やはり俺の隣の席に紙袋が居るのはまちがっている。 (ト——フ)
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揺籃中学 『比企谷八幡と名瀬夭歌』編
第1箱 「あれだろ?王蛇が格好いいって話だろ?」


今書いてる小説の息抜きに書きました。
ネタが降ってきたんでダーッ!って殴り書きました。
多分原作読んでる人からは突っ込み所満載だと思います。
まぁですが、それでも良いよって方はどうか読んでやってくださいm(_ _)m


 最近、転校生が来た。

 そいつは容姿が非常に端麗で正に絶世の美女と呼ぶに相応しく、お陰でクラスの奴らの騒ぎっぷりが凄かった。

 まぁ、かくいう俺も見惚れてしまったから人のことは言えんが。

 

 それからあいつを交えたクラスでの授業に移るんだが……一言で言うと優秀すぎた。

 数学の時間では

 先生に当てられた問題を、こともあろうか訳の分からん凡そ中学じゃ習わんだろうという公式で解きやがった。

 

 勿論数学が苦手な俺からしたら、ちんぷんかんぷんであり「ほぇーすごい」という感想しか浮かばなかった訳で。

 先生からしてもあいつが何をしているか分からなかったらしく、頬を引きつらせ「か、過程はともあれ正解でーす。はは、じゃあ名瀬さん座ってもいいよー」と困った顔で言っていたほど。

 

 それからもあいつの異常なまでの優秀ぶりが続き、次第にあいつに近づく奴がいなくなり今ではいじめにまで発展してしまった。

 

 いじめは次第にエスカレートして行き、

 最後列のあいつの席と壁、黒板には「死ね」やら「帰れ」やら思いつく限りの罵倒雑言が落書きされ、席の周りにはゴミが投げ捨てられている。

 

 いや、流石にやりすぎだろ……ってか教師は何してたんだよと呆れるが、学校側もあいつの扱いに手を焼いているのだろう。

 なにせあいつは優秀なのだ。途轍もない、それは俺達とは違う次元のレベルの。

 そんな生徒に学校側もなにかとどう扱えばいいか手を出しあぐねている。

 

 そんな中、今日俺に担任の先生からクラスの人に提出されたノートを返すように頼まれた。

 なんでぼっちで人との交流のない俺に頼むんですかね……。クラスの奴らの名前も席の場所も知らないんですが、と気分が沈むも、教卓に置いてある席ごとに名前が書いてある紙があるので、なんとか事なきを得た。

 

 が、問題は件のあいつだ。

「名瀬夭歌」

 異常なまでの迫害を受けている生徒。

 一応、ノートを提出していたのか最後の一冊は彼女の分だ。

 少し戸惑ってしまうが、先ず俺はあいつと話したことも無い。だから当然あいつのことを何も知らない。いじめられてるという情報だけで、彼女の人となりを決めつけて仕事を放棄し、ノートを返さないという訳にはいかない。

(まぁ基本クラスの大半の奴らとは話さないんだが)

 

 ……よし、行くか。

 

 名瀬の席へと向かい、ノートを机に置く。

 

「……これ、返却されたノート。置いとくな」

 

「あ?……あぁそっか。そういや提出したっけな。にしても提出したっきり返ってこないのが殆どだから新鮮な気持ちだわ」

 

 え、ヤバイどうしよう喋り掛けられた。

 マズイ、今まで一言言ってノート置いて次の席へって感じでやってきたから対応に困る。

 しかも普段学校であんま話さないから緊張する。

 ま、まぁ、相手は美少女だが何故か紙袋を被っていて顔は見えない。

 まだなんとかなる。多分。

 

「そ、そりゃ大変だにゃ……だな。いつも買い直してるのか?」

 

 流石俺というべきか。案の定噛んでしまった。いやまぁ、ほら。俺って期待を裏切らないスタイルだから。

 

「まーな。にしてもお前噛んだだろ。何食わぬ顔でやり過ごそうとしてるけどよ」

 

「うっ……仕方ねぇだろ。俺はぼっちだから基本学校じゃ話すことも無いんだよ。慣れてないんだ」

 

「ぼっち……?あぁ……その目、成る程な」

 

「今何を納得したんですかね……」

 

「俺の目も死んでて大概だが、お前の目は死ぬを通り越して腐ってるからな」

 

 俺以上に目がアレな奴は初めて見たぜと笑う目の前の紙袋。

 そうですか、俺の腐った目でご機嫌が取れたなら結構なことですお嬢様…………くっ

 

「言っちゃったよこの人……人が気にしてることを……」

 

「それにしても……俺のノートは毎回返ってこねーんだよな。途中で捨てられるから。なんでお前はわざわざ律儀に返したんだ?下手したらお前までいじめられるぜ?」

 

「俺は専業主夫志望だが、一度受けた仕事は最後までやる。それに俺は言った通りぼっちだ。これ以上悪化しようが別に構わん」

 

「ふーん、成る程な。てかよー、んな堂々と専業主夫になりたいっていうかね普通。まぁだが、なんとなくお前の人となりが掴めてきたような気がするぜ」

 

 えっ、これだけの会話で?何この子怖い。

 ただ俺は自分の夢を語っただけなのに。

 というかいいだろ専業主夫。

 親父のような社畜になんて絶対になってたまるか。

 

「なんだよ、変わってる奴だとでも言いたいのか?

 生憎俺は親父を見て働く意欲とか希望とかとうの昔に捨ててんだよ。絶対に俺は働かないぞ。志望する職場は自宅、ただ一つだ」

 

「目だけじゃなくて、考え方まで腐ってやがるとは……こんな変わった奴がいたなんてな」

 

「変わってて何が悪い。変わってる、強いては特殊な奴だと俺自身自覚しているが、英語でいえばスペシャルだぞ。なんか優れてるっぽく聞こえるだろ」

 

 よって専業主夫を志望する俺は優れており、間違ってない。むしろ正しいまである、と屁理屈を捏ねる。

 

「どんな無理矢理な証明だよ。整合性もへったくれもねーぜ」

 

「……うっせ。とにかくノート置いとくからな。もう休み時間も終わるし戻るわ」

 

「あぁ」

 

(仕事とはいえ俺に近づいてくるとは変わった奴も居たもんだ。目も考えも常人のそれとは違うし、なによりあいつからは不幸な匂いもしやがる。少し注目しとくか)

 

 それにしても、と

 

「久々に誰かと喋ったな」

 

 ぽつりと心の内をこぼすのであった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 それからというもの、俺が名瀬と喋っているのを見た先生が何を勘違いしたか席を隣に固定しやがった。

 どんな横暴なんだよ……。しかも返却物を返す係も俺に固定されたし仕事が増えるし……。もうやだ働きたくない一生家で小町にお世話になりたい。

 そう思考に耽っていると、

 

「おいハッちゃん、昨日の仮面ライダー観たか?」

 

 隣の名瀬が喋りかけて来た。

 

「ん?あぁ、なんだっけな……確かジオウだったか?新しく始まったやつ」

 

「おぉそーだ。この作品は過去のライダーも出るらしくてなー……」

 

 それから名瀬による仮面ライダートークが炸裂し、時折相槌をうちながらも聞くことに。

 プリキュアは毎週観てるんだがな…その後の仮面ライダーは観てなかったから名瀬に時折こうして色々と教えてもらってるわけだ。

 

 〜〜回想〜〜

 

『あぁ!?てめェプリキュアは観といてその後のライダーは観ないで二度寝するとはどういう了見だ?』

 

『ヒッ!? い、いや小学生以来しばらく観てなかったら、ついていけないんじゃないかってな……』

 

『いいぜ……じゃあ俺が特別レッスンしてやる。放課後俺ん家に来いよ』

 

『は……?名瀬の家に?え、いや、あの俺今日の放課後はアレでアレがアレだからそのな……』

 

『お前がライダー観るんなら俺もプリキュア観てやっていいぜ』

 

『よし来た放課後よろしく頼む』

 

『そーいう変わり身の早いトコ嫌いじゃないぜ』

 

 ニヤリ、と擬音が付くかのような表情を浮かべ言う。

 紙袋なので見えないのだが。

 

 

 

 

 という感じで今に至る。

 

「……い……おい……ハッちゃん聞いてるか?」

 

「ん、あ、あぁ。あれだろ?王蛇が格好いいって話だろ?」

 

「いや、まぁ同意見だが、今はその話じゃねぇよ。

 全く……また考え事に耽って話聞いてなかっただろ?」

 

「……すまん」

 

「まぁ、今に始まったことじゃねぇし、ハッちゃんの癖の様なもんだからな。友達の俺は許してやるよ」

 

「そ、そうか……ありがとな」

 

 そう、驚くことに俺に友達が出来たのだ。

 名瀬と隣の席になり、色々と喋ってる内に。

 年齢=友達居ない歴を貫いていた俺がまさかな……。

 

 30歳までこの記録を更新し続け、魔法使いになるのかと思っていたが……。いや、違うか。童貞が魔法使いになるんだったな確か。じゃあぼっちは一体なんになるんだ?

 童貞が魔法使いということは、ぼっちはライダーにでもなるのか?

 なんだそれ、つまり名瀬はもうライダーにはなれん訳か。

 だがしかし、残念だったな。対して俺はまだ魔法使いになれる可能性からプリキュアになれる確率も存在する。

 憧れの存在になれるという可能性は俺の方に分がある。

 ふっ、普段成績で負けっ放しの俺だが……負けてばかりじゃなかったようだな。

 

 まぁ、そんな訳で名瀬と友達になるとはな……。

 こんなことになるとは予想すらつかんかったが……まぁ、今の関係には満足している。

 趣味も理解してくれるしな。

 因みにハッちゃんというのは、お分かりだろうが俺のあだ名である。

 

 〜〜回想〜〜

 

『なぁ、ハッちゃん。この本なんだがな……』

 

『ん?あぁ……って待て。なんだよハッちゃんって』

 

『ハッちゃんはハッちゃんだろーが。友達にあだ名付けて悪いか?』

 

『何処の優しい人造人間だよ……え?俺達って友達だったのか?友達居たことないから気づかんかった』

 

『一々自虐挟まねぇとならねぇのかハッちゃんは……。

 まぁいい。学校で喋るし、放課後もつるんだりするだろ?なら、もう友達ってことでいーんじゃねーか?』

 

 そうか、そう考えると……確かに友達っぽいな。

 ふむ……。

 

『そ、そうか。じゃあそれでいい』

 

『おう。しかし、お互いに初めての友達か……。悪くねぇ響きだ』

 

『そうだな。まぁ、よろしく頼む』

 

 正直、面と向かって友達だどーのと恥ずかしいが……、まぁ、こんなのも悪くないか、と温かい気持ちに浸っていると

 

『おう。けどそっかー、これで俺の処女とハッちゃんの童貞が同時に散ったって訳だなー。俺もう魔法使いになれないー。やーん運命的♡』

 

『ブッッ、あ゛う゛ッ、ゴホッッ!!お、お前何言っちゃってんの!?言い方!!』

 

『ハハッ、なんだよハッちゃん。軽いジョークってやつだろ?』

 

『全然軽くねぇよ……』

 

 おい、なんか教室の人がこっち見てぶつぶつ言ってるんだが……絶対勘違いされてるじゃねぇか……。

 

 

 

 

 

「って言ってるそばから……。またなんか考えてんだろ?」

 

「はっ、あぁ、すまん。ついな……」

 

「いいけどよ。っと、そろそろ授業だな」

 

「1時間目は、くっ!数学……!!」

 

「んな親の仇を見るような目で教科書睨むなよ……。

 また教えてやるからよ」

 

「すまん助かる」

 

 そう、名瀬には数学を教えてもらっているのだ。

 テスト前にはよく一緒に勉強会という名の家庭教師をやってもらっており、お陰で数学は赤点を無事回避出来ている。この前なんか50点を取れたくらいだ。

 ……天才の名瀬に教えてもらっていて50点かよと思うかもしれないが、俺の数学への理解は絶望的だ。

 それこそ世界の修正力でも働いてんのかってくらい異常なまでに数学が分からない。

 マジで俺が何したって言うんだ……。

 

 そんなこんなで授業が終わり昼休みとなって昼食の時間に。

 

「おいハッちゃんよ。今日もパンとそのクソ甘いコーヒーか?」

 

「ん?あぁ、まぁな。なんだ、MAXコーヒーが欲しいのか?欲しいならやるぞ。いやむしろ貰ってくれ。一回飲むだけでいいから。試して合わなかったら返してくれていいからな。それに嵌ったら癖になるぞ。現に俺はなっちまって、こうやって定期的に摂取しないといけない身体になっちまったしな。まぁ、モノは試しってやつだ。この甘みの虜にきっとなる。それに普段から頭を使ってる名瀬には丁度いいと思ってたんだよな。という訳で遠慮しなくていいぞ」

 

 千葉県民のソウルドリンクを広めるチャンスかと俺は念の為に持ってきている布教用のMAXコーヒーを名瀬にこれでもかと勧める。

 

「い、いや、いいわ……前に興味本位で飲んだけど俺には合わなかったからな」

 

(この必死さは流石に怖えーんだよな)

 

「む、そうか……。まぁ気が変わったら言ってくれ」

 

「了解だ。話は逸れたが、ハッちゃん今日もパンなんだな?」

 

「まぁ、この方が楽だしな。弁当は小町に負担が掛かるからアレだし……っておい、え?なに……?名瀬さん……?どうなされました……?」

 

「……ハッチゃんテメェーよぉ、ぼっちっつってたよなー?

 それとも彼女はいるけど、友達がいないからぼっちですってか?まぁそれよりよー小町って何処のどいつだ?教えてくれよ」

 

 紙袋越しにでも分かるこの威圧感……!!

 ってか紙袋若干揺れてね?ゆらゆらと揺れてない?

 名瀬の強烈な威圧に紙袋が取れそうになってる!?

 

 こ、怖ェー!!!や、やばい……!

 あいつの今の目ヤバイぞ!

 いつもの目つきの悪さと今の闇を体現したかのような真っ黒な瞳に、俺の身体がガクガク震える。

 MAXコーヒーを握っている手が震えて若干溢れてる……!!

 

「え、いや、えっと小町は俺の妹だ、です。はい……」

 

 あまりの威圧に思わず敬語が出てしまった……。

 

 俺の返答を聞くと、威圧感は無くなり

 

「そうか、妹ちゃんか。安心した」

 

「お、おう。そうなんだよ……」

 

「それよりハッチゃんよ」

 

「な、なんでしょう!?」

 

「そう身構えんなよ、悪かったって。それで要件なんだが……俺昼食の弁当は自分で作ってんだよ」

 

「そ、そうなのか。てっきり親に作って貰ってんのかと」

 

「……まぁ、俺一人暮らしだからな。それでよ、一人分の弁当も二人分のも手間があんまし変わらねーんだわ」

 

「まぁ、よく聞くな」

 

「でな、もし良かったらな。ハッチゃんの分も作ってやってきてもいいんだぜ?」

 

「いや、気持ちは嬉しいが……。なんか悪いから遠慮しとく」

 

「気にすんなって。ついでだからよ」

 

「いや、だけどな……ヒッ、いや……やっぱり名瀬の弁当食いたいからお願いしたいかなーって」

 

「仕方ねーなー。そこまで言うんだったら作ってきてやるよ。楽しみに待っとけ」

 

「お、おう。助かるわ」

 

 

 

 

 

 まぁ、そんな感じがそんなわけでそんな風に俺と名瀬は友達となりスクールライフを共に歩むのであった。




 という感じで久しぶりに名瀬師匠のこと思い出したら、あれヒッキーと絡ませたら面白そうじゃね?って思ったので書いちゃいました。
 続きも書きたいんですけど、いかんせん原作持ってなくて情報が……。なんで、とりあえず原作買って読み進めてみて、ある程度彼女のキャラを掴んで、あの世界のことを理解したら続き書こうかなって思ってます。



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第2箱 「抜かりないな……」

早くも感想頂き嬉しすぎて意欲が高まったので、続き書いちゃいました。



「ほーれハッチゃん。名瀬ちゃん特製の弁当だ」

 

「お、おう……ありがとな」

 

 前日のやりとりから、名瀬に弁当を作って貰うことになったのだが……なにこの子女子力高い。

 いや、前々から一緒に昼食を食べてて名瀬の弁当は知っているんだが……こうやって自分の前に置かれてまじまじと見てみると、凄いなと改めて思う。

 

 くっ、専業主夫志望の俺の立場が無い!

 小町に料理を任せっきりになってたのが裏目に出たようだ……くそっ!とてもじゃないが小学6年生レベルの俺の調理スキルじゃ太刀打ちできん!!

 

 しかしこいつ色々と凄いよな……。

 いや、だってよ。某ゲーム4のチェンソー男を思わせる紙袋被った奴がタコさんウインナー入った弁当作ってくるとか、色々と破壊力が凄いんだが……。

 しかもしっかりと味は美味いし、野菜も満遍なく入ってるし抜かりない。

 チェンソー男もこれくらいの萌えるギャップがあれば更に人気出るんじゃねぇかな。まぁ、バイオあんまりやったことないから知らんけど。

 

「おっ、この卵焼き甘いな。俺の好きな味だ」

 

「ハッチゃん何時もあの甘いコーヒー愛飲してんだろ?

 だから、甘い方がいいかなってな」

 

 しかもこの気遣いの出来る面というね。

 まぁ確かに俺は出汁巻きでも伊達巻でも、基本どの味付けの卵焼きでも好物だが、一番好きなのは甘いやつだ。

 特に伊達巻は好きだな。

 正月におせち食う時は真っ先に手を伸ばすまである。

 そんで、小町と俺でこぞって食うから、一番最初に無くなるんだよな。

 

 話を戻すが、ホントすげぇなコイツ。

 女子力あるし気遣い出来るし頭良いし、ホントなんだコイツおかんか?おかん属性も付いてるのか?

 

「おぉ、そっか。あんがとよ……っておい、なんだよこれ……」

 

「?ししゃもだが?」

 

 なにを当たり前のことを、と首を傾げている。

 ……紙袋が無かったらきっと可愛いかったんだろう……。

 

「俺の目が腐っていることを暗に示してるんですかね……」

 

「あー……悪かったな。そうだよな、流石にハッちゃんでも共食いは気が引けるよな。配慮が足りなかったぜ」

 

「配慮する部分が違ェよ」

 

 こいつ本当にこういう部分も抜かりないな……。

 

 

 

「ごちそーさん」

 

「おう、お粗末様だ」

 

 いやしかし美味かったな。

 普段から自分で弁当作ってるだけあって、どれも安定した味をしていた。

 ふざけて入れたであろうししゃもも、他のおかずとの食べ合わせのバランスも考えられていたし完璧だった。

 しかし、トマトさえ入ってなかったら100点満点と言えたんだがな。

 まぁだが、作って貰ってる立場でそんなことは失礼で言えない。アレルギーとかなら仕方ないかもしれんが、人が作ってくれた食べ物を蔑ろに扱うのは許されんからな。

 そんな奴はクズだとはっきり言える。

 まぁ、トマトは無理だけど。

 

「で、どうだったよ?」

 

 心なしか名瀬がソワソワして聞いてくる。

 可愛いなこいつ。いつもの態度からのギャップが凄い。

 マジでなんでチェンソー男フォームなんだよコイツ。

 

「普通に美味かったぞ」

 

「そ、そうか……。そりゃあ良かった」

 

「あ、弁当箱は洗って返すから悪いが明日まで待って欲しいんだが、いいか?」

 

「ん?いやいいよ。明日も作ってきてやるし。それにどーだ?なんかリクエストとかあるか?」

 

「いや流石にそうはいかんだろ。今日ので十分「なんかリクエストとかあるか?」……」

 

「いや、だからな。何回もお前に世話かける訳には「なんかリクエストとかあるか?」……」

 

 壊れたラジオかよコイツ……。

 

「はっきり言うが、流石に遠慮させ「ん゛?」……ハンバーグ入れて下さい」

 

「おう、了解だ」

 

 声はいつもより明るかったが、何か圧力を感じた。

 それに加えて身体に刺さる威圧感と、眼力が凄い。あと怖い。

 なんだろうな……未来の俺も名瀬には逆らえんような、そんな気がしたが気のせいだろうか。




あ、今更ですが一応この世界は「めだかボックス」の世界です。ですんで、「俺ガイル」の登場キャラの一部が出なかったり、もしくは八幡以外出なかったりって可能性もあります。


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第3箱 「それも礼儀だよな」

本文の前に1つ報告をば……。
予想以上に反響があってビックリしてます((((;゚Д゚))))
皆名瀬ちゃんが好きなんだなってよく分かりました。
同士がこんなにもたくさん居て私は嬉しい……(長髪赤髪騎士)

えっと、ですけどね、楽しみにして下さってる読者様には申し訳ないんですが、作者は何分いい加減な性格でして、どんなことよりも自分を優先するアレな性格で完全に自分本位な奴です。
ですので、更新が半年後だったり、逆に週一だったりと、安定しないかもです。
こんなどうしようもない野郎で申し訳ありませんが、どうかご了承下さいませm(_ _)m

では第3話です!
湯船に浸かってボーッとしてたら、ネタが浮かんだんで書きました!
よければ読んでやってください!


「おーしお昼休みだ。って訳でハッちゃん、今日の分の弁当な」

 

「ん、サンキュな。そうだ……名瀬、手出して貰っていいか?」

 

「なんだ?まぁいいけどよ」

 

 ちゃりん、と名瀬の手にお金を置く。

 

「日頃俺が昼飯用にと、母ちゃんから貰ってる金だ」

 

「いや……いいよこんなもん。俺金なら困ってねーし」

 

「悪いな……生憎、俺は養われる気はあるが、施しを受ける気はない。よって、弁当分の金は払わさせてくれ」

 

「また変な信条が出やがったな……律儀っつーかなんというか。まぁ、こんな時のハッちゃん頑固だからな。仕方ねぇ、それが気掛かりってんなら受け取っておくよ」

 

「おう」

 

「んじゃ食べよーぜ」

 

 ─

 ──

 ───

 

 弁当を食べている最中、ふと名瀬が口を開く。

 

「そーいやよー、明日午前授業だよなー」

 

「そういえばそうだな。職員会議で早く終わるんだったか」

 

 そう、明日は午前授業で早く帰れるのだ。

 なんと素晴らしいことだろう。

 一日全休というのも有り難みはあるのだが、俺は午前授業も好きだ。

 何時もとは違い、昼まで我慢すれば帰れると思うと、頑張れるし気分も上がる。

 それとよく分からんがとにかくワクワクする。

 

 さらに加えて明日は金曜日ときた。つまり三連休だ。

 もう何も言うまい。勝ったな。

 

 だが、さらにさらにと加えると、どうやら小町の通ってる中学でも同じらしい。

 昼まで頑張れば直ぐに小町の下へと帰れる……明日の俺は無敵と言ってもいいだろう。

 

 撮り溜めてたアニメの一気見でもするかな、と予定を立てていると

 

「明日さハッちゃんの家行っていいか?」

 

「……なんで?」

 

「だって午前授業の日だろ?明日は生憎早く帰ってもやることなくてなー。暇だから遊ぼうぜ」

 

「遊ぶ……か」

 

『友達と遊ぶ』

 それは非常に広義的な意味を持つ言葉だ。

 例えば小学生なら、公園でサッカーなどして駆け回ったり、意味もなく砂場で綺麗な泥団子を作ったり、友達の家に行きゲームをしたり、プール行ったり、ポケモ○の映画観に行ったり、様々な意味を孕んでいる。

 そうやって暇な時間を潰すべく、取り敢えず何かしら遊びたいという理由で、案外それ程まで仲良くない者とでも遊んだりするものだ。

 

 しかし、ある時期を境に遊ぶ友達を選抜し始める。

 各々の中でのふるいにかけられ厳選されたメンバー同士で遊ぶようになるものだ。

 仮に気に入らない奴がいれば、予定を改める振りをして裏で新しいLI○Eグループを作り、そいつを排除した遊びの計画が立てられる。

 

 かくいう俺もそんな例に漏れず、ふるいにかけられて排斥された内の一人である。

 小学生までは何かと、まぁ偶には遊びに誘われたりしていたのだが、今ではそんなことは全くない。

 お陰で年がら年中オールフリーだ。

 まぁ、一人が嫌って訳じゃないんだがな。

 むしろ好きだし。

 

 そして、現在。

 まさか遊びに誘われることになろうとは……。

 マジで一体何年振りのことだろうか。

 

「……そうだな、明日はアレで」

 

「アレがアレだからって訳だな。じゃあ何時にするよ?直で行っても大丈夫か?」

 

 先を読まれた……だと。

 コイツ……俺の扱いに慣れてきやがったな。

 

「……構わんよ、うん。それで」

 

「よし、んじゃ明日はよろしくな」

 

 そうして、明日の予定は決まってしまった訳である。

 ……文ストは土曜日にでも観るか。

 

 ─

 ──

 ───

 

 

 という訳で、当日。

 

「お邪魔しまーす」

 

「ど、どうぞ」

 

 我が家にやって来た名瀬であった。

 いや、ていうか緊張するな。

 人を家に上げるなんざ、マジで久し振りすぎるんだが。

 具体的には小学3年生の時以来。

 あの日は俺ん家のwiiで遊んだんだっけな。

 そしてひたすらスマ○ラやったら帰っていった。どうやらその後、公園に遊びに行ったらしい。俺はというと、「じゃ、俺達公園行くから、バイバイひきがや!」と言われて、付いて行くのもアレだったので空気の読める俺は「う、うん。また来てね!」と精一杯の笑顔で見送った。

 因みに次は無かった。

 

 おい、あいつら只俺ん家にゲームしに来ただけじゃねぇか。

 くそっ、碌な思い出じゃなかった。

 

「じゃあ取り敢えず先行っといて貰っていいか?階段上がって手前が俺の部屋だから」

 

「おう、了解」

 

 さて、飲み物でも見繕ってくるかとリビングに向かおうとした時

 

「お兄ちゃんおかえりーーーって……?え?」

 

 見計らったかのようなタイミングで小町がリビングの扉を開け出て来て、名瀬を見て固まっている。

 

「え、お兄ちゃん?この人どなた?というか何故に紙袋を?」

 

 しまった……うっかりして小町に連絡入れるの忘れてた。

 

「あぁ、えっとな……」

 

 どう説明するかと言葉を探していると

 

「おぉ、これがハッちゃんの妹か。なんとなく似てるな。目以外」

 

「うるせぇ、ほっとけ。この目は後天的なんだよ」

 

「まぁ、そんなことは置いといてだ。

 お邪魔します妹ちゃん。クラスメイトの名瀬夭歌って言います」

 

「あ、はい。なるほど兄のクラスメイトですか。

 何時も兄がお世話になってます。はい」

 

 心なしか小町が怯えてるように見えるんだが……あれか?

 普段人を家に招かない兄が得体の知れない紙袋被った奴を連れて来たからか?

 

「あー、なんか怯えさせちまったかな。まぁ、無理も無いよな。こんな紙袋被った得体の知らない奴に怯えんなって方がおかしい」

 

 小町の異変に気付いた名瀬が、顎に手を置きなにやら考えている。

 

「まぁ、自分家に得体の知れない奴を入れる訳にも行かねぇもんな。……気は進まねぇが。他所様の家に上がらせてもらうんだ。それも礼儀だよな」

 

 そう呟くと名瀬は紙袋を外し、素顔を露わにした。

 相変わらず綺麗な顔してんなコイツ。目つき悪いけど。

 

 するとそれを見た小町はというと、ポカーンと音でもするかのように、微動だにせず停止してしまった。

 

 暫くすると再起動したのか、身体をぶるぶると震わせて俺の許へと詰め寄ってくる。

 

「お、おおおおおおおおに、おにおに鬼いちゃん!!」

 

「おい落ち着け、西尾違いだ。それに俺をあんな変態と一緒にすんじゃねぇよ。精々被ってんのはアホ毛だけだ。そして俺はお前のお兄ちゃんだ」

 

「あちゃーごめん噛んじゃった」

 

「……わざとぽかった気もするがな」

 

「お兄ちゃーんだーい好き!」

 

「強引に誤魔化しやがったコイツ……だが可愛いから許す!!」

 

「仲良いなお前ら」

 

 名瀬が呆れたような目でこちらを見てくる。

 いや、そんなこと言われてもだな……千葉の兄弟なんだから当然だろうが。

 むしろまだまだ俺は仲良くなりたいと思ってるぞ。

 常日頃から小町の好感度を高め、一生面倒見てもらおうと画策しているくらいだ。

 

 というかさ!と言い、目をくわっ!と見開き改めて詰め寄って来る小町。

 勢いよく迫り来る妹にどうどう、と落ち着くよう促す。

 

「なにあの美人さん!そんじょそこらの人とは比べ物にならないよあれ!お兄ちゃん一体何処で引っ掛けてきたのさ!?」

 

「お、落ち着けよ……ってか引っ掛けたって人聞き悪いな」

 

「だって普段人と関わり持とうとしないお兄ちゃんがあんな美人さんと関わり持つ訳ないじゃん」

 

「うっ……、それを言われると痛いな」

 

 だけどな、と続ける。

 

「……あれだ。あいつは俺の、クラスの友達だよ」

 

 恥ずかしさから目を横に逸らし言う。

 

「お兄ちゃんが…友達を……作っただと!?なにそれ聞いてない」

 

「悪い……正直気恥ずかしくてな、言ってなかったわ」

 

「はぁ……全くお兄ちゃんはもう」

 

 仕方ないなコイツはという目で俺を見る小町に、なんとも居た堪れない気持ちで頬をかく。

 それを見た小町は一つ息を吐き、今度はその目の色を穏やかなものへと変え

 

「でも……よかったね、お兄ちゃん。大切にしなよ」

 

「おう……」

 

 今度は気恥ずかしさを感じ、再度目を逸らし言葉を返すのであった。



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第4箱 「GO!!」

 一応今のところの名瀬ちゃんのヒッキーへの想いは友達として好きって感じです。
 恋愛的にはまだ見てないです。
(それで相手の弁当作ってくるか?って感じですが笑)
 まぁ、そんな感じでお願いします。

 あとヒッキーと名瀬ちゃんは中3、小町は中1です。
 小町は違う中学に通っていて、名瀬ちゃんのことは知らなかったってことでお願いします。

では第4話です!
 クウガ観てたらネタが浮かんだんで書きました!
 楽しんで頂ければ幸いです!


「ではでは名瀬さん。ゆっくりしていってくださいね〜♪」

 

「あぁ、ありがとな」

 

 当初の怯えは消えたのか、名瀬に対して和やかな笑みを浮かべている。

 

「いえいえ〜!あ、あとお兄ちゃんも!小町が後で飲み物とか持って行くから上がっといていいよー」

 

「え、いやいいよ悪いし。一応俺が招いたんだからそういのは俺がやらなきゃだな」

 

「もー……こういう時は律儀なんだから。

 まぁいいじゃん。お兄ちゃんが友達を招くなんてビッグイベントなんだから小町にも張り切らせてよ」

 

「俺が友達を招くことがそんなにデカイ事態ですか……いやまぁ、否定出来んが」

 

「むしろ異常事態って言えるよね」

 

「うるせぇ、ほっとけ」

 

 笑みを浮かべながらも毒づく妹に軽くデコピンをお見舞いしてやる。小町の方はというと「キャー」と目をバッテンにして言いこれまた無邪気に笑っている。

 

 可愛いなコイツ。いやホントマジで俺の妹が可愛いすぎる。こうも良く反応してくれると嬉しくて仕方がない。

 嬉しすぎて妹とじゃれている瞬間が俺の生きている意味といっても過言では無いように思える。

 過言では無いが(断言)

 

 だから小町に思春期が来て「なに?喋りかけないでくんない?」とか言われたら俺は軽く死ねるだろう。

 

 

「まぁこんな時の小町は頑固だからな。お言葉に甘えて任せることにするわ」

 

「うん!任せて!」

 

 そう言い、ぱあっと明るい笑みを浮かべる妹に、ありがとなと短く返し二階に上がるのだった。

 

 

 

 

 そして俺の部屋に名瀬を招いたはいいが

 

「……で、部屋に招いたはいいが……こっから何すんだ?」

 

 なんせ自分の部屋に人を招くなんざ、久しぶり過ぎてどうしていいか分からん。

 

「そーだなー……まぁ別に何もしなくてもいいんじゃねーの?適当に駄弁って、適当になんか観て……そんなもんじゃねーか?」

 

 俺も知らねーけどな、と言葉を続けベットにダイブする名瀬。

 遠慮無ぇなコイツ。

 

「まぁそんなもんか」

 

「そんなもんだろ」

 

 お互いにぼっちで正解は分からないが、まぁ、別に思い思いに過ごせばいいか。

 

「おっ、前貸したクウガのブルーレイじゃん。観てくれてるようで嬉しいぜ」

 

「おう、まだ途中だけどな」

 

 名瀬に取り敢えず平成1作目から観てみなと言われ借り受けたのである。

 そんな訳で視聴してみたんだが、予想してた以上にストーリーが凝ってて飽きもこず楽しんで観れた。

 昨晩、取り敢えず1話だけという思いで視聴したんだが、話に引き込まれちまって思わず8話まで観てしまったんだよな。続きが気になったが眠くなったので床に就いたけど。

 

 あとあれだな。ペガサスフォームが一番印象に残ったな。

 特に周囲に敏感な部分。一番共感できる形態だった。

 

 最初あの形態になった際は酷く錯乱して思わず地面に突っ伏して苦しんでたシーンがあったが、よく分かるぞ。俺も聞こえてくる『クスクス ぼっちなんだ』って周囲の声に錯乱して机に突っ伏しちまったことあるからな。

 ……クウガみてぇに発信源の奴狙撃しちゃだめかな?邪悪なる者を疾風の如く射抜きたいんだが。

 

 だがまぁ、嬉しかったな。少なからず共通点があったんだから(ありません)

 ってことは俺にも伝説の戦士の素質あるんじゃねぇの?グロンギ相手にも戦える可能性がワンチャンあるな。まぁ戦えても秒殺される未来しか見えんが。

 

「にしてもよー、本当に妹と仲がいいんだな。いや、仲がいいっていうか、ぶっちゃけ良すぎて気持ち悪いレベルだがよ」

 

少し頬を引きつらせ苦笑しつつ言う名瀬。

 

「素直に喜んで良いのか判断しかねるが……まぁ妹との仲が傍から見ても良好だと前向きに受け取っておこう。

 まぁ、それにうちの妹はそんじょそこらの妹とは違うからな。可愛くて家事が出来てノリも良く、俺のことを良く理解していてくれて、更に超かわいい」

 

「げっ、出たよハッちゃんのシスコンが……。ってかなんだろーな。シスコンって聞くとなんか引っかかるんだよな……まぁ別にいいか」

 

 引っかかりを頭の隅に追いやるように頭を振るう。

 まさか実の兄が目の前の男以上のシスコンで変態だとは思いもよらないだろう。

 

「ん?なぁ、この枕の横にある漫画どんなやつなんだ?」

 

「あぁ、そういや直すの忘れてたか。その「五等分の花嫁」っていうのは最近アニメもやってた人気のラブコメ漫画でな。まぁ簡単に言えば、卒業がヤバいくらいの成績の5姉妹がいるんだが、同学年の主人公がそいつらの家庭教師として雇われてな。苦労しながらも面倒を焼いて、色々と接していく内に……って感じだ」

 

「はーん、タイトルからなんとなく察してたがやっぱラブコメか。しかも5姉妹って……確かに顔のパーツは一緒だがよ」

 

「あんまラブコメとか見ないのか?」

 

「んーあんま興味ねぇからな。ってか俺がラブコメ作品嗜んでるとかギャップもいいぐらいだろ」

 

「まぁ意外かもな」

 

「だろ?」

 

 名瀬のいつもの雰囲気というかキャラとかを考えると、確かにそういった類の作品は触れて無さそうではあるな。

 まぁ別にキャラとか気にせず、自分の好きなもんに触れればいいんだが、目の前の彼女の様子から察するに本気で興味が無いように思える。

 

「ちなみにこの5人の中で誰がハッちゃんの推しなんだ?」

 

「うっ、そうだな……」

 

 正直悩むな。

 5人全員魅力的なヒロインで「どれが推しか」という質問には答えづらい。

 

 一花は普段の余裕ある小悪魔的なお姉さんキャラからの照れ顔やらのギャップと、最近は主人公への独占欲から感じる強い愛情が堪らん。

 個人的に良いキャラしてて好きだ。

 

 二乃といえば当初はツンの部分が際立っていたが、最近は色々あってデレ始め読者を殺しに掛かっている。

 こいつも好きなキャラだな。

 

 三玖は序盤から主人公に心を寄せて様々なアプローチを仕掛けたり、主人公に好きになって貰う自分になるという熱い想いで苦手な料理を頑張ったりと、思わず応援したくなるんだよな。クールな外見とは裏腹に熱い想いを抱えてて良いキャラしてて好きだ。

 

 四葉は見てるだけで癒されるな。(何故か見知らぬあざとい後輩を感じるんだがきっと気のせいだろう)

 何が癒されるかというと、まずその笑顔に尽きる。四葉の笑顔は万民を救済するべく天から遣わされた天使の如く、視認した者を浄化する作用を持っている。かくいう俺も週一のアニメ放送で四葉を視界に収めることでこの汚れきった心を清めて日々を頑張ってきた。

 四葉の温かいあの笑顔を見て救われたという人間は数知れない。思わず守ってあげたくなるような、四葉の為ならば俺はもしかしたら魔王でも大天使でも世界でも相手取って倒せるかもしれない。

 そう、つまり四葉は天使なのだ。いや、むしろ天使でも足りない。四葉の存在は並みの天使とは比べられないと言ってもいい。だからこれからは四葉を大天使と呼んで皆で崇拝しよう!

 

 すまんが まだまだ続くぞ。というか大天使の魅力を語るのにハーメルンの文字数制限自体足りないんだよな……。まぁ、しかしこの小説の進行を遅らす訳にもいかんし……仕方ないから簡潔に纏めておくとする。

 

 続けるが、大天使にも笑顔の種類がある。前述した浄化の笑顔がまず一つ。そして2つ目はというと、悪巧みでもするかのような笑顔だ(悪巧みしたことはないと思うが)。ニシシと擬音でも付くかのような笑顔は変化球となり、我々読者は危うく死に掛けること度々である。

 そう、つまり何が言いたいか察していると思うが、敢えて言わせて貰うと四葉には悪魔的要素も入ってるということになる。

 つまり、天使と悪魔を内包する四葉の存在は、言葉で表すこと自体が恐れ多い。だがしかし、偉大なる存在として敢えて名を付けるというならば、もはや神としか言い表す他あるまい。

 以上のことにより、全人類は四葉を神として讃え敬うべきであり、四葉教の迅速なる設立を願う。

 

 さて、では最後にちょっとした彼女の説明をば。

 彼女は困ってる人を放って置けないお人好しであり、主人公のことも当初は一番支えていたと言ってもいい程ある意味ヒロイン力は高い。

 それになんか抱えてそうで放って置けない。

 という訳で俺の中で癒しキャラとして確立してるので好きなキャラだな。

 あとひーきがーやさーんって呼んで貰いたいです。

 

 五月はいい子だよな。母親に影響されたのか真面目でしっかり者な性格で。だが悲しいことに、そんな真面目に取り組んでいるのに比例せず、成績は伸び悩んでいるんだが……しかし、そういう所がまた応援したくなってくるんだよな。

 そして食いしん坊キャラ。いっぱい食べる君が好きと言うが、五月はそれに当てはまるだろう。偶に流石に食い過ぎだろと思われる発言もあるが、それはそれで笑えるので良いと思う。しかもそれであのスタイルをキープしてんだから凄いよなと思う。

 更に人のことをよく見ており、主人公への異変にもいち早く気づいてあげられる子でもある。

 という訳で凄くいい子なのだ。好き。

 

 ……振り返ってみると全員好きで推しが選べないんだが……。

 だがしかし、敢えて一人と言うなら──

 

「正直全員好きで悩むが……このクールで大人しそうな外見の子いるだろ。三玖っていうんだがな。敢えて一人を言うならこの子だな」

 

「ほーん、こういうクールっぽいのがタイプってわけか?」

 

「いや、そういう訳でも無いんだがな。理由としちゃ、主人公に好意を自覚したのが早かったからデレるシーンが多くて可愛くてな……それに外見とは裏腹に熱い想い持って頑張ってるし、なにかと応援したくなる子なんだよ」

 

「成る程ね、つまり外見はあんまし重要視してねぇってことか」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「ふーん……そっか」

 

 個人的に一番応援したくなる子が三玖だったので取り敢えずは推しということにしておいた。

 ──個性豊かな五つ子達と主人公が織りなすラブコメディ「五等分の花嫁」。主人公に好感が持てる部分も多々あり気持ちよく読めると思う。だから君も読んでみて是非推しを見つけて欲しい。

 

「おっ、よく見たらスマブラあるじゃねぇか。ハッちゃんバトろうぜ」

 

「おぉいいぞ。……普段色々と負けてるからな。今回は勝たせてもらう」

 

「ハハ!いいねぇーそうこなくっちゃなぁ。言っとくが俺のガノンは手強いぜ?」

 

 敗ける気など無いかの様にニィッと擬音が付くかのようなクールな笑みで相対する名瀬。

 それに対して俺も同じように

 

「ふっ、上等だ。俺のトゥーンリンクで返り討ちにしてやるよ」

 

 子供の頃「風のタクト」やってたから愛着あるんだよな。それに猫目で表情豊かで可愛いし、キリッとした表情は格好良いしな。まぁそんな思い出補正やらも相まって俺の中の勇者と言ったらこの小さい緑の剣士だ。

 なんの因果か分からんが、名瀬が使ってくるのは魔王だからな。この勝負は勝ちたい所である。

 

「この2人が闘うんだ。ゼルダ関連のステージの方が燃えるよなー」

 

「そうだな……じゃあ神殿でどうだ?」

 

「おっいいねー。其処で闘ろうぜ」

 

「後の設定はどうする?」

 

「ストック3でアイテムはスマッシュボールでどうだ?」

 

「おう、じゃあそれでいくか」

 

 俺も名瀬の提案したルール派なので丁度良かったと言える。

 

「よし、このローディングが終わればバトルだ。勇者の力をとくと見せてやるよ」

 

「ハハッ、なら俺は勇者に敗ける魔王って定石を覆してやるよ」

 

 お互いに火花を散らしロードが終わるまで待機する。

 そして、

 

『スリー!』

 

「「……!!」」

 

 カウントが始まる。

 ごくり、と喉のなる音がどちらからか聞こえる。

 お互いにこの初回のバトルは勝っておきたいと思っているのであろうか、緊張が伺える。

 

『ツー!』

 

「「……」」

 

 だが、そんな様子も直ぐに消え、お互い戦闘態勢へと入るべく気を鎮める。

 

『ワン!』

 

 そして、その瞳にまるで炎が幻視されるかような熱い闘志を宿し

 

「「『GO!!』」」

 

 彼らは闘いへと臨むのであった。




 恵まれた容姿を気にしてる名瀬ちゃんにその答えはポイント高いよお兄ちゃん!

