超高校級の魔法科高校生 彼はすべてが「ツマラナイ」 (イルさん)
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序章

連載のペースが遅いかもしれませんがご了承下さい。


ある日、国立魔法大学付属第一高等学校で激震が走った。

それは来年度入学予定者の入試試験の結果によるものだった。

それは筆記試験、七教科すべてにおいて100点満点中100点を記録したためだった。

さらに実技試験においても1位を記録したのだ。

普通ではありえない、たとえあらゆる面で日本の魔法師の頂点にたつ十師族の直系であっても、このような成績を出す受験生はこれまでいなかった。

まして、その受験生が家系により魔法の優劣が決まることの多いアマ奉仕の世界において魔法師の血を引いていない魔法師であることが教師陣にさらなる驚愕を与えた。

これは、その人物『カムクラ イズル』の存在を魔法師世界に轟かせる始まりにすぎない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の少年がその家には住んでいる。

少年はかつてとある世界で人工的に生み出された希望であった。

あらゆる才能を用いることができるように、『超高校級の希望』となるように人工的に生み出された。

様々な才能を集める学園の闇によって生み出された少年はかつての記憶も本来の感情、感性、趣味も失い、新たな人格と才能を手にいれた。

その少年の名は『カムクライズル』

超高校級の希望『カムクライズル』であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての世界に絶望した彼は、ある日この世界に舞い降りた。

そして、彼の知らない『魔法』という未知の概念に遭遇した。

その世界では魔法は一部の適正のある人間のみが行使できる未知の力、そして世界を支える軍事力の一部となっていた。

彼にとって、未知の力はこれまでの彼では理解できないものであったため、魔法を行使する才能を持っていた彼は新しく見つけた『ツマラナクナイ』ものに興味を持ち、魔法を学んだ。

しかし、彼にとって魔法について理解することも実行することも容易であったため、すぐに魔法も彼にとって『ツマラナイ』ものへと変わった。

だが、同時に彼はかつての人格、すなわち彼本来の人格を取り戻し、そしてこの世に新たな『カムクライズル』が誕生した。

 

 

この世に誕生した新たな『カムクライズル』はあらゆる面でその多才な才能を用いてある人物と交流を図った。

カムクライズルはその人物が長年望んでいた望みを叶え、さらに多くの恩恵を与えた。

その人物は当初、この世界に現れたばかりのカムクライズルにこの世界や魔法について教えた。

カムクライズルにとって与えられた情報は、超高校級の才能の一部を用いればある程度手にすることのできる情報であっただろう。

しかし、以前とは違い、世界に絶望以外を見出だそうとしている新たなカムクライズルにとって他者との交流と自身の後ろ楯となる存在は必要だった。

そしてカムクライズルはある人物との交流からこの世界で新たな人生をスタートさせる。

 

それは結果としてカムクライズルの名をこの世界に轟かせる最初の一歩となるのだった。



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入学編1

カムクライズルが魔法科高校への進学を決めたのは、この世界で交流をもつある人物に勧められたためであった。

超高校級の希望である彼にとって、どこの高校へ進学しても変わらないためにただ勧められたからという理由と全国にある魔法科高校の中で家から一番近いからという理由で選んだ高校であった。

 

 

入学式を控えた第一高校では教職員と生徒会役員の間に新たな問題が発生していた。

 

「興味がありません。僕はそれを辞退します」

 

入学試験で首席となったカムクライズルは入学式において依頼された新入生の答辞を断ったためであった。

当初、魔法科高校において理由もなく入学式の新入生による答辞を断った生徒はこれまでにいなかったため(理由があったとしても普通なら答辞を断ることはめったにないのだが)カムクライズルは理由を説明することなく答辞を断ったため、教職員はなんとかカムクライズルを説得して答辞を行ってもらおうとした。

その結果、返ってきた返答は興味がないという理由であったため、さらに教職員と生徒会役員に混乱をもたらした。

しかも、理由を聞き出すためにあまりにもしつこく電話をかけていたため、何故か学校の電話はもちろん、教職員、生徒会役員の個人の電話やパソコンなどからのメッセージもカムクライズルの家だけ連絡をいれられなくなっていた。

