Muv-luv Over World (明石明)
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プロローグ

 唐突に俺、神林零は死んだ。

 それこそ命の終わりなんて、いつでも起こり得るということを体現したかのように。

 最後に認識できたのは、ただ交差点でぼーっと信号が青くなるのを待っていたところへ、何故か歩道をバイクで走るバカに撥ねられ、車道に舞った身体にトラックが迫っていたところまでだ。

 それ以降は意識が途切れ、気づけば血まみれになった自分を見下ろしていた。

 理不尽だ、横暴だ、ただ突っ立っていただけで人生終了とか冗談でも笑えない。

 

 

「こういう時、誰に文句を言えばいいんだよ……」

 

 

 意味がないと思いつつ呟くと、何やらプロペラの音が聞こえてきた。

 しかしヘリコプターにしては、何処と無くローター特有の力強さが感じられない。

 音がする方へ顔を向けると、妙に汗をかいている金髪のデブいおっさんが青狸のひみつ道具みたいなプロペラを頭につけてこちらに向かってきていた。

 

 

「うわ、こっちくんじゃねえ!」

 

 

 見た目一発でお近づきになりたくないおっさんから逃げるように、回れ右と同時に駆け出す!

 

 

「お待ちください! 話をお聞きください!」

 

 

 おっさんが一気に加速して俺の目の前に滑り込む!

 汗と脂肪が慣性に乗って揺れ動く様がなんとも気持ち悪い。

 

 

「ワタクシ、貴方のご要望にお応えすべくやって参りましたこの地区担当の神でございます」

 

「は?」

 

「先ほど貴方はおっしゃったではありませんか、誰に文句を言えばいいのだと。それに応じるべく、ワタクシは天界東京支部からやって来ました。さあ、なんなりとお話ください」

 

「帰れ。いくら文句を言いたいといってもあんたみたいなおっさんに面と向かって会話する精神は持ち合わせてない。文句を聞いてくれるなら代理を用意しろ。そのために帰れ立ち去れ消えてくれ今すぐに」

 

 

 というか神にも担当地区とかあるのかよ。

 

 

「残念ながら、神の窓際部署とされる日本エリアに勤務しているのはワタクシだけでして。このエリアに勤めて30年経ちますが、その間に人事異動があったことはただの一度もございません」

 

「問題児の吹き溜まりか! つか30年間なにやってたんだ!」

 

「貴方のような死に様に文句がある人の愚痴を聞き、必要とあらば再就職先という名の転生先を提示して新しい人生を満喫してもらいます。ただ最近はメンドくさくなったので、適当に愚痴を聞いたらあとはアニメ見たりエロゲしたりしてます」

 

「仕事しろおい! ……って、ちょっと待て。今転生先がどうとか言ってたけど、どういうことだ?」

 

 

 後半が完全に職務放棄だったから思わずツっこんだが、もしかして生き返れるのか?

 

 

「貴方みたいに死に方が納得できない人のための人生リセットシステムです。一度死んだこの世界に転生することは出来ませんが、望む能力や物を5つ追加して全く別の世界に転生します。これすごい疲れるので今まで愚痴を聞くだけにしていたのですが、上司に汚らしい豚を見るような目で仕事しろと言われまして……おぉぅふ」

 

 

 何を思い出したのか、おっさんが恍惚とした表情で悶える。

 絵面としては死ぬほどキモいが、今は良くぞ命令してくれた上司さんに全力で感謝しよう。

 

 

「しかし、凄まじいほど強くてニューゲームだな。 で、能力追加するのはいいんだけど、どこの世界に転生するんだ? てかキモイから戻って来い!」

 

「ぷぎぃ!!」

 

 ヘヴン状態だったおっさんに蹴りをいれて説明を促す。

 蹴ったときになんか豚みたいに悦んでいたようだが、この際見なかったことにする。

 

 

「貴方には一つだけ世界が用意されています。やりようによっては、英雄になることも不可能ではありません」

 

「名声とか興味ないんだけどな……。で、どんな世界?」

 

「人類が滅亡の危機に瀕している世界で因果導体の方と共に異星体を駆逐しに行く世界です」

 

「……ん? なんか最近似たような話のゲームをやった気が」

 

「ぶっちゃければマブラヴの世界ですね。それもオルタ本編の方で」

 

「死ぬわ! BETAなんか相手にしてたら命がいくつあっても足らないからな! チェンジだチェンジ!」

 

 

 あんな絶望的な世界、間違いなくいるだけで気が狂うと思う。

 せっかくの第二の人生だ。もっと生存率の高い世界に転生したい。

 

 

「残念ながら、この世界しか用意できませんでした。大丈夫、転生補正でなんとかなりますよ。 あぁ、そんなことより気の強いお嬢さん方に罵られたい……」

 

「いい加減黙れ変態! クソ、こうなったらヤケだ。その補正とやらで生き延びるついでに、世界救って英雄にでもなってやろうじゃないか!」

 

 

 もはや開き直るしかない。せめて自分と機体を強くしてワンマンアーミーによる無双を展開してやる。

 国際情勢なんて知ったこっちゃないが、第5計画推進派だけは嫌いだから潰しておこう。

 などと自棄になってそんな事を考え始めると、何の脈絡もなくおっさんから爆弾発言が炸裂した。

 

 

「ちなみにこの世界で特定イベントを全て回避すれば、ボーナスイベントでさらに別世界に転移可能になります。特定イベントとは、具体的には死亡イベントですね」

 

「……なん、だと?」

 

「流石に一筋縄ではいかない条件付きですが、それほどの価値があるボーナスだと自負しております」

 

「そんなボーナスつけるなら最初から別の世界に送ってくれ。切実に頼む」

 

「だが断ります。移動したいのなら主要人物プラスαを救って桜花作戦を成功させてください」

 

 

 主要人物のフラグ破壊はわかるが、プラスαってなんだ。

 

 

「それが条件か? 後から月と火星のハイヴ潰しに行けとか言うなよ?」

 

「そこまで無茶な注文はしませんよ。ですが、BETAを累計1000万体撃破したら追加ボーナスを用意しています」

 

「追加ボーナスにしては桁がおかしいぞ。しかも地球にはそんなにいないから月、もしくは火星の個体を潰さないと絶対足りないだろ」

 

「追加ボーナス欲しかったら火星まで攻略しろということです。言い方を変えれば、それさえ欲しくなければ通常ボーナスの達成条件を満たした時点で好きな世界に移動すればいいのです」

 

 

 ごもっとも。

 追加ボーナス。響きはいいが達成までの条件が困難であれば、無理をせず切り捨てればいいだけだ。

 

 

「とりあえず了解した。 そろそろ転生を頼む」

 

「わかりました。その前に、あなたに付与される物について説明します」

 

 

 そういえば、好きな能力とか追加出来るんだったな。

 

 

「まず必須能力として、世界情勢と戦術機に関する知識、及び技量。最後にリーディング対策が付与されます。知識に関しては一般常識くらいですけど、戦術機の技量は桜花作戦時の白銀武ほどあります」

 

「って待てい! 好きな能力を5つ付けるとか言いながら、イキナリ3つ消えたぞ!?」

 

「ご安心を。これは転生させるにあたり、追加出来るものとは別に付与される最低限の能力です。サービス能力と思ってください」

 

「それを先に言ってくれ……。心臓に悪い」

 

「では本命の5つは何を追加しますか?」

 

「そうだな……」

 

 

 まずはロボット――戦術機ではない愛機が欲しいな。それだけで夕呼先生へのカードになるし、大きな戦力になる。

 そこまで考えて、突然俺の中で必要な物が一気に揃った。

 

 

「まずモビルスーツをくれ。機体はガンダムデルタカイで、俺自身もパイロットスキルはエース並みに頼む」

 

「いきなり世界観に対してのオーバーテクノロジーときましたか。しかし、何故デルタカイなのですか? 殲滅という点であれば、ウイングゼロやストライクフリーダムと言った機体があるではありませんか」

 

「俺が一番好きな機体だからに決まってるだろ」

 

 

 もちろんウイングゼロやストフリも好きだが、最も好きな機体を挙げろとなれば真っ先にこいつを選ぶ。

 高火力のハイメガキャノンに加え拡散するフィンファンネル、メインのロングメガバスターと火力は申し分ないし、何より初見でウェイブライダーのフォルムに心を奪われた!

 

 

「後はナイトロがなくてもファンネルが使える様に、そこまで高くなくていいからニュータイプ能力を。それからメカ全般に関する開発技術の獲得と、宇宙に製造プラントを備えた拠点をくれ。出来れば地球から見えない場所に」

 

「おや、拠点はわかりますが地上ではないのですか?」

 

「宇宙だからこそ、人類もBETAもおいそれと手出し出来ないだろ? でだ、製造プラントは資材、戦艦、MS、そして食料の4つだ」

 

 

 理想の拠点はダブルオーに出てきた外宇宙航行艦ソレスタルビーイング号だな。

 プラント系を重視するなら、ガンバスターに出てきた全長70kmの戦艦エルトリウムでもいいが、流石にあれはデカすぎる。

 

 

「了解しました。では早速転生といきたいところですが、最後に容姿について説明します」

 

「何? 今のままじゃダメなのか?」

 

「元の体は原型をほとんど残していないので、新しい体を用意する必要があります」

 

 

 言われ、事故現場に振り返る。

 ミンチより酷い元俺の体が、そこにあった。

 間違っても綺麗な顔なぞしておらず、汚ねぇ花火の残骸の方がしっくりきた。

 自分を捨てるみたいで心情的には辛いが、仕方あるまい。さらば、20数年来の俺の体。

 

 

「了解した。で、新しい体ってのはどんなのだ?」

 

「こちらになります」

 

 

 そう言って懐から取り出された体は、見たことのある赤い弓兵の肌と髪の色を変えたものだった。

 白かった髪は黒く染まり、肌も元々のものであった日本人特有の色をしている。

 

 

「……何も言うまい。それでいいぞ」

 

「わかりました。 では早速、新しい世界へご案内しましょう」

 

 

 そう言っておっさんは背中に手を突っ込み、あるものを取り出した。

 

 

「……なあ、一つ聞いていいか?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「何故に金属バットを取り出した」

 

 

 血のような赤い文字で逆転ホームランと書かれた黄金に輝く金属バットを見た瞬間、あからさまに嫌な予感とこれから行われるであろう光景を幻視し、あえて俺は問うた。

 

 

「これを見て今更確認するまでもないではありませんか。なぁに、ご安心を。痛いのは一瞬ですが、続けるうちに形容し難い快感へと変わりますよ」

 

「俺はそんな性癖を持ち合わせてないし、ごぅんごぅん唸らせる程のスイングを見せられて安心できるか!」

 

「細かいことを気にしていては禿げますぞ。潔く腹を括ってください」

 

 

 おっさんの指パッチンと共にどこからともなく現れた強面マッチョの大男が二人、逃げられないよう両サイドから俺をガッチリホールドする!!

 

 

「では、行きますぞ!」

 

「おいこら待てぃ! もっとこうあからさまなゲートとか体を光らせての転移とかお約束な方法が――!」

 

「超! エキサイティン!!」

 

 

カッキィ――――ン!!

 

 

「ぬわーーーーーーっ!?」

 

 

 神速のフルスイングで尻を打ち抜かれ、俺は今まで体感したことのない速度で自身にとって未知の領域――電離層を突破し、大気圏さえ置き去りにしてふと思った。

 これがもしや、伝説のホームランバットによって体感できる世界なのか、と。

 そんなどうでもいいことを思い、遠ざかる青い地球を最後に見た俺は、文字通り意識を無限の宇宙に委ねた。



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第1話

「――いっつつ、マジでかっ飛ばしやがったな。あのおっさん」

 

 

 尻に響く鈍痛と共に目を覚まし、患部をさすりながら立ち上がって正面を見る。

 

 

「おぉー」

 

 

 目の前の光景に思わずお上りさんのような感嘆の声が漏れる。

 広大なモニターと光るキーボードが設置された机が何台も並び、いかにも司令室な空間がロマン心を刺激する。

 今自分がいる場所は部屋の一番高い場所、司令官用の席の真横だ。

 机に一冊の本があり、おもむろに「現状説明書」と書かれたそれを開くと、表紙の通り俺の現状についての説明が数ページに渡って記されていた。

 まずここは俺の本拠地として機能する人工衛星、通称Gステーションという場所で、おっさんの設定ではSDガンダムGジェネレーションシリーズのプレイヤー陣営の基地として機能していたということになっている。

 補給はもちろん、俺が要求した各種プラントも完備。

 ただ基地の広さ故に運営している人間は皆無で、数万からなる大小さまざまなハロたちで成り立っているらしい。

 そして驚くべきはMSプラントでオリジナルのGNドライブが年3個のペースで製造でき、擬似太陽炉に至っては月に5個は作れるということだ。

 しかも現在ストックとしてオリジナルのドライブが3つありーー一部調整中もあるがーー太陽炉搭載機が数機あると記されてーーってまてまて。俺は自分の機体しか要求しなかったはずなのに、なんでこんな機体があるんだ?

 さらにボーナス目録と書かれた一覧には現在使用可能機体として俺のガンダムデルタカイに加えガンダムデュナメスとマスラオ、ガンダムAGE-2やバスターガンダム、デルタプラスにトールギスだと!?

 調整中一覧には量産系の機体が結構あったが、ガンダムタイプは非常に少なかった。ある意味当然なのかもしれないが、Gガン系が一機もなかったのはちょっとショックだ。

 他にも『名状し難い武器保管庫』には固定武装(ZZのハイメガキャノンやサザビーのメガ粒子砲とか)以外のほぼ全ての武装が格納されているとある。

 一覧にはファンネルやビット系の武装はないが、サーベル、ライフルなどはほとんど網羅されていた。

 ツインバスターライフルにビームマグナム、クアンタがないくせにGNソードⅤバスターソードモードまで目録にあるとは……。

 しかし何故こんなものがと思いつつページをめくっていくと、ボーナス目録についてと書かれたページを発見する。

 そこにはど真ん中にただ一言、こう記されていた。

 

 久しぶりに本気で仕事したのでつい大サービスしちゃったZE☆

 

 ……ウゼェ、ラップ調で語尾に☆とか果てし無くウゼェ。

 しかし予想以上――いや、過剰とも捉えられる戦力が手に入ったことについては微妙な心境ではあるが、まあ、もらえるものはもらっておこう。

 ともかく、これからの行動に先立ってまずは情報収集だ。

 指揮官席に座り、目的の情報を次々に引っ張り出す。

 

 

「現在は2001年の8月。オルタネイテイブ4凍結まで約4ヶ月。白銀武が現れるまで2ヶ月か。10月までに香月博士とのパイプは確保しておきたいところだが、どうやって会うかな」

 

 

 正面から乗り込む? ――NOだ。今の俺は所属不明の異邦人だ。しかも興味をもたれるために持ち込んだものが米国に渡った場合、第5計画推進派を勢い付かせる要因になりかねない。

 MSで基地に強襲? ――NOだ。迎撃に出た衛士を落とす気はさらさら無いが、万が一相手を殺すことになったらこっちが不利だ。

 別方向ーー例えば帝国でツテを得てから行くか? ――NOだ。余計に時間がかかる。

 博士のPCにハッキングをかけてメールを送る? ――お、これはアリか?

 オルタネイテイブ4の責任者として、その情報セキュリティはこの世界トップクラスのはずだ。それを破ってわざわざメールを残す。彼女の性格なども考えると、興味をもたれるには申し分ないな。

 幸いここのシステムは、ソレスタルビーイングが所持する量子演算システム『ヴェーダ』と比べても遜色ない性能がある。

 いくら天才と言えど、数百年先の技術に対するプロテクトは持ち合わせていないだろう。メールを出した後は、戦艦に乗って横浜に移動するか。

 使用可能戦艦を表示し、今回の行動に最も適したものを選ぶ。

 

 

「というか、使うならこれしかないな」

 

 

 そう呟いて俺は、画面に浮かぶ青い戦艦を眺める。

 ソレスタルビーイングの戦闘母艦、プトレマイオス2。

 大気圏の突入はもちろん、空中だけでなく水中での航行も可能。さらにトランザムを使用することで単騎での大気圏離脱も可能という、移動に関しては非常に優れた性能を有している。GNドライブからの粒子供給が無ければ動かないが、オリジナルのドライブが余っている現状ならその問題もクリアだ。

 しかも今から新しいドライブの生産にかかれば、12月には1機完成している計算だ。充分すぎる。

 地上にも消耗品やら食料やらのプラントを作りたいが、時間がなさすぎる。しばらくは地球と宇宙を往復して物資を確保するしかないな。

 殿下と接触したら、帝国領内に製造プラントを建造してもいいか掛け合うか。

 さて、ハロたちにプトレマイオス2ーー作中同様トレミーでいいかーーにGNドライブの直接取り付けさせ、俺のガンダムと予備の機体としてデルタプラス、後は消耗品やら食料やらを詰め込んでもらって出発するか。

 その間に俺はハッキングをした時のメールを用意し、残った時間でMSのシミュレーターをやっておこう。

 夢にまで見たガンダムの操縦。テンション上がらずにはいられない!

 

 

 

Gステーション シミュレータールーム

 

 

「あー、やりすぎた……」

 

 あまりにも嬉しすぎて自分の体調も顧みず、ついつい数時間ぶっ通しでシミュレーターをやってしまった。おかげで今はシミュレータールームに設置されたベンチのお世話になっている。

 いや、だって念願のMS――しかも自分が最も好きな機体に乗れたらテンションがおかしくなっても仕方が無いと思うんだ。

 ただ、慣れてきたからってガンダム無双のように仮想敵に旅団規模のBETA用意したのが調子に乗りすぎた原因だと思う。

 チラッと、先ほどのシミュレーターのリプレイに目をやる。

 

 

『見える、そこ!』

 

 

 レーザーを回避しながら手にしたロングメガバスターで固まっていた光線級を10体ほど撃ち抜き、

 

 

『行け、ファンネル!』

 

 

 拡散ビームを放つプロト・フィンファンネルで後ろに寄ってきた5体ほどの要撃級と100体近い小型種を屠り、

 

 

『消し炭になれ!!』

 

 

 眼前に広がる1000体以上のBETAをシールドに装備したハイメガキャノンで一掃したりと、文字通りデルタカイが俺ボイスで大暴れだ。

 今さらながら恥ずかしさがこみあげてきたが、とりあえず自分のMSの腕前はだいたいわかった。

 BETA相手なら楽勝で、対人ならアムロや刹那などのクラスには手を焼くが、それ以外なら十分やり合えるくらいだ。

 というのも、対BETA戦をやる前に対人で一年戦争末期のアムロに喧嘩を売ったらあと少しのところで撃墜されたからだ。

 向こうはファーストガンダム、こっちはデルタカイ。

 機体性能に圧倒的な差があったにもかかわらず負けたのは自分の慢心だけでなく、ニュータイプの力を見誤ったのがほとんどだろう。ちなみに、BETA殲滅はその鬱憤晴らしである。

 

 

「慢心が身を滅ぼすとはよく言ったものだ。これが原因で第2の人生終了とか未練しか残らないな」

 

 

 少しだるい身体に喝を入れシミュレータールームを後にする。

 ハロたちに任せた作業の進捗具合が全体の70%ほど完了していたのを確認し、俺はそろそろハッキングをかけるかと思いつつシャワールームに向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 地下19階 香月夕呼の研究室

 

 

「――どうしてうまくいかないのかしら」

 

 

 彼女、香月夕呼は焦りと苛立ちを含んだ声でそう呟く。自分が任された対BETA計画の切札。間違っていないはずの理論がうまくいかないまま、ズルズルと数年が過ぎてしまった。

 完璧に見える理論だが、決定的な何かが足りないのか?

 最近ふとそう思うことがあるが、いくら見直してもおかしいことなど見当たらない。

 

 

「ダメね。一度頭を切り替えましょう」

 

 

 愛用のカップを手に取り、飲み慣れたコーヒーモドキを注ごうとポットに手を伸ばす。

 

 

 

――突如、操作していないパソコンのモニタで無地の文書ファイルが開き、一人でに文字が打ち込まれていった。

 

 

 

「っ、ハッキングされた!?」

 

 

 その判断に思い当たった理由はいくつかある。

 まずこのパソコンは自ら構築した非常に高度なセキュリティを積んでいる。

 幾つもの防護プログラムが何重にも展開されており、たとえ一つ突破しても秒単位で複数のプログラムに対応しなければならない。

 クラッキングなどしようものなら、クラッキング用のカウンタープログラムが作動して相手のデータを破壊する。

 もちろん、これを防ぐためにはハッキングを中止してクラッキングを止めに行くしかない。

 それこそ、今自分が研究している物の完成系でなければ突破など不可能に等しいほどの。

 もう一つは、万が一外部からこのパソコンを操作しなければならなくなった時のために用意した緊急コード。

 これも外部に漏れたなどあり得ない。何故ならそのコードは、自分の頭の中にしか存在しないものだからだ。

 故に、信じられないが今ハッキングをしかけている輩は第4計画の集大成、もしくはそれに匹敵する演算システムを用いているということになる。

 やがて打ち込まれていた文字が区切られ、間隔をあけて再び入力を開始する。夕呼はまず、先に入力された内容に目を通した。

 

 

『初めまして。国連軍横浜基地副司令にしてオルタネイティブ第4計画の責任者、香月夕呼博士。私の名はイレギュラー。異世界からやって来た者です』

 

 

 ――異世界からやって来たイレギュラー、本来この世界に存在するはずのない者ってことかしら。しかも計画を知っていることからして、ハッキングはもっと前に行われた可能性が高いわね。

 

 

『突然のことに些か驚かれていることでしょうが、ご安心を。私は第4計画の味方であり、第5計画の敵です。まあ、こんなことを文章で信じろとは言いませんが、少なくとも自分ではそのつもりです。敵か味方かを判断してもらうために、まずはこちらの情報の一部を公開しましょう』

 

 

 続いて現れたのはモビルスーツ(MS)と記された人型機動兵器の設計図と、それを運用する空中戦艦の3Dモデルだった。

 ちなみにMSのモデルは一年戦争に投入された連邦の量産MSジムと、木馬と呼ばれた連邦の戦艦ホワイトベースだ。

 その二つ――特にジムのスペックが彼女に多大なる衝撃を与えた。

 

 

「――なによこのMSっての! 戦術機と大差ない大きさのくせに動力が核融合で、しかもビーム兵器が標準装備ですって!?」

 

 

 しかもこれが、ただの一般兵が使用する機体だ。間違いなく隊長やエースには、さらに高性能な機体が配備されていることが容易に想像できる。

 驚いている間にも相手はまた一枚、切り札に等しい手札を公開していた。

 

 

『そしてこれが、現在私がいる難攻不落の拠点。Gステーションです』

 

 

 ひときわ大きな映像が現れ、月をバックに巨大な銀色の衛星が映し出された。

 巨大なシリンダーに4つの輪っかが接続され、それぞれが独立した製造プラントとして稼働しているとある。

 位置は月の裏側で、あちらが所持する最速の戦艦で3日程あれば地球にたどり着けるそうだ。

 

 

『さて、これらをご覧になっていただいた上で私が貴女の味方になるという要求を受け入れていただけるでしょうか?』

 

「…………」

 

 

 正直言えば怪しすぎる。しかし、こちらのプロテクトを破ってきた技術は間違いなく本物だ。

 もし本当に味方になってくれるのであれば、その技術を調べさせてくれる可能性もある。

 やや間を開け、夕呼はキーボードを叩く。

 

 

『そちらのメリットは? 私の味方になるだけが目的とは到底思えないわよ』

 

 

 わずかな空白の時間があり、イレギュラーから返答が入る。

 

 

『私の目的は、BETAから地球圏を解放すること。そしてその達成に一番近い道が、香月博士。貴女だったというわけです』

 

 

 ……なるほど。つまりこいつは――

 

 

「自分の目的のためにこのあたしを、極東の魔女を利用しようってワケね」

 

 

 夕呼は唇の端が小さく釣り上がるのを感じながら、素早く返答を送る。

 

 

『なら来るといいわ。魔女が住まうこの国連軍横浜基地に』

 

 

 

Gステーション メインコントロールルーム

 

 

「とりあえず、コンタクトは成功か」

 

 

 最初にいた部屋――メインコントロールルームの指揮官席で一仕事終えて大きく伸びをする。

 まさか入力中に本人からレスがあるとはな。まあ、一日のほとんどをパソコンで作業しているなら十分あり得る話だったか。

 しかし、割とあっさりお招きされるとは予想外だったな。てっきり交渉に時間がかかるかと思ったが、送ったデータが衝撃的すぎたか?

 骨董品レベルのジムと、現在使用できる戦艦で最も古いものに分類されるホワイトベース。これを超えるものがゴロゴロあると知ったら、博士どうなっちまうんだろうな。

 などと思いながら細かい日時を指定しようとし、ふと思う。

 

 

「そういえば、今ならTEにも介入出来るんだよな。時期的には、もう少しでカムチャツカ基地へのBETA襲撃か」

 

 

 ……まさかあのおっさん、それも考慮してこの時期に飛ばしたのか?

 少し思考を巡らし、横浜行きを自分が予定していた時刻より2日遅らせ、ハロたちに機体の消耗品を追加するように指示を出す。

 何もなければそれでいいが、主要人物の生存率は可能な限り上げておきたい。

 

 

「さて、乗り込むか」

 

 

 モニターを閉じてコントロールルームを後にし、そのままトレミーを用意してある第1ポートへと向かう。

 神や英雄を気取るつもりはないが、一仕事行ってみますか。



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第2話

プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 Gステーションを発ってから早くも4日。道中に人工衛星を掌握し、無事地球に降下した俺は現在海中を伝って太平洋を抜け、ベーリング海を突き進んでいた。

 因みにこの艦は俺ではなく多数のハロたちによって運用されている。

 ぶっちゃけ新しい人員が欲しいところだが、それはまだ無理だ。出来るとすれば、香月博士と接触した後になるだろう。

 さて、もうそろそろカムチャツカ半島が見えてくるはずだ。

 確かこの戦闘で不知火がボロボロになるんだよな。

 ……ま、BETA潰してから基地に送り届けるくらいはしても大丈夫だろう。

 勝手にそう自己完結し、俺は出撃の準備をすべく艦長席から離れ、愛機の元へ向かうことにした。

 

 

 

ソ連領カムチャツカ前線補給基地。

 

 

 現在この基地は、かなりの規模のBETAによる襲撃を受けていた。

 未然に防げていたであろう出来事だったが、この基地は明らかな作為でBETAの侵入を許していた。

 何故か塞がれていなかったBETA侵攻跡の孔。

 基地全体に発生する強力なジャミング。

 極めつけは本来真っ先に出撃するはずの爆撃機が遅れ、基地で戦っている友軍を基地もろとも爆撃。

 爆撃機はその後、基地から離れた地点にいた光線級によって全て撃破されたが、補給基地にはまだ爆撃を逃れた衛士たちがいた。

 爆撃と光線級によって5名を失ったソ連軍ジャール大隊。そしてXFJ計画不知火弐型のテストパイロット、ユウヤ・ブリッジス少尉だ。

 だが不知火はBETAとの戦いで噴出跳躍ユニットと右手首がもげ、左腕に至っては肘から先がなく脚部も多大なダメージを受けていた。

 

 

「中佐! 先ほどの光線級と思われる熱源体が接近中! 数、およそ8!」

 

 

 その報告を受け、ジャール大隊隊長、フィカーツィア・ラトロワ中佐は小さく舌打ちし素早く状況を整理する。

 最早この基地は壊滅したと言っていい。しかしBETAーー特に光線級がいるとなれば、流石に放置するわけにもいかない。

 そんなことしようものなら極東絶対防衛線は瞬く間に瓦解し、人類は生存圏をさらに縮小することとなる。それだけはなんとしても避けなくてはならないのだ。

 ラトロワはカメラを回ながら思考を働かせ、作戦を組み立てる。

 

 

「キール、トーニャ。二人はこの坊やを――ん?」

 

 

 不意に、レーダーが新たな反応をキャッチする。

 新たな援軍かと思ったが、反応は一つだけ。IFFがアンノウンと表示されたそれは、自分たちの後方から真っ直ぐに迫っていた。

 

――まさか、もう口封じの死神を送り込んできたのか?

 

 

 一瞬そんな可能性が浮かんだが、アンノウンの速度が速すぎる。そして進路が少しだけ曲がり、光線級がいると思われる地点へと向かう。

 

 

「この速度……まさか、空を飛んでいるのか!?」

 

 

 光線級がいるこの状況では決してあり得ない進路と速度からそう判断し、やがてそれは自分たちの上空を駆け抜けた。

 白を基調に淡い紫のカラーリングをしたそれは航空機と呼ぶには少々ごてごてしており、ブーストの部分には足らしきものが見えた。

 機上には長い砲身のライフルを載せており、両翼の根元にはコの字型の何かが一つずつついていた。

 

 

「――っ、所属不明機! 光線級がいるんだぞ! 高度を下げろ!」

 

 

 とっさにオープンチャンネルで呼び掛けるが、無情にも鳴り響くレーザー警報。

 もうダメだ。この場にいた誰もがそう思った。

 そもそも、あの光線級が現れたからこそ人類は制空権をBETAに奪われたのだ。その光線級が支配する空を航空機で進むなど、自殺願望以外の何物でもないことは世界常識に等しいことだった。

 

 ――だが、その機体はその常識をいともたやすく覆した。

 

 

『ヌルい!』

 

 

 オープン回線から突然男の声が響き、急上昇したかと思えば機体から突如腕が生え、機首となっていた部分がシールドとなって左腕に。機上にあったライフルが右手に装備される。

 続けて翼となっていた部分がそれぞれ90度ほど曲がり、ブースターがスライド。そして空いたスペースから胴体とV字アンテナをつけたツインアイの頭部が姿を現した。

 

 

「な、可変型の戦術機だと!?」

 

 

 さらにあろうかとか、航空機から戦術機へと変形したそれはそのままレーザーなど意に介さないように回避し、そのまま手にしたライフルを構えトリガーを引いた。

 桃色の軌跡を描いたそれは着弾地点をえぐり、ただの一撃で半径数メートルを焦土に変えた。

 

 

「! まさか、電磁投射砲か!?」

 

 

 これには流石のユウヤも度肝を抜かれた。

 威力やサイズはまるで違うが、似たような兵器を自分も使ったことがあるため、そのライフルの攻撃がダブって見えた。

 しかしそれでも撃ち漏らしがあったのか、再び数本のレーザーが放たれる。

 それも踊るように回避した戦術機は再びライフルを構え、レーザーが放たれた地点を狙撃した。

 レーザー警報が解除され、レーダーから光線級が消えたことが確認できた。

 

 

「な、なんなんだあの戦術機は」

 

 

 白い戦術機は基地の中でも取り分け高い建物に降り立ち、基地全体を見渡すように頭部をぐるりと回した。

 

 

『現戦闘地域にいる全機体に告げる。確認できた分の光線級は全て排除した。これより基地の全BETAを殲滅するため、指定のポイントまで下がれ。繰り返す、指定ポイントまで下がれ。というか下がらなかった場合、巻き添えになってもこっちは一切責任を取らないぞ』

 

 

 再び通常回線から先ほどと同じ声が流れ、後退地点を示したデータが送られてきた。

 連続で起きた驚愕の出来事にしばし惚けていた衛士たちだったが、直ぐに冷静さを取り戻す。中でも一呼吸早く動いたのは、彼女だった。

 

 

「こちらはソビエト陸軍第18師団第211戦術機甲大隊、ジャール大隊隊長フィカーツィア・ラトロワ中佐だ。所属不明の戦術機に告げる、貴官の所属と階級、氏名を述べよ」

 

 

ラトロワの問いに男は「ふむ」と呟き、不遜な態度で答える。

 

 

『中佐、申し訳ないがその質問に応えることはできない。それよりも早く部隊を下げてもらえないか? 本当に巻き込まれても責任は取れないぞ』

 

「な、貴様! 中佐に向かってその口の聞き方はなんだ!」

 

「落ち着け、大尉」

 

 

 ラトロワに諌められ、ナスターシャ・イヴァノワ大尉は渋々引き下がる。

 

 

「因みに聞こう。貴様、本気でこの基地にいるBETAを殲滅出来ると思っているのか?」

 

『敢えて言わせていただこう。――その気になれば、ものの数分でこの基地を更地へと変えられるだけの火力がこちらにはある』

 

「テメェ、本気で言ってるのか!?」

 

『ただし、これは基地を完全に破壊し尽くしても大丈夫な場合に限った話だ。流石にそれはマズイから実行しないが、それでも5分以内に全滅させるのは簡単な話だ』

 

 

 条件付きの手段であると教えられるユウヤだが、それでも信じきれなかった。

 

 

「……全機、後退するぞ。キール、トーニャはそこの坊やをポイントまで連れて行ってやれ」

 

「中佐!」

 

「それだけの大口を叩いたんだ。ぜひお手並みを拝見させてもらおうじゃないか」

 

 

 ナスターシャの声を遮るように告げたラトロワに、男は自信たっぷりに返す。

 

 

『望むところだと言わせてもらおう』

 

 

 基地にいた戦術機が一斉に離脱を始めると同時に、白い戦術機はBETAが一番密集している地点へ向かった。

 その座標を見て、ユウヤは反射的に回線を開いた。

 

 

「――不明機! その地点にはこちらの試作兵器の重要パーツがある! それまで破壊するなよ!」

 

『ほぉ、なかなか無茶な注文をするじゃないか。だがはっきり言って無理だ。これだけBETAが集まってる中からそれだけ無事にしろというのは不可能だ。第一、それがまだに残っていると断言できるのか?』

 

「くっ……」

 

 

 言われ、ユウヤは下唇を噛みしめる。男の言う通り、電磁投射砲のコアモジュールに集まっているBETAは小型種を含めばおそらく100体どころでは済まないだろう。

 その中から戦術機の掌サイズしかないコアモジュールを使える状態で回収など、出来るわけがない。

 

 

『悪いが、お前の探し物は諦めてくれ。 ではこれより、BETAの殲滅を開始する』

 

 

 その一声と共に白い戦術機のライフルからピンク色の光が放たれ、密集していたBETAが一瞬にして塵芥へと成り果てる。戦術機はその場から跳躍すると眼下の小型種に向けて頭部から実弾を撃ち出し、ミンチよりひどい状態に変えていく。

 他のBETAもその戦術機の危険性を認識したのか、津波のように殺到し始めた。

 

 

 

ソ連領カムチャツカ前線補給基地。

 

 

「おー、面白いように集まって来るな」

 

 

 ロングメガバスターとバルカンしか使ってねーが、誘導する餌としては申し分ないみたいだな。

 BETAたちが真っ直ぐに俺のデルタカイに殺到しようとしているが、当の俺はというとバルカンぶっ放しながら滑走路の方へと向かっていた。

 

 

「流石に全部は無理でも、9割くらいは余裕で削れるか?」

 

 

 一人そんな計算をし、滑走路の端で停止して自分が連れてきたBETAと向き合う。おおぅ、前方のレーダー反応が真っ赤っかだ。

 機体の両側から迫る敵が居るが、これはライフルとバルカンで対応。

 そして広い滑走路を埋め尽くして迫るBETAに対し、俺は唇が釣り上がるのを感じながらシールドを突き出す。

 そのシールドにあるのは、この機体が持ち得る最強の砲門。

 

 

「さあ、遠慮なく受け取れ――ハイメガキャノン、ファイア!」

 

 

轟!!

 

 ロングメガバスターの火線が棒に見えるようなほど太いビームがシールドから撃ち出される。

 濁流のように俺に迫っていたBETAは放たれたエネルギーの奔流に飲み込まれ、大型小型の区別なく蒸発の道を辿った。

 

 

「はっはっはっはっ! 俺を殺りたければ戦力をあと10倍はもってくるんだな!」

 

 

 煙が晴れた先にBETAは存在せず、レーダーに映るのもごく少数だった。

 しかし不意にアンノウンの表記がレーダーの端に現れ、俺は高笑いしていた口を閉じる。

 このタイミングでアンノウン。ほぼ間違いなくジャール大隊の口封じ役だな。

 通常回線を開きラトロワ中佐に通信を入れる。

 

 

「ラトロワ中佐。今こちらのレーダーでアンノウンを確認したが、俺は残存BETAを殲滅後この戦域から離脱する。どうせ時間が経てばわんさか押し寄せてくるだろうが、この機体の情報を持ち帰られたら困るからな」

 

『情報については同感だがそうはいかん――と言いたいところだが、貴様の戦術機に抵抗されては無駄な犠牲を払うだけだ。こちらは撤退させていただく』

 

「賢明な判断に感謝する。だがそこにいるボロボロの戦術機がいる状態で、あの不明機から逃れられるとは思えない。そこで提案がある」

 

『なんだ?』

 

「損傷した戦術機は俺が基地まで送ろう。だから貴官らは先に撤退するんだ」

 

 

 

ソ連領カムチャツカ前線補給基地。

 

 

――こいつ、何言ってんだ!?

 

 ユウヤは今日何度目かもわからない驚きに直面した。

 飛行形態に変形し、なおかつ空中でレーザーを回避する戦術機。

 電磁投射砲より小型で高火力のライフル。

 シールドに装備された先ほどのライフルより強力な光学兵器。

 そんなどう考えても普通じゃない機能や装備を搭載した機体が、自分を基地まで送ると言い出す始末。

 正直、理解が追いつかなかった。

 確かにあの飛行形態に運んでもらえば、仲間が避難した基地に着くのはすぐだろう。だがそこまでして、この男に何のメリットがあるというのだ。

 

 

「アンノウンの対処はどうするつもりだ?」

 

『仕掛けてこなければどうもしない。だが撃ってくるようであれば、少し不自由な機動をしてもらうことになる』

 

 

 即ち、迎撃するということだ。

 

 

「少尉、貴様はそれでいいのか?」

 

 

 ラトロワに話を振られ一瞬考え込むユウヤだが、選択肢などないも同然だった。

 

 

「あんた、本気で俺を運ぶ気か?」

 

『同じことは何度も言いたくはないが、こっちは大真面目だ。打算的な考えは持ち合わせいないし、やりたいからやるんだ』

 

 

 ラトロワの時と比べ少し口は悪いが、声色は全くふざけていなかった。

 

 

「……中佐、行ってくれ。悔しいが、今の俺は文字通りお荷物だ」

 

「了解した。 そういうことで、我々は先に後退させてもらう。 必要ないかもしれないが、幸運を祈る」

 

『感謝する、ラトロワ中佐』

 

 

 全てのSu-37ubが離脱して行き、その場にはユウヤの不知火ただ一機だけが残った。

 

 

『よし、悪いがちょっと待っててくれ。さっさとBETAを殲滅してくる』

 

 

 男がそう言うと、突然戦術機の関節部分から青い炎を吐き出した。

 

 

 

ソ連領カムチャツカ前線補給基地。

 

 

 n_i_t_r_o(ナイトロ)

 ガンダムデルタカイに搭載されたニュータイプ能力を持たない一般兵に、擬似的にニュータイプ能力を付加するサイコミュシステム。

 これを使えば一般兵でもニュータイプ専用であるサイコミュ兵器、ファンネルを扱うことができるようになる。

 ただこれはどちらかといえば強化人間に近い状態を作り、結果的にパイロットに大きな負担を掛けてしまう代物だ。

 俺はニュータイプなのでこれを使うことはまずないので普段はこのシステムをオフにしているのだが、今回はこのシステムを餌にするためにあえて使用する。

 

 

「ちっ、システムに頭を弄られてるみたいで気持ち悪いな。 さっさと終わらせるか」

 

 

 システムに釣られて出てきた残りのBETAを睨み、ロングメガバスターで狙撃していく。

 ものの数十秒でレーダーから赤いマーカーが消え、ユウヤの青いマーカーとアンノウンのオレンジのマーカーだけが残った。

 

 

「残存BETAなし。撤退するから腕を上げてろ。飛行形態のまま掴み上げる」

 

 

 ユウヤから了解と返事があり、ナイトロを停止させた俺はありったけのチャフスモークをばら撒き、その場でウェイブライダーに変形しようとする。

 

 

――ゾクッ!

 

 

「っ!?」

 

 

 背中に悪寒が走るのを感じ、反射的にフットペダルを踏み込む。

 ほぼ同時にアラートが鳴り響き、自分がいた位置を何かが切り裂いた。

 自分が撒いたチャフスモークでレーダーが弱まっているが、一瞬見えたマーカーは黄色。例のアンノウンが的確にこちらを狙ってきていた。

 中佐にああ言った手前反撃の一つでもしてやりたいが、手負いの僚機がいる今はそんな悠長なことはしてられない。

 

 

「ちっ――離脱する! 急激なGに気をつけろ!」

 

 

 忌々しそうにアンノウンに向かって舌打ちをして今度こそウェイブライダーに変形しつつチャフスモークを抜け、ユウヤに向けてそう叫ぶ。

 指示通りに待機していた不知火に向けてウェイブライダーのまま片腕を出し、挙げられていた腕を掴む。

 

 

『くっ!』

 

 

 接触回線から苦悶の声が聴こえたが、強化装備の性能を信じてさらに加速――蒼穹の空へとその身を躍らせる。

 アンノウンが追撃を仕掛けようとしていたが、空を翔けるこちらとの差は一方的に広がっていく。

 その反応がレーダーから消えるまで、そう長い時間はかからなかった。

 

 

 

国連北極海方面第6軍 ペトロパブロフスク・カムチャツカー基地

 

 

 基地の入り口で朱に染まる山を見つめる人影があった。

 長く伸びた日本人らしい黒髪。身に纏った国連軍の制服は左腕がむき出しになっているが、そこに巻かれた包帯が浅いとは言い難い傷があることを物語っている。

 そして何より彼女――篁唯依の顔からは悲壮感が漂い、周りの空気を重くしていた。

 そんな彼女を後方より見つめる5つの人影があった。

 アルゴス試験小隊。唯依が責任者であるXFJ計画で不知火弐型の開発を担当している部隊だ。

 

 

「唯依姫、キッツイだろうな」

 

 

 長身の男――VGことヴァレリオ・ジアコーザが呟くと、そばにいたステラ・ブレーメルが「そうね」と同意する。

 この中にいるはずの人物――ユウヤ・ブリッジスがステラと唯依を逃がすべく、大破寸前の機体でBETAに向かったままなのだ。

 しかし、機能停止寸前でBETAに囲まれていたとあっては助かる見込みなど皆無であることも、このメンバーは十分に理解していた。

 

 

「今は一人にしてやれ。 さ、いくぞ」

 

 

 隊長のイブラヒム・ドーゥルがそう促すが、先の二人だけでなく衛士のタリサ・マナンダルやユウヤの親友であり、整備士のヴィンセント・ローウェルもその場から動かなかった。

 

 

「……ユウヤ」

 

 

 父の形見である懐中時計を握り締め、唯依はBETAがひしめく基地に残った男の名を呟いた。

 最後に見た彼の機体は各部が既に耐久力の限界にあり、いつ壊れてもおかしくない状態にあった。

 

――私は、XFJ計画の責任者。こうして、いつまでも私欲に耽溺することはできない。

 

 思い返されるここ数ヶ月の彼とのやり取り。

 ようやく名前で呼び合えるほど信頼し合えるようになったというのに、最後にこの結末は彼女にとっても大きく堪えた。

 揺れる瞳で見つめていた世界から、逃げるように踵を返そうとする。

 

 

 

 

 

 ――そうしかけたところで、揺れていた瞳がそれを捉えた。

 

 

 

 

 

 最初は雲かと思った。だが徐々に音が大きく聞こえ、その輪郭が露わになる。

 

――あれ、は。

 

 T字の雲に見えたそれは徐々に大きくなり、歪な戦闘機と人型のものになった。

 

――あれは。

 

 人型は本来ないはずの色に塗れたうえに左腕がなく、本来あるはずのユニットなどがゴッソリと抜け落ちていた。

 

――あれは!

 

 そして頭部を見た瞬間、唯依の中で何かが弾けた。

 

 

「ユウヤ!!」

 

 

 見紛うはずがない。もう二度と戻らないと思っていた、彼の不知火弐型だ。

 

 

 

カムチャツカ半島 上空

 

 

 流れる景色を見て、ユウヤは言葉を失っていた。

 光線級に奪われた人類の空。それを自分は今、戦術機で飛んでいた。

 確かに訓練で長時間跳んでいたことは何回もあった。

 だが、これほど飛ぶということを感じたことはなかった。

 

 

『おい。さっきから一言も喋っていないが、大丈夫か?』

 

 

 不意に、接触回線で自分をここまで連れてきた男に呼ばれる。

 

 

「ああ、大丈夫だ。だが掴まれている部分がそろそろヤバイ。あと5分ともたないぞ」

 

『安心しろ、基地までそんなにかからない。第一、最初からいつイかれてもおかしくない状態だったんだ。むしろここまでよくもった方だ』

 

「……確かにそうだが」

 

 

 呟くのとほぼ同時に、山の向こうに基地があるのが見えた。

 

 

「間違いない、ペトロパブロフスク・カムチャツカー基地だ」

 

『了解。というかよく覚えてるな、そんな長い名前』

 

 

 どこか呆れたような男の声を聞き、ユウヤはずっと思っていたことを口にする。

 

 

「なあ、あんたは何者なんだ。しかもこの規格外な戦術機、どこで開発されていたんだ」

 

 

 この質問は予想されていたのか、男はどこか余裕のこもった声で答える。

 

 

『残念ながら答えられることは皆無に等しい。が、今答えられるのは俺が日本人で、この機体は機密事項ってことだけだ』

 

「な、日本人だと!?」

 

 

 根っからの日本人嫌いであるユウヤは、今まで話していた相手が日本人だと知り僅かに嫌悪感が滲み出たが、それ以上に助けられた礼とこの機体が日本産かもしれないという感情が強かった。

 

 

『あ、先に言っとくがこいつは日本産じゃないからな。出処も含めて全てが機密事項だ』

 

「……そうか」

 

 

 どこか釈然としないまま返すと、基地がもう目と鼻の先まで来ていた。

 

 

『さて。手を離して降ろすつもりだが、そんな機体で大丈夫か? 特に足回り』

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

『――ってバカヤロウ! フラグを立てるんじゃない!』

 

「……は?」

 

 

――いきなり何言ってんだ、コイツ。

 

 

『神は言っている。ここで死ぬ定めでなはいと。そういうわけだから、確実に降ろすから一度変形するぞ』

 

「いや、わけが分からないし本当に大丈夫だぞ。確かに脚部はすぐにでも壊れそうだが、着地くらいはーー」

 

『余裕をかますんじゃない! あり得ない死に方に定評のあるAn○therなら確実に死ぬぞ!』

 

「いや、なんの話だよ!? しかも何故か伏せなきゃいけない箇所が伏せれてない感じがするし、確実に死ぬってどんな死に方だ!」

 

『具体的にはこの場合、着地と同時に脚部が本格的にぶっ壊れ、機体が前のめりに倒れると同時にジェネレーターが爆散する』

 

「妄想が飛躍しているだけじゃねえか!」

 

 

――さっきから思ってはいたが、やっぱりコイツは頭がおかしい!

 

 

『とにかくだ! 万全を期すために人型になってから降ろすぞ!』

 

 

 基地の手前で機体が急上昇し一瞬浮遊感に包まれたが、すぐにあの戦術機に掴まれていた。

 ふと地上を見下ろすと、唯依を先頭に仲間全員が驚いた顔をしていた。

 タリサに至っては指を突きつけて腕を振っている。

 

――まぁ、あんなのを見せつけられたらそうなるよな。戦闘機に変形する戦術機なんて、見たことなければ聞いたこともないからな。

 

 ゆっくりと着地し、ユウヤは不知火に片膝を付かせる。無論、脚部は壊れなかったし爆発もなかった。

 

 

『大丈夫みたいだな。それじゃ、騒がしくなる前に退散させてもらう』

 

「ああ、助かった。あんたがいなかったら、正直どうなっていたことか」

 

『気にするな。 それじゃ、縁があったら因果の交差路でまた会おう、ユウヤ・ブリッジス』

 

「……? おい、俺名前を教えーー」

 

 

 教えたかと訪ねようとする前に男は戦術機を発進させ、再び戦闘機に姿を変えるとあっという間にレーダーの範囲外へと消えて行った。

 

 その日、とある国連の基地で謎の戦術機についての報告があった。

 

 曰く、航空機に変形する。

 曰く、光学兵器を使用する。

 曰く、関節部分から青い炎を吹き出すとBETAが集まりだした。

 曰く、衛士は日本人と名乗るが、機体の開発国は不明。

 

 話の元が放棄された基地から生還した衛士ということから、上層部は錯乱した際に見た幻覚と片付けようとした。

 しかし、その衛士が乗っていた戦術機に残っていた戦闘記録に証言通りの映像が残っており、その機体を不明の戦術機が戦闘機形態で基地まで運んだという目撃証言が多数あった。

 その映像をみた全ての国がこの映像の衛士と戦闘機の調査に乗り出したが、全て徒労に終わったのはまた別の話。

 

 

 

プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 基地から全速で離脱してトレミーに戻った俺は、ブリッジの艦長席にぐだっともたれかかっていた。

 慣らし運転と実戦慣れを兼ねたTEメンバーへの介入。全体的に見れば概ね成功したと言えることだったが、一つだけ気にかかることがあった。

 撤退直前、チャフスモークの中で切りかかってきたあの機体についてだ。

 レーダーも視界も封じたのに的確に攻撃してきた機体。

 ガムシャラの偶然ではない。攻撃が来る直前、明確な殺意を感じた。あれはそこにいると確信された上で振るわれた一撃だ。

 では何故そこに俺がいると確信していた?

 レーダーに偶然引っかかったのか、それともまだそこにいるという確信があったのか。

 

 

「間違いなく後者だな。でも確信する材料はなんだ?」

 

 

 相手がESP能力者だったとしても、おっさんの力でリーディング対策されたはずだが――

 

 

「いや、むしろこれを利用したのか?」

 

 

 リーディングできないが故に特異点となり、余計に見つかりやすくなっているのならば説明はつく。

 だとすればどうしょうもない問題だな、これは。

 ともかく、このまま予定通り横浜に進路を――

 

ビィーッ! ビィーッ!

 

 そこまで考えたところでエマージェンシーコールが鳴り響き、反射的に跳ね起きて索敵システムを確認するが問題なし。

 そこへ艦内チェックをしていたハロから報告が入る。

 

 

「MSデッキ二高エネルギー反応アリ! MSデッキ二高エネルギー反応アリ!」

 

「MSデッキだと!? 俺の機体に使徒でも取り付いたか!?」

 

 

 ほざきつつ映像をモニタに回すと、ホワイトアウトしそうなほど強い光が映し出された。

 

 

「ハロ! 他に反応はあるか!?」

 

「生体反応アリ! 生体反応アリ! 誰カイル! 誰カイル!」

 

「……BETAが現れたなんてのはやめてくれよ」

 

 

 やがて光が弱まり、中から現れたそれに俺は予想以上の衝撃を受けた。

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 

 何処かの学校と思われる白い制服を纏った18くらいの男が大の字で倒れていた。

 少し厚めの茶封筒と普通のメモリスティックが側に転がっているが、この際それはどうでもいい。

 一番問題なのは、男の方だ。

 本来ここに出てくるべきではなく、現れるのは2ヶ月後の柊町だ。

 それなのに、だと言うのに……!

 

 

「なんでもうループしてくるんだよ我らが白銀武!!」

 

 

 この世界における本来の主人公、武ちゃんこと白銀武の姿がそこにあった。



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第3話

プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 MSデッキから武をメディカルルームに移し身体検査を行い、その間に俺はともに現れた封筒とメモリスティックを確認した。

 結論からいえば、あれはおっさんから俺宛に送られたものだった。

 封筒の内容は日本帝国内にいる米国工作員と、米国の狗と成り下がった売国奴のリストだ。

 つまり、事を円滑に進めるために使えということなのだろう。

 思わず例の数式かと思ったが、そんな都合のいい話はなかった。

 しかし何故こんなものを送ったのか? それを考えていると、メモリスティックに答えがあった。

 一つだけあったアプリケーションを起動するとビデオ電話のようなものが起動したが、映像に映ったのはおっさんではなくその上司を名乗る気の強そうな美人だった。

 なんでも本来なら転生先はチェンジ出来たはずなのに、それをおっさんは自分が送りたかったから誤魔化したそうだ。

 思わずブチ切れそうになったが、上司さんの真摯な謝罪とおっさんーーもとい、クソ野郎の処遇を聞いてどうにか鎮火した。

 しかも謝罪として今回のリストと、俺のデルタカイの性能を大幅に上げてくれたので上司さん改め女神さんに最大限の感謝をした。

 しかし再転生については、半年以上の期間を置かないとエネルギーが溜まらないので待って欲しいとのことだった。

 だが元から桜花作戦までは確実に留まるつもりでいたので、それは然程大きな問題ではない。

 それよりも気になったのが、今回の武のループだ。

 2ヶ月以上早く来たと告げるが、女神さんもこればかりはわからないとのことだった。

 可能性としては消える直前だったシロガネタケルの心残りを感じ取った世界が、彼のために世界を救える可能性が高い世界へと送ったのではないのかというものだ。

 もしそれが本当なら、この世界はもうオルタネイティブの『あいとゆうきのおとぎばなし』ではない。新たな可能性を秘めた『おとぎばなし』のひな型ということだ。

 やり方次第で最高の、もしくは最悪の結末を作り出すことができる。

 まあどんな『おとぎばなし』になるかはわからないが、俺という反則的要素がいる以上、最悪な結末にする気なんでサラサラないがな。

 

 

「――おっと、メディカルチェックが終わったか」

 

 

 モニタに映し出されたのはあの姿のまま治療ポッドから出てきた武だ。

 全体的に目立った異常はなし。体つきは兵士として鍛え上げられたそれだとわかることから、最低でも2週目以降であることが感じ取れる。

 

 

「個人的には、3周目であってくれた方が協力しやすいんだがな」

 

 

 2周目の武ではまだ未熟な部分があるためそれのサポートにも回らなければならないし、なにより下手をすればBETA捕獲イベントが発生してまりもちゃんがパックンチョされかねない。

 それだけは何としても、どんな手を使っても回避しなければ最高の結果には成り得ない。

 

 

「ま、ここで考えても仕方ない。起きたときにでも聞くとしよう」

 

 

 差し当たってはまず、あの顔を直に拝みに行くとするか。

 

 

 

プトレマイオス2 メディカルルーム

 

 

 まぶたの裏を刺激する明るい光に若干顔をしかめながら、白銀武はゆっくりと目を開けた。

 

 

「――ん、ねみぃ……って、どこだ此処」

 

 

 見慣れぬ風景に少し戸惑い、思わず起き上がり首をキョロキョロと動かす。

 何時もの自分の部屋ではなく何処かの医療施設のような空間だが、何故ここにいるのか皆目見当がつかなかった。

 

――確か俺は夕呼先生と霞に見送られて元の世界に……って、あれ?

 

 

「なんで、覚えてるんだ?」

 

 

 自分は既に因果導体ではないはずだ。元の世界に戻ったのであれば、何も覚えていない。

 ならば何故覚えているのか。

 そこまで考えて、唐突に思い至った。

 

 

「まさか、戻ってきたのか?」

 

 

 そう考えた彼にこみ上げてきた感情は絶望ではなく、歓喜。

 一度目は力が足りなかった。

 二度目は覚悟が足りなかった。

 だが今は、それらも持ち合わせている三度目だ。

 ならば、自分がすべきはただ一つ。

 

――今度こそ、みんなを救う! 一人も欠けることなく、絶対に!

 

 強い決意を持って寝ていた場所から立ち上がる。

 差し当たってまずは――。

 

 

「……横浜基地に行かないと不味いんだけど、マジで此処どこだ?」

 

 

 今自分がどこにいるのか把握しようとすると、見計らったように扉からプシュッと音がした。

 

 

「おっ、お目覚めのようだな」

 

 

 現れたのは20歳前後の若い男。

 白いズボンに青い軍服のようなものを纏っているが、階級章らしきものは見当たらない。

 髪と肌の色から日本人であると推測できるが、少なくとも自分の知り合いにこのような男はいない。

 

 

「まずは自己紹介だ。 俺は神林零。世界レベルの異邦人だ。タメ口で零と呼んでくれ」

 

「あ、白銀武です。 俺も武でいいです。えっと、世界レベルの異邦人って?」

 

 

 聞きなれない言葉についてたずねると、男――神林零は「うむ」と言って頷く。

 

 

「簡単に言ってしまえば、異世界の住人だ」

 

 

 

プトレマイオス2 メディカルルーム

 

 

 俺の回答に目の前の男――白銀武は愕然とした表情になった。

 

 

「異世界って、まさかあんたも因果導体なのか!?」

 

「因果導体? 違うな。 俺は強い想いに呼ばれ、自分の意思でここに来た」

 

「強い、想い?」

 

「俺は元の世界ではニュータイプって呼ばれる人間でな。普通の人より精神感応が強いんだ。ある戦闘が終わって直ぐ、この世界をBETAから救って欲しいって声を感じとり、導かれるままこの世界にきた」

 

 

 言ってる内容はほとんど嘘だが、この世界を救いたいという感情は本当にある。

 

 

「なら、あんたは俺の味方ってことでいいのか?」

 

「目的と利害が一致するなら、そう受け取ってもらって構わない。ちなみに今俺が掲げる目的は、地球圏からBETAを完全に駆逐すること。ただそれだけだ」

 

「……そうか。なら少なくとも、俺たちは敵同士ではなさそうだな」

 

 

 何処か安心した風に、武は若干表情を和らげた。

 

 

「さて、まずは今後の予定について説明しよう。ブリッジまで着いてきてくれ」

 

「了解。 ちなみに、此処どこ?」

 

 

 メディカルルームを見渡す武をみて、そういえば教えてなかったなと思い出す。

 

 

「ここは現在の俺の母艦、プトレマイオス2の艦内だ。そして現在、香月夕呼博士と接触すべく横浜基地に向かって海中を移動中だ」

 

「へぇー、先生に会いに横浜基地に行くのか」

 

 

 なるほどと言いながら頷く武だが、突然動きを止めて小さく首を傾げる。

 

 

「……なんですと――――!?」

 

 

 俺の発言に気づいたのか、驚愕と動揺がたっぷり含まれた叫びを上げた。

 

 

 

プトレマイオス2 通路

 

 

 移動しながら互いの話をしていると、このシロガネタケルは3回目のループでやってきたシロガネタケルだそうだ。

 因果の収束で他のシロガネタケルの力を取り込んでいる可能性もあるが、この際それはどうでもいい。

 重要なのは、俺が手を貸すべき主人公のシロガネタケルと言う存在がこの『未知なるおとぎばなし』にいるということだ。

 ブリッジでも思ったが、この世界は俺の立ち回り次第で最高にも最悪にもなりえる。

 ならば俺は、武にとって最高の結末を手にするのに必要なモノを揃えてやるだけだ。

 この世界の主人公はあくまでシロガネタケルだ。間違っても俺じゃない。

 俺は主人公に足りない後一手を補う存在であればいい。

 そうこうしているうちに目的地に到着する。ブリッジに足を踏み入れると、武は目の前の光景に目を輝かせた。

 まあ、無理もないか。こんな数世紀先の世界の技術を目の当たりにすれば心が踊るものだ。

 内心でくつくつと笑い、モニターに進路を表示する。

 

 

「俺たちの現在地はここ。明日の昼には横浜基地近海に到着するが、香月博士との接触はその日の夜だ。場所は基地の裏手にある丘の上。上陸は基地から十分離れた海面からMSで発進。基地から10キロ離れた森に機体を隠してから徒歩で移動する」

 

「MSって、零たちの世界にある戦術機……っと、ロボットだったよな。どんなのがあるんだ?」

 

 

 質問の回答に今回持ってきた機体のうち、デルタプラスのデータを見せてやる。

 始めは普通に読む武だが、段々とその目が開いていく。

 

 

「な、なあ。このスペック、マジか?」

 

「ああ、マジだ。ちなみに俺の愛機はこれの完成形態とも言うべき機体で、性能もそれより格段に上だぜ」

 

 

 ただでさえ強かったのに、女神さんのおかげでチートっぷりが凄まじいが。

 

 

「スゲェ……。ビームとかバルジャーノンの世界だけかと思ってたぜ」

 

 

 引き合いにバルジャーノンを出す辺り武らしいな。

 また内心でくつくつと笑い、ふと思いついたことを提案する。

 

 

「シミュレーターで一度操作してみるか?」

 

「いいのか!?」

 

 

 食いつき早ぇ。

 

 

「機体に戦闘データがあるから、MSデッキに行くぞ」

 

 

 再び連れ添ってブリッジを後にし、MSデッキへと向かう。

 移動しながらデルタプラスの機体特性や武器の仕様などを教えていくと、唐突に武が尋ねる。

 

 

「なあ、零。MSの技術を戦術機に流用することって出来ねえかな? もし出来れば、人類は今以上に戦える」

 

「それは俺も考えているが、実機がないと何とも言えないな。第一、武器そのものを使うことが出来ても、その弾数とかロックオンを管理させるプログラムを組む必要がある。俺としては間違いなくそれが一番面倒だと思う」

 

「零はできないのか?」

 

「俺はソフトよりハードを設計する方だな。仲間にいいプログラマーがいたから、ソフト関係はそいつらに任せっぱなしだ」

 

 

 中の人繋がりでお前ができそうな気がするが、まあ無理だろ。

 

 

「うまくいかないもんだな」

 

「世の中、そんなもんだろ」

 

 

 俺の返しに武は「確かに」と納得し、そのままMS関連へと移った話はデルタプラスのコクピットに着くまで続いた。




キャラクター紹介

神林零

機体
ガンダムデルタカイ

アビリティ
ニュータイプLv3
熱血LvMAX
底力LvMAX
機械技術LvMAX

初期ステータス
射撃:25
格闘:25
反応:28
守備:24
覚醒:11
指揮:7
魅力:9

神の力で転生してマブラヴの世界に来た男。
転生補正でニュータイプの力を手にするが、能力自体はそこまで強くはない。
名前の元ネタは戦闘妖精雪風の作者、神林長平と、同作主人公の深井零より。


白銀武

アビリティ
因果導体LvMAX
超強気以上で、ループした回数がステータスに乗算される。
格闘、射撃、反応、守備+10
超強気以上でクリティカル率+10%

恋愛原子核LvMAX
マスター時、味方女性の反応値+20、クリティカル率+10%
ただし、自機に向けての攻撃に限りクリティカル率100%
味方女性のMPが毎ターン30上昇(範囲制限なし)
同グループに特定キャラが全て揃っていた場合、覚醒と指揮を除く全ステータス+20
ただし、特殊アビリティ修羅場が発動し初期MP値とSAN値は-50される
なお、このアビリティは削除不可

エースLvMAX
身軽LvMAX

初期ステータス
射撃:23
格闘:28
反応:25
守備:23
覚醒:0
指揮:5
魅力:15

ご存じの恋愛原子核。
今回は2周目が終わって直ぐループしました。
オリジナルアビリティは付けるとしたらこうかな? と思ってつけてます。


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第4話

今回はかなり駆け足で書き上げました。
誤字脱字が有りましたらご指摘ください。


プトレマイオス2 MSデッキ

 

 

 ええい! あの因果導体は化け物か!

 機体に繋がれた小さなモニターで繰り広げられるデルタプラス一機とザクⅡ ”100機” による荒野での地上戦に、俺は頬を引き攣らせながらそう思わざるを得なかった。

 なんせ初めてMSに乗る男が、たった数十分で歴戦のパイロットと渡り合える実力を見せているのだ。

 いくら軍人として身体を鍛えていたり、戦術機の衛士として前線に出ていたとしてもちょっとおかしい。

 思わず初めてガンダムに乗ったアムロを彷彿させられたね。もしかしたら中の人繋がりの因果が流入したのかもしれない。

 

 

『零! こいつスゲーよ! XM3みたいに良く動くし、機動性も不知火が可愛く見えるぜ!』

 

 

 いや、お前の方が普通にスゲーよ。

 機体性能に大きな差があるとはいえ、実はあのザクの中にコレン・ナンダー軍曹とノリス・パッカード大佐のデータを使った機体もあった。

 だというのに、あいつはビームライフルで牽制してからのウェイブライダーによる突撃やビームサーベルでのカウンターでその2機を撃破するという戦いぶりをみせた。

 

――これだけ強いなら、あれを出してみるか。

 

 ちょうど全部のザクが撃破されたのを確認し、外部端末からある機体とパイロットデータを呼び出す。

 

 

「武、次の機体でラストだ。もしこれに勝ったら、お前にチーターマンの称号をくれてやる」

 

『なんだ、その褒めてるのか貶してるのかよくわからない称号は』

 

「今のお前が十分反則だからだ。行くぞ」

 

 

 一方的に話を切り、次の戦闘を開始させる。モニターでは荒野に二つの機影が存在し、一つはデルタプラスで、もう一つはアンテナをつけたザクだ。

 ――ただしそのザクは、かの赤い彗星の専用機。

 そしてパイロットは宇宙世紀0093の地球に隕石を落としたニュータイプ、シャア・アズナブルその人だ。

 

 

 

プトレマイオス2 MSデッキ デルタプラスコクピット

 

 

 武が駆るデルタプラスの前に現れたのはまたもザク。

 しかし今度のは今までのと比べ明らかに異質。

 武装事態に変化は見られないが、カラーリングが緑ではなく赤、頭部にはアンテナと見るからに個人のために用意されたカスタムタイプだ。

 

――こいつ、なんかヤバそうだな。

 

 ゲームで良くあるボスキャラみたいな感じを受け、武はいつでも動ける体制でビームライフルを構えようとする。

 

 瞬間、赤いザクは彗星の如き速さで距離を詰めてきた。

 

 

「な、はや――ぐぅ!」

 

 

 いきなりショルダータックルをもらい後方へ吹っ飛ばされるが、あらゆるスラスターを使って素早く制止させる。

 

 

「なんだ今の!? 他のザクと全然ちがーー!」

 

 

 落ち着く間も無く鳴り響くアラート音。カメラを前に向けるが、そこに敵機はいない。

 映っているのは、地面に作られた不自然な黒い影。

 

 

「上か!?」

 

 

 気づいた時には既にマシンガンの雨に晒されていた。シールドで防ぎながら後退しつつビームライフルで応戦するも、予定調和のように全て紙一重で回避される。

 その間もマシンガンは放たれており、銃身が脚部に向くと弾はその動きをなぞるようにズレーースラスターに直撃した。

 

 

「のわっ!? 脚が!」

 

 

 爆発を起こした脚部に気を取られた瞬間、ザクマシンガンからヒートホークに持ち替えたザクはそれを逃すことなく、全力の一撃をデルタプラスのコクピットに叩き込んだ。

 

 

 

プトレマイオス2 MS

 

 

「――なんだよあの機体。強すぎるんだけど」

 

 

 納得いかないと言った風に出てきた武のために、俺はネタバラシをしてやる。

 

 

「あれは赤い彗星と呼ばれるエースパイロットにしてトップクラスのニュータイプ、シャア・アズナブルの専用機だ。推進性能は通常のザクに比べて30%増しだが、初めてその速さを見たオペレーターはテンパって通常の3倍早いと錯覚した。そしてパイロットはその機体を使っていた頃から約13年後の本人」

 

「あれで30%増しって、まるでXM3を積んだ撃震みたいだな。いや、それ以上に衛士の実力が違いすぎた。 あれがニュータイプの力か」

 

 

 ニュータイプについて何か納得したように頷く武に、俺は自分が感じていることを補足する。

 

 

「ニュータイプと言えど、元は同じ人間だ。確かにニュータイプは強いかもしれない。けどな、ニュータイプだから強いってわけでもない。それがなくても強い奴はいるし、そういう奴に限って特に心が強い」

 

 

 平和のためにテロリストとして戦ったガンダムのパイロット。

 好きな女の子を守り抜くために戦ったガンダムのパイロット。

 他にも特別な力を持たずとも強い連中はたくさんいた。

 ……まあ、一部おかしなベクトルで強い奴らもいたが。

 「MSは拘束具です」と言い張るような連中を思い起こしながら、新たなシミュレートデータを選択する。

 

 

「武、今度はこれやってみるか?」

 

 

 そう言って見せた内容は空中で360度全方位から飛来するビームを、時間切れになるまでひたすら避け続ける訓練プログラムだ。

 ガンダムXでガロードが特訓してたアレである。

 

 

「……いやいや、なんだよこの鬼畜な訓練は。これこそニュータイプしか――「ニュータイプでないお前より年下の少年が、これを凌ぎ切ったと聞いてもか?」――!」

 

 

 途中で遮られた言葉の内容に驚く武だが、その顔は直ぐに変わった。

 

 

「いいぜ、やってやろうじゃねえか」

 

 

 年下の子供に負けるというのが我慢ならないのか、強気な炎を瞳に宿して武はまたデルタプラスへと入って行った。

 単純なように見えるが、あの負けず嫌いな精神は必ず大きな力になるだろう。

 しかし、後の横浜基地で俺はちょっぴり後悔することとなった。

 その負けず嫌いが、オールドタイプでありながらニュータイプばりの反応と直感で自分を追い詰めてくるなど、この時は知る良しもなかったのだから。

 

 

 

国連軍横浜基地

 

 

 その日、香月夕呼は何処か落ち着きがなかった。

 研究がうまくいかないのは――悔しいが――何時ものことだが、まるで時間が早く過ぎるのを待っているようにそわそわしていた。

 傍からみれば男性とのデートの時間になるのを待つ女性に見えなくもないが、本人からすればそんな甘い事情ではない。

 

 

「……いよいよ、今夜ね」

 

 

 一週間ほど前、自分のパソコンにハッキングを仕掛けてきた謎の人物がいた。

 自らをイレギュラーと名乗り、異世界からやって来た存在と言う。

 それを裏付ける資料が送られてきたため、夕呼は自身が提唱する理論に基づき、この人物が本当に異世界から来たと判断した。

 少なくとも、敵対するのに自分の重要な手札を明かす奴はいない。

 別な思惑があるのかもしれないが、こっちにとってプラスになるのなら特に突っ込んだりする必要もない。

 ただし、こちらに銃を突きつけるような真似をするならば――

 

 

「……どのみち、実際に会わないと正確な判断ができないわ。 社、あなたも来るのよ」

 

「はい……」

 

 

 夕呼のそばにいた銀髪の少女、社霞は頭のウサ耳を揺らして頷いた。

 この少女がいる限り、一部の人間以外はその思考が嘘か誠か隠すことはできない。

 彼女の能力は、これから会う者に対しても重要な判断材料になるのだ。

 約束の時間まで、あと6時間。

 

 

 

日本帝国 国連軍横浜基地近郊 柊町

 

 

 夜の帳が下りた廃墟を進んでいた俺と武は、2種類の家の前にいた。

 一つは廃墟の街にしてはかなり綺麗な状態の家。

 もう一つは、撃墜された戦術機に押し潰された家だ。

 綺麗な家の表札には白銀と。

 潰れた家の表札には鑑とあった。

 

――本来なら、10月22日のここから始まるんだよな。だが既に『おとぎばなし』は幕を開けた。あとは紡ぎ、駆け抜けるのみだ。

 

 武も何か新しい決意でもしたのか、一度力強く頷くとこちらへ向き直った。

 

 

「もういいのか?」

 

「ああ。行こうぜ」

 

 

 多くを語らなかったが、その顔からは強い信念が感じ取れた。

 さすが3周目。精神的な部分が強くなっているな。

 ちなみに武は最初から着ていた制服で、俺はグレーの連邦軍の制服になっているな。

 個人的には青い制服の方が好きだが、今回の行動では目立ちすぎる。

 長居は無用としてその場から歩き出し、やがて坂の上に巨大なレーダーがある施設が見え始めた。

 国連軍横浜基地だ。

 俺は武を連れ、あらかじめ決めていたルートを突き進む。もちろん誰かに見つかるようなヘマはしないし、今の緩い横浜基地なら熱探知レーダーもロクに監視していないだろう。

 ちらっと武に目をやると、見るからに渋い顔をしていた。まあ、この空気を改善するために取られた手段で恩師が死んだんだ。そりゃ苦い顔の一つもするだろう。

 これも早急に解消する必要があるが、残念なことに解消する手立ては今のところ思いつかない。

 ガフランを大量投入したら流石に慌てるだろうが、それなら最初から俺が乗り込んだ方が早い。

 とりあえずこれは、横浜基地に出入りできるようになってから考えよう。

 予定通り誰にも見つかることなく、裏にある丘にポツンと立っている木の元に辿り着く。

 まだ近くに誰もいないが、キッカリ約束の5分前。あの香月博士が大事な約束に遅れるなどあり得ない。ならば先に来てこちらを観察している可能性がある。

 不意に、誰かに心を覗かれているような感覚を受ける。

 

……なるほど、霞にリーディングさせてから接触する気だったか。

 

 しかし残念ながら俺にリーディングは効かないし、ニュータイプの力でどこにいるかも違和感を辿れば分かってしまう。

 

 

「? どうした、零」

 

 

 尋ねる武を手で制し、違和感の元――一際大きな木の幹に体を向ける。

 

 

 「誰だ? 俺の中に入ろうとするのは」

 

 

 

国連軍横浜基地近辺。

 

 

 約束の時間の5分前に現れた二人の男。

 一人は訓練兵の制服だが、もう一人はグレーの服を着ていた。

 先に着ていた夕呼は足元に座って身を隠している霞に小さく頷き、あらかじめ指示しておいたことをさせる。

 リーディングによる相手の真意の確認。これが彼女の決定の大きな判断材料となっている。

 今まで何度も彼女の力で最善の判断を下してきたし、それは今回も同様だと夕呼は考えていた。

 しかし突然、霞の小さな体がびくんっと震えた。

 

 

「社、どうしたの?」

 

「…………ん」

 

「え?」

 

「グレーの服の人、読み取ることができません」

 

「!?」

 

 

 夕呼に激しい衝撃が走った。

 グレーの男がリーディング対策をしており、こちらの手札を封じていたのだ。

 

――ということは、あの男がイレギュラーって訳ね。

 

 そしてその考えは、離れたところから聞こえた声で確信へと変わった。

 

 

「誰だ? 俺の中に入ろうとするのは」

 

 

 ばれているのなら、もはや隠れる理由はない。霞を立たせ、共に姿を晒す。

 訓練兵は驚いた表情をし、グレーの男――イレギュラーは表情一つ変えることなく夕呼たちを見据えていた。

 

 

「直接でははじめまして、香月博士。イレギュラーの神林零です」

 

「聞かせてもらえるかしら、何故あたしたちが隠れているとわかったの?」

 

「その前にもう一人、こちらから紹介したい人物がいます」

 

 

 イレギュラ――ー神林零が促すと訓練兵が前に出た。

 

 

「お久しぶりです、先生」

 

「あたしは教え子を――「『教え子を持った覚えはないわよ』」――!」

 

 

 再び夕呼を激しい衝撃が襲った。

 当初彼女は、自分に接触を求めてきた人物にさえ注意すればいいと思っていた。

 だがこの時点で彼女はその考えを破棄した。

 相手は自分の予想を遥かに上回る強力なカードを何枚も携えてきたのだ。こちらの手札では捌き切れないと判断し、一度心を落ち着けて訓練兵に体を向ける。

 

 

「あんた、何者?」

 

「俺は白銀武。先生といまのやりとりをするのは、俺の主観で2度目です。もっとも、前回と比べて2ヶ月以上早いですけど」

 

 

 その発言に夕呼は違和感を感じた。

 白銀武が言うには今のやりとりは2回目で、一度目は2ヶ月後にあったと言う。

 

――ならこの白銀ってのは未来から来たとでも言うの? ……ん? 白銀武?