 それにしても今回「五等分の花嫁」の激しいダイマになってしまった……笑
 ちなみに作者は単行本派です。早く6月にならないかなー!10巻が待ち遠しい!


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第5箱 「また遊ぼうぜ」

ランキングに載っててめちゃくちゃ驚きました((((;゚Д゚))))
ホント凄い嬉しかった……。
読者の皆様本当にありがとうございますm(_ _)m
これからも色んな人に読んで頂けたら嬉しい限りです。


ではでは第5話です!
喫茶店で外の景色観てぬぼーっとしながら、パン食べてたらネタが浮かんだんで書きました!
楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m



「くっ、敗けた……」

 

「ハハ……やるねーハッちゃん。まさか俺のストックを2つも削るとはよー。正直ビックリだ」

 

「お前もな。あんなにも上手く立ち回られちゃあな……」

 

 そう、結果は俺の敗け。

 お互いストックを1まで減らしての接戦の末……名瀬の勝利となった訳だ。

 

 ガノンは遅緩な動きからすばしっこい動きをする相手には弱く、トゥーンリンクは重量の軽さから高火力の攻撃には弱い。

 

 お互いがお互いの弱点を突くことが出来たこの試合、決着はというと、スマッシュボールを取って気が緩んだ一瞬の隙にガノンにぶっ飛ばされて場外でやられた。

 くっ、惜しかった……あそこで油断してなければ……! 

 

「ふぅーつっかれたー……。にしても何分やってたよ? 結構いってんだろ?」

 

 そう言われ壁に掛けてある時計を確認する。

 14:30。

 確か始めたのが14:10だったから……

 

「……20分」

 

「……ハハまじか。そりゃ疲れる訳だ」

 

 長時間の対戦の疲労により垂れ下がった目をお互いに向け、乾いた笑いを上げる。

 

 すると、背後から

 

「お疲れ様ー二人とも! ささっジュースとお菓子どぞー!」

 

「「!?」」

 

「こ、小町……? いつから?」

 

「2人が対戦してる時に入ったんだけどね。2人ともすっごい集中してたから小町のこと全然気付かないんだもん」

 

 まぁ観てる分には面白そうだったからベッドに座って1人観戦してた訳だけどね。と笑いながら言う小町。

 

「マジか……全然気付かなかったわ」

 

「2人とも目がマジだったからねぇ。しょうがないよ」

 

 どうやらよっぽど集中していたらしい。まぁ一瞬の気の緩みも許されん接戦だったからな。思い返せばテレビにかじりつくようにプレイしてたかもしれん。

 

「やー、けどびっくりしたよ。まさかお兄ちゃんの猫目リンクが敗けちゃうなんてね」

 

「俺も驚いたわ……結構自分の腕には自信あったんだが……まぁ名瀬も相当の手練れだったからな。上には上がいるもんだわ」

 

「おいおいおい、そんなに褒めそやされると照れるねぇー、ったくよぉー……鞄ごそごそ……ほれ小町ちゃんマッカンをやろう」

 

「いや、なんで小町にあげんだよ……流れからして俺だろ」

 

「まーまー、ここはお菓子とか運搬してくれた妹ちゃんへの正当な報酬としてな」

 

「わー名瀬さんありがとうございますっ♪」

 

「てか小町は別にマッカン好きな訳でもないからな……」

 

「えっ、マジか……てっきりハッちゃんがあんなに好きだから家族揃って好きなもんだと」

 

「や、残念ながらな、この味を理解出来るのは俺だけなんだよな……だからさ、なぁ小町、そのマッカン俺に譲ってくんね?」

 

「うわーお兄ちゃん……」

 

「ハッちゃんはマッカン絡むと若干、ってか大分見境なくなっちまうからなぁ……あと目がアレになってるしよ」

 

 怪しいもんキメてる中毒者みてーになってんぞ、という言葉とともに、ビシッ! とデコに一発痛いのを貰い我に帰る。

 

「あだっ! ……って、あー悪い小町」

 

 正気に戻り素直に謝罪すると、小町は呆れた風にやれやれ、といったポーズを取り

 

「まぁ、お兄ちゃんだからね……もう慣れてるよ。なんたって小町はお兄ちゃんの妹だからねー。あっ! 今の小町的にポイント高い!」

 

 良いこと言うのかと思ったが、最後の台詞でプラマイゼロだな。勿体ねぇ……。

 

「最後のがなけりゃな……」

 

「まーまーハッちゃん、マッカンはまだ持ってきてるから欲しけりゃ後でやるよ。元々家にお邪魔させてもらう手土産にと多めに持ってきてるからな」

 

「おおーっ! ありがとうございます名瀬さん! 

……ぶっちゃけ手土産のチョイスがアレかもだけど普段の兄を見てたら……仕方ないのかなぁ

 

 なんか小町がぶつぶつ言ってるが、まぁ置いといて

 

「悪いな、わざわざ気遣わしちまったみたいで」

 

「あー、まぁこんくらい気にすんなよ。ってかこういう時はな、「ありがとう」でいーんだぜ?」

 

 流し目で此方を見てニヤッと笑みを浮かべる。

 

「ぐっ……まぁ、サンキュな」

 

 なんだよ、急にそんな格好いい素振りすんなよ。

 ドキドキしちゃうだろうが。

 こいつ目つき悪いけど綺麗な顔してるだけに様になるから困るんだよな……。

 

え、なにカッコい

 

 ほらな。小町にまで飛び火しちゃったじゃねぇか。

 若干頬が赤んでるのは気のせいだよね……ねぇ? 

 

 ……こうしてる場合じゃねぇな。妹を渡す訳にはいかん。

 

「い、いかんぞ小町、確かに格好良いが待つんだ。な?」

 

「……はっ! あ、あぶないあぶない……あまりの破壊力に小町のハートがキャッチされる所だったよ……」

 

 両手を頬に当てぶんぶんと頭を振るい名瀬の破壊力に恐れおののく我が妹。

 

「な、なんとか間に合ったか。よかった……面倒を見てくれる小町が居なくなったら俺生きていけないからな……」

 

「うへぇー……まったくこれだからゴミィちゃんは」

 

 死んだ魚の様な、まるで俺に似た目で此方を見つめて呆れる様に息を吐く我が妹。

 

「この分じゃ妹離れもまだまだかなー」

 

 まったくどうしようもないお兄ちゃんだと呆れながらも笑みを浮かべる妹に、俺は安心させるため自分の気持ちを包み隠さず伝えてやる。

 

「安心しろ。そんなもん一生訪れんとここで確約してやる」

 

「はぁ、安心出来ないよまったく……まぁけど仕方ないからね、お兄ちゃんが生き遅れたら小町が貰ってあげるよ。あっ、今の小町的にポイント高いかも!」

 

「社会的なポイントは低いけどな……。

 ってかヤベーなこの兄妹。この兄にしてこの妹ありって感じで見事にシスコンとブラコン拗らせてやがる……」

 

 仲良すぎて気持ち悪いを通り越して危険すら感じる、と冷や汗を垂らし引き気味に名瀬が言っている。

 

 おかしい……千葉の兄弟は大体こんなもんだと高坂さんと和泉さん家から学んだんだが……。

 このまま小町ルートに入っちゃダメなの? 

 

「まぁ色々突っ込みたい部分はあるが置いとくとして、ほれハッちゃんにもやるよ」

 

「お、ありがとな」

 

「おう」

 

 名瀬からのマッカンを受け取り、そのままおやつタイムへと移行するのだった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 小町は用事があるからと出ていき、再び名瀬と二人になり、お菓子を食べながら駄弁っている。

 

「そういやハッちゃん高校どこ受けんだ?」

 

「ん、あぁ……今のところ箱庭にしようと思ってる。近いしそれなりのレベルだからな」

 

「おーいいね。実は俺も箱庭に行くことになっててな。この分じゃ高校も一緒だな」

 

「マジか。まぁ名瀬の頭なら余裕で受かるとして、あとは俺次第ってところか」

 

「まー心配しなくてもハッちゃんなら受かるだろ。……数学さえなんとかなれば」

 

「だな……まぁ、なんとかするわ」

 

「俺も出来る限りバックアップするが……まぁ頑張ってくれ」

 

(俺がどれだけ教えても最高50点だからな……これだけはハッちゃん自身の頑張りに賭けるしかないんだよな)

 

「おう。そういえばオープンハイスクールは行くのか?」

 

「んー……や、俺は止めとくわ。なんか乗り気になんねぇし」

 

「そか、了解」

 

 じゃあ当日は一人で回るわけか。まぁ別に一人が嫌ってわけじゃないんだが、最近はいつも名瀬とつるんでて一人ってのが久し振りに感じる。

 だからというわけじゃないが、まぁ、アレだな。一緒に回りたかったと思わんでもないかもだ。

 

「さーてと、なんやかんやでもう3時か。どーすっかな」

 

「なんか観るか?」

 

「おっ、じゃあクウガ一緒に観ねーか?」

 

「いいぞ」

 

 んじゃ用意しますかね。

 かちゃかちゃと準備してる間、名瀬が話しかけてくる。

 

「ちなみに何話まで観たんだ?」

 

「あー悪い。貸して貰っといてアレなんだが、まだ8話までしか観てない」

 

「りょーかい。あと別に謝ることはねーよ。どんなペースで観ようがハッちゃんの勝手だしな。早く観ろなんて催促はしねーから安心してくれ」

 

「……そか、そう言ってくれんのは助かるわ」

 

「ん。ま、それにな、自分の好きなもんに触れてくれてるってだけでこっちは嬉しいんだぜ? こっちは付き合って貰ってる側なんだから一々なんも言わねーよ。全く観てないってんならともかく、そーじゃねーんだから自分のペースで観てくれたらいい」

 

「お、おう。そうか……」

 

「ま、さっきのはただ単純に今からどの話観んのかって思っただけだ」

 

 こっちが気にしないように気を遣ってくれたのは有り難い。しかし、コイツ見かけによらずいい子だな本当に。

 

「えーっと、9話ってことは確か……『兄妹』、か。

 ……嘘だろ。今日はやけにこの単語に縁があるんだが一体どうなってんだ……」

 

「すげえな。まさか8話の次がそんなタイトルだったとは……ってかよ、これってもしかしなくても運命なんじゃないか? 小町ルートに突入しても……」

 

「はあ……ったく、またバカなこと言ってやがる」

 

 とにかく観よーぜと催促してきた為、再生することに。

 

 

 

 

「アバンに入る前のこの『テレビを見るときは〜』の画面好きなんだよなー。クウガが始まんだなって感じるぜ」

 

「あぁ、なんか分かるな。これ見ると作品の雰囲気に引っ張られるっていうか」

 

「そーそー。ちなみに、この画面の文字は『汝 これを 見る ときは 部屋を 照らし出し 出来るかぎり 離れるべし』って意味らしいぜ」

 

「すげえな……細かいとこまで凝った演出してんのな……っといきなりグロンギ達出てきたな。今はここ拠点にしてんのか」

 

「おぉ、そーみてだな。気味わりー場所に居てんなコイツら」

 

「それだよな。おい、監視員っぽい人やられるんじゃねぇのか……っと、ここでopに入るのか。入り方が怖ぇな。まぁけど雰囲気あって好きだけど」

 

 ─

 ──

 ───

 

『ゴゴギゾ』

 

『バンザボセバ』

 

『ゴセグジャダダ ベンシパロサダダ』

 

「相変わらず不気味だな……翻訳の字幕無かったら何言ってるか分からんし」

 

「不気味なのは同意だが、翻訳はやろうと思えば出来るぜ? 英語と同じく案外文法さえ分かってりゃなんとかなる」

 

 こんな風にと目を瞑り、続けられるグロンギ達の言葉を聞き

 

『ボソギダブバスバゴザバ……』  

 

「えーっと、これなら『殺したくなる顔だな……』ってところじゃねーの?」

 

「……合ってる。なんでそんなパッと出来んだよ。台詞覚えてんのか?」

 

「いや、そんなわけねーじゃん。翻訳してるだけだっつっただろ」

 

 横に寝転がりながら、さも普通のことをしているように言うコイツには改めて驚かされる。まぁコイツの頭のスペックだから、これくらいは朝飯前くらいにしか思ってないんだろう。

 

 

 

「ほー、新しい形態は剣使うのか。opの紫のあれか?」

 

「そーだな。ま、その辺は次の回でやるから今は伏せとくわ」

 

 

 

「クウガ、もとい未確認生命体4号か。確かに新聞に載るのも仕方ないだろうな。こんな案件マスコミが黙ってないだろうし」

 

「そうそう。その辺がリアルなんだよなー。マスコミが騒ぐのもあるが、警察だって最初はクウガを射殺しようとしてたくれーだし。ま、側から見りゃクウガもグロンギも同じ様に見えるだろうから当然の対応なんだろーがな」

 

 

 

 

 

「えげつないなコイツ……女子高生を爆殺しやがった」

 

「だな。他の奴らもそうだが、大抵碌な殺し方しねーよ。ってかよー、このイカ野郎人間体のなりの方がよっぽど気味悪りーぜ」

 

「イカっぽい帽子にピエロみたいな全身真っ白な服装か……水中から急にコイツが出てくるとか恐ろしいな」

 

 

 

 

 

 

「こんな人畜無害で笑顔が絶えないほんわかしてる主人公だからな……戦いなんかやりたくないだろうな」

 

「まーな。戦いに向いてない人柄っていうか、明らかに戦うタイプじゃねーだろ」

 

「……だけど、この主人公的には戦えないことは戦わない理由にはならないんだろうな。『みんなの笑顔のために』か……辛いな」

 

 ─

 ──

 ───

 

「あ――面白かった。久し振りに観たけどやっぱいいな」

 

「そうだな。ストーリーとか設定やら凝ってるし」

 

「そこが良いよなー。んじゃ、続きも観よーぜー」

 

 ─

 ──

 ───

 

 あれから観続けて現在午後6時。

 

「もう6時か……いい時間だしそろそろお暇させて貰うわ」

 

「……そだな。分かった」

 

 あっという間に時間が過ぎたように感じる。ゲームしたり、駄弁ったり、TV鑑賞したりと……久々に友達と呼べる相手と一緒に時間を過ごして充実していた様に感じる。

 楽しい時間は過ぎるのが早いというが、まさか俺が家族以外の人間にそんな考えを抱くことがあるとは。

 

 階段を下り、名瀬を玄関まで送り届ける。

 

「今日はありがとな。お邪魔させて貰ってよ」

 

「おう」

 

 正直名残惜しい。まだ遊んでいたいと思えるし、帰って欲しくない。そんな柄にもないことを考えていたからだろうか、思わず口に出てしまったらしい。

 

「……ま、なんだ。そのな……俺としては楽しめたっていうかだな。まぁ……よければまた来てくれ」

 

 普段だったら絶対に言わないような台詞を言ったためか、顔が熱くなるのを感じる。その気恥ずかしさから名瀬を直視出来ず、横に目線を逸らしてしまう。

 

「は、ハッちゃんがデレた……!?」

 

「……うっせ。俺自身らしくねぇって分かってるし、気恥ずかしいっつーか、これ後で布団の中で悶えることになるやつじゃねえか

 

「ハハッ、ったく……らしくねーこと言いやがって」

 

 頭を掻きながら下を俯く目の前の彼女は、まぁけど、と言葉を続けて頭を上げ

 

「お言葉に甘えさせて貰おうかな。また遊ぼうぜ」

 

 普段の彼女の様子とはまた違う、落ち着いた笑みを携えた温かな表情でそう言うのであった。

 




スマブラ好きなんだけど、そんなに詳しくないんでネットで調べた情報を基に書いたけど合ってるだろうか……。

あと箱庭学園の場所千葉の近くに設定しました。その方が通う理由になるかなと思ったので。(じゃあなんで真黒さんが名瀬ちゃんを見つけれてないのって突っ込みもありますが……)

五代さんの解釈あってるかな……間違ってたらすみませんm(_ _)m
「戦えないことは戦わない理由にはならない」って台詞。個人的に名瀬ちゃんの台詞の中でも好きでして、原作より先んじて使わせて頂きました。

あと作者は感想頂いたらスッゴく嬉しくなってアホのように喜びます。HP全快する勢いで元気出ます。ですんで……その……気軽に感想頂けたらなって……(ボソッ)


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第6箱 「あぁ。だから、」

「おっ、この鶏肉柔らかくて良いなー。美味い」

 

「わーありがとうございますっ。舞茸と一緒に煮込んだら酵素がどーたらで柔らかくなるんですよねー!」

 

「お前も分かってないのかよ……」

 

「あー舞茸のたんぱく質分解酵素が肉に作用したって訳か、納得。それにしても小町ちゃん、しっかり勉強してて偉いな」

 

「えへへ。作る側からしたら出来るだけ美味しいご飯を食べて貰いたいですからねー。ってこれ小町的にポイント超高いな」

 

 現在、食事中

 名瀬を加えて三人で夕食を囲んでいる。

 なんでこうなったのか疑問に思う方も居るだろう……俺もそう思う。なんでこうなった。

 

 あんな気恥ずかしい別れ方しといて名瀬と今飯食ってる状況に疑問を覚えんなって方がおかしい。

 まぁ、時間はあいつが帰った辺りから遡るんだが──

 

 ─

 ──

 ───

 

「じゃ、また来週な。お邪魔しました」

 

 バタン、と扉の閉まる音が玄関に静かに響き渡る。

 

「……帰った、か」

 

 それにしても、俺としたことがらしくないことを口走ってしまった……。その所為か今も顔が熱い。さっきの光景を思い返すとヤバイ。なにがヤバイって長らく人との親しい交流を断ってきたぼっちに初っ端からあんな小っ恥ずかしいのは耐性が無いんだよ。現に今蹲って頭抱えてるしな俺。

 

 ダメだ……一旦落ち着こう。このままだと帰ってきた小町になんて揶揄われるか分からん。

 

『おぉ──っとお兄ちゃん。えぇー?お兄ちゃん(ニヤニヤ)なになにその真っ赤なお顔は(ニヨニヨ)ほれほれ一体名瀬さんと何があったのか小町に話してみそ』

 キョロキョロと俺の周りを回りながら、口に手をあてニヒヒと笑みを浮かべて絡んでくる。

 

 うぜぇ……。脳内の小町でさえこれだ。本物はもっと凄いかもしれん。

 まぁとにかく急ぐんだ。取り敢えず布団に潜って思いっきり悶えて吐き出すもん吐き出して冷静になるんだ。

 

 小町がいつ帰ってくるのか分からない以上、可及的速やかにことを済ませたい。という訳で、急ぎ足でドタドタと階段を駆け上り、自分の部屋に転がる勢いで突入することに。というか勢いあまって転んだ。

 

 だが直ぐにでもベッドへ駆け込もうと、はやる気持ちで顔を上げ動き出そうとするが……思わず自室の光景に目を奪われる。

 

 カーペットは歪み、ゲーム機やらブルーレイレコーダーが散乱している等、普段より散らかっている自室の様子に思わず思考が止まる。続けて視線を彷徨わせると、小町が持ってきてくれた木製のお盆が目にとまる。そのお盆にはお菓子が載っていたのだが、既に何も無い。

 

 それらを見ていると名瀬が……友達が帰ってしまったのだと実感してしまい、なんだか感傷的な気持ちになってしまう。

 数時間前まではここで一緒に遊んでたのか……と言い表せない何か物悲しい気持ちに囚われて、顔の赤みも引いていくのが分かる。

 

 楽しかったけど、なんか、終わってしまえば寂しいもんだな。

 感傷的になった心を紛らわすようにボフッとベッドに身体を預ける。

 

 まぁ、だけど。思い返してみれば楽しい時間だった訳で、思わず笑みが溢れてしまう。思い思いに過ごした今日の一日の思い出はきっと、初めて名瀬と……友達と自分の家で遊んだこの思い出はきっと、これから先の未来でも思い返しては、こんなこともあったなと、これまた笑みを溢してしまうのだろう。

 そう思うと、さっきまでの感傷的になった心も落ち着いていくのを感じる。

 

 友達と遊ぶ時間は楽しいが、それ故に早く感じてしまう。逆に、友達が帰ってしまった後はなんとも言えない気持ちが残り、若干センチな気分で時間が長く感じるだろう。

 確かに終われば辛い時間だが、もう金輪際ずっと遊べないというわけでも無い。

『また遊ぼうぜ』

 名瀬も言ってくれたことだが、また友達と遊べることを、会えることを考えると、自然と頬が緩んでしまう。

 

「ということは……また来週、か」

 

 名瀬と会えるのは来週の学校。普段、金曜日のこの時間は土曜日と日曜日のことを思い、ワクワクとした気持ちに満たされているのだが、今日はどうやら月曜日に友達に会えることをちょっぴりとだが楽しみにしている自分がいるみたいだ。

 月曜日なんて忌むべき曜日を少しでも楽しみにするなんて、今までの俺ならば浮かびもしない考えだっただろう。

 全く、前までのプロぼっちをしていた俺は何処に行ったのかと思わなくもないが、それでもこの心境の変化を悪くないと思っている自分もいるわけで。

 

 それだけ初めての友達の存在は俺の中で大きく居座って……いや、あいつのことだから頭の後ろで腕組みをして踏ん反り返ってそうだが……まぁ、こんな想像もつく程、あいつとの関係を好意的に思ってるんだろうな。

 

 

 

 ま、色々と思案を巡らせて気持ちも落ち着いたことだ。

 風呂でも沸かしに行くかな、と行動しようと瞬間、ふと気付く。先程までは考えごとで他のことには気が回らなかった為、この緊急事態には気が付かなかったらしい。

 自分は周囲に敏感な方だと認識していたのだが、これは少し改める必要があるのかもしれない。

 そう──なぜ気が付かなかったのだろうか。

 布団から名瀬の匂いがすることに。

 

 自覚した途端、またもや顔が熱くなるのを感じる。

 そういやそうだったな、あいつこのベッドに寝っ転がりながらクウガ観てたなそういえば。

 はぁ……マズイな。こんなん気になって今日俺寝れねぇじゃねぇか。

 床で寝るしかない、のか。ぐぅ……。

 

 そんな思いを抱きながらも風呂を沸かすべく一階に降りていくと、ちょうどガチャッという音が聞こえたので、小町かと思い玄関へと向かう。

 

「ただいまー」

 

「おかえり小町、遅かったな。ちょうど今風呂沸かそうとだな……ん?」

 

「よ、よーハッちゃん」

 

「お、おう。どうした?なんか忘れもんでもしたのか?」

 

「い、いや……まー、そのな」

 

 なにやら歯切れが悪い名瀬の様子を見て、側にいた小町が前に立ち話し始める。

 

「やー、途中で名瀬さんとばったり会っちゃってねー。一緒に夕飯食べていきませんかって話になって、快諾してくれたの!だから今日は三人でご飯だよ!」

 

「いやお前な……名瀬にも都合ってもんがあるだろうに……」

 

「あー……ハッちゃん。小町ちゃん責めないでやってくれ。実際俺も暇だった訳だし、厚かましいかもだが食事にお呼ばれされて嬉しかったのは本心でな……」

 

「……そか。ならいいんだが……ま、取り敢えず上がってくれ」

 

「おう、サンキュな。お邪魔します」

 

 こうして今夜は名瀬を交えて食卓を囲むことになる。

 

 

 

 リビングへと入り、真っ先に小町は厨房へと向かおうとするが、くるっと後ろを振り返り

 

「ではでは小町は料理に取り掛かりますので名瀬さんはそこらでゆっくり寛いで待ってて下さい!」

 

「あ?いや、小町ちゃんだけにやって貰うのはわりーって。俺もなんか手伝わせてくれよ」

 

「なんと……!ですが名瀬さんはお客様ですのでお手を煩わせる訳にはですね……」

 

「まーまー堅苦しいことは置いとこーぜ。それにこんななりだが一応自炊もしてて料理は出来るんだよ。力になれる自信はあるぜ?」

 

「な、なんとそれは頼もしい!で、ですがしかし……」

 

 中々首を縦に振らない小町に、変なとこ頑固なのは兄妹揃って一緒なのな、と苦笑いを浮かべ溜息をふうっと一息つく名瀬。

 

「あっそうだ、なんならお兄ちゃんに聞いてみな。最近の昼食は俺が作ってきた弁当食べてるからよ」

 

「ッッ!!そ、そのことについて是非是非詳しく!!」

 

「う、おぉ、おい。なんだよ、なんで急に?」

 

 先程までの様子から一転して目をギラギラと光らせた小町は名瀬の背中をグイグイと押し、厨房へと連れて行く。

 小町の変わりように名瀬も驚いているのか珍しくあたふたしてる様子だ。

 

 一方俺の方はというと

 

「……TVでも観るか」

 

 取り残され手持ち無沙汰になったのを解消するべくTVの電源を点けるのであった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 ま、そんな感じで今夜の夕飯は名瀬と囲むことになった訳だ。因みにお察しの方もいるかもしれんが一応言っとくと、今食ってるのはシチューである。この料理は小町の得意料理ベスト5(俺の中の)にも入る程の出来で、正に絶品と言う他ない。かく言う俺も大好物だ。

 

 口の中でとろけるかの様な柔らかな鶏肉、ほくほくとした新ジャガに、スープの旨味が染みた白菜と「美味しく食べて欲しい」という妹の愛情が俺のお腹を満たしてくれる。そして目の前の小町の笑顔が俺の心を癒してくれる。

 まさしく食の極致だな。

 心体共に癒してくれる小町の料理は完璧だと言わざるを得ない。食べてると日頃の恨み辛みも晴れていき温かな気持ちになる。

 もうあれだな、小町の料理が世に普及したら争いなんか無くなるんじゃねーのかな。

 

 まぁ脱線したが、この得意料理は主に誕生日やらの祝い事等で振舞われることが多いのだが……小町の奴もしかして最初から名瀬を誘う腹積もりだったんじゃ……

 

 そんな疑惑を浮かべながらも、大好物に舌鼓を打っている中、件の妹が口を開く。

 

「いやー、それにしてもお兄ちゃん。まさかお弁当作って貰ってたなんてねぇ」

 

「っ、ま、まぁ色々あってな」

 

「ふふふ、よいのですよいのです……みなまで言わなくても分かります。ふふふ……これはお義姉ちゃん候補として有力ということ……小町がしっかりサポートしなきゃ

 

「なんなんだよその無駄に悟りきった様な言動……」

 

 あとこいつ何か企んでんな。小声で何言ってんのか聞こえなかったから分からんが、あの笑顔は碌なこと考えてない時のやつだ。

 なにもなければいいんだが……。

 

「で、どうなのお兄ちゃん!名瀬さんの手料理は」

 

 キラキラとした目で詰め寄ってくる小町に鬱陶しくも感じながらも心のままに応えてやる。

 

「まぁ、美味いな。バランスとかも取れてるし、非の打ち所がないって感じで」

 

「ほほーなるほどなるほど……料理方面もバッチリときたか……

 

 またもや妖しい笑みを浮かべる妹になんとも言い難い気持ちになるか……そういえばまだ大切なことを言っていないことに気づく。

 

 重要なことなので真剣な面持ちで、滅多にする事のないキリッとした表情を作り、口を開く。

 

「あー、だけど安心しろ小町。俺は小町の料理が一番だからな」

 

「えぇ──……ここでそれ言っちゃうのはポイント低いよお兄ちゃん」

 

 小町的には嬉しいけど……うーん……むむ、複雑だなぁと頭を抱えて唸る小町を他所に、掬うスプーンの手を緩めず食べ続けていると、ふとぽつりと溢れた言葉が耳に入る。

 

「ほんと……仲良い家族なんだな。まさに幸せって感じの

 

 名瀬のその呟きに反応し、ちらっと目を見やる。

 表情こそ笑みを浮かべているが、その瞳は何か迷いでもあるかのような、何かに想いを馳せているかのような、俺には推し量れないようなことを考えている雰囲気があり、何故か少し、不安に感じる自分がいた。

 

 ─

 ──

 ───

 

「今日はありがとな。何から何までと」

 

「ん。ま、偶にはこういうのもな」

 

 食事が済み、いい時間だからということで帰ることにした名瀬を玄関まで送ることに。

 

「じゃ、また学校でな」

 

「おう。また来週な」

 

 別れの挨拶も済ませ、帰るべく名瀬が扉に手を掛けようとした瞬間

 

「なーにやってんのお兄ちゃん。もう外も暗いんだから送ってあげなきゃだよ」

 

 ただでさえ名瀬さんは美人さんなんだから、変な人に絡まれるかもで危ないよと続け、俺に諌めるように視線を送ってくる。

 ……ま、言われてみれば確かにその通りか。ここは小町の言う通りにしておくとしよう。

 

「や、俺なら大丈夫だぜー。気ぃ遣ってくれんのは嬉しいけど流石にそこまでして貰う訳にゃいかねーよ」

 

 別段気にもしていないかの様に言う。まぁ多分本当に気にもしていないし、何とも思っていないんだろう。

 勝手な思い込みだが、名瀬なら不審者相手でも上手く立ち回り無事に帰宅するだろうと思ってしまう。

 

 まぁ、しかし

 

「……ま。万が一にもってこともあるからな。ここは送らせてくれ。ほら、あと小町に免じてってことでどうか」

 

「……んー。ま、断る理由もねーしお言葉に甘えるとするか。じゃーハッちゃん、夜のデートと洒落込むとするか」

 

 にやり、と揶揄うように言いのける名瀬に驚きつつも冷静に返すべく口を開く。

 

「ばっ、いや、お前……冗談でも妹の前でんなこと言うの勘弁してくれ……」

 

「わ〜〜!!」

 

 口に手を当て、星でも幻視してしまうかの様に瞳をキラキラと輝かせ、ずずいっと此方に寄ってくる小町。

 

「どぞどぞ!どーかごゆっくりと兄を使ってやって下さい〜〜!あ、なんなら今日一日貸し出しでも全然構いませんので☆」

 

「俺が構うんだよ……んじゃ、行ってくるわ」

 

「じゃーな小町ちゃん、色々ありがとな。お邪魔しました」

 

「いえいえ!どーかまた遊びに来て下さいねー!」

 

 ─

 ──

 ───

 

「今日は大分遊べたなー。良い息抜きになった」

 

「ま、ざっと半日は遊んでるからな。俺も大分息抜きになったわ」

 

 修学旅行とかは除くにしても、こんなにも長く誰かと関わったのは久しぶりだ。大抵いつもなら心身共に疲れるだけだが、今回はそんなこともなく。言った通り大分息抜きになったと言える。

『お兄ちゃんは日頃から息抜きしてるようなものじゃん』と妹の声が聞こえた気がするが気にしない。

 

「しっかし、中々パワフルな子だなーハッちゃんの妹はよ。まさか俺が言いくるめられて回れ右で同じ家に2回も邪魔させて貰うことになるとはなー」

 

「あー、すまんな。うちの妹が……あいつ基本人当たりはいいんだが、偶に頑なに譲らない部分があってだな」

 

「いや、まー俺も納得した上でのことだから全然いいんだけどな」

 

 それに楽しかったしな……と続ける言葉に、少し返答に詰まってしまう。

 

「お、そっか」

 

「あぁ。だから、今日限りかな。こんな幸せとは

 

「?」

 

 なにか最後に言った気がしたんだが……いかんせん消え入りそうな声で聞き取れなかった。しかし、その時見た名瀬の表情からは少し薄暗い雰囲気が感じ取られ、漠然とした嫌な予感が胸に引っかかった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「直に家着くからここらでいーよ。送ってくれてありがとな」

 

「そうか。了解」

 

 横断歩道を渡りきった後、そう声を掛けてくる。

 

「じゃ、2回目になるが……また来週な」

 

「……そーだな。また、だな」

 

 何かスッキリとしない曖昧な物言いに対し不審に思いながらも、言及してもしょうがないかと思いつつ後ろを振り返り、そのまま帰路に着く。その筈だったが──

 

 対面の方向から犬が此方に向かい飛び出してくるのが見える。首輪もつけておらず、恐らく野生の犬かと呑気に推測するが、はっと気づき信号に目を向けた。

 

 赤

 

 それも今色が変わった所で、横からだんだんと車の音が近づいてくるのが聞こえる。

 間に合うかどうか、考えている暇もなく、気がつけば俺の足は動いていた。

 

 そして──最後に見た光景は友達の顔が涙で酷く歪む、見たくもない光景だった。

 




ヒッキーは果たして無事に復活するのだろうか……?
不穏な感じで締めましたが、これも箱庭学園編へと進む為の必要な足がかりですので。



それと今回のお話、シチューを食べてる際に母から聞いた舞茸のウンチクから閃きました。実際に鶏肉が柔らかくなって美味しいんでね。絶品です。作者の好物です。


因みにカットしましたが、前回のちょっとしたお話載せときますね。

「さて、んじゃ帰る前に片付けとしますかね」

「ん?あぁ、気にすんな。後で自分でやっとくから」

「いや、そーいう訳にはいかねーって。これも人ん家に上がらせてもらった礼儀ってもんだろ」

「その心掛けは素晴らしいんだが、すまんな。比企ヶ谷家ではお客さんは丁重に持て成せってのがあってだな。まぁ、ほぼ俺には関係ないものだったんだが……。
とにかくここは頼まれると思ってそのままにしてくれると助かる」

「はー、そりゃ立派な家訓ってもんだな。……ま、じゃあ悪いけど今日はこのまま帰らせてもらうわ」

「おう、助かる」
(先週メロンブックスで買ったブツがベッドの下に放り込んだままだったからな……片付けに乗じて物色されたらヤバいし、なんとか助かった……)


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第7箱 「〝素晴らしいもの〟」

名瀬ちゃん視点でのお話となります。


「は?」

 

 ドンッ、と、重く響く音が聞こえた。

 振り向くと、先程別れた友達が倒れていて動く様子がない。そんな唐突な出来事に、異様な光景に思わず言葉が漏れたのは仕方のないことだろう。

 

 気づけば足が動いていた。

 自分の出来る限りの全速で彼に駆け寄り、身体の状態を診る。酷い有様だ。痛みで気を失っているのか、白目を向いている。だが、そんな見るに耐えない顔を、ぺろぺろと舐める彼の腕に抱えられた一匹の犬。

 ……状況から見てこのバカは、犬を助けようとして車に轢かれたんだろう。 車の姿は既になく、恐らく逃げたのだと思われる。まぁ、飛び出したコイツにも非があるので、なんとも言えない。

 

 ──と、そんな悠長に考えている暇は無い。この傷ならば急がなくてはならないだろう。救急車を呼ぶのは時間が惜しい。だから、自分がこの友達を救う。

 幸い人体には造詣が深く治療する分には問題ない。

 

 そして、友達を担ぎ我が家へと向かうことに

 

 ─

 ──

 ───

治療後

 

 取り敢えず一命は取り留めたって感じか……。

 まぁ、だけど……所々酷くやられてて完治には時間が掛かる。多分後遺症も残るだろう。

 

 はぁ……ったく、こっちがどんだけ心配したと思ってんだコイツ。後先考えないで動きやがってからによ。まさかこんな向こう見ずなことするとは思わねーだろが。

 

 ……まぁだけど、思い返してみれば表向きな態度はあんなに捻くれた奴だけど根っこはちゃんと優しい部分がある人間なわけで。誰かを助ける為に行動出来る強さってのを持ってたのかも知んねーな。

 ただ、今回のように危なっかしいとこもある。それがハッちゃんの美点なのかもしらねーが、こっちは落ち着いて見てらんねーわ……。

 普段の態度で分かりにくいが、本当に面倒くさい性格してるなコイツは。

 

 まぁでも、死に至ることはなくて安心した。ハッちゃんがもし死んじまったら涙が枯れるくらい泣いて、心が病むくらいボロボロになるかもしれない。そんな思いをするのなんて──

 

 〝素晴らしいものは地獄からしか生まれない〟

 

 ふと、頭にその言葉が過ぎる。

 

 ──っ、……そうか。自分の信条であり生きていく上での指針のこの言葉。この言葉を尊びこれまで生きてきた。

 なら、この言葉に倣うならば、心が病むほど苦しむことはこの上なく不幸なことであり、それを自分は喜ぶべきなのではないだろうか。きっと〝素晴らしいもの〟を生み出せるのだから。だから、この男を見捨てるべきだったのかもしれない。

 

 実際、今日夕飯に招かれて幸せそうな光景に当てられて疑問を感じたのは確かだ。

 自分の生き方に反しているのではないかと。このままでは自分はダメになると。

 だから、別れ際の自分の気持ちとしては、もうこの友達とは会わない方がいいとも考えていた。

 あの時、目の前の友達を置いて逃げることこそ最良の選択だった筈だ。

 

 

 

 ……だというのに、何故か自分はそれが納得出来ない。解は出た筈なのに。自分の信条に従って出した結論なのに。納得出来ないのだ。

 

 だから一度整理してみよう。一から思い返して、この結論を心から認めることが出来るように。

 

 

 

 

 

 これまで、自ら虐められる立場に立ち不幸になるよう追い込み、徹底的に禁欲的に生きてきた。

 恵まれた生まれだったのであろう過去の記憶を消した。

 恵まれた環境であったのだろう家のことはもう分からないし、当然家族の顔も思い出せない。

 恵まれた容姿も紙袋やらで隠した。お陰で見た目はかなり怪しい。

 

 だが、こんな自分に話しかける変な奴が現れた。

 それが比企谷八幡……ハッちゃん。

 最初は興味本位だった。

 自らをぼっちと呼び、専業主夫を目指すことを信念としていて、おまけに目の腐った変わり者。

 

 観察するのも一興かと思い、見ていたら次第に接点が多くなっていった。教師が俺の席の横に固定し、提出物を返す際は必ずあいつに仕事が回されるようになったから。

 それに伴い、あいつと話すようになり、気づいたらあだ名までつけるようになっていた。

 しまいには放課後につるんだり、遊んだりと……前の自分からは考えられないような日々を過ごしていた。

 

 思えば、最近はぬるい生活をしていたのかもしれない。

 

 幸せな生活からは〝素晴らしいもの〟など生まれるはずないというのに。

 

 だから、俺を幸せにした元凶のたった一人の友達がいなくなることは喜ぶべきことではないのか? 

