陽だまりロケット (杜甫kuresu)
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あいされたいしつ

「あら、サンダー。帰ってたのね」

「ああ、はい。AK-12さん」

 

 そっけ無いような無機質な返事。振り向いた群青色の頭から白い肌と赤く透き通った瞳がAK-12に出迎える。AN-94から見ると「吸い込まれていったよう」だった。

 

 おやつの時間と機嫌よくAN-94を引き連れて向かっていたAK-12だったが、閉じられた瞳からでもサンダーの様子はどことなくわかるらしい。

 ちょこんと三角ずわりをして待機している彼女は服がぼろぼろだ。まだ戦闘に慣れていないと聞いていたから、恐らく想定以上にはこっぴどくやられる所だったのだろう。

 

「修復待ち?」

「ドッグが一杯なんだそうです」

「ふーん、運が無いみたいね」

 

 ニコニコしているAK-12にサンダーはまるで動じない。ええ、まあ。それだけ答えた。そっけないものの、まあ無感情ではないと聞いているのでAK-12は本当に何とも思ってないに違いない。

 どちらかと言えば、焦ったように喋りだしたのは後ろで困惑気味に傍観していたAN-94。

 

「随分とやられたみたいだな。怪我はないか?」

 

 ふるふると首を横に振るサンダー。彼女は元々古傷が多い人形だったのも有って、生傷と時折見分けがつかない。AN-94でも少しは心配する程度には。

 加えて本来は戦闘に出向くモデルでもないと有って、そこは私情ではなく「戦場に立つ同輩」として率直に目をかける時があった。AN-94も鬼ではない。

 

 だが強がっているというわけでもなく、よく見れば増えた生傷はあまり無さそう。AN-94はその静かな返事で会話を止めてしまった。

 

 しばらく無言の空気が流れたかと思うと、じい、と眉間にシワを寄せたAK-12がサンダーの顔を見つめ出す。

 

「……………………」

 

 とうとうサンダーも問いかけた。

 

「何か?」

「用ってことはないけど――――――――ちょっと寒くない?」

 

 キョトンとしたサンダーにニヤニヤとしたAK-12が近づく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何でアンタ、2つカチューシャ付けてるの?」

「――――? ああ、わーさん」

 

 ポツンとした背中から出た呼び名に思わず怒鳴りそうになるが、すんでのところでWA2000は踏み止まった。いくら何でもサンダー相手に怒鳴ろうとまでは思えなかったらしい。

 

 日課の射撃訓練の途中に通りかかっただけのWA2000だが、サンダーを見かけてからというもの、じーっと頭に被せられた2つのカチューシャに目を取られっぱなしだ。

 というのも彼女――――サンダーはやはり、何処と無く消えそうな空気が有る。目に入ると、目を逸らすのに罪悪感が生まれてしまうような変な感覚で釘付けにされてしまう。

 

「ねえ。もう一個は誰のカチューシャ? アンタのじゃない筈よね」

「えっと、これはAN-94さんが」

「アイツは何でカチューシャを被せていったのよ…………」

 

 ため息を付いて頭を抱えるWA2000にサンダーが少し間を置いて説明を加える。

 

「AK-12さんがジャケットを貸してくれたのですが、そこからおもむろに『AN-94も何かあげたら?』と突飛なことを言い出して、困り果てて。それで」

「そのカチューシャ?」

「はい」

「だから掛けてるジャケットだけ綺麗だったのね。納得したわ」

 

 それにしてもカチューシャって、と小さく悪態づくWA2000。サンダーはその間もじーっと彼女の顔を見つめている。

 

 恐らく何ら意図があるものではないはずだが、あまりに視線を外さないものだから気になったのだろうか。腕を組むなりWA2000は苛ついたようなトゲトゲしい口調で喋りだす。

 

「な、何よ」

「……? いえ、何も」

「じゃあ何でずっと私を見てるのよ」

 