 

 そこまで考え、夕呼はある可能性に行き着いた。

 異世界人がいるのだ。ならばそれが居ても何ら不思議はない。

 

 

「白銀、と言ったわね。あんた、まさかとは思うけど……因果導体だとでも言うの?」

 

 

 その発言に、目の前の二人はニヤッと笑った。

 

 

「香月博士、ここから先は人に聞かれると少々マズイ。基地へ招き入れてくれませんか? それと、俺の機体を回収したいので大型トレーラーを一台貸していただきたい。こちらがざっと入手した横浜基地の図面では地下に巨大な格納庫があったはずだ。そこに搬入させてもらいたい」

 

「そこまでお見通しって訳ね。 いいわ。確かにここで話すことではなさそうだし、あたしもMSには興味あるわ」

 

「感謝します」

 

 

 夕呼が基地に足を向けると、二人は着いてくるように後ろについた。

 

――さて、この二人の存在。あたしにとって吉と出るか凶と出るか。

 

 思わず頭を抱えそうになるのをどうにか堪え、夕呼はこれからする質問の内容を見直すことにした。




前回のあとがきに記しましたが、この武ちゃんは超強気以上になるとステータスが狂ったように上がります。
今回シャアザクに負けたのはイベントによる仕様です。


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第5話

政治パートって大変です。
腹の探り合いとても黒いです。
そして執筆中の内容が意味もなく消えたらテンションだだ下がりです。


国連軍横浜基地 第90番格納庫

 

 

 自他共に認める天才、香月夕呼は今し方搬入された機体に興味を抱かずにはいられなかった。

 しかしそれよりも重要なことが先に控えているため、少々歯痒い思いをしているのもまた事実。

 そしてその元凶とも言える男が搬入された機体――デルタプラスのコクピットからワイヤーラダーで降り立った。

 

 

「感謝します、博士」

 

「礼なら別にいいわ。それより早くあんたたちのことを教えなさいよ。特に神林」

 

「ご指名に応えたいところですが、先に武の話を聞いてやってください。こいつは博士の研究だけでなく、日本帝国にとっても非常に重要な情報を持っています」

 

 

 自分以上に重要な情報を持っているとして武に目配せをし、説明を促す零。

 その意図を察して、武が答え始める。

 

 

「先生が言う通り、俺は因果導体です」

 

 

 それを皮切りに、武は自分の周りで起こったことを全て話した。

 自分が10月22日を基点にループを繰り返すこと。

 一度目の世界で12月24日をリミットにオルタネイティブ5が発動してしまったこと。

 2度目のループで第5計画を防ぐため行動し、未来が変わったこと。

 元の世界への数式の回収。米国の手引きで起こされたクーデター。トライアルでの神宮司まりもの死。佐渡島での戦いの後に起こった横浜基地防衛戦。そして、桜花作戦。

 夕呼は終始無言であったが、所々で表情に変化はあった。

 特に親友が自分の策で死んでしまったと聞いた時は、見るからに手に力が入るのがわかった。

 

 

「なるほど。確かに聞き逃せない情報ね、特に00ユニットからオリジナルハイヴに情報が筒抜けになるというのは」

 

「しかし、00ユニットがなければ戦力的に辛いのもまた事実です。俺は確かに強力な機体や武器を保有していますが、調整中のものもあるので全部が全部使えるわけではありません。しかもそれ以前に、使いこなせる人員がいなければ話になりません」

 

 

 零の発言を聞き、武は少し前から思っていたことを聞いた。

 

 

「なあ、零。お前が持ってるので一番強力な機体ってなんだ?」

 

「調整中のを含めても、いま一番強力なのは俺のガンダムだな。武器だけで言えばそれすら凌駕するものがあるが、BETAと一緒に機体の腕もぶっ壊れる可能性が高い。かと言って元々それを使っていた機体を作ろうにも材料の精製から入る必要があるから時間がかかりすぎる」

 

「強力でも使い勝手の悪い武器はいらないわよ。 ところで神林、ガンダムって何よ」

 

「以前博士にジムのデータを送りましたよね。あれは試作MS、『ファーストガンダム』をスペックダウンさせて量産向けに調整された機体です。そしてガンダムは、俺の世界では歴史の大きな転換期に必ず現れた機体です。しかも状況によっては讃えられる英雄であれば、討つべき堕天使なんて表現されたこともあります。そしてその全てが一騎当千であり、機体によっては過剰すぎる火力を持ったものまであります。それこそ一発の砲撃でそれなりに大きな島一つを消してしまうほどの」

 

「お、恐ろしいな……」

 

 

 慄く武を余所に、夕呼は零に質問を重ねる。

 

 

「ガンダムについてはわかったわ。今度はあんたのことを教えなさい。あそこにあたしたちがいるのがわかった理由も全部よ」

 

 

 

国連軍横浜基地 第90番格納庫

 

 

 さて、ようやくこの質問か。

 俺はあらかじめ用意しておいた設定を思い返し、説明を始める。

 自分が人類の革新者、ニュータイプであること。

 そこに至る過程で、多元世界(Gジェネ)で戦い抜いたこと。

 その最後の戦いが終わった後、この世界を救って欲しいという強い想いを聞き、この世界にやってきた。

 話の内容ほぼ100%が嘘であるが、リーディングも効かず真実を知るのがこの世界で俺しかいないので何も問題はない。

 

 

「なかなかに反則な存在ね、あんた」

 

「これでも、部隊の中では最弱でしたよ。周りが化け物揃いだったことは否定しませんが」

 

 

 呆れる香月博士にそう返すと、武が納得したように頷いた。一度シャアとやり合っただけあって理解も早かったようだ。

 さて、と俺は切り出す。

 

 

「以上が俺が話せる全てです。そしてそれらを踏まえた上で、俺たちは博士に協力しようと思っています」

 

「見返りは? 神林は前に聞いたけど、あれは本心かしら」

 

 

 疑り深いな。まあ、こんな破格の申し出をされたら普通勘繰るよな。

 

 

「本心ですよ。違う世界とはいえ、命かけて護った地球が滅亡の危機にあるとなれば傍観なんてできませんし」

 

「俺はみんなを守ることができれば。地球の解放は、そのついでに出来ればいいです。ですから先生は、計画完遂のために俺たちを利用すればいいんです」

 

 

 おい武、俺は利用されてもいいなんて一言も言ってないぞ。 まあ、利用し利用されるつもりだったから結局は同じか。

 香月博士は疑惑の目を向けていたが、すぐにニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「なら、あんたたちがあたしの駒として相応しいかテストさせてもらうわよ。白銀、あんた突撃前衛長だったんでしょ? 実力を見せてもらえるかしら」

 

「その程度なら、お安い御用で」

 

「それから神林。あんたはあたしをGステーションってところに連れて行きなさい」

 

 

 予想通り。そして俺は、その発言の瞬間を待っていた。

 

 

「いいですけど、それなら一つ条件があります」

 

「条件? 何よ」

 

 

「Gステーションに行くなら日本帝国の重鎮、具体的には政威大将軍煌武院悠陽殿下も御同行願います」

 

 

 これは予想外の要求だったようで、博士だけでなく武まで呆気に取られていた。

 しかしこれはこちらにとって大事な事である。早い段階で殿下との繋がりを確保し、帝国領内に戦艦を収められるドックの建造を許可してもらいたい。そのための見返りとして技術提供や食糧支援は惜しまないつもりだ。

 

 

「……それは必須事項と受け取っていいかしら?」

 

「無論です。そのためにも会談の場を設けてくれませんか? いつまでとは言いませんが、出来るだけ早く」

 

「……いいわ、やってあげる」

 

「契約成立ですね」

 

 

 これで会えることは確実だろう。

 流石に殿下が単身で来ることはない。少なくとも護衛に月詠大尉と紅蓮大将、参謀に鎧衣課長。後はオブザーバーに珠瀬事務次官と榊総理大臣あたりが来るはずだ。

 後は如何に早く会談して協定を結び、帝国と横浜の戦力を強化出来るかだな。少なくとも甲21号――いや、11月11日のBETA侵攻までにはある程度戦力を整えておきたい。

 そして大事なのがここで207訓練部隊に『死の8分』を経験してもらうことだ。

 これを逃せば少なくとも207Bの初陣は甲21号、もしくは防ぎきれなかった場合のクーデターになってしまう――って、ちょっと待て今って確か!

 

 

「博士。つかぬ事を伺いますが、今の訓練兵たちは総合評価演習はもう実施されましたか?」

 

「2週間後の予定だけど、それがどうかしたの?」

 

 

 セーフ! 今が夏の評価演習の時期だってことを完璧に忘れていたがまだ間に合う!

 

 

「先ほどの武の話を元に俺なりのプランを考えていたんですが、必須条件が今回の演習で207Bが合格することなんです。初陣が甲21号では余りにもプレッシャーが大きいのと、新技術の慣熟に費やす時間を減らしたくないというのが理由です。ただでさえ少ない時間を、こんな事で無くすのはもったいなさ過ぎる」

 

「確かに。ならまた俺が訓練兵として混ざった方がいいか?」

 

「愚策だな。今のお前を訓練兵に放り込むなんて時間の無駄だ、まだ特別教官の方が効率がいい。権力の力とか訓練兵へのお手本とかやりたい放題だぞ、階級によるが」

 

「時間の無駄はあたしも好きじゃないわ。白銀、さっさとシミュレータールームに行くわよ」

 

 

 博士が踵を返し、エレベーターへと向かって行く。それに倣うように、俺と武もその後を追う。

 いや、さっきは本当に危なかった。

 俺からすればここはゲームの世界だが、セーブやロードなんて都合のいいやり直し機能は存在しない。

 時間を有効に使うためにも、207B分隊には必ず合格してもらわなければ。

 

 

 

国連軍横浜基地 シミュレータールーム

 

 

「変態ね」

 

「変態ですね」

 

 

 博士と意見が一致する。目の前のモニターでは、国連カラーの不知火が凄まじい速度でハイヴ内を突き進んでいた。

 しかし、その動きは変態と呼ばれるのに十分な機動を見せていた。

 迫り来るBETAはほぼ全て無視。ただひたすら前に進むために足場がなければ着地点のBETAを一掃し、時には天井を蹴り、挙げ句の果てにはBETAを踏み台にしてまで進んでいた。

 信じられるか? 旧OSでコレなんだぜ……。

 

 

『ダメだ、XM3じゃないからデルタプラスでやったみたいな機動ができない』

 

 

 んなことやらんでいい。

 

 

「あいつ、そのXM3とやらがあればもっと動けるとでも言うの?」

 

「間違いないでしょう。初めて触ったMSで、すでにこれ以上の機動をやってましたから」

 

「……変態ね」

 

「変態ですね」

 

 

 やがて推進剤と弾薬を使い切り、長刀が折れたところで自決用のS-11が作動しシミュレーターが終了した。

 

 

「ふぅ、どうですか? 先生」

 

 

 さっきまで動いていたマシンから強化装備を身に付けた武が姿を現し、こちらまでやってくる。

 

 

「あんた、MSで戦った方が早いんじゃないの?」

 

「いえ、操作はやっぱり慣れた戦術機の方がいいですね。それに、XM3は絶対に必要になります」

 

 

 XM3が必要というのは俺も同意見だった。

 XM3が搭載された機体は無い機体と比べると天と地ほどの差があるし、武が戦い続ければ他の衛士が使った時に役立つ。どう考えてもMSという全く別の技術を一から習うより明らかに早い。

 

 

「とりあえず、あんたの実力は分かったわ。精々こき使ってあげるから、覚悟し時なさい」

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

 

 

 武が苦笑いして両手を上げると、ちょうどシミュレータールームの扉が開き何処かで見た女性が現れた。

 

 

「博士、ご依頼のものをお持ちしました」

 

「あら、ありがとう。ピアティフ」

 

 

 ああ、ピアティフ中尉だったか。

 博士に二つの封筒を手渡すと、彼女は何事もなかったかのように退室した。

 

 

「それじゃ、二人とも。 受け取りなさい」

 

 

 武と揃ってたった今届けられた封筒を受け取る。先に武が開けたので覗き込むと、見出しに辞令と書かれていた。

 

 

「ちょ、俺大尉ですか!?」

 

 

 慌てるその手には、確かに大尉の二文字が記された書類があった。

 

 

「なによ、不服なの?」

 

「イヤイヤ、高すぎませんか!?」

 

「そうか? 実力的には何ら問題ないと思うぞ」

 

 

 言いつつ、俺も自分の封筒を開けて中身を確認する。

 見出しには武と同じ辞令の文字。

 で、肩書きが特別開発部門開発長で階級は臨時中佐か。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………ファッ!?

 

 

「こ、香月博士! 俺が開発長にして臨時とはいえ中佐とか一体なんの冗談だ!?」

 

「妥当な階級よ。あんたにはこれからやってもらうことが山ほどあるから、階級は高い方が良いに決まってるじゃない」

 

「イヤイヤイヤイヤ! 開発長はともかく階級は少佐ならまだ納得できるが流石にやり過ぎではないか!?」

 

「あんたさっき白銀に言ったじゃない、実力的には何ら問題ないって。あたしもあんたの持つ技術を鑑みればこれぐらいがちょうどいいって判断したのよ」

 

 

 ブーメランキター!

 

 

「諦めなさい。あんたは既にこの横浜の魔女と契約したのよ?」

 

「……そーでございました」

 

 

 おかしいな、途中まで俺の思惑通りに進んでいたはずなのに、いつの間にか自分から生贄の祭壇に上がっていたようだ……。

 

 

「零」

 

「なんだ、武」

 

「ザマァ」

 

 

 満面の笑みでそんなことを言ってきた武へ、とりあえず俺は一発殴ることにした。

 

 

 

日本帝国 帝都 帝都城 謁見の間

 

 

 限られた者だけが許される日本帝国政威大将軍殿下、煌武院悠陽との会談。

 その限られた人物の一人が今、彼女の前にいた。

 トレンチコートを纏っている男は真意を読まさない笑みを崩さず、ただ悠陽の言葉を待つ。

 

 

「それで、鎧衣。火急の件とはなんでしょうか」

 

 

 男――帝国情報省外務二課課長鎧衣左近はようやく口を開いた。

 

 

「実は先ほど、香月博士を通して殿下に御目通りを願う者がおりまして。ただその人物は異世界からBETAを滅ぼすために来たと申しているのですよ」

 

「異世界、ですか?」

 

 

 鎧衣は「はい」と頷き、続ける。

 

 

「私も博士が研究がうまくいかずついそんなことを口走ったのかと思ったのですが、渡された資料を見てはその可能性も否定できなくなりましてな」

 

 

 そう言って取り出される数枚の用紙。

 鎧衣から差し出されたそれを受け取り、悠陽は一字一句逃さず目を通す。

 最初は落ち着いて、しかし徐々に驚きを隠せなくなる。

 

 

「ここに記されていることは、誠なのでしょうか?」

 

「少なくとも、博士はこれが本物であると判断されたようです。またこの資料の提供者、神林零と名乗る者はこの巨大人工衛星『Gステーション』に我々を招き入れる用意があるそうです」

 

「……真耶さん。どう思いますか?」

 

 

 悠陽は側に控えていた従者の月詠真耶大尉に問う。

 

 

「は。私見と致しましてはふざけていると切り捨てたいところですが、あの香月博士がこのような判断をされたとあれば、真実である可能性は高いかと」

 

 

 それは悠陽も同意見だった。

 そして彼女の提唱する理論をある程度であるが理解しているため、ほぼ間違いないだろうと考えた。

 僅かな沈黙の後、悠陽は決意する。

 

 

「鎧衣、その神林殿と一度お会い出来るように動いてもらえますか?」

 

「殿下、それはつまり……」

 

「はい。私は信じてみようかと思います。 ――真耶さん。この資料の写しを技術廠第壱開発局の巌谷中佐に渡していただけますか?」

 

「御意」

 

「鎧衣、そなたにも苦労をかけます」

 

「いえいえ。殿下の願いとあらば、喜んで」

 

 

 ――さて、この神林零という人物はこの国にどのような影響を与えるのかな。

 

 退室した鎧衣はそんなことを思いながら、若き政威大将軍のために行動を始めた。




Gステーションに殿下や先生を連れて行くのはもう少し先になります。


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第6話

国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

「仕事早すぎんだろ、香月博士ェ……」

 

 魔女との契約から一夜明け国連軍の制服に着替えてから香月博士の部屋を尋ねると、既に俺の執務室が博士と同じフロアに作られていた。

 デスクの正面には立派な応接スペースがあり、隣の部屋はプライベートルームになっている。

 確かに機密のレベルを考えれば妥当ではあるんだろうが、幾ら何でも早すぎる。

 これは最初のハッキングの時点で用意する気満々だったと見るべきか。

 まあどの道、横浜基地の一室を借りて武器とか機体の考案するつもりだったし。

 何気に今一番気にしてるのが現在もなお海底に潜むトレミーなんだよなぁ。船底にフジツボとか張り付いてたら泣くぞ。

 早いトコ殿下と協定結んで堂々と動けるようになりたい。

 

 

「……連絡がない内は焦ってもしょうがないな。 訓練兵の様子でも見に行くか」

 

 

 武も結局特別教官になったし不干渉について指摘はするだろうけど、悪いが先に言わせてもらう。

 XM3に関してもα版は今夜までには完成すると博士からお墨付きをもらった。あとはバグ取りと実証データを集めて博士に提出すれば問題ない。

 A-01部隊へは……精々武器のテストを依頼するくらいだな。教導はXM3が物になってから武がやるだろうし、MSなんか出したら速瀬中尉が絡んで来そうだ。

 てかあいつ、霞や純夏に会ったか?

 あれは最重要イベントの一つだ。武の性格からポカしてる可能性は低いが……一応、確認はしておこう。

 霞さえ捕まえれば純夏に会ったかもわかるはず――

 

 

「――ん? この感覚、噂をすればなんとやらか」

 

 

 昨夜のように突然現れた頭の中に入り込もうとするが何かに阻まれて四苦八苦しているような感覚、今の横浜基地でこんなことが出来るのは彼女だけだ。

 

 

「――残念だが、その程度じゃ俺のATフィールドは突破出来ないぜ」

 

「!?」

 

 

 音も立てずに移動して扉を開けると、うさ耳がピーンとまっすぐになると同時に凄まじいスピードで角に向かって消えて行った。

 しばらくその場で佇むと、社霞が耳を出してから徐々に顔を出した。

 なにあれ、こっそり伺うにしては致命的な行動だけどメチャクチャかわいい。

 

 

「社、武とは会ったか?」

 

 

 声には出さず、うさ耳を縦に揺らして答える霞。どうやらあいつは忘れていなかったようだな。

 しかし、霞は一向に近づいてこようとはしない。

 

 

「心が読めない俺が怖いか?」

 

 

 直球で問いかけると、ゆっくりと頷いた。

 

 

「それが普通だ。人間は相手の心を読むことはできない。だから会話して触れ合い、相手を知ろうとするんだ」

 

「……そういうものですか?」

 

「そういうものなんだよ。その力に頼らず他の人と会話してみろ。同じ『知る』でも全く違う印象を受けたりするぞ」

 

 

 少し黙り込んだ霞は、やがて頭のうさ耳をぴょこぴょこと動かした。

 

 

「『わかりました』ってか?」

 

 

 思ったままを口にしてみると、あからさまに驚いた顔になった。

 

 

「……白銀さんが言っていたニュータイプの力、ですか?」

 

「そんな大層なことじゃない。話の流れと社の性格から推測して、この動作はこういうことを言っているだろうと思っただけだ」

 

 

 信じられないと言った様子で驚く霞が少し可笑しく、思わず笑みがこぼれる。

 

 

「慣れたら誰でも出来ることだ。一度武の仕草とか研究して試してみるといい」

 

「……やってみます」

 

 

 小さくお辞儀をした霞はその場から走り出し、ちょうど降りてきたエレベーターに駆け込んで行った。

 しかし、あの様子だと近づいて話してくれるのはまだかかりそうだな。

 まあ、別にいいか。それはそうと俺も地上に上がらないと……。

 

 

「……って、しまった。エレベーターは霞を乗せて行っちまったんだった」

 

 

 地上に向かってグングン進んでいくエレベーターの表示を眺め気づく。

 そして俺が地上に出られたのは、これからさらに5分後のことだった。

 

 

 

 国連軍横浜基地 グラウンド

 

 零がエレベーターの前で黄昏ている頃、国連軍の制服に着替えた武はグラウンドを走る訓練兵たちとそれを指導する教官を見て、涙腺が一気に危険な状態へと陥っていた。

 

――泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ、泣いちゃダメだ泣いちゃダメだ泣いちゃダメだ!

 

 込み上がる涙を必死に抑え込み、教官に近づく。

 教官――神宮司まりもは武に気づくと、階級を見て慌てて姿勢を正した。

 

 

「ご苦労様です、大尉!」

 

「ご苦労様。本日付で訓練兵たちの特別教官に就任した白銀武大尉です。よろしくお願いします、軍曹」

 

「……え?」

 

 

 返礼と共に返された言葉の内容を理解するのに少しかかり、まりもは聞き返す。

 

 

「し、失礼ですが大尉。特別教官とは、一体?」

 

「昨夜、総合評価演習後の戦術機全般の教官を俺がすることになったんです、香月博士の独断で。それで自分が面倒を見る訓練兵たちを一目見ておこうと思いまして」

 

「そ、そういうことでしたか。 少しお待ちください。 ――全員集合!」

 

 

 よく通る声を聞き、訓練兵たちが一斉に集まる。

 

 

「207A、集合完了しました!」

 

「207B、集合完了しました!」

 

 

 それぞれの小隊長、涼宮茜と榊千鶴の報告を聞き、まりもは頷く。

 

 

「こちらは本日付で貴様らの特別教官に就任された白銀大尉だ。大尉には、総合評価演習後の戦術機訓練を監督していただくことになっている。 大尉、何か一言お願いできますか?」

 

 

 柄にもないなとおもいつつ、武は名乗り始める。

 

 

「たった今、神宮司軍曹より紹介に預かった白銀 武だ。軍曹から聞いた通り、俺はみんなが総合評価演習をパスした後がメインの教官になる。それまでは今まで通り軍曹が監督してくれるが、俺も思ったことは口出しするからそのつもりで。ーーで、表向きの固い話はここまでだ」

 

 

 突然話が変わり、全員が同時に「は?」となる。

 

 

「実は俺、みんなとは同い年なんだよ。だから公の場や周りに他の人がいる時以外は気軽に呼んでくれ」

 

「た、大尉。それは如何なものかと……」

 

「ダメですか? まりもちゃん」

 

「ま、まりもちゃん!?」

 

 

 流石にこれは予測の範疇外だったらしく、まりもは素っ頓狂な声を上げてしまう。

 そして訓練兵たちはいつも怒鳴り声をあげている教官が弄られる様に唖然としていた。

 

 

「俺は階級や身分を気にした関係にはなりたくないんだ。だからみんなもフレンドリーに頼む」

 

「し、失礼ですが大尉。それでは他の者に示しがつかないのでは……」

 

「委員長、軍隊では基本的に上官の命令は絶対だ。つまり、今頼んだことを命令として扱うこともできるんだぞ」

 

「それはわかりますが、と言うかあの、委員長ってなんですか?」

 

「君の雰囲気が昔俺のクラスにいた委員長に似ててさ、すっげえしっくりくるぜ」

 

 

 意見した千鶴を正論でねじ伏せ、ついでに委員長を定着させようとする武。順応性が高いメンバーは好感を持ったようだが、真面目なメンバーはまだ戸惑いを隠せずにいた。

 そこへ彼女たちをさらに困惑させる燃料がバーナーを抱えてやってきた。

 

 

「よお、武。顔合わせは済んだか?」

 

 

 国連軍の制服を着た零が、真新しい中佐の階級をつけて近づいてきた。

 まりもや訓練兵たちは突然現れた中佐という階級を持つ男の登場に、驚きながらも反射的に敬礼をする。

 

 

「今、俺の自己紹介が終わったとこ。零も挨拶か?」

 

「た、大尉! 中佐殿に向かって流石にそれはーー」

 

「あー、軍曹。公の場や他の人がいなければ別に構わないぞ」

 

「あ、あなたもですか!?」

 

 

 軍隊としてあるまじき光景に流石のまりもも空いた口が塞がらなかった。

 そんな彼女の心労をしってか知らずか、零はマイペースに自己紹介を始める。

 

 

「さて、俺は神林 零 臨時中佐だ。民間協力者として武と共にこの横浜基地にやってきたが、この度香月博士から特別開発部門開発長に任命された。なのでそちらに時間を割くためこちらで会う機会は少ないと思う。だが諸君らが総合評価演習を合格した場合、俺の試作武装か改良機に触れることになるから必然的に顔を合わせることは多くなるはずだ。今後ともよろしく頼む」

 

 

 民間協力者にも関わらず中佐の階級を持っていることも驚きだが、自分たちが試作武装や改良機を使えると言われ訓練兵たちは目を輝かせた。

 それではとまりもが訓練兵に自己紹介を促し、少女たちが前に出る。

 

 

「207A分隊、涼宮 茜訓練兵です!」

 

「同じく、柏木 晴子訓練兵です!」

 

「207A所属、築地 多恵訓練兵です!」

 

「あ、麻倉 澪訓練兵ですっ!」

 

「20705A、高原 早苗訓練兵です」

 

「207B分隊、榊 千鶴訓練兵です!」

 

「207B所属、御剣 冥夜訓練兵です」

 

「にに、に、207B分隊の! たた珠瀬 壬姫く訓練兵でしゅっ!」

 

「20704B、彩峰 慧訓練兵です……」

 

「同じく207B、鎧衣 美琴訓練兵です!」

 

 

 全員が挨拶したことを確認し、零は満足気に頷くと口を開く。

 

 

「それでは各自、訓練に戻ってくれ。 ――ただし、B分隊は全員残れ」

 

 

 

国連軍横浜基地 グラウンド

 

 

 俺の発言で僅かに疑問の表情を浮かべる面々だが、上官命令だと理解したのかA分隊だけ先にグラウンドへと戻る。

 

 

「あの、中佐。何故B分隊だけ残したのでしょう?」

 

 

 神宮司軍曹が理解しかねると言った感じで尋ねてくるが、俺はそれをスルーして切り出す。

 

 

「お前たち、聞くところによるとやんごとなき事情とやらを理由に不干渉主義を掲げているらしいな。この際だから言っておく。そんなことするなら衛士になるな」

 

「――ちょ、零!?」

 

 

 突然告げられたことに全員が驚愕する。

 真っ先に突っかかってきた武を手で制し続ける。

 

 

「不干渉をするということは仲間を知ろうとしない、信頼しないと言っているのと同じだ。さらに言い方を変えれば、それは他の衛士がどうなっても知らないと言っているのと同じだ。この部隊ではいいかもしれないが、現場の部隊なら確実に厄介者ーーいや、お荷物扱いだな」

 

「そ、そんなことは!」

 

「お前たちはそう思ってなくともな、別の視点から見ればそう捉えられるんだよ。信頼どころか信用すらされてないと感じる相手に背中を預けられない。そうした不和は必ず部隊に軋轢を生じさせ、いずれは空中分解させる。もしそれが戦場なら最悪部隊崩壊だけではすまんぞ」

 

 

 ちらっと武を見ると、何か思い当たったような顔でこちらを見ていた。

 ほんの少しだけ唇の端をあげ、再び口を開くを

 

 

「俺たちの敵は言語なんて上等なモノを持ち合わせない化け物どもだ。こちらの事情もお構いなしに攻め込み、文字通り全てを食らいつくす。不干渉? 本気でBETAとやり合うならそんなくだらない発想は犬のエサにでもしてしまえ。変なプライドはドブに捨てろ」

 

 

 最初に反論しかけた委員長が思い当たる節があるように目を伏せる。他のメンバーも同じような顔をしているあたり、少なからず自覚はあったようだ。

 

 

「最後に一つ。ここがお前たち5人の分岐点――ターニングポイントというべき場所だ。明確な答えはないが、ここで変わらなければ俺が言った通りになるぞ。俺からは以上だ。武、後でスケジュール調整するから俺の部屋に来い。 ――悪いが、後は頼む」

 

 

 部屋の場所が書かれた紙を渡す時、他には聞こえない声量でそう告げて立ち去る。

 

 

「回りくどいことしやがって」

 

 

 すれ違い様、少し呆れた声が聞こえた。

 自分でもそう思うが、今回のことは無駄に階級が高い俺だから出来ることだ。なら嫌われ役でもなんでもやってやるさ。

 さて、MSの武装から戦術機に転用し易いもののリスト化と人手の確保に乗り出すか。

 

 

 

国連軍横浜基地 グラウンド

 

 

 零からの厳しい言葉に意気消沈している訓練兵たちをみて、武はやれやれと嘆息する。

 

 

「いいか、お前ら。今零が言ったことは俺も言おうと思ってた。ただ言いたいことの9割くらいは言われちまったけどな」

 

 

 気さくだと思っていた武からも指摘されそうだったという事実が彼女たちの内側をえぐった。

 だから、と武は続ける。

 

 

「もっと自分の仲間を知って、自分の価値観を修正しろ。少なくとも俺たちはBETAなんかと違って、言葉という言語で相手を知ることができる。わかり合うことは不可能じゃないし、ましてや銃を向け合う必要もないんだからな」

 

 

 最後のその一言が、沈みかけた5人を支えた。思わず互いの顔を合わせる彼女たちの姿が少しだけおかしく思い、同時に大丈夫だという確信を得ることができた。

 

 

「さあ、俺たちが言えるのはここまでだ。各自、今の話をよく考えてくれ。これは命令じゃなくて、お願いだ」

 

『……はい!』

 

「では207B分隊、訓練に戻れ!」

 

 

 まりもの号令で訓練に戻る207B分隊。彼女は教え子たちがコースに戻ったのを見届けると、若き上官へと話しかける。

 

 

「素晴らしいご指摘でした」

 

「そんな大層なものじゃないですよ、まりもちゃん」

 

「そ、それは訂正されないのですね……」

 

「少なくとも、二人っきりのうちは訂正するつもりないですね」

 

「そ、そうですか……(ということは、二人っきりであるうちは呼んでもらえると……って! わ、私ったらなに考えてるのよ!?)」

 

 

 思わず妄想してしまった自分が恥ずかしく、まりもは否定するように頭を振った。

 ちなみに、その光景を不思議そうに武が眺めているのはご愛嬌。

 

 

 

日本帝国 帝国陸軍 技術廠第壱開発局

 

 

 その日、巌谷 榮二は自分の執務室で二つの資料を見ていた。

 一つは昨夜、アラスカへ出向している姪から送られてきた不知火弐型の戦闘記録映像。

 カムチャツカ基地にてBETAと交戦したものだが、機体は大破も同然。ソ連軍の大隊に助けられるも、今度は光線級の出現で脱出が困難になる。

 そこへ現れたのが、所属不明の戦術機。

 戦闘機に変形して空を飛び、光学兵器とおぼしきライフルと頭部から吐き出されるバルカンでBETAを圧倒。

 そして関節部分から青い炎を出すと誘蛾灯のようにBETAをおびき寄せ、纏まったところへシールドから先ほどのライフルなど比にならないくらい太い光学兵器を放った。

 その後はスモークを焚いて弐型を回収。後方の基地へと送り届けた後、戦闘機形態で離脱した。

 まだ表向きには公表されていないが、各国がこの戦術機を求めて躍起になっているらしい。

 そしてもう一つは同じく昨夜、こちらは斯衛を通して殿下より技術屋としての意見が欲しいとして送られてきた数枚に渡る資料である。

 斯衛から意見が欲しいと頼まれることは良くあるので気にならないが、殿下から依頼されるのはごく稀だ。

 そして送られてきた物は、自分の想像を遥かに上回っていた。

 既存の戦術機と全く異なる技術で作られた人型機動兵器。

 電磁投射砲よりも使い勝手のいいビーム兵器。

 そしてこれらの情報を殿下に提供した大元の人物は月の裏側に巨大な人工衛星を所持し、この資料に記載されたスペックを上回る機体を多数保有しているという。

 余りにもタイミングよく舞い込んできたこの二つの情報。無関係と言い張る方が難しというのが、彼の見解だった。

 

 

「……一度、掛け合ってみるか」

 

 

 この資料を届けに来た月詠大尉を探しに席を立つ。

 この技術を所持する人物に会ってみたい。

 そう思う彼を動かすのは、抑えられない好奇心だった。

 




207Aの麻倉と高原の名前はオリジナルです。
性格もオリジナルになりますので、ご了承ください。

207Bへの指摘は当初武に任せるつもりでしたが、少し変えて零に厳しい意見を言わせることにしました。

さて次回は、零の元にあの人が段ボールでやってきます。


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第7話

通算UA10000突破、感謝感謝です

そして第3次スパロボZ発表来ましたね
時獄篇ということでαシリーズに通じる絶望具合が感じられます
だがマブラヴは出ません
個人的にはあとGガンが来て欲しかったです
今後のPVに期待でしょうか


国連軍横浜基地 地下19F 通路

 

 

 地上から地下に戻った俺は90番格納庫に立ち寄り、デルタプラスから忘れ物を回収して香月博士の部屋へ向かっていた。

 ――いたのだが。

 

 

「……なんか、誰かに見られてる気がするんだよなぁ」

 

 

 通ってきた通路を振り返るも、誰もいないようだ。このフロアに来れる人間は限られるため、必然的に出入りする人は絞られる。

 俺の後をつける可能性が一番高いのは霞だが、あいつは隠れるのに致命的な欠陥を抱えているから除外。

 武はまだ地上にいるはずだし、あいつならコソコソなんてせず堂々とやってくるのでこれも除外。

 香月博士? 論外だ。あの人がコソコソ人を付け回す姿が想像できない。

 未だ消えぬ違和感を探すため、もう一度通路を確認する。

 少し離れた資料室の前に大きな段ボール箱があるが、それ以外に隠れられる場所は見当たらない。

 

 

「……気のせいか」

 

 

 首を傾げつつ、通路の別れ道で博士の部屋に通じるルートを選択する。

 

 ――待て、段 ボ ー ル だ と ?

 

 反射的に振り返ると、資料室の前にあった段ボールが――1メートルにも満たないが――確実に動いていた。

 この世界にあの蛇は存在しない。だからあれを知っててスニーキングツールに使う奴は存在しないはずだ。

 だがもし自力でその有用性に気づいた者がいるとすれば、使い手はこのフロアに来れる奴より少ない。

 そして少ないが故に、俺はやりかねない人物に心当たりがあった。もしその通りならば、相手は博士の部屋にも現れるだろう。

 ならば今無理に詰め寄る必要はない。無視を決め込み、再び進路を正して一歩踏み出す。

 

 

「おやおや、一度見つけた物を素通りするのは感心できませんな。それが宝の箱だったらどうするつもりだったのですかな?」

 

 

 突然背後から聞こえた男の声で顔に出そうになった嫌な表情を無理やり抑え込み、平静を装って振り返る。

 予想通り、夏場にもかかわらずトレンチコートを平然と着こなしている鎧衣課長が、下半身を段ボールに突っ込んだ状態でそこにいた。

 話しかけられたことに半ば諦めを持ち、言葉を返す。

 

 

「では聞きましょう、もしその宝の箱に中身を護るとても強い竜がいたらどうしますか? おとなしくウェルダンにされてお食事されろとでも言うのですか?」

 

「ふむ、それはお断りしたいところですな。 しかし、逆に食べてやろうという気概を持って反撃に出るというのはどうでしょう?」

 

「生憎、俺は生身で怖い竜と戦う精神は持ち合わせていませんので。 ところで、あなたはどちら様で?」

 

「おっと、これは失礼。 初めまして、私は微妙に怪しい者です」

 

「なるほど、段ボールに隠れて盗撮をするのが趣味でありながら微妙に怪しい者で済んでしまう人ですか」

 

「はっはっはっ。なかなか面白い返し方をなさる人だ。ところで私は鎧衣 左近と言う者ですが、あなたが神林 零 中佐でよろしいでしょうか?」

 

「正確には臨時中佐ですがね。ちなみに、盗撮が趣味というのは否定されないので?」

 

「もちろん否定はしますとも。確かに私はこっそりと写真を撮ることが好きですが、私が撮ろうとした風景に人が勝手に入ってきてしまうだけですよ。盗撮が趣味だなんてことはありませんね」

 

 

 物は言いようとはまさにこのことか、よくそんなのがホイホイ言えるよ。

 

 

「それで、俺にどんなご用ですか?」

 

「中佐とお話をしようと思いましてな、少し趣向を凝らして話しかけてみたのですよ。時に、これからお時間はありますか?」

 

「今から香月博士の元へ向かうところでしてね、その後でよければ」

 

「ほぉ、博士のところにですか。ちょうどいい、私も博士に用があるのですよ。ご一緒してもよろしいか?」

 

「ご随意に」

 

 

 おそらく殿下の件についてだろう。ならば博士も交えていた方が効率がいい。

 互いに無言のまま移動し、何事もなく博士の部屋に辿り着く。

 ノックしてから名を告げ入室を促す声に従い部屋に入ると、デスクで作業をしていた博士が「あら」と意外そうな顔をした。

 

 

「珍しいわね、鎧衣がまともにここまで来るなんて」

 

「そうでもありませんよ。なんせ段ボールに隠れて俺の後を付けていたんですから」

 

「いやはや、彼はなかなか感が鋭いですな。あの追跡は今までばれたことがなかったのですがね。正直、最後まで隠し通せたならスーパーエリートソルジャー、通称SESでも名乗ろうかなどと考えましたな」

 

 

 俺の発言で呆れた表情を浮かべる博士だが、鎧衣課長は「はっはっは」と笑って流していた。

 しかし今の発言、この場に武が居たならば間違いなくズッコケるか噴き出すかするだろう。

 

 

「それで、あんたがここに来たってことは……神林のことね」

 

「はい、殿下は中佐との会談を所望されてます。しかし非公式のため、夜に顔合わせになることを承知していただきたい。また、その場にここに記された人物が同席されます」

 

 

 そう言って差し出された一枚の紙を受け取り、内容を確認する。

 月詠 真耶 大尉、紅蓮 醍三郎 大将、鎧衣 左近 課長、珠瀬 玄丞斎 事務次官、榊 是親 総理大臣。ほぉ、巌谷 榮二 中佐まで来るとは、予想以上に錚々たるメンバーが集まったな。

 まあ何ら不都合はない。むしろ巌谷中佐が来るなら技術面で大きな信用を得られるだろう。

 

 

「それで、日時はいつですか?」

 

「要望があれば、今夜にでも」

 

 

 おやおや、そんなに早く会えるなら使わない手はないな。

 あとはこちらの条件を飲ませることか。

 

 

「了解しました。それとこちらから一つお願いがありまして」

 

「なんでしょう?」

 

「こちらから一人、本日訓練兵たちの特別教官になった白銀 武と言う男を連れて行きたいのですよ」

 

「なんと、私の息子の教官ですか」

 

「おや、娘さんでは?」

 

「あぁ、そうでした。息子のような娘なので、私自身たまに間違えるのですよ。 ――しかし、何故その教官を?」

 

「彼は少々特殊な事情がありましてね。そして彼がもたらす情報は、殿下にも関係するのですよ」

 

「ほう、具体的には?」

 

「そうですね……現在帝国内で画策されているクーデターの情報を知っている、というのは如何ですかな?」

 

 

 一瞬、鎧衣課長の片眉が上がるが、すぐに不敵な笑みに戻った。

 

 

「それはまた物騒な話ですな。しかし、それが本当であるという証拠はあるのですか?」

 

「確かに物としての証拠はありませんし、話だけなら妄想や与太話で片付けられます。しかしこれが現実となった場合、一番痛手を受けるのはどこの誰なのかも一目瞭然では?」

 

「ふむ。しかし中佐、あなたは確たる証拠が無いことを信じろと言われ信じることができますか?」

 

「では鎧衣さん。そのクーデター戦の中で、御剣 冥夜訓練兵が殿下の影武者として動くとなれば、どうでしょうか?」

 

「――!」

 

 

 今度はハッキリと、鎧衣課長の表情が変わった。飄々とした雰囲気がなくなり、ナイフのような鋭さを感じさせる眼を向けている。

 

 

「殿下の御顔は写真で拝見しています。そして今日会った御剣訓練兵の顔。あれほど瓜二つの顔を見てそっくりさんと断言できるわけがない。まだ生き別れた双子の姉妹の方がしっくりきますよ」

 

「……そうですか、わかりました。ではその白銀大尉にもご同席願います」

 

 

 観念したように目を伏せお手上げのポーズを取る鎧衣課長。

 

 

「では今夜そちらに伺いますので、殿下にお伝えください」

 

「了解しました。では、私はこれで」

 

 

 鎧衣課長は小さく礼をすると、悠然と部屋を後にした。

 

 

「あんた、あの鎧衣を相手にしてよく疲れないわね」

 

「そういう博士は完璧な静観に徹してましたね」

 

「当たり前よ、面倒だし。それで、あんたの用事はなんなの?」

 

 

 やれやれと嘆息し、俺はデルタプラスから回収してきた袋を取り出す。

 

 

「これ、昨日渡し損ねた俺からのお土産です。100%天然の焙煎済みブルーマウンテンコーヒー」

 

「あら、気が利くじゃない。――で?」

 

 

 嬉しそうに袋を受け取りながら本命の説明を促す博士。流石にわかるか。

 

 

「国連軍から人材を2、3人ばかり引き抜きたいのです。特別開発部門なのに雑務を含めて全ての担当者が俺一人では流石に無理です」

 

「ああ、なるほど。情報漏洩の危険がなければ別にいいけど、うちの部隊からは無理よ」

 

「A-01から引き抜きなんかしたら、武が怒りますよ」

 

 

 それ以前に、あそこから引き抜きなんて最初から考えてないし。

 

 

「いいわ。オルタネイティブ権限で閲覧と引き抜きを許可するわ。ただし、身元調査までしっかりやるのよ」

 

「無論です。ではすぐにやらせてもらいます」

 

「はいはい――ん~、さっすが天然モノ。香りが違うわ」

 

 

 早速お土産のコーヒーを淹れ始めた博士は少し軽い足取りでデスクへと戻った。

 俺も長居する理由がないし、とっとと面子を集めるか。

 

 

 

国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

 さて、香月博士より許可をもらって早速国連軍のデータベースから自分のチームに入れる人材を探し始めたわけだが――見事に並の人間しかいない。

 今、俺は一般の衛士か開発者で検索をかけて人を探していたが、これと言えるような人材が全く見当たらなかった。

 流石に将官や佐官付きの人間を引き抜くわけにはいかないから、一般部隊に埋れた原石を発掘しなければならない。

 だが流石に人が多すぎる。

 しかもそのあと身元調査までしなければならず、正直骨が折れそうだった。

 どうしたものかと悩んでいると、不意に扉から短いノックと共に武が「失礼します」と言いながら姿を現した。そしてその後に続くように、何故か霞がトコトコと入室してきた。

 

 

「零、お前霞に何を吹き込んだ? さっきから俺を研究するってずっとついてくるぞ」

 

「武、その言い方だと社が邪魔なようにも聞こえるぞ」

 

「白銀さん。私のこと、邪魔ですか?」

 

「ばっ! そんなわけないだろ! だから涙目になるな霞!」

 

 

 自分で広げた修羅場だが、慌てふためく武が面白いので放置する。

 

 

「と、ところで、俺を呼んだ理由ってなんだ?」

 

 

 どうにか霞をなだめ、人心地着いた武が尋ねる。

 

 

「殿下との会談が今夜に決まったからお前もこい」

 

「……マジで!? 早すぎだろ!」

 

 

 あり得ねえと叫ぶ武だが、俺もそう思う。

 

 

「偶然にも鎧衣課長に会ってな。今夜にでもいけると聞いたから即決した。で、お前の持つ情報は必要不可欠になる。だからお前も来る必要がある」

 

「なるほど……。しっかし、鎧衣課長か。あの人と話してると疲れるんだよな」

 

 

 段ボールに隠れて現れたのとスーパーエリートソルジャーの話をしたらどんな反応をするか非常に気になるが、また今度話してやろう。

 

 

「でも殿下と上手く話がまとまれば、いろいろいい傾向になるんじゃないか?」

 

「そうだな。個人的にはトレミーの簡易整備ドッグの建設許可を是非とも取り付けたいとこだ。Gステーションから持ってくる物資の搬入出が死ぬほど楽になるぞ」

 

「プトレマイオスか。まだしばらく乗れないんだよな」

 

「少なくとも、博士と殿下を連れて行くまではな。しかもGステーションまでは通常航行で片道約4日、最速で移動したとしても2日弱かかる」

 

 

 帰りはブースターをつければもっと速いが、むこうでの積み込みやブースターの接続を考えれば5日程の旅になる。

 それだけのスケジュールを、殿下がどれくらいで確保できるかだな。

 

 

「帝都への出発は1700時を予定している。博士はXM3の開発があるから来れないため、今回は俺たちだけだ。準備が完了次第、正門に集合」

 

「了解。 ――で、結局お前は霞に何を吹き込んだ?」

 

「さてな、心当たりがありすぎてどれのことがわからん」

 

「やっぱテメェの仕業か――っ!」

 

 

 

……十分後。

 

 

 

「と、とりあえず1700時だな?」

 

「おう。頼むぜ」

 

 

 ぜぇぜぇと息を切らしながら確認する声に返答してやると、武は来た時と同じ様に霞を連れて退室して行った。

 そして俺はというと、また人材を求めてデータベースと格闘する羽目になるわけだ。

 

 

「しかし、本当に面倒くさい。死んだはずの人間ばっかがこの世界に来てくれれば、話が早くて楽なんだけどな」

 

 

 あまり笑えないことを言いながら、適当に名前を入れて検索をかける。

 数名が表示されたリストを流し読みしてまた検索フォームに戻ろうとキーを叩く。

 

 

「――ん?」

 

 

 実行しようとした直前、不意にその名前が目に止まった。

 同姓同名の、全く別の人間可能性もあったがとりあえず詳細データを開いてみる。

 そして今度こそ、俺に衝撃が走った。

 

 

「オイオイ、確かに死んだはずの人間がいればいいなとは言ったが、まさかその通りなんてオチはないよな……」

 

 

 データをキープしつつさらに浮かぶ限りの名前を検索するが、このデータベースで新たに見つかったのは一人だけだった。

 しかしこの二人が俺の思った通りの人物なら、これほど心強いことはない。

 何より、二人とも場所は違えど一般の衛士として戦っているから引き抜きもし易い。

 迷うことなく二人に横浜基地への出頭命令を出し、俺は再びその名を確認する。

 欧州戦線から呼び寄せるのは癖のある茶髪をしたアイルランド出身の優男。

 アフリカ戦線から呼び寄せるのは顔に大きな傷跡が目立つアメリカ出身の金髪白人。

 

 国連軍欧州戦線所属、ニール・ディランディ中尉。

 

 国連軍アフリカ戦線所属、グラハム・エーカー大尉。

 

 どちらもダブルオーガンダムの世界で戦死した、偉大な戦士だ。




兄さんと公登場です
これからもう数名、別の作品から参戦予定です

ところで冒頭でスパロボの話に繋げて一つ思うことが
最近再世篇の主題歌、「鋼のレジスタンス」の歌詞が武ちゃんのためにあるように聞こえてます

年内の次話更新は難しいと思いますが、頑張ってみます
では、また次回

ーーーーーー

追記
感想で多く挙がったニルハムについてですが、ネタバレするとそっくりさんです。
スペックは本人に近いですが、ガンダムもELSも知らないです。
次回投稿で書こうかと思いましたが、混乱を避けるため先にネタバレしました。
ご了承ください。


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第8話

日本帝国 帝都 帝都城 謁見の間

 

 

 星が空を支配する夜の帝都。そのシンボルとも言える帝都城謁見の間に存在する複数の影。その上座に座する煌武院 悠陽の前に、二人の男がいた。

 一人は少し若い国連軍大尉の階級をつけ、もう一人は先ほどの大尉よりは年上のようだが、それでも十分若い国連軍の中佐だ。

 

 

「本日は御多忙の中、我々のために時間を割いていただき、誠にありがとうございます。私は国連軍横浜基地所属、神林 零 臨時中佐でございます。そしてこちらは横浜基地副司令、香月夕呼博士直属の部下にしてオルタネイティブ第4計画の最重要人である白銀 武 大尉になります」

 

 

 中佐の男――神林 零が深々と礼をすると、やや後ろに控えていた武がぎこちなく礼をする。

 

――零! 確かに殿下には会えたけど、こんな居心地の悪い空間だったなんて聞いてないぞ!?

 

 

 冷や汗をダラダラと流しながら、武は現在の状況を整理する。

 まず正面には悠陽がいる。これは当然であり、分かり切っていた。

 しかし、自分たちの両サイドには悠陽のお側役である月詠真耶大尉を筆頭に、紅蓮大将や榊総理大臣。そして珠瀬国連事務次官に帝国技術廠の巌谷中佐まで囲んでいるのだ。

 しかも真耶に至っては視線に殺気を込めて武を見ている。

 これで平然としていられるような精神を持ち合わせていない武は、ただただ早く終わってくれと祈るばかりであった。

 ちなみに鎧衣課長は部屋の隅にいるが、相変わらずトレンチコートを着ていた。

 

 

「お二人とも、面をお挙げください」

 

 

 促され頭を上げる二人に、悠陽は問う。

 

 

「白銀大尉。あなたが第4計画の最重要人というその理由を話してもらえますか?」

 

「は、はい。――まず始めに、自分はこの世界を繰り返しているということから、お話することになります」

 

 

 昨日、夕呼に話したことを再び告白する武。最初は半信半疑だった面々だが、冥夜のことと帝都城でも一部の人間しか知り得ない地下鉄道の存在を知っていることから、夕呼が提唱した因果律量子論によってここにいるという確信に近いものを感じた。

 特に彼への見方が変わったのは月詠真耶だ。

 始まる前、従姉妹の月詠真那から冥夜の教官として現れた武のことを知らされた真耶は、帝国のデータベースにてその身元調査を行った。

 記録上では既に死亡しているとあり、別人が悠陽を誑かすため身元を偽ってここまで来たかと思っていた。

 しかしクーデターに始まり、桜花作戦の結末を聞きいた彼女は武の評価を改めた。

 そして最も武の語ったことが響いたのは、煌武院 悠陽その人だった。

 

 

「白銀……いえ、武様。そなたに、多大なる感謝を」

 

「ちょ、頭を上げてください殿下!」

 

 

 自分の前まで来て頭を下げた悠陽に武が慌て、ほぼ同時に室内が騒然となるが、それは当然と言えるだろう。一国の代表が衛士一人に頭を下げるなど、そうそうあることではないからだ。

 

 

「別の世界ですがそなたは間違いなく日本――いえ、世界に大きな希望を与えたのです。ならばこそ、希望を与えた者たちからの感謝を受けねばなりません。そしてこの私も、そなたより希望を頂きました」

 

「そんな、過大評価しすぎですよ。それに俺は冥夜を、自分を愛してくれたあなたの妹をこの手にかけてしまった。罰を下されても文句を言えるわけがない」

 

 

 自嘲するように答えるが、悠陽は首を振る。

 

 

「あまりご自分を責めないでください。この戦争には、いつだって残酷な選択が付きまといます。それでもなお罰を求めるならば――武様。誰一人失うことなく、この世界に希望を見せてください」

 

「……はい。必ず、必ずみんな救ってみせます!」

 

 

 その答えに悠陽は柔らかい微笑みを浮かべる。

 再び元の席に戻ると、今度は一転して引き締まった表情で零に問う。

 

 

「神林中佐。香月博士を通して送られてきた資料、あそこに記されたことは誠ですか?」

 

「はっ。嘘偽りなく、真実のみをまとめて送らせていただきました」

 

「――そなたがこの世界とともに来たという巨大な人工衛星……Gステーションと言いましたか。私たちを案内する用意があるとのことですが、間違いないでしょうか?」

 

「はい。ただし所在が月の裏側になりますので、こちらの宇宙戦艦で最速でも片道に2日。復路は推進ブースターを取り付けることで1日で戻ることができますが、資材の積み込みなどを計算して合計5日程の旅になります」

 

「じ、実質3日で月と地球を往復するというのかね!?」

 

 

 思わず珠瀬事務次官が聞き返すと、零は「その通りです」とごく普通に断言する。

 一部を除く全員が信じられないと動揺を隠せない。そんな中、落ち着いた様子で挙手をする人物がいた。

 

 

「……神林中佐、一つ訪ねたい」

 

 

 帝国技術廠より出向いてきた顔に大きな傷跡のある男、巌谷 榮二 中佐だ。

 

 

「先日、不知火の改修計画として出向している私の部下から謎の戦術機と出会ったとの報告を受けたのだが、それは貴官のことだろうか」

 

 

 その言葉とともに取り出される一枚のデータディスク。

 その存在を認識すると、先ほどの喧騒が一瞬にして止んだ。気づけば鎧衣がいつの間にか再生機器とプロジェクターをセットしており、巌谷中佐からディスクを受け取って再生させる。

 

 ――そこには、この世界の技術と戦術の常識を覆す映像が収められていた。

 

 

 

日本帝国 帝都 帝都城 謁見の間

 

 

 巌谷中佐が取り出したディスク映像が再生されて早数分。

 プロジェクターには戦術機の視点から撮影された俺のデルタカイがBETAを殲滅しているシーンが映し出されていた。

 デルタプラスを動かしたことのある武も、その映像を見て言葉をなくしている。

 

 

「初めはあまりにも既存の戦術機から外れたこれがなんなのかわからなかった。だが殿下より預かった資料の機体、デルタプラスというものと類似点が非常に多かった。 私はあの機体がデルタプラスを元にして開発されたと推理したが、どうだろうか?」

 

 

 さすが開発出身者。まあ資料を見比べればすぐにわかることか。

 

 

「中佐が仰った通りです。あれはデルタプラスの運用データを元に基本性能の向上と特殊装備を実装させた私の愛機――名をガンダムデルタカイと言います」

 

 

 皆がガンダムに目を向ける中、月詠大尉が口を開く。

 

 

「神林中佐。我々にこれだけの技術を公開して、貴官は何を求める?」

 

「何を求める、ですか。こちらとしては、戦艦を整備するための簡易ドックを帝国領内に建設することを許可していただけるのと、殿下と私の間で協力関係を結ぶことができれば。その条件として私は戦術機開発に可能な限り協力を惜しまないことと、この場にいる全員をGステーションに招待する用意があります」

 

「おいおい、そりゃちと大盤振る舞いすぎやせんか? 実質こちらが戦艦のドックに対して、お前さんは自分の本拠地への招待と戦術機開発での技術提供。どう考えても釣り合わんわい」

 

 

 紅蓮大将が少し呆れ気味に言うと、何人かは同意と言うように頷く。

 確かにこれだけ好条件を出されたら反応に困るというものだろう。

 だから俺は、状況と技術格差を引き合いに出すことにした。

 

 

「こちらとしてはそれ以上望むものが思いつきませんでしたので。第一、今のこの国にはそれ以上出せる余裕はないはずです。ただでさえハイヴを抱えているのに、その上私から無理な注文をされれば国が傾きかねませんよ」

 

 

 耳が痛いと言った風に一同が顔を顰める。

 与えられてばかりでは納得いかないが、かといって差し出せものがない。そんなジレンマが手に取るように分かってしまった。

 

 

「どうしてもと仰るのでしたら、そうですね……帝国から人材を少しばかり分けていただけませんか? 香月博士から特別開発部門を任されたのですが、まともに動けるのが私しかいないのですよ」

 

 

 呼び寄せたあの二人は引き抜きに成功すれば武器の試験を主にやってもらうつもりだし、開発だけでなく特別な部隊としても機能させるつもりだから人手不足は早めに解消しておきたい。

 

 

「神林中佐。一つ聞かせてくれませんか」

 

「何なりと、殿下」

 

「そなたは何故ここまでのことをなさろうとするのですか? 恥ずかしい話ではありますが、もしこの日本からBETAをなくしても我が国にはその恩に報いることが出来ないかも知れないのですよ」

 

「何のために、ですか」

 

 

 究極の目的は出来る限り――最低でも地球圏からBETAを殲滅し、その過程で武や香月博士に協力して第4計画の完遂と第5計画のG弾使用を頓挫させること。

 あと理由があるとすれば――

 

 

「まあいろいろと理由はありますが、私も日本人ですから。別の世界とはいえ、祖国が無くなるのは嫌なんですよ」

 

 

 これは偽らざる俺の本心だ。しかしその答えに、全員がポカンとした表情になる。ほんの僅かな間が空き、唐突に紅蓮大将が噴き出した。

 

 

「ふっはっはっはっは! なるほど! そう言えばお主も日本人じゃったな!」

 

「確かに。見たことがない技術や異世界から来たと言う先入観が強くて、そのことをすっかり忘れておりましたな」

 

 

 釣られたように榊総理大臣が笑みを浮かべ同意するように答えると、残りの面子も何処か納得した表情になった。

 

 

「そう言う訳ですので、殿下。すぐに決断は求めません。Gステーションをご覧になってからでも構いませんので、どうかご留意ください」

 

「わかりました。それではGステーションを拝見してから判断させていただくということで」

 

「感謝します。日程が決まりましたらご連絡ください」

 

 

 深々と頭を下げ殿下の決断に感謝するが、内心ではどうにか話がまとまったことに安心していた。

 後は日程が決まり次第トレミーに博士たちを乗せて戻るだけだな。

 ――出来れば、あの二人を連れて行きたいところだけどな。

 

 

 

輸送機 国連軍欧州戦線発 国連軍横浜基地行き

 

 

 零と武が帝都城を出発し横浜基地に戻っている頃。国連軍欧州戦線きっての狙撃手、ニール・ディランディ中尉は考えていた。

 今朝いきなり上官に呼び出されてみれば、日本の横浜基地から出頭命令が出たと告げられた。

 しかも理由は不明だが基地指令からの通達ときたものだから、ニールとしては余計に訳が分からなかった。

 初めは自分を引き抜くためかと思ったが、それなら基地指令を通す必要などないはずだ。

 

 

「……横浜基地、か」

 

 

 噂では魔女と呼ばれる天才がいる魔窟で、一度引き込まれたらただでは出られないという場所らしい。

 曰く、記憶を抜かれる。

 曰く、実験台として脳みそを弄くられる。

 曰く、改造されて人間では無くなる。

 同僚たちが笑いながらそんなことを口走ってたあたり、割と間違った認識がまかり通っているのだろう。

 ひとつわかることは、ただ事ではない何かが待ち受けているだろうということだ。

 

――前々から思ってたが、俺は貧乏くじを引く星の元に生まれたってのかよ。

 

 両親と妹が戦場でBETAに殺され、双子の弟は何処かの戦場でMIA認定された。

 生きているのか死んでいるのかもわからないが、ニールは彼が生きていると信じていた。そのために故郷のアイルランドをBETAから解放し、弟が帰る場所を取り戻すために戦っていた。

 ――だというのにいきなり地球の裏側とも取れる極東の、しかも曰く付きの噂が絶えない横浜基地からの出頭命令。

 憂鬱な気分になりながら、ニールはせめて噂がデマであることを祈ることにした。

 

 

 

輸送機 国連軍アフリカ戦線発 国連軍横浜基地行き

 

 

 ニールが横浜基地について考えていたのと同時刻。アフリカ戦線エースの一人、グラハム・エーカー大尉もまた横浜基地について考えていた。

 突然通達された出頭命令。しかも場所が悪名高い横浜基地ときた。

 極東の最前線からの連絡というのもあり、グラハムは確信に近い予想があった。

 

――十中八九、引き抜きの話だろう。本来ならば拒否したいところだが、軍の決定には従うしかあるまい。

 

 そう思うものの、呼び出された場所が故郷アメリカで無かっただけまだよかったとも思っていた。

 彼は成すべきことを成し遂げるまで、祖国の地を踏む気は無かったからだ。

 グラハムにはかつて、誇り高い二人の部下がいた。そして彼らとは上官と部下である前に同じ夢を持った同志であり、何者にも代え難い友でもあった。

 元々、戦闘機のパイロットになりたくて彼らは軍に志願した。しかし光線級の出現により人類は制空権を奪われ、戦闘機はただの的同然の存在になってしまった。

 

 BETAを殲滅し、全ての人類に大空を取り戻す。

 

 それがグラハムたちが掲げた夢だった。

 しかし数年前、負傷した自分を生かすために二人は命を燃やし、帰らぬ人となった。

 志半ばで散って行った彼らの想いに応えるべく、この戦争が終わるまで祖国の大地を――誓いを交わした土を踏むつもりはなかった。

 

――魔女だろうと阿修羅だろうと関係ない。私は私の道を征くだけだ。

 

 ただ静かに、グラハムは己の決意と想いを固める。

 阻むもの全てを斬り捨てる覚悟を持って。




どうにか年内に最新話を上げることが出来ました。
完結を頑張ってくださいとのコメントに応えられるよう、来年も頑張りますのでよろしくお願いします。

それでは皆様、良いお年を。










私は明日も0630時から仕事ですがorz


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第9話

新年あけましておめでとうございます。
ここ数日でお気に入りが一気に増えて驚きを隠せない作者です。
今年も更新を続けられるよう努力しますので、よろしくお願いします。




国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

「……ふぅ、こんなもんか」

 

 

 手元のデータで戦術機に転用しやすい武器と機体技術を大まかにまとめ、内容を確認する。

 初めは戦術機シミュレーションでMSの武装をそのまま使ってみようとしたが、やはりプログラムの壁にぶち当たりロックオンや残弾確認ができない致命的欠陥が発生した。

 しかも修正なんてしようのものならバカみたいな時間がかかる。

 というわけで、戦術機が使用することを前提にした新しいビーム兵器を開発することにした。

 それに当たってまず武器のピックアップと、戦術機の強化改修プランを組んだ。

 原作を見ていても思ったが、この世界は武装よりも機体性能を重視しすぎている。

 BETAを殲滅するなら使い手によって戦果にバラツキが出る戦術機を強化するのではなく、誰が使っても同じぐらいの戦果を挙げられる火器を用意すべきだ。

 せっかくS-11という高威力の爆弾があるのに、これを自決用にしか使ってないのだ。他にも使い道はあるだろうに。

 

 BETAの最大の武器は圧倒的物量だ。それなのに一体ずつちまちま倒してたら、弾薬も推進剤もすぐなくなるのは自明の理だ。

 だから俺がまず提唱するのはーー圧倒的火力による広範囲殲滅である。

 この戦術は周りがBETAしかいないという限定条件があるものの、火力にモノを言わせたゴリ押し戦法だ。

 分厚い弾幕を維持出来れば、いかにBETAの物量といえど耐え切るのは難しいだろう。

 さっき例に挙げたS-11だって、打ち出すタイプの地雷として使ってみればかなりの効果を発揮できるはずだ。

 

 発想の観点は米国とあまり大差ないが、だからと言って武装を全てライフルやキャノンで固めると言ったことはしない。それだけで済むなら人類はまだまだ余裕ある戦いを続けているからな。

 高火力の射撃一辺倒ではなく、そのままハイヴに突入して近接も十分にこなせるというのが理想形だろう。

 ひとまず序盤でBETAの数を一気に減らせる機体として、試しに撃震をベースにガンダムヘビーアームズ改(EW)のダブルガトリングと全ミサイルコンテナを装備させてみた。

 流石に全体重量は半端じゃないほど重くなったが、既存の戦術機から見ればあり得ない弾幕形成能力を有する機体へと変貌した。

 

 一番の弱点は機体重量と弾薬のコストだな。ただ重鈍にみえる通り、火力と防御力は今までの撃震の比ではない。

 どうせ修正によって武装を削ることになるだろうが、ひとまずこの改造プランを撃震・轟火(ごうか)と命名しよう。

 次に支援車両である戦車の強化だ。

 機動力は申し分ないが、砲弾を一発撃つ度に足が止まってしまうという欠点がある。

 

 ならば足が止まらないで撃てるように改造すればいいじゃないか。

 そこで参考にしたのがモビルタンクという異色ジャンル代表、ヒルドルブだ。

 見た目は戦車にMSの上半身を乗せただけに見えるが、それを格納した高速移動形態へと変形する。何より戦車でありながら両手を兼ね備えているので、マニピュレーターを調整すればMSの武装がそのまま流用できる。

 つまりビームライフルは言わずもがな、強度やエネルギーの問題をクリアすればバスターライフルだって撃てるという訳だ。

 しかもこれはほとんど戦車を操縦するような感覚なので、衛士としての適性がない人でも操作が可能となる。

 ……どう考えても生まれてくる世界を間違えたな、ヒルドルブ。

 後は小型種に群がられた時の対策として車体の淵にベズ・バタラみたいなビームブレードを展開できるようにしよう。

 これだけでは根本的な解決にはならないが、走るだけで敵を倒せるのは大きいだろう。上からの攻撃には死ぬほど弱いが、元々前に出る機体じゃないからしかたないな。

 開発コード名は……ひとまずTX01としておくか。

 

 あとは通常の戦術機で使用するライフルだが、ここでは通常で使用する36mm弾と120mm滑腔砲の両方を搭載した突撃砲が主流だ。

 ならばギラ・ドーガのビームマシンガンを改造して継続性を高め、なおかつ瞬間火力を強化したMS版突撃砲を作成しよう。

 近接武器はビームサーベルとアーマーシュナイダーで十分だろう。冥夜あたりはガーベラストレートみたいな実体剣の方がいいかもしれないが、持たせてやるのはまだ無理だな。

 あとは頭部にバルカンポッドをとりつけたり支援武器としてマイクロミサイルと長距離ビーム砲を作りたいが、武器の衝撃に耐えられるような機体の改造も必要になるな。

 

 

「……プランは幾つか上がっているが、衛士の意見が欲しいな。特に不知火」

 

 

 これに関しては防御力よりも機動力を重視した改造プランを立てている。

 というか戦術機の対BETA戦では、どう考えても胴体部の被弾=絶望的状況一歩手前としか思えない。

 ならば当たらないように動ける機体を開発する必要があるのだ。

 フルバーニアンみたいな胸部スラスターでの180度緊急後退とかあったら回避で絶対役立つはずだ。

 強力なパンチを持つことで定評のある要撃級の一撃も真後ろに下がって余裕です……あれ、これって実は実用性高くないか?

 戦術機も逆噴射制動で真後ろに下がることは出来なくはないけど、咄嗟の入力や跳躍ユニットが損傷していた場合うまくいかない可能性がある。だがこれなら少ないリスクで急後退が可能だ。

 あとは補助スラスターを脚部や肩に増設すれば急回転も加わってさらに機動性が上がる!

 パーツの関係で各部が巨大化するが、これは今後の課題だな。

 しかしいいぞ! 回避力の向上は生存率の向上に繋がる! 回避手段は多い方がいいに決まってるからな!

 レーザーに対してビームコーティングが有効ならばなおよろし!