さらにこの時代としてはやや古典的な郵便による手紙までカムクライズルの家には届かなくなっていた。

カムクライズルとしてはしつこかったので面倒になり、超高校級の才能の一部を使ったためであった。

その結果、一部の教職員と生徒会役員が胃を痛めたのはカムクライズルの知らない話である。

 

 

 

 

 

 

2095年4月

 

 

 

問題が発生したが、第一高校は答辞に代理を用意することで問題を解決して入学式の日を迎えた。

 

「この学校もツマラナイ場所でしょうか。彼らほど個性豊かな人物には会わないでしょうが、ツマラナイ日々ではないと良いのですが」

 

かつてカムクライズル(日向創)日向創(カムクライズル)であった頃、互いに別々の形で出会い、カムクライズルにとっては取るに足らない存在であり、日向創にとっては憧れであり、仲間であった彼らを思い浮かべ、戻らない日々を思いつつ、カムクライズル(日向創)はかつての過ちを繰り返さないようにと考えながら第一高校に向かう。

 

 

 

 

第一高校の入学式はカムクライズルの予想通りツマラナイものであった。

会場の座席は自由席だったにもかかわらず、魔法を用いた実技試験の成績が上位100人に入る一科生と下位100人に入る二科生できれいに前と後ろにわかれて座っていた。

誰かに言われたわけではなく、生徒同士が互いに差別しあう様子はカムクライズルからすると愚かなものであった。

自身の持つ圧倒的な才能にどの分野でも勝ることのできないもの同士が実技試験の結果のみで互いにわずかな差で差別しあう光景はツマラナイものであった。

 

「くだらない。やはりこの世界もツマラナイものなのでしょうか」

 

無機質な声で呟かれたその言葉はカムクライズルの代理として答辞を述べている司波深雪の圧倒的な美貌によりほとんどの生徒の意識が司波深雪に向いていたため、周囲の生徒が気にすることはなかった。

 

 

入学式が終わり式場を出た彼はIDカードを受け取り自身のクラスを確認すると、この日は自分の教室へ向かう必要がないためそのまま帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1-Aはこの教室ですね」

 

入学式を終えた次の日、カムクライズルが自身の教室に辿り着くと、教室は一人の生徒へと視線を向ける生徒ばかりであった。

新入生代表代理を務めた司波深雪は優れた魔法師は容姿も整っていることが多いと言われるように、クラスの男女問わず視線を向けられているが、本人はあまり気にかけていないようであった。

そのため、日向創の姿に黒髪であるカムクライズルが教室に入った際に彼を気にする者はいなかった。

 

 

この日はガイダンス、オリエンテーション、そして授業見学とどれとカムクライズルにとっては物足りない内容であったため、ディスプレイ端末を用いて様々な情報を調べていた。

そして放課後、情報を調べているうちに教室にいた他の生徒は誰もいなくなっていた。

 

(少し調べることに集中してしまいましたね)

 

そして、カムクライズルが帰ろうと校門付近に近づいたとき事件は起きた。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挟むことじゃないでしょう」

 

一人の眼鏡をかけた二科生のおとなしそうな女子生徒が一科生、しかもカムクライズルと同じクラスの集団に大声を出して反論しているところだった。

 

「別に深雪さんはあなたたちを邪魔物扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか」

 

再び声をあげた眼鏡をかけた女子生徒の言葉に後方で頬を赤らめた司波深雪とその状態に戸惑いをわずかにみせる司波深雪の兄と思われる二科生の男子生徒がいるなか、さらに赤髪の女子生徒と背が高めのゲルマン風の男子生徒が一科生の前へとあらわれ一科生の集団の先頭に立つ男子生徒と言い争いを行い始めた。

 

(くだらない。二科生を見下す一科生。わずかに勝る点があるというだけで自身があらゆる点で優れているという考えも、その考えを他人に強要しようとすることもすべてがくだらなくてツマラナイ)

 

カムクライズルが言い争いをしている一科生が聞いたら怒りだしそうなことを考えていると更なる問題が発生した。

それは、眼鏡の女子の言葉が引き金となった。

 

