『みんな病んでるIS学園』 (Momochoco)
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オープニング 

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 深い海の中に沈んでいるようで、空の上の白い雲の中にいるような、そんな気分だった。

 誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。

 生きる?俺は死んでいるのか?

 嫌だ。死にたくない。だから必死でもがく。この何もない空間から。

 

 目を覚ますと真っ白い天井と自分のことを見つめる女性がいた。

 

「目を覚ましたか!良かった……本当に、良かった……」

 

 その女性は涙を流しながら僕の手を取る。

 暖かい手だった。だがそれとは別に僕の思考は鉄のように硬く冷え切っていた。

 そうだ。この違和感の正体は……。

 

【あの……あなたは誰ですか?】

 

「なっ!……そんな……」

 

 違和感の正体は何も覚えていないということだった。なぜ自分がこの病室にいるのか、この女性は誰なのか、いや、根本的話しでは自分の名前すら分からないのである。

 女性は僕の言葉に戸惑いを見せるが、すぐに何かを思案しているように考えを話す。

 

「記憶が混濁しているのか……?。私の名前は織斑千冬。キミの一応の家族だ。詳しいことは医師の診察が済んでからにしよう。今呼んでくるから安静にして待っているんだ」

 

【わかりました】

 

 そういって織斑さんは病室を出ていく。

 僕の家族と言っていたがイマイチピンとこない。家族としての思い出が一つもないからであろう。だが、僕が目を覚ました時に涙を見せてくれたということは間違いなく心配してくれていたのだ。自分にも心配してくれる存在がいてくれたことが少し嬉しい

 

 次に自分の体を見回す。腕や足、頭にさえ外傷どころか治療の後は見られない。

 

 『一体、何故自分は記憶喪失になったのだろうか?』

 

 分からないことだらけだがそれも仕方ないのかもしれない。何も覚えていないのだから。

 そんなことを考えているときに医師らしき人が病室に入り自分に対していくつかの質問と体調などを測っていった。正直な所、記憶がないこと以外は体に不調は感じられない。検査が終わった後に再び織斑さんが僕の元へ来る。

 

「検査ご苦労だった。一応、記憶喪失以外には体に異常はないらしい。だから明日にでも退院できるそうだ。それで……お前の戻る場所何だがIS学園に戻らねばならないんだ」

 

【IS?それって女性にしか扱えない筈ですよね?どうして僕がその学園に……】

 

「実はお前はISの二人目の男性操縦者なんだ」

 

【えっ?】

 

 その後の織斑さんの話によるとISの二人目の男性操縦者であること、そして記憶喪失の原因はISの事故によるものであることが分かった。

 知識はあるが記憶がない僕にとっては全く実感がわかない。

 次に気になっていたことを織斑さんに聞く。

 

【あの、織斑さんは僕の家族って言ってましたけど……両親とかは……】

 

「キミの両親は数年前に既に他界している。両祖父母もだ。そこで身寄りのなくなったキミを家族ぐるみで付き合いのあった私が引き取ったという訳だ」

 

【そうだったんですか……】

 

「それと」

 

【?】

 

「私のことは千冬で構わない。前のキミは私をそう呼んでいた」

 

【分かりました。それじゃあ千冬さんで】

 

 千冬さんと言われたとき少し悲しそうな顔をした。前の僕は呼び捨てだったのだろうか。わからない。

 

「……いや、いいんだ。ゆっくりと思いだして行こう。私はキミの家族だからな」

 

【はい】

 

「家族と言えば私には弟がいてな、キミの同級生でもあるんだ。名前は『織斑一夏』。何か思い出すことはないか?」

 

 織斑一夏?……聞いたことあるな。たしか

 

【一人目の男性操縦者ですよね?……すいません、それくらいしか分かりません】

 

「やはり知識はあるのだな。そうだ、一人目の男性操縦者にしてキミの義理の兄だ。キミのことをえらく心配しているようだったからIS学園に戻ったら会わせてやろう。もっとも、今の変わりようを見たら驚くだろうがな」

 

 前の僕がどんな人間だったのか気になる。

 千冬さんに聞いてみるか。

 

【あの、前の僕ってどんな感じの人間だったんですか?】

 

「そうだなぁ、まずは話し方から違う。自分のことも僕とは言わず俺と呼んでいた。それに性格も今よりやんちゃな感じだったな」

 

 意外だ。

 

「ほら写真も持っている」

 

 そう言うと千冬さんは手荷物の中から一枚の写真を取り出し、僕に見せてきた。

 そこには千冬さんと僕らしき少年、それともう一人の少年が写っていた。

 たぶん彼が織斑一夏なのであろう。

 確かに写真の中の僕はすこし活発そうな顔つきをしている。

 

 千冬さんは大事そうに写真をしまうと話を続けていく。

 

「さて、これからの動きについてだが、まずは明日にでもIS学園に戻ってもらってそこから記憶のリハビリをしていこうと思う。どうだろうか?」

 

【この病院ではダメなんですか?】

 

「実はキミの記憶喪失にはISが絡んでいて検査にもIS学園の機材を使った方が良いという判断が出てな。一応、キミが目を覚ますまでは安全を考えて、この病院から動かさないようにしていたんだ」

 

【そうなんですか……少しだけ不安です】

 

「そうか……」

 

 正直、IS学園に行くのは不安だ。前の僕も不安だったのだろうか。

 千冬さんは少し暗くなっているであろう僕の顔を見ると励ますように抱きしめる。

 

「私も担任教師としてついてるから大丈夫だ。……今度は必ず守ってやる」

 

【……はい】

 

 その言葉が嬉しかった。

 千冬さんは体を離すと僕をベッドに横にならせ、布団を掛ける。

 

「今日はもう時間だから帰るよ。本当は泊っていきたいのだが生憎、仕事があってな。明日、迎えに来るから今日はもう休め」

 

【分かりました】

 

 千冬さんは名残惜しそうに病室を出ていく。

 明日から忙しくなりそうだな。

 正直、記憶を取り戻すというのがどんな感じか分からないけど出来ることはやってみよう。そう覚悟を決めたのだった。

 

◆~一日目~

 

【……IS学園って大きいですね】

 

 初めてこの学園に来た第一印象がそれだった。

 明日になり、僕は織斑先生に連れられてこのIS学園に来ていた。

 設備も綺麗だし、さすが最先端の学校なだけはある。

 

「ふふっ、初めてここに来た時と同じことを言っているな」

 

 まあ、記憶がないのだから初めてのような物であろう。

 

「他の生徒は現在授業中だ。とりあえずは寮の自室まで案内しよう」

 

 そう言って織斑先生の後を付いていく。

 そして結構歩いたところで寮につく。

 

「これがお前の部屋のカードキーだ。失くさないようにな。それと自室の中のものは全部、お前の私物だ。好きに使うと良い」

 

【ありがとうございます】

 

「とりあえずこんなところか。本当はずっとついていてやりたいんだが私も授業がある、今日の所は自室で休んでいろ。夕食になったら呼びに来る」

 

【分かりました】

 

 千冬さんと別れる。

 僕はカードキーを使い、自室に入る。

 自室には思っていたよりも『物が散乱していた』前の僕は大雑把な性格をしていたのだろうか。取りあえずは少し片づけよう。

 

 自室を掃除していると最新機種の『スマートフォン』を発見した。

 僕が使っていたものだろうか?電源を付けるとパスワードを要求される。

 ……覚えていない。仕方ない。後でどうにかするとしよう。

 

