振るう刃は友の為に (Zakki)
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プロローグ

どうも初めましてZakkiです。よろしくお願いします!


 …………いない

 

 

 どこにもいない

 

 

 頼む。頼むよ………………

 

 

 1人にしないでくれ。お前まで俺を置いていかないでくれッ! 

 

 

 

「どこに行ったんだ炭治郎!」

 

 

 懇願するように叫んだ声は白い雪空へ消えた。

 

 

 

 

 ~数日前~

 

 

「おーい重富(しげと)!」

 

 

 寒い冬の日。日課である畑の様子を見ていると声をかけられる。

 

 

「? どうした炭治郎」

 

 

 重富は屈んだまま体を捻るとそこには決して近くはないが遠くもない家からやって来たであろう友人、竈門炭治郎(かまどたんじろう)が立っていた。

 

 

「重富も今日うちでご飯食べよう! 禰豆子(ねずこ)達も喜ぶからさ!」

 

 

 炭治郎は少し離れたところから口元に手を当てて大きな声で言った。炭治郎の家は大家族であり、だいぶ前に父を病で亡くした心の痛みが癒えてきたばかりだ。そして決して裕福ではないが炭治郎達の家族はとても幸せそうだった。

 

 

「わりぃ! 今日は山超えた街まで荷物運ぶの頼まれて飯時にまで帰れそうにないんだ! 飯はまた今度な!」

 

 

 近にある街とは逆方向の街へは山をまるまる1つ越えなければならないので往復するだけでも帰りは深夜になってしまう。夜の山は視界が悪く危険なので普段はあまり受けないのだが今回は特別だった。

 重富は炭治郎を真似て口元に手を当て大きく声を上げて答えた。

 

 

「そっか! 夜の山は危ないから気をつけてな!」

 

「あぁわかってる! またたんまり稼いだら美味いもの買ってくるよ!」

 

「ありがとうな! その時はうちの家で一緒にご飯食べよう! 待ってるから!」

 

「おう!」

 

 

 山の向こう側の街に住むとあるご老人が大急ぎで荷物を運んでくれとの事。その代わりにお代が相場の2倍になるため結構な額が貰える。その金があればいつも世話になっている炭治郎や禰豆子たちに美味い物を食べさせてあげることが出来る。それが特別の理由だった。

 

 

「しかし……わざわざ俺の家の方まで来て飯に誘ってくれるとは……相変わらずだな炭治郎は」

 

 

 少々真面目で家族想いで優しいすぎる友人の顔を思い浮かべて重富はクスリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畑の様子見が終わり届けるための荷物を担いで隣町へと向かう。道中では雪が積もり足場が悪かったが幸い足を滑らせずに街へと着くことが出来た。

 だがもう既に日が暮れる頃合いである。今は雲で見えないが太陽はもう沈む時間であり薄暗くなりつつある。

 

 

「荷物を届けに参りました!」

 

 

 街に入り届け先の家の戸を叩いて呼びかける。家の中から物音がするの戸が少しずつ開く。

 

 

「誰だ?」

 

 

 戸を開き出てきたのはボロボロの身なりをした若い男だった。

 

 

(あれ? 確か届け先の人はご老人だった気が……)

 

「どうした?」

 

「え、えっと……ここのご老人に荷物を届ける様頼まれたんですが、届け先ってここで合ってます?」

 

「あぁ合ってるよ。俺は受け取りを頼まれただけだ」

 

「あ、なるほど」

 

「で? お前が仕事を請け負った奴か?」

 

「はい、狛江重富(こまえしげと)です。(見た感じ貧乏そうなんだけどちゃんとお金貰えるかな?)」

 

 

 荷物を手渡し名を名乗る。初対面だが少なくとも裕福ではない身なりをした男を見て金を払ってもらえるか不安に思う重富。

 男は荷物を家の奥の重富が見えない位置まで持っていき中身を確認する。

 

 

「中身はあってる、ご苦労だったな。ほれ」

 

 

 老人は懐から巾着を取り出し重富に手渡した。中を確認すると中にはお金が入っていた。数を数え確認する。

 

 

(よし! 約束通りの額だ!)

 

 

 この金があれば街で美味しいものを買って行くことができるだろう。

 

 

「ありがとうございます! じゃ俺帰りますんで」

 

 

 苦労して山を超え荷運びをしたかいがあったと内心ではしゃぎながら来た道を帰り始める。今日は家に帰ればもう夜遅いので竈門家に振る舞うのは明日にしようと決めて巾着を懐の奥にしまう。

 

 

 狛江重富には家族がいない。親も兄妹も。しかしなぜ居ないのかもわからない。気づいた時から山小屋で一人でいた。小屋にいる前の記憶もなく、小屋の外にはこじんまりとした畑があり野菜が育ててあった。

 

 どこにも行く宛がない重富はその家に住み、野菜を育て食べて暮していた。1年が経つ頃に木を切りに山の奥を散策していた炭治郎に出会った。

 

 炭治郎に出会い山を下ると街があることや街での仕事を受けおくなど色々教えてもらった。自分と歳が変わらない重富が一人で暮している知った炭治郎は自分の家に招き入れ一緒に食事を振舞った。

 

 炭治郎の家族はもちろん動揺したが事情を知ると炭治郎の父や母、炭治郎の弟妹達も納得し向かい入れた。

 それが重富にとってこれ以上ないほど救いであった。

 気がつけば一人、山小屋で倒れ記憶も家族もない重富には炭治郎のその優しさが耐え難い孤独を癒した。

 

 同じ家に住むことを提案されたが重富はそれを拒否した。孤独だった自分に暖かさをくれた人たちだからこそ、これ以上迷惑はかけたくなかった。

 だから重富は自分がいた家にそのまま住みながら時々畑で育てた野菜や街で稼いで買った美味いものを手土産に竈門家に食事をしに行くのみに留めた。

 

 

「みんな、喜んでくれっかな?」

 

 

 あの家の家族が喜ぶ顔を思い浮かべるだけで口元が緩む。炭治郎達が重富にとって生きる全てだった。

 

 

(早く帰ろっと)

 

 

 重富は小走りを始める。荷物がない分行きよりは身軽だ。

 

 

「おい、ちょっと待てそこのガキ!」

 

 

 予定通りの金額を貰い浮き足立つ重富に男が声をかけるが聞こえていないのか重富はそのまま小走りを続ける。

 

 

「ちょっと待てつってんだろ!」

 

「うぉ!?」

 

 

 男は重富の服を後ろから掴み引き止める。いきなり後ろから引っ張られた重富とは驚きの声とともに尻もちをつく。

 

 

「いってて……何の用ですか」

 

 

 重富は尻もちをついた時にぶつけたしりを擦りながら掴んだ男を見る。男は尻もちをついた重富をニタニタと見下ろしながら掴んだ服を離す。

 

 

「お前、さっきジジィから大金貰ってたろ?」

 

(あ〜そういう……)

 

 

 男の第一声で重富はなぜ男が自分を強引に引き止めたかを察した。十中八九、受け取った金が目的だろう。重富は服に付いた土を叩き落としながら立ち上がる。

 

 

「生憎だけど、貴方に差し上げる様な物は持ち合わせてません」

 

「素直に渡した方が身のためだぜ?」

 

 

 男は口角を上げ、左手を肩の上まで上げた。すると周囲の家の影から男の仲間の思わしき人間がゾロゾロと出て重富を取り囲む。

 

 

(数は……8人か、ツイてないな)

 

 

 少しでもいい事があるとコレだ……と心底ウンザリしたように周囲を警戒する。相手が2,3人だったら重富が負けることはないが8人ではどうしようもない。

 辺りは既に薄暗くなりつつあり、山には全力で走ってすぐに入れる距離だ。

 

 

(あの山なら道に慣れてるし……何とかなるか)

 

 

 どうにか山へ逃げ込めば道に慣れている重富が有利である。重富は呼吸を整え集中する。

 

 

(すぅ……よし! いくか!)

 

 

 意を決して振り返り、背後に回っていた男の仲間の股間を思いっきり蹴り上げる。

 

 

「ハゥア!?」

 

 

 男の仲間は真っ青になり内股になり地に伏せた。男であれば股間への攻撃の痛みは文字通り痛いほど知っている。当たれば終わり、しばらくは確実に行動不能となる。

 重富は伏せってピクピクと痙攣している男の仲間を踏みつけて山へ向かって走る。

 

 

「うぉい! そこ狙うなんて卑怯だろ!」

 

「うるせー! 多対一で取り囲んでんヤツらがつべこべ言うな!」

 

 

 男が重富へ罵倒を飛ばすが重富は構わず走る。男とその仲間たちは動揺こそしたものの重富に股間を蹴られた者とそれに付き添う者を除いて全員すぐに追いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 雪で足場が悪い中、必死で足を動かし走る。山に入ってから数時間、男達との追いかけっこは続いている。

 

 

「い、いい加減にして待ちやがれッ!」

 

「しつっこい!」

 

 

 雪で体力を失いながらも暗い森の中を必死に進む。既に足が鉛のように重くなり体も言う事を聞かなくなってきた。しかしだからといってそう簡単にお金を渡すわけにはいかず一心不乱に走り続ける重富。

 雪で夜でも多少は山道が見えるがそれは男達も同じこと。このままでは捕まるのも時間の問題である。

 

 

「ぎゃあ"あ"あ"あ"ッ!」

 

「……ッ!」

 

 

 無我夢中で走る重富の背後から尋常ではない悲鳴が木霊(こだま)する。その声からただ事ではないと悟り急停止して男達の方を振り返る。

 

 

「おい! 雄作! どうした!?」

 

「お、おい! なんだアレ!?」

 

「雄作が()()()()()()()()()!」

 

(食われてる? 狼か?)

 

 

 しかし、この付近の山で狼が出たという話は聞いたことがなかった。熊の場合は有り得るが今は冬だ。わざわざ冬眠し損ねた間抜けな熊はいないだろう。目を凝らして雄作と呼ばれた男を見るが遠く木が邪魔をしてよく見えない。

 

 

「ってか狼だったら俺も危険じゃん!」

 

 

 狼は群れで獲物を狩る生物である。多数で獲物を追い回し疲れたところを仕留めにかかる。それが狼の狩りだ。本当に襲って来たのが狼であるならばすぐにでも離れなければ食われる。

 重富は再び家へと走り始める。

 

 

「やべぇ……助けてくれ! あに……うわぁ"ぁ"ぁ"!」

 

「お、鬼だ! 鬼が出た!」

 

 

 走る重富の背中に男の仲間の断末魔が響きわたる。その断末魔の中に聞きなれない言葉が聞き取れた。

 

 

(鬼? 鬼ってあの鬼か? そんなのいるわけ……)

 

 

 鬼とは異形のもの。恐怖の象徴。頭には角が生え牙や爪が伸びた人ならざる存在。それが鬼。そんな鬼が出たという話は聞いたことがなかった。

 

 重富は足を止めずに後ろをみた。

 

 

 

 ヒュッ…………グシャッ! 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 背後を見ようと振り向いた瞬間、もの凄い速さで何かが顔の真横を掠めた。何が飛んできたかはわからない。何か大きい物が飛んで木か何かにぶつかった。

 

 恐る恐る飛んできた何かへ目を向けると……

 

 

「…………ッ! 冗談だろ?」

 

 

 そこにはかつて人間だったであろう肉塊が血を撒き散らして絶命していた。その時点で男達を襲ったのが熊やましてや狼でないことを確信した。

 

 

(くっそ! ホントにツイてない!)

 

 

 重富は足に力を込めて懸命に走るが既に殆ど体力はなく速度はかわらない。

 

 

(死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ!)

 

 

 ここに来て初めて重富の本能は危険信号出した。少しでも速く走らなければ死ぬと……男達の悲鳴はもう聞こえない。全員殺られたのだろう。

 そしてさっき人を投げたのは恐らく重富の威嚇だろう。姿を見た奴は逃がさないという脅しだ。

 今の重富の頭の中にはもう就寝している頃であろう炭治郎達の顔が浮かんでいた。

 

 

「これが走馬灯ってやつ? 笑えな……」

 

 

 ズッ

 

 

 こんな冬の山奥で何かもわからない不解明な何かに殺されて死ぬなんて笑えない、と苦笑を浮かべる瞬間踏みしめた雪の感触が消えた。重富がそれを雪で足を滑らせ崖に落ちたと理解したのは再び地につく瞬間だった。

 

 

 

 

 

(やべ……死んだ)

 

 

 

 

 

 




感想、評価よろしくお願いします!(〃・д・) -д-))ペコリン


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第1話 失ったもの

「……ん。はっ、やべッ! 死んだか!?」

 

 

 

 

 重富は目覚めた途端、飛び起きた。気を失う瞬間の光景だがあの崖の高さは人が助かる高さじゃなかった。頭から落ちればなお確実に死ぬだろう。

 

 

「……って死んだら口聞くはずないか」

 

 

 だが重富は生きていた。どうやら雪のおかげで助かったらしい。重富は冷静に自分の体を触って確かめてみる。頭の当たりをさわると何か液体のような感触があった。触れた手のひらを見ると真っ赤な血で染まっていた。

 

 

「うっそ……致死量じゃないよな?」

 

 

 今ここで目覚めていてもそのうち死ぬのではないかと寒気がし始める。崖の断面を見上げると1部だけ飛び出し血に染まった岩があった。あの今に頭をぶつけ出血したらしい。普通、崖から落ちる途中で岩に頭をぶつければ大怪我のはずだ。

 

 

(ま、生きてるだけいいか……)

 

 

 重富は考えるのをやめた。傷はあまり深くないようだし他に目立った怪我もないので服についた雪を落として立ち上がる。

 気がつけば数時間寝てしまっていたのがわかった。日は雲で隠れて見えないが空が真っ白だったからだ。そして起き上がると更なる問題が発覚した。

 

 

「金が……ねぇ!」

 

 

 懐をどれだけ探ってもお金が入った巾着がない。どうやら落ちた拍子にどこかで落としたようだ。

 

 

「しかも着物の後ろ半分がぐっしょりで気持ち悪い……」

 

 

 中まで完全に濡れていて着ごごちがすこぶる悪い。重富の体温で雪が溶けて着物に染み込んでしまったのだ。着物が後ろ半分だけ体に密着し動きずらい。

 

 

「はぁ……厄日だ」

 

 

 辛い仕事をこなして儲けたと思ったら変な奴らに絡まれおぞましい何かに追われ、崖から落ち頭を打った上に金をなくし着物が濡れて気持ちが悪い。ここまで来たら何かにたたられていると思うのが自然であろう。

 重富は暗い思いで家へ帰った。

 

 

 

 

 

 気持ちが沈んでいるせいか重い体を引きずって自分が暮らしていた小屋にたどり着く。しかしなぜか戸は破壊されていた。

 

 

「なんだってんだ」

 

 

 家の中に入ると知らない()()()()()()。炭治郎たちのものではない。全く知らない気配。冷たく背中が凍えるようなおぞましいものだ。重富は生物が放つ気配を感じ取ることができる人間だ。気配は場所や物からも感じ取れる。

 

 

(今度こそ狼か? いや狼が戸を壊すわけないし……ってことは熊か? てかそもそも普通の生物も気配がしないぞこれ)

 

 

 壊れた戸からは知らない何かの気配がした。動物のものは違う気配。家の中へ目を向けると家の家具や物には一切傷がついてなかった。昨日、重富が家を後にした時のままだ。もし金目の物狙いの輩が来たのだとしても戸は壊さないだろうし家の中を荒らされた様子が全くない。重富は妙な胸騒ぎがした。

 

 

「……っ!」

 

 

 気が付けば重富は走り出していた。もしかしたら炭治郎の家に向かっているかもしれない。

 

 

(大丈夫だ。もし何か来ても炭治郎がいる。炭治郎はやるときはやる男なんだ!)

 

 

 重富は自分にそう言い聞かせて炭治郎の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だよ……これ」

 

 

 

 

 炭治郎の家の前まで着くと家は、炭治郎の家族たちの血で血の海だった。家の床も壁も障子も全て血に染まっていた。そしてみんなからは生気を全く感じない。

 

 

(違う。違う。こんなのは嘘だ。ありえない。ありえていい事じゃない……)

 

 

 重富は家の前で血まみれなった六太を抱き起こす。起こせばきっと目を覚ましてくれる。きっとただ眠っているだけだ。他のみんなも起こせば必ず目を覚ましてくれるはずだと。

 

 

「なぁ……起きろ六太。しっかりしろ。起きてくれ頼むから」

 

 

 六太は起きなかった。何度揺すっても、何度声をかけても。六太の体は冷たい。まるで氷にでも触れているみたいに冷たく冷え切っていた。重富の目には涙がたまり始める。

 

 

「なぁ……みんな起きてくれよ。葵枝(きえ)さん、竹雄(たけお)花子(はなこ)(しげる)六太(ろくた)……お願いだから」

 

 

 重富は懇願する。しかしいくら懇願したところで死者は目覚めることは無い。決して。しかしそれでも重富は懇願する。目を開けてくれと、

 

 

「…………炭治郎。……ッ! そうだ炭治郎がいない!」

 

 

 その時重富は口にして初めて気づいた。血にまみれたみんなの中に炭治郎がいない。

 

 

「それに禰豆子ちゃんもいない……」

 

 

 炭治郎の妹で長女の禰豆子の姿がない。周囲を見渡すがそれらしきものは見えない。この場にいないということはどこか別の場所で倒れているか今もなお襲われている可能性が高い。

 

 

(行かなきゃ……生きてるなら、守らなくちゃ)

 

 

 重富は六太の体をそっと葵枝さん達の近くにそっと寝かせて家の隅にあった斧を手に取る。人をこれだけ無惨に殺す奴だ。武器が必要になる。重富は決意を固める。必ず炭治郎と禰豆子を見つけ、みんなを殺した奴を探し出し殺すことを。

 

 重富は家を飛び出して街の方角へ向かう。もし今も襲われているなら街へ助けを求めるはずだからだ。

 

 

 しかし、炭治郎達には出会えなかった。

 

 

 

 

 

 

 ~*〜

 

 

 

 

 

 重富が炭治郎を探しに町へ向かって走り出した頃、炭治郎は町へ行く際に冨岡義勇(とみおかぎゆう)なる男と出会い鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)の元へ行くように告げられた。

 そして炭治郎は身支度と家族の埋葬の為に家に戻っていた。

 

 

「六太が倒れていた場所から移動してる……」

 

 

 炭治郎が禰豆子を連れ、家へ戻ると玄関先で倒れていた六太がどうしてか移動していた。もちろん六太が自分で歩いて移動したのはありえない。炭治郎は確かに六太が死んでいるのを確認したのだから。

 

 

「それに、竹雄の目が閉ざしてある」

 

 

 目を開けたまま息絶えていたハズの竹雄の目が閉じている。誰がこんなことをしたのか……炭治郎は鼻が利く。家に残った匂いを嗅ぐとその匂いに覚えがあった。

 

 

「重富が来たんだ……それで六太を母さんの隣に寝かせて竹雄の目を閉じてくれたんだ」

 

 

 たまたま山で出会った友人の狛江重富が来ていたことを知った。

 

 

(きっと、重富なら俺と禰豆子がいないのに気づいて探しに出るハズだ)

 

 

 しかしこの場に来るまで重富とは出会わなかった。禰豆子を医者に見せる為、町へ向かったが途中で崖から落ちてしまったので回り道をしたらすれ違いになってしまったのだ。

 

 

(探しに行きたいけど……これ以上母さん達をこのままにしておけない)

 

 

 一刻も早く埋葬をしてあげたかった炭治郎は禰豆子に重富が来たら教えてくれるよう頼み、自分は埋葬を始めることにした。

 

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

 

 

(どこだ……どこに行ったんだ炭治郎! 禰豆子ちゃん!)

 

 

 炭治郎が家に戻っていることを知らない重富は町へ着いていた。町の中を走り回って探すが2人の気配がしない。重富は声に出し名を叫ぶ。

 

 

「炭治郎ッ! 禰豆子ちゃんッ!」

 

 

 すると手や着物に血をつけて走り回る重富を見て顔見知りの商人が血相を変えて来た。

 

 

「お、おい! 重富お前その血何があったんだ!?」

 

「おっちゃん! 炭治郎と禰豆子ちゃん来てないか!?」

 

 

 重富は商人の男が目に入るなり男の質問を無視して襟を掴んだ。そんな重富の真っ青な顔を見て男はただ事じゃないと察し、答えた。

 

 

「たっ炭治郎なら昨日炭売りに来たが今日は炭治郎も禰豆子ちゃんも来てないよ……」

 

 

 重富に襟を掴まれ首がしまりながらも必死に答える。その答えを聞いた重富はさらに顔を青白くする。既にまともな顔色ではない。すぐにでも倒れるのではないかというほどだ。

 

 

(町には着いてない? なら、まだ山の方か……ッ!)

 

「おい! 重富ッ!」

 

 

 重富は山へ向かって来た道を戻り始める。商人の男の静止も届かず重富は再び山に入り、炭治郎と禰豆子を探し続けた。

 

 

 探し続けたすえ、結局炭治郎たちは見つからず家の付近まで帰ってきてしまった。

 

 

(目が霞む……)

 

 

 昨晩から今まで何も口にせず山道を走り回った重富の体は疲労で限界だった。喉も叫ぶすぎで潰れかけている。足もおぼつかずにフラフラしている。

 

 

(クソ……倒れてる場合じゃ……)

 

 

 指一本にすら力が入らず、気が遠くなっていく。

 やがて重富はゆっくりと倒れていった。

 

 すると重富の顔に触れたのは冷たい雪の感触ではなく暖かい人のものだった。そして甘いいい香りが重富の鼻をくすぐる。優しくて暖かい大好きな人の匂い。そして頭には誰かが撫でる感覚があった。

 

 その暖かさと匂いは切羽詰まっていた重富の緊張を解き、安心させた。安心すると今度は眠気が襲ってくる。疲労もあり重富とは抵抗もできずまぶたを閉ざした。

 

 

「禰豆子! 重富帰ってきたのか?! って頭を怪我してる!」

 

 

 閉ざしたまぶたの裏をみながら重富の意識は薄れていき、眠りについた。

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

 重富が炭治郎達の家の付近で禰豆子の胸の中で力尽きて眠った後、炭治郎が家まで運び布団を敷いて寝かせる。

 

 

「本当によく眠ってる。相当疲れてたんだろうな」

 

 

 炭治郎は血色の悪い重富の顔を見て不安げに言った。しかしどんな理由で家に来たのかはわからないが来たらあんな有様だったのだ。

 もちろん、自分もそうだが重富も動揺のだろう。そして炭治郎と禰豆子がいないことに気づき、冬の山道をこんなになるまで探し続けたのだ。

 そうでなくても重富は昨晩、男達と正体不明の何かに追われ軽傷だが怪我もしている。倒れるのが普通だ。

 

 

 炭治郎は迷っていた。

 

 

 炭治郎は鬼になってしまった禰豆子を人間に戻すために家を出る事を心に決めていた。鬼狩りの冨岡義勇という男が言った狭霧山の鱗滝左近次の元へ向かう。少しでも情報を手に入れる為に鬼と戦うこともあるだろう。危険な道のりだ。

 

 そして、重富はその事情を恐らく知らない。

 

 それに友人とはいえ重富を巻き込んでしまっていいものか悩んでいた。

 

 しかし重富ならば事情を言えばふたつ返事でついて来てくれるだろう。

 

 だからこそ迷う。

 

 重富は人と笑っているのが大好きな人間だ。町の人達にも親しい人はたくさんいる。

 ならば、町に残って町の人達と笑って過ごした方が幸せなのではないか……

 炭治郎は重富から目を逸らさずどこかうわの空の禰豆子に対して言った。

 

 

「禰豆子……こんな状態の重富を置いて行くのも酷いかもしれないけど、重富には何も言わず行こう」

 

 

 そして炭治郎は決断した。友に置いて旅立つ決意を──

 




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第2話 最終選別

感想、評価、質問などお待ちしております。
(〃・д・) -д-))ペコリン

真菰って可愛いですよね((ボソッ…


 重富が目を覚ますと布団の横に一通の置き手紙があった。手紙の筆跡から炭治郎のものだということが分かった。手紙の内容は──

 

 

『重富も知ってると思うけど、今回何者かに禰豆子以外を惨殺されてしまいました。その為、禰豆子と一緒に親戚の人にお世話になる事になったのでこの家を後にすることにしました。重富には急で悪いけど達者で

竈門炭治郎』

 

 

 というものだった。しかし、その内容が嘘だとすぐにわかった。炭治郎の家にあった知らない気配は不気味なものであったし何より家族をあんな目にした奴を炭治郎が放っておくハズがない。

 

 重富は炭治郎が自分に何か大事な事を隠して行った事を察した。それがとても重要で、嘘をついて出ていったのは重富自身の事を考えてした事だということも。

 

 重富には炭治郎以外にも町に友人と呼べる人達がいる。炭治郎に紹介してもらったのが切っ掛けだった。歳が離れている人もいれば近い者もいた。その人たちそれぞれに大切な思い出がある。

 

 

「く……ぅ」

 

 

 でも、だからかこそ重富は一緒に連れて行って欲しかった。

 

 自分の無力さから目から涙がこぼれる。

 

 そんなたくさんの大切な人達を作ってくれた炭治郎だからかこそ、「力を貸して」と言って欲しかった。

 

 

「……なんでだよ頼ってくれたっていいじゃんか」

 

 

 

 〜*〜

 

 

 鬼殺隊最終選別試験会場

 

 

「皆様、今宵は鬼殺隊の最終選別に集まって下さりありがとうございます」

 

 

 山の中の開けた場所でどこからともなく綺麗な着物を来た2人組が現れ、会場に集まった20人ばかりの少年少女を労った。

 

 炭治郎は狭霧山へ行き、元鬼殺隊で育ての鱗滝左近次に教えを乞うた。育てとは己の技を他者へ伝授し屈強な剣士に育てる者のこと。炭治郎は鱗滝に"全集中の呼吸"という呼吸法を習い、まだ完壁ではないが水の呼吸を会得した。

 

 そして二年の修行を経て鱗滝に枷かれた大岩を切るという課題をクリアし鬼殺隊の最終選別に来ていた。

 

 

「皆様にはこの藤の花に囲われた山で七日間、生き延びてもらいます」

 

 

 会場に集まった受験者に試験内容を簡潔に説明し、試験を開始する。

 

 

「では、いってらっしゃいませ」

 

 

 その言葉と共に受験者は一斉にそれぞれ山に入っていく。

 

 

「おや?」

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

 炭治郎が少しでも太陽が速く上る方角、つまり東に向かって走ると炭治郎の進む方向から二つの声が耳に入る。

 

 

「久方ぶりの人肉だァ!!」

 

「あいつはオレのモンだ!」

 

 

 暗い夜の闇から現れたのは二体の鬼だった。片方は肘が鋭い刃物ようになっており、もう片方は耳が尖っている。

 炭治郎は冷静に刀を抜き、教わった技をくり出す。

 

 

『全集中・水の呼吸、肆ノ型 打ち潮』

 

 

 鬼の急所である首を二体同時に()ねる。

 

 

(やった! 鬼を倒せた……鱗滝さんに教わったことは無駄じゃなかった!)

 

 

 二年間の修行を経て、自分の力で鬼を倒せた。その努力が実を結び、炭治郎は湧き上がる感動を噛みしめる。しかしゆっくりと感傷に浸っている場合ではない。今は七日間生き延びることだけを考えなければならない。

 それぞれ違う場所に置いてきた妹と友のために生きる。それだけを胸に炭治郎は東へ向かう。

 

 

(……ッ! なんだこの腐ったような匂いは⁉)

 

 

 突然、炭治郎の嗅覚に今まで嗅いだことのない腐臭を感じた。鬼の匂いだ。それも強烈なおぞましいような匂い。

 

 

「なんで⁉なんでこんなとこに()()()()()がいるんだよ!」

 

 

 一人の最終選別受験者が絶望した顔で叫ぶ。炭治郎は木の陰に隠れ気づかれないように鬼の姿を確認する。

 その鬼は不気味な抹茶色で太い腕が体から何本も生え、体や首を覆うように巻き付いていた。多くの腕の中の一つには受験者が既に息絶えていた。明らかにただの鬼ではない。正しく異形だ。

 

 鱗滝は基本的に鬼の強さは喰った人の数で決まると言っていた。あの鬼はどれ程の人を食べたのであろう。そんなことを考えている間に既に殺されていた受験者を鬼は特大の口で足から頭まで一口で平らげた。

 

 鬼は数多くある腕を一本の腕に集め伸長させもう一人の受験者を捕える。

 

 

(怯むな! 助けろ! 助けろ!)

 

 

 見ず知らずの他人であっても見放せない炭治郎は異形の鬼に恐怖を抱きながらも木の陰から飛び出した。

 

 

『水の呼吸、弐ノ型 水車(みずぐるま)

 

 

 体を水車のように回転させ、受験者を掴んだ腕を断ち切った。

 

 

「「……っ」」

 

 

 受験者は重力に従い地に落ち、鬼は炭治郎の姿、厳密にいえば炭治郎が着けていたお面を見てニタリと笑った。

 

 

「また来たな、俺の可愛い狐が」

 

 

 そのどこか悦びに染まった表情が何を意味するのか炭治郎はすぐに知ることになる。

 

 

「小僧、今は明治何年だ?」

 

 

 異形の鬼は炭治郎に対し、年を聞いてきた。炭治郎は首をかしげながらも鬼の問いに答えた。

 

 

「明治? 今は大正時代だ」

 

 

 世は大正時代。明治は終わった時代である。その答えを聞くと異形の鬼は地団駄を踏んで喚き始めた。

 

 

「あ"あ"ぁ"ぁ"! 年号が変わっているぅ!!!」

 

 

 重く大きい体でドタバタと地なりがするほど喚き散らす。すると、鬼が炭治郎にとって気になる事を言い出した。

 

 

「俺がここに閉じ込められている間に! 許さない! 鱗滝め! 鱗滝め! 鱗滝めぇ!」

 

「鱗滝さんを知ってるのか!?」

 

 

 こんな試験用に閉じ込められた鬼がなぜ炭治郎の師である鱗滝左近次の名を知ってるのか……それは何を隠そうこの鬼を捉え、この山に閉じ込めたのが他でもない鱗滝左近次だったからだ。

 

 この鬼は江戸時代、慶応の頃に鱗滝に捕まりこの山に放り込まれた。それから今まで計五十人の人々を喰らった。その中に鱗滝の弟子が十三人もいる。

 この異形の鬼は鱗滝への恨みから鱗滝がほった厄除(やくじょ)の面を目印に鱗滝の弟子を皆殺しにしていた。

 

 

「…………ッ!」

 

 

 感情が高ぶった炭治郎は異形の鬼に切りかかる。しかし冷静さをかいた炭治郎は呼吸を乱し、スキをつかれて木に叩きつけられた。狐の面が割れて気を失う。

 

 

「クククッ……これでまた1人鱗滝の弟子が死んだ」

 

 

 炭治郎を仕留めたと確信した鬼は恍惚に充ちた表情を浮かべてゆっくりと腕を伸ばしていく。

 そして鬼の腕が炭治郎を掴もうと触れる瞬間───

 

 

「なっ……!」

 

 

 一本の刀が飛来し鬼の腕を貫いて木に突き刺さった。

 

 

「ちょっと悪ぃな、お前が今喰おうとしてるソイツ。()()()()()()()()

 

 

 森の奥からやって来たのは、炭治郎が故郷に置いてきたハズの狛江重富だった。

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

「だァ〜〜っ! クッソ遅刻だ! あのジジィが最後まで鬱陶しい真似するから!」

 

 

 鬼殺隊最終選別が始まってすぐ、会場へ向かう人影が一つ。悪態をつき、左腰にさした2本の刀を手で固定して駆け上がる。

 

 

「これで炭治郎が来てなかったらこの2年の修行が水の泡だな……」

 

 

 会場を目前にして炭治郎がここに来ていない可能性を考え不安になる。

 そして長い階段を登り終え会場までたどり着く。

 

 

「貴方は……鬼殺隊最終選別を受けに来られた方でしょうか?」

 

 

 会場に着くと開口一番黒い髪に綺麗な着物を着た少年がいた。隣には白い髪をした少女がいた。顔がよく似ている。

 

 

「えっ、あ〜……そっすね。遅れてすいやせんした!」

 

 

 自分の目的とは微妙に違うので少々考えたがとにかく山に入るためにそうだと答える。遅れた為受けられないとなればどうしたものかと冷や汗を流す。

 

 

「では、この先の山奥で7日間生き延びてください。それが合格条件です」

 

 

 少年は顔色一つ変えずに選別内容を簡潔に説明する。それを聞いて恐らく兄妹であろう2人の横を抜けて山へ入る。

 

 

「ありがとう!」

 

 

 すれ違いざまに礼を言って通り過ぎる。すると2人は山へ入る背中を見すえ──

 

 

「「お気をつけて」」

 

 

 一礼をした。それに対し片手を上げる事で返事を返す。

 

 

(さて、炭治郎を探さなければ)

 

 

 集中し、周囲に漂う気配を辿る。入って早々近くに鬼の気配があったが無視して突き進む。

 だが鬼は見つけた途端嬉しそうな顔をして飛びかかってくる。

 

 

「うっひゃー! 死ねぇぇえ!」

 

 

 鬼の姿を視認し、刀の柄を握る。今は立ち止まっている暇はない。

 

 

『雨の呼吸、壱ノ型 驟雨(しゅうう)

 

 

 目にも留まらぬ速さで飛びかかる鬼の首をはねる。首をはねられた鬼は頭、胴体ともに黒ずみ崩れる。

 走る速さを一切緩めずひた走る。走る中で懐かしい気配が夜の山に残っていた。炭治郎のものだ。すぐさま残った気配を辿る。

 すると木の影から1人の少年が飛び出してきた。

 

 

「うおっ!」

 

 