「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが今の時点でどれほど優れているというのですか」

 

一般的には正論に当たるこの言葉だが、自身の才能を誇り、二科生を見下す一科生にとってこの言葉は彼らを怒らせるだけであった。

 

「どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ」

 

一科生の男子生徒が小型拳銃形態の魔法発動媒体CADを前に出ている二科生の男子へ魔法を放つため突きつけた。

それと同時に、赤髪の女子生徒が警棒を取り出し男子生徒のCADを弾き飛ばそうと動き出した。

しかし、実際はどちらも起こらなかった。

それは、カムクライズルが二人の間に入り、持ち主が気付かないほどの素早さと技術でそれぞれの武器、小型拳銃形態のCADと警棒を奪い取ったためだった。

 

「そこまでです。これ以上行えば、両者共にただの言い争いではすまない怪我を負いますよ」

 

そしてもう一組、別の乱入者が訪れたためだった。

 

「やめなさい。自衛目的以外の魔法による対人攻撃は校則違反以前に、犯罪行為ですよ」

 

現れたのは二人の女子生徒だった。

言い争いをしていた一年生のような初々しさはなく、カムクライズルからみても一年生に比べかなり貫禄のある生徒だった。

カムクライズルは興味を示すことがなかったために入学式で紹介されたにも関わらず二人の女子生徒のことを覚えていなかったが、現れた女子生徒は生徒会長と風紀委員長の二人だった。

 

「1-Aと1-Eの生徒だな。事情を聞きます。ついて来なさい」

 

直前まで威勢よく言い争いをしていた両者だが、突然生徒会長と風紀委員長が現れたことで両者、特に一科生たちは

萎縮していた。

 

「すみません、悪ふざけが過ぎました」

 

その空気の中で突如、司波深雪の隣に立つ兄と思われる人物が話し出した。

しかし、この争いを単なる悪ふざけと称することはカムクライズルからしても難しいものであった。

一歩間違えば怪我人がかなりの数出ていたのだから当たり前である。

 

「悪ふざけ?」

 

実際、彼の言葉に疑問を持った風紀委員長が眉をひそめ、問い返した。

 

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学のために見せてもらうだけのつもりだったんですが、あまりに真に迫っていたもので、思わず彼の手が出てしまったようです」

 

司波深雪の兄と思われる人物とカムクライズルを除いたこの場の一年生が絶句する。

 

「その風紀委員長の言うおとりです。あなたの言うことが正しいのであれば、そこの一科生の女子生徒はなぜ魔法を使おうと思ったのですか。その理由を聞かせてほしいものです」

 

「驚いたんでしょう。条件反射で起動プロセスをじっこうできるとは、さすが一科生ですね」

 

「あなたの友人が魔法による攻撃を受けようとしていたように思うのですが、そのことも単なる悪ふざけだと称するのですか」

 

「攻撃と言っても彼女が発動しようとしていた魔法は目眩ましの閃光魔法ですから。それも視力障害を起こしたりするほどのレベルでもありませんでしたし」

 

「どうやらあなたも展開された起動式を読むことができるらしいですね」

 

カムクライズルと男子生徒による言葉の応酬が繰り広げられる中、起動式を読むことができるという言葉に特に生徒会長と風紀委員長の二人が反応を示した。

起動式は魔法式を構成する膨大なデータの塊である。

そのため、通常意図して起動式を読むことは()()()()()()()()()()()()なことである。

だからこそ、起動式が読めるというこの男子生徒の言葉に生徒会長と風紀委員長は反応した。

 

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

 

しかし、男子生徒はこの非常識な技能を「分析」の一言で片付けてしまった。

 

「どうやら誤魔化すことも得意なようですが、詰めが甘いですね。あなたは僕のことを上級生と勘違いしているようですが、僕はあなたと同じ新入生ですよ。()()()()()なようですが、それは魔法に対してだけのようですね」

 

カムクラから言われた言葉にその場でただ一人矢面に立っていた男子生徒は驚きを示していた。

同時に司波深雪の表情が一瞬ひきつった。

 

