春の陽気に誘われて (竹林@海洋サメたん)
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春の陽気に誘われて

春の陽気に誘われて、縁側に座るイタコ姉様の隣に辿り着いた。風に揺らぐ髪と何処か張り詰めた雰囲気で空を見上げる姉様の姿は、見惚れてしまうほどに美しくて。話し掛けようとしても、私の言葉は詰まってしまう。

 

「ん?あぁ、きりちゃんですか。」

 

姉様は私に気付くと、微笑みながら隣の座布団を叩いて手招きしてくれる。

姉様が決まってする、私を呼ぶ合図。

それは少し恥ずかしいけれど、他でもない貴方がしてくれる事だから。私は姉様の好意に甘えて、静かに隣に座る。私が座ると、姉様はまた空を見上げ始めた。

 

「あったかいですわねー。」

「…はい、イタコ姉様。」

 

縁側に放り出した足をぷらぷらと揺らしていると、姉様はそんな風に話し掛けた。私は良い返し方が思い浮かばず、ぶっきらぼうに返事をする。話を広げる事が出来なかった、本当は、もっと姉様と話したいのに。何故だか声が震えてしまいそうで、上手く話せない。こんな時間、こんな機会はそんなに訪れないというのに。

それがとっても悔しくて、私は顔を下に向けてしまう。

 

「お茶でも飲みますか?」

 

そうやって私がいじけていると、姉様は私の方を見ながら聞いてくれた。

 

「…はい、お願いします。」

「では取って来ますわね。」

 

私が答えると、姉様は縁側から立ち上がり居間の方へと向かって行った。テクテクと歩く姉様の後ろ姿を見ながら朧げに考えた。

 

(もっと、もっと一緒に話したいです…)

 

〜〜〜

 

「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます、イタコ姉様。」

 

姉様からお茶の入ったコップを貰う。姉様は私が受け取ったのを見ると、手に持ったお盆を置き自分のお茶を手に取った。

私は姉様がお茶を飲み始めたのを確認して、自分のコップに口を付ける。からんと、コップに入った氷が心地の良い音を立てる。冷えた緑茶が、照り付ける日差しで暑くなった身体を冷やしながら喉を通る。

こくりこくりとお茶を夢中で飲んでいると、身体が火照っていたのもあった所為か、コップの中のお茶は一瞬で無くなってしまった。

 

「…美味しいですわねー。」

「はい、冷たくて…とても美味しいです。」

 

私がコップを床に置くと、姉様は何も言わずにお代わりを注ぐ。そんな気遣いが嬉しくて、私の心は少し上機嫌になる。

 

「…姉様って、ホントによく見えてますよね。」

「ちゅ?何がですか?」

「周りの状況が、って事です。この前も、姉様がこっそり羊羹を食べようとしてた時に私が部屋に入ったら、すぐに隠したじゃないですか。」

「…バレてたんですの?というか、それ褒めてるんですの?」

「少なくとも、私は褒めてるつもりですよ。」

 

そんな言葉を交わす。先程までの不安は何処かに消えて、心が軽くなる。夢にまで見た姉様と過ごせるゆっくりとした時間。私はその幸せを噛み締めがら空を眺める。

風は穏やかで、私達の髪を優しく揺らす。空に浮かぶ雲は形を変えながら流れて行き、まるで先程までの私の感情のようだなと少し自嘲気味に考えた。

 

「…きりちゃんはどうして私の側に来たんですか?」

 

そんな事を考えていると、ふと思い立ったように姉様が私に聞いてきた。

 

「…いきなりどうしたんですか?」

姉様の言葉を聞いた時、私は意味が分からなかった。

「いえ、きりちゃんっていつも私の所に来ますよね?」

「はい、そうですね。」

「どうしてですか?」

 

その言葉を聞いた時、私は姉様の言葉の意味を朧げに理解した。きっと姉様は、私が姉様の側に来る事に意味を求めているんだ。いつも姉様の隣に座りに来る私に。姉様の隣に座る事に、どんな価値があるんだと、きっと問いているのだろう。

