RIDDLE JOKER ハーレムルート (恋熊)
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Chapter 4-1

星幽発表祭も無事終了し、しばらくして平穏な生活に戻った。

 

俺、在原暁は特班のメンバーとして無事三司さんを守り切り、特班のことを誰かに知られることもなく、何事もなかったかの様に生活している。

 

いや、発表祭の後、茉優先輩に服の血を見られ心配されたり、貧血で倒れて三司さんを筆頭にみんなに心配をかけたりもしたけれど、いつも通りの日常に戻れている。

 

「暁、おはよう」

 

声を掛けて来たのは友人の恭平だ。

 

「おはよう、恭平」

「今日の朝ご飯聞いた?もうお腹ペコペコだよ〜」

 

そんなことを言いながら恭平の腹が勢いよく鳴る。

こいつは女の子の様な見た目をしているがれっきとした男で、とんでもない食欲を持っている。

こいつのどこにそんなに入るのかと思わなくはないが、もうそんな生活にも慣れた。

 

「確かに俺も腹が減ったな。食堂へ急ぐか」

 

朝は二条院さんと軽くランニングをするのが日課になっている。

 

眠気覚ましには丁度いいし、軽く運動をするため、朝飯前にいい具合に腹が減る。

 

そんな訳で、ほぼ常時腹を空かせている恭平とランニングの後で腹を空かせている俺の体は食事を求めていた。

 

「あ、暁くん、おはよう」

「先輩!おはようございます!」

 

静かな声と、大きく元気な声が聞こえてくる。

妹の七海と壬生さんだ。

 

「おはよう、二人共」

「おはよう。というか二人共、僕のこと忘れてない?」

「「そんなことないです」」

 

挨拶をしてもらえなかった恭平が尋ねると2人は揃って首を振る。

そんなバカみたいなやり取りをできるのも仲のいい証拠だ。

 

俺達は揃って食堂に向かう。

 

ふと、七海の足取りが重いことに気が付いた。

 

「大丈夫か?七海」

「えっ?別に、なんともないよ?」

「本当か?足元、フラついてるぞ」

「お兄ちゃん・・・」

 

七海が感動でもした様に俺を見詰める。

 

「キモいよ」

 

上げて落とされた。

 

「もうっ!暁くんってば心配し過ぎだってば!このシスコン」

「俺はシスコンじゃない。妹のことが心配なだけだ」

「シスコン」

 

弁明を試みたが余計傷付いた。

 

「でも暁はこれくらいシスコンじゃないと暁じゃないよね」

「そうそう、このシスコンっぷりを見てると先輩って感じがします」

 

恭平と壬生さんに追い打ちをかけられた。

 

「というか、俺は壬生さんのことも心配だぞ」

「へっ?」

 

このままやられっぱなしも癪なので、反撃することにした。

 

「壬生さんだって可愛い女の子なんだから、危険な目に合わないか心配だ。困ったらすぐ俺に頼ってくれ」

「あ、ありがとうございます・・・」

 

壬生さんは顔を真っ赤にして俯く。

 

あれ。

思ってた展開と違う方向に向かってしまっている。

 

「セクハラ。キモっ」

「ぐふっ!」

 

妹に罵倒され傷付く俺。

 

「暁くん。私の親友に変なことしないで」

「変なことはしてない。心配してただけだ」

 

ジト目を向けてくる妹に弁解する俺。

 

「親友・・・ふふっ」

 

そんな俺達のやり取りを見て壬生さんが頬を緩ませる。

 

「七海ちゃん、会ったばかりの時は誰も寄せ付けない〜みたいな雰囲気出してたのに、今では私とすっかり仲良しだね〜」

「ああぁぁぁあああ!何言ってるの千咲ちゃん!変なこと言わないでよぅ!」

 

壬生さんの言葉に七海はあたふたする。

 

本当に仲が良い。

 

そんな様子に俺は少し安心する。

 

前の学校でも仲のいい友達はいた七海だが、人見知りするタイプのため学校に馴染めるか不安だった。

でも壬生さんがいるからもう安心だろう。

 

「・・・暁くんがまたキモい顔してる」

 

また唐突に傷付けられた。

 

 

…………………

〈Another View〉

 

彼女、在原七海は在原暁の血の繋がらない妹である。

子供の頃からだらしない兄の世話を焼き、兄の将来が心配だとぼやいていた。

 

(大丈夫、と思ったんだけどなぁ・・・)

 

七海はため息を吐く。

 

七海は幼い頃から暁のことを異性として好きだった。

 

だが、兄妹だから、暁は自分のことを妹として大切にしてくれているから、と自分の気持ちを押し殺して妹として接していた。

 

「誰か女の人とくっついちゃえば、この気持ちも治ると思ったんだけどなぁ・・・」

 

しかし実際は、暁は不特定多数の女性とイチャイチャし、誰とも付き合う気配がない。

 

そんなイチャイチャを見せつけられ、嫉妬を抱き、暁が誰かのものになってしまうことに不安を感じてしまうくらいには、兄への想いが膨らんでいた。

 

『大丈夫か?七海』

『本当か?足元、フラついてるぞ』

 

「誰のせいだと思ってるのよぉ〜」

 

暁への気持ちを抑え込もうとして、暁が他の女の子とイチャイチャしてることにヤキモチを焼き、そんな暁を好きという気持ちと妹としての気持ちが頭の中でぐるぐるして、七海は最近眠れない日々を過ごしていた。

 

「う〜。この気持ちをどうにかできないものか〜」

 

七海はどうしようもできない気持ちを抱えて悶々とするのだった。

 

「というか、暁くんも暁くんだよぉ」

 

いくら本当の気持ちを隠してるとはいえ、暁はあまりにもデリカシーがない。

 

女の子に言うには酷いことも平気で言うし、恥ずかしいシスコン発言も多過ぎる。

 

それなのに他の女の子とイチャイチャするのだから、七海は振り回されっぱなしである。

 

「暁くんのバカ、アホー・・・」

 

七海の嘆きが空に響いた。

 

…………………

 

 

朝食を終え、HR前。

 

「昨日の荒くれ大将軍の再放送も良かった・・・!弱きを助け、強きを挫く・・・!将軍様はまさに私の理想像だ・・・!」

 

俺、恭平、二条院さんの3人で他愛ない話をする。

 

「確かに将軍様はいい人だよな。自分で足を運んで市井を守る。上に立つ人として立派だ」

「わかってくれるか在原君!」

 

俺の意見にとても熱く感動してくれる二条院さん。

 

そんな俺と二条院さんを恭平は辟易とした様子で見守る。

 

「む。すまない、少し熱くなり過ぎたみたいだ。周防も折角話に加わってくれていると言うのに」

 

恭平の様子に気が付いた二条院さんが気落ちする。

 

「気にしなくていいよ。確かに自分のわからない話題だと話に着いていけないけど、2人が楽しそうに話してるのはこっちも楽しいんだ」

「お前は俺の母親か何かか?」

 

友達に対して『友達が楽しそうにしてるのが楽しい』という感想はどうなんだろうか。

 