「これは一本とられたようだな。そこの新入生の言う通りどうやら君の得意な分析は人に対してはまだまだのようだね」

 

そして、この場でカムクライズルと男子生徒の応酬を傍観していた風紀委員長が面白いものを見たかのように反応し、笑いだした。

カムクライズルとしては少し男子生徒をからかっただけだったのだが、風紀委員長が笑いだしたことによりこの場の張りつめていた空気がゆるんでいった。

 

「もう摩利ったらしたら失礼でしょ。それで深雪さん、達也くん、本当にただの見学だったのよね?」

 

笑いだした風紀委員長に注意をしつつ、同じく傍観していた生徒会長が二人にたずねた。

それに対し、たずねられた二人は共に頷くことで返事をした。

 

「生徒同士で教え合うことが禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には、起動するだけでも細かな制限があります。このことは一学期の内に授業で教わるないようです。魔法の発動を伴う自習学習はそれまで控えた方がいいですよ」

 

真面目な表情で述べた生徒会長の影響を受けてか、風紀委員長も表情を引き締め言葉を述べた。

 

「会長がこう仰られていることでもあるし、今回は不問にします。以後このようなことの無いように。それとそこの君、名前は?」

 

「1-E司波達也です」

 

風紀委員長が矢面に立っていた男子生徒に名前をたずねている傍らでカムクライズルはすでに問題は解決したと判断し、そのまま立ち去ろうとした。

 

「覚えておこう。そこの帰ろうとしている君、名前は?」

 

しかし、呼び止められたことで名前を答えた方が良い状況になってしまった。

 

「1-Aカムクライズルです」

 

「あっ、あなたがカムクライズルくんだったの」

 

仕方がなく答えたカムクライズルに風紀委員長が返事をする前に生徒会長が驚きながらカムクライズルに確認するようにたずねてきた。

 

「真由美、彼のことを知っているのか」

 

「名前だけなら知っていたの。摩利は入学式前に私たち生徒会と先生方が慌ててていたのを覚えている?」

 

「ああ、お前たちがだいぶ慌てていたからよく覚えている」

 

「その原因が彼なの」

 

「彼にか?」

 

生徒会長の言葉に事情を知っている生徒会長と元々興味のないカムクライズル以外のその場にいる全員の頭に疑問符が浮かぶ中、生徒会長は理由を話始めた。

 

「彼、カムクライズルくんは今年度の首席なの。しかも、彼の成績は筆記試験、全教科満点、実技試験は全魔法科高校歴代最高を記録したほどの結果を残したにも関わらず、興味がないという理由だけで新入生総代を断ったのよ。しかも、彼に連絡を取ろうとしてもなかなか連絡がとれなくて、一度連絡をとることができて理由を聞いたあとはあらゆる手段を用いた連絡手段が彼に繋がらないから私たち生徒会も先生方も大慌てになったというわけよ」

 

流石に生徒会長が説明した内容を予想していたものはいなかったようで、驚きと同時に呆れの視線をカムクライズルは向けられたのだった。

 

「それでは僕はこれで失礼します」

 

その空気の中、堂々と帰宅したカムクライズルに一種の尊敬の眼差しがその場にいた多くの生徒から集まったりもした。

 

その後、落ち着いた生徒の内、一人の女子生徒と一人の男子生徒がカムクライズルに警棒とCADをとられていたことを思い出し慌てていたが、何故か自分の元に戻ってきていたため、その場の生徒たちの頭に再び疑問符が浮かんでいたことをカムクライズルは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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入学編2

その日、カムクライズルは面倒な事に巻き込まれる予感とともに目が覚めた。

彼の持つ『超高校の占い師』の才能によるこの予感は、彼の一つ下の学年に所属していた『超高校の占い師』の才能の持ち主とは違い、その正確性は30%ではなく90%以上の正確性を持つ。

そのため、彼は普段は持ち歩くことのないCADを取り出し、その日は持って行くことに決めた。

 

その日、彼の予感は朝から的中することとなった。

 

カムクライズルが駅から第一高校へ向かっているときにそれはおきた。

 

「あ~、あんたは昨日の!」

 