 

 

『中佐。グラハム・エーカー大尉、ニール・ディランディ中尉が到着されました』

 

「おっと、了解した。俺の部屋まで案内してくれ」

 

 

 ピアティフ中尉の通信で上がりかけたテンションを抑え、来客を受け入れる準備をする。

 さあ、果たしてこちら側に来てくれるだろうかね。

 

 

 

国連軍横浜基地 滑走路。

 

 

 輸送機から降り立ち、ニールは面倒臭そうな顔で基地を眺める。

 

 

「……来ちまったよ、魔窟とやらに」

 

 

 アメリカを経由して何時間も空の上にいたためただでさえテンションが落ちているのに、自分が魔女の窯の中に片足を突っ込んでいると思うとテンションがさらに乗で下がりそうだ。

 

 

「さっさと会って帰りたいもんだ……ん? 輸送機がもう一機だと」

 

 

 別方向からやってきた輸送機を発見しなんとなく眺めていると、顔に大きな傷跡がある金髪の男が現れた。

 認識してから数秒、ニールは驚いた。

 

 

「アフリカのグラハムじゃないか。あいつも呼ばれたのか?」

 

 

 自分の名前が聞こえたのか、グラハム・エーカーはニールを発見するなりまっすぐに向かって行った。

 

 

「まさか、よもやこの極東の地で貴官に会えるとは。 欧州最高スナイパー、ニール・ディランディ中尉」

 

「おやま。アフリカのエースと名高いグラハム・エーカー大尉に覚えられているとは、光栄ですね」

 

 

 差し出された手に握手で返し、挨拶を済ませる。

 

 

「楽にしてくれて構わんよ。しかし、何故貴官がここに? 私も人のことを言えた義理ではないが、貴重な戦力を減らす余裕は欧州にはないはずだが」

 

「基地司令を通して出頭命令が出されてね。部隊は離れたくなかったが、命令とあっちゃ下手に断れなくてな」

 

「私も似たようなものだ。 ――しかし極東の最前線に位置する基地だというのに、ここの空気は後方だと言わんばかりだな」

 

 

 厳しい視線を基地に向けるグラハムにニールは同意する。目と鼻の先にハイヴがあるというのに、まるで遠い国だと思っているようにここの空気は緩んでいた。

 

――こんな基地じゃ、BETAに攻められたらあっという間だぜ。

 

 衛士の練度はその意識によって大きく変わる。

 中途半端な気持ちでいればいざ戦闘になったら動揺し、すぐに命を落とす。少なくとも、自分たちがいた場所ではそれが当たり前だった。

 それに当てはめた場合、二人からすればこの基地はそう長くないように思えた。

 そこへ国連軍中尉の階級をつけた女性が二人の前にやってくる。

 

 

「グラハム・エーカー大尉、ニール・ディランディ中尉ですね。私はお二人のお迎えに上がりました、イリーナ・ピアティフ中尉です」

 

「ご苦労、中尉」

 

「ピアティフ中尉。俺たちは何も聞かされずに来たんだが、何か知らないか?」

 

「申し訳ありません、私はただお二人をお呼びした神林 零中佐の元にお連れするようにとしか」

 

 

 ピアティフの返答に眉をひそめるグラハム。

 基地司令を通して通達された有無を言わさぬ出頭命令。それを出したと思われるのがこの基地の実質的最高権力者の香月夕呼ではなく、名も知らぬ一人の中佐からだという。

 

――神林中佐、最大限に警戒する必要があると見た。

 

――中佐なのに将官である司令に命令で俺たちを呼べる奴か。 こりゃヤバそうな予感がしやがる。

 

 偶然にも似たようなことを考えた二人は、先を行くピアティフに導かれるまま基地内へと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

「よく来てくれた。 俺が国連軍横浜基地所属の民間協力者、神林 零臨時中佐だ」

 

「国連軍アフリカ戦線所属、グラハム・エーカー大尉であります」

 

「国連軍欧州戦線所属、ニール・ディランディ中尉であります」

 

 

 二人は驚いた。自分たちが最も警戒すべきだと認識した人物が、まだ自分たちと対して変わらない年齢の男だったのだ。

 しかも中佐とは聞いていたが、まさか民間人だったとは予想の斜め上をいっていた。

 

 

「さて、堅苦しいのはここまでだ。楽にしてくれ。話し方も喋りやすいようにしてくれて構わない」

 

「お、それじゃあお言葉に甘えて。 単刀直入に聞かせて欲しい、中佐。どうして俺たちを呼び寄せたんだ?」

 

「その質問に答える前に、二人はこの機体に見覚えはないか?」

 

 

 そう言って零が取り出したのは、見たことがないはずなのに不思議な既視感を感じる写真だった。

 ツインアイの頭部にV字のアンテナをつけ、白と青のカラーリングを基調とし胴体の背にあるコーン型のなにか。

 そして右腕に装備された大きな剣が目を引く特徴的な戦術機だった。

 

 

「なんだ、こりゃ」

 

「見たところ近接戦闘に特化させた戦術機のようですが、このようなタイプは見たことがありません」

 

「……わかった。では先ほどの質問に対する返答だ、ディランディ中尉。 半年でいい。二人とも、俺に手を貸して欲しい。無論、可能な限りの報酬を用意しよう」

 

 

 その発言に、グラハムとニールは奇しくも同じ疑問を感じた。

 部下になれという命令ではなく、手を貸して欲しいという依頼。

 民間協力者故に軍での命令に慣れていないだけかと思ったが、この男からはそのような感じはなかった。

 

 

「中佐、これは引き抜きとかそういう話ではないのか?」

 

「確かに俺は二人を引き抜こうと考えているが、命令としてではなく協力してもらうのに貴官らを呼んだんだ」

 

「では何故、基地司令を通して出頭命令を出したのですか? 臨時中佐とはいえ、そこまで権限があるとは思えません」

 

 

 グラハムの質問に少し逡巡し、零は口を開く。

 

 

「実は俺はある開発計画に関わっていてな。その中で部隊を設立することになったんだが、俺の要望に応えられそうな人間がなかなか見つからなかった。そんななか二人の存在を知ったんだが、場所が遠く呼び寄せるのに時間がかかると判断した。そこで極秘計画の責任者に掛け合い、その権限で出頭してもらうよう手配してもらった」

 

「なら、なおのことその権限で部下にした方が早かったのでは?」

 

「確かに命令で組み込むのは簡単だが、俺は俺のやり方で人を集めようと思っていた。だから一度、二人と直接話をして協力を取り付けようと考えた」

 

「……ちなみに聞くが、何を開発しているんだ?」

 

 

 ニールの質問にふふん、と笑い、零は机の上から幾つかの書類を持ってくる。

 先ほどまで考えていた機体と武器の開発プランだ。

 

 

「現行で使用されている戦術機の強化と、新兵器の開発が俺の仕事だ。たださっきも言った通り使いこなせそうな衛士が二人以外見当たらなかった。一応身内に使いこなせる奴はいるんだが、そいつは別の仕事で手が離せなくてな」

 

 

 説明する零を他所に、二人は立案プランに驚きと疑問を感じていた。

 スラスターの増設はまだ分かる。

 だがビーム兵器とはなんだ?

 アラスカで電磁投射砲の試験をしている、という噂は聞いたことがある。しかしこのプランにあるものは明確に異質なものだった。

 

 

「なんだこりゃ、あんたは妄想の武器を作ろうってのか?」

 

「……中佐、あなたは何者ですか?」

 

 

 その質問に零は小さく笑う。

 

 

「二人とも、異世界って信じるか?」

 

「異世界って、ファンタジー小説とかの題材でよく使われるあの異世界か?」

 

「まさか、あなたがその異世界からきた存在というのですか?」

 

「そうだ。これはまだ一部の人間しか知らないが、時が来たらある程度の情報を世界に公開しようと思っている。そして近日中には日本帝国政威大将軍、煌武院 悠陽 殿下を俺の本拠地に招待するつもりだ。その時には二人も来てくれないだろうか? 俺が作ろうとするものが妄想からできたものではなく、根拠ある開発であることを証明するために。そして何より、俺に協力するかどうかの判断材料にするために」

 

 

 真っ直ぐに投げかけられた言葉。少なくとも虚勢や冗談には聞こえない力強さが感じられた。

 

 

「――少し、考える時間を頂きたい」

 

「同感だ。こんなもんを見せられたら流石に判断がつかねえ」

 

「了解した。ではしばらくこの基地でゆっくりしてくれ。ちなみにこのフロアは横浜基地の中でもトップクラスのセキュリティ制限がある。何かある時は内線で呼んでくれ」

 

 

 そのまま零にエレベーターの元へ案内され、地上へ上がる。

 当てもなくブラブラしていると、不意にグラハムが口を開いた。

 

 

「中尉。神林中佐は、君にとってどう写ったかね?」

 

「正直言えば胡散臭いな。ただ嘘を言っている様子もない。おまけにあのビーム兵器や機体の改造プラン、もし本当ならBETA戦に革命が起こるぜ」

 

「同感だな。そして交渉次第では、その成果を我々の部隊にも渡してもらうことも可能だろう」

 

「……そうだな」

 

 

――あの中佐は可能な限り報酬を用意すると言った。なら実戦配備の際に優先して回してもらうことも出来るはずだ。アイルランドを解放出来るなら、使えるものはなんでも利用させてもらうぜ。

 

 零との会話を思い出し、ニールは目的のための大きな分岐点がすぐそこまできているのを感じた。




家庭版ガンダムEXVSFBがついに今月末発売ですね。
プレマで好きな曲が流せると聞き、最近シンのためにデスティニーを練習し始めました。

しかし かくとうが うまくいかない!


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第10話

どうも、お久しぶりです。
話の練り直しやリアルの仕事が忙しく最新話構成に時間がかかりました。
まだまだ拙い部分がありますが、よろしくお願いします。


国連軍横浜基地 地下19F 開発シミュレータールーム

 

 

 外がすっかり宵闇に包まれるも、それを把握できない地下で一機のシミュレーターが激しい動作を繰り返していた。

 俺と霞が見ているのはそちらではなく、現在シミュレーターでが使用している不知火のXM3試験映像だ。

 香月博士からα版が完成したとの報せを受け、早速武と霞を呼び出しバグ取りと実証データの確保に乗り出したのが2時間ほど前。何回かプログラムを修正してからは目立ったエラーはなく、映像の不知火は現在運用されている戦術機からすればありえない反応速度をたたき出していた。

 

 

「武、使い心地はどうだ?」

 

『問題ない。ただ少しだけ反応が鈍い気がする』

 

「鈍い? データ数値は全部目標値をクリアしているぞ」

 

『それはなんとなくわかるけど、なんか少し遅い気がするんだ』

 

 

 MSのOSに慣れてしまって物足りないというわけではないよな? 俺も不知火で軽く触ったが、反応速度自体は体感でジェガン並といった感じだ。この世界の一般兵にしたらそれだけでも破格の性能を持っているのに物足りないということは、ただ単に武の機動に機体が追いついていないだけの可能性があるな。

 デルタプラスに触れた後だから余計に遅く感じているとすれば、現行の戦術機で武の機動に応えられるのはそれこそ並の物ではもう無理だ。最悪の場合、武御雷でも追従できない可能性もある。

 

――まだまだ伸びる余地があるのなら、早い段階で専用機の設計に取り掛かる必要があるな。それも最低デルタプラス……いや、下手をすれば俺のガンダムに匹敵するくらいの機体が。

 

 時間もあまり余裕がないし、Gステーションに置いてきた調整中の機体や技術を使って戦術機を組むか。

 全部終わった後は厳重に封印、もしくは自爆させよう。Gステーションもいずれ同じような道を辿らせなければならないし、これから作っている機体や武装についても同様だ。

 ある程度の技術は残しておかないとまたBETAに攻め込まれたときに問題となるが、そのまま残せばまた戦争の火種となる。それはガンダムの世界??特にC.Eの世界が証明している。

 バランスをとることは非常に難しいが、とりあえず今は目の前のOSを完成させよう。

 ざっとレポートを眺めエラーがないことを確認する。プログラム関係はあまり得意ではないが、バグチェックやデータ収集ぐらいは問題ない。

 

 

「――よし、今日はここまでだ。明日、もう一回データを取ったら香月博士に提出するぞ」

 

 

 了解の返事と共にシミュレーターが停止し、先日のように強化装備を身に身に纏った武が姿を現した。

 

 

「そういえば今日見慣れない二人組みを見かけたんだけど、零。何か知ってるか?」

 

「二人組み? もしかして顔に大きな傷のある大尉と背の高い中尉か?」

 

「そうそう、その二人。なんて言うのかな、雰囲気が他の連中と明らかに違ってた」

 

 

 さすが最前線のエースたち。ここの空気に感化されず常在戦場の心構えでいたか。

 

 

「俺が今協力を頼んでいる二人だな。アフリカ戦線のエース、グラハム・エーカー大尉と欧州最高スナイパー、ニール・ディランディ中尉だ」

 

「お、おいおい。そんな二人を呼んで大丈夫か? アフリカもヨーロッパもそんな余裕ないだろ」

 

「それは百も承知だが、その上で協力してもらえるように頼んでいるんだ。突っぱねられたらそれ以上のことはしない。 それに権力を楯に引き抜くのは簡単だが、乗り気じゃないやつを無理やり連れてきたところで扱いづらいだけだしな」

 

「なるほど、ただ単に強いやつを集めればうまくいくってわけじゃないってことか」

 

「そういうことだ」

 

 

 一方的な要求だとマイナスの要素が多いが、ギブアンドテイクならまだプラスの要素が多い。

 「上官命令だ、協力しろ」では少なからず反感を買うが、「限度はあるが要求するものを揃える。だから協力してくれ」ということなら相手にもメリットがある。これなら相手も協力しやすくなるし、何より自分たちのために手を抜いたりはしないだろう。

 断られたら時は縁がなかったと思ってあきらめることにしよう。

 

 

「それはそうと、武。よく切れる実体剣とビームサーベル、どっちが好きだ?」

 

「なんだよ、藪から棒に。 まあどっちがいいと言われれば実体剣だけど」

 

「ふむふむ。ならライフルとマシンガン、どっちが好きだ?」

 

「うーん。威力で言えばライフルだけど、取り回しを考えたらマシンガンだな」

 

「なるほどなるほど。じゃあ胸はボインとペタ、どっちが好きだ?」

 

「もちろんぼ……まてぃ! 武装の話から急にどうでもいい話になったぞ!?」

 

「なに、ちょっとしたお茶目だ。しかし俺たちにはどうでもいいかもしれないが、社には重要なことのようだぞ」

 

「……小さいのは、負け組ですか?」

 

「ああ! 霞から負のオーラが!?」

 

 

 項垂れ自分の胸を押さえて絶望している霞に必死でフォローする武を目尻に、俺は混み上がる笑みを抑えて先ほどの回答を小さくメモする。

 

 

「安心しろ、社。武ならどんなサイズでも平等に扱ってくれるさ」

 

「この状況を作ったお前にだけは言われたくないが、間違ってないから言い返せねぇ……」

 

 

 何やら非難の目が向けられているようだが、この程度は非難に入らんな。

 しばらくして霞がうさ耳をピコピコ動かして武に何か提案し、当の本人は笑顔で快諾している。

 

 

「うし。俺たちは飯に行くけど、零はどうする?」

 

「そうしたいのは山々だが、今日の成果を博士に報告してくる。社と先に行っててくれ」

 

 

 片手に持ったデータチップを見せ、二人と別れ香月博士の部屋に向かう。

 移動しながら昼間に考えた兵装のメリットデメリットを見直していると、妙なデジャヴが俺を襲った。

 同じ場所で昨日、一人の男に遭遇した時と同じ感覚だ。また鎧衣課長かと思い振り返るが、人はおろか段ボールもない。依然として視線が俺に注がれていることを確認し、俺は神経を研ぎ澄まして出処を探る。

 視線の元は視界正面の上――通風口からだった。

 

 

「段ボールの次は天井ですか? 鎧衣課長」

 

「おやおや、こうもあっさり見破られるとは。今回はうまく行くと思っていたのですが、本当に手強いですな。神林中佐」

 

 

 響く声と共に通風口のフタが開き、案の定――鎧衣課長が颯爽と降り立った。トレンチコートで通風口這って来るとか何考えてんだ、このおっさんは。

 

 

「どうも中佐。一日ぶりですな」

 

「こちらこそ。しかし昨日といい今日といい、あなたは忍者か何かですか?」

 

「いえいえ、ご存知の通りただの宮仕えですよ」

 

「俺の知ってる宮仕えの人間は段ボールに隠れたり天井を這って移動したりしませんがね」

 

「おや、どうやら中佐は古いタイプの人――いわゆるオールドタイプにしかお会いしたことがないようですね。ニュータイプと呼称できる最近のサラリーマンにとって隠密は必須能力の一つにカウントされるほどの重要スキルなのですぞ」

 

 

 そんなサラリーマン聞いたことないし、俺の知ってるオールドタイプやニュータイプでもやらないからな。

 というかニュータイプの話をした覚えがないのにその単語を使われると聞き耳立てられてる気がして不安になる。

 

 

「それで、今日はどういったご用で? タイミングから察するに、スケジュールに目処がたったところでしょうか?」

 

「いやはや、本当に勘の鋭い方だ。 ――博士のお部屋でよろしいか?」

 

「そうですね、行きましょうか」

 

 

 別にここで聞いても良かったが、念を入れるに越したことはない。特に一国の代表を連れ出す話となれば、その情報の扱いには細心の注意を払って然るべきだ。

 それにこの話は博士にとっても重要な話となる。ならば交えて話した方が伝達の確実性が高い。

 以前のように移動中特に会話することなく博士の部屋に入室すると、鎧衣課長を認識するなり不敵に笑った。

 

 

「鎧衣。あんたが神林とここに来たってことは、そういうことでいいかしら?」

 

「はい。明後日の夕方18時より5日間、視察と慰問という名目でGステーションへ伺うことができます。ただ一週間近い日程のため、同行できる人に限りがあります。 詳しくはこちらをご覧ください」

 

 

 取り出された一枚の紙を受け取り中身を確認する。

 まず殿下のお側役である月詠大尉。次に珠瀬事務次官と巌谷中佐。最後に目の前の鎧衣課長の計4名が同行するか。

 てっきり紅蓮大将も参加するかと思ったが、帝都の守りを減らすわけにはいかないから残ったようだな。

 横浜基地からは香月博士に武と霞、呼び寄せたあの二人の計5名を連れて行くだけか。

 あとは緊急通信用の装置をピアティフ中尉と榊総理に預けるくらいだな。

 

 

「了解しました。 では――こちらからこれだけのメンバーが同行すると殿下にお伝え願えますか?」

 

 

 手近な白紙に横浜基地から参加するメンバーをリスト化し、そのまま手渡す。

 

 

「ふむ……。博士や白銀大尉、社少尉はわかりますが、このエーカー大尉とディランディ中尉はよろしいのですかな? 特にエーカー大尉はアメリカ人――月詠大尉からの風当たりが暴風並みになると予想されますが」

 

「確かに彼はアメリカ人ですが、所属はアフリカ戦線です。個人的に話してみたところ、考え方も客観的に見れることから日本に対しても特別な感情を抱いてはいないようでした。それでも月詠大尉が何か言うようであれば、俺が対応しますよ」

 

 

 その答えに納得したのか、鎧衣課長は「なるほど」と頷き用紙を懐へと収めた。

 

 

「了解しました。詳しい段取りはまた後ほど」

 

「では、明後日の18時に」

 

 

 そう交わすと鎧衣課長は退室し、博士が楽しそうな声を上げる。

 

 

「あんたがいると鎧衣との話がスムーズになって助かるわ。あいつが来る時だけ近くにいてくれないかしら?」

 

「勘弁してください、毎回登場に拘られたら流石の俺も疲れます」

 

 

 段ボールに通風口と来たら流石に手詰まりかもしれないが、鎧衣課長なら壁や床から現れるかもしれない。いや、本当にやりかねない。

 

 

「とりあえず聞いていただいた通り、出立は明後日の夕方18時です。武と社には俺から伝えますので、博士はご自身のスケジュールを調整しておいてください。 ーーあとこれ、今日行ったXM3の報告書です」

 

「ありがと。 β版が仕上がり次第試験的に不知火に実装でいいかしら?」

 

「そうですね。その際に武を使ってA-01の訓練に乱入させましょう。インパクトは大きい方がいいに決まってますからね」

 

「……そういうことね。確かに発破をかけるにはいい材料だわ」

 

 

 こちらの意図を察した博士がニヤリと笑う。

 そう、ただ実装するだけではダメだ。彼女たちが持つ戦術機の既成概念を根底から破壊するほどの衝撃を骨の髄まで叩き込み、その上で実機とシミュレーターで新OSの特性を体に覚えさせる。

 これで懐疑的な感情を取っ払い、OSを完全にモノにしようとするハングリー精神を掻き立てようというわけだ。

 並行して新兵器の慣熟訓練も行って行けば中隊規模でありながら連隊以上……いや、旅団以上の戦果を挙げられるだろう。武器の性能を差し引いても、間違いなくそれだけのポテンシャルを伊隅ヴァルキリーズは秘めている。

 しかも後に加わる207訓練部隊は旧OSの癖もないから伸び幅も非常に大きい。

 

 

「分かったわ。仕上がり次第連絡するわ」

 

「感謝します。では」

 

 

 小さく礼をして部屋を後にする。

 一先ず優先事項としてトレミーのハロ達にゲストの受け入れ準備を、Gステーションのハロ達に地球へ運ぶ物資と帰ってくるためのブースターを用意するように指示を出さないといけない。

 だがその前に――

 

 

「武たちと合流するか」

 

 

 連絡もそうだが、腹が減ってはなんとやらだ。




鎧衣課長を出すと何故が一気に筆が進む謎。
次回更新の目処はまだ立っていませんが、長い目で見守っていただけるとありがたいです。
それではまた。














唐突に思いついたどうでもいいおまけ




明の私室。

ドパァン!

零「……何してんだ、作者」

明「え、SSの資料を収集する準備ダァ……っ!」

零「ガンプラ組みながらフルブをしているのにかぁ?」

明「わ、ワシは悪くねぇ! この時期にフルブ出したりHGCEのストライクを発売したバンナムのせいだ……!」

零「その程度の言い訳で俺や読者が納得すると思っていたのか?」ハイメガロックオン

明「お助けーーふぁっ!?」デデーン!


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番外編 特殊セリフシリーズ シャイニング編

Gジェネと言えば特殊セリフ。
特殊セリフといえばフィンガー祭り。
今回はシャイニング祭りです。
思いついたキャラを片っ端から喋らせて見ました。

それでは皆さんご一緒に!

シャイニング祭り! レディィィィィ、GO!!


番外編 特殊セリフシリーズ シャイニング編

 

見方について

 

名前

「 」発動セリフ

 

「 」トドメ演出

 

 

 

メインメンバー編

 

「シャァァァイニング、フィンガァァァァァッ!」

 

「光になれぇぇぇぇ! ってな!」

 

 

「行くぜ! シャイニングフィンガー!」

 

「すげぇ……これがガンダムの力か!」

 

 

純夏

「いっくよー! どりるみるきぃばんかー! 」

 

「え? 間違ってる?」

 

 

「行きます、シャイニングフィンガー」

 

「とてもやさしい光、です」

 

 

冥夜

「ゆくぞ! シャイニングフィンガー!」

 

「これこそ、人類反撃の光だ!」

 

 

悠陽

「参ります。シャイニングフィンガー!」

 

「これが、人類を照らす光なのですね」

 

 

千鶴

「さ、叫ばないとダメなの!? ええっと、はぁぁぁぁぁ!」

 

「ナンセンスだわ……」

 

 

壬姫

「い、いきます! シャイニング、ふフィンガー!」

 

「あわわ、 眩しいよぉ」

 

 

「シャイニングフィンガー……!」

 

「潰れろ……!」

 

 

美琴

「せーの、シャイニングフィンガー!」

 

「かっこいいね、これ!」

 

 

TE編

 

ユウヤ

「な、なんなんだこの機体は!?」

 

「94セカンドが可愛く見えるぜ……」

 

 

唯依

「押し通る! シャイニングフィンガー!」

 

「信じられん。なんと言う機体だ……」

 

 

クリスカ

「なんだ、私を惑わせるこの光は……!?」

 

「クッ、不愉快だ!」

 

 

イーニァ

「しゃあーいにんぐ、ふぃんがー!」

 

「クリスカ! とっても綺麗だよ!」

 

 

タリサ

「この武装、どう考えてもあたし向きだ!」

 

「ふっとべぇぇぇぇ!」

 

 

VG

「耐え切れるか? この一撃に!」

 

「やれやれ、何でもありだな」

 

 

ステラ

「受け取りなさい。シャイニングフィンガー!」

 

「あら、もうへばったの?」

 

 

ヴィンセント

「整備兵でも使えるのか。最高だな!」

 

「こいつはとんだじゃじゃ馬だぜ!」

 

 

ヴァルキリーズ編

 

みちる

「指揮官とて、前に出張ることもある!」

 

「経験を積んで出直してくるんだな」

 

混ざってはいけない別の因子が流入したみちる

「トチ狂ってお友達にでもなりに来たか!?」

 

「その態度、覚えておけ!!」

 

 

水月

「行くわよ、シャイニングフィンガー!」

 

「この勝負、あたしの勝ちね!」

 

 

「腕だけでいいのなら、私も戦えます!」

 

「こういうのも、たまにはいいかも」

 

 

美冴

「ほぉ、叫ぶだけでいいのか。便利じゃないか」

 

「ま、私は叫ばないがな」

 

 

祷子

「あまり前に出たくはありませんが、仕方ありません!」

 

「接近戦なら勝てると思いました?」

 

 

「やってやろうじゃない! シャイニングフィンガー!」

 

「ちょっと恥ずかしいわね、これ」

 

 

晴子

「冷静に、だけど力いっぱい!」

 

「うん。いいね、これ」

 

 

築地

「何も考えず思いっきり! うー、にゃー!」

 

「ま、またやっちゃった……」

 

 

麻倉

「え、えーっとぉ! しゃいにんぎゅフィンガー!」

 

「あうぅ、噛んじゃったよぉ」

 

 

高原

「気合を込めるだけでいいんですか? せいや!」

 

「お手軽ですね」

 

 

オーバーワールド編

 

グラハム

「押し切らせてもらう! このグラハムフィンガーで!」

 

「この程度か!」

 

 

ニール

「狙撃手が前に出るとかありえねぇが、仕方ねえ!」

 

「やっぱ狙撃のほうが、俺には向いてるな」

 

 

絢香

「道を開けなさい、シャイニングに潰されたくなければ!」

 

「警告はしたわ」

 

 

秋生

「必殺! シャイニングフィンガー!」

 

「必殺技……男のロマンだな」

 

 

「動いちゃだめだよ、外れるから!」

 

「バイバイ!」

 

 

島田

「機体を知り尽くしている整備兵を甘く見るなよ!」

 

「墜ちろ、カトンボ!」

 

 

櫻井

「お前はあたしに喧嘩を売った! これからの人生、もう幸せになれると思うなよ!」

 

「見たか、このくそやろおぉぉぉーーっっ!!」

 

 

堀川

「受けてみろ! 密かに取りつけた、このシャイニングビッグバンアタックを!」

 

「これでダウンだ!」

 

 

横浜基地編

 

夕呼

「気合で動く? あたしに喧嘩売ってんの?」

 

「物理法則無視してんじゃないわよ!」

 

 

まりも

「今ならいける! シャイニングフィンガー!」

 

「あの、この掛け声どうにかなりませんか?」

 

 

ピアティフ

「システムオールグリーン。シャイニングフィンガー、起動します」

 

「任務完了」

 

 

ラダビノッド司令

「シャイニングフィンガーで、あーーーーーーる!!」

 

「ここが貴様の終着点だ!」

 

対G弾信者機「G弾にばっか頼るんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

日本帝国編

 

沙霧

パターン1

「全ては、この国の未来のため!」

 

「成敗!」

 

パターン2

「絶光掌である!」

 

「わ、私は一体……」

 

パターン3

対米軍機「必要ないのだ! 日本にとって貴様たちは!」

 

「米国よ、思い知るがいい!」

 

御大将が流入した沙霧

「なるほど! シャイニングフィンガーとはこう言うものか!」

 

「日本再興の花火だよ!」

 

対米軍機「米軍はぁ! アメリカにいればいいのだ!!」

 

「G弾がぁぁぁぁ! そんなに好きかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




特殊セリフシリーズ第一弾、いかがでしたか?

今回出なかったキャラクターは思いつき次第追加して行くので、気が向いたら確認して見てください。

2014/3/22
日本帝国編追加しました。
のいぢんさん、ネタ提供ありがとうございました。

2015/3/2
オーバーワールド編追加しました。
みちるのセリフを追加しました。
一部修正化一を行いました。


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第11話

どうもこんにちわ。仕事のストレスで体調のヤバさがマッハな作者です。
心臓ってストレス溜まると本当に痛むんですね。程度がショボくて何とかなってますが、このまま行くと今度は胃に穴が空きそうです。

それはさて置きお待たせしました、第11話です。
自分の駄文っぷりに頭を抱えるばかりです。
そして前半何故こうなったのかよくわかりません。執筆本能の赴くままに書いたらどうしてかこうなってしまいました。
あえてもう一度言わせてください。
どうしてこうなった


国連軍横浜基地 PX

 

 

 零と別れて強化服から着替えた武は霞と共に夕食をとりに来ていた。彼女がシミュレータールームで一緒に食事がしたいとねだったのが発端だが、武自身もちょうど空腹を感じていたためタイムリーだと思っていた。

 

 

「おや、武に霞ちゃんじゃないか! 今日も同じのかい?」

 

「はい。お願いします」

 

 

 カウンターに並ぶなり大きな声で二人を迎えたのはこのPXの最高権力者にして横浜基地の肝っ玉母さん、京塚のおばちゃんである。

 このPXにおいては例外なく兵士たちは彼女の息子であり、娘である。それは横浜基地の実質的なトップで ある香月夕呼も例外に洩れず、彼女自身もこのおばちゃんをもう一人の母親のように感じていた。

 そして狂犬と化した神宮寺まりもを(物理的に)押さえ込める唯一の人物でもあると言う噂も……。

 そんな彼女は武から返事を聞くと、すぐに二人分の合成サバの味噌煮定食を用意する。合成ではあるが、他の基地と比べても美味しいのは間違いなく才能と実力によるものだろう。

 さて、本日の夕食を確保した二人は続いて本日の食事を摂る場所を確保すべくテーブル席へと足を進める。だが少し出遅れたのが響いたのか、いい場所は完全に埋まっていた。

 

 

「――あ、白銀大尉」

 

 

 不意に自分を呼ぶ声につられて顔を向けると 、207訓練部隊の少女たちが固まって食事を摂っていた。

 

 

「よお、お前らも飯か」

 

「はい。社少尉もご苦労様です」

 

 

 涼宮茜の挨拶に霞も小さくお辞儀をして答える。

 ここ数日、昼間の訓練で武の後ろについていることが多かったため彼女らにも顔を覚えられたのだ。

 ちょうど席が並んで空いているのも幸いし、二人は迷うことなく席に着く。

 

 

「調子はどうだ、お前ら」

 

「まずまずと言ったところです。ですが、総合技術演習までには必ず――」

 

「ストップだ」

 

 

 晴子がそこまで口にしたところで、武が手で制す。

 

 

「公の場とかでない限り敬語は要らないっていっただろ? しかも今は飯時だ。堅苦しいのは無しにしようぜ」

 

「ですが、大尉」

 

「はい、階級で呼ぶのも禁止だ。委員長」

 

「……榊。納得できぬ気持ちはわかるが、この者は梃子でも考えも変えそうにないぞ」

 

 

 冥夜の言葉に「まったくね」と嘆息し、千鶴は諦めたように口を開く。

 

 

「わかったわ。私の負けよ、白銀」

 

 

 その返答に満足したのか、武は笑って頷く。

 

 

「よし、じゃあみんなも委員長みたいな感じで接してくれよな。 あ、珠瀬は俺のことたけるさんって呼んでくれ。俺もたまって呼ぶからさ」

 

「ふぇ!? な、なんで私だけですか!?」

 

「……白銀、幼女趣味?」

 

「おい待て、断じて違うぞ彩峰」

 

「そうなの? ずっと社少尉が傍にいるから私もてっきりそう思ってたんだけど」

 

「白銀さんはどんな人でも平等に好いてくれます」

 

「霞!? 今それを言う場面じゃないしなんか言葉足りないよね!?」

 

 

 築地にまでそう思われていたことに反論しようとした武だが、霞のさらに誤解されかねない発言にツッコミを入れざるを得なかった。

 ちなみに霞本人は武なら『胸が』どんな『サイズの』人でも平等に好いてくれると言ったつもりだが、言葉足らずで伝わったため大部分は「やはりロリコンか?」「なんという女たらし」と邪推した。ちなみに高原だけは何故か男もイケルと別のベクトルで勘違いし、零と親しいのは実はそういう仲だからなのかと勝手に納得していた。

 

 

「とにかくだ、その呼び方呼ばれ方が俺としてもしっくりくるんだ。だから頼む」

 

「え……えっと、わかりました。た、たけるさん」

 

 

 恥ずかしそうに、しかししっかりと自分の名前を呼んでくれた壬姫。武は自分が望んだ輪に近づきつつあることを感じた。

 

 

「さ、飯にしようぜ。俺もう腹減って倒れそうだ」

 

 

 わざとらしくお腹をさすってアピールし、武は自分の食事に手をつけようとする。

 と、隣に座っている霞が裾を引っ張ってきた。

 

 

「ん? どうした、霞」

 

 

 見ると、箸で摘んだサバの味噌煮をこちらに向けている霞がいた。

 

 

「……えーっと、まさかとは思うが、あれか?」

 

「はい。 あーん、です」

 

 

ズギャァァァァン!

 

 訓練兵たちに雷よりも衝撃的な電流が、妙な効果音と共に全身を駆け巡った。

 

 

 

国連軍横浜基地 PX入り口

 

 

 

「あー、腹減った」

 

 

 地上に上がってきた俺は真っ先にPXへと足を運んだ。空腹をどうにかしなければまとめられる仕事もまとめられんのだ。

 列ができているカウンターの最後尾に並び、PXを見渡す。すれ違う何人かの兵が俺の階級に気付き、あわてて敬礼をして立ち去る。

 ……この基地の空気もどうにかしないと、後で痛いしっぺ返しを喰らうな。

 

ズギャァァァァン!

 

 

 

「おおぅ!? 何だ、今の感覚は?」

 

 

 本気でAI操作のガフランを大量投下しようとも考えたその時、妙な感覚が効果音と共に届いた。

 何事かと思わず辺りを見回すと、テーブル席で食事を摂っている武たちを見つける。

 そしてその中で霞が武に食事を突きつけているのが見えた瞬間、俺は全てを悟った。

 

 

「こいつぁ……祭りの予感ですよ」

 

 

 口元が笑みに変わるのを感じながら、こんなこともあろうかと懐に忍ばせておいたハンディカム(何故かトレミーにあったもの)を取り出し、誰にも気付かれることなく人気が少なく、かつテーブルの様子が把握できる観葉植物に固定させて録画を開始する。高性能集音マイクのおかげで音質も良好だ。

 速やかにその場から離脱し、再びカウンターへと舞い戻る。

 ああ、早くあの場を更なる混沌に陥れてみたい……。

 徐々に詰まっていく列の中でそんなことを思いながら、俺はその光景を眺めることにした。

 

 

 

国連軍横浜基地 PX

 

 

――なんでだ!? 何でこのタイミングでこれをする霞!? いや落ち着け、落ち着くんだ白銀武! こんな時こそKOOLになるんだ!

 

 混乱する頭を落ち着かせようとするが、状況が状況のためうまく落ち着かない武。そして周りの少女たちも、突然の霞の行動に唖然としていた。

 

 

「べ、別に今それをやらなくてもいいんじゃ?」

 

「白銀さん、さっきお願いを聞いてくれるって言いました。だからあーん、です」

 

「いや、お願いって一緒に飯食うことじゃないのか?」

 

「? 私は元々、これをお願いするつもりでした」

 

「なん、だと……!?」

 

 

 それはシミュレータールームでのこと。零のお茶目で気を落とした霞を元気付けてやるため、武は霞にお願いを聞いてやると言ったのだ。

 そこで霞はこのお願いを思いつき、「ではPXに行きませんか?」と誘った。

 ところが武はお願い=夕食を一緒に食べることと解釈。結果快く受け入れたのだが、霞の真のお願いはさらにその一歩先にあった。

 それを今、武は羞恥と後悔の渦中で悟り頭を抱えた。

 

 

「では。あーん、です」

 

 

 三度目の「あーん」攻撃。並の男ならその仕草だけで陥落してしまうだろうが、数々の修羅場を潜り抜けてきた男はなお抵抗の意思を見せる。

 

 

「か、霞。今回は他の人もいるから 、また別の機会に――」

 

「おやおや、女の子がこんなにも甲斐甲斐しくしてくれるというのに、武君はそれを拒否すると言うのかな?」

 

「げぇー!? 零!?」

 

 

 ここぞと言うタイミングを見計らっていたカオストリガー、神林零が悪い笑みで夕食のトレー(合成生姜焼き定食)を片手に武の背後から現れた。

 

 

「武。お前は今、全世界の独身男性の憧れである『女の子があーんと言いながら食べ物を差し出してくれている』という状況にあるんだぞ? それを断ると言うのは即ちその男たちのみならず、現在食べさせてくれようとしている社に恥をかかせると取れる行為だと言うことを理解しているか?」

 

「ま、待て! 俺は別に嫌だとは言ってねぇ! ただタイミングを――」

 

「嫌でないのならなぜ食らわん? 口をあけて飯を食うだけの簡単なお仕事じゃないか。別に見た目だけまともなゲロマズ料理ではない。むしろ他の基地と比べたら十分美味い合成料理だぞ?」

 

「状況が問題だっていってんだよ!? お前だって人前でそんなことされたら恥ずかしいだろ!?」

 

「何当たり前のこと言ってるんだ? 俺だってこういうのは二人っきりのほうが良いに決まってるだろ。だが武、されるのがお前なら俺は全力でその状況を後押しする。何故ならその方が面白いからだ!」

 

「鬼かアンタ!!」

 

「ふはははは! 何とでも言うが良いさ! 他人の修羅場ほど見ていて楽しいものはないのだからな! さあ社、存分にやってやれ」

 

 

 その言葉に無表情ながら力強く頷く霞。そして再びずいっと箸を武の口元まで持ってくる。

 未だ衝撃から抜け切れていないながらも事の成り行きを見守っている訓練兵たちの無言の圧力も加わり、「食べなきゃひどいぞテメェ」といった空気を作り出していた。

 

 

「~~~~っあ、あーん」

 

 

 数秒の沈黙の後、腹を括った武がついに口を開く。そこへ満足そうに食事を運ぶ霞。

 

――覚えてろよコンチクショウ。

 

 恨みがたっぷりこもった視線で零をにらみ、報復を心に誓う武であった。

 

 

 

国連軍横浜基地 地上通路

 

 

「ひでぇ目にあった……」

 

「いや、すまん。あそこまで混沌とした空間になるとは正直予想外だった」

 

 

 あれから霞が何度か「あーん」を続けると空間が歪むような音が聞こえ、訓練兵たち??特にB分隊から形容しがたい暗黒のオーラが噴出した。

 本人たちは何故自分たちがそれを出したか理解していないが、断言できる。あれは嫉妬のオーラであると。

 それ以上はさすがに俺でもまずいと感じたが、霞は満足するまで「あーん」をやめようとはしなかった。

 そしてまず彩峰がわざとらしく足を振って武の脛を強襲。続いて委員長が皮肉を口走りながら箸を真っ二つにへし折り、トドメに美琴が自身が父親に連れ回された先で見た男女の凄惨なる結末のエピソード(ドロドロ恋愛編)をぼかしなしで披露した。

 たまと冥夜はぎりぎり抑えてはいたが、もう一押しがあればナイスボート一歩手前な状況になっていたかもしれない。

 そんなカオスな夕食を終えた俺たちは腹ごなしを兼ねて基地内をぶらついていた。ちなみにカメラは霞に回収させた。今頃は香月博士の手元にあるだろう。

 

 

「で、明後日の夕方だっけか?」

 

「おう。俺は当日に準備のため一足先にトレミーへ行って来るから、お前は訓練兵たちに留守中の注意点とかあれば伝えておけ」

 

「了解。 それにしても、行き先は宇宙か。俺も作戦で上がったことがあるけど、あの時はゆっくり感じてる暇なんてなかったな」

 

「人類の命運をかけた作戦だったんだ。そんな時に余裕があったら、逆に驚くぞ」

 

 

 雑談を交えながら簡単に今後の予定を話し、グラウンドに出たところで見知った顔を発見した。

 

 

「自主トレか? 冥夜」

 

 

 武が声をかけると、グラウンドのトラックを走っていた彼女??御剣冥夜は俺たちに気付いて駆け寄ってきた。

 

 

「ご苦労様です。大尉、中佐殿」

 

「こらこら、堅苦しいのはなしって言っただろ?」

 

「し、しかし。中佐殿がいらっしゃる前でそれは……」

 

「御剣。俺も初めて会ったとき特殊な状況でなければ敬語は不要だと言ったはずだぞ? まあ、気になるなら別にかまわないがな。だが武と話すときくらいは楽にするといい。こいつはそれを望んでるんだしな」

 

 

 俺の言い分に納得したのか、それともこれ以上の反論は無駄だと判断したのか、冥夜は嘆息する。

 

 

「承知した、白銀。しかし、中佐がおられる時はまともな対応をさせてもらうぞ」

 

「別に構わないぜ。ただ、俺のことは苗字じゃなくて名前で呼んでくれ」

 

「な、名前でか?」

 

「ああ。お前に苗字で呼ばれると、なんかむずがゆいんだよ」

 

 

 反論しようと口を開きかけた冥夜だが、言って聞く性格ではないことをここ数日??特に今日の出来事で嫌と言うほど理解させられたため素直に諦める。

 

 

「では、タケルと呼ばせてもらおう」

 

「おう。せっかくだし、人が少ないときは零のことも名前で呼んでみたらどうだ?」

 

「さすがにそれは承服しかねる。中佐には上官として、接させていただきます」

 

「ん、了解した」

 

 

 綺麗な敬礼をした冥夜に返礼する。

 

 

「ところで、お二人は何故ここへ?」

 

「なに、腹ごなしを兼ねた基地の散策だ。お前はさっき武が言ったように自主トレか?」

 

「はい。私は一刻も早く衛士になり、戦場に立ちたいのです」

 

「……よければ、その理由を聞かせてくれないか?」

 

 

 武の質問に頷き、闇夜の空で輝く月を眺めて語り出す。

 

 

「月並みではありますが、私にも護りたいものがあります。この星、この国の民、そして……この日本という国です」

 

 

――ああ、そうか。これは冥夜が目指す護りたいもののエピソードだったな。

 

 御剣冥夜という少女が抱いた、未来への想いだ。

 

 

「私は人々を護りたいのです。人々の心、日本人の魂、そしてその志を守りたいのです。古より脈々と受け継がれてきた、気高き心を」

 

「……立派だな、御剣。他の連中にも見習わせたいくらいだ」

 

「恐縮です」

 

 

 この基地も――いや、この国も今みたいな純粋な気持ちを持つ奴ばかりだったらどんなにいいことか。

 

 

「昔、俺が尊敬する人からこんな言葉を教えられたことがある。『目標があれば、人は努力できる』ってな」

 

「ほぉ。簡潔でありながらも良い言葉だな」

 

 

 武の言葉に深く感銘を受けた冥夜は「私も見習わせてもらおう」と数回頷いた。

 

 

「では、俺からも偉人の言葉を贈ってやろう」

 

 

 俺の言葉が予想外だったのか、冥夜は驚いたようにこちらを見た。武は武で、面白そうな顔でこちらを見た。

 

 

「まあいろいろあるが、今207B分隊に必要なのは『生き延びるなら信じ合う』。これに尽きるな」

 

「生き延びるなら、信じ合う……」

 

「いい言葉だな。どんな人の言葉なんだ?」

 

「ある小隊の隊長だった奴だ。その隊長は仲間との信頼を特に大事にしていた」

 

 

 心の底から信頼しあっているとはまだまだ言い難いB分隊だが、あんな話をした後だ。この言葉に込められたチームワークの重要性は理解出来るはずだ。

 

 

「冥夜、仲間を信じていればそれだけでも力になる。特にエレメントを組んだ時にはそれが顕著に現れる。月並みなセリフかもしれないけど、覚えておけ。 お前たちは一人で戦ってるんじゃない。必ず助けてくれる仲間がそばにいるんだからな」

 

「……はい!」

 

 

 武の言葉に力強く応える冥夜。その表情は、何か吹っ切れたように感じられた。

 

 

「よし。じゃあ明日の訓練に障らない程度で切り上げろ。体調管理は衛士に限らず、どんな人にも共通する重要な事だからな」

 

「ふ、承知している。 では」

 

 

 敬礼をして再びランニングに戻る冥夜。その足取りは、最初見かけた時よりしっかりしているように見えた。

 

 

「俺たちも行くか」

 

「ああ。けど、その前にやることがありそうだ」

 

 

 流石に3回目ならこの後の流れが大体わかっているのだろう。先ほどから――具体的には冥夜と接触した辺りからこちらを警戒する視線が向けられている。

 その視線の主は俺たちが建物の中に入って間も無く、こちらへやって来た。

 

 

「来ると思っていましたよ、月詠中尉」

 

「ほぉ、私の気配に気付いておられたか」

 

 

 現れたのは赤い服を着た女性と、白い服を着た3人の少女達だ。

 帝国衛斯衛軍第19独立警護小隊。

 月詠真那を筆頭に神代巽、巴雪乃、戎美凪が鋭い目付きで俺たちを睨んでいた。




ようやく真那さん出てきました。
でも本格的な絡みは次回からです。
次回の投稿はまた一月くらい後になるかもしれませんが、ご了承ください。
ではまたお会いしましょう。


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第12話

どうもこんにちは、最近フルブでエピオンが楽しいと思っている作者です。

通算UA50000突破&お気に入り800突破。
本当に感謝感謝です。
比較的早く仕上がりました、第12話です。
今回はようやくA-01部隊が出て来ます。
と言っても後半に少しですが。
今日は番外編のシャイニング祭りに沙霧大尉が追加されました。
のいぢんさん、ネタ提供ありがとうございました。

それでは、本編第12話をどうぞ。


国連軍横浜基地 正面昇降口

 

 

 月詠真那は正面にいる――所属は違えど――自分より高い階級の男たち、白銀 武と神林 零に鋭い視線を向けたまま口を開く。

 

 

「斯衛を通じて貴官らの話を聞かせていただいた。その上であえて言わせていただく」

 

 

 一呼吸置き、真那の目つきがさらに鋭くなる。

 

 

「我々はまだ貴官らを信用していない。いくら殿下や紅蓮大将が信頼しようと、我々は貴官らを最も警戒すべき人間として対応させていただく」

 

 

 彼女自身この二人が別の世界からやってきて、その片方がここに限りなく近い世界に希望を与えたなどという情報はどうでもよかった。

 ただ得体の知れぬ彼らが自分たちの主に近づくのが気に入らなかったのだ。

 

――こちらが一方的に否定しているのは認めよう。しかし、全ては冥夜様を思えばこそ。

 

 

「ふむ。なら一つ言わせていただく」

 

 

 そんな真那の放つ剣呑な気をしれっと無視し、零は続ける。

 

 

「警戒するのは勝手だが、そちらが懸念していること行うのはまずあり得ない。ま、俺たちがそう言ったところで信用してもらえるとも思えないが、それならそれで納得してもらえるだけの信用を得るまでだ」

 

「好きにされるといい。だが冥夜様に万が一のことがあれば――」

 

「そんなことは絶対にしませんし、させませんよ。月詠中尉」

 

 

 力強く、そしてただならぬ決意を感じる声が真那の発言を遮る。

 

 

「冥夜だけじゃない。俺の周りにいる誰にも悲しい思いはさせませんし、傷つけさせたりもしません。それこそが、俺のやるべきことであり、この場にいる理由です」

 

 

 自らの胸に拳を当てハッキリと宣言する武。

 その想いに感化され、零も一度頷く。

 

 

「俺も武と同じだ、中尉。戦場で彼女たちを死なせる気はさらさらないし、それ以外でも手を出したりはしない」

 

「宣言するだけなら何とでもできます。ここでそのようなことを宣言されたとて、それを納得させるだけの実績がなければ理解を得るのは到底不可能では?」

 

「その実績をこれから俺たちは積み上げていくんですよ。そしてその成果は、中尉も十分納得してもらえると信じています」

 

「……なら、いつか拝見させていただきましょう。その成果とやらを」

 

 

 疑心に満ちた目で二人から視線を逸らし、真那は部下たちを連れて主の元へと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 正面昇降口

 

 

 先に殿下と会合していたおかげか、割とあっさり話が終わったな。

 真那さんたちが去って行くのを見届け、武が口を開く。

 

 

「あー、いつになってもあの視線には慣れねぇ」

 

「隙あらば切るを地で行く目だったな。 しかし、あれだけ大口叩いたんだ。早急にXM3だけでも完成させる必要があるな」

 

 

 最速で明日、それに合わせて幾つかのプランを博士に提出するか。

 

 

「そう言えば、そっちの開発はどうなってるんだ? やっぱり新しい戦術機とか考えてるのか?」

 

「新規開発は時間がないからほとんど諦めてるが、改造プランなら割とあるぞ――そうだ、ちょっと来い。お前の意見を聞きたかったんだ」

 

 

 その場から屋上へ移動すると誰もいないことを確認しトレミーから持ち出した端末を取り出す。

 空間にデータを映し出すと武が子供のようにはしゃいだが、スルーして目的のデータを選択する。

 

 

「これは……不知火? 足回りとか肩に見慣れないものがあるけど、形的には増設したスラスターか?」

 

「ああ。A-01――伊隅ヴァルキリーズ向けに機動力を強化させたもので、推進力は従来のものに比べ15%増し。担架システムを有した専用バックパックを装備させるとさらに20%増しだ。開発コードは不知火・旋風」

 

 

 脚部はリゼルを、肩のところはジェガンを参考にして開発。バックパックもデスティニーの仕様を流用したことで担架システムをそのまま残せた上に跳躍ユニットを外すこともなかった。

 胸部に取り付ける予定だったスラスターは形状の問題と、肩スラスターの推力を上げることで同等の効果を得られることからひとまず見送りに。

 C.Eのバッテリー技術を流用することで稼働時間も飛躍的に上昇し、間接部もMFの技術を使い強化。さらにマグネットコーティングを施すことで反応速度も上げている。

 基本武装に関しては頭部にバルカンポッドを取り付け、近接武器にアーマーシュナイダーとビームサーベル。射撃兵装はグレネードも撃てる複合ビームマシンガンか、同じくグレネードも撃てる複合100ミリマシンガンを選べる。

 さらに専用シールドの表面には耐ビームコーティングを施し、裏面にはビームキャノンとグレネードランチャーを選んで搭載出来るようにした。

 全体的に少し図体が大きくなったが、それを補う機動力と今までの戦術機とは次元の違う兵装を搭載したおかげでシミュレート上で行ったF-22とのキルレシオは6?8。つまり、この不知火・旋風――長いから旋風でいいか――を落とすにはアメリカの最新鋭機であるラプターを最低でも6体必要とするのだ。

 しかもこれを操るのがトップエース級ならさらに5倍は跳ね上がると予想している。

 ちなみに興味本位で俺のガンダムとラプターを比べたら開発者が発狂しかねない数値になったので見なかったことにした。

 

 

「すごいな。これが数機あるだけで間違いなく戦況が大きく変わるぞ」

 

「おいおい、これだけで驚いてくれるなよ。後衛組は単騎で最低でも数百のBETAを押し返す武装を持たせるつもりなんだからな」

 

 

 後衛組には戦況打破のためにZガンダムのハイメガランチャーやGP-02のビームバズーカ、ストライクガンダムの高インパルス砲『アグニ』と言った長距離射程で高火力の武装を持たせるつもりだ。

 後はさっき挙げた装備でも届かないような遠距離の敵を狙撃するためのロングレンジ・ビーム・ライフルや、面制圧向けに多連装ミサイルランチャーもいいだろう。

 

 

「増設スラスターは今から開発しても全員分揃えるまで時間がかかるから、まずは基本兵装だけでも揃えて慣熟訓練をさせる」

 

「なら明日の朝にXM3のバク取りを終わらせて、それからシミュレーターでA-01に使ってもらうか」

 

「その前に一度、お前はXM3を乗せた実機でA-01部隊の相手をしてくれ。その方がより興味を持たれるだろうし、OSの有用性も理解してくれる。それから慣熟を始めて、慣れた頃を見計らって武装の慣熟も叩き込む」

 

 

 XM3に慣れるまで少し時間を食うだろうし、武装の用意と調整を考えれば日程的には十分いいだろ。この二つがある程度慣れてもらったところでまた起爆剤を投入し、徐々に教導のレベルも上げていく。

 その間に207訓練部隊の総合技術演習があるはずだから、それで全員が合格すれば二つの部隊を並行して鍛えることが出来る。

 

 

「――あ、そうだ。 武、お前に一つ頼み事をしたい」

 

 

 次の段階へに進む時間は、確実に迫ってきていた。

 

 

 

国連軍横浜基地 PX

 

 

 夜明けと共に実施していたXM3のバク取りとデータ収集が先ほど完了し、成果を香月博士に提出した俺は少し遅めの昼食を取りに来ていた。

 武と霞は一足先に食事を終え、今頃は屋上かシリンダー室にいるだろう。

 

 

「中佐。相席してもよろしいか?」

 

 

 正面からそんな声とともに、トレーを持った顔に大きな傷がある金髪と茶色の癖っ毛が目に入った。

 グラハム・エーカーとニール・ディランディである。

 

 

「ああ、ちょうどよかった。2人に話があったんだ」

 

「話? 例の部隊参加についてか?」

 

 

 促されて座りながら、ニールは以前の話を思い出す。

 

 

「当たらずも遠からずだな。勧誘の際に俺の本拠地に招待すると話したのは覚えているか? 明日から5日間、VIPを招待する予定が組まれてな。それに合わせて2人も招待したい。無論、VIPの方も了承されている」

 

「なるほど。では以前の言葉通り、その印象で協力するか否かを決断してよろしいか?」

 

「それで構わない。当日はこちらから遣いを出すから、そいつの指示に従って動いてくれ。本来なら俺が迎えに行くところだが、俺は受け入れ準備のため一足先に基地を離れないといけない」

 

 

 グラハムの言葉に肯定しつつ、昨日の内容を思い返しながら詳しい時間と集合場所を伝える。

 

 

「――以上が明日のスケジュールだ。何か聞きたいことはあるか?」

 

「……では、一つ尋ねてもよろしいか?」

 

 

 神妙な顔つきになったグラハムがPX内を一瞥する。

 

 

「中佐。何故この基地はこれほどまでに緩いのですか?」

 

 

 その一言が、何についてなのかすぐに分かった。それは、俺自身も懸念していることだからだ。

 

 

「それについては幾つか目星をつけてあるが、俺の中でとりわけ大きな理由としては敵が滅多にこないことだな。 なまじ攻めてこられないものだから基地の連中は後方基地のように油断し、実践経験が乏しいにも関わらず自分の力を過信しすぎている。無論、俺たちのように現状を憂いて危機感を抱いている者もいる。だが残念なことに、全員の意識を同じレベルまで引き上げるための有効な手段がないのもまた現状だ」

 

「理由が分かっているのに対策の目処がない、か。いっそのこと、本物のBETAでも連れてきたらどうだ?」

 

「――確かに意識は変わるだろうが、それで戦力が減ったら元も子もない」

 

 

 ニールから飛び出た発言に思わず動揺しかけたが、どうにか抑え込むことに成功する。あれはS級阻止項目の一つだ、連れてこようものならその瞬間まりもちゃんの死亡フラグが確立してしま……う?

 そこまで考えたところで、ふと一つの考えが浮かんだ。内容としては単純だが、使い時がドンピシャなら高い効果を発揮しそうだ。

 

 

「……基地の空気に関してはなんとかしよう。とりあえず、二人は明日のことだけ頭に入れておいてくれ」

 

 

 二人から了解と返事をもらい、俺は残りの飯をさっさと片付けてPXを後にする。

 先ほど通って来た道を逆走し、その部屋にたどり着く。

 

 

「香月博士、失礼します」

 

 

 やって来たのは地下19階、香月博士の研究室である。彼女は最後に退室した時と変わらず、端末に向かって難しい顔をしていた。

 

 

「あら、神林じゃない。どうかしたの?」

 

「一つ、博士に提案がありまして」

 

 

 俺は先ほど思いついたことの概要を説明する。内容が内容なので、博士も少し真剣に耳を傾けている。

 

 

「――と言うことなんですが、どうでしょう? 試すだけでも価値はあるかと」

 

「なるほどね。確かにリスクが少なくやることも単純。しかもメリットしかない上にうまくいけば効果は大きく変化する……いいわ、司令と一部の人間には伝えておくから、あんたは実行する直前になったらあたしに連絡をよこしなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 博士の許可は得た。後は本当にタイミングの問題だな。

 

 

「それと、さっき受け取ったXM3のデータ。特に問題なかったから実機に搭載の指示を出しておいたわよ。今夜のA-01の訓練には間に合うはずだから、もしやるなら白銀にいつでも行けるように言っといて」

 

「お、了解です。 ついでにA-01のシミュレーターにも適応させておいてください。明日から慣熟訓練に入ってもらえれば、こっちに戻ってくる頃にはそれなりに扱えるようになっているはずですから」

 

「で、また白銀を投入ってわけね」

 

 

 理解の早い上司で助かる。

 その後は簡単な打ち合わせと、現在上がっている改造プランを適応させるための試験機をどうするかの意見交換で時間が過ぎていった。

 

 

 

国連軍横浜基地 近郊 A-01部隊専用演習場

 

 

 夜の帳が下りた廃墟に佇む複数の巨大な影。

 それは全て国連カラーのブルーで染まった日本帝国の戦術機、不知火だ。その左肩には二振りの剣を持つ戦乙女が描かれていた。香月夕呼直属A-01部隊、通称『伊隅ヴァルキリーズ』の機体である。

 その名の通り部隊の衛士は全て女性で構成されているが、この日本帝国でも間違いなく5本の指に入る実力を持っている。

 その指揮官であり部隊名に名を連ねた隊長、伊隅みちる大尉は機体の中で少し前に言われた上官の言葉を思い返していた。

 

 

『今日の訓練は中止よ。ちょっと相手をしてもらいたい奴がいるから』

 

 

 たったこれだけだ。どんな奴がどんな機体で来るかも教えられず、時間が来るまで待機と言われた。

 しかしどのような相手が来ようと、自分たちは全力で対応するだけだ。

 

 

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズへ。まもなくターゲットが現れます。戦闘準備へ移行してください』

 

 

 コマンドポストの涼宮遙より通信が入り、全員が思い思いに返信する。

 やがてレーダーに赤いマーカーが点灯し、演習場に敵機が現れたことを知らせた。

 

 

『伊隅、聞こえる?』

 

「は、通信は良好です」

 

 

 直属の上司――香月夕呼から通信が入り、みちるはキビキビと答える。

 

 

『今回の演習はその不知火1機に全員で相手をして勝利すること。以上よ』

 

『不知火1機に全員でって、そんなの圧勝で終わるに決まってるじゃないですか』

 

 

 夕呼の説明に速瀬水月が少し呆れ気味に発言するが、みちるも声に出さずとも同じことを思っていた。

 だがあの上官が無駄なことをするはずがないのはよく知っている。

 つまり、この演習には何かそうするだけの理由があると言うことだ。

 

 

「了解しました。 ――ヴァルキリー1より各機へ。相手はたったの1機だが、油断するなよ。何せ博士が用意した相手だ。軽い気持ちで当たると痛い目を見るぞ」

 

『『『了解』』』

 

 

 全員から返信を受け、みちるは再び相手を見る。

 機体は自分たちと同じ国連カラーの不知火。装備の印象から突撃前衛――ヴァルキリー2の水月と同じ装備だ。

 どの部隊でも突撃前衛、特に突撃前衛長はエースと呼ばれるだけの実力があり、もし相手が相当腕の立つ者なら勝利はすれど辛勝……最悪の場合なら敗北もあり得る。

 

――私は指揮官だ、気負いすぎるわけにはいかない。

 

 みちるは意識を切り替え、静かに開始の合図を待った。

 

 

 

国連軍横浜基地 近郊 A-01部隊専用演習場

 

 

 武の搭乗した不知火がトレーラーから立ち上がり演習場内に進入すると、データリンクされた端末のIFFに敵対表示の赤いマーカーが7つ点灯した。

 一瞬なんで7つと頭を捻ったが、BETAの新潟上陸の際に脱落した先人たちだと思い当たり合点がついた。

 

 

「武。相手は戦力差7倍の強者揃いだ」

 

『ああ、しかもその内の3人は全くの未知数だ。 けどーー』

 

 

 不知火から駆動音が一際大きく嘶き、特徴的なメインセンサーに光が走る。

 

 

『――俄然燃えて来た!』

 

 

 気迫は十分。しかもXM3と言う力も加わった今、武に恐れるものは何もなかった。

 

 

『じゃ、そろそろ始めるわよ』

 

 

 博士の通信が聞こえ、俺は最後にと武へ通信を繋いだ。

 

 

「武」

 

『なんだ?』

 

「蹴散らしてこい」

 

『おうよ!』

 

『――各機、状況開始しなさい』

 

 

 博士の合図と共に、8機の不知火が同時に動いた。




約2週間ぶりの投稿となりました第12話、いかがでしたか?
やっと不知火の改造プランを出すことができました。
本編で暴れるのはまだ先ですが、楽しみで仕方ありません。
さて次回はヴァルキリーズとの対決です。
戦闘描写がちゃんと書けるか心配ですが、頑張ります。


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第13話

どうもこんにちは、最近パソコンから昔書いたオリジナル小説(笑)という設定無茶苦茶厨二満載の黒歴史を発見し、記憶を消し去りたいと苦悩している作者です。

さて、ヴァルキリーズとの戦闘メインの第13話です。
戦術機同士の戦闘描写がとても大変です。
内容はともかく、オリキャラを作ったら比較的早く仕上がりました。
オリキャラについてはあとがきにて説明させていただきます。

それでは本編をお楽しみ下さい。


国連軍横浜基地 近郊 A-01部隊専用演習場

 

 

 相手の不知火は装備から推察して突撃前衛の物。ならばこちらの突撃前衛長をけしかけ、そこから囲むように火力を集中し一気に片を付ける。

 それがみちるの立てた作戦の大筋だ。

 

 

「ヴァルキリー2、まずはお前が相手をしてやれ。同じ突撃前衛同士だ、仲良くしてこい」

 

「了解。 ところで大尉、別にあれを倒してしまっても構わないですよね?」

 

「ふ、なら頼んだぞ」

 

「了解!」

 

 

 また悪いくせが出たかとみちるは呆れつつも小さく笑い、信頼を持ってその任をまかせる。

 そして大任をまかされた水月は嬉々として右のマニピュレーターを突撃砲から背面担架システムに装備していた74式近接戦闘長刀に切り替え、標的の不知火に向かって水平噴射で一気に距離を詰める。

 対して敵もまた突撃砲から長刀に切り替え、真っ正面から突っ込んでくる。

 

 

「いいわね! そうでないと面白くないわ!」

 

 

 水月の役割は敵の動きを止め、後衛組が砲撃をするのに敵した陣形を組む時間を稼ぐこと。その過程で、陣形が出来るより早く仕留めるのが今回彼女が立てた目標だ。

 だからこそ、向こうから来てくれるのは願ったり叶ったりだった。

 初撃から強烈な一撃を叩き込み、動きが鈍ったところへ一気に畳み掛ける。

 同じ不知火なら自身の土俵に持ち込むのも容易だと水月は推測していた。

 

 ――そう、相手が本当に自分と同じ唯の不知火ならば。

 

 長刀の刃がぶつかり合おうとしたその直前、敵の不知火は跳躍とともに倒立反転をかまし、あろうことかそこから切っ先を構え噴射を用いて真下へ加速して来たのだ。

 

 

「なぁ!?」

 

 

 今まで経験したことがない軌道と攻撃。

 余りに衝撃的だったため一瞬惚けそうになるが、経験と本能が無理矢理に体を動かし間一髪のところで前方へ回避することに成功する。

 機体を素早く反転させると相手は既に体制を整えており、長刀を横に構え斬撃可能な間合いまで来ていた。

 

 

「な、何なのよコイツ!?」

 

「ヴァルキリー2! 下がれ!」

 

 

 指示が聞こえると共に後方へ噴射跳躍。少し遅れてミサイルの雨が先程まで自分がいた地点に殺到する。

 当然そこには自分に切りかかって来た敵の姿があり、硬直を考えれば完璧な直撃コースである。

 勝った。一同がそう思った瞬間、敵は止まることなく体制を低くしてさらに加速。着弾点の一歩前へその巨体を滑り込ませた。

 

 

「えっ!?」

 

 

 なんで硬直しない、と水月は不覚にも思考してしまった。その致命的とも言える隙を逃さず敵は長刀を構え水月の不知火を切り抜ける。

 

 

『は、速瀬機、管制ユニット大破! 戦闘不能!』

 

 

 遙の報告でヴァルキリーズに衝撃が走る。

 わずか数分で部隊最強と言っても差し支えない突撃前衛長が、彼女の最も得意とする接近戦で墜とされたのだ。

 その事実を受け止めたうえで、みちるはすぐさま新たな指示を出す。

 

 

「各機、エレメントを組み突撃砲で牽制しつつ距離を取れ! コイツは普通じゃない!」

 

 

 そう、普通じゃなかった。

 衛士も機体も、今までの経験から大きく外れた戦い方をするそれは何をしでかすかわかったものではない。

 故に、みちるが取った戦術は距離を置いての集中砲火。幸いにして、陣形自体はほぼ完成している。

 

 

「ヴァルキリー5、ヴァルキリー6! もう一度ミサイルの雨をお見舞いしてやれ! 他の者は突撃砲で支援だ!」

 

「了解! ヴァルキリー5、フォックス1!」

 

「ヴァルキリー6、フォックス1」

 

 

 左翼にいる制圧支援のヴァルキリー5風間祷子と、右翼にいる同じく制圧支援のヴァルキリー6、天宮沙羅が先ほど水月の援護をしたように両肩の自立制御型多目的ミサイルを同時に打ち出す。

 それだけでは先ほどのように回避される可能性があるため、さらに全員の突撃砲による一斉発射。

 いかに優れていようと、これほど多方向からの同時砲撃を捌ききれるはずがない。

 少なくともみちるはそう考えていた。

 

 だが、非常識な敵はどこまでも非常識だった。

 

 一瞬の動揺も見せず左翼の風間たちに向かって加速、水平噴射から跳躍ユニットの噴射を調整しバレルロールでミサイルとペイント弾の雨を潜り抜ける。

 

 

「嘘ぉ!? なにその避け方!?」

 

 

 風間と組んでいた砲撃支援の真咲千早がそのとんでもない軌道に目をむき、咄嗟にサブアームに搭載した突撃砲を駆使し多方向からの迎撃を試みるが、タッチの差で機体を逆袈裟に切り抜かれる。さらに敵は最初に水月を強襲したように跳躍すると、再び倒立反転からの急速落下で風間機を背後から袈裟切りで仕留める。

 

 

『風間機、真咲機大破! 戦闘不能!』

 

 

 戦慄した。

 ヴァルキリーズの誰もが、別次元の戦いを見せるその不知火に。

 

――あれば、一体なんだ。

 

 あっという間に長刀1本で3機がやられ、相手は無傷。

 背筋に走るやたらと冷たい悪寒が、みちるの判断を焦らし始めていた。

 

――下手に砲撃で囲むより、接近して乱戦に持ち込むべきだろうか。

 

 それは愚作とも取れそうな作戦だが、あれほどの機動を見せられては無駄弾を撃つよりかは建設的に見えてきてしまっていた。

 

 

「――あっぶねぇぇぇ!! 少しでも反応が遅れてたら墜されてもおかしくなかった!」

 

 

 一方、A-01の敵である不知火の管制ユニット内で白銀 武が滝のような冷や汗を流していた。

 2回も行ったミサイルと砲撃の雨あられの強行突破。これを無傷で抜けられたのは以前プトレマイオス2で零が持ちかけたトレーニングのおかげだ。

 空中で全方位から飛来するビームをひたすら避け続ける訓練の成果が、ここにきて大きな効果を発揮してくれた。

 ちなみにバレルロールはぶっつけ本番で出した軌道であり、もう一回やれと言われて出来る自信はなかった。

 何より少し無茶な機動をやりすぎたせいか、関節の負荷が恐ろしいほど早く溜まり始めていた。

 

――まあ、速瀬中尉を最初に倒せたのは大きいな。

 

 大きく深呼吸し、残りのメンバーを確認する。

 残存戦力は4、装備は突撃前衛が1、制圧支援が1、迎撃後衛が2だ。

 武から見て左側に迎撃後衛と制圧支援が、右側に突撃前衛と迎撃後衛がそれぞれエレメントを組んでいる。

 迎撃後衛はみちると宗像美冴だと当たりをつける武だが残り2人の実力が読めないでいた。

 

 

「とりあえず、制圧支援は先に潰させてもらうぜ!」

 

 

 長刀を背面の担架に戻し、撃墜した真咲機の突撃砲を奪い物陰を利用しつつ最短ルートを駆け抜ける。

 ふとレーダーをみると、二つのエレメントが合流しようとしているのが目に入った。

 

 

「させねぇ!」

 

 

 建物を足場にして高く跳躍し、一番近い組に向けて突撃砲をばら撒く。

 襲撃を受けた制圧支援組は止むを得ず迎撃しながら後退し、物陰へと退避する。

 完全に隠れられたのを確認すると武は機体を反転させ、迷わず120mm砲を今まさに着地しようとしていた突撃前衛たちに向けて撃ち放つ。

 

 

「ちい!」

 

 

 着地硬直を狙われたと悟るや否や、突撃前衛装備の不知火に搭乗している結城香奈多が92式多目的追加装甲でそれをギリギリ防ぐ。

 本体は無傷で難を逃れたものの、追加装甲は使用不能になってしまった。

 そして武はと言えば120mm砲を撃ち込んだ時点で結果には目もくれず、再度制圧支援組の追撃を開始していた。

 

 

「やれやれ、奴さんは私たちと遊びたいようだ」

 

 

 関わりたくないといった空気を惜しげも無くだした美冴に、沙羅は現状で最善と思われる策を提案する。

 

 

「宗像中尉、センサーキラーを使用してから上空への退避を具申します」

 

「上へ逃げるのは本来タブーだが、今回ばかりは賛成だな。文字通り煙に巻くぞ、天宮」

 

「了解。センサーキラー、使用します」

 

 

 取り付けてあった筒を全てパージし、遠隔操作でそれを起動させる。

 筒からセンサーを無力化するスモークを排出し、レーダーと視界をから自分たちの姿を眩ませる。

 あとは手筈通り、上空へと退避してそのままみちるたちと合流するだけだった。

 しかし彼女たちは合流することばかりに気を取られ、失念していた。

 常識の数々を覆して来たあの不知火が、その程度で逃げ切れるほど甘くはないと言うことを。

 垂直噴射でスモークから抜けると、ほぼ同時に武の不知火もスモークから上空へと抜けて来た。

 

 

「なに!?」

 

 

 そして美冴は沙羅と仲良くペイント弾の雨に晒され、遙より大破による戦闘不能認定を受ける。

 

 

「あと2機――いっ!?」

 

「どぉらぁぁぁぁ!!」

 

 

 みちるたちの方へ振り向いた瞬間、雄叫びと共に香奈多の不知火が両手に装備した長刀を構えて目の前まで迫っていた。

 正面から受け止めるのはマズイと判断した武は逆噴射制動をしつつ、突撃砲を構え迎撃しようとする。

 しかし逆噴射制動を行う直前で今度は下方からみちるの援護射撃が入り、突撃砲にペイント弾が直撃する。

 使用不可判定をもらった突撃砲をすぐさま投棄し、92式多目的追加装甲で正面からの攻撃を受け止める。

 

 

「おいおいこれも防ぐのかよ!? 正真正銘のバケモンだな!」

 

「バケモン言わんでください!?」

 

 

 接触回線から聞こえたバケモン発言に思わず反論し、今度こそ後方へと離脱する。

 見れば追加装甲の耐久値が既にレッドゾーンに突入しており、あと1回防げるかも怪しい状態だった。

 武は追加装甲を捨て、長刀を1本だけ抜いて香奈多機と対峙する。

 

――伊隅大尉が来られると厄介だ。先にこの人を片付ける!

