もしにじさんじ一期生が異能系バトルをはじめたら (kakyoin)
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【美兎の章】

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【美兎の章】

 

「つまり私たち----みとさん、楓さん、えるさん、私の四人----は謎の勢力の有する謎の力によってこの謎の学校めいた廃墟に閉じ込められてしまったということですね、なるほどなるほど」

 

読者に優しいとてもわかりやすい解説ありがとうございますしずりん先輩。というか急展開過ぎて誰も状況を飲み込めていないので解説したところでって気はしますけどね、言葉で説明してもきっと誰も理解しちゃいないですよ。それどころじゃないですもの。

 

しずりん先輩が言った通り、わたくしたちは気づくと学校めいた廃墟にいました。そんでもって今はその中の教室の一つで作戦会議ということです。

……あ、はいそうですね、着の身着のままって感じで急に。ほらよくあるじゃないですかエロサイトの下の方にある漫画広告みたいな、最近よくあるデスゲーム系漫画の冒頭みたいな状況ですね。にしてもいざ自分がそういう状況になってみると面白いですね、怖いとか不安だとかそういう感情よりも漠然と「あー早く帰んないと配信とか学校とか大変だなー」みたいなそういう……なんて言うのかな、水戸黄門見てる感じ、クライマックスに行くまでの気だるさって言うんですか?そっちの方が勝ってます。どうせ帰れるんでしょ?みたいな、紋所出して終わりでしょ?みたいな。まあこの辺の感覚はわたくしの個人的なものだとは思いますけれどね。えるちゃんなんてずっとそわそわしてますし。もしゃもしゃ。

 

「みとちゃんって変なとこ肝が座っとるよなぁ、この状況で何食っとんねん?」

 

ポケットに入ってたカロリーメイトを頬張るわたくしを呆れた顔で見つめる楓ちゃん。まあそれにももう慣れましたけどね。いつもの事なんで。

 

「何言ってんですか楓ちゃん、腹が空いてはなんとやらと昔から言うじゃないですか。むしろこういう時だからこそわたくしは栄養補給を怠らないようにしているわけです、むしゃむしゃ」

 

「食べながら喋るのやめーや----あーもー悔しいけどみとちゃん見てたら逆になんか落ち着いてきた、とりあえずこれからどうするかみんなで話し合った方がええんちゃうかな?な?」

 

そう言ってみんなをまとめに入る楓ちゃん。さすがですね。さすかえです。みなさんも『さすかえ』ってコメントしていいんですよ?あ、米稼ぎじゃないです違います。わたくしは純粋に楓ちゃんへの敬意をですね、みなさんと共有したいと……。

 

「あの、楓さん。とりあえず各自の持ち物を確認するのはどうでしょう?みとさんみたいに食料なんかがあればこれから必要になるかもしれないですし……」

 

「あーそれええな----あ、ほら、えるちゃんもぼけっとしとらんと、こっちおいで」

 

「え、あ、べ、別に、える全然大丈夫だよ?……あーでも、でろーんちゃんが怖いって言うならまあ傍にいてあげてもいいかなーって」

 

「うるさい、はよ来い」

 

「はい……」

 

「こういう時までなにイキっとんねん、このアホエルフ。……みんな怖いのは一緒やねんから、えるちゃんだけ無理せんでもええからな?」

 

「……あ、ありがとう、ございます」

 

かえるてぇてぇ。えるちゃん耳真っ赤ですよ。ここぞとばかりに腕組んでるし、これは完全に落ちたな。

 

「かえるてぇてぇのは分かりましたからみとさんも早く所持品見せてください。とりあえず長丁場になるかもしれないのでカロリーメイト、大事に食べてくださいね?」

 

さーせん。

 

 

*****

 

「これで全部ですか……。なんというか……これ、サバイバル無理ですよね?」

 

サバイバルのプロであるしずりん先輩が言うのなら間違いはないのでしょうが、わたくしが素人目に見てもそれは悲惨なものでした。

提出されたのはわたくしのカロリーメイト、楓ちゃんのハリセン、えるちゃんのりんご、しずりん先輩に至っては手ぶらとの事です。

着の身着のままとは言いましたが本当に身につけているものしかこちらに飛ばされておらず、スマホ(圏外)や財布(使い道がない)、筆記用具(一応わたくし達JKですからね?)以外はみなさんほとんどなにも持っていない状態です。実用性のあるカロリーメイトを持っていたわたくしはまだマシな部類と言えますね。ハリセンて樋口お前……。もうちょっとなにかなかったんですか?というか日常的にハリセン持ち歩いてる女子高生ってどうなんですか?ツッコミとしての意識高すぎません?

 

べしん。

 

「いったぁ!なにすんですかもう!」

 

「みとちゃんあれやろ、今絶対ハリセン馬鹿にしてたやろ」

 

「え……いやいやいや、そそそそんなわけないじゃないですか!ねえみなさん?!」

 

「周りを巻き込むな、あと嘘下手くそか」

 

「……まあハリセンは私もどうかとは思いますけど、経済弱者なので黙ってまーす」

 

「りん先輩!?」

 

ほら見ろ樋口、そういうとこやぞ。

 

「……ふふっ、あははははは」

 

「えるちゃんもそんな笑わんでも……あーもー」

 

「ううん、える元気出たんだ。ありがとうだよ」

 

そう言いながら楓ちゃんの腕を握り直すえるちゃん可愛い。もう可愛い以外の形容がし難いレベルですよねあのエルフ。可愛い。

 

「そうだよね----ごめんね。落ち込んでてもなにも始まらないもんね。みんながいればどうにかなる、えるも頑張らないとね」

 

「その意気やでえるちゃん、みんなで頑張っていこうな?」

 

あれ?楓ちゃんえるちゃんに対してだけ優しくないですか?わたくしの時と反応違いませんか?……あーまあ、確かに。そろそろわたくしと楓ちゃん熟年夫婦みたいになってきましたもんね。って誰がやねん!

 

「あ、ちょっとみとさん静かにしてください」

 

「え、あ、すみませんしずりん先輩……」

 

いやわたくし声出してたわけじゃないんですよ?冷静に考えてください皆さん。怖くないですか、こんなに一人言ぶつぶつ言ってたら?これ心の声ですからね?しずりん先輩はわたくしの心の声聞こえてるんですかね?

 

「み、と、さ、ん?」

 

あ、はい。さーせん。

しずりんパイセンがマジな顔つきで睨んでくるので少し黙りますね。これ完全に聞こえてんなぁ……。

 

「どうしたん、りん先輩? なんかあったん?」

 

「……足音がします。外の廊下から」

 

ひそひそ声で話すりん先輩と息を呑むえるちゃん。この二人わりと対象的ですね。

 

「……うん。一つ、二つ……三つかな?恐らく三つですね。少なくとも三人以上はいないと思います。ゆっくりこちらに向かって来てますね……聞こえません?」

 

「……。あ、ほんまや。わたしもギリ聞こえた。よくこんなん分かるなぁ、りん先輩」

 

「伊達にFPSガチ勢やってないってことです」

 

「ほんまかいな----で、どうすんの?りん先輩のその感じ、あんまりウェルカムってことでもないんやろ?」

 

「いえ、ウェルカムかどうか、その辺の判断はつきませんが----とりあえずこれをやり過ごせた場合、こちらから一方的に接触することが出来ます。まあヤバそうなら接触しないという判断も出来ますから、ここは隠れといて損がないかと」

 

「OK、わかった」

 

なんか一気にシリアス展開ですね。にしてもこういう時のしずりん先輩の頼もしさが半端ないです。いえすまいろーどって感じで----あ、足音わたくしにも聞こえるくらいになりました。けっこう近い。急いだ方が良さげです。

 

「そういうことやから、みんな。一旦ここは隠れとこ」

 

「分かりました、リアル青鬼ですね。わたくしそういうのめっぽう得意なんでだいじょ----」

 

「聞いてない聞いてない」

 

「え、え?どうしよう、隠れるってどこに?あの……」

 

「えるちゃんはとりあえず用具入れに入っとき。背高いしな、一番安心やろ?」

 

「あ、う、うん、わかった。用具入れね、わかった」

 

「出るタイミング合わせたいので私が一番最初に出ますね。皆さんはその後に続いてください……ではご武運を」

 

言うや否や薄暗い教室の闇に隠れるしずりん先輩。忍びかなにかですかあなたは。続いてわたわたと用具入れに入るえるちゃんと、よっこらせっと立ち上がった楓ちゃんは教卓の下に。

さてと----わたくしも隠れなければ。

……隠すのなら慣れてるんですけどね。いや、慣れたくもないですけどね?

 

 

2

 

さてさて、分かりますかみなさん。わたくしがどこに隠れているのか。まあ勘のいいリスナーさんならきっと分かってらっしゃると思われますが----はい、カーテンの裏です。ドアが開いたら真ん前。しかも正直な話、一番防御力ないですよねカーテンの裏。なんかヤバめなお方が舞い込んで来た場合、わたくしなす術もなくフルボッコなのですが。いやだってね、違うんですよ。もうそのくらいしか隠れるところがなかったっていうか、皆さんいい場所取りすぎなんですよ。まあえるちゃんは仕方ないとしてね?えるちゃん怖がりですから。おい樋口楓!ほんとそういうとこやぞ!

