風鳴翼が勝手にくめゆ組に推して参る (バロックス(駄犬)
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その名は、防人(SAKIMORI)

マリア「奏者と勇者の物語が始まった! ヤツ(作者)は振り返らないッ 全力疾走だッ ついて来れる者だけついて来いッ」
セレナ「私達、本編じゃ名前すら出てこないそうよ姉さん」
マリア「えっ」


 

 楠芽吹とその仲間32人の防人達はゴールドタワー展望台に呼び出されていた。

 芽吹の目の前には任務と集会でしか滅多に顔を合わせない仮面を被った女性神官が佇んでいる。

 

 

「防人である貴方たちを更に鍛える為に、あるお方をお呼びしました」

 

 闇から出でるように、無機質に語る女性神官は次の言葉を告げる。

 

「あなた達、『防人』の大先輩です。 くれぐれも、失礼の無いように……」

 

 今明かされる衝撃の真実。

 防人部隊が32人の少女達で構成されていて、この部隊が作られたのは自分たちが最初の筈ではないか、先輩がいるなどあり得ない。

 

 仲間の防人たちは戸惑いを隠せない。

 

 

「いや、だってあの人、自分の事は意地でも防人だ防人だって言いますし……」

 

 仮面の下で言葉を作る女性神官は声色だけならかなり疲れている様子だった。

 女性神官の素顔は分からずとも、これまでの任務で神官が冷徹で疲れ知らずの鉄仮面女だというのは部隊には知れ渡っている。

 

 その神官を疲弊させる先輩防人……、一体何者なんだ。

 

「来たようですね……」

 

 どよめき立つ防人が密集する展望台には場違いなエンジン音を聞いた神官が呟く。

 直後、エレベーターの扉が開いたかと思えば、けたたましいエンジン音と共にその姿を現した。

 

 

 確かに人だった。そこに居たのは。

 

 

 

 だが、何故その人はバイクに乗っているのだろうか。

 

 

 次の瞬間、アクセルをフルスロットルで吹かしたBMWの形式に限りなく近いバイクが急発進。

 それはウィリーしながら防人の密集隊形を問答無用で突っ切ってくるものだった。

 

「ちょッ!?」

 

 回避など、芽吹が口にしなくても32人の防人たちはそれを実行する。

 まるでモーセが拓いた海の如く、人だかりは真っ二つに割れ、行く道を切り開いたバイクがその集団を駆け抜けていき、その直後。

 

 

 バイクが転倒した。

 

 

「なんで!?」

 

 加賀城雀が叫ぶ。

 何もない、障害物など皆無のこの展望台で転倒することなどほぼあり得ないと言った方がいい状況で、盛大に転倒するバイク。

 床を火花を散らしながら横滑りし、神官の真横を通り過ぎていくバイクからフルフェイスのライダーが受け身を取るように転がった。

 

 

「遅れてすまない」

 

 フルフェイスを外せば、腰まで伸びた蒼の髪、整った顔と色白の肌が露わになる。女性だった。

 

 当然のことながら後方で無残に乗り捨てられたバイクが爆発を起し、他の防人隊員が消火活動にも追われる喧騒の最中、その女性は凛とした佇まいを崩さない。 

 

 

 

 

「私は風鳴翼――」

 

 その少女は歌姫であり、

 装者であり、

 万物を切り裂く剣であると同時に、

 

防人(SAKIMORI)だ」

 

 言い放つやいなや、バイクが台詞に合わせたかのように一際大きな爆発が発せられ、辺りにいた防人隊員が吹っ飛ぶ。

 爆風が上手い感じに演出かかったのか、その自己紹介シーンはまるで特撮ヒーローのようだ。少なくとも、残った隊員たちにはそう映った。

 

 

 

「嘘だッッ」

 

 

 まるでどこかでひぐらしが鳴くような勢いで防人番号32番、加賀城雀の突っ込みが当然のように木霊した。

 

 女性神官が胃を手で押さえる中、防人たちの新しい戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 防人部隊隊長、楠芽吹は悩みを抱えている。それは風鳴翼が強すぎるということだ。

 

 

 風鳴翼はこの世界ではない世界の戦士だった。

 翼は彼女の世界、日本が誇るトップアーティストで、勇者でもなければ、芽吹きたちの言う防人ではない、『装者』と呼ばれる存在らしい。歌いながら戦っているのはなんかシュールだった。

