空軍パイロットのIS転生記 (Su-57 アクーラ機)
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主人公紹介 プロローグ

初めまして。
本作品の作者のSu-57 アクーラ機です。
この作品が初投稿でして、まだ不慣れですがよろしくお願いいたします。
なお、本作品は私の突然の思い付きで書いているので知識はあまり有りません。リアルの関係上、投稿ぺースも不定期です。

このサイトの機能もよく分かっておりません。
何か間違いが有りましたら、優しく教えて頂くとありがたいです。

━注意━

文章表現が下手くそで箇条書きの様になっています。
ストーリーに影響を与えない程度に手直し(大小問わず)を高頻度で行う事が有ります。
しつこいテイスト。
語彙力不足。
・・・おい、日本語ぉ!!

以上が苦手な方は即刻ベイルアウトをオススメ致します。




○主人公

 

名前

 ウィリアム・ホーキンス

所属

 ウォーバード隊

TACネーム(非公式愛称)

 アクーラ:鮫の意

階級

 中佐

年齢

 37歳

 

転生前

身長180.6cm 体重81kg

容姿は焦げ茶色の短髪、筋肉は強烈なG(加速度)に耐える為、結構付いている方。

 

転生後

身長178.5cm 体重75kg

容姿はそのまま若くした感じ。

 

彼女居ない歴=年齢の空軍中佐。

彼の性格に難が有るわけでは無く、単に仕事ずくめだっただけ。

周りは既婚者だらけなので気にしている。

一度その事で同僚にからかわれた時は、笑顔(黒)で「お前、一度大昔の英雄に会わせてやるよ」と言ってミサイルに括り付けて出撃しようとした事もある。

人柄は良く、同僚や部下、果ては上司にまで信頼されているが、無謀な行動を取る時があるのが玉に瑕。

家事の腕前はそこそこ。

・・・理由?察してやってくれ(涙)

 

 

 

○機体

 

機体名称

FSu-72E バスター・イーグル

 

大柄な機体に、全遊動式の尾翼、エアインテーク下側にF-35のような格納式ウェポンベイを搭載した、垂直離着陸が可能な艦上戦闘攻撃機。

艦上機の為、主翼と水平尾翼に折り畳み機構が設けられている。

コックピット後方に大型のエアブレーキが取り付けられている他、テイルコーン内にレーダー、ECM(電子妨害)装置、非常制動用のドラッグシュートが格納されており、重量は重い方。

カナード翼と推力変更ノズルによって、大型機らしからぬ高機動性を実現している他、限定的ながら正面ステルス性能を獲得している。

兵器搭載量、航続距離などの全体的なスペックは高いものの、コストが高く配備機数は極少数。

固定武装は機首下部の右側に単砲身30mm機関砲1門を搭載。

作戦によって空対空ミサイル、対地ミサイル、レーザー誘導爆弾、対艦ミサイル等を搭載出来る。

主人公の機体にはシャークマウスがペイントされている。

{IMG53588}

 

 

プロローグ

 

某所 上空

 

ジェットエンジンの音と響く砲声。そして爆発音。

その中を乱戦する戦闘機。

黒煙を上げ、沈んで行く戦闘艦の群れ。

 

 

「タイガー2、左に敵機!」

 

「振りきれない・・・!」

 

 

「爆撃機だ!ジェリコ1攻撃開始!」

 

「撃て!狙い撃ちにしろ!」

 

 

《奴だ!鮫野郎だ!撃ち落とせ!》

 

《砲手、隙を作るな!弾幕を張れ!》

 

《ノヴゴロフ聞こえるか?こちらは━━~~~・・・》

 

《クソッ!タイタンがやられた!敵機来るぞぉ!!》

 

敵、味方の無線が混線している。

 

「中佐、敵の増援です!」

 

「了解だ。片付けるぞ!3と4はバイパー隊と共に爆撃機の攻撃へ迎え!俺はランサー隊と共にモーラト隊の援護にまわる。2、付いてこい!」

 

「2了解!」

 

「ランサー、モーラト、聞こえるか?これより飽和攻撃を開始する。ありったけをお見舞いしてやれ!」

 

「了解。ランサーリードより全機へ、槍を放てっ!うるさいハエを始末しろ!」

 

「ラジャー!ウォーバード、ランサー、援護は頼んだぞ!モーラト全機、攻撃開始!」

 

敵の護衛機と交戦する。

 

「中佐、こいつら航空学校くらいは卒業したようですね」

 

そう軽口を叩くのは俺が最も信頼している僚機、2番機の“ガッツ”だ。彼とは何度も死線を潜ってきた。

 

「あまり油断するなよ」

 

自分への戒めも込めて言う。

 

「敵機撃墜!」

 

格闘戦(ドッグファイト)に持ち込み、一機ずつ確実に仕留めていく。

敵護衛機部隊の最後の一機を撃ち落としたその時

 

「敵旗艦が防衛ラインを突破!!」

 

防衛部隊からの悲痛な声が無線越しに響く。

最悪の状態だ。相手は被弾し、ボロボロの状態ではあるが、仮にも艦隊の旗艦なのだ。

濃い弾幕を張りこちらの接近を許さない。

そして状況は更に悪化する。

 

ガスッ!・・・ボンッ!

 

「っ!?」

 

とうとう被弾してしまった。

 

「クソッ!パネルが死んだ、エンジンが・・・!」

 

「中佐、大丈夫ですか!?火が出ています。直ぐ射出を!」

 

「ふっ!ぐく!」

 

射出レバーを引くが反応しない。

 

「・・・ダメだ、射出レバーが効かない・・・!」

 

「そんな・・・!中佐、ベイルアウトです!」

 

「何度引いても射出座席が飛ばないんだ。どうやら当たり所が悪かったらしい。電気系統がイカれたのかフレームが歪んだのか・・・」

 

眼前に死が迫っているのに何故か俺は冷静だった。

ここで敵旗艦を通せば被害はもっと出る。それを越えると、その先には市街地が・・・。操縦は・・・?辛うじて出来る。ならば・・・!

敵に機首を向ける。

 

「ちゅ、中佐、何を!?」

 

敵は俺が何を考えているかを察して、大慌てで攻撃してくる。

 

《なぁっ!?右舷、第二第三砲手!奴は体当たりをする気だ!近付けるな!》

 

《クソッタレ!何で当たらねぇんだよっ!》

 

「中佐、止めて下さい!中佐!ウィルっ!!」

 

ガッツが無線越しに怒鳴るが、俺は

 

「隊を頼んだぞ」

 

そう言い終わると無線のスイッチを切り━━

 

「17.5tの鉄塊を喰らえぇぇっ!!」

 

敵の巡洋戦艦に体当たりを敢行し、そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 




初めて書きましたがなかなか大変ですね。
他の投稿者の方々には敬服します。
それにしても自分の趣味全開ですが、これからもよろしくお願いいたします。


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バスター・イーグル(IS ver)解説

凄く今更ですが、どうでも良い戦闘機のバスター・イーグルは紹介してたけど、ISの解説を詳しく書いてなかったなぁと、ふと思いまして・・・。


機体名称

 『バスター・イーグル』

 

○第2世代 試作大型IS

 

○パイロット

 

・ウィリアム・ホーキンス

 アメリカ空軍少尉(特例)

 フロリダ州 ティンダル空軍基地所属

 

○性能諸元

 

・空虚重量 約3,597Kg

 

・全高 二足歩行形態時 4.25m

    高速飛行形態時 2.5m

 

・全幅 3.88m

 

・速度

 最高速M(マッハ)2.5(アフターバーナー使用時)

 巡航速度 918Km

PICメインでの飛行は基本行わず、あくまで姿勢制御及び非常時の移動手段として使用。通常飛行時はジェットエンジンの推力に依存する。

 

・実用上昇限度

 17,955m

 

○武装

 

・30mm航空機関砲

 発射速度 1,500~1,800発/毎分

バスター・イーグルの主兵装。実際の戦闘機にも搭載されている物を転用した火器であり、リボルヴァーカノンやガトリング砲では無く、古典的な単砲身・反動利用式の機関砲。複雑な機構を廃した結果、非常に軽量である。

砲身の冷却には水冷式を採用しており、砲身の周りを円筒形のタンクで覆い、発砲後は気化して砲身内の螺旋状の溝を通りながら冷却し、放出される。

30mmの威力は高く、当たり所が悪ければ二~三発で敵機の主翼をもぎ取る程。

 

・他、各種対空・対地ミサイル及び爆弾を携行可能。

長距離飛行の場合は増槽を携行する。これらは全て主翼下に設けられた計六基のハードポイントか、後述のウェポンベイに搭載する。

 

・対IS用大型ナイフ『スコーピオン』

 バスター・イーグルの右大腿部の装甲に搭載された、近接戦闘用ナイフ。切ると言うよりは、力で無理矢理叩き切るの方が正しい。

そもそも、ナイフの使用に迫られる程の距離まで詰められる事をあまり考慮しない為、あまり使う機会は無い。

 

○機体解説

 

アメリカ空軍とIS企業、そしてウィリアムの父であるジェームスが勤める航空機メーカー『ウォルターズ・エアクラフト』の共同で完成させた試作型の大型IS。

あくまで『ISと既存の戦闘機の能力を足せばどのような結果になるか?』という事を確かめる為の試作であり、世代は第2世代機に分類される。

特にウォルターズ・エアクラフトの色が濃く反映されており、従来のISとは一線を置いたタイプの機体である。

見た目は戦闘機だが、これらは五つの大まかなパーツに分けられている。

 

 

1:頭部

言わずもがなパイロットの頭を保護する部位。

フルフェイスであり、酸素供給マスクや風防と一体化したバイザーとハイパーセンサーが搭載されている。

勿論、風防は開閉可能となっており、それを上げた姿は見方によっては中世騎士が身に付けていた甲冑の目庇(まびさし)のようにも見える。

鳥類の嘴のようなノーズ部分には、レーダー等の各種アビオニクス(電子機器)が詰め込まれており、これによってバスター・イーグルは他のISよりもより広範囲の索敵が可能。

 

2:胴体

パイロットの胴体を守る為、複合装甲で覆われており、露出部位は無い。

背中には大きなエアブレーキが備わっている。

後方に向けて短い尻尾のように突き出た部位はテールコーンと呼ばれ、この中には後方レーダー、非常制動用ドラッグシュート等が搭載されている。テール裏面にはチャフ・フレアディスペンサーが設けられている。

 

3:腕部

特にこれと言った特徴は無いが、一つだけ挙げるとすれば、高速飛行形態時に省スペースに折り畳めるよう、無駄な装飾の無い武骨なデザインである事だろう。

 

4:脚部

こちらも空力の妨げにならぬよう、無駄な装飾は一切無い。高速飛行形態時は脚を後ろに伸ばすようにして、胴体部に固定する。

右大腿部に近接武装を装備。

 

5:主翼・カナード・尾翼及びエンジン・エアインテーク部

これらには姿勢感知装置が取り付けられ、二足歩行形態時は動作の妨げにならぬようオートで地面と平行になるようになっている。基本、胴体とはアームのようなもので繋がっており、平行姿勢の状態でいるが、任意で角度の調整が可能。角度によっては腕の動作に制限が掛かる。

パーツ中央部の裏側には格納式のウェポンベイを設けており、内部にはミサイルの種類にもよるが左右合わせて最大四発搭載可能。

また、推力偏向・VTOL(垂直離着陸)機構も搭載されており、VTOL時の際はエンジン下部のカバーが左右に開き、ノズルを90゜下に折り曲げると同時にエアインテーク側面のノズルも開放され、計四つのノズルで垂直のまま素早い飛行が可能。

 

 

全身を灰色の制空迷彩の装甲で覆っており、ここは空軍の色が濃い。

しかし、最も目立つのはウィリアムのトレードマークとも言える、ヘッドギアに描かれたシャークマウスだろう。

本機体は前述の通り飛行にはジェットエンジンに依存しており、PICは非常用。だが、PICが不必要かと言われればそう言う訳でも無く、燃費の若干向上(特にVTOL時)・機体安定の際には一役担っている。

拡張領域も併せると、かなりのペイロードを持つが、その皺寄せか機体は大型・大重量化して行き、他のISと並ぶとその大きさがよく分かる。

何でも、この機体の兵器搭載量については、とある将校の影が動いていたとか・・・。

試験機体ではあるがその戦闘能力は侮れないものとなっている反面、完全に戦闘準備が完了するのに些かタイムロスが生じる。

 



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第1話

俺はあの日死んだ筈だった。

忘れようのない記憶・・・。

敵の巡洋戦艦に体当たりを行い確かに死んだ筈だ。

 

なのに

 

何故?

 

未だ理解が追いつかない。

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、あんよは上手♪あんよは上手♪」

 

何故、俺は二人の男女に囲まれながら、

二本足で立って歩く練習をしている(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

時は遡り、一年と半年前━━

 

 

「どこだ?ここは・・・」

 

辺りを見回してもあるのはどこまでも続く地平線。

何も無い・・・。そう言えば昔、自分の命を粗末に扱う奴は地獄行きになると同僚から聞いたことがあったな・・・。ならここは地獄か?

と自嘲気味に一人で考える。

 

「いえ、ここは天国でも地獄でもありません」

 

声が聞こえた。いや、返答された。

 

「っ!?誰だ!?」

 

突然、何も無いところから人が現れて、自分の疑問に答える。

結構ビビった。

 

「そんなに警戒しないで下さい。別に捕って食おうと言うわけじゃありませんよ」

 

目の前の少年は苦笑いしながらそう言う。

 

「・・・君は?」

 

「何でも有りません。強いて言うなら、あなた方が言う神・・・ですかね」

 

驚いた、こんな少年が神とは・・・。

 

「この姿は仮の姿です。僕たちに明確な姿形は有りません、話しやすいようにしているだけです」

 

・・・また思考を読まれた。プライバシーと言う概念は無いのか?

 

「おっと、話がそれましたね。あなたは前世で敵の戦艦に体当たりを行い戦死した・・・これで合っていますね?」

 

「あ、あぁ、それで合っt!そ、そうだ!敵旗艦は!?隊は無事か!?」

 

思わず目の前の神に掴み掛かりそうになるのを耐える。

 

「安心してください。敵旗艦は撃沈。隊は無事です。主力を失った敵国はもうじき降伏するでしょう」

 

「そうか・・・良かった・・・」

 

一先ず心配事は去った。

 

「さて、本題です。あなたにはこのままあの世に逝くのではなく、別の世界で新たな人生を送ってもらいます」

 

「・・・は?」

 

別の世界?ナニソレ?

 

「ちょ、ちょっと待t」

 

「それでは、良いセカンドライフを!」

 

唐突な浮遊感。

 

「うわぁぁぁああぁぁ!!?」

 

そこで、また俺の意識は途絶えた。

 

 

ん?ここは・・・どうやらまた別の所に飛ばされたようだな・・・?

視界が真っ暗だ。

手足に力が入らない。

ちょっと待て、一体何が起きている!?おい、誰か居ないのか!?

 

「おぎゃぁぁ!おぎゃぁぁ!」

 

ん?おぎゃぁぁ?赤ん坊が近くに居るのか?

 

「あらあら、どうしたの?」

 

見知らぬ女性に抱き抱えられ、そこでようやく脳内処理が追い付いた。

も、もしかして俺が赤ん坊に?

つまり、あの神様が言ったセカンドライフって・・・。

ここから始まるのかよぉ・・・。

 

ここに、鮫と呼ばれたウォーバード隊1番機 ウィリアム・ホーキンス“元”空軍中佐のセカンドライフが始まった。

 

 

 

━━そして今に至る。

 

「キャー!あなた、見て!ウィルが一人で歩いているわ!」

 

「おぉ!スゴいぞ~ウィル!」

 

まさか、記憶を保ったまま転生するとは・・・。まあ、その方が色々と有利ではあるが。

っと、ここでこの二人を紹介しておかないとな。

二人ともアメリカ?人で、女性の方は“バージニア・ホーキンス”俺の母親だ。どこかの会社の社員らしいが、別に知っておかなくても問題は無いだろう。

男性の方が“ジェームス・ホーキンス”彼は大手航空機メーカー『ウォルターズ・エアクラフト』の航空開発部の責任者らしい。ちなみに兄がいて、名は“トーマス”。軍の将校らしい。すごい家系だな。

 

二人共、とても俺に良くしてくれている。

前に偶然知ったのだが、俺は捨て子らしい。

家の玄関に籠の中にいた俺と置き手紙に『この子の名前はウィリアムです』とだけ、書いてあったそうだ。

前世では家族を早くに失っていた俺は、この家族に愛情を持っていた。

それにしても、まさかこっちに来ても“ウィリアム・ホーキンス”とはすごい偶然だな。

まぁ、せっかくチャンスを与えられたんだ、こっちでもパイロット目指そうかな・・・。

まぁ、しばらく先の話だがな。

 




まだ、このサイトで書き始めたばかりなので右も左も分からない状態ですので、何か間違いが有れば是非、指摘してください。今後ともよろしくお願いいたします。


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第2話

あれから十数年後

 

 

登校中に友人のマイクが話しかけて来た。

 

「なぁ、ウィル」

 

「何だ?マイク」

 

「つい最近、男のIS操縦者が見つかったって話知ってるか?」

 

あぁ、この間の・・・。

俺がまだ幼い?頃にISと言う物が開発された。

何でも、女性にしか扱えない代物らしい。

 

「テレビで放送してたな。女性しか扱えないISを男が動かしたのは俺も驚いたよ。思わず飲んでたコーヒーを吹くぐらいな」

 

「だよな。俺もしばらく放心してたよ」

 

ハハハと笑い合いながら学校に向かう。

 

この後、ウィリアム自身の未来が大きく変わるとも知らずに。

 

 

学校に着くと、先生から男子は全員体育館に集合と言われた。

何でも、日本で男性のIS操縦者が見つかったのならアメリカにも居るかもしれない。と言う事らしい。

並んでいる間に「これでもし動かせれば楽園に・・・ウヘヘヘ」とか聞こえたが気にしてはいけない。

そして、とうとう俺の出番になった。

検査員は女性で、心底面倒臭そうに見下した態度で「ISに触って」とぶっきらぼうに言う。

途中、「ふん、どうせ動く訳無いのに」とか聞こえた。

典型的な女尊男卑の思考の持ち主だな。と思いながらも、静かにISに触れる。

何だろうこの緊張感は。これで動いたらマジで笑えないな(笑)

 

 

何かの駆動音と共にISが薄く光る。

・・・起動してしまった。

周りが唖然となる。

あの女性検査員ですら、持っていたペンを落としてしまった。

当然、動かした本人は━━

 

「」

 

口をあんぐりと開けたまま、固まっていた。

この顔をかつての同僚達が見たら爆笑は不可避だろう。

 

「「「えええええ!?!?」」」

 

体育館中に生徒と先生達の声がこだまする。

 

待て、待て待て待て!これは何かの偶然か?それとも必然なのか?こんなにいる男子のなかで俺が当たったの!?すごい確率だよ!え?もしかしてこのままモルモットへ転職か!?俺この後、いったいどうなんのぉぉ!!?

 

 

体育館での騒動の後、校長室に両親と共に呼ばれた。

やはり、ISを動かした男性は俺を含めて二人しかおらず、保護目的も含めてIS学園にぶち込まれるらしい。

正直、実験と称してクレイジーな学者共に腹をかっ捌かれて中身を弄くりたおされるよりかマシだが・・・。

今後のIS学園への入学手続きなどの話をしていると、軍服を着た大柄な男達と一緒に見覚えのある顔が現れた。

 

「トーマスおじさん?」

 

「兄さん?久しぶり」

 

「あら、トーマスさんお久しぶりです」

 

「久しぶりだな、ウィリアム、ジェームスにバージニアさんも」

 

「そうだ、何か用かい?兄さん」

 

「ああ。ジェームス、少し良いか?」

 

そのまま父さんとトーマスおじさんは奥の部屋へ入って行った。

手続きを終えると同時に父さん達も部屋から出て来て、その日は家に帰った。今日は叔父も泊まって家族で会議するらしい。

 

 

「さて今後の方針だが・・・ジェームス」

 

「ああ。ウィル、IS学園に行くならこれを持って行きなさい」

 

何かを渡された。

・・・ドッグタグ?

 

「これは父さん達航空機開発部とIS企業、そしてアメリカ空軍が共同で開発した試作ISだ」

 

「政府からの命令でな、試運転も兼ねてお前に持たせろとな」

 

トーマスが補足する。

 

「・・・分かった。有り難く受け取るよ」

 

「すまない・・・」

 

「え?おじさん、突然どうしたんだい?」

 

「お前を守ってやれなくて・・・。お前の人生なのに」

 

「おじさん・・・。顔を上げてくれよ。俺はおじさんに今までたくさん世話になった。父さんも母さんも血の繋がっていない俺を本当の息子のように育ててくれた・・・」

 

「ウィル・・・!知っていたの?」

 

「あぁ、結構前からね。でも俺にとっての両親は父さんと母さんだけだ」

 

そしてトーマスと向き合う。

 

「トーマスおじさん、父さんと母さんが安心して生活出来るように守ってあげてくれ」

 

今のこのご時世、男性操縦者は“一部の団体”からは邪魔者でしかない。

何かしら仕掛けて来るかもしれない。

その思いを汲み取ったトーマスは静かに、しかし力強く頷いた。

 

 

翌日

 

インターホンが鳴る。

扉を開けると、女性権利団体と名乗る女が現れ、俺をお国の為に実験施設に入れろだの散々言った後、最後には家族に対する脅しめいた発言をしたので、さすがに我慢の限界でキレそうになった時、おじさんが俺を手で制して、前に出て

 

「この家族は我々軍と政府が受け持っています。もし何かご用がございましたら、特別規定に(のっと)り我々がご対応させて頂きましょう」

 

そう言い返した。当然、横槍を入れられた女は顔を歪めて言い返す。

 

「あなたは黙っていなさい。私は彼に話しているの。それで?あなたはお国の為に協力してくれるかしら?もっとも、決定事項だけど」

 

ニヤニヤ嗤いながら、俺の答えを聞いてくる。

お国の為に協力?決定事項?そんなの答えは始めから決まっている。

 

「お断りします。俺はIS学園に行かせて頂きます。決定事項も何も、それはあなた方が勝手に取り決めた事だ。お国の為?自分達の為でしょう。そんなにお国の為お国の為と言い張るのでしたら、まずはそのクソ下らない女尊男卑の思考をなんとかしてから出直して頂きたい」

 

思い切り睨み付けながら言い返してやった。

 

「なっ!?あなた、自分がどんな立場にいるか理解出来ていないようね・・・!あなたに拒否権なんてものは━━」

 

少 々 面 倒 で は あ り ま す が 、 例 え ど の よ う な 立 場(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・) で あ っ て も 、 規 則 は 規 則 で す か ら ね

 

と、俺の腕を掴もうとしていた女を語気を強めて制止するトーマス。顔は柔和な笑みを作ってはいるが、彼の右手はしっかりと腰に伸びていた(・・・・・・・)

そこには黒光りするハンドガンがホルスターに入っており「いつでも抜けるんだぞ」と全身で物語っている。

女性権利団体の女は、その右手の先に隠れて見えないナニカを察して若干後退った。

言い方はオブラートに包んでいるが、彼の心情も交えて訳すとこうである。

 

『俺の大切な家族に指一本でも触れてみろ。その時は女性権利団体だろうが何だろうが関係無い。有事の際という事で、その(ツラ)に大孔を開けて鳥の巣にしてやる』

 

見事に言い返された挙げ句、逆に脅し返された女は顔を赤くしたり蒼くしたりしながら「し、失礼するわっ」と言って出て行こうとする。

女性権利団体とはいえ、流石に政府と軍隊に刃向かうような事は出来なかったようだ。

 

「お帰りですか?お見送りしましょう」

 

「け、結構よ!」

 

そう言って逃げるように家を後にする女と、実に頼もしい叔父を見て、これなら安心出来そうだ。と思った俺は、改めてこれからの生活に意気込むのだった。

 



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第3話

入学までまだ日数がある。

その間に俺は叔父の計らいで軍の基地に出向き、そこでISの簡単な座学と操作を教わった。

戦闘機と違って、本当に手足のように動かせる。

まぁ、慣れるのにかなり掛かったが・・・。

一応、特例で俺は15歳で空軍『少尉』の扱いらしい。軍の制服とフライトジャケットも支給されている。

制服なんて今貰ってもいつ着るんだよ・・・。なんて思ってはいけない。

因みに、俺の搭乗機は『バスター・イーグル』まさかの前世の相棒と同名。しかも見た目も少し小さくなっただけだ。

通常は機体をまんま人型にした姿だが、高速飛行時は腕を折り畳んで、完全に戦闘機のそれになる。

そこで、俺は思った。

『どうせなら、相棒と同じ見た目にしよう』と。

試しに父さんや叔父のトーマス。仲の良い技術者、整備士に相談したところ、危ない改造や風紀を乱す事意外なら基本的にOKと言われた。

テンション最高で、早速整備士達を呼んで作業に取り掛かる。

そして

 

「出来た・・・!」

 

そこには機首を模したヘッドギアにシャークマウスが描かれた機体が鎮座していた。

思わず顔が綻ぶ。

今まで幾度となく作戦を共にしてきた、俺の愛機だ。

 

「また、よろしくな」

 

そう呟くと、機体も嬉しそうに見えた。

 

 

入学式当日

 

俺は大事なことを忘れていた。

IS学園。

それは、女性にしか扱えないISの操縦者を育成する学園である。

つまり、生徒は俺ともう一人を除いて、全員が女性である。

視線がすごい・・・体に孔が開きそうなほど見られる。水族館のジンベイザメやアザラシはこんな気持ちなのか・・・初日からこれでは先が思いやられる・・・。

 

「ハァ~・・・へビーだな・・・」

 

小さく呟いた。

 

 

入学式も無事に終わり、今はクラスでHR中である。

俺は1年1組。

もう一人の男性操縦者と同じ組である。

良かった・・・。

などと考えていると、眼鏡を掛けた小柄な女性が教卓に立ち自己紹介を始めた。

 

「皆さん入学おめでとう。私はこの一組の副担の“山田真耶”です」

 

シーン・・・

緊張してるのか、はたまたクラスに居る男に興味津々なのか、何の反応も無い。

 

「え、えーっと、今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学校は全寮制。皆で助け合って楽しい3年間にしましょうね。それでは自己紹介をお願いします。出席番号順で・・・」

 

そして順番がまわって行き、もう一人の男性の番になった。

しかし、当の本人━━“織斑一夏”は何か考え事をしてるのか気付いていない。

 

「織斑一夏君!」

 

「は、はい!?」

 

彼は盛大に跳ね上がる。

 

「あのぉ、大声出しちゃってごめんなさい。でも『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれるかな?ダメかな?」

 

「そ、そんな謝らなくても・・・」

 

そして、意を決したように立ち上がる。

 

「ええ・・・お、織斑一夏です」

 

しばしの空白。

 

「え、えーっと・・・以上です!」

 

ズコッ!と何人かの生徒がずっこけた。

緊張しまくってるな。気持ちは分かるぞ、同志よ。

そういえば日本ではアルファベット順では無く、アイウエオ順とやらだったか?それに、名字が先で名前が最後だった筈だ。つまり、俺の場合はホーキンス・ウィリアムになるのか。

そんな事を考えていると俺の番になり、視線が集まる。

さて、腹を括るか・・・。

 

「えー、ウィリアム・ホーキンスです。アメリカから来ました。よろしくお願いします」

 

彼よりはマシな紹介が出来たかな?

などと考えていると、教室のドアが開き誰か入ってくる。

教師か?どこかで見た顔だな・・・。

 

「あぁ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けて悪かったな」

 

「い、いえ。副担任ですから、これくらいはしないと・・・」

 

山田先生が赤くなりながら、そう答える。

すると、黒スーツの人物が口を開いた。

 

「私が諸君の担任の“織斑千冬”だ。お前達を使い物になる操縦者にするのが私の仕事だ。以後、私の命令には従ってもらう。逆らうのは勝手だが、それ相応の覚悟はしておけ」

 

な、なんと言う暴力発言。まさに、歩く暴力装置だ!

 

「キャーーー!!本物の千冬様よ!」

 

「私、千冬様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

耳が痛い・・・!

 

「ハァ、全くなぜ毎年毎年こう言う奴らの担任を任されるんだ・・・」

 

と愚痴をこぼすとさらに燃え上がる女子一同。

 

「キャーーー!もっと叱って!罵って♡」

 

「でも、時には優しくしてぇ♡」

 

「そして、付け上がらない様に躾してぇ♡」

 

聞いて無い、俺は何も聞いて無いぞ・・・!

・・・ん?そうだ、織斑千冬って昔テレビで見たな。

確か最強のIS乗りだったか?スゴいな・・・そりゃこうもなるか?でも、そろそろ収拾がつかなくなるんじゃ・・・。

 

「静かにしろ!これより一時限目の授業を開始する。準備しろ!」

 

彼女の一喝で辺りが静まる。

一時間目からISの基礎知識やなんやらの勉強である。

入学前に座学はしてきたから、何とか理解が追い付く。が、それでもなかなか難しかった。向こうでの常識が覆されるような技術ばかりである。

まぁ、頑張るか。

そう思いながら、ペンを動かす手を再開させた。




無理矢理自分の趣味を通してしまった、、、。

やっぱり小説って書くの難しいですね。
次回でようやく一夏とのコンタクトです。


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第4話

相変わらず長ったらしい文で進展が遅いですが、これが限界です、、、


一時限目が終わり、休憩していると、声が掛かる。

 

「えーと、確かウィリアム・ホーキンスだったよな?俺は織斑一夏。同じ男同士仲良くしようぜ!」

 

彼からの初コンタクトだった。

当然この申し出を断る筈もなく

 

「そうだな、同性が居るのは心強い。俺はウィリアム・ホーキンス。気軽にウィルとでも呼んでくれ」

 

「そうか、なら俺も一夏で良いよ。これからよろしくな!」

 

二人は固く握手した。

すると、それにつられて一斉に他の生徒達が俺達を取り囲み、「織斑君てあの千冬様の弟なの!?」とか「ホーキンス君、日本語上手だね!」とか「好みのタイプは?」とか、とにかくマシンガンのように話しかけられる。

向こうでは涎を滴ながら荒い息遣いで「一×ウィル・・・グフフヘヘ・・・」とか言ってるし・・・。

何だよ、一×ウィルって・・・。

すると、一夏の目の前に一人の女性がやって来た。

 

「一夏、ちょっといいか?」

 

「箒?」

 

「ん?一夏、知り合いか?」

 

一夏は「ああ」と答える。

 

「すまない、一夏を少し借りても良いか?」

 

と聞いてくるので了承した。

・・・さて、どうしようか・・・。

女子生徒の視線が一斉に向き、脳内に警報が鳴り響く。

くそっ!RWR警報!ロックされた・・・!

なんて、考えていられる余裕もいずれ無くなるだろう・・・なんかみんな目がギラギラしてるし・・・。

 

 

二時限目

 

 

「━━であるからして、有事の際以外の逸脱したISの運用や危害を加えた場合、刑法によって罰せられ・・・」

 

ここも多少は聞き齧って来ている。

今のところは問題無い。

しかし、一夏の方は絶賛苦闘中である。

 

「織斑君、分からない所は有りますか?」

 

「はい、全部分かりません・・・」

 

全部か、山田先生が顔をひきつらせているぞ。

あ、一夏が織斑先生に叩かれた。先生、あまり人の頭を叩きすぎると、脳の細胞が死滅しますよ。何?必読と書かれた参考本を電話帳と間違えてポイした?・・・一夏、悪いがそれに関しては俺も弁護しかねるぞ。

 

この後、織斑先生から俺が一夏に教えてやれと言われた。

 

 

「でさぁ、千冬姉の怖い事なんのって・・・」

 

「ハッハッハッ、彼女にはダースベイダーのBGMが似合いそうだな」

 

授業が終わり一夏と他愛ない話をしていると、後ろから声をかけられた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

振り向くと、そこには金髪ロール、青い瞳につり目の女子生徒が立っていた。

おお・・・!縦ロールって実在していたのか・・・。とと、いかんいかん。話し掛けられたら応答しないとな。

 

「何か?」

 

「はい?」

 

俺と一夏が何の気な無しに応答すると、気に障ったらしい。

 

「まぁ!何ですのそのお返事は!このわたくし、“セシリア・オルコット”に話しかけられただけでも光栄だというのに!!」

 

凄い早口で怒られた。

なぁんか面倒なのに絡まれたな・・・。

すると、一夏が一言

 

「いや、ごめん。俺君のこと知らないし」

 

「!?」

 

セシリアがウィリアムの方にゆっくりと顔を向ける。

 

「ソーリー、俺も知らないな」

 

「!?!?」

 

彼女がワナワナと震え始める。

 

「このわたくしを知らない?イギリス代表候補生にして、入試主席のわたくしを・・・?」

 

そこに一夏が質問する。

 

「て言うか、代表候補生て何?」

 

「さぁ?読んで字の如くイギリスの代表の候補生。エリートとかじゃないか?」

 

「なるほど。エリートか!」

 

「そう!エリートですわ!まったく、男性のIS操縦者だと聞いてどんなものかと思えば、とんだお馬鹿さん達で拍子抜けですわ」

 

この娘、ポンポン言って来るな・・・。

 

「まぁ、でも、わたくしは優秀ですから、あなた達のような人間にも優しくしてあげますのよ?分からないことがあれば、まぁ、わたくしに泣いて頼まれたら教えて差し上げても良くってよ?何せ、わたくしは入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

しかし、思わぬ返事が返ってくる。

 

「あれ?俺も倒したぞ?教官」

 

「は、はぁ!?」

 

「倒したって言うか、いきなり突っ込んで来たのかわしたら、壁にぶつかって動かなくなったんだけどな」

 

「わたくしだけだと聞きましたが・・・」

 

「それ、女子ではって落ちじゃないのか?」

 

教官を倒したのか。やるな。

 

「ワオ、一夏やるじゃないか。因みに俺も倒したぞ?」

 

「あ、ああ、あなた達も教官を倒したって言いますの!?」

 

セシリアが迫ってくる。

 

「お、落ち着けって!な?」

 

「そ、そうだぞ?少しクールになれって」

 

「これが落ち着いていらr」

 

その時、チャイムが鳴る。

ナイスタイミングだ。

チャイムのせいで話を遮られた彼女は

 

「このお話の続きは、また改めて。よろしいですわね!」

 

と言いながら、席に戻って行った。

それを見届けながら、「参ったな」と、一夏と顔を見合せて俺も席に着いた。

 

 




やっぱり初めは高圧的ですね(笑)。


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第5話

今日は入学初日ということもあり、授業は早々に終わった。

この後セシリアに色々問い詰められのかと身構えていたが、何やら用事が有るらしく先に帰っていった。

俺は一夏と共にそれぞれ宛がわれた部屋に向かう。

 

「じゃあ、俺はこの部屋だから。また明日な」

 

「おう。スィーユー、一夏」

 

そう言って別れる。

 

 

部屋の内装は高級ホテルにも劣らない程だった。

荷物を降ろして、ベッドに寝転ぶ。

今日はとても内容の濃い一日だったな・・・。

なんて考えていると、遠くから一夏の悲鳴とドスッドスッドスッと何かを貫く音が聞こえた。

何事かと飛び起きて一夏の部屋へと向かうと、そこには顔を真っ青にした友人とそれを囲む女子生徒、そして孔だらけのドア。

・・・何だこの状況?

目の前の状況に困惑しているとドアが開いて中から袴姿の箒が出てきて一言「入れ」と言うと、一夏は大慌てで部屋に入っていった。

結局、一体何があったかも分からずこの場はお開きになった。

 

 

翌朝、食堂で一夏と箒と共に朝食を食べていると、声を掛けられた。

 

「織斑君、ホーキンス君、隣良いかな?」

 

そこには、一組の女子三人が立っていた。

 

「え?あぁ、別に良いけど。ウィルも良いよな?」

 

「あぁ、ノープロブレムだ」

 

すると、嬉しそうにハイタッチして、一夏の隣に座る。

 

「わぁ、織斑君とホーキンス君て、朝すごい食べるんだ」

 

俺達の皿を覗き込みながら驚きの声をあげる。

 

「て言うか、女子は朝それだけしか食べなくて平気なのか?」

 

「わ、私達は、ねぇ?」

 

「う、うん・・・平気かなぁ・・・」

 

苦笑いしながら言葉を濁す女子二人。

 

「お菓子いっぱい食べるし!」

 

そう言って、元気な声を上げる着ぐるみパジャマの女子。

すると、今まで無言で朝食を食べていた箒が

 

「私は先に行くぞ」

 

と言って去って行った。少し不機嫌そうに見えたが・・・。

 

「織斑君って篠ノ之さんと仲良いの?」

 

「確か同じ部屋だって聞いたけど」

 

「ああ、幼なじみだからな」

 

「「「え?幼なじみ?」」」

 

「成る程、初日から仲が良いと思ったらそう言う訳だったのか」

 

「あぁ、小学1年の時に剣道場に通うようになってから、4年生まで一緒のクラスだったんだ」

 

懐かしそうに語る。

すると、織斑先生が食堂に入って来て、手をパンパンと鳴らした。

 

「いつまで食べているんだ?食事は迅速に効率良く摂れ」

 

彼女の声に食堂は静まりかえり、カチャカチャと音を立てながら大急ぎで朝食を掻き込む女子生徒達。

 

「私は1年の寮長だ。遅刻したらグラウンド10周させるぞ」

 

まるで軍隊のようだな。と思いながら俺は食器を返しに行った。

 

 

一時限目

 

織斑先生が教卓に立つ。

 

「これより来週に行われる、クラス対抗戦に出る代表者を決める。クラス代表者は対抗戦だけでなく、生徒会や委員会の出席など、まぁ、クラス長と考えてもらって良い。自薦、他薦は問わない。誰か居ないか?」

 

成る程、クラス代表に選ばれたやつは責任重大だな。

 

「はい!織斑君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います」

 

「私はホーキンス君を推薦します!」

 

・・・マジか、まさか俺と一夏が推薦されるとはな。

 

「お、おれ!?」

 

一夏が狼狽する。

 

「ふむ、織斑に二票、ホーキンスに一票。・・・他にはいないのか?いないなら票差によって織斑が代表だぞ」

 

「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなn「納得いきませんわ!!」え?」

 

セシリアが机を叩きながら立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません!男がクラス代表だなんて、いい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえと言うのですか!?」

 

セシリアのタービンの回転数がどんどん上昇して行く。

 

「大体、文化としても後進的な国に暮らさないといけないこと自体わたくしにとっては耐え難い苦痛だと言うのに!よりにもよってその国の“男”が代表者だなんて最悪ですわ!!」

 

「おいおい、オルコット落ち着けよ━━」

 

「あなたもあなたですわ!『世界の警察』を謳っている“だけ”の威張り腐った国の“男”のくせに!」

 

・・・流石の俺も今のはカチンと来たぞ。

 

「とにかく!クラスの代表が男なのは反対です!」

 

「・・・言ってくれるな。イギリスだって━━」

 

「さっきから黙って聞いていれば、随分なもの言いだな」

 

「ウィル?」

 

一夏の言葉を遮って割り込む。

 

「イギリスだって紳士淑女ぶっているだけの古臭い国だろう。鰻のゼリー寄せ?スターゲイジーパイ?極めつけにはパンジャンドラムと来た。紅茶のキメすぎでクレイジーなんじゃないか?」

 

言ってやった。少しスッとしたが、言いすぎたか?

 

「なっ!?あ、あなた!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「お互い様だろう」

 

一夏と俺対セシリア。両者が睨み合う。

そしてセシリアが口を開いた。

 

「決闘ですわ!」

 

「あぁ、良いぜ。四の五の言うより分かりやすい」

 

「そうだな、望む所だ」

 

「態と負けたりしたら、わたくしの小間使い・・・いえ、奴隷にしますわよ?」

 

色んな意味で負けられないな。

 

「ハンデはどのくらい付ける?」

 

「は?・・・あら、さっそくお願いかしら?」

 

「いや、俺がどのくらいつけたらいのかなぁ?と」

 

教室中に笑い声が響く。

 

「織斑君、それ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かったのって、ISが出来る前の話だよ?」

 

「もし男と女が戦争したら三日保たないって言われてるよ?」

 

なにそれ、怖い・・・。しかし、いくら女性がISを使えても、三日で終わりはしないだろう。そんなのはただの誇張に過ぎん。

だが、彼女達が言ってる事にも一理ある。

 

「おい一夏、相手は代表候補生だぞ?分かってるのか?」

 

小声で彼を諭す。

 

「むしろわたくしがハンデをつけた方が良いのでは?と迷うくらいですわ。ふふ、日本の男子はジョークのセンスがあるのね。いっそ、お二人で芸人でも目指してはどうですか?」

 

イラッ

 

「おい一夏、手加減無しでやるぞ」

 

「あぁ、言われなくとも全力でやってやるさ」

 

「ねぇ、織斑君、ホーキンス君、今からでも遅くないよ。ハンデ付けてもらったら?」

 

「「必要無い」」

 

「えぇ・・・それは舐めすぎだよぉ」

 

「話は決まったようだな。それでは勝負は次の月曜、第三アリーナで行う。織斑、ホーキンス、オルコットの三名はそれぞれ用意をしておくように!」

 

こうして、各々が決闘に向けて意気込むのだった。

 



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第6話

決闘宣言から数日後

 

 

「織斑、お前のISだが、準備に時間がかかるぞ。予備の機体が無い。だから学園から専用機を用意するそうだ」

 

教室中がざわめく。

 

「専用機があってそんなに凄いことなのか?」

 

一夏がそう呟くと、セシリアが彼の前に立つ。

 

「それを聞いて安心しましたわ。クラス代表決定戦、わたくしとあなたでは勝負は見えていますけど、流石に私が専用機、あなたは通常機ではフェアーでは有りませんもの」

 

「オルコット、俺を忘れてもらっては困るんだが?これでも専用機持ちだ」

 

「あら、そうでしたの?まぁ、楽しみしておきますわ」

 

そう言いながら席に戻る。

 

「・・・山田先生、授業を」

 

「は、はい!それでは授業を始めます。今日は昨日の続きから━━━」

 

 

 

「━━━IS、インフィニット・ストラトスは操縦者の体を特殊なエネルギーバリアで包んでいます。ISには意識に似たようなものがあって、お互いの対話、つまり一緒に過ごした時間というか、操縦時間に比例してIS側も操縦者の特性を理解しようとします。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください。ここまでで質問のある人は?」

 

この後、山田先生のパートナー発言に対し生徒が質問した内容によってガールズトークが始まったのは置いておこう。

 

 

昼休みになり昼食に一夏を誘おうとしたが、箒と何か会話していたので、一人で食べに行った。

今日の昼飯は鯖の味噌煮定食。

この学園に来て魚をよく食べるようになったが、これがなかなか美味い。

俺は魚料理の虜になりつつあった。

 

 

昼休みが終わり、午後の授業も全て終わった後、一夏に一緒に剣道場に行かないか、と誘われた。

何でも、昼休みに俺がいない間、箒が彼にISの戦い方を教える事になったらしい。

だが・・・

 

「どう言う事だ?」

 

「ハァ、ハァ、どうって、言われても・・・」

 

「どうしてそこまで弱くなっている!中学では何部に所属していた?」

 

「帰宅部。3年連続皆勤賞だ」

 

「鍛え直す。IS以前の問題だ。これから放課後毎日3時間、私が稽古をつけてやる!」

 

それを見ていた俺は、あれ?じゃあISはどうなるんだ?もう日数そんなにないぞ?と思っていた。

しかし、そんな俺にも飛び火する。

 

「そ、そうだ。ならウィルはどうなんだ?」

 

・・・一夏、俺も巻き込んだな?

抗議の視線を送るも、サッと逸らされた。

 

「ウィリアム、剣道は出来るか?」

 

「正直出来ないことはないと思うが、ナイフより長い柄物は使い慣れていないぞ?そもそも剣道の経験自体無いしな・・・格闘ならそこそこ自信はあるが・・・」

 

「試しにやってみないか?」

 

 

 

結果は三本中、一点差で俺の負け。手加減されていたとしても、案外やれるもんだな。

 

「まったく、一夏も少しはウィリアムを見習ったらどうだ?」

 

いや、俺の場合は前世での訓練が身体に染み付いているおかげでもあるんだが・・・。

一夏はがっくりと肩を落とした。・・・ドンマイ。

 



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第7話

決闘当日

 

 

「なぁ、箒」

 

「何だ?」

 

「ISの事を教えてくれるって話だったよな?」

 

フイッと、箒がそっぽを向く。

 

「あ、目を逸らすな!一週間剣道の稽古ばかりだったじゃないか!」

 

彼の言う通り、この一週間ISのことには一切触れなかったのだ。

 

「し、仕方ないだろう!お前はIS以前の問題が山積みだったのだから!」

 

「ハァ、ここまで来て何をやってるんだか・・・」

 

溜め息を吐いて二人の言い合いを傍観していると、後ろから声を掛けられた。

 

「やぁ、ウィリアム君」

 

「あ、ジョーンズさん。どうも」

 

彼は“トレバー・ジョーンズ”アメリカ空軍技術中尉だ。

この決闘が初の本格的な実戦なので、急遽来日したのである。

 

「ウィリアム君、彼がもう一人の男性操縦者かい?」

 

一夏がこっちに気付く。

 

「ウィル、その人は?」

 

「おっと、失礼。僕はトレバー・ジョーンズ。織斑一夏君だね?よろしく」

 

二人が握手する。

 

「ジョーンズさんには、俺のISの最終調整とデータ収集のために来てもらったんだ」

 

「あぁ、そうだった。ウィリアム君、さっそく調整に入ろうか」

 

「分かりました。じゃあ一夏、また後でな」

 

そう言って、俺はISの調整をしに向かった。

ISの調整中に館内放送で、一夏の専用機がようやく届いたとの連絡があった。

こちらの調整も終わり、一夏の元に戻ると目の前には白色の真新しいISを纏った一夏がいた。

 

「それが一夏のISか?なかなか格好いいじゃないか」

 

「ウィルか。調整は終わったのか?」

 

「ああ、ついさっきな。それより、そろそろ試合だろ?頑張れよ」

 

「あぁ、行ってくる!」

 

 

結果は一夏の負け。

そもそも、ベテランと初心者という差がある上に相手は遠距離型、対して一夏はブレード一本。

よくやった方だ。

最後の最後でセシリアに肉薄するが、後少しの所でシールドエネルギー切れで終わった。

 

「あれは惜しかったな・・・」

 

無意識にそう呟く。

なんと一夏は初期設定の状態で交戦。戦闘中にファーストシフトを完了させたのだ。

俺も負けてられないな。

アリーナのピットに向かうと、一夏が先に帰ってきていた。

 

「一夏、お疲れ。惜しかったな」

 

「あぁ、後少しだったんだけどな・・・」

 

悔しそうにそう言って頭を掻く。

 

『ホーキンス、30分後に試合だ。準備しておけ』

 

織斑先生から放送でそう伝えられる。

 

「分かりました」

 

そう返事を返し、一夏と向き合う。

 

「一夏、仇は取ってやるからな」

 

「あぁ、頼むぜ」

 

お互いの拳と拳を軽く当てる。

 

「任せておけ」

 

ニヤリと笑い、準備に入った。

 

 

 

30分後

 

 

『ホーキンス、時間だ』

 

よし、やるか・・・!行くぞ相棒!

俺は『バスター・イーグル』を展開する。

見た目は戦闘機を背負った様で、他のISよりも一回り大型。そして制空迷彩の全身装甲(フルスキン)

酸素マスクと一体化したヘッドギアには鋭い目と、大きく裂け、牙を覗かせる口、『シャークマウス』がペイントされており、エアインテーク側面には、機体名を示すロゴがマーキングされている。

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

「すっげぇ・・・」

 

一夏が感嘆の声を漏らす。

そのままカタパルトに向かい、接続すると無線からジョーンズさんの声が響いた。

 

「じゃあ、ウィリアム君、簡易チェックを行うよ」

 

「了解」

 

そう良いながら、ヘッドギアの風防と一体化したバイザーを降ろし、APU(補助動力装置)を作動させる。

シュゴォォォ!という音と共に圧縮空気と電力がジェットエンジンに供給され、甲高い音が鳴り始める。

 

「じゃあ、ブレーキ、フラップ、スラットの確認を」

 

左翼と右翼の動翼を確認。それに伴い、翼の前縁部分と推力偏向ノズル(ベクタードノズル)とカナード翼も一緒に動く。

次はエアブレーキの確認だ。

背中でパタンパタンとブレーキのパーツが開閉する。

 

「チェック」

 

「兵装システムを確認。HMDバイザーを起動してくれ」

 

言われた通り起動する。

 

「グリーンライト確認。機関砲に切り替えを」

 

目の前に照準マーカーが投影される。

 

「よし、良いぞ。次はミサイルだ」

 

今度は『AAM RDY』と出てくる。

 

「どうだい?」

 

「完璧です。ミサイルシステムのトラッキング。武装とチャフ・フレアをチェック・・・」

 

全ての項目のチェックが終了すると同時にエンジン出力も安定してきた。

 

「よし、兵装及びカウンターメジャー(対抗手段)に異常無し。ラダー、フラップ、スラット、計器、全て異常無し。準備完了」

 

ハンドサインで合図を出す。

 

「まるで、テレビかゲームの中みたいだな・・・」

 

「一夏、離れてろ!ブラストでバーベキューになるぞ!」

 

後ろでボーッとしていた一夏が離れたのを確認すると、スゥッと息を吸い込み

 

「よし、ロックンロールだ!」

 

その言葉の後、軽い振動と共に後ろで立っていたみんなの顔が遠退いていく。

 

 

たった今、鋼鉄の猛禽が飛び立った。

 

 



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第8話

射出後、エンジンカバーを開き、ノズルを真下に向け、エアインテーク側面にも搭載されたVTOLノズルとPICを併用しながら空中に静止する。

 

「待たせたな」

 

「え、えぇ」

 

セシリアに一声掛けるも、様子がおかしい。

先程からチラチラと俺の後方━━一夏達が観戦している所を見ている。

 

「?」

 

いったい何なのか気になるが、まずは目先の事からだ。

試合開始のカウントが鳴る。

 

『5』

 

セシリアがハっとして、気合いを入れ直す。

 

『4』

 

俺も改めて集中する。

 

『3』

 

お互いの顔に緊張が走る。

 

『2』

 

マスターアーム、オン(安全装置解除)

 

兵装の安全装置を解除する。

 

『1』

 

機銃の持ち手を握り締める。

 

『試合始め!』

 

戦いの火蓋が切って落とされた。

 

始めに態とセシリアに上を取らせる。

予想通り、頭上からはビームの雨霰が降り注ぎ、俺は地面スレスレを飛びながら回避に専念する事にした。

 

 

「ウィル!あいつ何をやってるんだ?あれじゃあ一方的だ!」

 

一夏がそう言う。箒も同じ考えのようで、腕を組んだまま静かに頷いていた。

だが、ジョーンズの説明で二人は考えを改めることになる。

 

「いや、あれは態とだね」

 

「態と?」

 

「ああ。今、高度を上げると攻撃を諸に喰らってしまう。今はあのお嬢さんが上から一方的に攻撃してくるが、その内疲れと当たらないことからのイラつきで、自分から彼を追い回すようになる。そうなれば彼の独壇場だ。へばった所を狙って急所に数発叩き込む算段だろう」

 

まったく、本当に普通の15歳の青年が考えるような戦い方じゃないよ。と付け加えながら、ジョーンズは真剣な表情でメモ帳のようなものに文字を書き込んでいく。

 

「そんなにすごいんですか?」

 

「ああ。彼がまだ軍の基地でISの訓練中に戦闘機や教官のISの後ろを何度取ったことか・・・まぁ、教官には何度か反撃されてたけどね」

 

「軍の基地?何でアイツは軍隊に・・・?」

 

「彼はその存在上、彼自身を守る為に軍の所属と言う事になっているんだ」

 

「やっぱり、男だから・・・?」

 

「その通り」

 

箒の言葉にトレバーは短く答えた。

 

「それにしても、まだ訓練中にそんな腕前だったのか・・・すげぇぜウィル・・・!」

 

 

「最後のチャンスですわ。大人しく敗けを認めれば、許して差し上げてもよくってよ?」

 

無線から、セシリアが俺に降伏を促してくる。

 

「そう言うのは、まず一発でも当ててから言ってくれ」

 

ライフルやビットからのビーム攻撃を回避しながら言い返す。

こっちにだってプライドってもんがあるんだ。

 

「おっと、一機破壊だ」

 

正面に現れたビットを破壊する。

 

「どうした?降伏を促す割には掠りもしないぞ。これだけデカイ的だぜ?」

 

「くぅっ!ちょこまかと・・・!」

 

そろそろ我慢の限界か?

セシリアが高度を下げて、こちらの追撃に入った。

相変わらず後ろからは青いビームがこちらに目掛けて飛んでくる。

 

「っと、危ない」

 

飛んできたビームをバレルロールで回避する。

虚空を突き抜けたビームはアリーナのエネルギーシールドに命中した。

相変わらずビットからの攻撃がうるさい。ここがビルの建ち並ぶ摩天楼ならばもう少しマシだったかもしれんな。

 

「それならこれはどうですか?喰らいなさい!」

 

そんな事を考えていると、今度は誘導ミサイルが飛んで来た。

 

「おおぅ、ミサイルまで持っていたのか・・・」

 

乾いた電子警告音がそれの接近を知らせる。

後少しで命中する。

セシリアはそう思っただろう。

だが━━

 

「チャフ・フレア発射!」

 

ウィリアムのISの後方からオレンジに光る物体が多数射出され、ミサイルは目標をロスト。自爆した。

 

「なっ・・・!?」

 

だが、それだけでは終わらない。

彼は突然、水平飛行から一転して自身の体を90゜真上に傾けたのだ。

セシリアはフレアによるミサイル回避に気を取られ、彼を見失ってしまった。

 

「っ!?」

 

ようやく気付いてハッと振り替えると、そこには獲物を眼中に捉えた“鮫”がいた。

シャークマウスとウィリアム。4つの目に睨まれて思考が停止する。

ロックオン警報が鳴り響き、彼女は思考を無理矢理戻して回避行動に移った。

だが、どんなに動いてもどこに行ってもピッタリと喰らい付いてきて、全く放してくれない。

 

「くっ!いい加減離れなさい!」

 

そう言いながら後ろに向けてライフルのビームによる牽制射撃を行ってくるが、発射速度が遅い分、戦略爆撃機の後方機銃の方が脅威的だ。

いや、爆撃機はビットなんて代物は使ってこないから脅威度は変わらんか。

 

「離れて欲しかったら自力で引き剥がしてみろ。勿論、オーバーシュート狙いで減速した瞬間に蜂の巣になるがな。まあ、減速しなくてもどのみち撃ち落とさせてもらうが・・・」

 

広大なアリーナの中を縦横無尽に飛び続ける二機のIS。

 

「まさかここまで出来るとは・・・!」

 

「この手の事は得意な部類でね。男だって中々やれるもんだろ?・・・女尊男卑の世界の男でもプライドくらいは持ってる。現に一夏はブレード一本だけの戦力差でも果敢に挑んだ。無謀に見えたろ?お前に散々言われた事を見返す為だ」

 

「っ!!」

 

セシリアと会話しながら、ゆっくりと彼女を機銃の射程内に捕捉していくウィリアム。

 

「誰だってそうさ。自分を馬鹿にされてニコニコしていられる奴なんてそうは居ない。それは男女どちらも同じだ」

 

機銃の照準マーカーにブルーティアーズを完全に捕捉し、マーカーが緑から赤色に変色する。

そして

 

「フィナーレだ」

 

ジョーンズの呟きの後。

 

スプラッシュ1(敵機撃破)

 

機銃の掃射音と彼の撃墜コールがアリーナに響いた。

 

 

試合後

 

 

ウィリアムと彼のISがピットに進入してくる。

一夏が何か言っているが、エンジン音で聞こえない。

エンジンを停止してISを解除すると、ようやく声が聞き取れた。

 

「ウィル!お前すげぇよ!あれ何なんだ?」

 

「・・・あれ?」

 

「ほら、あの急減速!」

 

ああ、あれか・・・。

 

「あれはコブラ機動と言ってな、機体を無理矢理垂直にして空気抵抗を増やして減速する機動だ。機体を持ち上げた姿が蛇のコブラみたいだろ?」

 

そんな話をしていると、ジョーンズがやって来る。

 

「ウィリアム君、お疲れ様。君の戦いは目を見張る物だったよ」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ、データも収集出来たし僕はこれで」

 

そう言って、忙しそうにアリーナを後にする。

それを見送っていると。

興奮冷めやらぬ状態の一夏が「今度、色々と教えてくれよな!」と言って来る。

 

「オーケー、また今度教えてやるよ」

 

と返事をし、俺達もアリーナを後にした。

・・・そう言えば一夏の持ってたあの本、何だ?えらく厚かったが・・・。

 

 

学生寮 セシリアの部屋 シャワー室

 

 

なぜ、こんな気持ちになるのかしら・・・?確かにホーキンスさんには負けた。あれは完全に自分の負けだ。その上、彼に諭されてしまったのだ。自分の考えが愚かであった事を。

そして何より、彼の事が頭から離れない。

ウィリアムの言った通り、圧倒的な戦力差があったにも関わらずブレードを構えて勇敢に突撃して来た、あの男性の事が・・・。

 

「織斑、一夏・・・」

 

彼女の心の中で彼の見方が変わった。

 

 

 

 



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第9話

決闘の翌日 グラウンド

 

 

「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、ホーキンス、オルコット。試しに飛んでみろ」

 

白いジャージ姿の織斑先生が俺達にそう告げる。

 

「分かりましたわ」

 

セシリアが返事をすると。彼女のイヤーカフスが青く輝き、瞬時にISが展開された。

 

「よし・・・。あれ?えっと、おーい?」

 

一夏も展開しようとするが、なかなか反応せず、腕のガントレットを振ったりコツコツ叩いたりしている。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで1秒とかからないぞ」

 

横で展開に少し手間取るも、なんとか成功してジェットエンジンを始動中の俺にも目を向けてそう言って来る織斑先生。

手厳しいなぁ・・・。

少ししてから、ようやく一夏も展開に成功した。

 

「出来た・・・!」

 

「よし、飛べ!」

 

「はいっ!」

 

織斑先生の合図でセシリアが勢い良く飛んでいった。

気合い入ってるな・・・。

そう思いながら、俺も上昇していく。

遅れて一夏がフワフワしながら上がってきた。

 

「遅い、スペック上の出力では、オルコットのISより白式の方が上だぞ」

 

一夏を叱責する声が無線から聞こえる。

 

「そう言われても、自分の前方に角錐を展開させるイメージだっけ?ん~、よく分かんねぇ」

 

「イメージは所詮イメージ。自分のやり易い方法を模索するのが建設的でしてよ」

 

「そうだぞ一夏。すべてが教本通りとは限らない。自分のやり方で飛ぶんだ」

 

唸る一夏にセシリアと俺がアドバイスする。

・・・あれ?そう言えば、彼女はいつの間にあんなフレンドリーになったんだ?

 

「だいたい、空を飛ぶ感じ自体まだあやふやなんだよ。何で浮いてるんだ?これ」

 

「一夏、それを考え始めると永遠に終わらないぞ」

 

「その、よろしければ放課後に指導して差し上げますわよ?その時は、二人きりで・・・」

 

なんて話を聞いていると、織斑先生が呼び掛けてきた。

 

「ホーキンス、ここからはお前一人で飛べ。お前の飛行技術を見せてみろ」

 

思わず、ニヤリと笑ってしまう。

 

「イエス・ミス」

 

よし、取って置きの変態機動を見せてやろう。

機体を高速飛行形態にし、そのまま加速していく。

ある程度スピードがのったら、以前に使ったコブラ機動を行い、そのままの姿勢で右回りの側転をして逆立ちの状態になった。

この時点で、もう並みのISには真似出来ない機動だ。

しばらくしてから姿勢を水平に戻し、今度はコブラの後に完全に一回転する『クルビット機動』を行う。

下では、生徒達が俺の曲芸飛行を食い入る様に見上げていたので、ついでにサービスとして『ダブルクルビット』を披露した。

少し得意気になっていると、再度織斑先生から無線が入る。

 

「よし、もう良いぞ。三人とも、急降下と完全停止をやってみろ」

 

「りょ、了解です」

 

呆気に取られていたセシリアが反応し「お先に」と言い残し、そのまま急降下。地面にスレスレで停止する。

 

「はぇ・・・巧いもんだなぁ・・・よし」

 

と呟き一夏も降下する。

━━が、地面に見事なクレーターを作った。

 

「大丈夫なのか?あれ・・・」

 

そう呟きながら俺も降下してスレスレで停止し、ISを解除して彼の元に駆け寄る。

 

「一夏!」

 

「織斑君!」

 

「おい、一夏。大丈夫か?」

 

声を掛ける。

おいおい、顔が地面に埋まってるぞ?

 

「痛ってぇ。死ぬかと思った・・・」

 

「馬鹿者、グラウンドに穴を開けてどうする・・・」

 

「すみません・・・」

 

一夏が肩を落として、申し訳なさそうに謝る。

 

「情けないぞ一夏!私が教えたことをまだ━━うわっ!?」

 

一夏を叱責する箒を押し退け、セシリアが一夏の元に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか一夏さん、お怪我は無くって!?」

 

「あ、あぁ、大丈夫だけど・・・え?一夏“さん”!?」

 

「それは何よりですわ。あぁ、でも一応保健室で見てもらった方が良いですわね」

 

少し大袈裟じゃないか?まぁ、脳に損傷が行ってるとまずいしな・・・あの勢いで墜ちたし。

 

「確かにそうだな、脳に異常が無いかだk」

 

「無用だ」

 

箒が割って入る。

 

「ISを装備していて、怪我などするわけ無いだろう」

 

それにセシリアが反論する。

 

「あら、篠ノ之さん?他人を気遣うのは当然の事でしてよ?」

 

「お前が言うか。この猫被りめ!」

 

「鬼の皮を被っているよりはマシですわ!」

 

二人の間に火花が散る。

何で二人はこんなに仲悪いんだ?

一夏はそう思うのであった。

 

「あぁ、織斑」

 

「はい?」

 

「後でその穴埋めておけよ?」

 

泣きそうな顔でこちらを見てくる。

分かった、分かったから。そんな目で俺を見るなよ・・・。

 

 

IS学園 正門前

 

 

「ここがIS学園・・・フッ」

 

そこには大きなボストンバッグを肩に掛けた一人の少女が立っていた。

 




やっぱりフランカーシリーズの機動は凄いですね。


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第10話

放課後 食堂

 

 

「織斑君、クラス代表決定、おめでとう~!」

 

クラッカーが鳴る。

 

「「「おめでとう!」」」

 

拍手の音と祝福の声が食堂を埋め尽くす。

だが、一夏は疑問を口にする。

 

「何で俺がクラス代表なんだよ」

 

確かに、彼はセシリアとの決闘に負けた。疑問に思うのも当然だろう。俺だって分からない。

 

「それはわたくしが辞退したからですわ。まぁ、勝負はあなたの負けでしたが、それは考えてみると当然の事、何せわたくしが相手だったのですから」

 

一夏がムッとする。

 

「それで、まぁ、大人げない態度をとったことを反省しまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたの」

 

成る程、あの授業中の態度はそれが理由か・・・。

けど、それだけが理由ではないような気がする。何だろうか?

 

「良かったな、一夏。確かに負けはしたが、お前の力が認められたようだぞ?代表候補生を相手にあそこまでやれたんだ。俺は文句は無いぞ?」

 

「それで、その・・・あの時は失礼な事を言って、すみませんでした・・・」

 

セシリアが謝ってくる。

どうやら、高飛車ではあるが、根は優しいようだ。

 

「あぁ、俺もあの時は頭に血が昇っててな、悪かったよ」

 

「俺も、流石に言い過ぎた。すまなかったな」

 

一夏、俺の順に謝る。

良かった、なんとか和解出来た・・・。

 

「・・・人気者だな、一夏」

 

「そう思うか?」

 

「ふんっ」

 

「何でそんなに機嫌悪いんだよ・・・」

 

箒は面白く無さそうだが。

パシャッ

うおっ、何だ?カメラのフラッシュか?

 

「はいは~い、新聞部で~す!あ、私は2年の黛薫子(まゆずみ かおるこ)。よろしくね。はいこれ名刺」

 

うわぁ、随分と難しそうな漢字だな。

 

「あ、セシリアちゃんとホーキンス君も一緒に写真良いかな?」

 

「え?俺も?」

 

「そりゃ、注目の専用機持ちだからね」

 

「まず、織斑君とセシリアちゃんで握手してもらえるかな?」

 

「あ、あの!撮った写真は貰えますわよね!?」

 

「そりゃ勿論!あ、ホーキンス君は後で取材良いかな?セシリアちゃんとの闘いに勝った時の事とか聞きたいなぁって思って」

 

そう言いながら、ハイテンションで聞いてくる。

 

「え、ええ、良いですよ」

 

「ありがとう!じゃあまずは織斑君とセシリアちゃんからね━━」

 

 

 

結局、取材は長々と続いた。

ようやく解放された俺は部屋に戻ってシャワー浴びて、歯を磨いて・・・そこからは記憶が曖昧だ。

 

 

翌日

 

 

「ふわぁ~あぁ・・・」

 

「おはよう、ウィル。随分と眠そうだな」

 

「おぉ、一夏か、おはよう。昨日は遅くまで取材に付き合わされてな・・・」

 

「御愁傷様だな」

 

そんな会話をしていると、他の生徒の話が聞こえてきた。

 

「クラス対抗まで後少しだね」

 

「そう言えば、2組のクラス代表が変更になったって、聞いてる?」

 

「あぁ、何とかって転校生に変わったって話ね?」

 

その、“何とか”って所が気になる・・・。

 

「転校生?今の時期に?」

 

「確かに、こんな時期に転校なんて俺も聞いたことが無いぞ?」

 

「うん、中国から来た娘だって」

 

「ふふん、わたくしの存在を今さらながら危ぶんでの転校かしら?」

 

「どんな奴だろ?強いのかな?」

 

「ううん、今のところ専用機を持ってるのって、4組だけだから余裕だよ」

 

「いや、楽観は出来ないぞ?」

 

なんて話をしていると、入口から声が掛かる。

 

「その情報、古いよ!2組の代表も専用機持ちになったの。そう簡単に優勝出来ないから!」

 

振り返ると、そこには小柄で髪をツインテールにした、いかにも活発そうな少女が自身満々に立っていた。

 

「・・・鈴?お前、鈴か!?」

 

一夏が驚き立ち上がる。

 

「一夏、知り合いか?」

 

「あ、あぁ」

 

「そうよ!中国代表“凰鈴音(ファン リンイン)”今日は宣戦布告に来たって訳!」

 

教室中がどよめく。

 

「だ、誰ですの?一夏さんと親しそうに・・・!」

 

「鈴・・・お前なに格好着けてんだ?すっげぇ似合わねぇぞ?」

 

一夏・・・いきなり失礼な事を・・・。

 

「なっ!何て事言うのよ?!あんたはぁ! あうっ」

 

鈴が怒鳴った瞬間、織斑先生が彼女の頭頂部に拳骨を落とす。

 

「暴力装置だ・・・」

 

無意識にそう呟いてしまう。

 

「痛った~何すんのy・・・!」

 

抗議しようと振り返り、その存在に気付く。

 

「もうSHRの時間だぞ」

 

「ち、千冬さん・・・」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、邪魔だ」

 

「す、すいません。・・・また後で来るからね!逃げないでよ一夏!ふんっ」

 

そう言い残し、帰って行った。

 

「あいつが代表候補生・・・」

 

一夏は驚いたように呟く。

 

「ああ、ホーキンス」

 

「はい、何でしょう?」

 

「さっき、何か言わなかったか?」

 

「」

 

ジトーッと睨まれる。

聞かれてた!?て言うか、口から漏れてた!?

 

「い、いえ、気のせいでは?」

 

「・・・そうか」

 

あ、危なかった・・・!

午前の授業の用意をしながら、冷や汗を流すのだった。

 

 



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第11話

今回はウィリアムが少し黒くなります。


昼休み 食堂

 

 

「お前が2組の転校生だったとはな。連絡くれりゃ良かったのに」

 

因みに、俺達は今、食事を取りに行くために、列に並んでいる最中だ。

 

「そんな事したら、劇的な再会が台無しになっちゃうでしょ?」

 

成る程サプライズか・・・。

 

「なぁ、お前ってまだ千冬姉のこと苦手なのか?」

 

「そ、そんなこと無いわよ。ちょっと、その、得意じゃないだけよ・・・」

 

そう言いながら昼食を手に取る。

 

「相変わらず、ラーメン好きなんだな。ちょうど丸一年ぶりになるのか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。あんたこそ、たまには怪我、病気しなさいよ!」

 

「どういう希望だよそりゃぁ・・・」

 

そんなことを言いながら先に席に向かう二人を眺めながら、俺もメニューを選ぶ。

さっきから、箒とセシリアがあの二人をめちゃくちゃ睨んでるな・・・。

正直少し怖い位だ。

今日の、メニューは焼きサンマ定食だ。

再会を喜び、積もる話をする一夏と鈴を横目に魚料理に舌鼓を打つ。

聞こえてきた話だと、そもそも一夏がISを動かしたのは丁度、受験シーズン。会場で道に迷い、そこで偶然ISを発見、興味本意で触れたら動いてしまったらしい。

苦労するな・・・。

なんて思っていると、とうとう痺れを切らした箒とセシリアがつかつかと彼等のテーブルに歩いていく。

 

「一夏、そろそろどういう事か説明しろ」

 

「そうですわ一夏さん、まさかこの方と、つ、つつつっ!付き合ってらっしゃいますの!?」

 

昼食を手早く済ませて、俺も一夏の元に向かう。

 

「まぁ、付き合う云々はどうでも良いとして━━」

 

「どうでも良くないっ!」

 

「どうでも良くありませんわっ!」

 

「お、おう・・・ま、まぁ二人がどういう関係なのかは俺も気になるな」

 

箒とセシリアの剣幕に気圧されてしまった。

 

「つ、付き合ってなんて・・・」

 

「そうだぞ、ただの幼なじみだよ」

 

鈴が何か言いたそうに一夏を睨む。

 

「ん?どうかしたか?」

 

「な、何でもないわよ・・・」

 

プイッと頬を軽く膨らませ、顔を反らす。

あ、今の少し可愛かったかも・・・。

 

「お、幼なじみ?」

 

「そうか。丁度お前と入れ違いで転校してきたからな・・・。篠ノ之箒。前にお前に話しただろ?箒はファースト幼なじみでお前はセカンド幼なじみってところだ」

 

「成る程、そう言う訳だったのか」

 

一夏の説明に、ウィリアムは納得したようにゆっくりと頷いた。

 

「ファースト・・・」

 

箒が嬉しそうに呟く。

 

「ふーん、そうなんだ。初めまして、これからよろしくね?」

 

「ああ、こちらこそ」

 

箒と鈴が握手する。

 

「ウィリアム・ホーキンスだ。気軽にウィルで良い。よろしくな」

 

「アンタがもう一人の男の操縦者ね?アタシも鈴で良いわ。よろしく」

 

「コホン、わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。わたくしはセシリア・オルコット。イギリスの代表候補生ですわ。一夏さんとは先日、クラス代表の座を賭けて━━」

 

「アンタ、一組の代表になったんだって?」

 

「あ、あぁ。成り行きでな・・・」

 

セシリアの話そっちのけで、また一夏と話始める。

 

「良かったら、アタシが練習見てあげようか?ISの操縦の」

 

「ハハッそりゃぁ助かる」

 

「━━って、ちょっと!聞いていらっしゃるの!?」

 

無視されたことに気付き、声を荒げるセシリア。

 

「ごめん、アタシ興味無いから」

 

ワオ、バッサリと言ったな・・・。

 

「言ってくれますわね・・・!」

 

そこへ箒が乱入する。

 

「一夏に教えるのは、私の役目だ!」

 

「あなたは2組でしょう?敵の施しは受けませんわ!」

 

「アタシは一夏と話てんの。関係無い人達は引っ込んでてよ」

 

止めるんだ鈴、それ以上火にガソリンを注ぐな。

 

「あなたこそ、後から来て何を図々しい事を!」

 

ほらぁ・・・こうなるだろ?

 

「後からじゃないけどね。アタシの方が付き合い長いんだし」

 

「っ!?それなら私の方が長い!一夏は何度も家で食事している間柄だ!」

 

しかし鈴はここで油どころか、今度はJDAM爆弾(ジェイダム)を投下しやがった。

 

「それなら、アタシもそうだけど?」

 

「「え?」」

 

「一夏はしょっちゅう家に来て食事してたのよ?小学校の頃からね」

 

二人がプルプルと震える。

いつの間にか自慢大会みたいになってるし・・・。

俺は蚊帳の外だ。

おのれ、一夏!羨ましい、妬ましい・・・!

話がどんどんヒートアップしてい行き、一夏がこちらに助けを求めるように目を合わせて来た。

友達の危機だ。どうするかって?

もちろん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最高に良いエガオをしながら親指で首を掻き切る仕草をして食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 



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第12話

放課後 

 

今、俺達はアリーナに居る。

 

「どういう事ですの?これは」

 

セシリアが不満そうな声を漏らす。

 

「訓練機の使用許可が降りたのだ。今日からこれで特訓に付き合う」

 

箒がISの腕の動作確認をしながら答える。

 

「『打鉄』・・・日本の量産型ですわね。まさかこんなにあっさりと使用許可が降りるなんて・・・」

 

そして確認を終えた箒が、虚空からIS用のブレードを取り出して構える。

 

「では一夏。始めるとしよう」

 

「お、おう」

 

一夏も構え直す。

 

「お待ちなさい!一夏さんと特訓するのはこのわたくしでしてよ!」

 

そう言いながらセシリアがISを展開する。

 

「さぁ、一夏練習開始だ!」

 

「お相手しますわ一夏さん!」

 

「うわぁ!?待て待て、2対1かよ!ウィル、手を貸してくれ!」 

 

「オーケー、ちょっと待ってろ」

 

俺もISは展開していたので、エンジンを始動させながら一夏の加勢に向かった。

 

 

 

空も大分暗くなってきた頃。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

一夏は完全にダウン。地面に仰向けになり、肩で息をしている。

正直言うと、俺も結構疲れた。

 

「今日はこのくらいにしておきましょう」

 

「お、おう」

 

「ふん、鍛えてないからそうなるのだ」

 

「いや、代表候補生と剣道部員が相手じゃこうなるって・・・」

 

「だからウィリアムが加勢してくれていただろう」

 

「いや、これは一夏の特訓だからな。俺はここぞという時以外は手は出してないぞ?だが一夏、確かに少しばかりスタミナが心許ないな」

 

「確かにな・・・俺も鍛えるか」

 

「では一夏さん、また後程」

 

そう言いながら、セシリアが去っていく。

 

「何をしている、早く我々も帰るぞ?」

 

「あぁ、悪い、先に帰っててくれ。俺はまだ動けない・・・」

 

「仕方無い奴だな、シャワーは先に使わせてもらうぞ?ではな、一夏、ウィリアム」

 

そう言って彼女も帰って行った。

 

「おい、一夏、立てるか?こんな所に何時までも居たら汗が冷えちまう。風邪ひく前に戻るぞ?」

 

「・・・そうだな。戻るか」

 

二人で更衣室に向かって歩いていった。

 

 

 

「これからクラス対抗戦までずっとこの調子かよ・・・」

 

「そう言うなよ一夏。俺も手伝ってやるから・・・」

 

なんて話をしていると、声が掛かる。

 

「お疲れ、一夏、ウィル」

 

鈴がスポーツドリンクを持って入ってきた。

 

「飲み物はスポーツドリンクで良いよね?はい」

 

そう言いながら、笑顔で手渡してくる。

 

「あぁ、サンキュー。いただくよ」

 

気配りの出来る娘だなぁ。と、染々思う。

 

「何だ?お前ずっと待っててくれたのか」

 

「ふふん、まあね」

 

おっと、これは邪魔しちゃ悪いか?

本能で察する。

 

「っと、じゃあ俺はこれで。一夏、またな。鈴、スポドリサンキュー」

 

そう言いながら、俺は更衣室を後にした。

 

 

帰りに缶コーヒーを買って自室でゆっくりしていると、一夏の部屋の辺りから声が聞こえてきた。

 

「騒々しいなぁ、一夏が居るところは何時もこうなのか?」

 

まぁ、一夏は良い奴だし、退屈もしないし、これ位が丁度良い。

そう思いながら、部屋を出て何事かと見に行く。

 

 

 

「と言う訳だから、部屋変わって?」

 

「ふざけるな!なぜ私が・・・!」

 

そこでは、ちょっとした女の闘いが繰り広げられていた。

 

「いやぁ、篠ノ之さんも、男と同室なんて嫌でしょ?」

 

「べ、別に嫌とは言っていない。それに、これは私と一夏の問題だ!」

 

「大丈夫、アタシも幼なじみだから。ねぇ、一夏?」

 

「お、俺に振るなよ・・・」

 

箒と鈴が言い合っている隙に一夏に事の成り行きを聞く。

 

「おい、一夏、どういう状況だ?これ」

 

「さ、さぁ?俺にも何が何だか・・・」

 

本人も理解出来ていないのか・・・。

 

「とにかく、部屋は替わらない。自分の部屋に戻れ!」

 

「・・・ところでさぁ、一夏?約束覚えてる?」

 

話を無理やり曲げやがったよこの娘!

 

「約束?」

 

「そう!小学校の時の」

 

「~~~!無視するな!!こうなったら・・・!」

 

箒が竹刀が立て掛けてある方に向かう。

・・・まさか!

 

「ストップ!やり過ぎだ!」

 

「お、おい、箒!馬鹿!」

 

「はぁぁっ!」

 

竹刀を振り下ろす。

不味い、間に合わん・・・!

そう思った瞬間、鈴がISを右手だけ展開してそれを防いだ。

 

「部分展開、早い・・・!」

 

一夏が驚いて声を漏らす。

危なかった・・・。

 

「・・・今の、生身の人間なら本気で危ないよ?」

 

「ッ!?」

 

鈴に言われて、ようやく我に還る箒。

 

「ま、良いけどね」

 

なんとか、落ち着いたようだ。

 

「そ、そうだ!約束がどうとか言ってたよな?何の話だ?」

 

一夏が場の空気を戻そうとする。

一夏、ナイスだ。

 

「あぁ・・・あのさ、えっと・・・覚えてる、よね?」

 

「えっとぉ、あぁ、あれか?鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を━━」

 

「そう、それ!」

 

鈴の顔がみるみる明るくなってくる。

・・・だが。

 

「━━━奢ってくれるってやつか?」

 

「・・・はい?」

 

「だから、俺に毎日飯をご馳走してくれるって約束だろ?いやぁ、一人暮らしの身にはありがた━━━うわぁ!?え?」

 

一夏の左頬に鈴の平手打ちが炸裂した。

 

「最っ低!」

 

「あの、だな、鈴?」

 

「女の子との約束をちゃんと覚えて無いなんて!男の風上にも置けない奴!犬に噛まれて死ね!!」

 

「何で怒ってるんだよ。ちゃんと覚えてただろうが」

 

「約束の意味が違うのよ意味が!」

 

意味?どういう事だろうか?俺にもそう聞こえるんだが・・・。何かの言い回しか?

 

「そこ!意味が分からないみたいな顔しない!」

 

えぇ・・・俺もとばっちり?

 

「だから、説明してくれよ。どんな意味があるってんだ!」

 

「俺も気になるな」

 

「せ、説明って・・・そんな、出来るわけ無いでしょうが。・・・じゃあ、こうしましょ?来週のクラス対抗戦、勝った方が負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられる」

 

「おぅ、良いぜ。俺が勝ったら説明してもらうからな?」

 

「そっちこそ、覚悟して置きなさいよ!?」

 

そう言い残し、帰って行った。

 

「一夏・・・」

 

「お?何だ?」

 

「馬に蹴られて死ねっ」

 

「え!?」

 

「一夏、お前やっぱり何かしたんじゃないか?」

 

「な、何かって何だよ?」

 

「さぁ?俺にもよく分からんが・・・。まぁいい、俺も帰るよ。スィーユー」

 

「あぁ、お休み」

 

 

 

自室のベッドに寝転び電気を消す。

・・・それにしても、あれはどういう意味なんだ?

 

まだまだ、日本文化?に疎いウィリアムであった。

 

 

 

 

 

 



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第13話

クラス対抗戦当日 ピット内

 

 

「初戦から鈴が相手か・・・」

 

一夏がそう呟くと、彼のISのモニターに別のISが投影される。

 

「あちらのISは『甲龍(シェンロン)』。織斑君の白式と同じ、近接格闘型です」

 

山本先生が説明する。

成る程、デカイ図体して近接戦が得意なのか・・・見た目に依らないな。あの肩の部分のパーツは飾りではないな。何かの武装か?

 

「わたくしの時とは勝手が違いましてよ?油断は禁物ですわ」

 

「固くなるな。練習の時と同じようにやれば大丈夫だ」

 

「あぁ、冷静に対処すればいけるだろう。ただ、あの肩の兵装には気を付けろよ?何かは分からんが大人しくはやられてはくれないはずだ」

 

「あぁ、分かった。けど・・・あれで殴られたらすげぇ痛そうだな・・・」

 

鈴ISに装備された巨大な近接武器を見て身震いする。

アリーナの天井が開き、青い空が現れる。

 

『それでは、両者規定の位置まで移動して下さい』

 

全体放送でそう伝えられ、一夏がアリーナ中央の競技場に飛び出した。

 

 

一夏が出た後、鈴と二人で何か話しているようだが・・・。

 

『それでは、両者試合を開始して下さい』

 

二人が各々の武装を取り出す。

先に動いたのは一夏だ。

鈴に突撃する。

対する鈴は余裕そうだ。

空中で両者ががぶつかり合う。

 

「一夏、初撃はなんとかかわせたか・・・」

 

今度は鈴が二刀流になって、一夏に迫る。

今度は少し押され気味だ。

 

「一夏・・・」

 

「あぁ、もう!何をしてらっしゃいますの?!わたくしの教えて差し上げたクロスグリッドターンを使いなさい!」

 

「おいおい、落ち着けセシリア。まだこれからだ」

 

そう言いながら彼女を嗜める

だが状況は一夏が劣性だ。彼は攻撃すら出来ず、鈴の猛攻を防ぐのみ。

そして一夏が一端距離を置こうとした、その時、鈴のISの肩部が光り、彼の後ろで爆発が起きた。

 

「ワッツ!?何が起こった!?」

 

何が起こったのか分からない。

箒も同じの様だ。

 

「衝撃砲ですね。空間自体に圧力を掛けて砲弾を打ち出す武器です」

 

山田先生がそう説明する。

 

「わたくしのブルーティアーズと同じ、第3世代兵器ですわね」

 

「しかも、あの衝撃砲は砲身の射角が、ほぼ制限無しで撃てるようです」

 

「射角制限無しの見えない砲弾・・・。反則級だな」

 

思わずひきつった笑いが出る。

ん?向こうでも動きがあった様だな。

 

「織斑君、何かするつもりですね・・・」

 

「・・・イグニッションブーストだろう。私が教えた」

 

先程まで無言で画面を見ていた織斑先生が口を開いた。

全員が彼女に注目する。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)?」

 

セシリアがおうむ返しする。

 

「一瞬で、トップスピードを出し、敵に接近する奇襲攻撃だ。出し所さえ間違えなければ、あいつでも代表候補生と互角に渡り合える。ただし、通用するのは一回だけだ」

 

「成る程、つまり一夏はそれで、一気に肉薄して片を着けるつもりか・・・」

 

いくら射角無限でもゼロ距離なら簡単には使えない。ということか。

織斑先生は「そうだ」と言って、また画面に目を戻す。

そして一夏が鈴の一瞬をついて、瞬時加速(イグニッションブースト)を行い、一気に肉薄しようとした刹那━━

 

 

別の攻撃によって、地面に巨大な爆発が起きた。

会場が騒然となる。

さっきから、会場全体が揺れている。

 

「何?何が起きましたの!?」

 

「一夏・・・!」

 

「何だ?何か他の兵装を使用したのか?」

 

「システム破損!?何かがアリーナの遮断シールドを貫通して来たみたいです!」

 

と言うことは、外からの攻撃か?!

俺は何か嫌な予感がしてコントロールルームを離れる。

行き先はもちろん競技場だ。

ピットに入ってISを展開。

時間が無いので、APUを作動させながらPICで飛行し、競技場に侵入する。

やっとジェットエンジンが回り、戦闘準備が完了した。

その時、アリーナの観戦席への出入口が一斉に閉じ始めた。

侵入して来た“何か”から生徒達とお偉方を守る為だろうか。

どうやら既に一夏と鈴はソレの存在に気付いているようだ。無線越しに「逃げろ」とか「置いていけない」とか言い合いしている。

そんな言い合いをしていると、煙の中からビームが放たれた。

狙いは鈴だ。

それを一夏が間一髪で助ける。

 

「危なかった・・・」

 

だが、攻撃は尚も続く。

俺は上空を旋回しながら、煙の中心を睨む。

 

「いやがった・・・!」

 

煙の中から現れた“ソレ”は腕が長く頭部は体と同化し、首関節が無く、歪な複眼を持っていた。

正直とても悪趣味だ。

 

「お前、何者だ!?」

 

一夏が襲撃者に問う。

だが相手は答えない。

 

「答えろ!お前は何者だ?何が目的だ?」

 

それでも答えない。

 

「一夏、聞こえるか!?」

 

「ウィル!?どこだ?」

 

「上だ」

 

一夏が上を見上げる。

 

「いつの間に・・・」

 

「ついさっきだ。それより、大丈夫か?敵はこっちでも確認出来たが・・・。悪趣味な機体だぜ。設計者は変態だな」

 

「ああ、こっちはなんとか無事だ。それよりもアイツの目的がさっぱりなんだ。呼び掛けにも応じない」

 

「ああ、こちらでも確認した」

 

その時、山田先生から無線が入る。

 

「織斑君、ホーキンス君、鳳さん、今直ぐにアリーナから脱出して下さい!直ぐに先生達が制圧にむかいます!」

 

一夏が異論を唱える。

 

「いや、みんなが逃げるまで食い止めないと」

 

「一夏の言う通りです。それでは間に合いません!俺達は戦えます!」

 

「で、ですが・・・。でも、いけません!三人とも早く!」

 

無線越しに、悲鳴にも似た声が脱出を催促する。

 

「・・・良いな?鈴、ウィル」

 

「だ、誰に言ってるのよ。それより、離しなさいってば!」

 

因みに現在、一夏は鈴にお姫様抱っこ、と言うのをしている。

まぁ、咄嗟の事だったから仕方ない。

無人機がこちらを向く。

 

「よし、やるぞ!せっかくのお客様だ、盛大に持て成してやろうぜ!」

 

「あぁ!」

 

「分かったわ!」

 

こうして、無粋な来客者に対する持て成しが始まった。

 

 

 



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第14話

所属不明機との戦闘を開始から数分経過、相手は一夏と鈴に攻撃に攻撃を集中させており、俺には目もくれてない。チャンスだ。

敵の背中に機銃掃射をお見舞いする。

すると、敵が今度は俺にターゲットを絞って攻撃をしてきた。

 

「ヤバッ!」

 

目が合った。

敵が何かをしている。

・・・!飛んだ?!あの図体でか!?

速度は遅くても、機動力は良い様だ。

 

「まったく、どこぞの重装攻撃機みたいだな!」

 

接近され過ぎると面倒だ。

敵は尚もしつこくビームを撃ちながら接近しようとしてくる。

 

「下手くそ!どこを狙ってやがる!」

 

だが、俺を狙っているということは、一夏達に攻撃の隙が出来るということだ。

しかし、ある程度攻撃をしてくると、途端に静かになった。

・・・こいつ、何がしたいんだ?

 

「なぁ、鈴、ウィル。あいつの攻撃、なんか機械じみてないか?」

 

「何言ってるのよ、ISは機械じゃない」

 

「そう言うのじゃなくてだな・・・」

 

「・・・あれが無人機だとでも?」

 

俺は片眉を上げた表情のまま、顔だけを一夏の方に向ける。

 

「そう、それだ。あれって本当に人が乗ってるのか?」

 

「はぁ?人が乗らなきゃISは動か━━━!」

 

そう言いかけて、何かを思い出す鈴。

 

「そう言えばアレ、さっきからアタシ達が会話している時ってあんまり攻撃して来ないわよね・・・?」

 

「あぁ、まるで俺達の様子を伺っているみたいだな」

 

「だろ?」

 

「ううん、でも無人機なんてあり得ない。ISは人が乗らないと絶対に動かない。そういうモノだもの・・・」

 

首を横に振って、そう否定する。

しかし、あれがISなのかどうかも怪しいところだ。

 

「仮に・・・仮に無人機だったらどうだ?」

 

「何?無人機だったら勝てるって言うの?」

 

「ああ、人が乗っていないなら」

 

彼の言いたいことを予想する。

 

「容赦なく攻撃出来る。か?」

 

「そう言うことだ」

 

「そう言うことって・・・」

 

「ああ、零落白夜。雪片弐型の全力攻撃だ。雪片弐型の攻撃力は恐らく高すぎるんだ。訓練や学内対戦で使うわけにはいかない。でも、相手が無人機なら、全力でやれる」

 

「零落白夜だか、何だか知らないけど、その攻撃自体、当たらないじゃない」

 

「それなら、提案がある」

 

俺は主翼下のハードポイントに無誘導爆弾を呼び出した。

 

「何か良い案があるのか?」

 

「ああ。こいつをあの無人機の足元にぶち込んでやるのさ。威力はあるから、あんな奴でも容易くズタズタに出来る筈だ」

 

「・・・なるほど。よし!それなら勝てる!」

 

「ふぅ、言い切ったわね?そんな事あり得ないけど、アレが無人機だと仮定して攻めましょうか!」

 

「それじゃあ。鈴、俺が合図したら最大威力で衝撃砲を撃ってくれ。そしてその隙にウィルが爆弾を投下。その後、俺が零落白夜を叩き込んでとどめを刺す!」

 

「良いけど、当たらないわよ?」

 

「良いさ、当たらなくても」

 

「よし、作戦は纏まった。やってやろうぜ!」

 

その時━━

 

「一夏!!」

 

「うお!」

 

「な、何だ!?」

 

アリーナのピット方面から誰かの声が轟く。

声のした方角へと顔を動かすと、そこには箒が立っていた。

 

「男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくて何とする!!」

 

ピクリと、無人機が反応する。

 

「あの馬鹿っ!一夏、ヤバイぞ!」

 

「っ!!まずい、箒逃げろ!」

 

無人機は箒に向かって腕を伸ばし、ビームの発射態勢を取る。

 

「ウィル!」

 

「任せろ!」

 

一夏の声に反応して爆弾を投下。それは重力に従って落下して行き、敵の足元に着弾する。

しかし、狙いが少し浅かったのか脚を半分吹き飛ばすだけに終わっていた。

敵は脚を失っても尚、千切れた膝関節の部分で無理矢理立っている。

それでも何とか箒に向けて行われようとしていた発射は食い止めれたようだ。

 

「鈴!やれぇ!!」

 

「分かった!」

 

すると、衝撃砲の発射態勢を取る鈴の前に一夏が出る。

 

「ちょっ!何をしてるのよ?!退きなさいよ!」

 

「一夏、何をしている!?」

 

「良いから撃て!」

 

「うっ・・・もう!どうなっても知らないわよ!」

 

一夏の剣幕に圧され、鈴は戸惑いながらも衝撃砲を発射する。

━━がしかし、一夏は吹き飛ぶどころか、衝撃砲のエネルギーを使って弾丸のように無人機へ突進して行った。

 

「なんて荒業だ・・・!」

 

そんな呟きも、一夏の雄叫びにかき消される。

 

「うおぉぉぉおおお!!」

 

そのまま最大出力で突撃。

無人機はそれに気付いて殴り掛かってくるが、その腕を切断する。

だが、流石は無人機。微塵も慌てず、腕を犠牲にカウンターを仕掛けて、一夏を殴り飛ばした。

そのまま、一夏の元に這いずるように歩いて行き、今度こそ終わりだと言わんばかりにビーム砲を向ける。

━━しかし。

 

「・・・狙いは?」

 

「ああ、バッチリだ」

 

無人機の背後。そこには主翼下のハードポイントに空対地ミサイル(AGM)を呼び出し、それを向けるウィリアムの姿があった。

この距離なら絶対に外さない。

 

「今日は災難だな」

 

そう無人機に対して言い放ち、ミサイルを切り離した。

無人機は振り返って迎撃しようとするが、もう遅い。

発射されたミサイルは無人機の胸部に直撃。炸薬が爆ぜ、大きな黒煙が上がった。

 

「ふぅ、何とかなったな」

 

「全く。冷や冷やさせてくれるな、お前は。立てるか?」

 

誰もが勝利を確信していた。

 

━警告 ロックされています━

 

「「!?」」

 

「一夏!ウィル!アイツまだ動いてる!」

 

あの成りで主力戦車顔負けの装甲かよ・・・!?

黒煙の中に立つ無人機から、極太のビームがこちらに向けて発射される。

この距離ではかわせない。ならば━━

 

「「うおぉぉおおぉぉ!!」」

 

二人は雄叫びを上げながら無人機に真正面から突撃した。

そして、目の前が白くなって━━

 



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第15話

目が覚めると、俺はベッドに寝かされていた。

・・・知らない天井だ。

 

「わ!?ひゃあ!?」

 

ん?隣のベッドに誰か居るのか?

 

「何してんの?お前」

 

「お、おお、起きてたの!?」

 

この声は一夏と鈴か。

 

「何そんなに焦ってるんだ?」

 

「あ、焦ってなんか無いわよ!勝手なこと言わないでよ。馬鹿ぁ!」

 

慌てて否定する鈴。

面白そうだから、もう少し狸寝入りをしておこう。

 

「・・・あのISはどうした?」

 

それは俺も気になっていた。

なんせ途中からの記憶が無いからな・・・。

 

「動かなくなったわ。心配しなくても、怪我人はアンタとウィル意外無し」

 

「そ、そうだ!あいつは!?」

 

そろそろ限界か?

 

「・・・ノープロブレムだ。五体満足で生きてるよ」

 

「そうか、良かった・・・」

 

一夏は安堵の息を漏らす。

 

「なぁ、小学校の時、酢豚の話したのも、こんな夕方だったよな?」

 

「え?」

 

「あの約束って、もしかして違う意味なのか?」

 

あぁ、あの話か・・・。

因みに俺はあの騒動の後少し興味本意で調べてみた。その結果・・・。

ニヤニヤした顔で二人を見守る。

こんな事するのは無粋だが、部屋を出てやりたくても身体中が痛くて動けないのだ。

 

「俺はてっきりタダ飯を食わせてくれると思っていたんだが・・・」

 

「ち、違うの!いえ、違わないわよ!」

 

いや、どっちだよ・・・。

 

「だ、誰かに食べてもらったら、料理って上達するじゃない?ア、アハハハハ・・・」

 

鈴、敗れたり。

 

「お前の酢豚も食ってみたいけどさ、鈴の親父さんの料理、美味いもんな?また食べたいぜ」

 

すると、鈴が顔を曇らせた。

一夏の奴、地雷でも踏んだのか?

 

「あ、その・・・お店はしてないんだ・・・」

 

「え?何で?」

 

「アタシの両親、離婚しちゃったから・・・」

 

・・・成る程、そう言うことだったのか。

無言で彼女の言葉を聞く。

 

「国に帰ることになったのも、そのせいなんだよね」

 

「っ・・・」

 

一夏が悲しそうな顔をする。

 

「なぁ、鈴」

 

「うん?」

 

「今度、どっか遊びに行くか」

 

「え?それって、デート?」

 

鈴の表情がみるみる明るくなって行く。

良いぞ、一夏。ナイスだ。

鈴に気付かれないように、一夏にサムズアップしながら、ウィンクする。

その時、ドアが開いて、セシリアが入って来た。

 

「一夏さ~ん♪具合はいかがですか?わたくしが看護に来て・・・うっ」

 

先客に気付く。

 

「・・・え?」

 

「ど、どうしてあなたが・・・!」

 

早歩きで鈴に迫る。

 

「一夏さんが起きるまで、抜け駆けは無しと言ったでしょう!?」

 

「そう言うお前も、私に隠れて抜け駆けしようとしていたな?」

 

新たな来訪者、箒が入ってくる。

 

「そ、それは・・・」

 

「うぐぐぐぐぐぐ・・・!二人とも出てってよ!!一夏はアタシの幼なじみなんだから!」

 

鈴が大声で退室を促す。

アタシの、の所だけ随分と力が込もっているな。

 

「それなら私も!」

 

「大体、2組のあなたが!」

 

三人が言い合いを始める。

これ、もう収拾がつかないんじゃ・・・。

なんて思い、溜め息を溢す。

 

「・・・あれ?千冬姉は?」

 

「?そう言えば・・・」

 

「どこ行っちゃったのかしら?」

 

「さっきまで私達と一緒に居たんだがな」

 

どうやら、誰も知らないらしい。

まぁ、居ないなら仕方無い。先生も事態の収拾に追われているのだろう。

彼女も大変だなぁ。と思いながらベッドに転がるウィリアムであった。

 



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第16話

今日はIS学園の休校日。

一夏は友人の家に行っており、つるむ相手がいないので自室でだらけていた。

ひたすらボーッとしていると、電話の着信メロディが鳴る。

架電主は叔父のトーマスだ。

 

「はい、ホーキンスです」

 

『ああ、繋がった。久しぶりだな、ウィリアム』

 

「久しぶり、おじさん。何か用事でも?」

 

『い、いやぁ、この前にお前がイギリスのお嬢ちゃんと決闘した事が・・・有ったろう?』

 

珍しく歯切れが悪いトーマス。

 

「ん?ああ、それが?」

 

『実はな、その時のデータを上層部に提出したら『すまない、少し替わってもらえるかね?』じ、准将!?ど、どうぞ』

 

准将?そんな人が何故?

 

『失礼、電話を替わってもらった。“デイゼル・パットン”だ』

 

「はっ!自分はウィリアム・ホーキンス少尉であります!」

 

『あぁ、堅苦しいのはいい。今日は一つ頼み事が有ってね』

 

「はぁ、頼み事、ですか?」

 

『うむ、聞いてくれるかね?』

 

「自分に出来る事であれば」

 

『そうか。まずは、先日の戦闘の資料を見せてもらったよ。素晴らしい戦績だったね』

 

「ありがとうございます」

 

『で、本題なのだが、君に新たな武装を送ろうと思ってね、試験運用を頼みたい。今そっちにデータを送る』

 

そうして届いたのは

 

「航空機搭載用の40mm砲?」

 

ガンシップが搭載しているアレだ。

 

『そうだ、それをIS用に手を加えたものでね』

 

「こんなに大きな物は流石に・・・」

 

『いや、出来る!他のISの武装と同じく必要ないときは仕舞っておけるしな。それに、これだけ大きければ敵はただでは済まない。攻撃力は最高クラスだ!」

 

まぁ、確かに威力は高いだろうが・・・。

 

「これは君にしか出来ない事だ!想像してみたまえぇ。ISの機動力で敵を翻弄しぃ、一瞬の隙を突いて40mm砲を叩き込ぉむ!素ぅ晴らしいぃ!!まぁさにっ、巨砲とは正義であぁるぅっ!!』

 

なんか、ヒートアップしてるし!て言うか口調が怪しくなって来てるぞ!何言ってんのこのおっさん!?脳筋にも程が有るだろ!?WW2の戦闘機じゃないんだぞ!?

 

『と、言うことで既に荷物は運搬済みなので頼んだよホーキンスくぅ~ん。長話して悪かったね。返すよ『はっ!』』

 

え、マジで?もう来てるの!?

て言うか持っててもそんなにデカイのが使えるのか!?

 

『・・・こう言う事だ。彼は良い軍人なのだが、如何せんあの巨砲好き重武装好きでな・・・。ああやって、信者を増やしつつあって手を焼いてるんだ。いっそのこと、少し手荒な手段にでも出るか・・・?

 

「ハァ・・・察するよ、おじさん・・・」

 

『あぁ、ありがとう。とにかく、頼んだぞ』

 

「分かった、それじゃあ」

 

と言って電話を切る。

すると、部屋のドアがノックされる。

 

「ホーキンス君、アメリカからあなた宛に荷物が届いて居ますよ?」

 

声の主は山田先生だ。

 

「今行きます」

 

そう言って、俺は部屋を後にした。

この後、量子変換や試射等々、やる事はたくさんだ。

 

「・・・ハァ」

 

また、溜め息が溢れた。

 

 




デイゼル・パットン:CVは某国民的アニメのタラコ唇の人で(笑)


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第17話

まさかの准将からの突然の頼み事で半日が潰れた次の日

 

一夏と何気無い話をしながら教室に向かうと、1組が何やら騒がしい。

 

「おはよう、みんな。何を盛り上がっているんだ?」

 

「何か面白い話しでもしてるのか?」

 

「「「!?」」」

 

「い、いや、何でもないよ?」

 

「「?」」

 

なんか誤魔化された気がする・・・。

入り口に突っ立っていると、織斑先生が入ってきた。

 

「席に着け、HRを始める」

 

その声を聞いて、俺達は席に着いた。

クラス全員が席に着いたのを見計らって、山田先生が教卓に立ち、HRを始める。

 

「今日はなんと、転校生を紹介します」

 

また転校生か?こんな時期に?

すると転校生が教室に入ってきた。

容姿は細身の身体に中性的な顔立ち。

そして何より“男物の制服を着ている”

 

「“シャルル・デュノア”です。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」

 

笑顔でそう挨拶をするシャルルと名乗る青年。

 

「お、男・・・?」

 

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方々が居ると聞いて、本国より転入を━━」

 

「「「「キャーーー!!」」」」

 

み、耳がぁ・・・!?

 

「え゛!?」

 

当の本人であるシャルルも驚いている。

 

「男子、本物の男子!」

 

「しかもウチのクラス!」

 

「美形!守ってあげたくなる系の!」

 

「地球に生まれて良かった!」

 

女子生徒達が思い思いに騒ぐ。

そこに織斑先生が一喝する。

 

「騒ぐな!静かにしろ!」

 

途端に鎮まる教室。

やはり、この1年1組のボスである彼女の力は絶対なのだ。

 

「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人は着替えて、第二グラウンドに集合。それから、織斑、ホーキンス」

 

「はい」

 

「何でしょう?」

 

「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ。解散!」

 

先生の号令と共に俺も一夏の元に行く。

 

「君が織斑君とホーキンス君?初めまして、僕は━━」

 

「あぁ、いいからいいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」

 

一夏がシャルルの声を遮るように言う。

 

「そうだな、続きは更衣室で、だ。行くぞ」

 

一夏がシャルルの手を掴む。

 

「!?」

 

シャルルが顔を赤くした。

 

「?」

 

とにかく急ごう。

 

 

 

移動中

 

「俺達は、アリーナの更衣室で着替えるんだ。実習の度にこれだから、早めに慣れてくれよな」

 

「ハハッ、まぁ、男が居ることを想定してなかったからな」

 

一夏の説明に、俺が笑いながらそう継ぎ足す。

 

「う、うん・・・」

 

「何だ?そわそわして。トイレか?」

 

「あぁ、トイレなら、そこを曲がって━━」

 

「ち、違うよ・・・」

 

そうシャルルが小さな声で否定する。

その時

 

「あ!噂の転校生、発見!」

 

「しかも、織斑君とホーキンス君と一緒!」

 

しまった、もう見つかったか!