 サンダーは一瞬言っている意味が分からなかったのかわずかに目を見開いて、ああと口を呆けさせると申し訳なさげに視線を地面に落とす。

 

「すみません」

「別に。謝ること無いじゃない」

「ご迷惑だったかと」

「そんな言い方誰もしてないでしょ!」

 

 急に大声を出すので少しビクリとするサンダー。いよいよWA2000は居心地が悪くなってきた。

 

 その内痺れを切らしたように

 

「もうっ! 何なのよ!」

 

 と捨て台詞を吐くとWA2000が歩いてきた道を怒ったように早足で帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「…………うーん?」

 

 グリズリーは目を凝らしていた。

 なにか見覚えのあるシルエットがドッグの待機室で座り込んでいる。しかし何というか、妙なのだ。

 

 上着を羽織っているのはまだいいが、カチューシャは2つついているし、何より何だか大きな犬の抱きまくらを抱えているように見える。

 グリズリーの予想が正解なら、あのどこか寂しい後ろ姿は一人しか知らないが、しかし彼女はそんな動くユーモアな人形だっただろうか。

 

 首を傾げながら近寄る。

 

「……あ、やっぱりサンダーだ」

「――――グリズリーさん。こんにちわ」

 

 挨拶もせずに怪訝な顔をしていたのを思い出したのだろう、努めて笑顔で遅れた挨拶。

 

「あ、ああうんこんにちわ」

 

 素早く話題を持ち直す。

 

「ところでサンダー、何だか随分とファンシーなご様子だけど…………えっと、まあまずその抱きまくらは何?」

「わーさんがくれ――――――あ、これは言ったら怒られるので秘密でお願いします」

 

 無表情で口元に人差し指を立てたサンダーに思わず苦笑い。

 

「サンダーって意外としたたかだね…………」

「そうでしょうか」

「まあ良いや、にしても意外な趣味。ワルサーってこんなの好きだったんだ」

 

 ある意味予想通り、ある意味予想を裏切る。

 確かにWA2000がこういったいわゆる「かわいい系のアイテム」を持つのは彼女自身のプライドの問題から意外と珍しいというか、まあ趣味では有るだろうが持つことは少し考えにくい。

 

 元々何かと役割で自分を抑えつけたがる以上は、持ち物も相応に縛りが有るようには見えてしまうだろう。

 

「うーん。まあワルサーのファンシーな抱きまくらは置いておいて、サンダーはまあ通りすがる人から色々投げ銭をされてるみたい」

「投げ銭…………口にすると奇妙ですが、確かにそうかもしれませんね」

 

 グリズリーはしばらく手を組んで考え込む。

 

 確かにサンダーがポツリとあられもない格好で座り込んでいたら物の一つもやりたくなる、それは分かる。きっときっかけの人形は本当にちょっとした偽善と言うか、言葉にするにもちっぽけな善意を投げただけだろう。

 しかしそれも量が増えれば「善意を集めた」象徴、オブジェクトとして価値を持つ。ある意味、今のサンダーは極端に言えば教会だとか、神社だとか、そういう物に近くなっていたりするのでは――――――なんて。

 

 まあそれはそうと、見ていると何となく物を渡したくなる。

 いやもうそれは善意だとか好意とかでなく、手癖。そこまで自然と愛されるのも才覚だろうか、あるいはサンダーの本来の――――――此処まで考えて、グリズリーは野暮と思案を切って捨てた。

 

 思いついたように眼の上に手を走らせる。

 

「――――よし、じゃあ私はこれをあげる」

 

 そう言ってグリズリーは満足そうに去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あら?」

 

 指揮官とチェスをしに歩いていたKar98kが通りかかったのは、ドッグの前の控室。

 其処には何やら布の山といった風情の何かが居る。わずかに動いているようだが、様々な上着が重なって中の人物はよく見えない。

 

 突き出た犬の抱きまくらを見ながらKar98kは周りを歩いてその山を観察し始めると、うーんうーんと唸りだす。

 