 飛び出してきた少年とぶつかりそうになり、体に急停止をかけ避ける。飛び出してきた少年は恐怖に震え真っ青な顔で鬼ではないと分かると今来た方向を指さして言った。

 

 

「お、おい! あっちに大型の異形の鬼がいる! お前も逃げろ!」

 

 

 どうやら鬼から逃げてきたようだ。しかし、鬼の身体能力や回復力は人を遥かに上回っている。よって人が鬼を倒しきれなかった場合、人は高確率で鬼からは逃げきれない。

 

 

「おい、その異形と今誰か戦ってるのか」

 

 

 ならば何故この少年は逃げてここまで来れたのか……理由は単純だ。鬼が自分以外の誰かを相手しているうちに逃げてきたのだ。

 

 

「あっあぁ……狐の面をした奴が今戦ってる……」

 

「チッ!」

 

 

 少年がそう答えると同時に少年が逃げてきた道を急いで向かう。

 確証はない。ただの感だ。だがもし、ここに炭治郎がいたとするなら赤の他人を庇い自分が戦った事もない様な強い敵に立ち向かう。そして今、炭治郎はその異形の鬼と戦っている。

 だから、全力で走った。もうあの日とは違うのだと……

 

 

 全速力で少年が逃げてきた方向を真っ直ぐに進むと間もなく、木の間から不気味な太い腕が何かに手を伸ばしていた。木で誰に向かって伸ばしているかはわからないが視認する必要は無い。気配で分かったからだ。

 

 

『雨の呼吸、参の型 遣らずの雨』

 

 

 刀の1本を抜き腕に目がけて蹴り飛ばす。刀は真っ直ぐに腕を貫通し木に打ち付ける。

 

 

「なっ!?」

 

 

 突然死角から攻撃を受けた鬼は驚愕を(あらわ)にする。鬼が驚いたスキに手を伸ばされていた者を庇うように躍り出る。

 

 

「ちょっと悪ぃな、お前が今喰おうとしてるソイツ。俺の友達なんだわ」

 

 

 あの日、もう誰もいない家に1人残されてから2年。狛江重富はやっと自分が立ちたい場所へと辿りたいた。

 

 

「誰だ!? お前はァ!」

 

「だーから友達だっつってんだろ。腕増やし過ぎて脳みそ足りてないんじゃないのか?」

 

 

 重富はもう一本の刀を鞘から引き抜き、腰を低くして構える。

 

 

「重富……なのか?」

 

 

 鬼に木へ叩きつけられた炭治郎が目を覚まし、目の前の光景に驚く。過去に置いてきた、いるハズのない人間が目の前にいるからだ。

 

 

「おう! 起きたか! さすが炭治郎頑丈だな!」

 

 

 一瞬、横目で炭治郎の様子を見た後すぐに目線を鬼に戻す。

 

 

「なんで重富がこんな所に……」

 

 

 木に叩きつけられた体で立ち上がりながら心からの疑問を口に出す。

 

 

「あーそれは後だあと! とりあえず動けるか?」

 

「あ、あぁ!」

 

 

 炭治郎は刀を構える。

 

 

「数が増えたからどうなんァ〜!」

 

 

 鬼が多くの腕を伸ばし攻撃を開始する。伸びてくる腕を次々と切り伏せる。

 

 

「なに、お前の腕が減る速度が倍になっただけさね!」

 

 

 重富と炭治郎でほぼ全ての腕を斬り伏せる。2人で全く逆方向から切り込んでいるのでいずれ鬼は重富と炭治郎の攻撃を処理しけれなくなって行く。

 

 

「ちっ! クッソォ!」

 

 

 腕をまとめて巨大化し、重富目掛けて横薙ぎに振る。重富はその攻撃を跳躍で回避した。鬼の背後、さらに腕はほぼ出し切っている。首を取れる。そう確信して首に刃を入れようとした時──

 

 

「待ってくれ重富!」

 

「…………ッ!?」

 

 

 鬼の首をはねようとした重富に向かって炭治郎は静止を呼びかけた。重富は咄嗟に鬼の肩の部分を足場にして距離をとった。

 

 

「何だよ炭治郎! 取れそうだったのに!」

 

 

 地面に着地してから炭治郎に文句を言った。今のは確実に取れる場面だった。

 

 

「ごめん! でも、コイツは俺にやらせてくれ!」

 

「やらせてって……」

 

 

 ついさっきまで殺られそうになっていた奴が何を言うかと内心呆れる。しかし炭治郎もそれは重々承知の上のハズだ。鬼との戦いで自分の意地を優先する性格ではない。炭治郎が意地になる時は大抵自分以外の誰かの為だ。

 

 

「はぁ……分かった。援護してやるから好きにしろ」

 

「ありがとう!」

 

 

 頭の固い炭治郎の意地をどうにかするのはこの鬼を倒すよりも骨が折れる。それはよく分かっている。だから理由は後で聞こうと決めて思考を炭治郎の援護のみに切り替える。

 

 

「さっきソイツが首を刎ねとけばよかったのになァ! もう近ずかないない!」

 

(ちっ! やっぱそう来るよな……)

 

 

 作戦は鬼にも丸聞こえだった。来るとわかっている炭治郎を警戒しない訳が無い。炭治郎を中心に腕が襲いかかる。

 重富は炭治郎に向かっていく腕を切り裂きながら、再び距離を詰める。

 鬼へ迫るさなか下から違和感がした。

 

 

「炭治郎! 下だ!」

 

「あぁッ!」

 

 

 思い切り横へ跳び炭治郎に叫ぶ。炭治郎もわかっていたのか一瞬の躊躇いもなく上に跳んだ。それと同時に丁度先ほどまで二人がいた場所から特大の腕が飛び出した。避けられた事を想定していたのか鬼は瞬時に次の腕を突き出す。炭治郎が避けた先は空中だ。避けられる(すべ)がない。

 

 

「なァ!?」

 

 

 重富は鬼の懐へ飛び込み足を切りつけて体制を崩す。鬼の体制が崩れたことによって腕が逸れる。炭治郎はそれた腕を足場に鬼の顔へ接近する。

 

 

『水の呼吸、壱の型 水面斬り!!!!』

 

 

 炭治郎の刀が鬼の首をはねた。体から離れた頭はゴロゴロと転がり、体は崩れていく。重富と炭治郎は刀を鞘へ戻し崩れゆく鬼の姿を見つめる。崩れていく体に残った手を炭治郎は優しく握り祈った。

 

 

(どうか、この人が次生まれて来る時は鬼になんてなりませんように…)

 

 

どんな鬼だって自ら鬼になった訳では無い。鬼にならされてしまったのだ。

 

 

(おいおい、鬼にまで感情移入してるんじゃないだろうな?)

 

 

鬼の手を優しく握る炭治郎の姿を見て「冗談だろ?」と唖然とする。普通の人間ならしない。今の今まで喰われるか殺すかのやり取りをしていた相手に対して慈愛の目を向けるなんて事は。

 

 

(ま、まぁお変わりがないようで…うん)

 

 

2年経っても変わらず優しすぎる友人に、正直少しは変わっていて欲しかったと苦笑いする重富だった。

 




説明コーナー

炭治郎「なぁ重富、今回でた雨の呼吸壱ノ型驟雨(しゅうう)ってどんな技なんだ?」

重富 「あん?何でそんなこと聞くんだよ」

炭治郎「いや、この作品の作者に読者の理解を深める為に聞けって手紙が」

重富 「手紙ってこれ…ノートの切れ端じゃね?」

炭治郎「まぁまぁいいから。教えてくれ、俺も見てないんだよ」

重富 「あーはいはい。雨の呼吸の壱ノ型、驟雨ってのは居合技技なんだ」

炭治郎「居合技?」

重富 「そ、驟雨ってのはそもそも急に降り出してはすぐに止む雨の名前だ。それにちなんで鞘から物凄い速さで刀を引き抜き空いてき切り付け鞘に戻す。そうゆう技らしい」

炭治郎「らしい?ってどうゆう事だ?」

重富 「ノートの切れ端の裏に回答が書いてあった」

炭治郎「………」

重富 「………」

炭治郎・重富「「これ作者が1人で説明すればよかったんじゃないか?」」



好評のようでしたら続けます。


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第3話 友達

感想や評価、質問などございましたら遠慮なくどうぞ!


「はァァ? 禰豆子ちゃんが鬼になった!?」

 

 

 夜の山に重富の声が響き渡った。大型の異形を倒した後、重富は炭治郎の太陽が出るのが早い東へ向かうという考えにのり東へ向けう。その最中お互いの2年間について話していた。

 そこで重富は炭治郎の妹である禰豆子が鬼になったと聞かされ血の気が引いた。

 

 

「嘘だと信じたい事実だな」

 

「あぁ俺もそう思った。けど本当なんだ」

 

「いや信じるけどさ」

 

 

 重富は炭治郎が嘘をつけない性格なのを知っている。炭治郎が言っていることは紛れもない事実だ。だからこそ困惑する。

 

 

「でも信じてくれ。禰豆子は絶対に人を襲ったりしない!」

 

 

 炭治郎は拳を強く握り重富の目を真っ直ぐに見て言った。

 

 

「それも信じる。禰豆子ちゃんの事は炭治郎程じゃないけどよく知ってる」

 

 

 生まれてからずっと一緒だった炭治郎程ではないが重富も長い間禰豆子の事を見ていた。例え鬼になったとしても誰かも傷つけることはしないと信じている。

 

 

「でも驚いたな、てっきり鬼殺隊に入るのは葵枝さん達を殺した奴を探す為だと思ってたから」

 

「もちろん、それもある。けど禰豆子を人間に戻す方法も探す為でもあるんだ」

 

 

 鬼になってしまった人間を人間に戻す方法。それは鬼に聞く事が1番早い。そのために炭治郎は鬼殺隊最終選別を受けたのだ。

 

 

「それで、重富はどうして最終選別に来てるんだ?」

 

 

 正直、炭治郎はさっきから1番聞きたかった事を聞いてみた。

 

 

「そりゃもちろん……っと」

 

 

 重富が話そうとしたら近ずいてくる気配を感じ取った。炭治郎もそれに気づき立ち止まる。

 

 

「どうやら話はまた後みたいだな」

 

「そうだな、鬼にも人間に戻す方法を聞かないと」

 

 

 刀を引き抜き構える。そして重富と炭治郎は襲いかかる鬼に鬼になった人間を元に戻す方法を聞いて行く。

 順調に鬼を倒して行くうちに7日間が過ぎた。

 

 

 

 〜*〜

 

 

「たった5人!? 二十人近くいたはずなのに!」

 

 

 最終選別を開始した場所まで戻ると炭治郎、重富を含め戻ってきたのは5人のみだった。つまりここに戻って来れなかった者は皆殺られてしまったという事だ。

 

 

「炭治郎を置いてったあの坊っちゃんみたいな奴もいないな」

 

 

 炭治郎が助け、重富に炭治郎の場所を教えた少年がいない。見た目の服が上物に見えたので重富は勝手にいい所の坊っちゃんだろうと決めつけていた。

 

 生き抜いた5人は無言で蝶を愛でる者、ここに集まった時からブツブツと

 

 

「死ぬわ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。ここで生き残ってもすぬ死ぬわ。俺」

 

 

 泥まみれの顔をして青ざめている者、顔に大きな傷がある者。

 

 

(変な奴ばっか……)

 

 

 自分たち以外の3人でも癖の強い者しかいない。そんなメンツの中に自分たちも含まれていると思うと些か複雑な気分になる重富。

 

 

「お帰りなさいませ」

 

「ご無事で何よりです

 

 

 最終選別を生き残った5人に対して労いの言葉を送る黒髪と白髪の2人組。

 

 

「で、俺はこれからどうすりゃあいい? 刀は?」

 

「まずは隊服を支給させて頂きます。体の寸法を測りその後は階級を刻ませていただきます」

 

「階級は十段階ございます。(きのえ)(きのと)(ひのえ)(ひのと)(つちのえ)(つちのと)(かのえ)(かのと)(みずのえ)(みずのと)。今現在皆様は一番下の(みずのと)でございます」

 

 

 重富達は2人組の丁寧な説明を素直に聞く。鬼殺隊のこの階級の上がるにつれ支給される給金も多くなる。

 

 

「刀は?」

 

「本日中に玉鋼を選んでいただき刀が出来上がるまで十日から十五日となります」

 

「さらに今から鎹鴉(かすがいがらす)をつけさせていただきます」

 

 

 白髪の少女がパンッパンッと両手を叩くと空から4羽の鴉が舞い降りてそれぞれの肩に乗る。もう一度言うが4羽だ。この場にいるのは5人。

 

 

「え? 鴉? これ雀じゃね?」

 

 

 金髪の髪をした少年の元に来たのは鴉ではなく雀だった。

 

 

鎹鴉(かすがいがらす)は主に連絡用の鴉でございます」

 

(ようは伝書鳩(でんしょばと)みたいなもんか)

 

 

 伝書鳩は足に手紙を結んで相手に送るよう訓練された鳩の事だ。きっとこの鴉もそういう役目なのだと重富は認識した。

 

 

「ふざけんじゃねェ!」

 

 

 顔に大きな傷がある男が激昴し白髪の少女に向かって怒鳴り散らす。

 

 

「どーでもいいんだよ鴉なんて! 刀だよ刀! 今すぐ刀をよこせ! 鬼殺隊の刀! "色変わりの刀"!」

 

 

 男は白髪の少女を殴り髪を鷲掴みにする。それを見かねた炭治郎が男の腕を掴んだ。

 

 

「この子を放せ! 放さないなら折る!!」

 

「おーいそこのとさか、炭治郎は折るつったら折る男だゾ〜」

 

「誰がとさかだ! やれるもんならやってみろよ」

 

 

 炭治郎は空気を吸い込み手に力を込める。物凄い力で掴まれた腕が軋み痛みで咄嗟に手を放して炭治郎を睨む。

 

 

「お話は済みましたか? ではあちらから刀を作る鋼を選んでください。鬼を滅し、己の身を守る鋼は御自身で選ぶのです」

 

 

 用意された机に刀を作る鋼が並べられた。大きさ、形共にバラバラだ。その中から自分たちの鋼を選び、その日は解散となった。

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

「甘かったなぁ」

 

 

 鬼殺隊の最終選別の帰り炭治郎がふとそんな事を言った。

 

 

「甘かったって……何がだ?」

 

 

 炭治郎について来た重富が首傾げて聞いた。

 

 

「最終選別中に沢山の鬼にあったけど鬼を人間に戻す方法を聞き出せなかった」

 

 

 帰り道で拾った木の棒を杖替わりにして炭治郎はそう答えた。

 炭治郎と重富が最終選別で出会った鬼は計8人以上。その中でも重富が最初にあった鬼と異形の鬼は抜いている。それ以外全ての鬼に聞き回ったが誰一人、まともな会話すらできなかった。

 

 

「どいつもこいつも問答無用で殺しにかかって来たからな〜」

 

 

 中でも重富は手足を切り落とし身動きが取れないようにして聞いたが誰も答えなかった。

 炭治郎は疲労のせいか気を落としておぼつかない足取りだ。

 

 

「おい大丈夫か炭治郎? おぶろうか?」

 

 

 重富が心配しおぶるよう言うが炭治郎は横に首を振った。

 

 

「いや、大丈夫だ」

 

(いやいや大丈夫に見えんから言ってるんだけど……)

 

 

 あからさまに疲労困憊な状態だがおぶるのを拒否する炭治郎。これでは心配でしょうがないため重富は炭治郎の支給服をひったくる。

 

 

「重富……?」

 

「これがお互いの意見を通した結果だ。早く帰るぞ。禰豆子ちゃんが待ってる」

 

 

 さらに炭治郎に肩を貸してそう言った。

 

 

「あぁ、ありがとう重富」

 

 

 炭治郎は笑ってお礼を言った。

 

 

「…………どーいたしまして」

 

 あまりに真っ直ぐお礼を言われた重富は照れくさく頬をかきながら笑顔を返した。

 

 

 

 

 

 

 炭治郎の案内で育ての鱗滝と禰豆子がいる家に着いたのは日が暮れた頃だった。

 

 

「やっと着いた」

 

「ホント……遠かったな……」

 

 

 重富と炭治郎は小屋を前にしてホッと息をつく。安堵して再び進み始めるとバンッと音を立てて小屋の戸が蹴り飛ばされた。小屋から出てきたのは禰豆子だった。

 

 

「あぁ……あぁぁあ! 禰豆子! お前……起きたのかぁ!」

 

「おっおい炭治郎!」

 

「禰豆子……うぐっ」

 

 

 炭治郎は禰豆子に駆け寄ろうとするが疲労で足に力が入らずコケてしまった。禰豆子は炭治郎に駆け寄り抱き締めた。

 

 

「わ──っ! お前、なんで急に寝るんだよォ、ずっと起きないでさぁ! 死ぬかと思っただろうがぁ!!」

 

 

 お互いを強く抱き寄せる。炭治郎は大粒の涙を流して叫んだ。心からの安堵だった。炭治郎が鱗滝の元で修行を初めてから今まで禰豆子は1度も起きなかった。

 医者に見てもらうも異常は見つからずただただ眠り続けていた。もうこのまま目覚める事はないのかと炭治郎の頭によぎらない日はなかった。

 だが今日、禰豆子は目覚めた。禰豆子はずっと兄の帰りを待っていた。

 

 そしてもう1人、炭治郎の帰りを心より待っていた者がいる。

 

 

「よく生きて戻った!!!」

 

 

 鱗滝は炭治郎と禰豆子を覆うように抱きしめ天狗の面の下から涙を流した。長い間、弟子を自分が捕らえた鬼によって殺され続けた。しかしやっと自分の弟子が生きて帰ってきた。その事がただただ嬉しそうだった。

 

 

 3人で抱き寄せ合い涙を流す炭治郎達を見て重富はもらい泣きをしながら思った。

 

 

(俺、すっげぇ蚊帳の外……)

 

 

 おおよその事情は炭治郎から聞いていたとはいえ、流石にあの中には入れないと疎外感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

「しっかし、この山はやたら罠が多いな」

 

 

 重富は鱗滝が作った狭霧山の罠の多さに戸惑っていた。

 

 

「全部鱗滝さんが仕掛けたんだ。俺も最初は全く避けられなかったよ」

 

 

 辛い修行をしていたあの頃が懐かしいのか炭治郎はクスリと笑った。

 最終選別から帰ってきてはや三日がたった。

 刀が届くまで十五日かかると言っていたので暇を持て余していたため、散歩がてら炭治郎に狭霧山を案内してもらっていた。

 

 

「んで、これがお前が切ったっていう岩か……」

 

 

 その岩は重富や炭治郎より大きくゴツゴツとした表面が岩の硬さを物語っていた。

 

 

「大き過ぎじゃね? そもそも岩って刀で切るものじゃないだろ」

 

「あはは……重富もそう思うか?」

 

 

 炭治郎が初めてこの岩を見た時も今の重富と全く同じ反応をしていた。重富はぐるりと岩の周囲を一周したり、岩をつついてみたりなど岩を舐めるように観察する。

 

 

「この岩俺も切れるかな?」

 

「どうだろう……でも重富ならきっと切れるさ」

 

「どんな自信だよ」

 

 

 確証もないのに何故か胸を張ってできると断言する炭治郎を見て重富は微笑の表情を浮かべる。

 

 

「2年ぶりだけど、炭治郎も元気そうでよかった。禰豆子ちゃんの事は驚いたけどやっぱり禰豆子ちゃんは禰豆子ちゃんだ」

 

 

 実際に禰豆子を見るまでは半信半疑だった重富だが、ここに来て炭治郎と抱き寄せ合う禰豆子の姿を見て鬼になろうと中身は変わらない……心優しい子だと確信した。

 

 

「こりゃあ早く禰豆子ちゃんを人間に戻る方法を見つけ出してやらなきゃな」

 

 

 そう言う重富の横顔を見ていた炭治郎にはとても嬉しそうに見えた。

 

 

「重富は……重富はどうして最終選別に来てたんだ? 選別中、結局聞けなかったけど」

 

 

 度重なる鬼との遭遇で選別中は聞けずじまいだった重富が最終選別の場に現れたのかを聞いてきた。

 

 

「なんでって……それは炭治郎が俺に嘘ついて置いてったからだろ?」

 

 

 重富は悪態をつくように言った。炭治郎は重富に向けて置き手紙を残し連れて出ていった。嘘の内容を書き記して……

 

 

「それは……重富には町に仲のいい人は沢山いるし、重富がそういう人との関係を大切にしてたのも知ってる。だから……」

 

「俺の事を考えて嘘をついたのはわかってるよ」

 

 

 炭治郎が重富を思い嘘をついたのは重々承知している。

 

 

「でもな、炭治郎。その大切な人達を俺にくれたのはお前だろ?」

 

「俺が……?」

 

 

 重富は炭治郎の前に立ち、肩を叩く。炭治郎が目を丸くして聞き返す。

 

 

「そうだ。お前が俺と出会って俺を町に連れていろいろ教えてくれなかったらきっと俺は今も一人だった」

 

 

「もしかしたら死んでいたかもしれない」とありえたかも知れない自分を思い浮かべる。

 炭治郎を目を真っ直ぐ見すえて続ける。

 

 

「お前が言うように町の人との関係は大事だ。けど、一人で孤独だった俺に人との温かさを教えてくれたのはお前だ炭治郎!」

 

 

 一人山奥の小屋で細々と暮らしていた重富を家族に紹介し食卓に招き入れ町で物を教えてくれたのは他でもない炭治郎だった。

 

 

「全部お前から貰ったんだ! 今ある大切なモノは全部お前から貰ったんだ! だからこそ俺は全身全霊でお前を助ける! 例えお前や禰豆子ちゃんが拒否しても絶対助けるからな!」

 

 

 何がなんでも助ける。その為に重富はここまで来た。その為に炭治郎と同じ2年間血が(にじ)むような修行を乗り越えてきた。

 もちろん、炭治郎にそんなつもりはなかったのかもしれない。そうだとしても重富にはあのまま炭治郎も禰豆子も誰もいない家に残るという選択肢はなかった。

 

 

「…………重富」

 

「絶対に町へは帰らんぞ! お前ら兄妹が将来いい人見つけて夫婦になって幸せになる事を確認するまでは付き纏うからな!」

 

 

 頭の固い炭治郎が追い返そうとしてると思い、耳を塞いで炭治郎の声が入らはいないようにする重富。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 炭治郎は震えた声で深々と頭を下げた。重富は炭治郎の急な行動に一瞬面を食らってしまったが不適に笑って言った。

 

 

「当たり前だろ。友達なんだから」




振るう刃は友の為に 説明コーナー

重富(以下重)「またやるのか?」

炭治郎(以下炭)「とりあえずやって欲しいらしいぞ。また手紙きたし」

重「で、今回の説明は何?」

炭「重富の容姿だってさ」

重「は?何だって?」

炭「重富の容姿」

重「なんで」

炭「作中で書き忘れたって」

重「そんなもん次回に書け!ここで書くことないだろ!そもそも物書きなら第1話に書いとけよ!」

炭「事実1話のプロローグは半分鬼滅の刃全巻読破した勢いで書いたから忘れたんだって手紙に書いてあるぞ」

重「なんで文句の回答まで用意してあるんだよ!そんだけ用意周到なら第1話から主人公の容姿くらい書いとけ!」

炭「重富そんなことより早く答えよう。何はともあれ頼まれたんだから」

重「どんな時でも真面目だなお前は…プロフィールでも掲示すればいいか?」


狛江重富(こまえしげと)
男 身長 170cm
髪色は青みがかった黒髪の天然パーマ
好きな物 うどん、竈門家に出るご飯


重「はいこれでいいな、はい終了はい解散」

炭「これでいいのか?」

重「いいのいいの、じゃあほれ行くぞ」


重&炭「「また次回よろしくお願いします」」


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第4話 重富と錆兎、そして真菰

皆さんどうもZakkiです。
前書きで先にぶっちゃけますと原作に二人の登場シーン少ないから少しばかり書きにくかったですw


「ふぅ…この山空気薄すぎ」

 

 

炭治郎とこの先も一緒にいることを約束したその日の夜に2つに割れた岩の前まで来ていた。

 

 

「やっばりここら辺、妙なんだよなぁ…」

 

 

重富は炭治郎にここへ案内された時、言い表せない何かを感じていた。重富は人の気配を察知できる。感知範囲内であれば不意打ちにも対処できる。しかしこの岩、いやさらに言えばこの山はには不思議な気配を感じていた。

普通の人間のもとは違う。だからと言って邪悪な物でもない。それがどうしても気になり、みんなが寝静まった夜中この山を散策に来たのだ。

 

 

「お前が炭治郎の友達か?」

 

「……ッ!誰だ!?」

 

 

真夜中の山奥でかけられるはずのない声に重富は後ろへ飛び退いた。声の発した方向から一人の少年が歩いてきた。

 

 

「その宍色(ししいろ)の髪に狐の面…お前が炭治郎が言ってた異形の鬼に殺された錆兎(さびと)って奴か」

 

 

炭治郎から修行した時の話に出てきた手練の少年。髪色や付けていた面を見て炭治郎の話していた事を思い出す。

その少年は炭治郎に半年稽古をつけ岩を切る手助けをしてくれたと。そして手助けした者はもう一人…………

 

 

「そんでその後ろにいるのが…」

 

「うん、私は真菰(まこも)。こっちは錆兎で合ってるよ。炭治郎から聞いたの?」

 

 

その少女は黒髪を肩ほどまで伸ばし花の柄が入った狐の面をつけて現れた。炭治郎に剣の筋や錆兎との稽古の補助をしてくれたと言っていた。

 

 

「あぁ、聞いてるよ。心底世話になったってな。そりゃーもう嬉しそうに聞かされたよ」

 

 

重富がこの二人の事を聞いた時、やれ錆兎の剣の筋が綺麗だ、無駄な動きが全くなかったとか。やれ真菰が悪い所を一つひとつ丁寧に教えてくれたなど散々聞かされた。

 

 

「それで、お前は………」

 

「おー真菰って炭治郎が言ってた通りすっごい美人だね、俺とよかったら友達になってくれない?」

 

「うん、いいよ」

 

「よろしく〜」

 

 

重富は真菰の側まで歩み寄り握手を交わす。あの炭治郎が珍しく凄く可愛らしい子だと言っていたので重富は1回会ってみたいと思っていたのだった。

 

 

「人の話を聞け!」

 

「アブねっ!何すんだ!」

 

 

錆兎は重富の頭に木刀を振り下ろし重富はそれを仰け反って避ける。

 

 

「お前が炭治郎の友かと聞いてるんだ!」

 

「そうだけどだから何!?」

 

「俺と戦え!」

 

「何言ってんのお前?」

 

 

重富が炭治郎の友達と知るやいなや、唐突に勝負を仕掛けてくる。そんな錆兎の発言に全く理解が追いつかなかった重富。錆兎は重富に向かって木刀を二本投げる。

 

 

「お前の戦いは見てた。その木刀で俺と戦え」

 

「なぁ真菰。コイツ何言ってんの?」

 

「私達はね、ずっと炭治郎と一緒にいた重富の事も見てたの。最終選別でほとんど()()だったでしょ?だから戦ってみたくなったんだと思うよ?」

 

「えぇ〜」

 

 

確かに、重富は目立った外傷もなく最終選別を終えた。錆兎はそこに目をつけたという。正直、だからといって重富に戦う義理はない。

 

 

「はぁ、わかったよ。1回だけだぞ」

 

 

重富は承諾して木刀を構え戦闘態勢に入る。錆兎とも木刀を構え、涼しい夜風が吹く。

 

 

「行くぞ」

 

 

その一言で真正面から突撃してくる。早い、風を切るような速度だ。そして真正面からの斬り合いではより早い方が勝つ。

 

 

目と鼻の先まで迫った錆兎の木刀を右の木刀で弾いて飛ばし、左の木刀で狐の面目掛けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

「これで勝ちって認めてもらえるかな?」

 

 

重富は錆兎が()()()()()()を顔に当てて錆兎に向かって告げる。そして今、弾き飛ばした錆兎の木刀が地に突き刺さった。

重富が行ったのは攻撃への対処と負けを認めさせるための技術(ワザ)

右の木刀で錆兎の木刀を奪い、ついでに左の木刀で錆兎の面も奪い取った。

 

 

「何故木刀を打ち込まなかった?巫山戯ているのか?」

 

 

速度がものを言うやり取りの中で重富は錆兎に木刀を降らなかった。確実に打ち込める余裕があったのにも関わらず……

 

 

「やっと会えた恩人に出会い頭にそんなこと出来るわけないだろ?お礼もまだのに…」

 

 

錆兎の問いに対して重富はそう答えた。その答えに錆兎だけではなく真菰も首を傾げた。

 

 

「お礼って何のこと?」

 

 

重富の言動の疑問に耐えきれず真菰は思わず口に出して聞いた。疑問に思うのは当然だ。重富と錆兎達は今初めてあった。そのハズなのに恩人だと言ったのだ。

 

 

「お前達は炭治郎に稽古をつけてくれたんだろ?もしそれがなかったら炭治郎と俺は選別で会えなかった」

 

 

そもそも錆兎達の協力がなければ炭治郎は岩を切れず選別に来れてなかった。最悪、選別に来ても重富に会う前に死んでいたかもしれない。この二人がいたからこそ重富と炭治郎は再び会うことが出来たのだ。

 

 

「だから、ありがとう。心の底からの感謝と敬意を君たちを含めた()()()()()()()()()贈る!」

 

「「…………ッ!」」

 

 

重富はそう言って深く頭を下げて感謝と敬意を表した。その言葉に錆兎と真菰は驚きを隠せなかった。重富が頭を下げたことにではなく、「ここにいる十三人」という言葉に驚いた。

 

 

「重富、他の子達のことわかるの?」

 

 

重富は頭を上げて真菰の質問に頬をかいて答えた。

 

 

「ん〜わかるっていうか感じるんだよ。俺気配とか探れるからさ。まぁ、それが俺の恩人達とはさっき知ったけどね…あはは」

 

 

重富はバツが悪そうにそう答えた。この山に来た時から重富は錆兎の存在に気づいていた。

だからこそ、突然の勝負にも受けてたった。

 

 

「完敗だ。急に勝負を仕掛けてすまなかった。俺とも友達になってくれないか?」

 

 

 

 

錆兎は笑って手を差し出した。

 

 

「あぁ!こちこそなってくれると嬉しい!」

 

 

重富もそう笑って錆兎の手を握った。

 

 

 

 

 

「ねぇ重富。私とも勝負しよ?」

 

「えっ!?いきなり!??」

 

「俺とももう1回やってくれないか?」

 

「な、ならどうせだから鬼ごっこにしよう!最初は錆兎と真菰が鬼な。あ、俺が勝ったら二人のことや修行中の炭治郎のこと詳しく聞くから」

 

「いいよ〜じゃあ私たちが勝ったら重富のこと教えてね」

 

「それじゃあ行くぞ!」

 

「え、ちょっ!ちょっと待って!」

 

 

 

この後、明け方まで三人の鬼ごっこは終わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、重富。重富!」

 

「……ん、んぁ?」

 

 

体を揺すられ、目を擦りながら体を起こす。そこには炭治郎が眉を寄せて顔を覗かせていた。

 

 

「どうしてこんなところで寝てるんだ?風邪ひいてしまうだろ、しかもこんなに泥だらけになって何してたんだ?」

 

 

炭治郎に指摘されおもむろに自分の体を見ると泥で真っ黒になっていた。それも全身くまなく。

 

 

「うぉ!?何だこれ!」

 

 

すぐさま立ち上がり、着物を叩いて泥を少しでも落とす。辺りを見渡すと二つに割れた大岩の前だった。しかも既に日が昇り空も明るくなっていた。

 

 

「いつの間に寝てたんだろ?」

 

「重富、寝相が悪いにも程があるぞ」

 

「いや寝相悪くてこんな所まで来るか!しかもこんなに泥だらけになる寝相って何!?」

 

 

ため息混じりに頭を抱える炭治郎に重富はそう突っ込みを入れる。

 

 

「じゃあ何をしてたんだ?」

 

「そりゃ錆兎と真菰と……ってあの二人は!?」

 

 

重富は再び周囲を確認するが二人の姿はどこにもなかった。

 

 

「錆兎と真菰?!重富…二人に会ったのか?」

 

 

二人の名を聞いて炭治郎を食い入るように重富を問い詰める。重富は昨晩あったことを包み隠さず炭治郎に話した。

 

 

「そうか、重富にも二人が…」

 

「あぁ、いい奴らだったよ」

 

 

炭治郎は重富の話を聞いて顔を俯かせた。炭治郎も二人にお礼を言いたかったのだ。しかし二人はもうこの世にいない。死んだ二人と出会ったこと、それこそ正に狐につままれるような体験だったのだ。

 

 

「重富、早く鱗滝さんの所に戻ろう。鱗滝さんが朝ごはんの用意をして待ってる」

 

「あぁわかった」

 

 

そう言って炭治郎は山道を降りて行った。その時、重富はふと大岩を見ると何かが上に置いてある事に気づいた。

 

 

(これって…花冠?)