 

「居た!こっちに居た!」

 

「者共、出合え出合え!」

 

「ジェントルマンがこんなに集まるとは、壮観だな」

 

か、囲まれた・・・!

 

「手を繋いでる~!」

 

「織斑君の黒髪やホーキンス君の焦げ茶の髪も良いけど、金髪も良いわね・・・!」

 

まずいこのままだと遅刻する。

織斑先生の授業に遅刻したら・・・!

 

「ここは遠回りするしか・・・」

 

「こっちから行けるぞ!」

 

「よし、ナイスだウィル。行くぞシャルル!」

 

「え?う、うん!」

 

一夏がシャルルの手を引き、俺が殿となって廊下を走る。

 

「それにしても、何でみんなあんなに騒いでるの?」

 

「そりゃ、ISを操縦できる男って今のところ俺達しかいないからだろ」

 

「なに、お前もその内に慣れるさ」

 

慣れるまでが大変だけど・・・。

 

「とにかく走れ!」

 

 

 

更衣室

 

「ハァ、ハァ、ハァ、なんとか振り切れたな」

 

「あぁ、授業前の準備運動はバッチリだな」

 

「ごめんね、いきなり迷惑掛けちゃって」

 

「良いって、それより助かったよ。学園に男二人ってのは辛いからな」

 

「あぁ、全くだ。あれから少し経ったが未だに慣れないな」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「これからよろしくな?俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」

 

「俺はウィリアム・ホーキンス。俺の事もウィルで良い。よろしくな」

 

「よろしく。一夏、ウィル。僕の事もシャルルで良いよ」

 

何気無く時計を見る。

 

「うわ!時間ヤバイな!ウィルもシャルルも直ぐに着替えちまおうぜ!」

 

「あぁ、遅れたら地獄を見るな」

 

急いで着替え始める俺達。

 

「うわぁ!?」

 

シャルルが顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。

 

「?早く着替えないと遅れるぞ?うちの担任はそりゃあ、時間にうるさい人で・・・」

 

横で俺もウンウンと頷く。

 

「うん・・・着替えるよ。だから、あっち向いてて」

 

「いやぁ、別に着替えをジロジロ見る気はないけど・・・」

 

「俺達にそんな野郎趣味は無いよ」

 

と冗談混じりに言う。

 

「何でも良いけど、急げよ?」

 

一夏が振り替えると、既に着替え終えたシャルルが居た。

早い!なんと言うワザマエ!

 

「な、何かな?」

 

「着替えるの超早いな・・・!なんかコツでもあんのか?」

 

「俺達にも教えて欲しいぜ・・・」

 

「い、いやぁ?何の事かな?アハ、アハハハハハ・・・」

 

はぐらかされた。

 

「これ、着るときに裸っていうのが辛いんだよなぁ。引っ掛かって」

 

「ひ、引っ掛かって・・・?」

 

顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「あぁ、そう言えばウィルのスーツは他のと違うよな?なんか作業着みたいだ」

 

俺のスーツはオリーブ色で皆のと比べてピチピチではなく、体の各所のみを締め付けるような構造になっている。

戦闘機パイロットの対Gスーツのような作りだ。

 

「俺のはISが相殺しきれなかった分のG、つまり加速度を軽減するためだな。これで血管を態と圧迫して、脳の虚血状態を防ぐんだ。着けるのが少し面倒くさいけどな」

 

だが、俺はこのスーツの方が良い。色んな意味で落ち着く。

あんな格好、恥ずかしくて出来るかっ!

 

「へぇ・・・。お?シャルルのスーツは着易そうだな?」

 

「デュノア社製のオリジナルだよ」

 

「デュノア?」

 

「もしかして、シャルルはデュノア社の関係者か?」

 

俺の問いにシャルルが丁寧に答える。

 

「父が社長を勤めているんだ。一応、フランスで一番大きいISの会社だと思う」

 

「へぇ、社長の息子なのか。道理でな」

 

一夏が納得する。

 

「道理でって?」

 

「いやぁ、なんつーか気品て言うか、良いところの育ちって感じがするじゃん」

 

「確かにな、礼儀もしっかりしてるし」

 

するとシャルルはどこか悲しそうに俯いてしまった。

 

「「?」」

 

着替え終えた俺達はグラウンドに出た。



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第18話

第二グラウンド

 

1組と2組がきれいに整列している。

 

「本日から実習を開始する」

 

「「「はい!」」」

 

ジャージ姿の織斑先生の声に、生徒達は元気良く返事をする。

やはり、ISの実習は織斑先生が主導で行うようだ。

 

「まずは、戦闘を実演してもらおう。凰、オルコット」

 

「「は、はい!」」

 

呼ばれると思っていなかったのか、少し気の抜けた返事になる二人。

 

「専用機持ちなら、直ぐに始められるだろう。前に出ろ」

 

「面倒臭いなぁ、何でアタシが・・・」

 

「ハァ、なにか、こう言うのは見せ物みたいで気が進みませんわね・・・」

 

愚痴を溢しながら前に出る。

そこへ織斑先生が近付いて行き、二人に何かを吹き込んだ。

すると、打って変わったように気合いが入る二人。

 

「やはり、ここはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットの出番ですわね!」

 

「実力の違いを見せる良い機会よね!専用機持ちの」

 

やる気満々のようだ。

 

「今、織斑先生、何て言ったの?」

 

そう一夏に聞くシャルル。

 

「俺が知るかよ・・・。ウィルなら分かるんじゃないのか?」

 

「いや悪い、聞こえなかった。何て言ったんだろうな?」

 

三人で小首を傾げる。

 

「それでお相手は?鈴さんとの勝負でも構いませんが」

 

「ふふん、こっちのセリフ!返り討ちよ?」

 

「慌てるな馬鹿共。対戦相手は━━」

 

ヒューン と何かが墜ちてくる音。

音のする方に目を凝らすと・・・

 

「うわぁぁああぁぁ!退いて下さ~い!」

 

ISを纏った山田先生が落ちて来ていた。

落下地点は・・・一夏!?

 

「一夏、上だ!ブレイク!ブレイク!」

 

「へ?うわああ!?」

 

ズドォン!

軽い振動と共に砂煙がモクモクと上がる。

 

「一夏ぁ!大丈夫かぁ!?」

 

友人の無事を祈って、墜落地点を捜索する。

砂煙が晴れ始め、二人の人影がうっすらと見え始めた。

 

「そこか!?一夏!大丈、夫、か・・・Oh・・・」

 

そこには、山田先生の胸を鷲掴みにした一夏が倒れていた。

 

「あ、あの・・・織斑君?」

 

「う、うん・・・?・・・え!?」

 

あ~あ。やっちまったよ、こいつ・・・。

 

「そ、そのですね。困ります、こんな・・・。あ、でもこのまま行けば、織斑先生が義理のお姉さんということで、それはそれでとても魅力的な・・・」

 

「う、うわぁ!?」

 

慌てて山田先生から離れる一夏。

次の瞬間、彼の鼻先を二本のビームが掠めた。

 

「おほほほ。残念です、外してしまいましたわ」

 

ニコニコ顔(黒)のセシリア。

ガギンッ!と後方で金属音。

音のした方角へと振り返ると、巨大な刃物を繋ぎ合わせ、それを彼目掛けて投げる鈴。

 

「いぃちかぁ!!」

 

殺しに掛かってるだろ!

後、少しで一夏に当たる。という寸前で、二発の銃声が聞こえた。

今日は顔をあちこちに振り向かせてばかりだな。と思いながら音の発生源へと首を動かすと、山田先生が腹這いになって銃を構えていた。

彼女があれを狙撃したのだ。それもピンポイントで。

 

「織斑君?怪我は有りませんか?」

 

「は、はい・・・。ありがとう、ございます」

 

騒動はなんとか治まった。

 

「山田先生は元代表候補だ。今くらいの射撃は造作もない」

 

マジかよスゲェ。人は見た目に依らないとはこの事だな。

 

「昔の事ですよ。候補生止まりでしたし・・・」

 

そう謙遜するがあの腕は本物だ。という事は、彼女のピーク時はもっと凄かった可能性も?

 

「さて、小娘共。さっさと始めるぞ」

 

「えぇ?あの、2対1で?」

 

「いやぁ、流石にそれは・・・」

 

セシリアと鈴が困惑する。

 

「安心しろ、今のお前達ならすぐ負ける」

 

二人がムッとした表情になる。

 

「では・・・。始め!」

 

三人は上昇していく。

戦闘が開始される。

先手はセシリアだ、しかし攻撃はいとも容易く回避される。

鈴が衝撃砲を発射するも難無く回避。

攻撃が全く当たっていない。

 

「凄い機動だな・・・」

 

思わず感嘆の声が漏れる。

 

「デュノア、山田先生が使っているISの説明をしてみせろ」

 

「は、はい」

 

そう言うと、シャルルが説明を始める。

 

「山田先生のISは、デュノア社製、『ラファール・リヴァイヴ』です。第二世代開発時の機体ですが、そのスペックは初期第三世代にも劣らないものです。現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら世界第三位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御の切り替えが可能です」

 

シャルルの説明が終ると同時に、上空で爆発。二人が悲鳴と共に墜ちてきた。

どうやら終わったようだ。

 

「うぅ・・・。まさか、このわたくしが・・・」

 

「アンタねぇ、なに面白い様に回避先詠まれてるのよ!」

 

「鈴さんこそ、無駄にバカスカと撃ちすぎですわ!」

 

「これで、諸君も教員の実力が理解出来ただろう。以後は敬意を持って接するように。次はグループに別れて実習を行ってもらう。リーダーは専用機持ちがやること。では、別れろ」

 

 

案の定、生徒達は一夏、俺、シャルルに特に集中した。

 

「織斑君、一緒に頑張ろう!」

 

 

「ホーキンス君のISってどんなの?て言うか変わったスーツだね」

 

 

「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ」

 

 

「勝手にあちこち触っちゃ駄目よ。怪我しても知らないからね?」

 

 

「まずは、順番に装着してみて下さいな」

 

鈴とセシリアのグループも順調の様だ。

一方一夏のグループはと言うと━━

 

「それじゃあ、出席番号順にISの装着と起動、歩行までやろう。一番目は・・・」

 

「はいはいは~い!出席番号一番、“相川清香”ハンドボール部、趣味はスポーツ観戦とジョギングだよ。よろしくお願いします!」

 

そう言って、右手を差し出す。

 

「・・・はぁ?」

 

一夏はついて行けてない様子だ。

 

「ああ!ズルい!」

 

「私も!」

 

「私も!」

 

「「「第一印象から決めてました!」」」

 

三人から右手を差し出されている。

 

「「「お願いします!」」」

 

向こうでは、シャルルが七人から手を差し出されていた。

 

「ワッツ・・・?」

 

「「「ホーキンス君!」」」

 

あぁ、こっちもか・・・。

 

「あ、あぁ、え~っと?」

 

ヤバいどうすれば良いんだ!?

 

 

困惑する俺達を他所に、一夏の班は既にIS操縦まで進んでいた。

 

「そうそう、上手い上手い。よし、止まってみて。オッケー、じゃあ次の人に交代だ」

 

「ふぅ、緊張したぁ」

 

そう言って、ISから降りる清香。

 

「次は誰?」

 

「私だ」

 

そう言って箒が前に出る。

 

「しかし、これではコクピットに届かないのだが・・・」

 

「あ」

 

「ああ、最初の内よくする失敗ですね。織斑君、乗せてあげて下さい」

 

そう言いながら、山田先生が歩いて行く。

 

「な、なに!?」

 

「織斑君、白式を出して下さい」

 

「は、はぁ」

 

一夏が白式を展開する。

 

「そ、それで私をどうする気だ?」

 

「勿論、運んでもらうんですよ?コクピットまで」

 

「「「ええええええ!?」」」

 

何でそこまで驚くんだ?運ぶだけだろ?

 

「は、運ぶ、のか?私を」

 

「しょうがないなぁ」

 

そう言いながら、箒の元に向かう。

ん?待てよ?運ぶ・・・どうやって?

まさか・・・!

 

「ずり落ちないように気を付けろ」

 

何の躊躇いもなく、一夏が箒をお姫様抱っこした。

 

「乗り方は分かるな?じゃ、起動と歩行までやって交代する」

 

箒は顔が完全に弛んでしまっている。

 

「・・・ハッ!?い、一夏!」

 

「ん?何だ?」

 

「その、だな、今日の昼は予定が有ったりするのか?」

 

「いやぁ、特には」

 

「そうか!では、たまには食事を一緒に取ろう!うん、それが良い」

 

「あぁ、別に良いぜ」

 

嬉しそうにする箒。

端から見れば、微笑ましい光景だ。

・・・一夏を見つめる女子の視線+こちらを見てくるギラギラした視線が無ければ。

 

「デュノアく~ん」

 

「ホーキンスく~ん」

 

ハァ、ISを展開するか・・・。て言うか、シャークマウスが描かれたISが少女を姫様抱っことかシュール過ぎるだろ・・・。

 

 

この後、色々有ったがなんとか無事に終わることが出来た。

 

 

 

 



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第19話

実習後、学園の屋上。

 

「どういうことだ?」

 

箒が不機嫌そうに言葉を発する。

そこには箒の他に、一夏、シャルル、俺、セシリア、鈴が集まっていた。

 

「大勢で食った方が美味いだろ?それに、シャルルは転校して来たばかりで右も左も分からないだろうし」

 

「そ、それは、そうだが」

 

箒、セシリア、鈴がお互いに睨み合う。

スゲェ、本当に火花が見える。

 

「え、えぇと、本当に僕が同席して良かったのかな?」

 

「あぁ、俺も居て良いのか?」

 

「いやいや、何を言ってるんだよ。折角の男子同士、仲良くしようぜ?シャルルとは今日から部屋も同じだし」

 

一夏、お前って良い奴だな・・・。

 

「ありがとう、一夏って優しいね」

 

「っ!?」

 

一夏が少し顔を赤くする。

無理も無い、俺も少しドキッとしてしまった。

言っておくが、俺に男色は無い。

 

「なぁに照れてるのよ」

 

ジト目で一夏を睨む鈴がタッパーを取り出す。

 

「べ、別に照れてねぇぞ?」

 

ギクッとした一夏が慌てて否定した。

 

「ん?おぉ!酢豚だ!」

 

「そう、今朝作ったのよ。食べたいって言ってたでしょ?」

 

あぁ、あの時の会話か。

 

「コホン。一夏さん、わたくしも今朝は偶々、偶然、早く目が覚めまして、こういうものを用意してみましたの」

 

そう言いながら、バスケットの中を見せる。

そこにはサンドイッチが綺麗に詰められていた。

 

「イギリスにも美味しいものがあることを納得していただけませんとね」

 

「へぇ、言うだけあるな。それじゃあこっちから」

 

そう言いながら、サンドイッチを手に取る。

 

「よろしければウィリアムさんも」

 

「ああ、ありがとう。それじゃあ頂くよ」

 

そう言って、俺も一つ取り出す。

そして一口食べ、ゆっくりと咀嚼した。

 

「━━うっ!?」

 

な?何だこれ!?これは・・・!

記憶を遡る。

向こう(・・・)で在庫処分として散々食わされた、MRE(戦闘糧食)の味に大変よく似ていたのだ。

つまり、滅茶苦茶不味い・・・。

横を見ると、一夏も顔を真っ青にしていた。

 

「いかが?どんどん召し上がってくださって構いませんのよ?」

 

笑顔でそう言われる。

 

「い、いや、後で貰うよ・・・」

 

一夏が真っ先に脱出した。

流石に二人同時に断ると勘づかれそうだ。

おのれ、一夏ぁ・・・。

無言で彼を睨むと、「スマン」と目で謝られた。

 

「どうかいたしまして?」

 

「な、何でも無いぞ?」

 

「?」

 

ハァ・・・やるしかない!

 

「よ、よし!なら早速もう一つ・・・」

 

耐えてくれよ、俺の胃!

無心になってひたすら食べ続ける。

一度一夏を見ると、箒の口に箸で唐揚げを運んでいた。

それを箒は顔を赤くしながら口に含む。

そして、それを横目に俺はサンドイッチを食べ続ける。

な、なんとか半分まで来れた・・・。

 

「これってもしかして、日本ではカップルがするっていう、はい、あーん てやつかな?仲睦まじいね」

 

サンドイッチの爆食いによって意識が朦朧としていたが、なんとか正気に戻ってきた。

 

「ふむ、成る程。これが、はい あーん と言うやつか。初めて生で見たな」

 

そうか、これがなぁ。

 

「何でコイツらが仲良いのよ!」

 

「そ、そうですわ!やり直しを要求します!」

 

そこで、この場を収める為にシャルルが提案をした。

 

「それならみんなで一つずつおかずを交換しようよ。それなら問題無いでしょ?」

 

シャルル、グッジョブ。

 

「お?まぁ、俺は良いぞ」

 

「あぁ、俺も問題無いぞ」

 

と言うことで、承諾したのだが・・・。

 

「はぁい、酢豚食べなさいよ、酢豚!」

 

「一夏さん、サンドイッチもどうぞ!」

 

彼に迫る二人の少女。

一夏、頑張れよ。

 

 

その日の夜 一夏の部屋

 

「はぁ、同居人が男同士ってのも良いものだなぁ」

 

彼は今シャルルと二人でお茶を飲んで寛いでいた。

 

「紅茶とは随分違うんだね、不思議な感じ。でも、美味しいよ」

 

そう言って緑茶を啜り、ほぅ、と息をつくシャルル。

 

「一夏は放課後、いつもウィルと一緒にISの特訓をしてるって聞いたけど、そうなの?」

 

「あぁ、俺は他の皆より遅れてるからな・・・。ウィルと一緒に特訓してるんだ」

 

「僕も加わって良いかな?専用機も有るから、役に立てると思うんだ」

 

「あぁ、是非頼む!二人より三人の方が楽しいしな」

 

「うん、任せて!」

 

こうして一夏とウィリアムの特訓に新たなメンバーが加わった。

 

 



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第20話

翌日 1組 HRにて

 

「えぇっと・・・き、今日も嬉しいお知らせが有ります。また一人、クラスにお友達が出来ました」

 

山田先生が教卓に登り、そう周知する。

また転校生?最近多いな。

 

「ドイツから来た“ラウラ・ボーデヴィッヒ”さんです」

 

そう言って、彼女の左側に立つ少女を紹介する。

見た目は小柄だが、整った容姿に銀髪。

そして何より目を引くのは、彼女の左目を覆う黒い眼帯だ。

眼帯を除けばどこにでも居そうな少女だが、彼女が纏うオーラ(雰囲気と言うべきか?)は感じた事がある。

軍人のソレだ。

 

「どういうこと?」

 

「二日連続で転校生だなんて・・・」

 

「いくら何でも変じゃない?」

 

生徒達がざわめき始める。

 

「皆さん、お静かに!まだ自己紹介が終わっていませんから」

 

「挨拶をしろ、ラウラ」

 

山田先生が一喝、そして織斑先生がラウラに挨拶をするよう促す。

 

「はい、教官」

 

教官?織斑先生と顔見知りの様だが・・・。

すると、ラウラは踵を合わせて一言

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

まさか、あの娘も緊張して言葉が出ないクチか?

 

「・・・あ、あのぉ、以上、ですか?」

 

「以上だ。っ!貴様が・・・!」

 

「え?」

 

一夏と目が合った瞬間、彼女は早足で彼の元に向かい、腕を振り上げる。

一体何を・・・っ!?まずい!あれは一夏を引っぱたくつもりだっ!

一夏もハッと遅れて気付く。

止めに行こうとするも、ここからでは距離があって対処が出来ない。

そして━━

 

「馬鹿な真似は止めておけ」

 

言っちまったよ・・・。

咄嗟の判断が鈍るとは、俺もまだまだだな。

少しの間、現実逃避に走る。

 

「・・・ウィル?」

 

「何だ貴様は?」

 

冷たい目を細めてこちらを睨んでくる。

ほらぁ、こうなる。・・・シット!もう言い切るしかないか!

 

「その手をどうする気なのかは見れば分かる。一夏をはたくつもりなんだろ?だから止めろと言ったんだ」

 

彼女の眉がピクリと動いた。

・・・図星か。

 

「貴様には関係無いことだ、引っ込んでいろ」

 

「ハッ、悪いがいきなり友人を叩こうとしているのを「はいそうですか」で見過ごす程、腐っちゃいないんでね。それとも何か?ドイツじゃそれが挨拶なのか?だとしたら素直に謝ろう。生憎、国際知識には疎い方でね」

 

い、言ってやった・・・!言ってやったぞ!ついでに鼻で嗤った上に思い切り煽っちまったよ・・・。父さん、母さん、トーマスおじさん・・・ごめん。俺ここで死ぬかも・・・。

ウィリアムとラウラが睨み合う。

 

「ふん、まあ貴様の事などどうでも良い。・・・だが、織斑一夏。私は認めない。貴様があの人の弟などと、認めるものかっ!」

 

そう言って自身の席に座る。

そのまま非常に剣呑な雰囲気を孕んだ状態で午前の授業が始まった。

 

これが、俺と彼女のファーストコンタクトならぬ、ワーストコンタクトであった。

だが、まさかこれがあんな事になるとは・・・。

今のウィリアムには、到底分からない事であった。

 

 

 

 

 



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第21話

アリーナ 競技場

 

 

「だから、こう、ズバァ!とやってから、ガギッ!ドカ!と言う感じだ」

 

 

「何となく分かるでしょう?感覚よ感覚、はぁ!?何で分からないのよ!馬鹿!」

 

 

「防御の時は、右半身を斜め上、前方へ5゜!回避の時は後方へ20゜ですわ!」

 

放課後、俺達はアリーナにてIS訓練に勤しんでいた。目的は一夏のレベルアップだ。

その為、箒、セシリア、鈴に加え、俺も訓練に付き合っていたのだが・・・。

 

「率直に言わせてもらう・・・全然分からん!」

 

「何故分からん!」

 

「ちゃんと聞きなさいよ!ちゃんと!」

 

「もう一回説明して差し上げますわ!」

 

「んな事言われたって、ウィルは分かるのか?」

 

「うーん、言いたいことは多少は分かるが、些か内容に欠けるな・・・。正直、俺も分からん」

 

「ほら見ろ、ウィルだってそう言ってるぞ?」

 

「「「なんで!?」」」

 

「いや、そもそも箒は擬音だらけ。鈴は・・・まぁ、感覚ってのは人それぞれだが具体性に欠けているな。そしてセシリアは細か過ぎる。一夏にそんな事言って分かると思うか?」

 

「「「確かに・・・」」」

 

「今、然り気無くdisられた様な・・・」

 

と話していると

 

「一夏、ウィル」

 

シャルルがこちらにやって来た。

 

「おぉ、シャルル」

 

「一夏、ちょっと相手してくれる?白式と戦ってみたいんだ」

 

「あぁ、分かった。と言う訳だから、また後でな?」

 

そう言いながら、競技場の真ん中に移動して行く。

 

 

結果は一夏の負け。

見ていて分かったが、セシリアの時と同じく射撃兵器を扱っていないのが原因の一つだろう。

 

「つまりね、一夏が勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握出来ていないからなんだよ」

 

シャルルもそう言っている。

 

「うーん、一応分かっているつもりだったんだが・・・」

 

「この白式って後付武装(イコライザ)が無いんだよね?」

 

「あぁ、拡張領域(バススロット)が空いてないらしい」

 

「多分だけど、それってワン・オフ・アビリティの方に容量を使っているからだよ」

 

「ワン・オフ?」

 

「ISが操縦者と最高状態の相性になった時に自然発生する能力。白式の場合は、零落白夜がそれかな?」

 

「ははぁ、お前の説明って分かりやすいな!」

 

楽しそうに、シャルルと話す一夏。

それを隠れて見る、三人の少女+とばっちりを受けた俺。

 

「私のアドバイスは聞かない癖に」ボソッ

 

「あんなに分かり易く教えてやったのに」ボソッ

 

「わたくしの理論整然とした説明に何の不満が・・・」ボソッ

 

「何で俺まで?俺も練習に混じりたいんだが・・・」

 

「お前は同じ男として、あの説明をどう思う?」

 

「いや、普通に分かり易いんじゃないか?と言うことで、俺も向こうに行かせてもらうよ。スィーユー」

 

そう言って、ISを展開してウィリアムは物陰から出て行ってしまった。

 

「よう、お疲れさん」

 

「あぁ、ウィルか。一体どこに?」

 

「いや、ちょっとな」

 

横目で物陰を見る。

 

「?そうだ、話を戻すけど、零落白夜ってシールドエネルギーまで攻撃に使う、滅茶苦茶な技だぜ?」

 

「あぁ、あの時もそれで負けちまったもんな。威力は申し分無いんだけどな・・・」

 

「うーん・・・確かにそれに依存しきるのも危険だよね・・・」

 

シャルルが顎に指を当てて考える。

 

「じゃあ、ちょっと練習してみよう」

 

そう言って、一夏に自分のアサルトカノンを差し出した。

 

「他の奴の装備って使えないんじゃなかったのか?」

 

「普通はね。でも所有者がアンロックすれば登録してある人全員が使えるんだよ?」

 

「へぇ、そうだったのか。なら一夏、後でこいつも使って見ないか?」

 

そう言って取り出したのは、以前にパットン准将に無理矢理送り付けられた、40mm機関砲。

 

「こいつは?」

 

「あぁ、前に本国が送ってきた武器でな、航空機搭載型の40mm砲をIS用に改造したものだ。一応、試射はしてある。当たればとんでも無い威力だぞ?色々な武器を試してみると良い」

 

「あぁ、ありがたく使わせてもらうよ」

 

そう言って射撃練習に入る。

 

「えぇ、構えはこんなんで良いのか?」

 

「えっと、脇を締めて。それと、左腕はこっち。分かる?」

 

端から見れば、シャルルが一夏に後ろから抱き着いているようにしか見えない。

・・・そこ、「一×シャルも・・・ウヘヘ」とか言わない。

そして、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッと次々に的を撃ち抜いて行く。

シャルルの支援が有ったとしても、良いセンスだ。

 

「おぉ~」

 

「どう?」

 

「なんかあれだな、取り敢えず『速い』って言う感想だ」

 

「ナイスショットだ一夏、やるじゃないか。なら次はこの40mmを━━━」

 

「ちょっと、あれ・・・」

 

彼に機関砲を渡そうとした時、一人の女子生徒の声によって遮られる。

視線の先には、真っ黒なIS。

操縦者は━━

 

「ボーデヴィッヒか」

 

ラウラがこちらを向く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!」

 

「何?あいつなの?一夏をひっぱたこうとしたドイツの代表候補生って!」

 

「っ・・・!」

 

セシリア、鈴、箒が警戒心剥き出しで彼女を見上げる。

すると、ラウラが口を開いた。

 

「織斑一夏」

 

「・・・何だよ」

 

「貴様も専用機持ちらしいな?ならば話は早い。私と戦え」

 

「嫌だ、理由が無ぇよ」

 

そう言って相手にしない。

 

「貴様には無くても、私にはある」

 

「今で無くとも良いだろ?もう直ぐクラスリーグマッチだから、その時で」

 

「・・・ならば」

 

ラウラのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』の右肩に搭載されたレールカノンの砲身が一夏の方を向き、何の躊躇いも無く砲弾が発射された。

 

「なっ!?」

 

しかし、間一髪のところでシャルルが一夏の前に出て砲弾を弾いた。

本当にギリギリだ。みんなが胸を撫で下ろす。

だが、それと同時に俺はラウラに対して怒りが沸き上がった。

無抵抗な人間に対して発砲?周りにいる奴もお構いなしかよ。ふざけやがって・・・!

 

「おい、ボーデヴィッヒ!!」

 

「?また貴様か、今度は何だ?」

 

「何だ、だと?」

 

俺は彼女の後ろのスペースに着地し、両手に持つ30mm機銃と40mm砲を向ける。

 

「お前はその歳でまだやって良い事と悪い事の判別が付かないのか?もしそうなら、幼児教育からやり直してこいっ!!」

 

「何だと貴様・・・」

 

ラウラがスッと目を細める。

その時、スピーカーから先生の怒鳴り声が響いた。

 

『そこの生徒!何をやっている!クラスと出席番号を言え!』

 

「・・・ふん、今日の所は引いてやる」

 

そう言って、ISを解除し去ってしまった。

 

「言ってろ・・・!」

 

しばらくしてから、俺も頭を冷やし一夏の元に戻った。

 

 



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第22話

ラウラとの騒動の後

 

 

「一夏・・・!」

 

「あの方とあなたの間に何が有りましたの!?」

 

箒とセシリアが一夏を問い詰める。

だが、彼は険しい顔のまま黙ったままだ。

余程の事が無い限り、あそこまで彼に好戦的にはならないだろう。

一体、過去に何が?

 

 

更衣室でも俺達は無言のままだ。

そこへシャルルが話し掛けてくる。

 

「一夏、大丈夫?」

 

「?あぁ、さっきは助かったよ、サンキューな、シャルル」

 

「あぁ、あれは本気で一夏が危なかった。ナイスガードだったよ、シャルル」

 

あんなのが直撃したら、流石に笑えない。

 

「じゃあ、僕は先に部屋に戻ってるね?」

 

ISスーツの上から制服を羽織ったシャルルがそう言って帰る支度をする。

 

「え?ここでシャワー浴びて行かないのか?お前いつもそうだよな」

 

「まぁ待てよ、一夏。あれだよ自分の部屋じゃないと落ち着かない事って有るだろ?」

 

俺が弁護するも一夏は聞く耳を持たない。

 

「それでも何か俺達を避けてるように見えるぜ?何で俺達と着替えるの嫌がるんだよ」

 

「べ、別に、そんな事無いと思うけど・・・」

 

シャルルが慌てながら否定する。

 

「そんな事あるだろ、たまには一緒に着替えようぜ?そう、つれない事言うなって」

 

そう言いながら、逃げようとするシャルルの手を掴み肩を抱き寄せる一夏。

すると、シャルルが顔を真っ赤にしながら、悲鳴と共に走り去ってしまった。

 

「シャルル?・・・何だ?」

 

「一夏、男同士でも一人で着替えたい奴も居るだろ?」

 

「え?そうなのか?」

 

こいつ分かってないな、まったく・・・。

 

 

 

着替えを終えて寮に戻る途中。

一夏は何かを考えているようだ。

恐らく、ボーデヴィッヒの事だろう。

俺が彼に声を掛けようとした時、別の声に遮られた。

 

「答えて下さい、教官!」

 

この声は、ボーデヴィッヒか?教官・・・つまり、織斑先生も居るのか?

俺と一夏は無意識に近くの木陰に隠れる。

 

「何故、こんな所で!」

 

「何度も言わせるな、私には私の役目が有る。それだけだ」

 

「こんな極東の地で、何の役目が有ると言うのですか!お願いです、教官。我がドイツに戻り、再びご指導を!ここではあなたの能力は半分も活かされません!」

 

「・・・ほう?」

 

「大体、この学園の生徒は教官が教えるに値しません!危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている。その様な者共に教官が時間を割かれるなど━━」

 

「そこまでにしておけよ。小娘」

 

織斑先生が語気を強めて遮った。

 

「っ!?」

 

「少し見ない間に偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは、畏れ入る」

 

「わ、私は・・・!」

 

「寮に戻れ、私は忙しい」

 

「!・・・くっ!」

 

そのまま、ラウラは走り去ってしまった。

 

「・・・そこの男子二人、盗み聞きか?異常性癖は感心しないぞ?」

 

「し、失礼な、自分にそんな性癖は有りませんよ!」

 

「そうだよ、何でそうなるんだよ、千冬n「学校では、織斑先生と呼べ」は、はい・・・」

 

「下らん事をしている暇が有ったら実施訓練でもしていろ。このままでは月末のトーナメントで初戦敗退だぞ?」

 

「分かってるよ」

 

「はい、問題有りません」

 

「そうか・・・。なら良い」

 

そのまま立ち去ろうとする織斑先生。

 

「ま、待ってくれ!」

 

それを一夏が制止した。

 

「さっきの、ラウラって奴が言ってた事・・・千冬姉の弟とは認めないって・・・あれってやっぱり、俺のせいで千冬姉が、二度目の優勝を逃した事「終わった事だ」」

 

一夏の言葉は、織斑先生に遮られる。

 

「お前が気に病む必要は無い。ではな」

 

今度こそ、彼女は去って行った。

 

 

 

後で、さっきの話しの意味を一夏に教えてもらった。

 

織斑先生が現役の操縦者だった頃、第二回モンド・グロッソISの世界大会。その決勝戦の日、一夏は何者かの手によって誘拐、監禁されたらしい。

目的は不明だ。

だが、それを助けたのが決勝戦を放り出して駆けつけた織斑先生らしい。

決勝戦は彼女の不戦敗。誰もが二連覇を確信してただけに、決勝戦放棄は大きな騒ぎを呼んだそうだ。

そして、彼の監禁場所に関する情報を提供したドイツ軍に借りを返すために、一年程ドイツ軍IS部隊の教官を勤めたらしい。

 

成る程な、これで辻褄が合った。

 

 

アリーナ 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒは一人、佇んでいた。

教官の顔に泥を塗った張本人、織斑一夏。そして、私の邪魔ばかりする目障りな男、ウィリアム・ホーキンス。

彼女が自身の左目を覆う眼帯を外す。

露になった左目は、赤い右目と違い、金色に輝いている。

 

「排除する、どのような手段を使ってでも・・・!」

 



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第23話

『で、電池切れだ・・・』

 

『・・・切れたらさっさと入れ換えろ、間抜けぇ』

 

『ト、トラックの中に・・・予備の電池が・・・』

 

一夏と別れて自室に戻った俺は、まだ飯まで時間が有ったので、端末でお気に入りの映画を見ていた。

すると、ドアがノックされる。

 

「はいはい、何か?」

 

ドアを開けると、一夏が真剣な表情で立っていた。

 

「?一夏か、どうした?」

 

「ウィル、ちょっと俺の部屋まで来てくれないか?」

 

特に用事も無いので了承する。

一夏の奴、どうしたんだ?

 

 

彼の部屋に入ると、ジャージ姿のシャルルが居た。

だが、様子がおかしい。その、何て言うか・・・胸の辺りが何時もより膨らんでいる様に見えるんだが・・・。

無言で椅子に座る。

 

「・・・それで?何か遭ったのか?」

 

敢えて、この質問をする。

すると、シャルルの肩がビクッと跳ねた。

 

「そうだな、先ずはウィルにも説明するか。シャルル、良いか?」

 

「う、うん・・・」

 

シャルルの了承を得たので、一夏が俺に説明する。

なんでも、一夏が偶然彼女のシャワーシーンを覗いてしまったらしい。

一夏・・・お前何やってんの?

 

「・・・成る程、事の発端は分かった」

 

「で?何で男のふりなんかしてたんだ?」

 

一夏が彼女に問う。

 

「実家から、そうしろって言われて・・・」

 

「お前の実家って言うと、デュノア社の?」

 

「そう、僕の父がそこの社長、その人から直接の命令でね」

 

「え?」

 

「僕はね・・・父の本妻の子じゃ無いんだよ・・・」

 

「「っ!?」」

 

本妻の子じゃ無い・・・つまり、愛人か。

 

「父とは、ずっと別々に暮らしてたんだけど、二年前に引き取られたんだ。お母さんが亡くなった時、デュノアの家の人が迎えに来てね、それで色々検査を受ける過程でIS適性が高い事が分かって、非公式ではあったけど、テストパイロットをやることになってね。でも、父に会ったのはたったの二回だけ、話をした時間は、一時間にも満たないかな」

 

「そんな事が・・・」

 

「その後の事だよ、経営危機に陥ったんだ」

 

「え?だってデュノア社って量産機のISシェアが世界第三位だろ?」

 

「そうだけど、結局リヴァイヴは第二世代型なんだよ、現在ISの開発は第三世代型が主流になってるんだ、セシリアさんやラウラさんが転入して来たのも、そのデータを取る為だと思う。あそこも第三世代の開発に着手しているんだけども、中々形にならなくて・・・。このままだと、開発許可が剥奪されてしまうんだ」

 

「それと、お前が男のふりしてるのと、どう関係が有るんだ?」

 

「あぁ、そんな事して一体何の特が・・・っ!」

 

「そう、今ウィルが思い付いたことで合ってると思う。簡単な話だよ、注目を浴びる為の広告と、それに、同じ男子なら日本とアメリカに出現した特異ケースと接しやすい。その使用機体と本人のデータも取れるかもってね。・・・そう、君達のデータを盗んで来いって言われているんだ。僕はあの人にね」

 

そう自嘲気味に話すシャルル。

 

「・・・本当の事言ったら、気が楽になったよ、聞いてくれてありがとう。それと、騙していてごめん」

 

こんな酷い話が現実にあるとはな・・・。

彼女は本当に反省している様だが、何とかしてやれないだろうか・・・?

俺と一夏は顔を見合せ、頷く。

そして、一夏が口を開いた。

 

「・・・良いのか?それで」

 

「え?」

 

「お前はそのままの人生で終わって良いのか?って事だよ」

 

理解が追い付かない彼女に俺が補足する。

 

「それで良いのか?・・・良い筈無いだろう!」

 

そう言って彼女の肩を優しく掴む一夏。

 

「え、一夏?」

 

「親が居なけりゃ子は産まれない。そりゃそうだろうよ。でも、だからって、そんな馬鹿な事が・・・!」

 

「一夏・・・」

 

「俺と千冬姉も、両親に捨てられたから・・・」

 

「・・・あぁ、俺も捨て子だ」

 

過去を暴露する。

まともな記憶は二人に拾われてからだが、俺だって木の股から生まれて来た訳でも、SFみたく光の粒子から出来た訳でも無いだろう。

 

「一夏、ウィル・・・」

 

「俺の事は良い。今更会いたいとも思わない」

 

「そうだな俺もだ。育ててくれた親が俺の大切な家族だ」

 

「・・・それで、これからどうするんだ?」

 

「どうするって・・・女だって事がばれたから、きっと本国に呼び戻されるだろうね・・・。後の事は分からない。良くて牢屋行きかな?」

 

諦めた様な顔でシャルルはそう言う。

 

「だったらここに居ろ!」

 

「・・・え?」

 

「俺達が黙っていれば、それで済む」

 

「でも、そんな事してもいずれは・・・」

 

「っ・・・」

 

シャルルの一言で一夏は黙ってしまう。

ネガティブだなぁ・・・。まぁ、この状況じゃ仕方無いか?

でもどうやって・・・ああ、そうだ!

 

「おい一夏。一つ大事な物を忘れてないか?」

 

ニヤリとした顔でそう言いながら、本を捲る仕草をして見せる。

 

「!」

 

気付いた様だ。察しが良くて助かる。

 

「そうだよ!もし、仮にお前の親父や会社にばれても、お前には手出し出来ない筈だ」

 

そう言って引き出しから一冊の本をだす。

 

「IS学園特記事項。本学園の生徒はその在学中において、ありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。つまりこの学園に居れば、少なくとも三年間は大丈夫って事だ。その間に何か方法を考えれば良い」

 

「あぁ、時間はたっぷりと有るんだ。解決方法なんて直ぐに見つかるさ」

 

「よく覚えてたね、特記事項って五十五個も有るのに」

 

少しずつシャルルの顔に笑顔が戻りつつある。

 

「こう見えても勤勉なんだよ、俺は」

 

ドヤ顔で決める一夏。

 

「おいおい、さっきまで特記事項の存在すら忘れてた奴のセリフか?それは」

 

「ちょっ!?ウィル、今は言うなよ!」

 

二人で軽口を叩き合う。

 

「ふふっ」

 

やっとシャルルが笑った。

 

「一夏、ウィル。庇ってくれて、ありがとう」

 

「い、いやぁ」

 

「気にするな、友達だろ?」

 

真っ向からそう言われると正直照れるな・・・。

しかし一夏が思いもよらぬ発言をする。

 

「む、胸、胸が見えそうだって・・・!」

 

彼の言葉に不覚にも反応してしまった俺は、一夏と共にある一転に集中してしまいそうになり、慌てて目を反らす。

 

「え?あぁ・・・!」

 

やっと意味に気付き胸を隠す。

 

「そ、そんなに気になる?」

 

「あ、当たり前だろ!」

 

「煩悩退散、煩悩退散・・・!」

 

日本ではこの言葉を言うと、邪な感情を抑える事が出来るらしい。前に友人が言っていた。

 

「ひょっとして、見たいの?」

 

「「なっ!?」」

 

し、しまった、集中が途切れた・・・!

 

「二人のエッチ」

 

「違うって、何でそうなるんだよ!」

 

「待て、シャルル。一夏は知らんが俺は違うぞ?違うからな!?」

 

「ウィル!?お前何言ってるんだよ!」

 

全力で否定する。

その時、部屋のドアがノックされた。

 

「一夏さ~ん、いらっしゃいますか?夕食をまだ摂られていないようですが、お身体でも悪いのですか?」

 

急いでシャルルをベッドに隠す。

声の主はセシリアか、一夏を心配して見に来た様だな。

 

「一夏さん?入りますわよ?」

 

そう言って返事する前に入って来た。

 

「あら?ウィリアムさんも、何をしていますの?」

 

「いや、シャルルが何だか風邪っぽいって言うから。布団を掛けてやってたんだ、ア、アハ、アハハハハ」

 

「ご、ゴホッゴホッ」

 

「そ、そうだ、それで俺も心配で見に来たんだよ~」

 

なんとか誤魔化しを入れる俺達。

 

「それはお気の毒ですわね・・・。一夏さんをお連れしてもよろしいですか?」

 

セシリアが心配そうに尋ねる。

 

「ご、ゴホッゴホッどうぞ」

 

「わたくしも偶然、夕食がまだなんですの。ご一緒しませんこと?」

 

モジモジしながら一夏を誘うセシリア。

 

「お、おう」

 

「あ、そうだ、俺も飯食ってなかったな」

 

「ゴホッゴホッ、ごゆっくり・・・」

 

「さぁ、参りましょう!」

 

「あ、ああ。って、おい!」

 

そう言ってセシリアは一夏を強引に連れていき、その後をウィリアムが追って行くのだった。。

 

因みに余談だが、三人で夕食に向かう途中に箒と遭遇、軽く修羅場った後、一夏の不用意な発言で彼自身が物理的に痛い目に遭うのを、ウィリアムが同情と少しの羨みの籠った顔で眺めていた事。

もう一つは夕食から帰った一夏にシャルルが、はい、あーん を所望したらしい。

あの三人に知られたら、一夏はどうなることやら・・・。

 

 



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第24話

翌日

 

一夏、シャルルと共に1組に入室する。

教室では、数人の女子が固まって何やらコソコソと話をしていた。

 

「おはよう」

 

一夏が声を掛けると、目に見えてビクリとする女子達。

 

「ん?そんなに集まってどうしたんだ?」

 

俺の問いに、合わせてシャルルも質問をする。

 

「何の話してるの?」

 

しかし、女子達は散々狼狽した後、質問に答えずに悲鳴を上げながら走り去ってしまった。

 

「じゃあ、アタシ自分のクラスに戻るから」

 

「そうですわね。わたくしも席に着きませんと・・・」

 

鈴とセシリアもそそくさと去ってしまう。

・・・怪しい。

 

「ん?何なんだ?」

 

「さぁ?」

 

「さぁな、俺もさっぱりだ」

 

疑問を残したまま、朝のHRの用意を始めた。

 

 

放課後、鈴は特訓の為にアリーナに来ていた。

 

「あら?」

 

横から聞き慣れた声が掛かる。

 

「ん?早いのね」

 

「てっきり、わたくしが一番乗りだと思っていましたのに」

 

ISスーツを身に纏ったセシリアだ。

 

「アタシはこれから学園別トーナメント優勝に向けて特訓するんだけど?」

 

「わたくしも全く同じですわ」

 

二人が睨み合う。

 

「この際、どっちが上かハッキリさせておくのも良いわね」

 

「よろしくってよ?どちらがより強く、優雅であるか、この場で決着を着けて差し上げますわ」

 

「勿論、アタシが上なのは分かりきってる事だけど」

 

「ふふっ、弱い犬程よく吠えると言うけど、本当ですわね」

 

「どういう意味よ?」

 

「自分が上だって、態々大きく見せようとしている所なんか典型的ですわよ」

 

「その言葉、そっくりそのまま返してあげる!」

 

その言葉を皮切りに、二人がISを展開。両者がぶつかり合う瞬間、何者かの砲撃によって妨害された。

 

「「っ!?」」

 

妨害した張本人は、ラウラだ。

冷たい笑みを浮かべながら、こちらを見下ろしている。

 

「ドイツ第三世代、シュヴァルツェア・レーゲン・・・!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・!」

 

「どういうつもり!?いきなりぶっ放すなんて、良い度胸してるじゃない!」

 

「・・・中国の甲龍にイギリスのブルー・ティアーズか。ふっ、データで見た方がまだ強そうだったが」

 

構わず二人を挑発する。

 

「何?やるの?態々ドイツくんだりからやって来てボコられたいなんて、大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃ、そういうのが流行ってるの?」

 

「あらあら、鈴さん。そちらの方はどうも共通言語をお持ちで無い様ですから、あまり苛めるのは可哀想ですわよ?」

 

二人も、ラウラの挑発に挑発で返す。

 

「貴様達のような者が私と同じ、第三世代の専用機持ちとはな。数くらいしか能の無い国と、古いだけが取り柄の国は、余程人材不足と見える」

 

二人の挑発をものともせず、更に煽るラウラ。

 

「っ!この人、スクラップがお望みみたいよっ!!」

 

「そのようですわね・・・!」

 

「ふん、二人掛かりで来たらどうだ?下らん種馬を取り合うような雌ごときにこの私が負けるものか」

 

「今、何て言った!?アタシの耳には、どうぞ好きなだけ殴って下さいって聞こえたけど!?」

 

「この場に居ない人間まで侮辱するなんて、その軽口、二度と叩けぬ様にして差し上げますわ!」

 

どうやら、二人は完全にキレてしまったようだ。

 

「とっとと来い」

 

そう言いながら、手を自身の方に向けて挑発のポーズをとる。

 

「「っ!!」」

 

ラウラの一言を皮切りに、二人が彼女に殺到した。

 

 

「一夏、ウィル、今日も特訓するよね?」

 

「おう、トーナメントまで日が無いからな」

 

「限り有る時間は有効活用しないとな」

 

三人で何気無い会話をしながら廊下を歩いて行く。

行き先は勿論アリーナだ。

 

「第三アリーナで代表候補生三人が模擬戦やってるって!」

 

数人の女子がアリーナに向かって走って行った。

 

「「「えっ?」」」

 

 

 

俺達も第三アリーナへ急行し、そこに箒も合流した。

 

「ん?箒」

 

一夏が彼女に気付き、声を掛けたその刹那

 

「「きゃあああ!!?」」

 

物凄い爆発音と共に、聞き慣れた二人の悲鳴が聞こえた。

 

「っ!凰さんとオルコットさんだ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒも!」

 

どうやら、鈴、オルコット対ラウラで模擬戦をしていた様だ。

だが、二人が満身創痍なのに対し、ラウラは無傷。

 

「・・・何してるんだ、あいつら」

 

一夏が異変に気付く。

 

「あぁ、何か様子がおかしい。・・・ん?」

 

鈴が衝撃砲をハイパワーで発射する。

しかし、発射された砲弾はラウラの手前(・・・・・・)で爆発した。

 

「なっ!?あ、あれを止めた!?」

 

「あいつ、何をしたんだ!?」

 

「AICだ・・・!」

 

一夏と俺の驚愕の声に対し、シャルルがそう呟く。

 

「そうか、あれを装備していたから龍咆を避けようともしなかったのか!」

 

箒が納得する。

 

「AIC?何だそれ?」

 

「ああ、俺にも分かるように説明してくれ」

 

「シュヴァルツェア・レーゲンの第三世代型兵器、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー(AIC)

 

「慣性停止能力とも言う」

 

シャルルの説明を箒が補足する。

 

「ふーん」

 

「」

 

ま、待て、慣性停止だと!?エスパーかよ!

て言うか一夏!お前絶対分かってないだろ!

 

「マジかよ・・・」

 

思わず声が漏れる。もはや科学の領域では無いような気がした。

 

「一夏、分かっているのか?」

 

箒も同じ意見の様だ。

 

「・・・今見た。それで十分だ」

 

戦いは尚も続く。

今度はラウラからの攻撃だ。

彼女のISからワイヤーの様な者が伸び、鈴を捕らえる。

そのままセシリアの攻撃をヒラリと回避しながら、鈴を振り回してセシリアにぶち当てた。

二人が墜落し、それを更に追撃するラウラ。

しかし、セシリアからの至近距離からのミサイルが爆発、二人はなんとかそこを離れることが出来た。

爆煙が晴れて行く。

だが、そこにはラウラが涼しい顔をして佇んでいた。

また、彼女のISからワイヤーが伸びて行き、今度は鈴とセシリアの首に直接絡み付く。

 

「おいおい、やりすぎだ・・・!」

 

そのまま二人を引き寄せ、思う存分殴る蹴るを繰り返し始めた。

もはや、一方的な暴力以外の何でもない。

 

「酷い、あれじゃシールドエネルギーが持たないよ!」

 

「もしダメージが蓄積し、ISが強制解除されたら二人の命に関わるぞ!」

 

ガンッ!

 

何か鈍い音がするのでその方向を見る。

 

「止めろ、ラウラ!やめろぉ!」

 

一夏が観客席のバリアを叩きながら叫ぶ。

ラウラの表情を見ると、優越感に浸った顔をしていた。

 

「あいつ・・・!」

 

「野郎・・・!」

 

一夏と共に数歩下がり、ISを展開。

 

「やむを得ん・・・二人共、少し下がってろ!」

 

そのまま、観客席のバリアを粉砕し、競技場に乱入した。

 

 



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第25話

今回、シャルルの出番を主人公がかっさらいます。
後、シャルルが影気味です、すいません。


競技場に突入した後、真っ先に一夏がラウラに突撃した。

 

「その手を離せぇぇ!!」

 

一夏が斬り掛かる。

分かってはいたが、やはり心配だ。

そして心配は的中する。

一夏がAICによって捕縛された。

 

「感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」

 

だが、なんとか鈴とセシリアの拘束は解かれた様だ。

 

「やはり、この私とシュヴァルツェア・レーゲンの前では、有象無象の固まりに過ぎん。━━消えろ」

 

そう言いながら、一夏にレールカノンを向ける。

 

「チッ!」

 

咄嗟に40mm砲を構える。

だが、今ボーデヴィッヒに当てたら、一夏や鈴、セシリアにも破片が飛ぶかも知れない。

・・・それなら!

訓練してきた能力を総動員させ、そして━━

 

ダァン!

 

彼女の頬スレスレを狙って撃った。

 

「っ!!」

 

ラウラがこちらに振り向く。

 

「俺を忘れてもらったら困る」

 

なんとかラウラの気をこちらに逸らす事が出来た。

さて、ここからだ。

俺とラウラが対峙する。

 

「まだ、殴り足りないんだろ?だったら俺が相手になってやるよ」

 

「くっ!何度も何度も邪魔ばかり・・・!良いだろう、先ず貴様から始末してやる」

 

怒り心頭と言った感じで、そう言ってくる。

正直全く怖くない。

前世の頃にもっと怖い奴に遭遇している。

黒人で長身。おまけにスキンヘッドで、訓練生に腕立てをさせるのが大好きな、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。

もっとも、織斑先生には敵わないが・・・。

ウィリアムとラウラが話している隙をついて、一夏とシャルルが、鈴とセシリアを救助する。

・・・どうやら、救助は終えた様だ。

 

「ふぅ・・・良いから、つべこべ言わずにさっさと掛かってこい。小娘(・・)

 

中身は37歳+15歳の俺が現役15歳の女子相手に熱くなってしまった。

 

「っ!!」

 

ラウラが腕からプラズマ手刀を出して突撃して来る。

どうやら、俺の「小娘」発言が我慢の限界だったらしい。

俺も大腿部の装甲から近接用の対IS用大型ナイフ『スコーピオン』を取り出し構える。

両者の刃がぶつかり合う瞬間、別の乱入者がそれを止めた。

乱入者の正体は━━

 

「なっ!き、教官!?」

 

「お、織斑先生!?」

 

IS用のブレードを握った織斑先生だった。

・・・あれ?IS用のブレードって何Kg有ったっけ?と言うより、生身でISの斬撃を止めた?何者だこの人!?

 

「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

「千冬姉・・・?」

 

「模擬戦をするのは構わん。だが、アリーナのバリアまで壊されては、教師として黙認しかねん」

 

実は脱いだら筋肉モリモリマッチョレディー疑惑の先生がこちらに顔を向けながら言ってくる。

ヤベッ、すげぇ睨んできた。

 

「この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「・・・教官がそう仰るなら」

 

「・・・イエス・ミス・・・ご迷惑をお掛けしました」

 

俺とラウラがISを解除する。

 

「織斑もそれで良いな?」

 

「あ、あぁ」

 

「教師には はい と答えろ、馬鹿」

 

「は、はい!」

 

織斑先生・・・やっぱり怖いな・・・。

 

「では、学年別トーナメントまで、私闘の一切を禁止する!解散!」

 

「・・・ふん、命拾いしたな。鮫野郎」

 

「こっちのセリフだ。逆ギレウサギ」

 

こうして、大惨事は未然に防がれた。

 

 

医務室

 

「別に、助けてくれなくても良かったのに・・・」

 

「このまま続けていれば、勝ってましたわ」

 

不満そうに俺達に抗議してくる鈴とセシリア。

 

「お前らなぁ・・・」

 

「まったく・・・無茶してそのままあの世に逝きたかったのか?」

 

一夏と俺が二人を諭す。

 

「そうだよ、二人共、無理しちゃって」

 

「無理って?」

 

一夏の問いに、シャルルがニコニコしながら、二人に小声で何かを言う。

すると、目に見えて狼狽する鈴とセシリア。

 

「ななな、何を言ってるのか、全っ然分からないわね」

 

「そ、そうですわ、別に無理してなど・・・」

 

・・・ははぁん、分かったぞ。

ニヤニヤしながら二人を見ると、抗議の視線が刺さる。

そこへ一夏が質問する。

 

「そもそも、何でラウラとバトルする事になったんだ?」

 

「それもそうだな?何であんな事に?」

 

水を飲んでいた二人が噎せる。

 

「い、いやぁ、それは・・・」

 

「まぁ、何と言いますか、ケホッケホッ、女のプライドを侮辱されたからですわね」

 

「え?」

 

あぁ、成る程。大方自分達を罵られた上、一夏を悪く言ったことに憤ったのだろう。

 

「あぁ!もしかして、一夏の事がすk」

 

シャルルが余計な事を暴露する瞬間、鈴とセシリアが手で彼女の口を塞いだ。

 

「む、む~!?」

 

「アンタって本っ当に一言多いわね!」

 

「そ、そうですわ!まったくです!」

 

「止めろって二人共、怪我人のくせにさっきから動き過ぎだぞ!」

 

そう言って一夏が両者の肩を掴む。

 

「「~~~!?」」

 

うわぁ、滅茶苦茶痛そう・・・。

 

「ほら、やっぱりそうじゃないか、馬鹿だなぁ。無理するなって」

 

「馬鹿って何よ、馬鹿って!馬鹿!」

 

「一夏さんこそ、大馬鹿ですわ!」

 

「バァカ、バァカ!」

 

「はぁ、何なんだよお前ら・・・」

 

「まったく・・・」

 

その時、医務室の棚の薬剤瓶がカタカタと揺れ始める。

 

「・・・ワッツ?地震か?」

 

俺が一人、そう呟くと、医務室のドアが盛大に開き、女子生徒達が押し掛けて来た。

 

「わ、何なんだ一体」

 

「おいおい、どういう状況だ?」

 

「どうしたの?みんな」

 

戸惑う俺達。

 

「これ!」

 

「え?」

 

差し出された紙を手に取り確認する。

 

「何これ?」

 

「今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行う為」

 

「二人組での参加を必須とする。尚、二人組が出来なかった場合は、抽選により選ばれた者と組む事とする。締め切りは・・・」

 

・・・まさか。

 

「とにかく、私と組も?織斑君」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

「私と一緒に勝ちに行こう?ホーキンス君!」

 

女子達がズズっと迫ってくる。

 

「え、えぇと、みんな悪い!俺はウィルと組むから、諦めてくれ!」

 

確かに、俺もボーデヴィッヒとは決着を着けないとな・・・。

とたんに静まり返る医務室。

 

「何だ、そう言うことか。ならしょうがないねぇ」

 

「男同士って言うのも絵になるし・・・」

 

「それじゃあ」

 

女子が一斉にシャルルに顔を向ける。

 

ちょっと・・・いや、かなりホラーだ。

 

「「「デュノア君!!」」」

 

一斉に詰め寄られ、あたふたしながら連行されるシャルル。

シャルル、頑張れよ!

俺はシャルルに敬礼した。

今度は、鈴とセシリアが一夏と組もうとする。

 

「一夏、アタシと組みなさいよ、幼なじみでしょうが!」

 

「一夏さん、クラスメイトとして、ここはわたくしと━━」

 

「駄目ですよ」

 

それを、いつの間にか医務室に入ってきていた山田先生に遮られた。

 

「お二人のIS、ダメージレベルがCを超えています。トーナメント参加は許可出来ません」

 

真剣な眼差しで、そう言ってくる。

 

「そんな!?アタシ十分に戦えます!」

 

「わたくしも納得出来ませんわ!」

 

「ダメと言ったら、ダメです!当分は修復に専念しないと、後で重大な欠陥が生じますよ?」

 

山田先生の駄目だしを受け、黙る二人。

そして、お互いに目配せして、頷く。

 

「良い?アンタ達!絶対優勝するのよ!」

 

「わたくし達の分まで頑張って下さいな!心から応援致しますわ!」

 

「お、おう、任せとけ」

 

「あ、あぁ、分かった」

 

二人の気迫に圧されながら返事をする。

 

「ふふっ。美しい友情ですね」

 

山田先生が微笑みながらそう締め括る。

俺にはどこか、謀略が混じってる様に思うんだが・・・。

 

 

学生寮 自室

 

ふぅ、今日も色々遭ったなぁ・・・。

とにかく、一夏と組んだなら、なんとしてもボーデヴィッヒに勝たなくちゃな・・・。

 

「とにかく、今日はもう寝よう。色々遭って疲れた・・・」

 

そう言いながら、ベッドに寝転ぶ。

・・・まぁた一夏の部屋が騒がしいな・・・。今度は一体何だ?

 

 

 



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第26話

学年別トーナメント当日

 

一夏、俺、シャルルは、更衣室で着替え中だ。

 

「へぇ~、しかし凄いな、こりゃ」

 

壁のテレビを見ながらそう呟く一夏。

 

「3年にはスカウト、2年には一年間の確認にそれぞれ人が来ているからね」

 

「ふーん、ご苦労なこった」

 

「さっきからお偉いさんが来てたのはそれが理由か。俺もついさっき、ジョーンズさんに会ったよ」

 

あの人も大変だな。と言って俺もテレビを見上げながらスーツの装備を整える。

 

「一夏とウィルはボーデヴィッヒさんとの戦いだけが気になるみたいだね」

 

「あ、ああ、まあな?」

 

「そりゃあ、なぁ?」

 

「感情的にならないでね?」

 

シャルルが念を推してくる。

 

「ボーデヴィッヒさんはおそらく、一年の中では最強だと思う・・・」

 

「あぁ、分かってる」

 

「その忠告、肝に命じておくよ」

 

シャルルの真剣な眼差しに俺達も気合いを入れ直す。

そんなやり取りをしていると、するとテレビの画面が変わり、トーナメント表が表示された。

 

「対戦相手が決まったね」

 

「・・・ああ」

 

「さて、誰が初戦だ?」

 

俺達は画面に集中する。

 

「え!?」

 

「は!?」

 

「おいおい・・・!こりゃあ何のジョークだ?」

 

 

同時刻、女子更衣室

箒はトーナメント表が映し出された画面を睨んでいた。

・・・何と言う組み合わせだ。

横にいる人物を見る。

そこにはラウラが画面を無表情で見つめていた。

最悪だ・・・。

映し出されたトーナメント表。箒のペアはラウラ・ボーデヴィッヒ。

それも初戦で、一夏とウィリアムのペアとの戦闘だった。

 

 

アリーナ競技場

 

そこにはISを展開した、一夏とウィリアムが立っている。

対するは同じくISを展開したラウラと学園のIS『打鉄』を纏った箒。

両チーム共に睨み合う。

 

「一戦目で当たるとはな、待つ手間が省けたと言うものだ」

 

「そりゃあ、何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」

 

試合開始のカウントダウンが始まる。

 

「やるぞ一夏!マスターアーム、オン!」

 

搭載兵装の安全装置を解除。

 

『試合開始!!』

 

「「「叩きのめす!!」」」

 

試合開始と同時に、俺は少し高度を上げてから相手に接近する。

 

「うおぉぉおお!!」

 

一夏が雄叫びと共に突撃する。

━━が、早速ラウラのAICによって動きを止められた。

 

「開幕直後の先制攻撃か?分かり易いな」

 

「そりゃあどうも。以心伝心で何よりだ」

 

「なら次に私が何をするのかも分かるな?」

 

ラウラの右肩の砲が一夏を正面に捉える。

砲弾が発射される瞬間、俺がラウラに対し機銃を掃射し、妨害した。

 

「くっ!」

 

ラウラはなんとかそれを防御し、回避行動に移る。

 

「逃がさん・・・!」

 

俺は右手の30mm機銃と、主翼ハードポイントに装備した『無誘導ロケット(RKTL)』を発射した。

上空から毎分1800発の砲弾と大量のロケット弾の雨が彼女に殺到する。

しかし、そこに箒が現れ、機銃弾の幾つかを弾き、ロケットを両断してしまった。

 

「な、何・・・!?」

 

まさか両断されるとは・・・。

 

「私を忘れてもらっては困る!」

 

今度は一夏と箒のブレードがぶつかり合う。

俺は隙を見て兵装を変更。箒に30mm機銃と今度は40mm砲を向けた。

 

「しまった!?」

 

箒が俺の意図を察するも一夏が逃がさない。

 

「ナイスだ一夏、もう少し耐えてくれよ?」

 

俺が引き金を引こうとしたその時、箒のIS脚部にラウラのワイヤーブレードが絡み付き、そのまま引っ張り上げた。

 

「うわっ!?」

 

箒が宙に投げ飛ばされる。

 

「・・・助けた、のか?」

 

「いや、あれは助けたんじゃない。退けたんだ(・・・・・)

 

「ぐああっ!!」

 

箒が地面に叩き付けられたが、ラウラは気にも留めず、一夏に攻撃し始めた。

なら、俺の相手は・・・

叩き付けられた箒はめげずに立ち上がり、突撃してくる。

相手がブレードのみなら、攻撃の隙は幾らでもある。

俺は箒に向かって弾幕を展開した。

 

「一夏がボーデヴィッヒと戦ってるなら、俺の相手はお前だな。正直、お前の剣術はかなりの脅威だと身に染みたからな。先に倒させてもらう!」

 

「くっ!近付けない・・・!」

 

 

アリーナ コントロールルーム

 

 

「先に篠ノ之さんを倒す作戦でしょうか?」

 

山田先生が織斑先生に問い掛ける。

 

「賢明だな、ボーデヴィッヒは自分側が複数での戦いを想定していない、パートナーの事は端から数に入れていない」

 

「それに比べて、織斑君とホーキンス君の連携は、素晴らしいの一言ですね?」

 

「・・・このくらいは、出来て当然だ」

 

相変わらず辛口である。

 

 

やはりと言うか、箒が弾幕を抜けて、ブレードを振り下ろして来た。

 

「くっ!お返しだ!」

 

手に持っていた機銃で斬撃を防ぎ、お返しに40mm砲を三連発。

 

「っ!?」

 

弾は全弾命中し、箒は戦闘不能になった。

 

「ターゲットダウン」

 

「ここまでか・・・!」

 

箒が悔しそうに呟く。

脅威の排除に成功した俺は次のターゲット、ラウラに向けて、40mm砲を続け様に発砲。

数発が命中し、一夏とラウラは一端距離を取る。

 

「待たせたな」

 

「助かったぜ、ありがとよ。箒は?」

 

「あっちでお休み中だ」

 

親指をクイッと箒の方に向け、撃破報告をする。

 

「流石だな」

 

「サンクス。でも、なかなか手強かったよ」

 

「それじゃあ、俺はこれで決める!」

 

一夏が零落白夜を発動し、突撃。俺も機銃を撃ちながら、ラウラの周囲をすり鉢状に旋回した。

途中ラウラのAICに捕まるも、一夏の攻撃によって妨害され、レールカノンの一撃を浴びる直前で解放された。

 

「・・・?もしかして!」

 

一夏が何かを察して再度ラウラに攻撃をする。

 

「ふっ、無駄なことを」

 

AICで一夏を拘束する。

ラウラが一夏に攻撃をしようとした瞬間。

 

「忘れているのか?俺達は、二人なんだぜ?」

 

「っ!?」

 

直後、一夏の背後からウィリアムが突然現れ、機銃を発砲。

 

「くっ!」

 

見事、ラウラのISのレールカノンを破壊した。

 

「やっぱり!思った通りだ!」

 

「思った通り?」

 

俺は一夏に質問する。

一夏の予想、もしかしてAICは複数相手に使用は出来ないのでは?と言うものだったらしい。

結果はビンゴ。これで戦闘が楽になる。

 

「一夏、お前やるじゃねぇか!ナイスだ!!」

 

「おう!サンキュー!一気に畳み掛けるぞ!」

 

黒煙を上げながら、離脱しようとするラウラを追撃する。

さっきの事で戦いのペースを崩されたラウラの被弾が増える。

よし、止めだ!やってやれ一夏!

 

「うおおおお!!」

 

一夏がラウラに斬りかかる。

しかし━━

 

「・・・え?」

 

ブレードの青白い光が失われた。

言わずもがな、エネルギー切れだ。

 

「・・・マジか・・・」

 

動揺する一夏をラウラは見逃さない。

 

「限界までシールドエネルギーを消耗しては、もう戦えまい!」

 

「うわっ!?」

 

まずい、今度は一夏のペースが崩れた!

一夏が地面に叩き落とされ、それを空かさず追撃しようとするラウラを俺は援護射撃で妨害する。

 

「邪魔だっ!!」

 

ラウラのISからワイヤーが飛んでくる。

 

「ヤバッ・・・!」

 

それが脚に絡み付き、捕縛された。

 

「やはり、貴様も所詮敵では無かったか。織斑一夏に前に邪魔な貴様から潰してやる」

 

そう言いながら、ラウラが腕からブレードを出して近づいてくる中、俺は咄嗟に主翼からミサイルを発射した。

 

「・・・どこを狙っている?」

 

どうやら、俺の意図に勘づいてはいないようだ。

その言葉を聞いて、俺はニヤリと嗤った。

 

「ふっ、それはどうかな?」

 

「どうした?苦し紛れの一言がそれか?」

 

「余裕こいてる暇があるんなら、さっさと離れたらどうなんだ?」

 

「貴様、何を言って━━」

 

「━━なぁ、LOALって知ってるか?」

 

突如、ラウラのISからロックオン警報を鳴り響く。

そして━━

ボォンッ!

 

「ぐあっ!?」

 

突如、彼女の背中で爆発が起きた。

 

LOAL━━Lock On After Lunchの略。

日本語では『発射後ロックオン』と言う。

これはミサイルに予め簡単な座標を覚えさせ、発射。

発射されたミサイルは座標に従い飛行し、目標を自ら発見、撃破する。

 

IS用のミサイルは小さいので、明後日の方向に飛ばしてもなんとか命中させることが出来た。

まさにIS様様である。

と言うより、あのサイズで通常の戦闘機のミサイル並みの威力を持ってる事にも驚きだが・・・。

ラウラがなんとか態勢を立て直す。

 

「まだ終わって無いぞ!」

 

俺はラウラに向かって発砲しながら、アフターバーナーをフルにして突撃する。

 

「速い・・・!その大きさで何故!?」

 

「俺のISがデカイのはメインとは別にジェットエンジンを積んでるからさ!」

 

「なっ、ISにそんな物を積んでいたのか!」

 

「この搭載量で速度を出すには、こっちが断然良いからな!」

 

「だが、幾ら速くてもこの私の停止結界の前では━━ぐっ!?」

 

また、背中で爆発。

ラウラが今度は何事だ?と振り返ると、俺の40mm砲を構えた一夏が立っていた。

 

「こ、の・・・!死に損ないがぁぁぁ!!」

 

ラウラがワイヤーを一夏に発射。

 

「ぐあっ!?」

 

ワイヤー先端のブレードが一夏に直撃した。

 

「どこを見ている!」

 

「し、しまった!」

 

一夏、ナイスだ。お陰で隙が出来た・・・!

俺は、ラウラを強引に掴んでフルパワーで急上昇して行き、ある程度の高度に到達すると縦に回転して彼女を振り回し、壁に叩き付けた。

そして、止めの一撃を放つ準備をする。

 

「この距離なら目を瞑ってても当てられるな」

 

そう言いながら、エアインテーク下のウェポンベイを開放。中から黒光りする何か━━空対地ミサイル(AGM)が顔を覗かせる。

 

「これで最後の仕上げだ!」

 

空対地ミサイルを切り離した。

ミサイルは誘導に従いラウラに吸い込まれるようにして命中する。

黒煙が晴れると、そこには満身創痍のラウラが壁に寄り掛かっていた。

 

 



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第27話

ラウラに止めの一撃を放った後。

 

「ふぅ、やったか?」

 

少しやり過ぎたな・・・大丈夫か?

 

「ウィル!大丈夫か?」

 

「あぁ、なんとかな・・・。流石にあれだけ喰らったんだ。大丈夫だと思うが、試合終了の合図まで気を抜くなよ?」

 

「分かってるさ」

 

 

私は、負けられない・・・!負けるわけにはいかない・・・!

ラウラは忌々しい過去を思い出す。

 

『遺伝子強化体C-0037、君の新たな識別記号は“ラウラ・ボーデヴィッヒ”』

 

私はただ、戦いの為に造られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。

私は優秀だった。

最高レベルを維持し続けた。

しかしそれは世界最強の兵器、ISの出現までだった。

直ちに私にも、適合性向上の為に、肉眼へのナノマシンの移植手術が行われた。

しかし、私の身体は適応しきれず、その結果、出来損ないの烙印を押された。

そんなとき、あの人に出会った。

彼女は極めて有能な教官だった。

私はIS専門の部隊で、再び最強の座に君臨した。

 

『どうして、そこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?』

 

『私には弟が居る』

 

微笑みながら彼女は答える。

 

『っ!!』

 

・・・違う。

どうして、そんなに優しい顔をするのですか?

私が憧れるあなたは、強く、凛々しく、堂々としているのに・・・!

ラウラの胸にドス黒い感情が芽生え始める。

・・・だから、許せない、教官をそんなに風に変える男を!そして私の邪魔ばかりする、目障りなあの男も・・・!!

 

・・・力が、欲しい。

 

『願うか?汝、より強い力を欲するか?』

 

寄越せ、力を、比類なき最強を!!

 

Damage Level・・・・・・D.

Mind Condition・・・・・・Uplift.

Certification・・・・・・Clear.

 

《Valkyrie Trace System》・・・・・・boot.

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 

「「!?」」

 

突如ラウラの叫び声がアリーナに響いた。

彼女のISからはスパークが発生し、みるみる形状が変化していく。

 

「な、何だ!?」

 

あまりに突然の事態に一夏が慌てる。

 

「俺が知るかよ!って、おいおいおい・・・!何なんだあれは!?」

 

そう言いながら、俺も思わず後退りしてしまう。

ラウラのISはまるで意思を持った液体の様に蠢き、肥大化して行き、もがき苦しむ彼女をも呑み込んでしまった。

 

「っ!!」

 

彼女が呑み込まれる寸前、俺と目が合った。その目は酷く寂しそうと言うべきか・・・言葉では言い表せないものだった。

ソレは段々と巨大な人の形へと成りはじめる。

アリーナの警報が鳴り始める。

 

『非常事態発生!全試合は中止、状況はレベルDと認定。制圧の為、教師部隊を送り込む!』

 

観客席と特等席のシャッターが閉鎖する。

 

「あの剣・・・?千冬姉と同じじゃないか・・・!」

 

一夏がそう呟く。

 

「おい、何を言っているんだ?」

 

俺は箒をISから降ろしながら一夏に聞く。

だが一夏は、「俺がやる」

そう言ってブレードを構える。

 

「おい、待て!一人で言ったら━━」

 

言葉を続ける間は無かった。

奴がとんでもない早さで一夏に斬りかかったのだ。

 

「がっ・・・!?」

 

対処しきれず、ブレード落としてしまった。

だが、そんな事相手はお構い無しに巨大なブレードを振り下ろした。

 

「ぐぁっ!」

 

一夏は吹き飛ばされた。

腕に諸に命中したのか、血が出ている。

ISの装甲に救われたようだ。

一夏は怒りと悔しさの入り交じった顔で敵を睨む。

 

「この野郎ぉぉ!!」

 

あの馬鹿っ、生身で・・・!

止めようとした時、箒が彼の腕を掴んで引き留めた。

 

「馬鹿者!何をしている、死ぬ気か!?」

 

「生身で突っ込むなんて、正気の沙汰じゃねぇぞ!?」

 

それでも彼は振りほどこうとする。

 

「離せっ!あいつ、ふざけやがって!ぶっ飛ばしてやる!!」

 

一夏は完全に頭に血が昇ってしまっていた。

 

「離せっ、箒!邪魔するなら━━━」

 

「ぶっ飛ばされるのは、お前だ!」

 

「ぐっ!」

 

一夏は俺に殴られ、目を白黒させている。

俺は一夏の胸ぐらを掴み、怒鳴った。

 

「いい加減にしろ!何がお前をそこまで怒らせたかは知らんが、作戦は!?勝算は!?それでお前が死んだらどうする気だ!?」

 

「っ・・・・・」

 

どうやら、少しだけ冷静になったようだ。

 

「・・・あの技は、千冬姉だけの技なんだ・・・!」

 

「今のお前に何が出来る?白式のエネルギーも残っていない状況でどう戦う!?」

 

箒が一夏を説得する。

・・・教師部隊が到着したようだ。

 

「見ろ、お前がやらなくても、状況は収拾される」

 

「・・・違うぜ箒、全然違う。俺がやらなきゃいけないんじゃない、これは俺がやりたいからやるんだ!」

 

「っ!ではどうすると言うのだ!」

 

箒が一夏の言葉に声を荒げる。

 

「そうだぞ一夏。IS無しじゃ余りにも無謀だ」

 

そこへ別の声が掛かった。

 

「エネルギーが無いなら、持って来れば良いんだよ」

 

そこにはシャルルが立っていた。

 

「・・・持って来る?どう言う意味だ?」

 

「大丈夫、任せといて」

 

そう言いながら彼女はISからコードを取り出し、一夏のブレスレットに接続する。

 

「リヴァイヴのコアバイパスを解放。エネルギーの流出を許可」

 

「成る程、そんなことが出来たのか」

 

戦闘機同士のバディ給油と同じだ。

彼女の言葉の意味を理解した。

 

「なら、一夏一人に任せる訳にもいかないな」

 

俺は一夏に向き直り、ニッと笑う。

 

「ウィル・・・」

 

「友人を一人で危険に向かわせるなんて、男が廃るぜ。それに、ボーデヴィッヒも助けてやらないとな?」

 

「約束して、絶対に勝つって!」

 

シャルルが俺達に言ってくる。

 

「勿論だ、負けたら男じゃねぇよ」

 

「ああ、まったくだ」

 

俺達は自信満々に答える。

 

「ふふっ、じゃあ、負けたら明日から女子の制服で通ってね?」

 

「え゛!?」

 

シャルルのえげつない一言に箒が若干引く。

 

「い、良いぜ」

 

「お、おぅ、ノープロブレムだ」

 

・・・言質は録られた、負けられないな。

 

 

「・・・これで完了だ」

 

「ありがとよ」

 

一夏が白式を展開する。

教師部隊が突然後方に下がり始めた。

 

「織斑先生か・・・」

 

どうやら彼女が指令を飛ばした様だ。

 

「一夏、ウィリアム、絶対に死ぬな!」

 

箒からの激励が贈られる。

 

「信じろ」

 

一夏が箒に言葉を返した。

 

「俺を、ウィルを、信じて待っていてくれ。必ず勝つ」

 

「ふっ、何だかテンションが上がるな」

 

俺達は敵ISの前に立つ。

 

「で、作戦は?」

 

「あぁ、俺が零落白夜でアイツを斬って、ラウラを引っ張り出す。その間、ウィルは気を惹いてくれないか?」

 

「単純な作戦だが、乗った!下手に複雑なのよりよっぽど良い」

 

「行くぜ、偽者野郎!」

 

「よっしゃあ!やったろうぜ!」

 

敵ISに向けて攻撃を開始した。

 



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第28話

ラウラを呑み込んだ巨大ISと戦闘を開始してから数分、一夏は何度も敵に斬撃を当てているが、なかなかラウラの救出が出来ない。

あのドロドロした物が傷口を直ぐに塞いでしまうのだ。

 

「クソッ!駄目だ、アイツ修復が早すぎる!」

 

一夏が盛大に悪態をつく。

 

「あぁ、あの液体みたいなのが邪魔だな」

 

何か方法は無いか・・・?

その時、一つ名案が浮かんだ。

 

「一夏、後一発だけデカイの行けるか?」

 

「?あぁ、エネルギーならもう少しだけ残ってる。けど、どうする気だ?物理攻撃がほとんど効かないぞ、アイツ」

 

「大丈夫だ、まず俺の作戦だが━━」

 

作戦を説明する。

 

内容は至って簡単。

一夏が斬ったら傷口が修復する前に俺のISの高速性能を活かして突撃し、一気にラウラを引っ張り出す。

そもそも、相手の攻撃を凌ぎながらラウラの救出すると言うのが一夏にとって負担はデカイし、危険だ。

 

「危険じゃないか?それ」

 

「今、一番可能性が高いのがこの方法だ。これ以上時間を食うと今度こそエネルギー切れになる。それにボーデヴィッヒ自身もこのままだと危険だ。やるしかない」

 

囮役である俺が仕事をしなくなるので確かに危険かもしれないが、早めにケリを着けないと間に合わなくなる。

 

「・・・よし、分かった。やってみようぜ、ウィル!」

 

「今度こそ終わらせるぞ!」

 

もう一度攻撃を開始する。

成功、失敗に関わらず、これがラストチャンスだ。

 

「うおぉぉおお!!」

 

一夏が敵の腹部を斬りつける。

斬りつけられた腹部がパックリと裂けた。

 

「今だ、ウィル!」

 

一夏が合図しながら、俺との衝突を避けるため横に退避する。

 

「サンクス、一夏!」

 

俺はそのまま敵に向かって突撃。

そして━━

 

 

いつの間にか、俺はISを展開した状態で倒れていた。

 

「・・・・・・ん?ここは?」

 

どうやら機体に大きな損傷は無いようだ。俺はゆっくりと立ち上がる。

その時、頭に強烈な痛みが走った。

 

「うっ・・・何だ、これ。遺伝子強化?試験管ベビー?何の事だ・・・?」

 

頭の中を見た事の無い光景や単語がフラッシュする。

 

「これは・・・!」

 

辺りを見渡しても、見えるのは黒一色。

 

「・・・何だったんだ?」

 

俺は宛もなく歩き続ける。

しばらく歩き続けると、広場?の様な場所に出た。

その広場の真ん中に、一人佇む少女。

ラウラだ。

 

「おい、こんな所で何をしてるんだ?」

 

「っ!?」

 

驚いた様に振り返るラウラ。

 

「貴様っ、何故ここに!?いや、どうやって入った!」

 

「知らん。一夏が橋渡しをしてくれて、俺は気が付けばここに居た」

 

あのISに突撃して、文字通りダイブしたらここに居た。本当の事だ。

 

「・・・何をしに来た?」

 

「お前を助け出しに来た。早く出ないと命に関わるかもしれないぞ?」

 

間髪入れずにそう答える。

 

「助けるだと?誰がそんなことを頼んだっ・・・!」

 

「他の誰でもないお前(・・)だよ」

 

「そんな事一言も━━━」

 

「そうか?確かに口では言ってなくても、お前があのISに呑み込まれる寸前、俺には「助けて」と目で訴えてるように思えたがな」

 

彼女の眉がピクリと動く。

 

「・・・貴様に、貴様に私の何が解る!?生まれた時から兵器として育てられ、鍛えられ、ISが出来たら今度は出来損ないのゴミとして扱われた!・・・私は必要な機器と薬剤さえあれば、また作れる(・・・)。私が死んだところで、誰も・・・」

 

成る程、さっき頭痛の時に見えたのはこの事か。

 

「・・・それが本音か?」

 

「っ!」

 

「確かに、俺にお前の事は解らない。俺はお前じゃないからな。だが、これでハッキリした。お前がここから出たいと、助けて欲しいっていうのは俺でも解る」

 

「っ!何を根拠に・・・!」

 

「よく言うぜ、泣きそうな顔してるくせに」

 

「っ!?」

 

自分の頬を伝う涙に気付き、それを慌てて拭うラウラ。

 

「なぁ、別に俺達はお前の事を見捨てる気なら端からそうしてただろ?一夏なんて、お前に目の敵にされてたのに、危険な救出作戦を何度も実行したんだぜ?俺だって態々こんな危険を冒してまでこんな得体の知れない場所には来ないさ」

 

まぁ、最後のは予想外だけどな。と冗談混じりにそう継ぎ足しながら苦笑した。

ラウラが、その目を大きく見開ける。

 

「まぁ、あれだ、誰もお前の事を見殺しにしようとは思ってないって事だ。ああ、それともう一つ。これは俺の意見だが、お前や他の奴らが何と言おうが、お前は“ラウラ・ボーデヴィッヒ”その人だ。それ以上でも以下でも無い。お前は人間だ。人間の女の子だ

 

最後に締め括る。

 

「で、話を戻すがどうなんだ?まだここで引き籠っていたいか?」

 

まあ、嫌だなんて言ったら引きずってでも連れて帰るがな。と冗談めかしながら付け加えた。

ラウラは俯き、肩を震わせる。

 

・・・けて

 

「ん?」

 

「助けて・・・!」

 

そう言ってこちらを見上げてくる彼女の顔は涙や何やらでぐしゃぐしゃだった。

 

「勿論」

 

そう言って俺は彼女に手を差し出した。

 

 

気が付けばここに居た。暗くて寒い。

自分はこのまま死ぬんだろうか?

そんな事を考える。

だが、私が消えたところで誰も気にしない。どうせ私は替えの利く兵器(・・・・・・・)なのだから。

そう思っていると、アイツが立っていた。さっきから「助けに来た」だの何だの言っている。おまけに、私が助けて欲しいと訴えて来た等と言い始める始末だ。

つい、自分の感情をぶちまけてしまった。

こいつが何を根拠にそんな事を言ってるのか分からない。それを指摘すると、「泣きそうな顔してるくせに」と言われた。

そこで自分の頬を流れる何かに気付いた。

何で涙など・・・。

慌てて涙を拭く。

そして、彼は衝撃的な言葉を言い放った。

 

お前は人間だ。人間の女の子だ

 

そう言ってきたのだ。

 

・・・にん、げん?私が?

 

今まで、お前は兵器だと言われ続けた彼女は、ただ自らの存在意義の為だけにひたすら強さを求め続けていた。だがしかし━━

 

-人間の女の子だ-

 

この男は私を兵器としてでは無く、『人』として見てくれた。

 

 

『まったく!なんだこのザマは!廃棄処分もやむを得ないぞ!』

 

 

『いいかね、ラウラ・ボーデヴィッヒ。君は完璧な兵器なのだ。不良品では困る。替えが利くとはいえ、タダではないのだよ』

 

 

 

 

 

『お前は人間だ。人間の女の子だ』

 

心の内で何か溜まりに溜まったモノが崩れて行く気がした。

 

もし、彼が本当に助けてくれるなら。

 

もし、ここから出られるなら。

 

・・・死にたくない。

 

そう思い始めると、もうどうにも止まらなくなった。

 

「・・・助けて・・・」

 

口が勝手に動く。

いや、これが私の本心だ。

涙が決壊したダムのように溢れてくる。

 

「助けて・・・!」

 

嗚咽を漏らしながら、精一杯に声を絞り出す。

 

「勿論」

 

彼はそう言って、あの鮫面(シャークマウス)には酷く不釣り合いな優しい声音で手を差し伸べて来た。

 

 

差し出した手を彼女はしっかりと握り返してきた。

 

「よし!なら早速脱出だ!」

 

「だが、どうやってここから出るつもりなんだ・・・?」

 

・・・あっ。

 

「・・・ヤバいな、どうやって出よう・・・。何かパスワードとかは無いのか?」

 

「そんなものは無い」

 

「」

 

ヤバいヤバい、カッコつけて今更この様とか笑えねぇよ!

頭を抱えながら絶望の表情を浮かべる。

 

「あ!そうだ!適当に飛んでたら帰れるんじゃないか!?」

 

焦って滅茶苦茶な事を言い始めるウィリアム。

 

「ふふっ」

 

横でラウラが可笑しそうに笑う。

だが、彼はそれに気付かない。

 

「と、とにかくやってみるしかない!しっかり掴まってろよ?」

 

俺はラウラを抱き抱えながら、真っ直ぐに飛び続ける。

飛んでから数分と経たない内に、少し先に光が見えた。

 

「ビンゴ!あれだ・・・!」

 

 

ウィルがあのISに呑み込まれてから数分。

あれから、敵は動きを止めたままだ。

・・・遅い、遅すぎる。

 

「まさか・・・!」

 

脳裏に最悪の事態が浮かび、一夏が動こうとしたその時、敵の腹部が突然膨らんだかと思うと、中から見覚えのある厳つい顔のISが・・・。

 

「ウィル!」

 

彼は腕にラウラを抱いたまま、必死に離脱しようとしているが、あのISの触手の様なものが逃がすまい、と絡んできて抜けられない。

 

「うおおおお!!」

 

ゴォォォォォオオオオオ!!

 

が、ウィリアムは、自分のISに取り付けられたジェットエンジンから青い炎を噴かせながら抵抗し続け、とうとう触手の様なものがブツリと千切れた。

 

「いっけね!?」

 

しかし、彼のISは反動で一気に吹っ飛んで行ってしまい、そのまま胴体着陸の様に地面を抉りながら滑走して行く。

パチンコのように飛ばされたウィリアムは、ゴツッと軽く壁にぶつかる事で、ようやく完全に停止した。

ジェットエンジンのタービン回転数が低下して行く音と同時に、あの巨大なISは力が抜けたように崩れて行き、ラウラのレッグバンドへ戻って行く。

 

「やった・・・!」

 

一夏の声を皮切りにアリーナに出ている者達から歓声が広がる。

彼は友人の元に歩いて行き、「やったな」と言うと、ウィリアムは「あぁ」と言ってサムズアップしながら返答した。

 

「そう言えばボーデヴィッヒは!?・・・まったく、気持ち良さそうに眠りやがって。一夏、ぶっ飛ばすのは勘弁してやろうぜ?」

 

「ああ、そうだな。勘弁してやるか」

 

彼の腕の中では、ラウラが静かに寝息を起てていた。

 

 

ラウラ救出後 

 

「いや、だから一夏はともかく、俺は大丈夫ですって」

 

「俺も腕ちょっとかすっただけですよ」

 

「駄目です。一応、検査だけは受けとかないと」

 

今、俺と一夏は山田先生に医務室に連行されていた。

 

「さぁ、着きましたよ。入って検査を受けて来て下さい」

 

「ハァ、分かりましたよ」

 

そう言いながら、俺達は医務室に入る。

そこには、ラウラがベッドの上に座っていた。

 

「ラウラ・・・」

 

「ボーデヴィッヒか」

 

「ん?あぁ、お前達か・・・」

 

少し気まずい雰囲気だ・・・。

 

「・・・織斑一夏。私の勝手な逆恨みで巻き込んでしまって、本当に申し訳無かった・・・」

 

ラウラが一夏に謝罪する。

まるで、憑き物が取れた様だ。

 

「いや、もう気にしてないよ。まぁ、何だ。これからよろしくな」

 

「ああ。よろしく」

 

なんとか、彼とラウラのわだかまりは解消されたようだ。

「お先に」と言って彼は奥の部屋に進んで行った。

俺とラウラだけが残される。

あの時、彼女の前で恥ずかしいセリフをベラベラと喋った手前、恥ずかしくなってくる。

 

「ん?その目は・・・」

 

彼女は眼帯を外している為、左目が露になっていた。

オッドアイと言うのは聞いた事はあるが、ここまで色素が濃いものがあったのか・・・。

 

「あぁ、これか?これは私とISの適合性向上が目的でナノマシンを移植した証拠だ。その際の事故で左目だけ変色してしまっているがな・・・」

 

そうか、自然に出来た訳では・・・。

 

「そうか。だが、俺は綺麗だと思うな」

 

「綺麗?」

 

「ああ、まぁ、あれだ、こう、金色の瞳なんて神秘的と言うか、・・・何て表現したら良いかな」

 

「ふふっ、面白い奴だな」

 

「ん?そうか?」

 

「ああ。あれだけ格好を着けた後で盛大に狼狽したり、とかな」

 

「あれは・・・忘れてくれ。恥ずかしい」

 

「いや、無理だな。あの言葉に私は救われたんだ。本当に、ありがとう」

 

「・・・どういたしまして」

 

面と言われるとやはり恥ずかしい。

余談だが、俺達が来る前に一度、織斑先生が彼女を訪ねて来て、あの空間で俺が言った事と似た事を言われたらしい。

 

「そう言えば、ボーデヴィッヒ━━」

 

「ラウラで良い」

 

「そうか?なら、俺もウィルで良い」

 

こうして、しばらく二人で談笑していると、気付けば日もだいぶ落ちていた。

俺は早めに検査を終わらせ、ラウラに挨拶してから医務室を後にした。

 

 

しばらく歩いていると、食堂で夕食を選んでいる一夏とシャルルを見つけた。

俺も同席するため、食事を選びに行く。

今日は・・・何?ホッケ定食!?旨そうだ・・・。

よし!夕食のメニューはこれで決まりだな!

 

弾む足取りで料理を注文しに向かった。

 

 



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第29話

「結局、トーナメントは中止だって。ただ、個人データは録りたいから一回戦は全部やるそうだよ?」

 

「ふーん」

 

「そうか、先生達も大変だなぁ」

 

食事を口に運びながら、返事を返す。

 

「ん?」

 

「うん?」

 

「どうした?」

 

一夏が何かに気づいてそちらを見る。

そこには、絶望に染まった顔の女子達が立っていた。

 

「優勝、チャンス、消えた・・・」

 

「交際、無効・・・」

 

「うわぁぁん!」

 

「「「うわぁぁん!」」」

 

盛大に泣き声を上げながら、走り去ってしまった。

・・・何なんだ?いったい。交際?

 

「あ」

 

今度は何だ?

と思いながら、そちらを見る。

一夏の視線の先には箒が立っていた。

 

「あ、そうだ」

 

彼は何かを思い出したように立ち上がり、箒の元に歩み寄る。

 

「そう言えば箒、先月の約束な・・・」

 

「えっ?」

 

「付き合っても良いぞ?」

 

・・・何か約束事か?

 

「何!?」

 

「だから、付き合っても良いって━━」

 

「本当か!?本当に本当なのだな!?」

 

箒に胸ぐらを掴まれ揺さぶられている一夏。

 

「お、おう」

 

「何故だ?コホン、理由を聞こうではないか?」

 

「幼なじみの頼みだからな。付き合うさ」

 

「そうか!」

 

 

 

 

 

 

「買い物くらい━━グハァ!?」

 

箒の渾身のパンチが一夏の頬に直撃した。

しかしそれだけでは終わらない。

 

「そんな事だろうと・・・思ったわっ!!」

 

そのまま、一夏の腹を右足で蹴り上げた。

 

「ぐえぇ!?」

 

放たれたそれは、彼の腹にクリーンヒット。

・・・うわぁ、痛そうなんてレベルじゃねぇぞ、アレ。

思わず自分の腹をさする。

 

「ふんっ!」

 

そう言って箒はズカズカと、不機嫌極まり無いというような表情で去っていった。

 

「ぐ、ぐ、ぐ・・・な、何で・・・?」

 

「一夏って、態とやってるんじゃないか?って思うときがあるんだよね・・・」

 

「え?買い物の他に何か意味有るのか?日本のあの独特の言い回しは難しいな・・・」

 

「えぇ・・・」

 

そんな話をしていると、山田先生が入って来た。

 

「織斑君、ホーキンス君、デュノア君、朗報ですよ!」

 

「朗報?」

 

「今日は大変でしたね。でも、三人の労を労う素晴らしい場所が、今日から解禁になったのです!」

 

「え?」

 

「場所?」

 

「?」

 

「男子の、大浴場なんです!!」

 

 

「こ、これが・・・!」

 

「あぁ、結構でかいな」

 

俺は初めて見る大浴場に興奮する。

因みに、話し合いでシャルルは俺達の後に入ることになった。

まずは、体と頭を念入りに洗い、そして浴槽に入る。

 

「「はぁ~~~」」

 

「生き返る~」

 

「これは・・・なかなか良いな~。これがジャパニーズ風呂か・・・」

 

二人してフニャァっとした顔をしながら風呂を堪能する。

その時

 

「お、お邪魔します・・・」

 

「「へ?」」

 

なんとシャルルが浴場に入ってきたのだ。

 

「な、なぁ・・・!」

 

「煩悩退散、煩悩退散・・・!心頭滅却すれば火もまた涼し・・・」ブツブツ

 

あれ?、火は関係無いか?

 

「あ、あんまり見ないで・・・。二人のエッチ・・・」

 

「す、すまん!」

 

「い、一夏!俺は逆上せたみたいだから、先に上がるぞ!じゃあな!」

 

「ちょっ!ウィル!?」

 

・・・済まない一夏、俺は限界だ・・・。

 

この後、俺が冷たい飲み物で頭をクールダウンしていると、少し顔の赤い一夏とどこか嬉しそうなシャルルが出て来た。

 

何が遭ったかを聞くのは野暮ってものだろう。

 

 



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第30話

翌日 

 

 

「おい一夏、シャルルはどうした?」

 

いつも彼といるはずのシャルルが居ない。

 

「さぁ?何か朝起きたらそのままどこかに行っちまったんだよ」

 

「どこかって・・・」

 

一体何が遭ったのか。

 

「席に着け。HRを始める」

 

織斑先生が号令を出し、俺達は各々の席へ着席する。

 

「山田先生」

 

「はい・・・」

 

どうしたんだ?先生が何時もより元気無いぞ?

 

「・・・今日は皆さんに転校生を紹介します」

 

Oh・・・またかよ、どんだけ転校生来るんだよ。

そんな事を考えていると、転校生が教卓に向かう。

ん?あの顔どこがで・・・って!

 

「“シャルロット・デュノア”です。皆さん、改めてよろしくお願いします!」

 

なんと、女子の制服に着替えたシャルルだった。

 

「えぇ~と、デュノア“君”はデュノア“さん”と言う事でした。はぁ、また部屋割りの組み直しです・・・」

 

疲れた様にそう説明する山田先生。

そうか!一夏や俺、シャルルが考えた、彼女が安全に学園生活を送れる方法。

それは、間違って男としてこの学園に転入して来た(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)事にすれば良かったのだ。

つまり、シャルロットが彼女の本名か。

 

「・・・は?」

 

箒の声を皮切りに教室がざわめく。

 

「デュノア君って女?」

 

「おかしいと思った。美少年じゃなくて、美少女って訳だったのね!」

 

「って織斑君!同室だから知らないってことは・・・ホーキンス君もよく一緒に居たのに気付かなかったの?」

 

段々と雲行きが怪しくなって来たぞ?

そこへ、とうとうバンカーバスター(地中貫通爆弾)が投下される。

 

「待って!そう言えば、昨日って男子が大浴場使ったわよね?」

 

バキィッ!

何者かが教室の壁を粉砕して侵入して来た。

 

「いぃちかぁぁああ!!」

 

ISを展開した鈴だ。

彼女は髪を逆立てながら、衝撃砲の発射態勢をとる。

 

「死ねぇぇええ!!」

 

「ちょっ!?待て待て!ウィル、た、助けてくれ!!」

 

俺の後ろに隠れる一夏。

 

「待て!何で俺の所に来るんだよ!?って違う!鈴、落ち着け!クールになろうぜ?な?そんなもんぶっ放したら他の奴らにも被害が・・・っていねぇ!?」

 

既に退避済みの様だ。

 

「アンタも同罪よ!」

 

「理不尽!?待て。いや、待って下さい!ブルー・オン・ブルー(俺は味方だ)!こんなの喰らったら俺絶対に死ぬってぇぇええ!!」

 

爆発音が聞こえる。

 

あぁ、俺死んだのか?一度体験はしているが、案外痛くないものだなぁ・・・。

そう呑気に思いながら自身の身体をペタペタと触って、ゆっくりと瞼を上げる。

ん?感覚がある?俺、死んでないのか?

生きてる?・・・俺生きてる!!

視線の先にはISを展開したラウラが立っていた。

よく見ると、右肩のレールカノンが無い。

まぁ、壊したのは俺なんだが・・・。

 

「ら、ラウラか?お前そのIS・・・と言うより、身体はもう大丈夫なのか?」

 

「ああ、コアは辛うじて無事だったからな、予備パーツで組み直した。身体の方は問題無い」

 

こちらを振り向いてそう告げる。

 

「そうか、それはよかった。スマンな、助かっ━━━んむぅ!?」

 

言葉は最後まで言えなかった。

なんと、彼女が俺の胸ぐらを掴んでキスをして来たのだ。

頬にじゃねぇぞ、唇にだ。しかもたっぷり5秒。

 

「!?!?!?」

 

しばらくしてから解放される。

 

「ら、ラウラ?何を・・・?」

 

ダメだ、混乱して言葉を上手く発っする事が出来ない。

そして彼女は顔をうっすらと赤く染めながら、高らかに宣言して来た。

 

「お、お前は私の嫁にする。決定事項だ、異論は認めん!」

 

「」

 

「「「「ええええええ!?」」」」

 

生徒達が驚愕の声をあげる。

 

「うぃ、ウィル?大丈夫か?」

 

さっきから黙っているウィリアムを見て、一夏が心配そうに呼び掛けた。

だが、彼は━━

 

「・・・Are you serious(マジで?)?」

 

バタッ

とうとう脳の思考回路がショートして、その場に倒れてしまった。

 

 

 

少ししてから、彼は目を覚ました。

 

「ウィル、大丈夫か!?」

 

「ん?ああ、一夏か。何か妙な夢を見た気がするんだが・・・。と言うより、何で後頭部が痛いんだ?」

 

「それは・・・」

 

「起きたか?我が嫁よ」

 

「・・・・・・ソーリー、一夏。どうやらまだ夢の中の様だ」

 

「いや、これは夢じゃなくてだな・・・」

 

「ハハッ、面白いジョークを言うな、お前は」

 

「・・・織斑先生・・・ウィルがおかしくなりました」

 

「分かっている。どうしたものか・・・」

 

織斑先生が眉間に手を宛て、かぶりを振る。

 

「織斑先生?あの歩く暴力装置の?」

 

「あ゛?」

 

「ちょっ、ウィル!なんて事を・・・!」

 

「・・・織斑、そこを退いていろ・・・」

 

「え?で、でも・・・」

 

「退・い・て・い・ろ」

 

「は、はいぃ~~」

 

一夏を含めた生徒達が半泣きの顔をする。

無理も無いだろう。今、彼女の後ろには修羅が立っている様に見えたのだから。

 

「さて、ホーキンス、最後に言い残す言葉はあるか?」

 

相変わらず怖い人だなぁ。だが!夢の中なら俺は無敵だ!

一度言ってみたかったセリフがある。

 

「・・・怖いか、クソッタレ。当然だぜ。

U.S.A.F.(合衆国空軍)の俺に(夢の中で)勝てるもんか」

 

ピキッ

 

「ほう、なら試して見るか?こっちは元ブリュンヒルデだ」

 

彼は何も知らずに死刑執行書にサインをしてしまったようだ。

死刑執行人(織斑先生)がゆっくりと、その大きな鎌(握り締めた拳)を振り上げながら歩み寄ってきた。

 

「いい加減!」

 

ドカッ!

 

「痛っ!え!?」

 

「正気に!」

 

バキッ!

 

「フゲッ!?ちょ、まさか・・・!?」

 

「戻らんか!この馬鹿者ぉ!」

 

ゴスッ!

 

「ギャアァァァ!!」

 

執行完了。

 

 

 

「以後、教師に対する態度を改めるように。良いな?」

 

織斑先生の目がギラリと光る。

 

イエフ・ミフ。フミマヘンデシダ(イエス・ミス。すみませんでした)

 

「よし、なら今日のところは不問とする。一時限目の用意をしろ」

 

生徒達は半泣きでコクコクと頷く中、俺はのそり。と、立ち上がる。

 

「・・・鈴、一夏ぁ。てめぇら後でグラウンドに集合しろぉぉ・・・」

 

「え?」

 

「で、でも━━」

 

「良・い・な・?」

 

「「・・・はい」」

 

お前らのせいで俺はこんな目に・・・。

ゆ゛る゛さ゛ん゛!