 

 じゃあ防人じゃないじゃん、と翼を否定する声が当然のように上がるが、 

 

『なんのつもりの当て擦り……挑発のつもりかッッ』

 

 何故かキレてくる。その晩、事の発端となった加賀城雀が部屋に来て泣きついて離れなかった。

 

 

 絶刀・天羽々斬というギアを身に纏う翼の戦闘方法は芽吹たちから見れば余りにも異常だった。 

 

 それは防人の支給品である戦衣が勇者服には性能で劣っていたことを抜きにしても、勇者選考時代から鍛錬を欠かさなかった芽吹が抱いていた自信を完膚無きまでに打ち壊すような強さだった。

 

 人間からスラスターが出て飛ぶとかあり得ないし、

 影縫いとか忍者みたいな技使ってくるし、

 火種が無いのに刀身に炎を宿して斬りかかって来るとか、

 刀身が巨大化して訓練場の屋根を突き破った時は乾いた笑いしか出なかった。

 

 

 だがこれほどの戦闘力を持っても、元の世界では毎回苦戦させられてるらしい。

 

 お前らは一体何と戦ってんだ。未知の生命エネルギーとかゲッター線を求めて億単位で攻め込んでくるインベーダーとでも戦ってるのか。

 そう思わずにはいられない芽吹であった。

 

 同時に危うまれるのは、防人隊長としての芽吹の立場だ。

 実力が伴わない隊長など、部隊には不要。現段階では翼こそが隊長の名に相応しい、という声があがっている。ほんの少し、どころか、かなり納得がいかないのだが。

 

 部隊を導けない、実力が認められない、

 それは自身を勇者として選ばなかった大赦を見返すという彼女の目的が果たされないという事になる。

 

 そんなマイナスの思考が、芽吹きの脳内で浮かび、闇が覆わんととする。

 

「有象無象の声など気にするな、楠は良くやっている」

 

 その芽吹の隣で諸悪の根源たる翼がいた。

 

「貴女にもあるはずだ。 私では……風鳴翼ではない、楠芽吹でしか為せない事が……」

 

 今の所、目の前の翼に模擬戦を申込んで絶賛70連敗中の自分には為せる事があるかどうかすら疑問だ。

 翼は静かに口を開く。

 

「貴女の部隊に……これまで死者はいない」

 

 それが何を意味するのか、芽吹には分かった。いや、分かってしまったのだ。

 その時の翼の表情が、悲しさを押し殺そうとして必死に笑みを浮かべようとしているその顔が芽吹に悟らせたのだ。

 

 翼は過去に、大切な友を失っているのだと。

 

「その信念、最後まで貫けばいい。 そのために貴女が積み重ね、研鑽し、防人(SAKIMORI)として大成するのを私は応援する」

 

 年齢も、覚悟も、戦士としても格上の翼に無礼な気持ちを抱いていたことを芽吹は心の底で深く詫びた。

 同時に湧き上がってくるのは戦士として、人生の、防人先輩としての憧れ。

 

「翼先輩……私はもっと強くなりたいですッ」

「ふっ、戦場(IKUSABA)で先陣を切る楠なら、そう言うと思った……手加減は出来ないぞ」

 

「望むところです」

 

 そう決意を滲ませた笑みで放った一言を、芽吹は後悔することとなった。

 

 

 その翌日。

 

 

「さぁ掛かって来るがいい、防人達ッ こちらも真打をくれてやるッ!」

 

 白銀の装甲、刀身を手に持ち、翼が訓練場内にて浮いている。

 それは翼の世界では奇跡を起こさなければ発動出来ないXDモードと呼ばれる切り札であった。

 

「ゴァッ! なんだコイツッ メチャクチャじゃねえかッッ」

 

 模擬戦開始3秒で壁に叩きつけられたシズクが叫ぶ。

 

 

 スラスターの発動も不要となり、その背に文字通り翼を宿し、常に宙に浮く風鳴翼が天羽々斬を振るうたびに空気と空間を両断する一閃が炸裂する。

 

 防人達に当たりはせずとも、その剣閃の余波が容赦なく護循隊、銃剣隊の陣形を紙の如く吹き飛ばし、訓練場は縦一文字に切り裂き、その隙間からは雲一つない空が見える。

 

 