 

 

岩の上に登り確認すると、大岩の上には三つの花冠が置いてあった。一つはとても綺麗にできていて残りは少し歪な形をしていた。もしかしたら鬼ごっこの合間に三人で作ったのかもしれない。

 

 

「ヘッタクソだな…これ俺が作ったのか?」

 

 

三つの中でも特に歪な形をした花冠を手に取って苦笑した。

 

 

「おーい!重富〜置いてくぞー!」

 

「おー今行く!また来るよ…錆兎、真菰」

 

 

重富は花冠をその場におき、そう一言を残して山道を降りて行った。

 

 

 

残された花冠が朝日によって照らされる。

 

 

「いい奴だったな…」

 

 

錆兎は重富の背中を見送りながら呟いた。

 

 

「うん。鬼ごっこ、楽しかったね」

 

「あぁ…」

 

 

思い出すは昨晩、三人で野山を駆け回りたい遊びまわったこと。楽しかった。自分たちが魂だけの存在になろうとも楽しかった。いろいろなことを話した。

 

 

「重富、大丈夫かな…」

 

 

真菰はふと何気なく呟いた。

 

 

「心配ならついて行くか?」

 

「え?」

 

 

錆兎の言葉に真菰は目を丸くして錆兎を見る。

 

 

「重富が心配ならついて行ってもいいんだぞ?」

 

「……………少し、考えてみる」

 

 

 

 




振るう刃は友の為に 説明コーナー


重富(以下は重)「またやるのかこのコーナー…」

錆兎(以下は錆)「比較的好評だから続けるらしいな」

重「って錆兎!?炭治郎じゃないのか?」

錆「毎回同じメンツだと面白くないからと俺が作者に呼ばれて来た」

重「際ですか…(どーせなら真菰がよかったな)」

錆「何か失礼な事を思わなかったか?」

重「いえ何も」

錆「今回は感想を頂いた人から採用するらしい」

重「読者の感想から?」

錆「そうだ。前回重富のプロフィールに見た目を乗っけた時に里見蓮太郎見たいですねと来たらい…それについてだ」

重「作者に聞けっ!俺がそんなことわかるか!」

錆「例によって答えが用意してあるぞ」

重「だーからだったら作者自身が自分で言え!」

錆「しょうがないだろ、そうゆうコーナー何だから」

重「えぇ?全く…えぇっと、なになに?特に意識はしてなかったけど言われてハッとして気づいたらしいな…」

錆「それだけか?」

重「それだけだ」

重&錆「……………」

重&錆「「それではまた次回!よろしくお願いします!」」


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第5話 人を攫う沼

毎度言ってますが、感想、質問、評価、誤字脱字報告ございましたら遠慮なくどうぞ〜

さて、ヒロインは誰にしよう?



因みに呼吸被りの件ですが、今更変えるのもアレなんで断行します。


 最終選別から狭霧山に帰ってきてから十五日目。重富のもとに一人の男が訪れた。

 笠を深く被り、端につけていた風鈴がチリンチリンと綺麗な音色を奏でて揺れる。

 

 

「俺は鋼鐵塚(はがねづか)という者だ。竈門炭治郎の刀を打ち持参した。狛江重富の刀も鍛冶師から預かっている」

 

「そうですか、狛江重富は俺です。炭治郎は……お―い炭治郎! 刀が届いたぞー!」

 

 

 重富は家の奥で禰豆子を見ている炭治郎に呼びかける。するとすぐに物音がして奥から炭治郎が戸を開いて現れた。

 

 

「こいつが竈門炭治郎です」

 

「はい、俺が竈門炭治郎です。中へどうぞ」

 

 

 炭治郎は鋼鐵塚に対して家の中に入るように手を使って促す。ところが鋼鐵塚はその場で背負っていた風呂敷を下ろして結びをほどき始めた。

 

 

「これが日輪刀だ。俺が打った刀だ」

 

「いや、だから中に……」

 

 

 炭治郎の声は再び中へ入るように促すも鋼鐵塚は風呂敷の中の木箱を開けて続ける。

 

 

「日輪刀の原料である、砂鉄と鉱石は太陽に一番近い山で取れる。“猩々緋砂鉄(しょうじょうひさてつ)”、“猩々緋鉱石(しょうじょうひこうせき)”、日の光を吸収する鉄だ」

 

「重富、この人話を聞いてくれないけど……どうしよう?」

 

「ほっとけ炭治郎。きっとそのうち終わるさ。多分な……」

 

 

 曰く、その砂鉄と鉱石が採れる山は陽光山(ようこうざん)と言うらしい。その山は曇らず、雨も降らず一年中日が差している山で通称「太陽に一番近い山」と呼ばれているそうだ。ちなみにこのうんちくを聞いている中、重富の耳に鱗滝の「相変わらず人の話を聞かん男だ」と呟く声が聞こえたのできっとこの人は昔からこうなのだろう。

 

 

「ん?」

 

 

 鋼鐵塚はふと顔を上げると炭治郎の顔を見たとたん──

 

 

「あぁお前、赫灼(かくしゃく)の子じゃねーか!」

 

「なぜひょっとこの面を?」

 

 

 鋼鐵塚は顔を近づけ、炭治郎の顔を見てそう言った。そして鋼鐵塚はなぜかひょっとこの面を付けていた。

 

 

「いえ、俺は炭十郎と葵枝の息子です」

 

「そういう意味じゃねぇ、赤味がかった髪と目、火仕事をする家ではそういう子が生まれると縁起がいいって喜ばれるんだぜぇ」

 

 

 グリグリと炭治郎の頬をつつきながら鋼鐵塚はそう言った。

 

 

「そうなんですか、知りませんでした」

 

「こりゃあ、刀も赤くなるかもしれんなぁ? なぁ鱗滝」

 

「そうだな」

 

 

 家の中にいる鱗滝にそう呼びかける。その後、鋼鐵塚はやっと家の中に上がり、日輪刀を手渡した。

 

 

「さぁ抜いてみな、日輪刀は別名”色変わりの刀”と言って持ち主によって色が変わるさ」

 

 

 両手をクネクネうねらせながら鋼鐵塚は重富と炭治郎に刀を抜くように急かす。

 

 

「は、はい」

 

「それじゃあ早速……」

 

 

 炭治郎と重富は急かされるまま鞘から刀を引き抜くと、炭治郎の日輪刀は(ふち)から真っ黒に染まっていった。

 

 

「黒っ!」

 

「黒いな……」

 

「えぇ、黒いとダメですか? 不吉ですか!」

 

「いや、そういう訳ではないが……あまりみんな漆黒は」

 

「重富は? 重富は何色なんだ?」

 

 

 炭治郎は重富の刀身を確認しようと真横へ視線を向けると重富は刀身を掲げて見せてきた。

 

 

「俺は……黒色で……蒼い……斑?」

 

 

 疑問形で言った重富の刀身は炭治郎と同じく全てが黒く蒼い斑模様が浮かび上がっていた。しかも二本とも全く同じ色をしていた。

 

 

「なんだこの日輪刀……」

 

「これはまた珍しい……」

 

「そう落ち込むな重富」

 

「それは何がだ炭治郎?」

 

 

 訳も分からず何故か炭治郎に同情される重富。明確に見下された訳では無いがとても不愉快になったので刀を鞘に戻すと、鋼鐵塚がプルプルと震えていたことに気づいた。

 

 

「くぅ〜〜〜! 俺は鮮やかな赤い刀身が見れると思ったのにィ!」

 

 

 奇声を発して炭治郎に飛びかかり寝技を決める。

 

 

「いだだだ! 危ない! 危ない! 何歳ですか!?」

 

「三十七だ!」

 

「思っていたより歳食ってるな……」

 

「感想を言ってないで助けてくれ重富!」

 

「いやでもお前が刀を剥き出しで持ってるから危なくて近ずけないんだよ」

 

 

 鋼鐵塚に寝技を決められて助けを乞う炭治郎をどう助けたもんかと悩んでいると外から鎹鴉が入ってくる。

 

 

「カァァ! 竈門炭治郎及び狛江重富ォ! 北西ノ町へ向カへェ!」

 

(えっ! この鴉喋んの!?)

 

 

 てっきり伝書鳩のような役割だと思っていた重富は思いっきり喋ることに面を喰らう。

 

 

「鬼狩リトシテノォ! 最初ノ仕事デアル! 

 心シテカカレェ! 北西ノ町デワァ! 少女ガ消エテイルゥ! 毎夜毎夜! 少女ガ! 少女ガ消エテイル!!!」

 

 

 

 そして炭治郎と重富に最初の任務が言い渡された。

 

 

 

 重富と炭治郎はすぐに支給された鬼殺隊の隊服に着替える。隊服に着替える際に鱗滝に鬼殺隊の隊服は通気性はいいが濡れにくく燃えにくい。そして雑魚鬼の爪や牙では隊服を裂くことすら出来ない強度があると説明された。

 

 

「炭治郎、お前にこれを渡しておく。妹を入れる新しい箱だ」

 

 

 炭治郎と重富が隊服に着替え終えると鱗滝は木箱を持ち出した。その木箱は所々を金具で補強されており鱗滝の発言に重富は首を傾げる。

 

 

「禰豆子ちゃんを入れる箱? いやいや流石に入らないでしょいくらなんでも。禰豆子ちゃんだって成長して大きくなってるんだぞ?」

 

「あれ? 重富に言ってなかったか? 禰豆子は小さくなれるんだ」

 

 

 はい? とさらに首を傾げる重富をよそに箱を禰豆子の前まで持っていき開けて中を見せる。

 

 

「ほら、禰豆子この中に入るんだ。これからはいつも兄ちゃんや重富と一緒だぞ」

 

 

 布団の中に潜っていた禰豆子は1度入る素振りを見せると再び中へ潜ってしまった。するとすぐ側で顔を覗かせていた重富のズボンの裾を掴みクイクイッと引っ張る。

 

 

「ウゥ」

 

「? どうした~禰豆子ちゃん。箱に入るのが嫌か?」

 

 

 重富は腰を落として禰豆子に話しかけるとおもむろに禰豆子は頭を差し出してきた。

 

 

「重富に頭撫でて欲しいんじゃないか?」

 

「またか? ほれ」

 

 

 重富は差し出してきた禰豆子の頭を優しく撫でる。丁寧にそっと優しく。禰豆子は心地よさそうに瞼を閉じた。

 

 

「近頃禰豆子はホントに重富に甘えるようになったな~」

 

「そうか? 禰豆子ちゃんも昔はこうだったぞ?」

 

 

 禰豆子はまだ幼い頃は重富によく甘えていた。だが竹雄や下の子達が大きくなるにつれて少なくなっていった。

 しかし最近、鱗滝のもとで重富に再開してから甘えることが再発し多くなった。それが鬼になった為かはわからないが…

 一通り撫でると禰豆子は木箱の中に入っていった。

 

 

「んじゃいくか?」

 

「あぁ、行こう!」

 

 

 日輪刀を腰に差し、隊服の上に羽織を着こむ。炭治郎は市松模様の羽織を、重富は蒼い生地に白い(かすみ)がかかったような銀通しの羽織を……

 鬼殺隊の初任務。心身ともに引き締めて北西の方角へ進み始める。

 

 

「……重富」

 

「なんですか鱗滝さん?」

 

 

 少し歩いたところで重富は鱗滝に呼び止めらて振り返る。

 

 

「炭治郎と禰豆子を……頼んだ」

 

「言われなくとも! 俺はその為にここまで来たんですから!」

 

 

 重富は鱗滝の言葉に笑って返した。何もかもこれから始まる。友のためにすべてを賭ける狛江重富の戦いが……

 

 

 

 

 ~*~

 

 

 

 

 日輪刀。持ち主によって色が変わり、それぞれの色ごとに特性がある。しかし、黒い刃になるものは少なく詳細も少ない。余りに少なすぎる故に出世ができない者は黒い刃になると言われている。

 

 

 そして、黒い刃の上に何らかの文様が入るものはさらに数が少ないと言われている。

 

 

 

 

「北西の町ってここでいいのかな?」

 

「鴉の案内で来たんだし合ってると思うけど」

 

 

 炭治郎と重富は鴉の案内で指定された町のはずれから町を見渡してそう言った。

 

 

「あれ? 重富その腰に下げてるのなんだ? お守り?」

 

「ん? これか? なんか隊服の胸元に入ってたんだよ。せっかくだから持ってこうと思ってさ」

 

 

 重富は懐に入っていた花柄のお守りを腰につける事にしていた。誰が入れたものかはわからないが捨てる気にもならないので持っていくことにした。

 

 とりあえず二人は町を見回って鬼の情報を集めることにして町を歩く。この町はそれなりに大きく発展していた。単純な大きさで言えば重富たちの故郷より二回りは大きかった。

 町を見渡しながら歩いていくと発展した街並みに目を奪われ、重富は通行人と肩をぶつけてしまった。

 

 

「す、すいません! ってあれ?」

 

「…………」

 

 

 不注意でぶつかってしまった男の人に咄嗟に謝るが、男の人は心ここにあらずといった雰囲気でそのまま行ってしまった。

 

 

「重富大丈夫か?」

 

「あ、あぁ……でもさっきの人」

 

 

 重富はさっきの男の人が何故か気になってしまった。不自然にやつれていたせいなのかも知れないが、どこか……誰かに似ている気がした。

 

 

「ほら見て? 和己さんよ」

 

 

 男の人の背中を眺めているとふと、どこぞの奥様方の井戸端会議の内容が聞こえた。

 

 

「可哀想に……あんなにやつれて」

 

「一緒にいた時、里子ちゃんが()()()()()()

 

「毎晩毎晩気味が悪い」

 

「あぁ、嫌だ。夜になると()()()()()()()()()()

 

 

 その内容は重富たちが鎹鴉から聞いた内容に酷似していた。

 

 

「炭治郎ッ!」

 

「あぁ! 行こう!」

 

 

 重富と炭治郎は鬼の手掛かりとなると思われる、和己と呼ばれた男の人を追いかけて話を聞いた。

 

 

「ここで里子さんをは消えたんだ……」

 

 

 酷くやつれた和己という男に話を聞くと、里子という名の女性が消えた場所に案内してもらった。

 

 

「信じてもらえないかも知れないが……」

 

「いえ信じます! 信じますよ! 信じる!」

 

 

 そう声を上げて炭治郎は体勢を低くして地に顔を近づける。

 

 

「変な格好だけど本人は至って真面目に調べてるから責めないであげてね?」

 

「は、はい……」

 

 

 複雑そうな顔をしていた和己に一応一言断りを入れておく。一通り匂いを嗅ぎ終わった炭治郎は一旦顔を上げる。

 

 

「重富は何か感じるか?」

 

「いや、俺は何となく違和感を覚えるくらいだな」

 

 

 この道に残っている鬼の気配が途切れ途切れで重富では追跡ができない。鬼の追跡は炭治郎に頼むしかないようだ。

 炭治郎の鼻を頼りに捜索を進めていくこと数刻。辺りはすっかり暗くなり時刻は夜中になっていた。

 

 

「あ、あのもう遅いし帰った方が……」

 

「何言ってんの、むしろこれから……ッ! って来たぞ!」

 

 

 和己が帰ろうと提案しようとしたとき、重富の気配捜索圏内に何かが入り込んだ。

 

 

「鬼がでたのか!?」

 

「歪な気配だし、建物があるはずの所も()()()()()()()()()()()()。ほぼ間違いないと思う」

 

 

 重富が感じとった鬼の気配はどれもどこか歪で陰湿な気配だった。そして今、重富が張り巡らせていた意識にその歪な何が入り込んだ。

 さらに確定的なのがこの気配は遮蔽物(しゃへいぶつ)を一切無視して進んでいる。普通の人間にも不可能だ。

 

 

「重富! 俺は先に行く! 和己さんのことは頼んだ!」

 

「あっ! おい炭治郎!」

 

 

 炭治郎は重富に一方的に言葉を残し家の屋根上まで飛び上がる。重富の制止も聞かず最短距離で鬼を追って行った。

 

 

「高っ! あんな所まで飛び上がった! 貴方達はもしかして!?」

 

「鬼殺隊の者ですよ。新米だけど……それよりもっと早くはしれません? やっと見つけた里子さんの手がかりなんだ。アンタも逃したくないでしょ」

 

「あ、あぁ!」

 

 

 重富は和己の走る速度に合わせながら鬼と炭治郎を追いかけた。気配を辿って道を右へ左へ曲がって行くと広い路地で炭治郎が女の人を黒い何かから引き抜くのが見えた。

 

 

「炭治郎っ!」

 

「重富! この女の人を頼んだ!」

 

「はァ!? 着くなり一体何だよ! ってかこの子誰!」

 

 

 重富がやっと炭治郎に追いつくと炭治郎にどこの誰とも知れない女の人を託された。

 

 

「たった今鬼に攫われかけた人だ! 気絶してるけど息はある」

 

 

 言われるがまま重富は女の人を抱き抱えそのまま横流しで和己に押し付ける。

 

 

「ギリギリギリギリギリィッ!!!!」

 

 

「何これ!? 歯ぎしりうるさっ!?!?」




振るう刃は友の為に ○○コーナー

重富(以下重)「おいなぜ説明の部分を隠す」

作者(以下作)「いやだってもう説明する事ないから」

重「2話で俺が炭治郎助ける時に出したやった遣らずの雨は?」

作「あれはみんな知ってると思うけど…」

重「それでも説明をしないとこのコーナーの存在意義が問われるだろ」

作「特に説明する事がなかったらこの作品の制作裏話でもしようかなと」

重「それはそれでいいかも知んないけど説明ができるヤツがあるならやれよ」

作「………わかりました」

重(なぜ不服そうなんだこの作者…)

作「雨の呼吸、参ノ型遣らずの雨は恐らく皆さんご存知の家庭教師ヒットマンREBORN!の山本武が使っていた時雨蒼燕流の技です」

重「この作品のタグのクロスオーバーはその技の事か?」

作「はい、もしかしたら他にも出るかもしれません。それでは皆さん振るう刃は友の為に。第5話人を攫う鬼をお読み頂きありがとうございました!」

作&重「次回もお楽しみに!」


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第6話 鬼を連れた剣士たち

アンケート出した後で気づいたんですけど…ヒロインはアオイちゃんや甘露寺さんとかもいますがそっちが良い方は言ってください。
個人的には那田蜘蛛山の母蜘蛛さんとか母蜘蛛さんとか母蜘蛛さんとか可愛いと思います!

感想、評価、質問、誤字脱字遠慮なくどうぞ!


「ギリギリギリギリギリィッ!!!」

 

 

 

「うるさ! 何これ歯ぎしり? 歯ぎしりうるさっ!」

 

 

 重富は思わず口に出さずにはいられなかった。

 ギリギリと不気味に己の歯を擦り合わせて不快な音を鳴らす鬼。鬼はしばらく歯ぎしりを続けると黒い沼の中に沈んで行った。

 

 

「和己さん! 俺と重富の間合いの中に入って下さい! 間合いの中なら守れます!」

 

 

 炭治郎は女の人を抱えた和己にそう指示を出す。和己はそれに従って移動する。

 重富も刀を片方のみ抜いて臨戦態勢に入る。

 黒い沼に沈んでも炭治郎や重富が匂いか気配で探知できる。まだ近くにいる。

 鬼は沼に潜み重富と炭治郎の周囲を巡ってピタッと止まる。

 

 

「炭治郎! 下だ!」

 

 

 重富の叫びと同時に炭治郎の足元から黒いしぶきが上がる。しかししぶきは一つではない。炭治郎を中心に三つのしぶきが上がり()()の鬼が黒い沼から飛び出した。

 

 

『水の呼吸、(はち)ノ型 滝壺!!』

 

 

 炭治郎は地に叩きつけるように刀を振るい鬼を切りつける。だがどれも鬼の急所を外れてしまった。奇襲が失敗した上に手傷をおった鬼は沼に沈んでいく。

 すると今度は正面から二本の角を生やした鬼が重富に向かって鋭い爪で攻撃してきた。

 その鬼に向かって重富が刀を振り上げた途端、側面から三本の角を生やした鬼が飛び出した。

 

 

(出てくるの気づいてんだよ)

 

 

 気配で三本角の鬼が出てくることを見透かしたように口角を上げる。重富は滑らかに二本目の刀を引き抜いき、二人の鬼の攻撃を同時に対処する。

 

 

「ふ……『雨の呼吸、壱ノ型 驟雨!』」

 

「カハっ……!」

 

「ガっ!」

 

 

 三人中、二人の鬼へ技を繰り出すも二本角の鬼には両腕で防御されてしまう。三本角の鬼は首を切ったがまだ薄皮一杯繋がったままだ。

 

 

「やべっ! 首落とし損ねた!」

 

 

 首が辛うじて繋がった三本角の鬼はすぐさま沼の中に逃げ込んでしまう。二本目の鬼は沼に浸かったまま刀の間合いから外れて汚い怒声を上げた。

 

 

「邪魔をするなァァァ! 女の鮮度が落ちるだろうがァ!」

 

 

 その鬼は重富たちに言った。邪魔するな、鮮度が落ちると……鮮度とは人間が食す物に対して言う言葉、この鬼は人を食べ物としか考えていない。

 

 

「もう今その女は十六になっているんだよ! 早く喰わないと刻一刻で味が落ちるんだ!」

 

「落ち着け俺よ。まぁいいさ、こんな夜があっても」

 

 

 三本角の鬼が激高する中、一本角が下卑た笑みを浮かべて沼から顔を出した。

 

 

「この町では随分十六の娘を喰ったからな。どれも肉付きが良くて美味だった。俺は満足だよ」

 

「俺は満足じゃないんだよ! 俺よ! まだ喰いたいのだ!」

 

 

 この鬼達は一体どれだけの年端もいかない女の子達を喰らったのだろう。そんな疑問が重富たちの頭をよぎる。

 

 

「化物……一昨晩攫った里子さんを返せ……」

 

 

 恐る恐る和己はある夜消息を絶った女の人の行方を聞いた。和己の質問に笑みを絶やさず答えた。

 

 

「里子? 誰のことだ?」

 

 

 鬼はおもむろに着物を重富に見えるように開いた。鬼の着物の内側には何本ものかんざしや(くし)がしまってあった。

 

 

「この蒐集品(しゅうしゅうひん)の中にその娘のかんざしがあれば喰ってるよ」

 

 

 和己はその中に見覚えのある物を一つ見つけた。それは大切な人が髪に付けていた物だった。和己の顔が絶望に染まる。

 鬼はそうして人を喰らい、人の大切な人を奪う。重富と炭治郎はそんな鬼の所業に怒りを覚える。

 

 

「ったく……鬼ってのはどいつもこいつも胸くそ悪いから嫌いだよ」

 

 

 もちろん禰豆子ちゃんは別だが……と重富は補足して刀の切っ先を向ける。

 

 

「さぁ来いよ。テメェらのその忌々しい(つら)、体からおさらばさせてやるよ。特に三本角野郎! 今度こそ叩きってやる!」

 

 

 今までこの鬼たちに喰われた人のため、大切な人を喰われ悲しみに溺れる人のためにも重富と炭治郎は鬼の首を()ねる事を決意する。

 

 

「ギリギリギリギリ!」

 

「待てっ! 俺よ! 挑発に乗るな!」

 

(釣れた!)

 

 

 重富が発した挑発に釣られ真正面から歯ぎしりをして三本角の鬼が迫る。腰を低くし足に力を込める。

 

 

「『雨の呼吸、肆ノ型 迅雨(じんう)』」

 

「ガっ……!」

 

 

 重富の刃が振るい終わった後、鋭く尖る爪を突き出す腕と頭が宙を舞った。肆ノ型 迅雨は雨の呼吸の型の中で刀を抜刀した状態での最高速度を誇る技である。

 

 

「き、貴様ァ!」

 

 

 三本角の鬼が塵と消える瞬間、重富の背後の足元に黒い沼が広がり二本角の鬼が飛び出した。

 

 

(やばっ! 技を出した直後で反応が……!)

 

 

 技の反動で反応が鈍り動けない。肆ノ型迅雨は最速を誇る代わりに技を出した瞬間、筋肉が軋み数秒の間隔が必要な技だ。

 しかし、重富は鬼の醜悪さに怒りを覚え無意識に判断力が少しながもなくなっていた。

 

 

「重富ッ!」

 

 

 炭治郎も鬼が重富に迫っているのに気づくが流石の炭治郎も間に合わない。鬼の爪が重富の背中に突き刺さる瞬間、炭治郎の背負う木箱が開いた。

 

 

 バンッ! 

 

「…………ッ!」

 

 

 勢いよく開かれた木箱の中から少女の足が飛び出し鬼の頭を蹴り飛ばした。その蹴りの威力は凄まじく鬼の頭はぐるぐると回転し首が捻じれた。

 

 

「ぐへ!」

 

 

 首が捻じれるほど蹴られた衝撃で鬼は吹き飛ばされ飛ばされた方向にいた重富に鬼が激突する。

 そして一同は騒然とする。

 

 

「……なぜ人間の分際で鬼を連れている」

 

 

 木箱の中から出てきたのは紛れもない鬼。しかしその鬼はただの鬼ではない。鬼滅隊の竈門炭治郎の妹にして狛江重富の友、竈門禰豆子だ。

 

 

「いってて……」

 

 

 鬼にぶつかった拍子に顔面から地面に滑り込んだ重富は顔を抑えながら立ち上がる。ところどころすり傷ができて鼻からは血が垂れる。

 

 

「へ、平気か重富?」

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁうん。背中から貫かれるよりなしかな」

 

 

 禰豆子が蹴り飛ばした鬼は既に沼の中へ沈み、重富は周囲を警戒しながらも炭治郎たちの元へ戻る。

 

 

「ウゥ……」

 

「あーイイよ禰豆子ちゃん。気にしないで、それよりも助けてくれてありがとうな」

 

 

 申し訳なさそうな顔で重富を見る禰豆子に気づいて重富は頭を撫でる。重富は袖で鼻血を拭き取ると炭治郎の真下に黒い沼が現れた。

 

 

「炭治郎ッ!」

 

 

 炭治郎の足が沼へ沈んでいき咄嗟に右の刀を口で咥え右手を伸ばす。

 

 

「貴様の相手は俺だァ!」

 

 

 禰豆子に蹴られ捻れた首が再生した二本角の鬼が再び背後から現れ奇襲する。

 

 

「ちっ! こんのっ!」

 

 

 来ることが察知できる重富に奇襲は意味をなさないが二本角の鬼の攻撃を防いでいる間に既に炭治郎は首元まで沈んでいた。

 

 

「俺の事はいい! 禰豆子や和己さんたちを頼む!」

 

「ちょっ! おい待て! 炭治郎!」

 

 

 重富が手を伸ばすも炭治郎は完全に沼の中へ沈んでしまった。

 

 

「あーくっそ! また勝手に行きやがったよ炭治郎の奴!」

 

 

 重富自身もまた沼へ潜り炭治郎を引っ張り出すことも出来るが禰豆子達を放っては行けない。腹立たしさを感じながらも鬼に向き直る重富。

 

 

「くはは、お前の仲間はもう終わりだ。俺の沼の中では俺には勝てない」

 

「あぁん? 炭治郎を舐めんなよコンニャロー。アイツは強いぞ。何たって……」

 

 

 重富は和己の前に立ち刀を構え、不敵な笑みを零す。

 

 

「なんたって……何だ? 聞いてやる。言ってみろ」

 

「なんたって……兄ちゃんだからな」

 

 

 重富は信じている。炭治郎は自分が死ねば妹が一人になるとわかっていて死ぬ様な人間ではないと。重富の言葉に二本角の鬼は首を傾げて笑う。

 

 

「兄だから? 兄だから何だというのだ……」

 

「お前に分かれなんて言わないよ。どーせわかんないし」

 

 

 年端もいかない女の人を食い物にしている鬼に兄貴の気持ちがわかるハズもないと重富は切り捨てる。三人の鬼は重富が倒している。そして残りの二人は炭治郎と重富が一人ずつ相手しているので完全に数の有利は消えた。

 重富は鬼が沼へ逃げる暇を与えないように間髪入れず攻撃をし続ける。戦っているうちにこの鬼は一人ひとりはさほど強くないことがわかる。

 しかし、首はまだ刎ねない。炭治郎が今沼の中で戦って鬼に勝ったなら、重富の前にいる鬼まで倒してしまったら鬼の異能である沼は消えて炭治郎が帰って来れない可能性がある。その為迂闊に首を切れない。

 

 

「…………ッ!」

 

「ちょっ! 禰豆子ちゃん!?」

 

 

 重富が時間稼ぎをしている中、重富の隣りを禰豆子が走り抜けた。禰豆子は重富の前に出て鬼へ蹴りを食らわす。その姿を見て重富は鱗滝からされた説明を思い出した。

 

 鱗滝は念の為、とある暗示をかけた。それは禰豆子の目に映る人は自分の家族に見えるようになるもの。

 それともう一つ、人を傷つける鬼を絶対に許すな……

 

 

「ぐ……」

 

 

 禰豆子の攻撃に押される鬼。力と速さ、その両方を沼の鬼より上回っていた。

 しかし、鬼は攻撃を受け続けるにつれ禰豆子の攻撃に慣れ始める。拳をいなし蹴りを防御する。鬼は禰豆子の隙をついて爪を突き立てる。……がその爪は禰豆子に届くことなく腕ごと地に落ちる。

 重富は禰豆子の前に躍り出て鬼の腕を切り落とす。

 

 

「おい、人の可愛い連れに手を出すな」

 

 

 怒気をはらんだ声で言い放ちもう一本の腕も切り落とした。

 

 

「……が」

 

 

 鬼が両腕を失い、塀にもたれかかったと同時に黒い沼から炭治郎が顔を出した。

 

 

「ぷはっ!」

 

「炭治郎! 大丈夫か?」

 

「あぁ、ありがとう重富」

 

 

 重富は顔を出した炭治郎に手を差し出して引き上げる。そしてどこにも外傷がないことを確認してから炭治郎の頭を柄で小突く。

 

 

「あだ! 何するんだ重富!」

 

「何するんだ! じゃない! お前は突っ走り過ぎだ! あとこっちも今終わったぞ」

 

 

 塀を背にへたりこんでいる鬼に炭治郎は刀の切っ先を向ける。

 

 

「お前達からは腐った油のような匂いがする。一体どれだけの人を殺した!?」

 

「……女共はな! あれ以上生きると醜く不味くなるんだよ! だから()()()()()()()()!! 俺たちに感謝しろ!」

 

「もういい」

 

 

 そう叫んだ瞬間、鬼の口を切りつける。聞くに耐えない言い分だった。炭治郎はもう一度切っ先を向けてもう一つの質問をする。

 

 

鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)について話してもらう」

 

 

 その問いに鬼は明確な反応を示した。鬼舞辻無惨、その男はこの世で唯一人間を鬼へ変えることができる。この世に現れた最初の鬼。

 

 

「言えない」

 

 

 鬼の顔色がどんどん青くなっていき、奥歯をガタガタとさせながら震え始める。

 

 

 

「言えない言えない言えない言えない!」

 

 

 鬼は何かに脅えるように体をすくませる。あれほどの異能を使える鬼が骨の髄まで恐怖している。その有様を見て重富は小声で炭治郎に話しかける。

 

 

(この脅え方、情報をはかせるのは無理そうだな……)

 

(あぁ、心の底から脅える匂いがする。こいつは情報をはかない)

 

 

 心身ともに恐怖で支配された者から情報を聞き出すのは至難の業だ。この鬼だけに時間をかけるわけにもいかない。

 鬼は両腕を完全に再生させて飛び掛かるが炭治郎に首を刎ねられて塵になる。

 重富は鬼滅隊になってからも禰豆子を人間に戻す方法を聞き出せなかったと気を落とす炭治郎の肩を叩き元気づけ和己たちの元へ戻る。

 戻ると禰豆子は塀を背に眠りについていた。体力を回復させるための睡眠だろう。炭治郎は禰豆子に木箱に移して和己に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか? 和己さん」

 

「婚約者を失って大丈夫だと思うか?」

 

「…………」

 

 

 炭治郎の問いに和己は皮肉交じりに答えた。和己は涙を流しその場に座り込んでいた。

 

 

「和己さん、失っても辛くても生きていくしかないです。どんなに打ちのめされても」

 

「お前に何がわかるんだ! お前みたいな子供にっ!!」

 

 

 和己は炭治郎の羽織の襟をつかみ上げた。大切な人を失い平気な人間はいない。そんな事は重富も炭治郎も痛いほどわかっている。

 

 

「おい、手を放せ」

 

 

 襟をつかむ和己の腕を重富が掴んだ。この場にいる誰よりも大切なものを失ったのは炭治郎である。さらに今、重富は昼方和己を見て何故気になったのか分かっていた。

 

 

(コイツは炭治郎達が出て行った時の俺の顔にそっくりだ…)

 

 

絶望に染まりただただその場に座り込んでいる。自分で立ち上がろうとしないあの時の重富自身に似ていた。

 

 

「重富、いいよ」

 

「お前がよくても俺がよくない」

 

 

 知らないとはいえその発言が重富は許せなかった。炭治郎は重富の肩にそっと手を置き首を横に振った。

 

 

「いいんだ、重富」

 

「………………」

 

 

 なだめるように微笑んで首を振る炭治郎を見て重富は手を離した。炭治郎は今まで懐からある物を取り出して和己に手渡す。

 

 

「この中に里子さんの物があるといいんですが」

 

 

 炭治郎が手渡したのは鬼が蒐集していたかんざしや櫛だった。沼の中で鬼を倒した時に取ってきたのだ。最後に和己へ一礼をして次の場所へと向かう。

気が動転していた和己へ対しても終始炭治郎は優しく微笑み続けた。その顔と腕を掴まれた感触が脳裏によぎり気づいた。

 

 

「すまなかった!酷いことを言った!どうか許してくれ!すまなかった!」

 

 

去りゆく炭治郎たちに和己は心から詫びた。

重富に腕を掴まれた時の感触、あれは少年の手ではなかった。分厚く、たこだらけの痛ましいほどに鍛え抜かれた手。その手がどれだけの過去を持つかは和己には分からない。だが謝らずにはいられなかった。

 

和己の全霊の謝罪を聞いた炭治郎は手を振って応え重富は無言で去っていった。

 

 

 

 

 

この世で鬼に大切な人を奪われた人間は多い。鬼はどれだけの人々を傷つけ、奪い、嘲笑うのだろう。

 

 

 

その鬼を作り出した元凶。

 

この世で最初の鬼。

 

鬼舞辻無惨。

 

その者を絶対に許さない。

 

そう心に刻みつけて歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

 

 




振るう刃は友の為に 説明コーナー

作者(以下作)「とゆう訳でこの度もやって参りました。第6話」

炭治郎(以下炭)「今回もお読み頂きありがとうございます!」

作「このコーナーで書くことがなくて困ってます。どうも作者です」

炭「え、この作品の制作裏話書くんじゃないんですか!?」

作「え、そんな事マジであると思ってたんですか!」

炭「えぇ!?」

作「裏話って言ってもろくなことないですよ。取り留めて書くことなんてないない」

炭「それでもなんかこう無いんですか?」

作「つってもこの作品書いてる時アベマTV見てるくらいしか」

炭「そんな事してるんですか?」

作「エッ!?ダメだった?!ジョーダン!ジョーダンですって!アレだよ本当は授業中に作業やるフリして書いてるんです!」

炭「え、そんな事してるんですか?」

作「嘘!嘘です!本当は学校の登下校で携帯とかで書いてます!」

炭「本当ですか?」

作「いやいや本当ですって炭治郎さん!勘弁してくださいよ!もう終わりね!これで今回終わりね!」

作&炭「「それではまた次回お楽しみに!」」


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第7話 珠世と愈史郎

どうも皆さん、Zakkiです。
鬼滅の刃第10話面白かったですネ!あの禰豆子ちゃんが炭治郎の手を握るとこなんてもうヤバス!

