アラホロ亭繁盛記~アーランドの酒場と錬金術士達~ (よるのこ)
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アラホロ亭繁盛記 ~プロローグ~

こんな一幕もあったりすればいいなぁという妄想の産物です。
まったり楽しんでいただければ幸いです。


 アーランドはこの大陸で最も栄えている都である。住んでいる人間の総数も大陸一ならば、その生活を支えるための施設も、人口に追随して増加していくのは必然とも言える。

 故に実に多くの飲食店がアーランドで店を構えており、我こそはアーランドで一番の店だという気構えで互いに鎬を削っている。

 

 そんな飲食店業界における戦場とも言えるこのアーランドで、頭角を示している店が二つ。かのアーランド共和国首相でさえ、たまの休みに訪れて、日頃の疲れを癒すという二つの名店。

 一つはアーランドで古くから営業を続けており、長年アーランドの飲食業界のトップに立ちながらもその立場にあぐらをかかず、店主が代替わりしても味の研鑽を決して欠かさず、精進を続けている老舗「サンライズ食堂」

 そしてもう一つこそが、数年前に店を始めて見事に大人気となった、アーランドの舞姫とも称される女性が店主を努めている、新進気鋭の酒場「アラホロ亭」だ。

 

 踊りの修行で各地を巡ったこともあるという努力家の店主の、勉強の賜物でもある種類豊富なお酒の類か。

 あるいは店主の旧知というサンライズ食堂の先代店主が直々に手ほどきをしたという、お酒と合わせればどちらも引き立て、また合わせなくともとても美味な料理が目当てか。

 はたまた時折行われる、アーランドの舞姫が魅せてくれる、その名前に恥じない人々を魅了して止まない圧巻のステージか。

 もしかしたら、堂々と店主もステージもこなしているけど、実はとっても恥ずかしがり屋だという、一生懸命頑張る店主のそのギャップに、心を撃ち抜かれてしまった人なのかもしれないけど。

 

 老若男女問わず、理由も様々な多くの人々が思い思いに楽しむ。それこそがこの「アラホロ亭」の日常にして店主「リオネラ・エインセ」の求めていたもの・・・・・・。

 

 そんなアラホロ亭の、いつもの日常に今日はちょっと変わったアクセント。 

 訪れたのは少し珍しい組み合わせ。

 一人は店主のリオネラにとって大切な友人であり恩人でもある、このアーランド共和国発展の立役者でもあり、その名を国中に轟かす偉大な錬金術士。

 そしてもう一人は、彼女の一応は直系の弟子にあたる、遠く離れた東の大陸の出身であり、こちらで学んだ錬金術をもって故郷の発展と調査に大きく貢献し、アーランドにも多くの利益と更なる発展の兆しをもたらしたという、これまた輝かしい功績を持った錬金術士。

 

 さてさてアーランドの至宝と言っても過言ではない二人の錬金術士はアラホロ亭でどんなお話しをしているのか、

 

 ~一つ耳を傾けてみるといたしましょう~

 

 




プロローグなので何だか小説というよりもお店紹介のようである。


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ロロナとピアニャの「ルルアちゃんとステルクさん」のお話し 前編

偉大な錬金術士、ロロナイラ・フリクセルとその弟子であるピアニャ。
いったい彼女達が酒場で繰り広げるお話しとは……!?


「ごめんねぴあちゃん。ぴあちゃんお酒飲まないのに」

 

「いえいえ、ロロナさんそんなに気にしないでくださいよ」

 

 アラホロ亭のカウンターの端の二席。常連客からは「お友達席」なんて呼ばれているその席に、何やら目を惹かれる女性が二人席についていた。

 

 お腹の回りに少し大胆なカットが施された、どこか異国情緒を感じさせる服装に、美しい緑の長い髪を持つ「ぴあちゃん」と呼ばれた女性……ピアニャはグラスを片手に快活そうな笑顔を見せている。

 

 それに対し若く、というよりむしろ幼くすら見える童顔に、大人の落ち着きと色気をどこか感じさせる少し変わった服装が不思議と誂えたように似合っている「ロロナさん」と呼ばれた女性……ロロライナ・フリクセルは両手でグラスを持って申し訳なさそうな表情をうかべていた。

 

「あたしお酒は飲まないって決めてはいますけど、宴会とかそういう楽しい雰囲気は好きですからね。ここはお酒以外も美味しいし」

 

 そう言ってピアニャは手に持ったサワーアップルで風味付けをしたサイダーを口に運ぶ。炭酸の刺激と共に口の中に広がる薄めたサワーアップルの果汁から来る爽やかな酸味と、その酸味により引きたてられた確かな甘味を堪能しつつ「ほらロロナさんも飲んで飲んで」と声を掛ける。

 ロロナもおずおずとグラスを持ち上げて葡萄酒を飲み始めた。リオネラがロロナの好みに合わせて選んだ甘めの葡萄酒は、どうやらロロナの口に合ったようで、一口目で味を確かめて、その次は笑顔で二口目を迎えていた。 

 両手でグラスを持ってくぴくぴといった感じに飲むその姿に、横に座るピアニャも、カウンター越しのリオネラも、ついでにいえば横目に二人の錬金術士を見ていた常連客も、ほっこりとした気分になるが本人は気づいておらず。昔から変わらないぽわぽわとした笑顔を見せていた。

 

 

「それで、ロロナさん。あたしと二人だけってことは、何か話したいことがあるんですよね?」

 

「あ、あはは……やっぱり分かっちゃう?」

 

「ま、あたしだけ誘うってのも珍しいですから」

 

 ピアニャも自分のお姉ちゃん程ではないが、ロロナとの付き合いは長い。彼女は自分のように決してお酒を飲まないと決めているわけではないが、そこまで飲みたがるタイプではない。それにお酒を飲むことよりも、お酒の席でわいわいやること自体が好きなことぐらいは分かっている。

 

「お酒の席だから若い子たちを誘わないのはまだ分かりますが、ならお姉ちゃんやステルクさん、クーデリアさんとかを誘っているはずですからね。そもそもロロナさん、お酒に誘うよりも誘われることの方が多いんじゃないです?」

 

 ピアニャがそう告げればロロナは照れ隠しのようにもう一度手のグラスを口に運んでから、観念したかのように話し始めた。

 

「うん、ぴあちゃんと、それとりおちゃんにも、良かったら聞いてもらいたいことがあって呼んだの」

 

「え、ロロナちゃん、わたしも?」

 

 突然の指名に、ピアニャの注文したトゲマグロのカルパッチョを運んできたリオネラが聞き返す。

 

「うん。りおちゃんにも。ホントはこういうのってフィクスさんが詳しいかもしれないから相談しようかとも思ったんだけど……」

 

「いや~、それは止めておいて良かったんじゃないですかね~」

 

 頭の中で「どうしてだい!?」と声が聞こえたような気がするが気にしない。決して悪い人ではないはずだが、あの胡散臭さを錬金釜で煮詰めて人の形に練り上げたような手品師に相談しようとも思ったロロナさんはある意味凄いとは思う。

 

「でもでも、ちょっと身内の話しになるからフィクスさんだって相談されても困っちゃうかなーって。だからぴあちゃんとりおちゃんに相談しようって思ったの」

 

「ふんふむ、あたしとリオネラさんが相談されるようなことですかぁ」

 

 グラスを置いて少し悩むそぶりを見せるピアニャだが、おおよそどんな相談なのかは検討がついている。お姉ちゃん(トトリ)ではなく自分が一番に、相談相手として浮かんだこと。そしてロロナさんが「身内」のことだと言った。つまり相談とは……

 

「「ルルアちゃんのこと?」」

 

どうやらピアニャもリオネラも同じ結論に至ったらしく、ほぼ同時に答えを出した。そしてどうやらそれは正解だったようだ。

 その答えを出した二人に、ロロナは驚いた様子を見せ……意を決したかのように、話し始めた。

 