 机の近くを掃除していると『財布』と『捨てられた手紙』を発見した。

 派手な財布には一万円札がギッシリと詰まっている。普通に考えて高校生が持っていい金額ではない。一体何のお金なのだろうか。記憶のない今ではわからない。

 ゴミ箱に捨てられた手紙にはギッシリと『愛してる』と書かれていた。いたずらか何かだろうか?かなり気味が悪い。

 

 次にベッドの周りを探索する。

 するとベッドの下から『未使用コンドーム』『大人の玩具』『ハメ撮り写真』が出てくる。

 …………まずいよな。

 未使用コンドームは箱に入って見つかった。使った形跡がある。

 大人の玩具は女性が使う男性器を模したものだった。こちらも使った形跡がある。

 問題はこの写真だ。いや、まあ残り二つのものも問題なんだが。顔が隠れるように写っていて誰と誰が行為をしているのか分からない。ただ、どことなく女性の方は肌が白いようだ。

 

 何の意図があってこれらの物が自分の部屋にあるのかは分からない。

 だが、怖い。

 とりあえずベッドの下に押し込んで隠しておこう。

 

 掃除していて気づいたことだが少し『下着やシャツが少ない』

 あとで千冬さんに頼んでみよう。

 

 ふう、こんなところかとりあえずは片づけを粗方を終えた。

 途中見つかったものに関してはかなり気になるが現時点では調べようがない。

 

 掃除を終えたことだし暇だ。

 千冬さんには休むよう言われたが学園のことも気になる。

 少し散歩してみるか。

 

 




キーワード
『一体、何故自分は記憶喪失になったのだろうか?』
『織斑一夏』
『物が散乱していた』
『スマートフォン』
『財布』
『捨てられた手紙』
『未使用コンドーム』
『大人の玩具』
『ハメ撮り写真』
『下着やシャツが少ない』


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day1 ファーストコンタクト

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 掃除を終えたことだし暇だ。

 千冬さんには休むよう言われたが学園のことも気になる。

 少し散歩してみるか。

 

 僕は学園の制服に着替えた後、学園探索の準備をする。

 朝に織斑先生から貰った学園の地図と部屋で見つけた大金の入った財布、それとパスワードが分からず使えないスマートフォンも一応、制服のポケットに入れておく。

 

 向かう先は……どうしようかな……正直決めあぐねている。

 出来るならば自分の記憶につながる場所が良い。だが現状手掛かりになるものも全くない訳で……。それに病み上がりの状態だ、あまり調子に乗るのは止そう。

 

 よし!とりあえず体を軽く動かすために学園内にある公園に行ってみるか!

 

 この気味の悪い自室にいるよりは体を動かした方が良い。

 

【うん!こんな部屋にいたら気分が悪くなる!外の空気を吸いに行こう】

 

 そう決めるとほどけかけた靴紐を結びなおし、地図を片手に歩みを進めていく。

 

 すこし早足気味に歩きながら学園内を見てまわる。

 学園には様々な施設があり、見ていて飽きることはなかった。

 特に面白いと思ったのは学園内に併設された巨大な図書館であった。その規模もさることながら何よりもすごいのは書物の種類と多さであった。

 

【IS学園ってやっぱりすごいんだな……見ていて飽きないよ】

 

 いくつかの記憶に関する書物があったので手にしてみる。本を開くとそこには専門用語や難しい図式などがびっしり書かれていてどうやら理解するのは難しそうだ。

 

 『独学で記憶に関する治療を調べるのは難しそうだ』

 

 僕は立ち読みしていた本を棚に戻すと図書館を後にする。

 後は予定通り公園に行って少し休んだら部屋に戻ろう。あまり遅くなると千冬さんに見つかるかもしれないしな。

 

【学園内に公園があるって、よく考えたらすごいよな……。もう少し体調が良くなったらウォーキングとかに使えるかも】

 

 

 

 その発作は急に体を襲って来た。公園を歩いているときに急激な頭痛と気怠さ、それと意識が朦朧としてくる。

 

【クッ!……うぅ……何だ、急に……】

 

 急いであたりを見回す。

 すると近くに丁度良くベンチがあった。助かった。

 もはや立ち上がることさえ苦しかった。四つん這いの状態で近くのベンチに何とか上がり横になる。そして痛みに耐えるように自然と目を瞑る。

 

(やばいな……病み上がりで急に動いたからかな……どっちにしろ千冬さんの言うことを聞いていればよかった)

 

 目を瞑っていると段々と意識が薄れていくのを感じる。

 僕はその感覚に逆らうことは出来ず意識を手放したしまったのだった。

 

 

「………きて………」

 

 誰かが俺に呼び掛けてくるのが聞こえる。

 耳鳴りが酷くて何を言っているのかよく分からない。

 たださっきまであった頭痛などの発作的症状はなくなっていた。どうやら眠っていたら良くなっていたらしい。

 

 少しずつ耳鳴りが収まっていく。それに伴い声もはっきり聞こえ始める。

 

「起きて!」

 

 震えた声が聞こえてくるのが分かる。

 起きなきゃ……。僕は何とか重い瞼を開けるとそこには少女の顔が見えた。

 茶色い髪にツインテールのその少女は少しだけひとみを潤ませて僕の意識を確保しようとしていた。

 

 僕は何とか一声出す。

 

【えっと、あの、もう大丈夫です……たぶん】

 

「……っ!」

 

 少女は僕が無事であると確認すると思いっきり抱き着いてくる。思わず離れようとするが上手く力が入らない。

 少女の抱き着く力は思ったよりも強い。というかちょっと痛い。

 

「馬鹿!心配したんだから!」

 

 心配した?俺のことを知っている人なのだろうか?僕の記憶にはない人だ。いや、そもそも記憶自体がないため分からないのだが。

 

【あの……僕の知り合いの方ですか?】

 

「何言ってるの?まだ、どこか悪いんじゃ……」

 

【あ、いや、違うんです。実は――】

 

 そこから少女に事の経緯を説明する。決してむやみやたらに話す内容ではないことは分かっている。それでもこの少女は僕のことを心配してくれたのだから話しても良いと思った。だが記憶喪失だなんて信じてもらえるだろうか?

 

【――それで今、記憶がないんです。すいません、覚えてなくて…………】

 

「……それじゃあ、私のこともまったく?」

 

【ごめんなさい……覚えてないです】

 

 正直、結構きつい。自分にもそうだが相手のことを無碍にしているようで心苦しい。

 俺の言葉を聞いた少女は顎に手を置き、何かを考えるそぶりをする。

 

「……そっか、覚えてないんだ」

 

【本当に、ごめんなさい】

 

「…………」

 

 少しの沈黙が間に入る。空気が重くなっていくのを感じる。

 どうしようなんて言えばいいのだろうか?全く思いつかない。そんな考えで頭がいっぱいの僕より先に少女が沈黙を破る。

 

「……うん!覚えてないなら仕方ないわよ!だから……だから、そんなに悲しそうな顔はしないの!私の名前は鳳鈴音、あんたの幼馴染よ。だから敬語も無し、いいわね?」

 

 その言葉に肩の力が抜けていくのを感じる。正直、ホッとした。

 

【……うん、よろしく鈴音さん】

 

「鈴音さんって、あんたねえ。鈴で良いわよ。前もそう呼んでたんだから」

 

【わかったよ、鈴】

 

「歩けるようなら寮まで送っていくわ。立てる?」

 

 その言葉にベンチから立ち上がってみる。少しふらつくが何とか帰れそうだ。そんな俺を見て鈴は焦ったように俺の体を支える。

 

「まだ少し調子が悪そうね。倒れると危ないから手を繋いでゆっくり行きましょう」

 

