ガンダムビルドトロイアス (逸環)
しおりを挟む
BLDTroiaS MISSON1 Leo
ビルドダイバーズの世界、電脳空間GBNにて繰り広げられる、とある戦いの模様となりました。
モフモフのタヌキとジャージ男のコンビで出陣します!
ブリザードが凍て付く雪原と氷の大地、南極。
そこに一匹の軍服を着た、二足歩行の愛らしいタヌキと、煙草を咥えるジャージ姿の青年が立っていた。
「ねえねえ、タヌッさんタヌッさん」
「何ー?」
「俺この間さ、『AVALON』のファンイベント行ってきたのよ」
「ああ、何か行くって言ってたねえ。どうだった?」
「エミリアさんめっちゃ美人だった。仲良くなりたい」
「うん、いつわんは女好きだからね、知ってた」
吹き荒ぶブリザードを気にせず、二人は会話する。
モフモフの尻尾と、フカフカの毛並みがチャーミングな二足歩行のタヌキが『タヌベロス』。
ブリザードの中煙草を吹かし続ける、茶混じりの黒髪のジャージ男が『イツワ』。
彼らの背後には、赤と白のモビルスーツがそびえ立つ。
「さて、それじゃあ」
「そろそろ行こうかな」
煙草の火は踏み消され、ポリゴンとなって消えていく。
そのままそれぞれのモビルスーツに乗り込む、二人の目線の先にあるものは――――――
「「出撃の時間だ」」
――――――資源採掘基地『バークレー基地』。
MISSON
RANK:D
『南極鉱山』
【ミッション地】
南極大陸、バークレー基地
【ミッション内容】
資源採掘基地「バークレー基地」が、敵性MSに占拠されてしまった。
このままでは資源を奪われてしまう。
「バークレー基地」から適性MSを排除し、鉱山資源を確保せよ。
【適性MS】
リーオーNPD(ドラムマシンガン)×10
リーオーNPD(ビームライフル)×4
リーオーNPD(ドーバーガン、榴弾装填)×2
高機動型リーオーNPD×1
【勝利条件】
敵機の全滅
【敗北条件】
味方の全滅
「『アイアストライクガンダム』、イツワ!」
「『アストレイ・ツインフレーム』、タヌベロス。フォース『BLDTroiaS』!出撃!!」
ストライクガンダムをベースに、2つの大型シールドをバックパックに携えた『アイアストライクガンダム』。
グレイズフレームが移植され、両肩に大型のバインダーを装備する『アストレイ・ツインフレーム』。
雪原を一気に駆け抜け基地直前まで接近すると、途端にコックピット内に「ALERT」の表示が躍り出る。
見ればドラムマシンガンを持ったリーオーが6機、基地正門前で待ち構えていた。
「いつわん、予定通りに」
「了解っと!」
アイアストライクガンダムのシールドが、サブアームによって展開される。正面にではなく、側面に。
そのシールドには、バインダーライフルが取り付けられており、それぞれ2門ずつ、計4門の砲口がリーオーたちを狙う。
「まずは2機!」
バインダーライフルから撃ち出される、4条のビームが2機のリーオーを撃ち抜く。
そのまま今度はシールドを前面に展開し、弾丸を食らいながらも速度を緩めることなく、固まっていた4機の内1機のリーオーへと突撃する。リーオーたちも突進してくる敵目がけマシンガンを連射するが、分厚い盾には効果がなく弾かれる。
そして重厚な金属塊に、高速で衝突させられたリーオーは、トラックと事故を起こした軽自動車の様にひしゃげ――――――
「これで道は開いた!」
――――――その盾の後ろに身を隠していた、赤い機影の侵略を許してしまった。
アストレイ・ツインフレームが両手に持つ、二振りのカレトヴルッフ。そのサーベルが閃き、瞬く間に3機のリーオーを斬り伏せる。
爆散の後、ポリゴンとなって消えていくリーオーたち。
これにより、正面ゲートを阻む者はいなくなった。
「えーと?残りはドラムマシンガン持ちが4と、他が丸々ぅ……?ひーふー……残り11機ねぇ……。タヌっさん、この後も予定通りかな?」
「うん、そのつもり。ここから侵入して、迎え討って来た奴から倒しちゃおう。さっきの要領のまま、基本は盾持ちのいつわんが前で受けて、チャージして崩して切り込んでいこう。高速機の相手はー……まあ、オレがするよ」
「頼んまーす」
愛すべきモフモフと、ヤニ臭い男が今後の動きを確認する。
それが終われば、後はやるべき事は一つ。
「よし!行くよ!」
「おっけ!」
2機のブースターが起動し、基地の敷地内へと侵入していく。
MSの運用前提の構造なのか、18mの人型ロボットが走っても、悠々進める広さが快適。
そしてそれ故に、進路が絞られやすい。
「ッ!?レーダーに熱源反応!」
突如アストレイ・ツインフレームのレーダーに、反応が現れる。
「はぁ!?俺のレーダーには……クッソ!しまった!!」
「はあぁ!!」
気が付いた時には、もう遅い。
アイアストライク・ガンダムの足元が赤熱化し、ビームが地下から放たれる。
咄嗟にアストレイ・ツインフレームが押し出す事で直撃は免れたが、シールドを支えるサブアームの片方が溶断されてしまう。
アイアストライク・ガンダムのレーダーには敵影が映らず、アストレイ・ツインフレームのレーダーには映った理由。それがこれ。
自機の真下にいる存在は、レーダーは映す事はできない。
「いつからだ!?」
「たぶん、ずっといたんだ!この通路の真下に!ただし、電源を落とした状態で!」
「俺たちが通るタイミングで起動させたのかッ!!NPCの癖にやりやがる!!」
レーダーはそれまで、地下にある熱源を探知できなかった。
何故なら、熱源が起動していなかったから。頭上を通る敵を攻撃するために起動したから、初めて反応したのだ。
「だけどこれで場所は分かった!」
アストレイ・ツインフレームに搭載されたエイハブ・リアクターが唸りを上げ、エネルギーを生み出す。
半永久機関から供給されるエネルギーを喰らい、特有の膂力をもってして自身の肉体を支持する。そして肩部ビームガンが直下に向け何度も放たれ――――――
「……わお」
――――――後に残るのは、ドロドロに溶解し一部ガラス化した地面と、敵機撃破のポリゴンの残響。
そして、繰り返し放たれたビームの威力にドン引きした、仲間の声だった。
「……いや、まさか自分でもこんな威力になるとは」
「ビームってこういうやつだっけ……?」
「さあ……?」
2人は首を傾げ、その後気を取り直して再び走る。落ちたシールドから、バインダーライフルを回収することも忘れずに済ませてから。
だが、この時2人は気づいていなかった。気付くべきだったのだ。
遥か空に刻まれた、僅かな罅割れに。
「あっれー……?おかしいな?」
最初にその違和感に気が付いたのは、タヌベロスだった。
あれからしばらく基地内の捜索をしていたが、地下からの奇襲以後敵機は見受けられておらず、10分は経っているのにまだ探して回っていたのだ。
「どうしたよ?」
「いや、事前情報だと、そろそろ他の敵とかも出てくるはずなんだけど……。掲示板に載ってた、先に攻略したプレイヤーたちの話なんだけどね?」
「ガセだったのかいな?」
「そのはずはないんだけど……」
訝し気に首を傾げるタヌベロスとは対照的に、楽観的と言うか深く考えていない様子のイツワ。
それぞれの性格が出てくる一面だろう。
そして今回は、タヌベロスが正解だった。
「ッッ!!?何だありゃぁ!?」
突然基地の最奥から、爆発と粉塵が起こる。
急いで向かうと、そこにはあってはならない光景が広がっていた。
「嘘……」
機械と機械、金属を金属で絞殺す様な音。
ギチギチと軋みながら、お互いに縊る様に、それぞれを混ぜ合わせるそれら。