 

 短期決戦を覚悟し、長刀を下段に構えて水平噴射で一気に距離を詰める。

 

 

「上等! ねじ伏せてやる!」

 

 

 相手が接近戦で相当出来るのは既に分かっている。しかしあれほど無茶な軌道を繰り返しているのだ、関節部がいつ壊れてもおかしくない。

 それを理解した上で、香奈多はあえて相手の得意な土俵に上がった。

 下段から上段に振り降ろされる長刀に合わせて右の長刀でガードを、もう片方でガラ空きの胴体を狙い長刀を振り抜こうとする。

 だが武は上段切りからさらに軌道を変え、横薙ぎの長刀から逃げるようにステップを踏み機体を左に一回転させながら横に構え直した長刀で逆に香奈多の不知火を切り抜けようとする。

 

 

「タダじゃ、やられねぇ!」

 

 

 防げないとわかった時点で香奈多は薙いだ長刀の軌道を無理矢理変え、武の跳躍ユニットの一つにダメージを与える。

 ほぼ同時に自分は大破認定を受けたが、その顔は一矢報いたことで満足していた。

 

 

「やべぇ、墜としたはいいけど動きが悪くなっちまった」

 

 

 機体状況を見ると左の跳躍ユニットが半壊、無理なステップが祟って左の脚部も関節がもう限界だった。

 そして残るはほとんど無傷のみちるであり、向こうはまだ突撃砲も温存している。

 一先ず今撃破した香奈多機の突撃砲を頂戴しようとするが、担架には何もなかった。どうやら途中で投棄したらしい。

 結局手元にあるのは長刀が1本と、65式近接戦闘短刀が2本だけだ。

 半壊した跳躍ユニットでは正常な動作は期待できないし、いくらXM3と言えどコレでは不利だ。

 

――どうにかして接近戦に持ち込まないと……でもどうしたものか。

 

 レーダーでは右側からゆっくりと接近する最後のマーカーを一瞥し、周囲を見回す。

 ふと、左側に一際大きな廃ビルが目に留まる。全体的にもうボロボロで、ちょっとした衝撃で今にも崩れそうだった。

 

 

「……これ、使えるか?」

 

 

 武が一計を案じている頃、みちるは慎重に歩みを進めていた。

 慎重すぎるようにも見える動きだが、みちるからすれば相手が何をして来るか全く読めないため、慎重すぎるくらいがいいと思っていた。

 

――結城からデータリンクで送られてきた情報によれば相手は左跳躍ユニットが中破、加えてあれだけ無茶な軌道をして来たから脚部関節も相当な負荷が溜まっているはずだ。直に見ていけると判断すれば、あとは畳み掛けるだけだ。

 

 マーカーの位置を確認し周囲を見渡すと、廃ビルを挟んだ向こう側に敵がいるようだった。

 

――なるほど、廃ビルを崩して瓦礫と砂埃を利用して強襲するつもりだったか。

 

 

 

「ならば、それを利用させてもらう!」

 

 

 前方に跳躍し、廃ビルを足場にしてそのまま蹴り飛ばす。

 脆かった柱が簡単に倒れ、反対側にいる不知火を押しつぶそうとする。

 だがそれと同時に、自分の着地点からスモークが発生した。

 

 

「センサーキラー!? しまっ――ぐぅ!」

 

 

 廃ビルがブラフだと気づき着地した瞬間、左から痛烈な衝撃をもらいスモークから抜け出す。一拍遅れてビルが倒壊した音が響き、管制ユニットに65式近接戦闘短刀が突き立てられた。

 

 

『これで、最後です』

 

「……そのようだ」

 

 

 接触回線から男の声が聞こえ、みちるは自分の未熟さを実感しながらそう呟く。

 

 

『伊隅機、戦闘不能。 状況を終了します』

 

 

 遙の声が管制ユニットに響き、7倍の戦力差で挑んだ伊隅ヴァルキリーズの演習は、たった一機の不知火に敗北するという結果で終わった。

 

 

 

国連軍横浜基地 近郊 A-01部隊専用演習場

 

 

 最後に武がとった作戦は実に単純なものだった。

 廃ビルに隠れる直前、伊隅大尉が来るであろう地点にスモークを配置。

 廃ビルに何かしらのアクションを起こしたらスモークを起動させ、正常に作動する右の跳躍ユニットで大きく迂回。そのままタックルをお見舞いし、シースからナイフを取り出してホールドアップと言うわけだ。

 しかし、予想以上にトンデモ軌道の連発だったな。バレルロールの回避を戦術機でやるとかかなり頭おかしい。

 あと未知数だった先任たちもかなり練度が高いようだ。特に速瀬中尉と同じ突撃前衛の結城中尉は状況の助けもあったとはいえ、跳躍ユニットにダメージを与えていた。

 データによれば射撃の精度はあまりよろしくないようだが、近接戦闘ではかなりのものを持っているようだ。

 他にも制圧支援の天宮少尉と砲撃支援の真咲少尉は武にあっさり撃墜されてしまったものの、射撃については高い適性を持っている。

 

 

「これはこれで今後が楽しみだな」

 

 

 旋風に装備させる武器を思い描きながら、続いて武の不知火のデータを見る。

 

 

「こっちは……ちょっとマズイな」

 

 

 真っ赤である。

 目立った被弾はないが、ほぼ全身の関節が真っ赤っかである。

 正直、あのまま続いていれば負けていた可能性は十分にある。

 旋風の関節にはMFの技術を流用しているので簡単には壊れないと思うが、最悪の場合を想定した方がいいかもしれない。

 白銀武専用機の構想を描きながら、俺は撤収の準備を始めた。




さて、第13話。いかがでしたでしょうか?
さっそくですが、オリキャラの簡単な設定を説明しましょう。


結城 香奈多(ゆうき かなた)
階級・中尉
ポジション・突撃前衛
コール・ヴァルキリー4
宗像中尉の同期と言う設定。
キャラとしては男前な姉御キャラを思い描きながら、スパロボのカチーナさんをイメージしてます。
本編にあるように近接戦闘はかなり強いものの、射撃はあまりよろしくない。
胸囲的な戦闘力から霞には距離を置かれがち。
ちなみに一人称は「あたし」


真咲 千早(まさき ちはや)
階級・少尉
ポジション・砲撃支援
コール・ヴァルキリー7
風間少尉と後述の天宮沙羅と同期と言う設定。
ハツラツとした性格で喜怒哀楽がハッキリとしている。
サブアームを駆使した多方向攻撃を得意とするが、本編では武ちゃんにより瞬殺。BETA戦なら、BETA戦ならきっと……!
ちなみに胸囲は80と72より大きい


天宮 沙羅(あまみや さら)
階級・少尉
ポジション・制圧支援
コール・ヴァルキリー6
風間少尉と先述の真咲千早との同期と言う設定。
短髪&クール&ポーカーフェイス。ゼロ魔の眼鏡なしタバサをイメージしてます。
ヴァルキリーズでは唯一霞が懐いているという設定があります。(懐かれた理由は胸囲的な同属の感から
風間少尉と同じ制圧支援のポジションで、戦闘中のフルオープンアタックがささやかな楽しみ。
霞よりは喋るものの、キャラが被った感は否めません。


ざっくり説明させていただきましたオリキャラたちですが、気に入っていただけましたでしょうか?
ちなみに作者は沙羅がお気に入りです。
さて、早ければ次の回でいよいよ宇宙へ向かいます。だいぶ時間がかかった気がしてならない。
次回も今回くらい早く投稿出来るよう努力しますので、しばしお待ちください。

それではまた次回お会いしましょう。









ところで作者、ついに艦これを始めて見ました。
今まで話題としてよく聞いていて始めようと思っていたのですが、サーバーの壁にぶち当たり断念していました。
しかし昨夜、晴れて新人提督となりました。
ちなみに提督名は「タシロ・タツミ」で、艦隊名は「銀河殴り込み艦隊」です。
ガンバスターネタですね、本当に(ry


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第14話

どうも、フルブでユニコーン使って13連勝したら別の部屋で勝率70%超えのタッグに20連敗した作者です。
4月の一発目の投稿になります。
4月と聞いて現在頭に浮かぶのが3つほどあります。
まず消費税増税ですね。
ガンプラやゲーム、本やガソリンなどが高くなってしまいました。ちくしょーめぇ!
次にプロ野球のシーズンですね。
でも虎はもうダメかもしれません。
3試合して失点が既に30点近いとか……。
最後は10日に第3次スパロボZが発売されることですね。
早くガンバスターで暴れたいです。

さて、話がだいぶ脱線しましたが第14話です。
みなさん、よろしければコメントにあのセリフを残してください。
それでは本編をどうぞ。


国連軍横浜基地 第90番格納庫 地上行きリフト

 

 

 運命の日。

 そう、ある意味で今日と言う日はそう呼称できるだろう。

 香月博士にとっても、この日本帝国という国にとっても。

 それが真に人類勝利の鍵となるかはまだわからないが、その一翼を担う効果を上げることは可能だ。

 

 

「どう転ぶかは神のみぞ知る、てな」

 

 

 地上に向かって昇るリフトに載せられたデルタプラスのコクピットで、発進の準備をしながらそう呟く。

 最後に乗って数日しか経ってなかったが、乗り込んだ際に全周天モニターがとても懐かしく感じられた。

 やがて機体が地上へと姿を現し、脚部がカタパルトに固定される。

 規格が違うはずなのに固定ができるのはありがたいな。

 現在の時刻は夜明け前の午前4時30分。

 空が夜の闇から夜明けへと繋がる瑠璃色に変わろうとしていた。

 

 

「さて――神林零、デルタプラス。出る!」

 

 

 カタパルトから射出された機体が十分な高度に達したのを確認し、ウェイブライダーへと変形させてトレミーを隠した海域へと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム

 

 

 夕呼から昨日に続き連絡を受けたみちる。全員ブリーフィングルームに集合との連絡だったので、ほぼ間違いなく昨夜の演習についてだろうと考えていた。

 

――おそらく、今朝からシミュレーターが使えないのと何か関係があるはずだ。

 

 昨夜の敗北をバネに水月と香奈多が訓練に行こうとしたところ、シミュレーターが全台使用不可の状態にあったらしい。そして整備をしていた連中はこぞってニヤニヤしており、訪ねても楽しみにして欲しいとしか言わなかったそうだ。

 

 

「大尉ー、副司令の話って何なんですかー?」

 

「さあな。 ――ところで真咲、それが上官に質問する態度かっ!」

 

「あいたっ!?」

 

 

 退屈そうに机に突っ伏しながら質問して来た部下の頭にゲンコツを落とし、みちるは呆れ気味にため息をつく。

 

 

「――待たせたわね。敬礼はいらないから、さっさと本題に入るわよ」

 

 

 それから間も無く、お待ちかねの人物がいつもと変わらぬ姿で現れる。

 しかしみちるには、その表情が何処か楽しそうにも見て取れた。

 

 

「まず、昨日戦ってもらった不知火についてだけど――」

 

 

 その言葉に、全員の空気と表情が一瞬で変わった。その変化に夕呼は満足そうに笑みを作り、話を続ける。

 

 

「おかしなことがなかったかしら? 例えば……硬直が全くなかったりとか」

 

 

 言われ、水月の目がさらに鋭くなる。

 演習が終わってから何十回と戦闘記録を見直したが、夕呼の言ったように硬直と呼べる場面が全くと言っていいほど無かったのだ。

 

 

「あれはXM3というあたしの研究を応用した新OSを搭載させたものよ。このOSの特性として大きく3つに分類されるわ」

 

 

 キャンセル、コンボ、先行入力と指を一つずつ立てながら夕呼は説明していく。

 それぞれの特性やその恩恵を聞くに連れ、A-01の表情が驚愕から希望に満ち溢れたものへと変化していった。

 OSの換装だけであれ程の戦果を挙げられるのだ。もしこれが世界中に普及されれば戦死者の数が激減するのは想像に難くない。

 

 

「――で、あんたたちにはシミュレーターの換装が終わり次第慣熟訓練に入ってもらうわ。本来なら作った奴が教えればいいんだけど、生憎そいつは今日からあたしと一緒に少し基地を離れるわ」

 

 

 真剣に話を聞いていた彼女たちは、その言葉にふと疑問を感じた。

 

 

「作った奴……このOSを開発したのは副司令ではないのですか?」

 

「いいえ、あたしは要望を聞いて作っただけ。開発したのはあの不知火に乗っていた衛士よ。名前は白銀で性別は男、とだけ教えておくわ」

 

 

 その発言に、先程説明を受けた時以上の衝撃が襲った。

 誰も彼もがこの素晴らしいOSを開発したのが目の前の天才、香月夕呼だと思い切っていた。

 だが本人はそれを否定し、真の開発者は自分たちを倒した衛士ときた。

 一体どれほどの英傑なのかと想像したところで、夕呼がニヤニヤと一つの通信記録装置を取り出した。

 

 

「先に言っとくけど、あんたたちが思うような人間じゃないわよ。そいつ」

 

 

 そう言ってカチッと装置の再生ボタンを押し込む。

 そして再生されるは以前零が録画したPXの出来事だった。一部音声――主に零と武――が夕呼の手によって編集され所々で妙な間が空くが、それでも音声だけで修羅場の混沌具合がハッキリと伝わってくる。

 それを聞いていたA-01の彼女たちは、肩透かしを食らったように呆然としていた。

 

 

「さて、さっき言ったようにあたしは今日の夕方から5日ほどここを離れるわ。伊隅は有事の際、ピアティフを通して連絡なさい」

 

「了解しました」

 

「昼過ぎにはXM3がシミュレーターで使えるようになるから、それまでは好きにしなさい。以上よ」

 

 

 伝えることを伝えた夕呼は夕方に備えての準備をすべくさっさと退室して行った。

 残された乙女たちはシミュレーターが使えるまで時間を潰すべく、自主トレやXM3の特性についての再確認に時間を費やすことにした。

 

 

 

国連軍横浜基地正門

 

 

 門番の伍長二人はビビっていた。

 今日も今日とて何事もなく平和に一日が終わると思いきや、夕刻間際に突然現れた一台の黒塗りの車。何事かと思い歩み寄ってみれば後部座席から顔を出したのはなんとこの国の政威大将軍、煌武院 悠陽 殿下だ。

 何故、と思う前に脊髄反射で直立不動の最敬礼。さらにそこへ現れたのは儚げな少女を従えた横浜基地の副司令にして魔女の異名を持つ天才、香月夕呼。

 再び敬礼したところで下がれと命令され、二人はこれ幸いとここしばらくやっていなかったキビキビとした足取りで定位置につく。

 

 

(おい相棒! どうなってんだよこりゃ!?)

 

(知るか! 俺が知りてぇよ!)

 

 

 こんな感じで伍長たちが生きた心地がしない空間に陥ったのと同じ頃、場所は変わり正面昇降口へと移る。そこでは二人の男が手持ち無沙汰で立っていた。

 グラハム・エーカー大尉とニール・ディランディ中尉である。

 昨日、零から迎えを寄越すからここで待つように指示をされたのだが誰が来るかは教えられていなかった。

 二人が迎えと聞いて思い浮かべたのは最初に零の元へ連れて行ったピアティフ中尉だったが、その予想は目の前に現れた男の発言で外れることとなった。

 

 

「グラハム・エーカー大尉、ニール・ディランディ中尉ですね? 自分は白銀 武 大尉です。神林中佐の命によりお迎えに上がりました」

 

 

 男――白銀 武はピシッと綺麗な敬礼とともに軽い自己紹介をする。

 その動作から今日まで横浜基地で見て来た衛士とは違うオーラを感じ、二人はまず返礼をして軽く自己紹介を済ませる。

 

 

「白銀大尉。一つ確認したいのだが、大尉は神林中佐がどういう人物かご存知か?」

 

「えーっと、その前にお二人に確認したいんですけど、どこまで聞いてます?」

 

 

 グラハムの質問にそう確認すると、ニールから返答があった。

 

 

「中佐は自ら異世界人であると名乗っていましたが、本当ですか?」

 

「俺の方が年下なんで今みたいな時はタメ口でいいですよ、ディランディ中尉。で、質問の話は本当ですよ。俺たちの戦術機がおもちゃに見えるような機体や武装を保有していますし、俺自身シミュレーターで体験しましたけど、間違いなく単機で戦況を一変させる性能がありました。 無論これを知っているのはごく少数の人間だけで、今回の本拠地への招待はそう言った話を完全に納得させる意向もあるんですよ」

 

 

 武の説明を受け、二人の中で初めて零に会った時の話が信憑性高めた。

 しかしニールは同時に武の発言に気になることがあった。

 

 

「白銀大尉。ちょっと聞きたいんだが、異世界の戦術機を触らせてもらったってことは大尉は中佐の直属の部下になるのか?」

 

「直属ってわけじゃないですけど、形式上では上官と部下です。けど、俺はそれ以前に仲間だと思っています。無論締める時はきっちり締めますし、呼び捨てにしたりするのもプライベートや人が少ない時ですよ」

 

 

 上官と部下で有る前に仲間である。

 その言葉を聞き、隣で聞いていたグラハムは胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

 しかし同時に疑問も湧き上がった。

 上官と部下と言うのは理解した。だが何故あの中佐の部下であるのか、それが謎だった。

 

――同類の人間である、と言う可能性も捨てられんな。確実なのは中佐同様、ただの衛士ではなさそうだと言うことだ。

 

 そう結論付け、いつか中佐本人から全てを確認しようと心の中で誓う。

 それじゃあと武が切り出し、二人は導かれるまま正門の方へと向かう。

 たどり着いた場所では大きな黒塗りの車が1台と、軍用車両が一つ停車していた。

 黒塗りの傍らには香月夕呼と社霞、そして相変わらずトレンチコートの鎧衣課長が。軍用車両の傍らにはピアティフ中尉が立っていた。

 

 

「遅いわよ白銀。――で、そっちの二人が神林の呼んだって奴ら?」

 

「はい、グラハム・エーカー大尉とニール・ディランディ中尉です。エーカー大尉、ディランディ中尉、この人が横浜基地副司令の香月夕呼せん――博士です」

 

 

 噂の横浜の魔女を紹介され、反射的に敬礼を取る二人。

 だが夕呼は面倒臭そうに手を振り、「敬礼は要らないわ、それよりさっさと行くわよ」と告げ、鎧衣に黒塗りの後部座席を開けさせる。彼女が乗り込むとその後を霞がちょこちょこと続き乗り込み、鎧衣は手早く扉を閉めると反対側の扉から乗り込んだ。

 

 

「白銀大尉。あれが本当に基地の副司令である香月博士なのかね?」

 

「言いたいことは大体わかりますけど、残念ながら副司令の香月博士本人です」

 

 

 どこか疲れた表情で説明する武を見て、おそらくいろいろあったのだろうと同情の念を送る二人であった。

 

 

 

日本帝国 某海岸

 

 

 武の運転する車に導かれて移動すること約1時間、到着したのは人っ子一人いない小さなビーチだった。

 武は少し前に零からみんなをここに連れて来て欲しいと頼まれ、座標が入力された端末ナビを頼りにここまで来た。

 しかしそこに肝心の零の姿はなく、約束の時間は既に10分前まで迫っていた。

 

 

「白銀。本当にここで合ってるの?」

 

「あいつが寄越したこのナビが正しかったら、間違いなくここです」

 

 

 だが見渡せど指定した本人の姿はない。

 と、海の方から一つの輸送機が飛来して来ていた。

 誰もが見たことない機体だと思っている中、不意に武が見たことのあるカラーリングに気づくのとほぼ同時に端末へ通信が入る。

 

 

『こちら神林。現在輸送機でそちらを視認した。今から着陸するため風圧などに注意されたし』

 

 

 噂をすればなんとやら、本命の男からの通信だった。

 機体が浜辺に着陸し、扉から国連軍のものとは違う青い軍服を纏った神林零が姿を現した。

 

 

「本日はご足労頂きありがとうございます、殿下」

 

「構いません。今回のそなたのすべきことを考えれば仕方なきことです」

 

「お心遣い、大変感謝致します。では、早速参りましょう」

 

 

 先頭を歩き出す零に続き悠陽たちが乗り込む。

 輸送機の内部はそこまで広くないが今回の人数を運ぶには十分な広さが確保されており、乗り込んだ一同は内装のモニタや計器類に目を張る。

 技術に大きな差があることは覚悟していたが、自分たちの想像以上だったようだ。

 

 

「ではこれより現在使用している母艦へ帰投します。操縦しながらで申し訳ありませんが、何か質問がありましたらどうぞご遠慮なく」

 

 

 まるで飛行機の機長のような説明をし、零は機体を浮上させた。

 

 

 

太平洋 プトレマイオス2 MSデッキ

 

 

「ようこそ、プトレマイオス2へ」

 

 

 輸送機を降りた殿下たちへ向けた俺の第一声がそれだった。

 しかし俺のその言葉にまともに反応出来たのは香月博士とここに現れた武で、時点で殿下と月詠大尉、あとは霞がどうにか反応。後は鎮座しているガンダムデルタカイとデルタプラスに釘付けとなっていた。

 さて艦の案内もそこそこに済まし、俺は全員をブリーフィングルームに案内し、今後の説明に入る。

 説明と言っても、大気圏離脱の時に強烈なGがかかるからそれを緩和するためにノーマルスーツの着用と、こちらからの指示があるまで用意した席を離れないようにしてもらうと言うことだけだ。

 ちなみにノーマルスーツについては宇宙服と言うことで納得してもらった。

 それらを了承してもらった俺は殿下、博士、月詠大尉、そして武と霞の5人をブリッジに招く。

 ちなみに月詠大尉は殿下の護衛との一点張りでついて来た。別にいいけど。

 

 

「それでは殿下はこちらの艦長席へ。月詠大尉はオペレーター席に。香月博士は正面左の座席へ。武と霞は後ろ側のサブシートに」

 

「よろしいのですか? 艦長席と言うことならば、神林中佐が座るのが筋では?」

 

「ご安心を。自分は艦の操舵をしなくてはなりませんので」

 

 

 と言うか絵面的に見ても俺より殿下の方が圧倒的に映えるんだよな。これが将軍家のカリスマか。

 まあそれ以上に、あれを起動させられるからこっちに座ったってのもあるが。

 各々が席に着いたのを確認し、余ったオペレーター席にいるハロへ指示を出して全ての準備が整う。

 

 

「艦内の皆様へご案内します。これより当艦は大気圏離脱シークエンスに入ります。先のご説明でもありました急なGにご注意ください」

 

 

 輸送機を発進させた時と似たような口上を艦内放送で流し、トレミーを加速させる。

 さあ、このセリフを言うことをどれだけ楽しみにしていたことか!

 加速が十分上がって来たところで、俺は今回最も重要なキーワードを宣言する!

 

 

「トランザム起動! ハロ、GNフィールドを前方に展開! トレミーは最大戦速に入る!」

 

「GNフィールド展開! GNフィールド展開!」

 

 

 トレミーの船体が赤く染まり、航行速度が一瞬にして跳ね上がる!

 同時に艦首を空に向けて一気に大気圏に突入する。

 艦の前方にはGNフィールドが発生しており、大気圏の摩擦熱から船体を守るように広がっている。

 そこから間も無くトレミーは地球の重力から完全に離脱し、星の海へと飛び込んだ。




第14話、いかがでしたでしょうか?

ついに宇宙に上がりました。(ついでに伍長ズも出ました)
まだ書いてもいないのに初めての宇宙遊泳にはしゃぐ武ちゃんが目に浮かびます。
ここから一気に話を進めるつもりでいますが、どう進ませるかはまだ決まっていません。
2週間以内に上げられるよう頑張りますので、何時ものように気長にお待ちください。
それでは、また。



おまけ
今回のメンバーでトレミーの構成を考えてみたらこうなった。
艦長:香月 夕呼
副長:月詠 真耶
操舵:社 霞
通信:ニール・ディランディ
整備:巌谷 榮二
ゲスト:煌武院 悠陽


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第15話

どうも、おはようございます。
最近クロネコ氏のSSに触発され再びポケモンのプレイ衝動が再燃し、艦これやりつつフルブ(最近エクシアで10連勝達成)とポケモン(ダイヤモンド)を並行してプレイするという荒技をやっている作者です。

お待たせしました、第15話です。
今回はGステーションに向かう間の内容となっています。一部Gステーション到達後、もしくは地球帰還後に書いてもよかったかなというシーンがありますが、それを抜くと話が薄すぎたためこちらにねじ込みました。
ちゃんと書けているか正直ビクビクしながらの投稿です。

それでは、本編をどうぞ。


宇宙 プトレマイオス2 ブリーフィングルーム

 

 

 宇宙空間。

 それはこの世界や俺の元いた世界でも一部の人間しか足を踏み入れたことがない広大な星の海だ。

 その海を緑の粒子を放ち突き進むトレミーことプトレマイオス2。その艦内は今――

 

 

「た、武様! 避けてくださいまし!」

 

「白銀! 死んでも殿下をお守りしろ! 傷が付こうものなら貴様を叩っ斬る!」

 

「ちょ、急にそんなこと言われてもぶふぉ!?」

 

「ほう。身を呈して殿下をお助けするとは男の鑑だな、白銀武。だがいかに男の夢とはいえ女性の胸に顔を突っ込むのは如何なものかと思うが」

 

「白銀貴様ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ふ、不可抗力ですよ!」

 

「社、下手に動かずあたしの側にいなさい」

 

「はい」

 

「く、重力の有り難みがよく分かりますな」

 

「全くです。しかし、衛士の方々は流石ですな。上手く体を馴染ませている」

 

「いえ、自分は初めての無重力であれほど的確に移動できる香月博士を尊敬します」

 

「天才物理学者は伊達じゃねぇな。どう力を込めて動けばいいのか計算し尽くしてやがる」

 

 

 ―― 一部を除き無重力に悪戦苦闘する人たちの動きが混沌とした光景を作り上げていた。

 今後の予定を説明するためにブリッジからブリーフィングルームへ移動したものの、予想以上に酷い空間へと昇華してしまった。

 ちなみにノーマルスーツは既に脱いでおり、全員が比較的動きやすい服装になっている。

 

 

「えー、そろそろ話を進めたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 

 俺の声でようやく殺気を収めた月詠大尉と命拾いして安堵する武を確認し、床面のモニターに宙域図を表示する。

 

 

「現在この艦は最大戦速でGステーションを目指しており、到着予定時刻はグリニッジ標準時で明日の6時ごろ。日本時間にしておよそ明日の15時ごろとなります」

 

「予定より若干早いわね。何をしたの?」

 

「大気圏離脱時に使用した特殊システムのおかげです。地球へ降りる前に強化改造したおかげで予想より速度と継続時間が伸びたので予定より半日以上早く到着の目処が立ちました」

 

 

 オリジナルの太陽炉があればこそだな。粒子貯蔵タンクだけではこうなはらなかった。

 

 

「それでは少し質疑応答と行きましょう。こちらで開示する機体や武装などはGステーションのデータベースから引用していますが、一部の物は答えられる範囲でしかお答え出来ませんのでご了承ください」

 

 

 そう言って俺が取り出したのは人数分の出力端末だ。俺の手にあるマスタータイプとは違い決定、戻る、選択の機能しか出来ないため簡単に抜き出されたりする心配もない。

 

 

「神林。このデータベースにあたしの研究に役立ちそうな物はあるかしら?」

 

「博士が今取り組んでいる研究は……4番目の物でしたね」

 

 

 データベースから量子演算システムヴェーダの基礎理論を引っ張り出し、さらにサイコフレームとネオサイコミュシステム。オマケでモビルトレースシステムの理論を添付して博士の端末に送り込む。

 届いた資料内容を見た博士の目がくわっ!と見開き、一瞬こちらを一瞥。

 すると自室でじっくり読ませてもらうと言って無重力初体験者とは思えない動きでブリーフィングルームを後にしていった。

 

 

「零。前にお前のガンダム以上に強い武器があるって言ってたけど、どんなのだ?」

 

「ちょっと待て。いろいろあるが――とりあえずこの二つは鉄板だ」

 

 

 呼び出したデータはガンダムDXのツインサテライトキャノンと、ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルだ。

 

 

「この二つの威力を簡単に説明すると、最大出力で核兵器並の威力がある」

 

「か、核並!?」

 

「ああ。しかもビーム兵器だから放射能汚染は発生しないし射程も長くて比較的汎用性が高い。そして俺の見たてに間違いがなければ、この武器を使う元々の機体は条件付きでフェイズ3のハイヴを単機で攻略出来る」

 

「なんと……。頼もしいやら恐ろしいやらだな」

 

「ちなみに、その条件とは一体何かね?」

 

 

 珠瀬事務次官が冷や汗を流し、巌谷中佐が尋ねる。

 俺は説明として正面モニターにガンダムDXを表示する。

 

 

「まずツインサテライトキャノンを持つこのガンダムDXについてですが、一発を撃つのに必要なエネルギーのチャージに非常に時間がかかってしまうことです。本来この兵装は月面に建造された発電施設から大規模なエネルギーをスーパーマイクロウェーブとして発信し、リフレクターという受信装置で受け取った後エネルギーに再変換してようやく使用が可能になるのです」

 

「なるほど。まあそんな危険な武器を簡単にバカスカ撃たれちゃ堪ったもんじゃねぇけどな」

 

「では神林中佐、もう一つのツインバスターライフルを使用する機体についてはどう言った条件があるのですか?」

 

 

 グラハムの質問に答えるべく、俺は4機のガンダムのデータを呼び出す。

 その左から2番目に表示された機体を目の当たりにし、全員が息を飲んだ。

 その中でおそるおそると言った風に殿下が尋ねる。

 

 

「神林中佐。真ん中の左にあるガンダムは、天使なのでしょうか?」

 

「これは一番左の機体、ウイングガンダムゼロのカスタムタイプです。最大の特徴としてはご覧の通りバックパックの羽にありますが、説明すると少々長くなってしまいますので今回は割愛させて頂きます。ツインバスターライフルの使用自体に特筆すべき条件はありませんが、それを使用する機体の方に大きな問題があります」

 

「紹介されていない右側の機体もそうなのかね?」

 

 

 鎧衣課長の問いに首肯する。

 

 

「単刀直入に説明しますと、これらの機体には未来を見せるシステムが搭載されています」

 

「み、未来を見せるだと!? 戦術機にそんなことが出来るのか!?」

 

「出来てしまうんですよ、月詠大尉。ただし膨大な量の演算情報が脳に直接フィードバックされるため人体への負担は生半可なものではない上、勝利のための戦略ならばあらゆる手段を見せるのです。それには自爆や味方殺し、衛士自身の倫理も無視した破壊行動も含まれています」

 

「なんだそりゃ!? 欠陥機もいいところじゃねえか! なんだってこんなもんを……!」

 

「この機体の開発テーマだったらしい。この機体が出来る前に完成した機体以上に性能やコストを度外視した最強の機体を作るというテーマで作られたこれは、その性能故にシステムに翻弄されない強靭な精神力が求められ使いこなせなければ高確率で廃人になってしまうなど開発者たちでさえ持て余すほどの力を備えてしまった。完成から間も無く機体は封印措置が施されたが、皮肉にも時代は戦争を終わらせるためにこのガンダムを必要とした」

 

「確かにそれ程強力な機体なら戦争を終わらせることは出来るだろうが、衛士――っと、この場合はパイロットか。それはどうなったのかね」

 

「最終的にこのシステムを使いこなしたパイロットは4人だけで、内2人はシステムを使った戦況予測で戦い、一人はウイングゼロを駆ってその戦争を終わらせました。同じようなシステムを積んだ右の機体――ガンダムエピオンを操る最後のシステム適合者との一騎打ちの末に勝利し、戦闘の余波で地球へ落下していた巨大な宇宙戦艦の残骸をツインバスターライフルで破壊するという結末で」

 

 

 流石にそれをやってのけたパイロットが15歳の少年工作員だったということは伏せるが、それを差し引いても巌谷中佐たちには衝撃的な話だったようだ。

 

 

「なるほど。機体の危険性は十分に理解しましたが、まさか中佐はそれらを所持しているのでしょうか?」

 

「いや、俺がこの世界に来た時にはハンガー内の機体が大きく変わっていた。あったはずの機体がなくなっていたり、なかったはずの機体があったりとな。残っていた機体についても稼働しているものがあれば調整中だったりと原因は不明だ」

 

 

 あの時確認した調整中の中でも比較的早く使用出来そうなのがハイゼンスレイⅱ・ラーとジェガンだったな。

 少し時間をかければジムカスタムやアッガイ、バイアランにジムキャノン2も使用可能になる。

 ガンダムタイプで一番早いのはストライクだが、他の機体と比べたら遥かに時間がかかる。

 それに今必要なのは機体じゃない、改造に使うパーツだ。

 既にGステーションには旋風に使うパーツの製造指示を出しているし、武器庫からも必要な物を搬出するようにしている。

 あとは一つ機体を作りたいところだが、旋風で一度データを取らないとわからないな。

 そこからはMS関連の質問が続き、ある程度時間が経ったところで続きはGステーションに着いてからとなりお開きとなった。

 

 

 

宇宙 プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 日付が変わり日本時間で一夜明け、いよいよGステーション到着まであと僅かと迫ったその時、操舵席に座る零が唐突にぶるっと震えた。

 

 

「中佐、どうかしたかね?」

 

「いえ、なんだか嫌な予感がしまして……。喜ばしいけど迷惑さを感じるような感覚が……」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 何事かと尋ねる巌谷中佐に少し青ざめた表情で答えると、隣の席で話を聞いていた武が首を傾げる。

 と、突然ブリッジの扉が開き俯き加減の夕呼が現れた。

 その姿を認めた瞬間、零の中に渦巻いていた感覚が一気に警告して来た。

 

 ――生贄を捧げろ、と。

 

 

「神林いいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「武シールドおおおぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 無重力下とは思えない瞬発力でこちらに抱きついてこようとする夕呼を見た瞬間、隣の席にいる子羊(武)を捧げる。この間、約1秒。

 

 

「え!? ちょ!? ぎゃあああぁぁぁぁ!?」

 

 

 

~~天才暴走中 しばらくお待ちください~~

 

 

 

「うぅぅ……純夏ぁ、俺また穢されちまったよ……」

 

 

 顔中に付けられたキスマークを拭きながらレイプ目で最愛の女性の名を呼ぶ武。隣で頭を撫で慰めている霞がなんとも健気だ。

 一方、当事者である夕呼は非常に上機嫌である。

 ちなみに巌谷中佐は零に促され別室へと退避して行った。

 夕呼は零の前にやってくると先ほどまでの態度を一変し、真剣な眼差しを向ける。

 

 

「感謝するわ、神林 零。あなたのおかげでようやく第4計画の完遂に手が届くところまで来れたわ」

 

「! ということは……!」

 

 

 一緒に話を聞いていた武がガバッと起き上がり、夕呼は唇を釣り上げて首肯する。

 

 

「00ユニットの理論が完成したわ。これでやっと次の段階に進めるわ」

 

 

 その報せに武は歓喜した。

 前回と比べて理論補完が3ヶ月近く早く、しかも因果の流出もない上に反則的存在が味方にいるのだ。

 しかし慢心する訳にはいかない、それでどれだけ痛い目を見て来たことか。

 

 

「モビルトレースシステムなんて巫山戯た代物だと思ってたけど、正直あれば大事なきっかけになったわ。ネオサイコミュシステムの資料とセットでなければたどり着けなかったかもしれない」

 

「そ、それは何よりで……」

 

 

 もちろん零も考えなしで送ったわけではない。

 昔オルタをプレイしている時、元の世界で武が授業中に聞いた話がどんな内容だったのかを調べたことがあった。その時の内容を思い出しどうにか繋ぎ合わせた結果、この世界で理論に到達するのに必要な物を揃えた。

 ただしモビルトレースシステムは本当におまけ程度にしか考えていなかったため、面と向かってそれがなかったらたどり着けなかったかもしれないと言われ内心で助かったと冷や汗をかいていた。

 

 

「素体の方は戻ってからの作成になるけど、完成まで最速で半月ってところね。調律には白銀、あんたが必要不可欠だわ。下手こいたらホルマリン漬けにしてやるから気合い入れてやりなさい」

 

「了解です」

 

 

 夕呼の脅しに全く動じることなく、武は力強く応えた。

 

 

「で、神林。Gステーションまであとどれくらいなの?」

 

「このまま何事もなければあと5時間と言ったところですね。到着後は各プラントを順番に見学し、最後に殿下と協力体制を結ぶつもりです」

 

「なるほどね。でも今の日本帝国上層部には米国――特に第5計画の狗が犇いてるわ。それはどうするの?」

 

「全く問題ないですね。連中を排除して殿下に復権していただき、クーデターを瓦解させる策も用意しています」

 

 

 零はオペレーター席に移動しあのデータを引っ張り出す。

 

 

「これって……。神林、あんたどこまで規格外なのよ」

 

 

 夕呼が半ば呆れたように指摘したそれは、武がこの艦に現れた時と一緒に入手した売国奴たちの名簿リストとその証拠である。しかも紙媒体から後丁寧に写真付きでデータ保存された代物だ。

 

 

「これを殿下に提出し帝国上層部の掃除をしてもらい、その間に沙霧大尉を呼びつけて説得する。説得役は武、お前に任せる」

 

「お、俺!? 零じゃないのか!?」

 

「お前の方が沙霧大尉をよく知ってるだろ。何、お前は自分の思ってることをぶつければいい。そこから戦闘に発展しても心配するな、対策は立ててやる」

 

 

 確かに説得なら零で出来ないこともないだろうが、説得し切るためのあと一押しが足りない。

 そして零が持ち得ない一押しを備えているのが武だった。

 

 

「大丈夫だ、自信を持っていけ。お膳立てはしてやるからさ」

 

「……わかった。なんとかやってみる」

 

 

 その答えに満足し、零は再び操舵席へと戻る。

 

 

「博士は少しお休みになった方がよろしいのでは? 理論を完成させるために完徹したんじゃないですか?」

 

「そうね、少し寝させてもらうわーー白銀」

 

「なんですか?」

 

「あたしを部屋まで送っといて、おやすみ」

 

 

 それだけ言い残し、夕呼は一瞬にして無重力に身を委ねて眠りに落ちた。

 

 

「相当疲れてたみたいだな。 で、ご指名を受けたお前はどうする?」

 

「霞に運ばせるわけにもいかないだろ。送ってくるついでに飯食ってくる」

 

 

 武も無重力にだいぶ慣れ、夕呼の身体を掴むと流れるようにブリッジを後にする。

 それを見送って「さて」と呟き、零は操縦桿を握り艦の進路に集中することにした。

 目的地は、もう目と鼻の先である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? 社は行かないのか?」

 

「……まだ、うまく動けませんから」

 どうやら無重力に適応するにはまだ時間がかかるようだった。




第15話、いかがでしたでしょうか?

武ちゃんがはしゃぐ描写を書こうと思いましたが、脳量子波が乱れて修羅場となりました。

技術公表になるとGジェネSSに必ずと言っていいほど出てくるゼロカスタム。
正直抜こうか考えましたが、ゼロシステムの説明の際必要になるかと思いやはり出張ってきました。
ちなみにエピオンはTV版とEW版を並べています。

さて、ついに00ユニット理論を回収しました。
エクストラで夕呼先生がモーションキャプチャーの話をしていたので、それに近い性質を持つモビルトレースシステムを出しました。
ちなみにブレインモーションキャプチャーと聞いて作者はカロッゾが頭をよぎりました。(しかも脳h(ry
理論完成がやたらと早いのは天才独自の処理能力と閃きスキルと解釈してください。(早い話がご都合主義です

色々なフラグやら伏線やらが出てきた今回の第15話でしたが、いかがでしたでしょうか?
次回にようやくGステーションに入ります。
一緒にずっと出したかったフラグも出します。
投稿はまた未定になりますが、出来るだけ早く投稿出来るよう頑張ります。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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第16話

どうもこんばんわ。
古本を買い漁りすぎて本棚がオーバーフローしてしまった作者です。

さて、本編第16話です。
正直言って難産でした。
ひとまずやりたかったフラグやネタは書くことが出来ましたが、後半のグダグダ感は否めません。

兎も角本編第16話、どうぞごゆっくりご覧ください。


Gステーション MS製造プラント

 

 

 ものすごく久しぶりに来た気がするが、実際にはまだ一月も経っていないんだよな。

 案内用の車を動かしながらふとそんなことを思う。

 遂に重役の方々を本拠地であるGステーションに招待出来た俺は4つの製造プラントが直結しているセントラルシリンダー――長いのでセントラルと呼称することにした――にて宿泊用の施設へ案内し、再び移動してこのMSプラントにやって来ていた。

 もう一台の車には武を運転手に据え、搭載された無線機から俺の声が聞こえる様になっている。

 

 

「――あちらが不知火改造計画、不知火・旋風の製造ラインです。こちらのMSに使用されているバッテリー技術を使い戦闘継続可能時間を大幅に延長。肩、脚部のスラスター増設に加え専用バックパックにより機動力と推進力を強化。武装も頭部にバルカンポッドを装備し、ライフルやサーベル、複合シールドはビームと実弾もしくは実体剣を選択可能。もちろん従来の突撃砲や長刀も使用可能です。そしてOSは現在横浜基地にて試験的に実装されている白銀大尉が考案した新OS、XM3を標準搭載します。XM3につきましては先にお渡しした資料をご参照ください。 現在この旋風の配備予定については横浜基地の一部の部隊のみとなっていますが、兵装のダウングレードで帝国陸軍へ提供する用意があります」

 

 

 俺の説明に――一部を除いて――周りから感嘆の声が上がる。特に巌谷中佐は技術者としての血が騒ぐのか、食い入る様に旋風のパーツを眺めていた。

 そこからさらに以前一般兵向けに考案し、修正を加えた撃震・轟火の製造スペースへ移動する。

 胴体と頭部は従来の撃震と同じだが、修正段階で新たに脚部でドムの技術を使いホバー走行が可能となり、腕はヘビーアームズ改(EW版からTV版に変更した)の物を使い肩からマイクロミサイルを射出出来るようにした。無論XM3標準搭載なので敵に回したら撃震とは思えない速度で移動しながら両肩からミサイルをばら撒いてくるという非常に恐ろしい相手になるだろう。

 戦闘継続可能時間についても一般兵向けということであえて旋風より20%ほど短くしたが、従来の戦術機と比較すれば十分すぎるほど長い活動時間を得ている。

 専用装備としてツインガトリングかミサイルランチャーを選んで装備可能で、担架システムを排除して背面から前方に伸びるレールガンを2門設置。

 近接武器はヘビーアームズを流用しているので右腕にはアーミーナイフを最初から搭載。さらに万が一の時に備え左腕をパージすると伸縮するヒートロッドが使用可能。さらに自由に使える短刀としてアーマーシュナイダーを脇腹に2本所持している。

 火力だけなら旋風より強いが、弾切れになったら著しく戦闘力が低下。しかも機体が重いのでいざという時に跳躍ユニットを使用しても素早く跳躍が出来ず、真下からの奇襲にめっぽう弱いという欠点がある。

 佐渡ヶ島攻略を想定した場合は海神と共に上陸地点を確保して一度帰投、大増援の出現を確認次第再出撃といった使い方が有効だろう。

 後は装備をガトリングから突撃砲や長刀に変えるなりして前線に出張ってもいいな。無論、さっき挙げた欠点に注意しながらという条件付きだが。

 

 

「旋風に轟火、そして新OS。いずれも素晴らしい物だ。君たちがもっと早く現れてくれていればと心底思うよ」

 

「心中お察しします、巌谷中佐。 せめて新OSがあれば、私も部下を死なせることはなかったはずなのですが」

 

「全くだ。これだけでどれだけの衛士が助かることか」

 

 

 面と向かって評価されることに慣れていないのだろう、ミラー越しで照れたように頬をかく武が見えた。

 その後は武装製造ラインを紹介し、続いて戦艦プラントと資材プラント、最後に食料プラントを案内する。

 なお現在製造している武装は一般兵向けとA-01専用に分けており、一般兵向けには180mmキャノン砲、ハイパーバズーカ(単発と拡散の2種)、リニアライフル、100mmマシンガン、ハンドロケットランチャー、アーマーシュナイダーを。

 そしてA-01には一般兵装に加えビームライフル、ビームマシンガン、ビームバズーカ、ソニックブレイドやアーマーシュナイダーのように振動で切断出来るようにした試作長刀を配備する予定だ。

 なお戦艦プラントでは宇宙での旗艦として運用する予定のラー・カイラムを紹介し、資材プラントではガンダニュウム合金にルナ・チタニウム、サイコフレームに擬似太陽炉を紹介した。

 ちなみに現在稼動している戦艦はトレミーの他にアルビオンとガランシェール、フリーデン2の3隻だけである。いつになるかは未定だが、月まではどうにか奪取しておきたいからな。母艦はあるに越したことはない。

 資材に関しても本来なら大量に生産して揃えたいところだが、ルナ・チタニウムは兎も角ガンダニュウム合金はMS一機分の量を作るのに半月。サイコフレームもνガンダムやサザビーに使うくらいの量を揃えるのに1ヶ月はかかるらしい。しかもユニコーンみたいなフルサイコフレームならさらに3倍近い時間を要することとなる。

 資材を揃えるだけでこれだ、そこから開発ともなればさらに時間がかかることだろう。あとPS装甲系はバッテリーの問題から除外、ラミネートコーティングもビームコーティングがレーザーに対しても有効なのか確認出来るまで保留だ。

 そういった未確認データを消化するため一度何処かの戦場に向かう必要があるのだが、それはまた旋風が組み上がった時にでも考えよう。

 一通りプラントの紹介を済ませ、俺たちはこれからの話をすべくセントラルのメインコントロールルームに移動した。

 

 

「さて、帝都城でもお伝えしました通り私は今日ご紹介した技術の一部を日本帝国に提供する用意があります。提供させていただく物は主にビーム兵器以外になりますが、ご依頼があれば可能な限りのことはさせていただきます」

 

「ビーム以外? 何故だ?」

 

「実弾は兎も角、あれは純粋に威力が強すぎる。もし他国に技術が流出して解析に成功されたら……最悪の場合、銃口がBETAではなく人類に向けられるかもしれないからです。なので自分の目の届く範囲で運用したいのです」

 

 

 俺の言わんとしていることを把握したのか、月詠大尉は「なるほど」と小さく頷いた。

 

 

「そしてこちらが要求するのは日本帝国領内にプトレマイオス2の整備ドックの建造許可、帝国からの人材提供、後は……非常時における帝国領内での独立活動権限をいただければ」

 

「わかりました。ご要望に応えられるよう尽力させていただきます」

 

「感謝します。詳しい目録と締結書はまとめ次第お持ちしますので、それまではごゆるりと見学してください。他の皆様も立ち入り禁止区域以外は見学していただいて結構ですので、ご自由にどうぞ」

 

 

 その後殿下たちを宿泊施設に送り届け、俺は今回の話をまとめるべくまたメインコントロールルームの近くにある自分の部屋へと向かった。

 

 

 

Gステーション セントラルシリンダー 零の私室

 

 

 今回提供する目録と締結書をまとめ終えて一息ついていると、背後の扉が開き誰かが入室して来た。

 

 

「零ー、今大丈夫か?」

 

「なんだ武――っと、社もいたか。どうした?」

 

 

 椅子ごと体を動かして向き合うと、霞が一歩前に出る。

 

 

「神林さん。丸いのをもらえませんか?」

 

「は? 丸いの?」

 

「ハロだよ。霞は自分用のハロが欲しいみたいなんだ」

 

「ああ、なるほど」

 

 

 トレミーでやたらとハロを眺めていたと思ったら、そう言うことか。

 

 

「ダメ、ですか?」

 

 

 理解すると霞から向けられる視線が期待に満ちた純粋な子供のそれになる。しきりに動くうさ耳が彼女の心境を表しているみたいだ。

 うむ、こんな上目遣いでお願いされたら断った俺が悪役だな。

 当然、断る気はさらさら無いが。

 

 

「わかった、専用のハロを作ってやる。何か入れて欲しい機能とかあるか?」

 

「ありがとうございます。機能はお任せします」

 

「ん、了解した。完成したら教えるから、しばらく待ってくれ。一月もあれば出来るはずだ」

 

「はい。お願いします」

 

 

 小さく礼をし、嬉しそうな足取りで退室する霞。これは全力でプレゼントしてやるしか無いな。

 

 

「武もいるか? ついでで良ければ作るぞ」

 

「俺はいいや。それより頼んだぜ」

 

 

 そう言い残して武は霞の後を追った。

 よし、では早速霞専用ハロの仕様を――

 

 

「神林中佐、少しいいかね?」

 

「っと、巌谷中佐。どうしました?」

 

 

 新たな来客の対応をすべく椅子から立ち上がり応接スペースに促しソファーに座りつつ尋ねると、巌谷中佐は真剣な眼差しを向ける。

 

 

「中佐。以前不知火の改修計画として出向している部下について話したのを覚えているかね?」

 

「確か初めてお会いした時に帝都城で言ってましたね。ガンダムの映像が送られて来たと」

 

「ああ。それでその部下を中佐の元に置きたいのだが、どうだろうか?」

 

 

 ……なんですと?

 流れからして中佐の部下ってどう考えても唯依姫だろ? それが俺の下に来る?

 

 

「彼女は優秀だ。衛士としても開発者としても、そしてなにより嫁に出しても全く恥ずかしくない器量よしだ。無論、簡単に嫁に出したりはしないがな」

 

「は、はあ」

 

 

 親バカ混じりの話を流しつつ、脳内で素早く思案する。

 別に唯依姫に来られて困ることはないが、アルゴス小隊――特にユウヤ・ブリッジスとの関係が終了してしまう可能性がある。俺としては原作コンビを尊重したいが、優秀な人材は欲しい。この問題をどうにか全部まとめて解決する方法は――――そうだ、全部まとめてしまえばいいんだ。

 

 

「巌谷中佐。ならば部下の方と一緒にその不知火の試験部隊もこちらに呼んでもらえませんか?」

 

「む、どういうことかね?」

 

「不知火の改修計画を丸ごと横浜でやってしまうんですよ。現状のままなら別にいいですけど、いずれXM3は世界中に配布されます。そうなれば必然的に新たな問題が発生してしまいます。なのでそれを今のうちに解消して、次の開発に繋げようということです。そしてそのついでというわけではありませんが、戦闘データも収集して行こうというわけです。それに試験部隊の人たちもせっかく自分たちが取り組んで愛着も湧いてきた機体をいきなり持って行かれては、とてもじゃありませんが納得できないでしょう」

 

 

 そう、これを口実にアルゴス小隊のみなさんには横浜に来てもらおうと言う訳だ。

 原作コンビのまま部隊を変えず試験も継続。うむ、完璧だ。

 

 

「後は個人的なお願いとして、その不知火の強化設計をやらせてもらえませんか? 無論、試験部隊が横浜に来ると言う前提でですが」

 

「こちらとしてはその申し出は嬉しい限りだが、いいのかね?」

 

「構いませんよ。旋風とはまた違う強化を試すだけですし、外部に漏れて困るような仕組みでもありません」

 

「ふむ、了解した。手配してみよう」

 

 

 満足いく答えが得られたのか、巌谷中佐はその後笑顔で退室して行った。

 さて、中佐にああ言った手前、早速弍型の強化プランをまとめよう。それから改めて霞のハロを――。

 そう勇んで再度端末にむかおうとしたところで、再び扉が開いた。

 

 

「失礼します、神林中佐」

 

「――おや? お一人ですか、殿下」

 

 

 次に現れたのは殿下である。ただしお側役の月詠大尉がおらず、それだけで妙に珍しさが増した。

 

 

「実はお願いがあって参ったのですが、よろしいでしょうか?」

 

「……ふむ、お伺いしましょう」

 

 

 先ほど立った応接スペースに戻り、再びソファーに腰掛ける。

 殿下が座ったのを確認し、口を開く。

 

 

「それで、一体どの様な願いで――」

 

 

 言いかけたところで、殿下が人差し指を立てて俺の口元まで持って来る。

 

 

「その様な言葉使いは不要です。今は政威大将軍としてではなく、個人の願いのために来たのですから。それに、武様が『零は他の人がいなければ身分や階級を気にしないだろう』と申していました。ですから私のことも、中佐の話しやすい話し方でお願いします」

 

 

 武の奴、いつの間にかそんなことを言ったのか。しかし向こうがそれでいいなら乗らせてもらうか。

 

 

「了解した。では二人の時は悠陽と呼ばせてもらおう。俺のことは好きに呼んでくれて構わない」

 

「ありがとうございます、零様」

 

 

 ……う、うーむ、年下の女の子に様付けで呼ばれるのがこれほど落ち着かないとは。

 なんと言うか、照れくさくてむず痒い。

 

 

「それで、お願いってなんだ?」

 

「はい。実は――MSを一機作っていただきたいのです」

 

「……何のためにだ?」

 

「零様も武様の話を聞いてご存知とは思いますが、私には記録上存在しない双子の妹がいます」

 

「……そう言うことか」

 

 

 原作で冥夜に武御雷を送った様に、この世界ではMSを送ろうと言うわけか。

 

 

「長き年月で定められた風習や伝統で出会うことが叶わないのなら、せめて機体だけでも贈りたいのです」

 

 

 妹には会いたい、でもしきたりが……。目の前で語る彼女からそんなジレンマが感じられた。

 だから俺は、思ったままを口にする。

 

 

「ならば、叶えてしまえばいい」

 

「え?」

 

「長年の伝統や風習を捻じ曲げて、妹に会いに行けばいい。確かに伝統や風習は大切だろう。けどな、それに縛られて肝心なところで後悔するならそれはもはや足枷、家名という呪いだ。座して世界は変わらない、変えられない。自らの足で行動し、変えるための歯車を動かす必要がある。それが伝統や風習を壊す結果になったとしてもだ」

 

「し、しかし、御先祖が歩んで来た道を私だけ踏み外すと言うのは――」

 

「――煌武院 悠陽!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 少し大きく名前を呼び、真っ直ぐに問いかける。

 

 

「君は一体何がしたい? 煌武院家の人間として動きたいのか? 冥夜の姉である悠陽として動きたいのか? 君が心の底から願うのはどっちだ?」

 

 

 その言葉を受けた悠陽は一度胸に手を当てる。しばらくそうしていると、意を決したように力強い瞳をこちらに向けた。

 

 

「――会いたい。私は、ただ一人の姉の悠陽として、ただ一人の妹である冥夜に会いたいです!」

 

「……わかった。ならば俺は悠陽の願い、それを叶えるためにひとつ手助けをしよう」

 

 

 先ほどまで座っていた机から例の封筒を取り出し、悠陽に手渡す。

 

 

「零様、これは……」

 

「現在帝国内部にいる君の障害だ。悠陽、君の願いを叶えるためにもまずは周りを固めて立つ必要がある。それには足場作りに必要な一手が入っている。どう使うかは月詠大尉や鎧衣課長と相談して決めるといい」

 

「……はいっ」

 

「それと機体に関してはしばらく待ってくれ。作るのは兎も角、乗り手の技量が未知数だ。どう言った機体がいいか把握出来たら取り掛からせてもらう」

 

「わかりました。それと、ありがとうございます、零様」

 

 

 深々と頭を下げようとした悠陽の肩を叩いて動作を中断させる。

 

 

「それは全部終わってからでいい。 ただし、必ず叶えることが絶対条件だぞ」

 

「……ふふ」

 

「なんだ、何か可笑しかったか?」

 

 

 いきなり笑われて何事かと思うと、悠陽が口を開く。

 

 

「零様、まるで妹を気遣うお兄様ですよ」

 

「……兄貴? 俺が?」

 

「はい。零様みたいな方がお兄様だったら私は大歓迎ですよ」

 

「…………」

 

 

 な、なんてことを笑顔で言うんだこの娘は……。

 嬉しいより恥ずかしい気持ちの方が大きいぞ。

 

 

「と、兎も角、こちらも出来る限り協力は惜しまない。まずは明日に目録と締結書を確認してくれ」

 

「わかりました。お兄様」

 

「……頼む、出来ればその呼び方もやめてくれ」

 

 

 結局、懇願するも悠陽は俺のことをお兄様と呼ぶことをやめようとはしなかった。

 二人きりの時だけと宣言してくれたのが唯一の救いだろうか。

 

 

 

Gステーション 某所

 

 

「ふっふっふっ……いいネタが手に入ったわ」

 

「いやはや、この映像を撮るのは苦労しましたよ。一度見つかった通気口が2回目に全く気付かれずに通用したのはまさに僥倖でした」

 

「初めて来た施設の通気口を移動して来た鎧衣課長って……」

 

「ハロ……楽しみです」




第16話、いかがでしたでしょうか?

旋風と轟火の公開とTE組の合流フラグ、地味にこれが書きたかった……!
ちなみに殿下とは恋人ではなく義兄義妹フラグが建設されました。
ヒロインだと思った? 残念! 義妹でした!
真のヒロインはまだまだ先になると思われます。早く出したいなぁ……。
さて、次回は地球への帰還を予定しています。
早ければもう次にTE組が合流するかも。
相変わらず投稿は未定ですが、気長にお待ちください。

それではまた次回にお会いしましょう。


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第17話

どうもこんにちは、この度継続して書きたいように作品を作る決意をした作者です。

最近フルブから離れてスパロボZ3を攻略しています。
ボン太くん強過ぎぃ!! ふもっふシナリオ腹筋死ぬぅ!!
26話終了時点の現在ヒイロの撃墜数が150を超えました。ロリバス強過ぎぃ!! Dトレーダーのアイテムも使って毎ターンEN全回復、スキル効果と重複して移動力17、そしてカスタムボーナスで射程+1、これに精神コマンドの突撃と加速をかければ最速でボス機体にダメージを叩き込めます。武装がまだ3段階しか改造していませんが資金があればすぐにでもフル改造ですよ。

閑話休題

さて、アンケート終了後第1発目の投稿です。
相変わらずの文章力ですが、楽しんでいただければ幸いです。

それでは本編第17話、どうぞご覧ください。


Gステーション セントラルシリンダー 第1ブリーフィングルーム

 

 

 現在この部屋には俺を含めて7人の人間がいた。

 悠陽――いや、殿下、月詠大尉、珠瀬事務次官、香月博士、武、そして霞だ。

 今回の話は、協力体制の締結だ。

 と言っても話し合うのは俺と殿下、月詠大尉くらいであとは見届け人である。

 

 

「――こちらが日本帝国へ支援する正式な目録となります。大きく分けて3つの支援内容があり、技術支援、食料支援、正当な理由のある有事の際の戦力支援をご用意しております」

 

 

 政威大将軍の正装をした殿下に昨夜まとめた目録を手渡す。

 隣に控えていた月詠大尉がそれを見届けると、こちらへ一歩前に出る。

 

 

「こちらが日本帝国より神林中佐の要望をまとめた目録になります。ご確認ください」

 

 

 それを受け取り、殿下と同時に目録を開く。

 ふむ、帝国領内でのトレミー整備ドックの建造許可及び特別活動権限。活動権限は主に帝国内に出現したBETAとの交戦許可、佐渡ヶ島攻略戦に参戦した場合の独自活動権か。

 それに加え帝国陸軍及び技術廠からの人材提供。

 人数の制限は特に設けていないが、どれだけ引き抜いてもせいぜい20人くらいだろう。

 ふむ、まあこんな物か。

 一通り目を通し終え殿下に目をやると、一瞬目が合う。

 彼女はふっと口元を緩め、目録を月詠大尉に預ける。

 

 

「神林中佐。日本帝国はこの案件を受け入れる方向で話を進めたいと思います。公表はまだ先になりますが、よろしいでしょうか?」

 

「問題ありません。内容にも異存はありませんが、先にプトレマイオス2の整備ドックを横浜基地近海に建造したいのですがよろしいですか?」

 

「近海……海の中に作られるのですか?」

 

「その方がいろいろ都合がいいので」

 

 

 陸に作れば必ず人目に付くし、万が一他国の諜報員に侵入されたら厄介極まりない。

 海の中ならいざという時に宇宙から直接飛び込めるし、一度潜ってしまえば発見は困難になるだろう。

 建造に少し時間はかかるだろうが今必要なのは最低限の整備環境だけだし、ここで一度形にしてからバラして持って行けば2ヶ月ほどで組み上がるだろう。

 

 

「わかりました。では明確な位置が決まりましたら一度お知らせください」

 

「了解しました」

 

 

 その後は細かな調整を話し合いお開きに。

 殿下たちは着替えると言って下がったのを契機とし、俺はもう一つの話を済ませるためにMS格納庫へと向かう。

 

 

「――すまない、待たせてしまったな」

 

 

 もう一つの話――グラハムとニールとの契約についてだ。

 格納庫に鎮座する機体たちを見ていた二人は俺の声に反応して振り返り敬礼。それに返礼しつつ、俺はすぐに本題の話を始める。

 

「初めに二人を呼び寄せた時に話したことを覚えているか? 俺は自分が作ろうとしている物が妄想の類でないことをここに招き、証明してみせた……その上で改めて頼みたい。半年でいい、二人の力を貸して欲しい」

 

 

 僅かな沈黙が続き、先に口を開いたのはニールだ。

 

 

「俺は構わないぜ。ただし、新兵器の配備をする時に出来るだけ欧州を優先してもらうのが条件だ」

 

「了解した。可能な範囲で対応させていただこう。――エーカー大尉、そっちはどうだ?」

 

「私も参加させていただきます。しかし、可能な限りのアフリカ戦線の戦力強化を条件とさせていただきますが」

 

「そちらも問題ない――これにて交渉成立、というわけだな。二人とも、これからよろしく頼む」

 

 

 両手を差し出して握手を求めると、それぞれ近い手に握り返してくれた。

 これで小隊として機能させるには最低でもあと一人、どこかから引っ張ってこなければ。

 そこは日本帝国の人材に期待するか。それでダメならまた国連のデータベースを洗い直そう。

 握手を解いて二人を見ると、その後方のキャットウォークで機体を見上げている武を発見する。

 

 

「武、どうかしたか?」

 

「あ、零。ちょうどいい、相談があるんだけど」

 

 

 俺たちに気づいた武ご早足でこちらにやってくる。

 

 

「なんだ? 女性関係についてなら力になれないぞ」

 

「いや、そっちじゃないって。 旋風をシミュレーターで触ることは出来ないか? 正直、動かしたくてウズウズしてるんだ」

 

「なるほど。一応データの入力は終わってるし、戦術機用のシミュレーターも横浜基地から持ち込んだのがあるから使えなくはないが……」

 

 

普通に使わせてもあまり面白くない。それにこいつならすぐに使いこなしてしまうだろうし……よし。

 

 

「せっかくだ、俺が使うMSと模擬戦しよう」

 

「MSと? 性能差は大丈夫なのか?」

 

「旋風はかなりのスペックがある。シチュエーションにもよるが量産機相手のタイマンなら負けるなんてことはまずない」

 

 

 OSを変えただけでジェガン並みのスペックに跳ね上がったんだ。スラスターなどを追加した今、あの機体は乗り手次第でF91に匹敵するだろう。

 まあそれでも、武装面やM.E.P.E.をもつF91に軍配上がるだろうが。

 

 

「それで俺は今回、あの機体を使って戦う」

 

 

 指を突きつけた先にあるのは赤い鶏冠のような装飾を頭部につけ、大型のスーパーバーニアを備えた決闘機――OZ-00MS『トールギス』だ。

 

 

 

Gステーション セントラルシリンダー シミュレータールーム

 

 

 武は戦術機用シミュレーターの中で微調整をしつつ、先ほど確認したトールギスのスペックを思い返していた。

 

――厚い装甲で防御力を保ちながらバーニアの出力で高機動も確保、か。武装面はビームサーベルとビームと実弾の切り替えができるドーバーガンだけらしいけど、やっぱあの一言が気になるな。

 

 零はあの機体を一言で表すなら「殺人的な加速」と評していた。

 その言葉から察するに、トールギスは文字通り人を殺しかねない速度を叩き出すのだろう。

 

 

「とりあえず、序盤は慣らしも兼ねて観察といくか」

 

 

 セッティングが完了すると視界が見慣れた横浜基地近郊の演習場へと変化する。その大きく離れた正面にはドーバーガンを突き立てた白い機体、トールギスが挑戦者を待つ騎士のように待機していた。

 

 

「武、準備はいいな?」

 

「いつでもいいぜ」

 

「了解だ。 ハロ、カウントダウン開始」

 

 

 ドーバーガンを構え直し指示を飛ばす。

 零の指示を受けCP役のハロがカウントを始める。そのカウントがゼロになるとともに、二つの機影は同時に動いた。

 旋風は相手の力を把握すべく距離を取ろうと後退し、トールギスはそれを許さないように距離を詰めてきていた。ただし、その速度はまさしく驚異の一言に尽きた。

 僅か数秒で3分の2の距離を詰めたトールギスが右手に持つドーバーガンを構え旋風の進行方向へと実弾で2発、真っ正面に1発撃ち込む。

 

 

「早っ!」

 

 

 驚きながらも武は機体を急停止させ間髪入れず右斜め前方へと跳躍、そのまま右手に装備した複合ビームマシンガンでドーバーガンの破壊、あわよくばコクピットの破壊を試みる。

 だがトールギスは一瞬消えたかと思わせるほどの加速で急上昇、そこからさらにバレルロールをしながら3連射で迎撃する。

 武も旋風を跳躍させて廃墟を足場に移動、その間もビームマシンガンで牽制しつつ時折複合シールドについているグレネードランチャーを使いトールギスに圧力をかける。

 

 

「様子見に徹するつもりか。それなら!」

 

 

 零はトールギスを急降下させて弾幕から逃れ、ドーバーガンのモードを実弾からビームに切り替えターゲットを廃墟越しにロックする。

 

 

「ブチ抜け!」

 

 

 躊躇いなくトリガーが引かれたドーバーガンは銃身の先から光を生み出し、障害物を突き抜けて旋風へと迫る。

 しかし所詮は直線の軌道。ある程度予測していた武は動じることなく回避、反撃へと転じた。

 左手にビームマシンガンを持ち替え、シールドの裏からビームサーベルを引き抜きフルスロットルで接近する。

 

 

「もらった!」

 

「と思っているのか!?」

 

 

 振り降ろされたビームサーベルに対し零はドーバーガンを迷わずパージ、同じくビームサーベルを引き抜いて鍔迫り合いに持ち込む。

 

 

「この距離ならバルカンで――!」

 

「させると――思うかっ!」

 

 

 鍔迫り合いのまま零はトールギスのスロットルを全開にする。スーパーバーニアの大推進が旋風を押し返し、そのまま廃墟に突っ込んだ。

 

 

「ヤロ、やりやがったな!」

 

 

 密着していることをこれ幸いとトールギスを逃がさないよう抱きついてガッチリ固定し、ゼロ距離からバルカンを叩き込む。

 センサーアイが破損し、コクピットのメインモニターが消滅する。

 

 

「ちぃ! たかがメインカメラをやられただけだ!」

 

 

 密着状態から抜け出すため零がとった行動は、再度スロットルを全開にすることだった。

 旋風を盾に次々と廃墟を突き進み、やがて拘束が外れるとすぐさま後退する。

 しかし思いのほかバルカンの被害が大きく、頭部だけでなく首の隙間から内部へダメージが響いていた。

 

――ダメージチェック……損傷率36%か。ドーバーガンは無傷だが後方に置き去りにしたから武装はサーベルだけ。だがそれは武も似たようなものだ。ならば――

 

――マジかよ、瓦礫の中を突っ込まされたせいで左腕の武装を全部落としちまった。しかも担架の武装も衝撃を受け過ぎて使用不可、武器はバルカンと一本だけのビームサーベルか。それならーー

 

 

「――接近して一気に決着(ケリ)をつける!!」

 

 

 奇しくも同じ発想に辿り着いた二人はビームサーベルを構え、ブーストを全開にしての真っ向勝負を敢行した。

 零は小細工なしの機体性能に任せた特攻を、武は全速で直進しつつバルカンで少しでもダメージを与えようとするが、トールギスは迫るバルカンを物ともせず弾き飛ばし、サーベルを刺突の構えを取る。

 旋風もバルカンを撃ち尽くすと同じくサーベルを刺突の構えにして突っ込む。

 

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 互いに腕を突き出し、機体は一秒と経たず交差した。

 

 

 

Gステーション セントラルシリンダー シミュレータールーム

 

 

 シミュレーターから降りて先ほどの戦闘をリプレイで確認する。

 最後は全くの同時、サーベルが機関部とコクピットに直撃しお互い大破判定を受けて終了した。

 

 

「いやー、早過ぎて焦ったぜ。というかあれ、衛士への負荷どうなってんだ? 下手すりゃ死ぬぞ」

 

「言っただろ、殺人的な加速だって。実際、あの機体のテストパイロットは加速に耐えきれず死亡した」

 

 

 シミュレーターだと加速のGはないから無茶は効くが、実機だと乗りこなせる奴はあまりにも少ないだろう。

 

 

「オイオイ、中佐が紹介する機体は衛士を殺しまくってるじゃねぇか。もっとまともな奴は無いのか?」

 

「殺しまくっているのは一部のぶっ飛んだ機体だけだ。まともな機体だっていっぱいあるぞ」

 

 

 ただしMF、テメーはぶっ飛んだ機体に分類だ。生まれの不幸を呪ってくれ。

 

 

「しかし、あれほど無茶な戦闘をして旋風は関節の負荷がほとんど見受けられません。これなら多少強引に動かしても問題ないでしょう」

 

「あくまでシミュレーター上での話ですけどね。実機でデータを取るまでは安心できませんよ」

 

 

 武の言う通りだ。トールギスと同じで本物を体感しなければ使い物になるかどうかわからない。

 だがシミュレーター通りのデータが得られれば関節については問題をクリアしたと思っていいだろう。

 そうなればいよいよ……。

 

 

「中佐、俺たちにも旋風を触らせてくれないか?」

 

「ん? ああ、構わない。ただ戦術機のシミュレーターは一つしかないから順番にな」

 

「了解しました」

 

 

 グラハムとニールが更衣室に向かったのを見届けると、不意に何か思い出したかのように武が口を開いた。

 

 

「そういえばさ、零の部隊の名前ってどうなってるんだ?」

 

「一応考えているぞ。というか、何故かこれが一番しっくりきた」

 

 

 最初こそロンド・ベルを採用しようかと思ったが、これを思いついたら他の名前に変えようという気が無くなってしまった。

 

 

「独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』。それが部隊名だ」

 

「へえ。 でも、なんでオーバーワールドなんだ?」

 

「考えても見ろよ。全く別の世界から来た俺がこの世界で戦う――文字通り『世界を超えた』戦力の部隊というワケだ。ならこれほどおあつらえ向きな名前はない」

 

 

 安直かもしれないが、これはこれで気に入っている。

 シンプル・イズ・ベスト、それでいいのだ。

 その後、更衣室から戻ったグラハムとニールのシミュレーターが始まり、見学すると言った武を残して俺は自室へと戻り二つのファイルを開く。

 一つは霞に頼まれたハロの設計だ。

 会話できるAIはもちろん、護衛の機能を持たせて目くらましのフラッシュとマニピュレーターにスタンガンを内蔵。サイズはアムロやバナージが持っていたサイズにしてあるためやや大きいが、可能な限り軽くするので霞でも普通に持ち歩ける。

 なお、カラーリングは白でうさ耳みたいなカバーをつけるつもりだ。

 仕事を放り出して開発すれば一週間とかからないが、流石にそうはいかないから少しずつ組み上げよう。それを見越しての一月だからな。

 

 

「あとは……これだな」

 

 

 ハロの仕様をまとめ終え、もう一つのファイルを開く。

 

 TSMS-01GSS。

 SKMS-02GGL。

 

 『SS』は機動力は最低でもストライクフリーダム並みで、火力もνガンダムのように様々なモードを持つビームライフルを持たせる予定だ。

 装甲や動力、フレームも決めているが如何せんデータ不足だ。だが逆に、必要データさえ揃えば後は時間の問題だ。

 『SS』の兄弟機である『GL』も博士の意見を聞きながら開発すれば比較的早く仕上がる。

 

 

「……これが、この世界の人類にとっての希望となればいいが」

 

 

 一人そうつぶやき、俺は『SS』と『GL』の設計の最終調整を始めた。




本編第17話、いかがでしたでしょうか。

前回のあとがきて唯依姫たち出るかもーと言いましたが、旋風とトールギスのシミュレーターに変わりました。
トールギスの登場シーンはトレーズ閣下のアレです。
最後に出てきた『SS』と『GL』の登場はまだまだ先です。初登場は佐渡島攻略戦を予定しています。

さて、次回は地球への帰還を予定しています。
唯依姫たちは……すいません、まだ先になりそうです。
投稿も相変わらずの不定期となりますが、どうか広い心でお待ちください。

ではまた次回にお会いしましょう。


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第18話

どうもこんにちは、最近仕事が忙しく思考がなかなかまとまらない作者です。

仕事柄GW本当に忙しかったです。
疲れすぎて来店していたガタイのいいお客さんをみてノンケなのにも関わらず思わずウホッ♂と言いかけるほどに。

息抜きにプレイしたスパロボではウイングゼロと蜃気楼が雑魚を狩りまくり、真ゲッターとグレンラガン、ガンバスターとユニコーンがマキシマムブレイクでボスのライフをガリガリのゴリンゴリンに削ってと大暴れです。もうすぐ1周目が終わりますが、その頃にヒイロの撃墜数がどうなっていることやら。
あとシャア大佐、フロンタルと普通に会話しないでください可笑しくて腹筋が死にそうです。

閑話休題。

さて、お待たせしました第18話です。
今回も難産でした。
プロット通りに書いていたのにどうしてこうなったと頭を抱えそうです。
筆休めに新作も検討していますが、まずは本編第18話をどうぞご覧ください。


追記
いつの間にやらUAが100000突破、お気に入りも1000を突破していました。
皆様には本当に感謝感謝です。


宇宙 プトレマイオス2 MSデッキ

 

 

 物資の搬入とブースターの取り付けが完了して間も無く、Gステーションを出発した俺たちは地球への最短距離を最速で目指していた。

 長かったようで短い期間だが、大きな成果を得ることができたと言えるだろう。

 そんな中、俺はグラハムとニールを呼び出しMSデッキに来ていた。

 

 

「まず二人に言っておくことは、俺の部隊『オーバーワールド』で階級はあまり大きな意味を持たない。無論、公の場など締めるべき場所ではキッチリやる。だがそれ以外の時は自分の接しやすい態度でいてくれ。俺も二人のことは名前で呼ばせてもらう」

 

「ありがたいね、そう言うのは」

 

「ところで中佐、我々をここに呼び出した理由はもしや……」

 

 

 まあここに呼び出された時点で気づくわな。

 

 

「ご明察、と言っておこう。オーバーワールドとして動くに当たり、二人にはMSに乗ってもらう。まずはニール、君にはこのガンダムデュナメスに搭乗してもらう」

 

 

 やはりこの男にはこの機体しか選択肢がなかったが、彼にロックオン・ストラトスを名乗らせたりはしない。ソレスタルビーイングにいた兄貴とここにいるニールは別人なのだからな。

 

 

「ガンダムデュナメス……。これが、俺の機体か」

 

「ライフルを見ての通り狙撃に特化した機体で、GNフルシールドを展開することにより防御力の向上も図られている。そしてこの機体最大の特徴はGNドライブという特殊な動力機関にある。詳しくは資料を渡すから、そっちで確認してくれ。――最後に、デュナメスを操縦するに当たって必要不可欠なパートナーがこいつだ」

 

 

 指をパチンと鳴らすと、デュナメスのコクピットからオレンジのハロが飛んでくる。無論、原作でロックオンのサポートをしていたハロと同型機だ。

 

 

「そのハロが狙撃中の機体制御や環境データの補正をやってくれる。仲良くしてやってくれ」

 

「了解だ。 よろしくな、ハロ」

 

「リョウカイ! リョウカイ!」

 

 

 嬉しそうにカバーを開閉するハロに和み、もう一人の方へ向き直る。

 

 

「そしてグラハム。君には俺の予備機だったデルタプラスに乗ってもらう。ウェイブライダーと言う飛行形態に変形する以外はこれと言って特筆すべきことはないが、基本スペックはデュナメスより上だ。カートリッジタイプのビームライフルを標準装備しているが、火力が心配ならデルタカイの予備のロング・メガ・バスターを持って行くといい」

 

「十分です。それよりも、自分にこの機体を預けていただき感謝します」

 

 

 個人的にはマスラオに乗せてもよかったが、あれは後々使うから渡せない。トールギスとAGE2もイメージが少し違うし、バスターガンダムなど違和感丸出しだ。

 そういう経緯でデルタプラスになったわけだが、ここまで嬉しそうにされると安心するな。

 二人にマニュアルを手渡し、大気圏突入までシミュレーターをするように指示を出して一先ずブリッジへ向かう。

 

 

「あら、ようやくお戻り?」

 

 

 ブリッジに足を踏み入れるなり、誰もいなかったはずの艦長席で香月博士がチューブパックを片手に座っていた。

 

 

「そのラベル……もしかしてGステーションから持ち込んだ酒ですか?」

 

「別にいいじゃない。放置し過ぎたら腐るわよ」

 

「たかが数年で腐るワインなんて聞いたことないですがね。――で、どう言った御用で?」

 

「大した話じゃないわ。宇宙に上がる前に基地の一角に特別機密区画を作らせたから、物資の搬入はそこからやりなさい。どうせMSも下ろすんでしょ? 本来なら90番格納庫に置きたいけど、あの二人は計画とは無関係だから招き入れる訳にはいかないわ」

 

 

 そういうことか。確かに俺はMSの技術を使って戦力の強化を担当しているが、第4計画は参考資料を提供しただけでほとんどノータッチだ。

 他の衛士に漏らすわけにはいかないから当然の処置だな。

 

 

「了解しました。自分の拠点が出来るまでは有効活用させてもらいますよ」

 

「そう――あたしからは以上よ。あんたからは何かある?」

 

「そうですね……別に基地に戻ってからでもいいんですけど、今ならいいか」

 

 

 他に誰もいないことを確認して手近な端末からデータを飛ばし艦長席のミニモニターに表示させる。

 

 

「SKMS-02GGL……これは何?」

 

 

 そのデータは開発中の『GL』の仕様書だ。

 尋ねる博士へ不敵に笑い、俺は答える。

 

 

「天翔る織姫の翼、とでも言いましょうか」

 

 

 

国連軍 横浜基地 特別区画

 

 

 地球に帰還し殿下たちと別れた翌日。俺と武、グラハムとニールは目の前にそびえ立つ機体を見上げていた。

 

 

「徹夜で1機だけ組んでもらったが、なんとか形にはなったな」

 

「いや、十分すぎるだろ。後は実践データを集めるだけだな」

 

 

 武の言葉にグラハムたちが同意とばかりに頷き、機体を見上げる。

 今までシミュレーターでしか動かなかった不知火・旋風。その記念すべき第1号機がようやく稼動可能状態にまで持ってこれた。

 現在装備している武装はシミュレーターで武が使った物とほぼ同じで、頭部にバルカンポッドを装着し右手にはGステーションで試作した新しいビームライフル、左腕にはビームサーベルを内蔵したグレネード装備の複合シールド。担架には74式近接戦闘長刀と87式突撃砲を装備。

 そして両サイドアーマーにはアーマーシュナイダーが一本ずつ格納されている。

 無論XM3搭載で各関節はMF技術の頑丈な物に交換済みだ。

 

 

「で、中佐。肝心の実機データは何処で集めるんだ? まさかBETAの出現ポイントまで移動するってわけじゃ無いだろ」

 

「問題ない。ちょうどオモチャをもらって有頂天になってる連中がいるから、一度シミュレーターで喝を入れてから実機データを取る。ただし、取るのはまだ機体性能だけだ。武装の実戦データは別の機会――それこそ戦場で取る」

 

「……零、その相手ってまさか」

 

「だいたい武の予想通りだな。あれもそれなりに使いこなしているだろうし、シミュレーターにこれのデータも登録済みだ。それにさっきも言ったが、いずれ彼女たちも使う機体なんだ。なら先にその力を我が身で味わってもらおうじゃないか」

 

 

 クックックッ、シミュレーターとはいえビーム兵器に度肝を抜かれて唖然とする顔が目に浮かぶな。

 そこへMSもぶっ込んだらどれほど狼狽えることか――おっと、先に言っておくがこれは想定外の敵が出現した場合の対処能力を高めるための大事な訓練だ。間違っても未知の敵に遭遇した彼女たちの反応を見たいためでは無い!