答えはある。単純で、驚くぐらい簡潔な答えが。だけど、これを言えば、貴方がどんな顔をするのか、想像がつかないから。

 

「…気紛れですよ。」

 

私は姉様に嘘を吐く。自分がやった事なのに、胸がチクチクと痛みをを訴える。

でも良いんです、これが一番の方法ですから。

こうすれば、貴方の側に居られる。こうすれば、この普通じゃないこの気持ちを隠す事が…

 

「…もしかして、きりちゃん嘘吐いてません?」

 

そう言われて、私の心臓が跳ねる。指が震えて、口が上手く動かない。貴方の顔が、見れない。

 

「い、いや、そんな事…は…」

 

私は必死に言葉を絞り出す。だけれども、私の言葉からは、隠し切れない動揺が見れてしまう。

 

「お願いですので、言って下さいな。」

「う、ぁ…」

「私は、きりちゃんの事が知りたいのですから。」

 

姉様は、少し自嘲気味に笑いながら、私に言った。

…本当に狡い。そんな事言われたら、私が言うしか無い事を知ってる癖に。

そんな事を考えながら、私は震えた口で、本当の気持ちを伝える為に、言葉をゆっくりと紡ぎ始めた。

 

「好き…だから、です。」

「ちゅ?」

「…イタコ姉様の事が、 好きだから、です。」

「…えぇ、私もきりちゃんの事が、」

「そうじゃ、ないんです。私は、イタコ姉様の事が、好きで、大好きで、イタコ姉様の事を考えると、胸が、苦しくなって、頭が…おかしくなっちゃいそうなくらい…!大好きなんです…!」

 

言葉は、私の心からドクドクと溢れ出る。最早、自分でも何を言っているのか分からないくらい、言葉はボロボロだったけれど。

 

「…あぁ、そういう事なんですの。」

 

貴方は、私の頭を撫でる。その手は、私のグチャグチャの気持ちを整えるように、優しい手。

姉様に何か言われた訳でも無いのに、私の目からは涙が溢れ落ちる。拒絶だとか、軽蔑だとか、そんな最悪な想像が、何処か遠くへ飛んで行くような。

 

「あ、あぁ…ねぇさまぁ…!」

「えぇ、分かりますから。分かっていますから。」

「ゴメンなさい…!こんな、こんな私を…!どうか嫌いにならないで…!」

「はぁ…もう。」

 

貴方がそう言うと、私を撫でる貴方の手が止まった。身体が一瞬ビクッとする。怒られる、なんて反射的に身構える。でも、そんな事は無くて。

 

ぎゅっ

 

身体が、抱き寄せられる。身近に感じる貴方の温もりが、先程までの不安を溶かしていく気がした。

 

「そんな事で、私がきりちゃんを嫌いになる訳が無いでしょう。私の大切な妹なんですから。そんなに泣かないで下さいな?」

 

その言葉で、私は駄目だった。貴方の優しさが、あまりにも大き過ぎて。

 

「っ、ぅぁ、あぁ…!ねぇ、さま…!イタコ、ねえさまぁ…!」

「はい、はい。私は此処に居ますから。だから安心して下さいな。」

「ぅ、くぁ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

その一言で、私の感情が崩壊する。言葉は既に意味を成さなくて、自分の喉から漏れる音がただただ聞こえた。

貴方は、その八つに分かれる白銀の尻尾を出して、私の身体を抱き寄せるようにそっと添えた。そして、私の頭を胸の方へと寄せる。

 

「私も、きりちゃんの事が大好きですから。」

 

柔らかな光と貴方の尻尾に包まれながら、私は姉様の気持ちを知ったんだ。私の頭を撫でる姉様の手は優しくて、心が段々と落ち着いく感覚は、例えどれだけの時間が過ぎても、私は忘れないだろう。




読んで頂きありがとうございます。公式設定集にも書かれていたように、彼女達の仲はきっと悪いものでは無いと思うんです。それに、過保護な愛の意味を知ったら、きっときりたんはイタコ姉様に恋をする。(ずん姉様は信仰的な愛な為)そんな事を考えたら出来た作品です。楽しんで頂けたのならば幸いです。


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