「何それ。僕が女っぽいって言いたいの?」

 

母親と言ったのを根に持ったらしい恭平。

 

「・・・・・」

 

俺は静かに目をそらす。

 

「サ〜ト〜ル〜!」

「すまない。悪気はないんだがつい口が滑ったんだ」

「滑ってる!今も十分滑ってるよ!」

 

恭平が俺に怒りの気持ちを向けてくる。

 

「まったく、失礼しちゃうよっ」

 

女扱いされたくなかったらその可愛い怒り方をなんとかした方がいいと思う。

 

バカみたいなやり取りをしてる俺達を二条院さんは微笑ましそうに見ている。

 

こうして友人同士で楽しく話せているのが思いの外悪くないと思っている俺がいる。

 

「しかし、在原君が時代劇に興味を持ってくれたのだから、折角なら周防にも興味を持って欲しいものだ」

「それは遠慮しておくよ。全く見たくない、ってわけじゃないけど、勧められてまで見たいとは思わないかな」

 

周防がそんなことを言う。

 

「それは違うだろ。自主的に見ようとしないから、勧められて見てみてその面白さを知るんだろ?」

「さすが暁。人から勧められ慣れてる」

「伊達に無趣味歴は長くないさ」

 

言ってて悲しくなる。

 

「しかし在原君はたとえ無趣味でもいい人だ。私の趣味にも寛容だし、わたーーーー」

 

二条院さんがゴホンと咳払いをして言葉を止める。

 

「?」

 

恭平が目を丸くして首を傾げる。

 

男に見られたいならそう言う可愛い仕草をやめればいいのに。

 

二条院さんはおそらく『私の将軍様』と言いたかったのだろう。

 

俺は過去に、二条院さんが大人3人に絡まれているのを助けたことがあるらしい。

 

ある一件のお陰で、二条院さんにそのことがバレてしまった。

 

しかし、過去のことは実際は助けようとして助けたわけじゃない。

俺自身、アストラル使いとして周りから疎まれ、自分自身の存在意義も分からずストレスを感じていた。

その鬱憤を発散していたに過ぎない。

 

そんな情けない姿を周りにバレるのは避けたい。

 

何より、俺自身がそんな昔の俺を思い出したくない。

 

だから俺は、二条院さんを口止めしたのだ。

 

口止め、といっても頼んだだけだが。

 

「無趣味だからこそ、他人に勧められた趣味を吸収しやすいだけだよ。実際やってみると面白い、っていうことは結構多い」

 

今まで仕事が忙しく、まともな趣味も作らなかった俺だが、今は仕事も少なくなり、暇を持て余している。

そんな暇を潰せる趣味は結構重宝している。

 

「じゃあさ、今度僕と一緒に食べ歩きしない?美味しい店探すの楽しいよ」

「誘いは嬉しいが食べ歩きを趣味にするのはやめておきたいな」

 

恭平がそんな提案をしてくれるが、俺はそれを断る。

 

食べ歩きばかりしていたら体型やら財布の中身やらが大変なことになりかねない。

できるなら趣味は生活に支障のない範囲に抑えたい。

 

「おはようございます、皆さん」

 

他愛ない話をしていたところへ三司さんがやってくる。

 

「おはよう、三司さん」

「今日は随分と重役出勤だね」

 

二条院さんと恭平が三司さんに声をかける。

 

「今日は生徒会の用事で朝から忙しかったんです」

 

軽く欠伸をする三司さん。

 

「少し働き過ぎじゃないか?手伝えることがあれば手伝うぞ」

 

俺はそんな社交辞令を三司さんに送る。

 

「ありがとうございます。でもお気持ちだけで結構です。私はこういうことは慣れてますし、手伝って頂く方が気を使っちゃいますから」

「やはり三司さんは偉いな。皆の見本の様な人だ」

「でも辛くなったら言ってね?三司さんが倒れちゃうと僕達だって心配なんだから」

 

三司さんの見事な猫被りっぷりに騙されている二条院さんと恭平が三司さんに労いの言葉をかける。

 

・・・本当は寝坊しかけただけなんじゃないだろうか。

 

「・・・何よ」

 

皆に見られない角度で三司さんが睨んでくる。

 

「別に何も言ってないだろ」

「その目!目が口程に語ってる!」

 

どうやら顔に出ていたらしい。

 

とにかく、俺達は猫被りの三司も加え、HRまで他愛ない話をするのだった。

 

…………………

〈Another View〉

 

「二条院さんってさ、暁のこと好きだよね」

「なっ‼︎なな、な・・・!」

 

いきなり恭平に図星を突かれ、わなわなと震える羽月。

 

「なぜそう思うんだ⁉︎」

「いや、めちゃくちゃわかりやすいけど・・・」

 

今でも顔を真っ赤にして首をぶんぶんと振っている。

恥ずかしがっているのがわかる。

 

「告白とかしないの?」

 

恭平がストレートに訊く。

 

「な、ななな!なぜそうなるんだ⁉︎」

 

羽月は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「まぁ、考え方は人それぞれだけど、好きって言ったら告白じゃない?」

「そういうものなのか?」

 

恭平の言葉に羽月が疑問を感じる。

 

「だって、好きなら付き合いたいとか思うものじゃない?」

 

恭平が羽月に共感を求める。

 

「た、確かに私も在原君と一生を添い遂げたいとは思うが・・・」

「重いね・・・」

「在原君は人のために動けるとても素晴らしい人だ。私が在原君にふさわしいのだろうか・・・」

「だから重いよ・・・」

「それに在原君の周りには三司さんや式部先輩の様な素晴らしい女性ばかりだ。私の入り込む隙など・・・」

「だから重いって!」

 

ぐちぐちと言い訳を続ける羽月の言葉を恭平が無理矢理に遮る。

 

「暁が、とか、他の子が、とかじゃなくてさ、二条院がどうしたいのさ?」

「私が・・・?」

 

恭平の言葉に羽月は考える。

 

「私は・・・在原君と一生を共にしたい。他の人なんて考えられない。在原君には私以外にいたとしても、私には在原君しかいないんだ・・・」

 

この学園で再会を果たした、自分を助けてくれた人。

暁が彼だとわかった時運命を感じたけれど、暁は「自分はそんないいものじゃない」と一蹴した。

それから羽月は暁がどんな人物なのか観察し、彼が立派な人だと、自分が尊敬するに足る人物だと、一層暁のことを好きになっていった。

 

だから、羽月は暁に相応しい人間になりたいと、暁の隣に立てる様な人間になりたいと考え、努力している。

 

「いや重くない?」

 

恭平は思わず突っ込んだ。

 

…………………

 

「在原君」

 

声をかけられ、振り向くと廊下の角から三司さんが顔を出していた。

 

・・・何をやってるんだろうか。

 

見ると、何やら手招きをしている。

 

「?」

 

変に思いながらも俺は三司さんの方へ向かう。

 

「どうしたんだ?」

 

俺は三司さんに声をかける。

 

「そもそも、さっきのは相当怪しかったぞ」

 