「えっとね、ぴあちゃんにりおちゃん。わたしの相談はね、ルルアちゃんと、その、ステルクさんのことで……」

 

「「ステルクさん?」」

 

 思いがけない名前が出てきたことに、リオネラはどんな相談だろうかと思考を巡らし……一方でピアニャと、カウンター近くのテーブル席でさりげなく耳を傾けていた常連客は面白くなりそうだと、内心わくわくしていた。

 

 偉大な錬金術士・ロロライナ・フリクセル

 

 最強の剣士・ステルケンブルク・クラナッハ

 

 アーランド中に名声を轟かすかの二人が決して浅くない縁だというのは、二人と親交のある人物なら知らない者はいないのである。

 

 本人たちには決して言わないものの、まだ結婚していないのか、あの二人はあれで良いのだよ、実は首相がお前にロロナはやらんと許可をしなくて……等と二人に近しい人物が勝手に噂をするぐらいには注目されている仲だ。

 ピアニャもまた、お姉ちゃんであるトトリから二人については何度か聞かされており、二人がどうなるか気になっている一人。面白い話しが好きな彼女も「恋ばな」というものにはそれなりに興味があるのだ。

 

「ほぅほぅステルクさんですかぁ~」

 

「ルルアちゃんとステルクさんがどうかしたの?」

 

 ピアニャはいかにも楽しそうに、トゲマグロのカルパッチョをつまみながら。リオネラはロロナに注文された次のお酒……ミルクの樹液割りのチョコレートリキュールを持って来ながら聞けば、それを一口飲んでから、ロロナが答えていく。

 

「最近、というか前からかな。ルルアちゃん、ステルクさんと仲が良くて……」

 

「あぁ、確かにルルアちゃん、ステルクさんにけっこう懐いていますよね」

 

 ピアニャは一緒に旅をしている時の普段の二人の様子から。採取地で注意を促すステルクさんと、それにちゃんと応えていたりいなかったりするその様子は、少し過保護なお父さんと、なんだかんだ心配してくれるのが嬉しくてたまらない娘のようにも見えていたものだ。

 

「ステルクさんも、ルルアちゃんにはすごく穏やかだよね」

 

 リオネラは何度か依頼の報告で見た二人の様子からそう話す。昔、顔を見て気絶したこともあるあの怖い顔は今でも健在であるが、だけどあの時ルルアに向けていた表情は本当に穏やかなものだったのをリオネラは覚えていた。

 

「そうなの、ルルアちゃんとステルクさんはとっても仲良しで、それはいいんだけど……」

 

「なんだか妙に歯切れが悪いですが、どしたんです?」

 

 どうにも言いづらそうにして再び手に持ったグラスに口を付けるロロナ。

シラフでは言いづらいことなのだろうか、と考えながら、ピアニャは思考を巡らせる。

 

(定番としてはステルクさんと仲良くしているルルアちゃんを見て、どうも娘に嫉妬しちゃったことに気づいちゃったーとかだけど。案外ルルアちゃんがステルクさんのことお父さんと呼んでいたのを見ちゃったとか?ルルアちゃんああ見えて寂しがり屋なトコあるし、実はお父さん的な存在を求めていた、なんてこともあり得なくは……) 

 

 

「実はね、ぴあちゃん、りおちゃん……」

 

口には好物の魚介類、目には錬金術士の原動力である好奇心を満載して、ピアニャはロロナの言葉を待った。

 

 面白半分に聞くつもりなのは否定しないが、ピアニャにとってロロナは、最初に錬金術の初歩を教えてくれた人でもあり、子供のころから何かと可愛がってくれた相手である。

 例えばこれが色恋の話とかなら、それはもう自分にはお手上げというか専門外にも程があるが、相談相手として選ばれた以上、真摯に聞くことこそが自分の役割だと気合いを入れた。

 

 表面こそは飄々としているが、心の内に好奇心と心配をまぜこぜにして、敬愛するロロナの言葉を真剣に受け止めるべく、待ち構えた。

 

 またリオネラも、アラホロ亭の他のお客さんに気を配りつつも、自分の友人にして恩人のロロナの言葉を待っている。

 

 リオネラにとって彼女、ロロナは本人が思っている以上にずっとずっと大きな存在だ。自分の秘密を打ち明けても良いと思えた唯一の相手であり、自分が少しづつでも変わっていけたのは間違いなく彼女がいたからだと信じている。

 お互いがアーランドから旅に出たり、弟子が出来ていたり、いつの間にか幼女になっていたり、自分が酒場を開いたりと、実に色々なことがあったけど今でも彼女は変わっていないし、自分の友達であり続けてくれている。そんなロロナが悩みを打ち明けようと言うのである。

 

 そつなく接客を行いつつも気持ちはロロナに向けて。全力でロロナの悩みに応えたいと受け止めるべく待ち構えれば、カウンター近くの常連客たちもそれとなく静かに飲み続け、ロロナの言葉を「偶然」耳に入れて逃さぬように密かに気を配って待ち構えている。

 

 

 そうしてみんなが表に見せずに注目し、注目された彼女(ロロナ)はついに口を開き……

 

 

 

 

「ステルクさん、もしかしたらルルアちゃんのことが好きなのかもしれないの!!」

 

 

 

……みんな盛大にずっこけた。心の中で。

 




ロロナさんならこれくらいの勘違いはしそうだと思って。
実際ステルクさん、ルルアちゃんにはだいぶ甘いし。


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ロロナとピアニャの「ルルアちゃんとステルクさん」のお話し 後編

ロロナさんの話す「ステルクさんはルルアちゃんのことが好きなんじゃないか」疑惑
予想もつかなかった思わぬ悩み相談に、ピアニャとリオネラはどう立ち向かうのか……


「ご、ごめんね⁉ ビックリさせちゃったよね!?」

 

「いやまぁ、ある意味ビックリはしましたけど」

 

 ピアニャもリオネラも聞き耳を立てていた常連客も、予想の斜め上の答えに驚きを隠せないでいる。ピアニャは固まり、リオネラは思わずたたらを踏み、常連客は机にカクンと突っ伏していた。

 

「ロ、ロロナちゃん。さすがにそんなことは……」

 

「だってりおちゃん!ルルアちゃんってすっっっっごく可愛いんだよ!」

 

 リオネラの苦笑混じりのやんわりとした否定に親バカ丸出しの反論をしている、飲むペースが早いからか既に頬が赤くなっているロロナ。

 

「まぁルルアちゃんが可愛いのは確かですけどねぇ」

 

 師匠バカと思われるかもしれないがそこはピアニャも同意件だ。容姿もさることながら、元気で素直で人懐っこくて、その上家族や友達のためならば苦労を苦労とも思わないという無窮の湧水樹の湧き水のように清々しい性格で、誰からも愛されるような自慢の弟子だと自負している。

(もっともあまりに素直で可愛いから、悪い人に騙されたり本人無自覚に勘違いさせそうだと、エーファと一緒に心配もしているが)

 

 

「でもステルクさんだってもう良い年なんですし、ルルアちゃんを、その、娘とか孫を見るような感じで可愛がっているのかもしれませんよ?」

 

「ほら、ステルクさん、ロロナちゃんのこと昔から護衛とかしていたんだから、ルルアちゃんのこともきっと、昔のロロナちゃんを見ているみたいで可愛く思っているんだよ」

 

 ピアニャとリオネラがそれぞれの言葉でやんわりとその説を否定するが、ロロナはどうも納得のいってない様子である。

 

「うぅ~、だって昔、エスティさんが受付やっていた時のころ、ステルクさんについて話していたのわたし思い出しちゃって……」

 

「エスティさんが? どんなこと言っていたのロロナちゃん?」

 

 そこはかとなく嫌な予感がしつつもリオネラが続きを促せば、ロロナはもう一口飲んでから意を決したかのような真剣な表情(赤ら顔)で話し始めた。

 

 

「エスティさんが、ステルクくんは幼げな女の子とか若い子しか愛せないんじゃないかって……!」

 

(それもしかしなくても当時のロロナさんのことだよね……?)