 

 

「……なんか、ロクでもないことを考えてそうな顔してるぞ」

 

「零、お前って奴は……」

 

 

 頭の中でそんなことを思っている零の顔は、傍から見ているとまるで小悪党の笑顔だったと後に武たちは語った。

 

 

 

国連軍横浜基地 A-01部隊専用シミュレータールーム

 

 

 XM3という新たな力を得た伊隅ヴァルキリーズはわずか数日で目覚ましい成長を遂げていた。

 戦闘中の選択肢の増加。それは彼女たちの内に眠る未知の実力を呼び覚ますには十分な素材であった。

 

 

「ヒャッハー! 見てくださいよ大尉! あんちくしょうの動きをようやくモノにしてやりましたよ!」

 

「ハッ! 甘いわね結城! その程度ならあたしはとっくに出来るわよ!」

 

「こらこら、お前たち。あまりはしゃぐと関節がやられてみっともない姿を晒すことになるぞ」

 

 

 シミュレーターで形成された見慣れた廃墟を縦横無尽に駆け回る突撃前衛二人をそう咎めるみちるだが、内心ではOSに驚かされてばかりだった。

 既存の戦い方を根底から覆し、ヴォールクデータでの生存率を飛躍的に向上させたこのOSさえあれば本当になんでも出来そうな気がしていた。

 と、思わずにやけそうになったところでヴァルキリーズ全員へ通信が入る。通信の主は彼女たちの上官である夕呼からだ。

 

 

『あんたたち、XM3の具合はどう?』

 

「はっ、我々としてもこれは素晴らしいの一言につきます。先日もヴォールクデータの部隊記録を立て続けに更新しました」

 

「今ならどんな奴が来たって負ける気がしません! あの白銀って奴にだって遅れを取りませんよ!」

 

 

 水月のその一言に夕呼が不敵に笑うと、更に通信が割り込んでくる。

 

 

『――なら、試してみますか?』

 

 

 男の声とともに点灯するアンノウンのマーカー。ヴァルキリーズの全員がそちらを見ると、一機の戦術機が演習場に現れた。

 

――不知火……いや、違う。不知火をベースにした改造機か?

 

 みちるが初めて見る機体を観察していると、香奈多が嬉しそうに声を上げる。

 

 

「その不知火、もしかしてお前が白銀って奴か!?」

 

『どうも皆さん。あれからひたすらにOSの慣熟訓練をされていたと思いますが、どれほどのものか俺が評価してあげましょう』

 

「フン! 余裕を見せられるのも今の内! どんな改造をして来たかはすっごく気になるけど、OSの差がなくなったいま、数で勝るあたしたちに分があるわよ!」

 

『なら、数の差が意味をなさない情報を提供しましょう』

 

 

 余裕のこもった声で右手に持ったライフルを掲げ、それは告げられる。

 

 

『――こちらには光線級のレーザー並の火器があります。それも威力によっては掠っただけで撃墜判定が下るようなほど強力な代物が』

 

『ちなみにこれ、製作者立会いの元に実施されたシミュレーターであった本当の話だから。前みたいに舐めてかかればあっという間に落とされるわよ』

 

 

 夕呼の補足を聞き、ヴァルキリーズの全員が目を張った。

 あの副司令がこんな場面で嘘をつくことはまずあり得ないことを彼女たちは十分理解している。つまり、あの不知火の手にあるライフルには本当に光線級のレーザーに匹敵する武装が備わっているということになる。

 

――OSといい武装といい、あの白銀という男は何者なのだ。それに製作者立会いの元と言うことは、あの改造機は博士が考案したのではない可能性がある。謎は増える一方だが、確実に言えるのはこのシミュレーターは全力で挑まねば以前の二の舞になると言うことだ。

 

 みちるが前回の轍を踏まぬよう決意を固め、部隊に模擬戦の準備をするよう指示を出している一方でヴァルキリーズの前に現れた不知火・旋風の管制ユニット内では武が零から二度目のライフルについての説明を受けていた。

 

 

『乗り込む前にも説明したように、いま旋風が装備している試作のマルチビームライフルにはカートリッジとモード切り替えの機能が存在している。ノーマル、マシンガン、ショットガン、バーストショットに切り替えることが出来るから状況に応じて上手く使え。ただし、カートリッジの予備は3つしかないと言うことを忘れるなよ』

 

 

 現在零がA-01向けに開発中のカートリッジ式マルチビームライフル。

 これは彼が言ったように4つのモードを切り替えることで様々な戦況に対応させることを目的としたものだ。

 燃費、威力、射程、連射のバランスが最も安定したノーマル。

 連射と燃費を重視し、威力を落としたマシンガン。

 至近距離での威力を重視したショットガン。

 そしてノーマルの数倍の火力を持った代わりにカートリッジの約20%分のエネルギーを消費する切り札のバーストショット。

 またカートリッジ式ではあるが、零は一部の機体のみ両手のコネクターを介してジェネレーターから直接チャージ出来るようにしようと考えていた。

 

 

「了解。アーマーシュナイダーとビームサーベルはどうする?」

 

『今回はライフルだけのつもりだが、お前の判断で使って構わない。まあ、そんな状況はまず無いと思うがな』

 

 

 機体性能とビームライフルだけでも負ける要素が見当たらないのだ。もしサーベルを抜くようならば、それは彼女たちの実力が予想以上だったと言うだけだ。

 やがて双方の準備が整い、以前のように武とA-01が相対した。

 

 

『ではこれより、制限時間10分の模擬戦を――あ、博士』

 

 

 CPの遙が状況開始を宣言しようとしたところで夕呼が割り込み、意地悪な顔で実に楽しそうに告げる。

 

 

『始める前に言っとくけど、A-01は3分以内に一人でもやられたら連帯責任で一週間訓練兵用の強化装備で訓練してもらうわよ。逆に白銀は時間内に全員仕留められなかったら同じ目に遭ってもらうわ』

 

 

 夕呼の一言が火付けとなり、全員が冷や汗を流しながらも同じ思いを抱いた。

 

――アレだけは、アレだけはもう絶対に着たくない!!

 

 

『……で、では、状況を開始してください』

 

 

 合図とともに全ての機体が一斉に動き出す。

 かくして、羞恥心をかけた全力のシミュレーター戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、当然だけど連帯責任だから涼宮と神林も例外なく着用してもらうわよ」

 

「『ファッ!?』」




第18話、いかがでしたでしょうか?

ニールとハムにMSが与えられました。
デュナメスとハロをニールに、デルタプラスをハムに提供となりました。
デルタプラスが乙女座色に染められるかは今のところ決まっていませんが、勢いとノリで有りえるかもしれません。
なお、今回の模擬戦は次回の冒頭で既に終わったことになると思います。
さて次回のテーマは、「乙女座の盟友」「ヒロイン候補登場」「南の島へ」の三本です。

それではまた次回にお会いしましょう。






あ、別にジャンケンはありませんので。


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第19話

どうもおはようございます、唐突に思いついた番外ネタを書いていたら本編の執筆に影響を及ぼしてしまった作者です。
番外ネタは仕上がり投稿しますが、本編とは全く関係ない話になります。

ともあれお待たせしました、第19話です。
前回の予告通りの内容は詰め込んだつもりですが、楽しんでいただければ幸いです。
それでは、本編をご覧ください。


国連軍横浜基地 A-01専用ブリーフィングルーム

 

 

 A-01と武のシミュレーター戦から――幸いにもお互い訓練兵用強化装備から逃れた――一夜が明け、ヴァルキリーズの面々は夕呼の指示でブリーフィングルームに集まっていた。

 その彼女たちの面持ちから緊張がみて取れるが、仕方のないことだろう。

 

 あの不知火と新兵器の開発者から話がある。

 

 あれだけのモノを作り上げた開発者だ。どんな人物なのかは彼女たちには想像もつかなかった。

 それから程なくして部屋の扉が開き、夕呼が一人の男を連れて現れた。

 

 

「全員揃ってるわね。 さっそくだけど、こいつが昨日の不知火の開発者よ。神林、あとよろしく」

 

「多忙なのはわかりますが、丸投げするのが早すぎやしませんかね」

 

 

 苦笑しながらもA-01の前に立つ零。夕呼はそれを見届けるとさっさと退室してしまった。

 

 

「さて、初めましてだな諸君。民間協力者として出向している特別開発部門開発長兼、独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』隊長の神林 零 臨時中佐だ。君たちのことは博士を通じて知っているので自己紹介は不要だが、何か聞きたいことがあるなら答えられる範囲で回答しよう」

 

「……では、あの不知火とその装備は中佐が開発されたと伺いましたが、本当でしょうか?」

 

 

 部隊を代表して質問したみちるに「うむ」と頷き、持ってきた資料の冊子を配布する。表題には不知火・旋風 A-01仕様と書かれており、それを見た一部のメンバーは指示を受ける前に冊子を開いて食い入るように目を通し始めた。

 その光景にまた苦笑し、零は他のメンバーに冊子を開くよう指示を出す。

 

 

「君たちには今後あの不知火の改造機、不知火・旋風で戦ってもらうことになる。旋風の本体については性能をセーブさせた物が日本帝国の一部にも提供されるものの、装備については君たちと雲泥の差がある。具体的には4ページ目に書かれた一覧の比較を見てくれ」

 

 

 全員が一斉に指定された項目を確認すると、自分たちが使う旋風にのみビーム兵器が用意され、スペックも帝国仕様と比べ約15%も上だった。

 しかも既存の不知火と比較すれば約35%も上と圧倒的な性能差がある。

 無論、XM3が標準搭載なので操作性に大きな変化もない。

 ビーム兵器は近接装備のビームサーベルにそれぞれグレネードを備えたカートリッジ式の複合ビームライフルと複合ビームマシンガン、そして現在製造中のBETA一掃向けに広範囲高火力のビームバズーカに長距離射程のハイパー・メガ・ランチャーが用意されていた。

 

 

「実機は人数分が完成するまで数日ほどかかるが、シミュレーターには搭載済みだからそっちで武装特性を掴んでくれ。特に長刀と同じ感覚でビームサーベルを使えば勢い余ってみっともない姿になるからな。――さて、ここまでで何か質問はあるかな?」

 

「はいはいはーい! こんなスゴイの作った神林中佐は何者でしょうか!? そこのところをじっくりしっかりお願いします!」

 

「落ち着いて質問せんか馬鹿者!」

 

 

 勢い良く質問した千早をゲンコツで黙らせ、みちるは咳払いを一つする。

 

 

「中佐、部下が失礼を」

 

「なに、構わない。それで真咲少尉の質問についてだが――君たちは俺が異世界から来た人間だからこれらの開発に繋がった、といえば信じられるか?」

 

 

 突然告げられた一言に呆然とし、理解するのに数秒を要する。

 おずおずと沙羅が挙手して質問する。

 

 

「あの、中佐。それは本気で仰っているのでしょうか?」

 

「まあいきなりこんな話をされて信じろと言う方が難しいだろうが、アラスカで試験中の電磁投射砲より小型で使い勝手のいいビーム兵器や既存の戦術機を遥かに凌駕する改造技術。XM3こそ博士の研究成果から派生して誕生したが、今までの科学力ではあり得ない物がたった数日で幾つも出現したんだ。何処から湧いて来たかを考えた時、この世界より技術がすすんだ異世界から流れ込んで来たと考察すれば辻褄が合わないか?」

 

「では中佐が本当に異世界から来たとして、あなたは何故この世界に来たのですか? まさかこの異性体に攻め込まれた世界を救う救世主になるとでも?」

 

「何故この世界に来たのか、か……それは俺からしても偶然としか言えないな。だがこの世界の状況を知り看過できないと判断したからこそ、俺はここにやって来た。それでは不満かな? 宗像中尉」

 

「……いえ、了解しました」

 

 

 どこか釈然としないまま美冴は返答し、それ以上考えるのをやめた。

 

 

「よし、では今後の訓練内容についてだが――」

 

 

 全員分の実機が組み上がるまでシミュレーターによる旋風と武装の慣熟訓練と武装の細かな部分の説明をし、午前中は静かに流れていった。

 

 

 

国連軍横浜基地 通路 特別機密区画方面

 

 

 A-01へ訓練と武装の説明を終えた俺はピアティフ中尉からの報せを受け特別機密区画前へと向かっていた。

 と言うのも、殿下との契約内容にあった人材の受け入れのためだ。

 巌谷中佐と紅蓮大将が厳選し必要とあらば『Need to know』を確実に守れる技術者と衛士たちと言うことなので、即戦力として十分に期待できるだろう。

 やがて目的地が見えてくると、区画入り口の門前にピアティフ中尉を含む人だかりが見えた。

 

 

「すまない、中尉。あとは俺が引き継ごう」

 

「はい。失礼します」

 

 

 対応していたピアティフ中尉は敬礼とともにキビキビと去っていた。

 さて、と一息入れて一団に目をやると、代表と思しき男が一歩前に出る……って、こいつは!?

 

 

「か、カタギリ!?」

 

 

 長身に眼鏡、長い髪を高い位置に結っているその男の姿はビリー・カタギリと瓜二つであった。

 

 

「おや、中佐とは初対面の筈ですが?」

 

「あ、ああ、申し訳ない。知り合いによく似ていたものだったのでつい」

 

「そうですか。 日本帝国技術廠、第壱開発局より出向の片桐 裕司 大尉です」

 

「国連軍横浜基地所属の民間協力者、神林 零 臨時中佐だ。特別開発部門開発長と独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』の隊長を兼任している」

 

 

 どちらからともなく握手を交わすが、表情に出さないものの今だに困惑の色が強い。

 まさか死んだ人間のそっくりさんだけでなく生存している人間のそっくりさんまでいるとは……。下手すると炭酸みたいな濃いキャラまで出て来そうだ。

 

 

「私を含め技術廠より出向した者が12名。残り3名が帝国陸軍からの出向となります。詳しくはこちらの名簿をどうぞ」

 

「感謝する。では早速、衛士3名は前に出て来てくれ」

 

 

 呼び出しに応じて現れたのはミドルヘアの女性と三つ編みの男。そしてショートヘアの……少女? いや、男物の制服を来ているから男か? まあ名前を聞けばだいたいわかるか。

 

 

「帝国陸軍より出向致しました、葉月 絢香あやか 大尉です」

 

「同じく、小早川 秋生(しゅうせい)中尉であります」

 

「同じく、井吹 (ひかる) 中尉です」

 

「あ、ああ。これからよろしく頼む」

 

 

 クソ! 名前まで紛らわしいぞ井吹中尉! こうなったら強化装備を着用して貰うまで待つしかないか!?

 本当にどっちなのか気になるところだが、一つのことに集中しすぎても不味いので簡単な注意事項を説明し職場へと案内する。

 特別機密区画の格納庫に入るなり、片桐や衛士組から感嘆の声が上がる。

 入り口から順に旋風、デュナメス、デルタプラス、デルタカイの順で並んでおり、彼らにはまず旋風の整備を担当して貰い俺が問題ないと判断すればMSの整備もやって貰うつもりだ。

 ちなみに現段階でMSの整備はハロと博士から凄乃皇の整備兵を何人か回してもらって行っている。

 

 

「まず整備班の諸君には順次組み上がる予定の不知火の改造機、不知火・旋風の整備と調整を行って貰う。また、俺の判断によってはもっとレベルの高い機体の整備を依頼することがあるので、各員の働きに期待させて貰う。なお、片桐大尉には初めからオーバーワールドが保有する専用機の整備も担当して貰う」

 

「了解しました」

 

「そして衛士組には専用機を与えるつもりだが、能力選考としてしばらくは旋風に搭乗して貰う。なお、異論は一切認めないからそのつもりで」

 

「感謝します、中佐」

 

 

 三人を代表して葉月大尉が礼をする。

 現在稼働中の機体で彼女たちを乗せる機体はどれになるやら、実に楽しみだ。

 

 ――なお、名簿で確認したところ井吹中尉はやはり男だったことを明記しておこう。

 

 

 

国連軍横浜基地 PX

 

 

 整備班に明日からの予定を伝え、俺は片桐と衛士3人組を連れて少し遅めの昼食を取りに来た。

 適当にメニューを選び席を探していると、基地内ではあまり見ない組み合わせを発見した。

 

 

「お、零……っと、そっちの人たちは?」

 

 

 武を筆頭に霞、グラハム、ニールがトランプに興じていた。状況から察するに内容はポーカーだろう。

 

 

「日本帝国軍から出向して来た新しいメンバーだ。右から片桐大尉、葉月大尉、小早川中尉、井吹中尉だ。――で、こっちが207訓練部隊特別教官の白銀大尉、香月副司令の助手の社少尉、オーバーワールド所属のエーカー大尉とディランディ中尉だ」

 

 

 武たちに紹介する流れで片桐たちにも紹介する。

 比較的スムーズに話が進んでいくと思っていると、葉月大尉が一瞬だが顔をしかめた。

 ふむ、確か視線がグラハムに差し掛かったあたりだな。

 おおよその理由は考えられるが、真意は本人から聞くしかないな。

 

 

「ちょうどいい、各員で少し交流を図ってくれ。ああ、武は話があるからこっちにこい」

 

 

 トレーを置いて移動し、離れた位置からグラハムたちを眺めつつ話を。

 

 

「武。さっきの葉月大尉の表情、みたか?」

 

「あ、やっぱりなんかあったのか。エーカー大尉たちの紹介の時だけ少し嫌そうに見えたんだけど――ん? どうした、霞」

 

 

 ついて来た霞が何か言いたそうに武の袖を引く。

 小さく頷くと、うさ耳を揺らしながら口を開く。

 

 

「あの人から、少しだけ怒りの色を感じました」

 

 

 リーディングしたのか。本来なら無闇に使うなと言いたいところだが、今回は目を瞑っておこう。

 

 

「理由はアメリカ人だから、だろうな。先のG弾の無断使用や安保理の一方的破棄とかで反米意識が根強いから無理もないかもしれないが、アメリカ人だからと言って全員があれを良しとはしていないんだがな」

 

「この基地でその価値観が変わってくれたらいいんだけどな。 ――あ、そうだ。明日から207訓練部隊が総合技術演習で南の島に行く。それで俺も先生の付き添いで基地を離れることになった」

 

「お、いよいよか」

 

 

 ここでなんとしてでもB分隊の少女たちには合格してもらわなければならない。だが武の表情から相当な自信が読み取れることからチームワークの改善に成功したようだな。

 しかし、南の島か。

 このイベント、利用できそうだな。

 その後飯をかっ喰らって葉月大尉たちにシミュレーターでの訓練、グラハムたちに専用機の慣熟訓練をするように指示を出し、俺は地下19階へ足を向けた。

 

 

 

国連軍横浜基地 特別区画 ブリーフィングルーム

 

 

「諸君、南の島に行くぞ」

 

 

 主要メンバーのグラハム、ニール、裕司、絢香、秋生、光に招集をかけた零が開口一番そう告げる。

 突然の発言に全員が呆気にとられる中、絢香が恐る恐る挙手をする。

 

 

「中佐、発言の意図が理解しかねます」

 

「うむ、早い話が南の島に遊びにいって交流を深めようと言うわけだ。俺たちはこれから苦楽を共にする仲間だ。ならば互いのことをもっとわかり合い、信頼関係を築いていくべきだ」

 

「……仰ることは分かりますが、なぜ南の島なのですか?」

 

「簡単な理由だ。いま白銀大尉が面倒を見ている訓練兵たちが総合技術演習を受けることになってな、それに便乗させて貰うことにした。なお、整備班を含めた全員が行く許可を副司令から得ているので、辞退は出来ないからな。むしろやらせん」

 

 

 納得いかないと言った風にしぶしぶと着席する絢香。それを見届け、零は満足そうに頷く。

 

 

「ま、これから厳しくなる戦いに向けての景気付けだとでも思ってくれ。少なくとも飯くらいは良い物を用意して行くからな」

 

「へぇー。それは楽しみですね」

 

「南の島……。まだ天然の魚がいそうだ」

 

 

 他の衛士の光、秋生は既に行楽モードにはいっており、絢香は頭を抱えそうになった。

 

 

「ところで、中佐。移動はもしやアレを使用するのですか?」

 

「おそらくグラハムの想像通りだ。移動時間も有効に使うべきだし、いずれ乗ってもらうつもりの艦だ。彼らには目的地に到着するまで旋風の組み上げと今までの技術に対する既成概念との決別をしてもらう」

 

「既成概念との決別って、何をさせるつもりなんですかっ」

 

「言葉通りの意味だ、葉月大尉。聞くより体感してもらうのが一番早いだろう」

 

「技術に対する既成概念との決別……技術者としては、非常に気になる一言ですね」

 

「楽しみにしてくれ、片桐大尉」

 

 

 着々と話が進んでいく中、絢香はこの部隊でやっていけるのだろうかと深いため息をついた。




第19話、いかがでしたでしょうか?

本来なら新キャラの紹介といきたいのですが、諸々の事情により今回は見送らせていただきます。

ついに乙女座の盟友カタギリーーーーの、そっくりさんが出て来ました。
名前の元ネタはカタギリの声優をやってたうえだゆうじ氏です。
あの人の声を聞くたびにクロウさんが頭をよぎります。
Z2破界篇であった金をばら撒くシーンが何故か冒頭の一言の次に印象的です。(ボイス無いのに

さて、南の島へバカンスに向かうこととなったオーバーワールド。
そこで零は絢香にあることを尋ねることに。
次回、第20話は「絢香の胸中」、「乙女座、盟友を得る」、「焼肉戦争」のテーマでいきます。なお、予告テーマと本編内容が一致しない場合がございますが、ご了承ください。
また、本編より先に番外が入る可能性もあります。ご容赦ください。

それでは、また次回にお会いしましょう。









ところで作者、艦これで難関とウワサされていた2-4に挑んだのですが、非常にアッサリと攻略してしまい困惑しています。
あそこは本当に難しい場所だったのでしょうか……。

ちなみに編成はこんな感じでした。数字はレベルです。
電改 68
陸奥改 59
赤城改 43
加賀改 41
金剛改 39
比叡改 49


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Extra Story 零「なに、ISだと?」

どうもこんばんは、Z3の57話のシナリオが熱すぎて涙が出そうになった作者です。

さて、第19話で予告した通り第19話の執筆に影響を及ぼした唐突に思い付いたネタを投稿します。

この話では零が何故かISの世界へ渡ってしまいました。なお、本人にISの知識はありません。
ちなみにサブタイの一部は某ガンダム掲示板のSSから流用しました。(分かる人いるかな

時系列は佐渡島攻略後になるので本編から見ればまだ先の話ですが、本編とは本当にまっっっったく関係ありません。
無論、飛ばしていただいても何の支障もありません。(そもそもこれから進められる気がしない。



それでは始まってしまいます、番外伝。どうぞご覧ください。


「――ぬ、頭が痛い……」

 

 

 頭にガンガン響く鈍い痛みと、まぶたの裏を刺激する光りを目覚ましに覚醒する。そして視界に飛び込んで来たのは――一面の森。

 

 

「……は? どう言うことだ?」

 

 

 確か昨夜はPXで佐渡島奪還の戦勝パーティーがあって、アルゴス小隊と飲み比べ対決をしてたら狂犬化した神宮寺軍曹が泡吹いてる武を抱えて乱入して来て……ダメだ、そこから先の記憶がない。

 この頭痛から察するに過剰な量の酒を無理やり呑まされて撃沈したのだろうが、それでも森にいる理由がわからない。

 

 

「誰かのイタズラか? やりかねないのは調子に乗ったタリサか真咲少尉あたりだが、葉月や伊隅大尉が黙ってない筈だ」

 

 

 それに横浜基地近郊にこんな森はないし、さっきから変な感覚がする。

 国連軍の制服が妙に大きい気がするし、立ち上がってみれば視点が少し低くなったような……。

 

チャリ

 

 

「ん? なんだ」

 

 

 いま落とした物を拾い上げると、それはδの刻印がされたシルバーリングだった。

 こんな物を持っていた覚えはないが、俺から落ちたのならたぶん俺の持ち物なのだろう。

 とりあえずそれをポケットに押し込み、どうしたものかと思案する。

 

 

「動くな」

 

 

 突然女性の声が上がるとともに、真後ろから冷たい切っ先を突きつけられたのを感じる。

 ぬかった、二日酔いと妙な感覚を気にして後ろを取られるとは。

 抵抗する意思がないことを示すため両手を上げ手のひらを見せるが、相手の警戒が解かれる気配はない。

 

 

「お前は何者だ? どうやってこの学園のセキュリティを掻い潜ってここまで入り込んだ?」

 

「何者か、か……名前は神林 零。国連軍横浜基地所属、特別開発部門開発長、兼独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』隊長。階級は臨時中佐。この場には気がついたらいたとしか言いようがない」

 

 

 虚偽なく真実を伝えるも、返って来たのは沈黙。

 それが少し続くと、冷たい感覚が少し離れた。

 

 

「頭の後ろで手を組んで、ゆっくりとこちらを向け」

 

 

 素直に従い振り向くと、気の強そうなスーツ姿の女性が刀を構え品定めするように俺を見ていた。

 

 

「神林と言ったな。お前、正気か?」

 

「少なくとも生殺与奪を握られているにも関わらず、ふざけた回答をする精神は持ち合わせていないつもりだが」

 

「……なるほどな」

 

「こちらからも質問させていただく。ここを学園と言っていたが、もしや白陵大付属柊学園か?」

 

「白陵大付属? ここはIS学園だ」

 

 

 ……む? IS学園?

 

 

「それに先ほど国連軍横浜基地と言っていたが、横浜には国連軍の基地などないぞ」

 

「……は?」

 

「む?」

 

 

 なんだ? 微妙に話が噛み合っていない?

 

 

「失礼、一つ確認したいのだが――BETAと言うものを知っているか?」

 

「ベータ? α、βのベータか?」

 

 

 ……ああ、ようやく合点がついた。

 

 

「やれやれ、面倒なことになってしまったようだ」

 

「何かわかったようだが、どうやら普通じゃない状況のようだな」

 

「出来る範囲で説明させていただく。何処か静かに話せる場所はないか? あと、危害を加える気はさらさら無いので後ろの人にも銃を下ろさせてくれ」

 

「っ!」

 

 

 目の前から鋭い視線を、後ろから驚いたような空気を感じる。

 振り向いた時点で狙われているような感覚があったのだが、当たりのようだ。

 

 

「お前は本当に何者だ? 生身でISのロックオンを見破るなど普通ではないぞ」

 

「今は特殊な経歴を持つ軍人、とだけ言っておこうか」

 

 

 

IS学園 地下格納庫

 

 

 道中に織斑千冬と名乗ったスーツの女性はこのIS学園の教師であり、校内で不審なエネルギー反応を検知して後ろから俺を狙っていた山田真耶教諭とともに赴むくとそこに俺がいたとのことらしい。

 そのまま地下の格納庫に連れて来られ、正面の織斑教諭が用意されたパイプ椅子に腰掛けている俺を身下ろし、後方で山田教諭が待機していた。

 あと織斑教諭の後方にある物体が妙に気になって仕方ない。

 

 

「では、なにが聞きたい? 機密に触れないことなら可能な限り情報提供しよう」

 

「ならハッキリと答えてもらおう。お前は何者だ?」

 

 

 3度目の質問。現状についておおよその検討がついているのでぼかして話す必要もないだろう。

 

 

「まず始めに、俺はこの世界の人間ではない」

 

 

 そう切り出して語るのはあの地獄のような世界のことだ。

 持ち合わせの端末などを使って淡々と説明していったが、少し内容がグロかったためか途中から山田教諭が俺の座っていた椅子のお世話になった。

 俺? 床で胡座かいてるよ。

 

 

「地球外起源種と人類の存亡を賭けた戦争か。まるでSF小説だな」

 

「たがこっちはノンフィクションで人や国、究極的には星を救おうとしている。散っていった魂に報いるため、人類の明日を守るためにな」

 

 

 イマイチ信じきれていない織斑教諭だが、まあ無理もないかもしれないな。

 

 

「さて、今度はこちらの質問だ。――ISとはなんだ?」

 

「ISとは日本で開発された『インフィニット・ストラトス』と言う宇宙開発を目指した飛行パワード・スーツの総称で、それを纏うことにより現代兵器を遥かに凌駕する性能を発揮する。そしてISは基本的に女性にしか起動させることが出来ないため、この世界での女尊男卑の風潮を決定付ける一因となった」

 

「なるほど。女性にしか扱えないから『女性=強力なISを使える=男より強い』という図式が出来上がったわけか」

 

 

 さしずめ、このIS学園とはそのISの操縦者を育成する教育機関なのだろう。しかも、女性しか扱えないのなら学生も女子しかいないとみた。

 それはさておき、ISを使う女性のヒエラルキーが上位に来るのは自然なことだろう。

 しかしこの流れはISを使わない、むしろ全く無縁の女性まで自分は強いんだぞという間違った意識を持つ一因に繋がっているはずだ。

 だが――――

 

 

「――さっきの言い方では、その限りで無いことがあるみたいだな」

 

「聡いな。その通りだ、女性しか扱えないという話は少し前までの話。その常識が覆り、世界的なニュースとして流れたのが世界初の男性IS適合者の出現だ」

 

 

 やはりな。

 男性の適合者が出現したことにより、男でもISを扱える可能性が僅かながら出て来たわけだ。

 今はまだ数が少ないのだろうが、その数がこれから増えて行けばパワーバランスは対等、もしくは再び逆転するということもあり得る。

 

 

「概ね理解した。 ところで現実的な話として、俺はこれからどうなる?」

 

「本来なら不法侵入者として拘束するところだが、事情が事情だ。それ以前に、お前はこれからどうするつもりだ」

 

「あの世界へ戻るに決まっている。非常に重要な作戦がすぐそこまで控えているんだ。時間軸にどんな影響が出るかわからないが、戻らないという選択肢は存在しない」

 

「ふむ。戻るのは勝手だが、どうやって戻るつもりだ?」

 

「これから探して行くさ。もしこの世界に俺が知り得る中で最も信頼出来る科学者と同一の存在がいれば、元の世界に帰れる可能性はさらに上がる」

 

 

 技術レベルで見てもEXTRAの世界より高いここならより確実に帰れるだろうし、ISの技術から新しい開発のきっかけが得られるかもしれない。

 

 

「――ところでずっと気になっていたんだが、織斑教諭の後方にあるあれはなんだ?」

 

「ん? ああ、アレは量産型IS『打鉄』だ。整備を終えたものらしいが、片付けるのを忘れたようだな」

 

「ふむ、アレがか……。少し見せていただけないか?」

 

「……まあ、いいだろう」

 

 

 少しの間を経て織斑教諭から許可をいただき、打鉄の側に寄る。

 ふむ、これを纏って空を飛ぶのか。

 もっとスマートな姿を想像していたが、待機状態がこうなだけで装備すればまた別の姿になるのか?

 頭の中でいろいろ考察しながら触れてみると、

 

 

「っ!? なんだ!?」

 

 

 突如、打鉄から淡い光が溢れ出した。

 

 

「まさか、起動したのか!?」

 

「か、神林さん! ポケットが!」

 

 

 山田教諭の言葉で反射的にポケットへ目をやると、そこから光が溢れ出していた。

 

 

「――これは、あの時の指輪!?」

 

 

 取り出した光の根源は森の中で拾ったδの刻印が施された銀色の指輪。

 それがひとりでに浮き上がり、一際大きな光とともに全体的にグレーの人型へと姿を変えた。

 右手にはスマートな銃身のライフルがあり、左腕には丸みを帯びたスマートなシールド。

 赤いツインアイの頭部に特徴的な脚部のスラスターと背部のバインダー。

 右肩にはオーバーワールドの部隊エンブレムである地球の上にOWの文字と俺のコールナンバーを示す0の数字。

 そして左肩には俺のパーソナルエンブレムであるδマークと下に小さく書かれたZEROの文字。

 愛機ガンダムデルタカイの開発ベースになった試作可変機――――

 

 

「……デルタプラス」

 

 

 

IS学園 格納庫 管制室

 

 

 織斑教諭に調査してもらった結果、あの指輪はIS版デルタプラスの待機形態であり、搭乗者に俺のデータが登録されていたとのことだ。

 無論、俺がそんなことを把握などしているわけもなく、織斑教諭の質問には分からないと回答するしかなかった。

 

 

「――で、俺の処遇はどうなる? 未登録ISの不正所持容疑で拘束か?」

 

「本来ならそれが妥当なところだが、残念ながらお前は普通じゃないのでな。いま上の人間に指示を仰いでいるから少し待て」

 

 

 なるほど、山田教諭がなかなか戻らないのはそういうことか。

 

 

「しっかし、別の世界に跳ばされてみれば二人目の男性IS操縦者になるとはな」

 

 

 自嘲気味に皮肉って何気無く部屋を見回すと不意に鏡が目に止まり、思わず目を見張る。

 ここ数ヶ月で見慣れた弓兵の顔ではなく、その面影を残して若くしたような顔がそこにあった。

 

 

「……若返った、だと」

 

「どうした、妙な汗が出ているぞ」

 

 

 織斑教諭になんでもないと答え、俺はそれ以上深く考えるのをやめた。

 原因不明の世界移動に女性しか扱えないはずのISを起動&所持なんてことがあったんだ。なら若返りなんてことがあっても不思議じゃないはずだ。

 

 

「織斑先生、お待たせしました」

 

 

 しばらくして山田教諭がバインダーを胸に抱いて現れる。織斑教諭はそれを受け取り、片眉を吊り上げる。

 

 

「これが、委員会の正式な決定で間違いないのか?」

 

「はい」

 

 

 返答を受け、織斑教諭はやや考え込むとバインダーをこちらに差し出した。

 

 

「喜べ、お前の処遇が決まった」

 

「その様子では少し複雑な結果になったようだが――む?」

 

 

 受け取ったバインダーに挟まれている用紙の一文を見て、俺は怪訝な声を上げる。

 一度じっくり読み、二度目にざっと読み返して織斑教諭に尋ねる。

 

 

「織斑教諭。君の上司たちは本気か? ある程度は何を狙っているか分かるが、あまりにも大胆ではないか?」

 

「言わんとしていることは分かる。だがこれはお前にとってもメリットが大きいと思うが?」

 

「…………」

 

 

 確かにメリットは大きい。

 しかし、簡単にこんな決定を下せるのだろうか?

 だがこの後ろ盾があればしばらくは自由が効くのも事実。

 怪しさは拭いきれないが――――

 しばらく考え込み、俺は一度頷いて告げる。

 

 

 

IS学園 教室 1年1組

 

 

 入学式を終え、割り当てられた教室へ新入生の少女たちが入っていく。

 しかしその人波の視線は、本来ならこの場にいるのがあり得ない存在へと向けられていた。

 だが皆それについて言及はしない。

 何故ならそれは世界的ニュースの中心になった人物だからだ。

 

――……い、居づらい。

 

 世界で初めて男性でありながらISを動かした少年、織斑一夏は四方八方から向けられる視線を一身に浴びて気まずい汗を垂れ流す。

 親友曰く、彼は『女子校であるこの学園に入学出来たお前は神に選ばれた存在』だと男友達から評されているが、本人からすればそんなことは一切ない。

 今にでも大声で「俺は動物園のパンダじゃないんだぞぉぉぉぉ!!」と叫びたいくらいだった。

 

――助けてくれよ、箒ぃ。

 

 視線の先では小学校の時に転校した幼馴染の女の子、篠ノ之 箒が我関せずといった風に副担任の山田真耶の話を聞いていた。

 

――神も仏もないのかよチクショウ!

 

 

「……ん、織斑くん!」

 

「ぇあっ!?」

 

 

 突然名前を呼ばれ妙な声を上げながら前を向くと、先ほどまで教壇にいた真耶が苦笑いで机の前にきていた。

 

 

「お、驚かせてごめんね。みんなに自己紹介してもらってるんだけど、『あ』から始まって次は織斑くんの番なの。自己紹介、してくれるかな? ダメかな?」

 

 

 少し困ったような顔でお願いされ、一夏は周りからの視線がさらに強くなったのを感じながら腹を括る。

 

 

「~~っえー、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 

 そこまで口にしたところでさらに強くなる視線。居心地の悪いことこの上ない。

 一度深呼吸をし、一夏は決意とともに言い放つ。

 

 

「――――以上ですっ!」

 

 

ドッ!!!!

 

 全員がズッコケた。

 

 

「え!? なんで――ごふっ!?」

 

 

 理解出来なく狼狽する一夏に出席簿が叩き込まれる。

 叩き込んだ本人は呆れたように実弟を見下ろしていた。

 

 

「全く。挨拶もまともに出来んのか、馬鹿者が」

 

「げぇ!? 千冬姉!?」

 

 

スパァン!!

 

 容赦ない出席簿の第二撃が放たれた。

 

 

「織斑先生と呼べ。あと人を関羽のように呼ぶな」

 

「ス、スンマセン……」

 

 

 一夏が着席したのを見届け、姉であり担任である織斑千冬は教壇に立つ。

 

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。私の仕事は君たちを一年間で使い物になる操縦者に鍛え上げることだ。私は無駄なことを教える気はない。上を目指すならよく話を聞いて理解しろ。出来ないことは出来るまで指導してやる。なお逆らっても構わないが、言うことくらいは聞いておけ」

 

 

 よく響く声で千冬の挨拶が終わると共に、一部を除いた生徒たちの声が爆発した。

 

 

「キャァァァァァァァァァ!! 千冬様!! 本物の千冬様よぉぉぉぉ!!」

 

「嗚呼、こんなに近くで千冬様を見られるなんて……! 我が生涯、もはや一片の悔いなし!!」

 

「千冬様! 貴女のことがずっと好きでした! 付き合ってください! そして出来れば合体してください!」

 

「お願いです! 罵ってください!! 養豚場の豚でも見るかのように冷たい目で!!」

 

「おい、後半ふざけんな」

 

 

 喧騒の中で唐突に聞こえた声にツッコミを入れずにはいられない一夏。

 しかしそのつぶやきも止むことを知らない絶叫の渦に飲み込まれて消えていく。

 

 

「毎年思うが、どうして私のクラスにはこんな馬鹿共が集まる。嫌がらせか?」

 

 

 呆れて真耶に同意を求めるも、彼女は彼女で苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

「話はまだ終わってないぞ! 良い加減静かにしろ!!」

 

 

 一喝。

 それだけで教室は水を打ったように静まり返った。

 

――すげぇ、さすが千冬姉だな。

 

 一夏が内心でそんなことを思っていると、真耶が深呼吸をして口を開いた。

 

 

「では時間もないので自己紹介はここまでにしますが、最後に転入生を紹介します!」

 

『……は?』

 

 

 間の抜けた声があたりから漏れる。

 それもそうだ、入学初日でいきなり転入生などあり得るのだろうか。

 

 

「それでは、どうぞ入ってきてください」

 

 

 合図と共に扉が開き、新たな人物が入室すると一部を除いた全員が息を飲んだ。

 一夏よりは若干低いが女子より高い身長。

 しかし特注された男子用の制服を纏ったその姿は、衝撃を与えるには十分すぎた。

 

 

「神林 零だ。昨日付けで世界二人目の男性IS操縦者として認定され、本日よりIS学園に籍を置くことになった。よろしく頼む」

 

 

 転入生、神林 零は朗々と宣言しながら8年ぶりの高校生活を異世界で開始した。




やってしまいました番外伝、いかがでしたでしょうか?

もしかしたら今後またこんな番外ネタが作られるかもしれませんが、その時はお好みでご覧ください。


え、そんなことより本編を書けって?
書いてますヨ! ついででネタが浮かんじゃって衝動が描いたどうしようもないストーリーを抑えられないだけデスから!

それはさておき、次回はちゃんと本編に戻りますのでこれからもよろしくお願いします。
それではまた次回にお会いしましょう。









追記
このあとがきを書いている途中で改造したばかりの響改が3-1にて直撃を受け一撃で轟沈してしまいました……。
俺が先を急いだばっかりに……。
すまぬ、響……。
本当に、すまない…………。


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第20話

どうもこんにちわ、仕事に忙殺されかけて命の危険を感じる作者です。
2週目のZ3でウイングゼロが猛威を振るっています。
参戦時点でのヒイロの撃墜数が300未満だったのに50話目前時点の撃墜数が1200を超えました。
2位のゼクスでさえまだ300未満だと言うのに……。レベルのバランスが完全に崩壊しております。

それはさておき、お待たせしました。第20話です。
久し振りに207訓練部隊が出てきますが出番がほとんどありません。
描写が増えるのはまだまだ先になりそうです。

それでは長々となりましたが、本編をご覧ください。


国連軍横浜基地 特別機密区画 ドック

 

 

「――今日からこの戦艦、プトレマイオス2が君たちの母艦だ。この艦は海上、海中、空中、そして宇宙を航行することが可能で、諸君には対BETA戦――それもハイヴ攻略を目的とした作戦で共に戦場へ赴き損傷した機体を受け入れ再出撃の準備をし、それ以外では必要に応じて補給物資の投下や武装の射出などを行ってもらう」

 

 

 淡々と説明をする零だが、一部の者を除いて全員がそれに目を奪われていた。

 特別機密区画にある広範囲を布で覆われた母港に存在するそれは戦艦と呼ぶには彼らが知るものとは全く異なり、しかも水中航行に加え空どころか宇宙まで飛ぶというではないか。

 どこからこんなものが用意された、と言う疑問より先に湧いてきたのは技術者としての興味と人類の勝利に繋がると言う希望だった。

 おそらくオーバーワールドには自分たちの想像を遥かに超えた技術があり、自分たちはそれに触れることを許されたのだ。

 期待を寄せられたこの部隊こそ、最も人類の勝利に近い道を持っていると確信させられた。

 

 

「ではこれより、『第1回オーバーワールド特別訓練合宿』を開始する。各員は速やかに機体の搬入を行い、指定の配置についてくれ。忘れ物はするなよ、特に水着。忘れたら最終日に他の連中が泳いでるのを指を咥えて見てるだけになるからな」

 

『了解!』

 

「よし行くぞぉ!」

 

『おぉー!!』

 

「……なにか、何かがおかしい」

 

 

 周りが零の掛け声にノリノリで応える中、絢香だけが疲れた声をあげる。

 理想と現実に差があるのはよくある話だが、エベレストからマリアナ海溝くらいギャップが開いたのは初めてだった。

 本当にここでやっていけるのだろうかと不安になりつつ、用意したカバンを担いで指定された場所へと向かう。

 

 

「葉月大尉、元気ないみたいだけど大丈夫かな?」

 

「どうせ今回の催しが気になって眠れなかったんだろ。大尉はああ見えて子供っぽいからな」

 

 

 全く的外れの予想をした秋生は光を引き連れて絢香の後を追った。

 

 

 

太平洋 プトレマイオス2 MSデッキ

 

 

「中佐ぁ! 基本装備はビーム兵器で良いんですか!?」

 

「それで良い! ただ今回の装備内容は事前に伝えた内容でやってくれ!」

 

「中佐! B班の旋風が組み上がりました!」

 

「了解した! 後でチェックするから先に余計な物を片付けておけ!」

 

「中佐! 組み上げた左手が正常に動きません!」

 

「ちゃんと渡した図面通りに組んだのか!? バラしてもう一回図面と突き合わせながら組み上げろ! それでダメならもう一度呼べ!」

 

 

 整備兵たちと零の声が響き合うプトレマイオス2のMSデッキはこの世界で稼働して以来初めての熱気に包まれていた。

 ここでは整備兵たちに旋風の知識を実機の組み上げをしつつ叩き込み、今まで触れてきた戦術機とは全く別物であると認識してもらうようにしている。

 現在3つの班に分かれており、早い班は既に最終工程に入っていた。

 

 

「おー、みんな生き生きしてるねー」

 

「基本的に技術者にとって新しい技術に触れさせてもらえるのは、自分の力を試したり伸ばしたりするいい機会ですからね。自然とやる気も起きるし、疲れも苦にならなくなるんですよ」

 

「ま、それで本当に倒れられたら困るけどな」

 

 

 デッキの入り口で見学をしていた光と秋生にA班整備班長の島田が解説をする。

 彼の言う通り、嫌な顔や辛そうな顔で作業をする者は一人もいなかった。

 

 

「堀川ぁ! あんたまた勝手に設定弄ったわね!?」

 

「邪魔しないでくれ櫻井! この機体の性能を引き出すならこれがベストなんだ!」

 

「あんたが乗る機体じゃないから弄んなっつってんのよこのダニ野郎!!」

 

「ダニィ!?」

 

 

 ――そう、たとえ自分勝手なことをしても作業をする者にはだ。

 光たちから少し離れた位置で作業を眺めているのは目の前で組まれている旋風に乗ることになっている葉月絢香だ。

 ただしその顔は疲れているようにも見え、何処か冴えない感じがしていた。

 

 

「あのとき推薦を受けたの、失敗したかな……」

 

 

 思い返されるのは数日前のこと。

 突然あの巌谷中佐からとある開発部隊のテストパイロットに推薦したいと告げられ、場所が悪名高い国連軍横浜基地だが推薦された嬉しさと新兵器に触れられると言う魅惑から特に問題ないと判断してその推薦を受けた。

 しかし当日、部隊長の案内で在籍衛士を紹介されるも、その中にアメリカ人がいたのだ。

 国連軍なのだから様々な人種がいるのは当然だろう。

 だが仮にも日本の、日本人が多く在籍する横浜基地にアメリカ人がいるなどどう予測出来ようか。

 そして極めつけは現在の上官である。

 確かにやろうとしていることの意図は理解した。

 しかし、アメリカ人と絆を深めると言うのは流石に無理だとも感じていた。

 

 

「どうして私があんなのなんかと――「不服か? 葉月大尉」――っ!」

 

 

 いきなり声をかけられて俯き気味だった顔をばっと上げると、ツナギを纏った零がいた。

 

 

「ちゅ、中佐。あの、テストパイロット自体は不服どころか大変嬉しいことなのですが、その……」

 

「ああ、そっちじゃない。アメリカ人のグラハムがこの部隊にいるのが不服なのか?」

 

 

 核心をズバリ言い当てられ、思わず息を飲む。

 その反応を目の当たりにし、零は「やはりか」と少し困った顔になる。

 

 

「彼と初めて顔合わせした時、大尉の表情に揺らぎがあったからもしやとは思ったが……。そんなにアメリカ人――いや、米国そのものが嫌いか?」

 

「……中佐には関係ないと思いますが」

 

「関係なくはないな。少なくとも今の俺は君たちの上官だ。部隊を預かる身として部下の間で問題があると判断すれば、可能な限りその問題を対処する義務がある。だから聞かせてくれないか? そこまで米国を嫌う理由を」

 

 

 零の真剣な眼差しに負けたのか、上官の質問に黙ることが出来ないのか、絢香は小さくため息をつく。

 

 

「……明星作戦。あれの決定打が私から全てを奪いました」

 

 

 ただそれだけを告げると、絢香は逃げるようにその場を去って行った。

 残された零はもたらされた内容を元に話をつなげ、納得する。

 

――米国のG弾強行が原因か。流れからして、奪われたのは人の繋がりと言ったところか。

 

 

「やれやれ、第5の連中も面倒ごとを増やしてくれる」

 

 

 ぼやきつつ今後の方針を頭で固め、反対側のMSデッキへ足を向ける。今までいた場所が旋風専用のスペースで、もう一つはMS専用のスペースとなっている。

 ここではグラハムとニールが慣熟訓練を続けており、裕司がMSについての基本知識を習得していた。

 

 

「調子はどうだ?」

 

「レベル4の命中率がようやく90%を超えた。もう少しで100%に届きそうだ」

 

「自分は87%です。ニールの射撃精度は流石と言ったところでしょう」

 

「いやいや、グラハム。君の腕前もなかなかの物だと思うよ」

 

 

 裕司が手にした端末を零の前に持ってくると、ウェイブライダーで突撃してからスタンドポジションに変形しつつ踵で敵機を蹴り上げているデルタプラスが映し出された。

 思わず「VSシリーズの特格→変形格闘かよ……」とこぼす零だが、幸いそれを聞いた者はいなかった。

 

 

「シミュレーターだから出来る挙動ですけど、実際に使えば体への負荷が凄まじい物になると思います」

 

「だな。それに対人戦ならともかく、BETA戦では効果は薄いだろう」

 

「それは百も承知です。これは手段の一つとしてとどめるつもりなので」

 

 

 不敵に笑うグラハムを頼もしく思いながら零は機体をチェックし、整備が問題ないのを確認する。

 

 

「よし、片桐。グラハムの機体の担当を君に一任する。細かな部分は二人で行い、強化については案をまとめて俺に提出してくれ」

 

「自分としては喜ばしい限りですが、よろしいのですか?」

 

「問題ない。ステップアップは出来るだけ早くさせるのが俺のやり方だ。それだけ俺は君を買っているんだからな」

 

「感謝します、中佐」

 

「ならば頼みがあるのだが、構わないか? カタギリ」

 

「お、早速かい。要望は何かな?」

 

「――この機体を、私色に染め上げて欲しい」

 

 

 その発言を受け裕司はニヤリと笑い、ニールは頭にハテナマークを浮かべ、零は思わず噴き出しそうになった。

 

 

 

総合技術演習試験場近海 プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 道中思わず名言に噴き出しかけたりしたが、どうにか無事に目的地のすぐ近くに到着した。

 整備兵の訓練やめぼしい人材の目処も立ち、有意義な航路だったと言えよう。

 特にA班の島田と堀川、櫻井の3人は非常に良いチームだと断言出来る。

 少しぶっ飛んだ感はあるが、仕上がりは他の班と比べて頭一つ抜きん出ていた。

 ああ言うチームは非常にありがたい。見ていても面白いからな。

 それはさておき、俺はブリッジの端末から手早く通信を入れる。

 

 

「どうも、お届け物です」

 

『待ってたわ。上陸を許可するからさっさと来なさい。試験もそろそろ終わるわ』

 

「了解です。ところで、近くに武はいますか?」

 

『呼んだか? 零』

 

 

 名前を呼んですぐ通信相手の水着美女――香月博士の後ろから目的の人物が現れた。

 

 

「お疲れ。ヒョッコたちの様子はどうだ?」

 

『見た感じ大きなミスもトラブルもない。このままなら問題なく合格だな』

 

「そうか、用意が無駄にならずに済みそうだ。 間も無くそちらに合流する。後で彼女たちを労ってやろうじゃないか」

 

『おう。じゃあ後でな』

 

『早く来なさいよー』

 

 

 最後に博士が上機嫌に注文を告げるとグラスを傾けながら通信を切った。

 どうやらタイミングはバッチリだったようだ。

 ならばご希望通り上陸を始めるか。

 

 

「社、トレミーを可能な限り博士たちがいるビーチに寄せてくれ。上陸準備に入る」

 

「はい」

 

 

 ここに来るまでの操舵を担当したのはなんと霞だ。

 本人たっての希望もあり、ハロをサポートにつけて任せてみたら意外にも上手くやってくれた。これはもうご褒美として早く専用ハロを組んでやる必要があるな。

 

 

「さて――全員に通達。我々はこれより目的地に上陸する。なお、各衛士は機体に搭乗し指定物資の搬出を行ってくれ。荷物運びだが、訓練を兼ねた行動だからしっかりやってくれ」

 

 

 艦内放送で指示を出し、俺も上陸に備えての準備を始める。

 

 

 

総合技術演習試験場 回収ポイント付近

 

 

 博士たちと合流した俺は部隊の連中に指示を出し、武と共に回収ポイントへと向かっていた。

 無論、訓練兵たちを労うためだ。

 両部隊とも誰一人として欠けることなく最優先目的である脱出を達成したのは既に確認済みだ。

 今頃は神宮司軍曹からセオリー云々についての振り返りやお祝いの言葉をもらっているだろう。

 

 

「それにしても、旋風だけでなくMSまで持って来てよかったのか?」

 

「なに、頑張り次第ではあの機体に乗せてやるぞと言う目標の一つとして紹介するだけだ。それにA-01へ配属されれば必ず旋風に乗ることになるんだから、実物を見せておくに越したことはない――お、来たぞ」

 

 

 足を止めて前方を指差す。進行方向から神宮司軍曹を先頭に笑顔で歩いてくる207訓練部隊の面々を発見し、武も足を止める。

 向こうもこちらを発見したようで、驚いた顔をすると示し合わせたように駆け寄って来た。

 

 

「「「――ご報告します! 207A分隊及び207B分隊、総合技術演習に合格しました!!」」」

 

「おめでとう。次はついに戦術機だな」

 

 

 武が敬礼しながら言葉を返し、俺も返礼して続く。

 

 

「おめでとう諸君。ささやかではあるが、向こうに食事を用意してある。汗を流してから食べに来るといい」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

 

 清々しい声で答え、先に進んでいく少女たちを見送り神宮司軍曹と合流する。

 

 

「軍曹もお疲れ様。ようやく一区切りつきましたね」

 

「いえ、自分は任務を果たしただけですから」

 

「今日はめでたい日だ。堅苦しいのは無しにして、軍曹も楽しむといい」

 

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

 

 

 神宮司軍曹を伴って戻って来ると、指示した通り既に宴会の場が整っていた。

 ドラム缶を加工して作られた複数のバーベキューコンロ。焚き火にセットされた飯盒炊飯。そして仮設テントでは食材を用意している連中で溢れていた。

 

 

「ちゅ、中佐、彼らは一体……。それにあの戦術機は……不知火?」

 

「そういえば、軍曹はまだ知らなかったな。彼らは俺の開発部隊の整備兵と、専属部隊の衛士たちだ。戦術機は不知火の改造機である不知火・旋風と、部隊衛士の特別専用機だ。専用機については、Need to knowで頼む」

 

「はっ、了解しました」

 

 

 間も無くして訓練兵たちがやって来たので、俺は持ってきた木箱の上に立ち、拡声器を手にする。

 

 

『ご苦労だ諸君。 今回の催しを計画した張本人として、この宴会について説明をさせていただく。まずこの宴会は、二つの部隊の打ち上げを兼ねている。一つは特別開発部門にして独立機動遊撃部隊の肩書を持つ我がオーバーワールドの特別訓練合宿の打ち上げ。そしてもう一つは、国連軍第207訓練部隊の総合技術演習全員合格の打ち上げである。訓練兵の諸君、改めて合格おめでとう!』

 

 

 辺りから喝采が上がり、訓練兵の少女たちに降り注ぐ。それを恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに彼女たちは受け取る。

 

 

『さあ、口上はこのくらいにして……遠慮はいらない。全員好きなだけかっ喰らえ!!」

 

 

 宴が幕を開ける。

 ある者はひたすらに肉を食らい、ある者たちはドリンクを片手に肩を組んで歌を歌い、ある者は自慢の料理を披露し、ある一団は海へと向かっていった。

 

 

「神林、分かっているわね?」

 

「ご安心を、酒は全てトレミーの俺の部屋にあります。後ほどお持ちしますので、今はどうか……」

 

「熟知してるわ。マッドドッグの餌食になるのはゴメンだしね」

 

 

 こんなところで狂犬が放たれればどうなるか分かった物ではない。

 爆発物を扱う以上にアルコールの流れはコントロールしなければ。

 博士と簡単な打ち合わせをした後、俺はジュースを片手に人を探す。

 彼女は、割とすぐに見つかった。

 

 

「楽しんでいるか? 葉月大尉」

 

 

 談笑が終わったのを見計らい声をかけると、葉月大尉は慌てて敬礼をする。

 

 

「何か御用でしょうか?」

 

「なに、少し言いたいことがあって な。――明星作戦のあれが、アメリカの総意だと思わないでやってくれってだけだ」

 

 

 瞬間、大尉の目つきが鋭くなる。しかし俺は臆することなく、続ける。

 

 

「全部を好きになれとは言わない。だが人は見極めろ。少なくともあれを良しとするような奴はまずいないからな。それが使ってきた国の人間だとしてもな」

 

「…………」

 

「いらぬお節介と思われたなら謝ろう。だがこれだけは覚えておいてくれ。俺は困らせたくて話しているんじゃない、死なせたくないから話しているんだ。――邪魔して悪かったな」

 

 

 謝罪してその場を後にする。

 背中に刺さる視線がなんともいたたまれない。

 やはり時間がかかりそうだな、この手の問題は。

 これ以上の干渉は逆効果になる可能性も――

 

 

「れ、零ぃ――――――!!」

 

「ん? どうした武。血相を変えて眠そうな社を抱えてくるとか変質者にしか見え――!?」

 

 

 そこまで口にしたところで形容し難い悪寒が背中に走る。武の背後から禍々しい気配を感じて目を向けると――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しぃ~~~~ろぉ~~~~がぁ~~~~ねぇ~~~~~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酒が入った神宮寺まりも(マッドドッグ)がいた。

 

 

「なんでだあああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 武が隣に来ると同時に社をお姫様抱っこで受け取りともに全力疾走する!

 と言うか何故だ!?

 マジでなんでだ!?

 酒は間違いなくトレミーに置いて来た!

 一本たりとも持ち込んだ覚えはない!

 博士がドンペリ呑んでたが、あの人が飲ますようなヘマをするわけがない!!

 

 

「武! どうしてこうなった!? 博士はどうした!?」

 

「知らねぇ! いつの間にかまりもちゃんの手に『柚煮羽合洲(ゆにばあす)』って大吟醸が握られてたんだ! 夕呼先生は、もう……!」

 

「くっ! 分散するぞ! 最悪社だけでも死守しなければならない!」

 

「確率50%だな! 恨みっ子ナシだぞ!」

 

「当然だ! 行くぞ! 3、2、1、ゼロ!!」

 

 

 二手に分かれて俺はとりあえず絶対安全圏である旋風の管制ユニットを目指すことにした。

 

 

「は!? 上!? まりもちゃん速すぎ、ア――――――――ッ!」

 

 

 反対方向から聞こえる絶叫に対し、俺は心の中で十字を切ってひたすらに足を進めるのだった。

 

 

 

 

 その後の調査で酒を持ち込んだのは技術組の男であったことが分かった。

 神宮司軍曹にナンパをして食われたらしく、目を覚ましたあとその男は禁酒を決意したという。




第20話、いかがでしたでしょうか?

何処かで見たことある名前のキャラがいたかもしれませんが、この作品はフィクションです。実在する人物や団体とは一切無関係です。

それはさておき、しばらくは絢香の説得に四苦八苦しそうです。
そしてお知らせです。
ようやくTE合流の目処が経ちました。2話以内の本編に確実に出る予定です。作者はTEをアニメ版しか知らないので、あとは可能な限りwikiで補完します。

勢いで新作も上げてしまったので、そちらにも時間を取られるかもしれませんがこれからもよろしくお願いします。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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第21話

どうもこんばんわ、艦これで長門欲しさに無茶苦茶建造したものの30回以上やって手ごたえが全くなかった作者です。
ラス1で建造時間5時間と出て「ようやく来たか!?」と思いきや陸奥だったときのがっかり感。
もう、建造(つく)れません……。
でも2代目響がようやくお迎えできたから良いか。

それはさておき、前回からだいぶ早く投稿できました第21話です。
TEのアニメを見てからこのシーンを書きたくて仕方ありませんでした。
では本編第21話、どうぞご覧ください。


総合技術演習試験場近海 プトレマイオス2 零の私室

 

 

 武と言う尊い犠牲を払いどうにか機体の元に辿り着き――当初予定していた旋風をやめてデルタカイに乗り込み――完全に寝落ちした霞を連れてトレミーへの避難に成功する。

 周りの連中も神宮司軍曹の異常性を察して霞の避難に協力してくれたおかげでかなりスムーズにことが進んだのも大きな一因だ。

 ちなみに彼女は隣の仮眠室で未だに夢の中である。

 しかしなんて禍々しいプレッシャーを放つんだ、狂犬モード。恐怖だけならBETAを超えたと断言出来そうだったぞ。

 冷蔵庫に入れておいたミネラルウォーターを喉に流し込み、ようやく一息入れる。

 出来れば早めに戻りたいが、軍曹の状態がいつまで続くかわからない以上ヘタに動きたくないのが本音だ。

 最後に目に焼き付いたのは泡を吹いて痙攣している男たちとピクリとも動く気配がなかった博士の姿だった。

 

 

「もう少ししてから様子を見に行くか――ん? 通信だと?」

 

 

 携帯端末から響くコール音を受け、部屋のモニターにセットして応答するとウィンドウに巌谷中佐が映し出された。

 ああ、そういえばGステーションから戻る時に通信の暗号コードを教えていたな。

 

 

『突然で済まないな、神林中佐』

 

「問題ありませんよ。それよりどうされましたか?」

 

『以前に不知火改修計画に出向している部下を試験小隊ごと中佐の下に呼び寄せるかどうかの話をしたのを覚えているかね? その話が正式にまとまり、近い内にアルゴス試験小隊の横浜基地への異動が決定した』

 

 

 おお、それはありがたい。ようやくTE組と合流出来るのか。

 

 

「了解しました。ならば一度、責任者と顔合わせをしておきましょうか」

 

『一足先に横浜へ呼び出すということかね?』

 

「いえ、こちらから赴きます。呼び出しを持ちかけたのば自分ですから、最初の顔合わせぐらいはこちらから動きませんと」

 

『なるほど。そうしたいのなら君に任せよう』

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 

 通信を終了させ、大きく息をはく。

 懸念が一つ減って、楽しみが増えたと言ったところか。

 戦力強化にもなって、佐渡島攻略も少しは楽になるはずだ。

 明日の朝に武たちは別のヘリで横浜へ戻るはずだから、俺たちはこのままアラスカに向かうか。

 

 

「――楽しみだ、とてもとても楽しみだ」

 

 

 少し機嫌が良くなったが、そろそろ戻らないとな。

 霞の枕元にあそこへ戻るとメモを残して少し思案する。

 

 

「……こうなったら、賭けに出てみるか」

 

 

 自室に移しておいた酒の数々を種類に関係なくアルコール度数が高い順に持ち出して小型のコンテナに詰めて行く。確認しに行った時点で神宮司軍曹が酔いつぶれていたならそれでいい。

 だがもしまだ動けるようなら毒を持って毒を制すしかない。

 すなわち、酔い潰れるまでトコトン呑ませればいいのだ。

 酒がなくなるのが先か、潰すのが先か。

 これはもはや平和を賭けた戦いなのだ。

 

 

「――――行くぞ軍曹。アルコールの耐性は充分か?」

 

 

 100本近い古今東西の酒を用意し終え、俺は狂犬が跋扈する戦場へと向かった。

 

 

 

 

 

 ――――なお、結末だけを述べれば俺は94本の酒を犠牲にして勝利したと伝えておこう。

 詳細? すまないが思い出したくもない。

 

 

 

太平洋 プトレマイオス2 ブリーフィングルーム

 

 

 死屍累々とした宴会から一夜明け、零が率いるオーバーワールドはアラスカのユーコン基地を目指していた。

 その最中、ブリーフィングルームに集められた主要メンバーは今回の目的について聞かされていた。

 

 

「プトレマイオスがアラスカの国連軍ユーコン基地に向かっているのはさっき艦内放送で伝えたな。 その理由についてだが、現在アラスカでは俺たちとは別の不知火改修計画が実施されており、帝国技術廠の巌谷中佐の部下が出向している」

 

「巌谷中佐の? もしや、斯衛軍の篁中尉ですか?」

 

「お、片桐は知り合いか?」

 

「ええ。巌谷中佐を通じて何度かお会いしたことがあります」

 

「なるほど――話を戻すぞ。その不知火改修計画の実施場所が横浜基地に移り、現在担当している試験小隊と俺たちの合同で行われることになった。詳しい内容は省くが、今回の目的はそれについてこれからよろしくと言う挨拶だな」

 

「でしたら私たちも向かう必要はないのでは?」

 

「普通は葉月の言う通りだが、アラスカも海を挟んでいるとはいえソ連のBETA勢力圏とは目と鼻の先だ。今回全員で向かうのは不測の事態に備えてと、それが起きた時の対応を目的とするからだ。まあ基地に向かうのは俺だけだから、お前たちは連絡がない限りここで待機だ」

 

 

 何事もなければそれでよし。万が一があれば対応して、ついでにデータを取るだけである。

 

 

「今の航行速度なら明日の昼には着くはずだからその間に葉月、小早川、井吹の3名は旋風に試験実装したシミュレーターモードで訓練を。グラハムとニールは俺と短時間だが飛行訓練を行う。二人には実際に飛んで体で機体特性を覚えてもらうからな」

 

 

 絢香とグラハムがほぼ同時に「了解」と答えたのを合図に、その日の打ち合わせは終了した。

 その折に、零はふと視界に入った端末の日付に目を奪われる。

 

――もう9月に入るのか。ここまで順調に来たが、これから先も上手く行ってくれるだろうか。

 

 そう思いつつ、零も準備のためブリーフィングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、全てが順調に進むなどという甘い考えを簡単に認めはしないのが因果の流れである。

 例えそれが、結果として良い流れに進んだとしても。

 

 

 

アラスカ湾 プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 海流の影響で予定より遅れたが、トレミーは無事にアラスカ沿岸部に近い海域についた。

 ここからユーコン基地行きの輸送機に乗せてもらって向かうはずだったが、現在既に昼の15時。到着予定時刻は17時以降になるだろう。

 デルタカイならここからでも最速で10分とかからないのに、面倒なことだ。

 

 

「どうせ遅くなるのなら、先に一報入れておくか」

 

 

 手元のコンソールで回線を開き、ユーコン基地に繋げる。

 ワンコールとたたずに基地のオペレーターが出た。

 

 

『こちらは国連軍ユーコン基地オペレーター室です』

 

「国連軍横浜基地所属、神林 零 中佐だ。XFJ計画の篁中尉と繋いでくれ。承認コードは――」

 

『コード、確認しました。しばらくおま――――』

 

「――ん? もしもし? どうした?」

 

 

 なんだ? 不可抗力で電話が切れたのか?