そんなこんなで「振るう刃は友の為に」第7話どうぞ!


 沼の鬼を倒し、町を出てそうそう鎹鴉が騒ぎ始めた。

 

 

「次ハ東京府浅草ァ! 鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ!」

 

「トットト次へ迎エ! コノウスラトンカチ共!」

 

 

 炭治郎の鴉は任務を伝え、重富の鴉は二人に対し罵倒する。重富は自分の鴉の首を鷲掴みして笑顔で言った。

 

 

「アッハッハッハ! 炭治郎、今日の晩飯は鴉汁にしよう!」

 

「気持ちはわかるけど離してやれ」

 

 

 羽根をむしろうとしたが炭治郎に止められて渋々手を離して鴉を解放する。重富と炭治郎は鴉の指示に従い東京府浅草へ舵を切る。

 

 

 

 〜翌々日〜

 

 

 鴉に案内され、重富達は浅草に到着する。大正時代、東京府は革新的な進歩を遂げていた。

 建物は高く、至る所に明かりがつき夜だというのに夜道を明るく照らしていた。明るく照らされる道理を人々は質の良さそうな着物や洋服、スーツを身にまとい闊歩する。

 

 しかし、夜に似合わず異常ともとれる人の多さにフラフラとおぼつかない足取りをする炭治郎。あまりの人の多さに人酔いしたのだ。

 

 

「た、炭治郎? 大丈夫か?」

 

「大丈夫……」

 

(大丈夫に見えねぇ……)

 

 

 上の空で心なしかげっそりしてやつれているように見える。重富は炭治郎や禰豆子を人通りの少ない場所まで連れて出店をしていたうどん屋に立ち寄る。

 

 

親父(おやじ)さん、山かけうどん二つください」

 

「あいよ〜」

 

 

 足取りが不確かな人酔いした竈門兄妹をうどん屋の前の椅子に座らさてうどん屋の親父に注文する。

 

 

「炭治郎。ほれ、お茶」

 

 

 重富はうどん屋の親父に茶をもらい、炭治郎に手渡す。

 

 

「……ありがとう。重富は人酔いしてないのか?」

 

「いや、割としてないな」

 

 

 炭治郎と禰豆子が人に酔う中、重富だけは人酔いしてなかった。重富は茶をすすりながら一休みする炭治郎の横に座り自分も茶をすする。

 

 

 ガシャン! 

 

 

 重富が横を向くと炭治郎が湯呑みを床に落とし青い顔で立ち尽くしていた。

 

 

「炭治郎? どうし…………ッ!」

 

 

 どうしたのか聞き終わる前に重富は何かを感じた。どこかで感じたことがある。不吉で歪で形容しがたい禍々しい気配。

 気づけば重富と炭治郎は何も言葉を交わさず全く同じ方向へ走り出していた。

 

 

(この気配!! 炭治郎の家に残っていた……あの!)

 

 

 重富と炭治郎が気づいたのは家族を皆殺しにし禰豆子を鬼へと変えた張本人、鬼舞辻無惨がこの近くにいることだ。

 

 人混みの中をかき分けてその者まで辿り着くと炭治郎が男の肩を掴んだ。その男はスーツを着込み白い帽子を被っていた。

 男はゆっくりと振り返ると、目と目が合った。

 

 重富と炭治郎は即座に刀の柄を握り、引き抜こうとする瞬間予想外の声が重富たちの耳に入る。

 

 

「お父さん? だぁれ?」

 

 

 その声は少女の声だった。その声が耳に入り耳を疑った。男が完全に振り返ると男は少女を抱えていた。年端もいかない、五歳程度の少女。次に重富たちは目を疑った。

 この鬼は、鬼舞辻無惨は、人の中に溶け込んで暮らしている。

 

 

「私に何か用ですか? 随分慌てているようですが……」

 

 

 男は丁寧な口調でそう言った。まるで教育教養が行き届いた紳士の様に。

 

 

「あら、どうしたの?」

 

「お母さん」

 

 

 すぐ側から少女にお母さんと呼ばれる女性がでてきた。鼻のいい炭治郎や気配が探れる重富はすぐに女性と少女が人間だと気づいた。人間だと気づくとふと脳裏に疑問が過ぎった。

 

 この人たちは気づいていないのだろうか? 

 

 この男が人を食い物にして生きていると知っているのか? と。

 

 

「お知り合い?」

 

 

 女性が男へ訪ねると男は首を横に振った。するとそこで重富が口を開いた。

 

 

「すみません。そこの方が探している者と似ていたので……」

 

「あら、そうなの?」

 

 

 丁寧な口調で慎重に言葉を選びつつ話す。しかし重富の手は今だ刀の柄を握っている。

 

 

「申し訳ありませんがお名前を確認させてください。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 その名前を聞いた時、男の眉が僅かに動いたのを重富は見逃さなかった。緊張から生唾を飲む。

 

 

「いえ、私は月彦と言う者です。人違いではないでしょうか」

 

 

 男はゆっくりと目を逸らしつつ、目にも留まらぬ速さで近くいた男の(うなじ)を引っ掻いた。常人では気づきもしない速度だ。

 

 項を引っかかれた通行人の男は首を抑え、よろめいた。

 

 

「……!」

 

(あの野郎っ!)

 

 

 その時、重富達は初めて人が鬼へと変わる瞬間を目の当たりした。隣にいた女性にもたれ掛かり、心配して声を掛けて顔を覗かせた途端、男は牙を伸ばし女性の肩に食らいついた。

 

 

「きゃあああああっ!」

 

 

 肩に食いつかれ血が滲みだした女性は悲鳴をあげる。女性の甲高い悲鳴はすぐさま周囲の注目を集め、騒ぎへと発展した。

 

 

「重富! あの人を止めよう!」

 

「わかってる!」

 

 

 すぐに駆け寄り、女性に食らいつく男を引き剥がし炭治郎は首巻きを男の口に押し込み押さえつける。重富は女性の肩を布で抑えて血を止める。

 

 

「麗さん行こう。ここは危険だ」

 

 

 男は騒ぎを利用してこの場から逃れるつもりだ。今すぐに追わなければ次は一体いつ会えるか分からない。しかしだからと言って鬼になってしまった無関係の人を放っておくわけにはいかない。

 

 

「鬼舞辻無惨! 俺はお前を逃がさない! どこへ行こうと地獄の果まで追いかけて必ずお前の頸を切る! 絶対にお前を許さない!!」

 

 

 炭治郎は鬼舞辻無惨へ向けて宣言する。それは胸に誓った決意でもある。自分の家族を殺し、妹を鬼に変え、多くの人々を苦してたお前だけは許さない。必ず報復してやると。

 

 

「炭治郎! 今はソイツを抑えることに集中しろ! その人に誰も殺させるな!」

 

「わかってる! 絶対に誰も殺させない!」

 

 

 重富の言葉を聞いてさらに強く押さえつける。するとそこで騒ぎを聞き付けた警官が人をかき分けてやって来た。

 

 

「貴様ら何をやっている! すぐに離れろ!」

 

「おい! 炭治郎の邪魔をするな! 死人が出るぞ!」

 

 

 警官は重富の言葉に耳を傾けず、炭治郎を男から引き剥がそうとする。炭治郎も抵抗するが男が炭治郎から逃れれば間違いなく死傷者が出る。

 そうなれば重富達は男を殺さねばならない。人を傷つけた鬼として。鬼狩りとして。

 

 

「止めてくれ! この人に誰も殺させたくないんだ!」

 

「やめろつってんだろ! まだ誰も殺してないその人をできれば斬りたくないんだ!」

 

 

 炭治郎と重富はそう警官に呼びかけるが警官の手は一向に緩まない。もうダメだと思った瞬間……

 

 

『惑血 視覚夢幻の香』

 

 

 重富たちの鼻に甘い不思議な香りが漂った。匂いを嗅いだ瞬間、花柄の紋様が周囲を取り囲み警官やじゃじゃ馬の姿も消えていった。

 何らかと攻撃かと身構える重富たちの前に二人組が現れた。

 

 

「貴方達は鬼になった者にも()という単語を使ってくださるのですね。そして助けようとしている」

 

 

 見事な着物を来た美しい女性は重富達にそう言った。腕からは爪で引き裂いたような傷から血が流れている。

 

 

「ならば私も貴方達を助けましょう」

 

 

 女性は傷口を撫でるような仕草をすると瞬く間に血も傷も消えた。その女性は鬼だとすぐに分かった。だが妙な違和感を感じた。

 

 

「私は鬼ですが医者でもあり、あの男、鬼舞辻を抹殺したいと思っている」

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

「俺が言いたいのはなぁ! 金じゃねーんだ! 俺の作ったうどんを食わないってことだ!」

 

 

 重富達が鬼舞辻無惨を追っていた頃、禰豆子はうどん屋の親父の熱弁を聞いていた。

 うどん屋の親父は浅草生まれ浅草育ちでうどんに人一倍愛着を持っているらしい。

 重富達に取り残されてしまった禰豆子は喋ることをできず困り顔をしながら聞き入っていた。

 

 

「まずは箸を持て! そしてその口枷外せ! 何だその竹は!?」

 

 

 うどん屋の親父が禰豆子にうどん屋を手渡そうと箸を持った時、戻ってきた重富たちが親父が持っていた箸を握った。

 

 

 ズルルルルル! 

 

 

 そこに会話はなく、親父の手から引き抜いた箸で凄まじい勢いでうどんをすする。瞬く間にうどんを完食し炭治郎は禰豆子を背負う箱をしょって手を振る。

 

 

「ごちそうさまでした! 美味しかったです!」

 

「ご馳走さまでした。お代、ここ置いときまふね」(モグモグ)

 

 

 まだ口の中にうどんを残していた重富は咀嚼しながらうどんのお代を屋台に置いた。

 少し歩くと道の先に先程謎の女性と共にいた少年が待っていた。

 

 

「待っててくれたんですか? 俺は匂いを辿れるのに……」

 

「目くらましの術を掛けている場所にいるんだ。辿れるものか。それより……」

 

 

 目つきの悪い少年はおもむろに指を開けて指さして言い放った。

 

 

「鬼じゃないかその女は、しかも醜女(しこめ)だ」

 

 

 重富と炭治郎はその言葉を脳で処理するのに少し時間がかかった。

 

 

(しこめ……醜女? 醜いってことか? 誰が?)

 

(醜女って……要するに顔立ちが悪いってことか? 誰が?)

 

 

 黙々と「醜女」という言葉の意味を頭の中で考え、次はその言葉が誰に対し向けた言葉かを考えすぐに答えは出た。

 

 

((禰豆子(ちゃん)っ!!??))

 

 

 二人の中で同時に答えは出た。少年はあろう事か家族どころか本人がいる前でそれを言った。

 

 

「だぁれが醜女だぁ! ゴラァ!」

 

「そうだ! どこが醜女なんだ! 町でも評判の美人だったんだぞ! 禰豆子は!」

 

 

 少年の行動を理解すると重富はぶち切れ、炭治郎は反論する。

 

 

「行くぞ」

 

 

 重富と炭治郎の反応を無視して歩き出す。

 

 

「いや行くけども! 醜女は違うだろ! ちょっとあっちでもう一度禰豆子の顔を見てくれ! もう少し明るい方で!」

 

「炭治郎! こいつ殺していい!? なぁ? 殺していいか? いや殺そう! すぐに殺そう!」

 

 

 

 

 

 その後、つり目の少年のあとに続きながら日輪刀を振りかざし今にも殺しそうな勢いの重富を禰豆子の弁明を続けながら必死に止める。

 少年のあとについて行くと、壁がそびえ立ち行き止まりと思いきや少年はそのまま直進する。壁にぶつかると思われた少年の体は壁を通過した。半信半疑で重富たちも試してみると壁があった向こうには立派な豪邸が立っていた。

 

 

「珠世様、戻りました」

 

「この口枷のせいかもしれない! これ外した禰豆子を一度見てもらいたい!!」

 

「もうさ! 一発だけ殴らせてくんない? もう殺さないから一発だけぶん殴らせてくんない? 頼むから!」

 

 

 頑なに禰豆子を弁明する炭治郎と額に血管を浮かび上がらせながら拳を握る重富は屋敷の部屋に入る。

 その部屋では先程の女性が割烹着(かっぽうぎ)を着てベッドの横に座っていた。

 

 

「おかえりなさい」

 

「アンタは……さっきの。女性の状態は?」

 

「この方はもう大丈夫です。ご主人は気の毒ですが拘束して地下牢に」

 

 

 ベッドの上には鬼に肩を噛まれた女性が眠っていた。顔色も良くなっており問題なさそうに見えた。

 

 

「人の治療をして辛くないですか? ぐはっ!」

 

 

 人の血を見ると食人衝動が湧き上がる鬼にとって、出血した人を治療するとは苦難のはず、そう考えて炭治郎は聞くが少年に胸を殴られる。

 

 

「鬼の俺達が血肉の匂いによだれを垂らして耐えながら人間の治療をしているとでも?」

 

「よしなさい! どうして暴力を振るうの。申し訳ありませんどうか許してあげてください」

 

「重富、俺は大丈夫だから……」

 

 

 炭治郎は胸に手を当てながら、重富に向かって言った。

 

 

「だから……刀を閉まってくれ」

 

 

 重富の刀は少年の薄皮一枚で止まり、赤い血が流れる。

 

 

「ちっ……」

 

 

 そう舌打ちをしてゆっくりと刀を納める。

 

 

「名乗っていませんでしたね、私は珠世(たまよ)と申します。その子は愈史郎(ゆしろう)。仲良くやってください」

 

 

 そう言われ炭治郎はそっと目を横へ向けると、重富と愈史郎が今にも殺し合いを始めそうな眼で睨み合っていた。

 

 

(俺はともかく、重富は無理そうだな……)

 

 

 先程も炭治郎が止めていなければ重富は愈史郎の首を落としていたであろう。それ程までにこの二人の中は険悪だ。

 

 

「辛くはありません。私は私の体を随分弄りましたから、鬼舞辻の呪いも外しています。さらに人を喰らわずに暮らしていけるようになりました。人の血を少量飲むだけで事足りる」

 

 

 珠世は割烹着を脱ぎながら説明する。珠世たちは金銭の余裕のない人々から輸血と称し血を買っていた。珠世たちは人を喰らわずに生きる鬼の例外だ。出会った時から感じていた違和感、鬼特有の異臭や気配がしないのは人を喰らっていないためだ。

 

 

「愈史郎はもっと少量の血で足ります。この子は私が鬼にしました」

 

「えぇ!? 貴方がですか?」

 

 

 通常、鬼を増やすことができるのはこの世で最初の鬼である鬼舞辻無惨だけである。炭治郎もそう師である鱗滝から聞いていた。

 

 

「驚くのも無理はありません。事実、鬼舞辻以外は鬼増やすことは出来ない。それは概ね正しいです。二百年以上かかって鬼にできたのは愈史郎ただ一人ですから」

 

 

 二百年以上かかって鬼にできたのは愈史郎ただ一人ですから、その言葉を聞いて炭治郎は驚愕を露にして頭を抱える。

 

 

「一つ聞きたい」

 

 

 炭治郎が必死に脳を回転させている中で、重富がやっと口を開いた。

 

 

「なんでしょう?」

 

「なんでそんな大事な事ぺらぺらと俺たちに教えるんだ?」

 

 

 鬼殺隊である重富や炭治郎にとって自分が鬼である事や鬼を増やした事を教えれば自分の身が危うくなる事などわかるはずだ。

 なのに珠世は次々と重大であるはずの情報を提供してくる。それが重富には不可解だった。

 

 

「それは出会った時に申しました通りです。貴方達は鬼になった者にも人という言葉を使ってくれた。だから私は貴方達のお力になりたいのです」

 

「それを俺に信用しろと? アンタの言うことが嘘でない理由がどこにある」

 

「貴様っ! 下手に出ていれば珠世様になんて口を!!」

 

「やめなさい愈史郎」

 

「ですが珠世様!」

 

「やめなさい」

 

 

 珠世に疑いをかける重富に激高する愈史郎を珠世がとめる。珠世にとめられた愈史郎は渋々座る。真っ直ぐ珠世を見据える重富に今度は炭治郎が口を開いた。

 

 

「重富、この人からは嘘をついた匂いがしない。この人達は信用できると思うんだ」

 

「そんな事はわかってる。けど、だからと言ってこの()()を簡単に信じていい訳じゃない。そもそも禰豆子ちゃんを人間に戻すことができる訳もなし」

 

「できます」

 

「なに?」

 

 

重富はそう聞き返すと珠世はもう一度確かな声で言った。

 

 

 

「鬼を人に戻す方法はあります」

 

 

 

 




振るう刃は友の為に ○○コーナー


作者(以下作)「えぇ、今回もお読みいただきありがとうこざいました。今回のコーナーはアンケートの結果を発表させていただきます!」

手鬼(以下手)「待て作者」

作「何ですか?」

手「何故この俺様がこんな所に呼ばれる。しかもこんな内容の時に!」

作「だって手鬼さんもう出番ないし、だからといって主人公の重富くんは呼んじゃいけない内容だし」

手「あの俺の頸を斬った狐の面のガキがいるだろうが!」

作「炭治郎くんは純粋なんです!こんな内容に呼べるわけないでしょう!」(鬼気迫る勢い)

手「ぐ…何故ここまで強気なんだ……」

作「じゃ、さっさといきますよ。この作品のヒロインですが、ハーレムに決定しました!」

手(どうでもいい……)

作「まぁ、ぶっちゃけ私がハーレムにしてみたかったとゆう理由もありますが誠心誠意書きます!」

手 「パチパチパチパチ」(←全身の手で気だるげに拍手している)

作「それではまた次回、よろしくお願いします!」

手(この俺はいる必要があったのか?)


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第8話 襲撃者

どうもZakkiです。感想、評価、質問なんなりとどうぞ!


「鬼を人に戻す方法はあるだと?」

 

「はい、あります」

 

「お願いします! その方法を教えてください!」

 

 

 禰豆子を人に戻す方法の手がかりをやっと見つけた炭治郎は珠世の発言に食いつく。

 

 

「どんな傷にも病にも必ず薬や治療法があるのです。ただ、今の時点ではできません。ですが私たちは必ずその治療法を確立させたいと思っています」

 

「なら、何が必要なんだ? 他の鬼の首でも持ってくればいいのか?」

 

「いえ、首ではなく血です。治療薬を作る為の多くの鬼の血が必要になります。それとお願いしたいことがあります」

 

 

 珠世が重富たちに言った願いは二つ。

 一つ、禰豆子を血を調べさせること。

 二つ、できる限り鬼舞辻の血が濃い鬼からも血液を採取すること。

 

 珠世曰く、禰豆子は今極めて稀で特殊な状態だという。二年間の眠りによって体が何らかの変化を起こし、本来通常の鬼がなるはずの凶暴化が禰豆子には現れていない。この異例は今後の鍵になる。

 

 そしてさらにもう一つの願いは重富たちには過酷な頼みとなる。

 鬼舞辻無惨の血が濃い鬼という事は鬼舞辻無惨により近い強さを持つという事だ。そんな鬼から血を()るのは容易ではなく死ぬ危険もある。

 

 

「それでも貴方たちはこの願いを聞いてくださいますか?」

 

 

 大きな危険が伴う願いだ。それでもやるかと珠世の問いに重富たちは…………

 

 

「禰豆子ちゃんが人間に戻れる方法が少しでもあるならやる。俺はそのためにここにいるんだから」

 

「俺もそれ以外に方法がなければやります。珠世さんがたくさんの鬼の血を調べて薬を作ってくれるなら禰豆子だけじゃなくもっとたくさんの人が助かりますよね?」

 

 

 二人の答えは最初から決まっていた。炭治郎が笑ってそう問うと珠世は優しく微笑んだ。

 

 

「そうね」

 

 

 珠世に優しく微笑まれた炭治郎に妬みの視線を向ける愈史郎が唐突に叫んだ。

 

 

「まずい! ふせろ!!」

 

 

 愈史郎がそう叫んだ瞬間、激しい破壊音とともに二つの何かが家を の壁を貫き重富たちを襲った。チリン……っと鈴の音を鳴らして。

 

 

「何だってんだ! ったく!」

 

 

 重富は愚痴をもらし飛んできたものを確認するとそれは()だった。見た目は完全に子供が遊ぶような鞠だ。それが屋敷の壁を貫いて破壊していた。

 

 炭治郎と愈史郎はそれぞれ禰豆子と珠世を庇い、身を屈ませる。毬は屋敷の壁や天井を跳ね返り幾度となく重富たちを襲った。

 

 すると一個の鞠が不規則な軌道を絵描き、何も触れていないはずの毬はありえない方向へ曲がり愈史郎の横顔へ直進した。

 

 

「ふっ!」

 

 

 しかし毬が愈史郎にぶつかるすんでのところで重富が愈史郎の足を蹴り体勢を崩す事で救った。

 

 

「貴様! 何をする!」

 

「助けてやったんだから文句言うな!」

 

「何だと!?」

 

「何だよ!」

 

「喧嘩してる場合じゃないだろう二人とも!」

 

 

 毬が暴れ続ける中で口喧嘩をする愈史郎と重富を注意する炭治郎。明らかに敵襲だと気づいた炭治郎は禰豆子に指示を出す。

 

 

「禰豆子! 眠っている女性を安全な場合に運んでくれ!」

 

 

 禰豆子は無言でこくりと頷き女性を抱えて奥へと向かった。散々暴れた毬は投げた本人の元へ戻っていく。そこには人の形をしたものがしたものが二つ。しかしそれは人間ではない、鬼だ。

 

 一人は甲高いと声とともに毬を弾ませてケラケラと笑う少女、もう一人は両目をつぶり首に数珠をかけた少年の姿をした鬼だ。

 

 

(この気配の感じ……今まで戦ったやつより強いか?)

 

 

 今までにないほどの気配を感じ取る重富の頬を汗が滴る。

 

 

「キャハハハ! 耳に花札のような飾りを着けた者と青黒の髪をした鬼殺隊の二人組はお前たちだな?」

 

「人違いだ。帰れ」

 

 

 甲高い笑い声を上げて確認する鬼を冷たく返す。この二人の鬼の目的は炭治郎と重富らしい。

 

 

「珠世さん! 愈史郎さんを連れて下がってください!」

 

 

 炭治郎が身を隠すように珠世たちに進言する。しかし珠世はその場を動こうとしない。

 

 

「炭治郎さん、重富さん。私たちのことは気にせず戦ってください」

 

「はぁ? 何言ってんだアンタ!」

 

「守っていただかなくて結構です。()()()()()

 

 

 鬼であれば傷ついても治る。だから守らなくていい。そういう珠世の発言を聞いて重富は酷く虫酸が走った。

 その間に毬鬼の第二激の毬が飛んできた。一つは炭治郎の元へ、もう一つは愈史郎と珠世の元へ。珠世は愈史郎に庇われながら目をつぶった。

 

 

『雨の呼吸、肆ノ型 迅雨』

 

 

 奇妙な動きをして突っ込んでくる毬を重富が細かく切り刻んだ。爪の大きさ程まで切り刻まれた毬は威力を失い重富の服に軽くぶつかり地に落ちた。

 

 

「おい、次自分たちが鬼だから……なんて言ったらしばきまわすぞ」

 

「おい貴様! 珠世様に手を出したらこの俺が……

 

「うるせぇぇぇ!」

 

 

 愈史郎が重富の珠世へ対する発言に物申そうとするとそれを遮るように重富が大声を上げた。重富がここまで他人の意見を強く否定するのは珍しい。

 

 実際、長い付き合いである炭治郎でさえここまで声を荒らげる重富を見たことがなく驚いていた。

 

 

「てめぇの主は自分が鬼だからって理由で自分を軽視したんだぞ! 鬼だからなんだ? 傷ついても治るから構わないって? お前医者なんだろ? 笑わせんな! この世に! 傷ついていい奴なんて誰一人としていねぇ! 人間鬼関係なくな!」

 

 

 重富は珠世たちに背を向けたままそう叫んだ。

 鬼だから……なんて理由で傷ついていい道理はない。傷が治れば、傷が治る者なら傷ついてもいいのか……それは違う。断じて。

 

 

 

「それでも自分は鬼だからって理由で傷つこうとするなら、医者を廃業しろ。お前に誰かの命を背負う資格はない」

 

 

 命を助ける立場の者が自分の物であっても命を軽んじる発言をした。重富はその事が()()()どうしても許せなかった。

 

 

「キャハハッ! 何か言うておる。面白いのう楽しいのう」

 

 

 手毬鬼は口角を鋭く上げて不敵に笑う。生き死にがかかったこの戦いを遊びのように……ただただ楽しむだけのように。

 

 

十二鬼月(じゅうにきづき)である私に殺させる事を光栄に思うが良い」

 

「嫌だね! つか十二なんならって何!」

 

「鬼舞辻直属の部下です」

 

 

 半分やけクソ気味に問いを返すと珠世が答える。鬼舞辻無惨の直属の部下。それはつまり鬼舞辻無惨に近い強さがある。

 この鬼の血を取れば珠世の願いの一つである、鬼舞辻無惨の血が濃い血液を奪う事が出来る。

 

 

「よしお前らもう帰んなくていいぞ、ここで死んでけ」

 

「帰らぬとも、遊び続けよう! 朝になるまで! 命尽きるまで!」

 

 

 手毬鬼は上半身の着物を脱ぎ、腕を四本生やした。腕の数に合わすかのように毬も四つ増える。

 計六個の毬を投げ、かつてないほど激しい攻撃が繰り出される。

 

 六個の毬による苛烈な攻撃は天井や壁を反射し、特別な回転がかかっている訳でもないのに軌道が変わり苦戦を強いられる。

 

 負けじと重富は先程やったように小間切れにするが手数が足りない。切ったとしてもどこからともなく新しい毬が現れる。

 徐々に押されていき、珠世たちを庇い重富は頬を切られ脇腹の肉を抉られる。

 

 

「いって!」

 

「おい鬼狩り! あれだけ大層なこと言ってこのザマか!」

 

「うっせぇ! 不規則な上に数多いんだよ!」

 

()()を見ればわかるんだよ! 矢印を避けろ!! そうしたら毬女の頸くらい斬れるだろ! 俺の視覚を貸してやる!」

 

 

 愈史郎は懐から不思議な紋様が書かれた二枚の紙を取り出して重富と炭治郎の額に貼り付けた。すると重富たちの目に妙なものが映し出された。

 

 それは矢印だ。赤い矢印が毬の軌道を先導するように部屋中を駆け巡っていた。恐らくもう一人の鬼の血鬼術だろう。

 

 

「うおっ!? 何だコレ! 矢印ソノモノじゃん!」

 

「愈史郎さんありがとう! 俺にも見えました! 重富! 木の上だ!!」

 

「わかってるよ!」

 

 

 屋敷の外にある鬼の気配は二つ。一つは手毬鬼。もう一つは木の上にいる。重富は破壊された壁から飛び出して木の上に潜んだ鬼を捕捉する。

 

 

『雨の呼吸、参ノ型 遣らずの雨』

 

「ぐっ……」

 

 

 矢印の血鬼術を使う鬼の足場の目掛けて刀を蹴り飛ばす。足場を失い宙に浮く鬼に刃を振り下ろす。

 

 

「ぬおっ!」

 

「………ッ!」

 

 

 振り下ろした刃は矢印鬼を切ることなく宙を着物を掠めた。気がつくと足元には矢印が重富の向く方向とは逆向きについていた。

 

 

「小僧!(わし)の着物を傷つけおったな!」

 

 

 矢印の方向に従い木に叩きつけられる。そのまま塀や木、地面へと矢印で叩きつけられた。

 

 

(がはっ……マジで痛ってぇ!! 死にそう!)

 

 

 強制的に振り回され強引に叩きつけられを繰り返し、肺の中の空気が押し出される。最後に矢印は重富を空高く持ち上げてその効力を消した。

 重富は空高く放り出された。この高さから落ちれば骨折では済まない高さだ。

 

 

(やべぇやべぇやべぇッ! このまま落ちたら死ぬ! でもだからって衝撃を完全に緩和するなら刀が足りねぇ!)