 

 

放課後 グラウンド

 

グラウンドには一夏と鈴、そしてISを展開した俺が立っている。

 

「さて、諸君。なぜ君達がここに呼ばれたかは・・・分かるよな?」

 

少しドスの効いた声で質問する。

 

「さ、さぁ?分からないなぁ?」

 

「い、いやぁ、何でかしらぁ・・・?」

 

蒼い顔をして惚ける二人。

 

「・・・・・」

 

俺は無言で右手の機銃を左手にペチペチと打ち付ける。

 

「そうか。分からないかぁ~。ハッハッハッ」

 

「「ア、アハハハハ・・・」」

 

俺の笑いにつられて二人も引きつった顔で笑う。

だが、聞いた事は無いか?笑顔とは、本来威嚇や攻撃。もしくは服従の意思であったと言う事を。

この場合は━━

 

「・・・なら、鮮明に思い出させてやろう」

 

━━恐らく前者であろう。

 

 

 

 

 

「「イヤアァァァァァ!!」」

 

夕日に染まるグラウンドに、機銃の音と二人の絶叫が轟いた。

 

 

 

 

 



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第31話

とある日の朝 自室

 

 

「・・・ん?ふぁああぁ」

 

俺は何時も通りの時間に目を覚ました。

良い朝だ。今日は何か良いことが有るかもしれないな。

そう考えながら、身支度を整える。

 

「よし、後は・・・」

 

朝のコーヒータイムだ。

俺は、朝に時間の余裕がある時はコーヒーを飲む。前世からの習慣だ。

 

「ふぅ・・・美味い」

 

インスタントだが、これが中々美味い。

そうホッコリしていると、自分のベッドに小さな膨らみがあるのに気付いた。

布団のシワにしては不自然なそれは、一定の間隔で上下にゆっくりと動いている。

まるで呼吸をしているかのように(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「・・・何だ?」

 

俺がコーヒーを片手にそう呟くと、布団がもぞりと動き・・・

 

「んぅ、もう朝か・・・?」

 

中から一糸纏わぬ姿のラウラが現れた。

いや、正確に言うと、眼帯とIS待機状態のレッグバンドは着けているが・・・。

 

「ブゥゥゥゥ!!」

 

高圧スプレーの如く盛大にコーヒーを吹き出す。

 

「ん?嫁か、おはよう。随分と早いのだな?」

 

が、彼女は俺の反応などお構い無しに話しかけてきた。

 

「ゲホッゲホッ!お前ここで何してんだ!?て言うか隠せ!!」

 

「?おかしな事を言う。夫婦とは包み隠さぬものだと聞いたが?」

 

キョトンと小首を傾げるラウラ。

っ!?今のはかなりドキッと来た。

だが、俺でも分かる。それは間違いだと。

 

「おい、誰だ!?お前に変な知識を吹き込んだのは!対艦ミサイルをぶちこんでやる!!」

 

「何を騒いでいる。周りに迷惑だぞ?」

 

「お前の事で騒いでるんだ!と言うか何なんだ嫁って。婿の間違いだろ?」

 

「?日本では気に入った相手を『俺の嫁』とか『自分の嫁』とか言うそうだが?」

 

誰だぁ?そんなアホな事を教えたのは?

 

「よし、ラウラ。そいつの詳しい位置を教えろ。マジでミサイルを撃ち込んでくるから。後、俺はアメリカ人だ」

 

「郷に入っては郷に従え、と言うやつだ。まぁ、そんな事は良い」

 

「いや、良くはないだろ」

 

「それにしても、昨晩は随分と激しかったな・・・」

 

頬を赤くするラウラ。

 

「話を聞けよ・・・は?昨晩?俺何をしたんだ?・・・まさか!」

 

「あ、あんなに激しく抱き付いてくるとは・・・」

 

あぁ、そっち?良かった。てっきり間違いを犯してしまったのかと・・・。

寝付きが良かったのはそれが理由か?

・・・待て、何してんの?昨日の俺。

 

「しかし、朝食までにはまだ時間があるな」

 

シーツを身に纏い、まだ少し眠そうな彼女の髪が朝の陽光を浴びて銀色に輝くのは、とても綺麗で、不覚にも見とれてしまった。

・・・それにしても、先月のトーナメント以降こいつはちょくちょくこういった事をするから困る。

食事中の同席は当たり前。この前は入浴中に現れ、その前は訓練後にISスーツを脱ごうとしたら現れた。

まあ、食事の同席は構わないし、スーツに関しては他のみんなと違い、素肌に直接着込む訳ではないので問題は無かったが、放っておくとどんどんエスカレートして行きそうだ。

 

「・・・・・」

 

ふむ、なんとか彼女の積極性を削げないものか・・・。

 

「どうした?・・・あ、あまりそう見つめるな。私とて恥じらいはある」

 

おいこら、嘘をつくな嘘を。だが、その嘘つきが頬を染めて視線を逸らすのは、不覚にもドキリとしてしまった。

う、うぐっ・・・えぇい!鎮まれ我が煩悩よ!それでもお前は“鮫”と呼ばれたファイターパイロットかっ!

ん?そうだ、ナイスなアイデアを思い付いたぞ!

 

「ラウラ」

 

「何だ?」

 

「俺は奥ゆかしい女性が好きなんだ!」

 

「ほう」

 

少し驚いた様にわずかに目を見開くラウラ。続けて言葉を噛み締めるように二回ゆっくりと頷く。

やったぜ!!ただ今をもって、オペレーション“シークレット・ウーマン”の終了を宣言する!

よくやったぞ俺君。君には特別報奨と勲章を授与しよう。イエッサー俺殿、感謝しますサー。俺が司令で、一般兵が俺だ。

 

「だがまあ、それはお前の好みだろう?」

 

なっ!?司令!敵はまだ健在です!!

 

「え?」

 

「私は私だ」

 

しっかりとした意志を秘めた瞳が真っ直ぐに俺を見つめてくる。

 

「・・・・・」

 

・・・えーと。

何なんだ?この胸の付いたイケメンは。そして、俺はどう反応すれば良いんだ?

 

「だ、大体、お前が言った事ではないか・・・」

 

・・・あぁ、言ったな。恥ずかしい事も一緒にペラペラと。

それにしても、何時もの堂々とした態度から一転、上目遣いに言って来る様は異様にも魅力的に見えてしまう。

これがギャップの差、と言うものなんだろうか。詳しくは知らんが。

そうなると、先程から胸に当てている手も、俺の視線から隠そうとしている様にも見えてくるから不思議だ。

・・・ホーキンス!貴様は後で腕立て200回だ!

い、イエッサー!

 

「か、隠せと言った割にはご執心の様だが?」

 

「なっ!?いや、そう言う訳じゃない!」

 

「で、では、見たいと言うのか?朝から大胆な奴だな、お前は・・・」

 

「話が変な方に進んでるぞ!」

 

シーツをゆるめたラウラに俺は取り乱す。

なんとか隠させようとするのだが、ヒラリヒラリとかわされて、俺はベッドの上や間をドスンドスンと大立ち周りを強要させられる。

彼は欧米人特有の少し大きめの体格の為、どうしてもどこかにぶつかってしまう。

現在時刻6:31分。・・・隣人の諸君、スマナイ。

 

「このっ・・・!」

 

ようやく捕まえたぞ、この子ウサギめ・・・。

しかしこのウサギ、対人格闘術を仕込まれたファイティング・ラビットだったようだ。

簡単に抜け出されてしまった。

“鮫”と“ウサギ”。両者は一歩も譲らない。

 

「ふむ、近接格闘が出来るのか」

 

「まぁ、多少はな。って違う!先月にあんな事をしておいて、反省点は無しか!?」

 

「あんな事、とは?」

 

「い、いや、だから、その・・・き、キスだよ・・・」

 

クソッこの前の事を思い出しちまった・・・!

あの日、俺は彼女に唇を奪われたのだ。しかも

 

「は、初めてだったんだぞ・・・」

 

向こう(・・・)でもこっち(・・・)でもな!

あ゛?初めてのキッスはどんな味だ?んなもん知るか!

おい、今茶化した奴はこっちに来い。

ちょぉっと高度10,000mまでフライトしようや・・・。

 

「そうか」

 

「そうかって、お前なぁ・・・」

 

しれっとした返事に呆れる。

 

「わ、私も・・・初めてだったぞ。うむ・・・嬉しくは、あるな」

 

頬を染めながら、そう言ってくる。

 

「そ、そうか・・・」

 

・・・こんな事を言われたら文句なんて言えない。

 

「「・・・・・」」

 

気まずい・・・何か言ってくれ。

ああ、暑い。そうだ、窓を開けて換気をしよう。

 

「うわっ!?」

 

立ち上がろうとした瞬間、ラウラが俺をベッドに押し倒した。

その細い腕のどこにそんなパワーが詰まっているんだ?と思う程、鮮やかかつスピーディーにキメられた。

これが実戦なら俺は死んでいるだろう。

 

「しょ、しょうがない奴だな、お前は・・・。どうしてそう、女の気持ちを煽るのが上手いのか、一度しっかりと聞きたいところだ」

 

な、何を言ってるんだこいつは!?ヤベッ、ガッツリとホールドされて腕が動かん・・・!

 

「お、おい、よせラウラ!お、おおお、おちちゅけっ!」

 

ラウラが頬を朱に染めながら、ゆっくりと俺に覆い被さってくる。

体は相変わらず動かせない。

いかん、このままでは違う意味で俺は死んでしまう!

メーデーメーデーメーデー!こちらホーキンス!現在危機的状況!至急増援を求む!繰り返す━━

そんなやり取りをしていると、ドアがノックされる。

 

「ウィル、起きてるのか?入るぞ?」

 

「一夏か!?エマージェンシー!手を貸してくれ!」

 

「もし良かったら、後で臨海合宿に向けて水着買いに・・・行かない・・・か・・・?」

 

その場で固まる一夏。

 

「一夏、そういう話は朝稽古が終わってからだ・・・ぞ・・・?」

 

そこへ袴姿の箒も入って来て竹刀を落とす。

・・・ヤベェ。

 

「むぅ・・・良いところだったと言うのに・・・。無作法な連中だな、夫婦の寝室に押し入るとは」

 

ほぼ全裸で俺に覆い被さるような体勢のまま、不満そうに言うラウラ。

 

「い、良いところって・・・な、ナニがなんだ・・・!?」

 

「ふ、夫婦ぅ!?」

 

一夏が若干後退り、箒がプルプル震えながら竹刀を拾って構え直す。

 

「待て一夏、これは誤解だ。そして箒、お前もせめて話を━━」

 

「天誅ぅぅぅぅ!!」

 

「ちょっ!?」

 

頭に当たる瞬間、ラウラがISの右腕を展開。AICによってその動きを止めた。

 

「勝手に嫁を殺されては困るのでな」

 

「くっ、貴様・・・!」

 

「た、助かった・・・。ん?ラウラ、眼帯外したのか?」

 

彼女の黄金に輝く左目が露になっているのに気付いて、ウィリアムは少し驚いた。

とある事故から左目が変色してしまった事に、ラウラは引け目を感じていた過去がある。その為、先月のトーナメント戦でも左目を封印した状態で挑み、結果として敗退してしまったのだ。

その左目にはISのハイパーセンサーを補助する特殊なナノマシンが注入されている為、使用すれば視覚能力を格段に上昇させる事が出来る。ISを展開していなくても、2km先の標的を狙う事が可能だそうだ。

 

「確かに、かつての私はこの目を嫌っていたが、今はそうでも無い」

 

「そうか、それは良かった。自分の体を嫌っても良いことは無いからな」

 

ニコリと笑いながら頷くとラウラの頬が桜色に染まる。

 

「お、お前が綺麗だと言ったからだ・・・」

 

照れて視線を逸らすラウラに、心なしかドキドキする。

しかし、箒はそれを見ても和みはしない。

 

「ちぇ・・・」

 

「ちぇ?」

 

「チェストォォォォ!!」

 

バシィン!

 

「ギャアアァァァァ!!」

 

朝からウィリアムの悲鳴が轟いた。

 

 

「・・・・・」

 

時刻は過ぎ、俺達は食堂で朝食を食べている。

隣にはラウラ、正面に一夏と箒が座っている。

メニューは俺が金平ごぼうと塩鮭定食。ラウラはパンとコーンスープ、一夏は納豆と塩鮭定食、箒は煮魚とほうれん草のおひたし。

皆の飯も美味そうで目移りしてしまう。

 

「ん?欲しいのか?」

 

俺の目線に気付いたラウラが、「分けてやろう」と言ってパンを口に咥えて・・・って、うおっ!

 

「ん?どうした、かじっていいぞ?」

 

「んな食いかた出来るかっ!」

 

そんなやり取りをしていると、シャルロットが慌てながらやって来た。

 

「わああっ!ち、遅刻っ・・・遅刻する!」

 

そのまま適当に定食を手に取る。

何か漫画のヒロインみたいだな。

 

「よっ、シャルロット」

 

一夏が声を掛け、手招きして自身の隣の席を勧める。

 

「あっ、一夏。お、おはよう」

 

そのまま談笑しながら朝食を食べる。

キーンコーンカーンコーン

ん?予鈴か・・・。予鈴!?

 

「うわぁっ!今の予鈴だぞ、急げ!」

 

一夏が慌てているなか、俺達は急いで食堂から走り去って行った。

 

「お、置いてくな!今日は千冬姉のSHRだぞ!」

 

遅刻即ち死を意味するのだ。

 

「悪いな一夏。俺はもうアレをされるのはごめんだ」

 

「私もまだ死にたくない」

 

「右に同じく」

 

「ごめんね、一夏」

 

そこまま猛ダッシュで走り去る。

 

「裏切り者ぉぉぉぉ!!」

 

すまんな一夏。お前の犠牲は無駄にはしない。

ん?シャルロットが引き返して行った?

 

 

なんとか間に合ったか・・・

そのまま肩で息をしながら、席に着く。

その後、一夏と共にやって来たシャルロットは二人仲良く出席簿で頭を叩かれていた。

なんでも、間に合わせる為に校内でISを使ったらしい。

 

 

放課後

 

俺達は今、モノレールに乗ってショッピングモールに向かっている。

一夏はシャルロットと俺はラウラとだ。

 

「いやぁ、朝から疲れるなぁ・・・」

 

モノレールの窓辺に肘を置き、頬杖をつきながら一人呟く。

 

「ん?どうした?嫁よ」

 

「・・・なぁ、その嫁って言うの止めないか?」

 

「何故だ?」

 

「いや、何かこう、むず痒いって言うか、普通にウィルとかウィリアムの方がしっくり来るんだよ」

 

そもそも結婚してないし、俺男だし・・・。

 

「む、そうか。なら次回からそうしよう」

 

案外アッサリと承諾された。

 

「おう、頼むよ」

 

ニコリと返すと、ラウラは赤くなって俯いてしまった。

それにしても、何でこいつは俺にこんなにベッタリなんだ?

 

自分の事には鈍いウィリアムであった。

 

 

ショッピングモールに着いてから、一端は別行動と言う事で一夏達と別れる事になった。

一夏の奴、シャルロットと手を繋いでいるな。

そう傍観しているとラウラもそれに気付き、赤くなりながら手を差し出して来た。

・・・繋げと申すか。

そんな事をしているとセシリアと鈴に捕まった。

 

「ちょっとウィル、あれ何?」

 

鈴が遠ざかって行く一夏達を指差す。

 

「あれ、とは?」

 

「一夏さんがシャルロットさんと手を繋いでいる様に見えるのですが。と言うことですわ」

 

セシリアが補足する。

 

「あぁ、確かに手を繋いでいるな。それより、二人共顔が怖いぞ?」

 

二人共声に抑揚が無く、顔に影が射して目のハイライトが消えているのだ。

 

「ふふっ、ふふふっ。そっかぁ、見間違いでも白昼夢でも無く、やっぱりそっかぁ」

 

「おいおい、マジで怖いぞ?」

 

「よし、殺そう!!」

 

「ちょっ!?」

 

この後、ヤンデレ気味な二人を止めるのにかなり手こずった。

 

 

結局あの二人とも別れて、水着コーナーへたどり着く。

 

「じゃあ、男用はあっちだから」

 

「分かった、後で落ち合おう」

 

俺は自分の水着を選ぶ。

そんなに派手な物はいいからなぁ・・・。

すると、灰色一色のトランクスを見つけた。

 

「これで良いか」

 

俺はその水着をレジへ持って行った。

途中で何故か正座させられている、一夏とシャルロットを発見、ガミガミと叱っているのは山田先生だ。すぐ横には織斑先生もいる。

聞こえて来た話によると、どうやら一夏とシャルロットが二人で試着室に入った所を山田先生に現行犯で取り押さえられたらしい。

・・・何やってんの?あいつら・・・。

 

「ちょっと、そこのあなた!」

 

そんな事を考えていると声を掛けられた。

 

「?」

 

何事かと振り返ると、女性が立っていた。

 

「これ、そこの棚に戻しておいて?」

 

うわぁ、見るからにこちらを見下した様な態度。正に、女尊男卑の思考に染まった人間だな。

まったく、こういった連中は極少数で多くは男性の立場を平等に扱ってくれるのにな・・・。無視だ無視。

そのまま、歩き去ろうとする。

 

「ちょっと!アンタに言ってんのよ!」

 

ハァ、しつこい・・・。

 

「Sorry I don't understand Japanese」

 

英語で返してやった。

 

「はぁ!?日本語で言いなさいよ!」

 

五月蝿いし、しつこい・・・!

 

「ワタシニホンゴワッカリーマセーン!」

 

無駄な騒ぎを起こさない為、最強の言葉を言い放った。

相手はポカンとしている。

ふっ、決まったな。

ラウラは水着選びにもう少し時間が掛かるか?それならあっちに言って暇潰しでもするか。

そのまま一夏達の方へ向かう。

少しずつ声が鮮明に聞こえてくる。

彼女を作らないのか。とか何とかかんとか。

 

「先生方、こんな所でなんて話をしているんですか・・・?」

 

「ん?ホーキンスか。ちょうど良い。お前はラウラの事をどう思っているんだ?」

 

「・・・は?」

 

何かとんでも無い事を聞かれた気がする。

 

「キスした仲だろう?」

 

ぐあっ、それを言いますか先生。

ここは黙秘権を行使する。

 

「・・・・・」

 

「ふっ、まんざらでも無い。か?」

 

「なっ!・・・自分にはよく分かりません」

 

「ふむ、容姿は好きな方か?嫌いな方か?」

 

「それは・・・確かに可愛いと思います」

 

「ほう」

 

「えぇ、ラウラは可愛いし、凛々しいし━━━って何を言わせるんですか!」

 

織斑先生がニヤニヤしながらこちらを見てくる。

まんまと誘導尋問に引っ掛かった様だ。

 

 

ウィリアムと別れたラウラは水着を探していた。

これが全て水着か・・・この世にはこんなにも沢山の種類の水着が有ったのか。

だが、正直これと言って興味が有るわけでもない。

冷めた瞳で水着を眺める。

適当にしていると、偶然他の客の会話が聞こえてきた。

 

「しっかり気合い入れて選ばなくっちゃね~」

 

「似合わない水着着てったら一発で彼氏に嫌われちゃうもの」

 

「他のは全部100点でも、水着カッコ悪かったら致命的だもんね~」

 

この時、彼女に頭を金槌、いや、ISのブレードで殴られた様な衝撃が走った。

そして、彼女を更に追撃する事態が起こる。

 

「えぇ、ラウラは可愛いし、凛々しいし」

 

いきなり、ウィリアムの声が聞こえてきたのだ。

どうやら、教官の質問に答えていたようだが・・・。

まさかの不意打ちを受けたラウラ。

褒めるが良い。と何度も彼に言っていたが、実際に褒められたことは無く、ましてや『可愛い』等と言われた事など一度も無い。

か、か、可愛い・・・?この私が、可愛い・・・可愛い・・・。

大急ぎで、何度も番号を間違えながらISのプライベートチャネルに掛ける。

相手は彼女が最も信頼する部下

 

『受諾、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です』

 

「く、クラリッサ、私だ。緊急事態発生・・・」

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長?何か問題が起きたのですか?』

 

「あ、ああ、・・・とても、重大な問題が発生している・・・」

 

『部隊を向かわせますか?』

 

「い、いや、部隊は必要無い。軍事的な問題では、無い・・・」

 

『では?』

 

「クラリッサ。その、だな。わ、わ、私は、可愛い・・・らしい、ぞ」

 

『・・・はい?』

 

クラリッサから半オクターブ程高い声が返ってくる。

 

「うぃ、うぃ、ウィルが、そう、言っていて、だな・・・」

 

『ああ、アメリカ空軍に所属する、隊長が好意を寄せているという彼ですか』

 

「そうだ。お前が教えてくれた所の、所謂私の嫁だ。こういった場合、私はどうすれば良いのだ?」

 

そう、彼女クラリッサこそ、ラウラに間違った日本文化を吹き込んだ張本人である。

この事を知れば、ウィリアムは大量の対艦ミサイルや爆弾等で爆装し、ドイツに向けて巡航を開始するだろう・・・。

 

『そうですね・・・まずは状況把握を。直接言われたのですか?』

 

「い、いや、向こうは私が近くに居るとは思っていないだろう」

 

『━━━最高ですね』

 

「そ、そうなのか?」

 

『はい、本人の居ない場所でされる褒め言葉にウソはありません』

 

「そ、そうか・・・!」

 

さっきまで不安そうだったラウラの顔がパァッと明るくなる。

その合間にクラリッサは部隊員に召集を掛けて、【隊長の片想いの相手に脈アリ】と筆談で伝える。

 

「「「おおおお~!」」」

 

と部隊の乙女達が盛り上がった声を漏らす。

因みに、この部隊でラウラは人間関係に多大な問題を抱えていたのだが、例のIS暴走事件の後に『好きな男が出来た』という相談をクラリッサに持ちかけた時から、全てのわだかまりが解けて消えた。

その時の隊の反応は、正に10代乙女のソレだったそうな。

 

「そ、それでだな。今度、臨海学校に行くことになったのだが、どのような水着を選べば良いのか選択基準が分からん。そちらの指示を仰ぎたいのだが・・・」

 

『了解しました、この“黒ウサギ部隊”は常に隊長と共にあります。因みに、現在隊長が所有しておられる装備は?』

 

彼女のこの一言はとても安心する。

 

「学校指定の水着が一着のみだ」

 

何の気無しに答える。

 

『っ!何を馬鹿な事を!!たしか、IS学園は旧型スクール水着でしたね?それも一部のマニアからの受けは悪く無いでしょう。だがしかし、それでは・・・!』

 

彼女が突如声を荒げる。

 

「それでは・・・?」

 

恐る恐る聞き返す。

 

『色物の域を出ない!!』

 

「なっ!」

 

『『『おぉ・・・!』』』

 

無線越しに他の隊員達の感嘆の声が上がる。

 

『隊長は確かに豊満なボディで相手を籠絡というタイプではありません。ですが、そこで際物に逃げる様では“気になるアイツ”からは前に進まないのです!』

 

クラリッサの声に熱が入る。

 

「ならば、どうする?」

 

『ふっ、私に秘策が有ります。』

 

そう答える彼女の目がキュピーンと光った。

 

 

 

 



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第32話

臨海合宿当日

 

青い海、白い雲、煌めく太陽。

前世で海なんて作戦の時か空母に乗艦している時以外はほとんど縁が無かったので、改めて見てみるととても綺麗だ。

まぁ、取り敢えず着替えが先だな。

 

 

「今11時です、夕方までは自由行動、夕食までには旅館に戻ること!良いですね?」

 

山田先生が生徒達に周知する。

 

「「「は~い!!」」」

 

女子達が元気の良い返事をするが、中には海をチラチラと見ている者もいた。

正直、俺も遊びたくてウズウズしている。

そんな俺と一夏に、女子達が声を掛けてきた。

 

「ねぇ、おりむー、ホー君、私達と一緒に遊ぼ~?」

 

そう言ってくるのは、同じクラスの布仏さん。

彼女は全身を覆う様にキツネのデザインをした水着?を着ている。

暑く無いのか?て言うか、ホー君?

 

「ビーチバレーしよう?」

 

それを、一夏が断るわけも無く

 

「おぉ、良いぜ?どこで━━━!?」

 

話している最中に彼が突然態勢を崩す。

鈴が彼の背中に抱き着いたのだ。

そのままよじ登って行く。

 

「おぉ~!高いじゃない、遠くまでよく見えるわ♪」

 

「ちょっ、何やってんだよ!猫かお前は!」

 

実際、彼女の普段からの態度は猫にしか見えない。

 

「わぁ、楽しそう!私もやりたい!」

 

「その次、私ね!」

 

「おいおい、遊園地のアトラクションじゃあ無いんだぞ?」

 

俺は、苦笑しながら止めに入る。

 

「ウィルの言う通りだ!俺は展望台じゃない!いい加減に降りろ!」

 

一夏は鈴を振りほどこうと必死だ。

 

「な、何をしていらっしゃいますの!?」

 

そこへセシリアが乱入して来た。

 

「見れば分かるでしょう?移動監視塔ごっこ♪」

 

「まあ、移動監視塔と言うより、パシフィック・オ“リム”ラ の方が似合いそうだがな」

 

「なっ!他人事みたいに!」

 

「・・・一夏さん?バスの中でわたくしと約束したのを忘れました、の゛!」

 

そう言いながら、浜辺にパラソルを勢いよくぶっ刺し、シートを敷いて、その上に寝転ぶ。

 

「さぁ、一夏さん?お願いしますわ」

 

サンオイル片手にそう宣う。

 

「アンタこそ、一夏に何やらせる気よ!」

 

一夏から飛び降りた鈴が猫のようにフシャーッ!と威嚇する。

 

「見ての通り、サンオイルを塗って頂くのですわ」

 

そう自慢気に答える。

 

「おい、一夏、そんな約束あっさり承諾したのか?」

 

「あぁ、何か断ったらヤバそうな気がしてな・・・」

 

「レディーとの約束を違えるなど、紳士のすることではありませんわ」

 

セシリアが追い討ちをかける。

 

「・・・分かった、しょうがない・・・」

 

一夏が観念したように了承した。

 

 

一夏が手にサンオイルを塗って、セシリアの腰に触れる。

「きゃ!?」

 

「うお!どうした?」

 

「い、一夏さん、せめて手で温めてから塗って下さいな!」

 

「わ、悪い。こういうことするの初めてなもんで・・・」

 

そりゃあ、経験有ったら驚きだな・・・。

 

「は、初めてなんですの?それなら仕方無いですわね・・・」

 

どこか嬉しそうだな。

 

「アンタ、何で嬉しそうになのよ?」

 

鈴も気付いた様だ。

そのまま作業は続く。

何かセシリアの息遣いが荒くなってきてないか?

 

「うわぁ、気持ち良さそう・・・」

 

「こっちまでドキドキしちゃう・・・」

 

周りの女子達がそう感想を漏らす。

・・・!いかん、こっちまで変になってきた。

慌てて後ろを向く。

しばらくしてから、セシリアと鈴の声が聞こえて来た。

後でゴスッ!と言う音と一夏の悲鳴が聞こえたが、振り返ったら俺も一発貰いそうな気がする。

 

 

「ってぇ・・・。何で俺が殴られなきゃいけないんだよ」

 

一夏が不満を漏らす。

 

「まぁ、何だ?御愁傷様だな」

 

なんて話をしていると、鈴が声を掛けてくる。

 

「一夏~、ウィル~、向こうのブイまで競走ね~!負けたらかき氷奢んなさいよ?」

 

「さぁて、どっちの奢りかな?行くぞ、一夏」

 

「あぁ、って、おい鈴!そんなところからスタートなんてズルいぞ!」

 

「あいつめ・・・!やりやがったな。よぉし、お財布握りしめて待ってろよ!」

 

「ウィルまで!?おい、待てよ!」

 

ブイまで後少しといった所で、俺は異変に気付く。

 

「おい一夏、何か様子が変じゃないか?」

 

「あぁ、鈴の奴どこに行ったんだ?」

 

正確には鈴が浮上してこないのだ。

その時

 

「おい、あれ・・・!」

 

俺はブイの手前で溺れている鈴を発見した。

 

「鈴!ウィル、助けに行くぞ!」

 

「あぁ!分かってる!」

 

大慌てで、彼女の元へ急行する。

まずい、鈴が沈んだ!

俺と一夏は潜水してなんとか鈴を救助し、今は一夏が彼女を腕で抱き止めている。

危なかった、もし救助が遅れたら・・・考えるのも恐ろしい。

 

「おい、鈴!大丈夫か!?」

 

「ゲホッ、ゲホッ、だ、大丈夫・・・」

 

少し水が入ったようだが、特に異常は無さそうだ。

運動神経の良い鈴が溺れた。と言う事は差し詰めストレッチを怠って脚をつったのだろう。

 

「災難でしたわね、鈴さん・・・」

 

セシリアが心配そうに声をかける。

 

「?」

 

「わたくしが旅館までお送りして差し上げますわ!」

 

「え?ちょっ、待ってよ、アタシは一夏と━━━」

 

「鷹月さん、ちょっと手伝ってくれませんこと?」

 

「分かった、手伝う!」

 

「ちょっと!アタシは大丈夫だって!助けて一夏!一夏ぁ!!」

 

そのまま鈴は強制連行されていった。

 

「ま、まぁ、あれだけ元気なら大丈夫だろ」

 

「あぁ、無事そうで何よりだ」

 

二人で安堵の息を漏らす。

 

「一夏、ウィル、ここに居たんだ」

 

「え?っ!?」

 

「ひっ!?」

 

思わず変な声が出る。

なんと俺の前にはシャルロットと全身をタオルでぐるぐる巻きにした、ミイラが立っていたのだ。

 

「何だ?そのバスタオルお化け?」

 

「真夏の海に何でミイラが居るんだ?」

 

ミイラはでっかい墓の中とかで出るんじゃ無いのか?

 

「ほら、ウィルに見せるんでしょ?」

 

「だ、大丈夫かどうかは私が決める・・・」

 

ミイラ娘が喋った。

ん?この声・・・。

 

「その声、もしかしてラウラか?」

 

シャルロットがラウラの耳元で何かを吹き込む。

 

「っ!!そ、それは駄目だ!・・・えぇい!」

 

意を決して、タオルを脱ぎ捨てるラウラ。

 

「っ!!」

 

ヤバい、何だこれ?滅茶苦茶可愛い!

 

「わ、笑いたければ笑うが良い・・・」

 

そこには黒いビキニ水着を着た天使が居た。

 

「別に変な所なんて無いよね?ウィル」

 

「あ、あぁ、可愛いと思うぞ」

 

いかんいかん、これは鼻血が出るかも知れないな・・・

俺の変態め・・・!

 

「しゃ、社交辞令は要らん・・・」

 

彼女が顔を真っ赤にしてモジモジする。

一夏はシャルロットと二人で何か話している。

向こう(・・・)では、そう言う経験が無かったからな・・・何て言えば良いんだ?

 

「その、何だ、お世辞でも何でも無く、似合ってる。可愛いぞ」

 

「っ!! そ、そう、か・・・」

 

普段とのギャップが凄すぎて、すごい新鮮だな。

こっちの顔まで熱くなってるのが分かる。

 

「織斑く~ん!ホーキンスく~ん!」

 

「さっきの約束、ビーチバレーしようよ?」

 

「わぁ、おりむーとホー君と対戦だ!バキュン!バキュン!♪」

 

「それっ!」

 

ボールが一夏に投げ渡される。

 

「よし!やるか!ウィルもやるよな?」

 

「ふっ、もちろん!腕が鳴るな!」

ビーチバレーか・・・昔に軍の親睦会でやって以来だな・・・。

 



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第33話

4対4の戦いだ。

まず、相手チームのサーブ。

 

「フッフッフッ、七月のサマーデビルと言われたこの私の実力を見よ!」

 

とんでもない速さだ、七月のサマーデビルは伊達ではない。

 

「任せて!」

 

シャルロットがそれ上に跳ね上げる。

 

「よっと!」

 

そのまま俺がボールを程よい位置に持っていく。

 

「ナイスレシーブ!」

 

そして一夏が高く飛んでスマッシュ。

 

「あわわわ!えい!」

 

布仏が突き出した手にボールが当たり、高く上がる。

 

「よし!アターック!」

 

スマッシュが返って来た。

そのボールの先にはラウラが・・・

 

「可愛い、私が可愛い・・・」

 

「お、おい、ラウラ!前見ろ、前!」

 

慌てて警告を飛ばすが・・・

 

「・・・ふぇ?」

バシーンッ!

ボールはラウラの顔にクリーンヒット。

そのまま、後ろ向きに倒れる。

 

「おい、無事か?」

 

「大丈夫か?」

 

「ラウラ、どうしたの?」

 

俺達はラウラの元に駆け寄る。しかし

 

「か、可愛いと言われると、私は、うぅ・・・」

 

「ひょっとして、まだ照れてたの?」

 

何かブツブツ言ってるので流石に心配になってくる。

 

「ラウラ?」

 

彼女と目が合う。

 

「っ!?う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

物凄いスピードで海の方角に走って行った。

 

「あいつ・・・ウィル、追いかけた方が良いんじゃないか?」

 

「そうか?いや、確かにその方が良いか」

 

「放っておいてあげた方が良いんじゃないかな?」

 

シャルロットは苦笑混じりにそう答えた。

 

「ビーチバレーですか、楽しそうですね♪」

 

山田先生がこちらにやってくる。

 

「先生も一緒にやりますか?」

 

シャルロットが先生を誘う。

 

「えぇ、いかがですか?織斑先生」

 

「「っ!!」」

 

俺と一夏は思わず息を飲む。

 

「「「わぁぁ・・・!」」」

 

周りの女子達も感嘆の声を漏らす。

なんと、織斑先生も水着に着替えていたのだ。

 

「織斑先生、モデルみたい!」

 

「カッコいい・・・」

 

実際モデルの様にしか見えない。

 

「先生どうぞ、私交代しますから」

 

「・・・では」

 

「はい!やりましょう」

 

一夏がさっきから織斑先生を目で追っている。

 

「おい、一夏、大丈夫か?」

 

「一夏ってさ、ひょっとして、織斑先生みたいな女の人が好みなの?」

 

シャルロットがとんでも無い質問をした。

 

「な!?何言ってんだよ!」

 

「だってさ、随分反応が違うんだもん・・・。僕達の水着を見た時と」

 

不満そうにそう言うシャルロット。

 

「まぁまぁ、そう言ってやるなよ。実の姉のギャップに驚いていただけだろ。な?」

 

然り気無くフォローを入れる。

 

「あ、あぁ、そうだぜ?普段の千冬姉と違うから、ついな?」

 

「ハァ、ただでさえライバル多いのに、そこに織斑先生まで加わるなんて・・・」

 

「あぁ、千冬姉は強敵だ、油断しないで行こうぜ」

 

「一夏、多分勘違いしてる・・・」

 

項垂れるシャルロット。

頑張れよ!

俺は無言でサムズアップした。

 

 

「サーブ行きますよ!」

 

山田先生の声を合図に織斑先生がサーブを放ってくる。

な、なんて威力だ・・・!

そして味方の女子達も相手の女子達も飛んだり跳ねたりと、動き回り、俺達は翻弄されている。

何が言いたいかと言うと・・・正直目のやり場に困る。

跳ねる度に、その・・・ある一点がな・・・?

 

「っ!?」

 

悶々としていると、背中に悪寒が走る。

恐る恐る振り返ると、そこにはいつの間にか返って来たラウラが「その目を抉るぞ?」と言いたげな表情で、俺を睨んでいた。

くわばら、くわばら・・・。

 

このまま夕食時まで、俺達は徹底的に遊んだ。

 

 

日も沈んだ頃 

 

大浴場で汗を流した後、俺達は今、大広間にて夕食を食べている。

 

「これが刺身か・・・美味い・・・!」

 

俺は今この刺身と言うのを食べて感動している。

因みに俺はテーブル席にて食事中だ。

隣にはラウラと他数名の女子。

一夏達は畳の上で、正座して食べている。

 

「ん?この緑色のペーストは?」

 

俺は刺身皿の端に盛られた物体に箸を伸ばし、口に放り込んだ。

 

「「ちょっ!ホーキンス君、それは・・・!」」

 

「っ!?~~~!グオォォォ・・・!」

辛い!鼻が痛い!何なんだこれは・・・!?

 

「まったく、無闇に興味だけでわさびを口に放り込むとは」

 

ラウラが呆れながら水を差し出してくる。

俺はそれをガブガブと飲んだ。

 

「た、助かった・・・サンキュー、ラウラ」

 

「別に、これくらい構わん」

 

畳席の方では、何故か一夏がセシリアに はい、あ~んをしていた。

女子達がキャーキャーと騒いでいる。

まったく、人目も憚らずなんて事を・・・。

なんて思っていると、ラウラもそれに気付き、その光景をボーッと見ている。

そして何かを決心したように、こちらに顔を向けてきた。

 

「その、お前が私に感謝しているなら・・・わ、私に はい、あ~ん と言うのをしてくれ!」

 

「な!?」

 

思わぬ伏兵に思考が止まる。

 

「キャー、ラウラってば大胆!」

 

「ホーキンス君どうするの?」

 

「お、俺が?」

 

流石に公衆の面前でそんなこと、出来るわけが無い。

ここで屈する訳には・・・!

 

「ダメ、なのか・・・?」

 

上目遣いでそう言ってくる。

 

「っ!わ、分かった・・・」

 

負けた・・・。

 

「じゃ、じゃあ行くぞ?」

 

箸で刺身を摘まんで彼女の口に入れる。

 

「・・・良いものだな」

 

顔を赤くしながらそう言われる。

 

「良いなぁ、ホーキンス君!私にも一口!」

 

「私も私も!」

 

「次私ね!」

 

凄い食い付きだ。

 

「えぇ・・・。ハァ分かったよ、一口だけなら━━━イテッ!」

 

突然、左の脇腹に鋭い痛みが走る。

確認すると、ラウラがジト目でこちらを睨んでいた。

彼女の右手は俺の左脇腹に伸びている。

 

「ちょ、ラウラ!?痛い痛い!は、離してくれ!」

 

すると、その光景を見ていた女子達が更に騒ぎ始める。

 

その時、障子が勢いよく開けられ、織斑先生が入ってきた。

 

「お前達は静かに食事をする事が出来んのか!!」

 

「織斑先生・・・」

 

「織斑、ホーキンス、あんまり騒動を起こすな、鎮めるのが面倒だ」

 

「わ、分かりました・・・」

 

「す、すいません・・・」

 

俺達の返事を聞くと彼女は戻って行った。

そのまま俺達は黙々と食事を続けた。

 

 



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第34話

食後

 

「おい一夏、そう言えばお前の部屋ってどこなんだ?」

 

「え?あぁ、千冬姉と同室だよ。そう言うお前はどこなんだ?」

 

「端の方の部屋、一人だ」

 

「そうか、なら後で俺の部屋に遊びに来ないか?」

 

「そりゃ良い、後で訪ねるよ」

 

そう言って、一度俺達は別れた。

 

 

 

部屋に戻ると、何故かラウラが寛いでいた。

 

「おいおいラウラ、お前いつの間に入ったんだ?」

 

「ドイツ軍の特殊部隊に掛かればこの程度、造作もない」

 

ドヤ顔でそう答えてくる。

 

「ハァ、まぁ良い、後で一夏の部屋に行くんだが、お前も来るか?」

 

「そうだな、私も行こう」

 

時間までしばらくあるので、二人で談笑したり、トランプをしたりして、時間を潰した。

 

 

 

「よし、そろそろかな、行こうか?」

 

「分かった」

 

そう言って部屋を後にする。

道中、ラウラが急に腕を組んだりして来て、心臓がヤバかったのは、また別の話だ。

 

一夏の部屋に着くと、箒、シャルロット、鈴が障子に耳を付けていた。

そこへ、セシリアもやって来る。

 

「どうなさいましたの?」

 

「何だ?揃って障子に耳なんか当てて。盗み聞きか?」

 

「シー」

 

鈴が人差し指を口に当てて制止し、障子に張られた張り紙を指差す。

 

「あぁ、織斑先生と同室の事なら俺は知ってるぞ?」

 

「良いから、アンタも聞いてみなさいよ」

 

「「「?」」」

 

俺とラウラ、セシリアは分からないまま障子に耳を当てる。

 

『千冬姉、久しぶりだから緊張してる?』

 

『そんな訳あるか、馬鹿。あ、ん、少しは加減しろ』

 

『はいはい、じゃあここは?』

 

『なっ!ん、そこは・・・!』

 

『直ぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだしね?』

 

「こ、こここ、これは一体何ですの?」

 

セシリアが顔を真っ赤にする。

 

『そこは駄目だっ・・・ん』

 

『ごめんごめん』

 

かなり扇情的な声が聞こえてくる。

その時、とうとう重みに耐えきれなくなった障子が倒れてしまった。

 

「「「「キャー!」」」」

 

俺はとっさに壁に隠れる。

危ねぇ・・・。

盗み聞きがばれた五人の少女は正座をさせられ、織斑先生によるお叱りを受ける。

 

「まったく、お前達は何をしているか、馬鹿者が」

 

「マッサージだったんですか・・・」

 

「しかし良かった、てっきり・・・」

 

「ん?何が良かったんだよ」

 

「それは勿論、教官が━━」

 

言ってはいけない言葉をラウラが言う前に他の女子達に口を塞がれる。

 

「べ、別に・・・」

 

「特にナニと言うわけでは・・・」

 

「オ、オホホホホホホ・・・」

 

ふぅ、良かった今の所ばれてないな。

 

「あぁ、それとお前も出てこい、ホーキンス」

 

はい、ばれました。

このまま、居ない振りをして離脱を・・・。

 

「出て来ないなら、もう一度あの時の恐怖を味わわせるぞ?」

 

「っ!?イ、イエス・ミス!直ぐに出ます!!申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

無意識に敬礼をしながら、慌てて壁の裏から出る。

アレは、アレだけは二度とごめんだ!

 

「ウィル!?お前、そんなとこで何してたんだ?」

 

「まったく、馬鹿者め」

 

「す、すいませんでした。だから、あ、アレだけは・・・」

 

「「「あぁ・・・」」」

 

ガタガタと震える俺を見て、一夏達が同情の眼差しを向けてくる。

 

「ハァ、もう良い。それよりこいつはマッサージが上手い。順番にお前達もやってもらえ」

 

「「「え?」」」

 

「よし、じゃあさっそく、セシリアからだ」

 

「わ、わたくしから?」

 

「そのつもりで呼んだんだ。ここに寝てくれ」

 

あぁ、そう言えば二人で何か話してたな。

セシリア、滅茶苦茶嬉しそうだな・・・。

 

「い、痛たた」

 

「あぁ、すまん優しくする」

 

「・・・どうだ?これ位なら痛くないだろ?」

 

「ハァ、気持ち良いですわ~、気持ち良くて何だか眠くなってきましたわ・・・わたくし━━━」

 

その時、織斑先生がセシリアの臀部を触り、そのまま彼女の浴衣を捲り上げた。

 

「「っ!?」」

 

慌てて、目を反らす一夏と俺。

 

「ほぅ、ませガキめ」

 

「キ、キャー!?」

 

「歳不相応の下着だな。ふむ、黒か・・・」

 

織斑先生、なんて事を・・・。

 

「せ、先生、離してください!」

 

「やれやれ、教師の前で淫行を期待するなよ?15歳」

 

「い、いいい・・・」

 

もう一度言おう。織斑先生、なんて事を・・・。

 

「冗談だ。一夏、ホーキンス、ちょっと飲み物を買って来てくれ」

 

「え?あ、あぁ」

 

「?分かりました」

 

俺達は部屋を後にした。

 

 

二人が去った後

 

千冬は缶ビールを片手に胡座をかいた。

 

「おい、何時もの馬鹿騒ぎはどうした?」

 

「え、いえ、その・・・」

 

「織斑先生とこうして話すのは初めてですし・・・」

 

カシュッ!と小気味良い音を出して、ビール缶が開く。

 

「プハァ!・・・まぁ良い、そろそろ肝心な話をするか」

 

ビールを呷りながらそう言う。

 

「で、お前らアイツのどこが良いんだ?あぁ、ボーデヴィッヒは答えなくて良い。お前はホーキンスにお熱みたいだしな」

 

赤面して俯くラウラ。

 

「まぁ、お前の事は後で聞くとしよう」

 

どうやら逃がす気は無いようだ。

 

「まぁ、確かにアイツは役に立つ、家事も料理もなかなかだし、マッサージも上手い。付き合える女は特だな。どうだ?欲しいか?」

「「「くれるんですか!?」」」

 

「やるか馬鹿」

 

「「「えぇぇぇ・・・」」」

 

「女ならな、奪う気持ちで行かなくてどうする?自分を磨けよ?ガキ共」

 

そう締め括る。

 

「さて、次はボーデヴィッヒの話を聞かせてもらおうか?」

 

千冬はニヤリと笑いながら、ラウラに向き直り、箒、セシリア、鈴、シャルロットが目を輝かせながらラウラを見ていた。

 

「わ、私は・・・」

 

「お前は、アイツのどこが良かったんだ?」

 

ニヤニヤとしながら聞いてくる。

 

「確かに、アイツは成績もそれなり、運動神経も良いし、見た目も女受けする方だろうが、それだけでは無いだろう?」

 

「・・・はい、あれは私が暴走した日。彼は危険を冒してまで助けに来てくれました。あれだけの事をしたのにも関わらず、ウィルは諦めていた私に優しく手を差し伸べてくれました。私は彼に救われたんです。その時に、その・・・上手く言えませんが・・・」

 

赤面してモジモジとしだすラウラ。

そんな光景を微笑ましそうに眺める千冬であった。

 

 



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第35話

翌日

 

「ふぁぁああ。おはよう、一夏」

 

「あぁウィルか、おはよう」

 

二人で廊下を歩いていると箒が居た。

彼女はしゃがんで地面を見つめている。

 

「箒?」

 

「ん?箒か、どうしたんだ?」

 

俺達は箒が見つめているものを確認する。

そこには看板が立てられており、『ひっぱってください』と書いてあった。

 

「何だこれ?」

 

手前には何やら珍妙な物体が顔を覗かせていた。

 

「なぁ、これってもしかして・・・」

 

「ん?二人はこれが何かを知ってるのか?」

 

「知らん、私に聞くな」

 

そのまま箒は去ってしまった。

 

「おい、放って置いて良いのか?」

 

一夏が聞いても知らんぷり。

 

まるでその物体に関わりたくない様だ。

すると今度はセシリアがやって来る。

 

「何していらっしゃいますの?」

 

「いやぁ、ちょっとなぁ・・・」

 

「俺も何が何だか・・・」

 

そして遂に一夏が意を決して、ソレを引っ張った。

 

「えい!おわっ!?」

 

しかし、引っ張ってもソレが抜けただけで何も起きない。

 

「?何だったんだ?」

 

その時、上空から何かの落下音が聞こえた。

三人で空を見上げると、キランと一瞬光った後、とてつもないスピードで何かが降ってきた。

それはとてつもない風圧と共に地面に刺さる。

土煙が晴れるとそこには巨大なニンジンが刺さっていた。

ニンジンから笑い声が聞こえる。

 

「な、何なんだ・・・?」

 

するとニンジンが縦に割れて、中からウサギ耳を着けたこれまた珍妙な格好をした女性が現れた。

 

「引っ掛かったね、いっくん!ブイブイ!」

 

「お、お久し振りです束さん・・・」

 

「うん、うん、おひさだね~。本っ当に久しいね!ところでいっくん、箒ちゃんは何処かな?」

 

「え、えっとぉ」

 

「まぁ、私が開発したこの箒ちゃん探知機があれば直ぐ見つかるよ。じゃあね、いっくん!また後でね~!」

 

そう言いながら走り去って行く、スーパーハイテンションウサギ。

まさに嵐の様だ。

 

「い、一夏さん、今の方は一体・・・」

 

「あの人はお前の知り合いか?」

 

「“篠ノ乃束”さん、箒の姉さんだ」

 

「「え!?」」

 

マジで?あの人が箒の姉?性格真反対だな。

 

 

「よし、専用機持ちは全員揃ったな?」

 

織斑先生が確認する。

 

「ちょっと待って下さい、箒は専用機を持って無いでしょう?」

 

鈴が先生に質問する。

 

「そ、それは・・・」

 

「私から説明しよう。実はだな━━「ちーちゃーん!!」ハァ・・・」

 

「「「?」」」

 

全員が声のする方を見る。

その視線の先には・・・。

 

「ちーちゃーん!!」

 

さっきのスーパーハイテンションウサギこと篠ノ之博士が崖を滑り降りていた。

そのまま、常人では有り得ない跳躍をして、織斑先生に飛び込もうとする。

しかし、織斑先生は右手で束の顔面を掴んでそれを防いだ。

 

「やぁ、やぁ、会いたかったよ、ちーちゃん!さぁ、ハグハグしよう?愛を確かめ「うるさいぞ?束。」相変わらず、容赦の無いアイアンクローだね」

 

そのまま目にも止まらぬ早さですり抜け、今度は頭を抱えている箒の元へ向かう。

 

「じゃじゃーん!やぁ!」

 

「ど、どうも・・・」

 

どこか他人行儀だ。

 

「えっへへ~、こうして会うのは何年振りかな?大きくなったね箒ちゃん!特におっp」

 

ドゴッ!

 

箒の渾身の一撃がヒットした。

 

「殴りますよ?」

 

「殴ってから言った。箒ちゃんひっどーい!ねぇ、いっくん、酷いよねぇ?」

 

「は、はぁ・・・」

 

「ん?君がもう一人の男性操縦者だね?私はあの有名な天才束さんだよ!よろしくね、ウィッ君!」

 

「よ、よろしくお願いします・・・」

 

束がとてつもないスピードで近づいて来た。

駄目だ彼女のテンションについて行けない・・・ん?ウィッ君?

 

「おい束、自己紹介くらいしろ」

 

「えぇ、面倒臭いなぁ・・・。私が天才の束さんだよ?ハロー!終わり!」

 

えぇ・・・。

 

「束って」

 

「ISの開発者にして、天才科学者の!」

 

「篠ノ乃束・・・!」

 

「フッフ~ン、大空をご覧あれ!」

 

一同が空を見上げる。

また何か降って来た・・・。

 

「じゃじゃーん!これが箒ちゃん専用機こと、『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ~!」

 

そこには深紅のISが佇んでいた。

 

「何たって紅椿は天才束さんが造った、第四世代型ISなんだよ~?」

 

「第四世代!?」

 

「やっと第三世代の試験機が出来た段階ですわよ?」

 

「なのにもう・・・」

 

流石、天才を謳うだけのことはあるが、もはや次元が違うな。

 

「そこはほら、天才の束さんだから。さぁ箒ちゃん、フィッティングとパーソナライズから始めようか」

 

「さ、篠ノ乃」

 

織斑先生が箒を促す。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね!」

 

そう言いながら、データの入力をトントン拍子に済ませて行く。

 

「すごい、信じられないスピードだわ・・・」

 

鈴が感嘆の声を上げる。

 

「はい、フィッティング終了~。超早いね流石私~。さぁ、試運転も兼ねて、飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動く筈だよ?」

 

「・・・それでは試して見ます」

 

とんでも無い早さで上昇して行く。

 

「凄い加速力だ!俺のバスター・イーグルよりも速い・・・!」

 

「これが、第四世代の加速と言うこと?」

一同が驚愕するなか、兵装の試験に移る。

箒が刀を振ると、ビームの様なものが出て飛んで行き、雲を吹き飛ばした。

 

「なんて威力だ・・・」

 

「じゃあ、次はこれを墜してみてね?」

 

そう言うと、束の横に多連装ロケットが現れて、弾頭を一斉発射した。

しかし、それも難なく撃墜。

 

「やるな・・・」

 

「すげぇ・・・」

 

ラウラと一夏が呟く。

 

「うんうん、良いね良いねぇ!」

 

「やれる、この紅椿なら・・・!」

 

箒が自信満々にそう一人呟く。

その時

 

「た、大変です!織斑先生~!!」

 

山田先生が顔を蒼くして走ってきた。

 

 

 

 



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第36話

山田先生が肩で息をしながら、織斑先生に端末を渡す。

 

「こ、これを!」

 

渡された端末を開いて確認すると、顔を険しくした。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし・・・テスト稼働は中止だ!お前達にやってもらいたい事がある」

 

息を落ち着かせた山田先生が束の存在に気付く。

 

「あれ?こちらの方は?」

 

「篠ノ乃束だ」

 

「え?・・・ええええ!?」

 

驚くのも無理は無いだろう。

とにかく今は任務だ。

 

 

対策本部

 

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあった、アメリカ、イスラエル共同開発の第三世代のIS、“シルバリオ・ゴスペル”通称『福音』と二機の無人戦闘機が制御下を離れて暴走、監視空域を離脱したとの連絡があった」

 

アメリカ・・・そんな物も試作してたのか・・・。

 

「情報によれば、無人のISと言う事だ」

 

「無人・・・」

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音達はここから2Km先の空域を通過することが分かった。時間にして50分後、学園上層部からの通達により、我々がこの事態を対処する事になった。教員は学園の訓練機を使用して、空域及び海域の封鎖を行う。よって本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

「はい!?」

 

一夏が声を裏返して、聞き返す。

 

「つまり、暴走したISを俺達が止める。と言う事だ」

 

「マジで!?」

 

「一々驚かないの」

 

いや、それは無理が有るだろう、そもそも専用機持ちと言っても中身はまだ15歳の少年少女だ。

 

「無人戦闘機も居るのか、にしてもこの雰囲気、何だか昔を思い出すな・・・」

 

ボソリと一人呟く。

 

「?ウィル、何が昔を思い出すんだ?」

 

っ!?声に出てたか!

 

「い、いや、何でも無い」

 

「?そうか・・・」

 

「それでは作戦会議を始める。意見が有る者は挙手するように」

 

「はい、目標ISと無人戦闘機の詳細なスペックデータを要求します」

 

俺は真っ先にデータを要求した。

 

「うむ、だが決して口外はするな。情報が漏れれば、諸君等には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が付けられる」

 

「了解です」

 

目の前に、スペックデータが出てくる。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・わたくしのISと同じ、オールレンジ攻撃が行える様ですわね」

 

セシリアがそう呟く。

 

「それだけじゃない、UAVの方にも、ミサイル、バルカン、そして搭乗員を無視した過激な機動ができるようだ・・・厄介だな・・・」

 

「攻撃と機動に特化した機体にその取り巻き・・・厄介ね」

 

「この特殊武装が曲者って感じがするね・・・連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「このデータでは格闘性能が未知数・・・偵察は行えないのですか?」

 

ラウラが発案する。

 

「それは無理だな、この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だ」

 

「一回切りのチャンス・・・と言うことは一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしか無いですね」

 

皆の視線が一夏に向く。

 

「え?俺!?」

 

「アンタの零落白夜で落とすのよ」

 

「安心しろ一夏、うるさいUAVはなんとかしてやる」

 

「それしか、ありませんわね・・・ただ問題は・・・」

 

「どうやって一夏をそこまで送るか、エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいから・・・移動をどうするか」

 

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけないな・・・超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

「それなら、俺のバスター・イーグルなら可能だ。超音速巡航が可能だし、要撃任務の為に強力なセンサーとレーダーを━━━」

 

「ま、待てよ俺が行くのか?」

 

「「「当然!」」」

 

「マジかよ・・・」

 

「織斑、これは訓練ではない、実戦だ。もし覚悟が無いなら無理強いはしない」

 

言い方はアレだが、彼女なりの心配なのだろう。

 

「・・・やります。俺が、やって見せます!」

 

「一夏、よく言った!」

 

「よし、それでは、ホーキンスが織斑を━━━」

 

「待った待った!その作戦は待ったなんだよ~!」

 

束が天井から出てきた。

 

「とうっ!」

 

そのまま軽やかに着地し織斑先生の元に向かう。

 

「ちーちゃん、ちーちゃん、もっと凄い作戦が私の頭の中にナウプリンティング~」

 

「ハァ、出て行け」

 

「聞いて聞いて、ここは断然紅椿の出番なんだよ!」

 

「・・・何?」

 

 

箒がISを展開する。

 

「それじゃあ箒ちゃん、展開装甲オープン♪」

 

すると、紅椿の装甲が開く。

何か、カッコ良いな。まぁ、相棒には及ばないがな!

 

「展開装甲は~、第四世代型ISの装備で~、一言で言っちゃうと~、紅椿は雪片弐型が進化したものなんだよね~!」

 

「え?」

 

一夏が驚く。

 

「なんと、全身のアーマーを展開装甲にしちゃいました!ブイブイ!」

 

誰も反応が返せない。

今は箒のISの性能に驚くので精一杯だ。

 

「それにしてもあれだね~、海で暴走って言うと十年前の“白騎士事件”を思い出すね?」

 

「白騎士事件か・・・」

 

一夏が呟く。

 

十年前、束がISを発表して一ヶ月、各国のミサイル、2341発が一斉にハッキングされて日本に発射された。

世界が混乱する中、白銀のISを纏った女性が現れて、

それら全てを撃墜、日没後と共に姿を消した。

 

これが後に白騎士事件と言われる事件だ。

 

「うふふ、白騎士って誰だったんだろうね~?ちーちゃーん」

 

「知らん」

 

「うん、私の予想ではバスト88センt」

 

織斑先生が束の頭を叩いた。

うわぁ、痛そう・・・。

それでも懲りずに彼女にへばり付く束。

 

「で?束、紅椿の調整にはどれ位時間が掛かる?」

 

「織斑先生」

 

「何だ?」

 

「わたくしとブルー・ティアーズなら、必ず成功してみせますわ!高機動パッケージ、“ストライク・ガンナー”が送られて来ています」

 

「そのパッケージは量子変換してあるのか?」

 

「え?それは、まだですが・・・」

 

「因みに紅椿の調整は七分あれば余裕だね~!」

 

「よし、本作戦は織斑、篠ノ乃、両名による追跡、及び撃墜を目標とする!ホーキンス、UAVの相手はお前がしろ。作戦開始は30分後。直ちに準備に掛かれ!」

 

一夏が硬い顔をしている。

 

「一夏、緊張は適度には大切だが、しすぎるのは毒だぞ?大丈夫だ、俺達なら勝てる」

 

一夏の肩を叩きながらリラックスさせる。

 

「ウィル・・・」

 

「奴らを倒すのは俺達だ」

 

「おう!」

 

さて、一丁やるか!

 



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第37話

時計を確認する。

後少しで作戦時間か・・・。

 

 

 

浜辺には既に一夏と箒が居た。

 

「悪い待たせたか?」

 

「いや、俺達も今来たところだ」

 

「あぁ私も、ついさっきここに来た」

 

「そうか・・・。よし、やるぞ」

 

「「あぁ!」」

 

三人はISを展開。

俺も同翼等の簡易チェックを済ませて飛翔する。

 

「じゃあ箒、よろしく頼む」

 

「本来なら、女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ?」

 

箒が軽口を叩く。

 

「良いか?箒、これは訓練じゃ無い。注意して取り組まないと━━━」

 

「無論分かっているさ、心配するな」

 

・・・本当にそうか?彼女はどこか浮かれている様にも見えるが。

 

「お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいれば良いさ」

 

「何だか楽しそうだな・・・。やっと専用機を持てたからか?」

 

「?私はいつも通りだ。一夏こそ、作戦には冷静に当たることだ」

 

「分かってるよ・・・」

 

その時、織斑先生から無線が入る。

 

『織斑、篠ノ乃、ホーキンス、聞こえるか?』

 

「はい」

 

「よく聞こえます」

 

「無線の受信感度良好です」

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。討つべきは、シルバリオ・ゴスペル、そしてその護衛のUAV二機だ。以後、目標ISは『福音』、UAVは『アルファ』、『ブラボー』と呼称する』

 

「はい」

 

「了解です」

 

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすれば良いですか?」

 

『そうだな、だが無理はするな。お前は紅椿での実戦は皆無だ。突然何かしらの問題が出ないとも限らない』

 

「分かりました。ですが、出来る範囲で支援します」

 

訂正だ、箒は完全に浮かれてしまっている。心配だ・・・。

 

『では、始め!』

 

織斑先生がゴーサインを出した。

一夏が箒の肩を掴む。

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

「オーケーだ!」

 

箒が一気にスラスターを噴かす。

 

「うおっ!速いな。こっちも負けてられないぞ!」

 

だが、負けているのは加速性能だけだ。一度スピードに乗ればこちらもマッハを叩き出せる。

 

 

なんとか、箒の後方にたどり着いた。

 

「流石、第四世代だ・・・」

 

まさかここまで引き離されるとはな・・・。

 

「おい一夏、大丈夫か?」

 

「あぁ、大丈夫だ。それにしても、箒のISもウィルのISも速いなぁ」

 

「まあな、それより振り落とされるなよ?」

 

「分かってるよ」

 

そのまま、俺達は目標の海域へ飛行を続ける。

 

「暫時衛星リンク確立、情報照合完了。目標の現在位置を確認。聞こえたな?ウィリアム」

 

「あぁ、こっちも確認した」

 

「よし、行くぞ」

 

「「おう!」」

 

返事を聞くと、箒が紅椿の装甲を展開、さらに加速していった。

 

「速い!あれはまだ序の口だったのか・・・!」

 

ここまで高速を出せるISなんて俺の相棒くらいだと思っていたよ・・・。っと、いかんいかん。集中しないとな。

邪魔な思考を捨て、俺も全速で追随した。

 

 

 

目標海域に到達後

 

 

「箒、レーダーに反応有り。三機だ。恐らく例のターゲットだろう」

 

「ああ、センサーで確認した。UAVを頼む」

 

「了解」

 

俺はそう言ってハードポイントに4目標ロック式空対空ミサイル(4AAM)を呼び足す。

 

「ターゲットロック・・・Fox2!」

 

発射されたミサイル四発の内、二発がUAVアルファに命中。しかし、ブラボーは直前でフレアを撒いて回避した。

 

「クソッ、アルファを撃墜、ブラボーはミサイルを回避した!」

 

ブラボーがこちらに向かってくる。

 

「俺はこいつを始末する。ISの方は頼んだぞ!」

 

「任せろ!」

 

「分かった!」

 

二人はISの元へと向かう。

いつの間にか、ブラボーは直ぐ近くまで来ていた。

ウィリアムとUAVブラボーが高速ですれ違う。

 

「おっと、クソ野郎が横切った。機械の癖に良い腕してやがる・・・」

 

先程すれ違ったUAVの見た目は上から見たらWの形をした主翼を持ち、機首側面にカナード翼、垂直尾翼は水平尾翼と一体化しており、平べったい機体に下へ出っ張ったエアインテークとかなり特徴的な外見だ。

 

「さあ、大人しく墜ちてもらうぞ!」

 

 

 

ブラボーと交戦してから十数分、なかなか決着が着かない。

・・・それにしても、コイツらの目的は何なんだ?どこへ行く気なんだ・・・?

戦闘中にも関わらず、余計な事を考えてしまう。

そろそろウィリアムの体力も限界が近づいて来ていたその時、遠くで爆発が起きた。

 

「一夏達が福音を撃墜したのか?」

 

そう思ってセンサーで確認する。

そこには、墜落する白式と紅椿が見えた。

 

「なっ!?一夏!箒!」

 

二人の元に急行する。

そう言えば、さっきからブラボーがやけに大人しい。それどころか、だんだんと離れていく。

襲って来ないのならチャンスだ。

俺はなんとか無事だった箒と共に一夏を連れて撤退。

 

後ろでは福音とブラボーが真っ直ぐに巡航を開始していた。

 




もっと描写を上手く書けないものか、と何時も思います。
因みにUAVブラボーはエースコンバットのX-02がモデルです。


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第38話

帰還後

 

最悪の状況だ・・・。

なんとか浜辺まで帰って来た後、一夏はそのまま担架で運ばれて行った。

あの時のみんなの表情は忘れられない。

今にも泣きそうな顔で、運ばれて行く一夏を見ていたセシリア、鈴、シャルロット、そして俯いたまま一言も喋らない箒。

ラウラも冷静な風を装っているが、やはり落ち着かない様子だった。

・・・俺も見ている事しか出来なかった。

織斑先生の指示で一夏は応急手当てを受け、そのまま部屋で目を覚まさないままだ。

俺達は別命があるまで待機を命じられた。

・・・まさか、あんな所に密漁船がいたとはな。

 

後で箒に何が遭ったのかを確認した。

 

福音との交戦中、一夏が不審な船舶を発見。正体は密漁船だった。しかも、そいつらは戦闘に巻き込まれかけたので、なんとか離そうとしていたらしい。

しかし、箒は密漁船は放って福音との戦闘を優先させようとし、一夏に今の自分が専用機を持って浮かれていることを指摘され混乱状態に陥る。

その隙を突かれて箒が攻撃される瞬間、一夏がそれを庇って被弾した。

 

これが、俺がブラボーとの戦闘中に起きた事の成り行きだ。

 

 

シャルロットが本部の部屋の障子をノックする。

 

『誰だ?』

 

「失礼します、デュノアです」

 

『待機と言った筈だ、入室は許可出来ない』

 

無情にも却下された。困った様に顔を見合わせる三人。

そこでラウラが口を開いた。

 

「教官の言う通りにするべきだ」

 

「でも、先生だって一夏の事が心配な筈だよ。お姉さんなんだよ?」

 

「ずっと目覚めていませんのに・・・」

 

「手当ての指示を出してから、一度も会いに行かないなんて・・・」

 

「・・・だからどうしろと?」

 

「箒さんにも声を掛けませんでしたわ・・・。幾ら作戦失敗だからと言って、冷たすぎるのではなくて?」

 

「今は福音の捕捉に集中する。教官はやるべき事をやっているに過ぎない」

 

「それに今、仮に一夏が目覚めていたとして、織斑先生はどんな顔をしてアイツに会いに行けるんだ?先生は指示を出した手前、自分を責めている所もあるだろう。・・・俺だって随伴していたのに何も出来なかった。アイツに顔向け出来ない・・・」

 

一同が黙り込む。

 

「お前が気に病む必要は無い。ウィルの言う通り、教官だって苦しい筈だ、苦しいからこそ作戦室に籠っている。心配するだけで、一夏を見舞うだけで福音を撃破出来るとでも?」

 

ラウラが俺をフォローしてくれるが、それでも歯痒さが消えない。

 

「それよりも・・・」

 

ラウラは一夏が眠っている部屋を横目で見る。

 

 

箒は過去の自分と今の自分を重ねていた。

 

「私は・・・」

 

ただ、自分より弱い相手を叩きのめす過去の自分。

力を手にして浮かれて、犯罪者だからと言って見殺しにしようとしていた今の自分。

・・・何も変わっていないじゃないか。

一夏の言葉がフラッシュバックする。

 

『そんな寂しい事言うな。力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて・・・』

 

「違う、違うんだ。見えなくなった訳じゃないっ」

 

奴らが弱い奴だとでも言うのか?守るべき存在だと?奴らは秩序を乱している。なのにどうしてお前は奴らを許せる?それが、お前の強さなのか?だからお前は強いのか?お前に比べて・・・

 

「私は・・・力の赴くままに暴力を振るっていただけだったのだろうか・・・」

 

一夏にとって密漁船も私も、等しく守るべきものだったというのに、私は・・・。

拳を握る力が強くなる。

その時、部屋に誰か入ってきた。

 

「篠ノ乃さん」

 

山田先生が心配して見に来てくれたようだ。

 

「あなたも少し休んで下さい。根を詰めてあなたまで倒れてしまっては、みんなが心配しますよ?」

 

「・・・ここに居たいんです」

 

「いけません、休みなさい」

 

少し語気を強める先生。

 

「これは、織斑先生からの要請でもあるんです。良いですね?」

 

「・・・分かりました・・・」

 

そのまま部屋を後にする。

その後ろ姿を山田先生は心配そうに見つめていた。

 

 

部屋を出た後、箒は浜辺をひたすら走り続けた。

少しでも気を紛らわす為に。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

肩で息を継ぎながら箒は自身が小学生の時の事を思い出していた。

 

クラスの数名の男子が寄って集って自分の悪口を言う。

今日は前に着けていたリボンがネタだ。

その時、それを止めたのが一夏だったが、その結果、暴力沙汰に発展してしまった。

後で何故そんな事をしたのか聞くと、彼は

 

「許せない奴はぶん殴る。だからお前も気にするな」

 

と返して来た。

それどころか、自分のリボンを誉めてくれたのだ。

それ以来彼とはどんどん仲良くなって行き、気が付けば意中の男性となっていた。

 

箒は自分の腕に巻き付けた待機状態の紅椿を眺める。

 

「箒」

 

「?」

 

誰かに声を掛けられた。

声の主は鈴だ。

 

「あ~あ、分っかり易いわね~。あのさぁ、一夏がこうなったのってアンタのせいなんでしょう?」

 

「・・・・・」

 

何も言い返せない。

 

「で、落ち込んでますってポーズ?ざっけんじゃ無いわよ!!」

 

鈴が箒の胸ぐらを掴んで引き寄せる。

 

「やるべき事があるでしょうが!今戦わなくてどうすんのよ?!」

 

「・・・もう、ISは使わない」

 

「っ!!」

 

鈴が勢い良く箒に平手打ちをした。

 

「甘ったれてるんじゃ無いわよ!専用機持ちっつうのわね、そんな我が儘を許される様な立場じゃ無いの!それともアンタは戦える時に戦わない臆病者な訳!?」

 

鈴の言葉に何かが込み上げてくる。

 

「・・・どうしろと言うんだっ・・・!もう敵の居場所も分からない、戦えるなら私だって戦うっ!!」

 

「ふふっ、やっとやる気になったわね」

 

「え?」

 

気が付くと、ウィリアム、セシリア、シャルロット、ラウラが立っていた。

 

「あ~あ、面倒臭かった」

 

理解が追い付かない。

 

「な、何?」

 

その言葉にシャルロットが返事をする。

 

「みんなの気持ちは一つって事」

 

「負けたまま、終わって良い筈が無いでしょう?」

 

箒の表情が変わって行く。

そこには、もう暗い陰は射していなかった。

 

 



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第39話

空が暗くなり始めた頃。

 

「ラウラ、福音は?」

 

鈴がラウラに尋ねる。

 

「確認済みだ」

 

そう言って、ISの右腕を展開して付近の画像を見せる。

 

「ここから30km離れた沖合い上空に目標を確認した。ステルスモードに入ってはいるが、どうも光学迷彩は持っていない様だ。付近にブラボーも発見。衛星による目視で発見した」

 

「流石ドイツ軍特殊部隊、やるわね」

 

「お前達の方はどうなんだ?準備は出来ているのか?」

 

「当然!甲龍に攻撃特化パッケージをインストール済み」

 

「こちらも完了していますわ」

 

「僕も準備OKだよ、何時でも行ける」

 

全員準備万端の様だ。

そこへ箒が慌てて聞いてくる。

 

「ま、待ってくれ、行くと言うのか?命令違反では無いのか?」

 

「だから?アンタ今戦うって言ったでしょ?」

 

「だが、先生からの直接命令だろ?無視したら流石にまずいんじゃ無いのか?」

 

彼女達の気持ちは分かるが、それでも勝手に行って良い筈は無いだろう。

 

「何?アンタもしかしてビビってんの?」

 

鈴が茶化して来る。

 

「俺は仮にも軍属だ、ビビるビビらないの問題じゃあない」

 

「確かに、命令違反はまずいかも知れない。だが事の重大性の問題だ。放って置けば少なからず被害が出るかも知れない、そうなってからでは遅い。だが、お前の言いたい事は分かる。無理強いはしない、私はお前の意思を尊重する」

 

しばらくの間の沈黙。

 

「・・・・・・ハァ、分かった、分かったよ。俺も戦うさ。数は多い方が色々と有利だろ?」

 

仲間を見殺しにするのと、処罰されるのと、どっちが怖いなんてもう分かりきってる。

 

「後の処罰が怖くて、空が飛べるかっ!」

 

「ありがとう。箒、お前はどうする?」

 

「私、私は・・・戦う。戦って勝つ!今度こそ負けはしない!」

 

「決まりね。今度こそ確実に墜とすわ」

 

 

ラウラが空中で休止中の福音に向けて砲撃をする。

以前のISのそれと比べて今度は両肩にレールカノン。そして四枚の装甲が彼女を覆っている。正に人型の戦車だ。

 

「初弾命中!」

 

「すっげぇ、パットン准将が見たら狂喜乱舞しそうだ・・・」

 

思わずそう呟いてしまう。が、それどころではない。福音が再稼働した。

それに続いてブラボーがこちらに向かって来る。

 

「来たな・・・ラウラ、そっちは任せたぞ!俺はアイツと決着を着けてくる!」

 

「了解した!」

 

敵に向かって一気に加速する。

敵機が発砲して来た。

 

「チィッ!」

 

俺はそれを回避して後ろを取り、既に装備済みの短距離空対空ミサイル(AAM)のシーカーをブラボーに合わせる。

ロックオン完了になりミサイルを発射しようとした時、相手はフレアを放出しながら、コブラ機動で急減速した。

 

「やるな・・・!」

 

今度はこちらが追われる番だ。

電子警告音が後方に敵機が居ることを報せる。

その中でもより一層焦燥感のある警告音が鳴り響きミサイルの発射を報せる。

RWR警報が無かったと言うことは・・・熱源追尾か!

 

「フレア発射!」

 

紙一重でそれを防ぐが、敵はまだ逃がしてはくれない。

次のミサイルを発射するつもりだ。

飛翔体の接近警報が鳴り響く。またミサイルが発射されたのだ。

 

「またか!フレア発射!」

 

何とかフレアの放出が間に合った。

当たらない事に痺れを切らしたのか、ブラボーが今度は機関砲で撃ってくる。

だが、こちらもやられてばかりでは居られない。

 

「フッ!」

 

俺は背部のエアブレーキを動かし、そのままバレルロールをする。

流石の機械も突然の機動にはついて行けなかった様だ。

ブラボーはそのままオーバーシュートして行った。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

30mm機関砲が火を噴く。

が、敵機も回避行動に移り、(すんで)の所で回避されてしまった。

 

「チッ!小賢しい・・・!」

 

苛烈なドッグファイトは尚も続く。

 

 

ラウラの放った初弾が命中した後。

爆煙が晴れるが、福音には殆ど効いていない様子だった。

 

「続けて砲撃を行う!」

 

発射、発射、発射・・・。

しかし、難なく回避され距離を詰められる。

 

「予想よりも速い!っ!?」

 

福音が眼前に迫ったその時。

 

「らぁぁぁ!!」

 

鈴がそれを妨害。

福音が体勢を立て直すが、今度はセシリアがライフルを発射し、福音に攻撃の隙を与えない。

 

「かかった!」

 

シャルロットが福音に向けて、ショットガンを発砲。

数発が被弾し、直ぐ様回避行動に徹っする福音。

彼女は逃げる福音を追って、今度はマシンガンを構えるがが、福音もやられてばかりでは無い。シャルロットに向き直り、弾幕を張り始めた。

 

「うっ、このくらいじゃ・・・墜とせないよ!」

 

 

???

 

 

青い空、波の音が聞こえて来る。

一夏は一人で、木の枝に座って遠くを見つめていた。

 

「あれ?」

 

遠くに何かを見つける。

そこには白いワンピースに白い帽子を被った銀髪の女の子が立っていた。

 

「呼んでる。行かなきゃ・・・」

 

女の子が透き通る様な声でそう言う。

 

「え?」

 

女の子が見ている先を見る。

そこには青い空が広がっているだけ・・・。

視線を戻すと、いつの間にか女の子は消えていた。

 

「あれ?」

 

探しても居ない。

すると、今度は辺りの景色が変わり、夕日が射したオレンジ色になる。

 

「力を欲しますか?」

 

「?」

 

声のする方向を見る。

そこには夕日を背に誰かが立っていた。

 

 

「てやぁぁぁああ!!」

 

箒が福音に斬りかかる。

しかし、二本のブレードはしっかりと掴まれて、箒はそのまま上へ上へと昇っていく。

 

「箒、武器を捨てて離脱しろ!」

 

「箒!」

 

「箒さん!」

 

ラウラ、シャルロット、セシリアが離脱を促す。

福音の翼の様な場所に光の粒子が集まって行く。

 

「くっ!」

 

箒は装甲を展開し、ブレードを出して攻撃を敢行する。

 

「はあぁぁぁああ!!」

 

攻撃が命中し、福音の左翼の切断に成功した。

バランスを崩した福音は真っ逆さまに墜ちて行き、水飛沫を上げながら海に沈んで行った。

 

「無事か?」

 

ラウラが近づいて安否を聞いてくる。

 

「私は大丈夫だ。それよりウィリアムは?」

 

「未だ交戦中だ。・・・ウィル、大丈夫か?状況は?」

 

ラウラが無線で呼び掛ける。

 

『あぁ、大丈夫だ。敵がなかなかしつこくてな、そっちは?』

 

「今片付いた、援護は?」

 

『いや、大丈夫だ。もうそろそろ終わりそうだから直ぐに片付けるよ』

 

無線から、特有のくぐもった声とジェットエンジンの音、そして、定期的に機銃の発砲音が聞こえる。

 

「分かった、無理はするな」

 

心配して、無茶な事をしないように念を押す。

 

『ああ、肝に命じておく。ありがとう』

 

そう言って無線が、プツンと音を立てて交信終了の文字が浮かび上がった。

 

 

「しかし、なかなかタフな奴だ。まぁ、機械にタフもクソも無いか?」

 

軽口を飛ばしてはいるが、正直に言うと少しきつい。

先程の無線での返答は自分の強がり、下らん意地だ。

さっきから敵に少しずつではあるが、命中弾を出している。だが、多少の被弾で機械は取り乱したりはしない。

絶妙なバランスで戦闘を続行して来る。

こちらも先程の機銃掃射で数発被弾した。つまりはイタチごっこをしているのだ。

 

「早めに片付けないとな・・・」

 

飛んで来る機銃弾を避けながら、そう呟くのだった。

 

 



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第40話

ウィリアムとの交信後。

突然、海が膨れ上がり巨大な水柱が起った。

その中で淡く光る球状の中にいるのは・・・

 

「福音!?」

 

「まずい!セカンドシフトだ!」

 

ラウラが叫ぶと同時に、福音の肩から光の羽が出現し、一同は驚愕する。

事態は最悪の方へ進み始めた。

 

 

「力を欲しますか?」

 

何者かが一夏に向けて再度問い、彼は無言で頷く。

 

「何の為に?」

 

「あー、そうだな・・・。友達を・・・いや、仲間を守る為かな・・・」

 

「仲間を?」

 

「ああ。何て言うか、世の中って結構色々と戦わないといけないだろ?」

 

無言で次を促して来る。

 

「道理の無い暴力って結構多いぜ?そう言うのから、出来るだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う仲間の為に」

 

「そう・・・」

 

また景色が変わり、目の前に先程の女の子が現れる。

 

「だったら、行かなきゃね?」

 

「え?」

 

「ほら。ね?」

 

そう言いながら、彼の手を取ってくる。

 

「・・・ああ!」

 

 

福音の頭上に巨大なエネルギーの光球が作られ、それが箒に直撃する。

 

「ぐああっ!?」

 

墜落する箒。

 

「箒さん!?」

 

箒に呼び掛けるのも束の間、福音が今度はセシリアに狙いを定めて攻撃を開始。回避も虚しく、一瞬でセシリアも捕まり撃墜された。

 

「クソッ、遅かったか!やっとブラボーを撃墜したと思ったら、今度はこれかよ!」

 

ようやくUAVとの戦闘を終えたウィリアムは箒達の異変に気付き急行。

しかし、事態は既に最悪の状況だった。

 

 

会いたい。一夏に、会いたい・・・。会いたい、会いたい。一夏・・・。

 

『箒』

 

真っ暗だった視界に光が射す。

 

「う・・・ん・・・一夏?」

 

ぼやけていた視界が鮮明になる。

 

「あぁ、待たせたな」

 

「っ!?一夏、体は大丈夫か!?傷は!?」

 

「大丈夫だ、戦える。みんなには止められたけどな」

 

笑いながらそう答える。

 

「~~~!良かっ━━良かった・・・。本当に・・・!」

 

一夏の無事を確認したら、自然と涙が溢れてきた。

 

「何だよ、泣いてるのか?」

 

「な、泣いてなんかいない!」

 

一夏に心配そうな表情で顔を覗き込まれた箒は恥ずかしさから、思わず照れ隠しで強がってしまう。

 

「?あ、そうだ。箒、これを」

 

怪訝そうな顔をしていた一夏だが、何かを思い出したように綺麗な柄をしたリボンを取り出し、箒に差し出した。

 

「・・・え?」

 

「いつもの髪型の方が似合ってるぞ?それと、誕生日おめでとう」

 

笑顔で自分の誕生日を祝ってくれた。

箒は差し出されたリボンを丁寧に受けとる。

 

「今日は7月7日だろ?」

 

自分の誕生日を覚えてくれていた事に嬉しさが込み上げる。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

そう言うと、一夏は飛び去って行った。

 

 

「一夏!?無事だったのか!」

 

俺は一夏がこの場所にいることに心底驚いた。

 

「ああ、おかげ様でな!それより、今度こそあれを倒すぞ!」

 

「了解だ!片付けよう!」

 

言うが早いか、一夏と福音が上空で激しくぶつかり合う。

うん?一夏のISの形状が少し変わっている・・・?

 

「雪羅、シールドモードに切り替える!」

 

そう言うと、一夏が正面にバリアを展開して福音の攻撃を防いだ。

 

「あれは、零落白夜のシールド━━くっ!?」

 

なるほど、白式の新たなモードって訳か。と思いながら弾幕を掻い潜っていると、今度は戦線に復帰し、福音に攻撃を仕掛けようとしていた箒に攻撃が向けられた。

 

「箒!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「私は大丈夫だ、構わず攻撃を!」

 

空かさず反撃に入ると、福音は弾幕を張るのを止め、また回避行動に入る。

 

「スマン、回復に手間取った」

 

「さぁ、反撃のお時間ですわよ?」

 

先ほど福音の攻撃を諸に浴びたラウラとセシリアはなんとか立て直せたのか、復帰する。

 

「良かった。無事だったか・・・」

 

両者共に外傷は見られず、俺は安堵の息を吐いた。

 

「ラウラ、セシリア!」

 

一夏が、パァっと表情を明るくしながら、二人の名を呼ぶ。

 

「一夏、ウィル、さっさと片付けちゃおうよ」

 

「エネルギーは十分、僕達の心配は要らないよ」

 

今度は、鈴とシャルロットがこちらに向かって浮上してきた。彼女達にも外傷は見当たらない。まさに、ISの装甲とバリア様様だ。

 

「鈴、シャルも!」

 

「全員無事みたいだな。本当に良かった・・・」

 

「よし!行くぞみんな!」

 

一夏の声で全員上昇し、逃げる福音を追って行った。

 

「うおぉぉおお!!」

 

福音に突撃する一夏。しかし、相も変わらず福音の凄まじい弾幕に阻まれ、みるみるシールドエネルギーが減って行く。

 

「一夏、交代だ!俺がアイツを大人しくさせる!お前は最後にとどめを!」

 

そう言いながら一夏と交代した俺は機銃を発砲して肉薄する。

 

「弾幕が濃いな・・・、これじゃあミサイルのロックオンが難しいぞ」

 

「それなら私に任せろ!」

 

速度を活かして回避を続けながら、何か良い案が無いかを模索していると、箒のISの子機が福音を攻撃し、それを空かさずシャルロットがマシンガンで福音を狙い撃ちして大きな隙を作ってくれた。

よし、動きが鈍くなった・・・!!

 

「ナイス!助かった!」

 

そう言いながら、俺も残り少ないミサイルを発射。見事福音に直撃した。

ミサイルの再装填をしていると、その隙を埋めるように一夏が箒と共にタッグを組んで福音と激しくぶつかり合うのが見えた。

俺もヒットアンドアウェイや空戦機動を繰り返し、少しずつではあるが、福音の耐久力を削り続ける。

しかし、多数対1でもなかなか隙を見せない。流石は無人機と言ったところだろうか。

 

「ラウラ、援護射撃を頼む!」

 

「任せろ!」

 

俺の要請にラウラが反応して福音に砲撃を実施する。

敵はラウラの砲撃を鬱陶しく思ったのか、彼女に攻撃を開始するが、それをセシリアと鈴が妨害する。

 

「すばしっこい・・・!ならこれでどうだ!Fox1!」

 

俺は、一度福音との距離を置いてから、最後のミサイル。セミアクティブホーミング式空対空ミサイル(SAAM)を呼び出して発射した。

バイザー内のサークルの中に動き回る福音を捉え続ける。

・・・命中。

SAAMは高威力・高誘導だが、自機のレーダーによる誘導に頼る為、近距離の混戦した場所で当てるのが難しい。だがこれだけ離れて、尚且つ仲間からの援護があれば簡単に命中させられる。

見ると敵はもうボロボロだった。しかし、そんな事など気にも留めずに攻撃を続行する福音。

これだけやられても恐怖を感じず向かってくる姿は、まさに無人機だからこそだ。

 

「一夏、急いで!もう、あまり持たないよ!」

 

シャルロットが福音のビーム砲撃から鈴を庇いながら、一夏に向けてそう叫ぶ。

 

「今度は逃がさねぇぇええ!」

 

猛スピードで肉薄した一夏は福音の頭を掴み、そのまま近くの浜に叩き付けた。

 

「うおぉぉおお!!」

 

バキッ!

 

頭部を粉砕された福音の腕の力が弱まって行く。

━━が、福音は最後の置き土産だと言わんばかりに、強力なビームを発射した。その射線の先には━━

 

「ラウラぁ!」

 

ビームが誰に向かって放たれたのかを察知したシャルロットが叫ぶ。

 

「っ!?」

 

しかし、ラウラの反応が数秒遅れた。

まずい、あれではAICも間に合わない!!

その時、ウィリアムの体は思考よりも先に動いていた。

彼はラウラの前に飛び出る。

 

ズドンッ!!

 

「グゥッ!?」

 

右の胸部付近に命中した。

鈍い痛みが走る。

どうやら、ギリギリ防ぎ切った様だ。複合装甲に救われたようだ。

 

「ウィル、大丈夫か!?返事をしろ!!」

 

ラウラが並走しながら必死に呼び掛けて来る。

 

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと生きてるよ・・・」

 

「何故あんな無茶を━━」

 

「そんな事より、お前は大丈夫なのか?」

 

黒煙を上げ、フラフラとした機動で飛翔しながらラウラに安否を訊く。

 

「何て無茶な事を・・・!」

 

「ウィル、大丈夫!?」

 

「ちょっとアンタ、大丈夫なの!?」

 

「ウィリアム!」

 

「おい、ウィル!大丈夫か!?」

 

福音に止めを刺して帰って来た一夏達が並走しながら呼び掛けてきた。

 

「だから大丈夫だって。この通りピンピンしてるさ。それよりお仕事は終わったんだ、さっさと宿に帰ろう」

 

こんな事を言えるのだから大したことは無いだろう。

 

「帰ったら織斑先生に殺されそうだ・・・」

 

と冗談を言いながら俺達は帰路についた。

・・・あぁ、この後の事を考えると恐ろしい。また、アレを喰らわされるのか・・・?いや、もう少し楽観的に考え━━いや、無理だな。ハァ・・・。

心の中では携帯のバイブレーション並みに震えていた。

 

 



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第41話

帰還後には既に夜が明けていた。

 

 

「作戦完了!と言いたいが、お前達は重大な違反を犯した」

 

「「「はい」」」

 

「・・・帰ったら直ぐ反省文の提出だ。懲罰用の特別トレーニングも用意してあるから、そのつもりでいろ」

 

うげぇ・・・きつそうだな・・・だが、その程度で許してくれるのは感謝しないとな。

 

「あの、織斑先生」

 

「ん?」

 

「もうそろそろ、この辺で・・・。皆、疲れている筈でしょうし」

 

山田先生が織斑先生を説得する。

 

「ふぅ・・・しかしまぁ、良くやった」

 

「「「え?」」」

 

織斑先生が俺達を誉めた!?

 

「ああ・・・全員よく帰って来たな。今日はゆっくり休め」

 

そっぽを向きながら、称賛してくる。

あまりの事に皆、ポカンとしている。

俺だってその内の一人だが・・・。

 

その日の午前中は皆疲れて、ぐったりとしていた。

 

 

時は過ぎて夕食時

 

「ねぇねぇ、結局何だったの?福音の暴走の原因って」

 

「本当に誰も乗って無かったの?」

 

「戦ってる時怖く無かった?」

 

「もっと教えて?先生達、何も教えてくれないんだもの・・・」

 

一日中グダグダと過ごした俺達は夕飯を食べながら、質問責めに遭っていた。

 

「ダメ、機密って言われてるんだから」

 

「大体、アタシ達だって詳しい事聞いて無いんだし」

 

「それに、詳細な情報を知ればお前達にも行動の制限が付くぞ、良いのか?」

 

「どうしても知りたいのなら教えてやらないことも無いが、想像してみろ。何をするにしても後ろや物陰から視線を感じ、黒塗りの車が目には入る毎日を。我慢できるか?」

 

俺が最後に彼女達をビビらせる。

 

「ああ・・・。そ、それは困ると言うか怖いかな・・・」

 

「見張りとか付くのは嫌だもんねぇ・・・」

 

俺の脅しが効果を成したのか、なんとか質問の嵐は治まったようだ。

 

「あら?一夏さんと箒さんは?」

 

セシリアが二人が居ない事に気付く。

 

「あぁ、それなら二人でどっか行ってたな・・・」

 

途端にセシリア、鈴、シャルロットの目が光る。

 

「どこ!?どこに行ったの!?」

 

鈴が俺の肩を掴んで揺さぶってくる。

止めろ止めろ!脳が揺さぶられてるから!

 

「どこに行ったのか、正確に思い出して下さいまし!」

 

「ちょ、そんな事言われてもどこに行ったかまでは分かるわけないだろ!」

 

しまった、余計な事を言っちまったか?

 

「ねぇ、本当に分からないの・・・?」

 

シャルロットが聞いてくる。

背の問題で若干上目遣いなのが強烈だ。

 

「ほ、本当に分からないんだ・・・」

 

四人は大急ぎで飯を掻き込んで出て行ってしまう。

 

「ハァ、一夏が心配だな。俺も早く食べて探しに行くか。どうも嫌な予感がする。ラウラはどうする?」

 

「・・・行く」

 

何故か不機嫌そうだ。

恐らく、さっきのシャルロットに対する反応が原因だろうが、彼はそんな事は露程も知らない。

 

「ん?どうした?」

 

「いや何も、それより早く食べてしまおう」

 

黙々と食事を平らげて行く二人であった。

 

 

「一夏と箒の奴、なかなか見つからないなぁ」

 

俺とラウラは今、浜辺を捜索中だ。

 

「・・・ウィル、聞きたい事がある」

 

先程まで無口だったラウラが突然話し掛けて来た。

 

「ん?何だ?」

 

「その、福音が私に攻撃した時、何故あんな無茶を?もしも(・・・)の事は考えなかったのか?」

 

「あぁ、あの時か」

 

「随分と軽いな、一歩間違えれば命に関わるんだぞ?」

 

「・・・分からないんだ。気付けば体が勝手に動いてた」

 

「勝手にって・・・」

 

「何だろうな?お前を助けないと、と思ったらな・・・」

 

もはや、告白一歩手前の事を言うウィリアム。

 

「・・・そうか、分かった。あの時はありがとう、だがもう少し自分を大切にしてくれ」

 

「アハハ、耳が痛いよ」

 

そうこうしていると、近くで青い光が見えた。

セシリアのビームだ。どうやら一夏が見つかったらしい。

光が連続する。

それをバックに箒を抱き抱えて走る一夏。

どうやら、鈴とシャルロットも一緒の様だ。

 

「ウィル~!助けてくれ~!!」

 

彼からSOSが発せられる。

 

「おっと、一夏がピンチだ。行くぞ?」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

二人も一夏の元に向かった。

 

 

 



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第42話

夏休みのとある日

 

 

「え~と、一夏の家は・・・」

 

臨海学校が終わった後に一夏から、家に遊びに来ないか?と誘われたので、今は彼の家の住所が書かれた紙を片手に歩いている。

 

「あれ?ウィル?」

 

「ん?おお、一夏か!ちょうどお前の家に向かっていたところだ」

 

買い物袋を持った一夏に声を掛けられた。

 

「買い出しの帰りか?一つ持ってやるよ」

 

そう言って、彼の買い物袋を持つ。

 

「ああ、少し足りない物があってな。助かるよ」

 

「こんなに暑いってのに、大変だなぁ」

 

「ハハッ、まぁ千冬姉は仕事で忙しいから俺が家事をする事になってるのさ」

 

「成る程な。お前は本当に良い奴だなぁ」

 

「好きでやってる事さ」

 

他愛無い話をしながら家に向かった。

 

 

 

「それにしても、まさかあそこでお前に会えるとはな。ここの地理を知らないから助かったぜ」

 

「あぁ、凄い偶然だよな?俺も驚いたぜ。お、そろそろ着くぞ。・・・ん?」

 

「ここら辺か・・・どうした一夏?」

 

「いや、あれ・・・」

 

一夏が指差す先には、綺麗な金髪を後ろで一房に結った少女が家の前で険しい顔をして立っていた。

 

「シャルロットか?」

 

俺達には気付いていない様だ。

彼女は何かを決心した様にインターホンに手を伸ばす。

 

「おい、シャル?」

 

一夏が声を掛けると、ビクリとしてこちらに振り向いた。

 

「え?うわぁ!?い、一夏?と、ウィル?」

 

「いや、俺は一夏に招待されていてな。偶然そこで会ったんだ」

 

「そ、そうなんだ・・・って違う!」

 

「「?」」

 

「あ、あの!ほ、本日はお日柄も良く・・・」

 

「はぁ?」

 

「お日柄・・・?」

 

「じゃなくて!あのぉ、IS学園のシャルロット・デュノアですが、織斑君はいらっしゃいますか?」

 

「何言ってんだお前・・・?」

 

一夏が眉をひそめる。

 

「あぅぅぅ・・・・・・き」

 

「「き?」」

 

「来ちゃった・・・」

 

「ブフッ、フッククク・・・!」

 

暑さからなのかテンパりからなのか、滅茶苦茶な事を言うシャルロットを見て、俺は笑いを堪えるのに必死だった。

 

「ウィル?どうしたんだ?」

 

「い、いや、クフフッ何も」

 

シャルロットが目線で抗議して来る。

 

「ふぅ・・・いやぁ、悪い悪い」

 

やっと笑いが治まったか・・・。

 

「何なんだ?まぁ、せっかく来たんだ、上がって行けよ」

 

「上がって良いの!?」

 

シャルロットの目がキラキラと輝く。

 

「遊びに来たんだろ?それとも、別に予定とか有るのか?」

 

「ううん、無い!全然!全く!微塵も無いよ!」

 

凄い食い付きだ。

 

「アハハ、変な奴だなぁ」

 

そう言って、入り口の門を開ける一夏。

ところで、シャルロットは一夏に変な奴って言われてどうして喜ぶんだ?と思いながら一夏について行く。

家の中は落ち着いていて、良い雰囲気だ。

シャルロットが家の中をキョロキョロとする。

 

「ねぇ一夏。お家の事って一夏がやってるんだっけ?」

 

「あぁ、千冬姉は忙しいし、長いこと帰って来なかったしなぁ」

 

「そ、そうなんだぁ・・・」

 

一夏って良い旦那さんになりそうだよねぇ・・・だ、旦那さんかぁ。

シャルロットが顔を赤らめながら、そんな事を想像する。

 

「ほい、麦茶。今朝作った奴だから、ちょっと薄いかも知れないけど」

 

「う、うん、ありがとう」

 

「悪いな、頂くよ」

 

シャルロットが幸せオーラ全開で麦茶を飲もうとしたその時、インターホンが鳴った。

 

「はいはい、今出ますよっと」

 

一夏が玄関に向かう。

 

「お?セシリアか」

 

『ど、どうも。ご機嫌いかがかしら?一夏さん。ちょっと近くを通り掛かったので様子を見に来ましたの』

 

近くって、それなりに離れてたような・・・?

 

「通り掛かった?こんな所に?」

 

一夏も同意見の様だ。

 

『こ、これ!美味しいと評判のデザート店のケーキですわ!』

 

「まぁ、入れよ」

 

「お邪魔しますわ。・・・え゛?」

 

セシリアが入って来た途端に固まる。

二人きりになる計画だったのに、俺とシャルロットも居た事に気付いたのだ。

これは、また何かありそうだなぁ・・・。

 

 



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第43話

テーブルには色とりどりのケーキが並べられている。

 

「へぇ~全部種類が違うんだな」

 

「そ、そうなんですの。お、おほほほ~・・・」

 

どうしてシャルロットさんが?もしや、抜け駆けする気だったとか!?

と、セシリアがシャルロットを警戒の眼差しで睨んでいるが、それを横に一夏はケーキを口に運ぶ。

 

「アム、ん!美味いなぁ!」

 

「ああ、これは確かに美味いな。流石、専門店を謳うだけの事はある」

 

「そうだ、せっかくだしちょっとずつ交換しないか?」

 

「それは良い思い付きですわね」

 

「食べさせ合いっこ、みたいな?」

 

「「ハッ!?」」

 

その時、二人に電流が走る。

 

「おぉ、良いんじゃないか?」

 

「「おお~!!」」

 

二人の顔が明るくなる。

 

「あ、でも、男が口を付けたやつは嫌か・・・」

 

「「あぅぅぅ・・・」」

 

今度は暗くなる。

コロコロと表情が変わって、見ていて面白く感じる。

 

「それなら、二人だけで━━━」

 

一夏が言葉を言い切る前にセシリアとシャルロットが彼に詰め寄った。

 

「そ、そんな事!わたくし全然気にしませんわ!」

 

「ノープロブレムだよ一夏!そ、それにほら!やっぱりどのケーキも味わって見たいしね!」

 

この時、俺は二人が仲良く握手している錯覚が見え、更にその後ろでフランスとイギリスの国旗がデカデカと見える。という不思議な現象に遭遇した。

 

「そ、そうか?なら別に良いか」

 

一夏は見事彼女達に言いくるめられた。

俺は、一足先に食べ終える。

 

「ごちそうさま。一夏、少しお手洗いを借りても?」

 

「あぁ、それならこの部屋を出て突き当たりだ」

 

適当に理由を付けて少し部屋を出るか。

良かったな、二人とも。後は頑張れよ。・・・正直、羨ましく無いと言ったら嘘になるが、ここは空気を読もう。

お手洗いから帰ると、幸せそうな顔の二人と一夏が居た。

どうやら上手く行った様だな。

 

「じ、じゃあそっちのも一切れもらうぞ━━━」

 

「お待ちになって」

 

キリッとした顔で、セシリアが一夏の行動を制止する。

 

「今度はわたくし達が食べさせてあげる番ですわ!」

 

「そうだよ!それが礼儀ってもんでしょ!?」

 

「いやぁ、よく考えたら、別に自分のフォークで勝手に食べれば良いだけなんじゃ━━━」

 

「そんなことありません!」

 

「そんなこと無いよ!」

 

またハモったな・・・。

息ピッタリのダブルアタックに一夏が気圧される。

 

「さぁ!遠慮なさらずに!」

 

二人がそれぞれのケーキにフォークを刺して、一夏に向ける。

 

「「はい、あ~ん」」

 

「あ、あ~ん・・・」

 

その時、またインターホンが鳴った。

今日は来客が多いな・・・。

そう言う俺も来客の一人か。

一夏がドアを開けると、ラウラ、鈴、箒の三人が立っていた。

 

「何でアンタ達までここに居るのよ・・・」

 

鈴がマジかよ。と言う様な顔で聞いてくる。

 

「やはりここに居たか、ウィル」

 

ラウラは俺がここに居る事を知っていたようだ。

・・・何で?俺ラウラに話したっけ?

 

「「ハァ・・・」」

 

セシリアとシャルロットが大きな溜め息を吐いた。

部屋の中に気まずい空気が流れる。

 

「来るなら来るで、誰か一人くらい連絡くれよ・・・」

 

「仕方無いだろう?今朝になって暇になったのだから」

 

「そうよ、それとも何?いきなり来られると困るわけ?エロい物でも隠すとか・・・?」

 

鈴、お前は何と言う事を・・・。

 

「私はウィルがここに居ることは知っていたからな。突然来て驚かせてやろうと思ったのだ。どうだ?嬉しいだろう?」

 

そう言って煎餅を齧るラウラ。

 

「待て、俺の事をどうやって知った?」

 

「ドイツ軍特殊部隊隊長を舐めてもらっては困る。この程度の情報収集など造作も無い」

 

「ドイツ軍は何でも有りかよ・・・」

 

CIA並みの諜報力に驚きを通り越して呆れる。

 

「これからどうする?外は暑いし、家の中で何かするか」

 

「「「賛成(だ)!」」」

 

皆の同意を得た様だ。

と言うより利害が一致した。と言うべきか?

 

「さて、この人数でやれる事っつうと・・・」

 

どんなゲームが出て来るのかが楽しみだ。

 

 



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第44話

「ほう、我がドイツのゲームだな」

 

「へぇ、どうやって遊ぶんだ?」

 

机にはカラー粘土が人数分置かれているが、こんなゲームは見た事も聞いた事も無い。

 

「確か、カラー粘土で色々作ってそれを何か当てるゲームよね?」

 

「成る程、そう言った遊び方なのか」

 

 

準備は整った様だ。

 

「よし、じゃあウィルからだな」

 

「あぁ、これだ」

 

そう言いながら、机に粘土を載せる。

細い棒の様な見た目だ。

 

「・・・えーっと、これは地球上の物か?」

 

「その通りだ」

 

一夏が質問して来る。

まぁ、大方この質問で来そうなのは、予想出来た。

 

「これは空を飛ぶ物か?」

 

「勘が鋭いな。当たりだ」

 

「・・・分かったぞ!答えはロケットだ!」

 

「ふっ、違うな。答えは『AIM-9X サイドワインダー空対空ミサイル』だ」

 

「「「分かるかっ!」」」

 

「?何でだよ。この特徴的な動翼、推力偏向ノズルに先端のセンサーまで再現したのに・・・」

 

「いや、それでも分かるのはお前くらいだよ!」

 

「えぇ~」

 

「ま、まぁまぁ。ゲームを続けようよ?」

 

シャルロットが一夏を宥める。

 

おっかしいなぁ・・・分かると思ったんだが・・・。

他にも、島国を丸々再現したり犬か馬かよく分からん生き物を再現したりと、なかなか手強かった。

 

「ではラウラに質問するぞ?」

 

「受けて立とう」

 

そう言って机に粘土を置く。

 

「「「え?」」」

 

何だこれ・・・。

 

「それは地上に有るものか?」

 

「うむ」

 

「人間より大きいか?」

 

「そうだ」

 

「人間の作った物か?」

 

「ノーだ」

 

駄目ださっぱり分からん。

 

「う~む・・・」

 

箒も分からない様だ。

 

「質問終了。答えてもらおう」

 

粘土をじっと見続ける。

しばらく腕を組んで考え込んでいた箒だったが、ハッとした後、ズビシッと指を向けた。

 

「ああ!油田だ!」

 

「違う」

 

一同が凍り付いた。

何故、油田・・・?