 だって、それは俺にとって凄く不幸に感じる出来事だ。

 当たり前だ。俺の初めての友達なのだから。

 そんな大事な友達が傷ついたら自分も辛いし、もう会えなくなるなんて考えただけでも心が張り裂けそうになる。

 途轍もなく最高の不幸と言える。

 

 ならば、喜ぶべきことではないか。

 酷く不幸を感じる。

 酷く地獄のように辛い思いを感じる。

 だから、自分はきっと、よりよい〝素晴らしいもの〟を生み出せるに違いないだろう────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────だが、その〝素晴らしいもの〟とは、大切な友達を失ってまで手に入れるべきものなのだろうか? 

 

 俺に喋りかけてくれた。

 俺と友達になってくれた。

 俺と一緒に遊んだ。

 俺と一緒に勉強した。

 俺と一緒に昼食を食べた。

 俺の弁当を食べてくれた。

 俺と晩御飯を一緒に食べた。

 俺と趣味について語らった。

 俺と一緒に買い食いをした。

 俺と俺と俺と俺と俺と俺と俺と俺と…………………………

 

 

 

 

 俺と……一緒に、隣に居てくれたあの友達は、例えどんなに地獄から生まれた〝素晴らしいもの〟に比べても、そんなものよりも、大切な、尊い、掛け替えのない存在なのではないのか? 

 

 俺には不明瞭な〝素晴らしいもの〟のことは見えない。

 どんなものかも分からない。

 だがきっと素晴らしいのだろう。偽物だと一蹴することはとてもではないが出来ない。

 非常に壮大で、尊く、輝かしいものなのだろう。

 俺の人生に劇的な影響をもたらすのだろう。

 日々を刺激的なものへと変えるのだろう。

 

 

 しかし、そのようにそれが、たとえどれだけ〝素晴らしいもの〟だったとしても、今ここに居る友達よりも大切なのだとは……到底思えない

 

 ハッちゃんとの友情は非常に心地よいものだった。尊く、温かいものだった。

 ハッちゃんとの出会いは俺のこれまでの人生に劇的な変化をもたらした。

 ハッちゃんと過ごした日々は楽しかった。会わない日も、あいつに言ったらなんて反応するだろうか、と自然と話題を考えて一人笑みを零すこともあった。

 

 

 あの友達と過ごした日々は俺を満たしてくれていたのだ。

 

 

 彼を失ってまで手に入れるものなんて、どんな価値も見出せはしない。たとえ、どれだけ〝素晴らしいもの〟なのだとしても。俺には、そんなものよりも遥かに友達の方が大切だと思える。

 

 しかし、別に自分のポリシーを否定する気は無い。大切だと思うし、これからも通していくだろう。自ら不幸になろうとこの先も進んでいくことを変えないだろう。

 

 だけど、それよりも、他のなによりも優先したい友達がハッちゃんなのだ。

 ハッちゃんが居なくなるなら一生幸福に生活した方がマシだと言える。それくらい大切なのだ。

 

 目も性根も腐っていて挙動不審な行動を偶に見せる、口を開けば斜め上なことを言い出すような捻くれ者。しかしその実、根っこは優しくて困っていたら助けてくれるような温かさも持つ、実に面倒な性格の捻くれた奴が俺は大切なのだ。

 心の底から大事だと言える友達で、最高の友情を感じている大好きな友達で、一生つるんでいたいと思える友達で、なにより、俺の──

 

 

 

 

 

 

 ──〝本物〟といえる存在なのだ。

 

 

 

 

「……そっか。こんなことになってから気づくとは俺も鈍いな……自分のポリシーよりもハッちゃんのほうが……大切だったんだな」

 

 考えを整理し、見つけ出した答えを零す彼女の瞳は潤んでいた。

 

 ─

 ──

 ───

 

「ハッちゃんはよ。こんな性格だから、また自分を省みずに行動することもあると思うんだよな」

 

 その結果身を滅ぼす可能性も無くはないだろう。きっと説得しても弁が立つ奴だからのらりくらりと躱されるかもしれない。

 なら、幾ら無茶しようが、今回のようなことが起きようが、大事に至らなくて済むようにしてあげたい。今回の怪我も完全に直してやりたい。

 

 どうすればいいか考えてみる──

 

 すると、自分には人体改造が出来ることに思い至る。

 それも手の内だが、直接話し合ってから決めないと駄目だろう。大切な友達なのだから、身体を弄るにしても本人の許可を取ってからでないと駄目だ。

 

 だが、この友達は多分……長い間目を覚まさない。それくらいに今回の怪我は酷いものだった。もし目が覚めても当分は満足に生活出来ないだろう。

 

 いつ目を覚ますか分からない。そんな状態でいる彼を家族が、特にあの妹が見ればきっと酷く傷つくに違いない。泣き腫らして病んでしまうかもしれない。

 そして、そんなことを彼は望まないだろう。今日傍から見ていただけで分かった、彼の妹への愛。きっと妹が悲しむならば、それを取り除く為になんだってする様な男だ。

 

 だから、今は言葉を発することのない彼の意を汲むならば、十全に身体を直してあげることが最適解だと言える。

 

 

 なら、後遺症も無くして、明日には元気に過ごせるくらいの身体にしてあげる必要がある。そして、この友達にはもう傷つかなくていいような、丈夫な身体にしてあげたい。幾ら無茶して怪我をしても心配要らないくらい、丈夫な身体に。

 

 しかし、それ程の丈夫な身体にするとなると、当然それ相応の苦しみ、痛みが付きまとう。

 

『痛みなくして改革はありえない』

 それが俺のもう一つの信条でもあるが、これは俺の独断だ。相手から頼まれてやってる訳でも無い。

 相手の意見を聞くこともなく、ただ自分勝手な考えを押し付けて人の身体にメスを入れようとしている。

 だから、せめて俺の信条を押し付けて、苦しい思いをさせるのは……ダメだ。

 

 痛みを排し人体を改造するとなると……今の俺じゃあ、回復力の強化くらいしか出来ない。

 だが、それでもきっと、後遺症は無くなるし、明日には元気になるだろう。

 

 だから──

 

 

「起きたらもう終わってるからよ。痛みはねぇから安心してくれな」

 

 友達の身体へとメスを入れる──

 

 ─

 ──

 ───

 

 比企谷八幡 『骨折り指切り(ノーペイン)』取得。




「アブノーマルの連中は孤立しがちなだけに絆を絶対に裏切らない」という阿久根先輩の言(一概には言えないだろうけど)と、大親友である古賀ちゃんを名瀬ちゃんは半端じゃないレベル(自分のポリシーを二の次にするくらい)で大切にしていることから、この作品で初めての友達である八幡に対しても、並々ならぬ想いを抱いてるんじゃないかなって思いました。
 
 あの超絶ストイックな名瀬ちゃんが、自分のポリシーよりも相手のことが大切と感じているなら、その人は名瀬ちゃんにとって〝本物〟の存在ってことじゃないかなって。(勿論、八幡にとっての〝本物〟の解釈とは違うのかと思いますが)
 
 〝本物〟という酷く曖昧でよく分からない難しい言葉を使うのは悩みました。
 ですけど、八幡に対してこの言葉を胸に抱くのはとても素敵なんじゃないかっていう自分の思いが勝ち、採用になった次第です。
 
 ここからは作者の勝手な解釈です。色々と調べて自分の中でしっくり来た解釈なので、これで通します。
 
 古賀ちゃん『骨折り指切り』ベストペイン
 →骨の折れる指きり→酷く苦労する約束(原作古賀ちゃんのレベルまで改造するには途轍もない痛みが掛かる。それを耐えても異常になりたいという決心的な?)
 →名瀬にとって、痛みは切っても切り離せないもの(無傷で何かを得ようなんて絶対に考えない)
 →名瀬の信条である『痛みなくして改革はありえない』を表しているのが、古賀の存在
 →名瀬の心にはいつだって痛み(いたみ)がある。
 →ベストペイン(ベストフレンド→大親友)
 
 あと痛みによって自分の現状を把握する為のアラートでベストペインって解釈もありましたね。
 
 八幡『骨折り指切り』ノーペイン
 →骨の折れる指切り→酷く苦労する約束(自分の信条を曲げてまで痛みを取り除いて、何かを成そうという決心)
 →結果産まれた産物が八幡の異常。
 →名瀬の信条を否定しているのが、八幡の存在
 →『もう傷ついて欲しくない』という心配と、『重症から回復して欲しい』という想い、自分の独善的な行動の為、信条を押し付ける訳にはいかず、痛みから可能な限り遠ざけた
 →ノーペイン
 
 みたいに、古賀ちゃんは名瀬ちゃんにとっての信条を表していて、八幡は名瀬ちゃんの想いを表しているって感じに落とし込みました。
 
 突っ込み所が多いと思いますが、ご了承下さいませm(_ _)m
 
 あと八幡のスペックですが、古賀ちゃんの下位互換と考えてくれれば大丈夫です(身体能力の向上等は無いですが)
 流石に複雑骨折が10秒程度で治る古賀ちゃんには劣りますが、常人よりは遥かに高い回復力になってます。

あと、名瀬ちゃんの医療スキルどーなってんだ!って突っ込みたい方が居ると思います。ご都合主義ってことでどうかよろしくお願いしますm(_ _)m


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第8箱 「おう、またな」

誤字報告して下さる読者様、いつも本当にありがとうございますm(_ _)m

それとですね……暁先生のツイートで気がついたんですけど『めだかボックス』連載から10年が経過してるという……驚いたなぁ。
あとですね、暁先生がリツイートしてる山田金鉄先生のツイートにめだかちゃんとバーミー(鶴喰鴎、めだかちゃんの従弟で、弟くんと呼ばれてる人)の直筆書き下ろしが載ってます!この2人が好きな方は是非是非チェックしてみてくれれば……!!(作者はバーミー好きなんで歓喜しました。更に言うとこの2人の姉弟ペアが大好きなんで本当堪らなかったです……)

ではでは第8話!
どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m


 気だるげな身体に鬱陶しく感じながらも目を覚ました。

 

「……だりぃ……むり、しんどいし二度寝……」

 

 幸い今日は土曜日の筈。もうひと眠りしようと意識を手放す。が、左側の窓から眩しい光が入ってきて寝る気が失せてしまった。

 

「あーくそ……まぶしぃ……」

 

 観念して起きることに決めた。少し身じろぎしてから普段のように目を開き天井を視界に入れる。すると、毎朝自分が見ている光景とは違うことに気づく。

 

「俺の部屋……じゃねぇよな」

 

 昨日は自室で寝たのではないのか?

 そんな思いを抱きながらもゆっくりと記憶を探っていく。それに伴い何か手掛かりでも掴めればと、寝惚けた頭で周囲に視線を動かす。

 

 左側の窓からは、横断歩道を渡るスポーツウェアの青年。ありふれた光景だが、何か既視感を感じる。あの青年にではなく、道路に。確か何処か最近に?見たような気がする。またもやそんな曖昧な思いを抱く。

 起きたばかりの覚醒していない頭だというのもあるのだろうが、なにかモヤが掛かっておりその先が分からない。

 

 次の情報をと、右側に視線を動かす。

 すると点滴のチューブが見え、あろうことか自分の身体に繋がっている。そのことに少なからず驚き、動揺からか視線を下へと動かすと更に驚くべき光景が。

 

「……ん、ふぁあー……はぁ。ん?おー起きたか。おはよーハッちゃん」

 

 自分の寝ているベッドに上半身をもたれ掛けている、隣の友達の姿を見て寝惚けた頭が覚醒した。

 

「──ッ!!な、なんでお前ここに?ってか、まずどんな状況で……」

 

「まぁ落ち着け。パニクるのも分かるが順を追って説明してやっからよ。あと点滴はもう大丈夫だから先に抜いとくな」

 

 ─

 ──

 ───

 

「ってことで、ハッちゃんは改造人間になっちまった訳だ」

 

「マジか……」

 

 ベットから降りて向かい合うようにテーブルに座り、事のあらましを聞いた。

 

 犬を助ける為に車に轢かれて起きてみれば改造人間になっていた件について……。

 どんな案件だよ。そんなもん該当する奴俺くらいしかいねぇよ。いちゃうのかよ。

 

 しかし今回の件、元はと言えば自分の行動が招いた結果で身体ぶっ壊した訳だし完全に俺の落ち度な訳で。むしろ、当分目も覚まさないような状態だった俺を、手段はどうあれ救ってくれた名瀬には感謝しかない。

 

 困ったな。こんな恩デカすぎて返しきれないんだが……。

 

「……とてもじゃないが返しきれない借りが出来たな。スマ……ありがとな。助かった」

 

「おー、どーいたしましてっと。だけどハッちゃん、別に借りとか気にすんなよな。親友の健康に比べたら貸し借りなんてくだらねーもんに過ぎねーから」

 

「お、おぉ。了解」

 

 なんか良い話に乗じてさらっと言ったけど、え?こいつ今親友って言った?なんか知らん間にあいつの中の俺の株ってグレードアップでもしてたのか?

 てか親友って……え?マジか? いやそんな事言ってくれんのは嬉しいんだが、まぁ、それより照れるっつーかな……いや正直めっちゃ照れる。

 ヤバイどうする自覚したら急に恥ずかしくなってきた……くっ、凄く嬉しくて胸が高鳴るが……なにより照れる。恥ずかしい。俯いて顔が隠れてこそいるが、かつてないほどに赤くなってるだろう。現に熱い。超熱い顔が熱い。

 

「ん、どーした俯いて震えて。手術は完璧だった筈なんだが、もしかしてどっか痛てー所あんのか?」

 

 ひょい、と顔を覗き込む様に近づいてくる名瀬に慌てて後退り距離を取る。

 

「……なんだよ?」

 

 眉をひそめ、此方に訝しむような視線を向けてくる。よく浮かべる三角状の口元は若干普段より尖っている。

 

「いや、まぁ。ちょっとな。アレだ」

 

 駄目だ……良い言い訳が浮かばない。

 心が荒ぶってるというかパニクってるというか、とにかく正常を保てない為、仕方がないと思う。

 大体こんなストレートに「親友」だとか好意的な言葉ぶつけられて心中穏やかでいろってのが俺にとっては無理な話だ。

 

 だけど性格上、一瞬なにか裏でもあんじゃねぇかって思いもしたが、コイツの真っ直ぐな気持ちというか、本気で心配してくれたり大切に思ってくれてんだなって想いが伝わって来て直ぐに疑うのは止めた。

 それに……初めて本心から好意的に思ってる友達にそんな疑惑を抱きたくなかったというのもあるが。

 

 そんな考えに耽っている内、結局打開策を思いつくこともなく、近づいてきた名瀬にバレることに。

 

「あ?どーしたよ顔赤くなんかして。熱いのか?まさか体温調節に不備でもあったりしたか……

 

 俺の顔を見るなりぶつぶつと呟き始める。次第によく分からん単語まで聞こえてきたので話が面倒な方向に飛ばないように、止むを得ず真実を伝えることに。

 

「あー、スマン。……お前いきなりあんなこと言うもんだからな。その、照れたんだよ……」

 

 なんでこんなこと説明せにゃならんのだ……。

 

「あんなこと?……ってなんだよ?」

 

 曖昧な物言いじゃ分かんねーよと、此方にはっきり言うように促す名瀬に溜息を吐きつつ、覚悟を決めて

 

「だから、クソッ、ほら、アレだ……親友とか……言っただろ、お前」

 

 ぷるぷると震えながらもヤケクソ気味になんとか伝える。

 そんな此方の様子を伺い、ニィッと獰猛な笑みを浮かべる。面白いものでも見たかのような表情であり、此方を揶揄おうとするような悪戯心を秘めた表情でもあるが、なにより、純粋に喜びを感じているかのような嬉しそうな表情でもあり、どう反応すればいいか分からず、フリーズしてしまう。

 

「……ッハハ!そーかそっか成る程ねぇー。まぁ仕方ねーよなそりゃ。ハッちゃんはウブだもんな☆」

 

 カラカラと彼女は嬉しそうに笑う。

 

「ぐっ、うっせーな。仕方ねーだろが。ウブなのはともかく、ぼっちにそんな耐性は無ぇんだよ」

 

 心ざわめき、気持ちに余裕がない中なんとか毒づく。

 すると、ぽけっとした表情をした名瀬に更なるカウンターを食らう。

 

「なに言ってんだ。少なくとも俺っていう友達が居るからハッちゃんはもうぼっちじゃねーだろ?」

 

「──ッッ!!」

 

 この子本当に卑怯です……。

 

 ─

 ──

 ───

 

 それからまた赤面した俺を揶揄う名瀬に反論したりと、不毛な争いが繰り返されたのだが、まぁ割愛していいだろう。恥ずかしいから俺が。

 

「さて、本題に入るが。本来人体改造ってのは1週間やちょっとの時間でも足りねーくらいなんだよ」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

 人間の肉体を弄るんだ。そりゃ一日で完全に仕上がる筈もない。

 

「だから当分は身体のだるさが付き纏うと思うだろーが……まぁ、これについちゃ諦めてくれ。急ピッチで進めた分の反動ってことで」

 

「おう、分かった。というか、むしろそのくらいですんで驚いてるくらいだわ」

 

 ほんと凄いのなお前、と苦笑しつつ言う。

 

「たりめーだろ。お前の親友はスゲーんだよ」

 

 対して名瀬は不敵な笑みを浮かべ言葉を返すのだった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「てか5時半か……流石に帰らなきゃならないんだが、大丈夫か?」

 

「おう。もう出歩いても身体には問題無いぜ」

 

「そうか。……重ねて言うが、色々世話かけたな。本当に助かった、ありがとな」

 

「あぁ。どーいたしまして」

 

「じゃあ……次は学校で。また来週な」

 

「おう、またな」

 

 ハッキリとそう言い切る名瀬の言葉に、昨日とは違いスッキリと安心した心持ちで帰路に着くのであった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 帰宅後

 

「おぉ──っと息子よ。えぇー?息子よ(ニヤニヤ)こんな朝早くから起きてるなんて珍しい──ってあ!そっか今帰ってきたんだったか。いや〜滅多にないことだからお父さん間違えちまったわ。それにしても……えぇ?朝帰りでしかも気だるげな雰囲気とはねぇー。遂にお前にも春が来たって訳かぁ……全く、俺なんかこれから出勤しようとしてんだぜ?ったく──(ニヨニヨ)

 まぁいい。出勤までまだ時間はある。ほれほれ名瀬さんとやらと何があったのか言ってみ?お父さんに言ってみ?」

 

「くそウゼェ……」

 

 名瀬が流石に連絡は入れるべきと、昨晩八幡の携帯で小町へ送ったメール

 〈悪い。今日名瀬ん家に泊まることになった。明日には帰るから戸締りしといてくれ〉

 

 小町の奴……親父になんか吹き込みやがったな……。

 

 この後親父を引っ剥がすのに時間を食うも、なんとか逃げきったのだが、リビングの扉から現れたニヤついた母ちゃんに捕まることに。結局時間ギリギリまで色々と質問責めに遭うことになり、両親が家を出た後、疲れたので再び床に就いた。





??『さてさて第8話でしたと……』『いやーよかったね』
『八幡ちゃんに因んで第8話ということで』『主人公の家族の登場』『それとヒロインの好感度上昇』『うん!』『良い回だったと思うよ』

『え?』『普通ならこのあとがきじゃ』『江○拓也の声が聞こえてくる筈だろって?』『あは!』『やーだー!』『そんなに怒らないでよ』
『まぁそうだよね』『君の言ってることは正しい』『それが普通だ』『他の作品ならそうなってるだろうさ』『けどね』『ここはめだかボックスなんだ』
『僕も居るってことを忘れないで貰いたい』『ごめんね』
『江口○也じゃなくて緒方○美で』

『まぁだけど』『感想欄の方にも』『僕のことについて言及してくれる人が数人居たし』『作者も僕のことが大好きとか言ってるし』『こうしてこの場に呼ばれたのは』『仕方の無いことかもしれない』『実際作者は当分出番の無さそうな僕を』『なんとかして出してやろうって息巻いてたらしいからね』『だから』『僕は悪くない』

『あっ』『そうだ!』『唐突なんだけどさー』『めだかボックス3期やってくれないかなーって』『思うんだよね』
『あの人気投票上位に食い込む球磨川先輩が活躍する生徒会戦挙の話なら』『すっごく人気出ると思うんだよ』

『見所も盛りだくさんだしさ』『例えば……』『ほら』『名瀬さんと飛沫ちゃんの熱いバトルとか』『怒江ちゃんの超絶長台詞とか』『裸エプロン先輩の名言やらバトルとか』『善吉ちゃんの頑張りとか……』『ちょっと考えただけで面白い所がこんなにも出てくるんだ』『きっと視聴者の人も円盤買ってくれるって!』『知らないけど』
『あーあー』『何処かの富豪が』『制作会社とかに』
『資金援助とかしてくれないかなー』

『話が逸れたけども』『あとは』『そうだな……』
『──ッッ!!』『そうか……ハハ』『なんてことだ』『僕としたことがこんな重要なことを忘れていたとは……』『いやいや』『恥ずかしい限りだね全く』
『僕もまだまだってことが改めて思い知らされたよ』
『んんっ!』『じゃあ君に伝えようか』『アニメ化をすることの最大の利点を』

『もしもだよ?』『もしもアニメでめだか旋風が巻き起こり』『そのまま4期、5期と話が進むとするじゃない?』
『するとね』『途轍もない恩恵を僕達は賜ることが出来るんだ』『そう』『それこそつまり』『裸エプロンや手ブラジーンズを着た女の子達の姿を』『高画質』『ハイビジョン』『大画面で拝めるかもしれないということさ!』

『どうだい?』『俄然興味が湧いただろう?』『なら想像してみて欲しい』『裸エプロンの人吉先生』『手ぶらジーンズの人吉先生』『そして更に』『全開パーカーの人吉先生を』
『滾るだろう?』『あ』『いや大丈夫』『言わなくてもいいさ』『僕には分かる』『君はめだかちゃん派なんだろう?』『任せて』『交渉しておいてあげるから』
『まぁ十中八九僕は殺されると思うけど』『大丈夫、安心して』『君が気に病む必要なんてどこにも無い』『だって』『僕の絶命をなかったことにすればいいだけだからね』

『そうだ』『勿論他の人達にも要望があれば』『こぞってやって貰おうじゃないか』『僕達の!』『男の夢を!』『さぁ皆今こそ立ち上がるんだ!』『僕達の夢を』『桃源郷を拝みたいだろう!?』『なら声を上げるんだ!』『今だよ皆』『今なんだ!』

『という訳で』『これを見ている偉い方は』『どうか考えてみて欲しい』『めだかボックスも10周年を迎えたことだし』『タイミングとしては良い頃合いだと思う』
『だからどうか』『ご一考願えれば幸いかな』

『んじゃ』『また明日とか!』


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揺籃中学 『オープンハイスクール』編
第9箱 「……どういうことだってばよ。」


??「まったく球磨川くんには困ったものだね。あろうことか僕を差し置いて先に登場するとは。
 はぁ……せっかく世界にいる人間の内の僕の割合に因んだ数、すなわち『10』話辺りのあとがきにスペシャルゲスト出演を果たし君たちを驚かせようと思ってたのに。
 
 もう……作者もどうかしてやがるぜ。これは一度お仕置きを──っと、そういえば感想欄でやったかな。
 なんか『ご都合主義(俺がルール)』とかいうスキルを使ってきたけど、まぁ7932兆1354億4152万3225個の異常性と、4925兆9165億2611万0642個の過負荷、合わせて1京2858兆0519億6763万3867個のスキルの内の何個かのスキルで沈んだね確か。
 作者も読者も僕の前では平等だってことを理解らない彼じゃない筈なんだけど……ま、そんなとこも可愛い奴だ。君たちも彼のことを見放さないであげておくれ。
 
 とまぁ、そろそろ物語の続きといこうか。第9箱「……どういうことだってばよ。」だ。
 あ、それとこの小説は作者の趣味100%で作られている。だから、読者の人によっては『何言ってんだ?何のネタ?話進まねーんだよ余計なネタ挟むな』とか思ってしまうだろうけど、彼には改善する気は一切無いみたいだ。そもそも彼がこの小説を書いてる理由は、自分が読みたい話を書きたいからってことらしいからね。だから、『このネタくどいし知らねーよ』って人はそこを飛ばすなりして欲しい。多分話には支障ないと思うから。まぁ彼もいい加減な奴だから、伏線をブッ込んでくるかもしれないけど、ま、どうか多めに見てやってあげて欲しい。
 
 あと毎度お馴染みの口上のようでどうしてもと言われたから言っとくね。
『ミスタードーナツの新作を食べてたらネタが浮かびました』だってさ。確か今は抹茶シリーズだったかな?抹茶と聞いて茶道を嗜む予定(不知火不和編)の僕としては行かざるを得ないだろう。
 色々と種類があって作者からは『オールドファッション宇治抹茶黒蜜きなこ』を一番推されたんだけれども、まぁ最初は一番シンプルな生地に抹茶が練りこまれたオールドファッションから試そうかな。
 
 あとミスドにはドリンクバーが無いから半纏には悪いだろうけど……まぁ、帰りにサイゼにでも寄ってあげようか。っと、ごめんね。じゃあ無駄話もそこそこで、本編開始だ」


 水曜日

 

 週の中間点となるこの曜日への解釈は十人十色でそれぞれ違うだろう。

 小学生であれば、教職員が月に何度かの会議等を行う日(一概には言えない)である為に早くに下校出来、友達と遊びに行ったり等する日だと言える。あ?お前は違うだろって?うるせぇな……。

 

 中学生や高校生であれば、そもそも学校が早く終わろうと部活がある奴には余り関係がないかもしれない。有り難みが薄れているように感じる人も居るだろう。

 

 大学生なら……まぁ、時間割は自分で組めるし、それこそ十人十色、千差万別だ。

 

 そして仕事してる奴なら……。

 

 ともあれ、属している組織により解釈が多岐にわたるこの曜日だが……共通した主だったものを挙げるならば『あと半分だ』か『まだ半分か』のどちらかだろう。

 一見少しのニュアンスの違いに思えるだろうが、実はそうでもない。捉え方によって自身の生活にも大きく影響してくる。

 

 仮に後者であれば学校や仕事より帰宅したとして、プライベートな時間を確保したとしても、憂鬱な気分が引っかかり心からは楽しめない可能性もある。勉強の身の入りも悪いかもしれない。

 

 対して前者であれば、大体のことはひっくり返るだろう。あと半分頑張れば休日と思えれば学校の授業も幾分かマシに感じるだろうし、プライベートな時間ならば休日の予定に想いを馳せるなり、新しく立てるなり、楽しく過ごせるだろう。

 

 要は人生捉え方次第、自分の中の折り合い次第で過ごす時間も変わってくる。間違いだらけなこの世界。嫌なことや理不尽なんか周りにありふれていて、目にしない日の方が珍しいくらいだ。

 まぁ……だけど、だからこそ、そんな中でも自分の好きなものは尊重したいし、楽しみたい。他の嫌なことは気にせずにいたい。

 どんな時間でも自分の中の捉え方で変わってくるのであれば、可能な限り自分に都合の良く解釈して、前向きに受け止っておいた方が得だろう。

 

 ──と、我が物顔で語ってはいるものの、実は小町に『クソが……まだ水曜かよ。あと半分もあるじゃねぇか』と愚痴っていたところ、諭されたことなのだが。

 

 流石俺の妹。妙に達観してやがるな……と思ったが、アイツまだ中一なんだよな……。

 何があったらこんな答えに13歳が到達するのだろうか……比企谷の血を引いているんだと強く思わされた。

 

 まぁ脱線したが、様々な事象を都合よく解釈して可能な限りより良く日々を過ごしたいって訳だ。

 そして本日は水曜日。俺は小町の影響により『あと半分派』であり、ポジディブにこの日を捉えている。

 

 いるのだが……今、目の前のことについてはどう捉えるべきか図りかねている。

 

「58756687」

 

 ……どういうことだってばよ。

 流石にどう捉えることも不可能だった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 時は遡り今日の朝。

 

「おはよーお兄ちゃん」

 

「おう」

 

 寝ぼけ眼を擦りながら階段を降り、リビングから出てきた小町に挨拶を返す。

 

「ご飯もうちょっとで出来るから、先顔洗っといてねー」

 

「ん」

 

 反応が淡白かつ、気だるげな印象を与えてしまう朝の俺だが、今日はいつもとは違うのだ。

 名瀬の言っていた人体改造による身体への反動で、身体が妙にだるい。

 や、回復力っつーか治癒力?が上がったから、そこんとこも大丈夫なんじゃないかって思うだろうが、そうじゃないらしい。俺もよく知らんけど。

 取り敢えず、ご飯はよく食べとけって言われた。

 前の身体よりもエネルギー消費が上がっているらしい。

 お陰で最近は朝食の白米をお代わりしてしまうくらいだ。

 

 そんなことを考えつつ洗面台に到着して顔を洗う。

 冷たい水により頭と目が覚醒する。

 シャキッと決まった表情で鏡を見やれば整った造形のいつもの顔が映る。濁った目を除けば。

 ……因みに俺の目についてだが、名瀬もマシなようにしようとしてくれたらしいのだが……、無理だったようである。

 

『悪いな……俺の出せる手を尽くしてもハッちゃんの目の濁りは取れそうにねぇ……。それに恐らく、世界中の、いや、現代科学をより集めても……望みは薄い』

 

 悲痛な面持ちでそんなことを言われた。

 

 なんだよ俺の目最強かよ。世界相手にしても存在を確立し続けるその無駄な強靭さ、逆に誇らしいとまで思っちまったじゃねぇか。

 

 くっ、目の濁りさえ無ければイケメンなのに……。

 

 この目とは一生付き合っていくことになるんだろうかと、一周回って愛着すら湧いてくるのを感じながら、リビングへと向かう。

 

 ─

 ──

 ───

 

「お兄ちゃん今日ってオープンハイスクールだっけ?」

 

「おう、箱庭まで行ってくる」

 

 そう、今日は通常の授業とは違い高校へと行くことになっている。

 オープンハイスクールってのは簡単に言うと学校設備の見学だったり、部活動見学や体験授業とか出来るイベントのことで、うちの学校は早い段階から推進してるらしい。だってまだ5月だからな。一般的に見て早いだろうと思う。

 うちの学校に合わせて他の高校も合わせてくれるらしいし、改めて自分の通ってる学校の進学への力の入れようが分かる。

 

 まぁ名瀬は行かんって言ってたから、今日は箱庭志望の3年生と俺で行くことになる。

 

 まぁ、授業無い分楽だし、午前中くらいには終わるっていうし願ったり叶ったりで嬉しいんだけどな。しかも現地集合で各々自由に動いてその場で解散だから尚良い。

 しかも今日は買おうと思ってたCDの発売日で、帰りアニメイト寄ってぶらつこうと思ってるし。

 

 あーFGOのサントラ早く聴きてぇなぁ……。待ち遠しい。

 ずっと待ってた3章の曲と、『この惑星(ほし)で、ただ一つだけ』のfullが収録しててマジで楽しみだ。

(作者「FGOに興味のない方は飛ばして下さって大丈夫ですm(_ _)m」)

 

 3章の曲はCMで聴いた時に、あのストーリーにぴったりのイメージだと思ったし期待値は高い。それに曲を聴いてると、3章のストーリーに想いを馳せることも出来て良いんだよなぁ……。何回動画サイトでCM再生したか。

 それに俺は3章『紅の月下美人』には殊更思い入れが深い。

 それというのも、ストーリが終わった後の高揚感と登場人物達に心惹かれたのもあってか残ってる石を全部溶かしてガチャに挑んだからな。最初は先輩と項羽様を合わしてやりたいって思いから回したのだが……初っ端から先輩が来てくれて、次の10連で続くように項羽様も来てくれて……。

 只の確立の話だと一蹴することも出来るだろう。だが、あのストーリーを見た者からすると、そんな無粋な考えは起こらず、当時の俺はまさかこの夫婦の繋がりがここまでとはと、非科学的な運命染みたものを見た気がした。

 

 まぁ、そっからはよくある『これ……いけんじゃね?』というガチャ特有のアドレナリン染みたやつが出てきて、頭の中に出現した人類悪を極力避けながら回し続けた結果、3章の人達が有難いことに全員来てくれたので、大団円と相成ったという、俺にとって幸せな思い出。

 

 だからそんな思い出補正も相まってか、楽曲が非常に楽しみなのである。

 

『この惑星で、ただ一つだけ』はもうアレだよな。CM観た人なら分かるだろうが、買うしかないってなるよな。

 まずCMの構成自体から素敵で、其々のマスター達の其々の仲間達に其々の冒険・思い出・絆っていう、ぐっと来るものを15秒という短い時間に詰め込んでるんだからもう素直に脱帽の思いだ。

 

 あのCMを観て、自分のカルデアにはあの時誰が来てくれて〜とか、あのバトルの時はあの人が活躍してくれて〜とか、あの話は確かあのパーティで〜とか、想いを馳せるとなんかこう胸に来るよな。

 プレイする人によって思い出も楽しい所も苦しい所も様々な部分が違ってきて、十人十色に感じ方も違う素敵なゲームだと改めて思わされた。

 あのCM観た人は多分、カルデアにより思い入れが強まったんじゃないかと、そう思う。

 

 そんなCMの曲だときて、fullで聴きたいと思わずにはいられなかった。っていうか15秒だけだが聴いてて普通に良い曲だと思ったしな。

 

 まぁそういう訳でCDを買いに行くのが楽しみであり、今日はそれを糧に頑張れると思う。

 

 そんな感じの今日の予定を確認しつつ朝食を平らげ箱庭学園へと向かった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「で、でけぇ……」

 

 そんな在り来たりな言葉を零してしまったが、仕方のないことだと思う。

 とにかく、デカイ。なんつうか……果てが見えないんだが……。多分敷地面積は千葉が誇るあの施設よりあるんじゃねぇかな。噂には聞いていたが実際目にすると違うもので正に圧巻という感じだ。

 ってかこれ午前中だけで周りきれねぇぞ多分。

 取り敢えず周る所を絞っとくか。

 

 他の人がぞろぞろと学園へと入っていく中、俺は一人入り口付近のベンチで配布された地図を見て思案するのだった。

 

 

 大方あたりをつけた頃合い、さて出発するかと思い地図へと下げていた視線を上に向けると、なにやら此方に誰かが向かってくるのが見える。

 まぁ俺には関係無いとすぐさま視界から切り離し、そいつに背を向け動き出す。

 

 んじゃ、回りますかねと目的地の図書館へと思いを馳せながら歩いていると、後ろから服を軽く摘まれる。

 一体誰かと思い振り向くと、女の子が居た。

 

 身長は小町と同じくらいの中一くらいの大きさで、大きな瞳に長い睫毛、小さな顔と、美少女と言って差し障りのない容姿であり、客観的にも主観的にも可愛いらしいと思える。しかし引き結んだ口と此方を見やるキリッとした目つきからは、クールな印象も抱ける。

 まぁしかし、何よりも特筆するべきことは他にあり、そう、彼女の着ている服だろう。まるで不思議の国のアリスの服を黒くしたかのようなドレス?メイド服?(俺も服に詳しくないから良く分からんが)を着ており、此方に不思議な印象を与えてくる。

 

 そんな不思議な女の子は俺を見て、一言言い放った。

 

「58756687」

 

「……えっ、と」

 

 なんだこの子は……アレか?俺を揶揄ってるのか、若しくは過去の俺と同じく自分の作ったキャラを演じてるってやつか?

 ……分からん。どっちにしろややこしいことにな変わりはない。

 

「悪い、ちょっと聞こえなかったんだが……もう一度言ってくれないか?」

 

「8534569985555」

 

 よし、分からん。

 只でさえ数学も数字も大っ嫌いな俺だ。数字の羅列から意味を察することなど出来よう筈が無い。

 じっと俺の方を見つめてくる所悪いが、意思の疎通が図れない現状どうしようもない。

 

 どう対処したものかと考えていると、俺の手にある地図を取り、ある方向へ指を指し示した。

 

 ……そこに行きたいということだろうか。

 

「図書館に行きたいのか?」

 

 此方も指をその位置へと指し示し、確認を取る。

 

「684358668」

 

 こくこくと、頭を上下に振ってそう言うが、相変わらず言ってることは分からない。だが、多分あちらの意味は汲み取れたように思う。

 

「まぁ俺もそこ行く予定だったし別にいいんだが……じゃ、行くか」

 

 歩き出した俺に続くようにたたっと駆け寄り、丁度横に並んだ形になる。

 

「875668756(よろしく頼む)」

 

 不思議と今のは何を言ってるのか分かったような気がした。




って訳で!雲仙姉の登場です!!
お互いに言葉が通じないんでこんな感じのやり取りになりました。

前回の話のあとがきにアンケートを設けましたので、もし良ければ投票していってくださいませm(_ _)m

今更ですけど、ヒッキーの通ってる学校を揺籃中学に設定します。(原作じゃ女子中だけど、この作品じゃ共学ってことでどうか)

そしてそして!五等分の花嫁2期決定!!やったー!!
言ってませんでしたが実は作者は四葉推しでして……また四葉をTVで観れると思うと、嬉しくて胸が高鳴ります。
2期が始まるまで漫画とSSとMAD動画を楽しみながら待機ですね!
楽しみだーー!!


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第10箱「なんだここ……桃源郷?」

雲仙姉の反響が凄いですね笑
 まぁ8話のアンケートの結果から見てもそうですが、みんな好きなんだなーって改めて思いました。
 
 ではでは第10話!
 前回は安心院さんに言ってもらいましたが今回は作者が!ミスタードー「ナツの期間限定の宇治抹茶黒蜜きなこに舌鼓を打ってたらネタが浮かんだんだってさ。そんでその場で書き殴ったらしいよ。ってことで皆も食べてみてーってね!あひゃひゃ☆こーんな区切りの良い回に誰も来ないと思った?そんな訳じゃないんねー人吉!」
 
「不知火お前……作者の台詞乗っとるとか恐れ多いことを……」
 
「大丈夫大丈夫!なんか安心院さんが興が削がれたとか言って、今回の出番譲ってくれたからねー。だから何しようがへっちゃらってね♪なんせあの人の後ろ盾があるんだから(にやりんっ)」
 
「また裏でなんかしてたんだな……まっ、お前らしいっちゃらしいんだけどな。カッ!いいぜ、やるなら派手にやってやろーじゃねぇか親友!」
 
「イエー!じゃー折角ミスドにいる訳だから作者に奢ってもらおっかなー!たらふく食べよーぜ親友!(ぽっきゅーんっ)」
 
「おお……早速トレイに山盛りのドーナツを載せてレジに」
 
 作者「ちょっ、待ってお願いします!せめて食べ放題のやつにしてー!」
 
〈ナニッ!?タベホウダイジャト!ナニソノステキナヒビキ……!!ナーナーオマエサマヨ。ワシラモソレニシヨウデハナイカ〉
〈エェー……1200エンハナ~……ソウダシノブ。オマエガサンサイミマンニチヂメバ700エンニナル。ソレナラマァイイゾ〉
〈ナル!ナルナル!〉
 
「作者がレジに走っていっちまった。悪いが誰もいないしタイトルコールは俺がやらせてもらうな。第10箱「なんだここ……桃源郷?」だ。じゃ、楽しんでいってくれ!」
(この4人のお話は感想欄[10箱]の方に続いちゃいましたんで、もし良かったら見てって下されば〜〜)


「でけぇ……」

 

 再び同じ感想を呟いてしまった俺は悪くないと思う。

 いやだってな……明らかに高校のレベルの施設じゃないんだよな。下手すれば其処らの大学よりも凄いんじゃないかってくらいの。それにやたらと広いし。

 

 こりゃ一日中は時間潰せるなと中へ入っていくと、新着コーナーに新書や参考書、雑誌に小説にラノベや漫画まで幅広い種類を抑えてあるのを確認出来る。

 すげぇな……種類は問わずに本が並んでてまるで書店にでも来たみたいな気分にさせられる。

 もうこの図書館の存在だけで、箱庭に入学したい意欲が高まる。

 

 取り敢えず手前の新着コーナーの本を物色し、一冊の漫画に手を掛ける。が、同時に横からの手が同じ本を掴んでいた。

 

「「……」」

 

 先程まで同行していた彼女だった。

 

「……まぁ、別に俺は後でいいから先読んでいいぞ」

 

 潔く諦め、本から手を離す。

 まぁ、どうせ帰りにアニメイトで買う予定だったし。別に今読まなくていいしな。

 そんな訳で他の本の物色に移るかなと離れようとするが、袖をきゅきゅっと引かれ立ち止まることに。

 

「……どうした」

 

「45654594496554594」

 

 本をひらひらと前に掲げ、奥のテーブルへと指を示している。

 

「っと……」

 

 彼女の意図を察するべく戸惑いながらも暫く頭を回していると、それに見かねたのかぐいっと袖を引っ張って来る。

 異様に強いその力になすすべなく連れられていくとテーブルに着き、そして座るように視線で促される。

 

「ま、別にいいけどよ」

 

 静かに椅子を引き座ることに。すると彼女も隣り合うように横の席に座る。

 そして件の本を真ん中に置くと

 

「688654238」

 

 ……ここまでくれば流石に分かる。多分だが此方に気を遣い一緒に読むように勧めてきているんだろう。

 道案内をしたことに恩義でも感じているのだろうか?別にそれくらい気にしなくてもいいもんだが、まぁ彼方が気にするなら仕方がない。律儀な奴なんだなと思っていると、じとーっとした視線を感じる。言外に早くと言っているのを感じ、そのまま一緒に本を読むことにした。

 

 ─

 ──

 ───

 

「ふぅ……」

 

「6214……」

 

 結局最後まで読んでしまった……。

 隣の読むペースとか気遣いながらの読書だったからすげぇ疲れた……。

 まぁ面白かったからいいけど。

 

 壁に掛けられた時計を確認すると9時。

 約一時間は時間を潰したことになる。

 他にも回りたい所もあるし後は図書館の中ぶらっと見て次行くとするか。

 

「んじゃ俺はこれで」

 

 ぺこっと軽く会釈をし、別れることに。

 

 ─

 ──

 ───

 

 30分程の時間を掛け館内をぐるりと回ったがしかし……凄い、という感想しか言えない。

 とても高校のそれとは思えない程の充実ぶりで圧巻された。読書家の奴からしたら天国のようなもんだな此処。

 入学して常連と化す自分の姿を容易に想像出来る。

 

 そんな図書館への感想を浮かべながら足を進める。

 次の目的地はというと、飼育委員が今日の為に開放している教室。なんでも犬や猫、うさぎや鳥やらの普段委員で世話をしている動物達を見れるとのこと。

 きっとこの学園のことだから、さっきの図書館同様すげぇ規模のものが予想される……ひゃ〜オラわくわくすっぞ!(テンション)

 

「なんか学校見学っつうか商業施設回ってる気分だな」

 

 品揃えの良すぎる図書館に、今から向かうわんにゃんショー(仮)。

 あれ?俺今日オープンハイスクールに来たんだよな……?