それは、標的だった残ったリーオーたち。それらが高機動型を中心として吸収されていく。
一瞬の、静寂。
「■■■■ッッ■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーァァッッ!!!!!!!!」
顔面の装甲が罅割れ、リーオーには本来存在しない口に当たるパーツが発生。
そこから放たれるのは、
背面装甲からはいくつものブースターが生え、高機動型という名称すら当てはまらない異形と化していく。
その手に握られていた突撃槍も、奇妙に捻じれ枝分かれした、奇怪な武器へと変貌している。
「クッソ!最近よくあるバグってやつか!?」
「たぶんそう!いや、そうであって欲しい!」
一気に二人の体から汗が吹き出し、背筋が凍り焦りが溢れる。
確かに最近、GBNではおかしなバグが発生する事が多いとは聞いていた。
だがしかし、これほどまでとは思ってはいなかった。
「(どうする……!?流石にこれは想定外を通り越して、明らかに不味い!ここはミッション失敗にして撤退を……!)」
この時タヌベロスは、フォースの隊長としての決断を迫られていた。
バグによる異常など、百害しかない。ここで無理をせず、よりリスクの少ない方を取るのが、隊長としての当然の選択だ。
「……いつわん、ここは撤退を「……なあ、タヌッさん」え?」
だが、ここにいるもう一人は、こういう状況こそを。
「楽しくなってきたじゃねえかッッ!!!」
最高に美味しいと思うバカなのだった。
優男のアバターには、似ても似つかない凶暴な笑み。
一気にブースターから噴出させ、シールドをやや斜めにずらして正面に展開しながら突撃する。
「……まったく、もう。いつわん、チンピラ出ちゃってるよ!落ち着いて、2人で同時にかかろう!」
「あいよ了解!!」
バカに引っ張られ、タヌベロスもスロットルを全開にする。
撤退のためではなく、攻撃のために。
「■■■■ッッ■■■■■■■■ーーーーーーーーーーーーーァァッッ!!!!!!!!」
そんな二人の突撃と剣劇を、捻じれた槍でもって防ぎ、時に異常増殖したブースターの推進力で弾く変異型リーオー。
確かにそれは、システムの枠を超えた強さを誇り、単騎相手に2機でかかっているのに、致命傷を受けない様に立ち回るのがやっと。
気が付けばアストレイ・ツインフレームの左腕部は抉り飛ばされ、頭部のセンサーもノイズがところどころ走り不明瞭。アイアストライク・ガンダムも残ったシールドは吹き飛び、バインダーライフルも3本が折れ最後の一振り。
「あっぶね!?メインカメラやられるところだった!ハハハハハハハハハッッ!!!!」
「うひゃ!?コックピットにかすったんだけど!?……あははは!!!」
それでも、二人は笑っていた。
それはもう、楽し気に笑っていた。
「いつわん!こっちはもう推進剤切れそう!そっちは!?」
「シールドが落ちたおかげか燃費良くなってな!そっちよりはマシ程度!まあでも、頭部バルカンもバインダーライフルも弾切れで、刃もそろそろ鈍らになるな!」
だが、時間切れはすぐそばまで迫っていた。
燃料が、武器が、たった2機ではそろそろ尽きる頃合いだった。
それに対し、相手はシステム外の化生。そんな時間切れなど、存在しない。
「と、なるとー……。いつわん!一瞬だけ隙作って!」
「お、そういうの得意だな。任せろ!」
瞬間、突如リーオーの目の前に、視界を遮る障害物が出現する。それは、落とされていたアイアストライク・ガンダムの盾。蹴り上げられた邪魔なそれを、槍で叩き落そうとするが、
「オラァッ!!!」
「■■■■ッッ■■■■■■■■ーーー■■ッ???!!!!」
気合一発。盾を後ろから殴りつけて、リーオーが盾を叩き落すよりも前に、その機体にブチ当てる。
衝撃でたたらを踏むリーオーだが、それも一瞬の事。
すぐにブースターが展開し、姿勢を整え突撃を開始しようとする。
その一瞬こそが、致命なのだが。
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォアアアアアアアアァァァァァァァッッ!!!!!」
アストレイ・ツインフレームの右腕に構えられたカレトヴルッフが、リーオーの肩から腰部にかけてを袈裟斬りにする。
ほんの数瞬だけ、リーオーもその腕を動かそうとするも、もう手遅れ。
爆散し、ポリゴンへと還っていく。
そして、直後に表示される、「YOU WIN!」の文字。
2人はシステム外の悪魔に、勝利したのだ。
「…………はー、何とか勝てた」
「いやー、楽しかった楽しかった。二度は御免だけどな」
フォースネストに帰還し、ソファでぐだぐだモードに入る2人。
モフモフボディのタヌベロスのお腹を枕に、リラックスモードのイツワ。
先ほどまでバグを相手に、ギリギリの攻防戦を繰り広げたとは思えない姿だが、それが本来の姿なのだろう。
「そういやあ、運営には報告したのか?」
「うん。でもしたんだけど、データ上は異常が発見されなかったんだって」
「ほー、訳が分からねえ事もあるもんだなぁ」
「ねー」
それっきり、2人とも黙って目を閉じる。
仮想空間とはいえ、疲れた2人には休息が必要だった。
俗に言う寝落ちを決め込み、休み始める。
明日は、いったいどんなミッションをしようか。
それとも、どこかのフォースと演習でもしようか。
そんな楽しい事を、考えながら。
というわけで、『BLDTroiaS』より逸環がお送りしました、GBNのとある一日。
使用した機体はそれぞれ、GUNSTA様で見る事が可能です。
マナーを守って楽しくガンプラバトルを!
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
BLDTroiaS MISSON2 GUFU C-3
ジャージ男、モフモフタヌキ、核バカ、モフモフキャットの4名!
バグの影響を受けたミッションから数日後。BLDTroiaSのフォースネストである、洋風の邸宅。そのリビングで
その表紙に描かれているのは、一機の黒いMS。
「いやぁ……『黒衣の狩人』は良い……。ヅダがロマン溢れる、素晴らしい機体だと再認識できる……」
しみじみと呟く彼に、少し離れた椅子で本を読んでいた、和服を着た黒髪ロングの少女がやや高めの成人男性の声で告げる。
「いや、ヅダはクソやろ」
少女のアバターを使う成人男性こと、『エイキ』が戦争の始まりを告げる開戦の
「何か言ったか?変態核バカ」
「おお?言うたぞ。ヅダに乗って自爆してどうぞってな」
「はーん?ヅダの自爆はロマンってのが分からないんですかぁ?」
「いや、あんなもんただの欠陥やんけぇ!」
これがチャット上であれば、確実に言葉の最後に草が生え散らかしている見た目少女の言葉。
その表情は全力で煽り散らかしており、それを聞く男の額にはビキビキと青筋が立ちまくる。
「全くロマンが分からないなんて……これだからレイシスト極まる連邦のワンちゃんには困ったもんですなぁ!」
「こっれだからジオニストは……やっぱ宇宙の猿は滅ぼさんといかんなぁ……!」
お互いに立ち上がり、話しながらと言うか罵り合いながらじりじりと近付いていく。
アバターが成人男性と少女というギャップはあるが、中身は同年代の同性。
つまり、戦いは同じレベルのものでしか発生しないという理屈は、まさにこの状況そのもの。
双方共に首や手首、指の関節をゴキゴキとならしながら近寄り――――――
「フンッ」
「グヌォ!?」
――――――イツワの頭突きで幕を開け、そして幕を閉じた。