 

 

 重力に従い地面に向かって落ちる重富は額に汗が吹き出す。技を出して落下の衝撃を緩和するには刀一本では威力が足りない。雨の呼吸は二本で本来の威力を発揮する呼吸なのだ。

 重富は今刀を一本しか持っていない。片方は矢印鬼を木から落とす時に飛ばしてしまった。

 

 

「クソっ! 一本でもやるしかねぇ! ……ってうお!」

 

 

 腹を括り刀一本で技を出そうと振りかぶると感じていた浮遊感が消えた。

 

 

「禰豆子ちゃん!?」

 

 

 気がつけば重富は禰豆子に抱えられ地面におりていた。禰豆子は重富を空中で捕らえて着地してくれたのだ。さらに禰豆子の片手には重富の刀が握られていた。

 

 

「うー」

 

「おぉ! 俺の刀まで持ってきてくれたのか! 偉い偉いありがとな♪」

 

「うー♪」

 

 

 禰豆子から刀を受け取り頭を撫でる。禰豆子は心地良さそうに撫でられる。

 

 

「青髪の鬼狩り!さっさと矢印の男をやれ!」

 

「うるせぇよ!こいつはやりずらいんだよ!手毬女の方がずっとやりやすいわ!」

 

「ほう?言ってくれるのう?矢琶羽(やはば)、こやつは私にやらせて貰うぞ?」

 

「ふざけるな朱紗丸(すさまる)。この小僧は儂の着物を傷つけた。生かしてはおけぬ!」

 

「うわ〜鬼にモテても嬉しくねぇ〜」

 

 

重富はどうやらこの二人の鬼に、同時に怨みを買ってしまったらしい。冗談交じりつぶやく間に立ち上がり呼吸を整える。刀を構えながら炭治郎の側まで戻る。

 

 

「さて、どうするか…」

 

「重富、俺が矢印の方をやるよ。水の呼吸の方が応用が効くし戦えると思うんだ」

 

「そうしてくれると有難いけど大丈夫か?アイツ本気でやりずらいぞ?」

 

「あぁ、わかってる」

 

 

炭治郎は刀を強く握り鬼の二人を真っ直ぐ見据える。この鬼たちは強い。重富や炭治郎が戦ってきたどの鬼よりも強い。

 

 

「重富こそ、禰豆子や珠世さんたちを任せちゃうけど大丈夫か?」

 

「なぁに、今更どおって事ないさね」

 

 

一人で立ち向かう炭治郎に対して重富は禰豆子や珠世たちを庇いながら戦うことになる。重富以外鬼とはいえ苦戦する事は明らかだ。

しかし重富は不敵に笑って肩をほぐす。

 

 

「さ、第二回戦と行こうか」

 

 

 

 

 

 




振るう刃は友の為に ○○コーナー

炭治郎(以下炭)「皆さん、第8話襲撃者をお読みいただきありがとうございます!」

重富(以下重)「ありがとうございま〜す」

炭「今回の敵は毬と矢印を使う鬼は手強そうだな、重富」

重「毬かぁ…そう言えば昔花子ちゃんや茂たちと毬で遊んだっけな。町の子供の古いヤツ貰って」

炭「あの時は重富がいらない物を貰ってきてくれたんだよな!二人ともすごく嬉しそうだったぞ!」

重「いや〜懐かしいな〜でもすぐ壊れちゃって二人とも大泣きしてまいったよ…」

炭「はは!あの時は俺と重富、禰豆子の三人で何とか泣き止んで貰ったんだよな」

重「笑い事じゃないぞ炭治郎。毬を持ってきた側として結構責任感じたんだからな?」

炭「確かに、あの時の重富はすごく慌ててたな。よく覚えてるよ」

重「俺もよく覚えてる。禰豆子ちゃんが人に戻ったら今度は三人でやろうな」

炭「あぁ約束だ!」


重&炭「「それではまた次回、お楽しみに!」」


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第9話 ずっと一緒に

どうも皆さん、いつもお読みいただきありがとうございます!
感想、評価ございましたらよろしくお願いします。
誤字脱字報告、質問等も遠慮なくどうぞ。


「さ、第二回戦と行こうか」

 

 

重富は切っ先を敵へ向けて不敵に笑う。

鬼は二人、炭治郎は矢印の血鬼術を使う男の鬼と、重富は腕を六本生やした毬で攻撃する女の鬼を担当することになった。

 

 

「で、どっちが俺とやるかはそっちは決まったのか?」

 

 

先程からどちらが重富とやり合うか口論していた二人の鬼に問いかける。

 

 

「キャハハハ!お主は私と遊びたいのだろう?ならばもちろん私が相手になるとも」

 

「遊びたいとは言ってないけどな…」

 

 

微妙に噛み合ってない話に冷静に突っ込みを入れる重富。手毬鬼は重富たちに奇襲してきた時からそうだった。ずっと遊ぶ事をせびるようにひたすら遊びたいと発言する。ただの子供のように…

 

 

「そっちの矢印野郎はそれでいいのか?」

 

「黙れ小汚いガキめ!貴様への怨みはその耳飾りを着けた小僧にぶつけてやる!そしてお前も必ず殺してやる!必ずだ!」

 

 

余程着物を傷つけられたのが許せないのか殺意全開で声を荒らげる。それに対し、重富は嘲笑で返した。

 

 

「そりゃ無理だ。お前じゃ炭治郎に勝てん」

 

 

炭治郎が矢印鬼に勝てば重富を殺す事は出来ない。矢印鬼は炭治郎によって滅っされる。重富はそう確信していた。

 

 

「重富、あんまり相手を挑発しないでくれ…それと禰豆子たちの事は頼んだ」

 

「おう!任せろ!」

 

 

重富の力強い返事を聞いて炭治郎は矢印鬼へ向かっていった。重富は炭治郎の背中を見送り手毬鬼に目線を戻す。

 

手毬鬼は六本の腕でそれぞれ毬を弾ませる。そして六つの毬を一斉に投げつける。屋敷を破壊した時とは違い激しい回転がかかっている。重富は迫り来る毬を全て斬り捨てる。

 

 

「はっ矢印さえなければ余裕余裕!」

 

 

重富に切り落とされた毬はその形を崩し消えた。手毬鬼は新たに毬を出して高らかに笑う。

 

 

「やるのうお主。ならば、こればどうじゃ!」

 

 

手毬鬼は二つの毬をあらぬ方向に投げる。重富の真横に投げられた毬は地面に着弾すると方向を変え挟み撃ちするように飛んできた。

 

 

魂胆(こんたん)バレバレ…)

 

 

毬を使って攻撃する時点でこんな手段を取ると予想していた重富は冷静に毬を斬る。

 

 

「はぁ…お前もうちょっとマシな攻撃を」

 

 

あまりに予想通りの攻撃に落胆し視線を落としてため息をつく。再び手毬鬼に視線を戻すと目と鼻の先に毬が迫っていた。

紙一重のところで毬は重富の顔を掠めて過ぎ去った。

 

 

「っぶねェ!」

 

「よく避けたのう。しかし、避けてよかったのか?」

 

「………ッ!」

 

 

したり顔で笑う手毬鬼の言葉を聞いてハッとする。過ぎ去った毬の行方を見ると毬は禰豆子めがけて迫っていた。

 

 

「しくったっ!避けろ禰豆子!」

 

 

そう禰豆子に警告するも重富の声に反して禰豆子は毬を蹴り返そうとする。

 

 

「蹴ってはダメよ!」

 

 

後ろで見ていた珠世も咄嗟に叫ぶも時すでに遅し、禰豆子の足が毬触れた瞬間、足は膝下まで消し飛んだ。

 

 

「禰豆子ッ!」

 

「重富さん貴方は鬼に集中してください!禰豆子さんは私が見ます!」

 

 

傷を負った禰豆子に駆け寄ろうとした重富を珠世が静止する。今、重富が禰豆子の元に駆け寄れば手毬鬼に致命傷を与えられる者がいなくなる。

重富は自分の失態を恥じながら奥歯を噛み締め手毬鬼へ向き直る。

 

 

「てめぇは本気でぶっ殺す」

 

 

凄まじい怒気をはらんだ声音で鬼を睨みつける。一定の距離を保つ手毬鬼はその殺意がピリピリと全身に伝わった。

 

 

「キャハハハッ!イイ!いいぞその凄まじい殺気!さぁ続けよう!遊ぼ……ぞ?」

 

 

手毬鬼……いや、朱紗丸は妙な浮遊感を覚えた。視界に映る天地が逆転している。何が起こったのか皆目見当もつかない。理解できない疑問が頭を満たした時、ボトっと音を立てて何かが地に落ちる音がする。

気づけば誰かの足が目の前にあった。その足の持ち主を見上げると先程まで一定の距離を保っていたはずの重富が自分を見下ろしていた。

そこで初めて自分の頸が重富によって斬られた事を理解した。

 

 

「まっ待て!待ってくれ!まだ!まだ私は遊びたいのだ!まだ私は…………」

 

「うるせぇよ……餓鬼(ガキ)が」

 

 

重富は懇願する朱紗丸の頭を体重を掛けて踏み潰す。朱紗丸の頭はぐしゃぐしゃになって飛び散った。

 

重富は刀を鞘に戻し嘆息する。

 

 

「禰豆子ちゃんは珠世さんが見てるし…炭治郎の方に行くか」

 

 

重富が今も戦っているかもしれない炭治郎の元まで走ると戦いは既に終わっていた。そしてボロボロの雑巾のようになった炭治郎が地に倒れていた。

 

 

「お、おい大丈夫か!?炭治郎。羽織りもあっちに落ちてたけど」

 

「あ、あぁ何とか大丈夫だ。(あばら)と足の骨が折れちゃったかもだけど」

 

「それは大丈夫じゃないんじゃないのか?」

 

「あとあの鬼の矢印を緩和するために技を出し過ぎて体がいうことを聞かない」

 

「全くもって大丈夫じゃないな」

 

 

ズタボロになった炭治郎に羽織りをかけて肩を貸す。とりあえず屋敷で休むために足を踏み出すと、眩しい光が射した。朝だ。

 

屋敷の中に戻ると不思議と誰もいなかった。二人で首をかしげていると廊下の隅から声が響いた。

 

 

「おい、こっちだこっち。お前らがどうしても来たいなら早く来い」

 

 

愈史郎の声だった。声のした方へ向かうと床が開いた状態で隠し階段があった。階段を降りると地下牢が並んでいた。

階段から降りてきた重富たちを見つけると禰豆子は二人を抱きしめた。

 

 

「わ、禰豆子」

 

「おぉ〜!禰豆子ちゃん足が治ったようでよかった〜!」

 

 

手毬鬼の毬で消し飛んだ足は綺麗に再生していた。重富は強く禰豆子を抱きしめ返した。

禰豆子はひとしきり抱きしめた後、今度は珠世に駆け寄り抱きつく。

 

 

「炭治郎さん、重富さん。さっきから禰豆子さんがこの調子なのですが……」

 

 

珠世は困惑した表情で炭治郎たちを見る。愈史郎は珠世に抱きつく禰豆子を見て額に血管を浮かばせながら自分を撫でようとする禰豆子の手を拒んでいた。

 

 

「禰豆子にかかってる暗示が珠世さん達を家族の誰かに見えてるんだと思います。俺の師匠が禰豆子にかけてくれたんです」

 

「でもそれは人間を家族に見せる暗示なのでは?私たちは鬼ですが………」

 

「それでも禰豆子ちゃんはアンタらを人間だと判断したんだろ」

 

 

納得できないといった表情を浮かべる珠世に重富が答えた。

すると珠世の頬が涙で濡れた。

 

 

「すいませんっ!禰豆子!禰豆子!はなっ離れるんだ!失礼だから!」

 

 

急に涙を流す珠世を見て慌てて禰豆子を引き剥がそうとする炭治郎。しかし珠世は禰豆子を抱きしめ心からの感謝を述べた。

 

 

「ありがとう禰豆子さん。ありがとう…」

 

 

何故珠世が涙を流し禰豆子に礼を言うのかは重富たちにわかるはずもない。しかしこの場にいる愈史郎だけは涙の意味を知っていた。

自分が鬼であることに複雑な感情を抱いていた珠世には人間として扱われる事は特別な事だった。己が鬼であることに苦しんでいた。だから人として扱われるのが嬉しかったのである。

 

涙を拭った珠世は重富たちにこの土地を去ることを告げる。

 

 

「鬼舞辻に近づき過ぎました。早く身を隠さなければ危険な状況です。うまく隠しているつもりでも医者として人と関わりを持てば鬼だと気づかれる時がある。特に子供や年配の方は鋭いのです」

 

 

人の中に紛れて暮らす中でも油断は禁物ということだ。子供は何かを看破することに長けているし、年配の方は長年生きた感というべき直感力がある。実際に重富や炭治郎のように五感が鋭いものにもバレる可能性があるのだ。

 

珠世の話に頷いていると珠世はある提案をしてきた。

 

 

「炭治郎さん、重富さん。禰豆子さんは私たちがお預かりしましょうか?」

 

「え?」

 

 

予想だにしなかった提案に思わず面食らってしまう炭治郎。重富は何も反応せず黙っていた。

 

 

「絶対に安全とは言いきれませんが戦いの場に連れて行くよりは危険が少ないかと」

 

 

珠世の言うことは至極もっともだった。これからも戦いは続いていく。さらに珠世の願いである鬼舞辻無惨に近い強さの鬼と戦う場合、禰豆子を守りながら戦う負担は計り知れない。

 

 

(そうかもしれない…確かに、預けた方が禰豆子のためにも…でも……)

 

 

炭治郎は悩んだ。どうすればいいかわからない。どうするのが正しいかわからない。悩んだ末、炭治郎は……

 

 

「なぁ…重富。どうすれ──

 

「俺に聞くのはお門違いだぞ」え」

 

「え」

 

 

炭治郎が考えた末、重富に相談しようと名前を呼ぶが重富は炭治郎が言い切る前にキッパリと断った。断られると思ってなかった炭治郎は少し混乱する。

 

 

「炭治郎、俺に聞くのは間違ってる。これは炭治郎が決めることじゃない。もちろん俺が決めることでもない。これは……禰豆子ちゃんが決める事だ」

 

 

これは禰豆子自身が決める事だ、そう言って重富は禰豆子の前に立ち腰を低くして目線を合わせる。

 

 

「なぁ、禰豆子ちゃん。これから兄ちゃんや俺と一緒に来ると危険かも知れない。いや、かもじゃない。ハッキリ言って危険だ。だから、珠世さん達について行く事もできる」

 

 

重富は禰豆子ちゃんの目を真っ直ぐ見つめて説明する。

 

 

「禰豆子ちゃんは…どうしたい?」

 

 

禰豆子に選ばせる。炭治郎と重富と共に一緒に行くか珠世たちについて行くか。禰豆子の答えは………

 

 

両手で重富と炭治郎の手を握ることで答えた。

 

 

「だってさ、炭治郎」

 

 

重富は禰豆子の手を握り返しながら笑って炭治郎に言った。炭治郎も微笑んだ。

 

 

「ありがとうこざいます。でも、俺たちは一緒に行きます。離れ離れにはなりません。もう二度と……」

 

 

もう二度と離れ離れにはならない。もう二度と会うことは出来ない大切な人達の分まで。

 

 

「………わかりました。では武運長久を祈ります」

 

「じゃあな、俺たちは痕跡(こんせき)を消してから行く。お前らももう行け」

 

 

別れ際の言葉を受け取り、重富たちもこの場から離れることにする。

 

 

「んじゃ、お言葉に甘えてさっさとずらかるか」

 

「あぁ、じゃあ…日が出てるし箱を」

 

「炭治郎、重富」

 

 

禰豆子を入れるための箱を取りに戻ろうと階段に足をかけた時、愈史郎が呼び止めた。炭治郎と重富は首をかしげ愈史郎に振り向くと愈史郎は背を向けていた。

 

 

「お前たちの妹は美人だよ」

 

 

その言葉の意味がわからなかった珠世は不思議なものを見た顔をした。しかし炭治郎と重富だけは言葉の意味を理解し思わず笑った。

 

 

「あ、重富さん。ちょっと……」

 

「え、なんすか?」

 

 

 

 

〜*〜

 

 

 

明け方、東京府浅草を出てすっかり昼になりだいぶ離れた土地を歩く。

 

 

「南南東!南南東!南南東!次ノ場所ハ南南東!」

 

「キビキビ歩ケェ!」

 

 

炭治郎と重富の鎹鴉が耳元でわめき散らす。

 

 

「わかった!わかったからもう少し黙ってくれ。頼むよ」

 

「あぁ、夜中は戦闘で明け方からずっと歩き通し…頭痛くなってきたぜ」

 

 

昨夜の戦闘で負った傷や疲労が体に残る中でこの鴉たちの喚き声は心底答えた。耳を手で塞ぎ少しでも声を聞こえないようにすると、鴉の声の比じゃないほどの声が重富たちに届いた。

 

 

「頼むよ!!」

 

 

鴉たちの声が可愛く思えるほどの声量を出す方向を向くと、金髪の少年が少女にしがみついていた。

 

 

「頼む頼む頼む!!結婚してくれ!いつ死ぬかわからないんだ俺は!だから結婚してほしいというわけで!頼むよォーーーッ!」

 

 

少年は泣きじゃくり鼻水を垂らして少女に結婚を申し込む。

 

 

「なんだ?」

 

「うぉぉ……声がデカすぎて頭に響く……」

 

 

なんとも珍妙な光景に炭治郎は困惑し、重富は大き過ぎる声に頭を抱えていた。

 

 

 




振るう刃は友の為に  後書きコーナー

作者(以下作)「どうも皆さん作者のZakkiです。第9話ずっと一緒にをお読みいただきありがとうございました!そして今回のゲストはこちらの方々です」

朱砂丸(以下朱)「朱砂丸じゃ」

矢琶羽(以下矢)「矢琶羽だ」

作「はい、とゆうことで今回瞬殺された朱砂丸さんと死ぬ描写すらない矢琶羽さんです」

朱&矢「「おい」」

矢「わざわざこんなみすぼらしいコーナーに来てやった者にその言い草はなんじゃ」

朱「私らとて暇ではないのだぞ?」

作「いや暇じゃないですか、今後一切出ないんだから」

朱&矢「「貴様ッ!」」

作「ホント仲良いですね。ほぼ初対面みたいなものなのに」

朱「そもそもなんじゃ、私のあの死にざまは。原作と大分違うではないか」

作「原作と相違あるから二次創作なんです」

矢「朱砂丸などなど良い、儂はこやつの言った通り死ぬ描写すらないのだぞ?」

朱「それもそうじゃな、なぜだ作者」

作「矢琶羽さん戦まで書くのめんど……字数的にあれだったんで」

朱&矢「「貴様めんどうだと言いかけおったな!」」

作「マジで仲いいですね.......」


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鼓屋敷編
第10話 鼓屋敷


感想、評価、質問、誤字脱字報告ありましたらどうぞ〜


「なんだ?」

 

 

 炭治郎は物珍しいものを目の当たりにして困惑する。少年が少女にしがみつき、結婚を懇願していた。その物凄い勢いに迫られていた少女は怯えていた。

 

 

「とりあえず行こう、重富」

 

「あぁ……というかアイツってまさか」

 

 

 道の真ん中でとんでもない大声で(一人が)騒いでいるのも見過ごせず重富も止め入るため駆け寄る。しかしその少年に重富は見覚えがあった。

 

 

「チュンチュン!」

 

「うおっ! なんだ? 雀?」

 

 

 少年の元へ駆け寄ろうとすると雀が飛んできた。

 

 

「チュン!」

 

「そうかわかった! 何とかするよ!」

 

「えっ!? 何がわかったんだ!? チュンしか言ってなくね?」

 

 

 雀の意図を何故か汲み取れた炭治郎はすぐさま金髪の少年の襟を掴んで引き剥がす。

 

 

「何してるんだ! この子が嫌がってるだろう! そして雀を困らせるな!」

 

 

 金髪の少年を女の子から引き剥がし少年を叱る。涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で少年は炭治郎とそばにいる重富を見る。

 

 

「あっ隊服! お前ら最終選別の時の……」

 

「お前みたいな奴は知人に存在しない! 知らん!」

 

「え──ーっ!! 会っただろうが! 会っただろうが! お前の記憶力の問題だよ! なぁ! 会ったよな! そっちの奴!」

 

 

 どうやら炭治郎は覚えていないがこの少年は重富と炭治郎が受けた鬼殺隊最終選別の時、同じ突破した者だ。そして重富は最終選別という言葉で思い出した。

 

 

「あ〜そう言えばいたな、鴉じゃなくて雀つけられてた奴」

 

「何だよその覚え方! 確かにそうだけど! 覚えてないコイツよりマシだけどさ!」

 

「さぁもう家に帰ってください」

 

「ありがとうございます」

 

「うぉ────ーいっ!!」

 

 

 重富と少年がやりとりをしている間に炭治郎が女の子を家に返そうとした時、少年が引き止めた。

 

 

「その子は俺と結婚するんだ! 俺のこと好きなんだから……な"!?」

 

 

 少年が女の子を帰らせようとした炭治郎に文句を言っていたら女の子が思いっきり少年の顔に平手打ちを決めた。

 

 

「…………っ!」(バシバシバシバシバシバシバシバシ)

 

 

 その後、終始無言で少年を叩きまくる。流石に見てられなくなるくらい叩きまくっていたので炭治郎と重富で止めに入る。

 

 

「お、落ち着いて」

 

(ここまで女の子に執拗に叩かれる人久しぶり見た……)

 

 

 故郷の街で夫婦喧嘩を仲裁したことがある重富だが夫婦でもないのにここまで叩かれる少年は重富は街を出てから久しぶりだった。

 

 

「うわぁぁぁん!」

 

 

 あまり歳の変わらない少女に滅多打ちにされた少年は泣きわめく。

 

 

「いつ私があなたを好きと言いましたか! 具合が悪そうに道端でうずくまっていたから声をかけただけでしょう!」

 

「俺のこと好きだから心配して声をかけてくれたんじゃないの!?」

 

「私には約束した人がいるので絶対ありえません! それだけ元気なら大丈夫ですねさようなら!」

 

「待って! まっ……行っちゃったじゃんか! お前ら何で邪魔するんだ!」

 

「「…………」」

 

「なんだお前らその顔は!」

 

 

 ここまで騒ぎが大きかった経緯があまりにもアレだったため、憐れみが表情に出てしまった。

 

 

「やめろよ! そんな別の生き物を見るような目で見るな!」

 

「お前……あんな経緯で女の子にしがみついて死にたくならないか?」

 

「どんな質問だよ! 俺はもうすぐ死ぬ! 次の仕事でだ! 俺はもの凄く弱いんだぜ! 舐めるなよ!」

 

「自分の弱さを自慢しちゃいかんよ……」

 

「うるせぇ! あとそっちの耳飾りのお前! さっきから黙ってるけどなんか喋れよ!」

 

「俺は竈門炭治郎だ!」

 

「ちなみに俺は狛江重富」

 

「あらそう!ごめんなさいね!」

 

 

 金髪の少年は今度は炭治郎にしがみついていた。

 

 

「俺は我妻善逸(あがつまぜんいつ)だよ! 助けてくれよ炭治郎! 重富!」

 

「助けてくれってなんだ!? 何でそんなに恥を晒すんだ!」

 

「言い方酷いだろ!」

 

「まぁ炭治郎はいろいろ天然なところがあるから許してやってくれ」

 

 

 我妻善逸は過去に女性に騙され危機に陥った時に借金を肩代わりしてくれたのが現在育手となっている老人だった。

 それから血が滲むような鍛錬の毎日で最終選別で死ぬと思いきや運良く生き残り鬼殺隊の仕事でいまだに地獄の日々………………らしい。

 

 

「あー怖い怖い怖い! 助けてェ──ーッ!!」

 

「どうしたんだ大丈夫か?」

 

「なぁ炭治郎もうおいて先行こうぜ……」

 

 

 一体に何に恐れているのか奇声を発して喘息になる勢いの善逸を背をさすり労る炭治郎。それとは逆にめんどくさくなって置いていこうとする重富。

 

 炭治郎は善逸を自分のおにぎりでどうにか慰め、どうにか一緒に歩き始めた頃、ふと炭治郎がこんな事を言い出した。

 

 

「善逸の気持ちもわかるが雀を困らせたからダメだ」

 

 

 戦う恐怖、いつ死ぬともわからぬ不安。それは戦場にいるものなら誰とてかかえるものだ。しかしだからといって身近の存在に迷惑をかけていい訳では無い。

 

 

「え? 雀が困ってた? そんなことなんでわかるんだ?」

 

「いや善逸がずっとそんなふうで仕事に行きたがらないし女の子にすぐちょっかい出す上にイビキもうるさくて困ってるって……」

 

 

 ペラペラとどこからの情報なのか善逸の人となりを口に出す。その発言を流石に黙って流せなかった重富が炭治郎に聞く。

 

 

「おい炭治郎、それ誰が言ってた」

 

「善逸の雀が」

 

「チュンしか言ってませんでしたが!?」

 

「えっ言ってたの!? 鳥の言葉がわかるのか!」

 

「うん」

 

「嘘だろ!? じゃあ重富もわかるのか!?」

 

「わかるかいっ!!」

 

 

 むしろ炭治郎が何故鳥語を理解できるのかが知りたいと思った重富だった。すると今度は炭治郎の鎹鴉が騒ぎ始めた。

 

 

「駆ケ足! 駆ケ足! 炭治郎、重富、善逸走レ! 共ニ次ノ場所マデ!」

 

 

 

 

 

 鴉に急かされ言われた通おりの方向へ向かうと山の中に一つの屋敷があった。

 

 

 

「血の匂いがする……」

 

「え、何か匂いする? それよりなんか音しないか?」

 

「俺には匂いも音もわかんないけど、違和感は感じる」

 

 

 三人がそれぞれの感覚で屋敷から何かを察知する。

 

 

(とりあえず入ってみるか……)

 

 

 重富が屋敷の中へ入って調べようか考えだしたとき、近くの茂みから物音がする。

 

 

「「「…………っ!」」」

 

 

 物音は炭治郎や重富にも聞こえ物音がした場所には少年と少女がお互いに抱き合い震えていた。すぐさま重富が近づき声をかける。

 

 

「おい、だいじょぶか?」

 

「「ひっ!!」」

 

「…………」

 

 

 重富が声をかけようと手を伸ばすと少年たちはさらに震えあがりすごい勢いで後ずさった。

 

 そして少年たちの身を案じて声をかけた重富はえらく傷つき、その場に這いつくばった。

 

 

「……重富? 大丈夫か?」

 

「…………あとは頼んだ」

 

 

 重富は炭治郎にそれだけ言って反対方向に進んで木下でうずくまり何やらブツブツと言い始める。とにかく少年と少女の警戒をとこうとする炭治郎は善逸の雀を自分の手のひらにのせる。

 

 

「じゃじゃーん!ほら、手乗り雀だ!」

 

 

 善逸の雀は炭治郎の手のひらに乗り跳ねてみせる。その愛くるしい仕草に緊張がほぐれへたへたとへたりこんだ。

 

 

「ば、化け物の……家だ……兄ちゃんが連れていかれた。俺たちには目もくれずに……」

 

 

 炭治郎は少年に事情を聴くと、このニ人は三人兄妹で夜道を歩いていたら一番上の兄が化け物に攫われてらしい。

 

 

「あの家の中に入っていったんだな?」

 

「うん……」

 

「二人であとをつけたんだな? 偉いなよく頑張ったな」

 

「うぅ……」

 

 

 兄が攫われた時と恐怖が蘇ったのかボロボロと涙をこぼし始める。

 

 

「大丈夫だ。俺たちが悪い奴を倒して兄ちゃんを助ける!」

 

「ほんと?」

 

「あぁ、きっとだ」

 

 

 必ず兄を助けると少年たちと約束する。

 

 

「炭治郎、重富」

 

 

 善逸が二人の名前を呼ぶ。先程からずっと耳に手を当てて何かを聞いている善逸が神妙な顔で言い出した。

 

 

「なぁこの音なんだ? ずっと聞こえる。(つづみ)か? これ……」

 

「音? 音なんて聞こえないよな? 炭治郎」

 

「え、っと……俺は何も……」

 

 

ポン

 

ポン

 

ポン

 

 

 連続してなる鼓のような音が聞こえると、ふと二階の窓から血塗れの少年が飛び出した。

 

 

「「「…………ッ!!」」」

 

(…………ッ! 間に合え!)

 

 

 二階から放り出された少年を重富が咄嗟に受け止める。少年は腕や頭、全身の至る所に深い傷を負っていた。

 

 

「おい! あんた! しっかりしろ!」

 

「出ら……れたのに……せっかく外に……出ら……れたのに……俺は、死ぬのか?」

 

 

 少年は誰に問うでもなくそう言った。少年の傷は深い、致命傷だ。もう助からない。

 

 

「…………あぁ、そうだな。あんたは死ぬ…ゆっくり眠れ」

 

 

 重富の言葉が少年に届いたかはわからない。だが少年は静かに息を引き取った。

 

 

「グォオオオオオオオオ!!!」

 

 

 屋敷の中から人ならざるものの雄叫びが外にいる重富たちにも響く。

 

 

「君たちのお兄さんはこの人か?」

 

 

炭治郎が兄妹に問うと兄妹は首を横に振った。

 

 

「に、兄ちゃんじゃない……兄ちゃんは柿色の着物を着てる」

 

 

 少年と少女は血塗れの少年を見ないように目をつぶって言った。

 

 

「重富、善逸! 行こう!」

 

「あぁ行こうか……」

 

「…………」(ブルブルブルブル)

 

 

 炭治郎の言葉に重富も立ち上がり、善逸はガタガタと震えて首を横に振った。

 

 

「そうか、わかった」

 

(げ……炭治郎がおっかない顔してる……)

 

「何だよォ──! 何でそんな般若(はんにゃ)みたいな顔すんだよォ! 行くよォー!」

 

「無理強いするつもりはない」

 

「行くよォーッ!」

 

 

 善逸は炭治郎にしがみつき泣き叫ぶ。化け物がいることが確定した屋敷よりも炭治郎の顔の方が善逸には恐ろしく見えた。

 炭治郎はいまだ顔が青ざめている兄弟の前に禰豆子の入った木箱を置いた。

 

 

「もしもの為にこれを置いていく。何かあったら身を守ってくれるから」

 

 

 屋敷内には恐らく異能の鬼がいる。もしそうなら危険なのでこの兄弟を連れて行くわけにはいかない。炭治郎は禰豆子を兄妹たちの護衛に置いていく。

 屋敷の中に入り、奥へ進んでいくと善逸が怯えた声で言い出した。

 

 

「炭治郎……重富……守ってくれるよな? 俺を守ってくれるよな?」

 

「残念だが善逸……炭治郎は前回の戦いで肋と足が折れてるから無理だ」

 

「ぇぇぇ────っ! 何骨折ってんだよ! じゃ、じゃあ重富が守ってくれよ!」

 

「断る。俺が守るのは炭治郎たちだけだ。他は知らん!」

 

「そんな事言わずに頼むよォ! 守ってくれなかったら俺死ぬよ!?」

 

 

 重富に守る事を拒否されて再び騒ぎ始める善逸。

 

 

「静かにするんだ善逸。お前は大丈夫だ」

 

「気休めはよせよォ!」

 

「重富はこんな事を言っているが、重富だっていざとなったら助けてくれるし、それに俺にはわかる善逸は……」

 

「来るな!」

 

 

 炭治郎が善逸に何か言いかけた時、重富が遮るように声を上げた。

 

 

「はははははいっ! ごめんなさい! すぐ帰ります!」

 

「いやお前じゃなくて」

 

 

 重富は善逸の黄色い羽織の襟をつかみ引き留める。重富が言ったのは手を繋いで屋敷に入ってきた兄妹に対してだった。

 

 

「お、お兄ちゃんあの箱中からカリカリって音がする……」

 

 

 目に涙を溜めた少年が妹の手を引いて言った。この状況で得体の知れない物に敏感になるのも当然だが、炭治郎と重富は複雑な気持ちだった。

 

 

「だ、だからって置いてきちゃ切ないぞ。あれは俺の命より大切なんだから……」

 

「しゃーない、炭治郎、俺一旦外に出て迎えに行ってくる」

 

「あぁ悪い重富、頼んだ」

 

「任せろ。あとお前らも屋敷の中は危険だから外に出るぞ」

 

「わぁぁああ! 俺もやっぱ戻るよぉぉ! 頼む重富俺を守ってくれぇ!」

 

 

 重富が兄妹たちの手を引こうとすると、善逸が無意識か兄妹の間を割り込んだ。

 

 

「あ、ごめ……

 

 

 善逸が謝ろうとした瞬間、また鼓の音が屋敷中に鳴り響く。

 

 

ポン

 

ポン

 

ポン

 

 

 その鼓の音に合わせて部屋の景色が瞬く間に変わった。重富たちは一歩も動いてはいない。

()()()()()()()()強制的に別の部屋に移らされているようだった。

 

 

(これは……屋敷内にいる鬼の血鬼術か!)

 

 

 重富は周囲を見渡してそう結論付けた。こんな尋常ならざる事象は鬼の力以外にありれないと。

 そして重富の近くには炭治郎や善逸、あの兄妹たちの姿もなかった。

 

 

「え、俺一人っきり? マジで?」

 




後書きコーナー

炭治郎(以下炭)「なぁ重富」

重富(以下重)「なんだ?」

炭「俺の鎹鴉は天王寺 松衛門って言うだろ?」

重「あぁあの憶えずらい名前な」

炭「で、善逸の雀はチュン太郎」

重「見た目も可愛けりゃ名前も可愛いよな」

炭「重富の鴉の名前はなんて言うんだ?」

重「非常食」

炭「え?」

重「冗談だ。本当は鞍馬川 琉賢治(くらまがわ りゅうけんじ)と言うらしい」

炭「おぉ!カッコイイ名前だな!」

重「なぜ鴉ばかりこんな名前だ……」


炭&重「「それじゃあまた次回、お楽しみに!!」」


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第11話 炭治郎と重富の音

アニメでやっとカッコイイ善逸のシーンが来ましたね!
善逸の霹靂一閃は痺れました!