「うぎゃああああああ!! 助けてメブ~~~~~~ッッ!!」

 

 繰り出される圧倒的暴力を前に、

 芽吹は他の防人と一緒に断末魔を上げて宙を舞う加賀城雀を虚無の瞳で見つめながら。

 

「楠が先輩と呼んでくれたのだ。続く言葉を斜めに聞き流せるかッ」

 

 

 芽吹は手に持っていた銃剣を掲げ。

 

 

「やってられっかッ もうアンタ一人で戦いなさいよッッ!!!」

 

 

 叫びながら、床に銃剣を叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 加賀城雀は極度の怖がりだ。

 その性格故に、常に誰かに護って貰わなければ生きていけない。

 

 今日を生きる為に、明日を生きる為にその胸にあるであろう微量な意地も投げ捨て、媚を売る。それが加賀城雀。

 

「チュンチュン。 翼さん、私の事を護ってくださいチュンチュン」

 

 某青狸ロボットアニメで登場する悪童の後ろに付く金持ち坊ちゃんよろしく、弱者が強者に媚を売り、後ろ盾を得るというのはもはや様式美である。

 

 

 だが、真の防人たる風鳴翼は一味違う。スパイスガールなのだ。

 

「そうとでも言えば、この私が鞘走るのを躊躇うとでも思ったのかッッ」

「ひいぃい!?」

 

 悪鬼羅刹の剣幕で迫る翼に雀はまさしく、蛇に睨まれたカエルの如く震え、動けない。

 真の防人の眼光は、睨むもの全ての動きを封じる。

 

「覚悟を持たずにノコノコと遊び半分で戦場(IKUSABA)に立つ貴女が、奏の、奏の何を受け継いでいるというのッッ」

 

 いや、奏って誰だよ。

 至極当然の疑問が加賀城雀の脳内にて発せられる。

 

 

 片手で胸倉を掴み上げられ、浮いた雀の身体、その首筋に天羽々斬が当てられる。

 いすくめる眼光が何かを言おうとしている。なんだ、これ以上、何か言う事があるのか。

 

 

「言えッ 加賀城ッッ 貴様はなんだッッ」

 

 しめた、と雀が暗闇の中から一筋の希望を見出す。

 ここで的確な答えを導くことで九死に一生を得る事ができるのでは?

 そんな淡い期待を抱いて、少ない脳の細胞をフル活動させ、導き出したその言葉を告げる。

 

 

「さ、防人ですッ」

 

 だが。

 

 

 

「違うッッ 貴様は雀だろうがッッ」

「そこ防人じゃねーのかよォォォォ!!!!」

 

 

 同じ防人同士なのに思いが通じ合わない、まさしくそれは諸行無常だった。

 

 

 

 

 

 防人隊員、山伏しずくはラーメンが大好き。

 今日は休養日ということもあって徳島ラーメン求めて外出中。

 

 

 バイクに乗せられ、何故か翼と。

 

 

「徳島ラーメンか……私の中の跳ね馬が踊り狂うッッ」

「ハ……ネ?」

『しずく、気にするな。 突っ込んだら負けだ』

 

 翼の時々よくわからなくなる言葉を皆はやれ翼語録やら、やれ防人語録と名付け始めていた。

 自身の第二人格であるシズクも、その言葉が出た時はなるたけ反応を薄目にして塩対応することに決めているらしい。

 

 

 そして二人は目的地のラーメン屋に辿り着く。

 当然だが、バイクは転倒し、爆発した。

 

 バイクは乗り捨てるとして、帰りの足が不安と考えたしずくだったが、徳島ラーメンを食べる事で何かいい案が浮かぶだろうと謎の思考で気にも留めず入店。

 

 

「山伏……これがなんだか分かるか」

「ふぇ……?」

 

 テーブルに差し出されたラーメンの丼を手に持ち、翼は言う。

 

 

 

 

「熱盛だ」

 

 

 

 

「……あの」

『しずく、駄目だって聞いちゃ』

 

 風鳴翼、渾身のギャグ、不発か。

 

「熱盛だ」

「……」

『二回目だろうが聞くな、しずく。 ラーメン伸びっぞ』

 

 しかし、彼女の辞書にはある。

 翼は折れず、未来へと羽ばたくものだと。

 

 

「あつも……り、だっ」

「泣いた」

『えぇ……』

 