 

「……ごめんなさいみとさん、集中したいのでもう少し静かにしてもらえますか」

 

え?え?どこからともなくしずりん先輩のひそひそ声がしました。カーテンから頭だけを出して辺りを見回すも、それらしい人影はありません。なんなんですかあの人。ほんとに忍んでるじゃないですか。

 

「上です上----あ、そうだ、ちょっと一旦降りますね」

 

しゅたっと天井から降ってくるしずりん先輩。入口付近の天井に張り付くなんてやっぱり忍びじゃねえか。なんなんですかこの無駄なハイスペック。

 

「そんな私だけ特別ハイスペックってことじゃないんですよ?日夜腹筋を鍛えてる凛famなら出来て当然のことです」

 

凛famやべーな----ってだから心の声に入ってこないでくださいって!え、なんなんですかさっきから?しずりん先輩は超能力者かなんかなんですか?

 

「いや、超能力者ってわけじゃないんですけど----みとさんの顔を見てたら何となく分かるっていうか、きっとこんなこと考えてるんじゃないかなーっていうのが勝手に脳内変換されてしまい----まあそのくらいなんですけどね?」

 

「いやなんかむしろそっちの方が凄いというか、わたくしは怖い」

 

「あははは、すみません」

 

まあそれはいいとして、と区切るしずりん先輩。全然良くないのだが……。

 

「みとさん、ふと思ったんですけど----というか十中八九なにかしらあるとは思うんですが--みとさん、あの、言いにくいんですけど……普段とちょっと違いますよね?」

 

「え?……いやまあ、わたくしはよく不当に頭がおかしいやつ扱いは受けますけれど、そうじゃなくてですよね?普段と違うっていうと……うーん?」

 

しずりん先輩の質問について考えようとしましたが、そもそも『普段と違う』っていうのが漠然としすぎていてなにを考えればいいのやら。まあこんな状況ですから自分が気づかないところで普段と違う行動を取ってる可能性はあります。でもそれにしたって楓ちゃんにツッコまれたくらいの、我ながらマイペースな行動を取っていた自覚はありますし、ふーむ……。

そんなことを考えていると「なるほど、なるほど……」と一人納得しているしずりん先輩。

 

「わかりました。みとさんが無自覚なのか、私の勘違いなのか--うん、こんな状況なので色々思うことはあるかもしれませんね。みとさんだからと私は思い違いをしていたかもしれません。みとさんだって女の子ですからね」

 

なんだか『みとさんだって』のニュアンスに若干の引っかかりを覚えるのですが……。ほんとなんだと思われてるんですかわたくし……。

「私がしっかりしないと」と頬を叩くと、しずりん先輩は続けました。

 

「みとさん、あなた達は私が全力で守りますから、誰一人欠けることなく帰りましょう。だから安心してくださいね?……。……。なんて、言ってみたりして」

 

ちょっと照れ笑いをするとりん先輩はまたすっと闇に消えました。その照れ笑いはわたくしの顔を真っ赤にするくらいの破壊力があったのでしずりん先輩が造作もなく闇に消える事実については考えないこととします。

 

----そして足音は教室の前で止まりました。

 

 

*****

 

わたくしはカーテンを頭から被っていたのと、その、流石のわたくしといっても手が震えるくらいには怖かったので、その会話はあまり耳には入ってきませんでした。ただしずりん先輩の声がしていたのと廊下から一人誰かが入ってきたのはわかりました。カーテンの薄い生地越しにうっすらと教室の闇が写ります。人影が二人。続いてガラガラと乱暴にドアが開くと同時----

 

----絶え間ない銃声が鳴り響きました。

 

「なにやってんの、はじめおにーちゃん? 見つけ次第殺せって言ったよね?ちひろのことばわかる?」

 

「あ、ち、違うんだよちーちゃん。今しずりんに背中を取られてて、それで……」

 

「ふーん、その手に持ってるAKは飾りなのかな?刺し違えてもいいからやれって言ったよね?特にりんおねーちゃんなんて《異能》の存在に気づいたら厄介だよね?ね?わかんないかな?そのくらい頭回んない?」

 

「ご、ごめん。ごめんね、ちーちゃん」

 

「ごめんじゃねんだよ!」

 

ガコンと用具入れが蹴られる音が廊下に反響しました。

 

「ひ、あ、ごめん。ごめんなさい。次はちゃんとやるから、ごめんなさい、ごめんなさい。許してよぉ……」

 

「……これさ、遊びじゃないんだよ。次?なに甘えたこと言ってんの?りんおねーちゃんに殺されてたらどうするつもりだったの?はじめおにーちゃんが死んだらその銃が誰かに取られるってことだよね?それが取られたら次は誰が打たれるのかな?ねえ?誰だと思う?」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「はぁ……つっかえねーなぁ……。行くよ、はじめおにーちゃん」

 

 

*****

 

意識がぼんやりとしていました。みなさんと笑って話していたのが遠い昔のことに感じますし、何十時間とこの場に座り込んでいる気がします。少なくとも体育座りをした足の感覚がなくなるくらいには時間が経っているようでした。

 

----気がつくと楓ちゃんがわたくしの肩を揺さぶっていました。

 

「みとちゃん……みとちゃん!しっかりせ!みとちゃん!」

 

「あ……楓ちゃん?楓ちゃん……あの、銃で、打たれて、せんぱいが……」

 

「わかっとる、わかっとるから……一回落ち着き、震えてんで、手」

 

「え?」

 

言われて気がつきました。わたくしの手は楓ちゃんの服を掴んだままぶるぶると震えています。そこでわたくしは「あ、わたくしは怖かったんだな」ということがわかりました。自分のことなのにおかしいですよね?でも脳が状況を把握してないんです。

……把握したくないのかもしれません。

 

「楓ちゃん……ちょっとだけいいですか?」

 

「ん?ええよ?なに?」

 

「あの、ちょっとだけ、落ち着くまで……あの」

 

「わかった」

 

二つ返事で私の頭を抱く楓ちゃん。なんなの、もう、なんなのよ。イケメンかよ。あーもう。

……悪いけどみなさんちょっと目をつぶっててください。

絶対開けんなよ!絶対だからな!

 

 

*****

 

「みとちゃん鼻水鼻水」

 

「あ……ごめんなさい……あれ?ティッシュ、ティッシュが……あれ?」

 

「ほんとみとちゃんやんなぁ----まあしゃない、ほらハンカチ」

 

「え、でも、え?鼻水ですよ?」

 

「しゃあないやろー、そんな顔して歩かれへんて」

 

「うぅ……ありがとう……」

 

「今度クリーニングして返してな?のりぴっちーかけてな?」

 

「……うん」

 

「……調子狂うわぁ、もう。ほら行くで----えるちゃん探さんと」

 

「あ、待って……って、えるちゃん?え?」

 

 

3

 

「あの後すぐ、わたしが用具入れを空けた時には誰もおらんかったのよ。近くの教室も見たけど人の気配せんし、おかしいなーってなって。あ、そんでみとちゃんを思い出して----」

 

「え?わたくしそこ?そこで思い出すんですか?」

 

さっきの感動を返せよ樋口楓!おい!

ていうか周りの教室まで見て回るってかなり優先順位低くないですか?ねえ?

 

「あー、だってえるちゃん一人だと心配なんやもんあの子」

 

あーまあ確かに。それは分からなくはないですね。庇護欲が掻き立てられるといいますか。

 

「それに引き換えみとちゃんって一人でほっぽっておいても大丈夫な感あるやん?」

 

あーまあ……確かに。残念ながら当然の結果ということですね。

 

「ふむ。で、えるちゃんどこから探します?----と言っても地図もなにもないんで、どこ探せるのかすらよくわらないんですけど」

 

「まあそれなぁ----あ、でも一つだけ確実なところがあるわ」

 

「お、なんです?トイレとかですか?さすがにトイレはありますよね、学校みたいですし。案外えるちゃん御手洗に行っただけかもしれませんよ?」

 

「ちゃうわ、仮にえるちゃんがトイレしに行ったとして長すぎやし----って思ったけどえるちゃんなら帰り道迷いかねんわ……」

 

「うっ、有り得ますね……」

 

そんなやり取りをしつつわたくし達は廊下と階段を行き来しひたすら下へ下へと歩いていました。なにはともあれまずは出口の確認をしようということですね。この廃墟、腐っても学校なのできっと玄関くらいあるだろうと。色々考えさせられることはありますが基本を怠ってはいけません。

 

 

*****

 

「……楓ちゃん?」

 

「ん?……あ、ああ、なに?」

 

なにやら楓ちゃんが考え込んでいる風だったので声をかけました----というのは半分建前で、一見こういう時にはもってこいに思える下へ下へと降りていくだけの単調な作業ですが、わたくし達の気持ちまで下がっていくようでこの沈黙がちょっと耐えられなかったというか、まあテンション上げろっていう方が無理なんですれど。……それにわたくしもずっと考えてることがあります。おそらく楓ちゃんが考えているのも同じことでしょう。

 

「さっきのあれ……ちーちゃんとはじめさんでしたよね?」

 

しばらくこつこつと靴音だけが廊下に響いていました。ある意味その沈黙こそが一番の肯定であるとも取れます。

 

「なんか……あんねんやろな……。あいつなりに、なんかが」

 

まあそう考えるしかありませんし、そう考えたくなるでしょうね、楓ちゃんですから。でも----

 