(それもしかしなくても当時のロロナちゃんのことだから……!)

 

「じゃ、じゃあほら逆に考えてみてはいかがです? ほら、ルルアちゃんにとってステルクさんてお母さん(ロロナさん)以上に年が離れている男の人ですし、頼れる大人って感じであって恋愛に発展するってことは……」

 

 これ以上はステルクの名誉によろしくない気がしてきたので切り口を変えて、今度はルルア方面からどうにか説明することにした。のだが……

 

「でもでも! くーちゃんが30歳差ならアリだって! くーちゃんだってアリだったんだから、ルルアちゃんももしかしたら……!」

 

「しまった!違う方向に飛び火!?」

 

 アラホロ亭でまさかのアーランド共和国首相の好みが暴露されるという事態であるが、起こした張本人は自分で言ってて変に腹が立ってきたようである。くいっと残り少なくなっていたグラスの中身を呷り、お代わりを頼んで再び捲し立てる。

 

 

「そりゃルルアちゃんとっても可愛いしお友達を大切にする子だし錬金術の腕もめきめきと上達しているし、わたしの自慢の娘で、わたしにはもったいないくらいの最高の子なんだから。ステルクさんが好きになっちゃうのも仕方ないのかな~って思っちゃうけど……」

 

(お? 親バカかな?)

 

 お代わりを受け取って、それを時々飲みながら自分の娘の可愛さについてとうとうと語り始めたロロナに、一緒になって語ろうかと思う気持ちもわいたが、ピアニャはひとまず聞き手に回ることにする。

 

「だけどルルアちゃんはちょっと優しすぎるというか純粋すぎて、いやそこがルルアちゃんの良いところなんだけど、あまりに純粋すぎる、というか人を疑う事とかぜんっぜん知らないからもしかしたら悪い男の人とかに引っかかったりしないか時々心配にも……」

 

「それは確かに心配ですよねぇ。……騙した相手も」

 

 ルルアが泣かされるような事態になった時、どれだけの人間が動くことになるのやら。かくいうピアニャも冷静でいられる自信はない。というか血の雨が降るどころか塵一つこの世に残らない可能性すらある。我が弟子ながらその人脈は恐ろしいものがあると改めて再認識しつつ……どうやら予想通りに娘自慢が長くなりそうなので、本来2人でつまむはずだったカルパッチョを食べながら、適宜相槌を打ちながら聞くことにした。

 

 元々は新鮮な獣肉を用いる料理だというこのカルパッチョだが、海の魚を新鮮なまま運べるようになったことにより、アーランドでも生魚が食べられるようになったことでサンライズ食堂の店主が思いついたという「トゲマグロのカルパッチョ」

 高品質のトゲマグロの濃厚な旨みにそれを引きたてる果汁由来のソースの合わせ技。アランヤ村でもお目にかかれないその上品な味わいに、ピアニャはしばらくの間、ロロナの悩みのことも忘れて堪能するのであった。

 

(新鮮なトゲマグロの刺身に醤油をさっとつけていただく……のがアランヤ村に住む漁師さんたちの言う、トゲマグロの一番美味しい食べ方だそうけど、このカルパッチョも、生魚を美味しく食べる調理法として負けてないわよねぇ……あ、そういえばルルアちゃんやエーファちゃんって、アーキュリス育ちであまり生魚って食べたことないのかしら?今度食べさせて……)

 

「む~、ぴ~あ~ちゃ~ん? 聞いているの~?」

 

「あっはいロロナさん! ……どんなお話しでしょうか?」

少し料理に夢中になりすぎたのかロロナの話しを途中からスルーしていたようだ。見るとロロナは頬をぷっくり膨らませ、怒ってます!というかのようにしている。途中から半分以上聞き流していたピアニャに対して怒っているのかと思えばどうやらそうでもないようで……

 

「だからねぇ~。ステルクさんってば、ほんっっとっーにしょうがない人だぁ~って話~!」

 

 盛大に酔いながらこの場にいないステルクさんに対して怒っているようである。ついでにいえば膨らませたほっぺたは赤くなってまるでりんごのようである。

 

「ロロナさん、そんなに飲んでない気がするんだけどなぁ……」

 

「お酒を飲んでいる時って気分によっても酔い方が変わるんですよ。ロロナちゃん、普段はこんなすぐに酔わないのだけど、悩みを話しながらで早く飲んじゃったみたい……」

 

 ピアニャの呟きにちょうどテーブル席の接客を終えたリオネラが、ロロナにお代わりを用意しながらカウンターの前に来る。

 

「ロロナちゃん、それで話しの続きを聞かせてくれる?」

 

「あ、りおちゃんも戻ってきた~。お代わり~♪ だからねぇ、ステルクさんってばねぇ……」

 

 こういう時は話したいことを全部吐き出してもらってすっきりしてもらうのがいいと、とりあえず悩みとも言えなくなってきたロロナの話しの続きをリオネラは促す。ピアニャもカルパッチョをあらかた食べ終えて、次は何を頼もうかなとも考えつつ、ロロナの話を待っている。

 

「そりゃ、ステルクさんって顔は昔っからそこらへんのモンスターたちよりずっとずっと怖いけど、なんだかんだで良く見たらちゃんと表情の変化とかはあるし、大人っぽいけど実はけっこう子供っぽい部分もあったりして面白いし、実はファンの女の子や男の人もいっぱいいて……」

 

「リオネラさんリオネラさん。今度はなんだか惚気始めたんだけどロロナさん」

 

「あ、あはははは……たまにこうなるの、ロロナちゃん」

 

何やら口の中が甘ったるくなってきたピアニャである。こういう時自分が飲めればまだ良いのかもしれないが、お酒は飲まないと決めている。

 

「だから昔っからステルクさんばっかりトトリちゃんとばっかり仲良くしたりメルルちゃんにデレデレしたりしてて……それなのにわたしのことはいつもいつも子ども扱いばっかりで……」

 

「……あ、リオネラさん魚カンあります?魚カン。急に味の濃いものが欲しくなって」

 

「えぇと、アランヤ村産の魚カンがちょうどあったはずだけど、どうかしら?」

 

 とりあえず、次は味の濃いものを食べよう。口の中の甘さを和らげるためにリオネラに注文しつつも、ピアニャは改めてロロナのことを観察する。

 元々血色の良い顔はますます赤みがさしており、完全に酔いが回っていることがわかる。

 

「ロロナさん、ステルクさんがルルアちゃんの相手じゃ、嫌なんです?」

 

 そろそろ頃合いかと、今まで基本的に聞くばかりであったピアニャも、ロロナに質問することにする。

 半分は悩みにしっかり答えて気持ちを落ち着かせるために。もう半分は、お姉ちゃんやルルアちゃんに、良いお土産話を持って帰れそうだと期待して。

 

「…………だってわたし、ステルクさんにお義母さんって呼ばれたくないもん」

 

「あっはい」

 

 こればっかりはロロナに全面賛成のピアニャである。

 

「それにオーレル君がもしかしたら、なんてのもあるけど……。それ以外だったら……ステルクさんがすごい年上ってこと以外は、うん、安心できる……はずなんだけどなぁ……」

 

「ほぅほぅ。それはどしてです?」

 

「だってステルクさん、守るって決めた人は、どんなことがあっても、絶対に守る人だから」

 

 その顔は相変わらずお酒で赤くなっているが、言葉は今までの取り留めのなかった喋りとは違い、確信に満ちたものだった。

 