《重富side》

 

 

 鬼が潜み鼓の音が響く屋敷に入った重富たちは鼓の音ともにそれぞれ別々の部屋へと移動させられてしまった。

 

 

「あの兄妹に炭治郎か善逸がついてくれればいいんだが……」

 

 

 善逸は頼りの欠片もないかもしれないが、それでも腐っても鬼殺隊なのだから見捨てるような真似はしないだろう。

 

 

「とりあえず、一旦外に出て禰豆子ちゃんを回収しないと」

 

 

 警戒しながら先程まで玄関があった方向へ進む。そして戸を開くとそこには構造的にありえない大きさの部屋があった。

 やはりさっきの鼓の音に合わさて移動させられているようだ。

 

 

(方向感覚が狂わせられる。外はどっちだ……)

 

 

 部屋を進み手当たりしだいに戸を開いて行く。しかし行けども行けども部屋無人の部屋ばかり。

 するとまた鼓の音が鳴り響いた。

 

 

ポン

 

ポン

 

ポン

 

 

 再び音に合わせて部屋の景色が変わっていく。またどこかの部屋に移されたらしい。

 

 

「だー! また部屋が変わった! 早く外に出たいってのに……」

 

 

 さっき移された事でまた自分の居場所がわからなくなった。とにかく移動する為に目の前の戸を開いて廊下に出る。

 

 急いで進んでいくと曲がり角の先に大きく太った鬼の背中が見えた。

 

 

(アイツがこの屋敷の鬼か? でも鼓を持ってない)

 

 

 あの鬼がこの屋敷に巣食う鬼なら鼓を持ってないのはおかしい。鼓の音で別の場所に移動させられる血鬼術を使うはずだ。しかしこの鬼は素手だ。つまり鬼は複数いるということだ。

 

 

(ま、とりあえず斬っとくけど)

 

 

 鬼はまだこっちに気づいていない。鼓の鬼ではないにしろ鬼であれは頸を落とす。

 

 

『雨の呼吸、壱ノ型 驟雨』

 

 

 刃が鬼の頸を斬る……と、同時に鬼の腕も両断された。

 

 

「…………ッ!」

 

 

 咄嗟に後ろに跳躍する。鬼の亡骸が崩れ去る中、向かい側に人影らしき者が現れた。

 

 

「おいてめェ! 俺様の獲物を横取りしやがったな!!」

 

「…………」

 

 

 その姿を見て一瞬、思考を停止させてしまった。

 その人影? をよく視認するとその者は上半身は鍛え抜かれた体で何も着ておらず下半身は熊や鹿の毛皮を身につけていた。ここまではまだ理解ができる。

 

 しかし、理解ができなかったのが()()()()()()だった事だ。

 

 

(何故イノシシ? 鬼か? いや、気配もそんな感じじゃない。そもそも手に持ってるの日輪刀じゃんか)

 

 

 猪の頭をした人間? の両手にはボロボロになり刃こぼれした日輪刀が握られていた。

 日輪刀は鬼殺隊の隊員のみが手にするもの。鬼はまず日輪刀を手にしないはずだ。

 従ってこの目の前の奴は鬼殺隊の一員という事になるのだが……

 

 

「ぶった切ってやる! (しかばね)を晒して俺様の踏み台になれ!」

 

「うおっ、ぉおりゃ!」

 

「っ!!」

 

 

 猪頭はあろうことか刃こぼれした日輪刀で切りかかってきた。一切容赦のない刃を避けてから手首を掴む。そして背負い投げの要領で猪頭を投げ飛ばした。

 猪頭は体勢を立て直して着地する。

 

 

「ふはははは! なんだお前? 結構やるな! 人間に投げられたのは二回目だぜ!」

 

「二人目? もしかしてお前、俺の友達に会ったか?」

 

「トモダチ? 何だそりゃ! どうでもいいぜ! そんな事! お前はただ俺様の為に食いちぎられればいいんだ!」

 

 

 猪頭はそう言って一直線に向かってきた。どうやら話が通じるような相手ではないらしい。なら、かかる火の粉は払うだけだ。

 

 

「生憎だが、そういう訳にはいかないんだよ」

 

 

 腰を低くして刀を構えて猪頭を睨む。猪頭から振り下ろされる刃を躱し、刀で攻撃をいなしていく。

 

 相手はもしかしたら鬼殺隊の隊員かも知れない。鬼殺隊は原則で隊員同士が殺し合うのはご法度とされている為不用意に殺せない。

 

 しかし相手はそんな事お構い無しに殺しにかかってくる。そんな相手を殺さずに大人しくさせるのは容易な事じゃない。

 

 

(ま、何とかなるだろ。実力はだいたい測れた)

 

 

 1分にも満たない攻防だが奴の実力は知れた。相当な実力者だ……がコイツより強い人間をたくさん知っている。

 

 猪頭の攻撃を全て防ぎきると一旦距離をとり嬉しそうな声音を上げた。

 

 

「がははははっ! やっぱりいいなぁお前! 俺の攻撃を防ぎきるとわな!」

 

「そらぁどうも。つかもう止めない?」

 

 

 正直、こんな相手にいつまでも付き合っていられない。早く外にいる禰豆子ちゃんを迎えにいかなければならない。

 

 

「嫌だね!」

 

「はぁ……ってかお前、名前とかあんの?」

 

「あぁん!?俺様の名前を聞きたきゃ教えてやる! 俺の名は、嘴平伊之助(はしびらいのすけ)だ!」

 

「はしびら……いのすけ? 伊之助は何となく予想つくがはしびらってどんな字で書くんだ?」

 

「はぁぁ!? 何だと!」

 

「いやだから名前の字。どう書くんだ?」

 

「字!? 俺は読み書きが出来ねぇんだよ! 名前はふんどしに書いてあるけどな……」

 

「へーそっか……」

 

 

 刀を鞘に戻して聞いてる素振りをしつつ戸に近寄り一気に開いて駆け出す。

 

 

「さよならっ!」

 

「あっ!! 待ちやがれてめぇ!」

 

 

 イチ早く禰豆子ちゃんを回収しなければならないので全力で疾走する。

 

 

 ポン

 

 

 猪頭とだいぶ距離ができた頃、鼓の音が聞こえた。どうやら鼓の鬼がまた部屋を移したらしい。

 

 

(また場所がわからなくなった……)

 

 

 猪頭から逃げ切れたのはよかったがまた自分がどこにいるかわからなくなった。早く外に出たいのになかなか出れない事に焦慮が募る。

 

 乱暴に頭を掻きながらまた歩き始める。下手にくねくねと曲がるよりひたすら一直線に進んだ方がまだ外に出れる可能性が高いので一直線に前に進む。

 

 

 

 

《重富sideout》

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

「善逸さん!」

 

 

 自分の名前を呼ぶ声に目を覚ます。

 

 

「……ん」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

 屋敷の前で妹と兄を追いかけてきた少年、正一は泣いていた。

 

 

「部屋が変わった勢いで外に飛ばされたんです。それで二階の窓から落ちました」

 

 

 正一はポロポロと涙をこぼしながら説明する。

 

 

「ははは、そうだっけ?」

 

 

 しかし善逸の記憶はあやふやだったがあっけらかんと笑う。

 

 

「善逸さんが庇ってくれたので俺は大丈夫ですけど……」

 

「それはよかった。それよりなんでそんなに泣いてるの?」

 

 

 二階から落ちるのを助けた程度でなぜそこまで泣いているのか疑問に思った善逸がふと後頭部に手を触れると……ぬめりッと妙な感触があった。妙な感触があった手を見ると、そこにはべっとりと赤い血がついていた。

 そして善逸は理解する。

 

 

「なるほどね!? 俺が頭から落ちてんのね!?」

 

「はい……」

 

 

 正一をかばい頭から地に落ちた善逸は頭部から出血していた。落ちた衝撃で意識が飛んだ善逸を正一は心配してどうしていいかもわからず泣いていたのだ。

 すると突然、屋敷の玄関の戸が吹き飛んだ。

 

 

「猪突猛進! 猪突猛進! 鬼の気配がするぜ!」

 

 

 玄関を頭突きで突き破った猪頭が善逸には覚えがあった。

 

 

「あっあいつは! ()()()()()()()……最終選別の時に誰よりも早く入山して誰よりも早く下山した超せっかち野郎だ!!」

 

 

 つまり、善逸や炭治郎、重富たちの同期の新人の鬼殺隊隊員という事だ。

 

 

「見つけたぞォォォ!」

 

 

 伊之助は炭治郎が正一兄妹のために置いていった禰豆子の入った木箱を視界に映すとすぐさま斬り掛かる。

 

 

「やめろ────!!」

 

 

 木箱に斬り掛かる伊之助の前に善逸が両手を広げて躍り出た。

 

 

「この木箱に手出しはさせない! 炭治郎の大事なものだ!!」

 

「オイオイオイ何言ってんだ! その中には鬼がいるぞォわからねぇのか?」

 

「そんな事は最初からわかってるっ!」

 

 

 善逸は炭治郎たちと出会った時から背負っている箱の中身が鬼だと気づいていた。気づいた上で黙っていた。

 

 善逸は生まれつき聴覚が優れていた。寝ている間にも周囲の会話を知っていた事もある。

 

 生きとし生ける全てのものの心臓の音が聞こえる。善逸はその音の鳴り方で相手がどんな人物かを知ることができる。鬼も人間の音と聞き分けることで判別できる。

 

 そして善逸が炭治郎たちと出会い……いつも通り、意識しなくとも音が耳に入ってくる。

 

 

(炭治郎からは……泣きたくなるような優しい音がしたんだ)

 

 

 善逸が今まで聞いたことのない。優しい音。その音を聞いただけで炭治郎という男は善人だとわかった。

 

 しかし、善逸はこんな優れた能力に恵まれてもよく人に騙された。鬼殺隊に入るきっかけになった、育手に出会った時も女絡みで騙された時だった。

 だかいつだって善逸は自分が信じたいと思った人を信じてきた。結果、多くの人に騙されたがそれでも善逸は信じたいと思った。

 

 今まで聞いたことのない優しい音がした少年、炭治郎がなぜ鬼殺隊でありながら鬼と一緒にいるかは当然ながら善逸には見当もつかない。

 

 

(でも、そこにはちゃんと俺が納得できる事情があるって()()()()

 

 

 他の人には理解できないかもしれない。善逸だからこそ、そう信じる。

 

 

「俺が……直接炭治郎か重富に話を聞く。だからお前は……引っ込んでろ!!」

 

 

 善逸はそう啖呵を切った。

 

 

「威勢のいい事言うなら腰の刀を抜け! 愚図が!」

 

 

 両手を広げ、木箱を庇うだけの善逸に苛立ちを覚えた伊之助は善逸を蹴る為の足を上げる。

 

 ヒュッ!! 

 

 

「「…………ッ!」」

 

 

 思わず目を閉じて身構える善逸と伊之助の前を通り過ぎてすぐ横の木に日輪刀が突き刺さった。

 

 

「誰だ!」

 

 

 善逸と伊之助は刀が飛んできた方向に目を向ける。刀が飛んできたのは屋敷の二階からだ。

 

 

「おいおい、ついさっき会ったのにもう忘れたのか? 伊之助」

 

 

 二階から飛び降り、善逸の前に着地する。

 

 

「お、お前は……さっきのなかなかやる奴!!」

 

「なんだその覚え方……まぁ、名乗ってない俺が悪いけど」

 

 

 またしても名前を間違える伊之助。善逸は自分の前に降り立った重富の背中を眺める。

 

 

「おまっ! お前ェ! 何やってんだよ! 危ないだろぉ!?」

 

 

 善逸は泣きべそをかきながら重富の背中をポカポカと殴る。

 

 

「ちょっ、何だよ! 助けたんだし当たってねぇんだからいいだろ!」

 

 

 重富は善逸の手を掴んで落ち着かせる。

 

 

「それより……ありがとな、善逸」

 

「え?」

 

「箱、守ってくれて。それは俺の命より大切で、炭治郎の一番守りたいものだから」

 

 

 重富は箱を優しく撫でた。善逸はその姿を見て確信した。

 

 

(あぁ、やっぱりだ……)

 

 

 善逸が聞いた重富の音はどこか不思議だった。その豊かな表情とは反してどことなく怯えているような音がした。気にならない程度の小さな音だった。

 

 重富の表情にもそんな事は一切伺えない。

 しかし炭治郎が不在で木箱が傷つけられそうになった今の音を聞いてその音が大きくなった。

 寂しそうで悲しいそうな音がした。炭治郎とは違う理由で泣きたくなるような音だった。

 

 

(この箱は……炭治郎だけじゃない。重富にも命より大切なものなんだ……)

 

 

 善逸がそう理解しているのを他所に重富は伊之助の前に立った。

 

 

「さっきの話聞こえてたぜ。お前、鬼殺隊だったんだってな?」

 

「そうだ! だからその箱の中の鬼を斬ろうとしたらその愚図が止めやがたっんだ! 文句あるか!?」

 

「いやない。鬼殺隊は鬼を斬ることが仕事だもんな? でもコイツだけはやらせねぇ」

 

「お前も邪魔するってンなら刀を抜け! さっきの分まで切り刻んでやる!」

 

「残念だが、隊員同士の争いはご法度だ」

 

 

 そう言って重富は腰に差した二本の日輪刀を善逸に渡した。

 

 

「てめぇ! どういうつもりだ!」

 

「そ、そうだぜ重富! 何やってんだよ!?」

 

 

 伊之助はもちろん善逸も重富の行動に疑問をぶつけた。

 

 

「刀が使えない以上、喧嘩の方法を変えるしかない……」

 

 

 重富は肩や首を回して体をほぐし、ニヤリと笑った。

 

 

 

「俺を制限時間内に倒してみろ」

 

 

 

 重富は左手を上向きにし前に出し手招きで挑発した。




後書きコーナー

善逸(以下善)「うわぁぁ!助けてぇぇ!!」

重富(以下重)「おいうるさいぞ善逸。静かにしろ」

善「何だよ!そんな事言わないで助けてくれよ!!」

重「断る。俺が守るのは友達の炭治郎と禰豆子ちゃんだけだ」

善「じゃあ俺も友達になるから助けてくれぇ!」

重「わかってないな善逸。友達はなるとかとゆうものじゃなくていつの間にかなっているものだぞ?」

善「そんな事言わずに友達になって守ってくれよォ!」

重「あーはいはい機会があったらな……」

善「とゆうか重富、禰豆子ちゃんって誰のことだ?」

重「…………さぁな?」


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第12話 猪との喧嘩と休息

本当は水曜の夜にあげる予定だったんですが…ストックのお話がなかなか進まなかったので遅れちゃいました!すいません!


重富がご法度に触れないように提案したのは何もしない重富に伊之助が素手で攻撃して攻撃が途切れるまでに重富を倒せなかったら伊之助の負け、というものだった。

 

 

「せ、せせ制限時間内に自分を倒せぇぇ!?何言っちゃってんの重富っ!!」

 

「お前ふざけてんのか!!」

 

 

重富の発言に全く理解できない善逸は渡された重富の日輪刀を持って慌て、伊之助は激高する。

 

 

「いやいや真面目真面目。さっきは俺に一撃も与えられなかったし俺は攻撃しないから好きなだけやって倒してみろよ」

 

 

重富は最後に「やれるもんならな…」とつけたして左手で手招きし挑発する。

 

 

「名乗り忘れてたな…俺は狛江重富。お前の同期だよ。さ、かかってこいよ伊之助。やれるもんなら俺を倒してみろ!」

 

 

先程からプルプルと震えていた伊之助の怒りは臨界点を突破した。

 

 

「上等だ!ゴラァ!!」

 

 

伊之助は重富に飛びかかり必要に殴り始める。

 

 

「ぜ、善逸さん止めてください!」

 

「ムリムリムリムリ!今あの二人の中に入るのはムリ!それに俺、さっきから腰抜けて立てないもん!」

 

 

正一は泣きながら善逸の袖を掴むが善逸も先程伊之助に啖呵を切って腰が抜けていた。

二人は為す術なく重富がただただ伊之助に殴られるのを黙ってみることしか出来なかった。

 

 

 

 

〜*〜

 

 

 

 

この屋敷を縄張りにしていた主の鼓の鬼を何とか撃退した炭治郎は一緒に別の部屋に送られた少女のてる子と鬼に連れ去られたという兄、清を合流していた。

 

 

「清!てる子ーーー!」

 

「キャァァァァ!」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 

二人がいる部屋の戸を勢いよく開けると急須や本が炭治郎目掛けて飛んできた。

 

 

「いたたたた!どうして物を投げつけるんだ!」

 

「た、炭治郎さん。ごめんなさい、鼓が消えて混乱してしまって……」

 

 

部屋を変えていたのは鬼のいざこざに乗じて鼓の鬼から奪った清だった。食われないための頼みの綱である鼓が炭治郎が鬼を倒したことにより消えてしまい不安になったのだ。

 

 

「さ、外に出よう」

 

「はい」

 

 

炭治郎は怪我をしている清を背負い、屋敷の出口へ向かう。玄関へ近づいていくと炭治郎の鼻に重富や善逸、正一の三人の匂いが漂ってきた。

 

 

「よかった、三人とも無事だったのか……いたたた」

 

 

走っていると完治していない骨が軋み痛みが走る。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

 

てる子が心配すると炭治郎が笑って返した。すると炭治郎は重富たち以外の匂いに気付いた。

 

 

(血の匂いだ!誰か怪我したのか!?)

 

 

誰のものかはわからないが誰かが怪我をしたのは確かだ走る速度を速めると玄関先に複数の人影が見えてきた。

 

そこには鼓の鬼と対峙しているときにあった猪頭の男と泣きながら身を寄せ合っている善逸と正一、そして()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「っちぃ!お前タフだな尻斗(けつと)!」

 

「重富だ。何回言ったらわかるんだよ。ぷっ…お、炭治郎遅かったな」

 

 

重富は血の混じった生唾を吐き出して口周りの血を袖で拭いながら炭治郎に声をかけた。

 

 

「炭治郎ぉ~~!遅いよ!早くこの二人を止めてくれェ!」

 

 

善逸の声と共に炭治郎は清を下ろして目にも止まらぬ速さで伊之助に迫る。

 

 

「何してるんだっ!!」

 

バキ

 

 

全力で振るわれた炭治郎の拳は伊之助の体から明らかに折れた音が鳴る。

 

 

「「お、折ったぁぁっ!!!」」

 

 

遅れてくるなり相手の骨を折るほど強い力で伊之助を殴った炭治郎に重富と善逸は声を揃えて驚いた。

 

 

「なぜ重富がやり返さないかわからないのか?鬼殺隊員同士で(いたずら)に血を流すのはご法度だからだ!」

 

「い、いや待て炭治郎!これはな?」

 

「それをお前は一方的に痛めつけて楽しいのか?卑劣極まりない!」

 

 

重富がご法度に触れる為に無抵抗で殴られていたと思った炭治郎は怒りをむき出しにして拳を握る。

すぐに勘違いをしてると気付いた重富が説明しようとするが聞く耳を持たない。

 

 

「ゴホッゴホッ…グハハ。いいね、やっぱり殴り合いの方が高鳴るぜ。おいお前、俺様と素手でやり合おう!」

 

「いや、待て全くわかってない気がする。素手だからいいとかじゃなくて隊員同士でやりあうのがダメなんだ!」

 

 

そこからは混沌としていた。

この二人を止められる者はここにはおらず重富や善逸、再開を果たした三兄妹は完全に蚊帳の外だった。

 

 

「お、おい重富!どどどどうすんだよ!早く止めないと!」

 

「ヤダよ、つか無理。もう体中痛くてそれどころじゃない」

 

「お前が最初からあんなやり方しなきゃよかっただろ!」

 

「そんなこと言ったって刀でやりあったらダメなんだからしょうがないだろうが!それに!あのまま俺がやられるだけだったら罰は伊之助だけに食らう算段だったんだよ!」

 

「うっわ!なにそれ腹黒っ!」

 

「あぁん!?」

 

「ヒィィ!助けて炭治郎!正一く~んっ!」

 

 

善逸に飛び掛かり頭をグリグリして襲う重富。自分たちより年上の人間たちが全員そろって取っ組み合いになっている光景をただただ見守ることしかできない三兄妹だった。

 

 

 

 

その後も大変だった。炭治郎の頭突きで伊之助は失神し重富に頭をグリグリと攻撃された善逸は泣き喚いた。

炭治郎の誤解を解いた重富は案の定炭治郎からこっぴどく説教を食らい、屋敷内の死体を埋葬した時は目覚めた伊之助が騒ぎ、埋葬を終えたら終えたで今度は善逸が正一から離れたくないと言い出し炭治郎が気絶させてやっとのことで次の目的地まで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

重富たちが鴉の案内でやってきたのは、藤の花の家紋が描かれた家。

この藤の花の家紋が描かれた家は過去に鬼殺隊に守って貰った者達が鬼殺隊の隊員であれば無償で尽くすという証になっている。

重富たちはここで傷ついた体を癒すこととなった。

 

 

「まさか四人とも肋が折れているとはな」

 

 

炭治郎がそう呟いた。家の人が呼んでくれた医者に全員見てもらうと物の見事に全員肋骨を骨折していた。

 

伊之助は四本。

炭治郎は三本。

善逸は二本。

重富は一本。

 

 

「コブが痛ぇ…」

 

「ごめん…」

 

 

伊之助の額に炭治郎に頭突きされた部分が大きく腫れ上がっていた。

それに対して炭治郎の頭は無傷だった事に善逸は驚いたがさらに驚いたのが、伊之助の被っていた猪の被り物の下の素顔がその野蛮さに反してとても美形だったことだ。

 

 

医者に治療してもらった後、間もなく食事となり頭突きの件で炭治郎を根に持っている伊之助は炭治郎の食事を盗ったりなど何かにつけては挑発した。

しかし天然な炭治郎には一切通じずむしろさらに食べ物を自分からわけたりしていた。

 

 

(残念だか伊之助、お前と炭治郎とじゃ相性が悪いよ)

 

 

優しすぎるが故の天然さ。それはきっと老いて死ぬまで変わることはないんだろうと重富は呆れていた。

汚く食事を続ける伊之助に聞こえない程度の小声で善逸が重富に話しかけた。

 

 

「なぁ、重富」

 

「ん?なに」

 

「アイツ完全に箱とか喧嘩のこと忘れてるよな?」

 

「みたいだな…まぁ忘れてくれたならそれでいいけど」

 

 

炭治郎を挑発する事ばかりに目を向けていた伊之助は木箱の中に鬼がいる事を忘れていた。

 

 

「いい訳ないだろ!俺は超怖かったんだからな!?」

 

「殴られる前に助けたんだしいいじゃんか」

 

「いぃやよくない!俺の勇気を返せ!」

 

「ふ…断る!」

 

「いや断るなよ!」

 

「断る!」

 

「コノヤロー!」

 

「やるってんのかこらァ!」

 

 

売り言葉に買い言葉によって善逸は重富に飛びかかり、重富はそれを受ける。

 

 

「おいやめろ二人とも!」

 

 

炭治郎が二人の間に割って入り仲裁する。炭治郎に仲裁され重富はキッパリとやめ、善逸は渋々と言った様子で座った。

 

 

「結局、誰も聞かないから俺が聞くけどさ。鬼を連れているのはどういうことなんだ?」

 

「!!善逸…わかってたのか……」

 

「そーだぞ炭治郎。善逸は俺が行くまで守ってくれてたんだ。礼言っとけ」

 

 

箱の中身について知っていた善逸に炭治郎は驚く中、重富は茶をすすりながら答えた。

 

 

「そうか、善逸はいい奴だな。ありがとう」

 

「おまっ!そんなに褒めても仕方ねぇぞ!うふふっ!」

 

 

炭治郎のド直球の礼に畳に倒れこみあからさまに照れる善逸。

 

 

「俺は鼻が利くんだ。善逸が優しいのも強いのもわかってたよ」

 

「いや強くねぇよふざけんなよ。お前が正一君連れてくの邪魔したのは許してねぇぞ」

 

「…………」

 

「諦めろ炭治郎。コイツはこうゆう奴だ」

 

 

重富は炭治郎の肩に手を乗せて首を横に振った。善逸のこの性格は今どうこうできる問題ではない。

そうこう話しているうちに箱の中からカタカタと音がしだす。

 

 

「うひゃっ!な、何!出てこようとしてる!」

 

「落ち着け善逸。大丈夫だ」

 

「何が大丈夫なの!?ねぇ!?」

 

(うるさい……)

 

 

箱から音がしただけで騒ぎ出す善逸。炭治郎がなだめようとするが全く落ち着かない。

善逸が騒ぐうちにゆっくりと箱の扉が開く。

 

 

「ギャー!鍵かかってないんかい!俺を守って!伊之助でもいいからさ!」

 

「こっち来んな!」

 

「ギャウッ!」

 

 

伊之助にすがりつこうとして殴られる善逸をよそに重富は湯呑みを置いて立ち上がる。

箱の中からひょっこりと禰豆子が顔を出した。

 

 

「へ?」

 

「禰豆子」

 

「よぉ禰豆子ちゃん、おはよう。もう夜中だけど」

 

 

重富は箱の外へ出て元の身長へ戻る禰豆子の頭を撫でる。

 

 

「おーよしよし」

 

「紹介するよ、善逸。禰豆子は俺の……」

 

「いいご身分だな……お前ら」

 

「え?」

 

「は?」

 

 

炭治郎が禰豆子を紹介しようと善逸に振り返ると、善逸は俯いてプルプルと震えていた。

 

 

「こんな可愛い女の子連れてたのか…こんな可愛い子を連れてうきうき旅してたんだな…」

 

 

善逸が何を言っているのか重富たちにはわからなかった。

 

 

「俺が出した勇気を返せよ!!!」

 

 

今日一日で見慣れつつある泣き顔で善逸は叫び、続けた。

 

 

「俺は!お前らが毎日あははうふふ女の子とイチャつく為に頑張ったんじゃない!そんな事の為に俺は変な猪に怖い思いして啖呵切ったのか!?」

 

「善逸、どうしたんだ急に…」

 

「知るかそんなもん…」

 

「鬼殺隊はなぁ!遊び半分で入る所じゃねぇ!!お前らのような奴は粛清だよ!即粛清!!」

 

 

善逸は自分の日輪刀に手をかけ引き抜いた。

 

 

「鬼殺隊を!!舐めるんじゃねぇぇぇ!!!」

 

 

刀を引抜き矛先を重富と炭治郎に向けて叫びながら突っ込んでいく。

 

 

「うるせぇぇぇ!!!」

 

「ぼはべぇ!?」

 

 

重富は刀をサラリと避け拳を抉るように善逸の(あご)目がけて突き上げた。

 

 

「夜中だってんのにうるせぇんだよ。俺も炭治郎も傷が痛てぇんだよ。お前も骨折れてんならとっとと寝ろバカタレが」

 

「いや重富、善逸気絶してもう話聞こえてないぞ」

 

 

重富の渾身の一撃で善逸は意識が吹っ飛び昇天していた。

 

 

「……あっそ、静かになっていい。炭治郎も早く寝ろ。折れた骨痛いのずっと我慢してるだろ」

 

「え、重富気づいてたのか?」

 

「最初っからバレバレだから。むしろなぜ隠す」

 

「いや隠してたわけじゃないんだが…ほら俺は長男だから耐えないと」

 

「いや意味わかんないし何その謎理論」

 

 

長男だから痛みに耐えないという全く理解できない思考にやはり筋金入りの天然だと改めて感じる重富だった。

 

 

「なぁ禰豆子ちゃん聞いてくれよ炭治郎ってば俺たちに弱音のひとつも吐いてくれないんだぞ?酷くねぇ?もう少し俺たちのこと頼ってくれてもいいのになぁ?」

 

「ウー!」

 

「ほら、禰豆子ちゃんもたまには弱音を言ってくれって言ってるぞ?」

 

 

重富はニタニタと悪戯な笑みを浮かべて炭治郎を見る。

 

 

「いっいや!別に重富たちを頼ってないわけじゃ!」

 

 

慌ててアタフタする炭治郎の姿を見て重富は腹を抱えて笑った。

 

 

「プッ……アハハハ!冗談だって本気にすんなよ!」

 

「お、おい重富からかうなよ!」

 

「そー思うならもうちっとくらい弱音を言ってくれよ。何だって受け止めてやるからさ。なー禰豆子ちゃん」

 

「ウー!」

 

 

禰豆子は重富の声に合わせて力強く拳を握ってみせた。

 

 

「ありがとう。重富、禰豆子」

 

 

炭治郎は二人に笑って言った。

 

 

「あれ?でも重富が弱音吐いてるところ見たことない気が…」

 

「それはきっと気のせいだよ炭治郎」

 

 

重富はそうキッパリと言い切る。

そうしてもう少したわいのない話を続けて三人の夜は更けて行った。

 

 

 

 

 

 




後書きコーナー

重富(以下重)「皆さん振るう刃は友の為に12話をお読みいただきありがとうございました!」

炭治郎(以下炭)「ありがとうございます」

重「いやぁ〜今回は伊之助にボコられて痛かったなぁ〜!」

炭「なんであんな条件で挑んだんだ重富」

重「それはまぁ…タイマン張る上での閃きって奴?」

炭「あんな事、故郷の街でもやってたのか?」

重「ん〜あそこの町はあんまりゴロツキがいないからないなぁ〜反対の隣町ではあったけど」

炭「だから時々傷だらけな時があったのか」

重「それはきっと気のせいだ気のせい」

炭「そんなこと言って、あの時だって母さんに怒られてただろう?」

重「あぁその時は手当もしてくれたけど、あの時の葵枝さんは怖かったなぁ……」

炭「それでも怪我してくるから俺や禰豆子も手当したんだからな?反省してるのか重富」

重「気をつけてるつもりではいるんだよ炭治郎」

炭「全く…しょうがない奴だな重富は」

重「う…それを他でもない炭治郎に言われるとは……」

重&炭「「それではまた次回、お楽しみに!!」」


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那田蜘蛛山編
第13話 異臭漂う蜘蛛の鬼


前回と反して今回は長めです。

皆さん、日頃から誤字脱字報告ありがとうございます!本当に助かっております!執筆スピードが早めなのでどうしても出てしまうのが悔しいところです!
引き続き注意するのでまたあったらお願い致します!




 重富に気絶させられた善逸は目覚めてそうそう騒ぎ出したがやっとの思いで炭治郎が事情を説明する。その結果……

 

 

「えへ、えへへへ〜炭治郎ぉ〜肩を揉もうか?」

 

 

 炭治郎は困っていた。禰豆子が妹だとわかるや否や急にヘコヘコしだし

 

 

「猪突猛進! 猪突猛進!」

 

 

 伊之助は所構わず自分と重富両方に頭突きしてくる。

 

 

「Zzz……」

 

 

 そしてここ最近は重富が昼でも眠そうにしている。というか寝ている時がある。

 

 骨折が癒えた頃、緊急の司令が来た。

 

 

 四人共々那田蜘蛛山(なたぐもやま)へ一刻も早く向かうこと。

 

 

「では行きます。お世話になりました!」

 

「騒がしい連中ばっかでご迷惑をかけました」

 

 

 そう言って伊之助以外は礼儀正しく頭を下げる。家主の老婆も頭を下げて答えた。老婆は懐から火打石と鉄片を取り出した。

 

 

「では、切り火を……」

 

 

 カッカッと切り火を打つと何故か伊之助が憤怒した。

 

 

「何すんだババァ!」

 

 

 伊之助は拳を振り上げ老婆に殴り掛かるが重富と炭治郎が必死でくい止める。

 

 

「馬鹿じゃないの!? 切り火だよ! お清めしてくれてんの! 危険な仕事だから!」

 

 

 切り火とは厄除けのために行われるものだが、山育ちの伊之助には分からず癇に障ったらしい。

 

 

「どのような時でも誇り高く生きて下さいませ。ご武運を……」

 

 

 老婆はそう言ってもう一度深々と頭を下げて重富たちを見送った。

 

 

 那田蜘蛛山へ向かって走る中、来た方向を振り返りながら伊之助が疑問を口にした。

 

 

「なぁ、誇り高く……ご武運ってどういう意味だ?」

 

「そうだな。改めて聞かれると難しいな……。誇り高く……」

 

 

 伊之助の問いに真剣に考え込む炭治郎。

 

 

「自分の立場をきちんと理解して恥ずかしくないように正しく振る舞うこと、かな。それからお婆さんは俺たちの無事を祈ってくれるんだよ」

 

 

 炭治郎は伊之助にわかるよう丁寧に答えた。

 

 

「その立場って何だ? 恥ずかしくないってどういうことだ?」

 

「それは……」

 

「正しい振る舞いって具体的にどうするんだ? なんでババァが俺たちの無事祈るんだよ」

 

 

 炭治郎の答えを待たずして伊之助は続けた。

 

 

「何も関係ないババァなのに何でだよ。ババァは立場を理解してねぇだろ」

 

「…………」

 

 

 伊之助の悪気はない質問攻めに押し切られてしまう炭治郎。見かねた重富が代わりに答える。

 

 

「はぁ……立場っていうのは鬼殺隊であることだろ。誇りは人によって違うが俺たち全員に共通するのはそれだ。恥ずかしくないってのは鬼狩りとしての仕事をまっとうしろってことだろ」

 

「じゃあババァが俺たちの無事を祈るのは?」

 

「あの家……門に藤の花の家紋があっただろ?」

 

 

 藤の花の家紋がある家は過去に鬼殺隊に助けて貰ったことがある者が恩返しとして隊員であれば無償で尽くすという証だと丁寧に話した。

 

 

「だから鬼殺隊に恩があるあの人は同じ鬼殺隊の俺たちには無事でいて欲しいんだろ」

 

「なるほどな! お前物知りだな!」

 

「どーいたしまして〜」

 

 

 若干伊之助内での好感度が上がる重富であった。

 

 

「重富なんでそんなに詳しいんだ?」

 

「は? 何言ってんだ炭治郎。選別の時に説明されただろ」

 

「…………」

 

 

 選別終了後の時にこの藤の花の家紋についても説明を受けたのだがその時の炭治郎は酷く疲弊して話が頭に入っていなかったらしい。

 

 

(ダッ!)

 

「あっ加速しやがった! こらまて炭治郎!」

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 那田蜘蛛山

 

 

 日中、休憩を挟みながら走り日が沈んだところで目的地に辿り着いた。

 いざ山へ入ろうとした所で善逸が待ったをかけた。

 

 

「怖いんだ! 目的地が近ずいてきてとても怖い!!」

 

 

 道端で三角座りをして駄々をこねる。

 

 

「なに座ってんだこいつ、気持ち悪い奴だな……」

 

「お前に言われたくねーよ猪頭! 俺は普通だ! お前らが異常なんだよ!」

 

 

 一見いつも通りの善逸だが今回は善逸がこう言うのも頷けるのだ。なぜならこの山は恐ろしく不気味なのだ。

 新米のはいえ隊員を四人も緊急で向かわせた時点でただの山ではないのだ。

 

 炭治郎たちが善逸の扱いに困っていると森の奥から誰かが這い出てきた。

 

 

「だ……誰か……助け」

 

 

 地を這いずりながら出てきたのは鬼殺隊の隊服を着た男だった。しかもその男は所々負傷している。

 

 

「隊服を来てる! 何かあったんだ!」

 

「行くぞ!」

 

「あっ! 待って!」

 

 

 炭治郎と重富は隊員に駆け寄ろうと近づいた時、キリキリと奇怪な音が聞こえると同時に男は()()()()()()()()()()()()飛んだ。

 

 

「「「「…………っ!?」」」」

 

「繋がってた! 俺にも! 助けてくれぇぇ!!」

 

 

 男は山の中へ消えた。そして再びその場は静まり返り、緊張感が走る。

 

 

「…………俺は行く」

 

 

 最初に口を開いたのは炭治郎だった。さっきのを見た以上、行かなければならないと思ったのだろう。

 

 

「俺が先に行く! お前は震えながら俺について来い!」

 

 

 伊之助がそう言いながら炭治郎の隣に並び立った。

 

 

「伊之助……」

 

「腹が減るぜ!!」

 

 

 腕が鳴ると言いたいのか伊之助はそう言った。炭治郎と伊之助は二人で山の中へ向かっていく。

 

 

「重富! 善逸のことを頼んだ! もし俺たちが帰って来なかったら応援を呼んでくれ!」

 

「あ、おい巫山戯んなよ炭治郎!! また置いていく気か!? おい!!」

 

 

 重富の声も聞かず炭治郎たちは山の中へ入っていった。ぽつんと重富と善逸は取り残される。

 

 

(…………ち、また俺を置いてきやがったよ炭治郎の奴)

 

 

 一度ならず二度までも炭治郎に置いてかれた重富は乱暴に頭をかきながら善逸に向き直る。

 

 

「で? どうすんのお前」

 

「ヒィィィ! そんな怖い目で見んなよ! だってだって重富もさっきの見ただろう!? 絶対この山ヤバいよ!」

 

「じゃあお前はここにいろ。俺は炭治郎を追う」

 

 

 そう言い捨て重富が炭治郎の後を追おうとすると善逸は腰に手をまわしてしがみついた。

 

 

「ちょちょ待って! 何で置いてこうとするんだよォ!」

 

「生憎だが俺が守るのは炭治郎と禰豆子ちゃんだ。だからお前は…………」

 

「あぁぁぁああ!!!」

 

「今度はなんだよ……」

 

 

 突然絶叫しだす善逸に重富は若干引き気味で訊ねた。

 

 

「禰豆子ちゃんだよ禰豆子ちゃん!! 炭治郎の奴あんな危ない所に禰豆子ちゃんを連れて行きやがった!!」

 

「はぁ? お前何言って……」

 

「こうしちゃいれない! 禰豆子ちゃぁぁん!!!」

 

「あ、おい!」

 

 

 善逸は禰豆子の名前を叫びつつ山の中に飛び込んで行った。

 

 

「………………」

 

 

 我を忘れ森の中に突撃して行った善逸の背中を見据えて呆然と立ち尽くす。

 

 

(あの善逸にまで置いていかれた……)

 

 

 なにかとても複雑で切ない気持ちになりながらも重富は後を追いかけた。

 

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

 山へ入りとにかく真っ直ぐに走って向かう。

 

 

(ちっ、炭治郎と伊之助どころか善逸までどこへ行ったかわかりゃしねぇ!)