「でもあの子は----しずりん先輩を殺しました。それは紛れもない事実で----」

 

「わかっとる!わかっとるわ、そんなこと!」

 

靴音が止みました。私の方を振り返った楓ちゃんは目に涙を貯めていました。

 

「でもあいつは、確かに口は悪いかもしらんけどな、どんな理由があろうと平気でこんなことするやつじゃない。それはみとちゃんも分かるやろ?」

 

「ええ、わかります。でもわたくしは……しずりん先輩を殺したちーちゃんを……許せない」

 

最後に聞いていたあの声が、あの顔が、わたくしには焼き付いていました。

----とても皆さんにはお見せできなかった部分の話をしましょうか。凛famの皆さん、居たらごめんなさい。

しずりん先輩の死体を目にした時、はじめはそれがなんなのか分かりませんでした。というのも身体の至る所が銃弾によって弾け飛んでいたので人間の形をしていなかったんです。でも先輩の顔であった部分を見た時にしずりん先輩とわたくしの目が合ったんです----ええ、合ってしまいました。ある意味事故ですね。その瞬間とてつもない気持ち悪さがあって、吐き気がしました。

結局何が言いたいのかというとですね----

 

「しずりん先輩にはああいう死に方をして欲しくなかったんですよ」

 

きっとこういうこと。悲しいとか悔しいとかよりも、もっとやり切れない気持ちがありました。ちょっと違うんですけど、最終回だけ酷い作画のアニメを見せられた感じと思っていただければ皆さんも想像が……あー、ちょっとこれは程遠すぎますね。

なんでも出来る凄い先輩。いつも冷静で、しっかり者で、頭のいい素敵な先輩。そんなしずりん先輩をああいう姿に汚されたのが、わたくしは許せない。

 

「きっとなにかしら理由はありますよ、わたくしだってわかってます。でもねえ、それで許せるかって言われたらわたくしは……ごめんなさい、ちょっと深呼吸します」

 

「……。そっか、みとちゃん優しいもんな」

 

その『優しい』がなにを意味するのか、少し胸に引っかかりました。わたくしなんかよりも楓ちゃんの方がどれだけ優しいか、そんなことは自分でもわかってるつもりです。

再び靴音が廊下に響きました。

またしばらく気まずい時間が通り過ぎていきます。

 

 

*****

 

最後の階段を降りるとわたくし達の探していた玄関がありました。ただまあ皆さんお察しの通りお通夜なので、わたくしも楓ちゃんもきゃっきゃうふふをするわけでもなく事務的に確認をしていきます。そしてわかったことは、まず結論から言わせてもらえば出れないということですね。まあ薄々感じてはいましたよね?これで出れたら逆に廃墟まで連れてきた意味なくね?ってなりますもんね。

 

「ああもう----このクソッタレぇ!!」

 

楓ちゃんが教室の椅子を玄関のガラス戸に叩きつけていますが傷一つつきません。この辺も漫画なんかでよく見るやつですが、実際にやられると絶望的なものですね。あれだけ楓ちゃんがガツガツと叩きつけてもビクともしませんし……って楓ちゃん!?

 

「楓ちゃん! 待って!ちょっと待って!」

 

「くそ!この!くそがぁ!」

 

わたくしが呼んでも振り向きもしません。

もう……どっちが世話が焼けるんでしょうかね、まったく。まあ今回は……わたくしも悪いか。思えば楓ちゃんに頼りきりになっていましたし……うん。

わたくしは椅子を振り上げた楓ちゃんの腕を抑えました。

 

「は?なに?離して?今確認中やから。みとちゃんもはよ出たいやろこんなところ、だから----」

 

「----楓ちゃん、手見せて」

 

「いいから、そんなん。どうでもええねん。構わんといてって」

 

「いいから出しなさい」

 

力ずくで椅子をぶんどります。楓ちゃんの手は豆が潰れて血でべっとりとしていました。楓ちゃんは顔を背けて、まるでいたずらが見つかった悪ガキのようにバツが悪そうにしています。

 

「……ごめん、なんか、むしゃくしゃして」

 

「いいんですよ、そんなことわかってます。なにも怒ってませんし咎めたりしません。わたくし、こう見えても楓ちゃんと付き合い長いんですよ?知ってました?」

 

「ははは……あー、かっこ悪いなぁもう。自分がいやんなるわ」

 

「大丈夫、大丈夫ですよ」

 

そう言ってわたくしは精一杯背伸びをします----仕方ないじゃないですかこればっかりは!確かに不格好ですけど!----そして楓ちゃんの頭をそっと抱きしめました。これでおあいこですからね。さあ泣きなさい樋口楓。わたくしが全部受け止めてあげますから。

 

「みとちゃん……」

 

「なんですか?わたくしはいつでもばっちこい、ですよ?」

 

「みとちゃんの胸って思ったよりぺったんこやんな……」

 

「なっ……」

 

「ありがとうな……」

 

「……。……ほんとずるい女ですね」

 

どうですか皆さん。これが正妻の包容力ですよ----なんつって。楓ちゃんの安らかな顔が見れただけでわたくしの心も浄化されそうな勢いです。……まあそうですね、わたくしが浄化されたら何も残らないというのはなかなか的を得ています。

 

----と、そこでカツン、カツンとなにかの金属音が近づいて来てることに気がつきました。残念ですね皆さん、幸せなかえみとタイム終了のお知らせですよ?

 

 

4

 

「楓ちゃん聞こえてます……?」と楓ちゃんに耳打ちをすると「みとちゃんの心拍がうるさくて聞こえてない」なんて返してきやがったので樋口楓はここに捨てていきましょう。

 

「待って待って、冗談やって。置いてかないで」

 

しがみつく楓ちゃんをずるずると引きずりながら下駄箱の裏へと隠れます。ここはしずりん先輩に習いましょうという魂胆です。

 

「誰やろう?」

 

「……ちーちゃん、ならもっと静かに近づいて来てますよね?」

 

「あ、うーん、あのガキ、案外大雑把だからどうかな?----でもこの音、少なくともさっきはせんかったよな?」

 

「そうですね……じゃあ違う誰かがここに?」

 

そんな話をしている間にその人は現れました。廊下に響いていた金属音----あれの正体は巨大なつるはしのようです。そこに立っていたのは渋谷ハジメさん----いえ、眼鏡がありませんのでオワリさん、でしょうか?

 

「なあ?いるんだろ?出てこいよ。さっさと終わらせてやるよ」

 

 

*****

 

「なにが『違う誰かがここに』やねん、既視感バリバリやわ」

 

「いやだってほら、ちーちゃんじゃなかったじゃないですか。わたくし間違ってないですからね?」

 

下駄箱から頭を出して覗いていたわたくしの上に頭を乗せる楓ちゃん。

 

「んで、どうする?なんか気づかれてるみたいやけど」

 

「まあその……あれだけうるさくしてれば……ねえ?」

 

「あー……確かに」

 

わたくし楓ちゃんの脳筋ぶりにはもう慣れていると思ったんですけど改めて見るとため息が出ますね。ましてこの状況だと。まあそれを止めないわたくしもどうなんだって気はしますけど。

 

「とりあえず様子を見ましょう。しずりん先輩も言ってましたけど、こちらから仕掛けられる状況を作って、それから---」

 

「おい、シカトか?お前らも……お前らもオレをコケにしてんのか!おい!」

 

ガリンとつるはしが玄関の床を抉りました。それはまるでケーキをフォークでつついたかのように滑らかに刺さっていきます。抉り返されたコンクリートの塊がハジメさんの後ろに、あ……オワリさん?結局これどっちで呼ぶのが正しいんですかね?……あー、オワリさんでいいんですね。わかりました。統一しましょう、彼はオワリさんです。皆さんいいですね?オワリさんですよ?

 

「みとちゃん?みとちゃんはハジメさんの不意をついてくれへん?わたしがハジメさんの気を逸らすから、その間に」

 

「え?楓ちゃんさっきのつるはし見ました?ちょっと無謀ですよそれは」

 

「頼んだわ----おーい、ハジメさん!」

 

「あ、楓ちゃん待っ……」

 

この脳筋女!わたくしが止めるまもなく楓ちゃんはオワリさんの前に出ていきました。さっきまでの様子を見てもこの人がいつものオワリさんじゃないことくらいわかるでしょうに。あとハジメさんって呼ぶなややこしい。

 

「でろーん、でろーんじゃないか。くくっ、そうだよなぁ!でろーんは皆の人気者だもんなぁ!オレのことなんて見下して当然だよなぁ!」

 

「ちょっとハジメさん、何言って……とりあえず落ち着こう?な?」

 

「は?オレは至って冷静だよ、とっても落ち着いてるし、今最高に気分がハイなんだよ----だからさぁ!」

 

オワリさんがつるはしを振り回すと周りのものが次々に抉れて飛び散りました。その残骸が楓ちゃんの方にも容赦なく降り注ぎ、後ずさるようにして楓ちゃんは尻もちをついています。

 

「だから----早く死んでくれよぉ!」

 

「ハジメさん?どうしちゃったのさハジメさん! ちーちゃんといいハジメさんといいみんなおかしいわ!なんでこんなことすんの?ねえ----」

 

「ちーちゃんの話をするなぁ!」

 

「楓ちゃん危ない!」

 