 そう言って笑顔で鈴は僕に手を差し出してくる。正直少し恥ずかしいがもしもの時のことを考えるとやはり手を繋いでいた方が良いかもしれない。

 どうやら僕はかなり寝ていたらしく辺りは日が落ち少し暗くなっていた。

 鈴の手は僕よりも暖かった。

 

「にしてもあんた本当に性格変わったわね。前は僕なんて言葉使わなかったし……何だか前の時よりも落ち着いた雰囲気が出てるわよ」

 

【千冬さんにもそう言われたよ】

 

「……千冬さんにねえ。私は昔のあんたも好きだったけど、今のあんたも好きよ。だからさっきみたいに倒れる無理してまで記憶を取り戻す必要はないんじゃない?」

 

 僕の体調のことを心配してくれるとは幼馴染というのは本当のことかもしれない。

 僕はそっと頷く。

 

「今日の夕食はどうするの?」

 

【千冬さんと食堂で食べることになると思うよ】

 

「もし良かったら、私が何か作ってあげようか?今の状態で人混みの中に行かせるのは心配だしね。うん、そうしなさいよ!」

 

【そうだね、千冬さんに相談してみるよ】

 

 そんな話をしながら歩いているといつの間にか、自室に着いていた。

 鈴は僕をベッドに寝かせて、その横にイスを持ってきて座る。

 どうやら看病するようだった。

 さすがにそれはもうし訳ないと思い断ろうとしたが押し切られてしまった。

 

「あんたは今日倒れたんだから少し横になってなさい!」

 

 そう言われて渋々、仮眠をとるのだった。

 

 

 目を覚ますと良い匂いが僕の鼻へと漂ってくる。どうやら鈴が夕食を作っているようだ。千冬さんもおり、目を覚ました僕に気付いて誰かを呼ぶ。

 

「おい、一夏。目を覚ましたみたいだからお前も挨拶しろ」

 

 そう言うと台所の方から一人の青年がこちらにやって来る。逞しい体にどこか千冬さんを連想される顔つきをした青年だ。

 

「俺の名前は織斑一夏。一応、義理の兄ってことになってる。記憶喪失で覚えてないかもしれないけれど、よろしくな!」

 

 そう言って爽やかな笑顔を僕に向けてくる。彼が義理の兄の一夏君。思っていたよりも優しそうな人で良かった。

 僕はベッドから体を起こし差し出された手に握手を返す。

 

【う、うん。よろしく一夏君】

 

「一夏で良いよ!それより今、鈴と二人で夕食を作っているんだ。出来たらみんなで食べような!」

 

【ありがとう】

 

 それだけ言うと一夏は台所に戻っていく。

 千冬さんは僕に対してそっと耳打ちをする。

 

「一夏は姉の私から見ても優しい奴だ。何か困ったことがあれば頼ると良い」

 

【はい】

 

「それと、今日は勝手に出歩いて倒れかけたそうじゃないか?私の忠告を聞いて部屋で療養を取ればこういうことにならなかったんだぞ。わかっているのか?」

 

【……すいませんでした】

 

「焦る気持ちも分かるがお前の体が一番心配なんだ。少しずつ思いだして行こう」

 

【分かりました】

 

 僕が千冬さんに諭されている最中に鈴と一夏が料理の盛られた皿を持ってくる。

 

「出来たぞ」

「出来たわよ」

 

「よし、それじゃあ夕食にするか」

【はい】

 

 それから四人で夕食を取ることになった。本当は他にも友人がいて誘おうかと一夏は思っていたらしい。だが鈴が一度に大勢の人と合わせるのは僕の負担になるかもしれないということで四人での食事になった。

 料理は全て美味しかったが、特に鈴の作ってくれた酢豚は美味しかった。

 手の込んだ逸品を味わっていると鈴が千冬さんに向けて話しを始める。

 

「織斑先生、いつ頃彼を授業に復帰させるつもりですか?」

 

「明日にでもさせたいところだが、どうしてだ」

 

「いえ、もう少し、少なくとも一週間は間を開けてからの方がいいと思います。全く記憶のない状態での生活に慣れてからでないと今日のように倒れてしまうかもしれません」

 

「……そうだな。わかった。一週間は学校に馴染めるよう心掛けろ。その代わり授業には無理して出なくていい。それで構わないか?」

 

【……そうですね、そうします】

 

 授業には少し出てみたかったが倒れてしまった手前強く言うことは出来ない。ここは鈴と織斑先生に従っておこう。

 食事を済ませた後は一夏は忘れていた宿題を済ませるために、千冬さんはまだ仕事があると出て行ってしまった。

 

 僕は食後のお茶をすすり、鈴は台所で洗い物をしている。

 

「ねえ、本当に何も覚えていないの?私達の関係とか?」

 

 突然洗う手を止め僕に対して質問してくる。

 関係?何のことだろうか?

 

【うん、まったく覚えてないんだ……】

 

 

 

『だったら、教えてあげる。本当は私達付き合ってたのよ』

 

 

 

【え?】

 

マジで?

 

 




『独学で記憶に関する治療を調べるのは難しそうだ』
『だったら、教えてあげる。本当は私達付き合ってたのよ』


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day1 嘘つきたち

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『だったら、教えてあげる。本当は私達付き合ってたのよ』

 

【え?】

 

 マジで?本当に僕なんかがこんなかわいい子と付き合っていたのか?だめだ……到底、信じられない。かと言って鈴が嘘をついてるわけでもないと思う。そんなことをするメリットが全くない。それに僕からすれば今日あったばかりの初対面の相手だ……どうする……

 

【いや、あの、何か……証拠みたいなものはないかな?】

 

 ダメだ、言葉に力がない。

 鈴は洗い物を終えたのか、エプロンで手を拭きながらこちらに近づいてくる。

 顔が恐い。

 

「……証拠?ねえ、何で付き合っていたことを証明するのに証拠がいるの?私が付き合っていたって言ってるんだからそれが証拠になるんじゃないの?あんたの記憶なんて関係ない。どんな姿になってもあんたのことが好き……それじゃ、ダメ?」

 

 椅子に座っている僕に近づいてきて、鈴の体が僕の肩に密着する。鈴の手が僕の胸を蛇のように這わせてくる。

 

 自分の顔が赤くなっていくことを感じる。

 

 このままじゃ色々とマズイ。いや、マジで本当に。流されるなんてダメだ。僕の気持ちを鈴にしっかりと伝えないといけない。

 

【ごめん、疑う訳じゃないんだ……。ただ、今の僕は鈴との思い出が全くない。仮に付き合っていたとしてもそれは前の僕の話だろ?今の僕からしたら……その……今日会ってすぐの鈴と付き合うことは出来ない。本当にごめん】

 

 僕は椅子から立ち上があり、腕に密着していた鈴の体から距離を置く。

 別に鈴のことは嫌いではない。だが好きという訳でもないのだ。

 

 そんな僕の言葉に鈴はまるで納得していない風に、顔を怒りの表情に変える。目からは光が消えているようだった。怖い。

 

「ふざけんじゃないわよ!私とあんたは付き合ってたの!愛し合ってあっていたの!それをまるでなかったかのように話して……私のことが本当に嫌いなの?……どうなの?……答えろ。答えなさいよ!」

 

【う、嫌いじゃないけど……少し急ぎすぎじゃないかな?その、もしもう一度付き合う?にしてももう少し時間をかけて、もっと鈴を知ってから答えを出したいんだ】

 

 先延ばし作戦にすることにした。正直、今の鈴ちゃんを言い負けせる自信はない。ここは答えを先延ばしにしよう。

 鈴は何かを思案したのちにいつもの表情に戻る。そして真面目な顔で話し始める。

 

