モノとユリアスの純愛物 (くりおね/八千草)
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モノとユリアスの純愛物
若干の加筆・表現調整と改行処理をしたものです。
この場を借りて素敵なお題をいただいたことに感謝を
「率直に言うと、ワタシは君を好いているんだよ ユリアス・フォルモンド」
目の前の少女から投げかけられた言葉の意味を、私は計りかねた。
私に対して好意を? まさか恋愛感情を持ったとでもいうのか
まして目の前の“ソレ”は厳密には少女ですらない。
私も原理などは知らないし、知るつもりもない。
魔術師どもの作るゴーレム……それに似た存在、そして、それよりも少し複雑にできた存在。
そういった程度の代物だと思っていた。
……最初は。
だが、“彼女は”心を持つと言う。
私に向かって花を愛でてみろなどと言う。
私の過去を知りたがり、私を哀れに思うとまで言ったはずだ。
そんな“彼女”があまつさえ、私を好いているだと?……いったなんの冗談だ、これは
「……ユリアス・フォルモンド。ワタシは再三言ってきた通り、か弱い乙女なのだよ。
それは身体のことばかりじゃなく、もちろん“心”も同じさ」
「……」
私は答えなかった。
「つまりだね……何が言いたいのか、と言うと……だ、そのワタシも恥ずかしいのだよ?このようなことを、本人を目の前にして口にするのは」
「それで、お前は私にどうしろというのかね」
目の前の“彼女”モノは…目線をこちらにしっかりとむけたままだが恥じらっている、と本人が言う通りよくよく顔を見てみれば少し頬が紅潮しているようにも見える。
……そんな機能もあるのかと、この状況を他人事であるようにどこか頭の冷めた部分で考えていると
「そ、そんなに見つめないでくれないか……ワタシにも恋愛感情というものがどういうものか、はっきりと自覚できるわけではないんだ。
ただ、君のことを考えるたびに胸の奥が軋むようで、深奥回路から未知の感情が生まれているんだ。だからこそワタシは思うのだよ……ああ、ワタシは君を好いている。これが愛というものなのだろうとね」
愛。愛だと……?そんなものを私に向けた人間が、いや 同胞の中にもそんなモノは居なかった。
いや、正確には居たのかもしれないが私は愛を知らなかったし、求めてもいなかった。私の生まれた意義は闘争の中にこそあったのだから
しかし……
なおも押し黙っている私に耐えかねたように、モノは頬を膨らませるように……模倣なのだろう、人間のそれとは少し違って見えたが
「やはり君は全く紳士的ではないね……ユリアス・フォルモンド。これでも私はそれなりに、勇気を振り絞って君に恋心を打ち明けているんだよ?もしかしたら君には平生の語り口に思えるかもしれないがこれも詩の運用を元にしたワタシのトーク・システムの弊害の一つかな」
彼女の言うことは全く馬鹿馬鹿しい。本当に馬鹿馬鹿しい……と思いながらも、その一言一言がなぜかスッと、水のように自然に私に染み込んでいく。
なぜか……悪い気分ではないと思ってしまう。一体何故だというのか
「あまり乙女に恥をかかせるものではないよ、ユリアス・フォルモンド……なにか、返事をしてはくれないか」
私がそれを聞いて……なぜその時、そんなことを思いついたのかは解らない。だが、自然と口から出ていた言葉があった
「花を観に、戻ってもいいかね」
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「まさか、君にもこんなに早く花を愛でる心が芽生えるとはワタシも予想していなかったよ」
アジトへと戻りながらモノは茶化すようにそう言った。
「私が花を愛でる……か、別にそういうわけではないのだがな」
「ふむ、それではいったいどういう訳なのかな?」
私を探るように、試すように、彼女は言葉を投げかける。
だが……不思議と不快ではなかった。
以前からずっと、このようなやり取りを当たり前に続けていたような気さえしていた。
「この……花だ」
「ん?これが一体どうしたというのかな」
「生憎と花の名を覚える趣味はなかったのでね……この花の名が何というのか知りたい」
「ふぅん……それで?」
やれやれ、まだ私をからかっているのか。 ため息を一つ吐くと
「お前は知っているのだろう。教えてくれ」
彼女は、なかなか素直になってきたじゃないか、となおも私をからかうようにしながら
「それはツバキだよ。紅色に、華やかにひとまとまりとなって咲く美しい花だが咲いている時期はそう長くなく
贈り物にはあまり好まれないね……特にそう、病気のお見舞いには」
「それはなぜだね」
「この花は咲き終わりの時その美しい姿を保ったまま、首ごとすとんと落ちてしまうんだ
それが、不幸の暗示ともとれるということで、生死の関わるような場所、病院などで飾るのはよくないのだそうだ
……気に入ったのかい?ツバキが」
「私に花の違いなど分からんさ。ましてや良し悪しなどな
だが、この花がなんだか気にかかったのは、そうだな」
「そう……似ている。君に、似ていると思ったからだ」
「ふふ……ユリアス・フォルモンド。まさか君に人を花に例えるような趣向があったとはね。いや、まあワタシは人ではないのだがね」
「意外かね?私も記憶するところではない……もしかしたら全く初めてするかもしれないが、直感を交えてものの性質などを捉えること自体は私の得意とするところだ。何故似ていると思うかなどは、いちいち聞いてくれるなよ」
「ふふ……そんな野暮なことはしないさ。だけど奇遇だね ワタシもその花はとても気に入っているんだ
それが自分に似ているからだと……そう捉えてみるのも面白いかもしれないね」
彼女はツバキの花にそっと撫でるように触れながら続けた。
「……先ほども言ったね。ワタシはもうすぐ壊れる……“死”を迎える。恐ろしくないわけじゃない。悲しくないわけじゃない。
だけれど、姉妹護ってこの命を終えられるのなら、このツバキの花のように美しいままに散ることができるのなら
それはきっと……誇らしいことだ。それができればワタシは、打ち捨てられたネジのままではなかったということになる」
彼女の語る姿を見て思った。やはり私に花を愛でる心など分からない。
ましてやそれに人の一生を、自分の命を重ねて儚む感傷に私は同調しない。
だが……ただ、美しい。 そう思った。
彼女も、彼女の指先を飾る花も。これが愛でる心だというのならばもしかすると……
「そうだ、気に入ったというのならばユリアス・フォルモンド
この花は君に贈ろう。いや、贈らせてもらえるかな?」
先ほどまでの私なら決して受け取りはしなかったろう。興味のかけらすら向けなかったはずだ。
「ああ……受け取っておこう」
それくらいは良いだろう、なぜかそんな気持ちになっていた。
「その代わりと言っては難だけれどもね、ひとつ頼みごとを聞いてはくれないか」
「ワタシの“死”が、心とこの体を分かつまで。どうか君に最期を看取ってほしい」
「ああ、そのくらいは良いだろう。花と……君の“好意”とやらへの礼だ」
モノは少し背伸びをするようにし、ユリアスの肩に腕を伸ばして後ろから軽く抱くようにして引き寄せると
ちゅ。と、軽くその頬に口づけをして見せた
そしてゆっくりと腕を解き、後ろを向いて二歩、三歩と離れてから振り向き、満足げなほほえみとともに呟いた。
「死が、ふたりを分かつまで……ね」
終
意外とShadowverseの世界観そのものを題材とした二次創作が無いようでしたので
こちらにも投稿させていただきました。
これからも公式・二次創作問わずShadowverseの世界観が魅力的に描かれることを祈って。
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