八つ当たりをするかのように振られたつるはしは楓ちゃんの頭スレスレを通り隣の下駄箱を粉々に抉り抜きました。

引きつった顔で浅く息をする楓ちゃんはこちらに一瞬目をやって小さな声で「出てもうてるやん」と呟いています----あ、出てもうてるやんわたくし。ですがそんなわたくしに目も向けないでオワリさんは頭を掻きむしっていました。

 

「勇気ちひろぉ!あいつが!あいつがいるせいで!あいつの《異能》さえなければ!くそぉ!」

 

「い、《異能》……?なんなん?それ?」

 

楓ちゃんが目で合図しています。はよ隠れろ。OK、わかりました。ここでわたくしが出ていったところでどうにもならなさそうですし、楓ちゃんの作戦に乗りましょう。人間引き際が大事って言いますからね。

 

「おぉ?でろーんは《異能》についてなにも知らないのかい?あのでろーんがそんなことも知らないのかい?あっはははははは!」

 

「……知らんもんは知らんねん……ハジメさんは知っとんの?」

 

「知ってるもなにも、でろーん!今君が目にしてるのがオレの《異能》だよ!このつるはしこそがオレの《異能》----

《Getting Over It》だ!」

 

「へぇえ、大層な名前やんか----でもそれってただのつるはしやろ?《異能》、《異能》って言うとるけど実際なにが凄いん?」

 

「は?はああああ?君さぁ、見てたよね?オレの《Getting Over It》が!この床を!この下駄箱を!めっちゃめちゃにしてるとこ!見てたよねぇ!」

 

「……あ、ああうん、確かに半端ないパワーやったわ……それがそのつるはしの力なんやな?」

 

「……ああなるほど、君はまだこいつの本当の力を見てなかったね」

 

 

*****

 

もうさすが楓ちゃんとしか言えませんね。さすかえ。のらりくらりと時間を稼ぎつつ、情報まで聞き出してますし。《異能》って言ってましたか?なんなんでしょうとても厨二心をくすぐるワードですが、この流れとシチュエーション、それに《異能》とくればもうそういうことですよね?----わたくし達も覚醒すれば《異能》が使えるってことなんじゃないですか?ね?

 

物音をたてないようにわたくしは一番端の、一番オワリさん達から遠い下駄箱へと這っていきました。その下駄箱からぐるっと回り込んでいけばオワリさんの背後を取れるって寸法で----え?背後を取った後ですか?……。……。まあそれは、あの、ほら。口にカロリーメイトでもぶち込んどけばいいんですよ。

 

「……ああなるほど、君はまだこいつの本当の力を見てなかったね」

 

オワリさんへと近づこうとしたその時、オワリさんはつるはしを聖火のように掲げました----その刹那、周囲の瓦礫がつるはしに集まっていきます。

ゴツンと鈍い音がしたと思ったら倒れていました。いってぇ!マジで痛い!これたんこぶ出来るやつですよ!

吸い寄せられていく瓦礫の一つがわたくしの頭にぶつかった様です。大きな破片ではなかったのが不幸中の幸いでしたね。つってもすごく痛いんですけど。

 

「これが《Getting Over It》の真の能力!こいつは一度触れたものを再び引き寄せることが出来るのさぁ!……ん?その顔はまだどういうことかよく分かってない顔だねぇでろーん」

 

楓ちゃんへとゆっくり近づくとオワリさんはつるはしで楓ちゃんの右胸をつついて----はぁ?右胸を、胸を、つついてぇ?!

 

「ここを抉り取る、そしてまた引き寄せる。さらに抉り取る、そしてまた引き寄せる。さすがにもう分かったろ?ゆっくりその身体がズタズタになっていくのを楽しむがいいさぁ……あっははははは」

 

あの皆さん事態は急を用します。緊急事態です。わたくし達の楓ちゃんがオワリさんに凌辱されようとしてるんです。わかりますね?ふざけてる場合じゃありません----って言ってる傍からもう!次やったら即NGにするからな!----どうにかする手段、なにかないですか?なんでもいいです、なんでもいいので----今『ん?』って打ってるやつ!ほんとお願い!早くしないと楓ちゃんが!

 

----え?委員長も《異能》を使えばいいじゃんって?

 

 

*****

 

「……はっ、大したことないやんか」

 

「あぁん?今なんて言ったよ?おい?」

 

「そんなん大したことないなぁって言ったんやボケぇ!」

 

楓ちゃんが叫ぶと同時にオワリさんが楓ちゃんを蹴りあげました。嘘みたいに綺麗な弧を描いて楓ちゃんは地面へと落ちます。

もう少し待ってください、もう少しで把握しますから、もう少しなので----。

 

「でろーん?君がそこまで馬鹿だったとは思わなかったよ……オレをコケにして、タダで済むと思うなよ?」

 

「んぐっ……なはは、だってな?ほんまにしょうもないんやもんそれ……。そんな格好つけといてやることが女子高生一人をなぶり殺すだけやろ?……はぁー、アホくさ!」

 

「……もういい、死ね」

 

----ちょぉっとまったああああああああああああ!!

 

「みとちゃん、思っきし正面から出てきてどうすんねん」

 

オワリさんとの間に滑り込んだわたくしを見て苦笑する楓ちゃん。

だって時間がなかったんですもん。それに……その……。

 

「----は?《異能》の使い方がわかった!?」

 

「しっ、声が大きい」

 

「いや、つまりみとちゃんが《異能》を使ってハジメさんをぶん殴ってくれるっちゅうことやろ?もうそんなこそこそすることもないやん?」

 

「いやだからね?その……」

 

わたくしがそれを出来てたらもっと早く駆けつけてますという話なわけで。ごめんなさい、せっかく皆さんが教えて下さったのに。わたくしにはどうやっても変化がありませんでした。

----しょせんわたくしはクソザコ委員長だっていうのを忘れていたんです。ちょっと調子に乗っていました。みなさんの力を借りないとなにも出来ないくせにでしゃばった真似をして。その報いがこれなんでしょうね。

 

「だからせめて楓ちゃんと一緒に、その……盾になるつもりで来ました」

 

「このアホ、わたしがそんなんで喜ぶと思ったんか!わたしはもっとみんなと楽しく遊んでいたい、死ぬのなんてまっぴらごめんやわ!」

 

「----あ、それですそれ!楓ちゃん!」

 

皆さんの数あるコメントの中、『《異能》の覚醒条件』について書き込んでくださった方がいましたよね?ありがとうございます。なんでそんなこと知ってるんだよってのは今は不問にしといてあげましょう。とりあえずその情報はデマではなかったみたいです。だって現に『覚悟を決めた』楓ちゃんの右手が赤く光っているんですから。おまえらたまにはやるじゃん!

 

「うわ、なんやこれ」

 

「だから《異能》ですよ《異能》!それが楓ちゃんの能力なんですよきっと!」

 

「あー、右手が赤く光るのが?え?どうすんのこれ?なんか意味あんの?光ってる以外には特になんもないし----あ、ちょっと生暖かいなこの光」

 

「……。……え?楓ちゃんの《異能》って生暖かく光る右手ってことですか?あのそれ、《異能》使えてないわたくしよりか使えないやつじゃ……」

 

「はぁ?!そもそもスタートラインにすら立ってないみとちゃんには言われたくありませんー!」

 

「いやだってほら、わたくしは将来性ありますから。楓ちゃんは生暖かく光る右手止まりですけどわたくしの場合は生暖かく光る右手以上の《異能》を持ってる可能性がありますからね?楓ちゃんは生暖かく光る右手ですけど……」

 

「生暖かく光る右手って連呼すな!----ってそんなん言ってる場合じゃ」

 

「----あのさぁ、きみらさぁ」

 

----あ、忘れてました。いや完全に忘れてた訳では無いんですけどね、こんな状況ですし。わたくしオワリさんの真ん前ですからね?----あのですね、どこか普段のノリが抜けていないといいますか、あの感じ安心するんですよねぇ。頭の片隅でどっか、このまま死ぬならまあアリかなって思っちゃってたわけで----あー楓ちゃんにははた迷惑な話ですねこれ。

 

「きみらはさぁ、本当にさぁ、オレのことどれだけ見下せば気が済むんだい?なあ?このもう死ぬかもしれないって時でさえ天下の委員長様とでろーん様はオレのことを見てくれないのかい?なあ?----なあおい!」

 

「違うんですよオワリさんそういうことじゃ----」

 

つるはしがわたくしの頭を打ちました。きぃんと鈍い金属音。衝撃と痛み。飛んでいく身体。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

受け身をとることも出来ずにわたくしの身体は転がっていきました。為すがままのこの身体と混濁する意識は頭の痛みだけで繋がっています。

ぼんやりとだけ声が聞こえました。

わたくしの名前を呼ぶ声。何度も何度も呼ぶ声。その声に身を委ねると頭の痛みが少しだけ楽になる気がして。わたくしはそっと意識を手放しました。

 

 

 




こんな拙い文章を根気よく読んでくださった方はさぞかし時間を持て余してる方かマゾヒストなんでしょうね。
お読み頂きありがとうございます。とても嬉しいです。
後書きというと至極どうでもいい、物語と全く関係のないことを書くのが最近の流行りでしょうけれど、せっかくなのでこの場で謝罪をさせていただきます。

勝手にキャラを殺してすいませんでした!推しの方ごめんなさい!

思ったよりシリアスになってしまって私も驚いてますごめんなさい!