「だからもし、ステルクさんがルルアちゃんを守るって決めてくれたのなら、ステルクさんはどんなことがあろうとルルアちゃんを守ってくれるし大切にしてくれる。わたしはそれをよく知っているし、ステルクさんはわたしにとって、一番信頼できる男の人だから。だからもし、ステルクさんがルルアちゃんのこと好きだ~って言ってきたら安心して任せられちゃうはずなんだけど……でも、なんだろう、何だかすごいもやもや~ってするなぁ……」

 

「……」

 

 ピアニャは穏やかな顔をしたかと思えば真剣になったり、突然悩みだしだりとコロコロと表情を変えているロロナに、何て声をかければいいのか分からなかった。いつもならばからかったり茶化したりして、今の発言をどうにかして深く掘り下げようとしただろう。だけど、ピアニャにはできなかった。

 

「ふふ、それでロロナちゃんはどうしたいの?」

 

 ピアニャが悩みロロナが考え込んで、無言になっていたその場に、微笑みながら声をかけたのはリオネラである。手には魚カンの中身を盛った小皿。

 

「わたしが……したいこと?」

 

「ステルクさんに、たまには自分もかまってほしいんじゃないのかな?」

 

(おお、リオネラさん随分と直球で……)

 

 小皿を受け取りながらも、ピアニャは堂々と聞きにいったリオネラに感心していた。

 

「でもでも、わたしルルアちゃんのお母さんなんだよ? お母さんらしくしっかりしないと……」

 

「わたしも、それにきっとルルアちゃんも、ロロナちゃんはいつも通りので良いと思ってるはずだよ?ロロナちゃんらしく、ね」

 

 ためらいがちに喋るロロナに、リオネラは笑いながらはっきりとそう告げる。

 

「それにルルアちゃんも前に、お母さんとステルクさんと一緒にお話しとかしてみたいな~って言ってたし、たまにはロロナちゃんとルルアちゃんで、ステルクさんをお出かけとかに誘ってみたら?」

 

「一緒におでかけ……」

 

「そうですねぇ。ロロナさんもステルクさんもまだしばらくはお時間あるんですし、たまには三人でお出かけとか、親子二人でステルクさんに甘えてみるとか、いいんじゃないですか?」

 

 リオネラの言葉にピアニャも乗っかり、ロロナをちょっとからかい気味に煽ってみる。

 そうすればロロナは持ったグラスの中身を全て一気に呷り、高らかに宣言した。

 

「そうだね! よぅし、わたしもルルアちゃんと一緒になって、ステルクさんすっごく困らせてやる~!……ふっふっふ~~覚悟しててくださいね、ステルクさん…………」

 

 高らかに、良い顔で宣言したロロナは、そのまま机に突っ伏して……やがて可愛い寝息を立て始めた。

 

 

「ふぅ……ロロナさんって意外とめんどくさい人だったんですね」

 

「ふふ、昔からロロナちゃん。ステルクさんのことになるとちょっとめんどくさくなるの」

 

 くぅくぅと寝息を立てるロロナの頭をなんとなく撫でながら二人で話す。

 

「あ、でもめんどくさくなるのはステルクさんも一緒だって前にクーデリアさんが言ってたかな?」

 

「そういえばお姉ちゃんも似たようなこと言ってましたね。ロロナ先生は人に対して全然怒らないのに、ステルクさんとはやたらと痴話喧嘩しているって……」

 

「そうそう、ステルクさんが大ケガした後とか大変だったの!どっちが前にでるかでわたしたちほったらかしにしてずっともめていたりとかしててね」

 

「あ~……ホントに昔っからそんなことばっかりしていたんですね。なんというか二人とも……お互いどう想っているかなんて分かりきっているんだから、はやくくっつけばいいのに」

 

 呆れたような様子でピアニャが呟けば、それにリオネラが苦笑交じりに返事をする。

 

「みんなそう言うんだけどね……あの二人、お互い頑固なのが似た者通しというか何というか……ロロナちゃんは錬金術士として頑張ろうって、自分のことよりも依頼とかお仕事を優先しちゃうこだし。ステルクさんはとにかく警備団団長として、皆を守ることこそが使命だって自分のことを後回しにしちゃっているの。だからずっとあのままお互い仲は良いんだけど、ずっと同じ距離感のままなの」

 

「お互いに、自分の立場に頑固ってことですか……難儀なもんですねぇ二人とも」

 

 そう話しながらピアニャは、皿に移された魚カンの中身を頬張る。

 丁寧に下処理をされてから甘辛く煮つけた魚は、口の中で柔らかくほぐれて口の中で広がっていく。

 その味はピアニャにとって食べ慣れた味……アランヤ村で酒盛りがあった時はよく食べさせてもらったし、東の大陸へと一人出発する時には、村の皆が大量に持たせてくれたものだ(重いから全部秘密バッグに突っ込んで運ぶことにしたが)

 

「アランヤ村でも、あの二人ははやくくっつかないのかーって言われていたんですけどねぇ。トトリお姉ちゃんが時々愚痴っていたり、ギゼラお母さんがあの騎士のあんちゃん男前のくせにまだヘタレてんのかいと笑いとばしていたりで、村のみんなが割と知っていて……」

 

「ロ、ロロナちゃんたち、あっちでもそんな風に……」

 

 思いのほか噂が広がっていることに呆れるリオネラだが、彼女もアラホロ亭に来る警備団の団員が、ことあるごとに団長がいつになったら身を固めるのか、いつロロナさんとくっつくのか、等と賭けをしているのを知っている。

 

「なんというか……愛されているなぁロロナちゃんたち」

 

 机につっぷしているロロナの頭を撫でながら、リオネラがしみじみと話す。アトリエが取り潰されそうになって必死になっていた少女も、今では国中に名を知られた偉大な錬金術士になり、ついでにいえば周りの人から色恋の心配をされるようになったのである。昔のことを知るリオネラにとっては、とてもとても感慨深いことであった。

 

「ふふ、さすがロロナさん。……そういうところはルルアちゃんはそっくりね」

 

 リオネラと一緒にロロナの頭を撫でながら、ピアニャが嬉しそうに話す。

 

 思い出されるのは自分の愛弟子であるルルアの顔。彼女とロロナが良く似ているところはその人に好かれる性格、ついでにいえば同性異性問わず、本人無自覚にモテモテなところも言えばそっくりだとピアニャは考える。

 あの多くの人に愛され、引き付けるところは、ルルアが持つ大きな才能であり、これかも彼女を助けていくであろう大きな強みだ。

 

 きっと彼女(ルルア)なら母親(ロロナ)のように、みんなに愛される錬金術士になれるだろう。

 

「うへへ……ルルアちゃ~ん……ステルクさ~ん……」

 

 何やら二人の夢でも見ているのか、嬉しそうな声で寝言を言うロロナに、そういえばルルアもやたらと愉快な寝言を言う子だったなと思い出しながら、ピアニャは微笑む。

 

「ルルアちゃんも、ロロナさんみたいになれるといいですね。ね?ロロナさん」

 

「そうそう、ロロナちゃんみたいにそのうちステルクさんみたいな良い人を見つけて……」

 

「いやいやリオネラさん。ルルアちゃんああ見えて中々やり手というか、隅に置けないというかですね……ふふふ」

 

「あらあら、ちょっと気になるお話しですね。詳しく聞かせてもらっても……」

 

 

 熟睡しているロロナを撫でながら、まだまだ話したいことがいっぱいあるピアニャと、それを楽しそうに聞くリオネラ。

 アラホロ亭での楽しい時間は、警備団への依頼の確認にたまたま来たステルクが、ロロナを見つけるその時まで続くのであった。

 

 その後の酔い潰れたロロナを、ステルクと二人でアトリエまで運ぶ道中はピアニャにとって、それはそれは絶好の愉しい時間となるはずであったが、それはまた別のお話しである。




今回のお話しはここまで。
酒場のお話しである以上、お酒や食事描写も頑張って入れたいです(理想は小説・剣客商売とか等の内容を喰いすぎない程の描写)
それにしてもロロナさんってお酒飲めるんですかね?トトリのアトリエではクーデリアさんが飲みに行こうと誘ってたシーンはあったはずだけど……。


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ミミとジーノの「守るもの」 前篇

5月30日にルルアのアトリエにトトリとメルルがパーティ参戦&マキナ領域追加!