 

 

 森の中は想像以上に暗く視界が悪い。善逸が森へ入った後、すぐに入ったつもりだが見失ってしまったらしい。

 とにかく周囲を警戒しながら前へ前へと進む。すると緩やかな風にのって凄まじい激臭が漂って来た。

 

 

「くっさ! 何だこれ!?」

 

 

 思わず鼻を抑えたくなる程に強烈な刺激臭。だがこれはまだ常人の嗅覚での反応だ。これがもし炭治郎の優れた嗅覚で嗅いだらとんでもないことになるだろう。

 臭いの元を辿ろうとするが何分刺激が強すぎて辿れない。どうするかと考えながら進んでいると山中に響き渡るような大声が響いた。

 

 

「ぎゃああああ!! 助けてぇぇ!!!!」

 

 

 明らかに聞き覚えのある声だった。あのデカい聞くに耐えない情けない声の主は…………

 

 

「善逸は……あっちか!!」

 

 

 すぐさま声のした方向へ全力で走る。すると先ほど嗅いだ刺激臭が臭ってきた。だとすれば善逸は森を進む中で臭いの元の何かを見つけたということだろう。

 

 

「善逸っ! 無事か!!?」

 

 

 しばらく進むと開けた場所に出る。そこは小屋が中に浮き、奇妙な何かが横に並んでいた。その中には鬼殺隊の隊員を来た人間もいた。

 

 

「しぃぃげぇぇとぉぉ! 死ぬぅぅ!! 助けてくれぇぇ!!」

 

「ほう? 新しい獲物が来たのか」

 

 

 善逸は木の上に登り泣き叫んでいた。そしてもう一人、小屋の中から糸でぶら下がっている者がいた。

 それは不気味な笑みを浮かべ首から下全てが蜘蛛の体だった。大きさも人一人分はある。

 

 

「うわキッモ! 超キモイなこの鬼! しかもくせェ!」

 

 

 恐らくあれがこの刺激臭の原因だろう。にしても臭い。そしてキモイ。重富はただでさえ蜘蛛は嫌いなのに……その上異臭すらするとは最早その場にいるだけで害悪だ、と内心で嘆いていた。

 

 

「確かにめっちゃキモイけどそんな事より早くそいつを倒してくれ重富! じゃないと俺毒で蜘蛛になっちゃうよォ〜!」

 

「なっ! 毒!? ってぎゃああ!! 人面蜘蛛!!! 怖っ! うわコッワ!」

 

「いいから早くそいつを倒してくれって!!!」

 

 

 善逸が登っていた木の根元にはあの臭い鬼より小さいが確かに人の頭をした体が蜘蛛の生物がいた。

 

 

「なるほど……これがお前の毒ってわけか」

 

 

 人間を蜘蛛へと変える毒。この漂う異臭は体の変質によって放たれたものだ。半分はあの鬼の体臭だろうが。

 

 

「わかったところでお前にはどうにもできない。お前も俺の毒に侵されて俺の下僕となれ!!」

 

「ことっわる!」

 

 

 鬼の言葉に答えながら前に飛び出し忍び寄ってきた人面蜘蛛からな離れる。草むらに紛れ数匹が口から針のようなものを伸ばしていた。

 

 

「よく避けたな? だがお前の仲間は助からない。間もなく蜘蛛になる」

 

「ぎゃああああ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! 死にたくなァい! 助けて重富ォォ!」

 

「わかってる!」

 

 

 日輪刀を引き抜き血を蹴って鬼へ飛かかる。

 

 

『雨の呼吸、肆ノ型 迅雨』

 

『血鬼術 斑毒痰(ふどくたん)!』

 

「…………っ!」

 

 

 鬼は口から液のようなものを吐き出した。体をひねり液を避ける。木の根元に付着した液はジュワっと音を立てて木を溶かした。

 

 

「ぎゃああああ!! 何アレ!? 液で木がごっそり抉られたんですけど!?」

 

「うるせぇぞ善逸! そんなに元気ならお前も戦うか呼吸で毒の巡り遅らせろ!」

 

「そんなこと言ったてぇ! もう頭痛いし気分も悪いんだよォ! 吐きそうなくらいさぁ! あ…………」

 

 

 木の上で丸くなって叫ぶ善逸が突如プツンっと糸が切れたように静かになり体を傾けた。

 

 

(あの野郎! こんな時に気絶かよ!!)

 

 

 極度の緊迫感からかはたまた毒の効果ゆえか善逸は気を失い頭から落ちる。あの高さで頭から落ちれば確実に死ぬ。

 

 すぐに善逸を受け止めようとするが距離が遠すぎた。間に合わない。

 

 もうダメだと思った瞬間、気絶したハズの善逸が体を翻して着地した。

 

 

『雷の呼吸、壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)

 

「なっ!?」

 

「…………っ!?」

 

 

 善逸は着地と同時にとてつもない速さで鬼に向かって斬りかかった。

 

 

『血鬼術 斑毒痰』

 

 

 しかしそれも鬼の液を避けた事で防がれてしまった。

 重富は一瞬、何が起こったかわからなかったが確かに今、善逸は全集中の呼吸を使った。

 

 普段の善逸からは欠片も思えないほど素早く……そして鋭い動き。重富は再認識せざる得なかった。

 

 善逸もまた、最終選別を生き残った……鬼を滅する鬼殺隊の一員だと。

 

 

「こりゃ、認識を改めないとな……」

 

 

 善逸の先程の技は重富の驟雨の同じ居合技だった。しかしその速度は明らかに善逸の技が上回っていた。

 重富が舌を巻いている間に善逸はまた同じ構えをする。

 

 

『雷の呼吸、壱ノ型 ───

 

「飛びかかれ!」

 

 

 鬼の命令で人面蜘蛛が一斉に善逸に飛かかる。

 

 

「おっと!」

 

 

 善逸に飛かかろうとする人面蜘蛛を重富が全て刀の峰で薙ぎ払う。

 

 

「やらせねぇよ。善逸!」

 

 ────霹靂一閃』

 

 

 重富の呼びかけに答えるように善逸は鬼へ斬り掛かる。……がまた液で防がれてしまう。

 

 

「善逸! 直線に行っても防がれるだけだ! 他の型を!」

 

 

 善逸は重富の言葉に従わず頑なにまた同じ構えをとった。その行動に重富は気づいた。

 

 

(コイツ……一つの型しか会得してねぇのか!?)

 

 

 他の型を使わないのではなく使えないのであれば善逸の行動に納得がいく。

 善逸は何度も同じ型で斬り掛かり防がれる。その姿に重富は我慢の限界だった。

 

 

「こぉら善逸! お前! 他の型が使えないならもっと頭を使え! あと一直線に向かっても防がれるんだからもっと周りを使え!」

 

 

 重富が善逸へ向かって大声で怒鳴ると鬼は嘲笑う。

 

 

「ギャハハハハ! そいつにはもう無理だよ! もう毒で蜘蛛になる前に死ぬ!」

 

「うるせぇ! 善逸を舐めんなよてめぇ! 善逸ならできるから言ってんだよボケェ!」

 

 

 動き回ったことにより毒が周り吐血する善逸を見るも重富は善逸ならできると言った。

 

 その言葉は善逸の体を強く動かした。

 

 

『雷の呼吸、壱ノ型 霹靂一閃 六連』

 

 

 その型は今まで使ったものとは違う。地を蹴り、木と木を跳ねることで速度を増した壱ノ型をさらに極めた型だ。

 

 鬼の頸は切断され頭と体は宙を舞い地に落ちた。

 

 

「げほ……」

 

 

 善逸は糸で吊るされた小屋の上に落ちて血反吐を吐いた。重富は小屋の上に登り善逸に駆け寄った。

 

 

「おい! 善逸無事か!?」

 

「………………」

 

 

 善逸は答えなかったが目は開いており瞳がゆっくりと重富に向いた。

 

 

「よし生きてるな! 諦めるなよ! 呼吸を使って毒の巡りを遅らせろ」

 

 

 そう重富は必死に善逸に呼びかける。善逸が理解できているかはわからなかったが続けた。

 

 

「今鴉にここにお前がいることと状況を伝えた。それまで死ぬなよ! 死んで俺を置いてったら許さないからな!」

 

 

 重富は善逸の右手を握り必死に呼びかけた。善逸の右手は鬼の毒によって縮んでいた。善逸は重富を見据えたままゆっくりと口を開いた。

 

 

「俺は……いいから……炭治郎と禰豆子ちゃんを……行ってくれ……あと、伊之助も」

 

「あぁわかった! 助けに行ってくる! 全部終わったら迎えに来るから待ってろ!」

 

 

 重富は善逸の言葉を受け取り、小屋を降りて炭治郎たちを探しに向かった。

 

 




那田蜘蛛山編 後書きコーナー

炭治郎(以下炭)「皆さん13話お読みいただきありがとうございます!炭治郎です」

重富(以下重)「重富です!」

炭「アニメの進行からだいぶ進んだな、重富!」

重「そりゃあ作者が課題そっちのけで週2ペースぐらいで更新してるんだからそうなるわな…」

炭「それは大丈夫なのか?」

重「作者曰く、そろそろマジでヤバいらしい」

炭「もし課題が出せなかったらどうなるんだ?」

重「作者のメンタリティに多大な影響が出てしばらく更新が出来なくなるとか?」

炭「えぇっ!?大変じゃないか!」

重「大丈夫じゃね?間に合ったならスパイダーマン見に行くんだぁ〜って言ってたし」

炭「ほ、本当に大丈夫なのか?」

重「まぁ、結果は7月の頭に更新とともに報告とゆうことで…それではまた次回、よろしくお願いします!」

炭「お、お願いします!(本当に大丈夫なのか?)」




「とりあえず必死に頑張るよ、炭治郎くん」By作者



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第14話 十二鬼月

課題を何とか出せました!


 静まり切った夜に善逸は糸で吊るされた小屋の上で仰向けに倒れる。

 

 

(重富……もう行ったかな)

 

 

 鬼の毒によって全身の感覚がなくなっている善逸はふとそう思った。

 重富に握ってもらった右手は既に袖の中まで縮んでしまっている。

 

 

(善逸ならできるから言った……か)

 

 

 重富が鬼に向かって言った言葉を思い出す。正直、お前に何が分かるんだまだ出会ってから一週間も経ってないじゃん……と思いもした。

 しかし重富が言ったことは本心からだったと善逸にはわかった。それを判断できる人より優れた耳を持っているからだ。

 

 

(あんなこと断言されたらもうやるしかないじゃん)

 

 

 昔から、辛いことや怖いことで泣き喚くと誰もがまわりから離れていった。そんな善逸を見捨てなかったのは師である雷の呼吸の育手だけだった。

 自分の不甲斐なさをよく知っている善逸にとって自分の情けない部分を知ってなお信じられるのは特別な事だった。

 

 

(重富、死ぬなよ……)

 

 

 月の出る今宵の夜はまだ長い。

 

 

 

「もしもし、大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 ~*~

 

 

 

 暗く足元の悪い山の中をひたすら走る。

 

 

(クッソ! どこにいるんだ炭治郎! 伊之助!)

 

 

 炭治郎や善逸のように特定の誰かを探せる能力は重富にはない。自分の鴉に空から探すように頼むにも救援を呼びに行かせてしまっている。

 よって感を頼りに全力で進むしかない。

 

 

「グォォォォォォ──!!!」

 

「…………っ!?」

 

 

 明らかに人外の声が山をこだました。どうやら鬼がいる方向には近づいていたらしい。重富は雄叫びが聞こえた方向へと足を進める。

 

 雄叫びが聞こえた方向へ近づけば近づくほど激しい音が聞こえてくる。岩が割れる音、木がなぎ倒される音。

 

 聞けば聞くほど行われている戦闘の激しさを物語る。しかし戦っているのは炭治郎か伊之助か……または別の鬼殺隊員かはわからない。

 

 

(どちらにせよ、助力に行かなきゃな)

 

 

 戦闘の激しさからしてそこらの雑魚鬼とは桁違いの鬼がいることは確かだ。早く行かなければ死人が出る。重富は刀の塚を握り、進める足を早めた。

 

 

 水と音が聞こえ始めるとすぐに少し開けた川に出た瞬間……目の前で木が倒れて水しぶきを上げる。

 

 しぶきの中で微かに見えたのは川の中心で木の下敷きになっている化け物とそいつに斬り掛かる炭治郎の姿だった。

 

 

「炭治郎!!」

 

「重富!?」

 

 

 重富は呼びかけてすぐ自分の失言に気づく。炭治郎は今まさに鬼の首を切ろうと呼吸を使おうとしていた。

 しかし今、重富の呼びかけで炭治郎の集中が乱れてしまった。

 

 

「ガぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

 鬼は自分の上に乗った木をそのまま炭治郎に向かって薙いだ。炭治郎は背後に飛びながら刀の柄で防いだが圧倒的な力で吹き飛ばされてしまう。

 

 

「伊之助! 重富死ぬな! そいつは十二鬼月(じゅうにきづき)だ!! 俺が戻るまで死ぬな!」

 

 

 炭治郎はそう叫び夜の彼方へと見えなくなっていった。

 

 

(クソ! また炭治郎を見失っちまった! しかもこの鬼……)

 

「グォォォォ!」

 

 

 先程の人面蜘蛛とは違い、今度は頭が蜘蛛で体が人型の鬼。炭治郎を飛ばした事で木を捨て近くにいた重富に殴りかかってきた。

 

 

(図体がデカいくせに速い……!)

 

 

 蜘蛛面鬼とでもいうべき鬼の拳は恐ろしい程に速く、かつ威力が高かった。

 重富は攻撃を何とか交わしつつ股の下に潜り込み脚の内側を斬りつけた。

 

 

『雨の呼吸、陸ノ型 雨脚時雨(あまあししぐれ)

 

 

 重富の刃が蜘蛛面鬼の両足を深く切りつけるも鬼の足は辛うじて繋がっていた。

 

 

「かってぇな! 両足切断する気満々で切ったのによ!」

 

 

 重富が愚痴を漏らすうちに鬼の傷口の出血は止まりみるみる塞がっていく。

 完治すると同時に鬼は再び重富に向かって拳を振り上げた。

 

 

「俺様を忘れんじゃねぇ!」

 

「伊之助!?」

 

 

 その声とともにどこからが伊之助が飛び出した。伊之助は両肩や脇腹に切り裂かれたような傷口があり出血していた。

 

 

「おらァ"ァ"ァ"!!」

 

 

 伊之助が左の刀で鬼を斬りつけるが重富と同じく切断にはいたらなく刃が止まってしまった。

 

 

「まだまだァ──ー!」

 

 

 伊之助はもう片方の刀を鬼の腕に止まった刀にさらに打ち付けて強引に押し込んだ。

 

 

「しゃァ──ー! 切れたぞ松斗!」

 

「重富だっつの! この状況だとマジ腹立つからやめろ!」

 

「…………」

 

 

 硬い体を切ったことで大喜びする伊之助に反し蜘蛛面鬼は切られた腕を見つめ黙り込んだ。

 

 しばらく黙ると鬼は重富たちに背を向けて走り出した。

 

 

「は? 逃げんじゃねェ!!」

 

 

 すぐさま鬼の後を追いかける伊之助。重富は伊之助について行きながら内心首を傾げる。

 

 

(鬼がたかだか腕を切り落とされたくらいで逃げるか? いやそんな性格をしてる見た目じゃないし……となると可能性は)

 

「おいこら降りて来い!」

 

 

 思考にふけっていた重富の意識が伊之助の声によって引き戻される。

 

 

「あいつ……何してんの?」

 

「知らねぇよ! この俺様に頭つかわせよおって魂胆だろ!」

 

 

 蜘蛛面鬼は木の枝に登りしがみついていた。しかしその高さは伊之助と重富ならなんとかなる高さだった。にも関わらず鬼は木の枝にしがみつきプルプルと震えだした。

 

 

「グハハハハ! 俺様の恐ろしさにビビって震えだしたぜ!」

 

(いや、なんか嫌な予感がする。自分の手を落とす程の敵が現れた時の行動……まさかっ!)

 

 

 鬼が震えているのは恐怖からではない。プルプルと震える鬼の背中が裂け脱皮した。

 

 

「伊之助さがれ! 鬼は自分を強化しただけだ!」

 

 

 そして以前よりも数段大きな姿で木の枝から降り立った。蜘蛛面鬼は脱皮する前のはまるで別格だと鬼が放つ【圧】が語っていた。

 

 

「がぁあああああぁああ!!」

 

 

 力も速さも段違いに上がった鬼の拳は伊之助の反応速度を上回った。

 

 

「伊之助!!」

 

「っ!?」

 

 

 蜘蛛面鬼の攻撃を反応できなかった伊之助を重富が突き飛ばす。重富は刀で受けるが後方に吹き飛ばされ木に叩きつけられる。

 

 

(いってぇ! 骨折れたか!?)

 

 

 受身をとるも衝撃を流しきれず骨に鈍い痛みを感じる。さらに鬼が追撃を加えようと拳を振り上げると伊之助が背後に飛びかかる。

 

 

(けだもの)の呼吸、参ノ牙 ()()き』

 

 バキンッ! 

 

「なっ……折れっ!?」

 

 

 伊之助の刃は鬼の頸に傷をつけることなく音を立てて折れてしまった。動揺する伊之助に鬼は片手で薙ぎ払う。

 呼吸を使った直後で受身を取り損ねた伊之助は血反吐を撒き散らす。そして伊之助の息の根を止めようと伊之助に意識を向ける。

 

 

 それが……自身の敗因となる事は鬼は知る由もなかった。

 

 

『雨の呼吸、()ノ型 黒雨(こくう)夜斬(やぎ)り』

 

「……っ!?」

 

 

 伊之助の首に手をかける腕は斬り落とされ鬼の頸は……宙を舞った。

 胴体から切り離されたおぞましい蜘蛛の頭は地に落ちて灰となる。

 

 

「おまっ!? お前今どうやって斬った!?」

 

 

 伊之助は混乱していた。脱皮すら前ですら鬼の皮膚は硬く、腕一本斬るのも苦労した。事実、重富も脱皮する前の鬼の両足を切断し切れなかった。それを重富が強度も上がっていた鬼の頸を斬ったのだ。

 

 

「それより無事か伊之助? 無事だな! じゃあ俺は炭治郎の所に行ってくる! 怪我してるんだから大人しくしてろよ!」

 

「おい! 俺は怪我なんかしてねぇ! 待てこらァ!」

 

 

 重富は一方的に伊之助の状況を確認して炭治郎が飛ばされた方角へ走り出した。

 

 重富があの鬼を倒せた理由……それは雨の呼吸の玖ノ型の特性ゆえもあるがもう一つ、倒せた要因がある。

 あの時、あの一瞬……何故か無意識に重富の集中力が格段に上がっていた。

 

 

 

 〜*〜

 

 

 重富と伊之助が父鬼と戦っていた頃、遥か遠くへ飛ばされた炭治郎は少年の姿をした鬼、累と遭遇していた。

 

 

「お前……今なんて言った?」

 

 

 累の前には白髪で女の鬼が顔を切られうずくまっていた。累はその女の鬼を姉だと……家族だと言った。

 

 

「何度でも言ってやる! お前の家族の絆は偽物だ!」

 

 

 信頼し合う者には信頼の匂いというものがある。しかしこの二人の鬼からは恐怖と憎しみと嫌悪の匂いがした。この匂いがする関係は間違っても家族などではない。

 

 既に他の鬼との戦闘でボロボロな炭治郎に極細の糸が迫る。炭治郎は累に向かって走り迫り来る糸を断つ───

 

 

『水の呼吸、壱ノ型 水面斬り』

 

 バキン

 

 

 糸を断つことはできなかった。日輪刀が糸に触れた瞬間、音を立てて折れてしまった。

 

 

(刀が折れた!!)

 

 

 炭治郎が信じられなかったのは累の操る糸の強度だ。その糸は先程戦った父鬼の皮膚の硬度より硬かった。

 

 呼吸を教えてくれた鱗滝に、刀を打ってくれた鋼鐵塚(はがねづか)に内心で詫びながら炭治郎は頭を必死に回転させる。

 

 必死に糸を躱していくがやがて逃げ場がなくなる。

 

 

(ダメだ! 避けれない……っ!)

 

 

 累の糸が炭治郎の体を斬り刻もうとした時、目の前で血しぶきを出す人物がいた。

 

 

「禰豆子っ!?」

 

「……っ!?」

 

 

 禰豆子は炭治郎の身の危険を察知し木箱から飛び出し身を呈して庇ったのだ。

 炭治郎は禰豆子を抱えて茂みに避難する。

 

 

(ごめん禰豆子! 俺を庇って!)

 

 

 炭治郎は禰豆子の深く切り裂かれた腕を強く握って内心で謝罪する。禰豆子の登場には炭治郎だけじゃなく、目の前で見ていた姉鬼も驚いたが……誰より衝撃を受けたのは累だった。

 

 

「お前ら……兄妹か?」

 

「だったら何だ!?」

 

 

 身を呈して兄を守る。そんな禰豆子の姿は累には一際輝いて見えた。

 

 

「欲しい……あの絆が欲しい!!」

 

 

 図らずしも禰豆子は危険な存在に目をつけられてしまった。

 

 

「まっ待ってよ累!」

 

「黙れ!!」

 

 

 累が怒声を上げて腕を振るうと姉鬼の頸と姉鬼の背後の木々が倒れた。

 

 

「お願い累、挽回させて」

 

 

 姉鬼は頭が地についても累に懇願する。縋るように……

 

 

「じゃあ今うろちょろしてる奴らを殺してこい。そうすればさっきの事も許してやる」

 

「わ、わかった……殺してくるわ」

 

 

 そう言い残し、姉鬼は切られた頭を抱えてどこかへ行った。その場に残ったのは炭治郎と禰豆子、そして累。

 

 

「坊や、話をしよう」

 

(話……?)

 

 

 累は突然話をきりだした。炭治郎が困惑する中で累が続けた。

 

 

「僕は感動したよ。君たちの絆を見て体が震えた」

 

「…………」

 

「でもこのままだと君たちは僕に殺されるしかない。悲しいよね。でも回避する方法が一つだけある。…………君の妹を僕に頂戴? そうすれば命は助けてあげる」

 

「…………何を言っているのかわからない」

 

 

 累の言葉が炭治郎には理解できなかった。

 

 

「君の妹は僕の妹になってもらう。心配いらない。僕の方が強い。逆らうとどうなるかちゃんと教えるから大丈夫だよ」

 

 

 まるで禰豆子を物のように語る累に炭治郎は激高する。

 

 

「巫山戯るのも大概にしろ!! 禰豆子をお前になんか渡さない!」

 

「……じゃあいいよ。殺して()るから」

 

「それより俺が先にお前の頸を斬る」

 

「できるならやってごらん? 十二鬼月である僕に……勝てるならね」

 




久々の説明コーナー

重富(以下重)「いやぁ本当に久々だな、説明するの」

炭治郎(炭)「最近は重富の技を出す機会が少なかったからな」

重「てなワケで久しぶりなので気合い入れて俺の技を説明したいと思います!」

炭「今回は雨の呼吸、陸ノ型雨脚時雨(雨脚しぐれ)だったよな?」

重「そう、あの技は特殊な歩行法によって流れるような剣劇が繰り出せるんだ」

炭「俺の流流舞いに似てるな」

重「そうだな、結構応用が利く技だぞ。回避技に使える時もあるし…まだやった事ないけど」

炭「これで重富の技はどれ位でたんだ?」

重「ん〜5個くらいかな?出てないけどいくつかはストックがあるらしい」

炭「俺も早く見てみたいな」

重「まぁそれは本編でな、それでは今回はこれまでで」

重&炭「「また次回、お楽しみに!!」」


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第15話 風とともに

評価バーがァ!評価バーが変わっているぅぅ!!!(本編の前に少々独り言にお付き合い下さい)

評価バーがに色がついた途端UAが跳ね上がったんですけどどうなってるんでしょう?
お気に入りも100を超え、UAが1万を超えた!のは嬉しいし逆に1と3がついてショックだったり…
人が課題無事提出して浮かれてスパイダーマンとアラジンを見に行っている間に何があった!?

最後にコレだけ!コレだけ聞いて欲しい!

スパイダーマンめっさ面白かったですw


 那田蜘蛛山の夜。自らが十二鬼月であることを明かした累。その左目には「下伍」と刻まれていた。

 炭治郎が鼓屋敷で倒した響凱(きょうがい)は元十二鬼月だった。しかし、今対峙している累は現役の十二鬼月。それも下伍、下陸の響凱より上だった。

 

 まず違いなく炭治郎が今まで戦ってきたどの鬼よりも強い。

 

 

「君、嫌な目つきだね、メラメラと鬱陶しい。もしかして…………勝つつもりかな!!」

 

 

 累が何かを引き寄せる動作をした瞬間、気づけば炭治郎の背後にいたはずの禰豆子が累の腕の中にいた。

 

 

「……っ!?」

 

「ほら、もう()ったよ」

 

 

 累と禰豆子に距離があり、間に炭治郎がいたのにも関わらずこうも簡単に奪われてしまった。

 

 

「……放せっ!」

 

 

 炭治郎は累に向かって駆け出し、斬り掛かる。

 

 

「逆らわなければ命だけは助けてやるって言ってるのに」

 

 

 禰豆子も黙って捕えられる訳もなく累の目を引っ掻いた。累はそれをものともせず片手で糸を操り炭治郎を襲う。

 

 炭治郎は糸の匂いを嗅ぎ分け咄嗟に避けると、累の腕の中にいた禰豆子がいないことに気づく。すると炭治郎の目の前に赤い血が垂れる。

 

 顔を上に向けると禰豆子が糸で縛られ糸が身体にくい込みそこから血が垂れていた。

 

 

「禰豆子っ!!」

 

「うるさいよ。このくらいで死にはしないだろ鬼なんだから。でもやっぱりきちんと教えないとダメだね。暫くは失血させよう。それでも従順にならないようなら日の出までこのままにして少し炙る」

 

 

 累の冷酷で残忍な発言に炭治郎は体が震える。今にも溢れだしそうな怒りを必死に抑え、集中し呼吸を整える。

 

 宙に吊るされた禰豆子は失血からか意識を失った。

 

 

「ん? 気を失ったのか? 眠ったのか?」

 

 

 禰豆子の意識が消えたことに気づいた累は禰豆子を見据える。

 

 

(独特な気配の鬼だな……僕たちとは何か違うような……面白い)

 

 

 累の禰豆子への興味はますます増した。

 

 

『水の呼吸、(じゅう)ノ型 生生流転(せいせいるてん)

 

 

 累が禰豆子に気を取られているうちに炭治郎は反撃の技を繰り出す。その技は先程は刀が折れてしまうほどの強度を持った糸を断ち切った。

 

 

(斬れた! このまま距離を詰めていけば勝てる!)

 

 

 炭治郎は技を出したまま塁へと近づく。

 

 

「ねぇ、糸の強度はこれが限界だと思ってるの?」

 

『血鬼術 刻糸牢(こくしろう)

 

 

 累も炭治郎の間に蜘蛛の巣のような糸が張り巡らされる。

 

 

「もういいよお前は……さよなら」

 

 

 その言葉とともに累の血鬼術が炭治郎に迫る。たった今斬った糸より強度が上がっていると匂いで感じ取る。

 

 斬れない。死ぬ。負ける。

 

 炭治郎が死を確信した時、脳に走馬灯が過ぎる。

 

 

 走馬灯が死の直前に過ぎる理由。それは一説によると今までの経験や記憶の中から迫りくる【死】を回避する方法を探しているのだという。

 

 炭治郎が見たのは……既に病で亡くなってしまった父との記憶だった。

 

 

『炭治郎、呼吸だ。息を整えてヒノカミ様になりきるんだ』

 

 

 ドクン

 

 

 その時、炭治郎の鼓動が一際大きく脈を打った。

 

 炭治郎の家は火を扱う家柄だった。その為怪我や災いが起きないよう、年始めは《ヒノカミ様》に舞を捧げて家族の無事を祈る。

 炭治郎は父の舞を幼い時に見たことがある。その日はとても寒く、肺も凍えそうな程だった。

 炭治郎の父、炭十郎は体が弱いにも関わらず見事な舞を見せた。炭治郎は何故体が弱い父が凍える夜に舞えたのか疑問に思い聞いたことがあった。

 

 

『息の仕方があるんだよ。どれだけ動いても疲れない息の仕方。正しい呼吸ができるようになれば炭治郎もずっと舞えるよ。──炭治郎。この神楽と耳飾りだけは必ず途切れさせず継承していってくれ。約束なんだ』

 

 

 炭治郎は体の奥が一気に燃え上がるような感覚を覚えた。

 

 

『ヒノカミ神楽 円舞』

 

 

 一度は斬れないと思った累の糸を炭治郎は断ち切った。予想外の出来事に累は一瞬硬直するがすぐさま新しい糸を炭治郎の周囲に張り巡らせた。

 

 

(ここで退いたとしても水の呼吸からヒノカミ神楽に切り替えた反動で動けなくなる!)

 

 

 そうなれば今度こそ間違いなく死んで負ける。炭治郎の本能がそう訴えていた。

 

 

(禰豆子を守らなければ! 腕だけなら届く! たとえ相討ちになったとしても!!)

 

 

 炭治郎は累の頸に渾身の力を込め刀を振るう。

 

 

 炭治郎が決死の覚悟で刃を突き立てようとしている時、禰豆子は暗い意識の奥で眠っていた。

 

 

『……禰豆子。禰豆子、起きて。今の禰豆子ならできる……頑張って』

 

 

 暗い空間に亡き母が語りかける。しかし禰豆子は眠り続ける。

 

 

『禰豆子……お兄ちゃんまで死んでしまうわよ……』

 

「…………っ!!」

 

 

 涙を零し、悲しさに満ちた声で禰豆子は目覚めた。

 

 目蓋を開き視界が最初に写したのは炭治郎が累の頸に刃を振るう瞬間だった。

 

 

『血鬼術 爆血(ばっけつ)

 

 

 累が張り巡らせた糸に火が着火された。

 

 

(っ!? 糸が火に……!!)

 

 

 炭治郎の思わぬ反撃に咄嗟に防ぐべく使った糸は禰豆子を吊るした糸と同じ糸。その糸に染み込んだ禰豆子の血が燃え、爆ぜた。

 

 

(大丈夫だ……糸を斬った所で僕の頸は斬れない! 鋼糸(はがねいと)よりも僕の頸の方が硬いんだ!)

 

 

 しかし禰豆子が身を呈して炭治郎を庇った時、炭治郎の日輪刀に禰豆子の血が飛び散り付着していた。

 

 禰豆子の血鬼術によって血は爆ぜ……炭治郎の日輪刀は加速した。

 

 

「俺と禰豆子の絆は誰にも引き裂けない!!」

 

 

 加速した炭治郎の刀は累の頸を斬り飛ばした。

 

 

 

 

(勝った……勝った。けど、視界が狭まる。目が見えずらい……呼吸を乱発し過ぎたせいか?)

 

 

 耳鳴りは酷く、体中にも激痛が走る。しかしまだここで倒れる訳にはいかないと炭治郎は力を振り絞る。

 

 

(重富と伊之助を助けに行くんだ……早く……)

 

 

 あの頭が蜘蛛の鬼の元に残して来てしまった重富と伊之助を案じる。

 

 

(禰豆子……どこだ……禰豆子……大丈夫か……?)

 

 

 目が霞んでよく見えない。意識も朦朧とする炭治郎の背後で……頸を斬られた累の体が()()()()()()

 

 

(……っ!? 血の匂いが濃くなった! 死んでないのか? 頸を斬ったのに!)

 

 

 炭治郎に背にゾワッと凍てつくような寒気が走る。さらに炭治郎はよく嗅ぐと鬼が消えていく時の灰のような匂いがしなかった。

 

 

「僕に勝ったと思ったの? 可哀想に哀れな妄想をして幸せだった?」

 

 

 自分の糸で自分の頭を持ち上げ累は怒気をはらんだ声で言った。

 

 

「もういい……お前も妹も殺してやる。こんなに腹が立ったのは久しぶりだよ」

 

 

 冷たい殺意が炭治郎の背中越しに伝わる。今攻撃されたらまず間違いなく死ぬ。

 

 

(立て! 早く立て!! 呼吸を整えろ! 急げ早く!!)

 

 

 炭治郎は必死に自分に言い聞かせるが体は一向に動いてくれない。既に限界を超えているのだ。

 

 

「不快だ。本当に不快だ。そもそも何でお前は燃えてないのかな? 僕と僕の糸だけ燃えたよね? 妹の力なのか知らないが苛々(いらいら)させてくれてありがとう」

 

 

 溢れ出る憎悪と殺意が累の顔を歪ませる。

 

 

「何の未練もなくお前たちを刻めるよ」

 

(正しい呼吸ならどんなに疲弊していても関係ない!)

 

 

 累が今度こそ何の油断もなく確実に炭治郎を殺すために技を炭治郎に放つ。

 

 

(急げ! 急っ……

 

『血鬼術 殺目篭(あやめかご)

 

 

 炭治郎を中心に(まゆ)のように糸が囲む。その糸はみるみると縮み始める。このままいけば炭治郎は地面と糸に挟まれ小間切れにされる。

 

 

(焦るな! 息を乱すな! 落ち着け! 落ち着け!)

 

 

 しかしどんなに呼吸を整えて体に力を込めようとも腕は上がらない。

 

 糸が炭治郎の身に触れ、肉が裂かれ…………

 

 

『雨の呼吸、玖ノ型 黒雨・夜斬り』

 

 

 ……ることはなかった。累の糸が炭治郎の身を切る前に糸が斬られたからだ。

 

 

(誰だ……善逸か?)