「……そっか。わかったわ。お互いのことをもっとよく知ったら良いのよね?」

 

【う、うん】

 

「私も少し焦り過ぎちゃったみたい。ゆっくり行きましょう…………そうよね、私が一番に見つけたんだもの、私の物に……」

 

 後半何かブツブツと呟いていたが上手く聞こえなかった。

 だが何とか折れてくれて良かった。とりあえずは切り抜けたか。

 

 鈴も部屋に戻る支度を整えていく。今日は色々あり過ぎて少し疲れた。

 

「それじゃあ私も戻るけど、明日は無理をせずなるべく部屋にいること分かった?」

 

【……そうだね。そうするよ】

 

「それとこっち来て?」

 

【?】

 

 ドアの前で立つ鈴ちゃんの近くに寄ると、頭を下げろというジェスチャーをされる。僕は鈴の背丈に合わせ少しだけ屈む、すると耳元に口を近づけそっと呟く。

 

『他の子と絶対に仲良くしないでね。私はアナタの物なんだから……』

 

【!?】

 

「それじゃあまた明日ね。しっかりと寝るのよ!」

 

 そう言って部屋を出ていく鈴。あの呟かれた一瞬が本当に怖かった。

 鈴には悪いけど後で断る方法を考えとかないとな。

 

 

 今日一日でかなり疲れた気がする。主に鈴についてだが……。

 さっさとシャワーでも浴びて寝よう。

 そう思い入浴の準備を進める。

 

 裸になってバスタオルをもって浴室に入る。浴室は部屋と違って清潔になっている。

 よく見たら『ボディソープやシャンプー、リンスが複数種類ある』

 日ごとに変えていたりしたのだろうか?

 

 まあ気にするほどのことでもないか。僕は蛇口をひねり暖かいお湯を頭から浴びる。

 

 だが気味の悪い異変を突如感じる。

 『誰かに見られているような視線を感じるのだ』

 すぐに後ろを振り向くが誰もいないし何もない。いや、思い返せばこの部屋に入った時から誰かに見られているような感じがする。思い過ごしだと良いが……。

 

 視線のような物を感じたが現状なにも起きていないため気にしないように入浴をササっと済ませる。着替えを終えて、ドライヤーを使い少し長めの髪を乾かすと後は寝るだけだ。

 

 僕が寝ようとした瞬間に部屋のチャイムの音が鳴る。

 誰か部屋に用事があって来たのか?いや、待て。ここは出るべきなのだろうか?

 どうするべきか思い悩んでいるうちに鍵をかけたはずの扉が開く。

 

 入ってきたのは水色の髪に赤い目をした女性であった。

 

「いるのならもっと早く開けてくれればよかったのに!」

 

【えっ……あの、誰ですか?】

 

「……私の顔を見ても思い出さない?」

 

【申し訳ないですけど……はい】

 

「そっか。記憶喪失っていうのはどうやら本当らしいわね……。私はこのIS学園の生徒会長、更識楯無よ。よろしくね!」

 

【生徒会長ですか!?】

 

 生徒会長だったのか。というか勝手に鍵開けて部屋に入ってくるのはどうなのだろうか?居留守を使おうとした僕が言えた義理ではないが。

 

「そう。それで今日復帰したばかりのかわいい後輩の様子を見に部屋に来たんだけど、いくら鳴らしても出てこないから、もしかして倒れてるんじゃないかと思ってこのマスターキーで開けたってわけ」

 

【なるほど、今日一度、発作を起こしましたから。すいません、いらない心配をかけてしまって。あ、どうぞ座ってください。今、お茶か何か……】

 

「ふふ、大丈夫!私とキミの仲なんだから余計な気遣いは無しよ!私が代わりにいれてあげるから座って待っていなさい」

 

【す、すいません】

 

『会長は慣れた手つきで準備を進めていく』

 正直、茶葉の場所とか分からなかったので助かる。

 記憶のなくなる前の僕と楯無生徒会長は仲が良かったのだろうか?

 

【あの、僕と会長はどういった関係だったのでしょうか?】

 

 正直な所、鈴との一件があってから前の自分に対して信用ができなくなっている。変なこと言われる前にこの会長と自分がどういう関係だったのかはっきりさせたい。

 会長は僕の前にそっとココアを置く。

 視線をマグカップから会長の顔に向けると目が合う。するとニッコリと可愛らしく笑いかけてくる。可愛いけど早く答えてくれよ……

 

 そして散々じらしてやっとその口を開いてくれる

 

「……私達の関係よね?例えば記憶のないあなたに対して私は恋人だったと言えば、本当にそうなるのかしら?」

 

【えっと……そういうことにはならないと思います】

 

「つまりは私が何を言ってもそれを裏付ける証拠がないのだから無駄ということよ」

 

【はあ、そうですね】

 

「だからキミは誰かに何かを吹き込まれたとしてもそれを簡単には信じてはいけないこと!良いわね?真っ白で無垢になったキミを狙う輩は少なくないんだから。例えばさっき話していた中国代表候補生の鈴ちゃんとかね」

 

【どういうことですか?】

 

 鈴が僕を狙っている?どういう事だ?

 

『キミは鈴ちゃんと付き合ってなんかないなかったわ』

 

 やっぱりそうだったのかあまりにぐいぐい押してくるから、鈴のことはあまり信用できなかった。それにどうして僕なんかと付き合いたがっていたのだろうか?分からない。

 

【……それじゃあ、会長と僕の関係はどういったものなんですか?】

 

「私はキミのお姉ちゃん。キミが困っているときに助けて、キミが悩んでいるときに解決して、キミの側にずっと寄り添うって約束したお姉ちゃん。それが私の役目。そして私がお姉ちゃんであることを君は受けいれてくれた。誰にも渡さない。私だけの可愛い可愛い弟、それがあなた。本当のことよ?」

 

 僕の姉になったつもりでいる彼女は恍惚な笑みを浮かべながら話した。

 会長は少し頭がおかしいのも知れない。急にお姉ちゃんだなんて……

 

【あの、前の僕がどうだったか知りませんが、冗談ですよね?】

 

 それまで笑顔で話していた会長の顔が一瞬固まる。

 鈴の時には先延ばしにしたが今回はハッキリと断ろう。

 

「照れないの。寂しいならお姉ちゃんに甘えても――」

 

 急にお姉ちゃんがどうとか言ってきて気持ち悪い。ここはしっかり断らないと。

 

【昔はどうあれ今の僕はあなたの弟じゃないですから……】

 

『ふーん、私をあんなに散々働かせて、ちょっと虫が良すぎるじゃないかしら?』

 

 働かせる?一体どういうことだ?過去の僕が会長に何かを頼んだりしたのか?