 首を傾げながらもう一度コールするが、今度はうんともすんとも言わなかった。

 仕方なく他の番号でユーコン基地に繋げようとするがこちらが知り得る全てのコードが不通に終わる。

 

 

「……どういうことだ? 基地の何処にも繋がらないなんて普通じゃない――」

 

 

 そこまで口にして、脳裏で唐突に何かが閃く。

 TE。ユーコン基地。軍用通信回線が軒並み謎の不通。

 そして思わず目を向けた先の時計は――15時を少し過ぎていた。

 

 

「まさか……いや、いくらなんでも早すぎる。あれはまだ半月後の話だ」

 

 

 だが余りにも条件が揃い過ぎている以上、とても無関係とは思えない。

 可能性があるならば、俺や早すぎる武の介入によって因果に影響が出たといったところか。

 下手をすれば他の出来事にも影響しているかもしれないが、確認する手立てはない。

 ともかく、今は俺しかいないのでさっきの独り言が誰にも聞かれなかったのは幸いだったが、もし予想通りならマズイことになる!

 アラートを鳴らし艦内放送で衛士とパイロットをブリーフィングルームに呼び出し、整備班には全ての機体を実戦仕様に換装するよう指示を出す。

 予想に間違いがなければユーコン基地は今――。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 正面ゲート

 

 

 平和な時間が終わりを告げるのは、交通事故のように突然だ。

 ほんの数時間前まで平和な時間が続いていたこのユーコン基地も今は銃声と悲鳴が鳴り響き、建物が黒煙を噴き上げていた。

 また何処かで銃声が上がり、人が命を散らす。

 そう――人が、だ。

 銃が殺めているのは人類の敵(BETA)ではなく、それらから護られるべき(ひと)だった。

 真っ当な精神の持ち主ならばこの異変をテロリストによる襲撃、もしくはクーデターと捉えるだろう。

 今回の場合は、前者であった。

 RLF難民開放戦線が国連軍の腐敗をただし、ユーラシアの同胞を、切り捨てられる弱者を救うと掲げていた。

 そしてこの正面ゲートでも昨日までの――いや、数時間前までの友に銃を向けた者がいた。

 

 

「――こんな、こんなテロなんかで世界が救えるなんて、本当に信じてるのかよ……!」

 

 

 今にも泣きそうな声でタリサ・マナンダルは自分に向けて小銃を構えている親友、ナタリー・デュクレールに叫ぶ。

 大切な友人がテロに加担し、人の命を奪おうとする。それが彼女には信じられなかった。

 そのすぐ側で、タリサと共に行動していたユウヤ・ブリッジスはナタリーの行動に違和感を感じていた。

 

――おかしい。ナタリーの奴、どう考えても喋りすぎだ。何故すぐに殺さない?

 

 逃げるための車は既にオシャカになってしまい、向こうは10人近いMPが銃を構えている。

 傍からみれば状況は絶望的ともとれるが、ナタリーは話しを続ける。

 まるで、このテロに関する情報を提供するかのように。

 

 

「もちろんよ! アメリカ、ソ連、国連の実戦部隊は仲間が乗っ取った。――ついでに、無駄金を食う試作機は全部壊してやるの! あなたたちの機体も、一つ残らずね! とっても素敵でしょ!?」

 

「――っ! ナァタァリィィィィィィ!!」

 

 

 怒りに染まったタリサの声が響く。

 遣る瀬無い怒りが拳を震わせ、今にもナタリーに飛びかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――直後、ナタリーたちの背後が轟音と共に爆発した。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「ぐわああっ!!」

 

 

 巻き上げられた瓦礫がMPたちを押し潰し、バリケードのように配置されたトラックが次々と転倒する。

 その隙を突き、タリサは一直線にナタリーの懐へと飛び込んだ。

 

 

「しまっ――!」

 

「ぉおらあぁ!」

 

 

 小柄な体型を活かして一気にタックルを見舞い押し倒す。

 タリサが飛び出した時点で同時に動いたユウヤと崔 亦菲(ツィ・イーフェイ)もすぐに駆け寄り、銃とナタリーの身柄を確保する。

 

 

「タリサ! 逃げるぞ!」

 

「待てよユウヤ! 一発殴らないと気が済まねぇ!」

 

「んなもんは逃げた後でやれ!」

 

「――ちっ、変なマネすんなよ。ナタリー」

 

「……わかったわ、タリサ」

 

 

 ユウヤの指摘に渋々了承しナタリーに小銃を突きつけるタリサ。

 ナタリーも抵抗するだけ無駄だと判断したのか、あっさりと――しかし何処か安堵したかのように――指示に従った。

 一方ユウヤは目くらましとしてガソリンが洩れた軍用車両に石をぶつけ、火花を散らして燃料に引火させる。

 炎の壁が形成され、ユウヤたちの追っ手を食い止める役割を果たした。

 

――これで少しは時間を稼げる。たが、さっきのは一体……。

 

 思考を始めたところで、不意に何処からかジェット音が聞こえてきた。

 何処からかと空を仰ぎ探してみると、前方の空から飛来する二つの機影を見つけた。

 

 

「あれは……不知火? 爆撃機に乗っているのか?」

 

 

 見慣れた不知火の頭部の機体を確認するが、自分が知っている機体とは各所に差異が見受けられた。

 不知火が飛び降り、軽くなった戦闘機はさらに加速してユウヤたちの頭上を超えた。

 

 

「な、あれは!?」

 

 

 先頭を行く機体にユウヤは見覚えがあった。

 その戦闘機は初めて見た時と同じように急上昇すると、一瞬で真の姿を現した。

 巨大な砲門を備えたシールド。長い銃身のライフル。背面のバインダーに備わったコの字型の何か。

 そしてV字アンテナにツインアイの頭部。

 

 

「――蒼炎の翼!」

 

 

 両肩に以前はなかった二つのエンブレムが描かれているが、間違いなく自分たちの窮地を救ったあの所属不明機だ。

 蒼炎の翼というのは、関節部から青い炎を出し戦闘機に変形することから基地の衛士たちの間で広まった不明機の名前だった。

 しかしあのカムチャツカの事件以来忽然と行方を眩まし、様々な国や企業が足取りを追ったが手がかり一つ出なかった。

 その機体がなんの因果か、再び自分たちの前に現れた。

 その隣で一歩後ろを飛んでいた戦闘機も同じように変形すると、蒼炎の翼によく似た姿を見せた。

 違いといえば蒼炎の翼のカラーリングが全体的に白なのに対し、こちらは全体的に黒くバインダーにはコの字型の何かも無く丸みを帯びたシールドにはグレネードのような物が装填されていた。

 

 

「――とにかく、今はこの騒ぎを片付けるのが先だ」

 

 

 直ぐにでも呼びかけたい衝動に打ち勝ち、ユウヤはタリサたちの後を追った。




第21話、いかがでしたでしょうか?
まずナタリーの生存フラグが経ちました。
アニメで死なれたときかなり悲しかったのでどうしても生かしたかった。

さて、ついにユーコンテロ事件編です。
前述にも記したように、ナタリーを生存させるには早い段階での介入が必須でした。
なのでクリストファー少佐の紅の姉妹人形計画は早くも崩壊の兆しを見せています。
え、インフィニティーズ? 出番、あるかなぁ……。

ともあれ、今回はここまで。
次回投稿は筆のノリ次第です。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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第22話

どうもこんにちわ、最近ようやく艦これで長門が出たり久しぶりのフルブでデルタの☆が5つになった作者です。

さて、今回はユーコンテロへの介入に至る内容と唯依姫たちとの合流まで進みます。
いつもより若干短いですが、思い切って投稿することにしました。

それでは本編第22話、どうぞご覧ください。


アラスカ湾 プトレマイオス2 ブリーフィングルーム

 

 アラートと艦内放送を流して数分。零がブリーフィングルームに足を踏み入れた時点で既に衛士、もしくはパイロットが全員そろっていた。

 いずれも引き締まった表情をしており、現状がただ事ではないのを十分に理解していた。

 

 

「敬礼は不要だ、時間が惜しい。――先ほど、目的地である国連軍アラスカユーコン基地との通信が途絶した。通常、非常用を問わずだ。軍用回線が軒並み通信不能に陥ったことからユーコン基地で異常事態が発生したと判断し、我々はMS及び戦術機で直接現地に向かう」

 

「直接、ですか?」

 

 

 秋生の確認に「そうだ」と返し、零は続ける。

 

 

「具体的には俺のデルタカイとグラハムのデルタプラスがウェイブライダーで葉月、小早川、井吹の旋風を運ぶ。その際に俺が葉月を、グラハムが小早川を乗せる。井吹の機体はウェイブライダーのまま二人で腕をつかみ、そのまま運ぶ」

 

「中佐、俺はどうなる?」

 

「ニールのデュナメスはGNドライブの恩恵で単独での飛行が可能だ。だが戦術機を抱えてはウェイブライダーと並行移動が出来ないので今回は簡易補給コンテナを運んでもらう」

 

 

 デュナメスに限っては先行して調査するという手もあるが、零としては正確な事態が把握できない以上ヘタに戦力を分散させたくなかった。

 また最悪の場合を想定して補給コンテナには推進剤と弾薬、試作のエネルギータンクとリペアキットが3つ用意された。

 早々やられることはないだろうが、用意するに越したことはないと言うのが彼の考えだ。

 

 

「なお、今回の作戦においてコールサインを用意した。移動中に説明するから、誰が何なのかそこで頭に叩き込んでくれ。――では、行動を開始する。各員速やかに強化装備、もしくはパイロットスーツに着替えて機体に搭乗せよ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 全員が一斉にブリーフィングルームを後にし、零も遅れないよう急いでパイロットスーツに着替えMSデッキに移動する。

 

 

「さて――ん? なんだこのエンブレムは?」

 

 

 愛機、ガンダムデルタカイの元にたどり着くと両肩に見慣れないものが描かれていた。

 右肩には地球とその上にOWの文字が。左肩には黒い文字でδマークとその下にZEROの文字が。

 彼の呟きが聞こえたのか、側にいた島田班長が側によって説明する。

 

 

「うちの堀川が考案した部隊エンブレムと、中佐のパーソナルエンブレムですよ。何もないとさびしいからって勝手にやって、櫻井に殴り倒されてましたけど」

 

「……いや、かまわない。堀川整備兵にはGJと伝えてくれ」

 

「了解です。ご武運を」

 

 

 コクピットに乗り込みシステムを起動。全周天モニターが点灯し、周囲の状況が映し出される。

 既に機体はシステムを起動させている途中でカタパルトデッキに固定されていた。

 リニアボルテージ上昇……クリア。

 射出進路……クリア。

 全システム……オールグリーン。

 

 

「神林 零、ガンダムデルタカイ、出るぞ!」

 

 

 射出時のGを全身で感じ、零はオーバーワールドとして初めての作戦を開始した。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 正面ゲート

 

 

 ユーコン基地にたどり着いた俺は、事態が予想通りだったことに悪態をついた。

 基地から数キロ手前の地点でニールに狙撃指示を出したおかげでユウヤたちは無事に離脱できたようだ。

 護衛として井吹も下ろしたから、あれならば大体のことに対応できるだろう。

 だが最早この先は俺の知っている状況と違い、本来ここで死ぬはずだったナタリーが生存している。足手まといにならないと思いたいが、生存確率は可能な限り上げよう。

 

 

オーバー1(グラハム)オーバー4(小早川)オーバー2(ニール)オーバー5(井吹)に合流しろ! 俺はいま離脱していった衛士に話を聞いてくる! オーバー3(葉月)は俺のサポートを頼む!」

 

『『『了解!』』』

 

 

 二手に分かれ、まずはユウヤたちを探す。

 それほど離れた場所には移動しておらず、比較的直ぐに見つかった。

 

 

「お前たち、無事か!?」

 

 

 外部スピーカーで呼びかけると、全員が驚いた顔で見上げていた。

 

 

「その声……やっぱあんた、カムチャツカの時の!」

 

「お、覚えてくれていたとは光栄だ。だがそれは後回しだ、まずはお前たちをハンガーまで護衛しよう。手に乗れ」

 

 

 片膝を立たせてライフルを持ち替え、右手を4人の前に下ろす。

 しかしユウヤのそばにいた崔 中尉が怪訝そうに尋ねる。

 

 

「味方と見ていいのかしら?」

 

「一般人も平気で殺すようなテロリストがわざわざ敵をハンガーまで運んでくれるのか? それより時間がない。早くしろ」

 

「――タリサ、中尉。乗せてもらおう。多少目立つが、走って行くよりは早いはずだ」

 

 

 ユウヤがガンダムの手に足を掛けたのを皮切りに残りの3人も続く。

 全員が乗ったことを確認し、可能な限り風で煽らせないように指を立てる。

 

 

「XFJ計画のハンガーに行ってくれ! あそこなら俺たちの仲間がいる!」

 

「了解した! オーバー3、データリンクで位置はわかるか?」

 

『特定しました。ですが妙です、特定した直後から基地のデータリンクが更新されていません』

 

「情報部もやられたみたいだな。だが最優先目的地がわかったならこっちの物だ。撃ってくる奴は敵とみなして無力化させる。行くぞ!」

 

 

 ブーストを軽くふかして目的のハンガーを目指す。しかし移動がMSのためか地上からMPたちが攻撃をし掛けてきた。

 だが鋼鉄の巨人にそんなものは豆鉄砲と同じで、痛くも痒くもない。

 俺はとりあえず威嚇としてバルカンをMPたちから少し離れた場所に撃ち込む。

 戦術機の突撃砲の倍近い口径による攻撃に流石のMPも恐怖に駆られて蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

 うーむ、ガンダムMk-2を強奪した時のカミーユみたいだな。

 ならばとりあえず、

 

 

「アッハハハハハ! ざまぁないぜ!」

 

『中佐、完全に悪役ですよ』

 

「ですよねー」

 

 

 ええ、わかっていましたとも。

 所々でこちらに発砲してきた連中に一方的な痛さと怖さを教えてやりながら移動し、ものの数分で目的地にたどり着く。

 ちょうど誰か受け入れてようとしているのか、シャッターが開こうとしていた。

 

 

「ユウヤ! 篁中尉だ!」

 

「わかってる。 ――篁中尉!!」

 

 

 ユウヤの声が届いたのか、シャッターの前にいた唯依姫とクリスカがこちらを見るなり驚いている姿が見えた。

 シャッターが全開になろうとしていることから、俺はこれ幸いと葉月を連れて中に入る。

 周りの連中が俺たちの機体を指差して見ているが、それはこの際どうでもいい。

 ユウヤたちを降ろすと先にハンガーに入った唯依姫が無事な姿に安堵していた。

 

 

「オーバー3、一度降りるぞ。ただし、機体はいつでも動ける状態でロックをかけろ」

 

『了解』

 

 

 葉月に指示したように俺も機体にロックをかけコクピットハッチを開く。

 あたりから動揺の声が上がるが、全て無視してワイヤーラダーで降り立つ。葉月も同じように降りると、すぐさま俺の側にきた。

 

 

「貴官が篁中尉だな?」

 

 

 ヘルメットを外しながら尋ねる、彼女の前にやってくる。やはりと言うか、困惑と警戒の感情が見て取れた。

 

 

「国連軍横浜基地所属、独立遊撃部隊『オーバーワールド』隊長、神林 零 臨時中佐だ。こっちは部下の葉月 絢香大尉」

 

「XFJ計画責任者、篁 唯依中尉です。部下を助けていただき、感謝します」

 

「細かい話は後だ。まずはーー彼女から大まかな情報を聞き出す」

 

 

 視線を向けた先には、周りの連中から怪訝な視線を一身に受けるナタリーがいた。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー

 

 

 ナタリー・デュクレールがテロリストの一人だった。

 彼女の店の常連であったアルゴス小隊の面々にもたらされたその情報はまさしく衝撃的な話だった。

 しかし、彼女の口から明かされたテロの内容はその衝撃をさらに上回った。

 

 

「アメリカがこんなところでBETAを研究していたなんて……」

 

「確かに公になったらとんでもないことだぜ、こりゃ」

 

「国連の内情も大概だ。下手をすれば、矛先がこちらにも向きかねない」

 

 

 あたりから動揺の声が上がる中、零は前世の記憶を思い返していた。

 彼の記憶ではテロリストがアメリカの爆撃部隊を迎撃するため光線級を使った。

 そしてBETAはエネルギー補給のために最も近い甲26号ーーエヴェンスクハイヴに向かうことになる。

 しかし北米絶対防衛線、通称レッドシフトという防衛ラインに一定数のBETAが通過すれば埋没された水爆が起爆してアラスカが割れる。

 零としてもこれは許容できないことであり、これからの歴史を正すためにも必要不可欠な阻止項目だ。

 

――今からBETA研究施設を探して破壊するには時間がかかりすぎる。ならいっそ解放させて現れたところを片っ端から撃破した方がいい。一番ベストなのは、リルフォートに到達される前だな。米軍の爆撃機と光線級は……ニールの狙撃とグラハムで無力化してもらおう。

 

 これからの算段を立て零は頷く。

 

 

「まずは抑えられた戦術機の弾薬、推進剤を奪取するぞ! 動かせる戦術機は片っ端から火を入れ、動ける衛士が乗り込め! 非常事態だ、機体が何処の資産とかどうでもいい! 作業完了後、非戦闘員は速やかに地下シェルターへ退避しろ! ――篁中尉。君が乗る機体はあるか?」

 

「はっ、斯衛のハンガーに武御雷があります。専用の長刀も予備を含めれば戦闘は十分に可能かと」

 

「ならば葉月大尉を護衛につけよう。大尉、聞いての通りだ。迅速に中尉を連れて行ってくれ。俺は全周警戒をしつつグラハムたちを呼ぶ」

 

「了解しました。お気をつけて」

 

「そっちもな。 各員、早急に作業にかかれ! モタモタしてると蜂の巣にされるぞ!」

 

「神林中佐! ナタリーはどうしましょうか!?」

 

「お前はテロリストだったとはいえ顔見知りの可愛いお嬢さんを死なせたいのか!? 男ならやることは決まってるだろ、そうだろ軍曹!」

 

「了解しました中佐殿ぉ!」

 

 

 ヴィンセントの返答に満足し、零もヘルメットを抱えたままワイヤーラダーに足をかけ機体に乗り込む。

 ロックを解除してヘルメットを被り直すと、タイミングよくグラハムから通信が入った。

 

 

『こちらオーバー1。オーバー2とオーバー5に合流しました。しかし基地より機影を多数確認、こちらに向かってきています。交戦は避けられないかと』

 

「こちらオーバー0。交戦は最小限とし、攻撃する際は管制ユニットを避け武器、もしくは行動不能に持ち込め。こちらは現地にて目的の人物とその部隊と合流した。だが事態は思わしくない方向へと進んでいる。すまないが敵を突破してこちらへきてくれ」

 

『フ、臨むところだと言わせていただきます』

 

 

 通信を終了させレーダーを見ると、こちらに接近してくる2個小隊分の機影が確認された。

 ひとつは零たちの方へ、もうひとつは絢香たちの方へと向かっていた。

 それを見て零は少し考え込み、やがて笑みを浮かべる。

 

 

「よろこべ、お前たち。奴さんがわざわざ武器を持ってきてくれたぞ」

 

『中佐、そりゃ攻撃しに来たっていうんじゃないっすか?』

 

「ジアコーザ少尉の言う通りでもあるが、実弾装備の武器を持ってきたのも事実だ。遠慮なくいただき、この事件から早急に退場してもらおう」

 

 

 楽しそうにグリップを握り直し、完全に開かれたシャッターから外に出る。機体を向けた方向には先ほどレーダーにかかった敵機の姿が。

 

 

「さあ、懺悔の時だ。そしてこの基地に俺たちが来たことを後悔しろ!」

 

 

 スロットルが一気に開かれたデルタカイは一直線に敵機へと向かい、右手にしたライフルで開戦の福音を鳴らした。




第22話、如何でしたでしょうか?

ユーコン編は早ければ次回、遅くとも後2回ほどで終わらせる予定です。
唯依姫たちが横浜に来るのはそこから少し後になります。
先に軟弱者がくるかな?

ともあれ、今回はここまで。
それでは、また次回にお会いしましょう。





そういえばZ3も2週目が終わりました。
ヒイロの撃墜数が1400を超えました。
ゴールドエンブレムとゲートジャンパーを装備してBセーブでフル改造ロリバスが5発に加え射撃の数値がカンスト、僚機にパーツ供給をもつオズマ(AB習得済み)とカートリッジとスーパーリペアキットとテンションレイザー、そして開幕バサラの突撃ラブハート。これで59話の敵初期ユニットの8割を狩り尽くしました。
もうこいつ一人でいいんじゃないかな……。

あとボン太くんとボスキャラの会話面白すぎる。


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第23話

どうもこんばんわ、給料入ったのをいいことにまたガンプラを大人買いしてしまった作者です。

最近小説投稿サイト暁さんとのマルチにしようか絶賛迷走中です。
それはさておき、今回も引き続きユーコンテロ編です。
思っていた以上に話が厚く、予定していた当初よりも話が長くなりそうです。

ともあれ本編第23話、どうぞご覧ください。


国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー

 

 

 零がガンダムデルタカイに乗り込んだのと同じ頃、ユウヤ・ブリッジスは不知火・弍型の微調整をしながらたった今出撃していった零について考えていた。

 初めて助けられた時に教えられた通り日本人だったが、国連軍の中佐だと言うのは流石に予想外だった。

 しかも新型や改造機と思われる不知火を引き連れてだ。

 

――新型はともかく、不知火は俺たちの開発に対するあてつけか? ……いや、考えるのは後だ。まずはこの騒動を終わらせよう。

 

 

「ブリッジス少尉、少しいいか?」

 

「ん? どうした、クリスカ」

 

 

 気持ちを切り替えるとタイミングよくF-15Eに乗り込んだクリスカ・ビャーチェノワから通信が入る。

 しかしその表情は何処か優れないようにも見えた。

 

 

「あの神林と言う中佐、普通じゃないようだ」

 

「普通じゃない? まあ、あんな機体に乗っている時点で普通じゃないのはわかるが――」

 

「いや、もっと根本的に、人間として一線を画しているような……」

 

「人間として? どういうことだ?」

 

「……すまない、戯言だ。忘れてくれ」

 

 

 軽く頭を振って通信を切るクリスカ。しかし、彼女の中では今だに零に対する疑問が渦巻いていた。

 

――リーディングが出来ないと言うことは私とイーニァについて知っているからか? 仮にそうだとしても、いったい何処で処置を受けた?

 

 

「ビャーチェノワ少尉! 出撃準備が完了したぞ! ただし推進剤が80%ほどしかないから注意しろ!」

 

 

 思考の海に沈みかけたところでヴィンセント・ローウェルの声に気づき、はっと顔を上げる。

 どうやらユウヤより先に出撃のようだ。

 

 

「了解した。 クリスカ・ビャーチェノワ、出る!」

 

 

――まずはここを凌いでイーニァに合流する。全てはそれからだ。

 

 思考を切り替えたクリスカは迷いを排除して戦場へ身を投じた。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー付近

 

 

 初撃のロング・メガ・バスターで一機目のF-16の頭部を破壊すると俺はライフルを手放し、続いてシールドからビームサーベルを引き抜いて両腕両脚、両跳躍ユニットをV字で一気に斬り落とす。

 他の三機がフォーメーションを立て直そうと一瞬動きを止めたが、それを逃すほど俺は間抜けではない。

 まず一番遠い敵に向けてバルカンを射出し、結果を見ずにブーストをふかし一気に接近。近くの敵機2機を手にしたビームサーベルですれ違いざまに足、腕の順にいただき、そのままバルカンを食らってふらついた相手の後ろを取りライダーキックをお見舞いし地上へと蹴り落とす。

 残りの2機がこちらに振り向いて突撃砲を向けるが、直後に背後から放たれた突撃砲にやられて爆散する。

 見ればF-15Eが最初に落とした機体から突撃砲を奪って攻撃したようだ。

 

 

『ご無事ですか? 中佐』

 

「感謝する、ビャーチェノワ少尉」

 

 

 狙っていた武装と敵衛士の情報源が減ったが仕方ないか……あれ、そう言えばこの機体に敵の衛士って乗ってたっけ?

 まあいいや。いたならそれでよし、いないならいないで武装だけいただこう。

 

 

「少尉、その機体に衛士はいるか?」

 

『――いえ、無人機のようです」

 

「そうか、ならここに来た敵は全部自立駆動か……。少尉、武器の確保を頼む。俺はこのまま篁中尉たちのところへ向かう」

 

『了解しました』

 

 

 ビームサーベルを収納してライフルを回収すると、俺はもう一つの一団に向けて機体を飛ばす。その先でさらに二手に分かれた敵の片方が突撃砲を撃ちながらこちらに迫る。

 

 

「ハッ! 遅すぎるぞ木偶人形!」

 

 

 ロング・メガ・バスターで腕と頭を吹っ飛ばし、ライフルを左手に持ち替えながらサーベルを抜き肩から先と肘から先をそれぞれ切り飛ばす。すれ違うと共に振り向いて跳躍ユニットにバルカンを叩き込んで機動力を奪うのも忘れない。

 もう片方のグループをチェックすると、葉月の旋風が右手にビームサーベルを、左手にビームライフルを持って残りのF-16を行動不能に陥れていた。

 

 

『中佐、敵機の沈黙を確認しました』

 

「よくやった、武器を奪ったら速やかに機体を破壊するぞ。遠隔操作で自爆でもされたら厄介だ――お、グラハムたちも来たか」

 

 

 指示を出して間も無く敵を突破して来たグラハムたちがやって来た。

 戦力も揃いつつあるし、しっかりと装備が整えられればあとは正面突破だ。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 中央司令部

 

 

 今回のテロにおいて主だった作戦の実行部隊リーダーであるヴァレンタインから命令系統を引き継いだクリストファーは、部下からもたらされる情報に作戦が順調に進んでいるのを実感していた。

 

――しかし神の計画とやらも、こうも簡単に進むと味気ないものだな。

 

 獣のような笑みを浮かべてモニターを眺め自身の目的へ着実に近づいているのを感じていると、不意にコンソール席の部下からどよめきが走った。

 

 

「どうした、貴様ら」

 

「しょ、少佐。西側ハンガー地区に向かっていた自立駆動機8機が全滅しました。交戦したのはアルゴス試験小隊と思われるのですが、その……」

 

「なんだ? ハッキリ言え!」

 

「ハッ、未確認ではありますが、あの『蒼炎の翼』がいるとの情報が……」

 

「『蒼炎の翼』だと?」

 

 

 その噂は聞いたことがあった。

 一月ほど前、カムチャツカ補給前線基地に突如として現れ、基地に仕掛けてきたBETAを単騎で全滅させたと言う謎の戦術機だ。

 空中でレーザーを避け、光学兵器を使用し、関節部から蒼い炎を吹き、そして戦闘機へと変形すると言うまるで妄想の中の機体だ。

 クリストファー自身も話を聞いた当初は「そんな機体があってたまるか」と一蹴していたが、もし本当に噂通りの機体であるならば――

 

 

「フン、面白い。奴らはメインディッシュとしていただこう。しばらく泳がせておけ」

 

 

 その指示は自分が負けることなど微塵もないと言う絶対的自信があった。

 数や力量を考慮しても圧倒的に分があるのは自分の方だと彼は確信していたからだ。

 しかし、彼は知ることになる。

 この世界の戦力を基準で分析した上での確信など、あれの前ではチリ紙のように消し飛ぶだけだと言うことを。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ハンガー前

 

 

 自立駆動のF-16から突撃砲を計18門入手した零たちは全周警戒をしつつ円陣を組んで作戦会議を開いていた。

 

 

「――まずは部隊を二手に分ける。補給及び情報収集のA部隊と、A部隊を動きやすくするためのB部隊だ。A部隊の隊長は篁中尉とし、副官は崔 中尉とする。なお、編成はその二人に加えアルゴス小隊全員とビャーチェノワ少尉の計7名。オーバーワールドはB部隊として行動し、俺を隊長としてエーカー大尉を副官に据える。何か質問は?」

 

「中佐、私は原隊に復帰したいのですが」

 

「原隊復帰は構わないが、単機での活動は認めないぞ、ビャーチェノワ少尉。――A部隊、何か案はあるか?」

 

「中佐、イーダル小隊のハンガーならばここから迂回して行ける位置にあります。森の中を突っ切るので、発見もされにくいかと」

 

「中佐。私はブリッジス少尉の案を採用しようと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「隊長である君が決めたならそれでいい。ただ目標地点に到着したら連絡をくれ。――そう言うわけでビャーチェノワ少尉、少し回り道になるが構わないな?」

 

「ありがとうございます」

 

「よし、これより行動を開始する。いいか、誰一人として欠けることは許さないからな。これは最優先命令だ」

 

『『『了解!』』』

 

「よし、作戦開始だ。オーバーワールド、全機続け!」

 

 

 部隊が二手に分かれ、零が率いるB部隊はイーダル小隊のハンガーと逆方向の地点を目指して出撃する。

 同時に、零はこの後の流れを記憶の海からサルベージしようとしたが、どうにもうまく思い出せないでいた。

 

――確かユウヤたちが補給を終えた後にBETAが出てきて、インフィニティーズが光線級の殲滅に乗り出したんだよな。イーダル小隊……と言うかイーニァと合流したのもそれくらいか。クソ、クリストファーがどのタイミングで出張ってきた思い出せない。出来れば先にSu-47を無力化しておきたいんだがな。

 

 

「中佐! 9時方向から接近する機影あり! 数は12!」

 

「フ、温いな。フォーメーションM1で迎撃する! 5分以内に殲滅出来なかったら戻った時に全員で腕立て100回だ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

 零の指示で各々がポジションに移る。

 零とグラハムが前衛になり、その後ろに絢香、秋生、光がきて最後尾にニールが着く。

 本来ならば隊長が前衛に立つべきではないのだが、零の持論は部隊の初陣こそ隊長が先頭に立つべきだと言う物だ。

 

 

「さて、オーバー2、ニール・ディランディ。狙い撃つぜ!」

 

 

 デュナメスがGNスナイパーライフルを構えて先制する。

 遠距離からの狙撃に何も出来ないまま一機目のF-16が撃墜される。

 

 

「オーバー1、グラハム・エーカー。迎撃する!」

 

 

 デルタプラスが敵の砲撃に合わせて素早く左手にしたライフルを撃ち放つ。

 

 

「こちらオーバー4、小早川 秋生。仕掛けます」

 

「オーバー5、井吹 光。攻撃を開始します!」

 

 

 グラハムたちの口上を聞き、同じように宣言しながら秋生と光の旋風が攻撃を開始する。

 

 

「……オーバー3、葉月 絢香。行きます」

 

 

 そして絢香が空気を読んで宣言したのを聞き、零は口元を緩ませた。

 

 

「よし。オーバー0、神林 零。障害を駆逐する!」

 

 

 自身も高らかに口上をあげ、ロング・メガ・バスターで射線に重なった敵を撃ち抜いた。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

 テロリストの男性衛士は戦慄していた。

 彼は奪った機体で基地の人の命を欲望のまま狩り散らし、絶対的強者になった気でいた。

 実弾は全て自分たちの物。良くて模擬弾しか持っていない相手などただの動く的。牙を失った獣。一般人に至っては泣いて喚いて懇願したところで殺されるしか未来がないただの弱者としか捉えていなかったのだ。

 しかしここに来て、その衛士はちっぽけな自尊心を完膚無きまでに破壊し尽くされた。

 

――なんだ……なんだあれは、なんなんだあれは!?

 

 また目の前で仲間の機体が爆散する。

 相手にしている部隊の倍の機体数で挑んだにもかかわらず、3分も立たないうちに7機が撃墜された。

 近づこうにも光学兵器の弾幕に阻まれ、同じく弾幕で対抗しようものなら遠距離からの狙撃で狙い撃ちにされる。

 そして何より、唯一二つのエンブレムをつけた機体の動きが速すぎた。

 オートロックオンが間に合わず、トリガーに指をかける頃には既にロックが外れているのだ。

 

 

「チクショウ! こんなバケモノ共の相手なんかできっか!」

 

 

 メチャクチャに弾をばら撒きながら残った僚機を盾にし、男は逃亡を計る。しかし、突如鳴り響いたアラートで背筋が凍った。

 自分の盾となる味方機はまだ4機残っていたはずだ。幾ら何でもすぐにやられるわけがないと男は考えていた。

 

 

――そ、そうだ。このアラートはシステムの誤作動だ。こんなオンボロの機体に乗ってんだから異常があるのが普通なんだ。でなきゃこの俺があんな雑魚どもに後れを取るはずがなーーがはっ!」

 

 

 だがそんな浅はかな考えを嘲笑うかのように、突如機体が大きく揺れ肺の中の空気が押し出される。

 数度咳き込んで機体状況を確認してみれば、あの先頭にいた白い機体に頭部を鷲掴みにされていた。

 しかもいつの間にか四肢は切断されており、いわゆるダルマ状態であった。

 

 

「ひぃっ!? た、たすけ! ころ、ここころされ……!」

 

 

 緑のツインアイが向けられ、男は恐怖のあまり操縦桿をガチャガチャと激しく動かす。

 しかし機体は何も出来ない。ただ足をもがれたアリのように、醜く身をよじるだけだった。

 

 

「さて。お前が最後なわけだが、何か言い残すことはあるか?」

 

 

 接触回線を通じて白い機体の衛士から通信が入る。

 みっともなく震えながら、男は叫んだ。

 

 

「た、頼む! 見逃してくれ! あんたらに協力するから! 命だけは、命だけは助けてくれ!」

 

「ふむ、助けて欲しいか……」

 

 

 白い機体の衛士――デルタカイに乗っている零は少し間をおいてから口を開く。

 

 

「ところで、お前はそうやって同じことを言った人を見逃したのか?」

 

「へっ!?」

 

「見逃したのかと聞いているんだ。どうなんだ?」

 

「も……もちろん見逃しました! だからどうか、命だけは!」

 

「……そうか」

 

 

 声色が緩くなり、男は助かる希望を感じた。

 

 

「――ふざけるなよクズ野郎」

 

「へ?」

 

 

 男が間抜けな声を上げた瞬間、管制ユニットの中が光に満ちた。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

 捉えた敵機の管制ユニットをビームサーベルで貫き、引き抜くと同時に放り投げる。

 クソッタレが。何が「見逃した」だ。明らかに殺しまくっているのがバレバレで虫酸が走る。

 数瞬遅れて爆散した機体を見て、思わず悪態をつくが、直ぐに気持ちを切り替えて周囲を探索する。

 ……ふむ、特に目立った反応は無しか。唯依姫たちが目的地点にたどり着くまでまだまだかかるはずだから、もう少し暴れるか――憂さ晴らしも兼ねて。

 まだ腹の中を渦巻く苛立ちを解消すべく、俺は仲間を引き連れて次の場所へと移動した。




第23話、いかがでしょうか?

次回にようやくイーニャが出せそうな気がします。
ただ引き抜き云々はまだ話が固まっていないので今回は見送りになりそうです。
あと感想でもありましたが、零が不在時のトレミーの艦長については既に候補者がいます。
今のうちから誰が来るか予想してみてください。

それでは今回はここまで。
また次回にお会いしましょう。


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第24話

どうもお久しぶりです、生きていました作者です。
最近仕事が忙しすぎて執筆時間と休日がゴリゴリ削られています。
しばらく投稿が遅れ気味になりますがご了承ください。

さて、第24話です。
以前あと2話くらいで終わると言いましたが、すいませんまだ掛かります。
あとイーニャも直接描写に書き込めませんでした(サーセンシタ! サーセンシタァァァ!!
とはいえ、ユーコンテロ事件もいよいよ佳境。
相変わらずの駄文っぷりですが、どうか楽しんでいってください。

それでは、本編第24話をごらんください。


国連軍 アラスカユーコン基地 中央司令部

 

 

 有線カメラを通じてもたらされた映像に指令部を占拠していたテロリストたちは一様に言葉を失った。

 『蒼炎の翼』の部隊と思しき一団に倍近い戦力をぶつけたにもかかわらず、3分とかからずそのすべてが撃墜されたのだ。

 何より異彩を放つのは彼らが使用している武装だ。

 全員が光学兵器を携行しており、内一機は遠距離から一発必中の狙撃で確実に撃破していた。

 これには軍人上がりのクリストファーも強く興味を惹かれた。

 

 

「はははは! こいつはいい! どうやら『蒼炎の翼』とやらは、噂以上に我々の想像を超えたものを持っているようだな」

 

 

 獰猛な笑みを浮かべ、クリストファーはモニターからの情報を元に獲物の狙いを推理する。

 

 

――この動き方。まるで自分たちのところへ集まれと言っているようなものだ。そう考えれば奴らは陽動……つまり、他の連中への目を逸らさせるために動いているのだろう。となれば、先ほどアルゴス小隊とやらの連中のために暴れていると見た。

 

 

「アルゴス小隊の連中を探し出せ! 発見次第、ジゼルの部隊に追撃をかけさせろ! 『蒼炎の翼』殿には自立駆動機の波状攻撃をプレゼントしてやれ! 例の準備も急げよ!」

 

 

 クリストファーの指示に尻込みしかけたテロリストたちに活気が戻り、各々が力強く応じる。

 零たちが介入してから約1時間。オリジナルから大きく外れた世界はさらに加速する。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

 陽動のために基地中心部へ向けて移動をしていた零たちだが、ここにきて敵の攻め方に変化が生じた。

 全方位から敵の波状攻撃。しかしその数があまりにも少なく、敵は一気に攻めたりはせず、距離を取って延々と集中砲火のみをして来ていた。

 

 

「6時方向及び11時方向より敵機影! 数、それぞれ3!」

 

「4時方向からも敵機影です! 数は2!」

 

「ちぃ! 遠距離からねちねちと鬱陶しい!」

 

「ぼやくな小早川中尉! 陽動がうまくいっているという証拠だ!」

 

「けどよグラハム、邪魔なことには変わりないぜ!」

 

 

 仲間の会話を聞きながら 零もロング・メガ・バスターでまた一機撃墜するが、敵の動きに違和感を感じ始める。

 

――陽動がうまくいっているのも正しいが、何故誘うように攻撃するだけで一気に攻めてこない。その気になれば全方位からの突撃でこちらに損害を与えることも出来なくはないはずだ。これでは時間や弾薬を潰しているようなもの――

 

 

「――いや、もしやそれが狙いか!?」

 

 

 策を看破された可能性に至り、零は素早く思考を巡らせる。

 いくら武器を手に入れたとはいえ、アルゴス小隊のグループは万全とは言い難い。そこへ戦力を集中されてはいくら彼らでも苦戦は免れない可能性がある。

 

――原作ではジゼルが率いる24機の敵部隊をユウヤが相手にしている最中にイーニァと合流していたはず。原作通りなら無事に潜り抜けられるはずだが、俺たちが出張ったことでどれだけの戦力が送り込まれたかが問題だ。

 

 

 そこまで考察したところで、唐突にアラートが耳を突く。

 

 

「対光線級BETA円周警報? こんなところで?」

 

「恐らくテロリストの欺瞞情報ね。心理的に警戒させ、高度を取れなく仕向けるつもりよ」

 

 

 光の疑問に対して絢香がそう解釈するが、零は小さく舌打ちをした。

 彼の記憶ではこれから間も無くユウヤの単機陽動が行われ、その後研究所のBETAが解放される。

 沸いた端からBETAを片付けて行くつもりだったため下手に基地から離れるわけにもいかなくなってしまった。

 

――光線級と爆撃機はニールとグラハムで対応するつもりだったが、この状況では迂闊に動かせないな。原作ではインフィニティーズが始末してくれたはずだから、この際俺たちは基地に向かって来るBETAに集中すればいい。ただ今回はハイヴへの帰還を最優先にしている可能性があるから以前のようにn_i_t_r_oで誘き寄せるのは効かないだろう。特にまだ民間人がいるリルフォートへ侵入されるのだけは避けたいな。ユウヤたちの方は……信じるしかないか。

 

 

「――全機、高度に気を配れ。欺瞞情報と断ずるには早すぎる」

 

「何故です? このタイミングで円周警報が流れるとすれば、どう考えても葉月大尉が言ったように高度を取らせない作戦なのでは?」

 

「ナタリー・デュクレールの情報を忘れたのか? 米国のBETA極秘研究施設が、このアラスカに存在すると言うことを」

 

 

 その一言で、全員がハッとなる。

 テロリストに加担していた彼女の情報が正しければこの土地にはBETAがおり、その中には光線級がいる可能性も十分にあるのだ。

 絢香もその可能性に至ると、欺瞞情報だと断じた自分の浅はかさを痛感した。

 

 

「アルゴス組の様子も気になるが、本格的にBETAが出てきたら未だ民間人がいる近くの街にまで被害が及ぶぞ。どうする、中佐」

 

 

 ニールの質問に零は一度目を伏せ、短い間をおいて決断を下す。

 

 

「アルゴス組はうまくいっていると信じるしかない。それに俺たちの役目は陽動だ。下手に合流しに行けば彼らの居場所を教えるような物だ」

 

「では、このまま陽動を続けると?」

 

「ああ。だがBETAが解放されたら近くの街へ被害が出る可能性が非常に高い。なので我々は陽動をこなしつつ、いつBETAが現れても即応できる地点へ移動するぞ」

 

「了解。――しかし我が祖国ながら、民間人の近くで面倒な研究をしてくれる」

 

 

 ギリッとグリップを握りしめ、グラハムは忌々しそうに吐き捨てる。

 零たちは向かって来る敵機を撃墜しつつ、目標ポイントへ向かう。

 BETA出現を知らせるアラート、コード991が発令されたのは、ポイントに到達してから間もない頃だった。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 オーバーワールドBETA迎撃地点

 

 

 テロリストのヴァレンタイン――いや、メリエム・ザーナーだったか? まあ、同一人物だからいいか――の演説が流れ始めて間も無く、モニターの正面から異形の生物が群れを成して迫っていた。

 そして俺たちの後ろにはアラスカ基地があり、民間人の避難が完了していない街がある。

 

 

「さて、本来ならまだ人が大勢いる街の防衛にのみ専念したいところだが、テロリストが公表したレッドシフトとやらが本当だった場合、人類にとっての被害は甚大な物になる」

 

 

 食料や弾薬などの生産地である北米が最前線にでもなったら文字通り生産性が落ち、それに伴い難民たちの食糧問題が加速し人命にまで響く。

 それを考慮すれば街の数万人よりこれからの数千万人を優先するのが普通だろう。

 ――そう、普通ならだ。

 

 

「幸いこちらには広域殲滅兵器や長距離狙撃機などが揃っている。火力を考えれば、BETAの殲滅は十分可能だ。どれほどの規模が基地で研究されていたかは不明だが、街への侵入は言わずもがな、俺たちの後ろにだって通すな」

 

『後ろに通すな、ねぇ。なかなかハードルが高いな』

 

『ですけどディランディ中尉。あれを聞いた後ならそんなことも言ってられないじゃないですか』

 

『言葉の綾ってヤツだ。それと井吹中尉、俺のことは呼び捨てでいいぜ。小早川中尉もな』

 

『え、いいの? なら遠慮なく』

 

『では俺もそうさせてもらおうか』

 

 

 中尉ズが交流を深めている一方、大尉の二人は会話もせずに眼前の敵を見据えていた。

 ふむ、補給も済ませてあるし、そろそろ頃合いか。

 

 

「よし、フォーメーションはさっき言ったとおりだ。トップを俺が受け持ち、右翼をグラハム、左翼を葉月が担当。グラハムのサポートを小早川が担当し、葉月のサポートを井吹が担当。ニールはやや後方で大型種を中心に狙い撃て。なお、俺はチャージが溜まったら順次強力な一撃を叩き込むから、その時はこぼした敵を優先に仕留めてくれ」

 

 

 それぞれから了解と返答を受け、俺はシールドのハイメガキャノンのチャージが完了しているのを確認して構える。

 

 

「では、一発目行くぞ! ――オーバー0、フォックス2!」

 

 

 カムチャツカでBETAを一掃した時のように、シールドに備えられたハイメガキャノンから太いビームが照射される。

 ただし狙いは真正面ではなくやや左側。無論これはミスなどではない。

 

 

「うぉらああぁぁぁッ!!」

 

 

 ビームを撃ちながらシールドを横に動かし、敵を薙ぎ払う。広がろうとしたBETAは光の中に消えて行き、塵一つとして残りはしなかった。

 

 

『……すごい』

 

『これが中佐の、ガンダムの力か』

 

 

 絢香とグラハムの戦慄混じりの声を聞きながらハイメガキャノンの再チャージを始める。それから間も無く、ビームを逃れた後続が次々と湧き出てきた。

 

 

「全機、兵器使用自由! 攻撃開始!」

 

 

 命令を受けまずニールが戦闘の突撃級を狙い撃つ。

 それを皮切りに他の連中も広がろうとするBETAを優先的に叩き、侵攻の拡大を防ぐ。

 もちろん俺もロング・メガ・バスターを一番高い効果を発揮する地点へ向けてトリガーを引く。

 ファンネルを使うまでもなく、BETAは着実にその数を減らしていた。

 

 

「オーバー3からオーバー5、機体状況を報告しろ。不具合とかないか?」

 

『こちらオーバー3。各部に異常は見られません』

 

『こちらオーバー4。同じく問題ありません』

 

『こちらオーバー5。問題はありませんが、質問があります。このライフルに中佐のシールドみたいな照射は搭載出来ないんですか? あれがあったらもっといいと思うんですけど』

 

「あー、それは設計段階で俺も考えたが、カートリッジの消費量が多すぎるから見送った。照射ビームについては専用装備があるからそっちで試してみてくれ」

 

 

 しかし照射ビームに興味を持ったか、井吹。この戦闘の結果次第ではバスターガンダムあたりに乗せてやってもいいかもしれないな。

 そう思いつつ2発目のハイメガキャノンのチャージが完了し、先程のように味方へ警告してから同じように敵を薙ぐ。

 流石にこちらが持ち込んだ中で最も火力の高いハイメガキャノンを2発も食らったのが効いたのか、後続のBETAが目に見えて削られていく。

 

 

「よし。各機、弾薬とエネルギーに気を配りつつ攻撃を継続しろ。あと小型種の動きにも注意しておけ」

 

 

 仕留め損ねた兵士級が街に侵入して民間人を喰った、なんてことになったら目も当てられないからな……ん、レーダーに感有り?

 5つの機影が反対側から現れ、直ぐに3機と2機に分かれる。その動きに思わず「む?」っと声を洩らすが、すぐに思い出す。

 確か唯依姫たちが司令部と通信センターを奪還するために分かれたんだったな。

 

 

「となると、いよいよ少佐殿のお出ましか」

 

 

 呟くと、見計らうようにレーダーがさらに40……いや、50近い機影を捕捉する。

 噂をすればなんとやら、だな。

 原作では40くらいだったが、ここに来て差異が生じたな。

 さらにご丁寧なことに俺たちの方へ30近い機体が向かっており、残りが唯依姫たちへと向かっていった。

 

 

『中佐! テロリストが!』

 

「わかっている! ――敵さんはBETAより俺たちの方が邪魔なようだな」

 

 

 まあ、自分たちが解放しておいて共闘しようと言い出したら逆に怪しすぎるんだがな。

 

 

「グラハム! ニール! 井吹! BETAを頼む! 俺と葉月、小早川はテロリストの迎撃をする! ここが正念場だ、気合い入れて行くぞ!」

 

 

 副長であるグラハムにこの場を託し、事件の終わりが近づくのを感じながら俺は自分たちに向かって来た敵を迎え撃つべく、葉月たちを率いて機体を反転させた。




第24話、いかがでしたでしょうか?
アルゴス組の話を書いていたらダラダラしそうだったのでここから一気に進むように書きます。
それでも事後処理を含めてあと2・3話くらいかなぁ。
○○話詐欺にならないよう努力していきますので、これからも宜しくお願いします。
それでは、また次回にお会いしましょう。



追記

最近艦これで3-2を突破しました。
ちなみに編成と結果はこんな感じで
電改 (Lv88)大破
雷改 (Lv40)MVP
島風改(Lv27)大破
雪風改(Lv34)小破
響改 (Lv46)
吹雪改(Lv44)中破


しかし3-4のボス戦にて戦闘開始時点小破の赤城改(Lv52)と小破寸前の加賀改(Lv49)が帰らぬ人となってしまいました。(戦艦とヲ級ちゃんの集中砲火とかあァァァんまりだァァアァ!


さらに追記
挿入機能のテストを兼ねて現在作中で稼働しているオーバーワールドのガンプラを乗せてみました
手前のトリコロールのデルタカイ個人的なは趣味です。あと後ろのは置き場に困ったガンプラ達です

【挿絵表示】


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第25話

どうもこんばんわ、休みを失いなかなかなくならない疲労に悩まされている作者です。

さて、いよいよユーコンテロ事件も終わりです。(というか終わらせました
いろいろとコメントしたいところではありますが、それはあとがきの方へ載せさせていただきます。

それでは本編第25話、どうぞご覧ください。


国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

「おいおい、何だってお前がこっちにくるんだよ。まあ、障害を早い段階で始末できると思えばそれはいいのかもしれないが」

 

 

 モニター正面の機体に映し出された黒っぽいグレーの機体をみて思わず声をあげる。

 Su-47E『ビェールクト』。搭乗者は間違いなく恭順派(建前)の元軍人、クリストファー少佐だろう。

 原作を見てても何がしたかったのかイマイチ理解できなかったが、とりあえずあの機体を使ってクリスカとイーニァを手駒にしようとしてドラゴンボールのパラガスみたいな最後を遂げていたな。

 それはさておき、こうして敵の指揮官が自ら出張ってきてくれたんだ。

 ラーストチカやファルクラムがそれなりにいるが、大した障害でもない。

 

 

「オーバー0から各機。正面のあからさまな機体は敵指揮官の可能性が高い。あれを叩けば敵は総崩れになるだろうが、見ての通り数だけはそれなりにそろっている」

 

『敵は我々を包囲するように部隊を動かしていますが、どうします? 左右どちらかから切り崩して攻めてみますか?』

 

『ですが大尉、後でもしものことがあった場合を考えると先に敵指揮官機を撃墜した方がよくないですか?』

 

 

 二人の発言を聞き、この後の出来事を思い出す。

 正直、ここでクリストファーを墜としてしまえばあとはもうなにも無いに等しい。

 せいぜいインフィニティーズがやってきて残存BETAやテロリストを始末。同じく爆撃機がBETAを潰しまわるくらいしか残っちゃいない。クリスカ、イーニァの暴走もビェールクトの管制ユニットをあとかたもなく潰せば問題ないだろう。

 個人的にはあの二人を軍の研究素材という檻から解いて、好きなように生きてもらいたいところだがな。

 

 

「……それは今考えるべきことじゃないな」

 

『中佐?』

 

「なんでもない。それより作戦についてだが、小早川の言ったように敵指揮官を最優先に倒す。ただし――」

 

 

 グリップを握り直し、二人から飛び出てくるであろう言葉と表情を予想しながらそれを告げる。

 

 

「――仕掛けるのは俺だけだ。お前たちは他のテロリストを始末してくれ」

 

 

 ウィンドに映し出された二人の顔が、予想通り驚愕へと変わった。

 

 

『ふ、ふざけているんですか!? 部隊長がたった一人で敵指揮官に突っ込むなんて、いくらその機体がすごくても自殺行為に等しいじゃないですか!』

 

『そうです! それに単機で行ったとしてもその取り回しの悪いライフルではいざという時にやられる可能性が!』

 

「心配するな、俺にはまだとっておきの切り札が残っている。それこそ初見だったりただの衛士ではまず対応できないようなものだ」

 

『ですが!』

 

「作戦に変更はない。それに、お前たちが他のテロリストを減らしてくれればそれだけ俺の方も楽になるんだ。――頼んだぞ」

 

 

 流石にこれ以上は何を言ってもきかないと察したのか、二人はそれぞれ「了解」と答えて通信を切った。

 

 

「さて。いくぜ、相棒」

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

 包囲網を突破してきた機体を見て、クリストファーは唇を喜悦に歪めた。

 

 

「そうだ! 貴様とやりたかったのだ!」

 

 

 目の前に現れた機体に向けてオープンチャンネルを開くと同時に突撃砲を構え、随伴のファルクラム10機と共に一斉射を行う。

 「フン」と鼻を鳴らして回避しながら零もオープンチャンネルを開き、クリストファーたちへ呼びかける。

 

 

「撃たれてから言うのもなんだが、一応通告する。これ以上の抵抗は無意味だ、おとなしく投降して然るべき場所で罰を受けろ」

 

「ハッ! 貴様がその機体を置いて死んでくれるなら少しは考えてやってもいいぞ!」

 

「阿呆が。どこの世界にテロリストを投降させるために自ら死を選んで自分の愛機をくれてやる馬鹿がいる?」

 

「ならば答えはNOだ! 貴様を殺して機体をいただくとしよう! あの小娘どもよりよっぽど面白そうだからなぁ!」

 

 

 随伴機を含めた全11機の戦術機が一斉に動き出し、デルタカイを追い詰めようとあらゆる方向から突撃砲を乱射する。

 それを回避しながら零もロング・メガ・バスターで反撃を試みるが、連携の取れた攻撃が動きを制限してなかなか撃てないでいた。

 

 

「貴様の戦いは見させてもらった! そのライフルとシールドの砲門を使わせなければ、残るのは頭部のバルカンしかない! さあ、いつまで避けられるかな!?」

 

「……そうか。そう思っているのならお前の負けだ」

 

 

 クリストファーの強気な発言を聞き、零は不敵に笑いその武器に告げる。

 

 

「――いけ、ファンネル!」

 

 

 バインダーに取りついていた二つのコの字型のもの――プロト・フィン・ファンネルが零の命令に応え起動する。

 バインダーから離れた二つのファンネルはそれぞれ独自に宙を舞い、零の命ずるままの機動を描く。

 そして見たことのないモノを目の当たりにしたテロリストたちは突然飛びまわり始めたそれに動揺し、攻撃の手を止めてしまった。

 

 

「そこ!」

 

 

 そんな絶好の隙を零が見逃すはずもなく、彼の指示を受けたファンネルたちがその砲門から拡散したビームを吐き出し数機のファルクラムを爆散させる。

 同時に出来た余裕を使いロング・メガ・バスターで射線軸が重なった敵機をまとめて撃墜する。

 

 

「な、なんだあれは!?」

 

「自動砲台の一種だってのか!?」

 

「落ち着け貴様ら! 撃ってくるなら撃ち落とせばいいだけだ!」

 

 

 クリストファーの一喝で混乱しかけたテロリストが少し冷静さを取り戻し、自在に舞うファンネルに銃口を向ける。しかし、その行動はもっとも自由にしてはいけない男に時間を与える結果となってしまった。

 

 

「俺を前にして余所見とは、ずいぶんと余裕だな」

 

 

 オープンチャンネルから響く余裕ぶった声に一番早く気づいたクリストファーがふと目をやると、いつの間にか地上に降りてシールドのハイメガキャノンを空に向けて構えるガンダムデルタカイがそこにいた。

 

 

「っ! 全機、離脱しろ!」

 

「させるか!」

 

 

 離脱しながら命令を飛ばすクリストファーだがまともに対応できた者はおらず、ファルクラムは全て光りの中へと消えて爆発した。

 他の2機の相手に向かった20機のラストーチカをこちらに呼び戻そうとするが、そちらもすでに7割近くがやられており全滅までそう時間がかからないのが窺えた。

 

――ば、馬鹿な!? たった……たった数分で俺の部隊が全滅だと!?

 

 

「これでお前を守るものはなくなった。と言うより、機体性能の差が大きすぎるからこうなることは目に見えていたがな。 さあ、最後通告だ。おとなしく投降しろ」

 

「ふざけるなっ! この俺が、こんなところでやられるわけがない!」

 

 

 左手の突撃砲を乱射しながら右手のモーターブレードを起動させ斬りかかる。

 それを見ながら零は「ふむ」と呟き、スラスターを噴かせて難なく避けてみせファンネルとロング・メガ・バスターでロックオンだけして様子を眺めた。

 管制ユニット内でロックオン警告のアラートが鳴り響く中、クリストファーはロックオンを振り切ろうと跳躍ユニットを全開にする。

 しかし、いくら機動を細かくしてもロックオンが外れることはなく、アラートがジリジリと精神を削って行った。

 そこでクリストファーは気づく。相手はロックオンをかけ続けるだけで攻撃をしてこようとはしない。

 つまり、遊ばれているということに。

 

 

「き、貴様ぁ! 俺をおちょくっているのか!? 何故撃って来んのだ!」

 

「おちょくっているからに決まっているだろ。いい加減認めろ、お前は既に詰んでいるんだ。解放されたBETAも俺の部隊が始末して、お前たちが奪った戦術機は確実にその数を減らしている。紅の姉妹を手に入れようとしていたみたいだが、あれはお前ごときが御せるものではない」

 

「! 貴様、どこまで知っている!?」

 

「さてな。知っていることしか知らない、と言えば納得するか?」

 

「納得できるかぁ!」

 

 

 しびれを切らして機体をデルタカイへ向け、ロックオンを承知で突撃砲を撃ちまくる。しかしファンネルが背後から機体を破壊しない程度の威力で攻撃し、ビェールクトが大きく揺さぶられる。

 

 

「さて。あきらめてもらおうとここまでやってきたが、どうやらお前は諦めが悪い上に今後を考慮しても百害あって一利なしの敵だ。悪いが、遠慮はしない」

 

 

 冷たく言い放ち、ロング・メガ・バスターが管制ユニットをロックオンする。

 

 

「く……くそがあああぁぁぁ!!」

 

 

 なおも抵抗の意思を見せるクリストファーだが、桃色の軌跡が管制ユニットを貫き、数秒置いて機体が爆発した。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

「……あっけなさすぎる最期だったな。ともかく、敵指揮官は潰れた。他も時間の問題だろう」

 

 

 放出していたファンネルを再びバインダーへ戻しながら俺はレーダーやモニターに目をやりつつ最後の処理事項を確認する。

 BETAも数が減ってきているからそろそろ打ち止めだろうし、テロリストは頭を潰したからもう終わりだ。あとは中央司令部と情報センターを奪還すれば全部終了だが、一番の問題は――

 

 

「やっぱ、ここに介入したことだろうな」

 

 

 今回の件でレッドシフトやBETAの極秘研究が公になったはずだからアメリカやソ連は動きにくくなるだろうが、それでも黙っちゃいないだろう。特に第5計画の連中が。

 民間協力者とはいえ国連に属している以上間違いなく命令系統への組み込みを命令してくるだろうし、最悪の場合は全技術の接収を要求してくるだろう。

 それを防ぐには圧倒的戦力差を見せつけ牽制する必要があるのだが、生憎とそこまでインパクトのある機体は俺のデルタカイしかない。

 MA……それもデストロイやサイコガンダムのような、見た目的にも威圧できる機体があれば少しは黙らせることができるだろうが、今から開発したらどれくらいの時間がかかることか。

 ひとまずこれは保留にして、トレミーに戻ってから考えよう……って、あーそうだ。俺が不在の代理艦長の手配もしないとな。俺が前線に出張る以上いつまでも艦長席にいられないわけだし。

 またデータベースを洗い直すか。まだ調べていない名前もあったはずだし。

 しかし、やることが山積みだな。けど泣き言なんて吐いてる暇もなさそうだ。

 

 

「とりあえず、葉月たちをつれて唯依姫と合流するか。覗いている連中も、あの戦いを見た後なら下手にしかけては来ないだろうし」

 

 

 ちらっと視線を感じる方へメインカメラを動かし、最大望遠で4機のF-22を確認する。

 光線級を始末し終えたのかこちらへ向かっていたようだが、俺を見ているのが窺える。

 そのうちの一機をじっと見つめるが、特にどうこうするつもりもないので放置することを決定し、俺は葉月たちの方へ機体を動かした。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 近郊

 

 

 ユーコン基地から少し離れた場所でそれを見ていた米国陸軍第65戦闘教導団『インフィニティーズ』のレオン・クゼは知らぬうちに冷や汗を流していた。

 機体の特性と位置から気づかれる可能性は皆無だったというのに、その機体は間違いなく自分を見ていた。

 距離など関係なく、そこにいるというのを知っていたかのように。

 

――ステルスを看破できる機体か? いや、それにしては機体にしても装備にしても異常過ぎる。何者だ、あの機体の衛士は。

 

 

『レオン、どうしたの?』

 

 

 同僚のシャロン・エイムに声をかけられはっと気を取り直す。どうやら先ほどのことが衝撃的すぎて意識が若干飛んでいたようだ。

 

 

「なんでもない。それより、あの左肩にデルタマークが入った白い戦術機を見たか?」

 

『ええ。あれが噂の『蒼炎の翼』ってやつかしら? 蒼い炎なんて一度も出さなかったけど』

 

『異常な機体であるということは、さっきの戦闘でも十分に理解させられたがな』

 

『まったくです。しかもあの羽みたいなのについている物、どういう原理で空を飛んでいるんでしょう』

 

 

 隊長のキース・ブレイザーに同意し、気になったことを口にするガイロス・マクラウド。

 その話を元に思い返すと、確かにあのコの字型の物は一番謎だった。

 あんなものがどうして空を飛び、砲撃を放つことができるのか。いくら考えたところでわからないものはわからないと行き当たり、レオンはそれ以上考えるのをやめた。

 

 

『さあ。美味いところはあの機体に持っていかれてしまったが、我々が受けた任務はまだ終わっちゃいない。いくぞ』

 

『『「了解」』』

 

 

 ブレイザーの言葉に返答し、4機のラプターはユーコン基地へ向けて跳躍ユニットを噴出させた。

 

 

 

 

 かくしてオリジナルから外れた歴史は終息へ向かい、間もなく奇跡的な結果でその幕を下ろした。




本編第25話、いかがでしたでしょうか?

クリストファー少佐との戦闘はもっと書こうかなとも思ったのですが、機体性能の差がありすぎて伸ばしすぎたら逆に不自然になってしまうので割愛させていただきました。(合掌

さて、次回は事後処理もそこそこに済ませてようやく横浜へ帰還する予定です。
頑張れば軟弱ものとのやり取りが書けそうです。そこを早く書いてみたいです、主に没シーンを。(オイ

それでは、作者の体力がそろそろマズイので今回はこのあたりで失礼します。
この作品を読んでくれている読者様に感謝しつつ、また次回にお会いしましょう。



追記
作者、たった今気づきました。
今日は純夏の誕生日だということを。
あいにく天候はよろしくない作者の地元ですが、お祝いにんなこと関係ねーぜ!

と言うわけでHappybirthday、純夏!


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第26話

どうもこんばんわ、給料日を目前にして無駄にテンションが上がってきた作者です。

さて。いつもと比べて早めの投稿ですが、勢いとノリの成分が非常に強いです。
所々で妙な描写や矛盾があるかもしれませんが、ご指摘いただければ可能な限り修正を試みます。

それでは本編第26話、どうぞご覧ください。


アラスカ湾 プトレマイオス2 零の私室

 

 

 中央司令部及び通信センターの奪取、テロリストの拘束並びにBETAの殲滅が一通り完了し、俺たちオーバーワールドは一度トレミーへと帰還していた。

 本来ならユーコン基地に残って本来の目的である挨拶をすませようと思ったのだが、流石にまだごたごたしている中でそれは無理があると判断し先に休息を取ることにした。

 出撃した全員に休息を与え、俺は霞の労いを受けながら報告のために香月博士へと通信を繋げた。

 ただの報告なら別にブリッジでもよかったが、今回の報告にはもう一つ機密性が高いものが含まれている。

 

 

『――なるほど。とりあえずお疲れさまとだけ言っておくわ、特にレッドシフトなんてものを止めてくれたとにね』

 

「あれの存在が公になったことで米国が少しはおとなしくなってくれればいいのですが、同時に各国へ交渉のカードを与えることになってしまいました」

 

『いずれ公表しなきゃならない問題だったし、逆に今回の事件を利用して名前を挙げられたと思えばまだマシね。少なくともテロリストとBETAを圧倒したって結果を出しているし』

 

「あとは早めに表へ立つ、ということか……」

 

 

 もう少し先……出来ればクーデターを完全に抑え込んでから出たかったが、仕方ないか。

 

 

「それと、もう一つの報告ですが――」

 

 

 言葉を区切り、ちらっと霞へ目をやる。

 不思議そうに首を傾げる霞だが、これはこの子にも関係していることだ。

 

 

「――ユーコン基地で第3計画の遺児2名がいるとの情報を入手、その内一名と接触しました」

 

「っ!?」『なんですって!?』

 

 

 驚きのあまり息を呑む霞と声に出して驚く博士。部屋は防音使用なので漏れることはないが、かなりの声量だな。

 

 

「ソ連軍腕利きの衛士、紅の姉妹と言う名で呼ばれている二人です。一人はクリスカ・ビャーチェノワ、もう一人はイーニァ・シェスチナという名前です」

 

 

 シェスチナという名前に霞は愕然とし、博士は深いため息をついた。

 

 

『社の姉妹に当たるってワケね。――で、あんたはどうしたいの?』

 

「可能ならばこちらに引き込んで、あとは自由にさせたいところですね。何故ソ連が彼女たちを創ったのかはわかりませんが、少なくとも何かの実験、もしくは計画のためだけに生み出された可能性が高いと思われます。最も、それだけに脱走や強奪されたときに備えて何らかの処置が施されている可能性が非常に高いですが」

 

 

 確かクリスカは特殊な蛋白か何かを摂取しないと死んでしまって、イーニァは特定人物がそばにいないと暴走だったか。

 蛋白の成分なんかはGステーションの医療施設を使えば何とかなるかもしれないし、特定人物はクリスカとユウヤが該当していたはずだ。

 ユウヤはXFJ計画の筆頭テストパイロットだからイーニァが来ても問題はないが、クリスカを残すなどという愚かな選択肢は存在しない。二人揃ってなきゃ彼女たちは100%以上の力を発揮できないのだからな。どうしたものか――――

 

 

「――博士」

 

『ん? どうしたの、社』

 

 

 不意に声をあげた霞。その顔は、何かを決意したかのよな表情だった。

 そしてその口から飛び出した言葉に、俺と博士は驚かされることとなった。

 

 

『社、本気なの?』

 

「はい」

 

「……俺が言うのもなんだが、大丈夫か?」

 

「それでもです」

 

 

 ……どうやらこの子、想像した以上に頑固者のようだな。

 

 

『……ハァ、神林』

 

「はい」

 

『手助け、してやってくれる?』

 

「全力で助力させていただきますよ」

 

 

 そのやり取りを聞き、霞が力強く頷く。

 責任重大ってレベルじゃないな、こりゃ。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ブリーフィングルーム

 

 

 テロが終息した翌日、零は再びアルゴス試験小隊の元に訪れていた。

 今回は当初の目的+αだけなので、デルタカイではなく輸送機に乗ってここまで来た。

 

 

「さて、改めて自己紹介をしよう。 国連軍横浜基地所属、独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』隊長にして特別開発部門開発長の神林 零 臨時中佐だ。民間協力者なので正確には軍人ではないが、よろしく頼む」

 

 

 集められた面々に向かい、敬礼しながらそう説明する。

 この場に集められたのはXFJ計画の責任者である唯依と試験を担当しているアルゴス小隊、そして関係会社のハイネマンだ。

 その中で代表として唯依が一歩前に進み、ピシッと敬礼する。

 

 

「XFJ計画の責任者、篁 唯依 中尉です。昨日は助けていただき、感謝します」

 

「気にすることはない、俺たちはできることをしただけだからな。 では本題に入るわけだが、巌谷中佐から話は聞いているか?」

 

「はっ、XFJ計画はアルゴス試験小隊と共にユーコン基地から横浜基地へ移転して不知火・弐型の試験を行うと伺っております」

 

 

 無事に話は通っていることに安心し、他の面々からも特に反論が上がってこないことを確認して話を繋げる。

 

 

「その通りだ。 そちらの準備が整い次第、アルゴス小隊は不知火・弐型を伴って横浜基地へ向かってもらう。なお、並行して行われているF-15・ACTVの実証試験も横浜で行う。ハイネマン氏もよろしいか?」

 

「私も特に問題はありません。ただ、中佐に個人的にお願いしたいことがあります」

 

「フム、今のうちに聞いておきたいところですが、残念ながらこちらに少々時間がない。続きは横浜基地に来た時で構いませんかな?」

 

「十分です」

 

「ありがとうございます。 ……では、今この場で簡単に聞きいておきたいことはあるか?」

 

 

 ざっと全体を見渡すと、真っ直ぐに挙げられた手が一つあった。

 ユウヤ・ブリッジスである。

 

 

「ブリッジス少尉だな。なにが訊きたい?」

 

「……中佐、あなたが搭乗していた戦術機――『蒼炎の翼』は一体なんですか?」

 

 

 その質問に、この場にいた全員が耳を傾けた。

 まあ今さら隠そうとしたところで大した意味もなさないが、ある程度は教えてやるか。

 

 

「あれは戦術機とは全く違う概念で設計されたモビルスーツというものだ。そして俺が乗っていたあの機体はガンダムデルタカイと言い、関節から吐き出される蒼い炎は特殊なシステムを起動させたときにのみ発生するものだ」

 

「戦術機とは全く違う概念……」

 

「それほどの技術を中佐はどこで得たのですか?」

 

「今はまだ教えられないが、近いうちに教えてやる――っと、悪いが今日はここまでだ。続きは合流したときにしよう」

 

 

 時計に目をやり次の予定のために話を切る。

 まだいろいろ知りたそうな顔をする面々だが、横浜に行けばまた話が聞けると割り切りその場はお開きとなった。

 ブリーフィングルームを後にした零は表に待機していた車に乗り込み、運転手に次の行き先を告げる。

 車に揺られること十分。たどり着いたのは急遽用意された留置所である。

 投降してきたテロリストとその協力者がここに押し込められており、警備の人間もかなりの数がいた。

 そんな場所で零はある人物に会うため受付へ向かい、面会室に通される。

 やがてやってきたのは顔に少しそばかすがある茶髪の女性――ナタリー・デュクレールだった。

 

 

「一日ぶりだが……気分はどうだ?」

 

「悪くはないわ。むしろスッキリしてる」

 

 

 その言葉通り、彼女の顔からは悲観的な感情は見受けられなかった。

 

 

「改心したとはいえ、テロに加担した事実は変わらない。しばらくは不自由な生活になるだろうが、しっかりと罪を償って出てくるといい」

 

「あら? 初めて会ったはずなのにどうしてそこまで気にかけてくれるのかしら?」

 

「大した理由じゃない。アルゴス小隊の連中に君を会わせたいという俺の自己満足だからな」

 

 

 前世で悲しい別れをしたタリサたちを知っているため、せめて自分が介入したこの世界では笑っていられる場所を作りたいと考えていた。

 そう言われては少し恥ずかしいのか、ナタリーは苦笑いでその言葉を受け止める。

 

 

「ま、問題なく出所したら俺の部隊の食事係として雇ってやってもいいぞ」

 

「考えておくわ。――ありがとうございます、中佐さん」

 

 

 感謝の言葉を受け取り、もう話すことはないだろうと零は席を立つと、ふと思い出す。

 

 

「最後に一つ聞きたいんだが、テロ実行犯にいたヴァレンタインって奴がどうなったか知ってるか?」

 

「あの人なら私の隣の部屋で妹と一緒にいるわ。ヴァレンタインは味方に殺されそうになったところをドーゥル中尉に助けられて、妹は自爆しかけたところを崔中尉に止められたそうよ」

 

 

 その返答を聞き、零は意外そうな表情をした。

 歴史通りならヴァレンタインことメリエム・ザーナーは中央司令部で味方に殺され、妹のジゼルことウーズレム・ザーナーは亦菲を巻き添えにしようとして自爆することになっている。

 

――俺の介入が遠回しに彼女たちの未来を変えたのか?