 まぁ小町への良い土産話が出来そうだし問題ないか。

 

 ─

 ──

 ───

 

「なんだここ……桃源郷?」

 

 思わずアホ毛の吸血鬼の彼のような感想を呟く。少女や幼女、童女ではないが、其処彼処に動物が居る。猫も犬も鳥も狐も猿も……兎に角たくさん居る。

 ……やべぇめっちゃテンション上がる。

 

 ってかマジで此処が学校なことに疑問を抱かずにはいられなくなってきた。件の図書館といい、わんにゃんショー(仮?)がある学校……なんだかな。凄いっていうかうん、ぱないの(投げやり)

 それよか文化祭の時とかはもっと凄いんだろうか?今日のこのクオリティから自然と期待値は高まる。

 今度小町と一緒に来よう。

 そして日々の学校生活に疲れて心が穢れていったら此処に来て癒されよう。

 

 入室して1分も経たず遠い将来の予定を組んでいる所、横から声を掛けられる。

 

「あれ、もしかして……比企谷くん?」

 

「あ、おぉ……上無津呂か」

 

 そこにはちょっとした知り合いである少女の姿が。

 にこーっと綻んだ口元からは猫のような八重歯が覗き、ぴょこんと両側に生えた猫の耳を彷彿とさせる髪型、ぱっちりと開いた快活さを表すような瞳。

 野生児の二つ名を持つ、上無津呂杖である。

 

「久しぶり……ってことも無いかな。こないだの東京わんにゃんショーで会ったもんねー」

 

 そう。彼女もあのイベントの常連さんであり、偶に鉢合わせることがある。

 彼女との関係を語ると長くなりそうなので簡潔に纏めると……元々うちの飼い猫であるカマクラは彼女の父親が会長を務める保護団体の所に居た訳なんだが、譲り受ける時にそれはもう、これでもかとご飯はしっかり食べさせてあげてやら、可愛がってあげてやら、熱く語られた訳で。その時に嫌でも色々話した所為か顔を覚えられたらしく、東京わんにゃんショーで見かける度に声を掛けられるようになった〜って感じだ。

 

 まぁだが、あくまでそれだけの関係なので友達って訳でもなく、まぁ知人だな。

 

「そういえばカマクラくんは元気してる?仲よくやってる?」

 

「アイツは元気ではあるが、仲良くか……どうなんだろな。まぁ寝てたら腹の上に乗ってくるくらいだから少なくとも気を許されてたりすんのかね」

 

「あ〜〜ハハ。仲睦まじいようでなによりだね……」

(乗ってくるってことは親猫が子猫を抱く感覚に近いし……若しかして比企谷くん、カマクラくんに子供みたいな感じで見られてるのかな……)

 

「ま、それよりもそっちの学校もオープンハイスクールだったなんてな。日程もだが志望校まで被るとは」

 

「や〜本当それね。比企谷くん居るからびっくりしたよ。もしかして第一志望だったり?」

 

「まぁな。お前もか?」

 

「うん。自慢になっちゃうようであれだけど私は空手で推薦貰ったからさ。もう殆ど決まったようなものなんだよね」

 

「あー……確かにお前なら余裕だったろな」

 

 前に不審者が数人出た時も軽く捻り潰してたしな、腕前は相当なんだろう。いや、腕前ってレベルじゃねぇな。最早戦闘力と表した方が妥当な気がする。なんか大の大人片手でぶん投げてたりしたし。ドラゴンボールの世界で修行積めばいい線いきそうだと思いました。

 

「へへ。ま、そーいう訳で比企谷くんも頑張ってね!じゃあ友達待たせてるから私はここらで!」

 

「おう」

 

 そう言うと颯爽と去っていった。




って訳で上無津呂さんの登場でした!ストーリーの為父親等の設定勝手に作りました。
猫繋がりで絡めそうだなーって思ってたんで、こういう形での八幡との関係です。本文中でも言ってましたが八幡側からしたら知人って認識。ですが彼女からしたら友達って認識です。
同じ動物好き同士気が合うよう。
ヒロインじゃない予定。多分。(いい加減な作者だからどうなるか分からないけども)

カマクラの八幡に対しての認識は取り敢えず7.5巻の話から引っ張て来ました。

あと雲仙姉って漫画読めんの?とか疑問に思う方居らっしゃると思いますが、まぁ、なんかフィーリングで感じ取ったとか実は文字は読めるんだとか、そんな感じで適当に流してやって下されば幸いです。(作者もこの件に関してはまだ考えてない)

あと、何話の感想でも絶賛募集中ですので……その、気軽にコメント頂けたら嬉しいなーって|´-`)チラッ


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第11箱「まぁ、少しは働いた甲斐もあったか」

「さて、この作品も11話も重ねてきて色んな人達が登場したわけだが、まだ彼女が一度も出ていないことに気づいたかな?そう」

「私だ!」(凛ッ!)

『いらっしゃい、めだかちゃん』『満を持しての登場というか』『やっと呼んで貰えたんだね』

「こらこら球磨川くん。そう煽るもんじゃないよ。確かに主人公の割には遅いとも思わないまでもないけど」

「ぐふっ、……ま、まぁいいとも。人の気にしているところをと言いたいところだが胸の内にしまっておくとしよう……だがな!私は呼んで貰えなかったのではない!敢えて!そう敢えてこの回まで待機していたのだ!」

『ふぅーーん、それはそれは』『んで、その心は?』

「うむ!実はというと今回の11という数字は私達3人に関係していてな」

「11、ふむ。11ねぇ……」

「まえがきで勿体ぶるのもどうかと思うので早速言わせて貰うぞ。私達3人が表紙を飾った単行本が11巻なのだ」

『あぁ〜はいはい、あの巻ね』『確か財部ちゃんにパンツ見せて貰った巻だよね』

「なんの躊躇もなく女子中学生のパンツに食いついてたね。あれは悪平等[ぼく]も予想外って反応だったかな」

「球磨川貴様……私との勝負の回を差し置いてする話がそれとは……はぁ……いや、何も言うまい。更に脱線していく予感がするので本題に入る。実は私達3きょうだいが表紙に載った記念回ということで祝賀会をと思ってな。このコーナーが終わった後はパーッとやらないか?禊お兄ちゃんになじみお姉ちゃん」

『あー、もしかしてさ』『今僕たちの居る部屋の横の会場ってめだかちゃんが抑えてたりするの?』

「あぁ、勿論」

「成る程そういわけか。いや実は、なんで今日は毎回このコーナーで使うスタジオじゃないのかと疑問に思ってたんだけどね、そういうことなら納得だ」

『んー』『けどそれならそうで事前に言ってくれなきゃね』『ま、別に僕予定空いてるからいいんだけどさ』

「ぼくも予定大丈夫だよー」

「それに関しては素直に謝罪する。だが言い訳させて貰うなら、何分此方も急だったのでな……なんせ今朝作者からこのコーナーのオファーの電話が来たばかりで、朝から忙しかったのだ。ほら、折角の初登場なのだから服を新調したりとか、隣の会場を抑えたりだとか、び、美容院に行ったりだとかな、ふふ……(テレテレ)」

((かわいい))

『ん?』『今、今朝って』

「球磨川くん。それ以上は、いけないよ」

『……』『そうだね』

「ではそろそろ良い頃合いだ。タイトルコールといこうじゃないか」

『了解』『じゃあ僕からね」『第11箱』

「 「まぁ、少しは働いた甲斐もあったか」だよ」

『「「どうか楽しんでいってね」」』


 あの後上無津呂と別れ室内をぶらぶらと回っているうちに一つ気づいたことがある。どうやらお触り等、係の人に確認を取れば大丈夫のようだ。なら俺もと思い、動物達を見て回る。

 猫……は、正直凄く抱っこしたいがまぁ家に居るし、パスだな。折角だから珍しい奴にしたい。

 

 ならどうするかときょろきょろと見て回ると、見知った顔が見えた。先程の数字少女だ。

 なにやら微動だにせずぼーっとしている。なにしてんだと思い彼女の視線を追ってみると、抱っこされている犬の姿が確認出来た。

 そうしてもう一度彼女に視線を戻す。よく見れば、無表情ながらも何処か羨ましそうな目をしている気がしなくもない。

 

 ……なんだかな。妙に気になるっつうか、既視感を感じる。不思議とモヤモヤして落ち着かない。

 一体なんなんだと取り敢えず直近のことを思い返していく。すると早くも、先程の上無津呂の浮かべた笑みに引っかかりを覚える。具体的にはあの笑みから覗く八重歯が。上無津呂は左右にあるのだが、妹の小町には確か左側だけだったなと思い出す。

 

 あの時折見せるチャームポイントが小悪魔染みた妹のキャラクター性を際立たせてるなと考察をしていると、次第に小町について考えが傾いていった。

 そして、昔あいつが小さい頃に一緒に行った動物関連の催し物について思い当たる。

 

 確かあの頃は小町が隣で犬を抱っこしている人を物欲しそうな目で見ていて、気を利かせた親父がその人に頼んで抱っこさせて貰ったんだっけな。人によっては駄目な場合もあるが、その飼い主さんは大丈夫だったようで快く小町に抱っこさせてあげていた。

 その時の瞳を輝かせ満面の笑みを浮かべた小町は、とても眩しく尊いもので……俺はよくやってくれたという意味で親父にサムズアップをし、カメラで小町の笑顔を収めていた親父は静かに、そして強く此方にサムズアップを返し、言葉には出さずとも分かり合えた気がした。

 

 まぁともあれ、そんな過去の思い出が今の状況と繋がっていることに気づいた。向こうであの様に佇む数字少女の姿が昔の小町と似通っていて、小町と被って見えてしまったのだということに。

 それと何故だろうか、彼女に対してよく分からない妙な親近感を感じてしまうのも相まって、大凡自分らしくもない行動に出てしまう。

 

「あの……すいません、その犬抱っこさせて頂くこと出来ませんでしょうか?」

 

 係の人に尋ねる。俺の姿を視認して少しギョッとしたが、それも数秒のことで、すぐさま笑顔で対応してくれ、了承の返事を頂いた。マジか。なんて仕事意識の高いことだと感心と恐れを抱いていると、件の犬を抱っこして此方に近づき俺の腕の中に寄越してくれる。人懐っこい性質なのか、抵抗の様子も無く大人しい。

 

 腕の中の温もりを感じながらほわほわとする傍ら、小声で係の人に確認を取る。

 

っと、すみません。後ろのドレスみたいな服着た女の子にも抱っこさせてやっても構わないでしょうかね?

 

あぁーあの子ね。さっきからうちのワンちゃん見てるから興味あるのかと思って後で話しかけようと思ってたんだよね。あっ、勿論抱っこOKだから!

 

あ……そうですか。ありがとうございます

 

 俺が動かなくてもいずれは解決していたことかと思い、少しため息を吐く。

 

「要らぬお世話だったって訳ね……」

 

 そう自嘲しながらも後ろの彼女の元へと歩いて行く。彼女の方はというと若干眉をひそめ此方を訝しんでいるが、そのまま腕の中の犬を差し出す。

 

「ほれ」

 

「6515290426」

 

 なんの真似だと言っているかのような視線を受ける。当然相手がそんな様子なので、受け取ろうともしない。まるで頑固な妹を相手にしてる気分だ。

 そんな感じでお互いの視線がぶつかり合い膠着状態に陥ったので、埒が空かないと判断した俺は強引に犬を押し付けた。

 いや、だってこのままだと犬の方もいい迷惑だろうし……グダるよりはいいだろ。

 

「……!!」

 

 腕の中の犬にあたふたと困惑の表情を見せ、そのまま此方に顔を向ける。

 ……当たり前だけど、そんな顔も出来んだな。

 出会った時から表情の変化が乏しかった彼女の意外な一面が知れ、少し得したような気持ちになりながらも応える。

 

「俺はもう充分癒されたからいい」

 

 そう言って彼女に背を向けその場を離れる。

 比企谷八幡はクールに去るぜ。フッ、今の八幡的に超ポイント高い。

 そんな馬鹿なことを考えながら歩みを進め、ちらっと一目彼女の方に目を向ける。

 すると、腕の中の温もりを噛みしめるよう優しく、大切に犬を抱えている様子が見て取れた。その頬には少し赤みが差し、分かりにくいが少しだけ目元・口元が緩んでいる。

 

「まぁ、少しは働いた甲斐もあったか」

 

 要らぬお世話だったんだろうが、それでも彼女の様子を見る限り少なくとも間違ってはなかったんだろうと思い、少し晴れやかな気持ちになりながらもその場を後にした。

 




まえがきでめだかちゃんが安心院さんに『なじみお姉ちゃん』って言ってるのは完全に作者の妄想ですのでご了承下さいませm(_ _)m

あっ、それと作者はめだかちゃん好きですからね?ただ、そのですね……出すタイミングというか、他に出て貰いたかった人がいたとかの理由でですね……ええ。
ごめんなさいめだかちゃんm(_ _)m

あと前回もですが、まえがきが長くて少しでも不快に感じられました方が居たのなら申し訳ありません。ですが作者はこれからも自分のやりたい放題やっていく所存ですので、ご了承下さいませm(_ _)m

それとあの後はというとですね、3きょうだい水入らずの祝賀会にご馳走の匂いを追ってきた不知火の乱入、更に不知火と一緒に遊んでた善吉が彼女を追ってきた結果自然と交ざることに。
そんでもういっそ皆呼んじゃおうかという話になり、安心院さんパワーで色んな人を連れてきて仲良くワイワイやったのでした〜みたいなオチです!


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第12箱 「メロンパン?」

「ふぅ……よかった」

 

 あの後はというと俺は俺で自由に巡り、お触りや抱っこ等々存分に動物達に癒させて貰った。

 だがあまりに夢中になっていたらしく、時は既に12時前。

 お昼時の為お腹がぐぅと鳴るのをキッカケに時間に気づいた次第である。

 

「……折角だし食堂寄ってくか」

 

 当初の予定では今頃帰途についてる筈なのだが、今の現状では帰る訳にはいかない。なんせ図書館を周って動物達に癒されるくらいしかしていない。流石にそれだけではマズイだろうから、もうちょっとは周っておく。

 まぁしかし、その前に腹ごしらえと、地図を見ながら食堂への道を歩いていった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「うぇ……」

 

 時間帯というのもそうなのだろうが、すげぇ混んできた。

 最初並んだ時はそうでもなかったのだが、段々と後ろに人が続いていき今では長蛇の列へと化してしまっている。

 

 人に酔いそうだ……。

 避難するように端っこの席を確保し、注文したラーメンを啜る。

 

「おぉ……美味い!」

 

 目を見開き、小さく声を上げた。

 

 何回も繰り返すが、この学校のことだろうから食堂にも期待出来るのではと、若干ハードルを上げていたのだが軽々と超えてきた。というか店とかでも出せるレベルじゃねぇの、これ?うちの学校から配布された食堂の券を使って実質タダで食ってるんだが、なんだかお金を払わないと申し訳ないような気持ちにさせられる。

 

 しかもここの提供されている食事、列に並んでいる際に聞こえてきた話によると、全て学生が調理しているらしい。なんでも、食育委員の人達が取り仕切っているとかなんとか。

 ……『生徒の自主性を何よりも重んじる』とパンフレットに書かれてあった記事を思い出しつつ、今尚必死に厨房で働いているであろう先輩方に尊敬と畏敬の念を送る。

 

 やだなぁ……なんで学生の身分で働かなきゃならないのか。俺は入学しても絶対に委員会に入らない。近寄らない。働かない。はい、今胸に刻みましたね。

 

 未来の平穏の為、あれこれと頭を巡らせながら麺を啜っていると、隣の席にカチャッとトレイの置く音が鳴る。

 こんな端っこの、しかも俺みたいな負のオーラを流してるような奴の隣に来るくらいだ。

 きっと俺と同じく人に酔っただとか、そんな理由に違いない。

 

 そんな推測を立てるも、かといってさして気になる訳でもなく、気にしても仕方の無いことなので、隣の人への関心を切る。

 

 再び食事を再開させる為に一旦水を飲もうとしたが、その時横から手が伸びてきた。その手に握られているのは

 

「ぁ?……メロンパン?」

 

「93841680」

 

 突如現れたメロンパンを訝しむも、聞こえてくる数字の羅列にはっとなり隣に視線を向ける。

 

「お前……」

 

 数字少女。

 なにかと今日縁のある彼女が座っていた。

 

「7558239444569?19464300141」

 

 そう言い、ぐいっと此方にその手に持ったものを押し付けてくる。

 なんだよと彼女の表情を伺うと、その目からは強い意志が感じられる。絶対に引くことはしないような強固な意志が伺える。

 

「よく分からんが……まぁ、取り敢えず受け取っとく」

 

 受け取ると、一度頷き食事を始め出した。

 何を頼んだのかと思いちらっと目を向けてみると、そこには何層にも重なったパンケーキが聳え立っていた。

 

 ……こんなのもあんのかよ。

 

 ナイフとフォークで綺麗に切り分け、もくもくと食べ進めていく。そんな様を見ていると、なんだか自分も食べたくなってきてしまったのだが、追加で頼むのは流石にお腹がもたない。

 ならここ(箱庭)に通うまでの我慢かと、未来への楽しみが一つ増えたのだった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「……はぁ」

 

 ラーメンを完食し食後の時間。

 ここに来る道中で買ったMAXコーヒーを飲みぼーっとしている。楽しんでいただけの午前中であったが疲れもきているわけで。只でさえ人体改造の件で身体がだるい俺としては、暫くはここで休んでおきたい。

 

 そんな風にぼーっとしていると、ふと横から視線を感じる。

 反応するべきか否か数瞬悩むも、後者を選ぶことに。

 いやほら、気のせいだったら恥ずかしいし。

 

 そう思っていると横からとんとん、と机を軽く叩かれる。

 そうまでされたら反応せざるを得ないわけで、顔を向ける。

 

「ん。なんだ?」

 

「998875666001196643444988662889」

 

 俺の手に握られたMAXコーヒーを指し、自分のグラスを差し出す。ジェスチャーなのか、親指と人差し指を曲げて『少しだけ』と伝えようと?している。

 多分少し分けてくれってことだろう。

 

「いや、少しとは言わず1本やるよ。ほれ」

 

 だがそこは俺。MAXコーヒーに興味を惹かれた者がいるならば布教するしかあるまい。

 直ぐに鞄から予備の分を取り出して差し出す。

 

 若干驚きながらも、いや、全部くれとは言ってないと言いたそうな目をしている。

 だろうな。俺も同じことされたらそうなる。

 

「まぁ新品のやつの方がいいだろ色々と。それをグラスに注げばいい。合わなかったら残りは俺が飲むし安心していいから」

 

「……309428」

 

 僅かに逡巡した後、プルタブを開き中身をグラスに注ぎ始める。4分の1くらいかといった所で止まり、恐る恐る口に含んでいく。

 

「8!93547……525!」

 

「おぉ……美味い、ってことでいいのか?」

 

 少し口角が上がった所から察するにお気に召してくれたのだろう。多分だが。

 そう思っていると追加で注ぎ始めた。ってことは確定だな。

 

「ふ、これでまた一人千葉県民のソウルドリンクの甘みの虜になった同士が誕生したか。人と関わる機会が少ないにも関わらず念の為布教用を携帯していた俺の努力が遂に身を結んだ瞬間……よし、八幡的にポイント超高いなこれ」

 

 ついつい嬉しくなってしまい饒舌になる。するとそれが耳に入ってきたのだろうか、グラスに口をつけながらも此方に視線をやってくる数字少女。グラスの中身を飲み終えて、此方に指を指し口を開く。

 

「8、0000?」

 

「いや、正確には八幡っつうか八万なんだが……まぁいいか」

 

 80000と通して呼ばれ突っ込むも、なんだか徒労に終わりそうな予感がしたので諦めることに。

 

 ─

 ──

 ───

 

 ゆっくりと30分程ぼーっとして大分疲れも取れた為、食堂を出て次の目的地である1年の教室に移動中。なんでも各年、13組分もの教室があるらしく、物珍しさもありざっと見て回ろうと思う。

 

と、軽い気持ちだったのだが──

 

 

 

「08899996344753!」

 

「ハハハッ!やるじゃんいいねっ!最高っっ!」

 

なんか異次元バトルが繰り広げられていた。




最後にちょろっと出てきたのはオリキャラです。

〜〜〜雲仙冥加の数字言語〜〜〜

『93841680(さっきの借りを返す。受け取れ)』

『7558239444569?19464300141(早くしないか、不満の筈あるまい?メロンパンだぞ。まるで巨大なおっぱいのように丸くて大きいんだ)』

『8!93547……525!(なっ!もしやこれは……練乳!)』

朴○美さんボイス「……翻訳はこんなもんかね。ったく、相変わらず姉ちゃんは油断するとおっぱいの話しかしねぇ。ま、オレの姉ちゃんだし仕方ねーけどな。んじゃまた機会があれば呼んでくれや。多分本編じゃオレの出番はまだ先だろーからよ」


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第13箱 「おめえもそう思うだろ?」

 思えばめだかボックスが原作の小説なのに13話にしてやっとバトル展開という驚きww まぁこんな感じのゆるい作品なのでよろしくです。

 ところで、五等分の花嫁10巻の表紙発表されましたね。皆さん見ました?四葉のあの表紙を。ええ、ですよね……凄かったですよね……(ここから長文ですので、ごと嫁知らんよって方は飛ばして貰っても大丈夫です。本編の内容には支障ありませんので!)

 最新の表紙の前に、一旦過去を振り返ってみましょうか──


 以前の表紙(5巻)のイメージといえば彼女を天使としか言い表すことが出来なかったと思う。ごと嫁を読んでいる方は一度思い返してみて欲しい。

 まず彼女の満面の笑みに目を奪われ、その手でハートを作ったキュートな面に危うく卒倒しそうになり、背景の四葉の葉もハートの形に合わせている所に感嘆の声を漏らす。
 そして、最後に全体を見ると、彼女のキュートさを存分に表した表紙に心を奪われる。

 異常(的な可愛さ)にして天使、彼女こそがあの中野家5姉妹の4女にしてヒロインの一人中野四葉だ!以後、お見知りおきを(黒神○黒感)

 って感じだったじゃないですか。

 それがもう10巻はどうです?以前のイメージとは少し変わってきますよね。
 まずあの表情!まるで威嚇するかのような、強気な印象を与えてくる面持ちで、普段ニコニコしてる四葉にしては珍しいような感じの。
 これってなんでしょう……もしかしてこっからは私も黙っちゃいねぇぜっていう他の姉妹への意思表示?それとも主人公への敵対心?

 という、あの表情だけで色んな想像が出来る訳なんですが、それよりもですね、個人的に気になる所があって。
 口の端を指で引っ張ってるんですけども、その引っ張ってる指が左手の薬指っていう……。え?なにそれめっちゃ意味深じゃね?ってなるじゃないですか!?
 どうしよう一体どんな意味でそんな……!ってなるじゃないですか!!

 いやホント私が指輪を貰うぜって意味なのか、それとも指輪なんか食ってやるぜっていう拒否感を表してるのか……と他にもありますけど、一体どんな意図を持ってるんだろう……。

 あと頭の花飾り?ですよね。なんかリボンをしてない四葉って凄い大人っぽく見えてくるというか。

 まず四葉って時折、子供っぽい部分が強調されてる気がするんですよね。お子様パンツとか動物のパジャマとかが良い例で。(お洒落なとこやグルメなとこ等の大人っぽい部分もしっかりありますが)
 で、極め付けはあのうさ耳リボンですよね。子供らしさの象徴?みたいな(扉絵の未来の姿でもしてましたが)
 そして今回の表紙は、そのリボンを取り、子供らしさを捨てたって解釈したら……四葉の心情に変化が起こったとか、決意?の現れとか、そういう風に捉えられません?

 っていう訳で、10巻で四葉になにかしらありそうというか、希望を言うなら四葉ルート入って欲しいというかですね……。

 まぁそんな感じで四葉の表紙が最高すぎてモチベ上がったんで書きました。
 楽しんで頂けたら幸いですm(_ _)m


 落ち着いて今の状況を整理する。

 俺は1年の教室を回っていた。そう、1組から12組の教室をまったりと「ほ〜立派なもんだな」とか考えながら回ってたんだが……13組へと続く廊下まで来ると異様な気配というか、嫌な予感がした。その出所は教室の中で、正直回れ右して逃げ出そうと思ったのだが、意思に反して足は教室へと進んでいた。

 

 明らかに異常な現象に戸惑いながらもどうするか考えたが、何分このような不可思議なことは初めての為、なすすべなく教室へと引き寄せられた。

 

 そして

 

「08899996344753!」

 

「ハハハッ!やるじゃんいいねっ!最高っっ!」

 

 この状況である。

 

 なんか数字少女が超スピードで打撃のラッシュを放ってて、もう一人の奴も笑いながらそれに応じてる。

 比喩ではなく、まるでドラゴンボールのような光景に唖然とする。明らかに次元というか、普段の日常からかけ離れた非日常。

 

 おかしいな……俺はなにも千葉のあの施設に来たわけじゃない。ただ学校見学に来ただけなのだ。この学校のことだから催し物など凄いのだろう、だから目の前の光景は非常に凝った〜という考えも一瞬頭によぎったが、そんなものでは説明がつかない。

 

 それに直感で分かった。この光景は現実で、フィクションでも作られたものでもない。今俺は、ありのままの、只の事実に目を向けているだけなのだ。

 

 こんなことは今まで14年生きてきた中でも初めての体験の為、思わず俺ってバトル漫画の世界の住人だったのかと巫山戯た考えが頭によぎるが、あながち間違いでもないのかもしれない。

 ──と、そろそろ目の前のことに目を向けなければ。

 

「んっ?あんたは……まだ薄いけど確かにあるのかっ」

 

 数字少女と戦っている女性が此方を見てそう呟いた。

 何処かの制服を綺麗に着こなしていたり、長く伸びた髪はしっかり手入れされているのか艶があり、容姿も美人だと言えるくらいに整っている。

 だが、そんなものが気にならないくらいの気味の悪さを感じる。何を考えているのか分からないような渦巻いた目をしており、口元は長く薄く弧を描き、不気味な雰囲気を纏っている。

 

 そんな人間に頭から爪先までじっと見つめられ、言い表せない不快感が湧いてくる。

 それに、初めて対するようなタイプの人間でどう関わればいいか分からないからなのか、純粋な怯えからなのか、何も言葉を返すことが出来なかった。

 

「んー、けどなんか燃えないっていうか……戦闘よりじゃないっぽい?なら君を潰したいとは思わないなぁ」

 

「9639999685588!」

 

「んっ?私の異常(アブノーマル)? 」

 

 あいつ……もしかして数字少女の言葉分かんのか?

 

異常(アブノーマル)……や、別にいいか。私の能力は……簡単に言うと『思ったものを引き寄せる』って感じ。今回は〝潰しがいのあるもの〟。ま、それだと曖昧だから更に絞って異常(アブノーマル)とか抱えている人に設定したんだけどね。貴方みたいな強かな子がこの教室に引き寄せられたのが良い例。まぁ完全には使いこなせてないし、使いこなせるものでもないんだけどっ」

 

「──ッッ525!」

 

 再び二人の戦闘が再開する。

 俺はどうすればいいのか分からないことと、先程の不気味な雰囲気に当てられて金縛りにでもあったかの様に動けないことで、扉の前でただ突っ立ていることしか出来なかった。

 

 ─

 ──

 ───

 

 そうしているうちに5分ほど過ぎた。

 戦況はというと、やや数字少女に分があるように見える。

 だがしかし、対する例の女性はというとヘラヘラと笑みを浮かべて至極満足そうに呟く。

 

「いや〜やるもんだねぇ……私とやり合ってここまでもつなんてとんだ大物だよ。うんっ楽しいねっ!」

 

「9672780834」

 

「あーはいはい」

 

 ──このまま戦いをただ見ているだけでいいのだろうか。自分は幸い相手に関心を持たれていない為、静観に徹していれば怪我もなく無事でいられるだろう。

 しかし、自分より小さな奴が必死に戦っているのを指を咥えてただ見ていることにも疑問を感じる。

 

 ──が、それでも自分にはあんな激しい戦闘に混ざり、何か出来るとも思わない。身の程を弁えず、思い上がりで突っ込むだけ突っ込んでは瞬殺されるのが目に見えている。

 

 なら、自分に今出来ることは何か?戦闘力なんてもんは無い。武術の心得も無い。戦えもしない。精々常人よりしぶといだけだろう。よくてサンドバックになれるくらいだ。

 影の薄さ……といっても、ちょっとした特技のようなもんであんな奴に通用するのか定かでは無い。

 

 なら、俺に今出来ることといえば──

 

 

 ──機を見計らって教室から出て、人を呼ぶくらいだ。

 

 情けないと思う奴もいるだろうが、実際にあんなものを見て特攻するような奴は、考えなしの馬鹿か自殺願望者くらいのもんだろう。

 自分が今切れる手札を正確に見極め、最も有効な行動を取らなけばならない。本当に事態を収めたいならば、考えて動くべきだ。

 

 だから今は、奴に隙が出来た場面を逃さないよう戦いを見守るだけだ。

 

 ─

 ──

 ───

 

「089669455?」

 

「状況が分かってないのかだって?いやいやそんなことはないよ。自分が追い詰められてることくらい分かるよ」

 

 きょとんとした顔でそう言い切るも、途端に表情が歪み、にぃっと擬音がつくかのような顔で続ける。

 

「だから燃えるんじゃんっ」

 

 こいつ……見ていて思ったが、彼女はバトルジャンキーの気でもあるんじゃないだろうか。

 戦っている時も終始口角が上がっていて、心から楽しそうにしていたし。

 

「ふふっ、ワクワクすっぞ!なーベジータ!おめえもそう思うだろ?」

 

「01613494。『619494』0194649404!」

 

 あの気味が悪い雰囲気さえ無ければ何処ぞのサイヤ人のようだといえるが……あいつは違うな。

 ──と、なにやら彼方は喋り込んでいるようで、狙うとしたら今だろう。

 

 可能な限り気配を消し、扉を抜ける。

 廊下に出た所で油断せずに慎重に遠ざかっていく。

 

 この調子でいけばと息を殺し動いていると、急に天井が視界一面に映る。咄嗟のことで頭も回らず動転していると、背中に衝撃が走り思わずむせてしまう。

 

「──ん゛ッ!ごほッッ、ハッ、はぁ……」

 

 転ばされたのだと遅れて理解した。

 

「んー、君には確かに興味は無いけどさ。だからといって勝手に動かれたら困るっていうか。誰か呼ばれでもしたら面倒だし、大人しくしといて欲しいのよ」

 

 だからね、と続け、にっこりといい笑顔を浮かべて

 

「動けないように足潰しとくねっ」

 

 なんの躊躇もなく、その辺のゴミでも潰すかのようにぐしゃりと、脚を砕かれる。

 

「──ッッ!? ────っ、づッ」

 

 声が出なかった。

 あまりの激痛に、その所業に、自分の置かれている状況に頭が真っ白に塗りつぶされる。

 

「──ぐッッそが……痛っッッづ──」

 

 相手に毒づくことも出来ず、頭を塗り潰すように迫り来る『痛い』という感情に流され、思わず心の内を漏らしてしまったのは仕方のないことだと思いたい。




 〜〜オリキャラ設定〜〜

 名前:宮ヶ原(みやがはら) (なごみ)
 過負荷(マイナス) :前後不覚(ロングトラベル)
 引き寄せる :望まないものを引き寄せてしまう。
 常時発動型というわけでもないが、頻繁に発生するスキル。

 幼少期から、望まない苦手な動物が寄ってくる・望まない暴力を振るう人が寄ってくる・望まない苦手な食べ物が食卓に並ぶ・望まない勧誘等がくる等々、兎に角災難な目に人一倍、というか比でもないくらい遭ってきた。

 ある日、自分でもこの体質(当時はスキルと認知してない)は可笑しいと薄々気づいていたので、一度考えてみることに。そして彼女なりに考えた結果、『望まないものが寄ってきて嫌ならば、それを好きになればいい』と結論を出す。

 それから、苦手な動物を可愛く思えるように・嫌いな暴力も好きになるように・苦手な食べ物も好きになるように・嫌な勧いは喜んで受けるようにと、嫌なことを積極的に行なっていく。そんな風に、嫌なことに肯定的に好意的に向かいあって、それを求めるようがむしゃらに生きてきた結果、次第に自分でも自分が何をしたいのか分からなってしまい、何が好きで何が嫌なのかよく分からなくなってしまう。

 そんな感じに精神面も歪んでしまった結果、望まないものと望むものの境界が曖昧になり、スキルもそれに合わせて調整(進化?)され、『思ったものを引き寄せる』というものに。

 引き寄せられたものを見て思うことは
「あー、多分好きっ」「多分嫌いかも」という、自分でもよく分からない反応。

 但し例外が一つあり、闘争は好きだとはっきり思えるそうな。
 彼女、元々は非常に暴力や争いが嫌いだったらしく、普通に育てば温厚な人間になる筈だったのだけど、スキルがそれに反応してしまい過剰に暴力・格闘に触れることになってしまう。その所為か、嫌でも戦闘力が上がってしまうような生活を送ることに。『望まないものを好きになろう』という思想で、度々闘争に触れてきた結果、バトルジャンキーのようになってしまったそうな。

 あと、こんな生き方(何度も何度も嫌なことに積極的に向かい合ってやり遂げるような)続けれていたことから彼女、相当強かな所あるなと。

 過負荷(マイナス)っぽくないかな?まぁけどこんな感じでお願いしますm(_ _)m

 スキルは「ヒロアカ」の出久のお母さんから着想を得ました。引き寄せるって部分ですね。

 彼女の名前はGoogleマップで九州地方を眺めてピンときたものを選ばせて頂きました。

 って考えてみたものの、本当にこんな生き方をしたらこんな考え方になるのか分かりません。なんせ心理学を専攻していたとか、勉強していたとかじゃないので。完全に作者の妄想を書き殴っただけです。
 なので、心理等に詳しい方からは矛盾を感じられるかと思われます。申し訳ありませんが、ご都合主義だとかで流して頂ければ幸いですm(_ _)m

 力及ばない作者で申し訳ありませんm(_ _)m

 〜〜スキル名の由来 〜〜

 前後不覚→あとさきの区別もつかなくなるほど、正体を失う。→ あと(嫌い) さき(好き)の区別がつかなくなるほど→自分が分からない→自分の気持ちが分からない→多分、分かるためには時間が掛かるだろう→だからきっと長い旅になりそう→長い旅 ロングトラベル

 長い旅ということにして救われる可能性も示唆しておきたかったのです……。

でも自分でキャラ設定考えといてアレですが、どうやってこの子救ってあげれば……


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第14箱 「987041555913!!2858……863256!!」

本編の前にちょこっと補足ですが、ヒッキーの異常はまだ完全には身体に馴染んでいません。
事故の怪我を無理矢理出力上げて治したこと(8話の名瀬ちゃんが言ってた急ピッチで進めた内の一つです)とかで、身体のだるさが今も付き纏ってるくらいなんで、本調子ではありません。

ということを念頭に入れて貰いつつ……14話です!どうぞ!