「どなたなのでしょう………………というより、どうしてこんなに服を重ねられているのかしら」

 

 声に気づいたのか。一際大きく山がもぞもぞと動くと、わずかな隙間から赤い視線が走る。

 

「誰かいるのでしょうか」

「――? ああ! サンダーさんでしたか」

「カラビーナさん、ですか?」

 

 ええ。と胸を張って大仰な名乗りを上げるKar98kだが、サンダーは布の重みに気が取られてよく聞こうとしていなかった。

 

「今は音楽を聞いているので。ちょっと待ってください」

「あら、何だか急かしているみたいになってしまったかしら。ただの興味本位ですから話半分に付き合ってくださいな」

「――――取り敢えず音楽は切りますね」

 

 どうやら音楽を聞きながら話はしたくないらしい。人の話をちゃんと聞きたいのか、もしくは音楽の間に雑音が入ってほしくないのか。サンダーに限ってはよく分からないというのがKar98kの本音だ。

 

 顔を出したサンダーの前髪の上には、何処かで見慣れたサングラス。思わずKar98kは手で口元を抑えて凝視する。

 

「珍しいことも有るのね。良いことでも有りましたか?」

「――――あ、これはグリズリーさんが。『投げ銭の趣向を変えたら面白そう』って言ってましたね」

「投げ銭ですか」

「投げ銭ですよ」

 

 オウム返しのような返事にKar98kがクスクスと笑いながらも、薄っすらと見通したように鮮血色の瞳を光らせる。細めたその眼光にサンダーは反応しない、危険でもないからか。

 

 グリズリーの予想は正解だろうか。

 実際、サンダーの布にうめく様子を見ていると、Kar98kも何となく何か置いていく気分になった。

 

「投げ銭…………なるほど」

 

 少し考え込む。

 上着はもう良いだろう。彼女は何だかもう暑そうな位に纏っているし、何より見た目が異様だ。コレ以上手出しは必要あるまい。

 

 何だかちょっと浮くものを。何となく、飾り付けるみたいな感じで。

 そこでKar98kは手を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………どしたのその服の山」

「わかりません、気付いたらこうなっていました」

 

 とうとう指揮官がやって来た。声は苦笑い混じり。

 写ったのは大仰な帽子をかぶって布に埋もれたサンダー。音楽プレイヤーを急いで耳から外すなり顔をあげると、今度はサングラスも見えてくるではないか。思わず吹き出す。

 

「なんじゃこりゃ。というかその帽子」

「Kar98kさんがくれました」

 

 ははーん、と指揮官も何となく察する。善意から始まり、何だか面白くなってきつつ、最後は完全に面白さを狙って滑ったらしい。

 サンダーもそのへんてこな様子を歯牙にもかけないのが拍車をかけていて確かにシュールだが、まあそれ以上にいつものように寒い格好で待っていないことに安心感が強かったのが本当のところ。

 

 神社の主神はしっかりと祀られているようだ。指揮官はおもむろに帽子を手にとって観察するサンダーを見つつ頭をかく。

 

「Karちゃんはな…………まあ、するだろうな」

「この帽子はとても高そうです」

 

 珍しく帽子を凝視して魅入るサンダー、ちょっと興味を示したのは嬉しく思いつつ指揮官は手を振って現実に引き戻す。

 

「サンダーちゃん帽子の世界から戻ってこーい」

 

 はっとしたように顔を向け直す。珍しく焦っていた。

 

「すみません、つい」

「まあ、ドッグを空けきれなかったのが主な原因だし」

 

 理由は遠巻きすぎな気もするが、まあ言い訳にはなっただろう。

 

「修復終わって服着たら、みんなにお礼言って返そうな。俺も付き合うから」

「――――――――はい。それはそうですね、借りたものは返さなくては」

 

 そう言いながらとうとう空いたドッグの中にサンダーはてこてこと歩いていった。

 指揮官はサンダーが消えた後、こっそり服を持ったが

 