「……痛っったい…………!気がする……ッ!」
「勝ったな」
痛い頭突きをする方法は、簡単であり地味なものだ。
相手の頭部を手で押さえ、僅かな首の振りでもって叩き込む。
派手な音はしない。しかし、ゴド……ッという重たい音がすると成功だ。
人体における、頭部の体重比はおよそ10%ほど。成人男性であれば、およそ6~7kgほどになるだろう。
つまり、余計な派手な動作などしなくても、重たい鈍器としての役割を頭部は充分に果たすのだ。
本来は痛みを感じないGBNだが、これを食らうと痛い気がしてしまう。
だから、エイキは頭を抱えて蹲るのだ。
なお、イツワの方はコロンビアのポーズでドヤ顔をしているのだが、だいぶ見苦しい絵面に仕上がっている。
「よし、俺はヅダでちょっとミッションでも行ってくるわ」
「いってらー」
二人の諍いを見守るでもなく、いつものこと過ぎるので放置していたタヌベロスが、そのモフモフキューティーな尻尾を振って見送る。
そして頭を抱えて蹲るエイキが復活してのは、それから数分してからだった。
「さてさて、ミッション何にするかなー」
「お、いつわどのー。ミッション行くんー?」
「アキさんか、そうそう」
フォースネストの外に設置してある、MSハンガーに向かい歩くイツワに、渋い男性の声がかけられる。
声の主は、茶色と白の二色模様で二足歩行する猫こと、『アキシアル』。
リーダーであるタヌべロス同様、モフモフキュート。だが、声は渋く格好良い。
「アキさん今日もボイチェン決まってるね」
「でしょでしょー。ロンメル大佐っぽいでしょ」
「だねぇ。あれ?そういえばアキさん、今機体作ってるんじゃなかったっけ?」
「そうそう。休憩で来たの」
「はーん、なるほど」
いえーい、とハイタッチしながら会話をする二人。
何のいえーいなのかは分からないが、とにかくいえーいなのだ。
「あ、そうだ。じゃあ休憩ついでに、俺のミッション付いてくる?何やるかまだ決めてないんだけど」
「行く行くー。……あ、じゃあ一つ良さそうなのがあったんだった」
「お、それにすっかぁ」
二人はMSハンガーに格納されていたヅダに乗り込み、ミッションを受けに向かう。
「そんじゃ。イツワ、行っきまーす!」
「ゴーゴー!」
ブースターを吹かし、空へと舞うヅダ。
今回の装備は、ザクマシンガンとヒートホークという、比較的軽装備。
出足は極めて良好に飛んでいく。
「ねえ、途中で空中分解しないよね?」
「叩き落とすぞテメエ」
MISSON
RANK:D
『コロニーの落ちた土』
【ミッション地】
オーストラリア・コロニー落下地点
【ミッション内容】
コロニー落下地点の、土壌のサンプルを採取して欲しい。
汚染状況の調査と、コロニー落下という超現象の影響を確かめるためだ。
付近を見回るジオン公国軍もいるため、研究所の職員では難しい案件であるため、依頼させてもらう。採取キットは貸与するので、それを使用して欲しい。
よろしく頼んだ。
※このミッションは何度でも受けられます。
※初回クリア時のみ、車両データが獲得されます。
【敵性MS】
ザクⅠ(ザクマシンガン)×2
ザクⅡ(ザクマシンガン)×2
ザクⅡ(ザクバズーカ)
【勝利条件】
指定されたポイントの土壌サンプル入手
【敗北条件】
自機の撃破
「なるほどね。これなら、わざわざザクの相手をしなくても、ヅダの速度で突っ切って行きゃあ良いってわけか」
「そうそう」
ミッション内容を改めて確認しつつ、ミッションエリアまで向かう二人。
ヅダに特有な、危険な速度にはならない様注意しつつ、それでもかなりの速度で空を駆ける。
宇宙用に開発されたヅダであり、原作においては大気圏で運用されるなどなかったヅダだが、ここはGBN。
さしたる問題もなく飛んでくれている。
「いつわどのー、重力の影響とかどうなの?」
「意外とそんなにないな。ザクなんかが宇宙用と地上用で分かれてるから心配してたが、まあリアルじゃなくてGBNだしな。……っと、クレーターが見えてきたな」
「あ、ホントだ」
向かう先に徐々に見えて来た、大地に穿たれた巨大な窪み。
かつてこの地にコロニーが落とされた際に生まれた、巨大なクレーターだ。
同時に見える、ミッションエリアを示す青いドーム。
その中に入れば、
「お、早速出たな。
「いや、うん。おいらは何も言わない」
ポリゴンと共に敵が出現し、ミッション開始となる。
「まあ、今回はお前たちに用はない」
が、それを無視してアクセルを踏んで加速し、横を突っ切って行く。
その後をザクたちが追いかけて来るが、速度差により追い付けない。
ザクマシンガンやバズーカで狙い撃たれるも、上下左右に機体をズラすことでそれを回避する。
そして進んでいくと、見えて来た採取ポイントを示すマーカー。
到達し機体から降りて、アイテム欄の採取キットの使用を選択すると、すぐに「MISSON Complete!」の表示が出現する。同時に追いかけてきていたザクたちも、ポリゴンとなって消えていく。
「お、よしよし。これで一丁上がりっと」
「おつかれー」
確認すると、ミッション達成報酬として車両データが手に入っていた。
詳細を見るに、『コロニーの落ちた地で』に登場した、簡易移動指揮ホバートラック・ブラッドハウンドと同型の車両の様子。音紋索敵能力もあるため、様々な局面で使えるだろうが、基本的にはMSでの移動がメインのGBNではオマケみたいなものだろう。
さてさて、目的は達成したし帰るかと、2人が準備している最中、それは近付いていた。
「あれ?いつわどのー、あれって……?!」
「ん?……んん!?うっそだろ!?」
先に気が付いたのは、偶々そちらの方向を見ていたアキシアルだった。
彼が指差す先を見れば、つい二度見してしまう物がそこにあった。
「ピンクのグフ重装型ぁ!?俺のヅダよりヤベーやつじゃねーか!?」
「いや……五十歩百歩……。って言うか、いつわどのがフィンガーバルカン嫌いなだけでは……」
「アキさん、俺はフィンガーバルカンが嫌いなわけじゃない。あの運用方法が嫌いなんだ」
「アッハイ」
両手のマニピュレーターを85mm口径のフィンガーバルカンに換装し、装甲を厚く、肩をザクⅡのスパイクアーマーに変え、アンテナを変更した機体。つまりグフ重装型が、砂埃をあげて2人に近づいてきていた。
「アキさん。まかり間違っても、この近辺には……」
「ない。グフ重装型、ましてやピンクのが出るミッションなんて、ない」
「だよなぁ」
だとすれば、他のプレイヤーだろう。
近付いてくるピンクの機影を、ぐだぐだ話しながら見守る事数十秒。
グフはヅダのすぐ横に機体を付け、そのコックピットが開かれる。
「ハァイ、このヅダはアンタたちの?」
出てきた人物は、金髪をシュシュでポニーテールにした、褐色肌の女性。有体に言えば、黒ギャルだった。
そしてその瞬間、アキシアルは察した。あ、これ悪い癖が出るな、と。
「ああ、そうだよ。僕はイツワ。そいつのパイロットだ。よろしくね、美人さん」
「いつわどの、いつわどの。悪い癖が出てる出てる。あ、おいら……んんっ!私はアキシアルだ。よろしく」
「ウチは『リカ』。よろしくね」
コックピットから降りたリカに、先ほどまでとはガッツリキャラを変えて対応する2人。
なお、イツワの方は女好きの悪い癖が出ているからであり、アキシアルの方は尊敬するロンメル大佐っぽいロールプレイをしているという理由なので、後者の方がだいぶマシである。
「コロニーのクレーター見に来たら、ヅダなんて中々見ない機体見つけたから、つい来ちゃった」