 

 そんな思考に至るも、過程はどうあれ彼女たちが生き残った事実だけわかったので零はそれ以上考えるのをやめて留置所を後にする。

 

 

「さてと。今日一番の大仕事といきますか」

 

 

 一度大きく伸びをして最後の問題を片づけるべく零は一度乗ってきた輸送機へ戻ることにした。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 特別会議室

 

 

 大画面のモニターの明かりだけで照らされた薄暗い会議室の中に3つの人影があった。

 一人は男性で、二人は少し背の開きがある少女たちだ。

 ソ連陸軍イーダル試験小隊指揮官のイェージー・サンダークと、『紅の姉妹』の二つ名を持つクリスカ・ビャーチェノワとイーニァ・シェスチナの3名はある男から呼び出しを受けてこの場所にやってきていた。

 本来ならサンダークは突っぱねて終わらせるつもりだったが、相手が自分より階級が上の中佐であり、あの『蒼炎の翼』だと聞いて呼び出しに応じざるを得なかった。

 『蒼炎の翼』の実力は先のテロ事件でよく見させてもらっていた。

 圧倒的な火力に凄まじいまでの機動力と反応速度。そしてあの宙を舞う自動砲台のようなもの。

 あれほど尋常じゃない力を振るわれては是非ともその技術の一端を手に入れたいところだが、いかんせん狙いが読めないでいた。

 直接顔を合わせたクリスカはただの人間ではないと評しており、サンダークもその理由を聞いて同じ思いを抱いた。

 

――リーディングが聞かない人間となると、その時点でただの人間ではない。横浜基地所属と言っていたらしいが、そうだとすればあの計画の関係者の可能性が非常に高い。だとすれば狙いはこの二人か? しかし仮にそうだとしても、何故今頃になって……。

 

 サンダークが一人物思いにふけっていると、不意にイーニァが顔を上げる。

 その反応を見てクリスカが何事かと思うと、彼女もその異変に気付いた。

 

 

「――お待たせして申し訳ない」

 

 

 現れたのは国連軍の制服を纏った『蒼炎の翼』の衛士、神林 零だ。ここまではクリスカもわかった。だが扉の向こうにまだ一人、不思議な感覚を持つ人物が感じられた。

 

 

「国連軍横浜基地所属、神林 零 臨時中佐だ」

 

「ソ連陸軍、イェージー・サンダーク中尉です」

 

「クリスカ・ビャーチェノワ少尉です」

 

「い、イーニァ・シェスチナ少尉、です」

 

 

 それぞれが自己紹介をすましたのを見計らい零は話を続ける。

 

 

「呼びだしておきながら重ね重ね申し訳ないが、こちらも少しスケジュールが押しているので早速本題に入らせてもらう」

 

 

 自然な動作で手近な椅子に腰かけたのを見計らい、サンダークも対面に座る。

 

 

「既に察しているかもしれないので単刀直入にいかせてもらうが、こちらの要望はその二人を横浜基地に引き取らせてもらうことだ」

 

 

その一言にクリスカとイーニァが警戒し、サンダークは予想通りと言った風にポーカーフェイスで対応する。

 

 

「それは彼女たちが凄腕の衛士だからでしょうか? だとすればあれほどの機体を有する中佐にはそれほど重要なことではないのでは?」

 

「確かに彼女たちの腕前は素晴らしい。しかし、こちらが欲しいのはそれだけが理由ではない。少なくとも俺はだがな」

 

「では、なにがお望みで?」

 

「――アルゴス試験小隊」

 

「む?」

 

 

 出てきた言葉に不意を突かれ、サンダークは怪訝な声を上げる。一方クリスカとイーニァは反射的にユウヤの顔を思い浮かべ、無意識のうちに言いようのない焦燥感に駆られた。

 

 

「近日中に彼らは横浜基地に移動し、そこで不知火・弐型の試験を行うことになっている」

 

「ユウヤが!?」

 

 

 突然の一言にイーニァが反応する。クリスカも彼女を抑えつつも、内心では少なからず動揺していた。

 

 

「そうですか。 それで、アルゴス小隊の異動が我々にとって何の問題があると?」

 

「――フ、随分と余裕だな。ブリッジス少尉が抜けることで彼女たちの精神面にどのような影響が出るかもわからないというのに」

 

 

 予想外の発言に思わず片眉が吊り上がる。

 そして同時に気付く。

 零の雰囲気が、明らかに変わっていることに。

 

 

「どういうことでしょうか?」

 

「とぼけても無駄だ。いま彼女たちが力を振るえているのは彼の存在があればこそだ。その精神的支えと言ってもおかしくないものが抜ければ、少なからず力を落とすことになるぞ」

 

「何を根拠に――」

 

「シェスチナ少尉の暴走を防ぐための人物に、彼を入れたのは諸刃の剣だったということだ」

 

 

 決定的な一言を突きつけられ、ついにサンダークの表情が歪んだ。

 同時にイーニァが脅え、クリスカが射殺すような眼で零を睨む。

 

 

「……どこでその情報を?」

 

「こんな言葉を知っているか? 『漏れない情報などない』とな。どこかしらに必ず穴はあるということだ」

 

「…………」

 

 

 クリスカの視線を意に介さないように零は「さて、最初の引き取らせてもらう話の理由だが」と話を区切る。

 

 

「簡単に言ってしまえば、俺の理由としてはアルゴス小隊――もっと言えばユウヤ・ブリッジスを連れていくから一緒にその二人も連れて行きたいということだ。これはそちらとしても悪い話ではないはずだ。先ほどあげた能力の低下を防ぐことができ、逆にさらなる向上を見込むことができる。まあさすがにそれでは釣り合いが取れないからこちらとしてもある程度のフォローはさせてもらうが、それでもまだそちらにプラスの要素が強いと思うぞ」

 

「……具体的には?」

 

「そうだな。ソ連という土地柄らしくこちらがもつ寒冷地仕様戦術機の技術提供、及びこちらが保有するフォアグリップ兼用マガジンとグレネード弾を備えた寒冷地用マシンガンでどうだ? 俺の機体を見ればわかると思うが、こちらは貴官らが所有するものとは全く違う技術を保有している。その技術の一端を得るということは、十分にリターンが多いと思うが?」

 

「……確かに、未知の技術を他国より先に得られるというのは大きいですな。 しかしそれがあなたの理由と言うことは、他にも彼女たちを連れていきた理由があるということですかな?」

 

 

 その質問に、零が待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

 

「そうだ。俺が彼女たちを連れていきたい理由は、少なからずアルゴス小隊のモチベーションが絡むためだ。そしてもう一つの理由は、彼女にある」

 

「彼女?」

 

 

 サンダークが訊き返したところで零は一度席を立ち、廊下で待機していたもう一人を呼び込む。

 

 

「な!?」

 

「え!?」

 

 

 その姿を見たクリスカとイーニァは驚きのあまり声をあげ、サンダークは愕然とした表情で彼女を見た。

 

 

「紹介しよう。横浜基地所属の――」

 

「――社 霞、です」

 

 

 二人と同一の存在であり、かつてイーニァと同じシェスチナの名を持っていた銀髪の少女がそこにいた。




第26話、いかがでしたでしょうか?

ナタリー引き込みフラグを立てました。
あと以前から質問のあった妹ちゃんの話ですがご安心を、生存しております。
どうやって生き残ったのかは姉と一緒に時間があるときに番外編にでも書かせてもらいます。
イーニァ! やっと喋れたよ!
なお、今回サンダーク中尉の交渉に挙げたのはジムの寒冷地仕様です。
どんな状態でソ連に送られるかは次回明らかになります。(誰も完品とはいっていない


さて次回のテーマは『霞、一世一代の大交渉』『艦長候補発見?』『いざ、横浜へ』の3本です。

それでは皆様、また次回にお会いしましょう。


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第27話

どうもこんばんわ、明日も仕事が早いというのに思いついた今回のネタを一気に書きあげて投稿した作者です。
今回は横浜に帰るまでの内容ですが、いつもと比べかなり短めの内容となっています。
これが癖になって内容が薄くならないだろうか心配です。

ともあれ本編第27話どうぞご覧ください。


国連軍 アラスカユーコン基地 特別会議室

 

 

 そこは異様な空間だった。

 広さに反して5人しかいない部屋なのに空気は重く、その内の少女二人は自分たちと同様の存在を前にして体が完全に硬直し、彼女たちの上官である男も同様に言葉を失っていた。

 そしてこの状況を作り出した男――神林 零は主導権を完全に掌握したことを実感しながら声をかける。

 

 

「社少尉は貴官たちが察する通りの存在であり、今回はビャーチェノワ少尉とシェスチナ少尉に会いたいとの希望で連れて来させてもらった」

 

「我々に、会いに?」

 

「はい。どうしても、お二人と話がしたかったので」

 

 

 霞は二人の前まで歩み寄り大きく深呼吸をすると、静かに切り出す。

 

 

「あなたたちは、このままでいいのですか?」

 

「え?」

 

「……どういう、ことだ」

 

「自分の気持ちを明かさないまま離れて、本当にいいのですか?」

 

 

――――――あっ。

 

 初めは言葉の意味がわからなかったのだろう。しかし次に告げられた言葉で理解したのか、二人はそろって小さく声を漏らす。

 その姿を見て霞は二人の手を取り、きゅっと力を込める。

 

 

「いつか、では間に合わなくなるかもしれない。まだ生きて会える今のうちでなければ、後できっと後悔することになります」

 

「……そっか。あなたが知ってるお日さまみたいな人、とっても痛かったんだね」

 

 

 イーニァは手を握り返し、霞から感じた色の主に共感する。

 クリスカも同じような気持ちなのか、複雑そうな表情で握られた手を見つめていた。

 

 

「クリスカ。わたし、ユウヤの行くところに行きたい」

 

「イーニァ……」

 

「カスミの言う通りだよ。わたしは後悔したくない。だから、クリスカも一緒に行こ」

 

「……でも、私たちは」

 

 

 言い淀むクリスカは思わずサンダークの方へと目を向ける。

 彼はそのまなざしを見つめ、やがて観念したように首を振った。

 

 

「クリスカ・ビャーチェノワ少尉、並びにイーニァ・シェスチナ少尉に告げる。計画の一端として、国連軍横浜基地への一時異動を命ずる。なお、現地では神林中佐の元で行動し、原隊復帰の決定権も中佐に一任させていただく」

 

「――――ハッ!」

 

 

 命令を受け、クリスカは軍人らしい返答とともにサンダークへ敬礼する。イーニァもまた、それに倣うように敬礼する

 

 

「……中佐、彼女たちを頼みます」

 

「了解した。先ほど言った機体や武装についてだが、後日に実物と資料をこちらへ届けよう。ビャーチェノワ少尉とシェスチナ少尉は、必要なものをそろえたら横浜基地へ向かってくれ。俺たちは一足先に横浜で待っている。――それと、サンダーク中尉は必要資料とそれに伴うサンプルを用意しておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 

 零はその返答を聞くと満足げに頷き、霞を伴って部屋を後にする。

 しばらく無言の時間が続き、不意に霞が口を開く。

 

 

「神林さん」

 

「なんだ?」

 

「クリスカさんを、治せますか?」

 

 

 なにを、とは聞かない。零はそれを理解したうえで「安心しろ」と答え、ぽんぽんと頭に手を乗せる。

 

 

「そのために必要なものをさっきサンダークに要求した。それに万が一情報が隠ぺいされようと、Gステーションの医療施設なら詳しい状態やそれに対する処置がわかるはずだ」

 

 

 数世紀以上先の技術は伊達じゃない。そう付け加えて零は表へ通じる扉を開けようとドアノブに手をかける。

 と、力を込めようとしたのとほぼ同時に扉が開き、反対側から国連軍の制服を纏った男性が入館しようとしていた。

 

 

「失礼」

 

「いや、こちらこそ」

 

 

 短いやり取りの後、男はサングラスを外してズレかけた帽子をかぶり直すとそのまま施設へと入館する。

 それとすれ違うように零と霞は施設を後にするが、少し歩いたところで零はハッとなって男の方へと振り返る。

 しかし扉はすでに閉まっており、鉄の扉は沈黙へと入っていた。

 

 

「……今の男は確か」

 

 

 先ほどの男の特徴を思い返し、零はある予想をする。

 そしてその予想が確信へと変わったのは、帰投したプトレマイオス2で国連軍のデータベースを調べてすぐのことだった。

 

 

 

太平洋 プトレマイオス2 零の私室

 

 

「……やはり、こいつだったか」

 

 

 アラスカでの全ての用事を片づけ、トレミーに帰投するなり横浜基地への進路を取らせた俺は自室で国連軍のデータベースを調べていた。

 発端はサンダークたちとの会合を終えた後にすれ違った男の存在だ。最初こそサングラスでわからなかったが、外した後の顔を見てから記憶を辿ってようやく誰かに似ていることに気付いた。

 そしてそれが今、検索データにヒットして顔写真と合わせて表示された名前を見て確信へと変わった。

 

 国連軍アラスカユーコン基地所属 グルーデック・エイノア少佐。

 

 年齢からしてガンダムAGEの第1世代のようだが、まさかこんな所にいたとは……。

 誤差と言えば階級が中佐じゃないが……まあこの辺は割とどうでもいいな。

 しかしこれは思わぬ収穫だ。上手く交渉してこちら側に引き込めれば、俺が不在の間の艦を任せることができる。

 また戻って交渉、というわけにはいかないだろうからグラハムたちの時みたいに呼び出した方がよさそうだな。それまでにもう少し情報を集めて交渉材料を用意する必要があるが、それはさして問題にはならないだろう。

 とりあえず、こっちは横浜に帰ってからまた考えるとしよう。

 

 

「次はGステーションの開発システムにつないで……っと」

 

 

 現在Gステーションでは旋風や轟火のパーツの他に新しい規格のサンプルを開発させている通常ラインに加え、優先度の高い特別ラインの2種類が稼働している。

 特別ラインは現在『SS』と『GL』の二つを開発させているが、今回はそれに加えてさらにラインを二つ追加する。内容はソ連側にサンプルとして送る提供するジムの寒冷地仕様と専用装備のマシンガン、そして世界……特に第5計画への抑止力として使用するMAの開発だ。

 ジムに関しては正直完成品を送ったりはしない。必要なのはあくまで『寒冷地に対する技術』であり、ビームサーベルは除外して核融合炉は出力を死ぬほど落としてブラックボックス化する。無論OSやシステムなんかも搭載しないので、完全に寒冷地仕様の技術のみの提供となる。

 一応紙面の資料は制限を緩くして提出するが、それでも動力や一部武装は伏せて戦術機のOSを搭載しても無駄だという一文を加える。

 そんな特別製のジム(笑)の製作指示を出し、続けてMAの開発に移行する。

 一応特別ラインの開発もMA一本に絞ればそれなりに早く製作することができるが、『SS』と『GL』の開発を遅らせるなんてことはできない。

 なのでそれを考慮して開発した場合……サイコガンダムだと最速で一ヶ月半、デストロイで二ヶ月ってところか。

 ふむ。一応、稼働可能の機体と調整が必要な機体をまとめてみるか。

 現時点で稼働可能な機体は俺のガンダムデルタカイを筆頭に、デルタプラス、ガンダムデュナメス、ガンダムAGE-2、トールギス、バスターガンダム、そしてマスラオか。マスラオは改造するから、どちらかと言えば調整に回すべきか? まあいいや。

 逆に調整中の機体は完了が早い順にハイゼンスレイⅱ・ラーにジェガン、ジムカスタム、アッガイ、バイアラン、ジムキャノン2、リーオー、そしてストライクガンダムにクロスボーン・ガンダムX1パッチワークにビギナ・ギナIIか。

 正直、調整中の機体は全部使えるようにできる気がしない。

 そこから開発して新しい機体にするか、パーツを拝借して別の機体で使用するかで終わりそうだな。バイアランとか腕だけ引っ張ってこられそうだ。

 X1パッチワークやビギナ・ギナIIはここから発展させてフルクロスやビギナ・ロナへ開発させても全然ありだ。問題は乗り手を選びそうなところか……。

ま、人手が足りてもいないのに今余ってる機体の心配をするだけ無駄かもしれないな。

 

 

「あとは……『SS』と『GL』の仕様を再確認するか」

 

 

 『SS』のコンセプトは単機による最速のハイヴ攻略と帰還を重点とし、特に機動力と自衛力の高さに重点的を置いている。

 武装も簡単にいえばデスティニーのモノに近いが、とにかく手数を揃えるようにしている。腕にマシンガンを搭載したり、頭部のバルカンや胸部のビームバルカンによる弾幕などにも気を配っている。あとは使用者の無茶で関節がすぐに潰れないよう徹底しているくらいだな。

 次に『GL』だが、こちらは単機で十万単位のBETAを蹂躙できるほどの広域殲滅能力を目指している。

 エネルギー切れや銃身の冷却の問題に重点を置き、全方位を問題なく対処できる性能を詰め込むつもりだ。

 だがそれを可能にするためのシステムがまだまだ未完成なため、下手をすれば途中で凍結なんて事態にもなりかねない。

 最悪『SS』だけが完成して終わる結果になるかもしれないが、月や火星を攻略するときに絶対必要になるタイプの機体だ。

 

 『GL』で雑魚を一掃し、『SS』が大将頸を取りに行く。

 

 今の俺が思い描くエレメント形式がこれだが、果たして実現できるかどうかだな。

 

 

「……悲観的になってちゃ、出来るものもできなくなるな」

 

 

 思考を前向きに切り替え、データの保存をしてファイルを閉じる。

 さて、横浜基地に着くまで残った報告書でも仕上げるか。

 その後、フォルダから報告書のフォーマットを起動させた俺は葉月に呼ばれるまで黙々と報告文章と格闘することとなった。




第27話、いかがでしたでしょうか?

クリスカの蛋白改善フラグと零が不在の時の艦長にグルーデックさん(のソックリさん)が候補に挙がりました。
それにしてもようやくグルーデックさんの名前出せました。
あとは通信と整備要員ですが、整備の方は既に候補がいます。
問題は通信なのですが、さてどうしたものか……。
ちなみに副長とゲストは思いついたら設定しますので、基本的にはいないと思ってください。

それでは時間も遅いので今回はこの辺りで。
また次回の投稿でお会いしましょう。







余談①
衝動買いって恐ろしいですね。
今日模型屋でフリーダムガンダム付きの1/144スケールミーティアを定価の半額で購入してしまいました。
置く場所ないのにどうしようか……。


余談②
艦これでついに榛名の改二が実装されるそうですね。
アプデは7/28らしいですが、レベル上げなきゃ(使命感


余談③
今度また新作を試験的に挙げるかもしれません。
内容はビルドファイターズに触発されてオリジナルガンダム(笑)を作ったら某特異点や某タイムスリッパーのように世界や時間を関係なく飛ばされるようになった男の物語になる予定です。


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第28話

どうもこんにちわ、先日金曜ロードショー「もののけ姫」がニコ生を観賞しながら見れなかったので仕方なく家にあったVHS版で満足することにした作者です。
DVDではありません、VHSです。(2回言ったけど割とどうでもいい


さて今回は吹雪の搬入に伴うあのイベントです。
残念ながら真耶さんたちは出てきませんが、代わりに別の人が出てきます。

また、本編の最後の方に今回の没シーン集が収録されています。
勢いとノリ、他作品とのクロスの成分が非常に強いので、受け付けられない方は飛ばしてください。

それでは本編第28話+α、どうぞご覧ください。


国連軍横浜基地 特別機密区画 格納庫

 

 昨夜に横浜基地へ帰投した俺はオーバーワールドの衛士全員に休息を与え、作業員を率いて戦闘データのまとめ作業に励んでいた。

 先のテロ事件で対戦術機データに加えて今後の本命ともいえる対BETA戦闘のデータを得られたのは非常に大きい。万が一発生してしまった場合の対クーデター戦にBETAの新潟上陸や佐渡島奪還作戦に向けての調整に役立つことだろう。

 各機のデータ抜き出しがひと段落し、旋風からの報告を島田班長が。MSを担当した片桐がそれぞれ報告レポートを手に俺の元へやってきた。

 

 

「やはりビーム兵器だけでなく頭部バルカンも十分な戦果をあげているな」

 

「接近してきた小型種を一掃するには十分すぎる代物ですね。しかしデルタプラスの場合、弾切れになってしまうとその場での補給が利かないことですかね」

 

「頭部のバルカンを実弾からビームに変えてはどうですか? 動力から直接供給させれば、少なくとも弾切れになる心配はなくなりますが」

 

「それも一つの案ではあるな。戦術機の場合は……稼働時間の影響を考慮しても実弾のままの方がいいだろう。確かにバルカン一発の消費量は非常に少ないが、塵も積もれば山となる。調子に乗って使いすぎて積もり積もった消費エネルギーが機体稼働時間に影響を及ぼしたら元も子もない」

 

 レポートをめくりながら議論を交わし、問題点と改善点の意見を出し合う。

 特に旋風はデルタプラスのような核融合炉やデュナメスのGNドライブといった半永久機関を搭載していないため、稼働時間が絡む問題には慎重にならざるを得ない。

 結局この日に出たアイデアとしてはバルカンをビームにするなら追加ジェネレーターの搭載という形でとりあえずはまとまり、どこにどんなものを取り付けるかは次回への課題として終了した。

 その内容をまとめ香月博士に報告するべく俺は地下にある自分の執務室へと向かおうとするが、目の前を駆けていく207訓練部隊の連中を見てふと足を止める。

 はて、あの様子だと何かうれしいことでもあったのだろうが、なにがあったか……。

 

 

「……お、武!」

 

 

 首をかしげ たところでさらに武が現れたのをこれ幸いとし、俺は声をかけながら近づく。

 向こうも呼ばれたことでこちらに気付き、手を挙げてこちらに近づいてきた。

 

 

「零、アラスカでは大変だったみたいだな」

 

「まあな。それより今、207の連中が走って行ったがなにかあったのか?」

 

「吹雪だよ。あいつらの機体が搬入されたんだ」

 

「ほお、ついにXM3の教導も始まるわけか」

 

「ああ……後、俺の予想だと紫の武御雷が一緒に来ている」

 

「政威大将軍専用機……なるほど、殿下から御剣宛ての機体か。そうだとしたら一悶着ありそうだな」

 

 

 戦力をひとつでも、と言う悠陽の心遣いだろうな。しかし冥夜は戦術機に乗ってすらいないから扱うことはまだ難しいだろう。

 こちらも早くMSの内装を改造しなければならないんだが……あと一人くらい優秀な技術者が欲しいな。それも規格外の力量を持った、全く触れたことのない機体でも何とかしてしまうような人物が。

 まあ、本当にそんな奴がいたら苦労はしないんだがな。

 ともかく、本当に武御雷が来ているならあのイベントがあるはずだ。

 武には悪いがこのイベント、利用させてもらおう。

 武と別れて博士の部屋に向かいつつ、俺は以前から考えていた策の実行を視野に入れた。

 なお、博士に問い合わせたところ武の読み通り武御雷が搬入されたそうだ。

 それを 教えてくれた博士は俺の策の実行を許可してくれると嬉しそうに吹雪が搬入された格納庫へと向かった。

 ――新品のビニールをこれでもかと言うほど剥ぐために。

 

 

 

国連軍横浜基地 PX

 

 

 最初に気付いたのはこのことを予見していた武で、次に気づいたのは美琴と茜だった。

 

 

「ねえ、あそこの少尉たち……」

 

「こっちを見てるわね」

 

 

 男女の少尉がこちらを睨んでおり、時折指をさして何かを喋っていた。

 どちらも不愉快な笑みを浮かべており、少なくとも友好的にはまず見えなかった。

 

――やっぱりきやがったか。このイベントは絶対に避けられないのか?

 

 内心で嘆息し、武はおもむろに空のグラスを取って立ち上がる。

 

 

「武、どこに行くの?」

 

「なに、ちょっと飲み物を取りに行くだけだ」

 

 

 美琴にそう返しながらすばやく訓練着につけていた大尉の階級章を取り外し、そのまま問題の少尉二人の前にさしかかる。

 

 

「待てよ。お前、あの訓練部隊の人間だな?」

 

 

 やっぱりきたか、そう思いながら武はあえて格下のように対応する。

 

 

「ハッ、何でしょうか。少尉殿」

 

「あの武御雷は一体なんだよ、あれは誰の機体だ?」

 

「あれのせいでハンガー埋まって邪魔なんだけど、まさかあれが訓練兵の所有物なんてバカな話はないよね?」

 

 

 武御雷を、しかも将軍の専用機であることを示す紫の機体をあろうことか『あれ』呼ばわり。

 この発言を月詠中尉が聞いたら怒り狂うこと間違いなしだなと思いつつ、武は侮蔑をこめてワザとらしくため息をして見せる。

 

 

「少尉、あなたたちはアホですか?」

 

「あ? お前、上官にそんな口きいていいと思ってんのか?」

 

「どうやら上下関係ってのをキチンと教えてもらっていないみたいだね」

 

「それはそちらの方が教えてもらってないのでは? しかも無断で他軍の機体を探ろうということはスパイ容疑で軍法会議にかけられても文句は言えませんよ?」

 

「テメェ……調子に乗ってんじゃねえぞ」

 

 

 武の態度に腹を立てたのか、だんだんドスを利かせた声を発する少尉だが武は涼しい顔で続ける。

 

 

「自分は事実を述べただけですよ? それを突かれ不利だと感じたら脅しですか? そんなくだらないことに体力使うなら、少しでもBETAを倒せるよう訓練に励んだ方がよっぽど有意義だと思いますが?」

 

「うるせえぞ! 訓練兵の分際で!」

 

 

 ドスッ!っと少尉の拳が武の腹部に付き刺さる。

 突然の大声と殴られた音に周りが騒然となるが、殴られた武は眉ひとつ動かすことなく、呆れたようにため息をつくだけだった。

 

 

「都合が悪くなったらすぐ暴力か。半人前の訓練兵以下だな」

 

「な……んだとコラぁ!」

 

 

 予想外の事態に気押されそうになった少尉は空気に呑まれまいと再び拳を振るう。

 女の少尉も加わり武は一方的に顔や背中を殴られるが、それでも微動だにしなかった。

 

 

「ば、化け物かテメェ!?」

 

「地道な鍛錬を欠かさず続けていればこの程度の腕力に揺らされることはありませよ? と言うか、少尉の訓練不足では?」

 

 

 口元の血を拭ってそう吐き捨てると、流石にキレたのか少尉二人は再び武へと殴りかかる。

 ――が、そこで一人の男が見計らったように待ったをかける。

 

 

「どうした武。こんな格下に良いように殴られているとは……社が心配するぞ」

 

 

 どこか呆れたような表情で現れたのは作業モードの零だった。

 階級章がついたつなぎ上半身は腰の部分で縛られているため隠れているが、彼を知る人物らは左官の登場に安堵した。

 そう、知っている人物はだ。

 

 

「何だ、整備兵は引っ込んでろ。これは衛士の問題なんだからよぉ」

 

「そうそう。戦術機にも乗れない雑魚の出る幕じゃないんだよ」

 

 

 相手が上官であることを露も知らない少尉たちは零をただの一整備兵として認識し、蚊でも払うかのように手をシッシッと振る。

 その光景を目の当たりにした207訓練部隊の少女たちは一斉に顔を青ざめる。

 しかし慧、晴子、早苗の3名は少尉に対して苦笑いで合掌をした。

 そして整備兵扱いされた零はと言うと――――

 

 

「ふん!」

 

 

ゴシャッ!

 

 

「おごぁ!?」

 

 

ドゴォ!

 

 

「がはっ!?」

 

 

 男の少尉には顔面に、女の少尉には腹部へ鉄拳制裁を加えた。

 

 

「おやおや、雑魚呼ばわりする相手の拳にも耐えられないか。これでは訓練兵の方がまだマシだな」

 

「よ、よくも整備兵の分際で少尉に楯突いたね……」

 

「階級でしかえばれないとは器が知れるな。そういう奴ほど、戦場で真っ先にBETAにやられるものだ」

 

「はっ! BETAがどうした! あんなゴミども、いつ現れても俺が一匹残らず殺してやるよ!」

 

 

 負けることなど万に一つもないような口ぶりで少尉は顔を腫らしたまま胸を張る――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――突如、ビィーッ、ビィーッっとけたたましいサイレンが横浜基地を包み込んだ。

 

 

『コード991発令! 繰り返す、コード991発令!!』

 

 

 放送から発せられる電子アナウンスが告げた内容に、一部を除いた全員が硬直した。

 数秒の沈黙が流れ、状況を呑みこんだ衛士が弾けるように叫んだ。

 

 

「――――こ、コード991だとぉ!?」

 

「ふざけんな! ここは横浜だぞ!? どこから沸いて来ってんだ!?」

 

「馬鹿野郎! んなことはどうでもいいんだよ! 格納庫に走れ!」

 

「う、ウソだろ……。なんでこんなところで……」

 

「こんな話、聞いてない……」

 

 

 辺りが一瞬にして阿鼻叫喚の図へと陥れられる。

 しかしまともに動いたのは、その中でも数えるほどしかいなかった。

 

 

「207訓練部隊! 至急白兵装備でブリーフィングルームに集合! 急げ!」

 

「……は、はい!」

 

「チクショウ! どういうことだよ!」

 

 

 武の指示を受けて放心状態に陥った訓練兵たちが一斉に駆け出し、武も訳がわからないといった風に叫びながらもPXを飛び出した。

 一方、零は時計に目をやり「そろそろか」と呟く。

 

 

『全員落ち着けぇぇぇぇぇぇいッッ!!』

 

 

 全体放送から発せられた叫び声が全員の動きを止め、咳払が一つ響く。

 

 

『こちらはパウル・ラダビノッドだ。先ほどのコード991は、システムの誤作動によるものである。事実、近辺にBETAの姿は無く、佐渡島より侵攻してきたという情報もない』

 

 

 基地司令、ラダビノッドの放送を聞いて多くの者が安堵の息を漏らす。放送は続き、誰もが耳を傾ける。

 

 

『慌てることはないが、これを機に諸君らには一度思い返してもらいたい。先ほどの警報で自分は迅速に行動できたのか? 自分の役割を理解し、それに準じて動けたのかを。なまじ襲撃が少ないので誰もが意識を薄れさせているのかもしれないが、ここは極東の最前線である。いつ、いかなるときにBETAに襲われても全くおかしくはない。願わくば、今回の騒動で皆の意識が変わることを私は望む。最後に誤作動とはいえ、皆に迷惑をかけたことを謝罪させてもらう』

 

 

 放送が終了し、多くの人間がラダビノッドの言葉に心を揺さぶられた。

 自分たちは緩んでいた。そう実感した者はすぐさま今回のことについて話し合うべくその場を後にしていった。

 そして零の前には、未だに混乱している二人の少尉の姿があった。

 

 

「大口を叩いた割には、なんとも無様だな」

 

「は……は、あんなの、予想できるわけねーじゃん。混乱するのが当たり前に、決まってるだろ」

 

「貴様は先ほどの司令の言葉をしっかり聞いていたのか? 聞いたうえでそんなことを言うのなら、もはや呆れを通り越して嘲笑ものだな」

 

「お前……いい加減にしろよ。整備兵のくせにさっきから言いたい放題言ってくれちゃって」

 

「いい加減にするのはどっちだ? こんな状況でまだ自分だけは違うとでも言うのか? さっき貴様らが格下と見て殴っていた奴の方が十分に己の責務を全うしていたぞ? だというのに自称格上の貴様らはどうだ? 991を聞いたらあり得ない、信じられない。衛士として致命的な発言しかしていなかったな」

 

「上等だ……。上官に口答えできないくらい修正してやる」

 

「懲りないな、貴様ら。 ――ふむ、少し肌寒いな」

 

 

 未だ己の行いを認めようとせずよろよろと起き上がった少尉たちを見て、零は思いついたようにつなぎをほどいて袖を通す。

 それとともに現れたのは――――まぎれもない国連軍『中佐』の階級章。

 

 

「な゛っ!?」

 

「そ、そんな!? ちち、中佐……殿!?」

 

 

 ここで二人はようやく自分が犯した失態に気付き、ライオンを前にしたガゼルのように震えだした。

 今まで自分たちが侮辱していたのはただの整備兵ではなく、中佐と言う階級を持った上官だったのだ。

 

 

「さて。貴様らは上官に対しての暴言と暴行を行い、あまつさえ斯衛軍が運び入れた機体に対して利敵行為に等しい行いをしようとした……これらの罪は決して軽くはないぞ」

 

「は、は?」

 

「上官への、暴行?」

 

「何だ、知らずに殴ったのか? 貴様らが先ほどまで殴っていた相手は、国連軍『大尉』の男だぞ」

 

「「な゛あ゛ッ!?」」

 

 

 衝撃の事実を聞かされた二人はその場にへたり込み、とうとう放心状態となってしまった。

 

 

「貴様らの処遇は貴様らの隊長へ通達しておこう。それまで自室謹慎でもしておけ」

 

 

 そう言い放ち、零は踵を返してPXを後にした。

 

 

 

 なお、その場に残された少尉たちは数ヵ月後に後にアフリカの最前線へ送り込まれ、戦闘開始後10分足らずで突撃級に踏みつぶされたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

勢いとノリで構成されたおふざけ没シーン集

 

その①

 

 

「ば、化け物かテメェ!?」

 

「地道な鍛錬を欠かさず続けていればこの程度の腕力に揺らされることはありませよ? と言うか、少尉の訓練不足では?」

 

 

 口元の血を拭って武がそう吐き捨てると、流石にキレたのか少尉二人は再び武へと殴りかかる。

 ――が、そこで一人の人物が見計らったように男の少尉の肩を叩く。

 

 

「あ? なんだ……よ…………」

 

 

 男が振り向いた先に、異様な人物がいた。

 服装は階級が外された国連軍の制服だがその頭には派手な羽飾りで装飾されたインディアンマスクのような仮面が装着されていた。

 

 

「うまうー……」

 

「な、なんだよ! 何言ってんだよ?!」

 

「うまうー!」

 

 

バシィン!

 

 

「ぶふぉ!?」

 

 

 大きなスウィングによって放たれたビンタが男の顎を捉えるッッ!

 

 ――――――その光景を見物していた、食堂のおばちゃんKさんは語る。

 『ありゃあ身体ごと飛ばされたんじゃない、身体ごと回されたね』と。

 その場で数回回転してから地面に叩きつけられた男は気を失っており、顔面は見るに堪えない形に変形していたという。

 

 

「ひ、ひぃ!?」

 

 

 それを見た女の少尉が腰を抜かし、仮面の男から逃げるように後ずさる。

 しかしその途中で誰かにぶつかり慌てて振り向いた先には――――――

 

 

「会いたかった……会いたかったぞ! 斉藤ォォォォォォ!!」

 

 

 軍服の上に陣羽織を羽織った金髪仮面男が突然刀を抜き放ちインディアンマスクへと斬りかかるッッ!!

 

 

「はりゃほれうまうー!」

 

 

 斉藤と呼ばれたインディアンマスクもなにもなかったはずの背中から刀を抜いて迎え撃つッッ!

 ギィン!と刃と刃がぶつかり合い火花が散る。

 その光景を見ていた207訓練部隊B分隊所属の鎧衣 美琴があることに気付きハッとなる。

 

 

「あ、あれは……!」

 

「鎧衣! そなたはあの仮面の者たちを知っているのか!?」

 

「あのインディアンマスクは最強の男……マスク・ザ・斉藤だ!」

 

「「「ま、マスク・ザ・斉藤!?」」」

 

「そしてもう一人は最近横浜基地の自動販売機付近で見かけるという変t……じゃない、益荒男のミスターブシドーだ!」

 

「「「み、ミスターブシドー!?」」」

 

「そうだ。斉藤に敗れ、斉藤に打ち勝つため生き恥を晒してきた男。それがミスターブシドーだ」

 

 

 突如少女たちの背後から現れたのは銀色のマスクで顔のほとんどを覆い隠したプラチナブロンドの長身男性だ。

 さらにその後ろには様々な仮面やマスクをつけた男たちがいた。

 尖がりアンテナが付いたヘルメットにヘッドギアを改造したマスクの男。

 ドイツ国旗を模した覆面マスクの男。

 フルフェイスの鉄仮面をつけた男。

 尖がりアンテナの男によく似た雰囲気を持つマスクの男。

 顔半分を隠せる程巨大で真っ赤で尖った派手な暗視グラスの男。

 他にもサングラスやマスクをした男女がぞろぞろと現れて斉藤とブシドーの戦いを眺め始めた。

 二人の戦いはやがて人知を超え、体が宙を舞いさらには刀身がビームサーベルのように輝き、ぶつかり合うごとに凄まじい衝撃波をまき散らした。

 

 

「流石と言いたいところだが、あえて言わせてもらおう! 仮面の性能の違いが、勝敗を分かつ絶対条件ではないということを!」

 

 

 ついに2刀流になったブシドーに対し、斉藤も威嚇するように羽根飾りを広げて対峙する。

 十秒か、一分か、はたまた十分か。それ以上かもしれない時の流れを感じながら二人がついに動き出す。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「うまあああああああああああああ!!」

 

 

 雄叫びと共に互いが得物を振り上げ、全力の一撃をその太刀に込める!!

 

 

「切り捨てぇ―――――」「はりゃほれ―――――」

 

「ごめえええぇぇぇぇぇぇぇん!!」「うまううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

 煌めく閃光と轟く爆音。

 全てが晴れたとき、斉藤も、ブシドーも、仮面の一団も忽然と姿を消した。

 そう、まるで夢幻の如くに。

 この戦いの一幕は、後の横浜基地の伝説になったとかならなかったとか。

 

 

その②

 

 

「ば、化け物かテメェ!?」

 

「地道な鍛錬を欠かさず続けていればこの程度の腕力に揺らされることはありませよ? と言うか、少尉の訓練不足では?」

 

 

 口元の血を拭って武がそう吐き捨てると、流石にキレたのか少尉二人は再び武へと殴りかかる。

 ――が、そこでなにかが見計らったように男の少尉の肩をぽんぽんと叩く。

 

 

「あ? なんだ……よ…………」

 

 

 男が振り向いた先に、それはいた。

 

 

「ふんもっふ!」

 

 

 ネズミのようなコアラのような姿に加え愛くるしい声をしているが、声と姿に対して不釣り合いなはずなのに違和感がない装備を所持していた。

 防弾チョッキにスタンロッド。そして暴徒鎮圧用ゴム弾にグレネードを装着したアサルトライフルやバズーカを備え頭部にはアンテナ付きのヘルメットが。

 

 

「な、何だテメェは!?」

 

「ふも! ふもふも! ふもるる! ふもっふ!!」

 

「いや、わけわかんねえよ!?」

 

「『自分の名はボン太くん。この横浜基地において特殊な訓練を受けた対BETA戦のプロフェッショナルである』と言っています」

 

「わかるのか!?」

 

 

 ボン太くんと名乗るそれの通訳をしたのは後ろについていた霞である。

 そして男の質問にドヤァ……とサムズアップ。

 

 

「ふもふも、ふもも! もっふもふる! ふもっふるももふ!」

 

「『そして横浜基地の風紀を取り締まるプロフェッショナルでもある。上官に対する暴行を確認したため、貴官らを拘束する。無駄な抵抗は身を滅ぼすのでおとなしく従え』と言っています」

 

「ピアティフ中尉まで!?」

 

 

 続いての通訳としてボン太くんの後ろから現れたピアティフの姿に驚いたのは武だ。

 こちらも同じ様にドヤァ……とサムズアップ。

 通訳をしてもらったボン太くんはぽよ、ぽよという足音と共に二人の少尉へと詰め寄る。

 

 

「ふ、ふざけんじゃねえ! ぬいぐるみなんかに拘束されてたまるかよ!」

 

 

 激昂した男がボン太くんに一発見舞おうと大きく振りかぶる!

 

 

「ふもっふ!」

 

 

 ボン太くんは伸ばされた男の腕をつかみ、そのまま懐に飛び込んで一気に担ぎあげる!!

 

ゴギャア!!

 

 

「ぐがあ!?」

 

 

 ボン太くん渾身の一本背負いが炸裂し男の背中から破滅的な音が響いた。

 その男の末路を見た女は0.01秒で土下座体勢に入り、ボン太くんとMPに連れられてPXをあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武「――――って両方ともオチなしかよ!?」

 

 

 打ち切りと言う名の蜜柑、もとい。未完。




本編第28話+α、いかがでしたでしょうか?
システム誤作動のサイレンは去年関西圏で起こった緊急地震速報の誤報事件を元にしています。
斉藤ネタはだいぶ前から、ボン太くんネタはZ3やってから思いつきました。
一発ネタなのでこんな形でしか出せませんでしたがいかがでしたでしょうか?(震え声

次回はグルーデックさん呼んだりTE組が合流したりする予定ですが、例によって作者の都合で変化する場合があります。ご注意ください。

それでは、また次回にお会いしましょう。





余談①
艦これでまるゆを入手したものの、このSSを作るためTEを何回も見倒したおかげかセリフ全てがイーニァに聞こえます。(割とガチで


余談②
最近もう一つの作品を作るため久しぶりにスパロボAPに手を出した作者ですが、アホセルが楽しすぎてそれどころではないかもしれません。


余談③
今回の没シーンに使用したネタはこちら。
・フルメタルパニック?ふもっふ
・範馬刃牙(野人戦争編)
・リトルバスターズ!
・ガンダムシリーズの仮面のみなさん(覆面レインを含む)



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第29話

どうもこんばんわ、投稿が今までで最も遅くなってしまった作者です。
お待たせしました、新作に続いて最新話の投稿です。
今回から文章の書き方を少しだけ変更しました。多少は見やすくなったかと思います。
さて、今回は以前より作中で上がっていた『SS』の情報が明らかになります。
これを見た後もしかしたら『GL』の名前が容易に想像できる方が大勢いるかもしれませんが、それは胸中に収めてください。

それでは本編第29話、どうぞご覧下さい。


国連軍横浜基地 地下19F 通路

 

 

「―――つまり、あの警報はお前が仕組んだものだったのか」

 

 

 腫れた頬を冷やしながらジト目で睨んでくる武に「ああ」と返す。

 

 

「以前から基地の空気について問題が上がっていたからな。香月博士や基地司令に依頼して今回の騒動を起こさせてもらった。実際、効果は目に見えて出てきただろ?」

 

「そりゃそうだけど」

 

 

 釈然としてなさそうな武だが、実際基地の空気が大きく変わっているのであまり強く言えないようだ。

 調子に乗った少尉たちへの行動に加え、突如として発生したBETA出現警報。あれ以降基地内ではシミュレーターの稼働率が大幅に上がり、各訓練施設や演習場、さらにはブリーフィングルームまで予約待ちが目立つようになった。

 ちなみにあの時の少尉たちは少し前に半月間訓練兵扱いの処分が下された。また事が事なために現在上では転属の話も上がっているが、これも近いうちに確定する話だろう。

 それにあの騒動の後なので報復とかは考えにくいが、もしそれに準ずる行為に及んだ場合はそれこそ衛士としての資格をはく奪されることも間違いない。

 

 閑話休題。

 

 しばらく歩いてやってきたのは俺に割り当てられた執務室だ。

 今回、武を呼んだのはあるデータを見せるためでもある。

 慣れた手つきでカードキーを差込み扉のロックを解除し入室する。

 

 ――――同時に、俺の思考が一瞬フリーズした。

 

 

「やあ、神林中佐。失礼させていただいてますよ」

 

「……何してんですか、鎧衣課長」

 

「見てわからないかね? 白銀大尉。コーヒーを飲んでいるのだよ。ああ、ご安心ください中佐。これは私が持参したものなので」

 

「そういう問題ではないと思うんですがね」

 

 

 ――何故か鎧衣課長が応接ソファーでコーヒーを片手に寛いでいた。

 というか部屋はロックをかけていたはずだがどうやって侵入した?

 

 

「それは企業秘密というものですよ。いや、この場合は秘密技術と申すべきでしょうか」

 

「心を読まないでいただきたいですね。 それで、わざわざここまでご足労いただいたご用件はなんでしょう?」

 

 

 武を応接ソファーの空いたスペースに促しつつ、俺も自分の執務席に腰掛ける。

 

 

「香月博士には先ほどお知らせしたことなのですが――――帝国軍部にて戦略研究会が発足されました」

 

「戦略研究会……それって!」

 

 

 武の驚いた声を継ぐように、俺もその正体を口にする。

 

 

「沙霧大尉たちのクーデター軍が発足されましたか」

 

「その通りです。米国の諜報員が接触したと言う情報はまだありませんが、それも時間の問題でしょう」

 

「となると、殿下には出来るだけ早く復権していただく必要がありますね」

 

「そのことで少々足元の掃除に難航しておられるようでして。私も微力ながらお手伝いさせていただいているのですが、これがなかなかに汚れが頑固でして」

 

「なるほど」

 

 

 Gステーションで渡した資料があればだいぶ捗るかと思ったが、思った以上に難儀しているようだな。

 しかしそこをどうにかしないと何も始まらない。後は、沙霧大尉たちが抱いている榊総理のイメージを払拭しないとな。

 

 

「了解しました。こちらでも打てる手は打つようにしますので、殿下にはそのようにお願いします。ああ、あと以前お話した帝国領内に整備ドックの建造をさせていただく話についてこちらで候補を絞りましたので許可の有無を確認してもらえますか? 場所は――――ここの地下に建造するつもりです」

 

「……ふむ、心得ました。必ずお伝えしましょう」

 

 

 それだけ言い残して鎧衣課長はコーヒーを飲み干すとカップを懐に仕舞いお辞儀をひとつして退室していった。

 

 

「零。整備ドックの建造って、どこでやるんだ?」

 

「いろいろと候補を絞ったが、横浜基地から遠すぎずかつ危険も人気も人気少ない場所を考慮した結果ここになった。あとは殿下の許可が下りればうちの連中を動員して一気に形を整える」

 

 

 地図を引っ張り出してその名を指し示すと、武は「へぇ」と声を漏らした。

 

 

「式根島の地下か。けどここも避難している人がいるんじゃないのか?」

 

「そこは事前に調査してある。あそこにも確かに人は住んでいるが、避難している人はほとんどいない。交通の便が悪い離島だから配給も滞りやすく、リゾートならともかく戦時中の避難には向いていない土地だ」

 

 

 ただでさえこの辺りの島より東は逃げ場がないというのに、その逃げる選択肢を狭めるような避難は正直迂闊としか言いようがないだろう。

 

 

「さて、それより本題に入ろう。 ――――武、お前をここに連れてきたのは見せておきたい機体があるからだ」

 

 

 そう言って俺はあらかじめ出力しておいた資料を隠し金庫から取り出し、武の前で広げてみせる。

 

 

「お前の専用機の設計データだ。以前聞いた要望に加えてこの前の演習データを元に調整を入れ、現在Gステーションで急ピッチで建造中だ」

 

「俺の専用機?」

 

「そうだ。戦術機――に分類すべきかわからないが、名目上は戦術機初のガンダムタイプだ。形式番号、TSMS-01GSS。開発コード名――――ガンダムシルバーソル」

 

 

 型式番号にMSが入ったり名前や見た目が完全にガンダムだが、機体の特性上俺は戦術機に分類している。

 装甲のカラーリングがすべて白銀でまとめられており、この機体が人類の未来を照らす太陽となってもらうべく色合いと合わせてシルバーソルと名付けた。

 とはいっても、見も蓋もない言い方をすればさまざまなMSのデータや技術を流用して戦術機の技術と組み合わせただけのような代物だ。

 まず胴体はνガンダムの物を参考にしつつ胸部ダクトの上にマシンキャノンを増設。コクピットはもちろん戦術機の管制ユニットと同じものに作り変えているが、νガンダム同様コクピット部にサイコフレームを組み込んである。欲を言えばもう少し積みたかったが、時間やラインの問題でコクピットの分しか用意できそうにない。

 また動力にミノフスキー式核融合炉を使用し、ブースターとビームサーベルが搭載されたランドセルのすぐ下にはプロペラントタンクを兼用させた跳躍ユニットを取り付けることで余裕を持って長距離を移動できるようにした。

 両腕はユニコーンガンダムのビームトンファーを組み込み、肩アーマーには空間戦を想定してHi-νガンダムと同じスラスター機構を導入。また、腕部のビームトンファーはキュベレイのビームサーベルからヒントを得て出力を調整しエクシアのようなビームバルカンを撃てるように改造。

 両脚の裏にνガンダムのようなブースターを増設し機動力を向上。両サイドアーマーはスラスターを残しつつ実体剣の対艦刀を装備。

 一番の問題となるであろう関節部にはMFの技術に加えてストライクフリーダムのようにPS装甲素材製内部骨格部材を導入。しかし金色になるのが気になるので各部に用意した余剰電力は熱エネルギーに変換して各部に組み込んだ放熱板を経由して放出させることにした。放熱板についてはこのあと説明するだろう。

 また外付けの増設ユニットにより追加ブースターと共にハイパーランチャーが携行可能。火力の向上にも成功している。

 専用のビームライフルは旋風で使用しているマルチビームライフルと同じシステムの物だが、冷却機能やエネルギー効率、そしてマシンガンモードの連射性能が圧倒的に上だ。なおシールドはνガンダムと同じものが採用されている。

 頭部は個人的な趣味で申し訳ないが、見た目はまんまカラーリングを変えたフリーダムガンダムだ。アンテナ部分だけそのままにしてフェイスカバーを白に、各部センサーをグリーンに統一した。他の変更点は頭部のバルカンがビームバルカンに変更したくらいか。

 ――そして一番の特徴がリミッターを解除した機能、『オーバードライブモード』だ。ユニコーンガンダムのNT-Dのようにランドセルが展開しスラスターが増設され推進力が上昇。さらに頭部のセンサーがすべて緑から赤に変わり各部装甲とリアアーマーも展開しブースターや放熱板が露出する。全力機動こそ本家NT-Dの数段は劣るものの、反応速度はもちろん加速性能はトールギスにも匹敵するだろう。

 なお、高性能の冷却装置や放熱板も組み込んだおかげでオーバードライブの稼働時間は10分近く続く。また、各関節に溜まった熱エネルギーは冷却装置が追いつかなくなると自動で装甲下の放熱板が展開されるようになっている。

 無論、バイタルチェックが働いてパイロットが危険だと判断されれば機能は強制定期に停止するようになっている。クールタイム後に機体、パイロットともに問題がなければまた使用可能となるが、武の腕を考えれば余程のことがない限り使う機会はそうそうないだろう。

 基本スペックは俺のガンダムを除けば現行で稼動しているどの機体よりも勝っていると断言できるが、難点と言えば増設ユニットがなければ大型の火器を携行できないところだろうか。

 ここまで挙げれば察してもらえるだろうが、この機体は通常開発で行えば相当な時間がかかってしまう。技術的にもそうだがサイコフレームを揃えるだけで一月かかってしまうのだ。

 PS装甲素材製内部骨格部材に限っては関節部分だけに限定したので必要数を揃えるのにそれほど時間をかけずに済んだ。おかげでただでさえ頑丈なMF技術の関節がさらに強化される形となった。

 

 

「すげぇ……。これが本当に、俺の機体になるのか?」

 

「いらないなんて言うなよ。もう開発は始まってるから後戻りはできないし、これと対になる機体を120%生かすにはお前が乗らないと意味がない」

 

「対になる機体? こんな化け物みたいなスペックを持つ機体がもう一つあるのか?」

 

「ああ。こっちも開発は始まっているが、詳細はまた機会が来たら教えてやる。 とりあえず今はその仕様書を頭に叩き込んでおけ。シミュレーターの方は残念ながらコクピットに新たに追加予定のボタンやスロットルがないから導入できなかったが、実物を使ってのシミュレーターなら……コクピットだけなら一月半もあれば出来上がるからそれで訓練してくれ」

 

 

 追加ボタンはいざという時に増設ユニットや跳躍ユニットをパージさせるための物だったり、スロットルは機体の出力をセーブさせるためのストッパー的役割を持つ物だ。

 ある程度の音声操作も受け付けるようにもするが、機械が受け付けなかった場合も考慮してこういう措置を取ったわけだ。

 

 

「了解した。シミュレーターが使えるようになったら教えてくれ」

 

「安心しろ、真っ先に教えてやるから。 あとわかっていると思うが、仕様書は厳重に保管しておけ。いざとなったら破棄しても構わないから」

 

「そうならないように努力するよ。 じゃ、またな」

 

 

 仕様書を一緒に渡した大きめの封筒に納めて武が退室したのを見届け、俺は端末を起動させながら今度は引出しから資料を取り出す。

 こちらはデータベースから絞り出したトレミーのクルー候補たちの情報が収まっている。以前アラスカですれ違ったグルーデック少佐を筆頭に、新たに見つかったオペレーターや整備要員、操舵要員の名前と経歴が記されている。

 

 

「これで最低限の頭数はそろったわけだが、オペレーターと操舵要員がこの二人なのは、因縁と言うかなんというか」

 

 

 思わず苦笑いして3枚の写真を取り出す。

 最初の写真は整備要員、アストナージ・メドッソのソックリさんだ。スパロボなどの影響でずっと生存している印象があったが、よく考えればこの人も逆襲のシャアで戦死していたなぁと発見時には思ったものだ。

 そして2枚目3枚目の写真を並べて、思わず口元がゆるむ。

 オペレーターの名前はエイル・フィールという女性で、操舵要員の名前はリュート・ベティッシュという元衛士の男性だ。

 名前だけなら普通の衛士やオペレーターで片づけただろが、その写真が俺を引きとめるのに十分すぎる代物だった。

 エイル・フィールはガンダムOOで戦死したクリスティナ・シエラ――通称クリス――にそっくりで、リュート・ベティッシュは同じくガンダムOOで戦死したリヒテンダール・ツエーリ――通称リヒティ――にそっくりだったのだ。

 ほどほどに眺め終えてメールのソフトを開き、各方面へ出頭依頼のメールを送る。

 そちらが終わったら今度は別の端末からGステーションの開発システムに接続し、調整状態だったアッガイを使えるように指示を出し、さらに可能な限り水中用MSを開発させる。あとミンチドリルも5,6本生産させておくとしよう。

 さあ、準備は着々と進みつつある。あとは不測の事態に備えて資材のストックを貯めておいたり、部隊の練度をあげていこう。

 細かな調整を済ませたのを確認し、俺は次なる一手の相談を博士に持ちかけることにした。

 ズバリ、俺の存在公表とOOユニットの情報漏えい防止策の相談だ。




第29話、いかがでしたでしょうか?

長々と説明を書いていると尺稼ぎな感じがしてどうにも釈然としません・

それはさておき、今回の話でトレミーの配属要員がこんな感じで出揃いました。
艦長:グルーデック
副長:不在
通信:エイル(クリス)
操舵:リュート(リヒティ)
整備:アストナージ
ゲスト:不在

霞はまた別の機会に操舵要員となりますので、決してリストラになったわけではありません。(と言うかさせません)
また、クリスとリヒティは本名が分からなかったので作者がオリジナルで名前を付けました。

さて、今回MLOWの最新話をあげたわけですが、新作の方が執筆がはかどってしまっているのでこちらの更新がまた遅くなってしまう可能性があります。
連載を一本に絞ることができないダメな作者ですが、これからもよろしくお願いします。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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第30話

どうも、こちらではお久しぶりです。
最近クロノトリガーの作品が筆の進みがいいのでそっちに集中していた作者です。

散々待たせたクセに内容はいつもと比べ割と短めとなっています。
今回の内容を大まかにまとめると「00ユニットの漏えい問題」「存在の公表に当たって」「新しい人材」の三つとなります。ただ最後の内容はものすごい短いですが。

ともかく、本編第30話、どうぞご覧ください。


国連軍横浜基地 地下19F 香月夕呼の研究室

 

 博士の部屋に足を踏み入れるなり目に飛び込んできたのは、あからさまに疲れたように椅子へ体を預けている博士の姿だった。

 

 

「……ん、神林じゃない」

 

「だいぶお疲れのようですが、休めてますか?」

 

「そんな暇はないわよ。それより何の用?」

 

「俺の存在公表についての相談と、00ユニットの情報漏えい防止策の相談――「策があるの!?」――うお!?」

 

 

 突然立ち上がるや否や襟首を引っつかんで問いただされ、思わず手にした資料を落としそうになるがどうにかそれは阻止する。

 どうやらちょうど防止策に頭を悩ましていたようだ。

 

 

「さ、策といっても、素人目線のものなので参考になるかはわかりませんが」

 

「かまわないわ。話してみなさい」

 

 

 解放され制服を正し、手にしていた資料を手渡す。資料の内容は情報漏えい策を簡単にまとめたものだ。

 

 

「現状での提案策は二つ。00ユニット――鑑純夏には武の調律が終了次第、真っ先に反応炉をハッキングして通信機能を破壊(クラック)してもらいます。ただ万全を期すためにも武には起動してから72時間以内に調律を完了させてもらう必要があります」

 

「それは情報が流出するかも、という可能性を確実に潰すためかしら?」

 

「そう受け取ってもらって構いません。製作段階でODL漬けにされてはいますが、真っさらな彼女から回収できる情報は皆無。しかし起動してからは内容にかかわらず情報を得ていくので、次の浄化作業では重要なものが流出する可能性がある。それを防ぐためにも武にはがんばってもらうというわけです」

 

 

 特にここには本来あるはずのない技術が存在している。それで得られたアドバンテージをみすみす潰されては今まで以上に苦戦を強いられることは間違いないだろう。

 せっかく対抗策のないビーム兵器を持ち込んだのにそれを封じられては意味がない。しかし現状で一番確実性が高いのがクラッキングなのだ。原作で武が調律にかけた時間がどれくらいだったかは思い出せないが、少なくとも三日で終わりはしなかったはずだ。

 

 

「それで、もうひとつはこのODLストックかしら?」

 

「はい。これは先ほど説明した調律が間に合わなかった場合の予備案のようなものなのですが、今のうちにODLを大量に抽出し保管、甲一号を潰すまで反応炉を使わず別の装置で浄化作業を行うというものです」

 

「発想としてはありかもしれないけど難しいわね。反応炉無しで浄化作業はできないし、代わりの装置を作ろうにも時間がなさ過ぎる」

 

「Gステーションの整備ならあるいはとも思うのですが、浄化の度に裏側に移動していたらそれこそ時間の無駄ですしね」

 

「同等の整備を地上に設けれない?」

 

「こちらも時間的に厳しいかと。せめて地球からもう少し近い位置にGステーションがあれば話は別なんですが」

 

 

 そうそう都合のいい方向には流れないか。

 少し分の悪い賭けではあるが、他に有効な策が思いつかないのもまた事実。ならば現段階ではこれをメインに据えつつ、00ユニット完成まで新しい手段を模索するしかない。

 

 

「あたしも他に方法がないか考えてみるけど、今の状況では機能破壊が最善の策みたいね。一応、ODLストックの案についても方法は探してみるわ」

 

「ではひとまずこの方向で行きましょう。 ……ところで、肝心の織姫の具合はどうですか?」

 

「概ね順調よ。あと半月もあれば起動段階にこぎつけられるわ。白銀にも教えてあるから別に教えなくていいわよ」

 

「了解です。それともう一つの件なんですが……」

 

「……そうね、そっちもあったのよね」

 

 

 頭が痛いと言いたそうにもう一つの話、存在公表について話を始める。

 

 

「前回のアラスカ基地防衛において俺の存在を晒してしまったので、この機会に国連を通して公表しようと思っています」

 

「技術をよこせってあちこちうるさくなりそうね……。それについてはどうするつもりなの?」

 

「なんだかんだ理由をつけて引き延ばしますよ。できることなら、オリジナルハイヴを攻略するまでね」

 

 

 あそこさえ落としてしまえばあとは楽だ。対策を取られる心配はなくなるし第5計画も凍結に持ち込めるだろう。無論、簡単に持ち込めるわけがないのでいくつか手札を切らせてもらうがな。

 

 

「第5計画の連中には『バビロン作戦』の穴をトコトン追求させてもらいますよ。と言うより、G弾そのものが既に効かなくなっている可能性が非常に高いんですけどね」

 

「効かなくなってる? …………まさか」

 

 

 博士も同じ回答に気づいたらしく、俺は笑みを持ってそれにこたえる。

 

 

「なるほど。確証がないことではあるけど、可能性としては十分すぎるものね」

 

「ただこれを話す時には00ユニットが稼働状態であることが望ましいんですよね理由は――「反応炉から読み取った情報にG弾に対する対策があったと言えるから、かしら?」――ご明察」

 

 

 普通に言うだけでは効果は薄いが、第4計画の成果によって得られた情報ということならこれ以上ない信憑性があり、連中にとっても決して無視して良い情報ではなくなる。

 

 

「わかったわ、00ユニットの完成を急がせましょう。……ちなみに聞かせてもらいたいんだけど、もし今あんたの部隊でオリジナルハイヴを落とせと言われたらできると思う?」

 

「……正直、微妙と言わざるを得ませんね。いくら機体の性能が他の戦術機と比べて図抜けているといっても、結局動かしているのは人間です。フェイズ3くらいまでなら可能でしょうが、今のうちの部隊だけだとそれ以上は難しいです」

 

 

 これは最終的に全員脱落することなく帰還するという条件を加えた場合に限っての予測だが、もし帰還の条件がなければ成功率はまだマシになるだろう。

 もちろん、そんな条件を認めはしないがな。

 だが、もし別の条件があるなら――

 

 

「……ありがとう、参考になったわ」

 

「それは何より。では――っと、それと近々うちの部隊に戦艦クルーとして新しい人材を引き入れる予定です」

 

「ん、わかったわ。前にも言ったけど、背後関係の洗い出しは入念にしなさい」

 

「心得ています。それでは」

 

 

 お辞儀をひとつ残して部屋を後にし自室へ戻りながら先ほどの博士の質問を反芻する。

 今、俺の部隊でオリジナルハイヴを落とせと言われたらできるかどうか。これについてはさっき博士に答えた通りだ。

 

 ――だが、攻略にかかるのが俺だけならばまた話が変わってくる。

 

 結論からいえば攻略は可能かもしれない。

 俺のガンダムは女神様のおかげで燃費が大幅に向上したので活動時間はもちろん、武装の消費エネルギーが大きく低下した。機動力や推進剤についても同様なので、僚機がいない状況ならかなりのペースで進行が可能のはずだ。

 これを聞くだけなら普通に単機で攻略が可能ではと思うが、問題は俺自身だ。

 いくらかなりのペースで進行できるとしても、パイロットにかかる精神的負担がどれほどなのか皆目見当がつかない。

 原作の武たちがカシュガルハイヴに突入してから『あ号標的』を撃破するまでどれくらいかかったかわからないが、何時間も化け物の海を突っ切ろうとするのはそれだけで嫌になる。

 しかもハイヴ内では上からも降ってくるとなれば余計に気を張らなければならず、結果として疲労が蓄積されていく。

 ハイメガキャノンで一掃しながらだと余計に時間がかかるし、そもそも単機で何十万……いや、下手をしたら百万もの敵を相手にしてたら余計に疲労がたまってしまうだろう。

 

 

「……やめよう。考えるだけで頭が痛い」

 

 

 ともかく現状の俺の部隊だけでの突破は無理だし、単機での攻略もリスクが高すぎる。

 こんなことを気にするくらいなら今の戦力を強化して確実に攻略できるであろうところまで育てた方がよほど建設的だ。

 さしずめその第一歩として、候補のメンバーを横浜基地に呼び出すとしよう。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 先ほど基地司令より手渡された命令書とある映像を眺めながら、グルーデック・エイノアは考えていた。

 先日発生したテロの後始末がようやく沈静化の兆しを見せたと思ったら突然極東国連軍基地の横浜へ向かい、神林中佐と会談しろと言うものだ。

 いきなり見知らぬ日本人に会ってこいと言われ流石に不審に思い調べたところ、この神林と言う中佐は先日ここのテロを治めた一人で、都市伝説の一つと思われた謎の戦術機『蒼炎の翼』のパイロットだと言う噂もあった。

 自分は部下によってシェルターに押し込まれたためその活躍を直接目にすることはなかったが、今見ている映像では見たことのない戦術機が聞いたこともない武装を用いてBETAを一掃し、テロリストを制圧して行く姿があった。

 これだけでも彼の興味は強く惹かれ、同時に自分が軍に身を置いた目的に一番近いと確信する。

 

 

「……いいだろう。BETAを殲滅できるなら、どこへだって行ってやる」

 

 

 写真立てに写るもう戻らぬ妻子に強く誓い、彼は横浜へ向かうべく準備を始めるのだった。




第30話、いかがでしたでしょうか。

今回はどうにか投稿できましたが、やはり今後しばらくはもう一作のSSに集中したいと思います。
楽しみにしていただいている読者の方々には大変申し訳ありませんが、どうかお付き合いください。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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Extra Story 女神の来訪

どうもお久しぶりです、明石明です。

優先させていたクロノトリガーの作品が一応完結しましたので、予告通りこちらの執筆を再開したいと思います。
しかしながらリアルの忙しさと設定の見直しのため最新話の投稿はもうしばらくお待ちください。

今回の投稿はMLOWの更新再開を知らせることとちょっとしたリハビリを目的とした投稿で、一仕事を終えた女神さんが零の様子を見にきたという内容となっています。

クロノ作品の宣伝のようになってしまっていますが、どうかご容赦ください。



国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

 それは香月博士に00ユニットの問題点について話し合って間もない時のこと。

 少し遅めの昼食を終え、なんとなく立ち寄った脳髄の部屋で霞とくつろいでいた武をいじり倒した俺は、自分の執務室に戻るなり一瞬言葉を失った。

 

 

「やあ、失礼させてもらっているよ」

 

「やあって、どうしてあなたがここにいるんですか」

 

 

 応接ソファーで紅茶を飲んでいた人物を見て、俺は驚きながらそう尋ねずにはいられなかった。

 部屋にいたのが鎧衣課長なら別段驚くことはなかったが、目の前にいるのは俺をこの世界に送った神の上司を名乗った女神さんだった。

 

 

「何、少し大きな問題が片付いたついでに君の様子が気になってな」

 

「大きな問題って、まさかまたあのクソ野郎が何かしでかしたんですか?」

 

「……ああ」

 

「……お疲れ様です」

 

 

 当てずっぽうのつもりだったのだがどうやら大当たりだったらしく、女神さんはどこか疲れた風に返事をした。

 ちなみに俺が言うクソ野郎とは、俺をこの世界に送り込んだ神のことだ。

 

 

「差し支えなければ、どんなことがあったのか教えてもらってもいいですか?」

 

「ふむ……君もあれに振り回されたひとりだしな。お茶でも飲みながら話そう」

 

 

 どこからともなく新しいカップとソーサーが取り出され、おかわり用に置いてあったポットから紅茶が注がれる。

 その様子を見ながら手荷物をデスクに置き、女神さんの対面に腰掛ける。

 

 

「それで、今度は何があったんですか? 様子を見る限り、ロクでもないことは確定みたいですが」

 

「うむ。実はあの阿呆が君をこの世界に送って以来、奴の尺度で面白い転生を望む者がいないからと死んでもいない人を別の世界に転移させようとしたんだ」

 

 

 ……なんというか、呆れてものも言えないな。俺みたいに一度死んだ人間じゃなくてまだ生きてる人を異世界に飛ばすとか、人によっては殺されても文句は言えないぞ。

 

 

「その人はどうなったんですか?」

 

「本来なら転移ギリギリのところで阻止できたはずだったのだが、保護対象が暴走したエネルギーと次元に干渉してきた謎の力に呑まれて行方知らずとなってしまったんだ」

 

「次元に干渉してきた力?」

 

 

 暴走したエネルギーというのはまだわかるが、単独で別の次元に干渉できる存在が別の世界にいるっということか? もしそうだとしたら相当ヤバイ相手だな。

 

 

「幸い発見に少し時間がかかったものの、目的の人物の発見には成功した」

 

「お、よかったじゃないですか」

 

「そのまま終わればそう思っていたが、干渉してきた力の影響で世界を隔てるように強力な壁が形成されて手出しができなくなっていたんだ」

 

 

 なにそれ、エグ過ぎる。

 

 

「……それで、飛ばされた人はなんと?」

 

「どうやら彼はその力の原因の目星がついていたらしくてな。それを倒せば何とかなりそうだと言っていた」

 

「別の世界に干渉するほどの力を持った相手に何とかなるんですか?」

 

「苦戦はしたようだが、結果的になんとかなったぞ?」

 

「マジっすか」

 

 

 どんな化け物を相手にしてたのかはわからないが、俺はその人に心の底から賛辞を送りたい気分になった。

 

 

「そういえば全部終わった後に化け物について話を聞いたんだが、あの化け物とこの世界にいるBETAとやらはどことなく似ている点があるな」

 

「へぇ。どんなところですか?」

 

 

 BETAに似ているってことは、星の資源が目当てだったりするのか?

 

 

「似ている点といっても、その化け物は原始時代に他の星から来た存在というものくらいだな。化け物はそのときから大地の底で星に住む生命が辿った進化の中でも特に優れた遺伝子をかき集めて、自身が進化するための材料としてきたそうだ」

 

「……ん?」

 

 

 なんだ、似たような話の敵をどこかで聞いたような……。

 

 

「そして用が済めば地表に出てくるなり圧倒的な力ですべてを破壊して、新しい進化の情報を求めて他の星へ移動するそうだ」

 

「ブフォッ!?」

 

 

 すべてを破壊して他の星へ移動すると聞き、敵の正体が何なのかようやく理解した。

 

 

「女神さん、その化け物の名前って、もしかしてラヴォスとかいうやつじゃないですよね?」

 

「なんだ、君も知っているのか」

 

 

 ビンゴだ。だがクロノトリガーの世界に飛ばされることになったとは、運がいいのか悪いのかわからないな。

 現代か中世に転移できたのなら比較的平穏に過ごせるだろうが、未来だったら廃墟と化した世界で過ごすことになるんだろうからな。

 それにラヴォスが相手なら、次元に干渉というのもなんか納得できる。というか、原作をやりこんだ人ならパターンを知り尽くしているから戦いになっても苦戦しにくいだろうな。

 

 

「ただ戦った彼曰く、途中までこっちの思惑通りだったのにここにくるまでやりたい放題したせいか、原作からかけ離れて鬼畜じみた強さになっていたそうだが」

 

「え?」

 

「なんでも相手がボスラッシュ外殻かと思ったらいるはずのない最強外殻だったとか、本体のスペックが底上げされてる上に腕がセルみたいに腕が再生したとか、あとビットが多すぎて本体がどれかわからなかったとか言ってたな」

 

 

 ――前言撤回。俺の知ってるラヴォスと比べてかなり厄介なラヴォスだったようだ。

 最強外殻は……装備さえ整っていれば倒せないことはないな。ただ、ボスラッシュと思わせてそれは予想外にもほどがあるだろ。それに一番気になるのはビットが多すぎたという点だな。コアが一つなのに対していったいどれだけのビットがいたんだ……。

 

 

「ところで、やりたい放題って何をやってたんですか?」

 

「そこまでは私も知らないな。 ああ、そういえばその彼なんだが、面白いことに元の世界に帰るまでの間にできた時間を使って現地で知り合った女性と挙式を上げていたよ」

 

「……確かにやりたい放題だな。まさか連れて帰る気満々だったんじゃ」

 

「うむ、奥さんの戸籍と経歴を用意してくれと頼まれた。奥さんも最初からついていく気だったようだし、問題はないだろう」

 

 

 け、結構無茶苦茶してるなそいつ。異世界で嫁を迎えて連れて帰るとか、その世界の家族はそれを了承したのか?