「重くない!?」

 

 と意外な重量に叫んで持つのを断念した。少し温かったので何だか軽い罪悪感。

 

「――――――しかし。この抱きまくら、誰のだ?」

 

 それから指揮官はサンダーが出てくるまでと、しばらく抱きまくらの持ち主について考えていた。

 副官が迎えに来てこっぴどく叱られるのはまた別の話である。




こういうのが得意になりたいので時々思いつけたら置いていきたいです。

余談ですが、サンダーの音楽プレイヤーはKar98kとグリズリーの間の何体かの人形の中で、とりわけ親切だった誰かが取ってきてくれました。皆が目を引いたのはサンダーがポツリと座る寂しそうな様子もですが、何より「音楽を聞いていない」ことへの違和感だったんですね。
この親切な誰かは奇妙な布の塊だから来ただけで、元は好奇心だったりで、何というかその上で親切心を働かせた所とかが有れば私は綺麗な感じだなあと思いますね。


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一人ぼっち

実は「Lonely Pappy」ってタイトルの予定で、打ちかけて調べたから何とか恥ずか死による呼吸困難から難を逃れました。「pappy」じゃなくて「puppy」ですよ。
みなさんも人前に出す文章はちゃんと確認作業をしましょうね。では、本編。

まあタイトルはシンプルに「一人ぼっち」にしましたが。


「いや~、スプリングフィールドはやっぱ厳しすぎるよ…………」

 

 一仕事終えた顔で歩く指揮官はサボっている最中。額の汗をぬぐう動作は働く男の眩しさをまとっていたが、しかし彼はサボりに耽っている。書類作業は人形にやって欲しい、が口癖のオートメーション化に浸かりっぱなしの男である。

 

 いつも通りに大していい味もしない栄養ゼリーを吸う。生活習慣はつい最近も注意されたところであるが、反省の色は無し。だめな男だ。

 そんな若者気分も抜けきらぬ足取りが、ふと映った光景に止まる。

 

「ん? あれ、は…………きゅーちゃん?」

 

 きゅーちゃん、正式名称AN-94。彼はアダ名をつけることのほうが書類作業より時間を割くので、こういった妙な名前が人形にはつきがちだった。

 思いつかないとその日の書類仕事はミスが多いどころか白紙という最大の愚行を犯すことになりかねない、意外と死活問題と来た。

 

 件のきゅーちゃんはというと、珍しくブロンドの頭がゆらゆらとあたりを見回している。はきはきとした背筋に「多分出来る娘だな」なんて浅い人生観の評価をくだしたものだがそれも何だか頼りない。すこーしだけ曲がっているのかも。

 

 すぐに察した。

 どうやらAK-12を探しているようだ。すぐに声をかけた。

 

「きゅーちゃん。フィアンセ探しは捗ってる?」

「――――――!? だ、誰だ!」

「お、おおっ!?」

 

 いきなり身構えられて指揮官の方が顔を青ざめて両手を上げる。94の腰の入りようは誇張なしに殺す構えだ、無闇に刺激すれば彼のぎっくり腰はギプスを要する事態になりかねない。

 

「ウェイト!? 殺すな、俺は味方だよ!?」

 

 咥えていたゼリーを落とす辺り、94の驚き混じりの吊り上がったが少しだけ下がる。

 どうやら敵ではないようだ。

 

「し、指揮官か。驚かせないで欲しい」

「今驚かされたのはどー考えても俺なんだけどさ」

「そ、それはそうだな。すまない…………」

 

 痛い所をつかれて何だか小さくなる94。これに関しては指揮官はフォローしない、大真面目に怖かったらしい。

 

 反省の色は見て取れたようで、指揮官も特に引きずらない。

 

「それはともかく、なつっち探しはどう?」

「なつっち…………ああ、AK-12か。何の話か全く分からないが」

 

 とぼけるには背中が丸すぎるぜ、なんて言おうとしたが指揮官は辞めておいた。勢いで背負い投げなんてされたら昼食はきっと車椅子で向かうことになってしまう。

 