「じゃ、教室戻ろっか」

 

「〜〜〜ッッづ」

 

 強引に彼女の肩に担きこまれる。此方を一切気遣わないような乱雑さで、自然と潰された脚が大きく揺れた。その所為かより一層痛みが走る。

 

「〜〜〜〜〜〜ッて゛……ぇな゛」

 

 やられたままでは無性に悔しく、なんとか必死に絞り出した声だったのだが、対する彼女はさして気にする素振りすら無い。俺の言葉などどこ吹く風といった風に進んでいく。

 

 と、その時

 

「513878!」

 

 数字少女が直ぐさま駆け寄り、彼女(ややこしいから以下ぐる目少女)の顔面目掛け勢いよく鉄拳を放つ。

 

「おぉ……や、ごめんって。だって仕方ないでしょ」

 

 が、難なくそれを躱す。続け様にふくれっ面を浮かべ尖らせた口からは、まるで友人に言い訳をするかの様に気軽な口ぶりで言葉を並べる。

 

「……ま、いいか。じゃ、ここ(廊下)でやろっか」

 

 そう言うと、肩に担いだ俺を無造作に横に投げ捨てる。

 

「──ッッつっ」

 

 コイツ、配慮ってもんをだな……っいや、螺子がぶっ飛んでる奴だし期待するだけ無駄かもしれんが、もうちょい丁寧に扱えよな……。人の脚容赦なく潰してくるような奴に言っても仕方ねぇだろうけど。

 

「さーて、このままじゃ私敗けそうだし……そろそろちゃんといくねっ?」

 

 そう言うと、隣にある教室の窓を開け、何やらごそごそと手を動かす。何処に置いたか、これじゃないと呟きつつも、さながらドラ○もんの如く探し物を探す。

 

 ……ってか、なんであいつは教室にそんな私物?置いてんの?着てる制服からするに箱庭の人間じゃないし、全くもって謎なんだが……。

 

「私は誰かと闘る時は大抵徒手空拳だし、そっちの方が楽しいんだけどさー、今回は別みたいだねー」

 

 そう言うと、探し物は見つかったのか手を止める。

 よいしょ、と小さく呟き、ズルズルと何かを引っ張る音が聞こえる。

 

「武器を使わなきゃ私でもあなたには勝てないっぽいし、それに……」

 

 窓の中に突っ込んでいた手を勢いよく引き、その手に持った得物の姿が露わになる。

 

「あなたは壊れにくそうだから……っ☆」

 

 至極楽しそうな表情で言うが、反対に体の毛が逆立ってしまうような不気味な雰囲気も放っているので、此方としては恐怖しか感じない。

 

 ──そんな彼女自身から来る異常な雰囲気に気を取られていて、その手に持った真っ黒の、床に置くとその重量からなのか、ズシンと音のする、人にぶつけるには余りにも過ぎた物である、〝鉄球〟に意識が向いたのは、少ししてからだった。

 

「12、125732156!?」

 

「そうそう、今日の私の武器は鉄球なんだよね」

 

 鉄球から伸びた鎖が繋がっている持ち手をゆらゆらと揺らし、見せつけるかの如くジャラジャラと音を立てて、そう答える。

 

「そんなことより……いくぜっ?」

 

 その言葉を合図に、右手を振りかぶり数字少女へと勢いよく鉄球を投げ飛ばす。かなりのスピードが出ており、ぶつかると只では済まないだろうと俺でも分かる。

 

 だがしかし、数字少女もスピードでは負けておらず難なくそれを躱す。飛ばされた鉄球は空を切り、そのまま突き進んでいく。

 

「まーだまだまだっ!」

 

 が、ぐる目少女持ち前の怪力により直ぐ様引き戻し、再び鉄球での攻撃を仕掛ける。

 

「8!968078!」

 

「あなたが幾ら俊敏だからって!この速さで攻撃されちゃしんどいでしょっ!」

 

 まるで数が増えたかのように見える程、高速で振り回される鉄球。そんな目にも止まらぬ攻撃に、数字少女も流石にキツそうなのか表情が強張ってきている。

 

 疲れの様子を感じさせないぐる目少女に対し、凄まじい勢いとスピードで飛来してくる鉄球を見切り、避け続けている数字少女とでは、後者の方が分が悪い。

 

 攻めに入ることも厳しいのか、避けることに徹するしか出来ない様子の数字少女。そんな様子を2分だろうか、それくらいの間見守っている内に、ふと表情に変化が出始めた。口を引き結び、若干目元を釣り上げ、何かを覚悟するような面構えに。すると──

 

「2、20223814!」

 

 このままではジリ貧だと悟ったのか、意を決し、ダメージを敢えて受けることを覚悟で腹に鉄球を喰らい、ガッチリと逃がさないよう掴む。それにより、ぐる目少女の攻撃の波は止まった。

 

「おぉ凄いガッツ……にしてもっ!」

 

 ぐいっと持ち手を引っ張るも、力は彼方の方が勝るのか、鉄球は返ってこない。

 

「ひゃ〜参ったね、ビクともしない」

 

「……66337345894989」

 

 数字少女の雰囲気が、なにやらピリピリとしたものへと変化する。まるで背後に般若でも幻視してしまうような、そんな激しい怒りが伺え、傍観しているだけの俺でも冷や汗が止まらない。俯いている彼女の顔はきっと大変なことになっているに違いない。

 

「ん?」

 

「09997858733。54!」

 

 そう言うと顔を上げ、怒りの形相を露わにする。

 目は鋭く吊り上がり、威嚇するように噛み締めた歯をギリギリと鳴らしている。

 ……かなりご立腹のようだ。マジで怖ぇ……。

 

「9856357……08756845!!」

 

「──っ!つつっ、マジっ?」

 

 そう言うと、鉄球を勢いよく引っ張りぐる目少女の手より持ち手が離れ、数字少女の元へ。

 

「987041555913!!2858……863256!!」

 

 飛んで来た持ち手の部分をパシッと音を響かせ見事キャッチし、自分の手中へと収まったそれを相手へ向け、声高らかにそう宣言した。

 




作中の鉄球の種類はリボーンのランチアさんのようなものをイメージして頂ければ……m(_ _)m

 〜〜〜雲仙冥加の数字言語〜〜〜

「……66337345894989(……私のアイデンティティを奪うとはいい度胸だ)」

「09997858733。54!(確かにお前も中々の腕前だ。だが!)」

「9856357……08756845!!(鉄球は私のもので私の十八番……私こそが鉄球使い!!」

「987041555913!!2858……863256!!(この作品に鉄球使いは二人も不要!!よって……お前を叩き潰す!!)」

 雲仙姉の翻訳は都合上まだ本編では載せません。これは一応考えあってのことなんで、読みづらいかと思いますが、ご了承下さいませm(_ _)m

 あと雲仙姉もっと強いんじゃねーの?って思われる方も居ると思いますが、本編の2年前ってことでどうか何卒。


 最後に。八幡の出番が語り部のみの今回のお話。まぁ現段階じゃ前回も言いましたが、身体張ってサンドバッグになるくらいが関の山なんで、戦闘には一切関与出来ません。
 それと、仮に自分に治癒能力が備わっていて、ちょっとやそっとで死なないと理解していて、治癒能力を駆使しての闘いもあると理解しているとします。ですが、凶器持って暴れてる人や、別次元の戦闘に遭遇して、その中に飛び込んでいける覚悟なんか普通に一般人してた八幡には無いと思うんですよね(まぁ八幡に限らず、過半数の人に無いと思うんですけど)

 それでもなんとか、あの場でしっかりと考えを纏めて、自分の出来る限りのことで活路を開こうとしてただけでもホント凄いってレベルなので。(いやホント、仮に作者ならあんな状況下に立たされたら終始端っこで縮こまってることしか出来ないっすわ(-_-;))

 犬を助ける為に動けたのだって、咄嗟のことで身体が動いてしまったというだけなので。だから、本当に危険な場面に立ち向かう時は、それなりに自分の中で覚悟が決まった時だろうと思います。

 という様に、今回みたく、この作品の前半では戦闘面において八幡の活躍する場面は少ないかもです。
 訓練とか積めば別かと思いますが、まぁそれでも一朝一夕で身につくものでもないですし、時間掛かるかもです。多分。

 まぁいい加減な作者ですんで、考えが変わって八幡に血反吐吐くほど訓練して貰って、嫌でも強くなって貰う状況に追い込むとかあるかもしれませんが……。

 といっても、八幡が無双するとかの展開だけは絶対にしないようにとは思ってます。出来る限り原作の人達の活躍を尊重しつつ、というのがベストなので。

 というわけで!長くなりましたが、八幡の無双とか期待してる方がいらっしゃいましたらすみません!多分今回のようにそんな展開とはかけ離れることが多々あるかもです!という訳で、そんな方々にはブラウザバック推奨の作品になると思いますので、ご了承くださいませm(_ _)m


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第15箱 「まったくままならない」

 数字少女に鉄球が渡ってからの展開は正に圧倒的だった。

 押されてばかりだった状況が見事好転し、形勢は逆転したと言ってもいい。今では、ぐる目少女が防戦に追いやられる一方であり、衰えることを知らないかのような繰り出される攻撃の波に疲れの様子が伺える。

 

 というか、とんでもねぇな……。あんな重いってもんじゃないような物体を器用に振り回し続けてるのに、余り表情に変化が無いというか、体力の消耗があまり感じられない。身体能力が異常なのか、それとも鉄球のスペシャリストなのか、どちらにしても異常極まりない。

 

 まぁしかし、どちらにしても今の彼女を見て思うことは一つ。その手に持った得物を巧みに操り、変則的な軌道や直線的な攻撃を織り交ぜて相手を翻弄する姿からは、これが彼女の本領だったのだろうということが伺える。

 

あー、こりゃアレだわ。ジリ貧で、しかないな

 

 ぐる目少女が何やらブツブツ呟いているが、知ったことかと鉄球の攻撃が絶えず襲う。

 

「……2236634492515536」

 

「へぇ、優しい、ねっ。でも、降参は勿体なくてヤだね」

 

 だから、と続け

 

「──ッ痛っ、ちょっと失礼ッ」

 

 攻撃を掠りながらも、隣の教室に飛び込む。

 

「513!」

 

 続くように数字少女も追う。

 ってか二人とも窓突き破って行ったから教室が悲惨なことになってるんだが……。

 

 それはそうと俺も行くか、と思ったが思い留まる。

 冷静に考えてこれはチャンスだ。

 この場から離れ当初の目的を果たすべき。

 そうと決まれば行動は早い。なんとか痛む脚を無理に動かし、駆けていく。

 

 

 ──瞬間、目の前を何かが横切った。

 背中からひたりと嫌な汗が流れる。何かが目の前を横切っていったのだが、何分速すぎたため正体は分からない。

 しかし、それでも身体が内から冷えていくような不快感に襲われる。酷く気持ちが悪い。が、それでも今は置いておかねばなるまい。

 身体を巡る不快感を無視しても、まず最優先に確認するべきことがある。一体今のはなんだと、空恐ろしい気持ちを抱きつつも、緩慢な動きで顔を横に動かしていく。

 

 すると、そこにあったものは包丁だった。

 本来は包丁を投擲してきたという、その事実だけでも充分すぎる程には恐ろしいことなのだが、今回はそれだけで済むことは無い。

 なにせ、それが壁に突き刺さっていたのだ。それも垂直に、まるでダーツの矢のような状態でピンと真っ直ぐに。

 これが何を意味しているのか。簡単だ。かなりの力を加えなければ、まずこうはならない。それこそ本気で何かを仕留めようとか、そういう意思でやらなければ、ここまで壁を抉る威力は出ないだろう。

 それに、どれだけ正確に的を射ぬくコントロールがあったとして、人に当たるかもしれない、とか、そういった危険性を頭に入れて、こんな壁に突き刺さる程に力を込められるのだろうか。

 

 チラッと横目で彼女を見ると、肩で息をしていてふらふらと揺れている。

 つまり、そのような万全の状態で無いにも関わらず、此方を一切気遣わないような投擲。一歩間違えれば、というか間違える確率の方が高かったであろう状態。

 

 つまり彼女は、俺を殺すことを厭わなかったのではないか──?

 

 その結論に達して、震えが一層増してきた。

 元々人の脚を潰してくる等、異常な面は見られた。なんとなくアイツは、頭の螺子が飛んだ様な奴なのだと捉えていたのだが、その実態はそんなレベルでは収まらないような危険人物。

 

 怖い。

 ただただ、その強い感情に支配され、膝から崩れ落ちてしまった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「さてと……この部屋には武器がたくさんあるし私の庭みたいなもんよ。って訳で再戦といきますかっ!武器の貯蔵は充分だ!」

 

「5131!」

 

 高らかな声で宣言し、手前に転がった長身のロングソードを右手で拾い、左手には両端に分銅が付いた鎖分銅を持つ。

 

 剣と鎖の二刀流……いや、二刀流と言っていいのか分からないが、とにかく二つの武器を使いこなせるのかと疑問を抱かざるを得ない。

 只でさえあの剣は、俺の見た限りだが刀身が非常に長い。それも、刃の切っ先が彼女の身長を優に超えた位置にあり、重量も相当なものだろうと予想出来る。ゲームならともかく、リアルの人間が扱うとなると、それなりに訓練を積まねば碌に使えないだろう。しかもそれを片手で持っているときた。もう片方の鎖にも意識を向けつつ扱う等、素人の俺からしても相当に難しいんだろうと推測出来る。

 

 ──が、やはりそこは異常な彼女。

 当然のように鎖を器用に振り回しつつ、剣をブンブンと軽く振るっている。凡庸な俺の推測など、いとも容易く砕いてくる。

 

 そして何度か確認のように武器を振るった後、問題なしと判断したのか、数字少女へと突っ込んでいく。

 当然直ぐさま鉄球が飛来してくるが、器用にその手の剣で受け流す。そして続け様に振るった鎖が相手の手を直撃し、鉄球の持ち手が思わず離れる。数字少女の表情に一瞬驚きが出て怯んだように見えたが、直ぐ様キッと引き締め直し

 

「9、985851!」

 

「ッ!流石良い反応!」

 

 もう片方の手で拾い上げ、再び鉄球での攻撃に移ろうと腕を振るう。すると

 

「ま、けど。そんな隙見逃す私でも無いっ!」

 

 がくん、と空振るように鎖が舞う。その顔に疑問符を浮かべた数字少女が自らの武器に視線をやると、そこには繋がれていた筈の鉄球の姿は無い。

 

「7、772355!?」

 

 慌てた様子で地面へと視線を移すと、件の鉄球はといえば鎖に繋がっているものの、途中で綺麗に切断されている。

 

「25975!」

 

「何をしたって?斬った!ロングソードの切れ味悪いとか思ったんだったら古いねっ!」

 

 そんな台詞を発しながらも、攻撃の手は緩めず数字少女へと鎖を叩きつける。

 

「──ッッ!!0、064」

 

 無防備になっていた所に攻撃を受けた所為か、ダメージの入りが深いように見える。

 

「あはは。私ほどじゃないけど今の結構ダメージいったでしょ?」

 

 と、ぐる目少女は酷く楽しそうに言うのだが、対する数字少女はというと表情に苦悶の色が浮かんでいる。

 蓄積されたダメージはぐる目少女の方が多いのだろうが、それに比例せず、精神的余裕はこの場の誰よりも上に見える。

 

「でもまだやれるよね?さぁさぁ立とう!もっと続けようよっ!」

 

 その声音は、まるで友達にまだ遊びたりないと言うような軽さと、本心から楽しいという思いが伝わってきて。だからこそ自分には理解出来ないものであった。

 

「……6614、86509655378」

 

 対する数字少女はポツリポツリと言葉を紡いでいく。何を言っているかは分からないが、そこには芯の通ったものが宿っている感じがして、まっすぐに強い気持ちが此方にも響いてくる。

 

「おぉっ!そりゃ滾るねぇっ!」

 

 察するに、このバトルジャンキーを焚きつけるようなことを言ってしまったのだろう。それが吉と出るか凶と出るかといえば……恐らく後者だとは思う。

 なんせ彼女には教室に広がる無数の武器があり、多分、ある程度の習熟度がある。対して数字少女は未だ他の武器に目もくれず、鉄球のついた鎖を再び手にしている。

 仮に扱えるのが鉄球のみの場合、先程のように様々な武器で遇らわれ、武器を喪失する可能性も高いし、そうなれば、いずれは為すすべもなく一方的にやられてしまうかもしれない。

 

 ──っ!そんな思考に耽っていると、遂に鉄球の根元から鎖が切断された。しかし、武器を失った彼女はそれでもと、己の身体一つ、徒手空拳ながらも対抗しようとするのだが、武器を持ったぐる目少女の勢いを覆すこと敵わず、遂には──

 

 

 

 

 

「……0699、5」

 

「もう動く気力も無い、か。まぁけどこんなになるまで私に付き合ってくれてありがとうね」

 

 じゃあ、と続け

 

「お約束だから一応ね。最後に何か言いたいことある?」

 

 傍らに置いてあるハンマーを拾い、振り被る。

 

 ──ッッ!!アイツ、まずい!!

 もう数字少女は動けもしない状態なのにトドメさすつもりでいやがる……!!

 どうする……俺に何が出来る、いや何も出来ない。

 繰り返すがサンドバッグくらいにしかなれねぇし、打つ手など何も無い。だから彼女には悪いが、大人しく、分を弁えて逃げるしかない。ここで飛び出して、仮に運良く彼女を攻撃から守ることが出来たとしても、ほんの少し寿命が延びるに過ぎない。俺が行っても何も変わらない。

 

 だから逃げようと震える足を動かし、駆け出そうとした。

 が、それと同時に弱々しく、今にも消えそうなしゃがれた声が耳に入る。

 

「96……11805……012107」

 

 ──っ、逃げないと、逃げなければならないというのに。身体が危険信号をガンガン鳴らして逃げろと訴えてきているのに。足がまるで地面に縫い付けられたのかのように動かない。

 分かっている。

 ここは逃げるべきで、そうしたとしても誰にも避難される謂れもないことも。

 ここで俺が飛び出してもまず間違いなく殺されることになって、それを回避する為には傍観に徹するか、今逃げるしかないことを。

 ここで逃げることこそが、何の力もない俺が取れる最適解なことも。

 

「00356、97354321……11、4」

 

 だけど、それでも……

 

「──っ、クソッ!」

 

 散々色々と理由を並べたというのに。

 一度出した筈の結論に自分でも納得をしているというのに。

 反して身体が動いてしまった。

 

 ──こんな真似すんのはあの時と同じで、友達の涙で歪んだ顔が頭にフラッシュバックする。きっと、こんなこと彼女にでもバレたら怒られるし、悲しまれるんだろう。あの時の彼女の悲痛な顔を見て、自分が傷つくことで、悲しむ人もいるのだと嫌でも思い知らされた。同時にそんな気待ちを抱かせてしまった自分が許せなく、やるせない気持ちに苛まれた。どうしようもなく胸が苦しかった。

 

 ……ふと俺も、名瀬が同じことをしたらと想像してみたことはある……あいつのことを友達だと、自分の中でハッキリと落とし込めた今だから断言出来るが、きっと苦しいと思うんだろう。多分それだけじゃ飽き足らずに、自分の身を危険に晒してまで誰かの為に命を張んなって毒づくと思う。

 

 ──数少ない手札を切り、最善を尽くしたのだと自分の中で納得しても、周りから、大切に思ってくれる人からしたら、納得なんて出来ないし、意味わかんねーことすんなとか思うだろう。幾ら筋が通っていたとしても、誰かがそれで救われたのだとしても、本人が傷ついていたのなら納得など出来よう筈もない。

 

 そういう行為は、一概には言えないのかもしれないけれど、少なくとも今の俺からすれば、綺麗なものとかじゃないとハッキリ言える。大切な人に悲しい思いを、涙を流させるような行為を正しいなんて言えない。

 

 親友と呼んでくれる友達の存在で考えられるようになった──ただただ、傷ついて欲しくないというシンプルな気持ち。

 

 ……だけど、今現在、目の前の彼女を助けるには、いや、前述したが、助けることなど出来よう筈が無い。ただ放っておけなかった。

 

 繰り返すが、こんなことは正しくなくて、他のことを考えず、只々自分よがりになってしまっているんだろうと分かっている。

 しかし、そんなことが分かっていても、だ。自分の中で整理がついていても、どうしても動き出さずにはいられなかった。

 今日、少しの時間かもしれないが、一緒に学校を見て回った彼女。名前が分からないのはおろか、何を喋っているのかも分からない。表情なんか終始ピリッとしていて、感情を伺いにくい。

 だが、そんな彼女にも分かりにくいだけで、確かに感情を出していた。時折表情が綻び、目元は少し優しく口元は弧を描いていた。

 

 目の前で繰り広げられた、おっかなびっくり漫画のような闘い。これを見て、彼女達が化け物だという奴もいるだろう。それについては仕方ないとも思うし、殊更非難をするつもりもない。

 

 だが、俺は知っている。

 彼女が動物を見て、優しい表情を浮かべる子だと。

 パンケーキをもくもくと、仄かに頰に赤みを浮かべて美味しそうに食べる、食を楽しむ一面があると。

 道が被っただけで偶々道案内をしただけのことに恩を感じて、一緒に本を読むように勧めてくれた、義理堅い面があることを。

 

 血も涙もないような化け物などではなく、確かに彼女は人間なのだと。

 

 理由はどうあれ一緒に行動して彼女を少なからず知った。そこに好意とか、仲間意識とか、一緒に行動したいだとかいう気持ちとか、そんな前向きなものは無く、ただ利害の一致の上でしかない関係で、言ってしまえばただのそれだけのものだったが、知ってしまったのだ。

 

 だから、もうこの足は止められない。

 少なからず悪くなく思ってしまった人間を見捨てられなくて。

 

 散々こんな真似は間違っているだとか、あれこれ言っておいて、土壇場になると感情で動いてしまうなんて自分でもらしくないし、情けない。

 

 まったくままならない。

 自分のことを理解しているつもりでいたが全然そんなことは無かった。

 俺も馬鹿の1人だと認めざるを得ない。




〜〜〜雲仙冥加の数字言語〜〜〜

「96……11805……012107(弟……冥利……お姉ちゃん)」

「00356、97354321……11、4(お前を一人残して、逝くことになって……ごめ、ん」

ロングソード云々はtwitterに投稿されてた情報齧った程度なんで、作者超ニワカです。切れ味が鋭いっていう(使う人による)動画が見てて凄かったんで作中で使いたいなーって思って今回採用した次第です。


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第16箱 「……ははマジかよ。」

 誤字報告して下さる読者様には本当に頭が上がりません。いつもありがとうございますm(_ _)m
 そしてここまで作者の好き放題・やりたい放題に書いてきたフリーダムなこの作品に付き合って頂いた読者様、本当にありがとうございますm(_ _)m

 と、いきなり最終回っぽいこと言って、まだまだ終わる予定なんか無いんですけどね笑
 ただ、15話というキリの良い回まで迎えたので。ここで改まって読者様にお礼というか、日頃の感謝を伝えたくてですね。今回こういった形になりました。

 いやホント、自分本位にやりたい放題やってるこの作品を長い間読んで頂けて、評価して頂けたり、感想頂けたり、めちゃくちゃ嬉しくてですね。(ホントもう、なんか嬉しいとしか言えない……)

 という感じでですね!
 とにかく皆さまいつもありがとうございます!!
 これからも自由気ままに自分本位に書いていこうと思っているいい加減な作者ですが、よければ引き続き読んで頂けたら嬉しいですm(_ _)m

 それでは第16話です!楽しんで頂ければ幸いです!どうぞ!


(元々前回の15話のまえがきにこの上の文章を載せるつもりだったのに、全く気づかずに投稿してしまったなんて絶対に言えない……)



「そか。じゃ」

 

 最後の言葉を言い終えたのか、目を瞑り、諦めたかのように力なく腰掛ける数字少女。その彼女の頭を粉砕すべく無慈悲にも鈍器が振り下ろされようとしていた。

 

 時間はない。余裕も。多少掠ってもいいから、だから、どうか間に合え……!

 

「──っ!」

 

 とにかく必死で駆け抜けて、ガムシャラに数字少女へと飛び出す。

 

「さよなら」

 

「──ッ、づッ」

 

 完全には間に合わず、自分の右肩にハンマーが掠ったが、それでもなんとか彼女に鈍器が直撃することはなかった。

 そして勢いがつき過ぎたのか、彼女を腕に抱えて、2回、3回と教室の中を転がっていく。

 

「〜〜〜〜ッ、痛っ」

 

 だんだんと速度も緩やかになり、ぴたっと止まる。

 腕の中に抱えた彼女を見やると、目を丸く口を半開きにして呆然としている。

 ま、今まで傍観に徹してた奴が急にこんなことしたら多少なりとも驚くだろう。自分でも驚いてるくらいだからな。

 

 そんなことよりもと、すぐ様視線をあの凶人へと戻す。

 

「──」

 

 見た感じでは、ハンマーを振り下ろした姿勢で静止しているように見える。だが、俯いた顔からは表情が伺えず何を考えているのかも計り知れない。

 いや、元々あいつの考えなど読めた気もしないけれども。

 それでも、今回は何故か、漠然と今までよりも嫌な気がするような……。

 

「君、動けたのか。や、そもそもさっき逃げようとして走ってたっけ。咄嗟のことだからそこまで気を回してなかったけど。なるほどそうか。回復系か」

 

 ギギギと、ゆっくりと身体を起こす。

 終始楽しそうにしていて、声音にもそれが表れていた彼女だが、今回はまるで感情の乗っていないかのような、冷たい声。

 

「や、まぁそんなのはどうでもいい」

 

 と、続け顔を上げてその表情を此方へと向ける。

 

「──ッ!」

 

 分かりやすい程に怒っていた。怒りというよりもはや憤怒というのが適切だろうか。

 

 殆ど笑顔を崩さずにいた彼女の豹変ぶりには、俺だけではなく傍らの数字少女も目を見開くほどに驚いている。

 温厚な人間を怒らせたらヤバイというが、彼女の琴線に触れてしまったのであろう俺の行為はきっと、自らに最悪の事態を招いてしまうのではないかと思った。

 

「まさか大好きな『戦い』を邪魔されるなんて……横槍入れてくるとかさ」

 

 眉間のシワを一層深く、鋭い目つきを更に鋭利にし、ダイレクトに、俺にのみ届くように強い感情をぶつけてくる。

 

「マジであり得えんわ。相当萎えたっつぅかさぁ、はぁ……ったく、あれやな。自分マジで面白い真似してくれたな」

 

 口調が変わった、というより方言?関西のか?あいつの素なん──ッ

 

「ブッッ!?──あ゛っ、ハッハァ、ゔッ、ェ」

 

 急に鳩尾に一発衝撃が走った。気づけば吹っ飛ばされていて、壁へと背中から強打していた。

 余りの素早さに咄嗟の対応が出来ずにモロに食らったせいか、口から血の塊が溢れ出る。

 

「取り敢えず君は私の地雷を踏みぬきやがりましたので、それなりの制裁を受けて頂きます」

 

 底冷えするような声で淡々と告げる。

 

「私が殺すまでは死なせない。……楽に死なさへんからな」

 

 最後に一言。

 憎悪が宿った目を俺に向け、そう告げた後姿が消える。

 

「あ゛ッ、っつ、は」

 

 するといつの間にやら横に移動してきており、俺の首を握りしめる。

 

「私としてもこんな真似は普段せんけどさ。私は『戦い』が出来ればいいだけで、弱いものいじめや痛ぶるとか興味ないし。ただ戦えたらいい。それが好きなんだから。

 だから、やりたいこと、好きなことの方優先する」

 

 此方の顔を覗き込むようにハッキリと伝えてくる。その瞳は怒りの所為か血走っていて赤く染まっており、正直恐ろしいことこの上ない。

 

 ギリギリと首を握り締める力が更に強くなる。

 

「──っぁ、か……あ゛」

 

「やけどさ、私の好きなことを邪魔する相手にはその限りじゃない。私の数少ない私を否定する人は徹底的に懲らしめる」

 

 そう言ってそのまま俺を投げ飛ばす。

 息を止められていた所為か、目がちかちかとして、見えるものがボヤけており自分の状況の判別が厳しい。

 

「──っぅぶッ」

 

 結局自分がどうなったか分かったのは黒板に背中から叩きつけられ、ずるずるとそこから落ちていくように沈んでいく最中のこと。

 鳩尾付近の痛みは消えていたのだが、新しく背中からの痛みが増えていた。

 

「ありゃ〜さっきの音は背骨いったんちゃう?どれどれ」

 

 そう言いながら傍らに置いてある武器をいくつか見繕ってから俺に近づいてくる。

 

「君の身体がどうなってるか気になるってのも本音やし、ちょっと触らせてもらうなー」

 

 そう言いながら俺の身体をペタペタと触り、背骨の部分でピタッと止まる。

 

「……マジか。もう治ってる。まだ1分も経ってないってゆうのに。いや、じゃあなんで肩の傷はまだ……」

 

 顎に手を当てブツブツと呟いている。

 やがて結論は出たのか、此方を見て

 

「あぁ、そーゆうこと。多分君のそれはまだ身体に馴染んでないってことかな。傷の治りが遅いとこもあれば早いとこもある。安定してないってことやんな?」

 

 すると立ち上がって此方を見下ろしながら

 

「まぁ死ににくいってことは変わらんし、じっくりと壊すとするな」

 

 そう言い手に持ったバットを振りかぶる。

 

「──っ!」

 

 なんとか横に飛ぶように転がり避けることが出来た。

 彼女が言った通り、背骨の傷は驚くことに治っており痛みは感じず、なんとか動くことが出来た。

 そして今の俺の状態といえば、ハンマーが掠った肩が少し痛む程度。脚も問題なく動く。

 ここからどうするかだ。

 

「ふぅ……」

 

 落ち着け。正直目の前の凶人が怖すぎて膝がガタガタ震えているが、心だけは冷静になれ。

 この際恐怖してしまうのは仕方がない。割り切ろう。

 身体がぶるってしまうのも当然の反応だ。大丈夫。

 問題は目の前の奴をどうするかだ。いや、どうにかしてことを収めるか、なのか。理想は数字少女と共に此処から離れること。なら、どうすればいいか。

 

「なぁ、なんでそこまで戦いに拘るんだ?」

 

 解決策がそう直ぐに思いつく筈もなく、取り敢えずは時間稼ぎといきたいが……果たして彼女が会話に乗ってくれるものか……

 

「なんでって?さっき言ったやん。私の数少ない私だからやって」

 

 私の数少ない私?

 戦うことが、彼女の中では数少ない何かの内の一つってことか?分からん。情報が少なすぎる。

 

「……その私ってのはあれか?お前の存在を確立する為に必要なピースって所か?」

 

「ん〜〜、まぁ惜しいかもなぁ。……ほんまやったらぶち殺したい君のことなんか無視して攻撃してるとこやけど。まぁお約束の冥土の土産ってのもあるし。しゃーないから話す」

 

 誠に遺憾だがという表情で、それでもポツリポツリと此方に語り始めた。

 

「私の数少ない私ってのは、要は私の数少ない好きなコト。私はね、何が好きで何が嫌いなのか自分でもよく分からんのよ。そしてそれは私のスキルの所為なんやろうけど、話が長くなるから簡潔に纏めると、望まないものが寄ってきちゃうんよね。子供の頃の能力は」

 

 ……なんの利点も無いようなソレに言葉も出ない。

 それは最早スキル、なんて呼べないのではないのだろうか。スキルなんていうものは大抵、それなりのリスクが伴うとしても、それでも利点はある。

 だが彼女の場合だと、ただ自分の望まないもの、要は嫌いなものが寄ってくる。

 なんだそれは。ピーキーなんてレベルじゃない。

 なんの利点も無い。そんなもの、ただのマイナスでしかなく、持っていったって何の得にもなりはしない。

 

「まーそんな能力やし?当然精神面は歪むよなぁ。気づいたら自分が自分でも分からんくなっててね。で、そんな私でも。それでも、戦いは好きって強く自分の中にあってね」

 

 だから、と彼女は目を鋭く尖らせて

 

「戦いってのは私の中で凄く大切なことって訳。んじゃ、必要最低限のことは話したしもういいやろ?」

 

「待っ──」

 

 今度こそ確実にと、肩をバットで強打され思わず息が止まる。

 その激痛から、肩を抱えたまま肩膝をついてしまった。

 

「──っハ、あ、っ」

 

「君が何言おうが響かんよ。話はお終い」

 

 再び俺の鳩尾目掛けて蹴りを入れ、吹き飛ばす。

 

「ガッッ、ふ、ゔ」

 

 何回か激しく転がり、やがて勢いが収まる。

 身体はボロボロで死にそうなくらい辛いけれど、えづきながらもなんとか立ち上がり、顔を上げる。

 言葉通り、もう喋ることなどないと、聞く耳を持たないとそんな様子の彼女が近づい来る。

 この分では、話し合いで丸く収めるなんて無理そうだ。

 何が何でも俺を潰し、それから数字少女に手をかけるのが見えている。

 

「……もう、悪足掻きするくらいしかねぇなぁ」

 

 一分一秒でも長引かせる。

 みっともなく逃げ続け、運良く誰かが来てくれるのを期待して、ひたすらに時間を稼ぐ。

 不確定要素に頼ることしか出来ないのは心苦しいが、やるしかない。

 あんな圧倒的強者に俺みたいな底辺の弱者がなんとかできる見込みは残念だが、今回は有りもしない。

 

 腹を括って俺は可能な限り、その身が持つまで逃げ続けた。

 

 ─

 ──

 ───

 

「中々しぶといねぇ君。痛ぶっても何やってもいずれ回復するんやもん。まぁそれでも、無尽蔵ってわけじゃなくて限りはあるみたいやね」

 

「ハッ、ハッ……ちっ」

 

 あれから2分ほどは稼いだが、相手の攻撃の波に押され何度も身体が壊れていく内に恐らくスタミナ切れを起こしている。現に何箇所かは先程から治癒の兆しもなく、今や俺のこの体質も意味を成さなくなってるだろう。

 ……年貢の納め時かもしれん。

 

 教室の扉付近の壁に背中をもたれかけている俺に、じりじりと詰め寄ってくる。

 その手に持つはロングソード。あんな物で両断されれば確実に即死だろう。

 ……結局、なんも出来なかったみたいだな。

 数字少女を逃がしてやることでさえ叶わなかった。

 ご都合主義など起こる筈も無く、いいように傷つけられて結果がこの様だ。

 

「……最後になんか言うことある?」

 

「……」

 

「なんもないか。んじゃ、さよなら」

 

 俺の首を狩るように、ロングソードが振るわれる。

 あぁ終わったな。出来れば痛みも無く即死だったらいいんだが、どうだろうな。せめて最後くらいは運が俺に味方してくれねぇかな。あぁ小町、親父、母ちゃん、名瀬。悪いけど、先逝く──

 

 目を瞑り、その瞬間を待っていた。

 だが、いつまで待とうともそれは訪れない。

 一体何がと思い、恐る恐るゆっくりと目を開けると──

 

「教室の至る所が破損してるとか、死にかけてる奴がいるとか、色々突っ込みたい部分はあるけどよ。今はこの度の過ぎた喧嘩を止めさせてもらう」

 

 そこには巨漢としか言い表すことが出来ない程の巨大で、強大な強さが溢れ出る、あまりにも圧倒的な強さを感じ思わず目を逸らしたくなってしまうような男が、俺の前に立ち、ロングソードを握り潰す姿があった。

 

「……ははマジかよ。ヒーローっつっても遅すぎだろ」

 

「お、まだ喋れるみたいだな。あと俺はヒーローって柄でもねぇよ。まぁ敢えて言うなら──」

 

 苦笑しながらも、その男は言葉を続ける。

 

「生徒会所属 日之影 空洞だ。多分忘れるだろうが覚えて帰ってくれ」

 

 この男ならば後は任せられる。そんな絶対的な頼もしさを感じ、俺はそのまま意識を手離した。

 




 一人で軍隊とやり合える最強の漢
 推参……!!
 もう安心だねこれ。勝ったわ。皆さんゆっくり風呂入って来て大丈夫ですよ!

 まぁ、そんな訳で彼の登場です。
 何故駆けつけてきたのかっていうと、1つ目は和ちゃんのスキルで異常を持ってる人が呼び寄せられやすかったって状況だから。2つ目は生徒会の仕事をしてる時に、1年13組、つまり自分のクラスから激しい物音がしたので見に来た。
 そんな感じです。雲仙姉と和ちゃんの戦闘開始から、この話の最後までの時間は案外それ程経ってる訳ではないということもあり、こんなギリギリの登場をしたのは仕方ないってことで。


 それと、今更ですけども、和ちゃんの容姿は『神様家族』っていう作品の登場人物である小森 久美子っていう女の子をイメージとしてます。気になった方は調べて頂ければ……(特にDVD2巻の表紙になってる彼女が作者は好き)
 っていっても『神様家族』分かる人いるのかなぁ……なんせアニメやってたの2006年だし……。まぁ、ともあれすっごく心温まる話なんでオススメです!主人公とヒロインの恋愛ストーリーがとっても尊いのです。(因みに作者はアニメしか観ておらず小説に触れてません……)

 それにしても今回、作者は関西人なので台詞書くの楽でした。いつも書いた台詞が方言になってないかチェックして台詞を標準語に戻したりしてるので。それが無い分伸び伸びと自然に書けて楽でした!まぁ小説書いてる内にだんだんと慣れていって最近はマシなんですけどもね。

 あと関西の人でもコテコテの喋り方はあんまりしないんですよね。(少なくとも作者の住んでる所では)あきまへんとか、ホンマかいなとか、ごっついとか、あまり使いませんねぇ。冗談で使ったり、お年を召した方とかが使ってたりするくらい?まぁ人それぞれだし、地域とかによって違いはあるんで一概には言えないと思いますが。

 という訳で和ちゃんの関西弁はなるべく作者なりの自然さで書いていこうかなと思います。方言が出る時は今のところ怒ったときだけって設定です。後々変わっていくかもしれませんが。

 え?なんで関西弁キャラにしたか?
 色々理由はありますけど、1つはめだ箱のあるキャラと絡めるから。2つ目は、ただ単に初めて作ったオリキャラに愛着が湧いて自分の使ってる方言使って欲しかったから。3つ目は、学校のイベントで遠出する時(関西に訪れると仮定して)自然に道案内とか出来るし、出番も増やしてあげれそうだと思ったから。4つ目は上述した小森 久美子(和ちゃんのイメージ元)が大坂の学校に転校した(実際はしてない。多分。wikiにそう書いてた)という話があったから。

 と、まぁそんな感じで。いつも通りの作者の願望が多分に入ってますが、どうかよろしくですm(_ _)m


 ……ほんと余談なんですが、「ほる」という言葉が『捨てる』っていう意味の共通語じゃないと最近知って驚愕しました……関西だけなんだ……。なるほど。だから偶にレジで「レシートほっといて貰っていいですか?」って言ったらポカンとされるのか……気つけなきゃ。
 ちなみに友人にこの話したら「え、今更!?」って言われて呆れられたのが最近の思い出……。
 とまぁ、そんな抜けてる部分のある作者ですけれども、今後ともよろしくですm(_ _)m


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第17箱 「今の八幡的に」

UA100000突破!うわああああああ嬉しいやったー!

それでは第17箱です!どうぞ!


「これは……とんでもない大物が釣れてしまったみたいで」

 

 また邪魔されたと鬱陶しそうにしながらも同時に、新たなる強者の登場に少女は若干嬉しそうな雰囲気を漂わせる。

 

「さて、まぁまずは、お前のその制服を見るに……今日オープンハイスクールに来てる中学生の内の一人か」

 

「そーですよー。中学生同士の可愛い喧嘩に高校生が割り込むなんて不粋ちゃいますかねぇ?」

 

 軽い口調ながらも日之影に向ける目つきは鋭い。

 

「おーおーそんな睨むなよ。何も俺だって小さくて微笑ましい、それこそ可愛い喧嘩なら横槍入れたりしねーよ。……だが、少なくともこんな惨憺たる有様になるような喧嘩は可愛くも小さいとも言えんがな」

 

 よって止めさせて貰うと、負けじと目つきを鋭利にして対応するが、少女にはあまり効果は少なく

 

「おおっと凄い迫力。いややなぁ、そんな睨まんでくださいよ。ニュース見られてないんですかぁ?今時の子供ってば何しでかすか分かんないですよ?ほら、小学生のいじめだって周囲は気づかんだけでむごいことやってる奴おったりするし、しかもそんな奴に限って周囲から可愛いがられたりしてるなんてザラですよ。酷いことしても可愛いって言われる奴がおるし許されてる。なら私も酷いことしても、そんなん可愛いもんやって許される筈じゃないですか。差別はいけませんって」

 

「……よくそんな詭弁をつらつらと」

 

「いえいえ、それにご存知かと思いますが私まだ中学生なんですから。子供のやることでしょ?ほら、何でもかんでも大人が介入するのもアレじゃないですか。放っといてくれませんか?」

 

「……言葉だけ見れば尤もそうなこと言ってんだろうが、すまんな。生憎、中学生だろうと大人だろうと学園を害する者は排除する。それが俺の役割だからな」

 

「ふぅ──ん。んじゃ」

 

 一旦バックステップで後退し、ばら撒かれている武器を可能な限り身につけ

 

「見逃して貰えなそうだし。それにとっても強そうなので、此方も最初から全力で叩き潰しますっ!」

 

 日之影の元へと最大速度で襲いかかる。

 

「……学校見学に来てくれた中学生だし、大人しく投降してくれたら手荒な真似は控えるつもりだったんだが──」

 

 拳圧。

 大きく振りかぶったその右拳の衝撃は、少女が日之影に振りかぶろうとしていた武器を木っ端微塵に砕いた。

 

「……化けもん?」

 

「そうだな。なんなら特撮とかの怪人より化物してる自負はある」

 

「……流石に詰みゲーには燃えないなぁ」

 

 その言葉を最後に、少女の意識は目の前の男により刈られることになった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「さて、まぁ、軽く気絶させただけだ。死にはしない。それより」

 

 後方にいる少年へと目を向け

 

「あっちのアリスみたいな子も大概だが、こいつはヤバイな。よくこんなボロ雑巾のようになるまでな──っとそんなこと言ってる場合じゃない。早いとこ保健室連れて行かんと」

 

 即座に2人を抱え、保健室へと駆け抜けて行った──

 

 

 

 そして保健室へと着いたのだが

 

「な、保健委員長が居ない!?」

 

 そう、何故なのか保健室には誰も居らず無人。

 本来ならば、今日何かあった時に備えて此処で待機している筈である保健委員長が不在。

 

「……急患の連絡を受けて委員長自ら飛び出して行ったとかか?あの人の性格からしたらあり得るな……しかし、こと今回に限っては不味い。コイツらの治療を早くしてやらなきゃなんねぇのに」

 

 だだっ広い箱庭学園の敷地の中を探すしかないのか──?いや、それなら時間が、と思索を巡らせていると──

 

「ええっとすみません。中に入りたいんですけど」

 

 横からの声に顔をやると、深い赤に染まったボブカットの少女と、布団?に体を埋めている少女の姿が。

 

「ん、あぁ悪い」

 

 ささっと横にずれ道を譲る。

 

「──ん?いや待ってください。その抱えている2人、どうしたんですか?」

 

「いや、保健委員長に診てもらおうと思って此処に来たんだが、生憎不在のようでな。どうしたものかと俺も「その人達!特にその男の人は今直ぐにでも処置しなくては不味いです!」お、おぉだよな」

 

 ことの重大さに気づいたのか、一気に捲し立てるボブカットの少女の勢いに押され萎縮してしまう日之影。

 

「保健委員長が不在……まだあの人からの使命を果たす時期ではないけれど、状況が状況だし……」

 

 顎に手を置き、ブツブツと一人呟きながら10秒ほど思索に耽る。すると決意が決まったのか真剣な面持ちを日之影に向け

 

「私が治療します」

 

「いや、だが「これでも現委員長のお墨付きです。なんなら彼女にも引けを取りません。貴方も同じ穴の狢でしょうしこの際隠し立てしませんが、私は病気を操れます」」

 

 そう言って自分の右手を見せるように前に出す。異常な程に伸びた爪を。

 

「──ッそれは……異常(アブノーマル)か?いや……」

 

五本の病爪(ファイブフォーカス)。それが私のスキル。あらゆる病気、怪我をコントロール出来ます。必ずこの人達を救ってみせますのでどうか……!」

 

 ジッと、その真剣な瞳で日之影に訴える。

 

「……なら、コイツらを頼む」

 

「はい。では患者をベットへと運んでください」

 

「了解した」

 

(本来なら委員会の奴に連絡を取るなり色々とあって、俺のこの判断は正しいものじゃないだろうが)

 

 それでもあの真剣な眼差しと、絶対的な自信に押されてしまった。この危機的状況に判断能力が鈍ってしまっていることもあるのだろうと自嘲する。

 

「──っとその前に」

 

 メモ用紙を取り出し、サラサラと何やら書き留め、それを布団に体を埋めた少女へと渡す。

 

 

「悪い、アイツらが目覚めたらコレ渡しといて貰っていいか?」

 

「は〜〜〜い。任されました〜〜〜」

 

「じゃあ、後は頼んだ」

 

 彼らの回復を祈り、静かに教室を出て行った。

 

 

 ─

 ──

 ───

 

「……95708588」

 

「おっ、赤〜〜〜女の子起きたよ〜〜〜」

 

「ふぅ、よかった。結構な酷い怪我だったんだけど……様子を見るにもう安心なようね」

 

「──4!897569」

 

「どうしようっか。この子独自の数字言語で喋ってるから意思の疎通は厳しいよ〜〜〜」

 

「……まぁ既に傷は完治して容態は健康そのものだし。強いて言うなら後は帰宅するだけだし、大丈夫でしょ」

 

「9853578、333」

 

 キョロキョロと部屋の中を見回すと、隣のベットで寝ている少年に気づく。

 

「213455785」

 

 そのまま少年のベットの横の椅子に腰掛け、ただじっと少年を見つめている。

 

「……じゃあ私は保健委員長に報告してくるから」

 

「いってらっしゃーい」

 

 ─

 ──

 ───

 

 

「……知らない天井っていうか、よく見えん」

 

 視界がボヤけている。体の節々が痛ぇし、すげぇダルいし。なんだこれ。

 ってか俺……ん?なんで寝てるんだ?寝起きだから頭がボヤけてんなどうも。

 

 っと確か最後の記憶は……。

 

『……最後になんか言うことある?』

 

『……』

 

『なんもないか。んじゃ、さよなら』

 

 ──ッッ!!