突然後ろから大きな声がしたのだ。

他にも登校している生徒がいた上に、知り合いに似た声の人物はいなかったため気にせずに歩いていたが、次の言葉は今のカムクライズルを指し示すには十分な言葉だった。

 

「そこのツンツンヘアーにアンテナつけてるそこのあんたよ」

 

現在のカムクライズルは緑がかったツンツンヘアー。そして頂点にはアンテナと呼べる、特徴的なアホ毛がある髪形である。

 

「なんのようですか。僕はあなたに覚えがないのですが」

 

カムクライズルが振り返った先にはこちらを指さす赤髪の女子生徒とその周囲に男女が二人ずつ、合計五人の集団がいた。

 

「覚えがないって言うの!昨日あたしの警棒を受け止めたでしょ!」

 

女子生徒の言葉にカムクライズルは昨日のことを思い出しながら、警棒という言葉により連想されたのは昨日の下校時の校門前での騒動のみだった。

女子生徒が警棒と発言していたことから昨日カムクライズルが受け止めた警棒の持ち主なのだろう。

思い出してみると、赤髪の女子生徒と一緒にいる集団には見覚えがあった。

司波深雪と一緒にいた二科生の集団の集団のようだ。

 

「昨日の騒動を起こしていた方々ですか。それで何のようですか」

 

「えっと、ようっていうほどのものはないんだけど・・・」

 

「ようがないのであれば、僕は先に行きますよ」

 

聞き返したところ特に用事がなかったようなので立ち去ろうとしたところ今度は別の声に呼び止められた。

 

「この場所で出会ったのも何かの縁ですし、昨日のお礼と自己紹介を行いたいのですが、カムクラさんよろしいでしょうか」

 

「昨日のことは礼を言われるようなことではありませんよ。ただ僕が勝手に行ったことです。あなた方が気にすることではありません。それに僕が止めに入らなくてもすぐに生徒会長と風紀委員長が止めに入っていたでしょう」

 

「確かに生徒会長と風紀委員長がすぐに来たかもしれないが、助けてもらったのも事実だ。礼を言わせてもらえないだろうか」

 

司波深雪からの申し入れを断ろうとしたところ、その隣に立つ司波深雪の兄と思われる人物からさらに同じ申し入れをされたため断ることのほうが面倒な状況になってしまった。

 

「わかりました。あなたたちのその気持ちは受け取っておきます。それでは、僕は先に行き「「ちょっと待った~」」」

 

再び立ち去ろうとしたカムクライズルであったが、赤髪の女子生徒とゲルマン風の男子生徒の二人がカムクライズルの別々の肩をつかんで止めようとした。

しかし、その手は空を掴むのみだった。

なぜなら、カムクライズルが才能を駆使して避けたためであった。

 

「まだ何かようがあるのですか」

 

「これも何かの縁だし深雪も言ってたように自己紹介しましょうよ」

 

「そうだぜ、この女と意見が合うのも癪だが自己紹介しようぜ」

 

「ちょっとそれどういう意味よ」

 

自己紹介を求められたはずがいつの間にか二人の睨み合いへと変わってしまった。

 

「エリカちゃん、落ち着いてよ」

 

「レオも落ち着け」

 

その二人の睨み合いは眼鏡をかけた少女と司波深雪の兄と思われる人物が仲裁に入ったことで終わった。

 

「僕の名前はカムクライズルです。1-Aに在籍しています。そろそろ面倒ごとが発生しそうですし先に行きます」

 

「お、おい」

 

「あ、ちょっと待って」

 

なかなか話が進まない現状とカムクライズルの直感が面倒な事に巻き込まれると強く主張していたので後方から聞こえる声を気にせずに自身の名乗りを終えるとすぐに立ち去った。

 

「一方的な自己紹介になってしまったな」

 

「そうですね。お兄様、カムクラ君は何かを気にしていたように思うのですが何を気にしていたのでしょう」

 

「深雪の言う通り何かを気にしている様子だったな。焦っているようではあったが、律儀に自己紹介をしていたから俺たちが原因ではないようだが」

 

「ちょっと、あんたがうるさいからカムクラ君がさっさと行っちゃったじゃない!!」

 