 

「少々難しかった様だな。答えは山だ」

 

「「「は?」」」

 

「山だ」

 

空かさず一夏がツッコム。

 

「いや、待て待て。山はこんなに尖って無いだろ?」

 

「そんな事は無い。エベレスト等はこんな感じだろう?」

 

「いや、それならエベレストに特定しないと分からないんじゃ無いのか?」

 

俺もツッコム。

 

「ハァ、うるさい奴だな。それでも貴様は私の嫁か?」

 

「待て、そもそも結婚して無いだろう。それに俺は嫁じゃない」

 

「て言うか、ウィルも人の事は言えないだろ・・・」

 

そんな言い合いをしていると、リビングのドアが開いた。

 

「何だ、賑やかだと思ったらお前達か」

 

「「「織斑先生?」」」

 

「お帰り、千冬姉。早かったんだな、食事は?まだなら何か作るけど」

 

「いや、外で済ませて来た」

 

「じゃあ、お茶でも入れようか?熱いのと冷たいの、どっちが良い?」

 

「そうだな・・・外から帰ったし、冷たいのを貰おうか」

 

「分かった」

 

そう言って甲斐甲斐しく姉の世話をする一夏。

箒、セシリア、鈴、シャルロットが恋敵を見るように、ラウラが興味津々で織斑先生を見つめる。

 

「ん?あ、いや、直ぐにまた出る。仕事だ」

 

織斑先生がその視線に気付き、急いで家を出る用意をする。

 

「え?今から?」

 

「お前らと違って、教師は夏休み中でも忙しいんだ。お前達はゆっくりして行け、泊まりはダメだがな。それから、篠ノ之」

 

「あ、はい」

 

「たまには、おばさんに顔を出してやれ。長いこと帰って無いんだろう?」

 

「はい」

 

「ではな」

 

そう言い残し、また外へ戻って行った。

 

「教師って大変だなぁ・・・」

 

織斑先生の配慮も露知らず、呑気に呟く。

そんな彼にジト目を送る八つの瞳。

 

「ん?どうした?」

 

「一夏、何だか織斑先生の奥さんみたいだった」

 

「え?」

 

「アンタ相変わらず、千冬さんにベッタリねぇ・・・」

 

「普通だろ、姉弟なんだし」

 

「ハァ、そう思ってるのはアンタだけよ・・・」

 

「はぁ?どう言う意味だよ?」

 

「一夏、こればかりは自分で考えないと為にならないぞ?」

 

俺は一夏の肩に手を置いて、そう諭す。

 

「何だよ、ウィルまで・・・」

 

 

日も傾いて来て、蜩が鳴き始めた頃。

 

「そろそろ、飯の支度をしないとな・・・。買い出しに行って来るわ」

 

そう言って一夏が立ち上がる。

 

「それなら、アタシが何か作ってあげる!」

 

「わ、私も作ろう」

 

「じゃあ、僕も手伝おうかな?」

 

「それなら、俺も手を貸そう。料理なら多少は出来る」

 

「無論、私も加勢する」

 

俺はこれでも料理は出来る方だ。理由は色々有るが・・・。

 

「仕方有りませんわね。ではわたくしも━━」

 

「「「お前(アンタ)はいい!!」」」

 

「え?」

 

あの破滅的な料理を量産されては、こちらの胃が耐えられない。

スーパーに着いてからは、各々が作る料理の食材を選ぶ。

 

「お?ステーキ用の牛肉が安いな。」

 

久し振りに牛ステーキでも焼いてみるか。む?キノコも安売り・・・。そうた、こいつでポタージュでも作るか。

 

「後はパンか?」

 

食材を確保して合流地点に向かうと、セシリアが『自分も料理を作りたい!』と駄々を捏ねていた。

 

「やれやれ、騒がしいな・・・」

 

結局、セシリアの気迫に負けて、キッチン入りが許可されたのだった。

 

 



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第45話

買い物を終えて、一夏の家に反ってきた俺達は、現在料理中だ。

 

「あ~もう!このジャガイモ切りにくい!アンタの選び方が悪いんじゃない?」

 

「失敬な事を言うな。ドイツにいた頃は、ジャガイモ選びにかけては私の右に出るものは居なかったのだぞ?」

 

鈴のいちゃもんにラウラはサバイバルナイフでジャガイモを両断しながら答える。

 

「ジャガイモ選びにそんな優劣ってあるのか?」

 

「無論だ。ジャガイモ一つ一つにも形や大きさ、色によって味が変わってくる」

 

「へぇ、ジャガイモ選びって奥が深いなぁ・・・」

 

「よ、良ければ、今度私が教えてやっても良いぞ?」

 

「ふむ・・・じゃあ今度教えてくれ」

 

そう言うと、ラウラの顔がパァっと明るくなった。

そんなやり取りをしていると、セシリアが視界に入った。

さっきから、鍋の中にケチャップやタバスコ等の赤いモノをドバドバと入れている。

 

「おいおい、何のまじないだ?」

 

魔女が笑いながら混ぜてそうな感じだ・・・。

て言うか、鍋の中身が薄く赤色に発光してるんだけど!?

 

「あれ、誰が食べるんだ?」

 

「さ、さぁ・・・?」

 

「少なくとも、私は食べない。いや、食べたくない」

 

と言う様な話をしていると、料理が出来上がる。

 

「よし、出来た」

 

キノコポタージュと牛ステーキが良い匂いを出している。

 

「ウィル、こっちも出来たぞ。見てくれ」

 

「え?それって・・・」

 

俺の記憶が正しければ、以前にテレビで見た事がある。

 

「おでんだ」

 

だが、何故それをチョイスした?

一同が絶句する。

 

「おでんだ」

 

「いや、繰り返さなくて良いよ。へぇ、これがおでんか・・・本物を見るのは初めてだな」

 

「以前、副官に教えてもらった。おでんと言うのはこう言う物なのだろう?」

 

随分と日本好きな副官だなぁ。

 

「アンタの副官はどんな日本文化に親しんでるのよ・・・」

 

「え?これは普通のおでんじゃないのか?」

 

ボン!

 

その時、キッチンで爆発がした。

 

「「「え!?」」」

 

「な、なんだ!?」

 

爆発の中心を見ると、鍋から煙を上げる赤い色のナニカと、セシリアのISのビットだった。

待て、何故料理にISが出るんだ?

 

「あらぁ・・・」

 

セシリアが首を傾げる。

 

「」

 

隣にいた箒は絶句している。

 

「レーザーで加熱するなんて無茶だよぉ・・・」

 

シャルロット・・・大変だったな・・・。

 

「失敗は成功の母!今度こそ上手くやってみせますわ!セシリア・オルコットのIS料理!」

 

「あ、あのさぁ、こっちはもう良いから!アンタは食器並べてくれない?」

 

「そ、そうだね!それが良いよ!」

 

「あぁ、俺もそれがみんなの為だと思うな」

 

「何故ですの!?どうして皆様わたくしに料理をさせないと・・・全く理解出来ませんわ!」

 

「いや、そもそも料理にISを持ち出す時点で色々とおかしいだろ!」

 

良かった・・・あんな物を食べたら、間違いなく昇天する。

なんとかセシリアを説得しようと奮闘する俺達だった。

 

 

テーブルには各々が作った料理が並べられ、美味しそうな香りにとても食欲がそそられる。

そこにある肉じゃがは鈴の料理だ。

そこから順番に、箒のカレイの煮付け、シャルロットの唐揚げ、ラウラのおでん、俺が作った牛ステーキとキノコポタージュ、そしてセシリアが作った焦げた鍋。

それからは、皆で談笑しながら食事を楽しんだ。

俺が作ったキノコポタージュは意外と人気が有り、直ぐに無くなってしまった。

みんなの料理もとても美味しく、一夏の「将来は良い嫁さんになるな」と言う発言で一騒動起きたのは、また別の話である。

 

ハァ、この天然無自覚タラシめ・・・。



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第46話

あれから数日後

 

 

「ハァ、あっつぅぅ・・・」

 

「暑いなぁ・・・」

 

俺は休みの間も体が鈍らない様にと、一夏と共に軽めの訓練を終えたところだ。

 

「シャワー浴びたのに、もう汗でビショビショだな。さっさと冷たい飲み物をグッとやりたいなぁ」

 

「オッサンみたいだぞ?あぁ・・・余計喉が渇いてきた・・・」

 

「言ってろ・・・ったく。何で寮内の冷房が止まってんだよ・・・」

 

その上、こんな時に自販機の補充中とは・・・。

 

「あ、着いた。じゃあまた後でな?」

 

「おう、また後で」

 

そう言って一度別れた。

 

「ハァ、やっと部屋に着いた・・・さて、何か飲み物を・・・ん?」

 

布団の中に誰か居る。またラウラか?

 

「おい、誰だ?人の部屋に忍び込んで挙げ句の果てに布団に隠れてるのは?バレバレだぞ?」

 

そう言った途端、布団がビクリと跳ねた。

 

「・・・ったく、いい加減出てこい!」

 

布団を引っ付かんで剥がすと・・・

 

「あ」

 

「」

 

何で、ここに篠ノ之博士がいるんだよ・・・。

 

「・・・ば、バレちゃった」

 

「何でここに博士がいるんですか!?て言うかどうやってここに侵入し━━」

 

「待って待って!シーっ!これには深い訳が有るんだよ!」

 

深い訳?

 

「・・・聞きましょう」

 

「うんうん、ありがと!実はね・・・束さんはこんなものを作っちゃったのだ~!」

 

そう言って取り出すは、一本のペットボトル。

 

「これが何です?」

 

「よくぞ聞いてくれた!実は━━」

 

 

 

「何ですかそれ!?ただの変態趣味で俺の部屋に忍びk━━ムグッ!?」

 

「だから!騒いじゃ駄目だって!」

 

手で思い切り口を塞がれた。

彼女の目的とは━━

なんでも、このペットボトルの中の液体は飲んだ生物の肉体年齢を一時的に20歳程、若返らせる効果が有り、それを飲んだ自身が織斑先生の所に行ってイチャイチャするつもりだったらしい。

この際、その謎の科学力にツッコムのは止めておこう。

 

「ムグゥ!ムグゥ!」

 

「まぁまぁ、ウィっ君も喉が渇いてイライラしてるからだって」

 

そう言ってスポーツドリンクを取り出して、机に置く。

 

「・・・それで?何で俺の部屋に?」

 

「それは簡単。君の部屋が偶然近かったからだよ」

 

この人、絶対反省とかしなさそうだな・・・。

 

「ハァ、もう良いです。それより、変な騒ぎに捲き込まないで下さいよ?」

 

そう言いながら、ペットボトルの蓋を開けて喉を潤す。

 

━━それがスポーツドリンクかを確認もしないで・・・。

 

「あっ、間違えた・・・」

 

「ん?何か?」

 

「い、いやぁ、それはスポーツドリンクじゃない方なんだけど・・・」

 

「・・・は?」

 

ペットボトルを確認する。

・・・若くな~る?

ベタなネーミングだなぁ・・・ん?若くな~る!?

 

「ブゥゥゥゥ!!」

 

「の、飲んじゃった!?」

 

ヤベェ!得体の知れない物飲んじまった!

 

「ウェッホッ!ゲホゲホッ!ちょ、これ大丈夫なんですよね!?」

 

「う~ん・・・多分?そ、それじゃ!バイバ~イ」

 

あ!逃げやがった!ま、待て━━

 

「クソ・・・目眩が・・・」

 

そこで俺の意識は飛んでしまった。

 

 

 

「ん?ここは・・・あぁそうだ、俺倒れてたんだったな。あれ?俺ってこんなに声低かったか?」

 

心なしか、背も高くなってるような・・・。

鏡のある部屋へと向かう。

・・・見た目35歳の男が立っている。

違う!これは・・・。

 

「まさか、俺?」

 

だが、あの薬は若返ると・・・。

もう一度、ペットボトルの説明を見る。

 

ー注意ー

この薬品の若返り効果はあくまで可能性であって、その逆の効果も有り得ます。

 

ペットボトルを握る手が震える。

・・・ご丁寧な注意書をありがとう、よっ!!

俺は思い切りペットボトルを床に叩き付けた。

 

「あの、アホウサギィィィイイ!!」

 

室内に俺の絶叫が響く。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・畜生、どうするんだよ。いつ治るのかも分か━━」

 

その時、ドアが思い切り開け放たれた。

 

「ウィル!どうしたんだ、大声上げて・・・っ!?誰だ!」

 

「え?一夏か?俺だ!ウィリアムだ!」

 

「嘘を吐くな!アイツは15歳だぞ!」

 

なかなか信じてもらえない。

 

「頼む!信じてくれ!・・・そうだ!何か質問を出してくれ!」

 

「質問?」

 

「そうだ!俺が偽者なら分からない質問を!」

 

彼はしばらく考えた素振りをしてから、質問を投げ掛けてきた。

 

「・・・ラウラとの戦いの後でウィルが食べた夕飯のメニューは?」

 

「ホッケ定食」

 

「じゃあ、俺の家に来たときに、セシリアが作った料理は?」

 

「一夏、あれは料理じゃない、焦げた鍋だ」

 

何で食べ物ばかり・・・。

一夏が顔を驚愕の色に染める。

 

「お前、本当にウィルなのか?」

 

「だから、そう言ってるだろう・・・」

 

「何でそんな事に・・・?」

 

「あぁ、それはだなぁ━━」

 

一夏に事の成り行きを説明した。

 

「何やってんだよ、束さん・・・」

 

「こっちが聞きたいよ・・・」

 

その時、またドアがノックされて、今度は何時ものメンバー全員が入って来た。

 

「ウィリアム、ここに一夏が来たと聞いたんだが・・・え?」

 

「ウィル、遊びに来てやったぞ・・・は?」

 

箒とラウラを筆頭に全員が凍り付いた。

 

「ハァ、一夏」

 

「あ、あぁ。みんな、信じられないかも知れないけど、彼がウィルだ・・・」

 

「ど、どうも・・・」

 

「「「ええええ!?」」」

 

そりゃあ、みんな驚くわな・・・ハァ、どうしよう・・・。

これから、どうしたら良いか分からず、頭を抱えるウィリアムであった。

 

 

 



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第47話

「ふむ、確かにウィルだな・・・」

 

ラウラが俺の顔をまじまじと見ながら、一人納得する。

一応、全員に説明して納得はしてもらえた。

 

「ウィリアム、私の姉が本当に申し訳無い!」

 

箒が滅茶苦茶謝って来る。

 

「いや、箒が謝る事は無いさ。それより、織斑先生に話した方が良いかもな」

 

「何で千冬さんにも話す必要があるのよ」

 

鈴が質問してくる。

だが、あのアホウサギを取っ捕まえるには織斑先生の力が必要だ。

 

「篠ノ之博士を捕縛する為には先生の力が必要なんだ。彼女を知る者の一人だからな」

 

「あぁ、成る程」

 

「と言うことで一夏。先生を読んでグラウンドに来てくれないか?」

 

「え?良いけど・・・何でグラウンドなんだ?」

 

彼の疑問は当たり前だろう。話なら部屋で十分だからな。だが・・・。

 

「広い所じゃないと、博士を捕まえた後にO・HA・NA・SHIが出来ないだろう?」

 

「ひっ!わ、分かった!」

 

そう言うが早いか、大急ぎで部屋を出て行った。

皆が、何か恐ろしいモノでも見るような目でこちらを見てくる。

 

「ん?どうした、そんな目で俺を見て」

 

「い、いや!何でも無いよ?」

 

「え、えぇ。気のせいではなくって?」

 

シャルロットとセシリアがガタガタと震えながら、首を横に振って否定する。

ラウラなんて柄にも無く涙目だ。

今の俺の顔はそんなに怖いのか?

 

 

グラウンド

 

 

俺達は今、織斑先生が来るのを待っている。

 

「おーい!連れて来たぞぉ!」

 

一夏が織斑先生と共に歩いて来た。

 

「話はさっき織斑から聞いた。まったく、何をやってるんだ?あのバカは・・・」

 

彼女は眉間に指を添えて呆れている。

 

「それなら話が早くて助かります。先生、博士をなんとか見つけれないでしょうか?」

 

「残念ながら、アイツがどこに居るのかは私でも検討がつかん」

 

「そうですか・・・」

 

「だが、見つける必要は無さそうだぞ。居るんだろう?出てこい、束」

 

「「「え?」」」

 

先生の声に反応して、篠ノ之博士が物陰から姿を現した。

 

「アハハ~ばれてたか・・・」

 

「バレバレだ。で?ホーキンスの症状はいつ治る?」

 

「それなら、心配ナッシング!今日の夕方には治ると思うよ」

 

「そうか・・・だそうだ。ホーキンス」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「良かったな、ウィル」

 

「ああ」

 

いやぁ、良かった良かった・・・。

これで━━

 

「さて!じゃあ、束さんはこれで━━」

 

「何言ってるんです?まだ終わってませんよ。・・・確保ぉ!!」

 

これて、心置き無くO・HA・NA・SHIが出来ると言うものだ。

 

「えっ!?」

 

そのまま、彼女は成す術も無く取り押さえられてしまった。主に織斑先生に。

 

 

 

「さて、博士。何か弁明は?」

 

俺は今、簀巻きにされた博士とO・HA・NA・SHI中である。

 

「え、えぇと・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ゆ」

 

「ゆ?」

 

「許してピョン☆」

 

めっちゃ良い笑顔でそう言われた。

 

「・・・織斑先生」

 

「何だ?」

 

「ISの使用許可を求めます」

 

「構わん、やれ」

 

「イエス・ミス」

 

俺が前に出て篠ノ之博士の首根っこを掴む。

 

「え、ウィっ君?何を・・・?」

 

「博士。俺、一つ気になってた事があるんですよ・・・」

 

「な、何を?」

 

「昔、友人から『豆腐の角に頭ぶつけて死ね』って言葉があると聞きましてね」

 

「そ、それがどうしたのかな?」

 

束の顔がみるみる蒼くなって行く。

 

「あれ、M(マッハ)2でぶつけたらどうなるのかなぁ?ってね」

 

「「「」」」

 

俺と織斑先生以外の全員が凍り付く。

 

「さ、逝きましょうか?博士」

 

「ちょ、なんか意味が違わない!?れ、冷静になろうよ。ね?」

 

ズルズルと引きずられる格好で束(簀巻き)が必死にウィリアムを説得する。

 

「これで合ってますよ。大丈夫、そんなに痛く無いですから。多分」

 

「今、多分って言った!多分って言ったよね!?助けて、いっくん、箒ちゃん!イヤァァァァ!!」

 

一同は心の中で静かに合掌したのだった。

 

 

 



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第48話

やっぱり上手く書けないんですよねぇ、、、。


朝 私室

 

 

眩しい・・・朝か?

重たい瞼をゆっくりと開ける。

 

「うごっ!?」

 

のそりと起き上がろうとした矢先、顔に何かが振り下ろされた。

脚?誰の?まさか・・・!

 

「ん?朝か・・・?」

 

「ラウラ!?お前また俺の部屋に━━」

 

すると布団を体に纏ったラウラが立ち上がる。

 

「ふっふっふ・・・今日は・・・!」

 

思い切り、纏っているシーツを広げた。

 

「っ!何を・・・!?」

 

俺は思わず顔を隠す。

 

「裸ではないぞ!」

 

彼女はスク水を着ていた。

ご丁寧に胸には『らうら』と書かれた名札付き。

 

「何だ?その格好は・・・」

 

思わず疑問を口にする。

 

「優秀な副官からのアドバイスだ!」

 

ドヤ顔でそう告げてくるが、さっぱりだ。

 

「その副官、どんな思考してるんだよ・・・まったく、大層優秀な副官だことだな」

 

皮肉を言うも、彼女はそんな事お構い無しに次の言葉を発する。

 

「今日お前の目覚めを待っていたのは他でも無い、これだ」

 

そう言いながら、彼女は胸元に手を入れて、一枚の紙を取り出し、渡してきた。

 

「何だこれ?なになに?夏の終わりに縁日デート?あぁ、これって最近出来たアミューズメントプールのイベントか?へぇ、面白そうだな」

 

「そうか!行きたいか?」

 

凄い食い付きで、ラウラが詰め寄って来る。

 

「縁日広場で浴衣のレンタル?あぁ、浴衣ってあの服の事か・・・」

 

「浴衣を着てみたいのだ・・・その、お、お前と二人で・・・

 

ラウラがモジモジしながら、誘ってくる。

最後の方がボソボソした声で上手く聞き取る事が出来なかったが・・・。

ふむ、浴衣か・・・。

 

「そうだな、なら行くか。せっかくだから一夏達も誘って━━」

 

ドスッ!

 

「いぃっ!?」

 

俺の真横に軍用ナイフが刺さった。

 

「ふんっ!」

 

ラウラは心底不機嫌そうに出て行ってしまった。

 

「何だ?何を怒ってるんだ?」

 

取り敢えず、一夏達も誘って来るか・・・。

さて、俺も着替えて・・・あ、そうだ、今日は足りない物を買いに行くんだった。手早く済ませて、買い出しに行くか・・・

 

 

食堂

 

「まったく、アイツは嫁としての自覚が足りん」

 

ステーキにナイフを入れながら、愚痴を溢す。

 

「何か遭ったの?ラウラ」

 

シャルロットが聞き返す。

 

「いや、何でも無い・・・」

 

「あ、そうだ!ラウラ、今日時間が有るなら洋服買いに行かない?」

 

「何を言う。服なら、ちゃんと軍支給の━━」

 

「いや、それ軍服だから・・・」

 

シャルロットが苦笑しながら、ラウラを説得する。

 

「ね?夏休みも終わっちゃうし、行こうよ」

 

「ふむ、そう言われればそうだな」

 

「じゃあ、10:00時くらいに出るので良いかな?」

 

「分かった」

 

そう言って、二人は手早く朝食を済ませるのであった。

 

 

 

「どうだ?外出用に着替えたぞ」

 

ドヤ顔のラウラが腰に手を宛て、胸を張りながらシャルロットに告げる。

 

「結局、制服なんだね・・・」

 

シャルロットが眉を八の字にして苦笑する。

その時、他の女子生徒の声が聞こえて来た。

 

「ねぇ、臨海公園の幻のクレープの噂知ってる?」

 

「知ってる知ってる!好きな人とミックスベリー味を食べると、恋が叶うって!」

 

・・・恋が叶う、ミックスベリー?

ラウラとシャルロットは互いの思い人の事を思い浮かべながら、同じ事を考えた。

 

 

「と、言う事で一夏、みんなに伝えておいてくれないか?」

 

「分かった、伝えておく」

 

「じゃ、頼んだぞ」

 

そう言って俺はモノレールの駅に向かった。

さ、手早く買い出しを済ませよう。

 

 

 

「着いたか。えーっと、まずは・・・」

 

「え、エクスキューズミー・・・」

 

覚束無い英語で声を掛けられた。

 

「はい?」

 

「え、え~と・・・」

 

「あぁ、日本語で大丈夫ですよ」

 

「そ、そうかい?それなら話は早い!すまないが、一つ頼まれてくれないかい?」

 

「は、はぁ・・・何でしょう?」

 

「実はね、この近くでヒーローショーをするんだけど、役者の一人から遅刻するって連絡が来てね。君に頼めるかい?」

 

それで俺に白羽の矢が立ったと・・・。通りすがりに頼むなんて、どれだけ焦ってるんだ?

 

「頼むよ!バイト代を払うから!」

 

「まぁ、時間はあるので構いませんよ」

 

「そ、そうかい。助かるよ!こっちだ。付いて来てくれ!」

 

ヒーローショーか・・・。少し面白そうだな。

 

 

 

この格好・・・成る程、俺は悪役としての出演か。

 

「そろそろ時間だけど、行けるかい?」

 

「えぇ、大丈夫ですよ」

 

さぁて、やりますか!

 

 

ヒーローショーの内容は王道中の王道。

初めは悪役が優勢だが、観客からの声援でパワーアップしたヒーローにボコられる。と言うものだった。

 

 

「いやぁ、今日は助かったよ。さっき、ようやく役者が揃ったから、この後のショーは何とかなるよ」

 

「それは良かった。お役に立てたようで何よりです」

 

「あ、そうだ。はい、これバイト代」

 

「え?あぁ、ありがとうございます」

 

すっかり忘れていた。

 

「それじゃあ、今日は本当に助かったよ。ありがとう」

 

「いえ、こちらこそ。良い経験になりました。それでは」

 

そう言って、俺は本来の目的に戻った。

 

 

「よし、必要な物は揃った。それにしても暑いな・・・近くの店で休むか」

 

ん?カフェ・アット・クルーズ?なかなか良さそうじゃないか。

そう思って入店する。

店内は冷房が効いていて涼しい。

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

 

「あぁ、一人です」

 

「かしこまりました。あちらの席へどうぞ」

 

指定された席へと向かう。

 

「へぇ、良い眺めじゃないか」

 

さて、メニューは、っと・・・。

ん?アイスカフェラテか、これにしようかな。

 

「すいません、ウェイターさん」

 

「はい」

 

メイド服のウェイターがこちらに近づいてくる。

 

「このアイスカフェラテを・・・どうかしましたか?」

 

「え?うぃ、ウィル?」

 

何故俺の名前を・・・待てよ?さっきから顔をよく見てなかったが、このメイドさんもしかして・・・?

 

「もしかして、ラウラか?」

 

「あ、ああ、そうだ。それで、何故お前はここに?」

 

「いや、俺は買い出しの帰りでな、疲れたからここで━━」

 

その時、一発の銃声が鳴り響いた。

 

「全員動くんじゃねぇ!」

 

っ!?背中のボストンバッグから札束が見え隠れしている・・・。強盗かっ!

 

「騒ぐなぁ!」

 

敵は三人、それなりに装備している。

 

『君達は包囲されている!大人しく投降しなさい!』

 

外からは警察がスピーカーで投降を呼び掛けている。

 

「人質を安全に解放したかったら車を用意しろ!勿論、追跡車や発信器なんて着けんじゃねぇぞ!」

 

リーダーがそう言うと、もう一人がサブマシンガンを外に乱射する。

 

「へへっ、ビビってやがるぜ!」

 

店内に悲鳴が響き渡る。

 

「うるせぇ!静かにしてろ!」

 

こいつら、完全に俺達を人質と舐めているな。

そう思って睨んでいると、声を掛けられた。

 

「おい、お前。その窓に歩いて行って、今の状況を外のサツ共に詳しく話せ!」

 

成る程、そう言う考えか・・・。たしかに、人質が怯えながら状況説明をした方が、相手に対する精神的な揺さぶりもかけられる。

 

「・・・・・」

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

「ウィル、何を?」

 

「え?ウィル!?どうしてここに?」

 

ラウラとシャルロットに、アイコンタクトで指示をする。

 

「おら、早くしろ!」

 

ピストルを向けてくる。

馬鹿な奴だ、自分から武器を近づけてくれるとは。

 

「おいおい・・・そんなもの向けるな、よっ!」

 

目にも止まらぬ早さでピストルの銃身を掴んで射線をずらし、そのまま相手の手を捻った後、膝関節の裏を蹴り飛ばして盾の様にして、奪ったピストルを構える。

形勢逆転だ。

 

「なっ!て、てめぇ!」

 

まずは、厄介なサブマシンガンからだ。

引き金を引いて、サブマシンガンに当てる。

 

「ぐっ!し、しまった、銃が!クソッタレ!うぐぅっ!」

 

腰のピストルに手を掛けるが、空かさずラウラが鳩尾にキックして黙らせた。

俺もそのまま、盾にしている奴の後頭部を殴って倒す。

二人無力化。

 

「ふざけやがって、このガキ!」

 

敵が叫びながら発砲する。

しかし、流石はドイツ軍の特殊部隊の隊長。素早い身のこなしで射線から離れた。

 

「僕を忘れないで欲しい、ね!」

 

「ぐえぇ・・・!?」

 

その隙を突いてシャルロットが相手の首に脚蹴りをお見舞いして、無力化した。

 

「目標2制圧完了。ラウラそっちは?」

 

「問題無い、目標3制圧完了。ウィル?」

 

「目標1制圧完了だ」

 

しかし、リーダーが立ち上がる。簡単にはやられてはくれない様だ。

 

「ふざけるな・・・こんなガキ共にぃ!!」

 

ピストルを発砲してくる。

 

「「「っ!」」」

 

速やかに散開する。

相当は焦っているようで、単一の目標だけに集中しきっている。

ラウラは、足元に落ちているピストルを器用に蹴り上げて、それを相手の頭に突きつけた。

 

「遅い、死ね」

 

「がっ!?」

 

そのまま発砲すると見せかけ、フェイントで眉間を殴る。

 

「全制圧、完了」

 

伏せていた客達が口々にお礼を言ってくる。

 

「ありがとう、メイドさん執事さん。そこの男の人も」

 

執事・・・?そう言われれば、シャルロットは何故執事の格好をしてるんだ?

 

「ラウラ、僕達が代表候補生だと公になると面倒だから、この辺で」

 

「そうだな。失敬するとしよう」

 

「ウィルも、早くここを離れよう」

 

「ハァ、休憩しに来ただけなのにな・・・ん?」

 

「うっ・・・くそぉ・・・!」

 

あのリーダー格の男、まだ動くのか!?

 

「捕まって、ムショ暮らしになるくらいなら・・・」

 

・・・何をするつもりだ?

 

「いっそ、全部吹き飛ばしてやらぁ!!」

 

着ているジャケットを広げると、裏側にプラスチック爆弾が。

自爆する気か!あの量ならここいらが容易に吹っ飛ぶぞ!

クソッ、ここからでは死角で起爆装置が狙えない!

 

「ラウラ!」

 

俺はピストルをラウラに投げ渡した。

彼女はそれを鮮やかにキャッチし、そのままシャルロットと共に、起爆装置を撃ち抜く。

全ての手段を潰され、今度こそ敵は観念したようだ。

 

「「チェックメイト!」」

 

「まだやる?」

 

「次はその腕を吹き飛ばす」

 

お~!なんか格好いいな!

なんて思っていると、悲鳴があがる。

さっき無力化した一人がナイフを持って突っ込んで来た。

狙いはラウラだ。彼女は少し目立ち過ぎた様だ。

 

「チッ、しつこい!」

 

今度は俺の見せ場だ!

 

「死ねぇぇええ!!」

 

単調な動きだ、相手の体重を逆手に取れば良い。

俺は相手の腕と肩を掴んで脚を引っ掛け、地面に引き倒した。

そして、近くにあったフォークを顔の真横スレスレに勢い良く突き刺す。

 

ドスッ!

 

「ひぃっ!?」

 

「お前の敗けだ、大人しく投降しろ。さもないと・・・!」

 

スッと目を細めて、木製の床がメキメキと音を立てるように態とフォークを動かす。

 

「わ、分かった!降参する!降参するっ!」

 

歓声が上がる。今度こそ終わった様だ。

 

 

 



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第49話

強盗を制圧後、俺達は急いで人混みの中に紛れてその場を後にし、今は臨海公園にいる。

 

「すみません、クレープを三つ下さい。えぇと?ミックスベリー?て言うのありますか?」

 

現在、俺はラウラと共に三人分のクレープを買いに来ている。

代金は俺持ちだが、これは男としての意地だ。

 

「あぁ、ごめんなさい、今日ミックスベリーは終わっちゃったんですよ」

 

「あぁ、そうだったんですか・・・だとさ?別のにするか?」

 

「あぁ、じゃあイチゴとブルーベリーとチョコをくれ」

 

何かを察したラウラは他のメニューを選ぶ。

 

「はい、ありがとうございます」

 

何だ?この店員の反応。どこか、面白そうだ。

 

 

水平線に沈む夕日を見れる場所とは、なかなか粋だな。

ベンチに腰を掛け、そんなことを思いながらクレープを食べる。

 

「ん~これ、美味しいね」

 

「そうだな、クレープの実物を食べるのは初めてだが、美味いと思うぞ」

 

「甘いだけかと思っていたが、なかなか美味いな」

 

そう言いながら、クレープを食べ続けると、シャルロットが先に食べ終わり「少し散歩してくる」と言って、どこかへ行ってしまった。

今はラウラと二人だけだ。

 

「ウィル」

 

ラウラがこちらに寄ってきた。

 

「ん?何だ?・・・ラウラ?」

 

そのまま彼女の顔が迫って来て・・・口元を舐められた。

 

「なっ!ななな、何を?」

 

「ソースが付いていた」

 

「いや、舐めなくても・・・」

 

「両手が塞がっている。まぁそう怒るな。ほら、私のクレープを一口やる」

 

「いや、別に・・・」

 

「遠慮するな。さっきの礼だと思ってくれ」

 

微笑みながらクレープを俺に差し出してくる。

 

「・・・・・・い、いただきます・・・」

 

一口食べると口の中にブルーベリーの味が広がる。

 

「ブルーベリーもなかなか美味いな。ありがとう」

 

「そうか・・・ウィル、私にも一口くれないか?」

 

「え?ああ、どうぞ」

 

二人で仲良く味を交換し合う。

それを遠くから眺めながら

 

今度は一夏と二人きりで来てみたいなぁ・・・

 

そう思うシャルロットであった。

 

 

その日の夜

 

「これは、何だ?うぅ・・・本当にパジャマなのか?」

 

ラウラは全身を覆う黒猫を模したパジャマを装備している。

 

「~~!可愛い!ラウラ、凄く似合うよ!」

 

ラウラとは反対に、白猫を模したパジャマを着たシャルロットが彼女に抱き着く。

 

「うわっ!?抱き着くな!動きにくいだろ!」

 

「ダ~メ、猫っていうのは膝の上で大人しくしてないと」

 

そう言いながら、ラウラにベッタリのシャルロット。

 

「せっかくだから、ニャーンって言ってみて?」

 

「っ!?断る!何故そんなことをしなくてはならない!」

 

「えー?だって可愛いよ~?ほらほら、言ってみようよ?ニャーン・・・」

 

ラウラの耳元で囁く。

 

「~~っ!!・・・ニャ、ニャーン・・・」

 

「ラウラ可愛いぃぃ!!」

 

その時、ドアがノックされる。

 

「はーい、どうぞ?」

 

「おっす、おぉ・・・!」

 

「一夏、どうし━━おぉ・・・」

 

入って来たのは、一夏とウィリアムだ。

 

「「っ!?」」

 

まさか、彼等とは思っていなかったらしく、驚いている。

 

「変わった服装だなぁ。黒猫と白猫か」

 

「あぁ、すげぇ格好だな・・・」

 

「あぁ、そうだ。シャル、明日なんだけど・・・」

 

そう言って彼はシャルロットにも今朝のチラシを見せる。

一通り説明したら、彼女も行く事になった。

横ではラウラがこちらを睨みながら頬を膨らませていたが・・・。

 

「それじゃ、またな?シャル、ラウラ」

 

そう言って、一夏が出て行く。

 

「と言う事で、俺も失礼するよ」

 

そう言って部屋を後にしようとした時、シャルロットに待ったを掛けられた。

 

「ウィル、今からラウラが可愛い事するから、よく見ててあげてね?」

 

「待て、何の事だ!?」

 

「ん?何をするんだ?」

 

ラウラを見る。

シャルロットがラウラに耳打ちする。

すると、顔を真っ赤に染めた彼女が一言。

 

「ニャ・・・ニャーン・・・」

 

「」

 

「ね?ね?可愛いでしょ!?」

 

破壊力抜群の攻撃だ。

 

「ゴフッ!?」

 

あまりの事に俺はその場に倒れてしまった。

シャルロットめ・・・!俺の反応を見て楽しんでいるんじゃないだろうな・・・。

 

 

自室

 

「あ、あれは危なかった・・・可愛すぎだろ・・・!」

 

一瞬だけ、世話になったあの神様の顔が見えた様な気がした。

 

「とにかく、早く寝よう・・・!」

 

さっきの光景が頭から離れないウィリアムであった。

 

 

 



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第50話

翌日

 

俺はラウラ達と共に、集合場所にて一夏と箒を待っていた。

それにしても、みんなの顔が滅茶苦茶怖い。特にラウラなんて、今から人一人を殺ってしまいそうな気迫だ。

俺が引きつった顔で無理矢理笑みを浮かべていると、箒が集合場所にやって来た。

 

「・・・?・・・え!?」

 

彼女は俺達の顔を見て、何故ここに!?みたいな顔をしている。

 

「お~い、みんな!悪い悪い、遅れちゃって!」

 

満面の笑みで一夏が走って来た。

しかし、ラウラと箒以外の三人が物凄い形相で彼を睨む。

いや、ラウラは俺を睨んでいる。

 

「馬鹿!」

 

「期待したわたくしが馬鹿でしたわ!」

 

「乙女心を弄ぶなんて、最低の行為だよ!」

 

鈴、セシリア、シャルロットから猛攻を受けて困惑する一夏。

 

「アイツ、みんなに何て説明したんだ?」

 

そう呟くと

 

「まったく!お前は嫁失格だな!」

 

ラウラに怒られた。

 

「えぇ・・・」

 

そのまま、プリプリと怒りながら四人は俺と一夏を置いて歩いて行ってしまった。

その場に取り残される、男二人。

 

「ハァ・・・何を怒ってるんだよ・・・」

 

「さあ?お前、何て誘ったんだ?」

 

「いや、シャルの時はお前も居ただろ?普通に声掛けて誘ったんだよ」

 

「あぁ、普通だったな」

 

「ただ、『一緒に行かないか?』って聞いただけなんだがなぁ・・・」

 

・・・そこだ。『一緒に』の前に『みんなで』が足りていない。

 

「ハァ・・・分かった。とにかく行こう。置いてかれるぞ?」

 

ラウラが怒っていた理由。もしかして・・・俺と行きたかった。とか?

・・・いや、ちょっと自惚れが過ぎたか?

 

 

プールには巨大なウォータースライダーが設置されており、他にも様々な遊具が設置されている。

始めはブスッとしていた彼女達だが、いざ遊び始めると、朝の事など忘れて遊びまくっていた。

俺もラウラにペア滑りコース。と言うのに誘われて、時間が立つのも忘れて遊びまくった。

 

 

夜は夜で、浴衣に着替えて色々な屋台を廻って楽しんだ。

中でも、射的が一番白熱した。

やはり、代表候補生の射撃センスは目を見張るものだ。

次々に撃ち落とされて行く景品を見て、屋台のおっちゃんが涙目になっていたが・・・。

他にも、初のたこ焼きや、綿菓子を食べて舌鼓を打ったり、線香花火で遊んだりと、全ての事が初めてで、凄く新鮮な一日だった。

 

 

翌日 アリーナ

 

「凄い弾幕だな・・・!」

 

「まだまだ、こんなものじゃ終わらないよ!」

 

俺達はアリーナの競技場にて、模擬戦中だ。

一夏は鈴と、俺はシャルロットを相手に別々に戦っている。

 

「あぁ、まるでちょっとしたトーチカみたいだ。全然近付けないよ」

 

そう言いながら、ミサイルをロックして発射する。

 

「くっ!やっぱり、地上と空じゃ少し不利だね・・・!」

 

「そりゃ、それが俺の強みだからな」

 

シャルロットのISは量産型だが、かなり手が加えられている為、もはや別物となっている。

こちらはある程度の距離を保っているが、侮れない。

 

「それならっ!」

 

彼女がこちらの追撃に入る。

何か仕掛けて来るな・・・。

次の瞬間、シャルロットの姿が消えた。

 

「なっ!?どこへ行った!?」

 

「ここだよ!」

 

「っ!?」

 

後ろを取られた!

 

「一体何が・・・!まさかイグニッション・ブースト!?」

 

「ふふっ、ご名答!」

 

恐ろしい精度で撃ってくる。

 

「ヤバいヤバい!」

 

回避行動を続ける。

 

「これなら━━」

 

「その手は効かないよ!」

 

「っ!?危ねぇ・・・!」

 

得意技のコブラをしようとした瞬間、背部を数発の弾丸が掠める。

どうやら、俺はかなり追い込まれているらしい。

さっきから、こちらの回避先を読んでいる様に、次々に手段を潰されて行く。

段々と精度が上がって来ているな。このままじゃジリ貧だ。

 

「何か方法は・・・?」

 

昔の記憶を遡る。

新米だった時に教官から言われた言葉

 

「『使えるものは、何でも使え』・・・か」

 

確認すると、シャルロットは真後ろに居る(・・・・・・)

・・・完璧だ。

 

「これで決める!」

 

シャルロットがマシンガンを向ける。

 

「これを喰らえ!」

 

俺はISのテール部分に有る、ドラッグシュートを展開。ある程度開いたら、そのまま切り離してシャルロットにぶつけた。

 

「うわっ!?な、何!?」

 

シャルロットが慌てて自身に引っ掛かっているパラシュートを退かす。

視界がクリアになった。

━━が、視界からはウィリアムの姿が消えていた。

 

「どこに・・・ハッ!?」

 

彼女の頭上に影が射した。

上を見上げると、ウィリアムが半ば宙返りの姿勢でこちらに機銃を向けていたのだ。

そして、そのまま容赦無くトリガーが引かれる。

 

「いつの間に・・・!」

 

「さっき、パラシュートを展開してから直ぐに宙返りをしたんだ」

 

そのまま後ろを取って、ミサイルをロックしながら種明かしをする。

そして、二基のミサイルはシャルロットに向かって放たれ、彼女に直撃。シールドエネルギーを消し飛ばした。

 

「シャルロット、I shot down on you(君を撃墜した).」

 

彼の撃墜コールが無線から聞こえる。

 

「ハァ、負けたよ。まさかあんな攻撃をしてくるなんて・・・」

 

「まぁ、あれは賭けなんだがな」

 

「うわぁぁああ!?」

 

そんな話をしていると、一夏が鈴の衝撃砲に吹き飛ばされて、墜ちて来た。

 

「派手に墜ちたなぁ・・・」

 

一夏の元に寄って行く。

土煙が猛々と上がっている。

 

「おい一夏、大丈夫か?」

 

「あぁ、なんとかな。それにしても・・・また負けたぁ!」

 

「ふっふーん、中国代表候補生は伊達じゃないわよ。それより、後で何か奢りなさいよ?」

 

鈴がドヤ顔で降りて来た。

 

「クッソぉ・・・!次は負けねぇからな!」

 

「何時でも相手してあげるわ」

 

そう言いながら、アリーナの更衣室へ向かって行った。

 

「さて、俺達も帰るぞ?次の授業に遅れちまう」

 

「あぁ、そうだな」

 

俺達も更衣室へ向かって行った。

 

 

 

一夏は更衣室のベンチに座って白式のスペックデータを眺めている。

 

「ハァ、後少しで勝てたのになぁ・・・やっぱ、燃費を何とかしないと」

 

「そうだなぁ、やっぱり高威力な分、そう簡単にポンポン使えないからな・・・」

 

「お前のバスター・イーグルは良いよなぁ。強力な武器持ってるし、速いし。シールドエネルギーをあんまり使わないだろ?」

 

「あれだって速い分照準が難しいし、みんなのと比べて大型だから、被弾面積が大きい。おまけに、エンジン始動にタイムロスがある。それぞれ個性が有るのさ」

 

「そう言うもんか?」

 

「あぁ、そう言うもんだ。それをどうカバーするかだな」

 

「そうだな、もう少し工夫をするか!なら、また今度練習に付き合って━━え?」

 

「ん?どうした、一夏・・・は?」

 

振り返ると、水色の髪に赤い瞳の少女が一夏に手で目隠しをしていた。

 

「だ~れだ?」

 

「え、えぇ?誰だ?」

 

「いや、マジで誰だ?君」

 

いや、どこかで見た気が・・・。

 

「はい、時間切れ」

 

一夏が振り返る。

 

「ふふっ、引っ掛かったな?」

 

悪戯が成功した子供の様な顔をする。

 

「あの、あなたは?」

 

「それじゃあね。君達も急がないと、織斑先生に怒られるよ?」

 

一夏の質問に答えずに去ってしまった。

ん?急ぐ?織斑先生に怒られる?

 

「まさか!」

 

時計を確認する。

 

「うわああ!?遅刻だ!一夏急げ、先生に消されるぞ!」

 

「へ?ヤッベ!千冬姉に怒られる!」

 

大遅刻だ、怒られるだけでは済まない。

俺達は大慌てで教室に向かった。

 

 




ドラッグシュートで目隠しってズルかったかな?


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第51話

「ほう?遅刻した言い訳はそれか?」

 

織斑先生が目を細めながら聞いてくる。

大慌てで教室に入った俺達は今、入り口の所で顔面を蒼白させながら尋問を受けていた。

 

「い、いやぁ、その、あのですねぇ・・・み、見知らぬ女子生徒が・・・」

 

「・・・ホーキンス。こいつの言っている事は事実か?」

 

ギロッと、シャークマウスの瞳よりも恐ろしい目で睨まれる。

 

「は、はい!彼の言う通り、更衣中にその女子生徒が入って来まして・・・」

 

反射的に敬礼をし、冷や汗を流してガタガタと震えながら事情を説明する。

 

「成る程。つまりお前達は初対面の女子との会話を優先して、授業に遅れたのか」

 

「え?ち、違いますよ・・・」

 

「そ、そうですよ。別に遊んでいた訳では・・・ま、まさか!アレをする気じゃ・・・!」

 

「あ、アレを!?」

 

俺の言葉に一夏がビクリと反応する。

 

「いや、私が手を下すのでは無い。デュノア、ボーデヴィッヒ」

 

「「はい」」

 

「射撃の実演をして見せろ」

 

無慈悲な死刑宣告が発せられる。

無言で歩み寄って来る二人。

 

「「ひぃ!?」」

 

あ、あれ~?彼女達の目のハイライトがベイルアウトしてるぞ~?

 

「では、実演を始めます」

 

シャルロットがニコニコしながら、ISを展開する。

 

「あ、あのぉ・・・シャルロット、さん?」

 

ジャコッ

マシンガンの銃口が一夏に向けられた。

 

「何かな?織斑“君”?始めるよ、リヴァイヴ!」

 

ギャアアアア!!

 

真横で一夏がフルボッコにされている。

俺は目の前の惨劇を震えながら見ている事しか出来なかった。

待て、パイルバンカーはやり過ぎだろ!?そもそも射撃ですらないじゃないか!

 

 

 

静かになった。どうやら終わった様だ。

 

「何を余所見している。次はお前の番だぞ」

 

・・・あぁ、忘れてた。

ISを展開して待機していたラウラが前に出て来る。

俺は油の切れたブリキ人形の様に彼女に顔を向けると、眼前には彼女のISのレールカノンの砲口が迫っていた。

ふと、視線をズラすと、横には一夏が倒れている。

お、俺もこんな風になるのか?

 

「まぁ待て、考え直すんだ。そんなもの撃たれたら、ミンチよりもひでぇ事になっちまう」

 

「安心しろ、死なん程度にしてやる。その前に言い残す言葉は?」

 

成る程、辞世の句と言うやつか。

やっぱり俺は死ぬ運命なのか?いや、そんな筈は無い!悪いな俺はまだ死ぬ気は無いんだ!

 

「ハァ、分かったよ・・・それより、それ何だ?」

 

あくまで自然に、怪しまれない様に・・・。

 

「それ?」

 

「ほら、そこの・・・」

 

指を指して、注意を逸らさせる。

 

「?何も━━」

 

今だっ!

 

アディオス!(さよなら!)

 

「なっ!?」

 

全力で教室から逃げた。

フッフッフッ・・・フ~ハハハァッ!この俺の脱出スキルを甘く見るなよ?ラ・ウ・ラ~。

そんな事を考えながら廊下を必死に走り続けるウィリアム。しかし彼は忘れていた。ラウラのISには敵を捕縛可能な兵装があることを。

突然、体がギュッ締め付けられる。

 

「うおっ!?・・・え?わ、ワイヤー?まさか・・・」

 

その先を見ると・・・

 

「そう簡単に逃げられるとでも思ったか?」

 

ラウラが黒い笑みを浮かべて立っていた。

 

「あ、あぁぁぁ・・・!」

 

冷や汗を滝のように流す俺を、彼女は自身の目の前まで引き寄せる。

 

「・・・覚悟は出来ているな?」

 

ガションッ

レールカノンの照準が向けられた。

 

「い、いや、まだ━━」

 

「これは終止疑問文だ。答えは要らん」

 

Holy shit(ああ・・・マジかよ)

 

震えて上擦った声が漏れた。

 

 

 

 

ヴェアァァァァアアア!!!

 

 

 

その悲鳴を聞いて、クラスの生徒が彼に手を合わせたり、十字を切ったりしたのは言うまでも無いだろう。

それ程までに凄まじい絶叫だったのだ。

 

 

ホール

 

 

「ハァ、死ぬかと思った・・・」

 

ラウラによる制裁を受けた後、俺達はホールに集められた。

 

『それでは、生徒会長から説明をさせて頂きます』

 

スピーカーから声が掛かると、それらしき人物が舞台の真ん中に立った。

 

「ん?」

 

「さてさて、今年は色々と立て込んでいて、ちゃんとした挨拶がまだだったね?」

 

「!?嘘だろ・・・!」

 

「私の名前は“更識楯無”。君達生徒の長よ。以後よろしく」

 

一夏と俺を見てウィンクして来た。

一夏に目を向けると、向こうもかなり驚いているようだ。

 

「では、今月の学園祭だけど、クラスの催し物を皆で頑張って決めるように。と言いたい所だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容は」

 

舞台のディスプレイが浮かび上がる。

 

「名付けて『各部対抗織斑一夏、ウィリアム・ホーキンス争奪戦』!」

 

彼女が扇子を開くと同時に、俺と一夏の顔写真がデカデカと写し出された。

開いた口が閉じない。

 

「「「ええええええ!!?」」」

 

ホールに生徒達の声が響く。

・・・駄目だ。衝撃のあまりに言葉が入って来ない。

最後に聞こえたのは『俺達二人を一位の部活に強制入部』と言う言葉だけだった。

生徒達が血走った瞳で見てくる。

 

・・・ここは正にエネミーラインだ!

 

 

「えぇと、ウチのクラスの催し物の案ですが・・・」

 

電子黒板を見る。

そこには・・・

『織斑一夏のホストクラブ』

『織斑一夏とツイスター』

『ウィリアム・ホーキンスとポッキーゲーム』

『ウィリアム・ホーキンスと王様ゲーム』

等々、実に多種多様な案が発案されている。

因みに、さっきの件で俺と一夏はクラスの催し物の纏め係りをやらされている。

まぁ、自分が悪いのだが・・・。

 

「全部却下!」

 

「「「「えええええ・・・」」」」

 

ブーイングされる。

 

「アホか!誰が嬉しいんだ?こんなもん!」

 

「まったく、一夏の言う通りだ!誰得だよ!?」

 

俺と一夏がこの理不尽な催し物の案を一蹴する。

しかし、勢力は衰えない。

 

「私は嬉しいわね。断言する!」

 

「「え!?」」

 

「そうだ!そうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

 

「はぁ!?」

 

「んな理不尽な!」

 

「織斑一夏とウィリアム・ホーキンスは共有財産である!」

 

「「「そうだ!そうだ!」」」

 

「俺達は物かよ・・・」

 

「くっ!山田先生、駄目ですよね?こう言う様な企画は・・・」

 

最後の望みを山田先生に託す一夏。

 

「え?えぇと・・・私はポッキーなんか良いと思いますよ?」

 

「「嘘やん・・・」」

 

大変遺憾である!

最後の望みも破れて項垂れる俺達。

 

「と、とにかく、もっと普通の意見を出してくれ!」

 

「そ、そうだ、ウィルの言う通りこんなの認めないからな!」

 

その時、ラウラがとんでも発言をぶちかました。

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

「「「おおおお!」」」

 

クラス中の女子が感嘆の声を上げて、彼女を見る。

 

「ら、ラウラ?お前何を言って・・・」

 

「客受けは良いだろう。それに、飲食店は経費の回収が行える」

 

「うん、良いんじゃないかな?一夏とウィルには、執事か厨房を担当してもらえば良いしね?」

 

シャルロットが賛成した。

 

「「えぇ・・・」」

 

「織斑君、執事・・・良い!!」

 

「待って、ホーキンス君の執事も絶対に良いよ!」

 

「なっ!?」

 

「おいおい、冗談は止してくれ・・・」

 

もう、俺達の発言権は無いようだ。

どんどん話が進んで行く。

 

「メイド服どうする?」

 

「私、縫えるよ?」

 

「では、ご奉仕喫茶に決まりですね!」

 

「「「「さんせ~い!!」」」」

 

俺達、纏め役の存在は・・・?

 

「まぁ、変わった衣装の喫茶店だと思えば良いか・・・」

 

「なあ、一夏?俺達、精一杯抗ったよな?」

 

「あぁ、後はなるようになるさ・・・」

 

「「ハァ・・・」」

 

こうして、1組の催し物はメイド喫茶に決まった。

 

 

 



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第52話

職員室にクラスの催し物の内容書を提出しに行った帰り

 

「よし、提出完了っと」

 

いやぁ、織斑先生があそこまで爆笑するとは。確かにメイド喫茶の発案者がラウラなのは意外だったがな。

 

「あぁ、そう言えば今何時だ?」

 

一夏が時計を確認する。

時刻は16:02

 

「ヤベッ特訓の時間か!」

 

「おっと、それはまずいな。急ごうぜ」

 

そう言って、走って行こうとした時

 

「やぁ!」

 

聞き覚えの有る声を掛けられた。

 

「え?」

 

「ん?」

 

声の主が歩み寄って来る。

 

「あなたは確か・・・」

 

「生徒会長、さん?」

 

「水臭いなぁ、楯無で良いよ?」

 

「・・・何の用ですか?」

 

一夏がぶっきらぼうに質問する。

 

「私が当面、君のISのコーチをしてあげる」

 

「え?」

 

「ISのコーチ?」

 

「な、何でですか?突然。コーチは一杯居るんで、間に合ってます」

 

「でも、君は未だに弱いままだよね?」

 

痛い所を突いて来たな。

 

「っ!それなりには、弱くないつもりですが?」

 

一夏がムッとして返答する。

 

「ううん、弱いよ?滅茶苦茶弱い」

 

「なっ!」

 

彼が言い返そうとするが、制止させられる。

 

「だがら、少しでもマシになるように、私が鍛えてあげよう。と言うお話♪」

 

「そこまで言いますか!?じゃあ勝負です!俺が負けたら何でも従います!」

 

売り言葉に買い言葉。

一夏は挑発に乗ってしまった。

 

「ふふ、良いよ。君も来る?」

 

「俺もですか?」

 

どうやら、俺も巻き込まれたようだ。

 

 

柔道場

 

柔道着に着替えた一夏と楯無が位置に着く。

 

「良い?一度でも私を床に倒せたら君の勝ち。逆に、君が続行不能になれば私の勝ちね。それで良いかな?」

 

一夏が呆れて苦笑する。

 

「随分と舐められたものですね・・・」

 

すると、楯無は不敵に笑った。

 

「私が勝つから大丈夫」

 

「・・・それじゃあ、本気で行きますよ?」

 

「何時でもどうぞ?」

 

一夏が彼女に掴み掛かった。

 

「うわぁ!?」

 

しかし、逆に一夏が倒された。

凄い、微動だにせず大の男を倒した・・・!

それでも諦めずにまた掴み掛かる。

 

「IS学園において、生徒会長の肩書きは」

 

「ぐっ!」

 

一夏に足を掛けて、また床に倒す。

 

「一つの事実を証明して居るんだよね」

 

「くっ!うおおおお!」

 

「生徒会長、即ち全ての生徒の長たる存在は・・・!」

 

今度は背負い投げで一夏を床に叩き付けた。

 

「ぐぅっ・・・!」

 

「最強であれ!とね?」

 

IS学園の生徒会長はとんでもない実力者だった様だ。さっきの余裕も頷ける。

 

「これで三回。まだやる?」

 

「まだまだ!」

 

「うふふ、頑張る男の子って素敵よ?」

 

「それは、どうも・・・!」

 

そのまま、一夏が楯無の胸ぐらを掴み、床に引き倒そうとした時。

ハプニングが起きた。

彼が掴んだ瞬間、勢い余って彼女の胸元を開いてしまったのだ。

 

「一夏・・・お前、そう言う体質なのか?それとも態とやってるのか?」

 

誰にも聞こえない様に呟く。

向こうでは、彼女の悲鳴と一夏の必死の弁明が聞こえる。

 

「・・・一夏君?」

 

部屋の温度が数度下がった様な気がする。

一夏・・・多分終わったな。

 

「お姉さんの下着姿は高いわよ?」

 

その後の事は、俺がラウラに受けた制裁の次に酷かった。とだけ言っておこう。

ヤベッ震えが・・・。

 

結局、一夏は生徒会長が保健室へ連れて行き、俺は先に指定された練習場所へ向かった。

 

 

その後、一夏の特訓の為にシャルロット、セシリアと共にひたすら飛行しながらの射撃訓練を繰り返した。

ある地点を中心に円を描く様に高速で飛行しながら、相手の未来位置を予測して撃つ。と言う内容だ。

無論、安定性も必要となる。

俺も相手をしたのだが、やはりと言うか、彼は遠距離より近距離で叩き込む方が向いている。

俺も遠・中距離の攻撃は射撃管制に頼る時が有るが、一夏は近距離でしか真価を発揮出来ない様だ。

途中で何時ものメンバー達も観に来ていたが、皆同じ意見だった。

生徒会長はその事を考えて、特訓させた様だ。

 

因みに、生徒会長からの直々の指名で、俺も毎日の訓練に付き合う事になった。

 

 

自室

 

「ハァ・・・それにしても、今日もまた内容の濃い一日だったなぁ」

 

俺は缶コーヒーを飲みながら、端末で映画を観ている。

今回はエイリアンが地球に攻めてきて、それを退けると言う、王道中の王道。

今は丁度、大統領が演説しているシーンだ。

すると、一夏の部屋の方から箒の怒声が聞こえた後、鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえたが直ぐに静かになった。

 

「まったく、今度は何なんだ?」

 

その真相を知るのは、現場に居た三人のみである。

 

 

あれから数日

 

食堂のテーブルには、何時ものメンバーとテーブルに突っ伏した一夏と一言も喋らないウィリアム、という状況だ。

あれから毎日のスパルタトレーニングと度重なる生徒会長による自室での悪戯(・・)で一夏は相当参っている様だ。

正直俺も疲労が取れない。と言うのも、俺も少なからず彼女の被害に遭っているからだ。

そして、連日の猛特訓である。

空中戦に特化している。と言う理由で、俺も訓練に付き合っているのだが・・・まぁ、ひたすらしごかれた。

まるで、訓練生時代の様だ。

彼よりはまともに動けるがそれでも自分の弱点がボロボロ出て来る。

ISと戦闘機は勝手が違う。と言うことを改めて思い知った。

 

「二人共、大丈夫か?」

 

箒が心配なそうに声を掛ける。

 

「おう、なんとかな・・・」

 

「俺は大丈夫だが、一夏がな・・・」

 

「お茶飲む?ご飯食べられないなら、せめてこれだけでも」

 

「おう・・・サンキュー、シャル」

 

「それで?あの女はどうしたんだ、ウィル」

 

ラウラが聞いてくる。

てか、あの女って・・・。

 

「あぁ、彼女なら生徒会の仕事で来れないらしい」

 

「ま、下らない挑発に乗った一夏が悪いんだけどさ。何もここまで痛め付けなくてもねぇ・・・。ウィルも災難ね?」

 

「いや、実際に彼女の指摘は的を射ているんだ」

 

「・・・自業自得っつうか、楯無さんの言う通り、本当に弱いなって・・・早くマスターしないと・・・」

 

一夏が突っ伏したまま、ポツポツと語る。

 

「その、頑張ってる男子って僕は格好良いと思うな」

 

「そ、そうだな。お前はよくやっている」

 

「一夏。愚痴とかなら幾らでも聞いてやるし、お前は着実に伸びている。焦るな、マスターする事なんて目じゃないさ」

 

「コホン、一夏さん。もしあの部屋に居るのが辛いなら、仕方無く、人助けと言う事でわたくしの部屋にいらしても構いませんのよ?」

 

「っ!?ちょっとセシリア待ちなさいよ!一夏。アンタ、アタシの部屋に来なさいよ。トランプ有るわよ?」

 

「ウィル、お前もきつくなったら私の部屋に来ると良い。持て成すぞ?」

 

「あぁ、ありがとう。その内訪ねさせてもらうよ」

 

こう言う気遣いは本当に嬉しい。

 

「・・・さて、どうしようか?」

 

一夏を横目で見る。

 

「え?どうしたの?」

 

「シーっ」

 

鈴の問い掛けにシャルロットが人差し指を口に当てて制止する。

俺が彼を指差し、一同が覗き込む。

そこには、一夏が静かに寝息を立てていた。

 

 

一夏を部屋に送り、自室の前まで帰ってきた俺は、ドアを開ける。

 

「お帰りなさい。ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」

 

エネミーコンタクト。

今日は俺の番のようだ。

 

「・・・・・」

 

無言でドアを閉じる。

 

「勘弁してくれ・・・」

 

柄にも無く半べそをかいて、そう呟くウィリアムであった。

 

 



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第53話

学園祭当日

 

 

「こちらへどうぞお嬢様」

 

「ご注文はお決まりですか?お嬢様」

 

執事姿の一夏と俺は接客をしている。

 

「うっそー。あの織斑君の接客が受けられるの?」

 

「それだけじゃないわ。あのホーキンス君も注文を受けに来てくれるのよ」

 

「しかも執事の燕尾服で!」

 

「写真も撮ってくれるんだって。ツーショットよツーショット!」

 

1組の前には長蛇の列が出来ている。

忙しい事この上無い。

ふと他所を見ると、鈴と一夏がテーブルに座っている。

すると、鈴が一夏にポッキーを向けた。

まさか、『執事にご褒美セット』を頼んだのか?

 

「すいませーん。注文良いですか?」

 

「かしこまりました。お嬢様」

 

とにかく仕事をこなさないと。

 

 

しばらく接客をしていると、見知らぬ女性が一夏にIS関連のセールスをしているのが目に入った。

・・・どうも胡散臭いな。

 

「ねぇホーキンス君」

 

「ん?」

 

「あれ、ちょっと対応してもらっても良いかな?」

 

「あぁ、分かった。ちょっと行ってくるよ」

 

クラスメイトの鷹月さんの頼みで、一夏の席に向かう。

 

「お客様申し訳ございません。次のお嬢様に呼ばれてまして・・・」

 

営業スマイルでやんわりと断りを入れる。

 

「すみません。そう言う事ですので・・・」

 

一夏を連れ戻す。

 

「ハァ、ウィル、鷹月さんもありがとう。助かったよ。最近、白式に装備をってやたらと多くて」

 

「あぁ気にするな。あれぐらいどうって事は無いさ」

 

「織斑君も大変ねぇ。うーん、次休憩に入って良いわよ。構内を色々見てきたら?ホーキンス君もさっきからずっと働き詰めだしリフレッシュしておいでよ」

 

「え?良いの?」

 

「流石に男手が二人も消えたらまずいんじゃ?」

 

「そうねぇ。40分くらいなら平気かな?」

 

「じゃあお願いしようかな」

 

「あぁ、なら少しだけ暇を貰うよ」

 

すると、一夏の左腕にセシリアがまとわり付いた。

 

「では一夏さん。わたくしと一緒に参りましょう?」

 

「あぁ!セシリアズルいよ」

 

「待て!そう言う事なら私も!」

 

争奪戦が始まる。

 

「よし、行くぞウィル!」

 

ラウラも何時の間にか俺の右腕を抱いて、催促して来る。

 

「分かった分かった。少し待ってくれ」

 

「時は金なり!早く行くぞ」

 

そのまま、俺は引きずって行かれた。

 

 

「芸術は爆発だ!」

 

いきなり物騒なことを・・・。

 

「と言う訳で、美術部では爆弾解体ゲームをやってまーす!」

 

ここって本当に美術部だよな?

 

「ああ!ホーキンス君だ!」

 

「ボーデヴィッヒさんも一緒よ!」

 

「さあさあ、爆弾解体ゲームをレッツ・スタート!」

 

そう言って、部長らしき人が目の前に爆弾が置いてくる。

美術部の部長は少々過激な芸術感覚をお持ちの様だ。

 

「確かここを切って、ここは残して置くんだったよな・・・」

 

「待てウィル。そこを切ると時間が早まってしまうぞ」

 

ニッパーで時限式の起爆装置に繋がった導線を切断して行く。

俺が出来るのは戦闘機の計器・装置の極簡易的な応急修理くらいだったのだが、以前にラウラから爆弾処理のイロハを色々と教えてもらったのだ。

流石は特殊部隊隊長。危険物の処理は彼女にお任せ!ってな。

 

「おお!流石はホーキンス君、もう最終フェイズにはいってるね!」

 

最終フェイズ。それは『爆弾の最終完全無力化段階』だ。

映画でよく、主人公もしくはヒロインがどっちの線かで迷うアレだ。

切る線によって助かったり、全員お陀仏になったりする、アレだ。

 

「さて、ラウラ。どっちにする?」

 

「ふむ・・・ここは赤・・・いや、青だな」

 

「了解。切るぞ?」

 

ゲームなのに凄い緊張感だ。

パチンッ

・・・何も起きない。

つまり処理成功だ。

ガックリと項垂れる美術部部長。

 

「ラウラ、ナイスアシスト」

 

「お前もな」

 

ハイタッチする。

二人による共同撃破だ。

解体成功賞として、星が付いたキーホルダーをもらった。

こう言うのも悪くない。

最後に美術部への熱烈な勧誘と写真撮影をせがまれたが・・・。

 

「ふぅ、なんか喉渇いたし何か飲むか?」

 

近くの喫茶で一休みする。

 

「いやぁ、なかなかエキサイティングなゲームだったな」

 

「まさか爆弾処理の技術がここで活きるとは」

 

「確かにな。美術部が爆弾解体ゲームとは意外だったが面白かったよ。それにラウラの指示のおかげでクリア出来たしな」

 

「そ、そうか。これぐらいならまた教えてやる」

 

腕時計を見て時間を確認する。

 

「まだ時間はあるな。どこか行きたい所はあるか?たしか茶道部に行きたいとか言ってたよな?」

 

「む?そうだな。なら茶道部に寄って行っても良いか?」

 

「よし、なら早く行こうぜ」

 

「なっ!て、手を握るな!」

 

そう言って俺の手を振り払ったラウラの顔は心なしか赤い。

たしかに、いきなり手を握るのはデリカシーが無かったな。

 

「あぁ、悪い悪い」

 

「い、いや、その・・・なんだ・・・。べ、別にお前がそうしたいのなら・・・

 

「?早く行くぞ」

 

「・・・・・」

 

「ぐへっ!?」

 

無言で、ドスッと脇腹に手刀を喰らった。

握るなって言ったのお前なのに・・・。

 

「はーい。いらっしゃーい。・・・おお!ホーキンス君だ!写真撮っても良い?」

 

「はあ・・・写真ですか?」

 

どこに行っても写真をせがまれる。

そんなに需要があるのか?

 

「茶道部は抹茶の体験教室をやってるのよ。ささ、こっちの部屋へどうぞ」

 

「おお、畳か。感じ出てるなぁ」

 

流石IS学園。資金は潤沢にあると言う訳か。

 

「じゃあ、こちらに正座でとうぞ」

 

む?正座か・・・出来るか?

言われた通りに、俺とラウラは靴を脱いで畳に正座する。

 

「しかし、執事とメイドが畳で抹茶ってのも、変な感じだな」

 

「まったく、一々格好を気にしていると、女々しい奴と思われるぞ?」

 

「なぁに言ってんだよ。自分こそ織斑先生に爆笑されてた時に居心地悪そうにしてたクセに」

 

「な!?き、教官は特別だ!」

 

一度、様子見でやって来た織斑先生はラウラのメイド姿を見て盛大に吹き出した後、しばらくニヤニヤしながら彼女を眺めていたのだ。

その時のラウラの狼狽っぷりは凄かった。

ステルス戦闘機が飛び交う戦場に、プロペラ戦闘機で送り込まれた新兵のような慌てぶりだった。と言う感じだ。

下手な事を言うと、制裁を受けそうなので口は閉じておこう。

 

「うちはあんまり作法にうるさくないから、気軽に飲んでね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

着物姿の部長さんがにっこりと微笑みながら、俺達に茶菓子を用意する。

一口頬張ると口の中に白あんの味が広がる。

 

「ん、美味しいな。これ」

 

「うう・・・」

 

ラウラは茶菓子に口をつけずに、にらめっこをしている。

 

「どうした?」

 

「こ、これは、どうやって食べれば良いのだ・・・」

 

ラウラの茶菓子は白あんで作ったウサギで、なかなか愛嬌のある顔立ちだ。

じぃっと彼女を見つめているかのようなそのウサギは、『僕をお食べよ!』と言っているのか、はたまた『お、お情けを・・・』と言っているのか。

ラウラの反応を見る限りでは、前者の方だろう。

どうしたドイツ軍特殊部隊隊長。

 

「ラウラ」

 

「な、なんだ!?」

 

「食べないと抹茶飲めないぞ?」

 

「う、ううっ・・・!」

 

俺に促されたラウラが意を決してウサギを一口で頬張る。

・・・成る程、恐らく中途半端に歯形が付いた無惨なウサギを見たくなかったのだろう。

 

「んぐ。うむ、やはり美味い」

 

先程までの葛藤はどこへやら。満足そうな顔で茶菓子を味わっていた。

 

「どうぞ」

 

俺とラウラの前に抹茶が出される。

 

「お点前いただきます」

 

一礼してから茶碗を受け取り、二度回してから口をつける。

抹茶独特の苦味が口に広がり、先程の茶菓子とマッチする。

心地よい喉ごしで、俺もラウラもほぅ・・・と一息ついた。

 

「結構なお点前で」

 

お決まりの台詞で締める。

先程軽くレクチャーを受けたので、難なくクリア出来た。

本来ならこの後にまだ色々と作法があるらしいが、今回はあくまで『抹茶をいただく』と言うことに重点を置いた茶道教室のようだった。

 

「よかったらまた来てねー」

 

部長さんに見送られ、俺とラウラは茶室を後にした。

 

「なかなかおもしろかったな」

 

「うむ。そうだな。やはり日本文化は興味深い」

 

「そう言えば、お前って日本文化に興味津々だったもんな。前も浴衣を着てみたいとか言ってたし。なかなか似合ってたぞ?」

 

あの夏祭りの時の事を思い出す。

 

「そうか。似合っていたか・・・。お、お前は私の浴衣姿をまた見たいか?」

 

彼女の浴衣姿を想像する。

あれは破壊力が凄まじかったが、実に良かった。

 

「ふむ・・・そうだな。また見てみたいな」

 

「そ、そうか!」

 

彼女が顔を眩しい程輝かせる。

それから自分の反応に気がついたのか、はっとして俺に背中を向ける。

 

「ま、まぁ、機会があればな」

 

「あぁ、楽しみにしてるよ。っとそろそろ時間だな」

 

「うむ。早めにクラスに戻るか」

 

こうして、俺達の休憩時間が終わった。

 

 



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第54話

教室に戻ると、また俺達は引っ張りだことなる。

ハァ、もう一人俺が欲しいよ・・・。

一夏は既にお嬢様二人に両腕を引っ張られて、苦悶の表情を浮かべている。

だが、こういった出し物は全く経験が無かったので、楽しくもあった。

 

「さて、業務再開といきますか!おい一夏。大丈夫か?さっさと始めるぞ」

 

「お、おう・・・腕が痛ぇ・・・」

 

その時

 

「じゃじゃーん!楯無おねーさんの登場です!」

 

職務放棄人間が現れた。

・・・嫌な予感がする。

 

「・・・・・」

 

一夏が脱兎の如く走り出す。

 

「だが、逃げられない!」

 

「だあっ!進路妨害するのやめて下さいよ!」

 

━━が、敢えなく捕縛された。

ヤベッ!生徒会長がこっち向いた!しかも超笑顔!

俺も出口に向けて猛ダッシュで逃げる。

 

「残念!逃がさないわよ!」

 

「クソッ振り切れない・・・!」

 

しつこく追いかけてくる。

 

「はいドーン!」

 

「ちっくしょぉぉ!!離せぇぇ!!」

 

捕まった。

この人ぜぇったいに俺達を面倒事に巻き込む気だ!

 

「まあまあ、そう言わずに。ときに一夏君とウィリアム君。君達の教室手伝ってあげたんだから、生徒会の出し物にも協力しなさい」

 

「疑問形じゃない!?」

 

「うん。決定だもの」

 

「て言うか、どの口が手伝ったって言うんですか!?」

 

遡る事、数時間前。

楯無がメイド服で1組に乱入してきて、いつの間にか手伝いをしてくれていたのだ。・・・始めは。

直ぐにあのフリーダムな性格に振り回されたのだが・・・。

まぁ、この話は置いておこう。

 

「俺達の意志は・・・」

 

「勝手に決定しても良いじゃない。生徒会だもの」

 

「間違いなく面倒事に巻き込まれる気がする。俺は絶対に嫌ですよ!」

 

「まあまあ、そう言わずに」

 

「ウィル、諦めろ・・・。ハァ、で、出し物は?」

 

「あら、無抵抗」

 

「もう無駄だって分かってますから」

 

「・・・仮に抵抗してもあなたは気にも留めないでしょう?」

 

「当たり♪」

 

「それで、もう一度聞きますが出し物は?」

 

「演劇よ」

 

「演劇・・・?」

 

「演劇、ですか?」

 

「そう!観客参加型演劇」

 

「「は!?」」

 

観客参加型演劇って何だ?これまた凄いジャンルだな。

 

「とにかく、おねーさんと一緒に来なさい。はい、決定」

 

ピシッと扇子を俺達に向けて宣言してくる。

 

「あのー、先輩?一夏とウィルを連れて行かれると、ちょっと困るんですけど・・・」

 

「そうだな。今二人を連れて行かれると、業務に支障が出るのだが?」

 

シャルロットとラウラがやって来る。

ナイスだラウラ。もっと言ってやれ!

 

「シャルロットちゃんとラウラちゃん、あなた達も来なさい」

 

「なっ!?」

 

「ふぇ!?」

 

おいおい、この二人も巻き込むのか?

 

「おねーさんがきれーなドレスを着せてあげるわよ~?」

 

甘い声を掛ける。

 

「ど、ドレス・・・」

 

「ドレス、だと・・・?」

 

二人が難しい顔をして悩む。

頑張れラウラ!ドレスは女子の憧れなのは分かるがそこは耐えてくれ!

 

「じゃ、じゃあ、あの・・・ちょっとだけ」

 

「ふ、ふんっ!仕方無いな。少しだけなら付き合ってやる」

 

ああ!ラウラがやられた!

 

「ん~。二人共素直で可愛い!じゃあ、箒ちゃんとセシリアちゃんもゴーね」

 

「「はっ!?」」

 

聞き耳を立てていた二人が驚きの声を上げる。

 

「全員、ドレスを着せてあげるから」

 

「そ、それなら・・・」

 

「まあ、付き合っても・・・」

 

箒、セシリアまでもが陥落。

 

「因みに、演目って何ですか?」

 

「ふふん」

 

ばっと扇子を開く生徒会長。そこには『追撃』の二文字。

 

「シンデレラよ」

 

ふむ、シンデレラか。

一波乱有りそうな気がするな・・・主に俺と一夏に。

 

 

 

 



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第55話

「二人共、ちゃんと着たー?」

 

「「・・・・・」」

 

「開けるわよ」

 

「開けてから言わないで下さいよ!」

 

「着替え中だったらどうするんですか・・・」

 

「なんだ、ちゃんと着てるじゃない。おねーさんがっかり」

 

「・・・何でですか」

 

「まったく・・・」

 

第四アリーナの更衣室。普段はISスーツの着替え場所として使われる所に、俺達はいた。

一夏の服装は・・・まぁ、シンデレラの演目通り王子様だ。

 

「はい、王冠」

 

「はぁ・・・」

 

一方、俺の格好は・・・

 

「何故、俺は兵士の格好を?」

 

しかも、中世の騎士じゃなくて凄く現代風の装備だ。

見た目は頭から順に、茶色のミリタリーキャップ。サングラスにヘッドセット。胴体は丈夫なデザート迷彩の服の上から、これまた茶色のボディーアーマー(ナイフ付き)。背中には小さなリュックが取り付けられている。そして、デザート迷彩のコンバットパンツにコンバットブーツ(ここにもナイフ付き)。

ご丁寧にニーパッドまで着いている。

要するにゴテゴテの戦闘服で身を固めている。

・・・なんかどこぞの工兵の格好みたいだな。

 

「それは勿論。王子様を守る兵士もそれなりの装備じゃないとね。あ、はい、これ」

 

ガショッ

・・・なんかアサルトライフルを手渡されたんだけど。

 

「どんだけ物騒なシンデレラですか・・・」

 

ほら見て?一夏が凄い顔でこっち見てるよ?

 

「安心して。本物じゃないから」

 

「本物だったら本気でヤバイですよ!」

 

「むぅ・・・さっきから二人共嬉しそうじゃないわね。シンデレラ役の方が良かった?」

 

「イヤですよ!」

 

「俺にそんな趣味は有りません!」

 

まったく、困った人だ。

 

「さて、そろそろ始まるわよ」

 

さっき一度覗いたんだが、アリーナいっぱいに作られたセットはかなり豪勢だった。観客は勿論満席で、時節聞こえる歓声は更衣室まで届いている。

 

「あのー、台本とか一度も見てないんですけど」

 

「それに、今から台詞なんて見ても間に合いませんよ?」

 

「大丈夫。基本的にこっちからアナウンスするし、その通りに進めてくれれば良いわ。あ、台詞はアドリブでお願いね」

 

・・・いやぁな予感がする。本当に大丈夫か?

俺達は言い知れぬ不安を抱きながら、舞台袖に移動する。

 

「さあ、幕開けよ!」

 

ブザーが鳴り、照明が落ちる。

くそぅっ!こうなったら全力でやってやる!

ジャコンッ!

ライフルのコッキングレバーを引く。

幕が上がって、アリーナのライトが点灯した。

 

『昔々あるところに、シンデレラと言う少女がいました』

 

ふぅ・・・出だしは普通のようだ。それにしても、シンデレラ役は誰なんだ?

そんな事を考えながら、俺は一夏と共に舞踏会エリアへ向かう。

・・・明らかにこの格好は場違いだろ。

美形王子を警護する現代風な格好の兵士なんてシュール過ぎる。

 

『否、それはもはや名前ではない。幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵をなぎ倒し、灰塵を纏う事さえいとわぬ地上最強の兵士達。彼女らを呼ぶにふさわしい称号・・・それが灰被り姫(シンデレラ)!』

 

・・・は?おいおい、シンデレラってそんな最強のソルジャーだったっけか?しかも彼女ら?

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された隣国の軍事機密と彼の護衛が持つ最新兵器の始動キーを狙い、舞踏会という名の死地に少女達が舞い踊る!』

 

「は、はぁっ!?」

 

「うっそだろ、おい!?て言うかこの鍵ただの飾りじゃ無いのかよ!?」

 

俺達はどうやら、腹を空かせたライオン。いや、凶暴なラプトル(小型肉食恐竜)の檻に入れられた様だ。

 

「もらったあぁぁぁ!」

 

いきなりの叫び声と共に現れたのは、美しいシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴だ。

 

「のわっ!?」

 

「よこしなさいよ!」

 

鈴が手裏剣の様な物を一夏に投げる。

 

「し、死んだらどうすんだよ!?」

 

「死なない程度に殺すわよ!」

 

「意味が分からん!」

 

うん、俺も意味が分からん。

 

『あ、因みに王子が危険に晒されると、護衛は自責の念によって体に電流が走ります。ああ、なんという忠誠心!!』

 

「え?アバババババババ!?!?」

 

バリバリという音と共に体を電流が駆け巡る。

あのシンデレラから自分の身を守りつつ、護衛対象も守る。何の鬼畜ゲームだよ・・・!?

 

「ウィル!」

 

一夏が心配して駆け寄って来る。

が、今度は一夏の頭付近を一筋の赤い光が狙う。

これは・・・レーザーサイト!?

 

「一夏、伏せろ!」

 

「え?」

 

次の瞬間、彼の真横が吹っ飛んだ。

音が無かったからサプレッサーを着けているのか?

スナイパーと言ったらセシリアしか思い付かない。

 

「スナイパーだ!そこに隠れろ!」

 

「お、おう!」

 

「クソッ!」

 

そのままウィリアムはライフルをスナイパーのいるであろう所に向けてバースト射撃をする。

 

「チッ!逃げられたか・・・大丈夫か?」

 

「ああ、なんとかな。お前は?」

 

「最高の気分だよ畜生。あの生徒会長め、アイツらに何を吹き込んだんだ?」

 

「とにかく、どうにかしないと俺達ヤバいよな?」

 

「ああ、しばらく何処かに隠れ━━」

 

バチッ!

足下に着弾した。

 

「クソッ、しつこい!」

 

そのまま俺達は舞台の表に追い出されると、拍手と声援が掛かる。

 

「は、はは・・・どうも」

 

一夏が律儀に挨拶している間も、俺は銃を構えたまま周囲を警戒する。

 

「っ!?」

 

レーザーサイトが一夏を狙っている。

俺は直ぐ様、彼の頭を下に押し込み、伏せさせる。

そのまま、牽制射をしながら走ってステージを移動した。

 

「逃がさん!」

 

今度は刀を装備した箒が現れた。

 

「くっ!エネミーコンタクト!一夏、逃げろ!」

 

銃を撃ちながら後退する。

 

「一夏!」

 

防弾シールドを持ったシャルロットが現れ、一夏の前に出る。

シャルロットは味方なのか?なら助かる!

しかし、ここで最大の脅威と遭遇する。

タクティカルナイフを両手に逆手持ちしたラウラが飛び掛かって来たのだ。

 

「うおぉっ!?」

 

慌てて飛び退く。

クソッ!戦うお姫様(近接格闘仕様)ってか?冗談じゃない!

ドレス似合ってるぞ、コンチクショウ!!

綺麗なドレスを着たお姫様に襲われるなんて、ツイてるのかツイてないのか・・・。

 

「大丈夫か!?」

 

「一夏、止まるな!走り続けろ!・・・また後で落ち合おう!」

 

シャルロットが味方なら安心だろう。

 

「一夏。ウィルもそう言ってるし、早く」

 

後背にサムズアップしながら彼を見送る。

 

「・・・話は済んだか?」

 

「ああ、今終わったよ」

 

「なら、お前の持つキーを渡してもらおうか」

 

「・・・え?ああ、それくらいなら別に━━」

 

これを渡したら俺は解放されるのか?それなら安いもんだ。身構えて損したぜ。

 

『王子様にとって国とは全て。その重要機密が隠された王冠を失うと、自責の念によって電流が流れます』

 

「ぎゃあああああっ!?」

 

遠くで一夏の悲鳴が聞こえる。

あぁ、これ渡したら俺も同じ事になるパターンだわ。

 

「━━・・・やっぱり勘弁してくれ」

 

「そうか、ならば仕方あるまいっ!」

 

ラウラが肉薄してきた。

 

「うおっ!?あ、あぶねぇな!」

 

・・・この距離ではライフルは逆に邪魔になるか。

ライフルのマガジンを外し、薬室内の弾も排莢する。

そして最後にライフル本体を捨て、ナイフに切り替える。

 

「全力で行かせてもらう!」

 

俺に電流を浴びて喜ぶ性癖は無い!

 

「面白い。受けて立とう」

 

片や自身にこれ以上ペナルティーを課せられない為。片や意中の男との同室同居権を得る為。

 

「「っ!!」」

 

観客席から物凄い歓声が響く中、現役軍人同士のナイフファイトが始まった。

 

 

 



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第56話

お気に入り108件 ありがとうございます!


ナイフファイトが始まってから、数分。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・これは・・・なかなか・・・キツイな・・・」

 

何でドレス姿であんなに機敏なんだよ・・・。

ラウラは自身の小柄さを活かして、ずはしっこく攻撃を仕掛けてくる。おまけに彼女は今眼帯を外しているのだ。

どんだけ本気なんだよ・・・。

更には楯無がステージのギミックを操作して妨害までしてくる。

 

「よく耐えた方だ。だが、これで決めさせてもらう!」

 

「っ!?しまった・・・!」

 

ベルト通しにナイフが引っ掛かり、そのまま腰に付いていた鍵が外れて飛んで行ってしまう。

慌てて取りに行こうとしたその時

 

「何だ?地響きが・・・」

 

『さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!皆さん頑張って下さい!』

 

「・・・ジーザス・・・」

 

地響きの正体はざっと見ても数十人以上のシンデレラだった。

それが今も増え続けており、向こうでは一夏が追い詰められている。

 

「そいつを・・・よこせぇぇぇ!!」

 

血走った目で催促してくる。

 

「ヒャッハー!鍵を奪えぇぇぇ!!」

 

何時からここは世紀末になった!?

 

「その鍵で・・・私は・・・私を!!」

 

どこの人狼部隊隊長だよ!!

て言うかその鍵で何をするつもりですかねぇ!?

 

「これが観客参加型演劇か・・・!」

 

やむを得ん!もし持ってない事がばれたら何をされるか分かったものじゃない。脱出だ!

俺は腰からスモークグレネードを手に取り、それを足元に落とす。

 

「クッ!スモークか!ウィル、大人しく降参しろ!」

 

よし、今だっ!

目眩ましをした後、俺はセットの隙間からまんまと脱出に成功した。

 

 

 

なんとか舞台から脱出した俺は宛も無く歩いていた。

 

「ハァ、しばらくここら辺に隠れとくか・・・」

 

そう言って近くの物陰に隠れようとした時、更衣室の方から音が聞こえた。

音のする方向に近付くにつれ、それが戦闘の真っ最中である事に気付く。

一夏と、もう一人聞いた事の無い人間の声が・・・。

 

「これはヤバそうだな・・・!」

 

俺はISを展開して更衣室の壁に大孔を開け、強引に突入した。

 

「おい一夏!大丈夫か!?」

 

「ウィルか?何でここに・・・?」

 

「説明は後だ。それよりこの状況は?」

 

「ああ、そいつがいきなり襲って来たんだ」

 

彼の指差す先を見る。

 

「ああ?何だてめぇ。いや、もう一匹いた男のIS乗りかぁ」

 

蜘蛛の様なISに乗った女が醜悪な笑みを浮かべる。

また趣味の悪いISを・・・。あれか?悪役は皆悪趣味なのか?しかもこいつさっきのIS装備のセールスウーマン(偽)じゃないか。

 

「そう言うお前は誰なんだ?」

 

「ああん?知らねえのかよ、傭兵会社『亡国機業』が一人、“サベージ”様って言えば分かるかぁ!?」

 

「サベージ・・・『野蛮』ねぇ・・・確かにお前にはお似合いの名前だな?」

 

鼻で嗤いながら、そう返す。

 

「・・・んだとてめぇ!?」

 

どうやらお怒りの様だ。

 

「おいおい、自分で名乗った名前だろ?それに怒ると小皺が増えるぜ?おぉっと失礼。これ以上増える小皺なんて無いか?」

 

「っ!!死にやがれぇ!!」

 

八本の脚から実弾射撃を行ってくる。

操縦は上手い様だが、頭に血が昇って狙いがぶれている。

昔、一度だけ無人都市の狭いジャンクションでVTOL機能をフル活用して戦った事があるが、その時に酷似していた。それに、生徒会長の特訓の恩恵も有るのだろう。故に回避する事など造作も無い。

狭い場所である事を逆手に取って、アメンボの様にスイスイとロッカー等の遮蔽物間を移動しながら攻撃する。

 

「お前らを餌付けしているクソ共の正体を知りたいもんだ」

 

「チッ!ちょこまかと五月蝿いハエがぁ!」

 

手にマシンガンを構築して撃ってきた。

 

「ハエと言われるより、鮫の方がしっくり来るね!ほらどうした?スパイダーマン(・・・・・・・)。仲間に手を出した事を後悔させてやる」

 

無線で煽り散らす。

 

「クソがっ!魚なら大人しく水の中泳いでりゃ良いんだよぉ!」

 

敵がエネルギー状の網を放って来た。

 

「おっと!」

 

近くのロッカーを蹴り飛ばし、囮にする。

今のは少し危なかったな・・・。あんなのを何発も飛ばされたら流石にキツイ。

 

「チッ!ウゼぇガキだ!絶対に殺してやる!その後はてめぇもだ!」

 

俺と一夏に殺害宣言をしてくる。

 

「あら、それは止めて欲しいわね。私のお気に入りに手を出されると困るの」

 

場にそぐわな楽しげな声。見ると、ドアの前に生徒会長が立っていた。その手には何時もの扇子が握られている。

 

「てめぇ、いつの間に入った?・・・まあ良い、見られたからにはお前から殺す!」

 

「楯無さん!!」

 

「会長!?そこは危険です、退避を!!」

 

身を翻し、彼女に襲い掛かるサベージ。その八本の装甲脚が襲い掛かる。

 

「私はこの学園の生徒達、その長。故に、その様に振る舞うのよ」

 

「はぁ?何言ってやがんだ、てめぇ!」

 

刹那、サベージの装甲脚が生徒会長の全身を貫いた。

 

「楯無さん!!楯無さんを・・・よくも、てめぇ!」

 

「貴様っ・・・!」

 

「・・・・・」

 

しかし、楯無は余裕の表情を崩さない。

 

「あ?何だお前・・・?手応えが無いだと・・・?」

 

「うふふ」

 

にこりと楯無が微笑む。そして、次の瞬間にはその姿が崩壊した。パシャっと音を立てて拡散する。

 

「!?こいつは・・・水か?」

 

「ご名答。水で作った偽物よ」

 

余裕たっぷりの声がサベージの後ろから聞こえた。

ギクリとして振り向くサベージを、楯無がランスでなぎ払う。

 

「くっ・・・!」

 

「あら、浅かったわ。そのIS、なかなかの機動性を持ってるのね」

 

「何なんだよ、てめぇはよぉ!」

 

「更識楯無。そして、IS『ミステリアス・レイディ』よ。覚えておいてね」

 

何なんだ?あの機体。今まで見たことも聞いた事も無いぞ?

まるで水を刃物や装甲にしている様だ。

 

「けっ!今ここで殺してやらぁ!」

 

「うふふ。三流悪役の名言みたい。これなら私が勝つのは必然ね」

 

そう言って八本脚+二本の腕を持つ敵IS『アラクネ』に対して一本のランスでそれらを全て凌ぎきる。

 

「くそっ!ガキが、調子づくなぁ!」

 

今度は射撃メインの攻撃を行ってくるも、全て水のヴェールに受け止められる。

 

「ただの水じゃねぇなぁっ!?」

 

「あら、鋭い。この水はISエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているのよ。凄いでしょ?」

 

喋りながらも、その手は止まらず、相手の攻撃を完全に封殺していた。

 

「何なんだよ、てめぇは!?」

 

「二回も自己紹介しないわよ、面倒だから」

 

「うるせぇ!」

 

完全に頭に血が昇っているサベージの反応をどこ吹く風で、相手の攻撃を潰していった。

 

「ところで知ってる?この学園の生徒会長というのは、最強の称号だというのを」

 

「知るかぁ!」

 

そう言いながら、サベージの猛攻が始まる。

 

「これはさすがに重いわねぇ」

 

「一夏!援護するぞ!」

 

「おう!」

 

「二人共。今は(・・)少し休んでなさいな。ここはおねーさんにお任せ」

 

「・・・!分かりました」

 

彼女の意図を察して待機する。

 

「ウィル、どういう意味だ!?」

 

「落ち着け。彼女なら大丈夫だ。それより━━」

 

彼女の作戦の内容を一夏に説明する。

 

「━━と言う作戦なんだ」

 

「成る程!分かった。手筈はそれで良いんだな?」

 

「ああ」

 

ズドォンッ!

サベージの周りが爆発した。

 

「すげぇ・・・まるで燃料気化爆弾みたいだな・・・」

 

彼女が何をしたかと言うと、ISから伝達されたエネルギーを霧を構成するナノマシンが一斉に熱に転換し、対象を爆破したのだ。

 

「ぐ・・・がはっ・・・。まだ・・・まだだ!」

 

尚も立ち上がろうとするサベージ。

 

「いいえ、もう終わりよ。━━ね、二人共?」

 

サベージは嫌な予感がして、後ろを振り向く。そこで見たのは、頭上で30mm機銃をこちらに向けているウィリアム。そして、雪片弐型を最大出力で構えた一夏だった。

 

「発射!」

 

バラララララララッ!!

長大な砲身から火花と気化した冷却水を撒き散らしながら30mmの砲弾が発射され、アラクネ本体や装甲脚、その回りの床、壁に無数の大穴を開けた。

 

トリガーを戻す。

見ると、相手のISはもう鉄屑も同然だった。

この状態ではもうまともには動けまい。

 

「よし!やれ、一夏!」

 

「喰らえぇぇぇ!!」

 

「ぐぅぅぅっ!」

 

八本の装甲脚でそれを受け止めるが、力押しでそれごと切り裂かれた。

 

「「おらぁ!!」」

 

「ぐえぇっ!?」

 

スラスター・フルブーストとアフターバーナー全開で突進した二人のキックが決まり、サベージはそのISと共に壁に叩き付けられた。

 

「!二人共、その女を拘束して!」

 

「は、はい!」

 

「了解!」

 

「く、くそ・・・ここまでか・・・!」

 

サベージのISが本体から離れる。

するとそれは光を放ち始める。

 

「何!?」

 

「クソッ!マズイぞ・・・こりゃマズイ!」

 

光を放ち始めたそれは、数秒後に大爆発を起こした。

俺は大急ぎで距離をとる。一夏は偶然、生徒会長が近くにいたおかげでなんとか水のヴェールで守られた様だ。

 

「二人共、大丈夫?」

 

「ふぅ・・・生きてます」

 

「え、ええ、まあ・・・。あ!あの女は!?」

 

「逃げられたわ。ISのコアも、おそらく自爆直前に取り出しているわね。装備と装甲だけを爆発させたみたい。まったく、無茶をするわね。失敗すれば自分だって危なかったでしょうに。それにしても派手にやったわねぇ・・・」

 

会長が更衣室を見渡す。

そこには無数の弾痕と俺が飛び回った時のノズルからの排熱等で焼け焦げた床。そして、使い物にならなくなったロッカーが見える。

確かに、これは酷いな。

 

「そ、そうですね。あの・・・ところで、そろそろ・・・」

 

「ん?」

 

「は、離してもらえると嬉しいんですが・・・」

 

一夏を庇った会長は、爆発を背中で受ける様に覆い被さっていた。

つまり、彼は今、胸に顔を埋めている様な態勢なのだ。

一夏め・・・羨ま━━ゲフンゲフン!けしからん!!

 

「やん。一夏君のえっち」

 

「い、いや、そう言う訳では・・・」

 

「あー、言い訳なんて男らしくないなぁ。おねーさんのおっぱい、どうだった?」

 

ハァ、また始まったよ・・・。

 

「・・・・・」

 

「だんまりはひどいなぁ」

 

「え、いや、その・・・や、柔らかかったです・・・けど・・・」

 

「一夏君」

 

「は、はい」

 

「えっち」

 

彼は諦めた様にがっくりと項垂れる。

 

「ところで、これなーんだ?」

 

そう言って彼女は指で何かをくるくると回して弄ぶ。

 

「・・・?王冠ですけど」

 

「うん、そう。これをゲットした人が織斑君と同じ部屋で暮らせるっていうアイテム。実はホーキンス君の鍵も同じ条件だったんだけどね」

 

「はぁ!?・・・ま、まさか、それであんなに女子が必死に!?」

 

「それが理由だったのか・・・」

 

「うん」

 

「何を考えているんですか・・・。大体、俺と暮らして楽しいわけ無いでしょう」

 

「そうですよ。あんな鍵一つで死にかけたんですよ?」

 

「まあまあ、もう終わったんだし。ま、なんにしても、ゲットしたのは、わ・た・し」

 

一夏の顔がひきつる。

 

「当分の間、よろしくね。一夏君♪」

 

・・・あ、一夏が全てを諦めた様な顔をして背中から倒れた。

まあ、頑張れよ!

俺の鍵はどっかに飛んでったけど、あの乱戦じゃあ見つからないだろう。

 

 

「クソがッ!あのガキ共だけは絶対に私の手でぶっ殺してやる・・・!」

 

辛くも脱出に成功したサベージは、今日交戦した学生の情報資料を見ながら怒り心頭といった感じでテーブルに拳を叩き付けた。

 

「特に━━」

 

ドスッと資料の顔写真にナイフを突き刺す。

 

「あの鮫野郎だけは絶対にな・・・!!」

 

 

 




今更ですが、ウィリアムの30mm機銃は『Gsh-30-1』をモデルにしています。


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第57話

「━━というわけなのよ」

 

「はぁ・・・」

 

「成る程・・・」

 

夜、寮の一夏の部屋。

学園祭が終わって、俺達は生徒会長から説明を受けていた。

最近妙な組織がとある傭兵組織と手を組んだ事、狙いが一夏もしくは俺のISだった事、その予防線として俺達を監視していた事。

 

「で・・・その楯無さんは何者なんですか?」

 

「あら、優しいおねーさんよ?」

 

「そう言うのはいいですから」

 

「そうねぇ。更識家は昔からこの手の裏工作に関しては強いのよ。暗部って分かる?」

 

暗部━━つまり、けして表に出ることの無い、裏の実行部隊の事か。

 

「更識家は対暗部用暗部・・・お家柄ってやつね」

 

笑いながら扇子を開く。

そこには『常在戦場』と書かれていた。・・・まったくのっぴきならない人だ。

 

「しかし、これで当面の危機は去ったようだし、私は少し気が休まるわ」

 

だが、これで終わったわけではないだろう・・・。

 

「分かりました。では自分はこれで」

 

そう言って俺は部屋を後にした。

 

 

部屋に戻る前に、叔父のトーマスに電話を掛ける。

 

『ウィリアムか?どうしたこんな時間に』

 

「おじさん。少し聞きたい事があるんだ」

 

『何だ?』

 

「ああ、実は━━」

 

今日の出来事を説明した。

 

『・・・亡国機業・・・まさか奴らが絡んでくるとはな』

 

「何か知ってるのか?」

 

『ああ、表向きはISを保有する傭兵会社を謳ってはいるが、その実質は犯罪者共の集まりだ。ギャングや元軍人まで引き入れている。要人護衛から盗み、誘拐、暗殺まで。金さえ積めば何でもやりやがる・・・規模はさほど大きくないらしいがな』

 

「・・・・・」

 

『発展途上国の内紛で何故か所属不明のISの姿を見た。という事例が後を絶たない。恐らく奴らが介入しているんだろう。それだけ裏の世界では重宝されているという事だ』

 

「成る程。分かった、ありがとう」

 

『気を付けろよ?』

 

「ああ」

 

そう言って電話を切る。

これで亡国機業の事は粗方分かった。後はそいつらを雇った組織だ。

 

「まあ、今悩んでも分からないものは分からんか・・・」

 

とにかく部屋に戻ろう。今日は疲れた。

 

 

「ただいま・・・っと」

 

誰もいない部屋で一人呟く。

 

「ああ、やっと帰ってきたか」

 

・・・ん?部屋を間違えたか?

一度外に出て、番号を確認する。

・・・間違ってはいない。

 

「っ!?また勝手に忍び込んだな!?」

 

俺は侵入者である少女。ラウラに詰め寄る。

 

「まあ落ち着け」

 

「これが落ち着いてられるか!勝手に入るなと何度言えば━━」

 

「いや、これは合法だぞ?」

 

「は?」

 

ニヤリと笑いながら、手に載っている何か(・・)を見せてくる。

・・・鍵?どこのだ?部屋の鍵で無いのは分かる。

 

「それ、どこの鍵だ?」

 

「まだ分からないのか?」

 

待てよ?合法、部屋に侵入、鍵・・・

 

「まさか・・・!」

 

「そう、そのまさかだ。王子の護衛殿(・・・・・・)

 

「」

 

あの時に落としたままで、回収するの忘れてたぁぁぁ!!

 

自身の詰の甘さに絶句する。

 

「これからよろしく頼むぞ?」

 

「ハァ、よろしく・・・」

 

「む?随分と潔いな」

 

「抵抗したところで、どうせ生徒会長権限で揉み潰されるのがオチだ。やるだけ無駄だよ。それより眠くてな、もう寝ても良いか?」

 

神は俺に試練を与えているのか?それとも面白がってるのか?

 

「そうだな、早めに寝るとしよう」

 

ライトを消す。

 

「・・・お休み」

 

「ああ、お休み」

 

こうして、俺のハードな一日が幕を閉じた。

 

 

次の日

 

「皆さん、先日の学園祭ではお疲れ様でした。それではこれより、投票結果の発表を始めます」

 

かくして、俺達の争奪戦の結果発表である。

 

「一位は、生徒会主催の観客参加型劇『シンデレラ』!」

 

「「「・・・え?」」」

 

生徒達から間の抜けた声が漏れる。

そして

 

「卑怯!ずるい!イカサマ!」

 

「何で生徒会なのよ!おかしいわよ!」

 

「私達頑張ったのに!」

 

楯無はまあまあと手で制し、言葉を続ける。

 

「劇の参加条件は『生徒会に投票する事』よ。でも、私達は別に参加を強制したわけではないから、立派に民意と言えるわね」

 

いや、グレーゾーンじゃないか・・・?それ。

それでもブーイングは収まるどころか、更に荒れる。

 

「はい、落ち着いて。生徒会メンバーになった二人には適宜各部活動に派遣します。男子なので大会参加は無理ですが、マネージャーや庶務をやらせて下さい。それらの申請書は、生徒会に提出するようにお願いします」

 

・・・はい?そんな事聞いてないんですが?

 

「ま、まぁ、それなら・・・」

 

「し、仕方ないわね。納得してあげましょうか」

 

「ウチの部活勝ち目無かったし、これはタナボタね!」

 

周りが納得し始める。

・・・俺達の意志は?

そして直ぐ様、各部活動のアピール合戦が始まった。

 

「じゃあまずはサッカー部に来てもらわないと!」

 

「たしかホーキンス君って泳ぎ上手かったよね?それなら手取り足取り教えてもらえないかな?グヘヘ」

 

「柔道部!寝技、あるよ!」

 

待て、話が勝手に進んで行くが、俺達は了承してないぞ!?