「いやいや、グフ重装型だって見る事が少ない……と言うか、GBNでは初めて見たよ。好きなのかい?」
「モチ!」
親指を立てて、笑顔で答えるリカ。
「しかし、グフ重装型か……。以前から気になっていたのだが、武装は両腕のフィンガーバルカンのみだろう?MS戦……特に近接戦はどうするんだ?」
「お、気になるー?」
グフ重装型は、本来対歩兵部隊や、対障害物として設計された機体だ。
その厚くなった装甲は、歩兵兵器のロケット砲などには有効。両腕のフィンガーバルカンも、85mm口径と人間相手なら過剰な威力。連邦軍が使用していた61式戦車が155mm口径であり、それよりも約半分程度の口径だが、18mの人型兵器という高所からの攻撃は相当な脅威となりうる。
あくまでも、対人間という話に限ってだが。
これがMS戦となると、一気に話は変わる。
高さという優位性は失われ、MSの近接兵器には厚くした装甲も無意味に割かれる。
近接戦が花形であり、基本であるMS戦においては、両腕のフィンガーバルカンも色々と役者が不足する……と、一般的には言われている。
「じゃ、バトルっしょ!」
「よっしゃ。俺もそいつとは一度カチ合ってみたかった」
「ヘヘ!じゃあ、フリーバトルモードに設定してっと……」
設定欄を操作し、フリーバトルモードに変更。
瞬間、三人はコックピットに移動していた。
「よっしゃ!イツワ行くぜ!」
「いつわどの、いつわどの。チンピラ出てる出てる」
「おっと、モテなくなっちゃうね」
バトルが始まり、即座にヅダが距離を取る。
速度差を利用し、まずは様子見する形だ。
近距離戦こそヅダの本領ではあるが、初めて立ち会う相手なので慎重にかかる。
グフ重装型はヅダに向けフィンガーバルカンを構えているが、まだ撃っては来ない。
「撃ってこないね……?」
「そもそも、フィンガーバルカンってのは格闘戦の最中に挟める射撃目的だからね……。砲身も短いし、この距離だと効果薄いんだろうなー」
「なるほど」
イツワの疑問に、アキシアルが答える。
ならば、と試しにザクマシンガンを撃ってみるが、どうにも利きが悪い様子。
やはり増加した装甲は、伊達ではないのだろう。もう少し近づけば話は変わるが、そうなるとフィンガーバルカンの間合いになってしまう。
「……対艦ライフルも持ってくりゃ良かったな」
「それはMS相手には過剰だと思うよ?」
思わず呟いた言葉を、バッサリと切り捨てられる。
それに苦笑いしつつ、煙草のフィルターを噛み潰しながら腹を括る。
「よっしゃ、アキさんしっかり捕まってろよ?ちと荒くなるからさ」
「いつものことでしょ。自爆しなけりゃオーケー」
「しばくぞ貴様」
ブースターを吹かし、一気に加速。
クルクルと旋回し、左右に軌道をブラすことで襲い来るフィンガーバルカンの弾雨をかいくぐる。
なるほど、なるほど。と、小さく頷く。思っていたよりも、だいぶやりづらい。
理由は、フィンガーバルカンが五連装だということ。通常の火器を相手にする際、自身に向かってくる射撃は点や線になるため、比較的回避がしやすい。
だが、フィンガーバルカンは話が変わる。五連装故に攻撃時の幅が広く、疑似的な面攻撃になる。
そのため、回避動作を大きくとらなくてはいけないから、それがやり辛さにつながる。
だが、そこはヅダ。
加速、最大速度、旋回能力。その全てが秀でたヅダであるならば、問題はない。
強いて言うならば比較的初期の機体であるため、装甲がやや弱いという問題があるが、被弾しなければ良いだけの話。
エンジンパワーに機体が負ける程の力を持つ、土星エンジンは伊達ではない。
「もらった!」
弾雨を掻い潜り、グフ重装型へと肉薄し、そしてヒートホークが閃き――――――
「ッ!?あっぶね!?」
――――――切りかかる事はできず、即座に距離を取った。
理由は一目見れば分かるだろう。ヅダが先ほどまでヒートホークを握っていた右腕が、消失しているのだ。
「……なるほど、格闘戦中に差し込む射撃兵装か……」
原因は簡単。グフ重装型のフィンガーバルカンに、近付いた刹那に撃たれたから。
本来ならばヅダの腹部、つまりはコックピット付近が穿たれるところだったが、その運動性能により回避できた。それでも、右腕は犠牲になってしまったが。
「映画のガン=カタに似てるね」
「ああ、それか。なるほどな、まさにそれだわ」
懐に入るとこまではいけた。
しかし、懐に入ってからが問題だ。
刺し違える事は簡単だが、それでは勝ったとは言い難い。
一番楽だったのは、それこそ対艦ライフルでも使う事だったのだろうが、あいにく今日は持ってきていない。
ザクマシンガンでは距離を離すと効果が薄い。ヒートホークは右腕と一緒に取り落としている。
さてさて、残った武装で効果がありそうなものは。
「よし、思いついた。もう一度行くぜ」
「お、ゴーゴー!」
再び左右に機体をブラしながら、先ほどの焼き増しの様に迫りくる弾と弾の間を潜り抜ける。
そして懐に入り込み、左肩の盾に設置されたピックで突き刺しにかかる。
グフ重装型もそれに合わせヅダを接射しようとし――――――
「そこだオラァッ!!!」
――――――瞬間、急制動がかかりヅダが停止。タイミングを合わせて狙っていたフィンガーバルカンの猛威は空振り。そしてヅダの盾の裏に仕込まれていたそれが、シュツルム・ファウストが火を噴いた。
弾頭が着弾する直前。
スローモーションになる世界の中で、彼女は思った。
嫌だ、と。負けたくないと。
負けたらまた、
それならば、いっそ。
「………アアアアアアアァァァァァッッ!!!」
弾着の瞬間、ピンクの機体の各所から噴出する、黒と紫のオーラ。
天が罅割れ、雷鳴が残響する。
濛々たる爆炎をかき分け、それはまだ健在。
「……こいつは!?」
咄嗟に後方へ退却し、距離を取るヅダ。
コックピットの二人に、冷たい汗が伝う。
「……最近、GBNで噂になっている違法パーツがあったよな?」
「うん……たぶんあれは……」
「「ブレイクデカール」」
現在、GBNで広まっている違法パーツがある。
その名も、『ブレイクデカール』。使用するとシステムの枠を超えた力を、ガンプラに与えるという夢の様なパーツ。しかも、ログには残らないという嬉しいオマケ付き。
しかし、あまり知られてはいないがこのブレイクデカールには、大きな問題がある。
使用していくごとに、GBNの世界そのものにバグが発生していくのだ。
煙草を唇でピコピコと上下に動かし、思案する。
「おっとぉ!」
が、それもすぐに弾丸によって阻まれる。
放たれた弾丸をブースターを吹かして回避するが、問題はその後だった。
「ちょっ!?いつわどの!?何あれ!?」
「俺も分からないって!さっきまでただのフィンガーバルカンだったろ!?」
「ブレイクデカールって、あんな風になっちゃうの!?」
「そうみたい!!」
回避した弾の着弾点が、ミサイルでも落ちたかのようにゴッソリ抉れている。
先ほどまでの弾とは、段違いの威力だ。
幸い、弾速そのものは変わっていない様なので回避はまだできるが、それでも一発でも掠ってしまうだけで致命傷になる威力なのは大問題。
加えて、シュツルム・ファウストが効かない程の装甲になってしまったことも、更なる大大問題。
残った武器がピックのみであるため、実質的な詰み状態になってしまっている。
「どうするの!?推進剤もその内切れちゃうでしょ!?」
「どうするもこうするも……!クソッ、対艦ライフルがこれほど恋しかったことはねえ!!」