「騒いでたのはお前のほうだろ!!」

 

カムクライズルが立ち去った後も後ろから聞こえる声から容易に想像できる言い争いにあきれながらそのまま自分のクラスへと向かった。

 

カムクライズルが自分の教室に着くと同時にクラスの雰囲気が変貌した。

昨日の生徒会長の言葉を聞いていた生徒が大半であるためクラスメイトの大半がカムクライズルが入学試験の首席であることを知っている。

だが、高校生、しかも新入生というには初々しさがなく大人びた雰囲気と新入生総代の挨拶を「興味がない」の一言で断った行動からカムクライズルに対してどのように接したら良いのかわからないという雰囲気が教室中に広がっていた。

だが、当のカムクライズル本人は何故教室がこのような雰囲気になっているのかを特に理解しようとせず、今日の面倒事をどのようにしたら回避できるのかを人類最高峰と思われる頭脳を用いてあらゆるパターンを考えていた。

カムクライズルが教室に着いて少し時間がたつと、教室の雰囲気が再び一変した。

雰囲気が一変したことに気づき、教室を見渡すと司波深雪がまっすぐカムクライズルの机までやってきて足を止めた。

 

「何の用ですか」

 

「カムクラさんに会長から伝言を預かりました。今日の昼休みに生徒会室に来てほしいそうです。私や兄も同様の誘いを受けています。私達と一緒に生徒会室に向かうようにとのことです」

 

「丁重にお断りします。そのように会長に伝えてください」

 

「理由を伺ってもよろしいですか」

 

「先ほども言いましたが、今日は面倒なことに巻き込まれる予感がします。そんな日に生徒会長の呼び出しとはいえ、生徒会室に行くことは自分から面倒なことに巻き込まれに行くような気がしてなりません」

 

カムクライズルの言葉に深雪は言葉を詰まらせてしまった。

登校中、カムクライズルが先に第一高校へ行った後、小走りで兄の名前を呼びながらやってきた生徒会長七草真由美は入学式にであったばかりにもかかわらず、自分の兄である司波達也を既に下の名前で呼ぶようになっていた姿から、もしかしたらカムクライズルが危惧しているように面倒なことになるかもしれないと思うと言い返せない言葉であった。

 

「ですが七草会長が、生徒会室に来ない場合は教室に迎えに行くとおっしゃっていました」

 

今度はカムクライズルが言葉を詰まらせる番であった。

教室に生徒会長が訪ねてくるなど間違いなく面倒事でしかない。

しかも教室に訪ねてこられては(カムクライズルはほとんど気にしていないが、友人からクラスメイトとは交流を持った方がいいと言われたため交流を持とうとしている)教室にいるクラスメイトからさらに距離をとられかねない。

そうなった場合、現状よりもさらに交流を持つことは難しくなってしまう。

それはあの孫が大好きな協力者からも小言をもらう展開になってしまうだろう。

その状況は面倒なことであるためできれば避けたいものであった。

 

「仕方がないですね。今回は大人しく生徒会室に向かうことにします。他に用がないようであれば僕は私用が入ったので失礼します」

 

新入生総代の挨拶の件を聞いていたため思いのほかあっさりと会長からの呼び出しを受け入れたため深雪が安堵の表情を浮かべているとカムクライズルが自身の端末を確認しながら深雪の返事を待たずに立ち上がり教室から出て行った。

カムクライズルは教室を出るとそのまますぐに人気のない場所へと移動した。

人気のない場所に着くと自身の才能と魔法を使い周囲に人がいないことを確認すると、端末を取り出しどこかへ連絡をかけた。

 

「こんな時間に何のようですか」

「すまない。この時間に連絡しては迷惑になると思ったのだが孫がどうしてもと言うものだから君に連絡をかけさせてもらったよ」

「孫が、ですか。珍しいこともあったものですね。普段であれば、あなたの方が今回のようにこちらの都合を考えずに行動をすることが多いのですが。何か問題でも発生したのですか」

 