 

「それでは、特に問題も無い様なので、織斑一夏君とウィリアム・ホーキンス君は生徒会へ所属、以後は私の指示に従ってもらいます!」

 

彼女がそう締め括ると拍手と口笛がわき起こった。

 

「うっそだろ、おい!生徒会長の指示に従うとか!?」

 

「楯無さんの指示に従うなんて!?」

 

この先俺達はどうなるのやら・・・。分かるのは彼女に逆らっても無駄な労力を使うだけ。という事だけだ。

 

 

「二人共、生徒会着任おめでとう!」

 

「おめでと~」

 

「おめでとう。これからよろしく」

 

会長である楯無を筆頭に“布仏本音”(通称のほほん)、そしてその姉の(うつほ)がクラッカーを鳴らして、祝福してくる。

にしても、まさかのほほんさんが生徒会メンバーだったとはな・・・。

場所は生徒会室。豪華な机が窓を背に鎮座しているのが印象的だ。

まさに権力の象徴だ。

 

「・・・何故こんな事に・・・?俺達を生徒会に入れるメリットは?」

 

「・・・ウィルと同じく」

 

「あら、良い考えでしょう?元は二人がどの部活にも入らないからいけないのよ。学園長からも、生徒会権限でどこかに入部させるようにって言われてね」

 

「おりむーとホー君がどこかに入ればー、一部の人は諦めるだろうけど~」

 

「その他大勢の生徒が『うちの部活に入れて』と言い出すのは必至でしょう。そのため、生徒会で今回の措置を取らせて頂きました」

 

三人の連携攻撃にぐうの音も出ない。

 

「俺達の意志が無視されてる・・・」

 

一夏が肩をガックリと落とす。

 

「あら、なぁに?こんな美少女三人もいるのに、不満?」

 

「そうだよ~おりむーは美少女はべらかしてるんだよー」

 

一夏の奴、酷い言われようだな。

 

「それにー、ホー君なんて前にキ━━━ムム~!」

 

慌てて手で口を塞ぐ。

 

「な、何でも無いですよ?」

 

「?まあ、美少女かどうかは知りませんが、ここでの仕事はあなた達に有益な経験を生むことでしょう」

 

まあ、事務は多少なら俺でも出来るがな。

取り敢えず今後の仕事を虚さんに訊いてみる事にした。

 

「当面は放課後に毎日集合してもらいます。派遣先の部活動が決まり次第そちらに行って下さい」

 

「了解しました」

 

「わ、分かりました」

 

「さあ!今日は生徒会メンバーが揃った記念と二人の新メンバーの就任を祝ってケーキを焼いてきたから、皆で頂きましょう」

 

「わ~。さんせ~」

 

「では、お茶をいれましょう」

 

「ええ、お願い。本音ちゃんは取り皿をお願いね」

 

「はーーい」

 

三人がてきぱきと準備を進めていく。

それから並べられたケーキは、悔しい事に非常に美味そうだった。

 

「それでは・・・乾杯!」

 

「かんぱーい~」

 

「乾杯」

 

「・・・乾杯」

 

「は、はは・・・乾杯。ハァ・・・」

 

こうして、俺達の生徒会所属が決まったのだった。

 

 



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第58話

アメリカ合衆国 フォート・アルバート空軍基地

 

この広大な軍事基地に平時では有り得ない耳障りな警報と銃声が響き渡っていた。

 

「侵入者だ!至急6-Dエリアに増援を求む!繰り返す、侵入者は6-Dエリアだ!至急増援を送ってくれ!」

 

「畜生!敵の増援確認!あれは・・・ISだ!」

 

「迎撃機を上げさせろ!早くっ!」

 

「何なんだこいつら!?」

 

その時、一機のヘリが侵入者の前に現れる。

 

「地上部隊へ、こちらシューター1!頭を下げろ!吹っ飛ばす!」

 

攻撃ヘリがチェーンガンを侵入者に容赦なく発砲する。

 

「シューター1より地上部隊。どうだ、見えるか?」

 

「いや、煙でよく見えない。ちょっと待て、確認する・・・な!?シューター!避けろぉ!!」

 

チェーンガンをこれでもかと叩き込まれた侵入者は、動じず、上空のヘリにビームライフルを向けて発砲した。

 

「クソッ!メーデーメーデーメーデー!高度を維持できない!制御不能!シューター1ダウン!シューター1ダウン!」

 

空飛ぶ戦車は、その尾部を振り回しながら高度を落として行き、地面に破片を撒き散らした。

 

「・・・攻撃ヘリを撃墜」

 

そのまま侵入者は、自身に群がる他の兵士や装甲車両をことごとく無力化していく。

 

「シット!!やりやがったな!も、目的は何だ!?アメリカ軍にこれだけの事をしてただで済むと思うなよ!!」

 

その兵士は恐怖に煽られながらも、相手に銃を向け精一杯に吠えた。

 

「この基地に保管された兵器━━“トリニティ”を頂く」

 

「へ?」

 

特に返事を期待したわけではない怒号だったが、相手は意外な事にあっさりと喋った。

 

「と、トリニティを奪うだと!?それにその機体は━━ガハッ!?」

 

その兵士も無力化されてしまった。

基地はもうほとんど壊滅に近い状態だ。上空では迎撃に上がった筈の戦闘機が次々に撃墜されている。

 

「クソッ!やられた!こちらホーク6 ベイルアウトする!」

 

「ホーク6のパラシュート開傘を確認!」

 

「この数の差でここまで押されるとは・・・!畜生・・・!」

 

この日、フォート・アルバート空軍基地から、最悪の兵器が強奪された。

 

 

「えっ!?一夏の誕生日って今月なの!?」

 

「お、おう」

 

寮での夕食、何時もの面々で食事をしていると、シャルロットが大声を上げた。

 

「い、いつ!?」

 

「9月27日だよ。ちょっ、ちょっと落ち着けって」

 

「う、うん」

 

そう言って椅子にかけ直すシャルロット。

 

「に、日曜日だよね!?」

 

今度は身を乗り出して聞く。

 

「に、日曜日だな」

 

「そっか・・・うん、そうだよね。うん!」

 

「へぇ、お前の誕生日は今月だったのか。実は俺の誕生日も今月なんだけどな?日にちは9月17日だが・・・」

 

正確に言うと、俺が拾われた日だけどな。

 

「へぇ、そうだったんだ。なんか面白い偶然ね」

 

鈴が頷きながらそう言う。

 

「お前はどうしてそういう事を黙っているのだ」

 

ラウラが俺の顔を見てムスッとした口調で告げる。

 

「え?いや、特に大したことも無かったんでな」

 

「お前と言う奴は・・・」

 

何でそこで呆れるんだよ・・・。

因みに俺は今、海鮮丼の大盛りを食べている。皆の料理も美味そうだが、やはり海鮮は絶品だ。

 

「なら、9月27日にお二人の誕生パーティーを開くのはどうでしょう?」

 

「まあ、俺は構わないがウィルはどうする?中学の時の友達が祝ってくれるから俺の家に集まる予定なんだが、来るか?」

 

「そうだな、俺もご一緒させてもらおうかな」

 

「よし、それなら時間は4時くらいだな。ほら、当日ってあれがあるだろ?」

 

「ああ、そう言えばあったな。何だ?“キャノンボール・ファスト”だったっけか?」

 

そう言うと全員が「そう言えば」という顔をする。

IS高速バトルレース『キャノンボール・ファスト』。それは本来は国際大会として行われるらしいが、IS学園であるここは違う。

市の特別イベントとして催されるそれに生徒達は参加する事になり、専用機部門と訓練機部門に別れている。IS実習となるこのイベントでは、市のISアリーナを使用する。臨海地区に作られたそれはとてつもなくでかく、二万人を収容出来るらしい。

 

「ん?そう言えば明日からキャノンボール・ファストのための高機動調整を始めるんだよな?あれって具体的には何をするんだ?」

 

俺は疑問を口にする。

 

「ふむ、基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前のバスター・イーグルには無いだろう」

 

ラウラがプチトマトを頬張りながら告げる。

 

「ああ、俺と一夏には無いな」

 

「その場合は駆動エネルギーの分配調整とか、各スラスターの出力調整とかかなぁ」

 

白身魚のフライをかじったシャルロットが、言葉を続けた。

 

「あ、でもウィルは元から高速戦闘がメインだったよな?」

 

「まぁな。あのデカイエンジンは飾りじゃないぜ?」

 

「それなら、今度超音速機動について教えてくれよ」

 

「おう、良いぜ。鷲の名前が伊達じゃない事を教えてやるよ」

 

サムズアップしながら、ニヤリと笑う。

 

「ふん、中々良い面構えをするじゃないか。(シャーク)

 

ニヤリ、俺を眺めてラウラが口端を吊り上げる。

 

「お褒めにあずかり恐悦至極の極みであります、少佐殿」

 

ビシリと敬礼をしながらジョークで返す。

すると、さっきまで不機嫌な顔をしていたラウラは、楽しそうに━━けれど、冷徹さを感じさせる瞳で微笑んだ。

ドイツの冷水、ラウラ・ボーデヴィッヒ。涼しげな瞳はツララの様に鋭く、だが綺麗に澄んでいる。

思わず、見惚れてしまう程だ。

 

「そうだな、久しぶりに全力演習を行うか。明日の放課後、16:00(ヒトロクマルマル)より第二アリーナで準実戦訓練を行う。いいな」

 

「了解だ。言っておくが、舐めると痛い目に遭うぞ?」

 

「ふふん、それはどうかな?私も明日は新式装備の性能を披露してやろう」

 

そう言って不敵に笑いながら、フォークを回す。その先端にはマカロニが空洞を通る形で刺さっていた。

そこで一夏が思い付いた様に口にする。

 

「身のある訓練を期待しよう。マカ━━」

 

「「マカロニだけに」」

 

「・・・とか言うつもりでしょ」

 

「・・・なんて言わないよね?」

 

鈴とシャルロットが先読みして、その寒いギャグを封じる。

 

「はっはっはっ、そんな馬鹿な」

 

「一夏、お前・・・」

 

箒が白い目で彼を見つめる。

 

「まー、どっかの馬鹿はさておき。アンタ生徒会の貸し出しまだなわけ?」

 

「ん?なんか今は抽選と調整してるって聞いたぞ」

 

「ああ、俺達はその調整が終わった後に派遣されるそうだ」

 

「ふーん・・・」

 

鈴が何でも無さそうに麻婆豆腐を口に運ぶ。

 

「ああ、そう言えばみんな部活動に入ったんだって?」

 

ん?そう言えばつい最近そんな事を耳にしたな。

そう思い、一夏達のやり取りを横目に俺もラウラに訊いてみる。

 

「ラウラ、お前はどこの部活に入ったんだ?」

 

「私は茶道部だ」

 

丁度パスタを食べ終わったところらしい。

 

「茶道部か。そう言えば、学園祭の時にも言ってたもんなぁ・・・顧問の先生は?」

 

「教官・・・いや、織斑先生だな」

 

ああ、あの人か・・・正座を崩したらしばかれそうだな・・・。

 

「ラウラは長時間の正座とか平気なのか?」

 

「無論だ。あの程度の痺れなど、拷問に比べれば容易い」

 

「おいおい、拷問と比べるなよ」

 

そんな話をしていると

 

「そう言えば皆は今年の年末年始はどうするんだ?やっぱり帰国するのか?」

 

一夏がまだ先の話を聞いてきた。

 

「僕は残るよ」

 

そう言ったのはシャルロット。

 

「で、でしたらわたくしも!」

 

「まあ、帰国しても面白い事無いしね」

 

セシリア、鈴と続く。

 

「ウィルはどうするんだ?」

 

「うーん・・・特に用事は無いから残ると思うぞ?ラウラはどうする?」

 

「ふむ、お前が残るなら私も日本にいるとしよう」

 

「そっか。箒は神社の手伝いするのか?夏休みもしてたよな。また終わったら一緒に━━」

 

「ば、馬鹿者!」

 

べしっ!と、箒が一夏を叩く。

 

「いてえ!な、なんだよ!?」

 

「う、うるさい!軽々しく言うな!」

 

夏休みにこいつらで何かあったのか?

そんな事を思っていると

 

「「「また?」」」

 

セシリア、鈴、シャルロットの三人が聞き返した。

 

「一夏ぁ!夏休みに何してたか言いなさいよ!」

 

「一夏さん!箒さんとそのような━━見損ないましたわ!」

 

「い、一夏?またってどういう事・・・?」

 

ガタタっと音を立てて三人が立ち上がる。

 

「わあっ!待て待て!別にやましい事は・・・なあ、箒!なあ!?」

 

一夏、それ以上は自分の首を締めるだけだぞ?

 

「何故そこまで否定する・・・」

 

「え?」

 

バシッ!と一夏の頭がはたかれた。

 

「ふん!」

 

そのまま箒は去って行ってしまった。

 

「じ、じゃあ、俺も食べ終わったし、部屋に帰━━ぶべっ!」

 

一夏が立とうとした瞬間、鈴が掴んで無理矢理座らせた。

そして、三人が一斉に一夏に詰め寄る。

 

「一夏!夏休みに何があったのよ!」

 

「説明を要求しますわ!」

 

「ずるいよ、一夏。贔屓だよ」

 

「ウィル、なんとかしてくれぇ!」

 

一夏が俺に助けを求めてくる。

だが、俺の本能はこう言っている。

下手な事をすると恐ろしい事になる、と。

 

「よし、ご馳走様っと!それじゃ、俺は部屋に戻るよ」

 

そう言って席を立つ。

一夏、許せ。

 

「待て、私も行く」

 

そう良いながらラウラが俺の後ろを付いてくる。

なんかアヒルの子供みたいだな。

 

「ま、待て!待ってくれ!待━━ギャアアアア!!」

 

一夏の悲鳴をバックに、そう思いながら部屋に向かった。

 

 

 

部屋に向かう途中、電話が鳴る。

架電主は・・・叔父から?

 

「ラウラ悪い。少し電話に出てくるから先に帰っていてくれ」

 

そう言い残して、足早にその場を後にした。

 

 

『ウィリアム』

 

「おじさん?何かあったのか?」

 

『ああ。先日、アメリカのフォート・アルバート空軍基地が襲撃を受けた』

 

「は!?」

 

『襲撃者はおそらく亡国機業だろう。IS、そしてターミネーターと遭遇したと言っていた』

 

「ターミネーター・・・?」

 

『ISに対抗して男でも乗れる機体を作ろうと試作されていたやつだ。以前に研究所から奪われた機体と見ていいだろう』

 

「そんなものが・・・。目的は?あの基地に何かがあったのか?」

 

『あそこにはな、アメリカ軍が試作した超大型爆弾兵器。通称“トリニティ”が三基保管されていたんだ』

 

「・・・それの威力は?」

 

『核程ではないが、強力だ』

 

「・・・・・」

 

『あれには安全装置としてかなり厳重なセキュリティが掛けられているから、そう直ぐには使えないようになってはいるが、所詮気休め程度だ・・・』

 

「分かった」

 

『何か分かればまた連絡する』

 

「ああ。それじゃあ」

 

そう言って電話を切る。

 

「ふぅ・・・」

 

トリニティの強奪。それに、敵の手に堕ちたターミネーターという機体・・・。奴等の目的は何だ?

そう考えながら、ラウラの待つ自室に向かった。

 

 

 

自室のドアを開ける。

 

「ただいま。いやぁ悪いな先に行かせ・・・て・・・」

 

「む?か、帰ってきたか」

 

・・・はい?

そこには何故か水着の上からエプロンを着た姿のラウラが立っていた。

 

「ご、ご飯にするか?風呂にするか?それとも・・・わ、私か!?///」

 

「いや、飯はさっき食ったんだが・・・。って違う!お前はなんて格好をっ!・・・もしかして熱でもあるのか?ちょっとデコ出してみろっ」

 

ふむ、熱は無いな・・・。

 

「・・・何でこんな格好を?」

 

「こ、これが日本の歴史ある文化だと教えてもらったからだ!」

 

「・・・・・」

 

軽く腰を曲げて目線を合わし、ラウラの肩に手を置く。

 

「ラウラ」

 

「な、何だ!?」

 

「お前にこの間違った知識を吹き込んだバカはどこの誰だ?」

 

「さ、更識楯無に教えてもらったのだ。これならば『男を一撃で撃墜できる』と言われて・・・」

 

「」

 

会長あんたかっ!絶対にラウラの純粋さで遊んでるだろ!?て言うか撃墜って何の事だよ!

クルリと踵を返す。

 

「ウィル?どこへ?」

 

「ちょっと、O・HA・NA・SHIしてくる」

 

「え?」

 

そう言って部屋を出て行ってしまった。後ろにとてつもなく禍々しいオーラを携えて。

 

 

「ハァ、勘弁して下さいよ・・・」

 

一夏は自室にて、また楯無の悪戯(・・)に遭っていた。

コンコン

その時、自室のドアがノックされる。

 

「はいはい、今━━」

 

バゴォン!!

彼が扉に向かおうとしたその瞬間、とてつもない音と共にドアが蹴破られた。

そして、何者かが入ってくる。

 

「生徒会長、てめぇゴルァ!!」

 

ウィリアムだ。

 

「な、何だ!?ウィル、お前何してんだよ!?」

 

「会長!あんたラウラになんて事を吹き込んだ!」

 

「あら、日本の文化を教えてあげただけよ?」

 

「んなアホな文化あるかっ!」

 

「あらら、お気に召さなかったかしら?」

 

「そう言う問題じゃないです!!」

 

いや、あれはやばかったよ!一瞬クラっときたよ!・・・でもね?風紀乱れるじゃん!?あんた生徒会長だろ!

ベッドでニヤニヤしている彼女にもの凄い形相で詰め寄る。

 

「良いですか?彼女にあんな事を吹き込まないで下さい!アイツがアホの子みたいな扱いを受けたらどうするんですか!大体ですねぇ━━!?」

 

「んふふ~♪」

 

さっきまで気付かなかったが、今彼女は下着の上からYシャツ一枚だけ羽織っている上に、第三ボタン以外全て外した実に際どい格好で、それを態と強調してきたのだ。

一瞬思考が停止しかけた。不覚!

 

「あは。どうしたのかな~?ん~?」

 

ニヤニヤしながら、俺を弄んでくる。

 

「ええい、やかましい!」

 

「ウィリアム君のえっち~」

 

Shut up(お黙り)!!」

 

「うぃ、ウィル・・・?」

 

「あ゛あ゛ん゛?何だよ一夏。俺は今取り込み中だ!」

 

「い、いやぁ・・・でも、後ろに・・・」

 

「はあ?後ろ?後ろに何・・・が・・・」

 

後ろを振り返る。

そこにはラウラが立っていた。━━般若の様な顔をして。

 

「ほう・・・私をアホ呼ばわりした挙げ句、その女と逢い引きか?見せ付けてくれるなぁ」

 

一応あの謎の格好からは着替えている様だ。

 

「ら、ラウラ?何を言ってるんだ?お前をアホなんて言ってないぞ?大体あれは会長の悪ふざけでだな、俺はその抗議に・・・」

 

ゆらりゆらりとラウラが歩み寄ってくる。

・・・な、何だ?この気迫!と言うか俺が何をしたって言うんだ!?

彼女の後ろにはマシンガンを両手持ちした黒いウサギの幻影が見える。

 

「ラウラ、何か勘違いしている様だが俺は何もやましい事はしていないぞ?さっきも言ったが━━」

 

「続きは部屋でゆっくりと聞こうか。と言うわけでこいつを返してもらうぞ?」

 

そう言ってウィリアムの腕をガシッと掴んで引きずって行く。

 

「ラウラ、話を聞いてくれ!お前は絶対に勘違いをしている!って力つよっ!?うわぁぁぁ!!」

 

そのまま彼は部屋から引きずられて行った。

 

 

彼の部屋から声が聞こえてくる。

 

『ちょっ!ラウラ!?止めろ、話を聞け!』

 

『聞く耳持たん!!』

 

『さっきと話が違━━ギャアアアア!』

 

彼の悲鳴が聞こえた後、不気味な程に静まり返る。

 

「静かになったな・・・ウィルのやつ、大丈夫か?」

 

一夏が心配そうに呟く。

すると

 

「い、一夏ぁ!助けてくれぇ!!」

 

「うわぁ!?」

 

ウィリアムが部屋の入り口に這いつくばって上半身だけを出しながら助けを求めてくる。

 

「どこへ行く?まだ()は終わっていないぞ」

 

そこへラウラがやって来て、彼の首根っこを掴む。

 

「ひぃっ!?い、一夏!一夏ぁ!

ヘルプミィィ!!ノォォォォ!!

 

「許せ、ウィル・・・」

 

助けに行ってやりたくても、恐怖で体が動かないのだ。

彼は必死に抵抗するが、成す術も無くズルズルと引きずって行かれた。

再度、彼の悲痛な声が聞こえてくる。

 

『イダダダダ!離してくれ!』

 

『お前には一度、体に教え込まんといかんようだな』

 

『な、何を・・・!?止めろぉ!イヤァァァァァ!!』

 

「あら、大丈夫かしらウィリアム君・・・」

 

流石の楯無も心配な様だ。

 

「ウィル・・・本当にスマン・・・!」

 

そう呟く一夏だった。

 

 

「」

 

ラウラからの制裁を受けたウィリアムは完全に伸びてしまっている。

一応ベッドには運んだが、朝まで目覚めないだろう。

 

「まったく、お前というやつは・・・」

 

薄暗い部屋で彼のベッドに腰掛け、一人呟く。

先程はつい嫉妬心から、彼を攻撃してしまった。

以前の彼女なら考えられないだろう。初めは“ただ目障りなだけの男”だった。しかし、あの日の出来事を境に、彼女はウィリアムに惚れてしまったのだ。

何度もアプローチを掛けているのに彼はそれに気付かない。なんてもどかしい。

・・・流石にやり過ぎただろうか?

そう思いながら彼を見つめる。

横ではウィリアムが静かに寝息を立てていた。

彼の頭をそっと撫でる。

やや硬質な髪の手触りが気持ち良く、癖になりそうだ。

 

「っ!わ、私も早く寝よう」

 

急いで自分のベッドに向かう。しかし、ここで少し思い留まり、振り替えって彼の元に歩み寄る。

そして━━

 

「ん」

 

ウィリアムの額にそっとキスをした。

 

「こ、これぐらいは許せ・・・///」

 

冷めやらぬ火照りを抱きながら、彼女は床に着いた。

 

 

 



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第59話

次の日

 

 

「いてて、昨日は酷い目にあったな・・・」

 

「ふんっ!お、お前が悪いのだ!」

 

「えぇ・・・」

 

俺はお前の事を心配して抗議しに行っただけなのに・・・。

 

「なぁ、機嫌直してくれよ・・・」

 

「・・・・・」

 

プイッと頬を膨らませたまま、そっぽを向く。心なしか顔が赤い様だが、それ程までに怒らせたのか・・・。

何か良い方法は・・・そうだ!

 

「なら、今週末にどっか出掛けないか?パフェが美味い店があるらしくてな、この前チラシで見つけたんだよ。奢るぞ?」

 

ラウラがピクリとする。

 

「・・・パフェだけか?」

 

「ウグッ!わ、分かった、好きなだけ奢ってやる」

 

一応、財布の中身は多めに持っている。

 

「ふふん、それなら行ってやろう」

 

ラウラの声が弾む。

なんとか彼女の機嫌は直ったようだ。

 

「早く行かないと朝食に間に合わんぞ?」

 

「あいよ。直ぐに行く」

 

俺達は食堂に向かって行った。

 

 

・・・遅い。

集合場所に約束の40分前に到着したラウラは、ウィリアムの到着を待つ。

腕時計を確認する。

約束の時間まで、まだ35分程ある。

す、少し早く来すぎたようだな・・・。いや、軍人たる者、常に余裕を持って行動をしなければっ!

などと、自分を無理矢理納得させていると、見るからに『遊び人』といった風体の男が二人いた。

 

「ねえねえ、カーノジョ♪」

 

「今日ヒマ?どっか遊びに行こうよ~」

 

女尊男卑の風潮の現代でも、容姿があれば権力者=女性に愛される。俗に言うホストやアイドルなどは以前にも増して可愛がられるようになったのである。

そうなると、勘違いをした一部の男はこうして誘ってくるのだ。

 

「私は他の者と待ち合わせをしている。貴様らに構う暇は無い」

 

「えー?いいじゃん、いいんじゃーん、遊びに行こうよ」

 

「俺、車向こうに駐めてるからさぁ。どっかパーっと遠く行こうよ!」

 

「ふん、下らん。行くなら二人で行け」

 

拒絶100%、冷たくゴミを見る目で睨まれて、二人の男が若干たじろぐ。

出来ることなら、ISのレールカノンで吹き飛ばしてやりたいところだ。

ハァ、コイツらの相手をするのが面等だ・・・。

男達をどういう風に排除するかを想像して、五回ほど虐殺をイメージする。

そんなラウラの表情を見て『脈アリ』に見えたらしい男の一人が、その肩に手を置こうとする。

 

「っ!!」

 

「いでででてで!?」

 

瞬間、ラウラは触れる手前で身をかわし、その手をねじ上げる。

所謂CQC(総合近接格闘)というやつだ。

 

「馴れ馴れしく触るな。その鼻につく香水の臭いが移る」

 

「な、な、ななっ・・・!?」

 

「て、てめぇ!なにしや━━」

 

混乱しながらも、相方を助けようと掴み掛かろうとしたチャラ男Bが、横からもう一人の人物にCQCを叩き込まれて地面に倒れ伏したのは、まだ言葉を言い終える前だった。

 

「おい、俺の連れに何をしているんだ?」

 

「ウィルか!」

 

「ああ、待たせたな」

 

そこに颯爽と現れたウィルが、悪の魔の手から自分を守ってくれた!

・・・と言うのは言い過ぎだが、ラウラの瞳には彼の横顔がキラキラして見えたのだ。

ふふっ、やはり私の目に狂いは無かったか。

ボーッと彼に見とれているラウラが、掴んだままだったチャラ男Aの肩をグイイッと更にねじる。

 

「うっぎゃあああああああ!!」

 

脱臼のカキョッという小気味の良い音と、男の悲鳴が駅前にこだました。

う、うわぁ・・・相手の方が悪いとはいえ、流石に同情するぜ。

ウィリアムは額に冷や汗を一筋流していた。

 

そのまま二人のチャラ男を派出所に突き出し、朝の騒動は収まった。

 

「ふぅ、一件落着っと。スマンな遅くなって」

 

俺は彼女に向き直り、謝る。

 

「ま、まあ、許してやる。さっきの件もあるしな、一応礼は言っておこう・・・」

 

「え?ああ、あれぐらいお安いご用さ。気にするな」

 

言い方はあれだが、ラウラはさっきの事を恩義に感じている様だった。

あれぐらいは当然の事なんだが、こうまで感謝されるとかなり恥ずかしい。

 

「「・・・・・」」

 

案の定、会話が止まってしまった。

き、気まずい・・・!

 

「そ、そうだ!早速その店に向かうか」

 

「む、そ、そうだな。そうしよう」

 

俺達はスイーツ店のある方向に向かって歩き始めた。

 

 

な、何だこのバカ高い値段のパフェは・・・!?

俺達は今、そのスイーツ店にいる。

スイーツ店ではあるが、サンドイッチなどの軽食も頼める様で、俺はそれを注文したのだが、メニュー表を見た時に絶句した。

こんなパフェで千円札が三枚も飛んで行くのか・・・。

俺が頭を抱えている正面では、ラウラが嬉しそうにパフェを頬張っている。

そして、その他にもスイーツが・・・。

まあ、たまにはこういった出費も良いか。

 

「ウィル」

 

「ん?何だ?」

 

「あ、あーん・・・」

 

「え?」

 

突然、ラウラが自分のパフェをスプーンで掬って差し出してきた。

 

「は、早くしろ・・・」

 

「あ、ああ。・・・うん、美味いな」

 

そして、猛烈に甘い・・・。よくこんなのをペロリと食えるもんだ。

 

「ん?ラウラ。少しじっとしてろ」

 

「?」

 

俺は紙ナプキンを一枚手に取り、ラウラの口元をそっと拭った。

 

「っ!?」

 

「ここにクリームが付いてたぞ?」

 

「い、言ってくれれば自分で拭く!」

 

「そ、そうか。悪いな」

 

「あ、いや、そういうわけではなくてだな・・・あ、ありがとう・・・

 

ラウラはカーっと赤くなって俯く。

この前の学園祭の時もそうだったが、俺にはデリカシーが欠けているな。反省しよう。

そう思いながら、自分の食事を平らげた。

 

 

 

「さて、まだまだ時間はあるし、どうしようか」

 

店を出た俺達は特に宛もなく公園をブラブラしている。

ベチョッ

 

「ん?何か腰辺りに冷たい感触が・・・」

 

「どうした?ウィル」

 

腰の違和感に気付いて振り返るとそこには7歳くらいの女の子が立っていた。

先程から、アイスを片手に走り回っていた子だ。

 

「あ、アイスがぁ・・・」

 

女の子の目にジワリと涙が浮かぶ。

 

「えぇ・・・?ら、ラウラどうすれば良いんだ?」

 

「わ、私に言われても・・・」

 

二人して狼狽する。

 

「き、君、怪我は無いかい?」

 

腰を折りながら出来るだけ優しい声を掛けるが、女の子の目はどんどん潤んでいく。

 

「す、すいません!大丈夫ですか!?」

 

慌てていると、女の子の母親らしき人物が事態に気付いて駆け寄って来た。

 

「ほら、ちゃんと謝りなさい」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

目尻に涙を溜めながら謝られると凄く気まずい・・・。

 

「いえいえ、お気になさらず。ごめんよ君、次からはちゃんと気を付けてな?」

 

そう言って100円玉を三枚女の子に手渡した。

 

「ほら、これでもう一回アイスを買ってもらうと良い」

 

「わぁ・・・!ありがとう、お兄ちゃん!」

 

「こんな事まで・・・本当にご迷惑を・・・」

 

母親が申し訳なさそうにペコペコと頭を下げてくる。

 

「気にしないで下さい。こちらも公園のド真ん中で立ち止まっていた非がありますから。それでは」

 

そう言ってその場を後にした。

 

 

 

「ずいぶんと子供の扱いが上手いな」

 

ラウラが、そう言いながら目を細めて微笑む。

 

「茶化すなよ。俺だってかなり慌てたんだからな・・・」

 

そのまま宛もなく歩き続ける。

 

「お?ゲームセンターか・・・少し入ってみても?」

 

「そうだな、私も興味がある」

 

そう言ってゲームセンターに入って行く。

中には多種多様なゲーム機が置かれているが、真っ先に目に映ったのが

 

「フライト・コンバット?面白そうだな」

 

そう言ってゲーム機に向かって行くウィリアムはまるで子供の様なはしゃぎようだった。

ゲーム機は操縦用のスティックとスロットル。そして足下にはラダーペダルまで備わった超本格仕様だ。

俺は夢中でゲームに食い付く。まるで童心に還ったような気分だ。

 

「ふむ、巧いものだな」

 

「まあな。正直、戦闘機の操縦に関してはかなり自信があるな」

 

「そうか。なら私と対戦してみないか?」

 

ラウラがニヤリと笑いながら聞いてくる。

 

「ふふん、この俺に勝負を挑むとはな・・・。良いぜ、相手になってやるよ」

 

数分後

 

「うおっ!?あっぶねぇ。ラウラお前、操縦巧いなぁ」

 

「一応ドイツで一通りの訓練は受けたからな」

 

ドヤ顔でそう告げてくる。

えぇ・・・まさか戦闘機の操縦まで訓練内容に入ってたのかよ・・・。

 

「成る程・・・どうやら俺はお前を見くびっていた様、だっ!」

 

「なっ!?」

 

俺はラウラに後ろを取られた瞬間にお得意のコブラを行い、そのまま攻守交代。

今度は俺が追う番になる。

 

「っしゃあ!撃墜!」

 

「くっ!負けた・・・!」

 

ふぅ、なんとか勝てた。これで俺の個人的なプライドは守りきれたな。

 

「どこでそんな技術を?」

 

ぎ、ギクッ!

飛んでもない質問をされたぞ!?調子に乗りすぎたか・・・!

 

「そ、それはぁ・・・お、俺の地元にも似たようなゲームがあってな、ハ、ハハハ・・・。ほ、他のゲームも回ってみようぜ?な?」

 

「・・・そうだな」

 

どこか腑に落ちない。と言った顔で渋々この話を切り止めてくれた。

 

 

その後も、UFOキャッチャーやゾンビシューティング等々、しばらくゲームセンターで過ごした。

・・・あの喋る太鼓のゲーム、なかなか面白かったな。

 

 

日もだいぶ傾いて来た頃、俺達は帰路についていた。

 

「いやぁ、なかなか楽しかった。今日は満足出来たか?・・・ラウラ?」

 

返事が無いので、気になって振り返ると、ラウラは、小物屋のショーウィンドーの中の物を興味深そうに見ていた。

 

「この中に気になるのがあるのか?」

 

「っ!?い、いや、別に・・・」

 

「ふむ、ちょっと入ってみるか」

 

そう行って店に入る。

 

「お、おい。私は・・・」

 

「まあまあ、そう言うなって。どれが欲しいんだ?」

 

「いや、必要なら自分で買━━」

 

「良いんだよ。今日一日、楽しませてもらった礼だと思ってくれ」

 

・・・・・・な、ならこれを・・・

 

そう言って差し出したのは、ウサギの柄が彫られたブレスレットだ。

 

「これが良いのか?」

 

ラウラがコクリと頷く。

 

「よし。すいません、これください」

 

「はい、かしこまりました。お会計は━━」

 

値段はまあ、そこそこと言ったところだった。

 

 

今度こそ帰路につく。

 

「ウィル、今日はありがとう」

 

「え?いやいや、楽しませてもらったのはこっちだよ」

 

ラウラは先程買ったブレスレットが入った箱を大事そうにもっている。

そんなに嬉しそうなら、買った甲斐があったというものだ。

 

「・・・また誘ってくれるか?」

 

「勿論」

 

「そうか・・・!」

 

彼女の顔がパァッと明るくなる。

この笑顔を見れるだけでも価値有りどころかお釣りがくるな。

そう思い、俺も顔を綻ばせるのだった。

 

 



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第60話

月曜日、俺は鬱屈した気分で柔道場の脇にいた。

というのも、今日からついに始まってしまったからである。『生徒会執行部・織斑一夏、ウィリアム・ホーキンス貸し出しキャンペーン』が。

 

「はぁぁぁ~」

 

因みに一夏はテニス部へ貸し出されている。

そして、俺がダウンな気持ちでいる理由。それは今目の前で勝手に行われている『ウィリアム・ホーキンスの個人指導権獲得トーナメント』のせいだった。

・・・そもそも俺は一応マネージャーなのでは?

 

「はぁぁぁっ!」

 

「負けないわよ!」

 

「ボーデヴィッヒさんが言っていた格闘術を『二人きり』で教えてもらうんだから!」

 

尚、本人の意志は無視である。

・・・ラウラ、なんて事をしてくれたんだ。

今この場にいない元凶に心の中で抗議する。

そもそも、俺はそんなに強くないんだが・・・。そう言うのはラウラに聞いた方が良いだろうに・・・。

そんな事を思っていると、決着が付いたようだ。

勝者以外の娘達が凄く泣きそうな顔でこっちを見てくる。

あぁ、頼むからそんな顔で俺を見ないでくれ・・・これじゃあ俺が泣かしたみたいじゃないか。

結局、交渉の末、一人ひとりに教える事になった。

皆めっちゃ目がキラキラしてる・・・。

 

「「「ご指導よろしくお願いします!」」」

 

おおう、凄いやる気だな。

 

「えーっと、まず相手が━━」

 

柔道やってる人にCQCとか教える必要あるのか?と疑問に思うウィリアムであった。

 

 

翌日

 

「「えええええ~っ!?」」

 

朝、食堂に叫び声がこだまする。

 

「しゃ、シャル!鈴!静かにしろって!」

 

「だ、だ、だって!だってぇ!」

 

「一夏ぁ!説明しなさいよ!」

 

「まあまあ、二人共落ち着けよ」

 

俺が二人を宥めるも効果は無し。

シャルロットは瞳を潤ませながら、鈴は目をつり上げながら彼に詰め寄る。

 

「「今朝セシリアが部屋の中からパジャマで出てきたってどういう事!?」」

 

この二人、絶対に誤解してるよな?

実は俺は既に一夏から事の経緯を聞いている。

しかし、弁護する隙が無いのだ。

 

「どういう事も何も、そういう事ですわ」

 

フフン、といった調子でセシリアが髪をさらっと横に流す。

セシリアよせ!これ以上火にガソリンを注ぐな!

しかし、彼女は尚も自慢気に話を続ける。

 

「一組の男女が一夜を過ごしたのですわ。つまり、そういう事でしてよ」

 

「そ、そんなぁ!」

 

「一夏ぁ!」

 

更にヒートアップする二人。

 

「ギャー!待て待て!昨日、セシリアにマッサージをしたんだ!そしたら途中で寝ちゃったから、部屋に泊めただけだ!」

 

俺が言う前に、彼が自ら消火したようだ。

二人も落ち着いてイスに座り直す。

 

「なんだぁ・・・」

 

「ま、どーせそんな事だろうと思ったわよ」

 

鈴さんや、どの口が言うのかね・・・。

そのまま朝食の続きに戻る。

 

「・・・何も正直に言う必要はありませんのに・・・」

 

セシリアが不機嫌そうに呟く。

 

「ん?何だ、セシリア?」

 

「何でもありませんわ!」

 

ぷいっとそっぽを向くセシリア。

わけが分からない。というような顔をしていた一夏だが、突如ビクリとした後、恐る恐る振り返る。

 

「一夏?どうしたんだ?・・・っ!?」

 

「・・・・・」

 

そこには腕を組み、仁王立ちした箒がいた。

 

「一夏・・・お前という奴は・・・!寮の規則を破ったのか!」

 

「ま、待て箒!話せば分かる!」

 

「ええい、うるさい!お前がそのつもりなら・・・い、いいだろう!わ、私が泊まって見張っておいてやる!」

 

箒が赤くなりながら、そう告げる。

 

「ええっ!ずるい!それなら僕も!」

 

「一夏!それなら幼なじみのアタシが泊まってあげるわよ!」

 

再度、出火する。

 

「騒がしいな、何事だ?」

 

そこへラウラも合流する。

 

「ああ、ラウラ。さっき起きたのか?」

 

「そうだ。だが、なぜ起こしてくれなかったのだ?」

 

「まだ時間はあったし、起こしたら悪いと思ってな?」

 

「別に起こしてくれても構わないぞ?」

 

「そうか、なら次からはそうするよ」

 

そんな話を横に一夏達は更にヒートアップしていく。

 

「ハァ、まったく。いい加減に落ち着いたらどうだ?規則違反なんだろ?」

 

「ラウラと同居してるアンタが何言ってんのよ!」

 

空かさず鈴にツッコまれる。

 

「ウグッ!し、仕方無いだろう!?生徒会長が勝手に取り決めて、それで決定したんだから!」

 

生徒会長の力強すぎだろ!あれじゃあ職権乱用と同じじゃねぇか!

 

「ウィル、この期に及んで何を言っている。あの勝負で勝ったのは私だ。故にあれは生徒会公認の特権なのだ!」

 

とうとう七人全員がギャー!ギャー!と喚き始めた。

 

「朝から何をバカ騒ぎしている」

 

「ん?げぇっ!暴力装━━ハッ!?」

 

ビシッ!と、空気が凍り付いた音を聞いた気がする。

組んだ腕の上でトントンと指を動かしているのは、漆黒のスーツがこの上なく似合う女性。織斑千冬先生だった。

 

「この馬鹿たれどもが」

 

スパパーンっと五人の頭を叩く織斑先生。因みに一夏には拳骨を、俺には拳骨の後に頭頂部をグリグリと捻られた。

・・・わあ、すげえ痛い。

 

「オルコット」

 

「は、はいっ!?」

 

「反省文の提出を忘れるな」

 

「は、はぃ・・・」

 

「それと織斑」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「お前には懲罰部屋三日をくれてやる。嬉しいだろう」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

「最後にホーキンス」

 

「はひっ!?」

 

「お前は放課後にグラウンドに集合しろ。みっちりと近接戦闘を鍛えてやる。ありがたく思え」

 

「い、イエス・ミス。恐縮です・・・」

 

くそぅっ!余計な事を口走ったばかりに・・・!

 

「さて!いつまでも朝食をダラダラと食べるな!さっさと食って教室へ行け!以上!」

 

食堂が慌ただしくなる。

俺もコーンスープをズズズっとすすった。

あれぇ?何で甘い筈のスープが塩辛いんだ?

これが涙の味ってやつだろうか。

そんな馬鹿な事を考えていると、今度は出席簿で頭を叩かれた。

 

 

 



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第61話

第六アリーナ

 

 

「はい、それでは皆さーん。今日は高速機動についての授業をしますよー」

 

1組担任、山田真耶先生の声が第六アリーナに響き渡る。

 

「この第六アリーナでは中央タワーと繋がっていて、高速機動実習が可能であることは先週言いましたね?それじゃあ、まずは専用機持ちの皆さんに実演をしてもらいましょう!」

 

山田先生がそう言ってババッと手を向ける先には、セシリアと一夏、俺がいた。

 

「まずは高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を装備したオルコットさん!」

 

通常時はサイド・バインダーに装備している4基の射撃ビット、それに腰部に連結したミサイルビット、それら計6基を全て推進力に回しているのがこのパッケージの特徴らしい。

それぞれの砲口を封印して腰部に連結することでハイスピード&ハイモビリティを実現しているとの事だ。

一見するとそれらは青いスカートの様に見える。

 

「それと、通常装備ですが、スラスターに全出力を調整して仮想高機動装備にした織斑君!」

 

一夏の白式はパッケージこそ無いものの、元の機動力が高い為、そこまで問題では無いようだ。

 

「そして、同じく通常装備ですが、高速・高機動戦に特化しているホーキンス君!この三人に一周してきてもらいましょう!」

 

因みに今回は空気抵抗を減らす為に、主翼下のハードポイントは全て外している。

がんばれーと応援の声が聞こえる。

一夏とセシリアが軽く手を挙げて答え、俺もAPUを作動させながらサムズアップした。

それにしても、この視線指定(アイ・タッチ)というのは実に便利だ。以前なら、HMDバイザーを起動するにしても何かしらボタンを押して操作して━━というのが常識だった為、この機能は本当に楽で助かる。

 

「よし、準備完了だ」

 

ゆっくりと機体を上昇させる。

相変わらず音が凄い様で、耳を軽く抑えている女子達もいた。

スマンな、これがジェットエンジンなんだ。

所定の位地に着く。

 

「では、・・・3・2・1・ゴー!」

 

山田先生のフラッグで、俺達は一気に飛翔、そして加速する。やはり始めは二人の方が初速では俺より勝っている様だ。

しばらくすると自身の周りに円錐状の雲が出来るのが見えた。音速を超えたのだ。だが、この機体の推力は中々のもので、最高速度はM2(マッハ2)以上。

更に速度を上げていく。

 

「お先に失礼するぞ」

 

「「!?」」

 

そのまま一夏とセシリアを追い抜き、学園のモニュメントでもある中央タワーの外周へと進んでいく。

しかし、速いだけが良いことばかりではない。

速度がある分、急旋回が出来ないのだ。

 

「フッ!」

 

身体を傾けながら背部のエアブレーキを展開しつつ、ベクタードノズルも使って旋回する。

俺が速度を下げて急旋回をしていると、二人が追いついてきた。

 

「なんとか追いつけましたわ・・・」

 

「やっぱウィルのISは速いなぁ、自信無くなってきたぜ・・・」

 

「ふふん、本番が楽しみでしょうがないな」

 

そのまま俺達は並走状態でアリーナ地表へと向かった。

 

「はいっ。お疲れ様でした!三人とも凄く優秀でしたよ~」

 

山田先生が嬉しそうな顔で俺達を褒める。

教え子が優秀なのがそんなに嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び上がるたびに豊満なバストが重たげに弾んでいた。

まったく、もう少し自覚してほしいものだな・・・正直目のやり場に困る。

 

「おい、ウィル。おい!」

 

「うおっ!?な、なんだ、ラウラ?」

 

「お前も、その・・・なんだ・・・。む、胸は大きい方が良いのか?」

 

「なっ!?ち、違うぞラウラ!俺にやましい気持ちは一切無いぞ!?」

 

「ふ、ふん!そうか。・・・そ、それなら、別にいい・・・」

 

「う、うん?」

 

「な、何でも無い!━━ええい、こっちを見るな!」

 

IS展開状態のラウラが腕で薙ぎ払う。そうすると、例のAICが発動して俺は間抜けなポーズのままロックされた。

り、理不尽・・・!話し掛けてきたのはそっちだろ!?

そんなやり取りをしていると、織斑先生が手を叩いて全員を注目させる。

 

「いいか。今年は異例の1年生参加だが、やる以上は各自結果を出すように。キャノンボール・ファストでの経験は必ず活きてくるだろう。それでは訓練機組の選出を行うので、各自割り振られた機体に乗り込め。ボヤボヤするな。開始!」

 

毎年の恒例であるこの大会は本来、整備課が登場する2年生からのイベントだ。しかし、今年は予期せぬ出来事に加えて専用機持ちが多い事から、1年生の時点で参加する事になった。

訓練機部門はクラス対抗戦になるため、例によって景品が出るらしい。

 

「よーし、勝つぞ~」

 

「お姉様に良いとこ見せなきゃ!」

 

「勝ったらデザート無料券!これは本気にならざるを得ないわね!」

 

気合いMAXの女子一同に触発されてか、教師一同も指導に余念が無い。特に山田先生は今日も元気に、非常に目のやり場に困るISスーツを着て指導している。

やはり男にはあまりにも刺激が強すぎる。

なんて考えていると、件の山田先生が俺の所にやって来た。

 

「ホーキンス君、さっきの実演すばらしかったですよ。特に超音速下での旋回は難しいのに、あの機体操縦は凄いです!」

 

「ありがとうございます」

 

ここで、前世は空軍中佐です!なんて言ったらどんな反応をするんだろうか・・・。

そんな馬鹿馬鹿しい事を考えていると、織斑先生がやって来た。

 

「ホーキンス」

 

「は、はいっ」

 

ドスッ!と、首にチョップ。おかしいな、装甲越しなのに何故か痛い。

 

「訓練中にボーッとするとは、随分と余裕そうだな?」

 

「す、すいません・・・」

 

「まったく・・・本番で無様に墜ちるなよ?」

 

そう言って去って行った。

俺もISのバイザーにスペックデータを投影して、念入りに確認していく。

 

「・・・ふむ、やっぱりハードポイントを外している分、武装はベイの中にしか搭載出来ないしな・・・高機動空対空ミサイル(QAAM)を積んでおくか・・・」

 

「ウィル」

 

搭載兵装を選んでいると、一夏がこちらに歩いてきた。

 

「ん?一夏か。そっちは完了したのか?」

 

「まあ、少し相談し合っただけだからな」

 

「俺は武装をどうするか迷っていたんだよ」

 

まあ、機銃は安定の主兵装として持っておくか。

 

「ウィル、そこにいたのか」

 

俺の姿を見つけたラウラが歩み寄ってくる。その横にはシャルロットもいる。

俺はISを展開したまま、仲良し二人組の方に首を向ける。

 

「二人とも、調子はどうだ?」

 

「今しがた増設スラスターの量子変換を終えたところだ。これから調整に入ろうと思ってな」

 

「うん、ラウラの言う通りだよ」

 

確かに、言われてみると、二人ともISスーツ姿にヘッドギアだけを部分展開した状態だ。

シャルロットのヘアバンドの様なギア、ラウラのウサギミミの様なヘッドパーツはそれぞれ何かのコスプレのようだ。そう言う俺はどうなんだ?って話なんだが。

インストールされたデータを読み込んでいるらしく、二人のヘッドギアは時節ピクピクッと揺れる。

ラウラのなんて本当に動物にしか見えないな・・・。

なんだか心がくすぐったくざわめいた。

 

「ちょっと見せてもらっても良いか?」

 

一夏が二人に聞く。

 

「そうだな、俺も上手い奴の操縦を見ておきたい」

 

「うん、もちろん。ラウラと一周してくるよ。映像を回してあげるね。チャンネルは304で」

 

「お、助かる。ウィルの言う通り、上級者の操縦は見ておきたいしな。相手の視点をモニタリング出来るのって良いよなぁ。ほんと、助かる機能だ」

 

「304だな?了解。助かるよ」

 

直視映像(ダイレクト・ビュー)と呼ばれるそれは、視界情報の共有━━つまり、相手が見ている世界をISを通して自分も見る事が出来る。ちょっとしたテレビというか、ライブ映像だ。

 

「ウィル、私の視点も見せてやろう。チャンネルは305だ」

 

「そいつはありがたい。でもラウラの視点移動ってなかなかレベルが高いからなぁ、正直ついていけるかどうか・・・」

 

「馬鹿者。精進しろ」

 

「分かってるよ。しっかりと勉強させて頂きます、ラウラ教官」

 

「ふ、ふんっ。何が教官だっ」

 

そうは言いつつも、満更ではないようにラウラが頬を染める。

どうやら照れているらしい。

さてと、チャンネルを繋いでっと・・・。

 

「二人とも、準備オッケー?」

 

「ああ、バッチリだ。・・・って、ライブで自分の顔が見えるのってやっぱおかしな気分になるな」

 

「え!?い、いやその、別に一夏ばっかり見ているわけじゃ・・・」

 

真っ赤になりながら、ブンブンと手を振って否定するシャルロット。

 

「シャルロット、お前は一体何の話をしているんだ・・・?」

 

そんな光景を横目に呆れていると、ラウラが先にIS『シュヴァルツェア・レーゲン』を展開して浮遊する。

 

「先に行くぞ」

 

「あ、待ってよ!ラウラってばぁ!」

 

一歩遅れでシャルロットもまたIS『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を展開する。

二人は危なげ無い機体制御で第六アリーナのコースを駆け、中央タワー外周へと上昇していった。

 

「おお・・・巧いもんだな」

 

成る程、加速方法は置いておくとして、減速のタイミングが絶妙な具合だな。参考になる。

 

「一夏、ウィル、どうだった?」

 

少しして、二人が帰ってきた。

 

「おう、お帰り。流石に巧いよな。シャルもラウラも」

 

「ああ、特に減速時の機動はかなり参考になったよ」

 

「このくらいは基本だ。珍しい事など何も無い」

 

「流石代表候補生。良いセンスしてるぜ」

 

「そう言うウィルだって凄い機動出来るだろう?」

 

「ハハ、まあな」

 

もちろん、(元)プロですから。

それでもロケットを装備している相手に勝てるかは分からないが・・・。

 

「そうだ。ウィル、後で高機動戦闘の模擬戦の相手してくれないか?」

 

「ん?ああ、良いぜ」

 

「じゃあ、よろしく頼む。って、そう言えばウィルの武器ってその機銃だけなのか?」

 

右手の機銃を指差す一夏。

 

「ふふん、弓矢ならたっぷりと」

 

ウェポンベイを開放して見せる。

中にはミサイルが片方に四発ずつ格納されていた。

 

「うわぁ、すげえ武装・・・」

 

「これでもフルじゃないからな?」

 

「マジかよ・・・」

 

「じゃあ、始めるか。一夏準備は良いか?」

 

「おう、何時でも始められるぜ」

 

一夏が白式を呼び出し、展開する。

 

「一夏、カウントはお前に任せる」

 

「分かった。・・・3・2・1・ゴー!」

 

「「!」」

 

しばらく出力全開で加速し、一夏を追い抜く。

 

「さっきより動きがよくなってるな」

 

「まあ、さっきシャルとラウラの機動を見たからな」

 

「成る程、凄い吸収力だ」

 

そろそろカーブ地点か・・・よし、今だ!

ブレーキを展開して半ば後ろを向いた態勢になりながら、アフターバーナーを焚く。

よし、さっきよりも小さい半径で方向転換できた!

しかし、ここで追いついてきた一夏からビームが発射される。

 

「おっと!射撃のセンスも上達してきたみたいだな!」

 

後ろに機銃を撃って牽制しながら、一夏に称賛の声を掛ける。

 

「そりゃあどうも、楯無さんの特訓のおかげだな」

 

狙いが少しずつ正確になってきた。

 

「これは厄介だな・・・」

 

ベイを開放してミサイルを発射。放たれたそれは、ある程度進むと180度旋回して一夏の方に吸い込まれて行った。

 

「え!?」

 

ドォンッ!

ミサイルは一夏に命中。そのまま彼はバランスを崩し、コースアウト。地表に落下した。

 

「ぐえっ!」

 

一夏のもとに降り立つ。

 

「お疲れ。立てるか?」

 

「ああ、なんとかな。まさかミサイルがあんな風に飛んでくるとはなぁ・・・」

 

「あれは高機動空対空ミサイルの性能でな、それに俺の機体の後方レーダーを併せたらあんな風に出来るのさ」

 

「嘘だろ・・・死角無しかよ」

 

それでも当てにくいけどな・・・。

あれは一夏が丁度良い感じに直線上に飛んでいたからだ。

 

「けど、一夏のISもスペック高い上にお前自身の能力も上昇してきてるぞ?良ければ高機動戦闘の練習に付き合おうか?」

 

「おう、ぜひ頼むぜ!」

 

そう言って、二人で小一時間ほど機体の調整を行うのだった。

 

 



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第62話

「はー・・・。今日も疲れた」

 

ついに大会前日となった今日は、アリーナ使用時間ギリギリまで使って一夏の特訓に付き合った。

 

『いいか、高速機動時に重要なのは冷静な判断力とそれを実行する行動力だ』

 

『回避、迎撃、防御を瞬時に判断するんだよな。前よりはマシになったと思うんだが』

 

『ああ、かなり良くなってきている。だが、それで満足するのはマズイ。超音速の場合、一つのミスで自分が空を飛んでいられるか地面や壁に脳髄混じりのイチゴジャムをぶち撒けるかが左右される事もある』

 

『表現が怖すぎる・・・』

 

『本当になりたくなかったら、練習あるのみだな』

 

『お、おう!』

 

二時間ぶっ続けは流石にきつかったなぁ・・・

疲れた体を引きずって自室に戻った俺は、直ぐ様シャワーを浴びる。

暑い水流が汗を洗い流していくにつれ、俺の疲労した意識は次第にクリアーになっていった。

 

「ふう・・・」

 

シャワーから上がって服を着る。脱衣場を出ると、ラウラが立っていた。

 

「ん?帰って来てたのか。どうしたんだ?ラウラ?」

 

「いや・・・なんだ・・・、一緒に夕食でもどうかと思ってな・・・」

 

ラウラにしては珍しく、どうにも滑舌が悪い。

その態度も、どこか落ち着き無さそうにモジモジとしていた。

 

「・・・ん?あれ?なんか随分と可愛い格好をしてるな」

 

「!!」

 

「その服、初めて見るなぁ。どうしたんだ?」

 

ラウラの格好はロング丈のワンピースだった。

細身に良く似合うスレンダーなシルエットのそれは、黒色が銀髪と対比して映えている。

腰にさりげなく巻いている紐ベルトがワンポイントになっていて、俺の視線を引いた。

 

「こ、これはだなっ!しゃ、シャルロットと先日買ったものだっ!」

 

「ほう。よく似合ってるじゃないか。そうしてるとどこかのお嬢様みたいだな」

 

「お、おじょっ・・・!?」

 

「さてと、それじゃあ腹も減ったし飯でも食いに行くか」

 

「・・・お嬢様・・・お嬢様・・・」

 

「ラウラ?大丈夫か?」

 

「!?な、何でもない!ゆ、夕食だったな!で、では行くとしよう!」

 

ギクシャクと動き始めた手足は、右手と右足が同時に前に出ていた。

 

「ほ、本当に大丈夫か?」

 

「え、ええい!うるさいうるさい!」

 

ドスッと脇腹に手刀を喰らう。・・・何故だ?

 

「お前のせいだぞ・・・お前のせいだからな!」

 

「うわ!待て、やめろ!・・・ったく、仕方無いな!」

 

俺は手刀乱舞しているラウラの手を取り、軽く足を払う。

 

「っ!?」

 

ラウラの小柄な体がフワリと浮く。その隙に、俺は床の上に体を滑り込ませてラウラを抱きかかえた。

 

「なっ、なっ、なっ・・・!」

 

「大人しくしろよ、まったく」

 

「う、うむ・・・」

 

丁度お姫様抱っこのような格好になったラウラは、暴れるのをやめて俺の腕の中で小さく頷く。

・・・なんか、あのトーナメント戦の時の事を思い出すなぁ。

ひとまず手刀乱舞は止まったが、降りる気は無いようなので、俺はそのままラウラを抱いて食堂に向かった。

 

「きゃあああっ!?なになに、なんでお姫様抱っこ!?」

 

「ボーデヴィッヒさん、いいなー」

 

「私も!次、私も!」

 

「ああっ!なんかお似合いな感じが余計腹立つ!」

 

・・・しまった。食堂に入った瞬間見つかった。

て言うか、よくここに来るまでに誰とも遭遇しなかったな。

いや、今はそんな事を考えている暇は無い。押し掛けてきている女子をどうにかしなくては。

 

「・・・・・」

 

「ラウラ、下ろすぞ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

凄く残念そうな声色で返事をするラウラを、ゆっくりと床に下ろす。

それにしても、軽いなぁ。しっかり食べてるのか?

 

「「「ホーキンス君!」」」

 

「失礼、そのようなサービスはしていないもんでな」

 

「なんでよー」

 

「ラウラだけずるい!」

 

「同室までしてるのに!」

 

「そーだそーだ!」

 

「ハッ!?まさか、もうそう言う関係に!?」

 

雲行きが怪しくなってきたので、なんとか女子一同を宥めて席へと返す。そんなやり取りに10分近くかかってしまった。

 

「はぁ、毎度の事ながら騒々しい・・・女三人よれば何とやら、だな・・・」

 

「・・・・・」

 

俺に触られていた二の腕を抱くように、ラウラは桜色の頬を染めながら腕を組む。

 

「なあ、ラウラは何を食べるんだ?俺はカキフライ定食にしようと思うんだが」

 

「・・・・・」

 

「おーい、ラウラ。ラウラってば」

 

「な、なんだ!?」

 

「おおう、いや、何を食べるんだって」

 

「そ、そうだな!フルーツサラダとチョコぷ・・・」

 

「チョコ?」

 

「い、いや!何でも無い!言い間違えだ!」

 

「あ、もしかしてチョコぷりんか?あれ、美味いよな」

 

「・・・・・」

 

「でも、意外だな、ラウラはそう言うのあまり食べないのかと思ってたよ」

 

「ま、前にシャルロットから貰ったのがおいしかったからな・・・」

 

「そうか。じゃあ今日も我慢せずに食べろよ」

 

「う、うむ・・・」

 

というわけで、俺とラウラはそれぞれの夕食を取ってテーブルにつく。

ふむ、やっぱり上手いな。何が美味いってカキの独特の苦味と旨味エキスが噛む度にジュワッと溢れてくるのが最高だ。

 

「それにしてもラウラ、夕食それだけで足りるのか?」

 

「前に一夏がその方が健康だと言っていたからな・・・」

 

「ああ、言ってたな。でもそれってダイエットする時の話だろ?無理にする必要は無いんじゃないか?ラウラ、軽いし」

 

「か、軽いだと!?」

 

「待て待て!怒るな!良いじゃないか、軽くて!」

 

「それは・・・そうだが。むぅ・・・」

 

納得いかないといった感じで、ラウラはフルーツサラダに手を戻す。

ワンピース姿でサラダを食べている姿は、まるでCMか映画のワンシーンのようだ。

う、ちょっと見とれてしまった・・・。

 

「何だ?」

 

「い、いや、何でも無いぞ?」

 

「そうか」

 

「「・・・・・」」

 

二人は無言で食事に戻る。

俺もラウラも、この無言のやり取りを嫌ってはいない。

むしろ、騒々しい学園生活と一線を画する事が出来て落ち着くくらいだ。

 

「ウィル」

 

「ん?」

 

珍しく、ラウラから声をかけてきた。

食事の手を止めて、顔を上げる。

 

「いよいよ、明日だな」

 

「キャノンボール・ファストか。頑張らないとな」

 

「言っておくが、負けんぞ?」

 

「ふっ、それはこちらの台詞だ」

 

それだけ言って、また俺とラウラは食事を再開する。

初めての高速機動における公式戦とあって、俺は緊張と同時に未知への期待に胸を膨らませた。

 

 

 



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第63話

キャノンボール・ファスト当日

会場は超満員で、空には花火がポンポン上がっている。

 

「おー、よく晴れたなぁ」

 

秋晴れの空を見上げながら、俺は手で日差しを遮る。

今日のプログラムはまず最初に2年生のレースがあって、それから1年生専用機持ちのレース、そして1年生の訓練機組のレース。そのあと3年生のエキシビション・レースだ。

 

「ウィル、こんな所にいたのか。早く準備をしろ」

 

「おう、ラウラ。いやなに、凄い観客数だなと思ってな」

 

「ああ、例によってIS産業関係者や各国政府関係者も来ているからな。警備だけでも相当な数だ」

 

成る程、これは恥ずかしい失敗は出来ないな。

 

「こんな所で油なんて売ってないでさっさとピットに戻るぞ」

 

「そうだな、早めに用意しとかないとな」

 

俺達はピットのある方に歩いて行った。

 

 

わぁぁぁぁ・・・!と、盛大な歓声がピットの中まで聞こえる。

今は2年生のレースが行われている。どうやら接戦のようで、最後まで勝者が分からない大混戦らしい。

 

「あれ?この2年生のサラ・ウェルキンって人はイギリスの代表候補生なのか」

 

「そうですわ。専用機はありませんけど、優秀な方でしてよ」

 

わたくしも操縦技術を習いましたもの、と付け加えるセシリア。その姿は既にIS『ブルー・ティアーズ』の高速機動パッケージ『ストライク・ガンナー』を展開している。

やる気満々だな。

 

「俺も負けないようにしないとな」

 

そう呟きながら、ISの最終点検を済ませる。

ピットには俺とセシリア以外にも参加者である一夏、ラウラ、箒、鈴、シャルロットが控えている。

 

「一夏、どうだ?行けそうか?」

 

「おう!ウィルの指導のおかげでバッチリだぜ!」

 

「そうか。言っておくが」

 

「「イチゴジャムをぶち撒けるなよ」だろ?」

 

「分かってるじゃないか。お互い頑張ろうぜ」

 

「そうだな、手加減は無しだ!」

 

ふふっ、久しぶりに超音速でぶっ飛ばせる。テンション最高だな!

 

「ん?鈴のパッケージは随分とごついな」

 

「フフン。いいでしょ。こいつの最高速度はセシリアにも引けを取らないわよ。無論、アンタにもね?」

 

増設スラスターを4基積んでいる状態の高機動パッケージ『(フェン)』は、それ以外にも追加胸部装甲が大きく前面に突き出している。・・・まさか、あれで体当たりするつもりじゃないないだろうな・・・。あんなので突っ込まれたら冗談抜きに笑えない。

衝撃砲が真横を向いているあたり、妨害攻撃の為なんだろうと思う。

まさにキャノンボール・ファスト仕様だな。

純粋にこれ目的の装備をしている。という意味では、彼女が一番厄介かもしれない。

 

「それはどうかな?こっちだって速度には自信がある。それに・・・」

 

そう言ってウェポンベイを開けて、格納されたミサイルを見せる。

 

「俺だってタダで道を譲る気はないぞ?」

 

「ふん。戦いは武器で決まるものでは無いという事を教えてやる」

 

そんな格好いい台詞を言ったのは箒だ。

 

「戦いとは流れだ。全体を支配するものが勝つ」

 

三基の増設スラスターを背中に装備したラウラが話に入ってくる。

専用装備ではないとはいえ、新型のスラスターは性能的に十分らしく、今回のレースも自信があるらしい。

 

「みんな、全力で戦おうね」

 

そう言って締めたのはシャルロットだった。ラウラと同じく三基の増設スラスターを、肩に左右一基ずつ、背中に一基配置している。

元々カスタム仕様のシャルロットの機体はオーダーメイドのウイング・スラスターを装備しているが、そこに更に出力を足した形になっている。

 

「よし!やるか!」

 

風防を下ろして、APUを作動させる。

シュゴォォォ!という聞き慣れた音と共に左主翼の付け根から排気ガスが勢い良く噴射される。

 

「みなさーん、準備はいいですかー?スタートポイントまで移動しますよー」

 

山田先生の若干のんびりとした声が響く。

俺達は各々頷くと、マーカー誘導に従ってゆっくりとスタート位置へと移動を開始した。

同翼も火器管制も良好、今日は頑張らないとな。

 

『それではみなさん、1年生の専用機持ち組のレースを開催します!』

 

大きなアナウンスが響く。

 

キィィィィイイイイイン!!

 

エンジンの回転数が安定し始めたようだ。

超満員の観客が見守る中、シグナルランプが点灯した。

3・・・2・・・1・・・GO!

 

「ッ・・・!」

 

急激な加速で一瞬景色が吹き飛ぶが、直ぐにハイパーセンサーからのサポートで視界が追い付いた。

まずはセシリアが飛び出したか・・・!

あっという間に第一コーナーを過ぎ、セシリアを先頭に列が出来る。

俺も出力を全開にして追いかける。

 

「一夏、お先!」

 

「横、通るぜ!」

 

「あ、おい!」

 

そう言って鈴と俺は一夏を追い越す。

 

「もらったわよ、セシリア!」

 

「ファイア!」

 

鈴が衝撃砲を、俺は30mm機銃を発射する。

 

「くっ!やりますわね!」

 

「へへん!おっそーい!」

 

「よし!追い抜いた!次は鈴、お前だ━━」

 

「━━甘いな」

 

「「!?」」

 

鈴の加速に合わせてその背後にピッタリと付けていたラウラが前に出る。どうやらスリップ・ストリームを利用して、気を窺っていたようだ。

 

「しまった!」

 

「っ!!」

 

「遅い!」

 

機銃を発砲しようした瞬間、ラウラの大口径リボルバー・キャノンがわずかに早く火を吹いた。

 

「うおっと!?危ねぇ!」

 

俺はギリギリかわせたが、鈴が被弾し、大きくコースラインからそれる。

更にラウラの牽制射が後ろの者にまで及び、後続を大きく引き剥がす。

 

「ふっ、よくかわせたな」

 

「ありがとよ、何か褒美をくれても良いんだぜ?」

 

「ならこれをくれてやろう!」

 

そう言ってラウラはこちらに砲撃をしてくる。

 

「くっ!流石に手強いな!それなら!」

 

ウェポンベイを開放。

正面のラウラをロックオンする。

乾いた電子音と共にバイザー越しのラウラに赤いカーソルが重なり、『TGT LOCK』と表れた。

 

「ターゲットロック・・・ファイ━━!?」

 

瞬間、真横をオレンジ色の火の玉が通り抜ける。

シャルロットがマシンガンを発砲してきたのだ。

慌ててバレルロールで回避する。

 

「ウィル、お先に!」

 

「やるな・・・!」

 

そのままシャルロットは出力を上げて、ラウラにじわじわ肉薄していく。

直ぐ後ろでは一夏が箒と小競り合いをしており、そこへ復帰してきたセシリアと鈴が加わり、大乱闘となる。

ドンッ!と、目標から外れた衝撃砲の砲弾がコースの緩衝壁に当たって爆ぜた。

 

「レースはまだまだ!」

 

「これからが本番よ!」

 

セシリアと鈴がそう言って自身を奮い起たせる。

 

「よし!後ろに付いたぞ・・・!」

 

そう言って、今度はロックオンカーソルをシャルロットに重ねる。

白熱するバトルレース、それが二週目に入った時に、異変は起きた。

 

━警告 不明機よりロックされています━

レーダー上には、『UNKNOWN』と描かれた光点が一つ。

 

「!?」

 

慌てて機体を傾けると、そこを一本の光が通った。

 

「チッ!ビーム兵器か!」

 

正面に向き直ると、トップのラウラとシャルロットの両名にも襲い掛かり、二人を撃ち抜いた。

 

「何だあいつは・・・!?」

 

コースアウトする二人に視線をやることもなく、突然の襲撃者はこちらを見下ろしていた。

 

 



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第64話

どうやら、観客も異変に気付いたらしく、下は大騒ぎとなっている。

 

「クソッ!大丈夫か!ラウラ、シャルロット!」

 

「何なんだあいつ・・・!」

 

俺と一夏はすぐさま壁に激突した二人の元に駆けつけ、一夏が雪羅のエネルギーシールドを展開する。

次の瞬間、ビーム攻撃の雨が降り注いだ。

 

「くっ・・・!」

 

「やらせるか!」

 

俺は即座に機銃を構えて発砲する。

 

「一夏さん、ウィリアムさん!ここはわたくしが受け持ちます!お二人はシャルロットさんとラウラさんを!」

 

「セシリア!?おい!」

 

そう言って、一夏の制止を聞かずに単機で襲撃者に向かっていく。

しかし、今回は高速機動パッケージの為、十分な火力を得られていない様だ。

 

「一夏っ!防御任せたわよ!」

 

単機で突撃するセシリアを慌てて鈴が補佐する。

二人が攻撃を仕掛けるが、敵は素早い身のこなしで回避しながら、何か(・・)を切り離した。

 

「あれは・・・UAV?」

 

「うぅっ・・・」

 

「ラウラ!動いて平気なのか?」

 

「いや、直接戦闘には加われないな。支援砲撃するのがやっとだ」

 

言うなり、身を起こしたラウラが敵機に向けて砲撃をはじめる。

しかし、これも圧倒的な機動力に翻弄され、その姿を捉えられない。

 

「くっ!」

 

セシリアと鈴を相手取りながら、ひらひらと舞い踊る様に宙を駆け抜けていく。

 

「二人共!ここは僕が!二人はセシリア達を!」

 

「シャル!ダメージは!?」

 

「スラスターが完全に死んじゃった。PICで飛ぶのがやっとだよ」

 

そう言って切り離されたスラスターは完全にひしゃげて、スクラップ同然だ。

 

「支援砲撃するラウラの防御は僕が回るから、二人は行って!」

 

「分かった!」

 

「了解した!」

 

俺達は全速で敵機に向かって飛び出す。

途中、箒と合流し、三人で格闘攻撃を仕掛けた。

 

「「うおおおっ!」」

 

「・・・・・」

 

ライフルの先端に取り付けられた銃剣で応戦してくる。

一夏は左手の雪羅・クロー収束ブレードモードで、俺は対IS用大型ナイフ『スコーピオン』で斬りかかるが、絶妙なタイミングでUAVが邪魔をしてきて、決定打を与えられない。

 

「お前は何者だ!何が目的だ!」

 

「・・・・・」

 

「答える根性も無いんだろうよ!」

 

「━━お前達が例のパイロットか」

 

「「!?」」

 

今のこいつの声・・・!

相手はそう言い放つと、一夏の攻撃を受け流し、そのまま蹴りを浴びせた。

 

「ぐあっ!?」

 

「なっ!?」

 

蹴り飛ばされた一夏は箒を巻き込んで壁に激突する。

 

「ふん、こんなものか」

 

「させるかっ!」

 

そのままライフルの射撃を行おうとする敵に妨害目的の機銃掃射をする。

 

「お前がホーキンスか」

 

敵から無線が入った。しかしその声は間違いなく男の声だ。

 

「やはり男か。俺達の他にもISを使える奴がいたとはな」

 

高速でドッグファイトをしながら会話する。

 

「ISだと?俺はあんな物には乗らん」

 

「ならそれはISじゃないとでも言うのか?まさか、ターミネーター!?という事はやはり亡国機業か!目的を言え!」

 

見た目は流線形の全身装甲(フルスキン)にスプリッター迷彩。そして、俺の相棒と同じく主翼と少し大きめの垂直尾翼、水平尾翼が付いおり、見た目だけでもかなり空戦に特化している事が窺える。

 

「答える義務は無いな」

 

敵はこちらの追跡を振り切ろうと出鱈目な回避行動を取りながら、偶然進路上にいたセシリアにライフルとミサイルを発射した。

 

「あああっ!?」

 

「セシリアッ! チッ!貴様・・・!」

 

セシリアはそれを諸に喰らって墜とされたが、そこへ復帰した一夏が滑り込んで抱き止めた。

良かった、一夏がなんとか間に合ってくれた様だ。

敵はそのまま更に速度を上げていく。

 

「一夏!セシリアを頼む!」

 

「分かった、お前は!?」

 

「俺はこいつを相手取る!」

 

そう言って敵機をひたすら追いかける。

数発の命中弾を出したが、敵はまだ余裕そうだ。

 

「直接話せて光栄だったよホーキンス。たとえそれが、『さよなら』を言うだけだとしてもな」

 

そう言うと、敵はとてつもない速度で俺の後ろに回り込んできた。

 

「しまった!━━グゥ!?」

 

ライフルからビームが発射され、機体に命中した。

それでも尚、しつこく攻撃を仕掛けてくる。

まずい、あれを何発も喰らったら・・・!

敵が俺に止めを刺そうとライフルを向ける。

 

「今度こそ終わりだ━━ん?はい・・・はい。分かりました、直ぐに帰投します」

 

「何?」

 

敵が俺からどんどん距離を離していく。

 

「・・・分かったかホーキンス。お前はその程度だ」

 

そう言って襲撃者は去って行った。

 

「何だっていうんだ・・・?」

 

とにかく今は学園に帰る事が先決だろう。海が遠くの方に見える。どうやら、いつの間にかかなり離れた所まで来ていたらしい。

それにしても、ドッと疲れたな。まだ嫌な汗が乾かない。

そう思いながら、学園へ帰るのだった。

 

 




襲撃者の機体はSu-35をモチーフにしているつもりてす。


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第65話

「せーのっ」

 

「一夏、ウィル、お誕生日おめでとうっ!」

 

シャルロットの声を合図に、パァンパァンっとクラッカーが鳴り響く。

 

「お、おう。サンキュ」

 

「ありがとう。俺まで祝ってもらって」

 

時刻は夕方5時、場所は織斑家・・・までは当初の予定通りなんだが。

 

「この人数は何事だよ・・・」

 

一夏が呟く。

メンバーを整理してみよう。

何時もの面々。箒、セシリア、鈴、シャルロットにラウラ。

それに一夏の男友達の“五反田弾”とその妹の“蘭”。そしてもう一人の男友達の“御手洗数馬”。

更には生徒会メンバーの更識会長、のほほんさんに虚さん。

その上、新聞部のエース・黛薫子さんまでもがいて、リビングはパンク寸前だった。

ハァ、よくあんな事件の後で騒ごうって気になるなぁ。

いや、むしろ逆か。あんな事件の後だからこそ、みんな騒ぎたいのかもしれない。

結局、今回も亡国機業の目的は不明という事で一応の決着を見た。

学園関係者は、織斑先生も山田先生も慌ただしく働いていたところを見ると、やはり大問題だったのだろう。

ISで謎の襲撃者と空戦したんだからなぁ・・・俺自身も取り調べを受けさせられ、結局解放されたのは4時を過ぎてからだった。

 

「お前が一夏の言っていたウィリアム・ホーキンスか?」

 

「ん?ああ、そうだが。君は・・・」

 

「ああ、俺は五反田弾。一夏の中学からの友人だ。それでこっちが妹の蘭」

 

「よろしくお願いします」

 

「そして、俺が御手洗数馬だ。よろしく」

 

「そうか。改めて、俺はウィリアム・ホーキンスだ。気軽にウィルで良い。よろしくな?」

 

軽く挨拶し、談笑する。

蘭は一夏のいる方にトテトテと走って行き、そこで鈴と火花を散らしながら、メンチを切り始めた。

・・・ははぁん、さては彼女も一夏組だな?まったくモテる男は辛いねぇ、一夏君。

それにしても、あの蘭て言う娘の作ったケーキと、鈴の作ったラーメン。どっちも美味すぎて手が止まらない。カロリーが気になる所だが・・・。

 

 

しばらくすると、一夏がセシリアの元に向かうのを見たので、俺もそちらに向かった。

現在、彼女は右腕に包帯をしている。先の戦闘であの襲撃者の攻撃を諸に浴びた際に右腕に浅くない傷を負ったらしい。一応、活性化治療によって一週間程で元に戻るらしいが、今日のところは入院した方が良いとみんなが勧める中、本人は猛反対して今この場にいる。

 

「傷、大丈夫か?」

 

「いえ!このくらいは怪我の内には入りませんわ!」

 

「そうか?余り無理はするなよ?」

 

「ありがとうございます、ウィリアムさん。そうですわ、一夏さん」

 

「ん?」

 

「お、お誕生日おめでとうございます。それで、こちらを」

 

「何だこの箱」

 

「ぷ、プレゼントですわ。開けて下さいな」

 

「おう」

 

中からはキレイなティーセットが出てきた。

 

「おお?ティーセットだ」

 

「コホン!これはイギリス王室御用達のメーカー『エインズレイ』の高級セットでしてよ。それと、わたくしが普段愛飲している一等級茶葉もお付けしますわ」

 

「おお・・・なんか凄いな。サンキュ。大事に使うぜ」

 

「い、いえ、このくらい何でもありませんわ。それと、こちらはウィリアムさんの分です」

 

「え?態々俺の分まで?ありがとう。頂くよ」

 

中を開けると、高そうなコーヒーの粉が入っていた。

 

「ウィリアムさんはコーヒーがお好きと聞きましたので、喜んで下されば幸いですわ」

 

「ああ、これからのコーヒータイムが楽しみだよ」

 

さっそく次から飲み始めよう。

 

「二人ともここにいたか」

 

箒が歩み寄ってくる。

 

「お?箒。どうだ?食べてるか?」

 

「お前の誕生日だろう。それとも何か、私が普段から食べてはかりいるように見えるのか?」

 

「い、いや、そう言う訳じゃ・・・」

 

「ふふ、冗談だ」

 

箒がクスッと笑みを漏らす。

 

「一夏、誕生日プレゼントにこれをやろう」

 

そう言って袋を手渡す。

 

「おお?着物だ!」

 

「い、良い布が実家にあったのでな。仕立ててもらった」

 

「おー!今度着てみるよ。サンキューな、箒」

 

「う、うむ。それと、こっちがウィリアムのプレゼントだ」

 

そう言って袋を渡される。

中には質の良いタオルがキレイに畳まれて入っていた。

 

「お?タオルか。ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」

 

「一夏、ウィル!」

 

シャルロットがやって来た。

 

「おお、シャル。これ、サンキュな。これから使わせてもらう」

 

そう言って一夏が取り出したのはゴールドホワイトの腕時計。なんでもかなりの高性能時計らしい。

 

「う、うん!大事にしてね!それから、ウィルには・・・はい、お誕生日おめでとう」

 

渡されたのはマグカップ。

 

「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」

 

プレゼントを受け取る。

 

「おっと、俺も一夏に渡す物があったんだよ」

 

「ああ、俺もだ。誕生日おめでとう」

 

きれいな紙袋の中には、鳥の形のストラップが入っていた。

 

「ストラップか、ありがとう。それじゃあ俺からも、誕生日おめでとう」

 

そう言って一夏に箱を手渡す。

 

「随分大きいな。開けても?」

 

「どうぞ。気に入るかは分からないけどな」

 

「それじゃ、ご開封っと・・・おお?」

 

中からは出てきたのは航空機の観賞用模型。

 

「それはアメリカ軍が使っている戦闘機『F-15E ストライク・イーグル』という機体の模型だ。部屋にでも飾ってくれると嬉しい」

 

「おう!ぜひ飾らせてもらうよ。サンキュな」

 

「あ、そう言えばウィル。ラウラが後で庭に来てくれって言ってたよ」

 

「ん?分かった。ちょっと行ってくるよ。それじゃ」

 

「おう」

 

「うん、確かに伝えたからね」

 

俺はリビングを通って外に出た。

 

「お、遅い!」

 

「す、スマン」

 

「あ、ああ、いや、別に・・・私が勝手に待っていただけだ。前言を撤回する」

 

「ん?そうか」

 

前言撤回とはラウラにしては珍しいな。

 

「うぃ、うぃ、ウィル!」

 

「え?━━うおおっ!?」

 

いきなりナイフが首元を狙ってくる。咄嗟に後ろに飛び退いた俺だったが、よく見るとナイフは直前で止まっていた。

し、死ぬかと思った・・・!

 

「こ、このナイフをやろう!」

 

「・・・え?」

 

「誕生日プレゼントだ!私が実戦で使っていたものだ。切断力に長け、耐久性も高い。受け取れ!」

 

「お、おう!」

 

ラウラの手からナイフを受け取ると、付属の鞘も手渡される。

刃渡り20cm以上のそれは、明らかに軍事用のもので、ブラックメタルな外観が静かな威圧感を放っている。

言うまでもなく、『殺しの為の道具』だ。

 

「ん?」

 

「な、何だ!?」

 

「いや、このナイフなかなか格好いいなって思ってな。M9バヨネットとはまた違った感じだ」

 

「そ、そうか。ホルスターもなかなかだぞ。そら」

 

「サンキュー」

 

鞘にベルトを通すとそのままホルスターになる。

脇の下に配置するらしいそれは、最小動作で引き抜けるよう、ナイフの向きが真横になるようになっていた。

片手で軽くナイフをくるくると回してみる。

扱いやすいナイフだ。手にしっくりくる。

 

「せ、戦士が己の武器を渡すという意味を理解してだな・・・」

 

「ん?何か意味があるのか?」

 

「な、何でも無い!よ、用は済んだ!私はもう行くぞ!」

 

「あ、ラウラ」

 

「な、何だ!?」

 

「プレゼントありがとな」

 

「!?」

 

俺の言葉が以外だったのか、それとも純粋に照れているのか、ラウラはカーッと耳まで真っ赤になると「ふ、ふん!」と鼻を鳴らして行ってしまった。

それにしても、どんな意味があるんだ?

部屋に戻ると、鈴がみんなで遊べるボードゲームを広げていた。

こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった。

 

 

「お、良かった。売り切れは無いみたいだな」

 

一夏の家から先よりの自販機。そこで俺は足りなくなったジュースの補給をするために、10本ほど缶ジュースを買っていた。

最初、主役にそんな事させるわけにはいかない!と言っていたみんなだったが、今日俺はパーティーに参加させてもらっている身で何もしてないので、志願したのだった。

 

「えーと、一夏がコーラで会長が缶コーヒー、箒がお茶、鈴がウーロン茶で・・・」

 

そう言いながら、取り出し口からジュースを取っては両腕に置いていく。

 

「ラウラがスポドリ、シャルロットがオレンジジュース、セシリアは紅茶だったよな?それから・・・」

 

人通りが無く、静かな道路を街灯がポツポツと照らしている。何か出てきそうな雰囲気だ。

俺が歩き出したところで、道の角から人影が出てきた。

暗くてよく見えないが、その人影は俺の通る道を塞ぐように立っていた。

・・・何だ?

 

「よう、クソガキ。また会えたなぁ」

 

「っ!?サベージか・・・!」

 

「まあ、挨拶はいいか。取り敢えず鮫野郎、てめぇは私が殺してやる・・・!」

 

そう言って拳銃を取り出し俺に向けてくる。

 

「っ!?」

 

クソッ!間に合わん・・・!

パァン!!

一発の銃声が轟いた。

 

 

 



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第66話

パァン!!

 

「っ!?」

 

いきなり発砲だと!?ここは無法地帯かよ!?

弾丸が俺に向かって真っ直ぐに飛んでくる。

不思議な事にそれはゆっくりと、そして鮮明に見えた。

 

「チッ!」

 

目の前の襲撃者━━サベージが舌打ちする。次の瞬間、俺へと向かっていた弾丸はその軌道を止められていた。

弾丸が空中で静止している。これは(・・・)━━!

ラウラのAIC・・・!

 

「伏せろ、ウィル!」

 

言われるまま体を下げると、俺の頭上ギリギリをナイフが飛んでいった。ガランガランと、腕から落ちた缶ジュースが地面を跳ねる。

 

「邪魔が入ったか・・・!」

 

サベージは自身を狙ってきたナイフを紙一重で回避し、壁に刺さったナイフを抜き取って投げ返した。

しかし、動体視力、視覚解像度等を数倍に跳ね上げる左目『ヴォーダン・オージェ(オーディンの瞳)』の封印を解いているラウラにとっては、そのナイフをAICで止める事は造作もない。

金色の左目がナイフの次にサベージを追うが、既に襲撃者の姿は消えていた。

 

「くっ、逃げたか・・・!」

 

「大丈夫か、ラウラ!?」

 

「私を誰だと思っている。お前こそ無事か?」

 

「ああ、ラウラが助けてくれなきゃ死んでたよ。ありがとう」

 

「例には及ばん」

 

そう言いながら、ナイフを回収して仕舞う。それから眼帯を着け直すラウラ。

俺も服に付いた土を払いながら、地面に落ちたままの缶ジュースを拾っていく。

 

「あ」

 

「ん?何だ?」

 

「やっぱりラウラの目はキレイだなと思ってな。夜だと特にキラキラ光ってて、まるで宝石みたいだ」

 

「な、なんだと?」

 

「襲われたのは参ったが、良いものを見れたからプラマイゼロ━━おわっ!?」

 

「な、な、何がプラマイゼロだ、馬鹿者!」

 

ズズイッと俺に詰め寄ってから、思いっきり足を踏んでくるラウラ。

 

「いでぇ!?」

 

「ふ、ふん!帰るぞ!」

 

「お、おい、待ってくれ。ちょっとくらい缶ジュースを持つのを手伝ってくれ。冷たくて腕の感覚が麻痺してきたんだ」

 

「知った事か!」

 

ズンズンと、ラウラは足早に歩き出す。

 

「そう言えば、どうして俺が襲われている所に間に合ったんだ?」

 

「そ、それは・・・!」

 

「ん?」

 

・・・い、言えるわけないだろう、二人きりになる機会をうかがっていたなど・・・

 

「ふ、二人きり・・・!?」

 

ラウラの顔とボソリと放った言葉に、ドキリとする。

 

「っ!何でもない!え、ええい、このっ、このっ!」

 

「うわっ、何だよ!?痛い痛い!あ、足を踏むな!こら、馬鹿!」

 

「だ、誰が馬鹿だ!」

 

「グッハァ!?」

 

カーッと耳まで赤くなったラウラは、俺に思いっきり踏み込みの良いパンチをくれた。

 

 

「「「襲われた!?」」」

 

月曜日、夕食の席で一夏と箒と鈴が口を揃えて大声を上げる。

 

「ああ、昨日の夜にな。それに奴は一夏とも面識のある奴だ」

 

「俺も?」

 

「サベージだよ」

 

「サベージ・・・サベージってまさか!?」

 

「前に二人が会ったって言う、亡国機業の人間だよね?一体何が目的なんだろう。ウィルは何か思い当たる事、ある?」

 

「・・・ある。軽い予測、だけどな」

 

シャルロットの問いかけに対して、俺は答える。

 

「それは?」

 

「ああ、みんなも知ってると思うが、あの学園祭の日に奴と初めて交戦したんだ」

 

「俺が襲われていた時にウィルが駆け付けてくれたやつだよな?」

 

「そうだ。多分それが理由の一つじゃないかと思うんだ。俺とお前で奴のISをズタズタにしたろ?ああいう奴は自尊心の塊だからな、恨まれてる可能性は十分にあり得る。一夏も気を付けろよ?」

 

「分かった。けどそれを言うならウィルの方がヤバイんじゃないのか?」

 

「?」

 

「だってお前、あいつの事を散々煽ってただろ?」

 

「・・・ああ、あれか」

 

「なんで煽るなんて真似を・・・」

 

ラウラが呆れる。

 

「いやぁ、ああいう輩は頭に血が昇ると取り乱すからな。作戦だよ作戦。それに親友に手を出されて俺も少なからず頭に来てたからな。あれは愚作だったか。アハハ・・・」

 

ラウラにジト目で睨まれて苦笑する。

 

「一夏さん、次は卵焼きを頂けますかしら?」

 

「ん、分かった。ほら」

 

一夏は右腕を負傷したセシリアに食事を食べさせている。利き腕をやられたのは大変だったな。

 

「あ、あーん・・・」

 

パクっ。口を手で隠しながら咀嚼するセシリア。

さすがにみんなの視線が恥ずかしいのか、若干赤面している。

そして、箒、鈴、シャルロットの顔が怖い。

 

「・・・なによ、セシリアってば。態とらしく箸の料理頼んでさぁ・・・」

 

「・・・パスタを片手で食べれば良いだろうに・・・」

 

ジローッと睨む鈴と箒の視線を振り払う様に、セシリアは咳払いする。

因みにメニューは鮭の塩焼きにだし巻き卵、それにほうれん草のゴマ和え、ジャガイモの味噌汁、海鮮茶碗蒸しだ。

どれも箸を使わないと食べづらいものばかりだ。

 

「一夏、茶碗蒸しはスプーンで食べれるでしょ?ね、セシリア?」

 

ニッコリ、シャルロットが凄く威圧的な笑みを浮かべる。

 

「そ、それは・・・わ、わたくしは左手だと上手く食べられないのですわ!」

 

「そう、ならアタシが食べさせてあげるわ」

 

「り、鈴さん!?ちょっと・・・せめて冷ましてから・・・あつつつっ!」

 

グイイッと熱々の茶碗蒸しをのせたスプーンがセシリアの口にねじ込まれる。

よ、容赦ねぇな・・・。

 

「あらあら、楽しそうですね~」

 

「あ、山田先生。それに・・・」

 

織斑先生も一緒だった。二人ともその手に夕食のトレーを持っている。

 

「あんまり騒ぐなよ、馬鹿者が」

 

「わ、わたくしは怪我人ですのに・・・」

 

「ハァ、凰、怪我人にはもう少し丁重にしてやれ」

 

「は、はい・・・」

 

「ところで、お前達はいつもこのメンツで食事をしているのか?」

 

「あ、はい。大体は」

 

「そうか」

 

「あら?織斑先生、もしかして気になるんですか~?」

 

珍しい。あの山田先生が茶化すなんて。

 

「山田先生、後で食後の運動に近接格闘戦をやろうか」

 

「じょ、冗談ですよぉ!あ、アハ、アハハハ~・・・」

 

見事に自爆した。

 

「まったく・・・あまり騒ぐなよ。・・・と言っても、10代女子には馬の耳に念仏か。まあ、程々にな」

 

それだけ言うと、織斑先生は山田先生を連れて奥のテーブルに向かっていった。

 

 

「・・・で、ウィルとラウラは分かるが、他はなんでついてくるんだ?部屋反対だろ?」

 

寮の自室に向かう途中、一夏が後ろをゾロゾロついてくる一同に尋ねた。

 

「そ、それは・・・別にアンタの事を心配してる訳じゃないわよ!」

 

そう言って返す鈴。

 

「あー、えっと、ほら。たまには一夏の部屋でお話しようかなって思って」

 

続けてシャルロットがそう告げる。

 

「う、うむ!そうだぞ一夏、こうやって全員でコミュニケーションを取ることも大切だぞ」

 

箒もうんうんと頷きながら、彼を説得する。

 

「あの、一夏さん?よろしければ包帯の交換を手伝って欲しいのですけれど」

 

「おお、良いぜ」

 

一夏の言葉にパァッと顔が輝くセシリア。

 

「まったく。傷の手当てくらい一人で出来なくて何が代表候補生か」

 

相変わらずラウラは辛口だなぁ。

 

「この国では怪我に唾液を塗ると治るそうだ。丁度良い、そうしろ」

 

「ラウラ、確かに唾液を塗ったら極微少の効果があるらしいが、非衛生的だし、そもそもあれはまじないの一種だ」

 

「そうなのか?因みに私の唾液には医療用ナノマシンが微量だが含まれているぞ」

 

ワオ、そうなのか。なんかすごいような、あんまり突っ込んじゃいけないような。

ラウラはドイツの軍事研究所で生まれた試験管ベビーだって話だったよな。実際に俺自身もその光景を視た(・・)

戦う為だけの存在を生み出すという行為は━━どうなんだろうか。

正義感で否定する事は簡単だ。だが、それは彼女の存在自体を否定する事になる。

そもそも、彼女は兵器でも何でもない。立場はどうであれ、普通の少女だ。あの日、二人で出掛けた時に見せた顔を、人を殺す為だけ(・・)の『兵器』が出来る筈が無い。

勝手だが、これが俺の持論だ。

それに、日本に来て━━この仲間達と出会って、けしてラウラの人生は戦うだけのものでは無くなったんだと、そう思いたい。

 

「こら、聞いているのか。まったく、嫁の風上にも置けないやつだ」

 

「ああ、スマンスマン」

 

『嫁』の単語を彼女が発する度に、密かにキスの事を思い出してしまうのは黙っておこう。

俺自身、あの事を思い出す度に顔が熱くなってしまうのだから。

 

「ん?どうした?」

 

「い、いや、何でもない」

 

何時の間にか顔を寄せてきたラウラに内心ドキリとしながら、俺達は一夏の自室に入って、時間が経つのも忘れて談笑した。

 

 

「ハァー、今日も疲れた」

 

そう言って自分のベッドに倒れ込む。

 

「そう言えば、今度全学年合同のタッグマッチがあるんだったよな?」

 

「ああ、昨日のキャノンボール・ファストの襲撃事件を踏まえて、専用機持ちのレベルアップが目的らしい」

 

「確かに、あいつは並みの腕の操縦者じゃなかったな・・・」

 

「ISではない機体に乗る謎の男、か?」

 

奴が男だった事は取り調べの際、生徒会長に話した。機体━━『ターミネーター』と『トリニティ爆弾』については、存在は知られていたらしい。外見までは分からなかったそうだが・・・。

流石は更識家、この程度の情報収集は朝飯前、という訳か。

 

「・・・ああ。悔しいがあいつの方が俺より強かった。だから今回のタッグマッチで更にレベルアップしてやるさ」

 

「そうか、だが私達もいることを忘れないでくれ。お前は一人ではない」

 

「勿論分かってるさ。さて、そろそろ寝るか」

 

「そうだな、明日もまた早い」

 

「あ、そうだ。昨日セシリアから良いコーヒーを貰ってな、明日早速飲もう思うんだがラウラも飲むか?」

 

「頂こう。楽しみにしている」

 

「分かった。それじゃ、お休み」

 

「お休み」

 

電気を消して俺達は眠りについた。

 

 

「クソッ・・・!癇に障るガキ共だ・・・!」

 

薄暗い部屋で、サベージは自棄酒に浸っていた。

 

「おやおやぁ、こんな所に居たねぇ」

 

声のした方を見ると、中背、小太り気味で眼鏡をかけた男が立っていた。

 

「あ?てめぇ・・・。何の用だ?」

 

「そんな事はどうでも良いじゃないかぁ。それより、彼が怒っていたよぉ?勝手な行動は慎めとぉ」

 

「うるせぇ!あのガキにはたっぷりと礼をしてやる!てめぇらが何と言おうがな!」

 

「まったく・・・君達は我々に雇われているという事を理解してもらいたいねぇ」

 

「けっ!」

 

「まあ、君は休んでいたまえ。そろそろアレを投入する頃合いだしねぇ」

 

「ふんっ!あんなガラクタに何が出来る?どうせ前の『ゴーレムⅠ』と同じ事になるだけだ」

 

すると、男はニヤリと笑い、眼鏡をクイッと上げた。

 

「今回の『ゴーレムⅢ』は一味違うよぉ?それに随伴として、無人戦闘機『セイバー7』を2機投入しようと思ってねぇ」

 

「ハッ、IS相手に無人戦闘機だと?」

 

「セイバー7は人工知能を持つ最新鋭機でねぇ。高機動戦闘能力を備え、人間の様な失敗は犯さない」

 

「・・・・・」

 

「例えばぁ━━頭に血が昇って無様な失敗を起こしたり(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)・・・とかねぇ」

 

男がニヤァっと笑う。

 

「てめぇっ!!」

 

椅子を盛大に蹴倒し立ち上がるが、手で制された。

 

「まあまあ、少し落ち着きたまえよぉ。それにセイバー機は元からISを墜とす為にけしかける訳じゃないしねぇ」

 

「・・・報酬が手に入ったら、あのガキの次にお前を殺してやる・・・!」

 

「そうかぁい。楽しみにしているよぉ?」

 

男はそう言って歯を見せて笑う。部屋の明かりによって照らされた眼鏡が光を反射して、不気味に見えた。

 

 



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第67話

デイゼル・パットン准将 再び!

「しぃ~んあいなる重装・巨砲主義の同志諸君っ!この私を覚えているかねぇ?」


翌朝

 

何時も通りの時間に起きた俺は身支度を整えた後、昨晩の約束通り、二人分のコーヒーを作っている。

 

「ほら、熱いから気を付けろよ?」

 

そう言って、コーヒーをラウラに手渡す。

 

「ああ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

席についてコーヒーをゆっくりと啜る。

 

「流石は高級コーヒー豆。美味さが段違いだ」

 

「確かに、こんなに美味いコーヒーは飲んだ事が無いな」

 

初めて飲む高級コーヒーに、俺とラウラは舌鼓を打つ。

 

「セシリアに感謝しないとな」

 

「そうだな、今度何か礼をするとしよう」

 

因みに、二人揃ってカフェ・オ・レを飲んでいる。

 

「ふぅ、美味かった。そろそろ行くか」

 

「うむ、そうだな」

 

「満足したか?」

 

「ああ、美味いコーヒーだったぞ」

 

「そいつは良かった」

 

そう言いながら、俺達は自室を後にした。

 

 

「やっほー、織斑君。篠ノ之さん」

 

二時限目の休み時間、談笑している俺達の前に現れたのは2年の黛薫子先輩だった。

 

「あれ、どうしたんですか?」

 

「いやー、ちょっと二人に頼みがあって」

 

「頼み?私と一夏にですか?」

 

「うん、そう。あのね、私の姉って出版社で働いてるんだけど、専用機持ちとして二人に独占インタビューさせてくれないかな?あ、因みにこれが雑誌ね」

 

そう言って取り出したのは、ティーンエイジャー向けのモデル雑誌だった。

 

「あれ?これって・・・」

 

「この雑誌はIS関連とは関係無いのでは?」

 

どうみてもファッション関連の雑誌に見えるのだが・・・。

 

「えっとね、専用機持ちって普通は国家代表かその候補生のどちらかだから、タレント的な事もするのよ。国家公認アイドルって言うか、主にモデルだけど。あ、国によっては俳優業とかもするみたいだけど」

 

「そうなのか?箒」

 

「わ、私に聴くな!知らん!」

 

「生憎、俺もさっぱりだな」

 

ん?待てよ?そう言えばセシリアがイギリスでモデルしてたって前に言ってたな・・・。

一度、写真を見せてもらった事がある。

そこには見事にドレスを着こなすセシリアが写っていた。

そうなると一夏はタキシードか何かか・・・?

ブフッ!ヤベッ、想像すると急に笑いが・・・!

そんな事を考えていると、丁度そこに鈴がやって来た。

 

「なによ、一夏。モデルやった事無いわけ?仕方無いわね、あたしの写真を見せてあげるわよ」

 

「いや、いい」

 

「何でよ!」

 

バシンッと一夏の頭をはたく鈴。

 

「だってお前、変に格好つけてるんだろ、どうせ」

 

「な、何ですってぇ!?じゃあ見てみなさいよ!すぐ見なさいよ!今見なさいよ!」

 

携帯を取り出した鈴は、画像を呼び出して一夏の首を引っ張って強引に見せる。

 

「お・・・?」

 

「む・・・」

 

「ふむ・・・」

 

もののついでにと一緒に見た俺と箒も一夏と同じ様な反応をした。

携帯にはしっかりとカジュアルを着こなす鈴の姿が写っている。

 

「へぇ・・・。良いじゃん」

 

「なかなか似合ってるじゃないか」

 

「ふふん、そうでしょう、そうでしょう。あ、こっちは去年の夏の━━」

 

キーンコーンカーンコーン。休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 

「そう言えば今日は部活派遣日だったよね?また来るから。それじゃあ!」

 

そう言って颯爽と立ち去る黛先輩。

しかし、鈴の方は写真を見せるのに夢中になっている様子だった。

 

「でねでね、こっちが━━」

 

ゴスッ!鈴の頭にグーが乗っかる。

 

「あいたぁ!?」

 

目を吊り上げながら振り向く鈴だったが、そこに立っていたのは当然の如く織斑先生だった。

 

「とっとと2組に帰れ」

 

「は、はい・・・」

 

すごすごと引き下がる何時ものパターンだった。

 

「さて、今日は近接格闘戦における効果的な回避方法と距離の取り方についての理論講習を始める」

 

そうして何時も通りの授業が始まった。

 

 

四時限目が終わり、今は昼休み。

さてと、飯食いに行きますか。

 

「ウィル、ちょっと付き合ってくれないか?」

 

「ん?」

 

席を立つと、一夏に声を掛けられた。

 

「「「おおお!!」」」

 

数人の女子が目をキラキラさせて立ち上がる。

おい、そこの女子諸君。一体ナニを想像したか正直に答えなさい。大丈夫、おじさん怒ったりしないから。

 

「飯か?別に構わないが━━」

 

「違うんだ。取り敢えず理由を話すからこっちに来てくれ」

 

「あ、ああ。分かった」

 

そう言って一夏の後についていった。

 

 

 

「━━と言う訳なんだよ」

 

「ふむ、会長の妹さんねぇ・・・」

 

「ああ、今度のタッグマッチで一緒に組んでやってくれって言われてな。まずはコンタクトからなんだが・・・」

 

「お前のISを作るのに人員を割かれたせいで、彼女の専用機が未完成。故にお前は良い印象を持たれていない、と・・・」

 

ちょっと理不尽な様な気もするが・・・。

 

「そうなんだよ。もうマッチまで時間無いし、早い事しないといけないんだが、さっき言ったように俺、あの娘に嫌われてるらしいし・・・」

 

「で、心細いから俺について来いと?」

 

「このとおりだ!頼む!」

 

手を合わせ、頭を下げて懇願してくる。

 

「・・・そうだな、仕方ない。ついて行ってやるよ」

 

まあ一夏には色々と世話になってるし、付き合ってやるか。

 

「ほ、本当か!?サンキューウィル!」

 

「ただし、教室の入り口までだからな?」

 

「おう!それだけで十分だ!」

 

「なら、さっそく行くか」

 

そう言って4組に向けて歩を進めた。

あ、でも一夏がその娘と組んだらあいつらが黙ってないんじゃ・・・ま、大丈夫だろ。

 

 

「よし、ここだ。4組」

 

「一夏、俺はここで待っとくから行ってこい」

 

「ああ、分かった。行ってくる!」

 

一夏が4組に入室すると、案の定、黄色い声が部屋中に響き渡る。

腕を組んでそれを傍観していると、俺に気付いたのか他の女子達が集まって来た。

 

「ああっ!1組のホーキンス君も一緒だ!」

 

「え、うそうそ!何で!?」

 

「まさか、織斑君と一緒に4組に来るなんて・・・!今日は人生最高の日だわ!」

 

「よ、4組に何か御用でしょうか!?」

 

どんどん人が集まってくる。・・・こいつは参ったな。

 

「ああ、いや、俺は一夏の付き添いで来ただけなんだよ」

 

俺が女子達の相手をしている間に一夏は会長の妹さんとのコンタクトに成功したようだ。

ここからでは何を言っているのかがよく聞こえないが、敵意がひしひしと伝わってくる。

しばらくすると、鈴が乱入してきた。

 

「見つけたわよ、一夏!」

 

そのままズカズカと彼の元に歩み寄って行く。

 

「アンタ4組で何してんのよ!来るんなら2組に来なさいよね!」

 

「ぐえっ!」

 

「いいから来なさい!」

 

「じゃ、じゃあ、更識さん、また。ウィル、ありがとな」

 

制服の襟首を掴まれ、そのまま連行されていった。

 

「・・・・・」

 

更識さんは特に返事をする事も無く、パクっとパンを一口かじるだけだった。

4組にポツンと一人取り残される俺。

それでも女子達のマシンガントークならぬガトリングガントークは止まらない。

飯食いたいのに・・・(泣)

憂鬱な気分に浸っていると、何者かに腕を掴まれた。

 

「ウィル、こんな所にいたのか。探したぞ」

 

「ん?ラウラか」

 

「取り敢えず1組に戻るぞ」

 

「あ、ああ。と言うわけで、この辺で失礼するよ」

 

「「「また来てね~!」」」

 

こうして、俺は無事ラウラに保護された。

 

 

 

「いやぁ、助かったよラウラ。危うく何も食えずに空きっ腹で午後の授業を受けるところだったぜ」

 

購買に行って買ってくる時間は無かったが、運良くポケットの中に入っていたカロリーメイトをかじる。

 

「それで?俺を探していた様子だったが、何か用か?」

 

「そうだ。ウィル、タッグマッチの相方は決めたか?」

 

「え?ああ、まだ決めてなかったな・・・」

 

「なら話は早い、私とタッグを組むぞ」

 

「俺は別に構わんが・・・」

 

「そうか、これが申請書だ。この欄にサインを」

 

カロリーメイトをボリボリと噛み砕きながら申請書の署名欄にサインする。

 

「よし、サイン完了だ。よろしくな」

 

「ふふん、任せておけ」

 

そう言って弾む足取りで自分の席に向かっていった。

ラウラが相方とはなんとも心強い限りだ。

そう思いながら、クッキーブロックの最後の欠片を口に放り込んだ。

 

 

「あ゛ぁ゛~疲れたぁ・・・」

 

部活派遣の仕事を終え、休憩スペースにて一人で休んでいると電話の着信メロディがなった。

 

「ん?なんだ?」

 

知らない番号だ・・・。

若干警戒気味で電話に出る。

 

「はい、ホーキンスです」

 

『おお!繋がったか。いやぁ~、良かった良かったぁ』

 

ん?この声、それに特徴的な言葉遣い・・・前に聴いたような・・・。

 

『私だぁ、パットンだぁ。久しぶりだねホーキンスくぅ~ん』

 

「え?じゅ、准将!?なぜ自分の携帯番号を!?」

 

『まあまあ。そんな事は別に良いじゃないかぁ~。それより、あの40mm砲はどうだったかね?』

 

自由人だなぁ・・・。

 

「はい、威力は申し分無く、とても頼りになりました」

 

『そうかそうか!それはなによりだ。やはり!重装・巨砲主義は正しかったのだぁ!そうだろう?みんな!』

 

『『『重装巨砲主義ばんざーい!!』』』

 

・・・なんか増えてる。あれから更に布教を続けたのか・・・。

 

『そこでだね。ホーキンスくぅ~ん』

 

嫌な予感がする。

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

『君に新しく武装を送ろうと思ってね』

 

「」

 

やっぱりぃぃぃ!!