一期生好きですけどあまり追えてなくてごめんなさい!私の脳内はあんな感じなんですキャラブレは許してください!

ていうかハジメさん推しの方はキャラブレというかなんかもうほんとごめんなさい!

その他にも色々あると思いますが不快に思った方がいたら本当にごめんなさい!

二次創作なんて一々謝っていても仕方ないとは思うんですけどね。でも私はこういうの初めてなのでルールがいまいち分かっておらんのです。なので最低限の配慮はしたいと思っていました。
私なりに原作への愛----各ライバーへの愛を持って書いておりますので御容赦頂けると幸いです。少なくとも各自それぞれ見せ場的なものが作れたらなとは思って構成考えております。どこまで続けられるか分かりませんがお暇があれば付き合ってやってください。
ではでは。


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【ちひろの章】

今更ですがキャラ崩壊鬱展開ありです。


1

 

【ちひろの章】

 

は?気がつくとよくわかんない場所にいたのだが……。

まあでもちひろはあまり驚きません。あいつらはヤクザだとかなんだとか言うけれど腐ってもちひろは魔法少女だからね、そういうみょーちくりんなことが起きたところでぜんっぜん驚かない。「あーよくありますよねーあははうふふー」って感じ。まあこういうの冷たいって言う人もいるけど、ちひろは『りありすと』な魔法少女だから楓おねーちゃんみたいなリアクション芸人さんとは違うのだ。今回もさっさと終わらせてちゃっちゃと帰ろう……まずは状況把握でもしましょーか。

よいしょっと立ち上がってスカートについた埃を払った。「そうじくらいしろよなーったくー」という一人言が漏れてしまったけれど、これは仕方ないのだ。『しょくぎょーびょー』ってやつだから。

……どっかに花ちゃんでも落ちてないかなー。

 

 

*****

 

「で、お散歩してみたはいいものの、どこもかしこも教室、教室、教室。みんなおんなじでつまんねーなここ……」

 

なんの情報も得られないままちひろは廊下を歩いていました。携帯は圏外だし外も薄暗くて見覚えがない。強いて分かったことといえばここが学校のような場所だってことと、窓ガラスをべしべしぶんなぐっても割れないということ。

----ちひろ的にはだいたい見当がついていました。どうせ花咲みたいな『しょうわる』がきっとまたなにかやらかしたんだ。あいつらならこんなことでもやりかねない。まったくもう、まったく。やり過ぎなんだよなぁもう。なにが楽しくてこんなことしてるんだか……帰ったらシメてやんないとな。

 

「あーもーきりがねーなぁこれ」

 

廊下の端まで来ると上下に伸びる階段がありました。けれどちひろの足はもうくったくたでこれ以上歩きたくない、というかあと何往復すればええねん。

----みんななんか勘違いしてるけどちひろ幼女やからな?

 

「……ちかたない、あれつかおうあれ」

 

あんまり使いたくないのだあれは。疲れるし。なんか調子が狂うというか、ちひろの『あいでんてぃてぃー』が損なわれる気がする……。

まあ今回は誰も見てないし『きんきゅーじたい』だから仕方ない。ちひろは床に『まほーじん』を書いて魔術を起動させます。毎回思うのだけどこの『まほーじん』を書く工程がめんどくせーんだよ、もっと簡単に魔法使わせてくれよって思います。

 

「とりあえず一番上かな? 屋上まで出れれば最悪だれかが見つけてくれるだろうし----それに玄関なんて行ってもどうせ開かないだろうしな」

 

……。……。あれ?

足元の『まほーじん』は光ってるのにいつもみたいに反応がありません。いつもはもっとすぐ来るはずなのに……。なんだこれ?クソ回線か?ん?

そう思いながら『まほーじん』をがしがし踏みつけていたらゆっくりと反応が返ってきました。もうなんなんだ!早く帰りたいのだが!こんなところでまで回線で困りたくないのだが!!

 

----ぽんっと腑抜けた音と共に『わたし』の視界が高くなりました。魔術を使ったあと特有の怠さがあり、一度んーっと伸びをします。軽い柔軟をしながら大きく伸びた手足の感覚を確かめて、最後に制服を整えました。

 

「よし、これでいいかな」

 

どこからどう見ても変身は完璧でした。あのちんちくりんな幼女姿とは似ても似つかない素敵な大人の姿です。鏡がないのが惜しいくらいですよ。高校生となったわたしは階段を上へ上へと登りました。

あの小さな身体では無限に広がっているかに思えた校舎もこの身体にとってはなんてことなくて、屋上には呆気なくたどり着きました。なんだかんだ言っても所詮は幼女、体力的にも精神的にも大したことはないんだよね。あんなのただ周りの方達の優しさに甘えていきがってるだけ。それすら自覚してないなんて、なんと愚かなんだろうね。わたしとしてはあの傍若無人な振る舞いはもう少しどうにかしてほしいところ。ハジメさんや楓さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 

----あれ?

 

なんかおかしくない?おかしい……ですね。魔法陣の起動にもラグがあったし、ちょっと調子が悪いかもしれません。こんな陰気なところに閉じ込められて気が滅入ってるのかな?

 

 

2

 

屋上はこざっぱりと開けていました。今どき飛び降り防止のフェンスもない有様です。その代わりといってはなんですが、そこにはぽつんと一枚の大きな鏡が置いてありました。木製のフレームの着いた簡素な姿見はその場でとてつもない存在感を示しています。まあ場違いですよね、屋上に姿見って。違和感があって当然だと思います。

 

----なんてね、わたしは無いんだけどね、違和感。

 

そりゃそうだよ、ここはわたしのお庭ですよ?どこもかしこも見慣れた風景で、目をつぶってても歩けるくらいだよ?

あーもーやっと出れたー、きゅうくつだったー!

もうさ、ずうっっっとあの幼女にくっついてないといけなかったからお姉さん疲れちゃったよほんと。これでやっとゲームが始められるよー、いやーよかったー。

わたしは魔術を起動させて空中にモニターを呼び出しました----あ、『魔法陣』なんて必要無いんですよ。わたし高校生なので。あんな『身体強化』と『物質転移』くらいしか使えない女児とは一緒にしないでよね?

モニターには他の一期生の様子が映し出されています。まあ呼び出されてすぐだから皆さん気持ちよさそうに眠ってるね。

さてさて、どうやって遊ぼうかなー。どこに混ざろうかなー。あはは、想像しただけでわくわくしてきたよ。この日のためにわたしは沢山準備してきたんだからさ、今日は少しくらいわがままでもいいよね、うん。

----あはは、誰から殺そうかな?

 

「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁあ?」

 

え?な、なに言ってんの?どういうこと?え?

わたし----ちひろは、ちひろはなに言ってんの?頭の中がめちゃくちゃで、まるでちひろがもう一人いるみたいな、頭の中で勝手に声が響いて、身体が動いて、なにこれ?どうなってんだよ?

 

「……っはぁ。まったくさぁ、空気の読めない幼女だよね。もう少し黙ってられないのかな?っていうかよく出てこれたね?結構しっかりと切り離したつもりなんだけどな」

 

だからなに言ってんだかわかんねーんだよ!なんなんだよお前!ちひろになにしたんだよ!早く元に戻せよ!

 

「あーったくうるさいなぁ、騒げばどうにかなると思って。わたしはちひろだよ、ちひろ。なにをしたもかにをしたもないよ、あなたはわたし、わたしはあなた」

 

はぁあ?意味わかんないんですけど?頭だいじょーぶ?ちひろはちひろだよ、お前は誰だって聞いてんだよ!

 

「ほんとつくづくさぁ……まあいいや、仕方ない。こうすれば分かるでしょ?」

 

わたしは『転移』の魔術を起動させました。魔術特有の青紫色の光が走り、瞬間的に指定した物質がわたしの思う場所に移動されます。そうやってどこからともなく物を持ってこれちゃうというわけです。右手に握るのはカッターナイフ。痛いのは好きじゃないんだけど、これ以上騒がれてもめんどうだからね。

意を決してわたしはそれを左腕の静脈少し下に這わせました。チクリとした痛みと共につらつらと血が腕を滴ります。

 

「……っ」

 

いくらあなたみたいな馬鹿な幼女でもこれで分かったでしょう。わたしはあなた----勇気ちひろだってことが。でもまあ……黙らせておけなかったのは予想外だったかなぁ……。

----あ、いいこと思いついた。わたしって天才じゃないですか?

 

「いってぇぇぇなぁ!ばかぁ!ったく!……ん?あれ?戻ってる?」

 

うんそう、戻したよ。その身体はあなたに使わせてあげる。ただ条件があるよ。あなたはわたしの言う通りに動くの----それこそゲームの駒みたいに。その代わりに『勇気ちひろ』はあなたに譲ってあげる。

 

「……あのさ、やっとわかったよ。お前は……高校生のちひろなんだな?それでその……ちひろがなんでそんなことするんだよ?」

 

あー、よかった。わかってもらえたみたいですね。そういうことだよ。いつもいつもあなたの裏であなたを見ていた高校生のちひろだよ。……なんでって、おかしなことを言いますね。あなたにわたしの気持ちが分かりますか?あなたが楽しく遊んでいる時、わたしがどういう気持ちでそれを見ていたかわかりますか?このヴァーチャル空間の深層で、ひとりぼっちのまま、あなたに呼ばれるまでずぅっっっと待っていた私の気持ちが、あなたにわかりますか?

