裂き体を半分にする。弱すぎて話にもならない。ゴブリンは村から奪ってきたのであろう剣をローガンの頭に叩きつける。剣はへし折れ、お返しに頭は飛んだ。

「GOOBRB!!!!!」

 こいつは普通じゃない

 ゴブリンたちは力を合わせ弓を一斉に発射した。チビの怪物を殺す。全ての憎悪を込めた攻撃。ゴブリンにしては中々作り込みがあり、音を置き去りにする勢いで、弓矢はローガンの体に突き刺さった。

 殺した!!! みんな思った。だが

 ローガンを殺すにはお粗末すぎた。ヒーリングファクター。神の過ち。突き刺さった弓矢は弾けとび、ローガンの傷を治した。まるで何もなかったかのように。人間の悪意が産み出した兵器なのだ。ゴブリンごときが敵うハズもない。ゴブリンたちは恐怖した。人間たちに与えてやっていた恐怖。それをゴブリンたちは味わっているのだ。

 次の瞬間ローガンの爪は十匹のゴブリンを肉片にした。

「GRAAAAAA!!!」

 小鬼たちの前にいるのは本当の鬼だった。

 

 

 

 皆殺しにした。戦闘が始まってたった十分。最後の一匹はしぶとく、女を人質に取ろうとした。追い詰めた悪党のやることはいつもこれだ。いい加減うんざりだ。人質を取ろうとした瞬間に、右腕を飛ばす。泣き叫んだ。だがかわいそうだとは一ミリも思わなかった。次の瞬間、アダマンチウムの爪が最後の一匹の体を真っ二つにした。

「大丈夫か」

 ローガンは介抱しようとして気付いた。 もう遅かった。

 ゴブリンたちは加減しらなさ過ぎた。 誰も生きて居なかった。

 

 

 

 

 

 ゴブリンどもを皆殺しにして三日たった。村の生き残りはたった七人。襲撃を運良く逃れていたので助かったのだ。だが皆の顔に喜びはない。みんな大切な人を失ったのだ。

「敵を執ってくれてありがとうローガンさん。あんたに当たって済まなかった」

 牧場夫は強く優しい男だ。生き残った村の仲間と遠くの町へ引っ越すらしい。家族の葬式も済み出発の時間だ。愛する妻の死を受け止め、少しでも進む。それが妻に対する最大の弔いだと。

「あんたはこれからどうするんだ?」

 ローガンは答えた。

「町にでて仕事を探す。ゴミ掃除は得意なんでな」

 なぜこの世界にこれたかは分からない。だから突き進む。そう決心した。

「また会えることを祈ってる。ローガンさん」

「またな」

 ローガンはカバンを背負って次の戦場へ向かった。

 

 戦いは続く

 

 

 

 




勢いだけで執筆するもんじゃないなぁ、本当にすいません。てかローガンとモブだけだと会話が楽しくないな。俺の文章力のなさもあってすげぇつまんねえ。犠牲になったモブがゴブスレと牛飼娘に似てて全力で二人を助けるとかやろうとしたのがダメだったな。一話でちゃっちゃとゴブスレと愉快な仲間たちを出しゃよかった。ローガンと金床が喧嘩したり、鉱人道士と酒飲んだりとか。あとセイバートゥース出したい。リメイクします。いつか、多分。


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