 

「は、はぁ。因みにどの様な武装ですか?」

 

『76mm砲だ』

 

・・・はぁ?

 

「申し訳ありません。もう一度よろしいでしょうか?」

 

『76mm砲だ』

 

「」

 

聞き間違えじゃなかったぁぁぁ!!

え?76mmってあれだろ?艦艇に搭載してる砲だろ!?今度はあれを使えと?腕が死ぬわっ!!

 

「さ、さすがにそれはぁ・・・」

 

『安心したまえ。今回も前回と同じく改良済みだ』

 

この人なら、その内127mm砲を載せるとか言い出しそうだ・・・。

 

「いや、そう言う問題では━━」

 

『見つけましたよ!准将!』

 

電話越しにトーマスの声が響く。

 

『な!?ホーキンス少佐、何故ここにぃ!?』

 

『あんだけデカイ声なら直ぐに気付きますよ!それより総員、パットン准将及びその信者を拘束せよ!』

 

『『『は!』』』

 

『な、何をする!?』

 

『反乱か!?』

 

『えぇい!大人しくしろ!』

 

バタバタと騒がしい音がスピーカーから聞こえる。

 

「えぇ・・・何?このカオス」

 

『少佐、准将殿を拘束しました』

 

『よし、よくやった』

 

『ハッハッハッ!遅かったなホーキンス少佐ぁ!既に新武装は学園に送った後だぁ!』

 

兵士に両肩を拘束されたパットンはドヤ顔でそう告げる。

 

『おお、流石は准将殿だ・・・!』

 

『我々に出来ない事を平然とやってのける!』

 

『そこに痺れます!憧れます!』

 

『ハッハッハッ!そうだろう?そうだろう?』

 

嘘ぉ!?俺の意志に関係無く送られてるの!?現在進行形で!?

 

『・・・ボートを用意しろ』

 

トーマスが静かに部下に命令する。

 

『え?ボート・・・ですか?』

 

『そうだ、一人乗りで良い。水と食糧を。責任は私が取ろう』

 

冷静に淡々と話すトーマス。

 

「あ、あのぉ。おじさん?」

 

『よし、連れていけ。・・・ハァ、スマンなウィリアム』

 

「いや、俺は大丈夫だが『ちょ!少佐!?まさか本気で私を島流しにする訳じゃあ━━』」

 

『いや、私の監督不十分だ・・・迷惑を掛けるな』

 

『少佐!?無視しないでくれ!』

 

「・・・・・」

 

『私はただ君の甥君にも正義(巨砲の素晴らしさ)を教えようとしただけではないか!』

 

「やっぱり俺にも布教する気満々だったのか・・・」

 

『・・・ウィリアム少し待っててくれ』

 

「あ、ああ。分かった」

 

『准将殿』

 

『お、おぉ!少佐、考え直して━━』

 

『・・・ギルティ(有罪)

 

トーマスはパットンに向けて親指を下に向けるジェスチャーをする。

 

『へ?』

 

『連れていけ』

 

『『『は!』』』

 

『し、少佐!?ちょっと待ってくれ!ノォォォォ!!』

 

おおぅ、えげつないねぇ。

 

『と言う訳だ。スマンが使ってやってくれ。一応改良済みらしいから、危険性は無いだろう』

 

「ハァ・・・了解」

 

『頼んだ。じゃあ、私は書類作業に戻る。元気そうで何よりだよ』

 

「こっちも久し振りに声が聞けて良かったよ」

 

『それじゃあ切るぞ?ああ、最後に。亡国の連中にはくれぐれも気を付けてな。一応こっちでも調べてはいるが・・・』

 

「分かった。それじゃ」

 

『ああ、そろそろ部下を止めんと、本気でやりかねんからな』

 

そう言って電話を切った。

 

『1年1組 ウィリアム・ホーキンス君。至急、職員室に来て下さい』

 

校内放送で呼び出される。

 

「ハァ、まだゆっくりとは休めないようだ・・・」

 

俺は重い足取りで職員室へ向かった。

 

 

 

 

 



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第68話

一夏と簪の初コンタクトから数日後の夜 一夏の部屋

 

「うーん・・・何で怒ったんだろう・・・」

 

「そりゃあ、お前が彼女の癇に触れたからだろう・・・」

 

彼女は未だに打ち解けてくれないそうで、今は一夏の部屋で相談を受けている。

 

「あ。そっか。あいつの専用機、まだ実戦で使える状態じゃないのか」

 

一夏がポンッと手を打つ。

 

「あ。そっか。じゃねぇよ。お前もしかして彼女の専用機の話をしたのか?」

 

「あ、ああ。つい口が滑ってな」

 

「ハァ、仲良くなりに行ったのに喧嘩売ってきてどうすんだよ・・・」

 

思わず眉間を押さえる。

こうなった経緯は、一夏が簪とタッグを組むために話し掛けたは良いものの、彼女が最も気にしている事━━専用機の話に触れてしまったから。らしい。その結果、見事右頬に一発のビンタを受けたそうだ。

 

「でも、それなら2年の整備科に手伝ってもらえば良いのにな・・・」

 

そう言って一夏がIS学園の概要案内書を取り出す。

 

「確かに、その方が圧倒的に効率的だ」

 

コンコン

 

「はーい。どちら様ですか?」

 

「私よ」

 

12時の方角にバンディット!

 

「二人とも、今失礼な事を考えたでしょう?」

 

「さ、さあ?自分にはよく分かりませんねぇ?」

 

「ハハハ。そんな事無いですよ、楯無さん」

 

「んー。まあ良いわ。シュークリーム買ってきたから、一緒に食べましょう?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

一夏が会長をテーブルにつれて行く。

会長はふと机の上に置かれたままの案内書に目をやった。

 

「あ、一夏君。もしかして整備科に協力してもらうの?」

 

「あ、いや。俺じゃなくて簪さんの専用機の事で頼もうかなと」

 

「うーん、それはちょっと難しいんじゃないかしら」

 

そう言いながら、ベッドに掛ける会長。

 

「どうしてですか?一人でやるよりも効率的かとおもうのですが・・・」

 

「簪ちゃん、多分一人で機体を組み上げるつもりなのよ」

 

「「え?」」

 

一人で組み立てるって・・・プラモじゃないんだぞ?

 

「私がそうしてたから、多分意識しちゃってるのね。気にしなくていいのに」

 

「会長・・・あの機体、一人で組み立てたんですか!?」

 

横では一夏が絶句している。

 

「え?うん。まあ、七割方出来てたから出来たんだけど」

 

うわぁ・・・篠ノ乃博士の再来とまでは行かんが、飛んでもない天才がいたもんだ・・・。

 

「でも、私は結構薫子ちゃんに意見もらってたからね。それに、虚ちゃんもいたし」

 

「えっ?あの二人って整備科なんですか?」

 

「それは俺も初めて知ったな・・・」

 

「そうよ。3年主席と2年のエース」

 

ま、マジかよ・・・虚さんはともかく黛さんはただの新聞部部員かと思っていた。

シュークリームを取り出す会長を見て、慌てて紅茶の用意を始める一夏。俺も皿を並べる。

 

「それで、どう?簪ちゃんの様子」

 

「えーと、叩かれました」

 

俺も横でウンウンと頷く。

 

「えっ?」

 

驚いた顔をする会長。

 

「あの子、そういう非生産的な行動にはエネルギー使いたがらない筈なんだけど・・・」

 

「はぁ」

 

まあ、見た感じ物静かそうな娘だったもんな。

 

「お尻でも触ったの?」

 

「そんな訳無いでしょう!」

 

「じゃあ胸?」

 

「だから!どうしてセクハラ方向なんですか!」

 

ハァ、また始まったか・・・。

 

「んもう、しょうがないなぁ。言ってくれればおねーさんが触らせてあげるのに」

 

「わー!何脱ごうとしてるんですか!お、お、怒りますよ!?」

 

「うふふ、冗談冗談♪」

 

そう言って悪戯っぽい顔をする会長。

 

「いや、本当に良かった。後少しでここに織斑先生を呼ぶところでしたよ」

 

会長の顔が引きつる。

 

「じ、冗談に決まってるじゃない。ア、アハハ・・・」

 

生徒会長でも織斑先生は怖いのか。ふむ、良い情報を手に入れたぞ。

 

「はい、お茶どうぞ。パックのやつですけど」

 

「一夏君が入れてくれたのなら世界一美味しいわよ」

 

「またそういう嘘を・・・」

 

「うん、嘘」

 

まったくこの人は・・・。

 

「しかし、あの簪ちゃんがねぇ・・・一夏君、脈有りなんじゃない?」

 

「ええ?殴られたのにまた会いに行くんですか?」

 

「今度は殴るじゃ済まないのでは?」

 

「女の子は押しに弱いのよ」

 

はい、ダウトォ!絶対嘘に決まってる!

一夏が考える素振りをする。どうやら脳内でシミュレートしている様だ。

せっかくだし、俺もやってみよう。会って間もない間柄で、一回殴られてからもう一回会いに行ったらという最低ラインの設定で。

相手はラウラだ。

 

『・・・知っているか?人間は首を切断しても10分近く生きていられるという事を』

 

黒光りするナイフをショキショキと磨ぐラウラ。

 

『へ、へぇ。聞いた事あるな~。そ、そう言えばギロチンが廃止されたのもそれが理由だったよな~』

 

『貴様で試してやろうかっ!』

 

ノォォォォォ!!

 

「」

 

ダメだ!俺が消される未来しか見えない!

 

「楯無さんの嘘吐き!」

 

「そうよ?」

 

「なにを開き直ってるんですか!?」

 

「とにかく、簪ちゃんとちゃんと組んであげてね。後、機体の開発も手伝ってあげなさい」

 

「命令ですか・・・」

 

「命令されるの好きでしょ?」

 

「何でですか!」

 

「やん。怒らないでよ、嘘よ嘘♪」

 

「「・・・・・」」

 

「んー。お茶、ごちそうさま。それじゃあまたね」

 

言うだけ言って(嘘ばっかだけど)会長は帰って行った。

 

「取り敢えずシュークリームを食べようぜ?」

 

「そうだな、疲れた時は甘い食い物が一番だ」

 

パクリ。・・・モグモグ・・・モグ?

 

「「ブゥゥゥゥ!!」」

 

「アハハハ!引っ掛かったわね、カスタードは激辛マスタードとハバネロに本わさびマシマシにしておいたわ!」

 

ドアの隙間から満面の笑みを見せている。

 

「楯無さん!」

 

「会長!」

 

「きゃー」

 

バタンとドアを閉じて逃げる。

 

「くそぅ楯無さんめ・・・!み、水~!」

 

「一夏!塩撒いとけ、塩!畜生、舌が・・・!」

 

あまりの辛さにしばらく悶絶する二人であった。

 

 

一夏が簪と出会ってから、一週間が経過した。

 

「なあ、俺と組んでくれって」

 

「絶対、イヤ・・・」

 

毎日この調子で、一夏が簪に付きまとっているという噂はあっという間に広まった。

それにこの噂、質が悪い事に、その内容に尾びれがついてしまっているのだ。

 

━━セシリア・オルコットの場合。

「一夏さん・・・わたくしと組まなかった事を後悔させてあげますわ。ふ、ふふ、ふふふふ!」

 

ビット四基と《スターライトmkⅢ》による。一斉射撃によってターゲットの全てを的確に撃墜する。

 

「震えなさい!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる葬送曲(レクイエム)で!」

 

━━凰鈴音の場合。

ズドン!鈴は最大出力の《龍咆》を放つ。

盛大に地面が爆ぜて、アリーナに巨大な穴が開いた。

 

「見てなさいよ一夏・・・泣いて許しを請うても許さないんだから!」

 

タッグマッチで一夏をフルボッコにする為、本国の装備担当者に無理難題な依頼を押し付けた鈴はグググッ・・・と握り拳を作る。

その瞳は闘志でメラメラと燃えていた。

 

━━シャルロット・デュノアの場合。

シャルロットの両手には長大な59口径重機関銃《デザート・フォックス》が握られており、ターゲットを次々と粉々にして行く。

ガキン!弾切れと同時に、シャルロットは銃を捨ててその手にアサルトブレードを一対呼び出した。

最高速のまま突っ込んで行き、ターゲットを切り刻んでいき、最後にブレードをクロスして投擲。

残り一つのターゲットに見事命中させた。

 

「僕は強敵だよ、一夏」

 

ニコッ。その天使の微笑みは、だがしかし絶対零度の冷気を放っていた。

 

そして、もう一人、篠ノ乃箒はと言うと━━。

完全に弛みきった顔で訓練していた。

何でも、黛先輩の依頼を聞いて、一夏と二人きりで写真撮影に行き、その帰りに夕食をした。と言う、謂わばデートをしてきたらしい。

この前に一夏から聞いた。本人はデートという概念はこれっぽっちも無かった様だが・・・。

 

とにかく、箒を除く三人は殺気MAXだ。

 

「こえぇよ。何だよあの滲み出るオーラ。すげぇ禍々しいんたけど・・・」

 

「どうした?ウィル」

 

ラウラが話し掛けてきた。

 

「い、いや何でも無い。まったく、やる気満々で殺る気満々だな・・・」

 

そう言いながら、新しい装備、76mm砲の射撃訓練を再開する。

IS用に手を加えられたそれは、元は艦載用だが、若干スケールダウンして、小型・軽量化されている。

巨大なドラム弾倉は持てないので、マガジン式となっており、上から嵌め込むタイプだ。

トリガーを引く。

ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!とテンポ良く砲弾が発射され、ターゲットを粉々に砕いて行く。

 

「ふぅ、凄い反動だな・・・」

 

スケールダウンしているとはいえ、毎分100発近い速度で76mmの弾を連射するのだから、その反動はとてつもないものだ。

砲身の先からはボタボタと冷却水が滴っていた。

本砲は主兵装の30mm機銃と同じく、砲身の冷却には冷却水を用いている。

まったく、あの脳筋准将め、飛んでもない火器を寄越してくれたな。て言うか何であれを作れたんだ?まさか兵器開発部も既に入信して(毒されて)しまったのか・・・!?

心の中でそう考えながら訓練を続けるのだった。

 



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第69話

次の日の昼休み、俺とラウラは食堂に昼食を食べに来ていた。

 

Yeah!(よっしゃあ!)今日は海鮮丼があるぞ!」

 

「お前は子供か。少しは落ち着け」

 

好物を見て興奮する俺を宥めるラウラ。これではどちらが大人(・・)か分かったものじゃない。

 

「確かにみっともなかったな、失礼」

 

そう言って席に座って昼食を食べ始める。

いざ箸を持って飯に手をつけようとした途端、ガタッ!と突然ラウラが立ち上がった。

 

「ど、どうしたんだ?ラウラ?」

 

「・・・どこかに、かき揚げをべちょ漬けしている不埒な輩がいる・・・!」

 

「は?かき揚げをべちょ漬け?」

 

「・・・っ!!そこかっ!」

 

目にも止まらぬ速さで走って行ってしまった。

 

「あ!おいラウラ!待てよ!」

 

慌ててラウラを追いかけると、テーブルの一つの前で止まっていた。

ん?あれは一夏・・・と更識さんか?なんとか食事の同席までは漕ぎ着けたようだな。

 

「おいラウラ、急に走るなよ。落ち着けって言ったのはお前だろ?」

 

「ウィル、邪魔をするな。私はこいつにかき揚げはサクサクが一番だという事を教えてやるのだ。べちょ漬けだと?軍法会議ものだぞ!」

 

「別にかき揚げをそのまま食おうが浸して食おうが他人の勝手だろうに・・・一夏も言ってやってくれ」

 

「そ、そうだぞ、ラウラ。別にべちょ漬けでm「違う・・・これは、たっぷり全身浴派・・・」」

 

「「えぇ・・・」」

 

まさかの新勢力に俺と一夏は困惑する。

 

「「・・・・・」」

 

ラウラと更識さんが火花を散らす。

 

「ハァ・・・ほら、ラウラ!さっさと帰るぞ!」

 

「なっ!?離せウィル!私はこいつに━━」

 

「と言う訳で、邪魔をしたな。一夏、それと君も」

 

「あ、ああ。気にするな」

 

「・・・私も、気にしてない・・・」

 

「そうか、それじゃあ失礼するよ。ほら、ラウラ帰るぞ来い」

 

「ウィル!何のつもりだ!?・・・まさかっ!お前もべちょ漬け派か!?」

 

「いや、俺は中立派だ。別にどっちで食っても構わんだろ?」

 

「ええい、離せ!裏切り者ぉぉぉ!!」

 

「はいはい、そもそも俺はお前の陣営に加わった覚えはないからな~」

 

ズルズルとラウラを引きずって行くウィリアムをポカンと見つめる二人だった。

 

 

午後の授業も終わり、放課後。俺は第二整備室にて、バスター・イーグルを無人展開して、整備・調整をしていた。

2年と3年の先輩はもう直ぐでこちらに着くらしい。

 

「今の内に出来る事をやっておくか」

 

自機の自己診断装置を使って機体の簡易検査を行う。

 

「よし、異常無し」

 

そこへ一夏が更識さんと共に入ってきた。

更識さんは他にもいる専用機持ち達の解説をしながら一夏と一緒にこちらに向かっている。

あ、一夏とセシリアの目があった。

プイッとそっぽを向くセシリア。

 

「あーあ、完全に敵対視してるな、こりゃあ」

 

因みに鈴は会うたびに蹴りをお見舞いし、シャルロットに至っては「何かな、織斑君」と言い出す始末。一夏が可哀想に思えてくる程だ。

 

「お、ウィル!」

 

「よう、お二人さん」

 

「ホーキンス君と・・・それが『バスター・イーグル』?初めて見た・・・」

 

「ああ、これが俺のISだ。っと失礼。ウィリアム・ホーキンスだ。ウィル、ウィリアム、好きに呼んでくれ。よろしく」

 

「“更識簪”、よろしく・・・」

 

「さっきは食事中にすまなかったな。まさかラウラがああなるとは・・・」

 

「俺もあの時はビックリしたぜ」

 

「もう、気にしてないから・・・大丈夫・・・それより・・・」

 

「ん?」

 

「そのIS・・・初めて見るタイプ・・・」

 

「ああ、これは試作だからな。一応高速戦闘に重点を置いた機体だ。ま、戦闘機をちっこくした様な感じだな」

 

「それに、その顔のペイント・・・機体によく似合ってる・・・なんか、アニメの機体みたい・・・」

 

ほぉ、この娘とは美味いコーラが飲めそうだ・・・。

 

「まあ、これは俺の趣味だがな」

 

「けど実際、そのISにシャークマウスってよく映えてるよな。なんかウィルのトレードマークって感じだ」

 

「よし、一夏!今度俺がコーラを奢ってやる!」

 

「おお、サンキュ!っとそろそろ時間だから、また後でな!」

 

そう言って、一夏達は整備室の奥へと向かって行った。

 

「ふふ、大分打ち解けたようだな。良かった良かった」

 

そう呟く。

最初はどうなるかと思ったが、上手く行きそうでなによりだ。

 

「ごめ~ん、ホーキンス君!遅くなっちゃった!」

 

「わりぃわりぃ、遅れちまって。早速始めるとするか!」

 

どうやら先輩達が到着したようだ。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「よろしくね!」

 

そう言って来るのは、3年の“森岡早苗”先輩。

 

「おう、よろしくな!それで?どこを整備すりゃあ良いんだ?」

 

男勝りな口調と茶髪が目立つ女性、2年の“アメリア・モーガン”先輩が聞いてくる。

二人とも作業着の格好だ。

 

「そうですね・・・動翼と背部のブレーキとエンジンの点検・整備をお願い出来ますか?」

 

「それなら一度見てましょうか。アメリアちゃん」

 

「了解っ!腕が鳴るぜ!」

 

「それじゃあ、自分は他の部位を点検します」

 

こうして、三人は各々の仕事に取り掛かった。

 

 

翌日 放課後のグラウンド

 

昨日は点検と整備だけで終わってしまったので、俺達はグラウンドで最終テストを行っている。

 

「よし、それでは今からエンジンのテストを開始します。危ないので下がっていて下さい」

 

「分かったわ。外部に異常が無いかはこっちで見とくわね」

 

「指示はこっちから出すから思いっきり噴かせよ!」

 

「了解です。それでは」

 

そう言って、何時もの手順でエンジンを始動させる。

エンジンが安定し始めてきた。

 

「よし、出力を最大に上げてくれ」

 

アメリア先輩が無線で指示を飛ばしてきた。

 

「了解」

 

言われた通り、エンジン出力を最大まで上げる。

 

・・・ゴォォォォォオオオオオ!!

 

轟音と共にノズルから青い炎が吐き出される。どうやらエンジン出力の問題は無いようだ。

 

「よし、問題無しっと。次はベクタードノズルを動かしてくれ」

 

言われた通り、ノズルをランダムに動かす。

 

「よし!エンジンテストはクリアだ!」

 

「外部の異常も無かったわ」

 

「ありがとうございます」

 

「じゃあ最後に動翼とブレーキの動作確認をして終わりにしましょう」

 

「分かりました」

 

動翼とブレーキをパタパタと動かして見せる。

 

「うん、異常無しよ。お疲れ様」

 

「ありがとうございました」

 

「おう、お疲れ様。また何かあったら言ってくれよな!」

 

「はい、またよろしくお願いします」

 

そう言って二人を見送った後、俺もグラウンドを後にした。

 

 

制服に着替えて夕食を終えた後、自室に向かっている途中。

ドンッ!

 

「うおっ!?」

 

曲がり角で誰かとぶつかった。

 

「スマン、大丈夫か?って君は・・・」

 

「うぃ、ウィリアム君・・・?」

 

ぶつかった相手は目尻に涙を浮かべた更識さんだった。

 

「・・・何かあったのか?」

 

「・・・・・」

 

更識さんは無言でコクリと頷いた。

 

 

 

「・・・成る程な」

 

どうやら偶然にも一夏と会長の会話を聞いてしまったようだ。まあ、俺も一枚絡んでいるのだが・・・。

 

「君の機体開発に使われた稼働データは一夏のものでは無く、会長のデータだったと・・・」

 

それは俺も初耳だ。だが、姉に追い付く為に必死で機体開発をしていたのに、その機体に姉のデータが使われたと知ってしまった時のショックは計り知れないだろう。

 

「・・・やっぱり、私は無能なままでいろって・・・事なのかな・・・?」

 

「・・・少なくとも彼女はそんな事など微塵も思っていないという事だけは言い切れるな」

 

ただ、超が付く程に不器用なだけだろう。

 

「一夏だってそうだ。君に接していたのは紛れも無く演技なんかじゃあ無い。聞けば昨日の試運転時の事故の際、身を呈して君を庇ったそうじゃないか。上っ面だけの奴がそんな事出来るか?」

 

一夏が更識さんを庇って、中央タワーの外壁に突っ込んだ。という事を昨日の話し合いの時に聞いた。その時は会長と二人で驚いたものだ。

 

「ま、やり方は些かアレだが、君の事を思っての行動だろう」

 

「・・・私の、事を・・・?」

 

「上手くは言えないがそう言う事だ。一度しっかりお姉さんと話してみると良い。・・・さて、明日はタッグマッチ当日だろ?そろそろ寝た方が良い」

 

「うん・・・分かった。ありがとう・・・」

 

そう言ってくる彼女の顔には涙のシミが二筋。しかし、泣きそうな顔はもうどこにも無かった。

 

「気にするな。前に俺の相棒を誉めてくれた軽い礼だよ」

 

そう言って今度こそ自室に帰った。

 



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第70話

タッグマッチ当日

 

 

「とうとう来たか・・・タッグマッチトーナメント」

 

「どうした?緊張しているのか?」

 

朝、自室でコーヒーを飲みながらラウラと会話する。

 

「まあな。2年や3年の専用機持ちも出てくるんだ。緊張もするさ」

 

ズズズッとコーヒーを啜りながら答える。

 

「ま、全力で挑むだけだ。盛大に暴れてやるさ」

 

ニヤリ、笑い顔を浮かべる。

 

「ふふ、その意気だ」

 

朝の一服を終え、俺達はホールに向かった。

 

 

「それでは、開会の挨拶を更識楯無生徒会長からして頂きます」

 

虚さんがそう言って、司会用のマイクスタンドから一歩下がる。

因みに俺と一夏、のほほんさんも生徒会メンバーなので、虚さんの後ろに整列していた。

 

「ふあー・・・。ねむねむ・・・」

 

「シッ。のほほんさん、教頭先生が睨んでる」

 

一夏がのほほんさんに注意する。

因みに俺は一夏の真横で手本の様にビシッと真顔で立っている。こういう場では気が引き締まるものだ。

 

「ういー・・・」

 

目を凝らして見ないと分からない程、小さくのほほんは頷いた。それを見てまた睨み付ける教頭先生。

 

「どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとっても勉強になると思います。しっかりと見ていて下さい」

 

淀み無く澄んだ声、しっかりとした発音は、まるで一つの美しい音楽のようですらある。

 

「まあ、それはそれとして!」

 

パンッと扇子を開く。そこには『博徒』の文字。

 

「今日は生徒全員に楽しんでもらう為に、生徒会である企画を考えました。名付けて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」

 

ガタガタッと俺と一夏がズッコケそうになる。

わあああああっ!と、きれいに整列していた生徒達の列が一斉に騒ぎ出した。

 

「ちょっ!それギャンブルじゃないですか!ここはベガスじゃないんですよ!?」

 

ズッコケそうになるのを必死に耐えて、ツッコミを入れた。

 

「ホーキンス君、安心しなさい」

 

「え?」

 

「根回しは既に終わってるから」

 

ニコッと笑みを浮かべる会長。よくよく見ると、教師陣の誰も反対していない。・・・織斑先生だけは頭が痛そうにしているが。

 

「それにギャンブルじゃありません。あくまで応援です。自分の食券を作ってそのレベルを示すだけです。そして見事優勝ペアを当てたら配当されるだけです」

 

「それをギャンブルって言うんですよっ!」

 

「そもそもそんな企画、一度も聞いてないですよ!?」

 

どうやら、一夏も初耳のようだ。

 

「おりむーもホー君も生徒会に来ないから~。私達で多数決取って決めましたぁ」

 

「くっ・・・。そりゃ確かに最近は整備室にしか行ってなかったけど・・・!」

 

一夏がそう言って頭を抱える。

 

「で、でも確か日本ではギャンブルが法律上禁止されてるんじゃ・・・」

 

「ホー君、ホー君」

 

「な、何だ?」

 

「バレなきゃ犯罪じゃないんだよー」

 

「」

 

どんな理屈だよ!?

屈託の無い笑みでそう言われる。しかも、既に会長は生徒全員のハートをキャッチしている。

・・・ハァ、諦めよう。これがIS学園、これが会長の力なんだ・・・。

 

「では、対戦相手を発表します!」

 

そう言って大型の空中投影ディスプレイが会長の後ろに現れる。

そこに表示されたのは━━

 

「げえっ!?」

 

「Oh・・・」

 

第一試合、織斑一夏&更識簪vs篠ノ之箒&更識楯無━━。

早速本命か・・・。いつぞやのラウラ戦を思い出すな。ま、今回はそのラウラがパートナーなんだけどな。

 

 

「まさか初戦で楯無さんと当たるとはな・・・」

 

「ああ、なんか俺とお前ってこういうの多いよな?」

 

そんな話をしながら、第四アリーナへの道を歩く俺と一夏。俺の出番はまだだが、先に着替えを済ませておこう。という判断で俺もついていっているのだ。

 

「あっ、織斑君、ホーキンス君!」

 

たったかたーっと走って来たのは、黛薫子先輩だった。

 

「どうしたんですか?俺達、ISスーツに着替えに第四アリーナまで行かなきゃいけないんですけど」

 

一夏がそう告げる。

第四アリーナはここからかなり遠回りして行かなければいけないので、かなり遠い。試合前から中距離ランニングと同じ事をさせるとは、部屋割りを決めた人はまさに鬼畜だな。

 

「これこれ、オッズ(予想配当率)なんだけど」

 

「はあ」

 

「どれどれ?」

 

見せられた紙には、ペアの投票率が書かれていた。

 

「因みに俺は━━げっ。最下位・・・」

 

一夏がガックリと肩を落とす。

 

「まあ、更識さんのデータも未知数だからでしょうけどね」

 

俺達の投票率は・・・っと。お、あった。ふむ、5位か・・・。

 

「・・・専用機持ちって結構いるんですね」

 

「そうよ。1年生だけで8人。今年は異常よ、異常。2年と3年合わせても片手で足りるのに・・・しかも、最新型の第三世代が何機いると思ってるのよ」

 

「なんか凄いですねぇ」

 

俺はヒュー。と、口笛を鳴らした。

 

「何呑気な事言ってるの。君達のせいでしょ、君達の!」

 

・・・あ、そうだった。

 

「しかも篠ノ之さんの紅椿に至っては第四世代相当な訳だし・・・」

 

「みたいですね」

 

「って!そんな話はいいのよ!ともかくね、試合前にコメント頂戴!今から全員分行かないといけないから、私忙しいのよ!はい、ポーズ!次、ホーキンス君!はい、ポーズ!」

 

言うなり、カシャッ!カシャッ!とシャッターを切る。相変わらず行動力の塊みたいな人だった。

 

「写真オーケー!それじゃあコメント!」

 

「え、えっと・・・精一杯頑張ります!」

 

「目指すは優勝!くらい言ってよ!」

 

「いや、それは・・・」

 

「うーん。あ、そうだ」

 

何かを考えてから、黛先輩は顎に手を当ててキリリッとキメ顔を作った。

 

「『俺に負けたら恋のハーレム奴隷だぜ』・・・って、どう?」

 

うわぁ・・・それはあまりに痛過ぎるだろ・・・。

 

「なんですか、それ!」

 

「いや、姉さんがそんなような事言ってたから」

 

一夏・・・お前は箒との取材の日に何があったんだ?

 

「あはは。織斑君って本当にからかうと面白いわねー。たっちゃんの言った通りだわ」

 

「やめてくださいよ、本当に・・・」

 

「まあまあ、そう言わずに。それじゃあホーキンス君!一言お願い━━」

 

黛先輩がそう言って近づいてきた時だった。

 

━━ズドォオオオオンッ!!

 

「「「!?」」」

 

突然、地震の様な大きな揺れが襲う。

 

「きゃあっ・・・!?」

 

「危ない!」

 

連続して続く振動に、黛先輩が姿勢を崩す。

壁に体をぶつけそうになる先輩を、俺は反射的に腕を引いて抱き寄せた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「う、うん。それより・・・何が起きているの・・・?」

 

バシャンッ!と派手な音を立てて、廊下の電灯が全て赤色に変わる。続けて、あちこちに浮かんだディスプレイが『非常事態警報発令』の文字を告げていた。

 

『全生徒は地下シェルターへ避難!繰り返す、全生徒は速やかに地下シェルターへ避難!』

 

先生が緊急放送で避難を促す。

続けて、また大きな衝撃が校舎を揺らした。

 

「おい一夏!大丈夫か!?」

 

「ああ、大丈夫だ!それよりも・・・」

 

「ああ。これは・・・!」

 

前世でも一度だけ似たような体験をした事がある。乗艦していた空母が奇襲攻撃を受けた時の状況にそっくりだった。

 

 

「織斑先生!」

 

廊下を走っていた真耶は、やっとの事で千冬を見つけた。

 

「山田先生、状況は?何が起こっている?」

 

「しゅ、襲撃です!こ、この画像を見て下さい!」

 

息を切らしながら、真耶は携帯端末を取り出す。そこには数秒前のアリーナ・カメラで確認された『敵』の姿が克明に写っていた。

 

「こいつは・・・!?」

 

「は、はい!以前現れた無人機と同じもの━━いえ、発展型だと思われます!」

 

その機体は以前襲撃してきたゴーレムⅠとは違って全体的にほっそりしたシルエットに頭部は以前の複眼とは違い、高視野を獲得する為、ラインアイとなっており、額からは羊の角のようなハイパーセンサーがとびだしている。そして、右腕には巨大なブレードが、左腕にはあのゴーレムⅠの意匠を受け継いだ巨腕。その掌には超高密度圧縮熱線を撃ち出す穴がポッカリと開いていた。

 

「数は?」

 

「5機です!待機中だった専用機持ちの生徒が襲われています!それとは別に、二つの機影も確認しました!」

 

「分かった。教師は生徒の避難を優先。戦闘教員は全員が突入用意、装備はレベルⅢでツーマンセルを基本に拠点防衛布陣を敷け!」

 

「りょ、了解!」

 

真耶は背筋を伸ばしてそう答えると、自分の機体を取りに格納庫へと走り出した。

その背中を見送ってから、千冬は思い切り壁を殴りつける。

 

「やってくれるな・・・。何者か知らんが、甘く見るなよ」

 

千冬はその目に怒りの炎を宿しながら、小さく━━しかし、はっきりとした声でそう呟いた。

 

 



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第71話

大急ぎでISスーツに着替えた俺達は、そのまま全速力で外へと続く長い通路を駆けていた。

揺れの間隔からして敵は複数・・・何機だ・・・!?

その時

ズドォオオオオン!!ガラガラガラ!

どうやら至近弾が命中したようだ。そのせいで、天井の一部が俺と一夏を隔てて崩れてきた。

 

「ウィル!大丈夫かっ!?」

 

瓦礫越しから一夏の声が聞こえる。

 

「大丈夫だ!それより、お前はその道を真っ直ぐ走って外に出ろ!俺は別の道から行く!」

 

「分かった!気を付けろよ!」

 

「お前もな!」

 

そう言って別々に走って行く。

 

「くそっ!迷路みたいに入り組みやがって!」

 

悪態をつきながら、走り続ける。

その時、十字路の右の方角から声が聞こえた。

声の方に進むと、数名の女子達が集まっていた。

 

「どうしたんだっ!?」

 

声を掛けると、数人の女子がこちらを向いて驚いた顔をした。

 

「あ、あなたは・・・」

 

「・・・ホーキンス君?」

 

「早くシェルターに急がないとここも危ないぞ!」

 

俺の言葉に女子達は眉を八の字に曲げる。

 

「それが、さっきの衝撃で配電盤の一部が壊れて扉が開かないの・・・」

 

見ると、確かに扉は固く閉ざされており、何人かの女子が叩いているが、ビクともしない。

 

「・・・仕方ない。みんな少し下がってろ!」

 

ISを展開し、手元に76mm砲を呼び出す。

 

「ほ、ホーキンス君?何を・・・?」

 

「少し派手に行くぞ・・・!全員俺の後ろに隠れて耳を塞いでろ!」

 

女子達は俺が何をするのかを察し、急いで下がって行く。

 

「っ!!」

 

ダァン!

発射された砲弾は分厚い扉を食い破り粉砕した。

飛び散った破片が俺に降り注ぐ。

 

「よし、開いた!怪我人は?」

 

「誰もいないわ!」

 

「なら急いでシェルターに向かうんだ。行き方は分かるか?」

 

「大丈夫、もう直ぐそこだから。本当にありがとう」

 

「「「ありがとう!」」」

 

女子達が口々に礼の言葉を告げてくる。しかし、ここで照れている暇など無い。

 

「どういたしまして」

 

そう言い残して、俺はまた走り出した。

 

「ダメだ・・・どの通路も完全に塞がれてる。何か他に出口は・・・」

 

走りながら策を考える。

・・・そうだ!アリーナなら、アレが使えるかもしれん!

 

「善は急げだ!」

 

そう言って、通路横の案内板を頼りに目的地へと急ぐ。

 

目指すはアリーナ上部のピット━━そこにあるカタパルトだ。

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・やっと、着いた・・・」

 

階段を駆け上がり、ひたすら走り続けてようやくピットに到着した。ピットのコントロールルームに入る。

 

「先生!」

 

俺はコントロールルームにいる教員の一人━━“ミラーナ・レヴィツキー”先生の元に向かう。

因みに彼女はロシア出身、数学Ⅱ担当。23歳。絶賛彼氏募集中だ。

 

「ホーキンス君!?あなたこんな所で何を━━」

 

「それより、あのカタパルトは使えますか!?」

 

先生の言葉を遮って、カタパルトが使用可能かを問う。

 

「使えるけど・・・」

 

「ならそれで今すぐ俺を撃ち出して下さい!」

 

「ダメよ!今教員部隊が向かっているわ。あなたもシェルターに━━」

 

「レヴィツキー先生。織斑先生から通信です!」

 

そう言って来るのは、2年の整備科、機械科工学担当の“佐藤美緒”先生。同じく23歳。

 

「ちょっと待って。はい、レヴィツキーです。はい、今ここにいます。はい・・・分かりました。ホーキンス君、織斑先生が替わって欲しいって」

 

「はい、替わりました。ホーキンスです」

 

『ホーキンス、先程襲撃してきた五機の無人機とは別にもう二機の反応を確認した。敵機と見て間違いないだろうが、教員は手が塞がっていて対処出来ない。他の専用機持ち達もだ。・・・こんなことを生徒に頼むのは間違っているが、頼めるか?』

 

「勿論です!」

 

『そうか・・・すまない、迷惑を掛ける・・・』

 

「気にしないで下さい。それでは」

 

そう言って通話機をレヴィツキー先生に返す。

 

「はい、了解しました。・・・聞いての通り、織斑先生から許可が出たわ。けど無理は禁物よっ!」

 

真剣な眼差しでそう言って念をおしてくる。

 

「しっかり留めておきます」

 

「それなら、直ぐにISを展開してカタパルトに接続して頂戴」

 

「分かりました!」

 

そう言って部屋を出た俺は直ぐ様ISを呼び出して、カタパルトと接続する。

エンジン回転数も安定してきた。

 

「よし、カタパルト接続完了。全項目チェック完了。現在射出待機中」

 

ヤーパニマーユ(分かったわ)!それじゃあ、撃ち出すわよ!』

 

「了解!」

 

そう言うや否や、軽い衝撃の後、俺はカタパルトを滑る様に撃ち出された。

 

「こちらホーキンス。無事離陸しました」

 

『こっちでも確認したわ』

 

スパシーバ(ありがとうございます)。レヴィツキー先生」

 

ふざけてロシア語で礼を言ってみる。

 

『ふふ、生意気な生徒ね。気を付けて行ってらっしゃい』

 

「分かりました」

 

そう言って、俺はレーダーに映る光点の方角に飛んで行った。

 

 

 

「見つけたぞ・・・!タリー、ツーバンディッツ(敵性航空機二機を捕捉)

 

ハイパーセンサーで、二機の機影をしっかりと確認した。

ソレはまるで尻尾の無いエイの様な見た目だった。機体の機首に当たる部位には『Saber7』と刻印されている。

 

「・・・セイバー7?あの機体の名称か」

 

敵機がミサイルを発射する。

 

「アクーラ、エンゲージ(交戦)!」

 

フレアを撒きながら回避行動に移り、そのまま相手の後ろに付く。

しかし、敵も簡単にはやられてくれない。ミサイルをロックして発射すると、無人機特有の妙な機動でかわされてしまった。

そのまま俺を振り切ろうと、速度を上げる二機のセイバー。俺はそれを逃がすまいと、ピッタリくっついて離さない。

そんな追いかけっこをしていると、アリーナの上空を通過した。

 

「っ!あれは・・・!」

 

一夏と更識さんだ。二人は襲撃機と戦っている。他のみんなも別の襲撃機と戦っている様だ。

 

「こっちも早く片付けて援護しに行かないと・・・」

 

そう言いながら、ロックオンカーソルをセイバーの一機に合わせようとしたその刹那━━

 

「っ!」

 

二機の無人機は阿吽の呼吸とも言える動きで急減速し、俺の後ろに回った。

今度はこちらが追われる番となる。

 

「チッ!離れろよっ!」

 

乾いた電子警告音が鳴り響く。

俺はミサイルをロックされないように回避機動を取りながら、逆転の隙を窺うが、隙の『す』の字もありはしない。

何か形勢逆転をする方法は・・・!?

ISスーツ越しに嫌な汗をかきながら、必死に考える。

 

「っ!!そうだ・・・!あの方法なら!」

 

一つの案が浮かんだ。一か八かの賭けだがやってみる価値はある。

 

「よし、しっかり付いて来いよ!!」

 

俺は後ろに二機のセイバーを引き連れて、急上昇して行った。

 

 

コントロールルーム

 

 

「ホーキンス君?一体どこへ・・・?」

 

ミラーナが呟く。

 

「・・・恐らく飛行限界点です」

 

美緒がそれに答える。

ジェットエンジンは運用の際、大量の空気(酸素)を必要とする。しかし、現代のジェット戦闘機の飛行限界点は高度37km、これでも空気の薄い高高度を超音速で飛行するために作られた戦闘機だけが成し得た記録だ。では、通常の戦闘機や無人機では?恐らく大半が酸素不足でエンジン停止に追い込まれるだろう。ましてや、あのセイバー機は見るだけでも高高度での戦闘は想定されていない。ウィリアムはそれを踏まえて賭けに出たのだ。

しかし、それは同じくジェットエンジンが大半の推力を生み出しているウィリアムのISも同じだ。

 

 

後少し、後少しで飛行限界点だ!

━━警告、エンジンコンプレッサー停止

電子音声と共にWARNING!の文字が映し出される。

しかし、それを無視して上昇を続ける。

そろそろか、あいつらはどうなった?

そう思いながら、後ろを確認する。

そこにはエンジンが停止し、推進力を失って自由落下を始める二機がいた。

 

「ビンゴ!予想通りだ!」

 

彼の予想は見事的中した。

 

バチッ!ビチッ!キイイィィィィィィィィ・・・

 

同じくウィリアムのISもコンプレッサーが完全停止し、エンジンが止まってしまった。

排気ノズルからパッパッと数回炎を吐いた後、真っ逆さまに落ち始める。

しかし、ウィリアムは動じず冷静に攻撃の用意をし、ヒラヒラと木の葉の様に落ちて行く敵機の一機目にカーソルを合わせる。

QAAM(高機動空対空ミサイル) RDY』

━━発射。

一機目を撃墜した。

続いて残る一機にもロックし、ミサイルを発射。

敵は小さな鉄片となって落ちていった。

セイバー二機を叩き落としたウィリアムは墜落を防ぐため、PICと補助翼を使って体勢を立て直す。

 

「よし、全機撃墜!」

 

索敵レーダーにも何も反応していない。

周囲の安全を確保した俺は、一度学園に戻る事にした。

 

 

 



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第72話

学園の上空に戻っている最中、ウィリアムはコントロールルームの回線に繋ぐ。

 

「レヴィツキー先生、今しがた敵性反応の二つを撃墜、無人戦闘機でした。そちらで確認出来ますか?」

 

『ええ、こちらでも確認したわ。ちょっと待ってて。今織斑先生に繋ぐ』

 

レヴィツキー先生が、織斑先生への回線の用意をする。

 

『織斑だ』

 

「織斑先生、ホーキンスです。反応のあった二つを撃墜しました」

 

『そうか。二対一でよくやってくれた。続けざまにすまないが織斑達の増援に向かってくれ』

 

「了解です」

 

そう言って交信を終え、一夏達の元に急行した。

 

 

一夏と簪は、先程襲撃してきたゴーレムⅢの内の一体と交戦していた。

そこへ、別のゴーレムⅢと交戦していた箒と楯無が合流する。

しかし、ここで事態は急変。

ゴーレムのブレードによって斬られそうになった簪を楯無が庇ったのだ。何とかそのゴーレムは破壊したが、楯無が戦闘不能の重症を負ってしまった。

残ったゴーレムⅢは一夏にターゲットを絞り、容赦なく攻撃を仕掛ける。

振り下ろされたブレードを力押しでどけた一夏は、そのまま全力で無人機に斬りかかった。

 

「くっ・・・!浅かったか!」

 

致命傷を与えられなかった事に焦った彼は、つい深く踏み込んでしまった。

 

「一夏!危ない!!」

 

箒が大声で怒鳴るが、反応が遅れた。

ゴーレムⅢはその巨大な左腕を向けて、超高密度圧縮熱線の発射態勢を取る。

まずっ・・!間に合わない!

ゴーレムⅢの掌がオレンジ色に輝き、ビームが発射され、一夏に直撃する━━筈だった。

 

シュッ!ドォン!

 

突如高速で何かが横切り、ゴーレムⅢの左腕が爆発した。

その爆風に煽られ、明後日の方角にビームを放ちながら吹っ飛ぶゴーレムⅢ。

 

「な、何だ?一体誰が・・・!」

 

一夏達が驚いた様子で、辺りを見渡す。

 

「━━スマン、遅くなった!」

 

無線から聞き慣れた声が聞こえる。

 

「ウィル!」

 

彼らの頭上には轟音を響かせながら、ウィリアムが浮遊していた。

 

「さっきその無人機共とは別の奴の相手をしていたんだ!それより会長は無事なのか!?」

 

「・・・大丈夫・・・この通り生きてるわ・・・」

 

会長の声は弱々しいが、無事のようだ。

 

「良かった・・・今から俺も加わる!さっさと片付けちまおう!」

 

しかし、それを会長が制止した。

 

「・・・待ってウィリアム君。こっちは大丈夫だから、あなたはラウラちゃんとシャルロットちゃんの所へ行って。あそこでは今二人が戦っているの。けど時間の問題よ。早く助けに行ってあげて」

 

「っ!!了解、直ぐに向かいます」

 

そう返事をした後、一夏達に振り返る。

 

「一夏!ここは頼んだぞ!」

 

「おう、任せとけ!絶対に勝つ!それと、ウィル、気を付けろ。こいつらの攻撃はシールドを破ってくるぞ!」

 

「分かった!留意する!」

 

俺はラウラ達がいる場所へ向かった。

無事でいてくれよ・・・!

 

 

「くっ!こいつ・・・!」

 

見た目に違わぬ機動力で、ヒラリヒラリと攻撃がかわされる。

そして、ゴーレムⅢは空かさずラウラに肉薄し、その巨大な腕で彼女の頭を万力のように掴んできた。

メキメキと悲鳴を上げる頭部ハイパーセンサー。そしてうるさいくらいの警告表示。

ラウラはとにかく拘束から抜けようと左腕のプラズマ手刀を展開した。

腕ごと断ちきってくれる!

そう思うと同時の高速斬り上げだったが、それはゴーレムⅢの右腕のブレードに阻止された。

 

「何っ!?」

 

━━まずい!

そう思った瞬間、しかし頼もしい声が聞こえた。

 

「ラウラ!」

 

シャルロットだった。その左腕部から69口径パイルバンカー《灰色の鱗殻(グレート・スケール)》を飛び出させている。

 

「このぉっ!!」

 

ドズンッ!

激しい音を立てて、ゴーレムⅢの腕が離れる。

しかし、手が離れる瞬間、その掌の砲口から、高密度の熱線が放たれようとするのを見た。

 

「シャルロット!」

 

「伏せて!」

 

ラウラとゴーレムⅢの間に体を滑り込ませたシャルロットは得意の『高速切替(ラピッド・スイッチ)』で物理シールドを三枚重ねて呼び出した。

 

「くぅっ・・・」

 

強固な物理シールド、それが三枚重ねですら防ぎきれず、ビームがシャルロットに襲い掛かった。

 

「しゃ、シャルロット!!」

 

「だ、大丈夫・・・だけど、リヴァイヴが・・・」

 

シャルロットのISが戦闘不能に陥ってしまった。

 

「・・・許さん。貴様ぁぁぁっ!」

 

バッと左目の眼帯をむしり捨て、AICをフルパワーでゴーレムⅢに放った。

 

「━━━━━」

 

ピシリと凍り付いた様に動きが止まる。

 

「砕け散れぇぇぇぇ!」

 

大口径リボルバーカノンの高速連射。轟音と爆音が鳴り響く。

 

「うおおおおっ!」

 

「ラウラ、ダメ!下がって!」

 

シャルロットの呼び声は遠く、ラウラはその声を聞くよりも前に一瞬で距離を詰めて来たゴーレムⅢに驚愕する。

 

「《瞬時加速(イグニッション・ブースト)》!?しかもこの出力は━━」

 

ゴーレムⅢはその右腕を大きく振り上げる。

 

「ラウラぁぁぁぁっ!!」

 

シャルロットが叫ぶ。

そして、巨大なブレードがラウラに振り下ろされる刹那━━

ガギッ!

ウィリアムが割って入ってきて、それを受け止めた。

 

「なっ!?ウィル!?」

 

「なんとか間に合ったか・・・!」

 

ウィリアムの『スコーピオン』とゴーレムⅢのブレードがギリギリッという音を立てて鍔迫り合う。

 

「チッ!」

 

ゴーレムⅢが空いたもう片方の腕を伸ばして俺を鷲掴みにしようとしてきたので、腹を蹴飛ばして離れる。

 

「危なかった・・・大丈夫か?ラウラ」

 

「あ、ああ。助かった」

 

「良かった・・・。シャルロットは?」

 

「大丈夫。けど酷くやられちゃって戦闘には加われそうにないよ・・・」

 

「無事ならそれで良い。後は任せてくれ。ラウラ行けるか?」

 

「問題無い」

 

「上等だ。行くぞ!」

 

俺は機銃を、ラウラはリボルバーカノンを撃ちながら、ゴーレムⅢに突撃した。

 

 

 

ゴーレムⅢと交戦を始めてからどれ程の時間が過ぎたのだろうか。ウィリアムとラウラの顔には疲労が色濃く見える。

と言うのも、このゴーレムⅢ。高機動、高火力に加え、あり得ない硬さなのだ。

 

「畜生・・・!こいつ硬すぎる!」

 

ミサイルを発射しても、しなやかな動きでかわされる。撃つだけ無駄だ。

それならと、高火力・高初速の76mm砲を頼ってみるが、これも当てられない。

仕方なく30mm機銃に頼っているのが現状だ。

 

「バカみたいに硬いくせして速いなんて詐欺だな・・・!」

 

その時━━

ガチッ!空薬莢が詰まってしまった。

 

「しまっ━━グアッ!?」

 

ゴーレムⅢに脚を掴まれ、そのまま無人のピットへと投げ飛ばされ、叩き付けられた。

 

「ウィル!早く体勢を立て直せ!」

 

そう言ってラウラが俺の所に飛んでくる。

 

「ラウラ!こっちに来る・・・なっ!?後ろだっ!!」

 

俺の元へと飛んでくるラウラの後ろ━━そこには、ラインアイを不気味に光らせたゴーレムⅢがあり得ない早さで彼女に接近し、その右腕を引いて刺突の構えを取っていた。

 

「っ!?」

 

ラウラの反応が一瞬遅れる。

そして、無情にもブレードは突き出された。

 

 

ズサッ・・・

 

「━━え?」

 

しかし、突き出されたブレードは、ラウラの体には届かなかった。

その前に現れた影が、庇うようにラウラの前に飛び出たのだ。

 

「ウィ・・・ル・・・?」

 

影は、ウィリアムだった。

咄嗟の判断で飛翔し、彼女を守ったのだ。

刺された傷口から鮮血がISの装甲を伝ってボタボタと滴り、小さな血溜まりを作る。

 

「グゥッ・・・」

 

そのまま、ぼろ雑巾の様に振り落とされた。

 

「ウィル・・・ウィルっ!!何故・・・こんな・・・!」

 

「・・・ハハ、決まってるだろ。そりゃあ・・・━━」

 

糸が切れた様に、ウィリアムから力が抜けた。

ギロリ、とラウラはゴーレムⅢを睨み付ける。

 

「貴っ様ぁぁぁぁっ!!」

 

激情に身を焼かれたラウラは両腕のプラズマ手刀を展開し、ゴーレムⅢ目掛けて突撃した。

 

 

「・・・ろ」

 

誰かの声が聞こえる。

 

「・・・きろ・・・起きろ!」

 

「ハッ!?」

 

何者かの声で、ウィリアムの意識は覚醒した。

 

「ここは・・・?」

 

辺りを見渡すと、蒼い空が広がり、周りは地平線に囲まれている。

そして、目の前に立っているフライトスーツを着た男。

 

 

「よう、相棒。まだ生きてるか?」

 

 

その男に声を掛けられた。

 

「相棒・・・?」

 

確かにその人物はそう言ったのだ。

初めて会った筈なのに、初対面ではないような感覚・・・。

 

「おいおい、分からないのか?俺だよ俺!」

 

こんな知り合いが俺にいたか?

そう思い、眉をひそめる。

 

「ハァ・・・まあ仕方ないか。ならこれでどうだ?これなら見覚えがあるだろ?」

 

そう言って見せてくるのは、二つのワッペンだ。

 

「なっ!?」

 

見間違える筈が無い。そこにはかつて俺が乗っていた戦闘攻撃機バスター・イーグルのワッペン。

そしてもう一つは━━

 

「ウォーバード隊の・・・部隊章・・・!?」

 

何故、この男が持っている?

まだ混乱している俺に、男は更に衝撃的な一言を告げた。

 

「型式番号、FSu-72E・・・」

 

「っ!?!?」

 

頭が一気にクリアになった。

 

「これで俺が何者か分かったか?」

 

ニヤリと笑いながら聞いてくる男。いや━━

 

「お前、まさか・・・!」

 

「そうだ。俺がバスター・イーグルだ。初めまして(・・・・・)。と言うべきか?ホーキンス中佐。いや、『アクーラ』」

 

まさか・・・いや、そんな・・・!

 

「いやぁ、まさかあの時敵の巡洋戦艦に体当たりしたと思ったらこんなところでISとか言うやつになってたから驚いたぜ」

 

この出来事は俺しか知らない筈だ。と言う事は・・・。

 

「やはり、本当にあの(・・)バスター・イーグルなのか・・・」

 

「だからそう言ってるだろ。ま、今はISだがな」

 

・・・そう言えば、随分前に授業で習ったな。ISには意識に似た様なものがあるって・・・って!そんな事は今はいい!

 

「ラウラは!?あの無人機はどうなってる!?」

 

目の前の相棒に詰め寄る。

 

「今も戦闘中だ。だが、このままじゃジリ貧だな」

 

「クソッ!早く何とかしないと・・・!ここから出るにはどうすれば良い!?」

 

「方法は簡単だ。だが、お前は重症。これ以上戦ったら最悪死ぬぞ?良いのか?」

 

『死』この単語が頭を過る。

 

「・・・死ぬ気は無い」

 

「・・・・・」

 

相棒は無言で聞いてくる。

 

「ラウラを助けて、俺も生き残る・・・!」

 

ハッキリとそう告げる。

 

「よし!よく言った!それでこそ相棒だ!」

 

ゆっくりと視界が白み始める。

 

「それにしても、まさか万年独身の中佐殿に好きな娘が出来るとはなぁ」

 

「な、何を━━」

 

「好きなんだろ?あの娘の事」

 

「っ!?」

 

顔が熱くなった気がした。

 

「アッハハハハ!!これをお前の同僚がみたら爆笑するどころか呼吸困難でひっくり返っちまうな!」

 

「や、やかましい!」

 

「題名は、そうだな・・・『四十路前の空軍中佐、学生に手を出す』ってか?」

 

「うるせぇ!俺は今16歳だ!」

 

「好きは否定しないんだな。クフフッ」

 

「・・・言い返すのに疲れただけだ」

 

だが事実、こいつの言う通り、俺はラウラの事が好きだ。

何時からだろうか。あの日、唇を奪われた日?それとも二人で出掛けた日だろうか?

 

「行ってこい!」

 

「おう!」

 

とにかく、今はあいつを倒して、ラウラを助けるのが先だ。

 

「後で告っちまえよ」

 

そんな相棒の声を最後に、俺の視界はホワイトアウトした。

 

 

「貴様はっ!貴様だけはぁぁぁぁ!」

 

プラズマ手刀の高速連撃を繰り返すラウラ。しかし、彼女の攻撃は右腕のブレードで防がれ、左腕で首を掴まれた。

 

「ぐっ!かはっ・・・!」

 

「━━━━━」

 

ゴーレムⅢはどんどん握力を強めていき、今度こそと言わんばかりに右腕を上げる。

━━真横から急接近する影にも気付かずに。

 

「・・・ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!

 

「━━━━━!?」

 

大きな振動の後、メギョッというフレームの歪む音と共にゴーレムⅢの手からラウラが解放された。

ゴーレムⅢ自身は横から割って入ってきた黒い影と共に高速で壁に突っ込み、何かの破片が落ちる音と煙が猛々と上がる。

あの特徴的な影の形を見間違える筈が無い。

 

「ケホッケホッ・・・ウィル・・・!?」

 

咳き込みながらラウラがそう呟く。

ウィリアムがゴーレムⅢに向けて最大出力でタックルを仕掛けたのだ。

 

「たかが腹を刺したくらいで、仕留めた気になるなよ・・・!フンッ!」

 

振り上げようとしていたゴーレムⅢのブレードを踏み砕いた。

それならばと今度は左腕の砲口を向けてくる。

しかし、『スコーピオン』を砲口にねじ込まれ、使用不能になった。

 

「これでお前の自慢の武装は潰した。この距離なら・・・!」

 

右手に76mm砲を呼び出す。

 

「━━!━━!」

 

最期の悪足掻きで、使い物にならなくなった左腕を振り回して俺を殴ってくる。

バキッ!と、バイザーが割れて、その破片で右頬を少し切った。

 

「ぐっ!てめぇなんざ・・・!」

 

光を反射して鈍く照り返す76mm砲を高く振り上げる。

 

 

 

一発あれば十分だぁぁぁっ!!!

 

ゴーレムⅢのラインアイに勢い良く突き刺し、引き金を引いた。

 

ダァンッ!

 

先程までもがいていたゴーレムⅢは頭部を粉砕され、その機能を完全に停止すると同時に漏れ出た燃料か何かに引火。静かに燃え始めた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。火葬があるだけマシだと思えっ・・・!」

 

ギギギッと装甲を軋ませながらその場で膝立ち状態になってISを解除する。

 

「ああ畜生。いてぇ・・・」

 

「ウィル!」

 

ラウラがISを解除して駆け寄ってくる。

 

「ラウラか。無事か?まったくお前は本当に危なっかしい事をするな・・・」

 

ラウラがその潤んだ両目を吊り上げる。

 

「どの口が言うか馬鹿者!!・・・もっと自分を大切にしろと━━」

 

「言われたよ。けどな、それよりもお前の方がずっと大切なんだ」

 

ラウラが目を見開く。

 

「そ、それはどう言う・・・!?」

 

頭の中で、『今を逃せば次は分からないぞ』と言われた様な気がした。

・・・よし!

 

「スゥー、ハァー。この機会だから言っておくぞ・・・!」

 

「何をだ?」

 

 

「━━俺は、ラウラのことが好きだ」

 

 

「っ!?!?」

 

ラウラの顔がボンッと赤くなる。

意識が朦朧としているからなのか、案外簡単に口に出来た。

そんな事をしている暇があるなら、さっさと治療しに行け。だって?まあ待てよ、あと少しだから。

 

「い、今何て・・・」

 

「俺は、ラウラが、好きなんだ」

 

ラウラが口をパクパク、俺は心臓をバクバクさせている。

 

「・・・夢じゃ、ないのか?」

 

「ああ、こんな時間から目を開けて眠れる程に器用じゃなけりゃな」

 

「本当に・・・私が・・・?」

 

普段からウィリアムに絡んでいたラウラだが、いざこういう状況になって心配になってきたのだ。

 

「自分で言っておいてなんだが、色気の無いやつだぞ?それに、私のせいでお前は怪我を・・・」

 

そう言う彼女を優しく抱き締めて口を開く。

 

「そう自分を卑下するなよ。それに、俺はちゃんと生きてる。もう引きずるな」

 

「あ・・・」

 

映画とかで『こいつ、よくこんな恥ずかしいことを平然と出来るなぁ』と思っていたが、まさか自分がやるとは思ってなかったウィリアム。

だが、冷静に自分が何をしているのかをよく考え直した瞬間、顔が熱くなるのを感じた。

 

「その、つまりだな・・・ぐっ」

 

身振り手振りをすると、腹部に激痛が走る。

 

「ふふ、相変わらずなやつだ。とにかく止血しよう」

 

「そ、そうだな。このままじゃ失血死しちまう」

 

「目の前で伴侶が失血死なんてしたら最悪だ。これでここを押さえていろ。医務室まで運ぶから肩を」

 

「ああ、頼む。・・・どうやら他の所も片付いた様だな」

 

さっきまで気付かなかったが、このアリーナ以外からの爆音も聞こえなくなっている。どうやら無人機は全て破壊されたようだ。

 

「その様だな。さ、早く行くぞ」

 

「いつつっ・・・!痛覚があるのは生きてる証なんてよく言うが、これは流石にきついな・・・」

 

こうして、一連の襲撃事件は幕を閉じた。

 

 

医務室

 

時刻は夕方。部屋の白い壁はオレンジ色に染まっていた。

患者用のベッドでは、ウィリアムが静かに寝息を立てている。

事件の後、ウィリアムを医務室に連れて行くと、直ぐ様処置が行われ、今は服用した薬の効果で眠っているのだ。

ラウラは夕日の照らされた彼の寝顔を静かに見つめる。

 

━━『お前の方がずっと大切なんだ』

 

━━『俺は、ラウラのことが好きだ』

 

この二つの言葉が頭から離れない。

 

「・・・まさか、あんな場面で告白されるとはな・・・」

 

ロマンもへったくれも無い告白だったが、彼女の心に深く刻まれたシーンだった。

 

「あんな無茶な行動はもうして欲しくないが、それでも・・・嬉しかったぞ。ありがとう」

 

静かに椅子から立ち上がる。

 

「Ich liebe dich・・・」

 

そう言って、ラウラは部屋を後にした。

静寂に包まれた部屋で彼は一人呟く。

 

「・・・返事が聞けて何よりだよ」

 

そう言って、もう一度瞼を閉じた。

 

 




色んな洋画やゲーム等のシーンとかを入れてたら飛んでもない事になってしまい、また体をかきむしりたくなるようなものを作ってしまいました・・・。







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第73話

あれから一週間経ち、退院後。

 

活性化治療によって短期間で退院する事が出来た。

入院生活中は本当に暇で、見舞いに来てくれたラウラや何時もの面々との会話くらいしか楽しみが無く、おまけに取り調べと言われて、二~三時間程事情聴取を受けたりもした。

因みに余談だが、更識さんと会長のわだかまりはあの事件の後、俺が寝ていたのとは別の医務室にて、無事解消されたらしい。

めでたしめでたし、だな。

 

「さぁて、ラウラも待ってることだし、さっさと行くか。今日の飯はなーにっかなー?」

 

生徒会の仕事を済ませ、ルンルン気分で夕食を食べに食堂に入って行った。

 

 

「で?」

 

「っ・・・」

 

食堂のカフェテラスエリアで、鈴がジロッと正面の簪を睨む。

因みにそこにいるのは、鈴、簪、だけでなく、箒にセシリア、シャルロットにラウラ、そしてウィリアムと何時もの面々である。

これで一夏も加えれば見事に一学年の専用機持ち全員が揃う事になる。その数、八人。イコール、IS八機。世界でも有数の軍事国家と渡り合える程の戦力である。

・・・どうしてこうなった!?

 

 

時を遡る事、5分前━━

 

食堂に入った俺は、無事ラウラと合流出来たので、さっそく夕食を手に取り、ラウラが確保していた席に向かった。ここまでは良かったのだ。ここまでは。

みんなもいる。という事を伝えられ、女子同士の夕食の邪魔にならないのか?と思いながらも、ラウラに付いて行った結果━━

『冷や汗滲む、旬のサンマ定食~生暖かい風に晒されながら』を食べるはめになったのだ。

 

 

「まあまあまあ、鈴。落ち着いて、ね。ほら、簪さん、怯えちゃってるし」

 

シャルロットが持ち前の優しさで全員を宥めながら席を立つ。

 

「あ、簪さん。これ、オレンジジュース。どうぞ。喉渇いたでしょ?」

 

シャルロットは本当に良いやつだなぁ。

そう、染々と思う。

 

「・・・・・」

 

怯えた上目遣いでシャルロットを見る簪。そんな視線に対しても、シャルロットはニッコリと微笑んだ。

・・・さっきから俺も異常に喉が渇いている。これが生理現象なのか、はたまた恐怖や緊迫から来るものなのか・・・。

簪はホッとした様な顔をして、オレンジジュースを口にする。

それが二口程喉を通ってから、シャルロットは笑顔のまま簪に訊いた。

 

「それで、実際どうなのかな?」

 

ニコッ★

シャルロット、お前もか。

 

「・・・・・・?」

 

いまいち質問の意図が分かっていないようだ。

ぎこちなく笑みを返す簪が首を捻っていると、箒とセシリアがテーブルを同時に叩いて立ち上がった。

 

「だ、だっ、だからだなっ!い、いい、一夏と、だなっ!」

 

「つつつつっ、付き合ってますの!?」

 

「ッ━━!?」

 

いきなりの飛んでもない質問に、簪はぱちくりと瞬きをして一呼吸。その後でボッと真っ赤になった。

 

「なあ、本当に俺はここにいて良いのか?」

 

ボソッとラウラに話し掛ける。

 

「無論だ。夫婦とは共に食事をするものだ」

 

いや、まだ結婚してないんだけど・・・まあ、それはいい。むしろ誘ってくれて嬉しいくらいだ。

だが━━

 

「そうじゃなくて、ここで食べる意味は?」

 

「周りを見てみろ。他に空席があるか?」

 

言われた通りに辺りを見渡すと、席は全て埋まっている。

 

「・・・無いな」

 

ここで尋問シーンを見ながら飯を食うのか・・・。

諦めた顔をするウィリアム。それをよそに、尋問は続く。

 

「わ、私と一夏は・・・そう言うのじゃ・・・」

 

「『一夏』ぁ?」

 

鈴が、ああん?とでも言いそうな顔をする。

怖いって!何だよその顔!ジャパニーズマフィアかよ!!

 

「うぅ・・・助けてウィリアム・・・」

 

涙目で助けを求められる。

えぇ・・・俺に対処しろと?

・・・ええい!ままよ!

 

「ま、まあ一旦落ち着けよ。更識さんはあいつを名前で呼んだだけだろ?そ、それなら普段からみんなも呼んでるじゃないか」

 

「「「・・・・・」」」

 

四人からとてつもなく威圧の隠った視線を送られる。

 

「あ、アハハ・・・ハハ・・・」

 

冷や汗が滝のように流れる。

 

「ウィル」

 

シャルロットに声を掛けられた。

 

「は、はひ!?」

 

「お口、チャック♪」

 

「」

 

笑顔(黒)でそう言われた。

 

「い、イエス・ミス!でしゃばってすみませんでした!」

 

怖い!怖いって!恋する乙女ってマジで怖いよ!

再度、四人の視線が一斉に簪に突き刺さり、少女はしおしおと小さくしぼんでいく。

 

「それで?結局は一夏とどうなのよ」

 

鈴が問う。

 

「そ、それは・・・その・・・ゴニョゴニョ・・・。希望が無い訳じゃ、ないけど・・・。とにかく、そういうのじゃ・・・」

 

ただでさえ小さい簪の声は、四人のプレッシャーでますますボリュームが絞られていく。最後の方はもう何を言っているのか聞き取れなかったが、顔を赤らめて俯きながら指をいじる仕草を見て俺は確信した。

『ああ、一夏組にまた一人増えたな』━━と。

 

「・・・・・」

 

ガラス越しにトントンとつつかれた小動物の様に小さくなる簪を見た俺とラウラ以外の四人は、今度は今度で目の前の簪が可哀想になって、慌てて取り繕い始めた。

 

「あ、ああっ。更識・・・さん?」

 

「か、簪で・・・良い・・・」

 

おどおどと箒が訊いて、同じくらいおどおどと簪が返す。

 

「じゃ、じゃあ、アタシらも名前呼び捨てで良いから」

 

「う、うん・・・」

 

きっぱりと言い放つ鈴に、簪も少しだけはっきりとした声で答える。

 

「し、しかし、あれですわね。いきなりカフェまで連行とは、エレガントではありませんでしたわね」

 

「び、びっくり、した・・・」

 

ぎこちない笑みを浮かべるセシリアに、簪も不器用な笑みを見せる。

 

「ハァ、やっぱり拉致ったのか・・・」

 

眉間を押さえてかぶりを振る。

 

「う、うん・・・突然、連れていかれた・・・」

 

「・・・おい」

 

ジト目で四人を見ると、目を反らされた。

 

「え、えっと。ケーキも食べる?」

 

「だ、大丈夫・・・」

 

メニューを差し出したシャルロットを簪は小さく手を横に振って制する。

 

「せっかくの同学年だ。今度、放課後に実戦訓練でもどうだ?」

 

「う、うん。ありがとう・・・」

 

ラウラの誘いに、簪は二回頷きながら答える。

 

「「「ふう・・・」」」

 

俺以外の全員が、同時に息をはいた。

それが面白かったのか、少女達はプッと吹き出した。

 

「なんか、変なの」

 

シャルロットが切りの良いところでそう言って、簪に手を差し出す。

 

「これからよろしくね」

 

「う、うん・・・。こちらこそ・・・」

 

握手しているふたりを眺めながら、他の四人もうんうんと頷き、俺も安堵の息をはく。

こうして、抱えた問題は一個解決し、一つの絆が増えたのだった。

 

 

翌日

 

 

「「・・・・・」」

 

俺達は無言で更衣室で体操服に着替えていた。

今日はこれから身体測定なのである。

 

「「・・・・・」」

 

一つ、問題がある。

それは、俺達がなぜか身体測定係りに選ばれているという事だ。

ナ・ゼ・カ・『体位』測定係りだという事だッ!!

 

「うふふ」

 

ああ、魔性の生徒会長の笑みが脳裏に浮かぶ。

だって、おい、『体位』ってつまり、スリーサイズだぞ!?何で許可してるんだよ、IS学園!

俺と一夏は1組の教室で、絶望した顔で椅子に座って待っていた。

すると━━。

 

「ああ、すみません。織斑君、ホーキンス君、ちょっと書類を集めるのに遅れてちゃって」

 

声を弾ませて教室に入ってきたのは山田先生だった。

 

「えっ!?山田先生!?という事は・・・」

 

「も、もしかして、山田先生が測定係ですか!?いやぁ、良かったぁ、やっぱりこのIS学園に良心は残っていたんですね」

 

神はまだ俺を見放していなかった!

 

「はいっ。私がバッチリ記録します!」

 

「「・・・ん?」」

 

こちらホーキンス。すまないがよく聞こえなかった。もう一度頼む。

 

「はい?私、記録係ですよ?」

 

な、な、な・・・

 

「何考えてるんだぁぁぁぁぁ、この学園ッ!!」

 

「普通、男である俺達にやらせます!?」

 

俺達の絶叫も空しく、さっそく1組の女子達がガヤガヤと教室に入ってきた。

 

「あー、織斑君だ!」

 

「うそうそっ!?本当にホーキンス君が測定するの?私、昨日、ご飯おかわりしちゃったのに!」

 

「やっほー、おりむ~、ホー君。へへー、たっちゃんの秘策炸裂だね~」

 

俺は今すぐにでもあの人にバンカーバスターを投下してやりたい。勿論、弾体には『Avenger(復讐者)』の字を書いてな!

 

「はーい、皆さん、お静かに~。これからする測定ではISスーツの為の厳密な測定ですから、体に余計な物は着けないで下さいねー」

 

山田先生が楽しそうに告げる。俺達にとっては死刑宣告だった。

 

「体操服は勿論脱いで、下着姿になって下さい。その後は、出席番号で半分に別れて下さいねー」

 

山田先生が生徒達に指示を出す中、ウィリアムは━━

 

ウォーバード隊のみんなへ。

元気にしているか?

そっちが今どうなってるのかは分からないが、元気に過ごしている事を願っているぞ。

俺か?俺はこのIS学園と言う学校に通っている。

同性は一人だけだが、なかなか楽しくやってるよ。

友達も出来たし、先生は良い人ばかりだしな。

・・・うん、良い人、だぞ?ちょっと頭のネジが緩んでいるような人もいるが・・・。

ま、まああれだ。身体に気を付けてな!

 

現実逃避に走っていた。

 

「あ、一人ずつ隣のスペーサーに入って脱いで、測定して、服を着る、の流れですから、他の人に下着は見えませんよー」

 

「山田先生に見えるじゃないですか!?」

 

俺も隣で必死に首を縦に振り続ける。

 

「私はホラ、このカーテンの奥にいますから、数字だけ織斑君とホーキンス君に言ってもらえれば大丈夫です」

 

「なんじゃそりゃあああああ!!」

 

「どこが大丈夫なんですか!?」

 

絶望の表情を浮かべながら、抱えた頭を振り回して叫ぶ一夏。

無意識に、ある筈の無いベイルアウト(緊急脱出)用のレバーを探るウィリアム。

非常にカオス極まりない光景である。

俺達は、もう、激怒とか、憤怒とか、そういうのじゃなく、完全におかしくなった。

 

「何を騒いでいるんだ、貴様らは」

 

「!その声、千冬ね━━ぐえ!」

 

「ま、まさか、ボス━━うげ!」

 

「織斑先生だ」

 

俺達の首筋にキレの良いチョップが炸裂した。

 

「貴様らは人に任された仕事も満足に出来んのか」

 

「いや、これは明らかに違う!はめられたんだ!」

 

「罠だ!これは罠だ!!」

 

「情けない・・・これが男のセリフか」

 

「「ぐっ・・・!」」

 

言ってくれますねぇ・・・!

 

「『やってやるぜ』くらいがどうして言えん」

 

━━ラジャー、織斑先生!

 

やあってやるぜえええええ!!

 

一夏が獣の様な雄叫びを上げる。

やるな、一夏!俺も負けてられないぜ!!

 

Hawkins, engage! !(ホーキンス、交戦する!!)

 

一夏に続いて、俺もとても良い発音でそう叫んだ。

 

「そうか。では精々頑張る事だ」

 

「えっ?えっ?あれっ?」

 

「・・・あっ、しまった・・・」

 

「やるのだろう?」

 

「は、ぃ・・・」

 

「・・・イエス・ミス・・・」

 

ギロリと睨まれてはもう言い返せない。俺達はもう、敵機にロックオンされた哀れな民間機なのだ。

 

「そんな絶望的な顔をするな、そら、目隠しだ」

 

「「━━おお!」」

 

なんという救済アイテム!流石は織斑先生だ!

 

「ではな」

 

颯爽と立ち去る織斑先生の背中を見送って、俺達は一糸乱れぬ敬礼をする。

よし、さっそく目隠しをするか・・・

━━ぎゅっ。

 

「って、スケスケじゃねええかあああああっ!!」

 

「なぁんじゃこりゃあああああっ!?」

 

廊下で織斑先生の爆笑が聞こえた。

 

く、くっそぉ・・・!

 

「一夏・・・!」

 

「・・・ああ!」

 

「「素直に諦めよう・・・」」

 

 

二手に別れて同時に交戦開始してから数分としない内に、隣から箒、セシリア、シャルロットの声が聞こえた後、一夏の悲鳴が轟いた。

━━織斑一夏、戦死。彼は最期まで勇敢に戦いました。どうか彼に冥福を・・・。

 

「・・・はい、二人目の人・・・どうぞ・・・」

 

なんとか一人目はクリアした。

ふ、ふふ、俺は勝った、俺は勝ったぞ!

・・・残り十八人中の一人目に。

 

「む?そうか。つ、次は私のば、番だな・・・」

 

・・・まてよ?次の人って・・・。

 

「で、では、さっそく頼む・・・」

 

そう言って測定場所に入ってきたラウラも身体に下着だけの姿だった。

 

「」

 

しばらくフリーズする。

・・・ハッ!?いかんいかん!職務を遂行せねば!

 

「じゃ、じゃあ、行くぞ」

 

「う、うむ・・・」

 

ふにゅ。

 

「・・・くっ!」

 

ただでさえ、こんな馬鹿げた事はした事が無いのに、相手が相手だけに手が震えて上手く測れない。

 

「んっ、くっ・・・」

 

止めろ、そんな煽情的な声を出さないでくれ!

柔らかい感触が手に伝わってくる。

 

「~~~!ひゃうっ!?」

 

脳内では警報が鳴り響き、警告ランプがチカッチカッと点滅する。

そして━━

 

「・・・ブハッ!?」

 

限界を迎えた俺は鼻から真っ赤な液体を噴き出して、倒れてしまった。

何?ラウラの半裸を見たてめぇが今更どうしただって?いいか?一週間前の出来事をよく思い出して見ろ。その後にこんなの見たらそりゃあ意識しちまって血ぐらい出るわ!

おい、ウブ過ぎとか思った奴は覚えとけよ・・・!

 

「ガクッ・・・」チーン

 

ラウラの「衛生兵!衛生兵!」と言う声を最後に俺は意識を失った。

 

 

 



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第74話

セシリアの料理下手属性に更に磨きがかかったら?と言うお話です。





「ついに・・・この日が来てしまったか・・・」

 

どんよりとした声で一夏に話し掛ける。

 

「・・・ああ」

 

俺達は鬱屈した気分で、とある部屋へと向かっていた。

調理実習室。読んで字のごとく、調理を実習する部屋である。IS学園とはいえ、一応は高校なので、勿論普通のカリキュラムもあるのだ。

しかし、調理するだけなら問題は無い。

問題は━━

 

「ふふ、今日こそ!このセシリア・オルコットの真の実力を見せる時ですわ!」

 

こうなった彼女は誰にも止められない。

因みに、実習班は鈴と簪を抜いた何時ものメンバーである。

さて、誰が犠牲になるのやら。

そう思っていると、実習室に到着した。

 

「はい、それでは授業を始めます。今日は肉じゃがを作っていきましょう」

 

そう言ってくるのは、家庭科担当の“鈴木咲良”先生だ。

俺達はハァと溜め息を溢し、互いに頷き合ってから、料理を開始した。

 

 

「・・・色がパッとしませんわね・・・」

 

「わあ!?待って待って、セシリア!」

 

 

「うーん・・・ここはこうした方が・・・」

 

「なっ!?待てセシリア!そんな物を入れたら・・・遅かったか・・・」

 

 

「い、一夏!今すぐにセシリアを止めるんだ!」

 

「お、おう!セシリア、ストップ!ストップだ!」

 

 

「ああ・・・私の選んだジャガイモが無惨に・・・」

 

「ラウラ、同情するよ・・・」

 

 

「出来ましたわ!!」

 

「「「・・・・・」」」

 

激闘の末、とうとう最凶の料理(化学兵器)が完成してしまった。

 

「さあ、記念すべき一番目はどなたかしら?」

 

誰も目を合わせようとしない。

 

「一夏さんは?」

 

「お、俺は後で良いかなー?って」

 

「何故ですの!?ではラウラさん、いかがですか?」

 

「なっ!?」

 

偶然、セシリアの横にいたラウラに矛先が向いた。

 

「遠慮は要りませんのよ?さあ!さあ!」

 

「わ、私は・・・」

 

くっ!このままではラウラが・・・!

 

「ま、待て!それなら俺が食う!」

 

やってやる!やってやるぞ!!

 

「ウィルぅ・・・」

 

救世主を見るような目を向けてきたので、その視線に無言のサムズアップで返す。

この時、ウィリアムとセシリア以外の四人は思った。

 

か、カッコいい・・・!

 

「あら、ウィリアムさんが一人目ですのね!」

 

「あ、ああ」

 

「さあ!このセシリア・オルコットの渾身の力作をご賞味あれ!」

 

そう言って、皿に盛られた紫色をした肉じゃがを目の前に置かれる。

・・・ああ、俺死んだな。

そう思って肉じゃがに視線を落とした。

 

「腹を括るか・・・」

 

「・・・どういう意味ですの?」

 

俺は目の前の肉じゃがと対峙する。

まるで、この肉じゃがに、「食え!臆病者!食え!!」と言われている様な錯覚を覚えた。

 

「・・・神よ、俺の地獄への門出に栄光を!!」

 

パクっと一口食べ、咀嚼する。

 

「・・・っ!?」

 

ま、不味いなんて生易しいものじゃない・・・!これは・・・!?

 

「くそ、手が震えてやがる・・・!」

 

それでも必死に食べ続ける。

 

「ただの試食だ。たかが肉じゃがだ。やられても死ぬだけだ・・・!」

 

襲い来る吐き気を覆い隠しながら、箸を進める。

 

「ウィル、もういい!箸を止めるんだ!」

 

ラウラが必死に制止の声を掛けてきた。

 

「フゥ、フゥ、フゥ。だ、ダメだ。ここで手を止めたら、お前や他のみんなに被害が・・・ウッ!?」

 

意識が朦朧としてきた。

 

「頑張るんだウィル!諦めるなウィル!」

 

今にも昇天しそうな俺に、一夏が励ましの声を掛ける。

 

「へへ、良い声だぜ・・・」

 

ウィリアムはゆっくりと天井を仰いだ。

 

「うぃ、ウィル?どうしたんだ!?おい!」

 

一夏が肩を掴んで揺さぶる。

 

「一夏、少し通してくれ」

 

そう言って、ラウラがウィリアムの片目の瞼を指で軽く押し拡げて覗き込んだ。

 

「・・・ダメだ、瞳孔が開き切ってはないから命に別状は無いが、完全に気を失っている・・・」

 

「あら、あまりの美味しさに失神してしまったのかしら」

 

「せ、セシリア?お前ちゃんと味見はしたのか?」

 

一夏が恐る恐る聞く。

 

「味見?していませんわ。だって、食べて頂く方よりも先に料理を口にするなんて失礼ではなくって?」

 

「「「」」」

 

しかし、セシリアの思いやり(追撃)は留まる事を知らない。

 

「こんな所で寝てはいけませんわね。・・・そうですわ!」

 

何かを閃いたセシリアは、どこから取り出したか分からない調味料で何かを作り始めた。

 

 

「出来ましたわ!!セシリア・オルコット特製、『目覚ましドリンク』!」

 

そう言って高々と掲げるコップの中には、血の様に真っ赤な液体がなみなみと入っていた。

 

「せ、セシリア?それは・・・?」

 

「この目覚ましドリンクを飲めば、スッキリ爽快!気持ち良く目覚めること間違い無しですわ!安心して下さい。既に実証済みです!」

 

シャルロットの問いに、ドヤ顔で答える。

 

「そ、そっか・・・実証済みなら安心・・・かな?」

 

「さあ、箒さん、この洗濯バサミでウィリアムさんの鼻を押さえて下さい。一夏さんは、この漏斗をウィリアムさんの口に」

 

『実証済み』の言葉を信じた二人は言われた通りに行動する。

 

「いきますわよ・・・えい!」

 

力無く開いたウィリアムの口にドリンクが入っていき、全て流し切った。

 

「「「・・・・・」」」

 

しばらく観察する。

 

「っ!?!?」

 

ウィリアムがカッ!と目を見開いた。

 

「~~~~!!

 

 

 

ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?

 

「「「!?」」」

 

辛゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!

 

飛んでもない悲鳴と共に跳ね起きると、そのままドタドタと走って行き、近くにあった水の張った流し場に頭をドボンッ!と突っ込んで再び動かなくなった。

ウィリアムの悲鳴と奇行を見た生徒達は固まっている。先生ですら、注意するどころか目を点にしていた。

 

「ウィル、起きろ!目を覚ませ!」

 

そう言ってラウラがウィリアムの頭を流し場から引っ張り出し、彼の頬をペチペチと叩く。

 

「反動が強すぎるのがネックですわね・・・」

 

この日、一夏達は戦慄し、セシリアにはどんな犠牲を払ってでも料理はさせるな。というルールが出来た。

 

死を降り注ぐ肉じゃが・・・冗談じゃない!

 

ラウラに救助されたウィリアムは全ての元凶に向かって、そう心の中で叫んだ。

 

 

 

 

 

 



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第75話

「あぁ、畜生・・・まだ喉に違和感を感じる・・・」

 

調理実習室での悲劇の次の日。土曜日。

俺は、まだ感じる喉の違和感に悩まされながら、ラウラと共に廊下を歩いていた。

 

「ウィル、本当に大丈夫なのか?」

 

ラウラが心配そうに聞いてきた。

 

「え?ああ、大丈夫だ。多分直ぐに直るだろ」

 

そう言いながら、缶ジュースを一口飲む。

冷たい感覚が喉を通り、実に心地好い。

 

「しかし、驚いたぞ。まさかウィルがあんなに取り乱すとは・・・。普段なら想像出来ないな」

 

ふふっ。と笑いながらそう言ってくる。

 

「笑うなよ・・・。ヤバかったんだからな?あの肉じゃがを一口食ったらデカイ川の向こう岸で見知らぬじいさんが手を振ってたり、突然舌と喉が焼けるような感覚に襲われたり・・・なんならお前も試してみるか?んん?」

 

少し意地悪く言ってみる。

 

「いや、遠慮しておく」

 

即答された。

 

「まあ、そうだろうな。そう言えば、あの後━━」

 

セシリアの料理はどうなったんだ?と聞こうとしたところで、突然廊下の灯りが一斉に消えた。

廊下だけでなく、教室と、電子掲示板も、全てが一瞬で消えたのだ。

もちろん、昼間なので日光があるため、真っ暗にはならない。━━と、思いきや。

 

「防護シャッターが閉じてるだと!?」

 

ガラス窓を保護するように、斜めスライドの防壁が順番に閉じていく。

ざわざわとそこら中からどよめきが聞こえる中、全ての防壁が閉じて、校舎内は真っ暗になった。

 

「・・・あれから2秒。ラウラ」

 

「分かっている。緊急用の電源にも切り換わらないし、非常灯も点いていない。明らかにおかしい」

 

二人はそれぞれにISをローエネルギーモードで起動し、視界にステータスウィンドウを呼び出す。同時に視界を暗視モードに切り換え、ソナーに温度センサー、それから動体センサー、音響視覚化レーダーを起動した。

 

「ラウラだ。シャルロット、無事か?」

 

ラウラがシャルロットにプライベート・チャネルで安否を確認している。

そこへ、別の回線から通信が入った。

 

『専用機持ちは全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に遮られた場合、破壊を許可する』

 

織斑先生の、静かだけれど強い声。

それは、このIS学園でまたしても事件が発生した事を克明に告げていた。

 

 

「では、状況を説明する」

 

IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。

そこに、現在学園にいる専用機持ち全員が集められていた。

俺、ラウラ、箒、セシリア、鈴、簪、更識会長が立って並んでいる。その前には、織斑先生と山田先生だけがいた。

因みに一夏は白式の製造元の研究所へオールメンテナンスの為に外出しており、ここにはいない。

どうやら、この部屋は完全に独立した電源で動いているらしく、そこらじゅうにディスプレイが設置されている。どれも旧式だが・・・。

・・・まるで核シェルターだな。

そう思っていると、山田先生が表示情報を拡大して全員に伝え始めた。

 

「現在、IS学園では全てのシステムがダウンしています。これは何らかの電子的攻撃・・・つまり」

 

「ハッキング・・・」

 

「はい、その通りです」

 

俺の呟きに山田先生が頷いて答える。

 

「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められる事はあっても、命に別状があるような事はありません。現状について質問はありますか?」

 

「はい」

 

ラウラが挙手をする。流石、現役の軍人は有事の際に行動が機敏なのだった。

 

「IS学園は独立したシステムで動いていると聞きましたが、それがハッキングされる事などあり得るのでしょうか?」

 

「そ、それは・・・」

 

困った様に山田先生が視線を横に動かす。それを受けて、織斑先生が口を開いた。

 

「それは問題ではない。問題は、現在何らかの攻撃を受けているという事だ」

 

「分かりました」

 

ラウラは質問を終える。

 

「質問よろしいでしょうか?」

 

今度は俺が挙手する。

 

「はい、ホーキンス君」

 

「システムハックを受け、電力も遮断されているという事は、IS学園のエネルギーシールドは?」

 

「おそらく無力化されているだろう」

 

織斑先生がそれに答える。

他に質問者がいない事を確認し、山田先生は作戦内容の説明に移行した。

 

「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISのコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをして頂きます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

スラスラと山田先生が告げる。しかし、それに対する専用機持ち達の反応は静かなものだった。

 

「「「・・・・・」」」

 

「あれ?どうしたんですか、皆さん」

 

キョトンとしている山田先生の前に、会長以外の全員がポカンとしていた。

 

「「「で、電脳ダイブ!?」」」

 

「はい、理論上可能なのは分かってますよね?ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての進入が出来る・・・あれは、理論上ではないです。実際のところ、アラスカ条約で規制されていますが、現時点では特例に該当するケース4である為、許可されます」

 

山田先生の説明が終わったところで、織斑先生はパンッと手を叩いた。

 

「よし!それぞれは電脳ダイブを始める為、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」

 

その檄を受けて、ラウラ達はオペレーションルームを出る。

後に残ったのは、織斑先生と山田先生、そして、俺と会長だった。

 

「さて、お前達には別の任務を与える」

 

「なんなりと」

 

「はい、どの様な任務でしょう」

 

「おそらく、このシステムダウンに乗じて、襲撃が予測される」

 

「敵━━、ですね」

 

「・・・・・」

 

この混乱を引き起こし、その隙にこの学園、もしくは専用機持ち達に危害を加えようとする勢力がいる。織斑先生はそう睨んでいた。その可能性は極めて大であろう。

 

「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが、頼らせてもらう」

 

「任されましょう」

 

「お任せ下さい」

 

「お前達には厳しい防衛戦になる」

 

「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから」

 

そう言って不敵に微笑んで見せる会長。

 

「ホーキンス。お前にはIS学園の上空及び周囲の防衛を頼みたい」

 

「イエス・ミス。上は任せて下さい」

 

「任せた。30分後に準備を済ませてグラウンドに集合だ」

 

俺達は、「はい」と言って、オペレーションルームを出て行った。

 

 

オペレーションルームから出た後、俺は更衣室に向かい、今はISスーツを装着中だ。

そこへ、一夏が大急ぎで入って来た。

 

「一夏、帰って来てたのか」

 

「ああ。帰って来た途端、千冬姉にISスーツに着替えてグラウンドに集合しろって言われたんだ」

 

「そうか。後で先生から説明されるだろうから、その時に聞くと良い」

 

「そうだな。なんかヤバそうなのは俺でも分かる」

 

「実際にヤバいしな」

 

チャックを締め、ベルトをカチリと固定する。

 

「よし」

 

対Gベストと対Gパンツの固定具合の確認を済ませる。

 

「やるぞ・・・!」

 

「おう!」

 

そう言って、グラウンドへ向かった。

 

 

 



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第76話

俺達がグラウンドに出ると、既に先生二人と、会長がいるのが見えた。

織斑先生と山田先生は教員用のIS『ラファール・リヴァイヴ』を、会長は専用機『ミステリアス・レイディ』をそれぞれ展開している。

しかし、山田先生のISだけ明らかに違う点が一つ。

背中のバックパックより伸びるレーダーアンテナ。恐らく口径が30mmはある6砲身のガトリング砲が2門。そして、その上には一対のミサイルコンテナが取り付けられており、そのウェイトをカバーする為なのか、脚部も4本増している。

『ヘビー・ファランクス』━━重量と反動制御故に移動が出来ない代わりに、その場での旋回能力と高い索敵能力、攻撃力を手にした、正に『対空砲台』だ。

 

「IS学園はあんな物まで保有してたのか・・・ウチの准将が見たらどうなる事やら・・・」

 

そう呟いて、『バスター・イーグル』を展開、一夏も『白式』を展開して近づいて行った。

 

 

「先生、全員揃いました」

 

会長が織斑先生に全員が集合した事を伝える。

 

「分かった。ではこれより学園防衛戦の最終確認をする」

 

全員が織斑先生を見る。あの普段ゆるふわな山田先生もキリッとした表情だ。

 

「まず、ホーキンスは先程言ったように、上空をカバーしてもらう事になる」

 

「イエス・ミス」

 

「次に、更識と織斑は学園裏側の防衛を」

 

「分かりました」

 

「分かった!」

 

「山田先生はここで中距離の敵の索敵・迎撃をしてもらう」

 

「はい!」

 

「私は動けない山田先生の防衛及び、捌き切れなかった敵の迎撃に当たる。頼んだぞ」

 

「「「了解!」」」

 

それぞれが各々の持ち場に向かう。

俺もAPUを作動させ、エンジンを始動させる。

その合間に各種項目のチェックを終わらせた。

 

エンジンが安定し始めたので、自身の持ち場へと向かう為、ゆっくりと上昇していく。

 

「では自分は上空警戒に向かいます」

 

「分かった。気を付けてな」

 

「ホーキンス君。気を付けて下さいね」

 

「了解です。では!」

 

そう言って、俺は飛翔して行った。

 

 

学園周辺の上空

 

 

『━━ホーキンス君。来ました。敵です。そちらの位置から南西へ37km。高度2000mに三機確認しました』

 

こちらのレーダーにも不審な機影が三つ。徐々に近付いて来ていた。

やはり来たか・・・!

 

「確認しました。直ちに向かいます」

 

旋回し、南西へ向かう。

 

「マスターアーム、オン」

 

兵装の安全装置を解除。高度を上げ、敵機と同位置に合わせる。

今、雲の層を通過中なのだが、今日は生憎の雨空で、気流が乱れている上に視界が悪い。

レーダー上に映るこのフォーメーション・・・明らかに友好的な態度じゃあ無いな。

 

「反応通り、三機だ・・・」

 

刹那、風切り音と共に、左右を幾つもの小さなオレンジ色の火球が高速で通り抜けた。

遅れて、ブォオオオ!と、重い虫の羽音の様な発砲音が聞こえてくる。

 

「っ!!」

 

右へ回避すると、先程機銃弾が通った所を三機の機体が通り抜けた。

小型で白っぽいのが二機、大型で青と白の迷彩柄のが一機だ。

 

「キャノンボール・ファストの時の襲撃機に似ている・・・ターミネーターか」

 

特にあの青白の機体なんて前の奴にそっくりだ。

敵機の追撃に入る。

 

「織斑先生。敵機三機と交戦を開始、機種はISではなく、ターミネーターのようです」

 

『ターミネーター?以前の襲撃機か?』

 

「はい、その量産型かと思われます」

 

『分かった。引き続き迎撃を頼む。・・・どうやら敵はその三機だけではないようだ。山田先生が低高度からの侵入機を確認した』

 

戦力を分散させるのが狙いか。

 

「了解です。援護の必要があれば何時でも呼んで下さい」

 

『必要があれば呼ばせてもらおう』

 

その直後、無線越しにガトリングガンの砲声が聞こえてきた。

 

「こっちも片付けるか」

 

そう言って『AAM』のヒートシーカーをオープンにすると、高速形態だった白色のターミネーターの内の一機が人型に変形しながら急減速した。

 

「クソッ、急減速されたか!」

 

しかし、俺はあることに気付いた。

あいつが変形する時の関節の曲がり方、あれはどう見ても人が中に乗っているとは思えん・・・。

飛んで来るミサイルをフレアで撹乱した後、右に逃げると見せかけて、コブラ機動で後ろを取り返す。

 

「と言うことは、無人機のようだな」

 

無茶苦茶に回避機動を取る無人機に、再度シーカーを合わせる。

 

「Fox2!」

 

ミサイルが発射され、相手に吸い込まれて行く。

ドンッ!

敵機が炎に包まれながら、墜ちていった。

 

「撃墜!」

 

次の敵機の元に向かう。

もう一機の白い機体が攻撃してきた。

それを紙一重でかわし、お返しに機銃をお見舞いする。

数発が命中し、俺から距離を取った。

俺は逃がすまいと相手の後ろにピッタリと食い付き、機銃を2秒間隔で発射。

見事撃墜した。

 

「よし、撃墜した。次は━━っ!?」

 

ブォオオオ!

青白の機体が正面から機銃を撃ち放って来た。

砲弾が自身のISを掠める様に通過する。

 

「クソッ!30mmかっ!!」

 

大柄で流線形の機体がスレスレを横切った。

 

「手が届く程の距離だったぜ・・・」

 

そこへ、山田先生から通信が入る。

 

『ホーキンス君!敵の増援を確認しました。六機です!』

 

「最悪だ・・・!こっちもレーダーで捉えました」

 

流石にこれ以上増えられると、捌くのが難しい。

 

『敵機をこちらに連れて来て下さい。可能な限り撃ち落とします!出来ますか?』

 

正に頼もしいの一言に尽きる言葉だった。

 

「出来ます。しかし下の敵は?」

 

『織斑先生が相手をしてくれています。今の内に!』

 

「分かりました!」

 

そう言って、敵を引き連れて、学園上空へと誘い込んだ。

 

「さあ。こっちだついて来い・・・!」

 

すると、下からの猛烈な鉄の嵐が後ろにいた敵機を襲い、次々と撃墜していった。

 

「恐ろしい威力だな・・・っと、こんな事してられん」

 

我に返った俺は、残った無人機を叩き落として行く。

 

「残るはお前か・・・」

 

そう言って、青白の機体を睨む。

どうやら、こいつは警戒して近付かなかったようだ。

どこか人間臭い行動をするコイツに俺は一つの可能性を感じた。

・・・コイツには人間が乗っているのでは?

お互いに上昇下降、シザーズやバレルロール等を繰り返し、相手を撃墜しようと、縦横無尽に飛行する。

そして、苛烈なドッグファイトもとうとう終局を迎えようとしていた。

僅かな気流の乱れ。しかし、その乱れによって一瞬バランスを崩した敵機をウィリアムは見逃さない。

ありったけの機銃弾を主翼にお見舞いした。

片方の主翼が千切れた敵機は、そのまま墜落していった。

 

「よし、上空に敵影無し」

 

一息ついていると、織斑先生から通信が入った。

 

『ホーキンス。そっちはどうだ?』

 

「はい、先程片付きました」

 

『そうか。ところで聞くが、高威力ミサイルは今あるか?』

 

高威力空対空ミサイル(HPAA)の事か?なぜそんな事を訊くんだ?

 

「はい、あります」

 

突然の質問に疑問を持ちながらも答える。

 

『なら話は早い。すまないが援護が必要だ』

 

 

「うふふ。無人機を全部落としながら、この私を相手にここまで保った事は誉めてあげる。流石はブリュンヒルデだわぁ」

 

「ふん、お誉めにあずかり冥利に尽きる。と言っておこう」

 

千冬は亡国機業の戦闘員と対峙していた。

 

「でも、いくらなんでもこの戦力差で戦おうなんて無謀じゃないかしらぁ?」

 

勝ち誇った笑みを浮かべる戦闘員。

しかし、この人物の言う通り、流石の元世界代表と言えど襲い来る無人機を学園と真耶を守りながら迎撃するのは無茶もいいところであった。

ボロボロのISを身に纏い、目の前には手練れの敵。

正直、状況は芳しくない。

それでも、千冬は不敵な笑みを崩さない。

 

「・・・何が可笑しいのかしら?あなた、この状況を理解していないようねぇ」

 

相手が少し苛立った様子で話し掛けてくる。

 

「いやなに、まだ倒してすらいない相手の前で、勝利を確信したかの様にベラベラと喋るお前があまりに滑稽でな」

 

ブチッ

何かキレた音がした。

 

「い、いいわぁ。その減らず口、二度と叩けない様にしてあげるっ!!」

 

「出来たらな」

 

「っ!!」

 

そう言って飛び掛かって来た敵をギリギリで回避し、スラスターを使って飛翔する。

 

「待ちなさい!!」

 

物凄い形相で追い掛けて来たが、それを無視してとある人物に通信をする。

 

「ホーキンス。そっちはどうだ?」

 

『はい、先程片付きました』

 

どうやら上は片付けてくれたようだ。

 

「そうか。ところで聞くが、高威力ミサイルは今あるか?」

 

『はい、あります』

 

少し間があったが、返答が返ってきた。

 

「なら話は早い。すまないが援護が必要だ」

 

『分かりました。どうすれば?』

 

「正面から私の位置にロックオンしろ」

 

『・・・え?』

 

「安心しろ。自爆するつもりではない。

 

━━ただ、敵の度肝を抜いてやるだけだ。やってくれるか?」

 

『ふっ、成る程。直ぐアプローチに入ります』

 

その答えを聞いて、また後ろに意識を集中させる。

 

「随分頭に血が昇っているな」

 

「あなたが原因でしょうがあ!!」

 

マシンガンを乱射してくる。

 

「戦闘中に集中を乱すとロクな目にあわないぞ」

 

「くっ!墜ちなさいよぉっ!」

 

・・・そろそろか。

 

「━━前方注意」

 

「は?」

 

そう言って、千冬は右に急旋回した。

相手もそれを追おうとしたその時、千冬がいた場所━━その正面に別の影が見えた。

その影から二本の白い筋がこちらに向かって伸び、影本体はそのまま高速で緩やかに旋回して離れて行く。

その間、わずか3秒。

だが彼女はハッキリと見た。その矢じりの様な影の先に描かれた、あるものを。

 

「しゃ、シャークマウス!?何時の間に━━」

 

ドドォン!