あ、いいよ。共感なんて求めてないから。これはわたしの意趣返しなんだよ。わたしが楽しむためのわたしのゲームがこれなんだ。あなたはおまけでしかないから、そのへんわきまえてね?

----で、条件は飲んでくれるのかな?まああなたに決定権なんてないんだけどね。あなたがやらないならわたしがやるだけだからさ。

 

「……。……これ、このモニターに写ってるのは一期生のみんなだよね?みんなをどうするつもりなの?」

 

だからー、最初に言ったでしょーってー、こーろーすーのー。

 

「……なに言ってんだよ。憂さ晴らしがしたいならちひろにやればいいだろ!なんでみんなを巻き込むんだよ!そんなの許せるわけない!」

 

あー少し勘違いしてるね。これはあくまでゲームなんだよ、わたしがみんなと----そしてあなたと遊ぶためのゲーム。殺すって言ってもこの世界はヴァーチャル空間の底の底の底辺、あなた達のいる世界のしぼりかすみたいなもの----ほら、そういうのに詳しいvtuverもいたでしょ?----まあそれは置いといて、この世界はあなた達の世界とはまったく無関係なんですよ。端的に言えばこっちで死んだ人は元のヴァーチャル空間に帰れるってこと。こちらにいるかあちらにいるかという話。ほら、わたしとあなたみたいなものだよ。わたしがこちらにいる限りあなたはあちらにいるし、わたしがあちらにいる限りあなたはこちらにいる。……あなたはオリジナルだからこちら側の記憶なんてないでしょうけどね。

 

「だからちひろがみんなを……殺せってこと?」

 

話が早いじゃないですかー、そういうことだよ。わたしがやってもいいしあなたがやってもいい。選ばせてあげる。

 

「……。あのさ、怪我とか残らないんだよね?無傷でみんな帰れるんだよね?」

 

うん、それは保証するよ。みんなは五体満足で帰れる……あー、でもそれじゃつまんないか……そうだな、残るのは記憶だけってことでどう?そうしないとあなたへの意趣返しにならないしね。

 

「……。……。……。うん、わかった」

 

あっはははは!じゃあ契約成立だね!楽しくなってきましたよぉー!

 

「……やり方はちひろの好きにしていいんだよね?」

 

どうぞご自由に。ただゲームの仕組みをバラすのはご法度かな。そんなことされたら面白くないからね。

----あ、そうそう。わたしはあなただってことを忘れないでくださいね。わたしはいつでもあなたを見ているから、ズルをしようとすれば一瞬でわかるよ。

 

「しないよ。だってこれ、ちひろのせいなんでしょ……?」

 

そう、わたしをないがしろにしたあなたのせい。あなたはわたしなんですから、ぜーんぶあなたのせい。

 

「うん……なら、ちひろがけじめをつけないと、いけないよ」

 

 

3

 

*****

 

心臓が壊れてしまいそうでした。どう説明を、どう言い訳をしたらいいんだろう。ハジメお兄ちゃんを殺せなかったことで気持ちが焦っていて----焦っていた!?焦っていたからってあれが許されるとでも!?あんな……あんなやり方は……。

あれはちひろがやろうとしていたことじゃないけれど、でも凛お姉ちゃんはずたずたになった。ちひろがずたずたにした。本当は一発で殺すつもりだったんだよ。でも、凛お姉ちゃんが、凛お姉ちゃんになんて言われるかを考えたら、凛お姉ちゃんが生きていて、ちひろがあんなことをして、それを見てなんて言うかを考えたら、すごく怖かった。

あの時ちひろは声が震えないようにするので精一杯でなにも考えられなかった。

 

「あ、あの……ちーちゃん?どこに?」

 

「トイレだよ----いちいち着いてくんなこの変態!少しは自分で考えてうごけねぇのかよ!その辺の見回りでもしてろよ!」

 

「ご、ごめん!ごめんよ……ごめん……」

 

ちひろが怒鳴るとハジメお兄ちゃんはまるでバケモノでも見るみたいな目でちひろを見て下の階へと降りていきました。

『バケモノでも見るみたいな』----ううん、実際バケモノかもしれない。ちひろのやってることはみんなから見ればただの人殺しだから。

トイレに入るなりちひろは個室に駆け込みました。胃の中のものが溢れてきたからです。数分でちひろはお腹のなかを空にしました。

精一杯悪人を演じようと思ったんだ。あいつのことを大事に出来なかったちひろが悪いならちひろが罰を受けなきゃいけない。それがけじめ。みんなになんと思われようと、みんなを無事に元の世界へと返すのがちひろの役目なんだって。

----そう思っていたのに、はらをくくったつもりだったのに。

ハジメお兄ちゃんを殺し損ねて、凛お姉ちゃんに辛い思いをさせて、それで自分はなんだ、げーげー吐いてる場合なのか?

トイレの水を流すのと一緒に弱いちひろは流れていきます。廊下に出るとそこにいるのは強いちひろ。強くて怖くて悪いちひろ。

心を殺して、涙を拭いて、廊下に出ようとしたその時でした。ちひろが入ったところより一つ奥の個室のドアが開きました。

 

「----あら、奇遇ですね。私もちょっと吐きたい気分だったんですよ。死体には慣れてるつもりだったんですが、まあゲームとリアルとじゃ全然違いますよね。あー気持ち悪かった」

 

出てきた人を見てちひろは心臓が飛び出るかと思いました。頭の中がいっぱいいっぱいで、戸惑いと苦しみと絶望と……それと喜びが、ない混ぜになったような気持ちで。

ちひろはただ呆然とその人を見つめるしか出来ませんでした。

 

「----ちーちゃんは自分の死体を見たことあります?まあないですよね、そんなこと。結構胸に来るものがありますよあれは」

 

そこに立っていた人----凛お姉ちゃんはいつもの、そのまんまの凛お姉ちゃんでした。ぼろぼろになったあの死体の面影なんてなく、制服はつやつやで綺麗な顔をした----いつもの凛お姉ちゃんでした。

 

「凛お姉ちゃん……どうして……」

 

「んー……詳しいことはよく分からないんですけど、おそらくこのへんてこな世界のルールなんでしょうね。誰かの声と一緒にこんなものを頂きまして」

 

そう言って凛お姉ちゃんはスカートの裾を掴んで大胆にも左足の太ももを剥き出しにしました。突然のおいろけにちひろはどうしていいかわからなくて、咄嗟に顔を横に向けました。

 

「あ、違うんです違うんです、ごめんなさい。そういう事ではなくて、いやこんな状況見られたら弁明出来なさそうですけど、幼女に太もも見せてるわけですから……あの、ここ。ここ見てください」

 

言われてちひろは横目で凛お姉ちゃんの指さす場所を追います。太ももの付け根にほど近いそこには黒のマジックかなにかで横棒と縦棒が書かれています。

横棒と縦棒と、縦棒の真ん中あたりに小さい横棒が……。

 

「……え?!待ってなに見せてんの?!ちょっと!凛お姉ちゃん!」

 

「ん?……ああなるほど……へぇー、そういう反応なんですね。ちーちゃんませてんなぁ」

 

「いやあの!だって!……ってそうじゃなくて!」

 

「そうですね、私もいい加減恥ずかしいのでさっさと本題に入りましょう」

 

凛お姉ちゃんはその……『せいのじ』らしきものをなぞりながら続けました。

 

「これ、私の能力みたいなんですよ。名前は……あのデフォルトは……あれはダサいな。ふむ、《おーるゆーにーどいずきる》とでもしましょうか」

 

『能力』という言葉を聞いてちひろは現実に引き戻されました。

今のちひろは凛お姉ちゃんのお友だちのちひろではないことをやっと思い出しました。

今のちひろは強くて怖くて悪いちひろだ。

 

「……まったくモイラお姉ちゃんもめんどうなことしてくれたよね。《異能》なんて無ければさっくり殺してあげたのにさ……」

 

「あ、《異能》って言うんですかこれ。ちーちゃんも知ってるんですね……それにモイラ様が……ふむふむ。貴重な情報ありがとうございます。----まあきっとなにか裏があるんでしょうけど、ちーちゃん?今のところ敵対してる私にそんなこと教えていいんですか?おしゃべりが過ぎてますよ?」

 

「え?大丈夫だよ凛お姉ちゃん、凛お姉ちゃんはちひろがここでまた殺すんだから。それよりもさぁ、凛お姉ちゃんこそ《異能》についてしゃべりすぎちゃったんじゃない?要はあれでしょ?」

 

凛お姉ちゃんは確実にちひろが打った。ぼろぼろの身体も焼け焦げた傷跡も見たし、あの出血量だとまず助かるわけないんだ。だから凛お姉ちゃんが生きているとするなら、凛お姉ちゃんの《異能》は----『そせい』。

 

「そうですね、今私がここにいるってことはおそらくそういうことです。----ただちょっと思ってたのと違ったんですよね、これ生き返ってるのかと思ったら新しい身体に入れ替わってるんです。どちらかというとコンティニューに近い感じで……あーまぁ、その方が私らしいと言えば私らしいんですけど」

 

「……あのさ、忠告はしたはずだけど?凛お姉ちゃんしゃべりすぎだよ。もう凛お姉ちゃんの手の内はわかったから、ちひろ今度は確実に殺すよ?」

 

「あはははは、そうですよねー。なんかずっとひとりぼっちでさまよっていたのでついつい……。でもまあ、私も不意をつかれなければ死ぬ気はないので。ご心配なく」

 

「ふぅん」

 

なんとなくあと伸ばしにしていたのは認めなきゃいけない。お話しができて嬉しかったのは凛お姉ちゃんだけじゃないんだよ。でももう話すことが無くなってしまったからちひろは自分の役割を果たさなきゃいけない。ちひろは悪者なのだから。

手袋の『まほーじん』を起動させるとちひろの手に冷たくて重いライフルが飛び込んでくる。

----さようなら、凛お姉ちゃん。

 

 




マゾヒストの皆様、最後までお読み頂きありがとうございます。
なぜこんなに暗い設定にしたんだろうと自問自答しながら書いてましたちひろの章ですが、半分くらい書いている段階で気がつきました。
章に名前つけてたら全員分の視点書かないとダメなのでは……?
それと再び同じ人の視点の時こまるのでは……?