はたしてどんなイベントが増えるのか、新たな情報はどんなものか……楽しみではありますがやっぱりジーノ君のお話しが聞けるかが気になるところです。


 酒場とは賑やかな場所である。

 

 美味しいお酒や食事をお供に、一緒に連れ立った友人仲間に家族に恋人、あるいはたまたま近くに居たお客とお客で酔いの混じった会話を楽しむ。

 過剰の喧騒ならゴメンだが、楽しいくらいの騒がしさがあっての酒場である。それはこのアラホロ亭も例外ではない。

 

 一方で、一人でお酒を楽しむ人もいる。自分のペースでお酒を楽しみ、お店の雰囲気を眺めながらゆったりとした時間を過ごす。それもまた一つの酒場の楽しみ方であり、そういった人達にも愛されているのがアラホロ亭だ。今カウンター席に座る女性もまた、普段はあまり行わない、一人でのお酒を楽しんでいた。

 

 

 --カラン。

 

 

 綺麗な琥珀色をした蒸留酒(ウィスキー)の入ったグラスで、氷が心地よい音を立てた。

 そのグラスを優雅な動作で傾けるのは、その優雅な所作がよく似合っている、端正な顔立ちに意志の強そうな眼。そして濡羽色をした艶やかな長髪が目を引く、美しい女性……。

 アーランドでも有数の実力者。ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングである。

 

 日頃一人ではお酒を嗜まない彼女であるが、今日は彼女の親友(トトリ)も不在であり、仕事も明日は予定がない。

 こういう時にたまの一人酒をしてみるのも一興かと、馴染みのアラホロ亭に顔を出し、ゆっくりと過ごすことにしてみたのだ。

 

 座る席はカウンターの端の席。普段は店主(リオネラ)の友人やその関係者が座る場所なのだと、混んでいる時以外はできるだけ空けておくという、リオネラ達の知らないところで常連客の暗黙の了解となっているその席である。

 妙齢の女性が一人で酒場で飲んでいれば不躾に声を掛けてくるような輩もいるだろうと、ミミが周りが空いてて、店主(リオネラ)との会話もしやすいここを選んだだけのことではあるが。

 

 手に持つグラスにはゆっくりと時間を過ごすお供にはちょうど良い、大きな氷の入ったウィスキー。

 カウンターのお皿には三色ベリーを材料に使った、控えめな甘さと甘酸っぱさを両立したチョコレート。

 そして時折挟まれる、親友の先生(ロロナさん)の馴染みだという、酒場の主らしく聞き上手で話し上手、でも深いところまでは追及してこない、よくできた会話の相手であるリオネラとの雑談。

 

 貴族的な優雅さとは少し違うかもしれないが、上品にゆったりに過ごす大人の時間に満足し、ミミは上機嫌ではあった、のだが……。

 

(……でも、一人で酒場というのも思ったより良いものだけど、やっぱり少し寂しいわね)

 

 一人酒も悪くはないが、やはり連れは欲しくなる。こういう時にそばにいて欲しいのは、長年一緒に過ごし、一緒に冒険に行ったり、協力して強敵にも挑んだりした気心の知れた……

 

 

「お?ミミじゃねーか。随分と久しぶりだな」

 

 

(……間違ってはいない。間違ってはいないのだけど……)

 

「ジーノさん、いらっしゃいませ。お久しぶりですね」

 

「おぅ、リオネラさんも久しぶり。にしても相変わらずココは流行ってんなぁ。俺の村の酒場とはえらい違いだぜ」

 

 リオネラに気さくに挨拶を返しながら、先ほど気安く声を掛けてきた男……ジーノ・クナープは成長しても昔からちっとも変わらない子供っぽい笑顔でミミに話しかける。

 

「よぅミミ。今日はトトリと一緒じゃねーのか?」

 

「どうも、ジーノ。久しぶりね。トトリなら今はアールズに行ってて不在よ。……まるで私が常にトトリと一緒に居るみたいな言い草ね」

 

 この遠慮など一切無い態度にはもう慣れきったので腹も立たない。ミミはグラスを置いて、多少の呆れも込めながら挨拶を返す。なんだかんだでコイツ(ジーノ)とも長い付き合いだな、とぼんやりと考えていれば、彼はこちらにつかつかと歩いて来てミミの隣の席にどかっと腰を下ろしていた。

 

「隣の席に座ってもいいとは言っていないけど」

 

「ん?何かダメだったのか?誰かと待ち合わせでもしていたか?」

 

「……まぁいいわ」

 

 今更コイツ(ジーノ)相手に、女性と二人きりで飲むことへの躊躇いなんぞ、期待する方が間違っているのである。ミミは軽い溜め息一つで静かな時間を諦めた。

 

 顔を合わせれば喧嘩のような応酬になることもしばしばであるが、ミミは別段ジーノのことが嫌いというわけではない。

 親友(トトリ)の最も親しい異性、というところに思うところはあるが、別段トトリに付く悪い虫というわけでもないし、認めるのは少し癪だが腕も立つ。

 出会ったころからちっとも変らない子供っぽさと礼儀知らずにさえ目を瞑れば、そこらのナンパ男が隣に来るよりは千倍マシだ。

 

 

「俺はビアに、えーと……ソーセージの盛り合わせにすっか。それにしてもお前とサシで飲むなんて珍しいよな、こいつで二回目ぐらいじゃねーか?」

 

「ああ、そういえばそうね。……飲み比べなんてもう二度とやらないからね?」

 

 ミミとジーノがお酒を飲む場合はほぼ確実にトトリが居た為に、2人きりで飲んだことはほとんどない。だが一度だけ、二人で組んでいた時に一度だけある。

……売り言葉に買い言葉で飲み比べとなって、勝敗どころか何をやらかしたかすら覚えておらず、痛む頭で普段はミミに対して貴族に対する態度を心掛けているステルクに説教を受けたことだけはよく覚えている。

 

「おいおいあん時は俺も師匠にしこたま怒られたんだし、そういうのはナシだって。俺だって飲み過ぎるわけにはいかないんだしよ」

 

 そう苦笑しているジーノにリオネラがジョッキを持ってくる。それを受け取り、ぐいっと飲むその姿を見つつ、ミミもジーノには見えないように苦笑する。

 

 まぁ、たまにはこういう時間も悪くないだろう。トトリとのお酒の時間も良いものだった。一人でのお酒の時間も悪くなかった。

 ならば、この久しく会わなかった腐れ縁の、コイツ(ジーノ)との酒の時間もそう悪いものでもないだろう。

 ミミはそう考えてから、グラスの酒を軽く口に含んだ。

 

 

「俺が居ない間にこっちで何か変わったことはあったか?」

 

「そうね……ロロナさんの娘がアーランドに顔を出すようになったわね。ルルアっていうんだけど」

 

 ビアを飲みながらこちらの近況を聞くジーノに、ミミはここ最近で一番印象深い出来事について話す。

 

「へぇ、トトリの先生の娘かぁ。……ん? 親父は師匠じゃないのか?」

 

「トトリの話しだと養子らしいわ。……私も最初聞いた時はステルクさんいつのまにって思ったけど」

 

「俺もついに師匠が腹括ったんじゃないかと思ったぜ……。まさかだけど師匠は養子だって知っているよな?」

 

「そりゃステルクさんとロロナさんの仲だし、ルルアともけっこう前から面識あったらしいんだから、まさか知らないはずないわよ」

 

「ま、そりゃそうだよなー」

 