 うろたえる僕をしり目に会長はどんどんと話していく。

 

「まあいいわ、今日の所はこれくらいにしましょう。貴方が否定しようとも私はあなたのお姉ちゃん何だからね?いつでも頼っても良いのよ、前みたいに……。それと、あまり人に会うのは避けた方が良いわよ。面倒くさいことになるから」

 

【わ、わかりました】

 

「それじゃあ、またね、弟くん!」

 

 そう言って自分で入れたココアを飲み干すと部屋を出ていく。

 『鈴の恋人発言を何故か会長が知っていた』

 やっぱり鈴の言っていたことは嘘だと僕も思う。会長は僕を弟としてみているらしい。だけど、鈴ちゃんも会長もどこか狂気的な雰囲気を漂わせていた。

 何が真実で何が嘘なのかを見極める必要があるのかもしれない。

 

 僕も入れてくれたココアを飲み歯を磨く。さっきまであまり眠気はなったが、何故か一気に強い眠気が襲ってくる。僕はベッドに潜り込み眠るのであった。

 

 




『他の子と絶対に仲良くしないでね。私はアナタの物なんだから……』
『ボディソープやシャンプー、リンスが複数種類ある』
『誰かに見られているような視線を感じるのだ』
『会長は慣れた手つきで準備を進めていく』
『キミは彼女と付き合ってなんかいなかったわ』
『私を散々働かせて、ちょっと虫が良すぎるじゃないかしら?』
『鈴の恋人発言を何故か会長が知っていた』


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day2 姉弟

主人公のセリフは全て【】です
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返信しちゃうとネタバレになりそうな感想はスルーします ゴメンネ



 目を覚ますと既に朝になっていた。

 どういう訳か寝起きだというのに酷く頭が重い。それに体も疲れが取れた感じがしない。何とか体を起こすと口元に違和感を感じる。どことなく気持ちが悪い。

 

【……ん?涎でも垂らしていたのかな……】

 

『何故か口元がベタベタする』

 

 涎を垂らすほど熟睡していたつもりはないのだが。枕にも垂れていないか確認する。

 枕にはシミ一つなかった。だがそれとは別に気になるものが落ちていた。

 

【水色の髪の毛……】

 

 更識会長の髪の毛だろうか?だがどうして僕の枕にくっついているのかわからない。僕が寝ている間にこの部屋に会長が来たとか?仮にそうだとしても寝ている僕の元に来る理由がない。まさか、僕の寝首を掻くために来たとか……。さすがにそれはないか。

 僕が気付かなかっただけで、前から落ちていた髪の毛ということもある。

 後で会長に聞いて見よう。

 

 まずは顔を洗おう。そう思い立ち上がるが一瞬、ふらついて倒れかける。やはり疲れていたのだろうか。何とか体勢を立て直し、頭を押さえながら洗面所までたどり着く。

 やっとのことで顔を洗うことが出来た。少しだけサッパリとした気分になった。

 

 気分が少しだけ良くなったところで、洗面台の時計に目をやると7時を少し過ぎたところであった。もうそんな時間か。

 

 とりあえず朝食でも取るか。そう思い立った僕は冷蔵庫に向かう。確か昨日の残り物があったのでそれを食べよう。冷蔵庫から取り出した料理を電子レンジでさっと温めてテーブルの上に運ぶ。

 この料理は昨日、鈴と一夏かが作ってくれた料理だ。鈴はともかく一夏が料理できるのは意外だった。僕自身はあまり料理なんてしたことがないからだ。やっぱり男でもある程度料理は出来た方が良いのかもしれない。

 

 食べながら考える。今日はどうやって過ごそうか……。鈴や会長にはあまりで歩かないように言われている。今日の所は大人しく部屋の中にいようかな……。

 いや、だが一刻も早く記憶を取り戻したいという気持ちもある。昨日の出来事から、前の僕に対する信用はガタ落ちしている。重大な出来事が起きる前に思い出さないと……。

 

 汚れた食器を流し台に放り込むとクローゼットの中を漁る。そして目当ての学ランをモデルとしたIS学園の制服を取り出す。

 やっぱり授業の見学位はしておかないと。

 慣れない制服に着替える。よし、これで準備は良いか。

 ん?右と胸もとのポケットに何か入ってる?何だろう?

 

 取り出してみると『タバコとライター』『高そうな手帳』が入っていた。

 

【…………またか】

 

 僕の記憶が正しければまだ喫煙してはならない年齢の筈だが、どうやら前の僕はそのことを気にしてなかったみたいだ。仕方ないタバコとライターは机の中に隠しておくか。

 

 問題は手帳の方だった。これは何か重要なことが書かれているかもしれない。開けてみると予定などが書きこまれている。パラパラとページをめくってみるが大したことは書かれていないようだった。何となく残念な気持ちになるが最後のページに気になる物を発見する。

 

 そこには『宛名の書かれてない電話番号』が書かれていた。 

 

 うーん、誰の電話番号だろうか。あとで電話を掛けてみるか?いや、その前に携帯自体が使えないんだっけ。まずはそこをどうにかしないといけない。

 

 

 

 

 手帳をしまうと同時に部屋のチャイムが鳴る。どうやら誰か来たらしい。

 

 扉を開くとそこには鈴がいた。

 朝から会いたいとは思わない相手がいたことで少し……いや、かなり気が滅入る。

 もちろんそんなことは態度には出さない。

 

【おはよう、鈴】

 

「おはよう!昨日は眠れ――――……ねえ、なんで制服なんか着てるの?もしかして授業に出るつもりだったの?」

 

【う、うん、見学だけでもしようかなって……ええと、どうしたのいきなり?】

 

 急激に空気が濁っていくのが目で分かるようだ。

 

「ダメじゃない……病み上がりの体で、動こうとするなんて……今日はゆっくり休んでないとダメでしょ。着替えるの手伝ってあげるから、ベッドに行こう?ね?」

 

 子供に語り掛けるような優しい声で話してはいるが、ハッキリ言って恐い。

 それに鈴の目線はずっと僕に向けられていてる。ずっと僕の顔だけを見ている。

 さすがに言われっぱなしという訳にもいかないので刺激しないように言葉を一つ一つ選び語り掛けていく。

 

【無理をしてでも記憶を取り戻したいんだ……、それに見学するだけだから体への負担も少ないと思う。鈴も心配してくれているんだよね……ありがとう。僕は大丈夫だからあまり僕に気を使わなくても良いんだよ?】

 

 僕の話に鈴の顔が怒りに満ちる。

 

 良い話風にまとめたつもりだったんだけどなあ……

 

「あんたねぇ!どうせそんなこと言って他の女に会うつもりなんでしょ!目を離すとすぐに女に手を出すところはあの頃から何も変わってないんだから!他の女には絶対に渡さない!絶対に!」

 

 鈴のあまりの剣幕に少しだけ後ずさる。それと前の僕への罵倒も混じっていた。

 

【ごめん……鈴の言う通り、今日は部屋にいるようにするから。だから落ち着いて】

 

「ハァハァ、ふぅ――……部屋にいてくれるのよね?わかったわ……それと、ごめん、急に怒るような言い方になっちゃって……ほんとごめん」

 

 落ち着いた鈴は先ほどまでの怒りは消え、今度は何かに怯えるような口ぶりで謝ってくる。そんな姿に僕の胸は心苦しさを感じてる。

 慌ててフォローに入る。 

 

【良いんだ……悪いのは聞き分けのなかった僕の方だから……あの、気にしないで。あ!ところで鈴はどうして僕部屋に来たの?何か用事があったんじゃ?】

 

「そうだったわ!お昼に食堂に行かず食べれるようにお弁当を作ってきたの!」

 

【そう、なんだ……】

 

 余程鈴は、僕を部屋から出したくないみたいだ。

 好かれているのは分かるが少し重く感じてしまう。

 

 鈴は持っていたバッグを俺に差し出す。僕がそれを受け取った瞬間、鈴はニタりと笑った。あと小声で何かを呟いた。

 

『………………やっと受け取ってくれた』

 

【?】

 

「何でもない、独り言よ。それじゃあ私は教室に向かうけど約束は守ってね!あと、お弁当の感想も聞くからしっかり食べておくこと!わかった?」

 

【うん、わかったよ。いってらっしゃい】

 

 鈴ちゃんはやっぱりどこかおかしい。僕の行動を制限したり、嘘をついたり。記憶を取り戻すための障害になる気がする。これからは注意して接しよう。

 