 当たりさわりのない言葉は苦手だ。彼はちょっとだけ思案して答える。

 

「いや、いつも横にいるからさ。何か、何ていうんだアレ。新しい家に来た犬の親子みたいな感じ」

「私が子犬か何かだとでも?」

「そう言ってる」

「指揮官、あなたの眼には少し信用が有ったのに…………どうやらただの木の節と同類らしい」

 

 あんまりな言い草に指揮官も肩をすくめる。94の顔は図星だったのか視線が泳ぎっぱなしだ、嘘が下手にも限度がある。

 

 どうやら全くバレていないと思っているらしく、急に94の表情がいつもの素っ気ない物に戻っていった。とはいえ、まだちょっとだけ雰囲気が物寂しい。

 

「まあそう言わずに大人を頼ってみるもんじゃないのかな、俺はなつっちの動向には一家言有るぞ~」

「そう言ってWA2000処理班隊長を名乗り、あまつさえ爆発回数堂々の一位になった痴態を忘れたと見えるな。都合のいい記憶メモリだ」

 

 ぐさりと来てお腹を抱えてしゃがみ込む指揮官に、94がフッと勝ち誇ったように小さく笑う。

 

「うっ、すみません俺が間違ってましたもう辞めて。おじさん虐待反対…………」

「自滅甚だしいぞ、指揮官」

「難しい言葉ばっかり使って大人をからかうものじゃありません!」

 

 もう大体理解できたと思うが、指揮官は人形にナメられている。肝心な所で退くからだろう。

 

 得意げになっている所でさらりと指揮官がもう一度尋ねる。

 

「で、見当はついてる?」

「いや。食堂にまた誰かと話に行ったのかと思ったのだが、どうやら違うらしい――――――――っ!?」

「やっぱり探してるんだ。サボりたいし手伝うよ」

 

 顔を珍しく赤くした94はしばらく返事をしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に居ないね…………困ったぞ」

「思ったより役に立たないな、指揮官は」

 

 さらりと酷いことを言うので指揮官が軽く頭をチョップした。94の反抗的な視線は見て見ぬ振り、時にはしつけも必要だ。

 

 指揮官の見立てでは、AK-12は予想外の場所に飛び出さない。理由は単純、「彼女が好奇心旺盛である」から。

 人が興味を持つ場所は不規則に見えるが、余程観点が尖っていなければ大抵にったよったか。実際に奇妙な絵のどこに注目するか、という研究結果にも偏りは見られている。

 だからこそすぐ見つかると思ったのだが、見つからない。

 

 つまり、と結論を見つけた辺りで94が指揮官の服を引っ張る。

 

「ずいぶん控え目な呼びつけだ。お嬢さん、ご用は?」

「茶化さないでくれ。後は一人で捜す」

「え? 何で――――――」

 

 そう言って振り向く先、廊下の隅に人影があった。

 黒く豊かな髪、黒い学生服を見るには一〇〇式か。こちらの様子をじっと伺っているように見える。

 

 何で94がそんな事を言ったのか、考えてすぐに顔をしかめる。理解したと思ったのか、94が指揮官の横を通り抜けようと歩き出す。

 

「消化不良にしてすまないな――――――」

 

 94は全体的に冷たい印象がある。それは指揮官の第一印象でもそう、本人の理解としてもそう、他の人形の感想もそう。

 自覚はあるようで、イベントに積極的には参加しない。「冷たい空気になる」と言っていた。

 

 だから、怯えられたりすることにも慣れがあった。今回もそうだろう。

 寂しいことがあるか。いつものことなんだから。慣れっこだ。回数も重ねてる。訓練済みだ。だって彼女は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いや、関係ないよね。うん)

 

 そんな訳が無いので、指揮官はとりあえずその手を引っ張り寄せた。

 

「なっ――――――何だ、突然!?」

「一〇〇式ちゃん、何か用?」

 