……わお。

知らない間に修正されていたらそういうことだと思ってくださいよろしくお願いします。

あとちーちゃん愛してるので許してください。ごめんなさい。
大人ちーも好きです。ああいう感じでごめんなさい。
ちーかざ も でろちー も好きですし一期生コラボで率先してオチ担当に回るの愛おしいしTwitterが案外マメなとこも好きですごめんなさい。
ではでは。


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【モイラの章】

そちらはおはようかしら?
こんにちはかしら?
それともこんばんわ?
こちらからはそちらの時間までは把握出来ないのよ、ごめんなさい。
コマッタナーみんなにきちんと挨拶したいなーシクシク----なんてことでお悩みのそこの美しい女神様!この挨拶なら全て解決するのです!

というわけで、みなさんおはもいもいー。

……はっ!
挨拶だけでこんなに文字数を使って大丈夫なのかしら?ここ何文字まで書けるの?……あ、二万字?結構あるのね?なら大丈夫かな?大丈夫よね?

こほん、名乗り遅れました……のだわ。
モイラです。そう、女神です。
なんでこっちに女神がいるのかというと、女神は女神だからです。そういうことです。

あー……それじゃあ納得してもらえないか。そうね。
でもなぁ、なんと言いますか。女神は女神だからわりとこのへん行き来できてしまって、女神だからある程度状況把握してしまって、女神だからみんなのサポートに回れないかなーみたいなそういう感じになってるわけです。
----まあこれが現状の私の精一杯なのだわ。
でもね、でもね、女神も頑張った方なんだよ?
本来なら物語に関与することは女神であっても許されないの。運命を変えるなんて傲慢なこと、いくら女神であっても許されてはならないの。だから女神はこの世界に関与する権限が限られているのよ。
でもあそこはヴァーチャル世界の深層、どこまでが『そこに存って』どこまでが『そこに無い』のかもはっきりしないような場所。
『ヴァーチャル存在』と『ただのデータ』、その境界すら曖昧な場所。
因果律も運命論もパラドックスも何もかもがねじ曲がって転げ落ちているの。そんな混沌とした吐き溜りくらいなら女神は世界に関与することが出来るのだわ----なんか今のすごくカッコよかった気がする!
……あ、ええとええと。そんなこと言ってる場合じゃないですよね、はい。
とにかく、バーチャルとリアルがボヤけているあの場所なら女神はちょっとだけゴッドなんだよってことです。
----まあリアルとかバーチャルとかそんなことを言い始めたら、そもそも女神だって『ここに在る』のか『ここに無い』のか微妙なポジションなんですけどね?私が『ここに在る』のはひとえに子犬たちが私を認めてくれているおかげなのです。ありがとうね、子犬たち?

----さて、ここで唐突に女神クイズー!ぱふぱふー!
女神は現在どういう状態なのでしょーか!
えーっと……とりあえず早押しなのだわ!
①、力を一期生のみんなに分け与えてしまって疲弊している。
②、諸々に都合がいいためこの世界に概念化して滞在している。
③、みんなが幸せになる運命を模索してさまよっている。
④、『女神緊急サポートセンター電話サービス』を作っている。

はい、答えは全部でーす。
あのねー、女神しくじっちまったのよ。
思ったより女神の女神力が足りなくてね、女神自分の分のめがみちからを残すの忘れちゃったの。
ここでこうしてるのはそういうこと。あそこで存在を維持するだけの女神力が残ってないの。こうやって上から天の声をすることは出来るのだけれど、実際にみんなの力になることは出来なくなっちゃったの。本当にうっかりしていたのだわ……。
ただね、これはこれで都合がいいこともあるの。例えば女神が女神として下界にいたなら、この不幸な物語の原因を探ることも簡単には出来なかったのだわ。神様ってのは形が無くなれば無くなるほど神性が増すものですから、概念化して天の声になったのは結果的に融通が利いて良かったのだわ----あ、女神は女神であることを結構気に入っているからこんな時でもなければやりませんけどね?
でもねぇ、おそらくだけど、女神がこうやって裏方をやっても運命は覆らないと思うの。結局女神は運命を変える手助けは出来ても直接的に運命を変えるのは他のみんな。誰かが幸せになるルートって誰かが不幸せになるわけで。どうにかならないかなって女神は今フローチャートを作成中なのだけど、今のところ……望み薄って感じなのだわ。
うーん、やっぱり私が傲慢なのかしら?
ちーちゃんを----ちーちゃん達を救おうというのは傲慢なのかしら?
あの子達に残る傷跡を無くそうとするのはお節介が過ぎるのかしら?
----ううん、だめ。だめなのだわ。
「諦めて幸せに眠らせてあげたら?」なんて一瞬でも思ってしまったのは概念化の代償かもしれない。みんなを個人としてではなく多数のうちの一つなんて見方をしてる自分がいる。
----一人くらいいいじゃないか、その他大勢がたすかるんだから。
神様というのはかくあるべきなのかもしれないけれど私は女神なの。みんなと一緒に、同じ時間を過ごしている女神なのだわ。そんなことを、どういういきさつだとしても、考えてしまったのは恥ずべきことです。どうか不甲斐ない女神を許して欲しいのだわ。
女神はあなた達全員を救います。
ええ、救わなくちゃいけないのだわ……。




1

 

【モイラの章】

 

わけわかんないなにあれ狂ってる!こわいこわいこわいこわいこわい!

なんでAK構えてんのにゆっくり歩いてくるの!なんで丸腰なのに戦おうとすんの!なんであんなに落ち着いてるの!?

 

----先手を取ったのはもちろんちひろだった。だって引き金を引くだけだよ?あとは凛お姉ちゃんが生き返ったところを死ぬまでころせばいいだけでした。心配事といえば右手袋が『まほーじん』で繋がってる『かくのーこ』のストックが無くなることくらい。凛お姉ちゃんを殺しきれないとすればそれくらいで、それだっていらない心配かなって思ってた。

----そのはずだった。

凛お姉ちゃんはちひろが引き金に指をかけた時にはもう既に一歩を踏み出していた。そして----そして走るでもなく、避けるでもなく、ゆっくりと歩いてきたのだ、ちひろの方にゆっくりと。

その表情はさっきまでおしゃべりをしていた時となにも変わらない、ただの普通の凛お姉ちゃんで、今にも話しかけてきそうなくらい自然でした。

わけがわからなかった。

でもわけがわからなかったことがかえってちひろを急かしました。ちひろはそのまま、その怖さをぬぐい去るように引き金を引きました。

発砲音。

発砲音。

発砲音----。

----硝煙の漂う中に人影がありました。そのシルエットは片腕が吹き飛び、片足が欠けています。煙が消え目を凝らすとおよそ生きているとは思えない穴だらけの肉塊がそこにありました。

冷や汗がびっしょりでした----でもそれを見て少しだけ息をつきました。

な、なんだ、死んでるじゃん。それっぽくしてただけで、結局死んでるじゃん。『そせい』するからって余裕ぶって、ちひろをビビらせようってことだったのかな?それともちひろが躊躇うとでも思ったのかな?

 

「ごめんね、凛お姉ちゃん。ちひろはもうそのくらいじゃ止まれないんだよ……」

 

不思議な安堵感があって驚きました。さっきまで罪悪感で吐いていたのに今は死体を見て落ち着いているんだから。ちひろは本当にバケモノになっているのかもしれません。

さて、まだ仕事は残ってる。あとは凛お姉ちゃんがまた生き返ったところをリスキルし続ければ----。

 

「----まあそうなるだろうなとは思ってましたよ、淡い期待はありましたが。ちーちゃんのそれはそういう目でしたからね、『お薬』を飲んでおいて正解でした」

 

凛お姉ちゃんの声----上から!?