 

 

 やっと行ったか……かなり疲れた。俺は弁当が入ったバッグを机の上に置くと制服から着替えていく。授業に出るなと怒られた以上しかたない。大人しく部屋にいて本でも読んだりしていようかな。

 

 そう考えながら着替えていると後ろから誰かに肩を叩かれる。

 ハッとして後ろを振り向くと、そこには昨日出会った更識生徒会長が立っていた。

 安堵と同時に驚きも有ったため腰から力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。

 

「今朝の状態を聞きに来たわよ」

 

【!?――……脅かさないでくださいよ、会長】

 

「あら?脅かすつもりはこれっぽっちもなかったわ。ただ弟くんの部屋に入ったら可愛らしい背中があってつい触っちゃったのよ」

 

【普通にチャイム鳴らして入ればよかったじゃないですか……はぁ……】

 

「もうそんなにため息ばかりしていると幸せが逃げちゃうぞ!お姉ちゃんが抱きしめて元気を分けてあげる!」

 

【ちょっ、引っ付かないでくださいよ!】

 

 後ろから抱きしめられる。動こうとするがビクともしない。すごい力だ。

 というか背中越しにアレの存在を感じられる。すごい恥ずかしい。

 会長は後ろから自身の口元を僕の耳に近づけくすぐるように話す

 

「ねえ、本当に私だけの弟にならない?私は前のあなたのことが好きで記憶が消える前も沢山のことをしてあげたのよ?……それでも振り向いてはくれなかったけど。だけど今のあなたは違う。私のことを性処理道具や便利屋ではなく一人の人間としてみてくれている。それが嬉しくて仕方ないの!ふふ、それにあなたも薄々感づいてるはずよ……前のあなたの人間性に……」

 

【それは……】

 

「私の弟になればあなたの犯した罪から守ってあげる。私の全てを捧げててもいい。だから……だから!私だけのものでいて……おねがい」

 

【すいません、それは出来ません】

 

「なんで……」

 

【僕が求めているのは記憶です。それがどれだけ濁っていようとも受け止めたいと思います。だから、会長の思いにはこたえられません】

 

「ふーん、そっか」

 

 そう言って会長は僕から離れた。

 会長の顔は相変わらず軽い笑みを浮かべているだけだったがそれが気味悪い

 会長は平然を装いながら言葉を返す。

 

「私はいつまでも待ってるからね。弟くん」

 

【僕は自分の記憶を取り戻すだけです。そして自分の罪に向き合う】

 

「本当に償い切れると思っているなんて……まあでも、それくらいのガードのほうが落としがいがあっていいかな♪」 

 

 

 

 一拍の沈黙の後、あることを思い出す。

 そうだ落ちてた水色の髪の毛について聞いて見るか。

 

【あの話は変わるんですけど、会長の髪の毛が僕のベットに昨日落ちてたんですけど。何か知りませんか?】

 

「ちょっと見せて…………ああ、そういうこと」

 

【何か分かったんですか?】

 

「私が来た時に偶然飛んで行ったものじゃないかしら?」

 

【そうですか】

 

「それじゃあ私も授業が始まるから、また暇なときにでも来るわ」

 

【いってらっしゃい】

 

 

さて、推理小説でも読んで時間を潰すか

 

 




『何故か口元がベタベタする』
『タバコとライター』
『高そうな手帳』
『宛名の書かれてない電話番号』
『………………やっと受け取ってくれた』


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day2 青い雫

主人公のセリフは全て【】です
重要な個所は『』で囲みます


 

 仕方なく制服から私服に着替える。

 鈴から強い釘を刺され授業の見学に行けなかったので仕方なく自分の趣味の読書に時間を費やすことにした

 

 備え付けの机に座り昨日借りてきた推理小説を読み始める。

 前の僕はどうかは分からないが今の僕は本を読むのが好きだ。時間を潰すにはこうして推理小説を読むのが一番いいと思っている。

 

 ページを開いていざ読み始めようかと思うのだが、何となく考え事をしてしまう。

 考えるのは鈴と生徒会長のこと、前の自分のことについてだ。

 そのことが気になって本に集中できないでいる。

 仕方ない一度、周りの状況を整理してみよう。

 

 まずは鈴について

 鈴は僕の幼馴染らしい。性格は活発でサバサバとしている。

 ただ大きな問題がある。僕に対してたぶんだが嘘をついている可能性がある。記憶がなくなる前、僕と付き合っていたと主張しているのだ。会長の発言や鈴の異様な束縛から嘘だと推理してはいるが確証はない。前の僕はそうした異常性を見抜いていたため付き合わなかったのだろうか?今の僕も鈴のことはそこまで嫌いではないが付き合いたいとは考えていない。

 これからの対応としてはあまり関わらないようにしていこう。

 

 次は楯無会長だ

 つかみどころのない性格をしていて僕からしたら疲れる相手だ。

 前の僕との関係はよくわかってない。ただ会長の話から前の僕が会長のことを良いように使っていたらしいことが分かる。

 そして問題は僕に対して異様な執着をしてくることだ。会うたびに自分の弟と呼び、自分の手元に置きたがって来る。鈴の束縛よりはまだましかもしれないが、それでも用心するに越したことはない。

 これからの対応としては出来るだけ会わないくらいしかできない。急に来られたらどうしようもないため抵抗はほぼ無意味なのだが。

 

 僕の目的はあくまで記憶を取り戻すことだ。そのためには過去の自分を知る必要がある。だが過去の自分について調べれば調べるほど碌なものが出てこない。

 会長を便利屋やアレに使ったり、アレをした形跡が結構あったり、喫煙グッズやアレな物があったりともしかしたら結構酷い奴だったのかもしれない。

 

 そんな罪深い過去でも僕は記憶を取り戻したいと考えている。

 自分が犯した罪からは逃れることは出来ない。

 だったらそれらに向き合い償いをしたいと思う。

 

 今のところ思い出す方法の可能性として前の僕に関わりを持っていた相手に話を聞こうと一番だと考えている。それなら記憶を思い出せなくても過去の自分の行ったことを知ることが出来るからだ。

 

 今日はともかく明日からは出来るだけ多くの人と関わり話を聞いていこう。会長や鈴に邪魔されるかもしれないが、こればかりは自分のことだ。自分で何とかしないといけない。

 

 そう考えをまとめると手に持っている文庫本を再び開き、読書に集中する。

 今日の所は外出しない約束をしているため不用意に部屋を出ることは出来ない。

 

 本でも読んで時間を潰そう。

 

 

 

 学校の昼のチャイムが鳴る。

 本の世界に入り込んで気付かなかったがどうやらいつの間にか昼の時間に入ってしまったようだ。

 僕はテーブルに移り椅子に座る。そして鈴から受け取ったバッグを開けると中にはかわいらしい弁当箱が入っていった。

 

 はぁ、一応感想を聞くって言ってたから食べないといけないな……。

 

 弁当箱の一段目を開くと酢豚をメインとした栄養バランスのいいおかずがきれいに並べられて入ってた。二段目には白いご飯が入っている。それは誰もが認めるであろう手の込んだお弁当であった。鈴は本当に俺のことを思っているのが伝わる。

 まあ、実際は結構重い女性だと思っていないわけではないが……。

 

 箸を取りさあ、食べようかという時に部屋のチャイムが鳴る。

 誰だろうか?