 指揮官、努めて笑う。ほうれい線がわざとらしくて、一〇〇式は正直手を引かれてやってくる94よりも指揮官が気色悪くて少し後ずさった。

 

 もはや怒ったように手を振り切ろうとする94を無理矢理自分の隣まで引っ張り出すと、当然のように会話を進める。

 

「あーごめんね、今きゅーちゃんと俺はデート中。片手間の返事はご愛嬌ということでここは頼むよ」

「は――――――!? だ、誰がデート中だって!?」

「不倫中の方が良い?」

「そういう問題じゃない!」

 

 94が焦りながら手を振りほどこうとしていたのだが、彼の右手は恐ろしく頑強だ。94は力にも全く自信がない訳ではないはずなのに、ゆるく握ったように見えるそれはその実全く。手錠かというくらい外れない。

 

 暴れ気味な94に一〇〇式が苦笑いしながら指揮官への要件を進めていく。

 いきなり指揮官が頭をかいてきょとんとした顔をする。

 

「――――あーいや、俺の歳的にアレかな。レンタル彼女かも」

「其処でもない!」

「ははは…………一〇〇式もそこはどうでも良いと思いますよ」

 

 突然放たれた毒に指揮官がまたお腹をおさえた。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ手が痛い」

「こんな怒られるかな~普通~…………?」

 

 結論を言うと指揮官は正座して説教を受けている。

 お忘れのことかもしれないが、彼女も思考設計は女性だ。普通に手の握り方が痛かったことを主題に怒られている、痛かったらしい。

 

「そんな事だからこの時勢で結婚も出来ないんだ、手が赤くなるまで握るものじゃない」

「でも全力で逃げようとしたよね」

「逃げたら追わなくていい」

 

 え~、と言うなりじろりと睨まれる。指揮官は情けない声を出すと両手を上げた。

 

「大体――――」

「でも一〇〇式ちゃん、逃げなかったでしょ?」

 

 割って入った指揮官の一言に、94の言葉がどんどんと小さくなって虚空に消えた。

 不安要素は言うまでもなくあっさり見抜かれているし、杞憂であると過ぎた事実で叩きつけられてしまった。そこまでされてしまうと、いくら彼女でも返す言葉もない。

 

 黙って目を逸らした94に指揮官が威勢よく立ち上がってにやつき出す。

 

「君、別にただ単に冷たいってタイプじゃないからね。もうちょっと喋ってみたらどう?」

「ど、どうでも良い。任務を遂行すればあなたとしては十分だろう」

「いや、目に入ると嫌だから不十分」

 

 減らず口を、と少しだけ94が笑った。

 

 ちなみにAK-12はこの後すぐ出てきた。「指揮官と二人っきりの時の様子が気になった」だけらしい、指揮官ははっきりと

 

『やっぱりなつっちは傍迷惑な女という奴だろうな…………』

 

 と言って94にキャンキャンと言われる羽目になったが、これもやっぱり別の話となる。




ただサンダーが布に埋もれた話に9なら構わず、他の数字に評価がブレるのはシュール。私は勿論自分の作品は一律10評価!(親馬鹿)。
9は分かるんですけど…………10,9,1,0以外って人によって違うし、私はそちらのほうが面白いのかな? とか思ったり。
良い悪いはともかく、私の作品に考える時間が生み出されたのは大事なことです。別に優劣はつけませんけど。


――――あ、94の話したかったんだった。私はきゅーちゃんと呼びます、だって可愛いからさ…………。
ああいう子は一人ぼっちの時が面白いです。オロオロしてても、強がってても、じーっと待ってても。
オロオロしてたら話しかけたいし、強がってたら話しかけたいし、じーっとしてても話しかけたい。
全部話しかけたい。遊びたい、突かせてください。

お話は終わりです。オチがつきませんでした。
余談ですが、「奇妙な絵のどこに注目するかの研究」は私がやりました。高校の時ですけどね。


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