ミサイルの爆発を諸に喰らった敵は、グラウンドに墜落。動かないところを見ると、気絶してしまったようだ。

 

「さて、こいつの尋問は後でゆっくりするとしようか」

 

そう言って、進行形で真耶に縛られている戦闘員を横目にそう呟いた。

 

 

全ての敵機を撃墜した俺は、学園から離れた所に撃ち漏らしが無いかを確認していた。

 

「ん?まだ残りがいたのか・・・?」

 

レーダーには光点が一つ。

こちらの方角に飛んで来ている。

 

「っ!?あれは・・・!」

 

見覚えのある機体。いや、忘れられる筈の無い機体。

 

「あの時の奴か・・・!」

 

キャノンボール・ファストを襲撃した人物が駆る機体が飛んでいた。

その機体の主翼から一発のミサイルが放たれる。

 

「何だあのミサイル!?」

 

通常の弾頭ではあり得ない程に巨大なミサイルだった。

ミサイルを放った機体はそそくさと元来た道を帰って行く。

 

「まずい!あの進路は学園だっ!」

 

大慌てでミサイルの後方に付き、ブースターの部分に機銃を発射した。

機銃弾が当たり、推力が低下したミサイルは高度を下げて行き、やがて海面に着水。沈んで行った。

時限信管であった場合を想定し、急いで高度を上げる。

 

 

ドバアァンンンン!!

 

とてつもない音と共に巨大な水柱が上がり、爆風で機体が煽られる。

あの威力・・・まさか!

 

━━『核程ではないが、強力だ』

 

トーマスに言われた言葉が反響する。

放射能は検出されていない。と言う事は恐らく以前盗まれたトリニティと見て間違いないだろう。

 

「あ、危なかった・・・あんなのが学園に到達したら・・・!」

 

背中がゾワリとする。

だが、一先ず危機は去った。トリニティは三発しか無い。となると、そう何度も使う事は出来ない筈だ。

その証拠に、レーダーには反応が一つも無く、山田先生からの増援確認も無い。

ふぅ、と安堵の息を吐く。

そこへ、織斑先生から通信が入った。

 

『全員、今すぐに地下に集合だ。位置データを転送する』

 

その声は焦燥に包まれており、まだ事件は終わりを告げていない事を訴えていた。

 

 




ここまで見て下さり、ありがとうございます。
記念すべき、トリニティの一発目です。
ショボッ!?と思った方。すいません。

IS学園は、原作よりかなり広大で、本土よりもかなり離れている。という設定です。
じゃないと、ウィリアムが暴れられないですから・・・。
因みに、ヘビー・ファランクスはロシア版CIWS『コールチク』を、白の無人機はMig-29、青と白の有人機はSu-33をモチーフにしています。




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第77話

急げ急げ急げ!!

学園近海から大急ぎで帰った俺は、その足で地下への最短ルートを邪魔するシャッターを潰しながら、マップに指定された位置へと急行した。

 

「着いた!」

 

パネルを操作してドアをひらくと、中には織斑先生と山田先生に会長、それに先程撃墜した亡国機業の戦闘員と見知らぬ男が気絶したまま拘束されていた。

 

「遅れてすいません。その男は?」

 

「ええ。さっき一夏君と裏側の敵を迎撃し終わったところに、墜ちてきたのよ」

 

俺の問いに会長が答える。

 

「さっきのターミネーターのパイロットか・・・」

 

「話は後だ!ホーキンス、直ぐにボーデヴィッヒ達の救出に向かえ!織斑は既に向かった!」

 

「救出!?」

 

「場所はこの先だ。急げ!」

 

「い、イエス・ミス!」

 

クソッ!何が起こってるってんだ!

教えられた部屋の前でISを解除し、中へと入る。

その真っ白な部屋の中には、眠っているラウラ達と、焦燥した顔つきの一夏、狼狽える簪がいた。

 

「ウィル!」

 

「あ・・・ウィリアム、君」

 

「今の状況は?」

 

「ええと・・・」

 

口下手な簪に早急な説明を要求するのはちと難しかったか。

そう思っていると、俺と一夏にメールが着信した。

 

『織斑君とホーキンス君へ。

今現在このIS学園はハッキング攻撃によって無力化されています。コントロールを奪還すべく電脳世界に侵入した篠ノ之さん達も、同様に何かしらの攻撃を受けて連絡がつきません。また、このままでは目覚める事も無いでしょう。そこで、二人には同じようにISコアネットワーク経由で電脳世界へダイブし、みんなを救出して下さい。よろしく頼みます。更識簪より』

 

・・・大体は把握出来た。

 

「それで、電脳世界にダイブってどうするんだ!?」

 

「寝りゃあ良いのか?」

 

「・・・・・」

 

簪が手にスタンガンを持っている。何をする気だ?

 

「おい、かんざ━━」

 

バリバリバリバリバリバリッ!!!

 

「しいいいいいいっ!?」

 

一夏がバタリと倒れた。

 

「っ!?簪、お前何を・・・?」

 

「?眠らせた、だけ。じゃないと、ダイブ出来ない・・・」

 

ご、強引な事をするな・・・。

そう思っていると、簪が俺にゆっくりと近付いてくる。

 

「ま、待て!流石にスタンガンは勘弁してくれ!しかもそれ出力高過ぎだろ!?」

 

「そう。それなら、これ・・・」

 

そう言ってタッパーを取り出し、中身をスプーンで掬って俺の口目掛けて突っ込んで来た。

 

「むごぉっ!?」

 

こ、これは・・・!?

 

「セシリアの・・・肉じゃが・・・?何故、お前が、これを・・・グフッ・・・」チーン

 

俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

「おい!あの肉じゃがはきちんとガラス固体化して地中深くに埋めとけよっ!!」

 

ガバッと身を起こす俺。

━━あれ?

いつの間に横になったのか、そして、目の前に広がる草原は何なのか。

 

「お?ウィルも来たみたいだな」

 

「ああ、一夏か。・・・どうやらここが電脳世界みたいだな」

 

『森の中に急いで。そこにあるドアの先にみんながいる。二人ならきっと出来る筈』

 

簪の声が頭の中に響いた。

 

「「了解!」」

 

俺達は強く頷いて、駆け出した。

 

 

「ここは・・・?」

 

一つ目のドアをくぐると、夕暮れ時の町に出てきた。

 

「間違いない。ここは昔、鈴の中華料理店があった所だ」

 

「そう言えば前に聞いたな。昔、両親が中華料理店を経営してたって」

 

一夏の呟きを聞き取り、クラス代表戦の時の事を思い出す。

 

「と言う事は・・・。ウィル、こっちだ!」

 

「おう!」

 

走る一夏を追って、俺は中華料理店『鈴音』へ向かって駆けた。

 

 

「ここが鈴の両親の中華料理店か・・・」

 

「ああ。まったく同じだ・・」

 

目の前には『中華料理店 鈴音』の看板。

 

「一夏。思い出に浸っている暇は無いぞ」

 

「!そうだな。よし!早く鈴を助けよう!」

 

そう言って玄関に入り、階段を駆け上る。

 

「ここか?」

 

「ああ!昔、鈴の家に何度も遊びに行った事がある。間違い無い!」

 

「オーケー!突撃するぞ!」

 

「っ!」

 

一夏が勢い良くドアを開けた。

 

「てめええっ!鈴に何してやがる!」

 

「マジで何してるんだ!?」

 

「え、え、一夏・・・?」

 

目の前には、学ランを着た一夏?と下着が半分ズラされかけた鈴が立っていた。

 

『ワールド・パージ、異常発生。異物混入。排除開始』

 

「きゃああああっ!?」

 

どこからともなく機械音声が聞こえた後、鈴が頭を痛そうに抱えて、うずくまった。

一夏が目の前の学ラン一夏を殴り飛ばした。

ギョロリ、と。学ラン一夏の目が真っ黒に染まる。

 

「命令遂行。障害排除」

 

無機質な声で、機械のような言葉を放ち、一夏に飛び掛かる。

 

「排除されるのはお前の方だ!」

 

そう言って、俺は学ラン一夏の肩を掴んで壁に投げ飛ばした。

ガシャン!と音を立て、壁に叩き付けられる学ラン一夏。

 

「助けて、一夏ぁっ!!」

 

鈴が泣きながら叫んだ。

その言葉に応じるように、ガシッと一夏が鈴を抱きしめた。

 

「大丈夫だ。俺はここにいる。鈴を━━守る」

 

「一夏・・・」

 

その一言で、鈴が正気に戻ったようだ。

ニセ一夏が再度立ち上がり、構える。

 

「消えなさいよ、偽者!」

 

ギリィッ、と痛みを奥歯で噛み殺しながら、鈴がIS『甲龍』を展開し、最大出力で衝撃砲を放った。

まるでレンガのようにバラバラになるニセ一夏。それと同時に、部屋も崩れ始める。

 

「鈴、ウィル、走るぞ!」

 

「うん!」

 

「走ってばかりだな!」

 

ドアに向かって、俺達は走った。

そして、光に包まれて━━。

 

 

「ここは・・・?」

 

「森の中・・・みたいね」

 

「と言う事は戻ってきた訳か」

 

俺達が出てきたドアは光の粒になって消えた。

残る四つのドアが支えも無く立っているのは、とてもシュールだった。

 

「あ」

 

「?」

 

「どうした?」

 

突然の一夏の反応に疑問を浮かべる。

 

「いや、鈴・・・その格好は・・・」

 

「え?」

 

「おっと・・・」

 

顔を背ける一夏。俺もフイッと顔を背ける。鈴は「?」顔で自分の姿を見た。

 

「きゃああああっ!?」

 

予想通りの反応である。

・・・まったく、あのニセ一夏め。飛んでもない変態野郎だな。

 

「い、い、いい、一夏ぁ!」

 

「待て待て!俺じゃないぞ!俺じゃない!あれは俺じゃないんだから殴ったり蹴ったり衝撃砲を撃ったりするのは━━」

 

「・・・なさいよ」

 

「え?」

 

鈴のやつ、何て言ったんだ?

 

「き、着せなさいよ、服!」

 

・・・・・。

 

「はあ!?」

 

「ブフォッ!?」

 

おい!おいおいおい!何て大胆な事を言うんだ!

 

「あ、あああ、アンタが脱がしたんでしょうが!」

 

それで何故、一夏が着せる事になるっ!?

 

「俺じゃないっつの!」

 

「だ、だって、だって、あんな・・・っ」

 

突然、鈴はハラハラと涙をこぼした。

 

「あんなぁ・・・あんなぁ・・・。うええっ・・・」

 

「ああ、いや、その・・・」

 

一夏、世の中は理不尽な事で一杯だ。強く生きろよ!

 

「鈴」

 

「ひっく・・・ぐすっ。・・・何よ?」

 

「ほ、ほら。着せてやるから。こっち来い」

 

「え、あ・・・。う、うん・・・」

 

キョトンとして、驚いた鈴がショックで泣き止む。

 

「・・・あー。一夏、鈴。そう言うのは、そこの草むらでやってくれ」

 

こんな所で堂々とそんな事をされたら敵わん。

俺の言葉に従い、二人は草むらへ歩いて行った。

 

 

5分後、二人が顔を赤くしながら戻って来た。

 

「「・・・・・」」

 

一夏と鈴はお互いにそっぽを向いて、背中合わせの状態で立っている。

さて、この状況をどうしたものか・・・。

 

「あの・・・!」

 

「「「!?」」」

 

いつの間にそこにいたのか、森の茂みに半分姿を隠した簪がいた。

 

「か、簪っ・・・」

 

「じゅ、寿命が縮む・・・!」

 

「い、い、いたんなら、声掛けなさいよ!」

 

「そう言う・・・雰囲気じゃなかったので・・・」

 

「「う・・・」」

 

「・・・確かに」

 

ガサガサと茂みから出てくる簪。

 

「取り敢えず、一度・・・私は鈴さんを連れて・・・ここを出ます。任務続行は・・・難しいでしょう・・・」

 

「あ、アタシはまだやれるわよ!」

 

「いえ・・・何らかの攻撃を受けた可能性が・・・高い、です。一度、帰還しましょう・・・」

 

冷静な簪の言葉に鈴はしぶしぶ頷く。

 

「分かったわよ・・・」

 

「それでは・・・二人は、他のみんなを・・・」

 

「おう」

 

「了解だ」

 

俺達の返事を聞いてから、簪は鈴を連れて帰って行った。

次のドアの前に立ち、ドアノブを回す一夏。

 

「ん?開かない」

 

「何?一夏、少し通してくれ。む・・・」

 

ガチャガチャ。確かにノブを捻っても開かない。

 

「簪、このドアどうやっても開かないぞ。さっきからウィルが色々試してるが、ビクともしない」

 

押しても引いても、スライドしても、殴っても蹴っても反応しない。

 

『恐らく、さっきの鈴さんの件でロックが掛かったのかと』

 

通信だと言い淀まずにスラスラと喋る簪を、「へぇ」と思いながら俺達は話の続きに耳を傾ける。

 

『その世界にあなた達は異物として捉えられた』

 

「じゃあ、どうすれば入れる?」

 

「俺達だと分からない様にする・・・とか?」

 

『変装・・・』

 

「え?」

 

『変装すれば、入れる』

 

一夏がポカンとしている。

 

『私、真面目に言ってるのに』

 

「お、おう。分かった。信じる」

 

「事実、俺達は顔ばれしているんだから正体を隠すのは効果的だろう」

 

『うん』

 

「じゃあ、どうすれば良い?」

 

『服装データをこちらから書き換えるから、ちょっと待って』

 

カタカタとキーボードを叩く音が回線越しに聞こえる。

それから、いきなり俺達の全身は光の粒子に包まれた。

 

「うおっ!?」

 

『データのインストール・・・完了』

 

「って、これ何だ?」

 

一夏は全身黒ずくめで、ガスマスクをしていた。

肩からはブランと自動小銃がぶら下がっている。

 

『英国特殊部隊SASのミッション・ドレス』

 

「英国・・・セシリアか?なんか、映画みたいだな」

 

『・・・格好いい・・・』

 

「何だって?」

 

『ごほっ、ごほん!・・・何でも無い』

 

そんなやり取りを横に俺は一言。

 

「・・・おい」

 

「ん?どうしたウィル・・・って!?」

 

「・・・今日はハロウィーンじゃなかった筈なんだがな」

 

俺の格好はと言うと、所々に赤黒いシミがこびりついたボロボロのポロシャツとサスペンダー付きのズボンを身に纏い、顔には同じくシミがこびりつき、目元に穴が二つ空いた麻袋を着けていた。

そして、右手には━━

 

ブゥゥン!ブゥゥン!

 

━━伐採用のチェーンソーが握られていた。

 

『それは、某ゾンビシューティングゲームに出てくる初見殺しの強敵。チェーンソー男』

 

「・・・・・・なぁんで俺だけこんな格好なんだよ!?一夏のとか滅茶苦茶格好いいじゃねえかっ!!」

 

『大丈夫。ウィリアムのも格好いいから・・・』

 

簪は本心で言ってるのだが、ウィリアムには聞こえていないようだ。

 

「・・・こんな理不尽があってたまるか、何で俺だけ・・・」ブツブツ

 

さっき一夏に内心で言った事を忘れ、ずっと一人で呪詛のように呟いている。

 

「と、とにかく!ウィル、早く行こうぜっ。な?」

 

「・・・・・」

 

一夏がドアノブに手を掛けると、すんなりと開いた。

 

「行ってくる」

 

『気を付けて。またニセ一夏に襲われる可能性があるから』

 

「大丈夫だ、今回は武器がある。それに━━」

 

「・・・あの肉じゃがを食わされたのも、こんなクリーチャーの格好をさせられたのも、全部あの偽者野郎のせいだ!ゆ゛る゛さ゛ん゛!」

 

ブゥゥン!ブゥゥゥウゥゥン!!

 

「ウィルが凄い殺る気だしな・・・」

 

『・・・・・』

 

俺は禍々しいオーラを纏いながら、一夏と共にドアをくぐった。

 

 

「ここは?」

 

「さあな。どこかの会社か?」

 

ドアの先には執務室のような光景が広がっていた。

 

「とにかくセシリアを探すぞ」

 

「そうだな。あの偽者野郎、見つけたら・・・!ふ、ふふふ!」

 

しばらく歩き続けると、浴室のような所から声が聞こえた。

 

「!ウィル、この声・・・!」

 

「ああ、セシリアで間違いないだろう。行くぞ!」

 

スモークの掛かった窓の前に立つ。

 

「「せーの!」」

 

ガッシャアアアアンッ!

 

「だからお前()は何やってるんだよ!」

 

「イ゛ヤ゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

ブィィィィン!!

 

「きゃああああっ!?」

 

窓ガラスを突き破り、一夏が偽者に銃弾を、俺は首から胴にかけてチェーンソーを振り下ろす。

 

「一夏さん!!」

 

『ワールド・パージ、異物排除・・・異物、排除・・・いぶ・・・』

 

ズタズタにされた(主に俺のせいで)ニセ一夏がブツブツと同じ単語を繰り返す。

 

ギョロン、と。目の色が真っ黒に変わった。

 

「一夏・・・さん?」

 

「セシリアから離れろぉっ!」

 

一夏が偽者を銃床で殴り飛ばし、更に銃弾を叩き込む。

ニセ一夏は傷口から黒い粘液を出しながらドロドロに溶けていき、やがて光の屑となって消えた。

 

「あ、あ、あ・・・っ」

 

「セシリア、大丈夫か?助けにきた━━ぞっ!?」

 

「まずい、セシリアのやつ錯乱してやがる・・・!一夏、一度離れるんだ!」

 

突如、セシリアはブルー・ティアーズを展開し、近接用ブレード『インターセプター』で一夏を払い除け、そのまま俺にも振り回してきた。

 

「うおっ!?セシリア、正気に戻れ!」

 

「わたくしの一夏さんが!わたくしの!わたくしだけのっ!」

 

「お、おい、待て!止めろ、バカ!」

 

「バカですって!?このわたくし、イギリス代表候補生、セシリア・オルコットに向かって━━」

 

一瞬、セシリアの動きが止まった。

 

『ワールド・パージ、強制介入』

 

「痛っ!」

 

セシリアが頭を抱える。

 

「う、う、う、わたくし・・・わたくしはっ・・・わたくしはぁっ・・・!」

 

「セシリア!」

 

一夏がガスマスクを取り払い、素顔を見せる。

 

「撃て、偽物の世界を!」

 

「っ!・・・よろしくってよ!」

 

セシリアが天井に向けて『スターライトmkⅢ』を撃つ。

まやかしの世界は、それで砕け散った。

 

 

「まったく、酷い目に遭いましたわ!」

 

プンプンと腕を組んで怒っているのは、制服姿のセシリアだ。

さっきからしきりにロール髪をいじっては、ブンブンと振り払い、そしてまた腕組をしている。

 

「酷い目?それなら俺も遭ったぞ~?」

 

ブゥゥン!ブゥゥン!

 

「ひっ!?」

 

俺の満面の笑みを見て、セシリアが短く悲鳴を上げた。

 

「な、なんにせよ、無事で良かったよ」

 

「・・・無事?無事ですって!?わたくしはあの偽者に体を━━」

 

ギャンギャンとした剣幕で捲し立てるセシリアが、ピタリと止まる。

 

「い、いちか、さん?あの、あなた・・・バスルームに入って来ましたわよね・・・?うぃ、ウィリアムさんも一緒、でしたわよね?」

 

・・・ギクッ。

一番避けたかった所にセシリアの意識が向いた。

 

「わ、わ、わたくしの裸を・・・み、みっ、見ましたわね!?」

 

「せ、セシリア。見ての通り、俺はこの麻袋で視界は悪かったし、戦闘に集中していたから見えてないぞ!それに、一夏の方がお前に近かった!」

 

実際に見てない。本当の事だ、信じてくれ!

 

「うぃ、ウィル!?なんて事を!」

 

「一夏さん!」

 

「お、俺も見てない!見てないぞ!」

 

「うそおっしゃい!・・・ブルー・ティアーズ!」

 

顔を真っ赤にしたセシリアがISを展開し、一夏に向けてズビシッと指を指した。

 

「行きなさい、ビット!」

 

「う、うそだろ、おい!何でウィルの言う事は信じるんだよ!」

 

「ウィリアムさんはそんな事はしないと分かっていますもの」

 

「ま、日頃の行いかな?諦めろ一夏」

 

「そ、そんな!?うわああああっ!死ぬ、死ぬ!死んでしまう!」

 

「わ、わたくしを辱しめておいて!」

 

「俺じゃない!俺じゃないだろ!」

 

「どちらも一夏さんですわ!」

 

「無茶言うな!」

 

ビームが一夏のケツを焦がす。

 

「せ、セシリア・・・!」

 

「聞く耳持ちませんわ!」

 

「きれいだった!」

 

「えっ・・・?」

 

ピタッとセシリアの動きが止まり、ビットも止まった。

 

「その、なんだ・・・きれいだったぞ、セシリアの体っ・・・」

 

「ばっ!お前そんな事言ったら余計に━━え・・・?」

 

「・・・・・」

 

セシリアはISを解除して、急にモジモジとしおらしくなった。

 

「い、一夏さんだけですわよ・・・ご覧になっていいのは・・・」

 

「こ、光栄だ」

 

「それにしても、世界一きれいだなんて・・・」

 

あれ?そんな事言ってたか?

 

「もう、一夏さんったら!」

 

ドンッ!と、一夏を両手で突き飛ばしたセシリアは森の外へと駆けて行った。

 

「ウィぃルぅ?」

 

「ん?何だ、一夏」

 

「何だじゃねえよ!よくも俺を売ったな!?」

 

「悪い悪い。けど実際に俺は見てないしな」

 

「そう言う問題じゃねえ!」

 

「分かったよ、すまなかったな。今度何か奢ってやるから、それで手打ちにしてくれ」

 

「・・・仕方無い。今回はそれで許してやるよ」

 

なんとか治まったようだ。

 

『・・・一夏』

 

簪からの通信が届く。

━━が、しかし、その声はひどく不機嫌そうだった。

 

「簪、次はどうする?」

 

『衣装を転送するから、好きにしたらいい』

 

ブツッと通信が切れる。

 

「な、なんだあ?」

 

訳も分からず戸惑う一夏。

 

「恐らく、セシリアの件だろうな・・・」

 

ボソッと呟いた直後、俺達の真上から巨大な衣装ケースが降ってきた。

 

「おわあっ!?」

 

「な、何ぃぃ!?」

 

ギリギリのところでかわした俺達は、ゴクリと唾を飲む。

 

「お、俺、何かしたか・・・?」

 

「か、完全にとばっちりじゃねえか・・・」

 

ともあれ、残るはシャルロット、ラウラ、箒の三人だ。

 

「いっちょうやりますか!」

 

「ささっとやっちまおう!」

 

俺達は衣装ケースを開いた。

 

 

「なかなか良いじゃないか!」

 

「随分気に入ってるな、その格好・・・」

 

次のドアをくぐり、今度は豪邸の中に出た俺達は次の救助対象のシャルロットを探していた。

因みに俺の格好は、全身をスラッと覆う強化外骨格と、怪しく光るオレンジ色のモノアイ。そして、手には高周波ブレードが握られている。

 

「だってお前、さっきのチェーンソー男と比べたら断然格好いいじゃねえか!」

 

「まあ、確かにな」

 

そう言う一夏の格好は変な仮面にマント、ブーツ、手袋と、『怪盗』だった。

 

「ん?一夏。向こうの方から同体センサーに反応があるぞ」

 

この外骨格、仮称『忍者スーツ』は高性能で、センサーやら何やらが搭載されているのだ。

 

「本当か?よし、行こう!」

 

反応のする方角へと急ぐ。

 

 

「・・・ここか」

 

「ああ。反応はここから出ている」

 

「行くぞ、ウィル」

 

「何時でもオーケーだ」

 

「「とうっ!」」

 

二人で豪華なドアを吹き飛ばし、突入する。

 

「だから!お前は何してるんだよ!」

 

「ったく!何でどの一夏も変態なんだよ!」

 

一夏が叫びながら、ニセ一夏に殴り掛かる。

 

「何だお前達は!」

 

「お前こそ何だ!偽者野郎!」

 

一夏がニセ一夏に怒鳴る。

 

「い、一夏っ!」

 

押さえ込まれたニセ一夏を助けようと、シャルロットは壁に掛けてあった剣を手に取った。

 

「ご主人様から離れろっ!」

 

「うわあっ!?」

 

ビュン、と迷い無い剣筋で放った斬撃が一夏を襲う。が━━

ガギンッ!刃は一夏に届くギリギリ手前で止まった。

俺がブレードで受け止めたのだ。

 

「うぃ、ウィル。助かったよ」

 

「見ていられないぞ一夏。歳をとったな」

 

鍔迫り合いながら一夏に向かってそう言う。

 

「え?と、歳?お前何言って・・・」

 

「スマン。なんか言わないといけない気がしたんだ。とにかく、彼女の説得を続けるんだ!」

 

シャルロットの剣をいなし、一夏の元に飛び退く。

 

「わ、分かった。シャル、目を覚ませ!」

 

「気安く呼ばないで!」

 

「助かったよ、シャルロット」

 

この時、俺はマスク越しにほくそ笑んだ。

・・・この時点で、あの偽者は終わりだ。

 

『ワールド・パージ、強制介入』

 

「ううっ!」

 

シャルロットがうめき声を上げる。

普段から一夏はシャルロットを『シャル』の愛称で呼んでいる。つまり━━

 

「僕、僕は、僕が好きなのは━━シャルって呼ばれる事!」

 

そう言って、ニセ一夏に剣先を向けるシャルロット。

途端に、偽者の目の色が物理的に変わった。

 

「ワールド・パージ、異物排除・・・異物排除・・・いぶ━━」

 

ピウン、と。

ニセ一夏の首が飛んだ。

首をはねたのは、シャルロット。

 

「偽者とはいえ自分の首が斬られるところを見る事になるとは・・・」

 

「ああ、下手なスプラッター映画よりも酷いな」

 

目の前の光景を見て、俺達は静かに呟く。

一番怒らせちゃいけないのはシャルロットなのでは?と心の中で考える。

偽者は血を噴き出す事無く、パラパラと光の屑になって消えた。

 

「よし、脱出するぞ!」

 

「えっ!?」

 

いきなり、ガバッと一夏がシャルロットを抱き抱える。

そして、俺達は偽りの世界から抜け出した。

 

 

「ふう・・・」

 

森の中に帰ってきた一夏が、シャルロットを下ろす。

 

「さて、そろそろお決まりの時間だな」

 

明後日の方角へと体ごと向ける。

 

「きゃああああっ!?」

 

「な、何だ━━ぐあっ!」

 

「み、見ないでぇ!一夏のえっち!」

 

一夏に目潰しが炸裂した。

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「ああっ!?ご、ごめん!でも、その、これを着けてって言ったの一夏だし、脱げって言ったのも一夏だし・・・」

 

「だ、だから・・・それは偽者・・・」

 

「そ、そう言う言い逃れするの!?」

 

り、理不尽だな・・・。

思わず苦笑いを浮かべる。

 

「と、取り敢えずこのマントで隠せよ。な?」

 

シャルロットが無言でそれを受け取る。

 

「ほら、そんなに怒ってたら可愛い顔が台無しだぞーっと」

 

「・・・・・」

 

「しゃ、シャル?」

 

「・・・デート」

 

「う、うん?」

 

「だ、たからっ!デート!遊園地デートしてくれたら許してあげる!」

 

「お、おう。じゃあ遊園地ならみんなで一緒に━━」

 

「二人きりが良いの!」

 

しばしの沈黙が流れる。

 

「分かったよ・・・。貯金、下ろすから」

 

「え、うそ!?ほんとに!?」

 

本人もダメ元で言ってたのか・・・。

 

「シャルから言い出した話だろ」

 

「えっ!?あ、うん、そうだけど・・・やったぁ。言ってみるものだね。えへへ」

 

なんとか機嫌は直ったらしい。

 

「それじゃあ、取り敢えずこの世界を出るか。送って行くよ」

 

「その必要は・・・無い」

 

「「「!?」」」

 

またしても森の茂みから、簪が現れた。

突然の事に、軽く飛び跳ねてしまう。

 

「私が・・・送って行くから・・・」

 

「お、おう」

 

「そうだな、ならお願いしておくか」

 

どうやら簪はかなりご立腹のようだ。

声音だけでも分かる。

 

「取り敢えず、シャルロットの・・・制服をダウンロード・・・、完了」

 

パアッと光りに包まれたシャルロットの格好が、いつもの学園制服に変わる。

 

「じゃあっ、一夏っ。僕は一旦戻るからねっ。約束忘れないでねっ」

 

ハイテンションのシャルロットが、軽い足取りで森の外へと向かう。

それを追う直前、簪がボソッと一夏に呟いた。

 

「贔屓・・・」

 

「な、なあっ!?ち、違うぞ、俺は別に━━」

 

しかし、簪はプイッと顔を背けて行ってしまった。

俺はニヤニヤと笑いながら、一夏を肘先で小突く。

 

「な、何だよ」

 

「いんや、別に。・・・ふっ、お前も大変だなぁ。な?色男」

 

「何なんだよ・・・」

 

「気にするな。さて!残るはラウラと箒か」

 

「そうだな。後少しだ!」

 

俺達はそう意気込んで、衣装ケースを漁った。

 

 



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第78話

「こ、これは・・・!」

 

衣装ケースを漁って見つけたのは、ピッチリとした黒いスニーキングスーツと年季の入った灰色のバンダナだ。

腰にはピストル、左の胸にはナイフがそれぞれホルスターに入っており、ベルトには手榴弾が一つ。

どこぞの『蛇』のような格好だった。

 

「おお、なんか懐かしいな」

 

そう言ったのは一夏だ。

彼は剣道着に面と竹刀を装備している。

 

「ウィル、なかなか似合ってるじゃないか!」

 

「ありがとよ!一夏も様になってるじゃないか!良いセンスだ!」

 

「行くぞ!」

 

「おう!」

 

次の扉の前に立ち、ノブを捻る。

 

「・・・ん?簪、変装しているのにドアが開かないぞ?」

 

ドアがビクともしない。

まさか、また何かしらのロックが掛かったのか?

 

『恐らく二人は暴れ過ぎたみたい。これ以上の異物流入を防ぐ為に制限されてる』

 

「確かにかなり派手な事はしたが、どうやって入れば良いんだ?」

 

「このままじゃあ助けに行けないぞ」

 

『・・・一人で行くしかない』

 

「一人で、か・・・」

 

二人でも少し手間取るような事もあったのに、一人だけで行くとなるとかなり骨が折れそうだ。

 

「悩んでも仕方無い、そっちからではどうにもならないんだろ?」

 

『残念ながら・・・』

 

「なら答えは一つだ。一夏、俺はこっちを行く」

 

「なら俺はこのドアだな!」

 

「成功を」

 

「そっちもな」

 

拳と拳を軽く当てる。

 

『気を付けて、この二つはかなり厄介だから』

 

「「了解!」」

 

二人はそれぞれのドアへ向かって駆け出した。

 

 

私の名前はラウラボーデヴィッヒ。

ドイツ軍所属、IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長で現在は━━

 

『ワールド・パージ、完了』

 

━━現在は、新婚二ヶ月目の『嫁』を愛する『新郎』だ。

愛の巣は二人の出し合った金で買った一軒家。二人には広い気もするが、将来を思えばどうと言う事はない。

 

「ふむ・・・」

 

私はリビングのテーブルで、新聞を広げて朝食を待つ。

 

「やはり中東情勢が変わってきているな・・・」

 

「ラウラ、どうした?」

 

「む?いや、ちょっとな」

 

そう言って嫁はミルク多めのコーヒーを私の前に置く。

━━良く出来た『嫁』だ。

うんうんと心の中で頷く。

因みに嫁の名前はウィリアム・ホーキンスと言う。

愛称はウィルだ。

 

「ラウラ、オムレツが出来たぞ」

 

中身はふわとろ、愛情たっぷりオムレツを受け取って、私は改めてウィルを見る。

あのパイロットスーツも良く映えるが、エプロン姿も様になっている、自慢の嫁だ。

 

「あー、ウィル。実はだな・・・」

 

コホン、と咳払いをして話を切り出す。

 

「しばらく、特別休暇が出たのだ。だからだな、その・・・」

 

「つまり、お前と二人っきりでいられるって事か」

 

「う、うむ・・・」

 

私が少し照れて頷いたのに対して、ウィルも、ふふ、と笑う。

 

「実は俺も空軍から長期休暇を貰ってたんだが・・・そう言う事なら、さっそくこいつを使わないとな?」

 

「う!そ、それは・・・」

 

結婚記念日に一人五枚ずつ交換した『何でもおねだり券』だった。

見覚えのある自分の手書きの字に、ますます恥ずかしさが募る。

な、何を『おねだり』する気だ、ウィルめ・・・。

前は『ゴスロリ』の格好をさせられた。

今度は何だ?な、ナースか?

 

『ラウラ、俺だけの癒しの天使・・・』

 

め、メイドか?

 

『ご主人様って、いってごらん・・・』

 

それともバニーか!?

 

『可愛いウサギちゃん、俺だけのラウラ・・・』

 

・・・・・。

 

「ラウラ?おい、ラウラ」

 

「━━ハッ!?な、何だ?」

 

「鼻血出てるぞ」

 

そう言ってハンカチでゴシゴシと私の顔を拭くウィル。

 

「じ、自分で出来るっ。馬鹿者っ!」

 

「はいはい」

 

「『はい』は一回だ!」

 

「そんな事よりラウラ、あーん」

 

・・・パクっ。

わああ、ウィルのオムレツ、ふわっふわのとろっとろ~♪

━━などと幸福感に浸っている場合ではない!

 

「ウィル!」

 

「うん」

 

「な、な、何をおねだりする気だ!?」

 

思わず立ち上がった私を、ウィルが笑顔でたしなめる。

 

「まあまあ、落ち着けよ。指揮官たるもの焦りは禁物、だろ?」

 

「う、うむ・・・そうだなっ」

 

取り敢えず座り直す。そしてトーストをかじって、サラダを頬張り、コーヒーを一口。

 

「裸エプロン、かな」

 

━━ブフゥっ!!

 

「げほっげほげほっ!・・・な、何?」

 

「ラウラに裸エプロンしてほしいなって言う、おねだりだ」

 

は、裸エプロンだと!?

 

「ば、ば、馬鹿者!そんなハレンチな・・・!」

 

テーブルに乗り出してウィルに詰め寄る。

帰ってきたのは、額へのキスだった。

 

チュッ。

 

「あっ・・・」

 

「頼むよ、ラウラ」

 

「う・・・、うむ・・・」

 

 

 

「こっ、これで良いのかっ・・・!?」

 

声にいまいち迫力が無い私は、おずおずとリビングに姿をさらす。

身に纏っているのは眼帯とエプロンだけ。恥ずかしい事この上ない。

ギュウッと前垂れを引っ張って少しでも肌を隠そうとするが、ウィルの遠慮の無い視線は私の体を執拗に愛撫する。

 

「ううっ・・・」

 

「可愛いぞ、ラウラ」

 

「ええい、うるさいうるさいっ!」

 

私の羞恥心を煽るように、ウィルはとびきり優しい声で言う。

 

「それじゃあ、せっかくエプロンを着てるんだから料理でもするか」

 

「な、何っ!?」

 

「その方がラウラの可愛いさがグッと増すぞ」

 

「ぬぐぐっ・・・!」

 

ウィルに可愛いと言われれば私は逆らえない。

そんな自らの愚かしさが、小ささが、憎くて・・・愛おしい。

私は・・・弱い女だ。

それは悔しいけれど、認めてしまえば嬉しさに変わる。

 

「お、おかしな事をしたら・・・許さないぞ」

 

「おかしな事?」

 

「だ、だからっ!その、だな・・・え、えっちな事とか・・・ええい!言わせるな!」

 

ベシン!とウィルの腹を叩いて、私はキッチンへと向かう。

 

「いたた・・・。ラウラ」

 

「何だ?」

 

「似合ってるぞ」

 

耳元でそっと囁かれる。

私はカーッと頭が沸騰して、渾身の裏拳をウィルにお見舞いする。

けれど、ウィルはその拳を柔らかく手で受け流して、こともあろうか私の体を後ろからギュッと抱きしめてきた。

 

「ラウラは可愛いなあ」

 

「こ、こらっ!やめろ、馬鹿っ!・・・あっ!」

 

エプロンの上から胸を撫でられる。

敏感なそこが反応を示すと、ウィルは甘く淫らに囁いてきた。

 

「・・・今日は一日中しようか」

 

「な、何をだっ?」

 

「分かっているんだろ?」

 

チュッと肩にキスを刻まれる。

わ、わわ、わたっ、わたしっ、私はっ━━

頭がクラクラとする。

ああ、だがしかし、だがしかし。

流されてしまうのも・・・良いかもしれん・・・。

ポワッと桃源郷を思い描いていると、バンッ!!と勢い良くドアが蹴り開けられた。

 

「「っ!?」」

 

開け放たれたドアから何者かがゆっくりと侵入してくる。

 

「待たせたな!!」

 

全身をスニーキングスーツで覆い、額にバンダナを巻いた男だった。

 

「な、何者だ、貴様!」

 

手に届く場所にあった出刃包丁を男に向けて投擲する。

 

「うおおっ!?」

 

男は慌てて飛び退き、投げた包丁は後ろの壁にドスッ!と刺さった。

 

「あ、アホ!殺す気かっ!?」

 

「当然だ。私とウィルの邪魔をする者は死んでもらう!」

 

ウィルの抱擁から抜け出して、私は身を低くして目の前の男に迫る。

 

「はっ!」

 

「っ!」

 

必殺の踵落としがスーツの胸部プレートの隙間に鋭く刺さる。

ミシリと、相手の骨が軋む感触がした。

 

「グゥッ!」

 

ガクリと膝をつく男。私は壁から出刃包丁を強引に引き抜くと、素早くそれを首筋に当てた。

 

「終わりだ。死ね」

 

「頑張れ、ラウラ」

 

いきなり後ろからウィルの声援が飛んできて、ドキッとしてしまう。

 

「あ、当たり前だっ。もう決着は━━」

 

「てめぇは・・・ラウラに戦わせて優雅に観賞かよ!!次は何だ?ポップコーンでも必要か!?」

 

男が強引に立ち上がる。

私は慌てて包丁を引くようにして男を斬るが、手応えが浅い。

 

「退いてろ、ラウラ!」

 

「頑張れ、ラウラ」

 

二つの声が、ウィルの声が、前と後ろから聞こえる。

わ、私、私は・・・!

戸惑う私を退けて、男はピストルとナイフを取り出す。

 

「このっ!!」

 

「頑張れ、ラウラ」

 

ウィルの胸部に目掛けて数発発砲し、止めにザシュッ!と首を掻き斬る。

完全に動脈を斬られた筈なのに、・・・血が一滴も出ていない。

それどころか、まるで壊れたラジオのように同じセリフを繰り返すだけだった。

 

「頑張れ、ラウラ」

 

繰り返し、繰り返し。

 

「頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ」

 

何時までも、繰り返し。

 

「頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ。頑張れ、ラウラ」

 

『頑張れ』がやがて『戦え』に聞こえてくる。

わ、私は、私は、戦う為に、生まれてっ・・・。

 

「ふ、ざ、けんなよ・・・!この野郎っ!!」

 

男はウィルを壁に叩き付け、そのまま口内にピストルを押し込み、三発の銃弾を撃ち込んだ。

それでもまだ、言葉は続く。

 

「がんば・・・れ、らう・・・ら。たたか・・・え、たたかって・・・殺し・・・て・・・殺さ・・・れ・・・て・・・」

 

あ、あ、あっ━━。

 

「うわああああっ!!い、いや・・・だ。嫌だ・・・嫌だ!私は、戦う機械じゃ・・・」

 

「お・・・まえ、は・・・兵器・・・」

 

ピンッ!カラカランッ

男が手榴弾の安全装置を外す。

 

「ただ・・・殺す・・・事、しか・・・価値は━━」

 

「いい加減黙れ・・・!」

 

底冷えするような声でそう言った後、ウィルの口に手榴弾を捩じ込み、隣の部屋へ蹴り飛ばした。

 

━━ボンッ!

隣の部屋で爆発が起きる。

 

Get out of sight. Fucking bastard(視界から消え失せろ。クソ野郎)

 

そう吐き捨てるように言った後、こちらに駆け寄って来た。

 

「ラウラ!」

 

男が、着けていたバンダナを取る。

そこには見慣れた顔があった。

 

「大丈夫だ、ラウラ。お前はお前だ。政府や誰かの道具なんかじゃない。かけがえの無いお前なんだ。無理に戦う必要は無いんだ」

 

「あぁ・・・、ウィル・・・」

 

その温もりに抱きしめられて、私は気を失った。

 

 

「よっと・・・」

 

森に帰ってきた俺は、抱きかかえていたラウラをそっと草原に寝かせる。

穏やかな吐息は優しい眠りに包まれている証拠だろう。ラウラに異常は見当たらない。

 

「ふ、まるで眠り姫だな」

 

つん、とその鼻に触れる。

 

「可愛い顔して寝てるぜ・・・」

 

そうしていると、一夏と箒が帰ってきた。

 

「おう、一夏か。お疲れさん。箒も無事そうで何よりだ」

 

「う、うむ。心配を掛けたな」

 

「みんなが無事なら万々歳だ。気にするな」

 

「ウィルもお疲れ。そっちも成功したみたいだな」

 

「ああ、なんとかな」

 

「しっかし、何でどれもこれも俺が出てくるんだ?」

 

「何でだろうな?ラウラの世界では俺がいたぞ」

 

偽者の自分とはいえ、まさか口に手榴弾を押し込んで爆破する時が来るとはな・・・。一夏の気分がよぉーく分かったよ。

 

「お答えしましょう」

 

ガサッと茂みから頭を出したのは、案の定、簪だった。

 

「そ、その登場が流行ってるのか・・・?」

 

「び、ビックリするから止めてくれ・・・」

 

「うん・・・」

 

コクンと頷いて、何時もの調子に戻った簪は茂みからガサガサと出てくる。

 

「こんなに葉っぱを付けて・・・しょうがないな」

 

一夏が一枚一枚手で葉っぱを取っていると、簪は顔を赤くして俯いた。

 

「それで、ラウラ達に対する攻撃の正体は分かったのか?」

 

俺は簪に質問する。

 

「はい。恐らく、敵は・・・対象者の精神に直接アクセスして・・・その心の奥底に秘めた願望・・・渇望・・・そして、記憶などを夢として混同して見せることで外界と遮断、精神に何らかの影響を与えるという攻撃です・・・。その意図は━━」

 

と、言葉を続ける簪を遮って、ラウラがガバッと起き上がった。

 

「な、な、何を言うか、貴様!あ、ああ、あんな事が私の望みだと!?い、い、いい加減な事を!」

 

「が、願望・・・!」

 

ラウラの横では箒が顔を真っ赤にして震えていた。

 

「わ、わわ、私はっ・・・!」

 

俺は面白いくらいに狼狽しているラウラに、プッと吹き出してから乱れた髪を直してやる。

 

「よう、眠り姫。よく眠れたか?」

 

「ひっ、ひひひっ、姫っ、だと!?う、ううう、ウィルっ、貴様っ・・・!」

 

「グェッ!?」

 

飛び掛かって首を絞めてきた。

 

「ら、ラウラっ。絞まってる、首絞まってるって。ギブ、ギブぅ・・・!」

 

ラウラの腕を必死にタップする。

 