必死で襲い来る弾丸を回避し続けるが、地形がどんどん変化し穴だらけとなっていく事。加えて着弾時に上がる爆墳の衝撃も見捨てられない影響となる。推進剤の減少も合わせ、不利な条件は時間と共に積みあがっていく。
それなのに、グフ重装型は弾切れの兆候すら見られず、腰につけていたマガジンは完全に飾りになっている様子。
残された手段はもう、なかった。
「……アキさん、すまん」
「え?」
たった一つを除いては。
再び加速し、前へと向かうヅダ。
今までとは違い、極力最小限の回避動作で突撃を掛ける。
「……ねえ、いつわどの?おいら一緒に乗ってるよね?」
そしてアキシアルは察した。
これ、絶対にあれをやるな、と。
それに対しての返答は、極めてシンプルだった。
「マジめんご」
「いつわどのぉ!!?」
回避と同じように最小限の謝罪を済ませ、グフ重装型に肉薄するヅダ。
このままピックで攻撃する?否。
素手で殴りかかる?否。
落としたヒートホークを拾って切りかかる?断じて否。
ヅダにはヅダの、その最大の特徴がまだ残っている。
「オラァッ!!!」
気合を込めて体当たりをし、そのままグフ重装型を地面に押し付けながら、クレーターを抉って駆け抜ける。
直接回戦で再びコールが繋がる。
「ちょっ!?負けを認めろし!悪あがきしても、ウチのグフは負けないし!」
「負けを認めるだぁ?ふざけんなボケアマ。まだ手はあんだよこっちは!ヅダ嘗めんな!!」
「さっきと全然喋り方違うし!?」
「あ、この人こっちが素です」
話している間にも、グフ重装型というブレーキがあるもののヅダの速度メーターは振り切っていく。
そう、
「お、そろそろだな」
「そろそろ……? あ!?アンタまさか!?」
「ブレイクデカールなんぞに、勝ち逃げされてたまるか。こちとら
イツワがコンソールを叩き、通信回線を閉じる。
計器類がアラートを示し、警報が鳴り響く。
そうだ、これを彼は待っていたのだ。
「
「じ、自爆オチってサイテーェェェッッ!!!??」
オーストラリア、コロニー落下地点。
この日、悲劇が起きた土地に再び、閃光と爆音が轟いた。
「いやー、大変だったわー。アキさん巻き込んじゃってごめんね?」
「うん、本当にね」
「今度、ヒッチハイクさせてくれた人に、お礼しないとなー」
自爆したヅダはしばらく修復期間があるため使えず、現地から中央エリアまで徒歩で戻ってくる羽目になったので、非情に疲れたのだ。
途中でMSをヒッチハイクできたから良かったものの、そうでなければ三人とも帰宅できる時間はもっと遅くなっていただろう。
そう、三人とも、だ。
勝負はグフ重装型を巻き込んだヅダの自爆により、ドローとなった。
コロニー落下地点にMSもなく放り出されてしまった三人は、気まずいながらも仕方がないので共に歩き、そして優しいプレイヤーをヒッチハイクして戻ってきたのだ。
歩いている間、三人は話した。
これまでの事。これからの事。
ヅダも、グフ重装型も、どちらも評価は極めて低い。
ネットではボロクソに言われ、完全にネタ枠として扱われている。
それでも、それでもだ。
それでも、その機体が好きなのだ。
ブレイクデカールなどという、しょうもないものに手を出して、その好きを汚してしまった事を、リカは悔やんだ。
そして、二度とブレイクデカールは使わないと誓った。
「まあ、結果的にだけど美人とフレンド登録できたし、良いかなぁ」
「いつわどの、いつわどの。悪い癖が凄い出てる」
「そう言うアキさんも、フレンド登録したじゃねえか」
「お、おいらはそういうのじゃないから!」
「はいはい」
慌てた様に言うアキシアルに、手を振りながら返すイツワ。
そのもう一方の手には、『黒衣の狩人』がある。
今日も爆発したが、厳然とヅダはそこにあったのだ。
「よし、じゃあ後でタヌッさんやえいきっきも誘って、新車でドライブと行く?」
「おー、良いですなぁ。まあ、新車って言ってもあれでしょ?今日データを手に入れた奴」
「おう、中央エリアに戻ったついでに、使えるようにしておいたからね」
2人は部屋を出て、リビングへと向かう。
いつもと同じように、今日もまた。
「いやあ、しかしあの乗せてくれたプレイヤー、良い人だったねえ」
「なぁ。あの面白い、ペンギンみたいなカプルの子なー」
登場人物プロフィール
・タヌベロス(モフモフタヌキ)
好きなラーメンは特に特徴の無い、どこでも食べられるありふれたラーメン。
・イツワ(ジャージ男)
好きなラーメンは夜勤明けに食べる、命を削ってる感を感じるラーメン。
・エイキ(核バカ)
好きなラーメンは某フードコートのチャンポン。
・アキシアル(モフモフキャット)
好きなラーメンはバリやわとんこつの一味唐辛子入り。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
BLDTroiaS MISSON3 GUNDAM
モフモフタヌキ!モフモフキャット!ハロ!銀髪眼鏡!の4名!
「『アダムの林檎』の『マギー』さんから、初心者講習会に、講師側での参加依頼?」
「うん、そうなんだ。まあ正確には、初心者狩りから初心者を守るための、索敵班と撃退班の募集ってことみたい」
その日、BLDTroiaSのリーダー、タヌべロスがメンバーである銀髪に眼鏡の青年、『ユート』に告げた話は中々に驚かせる内容だった。
世界中から集う、極めて大勢のプレイヤーが存在するGBNにおいて、常に個人ランキングで30位以内に入る猛者中の猛者であり、初心者支援を積極的に行っていることで有名な、超ビッグネームのマギーからの依頼。
驚いて当然というものだろう。
「な、何で俺たちが……?言っちゃあなんだけど、俺達ってだいぶ下の方のフォースだろ……?」
「なんかね、『アナタのフォースのように、楽しんでいる脱初心者くらいの子達も見てもらいたいからよ』だって」
「あー…………」
言われて思い浮かぶ、自分のフォースの面々。
通常フォースの機体というものは、ある程度方向性が決まっていることが多い。例えば、AVALONは高機動機、『第七機甲師団』はミリタリー色を強く、などといったものだ。
しかし、自分たちは違う。
フォースネストに
そして何より、それぞれが最高にGBNを、ガンプラを楽しもうとしている。
「確かに言われてみると、俺たちが適任か……?」
「でしょ?」
「あれ?何の話してるんー?」
「楽しい話?」
「お、アキさんと『マヘル』さん。おつおつー」
どちらも最近、ついに自分の
「……よし!決めた!」
そして、この場に自分以外に三人集まったのを見たタヌベロスは決定した。
「マギーさんからの依頼は、三人にお願いしちゃう!」
「依頼?」
「どんな?」
「あー……俺は良いんだけど、リーダーのタヌベーとか、こういうイベントとかに喜んで参加する
疑問符を浮かべるアキシアルとマヘルに、後で説明することを約束しつつ、タヌベロスは悲しい眼差しで斜め上を見ながら答える。
「……その日、私は用事があったし、いつわんは仕事なんだ………」
「「「あ、あー……」」」
なんとなくだが、四人全員の頭の中に、微笑みながら親指を立てているジャージ男のイメージが浮かんだ。
なぜか黒い目隠し棒付きで。
MISSON
RANK:D
『初心者講習会引率』
【ミッション地】
サイド7・1バンチコロニー
【ミッション内容】
初心者狩り対策のための、初心者講習を行うの!
引率側で参加してもらって、初心者狩りから初心者を守るための索敵班と撃退班のどちらかをやってもらいたいわ!
詳細は当日教えるわね!
よろしくお願いするわ!
【敵性MS】
???