三司さんは周りに自分の性格やら胸のサイズやらを隠しているのに、怪しい行動を取ったら目立って台無しじゃないだろうか。

 

「この辺りは人通りも少ないし、周りに人がいないのも確認したからいいの」

 

怠そうに三司さんが答える。

 

「それで?何か用があったんだろ?」

 

三司さんが俺を呼ぶということは、俺と彼女が共有してる秘密に関して何か支障があったということだろう。

 

「まさかパッドを落としたのか?」

「喧嘩売ってるのねそうなのね?」

 

三司さんが人を殺しそうな顔になる。

 

そもそも三司さんの胸は見てわかるくらい巨大だ。

なら中身はそのまま入ってるってことか。

 

「悪い。見ればわかることなのに気付かなかった」

「ねえ気付いてる?自分がどんどん言わなくていい余計なこと言ってるの気付いてる?」

 

三司さんが満面の笑みで訊いてくるが、目は一切笑ってない。

 

「もういいわよ」

 

三司さんは諦めた様に溜息を吐く。

 

「それより用件よ、用件」

 

真剣な目で見つめてくる三司さん。

 

「今日の放課後、私の部屋に来れない?」

「・・・用件ってそれか?」

「そうよ、悪い?」

 

少し恥ずかしそうに顔をそらす三司さん。

 

何か恥ずかしがる様な用件があるのだろうか。

もしかしてまた猫と仲良くする特訓だろうか。

 

別に俺でよければ付き合うことにやぶさかではないが、悪いが今日は答えられない。

 

「悪いが、先約があるんだ」

「何?女?」

 

何だその浮気男を問い詰めるみたいな言動。

 

「茉優先輩の研究に付き合うって約束してるんだよ」

 

ここ最近、茉優先輩はやたらと俺を気に掛けている。

おそらく昔のことを気にしてくれているんだろうが、俺としては昔のことを引き合いに出されるのはむず痒い。

 

そんな茉優先輩の心配性を和らげるため、そしてあわよくばあの研究室から情報を引き出しやすくするため、俺は足しげく茉優先輩の研究室に顔を出している。

 

妹からは『任務を言い訳にして女に貢いでる』とあらぬ疑いをかけられた。

 

そもそも金を渡して入ってるわけではないんだが。

 

「ぐぬぬ」

 

三司さんが何やら唸っている。

 

「研究と称してこんなことやあんなことしてるんじゃないでしょうね」

 

なんだよあんなことやこんなことって。

 

「するわけないだろ。茉優先輩はあんなんだけどちゃんと立派な研究者だぞ。俺から何かしようとしてもちゃっかり対策してるに決まってる」

「・・・本当に?」

 

疑ぐり深いな。

 

「そんなに言うなら三司さんの部屋に行かなくていいんだな?俺は信用ないみたいだし」

「あ〜!ダメ!来て!来てください!お願いします!」

 

俺が行かないと言うと慌てふためく三司さん。

 

可愛いな。

 

「・・・いじわる」

「さて、何のことやら」

 

ジト目で睨んでくる三司さんに俺は視線を逸らして答える。

 

「じゃあ放課後1時間後に」

「よろしく、在原君」

 

何の用かはわからないが、俺と三司さんは約束を交わした。

 

…………………

 

「ふむふむ。前も思ったけど、結構鍛えてるね〜」

「・・・」

「あっ。腕とか腹筋だけじゃなくて、背中もすごーい」

「・・・あの」

「どうしたの?」

「何してるの?」

 

俺は現在、上半身を裸にされ、全身を触られている。

もちろんこの研究室の主人である茉優先輩に。

 

何のためにそんなことをするのか、俺には皆目見当もつかない。

 

「何って、研究だけど」

 

茉優先輩がキョトンと首を傾げる。

 

「何の研究だよ・・・」

 

さっきからペタペタ体触られるだけで特にアストラルと関係ありそうにない。

 

そんな俺の疑問に茉優先輩が答える。

 

「男の子の体の研究」

「帰る」

 

俺は上着を着ーーーー。

 

「待って待ってほんの出来心だったのごめんなさい〜!」

 

茉優先輩が帰ろうとする俺に追い縋る。

 

冷たくする男に縋る女。

 

なんだか嫌な絵面だ。

 

「本当は暁君の筋肉量を計測して、能力使用前後での変化を見たかったの」

「何・・・?」

 

俺のアストラル能力は身体強化ーーーと、学園側には伝えているが、俺の本当の能力は脳のコントロール。

脳のリミッターを外すことで身体能力を上げた様に見せたのだ。

 

つまり、俺の能力では身体能力を強化しようが筋肉量は変わらない。

 

「・・・そんなものを調べて何をするつもりだ?」

 

俺は茉優先輩の真意を探る。

 

まさか、俺が能力を偽っているのがバレたのか?

 

「何をって、ちょっとした興味本位だよ」

 

やだな〜、と茉優先輩が笑う。

 

「ひとえに身体強化って言っても、同じ能力じゃないんだよ」

 

アストラル能力には解明されていない点が多い。

アストラル能力は、同じ系統の能力はあっても全く同じ能力はないと言われている。

 

「筋力を増強してるのか、力場に干渉してるのか、はたまた全く別のアストラルなのか。同じ身体強化でも、過程が違えば全然違う能力なんだよ」

「それはわかるが・・・なんでわざわざ俺の能力を?」

「だからそれは興味本位。能力の結果だけじゃなく、その根幹の部分も知りたいって、研究者として思ったのさ」

「そうですか」

 

若干面倒くさいと思わなくもないが、俺の本当の能力がバレたわけじゃなくて良かった。

 

「触らせてくれたお礼にお姉さんの体も触ってみる?」

「・・・・」

 

なんて事を言うんだこの人は。

 

「冗談でもそういうことは言うものじゃないぞ。何をされるか分かったものじゃない」

「今考え込んだでしょ?」

「・・・ノーコメントで」

 

この人は楽しんでる。

絶対人のことからかって楽しんでる。

 

「でもこんなおばさんの体触りたいなんて人いるわけないよね〜。肌は張りがないし、潤いがないし・・・。言ってて悲しくなってきた」

 

唐突に泣き始める茉優先輩。

情緒不安定だな。

 

「俺は少なくとも魅力的だと思うぞ」

「あはは。ありがと♪お世辞でも嬉しいな」

 

お世辞じゃないんだけどな。

 

「しかし嬉しいねぇ♪お姉さんに会いに来てくれるなんて」

「・・・約束したしな」

 

数日前、俺がここに来た時、茉優先輩にこの時間に来て欲しいと言われ、俺は特に用事もなかったので了解した。

 

「でもその約束関係なく、このところちょくちょくここに来てくれるじゃない?お姉さん嬉しいな〜」

 

嬉しそうに顔を綻ばせる茉優先輩。

 

「やっぱり幼馴染のお姉さんに癒されたくなっちゃった?」

「お願いだからやめてくれ」

 

俺は昔の話をされるのは嫌なんだ。

 