 そういえば俺死……んでないんだよな──?

 体は繋がってるし、感覚もある。

 視界はボヤけて身体がダルいが……それでも確かに生きている。

 

 ──え?なんで俺生きてるんだっけ?

 あの後の記憶が無い。あのまま行くと確実に死んでいたよな──?どうやってもあの局面をひっくり返すことなんざ無理だし……。

 

 だとすると、考えられることといえば、第三者の介入によって何かが起こったこと、それか、あの凶人の気が変わったことの二つってところだろうが……後者は無いだろうな。アイツに限ってそれは無いだろう。ならば前者の可能性の方が高いのだろうが……第三者といっても俺はその人物を見てもいない。多分気を失った後に現れたのだろうか……?

 せめてお礼の一つでも言わなければバチが当たるような、それ程のことをして貰ったことになるのだが……何分姿を見ていない。

 心苦しい所ではあるがしょうがない。

 

 それにしても、此処は病院なんだろうか?

 あの後運ばれた可能性も考えられる。

 ──って、ん?

 なにか手に感触が。

 まるで誰かが俺の手を握っているかのような──

 

 その方向へと目を向けてみると、誰かが椅子に掛けていて俺の手を握っている。それ程まで離れていないが、視界がボヤけてよく見えない。

 だが、なんとなく、感覚でその人物が誰なのかが分かった。

 

「小町か……?」

 

「……?」

 

 目がぼやけてあまり見えないが、丁度小町程の大きさだったことと、なにより、不安がっているように見えたのだ。その姿に既視感を覚え記憶を探っていくと、昔怪我した時、小町に酷く心配かけた時と見事に重なった。

 あぁ、そうか。多分……病院に運ばれたって連絡受けて駆けつけてくれたのだろうか。迷惑かけてしまったな……。

 ほんと世話かけてばかりで申し訳ない限りであります。

 

 ──と、そんなことより、まずはこの目の前の妹に安心して貰わなければ。なんとか震える手を動かし

 

「……ッッ!」

 

 ぽふっ、と頭に手を乗せる。

 

「はは、大丈夫だ小町……。俺はしぶとさだけは定評があるんだ。なんなら菌扱いされるまであるからな……知ってるか?なんせバリヤー効かねえくらい強ぇんだぜ?ってあれ……おかしいな。なんか目が熱くなってきた」

 

 ボヤけた視界の中でも空元気で、にへらと笑い飛ばしてやる。

 

「それにな、俺はお兄ちゃんだからな。妹を残して逝ったりなんかしねぇし大丈夫。ハハ……今の八幡的にポイント高いんじゃね……

 

 から笑いを続けながらも、なんとか言い切った。

 

「80000……」

 

「ぇ?嘘、なんだよ名前呼びなんて……確かに俺は八幡だが、やめてね……反抗期みたいでビクビクしちゃう……。これまで通り頼むからお兄ちゃんにしてくれ」

 

 小町に名前呼びなんかされたりしたら、ショックで会話もままならないだろう。頼むから反抗期くんな……。

 ──と思ったが、むしろ……逆にありなのか?

 いや、まぁ、つまりはお兄ちゃんじゃなくて1人の異性として!……って馬鹿なこと考えてたら、眠くなってきた。

 まだ本調子じゃないんだよな。何回も言うが身体痛むし、シンドイし。

 それに回復力が強化されたとはいえ、まだ完全じゃないって名瀬に言われたし。

 

……802130

 

 彼女が何か言っていた気がするけれども……襲いくる睡魔に負け、眠りについてしまった。

 




①日之影空洞 事態の収拾を図る。八幡と雲仙姉の容体が酷いため、保健室へと連れて行く。

②道端で寝てた太刀洗斬子を赤青黄が「寝るなら保健室で」と運んできた。(二人ともオープンハイスクールとして来てた。八幡と同い年)

③日之影空洞組、保健室に到着。
丁度居合わせていた赤青黄が治療。雲仙姉は直ぐに回復したが、八幡はまだ馴染んでいない異常の所為で、治療が厄介な状態。
(なんで保健委員が不在なんだっていうと、まぁ、ご都合主義でお願いしますm(_ _)m偶々その時間帯は居なかったって感じで。二人とも一刻も早く治療しなくてはならない状態だったので、保健委員を呼びに行くでなく、赤さんに任せたって感じで)

④二人の治療が済み、雲仙姉が先に目を覚ます。
八幡の寝てるベットの横の椅子に掛けて、八幡が起きるの待ってる。(流石に自分だけ先に帰るのは違うだろうと思ったことと、彼女なりに思うところがあったらしい)

⑤八幡がふらっふらな状態ながらも目を覚ます。

簡単に纏めるとこんな感じですねー!

あとなんで赤さんが日之影さんに気づいたのかっていうと、保健室に入ろうとしたけど、入り口に突っ立ってる日之影さんにぶつかって、え?なんで入れないんだ?って疑問に思ってたら、目の前に人が居るのに気づいてビックリしたって背景が。


次回は雲仙冥加視点の話になりまーす。



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第18箱 「……802130」

雲仙冥加の独自解釈が含まれます。
苦手な方はブラウザバック推奨です。

今回は雲仙冥加視点のお話です。
では、どぞー!


 

 

 今まで自分に手を差し伸べた連中は居た。両親が亡くなった時、弟2人が亡くなった時、祖父祖母が亡くなった時は親戚の叔父さんとか、色んな人が手伝ってくれた。

 家族が亡くなっていった私たち姉弟を不憫に思ったのか家においでと言ってくれた人も居た。

 

 だけど、私と弟の異常性にだんだんと恐怖を覚えていったのか気がついたら周りには誰も居なくなってた。

 親戚の人から生活する為に辛うじて資金の援助はして貰ってはいるが……やんわりと近寄らないでと言われた。

 

 当時は冥利も小さく、今のように歳離れした聡明さも鳴りを潜めていて、年相応のような子供だった。故に、お姉ちゃんの私がしっかりしなければと、気丈に振る舞おうとして──恐らくその時からだろうか。隙を見せないよう、鉄仮面を貼り付けた様に表情の変化に乏しくなってしまったのは。

 

 一番近しい親戚からも拒絶され、周囲の人間からも距離を置かれ、私の薄かった人への関心は更に薄くなっていた。

 人と人は分かり合えないと……いや、化け物である私が人と分かり合おうなんて最初から無理があったのかもしれないが、とにかく人には見切りをつけた。

 私にはもう残っている家族、同じ化け物の弟、冥利だけ居ればいい。

 

 ──そう思っていたのだが。

 

 変な人間に出会った。目の腐った、どんよりとした雰囲気を醸し出す一般人。いや、正確には異常性も含まれているんだろうが、彼はそれでも化け物でなく、まるで人のようだった。

 

 最初は少し私達と同じ感じが、同じ化け物で、異常(アブノーマル)な気配が彼からするような気がして、もしかしたら自分の気持ちが伝わると思い接触した。

 

 結果的には私の言葉は分かっていないようだったけれど、困った風にしながらもなんとか私の真意を汲み取ってくれた。

 

 そして時には頼んでもいないのに勝手にお節介を焼いてきて、反発をしながらも内心は嬉しかった。

 

 借りを返す流れで彼と食事を共にするような形になった。

 その後にはカフェオレを一本ご馳走にもなった。なんで1本丸ごと寄越したのかは、言葉が分からず真相は不明なのだが。それでも、きっと悪い理由ではない筈だと思った。

 

 その後は急に襲いかかってきた変な奴と戦闘になったが、途中またしても彼が現れた。

 最初は何も出来ずに呆然と立ち尽くすのみだったが、途中行動に移ろうとして負傷させられていた。

 彼には今日一日世話になった礼もある為、早く片を付けて治療を受けさせてあげようと私としても懸命に戦ったのだが、結果は敗北。

 最終的には数多の武器に翻弄され、何も出来ずにやられてしまった。手足を動かす気力もなく、後はトドメをさされるだけと、そんな時、またしても彼がやって来た。

 

 余裕なんか無く、それでも必死に駆けつけてくれた彼には嬉しさを感じたけれども、しかし戦えるタイプでもないのに助けに来たのは愚かだとも思えてしまった。

 現にあの後はいいように嬲られ続けていて、見ていられない有様だった。

 

 それに、私が戦っているところを見ていた筈なのに、私が化け物だと理解している筈なのに、ましてや守ろうとするなんて衝撃的なことで、手足が使えなかったこともあるが、動くことが出来なかった。

 

 ふと、あの人達なら守ってくれただろうかと頭によぎる。否、それは無いだろう。即答出来る。こんな命懸けの危険な状況ならば、きっと見て見ぬふりを貫くに違いない。きっと助けなんか見込めはしない。

 

 それでも彼は私を放って置かずに、身を呈してまでも助けに来てくれた。自分が何も出来ないというのに、私は化け物だというのに。助けに来る要素なんて、そんなもの有りもしないというのに。不恰好で無様で、やられっ放しでしか無かったけれども、それでも懸命に私を守ろうとしてくれた。

 忌避され続けた化け物で、強い私を守ってくれた。

 その事実は正直とても嬉しかった。

 

 そして巨漢の男が現れてから保健室へと行き、ボブカットの女性に治療され、意識が途切れてしまったが直ぐ様回復した。再び目を覚まして彼を見たが、未だ眠ったままだ。

 彼の安否が心配で居ても立っても居られなく、とにかく彼の目覚めを待つことにした。彼の寝ているベット横の椅子に掛け、暫く待っていると反応があった。

 

 

 

 目は虚で、私を誰かと勘違いしている様に思えた。私を見ている様に見えて、違う誰かを見ているような。

 どう反応していいものか、そう困惑していると頭に軽く衝撃が走った。見てみると、頭に手を乗せられている。

 まぁ、好きにしておこうかと放置しておくことに。

 きっと、誰かと勘違いしているんだと思ったし、この向けられたものは私のものでも無いのだと、割り切って流そうとした。そう、した筈だったのだが──

 

 頭に感じた感触が。

 大きな掌は昔父に頭を撫でて貰ったこと、そして、感じた温もりは、母に甘えていたことを思い出し、胸が暖かくなったのだ。

 そして視界が定まらない中でも、懸命に私に向け続けたあの眼差しは、まるで親しい者へと向けるかの様な、それこそ妹へと向けるような気持ちが籠っていて。

 

 私には向けられていない。私を誰かに、それこそ彼の妹にでも重ねていたに違いないのだろう。

 だとしても、それでも──

 

 ──私の沈んでいた気持ちを、心地の良いものへと変えてくれた。温かく溶かしてくれた。

 久しく感じていなかった家族愛のようなものに、甘えさせてくれるような安心感を抱かせてくれてたのだ。それは私が求めて止まなかった、もう手に入らないと諦めていた、酷く渇望していたもので。まるで兄のような存在に触れてしまい、私は──

 

……802130(お兄ちゃん)

 

 胸中にじわりと広がっていく温かな、言い表せない気持ちが溢れ出るように、ポツリと、心の内を吐露してしまった。

 

 

 ──今日の出来事を思い返すと、不思議なもので。

 

 たまたまウロウロとしていた所に彼が居て

 

 その彼もたまたま図書館に行こうとしていて道案内を買ってくれた

 

 たまたま同じ本を選んで一緒に読んだ

 

 たまたま行き先が被ってお節介を焼いてくれた

 

 たまたま食堂に行く時間が彼と被り、借りを返せて名前を聞けた

 

 たまたま、かどうかは判断しかねるが、厄介な奴を相手取っている所に彼が来て。

 そんな彼は少し特別で、人より何倍もしぶとかったけど、ただそれだけのことで。実際は滅法弱くて。それでも私を助けてくれて。

 

 色んな偶然が重なりあって、私は今日色んなことを超えてこられた。彼のお陰で。

 こんなに出来過ぎなことはあるのだろうかと思う。

 だから、今日の出来事は、たまたま何かがあったの連続で、それを〝偶然〟と呼ぶのは容易いのだけれど、それでは納得がいかない気がするし、納得したくはないと思う。

 

 思うに、出来過ぎている、というのはつまり、必然だったとはいえないだろうか?これは定められたことだったのだと、決められた道筋を当然の如くなぞっていったのだと。

 そう思えれば、納得のいくような気もする。

 

 ならば──と、思考を巡らせていると、ふと頭に一つの言葉が浮かぶ。

 自分の頭から何故こんなものが出てきたのだろうかと困惑してしまう。そもそも今までの私ならばそんなもの、こんな間違いだらけの世界にある筈は無いと一笑に付していたに違いない。

 だが、何故なんだろう──?そこまで解っていながらも、なるほどどうして私にとって妙にしっくりきた。

 彼のことは憎からず思っているとの認識であったが、改めるべきだと思った。

 そして、こんなものは乙女チックな考えで、浮かれた頭だと言われても仕方ないかもしれないが、それでも私はそう捉えたいと思ってしまった。

 

 〝運命の出逢い〟と。

 

 酷く押し付けがましいことだと思う。だけど、そんな思いを突き通しても──

 

 彼に甘えたい、彼の妹として付き添いたい、彼と一緒にいたい。強い私も気に掛けてくれた存在で、正にお兄ちゃんの様な存在で。彼を兄として慕いたいと。

 

 そんな気持ちがぐるぐると私の頭の中を駆け巡り、幸せな気持ちに浸りながらも、気がつくと疲れからなのか、彼が起きてくれた安心感からなのか、睡魔に落ちていた。




 はい!お兄ちゃん……ってね!
 流石ヒッキー!妹を増やすなんて俺たちに出(ry)
 とまぁ、巫山戯るのはこの辺で。

 冥加ちゃんは家族愛強いと思うんですよね。原作でも言及してましたが、引きこもりの彼女が唯一外出する機会が『お墓まいり』というくらいなんで。
 しかも彼女、弟以外の身内を亡くしていることから、寂しい思いしてるんじゃ……って思いました。
 弟の冥利くんは子供ながらに達観していますけど、それでも弟に不安とか抱かせないように、表面上は着丈に振る舞ってたんじゃないのかなって思いました。おっぱいネタとか言うのは、冗談でなんとか暗い雰囲気を払拭しようとしてたのかもしれませんし(まぁただ単におっぱいが好きな可能性もありますが……いや、多分単におっぱいが好きなだけだなきっと)
 だから、そんな弟と二人で、自分は姉だからと弱みを見せず頑張ってたけど、実は誰かに甘えたかったんじゃないかなと思ったんですよね。

 今回八幡に感じた『甘えさせてくれるような存在』という感覚。八幡からすれば、朦朧とした意識で小町にするように頭を撫でて安心させようとしました(年下とはいえ中二の女子の頭撫でるなんて、八幡の性格からして、よっっっっぽとじゃない限り無いよなって思ったんで、こんな形になりました)。
 が、それは冥加ちゃんからしたら、もう親も亡くなってしまい諦めていたもの。甘えられる様な存在も居なくて、手に入らないと思ってたもの。そんな求めて止まなかったものに触れてしまって、例え、自分ではない誰か(小町)と勘違いしてるんだと理解していても、それは非常に心地良いものだったと。

 だから、これは恋とかそういうのじゃなくて、家族愛みたいな感じじゃないかな。甘えさせてくれる存在の『お兄ちゃん』って感じで。だからヒロインではないかな?多分。


 〝運命の出逢い〟のくだりは化物語の漫画版読んでて「うわ素敵!これ使いたい」ってなって採用させて貰いました。ガハラさんのあれです。


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第19箱 「ありがとうラブリーマイエンジェル小町たん……」

おかしい……なんでヒロインよりヒロインしているんだこの子……。当初はこんな予定じゃなかった。書いているうちに自然とあの子があんな風に動いてしまって私自身戸惑いながら書いていたんだ。
 だから私は悪くない。悪くないんだ……。だから名瀬さんその注射器を置い─────────────





「──知らない天井、だな。今なら見える」

 

 寝ぼけ眼だが、一度起きた時とは違い視界は良好。それに身体のだるさも消えていてすこぶる調子が良い。

 医者の人の処置が凄かったのか、俺の身体の性質が上手く働いたのか定かではないが……まぁともあれ、身体の調子も直ったことと、トイレに行きたいこともあり身体を起こすことに。

 その流れで壁に掛けてあった時計が目に映るが、時は既に18時を回っていた。

 ……俺が怪我したのが確か14時頃だったから、めちゃくちゃ寝てたことになるな。まぁあの怪我なら仕方ないけど。

 

「…………ふぁ、……はあぁ〜〜……」

 

 まぁそんなことより先ずはトイレだと思いベッドから降り、スリッパを履いて廊下へと出る。

 

 筈だったが

 

「っ、ぇ?」

 

 ガクン、と歩みが停止する。感覚的に自分の右手が引っ張られていて進めないことに気づく。

 振り返ってみると俺の手がガッチリと握られていた。

 一体誰だよ、と寝ぼけ眼を擦りよく見ると、俺のベットの横の椅子に掛けて静かに寝息を立てている数字少女だった。

 

 ?……あー、もしかしてお見舞いに来てくれたのはいいが寝ちまったって感じか?考えてみると無理もない。彼女も相当の怪我を負っていたのだから。

 ──ん?というか治りが早すぎないか?俺は自分の体質上あれだが、この子は──と考えてたら時間食いそうだな。なにより今はトイレに行くことが優先なんだ。

 考えは後回しで先に行動に移ろう。

 

「…………む」

 

 もぞもぞと自分の手を動かし彼女の手から脱しようと足掻いたが中々上手くいかない。

 ……。

 

「……まぁ、不可抗力だから恨まないでくれ」

 

 埒があかないため直接手を外すことに。

 起こすのは悪いかと思ったのでそっと、俺の手を握る彼女の細やかな指を解くよう慎重に、先ずは小指から開けていく。────────────────────?

 

「マジかよ……」

 

 つもりだったのだが……指が開かない。

 此方も出来るだけ力を加えないよう配慮しているのだが、それにしても固い。全く動かない。

 相当強く握りしめているのだと推測出来る──と、冷静に分析してる場合じゃねぇんだよな。早いとこなんとかしねぇと俺の膀胱が……

 

「……起きてくれ、頼む」

 

 仕方なく肩を軽くゆさゆさと動かしなんとか起きてもらう強硬手段に出た。

 形振りなんざ構ってられない。ここで俺の堤防が決壊して社会的に死ぬことと天秤にかければ遥かに安い。

 

 そんな言い訳を頭で立てながら暫く肩を動かしていると

 

「……」

 

 ピク、と反応が。

 次第に身体を起こして、俺の方に向き直る。

 寝惚けているのか、常よりもぼーっとした眼をしている。

 

「おぉ、起きたか。それで早速で悪いんだが、この手外してくれないか?」

 

「……」

 

 俺が指で指し示すと、それを追って彼女の目も動く。

 それからじっーと見つめていること暫く。

 

「……5556(うん)」

 

 スッと立ち上がり、スタスタと俺の隣までやって来る。

 ……。

 

「……ぇ?いや、だな、そのだから手を……」

 

 言うと、軽くゆらゆらと腕を振り、此方を見てくる。

 

「トイレ行きたいんだ。この手。外してください」

 

 指で手を指し示してからグーパーして、なんとか〝外して〟と伝えようとする。そしてその後に、扉を指し示し、外に出たいことを伝える。

 ……どうだ?

 

「006(散歩)」

 

 こく、と頷いた。

 通じたか……?

 そう訝しんでいると、此方の手を引きゆっくりと彼女が歩き始める。

 

 多分通じてねぇな……。

 

 静止の言葉を掛けようと足を止めるが、彼女の力には敵わずそのまま難なく廊下までひきづられた。

 

 ─

 ──

 ───

 

 薄々勘づいていたことだが、俺が寝ていた部屋といい、この廊下といい……此処、学校じゃないか?

 さっきの多分保健室だよな。つまり保健室で治療したと?

 まぁこの学校のことだ。機材も充実していて可能なんだろう(感覚麻痺)と考えていると

 

「あ、悪い待ってくれ。そこ」

 

 目的地のトイレを通り過ぎようとしたので一旦止まるように声をかける。すると此方を振り向き

 

「0664?802130(どうかした?お兄ちゃん)」

 

 と、相変わらず数字で言葉を投げかけてきた。さらに此方へとずいっと一歩踏み込み見上げてくる。

 自然と上目遣いになっていて破壊力が……ってそうじゃなくてだな、なんか距離感近くないですかね。

 

「いや、その、トイレ」

 

 件の場所へと人差し指を向けて、自分の意思を伝えようと試みる。

 

「357。12133(了解。待ってる)」

 

 そう言うと、パッと手を離してくれた。

 やっとか……。

 

 ─

 ──

 ───

 

「ふー……」

 

 それにしても、不可解な点が幾つかある気がする。見落としているのか、気付いていないだけなのか。

 特に顕著なのは先程の数字少女の俺への態度だ。

 確かに形上はあの子を守ったと言えないこともないんだろうが、果たしてそれだけでああも変わるものだろうか?

 大体俺があの件を解決した訳でもないのだし、やっていたことといえば、ただ殴られていただけ。

 他に何か彼女に対して喜ばれるようなことは……してないな。マッカンあげて道案内して少しお節介焼いたくらい。これだけのことで、あんなに態度が変わる筈も無い。

 

 なら他にはというと…………思い当たらない。

 どうしてもあの子の俺に対しての過剰とも取れる好意的な視線や態度に説明がつけられない。

 せめて話が通じればやりようはあるんだが……まぁ厳しそうだよなぁ。

 

 この件については本当に分からない。道中でも色々と考えを巡らせていたが、どれもしっくりこないものばかり。思い当たりが一つも無い。

 ……これ以上考えても仕方ないだろうし、次行くか。

 

 

 

 次に不可解な点は。というか、すっげぇモヤモヤすることなんだが、助けてくれたかもしれない第三者の存在について。

 お礼を言わせて欲しいからせめて名前でも分かっていたら……という悩みもある。が、それよりも何故か、本当に自分でも分からないんだが、その人についてモヤでもかかっているかのような、そんな気がする。

 顔も身分も分からない人に対してモヤが〜とか思うのは違うんだろうが、その表現の方がしっくりくる気がして、でも感覚的なことでうまく説明がつかないから余計頭がこんがらがって分からなくなる。

 

 ……これも考えても分からないこと。というかそんなのばっかで頭が疲れる。

 

「はぁ……」

 

 水で手を洗いハンカチで拭く。

 ふと鏡を見つめてみると其処にいるのは何時もの俺。

 何も変わっていない。普段通りの比企谷八幡が居て、そいつに対して何時通りの感想を浮かべる。

 目が濁ってる以外は整った顔。若干常よりも目が疲れてる感じにも見えるが……まぁ誤差と言っていい。

 そういったいつも通りの自分が俺を見ている。

 

「俺も人のことは言えんか」

 

 きっとお医者さんの方にも何らかがある。

 それでも自分も大概だよなと思った。

 

 ─

 ──

 ───

 

 廊下へと出た瞬間、タタタタと駆け寄って来た数字少女はというとすぐ様手を繋いでくる。

 

「──っ、く」

 

 道中の頭の中は考え事で埋まっていて余り意識せずにいられたのだが、先程一応の区切りがついたことで、今の俺は現在起きている事態に対して素直に向き合わざるを得ない状況になっている。

 つまりめっちゃ緊張する。

 

 どうしましょ……いや、女の子と手を繋いたことがないって訳じゃないんだ。小町とも繋いだことあるし。小学生の時もキャンプファイヤーで……くっ、忌々しい方の記憶が!!

 まぁともあれ経験がないって訳じゃない。妹をカウントしていいのか分からんが、女の子と手を繋ぐのは初めてじゃない筈だ(耐性があるとは言ってない)

 

 落ち着け……落ち着け俺。顔に出すな態度に出すな冷静に、っ、なんかもぞもぞしてきた。あぁヤバイやばいヤバイってかなんでこんな手が細いの?同じ人間なの?指なんか小さくて、だけど力強く此方の手をにぎにぎとやってくるし肌質はすべすべしてて滑らかでなんかいい匂いするしああああああああ

 

 ダメだ無理だ意識しちゃうよこれ。こんなの無理だろ。なんなのなんでこんなことすんの?え?俺のこと好きなの?いやない。って分かってようが意識すんだよこっちは男の子だぞ仕方ねぇだろ。はああああ無理。ダメだわこれ。めっちゃやむ。

 帰ったらおうちで餃子パーティーするしかないな。一人でだけど。って待てよ。小町が一緒にやってくれるんじゃね?俺は一人じゃなかった!ピンク髪のザコメンタルの彼女には悪いが俺は小町と二人で楽しくやらせてもらうとしよう。まぁCD出たら買うからさ。許して欲しい。

 

 って、流れでふと出てきたたが、そうだ!小町だ!こんな時は小町のことを考えて余計な思考を断ち切ればいい……きっと心が落ち着くに違いない。

 あの八重歯がチャーミングな妹の笑顔を……おぉ。少しずつ落ち着きが出てきたように思う。心が安定してきた……。

 

 しかし……精神を安定させ爽やかな気分へと変えてくれるとは……まるで清涼剤のようになってくれる存在である我が妹はやはり最強なのでは?むしろ天使なのでは?

 流石としか言いようがないな。ありがとうラブリーマイエンジェル小町たん……

 

「……802130(お兄ちゃん)」

 

 ──ッッ!!

 

 ぞっ、と寒気がした。身体の毛が逆立つような、そんな圧を感じて額から冷や汗がひたりと流れる。

 ゆっくりとその圧の発生源へと視線をやると、数字少女の鋭くつり上がった目と合ってしまった。目元まで影がさしているが、その瞳は怪しく光っている。怖い。

 

 

「81957484625948509448(こう見えて私は嫉妬深い人間だから)」

 

 え、めっちゃドスの効いた低い声でビビるんですけど。え?いやなんでこんなに機嫌悪いんでしょうか……すげぇ怖いんですが……

 

「09332690、12329863376408246990。320012。(一時も考えるなとは言わないけど、せめて私と居る時は私を見てて欲しい。私に構って欲しい)」

 

 雰囲気が変わり、少し恥ずかしそうに頬を染めて下を向き、口を引き結ぶ彼女。え、めっちゃ可愛いんですが……。

 

 まぁ彼女のコロコロ変わる表情や雰囲気はさておき。どうするか。

 彼女は何かに怒っていたようなんだが……俺自身に全く非は無いと思っているし、気に障るようなことを言った覚えもない。なんなら何もしてない。

 

 まぁそうは言っても、彼女からしたら何か気に障ることがあったに違いないだろう。じゃなきゃあんな恐ろしい目つきにならない。

 

 理由が分からなくて納得はしにくいが……仕方ないか。

 下を向いた彼女をそのまま放っておくのもアレだし。

 理由はあとで聞くとして(教えてくれるか分からないけど。というか日本語での説明なのかも定かじゃないけど)

 取り敢えず謝っておこう。

 

「……よく分からんけど、悪かったな。ごめんなさい」

 

 体を曲げ謝罪の意を伝えた。

 すると通じたのだろうか、此方を見て一言。

 

「……917752893684470(……分かってくれたなら嬉しい)

 

 そう言って少し微笑を零す。

 はぁ……どうやら機嫌を直してくれたようだ。

 流石にあんな恐ろしい目を向けられると此方も来るものがあるからな。2回目が無くてよかった。

 助かってよかったと、胸を撫で下ろしているとぽすっと横っ腹に軽い衝撃が走る。

 見ると数字少女が俺のお腹周りに手を回し、抱きつく形になっている。しかもなんか頭を埋めてきてぐりぐりしてる。

 

「────、────ぇ、と?え〜、……は?」

 

「93446(親愛の証)」

 

 顔を埋めているため、もごもごと、くぐもった声が聞こえるが、ってそんな場合じゃねぇ。

 只でさえ手を握っただけであんな取り乱してたんだぞ?そんな俺がこんな状況に立たされてどうなってると思う?

 固まる。死にそう。

 これでもかと好意的な態度を取られたらマジで勘違いするぞ?いいのかお前。告白して振られて俺の黒歴史が新たに製造されるぞ?比企谷八幡冷静になれ。

 

 なんとか自分を諌めつつ隣の少女の肩に手を置き引っぺがす。彼女の顔はというと、それはそれは嬉しそうに、満足だと言いだけな表情で此方を見ている。

 

 まったく……こっちはお前の行動で精神穏やかじゃないってのに、そんな嬉しそうな顔しちゃってまぁ。

 

「はぁ……」

 

 何度したか分からないため息をつく。

 この心臓に悪い少女にはどれだけ振り回されるのか……。

 何を言っているのか、考えてるのかも分からんし、行動の意図が読めず疲れる。

 どうしたことやらと、この少女について頭を悩ますばかりだと考えていると、後ろから

 

「……仲睦まじいのは結構だけど、勝手に居なくなるのは困るわね」

 

 ボブカットの女性に声を掛けられた。

 

 




というわけでですね、雲仙姉の台詞の翻訳が本編につきました。これは彼女の心がヒッキーに開いたことの表れ〜って感じに捉えて頂ければ。


それとですね……五等分の花嫁10巻読んだんですけど……ヤバくないっすか──?いやホント神としかいいようがないんですけど。
とにかく良かった……。特に後半のもし一花と二乃の立場が違ってたらって話。一花だけが必ずしもって訳じゃなくて、誰にでもそうなる可能性があったっていうね。
そういう所が人間らしいというか、しっかりと考えられてて良かったなぁ。。
今までの表面的な部分だけ見てたらアレだけど、よくよく考えてみたらそうだよねって。
それと、伏線?というか、ここでアレが繋がってくるのぉ!?ってなって凄く驚いた。 いや〜ホント凄いなぁ。。

まぁとにかく、心理描写にストーリーに。どれを取っても今巻も魅力的で心動かされました。ホントに素敵な作品だなと改めて感じました。春場ねぎ先生ホント凄い!

え、四葉関連の話ですか?いやぁ……ね?驚いて卒倒するかと思いました……


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第20箱 「私の場違い感が凄いんだけど」

思う所があり、今回のお話のまえがきとあとがきを修正しました! ですが、本編に支障があるという訳では無いのでご安心を!混乱させてしまい申し訳ありませんm(_ _)m


「……仲睦まじいのは結構だけど、勝手に居なくなるのは困るわね」

 

「え、はい。すいません」

 

 思わず咄嗟に謝ってしまったが……誰?

 そんな考えが表情に出ていたのか、俺を見た彼女が「あぁそういえば」と何やら呟いた後

 

「じゃあ自己紹介。私は赤青黄。あなたとその少女の治療をした者です」

 

「──っ、それは」

 

 この女性……というか同年代にしか見えない少女がか──? マジか……それが本当なら頭が上がらない。

 にしてもすげぇな……最近の子供って名瀬もそうだが人の身体弄れる程に人体への造詣が深く且つ実践的な手術まで出来るとは……。多分そんな人間はほんの一握りしか居ないんだろうが、偶然にも最近立て続けに会ってばかりだからな。ほんとに最近の俺の人生どうなってんのやら。

 

 さて話を戻すと。自己紹介をされたということは……此方もそれに応えねばなるまい。なんせ相手は命の恩人ときた。蔑ろには出来ない。

 

 しかし自己紹介……自己紹介なぁ……。いや、入学式後にやるアレでないにしても、嫌な思い出が多いし大抵ポカやらかすからぶっちゃけ抵抗がある……。そもそも人との関わりが薄い分自己紹介の機会も少ないし慣れていない。

 しかし、多対一ではなく今回は1対1。難易度はまだ低い、はずだ。よし……なるべく考えすぎずにちゃちゃっと終わらせてしまおう。

 

 落ち着け俺。意識しすぎるといけない。とにかく噛まないように落ち着いて冷静に、だ。

 それにこういうのは一言目が大事らしい。一里先生から学んだから俺は知ってる。まぁ友達になりたい訳じゃないんだが。あと脱線するがOPの度にベジータに注意喚起されるナッパが草。(気になる人はniconicoへ)

 

 心臓の音がどどど、と鳴りそうな緊張の中口を開く。

 

「その節は……本当に助かりました。その、ありがとうございます。それと──俺は比企ぎゃやはちまんです。か、重ねて本当にありがとうございました」

 

 かみまみた。誤魔化すように最後に感謝の旨を重ねたが、どうだろう?流してくれると助かるんだが……。

 

「そう──ひきぎゃやくんね。珍しい名前だから忘れないかも。あはは!」

 

「えぇ……」

 

 全然スルーしてくれなかった……というか笑ってるのに表情が微動だにしないから揶揄ってるのかそうでないのか判断しかねる……。それにしても無表情で笑う人の動画を観たことはあるが、実際に目の前で見ると困惑でしかないことが分かった。

 

 またまたそんな考えが表情に出ていたのか、引き攣った顔を浮かべる俺に赤青黄……赤さんでいいか、語呂もいいし。赤さんが声を掛ける。

 

「なんてね。冗談は置いておくとして、えっと……ひきがやくんでいいのかしらね?怪我はあらかた治ったと思うけど、一応あなたの身体の調子を診ないとだから来てもらえる?」

 

「あ、はい。分かりました」

 

「それと敬語じゃなくていいわよ。あなた3年生でしょ?同い年だからタメで構わないわ」

 

「あぁ、はい。いや、分かった」

 

 まぁ彼方がそう言うのなら従うべきだろう。

 そんな会話をしつつ保健室へと戻る道すがら、ふと赤さんが問いかけてきた。

 

「ところで気になっていたんだけど」

 

「ん、何を?」

 

 俺としてはその長い右手の爪が気になりますね。なんだろうあれ……日頃生活するに当たって不便そうだよな。しかも先端は尖ってて軽く凶器だし。

 まぁしかし、やけに綺麗に整えられていて相当手入れしてるんだろうと見て取れる。そういった所には余念が無いんだろうな。あと真っ赤に染められていて綺麗だしカッコいい。ふむ……しかし長い爪、クールな印象、そして赤色……一体なに姉さんなんだろうか。きっとツンデレに違いないし、もしかすると偶にロリ化するかもしれない。

 

 そんな感想を抱きつつも彼女の言葉を待っていると、衝撃的な爆弾を投下してきた。

 

「あなた達って付き合ってたりするの?」

 

「は?いやないだろ」

 

「……そんな仲良さげに手を繋いでいるのに?」

 

「え?……あ」

 

 横をチラと見る。そこには満面の笑みとまではいかないだろうが、今の彼女なりの精一杯の笑顔なのだろう幸せに浸ったような表情でトコトコと俺の横をついてくる数字少女の姿が。勿論お察しの通り手は繋がれている。一応弁明すると幾ら力入れても振り解けねぇし、本人の幸せそうな表情を見るとどうしてもな……。そんな訳で俺は悪くない。

 

「説得力が皆無よね♡」

 

 そう言われると弱い……。

 にしてもなんでそこで♡マーク?あれか?どっかの奇術師だったりするの?戦闘狂はもう勘弁ですよ?

 

「ぐ、いやしかしな。別に付き合ってるって訳じゃなくてだな」

 

「え、じゃあもしかしてまだそこまで進展してないってこと?えー甘酸っぱい♡でも安心して。そこまで仲が良いんだからきっと押せば何とかなるわ」

 

「いやだから別にそういう関係じゃ……」

 

 全くもってそんな色恋めいたものではない、と思う。あの少女がどう思っているかは分からないが、少なくとも俺はそう思う。

 が、しかしだ。幾ら当人達がどう思ってようと、何も知らない人達が傍から見ればそうとしか見えないのも事実。

 俺だって同じ立場ならそう思うし、なんなら精神衛生上視界から外して距離を取る。べっ、別に悔しくねぇし!