 

 

「ともかく、その問題も解決したのをみてふと君の方がどうなっているのか気になったわけだ」

 

「そういうことですか。まあ、こっちもこっちで好きにさせてもらっているんですけどね」

 

 

 TE組に介入したり、オルタ組の戦力を強化しまくったり、こうしてみると、やりたい放題という点では俺も人のこと言えないな。

 

 

「君の問題も早く解決しなければならないのだが、ただの転移と特典付きの再転生では必要なエネルギーが全く違うから対応にまだ時間がかかる。それまでこの世界にいてくれないだろうか?」

 

「以前もお話ししましたが、そこは今の俺にとってさほど重要なことではないので問題ありません」

 

 

 少なくともあ号標的を潰すまでは間違いなくこの世界にいるし、戦後の問題も視野に入れれば最低でも一年以上ここにとどまらなければならないだろう。

 

 

「そう言ってもらえると助かる。 ――さて、私はそろそろ行く。こちらの準備が完了するまで、君も死ぬんじゃないぞ」

 

「簡単にくたばりませんよ。そのためにいろいろ融通を利かせてしてもらったんですから」

 

「――そうだな。では、また会おう」

 

 

 カップやポットを回収した女神さんが懐からお札のようなものを取り出すと、閃光と共に女神さんは初めからいなかったかのように消え失せた。

 

 

「それにしても、ラヴォスを倒してなおかつ現地妻を手に入れた人物か。会ってみたい気もするが、まずは目の前の問題を片づけるとするか」

 

 

 デスクに戻って資料を広げ、俺はこれからの戦いに必要なものを揃える準備に取り掛かるのだった。




Extra Storyと打たれたサブタイは今後、幕間やお知らせを目的として投稿することが多くなると思います。

さて、次回からは本格的に本編を再開させます。
進捗具合は未だ40%ほどですが、一月以内に投下できるよう頑張ります。

そして次回のテーマは『武ちゃんのスパルタ訓練』『鎧衣課長の知らせ』『存在公表の下準備』の三本を予定しています。
テーマ内容と本編の内容が大きく変動する可能性がありますが、どうかご容赦ください。

それでは、また次回の投稿でお会いしましょう。


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第31話

この作品ではお久しぶりです、一先ず作品の凍結解除を決定した作者です。

楽しみにしていた方はお待たせしました、第31話の修正版です。
息抜きにこの作品の外伝を書こうとしたところ筆が進んだので投降に踏み切りました。
このまま勢いに乗りたいところですが、Jumperの続編を優先しているので連載は以前と変わらず遅めのものとなります。
続きが仕上がり次第投稿となりますので、どうか気長にお待ちください。

それでは、本編第31話、どうぞご覧ください。


国連軍横浜基地 シミュレータールーム

 

 

「うおおおおおお!!」

 

「はああああああ!!」

 

 

 二機の旋風が互いに跳躍ユニットとスラスターを全開にして長刀を振るい、激しく火花を散らす。

 距離がゼロになったのをいいことに、武は頭部に備え付けられたバルカンポッドを打ち込む。相手もそれを読んでいたのか、一瞬力を込めて押し込んだ後すぐさま跳躍ユニットと肩スラスターを使い後退するとお返しのようにバルカンをばら撒く。

 逃がさないとばかりに背中の担架から100mmマシンガンを取り出し追撃に移行。しかしあちらも接近を許さないようにバズーカを構えると拡散弾頭を連射する。

 

 

「そんな散弾、効かねえよ!」

 

 

 細かいダメージが入るものの致命的には程遠いことを確認し、武は強引に突っ込みながらマシンガンを噴かす。

 

 

「甘い!」

 

 

 バズーカをずらして武の足元に向けてさらに四連射。前半二発は拡散弾頭だったが、最後の二発は通常弾頭だ。

 

 

「ヤベェ!?」

 

 

 拡散ではないとわかった瞬間とっさに機体を右へ回転させることで通常弾頭を回避すると、相手の旋風――零の機体がその隙をついて下段に構えた長刀を手に最短距離を突っ込んできていた。

 普通に前後左右へ逃げても危険だと判断し、武はバックステップを踏みながら跳躍ユニットを噴かせることで機体を斜め後ろに回避させる。

 零の長刀は上に逃げようとする武を捕らえようと切り上げられるが、わずかに間に合わず空しく空を切る。

 ここで攻めなければイチニアシブを取れないと悟った武は跳躍ユニットの向きを180度切り替え、さらにバックパックバーニアの出力も全開にして突っ込む。

 返す刀で一気に斬り伏せようとする零だが、それより早く武のタックルが直撃。同時にアラートが鳴り響く。

 

 

「ここでパワーダウンだと!? 不味い!」

 

 

 予想外の事態に対応しようとするが、鈍くなった零の旋風は搭乗者の思うように動けずシースから抜かれたアーマーシュナイダーで管制ユニットを貫かれる。

 

 

『神林中佐、管制ユニット大破。勝者、白銀大尉です』

 

 

 まりもの声が響き、先ほどまで動いていた筐体から強化装備を纏った零と武が姿を現す。

 

 

「最後のタックル、俺が前に模擬戦で使った手を参考にしたか?」

 

「まあな。いやー、アレと比べたら推進力が格段に劣るからうまく行くかわからなかったけど、運も実力ってな。それに戦術機は俺の土俵だからそうそう負けられねえよ」

 

 

 前回の戦いを思い返しながらそう返し、二人は観戦モニターの前で固まっていた少女たちの元へやってくる。

 

 

「今の戦いを見てもらった通り、新OSであるXM3にタイムラグよる硬直なんてものは存在せず、そのOSをフルに活用することを前提に設計された不知火・旋風がいつかお前たちの乗機となる機体だ。もちろん訓練次第で俺たちがやったような軌道もできるし、自分のモノにできれば戦術の幅も大きく向上するはずだ。難しく思えるかもしれないが、お前たちならできると俺は信じているぞ」

 

「「「はい!!」」」

 

「よし、じゃあまずは涼宮と委員長、柏木と冥夜、高原と彩峰が搭乗してくれ。 軍曹、少しの間お願いします」

 

 

 それだけ告げて強化装備から着替えるべく武と零は更衣室へ移動し、道中で先ほどの模擬戦で気づいたことを話し合う。

 

 

「やっぱりBETAの小型種ならともかく、戦術機や大型の敵には散弾の弾頭は効果が薄そうだな。ゴリ押しで突破できちまう」

 

「牽制や短距離の面制圧という点では使えるんだがな。他にも衝撃をもらった時に発生したパワーダウンの対策を重点的にするべきだな。戦闘中に能力の低下なんて、致命的以外の何物でもない」

 

「あとさ、旋風にグレネード系の武装を装備できないか? 前にプトレマイオスでジェガンとかリ・ガズィのデータ見た時サイドアーマーにあったのを見てよさそうと思ったんだけど」

 

「グレネードか……後付けのパーツでなら脚部とかに組み込めそうだが、シールドグレネードじゃダメか?」

 

「いや、それも考えたんだけどさ、ポジションによってはシールドが邪魔になるだろ? だったら最初から機体に搭載してって思ったんだ」

 

「なるほど、それなら了解だ。ちょっとウチの連中と話し合ってみる」

 

 

 頭の中でフルアーマーユニコーンガンダムや腕部にグレネードを搭載したゼータガンダムと似たような武装を思い描きながら制服に着替え、武と別れた零はさっそく今の話をまとめて片桐たちに持ち込もうと執務室へ足を向けた。

 

 

 

国連軍横浜基地 神林零の執務室

 

 

「……で、相変わらず何をしているんですか? 鎧衣課長」

 

「ニュージーランドの珍しい菓子が手に入りましてね、中佐におすそ分けしようと持ってきた次第ですよ」

 

 

 そう言ってニュージーランド饅頭なる怪しさ全開の物を差し出す鎧衣課長に俺は頭を抱えた。ニュージーランドのものだというのなら、なぜ包装は日本語なんだ。

 無論こんなものを渡すためにわざわざ来たわけではないのだろうが、こうもあっさり侵入されては自室のセキュリティに不安を覚えてしまう。仮にも最重要機密に相当するものがあるというのにな。

 

 

「それで、今回はどのようなご用件で?」

 

「ええ、アフリカ南部の原住民に伝わる興味深い儀式について――おっと中佐、話の途中に銃と通信機はとてもじゃないが穏やかではありませんな」

 

「ご安心を、香月博士からあなたに対してのみ特別に許可をいただいておりますので。構えてもらいたくないのなら早く本題をお願いします」

 

「おお、怖い怖い」

 

 

 こちらの脅しにワザとらしく肩を竦め、鎧衣課長はどこからともなくA4サイズの茶封筒を取り出す。

 

 

「ここ最近の戦術研究会の情報です。ご覧になっていただければわかると思いますが、急激に物資や人員が流れている傾向がわかりました」

 

「――ということは」

 

「はい。白銀大尉の言っていたように、米国の諜報員が接触し便宜を図ったと考えるのが妥当でしょう。でなければ、わずか数日でこの勢力の伸ばし方は説明がつきません。無論、別の勢力がパトロンになった可能性も捨てきれませんがね」

 

「その線は薄いでしょう。余程の理由がない限りクーデターを煽って得を得ようとするのは、それ以上に高いリスクを負うことになりますからね」

 

 

 米国からしたらそんなリスクを負ってでも明星作戦で失った極東での発言力を高めて第5計画を推し進めたいのだろう。

 当然ながら、俺がいる以上そんなことはさせないつもりだがな。

 

 

「情報、感謝します。これを基に対策を練らせてもらいますよ」

 

「お役に立てて何よりで。では私は一度帰らせていただきますが、何か言伝などはありますか?」

 

「そうですね…………珠瀬事務次官に、次回の国連総会で自分を出させてもらえないか訊いていただけますか?」

 

「ほう……了解しました。一週間以内にお返事できるよう努力しましょう」

 

「頼みます」

 

 

 それだけ告げると鎧衣課長は堂々と退室し、部屋には資料と土産の菓子だけが残された。

 さっそく資料を広げるとクーデター軍が発足されてからの情報がグラフなどを用いてきめ細かに記されており、始めはほとんど横ばいだった物資等がある日を境に右肩上がりに上昇している。そりゃもう不自然にだ。

 おそらくこの頃に諜報員の接触があったのだろう、こうしてみると不自然なまでに勢力を伸ばしているな。

 沙霧大尉がこういう情報を事細かにチェックしていれば裏の事情に感づいているかもしれないが、それならそれで鎧衣課長が何か言ってきたはずだ。何もなかったことを見れば、おそらくまだ気づいていないのだろう。

 説得は武に任せるとして、宣言した通りにお膳立てはしてやらんとな。

 

 

「問題は山積みだが、やってやるさ」

 

 

 呟き、おもむろに残された饅頭を口に放り込む。

 PXで扱っている饅頭と大差ない微妙な味が口の中に広がるのだった。

 

 

 

国連軍横浜基地 港

 

 

「あ゛ーっ、やっと到着した」

 

「船旅は死ぬほど暇だったしな。体が鈍っちまう」

 

 

 アラスカのユーコン基地にて不知火改修計画――XFJ計画を担当していたアルゴス試験小隊の衛士、タリサ・マナンダルとヴァレリア・ジアコーザは陸に降り立つなり体のコリをほぐし始める。

 続いてXFJ計画の責任者である篁 唯依に衛士のステラ・ブレーメルも船から降りると、初めて訪れる基地に目をやる。

 

 

「横浜基地……あまり良い噂は聞かないけど、こうしてみると至って普通ですね」

 

「あちらのシートで覆われている場所は、おそらく神林中佐が指揮する特別開発部門の敷地だろう。しかし海を含めた港全体まで覆うとは、余程大きな機密を抱えているようだな」

 

 

 二人がそんな考察をしている中、アルゴス小隊の中で最後に降り立ったユウヤ・ブリッジスは少し複雑な心境で日本の大地を踏みしめる。

 

 

「……ここが、親父の国か」

 

 

 自分が今、母を残して失踪した父親の国にいると思うと共に、自身に流れる日本人の血がどこか哀愁のようなものを感じさせる。

 母親は父を素晴らしい人だと言っていたが、幼いころに経験した人種差別が原因で日本が嫌いになった。しかし唯依と接するうちにその認識を改めることができ、今ではへそ曲がりながらも日本を認めるようになった。

 

 

「しっかし、あの二人まで来るとは予想外だったな。やっぱあの中佐が絡んでるのかね?」

 

 

 ユウヤの隣に立ったヴィンセント・ローウェルの視線の先には、本来自分たちと行動するのがあり得ない二人の少女――紅の姉妹(スカーレットツイン)と呼ばれるソ連切っての衛士、クリスカ・ビャーチェノワとイーニァ・シェスチナが物珍しそうに基地を眺めていた。

 途中、イーニァがユウヤに気付くとひまわりのような笑顔を咲かせ、無邪気に手を振る。

 それが自分に向けられたものだと悟るや否や、ユウヤも口元を緩めて手を振り返す。

 

 

「仲がよろしいことで」

 

「うるせえ。 それより、中佐はまだ来てないのか?」

 

 

 ぶっきらぼうな返事をする相方にヴィンセントが肩を竦めていると、零が呼び寄せた最後の男が横浜基地の敷地を踏みしめた。

 

 

「……なかなか面白い面子がそろっているな」

 

 

 先のテロ事件で見知った顔ばかりだと、今回やってきた中で最も高い階級を持つグルーデック・エイノアは心の中でつぶやく。

 日本帝国斯衛軍(インペリアル・ロイヤルガード)の一員と名高い武士娘に紅の姉妹(スカーレットツイン)の異名を持つ凄腕の二人、そしてテロ鎮圧に貢献し実力を知らしめたアルゴス試験小隊。

 よくもまあこれだけのメンバーを集めたものだと、グルーデックはこちらに向かってやってくる男を見ながらこれからの期待を抑えられずにはいられなかった。

 

 

「ようこそ、国連軍横浜基地へ。我々は貴官らを歓迎する」

 

 

 独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』のメンバーを引き連れ、隊長である零は敬礼と共に笑みを浮かべた。 

 




第31話、いかがでしたでしょうか?

Jumperを優先しつつこちらも書き進めていこうと思います。
出来れば再び凍結という事態に陥らないよう努力しますので、どうか今後ともよろしくお願いします。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


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第32話

どうもこんばんわ、ネタが浮かばず筆が進まず書けど書けど内容が納得できないというスランプに陥った作者です。

今回は今までと比べて特に短い内容となってしまいました。
しかしとにかく上げねばという使命感に駆られて投稿に踏み切りました。
Jumperの方も似たような状況だし、どうしたものか……。

ともあれ、本編第32話、どうぞご覧ください。


国連軍横浜基地 プトレマイオス2 零の私室

 

 

「あとはこうすれば……っと、できた」

 

 

 俺は手にしたドライバーを机に置き、目の前に鎮座するそれの出来栄えを確認する。

 大きさはサッカーボールほどで色は白。二つの赤いセンサーにパカパカと開閉する蓋。丸いボディーに詰め込まれた技術はそれだけでこの世界のものとはかけ離れた性能を誇る。

 

 

「約束の期限に間に合ってよかった。それじゃ、早速」

 

 

 机の工具類を引き出しに流し込み、俺はそれを抱えると目的の人物を探すべく一先ず地下19階にあるシリンダールームへと足を運んだ。

 

 

 

国連軍横浜基地 地下19階 シリンダールーム

 

 

 零がその部屋を訪れると、彼の予想通り霞がシリンダーに浮かぶ脳髄と向き合っていた。今日は武がシミュレーター教導にかかっているため、この部屋には彼女ともう一人しかいなかった。

 霞は零が立ち入った気配を感じて振り向くと、彼が手にするそれを見てウサ耳をピーンと立てる。

 

 

「待たせたな、社。約束していた、社専用のハロだ」

 

 

 持ち込まれたハロはセンサーを明滅させると零の手から離れ、床を跳ねながら霞の腕の中へとダイブする。

 

 

「……ありがとうございます」

 

「なに、本当に仕事の合間に作っただけだからな。大切にしてやってくれ」

 

「はい。 よろしくお願いします、ハロ」

 

『ヨロシクナ! ヨロシクナ!』

 

 

 そう言って答えるハロを嬉しそうに抱きしめる霞を見て、零は満足そうに頷いた。

 実はこのハロ、ただのペットロボではなく零の手によって様々な機能が導入されている。

 全てを説明すると少々時間を食うため、零は一番よく使われるであろう機能の説明をする。

 

 

「このハロには学習AIが搭載されていて、社が会話したり誰かと接していけばその行動や友好関係を学習していく。他にもネットワークを介して国連軍の各基地やGステーションへ連絡を取ることが出来る。そしてそのネットワークを利用して、特定の人物がどこにいるのかを調べることも可能だ」

 

「……ということは」

 

「そう、武の位置情報もこれで一発だ」

 

 

 それを聞いた瞬間に霞が力強く頷くとそれに連動してウサ耳もぴょこぴょこ動き、さらにそれを真似するようにハロの蓋もパカパカと開閉を繰り返す。

 

 

「あとで仕様書を渡すから、それを見ながらいろいろ試してみるといい」

 

「ありがとうございます」

 

『アリガト! アリガト!』

 

 

 感謝の言葉に大きな達成感を抱き、零は機嫌よく部屋を後にする。

 そのまま時計を確認しつつ、次の予定を頭の中から掘り返す。

 

――確か昼過ぎにアルゴス小隊の面々がここに到着するはずだな。主要メンバーをブリーフィングルームに集めて、顔合わせの準備をするか。

 

 移動しながら通信機を手に取り、メンバー各員にトレミーのブリーフィングルームに集合するよう声をかけて自身も早足で集合場所へと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 港

 

 

 こちらの挨拶に応えるように今し方この横浜基地に到着した面々が敬礼をする。

 

 

「XFJ計画関係者各位、ただいま着任しました」

 

「クリスカ・ビャーチェノワ、並びにイーニァ・シェスチナ。着任しました」

 

「グルーデック・エイノア、要請に応じ馳せ参じました」

 

「遠路はるばるご苦労だった。こちらはオーバーワールドの衛士、並びに技術班長と専任技術班長のメンバーだ」

 

 

 グルーデックの返礼に答えながら零が自分の後ろに控えていたメンバーの紹介をすると、各々が自己紹介を始める。

 

 

「長旅で疲れているだろうとは思うが、まずは各機体をあそこにある特別機密区画に運んでくれ。話は通してあるから問題なくはいれるはずだ。その後、簡単にだが食事を用意しているので楽しんでいってくれ」

 

「お心遣い、感謝します。 各員、聞いての通りだ。速やかに機体の搬入を開始しろ」

 

 

 一番階級が高いグルーデックの一言で全員が一斉に行動に入り、整備兵が次々と作業に取り掛かる。

 その間に手が空いたタリサとVGはベールの奥を知るべく一足先に特別機密区画へ向かったり、一部の者はオーバーワールドのメンバーと話をしていた。

 

 

「まさか貴方がここにいるなんて、予想外でしたわ。ディランディ中尉」

 

「俺もだ。 ヨーロッパ戦線で一緒に戦って以来だな、ステラ」

 

「ニール、知り合いか?」

 

「もしかして彼女だったりして」

 

 

 秋生が問い光が茶化すと、ニールは困ったように手を上げる。

 

 

「ヨーロッパにいた頃の戦友だよ。お互いスナイパーで、よく勝負をしていた」

 

「懐かしいですね。私がアルゴス小隊に移動になるまで、一度も勝てませんでしたけど」

 

「そう簡単に負けられるかっての」

 

 

 ステラとニールが昔話をしている一方で、こちらも同じような会話に花を咲かせていた。

 

 

「お久しぶりです、片桐大尉」

 

「篁中尉も息災で何よりです。弐型の改修には私も加わることになっているので、これからよろしくお願いしますよ」

 

 

 以前より面識があった二人が技術者として話をしている頃、ユウヤはその男に声をかけていた。

 

 

「中佐。アラスカでの話の続きを知りたいのですが――」

 

「まあ焦るな、ブリッジス少尉。早く知りたいという気持ちもわかるが、その話は食事の後にまとめて話すつもりだ。我慢してくれ」

 

「そういうことでしたら……」

 

 

 早く知りたいが相手は自分よりはるかに高い階級の持ち主なので、そう言われては反論できないというジレンマに襲われながらユウヤはしぶしぶと引き下がっていった。

 それと入れ替わりに今度はイーニァが小走りで寄ってくる。

 

 

「レイ、カスミは?」

 

「残念だが、あの子は今別の仕事中だ。夕食時にPXへ行けば会えると思うから、それまで大人しくしててくれ」

 

「うん、わかった」

 

 

 それだけ言うとイーニァはクリスカの元へ駆けていき、そしてさらに入れ替わりでグルーデックがやってきた。

 

 

「中佐。私もここに呼ばれた理由を知りたいのですが」

 

「すまない、その話はアルゴス小隊の全員に話をした後で頼む。おそらく、その方が理解してもらいやすいと思う」

 

「了解しました」

 

 

 グルーデックが敬礼と共に立ち去るのを見届け、零も話の準備のため特別機密区画へと足を向けた。

 

 




本編第32話、いかがでしたでしょうか?

次回には零が自分の手札を明かしてアルゴス小隊の面々を武ちゃんに合わせたりする予定です。
霞のハロのスペックについてはまた時間があるときに外伝的なもので紹介できたらなぁと思っています。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


次はいつもと同じくらいの文字数に戻れるといいなぁ……


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第33話

どうもこんばんわ、こちらでは一月ぶりの投稿となってしまった作者です。

最近また仕事が忙しくなって執筆する暇がありません。おまけに半年前に購入した仕事用ノートPCがお亡くなりになり金銭面でも多大な被害を受けてしまいました。

そんな戯言はさておき、第33話です。
ここから大きく話を動かせたらなぁと思っています。
それでは一月ぶりの本編第33話、どうぞご覧ください。


国連軍横浜基地 特別機密区画 ブリーフィングルーム

 

 

 食事を終えてアラスカから来たメンバーとオーバーワールドのメンバー全員がいることを確認し、零はさっそく今後の予定と不知火弐型の改修内容の説明を始めることにした。

 

 

「――まず初めに説明するのは、兼ねてから諸君らが知りたがっているオーバーワールドの技術の出所についてだ」

 

 

 その質問を待っていたかのように、アルゴス小隊のメンバー――特にユウヤは神経を集中させてその続きに耳を傾ける。

 

 

「狂言と一蹴するかもしれないが、はっきり言おう。オーバーワールドの機体には、異世界の技術が使われている」

 

「……は?」

 

 

 異世界の技術。その言葉にユウヤは思わず間の抜けた言葉を漏らし、後ろに座っていたタリサは「何言ってんだこいつ」と胡散臭いものを見たような表情になった。

 無論こんな言葉が出るなど予想をしなかったのは彼らだけでなく、若干戸惑いながら最前列の席に座っていた唯依がおずおずと挙手をして発言する。

 

 

「あ、あの……中佐。それは、冗談か何かでしょうか?」

 

「否。俺は至って本気だ。そして俺自身も、異世界からその技術とともにこの世界に来た」

 

「ふ……ふざけんなよオイ! 散々引っ張っておいて、そんな答えで納得できるかっ!!」

 

「お、おいユウヤ落ち着け! 相手は上官だぞ!?」

 

 

 馬鹿にしているとしか取れない説明に切れて席を立ったユウヤだが、ヴィンセントの言う通り零はこの場において最も階級が高い存在だ。

 相手が自分より高い階級の持ち主であることに変わりはない事実を突き付けられ、ユウヤはギリギリと奥噛みしながら着席する。

 

 

「まあ、それが普通の反応だ。だが実際に電磁投射砲を扱ったことがある貴官ならわかるはずだ。俺たちが使用する武器がそれとは比べ物にならないものであり、あれだけの威力を持った兵器が出回るには相当な時間と技術が必要だということには」

 

 

 その言葉に同意したのは、自身もシミュレーターで電磁投射砲を使用したことがある唯依だった。

 確かに電磁投射砲ですらようやく実機の試作が完成したばかりであり、改良の余地がいくらでも見受けられる代物だ。

 しかし零が持ち込んだ武器はそれより取り回しが良く、そして威力も非常に高い。さらに機体も今までと異なる改造の不知火に加え、全く異なる概念で設計されたMSというものまであるという。

 不知火はともかく、フレームどころか概念までが新規設計の機体などそれこそ簡単に作れはしない。第一、戦術機が誕生して30年近く経った現在で新たに完全新規設計の、しかも既存の機体を遙かに凌駕するものなど一体どうすれば作れるのだろうか。

 だがここに――非常に非現実的ではあるが――異世界から流入したという話になればまた違ってくる。

 異世界となれば文字通りこことは異なる世界だ。BETAがいない平和な世界。もしくはBETAに襲われながらも撃退に成功した世界。逆に敗北してしまった世界。考察すればそれこそキリがないだろう。

 そんな世界の一つからやってきたとなれば、この男が言うことの辻妻が合う。

 

――しかし現物を目の当たりにしているとはいえ、未だ信じられんな。

 

 それでもやはり実感が沸かないのは仕方のないことだろう。突然沸いたのを目撃したり、似たような境遇をたどってきたのであるならば別であるが。

 

 

「なお、このことはオーバーワールドに所属するものは全員承知しているし、衛士の一部はそれを信じてもらうため宇宙空間にある俺の本拠地まで連れて行っている」

 

「う、宇宙? 本当ですか?」

 

 

 まさかの地球外からやってきたという事実にステラが信じられないといった風に尋ねると、彼女の隣から返事が返ってくる。

 

 

「ああ、本当だぜ。俺とエーカー大尉も連れて行ってもらったが、ありゃこの世界の物じゃないって証明には十分だ」

 

「うむ。技術レベルは、軽く見積もっても100年以上の開きがあるだろう」

 

 

 アフリカ戦線のエースと欧州切ってのスナイパーの言葉にアラスカ組はほとんど呆然とし、Gステーションに行ったことのないオーバーワールドのメンバーはプトレマイオス2の技術力からそれぐらいならありそうだと納得していた。

 

 

「ま、機会が巡ってきたらお前たちも連れて行ってやる。 さて、俺の話はここまでだ。何か質問は?」

 

 

 話を進める零だが、誰もがどんな質問をすればいいのかと戸惑っていた。

 そんな中、一つの腕がスッと挙げられる。

 

 

「……質問しても、よろしいでしょうか?」

 

 

 先ほど零に噛みついたユウヤだ。

 

 

「ああ、何でも言ってこい」

 

「……中佐以外にも、異世界とやらから来た人間はいるのですか」

 

 

 その問いに零は「ふむ」と顎に手を添えて考える素振りをすると、僅かに間をおいて答える。

 

 

「それについては不明だとしか答えられないな。俺が拠点とともにこの世界に来た時には、作業用ロボットを除いて俺以外の人間は誰もいなかった。だが、ブリッジス少尉のその可能性は決してゼロじゃない。俺という前例がいるのだから、他にも別世界から流れ込んだ奴がいてもおかしくはないからな」

 

 

 既に似たような存在がいるのだが、それこそ知るのは一握りの人間だけでいい。

 頭の中でそうつぶやき、他に質問がないと判断するとプロジェクターを起動させる。

 

 

「では早速不知火弐型の改修作業についての説明に入る。全員、事前に配布した資料は手元にあるな?」

 

 

 誰からも声が上がらないのを確認し、表紙を開くように指示を出す。

 

 

「ここで実施する弐型の改修作業は、ソフト面とハード面の両方を行う。このソフト面の改修に関してはここ横浜で作られた不知火・旋風の方でも行う予定で、簡潔に言えばこれだけでも戦術機に革命をもたらす代物だ」

 

「ソフト面の改修だけで、ですか?」

 

「そうだ。ハッキリ言おう。この新OS、XM3は反応速度が従来のOSと比較して約30%向上し、『コンボ』『キャンセル』『先行入力』の機能を備えている。さらに特徴として、このOSによる動作硬直がなくなるという大きな利点がある」

 

 

 零の説明にアラスカ組だけでなくオーバーワールドからも驚きの声が上がる。

 Gステーションでその概要を知らされていたグラハムとニールからすれば今さらのようなものかもしれないが、改めて戦術機乗りとしての観点で見てもそれはまさに革命的な代物だった。

 この硬直が排除されるだけで、いったいどれほどの衛士が救われることだろうか。しかも説明の続きを聞けばこのOSは動かせば動かすほど動作パターンを学習し、さらにデータリンクの共有で戦術の幅を大きく広げることが出来るという。

 中でも『キャンセル』の機能は、硬直排除に次ぐほど有用な機能であることがこの場にいる全員には容易に想像できた。

 そしてダメ押しで見せられる一つの模擬戦映像。一機の不知火が7機の不知火を次々と撃墜していくものだ。

 説明の通りに硬直もなく、まったく淀みない動きは衛士の腕も相まってそれだけで弐型を超えているのではないかと思わせる。

 

 

「素晴らしい……。これもやはり、中佐が考案したものですか?」

 

 

 技術者としての血か、はたまた衛士としての血が騒ぐのか、唯依は興奮しながらも務めて冷静に問う。

 しかし零から返ってきたものは、まさに予想外の返答だった。

 

 

「いや、これを考案したのは俺ではなくこの一機で戦っている不知火に搭乗している衛士だ。プログラムこそ、さる方の助力を得て作ったがな」

 

「なっ!? そうなのですか!?」

 

 

 これには流石に唯依も驚きを隠せなかった。

 今までのことがあっただけに新OSも零が開発したものだと思い込んでいただけに、告げられた言葉は予想を大きく上回った。

 話を聞いていたユウヤも同様で、再び画面の不知火を注視する。

 

――革新的なアイデアを持っているだけでなく、腕まで一流ってことかよ。

 

 零とはまた違った、新たな天才の出現にユウヤは奥噛みした。米国、アラスカを通じてかなり腕を上げていると自負していただけにそれを軽く上回る存在に嫉妬せずにはいられない。

 そんな彼を余所に、零は次の説明へと移行する。

 

 

「続いて弐型のハード面の改修項目についてだが、これを見てくれ」

 

 

 画面が切り替わり、新たに映し出されたのは弐型のシルエットにいくつものチェックが入れられた図面だった。

 今までの弐型と違い旋風と同じ担架付きバックパックを装備し、腕部と脚部に新たな機構を加えることで戦況に合わせて装備を変えられるハードポイント・システムが追加されている。

 

 

「これを見てもらえばわかると思うが、新たな弐型は戦況に応じて装備を換装させられるようにした。具体的には最初に高火力に特化した砲撃装備で出撃し、状況に応じては継戦力に特化した装備に切り替えて前に出るといった具合だ。各装備にジェネレーターを搭載し、機体に接続することで稼働時間の向上も視野に入れている」

 

「なるほど、以前見せていただいたストライクガンダムやインパルスガンダムのようなものですね」

 

「コンセプトとしてはその通りだな。 ストライクとインパルスが何なのか知りたいものは、後で簡単なデータを片桐に渡しておくからそれで確認してくれ」

 

 

 付け加えるようにそう告げ、弐型の隣に三種類の換装装備を呼び出す。

 それぞれに砲撃戦に特化したL装備。中~近距離戦に対応させた万能型のM装備。そして近接戦に特化したS装備とコメントが打たれていた。

 L装備はGP-02サイサリスMLRS装備型の多連装ロケットシステムを背負わせ、肩にバスターガンダムの連装ミサイルポッドと脚部にミサイルランチャーを装備している。さらに両腕部にはヘビーアームズのようなナイフが仕込まれており、いざというときはそれで近接戦を行うことも可能だ。

 M装備は基本兵装が旋風とそう変わらないが、改良されたバックパックのスラスター増設により旋風と比べ約10%ほどの機動力の向上が図られAGEシリーズのように腕部と脚部を丸ごと交換できるようになっているため、被弾状況によっては丸ごと交換するだけで再出撃が可能となっている。零としてはVガンダムのように三つのパーツから構成するようにできればと思っていたが、コストや戦術機としての観点など諸々の事情によりお流れとなった。

 そしてS装備は頭部と両腕にバルカン砲が搭載され、さらに両腕はGNソードのように折りたためるソニックブレイドを持たせられている。背部の担架には従来通りの長刀や突撃砲が装備でき、腰部の両側にはソニックブレイドをナイフサイズまで小型化させたものが取り付けられている。そして奥の手として零は脛の部分に74式近接戦闘長刀の技術をオーバーワールドが独自に改修し切れ味を強化したものを備えさせ、インフィニットジャスティスのビームブレイドのように蹴りで相手を切断することを可能にした。ただし当初はガーベラストレートの技術を使用しての設置を考えていたが、こちらもコスト事情でお流れとなった。

 

 

「――とまあ、ざっくりと説明すればこんな感じだ。基本的に全形態共通で初期状態は素手だから、携行装備は好きなものを持ち込める。L装備で長刀を持つもよし、S装備でガトリング持ち込むもよしだ」

 

「質問をしてもよろしいですか?」

 

「なんだ、ブレーメル少尉」

 

「この94セカンドに狙撃向けの装備はありますか?」

 

「そっちは現在、135mm対艦ライフルをベースにしてAPFSDS弾も撃てるように開発中だ。長距離射程の武器なら180ミリキャノン砲もあるぞ」

 

「中佐ー、S装備の腕についてるソニックブレイドって取り回しの邪魔になるんじゃないっスか?」

 

「安心しろ、マナンダル少尉。これは必要に応じて取り外しができ、そのまま空いてる手に装備することも可能だ」

 

 

 投げかけられる質問に淀みなく答えていると、不意に零の通信機からコール音が発せられた。

 質疑応答を中断し画面を見てみると、そこに表示された内容に零は眉をひそめる。

 

 

「すまない、急用ができた。詳しい話の続きはまた後日に行うので、今日と明日は割り当てられた宿舎でゆっくりしてくれ。オーバーワールド各員は、いつもの作業や訓練に戻ってくれ。エイノア少佐は、俺から連絡があるまでしばらくグラハムたちと行動してくれ」

 

 

 素早く指示を出しブリーフィングルームから退室すると、人気のない場所へ移動しつつ零は再び通信機の画面を確認する。

 

 発信者 香月 夕呼

  緊急回線使用

 

――緊急回線を使ってまで俺に連絡とは……なにかあったのか?

 

 未だ鳴り続けるコールに対して応答し、通信機を耳に当てる。

 

 

「お待たせしました、博士」

 

『神林、大至急あたしの部屋まで来なさい。白銀も呼んでるから、迅速によ』

 

「武まで? 何かあったのですか?」

 

 

 まさか武が知る以外の何かが起こったとでもいうのか?

 BETAの侵攻か? それともクーデターがらみか?

 

 

『安心しなさい、あんたたちにとってこれ以上ない朗報だから』

 

「朗報?」

 

『ええ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――00ユニットが完成したわ』




本編第33話、いかがでしたでしょうか?

ようやく00ユニットの起動直前までこぎつけることができました。
調律に関してはおそらく次回で終了するかと思います。
これでようやく次の段階に進める……のか?

ともあれ、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


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第34話

どうもこんにちわ、どうにか純夏の誕生日である7月7日に投稿を間に合わせることができた作者です。

さて、今回は00ユニットの調律がメインとなっています。
今日に間に合わせるために駆け足で書き上げたので急展開、描写不足、誤字脱字が予想されますが、どうかご容赦ください。

それでは本編第34話。どうぞご覧ください。



国連軍横浜基地 地下19F 香月夕呼の研究室

 

 

「――先生! さっきの話は本当ですか!?」

 

 

 慌ただしく部屋の扉を開け放って現れた武に夕呼は不敵な笑みを浮かべる。その表情を見て、武は先ほどの連絡が本当だと確信した。

 

 

「本当よ。あんたの言葉で言うなら、マジってやつね。もうすぐ神林も来るはずだから、もう少し――「博士、お待たせしました」――来たわね」

 

 

 タイミング良く入室してきた零に気分を良くし、夕呼は二人を引き連れてその部屋を目指す。そしてやってきたのは、鑑純夏のシリンダールーム。

 部屋の前で一度止まり武は高鳴る鼓動を落ち着けるように深呼吸をし、零は静かに夕呼の合図を待つ。

 

 

「白銀。あんたが入室した瞬間から、00ユニット――鑑純夏の調律が始まるわ。やり方はあんたに一任するけど、二日以内に調律を完了させなさい。でないと、後々の手札に大きく影響するわ」

 

「ということは、以前お話ししたODL浄化のローカル化は間に合わなかったということですか」

 

 

 零の言葉に夕呼はため息交じりに頭を押さえる。その様子から相当頭を絞ったらしいが、作成には至らなかったのだろうというのが見て取れた。

 

 

「本当ならその手立てを確立させてからの方がよかったんだけど、悔しいことに浄化機関の解析が全く進んでいないのよ。下手に反応炉をいじって機能停止なんて、目も当てられないわ」

 

「やはりこちらが思うよう事は運びませんか……。武、気合いを入れていけ」

 

「あ、ああ」

 

「じゃ、行くわよ」

 

 

 それを合図に夕呼はシリンダールームへと足を踏み入れ、零たちもそれに続く。続いて二人が目にしたものは空になったシリンダーと、その前で三人を待っていた霞、そしての隣で何処か焦点が合わない瞳で床を見つめる00ユニット――鑑純夏がそこにいた。

 

 

「――純夏ぁっ!」

 

 

 これ以上こらえることができなかったのか、武が声を上げて駆け出し、純夏へと抱きつく。しかし彼女はされるがままに体を揺らし、やがてなにか思い出したかのようにぽつりとつぶやく。

 

 

「……タケル……ちゃん…………」

 

「そうだ、俺だ! 俺はここに――!」

 

「タケル、ちゃん……タケルちゃ……あ、あぁぁぁあああ!!」

 

「純夏!?」

 

 

 突然発狂したように頭を抱えて叫び出す純夏に、誰もが身構えた。そして純夏は頭を抱えたまま頭を振り乱し、武の腕の中で暴れ、叫ぶ。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 そして零の中に流れ込む、強烈な感情の波。

 愛しさ、悲しさ、恐怖、絶望、怒り、憎悪。

 それぞれが混ざりあって不協和音となり、ノイズを起こして頭に響く。

 

――これが……今の純夏の状況か……! 対してニュータイプ能力が強くない俺でこれなら、感情の機微に鋭いカミーユやバナージではどうなるんだろうな……ッ!

 

 ノイズに苛まれながらもどうにか持ち直し、再び零は前を向く。武が必死になって純夏を抑えるが、感情の激しさは増すばかりであった。

 

 

「BETA……殺す! タケルちゃんを殺したあいつらは……殺さなきゃ……! 絶対に……あいつら…………だけ、はああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

「まずい! 白銀、下がりなさい! 今のままじゃ逆効果だわ!」

 

「け、けど……!」

 

「博士に従え武! ここでダメになったら元も子もない!」

 

「……くっ!」

 

 

 悔しさを噛み殺し未だ暴れる純夏から離れると、入れ違うように霞が純夏に抱きついて鎮静化を図る。

 純夏の対応を霞に任せ退室すると、頭に響くノイズが激減し、零はようやく一息つけた。

 そのとなりではやるせない怒りをぶつけるように、武が壁を殴りつける。

 

 

「くそっ! せっかく純夏に会えたのに、またこれじゃあ……!」

 

「落ち着きなさい、白銀。調律は始まったばかりよ」

 

「……はい。けど、時間もないと思うと、正直気が気でないです」

 

 

 ぎりっと奥歯を噛みしめる武を横目に、零は壁にもたれかかりながら既に別の手立てを模索し始めていた。

 

――あの感情の殻に覆われた純夏へダイレクトに武の声を届けるのは厳しいな。原作では時間をかけて感情を戻していたが、今回は諸事情により時間がほとんどない。武がニュータイプやイノベイターだったらサイコフレームやトランザムバーストで直接呼びかけることができるんだが――

 

 

「…………ぃ、零!」

 

「ん、すまん。考え事をしてた、なんだ?」

 

「あんた、さっきから顔色が悪いわよ? どうかしたの?」

 

 

 どうやら他人の目から見ても不調なのが分かるほど疲れているらしく、零は予想以上の状態だと肩をすくめながら先ほど感じたことを明かす。

 

 

「……先ほど鑑を見たとき、彼女の感情がダイレクトに俺の頭に響いてきました」

 

「純夏の、感情が?」

 

 

 武が何故、という表情をすると夕呼は何かに気づいたように尋ねる。

 

 

「あんたがニュータイプだから、かしら?」

 

「可能性は十分あります。ニュータイプの特徴の一つとして、相手の感情を感じ取る力があります。人によってこれが強く感じられるかどうかの個人差はありますが、正直言って俺はそこまで高い方ではありません。ですが、そんな俺にもはっきり感じられるほど彼女から強い思念を感じました。そして感じた感情のほとんどが、BETAに対する憎しみに染まっていました」

 

「じゃあ、俺の声はそれをどうにかしないとだめだってことか?」

 

「お前もニュータイプ、もしくはイノベイターだったらまだやりようはあったかもしれないな」

 

「イノベイター? ニュータイプとは違うものなの?」

 

「おや、教えていませんでしたか」

 

 

 夕呼から初耳だという返答を受け、ならばと零は解説をする。

 

 

「ニュータイプと同じく人類の革新の一つとされるもので、共通する能力として他者との精神感応能力と近未来の状況を予測する力があります。なのでもし武がどちらかに覚醒していれば、やりようがあったのですけど」

 

「今からこいつをどっちかに仕立て上げれない?」

 

「無茶言わんで下さい。一朝一夕で人類が進化出来れば、それこそ戦争なんて起こりはしませんよ。ですが素質があれば、何かしらのきっかけで覚醒することは十分にあり得ますが」

 

 

 戦争を経て覚醒したアムロ・レイやシャア・アズナブルがその最たるものだと心の中で加え、補足を続ける。

 

 

「一応、人工のニュータイプとされる強化人間という人種がいますが、正直言ってこれは非常に不安定な要素が強いです。人格の変貌が当たり前にあってちょっとしたはずみで暴走なんてことも十分にありますし、コストと時間がかかるくせに安定させる前に精神が崩壊なんてこともあるのでお勧めはしません」

 

「なによ、それじゃ使えないわね」

 

 

 わずかでも可能性があれば、と思っていた夕呼だが、リスクを聞いた時点でその発想を取りやめた。

 一方で零は今までの話をまとめ直し、改めて方法がないかを考え始めていた。

 

――さっきはああ言ったが、強化人間となって感覚を鋭敏化させ感情を伝えると言う手はありだと思う。だがやはり時間という問題がある以上、即興でそれと同等の成果を上げるには資材も道具も――

 

 

「……いや、可能か?」

 

 

 零は思い出した。自身の愛機(ガンダム)に積まれたそのシステムの存在を。カムチャツカでBETAをおびき寄せるためだけに一度使用したが、あの時は脳をいじくられる感覚がするだけでその後は特に何もなかった。

 もし武がこれを克服できればより深い意識へ向けて声をかけることも可能だろうと試算するが、やはり使用するものがものだけに提案するのが憚られる。

 

 

「なにが可能なんだ? 零」

 

 

 先ほどこぼれた言葉を拾った武が尋ねると、零は僅かに逡巡して教えるだけ教えることにした。

 

 

「即席で強化人間をニュータイプに近い状態に仕立て上げるのは、不可能ではないってことだ」

 

「え、でもさっき時間とコストかかるって……」

 

「俺のガンダムに搭載れているシステム――n_i_t_r_o(ナイトロ)を起動させれば、パイロットを強化人間にすることが可能となる。無論リスクは大きいがシステムにうまく適合できればデメリットを抑え込むことができ、機体をコントロールできるようになる可能性がある」

 

「どっちにしたって博打ってことね。 ちなみに、強化人間を元の人間に戻すことはできるの?」

 

「時間をかければ不可能ではありません。何よりGステーションの機材を使えば、より確実かつ短期間で可能でしょう」

 

「なるほど。……白銀、あんたはどうする?」

 

 

 流れとはいえリスクとリターン。もしもの時の対処についても提示された。成功すれば純夏を戻す手段の幅がぐっと広がり、失敗すれば計画に大きな支障をきたすことになるだろう。

 安全策で行けば時間をかけてやる方が最も確実だろう。しかし時間をかけられないことを考えれば、試しでもやってみると言うのもありだ。

 武は目を閉じて逡巡し、そして腹を括った。

 

 

 

国連軍横浜基地 第90番格納庫

 

 

 零は今しがた運び込んだ機体――愛機ガンダムデルタカイのコクピットでシステム設定を行っていた。

 これから行われるのは武によるn_i_t_r_o(ナイトロ)を用いた00ユニットの調律である。

 やり方はn_i_t_r_o(ナイトロ)をケーブルを通じて武の脳へと作用させ、同時に00ユニットの調律を行うというものだ。

 うまくいけば武の感応波が増幅され、感情の奥底にいる純夏へとその思いを届けさせることができる。あまりにも賭けの要素が強いが、武は彼女を戻すためなら使える手段は何でも使うとしてn_i_t_r_o(ナイトロ)の使用を決めた。

 それでも零がリスクを考慮したため危険だと判断、もしくは5分経過しても00ユニットに変化が見られなければ強制終了すると言う条件が付けられている。

 

 

『うまくいくと思うかしら?』

 

「確率でいえば、そう高くはないでしょう。ですが、想いがシステムを上回ればあるいは」

 

『想いがシステムを、ね」

 

 

 ドラマティックな答えに夕呼がどこか楽しそうに繰り返すと、零は設定を終え声を上げる。

 

 

「――武、準備はいいか?」

 

「いつでもいいぜ」

 

 

 コクピットに隣接したキャットウォークで頭にコードをつけた武が応えると、彼の視線の先にいた霞が導くように純夏を武の前へと進ませる。

 やがて手を伸ばせば届く距離まで近づき、割れ物を扱うようにゆっくりと抱きしめ零に向かって頷く。

 

 

n_i_t_r_o(ナイトロ)――起動!」

 

 

 スイッチを押された瞬間、デルタカイの関節部から青い炎が噴出する。同時にシステムが対象者を強化人間に仕立て上げるべく、その脳へと侵入する。

 

 

「ぐっ……! なんだ……体が……熱い……!」

 

「武! システムの感覚は無視しろ! 自分の抱く感情を、負の呪縛にとらわれた鑑にぶつけろ!」

 

 

 システムからもたらせる感覚に戸惑った武だが、零の言葉で芯が通り腕の力を込める。

 

 

「純夏……っ! 俺がわかるか!?」

 

「……タケル、ちゃん…………ぁ、あああぁぁぁああぁあ!!」

 

 

 武の呼びかけに純夏が反応するが、再び忌まわしい記憶がフラッシュバックして絶叫を上げる。

 その感情を、武と零が同時に感じ取る。流れ込んでくるものは、やはりBETAに対する恐怖と憎悪だ。

 

 

「ぐっ……! す、純夏……ずっとこんな感情に包まれていたのか!?」

 

 

 2回目の世界でプロジェクションによってどんなことが行われたのかを感じていた武だが、彼女からもたらされる感情はそれを見た時の比ではない。

 そんな中で、武は幾重にも覆われた殻の先にその姿を感じた。

 怯え、悲しみ、そして自分を求める少女の姿を。

 

 

「殺してやる! なにもかも全部全部全部! 壊れてしまええええええ!!」

 

「クソ! 武!」

 

「わかってる!」

 

 

 痛いほど感じる純夏の感情の殻。その奥に向けて、言葉と共に意識を突っ込ませる。

 

――システムの介入が鬱陶しいけど、純夏のこの状態に比べれば!!

 

 濁流のような感情を突き進み、精神を削られる感覚を受け、意識が飛びそうな勢いに逆らってそこに至る。

 

 

「純夏! 俺はここにいるぞ!」

 

「……!? タ……ケル…………ちゃん? ……いや、BETA……いやああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

「怖かったな……辛かったな……寂しかったな……一人にさせてすまなかった。けど、おまえをもう一人になんか絶対にさせない。俺の思っていることが分からないなら、俺が全力で教えてやる! 拒否権はねえ!」

 

 

 叫び、暴れる純夏をがっちりとホールドし、武は全身全霊を込めてたった一言を伝える。

 

 

「純夏――――俺はお前が好きだ!」

 

 

 瞬間、純夏の身体が大きく震え、動きが止まる。

 

 

「たとえBETAにめちゃくちゃにされても、人でなくなったとしても、俺は鑑純夏と言うたった一人の少女を愛している! 誰もが否定しようと! 誰もが認めなくても! お前は俺が命をかけて守り抜くと決めた大切な人だ!」

 

「ぅあ、ぁ……ぁああ…………」

 

「もうそんな(もの)に怯える必要はないんだ! これから先、いつだって俺はお前のそばにいる!」

 

「た……ける……ちゃん…………」

 

 

 ビシィッと、何かがひび割れる音が上がる。

 それはまるでひな鳥が卵から生まれるように連鎖的に、そして祝福するような温かい感情が溢れだす。

 

 

「もう一度言うぞ! 純夏――愛してるぞ!」

 

「たける、ちゃん。タケルちゃん、タケルちゃん! タケルちゃぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 

 背中に腕が回され、武を離すまいとギュッと力が込められる。

 二人はお互いの名を呼びあい、存在を確かめる。

 その心に殻はなく、蒼天のように澄んだ世界が広がっていた。

 




本編第34話、いかがでしたか?

疲れてるせいかな、ゴリ押し感が否めない……(震え声

最近ISを題材にした新作を書きたい衝動に襲われておりますが、どうにかこちらを優先させて書くことができました。
ISの作品は一応この作品が終わってからと考えておりますが、一体いつになるやら……

それでは、今回はこの辺りで。また次回の投稿でお会いしましょう。


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第35話

こちらでは大変お久しぶりです、作者の明石明です。

多重クロス作品を優先して投稿する中、続きの投稿を求めるメッセージを何度かいただきまして、とりあえず出来てる分だけ投稿に踏み切りました。
3000字程度の短い内容ですが、どうかご容赦ください。

それでは本編第35話、どうぞご覧ください。



国連軍横浜基地 プトレマイオス2 零の私室

 

 

 結論から言えば00ユニット――鑑純夏の調律は、無事に完了した。

 精神的にも一般人のそれと同様に安定し、BETAという単語には嫌悪感を示すものの、以前のように発狂じみた行動をとることもない。

 何より武と再会できたことがよほど嬉しいのか、安定直後からトレミーのメディカルルームに入るまで彼にべったりだった。

 

 

「無事に済んで何より、ですね」

 

「全くね。 これで面倒な条件は、ほぼクリアされたと言ってもいいわ」

 

 

 武のメディカルレポートと00ユニットの稼働レポートを読みながら俺と博士は安堵をつく。

 ここまで安定しているのであれば、あとは予定通り反応炉の通信機能を破壊してBETAのネットワークから切り離すだけだ。そこからは武が前の世界で得た情報を元に対策を取り、第5計画の手札を削り取った上でクーデターをどうにかする。これさえ終わってしまえば後は佐渡島を奪還して第4計画とオーバーワールドの戦力を改めて世界に知らしめ、オリジナルハイヴ攻略までこぎつけるのみだ。

 数日中には招集をかけた3人も来る予定だし、そろそろ鎧衣課長からの返事も来るはずだ。懸念事項があるとすれば、こちらの情報を明かしたことで第5計画の連中が先走って暴走しかねないということだな。特にオーバーワールドの技術と戦力を、G弾ちらつかせながら接収しようとする未来が容易に想像できる。

 まあそうなった場合、こちらとしても然るべき対応を取らせてもらうだけなんだが。

 

 

「通信機能の破壊はこの後すぐに行うけど、あんたはどうする?」

 

「アラスカから呼んだ面子の中に、プトレマイオスの指揮を任せようと思っている男が居ましてね。部隊の連中を交えて、少し話をしようと思います」

 

「確か……グルーデックとか言ったかしら? 大丈夫なの、引き込みとか能力とか」

 

「少し調べてみましたが、むこうがこちらにつくには十分な理由がありました。 彼はBETAの欧州侵攻の時に、妻子を失っています。軍に志願したのも、奴らに対する復讐が発端のようです」

 

「よくある話ね。それで、能力的にはどうなの?」

 

「数年前まで欧州を中心に前線の指揮を執っていたようです。さらに先のアラスカでもテロリストの使用する戦術機を、歩兵を指揮して携行火器の使用で撃破に成功しています」

 

「へぇ、やるじゃない。確かに、前線指揮官としては優秀みたいね。いいわ、あんたに任せる」

 

 

 手元の資料をテーブルに置き、博士は入れ替えるようにコーヒーに口をつける。彼女の顔に笑みが浮かんでいるのを察してもらえるように、ここで出しているのは合成のモドキではなく天然のコーヒーだ。

 

 

「それと、あの二人はどうなの?」

 

 

 どの二人を指しているのか、言われずともわかった。

 別に用意した資料をデスクから取り出し手渡すと、内容を見た博士は目を丸くした。

 

 

「それを見ていただければわかると思いますが、ビャーチェノワ少尉の細胞に関してはGステーションの医療ドックに丸一日預けてしまえば、あとは定期的に細胞を活性化させる薬を飲ませるだけで数ヶ月後には健全な人間と変わらない肉体を得ることができます。シェスチナ少尉の場合はビャーチェノワ少尉とブリッジス少尉、そして社がいれば問題ありません」

 

「……なんでもありね。あんたの本拠地」

 

 

 渡した資料はクリスカの肉体を治療するにあたって必要な措置、時間をGステーションの医療システムに割り出させたものだ。正直、もっと時間がかかったり面倒な手順を踏むかと思ったが、Gステーションの医療ドックはそのスペックを知れば知るほどとんでもない物であった。

 強化人間やエクステンドなど薬物投与で強化した人間を完璧に治療したり、クローニングによってテロメアが短いラウ・ル・クルーゼやレイ・ザ・バレルの老化の進行を常人と同じにしたり、果てには我らが師匠こと東方不敗の病すら治療することが可能という代物だ。流石神様印の治療施設というべきか。

 

 

「で、これを見てる限りじゃまたGステーションに行かないとダメなんでしょ? いつ行くの?」

 

「現在、武の専用機とその兄弟機をあそこで建造しています。それを取りに行くタイミングで、一緒に連れて行こうと考えています」

 

「白銀の専用機とその兄弟機?」

 

「ご存知の通り、武が操る戦術機の機動は並の機体では機体の方が先に悲鳴を上げます。それは旋風でも同じなので、こちらが持てる技術を使いあいつの操縦に耐えられる機体を一から作りました」

 

「兄弟機を作った意味は?」

 

「頭抜けた性能を持った機体を与えたとしても確実に生還できると断言できませんし、万全の状態でオリジナルハイヴ攻略を前提にするならやはり最低でもエレメントは必須。加えて俺は兄弟機が圧倒的な火力で雑兵を薙ぎ払い、最終ターゲットを武の操縦技術でもって仕留めにいくという構図を思い描きました。圧倒的な火力を持たせた理由は、万が一確認されていない新たなBETAと遭遇しても一撃で屠ることを前提にしたためです」

 

 

 未確認のBETAと挙げているのは、オリジナルハイヴに出現した母艦級のことだ。2回目の世界で武はあ号標的の撃破を優先したため母艦級の情報を持っていないようだったし、かといってあいつが知らないのに俺が知っていたらそれこそ矛盾が生じる。なので新種が出てきても即排除、という事も念頭において兄弟機――GLの建造を行った。

 

 

「圧倒的な火力の具体的な威力は?」

 

「最大解放でデルタカイのシールドに搭載されたハイメガキャノンを上回る、と言えばご理解いただけますか?」

 

 

 かつて女神さんがデルタカイの能力を大幅に引き上げてくれたが、最大火力はサテライトキャノンやツインバスターライフルには及ばなかった。

 しかし機体スペックは相変わらず現存するすべての機体のトップに君臨しており、専用機を得た武にもそうそう後れを取ることはないと自負している。ただし、伸びしろの具合ではどうなるか全くわからないので油断していると足元を救われそうだ。

 それはともかく、戦闘映像でハイメガキャノンの威力を思い出して想像したのか、博士は少し真剣な表情を浮かべ質問する。

 

 

「戦術機にそんな過剰火力が本当に必要なの?」

 

「火力不足で手詰まりになるよりは良いかと思いますが。それに環境汚染を引き起こさないビーム兵器なので、G弾や戦術核よりは気負わず使用できます」

 

「暴走、もしくは強奪されたらどうするの?」

 

「暴走された場合はGステーションのメインシステムからアクセスして、外部から強制的にシステムをダウンさせます。強奪に関しても正規の衛士のバイオメトリクスがなければ起動すらしないようにしますので、こちらも問題はありません」

 

「武器を奪われて使用される可能性は?」

 

「武器のグリップと機体の手のコネクタがかみ合わなければトリガーを引くことすら出来ないようにしています。よしんば使用できるようにしたとしてもエネルギーを機体に依存しているのでパワー不足に陥ったり、撃った時の反動が強すぎて機体が耐えられないでしょうけど」

 

「……わかったわ。建造を取り消せとは言わないけど、敵に利用されないようにだけ徹底しなさい。あたしからはそれだけよ」

 

「了解しました」

 

 

 残ったコーヒーを飲み干すと博士は資料を残して退室した。おそらく武と純夏を連れて、反応炉の方に手を加えに行ったのだろう。彼女とは少し話をしてみたかったが、こちらも予定が押している。片付けてから、改めて会いに行ってみるか。

 

 

「まずは、グルーデックを探すところからだな」

 

 

 グラハムたちと行動するように言いつけてから既に日を跨ぎ、外では朝日が顔を出していた。

 起床ラッパも鳴っているころだし、いるとすれば食堂かこの特別開発区画のどこかになるんだが……人に聞きながら探すか。

 連絡を取れるように端末を持たせておけばと思いつつ、俺も資料を片付けて部屋を後にするのだった。

 

 

 




本編第35話、いかがでしたでしょうか?

今回の内容はクリスカの治療とGLについての説明&懸念事項についてでした。
本当ならグルーデックさんまで話をこぎつけようかと思いましたが、長い間離れたせいかどう書いていいかわからず結局次回に持ち越してしまいました。
次の投稿もいつになるかわかりませんが、時間とアイデアができ次第投稿していこうと思います。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


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第36話

どうもこんにちわ、仕事関連でバタバタしていろんな作品がなかなか執筆できない作者です。

さて、今回はアラスカからやってきたメンバーをどうするのかを書いてみました。
文字数が減少傾向にあることに危機感を抱きますが、筆が乗らないので投稿できる分だけ投稿していくというスタンスで行こうと思います。

それでは第36話、どうぞご覧ください。


国連軍横浜基地 特別機密区画 ドック

 

 

 目的の人物が思いのほか近くにいてホッとし、零はプトレマイオスを眺めていた彼に声をかける。

 

 

「この船、貴官の目にはどう見える?」

 

「……正直、この艦がどれほどの力を秘めているのか、私の経験や知識では推し量れません」

 

「まあ、それが当然か。だが、俺はあなたにこの艇の特性を完璧に覚えてもらうつもりでいる」

 

「それが私をアラスカから呼んだ理由ですか?」

 

「そうだ。 グルーデック・エイノア少佐。あなたにはこのプトレマイオス2の指揮と、そこからの部隊指揮を任せたい」

 

 

 零の言葉にグルーデックはゆっくりと振り返る。

 サングラス越しから自分を見極めようとする視線を感じつつ零は部屋から持ち出した端末を差し出す。画面には『プトレマイオス2 概要』と表示されており、それが艦のスペックをまとめたものだとグルーデックは直感的に感じ取った。

 

 

「……詳しいお話を、聞かせていただけますか?」

 

 

 タブレットを受け取りながら返された言葉に零は満足そうに頷き、グルーデックを連れてブリッジへと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 プトレマイオス2 ブリッジ

 

 

 システムの駆動音だけが響くブリッジで零はグルーデックに艦の状況を説明した。

 機体の整備と衛士こそ帝国軍より人材を得ることに成功したが、艦の運用のほとんどをハロに任せていることと、自分が前線に出ている間はせっかく戦闘に参加できる艦が十分に扱えないことを。

 内容自体は非常にあっさりとしたものだったが、その説明だけでグルーデックは自分に求められることが何なのかすぐに理解した。

 

 

「――言いたいことは分かりました。しかし、艦の指揮どころか部隊指揮も私が預かって良いのですか?」

 

「少佐の指揮能力は俺より高いとみている。今でこそ俺も指揮官という立ち位置にいるが、元々は指揮される側のMS乗りだ。それに比べて少佐は現場経験が豊富だし、今までの実績もある。それらを踏まえて、俺は指揮を任せても大丈夫だと考えた。それに指揮を預けると言っても、それは俺がMSで出撃しているときだけだ。それ以外は副長として俺を補佐してくれればいい」

 

「アルゴス試験小隊と紅の姉妹は、どうするおつもりで?」

 

「余程のことがない限りアルゴス小隊の指揮は篁中尉、もしくはドーゥル中尉に一任するつもりだ。紅の姉妹については諸事情につきこちらで面倒を見るが」

 

 

 クリスカを治療するために新型の回収をするタイミングでGステーションへ向かうことが決定しているが、新型の建造が終わるまではまだ半月ほどかかる。それまでは零の部隊で預かり、いざという時に備えて鍛え上げるつもりだ。加えて寒冷地仕様ジム()を贈ることが功を奏したのか、彼女たちの乗騎であるSu-37UBチェルミナートルまでこちらに送られてきている。彼女たちの力を完全に引き出せる複座の機体がない現状、これは零にとってもうれしい誤算だった。

 旋風を複座にすれば機体バランスが崩れるし、かといって彼女たち向けのMSは建造するのはともかく、XM3にも馴染んでいない彼女らに候補の機体を任せるには早すぎるという考えもあったからだ。

 

 ――複座ってことで彼女らに合う機体を考えたが、MSサイズじゃアレ以外ないんだよな。

 

 零の脳裏には自分のガンダムを除けば現状で最高クラスのスペックを持つ太陽炉搭載機、ガンダムハルートが候補として浮かんでいた。

 機動特化であるキュリオスの系譜を受け継いでいるため機動力は言わずもがな。さらに超兵という、いわゆる強化人間が二人も搭乗することを前提にしているため、操縦技術も非常に高度なレベルで要求されることとなる。

 しかも超兵は「超兵のあるべき姿」と言われる反射と思考の融合を実現するべく、一つの体に二つの人格を宿させたという説がある。本来の搭乗者であるアレルヤ・ハプティズムにハレルヤが。マリー・パーファシーにソーマ・ピーリスがいたように。

 この考えで行けばクリスカとイーニァも多重人格を要求されることになるが、彼女らは最初から機動と火器の役割を分担して戦ってきているので、あとは練度さえ上げれば100%(完璧)ではないが十分に戦える結果を出すだろうと零は踏んでいた。ちなみにMAを採用しなかったのは単純に部隊として扱いにくいという問題点と、MA+強化人間という図式が零にとって不吉な組み合わせでしかなかったためだ。サイコガンダム然り、デストロイ然り。

 さらにチェルミナートルは改修前のA-01の不知火同様、XM3の適用と関節部の強化さえしてしまえば直ぐに使用が可能になり、ステップアップにはうってつけの機体になるという利点を持つ。グラハムとニールにはすぐにMSが与えられたが、あれは零がシミュレーターの様子を確認して大丈夫だと判断したことが大きかったりする。零としては絢香たちも旋風に慣れてきたのでタイミングを見て専用機の配備を検討しなければと考えていたりする。

 「さて」と言葉を区切り、改めて零は問う。

 

 

「エイノア少佐。以上の話を聞いた上で、改めてオーバーワールドの部隊指揮を担ってはくれないか?」

 

 

 その問いにグルーデックは手にしたタブレットに視線を落とすと、居住まいを正し零にピシッと敬礼をする。

 

 

「――謹んでお受けします、神林中佐」

 

「ありがとう。部隊長として貴官を歓迎する」

 

 

 返礼とともに零が笑みを浮かべると、グルーデックもまた口元を緩めるのだった。

 

 




苦し紛れの執筆なので文章がおかしかったりするかもしれませんが、第36話、いかがでしたでしょうか?

次あたりで操舵士とオペレーターを導入させるつもりです。
そろそろ事態を動かさないとは思うのですが、ブシドー風に言うなら「興が乗らん」という状態です。
他の作品もどうにか執筆しないと……。

ともあれ、今回は一先ずこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


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第37話

こちらでは大変お久しぶりです。明石明です。

更新に1年以上もかかってしまい本当に申し訳ありません。
ただ自分でも今何を書こうとしているのかわからなくなっておりまして、今一度整理すべきか本気で悩んでおります。

とりあえず今回は思いつくまま深夜テンションで筆を執って更新を図ったので文法やらなんやらで変なところがあるかもしれませんが、どうか生暖かい目で見てやってください。

それでは本編第37話です。どうぞ。


国連軍横浜基地 PX

 

 

 

 零がグルーデックにプトレマイオス2の説明をしている頃、ユウヤたちアルゴス小隊の面々は基地の把握を兼ねて朝食を取りに来ていた。

 

 

「うっめえええ! ユーコン基地の飯とは段違いだ!」

 

 

 国連軍の基地だから同じ合成食材のはずなのにとこぼしながらタリサが初めて食す日本料理に歓声を上げる。

 昨日に零の用意していた食事(プトレマイオス2に積んでいたサンドイッチなど)が天然ものだったことから、PXの食事もさぞすごいのだろうと思っていた。だが実際にはほかの基地と同じ合成食材のものだと知り「そんなうまい話はないか」と肩を落とした。しかし食べてみれば天然ものではないのはわかるが、これは本当に合成食材なのかと疑ってしまいそうなほど旨かった。

 他のメンバーも同様の感想を抱く中、一人別の感覚を受けたものがいた。

 

(……なんか、妙に懐かしさを感じる……。親父の――俺の日本人としての血がそう感じさせるのか?)

 

 合成サバ煮定食を租借しながらユウヤはそう思う。横浜基地の肝っ玉母さんの料理は、彼に流れる日本人の血にまで郷愁の念を感じさせるのだった。

 

 

「それで、今日はどうする? 一応中佐からは今日までゆっくりしていいって言われてるけどよ」

 

 

 VGの言葉で現実に戻され、口の中のものを嚥下してユウヤは答える。

 

 

「午前中は施設の把握に専念して、午後からはシミュレーターを使わせてもらえないか中佐に掛け合おう。仕様や映像を見てからも思ったが、あの新OS、相当なじゃじゃ馬だぞ」

 

「反応速度が30%増しなんでしょ? 間違いなく軽く動かしただけでも大きく動くわよ」

 

 

 零から告げられた弐型の――いや、これからの戦術機に標準搭載されるXM3の内容を思い出しながらステラも同意する。

 ちなみに彼らの知らぬことだが、事実初めてXM3に触れたA-01の面々は旧OSとの性能差に対応できず不覚にも転倒してしまう場面があったのは余談である。

 

 

「あとは『キャンセル』、『コンボ』、『先行入力』だったな。正直、『キャンセル』だけでも革命的だと思うぜ。なんせ、動作直後の硬直を取られて死んだ衛士はごまんといるんだからよ」

 

「けど今のOSに慣れちまったアタシらからすればちょっと面倒だよな。システムが根本的に変わるから、それに合わせて癖も直さねーと」

 

「そういう点でいえば今の訓練兵はラッキーね。最初から新しいOSで取り組めるんだから、余計な癖に気をつけなくていいし」

 

 

 ステラの言葉に三人は頷いて同意を示す。

 既に現行OSを使い込んでいる自分たちと比べ、訓練兵たちはこれから戦術機を学んでいくのだ。余計なことを気にしないで言い分、XM3に慣れるのも必然的に早いといえよう。

 

 

「そうだ! どうせなら訓練兵のシミュレーターでものぞいてみるか? 間違いなく新OSで訓練してるはずだし」

 

 

 タリサの提案にVGが面白そうに笑みを浮かべる。

 

 

「そりゃいい。ついでに教官がいい女だったら最高だ」

 

「あら、男かもしれないじゃない。前に聞いたけど、中尉が訓練兵だったころは強面の男性が教官だったらしいわ」

 

「おいおい、冷めること言うなよ。 ――ユウヤはどっちだと思う?」

 

「どうでもいい。それに、どの道基地内を回るつもりなんだ。シミュレーターもその時のぞいてみればいいだろ」

 

 

 VGの言葉を一蹴しながら食事を終え、一足先に食器の返却に向かう。その様子にタリサたちも手早く食事を済ませ後に続く。

 現在、彼らが行き来することを許されているのは横浜基地の地上ほぼ全域と地下の限られたフロアのみ。そこでユウヤはまず範囲の狭い地下部分から上にあがって把握していこうと考えた。

 基地の地下部分はハイヴの構造を利用していると聞いているので、少なからず興味もあった。

 仲間とともに移動をしていると周りから少なからず視線を感じるが、それはユウヤがアメリカ人だからというよりは見たことない人物がいるといった反応のものだ。

 日本人は先のG弾投下が原因でアメリカ人を心底毛嫌いしていると思っていたユウヤからすれば少々拍子抜けだったが、日本国内だろうがここが国連軍の基地である以上、そういったことはまずないのだろうと自己完結で納得する。

 そんな中、下層から上がっていく途中でまさに訓練兵たちがシミュレーター訓練に励んでいる現場に遭遇する。

 部屋にいる人間のほぼ全員が女性であることに、VGか「ヒューッ」と口笛を上げる。

 

 

「見目麗しい少女たちの訓練兵用強化服とは、なんとも初々しいねぇ」

 

「チョビならあの中に混ざってても違和感なさそうだな」

 

「おいユウヤ! それってどういう意味だよ!」

 

「そのままの意味じゃないかしら。 それにしても。まだぎこちないけどよく動かしてるじゃない」

 

 

 モニターの中ではまだまだ拙い動きが目立つ吹雪が跳躍ユニットのブースターをふかしながら突撃砲を手にターゲットを狙っている様子が映し出されており、新OSの性能を抜きにしても衛士としての素質の高さが窺えた。

 そんな会話――というよりタリサの大声がきっかけだろう――が聞こえたのか、教官と思われる人物の一人がユウヤたちの存在に気づく。

 その人物がつけている大尉の階級章が目に留まり、ユウヤたちは上官だとわかるや否や反射的に敬礼をする。

 一方、もう一人の教官と訓練兵たちも自分たち以外の人間――しかも正規兵――が訓練の様子を見ていることに気づくとすぐさま姿勢を正して敬礼。

 妙な光景が出来上がったことに苦笑し、大尉の教官が声をかける。

 

 

「すいません、どちら様ですか?」

 

「自分たちはアルゴス試験小隊の者です。――自分はユウヤ・ブリッジス少尉。昨日、神林中佐の命を受けアラスカのユーコン基地からこの基地に着任し、現在は基地内把握のために行動をしていました」

 

「同じくアルゴス試験小隊所属、タリサ・マナンダル少尉です」

 

「ヴァレリオ・ジアコーザ少尉であります」

 

「ステラ・ブレーメル少尉です」

 

「ああ、あなたたちが零の言ってた……。俺はこの207訓練部隊の教官をしている白銀武です。こっちは同じく教官の神宮司まりも軍曹」

 

 

 ユウヤたちの自己紹介を受けて同じように自己紹介をした大尉の教官――武の言葉に気になるものを感じ、ユウヤは思わず尋ねる。

 

 

「あの、大尉。中佐を呼び捨てにするんですか?」

 

「確かに階級的に見れば明らかにまずいですけど、基本的に俺と中佐は対等の関係です。締めるときはしっかり締めますけど、それ以外では基本的に呼び捨てですよ」

 

「……そ、そうですか」

 

 

 基本的に対等であるという言葉にアルゴス小隊の面々は驚きを隠せない。

 何せ零本人が自分は別世界の人間であると公表しているのだ。階級に差があるにもかかわらず対等の立場というのなら、目の前の男は実はとんでもないポジションの人間なのではと勘ぐってしまう。

 

 

「そうだ。もう聞いてると思うんですけど、少尉たちは新OSについてどう思いますか?」

 

 

 尋ねる武に、まずステラが答える。

 

 

「現行のOSに慣れ切った現場の衛士からすれば、癖を修正する手間を除けば非常に革命的なものだと思います」

 

「中佐からTYPE-94の模擬戦も見せてもらいましたけど、現場の人間からすれば硬直がないってだけでも垂涎の代物ですよ」

 

「個人的には新OS積んだ94の機動が変態的過ぎて機体のほうが先に駄目になるんじゃないかって思いましたけど」

 

「倒立反転からの垂直降下に戦術機でのバレルロール。衛士の実力もあるんでしょうが、現役の機体であれだけ動けるなら、機体が無事な限り戦術の幅が圧倒的に広がるかと」

 

 

 4人の意見にふむふむと頷き、武は考える素振りを見せるとまりもに小さく話しかける。

 僅かな話し合いで何かがまとまったのか、武はユウヤたちに尋ねる。

 

 

「少尉たち、この後何か予定とかありますか?」

 

「基地の把握をした後にシミュレーターを使わせてもらえないか中佐に確認すること以外は、何も」

 

「なら丁度いい。少し動かしてみませんか――」

 

 

 そういって武は後ろでいまだ稼働しているシミュレーターを指出す。 

 

 

「――件の新OS、XM3を」

 

 




本編第37話、いかがでしたか?

もし次回の投稿に取り掛かれた場合はユウヤたちがXM3に四苦八苦したり、武の変態機動に度肝を抜かれたりするシーンがあると思います。

他の作品の更新や新しいネタなどで次回更新が本当にいつになるかわかりませんが、楽しみにしていただいてる方がいるので少しずつ頑張っていこうかと思います。

とりあえず、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。


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