「ははっ。ごめんね〜」

 

茉優先輩は俺に拒否されたのに楽しそうだ。

 

「昔は何もできなかった、ううん・・・しなかったけど・・・今は私達、こんな風に笑い会えるんだね」

「・・・・」

 

茉優先輩は、どこか寂しそうな、満たされた様な、複雑な表情で笑った。

 

「俺は笑ってないけど」

「も〜!つれないな〜!」

 

でも、俺もこの人といる時間を心地良く感じてるのは事実なので、少しだけ悔しくなった。

 

その後も俺達は他愛ない話を続けた。

その間、実験とか研究はおざなりだったが、茉優先輩はその事には触れず、楽しそうにしていた。

 

…………………

 

〈Another View〉

 

暁が帰った後しばらくして、茉優は思わずため息を吐く。

 

「今日も頼れるお姉さん、できたかなぁ」

 

オロオロ、というほどではないが、茉優は少し狼狽えている様に見える。

 

暁が同じ孤児院にいたあの問題児だと分かってから、茉優は暁にちょっとした絆の様なものを感じていた。

でもそれ以上に、罪悪感も抱えていた。

 

その感情もあって、茉優は暁に対して必要以上に世話を焼いている。

少なくとも、他の人よりも暁の事を気にかけているのは確かだ。

 

最近では暁もよく研究室に顔を出してくれ、会う機会も増えている。

 

暁と話す度に、懐かしさと共に楽しさを感じる。

それは昔の後悔からくるものだと思っていた。

 

でも、暁のことが放っておけなく思ったり、ふとした瞬間に暁がかっこよく思えたり、暁のことばかりを考える様になっていた。

 

「・・・不自然じゃなかったかな?」

 

今回ベタベタと暁の体に触れていたのも、研究を言い訳にして暁の体に触れてみたかっただけだ。

実際触れてみたら、とてもドキドキして変に思われないかと心配になった。

 

それくらい、茉優は暁のことが好きになっていた。

 

「う〜・・・暁くん、今日もかっこよかった・・・」

 

茉優の顔がとろけ切る。

 

「暁くん・・・細身なのに筋肉がしっかりついてて、うへへ・・・」

 

茉優の口からよだれが出る。

 

「おっと。こんなんじゃ先輩としての威厳がないよね」

 

そもそも研究をダシに後輩男子とイチャイチャしようとしている時点で威厳もへったくれもないと思う。

 

「暁くん、いちいち反応が可愛いし、ふとした瞬間にはかっこいいし、男の子なんだな〜って実感させられるし・・・」

 

茉優は唸りながら頭を抱える。

 

「どんどん・・・好きだなって実感する・・・」

 

言葉にすると、わかっていなかったことがはっきりとする事がある。

 

茉優は途端に頬を赤らめる。

 

「好き!暁くん大好き・・・!うぁぁぁぁぁあ・・・!好き・・・」

 

気持ちが溢れて止まらない。

 

「うぅ・・・」

 

しばらくして落ち着いた茉優は項垂れる。

 

「こんなんじゃダメだ・・・。私はお姉さんなんだから・・・」

 

どうやら茉優の中では自分はみんなの頼れるお姉さんポジションらしい。

 

「暁くんが好き。だけど暁くんは私のことお姉ちゃんとして甘えてくれてるんだから!ちゃんと大人の女としてリードしてあげないと・・・!・・・あれ?」

 

自分の言ったことの支離滅裂さに首を傾げる茉優。

 

「まぁ、いっか」

 

今度はどんな話をしようかと、次に暁が来てくれるのを楽しみにする茉優であった。

 

…………………

 

「やっ、はっ、とっ!」

「・・・」

 

カタカタカタカタ。

 

「あっ、うわっ、きゃっ!」

「・・・」

 

ボチポチポチポチ。

 

ここは三司さんの部屋。

 

俺と三司さんはゲームをしていた。

 

最大4人対戦が可能な格闘ゲームだ。

初心者でも楽しめる親切設計らしく、今は2人対戦の真っ最中だ。

 

「うわぁ〜!また負けたぁ!」

 

三司さんがコントローラーを手放しガックリと項垂れる。

 

「おかしい。いくらなんでも勝てなさすぎる・・・」

 

三司さんはジロリと俺の方を睨む。

 

現在、俺は30戦中30連勝中だ。

 

あまりにもあんまりな結果だったので途中手を抜いたが、それでも三司さんは負けてしまった。

 

「何かイカサマ使ったでしょ!」

「ひどい言いがかりだ」

 

三司さんの文句に俺は抗議する。

 

「そもそも三司さん相手にズルをする必要性を感じない。本当に今までゲームやってたのか?」

「むきぃー!」

 

俺の挑発じみた言葉に三司さんの堪忍袋の緒が切れてしまった。

 

きっかけは少し前、俺が三司さんに助けを求められて部屋を訪れた時のことだ。

 

その時、三司さんはゾンビのゲームの先が気になるのに進められなくて困っていた。

仕方ないから俺が代わりに進め、2人でゾンビゲームをやっていたのだが、それ以来、俺と三司さんは頻繁に一緒にゲームをやる様になった。

 

2人で進めるRPGやADVなんかもやった。

 

そして今日は対戦ゲーム、というわけだ。

 

「悔しい・・・!ほんっと腹立つ・・・」

「そう言われてもな・・・」

「在原君本当にゲームやったことないの?この前のゲームも結構簡単にやってたし」

「簡単に操作できるゲームだからな」

 

本当に俺はゲーム初心者だ。

今までの人生の中でゲームなんてやる余裕もやる気もなかったからな。

だから俺はそんなに上手くないはずなんだが、三司さんはそんな俺相手に負け続けてる。

1人用のゲームばかりやってたみたいだし、そんなもんなんだろうか。

 

そんなやり取りをしつつもう1対戦。

 

「あっ!あぁっ!ダメっ!それずるいっ!」

「ずるいと言われても勝負だからな」

 

俺は攻撃を繰り返し、三司さんのキャラが行動不能から立ち直る前に攻撃を入れる。

 

いわゆるハメ技というやつだ。

 

「ちゃんとゲームのルールにあるものを卑怯と言うのはどうかと思うぞ」

「楽しく遊びましょうって場でハメ技で一方的にボコボコにするのもマナー的にどうかと思うんだけど!」

 

それは確かに三司さんの言う通りだ。

 

「くぅ・・・っ!さっきまでこんなことしてこなかったのに・・・」

 

確かにさっきまでは手を抜いていた。

しかし、あまりにも三司さんの反応が面白いから意地悪をしてしまった。

 

これがいじめっ子の気持ちというやつか。

 

「あ!あぁっ・・・!」

 

そうこうしている内に、三司さんのキャラのHPは0になり、三司さんの負けとなった。

 

「もう1回!もう1回!」

「はいはい」

 

そして俺は今日、三司さん相手に50連勝するのであった。

 

 

 

「ふう、遊んだな」

「そんな爽やかに言われた私の気持ち考えてる?ねぇ、考えてる?」

 