 そのまさかであるし、本人(ステルク)が妙に気を使って聞けなかったことと、養子だと知っている人物もみんな「ステルクさんなら知っているだろう」と思いこんだために、ここ最近まで養子だということを知らなかったのであるがそれは二人の知らないことである。

 

 「トトリの先生の娘ってことは……やっぱのほほんとしているような錬金術士か?」

 

「その辺りも似ていたけど、あの子はそれにメルルを足したみたいな感じかしらね。錬金術はピアニャが師匠になって教えてるのだけど、まだまだ成長中とはいえ錬金術士としての腕も中々のものみたいでね。トトリも喜んでいたわ」

 

 グラスを軽く揺らしつつ、ルルアのことを思い出して少し微笑みながらミミが答える。その微笑みは男であれば思わず見惚れずにはいられないほどの美しさであるが、ジーノはそれなりに見慣れているからか、はたまたジーノだからか全く動じない。

 

「お前が言うなら相当なもんだろうな。それにあのピアニャもついに師匠をやるようになったかー、そりゃトトリも大喜び……あ、そういえば聞きそびれていたけど、トトリは元気か?」

 

「トトリなら相変わらず忙しそうだけど元気よ。元気すぎて、たまには休めと言いたくなるくらいには」

 

「そっか、ならいいや」

 

 ビアをぐいっと飲みながら笑顔で言うジーノに、これが長年の信頼というものかと、少し負けたような気持ちにかられるが、表には見せずにミミは提案する。

 

 

「明日の昼前にはトトリも帰ってくるって聞いているけど、何なら明日会ったらどうかしら?」

 

「あー……俺、今日はさっき終わらせてきた首相のねーちゃんへの報告のために来てて、明日の朝にはアランヤ村に帰って船乗らないといけねーからな。明日の朝にアランヤ村にいるちみゅ…ちみゅ…ちみゅみみゅだったか? そいつが迎えに来ることになってんだ」

 

「……相変わらず忙しいのね。ジーノ」

 

「俺はトトリにあの船任せられているからな。補給とかでアーランドに戻る時にはついていかねーと」

 

 現在ジーノは東の大陸調査の先遣部隊として活躍するとともに、初めて東の大陸への渡航に成功したトトリのあの船の責任者としての側面もある。現在東の大陸に居る人物でトトリが最も信頼している人物であり、なおかつ東の大陸へ初めて渡航した冒険者の一人でもあるために妥当ではあるが、本人は非常に忙しいはずである。

 

「ま、忙しいのは大変だけど、俺は東の大陸の未知の魔物や海の魔物とも戦えるから、別にいいけどな。フラウシュトラウトとかオーツェンカイザーやらは倒したけど、まだまだ海の魔物はいっぱいいるからなー」

 

「……単純っていいわねぇ」

 

 ミミの思うジーノの凄いところは、底抜けに単純で、天井知らずに体力バカなところである。それにイライラさせられたことは数知れず……助けられたと思う時も、ごくまれにはあるのではあるが。

 

 あまりのジーノのらしさに苦笑しながらも、ミミは手元の残り少なくなったウィスキーをくいっと飲み干した。氷がだいぶ溶けて飲みやすくなった液体は喉をするりと通り、今までとは違った柔らかな味わいをみせる。当初の目的では一人でゆっくり、一杯のお酒を楽しむつもりであったのだが……。

 

 

「ま、あなたに苦労話とか似合わないにもほどがあったわね。それじゃあ次は東の大陸での冒険について、聞かせてもらおうかしら? リオネラさん、ウィスキーをロックでもう一杯、お願いします」

 

「お、東の大陸か、いいぜ。俺も話したいこといっぱいあるしな。リオネラさん俺もお代わりー!」

 

 今日はウィスキーを一杯だけゆっくり楽しんで帰ろうと思ったが変更。

 ミミとて最初こそ家名を上げる手段として冒険者という職を選んだが、冒険そのものは好きだし東の大陸の貴重な話にも興味がある。

 強めのお酒の氷が解けて、飲みやすくマイルドになるまでの時間、ジーノの冒険譚は中々の肴になりそうだと思いながら、ミミはどこから話そうか楽しそうに悩むジーノを眺めつつ、自分では気づいていないが柔和な笑みを浮かべながらジーノの語りを待つのであった。




やっぱりジーノ君は東の大陸に行っているとは思うのですが、どうなんだろうと気になっています。 それなら色々と納得はできるのですがはたしてトトリの追加イベントでその辺のお話しはでてくるのやら……


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ミミとジーノの「守るもの」 後編

「それで、あっち(東の大陸)はとにかく俺たちが最初に行った辺りとおんなじで、本当に雪ばっかだったよ。調査や冒険がすごい大変だったってピアニャが言ってた通りだったぜ」

 

「シュテル高地以外じゃ滅多に雪を見ない、こっち(アーランド)とは気候からそもそも違うものね……魔物の方はどうだった?」

 

「やっぱりこっちとは種類が違い奴が多いし、歯応えのある奴も多かったぜ。ああそれと、火に弱い敵が多かったぜ。ピアニャから事前に聞いて、トトリと鍛冶屋のおっちゃんに頼んでそんな効果のある剣を作ってもらってたんだけど、すごい役にたったぜ」

 

「あら、あなたにしては用意周到ね」

 

 2杯目のウィスキーをゆっくりと傾けながら、そういうのを考えるのはトトリの役目であったはずだったが、さすがにコイツも熟練の冒険者らしいところもみせるようになったんだと、ミミは素直に感心していた。

 

「おう、なんせその剣、提げてるだけでほんのり温かいし、それにうまく使えば剣の腹で肉が焼けるんだぜ?」

 

「……トトリにもらった剣で何してんのよあなた……」

 

 さっきまでの感心を返せと呆れんばかりのジト目で見るミミであったが、ジーノは意に介さずに妙に真剣な様子で話す。

 

「いやいやコレが意外とバカにできないんだよ。とにかく雪、雪、雪で、たき火をするにも一苦労なんだよ、薪になるような木が見つからねーし、見つかっても雪の中から掘り出したやつだから湿気ってて、しばらくは使えないし。剣で焼くこと思いついた時はみんなから絶賛されたんだぜ?」

 

「す、凄まじいわね……東の大陸の調査って本当に大変なのね」

 

「おう、すげー大変だぜ。木が全然なくて火は起こせないし、果物とか食えそうな草とかも全然ないからよ。兎系の魔物とか美味そうな魔物見つけると、調査隊のみんなも目の色変えて……」

 

 開拓の調査に来て野生を取り戻している調査部隊に若干引きつつも、ミミはその調査部隊の過酷さには驚かされるばかりである。彼女も多くの冒険を経験したが、そこまでの過酷な環境はそうはない。

 

「まぁ新鮮な肉を炙って喰うのも冒険者なら喰い慣れたもんだし、悪かないけどな。やっぱこうして町とかに来れたんなら、干し肉とか塩漬け肉とかの保存用とは違った、こんなもんが喰いたくなるぜ」

 

 

 ジーノは皿に乗ったソーセージを、フォークに刺しながらミミに見せる。

 少し焦げ目がつくように焼かれたソーセージは食欲をそそられる香ばしい匂いをしており、それをカリッと、子気味いい音を立てて齧る。柔らかい肉とパリっとした皮の食感と味、それに飲み込んだ後も残る肉の余韻を洗い流すかのように口に運ばれる、冷えたビアののど越しとキレ。

 東の大陸の調査で久しく味わってなかった味に満足しているジーノを、相変わらず美味しそうに食べるなと眺めていたら、ジーノはお前も食うか?と皿を突き出しながら笑う。

 

「遠慮しておくわ。私にはコレがあるもの」

 

 ミミにはウィスキーとチョコレートがあると見せれば、ジーノもあっさりと引き下がる。

 