 

 ドアを開けるとそこには以外にも千冬さんが立っていた。

 

【あの、何か用事でしょうか?もしかして何か粗相でも……】

 

 突然千冬さんが来たことで委縮してしまう。というのもタバコの件やアレな物たちを発見してしまったためだ。そのため教師であり姉である千冬さんにはどこか後ろめたさを感じてしまうのだ。

 

「あ、いや、そんなに畏まらないでくれ。その、お前の様子を見るついでに一緒に昼食をとろうと思ってな。一人で食べたいというのならそれでもいいんだが……」

 

 いつになく消極的な千冬さんがそこにいた。

 まあ、一人で食べていても退屈なだけだし喜んで千冬さんの提案を受けよう。

 

【そんなことないですよ!恥ずかしい話なんですけどIS学園にまだ慣れてなくて少し寂しかったんです。千冬さんが一緒に食べてくれるなら僕も嬉しいです】

 

「そ、そうか!では一緒に食べるか!」

 

 その言葉を聞いた僕は千冬さんを部屋の中に招き入れる。千冬さんはウキウキしていて少しだけ幼く見えた。二人で向かい合うようにテーブルに座り、千冬さんは自分のお弁当を取り出した。

 千冬さんのお弁当も鈴ほどではないが手の込んだものであることが分かる。

 

【僕のは鈴が作ってくれたんですけど、千冬さんのお弁当も手作りですか?】

 

「私のは一夏が作ったものだ。昨日の晩飯もそうだが一夏は料理が上手でなこうして弁当まで用意してくれる」

 

【自慢の弟という訳ですね】

 

「……そうだな。少し鈍感なところもあるが真っすぐ育ってくれた」

 

【なるほど】

 

 『もしもの時は一夏に頼ることも出来る』わけか。まあ出来るなら自分で何とか事態を収めたいという思いがあるが。

 

「一夏だけじゃないさお前も私の自慢の弟だ。なにか困ったときは必ず私を頼ってくれ。出来るだけ力を貸そう」

 

【ありがとうございます。あの、前の僕は千冬さんから見てどんな人でしたか?】

 

 自慢の弟と言ってもらえるのは嬉しいが、今の僕は自分に自信が全く持てていない。だからこうして千冬さんの前の僕に対する評価が知りたくなってくる。

 

「そうだなぁ、私から見て『とても真面目で良い子だった』と思う。一夏と一緒に家事をやってくれたり、私が疲れているときはさりげなくフォローしてくれたり、とにかく人の気持ちを理解することに長けた子だった。少しやんちゃなところもあったがな」

 

【そうですか……】

 

 千冬さんからの前の僕に対する評価は高いように感じる。

 千冬さんの前でだけそういうキャラクターを演じていたのか、それとも家族だから優しくしていたのかは分からないが、少なくとも千冬さんに対しては家族ということで何か感じていたのかもしれない。

 

「……私はお前のことを一番に考えている。『本当にどうしようもないときでも私はお前の味方だ。それを忘れないでくれ』」

 

【ありがとうございます】

 

 そう言って千冬さんはあまり見せない笑みを浮かべて俺に微笑んでくれる。

 千冬さんに助けを求めても良いかもしれない。

 

 そうだ!あのことを千冬さんに頼まないと……

 

【千冬さん、早速頼みたいことがあるんですけど……】

 

「どうした?何か不安なことであるのか?」

 

【あの、実はいまパスワードが分からなくて携帯電話が使えないんです。出来ればで良いんですけど代わりの携帯を用意してもらえないでしょうか?】

 

「……ふぅ、そんなことか。分かった。後で用意しよう。……おっと、忘れていた。私からもお前に渡すものがあったんだ。これだ」

 

 そう言って千冬さんが取り出したのは一枚の便箋であった。

 それを受け取って宛名を確認してみるとセシリア・オルコットの名前が書かれていた。聞いたことも無い名前だ。

 

【あの……これは?】

 

「お前のクラスメイトで友人のセシリア・オルコットがお前当てに書いた手紙だ。今日のHRでお前がリハビリで学校に来ているとクラスの皆に伝えたんだが、その時、オルコットから渡して欲しいと預かった。たぶんだが、励ますような内容のことが書かれているんじゃないか?」

 

【……オルコットさん?。分かりました後で読んでみます】

 

 その後は談笑しながら昼食を食べた。

 

 昼休みが終わり千冬さんが出て行ってからベッドに横になりながらもらった手紙を開ける。そこには――……

 

「今日の深夜一時 寮の屋上で待っています」

 

 とだけ書かれていた。どういう意図にしろさすがに無視はできない。夜になったら行ってみるか。

 

 

 

 

 その後はふて寝をして時間を潰し、夕方になってまた鈴と一夏の三人で夕食をとった。

 鈴にお弁当美味しかったと言ったら目に見えて喜んでいるのが分かった。ただ、今度からは自分で作るから大丈夫と言ったら落ち込んでいた。一夏がいる手前怒ることはなく渋々了承してもらえた。

 

 そして時間は深夜の一時。薄暗い寮内を進んでいき屋上を目指す。

 IS学園の寮はかなり広く屋上も芝生が生えベンチがあるなど公園のようなデザインになっていた。

 

 屋上には一人の少女が月明かりに照らされてベンチに座っていた。輝くような金色の髪の女子生徒だった。

 彼女が僕を見た瞬間すり寄ってくる。 

 そしてそのまま突然抱き着いてくる。 

 予想外の行動に思わず赤面する

 

【ちょ、ちょっと急になんだよ!】

 

「はぁはぁ……久しぶりの匂い、この感触、ずっと、ずっと、我慢していたんです。それこそ我慢しすぎておかしくなりそうなくらい……ああ、最高、愛してますわ」

 

【や、やめ……いい加減にしろよ!】

 

 さすがに人の話を聞かなすぎる。無理矢理引き離そうとするが力が強くなかなか離れてくれない。やっとのことで引き離す。会長といいこの学園の女子は力も強いのか。

 

「大丈夫です。今回はお金はもちろん、タバコもお酒も最高級の物を用意しています。あなたのためだけにですのよ?だから、たっぷり楽しませてください。私の側にいてください。少しだけでいいんです。あなたからの愛を、慈悲を、どうかわたくしに……」

 

 まずいな。前の俺は何をしたんだ?

 




『もしもの時は一夏に頼ることも出来る』
『とても真面目で良い子だった』
『本当にどうしようもないときでも私はお前の味方だ。それを忘れないでくれ』」


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day2 奉仕

主人公のセリフは全て【】です
重要な個所は『』で囲みます


「大丈夫です。今回はお金はもちろん、タバコもお酒も最高級の物を用意しています。あなたのためだけにですのよ?だから、たっぷり楽しませてください。私の側にいてください。少しだけでいいんです。あなたからの愛を、慈悲を、どうかわたくしに……」

 

 まずいな。前の僕は何をしたんだ?タバコはともかく酒って……いや、本当は両方ともダメなんだけど。どうする?どうすればいい?