三司さんが恐ろしい顔をする。

 

「冗談だ。確かに2人で遊べるものを、とは言ったが、今回はゲームが悪かったな」

「ゲームは悪くないもん!あのゲームは今1番の人気で、シリーズも沢山出てるいい作品だもん!」

「俺にどうしろって言うんだ・・・」

 

以前、ゲームをしに三司さんの部屋にやって来た時、俺はこう言った。

 

『今度は2人で遊べるゲームにしよう』

 

今までは三司さんの状況もあって1人プレイ用のゲームばかりだったから、2人で遊ぼうとするとどうしても1人は鑑賞、ということになっていた。

 

だからこその提案だったが、三司さんは律儀にそれを守ってくれたのだ。

 

その結果、俺が三司さんをボコボコにして終わってしまったが。

 

「今日は悪かった。今度は2人で協力できるゲームにしてほしい」

「・・・わかった」

 

不機嫌そうな声を出す三司さんは、不機嫌そうなはずなのにどこか嬉しそうだった。

 

…………………

 

〈Another View〉

 

「じゃあまた」

「うん」

 

部屋から出て行く在原君を見送る。

彼が去って行く後ろ姿に少し寂しさを感じつつ、私こと三司あやせは部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 

「はぁ〜〜〜っ」

 

少しの間余韻に浸る。

 

在原君がいなくなった途端、部屋ががらんと空いた様で寂しくなる。

 

「楽しかった・・・」

 

最近、彼と遊ぶことがとても楽しい。

 

ただ一緒にいるだけで安心するし、2人で何かしてるだけで嬉しさが込み上げてくる。

 

「私、どうしようもなく在原君のことが好き、なんだなぁ〜」

 

言葉にしなくてもわかっていた。

 

この気持ちは恋なんだ。

 

ただ一緒にゲームをしてるだけでこんなにも楽しい。

 

「まぁ、今日はボコボコに負かされたけど」

 

一瞬仏頂面になる。

 

でもまぁ、それでも楽しかった。

悔しくても楽しかったんだ。

 

「ふぅ・・・」

 

ベッドの上を転がる。

 

さっきまで楽しかった反動だろうか。

 

動くのが本当に面倒くさい。

 

この後ご飯もお風呂もあるのに、全部無視して寝たい。

 

そんな虚脱感に襲われる。

 

「だる・・・」

 

ついに声まで漏れてしまった。

 

誰も聞いてないだろうけど。

 

だるいついでに考える。

 

「在原君、今日は楽しんでくれたかな・・・」

 

正直なところ、最近ゲームに誘ってるのは下心がある。

 

いや、別にいやらしいことを考えているわけじゃないんだけど。

 

単に好きだから一緒にいたい。

好きだから一緒に遊びたい。

 

そんな気持ちから、ついついゲームに誘っている。

 

一緒にいられるなら別にゲームじゃなくてもデートでもいいくらいだ。

 

むしろデートの方がしたい。

 

「デート・・・」

 

ふと、私の心がその言葉に揺れる。

 

そもそも、在原君は私と遊んで楽しいのだろうか。

私は楽しんでいるけど、在原君とはどうも距離を感じる。

 

在原君が楽しんでくれてるかわからない。

 

一緒にゲームをするだけじゃ、在原君との距離が一向に縮まらない気がする。

 

「デート・・・」

 

在原君の事が好きな人は他にもいるみたいだし、ここでもたついていたら在原君は他の女の子と付き合うかもしれない。

そう考えるとモヤモヤしてきた。

 

だったら、やるべきことは1つ。

 

「デートに誘おう・・・!」

 

付き合ってもいない男女でデートのお誘いなんて実質告白の様な気もするけど、ここで引いたら女が廃る!

 

「よし!誘うぞー!」

 

私は気合を入れる。

 

・・・なんて切り出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 



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Chapter 4-2

 

 

「デート?」

 

俺は思わず間の抜けた声を出す。

 

『うん、そう。デート』

 

電話の向こうの三司さんの声は落ち着いている。

 

『今週末、デートしない?どうせ暇でしょ?』

 

俺が暇だろうと思われるのは少し屈辱だが全くもってその通りなので言い返せない。

 

「悪いが俺にだって予定くらいある」

『えっ⁉︎嘘っ⁉︎』

「ランニングに腕立て伏せ腹筋背筋スクワット匍匐前進バーベル上げその他トレーニングで暇を潰す」

『どこの脳筋よっ⁉︎というかそれつまり予定ないじゃないっ!』

 

俺の軽口に三司さんが反応してくれるのが楽しい。

 

とはいえ、ふざけ過ぎてもいけないだろう。

 

俺は真剣に答える。

 

「仕方ないな。そこまで言うならデートしてやろう」

『なんで上から目線なのよ・・・』

 

三司さんが疲れた声を上げる。

 

『でもありがとう。嬉しい』

「・・・」

 

素直に礼を言われるとこそばゆい。

そこに恋愛感情がないとわかっていても。

 

おそらく、三司さんの目的は外出することにあるんだろう。

買い物であれ、娯楽であれ、本当なら1人で行きたいはずだ。

しかし、星幽祭で摘発できたとはいえ、三司さんを狙う連中がもういないとも限らない。

 

だからこそ俺に声を掛けたんだろう。

俺は三司さんを守る任務があるからな。

俺としても、三司さん1人に出掛けられるよりは、俺に頼って貰った方がありがたい。

 

だからこそ俺は三司さんの提案に乗った。

 

ということで、今週末は三司さんとデートだ。

 

 

…………………

 

「・・・デート?」

 

七海が素っ頓狂な声を上げる。

俺はそんな変な事を言ったのだろうか。

 

「ああ、デートだ」

「・・・誰が?」

「俺が」

「・・・誰と?」

「三司さんと」

 

三司さんとデートする。

それはいいとして、俺と2人で行動するからといって三司さんの身の安全が完全に確保できるというわけじゃない。

 

だから俺は七海に事情を伝える事にした。

万が一の場合を考えて。

 

「ど、どういうこと⁉︎それってお兄ちゃんから誘ったの⁉︎」

 

いつになく取り乱す七海。

こんなに取り乱すなんて何か心配事でもあるのか?