 

 とまぁ、そんな訳でどう説明するかと悩んでいると

 

「802130(お兄ちゃん)」

 

 横からくいくいと袖を引っ張られる。

 今度はなんだと顔を向けると。

 

「90432705554865。4091102(また頭撫でて欲しい。今度は私の頭を)」

 

 じーっと此方を見て何かを懇願するような数字少女。

 なんだろう……人前ってのもあるし心臓に悪いのはもう勘弁してねと思いながら、彼女が何を望んでいるのか思案していると、痺れを切らしたのだろうか俺の右手を自らの頭へと置きだした。

 

「14784357(じれったい)」

 

「え、何?何の真似?」

 

 妹以外の頭なんか初めて触ったんだが……触り心地が良くサラサラしてる。ふむ……これはいい……ってふざけてられない。また彼女の突拍子も無い行動が始まってしまったらしい。

 

「9997455(撫でて欲しい)」

 

 そう言い俺の右手を左右に動かしている。彼女の頭を撫でる様な形になってしまっているのだが……もしや……いやしかし、だけどなぁ。

 

「いや、流石にそれは……」

 

 やんわりと断ろうと手の動きを止めようとするが、それに気づいた彼女が此方をしんみりとした顔で見上げてくる。

 

「ぐっ、いやしかしな……」

 

 そんな顔されてもだな……妹でもない異性の頭を撫でるなんて無理なんですけど……。まだ小学生の低学年とかその辺りなら大丈夫だろうけど、歳も近そうだし……。絶対無理。無理無理。むりくぼなんですけど……。

 

「……」

 

「っ、……」

 

 ちょっと目を潤ませても駄目です。無理なものはむりなので……あっ、両手で袖を引っ張って……。そんなにしても森久保は、じゃなくて俺は揺らがな……っ、く。〜〜〜〜〜っ、んんんああああああったく……そんな目で見られて無視なんて出来ねぇだろ……。本気で気乗りはしないが……だけどやるしかなさそうだよな……はぁ……//

 

「──ッッ!!」

 

「〜〜〜〜//」

 

 くそっ死ぬ程恥ずかしい。恥ずかしすぎて顔が赤くなってるから俯きながら彼女の頭を撫でている。あ〜〜もうなんで俺がこんなことを……。

 頭にヤケクソになったやけくぼさんを浮かべながら、なんとか手を動かす。

 本当になんで俺がこんなことをせにゃいかんのだとチラッと横目で伺うと、下を向いた彼女の横顔が目に映った。頬を紅潮させて目を細め、そして口角は上がっている、そんな彼女の姿を目の当たりにして何も思わない筈も無く、俺の顔には更に熱がともるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、何この甘い空間……私の場違い感が凄いんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「4章めちゃくちゃ面白かった……毎度言ってるんだけどホント話が良すぎるのなんの!
 あと、異聞帯の話は毎回思うんだけど心にくるよなぁ、色んな意味で。うん。主人公は凄いよホント。

 ところでさ。ところでですよ。アシュヴァッターマンの兄貴格好すぎない??? 
 もうあの頼もしすぎる部分が最高すぎるんですが……。特に絆5時にかけてくれる台詞が至高でほんとマジヤバイっすよ(語彙力)。まだの人は取り敢えずその台詞聞いてみて。多分5秒後くらいには回してると思うから(体験談)。

 だけどお迎え出来るかは話が別なんだよね……くっ、なんでうちのカルデアには兄貴が居ないんだよォッ!! 
 もう石が20個しかねぇのによぉ……(゜´Д`゜)
 うぅっ、俺も兄貴に怒ってもらいたい……特にあの「コイツどうしようもねぇな」って感じの蔑んだような目で怒られたい(手遅れ)
 あとインドの渋谷凛って愛称ついてて草

 あとあれですね。ひとりぼっちの○○生活の話を本編で八幡に触れて貰おうと思ってたらアニメ終わっちゃってた……。ぬぬぬ……無念(-_-) とまぁこんな感じで割かと頻繁に失敗しつつあれこれやってる作者ですが、これからもどうかよろしくお願いしまーす! さて、よい頃合いですので、あとがきもこの辺で。それでは次回」

「おい待てテメェ……何勝手に終わらせようとしてんだ?」

「ヒッ、え……と、ち、ちーっす名瀬さん」

「おーっす。いや〜それにしてもやけに久し振りじゃーん作者さん。いや、厳密に言えばこの小説に出ること自体が久し振りだっけなー。な?」

「っ、そ、そうでしゅね。ハイ。正しくその通りかと。ええ」

「だよなー。いやはやおかしな話もあったもんだよなぁ……なんせこの作品のメインヒロインが1ヶ月近くも出てねーんだからなああああああああああ!!!!」

「うわあっつッッ!あつッ!ほーアチッッ!いや寒ぶッッ!アイエエ!?凍る火柱(アイスファイア)!?まだそこまでいってないのにナンデ!?」

「このコーナーにそんな道理は通じねーんだよ。ま、んなことは置いとくとしてだ。そんじゃ今から言う質問に正直に答えて貰うぜー?なーに簡単なことだから安心しな。このまま火傷と凍傷で天国へと旅行しに行くか、それとも俺を本編に復帰させるか、どっちがいいかってだけだからな」

「え、いやけど。あんたオープンハイスクールサボって家でゴロゴロしてるだけじゃないっすか……流石にちょっと厳しいかなとアッッ!あっ熱ッッあ!」

「ん?なに?俺の出番前向きに検討するって?」

「いやだから無理だってアッッ!冷えッッざッ寒ッ」

「どうやらちっとばかしオツムが残念なようだな。ったく仕方ねぇなーいやホント仕方ねぇ。仕方ねぇからそのドタマ改造する(いじくりまわす)しか無ぇじゃん☆」

「──ヒッヒィッ!?え、嘘!?マジ?いや、近づいて来ないで誰か助け」

「ハハッ!助けなんざ来る訳ねーだろがーよ──ッてぇ!痛っ!思っきり頭叩きやがって……」

「何やっとんだお前……その辺にしとかねぇとアレだぞ。具体的に言うとさっきからお前の株暴落してるぞ」

「──っ、ハッちゃん!?な、なんで此処に!?」

「いや、作者からメールで今日来いって言われててな。んで面倒ながらも来てみたら、お前が暴走してたから流石に止めるべきかと思って」

「──ちッ、ハッちゃんを出されちゃあこっちは何も出来ねぇ。この話はまた今度にするしかねーな」

「た、助かった──?」

「恐らくな」

「あ、そーいやハッちゃん。風の噂で耳にしたが最近新しい女引っ掛けたらしいじゃん」

「は?いや、ありえんだろ。ないない、ガセだからそれ。ってか一体そんな情報何処から流れんだよ……」

「ふ──ん。成る程。あくまでシラを切るっつーんだな?」

「いやだから事実無根だって。なんの根拠もない根も葉もないタチの悪い噂だ」

「ほ──ん。あっそー。ま、いーや。そこまで言うんだったら追求はしねーけど」

「おう、そうしてくれ」

「それはそうと、このハッちゃんと少女が手を繋いでる写真なんだがよ」

「……」

「説明出来んだよな?」

「……いや、それはアレだ。その、俺にもよく分からんというかだな」

「あ゛?なに?説明になってねーんだが?」

(え、なんで浮気がバレた夫みたいな空気になってんの?そして作者の奴も空気になってるし……いや、むしろ姿が見えないあたり既に帰った節がある)

「大体ハッちゃんは俺だけ見てればいーのによ」

「え、なに?」

(なんか邪悪なオーラが見えるんですが気のせいだよね」

「なぁハッちゃん……色々考えたけどもう我慢出来ねぇよ俺。ハッちゃんが他の女とよろしくやってるなんて想像しただけで怒りだけじゃ収まらず殺意まで湧いてきちまうんだ。このままじゃいずれ他の女共を始末しかねない。だからハッちゃん、俺と一緒に暮らさねぇか?お金は俺が稼いでくるから、ハッちゃんはずっと家に居て専業主夫やってくれたらいいから。うん、むしろそっちの方を推奨する。きっとハッちゃんが家で毎晩迎えてくれるなら俺お仕事頑張れるし、それにきっと良い家庭を築けると思う。あ、そうだ子供は何人がいい?俺としてはやっぱり男の子と女の子両方1人ずつは欲しいかな。きっと俺たちの子だからとびきり可愛いに違いねーよな?あ、だからって俺に構うのを疎かにするのは勘弁願うぜー?ほら、自分の子に嫉妬するなんて嫌だからさぁ。さて、そーいう訳だからこれから俺の部屋で一生過ごして貰うことになるけどよー、ハッちゃんの為って分かってくれるよな?
 ちょ──っと目を離した隙に別の女が擦り寄ってくるらしいからよぉ、だから仕方ねーよなぁ。俺の唯一の親友で大切で重要で最愛で欠かせない存在のハッちゃんが他の女の毒牙にかかっちまうといけねーもんなぁ?お利口さんのハッちゃんだから分かってくれるよな?愛ゆえの行動だって理解出来るよな?
 それにそんな虫たち蔓延る世にハッちゃんを放したなんて考えたらゾッとするし害虫駆除の必要が出てきて面倒だからよー。ほらあれじゃん、一生二人一緒に幸せに過ごす為には一抹の不安も消しておくべきだろ?
 お巡りさんに目ェ付けられて逃げながら隠れて過ごすなんざクソくらえだしよー。それに俺とハッちゃんが一緒に居ることは必然でしかねーから誰にも邪魔される道理なんかねーんだし。ごくごく当たり前の世界の常識ってやつなんだからなー……ハッちゃんもそう思うよな?
 だから此れからは二人一緒に俺の家で過ごそうな」

「怖い、怖いよ……洒落にならんレベルで怖い」

「なんてなー。冗談だって。ほら、ヤンデレって需要あるかもしれねーじゃん?」

「それを向けられる側からしたら恐怖でしか無いから勘弁してくれ……」

「ハハッ、んで話を戻すが」

「……写真の女の子は本当に俺にも分からん。色々事情があってその子の考えも読めないっていうかだな、まぁとにかく分かったら話す」

「ん、話してくれんならいいんだ。どうしてもこれだけは気になってな」

「そうか。まぁだけど俺だからな。浮ついた話になる訳ないだろうから、そこはよろしく頼むな」

「……おう」

(どうだか……)

「なぁ……それよりそろそろあとがき締めないとマズイんじゃねぇの?」

「あぁ、確かにそうだな。20回記念とはいえ、大分文字数使っちまってるからなー……ちゃっちゃっと終わらせようぜ」

「だな、じゃあこの辺で」

「おう。まぁ、そんなこんなで『やはり俺の隣の席に紙袋が居るのはまちがっている。』第20箱 あとがきのお相手は
 何かいいことあったらエロいな 名瀬夭歌と」

「いや何処のヴァルハラコンビなんですかね……」

「お相手は何かいいことあったらエロいな 名瀬夭歌と」

「それで通すのか……何かいいことあったら小町に連絡 比企谷八幡でした」

 ─
 ──
 ───

(この話は本編に関係ありませんのでよろしくです。それと、名瀬ちゃんの次出るタイミングは既に決まってるんで、あとがきの通り無理を通して〜ってのは無いです。ですがまぁ、本当にもうちょっとで出てもらう予定なんで、それまでどうかお待ちをm(_ _)m)


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第21箱 「……おう、機会があればな」

思う所があり、前回の20話のお話のまえがきとあとがきを修正しました! ですが、本編に支障があるという訳では無いのでご安心を!混乱させてしまい申し訳ありませんm(_ _)m
それと前回のあとがきで新しい試みをやってみました。ある作品を知ってる人にはクスッてなるかも?なってくれたら嬉しいな。まま、ともかくちょっと弄ってみましたので、もし宜しければ前回の方も見て頂けたらなと思いますー。

そして!頂いた感想が遂に100件を突破しました……!嬉しすぎる……!! 皆さんから頂くお声は毎度本当に執筆の際の意欲に繋がりますし、自分の考えたお話にコメントを頂けるのは非常に嬉しくてですね……とにかく皆さまいつも本当にありがとうございますm(_ _)m

それでは第21話!「……おう、機会があればな」です!
楽しんで頂ければ幸いです! それではどぞー!


「全く……少し発破をかけはしたけど、まさか目の前で見せつけられることになるとは思わなかったわ……チッ、場所選ぶなりしなさいよね。爆発すればいいのに……させてやろうかしら

 

 

 最後に何か呪詛めいた言葉が聞こえた気がするが、ひとまず置いておくとして。

 

「いや待て違う。これはそういうのじゃない」

 

 余計な誤解を抱かれたままでは面倒な為、弁明せねばなるまいと身体を赤さんの方へ向ける。

 

「俺とコイツはだな……」

 

 といったものの、なんと説明すればいいものか。

 何故か俺に好意的な態度で接してくるが、言葉が通じないから意図が読めない。だから、あっちは俺のことをどう思ってるか分からないけど、少なくとも俺に気はない? いや印象悪いかコレ……。かといってあながち間違いでも無い訳で。どうしたものかと続く言葉を言いあぐねていると

 

「何が違うのかしら?」

 

 そう言い指を俺の背後へと向ける赤さんに倣い顔を動かすと

 

「803667531486。4439622(まだ10秒しかしてもらってない。もうちょっとお願い)」

 

「……今度はなんだよ」

 

 俺の服を後ろからついついと摘み、口を尖らせ上目遣いで見上げる数字少女。か、可愛いすぎる……じゃなくてだな。

 

「可愛いわね彼女さん。ジェラシー感じちゃったんだって♡」

 

「いやいいから……マジでそういうのいいから」

 

「21、802130802130802130(ねぇお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん)」

 

「いやホントに何なんだよ……そんな連呼しても分かんねぇって」

 

 此方の右腕をぷらぷらと振り何かと見つめてくる彼女に対して、疲れからかげんなりした表情で応対してしまう。

 

「もしかして頭撫でてーって言ってるんじゃないの?」

 

「えぇ……いや仮にそうだとしてもだ。俺はもうごめんだぞ恥ずかしいし。大体そんな間柄でもねぇし」

 

 手を繋ぐのだってギリギリなのだ。いや嬉しくない訳じゃないのだが……ぶっちゃっけこんな可愛い子となんて超嬉しいのだが、それよりも「なぜ」という疑問の方が勝っていて手放しで喜べない。生憎今日会ったばかりの人間を易々と信用出来る程俺は人間が出来ていないのだ。

 確かに彼女はいい人なのかもしれないし、裏など無いかもしれない。今日実際に彼女の純粋に嬉しそうな感情、声、表情等に触れてきて、嘘など無いとも思わさせれることも多々あったが、しかしどうしても俺という人間柄こんな見方になってしまう。

 

「じゃあどんな関係だって?♡」

 

「そんなの今日初めて会ったばかりの……なんだろうな……知り合いにも満たない何かか?」

 

「8315!(兄妹!)」

 

「ぐえっ」

 

 ぴょんと俺の背中に乗ってきて、自然と首に手が回されるも勢いがついていたのか首がちょっと締まって変な声が出てしまった。

 ていうか背中!ちょっと!?背中に柔らかい!なんかむにゅってふにゅって背中!!

 

 そんな思考がショートしかける俺を置いておき、背中に乗った数字少女は隣の少女へと声を掛ける。

 

「80000302130796、00172!、8843084535156556539117(はちまんがお兄ちゃんで、私が妹!、になりたいから兄妹と呼ぶように)」

 

 8万って聞こえたってことは俺のこと言ってんのか?なんだ……?俺なんかやっちゃいました? まぁ某主人公のようにチートを使える訳でも無いし、むしろ存在自体がマイナスな俺がそんなことある筈もないが。と普段の俺ならそう思うが、今日に限っては何かしてしまったのかもしれんしなぁ……。じゃなきゃ現在背中にコイツが引っ付いてるのに説明がつかんし。(因みにいつもの如く引っ剥がそうとしても無理でした)

 

 そんなこんなでなし崩し的に数字少女をおんぶした形のまま保健室へと向かうのだった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「さて、じゃあ診察に入ろうと思うんだけど」

 

 保健室へと戻り、言っていた通り体の調子を診てもらうことに。

 

「折角だから貴方も受けていかない?」

 

 数字少女にそう問うが

 

「?」

 

 頭上にはてなマークを浮かべるかのように、赤さんを見つめ返している。

 まぁそうなるわな。

 

「あぁ、そういえば言語が」

 

 まぁこの少女もあんな怪我したんだし、診て貰った方がいいだろう。

 

「えーと」

 

 そう言って聴診器やレントゲン写真等持ってきてなんとか伝わる様に説明する赤さん。

 それが通じたのか数字少女は口を開き

 

「97、6146(いや、私はいい)」

 

 小さくかぶりを振るのだった。

 

 多分「いや、いいです」とか言ってるんだろう。

 しかし此方としては、赤さんは特にだろうがさぞかし不安だろう。なんせあんな大怪我を負っていたのだから。

 それにまぁ俺としても心配ではあるので、少し口を挟むことに。

 

「まぁそう言わずに診て貰った方がいいんじゃねぇの?なにも損する訳じゃないんだし」

 

身振り手振りを駆使してなんとか伝わるようにそう言うと

 

「069874(ならそうする)」

 

 そう言うとすくっと立ち上がり赤さんの元へと歩み寄っていった。

 

「えっと、受けてくれるってことでいいのね?」

 

 そのまま2人で奥の方へと入っていった。

 

 

 

 

 さて、じゃあ俺の番まで待つとするか。

 先程まで寝ていたベッドへと赴き横たわり、電話機能付き多機能目覚まし時計の電源を付け、偉人の皆さんの力を借して頂いて未来を取り戻すゲームを開く。

 今日の種火は何クラスだったかな〜と曜日クエスト欄を開こうした時、ベッド毎に仕切られている横のカーテンがシャッと開き、そこから声が聞こえてきた。

 

「ねーねー君〜〜〜どうしたの〜〜〜?」

 

 間延びした眠気を誘うような声が。

 俺に呼びかけてるとは限らないから放っておく、という訳にもいかず。この部屋には俺と彼女しかいない為必然的に俺へと向けた声になるという訳で、仕方なく声の主に顔を向ける。

 

 横のベッドから寝転がりながらも此方に顔を向けている女の子。

 長く伸びた白髪をツインテールにしており、にこやかな笑顔を浮かべている。その人懐っこい笑みはまるで彼女の人柄が現れているようで、此方の警戒心もなりを潜めそうになる。

 が、しかし、最も特徴的なのはアイマスクを付けていることだろう。それも、そこに記されている『はたらかない』という文字。これこそ彼女の人柄を如実に表していると、そう直感した。

 

 ──ッ!こいつ……出来る!

 なんだか彼女とは話が合いそうな、そんなシンパシーを感じた。だがそこは俺。幾ら分かり合えそうな奴とはいえ、初対面の相手にフレンドリーに接するなんてことは出来ず、つい気持ち低めの声を出してしまう。

 

「……何が?」

 

「そんなの決まってるよ〜。学校見学に来ただけなのになんで満身創痍になっちゃってたんだろうってね〜〜〜」

 

「それは──」

 

 言ってもいいことか分かりかねるので黙ってしまう。

 俺が巻き込まれた事件はそれなりのことなので、下手に漏らすと駄目な気がする。

 ましてや人に話して情報が拡散するなんて以ての外。

 第一素性も知らない奴だしな。

 

 ──いや、といっても、なんとなくだが彼女からは悪いことをしようだとか、そんな邪な目論見を抱いてるようには見えないけども。本当にただ興味本位なように見える。

 だが、それでも彼女がそれを誰かに話して事件のことが拡散してしまう恐れも無い訳ではないので。

 まぁ適当に濁すか。

 

「人にあまり言えることじゃないんだが……ちょっとやらかしたんだよ」

 

「ふ〜〜〜ん」

 

 申し訳なさそうにそう答えると、ただそう一言返ってきた。何を思ってるのか未だ笑顔を浮かべたまま。

 

「ところで君は箱庭が第一志望なのかな〜?」

 

 察してくれたのだろうか、話題を変えてきてくれた。

 

「一応そのつもりではある」

 

「何組に〜?」

 

「俺は普通科志望だから、1〜4組だな」

 

「あれ〜〜?てっきり10組より上かと思ったんだけど」

 

「いや……10組よりも上ってあれだろ?選りすぐりのエリートが集まるとこだろ?生憎俺は普通の一般人だからな」

 

 まぁ最近は自分が一般人を名乗れるのかっていう自信が失いつつあるんだが。

 

「へぇ〜〜君が普通か。てっきり私と同じ感じで普通科なんだと思ったけど」

 

「……?お前も普通科なのか」

 

 妙に引っかかるような言い方に疑問が湧くが、まぁ気にしても俺には関係ないので流すことに。

 

「そうだよ〜もしかしたら同じクラスになるかもねぇ。ってわけで来年よろしく〜〜〜」

 

「お、おう、まぁそうだな。……にしても気が早いっつうか、もう既に受かることが決まってるような感じで言うのな」

 

 こう抜けたような喋り方と態度だが、反対に彼女からは絶対的な自信というか、そんなものが感じられる。

 箱庭学園に入学することは決まり切っている。それが当たり前で、前提としているような感じで喋っているかのような。

 

「へへ〜まぁねぇ。なんせ大刀洗さんは頭がいいので〜〜!」

 

 ふふん、と自慢気に言う隣の彼女。

 にしても流れで大刀洗って聞こえたんだが、この子の名前か?

 めちゃくちゃ格好良いな。なんかよく斬れそう(小並感)

 それに見た目はおっとりしてるのに名前は鋭い刃物って感じのギャップがな、なんて美味しいキャラ設定なんだっていう。

 いいなぁ。俺もそんな感じにしてくれれば良かったのに。なんだよ8月8日生まれだから八幡って。安直に過ぎないですかねうちの両親。

 

「おぉ……そうか。そりゃ凄い」

 

「おっと。さらっと名乗っちゃた訳だけども、折角だからちゃんと自己紹介しとこうかな〜〜〜」

 

「いや、別にそんな必要「大刀洗斬子で〜〜す。趣味は寝ることかな〜」……」

 

 続きは言わせんぞと言うように割り込まれた。

 それにしてもよく斬れそうな名ま(ry)

 

「はぁ……」

 

 まぁ、あちらが名乗った以上此方も返すべきだろう。

 仕方なく、不本意といった形だが、それでも筋を通すべくガシガシと頭を掻きながらも自分の名前を告げる。

 

「比企谷八幡だ」

 

「……それだけ〜?趣味とか〜学校とか所属してる部活とかさ〜〜」

 

「趣味は読書。揺籃中学に通ってて部活はやってない」

 

「なるほどねぇ。ま、私も帰宅部なんだけどね〜。授業が終われば家に帰るべきだよね〜〜〜」

 

「あぁまったくだ。授業で疲れたんだから家帰って癒すべきだな」

 

 のんべんだらりと何をするでもなく適当にテレビ観て、読書して、飯食って、寝る。それが普段の俺だ。

 

「ほんとほんと〜〜〜ところでヒッキーはさ〜」

 

「おい待て。え、もしかしてそれ俺のこと言ってる?まだ俺引きこもりじゃないからね?」

 

「いやいやそうじゃなくってね〜〜〜比企谷 八幡だからヒッキーでいいかな〜ってさ」

 

「えぇ……」

 

 確かに将来専業主夫になって家に引きこもる予定だが……少なくともまだ俺は引きこもりと呼ばれる程じゃない。多分。それになんか直接的に呼ばれるとこう、来るものがあるというかだな……。

 

「ヒッキーヒッキーあのね〜〜」

 

「いやその前にな、その呼び方どうにかしてくんない?」

 

「えぇ〜〜〜そんなぁ。折角ピンときたのにぃ」

 

 頬を膨らませながら、ぶーぶーと此方を非難するように言う太刀洗。

 

「流石に引きこもりっつう意味の名前はちょっとな……」

 

「ん〜〜確かにまぁそれも分かるけどぉ。あっ!けどけどヒッキーって言葉は英語だと全然意味変わってくるよ〜〜」

 

「え……と、すまん。これでも受験生だから英語勉強してるんだがちょっと分からん。教えて貰ってもいいか?」

 

「お〜〜いえ〜〜ぃ!お〜け〜もちのろん」

 

「……」

 

 賢いのかそうでないのかよく分からん返答に思わず突っ込みそうになるが、話が逸れそうな気がしたので踏み止まった。

 

「ヒッキーとはズバリ。キスマークのことで〜〜〜すっ」

 

「余計嫌なんですが……」

 

 碌な意味が無ぇじゃねぇか。

 

「あとは確か〜〜あの人って意味もあるね。名前を忘れたり知らないものを言う時とかに使うんだったかな〜」

 

「なにそれ俺じゃん」

 

 名前を忘れられることなどしょっちゅうであり、なんなら辛うじて覚えてくれてる人もヒキタニと間違えることだってある。

 委員会や掃除当番決めとかの際に、真っ先に楽な仕事に立つべく挙手をして当選した時だって黒板に名前を書いていく人が仕切っている人に小声で

 

『え、ねぇあの人名前なんだったっけ?』

 

『は?バカお前クラスの人の名前忘れんなよ(笑)ヒキタニくんだって。確かにちょっと静かな子だけどさ、分かりにくいだけで良いとこあるんだぞ?』

 

『ご、ごめん。気をつけとく』

 

『はは、頼むわ〜〜』

 

 周りの人をよく見てて、評価が下がらないように配慮してくれるその姿勢は素晴らしいと思うんだが、惜しいんだよな。お前が頼むわ。

 

「でもね〜〜色んな意味があるといっても私からしたら、ヒッキーって君のことしか表さない言葉だからね〜〜」

 

「……そうなのかもしれんがな」

 

「……それじゃあ、今日みたいに二人きりの時だったら呼んでもいいかな〜〜?」

 

「……まぁ、それなら」

 

「うふふ〜じゃあよろしくねぇヒッキー」

 

 スッと此方に手を差し出してくる。

 ……握手か。

 

「……おう、機会があればな」

 

 渋々俺もそれに対応して、ちょっとした知り合いが増えたのだった。

 

 




 雲仙姉は勿論日本語が通じませんが、ヒッキーとの関係性の話の際に反応したのは、なにかを感じ取ったとかそんな感じでよろしくです。

 それと英語は得意じゃないので、ネット情報です。間違ってたらすみませんm(_ _)m

 それと余談ですが、TwitterでデレステのGRANDモードを見て「これLIVEのそれじゃん!おねシンがここまで進化したとは……!!」ってなって凄く感動して、久しぶりにプレイしてみたんですけど面白いのなんのって。
 衣装が進化してたり、楽曲はすっごい増えてたし(特にPretty Liar好き……) ドレスコーデは楽しいし(YouTubeの動画参考に色々作るの楽しい)アイドルは可愛いし(特にmiroir良いっす……) なんか他にも色々と進化してて、とにかく楽しい。最近は放置気味だったけど、再び再燃して嵌ってしまった……。あ、スカチケの方は最新の方のリーナか、久川姉妹か、冴島清美ちゃんか、ボジパ衣装ちゃんみおか、individuals衣装の森久保か輝子かで悩み中です……どうしましょ……。


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第22箱 「……いいよ」

マジでもうこの子がヒロインでいいんじゃね……?


「そろそろあの子が帰ってくる頃合いだろうね〜〜」

 

「ん……そうだな」

 

 結局こいつのペースに乗せられなんやかんやで色々と話し込んでしまった。

 本当なら可能な限り種火周回(経験値稼ぎ)してキャラの育成に勤しむつもりだったのだが……まぁしかし、色々と気の合う奴だったので楽しくないこともなかった訳で。こんな奴となら〝友達〟になれるのでは……と一瞬考えてしまった。がしかし、勿論俺なので言葉にはしてないし本当に一瞬考えただけだ。だから〝友達〟になりたいなんて思ってない……こともないかもしれんが、まぁそれは追々ということで今は置いておこう。

 それに箱庭に入学したら4分の1でこいつとクラスが被ることになる。その時は縁があったということでまぁ、また話すのも悪くないだろうな。

 

 

 ゆっくりと腰を上げながらそんな誰得なツンデレ思考を繰り広げていると

 

 

 

 トゥルルルン♪

 

 

 携帯の通知が鳴る。

 

「あ、私だ〜〜〜。ん〜〜こんな時間にセットしたかなぁ」

 

 そう言いながら携帯を寝転がりながらタプタプし始める大刀洗を尻目に出て行こうとした時

 

「あぁ〜〜はいはいそういうこと。ちょいと待ったヒッキー、これどうぞ〜〜〜」

 

 スカートのポケットから取り出した畳まれたメモ用紙?を俺へと向けてくる。

 

「きっとそれを読んだら診察どころじゃなくなるかもだから、全部終わってからでも読んでね〜〜」

 

「ん、あぁ、なんか分からんが了解した」

 

「そんじゃいってら〜〜」

 

「おう」

 

 ─

 ──

 ───

 

 時は進み俺の診察も済み、後は帰るだけとなった。

 診察の結果は体調万全。どこにも悪い箇所は無い。が、めちゃくちゃ腹が空いている。減りすぎてマジで腹と背中がくっつきそう。

 

 赤さんにお礼を言い、スマホを弄ってごろんごろんしてる大刀洗にも帰る旨を伝えて帰ろうとした時、呼び止められた。

 

「ん、通知……?あぁなるほど。ヒッキ〜〜あのメモチェックするなり、工夫してくれぐれも()()()()ようにね〜〜」

 

「あ、あぁ、そういや貰ったな。了解」

 

「んじゃまたね〜〜」

 

「おう、じゃあな」

 

 そう言って俺は保健室から出て行った。

 

 ─

 ──

 ───

 

 時刻は既に7時半を回ったところ。さて電車に乗って帰りますかねと、いうところなのだが……

 

「や、俺電車こっちだから……」

 

 数字少女が引っ付いて離れない。なんとか離そうと身じろぎするが相変わらずの怪力により全く意味をなさない。

 

「いや、マジでそろそろ離してくんない?そろそろ電車来るから。乗り過ごすから……」

 

「……80(……やだ)」

 

 ふるふると頭を横に振り、若干涙声で返答してくる。さらに涙で潤んだ瞳を此方に向けてくるもんだから声を詰まらせてしまう。

 

 理由は依然と分からないままだが、本当に随分と懐かれてしまった……。何処に行っても付いてくるし、手を繋ぎたがる、さらに言えば偶に背中に乗っかってくることもあるし彼方からの好感度が異様に高すぎる。まるで小さな頃の小町の様な懐き具合に戸惑うことばかりだった。

 

『おにーちゃん 抱っこして抱っこ!』

 

『おぉいいぞー小町ー』

 

『キャー!あはは!次は肩車してー!』

 

『おぉー』

 

『お兄ちゃん大好きー』

 

『俺も大好きだぞー』

 

 おっといかんいかん。純粋無垢且つプリティでキュートな天使との思い出がついつい浮かんでしまった。

 

 話は戻すがともあれだ。なんか昔の妹でも相手にしてる様な、そんな感じなんだよなぁ。まぁ相手が家族でもなく赤の他人で超絶美少女という点が問題で俺としても対応に困ってるんだが。

 

「56002344……32……(せっかく会えたのに……私の……)」

 

「……」

 

 どうしたものか。理由はどうあれこの少女はこのまま俺と別れるのを拒んでいる。……なんだこれ。字面だけ見るとリア充氏ねよってなるな。爆発案件間違いなし。俺が当事者じゃなかったら嬉々としてチャッカマン片手に導火線の元に行くに違いない。

 

『なにあれ 修羅場?』

 

『えぇーなになに え? ロマンチック? キラキラ光ったゆ』

 

『えーヤバくない?』

 

『チッ、人前でやんなよクソが氏ね』

 

『リア充は氏ね』

 

 ざわざわと周りから聞こえてくる。

 くっ、そりゃそうだよな。こんなもん目立って仕方ないよな。

 早急に手を打たねばとなんとか頭をフル回転させ、一つの解へと至った。

 

「ほ、ほら携帯!番号交換しとけばなんとかなるだろ!?」

 

 胸ポケットからささっと電話機能付き多機……めんどくさいから携帯を取り出し、あわあわとしながらも提案する。

 

「っ!」

 

「ほれ、それ渡すから登録しろ。だから離して?な?」

 

「937(うん)」

 

 通じたのか俺から離れ携帯を取り出し弄り出す。

 すげぇ……両手でそれぞれの携帯操作してやがる……。

 1分も掛からない内に操作を終了した少女のハイスペックさに驚きつつも、俺の携帯を此方に向けているので素直に受け取ることに。

 

「62。294419(はい。これで登録できた)」

 

「はいよ」

 

 受け取った携帯の連絡先を開く。

 おぉ。ちゃんと一つ増えてんな。また俺の寂しい連絡先に一つ新たな名前が記されるのだった。

 

 

 ん?名前──?

 

 

 もう一度、つい先程登録されたばかりの欄を見てみるとそこには──

 

 

 

 

 

 

 雲仙冥加

 

 

 

 

 と、記されていた。

 

 

「──っく、ふふ」

 

 思わず笑いが溢れてしまった。

 まさか最後の最後にやっと名前を知ることになるとは。順序が逆転し過ぎていて笑うしかないだろ。

 

「?」

 

 首を斜めに掲げて不思議そうに此方を見ている。

 そうか。名前も知らない奴に異様な程に好感を持たれていて正直不気味だと思ったりしたが、そうか。

 こいつは雲仙冥加っていうのか。

 

(1、1514802094419!?504915……! 64、314。22205175945049844299273951(お、お兄ちゃんが笑ってる!?なんてレアな……!はっ、そうだ。ご機嫌な今なら頼んだらやってくれるかもしれない))

 

「……802130(お兄ちゃん)」

 

 ずずいと此方に寄ってきてそう一言伝えると

 

「……13853830……44411?(一緒に写真……撮っていい?)」

 

 携帯をカメラ機能が開いた状態で俺に見せ、自分と俺とを指で交互に指し示している。

 

 ……もしかして写真か?

 

「いや、写真か……ちょっとそっ……」

 

 何か頼まれれば反射的に断る俺の癖から、断ろうと顔を相手の方へ向けると、分かりにくいかもしれないが、確かに真剣で、しかし緊張も孕んでいるような、そんな決意の篭った瞳があり再び言葉に詰まってしまう。

 

 ──こんなのものを見せられて誰が断れるというのだろうか。全くずるい奴だなと一つため息を吐き

 

「……いいよ」

 

 了承の旨を伝えるべく、右手で軽くOKマークを作る。

 

「4、19241!(っ、ありがとう!)」

 

 トトっと此方側に回り、お互い向かい合っていた状態から、横並びになった。

 

 というか待てよ、こんな風に所謂リア充共がやるような写真の撮り方なんて初体験だし、どんな顔したらいいのかとか、しかも周りの生暖かいようなこそばゆいような視線も気になるし、どうしたらいいのかと頭がぐるぐると混乱してきた。

 

 身長の関係でしゃがむように促され、そして横から言葉が聞こえてくる。

 

「38112703。3(じゃあいきまーす。3)」

 

 ッ!カウントダウンか!

 

「2」

 

 間違いないカウトダウンだ時間がない。もうどうすりゃいいか分からんからレンズ越しに風景を見ていよう。とおもったら好奇の視線で見てくる人たちが……くっ、もう無になろう。

 

「1」

 

 無になろうと努めてぼーっとしていると、がくんと、少し身体が揺れ動いた。横をちらと見やると腕を組まれているようで、自然とそちらへと身体が傾いていく。そのことに対しての驚愕と、近すぎる隣り合った雲仙への緊張が綯い交ぜになった表情がシャッターに収められた。

 

 

 

 




 雲仙姉は自分の名前を日本語で覚えてるって設定でお願いします。この小説では彼女の家族想いの面を強調させている為、流石に親に付けて貰った名前までは通じない筈がないだろってことにしてます。
 なんで、家族の名前は日本語で言っても通じます。
(まぁ、ドラゴンボールが通じてたくらいなんでね。うん。いけるでしょと)

 あとちょっとした小ネタというかですね。
 写真頼まれた時のヒッキーの「……いいよ」って台詞。
 これ実は「……いいぞ」か「……いいよ」で迷ったんですよね。普段の彼のキャラなら前者の台詞を言いそうなもんでしょうが、ここで今回の相手 雲仙冥加のことを改めて考えます。彼女は所謂妹キャラで、関係性としては小町と一番近いだろうキャラ。
 じゃあ、折角だし普段通りじゃなく奇を衒いたいなと思いまして……小町とヒッキーが喧嘩して仲直りした時のエピソードで、「それで、何があったの ? 」 「ちょっと長いぞ 」「……いいよ 」ってやり取りをオマージュさせて頂いた感じです。
 まぁ纏めると、突然出来た妹に振り回されるヒッキーに、あの時の小町のような表情で、あの温かい表情で、やれやれと思いつつもあの台詞を言って欲しかったのです。

 何気に自分で書いてて凄く気に入ってるシーンなんで、もし少しでも皆さんの心に響いてくれたりしたら嬉しいなぁと思います。




 あと最近デレステに嵌っていて気づいたことがあるのですが、例の久川姉妹。LIVE後の台詞がヤバイですね。ヤバイです。 もうあの「かんぺきってやーつ」がすっごい癒し。
 もうあれは日々頑張るための糧ですね。あれを聞いたらきっと誰もが心奪われるのは違いないし、きっと癒されて明日も頑張れますね。
 あのセリフは本当に心に効く。
 そして素早くDNAに届いてそのうち風邪くらいなら吹っ飛ばしてくれるに違いないですね。
 可愛さはすべてを解決してくれる。そう思いました まる。

(コイツ何言ってんや……( ̄▽ ̄;)と思った方は是非デレステやってみよう!癒されるよ!皆もやろうぜ!レッツリズム!)


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第23箱 「ま行くけどよ」

23話!にいさん、兄さんということでですね!
長らく続いた雲仙姉との絡みも一旦ここで一区切り!話数も丁度いいかなーって思いましたんで。

まぁ一区切りってだけで多分また近いうちに登場するかもですけどね笑 いい加減な作者なんで前言撤回して話が進む可能性アリアリですし、基本書きたいこと書く為ならなんでもするので(メインヒロインを14話も放置してることから察してる方もいらっしゃると思いますが)。

なんで、そこら辺はご了承の上この作品見ていて頂ければなーと思います!

って訳で23話!『ま行くけどよ』です!どぞー!


「66……2627538(ふふ……壁紙にしよ)」

 

 ほくほくと自分の携帯をまじまじと見ている雲仙だが、俺の表情かなり間抜け面晒してたと思うんだが……いいのか?

 

「……56(ふふ)」

 

 まぁ本人は満足そうにしてるからいいか。

 さて……んじゃそろそろ

 

「んじゃ、やることもやったし……じゃあな」

 

 電車も丁度着いた頃なので別れの挨拶を先に切り出す。

 そのまま踵を返し改札へと向かおうとすると、くいくいと袖を軽く引っ張られたので、半身だけ振り返ることに。

 

「10、39381745(うん、それじゃあ またね)」

 

 微笑みを携えてそう言い、軽く胸のあたりで手を振った後袖を離し、タタッと小走りに去って行った。

 

 ─

 ──

 ───

 

「ふー……」

 

 電車には無事乗ることが出来、丁度椅子がまばらに空いていたこともあり端っこの方に座ることに。

 背もたれにもたれ掛け座っていると、自然と小さくため息とも取れるような、長い吐息が漏れていた。

 

 それにしても長い一日だった。

 学校の施設に目を丸くし、事件に巻き込まれ、大怪我を負い、数字しか話さない雲仙には何故か懐かれ、ちょっとした知り合いも出来た。

 改めて振り返ってみると密度の濃さに再びため息が漏れる。

 

 本当に色々とありすぎた。1年分くらいの遭遇するであろうイベントが一気に今日に詰め込まれてんじゃないかと思える程密度の高すぎる一日に、またまたため息が漏れる。

 

 はぁ……疲れたな。それに比例するように腹も空いて仕方が無いし……。

 

 そんなことを思いながら携帯をチェックしていると、メールが一つ入ってるのに気づく。

 密林さんからだろうかと思い開いてみると、小町からのようで、簡潔に纏めると、早めに帰ってくるって言ってたけど何かあったの? 晩御飯はどうするの? という感じ。

 

 あぁそうか。なんか何時間前かに、朧げだが小町を見た気がしたが、あれは気のせいか。

 まぁいい。晩飯か……。なんかこう、今日は凄く疲れたからガッツリ食いたいな。外食にしようか。

 そうと決まれば小町にメールで連絡。

 

『連絡入れるの遅れて悪い……。晩飯は外で食べてく』

 

 こんな感じでいいだろうか。迷惑かけただろうし連絡遅れたこと明日にも謝っとかねぇとな。

 っと、返信来たな、相変わらず早い。

 

『了解。夜も遅いし気をつけてね』

 

 こういうさり気ない心遣いが身に沁みるんだよな。

 流石小町、メールでも癒してくれるとは。ふふ……。

 まぁ多分心の中でポイントが〜とか思ってそうだが、そこも含めて可愛い。ふふふ……

 やはり俺の妹がこんなに可愛いのはまちがっていない。

 

 ──っと危ねぇ、まだ電車に乗ってんだったわ。思いっきりニヤケ面晒してたかもしれん。

 取り敢えず誤魔化せるか分からんが最寄りまでは目を瞑っとこう。

 

 ─

 ──

 ───

 

「……ん」

 

 いつのまにか眠ってしまっていたらしい。まぁ疲れてたからな。 是非もないよネ!