「な、何が幸せな結婚だ!穏やかな家庭だ!子供は三人だ!いや、いずれは、その、結婚とかは・・・。

~~~!!わ、私は━━」

 

「ラウラ」

 

ストップ、と背中側にいるラウラの頭を優しく撫でる。

 

「帰って休め。な?」

 

「う、うむ・・・」

 

サラサラとした髪を撫でる度、指に伝わってくる感触が心地良い。

 

「箒、お前も帰って休んどけよ」

 

一夏が箒に帰るよう、促す。

 

「そ、そうだな。そうさせてもらおう・・・」

 

そうして、ラウラと箒も森の外に歩いて行った。

 

「さて、一応全員救出した訳だが、本命のシステムの復興がまだなんだよな?」

 

「うん、まだ元凶を・・・絶っていない・・・」

 

「ならそれを片付けて終わりだ」

 

「そうだな。さっさと片付けようぜ!」

 

「でも、一夏のISも・・・さっき大きなダメージが・・・」

 

「そんな・・・」

 

「・・・簪、俺のISはどうなんだ?」

 

「ウィリアムのISは・・・まだ大丈夫・・・」

 

一夏のISは箒の世界で自身の偽者と戦い、かなり消耗していた。

ウィリアムのISも少なからずダメージを受けていたのだが、現時点で最も戦う事が出来るのは彼だけだった。

 

「なら決まりだ。俺が行ってくるよ。これ以上放って置くとまずいんだろう?」

 

そう言って新たに現れたドアの前に立つ。

 

「元凶を見つけ出して、それを叩けば良いのか?」

 

「それで当ってる・・・けど、気を付けて・・・」

 

「ウィル、頑張れよ」

 

「おう!」

 

そう言って、俺はドアをくぐった。

 

 

「ん?ここは・・・」

 

見渡すと、その広大な敷地には長大な滑走路が何本も走り、その傍らには格納庫が並んでいた。

後ろを振り返ると、兵舎らしき建物ときれいな白塗りの大きな建物が遠くに建っている。

忘れようの無い景色だった。

 

「フォート・グースメリア 陸空共同基地・・・」

 

俺の所属している軍事基地だ。

自分の姿を見ると、全身がフライトスーツに包まれており、左肩には部隊章、左胸には自身の名前と階級章に『Akula(アクーラ)』のTACネーム(非公式愛称)が刻印されたプレート。右肩には国籍ワッペン、右胸には搭乗機のワッペンが縫い付けられていた。

 

「この格好は・・・!」

 

「ホーキンス中佐」

 

唖然としていると、突然声を掛けられた。

 

「が、ガッツ!?」

 

「どうしたんですか?幽霊でも見たような顔をして・・・」

 

「ああ、いや、スマン。不意に声を掛けられて驚いただけだ」

 

「そうですか。あ、そうだ。中佐、こんな所で何をしてるんですか?今日はスクランブル当番でウォーバード隊は全員アラートハンガーで待機でしょう」

 

「!しまった、こんな所で油売ってるのを見つかったらコットス将軍にドヤされちまう!」

 

そうだそうだ。今日はスクランブル当番なのをすっかり忘れてた。

しかし、何だ?このモヤモヤは・・・。何か他に忘れているような気がするが思い出せない。

 

「中佐、早く行きますよ。こんな所にいたら私まで滑走路往復走をさせられます」

 

「そ、そうだな」

 

そう言って、俺とガッツは待機ハンガーに向かった。

道中、ふと周りの建物を見ると、色々な飾りつけがされているのが目に入った。

ん、そう言えば今日は基地の創立パーティーをするんだったよな。

待てよ・・・?パーティー?いったい誰と?・・・そう!頼もしい仲間達と!

そうだよ!何でこんな大切な事を忘れてたんだ?まさか、この歳でもう物忘れか!?

 

『ワールド・パージ、完了』

 

ああ・・・とうとう幻聴まで・・・。検査、受けようかな・・・。

一人で落ち込みながら、アラートハンガーへと向かう。

 

「ふぅ、着いたか」

 

「まったく、この基地は無駄にデカ過ぎるんですよ」

 

「空軍と陸軍の共同だからな。仕方無いさ」

 

そこには、ウォーバード隊の搭乗機がズラリと並んでいた。

その中でも一際目立つのが━━

 

「相変わらず、中佐の機体は厳ついですねぇ・・・」

 

「何だよ、別に良いじゃねえか」

 

「まあ、『シャークマウスの下は安全地帯』だなんて言われるぐらい、仲間内からは象徴になってますからね」

 

ガッツが頷きながら、納得したように話す。

 

「あ、そう言えば!今日のパーティーにはコットス将軍のご令嬢も来るそうですよ!」

 

興奮気味に告げてきた。

 

「へぇ、あの鬼将軍のご令嬢か」

 

「な・ん・で・も・!スーパー美人なんだとかっ!」

 

「おいガッツ。お前既婚者だろ、鼻息荒くして言うんじゃねえ。嫁さんにチクるぞ?」

 

「げぇっ!?そ、それは勘弁して下さいよ・・・」

 

「まったく・・・それより、あまり酒を飲みすぎるなよ?」

 

「勿論!酒瓶4本だけにしておきます!」

 

「飲みすぎだ。この酒豪め」

 

「ウィル!!」

 

二人で談笑していると、突然誰かに自分の愛称を呼ばれた。

 

「「?」」

 

振り返ると、目の前には銀髪を腰まで伸ばし、左目を眼帯で覆った少女が立っていた。

 

 

ラウラはウィリアムに「帰って休め」と言われ、箒達と共に森を抜けようとしている最中、妙な胸騒ぎを覚えた。

 

「何なんだ?この嫌な予感は・・・」

 

一人静かに、そう呟く。

 

『あいつを助けてやってくれ!』

 

「?箒、何か言ったか?」

 

「いや、一言も話していないが?」

 

『お嬢ちゃん!このままじゃあいつが・・・ウィルがヤバい!助けてやってくれ!』

 

「っ!!」

 

そこからの行動は早かった。

箒達の制止の声を聞かずに元来た道を疾走し、開かれたドアに飛び込むと、その先には広大な軍事基地が広がっていた。

 

「これが、ウィルの夢の中なのか?」

 

随分と現実味のある景色だ。本当にただの夢なのか?これはまるで・・・

 

「記憶・・・?」

 

しかし、これだけ大規模な基地なら私でも知っている筈だ。

 

「ウィル、お前は・・・」

 

とにかく、ウィルを捜すのが先決だ!

私は滑走路に繋がる誘導路の脇を走り続けた。

 

 

「勿論!酒瓶4本だけにしておきます!」

 

「飲みすぎだ。この酒豪め」

 

 

声が聞こえた!

一人は聞いた事の無い声。もう一人は━━

 

「ウィル!!」

 

ありったけの声で彼の名前を呼んだ。

 

「「?」」

 

その声に反応して、こちらに振り向く人影。

私の目に映ったのは、パイロットスーツを着込んだ二人の壮年の男だった。

 

 

「おいおい、今日は基地の見学会なんてあったか?」

 

ガッツに聞いてみる。

 

「さあ?私はそんな事は聞いておりませんが・・・」

 

取り敢えず名前を聞いてみるか。

 

「君、名前は?どこから来たんだい?」

 

「なっ!?私だ!ラウラだ!ラウラ・ボーデヴィッヒだ!」

 

・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ?どこかで・・・。

 

「おいガッツ。俺の知り合いにボーデヴィッヒのファミリーネームの子持ちはいたか?」

 

「私が中佐の知り合い一人ひとりを知ってるわけないですよ・・・」

 

ふむ、とするとこの娘は誰なんだ?

どうも喉の奥で引っ掛かるような妙な感覚がする。

 

「・・・中佐?ウィルがか?」

 

ラウラという娘が聞き返してきた。

 

「え?ああ。ほら、見ての通り空軍の中佐だよ。・・・と言っても威張る程じゃないけどね」

 

少しひざを曲げて、黒と黄色の階級章を見せる。

と言っても、階級章を見せても分かるか?あれ、結構見分けが難しいんだよなぁ・・・。

 

「・・・あ、中佐。もしかしたらこの娘はパーティーの時間を間違えて来ちゃったんじゃないですか?」

 

「アッハハハ!成る程な。それなら有り得そうだ。君、ラウラちゃん・・・で良いかな?今はまだ午前中だ。パーティーまでは時間があるから建物の中で休んでいると良い。誰か迎えを寄越そう」

 

そう言って近付き、手を差し出す。

 

「本当に・・・私が分からない、のか・・・?」

 

その問いに、俺は腕を組んで唸りながら記憶を遡る。

 

「うーん・・・。すまないが俺は━━」

 

突然、女の子が右手を突き出してきた。

 

「ならこれはどうだ!見覚えがあるだろう!?」

 

その手首にはウサギの柄が彫られたブレスレットがキラリと光っていた。

 

「ん?これは・・・」

 

どこかで買って誰かにプレゼントしたような・・・。しかし、そんな店に俺がいつ寄った?それに誰と?いつこの娘にあげた?

頭の中を色々な光景がフラッシュバックする。

 

な、何だ?この光景は━━

 

『ワールド・パージ、異常発生。異物混入。排除開始』

 

━━ズキッ!

 

「ぐっ!・・・あ、頭がぁ・・・!」

 

ヨタヨタッとふらつく。

激痛の中、女の子がナイフを抜いてガッツを睨むのが見えた。

何事だ?と思い、ぼやける視界の中ガッツに視線を向けると━━

 

「命令遂行。異物の排除を開始」

 

無表情のガッツが立っていた。

 

「ガッツ?お前、何を・・・」

 

「強引だが・・・許せっ!」

 

━━パシィンッ!

 

「っ!?」

 

いきなり左頬を平手打ちされた。

はたかれた部位がヒリヒリする。今鏡の前に立てば、キレイな紅葉を見ることが出来るだろう。

 

「ウィル、目を覚ませ!!」

 

「いってぇ・・・ラウラ(・・・)、いきなり何を・・・ハッ!!」

 

今の彼女の行動で、モヤに覆われていた部分が一気にクリアになった。

そうか・・・そうか!俺もまんまと騙されてたのか!

 

「・・・やってくれたな」

 

そう言って、ISを展開する。

 

「ウィル、正気に戻ったのか?」

 

「ああ、おかげ様でな・・・!」

 

ニセガッツと対峙する。

 

「俺の部下に成り済ました代償は高くつくぞ!」

 

言うや否や、俺は30mm機銃を撃ちまくった。

バララララララララッ!!

機銃弾の直撃を受けて、バラバラになるどころか、一瞬で粉煙のように霧散していくニセガッツ。

それと同時に、ガッツだった物から、赤い球体が逃げるように飛んで行く。

それを見て、俺は直感で感じ取った。

 

「あれがコアか・・・!」

 

『QAAM RDY』

 

飛んで逃げようとするコアをロックオンする。

 

「逃がさん!Fox3 ファイア!」

 

発射されたミサイルはコアを追い掛け、そして跡形も無く消し飛ばした。

それと同時に基地がグニャリと曲がり、崩壊し始める。

 

「ウィル!」

 

「ラウラ、掴まれ!」

 

俺はラウラを抱きかかえたまま、ドアに向かって飛翔した。

 

 

電脳世界から帰ると、既に学園のシステムは復旧していた。

俺は報告として、先の学園上空での戦闘、そして『トリニティ』が使用された事を詳細に織斑先生と生徒会長に話した。

トリニティの爆発は先生達も確認しており(まあ、あれだけの水柱が立てば気付くか)、後で捕らえた二人のパイロットを尋問するそうだ。

これでようやく騒ぎは治まった。

・・・とはいかなかった。

 

 

「あぁ・・・眠い・・・今ならどこででも寝れる自信があるぜ・・・」

 

数時間に及ぶ報告を済ませ、重たい体を引きずりながら自室へと向かう。

 

「た、ただいま・・・眠い、死ぬ・・・」

 

そう言ってベッドに倒れ込む。

意識が微睡み始めた頃、ラウラが静かに口を開いた。

 

「ウィル、訊きたい事がある」

 

「んあ?何だ?」

 

随分と真面目な声だな。

 

「・・・ウィル・・・ウィルは、何者なんだ?」

 

「へ?」

 

突拍子も無い質問に間抜けな声が漏れる。

 

「ウィルが閉じ込められていたあの世界。あれは・・・願望などではなく、いつかの記憶ではないのか?」

 

「っ!!」

 

その言葉を聞いて、眠気はどこかへ飛んでしまった。

 

「あれ程の大規模な基地でありながら、そんなものは今まで見た事も聞いた事も無い。少なくとも、あんな基地はどこにも建設されていなかった筈だ。・・・勿論、お前が作り出した幻という可能性を第一に疑ったが、あの世界でのお前の言動を見ているうちに確信へと変わった。普段のお前は、何かを隠している。と」

 

「・・・・・」

 

流石、特殊部隊の隊長を任されているだけあって勘が鋭い上に状況整理も素早い。

 

「頼む。話してくれないか?」

 

もう言い逃れは出来んか。

これが年貢の納め時っていうやつなのか?・・・信じる信じないに関係無く、話さないと解放してはくれなさそうだ。

俺はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・・・・ラウラ、もし『異世界』が存在するって言ったら、お前は信じるか?」

 

「異世界・・・?」

 

「そうだ。・・・俺はこことは違う世界でも空軍に所属していたんだ。階級は中佐で、所属する隊は『ウォーバード隊』その部隊長を任されていてな。ある日、以前から睨み合いが続いていた軍事大国が宣戦を布告。戦争が始まったんだ」

 

遠い目をして語るウィリアム。

 

 

 

『緊急ニュースをお伝えします!本日、○○公国が我が国に対し、宣戦を布告しました!繰り返します━━━』

 

 

『クソッ!ビッグバード2が火を吹いてるぞっ!』

 

 

『嘘でもはったりでも良い!アクーラが来ていると言えっ!!』

 

 

『今さら迎撃とはな、遅いぞノロマ共!』

 

 

『対空システムオフライン!!』

 

 

『滑走路上の全機に告ぐ!炎上中のタンカーは操縦不能。緊急着陸を敢行する為、離陸待機中の機体は可能な限り散開せよ!』

 

 

 

「戦況は泥沼化していき、痺れを切らした敵は主力を結集。臨海首都への直接攻撃に踏み切ったんだ。こちらも出せるだけの戦力を投入して敵を迎え撃ったが、その最中、俺は対空砲火の直撃を受けて脱出不能に陥ってしまってな、最後の手段として敵の旗艦へ体当たりをして・・・」

 

「・・・死んだと思ったらここに飛ばされた。と?」

 

「そうだ。死んだ後、神を名乗る人物によってな・・・」

 

「・・・では、あの電脳世界は?」

 

「戦争が始まる半年前。俺が所属していた基地だ」

 

「その記憶が夢として現れたという事か」

 

「ああ、恐らく。・・・すまなかった。騙すつもりは無かったんだ。言っても信じられるような話じゃなかったからな・・・」

 

ラウラがスッと立ち上がり、こちらに歩み寄ってきた。

これは・・・一発は覚悟した方が良いかもな・・・。

そう思い、静かに歯を食い縛り、目を瞑る。

 

━━ギュッ

 

「・・・え?」

 

唐突に感じる温かい感触。

ラウラに抱きしめられたのだ。

 

「異世界だの転生だの、私にはよく分からん。経験した者がお前以外にいないからな。だが、その結果、私はウィルに出会う事が出来た。その神には感謝しなければな」

 

そう言って微笑み掛けてきた。

 

「・・・あんな馬鹿げた話を信じてくれるのか?」

 

「信じるも何も、お前はそんなくだらん嘘を吐くのか?」

 

「そんなことはしない、が・・・」

 

「ならそれで良い。そんな顔をするな」

 

「っ・・・あり、がとう・・・」

 

彼女のおかげで、心の奥のつっかえが一気に溶けて無くなった気がした。

 

 

 

「そ、そろそろ寝よう。明日が休みでも、あまり遅すぎると織斑先生にドヤされる」

 

さっきまでラウラに抱きしめられていた俺は、今になって唐突に恥ずかしくなってきた。

 

「そうだな。今日はもう寝るとしよう。私も疲れた・・・」

 

「それじゃあ、お休み」

 

そう言って、スタンドのランプを消す。

 

「ああ、お休み・・・」

 

俺は幸せ者だな。

そう思いながら、俺は寝床に入って静かに瞼を閉じた。

 

━━今から寝れない夜が始まるとも知らずに。

 

意識が途切れるのを待つように静かにしていると、ゴソゴソとラウラのベッドから音が聞こえた。

ん?ラウラのやつどうしたんだ?

 

「ウィル・・・」

 

目を開けて、声の方を見ると、暗闇の中でラウラがモジモジと立っていた。

 

「どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「いや、その、こ、ここ、今晩は一緒に寝ても良いか?」

 

「・・・は?一緒にって、このベッドでか?どうしてまた・・・」

 

「そ、その、あの電脳世界での事が頭から離れなくてな・・・。だ、ダメか?」

 

しおらしい態度に加え、捨てられた仔犬のような目で見てくる。

まあ、あんな心を抉るような出来事があった後だしな。

 

「・・・仕方無い。どうぞ」

 

ベッドのスペースを空ける。

ギシッと、二人分の重さでベッドが軋む音がした。

さて、今度こそお休━━

 

━━ギュッ

 

「・・・・・」

 

背中越しに抱きしめられた。

 

「おいおい、どうしたんだ?」

 

しかし、返って来たのは静かな寝息だった。

 

「眠ったのか・・・お休み」

 

そう言って、再び瞼を閉じた。

 

「スゥ・・・スゥ・・・」

 

「・・・・・」

 

「スゥ・・・スゥ・・・」

 

「・・・・・」

 

だ、ダメだ!寝れんッ・・・!!

 

 

背中に柔らかい感触と寝息が当たり、ウィリアムは寝れない夜を過ごす事になった。

 

 



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第79話

毎度お付き合い頂き、ありがとうございます。

実は他の作者の方に承諾を頂き、今話から投稿していらっしゃる作品のネタをいくつか参考にさせて頂こうと思いまして、「あれ?これに似たのをどこかで・・・」と言うような部分が所々に見られると思います。
予めご了承下さい。

よろしければ、これからもぜひお付き合い下さい。


翌日、日曜日。

 

充血し、目元に色濃いクマを作ったままラウラと共に食堂へ出向き、ボーッとしていると誰かが背後から肩に手を置いて話し掛けてきた。

 

「ウィル、ラウラ、おはよう。昨日は大変だったな」

 

ん?この声は一夏か・・・。

 

「ああ、おはよう・・・」

 

「む?一夏か。おはよう」

 

そう言いながら、俺とラウラは一夏の方に振り返る。

 

「そう言えば、専用機持ちは後で千冬姉の所に集合・・・って、ウィル、どうしたんだその顔?」

 

今のウィリアムは、充血した目とクマの他に、目が妙に滲みて上手く開けられない為、目付きが非常に悪くなっていた。

 

「顔?ああ、少し寝不足でな。ラウラにも同じ事を言われたよ」

 

みんなも徹夜明けって目が痛くならないか?って、俺はいったい誰に向かって同意を得ようとしているんだ?

 

「寝不足?いったい昨晩に何があったんだ?」

 

「今朝も言ったが、体調が優れないなら早めに言うんだぞ」

 

一夏に続いて、ラウラが顔を覗き込みながらそう言ってくる。

まったく、昨晩の俺の苦労も知らないで・・・!

 

「いや、何でも無い。ただの寝不足だ。気にしないでくれ」

 

昨日の出来事が脳裏によみがえり、顔が熱くなるの感じながら誤魔化しを入れる俺に、一夏とラウラは「?」と言った表情で小首を傾げるのだった。

 

 

朝食を食べた後、一夏に言われた通りに織斑先生の元に集合して今回の事件の詳細を聞いた。

 

まず、IS学園のシステムにハッキングして電力を遮断。学園を覆うシールドが消えるのを見計らって、多方から戦力を投入して攻撃。

これは陽動だったらしく、本命は俺が撃墜した兵器『トリニティ』を混乱に乗じて学園に撃ち込むのが目的だったようだ。

しかし、予想外の戦力と、俺の発見・撃墜が早く、大惨事は未然に防がれた。

あの電脳世界での出来事は、ハッキングを邪魔されないようにする為の防衛手段と戦力の要である専用機持ちを戦闘不能にするのが目的だったらしい。

捕まえたパイロット二人は始めは強気の態度だったが、織斑先生の冗談抜きに身も凍る程の殺気に晒され一転。震え上がりながら喋ったそうだ。

近くにいたであろう山田先生には心の中で合掌しておくとしよう。

そして、亡国機業と手を結んでいた組織がようやく分かった。

 

MSG━━『男性至上主義団体(Male Supremacy Group)

 

昔、テレビのニュースで少しだけ見た覚えがある。

ISが誕生して以来、女尊男卑の風潮が広まった事に対して発足したのが今の男性至上主義団体の元となる小さな圧力団体だった。

しかし、近年その団体の内部で過激な勢力が現れ、組織を掌握。そして今回の事件に至ったらしい。

学園の破壊を企んだのも、連中の力の誇示とIS絡みの両方だろう。

だが、思想が過激になっても所詮は圧力団体から出来上がった組織だ。あんなハイテク装備を多数保有しているのはおかしい。

恐らく、亡国機業の他にも連中を支える強力な支援勢力(パトロン)がいる筈だ。

捕虜二人は意地か本当に知らないのか、それ以外の情報を聞き出す事は出来なかったが、織斑先生や会長もその可能性が高いと踏んでいる。

 

「ウィル、私達も帰ろう」

 

腕を組み、少し物思いに耽っていると先に席を立ったラウラが話し掛けてきた。

 

「そうだな。さっさと部屋に帰って惰眠を貪るとしようかな」

 

冗談半分でそう言いながら立ち上がる。

 

「あー・・・。ホーキンスとボーデヴィッヒは残ってくれ。話がある」

 

みんなが解散し、俺とラウラも部屋に帰ろうとした瞬間、織斑先生に呼び止められた。

 

「何か重要なお話でしょうか?」

 

織斑先生はラウラの問いに頷いた後、用件を話し始めた。

 

「実はある大富豪から護衛の依頼を頼まれてな。お前達二人を指名しているんだ」

 

それもつい先程な。と、眉間に手を宛てて付け加えた。

 

「護衛・・・ですか?そう言った事はプロに任せた方が良いのでは?」

 

護衛なんて仕事を学生に頼む理由が分からん。

 

「そもそも、なぜ私達を直接指名したのですか?」

 

それは俺も気になっていた。俺達の他にも良い候補はいた筈だ。一夏や箒、他の代表候補生などの名高い面々を除いてなぜ俺達を?

 

「キャノンボール・ファストの時にお前達の技術を見て興味を持ち始めたそうだが、昨日の襲撃事件に偶然居合わせていてな。それが指名する決め手になったらしく、何が何でもと言うような感じにな・・・」

 

織斑先生は依頼主が俺達を指名してきた理由を話し、ハァ。と溜め息を吐いた。

 

「学園に干渉できる程の力・・・その人物はいったい・・・?」

 

「ああ。このIS学園の設備云々の維持費の三割を支援してくれている人物でな、名を“アラン・リッチモンド”と言う」

 

アラン・リッチモンド・・・聞いた事があるな。たしか、アメリカの有力な財閥の社長だったか?

 

「彼は海外に用があるらしくてな。パスポートやその手続きは学園側が用意するそうだ」

 

ああ、学園は行かせる気満々なのね・・・。

 

「海外?いったいどこでしょうか?」

 

「日本の近隣じゃないのか?」

 

さしずめ、中国とかそこいらだろう。あの辺りは企業や工業がわんさと密集しているからな。

これなら早めに帰れるだろう。

そう楽観視する。

しかし、俺の予想とは全く違う答えが返ってきた。

 

 

 

「場所はアラブ首長国連邦を構成する国の一つ

 

 

━━ドバイだ

 

 

 

「ど、ドバイ・・・?」

 

ドバイ・・・ドバイ・・・って!ここから滅茶苦茶離れてるじゃないか!しかも、ドバイって年中クソ暑いんじゃなかったか?

 

「依頼主はプライベートジェットで日本から香港を経由してドバイ国際空港へ向かい、要件を済ませた後、アメリカに帰るそうだ。二人には渡航中の上空警戒等を頼みたいと言ってきている」

 

おお・・・!プライベートジェットとはこれまた豪勢だな。・・・ん?ちょっと待て。

 

「せ、先生。渡航中の上空警戒と言うのはまさか・・・」

 

「依頼主の航空機の横で、不審な機影に対する警戒だ」

 

そ、それを行き帰りでかっ!?ハード過ぎだろ!鬼!悪魔!サディスト!

━━あっ、でも・・・

 

「ご存知かと思いますが、自分のISには航空燃料が必要です。往復分の燃料は・・・?」

 

俺の問い(と言うか、もはや逃げ文句)に織斑先生はさらりと答えてきた。

 

「向こうで用意するそうだ。確かJP-8・・・とか言ったか?」

 

「」

 

うわぁい、バリバリ戦闘機にも使える航空燃料じゃないですかぁ・・・。俺の相棒の規格にピッタシ!これで問題は無事解決だなコンチクショウッ!

 

「・・・了解しました。引き受けさせて頂きます」

 

多分断っても無駄だろう。先生が賛同してくれたとしても、依頼主が更にダダをこねるだけな気がする。

 

「私も異論ありません」

 

「そうか。集合時間は六日後の19:00時だ。空港までは私が送ろう」

 

「「分かりました」」

 

「頼んだぞ。呼び止めてすまなかったな」

 

そう言って俺達は解放され、部屋を後にした。

 

「六日後かぁ~」

 

「まあ、指名された以上は全力でやるしかあるまい」

 

「でも、ここから香港経由でドバイまで行って、その後アメリカまで遠回りしてまたここに帰ってくるんだろ?かなり長い間飛ぶ事になるぞ」

 

クッソ暑いドバイに行った後、今度はアメリカまで行ってから日本に帰ると言う鬼畜っぷり。

連続して飛び続ける訳では無いが、何のスーパートレーニングだよ・・・。

 

「ウィルは長距離護衛の経験はあるのだろう?」

 

「ああ。何度かした事がある」

 

輸送機、空中給油機、爆撃機。果ては民間機まで護衛した事があり、中には途中で敵機と交戦した事もあった。

どれも無事に送り届ける事が出来たが、長距離の護衛飛行と言うのはとにかく疲れるのだ。

 

「ハァ・・・ヘビーだな・・・」

 

思わず溜め息が漏れた。

だが、今さら断る事も出来ない。ラウラが言ったように、引き受けた以上はやり切ろう。

まあ、取り敢えず・・・

 

「サングラスは持って行っとくか」

 

ドバイの日差しや砂嵐で目をやられては敵わん。

 

 




もはや現実を無視した鬼畜の所業ですが、そこは生暖かい目で見守って頂けると幸いです。
私の対マジレス装甲は紙以下です。どうかご容赦下さい(泣)


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第80話

六日後 空港

 

 

「流石は日本の玄関口。凄い人集りだな・・・」

 

あまりの人の多さに思わず呆気にとられる。

織斑先生に車で空港まで送ってもらった俺達は依頼主であるリッチモンド氏の元へと歩いていた。

 

「それで、依頼主のいる場所はどこだ?」

 

「ふむ、渡されたメモによるとこの広場を出た先にある道を右折した個人用格納庫だな」

 

うっわぁ・・・格納庫まで持ってんのかよ・・・。いや、プライベートジェットを所有してるんだから格納庫くらい持ってるか?

 

「オーケーだ、早く行こう。だんだん混んできたしな」

 

「そうだな。遅刻なんてしたら目も当てられん」

 

そう言って、俺達は人海を掻き分けて行き、目的地である個人用格納庫に到着した。

 

「ここか。かなり広いな、輸送機が余裕で入る程じゃないか?」

 

驚嘆の声を漏らしながら、格納庫を見渡す。

 

「お?やぁやぁ、待っていたよ!今回はご足労ありがとう。君達に依頼させてもらったアラン・リッチモンドだ」

 

格納庫の広さに驚いていると、高そうなスーツを着た男性が満面の笑みで自己紹介をしながら歩み寄ってきた。

 

「初めまして。IS学園から参りました。ウィリアム・ホーキンスです」

 

「同じく、ラウラ・ボーデヴィッヒです」

 

「おお・・・!やはり頼りになりそうだ。今回はよろしく頼むよ」

 

そう言って手を差し出してきた。

 

「こちらこそ」

 

差し出された手を握り、握手を交わす。

すると、リッチモンド氏は俺の手を両手で包み込むように握り、軽く数回振った後、ポケットから何かを取り出した。

 

「ところで二人共。早速で悪いんだが・・・記念撮影、良いかな?」

 

「「・・・はい?」」

 

き、記念撮影?

予想外の申し出に俺達は困惑してしまう。

リッチモンド氏の両手を見ると、そこにはデジタルカメラが握られていた。

 

「ルーカス。こっちへおいで」

 

三脚にカメラを設置しながら、彼は自分の飛行機に向かって手招きをする。

 

「「?」」

 

手招きをしている方角へ顔を向けると、飛行機の中から人影が小走りでやって来た。

 

「これは私の息子の“ルーカス”だ。ぜひ仲良くしてやってくれ」

 

「初めまして、ルーカスです!」

 

見た感じ小学4~5年生くらい。元気の良い少年だ。

 

「おう、よろしくな。ルーカス」

 

「ささっ!二人共。ISを出してここに並んでくれるかな?」

 

キラキラした瞳と弾む声色で催促してくるリッチモンド氏を見て若干引きながら、ISを展開して彼とルーカスの後ろに立つ。

 

「ああ、ボーデヴィッヒ君。もう少し真ん中へ」

 

「こ、こうでしょうか?」

 

「そうそう、バッチリだ!おっと、ホーキンス君。すまないがその鮫の顔がよく写るようにしてくれないか?」

 

「り、了解です」

 

ほんの少しだけ斜めの方向へ顔を向ける。

その視線の先。彼の自家用機の側では、ボディーガードやパイロット達が苦笑しながらその光景を見守っていた。

 

「よし、完璧だ!はい、笑って笑って!」

 

カシャッ!

 

フラッシュの後、リッチモンド氏は小走りでカメラの元へと向かう。

どうやら上手く撮れたようで、満足そうな顔をしてカメラの液晶を眺めていた。

 

「なあなあ、兄ちゃん。質問良い?」

 

お?好奇心旺盛な少年だな。

 

「良いよ。どんな事が訊きたいんだい?」

 

ラウラやリッチモンド氏が微笑ましそうに眺めている中、俺はルーカスと目線を合わせる為に姿勢を屈める。

 

「それじゃあ━━」

 

━━この後、ウィリアムは止めど無く投げ掛けられる質問の波状攻撃に戸惑いながらも、必死に各個撃破していくのであった。

 

「つ、疲れた・・・」

 

「兄ちゃん兄ちゃん。次!次の質問!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ・・・」

 

俺の疲れなど露知らず、ルーカスは何問目か分からない次の質問を投げ掛けようとしてくる。

おい、ラウラ。笑ってる暇があるなら助けてくれよ・・・。

 

「こら、ルーカス。あまりホーキンス君を困らせるんじゃない。ほら、そろそろ時間だから飛行機の中に戻っていなさい」

 

そう言いながら近づいてきたリッチモンド氏は、ルーカスを近くのボディーガードに預け、こちらに向き直った。

 

「いやぁ、すまない。あの子は大の飛行機好きなんだが、以前キャノンボール・ファストを観戦してからはすっかり君に夢中になってしまって『会って話がしてみたい』としつこくてね。そこで今回の護衛の件を思い付いて依頼させてもらったんだよ。まあ、本音を言うと私も一度会ってみたかったんだが」

 

そう言って頭を掻き「本当にすまないね」と言いながら苦笑する。

成る程。確かに相棒の見た目はまんま戦闘機だからな。あんなに興奮していたのはそれが理由か・・・なんとも男の子らしい好みじゃないか。

 

「いえいえ、元気な息子さんじゃないですか」

 

「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ私も機内に戻らせてもらうよ。何かあればそこにいる整備の者に言ってくれ」

 

「分かりました」

 

「それじゃあ、よろしく頼むよ」

 

そう言って、リッチモンド氏も飛行機の方へと帰って行った。

 

「さて、俺も準備を済ませるか。ラウラ、どうだ?」

 

「こちらは問題無しだ。ウィルは?」

 

「ああ。給油が完了次第直ぐに飛べるぞ」

 

そう返しながら、整備員達にISの給油口へ燃料を給油してもらう。

因みに今回は距離が距離だけに、内装タンクでは足りないので、ドロップタンク(落下型増槽)を主翼に一基づつ。計二基搭載している。

ガゴッという接続音の後、外部モーターが低い唸り声を上げ、燃料を注入し始めた。

 

「給油完了です!」

 

整備員の一人がサムズアップし、他の者がポンプと外部モーターを重そうに引っ張って行く。

 

「了解。給油感謝します」

 

そう言って俺もサムズアップを返した後、自身の周りから人が離れたのを確認してからいつもの手順でジェットエンジンを作動させた。

 

 

「レーダーに反応無し。静かで平和なもんだ」

 

空港を離陸した俺達は、もうすっかり暗くなった夜の空を警戒中だ。

リッチモンド氏のプライベートジェットを中心に、左にラウラ、右に俺が展開するような形で飛行している。

一寸先も見えず、レーダーと計器だけが頼りの真っ暗闇だが、プライベートジェットからの灯火や、バスター・イーグルの航行灯、編隊灯などが放つ光によって、幻想的な雰囲気を作り出していた。

 

「確かに不審な影は見えないが・・・。あまり気を抜くんじゃないぞ」

 

「平和なもんだ」と言う俺の発言に、ラウラが戒めるように注意してくる。

 

「おいおい、心外だな。確かにお喋りはしていたが、気を抜いた覚えは一切無いぞ?」

 

そんな事を言っている内に、視線の先に夜の都市をきらびやかに照らす灯りが見え始めた。

 

「お?見えてきたな。香港だ」

 

リッチモンド氏の飛行機が滑走路へのアプローチに入るの見て、俺達も徐々に高度を下げて行いった。

着陸した後、3時間程休憩してからドバイへ直行する予定だ。

 

 

あれから、特になにごとも無く時間は過ぎ、香港を発ってから約四時間後の午前7:25頃。

天候は快晴。太陽が眩しいくらいだ。

 

「香港を出て、ドバイまでもう半分を切ったな。砂漠がよく見えるようになってきた」

 

下に広がる黄色い地表を見たり、時折飛行機の窓から手を振ってくるルーカスに手を振り返したりしながら、ラウラに話し掛ける。

 

「そうだな。大分日差しもきつくなってきたぞ」

 

「日焼けには十分注意しろよ?特にお前の肌は強い日差しに弱そうだからな」

 

ハッハッハッ、と笑いながら注意喚起する。

 

「大丈夫だ。シャルロットから日焼け止めを借りてきているからな」

 

ラウラのやつ、実は案外ノリノリなんじゃないのか?

 

「そいつは用意周到なこった。っと、もう少しでアラビア海に出るな。この調子だと何の問題も無く着けそうだ」

 

「ウィル、無闇矢鱈にそう言うフラグを立てるな」

 

「フラグ?それがどうした?」

 

俺の問いに、ラウラが自慢気に応答してくる。

 

「前にクラリッサから聞いた。先程のウィルのような発言は、後に面倒な事が起きる予兆だとな」

 

「ああ・・・。それって映画とかでよく見る、『俺生きて帰ったら~~』みたいなやつか」

 

そう言った奴に限って、後で壮絶な死が待っている事が多い。所謂死亡フラグと言うやつだ。

 

「けどなぁ・・・フラグなんてもんをおっ立てたからって、そう簡単に未来が変わる訳ないだろ。そう言うのは映画の中だけだ。まったく、日本のサブカルだけじゃなく、妙な知識まで━━っ!?」

 

「どうしたんだ?・・・ウィル?」

 

突然黙りコクった俺を不審に思い、心配そうに声を掛けてくるラウラ。

 

「・・・どうやらその副官殿は本当に優秀な人物のようだ。今度菓子折りを持って謝りに行かないとな」

 

「ウィル?」

 

冗談混じりにそう話すウィリアムだが、その声はいつもより低く、視線はレーダー上に映る二つの光点を睨んでいた。

 

「遠距離にレーダー反応。数二つ。IFF(敵味方識別装置)に応答無し。しかも、丁度こっちの進路に横から()ち合うような進路を取ってる」

 

「何っ!?」

 

ラウラが驚くのも無理は無いだろう。

ウィリアムは自身のISの強力なレーダーによって機影を確認出来たが、それ以外のISにそのような装置は搭載されていない。つまり、バスター・イーグルとその他のISでは探知距離が格段に違うのだ。

 

「パイロット。今日この時間帯にこの空域を航空機が通る予定は?」

 

無線でリッチモンド氏の飛行機のパイロットに確認を取る。

 

「いや、航行表にそんな事は書かれていなかった筈だが・・・」

 

・・・こいつはいよいよ怪しくなってきたぞ。

普通、民間の旅客機にもIFFは搭載されているものだ。それなのに、連中にはその反応が無い。

それに加え、航行表に記されていない筈の航空機。しかもそれが二機ときた。こうも偶然が連続するか?

 

「ラウラ、確認と無線による通告を行ってくる。パッケージ(護衛対象)を頼んだ」

 

目的は不明だが、もし相手が敵で、こちらを抜けて来られた場合、彼らを守る術が無くなってしまうからだ。

 

「了解した」

 

ラウラの返事を聞いた後、俺は武器システムに火を入れる。

どうやら周りの異常に気付いたのか、ルーカスが窓から心配そうにこちらを見ていた。

 

「大丈夫だ。任せとけ」

 

そう呟いてサムズアップした後、主翼から丁度燃料が空になったドロップタンクを投棄する。

パージされたタンクが光の粒子となって拡張領域に戻ったのを確認してから、俺は右に旋回して反応のある方角へと飛んでいった。

 

 

 

さて、そろそろ無線通告を行うか・・・。

 

「航行中の不明機に告ぐ。こちらは━━っ・・・不明機よりFC(射撃管制)レーダー照射を確認。やっぱりか・・・」

 

直後、ミサイルの接近警報が鳴り響いた。

 

「チッ、アクティブホーミング!!」

 

ミサイルを回避する為、チャフとフレアを同時に放出する。

フレアが熱探知ミサイルを撹乱するのに対して、チャフはアルミニウム片などを撒いて、敵のレーダーやアクティブホーミング式ミサイル(レーダー搭載自律誘導式ミサイル)等のレーダーに依存する兵器を撹乱するのが目的だ。

飛来したミサイルはチャフによって目を潰され、明後日の方角へと飛んでいった。

 

「回避出来たか。随分と金の掛かるご挨拶だな」

 

改めて、撃ってきた方角を睨む。

そこには以前に見た事がある白色の機体が飛翔していた。

 

「あれは・・・ターミネーターか・・・」

 

そう。以前IS学園が襲撃された日に交戦した無人機だ。

 

「まさかまたこいつらと戦う事になるとは・・・。

アンノウン(不明機)を改め、バンディット(敵機)と断定する。

アクーラ、エンゲージ(交戦する)!」

 

直ぐ様急旋回し、1機目の後ろを取って照準を合わせる。

相手は俺を振り切ろうと、その場で人型へと変形して空気抵抗を増やし、急減速の姿勢を取る。

またあの減速機動かっ!・・・だが!

 

「同じ手が通用するかっ!」

 

以前の経験を活かして、相手の未来位置に機銃を発砲する。

ドカドカドカッ!と、白く小柄な機体の至る所に拳が丸々入るほどの被弾孔をいくつも開けられた無人機は、空中に大輪の花を咲かせた。

 

「おやすみ!」

 

エアインテークに破片が入らぬよう、爆煙を避けながら次の目標を見据え、襲い掛かる。

 

「逃がさないぞ・・・!」

 

敵は機械的で無機質な機動を繰り返しながらこちらを引き剥がそうと三次元に飛び回り、後ろに腕を伸ばして機銃を発砲してくる。

━━が、しかし

 

「敵機捕捉・・・発射」

 

飛んでくる砲弾をヒラリと回避したウィリアムは、目の前の無人機にお返しの機銃弾をお見舞いした。

ドンッ!!

尾部を孔だらけにされた無人機は、燃料タンクに火が回ったのか、大きな爆発と共に機体後部が脱落し、破片を撒き散らしながら墜ちていった。

 

「よし、仕留めた!」

 

しかし、喜ぶのはまだ早い。

 

「ん?・・・おいおい・・・!!」

 

脱落したのは後部だけで、機首の辺りはまだ原型を保ったまま高速で吹っ飛んでいたのだ。

しかも、軽くなった上、先程の爆風でさらに加速がついている。

 

「まずい、その進行方向の先には・・・!」

 

無人機の機能は停止しているので、攻撃される心配は無いが、高速で突っ込んでくる飛来物は、例え中身が爆発物でなくとも十分な威力を持つ。

ミサイルは?・・・ダメだッ!今からでは間に合わない。なら機銃は?・・・これもダメだ。外れたらその先にいる彼らに直撃する可能性があるし、民間規格の機体なら一瞬で火だるまだ。となるとこちらでの対処は難しい。

 

「ラウラ、問題発生だ!無人機の一つが残骸のままそっちに突っ込んでいる。お前から見て2時の方角だっ!このままだとその飛行機に当たるかもしれん。撃ち落としてくれ!」

 

彼女に、無線で早口に状況説明をする。

 

「確認した。ウィル、直ぐそこから退避しろ。砲撃で残骸を破壊する」

 

返ってきたのは、実に頼もしい返事だった。

 

「任せた!」

 

そう言って、俺は急ぎその場を離れる。

直後、一筋の青白い光が残骸へと伸び、それを跡形も無く粉砕した。

 

「目標の完全破壊を確認」

 

「こっちでも確認した。ラウラ、グッドキル!助かったよ」

 

レーダーの精度を若干下げ、代わりに探知範囲を上昇させる設定にしながらラウラに称賛の言葉を贈る。

今のところレーダーに反応は無い。どうやら、さっきの2機だけだったようだ。

俺はレーダーの反応に逐一目を光らせながら、ラウラ達の元へと戻っていった。

 

 

 



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第81話

今回のドバイ編は、『パパパパセリ』様とコラボさせて頂き、『ISに転生!~転生特典はなんじゃろな~』の主人公である“秋山和也”氏(年齢は都合上、成人させていますが・・・)を登場させて頂きます。


「あ゛ぁ゛~。あぢぃ・・・流石ドバイだ・・・」

 

現在ドバイ観光街。気温約36度。降水量0%

茹だるような暑さだろ。嘘みたいだろ。10月なんだぜ。これで。

俺は軍支給のサングラスを掛け、フラフラとした足取りで歩きながら、元気そうに前を歩くラウラとルーカスを追っていた。

端から見れば変人に見えなくも無い。

 

 

二時間前━━

 

「これがブルジュ・ハリファか・・・生で見るとバカデカイな・・・」

 

「ああ。IS学園の中央タワーより数倍はあるぞ・・・」

 

俺とラウラは驚嘆の声を上げながら、828メートル先を見上げる。

あの戦闘の後、無事ドバイ国際空港に到着した俺達は、そのまま手配されていた車に乗って、この世界で最も高い超高層ビル━━『ブルジュ・ハリファ』の根元に立っていた。

 

「さて、それじゃあ私はこのビルに用事があるから一度失礼するよ。久しい知り合いとの会談があってね」

 

そう言って、二人のボディーガードと共に歩いて行く。

・・・ん?失礼するってどういう事だ?

 

「お待ち下さい。念の為、我々も同行した方が良いのでは?」

 

ラウラの進言は最もだろう。いくらセキュリティの高い屋内とはいえ、何があるか分からないものだ。

先程の襲撃もあったと言うのに、いくら何でも軽すぎる。

 

「そうですね。彼女の言う通り、自分達も付いて行った方が良いと思います」

 

「ああ、私なら大丈夫だよ。この二人に付いて来てもらっているからね」

 

そう言って、横に立っている二人のボディーガードに目を向ける。

 

「そうだ、二人の紹介がまだだったね。まず右側に立っている彼がアーノルドだ」

 

そう言うと、黒髪大柄で筋骨隆々、両手にマシンガンやロケットランチャーなどの重火器が似合いそうな人物が前に出てきた。

 

「初めまして。“アーノルド・メイトリックス”だ。会えて光栄だよ」

 

自己紹介を終えると、大きな手を差し出してきた。

 

「こちらこそ光栄です。メイトリックスさん」

 

俺、ラウラの順番で、その手を握り返す。

 

「そして、私の左に立っている彼が・・・」

 

もう一人のボディーガードが前に出てくる。

 

「“秋山和也”だ。話はよくルーカス君から聞いているよ。よろしく!」

 

おお、日本人か。ここ(ドバイ)に来て会えるとはな。

見た目は茶髪の地毛に、日本人の中でも高い部類の身長。

服のせいで遠目では細身に見えるが、それでもガッチリと無駄の無い筋肉が付いている事が窺える体つきだ。

それにしても随分と国際色豊かだ。あのプライベートジェットのパイロット二人はスラヴ系とヒスパニック系の人だろうし、秋山さんは日本人だ。メイトリックスさんはアメリカ人のようだが、それだけこの財閥が世界中から人が集まる程の影響力を持っているという事か。

 

「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 

そう言って、握手を交わした。

挨拶が一通り終わったのを確認して、リッチモンド氏が再び口を開く。

 

「二人とは長い付き合いでね。今回の遠出にも付き合ってもらったんだよ。私の護衛は彼らに任せるから、君達は息子と一緒に観光してやってくれ。会談なんてつまらないだろうし、第一こんな所には滅多に来れない珍しい機会だからね」

 

 

━━そして今に至る。

 

メイトリックスさんと秋山さん。両者共にプロであることが窺えるが、それでも心配は拭えない。

・・・良い父親であるのは分かる。分かるんだが、些か危機感に疎いと言うか何と言うか・・・。

 

「何をしているウィル。はぐれるぞ」

 

「兄ちゃん、早く早く!」

 

そんな事を考えながらノロノロと歩く俺を見て、ラウラとルーカスが声を掛けてくる。

 

「元気過ぎるだろ・・・。はいはい、少し待ってくれ」

 

そう言いながら、少し早歩きでラウラ達の元へと向かって行った。

 

 

 

正午もとっくに過ぎ、少しずつ日も傾き始めた頃。

 

「ふむ、これは中々美味いな・・・」

 

「この“バクラバ”ってクッキーめちゃくちゃ美味いよ!」

 

ラウラとルーカスは口元に食べカスを付けたまま、直ぐそこの売店で買った物を実に美味しそうに頬張っている。

普通ならここで微笑ましい光景に口元を緩めるところだろう。

 

「」

 

ここに、灰のように白くなっている男を除けば。

くっ!確かに予めドバイ国際空港で多めに両替して来たよ!ああ、して来たとも!

・・・でもさぁ━━

 

 

 

 

━━ど ん だ け 食 う ん だ よ ッ ! !

 

え?え?ラウラとルーカスめっちゃ食うやん!?怖ッ!食べ盛り怖ッ!

一個一個の金額は大した事はないが、それを繰り返すとどうなるか・・・。

彼女達の満腹メーターに反比例して俺の財布からは紙幣や硬貨に翼が生えて飛んで行く。

 

「ああ・・・財布が軽く、薄くなっていく・・・ん?」

 

絶望した顔でラウラ達の後を追いながら、ふと、何の気無しに近くに駐車されていた車のサイドミラーに目を移した。

 

「・・・あの黒のSUV、さっきも見た車種だな・・・それに、ナンバープレートも意図的に隠してる・・・?」

 

この手の護衛経験は皆無だが、あのSUVを見た瞬間、俺の脳内に警鐘が鳴り響いた。

明らかに怪しいと思い、急ぎ足でラウラの元に近寄り、耳打ちする。

 

「ラウラ、どうやら尾行されているようだ。後方に黒のSUV。さっきからずっとだ」

 

「ああ、そのようだ。私もつい先程確認した。どうやらこちらにバレないよう、この辺りをランダムに周回しているようだ」

 

「どうする?」

 

「こちらに危害を加えるにせよ、流石に人前で大胆な行動には出られまい。隙を見て撒くぞ」

 

成る程、この観光客の波に紛れる作戦か。

確かに、連中も俺達が人混みに隠れたら探すのに骨を折りそうだ。

 

「了解だ。・・・ルーカス、あっちに上手そうな食い物が売ってるぞ」

 

「え?マジで!?行く行く!」

 

「ふふっ、それじゃあウィルに買ってもらうとするか」

 

「そ れ は 勘 弁 し て 」

 

そう言いながら、俺達は人混みの中へと消えていった。

 

 

 

先程のやり取りをしながら、尾行を撒いて早数時間。

もうリッチモンド氏も会談を終えているだろう。日も暗くなり、そろそろ門限の時刻も近付いてきていた。

 

「さて、もうこんな時間だ。そろそろ帰ろう」

 

腕時計の時刻をルーカスに見せながら、ホテルに帰ろうと促す。

 

「そうだな。辺りも大分暗くなってきたし、人通りも少なくなってきたぞ」

 

「えー・・・、まだ面白そうなのが一杯あるのに・・・」

 

俺とラウラの言葉にルーカスが駄々をこねる。

 

「ほら、そう言うなよ。あまり遅いとパパに怒られるぞ。後で面白い話を色々聞かせてやるから。な?」

 

それに、これ以上買い食いをされると俺の財布が今度こそご臨終なさってしまう。

 

「・・・分かった」

 

なんとか分かってくれたようだ。

聞き分けが良くて助かる。

 

「よし、なら帰るか」

 

そう言って帰路に着こうとしたその時━━

 

「━━動くな」

 

「「「っ!!」」」

 

建物の陰から男が三人現れ、静かにそう告げてきた。

相手は私服。どうやら変装のつもりらしい。

 

「これが見えるなら、大人しく付いて来てもらおうか」

 

三人の内の一人が周りに見えないようにしながらサプレッサー付きのピストルをこちらに向けてくる。

暗くなり人の往来が若干少なくなってきたとはいえ、こんな場所では下手に暴れられないと踏んだ俺とラウラは大人しく従う事にした。

━━今だけは。

 

 

 

怯えるルーカスを宥めながら連中の言う事に従って付いて行くと、人気の無い建物の裏に着いた。

 

「おい、Mこいつらはどうする?」

 

「必要なのはそこのチビだけだ。残りの二人は始末しよう。放って置くと面倒だ」

 

「確かにな」

 

男達はこちらを見ながら今後の方針について話し合っている。

 

「それじゃ、悪いがお前らには消えてもらうぜ。恨むならこんな終わり方にした神様を恨むんだな」

 

男の一人がピストルを突き付けながらそう言ってきた。

成る程、俺達を始末する気か。IS持ち相手にピストルなんて━━ん?待てよ・・・。もしかしてこいつら俺達がIS乗りである事を知らないのか?だとしたら・・・!

 

「へへっ、怯えて一言も喋らねぇや。楽な仕事だぜ。なぁ?F」

 

「全くだ。チョロ過ぎて逆に心配になってくるよな。おいT」

 

「あ?」

 

「さっさと片付けちまおうぜ」

 

「はいはい、わーってるよ」

 

相手は見るからに油断しているようであるが、その油断が全てを覆す事になる。

Tと呼ばれた男が一瞬だけ目を離した隙に俺とラウラは目配せし合うと、直ぐ様行動に移した。

 

「俺達にゃ後で冷えたビールを、お前らには熱い鉛弾を。って・・・な・・・はへ?」

 

引き金を引こうとした男は斜め上を見上げたまま固まってしまった。

後ろの男達も口をあんぐりと開けたまま唖然としている。

彼らが固まってしまったのも無理も無いだろう。

何故なら、今から殺そうとしていた二人の姿は無く、身体を装甲で覆い、身の丈が少なくとも2~3mはある“鮫”と“ウサギ”が月明かりをバックにこちらを見下ろしていたのだから。

 

「「「」」」

 

「・・・ルーカス、少し下がってろ」

 

「直ぐ終わらせる」

 

「分かった!」

 

目を輝かせながら元気に返事をしたルーカスが近くの物陰に隠れたのを確認してから、再度男達に向き直る。

 

「・・・それで?あんたらには冷えたビールで、俺達には何だって?」

 

ニヒルな笑みを浮かべながらそう聞き返す。

 

「━━ハッ!?お、おお、お前ら、まさか・・・!?」

 

「あ、IS乗りかよ!?」

 

「」

 

持っているピストルを取り落としたり、その場で尻餅をついたり、呆然と立ち尽くしたりと、三者三様の反応を見せる男達。

 

「さて、全部スッキリ喋って(ゲロって)もらおうか?」

 

「言っておくが、余計な行動は起こさない方が身の為だぞ」

 

「「「ひ、ひぃ!?」」」

 

俺が76mm砲を、ラウラはレールカノンの照準を向けながら、この三人組に洗いざらい白状するように優しく(・・・)促した。

 



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第82話

上手く描けない・・・


「やられたっ・・・!」

 

部屋には争った痕跡と、床に倒れ伏すメイトリックスさんと秋山さんの姿が、だがしかし、リッチモンド氏の姿はどこにも無かった。

 

「クソッ!!最悪だっ・・・!!」

 

俺は盛大に悪態をつきながら壁を殴った。

 

 

あの三人組を無力化した後に砲を突き付け、なんとか喋らせた。

まず連中の正体だが、MSG━━男性至上主義団体だった。

そして、ルーカスを狙った理由だが、実に簡単な事だ。リッチモンド財閥の莫大な金を手に入れる為の人質。

財閥の口座番号は彼が握っている為、あくまで番号を喋らなかった時の手段として利用する為に用意する手筈だったらしく、優先度の高いリッチモンド氏の誘拐はプロである亡国が請け負っていたらしい。

それを知った俺達は直ぐ様ブルジュ・ハリファの一室へと向かったが、その時リッチモンド氏は既に拐われた後だったのだ。

 

 

「う、うぅ・・・」

 

「く、そ・・・」

 

「ウィル!二人共生きているぞ!」

 

床に倒されていたボディーガードの二人が痛みに苦悶の声を上げながら立ち上がる。

 

「良かった。二人共ご無事ですか!?」

 

所々に青アザが見えるが、それ以外に目立った外傷は無い。

 

「ああ、なんとかね。・・・すまない、彼を守り切れなかった・・・」

 

「リッチモンドさんが友人との会談を終えた後、天井から奇襲を受けたんだ」

 

上を見上げると、確かに天井に取り付けられた通気孔のような所が開いていた。

発砲の痕跡が無いのを見ると、下手に撃ちまくってリッチモンド氏に当たらないよう控えたのだろう。

 

「撃たれる事は無かったが、見ての通りこのザマだ・・・!クソッ!」

 

メイトリックスさんが、ペッ!と、悔しそうに口に溜まった血混じりの唾を床に吐き捨てる。

 

「連中の目的は財閥の金だ。しかし、仮に彼が大人しく口座番号を言ったとしても、生かして帰しはしないだろう・・・」

 

メイトリックスさんの呟きを聞いて、ルーカスが嗚咽を漏らし始める。

そんな彼の姿を見た俺は、呟くように、しかし力強く言葉を発した。

 

「・・・まだ終わっていません。俺は彼を助けに行きます・・・!」

 

ここまま連中の行為を黙って見過ごすなんて腹立たしくてしょうがない。それに、奴らの手にその莫大な資金が渡るのもなんとしても阻止しないと・・・!

 

「ウィル、私を忘れてもらっては困る。私も腹に据えかねていたところだ」

 

先程まで付近を調べていたラウラが、こちらに歩み寄りながらそう告げてくる。

 

「俺もホーキンス君とボーデヴィッヒさんに同じだ。ここまま奴らの好きにさせるなんて真っ平ごめんだね」

 

「俺も同感だ。だが、連中がどこに逃げたのかも分からない今、見つける手立てはあるのかい?」

 

「確かにそこがネックだな・・・。助けに行くには連中の潜伏場所の情報が必要だ」

 

メイトリックスさんと秋山さんの言葉はもっともだろう。彼らは俺とラウラが既にその情報を簡単に手に入れられる状況にあるという事を知らないのだから。

 

「大丈夫です。俺達には心強い協力者(・・・・・・)がいますからね。そうだろ?ラウラ」

 

そう言って、隣にいるラウラにニヤッとした表情を向ける。

 

「ふっ、確かに。とても頼りになる(・・・・・・・・)連中がいたな」

 

俺の考えを察したラウラが、同じくニヤリとした表情を返し、メイトリックスさんと秋山さんは「?」とした表情を浮かべる。

ふと、視線をずらすと、今まで半べそをかいていたルーカスもいつの間にか泣き止み、何か真剣な表情で考え事をしていた。

 

「とにかく、時間が無いので外に向かう途中でお話します。ルーカス、パパは必ず連れ戻す。お前は「俺も行くよっ!」」

 

どこかで隠れているんだ。と、言う前にルーカスの声によって遮られた。

 

「なっ!?ルーカス君!それはあまりに━━」

 

「まあ待てよ、アーノルド。男は度胸って言うだろ?ここはあの子の判断に任せようぜ。リッチモンドさんの息子はそうヤワじゃない」

 

ルーカスの言葉を聞いて慌ててメイトリックスさんが止めに入ろうとするも、秋山さんが彼の肩に手を置いてそれを制止した。

 

「・・・ルーカス、本気で言ってるのか?」

 

「本気だよ。俺もパパを助けに行く!」

 

「これから先は本当に撃たれるかもしれないんだぞ?分かっているのか?」

 

「分かってるよ。けど、パパも怖い目に遭ってるかもしれないから・・・。俺も付いて行ってパパを助ける!」

 

その決意に満ちた瞳をじっと見つめて十数秒。

 

「・・・そう、か。よし!よく言ったルーカス!やってやろうぜ!!」

 

どうやら俺はルーカスを子供だからと、見くびっていたようだ。

彼のあのガッツを見ていると、ウォーバード2(ガッツ)を思い出す・・・。

 

「・・・確かに、和也の言う通りかも知れん。ハハッ、凄まじいガッツだな。よし、ルーカス君は任せろ!」

 

「ああ、今度はやられはしない。リベンジだ!奴らに一泡吹かせてやる!」

 

「よし!それじゃあリッチモンド氏を拐った連中に思い知らせてやろうっ!!」

 

「「「おおっ!!」」」

 

室内に、五人の勇ましい声が響いた。

 

 

薄暗く、周りをコンクリート壁に囲まれた部屋にポツンと置かれた椅子と机。

そこには、白いスーツを着た男性が縛られており、目の前には男が一人対面するように座っていた。

 

「なぁ、リッチモンドさん。この問答もそろそろ終わりにしたいんだが、おたくの資産を少し分けてくれるだけで良い。そうすればアンタは無事に解放され、俺達には金が入る。お互いWin━Winじゃないか。な?」

 

「・・・・・」

 

「だからさ、口座の番号を教えてくれよ」

 

「断る!お前達のようなサイコ共にやる金など、びた一文も無い!」

 

「・・・ハァ、はいはい、予想通りだ。また明日来るよ。ケッ、手を出しても構わねぇんなら、今すぐにでも口を割れるのに・・・。ああ、そうだ。一つ忘れていた。確かアンタには愛息子(まなむすこ)がいたよなぁ?確かルーカスとか言ったか?」

 

三日月のように曲げられた男の口から、息子の名前が出てきた。

 

「っ!?」

 

「ああ、安心してくれ。今のところ(・・・・・)手を出す気は無い。勿論アンタ次第だがな」

 

「き、貴様っ!!」

 

「ま、今日はもう終わりにしよう。明日までによく考えていてくれ。じゃあな」

 

そう言って男は出て行ってしまった。

 

「みんな・・・スマン。無事でいてくれ・・・」

 

部屋に取り残されたアランはただただ息子やボディーガード、IS学園から来た二人組の安否を心配するのだった。

 

 

 

「どうだ?リッチモンドの奴、吐いたか?」

 

「いんや、全然ダメだ。金持ちのボンボンはもっと口が緩いと思ってたぜ。ったく、あんな野郎、膝に二~三発撃ち込んだら小鳥みたいにピーピー歌ってくれるだろうに」

 

「俺も尋問初日から直ぐ喋ると思っていたぜ。でも、撃つのは番号を聞き出してからだと言われているからな。それまでは手を出すなって言われてるし」

 

「それくらいじゃ死なねーよ、ビビり過ぎだろ。にしても、あいつらは何やってんだ?人質のガキ一人連れてここに来るだけだろ?遅すぎる」

 

「さぁ?色々あるんじゃねえのか?」

 

そう言いながら、廊下を歩いて行く男達。

だが、ルーカスを拐いに行った三人組がもうここに帰って来る事は二度と無いという事にまだ気付いていなかった。

 

 

「━━と言う訳なんですよ。っと、着いた。こっちです」

 

これまでの経緯を二人に説明しながら移動していると、ブルジュ・ハリファ近くの立体駐車場に着いた。

全員の視線は目の前に停められている黒のSUVに注がれる。

 

「あの車のトランクの中です。奴らから聞き出しましょう」

 

「まさか捕虜を捕らえていたとは・・・。ここまで車を運転して来た事にも驚きだが・・・」

 

そりゃあ、まあ、前世では車を持ってたし。運転はうろ覚えだったが・・・。

事情を知っているラウラと当の本人である俺は、お互い顔を見合わせて苦笑した。

何?自動車免許?・・・・・・君達は何も聞かなかった。OK?

 

「よし、開けるぞ」

 

ガチャリとメイトリックスさんが黒いSUVの後部トランクのドアを開ける。

 

「「「っ!?!?」」」ビクゥッ!?

 

中には口にガムテープを貼られ、太い縄で一切身動きが出来ないようグルングルンに縛られた男達が押し込まれていた。

 

「さて、単刀直入に聞くぞ?リッチモンド氏をどこへ連れていった?」

 

リーダーの男のガムテープを剥がしながら質問を投げ掛ける。

 

「プハッ!ハァ、ハァ。だ、誰がお前らなんかに話すかっ!」

 

まぁ、予想通りの反応だ。

こういうのは趣味では無いが、もう一度76mm砲を出してO・HA・NA・SHIするしか無いか・・・。

そう思いながら前に出ようとすると、メイトリックスさんが手を出して制止した。

 

「ホーキンス君。ここは俺に任せてくれ」

 

そう言って腕捲りしながら男達の元へと向かって行き、リーダーの男をトランクから引き摺り出した。

まさか殴りまわす気じゃ・・・。

そう思っていた俺達だが、彼は予想の斜め上を行った行動に出た。

 

「・・・・・」

 

「う、うわぁぁああっ!?」

 

なんと、とてつもない怪力でリーダーの男の左足を掴み上げ、そのまま地上高12mで宙ぶらりんにしたのだ。

 

「さあ、頭を冷やして考え直せ。もう一度聞く。彼をどこへ連れて行った?」

 

「は、放せっ!放せぇ!」

 

「お前を持ってるのは利き腕じゃないんだぜ?正直に話せば逃がしてやる」

 

「くぅっ・・・!ひ、人質に使うそこのガキを捕まえて『デルゥ基地』で合流後、明日の午後八時にここからおさらばする予定だったんだ!リッチモンドもそこに拘束しているっ!」

 

成る程、つまりそこにリッチモンド氏と彼を連れ去った奴らがいるという訳か。タイムリミットは多く見積もって、残り十一時間・・・。

 

「デルゥ・・・随分前に放棄された基地だな。ここからかなり離れた砂丘の中にあった筈だ。確かにそこなら・・・」

 

「成る程、放棄された軍事基地なんて誰も寄らないから、連中にとっては絶好の潜伏場所だな」

 

ラウラと秋山さんが腕を組み、納得したように頷く。

どうやら敵さんはおあつらえ向けの隠れ家を手に入れたようだな・・・。

 

「メイトリックスさん、ありがとうございます。これで必要な情報は手に入りました。そろそろ・・・」

 

「オーケーだ」

 

彼は依然としてリーダーの男を掴み上げたまま、こちらに振り向き短く頷いた。

 

「さ、さあ、これで全部話したぞ!」

 

宙ぶらりんの男がまたギャーギャーと喚き散らし始める。

 

「お前を逃がしてやると約束したな」

 

「そ、そうだ!約束通りさっさと俺達を解放しろ!」

 

 

 

 

 

 

━━あれは嘘だ

 

「へ?━━ぶぎゃっ!?」

 

言うや否や、メイトリックスさんの右ストレートが炸裂し、先程まで喚いていた男は完全に伸びてしまった。

 

「紐無しバンジージャンプよりはマシと思え」

 

そう言いながら気絶した男を担いで戻って来た。

 

「さてと、それじゃあこっちも」

 

「少しの間眠ってもらおうか」

 

「「っ!?」」

 

俺と秋山さんは、二人仲良く拳をパキポキと鳴らしながら、ゆっくりと残った二人の男に歩み寄って行く。

すると、ガタガタと震え出す二人。

彼らの目には、俺と秋山さんはどう映ったのだろうか。恐らく、ラウラがそっとルーカスに手で目隠しをしているのが答えだろう。

 

 

「や、止めろぉ・・・!」

 

そう懇願してくるが、ここでこいつらを野に放ったら、また同じ事を繰り返す。そうさせない為にこの二人には一度眠ってもらい、その間に警察署に送り届ける。

幸いな事に、こいつらが持っていたピストルには指紋がベッタリだ。時間が無い為、警察署の前に置いて行く形になるが、後は向こうがなんとかしてくれるだろう。

 

「「ギャアアアアアァァァ!!」」

 

暗い夜空に二つの野太い絶叫が轟いた。

 

 




デルゥとは、アラビア語で『盾』と言う意味だそうです。


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第83話

現在時刻午前7:30分。

 

 

「ハァ~、あづいぃ・・・」

 

デルゥ基地正門では、こんな暑い砂丘の中であるにも関わらず、分厚い装備を纏った亡国機業の兵士達が車や建物の影で休んでいた。

 

「それ以上言うな、余計暑くなる」

 

「暑いもんは暑いんだ、仕方ねぇだろ?何が楽しくてこんなフライパンみてぇな砂丘で突っ立っとかなきゃいけねぇんだよ」

 

「確かになぁ。ったく!俺達が暑い中立ってる間、非番の奴らはキンキンに冷えた水と冷房の効いた仮兵舎を満喫してるんだぜ、きっと。扇風機の一台くらい寄越せってんだ!」

 

「あづいぃ・・・」

 

「まったく、ブラックだぜ・・・。新しい職でも探そうかな」

 

「あづいぃ・・・」

 

「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛もう!!うるせぇっ!!少し黙ってろっ!!」

 

暑さで疲れと苛つきの溜まった兵士達はそれぞれ愚痴を叩き合う。

 

「おい、いい加減車から降りろよ。俺達にも冷房を浴びさせてくれ」

 

「えぇ~、10分で100ドルな?」

 

「・・・100円じゃダメか?」

 

「ドルに換算したら、雑に見積もっても0が二つほど足りねぇだろ」

 

「チェッ、ケチケチすんなよ。お前ら散々浴びただろ!こっちは暑くておかしくなりそうなんだ!」

 

そんな事を言って騒いでいると、近くに停めてある八輪式IFV(歩兵戦闘車両)のハッチの一つから、戦車帽を被った兵士が顔を覗かせた。

 

「なぁに言ってやがる。俺達なんてずっと冷房の無い装甲車の中だぞ?ハッチを閉めたらそれこそ地獄だ・・・」

 

「おまけにこの暑さと砂のせいで機器冷却用の装置まで壊れたんだよ。おい、自動照準装置はどうだ?」

 

もう一つのハッチから鼻の頭に(たま)のような汗をかいたガンナー(砲手)の兵士が下を覗き込むようにして、修理中の仲間に訊く。

 

「・・・ダメだな、冷却装置がイカれたせいでこっちまで被害を被ってる。まぁ、そろそろオーバーホールしなきゃいけない車体なんだ、良い機会だぜ」

 

「おいおい、今日の分はどうすんだよ。直るのか?」

 

「さぁ?今やってるところだ。このオンボロがっ・・・!」

 

そう言いながら、手を油まみれにした兵士が、ガンッと装甲車の頑強なホイールを蹴飛ばした。

 

「整備の奴を呼んで来た方が早くないか?」

 

「じゃ、頼んだ」

 

「げぇ!?お、俺はガンナー席の担当だからいざと言う時の為に持ち場は離れらねぇな・・・あ、アハハ・・・」

 

「なら俺だって操縦担当なんだが?」

 

「と、見ての通りだ。突っ立ってるだけのお前らなんざ良い方さ。後、そこの四駆に籠ってる連中は引き摺り降ろせ、おサボりは禁止だ。あぁ、水筒どこ置いたっけな・・・」

 

そう言いながら蒸し風呂の中に戻って行ってしまった。

 

「なぁ、俺達って結構な貧乏クジ引いたよな?」

 

「そんなクジ欲しくもねぇ・・・これで誰か倒れても労災は下りないんだろ?」

 

「やっぱり別の職を探すか・・・」

 

「まぁ、良いじゃねえか。もうすぐしたら交代だ」

 

「もうすぐっていつの話だよ。・・・だあっ!畜生っ!煙草でも吸わねぇとやってられん!えぇと、ライターはどこに・・・チッ、オイル切れか。おい、火貸してくれ」

 

「ああ、少し待ってろ。今出して・・・ん?」

 

「おい、早くライターを・・・どうした?」

 

「いや、向こうで妙な砂煙が上がっててな」

 

兵士が指差す方角、そこには確かに砂煙が上がっていた。この辺りではちょっとした風が砂塵を撒き散らす事はよくある。

だが、明らかにおかしな点が一つ。とてつもない速度でこちらに向かって来ていたのだ。

まさか、侵入者か・・・?

 

「おい、お前の双眼鏡貸せ」

 

そう言って、双眼鏡を引ったくるように手に取って、それを両目に宛がう。

どうせ、備品狙いの馬鹿共だろう。車に数発当てたらビビって引き返すさ。ま、ストレス発散には丁度━━っ!?

 

「な、なあっ!?」

 

「「「っ!?」」」

 

彼が何を見たのか。

双眼鏡の二枚のガラスの先には、真っ黒なISを駆る銀髪の少女。そして、その横を飛ぶ灰色の全身装甲で矢じりのような見た目と鮫面の大柄なISが砂煙を派手に上げながら迫っていたのだ。

 

「お、おい!あれってシャークマウスじゃねーか!?」

 

「シャークマウスって言ったら・・・サベージがギャーギャー騒いでいた野郎か!?」

 

「おい、横の黒いのはドイツの・・・!?」

 

「何でこんな所に!?いや、待てよ・・・まさか昨日ここから離陸したターミネーター二機を墜としたのって!?」

 

「くっ!鮫だろうがドイツの候補生だろうが、邪魔するならここで撃ち墜とせば良いだけの話だ!おい、装甲車!車載機銃でズタズタにしてやれ!!」

 

「い、今エンジンを始動中だ!砲撃ポイントに移るまで待ってくれ!ここからではガンナーが上手く狙えない!」

 

「はぁ!?何で先にエンジンを点けてなかったんだよ!」

 

「冷却装置が壊れたって言ったろ!?こんな所で点けっぱなしにしてみろ、エンジンが燃えちまうぞっ!!」

 

焦りと混乱から来る苛立ちを同僚にぶつけたら、至極真っ当な反論が返ってくる。

 

「下らん喧嘩は後にしろ!装甲車、エンジンは後回しで良いからその場で砲撃しろ!」

 

「り、了解。砲搭左37゜旋回!」

 

装甲車の砲搭が低い動作音を上げながらゆっくりと左に旋回し、目標に向けて発砲を始める。

 

「やはり場所が悪い上に照準装置が逝ってるせいで上手く当たらない・・・!」

 

「構わん、一発でも急所に当たれば良い。当たらなかったとしても牽制にはなる。撃ちまくれ!」

 

兵士達はライフルをフルオートで、装甲車は役に立たなくなった照準装置を手動照準で穴埋めしながら、当たる当たらないに関わらず一心不乱に乱発する。

 

「畜生っ!こんな仕事なら行かなきゃ良かった!」

 

「いいから無駄口じゃなく敵を叩けっ!!おい、今直ぐに携行式地対空ミサイル(スティンガー)を持って━━」

 

「ひ、光った!?全員伏せろっ!」

 

一人の兵士が敵からの攻撃を報せた次の瞬間、飛んできた無数の砲弾が兵士達から少し離れた所にあった武器庫を吹き飛ばした。

ほんの少し遅れてから、耳元をハチが飛ぶような音が聞こえてくる。

 

「武器庫の中にはスティンガーが・・・これじゃまともに応戦出来ない・・・!」

 

燃え盛る武器庫だった瓦礫を前に、蒼い顔をして立ち竦む兵士。

 

「たかがミサイル数発が何だ!どうせ当たらなくて給料から引かれるだけだ!」

 

「よ、よし!エンジンが掛かった!」

 

「本当か!?ならさっさと砲撃ポイントに移るぞ!鮫野郎め・・・いつまでも飛ばせておくかっ!」

 

そう言って、装甲車のガンナーが25mm砲の照準を空を優々と飛ぶ忌々しい鮫に定めて━━

 

バギィ!!ゴギギギ、ギ、ギ・・・!

 

「うわっ!?」

 

突然、12.8tもある車体が大きく傾き、狙いがぶれた。

 

「な、何だ!?いったい何が・・・ひっ!?」

 

「どうしたガンナー!いったい何が━━」

 

ガンナーの反応を訝しんで、車長が外部視認用カメラの画面を覗く。

そこにはコロコロと虚しく転がって行く大きなタイヤが四つと、散り散りに逃げて行く兵士達。

 

「「」」

 

━━そして左目に眼帯を着けた少女と画面越しに目が合った(・・・・・・・・・・)

 

「━━ハッ!?が、ガンナー!この距離じゃ25mmは使えん!同軸機銃(コアキシャル)を使え!」

 

「り、了解!」

 

指令通りに同軸機銃を発射するが、機銃と一体化している25mm砲の砲身を掴まれ、目の前の黒いISとは別方向に火を噴いていた。

少女は唸りを上げる砲搭を片腕で固定したまま、もう片方の腕から展開した薄紫色のブレードを振り上げ、合金製の砲身をまるで暖まったバターでも切るかのように切り落とした。

 

「ほ、砲身を根元から・・・!?」

 

「始めから勝ち目なんて無かったんだ・・・!」

 

完全に自分達が詰んだと理解した乗員達はハッチから大慌てで這い出て、何度か(つまず)きながら逃げて行った。

 

「ああ!IFVがやられた!」

 

「もうダメだぁ・・・お終いだぁ・・・」

 

「勝てる訳が無い・・・!」

 

「くっ!ただでさえISが相手なのに、装甲車まで無力化されては牽制すら出来ん!下がるぞっ!」

 

そう言って、正門の守衛達は基地の方へと後退して行った。

 

 

「よし、相手はかなり混乱してるな、まさかISが攻めて来るとは思うまい。基地からの攻撃は激しいが正門はもう機能していない」

 

ウィリアムは、騒ぎに気付いて下から必死に攻撃をしてくる兵士達を見下ろしながら上空を旋回していた。

 

「ウィル、装甲車を無力化した。これで彼らが安全に通れる筈だ」

 

装甲車の車輪と砲身をプラズマ手刀で切り落とし、完全なオブジェに変えたラウラが無線で撃破報告をしてくる。

正門付近は、死人の出ない一方的な蹂躙劇となっていた。他の兵士は戦意喪失、自分達が生き残るので必死だ。勿論、命を奪うつもりなど毛頭無いが・・・。

 

「ナイスだラウラ!」

 

ラウラに向けてサムズアップした後、俺は三人の乗る車へと近づき、ハンドサインで『行って良し』と伝える。

俺達IS組が態と目立つように暴れて敵を釘付けにし、その騒ぎに乗じて秋山さん、アーノルドさん、ルーカスのチームが基地に侵入してリッチモンド氏を救出する算段だ。

作戦通り、敵は完全に俺達に集中していた。

俺のハンドサインを確認した秋山さん達は、ボロボロになった正門を抜けて行く。

それを確認した後、死傷者が出ない程度に基地の車両や設備に攻撃を加えていった。

 

 

「急げ!スティンガーと予備の弾倉を忘れるなよ!」

 

「クソッ!ブラックシープ隊はまだか!?」

 

「もう間も無く到着するようです!」

 

「分かった、それまではなんとか耐え切るぞ!お前達の班は向こうへ、俺達はこっちだ。よし、行け!」

 

「残りの無人ターミネーターを配置につかせろ!エンジン不調のやつも全部だ!飛べなくても戦力にはなる!」

 

「了解!・・・ズールー1より格納庫。ターミネーターを発進させろ!文字通り全てだ!」

 

『了解、離陸可能な機は直ちに上げます。残りは陸上で?』

 

「そうだ、頼んだぞ!通信終わり」

 

兵士達はこちらに気付かず、バタバタと忙しなく走って行った。

 

「・・・行ったか?和也」

 

「ああ、周りには誰もいない。行くなら今の内だな」

 

「了解だ。行くぞルーカス君」

 

「うん」

 

そう言って、三人は素早く基地内を走って行く。

しばらく走っていると、重装備の兵士二人が小さな掘っ立て小屋の扉の前に立っているのが見えた。

 

「あれだけの騒ぎが起きているのにあいつらは何を・・・?いや、あの先に重要な何かがあるのか?」

 

「ああ、あの歩哨は周りで騒ぎが起きているからこそ、態々あそこに立っているんだと思う」

 

「と言う事は・・・」

 

アーノルドと和也が顔を見合わせ、頷く。

 

「「恐らく、あの部屋の中にリッチモンドさんは居る」」

 

「あそこにパパが・・・!」

 

言うや否や、三人は静かに、そして素早く物陰に隠れながら兵士達の元へと近付いて行き・・・

ドカッ!

 

「がっ!?」

 

「っ!?お、おいどうし━━」

 

ドカッ!

 

「ひでぶっ!?」

 

気付かれないように兵士の背後に忍び寄った和也は目の前の兵士の首筋に手刀を浴びせ、無力化。横ではアーノルドが相手の後頭部を殴って気絶させていた。

ヘルメット越しに殴って気絶って、いったいどんな馬鹿力なんだよ・・・。

 

「ルーカス君、もうこっちに来て大丈夫だ」

 

兵士のポケットから鍵を探り出しながら、物陰のルーカスに手招きをする。

少しすると、ズボンの後ろポケットから小さな鍵が出てきた。恐らくこの小屋の鍵だろう。

 

「よし、鍵があった。アーノルド、ルーカス君、行くぞ」

 

そう言って、兵士が持っていたタクティカルナイフ二本を拝借した後、ドアの施錠を外して勢い良く開ける。

 

「なっ!?貴様は!?」

 

室内には見張りと思われる兵士一人と、椅子に縛り付けられた状態のアランがいた。

相手はこちらとの距離からナイフでの応戦が適当と判断し、ホルスターからナイフを抜いて斬り掛かってくる。

 

「このっ!」

 

「フッ!」

 

首筋を狙った斬撃をしてくるが、上半身を後ろに少し傾け、それをかわした。

 

「ハンッ!一度は護衛対象を奪われた負け犬じゃねえか」

 

「そうだな、一度はお前達にしてやられたな」

 

心理戦が目的なのか、話し掛けてくる兵士に和也はナイフを構えたまま返答する。

 

「まさか、取り返そうってか?」

 

「ああ、今度はこっちがやり返す番だ。ここまでガバガバのセキュリティだったぜ?どうぞ通って下さいってか?」

 

「・・・その減らず口を黙らせてやるっ・・・!!」

 

激昂した兵士が今度は首を狙った突きの攻撃をして来るが、ヒラリとそれをかわし、攻撃が空振った兵士のナイフは壁に刺さる。和也はその隙を逃さず壁に刺さったナイフを蹴って更に深く刺し込んだ。

 

「っ!?し、しまった━━グッ!?」

 

そのまま、動揺する兵士の首裏をナイフの柄で殴って気絶させる。これで見張りの兵士は全員無力化し終えたようだ。

 

「ルーカス・・・?それに二人も・・・っ!?後ろだ!」

 

「ぐ、ぐ・・・お前ら、あの時のぉ・・・!」

 

そう言って、外で気絶させた筈の兵士の一人がフラフラと立ち上がりながら腰からピストルを抜いて構える。

ガスッ!!

 

ア゜っ!?

 

ルーカスが近くにあった廃材の中から引っ張り出したパイプで兵士の股を思い切り殴り、今度こそ完全に無力化した(落とした)

 

「う、うわぁ、何て言うか、うわぁ・・・」

 

「う、む、これは・・・」

 

「ルーカス・・・」

 

あまりの惨劇に和也とアーノルドは冷や汗を流し、父親であるアランでさえ、顔が引きつっていた。

 

「パパ!!」

 

ルーカスが脱兎の如く父親の元へと走って行き、冷や汗を流していた二人も気持ちを切り替える。

 

「リッチモンドさん、ご無事ですか?」

 

「今、この縄を切りますので動かないで下さいね」

 

アーノルドが周囲を警戒し、和也はルーカスとアランのやり取りを安堵した顔で見ながら、先程拝借したナイフで器用に縄を切っていく。

 

「よし、切れた!」

 

「ああ、ありがとう。ようやく手が自由になったよ。ホーキンス君とボーデヴィッヒ君は?」

 

「今、彼らが敵を惹き付けてくれているんです。そのお陰でここまで来れました」

 

「そうだったのか・・・。彼らにも君達にも本当に迷惑を掛けたな・・・」

 

「リッチモンドさん、和也、そろそろ行こう。ここも次期ヤバくなる」

 

アーノルドがそっとドアを開けて外を警戒しながらそう告げる。

 

「そうだな、話は後だ。ここを脱出しよう!」

 

そうして、無事にアランを救助した和也達だが、一つ問題が起きる。

出口までの最短ルートに敵が対空陣地を築き、空に向けて発砲を繰り返していたのだ。

 

「クソッ、仕方ない。少し遠回りにはなるがあっちから行こう」

 

そう言ってアーノルドが指差すのは、他の建物より大きく、長年の直射日光で所々劣化している建物だった。

 

「そうだな、見つかって蜂の巣にされたくないなら、あの道しか無いな。リッチモンドさん、ルーカス君。行こう」

 

「分かった。ここは君達に任せる」

 

兵士達の怒声や銃声をBGMに四人は静かにその場を駆け抜けて行った。

 



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第84話

「敵からの反撃もだいぶ弱まってきているな。まさか、まだターミネーターを隠し持ってたのは驚きだったが、後少しで制圧完了だ」

 

下からの細々とした砲火をヒラリと回避しながら、状況をラウラに伝える。

 

「これだけ損害を出せば敵の勢いも弱まるだろう」

 

「まあな。武器庫に装甲車両、対空砲、ターミネーターにその他の建物etc.・・・向こうからすれば大損害だな」

 

あれからかなりの損害を敵に与え、もういくつ破壊したか数えていない。もともとそんなに大きくない基地なのだから、その中に潜んでいた敵も少なかったようだ。

 

「特に、正門を楽に攻略出来たのは良い事だな。奇襲が成功した後はトントン拍子に事が進んでいく」

 

「確かに奇襲の成功は深く関わってるが、正門を楽に落とせたのはさっきのラウラのアレが主な原因だと思うぜ?っと、一機撃墜!」

 

「アレ?」

 

「ほら、アレだよ。装甲車を切り落とした時の」

 

「?・・・それがどうした?」

 

いまいち分かっていないラウラが頭に「?」を出したように小首を傾げる。

 

「いや、だって。お前が装甲車の砲身切り落とした後、乗員の顔が蒼を通り越して飛んでもない色になって逃げて行ってたんだぜ?いったい何をしたんだよ」

 

「何をしたも何も・・・ああ、確かに外部視認カメラを睨んだりはしたが・・・」

 

何の気なしに答えるラウラだが、その行為が彼らにとってどれ程の恐怖を与えたのだろうか。

その後に砲身まで切り落とされたら、そりゃあ、あんな顔をして逃げて行くのも頷けるか・・・。俺でもチビるかもしれない。

 

「ウィル、黙りこくってどうした?」

 

「いや、ラウラは絶対に怒らせちゃいけないって自分に戒めていた。下手にキレたお前は鬼よりも恐ろしいからな。まさに最凶の一言だ。ハハハッ!」

 

今まで受けたラウラからの制裁を思い出し、攻撃してくるターミネーターを撃墜しながら冗談を口にする。

 

「・・・ウィル、後で少しハナシをしようか」

 

無線から少し低めの声が返ってきた。

 

「え?ま、まさか今ので怒ったり・・・?」

 

「ああ怒った。まさか愛する男にそのような事を言われるとは、私は悲しいぞウィル」

 

ラウラも冗談めかしてそう言ってくるが、声からして明らかに笑ってるようには思えない。

今の彼女の表情が容易に想像出来る。恐らく顔は笑っていても、目は笑っていないだろう。

 

「・・・因みに情状酌量(じょうじょうしゃくりょう)の余地は?」

 

「あると思うか?」

 

「・・・・・」

 

生きて大地を踏むことは出来ても、生きて明日の朝日を拝めるのかが心配になってきたよ・・・。

自業自得で見事にウィリアムは自爆した。

 

 

敵兵士達を回避する為に迂回していた和也達は、格納庫の中を移動していた。

中はもぬけの殻だが、そこら中に工具や配線、発電用のモーターが散乱している。

 

「ここで連中はあのターミネーターと言う兵器の整備をしていたのか」

 

ふと視線を変えると、近くにはもう飛ぶことは二度と無いであろう旧式戦闘機が放置されていた。

よく見ると、それらはパーツの一部が取り外されており、どうやら足りない部品を移植したようだ。燃料配管が剥き出しの機体や、物騒な事に機関砲が付いたままの機体まで置いてある。

 

「置きっ放しとは杜撰(ずさん)だな」

 

「何かを解体するにも費用が掛かるものだ。それが家であれ車であれ戦闘機であれ。そうして後回しにされている内に忘れ去られたんだろう・・・」

 

アーノルドの呟きにアランが答える。やはり、普段から経営などの仕事に携わってきた彼には分かるのだろう。

ルーカスも自分の好きな飛行機の無惨な姿に、悲しそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

ガショッ・・・

 

「「「っ!?」」」

 

突然、外の銃声に混じってどこからか音が聞こえた。

ガショッガショッとその音は規則正しい間隔で鳴り響いている。

 

「何の音だ・・・?」

 

ガショッガショッガショッガショッ

 

音はどんどん大きくなっていき、近くに立て掛けられていたスパナがカランッと高い音を立て倒れたその時だった。

ヌッと伸びてきた白い腕と黒色のマニピュレーターが格納庫のシャッターを掴み、少ししてからその腕の主が現れた。

それは全体的に白く、鳥のような頭を持ち、流線形の胴体には鋼鉄の翼と双発のジェットエンジン、左手には機銃のような物が握られている。

昨日、上空でウィリアムとラウラが撃墜し、その後で教えてもらった機体にそっくりだった。

 

「た、ターミネーター!?」

 

頭部の風防ガラス内部に取り付けられたモノアイ(単眼)カメラがこちらを向き、何かの起動音と共に怪しく光る。

 

「まずい!早く物陰にっ!」

 

バララララララララッ!!

何の躊躇いも無く機銃が発射された。まさに人が乗っていない事を示すような一撃だ。

四人は間一髪のところで物陰に隠れる事でなんとか回避するが、それもいつまでも続ける事は出来ないだろう。

出口へ向かうにはあのターミネーターの視界内を通る必要がある上、それは今もこちらへゆっくりと近付いてきていた。

 

「・・・仕方ない。俺が奴を惹き付ける!少し待っててくれ!」

 

「待って、和也さん!良いこと思い付いた!」

 

物陰から飛び出そうとする和也をルーカスが呼び止める。

 

「良いこと?何か上手い作戦でも思い付いたのか?」

 

「うん!まずね━━」

 

 

 

 

 

「━━て言う感じなんだけど、どう?」

 

「成る程・・・よし、その作戦乗った」

 

「ああ、少し派手だがこれだけ外で騒ぎが起きてれば問題無いだろう」

 

「まったく、我が息子ながら飛んでもない作戦を思い付いたものだ」

 

「よし、時間稼ぎは任せろ!アーノルド、二人を頼んだぞ!」

 

そう言って、和也は物陰から飛び出て行き、目の前の無人機に罵声を浴びせ始めた。

 

「掛かって来い、このポンコツ鳥頭っ!!」

 

「━━━━━」

 

無人機が和也の方を向き、機銃の先を向ける為、左腕を駆動させる。

ガギッ!

 

「━━━━━?」

 

突然腕が固まり、無人機は異常のあった部位を見つめる。その視線の先━━左腕関節の隙間にはナイフが突き立てられていた。

 

「動きが鈍すぎて余裕だぜ!空ではどうか知らないけど、陸ではマヌケだな!」

 

彼がターミネーターの腕関節にナイフを投擲し、見事隙間に刺さったのだ。

軍用ナイフはそこそこ頑丈な為、ちょっとやそっとじゃ割れはしない。

左腕の使用を諦めたターミネーターは突然主翼の角度を変え、翼下に搭載している白い円柱形の何か━━『ハイドラロケット弾ポッド』を向けてきた。

そのポッドを凝視すると、中に小型のロケットらしき物が幾つも格納されているのが見える。

 

「嘘だろ、生身の人間相手にロケットまで使うのかよ・・・!」

 

パシュッ!ボンッ!!

 

「うおっ!?あ、危ねぇ・・・!」

 

無人機から無慈悲に発射されたロケットを和也は紙一重で回避する。

爆発の威力は小さいが、人体に当たればどうなるかは想像したくはない。

 

「━━━━━」

 

「チィッ!」

 

ロケットの標的にならないよう、和也は相手と一定の距離を保ち、物陰に隠れながら無人機の気を惹き続ける。

 

 

アーノルド、アラン、ルーカスは作戦に必要な物の元へと走って行き、その場で立ち止まる。

 

「あった、これだよ!」

 

そう言ってルーカスが指差すのは、先程通り道に無惨に放置されていた旧式戦闘機の内の一機だった。

 

「本当に使えるのか?武装は残ってても弾は・・・ふむ、多少は残っているな。過激派にでも盗まれたりしたら大事(おおごと)だぞ・・・」

 

アーノルドは弾薬庫のカバーを開けて中身を確認し、改めて管理の杜撰さを認識した。

 

「でも、ルーカス。武器が使えても、操作方法は分かるのか?」

 

アランが戦闘機の上によじ登ろうとしているルーカスに問う。

 

「大丈夫だよ、前に図鑑とか動画で見たのを覚えてるから」

 

「ハァ、その熱意を普段の勉学にも反映してくれると嬉しいのだがな・・・」

 

アランが眉間を押さえてかぶりを振って溜め息をつくが、ルーカスはそんな事はお構い無しとコックピットの座席に立ち、いそいそと安全装置のスイッチを解除した。

 

「・・・やった!まだ完全には壊れて無い!これであいつを倒せるよ!」

 

「よし、なら後は」

 

「私達の出番だな」

 

そう言って、アーノルドは腕捲りし、アランは高そうな白いスーツをその場に脱ぎ捨てた。

 

 

このターミネーターの陸戦能力は低いようで、和也の素早さに付いて行けず最初は翻弄されていたが、敵はロケットを狙って撃つのを止め、連射して辺りを破壊しながらじわじわと彼を追い詰め始めていた。

 

「ルーカス君!そっちはどうだ!?これ以上はちょっと厳しい!」

 

「いつでも良いよ!」

 

「よし!なら今からこいつをそっちに連れて来るぞ!」

 

そう周知しながら後ろに無人機を引き連れて所定の位置へと走って行く。

パキンッと歩行の振動でターミネーターの左腕関節に刺していたナイフが抜けてしまった。

 

「ヤッベ!?ルーカス君、後少しでそっちに着くぞぉ!」

 

ターミネーターが左腕を動かし、機銃の先を和也に向けてトリガーを引こうとしたその時━━

ガギギッ!!バキンッ!ガリ、ガリ・・・

和也が残る最後のナイフを相手の膝関節に向けて投擲した。

駆動部に異物が混入してターミネーターの歩行が止まる。

 

「今だ!!」

 

ルーカスに合図を送った和也がターミネーターの近くから飛び退く。

 

「パパ!アーノルドさん!もっと右へ!」

 

「「ぬ・・・おおおおおおっ!!!」」

 

そう雄叫びを上げながら、アランとアーノルドが戦闘機の前輪を押して照準をターミネーターに合わせる。

そして━━

 

「当たれぇ!!」

 

ヴォオオオオオオオオオオオ!!

 

数年ぶりに火を噴いた機関砲が目の前の敵機を鉄屑へと変えていく。

身体中に砲弾を撃ち込まれたターミネーターは金属の軋む音と共に後ろのめりにゆっくりと倒れていき、完全に動かなくなった。

 

「っしゃあ!!」

 

「やった!!」

 

「倒したぞ!!後はここを出て、ホーキンス君達と合流するだけだ!」

 

「良くやった、ルーカス!!お前は自慢の息子だ!」

 

力を合わせて倒した敵を前に、肩を叩いたり抱き合ったりして喜ぶ四人だった。

 

 

「地上からの攻撃もほとんど見えなくなってきたぞ。ラウラ、後一押しだ」

 

「そうだな、ここを制圧した後は下の彼らと合流するだけだ」

 

俺とラウラは下を見下ろし、まだしつこく攻撃をしてくるポイントを探す。

 

「これはリッチモンド氏に美味い魚料理を食わせてもらっても釣りが返ってきそうだ。いやぁ、後が楽しみだな」

 

「ウィル、浮かれる気持ちは分かるが、その前に二人でハナシをするのを忘れてないだろうな?」

 

「その話まだ続いてたのかよ・・・ん?ラウラ、レーダーに反応。数四つ、IFFに応答無し、ここから11時の方角だ。・・・遅刻してきた連中らしい」

 

「まだいたのか?いや、敵の増援か」

 

レーダーの画面には四つの光点が隊列を組み、市街地とは反対の方角からこちらに接近していた。

 



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第85話

戦闘時のオススメBGM
エースコンバットZERO『Contact』

戦闘描写が巧く書けない・・・。もしかしたらちょっとした矛盾点があるかもしれないです。
ご注意下さい。

第2話の最後辺りの文を少し改良させて頂きました。


ギラギラと日が照りつける砂丘の上を四つの機影が編隊を組んで飛んでいく。

その機影の全ては主翼を黒色に染めており、垂直尾翼には羊の頭に長剣が突き立てられたエンブレムが貼られていた。

 

「隊長、まもなくデルゥ基地上空に到達します。レーダーに感あり、機数は二機。恐らく通信にあったシャークマウスとドイツのISかと。下は手酷くやられているようです」

 

「ふん、金に(たか)傭兵()共には些か荷が重すぎたようだ。所詮は士気など無いに等しい烏合の衆に過ぎんという事か。ブラックシープ1より各機へ。

 

 

 

━━狩りの時間だ。全機墜とすぞ

 

「「「了解!」」」

 

 

「次から次へと・・・!ラウラ、来るぞ!」

 

「こちらも確認した。全機が主翼を黒く塗りつぶしている・・・?さっきのターミネーターとは違うようだ」

 

直後、ミサイルの接近警報が鳴り響いた。

俺は機体後部からチャフとフレアを撒いた後に急旋回、ラウラはワイヤーブレードとAICでミサイルを無力化する。

 

《初撃は回避されたか・・・》

 

《リッチモンドを乗せた輸送機の護衛として向かったのに、ここで噂の鮫に出会(でくわ)すとはな・・・。ブラックシープ隊、ブレイク(散開)!》

 

「あの機体・・・ラウラ、気を付けろ。連中の機体はデカイ図体とは裏腹に機動性が高い」

 

敵の機種は学園を襲った時に交戦した有人ターミネーターと同機種だった。カラーリングは違うがあの機体形状は忘れない。

さっそく後ろを取った敵機を追い回しながらラウラに注意喚起する。

 

「留意する」

 

速度性能ではターミネーターに追い付けないと踏んだラウラは敢えて移動は最小限にしてレールカノンによる精密射撃を始めた。

 

《喰らい付いたら離さない。食い意地の張った鮫だ。おい、誰かこいつを引き剥がしてくれ》

 

《2、少しの間だけ耐えろ。4がそちらに向かっている》

 

俺が追い回している敵機の僚機が俺を妨害しようと後ろに付いて発砲してくる。

 

「精鋭部隊が相手である事に加え、四対二か・・・。だが、こっちだって伊達に空を飛んできた訳じゃない!」

 

後ろに牽制射を行いながら反撃の用意を始める。

まず、後方の排気ノズルを下へ向け、次にVTOL(垂直離着陸)用のノズルを開放。これで準備は整った。

 

《敵機捕捉。そのままじっとしていろよ・・・》

 

次の瞬間、俺はまたチャフとフレアを同時に撒き散らし、全てのノズルを一斉に噴かした。

機体が平行のまま急激に上昇を始め、その下を敵機が通過していく。

 

「上手く掛かったな」

 

この機動はVTOL用の特殊なノズルを持つ一部の戦闘機、そして、ISの中ではこの相棒にしか出来ない動きだ。

ヘッドギアの酸素マスク越しに、俺はニヤリと片方の口角を上げながら、敵を捕捉してミサイルを発射した。

 

《し、しまった!?あいつ、あんな機動を━━~~~・・・》

 

まずは一機撃墜だ。敵はエンジンから数回小さな爆発を起こしながら黒い尾を引いて墜ちて行った。

 

「おやすみ!」

 

《一機喰われた!?こいつら、ただのIS乗りじゃなさそうか!》

 

《お遊びは終わりだ。こいつらを炎の中に叩き込む!》

 

ドンッ!と爆発音が聴こえる。

音のした方角を見ると、ラウラが敵機をレールカノンで撃ち落とした後だった。エンジン部分を吹き飛ばされた敵は錐揉みしながら砂丘へと消えていった。

 

《あの女、なんて高精度で撃って━━~~~・・・》

 

「ただ周りを飛び回るだけなら私でも当てられる!『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長を甘く見ないでもらおう!」

 

左目の封印を解いたラウラが、下を睨みながら勇ましくそう告げる。

 

「ラウラ、グッドキル!残るは二機だ。一気に畳み掛けるぞ!」

 

「分かった!」

 

《二機も墜とされた!?許さねぇ!》

 

《落ち着け2。お前はあの黒いISをやれ。私は鮫を墜とす》

 

「っ!!こいつだけさっきの奴らとは動きが違う。隊長機か?」

 

《貴様の思い通りにさせると思うかっ!》

 

「っ!?」

 

後ろを取る為、減速機動を行おうとした途端に銃撃を浴びた。

 

「ぐッ!こいつ、減速機動に付いてこれるのか・・・。俺の得意技が潰されたのなら、新しい手を考えないとなっ!」

 

後ろをピッタリ付いてくる敵の攻撃をかわしながら次の一手を考える。

 

「しつこいっ!」

 

「ラウラ、大丈夫か?」

 

「後ろに取り付かれた。今のところ大きな被弾は無いが振り切ろうとしても、しつこくついてくる・・・!」

 

後ろの隊長機の攻撃を回避しながらチラッと一瞬だけ確認すると、ラウラの後ろを一機のターミネーターが追跡していた。

 

「・・・ラウラ、俺が援護するからカウント3で後ろの奴に攻撃だ。出来るか?」

 

「分かった、やってみる」

 

「よし、行くぞ。3」

 

後ろの敵が鬱陶しいが、それに構わず半ばごり押しで速度を上げてラウラの元へと飛んで行く。

 

「2」

 

ラウラと敵機の間に割り込む用意をする。

 

「1」

 

二つの影がドンドン大きくなってくる。

 

「よし、今だ!」

 

そう言って、俺は敵の正面スレスレを通過しながら、目眩まし兼ラウラへのロックオンの妨害としてチャフとフレアを大量に散布した。

 

「ってぇっ!!」

 

《うわっ!?畜生、ロックが外された!前が上手く視認できな━━~~~・・・》

 

空かさずラウラが後ろを振り返って敵のエンジン部分を正確に狙ってレールカノンの砲撃を行う。

砲弾が直撃したターミネーターは火を噴きながら墜ちて行った。

 

「ウィル、助かった。後はそいつだけか?」

 

「ああ、残るは後ろのこいつだけなんだが、中々良い腕をしてやがる・・・俺の減速機動にも巧く対応してくるんだ。スマンが少し手を貸してくれ」

 

「問題無い。どうすれば良い?」

 

「なに、簡単な事さ。俺をAICで止めてくれ、ほんの一瞬だけで良い」

 

バスター・イーグルはその大出力と機体形状から、高速・高機動の飛行が可能だ。だが、速い分だけ制動距離が増す上、機体がデカイ・重い・PIC出力が弱い、の三点がそれに拍車を掛けてしまっている。つまり、急に止まれない。

今回ばかりはこいつの高速性能が故の皺寄せが目立ってしまったという訳だ。

だが、ラウラのAICによって慣性を打ち消してくれれば(無理矢理止めてくれれば)、俺はその場で180゜回転して後ろに向けて正確な攻撃を行う事が出来る。

 

「よし、ラウラ。最終アプローチに入るぞ!」

 

「準備は万端だ、いつでもいけるぞ!」

 

その言葉を聞いて、俺は敵を後ろに引き連れたままラウラのいる方角へと向かって行く。

 

《何を企んでいるかは知らんが、貴様さえ墜とせば後はどうとでもなる・・・!!》

 

「後、350m弱・・・!」

 

そろそろこっちの体力も限界に近付いている。この作戦、絶対に成功させないとな。

 

《ん?そうか、ハハハハッ!そういう事か!私を誘き寄せてその女に攻撃をさせるつもりだな!考えが浅はかだ!》

 

隊長機は自分の予想が当たりだと思い込み、ウィリアムを嘲笑いながら機銃の先を彼に向ける。

 

「ラウラ!やってくれ!」

 

「任せろ!」

 

唐突に、自分の体に負荷を掛けていたGが消え失せ、代わりに身動きが取れず窮屈感が押し寄せる。

ラウラのAICが発動し、3m超えの機体がその場で静止したのだ。

1秒も立たない内に俺はAICから解放され、また身動きが自由になる。

流石ラウラ、完璧なタイミングだ。

俺はその場で機銃を構えながら真後ろを向く。

 

《なっ!?まさかこれが狙いだったのか!?クソッ!》

 

目の前まで迫っていたターミネーターが慌てて方向を変えるが、もう遅い。

 

「━━良い所に来たな」

 

直後、機銃のトリガーが引かれ、隊長機に向けて30mmの火の雨が降り注がれた。

発射された無数の弾丸は隊長機に吸い込まれるようにして飛んで行き、機体の主翼を手当たり次第に食い千切っていく。

 

《被弾した!?こんな奴らにっ・・・!!?》

 

主翼をもがれ、揚力を失ったターミネーターは俺とラウラの真横スレスレを轟音と共に高速で通り過ぎながら黄色い地表へと墜ちて行った。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、敵機撃墜、レーダーに残敵無し。制空権、確保だ・・・!!」

 

「流石に、これ以上の増援は、私も勘弁してほしいところだ・・・」

 

敵のエース部隊を退けた俺達は、残りの抵抗勢力がいないか確認する為、荒い息を吐きながら基地へと戻って行った。

 

 

『亡国機業の残存勢力に通達する。諸君らの増援は全機撃墜された。これ以上の抵抗は無意味だ。速やかに投降せよ。勿論、諸君らの身柄は保証するし、非人道的な事など論外だ』

 

何機もの軍用ヘリがスピーカーを使って亡国機業の兵士達に対して降伏を促す。

何でも、俺達が上空で戦っている間にリッチモンド氏達が基地の無線機を拝借し、アメリカ大使館を経由してアラブ首長国連邦軍に事態を伝えたそうだ。

通報した四人は今現在、軍から事情聴取を受けている。

 

「フゥ、手間が省けて大助かりだ」

 

武装解除された亡国の兵士達が両手を頭に置いたままゆっくりと輸送ヘリに乗せられて行く列を見ながら、サングラスを着けた俺は水の入ったボトルを片手に腰に手を宛がいながらそう呟く。

 

「そうだな、これなら連中も大人しく投降するだろう。私達が残り少ない体力を振り絞って一人づつ拘束していくよりは効率的だ」

 

ラウラが俺の呟きにペットボトルの水を飲みながら返答してくる。

実際、本当に大助かりだ。基地で散々暴れた後に敵エース部隊と交戦した俺達に再び動き回れる程の体力は残っていなかったのだから。

 

「今からもう一度飛べなんて言われたら、冗談抜きでそいつに一発右ストレートをくれてやりそうだ・・・」

 

「ウィル兄ちゃん!ラウラ姉ちゃん!」

 

水をガブガブ飲みながら軽口を叩いていると、横から声を掛けられた。

 

「お~、ルーカス。事情聴取はもう終わったのか?」

 

「ついさっき終わって解放されたところだよ」

 

俺の問いに、後からやって来た秋山さんが答える。

 

「秋山さん、それにメイトリックスさんとリッチモンド氏も」

 

「ホーキンス君、ボーデヴィッヒ君、今回は私のせいで迷惑を掛けてしまったね・・・本当にすまない。それと、ありがとう・・・!」

 

そう言ってリッチモンド氏が前に出て、右手を差し出してくる。俺がその手をしっかりと握り返してからは、ひたすら感謝の言葉を繰り返された。

 

「アラン・リッチモンドさん、ルーカス・リッチモンドさん!念の為、身体に異常が無いか検査しますのでこちらへ!」

 

すぐそこの近場で、連邦軍の衛生兵がヘリから救急ボックスを降ろしながら二人を呼ぶ。

 

「っと、呼ばれたようだ、一端失礼するよ。行こうかルーカス」

 

「うん。また後でね、兄ちゃん達!」

 

そう言って二人は衛生兵の元へと歩いて行った。

 

「それにしても内容の濃い一日だったなぁ」

 

メイトリックスさんがドカッと近くのコンクリートブロックに座り込む。

 

「そうだな。敵の占領する基地へ乗り込んで、ターミネーターに追い回された挙げ句、俺はロケットを散々撃たれ・・・」

 

「俺とラウラは敵のエース部隊を相手に砂丘の上を飛び回りましたからね・・・。これで疲れない人なんて、それこそ超人かサイボーグですよ」

 

「ああ、体力には自信のある私も今回ばかりは流石に疲れたぞ・・・」

 

ラウラがそんな事を言うなんて珍しい。それ程までに疲れていたのだろう。俺も、一度座り込んだらもう立てる自信が無い。

 

「アハハ・・・お互い大変だったね・・・。二人が上空であいつらと戦っているのは俺も遠目から見えていたよ。手練れを相手に四対二で全て倒すなんて凄いじゃないか」

 

今まさに輸送ヘリに乗せられようとしている先程のターミネーターのパイロット達を見ながら、秋山さんが称賛の声を掛けてくる。

 

「そう言う秋山さん達もターミネーターを一機倒したじゃないですか。それも生身で」

 

「俺は囮をしただけだよ。直接やったのはルーカス君さ」

 

いやいや、弾速の速いハイドラロケットをかわしながら時間稼ぎをするなんて、あなたのタフさは十分バケモノ級ですよ!

と、心の中で盛大にツッコミを入れる。

因みに余談だが、今回の騒動が切っ掛けでこの放棄された基地は少しずつではあるが解体の手が入るそうだ。

 

「でも実際にこうしてみると、ISに乗れる君達がどれ程凄いかがよく分かったよ。俺も一度ISに乗ってみたいね。君達が羨ましい・・・」

 

「ふむ・・・もし秋山さんがISに乗れるとしたらどんな機体に乗ってみたいんですか?」

 

ふと何と無く思いついた疑問を秋山さんに投げ掛けてみる。

 

「どんな機体に、か。そうだな・・・こう、ナイフとか使う近接戦が得意で忍者ばりの素早さで相手を圧倒するような感じの機体・・・かな」

 

目をパチクリさせた秋山さんは少し考え込んだ後、俺の質問に答えてくれた。

ふむ、忍者か・・・それに乗っている彼の姿が容易に想像出来る。

 

「ハッハッハッ!和也にピッタリな機体じゃないか!似合いそうだ」

 

「アーノルド、お前はどんな機体に乗ってみたいだ?」

 

「俺か?俺は・・・やはり大量のロケットと大口径マシンガンをバカスカ撃てるような機体だな!」

 

「「「え゛」」」

 

キリッとした決め顔でそう言うメイトリックスさんに俺達は凍り付いた。

 

 

 

 

 

 

━━━

 

「ブルァッ!!」

 

「っ!?い、いったいどうしたんですか?パットン准将」ビクッ!

 

「・・・今ぁ、どこかで新たな同志の気配を感じたぁ」

 

「なっ!?それは真ですか、准将殿!」

 

「素晴らしい・・・!」

 

「気が溢れる・・・みなぎる・・・!重装巨砲主義ぶぅあんざぁい!!!」

 

「「「重装巨砲主義ばんざーい!!」」」

 

「・・・ハァ、准将、仕事して下さい。君達も同じだ、早く持ち場に戻れ。いい加減にしないと、徹夜二連続で機嫌が悪いホーキンス少佐を呼んで全員まとめてラングレー基地行きC-130の翼に括り付けてもらうぞ?」

 

「━━いや、その必要は無い」

 

「「「!?!?」」」

 

「ああ、ホーキンス少佐。お勤めご苦労様です。コーヒーです、どうぞ」

 

「うむ、ありがとう。ハァ、美味い。・・・さて諸君、選びたまえ。これから運ばれる補給物資に括り付けられて共に空挺投下されるか、黙って仕事に戻るか。3秒待ってやろう」

 

「「「い、イエッサー!!喜んで仕事に戻らせて頂きますっ!!」」」

 

━━━

 

 

 

 

 

 

「秋山和也さん、アーノルド・メイトリックスさん!こちらへどうぞー!」

 

二人も検査の為、衛生兵に呼ばれて「それじゃあ」と言って歩いて行った。

その場には俺とラウラだけが取り残される。

 

「さて、ウィル」

 

唐突にラウラが口を開く。

 

「ん?どうしたラウラ」

 

「さっきの約束を忘れてないだろうな?」

 

ん?約束・・・?ラウラとの会話の間に何か約束事なんてしたっけか?

俺は、首を捻りながら今までの会話を出来うる限り思い出していく。

確か、ラウラと正門を奇襲した後に敵の対空陣地を壊して回って、ターミネーターが出てきたがそれも破壊して・・・後何だっけか?ああ、そうだ。敵戦力の状況をラウラに伝えて

 

『特に、正門を楽に攻略出来たのは良い事だな。奇襲が成功した後はトントン拍子に事が進んでいく』

 

『確かに奇襲の成功は深く関わってるが、正門を楽に落とせたのはさっきのラウラのアレが主な原因だと思うぜ?』

 

・・・・・・あっ

 

「ま、まさか・・・!?」

 

「O★HA★NA★SHIの時間だ」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。せっかくハッピーエンドな雰囲気なんだからそういうのは止めにしようぜ、な?」

 

「・・・ふむ、確かにこの場では周りに迷惑が掛かるな」

 

ラウラが顎に手を宛て、周りを見回す。

 

「そ、そうだよ。だからこの件は━━」

 

「━━なら、丁度おあつらえ向けの物陰があるからそこにしようか」

 

「だ、ダスビダーニャっ!!(さよなら!!)━━グェッ!?」

 

「逃がさん」

 

言うや否や、逃げようとする俺の襟首をガシッと掴んで近くの物陰へと引きずって行く。

ああ・・・どうか明日の朝日が拝めますように。あ、そう言えば、せっかくドバイに来たのにまだパームアイランドを見てな━━

 

 

 

 

 

ウギャアアアアアァァァァ!!

 

ヘリが飛び交うだだっ広い青空にウィリアムの悲鳴がこだました。

 

 

リッチモンド氏救出の後、一日の間を空けて彼らがアメリカへ帰国する為の護衛飛行が待っている。

ドバイを発つまでの間に、リッチモンド氏から「どうしても礼がしたい。何か食事でもご馳走させてくれ」と言われた俺達はそのご好意に甘えてパームアイランドが見渡せる高級レストランに連れて行ってもらい、そこで俺はシーフード料理を満足するまで食べ続けた。

日本の魚料理も良いが、たまにはこういった料理も良いものだ。

 

そして、とうとうドバイから発つ日が来た。

国際空港から離陸した俺達は行きしなと変わり無く、プライベートジェットを中心に左をラウラ、右を俺が固めるようにしてアメリカ合衆国『ノースウェスト・フロリダビーチズ国際空港』に向けて最後の護衛飛行を行う。

日本では『行きは良い良い帰りは怖い』と言う言葉があるそうだが、途中の経由地で休憩を挟みながら何事も無くアメリカ領空内に入ったプライベートジェットは無事空港の滑走路に着陸し、俺達は合計数千Kmにも及ぶ護衛飛行を終えた。

 

 

空港で待機していたリッチモンド財閥のヘリコプターがエンジンを始動させる。

 

「兄ちゃん達バイバイ!」

 

「おう!またな、ルーカス!」

 

「ホーキンス君、ボーデヴィッヒ君、君達との出会いは一生の宝だよ」

 

「こちらこそ、あなたのような方に会えて光栄でした。またどこかでお会いしましょう」

 

「どうぞ、ご自愛ください」

 

俺、ラウラの順番に別れの言葉を述べる。

 

「ああそうだホーキンス君」

 

「はい?」

 

リッチモンド氏が何かを思い付いたように手でポンと相槌を打った後、俺の所に歩み寄ってきた。

・・・大事な話か何かか?

そう思っていると、リッチモンド氏が俺の肩に手を置いて耳元でこう言ってきた。

 

君とボーデヴィッヒ君は親しい仲・・・いや、それ以上と見える。もし挙式するなら、その時はぜひ呼んでくれたまえ。会場や飾り付けなどは私達が受け持とう

 

まるで色恋沙汰にニヤニヤと反応する中学生のような顔でそう告げてきた。

 

「なっ、なあ・・・!!」

 

堪らず顔を真っ赤にする俺の顔と「?」と言う顔をしてこちらを訝しむラウラを交互に見た彼は「ハッハッハッ!しっかり青春を謳歌したまえよ!若者達!」と笑いながらヘリコプターへと歩いて行った。

 

「ホーキンス君、ボーデヴィッヒさん。今回は君達のお陰で無事にここへ帰り着けた。ありがとう」

 

「ああ、二人がいなかったらどうなってた事か・・・。感謝してもしきれん」

 

秋山さんとメイトリックスさんが感謝の言葉を掛けてくる。

 

「俺達もしっかり腕を磨かないとな。な?和也」

 

「そうだな、もっともっと強くなってしっかり彼らを護れるようにならないとな。おっと、そろそろ急がないと。それじゃ!」

 

「また縁があれば会おう!」

 

そう言って二人もヘリに乗り込み、全員が揃ったそれは徐々に上昇を始めた後、リッチモンド財閥の本社へ向けて飛んで行った。

 

「・・・終わったな」

 

パタパタと音を立てて飛び去って行くヘリを眺めながら、フッと笑う。

 

「ああ、依頼達成だ。ところで、ウィルはいったい何の話をしていたのだ?」

 

「っ!?あ、ああ、何でも無い話さ。今度何か催し物でもあったらぜひ呼んでくれってな」

 

「?そうか」

 

ラウラが顔を覗き込むように聞いてきて、俺はドキリとしてしまった。

ヤバい所は隠したけど嘘はついてないよな?

 

「さ、こんな所にいつまでもいたら係員に邪魔だって怒られちまう」

 

「そうだな、一先ずここを離れるか」

 

しばらくヘリが飛んで行った方角を見上げていた二人は空港の中へと歩いて行った。

 

 




以上で、ドバイ編は終了となります。
ここまで読んで下さりありがとございます。

そして、コラボして下さった『パパパパセリ』様。
ありがとうございます!


ブラックシープ1「ふん、読者の皆様の感想と評価に(たか)作者(お前)には(小説を書くのは)些か荷が重すぎたようだ。所詮は文才など無いに等しいド素人に過ぎんという事か。・・・本当ならもっと活躍出来たかもしれないのに・・・

2.3.4「そうだ、そうだ!隊長の言う通りだ!しかも内容が無理矢理な上にめっちゃガバガバじゃないかっ!!」

「・・・ぐう正論だよ、コンチクショウッ!!」


━どうでも良い設定━

ブラックシープ隊

MSGに所属する四機一編隊の特殊部隊。
隊長である“ロバート・ワイズマン”は元アメリカ海兵隊航空部隊の所属であり、経緯は不明だがこの組織の一員として活動している。
プライドが高く、自分達と違って思想を持たず、報酬の為に動く亡国機業の傭兵達を金に集る犬と評価している。
今回、誘拐したリッチモンドが口座の暗証番号を話さず、ただ時間の浪費だった為、彼の奪還を恐れた組織はどこか離れた所に潜伏して後程ゆっくりと聞き出そうという結論に至った。
その為、リッチモンドを乗せた輸送機の護衛としてこの部隊が派遣されたのだが、計画が漏れてしまい、奇襲された上にウィリアムとラウラによって部隊は全滅。作戦は見事に潰され、彼もアラブ首長国連邦軍によって逮捕された。

※実在の米海兵隊『ブラックシープ』とは別物です。


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第86話

『ノースウェスト・フロリダビーチズ国際空港』という単語が出た時点で察した方は居る・・・はず・・・。


空港内に入り、しばらく歩き続けると、ロビーから外へ出た先に丁度良いタイミングでバスが停車しているのが見えた。

 

「お?丁度良い、あのバスに乗るか」

 

空港の出入口にあるバス停に向かってどんどん歩いて行く。

 

「待てウィル。どこか空港を出た先に行く宛でもあるのか?泊まる部屋ならここのを借りれるだろう?」

 

そのままバスに乗ろうとするウィリアムをラウラが引き止めた。

彼女の反応は当然だろう。ウィリアムはまだラウラに言っていない事があったのだ。

 

「あ、そういや言った事が無かったな。実はこの空港から比較的近い所に『パナマシティ』って町があるんだがな・・・そこって俺の地元なんだよ」

 

「は?」

 

ラウラが口をあんぐりと開けたまま固まる。

その顔を見て一瞬吹き出しそうになったが、俺はバスの停車駅が表示されたパネルを指差しながら言葉を続けた。

 

「このバスの行き先の内にそのパナマシティがあるんだが、せっかくだから家族に顔でも出しておきたくてな。今更訊くのも何だが、ラウラも一緒に来るか?」

 

ウィリアムの言葉を聴いたラウラは、しばらく脳内処理が追い付かずその場で固まっていたが、ある結果に行き着く。

 

ウィルが実家の両親に会いに行く。

  +

私も同伴。

  ↓

これ(すなわ)ち、ご両親へのご挨拶っ!

  ↓

お義父様とお義母様っ!!

  ∥

ご両親に認めてもらえれば、ラウラ・ホーキンスorウィリアム・ボーデヴィッヒっ!!!

 

「あー、別に無理にとは言わんぞ?態々疲れた体に鞭打ってまでついてくる必要は━━」

 

「も、勿論!私もついて行こう!」

 

「そ、そうか」

 

ご、ご両親へのご挨拶は早い方が良いとクラリッサも言っていたしな

 

「ん?何か言ったか?って、顔赤いぞ?フロリダは10月でも陽射しが強い時があるから熱中症には気を付けるんだぞ?」

 

俺は、突然大きな声で話したり、かと思えば顔を赤くしたり声が小さくなったりするラウラを心配して水を差し出した。

 

「な、何でも無いぞ!ああ、何でも無い!さあさあ、そうと決まれば早くバスに乗るぞ!」

 

「え?お、おい、分かったから押すなって!転ける転ける」

 

ウィリアムは何が何だか理解出来ずにラウラによってバスに押し込まれた。

 

 

 

しばらくバスに揺られていると、だんだんと見慣れた景色が視界に映り込んでくる。

言わずもがな、パナマシティ市内に入ったのだ。バス停までは後少しなので、俺は横の席で寝息を起てているラウラを揺り起こす。

 

「ラウラ、もうすぐバス停だ。そろそろ降りる準備をしてくれ」

 

「ん?んぅ・・・ようやく着いたのか・・・」

 

ラウラがまだ眠そうな目を擦って窓の外を見る。そこには二階建ての平たい家々が広い庭を挟んでいくつも並んで建っていた。

 

「ここがウィルの住んでいた?」

 

「ああ、懐かしい俺の故郷だ」

 

ラウラの問いに答えるウィリアムの顔はとても嬉しそうに微笑んでいた。

 

『パナマシティです。お忘れ物の無いようご注意下さい』

 

「フゥ・・・、やっと着いたなぁ、懐かしい香りだ。さ、家はすぐそこだから行こうぜ」

 

そう言いながら、ウィリアムは懐かしのホーキンス家へ。ラウラはまだ見ぬ未来のお義父様とお義母様の住まう家へ向けて歩を進める。

 

「ふふ、はしゃぎ過ぎだぞ、ウィル」

 

そう言ってウィリアムを嗜めるラウラだが、彼女のテンションもかなりのものだろう。

 

「半年以上も離れていたらこうもなるさ。そういや、あいつらは元気かな━━」

 

「あーー!!ウィルじゃねえか!!」

 

「何だって!?」

 

「うおっ!ほんとだ!」

 

「しかも横に可愛い娘を侍らしてやがるっ!」

 

近くで聞き慣れた喧しい声が聞こえる。声の方に顔を向けると、そこには懐かしい四人組がこっちを向いて立っていた。

 

「よお、久しぶりだな!マイク、ジョニー、アレックス、それと・・・ええっと?」

 

「ジミーだよ、ジミー・カーター!このやり取り何度目だよっ!」

 

「アッハッハッハッ!何を今更言ってやがる。この挨拶がデフォルトだろ?なぁ?マミー」

 

「ジミーだっ!!俺はミイラ男じゃねえっ!!」

 

この懐かしいやり取りもいつ以来だろうか?ラウラそっちのけで話し込んでしまう。

 

「おいおい、ウィル。横の女の子がさっきから付いてこれて無いみたいだぜ?」

 

と、マイクがラウラを見ながら俺にそう告げてきた。

いかんいかん、つい自分の空間に入ってしまったようだ。

 

「悪いなラウラ。紹介するよ。横から順に

“マイク・ジェンキンス”。俺の家の近くに住んでいて、小さい頃から面識がある。所謂幼なじみってやつだな。

次に“ジョニー・テイラー”。ジョニーは根っからのロシア・・・と言うよりソ連好きでな。色々と曲解してる節もあるが・・・。因みにこいつの家系は代々長男にジョニーと名付けるらしい。

そして“アレックス・ウォーカー”。親が雑貨店を営んでる。趣味は映画観賞で、俺もアレックスに勧められてハマった映画は多い。

最後に“ジミー・カーター”だ。実は射撃が巧いという特技を隠し持ってるんだが・・・まあ、こいつは基本的に弄られ役だな」

 

「おいっ!?」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。名前から分かるかも知れんがドイツ人だ。よろしく頼む」

 

「「「よろしく」」」

 

一通り自己紹介を終えたところで、ニヤニヤした顔でマイクが口を開いた。

 

「ところで聞くが、お二人さんはどういったご関係で?」

 

そう質問してきた。

顔は相変わらずニヤニヤしたままだ。

こいつ、絶対に分かった上で聞いてきやがったな・・・。

 

「あー、それは、だな━━」

 

「ウィルは将来、私の伴侶となる男だ」

 

「」

 

俺が慎重に言葉を選びながら説明しようとした矢先に、ラウラがめっちゃドヤ顔で俺の腕を抱きながらそう言い放った。

 

「「「おお~~!!」」」

 

「この野郎、久しぶりに会ったと思ったら俺達より先に可愛い娘をゲットしてやがって。この、この~」

 

そう言いながら肘で小突いてくるマイクだが、少ししてからピタリと止めて後ろにいる三人の元へと歩いて行き、何やら話し合いを始めた。

 

おい、あいつどうするよ。あんな可愛い彼女までつくりやがって・・・!処すか?それとも処すか?

 

いや、ここはシベリア送りにして、そこで針葉樹を延々と数え続けさせてだな・・・

 

裏切りやがったな。妬ましい・・・!

 

ここは俺をからかってきた分も含めて裏切り者のあいつに裁きの鉄槌をだな・・・

 

聞き耳を立てると、とてつもなく不穏な話し合いが聞こえてきた。何か一人だけ関係無い事でも怒っているが・・・。

流石にヤバいと思った俺はラウラの手を取って家路を急ぐ。

 

「お?何だウィル。もう行くのか?」

 

俺の事を処す処す言っていたマイクがこちらを振り返る。

 

「あ、ああ、長旅で少し疲れたしな。じゃあな」

 

「そうか・・・。と言っておりますが如何なさいましょう?同志ジョニー」

 

「決まっているだろう?同志マイク。

粛清だ。残念だよ、“元”同志ホーキンス君」

 

「裏切り者に制裁をッ!」

 

「この怨み、ハラサデオクベキカ・・・」

 

背中がゾワリと鳥肌を立てる。

四人全員はいつものような笑みを浮かべいたが、その顔には影が射しているのに加え、双瞳からはハイライトが消えており、口からは物騒な言葉を吐いていた。

 

「ヤッベ!?ラウラ、しっかり掴まってろよ!」

 

「な、何!?」

 

言うや否や、俺はラウラの背中と膝裏に手を回して抱き上げた後、全力で逃走した。

 

「あ!逃げやがったっ!しかもあれは・・・お姫様抱っこだと!?ちょっと待てやゴルァ!!」

 

まるでジャパニーズマフィアのように舌を巻きながら怒号を上げて、血走った眼で追い掛けてくるマイク。

 

ypaaaaaaaaaa!!(ウラーーーー!!)

 

なぜかロシア語で「万歳」と叫びながら、某赤い国の兵士達のように突撃してくるジョニー。

 

野郎ぶっ殺してやる!!

 

ナイフを構え、凄まじい顔芸と共に襲い掛かって来そうなセリフを放つアレックス。

 

「ハハッ!どこへ行こうというのかね?」

 

閃光で眼を潰されて「目がぁぁ!!」と叫びながら海に落ちて行きそうな奴の言葉と共に走ってくるジミー。

 

俺は、この四人を相手にリアルでエキサイティングな鬼ごっこをした末に、ようやく懐かしの我が家へとたどり着いたのだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。よ、ようやく撒けたか。

ったく、あいつらめ・・・。ラウラ、大丈夫か?降ろすぞ?」

 

「う、うむ・・・」

 

そろそろ腕の限界を迎えそうなので、ゆっくりとラウラを地面に降ろす。

 

「いやぁ、悪いな。あいつら気の良い奴らなんだが、ちょっと色々とな・・・」

 

「そ、そうか・・・」

 

さっきからラウラの顔が猛烈に赤い。理由は恐らく先程のお姫様抱っこが原因だろう。だが、あれは非常事態だったんだから仕方が無い。良いね?

 

「スゥー、ハァー。よし」

 

緊張した面持ちで玄関のインターホンにゆっくりと指を伸ばし、ボタンを押す。

毎週この日は母さんの仕事が休みだから、たぶん家にいるはずだ。

 

「はいはい、どちら様で━━ウィル・・・?」

 

家の中から声が聞こえた後、玄関のドアが開いて中から母さんが出てくるや否や、俺を見て目を丸くしたまま固まった。

 

「あー、ただいま?」

 

なんとも変な挨拶と共に、俺は約七ヶ月ぶりの我が家に帰宅した。

 

 



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第87話

お、お気に入りをこんなに・・・!ありがとうごせぇますだ。ありがとうごせぇますだ(手合わせ)


「アハハッ!そんな事があったのか~!」

 

キッチンに父さんの笑い声が響く。

 

「いやいや、笑い事じゃないんだって・・・」

 

時刻は変わって今は夕方の飯時。

父さんも仕事が終わって帰宅し、今は俺と父母、そして、ラウラの四人で食卓を囲んでいた。

 

「まったく、人の往来がある場所であんな話を暴露されるなんて、何の拷問だよ・・・」

 

玄関で母さんが俺との再会に歓喜した後、俺の後ろにいるラウラに気付いて、「この子は?」と聞いてきたのだ。

確かにIS学園の制服を着てないから、突然見かけない女子が俺のそばに立っていたら「誰?」となるだろう。

 

 

 

『?ウィル、その娘は?』

 

「ああ、紹介するよ。彼女は━━」

 

『お、お初にお目にかかります!ラウラ・ボーデヴィッヒと申しますっ!』

 

ビシッ!と、ロイヤルガード(某紅茶の国の親衛隊)も見惚れる程、背筋を伸ばして直立不動の状態で挨拶をするラウラ。

緊張し過ぎだろ。ただ俺の母さんと初対面で挨拶するだけなのに・・・。

 

『あら、礼儀正しい娘ねぇ。息子がお世話になっております』

 

『い、いえ、私の方こそ、ウィルには何度も助けられていますし・・・。それに、その・・・』

 

『それに?』

 

ラウラが顔を赤くしてモジモジしながら口ごもる。

何を言うつもりだ・・・?おい、ラウラ、変な事は言うなよ?せめてこう、オブラートに包むように━━

 

『こ、恋人同士、ですから・・・。お互いに助け合うのは当然と言うか、何と言うか・・・』

 

『』

 

オブラァァァトッ!!

え、何これ?何かの羞恥プレイか!?俺にそんな趣味はねぇ!!

 

『あらあらまあまあ!そうだったのね!ウィル、あなたも隅に置けないじゃない♪ラウラちゃん、続きは家でしましょ?他にも色々聞かせて頂戴!』

 

いや、あんたは10代乙女かよっ!?何だよその好奇の視線はっ!?て言うか、まだ続くのか!?

 

 

 

なんて事があったしなぁ。

正直とにかく疲れた。今、食卓の椅子に座ってまともに夕飯を食べてるだけでも褒めてくれ・・・。

 

「ラウラちゃん、お口に合うかしら?」

 

「はい、とてもおいしいです。ありがとうございます」

 

「それなら良かったわ。私、ドイツの人の好物なんて分からないから・・・」

 

「いえ、この食事には家族の温かみがあって・・・。凄く幸せな気持ちです」

 

「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。ラウラちゃん、何かあったら遠慮無く言ってね?だってあなたは・・・ねぇ?」

 

ニヤニヤしながら俺の方を向いてくる母さん。俺はそれを赤くなりながら、無視して夕食をがっつく。

 

「照れちゃってまぁ、ふふっ」

 

「ハァ、好きに言ってくれ。ああ、水水~っと」

 

「ウィル、水ならここだ」

 

「ん、ありがとう父さん」

 

父さんから水の入ったボトルを受け取り、コップに注いでいると、ゆっくりとラウラが席を立った。その顔は何かの決意で満ち溢れている。

 

「そ、それでしたらっ、お二人に一つだけお願いが・・・」

 

「「?」」

 

お願いって何だ?おかわりは・・・まだ、皿に少し残ってるよな。

そう思いながら、ラウラを横目に俺はコップを傾けて喉を潤す。

だが━━

 

「お義父様!お義母様!ウィルを私に下さいっ!」

 

ラウラが父さんと母さんに向かってガバッと頭を下げてそう言った。

 

ゴブフゥゥゥゥゥッ!?!?

 

あまりにも突拍子な発言に、俺は高圧洗浄機の如く水を噴射してしまう。

恐らく、ラウラが初めて俺のベッドに忍び込んだ時以上の威力だろう。咄嗟に首を曲げたので、なんとかみんなにかかる事は無かったが、俺の射線上にあったものはビショビショだ。

うっわぁ、きったねぇ。後で雑巾使って拭かないと・・・。

 

「・・・ラウラちゃん」

 

「は、はいっ!」

 

ラウラの肩がビクッと震える。

 

「こちらこそウィルを・・・いえ、息子をお願いします」

 

「うん、そうだね。ボーデヴィッヒさん、ウィルをよろしく頼んだよ」

 

そう言って、頭を下げるラウラに母さんも頭を下げ返し、父さんも賛同する。

おい、あんたら30%はぜってぇ面白がって乗ってるだろ。

 

「~~~!!ありがとうございますっ!!」

 

ワーオ、どんどん外堀が埋めてかれるな。すっげぇ行動力だぜ。恐るべし、特殊部隊隊長!

━━なんて現実逃避してる場合じゃねえ!!

ああ・・・ラウラめっちゃ良い笑顔してて可愛いなぁ。

━━って!これも違うっ!!

 

「お、おい、ラウラ。そう言う話はまだ早過ぎるだろ━━」

 

「ん?まだ(・・)?」

 

「ウィル、今、まだ(・・)って言ったよな?」

 

「・・・二人共、少し黙っててくれ。OK?」

 

「「お、OK・・・」」

 

ギロリと、先程から茶々を入れてくる両親を一睨みして黙らせる。

 

「?クラリッサは『ご両親へのご挨拶』は早い方が良いと言っていたぞ?」

 

クラリッサァァァ!!!(またお前かぁぁぁ!!!)

 

両親が笑いを必死に堪えているのに気付かず、彼は顔も知らないラウラの副官に対して怒りの雄叫びを上げた。

 

「っと、そうだそうだ!ウィル、せっかくここまで来たんなら、明日は一緒に『ティンダル空軍基地』へ行こう」

 

大声で叫んだ後、俺が肩で息をしていると、父さんが突然話の話題を変えて話し掛けてきた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ。・・・え?ティンダル?何で俺がそこへ行く必要が?」

 

ティンダル空軍基地とは、俺が所属している事になっている、ここから東に約19Km行った先の半島に建設された基地だ。

だが、俺がその基地へ行って何の意味があるんだ?

 

「ああ、それなんだがな。実はウィルのISに搭載されたソフトウェアのアップデートと新しいモードの搭載をしたくて近々ジョーンズ技術中尉と一緒にIS学園に行こうかと思っていたんだ。けど、お前がここを訪ねて来てくれたお陰で予定より早くそれが出来そうなんだよ。で、アップデート云々の機器とかは今、ティンダルに保管してあるから明日行こうという訳だ」

 

ソフトウェアのアップデートと、新しいモード?ふむ、これで戦いの幅が広がるという訳か。

 

「成る程・・・。よし、明日、ティンダルへ行こう。特に用事があるわけでも無いしな」

 

「なら、足は父さんに任せとけ。車で送ろう」

 

と言う事で、俺は父さんと一緒にティンダルに行く事になったのだが・・・

 

あなた、ラウラちゃんをハミ子にする気?私は明日、特別出勤でこの家には誰もいないわよ?

 

すっかりラウラを気に入ってしまった母さんが父さんに小声でそう告げる。

 

「ふむ、確かに義娘を放置するのも気が引けるね。よし!良ければボーデヴィッヒさんも一緒に行くかい?」

 

ハァ、父さん・・・義娘ってなぁ・・・。まぁ、家にラウラを置いて行くのも気が引けるしな。

 

「でも私が軍事基地に入っても良いんでしょうか・・・?」

 

「ああ。兄さんに話は通しておくから、立ち入り制限区域内に入らない限りは大丈夫だよ」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

こうして、俺とラウラは明日、ティンダル空軍基地へ出向く事になった。

 

 



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第88話

ターミネーターのコード名を考えて下さった方、エアストライク・モードの装備案のアンケートに協力して下さった方、本当にありがとうございます。


翌日 ティンダル空軍基地

 

 

さて、ここで読者の皆様に問いたい。

まあ、こんな経験は普通無いだろうが・・・。

もし、自分の上司(それも、高級将校クラス)の人間が救いようの無い程までに脳筋を拗らせていたらどうしたら良い?

 

「━━で、あるからしてぇ、重装備と巨大な火砲は男のロマンでありぃ!」

 

「それこそが真の正義なんだよ、ウィル!」

 

「つまり!結論からして、重装巨砲主義は高潔で偉大なものなのであぁるぅ!!分かったかね?ホーキンスくぅ~ん、ボーデヴィッヒくぅ~ん」

 

「いえ、まったくもって分かりません」

 

「右に同じく」

 

「ぬわぁにぃ!?よし、ではもう一度始めから話して上げようではないか、ジェームスくぅ~ん!」

 

「はい、准将!良いかい?重装巨砲とは━━」

 

今、目の前でこの脳筋准将が、俺の父親をも謎の組織に引き入れていたと知った時はどうしたら良い!?

 

父さんの車に揺られ、ティンダル空軍基地へ着いた俺達は早速バスター・イーグルのソフトウェアをアップデートしに機器を保管してある格納庫へと向かった。

アップデート自体は時間の掛かるものでは無かったが、これで機体の機動力や反応速度が数段増すそうだ。

残すは新モードの実装だけだったのだが・・・これが割とヤバかった。

いざ、新モード『エアストライク・モード』を搭載しようとしたら、どこからともなく現れた准将が、ご丁寧に俺とラウラの分の椅子を用意して、後ろの兵士達の歓声をバックにその場で父さんと共に熱烈に語り始めてしまったのだ。

しかも、今回のエアストライク・モードは主に准将の発案らしく、彼の思想に感化された父さんと一部の人間がそれを本当に実現してしまったらしい。

いつの間に洗脳しやがった・・・?

 

 

「ラウラ、巻き込んでしまって本当にスマン・・・」

 

「気にするな。こういった事は慣れている」

 

「マジでスマン・・・」

 

「━━と言う事だ!分かったかね?ホーキンスくぅ~ん」

 

ここは適当に分かったフリをしておくか。「分かりません」なんて言ったら、この准将と父さんは延々とロープレのNPCの如く同じ事を繰り返し言いそうだ。

こっそりラウラと目配せして小さく頷く。

 

「わー、凄いですねー。自分、感動して涙が出てきましたー」

 

「私も感動しましたー。やはり重装巨砲主義は正義なんですねー」

 

よし、これで少しは静かに━━

 

「むぅ・・・本当に分かっているのかね?どこか適当に言っているように聞こえるのだが・・・」

 

チッ、勘の鋭い上官は嫌いだよっ・・・!

 

「念の為にもう一度始めから話しておこうか」

 

「おお・・・!重装巨砲主義に対する深い愛を感じますねっ!」

 

「フッフッフッ。そうだろう、そうだろう?」

 

・・・おい、誰かこいつをクビか左遷にしろよ。つうか、いっそのこと適当に罪吹っ掛けて軍事法廷にでも掛けてやれ。

ハァ、頭が痛い。誰か、強めの頭痛薬をケースごとくれ・・・。

 

「「「重装巨砲主義よ永遠なれー!!」」」

 

そう言って、完全に侵食された父さんと准将がまた同じ事を(俺達が染まるまで)繰り返そうとする。

 

 

 

 

━━彼らの事を鬼の形相で睨んでいる、とある将校の影にも気付かず。

 

「良いかね、ホーキンスくぅ~ん、ボーデヴィッヒくぅ~ん。重━━」

 

「━━騒がしいと思って来てみれば、随分と楽しそうな事をしていますね。准将殿?」

 

「「ハッ!?」」

 

「「「!?!?こ、この声は・・・」」」

 

准将と父さん、バックにいた兵士達がゆっくりと声の方へと顔を向け、そして、顔を蒼くして固まった。

 

「あ、叔父さん━━じゃなかった。ホーキンス少佐・・・」

 

彼らの視線の先には、トーマス・ホーキンス少佐が立っていた。トーマスは視線だけを動かし、周囲をゆっくりと見渡していく。

 

「せっかく楽しそうな事をしているのに、なぜ私を誘ってくれなかったのですか?んん?」

 

その顔は笑っているが、完全に目が据わりきっていた。おまけに背後から黒いオーラを出している。

 

「逃げるんだぁ・・・!」

 

背中に『愛L♡VE!重装巨砲』とプリントされたシャツを着た兵士が格納庫から出ようと走って行く。

 

「一人たりとも逃がすな。ヤれ」

 

そう言いながらトーマスがパチン!と指を鳴らすと、彼の背後から何人もの兵士が現れ、彼らを片っ端から取り押さえ始めた。

 

「少佐殿からゴーサインが出たぞ!逃がすな、追え!」

 

「取り押さえろ!」

 

「や、止めろぉ!」

 

ラグビーかアメフトのように、逃げる兵士の脚に飛び付くトーマス派の兵士。

 

「おい、そっち行ったぞ!囲めっ!」

 

「く、来るなぁ!」

 

「ノォォォォ!!」

 

四人掛かりで拘束されるパットン派の兵士。

 

「逃げ足だけは流石と誉めてやりたいところだぁ」

 

「くっ!追い込まれたネズミは猫を噛む程凶暴だあッ!!」

 

逃げるのを諦め、追い掛けてきたトーマス派の兵士(筋肉超ムキムキ)の顎目掛けて右ストレートを決めるパットン派の兵士。

 

「や、やったか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「・・・何なんだぁ?今のはぁ」

 

「ふおぉっ!?」

 

━━が、全くと言って良い程効いておらず、逆に頭を万力の如くガシッと掴まれた。

 

「ひっ!?や、止めろっ!止め━━ギャァァァ!!」

 

「所詮、クズはクズなんだぁ」

 

・・・この後、あの兵士に何があったかは伏せるが、まさに惨劇だった。だって格納庫内の壁が凹んでるんだぜ?

一人目の犠牲者を血祭りに上げた彼は、次の獲物を見つけてゆっくりと歩いて行く。

そんな目の前の悪夢を体現するような彼に、一人の兵士が呟いた。

 

「ば、バケモノ・・・!」

 

「バケモノ?ちがう。俺は憲兵だぁ」

 

格納庫内はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。

 

 

「少佐、全員確保しました。我が方に損害無し。完勝です」

 

「うむ、よくやった。そのアホ共には滑走路往復走でもさせておけ」

 

「はっ!よし、連れて行け」

 

「ほら、キリキリ歩け!」

 

「くそぅ!こんな筈では・・・!」

 

「例え俺達がやられても、准将殿の夢は潰えぬ!いずれお前達が!世界が!この事実に直面するのだ!フッ、フハハハハッ!」

 

「・・・喜べ。今日お前が食うのを楽しみにしていた好物は他の誰かの空腹を満たす事になったぞ。それと、お前しばらく攻撃機のパイロットからトイレ清掃要員にチェンジな」

 

「ひぃっ!?ソーリーサー!!」

 

「ノーだ」

 

「イヤァァァァァァァ!!!」

 

こうして、騒ぎは無事に終息した。

背中に『愛L♡VE!重装巨砲』とプリントされたシャツを着た兵士の悲痛な叫びと共に。

格納庫には俺とラウラ、准将、父さん、そして叔父のホーキンス少佐だけが取り残される。

 

「・・・ジェームス、さっさと作業に取り掛かれ。まったくっ!」

 

「わ、分かったから、そんな目で睨まないでくれよ兄さん・・・」

 

叔父にジト目で睨まれた父さんが、遅れてやって来たジョーンズ技術中尉と共に機器の操作を始める。

 

「さて、その間に君達にも関わる大切な話がある」

 

「大切な話?」

 

俺達に関わる重要な話・・・思い当たるのはターミネーター絡みぐらいだが・・・。

 

「恐らく、今、ホーキンス少尉が考え付いた事で合っている。内容はターミネーターの事だ」

 

・・・やはりか。つまり、亡国機業やMSGにも関わっている話だな。

 

「ターミネーターと交戦した経験がある上、君達の通うIS学園を襲撃した際にもそれが出現している。だから、君達に深く関わってる話という訳だ。まずは、これを見てくれ」

 

そう言って、俺とラウラに資料が渡される。

そこには、俺達が以前に交戦したターミネーターや、他にも見たことの無い機種の写真等が載っていた。

 

まず、一枚目の機体はあの白い無人ターミネーターだ。

 

「敵識別コード名、『バタリオン』。性能は良くもなく悪くもない無人機だが汎用性があり、対地対空の任務につける。一機、二機程度ならまだ対処が楽だが、群れると面倒な上に量産性が良好だから次々に湧いて出る、空飛ぶ鉄製のゴキブリだ。次へ」

 

次のページを捲ると、そこには青と白の角張った迷彩が特徴的な有人ターミネーターの情報が記載されていた。

 

「敵識別コード名は『グラディエーター』。バタリオンより一回り大きい機体だが、空力に優れた形状とカナード翼により、機動性が高い。おまけに機体が大型なので、大推力とそれなりのペイロードを持っている。MSGと亡国機業の有人機は基本がこいつだ」

 

確かに、こいつは厄介な相手だった。IS学園襲撃の時も、ドバイのデルゥ基地上空での戦闘でも。

次のページを捲る。

そこには見た事の無い機体が載っていた。

 

「そいつのコード名は『グレイブ』。他のターミネーターと違い、そいつは超音速での要撃が主任務の機体だ。巨大なエンジンとそれに伴う燃料タンクなどの都合上、かなりの大型で旋回性能は劣悪を極める機体だが、敵を旋回の必要性に迫らせる状況に追い込む前に墜とされる機体も多い面倒な奴だ」

 

成る程、どうやら敵はただのバカではないらしい。それなりに仕事を分担して行っているようだ。

グラディエーターも厄介だが、もし、グレイブと交戦する事になったら注意が必要だな。

 

「そして、以前にキャノンボール・ファストを襲撃した奴の正体も掴めた。次のページへ進んでくれ」

 

「っ!!」

 

言われた通り、ページを捲る。

そのページには確かに男の顔写真が鮮明に写っていた。

こいつがあの時の襲撃者っ・・・!

 

「そいつの名は・・・“セルゲイ・ベルドフ”。危険な男だ。彼は元ロシア空軍のパイロットであり、過去にはロシア連邦英雄の勲章も授与されている。軍を脱退後はフリーの傭兵として活動していたらしいが、今はMSGに雇われている。恐らくあれから更に腕を上げているだろう。『クラカジール』・・・それが彼の異名だ」

 

クラカジール・・・ワニ、か。

あの時は混戦していてよく見る隙が無かったが、確か奴のターミネーターの機首辺りに、戦闘機の主翼を噛み千切るワニのエンブレムが見えたような気がする・・・。

 

「そして、彼が乗っている機体は全てのターミネーターの元祖。つまり、オリジナルだ。識別コード名は『ブレイズ』その他のターミネーターは謂わば量産の為のダウングレード版。特にグラディエーターはそいつの劣化コピーと言ったところだ。性能は折り紙付きで、彼の腕も併せると墜とすのは至難の業だろう」

 

「はい、自分もあの日は手も足も出ないままに敗北しました」

 

「私も一瞬でした。それに、多数で攻めているのにそれをああも容易く・・・」

 

あの日の無念が込み上げてくる。

ウィリアムは眉を寄せ、口をへの字にした状態で資料の顔写真を見つめていた。

 

「だが、悪い話だけでは無い。明るい話もあるのだよ」

 

突然、准将が口を開いた。

 

「今までは空を飛び回る連中に手を焼かされていたが、前に撃墜したターミネーターを回収して研究した結果、我々も奴らと同じ土俵に立つ事が出来たのだ。今は空軍に二機種、海軍に一機種存在している」

 

実はアメリカ軍も遊んでいた訳では無く、他国と合同で亡国とMSGとの戦いを様々な所で繰り広げる一方、地道にターミネーターの研究は続けており、そのアメリカ製ターミネーターも撃墜した機体を滷獲し、稼働データを入手する事によって研究は遂に完成。工業力にものを言わせて量産・配備に漕ぎ着けたのだ。

 

「まず、空軍機だが、一機目が『レイブン』。こいつは無人機だ。二機目が『スカイホーク』。海軍機は『バレットビー』。後の二機は有人機だ」

 

資料には機密の為かスペックデータは記載されていないが、その機体と思われる写真はあった。

『レイブン』の見た目は小柄で、単発のエンジンに垂直尾翼が一枚。機体の下には半円形のエアインテークが取り付けられている。

次に『スカイホーク』。こいつは大型で、双発エンジンに一対の垂直尾翼と大きな主翼を持ち、機体を挟むようにエアインテークが設置されている。

最後に『バレットビー』だ。この機体は先の二機が灰色の制空迷彩であったのに比べ、全体的に白色を基調としており、双発のエンジン、主翼と水平尾翼には海軍機特有の折り畳み機構、一対の垂直尾翼は付け根から頂点にかけて外側に少し傾いている。

 

「これで、奴らとの戦線も同等かそれ以上に持ち直せたという訳だ。が、敵も新しく新型の機体を製造している可能性が高い」

 

「准将の仰る通り、これは情報不明瞭だが、ステルス性の高いターミネーターの目撃情報が極少数だが出ている。おまけにトリニティだ。あれは全部で三発。既に一発目が学園に向けて発射されたので、残りは二発だ。敵も貴重な兵器を無駄撃ちしたりはしないだろうが、それでも脅威である事には変わり無い。一発目はホーキンス少尉が防いでくれたが、あれの威力は見ただろう?

トリニティは・・・こけ脅しでは無い」

 

「準備完了だ。いつでも始める事が出来るよ」

 

叔父が話を終えると同時に、父さん達の作業が終わったようだ。

 

「よし、では始めてくれ」

 

「分かった。ウィル、早速バスター・イーグルを展開してくれ。その後はこっちから指示を出す」

 

「了解」

 

IS待機状態のドッグタグを受け取った俺は席から立って、ISを展開した。展開するのところまではいつもと同じだ。

 

「よし、展開したな。じゃあ、バイザーの『AStM』と表示された所を選んでくれ」

 

AStM・・・AStMっと、お?あった!

カーソルを合わせてアイタッチで選択すると、機体が薄く光だし、急激に視界が高くなると同時に身体に重量感が伝わってきた。

 

「うん、完璧だ。無事にエアストライク・モードに変更出来たようだね」

 

ジョーンズ技術中尉が俺を見上げながら満足そうに言う。首を曲げると、その場にいる全員がこちらを見上げるようにしていた。

 

「これはバスター・イーグルの対地特化モードだ。装甲の増加、強力な武装を容易く装備出来る程の搭載能力を有する。一応空対空戦闘も出来るが、機動力が落ちているから注意してくれ」

 

成る程、確かに初期のバスター・イーグルは対地攻撃能力を有してはいたが、そこまで強力な打撃を与える程の攻撃力は無かった。

このモードなら、より高威力の攻撃が行えるという訳か。それに、装甲が増しているのはありがたい。対地攻撃、特に近接航空攻撃には被弾が付き物だからな。

 

「武装は主翼とエアインテーク下部のハードポイントに搭載してある。きっちり起動するか確認するから、安全装置をオンにした状態で発射の操作をしてくれ」

 

父さんの言葉に反応して左主翼とエンジンに搭載された武装を確認する。内側から順に

『40mm機関砲』

対地ミサイル(AGM)』二発。

翼端に『空対空ミサイル(AAM)

エアインテーク下部に『高威力空対空ミサイル(HPAM)』が取り付けられていた。

勿論、これは左だけなので右にも同じものが同じ数だけ搭載されている。

次に機体だが、構造は元と同じだ。しかし、大きく変わった箇所が数点ある。

一つ目は頭部。以前の鋭利な見た目から変わり、まるでカモノハシのような形状になっている。装甲を増加させた為に少しだけ視界が狭まった。

二つ目はテールコーンだ。以前よりも長くなっている他、チャフ・フレアディスペンサーが新しく上面にも増設されている。

最後に三つ目だが、これは機体全体の話だ。かなり大型化しており、大雑把に見ても5m弱。通常モードの大きなカナードは小型化している。そして、あの灰色の制空迷彩は青と水色の迷彩となっていた。

 

「よし、確認した。武器系統は問題無しだな。このエアストライク・モードは重量のせいでPICによるその場での浮上が出来ない。せいぜいが機体を少し浮かせる程度だ。VTOL能力も無いからその点は注意してくれ。後、空中でのモード変更はウェイトの変化でバランスを取るのが難しいが・・・まあ、ウィルの腕なら問題無いだろう」

 

ふーむ・・・VTOLが出来ないのは少し大変だなぁ。

まあ、これだけの装備と巨体で空戦が出来るだけでも良い方か。それに、純粋な空戦ならモードを戻せば良いしな。

そう考えながら、ISを解除した。

 

「よし、全ての項目チェックが完了した。以上でエアストライク・モードの搭載と確認テストは終了だ。ウィル、お疲れさん。悪いが父さんはこの後、この四人と話があるから、少しの間ぶらついて待っていてくれ」

 

「分かった。・・・では、お先に失礼致します」

 

カツンッと軍靴を合わせて敬礼する。

それに合わせてパットン准将とホーキンス少佐、ジョーンズ技術中尉もビシリと答礼してきた。

 

「ぜひとも、そのエアストライク・モードを活用してくれたまえ」

 

「うむ、ご苦労。ああそうだ、腹が減ったら食堂に寄ると良い。今ならあそこも空いているだろう」

 

「今日のメニューにはハンバーガーがあった筈だよ。美味いから、ぜひ食べておいでよ」

 

先程の真剣な雰囲気から一転、パットン准将はいつも通りの口調に、父さんと叔父、ジョーンズさんは柔和な笑みを浮かべていた。

時計を見ると、とっくに正午を過ぎている。

確かに、腹も少々空いてきているので、お言葉に甘えて後で食堂に立ち寄ろう。

 

「感謝します、それでは。ラウラ、行こう」

 

「分かった」

 

そう言って、俺も自然な笑みを浮かべ、踵を返して格納庫から出て行った。




どうもシリアスを書くのは苦手でして・・・。

因みに・・・
『バタリオン』はMig-29
『グラディエーター』はSu-33
『グレイブ』はMig-31
『ブレイズ』はSu-35
『レイブン』はF-16
『スカイホーク』はF-15
『バレットビー』はF/A-18

『エアストライク・モード』はSu-34
をそれぞれモデルにしている・・・つもりですッ!


『エアストライク・モード』

○性能諸元

・空虚重量 約3.860Kg

・全高 二足歩行形態時 5.2m
    高速飛行形態時 3.25m

・全幅 4.63m

・速度
 最高速 M1.8(アフターバーナー使用時)
 巡航速度907Km

・実用上昇限度
 15.000m

○武装

・30mm航空機関砲

・他、対地対空ミサイルや40mm機関砲ポッドを搭載可能。
ハードポイントは左右の主翼に合わせて八基、エアインテーク下部に合わせて二基。
バスター・イーグルと違い、格納式ウェポンベイを持たない代わりに範囲の制限を受けない大型の兵装も取り付け出来る。

・対IS用大型ナイフ『スコーピオン』
お馴染みの気休め装備。

○機体解説

バスター・イーグルの対地特化形態。
ウィリアムの父親がパットンに感化したと言ったが、元々バスター・イーグルの対地攻撃能力は中途半端であり、どの道これに似たモードを搭載する予定はあった。
全体的に大型化しており、かなりの重量物を搭載出来る能力を有する。
━━が、やはり自重の影響で機動力は落ち、過激な機動も制限されているなどの皺寄せもある。
尚、元のバスター・イーグルと同じく五つのパーツに分けられた機体構造をしている。
のっぺりした機首に太いテールコーンと、まるでカモノハシのような独特の見た目であり、開発中の愛称もプラティパス(カモノハシ)だったが、機体が面白い見た目なのに反して攻撃能力は獰猛の一言に尽きる。
この形態では胴体が灰色の制空迷彩から打って変わって水色地に青の迷彩、頭部のノーズは濃い灰色のカラーリングをしている。
カナード翼は小さくなってまるで退化したように見えるが、推力偏向及びVTOLノズルを持たないこの形態での旋回性能向上にかなり貢献している。


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第89話

「ふぅ、暑い暑い・・・」

 

そう言いながら、俺はABU(エアーマンバトルユニフォーム)の胸元を緩めてパタパタと扇ぐ。

 

「そんな厚着をしていたら暑いに決まっているだろう。お義父様も別に私服で良いと言っていただろうに・・・」

 

「俺が気になるんだよ。周りは軍服なのに、そこに私服がいたら浮くだろ?ただでさえ自分が所属する基地だってのに」

 

やはり所属している基地に行くならそれなりの格好にするべきだと、自己の判断でこの支給されたユニフォームを着て来た訳だが、こういう日に限って気温が高くなっており、俺はすっかり暑さに滅入っていた。

因みに今の俺の服装は、上下が灰色をしたタイガーストライプ迷彩のABU、靴はセージグリーンのコンバットブーツだ。

ABUなんて普段の生活では着ないような服だが、軍靴であるこのコンバットブーツは何気に普段靴として愛用していたりする。

着脱のしにくさと重量が短所ではあるが、足回りがガチッと固められているこれはどこか落ち着くし、耐久・耐水性に優れ、それでいて結構好みのデザインなのだ。

 

「お前は変なところで真面目だな」

 

「そいつは悪ぅござんしたね。これでもドイツ軍程お固くしているつもりは無いぞ?」

 

「確かに我がドイツ軍は規律に厳しいと自負しているが、お前のそれは━━」

 

クゥ~~・・・

ラウラが何かを言おうとした時、随分と可愛らしい音が聞こえたあと、彼女は顔をうっすらと赤く染めて固まった。

 

「・・・くっ、ふふふっ、規律が厳しいドイツ軍の少佐殿も空腹には敵わなかったようだな」

 

「わ、笑うな!」

 

「はいはい、食堂はもう少しだから、それまでその腹の虫を抑えといてくれよ?」

 

「くぅ~!ウィル、覚えてろ・・・!」

 

赤くなりながら睨んでくるラウラを横目に、俺は基地の食堂へと向かって歩を進めて行った。

 

 

食堂

 

 

昼時を過ぎて人気が少なくなった食堂にて、俺とラウラは適当な席に座ってジョーンズ中尉がオススメしていたハンバーガーを頬張っていたのだが、これがまた実に美味い。彼が俺達に勧めただけの事はあって、味は某チェーン店にも負けない程だ。

横の席ではラウラが美味そうにバーガーにかぶりついていた。

 

「あら?ホーキンス君じゃない」

 

丁度バーガーを食べきった時、後ろから声を掛けられた。その声を聞いた俺とラウラが振り返ると、そこには二人の女性が立っていた。

 

「ああ!ミューゼル大尉とバーク中尉、お久しぶりです!」

 

「久しぶりね、ホーキンス君。元気そうで何よりだわ」

 

「よお、ホーキンス。お前何でここにいるんだ?」

 

「はい、実はISの件で少し用があったので」

 

「ほーん、そうか。ま、相変わらず元気そうなツラしてるって事は学園の生活は順調そうだな。ところで、お前の横で立ってるそいつは誰だ?」

 

バーク中尉が不思議そうな顔をして、俺の横で立っているラウラの顔を見る。

 

「初めまして、ラウラ・ボーデヴィッヒです。彼とはIS学園の同期です」

 

「ん?ボーデヴィッヒって・・・」

 

「あなた、ドイツの代表候補生の子ね?お会いできて光栄だわ。私は“スコール・ミューゼル”。で、横にいる彼女は━━」

 

「“オータム・バーク”だ。よろしくな」

 

ラウラとミューゼル大尉、バーク中尉が互いに自己紹介を終えたあと、俺は彼女達との間柄を説明する為に口を開いた。

 

「二人には、俺がまだISに乗り始めたばかりの時に指導をしてもらっていたんだ。ミューゼル大尉はIS乗りで、バーク中尉は戦闘機のパイロット。どちらもかなりの凄腕だ」

 

この時、俺はラウラの方を振り向いて話しており、完全に気を抜いてしまっていた為、ミューゼル大尉がニヤッと笑ってから一瞬で距離を詰めてきた事に気が付かなかった。

 

「特にミューゼル大尉には学園に入学するその時まで━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が真っ暗になったあと、ムギュッと何かに頭を固定された。

 

「勝てなかったから━━・・・へ?」

 

「な、なっ!?」

 

「やれやれ・・・この光景も久しぶりだな」

 

「うふふ・・・相変わらずの反応ね♪」

 

・・・ふむ、状況を整理しよう。俺は今、何者━━いやミューゼル大尉に抱き付かれており、その豊満な胸を押し付けられている。

ああ・・・しまった・・・。この人、よく俺に抱き付いてはからかってくるのをすっかり忘れてたよ・・・。

因みにバーク中尉曰く、彼女なりのスキンシップだそうだ。

そう言えば学園にもいたよなぁ~、同じような事を友達にしている『さ』から始まって『し』で終わる生徒会長が。

 

ウィル、これはどういう事か説明してもらおうか・・・うん?

 

「」

 

だからラウラ、頼むからそんなドスの効いた声を出すのは止めてくれ。決してそういう事(・・・・・)じゃないんだ。

大尉?あなたラウラが怒ってるの絶対分かってますよね?さっきからプルプル震えて笑い堪えてるの諸分かりですよっ!!

 

そうか、だんまりか・・・

 

ち、違うんだ!抱き締められているせいで息をする事も、ましてや話す事も出来ないんだっ!ちょっ、大尉!いい加減に離し━━ダメだこの体勢じゃ力を入れられない・・・!

 

ふ、ふふふ、ふふふふふ・・・浮気・・・浮気・・・

 

こ、殺される・・・!!た、大尉、マジでそろそろ離して下さい!このままだと、俺どっちに転んでももう一度神様に会う事になりますから!!

 

「おいスコール、その辺にしておいてやれよ。ここを窒息殺人の現場にでもする気か?」

 

「あら、少しやり過ぎちゃったわね」

 

そう言って、ミューゼル大尉は腕の力を緩めて俺を解放した。

ああ、空気ってこんなに美味かったっけか?酸素が肺に入って来る感覚が実に心地良い!

 

「ば、バーク中尉、ありがとうございます・・・」

 

「あ?ああ、気にすんな。スコールのそれは今に始まった事じゃねえからな。ほらスコール、行くぞ。遅れたら基地司令にどやされちまう」

 

「残念、もう少し遊びたかったのに。それじゃあね、ホーキンス君、ボーデヴィッヒさん。

・・・あ、そうだ、ホーキンス君」

 

去り際にミューゼル大尉は何かを思い出したようにこちらを振り返ってきた。

 

「はい?」

 

「良ければ、また(・・)やってあげるわよ?」

 

うふふ、と笑いながらミューゼル大尉はバーク中尉と共に食堂を出て行き、そこには俺とラウラだけが取り残される。

た、大尉ぃぃぃ!!あんた爆弾に火を着けて行ったなぁぁぁぁ!!

 

「ウィル、婚約者の前で堂々と浮気とは良い度胸だな」

 

「待てラウラ、俺は浮気なんてしてないし、するつもりも無いぞ」

 

そもそも、まだ婚約はしていない、というツッコミは控えておくとしよう。

下手な事を口走ったら何をされるか分かったものじゃない。

このあと、頬を膨らませてへそを曲げるラウラを宥めるのに四苦八苦するウィリアムだった。

 

 

 



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