【勝利条件】
初心者講習会を楽しく終える事
【敗北条件】
初心者講習会がつまらなく終わってしまう事
そして当日。
場所はGBN内にある、大気圏外の宇宙ステージ。
そこにあるコロニー。それも一番最初にガンダムが動いた場所であるサイド7。そこの宇宙港を再現したエリアに、彼らは集まっていた。
「ンマー!!来てくれて本当にありがとう!嬉しいわぁ!!」
「い、いえ……こちらこそお誘いいただけて光栄です……はい…………」
紫色の髪に、筋肉質な肉体の大柄な男性。しかし、その話し方が何よりも特徴的。
フォース、アダムの林檎のリーダーであるマギーは、俗に言うオネエだった。
その圧倒的なパワーに圧され、若干引きつった笑顔で受け答えをするユート。
「今日はウチのリーダーは所用で来れませんが、メンバーの私たちで頑張りますね」
「ええ!お願いするわ!今日来る子たちはみんな初心者なの!アナタたちの、ちょっと後輩さんたちね。だから、アナタたちが楽しんでいるところを、思う存分見せてあげちゃって!」
「「「はい!!」」」
ウインクしながらのマギーの言葉に、三人共返事をする。
一瞬前まではマギーのパワーに圧されていたが、現在は彼のその人柄もありだいぶ緩和されている様子。
「ああ、それでね?今日は初心者狩りに対する講習なんだけど、索敵班と撃退班があって、アナタたちには撃退班になって欲しいのよ」
「撃退班ですか?メールにもありましたけど、襲撃が予想されてるんです?」
「ああ、違うのよぉ。実は予め、講習中に襲撃役が襲いに来る予定なの。で、そのチームと戦って欲しいの。できれば勝って欲しいのだけど……でも、本気のバトルをしてもらいたいから、その時はその時ね」
「それじゃあ、襲撃役は今どこに?顔合わせしないと」
またしてもアキシアルの頭の上に陣取るマヘルの問いに、マギーはにこやかに答える。
「それなんだけど、今回は顔合わせはなしにするわ。講習を受ける子たちに、本当の……とは言えないけど、本気の対初心者狩りバトルを見てもらいたいし」
「なるほど、お互いに手の内は分からない、と」
「ええ、そうよ」
ふむふむ、と頷くアキシアル。
お互いに戦力は不明だが、こちらはいつ襲撃が来るかは不明という不利には違いない。
だが、それでこそというものだろう。
丁度自分たちが作ったばかりのガンプラも、身内だけの試運転ではなく外部相手に挑戦したかったところ。
「襲撃役の子たちには、操縦訓練の時間なら襲撃のタイミングは好きにして良いって言ってあるわ。それじゃあ、よろしくね?」
それから30分後、おおよその心構えや初心者狩りに出くわした際の注意点や対処法が、マギーの手で初心者たちに伝えられ、MS戦の花形ながらも難しい宇宙での操縦訓練が行われている最中。
「おいらたちもそうだったけど、やっぱり宇宙って難しいんだね」
「私も上下の感覚がない空間って、苦労したなー」
「俺もだわ」
踏みしめる大地が無く、相対的に速度を示す物も無く、上下すら無い、重力のある地上とは異なる感覚に戸惑う初心者たちを見ながら、自分たちも最初はそうだったことを思い出す。
きっと、GBNの上位ランカーたちもそうだったのだろう。もしかすれば、アニメのエースパイロットたちでさえも。
いや、まあおそらくはスペースノイドは最初から順応してそうだが。
あとニュータイプも。
「それはそれとして、襲撃っていつだろうねえ?」
「さあ?索敵班が見つけてくれるとは思うんだけど……」
アキシアルとマヘルが初心者たちを眺めながら警戒していると、ふとユートが口を開く。
「…………嫌な予感がして来た」
「「あ、じゃあもう来るね」」
「お前らぁ!?って、クッソ!!?」
漆黒のユートの機体が身を翻し、突如飛来してきた極太のビームを回避する。
普段から運がなく不幸であり、不憫不憫と言われている彼の幸運値の低さが、今日も発揮されていた。
「索敵班は!?何してる!?」
「私の方でも探ってるけど、まだ射程の範囲外!たぶん方向だけ検討付けて、適当に撃ってきたんだと思う!!」
マヘルの機体である、『ジムスナイパーAFO』はスナイパー機。
背部に背負ったレドームにより、自力で索敵と捕捉を行える、観測手と狙撃手を一機で成す事ができる。
その索敵の広さに引っかからないと言うことは、おそらくだが大雑把な牽制の一撃といったところだったのだろう。
だが、その事実は一人の男に、別の意味で重くのしかかる。
「え、待って?まさかそんな雑な攻撃に、運悪く当たりかけたの俺?」
「……まあ、おそらく」
サイドのモニターに表示されるユートの顔を、思わず直視できず反対方向に目を向けてしまう。
彼の安定と信頼の幸運値の低さは、今日も絶好調の様だ。
本人は完全に不本意極まりないのだが。
「だけどこれで、大まかな敵の方向は分かったね!おいらが突っ込むから、援護は任せた!」
続いてアキシアルの『マスターガンダム・フィクル』がそのマントを開き、肩に搭載されたGNドライブから粒子を放出しながら
「お?今日調子良いねー」
どれほど作り込んでも、どれほど調整してもマントが開かない時すらあるこの機体だが、今日は随分と調子が良いらしい。
そして向かう先には――――――
「いた!あれは……
――――――3機のガンダムタイプのMSが近付いてきていた。
そして直接回戦で、3機から通信が入り、画面が表示される。
「ヘーイ、ワタシたち3兄弟に勝てるカナー?」
「今日は襲撃役デスガ、恨みっこなしデース!」
「ブラザーズ、イキマース!」
「待って!?濃い!?すっごく濃い!?」
その瞬間、アキシアルは全力で反転した。
あまりの濃さ故にの事だった。
肩までの長さのボサボサ茶髪の青年。黒髪目隠れショートの青年。黄色いドレッドヘアーにグラサン。全員揃って妙に片言という、濃いメンツが画面にいっぺんに表示されたのだから、そりゃあ濃厚である。
「それにしても……最初の一撃はたぶん、あれかな……?」
逃げつつもチラリと振り返り、3機を確認する。
その内の1機、『機動戦士ガンダム』の主人公、『アムロ・レイ』が搭乗した主人公機にして最初のガンダム。
その背に通常とは異なる、バックパックが搭載されていた。一年戦争の外伝作品、『サンダーボルト』より『フルアーマーガンダム』のバックパックだった。先ほどユートを襲ったビームも、あれからだろう。なお、サブアームに懸架されているシールドに、和彫りの龍が施されている。
もう一機のガンダムは、ジャイアントガトリングを装備している。おそらくは中距離火力支援を目的に強化しているのだろう。こちらはイエローで塗装されているのが特徴的だ。
そして問題の、『アレックス』。正式名称は『ガンダムNT-1』のそれは、全身にチョバムアーマーを装着したニュータイプの使用前提のピーキーな機体。しかし、それ故にパイロット次第で化けるという恐ろしさ。些か頭部形状が本来の物とは異なる様子だが、見覚えはあるのだがすぐには出てこない。
「とりあえず、2人と合流してっと……って撃って来たぁ!?」
後ろから再び極太のビームが放たれたのを、ギリギリのところで躱す。
装甲の表面がチリチリと焦げ付く感覚がするが、直撃よりは遥かにマシだ。
背後から時折放たれる攻撃を避けながら、ジワジワと味方に近付いていく。
敵はそれに釣られるように、付いてきている。あと少し、あともう少しだけ。そうすれば。
瞬間、自分のすぐ脇を
「なっ!?くぅ……!?」
それによって後ろにいたガンダムの、サブアームに取り付けられていたシールドが溶解する。
正面を見れば、ビームスナイパーライフルを構えたジムスナイパーAFOが。
つまりこれは、
「大丈夫!?」
「うん!」
反撃開始の嚆矢だ。
「オーウ!?マックスのシールドがー!」
「オーライデース!たかがシールドがやられただけデース!」
「ロブ!マックス!確実に一体ずつデスヨ!まずはあのマスターガンダムからデス!」
「「イエッサー!アレックス!」」
シールドを破壊されたとはいえすぐに態勢を立て直し、ガンダムを率いた三人がマスターガンダム・フィクルを袋叩きにして数の有利を確実に取ろうと動く。
「いや、させねえよ?」
「シット!?」
だが、それは即座に阻まれる。
彼らの背後から、デブリに身を潜めていたユートの『パーフェクトストライクノワールガンダム』が、その両手に握られた大型のビームライフル、『アグニ』でアレックス以外のガンダム2機を攻撃。背後からの完全な不意打ちにより進路を大きく変更することを余儀なくされてしまった。
そしてもう一つ、今度は両陣営にとって予想外な事態が起きる。
【EXAM】【EXAM】
「ハッ!?」「ワッツ!?」
ジムスナイパーAFOとアレックス両方の目が突然赤く輝き、両機に仕込まれていたシステムが起動する。
そもそも、ジムスナイパーAFOはEXAMが搭載された『ジムスナイパーK9』をベースとした機体。そしてアレックスは、頭部が同じくEXAM搭載のブルーディスティニー3号機の物に換装されている。
つまりこれは、EXAM同士が近付いた事による暴走現象。
ある意味では極めて正しい現象なのだが、そもそもお互いにEXAMを搭載している事など稀もいいところだ。
それが今回、偶々発生してしまった。
操縦を受け付ける事無く、暴走し近距離戦を仕掛ける両機。ジムスナイパーAFOはビームスナイパーライフルを捨て、ハンドガンと電磁ナックルで。アレックスはチョバムアーマーをパージして、腕部の90mmガトリング砲とビームサーベルで戦う。
なお、その間パイロット二人は死んだ目をしながら、操縦桿を握っているのが非常に悲しい絵面だ。
だが、この2機の暴走によってできた動揺は、両陣営にとって大きな隙となった。では、そこから何が差を生み出すのか?