 

 目を少し擦り、現在地を把握しようと上を向くと

 

「ッ!」

 

 最寄り! パパッと鞄片手に電車から飛び出して行く。

 

「っぶねぇ……」

 

 こ、今回は間に合ったが危なかった……。普段電車通勤とかで慣れているなら目的地毎に勝手に目を覚ますらしいが(親父談)、生憎中学も自転車通勤で頻繁に電車を使う機会も無い俺にとっては無縁な話だ。本当にギリギリだった……。

 箱庭に通っているかもしれない未来の俺はどうなんだろうか。そんなことを考えながら、慌てて飛び出したことによりドクンドクンと鳴り響く動悸を抑えるためゆっくりと歩いて行き、改札を抜け、少しした所で止まる。

 

 さて、本当は電車の中で決める予定だったが寝てしまったため未だ決まっていない今日の晩御飯。何処に行こうかね。 ガッツリ食いたいから……ラーメンか、と思ったがそういえば昼食に食ったっけなと思いとどまる。

 なら……我らがサイゼリヤしかないな。

 

 

 よし、そうと決まれば出発だな。駐輪場の自転車を取りに行き、確認のため一度財布の中身をチェック。よし、問題ない。

 さて、んじゃ向かうか。

 なんせとんでもなく腹が減ってるから早く食べたくて仕方がない。多分これも名瀬が言ってた改造の件が関係して………………って待てよ。

 

 

 名瀬といえばアレだな。今日のこと報告しなきゃ駄目なんじゃ……。

 多分腹減ってんのだって脚潰されたり、大怪我治す為にカロリー使ったからなのかもしらんし、それに、改造手術したのなんてつい先週のことだ。なにかあるかもしれないし早めに連絡した方がいいな……と思ったが、多分長引くかもしれないよな。そうしてたら晩飯食い逃すかも……いや、そうなっても此方の都合だし仕方が無いと言えるんだが……ぐぬぬ。

 

 サイゼを取るか、報告することを取るかで暫し逡巡する。

 いやまぁ、迷わずアイツに報告しなきゃならんとは分かってはいるが……どうしても面倒くさいと頭にチラつく。自分でもどうしようもない奴だとは思う。

 と、そんなことで悩んでいると、ふと思う。

 報告も大切だけど、単純に今日のことを話したいと。

 食堂のこととか、動物のこととか。料理をつつきつつ、アイツと喋りたい。

 

 

 ……晩飯、誘ってみようか……。携帯に表示された電話アイコンを押し、連絡先を開く。名瀬夭歌の表示を押し、通話ボタンに手を掛け、ようとしたが、止まる。

 よく考えたら、既に時刻は8時。一緒に行くとしても8時半頃にしか店に入れないだろう。いや、女の子は準備に時間が、って小町も言ってた気がするし、もっと遅くなるかもだ。

 そして俺たちはまだ子供。夜の10時には店を追い出されるので、実質1時間程しか滞在出来ない。

 それと単純にこんな夜遅い時間に誘うのも非常識だろうし。

 いや、ってかまず俺から誘うってこと自体が初めてでなんか緊張するっていうか、友達を遊びに誘うのって久しぶりすぎてどうしよう、というか迷惑だよなってかヤバイ頭混乱してきた。

 

 こんな時間に、と迷惑なんじゃ、と色んな思いが頭を駆け巡っていく。

 ……やっぱり止めとくかな、と思い始めたその時、思いもよらず通話ボタンに手を掛けてしまっていた。……やっちまった。って冷静にしてる場合じゃなくて!?ヤバイどうするもう少し頭ん中冷やしてから連絡入れようとしてたからパニックだヤバイ!!

 纏まらない思考のまま、あわあわしていると、呼び出しのコール音が止まる。──ッッ!!

 

『もしもし』

 

「お、おう」

 

『おー、どーしたこんな時間に珍しい』

 

「ん、あぁ。夜分遅くに悪い……」

 

『別にいいけど。んで、ハッちゃんがわざわざ電話してくるくらいだから、なんかあったんじゃねーの?どうかしたか?』

 

「えっと、な。その……こんな時間に何言ってんだってなると思うが……今から俺、外食行こうとしてんだけどな、よかったら名瀬もどうかなって、思って電話掛けた次第なんだが……どうだろう?」

 

『……もう8時だぜー?誘うの遅すぎんだろー』

 

 若干呆れたような、そして少し笑みが混じった声音の台詞が返ってくる。

 

「はは、だよな。悪い。で、話なんだが『ま行くけどよ』え?え、いいのか?」

 

『おーオッケーオッケー。話もそこで聞く』

 

「マジか……じゃ、じゃあ取り敢えず今から名瀬ん家向かうわ。今駅だから、15分後くらいに着く。あっ、と……別に急いでないから。準備とかゆっくりでいいからな」

 

『はいよー』

 

「じゃ、また後で」

 

『おーんじゃ』

 

 な、なんとかなった……っ、しかし緊張した……けど、誘えてよかったっていう達成感が凄いし、なんか嬉しいな。

 

「──っ、ふ──……」

 

 まだまだ、友達に電話を掛けるのさえこの様だ。まぁしかし、こういった経験を積んでこない人生だった為仕方の無いことではある。

 だからこれから、ゆっくりでいいからこういうのにも慣れていければな。

 




次回

EPISODE 24 正妻 (クウガ次回予告感)


ちなみに 本日の雲仙家の一幕

「4417(ただいま)」

「18ー514801445(おー姉ちゃん遅かったな)」

「10、4294141(うん、ところで弟よ)」

「51?892248?(ん? なんだ姉ちゃん?)」

「52159555(お前にお兄ちゃんが出来たぞ)」

「7、73251480!? 65156211!? (ま、まさか姉ちゃん!? 男が出来たのか!?)」

「86、44566(いや、お兄ちゃんだ)」

「5(え?)」

「921、043502130151480024894291715102130(だから、私にお兄ちゃんが出来たからお前のお兄ちゃんも出来たんだ)」

「…………は?」


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第24箱 「ま、悪くはねーけどな」 

サイゼでまったりしながら書きました。



「8時15分……時間ぴったりだな」

 

 あの後自転車を走らせ15分と少し、無事に名瀬の家へと到着した。

 

 さて、じゃあ後は待つだけかと自転車を停める。この間にtwitterでも弄っているとしよう……は?なに?俺がtwitterやってるのが不思議? いやまぁ、フォロワーに学校の知り合いとか居ないけどさ、別にいいだろ。新しい情報とか面白い投稿とか見んの好きだし。あと偶にカマクラが面白い動きとかしてたら動画撮って載っけるのも楽しいし。因みに一度それで軽くバズったことがあって、上無津呂にバレたこともある。ほら、あいつのアカウントって、動物(主にネコ)の動画めっちゃリツイートしてるからさ。そういうのには敏感なんだろう。

 そういうわけで、現在の俺のフォロワーはやたらとフォロワー数が多いアカウントの人数名、上無津呂、名瀬……って感じだな。

 

 因みに名瀬は日曜の朝にハッシュタグ付けて仮面ライダーのツイートめっちゃしてる。

 

 そんなこんなで色々なツイートを見つつ、RTやらいいねしていると、3分くらい経ったころ、前方から足音が聞こえてきたので、携帯を閉じそちらに目を向けると我が友人の姿が

 

「お──っす」

 

「おう、悪いな、こんな時間に」

 

「いーっていーって構わんよ」

 

「そう言ってくれんのは助かる……にしても早かったな」

 

「ん……そっか?15分もありゃ余裕で準備できたぜ?」

 

「いや、前小町から女性の準備は時間が~って聞いてな……その」

 

「ふ──ん、ま、他の奴らがどうかは知んねーけど、俺は違うタイプみてーだな。むしろ時間余らしてたくらいでtwitter徘徊してたくらいだし。そんで、ハッちゃんが動物の動画RTしまくってんの見てもう着いたんだなって思って外に出たら案の定居たってな」

 

「そうか……なるほど」

 

 言外に俺が自転車こぎながら携帯弄るような奴でないという信頼が伝わってきて、なんかむず痒い気もするが、それはさて置きそろそろ本題に移ろう。

 

「ところで、外食何処に行くかって話なんだが」

 

「あぁ……何処行くか決まってたりすんの?」

 

「一応サイゼに行こうと思ってたんだけど、名瀬は行きたい所あったりするか?」

 

「ん~いや別に()-な。んじゃサイゼにしようぜ」

 

「ん、了解。じゃ行くか」

 

 

 挨拶も軽く済まし、近くのサイゼまで歩くことに。

 まぁ、そんな報告はいいとして、問題、というか注目すべきことは他にある。それは……そう──

 

 

「……今日、紙袋ないのな」

 

 そう、今 隣り合って歩いている彼女は伊達メガネを掛けており、いつものチェンソー男スタイルではないのだ。

 滅多なことでは紙袋を脱ごうとせず、常日頃から素顔を隠そうとするコイツにしては非常に珍しいことで、正直結構俺も驚いている。

 そんな俺の困惑が伝わったのか、あ──と間延びした声をつき、

 

「いやほら……流石に紙袋被って夜出歩くわけにはいかねーだろ。最悪補導されちまうよ」

 

「あ、あぁ……そう」

 

 正直昼も夜も関係ない気もするんですがそれはと、そんな言葉を口の中に押し留めつつ、続く台詞を聞くことに。

 

「まぁ、可能な限り怪しくないようにっつったらもう伊達メガネくらいしかねーなと思って」

 

「なるほどな」

 

 まぁそれにしてもコイツの目つきの悪さが緩和されてなくて直ぐに名瀬だって気付いて若干笑みが零れてしまったのは内緒だな、うん。目つきに関してはきっと俺も人のこと言えんしね。

 

 

「それよりよー珍しい俺の私服なんだが……どーよ?」

 

 ふふん、と言いたげに胸を張り聞いてくる。とても自信がおありのようで……。

 

 まぁそれにしても今日の名瀬の服はあれだな、めっさふわふわしてるな。あと目に良さそうな色合い。

 こういう服なんていうんだろうか……。

 

 なんかあれだよ、あの……あれ。なんか森っぽいやつ。森ガールってやつ。ポジティブでパッションなゆるふわしてる人が着てる服。……あとトイカメラさえあれば、おさんぽしてカメラでパシャリできたのかもしれない。

 

「なんつーか、あれだな。すげぇふわふわしてんのな」

 

「あー、まぁな、俺はか弱い森ガールだからよー」

 

「ふっ、いやお前がか弱いってなんの冗──っ、談じゃないくらい嵌ってるよな……そうだな、そんなお前にぴったりのお召し物ですよね。えぇ、とてもよくお似合いになっております」

 

 あ、あっぶねぇー……ギロッと擬音がつくような目で睨まれたマジでビビった怖ぇー……

 

「だろー?」

 

 ご満悦といった顔で此方を伺ってくる名瀬に若干引き攣った笑みで対応しつつ、その後もとりとめもない会話を交わしながら気がづけば、件のサイゼへと到着していた。

 

 ─

 ──

 ───

 

 席へと案内され、2人して座る。すると、なにやらニヤニヤした顔で名瀬が此方を見て一言。

 

「いやーホントこんな急な時間に呼び出しやがってよー全く……ハッちゃんでもなけりゃこんな誘い即振ってるぜ?おっ今の夭歌的にポイント高いんじゃね?」

 

「流行ってんのかよそれ……」

 

 というかまたさらっと恥ずかしげもなくそんな台詞を……

 そんな俺の気持ちなど露知らず、なんでもなかったかのように横に立て掛けてあるメニュー表を取り出し此方にも見えるように横にして真ん中に置く名瀬。

 

「さーてなに食べっかなーと」

 

「ん、サンキュ」

 

 ふむ……さり気なく、そしてさも当然のことであるかのように連れの人間へと配慮するその姿勢、素晴らしい。プロのサイゼリアン(サイゼのユーザーのこと)である俺を唸らすその鮮やかな所作に感動を覚えつつ、メニュー表を覗く。

 

 レギュラーメニューはほぼ頭の中に入っているから季節限定のものと新メニューのチェックを行っていく。

 ふむ……なるほど。今の季節限定メニューは『やわらかポークリブのオーブン焼き』に『フレッシュトマトのスパゲッティ』か……。これはまた……美味そうな!!(トマトじゃなければ……) ん~けどどうすっかなぁ、肉系は『ミックスグリル』の気分だったからなぁ……むむむ。

 

 はっ、待てよ。そう言えば最近親父から貰った臨時収入があったな。あれは確か──

 

 ─

 ──

 ───

 

『なぁ八幡、ちょいちょい』

 

 ソファーに寝そべりながら、コーヒーを入れにリビングへとやって来た俺を手招く親父。

 

『ん、なに?親父もコーヒー飲みたいの?』

 

『いや、用件はそれじゃないが、まぁ折角だし頼むわ』

 

『了解』

 

 インスタントコーヒーの粉にコトコトとお湯を注ぎ、俺特製の練乳とガムシ

 

『あ!くれぐれも俺の分は普通のコーヒーで頼むぞー。クリープ一個だけ入れてくれるだけでいいからな』

 

『……おう』

 

 仕方ないので八幡スペシャルブレンドは俺の分だけ作り、親父のにはオーダー通りのものを作る。

 ん〜、なんでこの甘みの良さが分からんのだろうか……

 

『ほい』

 

『ん、サンキュー』

 

 身体を起こし受け取ると、少し口につけてからテーブルに置く。

 

『まぁ座んな』

 

『……おう』

 

 なんだ改まって……え、なんか俺やらかしたっけ? もしかして説教されんの?

 内心少しぶるつきながら対面のソファーへとゆっくりと腰を下ろす。

 

『さて、んじゃ本題に入るが……』

 

『……』

 

 親父の目つきが真剣なものへと変わり、場の空気も張り詰めたものへとなった。 それがより一層俺の緊張を煽り、自然と身体が硬くなる気がした。

 何を言われるのか──親父の続く言葉をただひたすらに緊張した面持ちで待ち構えていると

 

 ポケットを徐に探りだし、なにやら封筒をテーブルの上に差し出して一言

 

『これをお前に授けよう』

 

『え、いや……は?』

 

 え、なにお小遣い? いや、比企谷家ではかーちゃんがお金の管理をしてるからそれは無いよなと直ぐに否定する。

 じゃあなんだと疑問の眼差しを我が父上へと向けると

 

『まぁなんだ、それで名瀬さんとやらと遊んだりしてきな』

 

『えっ、ぅ、おぉう』

 

『なんだよその返答は……』

 

『いや……親父がこんな真似するの珍しいなと思って……』

 

『はっきり言うのな……俺をなんだと思って……』

 

『小町を溺愛するあまり構い過ぎて最近若干避けられてる親バカだろ?』

 

『やめろ……それは俺に効く……まぁともあれだ。お前もやっと親しい友人が出来たんだから、親としてはなんかしてやりたいって思うんだよ。だから大人しく受け取っとけ』

 

 珍しすぎる俺へのデレ対応の親父に困惑するも、くれるものなら貰っとくかと封筒を受け取る。

 

『ま、その、ありがとう』

 

『ん、まぁ小町が言うに未来の娘になるかもしれんしな

 

『え、なに?なんか言ったか?』

 

『いや、特には。ま、そういうわけで楽しんできな』

 

 ─

 ──

 ───

 

 ってことで確か……カバンに入れてた筈……あった!

 よし、これでいつもより豪勢にいけるな。今日は食いたいだけ食うとしよう。

 そんな嬉々とした思いでメニュー表をぱらぱらと見ること数分。

 

「お、そういえばよー、ちょい前に流行った1000円ガチャってやつやってみねぇ?」

 

 そういやあったなぁそんなのも。俺の場合注文の済ますスピードが常人のそれでは無いため使う機会も、使おうとも考えに出なかった代物。まぁしかし物は試しというし

 

「あぁ、あれか。まぁ俺もやったこと無いし、一回くらいは試してみたいと思ってたからいいぞ。出たメニュー分け合って割り勘って感じでいいか?」

 

「全然オッケー、てか俺もそう言おうとしてたしな」

 

 んじゃいくぜと、真ん中に置いたスマホに表示されたガチャのボタンを押し、数秒後

 

『若鶏のグリル(ディアボラ風)』『サントリーオールフリー』『フォッカチオ』『フォッカチオ』

 計 996円 969kcal 塩分 3.7g

 

 

「……もっ回やるか」

 

「だな。幾らアルコール入ってないとはいえ、あの苦味はどーも好きになれねぇし」

 

 次だ次、ともう一度ガチャる。すると──

 

『スモールライス』『カルボナーラ』『熟成ミラノサラミ』『セットプチフォッカ』

 計 996円 1218kcal 塩分 5.6g

 

「……ライスをどう処理しろと?」

 

 サラミとプチフォッカを合わせて食うのはアリかもしれんが……ライスをどう処理しろと?しかもスモールだし。分けたら中途半端な量だろうし。

 

「はぁ……もっ回だな」

 

 その後も何度か微妙な組み合わせが続き、ガチャガチャとリセマラを繰り返していると──

 

『ミニフィセル』『野菜ソースのグリルソーセージ』『小エビのサラダ』

 計 917円 873kcal 塩分 5.4g

 

「……いいんじゃね?」

 

「だな」

 

 どれも2人で分けられ、尚且つそれら単品で食べられる商品の為、これで決まりとなった。

 

「んじゃ後は個別の注文なんだが、俺は決まったけどハッちゃんはどーよ?」

 

「おぉ大丈夫」

 

「んじゃ押すぜ」

 

 注文ボタンを押し数分、店員さんがやってきた。

 

「えーっと、ミニフィセルと野菜ソースのグリルソーセージに小エビのサラダ」

 

 先にガチャの商品を伝え、続けて個別の注文に入る。

 

「ミラノ風ドリアとミックスグリル、やわらかポークリブのオーブン焼きに辛味チキン、あとカルボナーラ、フォッカチオにドリンクバーで」

 

 ガチャの商品もあんのに我ながら頼みすぎだろうとは思う。しかし身体がカロリーを摂れと激しく訴えてきている為仕方がない。かつてなくおなかすいてるんだもの。

 

 対して名瀬の注文はというと

 

「柔らか青豆の温サラダにアーリオ・オーリオ、ドリンクバーで」

 

 パスタとサラダのみ。いやまぁ、他に食べるのも有るしこんなもんだろうと思うけどな。俺と違って名瀬は特別よく食べる訳でもないし。

 

 店員さんが注文を確認し終え、そのまま去って行った後、目の前の名瀬が一言

 

「しっかしよく食うよなー、や、理由は知ってんだけどさ。代謝が良くてエネルギー消費の激しいハッちゃんじゃある程度は食わねーとだし」

 

 だけど、と一言置き、此方を試すような目を向け

 

「そんだけ食うってことは何かあったんだよな?」

 

「……やっぱお見通しだよな」

 

 こいつに隠し事は出来ないなと思いつつ、今日一日の経緯を話した。

 

 ─

 ──

 ───

 

「はぁ〜〜…………ってかハッちゃんよーお前もしかしてあれか?主人公でも始めたのか?」

 

「は?いや、何言ってんの」

 

 え?なに、主人公って始めることできたの? 確かに誰も主人公だって誰かが言ってたけどさ。

 いやしかし大体俺にそんな要素が……いや、まてよ……考えてみると、いやまぁ確かに……世界一可愛い妹であるマイラブリーエンジェル小町たんの兄というポジションに収まっていることからして、俺自身世界でも稀有な存在なのではないだろうか?

 あれヤッベー、え?うそマジ……?なんで今まで気付かなったんだよ俺。これ俺主人公で確定なんじゃないの?ってことは俺をメインに据えて物語が進む。これ詰まる所、伝説の小町ルートへの道もなきにしもあらずということじゃいの??

 おおぉー!齢14にして遂にこの先の人生に希望を見出せることが出来た……。理想(妹)と希望(妹)を掴まえ、この世界中でたった一人だけの俺がのぞんでる俺さえいればだもんな。妹さえいればいいとは確かに同感だが、それから……

 

 

「おい、トリップしてるところ悪りーけど話進めんぞ?今回のはな、人類みな其々自分の人生の主人公〜とかの次元の話じゃねーんだ。もっと上の話で……考えたら分かると思うんだが、先週は事故に遭い改造人間になり、今週は事件に巻き込まれバトル展開ときてる。こんな直近で死にかけるイベントに遭うとかよ、……最早お前主人公としか言えねーだろーが」

 

「……や、いや……う〜ん、しかしな」

 

 まぁ冗談は置いとくとして……真面目に考えてみると確かにウニ頭の不幸な人ほどとは言わんが、過密スケジュールなことは確かだ。

 いやしかし、……なあ?俺だぞ?

 

「俺みたいな卑屈で目が腐ってて、家に帰ったらだらだらTV見て、本読んで、飯食って寝るだけの人間が主人公とかないって……はは、絶対にラノベとかだったら売れねーなそれ」

 

 少し自嘲気味に笑いながら言い切る。

 確かにラノベ主人公では珍しく容姿が特徴的で(良いとは言っていない)、考え方が特殊だが(捻くれてて、斜め上な考え)。しかし俺なんか面倒ごと見つけても、速攻で目背けて知らんぷりで素通りするぞ?イベントなんか発生しないし、むしろ発生させないように立ち回る。

 

 こんな俺が主人公とか……はは、似合わねぇ(涙目)

 

「ま、それはともあれだ。ここ最近のハッちゃんは意図したものでないにしても明らかに主人公ムーブしてるのは確かだ」

 

「まぁ、かもしれんがな……」

 

「ってことはだ。危険な橋を渡ることに繋がるのは分かってるよな?」

 

「お、おぉ……だな」

 

 なんか怖い……圧が凄いんですが名瀬さん

 

「後先考えないで、いや今回は考え抜いた結果身体が動いちまったんだったか? まぁどっちでもいいけどよ」

 

 ただな、と一言置き

 

「覚えとけよ。主人公でもなんでも人間死ぬ時は死ぬ。この世界は漫画とかのフィクションの世界じゃねーんだからよ。無理して厄介ごとに度々突っ込んでいったら、いずれ簡単に身を滅ぼすことだって充分にあり得んだ。だから今回みたいな、なし崩し的なパターン以外は大人しくしといた方がいいぜ……?」

 

 (いた)く真剣な目で此方を見つめ、そう言い切られた。 まるで目を逸らすことは許すまいと言わんような気迫に一瞬怯むも、此方からも一言。

 

「……お、おう。まぁけどほら、俺だからさ。自分からは絶対に面倒ごとになんて関わらんし、よっぽどじゃない限り動かんし安心してくれ」

 

「……ハハ、ま、だろーけど一応な」

 

(つってもこう言っちゃいるが、多分また自分から関わっちまったりするんだろーなコイツ。……ま、そーなったらそーなったで、なんとかしてやんのも親友の俺の役目なんだろうし、まったく世話が焼けるもんだが……)

 

ま、悪くはねーけどな

 

 ボソッと名瀬が何か言葉を溢した。

 

「ん?すまん聞こえんかった」

 

「んぁ?いやー、ただな、そのガムシロかけたフォッカチオつまみながら、ガムシロ入りのコーヒー飲んでるの見て、いつかハッちゃん糖尿病患者になっても可笑しくねーだろうなって」

 

「ぐっ、人の気にしていることを……!」

 

 

 

 

 

 そんな感じで、料理をつつきながら色々と今日一日のことを語り合ったわけだが……ここで一つ、ふと思い出したことがある。

 

 ある一つの投稿が、俺のtwitterのタイムラインへと流れてきた時のことを。なんでも、急にとか、変な時間とかに連絡しても気軽に会ってくれる人だったり、昨日見た夢の内容とか、オチの無い話とかのどうでもいいことを気軽に言える関係ってやつが、大切にすべき友達なんじゃないかという内容だった。

 

 当時の俺からしたらそんなものに実感が湧くはずも無く、夢物語のように見えて、読むだけ読んでそのままスルーした記憶がある。

 

 せいぜい俺が知っているのなんて、わざわざ定期的に連絡を取って、相手に合わせてご機嫌を取り、話合わせて顔色窺って、ようやく存続される間柄のぬるい友情……いや、只のその場しのぎの関係か。そのようなものしか見てこなかったし、分からなかった。なんせ、俺自身もそういった繋がりしか経験が無かったから。

 それに、14年間周りの人間関係を観察してきて分かった。そんな脆いものなどどうせ長くは続かないだろうし、以って卒業までだろう。小学校の時の友達で今も会ったりするのがほんの一握りなようなもので、新しい学校ないし職場に行ったら直ぐに会わなくなるだろう。

 

 だから、そんな夢物語のように思えた投稿には理解が示せず、だけど心の奥底でそんな分からないものに対して、ほんの少し羨望の気持ちも抱いていたものだったのだが……

 

 

 

 今は、まぁなんとなくだが、少しは分かったような気もする。

 今回のように急な時間に連絡しても会ってくれてご飯に付き合ってくれたこと。

 小町にしか話さないような千葉知識とか、どうでもいい話とか屁理屈言っても、なんだかんだ聞いてくれること。

 それになんといっても、余計な気を遣わないでもいいから楽だということ。会話が止まっていても不思議なことに気まずくならないし、むしろ心地良かったりもする。

 こいつといると、自然体のまま楽でいられる自分がいる。

 

 家族以外にこんな気を許せような人間は初めてで、最初は戸惑いもあってあたふたしたものだが、こういうことなんだなと実感できた。

 まぁ、今もまだまだ電話掛ける時とかは慣れてないから緊張するが……それは追々慣れるとして。

 

 

 長くなったが、まぁ、つまりは目の前にいるコイツ、名瀬夭歌は大切にしなくてはならない相手なんだろうなと改めて思ったりしたわけで。

 大人になっても、偶にこうやって飯一緒に食ったりとか出来ればいいなと思わんでもない。

 まぁだから、コイツに呼ばれたら何時だろうと、多分一言二言何かしら言いつつも結局は会いに行ってしまう自分が想像出来てしまい……そういうのも悪くないなと思った。




やっっっっと名瀬ちゃんを本編で書けたーーー!!!
嬉しい!!
ぶっちゃけると作者も内心は名瀬ちゃんを書きたくて書きたくて仕方がなかったので笑 (あとがきとかに出張して貰ったのは我慢が効かなくて強引に書いたって訳ですね笑)

まぁ、そんな感じで久しぶりの名瀬ちゃん回でした!読んで頂きありがとうございましたー!


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第25箱 「我泣いちゃうぞ」

 久しぶりの投稿です!


「じゃ、送ってくれてサンキュー」

 

 ふわぁ、と欠伸を一息吐き、若干下がった目尻を此方に向けて言う名瀬。

 

「おう」

 

 こんな夜更けには女の子を送っていくべきと、うちの妹にそう仕込まれている為、当然のことのように簡潔にそれだけ返す。

 

「んじゃな、ハッちゃん。おやすみ」

 

「おう、おやすみ」

 

 そう別れの挨拶を済まし、帰路へ着いた。

 

 ─

 ──

 ───

 

 既に時刻は夜の10時へと差し掛かろうとしているところ。そのまま家へと直帰しようと考えたが。

 

「──っと、そういや」

 

 小町に迷惑掛けたこともある。そのお詫びといってはなんだが、あいつの好きなスイーツでもお土産に買っていこうか。勿論これで許されようとかそんな理由でも無く、誠心誠意謝る所存ではある。が、まぁ、気持ち的に謝るだけではアレだと思ったので。

 

 そういう訳で道中あるコンビニへと入店することに。

 

 何時もなら手前の雑誌コーナーへと寄ってから買い物といくところだが、今回は時間も時間な為すぐさま奥へと直行。目的のスイーツを手に取り、そのまま家族分見繕ってからレジへと並ぼうと、足を向けた瞬間──

 

「ふむぅ?これは奇遇。我が半身ではないか」

 

 マガジンとコーラ、ポテチを携えた恰幅の良い男の人に話しかけられた。いや、違うか。これはきっとあれだな。いつもの、俺じゃなくて違う人に話し掛けたパターンだ。

 なら、さも気付かなかった体を装いさっさと買い物済ませるべきだろう。

 

 そう自己完結し、その人の前を通りレジへ並ぼうとすると

 

「え、いやあれー?はちまーん?今我と目合ったよね?ね?ん?疲れてるのかな? ねぇ?」

 

「……、疲れてるからスルーしたんだけど……」

 

 素通りされたのがアレだったのか、直ぐさま駆け寄って来てまたもや声を掛けてくる材木座にしらーっとした目を向けてしまう。

 

 こんな疲れてる時にこいつの相手すんのは御免願いたいんだよな……。

 

「そう人を厄介者扱いするでない、同盟者よ。我泣いちゃうぞ」

 

「俺は自分の名前は忘れて無ぇし、お前と遊ばず家帰るからな。疲れてんだし。あと同盟者でもない」

 

「そうか……沼の底の家のケーキを共に堪能しようとしたのだがな……」

 

「確かにあれは美味そうだけどな……」

 

 心底残念そうに顔を俯かせる材木座にある意味少し共感してしまった。

 ジブリの食いもんは見てるだけで食欲そそるからなぁ……。お陰で金曜の夜はついお菓子をつまんでしまうこともしばしば。

 

 そう。俺の意思が弱いのが悪いんじゃないんだ。美味そうな食いもん映すジブリが悪いんだよ(暴論)

 俺は悪くない。

 

「だけど止めとけ。俺らが旅行感覚で行けるような場所じゃねぇだろ」

 

「ふっ、笑止。八幡、我を誰と心得る」

 

「……、…………剣豪将軍?」

 

 やたらと自信満々で此方を伺ってるのが妙に癪にさわり、答えるのに数泊掛かってしまった。

 

「うむ!しかしそれは現世での在り方の一つにすぎん!彼方側の我は魔界の盗賊として名を轟かす邪王炎殺拳の使い手……邪眼の力をなめるなよ!」

 

「おいやめろ。なんかお前が言うとやけに様になってるだろうが」

 

 なんなら背後に黒髪の剣携えた男が幻視されるレベル。

 

「む?時に八幡。お主、何ゆえ制服を着用して外出しておる?今日のオープンハイスクールは長くても3時頃には終わっていた筈だが……」

 

 中学生がこんな夜更けにということと、俺のキャラのこと(悪目立ちを避ける)を考えると浮かんでくる疑問。

 

 まぁ、そら不審に思うよな。俺みたいなのがこんな時間に制服で出歩いてるとか意味分かんねぇかもだし。

 

「んぁ?あ、──、あぁー……、まぁ色々あってな。塾とか」

 

 内容が内容の為、適当に話を濁すことに。

 

「そうか……、む、そら八幡。レジが空いておるぞ」

 

「おう」

 

 対する材木座はというと、何かを汲み取ったのだろうか少し思案し、さしたる追求もないまま会話はそこで途切れた。

 

 ─

 ──

 ───

 

 

「ただいまー」

 

「おっ。お兄ちゃんおかえりー」

 

 買い物を済ませそのまま我が家へと帰宅したところ、丁度玄関に居合せたのか、小町がトタタッと此方に駆け寄りお迎えに来てくれた。

 

「おう。──っと小町、その、連絡遅れて悪かったな」

 

 帰宅して直ぐさま、妹へと頭を下げる兄の姿がそこに在った。

 

「ん、いいよ。次からは気をつけてね」

 

 そして、そんな兄へ軽く注意を促しつつ、さして気にしてもいないかのようにお許しを出す妹の姿が在った。

 

「あぁ肝に銘じておく。あ、そうだこれ。ファ○マのプリン買ってきたから」

 

「おー! スフレの乗ってるやつじゃん! 小町の好きなやつ! ありがとー!」

 

 へへへ(* ̄∀ ̄)、と心底嬉しそうに差し出したレジ袋を受け取る小町。

 ああ……これですよこれ。この色々ありすぎた1日の疲れも和らいでいくような、そんな笑顔。

 

 小町の笑顔を受け、ぽかぽかとした気持ちに浸りながら靴を脱いでいると、んー?と後ろから、なにやら考え込むかのような声がした。

 

「ん?なんだろ……お兄ちゃんから、んん? 」

 

 どうかしたかと後ろを振り返ると、顎に手をやり首を傾げて、此方をじーっと見やる妹の姿が。

 

「どした」

 

 何か俺に付いてますかねと思い声を掛けることに。

 

名瀬さん……じゃない気がするな……。まさか新しいお義姉ちゃん候補とか!?……と思ったけどなんだろ。なんか違うような? そんなんじゃないような──、妹 ?…………は?いやいやそんな訳無いよね。お兄ちゃんに妹は一人だけでいいし、ってか妹としたら相手小学生になるしお兄ちゃんに限ってそれは無い。え、じゃあなんだろ

 

 したのだが、なにやら自分の世界へとトリップしているらしく、ブツブツとまるで反応が無い。というか怖い。目が真っ黒でヤバそうなんですがうちの妹。

 

 このまま放置するか再度声を掛けるかで悩んでいると、あっ、と小さな声が聞こえ、そこへ目を向けると彼方の世界へと戻って来たのか、ガサガサと袋の中身を見ている普段のくりっとした目をした小町が居た。

 

 

 

「おっ家族分あるね……お兄ちゃん今食べる? コーヒー入れて待ってようか?」

 

「あー……俺風呂入ってからにするから大丈夫。先食べといてくれ」

 

「りょうかーい」

 

 少し弾んだ声音の返事を背後に受けながら、2階の自分の部屋へと上がるべく階段を昇っていく。

 

 部屋へと入り制服をクローゼットへと掛け、寝間着を適当に見繕い浴室へ。

 

 自分の着替え、携帯を置き、さて入りますかねと扉を開けようとした瞬間、携帯からなにやら通知音が響き、半身振り返る。それはメールを知らせる通知音で、密林さんやらで慣れしたしんだ音。 まぁしかし別に後でいいよなと、携帯に背中を向け、浴室へと入っていった。

 

 ─

 ──

 ────

 

「────ふ──、……あああ゛あ゛ぁぁああ」

 

 終わった。

 

 おっさんみたいな声が出たのはさて置き。

 やっと今日一日が終わった……終わったぞ。

 どれだけ今この瞬間、我が家の浴槽で一息吐くこの瞬間を待ち望んだことやら。

 全く……本当に。今日は身の回りでイベントが乱発し過ぎて疲れた。これ程に目まぐるしい一日は生まれてこのかたそうそう経験していない。てかこんな日一生に一度でいい。身体が保たん。

 

 というか今日一日振り返ってみると……おかしくない? 

 俺ただ学校見学行っただけなんだけど。

 それがなんで野生の戦闘狂に襲われて不思議の国のアリスに懐かれんの? 

 訳分かんねぇんだけど。魔窟かなんかじゃないのあの学園。

 

 

 というか一息吐いて冷静になった今、改めて思うとだ。あの学園はいい意味でも悪い意味でも突出している。しすぎている。

 施設は他校とは一線を画す程の充実ぶりでどれも申し分無く、そして生徒達の行動はその校風により多岐にわたっており、様々な人間が在籍している。

 その為今日俺がエンカウントしてしまったような危険人物も中には存在しているわけで。

 

 ……ぶっちゃけ、箱庭に行くの考え直そうかと思ってもいるんだよな。

 昼飯の時のベストプレイス候補や、くつろぐ場所、他にも惹かれる部分が多々あるがやはり、一部の生徒への不安要素がどうにも拭えない。自身が直接の被害者であるというのもあるが……どうしても……ねぇ?

 

 ……勉強手伝って貰ってる名瀬には悪いが、少し考えるべきだろう。中途半端な心持ちのままじゃ気分が悪いし、なによりあいつ(名瀬)なら見抜いてきて指摘されるだろうしな。

 

 取り敢えず進路先について部屋に帰ってから考えを纏めることとしよう。

 

 そう考えに一区切りをつけ、のぼせる前にと湯から上がった。

 

 ─

 ──

 ───

 

「──っと、大刀洗か」

 

 買ってきたプリンをリビングで家族と食べ、なんやかんやあり時刻は既に11時を回ったところ。

 

 ベッドに横になりながら携帯をタプタプとしていると、メールの通知の知らせを思い出し開くことに。

 

 そこには

 

『渡したメモ 忘れないようにね』

 

 そんな簡潔な一文が記されていた。

 

 そう言えば……そんなの渡されたっけな。

 確か失くさないようにペンケースの中に……っと、これか。

 

 

 

 

『今回の件、助けに入るのが遅かったために、君をあんな状態になるまで頑張らせてしまってすまなかった。

 折角学校見学に足を運んでくれたというのに、至らない役員である自分の所為で本当に申し訳ない。

 

 今回の件からこの学園に対して苦手意識を持ってしまったかと思う。もしかすると、このメモを読んでいる頃は進路先を変更しようと考えを改めていたりもするだろう。

 だけど、それでもまだ、この学園に対してほんの僅かでも悪く無いという思いが残っているのなら、出来ればこの続きを読んで欲しい。

 

 

 

 この学園には色んな奴が居る。良い奴も変な奴も、今回のような危なっかしい奴だって、良くも悪くも十人十色というか、様々な種類の人間が居るんだ。

 だから隠し立ては抜きに言うが、今回のような危険人物だって当然在籍している。

 だが、そんな生徒達のいいようにさせないよう日々取り締まっている役員達の頑張りもあってか、恐らく君が今思っているよりかはこの学園はまだ捨てたものでは無いと思う。

 自分もその役目を担っているから分るが、役員達は皆、日々誠心誠意、余念が残らないよう必死に活動している。

 

 だから、手前勝手な要求だとは思うが、どうかまだ幻滅しないで欲しい。

 この学園には上述したように悪い面もあるんだが、それ以上に良い面もたくさんある、とても素敵な学園なんだ。

 

 もしよければだが、君もこの学園へとやって来てくれたらと思う。この学園で、俺の大好きなこの場所で、是非とも青春を送って欲しい。

 

 君は見たところ最近特異性を発現した、元は普通の人間だったんだろう。

 そんな君からしたら、この学園は刺激が非常に強く感じるかもしれない。だけど、あの時目にした君の姿に、感じ取った精神性なら、きっとやっていけると思っている。

 

 だからどうか、その上でもう一度考えてみて欲しい。

 

 日之影 空洞 』

 

 

 

 

 

 

 

 ──────、……言葉が、出なかった。

 確かに俺は箱庭学園へと進むかどうかで悩んではいたが、そうではない。それを言い当てられたから、驚いた訳ではない。

 

 何故、この人のことを……、命の恩人を忘れていたのかということだ。

 

 記憶の中の、不自然にぽっかりと空いていた場所が唐突に埋まっていく感覚がどうにも気持ちが悪かった。

 が、それよりも。自分の記憶のその場所が何故空白になっていたのだろうと、そのことに只々恐怖を感じた。

 あんなにも衝撃的な事件だったのだから、当然その当事者、というか、命を救ってくれた人のことは覚えていなければ、不自然極まり無い。

 

 なのに何故だ。

 

「なんなんだよ一体……」

 

 手紙の内容よりも、そんな異常現象の方に意識は傾いていた。




 おいおいあの一瞬で日之影さんどうやってメモに長文書いたんだよ……っていう話。
 それと日之影さんが八幡の特異性が最近〜って話はまぁ……ご都合主義で感づいたってことでどうかm(_ _)m

 そして……作者のお気に入りキャラ!
 剣豪将軍爆誕……!!
 一応彼の設定も結構考えているので活躍して貰うのが楽しみです……。とは言っても材木座の喋り方が難しいのなんのって笑
 材木座回の時に四苦八苦する作者の未来が見える笑
 あ、それとこの小説では八幡と同じ中学ってことでどうかよろしくです。


 ま、というわけで久々の投稿でした!

 色んな問題で投稿が停滞していた訳ですが、何故再び活動し始めたのかと言うと……デレマスの7thライブ観に行ってきましてテンションが面白いくらい上がったっていう、超個人的な意見ですね。

 うおおおおライブ最高だったあああ!!!
 モチベ回復したあああああ!!!
 ちょっとずつでも書くぞぉぉおお!!!

 ってな具合です。

 いやホント素晴らしいライブでしてね……作者は5th以来ライブには行ってない時期が続いたんですけど、7thの幕張公演で久川姉妹のデビューと聞きましてついつい足を運んでしまった次第なのです。
 そして例の久川姉妹はというと、非常に素晴らしいステージを見せてくれてですね……ほんと観に来て良かったって思いました。最高でした。

 それにしてもライブっていいなって改めて思いました。
 開始まで名刺交換して隣の人とお話しするのも楽しいし。色んなPさんのアイドルへの気持ちというか、好きなんだって気持ちがひしひし伝わってきて素敵だし。 あと名刺交換申し込んだら皆さんそれはそれは快く受け入れてくださるんですよね……優しい世界すぎる。 なんなんだろ……Pさんの人達ってすげぇ温かいんですよね。
 あと、同じコンテンツを好きな人がこんなに居るんだ……っ!って感動するんですよね。それが堪らなく好きっス。

 あぁほんとアイマス最高!\(^^)/

 またライブ行こう。



 P.S. 杉田さんのCMとてもよき











 ってなんだこれ……めだ箱と俺ガイルのあとがきでデレマスのライブの感想書き綴ってるってなんなんだ……。まったくこの文書いてる奴は一体何考えてんのか……。

 まぁそんなわけで投稿が不定期だったり、定期的だったり、気まぐれで執筆頑張ったり、あとがきがフリーダムすぎたりな、ホントどーしようもない作者です。(自分でもつくづく思う。きっとハンタ世界なら変化形能力者になってたに違いない)
 そんな感じですが、これからも宜しくしてくれたら嬉しいです。


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