 よし!……とりあえず落ち着かせることに専念しよう。

 

【あのオルコットさん?悪いんだけどキミのことを覚えてないんだ、ごめん】

 

「…………」

 

 ちょっとハッキリ言いすぎたか?いや、でも最初にビシッと言っておかないと後々引きずることになるかもしれないし拒絶できるとき拒絶しておこう。

 

「ああ、そういえば記憶喪失でしたわね。忘れっぽいのは昔からなんですから……。記憶喪失でも関係ありませんわ。わたくしはあなたにずっと尽くすと決めておりますの」

 

【えぇ……】

 

「わたくしはあなたのためなら何だってできます。現に記憶を失くす前と同じようにこうしてあなたの好きなお酒やタバコ、お金もこっそりと用意してきましたわ♪」

 

 そう言ってバッグを僕に押し付けてくる。中身を確認してみると明らかに高そうなお酒が数本とタバコがカートンで、それと分厚い封筒が入っていた。一応、中身を取り出してみると万札が入っていた。僕の財布が膨らんでいたのはこういうことが理由だったのか。

 やばい、明らかにやばい。後でお金返さないと……。

 

【あの、一ついいかな?】

 

「はい?」

 

【僕とオルコットさんってどういう関係だったの?】

 

「ふふ、面白いことお聞きになりますわね。もちろん恋人同士でしたわ。しかも『結婚を誓い合った』」

 

 たぶんだけど前の僕の愛人か何かだったんだろう。それで良い様に使われてこうしてお金や物を貢いでいるのかもしれない。酷いってレベルじゃねえぞ。もう嫌気が差してきた。とりあえず今の僕と前の俺とは別であることを説明しよう。

 

【オルコットさん悪いんだけど今の僕はオルコットさんと付き合うことは出来ない。オルコットさんとの記憶もないし、キミを好きだという気持ちも無くなってしまったから】

 

「…………」

 

 空気が急に重くなる。一刻も早くこの場から逃げたいという衝動に駆られる。

 なんて声を掛ければいいのだろうか……。

 

【あの――……】

 

「どうして!どうしてそんなことを言うんですか!ああ、やっぱりもっとお金が必要だったんですの?それなら今すぐ用意します。言われれば何だってやります。だから、だからどうかもう一人にしないでください……一人はもう嫌なんです……」

 

 そう言うとオルコットさんの青い瞳から大きな涙の粒が零れ落ちていった。

 俺は咄嗟にセシリアを抱きしめてしまう。

 

【オ、オルコットさん泣かないで。あの付き合うことは出来ないけど、ほら、友達とかなら大丈夫だから、だから泣かないで】

 

 オルコットさんからも抱きしめ返されてしまう。何で抱きしめちゃったんだろう……は、恥ずかしい。というか胸が当たってる。『鈴にはない感触だ』

 

「うぅ……恋人がいいです…………」

 

【恋人って……。オ、オルコットさんに出会ったのは僕からしたら今日が初めてなんだ。だから好きとか以前にキミのことをよく知らないから。その……勘弁してもらえないかな】

 

「…………わかりましたわ。ただし――」

 

 限界まで目が見開かれ肩を掴まれる。そして、また涙を零しながら僕に向かって警告する。

 

「他の方ではなく誰よりも何よりも先に私を頼ってくださいね?」

 

 完全に僕に対して奉仕をすることが依存になってしまっているようだ。このお金も物品も恐らくオルコットさん自身が前の僕に対しては離れて欲しくない一心で貢いだものに違いない。時間はかかるかもしれないがオルコットさんを少しずつでも正常な状態に戻したい。

 だからこそ思う。お金で必死に繋ぎとめようとするオルコットさんは悲しい人なのかもしれない。

 

【わかった。何かあったら必ず相談するよ】

 

「……はい、いつでも呼んでください」

 

 

 

 

 その後はなくセシリアを介抱しながら彼女の部屋にまで送る。セシリアが用意してきた物は結局そのまま受け取ってしまった。彼女がどうしても受け通って欲しいと頭まで下げだしたのだ。渋々、吸わないタバコと、飲まない酒と、使わないお金を受け取ることにした。後で隠しておかないと。

 

 ふう、これでゆっくり休める。そう思って自室に戻ると既に人が居た。

 

【あの何をしてるんですか千冬さん?】

 

「お前が帰ってくるのを待っていたんだが……随分遅かったな?何かあったのか?」

 

【ええと、あの、少し外の空気を吸いたくて屋上にいました】

 

「その紙袋は?」

 

【あー、図書館で借りた本です、外で読んでいました】

 

 やべーよ。よりによって千冬さんがいるなんて。今持っている者を詳しく調べられたりしたら一発でアウトだ。誤魔化しきれるか?

 

「そうか……」

 

【はい】

 

 追及はしてこないようなのでそそくさと持っていたものを机の中に隠す。

 これでバレずに済んだな

 千冬さんが座っているテーブルの向かいの席に座る。

 

【それで何か用事があって来たんですか?】

 

「ああ、実はお前が昼に言っていた携帯の準備が出来たんだ。私とお前の担任の山田先生、それと一夏の連絡先が入っている。何か危なくなったり、分からないところがあれば私に連絡すると良い」

 

 昼に話したのにもう携帯電話の準備が出来るとは、さすがIS学園と言ったところだ。

 デザインはシンプルなスマートフォンだった。

 

【ありがとうございます。大切に使いますね】

 

「喜んでもらえて何よりだ。他に何か聞きたいことがあったら言ってくれ」

 

【セシリア・オルコットについてもっと詳しく教えてください】

 

 先ほどまであっていたセシリアのことを千冬さんに聞く。屋上でのセシリアはだいぶ病んでいたように見えるので第三者からの客観的な意見が欲しいのである。

 千冬さんは隠すようなことも無く平然と話していく。

 

「イギリス代表候補生で私の受け持つクラスの生徒だ。記憶のなくなる前はお前や一夏や鈴たちとよくつるんでいたな。セシリアがどうかしたのか?」

 

【いえ、さっき会って軽く話したぐらいで……何も】

 

「そうか」

 

 恋人というよりも友人的な関係のようであった。どんどんと疑心暗鬼になっていく。何が正解で何が嘘なのか分からない。

 あ、そういえばあのことも気になっていたんだっけ。

 

【もう一つ質問があるんですけど、僕の本当の両親ってどんなひとでしたか?】

 

「…………どうしても聞きたいか?」

 

【はい!お願いします!】

 

 ずっと気になっていた僕の家族についてだ。千冬さんに引き取られたのは聞いてはいるがその前のことは知らない。もしかしたら過去を知ることで記憶の復活に繋がるかもしれないからだ。

 千冬さんは大きくため息を一つ吐くとゆっくりと話し始めた。

 

「お前の両親は研究者でな、IS登場以降はIS委員会に勤めていて世界各国を回りながら研究していた。お前もそれにくっついて様々な国を回っていた。しかし、ある時『ISの暴走事故により命を落としてしまった』一人になったお前はIS繋がりで仲の良かった私が預かることになったという訳だ」

 

【そう……だったんですか】

 

「前も言ったがお前は家族だ。遠慮はなしだ」

 

【あの、前の僕は千冬さんのことを何て呼んでいたんですか?】

 

「ああ、千冬姉さんだ」

 

【だったら僕も今日から千冬姉さんって呼びます!】

 

「え!」

 

 千冬さんが家族と言ってくれた以上はよそよそしい呼び方はしたくなかった。それに初めて千冬さんと呼んだ時も悲しそうな顔をしてたし、やっぱり千冬姉さんって呼んだ方が良いのかもしれない。

 

【ダメですか?】

 

「ダ、ダメじゃない。いや私もそう呼んでもらえると嬉しい……と思う」

 

【それじゃあよろしくお願いしますね。千冬姉さん!】

 

 その言葉を聞いた千冬姉さんは無言で僕の頭を撫でてくる。千冬さんの手は温かくて心地が良かった。

 

 その後は千冬姉さんは自分の部屋に戻り、僕も就寝の準備に入った。両親の過去も聞けたし、セシリアとも出会った。もうこれ以上、前の自分の悪行がないことを願いながら『眠りについたふりをした』

 

 やっぱり今朝のことが気になる今日は少し様子を見てみることにしよう。




『結婚を誓い合った』
『鈴にはない感触だ』
『ISの暴走事故により命を落としてしまった』
『眠りについたふりをした』


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