 

「いや、三司さんに誘われたんだ」

「それで了承したの?」

「当たり前だろ」

 

1人で行かせて襲われでもしたら大変なんだ。

三司さんも俺をボディーガードのつもりで誘ったんだから。

 

 

…………………

 

〈Another View〉

 

七海「(ま、まままままさかっ!)」

七海「(お兄ちゃん、三司さんのことが好きなのっ⁉︎)」

七海「(誘いに乗ったってことは少なくともお兄ちゃんも満更じゃないってことだよねっ⁉︎)」

七海「(デート・・・お兄ちゃんと三司さんがデート・・・うぅ・・・嫌だよぉ・・・!)」

七海「(最近抑えられないとは思ってたけど、他の女の人との話を聞くのがこんなに耐えられないなんて・・・!)」

七海「(このまま行くと、三司さんにお兄ちゃんが取られちゃう・・・!)」

七海「(なんとかしなきゃ・・・)」

 

…………………

 

「・・・行く」

 

ボソッと七海が呟く。

 

「え?」

「私も行くっ!」

 

七海の様子は真剣だ。

 

「三司さんが出掛けるなら、護衛が必要でしょ?」

 

七海は俺の元々考えていた事を言う。

 

「だったら、遠くから見てるよりも三司さんと一緒にいた方が護衛として動きやすいし、私は三司さんと同じ女性だから一緒に動ける範囲も広いでしょ?」

 

確かに三司さんは女性で俺は男だ。

三司さんと一緒に行けない様な場所も多い。

 

「だから!私も一緒に付いて行く!」

 

まるで言い訳でもしているかの様にまくし立てた早い口調だったが、七海の話も最もだ。

 

そもそも七海には後方支援をお願いしようかと思っていたが、一緒に来てもらった方がいいかもしれない。

 

「じゃあ、よろしく頼む」

「うんっ!」

 

気合いを入れる様に七海は大声を上げる。

 

…………………

 

来たる週末。

 

「何っ⁉︎デートだとっ⁉︎」

「ああ、三司さんとな」

 

俺はいつも通り、二条院さんと朝からランニングをしていた。

 

そんな中、他愛ない話の1つとしてデートの件を話した。

 

「デート、デートかぁ・・・」

「?」

 

二条院さんはどこかしょんぼりしている。

そんな様子の彼女も可愛いが、何か問題でもあったのだろうか。

 

しかししばらくして切り替えたのか、キリッとした表情でこちらを見る。

 

「私とて女の端くれだから気持ちはわかる。男女の仲をとやかく言うつもりはない」

 

何の話だろうか。

 

「しかし君達は学生だ。デートに行くからといって、そ、それ以上のやましい行為は看過できないぞっ」

「するかっ!」

 

何を言ってるんだこのムッツリスケベは。

 

「本当か?み、未成年がホテルを利用するのはまずいとーーーー」

「ただのデートでどこまで妄想するんだ⁉︎普通は二条院さんが考える様なエロい事はしない!」

「ちっ!違う!わ、私は断じて、エロい事など、考えていない!」

 

嘘だ。

絶対嘘だ。

 

「大体、七海も一緒に行くんだからーーーー」

「何ぃっ⁉︎いきなり3人で、だと⁉︎そういうのは流石に早すぎる!いやいや!時期の問題じゃなくてーーー」

「話を聞け!」

 

二条院さんの頭の中はそんな事しかないのか?

正直ランニング以上に疲れるんだが。

 

もう、様子を見てもらった方が早いんじゃないだろうか?

 

「・・・・・」

 

俺は天啓を得たかの様に目を見開く。

 

「二条院さん」

「な、なんだ?」

「もう、この際俺達のデートに一緒に来ないか?」

「なっっっ⁉︎」

 

二条院さんには話だけするから、変に彼女が妄想してしまう。

だったら実際にその場に立ち会ってもらえば彼女の誤解も解けるだろう。

 

それに、このデートの目的は三司さんの買い物、かつ三司さんの護衛だ。

三司さんを襲わせない為には、なるべく人と多く行動させた方がいい。

その為に人数が増えるのは得策と言える。

 

知らない人ならいざ知らず、信頼の置ける人物であれば何人でも欲しいくらいだ。

 

だから二条院さんがこのデートに参加してくれるのは俺にとっては好都合なのだ。

 

問題は、二条院さんの返事だが・・・。

 

「そ、そんな!3人でさえ多いのに4人なんて・・・!在原君はなんて事を言っているんだ!」

「・・・・」

 

このムッツリの誤解を解くのにしばらく時間がかかった。

 

…………………

 

ランニングを終え部屋に戻り、簡単に身支度を整えてからロビーに降りる。

 

七海も二条院さんも支度に準備がかかるだろうから、1度ロビーに集合してから三司さんの部屋へ向かう事になっている。

 

「・・・暇だ」

 

女の子の準備というものは時間がかかる。

 

まだ約束の時間になっているわけではないが、二条院さんが準備に戻ってから早20分は経っている。

 

ロビーに集合と言った手前、2人が来る時間もわからないから下手に離れるわけにはいかない。

 

そんなわけで俺は今とても暇を持て余している。

 

「あれ?」

 

ふと声が聞こえる。

振り返るとそこには茉優先輩がいた。

 

「どうしたの?こんなところで」

「俺はデートの待ち合わせです。先輩こそどうしてこんなところに?」

 

今はまだ午前8時頃。

授業のある日ならいざ知らず、休日に外へ出掛けて遊ぶには微妙な時間だ。

 

「ちょっと早く起き過ぎちゃってね〜。暇だし研究でもしようーーーーデート?」

「へぇ。茉優先輩は勉強熱心ですね」

 

ガシッ。

 

いきなり肩を掴まれる。

 

「デッ!デデデッ!デートってどういう事っ⁉︎」

「どうも何も、これから三司さんとデートするんです」

「ーーーーッ⁉︎」

 

茉優先輩はまるで信じられないものを見る様な目でこちらを見る。

 

「あ、あのっ、触るもの皆傷付ける、みたいな感じだった暁くんが・・・デート⁉︎」

「おいやめろ」

 

背中がむず痒い。

 

「し、しかも三司さんとって・・・暁くん、いつの間に三司さんとそんな関係になってたの⁉︎」

「いや、別に俺達は付き合ってないが」

「付き合ってないのにデート⁉︎最近の若者は進んでるなぁ。・・・それにひきかえ、私は歳ばっかり食っちゃって、そのくせ浮いた話の1つもなくて・・・うぅ・・・言ってて悲しくなってきた・・・」

 

寂しそうに虚空を見つめる茉優先輩。

なんか可哀想だな。

 

「別にデートと言ったが、そんなのはただの名目で、実際には買い物するだけだぞ?」

「へ?」

「今から七海と二条院さんも一緒に行く事になってるし」

 

ポカンと口を開ける茉優先輩。

 

「・・・それって、三司さんには了解を取ったの?」

 

なぜそんな事を聞くのだろう。

 

「聞いてはいないが、どうせ誰か付き添いで買い物したいってだけの話なんだ。大勢で言っても問題はない」

 

むしろ俺としては大勢で行った方が好都合なくらいだ。

 

俺の返答を聞いた茉優先輩はなぜか変な顔をしている。

俺は何か変な事を言っただろうか。

 

「暁くん。そのデート、私もついて行っていい?」

 

茉優先輩は苦笑いでそんな事を聞いてくる。

 

「ああ、構わない」

 

1人でも多い方が俺としては嬉しい。

 

茉優先輩の申し出は嬉しい限りだ。

 

「三司さんは暴れる様なタイプじゃないとは思うけど、せめて私だけでもフォロー入れられる様にしなくちゃね・・・」

 

茉優先輩が何か呟くが、俺には聞こえなかった。

 

 

…………………

 

〈Another View〉

 

「うぅ・・・緊張する・・・・・」

 