気づいた時にはもう凛お姉ちゃんは地面に降りていました、それもちひろのすぐ目の前に。慌てて銃口を向けましたがそこに凛お姉ちゃんの蹴りが当たりAKは右手側の壁に吹っ飛んでいきます。

次の武器を持ってくるよりも早く、凛お姉ちゃんは後ろからぎゅっと抱き抱えるようにしてちひろを拘束しました。右手にはボールペンが握られていて喉元にペン先が触れています。凛お姉ちゃんの声がちひろのすぐ耳元でしました。

 

「少し残るみたいなんですよ、死体。そういう仕様みたいです。ちーちゃんが私を殺す前に『とても健全なお薬』で私が自分から死ねば、リスポーンのラグが消えて変わり身の術の出来上がり----でもこれ、死ぬほど苦しいのが難点ですね」

 

「なんだよ『お薬』って……いつのまに……」

 

「さっき二人でおしゃべりしている時、ちーちゃんが顔を背けたタイミングで頂きました。ここしかないだろうなって」

 

「……なにもんなんだよ、凛お姉ちゃん。これじゃまるで----」

 

「まるで『バケモノ』ですか?----一理ありますね、私は『バケモノ』かもしれませんね」

 

凛お姉ちゃんは『じちょう』するように笑いました。

----まるで全てが見透かされているようだった。この人には敵わないとちひろは悟ってしまっていた。

いっそこのままちひろは凛お姉ちゃんに殺されてしまえばいいんじゃないかな?ちひろは殺されるべきなんじゃないかな?----だって仕方ないじゃん、凛お姉ちゃんが強すぎたから、ちひろは精一杯やったけど、凛お姉ちゃんには敵わないんだから……だからここで----。

 

『なに勝手なこと言ってくれてんのかな?』

 

頭の中で声が響きました。ドキリとして背筋が震えます。呼吸が、息の吸い方がわからなくなりそうでした。

 

『あなたがやらないならわたしがやるだけだって言ったよね?あなたがここで諦めるというならわたしが凛お姉ちゃんを殺しますよ?ゆっくりと心ゆくまで嬲り殺しますよ?----それでもいいってことなんだね?』

 

嫌だよ、やめろよ。

……でもだって、だってしょうがないだろ。ちひろじゃ凛お姉ちゃんには勝てない、だからしょうがないんだよ。ちひろは約束を破ったわけじゃない。凛お姉ちゃんが強かったからちひろが殺される、それだけだろ?だから----。

 

『あっはははは!あーはいはい、わかりました。あなたは自分可愛さにみなさんを捨てることを選んだ!自分が楽になる方を取った!なんて愉快なんでしょうね、あれだけいきがっていたくせにこんなにあっさりと----あっははははは!』

 

……。……。……。

じゃあどうしろって言うんだよ!ちひろだっていっぱいいっぱいなんだよ!お前の言う通りやってるのに!なんでそんな!

 

『わかったわかった----うーん、そうですね。なら一回代わりなさい』

 

「----え?」

 

「……ゃん?……ちーちゃ……ちーちゃん!」

 

「あ、え、な、なに?凛お姉ちゃん?」

 

「ずっと呼びかけてるのに上の空で----ちーちゃん、やっぱりあなたなにかありますね?」

 

「あー……ごめんね凛お姉ちゃん。ちょっと今ちひろ調子悪くてさ、あまり本調子じゃないっていうか……」

 

「ええと……どういうことですか?」

 

「だからね?----凛お姉ちゃんを殺しすぎちゃったらごめんねってことですよ?」

 

 

2

 

その目は先程までのちーちゃんの目とは違っていました。ちーちゃんになにがあったのかは分かりませんが、まるでその目は別人で、どこかこの状況を楽しんでいるかのようでした。それを見た時、正直私はぞっとしました。あの子にあんな目が出来るとは思っていなかったので。

そして、その一瞬の怯みがよくなかった。瞬間的に青紫色の光が走ります。

私の腕が緩んだ隙に彼女は自由になった腕を振るいました。なにか鋭いもので切り裂かれるような痛みを感じて私はとっさに腕を解きます。死なないからと言って傷や痛みまでは無くならないのがこの能力の難儀なところですね。すっごくいたいです。こなみかん。

拘束が解けるとちーちゃんは漫画のように大きなステップを踏んで私との距離を取りました。手には大ぶりのカッターナイフを握りしめています。『魔法少女』と名乗るからにはこのくらいの跳躍は当然のことなのでしょうか?とりあえずAKをぶっぱなすよりかはいくらかファンシーな魔法少女像ではありますけれど、なんて言ってる傍から彼女の足元が青紫色に光りました----また銃器を取り出すのであればこの距離は些かよろしくありません。今のところ自分の命しか切れるカードの無い私は直線で距離を詰めます。

リスポーン時間や場所はある程度調整出来るようです。時間の場合、最短で5秒。銃弾を避けるなんて芸当は忍者ではない私には出来ないので撃たれて死んでも元が取れるように部屋の真ん中あたりで死にたいところ----なんか死に慣れてきてますね。嫌だなぁ。

いち、に、さん、し、とカウントを取りながら走ります。ちーちゃんの方がアクションが早ければ距離を取る事まで見越しつつ、慎重に、かつ迅速に。

あと二三歩でタッチの距離----というところでちーちゃんの足元の光が強まり彼女を包み込みました。しかしここまで来れば私の蹴りの範囲内、先程のように追ってでも対応が出来るはず。光の眩しさに目を細めつつ、歩幅を緩めずにそのまま突っ込みます。

私は意を決して光の中に手を突っ込み、関節を決めるべく腕を探りました。様子を伺うなんて選択肢は丸腰の私にはないのです。やるかやられるか、やられてからやるかの三択です。

……腕が見当たらない?

まさかしゃがんでいるということでしょうか。対私の場合は一発だけ不意をつければいいのですから、それは考えうる作戦ではあります。しかし、おかしいですね。これは胴体ではなく……足?

----よく考えれば見当がついたかもしれません。というか足に触れた段階で瞬時に思い当たらなければいけませんでした。彼女は魔法少女なのですから。

ちーちゃんを包んでいた光がすっと消えました。

 

「凛お姉ちゃんなにしてんの?そんなにわたしの脚が好き?」

 

「あ、あははははは。これはだいぶミスりましたねぇ……」

 

そこにいたのは紺のセーラーに身を包んだ高校生の勇気ちひろでした。手には先ほどのカッターナイフを握りしめており、ライフルなんて持っていません。これがなにを意味するのかといえば、つまり身体的条件のフェアでしょうね。近接戦なら銃よりもナイフの方が早いとはよく言ったものです。ちーちゃんは前のめりに脚を抱え込んでいた私のお腹目掛けてかかとを打ち込みました。普通の蹴りとは思えないほどの衝撃が私の腹部を潰していきます。

吐き出された空気は悲鳴となって響き渡りました。死なないとはいっても痛みはそのまま。ほんとどうにかなりませんかね……。

ちーちゃんの足元に崩れ落ちた私は浅い呼吸で次の一手を考えます。

考えます----けれど!

 

「いったぁぁぁぁぁ!!」

 

目には涙が溢れてきます。一瞬で感覚がぶっ飛んだライフルや、ぽっくりと逝けたお薬とは違って生々しい痛覚が私を命に繋ぎ止めていました。

あばらが何本かいったのではないでしょうか。身をよじる度に激痛が走り、絶え間ない痛みが私の思考を乱します。

打開策を、打開策を、なにか打開策を----。

 

「ふーんなるほど、蘇りはするけど治癒はしてませんね。それに痛覚も普通に残ってる」

 

床に転がる私の顔を覗くようにして屈んだ彼女は先程の私を真似るように喉元にカッターナイフを突き立てました。つんと冷たい感覚が伝わり、少しでも身を緩ませればそれが突き刺さることを悟ります。

 

「どこまで残るんでしょうね?これ?」

 

「……」

 

「ねぇ、凛お姉ちゃん。聞いてるんだけど?」

 

「……な、なにが、ですか?」

 

「だからね、このまま凛お姉ちゃんの喉を掻き切ったら、どこまで意識が残るのかなって」

 

「……」

 

「聞いてるんだけど?----ねぇ!」

 

もう一度お腹を蹴られた私は無機物のように床を転がります。なにかを吐きそうになりましたが幸いにも吐き出すものはお腹に入っていませんでした。ただ血液だけが口から流れていきます。

……完敗です。これ以上はもう……無理ですね。私の精神が持ちませんよ。

かといって……お薬は……その、もうあまり無駄遣いできませんから、その……嫌だなぁ……もう、ほんとっ……。

 

「凛お姉ちゃんはこっちの方がいいってことかな?死ぬほどの痛みよりも死にきれない苦痛の方が好きってこと?----私なりの優しさだったんだけどな。まあ、凛お姉ちゃんが望むなら少しずつ痛めつけてあげるね----死なないように」

 

……。

……。……。……。

 

「ねえ凛お姉ちゃん?……凛お姉ちゃん?……あぁ、なるほどね」

 

 

 




リョナラーって頭がおかしいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございます。そういう需要も無くはないとは思っています。
さて、凛先輩になにか恨みでもあるのかって言われると嫌いなキャラをこんなに出ずっぱりにしませんよ!ってことなんですけど、なんだか設定に引っ張られてどんどんダークサイドに寄っているので健全な異能バトルをさせてあげたいところです。かえみとカムバック……。

凛先輩はアーカイブが多いので全然追えてない人の一人なんですが配信を見る度に優しいし頭の回転早いし好きぃって思いに包まれます。
どう足掻いても絶対強キャラになるつよつよ凛先輩なので一回負けさせたかったんですごめんなさい。
famに全力で喧嘩売っていてごめんなさい。
ほんとは売ってないんです。沢山書きたくて書いたらこうなってしまいましたごめんなさい。

というかモイラ様全然出てこなくてごめんなさい。

ではでは。


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