そのワンテンポ前の状態だ。
「ハアァァァァァァッッ!!!!!」
「……ッ!?ガッデム!!?」
パーフェクトストライクノワールガンダムの攻撃により、ガンダム2機は態勢が崩れていた。そこに今の暴走騒動。つまりBLDTroiaSよりも、立て直しに時間が必要となる。
その僅かな差が、大きな開きを生み出す。
マスターガンダム・フィクルがジャイアントガトリングを装備したガンダムに突撃し、そのまま気合と共に推進力を上げて押していく。
その先にあった物は――――――
「ノオォォォォォッッ!!?」
――――――この宙域を漂う、小惑星。
背中からそれに叩きつけられるも、ジャイアントガトリングを固定するためのユニットやバックパックがクッションとなり、一撃で倒されるという事はなかった。
だが、パイロットであるロブは見てしまった。
濛々と宇宙空間に立ち込める砂煙の中に光る、一対の光を。
ガンダムタイプのMS特有の、あの瞳の光を。
「悪いけど、ちょっと汚い手を使わせてもらうね」
そこからは、一方的だった。
マウントを取られ、小惑星に釘付けにされた状態で何度も振り下ろされる、マスターガンダム・フィクルの拳。
本人もよく分かっていないがまだ使えないダークネスフィンガーの代わりに、ただの拳を何度も何度も何度も何度も何度も打ち付けていく。
金属と金属が打ち合わさる音が終わり、ポリゴンとなって消えるまで、10秒ほどそれは続いていた。
一つの戦いが終わる頃。もう一つの戦いも佳境を迎えていた。
「墜ちロ!」
「嫌なこった!」
小惑星やデブリの間を縦横無尽に飛び交い、攻撃と回避と離脱を繰り返すパーフェクトストライクノワールガンダムとガンダム。
ビームが飛び交い、激突するがお互いに中々有効打には繋がらない。
「そこダ!」
「外れだよ!」
ガンダムの背中から放たれる極太のビームを、同じくビームを放つことで相殺はできなくとも強引に軌道を変えさせる。アグニには、それだけの威力がある。
お返しにこちらからも撃つが、回避されて決め手にはならない。
なら、どうするか。
「……この間えいきっき相手にやった、あれすっか」
アグニを捨て、代わりにビームライフルショーティーを2丁構える。
そのまま間断なく敵を攻撃し、相手に撃つ暇を与えず回避に専念させ、そして徐々にその回避するコースを誘導していく。
その先には、ある物があった。いや、正確に言うのならば、ある2機のガンプラが戦っていた。
「……ホーリィシット!ここはアレックスたちが……!EXAM同士が……ッ!」
「マーックス!早くここを離れロ!!」
「む、ムリだアレックスッ!」
パーフェクトストライクノワールガンダムの攻撃により、暴走する2機の間に無理矢理挟み込まれてしまうガンダム。
その末路はもちろんの事。
「アアアアアアアァァァァァッッ!!?」
「マァァァァックッスッッ!!!」
獣と化した2機の挟撃により、完全に破壊されてしまった。
ポリゴンとなって消えるガンダムだが、同士討ちを誘発させられた衝撃で止まってしまうアレックスに、追撃が加えられる。
その
そう、
「え、EXAMが……!?」
EXAMは頭部に搭載されるシステム。メインカメラの破壊以上に、EXAM搭載機に頭部破壊は重い意味がある。
頭部が破損したことにより、EXAMが消滅。2機の暴走は止まったが、状況は大きく違う。
片方はまだ、EXAMが起動しているのだから。
「これで!とどめだァァァァァァァァッッ!!!」
赤い瞳によって強化された速度で、電磁ナックルがコックピットを貫いた。
「いやー、何とか無事に勝てて良かったねー」
「私、まさか暴走するとは思ってなかった……」
「まあ、なんにせよ初心者たちも喜んでくれてたし、良かったじゃない」
戦闘が終わり、初心者講習後3人はフォースネストに戻っていた。
ユートが作り置きしているクッキーをお茶請けに、リビングで紅茶を飲んで一息つく。
今回の戦いは完勝したとはいえ、暴走や初手を許すなど中々に甘い内容だった。
いや、初手を許した事については、そういうイベントだったからという事を考えれば、問題はないのだが。
そして何より、初心者たちには楽しんでもらえた。マギーからも、今回のイベントは大成功だと太鼓判ももらっている。万々歳だ。
「……これが三馬鹿だったら、こうはならなかったな」
「うん、まあそうなんだけど、君も
「巻き込まれですけどねぇ!?」
遠い目をしたユートだが、悲しいかな彼は巻き込まれ系被害者みたいなものだ。
安定と信頼の幸運値の低さは、いつでも発揮されている。
何故かフォースメンバーの内部争いに巻き込まれ続けた結果、三馬鹿とまとめられてしまっているが、最近そこに一人加わって馬鹿四天王にグレードアップするという更なる悲劇に見舞われている。
強く生きて欲しい。
「そういえば、襲撃役の三人だけどさ。普通に良い人たちだったね」
「ちょっとキャラ濃かったけどなー」
「まあ、マギーさんよりは薄いでしょ」
「それは言うなよ」
話は徐々に、襲撃役だった三人へと移っていく。
「アレックスさんが、アレックスに乗ってたらしいよー」
「ああ、通信で聞こえてたけど、機体名だけじゃなかったわけね」
「まさかお互いにEXAMを搭載しているとは……」
「こ、今度はリミッターとかでも付けたらどうかな!うん!」
「そ、そうそう!」
そっと手で顔を覆うマヘルを慰める二人。
EXAM同士の衝突による暴走は不可抗力なのだが、今回ほとんど操縦桿を握って死んだ目をしていたマヘルとしては、気持ち的によろしくないのだろう。
さて、それはそれとして、だ。
「まあでも、楽しいバトルだったね」
「おいらのガンプラも、珍しくバッチリ動いてくれたしね!」
「次はどんなバトルになるかな?」
「私はその前に、EXAM用のリミッターをどうにか……」
「手伝うよ」
未来のことを、先のことを話し始める三人。
今日は楽しかった。明日はきっと、もっと楽しい。
それがGBN。それがガンプラバトル。それがフォース。
三人はその日、0時が過ぎるどころか夜中の2時過ぎまで、楽しく、それは楽しく話し続けた。
ちなみにこの三人が、今日戦ったガンダム使いの三人と再会し、そしてネナベだったと知るのはそこそこ未来の話。
登場人物プロフィール
タヌべロス
今まで食べた中で一番赤かった食べ物は、味付け前の新鮮ないくら。
アキシアル
今まで食べた中で一番赤かった食べ物は、いちご。
マヘル
今まで食べた中で一番赤かった食べ物は、四川風担々麺。
ユート
今まで食べた中で一番赤かった食べ物は、サドンデスソース。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
BLDTroiaS MISSON4-1 Das Nibelungenlied
モフモフタヌキ!アライグマ!ハロ!銀髪眼鏡!ジャージ男!の5名!