もうすぐ約束の時間だ。

 

いつもの休日ならダラダラして猫の動画見て過ごすか、ダラダラしたいな〜って思いながら取材対応に出かけるかなんだけど、今日に限ってはダラダラしたいとかそんなことを考える余裕はない。

 

「服・・・これでいいわよね・・・・」

 

今日は在原君とのデートの日だ。

 

今もギリギリまで服を選んでて危うく間に合わないところだった。

いや、集合は私の部屋にしてあるから間に合わないことはないんだけど。

 

「ちゃんと可愛い・・・よね?」

 

何度も見直す。

自分なりに気合いの入った格好をしてるつもりだけど、ちゃんと可愛いとか綺麗とか言ってもらえるだろうか。

 

・・・あの男がそんな気の利いた言葉をくれる姿が想像できない。

 

でも、何かしらコメントをくれれば嬉しい。

 

「ふふっ」

 

まだ始まってもいないのに、これからのデートのことを考えるだけで楽しい。

 

それくらい、私は彼のことを好きになってしまっている。

 

「惚れた方の負け、とはよく言ったものだ・・・」

 

在原君にどんな扱いをされても、今の私はきっと嬉しいから。

 

「うぅ・・・」

 

そろそろ在原君が来るはずだ。

 

ちなみに今日はパッドはしていない。

 

折角のデートだから、私のありのままの姿で彼と楽しみたい、というのもある。

 

ただそれ以上に、デートに盛って行くとデリカシーのないことを言われそうで、癪なのでやめた。

パッドなしでも言われそうな気がするけど。

 

パッドを盛って『見栄を張る女』みたいに思われるのはなんだか嫌だ。

 

・・・既に思われてる気もするけど。

 

とにかく、私は素の自分で勝負するって決めた。

素の自分で、ありのままの自分でデートして、在原君を惚れさせてみせるっ!

 

無意識の内に私はガッツポーズをしていた。

 

コンコン。

 

不意にノックの音が聞こえる。

 

在原君だ。

 

「はーい。今開けるわ」

 

ドキドキと鳴る心臓を抑えて私はノックに返事を返す。

声が裏返ったりしてなかったかしら。

 

ドアの前に立つ。

 

うぅ・・・。緊張する・・・・。

 

私は心を落ち着かせる為に深呼吸する。

 

そして、心を決めてドアを開ける。

 

「いらっしゃーーーーー」

 

目の前には在原君がいた。

それはいい。

 

デートしようと誘ったのは私なんだから。

 

しかし。

しかしよ。

 

まさか、他の皆までいるなんて、どうやったら想像できるの・・・・⁉︎

 

…………………

 

目の前の三司さんがドアの前で固まっているからか、どことなく気まずい。

 

いや、本当に気まずい理由はわかっている。

 

三司さんの格好だ。

 

女の子らしい、オシャレな可愛らしい格好をしている。

おそらく相当選んだだろう。

外面を保つためと考えても不足なくらい、三司さんの格好はオシャレだった。

 

それはいい。

良くはないけど、置いておいて大丈夫だ。

 

問題はその胸だ。

 

普段外を歩いてる時より数段小さい。

 

つまり、今日は盛っていないのだ。

よりによってなぜ今日・・・。

 

俺は外を歩くつもりだろうから大丈夫だろうと思っていた。

 

しかし、実際には今日の三司さんはまな板である。

 

しかも七海達の前で。

 

三司さんは顔を赤くして口をパクパクさせて若干涙目だ。

 

これはまずい。

 

この状況をなんとか打開せねば。

そんな風に思っていたところ、最初に口を開いたのは俺ではなかった。

 

「あやせ先輩の胸が凹んだ!」

 

・・・七海よ。

俺が言えたことじゃないがその言葉はどうかと思うぞ。

 

「この兄あればこの妹ありか!」

 

三司さんがキレた。

 

ついでに俺もdisられた事については喜んで飲み込もう。

散々酷いことしてるからな。

 

「凹んだんじゃないわよ元々ないのよ!」

 

というか三司さん。

余計なことまで叫んでますよ。

 

「そうよどうせ私はパッドよ!盛ってるのよ!偽乳なのよぉ!」

 

・・・なんか三司さん、若干壊れちゃってない?

 

「三司さん・・・流石にもう」

「何よ!乳があるのがそんなに偉いの⁉︎乳がない女は人権すらないっていうの⁉︎」

「三司さん?三司さーん⁉︎」

 

 

 

「乳部タイラーとか言った奴はぶっ殺してやるーーーーーーッ!」

 

三司さんが落ち着いたのはそれからしばらくしてからだった。

 

 

…………………

 

〈Another View〉

 

「やっぱり、暁君の勘違いだったんだ・・・」

 

式部先輩が苦笑いしながら私の背中をさすってくれる。

 

悔しいけど、こうしてもらえると落ち着いてしまう。

 

「少しは落ち着いた?」

 

式部先輩が優しく訊いてくる。

 

「はい・・・ありがとうございます」

 

予想だにしない事態と、秘密がバレてしまった事に動揺してしまったけど、気持ちはなんとか持ち直した。

 

「それにしてもあの男・・・なんなのよ・・・!いつもいつも・・・デリカシーないとは思っていたけどここまで酷いとは思わなかったわ・・・!絶対にぶっ殺してやる・・・!」

「あ、あやせ先輩、まだ落ち着いてないみたいですよ・・・?」

「あ、これは素です」

 

七海さんが怯えてしまったので弁明する。

ちなみに今、在原君には部屋から出て行ってもらっている。

 

こうでもしないと、今すぐ殺しそうだから。

 

「素・・・ってことは、いつもは偽ってたって事ですか?・・・その胸みたいに」

 

本当・・・!

この兄妹は余計なことしか言わないわね・・・!

 

「ひっ!」

 

七海さんが私の形相に怯えて二条院さんの後ろに隠れる。

 

「七海君。そういう人の言われて嫌なことを言うのはどうかと思うぞ」

「ご、ごめんなさい・・・」

 

二条院さんが私の方を擁護してくれ、七海さんが私に謝ってくれる。

 

まぁ、私もちょっと大人気なかったかもしれない。

 

「パッドで盛って周りにバレない様に振舞っていたんだ。そんなことをするなんて相当じゃないか!」

「ん?」

 

なんか風向きが変わった様な。

 

「三司さんみたいな人がそこまでするんだ。きっと私達には打ち明けられない様な酷い仕打ちを、胸関連で受けてきたに違いない・・・!」

「うぐっ・・・」

 

二条院さんが壮大な勘違いをしている。

 

「きっとトラウマなんだ・・・!そこをいじるのは友としてあってはならないことだ!」

「・・・っ!」

 

二条院さんの優しい心遣いと変な気の使い方と勘違いがすごく辛い。

合ってる様な間違ってる様な、って感じで、罪悪感とピンポイントで触れて欲しくないところを抉ってくる感じが、余計痛い。

 

「二条院さん、その言い方だと多分余計傷付くよ」

 

式部先輩が苦笑いしている。

 