 もしこれが雀ならば問答無用で打ん殴っていただろう。

 そんな気も起きない程に、普段のキチガイじみた戦闘力を見せる翼のギャップに、気性の荒いシズクは呆れていた。

 

 

「その沈黙を……私は答えと受け取らねばならないのかッ!!」

『こ、こいつメンドくせー……オイ、しずく』

「な……なんでやねーん」

 

 なんと稚拙な突っ込みだろうか、シズクは思う。

 こんな三流芝居がかかった突っ込みは、年に一回やる程度となったエンタの神様にゲストとして呼ばれることはないほどのレベルの低さが伺える。

 

 突っ込みに関しては、加賀城の右に出る者がいない。

 この程度で防人である翼を納得させるなど。

 

 

「……フフフ」

「いや、なんで勝ち誇った笑み浮かべてんだよッ 『突っ込ませたから私の勝ちッ』みたいなッ!!お前一応気遣われてんだからなッッ!? これ以上にないってくらい慈悲掛けられてるって気付けよなッッ!?」

 

 意地でも入れ替わるものかと決意を固めていたシズクが思わず出てきて突っ込むほど、翼はこれ以上までにないくらいムカつく勝者の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 弥勒夕海子はお嬢さまである。(自称)

 彼女は今、風鳴翼の部屋へとやって来ていた。

 

 彼女の強さは自分たちよりも抜きんでている。

 同時にその気高き生き様、かつての弥勒家の栄光その物、例えるならそれは、まさしく(TURUGI)

 そして始まったのが風鳴翼を観察するということ。

 

 彼女を観察することで、その強さの秘密も明らかにし、あわよくば弥勒家再興の足掛かりにする腹である。

 

「では――――」

 

 いざゆかん、そう覚悟を決めて翼の私室の扉を開ける。何故か鍵は掛かっていなかった。

 

 弥勒夕海子は目撃する。

 自身を(TURUGI)と謳う防人、風鳴翼の部屋を。

 

 

「え、こ、これって……」

 

 兵法書や武器の類が壁に立てかけられている武人の部屋を想像していた弥勒夕海子。

 だが、現実そこにあったのは彼女が想像していた斜め上の光景であった。

 

 

 着ていたのをそのまま脱いだのか、はたまた洗濯済みの衣服なのか、とにかく大量の衣服が部屋一面に散乱している。 

 雑誌や新聞が開かれぬまま配達された直後の状態を維持し、ベッドの上に山積みとされてて、

 口紅などの化粧道具が鏡の前にケースにも仕舞われず出しっぱだ。

 

 数種類の下着もベッドや椅子に掛けられている。どれくらい放置されているのか見当もつかない。

 その光景を目の当たりにして確かに去来するのは、自分ですらこんな惨状になるまで部屋を掃除しなかったことは無い、という自負心だった。

 

 

「これは御部屋というよりは、まさしく汚部屋……」

「否ッ これが防人(SAKIMORI)の部屋だッッ」

 

 振り返るとそこには仁王立ちの翼が居た。

 

「常在戦場。 常に戦いの世界に身を置く我らに、自らを休ませる部屋など無いッ

この部屋の光景は、防人(SAKIMORI)の任務の苛烈さを余すことなく表現している部屋だッッ 

それを汚部屋と断ずるとは……笑止ッッ」

「なんとッ 私は誤解していましたわ……これこそが、真の防人の部屋―――」

 

 直後、部屋の扉を蹴り破るようにして、楠芽吹が乱入してきた。

 

「んなわけないでしょうがッッ 弥勒さんは騙されないッッ

翼さんも! 19歳で年長なんだから少しは恥ずかしさを感じてくださいッッ」

 

「クッ……! 小川さんが居れば……だから私はこうして、生き恥を晒しているッッ」

 

「じゃあもう少し自分で掃除してくださいッッ」

 

 

 生き恥さらし系防人(SAKIMORI)、それが風鳴翼である。

 

 

 

 

 

 国土亜耶は心を痛めていた。

 御役目として四国の壁外調査に行き、いつも傷だらけになって帰ってくる防人達。

 巫女であるが為に、神樹との交信役を担うだけしか出来ない彼女はいつも負傷して返ってくる防人達を待つことに苦しさを感じていたのだ。

 

 

 どんなに痛みを代わってあげようとしても、叶う事のない亜耶の願い。

 亜耶は思う。せめて巫女である自分が、彼女たちの為に何かできる事はないか、と。

 