「ん、そうか。……なんかこんなやり取りも懐かしいな。お前やトトリと冒険してたころもこんなことがあったよな。お前俺が肉分けてやっても食わなかったっけ」

 

「倒してすぐのグリフォン肉とか、普通その場で焼いて食べたりしないわよ」

 

「美味いんだけどなアレ。それにお前、トトリから肉渡された時はなんだかんだ言いながらも食ってたよな?」

 

「そ、そりゃトトリは仮にも錬金術士なんだから、その辺の魔物の素材とかの知識とかも、まぁなんとか信用できるから、別にトトリに渡されたから食べるってわけじゃ……」

 

 ジーノの素朴な疑問に妙に慌てて反論するミミに、カウンター越しのリオネラと近くに座る常連客は温かい視線で見ているのだがミミとジーノは気づかず。

 特にジーノはいつものことだからか特に気にすることもなく、ビアを飲みながら東大陸の話しを思い出していた。

 

「あーでも、東の大陸の調査でも錬金術士は欲しいって意見は出てんだよな。貴重な素材とかが見つかっても俺たちだけじゃ扱いわかんねーのもあるし、その場で色々と作れる錬金術士がいれば、補給とか色んな面で頼りになるだろうって」

 

「いつかは東大陸の調査に錬金術士を派遣するだろうなと思っていたけど、やっぱりそんな意見がでているのね」

 

 錬金術士が部隊にいることの有用性については、ミミもジーノもよく知っている。冒険から開拓事業まであらゆる事例において革新的な結果を残せるのが錬金術だ。東の大陸の調査にも、いずれは派遣されるとは思っていた。

 

「首相のねーちゃんの話しだとトトリの先生と師匠のコンビがいよいよ派遣されるかもしれないってさ。まぁトトリは忙しいだろうからなー」

 

「トトリはしばらくは錬金術教室やったりアーランドで錬金術を広めたりで、東の大陸に行くのはしばらくは無理ね」

 

「まぁそうだよな。久々にトトリと冒険できるかとも思ったんだけどなー」

 

 

「…………ねぇジーノ。聞きたいことがあるんだけど……」

 

 

 どこか残念そうな表情でビアを傾けるジーノを見て、ミミはどうしても聞きたいことがあった。

 

 

「あなたはやっぱり……またトトリと一緒に冒険したい?」

 

 

 それは昔から聞きたかったこと。

 

 トトリがアールズに出向する前の、一緒に冒険しなくなった頃にも、ミミがジーノに聞きたかったこと。

 素面では到底聞けないことであるが、今はお互いほろ酔いの気分であり、今ならお互いに本音が聞けるかもしれないと、ミミは意を決して聞いてみた。

 

「お前も師匠と同じようなこと聞くんだな、ミミ。東の大陸の調査に行くと言った時に似たようなことを聞かれたよ」

 

「あなたの師匠も……。それで、どうなの?」

 

 ジーノは少し悩む素振りを見せた後、ビアのジョッキを置いて話し始めた。

 

「……まぁな。アールズの連中と開拓したり、警備団として働いたり、今みたいに東大陸の調査団として旅をしたりと、俺も色々冒険したけどな。やっぱ俺にとって一番記憶に残っているのはあの頃の、トトリやお前と。冒険者になってからの数年間だ。時々、あの頃の冒険が無性に懐かしくなるな」  

 

「……そうね。それは私も同じだわ」

 

 まだ冒険者としても人間としても未熟だった時。確執も涙も努力も、かけがいのない多くのものを経験した時。

 ミミにとっても、おそらく二人にとっても、忘れられない大切な時があの頃だ。

 

「でもなぁミミ。トトリにはトトリのやりたいことがあって、俺には俺のやりたいことがあった。寂しいっていえば寂しいのかもしれねーけど、それで自分を曲げるなんて、まずトトリに怒られるぜ?」

 

「……えぇ、そうね。トトリはそういう娘よね」

 

 はっきりと答えるジーノの表情は、トトリならばこうだろうと、トトリへの信頼に満ちており、二人の長年の絆を感じさせるものであった。

 

「それに俺は警備団として辺境を冒険したり、東の大陸の調査をして気づいたんだけどな……世の中、トトリよりももっと弱っちくて、守ってやらないといけない奴がいっぱいいるんだよ。

 俺はトトリみたいに難しいことは分かんねーし、師匠みたいに警備団を率いるってのも柄じゃねーけどな……冒険者として、俺に守れる奴はしっかり守ってやりたいんだよ」

 

 お酒が入っているからか、あるいはジーノの気質からか、はっきりと宣言をするジーノの姿は実に堂々としており、ミミは感嘆するほかなかった。

 

 昔は何故ジーノが強さを追い求めているかなんて、ミミは理解しようとも思わなかった。だがトトリの事情を知り、自分の中でトトリの存在が大きくなっていくとともに、何故ジーノが愚直に強さを求めていたのか、なんとなくではあるが、分かってきたつもりではいた。

 

 だからこそ今の、一人でいる彼が寂しくはないのか、それを聞いてみたかったのが本音である。

 

 だが、彼の答えはどこまでも真っ直ぐで、とてもとても彼らしい、ミミの予想を大きく超えたものであった。

 幼馴染を守れるようにと鍛え上げられた剣は、いつしか多くの人々を守る剣に。ジーノ本人にとっては不本意かもしれないが、紛れもない立派な騎士の剣へと変わっていたのだ。

 

 

「それに、今のトトリなら俺が一緒に居なくても大丈夫だからな」

 

「……そうね。トトリは本当に強くなったもの……きっと一人でも大丈夫なくらいに」

 

 そこら辺の魚よりも弱いなんて言われていた村の少女も、今ではアーランド屈指の実力者であり、錬金術士たちのまとめ役として、国の中枢からも一目置かれる重要人物にまで成った。

 ミミはそんな親友を誇りに思いつつも……本当はトトリは一人でも大丈夫なんじゃないか、自分が守る必要はあるのかと、心の奥底で悩んだ時だって何度もある。

 

 少しだけ沈みそうになった気持ちを誤魔化すようにウィスキーを口に含むミミに、ジーノは「なにいってんだこいつ」とでも言いそうな顔でさらりと話す。

 

 

お前がいるから、トトリは大丈夫(・・・・・・・・・・・・・・)だろ」

 

「んぐっ……!」

 

 口の中のウィスキーを吹き出しそうになったのを即座に喉に送ることでやり過ごし、一気に喉を通った酒精にむせかえるのを堪えているミミに、ジーノは特に気にすることもなく話し出す。

 

「違ったか?お前がトトリの傍にいるなら、トトリはまず大丈夫だろって俺は思ってんだけどな?」

 

「……随分と私を買ってくれているのね」

 

「そりゃ俺はお前と一緒にトトリの護衛やったり、お前とコンビ組んでたこともあったからな。お前の槍の頼もしさも分かっているし、トトリだってお前を頼りにしていることも知っているぜ?」

 

「……トトリもあんなに強くなったのに?」

 

 

 酒精が少し回り始めた頭で、ミミが思わず胸の内の疑問を言葉に出してしまえば、それもジーノは快活な笑顔で笑い飛ばす。

 

「そりゃミミ、アイツって俺には無茶しちゃだめーって文句言うくせに、自分のことだと平気で無茶やるからな。村ならトトリのねーちゃんが見てんだろうけど、今はアーランドだろ?誰かが見ててやらねーとな」

 

「まぁ、トトリって慎重に見えて意外と大胆だったり、頑張りすぎるきらいがあるものね……。見ていないと危なっかしいというのには同感よ」

 

 気弱そうに見えてその芯は強く、どこまでも先へ先へと歩み続けるのがトトリなのだと、長い付き合いの二人はよく知っている。

 

「だろう?だから俺は東の大陸に行く時に、トトリのことが少し心配だったんだけどよ……あの時お前らが二人で見送りに来たのを見て、俺は安心したんだぜ。お前(ミミ)がいるならトトリのことは心配いらないってな」