「へえ、『ニーベルンゲン』とのフォースバトルなのだ?」
「うん、そこからお誘いがあったんだ」
ある晴れた日。とは言ってもGBNのフィールドは大抵晴れているのだが、その日フォース『
「で、それをこのアライさんに言うってことは?」
「そうそう、アライさんにも参戦して欲しいんだよね。その日は空いてるんでしょ?」
「おーう、大丈夫なのだ」
男の名前は『アライ』。見た目の特徴の薄さに反し、一人称が「アライさん」なのに加え、「なのだ」口調が某アライグマのアニメキャラを思い出させる彼もまた、『
「もうじきしたら残りのメンバーも来るだろうから、そしたら詳細を説明するね」
「わかったのだ」
その十数分後、集まったメンバーの内2名を見て、アライは頭をそっと抱える事になる。
「『ニーベルンゲン』?ああ、はいはい。あのイケメンリーダーで女性プレイヤーたちに人気のところね」
「思い出し方と情報の偏りが過ぎない?」
集合直後に早速タヌベロスのモフモフなお腹を枕にしたイツワは、早々に相手フォースへの醜い嫉妬を露にした。
イケメンは死すべし。慈悲はない。
言外にそう伝えるオーラを出すが、イケメンのアバターを使っている癖に何を言っているんだとは、タヌベロスも口には出さない。
「話を進めるけど、この間のマギーさんのとこでやった、初心者講習会の映像をそこのリーダーが見たらしくてね?自分たちに興味を持ったみたいで、バトルのお誘いが来たんだ」
「つまり合法的にイケメンをしばける……と?」
「普段は違法にイケメンをしばいてるみたいな言い方だね?」
「私はカタギです」
「何で違法でやっているか疑惑をかけたのに、自分がカタギって主張をしてるの?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
そのままモフモフボディに顔を埋め、動かなくなるジャージ男。
それにため息をつきながら、ユートが眼鏡を押さえつつ口を開く。
「それで、フォースバトルの詳細は?」
「それはね、こういう感じ」
タヌベロスがウィンドウを開き、そこに記された情報を各自確認していく。
「ありゃ、知ってはいたけどやっぱり格上だね?」
「まあ、俺たちはまだ脱初心者程度だしな」
椅子に座るユートの膝の上では、クリーム色のハロボディのマヘルがウィンドウを動かす。
「相手のリーダーは個人ランクBランクだってさ。ウチの誰よりも高いね」
「リーダーさんと一人で戦えるの、タヌベーくらいか?必殺技の有無もあるし」
「うーん、どうだろうね?可能なら常に複数対1の状況はキープしたいけど、それも難しいかなぁ?」
フォース・ニーベルンゲンはリーダーがBランクで、他は全員がCランクだというのは分かっている。
ならば常に数的有利をキープしたいのだが、それは向こうも同じだろう。
あーでもないこーでもないと情報を整理しつつ、方針を固めていく。
が、その中でアライの一言が火薬庫に火を放つこととなった。
「アライさん的には、何でこの面子なのか気になるのだ?よりにもよって、三馬鹿の内の二人がいるのだ」
「「オメーも入れて馬鹿四天王の内の三人だよ!バーーーカッ!!!」
瞬間的に中指を立て、抗議というよりも罵倒を入れていくユートとイツワ。
その姿はまさに瞬間湯沸かし器が二つ。
「お?なんだやるのだ?」
「おぉよ!イケメン共の前にお前ら揃って潰してやらぁ!!」
「前哨戦だな」
「ちょっと、三人とも―?ちょっと、ちょっとー?……あ、ダメだこれ」
馬鹿四天王(の内の3名)がバトルのために外へ出て行くのを、一応呼び止めるもすぐに諦めて遠い目になるマヘル。
そのマヘルの肩を……ハロボディなので分かりづらいが、おそらく肩であろう部位をぽむっと叩き、タヌベロスは優しく言う。
「えいきっきがいないだけ、あれでまだマシなんだよね」
「あ、この人私以上に諦めてた」
「そりゃあそうでしょ……」
常にフォース内に内ゲバを抱え込むリーダーの背中は、哀愁に満ちていた。
BATLLE REQUEST
DAIVER NAME:ジーク
【件名】
突然のご連絡、申し訳ございません。フォース戦を希望いたします。
【内容】
フォース・ニーベルンゲンのリーダーを務めます、ジークと申します。
先日のアダムの林檎主催で行われた初心者講習会の動画を拝見し、貴フォースに強い興味を抱きました。
つきましては、フォース戦を願えませんでしょうか?
ルールはオーソドックスな5対5の殲滅戦で、場所はムーンエリアのグラナダ近郊でいかがでしょうか。
日程は下記の候補の中から、貴フォースのご都合が良い日をご連絡ください。
ご検討のほど、よろしくお願いいたします。
「この度は、フォース戦を受けていただき、感謝します」
「いえいえ、こちらこそお誘いいただいて嬉しいです」
そして当日の約束の時刻。
待ち合わせ場所となるムーンエリアにある月表面のロビーで、それぞれのフォースが顔を合わせた。
スラリとした体格を黒いスーツで覆い、派手過ぎない落ち着いたシルバーのイケメンである、ニーベルンゲンのリーダー『ジーク』とタヌベロスが握手と挨拶を交わす。
ジークの所作は洗練されており、なるほど世の女性陣達も虜になるだろう振る舞い。
「ハハ、実は断られるんじゃないかとビクビクしていましたよ」
「まさかまさか。こんな嬉しいお誘い、断るわけないですよ」
和やかに進むリーダー同士の会話。
では、そのすぐそばで行われる、メンバーたちの会話はというと。
「やあ、どうも綺麗なお姉さん。僕の名前はイツワ。どうぞよろしく」
「あらあら、ご丁寧にどうも。わたくしは『クリーム』です。よろしくお願いしますわ」
「「こ、こいつ……!躊躇いなく猫を被って……!って、ん?」」
金の長髪を優雅に靡かせる美女のクリームを相手に、いつも通り即座に猫を被って対応するイツワ。
その二人を見て、それぞれのメンバーにまたやりやがったという表情を見せ、それに気づき「あ、この人
「ガハハ!ハロってことは、お試しさんかい?」
「いえ、これが本登録で使ってるアバターなんですよー」
「ガハハ!そうなのか!」
「ちょっと!グンターさん、声大き過ぎっすよ!」
「まあまあ、アライさんは大丈夫なのだ」
ハロボディのマヘルを見て、何が面白いのかは分からないが、とにかくガハハと笑う筋骨隆々の男性『グンター』と、それを諫める些かチャラい男性の『ハーゲン』。それにアライを加えた4人。
自己紹介をしつつ、それぞれが個性を主張しているのが見て取れる。
「ふむ、それではそろそろ」
「ええ、始めましょう」
メンバーたちが恙なく自己紹介をしているのを確認したリーダーたちが、握手を交わす。
「「楽しいバトルを!」」
「それじゃあ、出撃前に作戦を確認するね」
MS出撃ハッチでの待機中、リーダーであるタヌベロス主導の元で作戦の再確認が行われる。
「相手が全員格上であることを考えて、常に最低でも2名で行動すること。それと、最大の敵であるジークさんを見つけたら、集まれる人数で一気に叩く。月面は遮蔽物が少ないから、追い込んだりするポイントもないからね。それぞれの射線に入らないようにしつつ、挟み撃ちになる様に心がけよう」
「予定通り、タヌベーとアライとマヘルの組と、俺とイツワの組だな。……なあ、今からでも交代しないか?」
「バランス的にはこれが良いから、却下します」
「くそお」
「おい、幸運E-。俺とのコンビが嫌だってか」
「お前俺の背中狙うだろぉ!?」
「お互い様だろぉ!?」
「そのお互い様はやめて欲しいんだよなぁ……」
バランスの問題で馬鹿四天王の内の二人が組んだことで発生した、お互いの背中を警戒し合うという悲劇に、ちょっと目が遠くなるリーダー。
アバターだから毛が抜けないが、そろそろ毛の一部が丸くハゲないだろうかと、そんな心配もしてしまうのがなお悲しい。
「まあ、そろそろ出撃時間だから。みんなストップストップ」
「そうそう。馬鹿コンビも落ち着くのだ」
「「だからお前も同じ括りだろうがぁっ!!」」
「はいはい、それじゃあ行くよ」
いつものように口論を始めたメンバーたちを、タヌベロスが手を叩きながら諫め、出撃を促す。
そう。出撃までのカウントダウンが始まったのだ。
カウント5。
「チッ、背中には気を付けろよ……?『Ez−BD〔FPFB〕』、ユート」
カウント4。
「お前もせいぜいそうしな。『ヅダ』、イツワ」
カウント3。
「もー、2人とも……。『サンドルフォード・ラー』、マヘル」
カウント2。
「アライさんは知らないのだー。『Point guard』、アライ」
カウント1。
「まったく、もう……。締まらないなぁ……。『ガンダム00トロイアリバティ』、タヌベロス」
カウント0。
「
カタパルトで加速された五機の機影が、一気に月面へと躍り出る。
目指すは奇しくも自分たちと同様の、神話をその名に関する格上の相手。
戦いの火蓋が、切って落とされた。
次回予告
龍殺しの英雄を冠する格上を相手に戦う、フォース
強大な敵、見えない機影、巻き起こる内ゲバ。
果たして勝機はあるのだろうか。
次回、ガンダムビルドトロイアス。
『BLDTroiaS MISSON4-2 ZZ GUNDAM』
目次 感想へのリンク しおりを挟む