「こっ、これはすまない!三司さんからすれば触れて欲しくないことだったろうに!」

 

親切に謝ってくれるところが余計心が痛む。

 

「わ、私は大丈夫だから・・・あはは・・・」

 

思わず苦笑いしてしまう。

 

触れて欲しくないとわかってるならもう触れないで欲しい。

 

「それで・・・今日、本当は2人きりでデートする予定だったんだよね?」

 

式部先輩が私に尋ねる。

それに私はコクリと頷く。

 

私は、今の関係を進めようと勇気を振り絞って誘ったデート。

 

・・・それをあの男は、あろうことか他の女の子を連れて来やがった。

 

「ハーレムでも作る気なのかしらあの男は・・・!」

 

考えたら更に腹が立って来た。

 

「あ〜、その件に関しては暁君、単に勘違いしてるみたいだよ?」

「へ?」

 

式部先輩が在原君のフォローを入れる。

 

「そういえば、在原君はデートという名目のただの買い物だと思っていたみたいだぞ」

 

二条院さんが付け足す。

 

その言葉に、私はワナワナと震え出す。

 

「私が!緊張と戦って!頑張って!誘ったのに!本当!何なのよ!あの鈍感男!本当に!もう!」

 

腹が立ってしょうがない。

あいつにとっては、私はその程度の相手だったってことだろう。

 

その事実が悔しくて、肩透かしを食らったのが恥ずかしくて、もうなんとも言えない気持ちだ。

 

「・・・あの」

 

七海さんがおずおずと私に声をかける。

 

「三司さんってやっぱり、お兄ちゃんが好き・・・なんですよね?」

「・・・」

 

場がなんとも言えない気不味い雰囲気になる。

 

ここで誤魔化してもいいのだけれど、納得できる返答があるかと言われると、自信がない。

それに、この場には七海さんだけではなく式部先輩も二条院さんもいる。

誤魔化してもバレる確率の方が高いだろう。

 

・・・それ以前に、私は自分の気持ちに嘘は吐きたくないのだ。

 

七海さんは真剣に質問しているのに、ここで私が言葉を濁したら、その気持ちは、在原君への気持ちはやましいものであると言っている様なものだ。

 

それだけはしたくない。

 

「そうよ」

 

気が付けば、私は言葉を紡いでいた。

 

「私、三司あやせは、在原暁君の事が好き」

 

真剣に、七海さんの顔を見て。

 

「・・・これは、私達は聞いていて良かったのでしょうか?」

「さぁ・・・?でも、三司さんは喋っちゃったし、たまたま耳に入ったのは私達のせいじゃないってことで」

「いやでも、例え偶然でも聞いてしまったのであれば、ちゃんと誠意ある態度を示した方がいいと思うのですが・・・」

「ここで言う誠意って何だろう・・・。私達も、好きな人をバラすとか?」

「な!ななななな!」

 

式部先輩と二条院さんがアホみたいなやりとりをしている。

 

「別にそんなことしなくていいですよ。ここにきてる時点で、全員半ば確信犯だと思いますし」

「あはは。三司さんって中々な性格してるね〜」

 

式部先輩が苦笑いする。

 

いくら在原君から誘われたからって、私と在原君がデートするってところにわざわざ来たってことは、私と在原君の仲を邪魔しようとしてたってワケで。

 

「私が誘われた時には他の2人が参加する事は決まってたんだよね〜。あはは」

 

式部先輩が力無く笑う。

 

「そんなこと言って、先輩が1番在原君のこと好きなんじゃないですか?研究室によく呼んでるみたいですし」

「・・・・」

 

式部先輩が目をそらす。

 

やっぱりか。

 

こんにゃろう。

 

「・・・そんな駆け引きみたいなことしてても仕方ないよね」

 

七海さんが呟く。

 

「私も、お兄ちゃんが好き。家族としてじゃなく、異性として」

 

七海さんが真剣に告げる。

 

 

 

私と二条院さんは若干顔が引き攣る。

 

 

 

「あ!義理!義理の家族ですから!暁くんと私はお義父さんに養子として引き取られたんです!」

 

七海さんが補足してくれる。

 

どうやら血が繋がっていないらしい。

 

似ていないからそうじゃないかとは思っていたけれど、いきなりの家族の事恋愛的な好き発言に面食らってしまった。

 

「式部先輩は動じてなかったですが、知っていたんですか?」

 

二条院さんが式部先輩に尋ねる。

 

「そりゃ、昔は妹なんていなかったから、血が繋がってないってことはわかってたよ」

「「え?」」

 

式部先輩が意味深な事を言う。

 

 

 

「あれ、暁君と幼馴染だって、言ってなかったっけ?」

 

 

 

「「ぇぇぇぇえええええ⁉︎」」

 

幼馴染⁉︎そっちは完全に初耳なんだけど⁉︎

 

 

「まぁ、あの頃より逞しくなってるなぁとか、キュンと来るところは確かにあるんだけど、私にとって暁君はまだまだ甘えん坊というかーーーー」

 

なんか惚気が始まっちゃったんだけど!

聞いてないよ別に!

 

「わ!私だって!」

 

二条院さんが叫ぶ。

 

 

 

「在原君は私の将軍様なんだから!」

 

 

「「「・・・?」」」

 

いまいち二条院さんの言ってる話にピンと来ない。

 

詳しい話を聞いてみると、どうやら在原君は子供の頃に二条院さんを大人から守ったらしい。

 

七海さんは当時の在原君のイメージと合わないのかピンと来てない様な顔をし、式部先輩はなんか含みを持たせた笑みで「あのことか〜」みたいな顔をしている。

 

「私だけ特別な思い出とか過去とかない・・・」

 

ショックを受ける私に3人が顔を見合わせる。

 

 

「「「パッドバレーーーー」」」

 

 

「あ゛ぁ゛ん゛?」

 

 

「「「いえ、なんでもないです」」」

 

すぐさま視線をそらす3人。

 

やっぱりパッドのことバレたの、最悪だと思う・・・・。

 

「というか、暴露大会みたいになっちゃったけど・・・・」

 

私が周りに視線を送る。

 

 

応えてくれたのは七海さんだ。

 

「あやせ先輩は真剣に暁くんのことが好きだと言ってくれました」

 

だって、私は本当に、本気で在原君のことが好きだから。

 

「だから、私も誠実でいたいって思ったんです」

 

誠実。それは一体どういう意味を指すのか。

 

「黙って気持ちを押し殺して応援しても、抜け駆けしても不誠実だと思ったんです」

 

だから、気持ちを私達にも伝えた。

七海さんは伝える。

 

「例え誰が付き合う事になっても、私は文句ありません。だからーーーー意思表示がしたかったんです」

 

七海さんの言いたいことは、なんとなくわかる気がする。

 

実際、今はギスギスした空気じゃなくて、ライバル同士みたいな爽やかな空気が流れている。

 

そこに、式部先輩が提案する。

 

 

 

「じゃあ、みんなで一斉に告白する?」

 

 

 

「「「は?」」」

 

 

 

 

 



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