 

 お前ならトトリのことは絶対に守ってくれるんだろう?とその真っ直ぐな眼は言外に伝えていた。

 いつものミミなら真っ赤になって否定して後で自己嫌悪に陥るパターンだけど、生憎ここは酒場で、ミミもそれなりに飲んでいる。酔いが少しづづ周る頭は、はっきりと、自分らしく答えてやるのがジーノへの礼儀だろうと判断し、少し赤みの差した顔で不敵に笑い、いつものミミのように堂々と宣言を返す。

 

「分かっているじゃない。私がいるんだから、トトリのことは心配いらないわ」

 

「そうだな。んじゃ、これからも……」

 

 そう言ってジーノは手元のジョッキをこちらへと突きだしてくる。それを怪訝な目で見ていると、少し照れくさそうに説明をする。

 

「ギゼラおばさんに教わったんだけど、冒険者同士の約束事ってのはこうやって(さかずき)当ててやるもんだってさ。いっちょこれからも、俺の幼馴染をよろしく頼んだぜ、ミミ」

 

 

 酒の席での約束事ほど信用できないものはないという言葉も貴族にはあると、ミミの頭を過ぎったが、ミミもジーノも冒険者で、そして約束するのは二人にとっては今更口にするまでもないこと。

 ミミは手に持つグラスをジーノの前に突きだしながら、再び不敵な笑顔ではっきりと告げる。

 

「ええ、このミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングが誓います。あなたの幼馴染はこのわたしの槍が守ってみせるから、あなたはあなたが守れるものをしっかりと守りなさい。……トトリに無茶するなって言う以上は、あなたも無茶するんじゃないわよ?」

 

「おう、あまり無茶して怒らせるとトトリも怖いからな……俺は俺なりに頑張るよ。お前も、トトリの護衛は任せたぜ?」

 

「ええ、任されたわジーノ。安心してなさい」

 

 朗々と、高らかにミミはジーノへ宣言する。その宣言こそがジーノへの、かつての相棒への信頼の証であると信じて。

 

――――トトリはわたしがまもってあげる!――――

 




というわけでミミちゃんとジーノ君のお酒の会でした。
個人的にはこの二人の関係ってなんだかんだの腐れ縁的な感じで仲が良いんだろうなーって思っています。
お互いに認め合っているけどちょいちょいいがみ合うのをトトリが微笑ましそうに見ている感じで。


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ミミとジーノの「守るもの」 おまけの次の日

美味しいお酒の会の次の日は、満足感と若干の後悔。


「……飲み過ぎたわね」

 

 翌日、朝方に迎えのちみゅみみゅが来るとのことで、ジーノの見送りをしていたミミは少しだけ痛む頭を抑えながらトトリの帰りを待っていた。

 

 元々はゆっくり一杯のウィスキーを飲んで帰るつもりだったのが、思わぬ再開と約束にテンションが上がってしまい、何度かお代わりをしてしまったのが原因である。

 さすがにたまにトトリと飲む時にやらかすような、記憶を無くすまでには至っていないがそれでも飲み過ぎたと、反省をしながら、昨日のアラホロ亭での出来事を思い返す。

 

 正直、久しぶりに出会ったジーノとの酒席はとても有意義なものだった。

 あの腐れ縁はいつまで経っても本当にちっとも変わらない。子供っぽくて、単純で、そしてどこまでも真っ直ぐな気性で、自分の芯をしっかりと決めて、自分の幼馴染と同じように、己の道をひたすらに突き進んでいるのである。

 

 苦労も伝わるが、実に楽しそうに話す冒険譚。お酒が入って二人だからこそ話せる本音の話。そして互いにとって大切な人に関する約束。お互いが守るものを改めて話したこの二人の酒席は……

 

 

「……まぁ、楽しい時間だったわね」

 

 

「へ~。ミミちゃん昨日はお楽しみだったんだね~」

 

「ト、トトリ!?」

 

「ただいま。ミミちゃん」

 

「お、おかえりなさい……」

 

 最近グイード(お父さん)に似たのか気配を消すのが上手くなったトトリがすぐそばに、ナイトシェイドでも使ったんじゃないかと思うくらいのステルス能力である。

 

「ミミちゃん、聞いたよー?」

 

「な、何をかしら……?」

 

 妙にニコニコ、というかニヤニヤしているトトリに妙に威圧感を感じるが、気のせいだと思いたい。

 

「錬金術教室に通っている人が私を見つけるなり、話してくれてね。ミミちゃんが男の人と二人で飲んでいましたーって」

 

「誰よそんなことトトリに話したの……!?」

 

 アラホロ亭は酒場でこそあるが、老若男女誰でも訪れることができる場所であり、二人が飲んでいた時も様々な人が訪れていたが、あの中にトトリの生徒が紛れ込んでいたらしい。

 

「ねぇ、トトリ。それはね……」

 

「ジーノ君なんでしょ?ミミちゃんと年が近くて、それで親しそうに話している男の人ってジーノぐらいだもんね」

 

「……まぁ否定はしないけど、なんか気になる言い方ね……」

 

 実際に後輩の冒険者や警備団の若手からは、頼りになるし面倒見もいいけど、ちょっと近寄りがたいと思われており、本人も少しだけ気にしているのであるが、特にトトリは気にせず話を続ける。

 

「それで、ジーノ君はどうだった?元気そうだったの?」

 

「東の大陸は中々大変らしいけど、相変わらず無駄に元気そうだったわよ」

 

「そっか、それならいいや」

 

「あなたもアイツと同じようなこと言うのね……」

 

 お互い心配はしつつも大丈夫だと信じている。同じ村の生まれで、物心ついたころから一緒だという二人の間の信頼は、ミミにとっては少し羨ましく、そして負けたくないもの。

 

「……アイツ、あなたに会えないのを随分と残念がっていたわよ」

 

 それでも、ミミはジーノとお酒を飲んで聞いた彼の心境を伝えておくことにする。

 多分本人は言うなよと怒るかもしれないが、これくらいはいいだろうと。次に3人で会う時に、この件でトトリと一緒に少しからかってやろうと言う下心も持ちながら。

 ……この発言を後悔することになるのはもう間もなくであるが。

 

 

「ふーんそっかー…………でもミミちゃんばっかりズルいなぁ」

 

「な、なにが……?」

 

 ちょっぴりジト目気味に、でも口元はニヤニヤさせたまま、拗ねたような口調でトトリがミミに文句を言う。

 

「だって、私が居ない間にジーノ君と二人で仲良く飲んでいたんでしょー?二人が仲良くしているのは私も嬉しいけど……わたしだってジーノ君と会えなくて、ちょっぴり寂しかったのに」

 

「そ、それは仕方なかったじゃない……。あなたはジーノが帰ってくるって知らなくて、ジーノはあなたが遠方に居るって知らなかったんだから……」

 

「いいなぁーミミちゃんばっかり。……次はわたしがジーノくんと二人で飲んじゃおうかな?……なーんて」

 

(本気で言っているのか私をからかっているのか判別ができない……!)

 

 どうもミミをからかうことを趣味にしつつあるトトリだが、もしかしたら本当に寂しい気持ちがあって、それを隠すつもりでわざとからかってきているかもしれない。その判別はミミにはできない。

 

(……でも二人きりで飲みに行かれるのも、なんだかものすごく面白くないし、アイツが帰ってきたらまた3人で飲みに行く約束でもとりつけようかしら。とりあえず今日は……またトトリを誘って飲む……?)

 

 昨日のお酒がまだ少しだけ残る頭に活を入れながら、ミミは本気かどうか判別がつかないトトリの機嫌を取る算段を立てながら、また彼が帰ってきたその時に想いを馳せるのであった。




という感じの3人のお酒のお話しを見てみたいです。


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