 

 そんな少女の思いを知ってか知らずか、(悪魔)が囁く。

 

 

「国土、芽吹達の力になりたいか?」

「は、はい……皆さんの負担を少しでも軽くできるというのなら、なんだってやります!」

 

 翼は言う。

 ならば、付いて来い、と。

 

 二人が足を運んだのは、翼の部屋だった。

 相も変わらず、翼の部屋は衣服、その他の雑貨が散乱している。

 生粋の掃除好きの亜耶の心の内で熱く滾る物がある。それを感じ取った翼が、

 

「楠達は皆あの灼熱世界で戦い、傷つきながらこの四国に帰ってくる。

その時、国土によって綺麗に整理された状態の部屋で迎えて貰えたなら、その日の御役目を果たした彼女達にとって、心からの(ねぎらい)になるはずだ」

「そ、そうですね! 分かりました。私、やります!」

 

 純真無垢な性格ゆえか、やる気に満ちた表情の亜耶を翼は眩しく思った。

 

「ならば箒を持て」

「はい!」

「雑巾を持て」

「はい!」

「三角巾を被れ」

「はい!」

「よし! まず手始めに私の部屋から掃除を―――」

 

 当然の如く、ドアを銃剣でぶち抜いた楠芽吹が乱入してくる。

 

「だからァ! 恥というものを自覚しろって言ってんでしょうがッッ」

 

 純真無垢な少女の心も利用する。

 それが真の防人(SAKIMORI)、風鳴翼。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――この世界は残酷だ。

 

 

 天の神によって書き換えられたこの灼熱世界はその根源となっている天の神を打倒さない限り、終わらないだろう。

 

 神樹様の寿命も近く、現存する勇者もその現界した天の神に苦戦しているようだ。

 

 友は既に倒れ、穿つ為の武器も壊れ、心を神に捧げた人は、辺り一面に生え渡る稲穂と化す。

 

 

 人類は、これでもかと言ってもいいくらいに詰んだ状況にあった。

 

 芽吹の心が屈する。

 大切な人たちと明日を迎えられないという現実に涙が零れる。

 

 

 全てを捨て、楽になってしまおうと膝を着く芽吹の前に防人、風鳴翼が立つ。

 

「生きる事を諦めるな」

 

 絶刀・天羽々斬を構え、そう言い放つ翼の言葉に絶望は感じられない。

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげるッ! 貴女の胸に焼き付けなさいッ!」

 

 そう言い放つ翼の真横を通り過ぎていく人の姿が。その数は二つ。

 

 

「翼さーん! 探しましたよー!」

 

 拳に槍を携えた少女と、

 

「ったく、暫く見ないと思ったらこんな辺境の別世界に飛ばされやがって」

 

 デンドロビウムの如き装甲を身に纏った銀髪の少女が。

 

 

 いつしか破格のパワーを見せた翼のXDモード。 

 それを身につけた少女が翼を合わせて三人。

 

 

 一人が拳を突きだせば、バーテックスはおろか、その衝撃波が星屑を万単位で塵へと変える。

 

 

 戦艦の如き少女が狙いを定め、どこかの伝説巨神のように全方位へのレーザー射撃が正確に敵を補足し、爆裂四散を引き起こす。

 

 

 

「俺もいるぞッッ」

 

 何故か素手でバーテックスと殴り、圧倒しているリオレウスのような髪型の男までいる。

 

 明らかな過剰戦力。

 これまで西暦時代から積み重ねてきた人類の努力はなんだったのだろうか。

 

 

 天の神の勢力を蹂躙していくその様を見せつけられた芽吹は呆然と遠くを見るようにして呟く。

 

 

 

―――――もう、あいつらだけで充分なんじゃないかな、と。

 

 

 勇者の章・完。

 

 

 

 




 真・TRINITY RESONANCE発動中。

翼「楠、乗れッ」
芽吹「はいッ って、後ろの人は何してるの?」
クリス「発射スイッチを押す係と!」
東郷「微力ながら後方支援する係と!」
翼「楠の勇姿を目に焼き付ける係だッ」
クリス「そういう訳でポチッとな」

翼「やっぱり私もとぶんかーーーい!」



スロットでは不遇扱いの二作ですが私は好きです(半ギレ)


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