電話の相手であるカムクライズルの後ろ盾であるこの人物やその孫で友人でもある人物の普段の行動を知るカムクライズルにとって今回のようなことは珍しい事態であった。

基本的に他者をいじることに楽しみを感じている後ろ盾と素直で優しい友人ではどちらが普段からカムクライズルにとって面倒な事態や迷惑なことをしているかなど誰に聞いても前者の人物のことだと考えるだろう。

しかし、今回は珍しく後者の人物がカムクライズルにとって迷惑になるであろう行動をとった。

このことはカムクライズルにとって何か問題が発生したのではと考えるには十分な行動であった。

 

「確かに問題は発生した。しかし、本来であればこれ程急に連絡をしなければならないほどのことではなかった。だが、孫が心配だと言うものだからね」

「相変わらず孫が関わると人が変わりますね。魔法師としてのあなたを知る人が今のあなたを見れば驚き呆れるでしょうね」

「このような姿を見せるのは家族以外だと君くらいだよ。他の者が見ることはあるまい」

「そうですか。ところで用件は何ですか。あまり時間がないので手短に済ませてください」

 

カムクライズル自身が話始めたことだが、孫の自慢話はこれまでにさんざん聞かされているため、早々に切り上げなければ長くなることも、同じ話を耳にタコができるほど聞かされることも知っていたため、授業(カムクライズル自身は内容を完璧に理解しており今さら授業を受ける必要を感じていないが、友人にどのような授業を行っているのか教えてほしいと頼まれたので内容を教えるために)を聞くために話すように促した。

 

「そうだったね。肝心の用件なのだが、どうやらブランシュが第一高校だけではなく、希望ヶ峰コーポレーションにまで手を出そうとしているみたいでね。希望ヶ峰コーポレーションと言えば世界有数の企業でありながら社長を含め幹部の情報がほとんどない。本社が日本にあるという情報から希望ヶ峰コーポレーションを乗っ取ろうと考えたみたいだ。第一高校に手を出そうとするだけならば孫もそこまで気にすることはなかったのだが、君の作り上げた希望ヶ峰コーポレーションは君にとって特に思い入れのあるものだと思ったらしくてね。君にこのことを知らせてほしいと頼んできたんだよ」

「そうですか。ブランシュも随分愚かなことをするものですね。反魔法国際政治団体の分際で希望ヶ峰に手を出そうとするとは身の程知らずにも限度というものがあると思うのですが、どうやら限度を知らないようですね。近いうちに相応の対応をとりますよ。あなたの孫にも身の程をわきまえていないものたちには相応の対応をしておくから心配しないよう伝えてください。この件が一段落したらまた遊びに来るようにとも伝えておいてください」

「やはり心配いらないようだね。孫にはそのように伝えておくよ。これで孫も私も一安心できるというものだよ」

「あまり時間もないのでこれで失礼します」

 

元々無駄話を好むような性格ではないカムクライズルは用件が終わると授業開始の時間が迫っているという理由もあり、早々に話を切り上げ、自身の教室に向かいながら今聞いた話について考えていた。

教室に着き、授業が進む中、希望ヶ峰コーポレーションという組織の性質上、単なる反魔法国際政治団体ごときにどうこうできるものではないとは考えつつも、授業を聞き完璧に再現できるようにしながら自身の周囲で非常事態が発生した場合速やかに対処できるように様々な状況の想定を始めながらどのような方法で対処できるかを昼休みになるまで考えているのだった。

 

 




希望ヶ峰コーポレーション
カムクライズルが自身の才能を使い作り上げた会社。
上層部にどのような人物が所属しているのかは一切不明で社長兼筆頭株主として日向創の名前のみが知られている。希望ヶ峰コーポレーションが作られ、わずか数年で農業、医療、機械、漁業、土木業など様々な分野で世界トップクラスになった。また、日向創が世界中の大企業や将来性の高い企業の筆頭株主を務めていることでも有名。世間からは様々な分野で実績を残しているため、新興企業でありながら各分野で高評価されている。一方で希望ヶ峰コーポレーションと常識の範囲を越えて敵対や妨害を行ったものは社会的または物理的または両方で消されることから、一部では十師族の四葉家以上に触れてはいけない存在とされている。


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