 

 

 その男は一陣の風と共に現れた。

 

 

「てめぇ……っ!炭治郎に何してんだァッ!!!」

 

 

 額に血管を浮き立たせかつてない程に怒りを剥き出しにする狛江重富は叫ぶ。

 

 

(次から次に! 僕の邪魔ばかりする屑共(くずども)め!!)

 

 

 累は炭治郎への攻撃を防がれた事でさらに怒りが増す。

 

 

『血鬼術 刻糸輪転(こくしりんてん)

 

 

 幾本もの糸が編みこまれた渦を作り出し放つ。糸の強度も最高度の術だ。糸は硬く鋭い刃のなって迫る。

 

 

「斬り刻んでやる……」

 

 

 重富は両手に持つ刀を強く握りしめ構える。

 

 

『雨の呼吸、伍ノ型 瞑怒雨(めいどう)

 

 

 ダンッ! と稲妻が走ったかと思うほど凄まじい音を出す程に踏み出した足はそのまま技の威力に直結する。

 重富の技は強靭な糸の渦を穿った。それと全く同時に累の頸が刎ねられた。

 

 

(なっ!? 僕が斬られた!?)

 

 

 瞬きする間もなくはねられた頸が宙を舞う。

 

 

(クソ! 殺す! 殺す! あの兄妹と男は必ず……殺す!)

 

 

 頸は斬られ間もなく消える。その前に最後に炭治郎と禰豆子に一矢報いようと二人を見る。

 そこには禰豆子を大事そうに抱えている炭治郎の姿があった。

 

 

『累は何がしたいの?』

 

 

 ふと母役を命じていた鬼の言葉が頭をよぎった。その問いに累は答えられなかった。人間の頃の記憶がなかったからだ。

 

 

(そうだ……俺は……俺は……)

 

 

 累は鬼になる前、生まれつき体の弱い少年だった。歩く事さえ苦しくなる。その為走ったことはなかった。

 ある日鬼舞辻様に会って鬼にしてもらってからは強い体を手に入れた。だが両親は喜ばなかった。

 鬼になれば日の光にも当たれず人を喰わねばならないからだ。

 累の両親は累を殺そうとして累に殺された。その両親の最後の言葉を思い出した。

 

 

「丈夫な体に産んであげられなくてごめんね……」

 

「大丈夫だ累。一緒に死んでやるから」

 

 

 両親は累の罪を共に背負い死のうとした。そして累は理解した。自分が今まで苦しかったのは全て自分のせいだと。

 

 家族が……家族が恋しくてたまらなかった。

 

 

(俺は結局……何がしたかった?)

 

 

 二度と手に入らないものに手を伸ばして……

 

 何かに手を伸ばし何かを求める素振りを示す累の体を炭治郎が見つめる。

 

 

(小さい体から抱え切れなきほどの大きな悲しみの匂いがする……)

 

 

 炭治郎はそっと手を伸ばし累の背に置いた。その光景を崩れゆく頭から累は見ていた。

 

 

(あぁ、父さん……母さん……ゴメンなさい。全部全部僕が悪かったよ……)

 

 

 そしてスゥッと静かに消えていった。重富は頭も体も塵となって消えたことを確認して刀を鞘に戻す。

 

 

「そいつは……鬼である事を悔いてたのか?」

 

 

 ただただ累が消えていくのを見守った炭治郎の顔を見て重富は聞いた。

 

 

「わからない……でも鬼はきっと虚しいくて悲しい生き物なんだ」

 

「そう……かもな」

 

 

 どの鬼も自らが鬼になりたかった訳ではない。鬼になるしかなかった者もいるだろう。そして多くの人を殺して喰らう限り死なない。

 

 重富はおぼつかない足取りで炭治郎たちの横まで移動して座る。

 

 

「いやぁにしてもお互いボロ雑巾みたいだな」

 

 

 炭治郎も重富も既にまともに動けないほど消耗している。

 

 

「重富……助けてくれてありがとう。俺も禰豆子も助かったよ」

 

「あぁ、それ程でもない……伏せろっ!」

 

 

 突然重富が叫んだ瞬間、再び日輪刀を抜刀して何かを弾いた。

 

 

「あら? どうして邪魔するんです? 」

 

「え?」

 

 

 重富が弾いたのは金属……もとい刀である。重富は刀の持ち主を見て目を疑った。目の前にいたのは見目麗しい女性。女性は笑みを浮かべさらに続ける。

 

 

「この山に十二鬼月がいて、貴方もこの山にいると聞いて助けに来たのに何なんでしょうか? そんなんだから子供に好かれないんですよ」

 

「アンタ、誰よ」




説明コーナー

重富(以下重)「さて、今回は雨の呼吸、玖ノ型について説明しよう!」

炭治郎(以下炭)「確か、重富があの蜘蛛頭の鬼を倒した時に使った技だよな?」

重「その通りだ。雨の呼吸、玖ノ型 黒雨・夜斬り(こくうやぎり)は暗い夜に適した技で夜の闇に殺意や刃を潜ませて相手の頸を斬る。そうゆう技なんだ」

炭「へー夜に適したってゆうのは鬼に対して有効だな」

重「でもこの技がめっっちゃ難しくってな?これでも滅多に使えたことないんだよ」

炭「え、そうなのか?」

重「そ、自分でも何で出来たのかわからないくらいなんだよ。しかも敵に気づかれるとあんま意味ないし」

炭「じゃあそれがちゃんとできるようになったらもっと強くれるな!」

重「そうだな。ま、俺としては伍ノ型の方が体に答えるんだけどな」

重&炭「「それではまた次回、お楽しみに!!」」


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第16話 鬼殺隊柱合裁判 前編

すいません。今回もまた、長いです。


蜘蛛の毒をくらい気を失いかけていた善逸は気づけば包帯でぐるぐる巻きにされ治療済の張り紙を貼られた。

善逸の前にはぞろぞろとたくさんの黒ずくめの人が現れ始めた。

 

 

(なんだコイツら?なんかすごいテキパキ後始末してんだけど)

 

 

黒い服装で口元を隠した人達は鬼にされた人や現場の処理を始める。そしてその中には腰に刀を差した善逸と歳が近そうな女の子もいた。

 

 

(それにあの子、最終選別にいた子じゃないか?俺たちをぐるぐる巻きにした女の人に似た髪飾り)

 

 

蝶を模した髪飾りをつけ、長い髪を揺らして女の子は黒ずくめの人に指示を出す。

 

 

「こちらも蝶屋敷へ?」

 

「そう、怪我人は皆うちへ。付近の鬼は私が狩るから安心して作業して」

 

 

鬼殺隊非戦闘部隊【(カクシ)】。それが黒ずくめの達の名だ。主な仕事は戦場の事後処理や援護。鬼殺隊に入隊するも剣の才がない場合に就くとされる。

 

 

「なぁ、この猪頭なに?」

 

「さ、さぁ?」

 

 

 

〜*〜

 

「アンタ、誰よ。初対面ならまず刀より言葉を交わすのが先だと思うけど?」

 

 

十二鬼月、下伍の累を倒した重富。そんな重富たちの前に現れたのは鮮やかな羽織りを隊服の上から着込み、奇妙な日輪刀を振るう女性だった。

 

 

「あらあら、これはごめんなさい。後ろの鬼から助けてあげようと思いまして」

 

「いらんお世話だ」

 

 

女性は笑顔を崩さず切っ先をの背後にいる禰豆子に向ける。重富に冷たくつき返された女性は首を傾げた。

 

 

「気づいていないんですか?後ろの男の子が抱えている女の子、鬼ですよ」

 

「そんなのアンタより何倍もわかってる。その上で引っ込んでろと言ってるんだよ」

 

 

 

 

 

 

「こんな所で何してる。胡蝶」

 

(あの人は……っ!?)

 

 

森の茂みから一人の男が女性と重富に呼びかけた。その人物は炭治郎にとって恩人とも言える人だった。

 

 

 

男は左右違う柄の羽織りを纏い、胡蝶と呼ばれた女性と共に那田蜘蛛山へ応援に来た冨岡義勇だった。

 

 

「冨岡さん、今まで何やってたんですか?」

 

「鬼を探していた」

 

 

しのぶがそう聞くと冨岡は一言そう答えた。

 

 

「鬼ならもういないと思いますよ」

 

「君の後ろにいるじゃないですか」

 

「この子は違う」

 

「………………」

 

 

義勇は重富の後ろに視線を送る。そこには死闘の果て力尽きた炭治郎と禰豆子がいる。義勇はその二人をじっと見つめながら沈黙を続ける。

 

 

「あの、冨岡さん。もう少し口数を増やして下さい。会話にならないんです。そんなんだから嫌われるんですよ?」

 

「俺は嫌われてない」

 

「「「…………!」」」

 

 

その言葉を聞いた義勇以外に衝撃が走った。場の空気がまた変化する。こう…何ともまぁ申し訳ない…そんな空気に。

 

 

「あぁそれ…嫌われている自覚がなかったんですね…余計なことを言ったようですみません」

 

「…………!」

 

(ダメだ…惨い……)

 

 

次は義勇に衝撃が走った。重富はそんな義勇を見てられず目を逸らす。いたたまれない。とにかく今の義勇はいたたまれない。

 

 

「坊や、坊やが抱えているのは鬼ですよ。危ないですから離れてください」

 

 

しのぶは重富を無視して口に手を当てヒソヒソと炭治郎だけに聞こえるように話すが重富や義勇にも筒抜けである。

 

 

「ち、違います!あ、いや違わないんですけど…妹なんです!俺の妹で…それで!」

 

「お前……」

 

 

義勇は必死に禰豆子のことを弁明する炭治郎を見て何かを思い出した。

 

 

「まぁ、そうなのですか…可哀想に……では」

 

 

炭治郎の必死の訴えを聞いたしのぶは憐みの表情を浮かべると

 

 

「苦しまないよう優しい毒で殺してあげましょうね」

 

 

しのぶは微笑み針の様に細い日輪刀を構えた。その笑みからは明確な殺意が込められていた。

 

 

「…………」

 

「ちっ!話なんて通じやしねぇか!逃げるぞ炭治郎!」

 

「逃げられると思ってます?」

 

「知るか!」

 

 

重富は炭治郎たちの前に出て刀を握る手にさらに力を込めて意識を集中させる。

 

 

「お前、まだ動けるか?後ろと二人を担げるか?無理でも根性で担げ」

 

 

義勇は重富にそう聞きながらしのぶの正面に立つ。

 

 

「その二人を連れて逃げろ」

 

「………っ!?…………っ!!」

 

 

義勇の行動に困惑したが瞬時に我に返り重富は炭治郎たちを抱える。

 

 

「よし、行くぞ炭治郎。動くなよ!」

 

「し、重富!?」

 

 

重富は炭治郎と禰豆子を抱え、真っ直ぐ走り出す。

 

 

「どういうつもりですか?規律違反ですよね?」

 

「…………」

 

 

 

 

~*~

 

 

 

(あーくっそ!伍ノ型で踏み込んだ足が痛てぇ!!)

 

 

義勇の助太刀によりしのぶから反対方向にひたすら走る。

 

 

「お、箱だ!」

 

 

逃げる中、茂みの中に禰豆子を入れる木箱を発見する。しかし両脇に炭治郎と禰豆子を抱えている重富には手を伸ばせない。

 

 

「悪い、炭治郎箱取ってくれ!」

 

 

偶然にも箱がある方の脇に抱えられた炭治郎に頼み、炭治郎もそれに従って箱を取る。

 

 

「重富、俺も走るから降ろしてくれ!」

 

「悪いがそんな暇はない!とっとと逃げないと……ぐへっ!」

 

 

義勇が足止めしてくれてるとはいえいつ追ってくるかわからない。早く逃げなければ危ないと重富が言いかけると突然背中に重圧がかかった。

 

 

「重富!」

 

 

炭治郎が見上げるとそこには蝶の髪飾りをつけた少女が重富の背中を踏みつけていた。

重富は盛大にすっころび炭治郎と禰豆子を放してしまった。

 

 

(ちっ!次から次へと!)

 

 

少女は重富から放り出されてしまった禰豆子に少女が切りかかる。

炭治郎は咄嗟に少女のマントを引っ張ることで攻撃をそらす。

 

 

「炭治郎流石!」

 

「逃げろ!禰豆子逃げろ!早く!」

 

 

少女が転んでいる間に炭治郎に禰豆子は炭治郎に言われた通り走り出した。

 

 

「逃げ……がっ!」

 

 

炭治郎は少女に脳天をカカト落としをくらい顎から地面に叩きつけられ気絶する。少女は禰豆子にすぐに追いつき、再び頸目掛けて斬りかかる。

 

 

「ちょっと待ってもらおうか。この子はやらせねぇ!」

 

 

重富は日輪刀を抜き出し少女の刀を受ける。

 

 

「……っ!?」

 

「あり?選別にいた時の子?あぁ〜えっと〜とりあえずこの子の頸は落とさせない」

 

 

少女の表情が若干驚きに染まる。思わぬ所で顔見知りに会い首を傾げたが切り返して牽制する重富。

 

 

「伝令!!伝令!!炭治郎・禰豆子・重富ヲ拘束!本部へ連レ帰ルベシ!」

 

「「っ!?」」

 

 

突如鴉の伝令が入る。その内容は重富たちを本部へ連れ帰ること。

 

 

「その子が禰豆子?」

 

「だったら?」

 

「捕まえて連れていく」

 

「悪いが拒否させてもらう」

 

 

 

 

 

 

〜*〜

 

 

 

「おい起きろ。おい起き…おいコラ。いつまで寝てんださっさと起きねぇか!!」

 

 

誰かの怒鳴り声で炭治郎は目覚めた。目覚めると炭治郎の前には……

 

 

「柱の前だぞ!!」

 

 

鬼殺隊の最強の剣士たちが立っていた。

 

 

 

 

(柱…!?柱ってなんだ?なんのことだ?この人たちは誰なんだ?ここはどこなんだ?)

 

 

那田蜘蛛山で気絶してから目覚めると全く知らない場所で全く知らない単語が聞こえて全く知らない人達に囲まれていた。

 

 

「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは横で寝てる方と今から裁判を受けるのですよ、竈門炭治郎君」

 

「横で寝てる…」

 

 

炭治郎は横に振り向くと自分と禰豆子を抱えて逃げてくれた重富が鼻ちょうちんを作って眠っていた。

 

 

「し、重富!大丈夫か!?あ、いや全然大丈夫そうだけど起きてくれ!」

 

「ん?もう朝?朝ごはんは鯖がいいかな?」

 

「日はあがってるけど寝ぼけてないでちゃんと起きてくれ!」

 

「はいはい…ってここどこ?クッソあの女に頭を蹴られてから記憶がねぇ」

 

 

重富はあの少女から竈門兄妹を庇おうとしたが父鬼や累との戦闘で傷や疲労でうまく踏み込めず後頭部に打撃を入れられて気絶してしまっていた。

 

 

(クッソ刀がねぇ!没収されたか。てこどういう状況だ)

 

 

石砂利の上で寝転んだまま周囲を見渡す重富。

 

 

炭治郎に言われて重富は周りを見渡し、目の前にあった足を見上げてだんだんと声が出なくなっていく。と、同時に重富は変な汗が出てくる。

 

 

「あぁ……少なくとも気を緩めていい状況じゃないわけね」

 

「えぇ、君たちはこれから裁判にかけられます」

 

 

重富たちが那田蜘蛛山で出会った女性、胡蝶しのぶが屈んで重富と視線を近づける。

 

 

「裁判?生憎と裁判にかけられるようなことをした覚えはないな」

 

「鬼を連れていてもですか?」

 

「入隊の時に鬼を連れちゃ行けないなんて言われなかったからな」

 

「随分と口が達者なんですね。こんな状況だというのに」

 

「取り乱して喚くよりはマシだと思いましてね」

 

 

 

その笑みを向けられてから止まらない重富の汗がそろそろ限界に達そうとした時、しのぶの後ろから髪の長い女性が出てくる。

 

 

「こらこらしのぶ、あまり重富君を虐めちゃダメよ?」

 

「あ!カナエさん!お久しぶりです!」

 

「うふふ久しぶり、重富君。しのぶがすごく心配してたわよ?」

 

「姉さん!」

 

「うふふ♪」

 

 

しのぶをからかえる数少ない人物、姉の胡蝶カナエが楽しそうに笑う姿は重富には見慣れた光景だ。

 

 

 

柱とは、鬼殺隊の中で最も位の高い十名の剣士である。柱より下の者達は恐ろしい早さで殺されていくが彼らは違う。鬼殺隊を支えているのは柱たちだった。

 

 

「話を戻すが裁判の必要などないだろう!鬼を庇うなど明らかな規律違反!我らのみで対処可能!鬼であろうとも斬首する!」

 

(どこ見て言ってるんだろう?)

 

 

橙色の髪を肩まで伸ばした男は炎柱煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅうろう)。真っ直ぐな性格で真っ直ぐすぎて人と目線が合わないことがしばしばある男。

 

 

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ、それはもう派手派手だ」

 

(相っ変わらず何言ってるかわからん)

 

 

この傍から聞けば頭のおかしい言動をしているのが音柱宇髄天元(うずいてんげん)

 

 

(えぇぇ…重富君とこんな可愛い子をころしちゃうの?どうにか重富君だけでも見逃してくれないかしら?)

 

 

桜色の髪で胸元が開いた奇抜な隊服を着た女性は恋柱甘露寺蜜璃(かんろじみつり)。よく内心で一人で勝手にときめいている人。

 

 

「あぁなんというみすぼらしい子供だ。可哀想に、生まれてきたこと自体が可哀想だ」

 

(素で言っているんでしょうけど敢えて言わせてもらいます。喧嘩売ってるんですか?)

 

 

額に横一文字の傷跡があり、大柄で手に数珠を持ちド直球に失礼なことをぶっこんでくる岩柱悲鳴嶼行冥(ひめじまぎょうめい)に重富は口には出さないが内心苛立ちを覚える。

 

 

(なんだっけあの雲の形…なんて言うんだっけ…?)

 

(空を見上げたまま上の空だ……)

 

 

ひたすら空を見上げ続ける俺や炭治郎とあまり歳が変わらなそうな少年は霞柱時透無一郎(ときとうむいちろう)。最短で柱に就任した天才。

 

 

「殺してやろう」

 

「うむ!」

 

「そうだな、派手にな」

 

(まずい、柱の中で禰豆子ちゃんを殺す事を結論づけてやがる!)

 

 

何とかしなければと重富は頭を回転させて打開策を模索するが一向に思いつかない。

 

 

「それにしても久しぶりだな!重富少年!」

 

「え?あぁはいお久しぶりです。相変わらず人の目を見てませんね煉獄さん」

 

 

重富は突然普通に話しかけられ動揺する。

 

 

「お前の裁判をすると聞いた時は思わず笑ったぞ!派手にな!」

 

「あっはっはっはっ!アンタの頭の宝石むしり取って嫁さんに送ってあげましょうか?」

 

「てめぇにそんな事してもらわなくても派手に良いもの送ってるわ馬鹿め!」

 

(どうしよう、超殴りたい)

 

 

宇髄の大人気もなく舌を出して挑発に心底殺意が沸く重富。

 

 

「重富少年、俺は君のことを認めているがやはり鬼は斬らなければならない!」

 

「…………」

 

 

煉獄と重富には面識があった。煉獄だけではなく柱全員と面識がある。

 

 

「例えそうだとしても俺は誓ったことを違えない。俺はアンタにそう言ったはずだ」

 

 

重富は煉獄を睨み上げそう言った。あの日、あの瞬間に誓ったことは何が何でもやり通す。それが重富に剣を握らせる唯一の理由だ。

 

 

「そんなことより冨岡はどうするのかね」

 

 

その声がしたのは上からだった。正確に言えば立っている人間より高い位置から聞こえた。

 

 

「拘束もしてない様に俺は頭痛がしてくるんだが、胡蝶めの話によると隊律違反は冨岡も同じだろう。どう処分する?どう責任を取らせる?どんな目にあわせてやろうか」

 

 

陰湿にネチネチと水柱冨岡義勇を指さして指摘するのは何故か首に蛇を巻いた男、蛇柱伊黒小芭内(いぐろおばない)

 

 

「まぁいいじゃないですか大人しくついて来てくれましたし、処罰は後で決めましょう。俺よりも私は坊やの方から話を聞きたいですよ」

 

 

蟲柱・胡蝶しのぶは炭治郎に目を向ける。

 

 

「しのぶさん、炭治郎と貴女はそこまで歳離れてないですよ?坊やはちょっと……」

 

「少し貴方は黙っててください」

 

「はい……」

 

 

そろそろ下手するとただじゃ済まないと本能が訴えてきた重富は大人しく口を閉じる。

 

 

(俺のせいで重富や富岡さんまで…!!)

 

 

義勇は炭治郎たちを庇ったため厳罰、重富も同じく逃亡を手助けして一緒に裁判にかけられる。

 

 

「……っ!ゴホッゴホッ!」

 

「お、おい炭治郎大丈夫か?」

 

 

那田蜘蛛山で少女にかかと落としをくらった時に顎の骨が割れてしまった炭治郎は思わず咳き込んでしまう。

 

 

「水を飲んだ方がいいですね、鎮痛剤が入っているため楽になるため楽になります。怪我が治ったわけではないので無理はいけませんよ」

 

 

しのぶは懐から小さいひょうたんを出して炭治郎に飲ませた。水を飲んで落ち着いた炭治郎はゆっくりと話し始めた。

 

 

「俺の妹は鬼になりました。けど人を喰ったことはないんです。そしてこれからも人を傷つけることは絶対にしません!」

 

「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当たり前だ」

 

「俺は身内じゃないんですけど」

 

「お前一人の言葉で信用に足るか愚か者め」

 

「どっちにしろダメなんじゃないですか…ネチネチと相変わらず陰険な人ですねアンタは」

 

 

身内だからダメ、でも身内じゃなくても結局信用できないという伊黒にブツブツと文句を言う重富。

 

 

「あぁぁ…!鬼に取り憑かれているのだ、早くこの哀れな子供を殺して解き放ってあげよう」

 

「全く話にならないですね、一億歩譲って取り憑かれてたとしても殺して解放できると思ってるなら一回滝で頭でも冷やしてきたらどうです?悲鳴嶼さん。そもそも禰豆子ちゃんが鬼になってから二年以上経ってるけどそれでも人を喰ってないし傷つけたこともない」

 

「重富、お前アホか?話がグルグルと回ってるぞ。人を喰ってないこと、これからも喰わないこと、口先だけでなくド派手に証明してみろ」

 

「ぐっ……」

 

 

確かに、この場で禰豆子が今まで人を喰ってない証拠とこれからも喰わない証明をする手段はない。重富は思わず押し黙ってしまう。

 

 

「あのぉ…でも疑問があるんですけど……」

 

 

話を聞いていた甘露寺蜜璃が首をかしげた。

 

 

「それってこのことをお館様が把握していないはずないってことよね?蜜璃ちゃん」

 

 

カナエはしのぶの横から確認して蜜璃はそれに頷く。

 

 

「ん〜私はとりあえずお館様がいらっしゃるまで待った方がいいと思います、ねぇしのぶ?」

 

「え?え、えぇ…」

 

(カナエさん…もしかして……)

 

 

柱たちで禰豆子の処分を決めてしまわないように結論を先延ばしにしてくれたのではないかと重富はカナエを見るとカナエは誰にも気づかれないようにウィンクした。

 

 

(この人が天使か……?)

 

 

重富に気を使って機転を利かせてくれたカナエに感動して善逸みたいなことを考える重富。

 

 

「妹は俺たちと一緒に戦えます!鬼殺隊として人を守るために戦えるんです!だから!」

 

 

人を喰うためではなく、人を守るため戦う、自分たちと同じく鬼殺隊として戦うことができると炭治郎は懸命に叫ぶ。

 

 

「オイオイ何だか面白いことになってるなァ…」

 

 

しかし、その言葉はある男によって掻き消される。

 

 

「困ります不死川(しなずがわ)様!どうか箱から手を離してくださいませ!」

 

(あぁヤバい…この状況で一番いちゃいけない奴が来た……)

 

 

重富は内心で舌打ちする。この男の登場は重富や炭治郎にとって最悪なことになる。

 

 

「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつらかいィ?」

 

 

男の名は不死川実弥(しなずがわさねみ)、風柱。

 

 

「なんだァ?なんか見たことある顔があるじゃねーか…一体全体どういうつもりだァ?重富ォ〜」

 

 

男は笑う、狂気的な瞳で




説明コーナー

炭治郎(以下炭)「今回は重富の伍ノ型瞑怒雨(めいどう)について紹介してくれるんだよな?」

重富(以下重)「そ、俺の雨の呼吸、伍ノ型瞑怒雨。自分の力の全てを踏み込みに注いで超加速と反射によって相手を斬る。しかし反動で足に負担がかかるってこんなところかな?」

炭「負担ってどれくらいかかるんだ?」

重「最悪足の骨が折れる」

炭「え、えぇっ!?」

重「実際、修行時代修得しようとして何回か折ったし」

炭「だ、大丈夫だったのか?!」

重「え?あ、あぁうん。とある女性に数刻説教を受けたくらいだよ。ハハ…ハ……」

炭「とある女性って…誰だ?」

重「それは恐らく察しがついている人は多いと思うけど……あの人だよあの人」

炭「それに、修行時代って俺は重富と別れた2年の話聞いたことないぞ?」

重「ち、近々作者が番外編を書くと言っていたのでお楽しみに!」


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第17話 鬼殺隊柱合裁判 後編

どうも皆さん最近パクられた傘を新しく買ったら4時間後にはまたパクられた人間、Zakkiです。

最近、しのぶさんとカナヲちゃんの声優を誰がやるか気になってしょうがないです……


 那田蜘蛛山にて鬼の禰豆子を連れていた炭治郎とその二人の逃亡を手助けしたとして重富と義勇は鬼殺隊の本部へと連行された。

 これから行われるのは炭治郎と重富、そして禰豆子の命をかけた裁判である。

 

 

「久しぶりに会ったら縄で縛られて規律違反たァどういう了見だ? 重富ォ」

 

 

 隊服の隙間から見える体におびただしい傷痕を残す風柱・不死川実弥は狂気を感じさせる笑みを重富へ向ける。

 

 

「あんたに言って理解してもらえるとは思えないですね……不死川さん」

 

「アハハハハッ! 当たり前だァ鬼殺隊のくせして鬼を連れてる間抜けを庇う馬鹿の言うことなんて理解できるはずねェだろうがァ!!」

 

 

 大声で滑稽と言わんばかりに笑う。重富は不死川の登場で今まで以上に禰豆子の生存が厳しいことを確信する。

 この男、不死川実弥(しなずがわさねみ)は鬼殺隊の中でも人一倍鬼への憎悪が大きい。まず間違いなく禰豆子のことは認めない上、即刻頸を斬ることすらありえる。

 

 

(この状況でこの人……他の柱ならまだしもこの人とは本当に話にならない。早く……早く何か策を……)

 

 

 なんでもいいとにかくお館様が来るまで時間稼ぎをと重富は必死に頭を回転させる。

 

 

「不死川さん、勝手なことをしないでください」

 

(しのぶちゃん怒ってるみたい……珍しわねカッコイイわ)

 

 

 苛立ちを感じさせる声音で不死川に忠告するしのぶ。そのしのぶを見て場違いにもときめく甘露寺。

 しかし不死川は忠告を聞かず今度は炭治郎に向かって話しかけた。

 

 

「鬼がなんだって坊主ゥ? 鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ? そんなことはなァ……」

 

 

 不死川はそう言葉を区切り己の日輪刀に手をかける。

 

 

(あの野郎……ッ!!)

 

 

 不死川が何をしようとしているのか重富は気づいた。ほぼ条件反射のように重富の体は動いた。

 

 

「ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!」

 

 

 不死川は日輪刀を引き抜いて禰豆子の入った木箱目掛けて突き刺した。

 

 ……が、その刃は木箱には刺さらなかった。

 

 

「が、ぁ……」

 

 

 両手を縛られて隠に押さえつけられていたハズの重富は不死川の日輪刀に左肩を貫かれていた。刀から重富の血が滴る。

 

 

「「「「…………っ!?」」」」

 

 

 その重富の行動にその場にいる全員が驚いた。不死川の行動にもそうだが拘束され押さえつけられていたハズの重富が不死川が刀を引き抜き刺すまでの一瞬で禰豆子を庇うことができるほど速く動いたことだ。

 

 

「重富に何するんだっ!! この野郎っ!!」

 

 

 炭治郎は隠の手から逃れ不死川に向かっていく。

 

 

「あぁぁ!? てめぇは引っ込んでろ!」

 

 

 刺す的を狂わされた不死川は苛立ちを覚えて炭治郎に斬り掛かる。

 

 

「やめろ! もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!」

 

「……!!」

 

 

 義勇の発言で一瞬不死川の動きが止まる。不死川の刀は宙を斬り、炭治郎は不死川の顔面へ頭突きをかます。

 石頭の炭治郎の頭突きをくらった不死川は鼻から血を出して倒れ込んだ。

 

 

「「ブフっ!」」

 

 

 いい歳の男が鼻血を出したのがツボに入ったのか思わず吹き出す甘露寺と重富。

 

 

(冨岡が横から口を挟んだとはいえ不死川に一撃入れた……)

 

 

 木の上から見ていた伊黒は炭治郎を見つめる。

 頭突きはしたが受身を取れなかった炭治郎は転がりながらも重富に駆け寄る。

 

 

「重富! 大丈夫か!?」

 

「あ〜うん余裕余裕。大丈夫だから」

 

 

 正直、ものすっっっごく痛いが心配してくれる炭治郎の手間、素直に痛いと言えない重富だった。

 

 

「てめェェ……ぶっ殺してやる!!」

 

 

 不死川が鼻血を流し筋を浮かせて殺しにかかろうとした時、屋敷内から声がする。

 

 

「お館様のお成りです!」

 

 

 屋敷の奥の戸が開かる。すると奥から一人の男性が現れた。

 

 

「よく来たね、私の可愛い剣士(こども)たち」

 

「……っ!?」

 

 

 黒い髪を首元まで伸ばし額には不気味な傷のようなものが広がっていた。

 

 

「お早う皆、今日はとてもいい天気だね。空は晴れているのかな? 顔ぶれが変わらずに半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

 

 

 この男こそ、鬼殺隊の組織を率いる頭首───

 産屋敷耀哉(うぶやしきかがや)である。

 

 

(この人が……お館様?)

 

 

 炭治郎は産屋敷を眺めていると背後から不死川が頭を押さえつけた。

 

 

(速い!全く反応できなかった!!……っ!!)

 

 

 臭覚が優れている炭治郎が反応できなかったことに衝撃を受けていると柱たちは横一列に並び(ひざまず)いていた。

 

 

「お館様におかれましてもご壮健なようで何よりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます」

 

「ありがとう実弥」

 

(私が言いたかった、お館様にご挨拶……)

 

「畏れながら柱合会議の前にこの狛江重富と竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか?」

 

 

 不死川は頭を下げたまま丁寧な口調で産屋敷に訊ねる。今までの言動からからはひとかけらも感じさせない気品を見せる不死川に驚く炭治郎。

 

 

(なぁ重富、この人知性も理性もなさそうなのに凄いきちんと喋り始めたぞ)

 

(この人は前からこんなんなんだ。お館様の前だけ気品を見せる……みたいな)

 

 

 お互いにのみ聞こえるようにヒソヒソと話す。実際舌を巻くほどの豹変っぷりだった。

 

 

「そうだね、驚かせてしまってすまなかった。炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そしてみんなにも認めてほしいと思っている」

 

「「「「「…………!!」」」」」

 

 

 お館様の発言に柱全員が驚く。それは当然の反応だと言える。鬼殺隊を組織する頭首の男が鬼の存在を認めて欲しいと言ってきたのだから。

 

 

「嗚呼、たとえお館様の願いであっても私は承知しかねる……」

 

「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊員など認められない」

 

 

 悲鳴嶼と宇髄が否定の意を唱える。

 

 

「私は全てお館様の望むままに従います」

 

「私もいいと思います」

 

「僕はどちらでも……どうせすぐ忘れるので」

 

「…………」

 

 

 否定する声をあれば甘露寺やカナエのように賛同する者や無一郎のようにどっちつかずの者もいる。しかし、各柱が意見を口にする中でしのぶは何も答えなかった。

 

 

「信用しない信用しない。そもそも俺は鬼が大嫌いだ」

 

「心より尊敬するお館様であるが理解できないお考えだ!!」

 

「鬼を滅殺してこそ鬼殺隊。竈門、狛江、冨岡、この三名の処罰をお願いします」

 

 

 伊黒、煉獄、不死川も反対する意見を唱える。十人の柱の中で半分が反対派である。

 

 

「では、手紙を……」

 

 

 柱それぞれの意見を聞き、産屋敷は自分の隣に座る白髪の少女にそう言った。

 

 

「はい」

 

 

 少女は返事を返すと用意されていた手紙を取り出した。

 

 

「こちらの手紙は元柱である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます」

 

 

 少女はそう言って手紙を読み上げ始める。

 

 

「“───炭治郎が鬼の妹と共にあることをどうかお許しください。禰豆子は強靭な精神力で人としての理性を保っています。飢餓状態であっても人を食わずそのまま二年以上の歳月が経過致しました。にわかには信じ難い状況ですが紛れもない事実です。もしも禰豆子が人を襲った場合は竈門炭治郎及び──……鱗滝左近次、冨岡義勇……そして狛江重富が腹を切ってお詫び致します”」

 

 

 読み上げられた内容は禰豆子が人を喰っていない証明、そして禰豆子のため、炭治郎のために三名もの人間が命をかけるというものだった。

 自分たち兄妹のために命をかけてくれることに炭治郎は涙が溢れる。

 

 だが、それでこの状況がどうにかなる訳ではない。

 

 

「切腹するから何だというのか……死にたいなら勝手に死に腐れよ、なんの保証にもなりましません!」

 

「不死川の言う通りです! 人を喰い殺せば取り返しがつかない! 殺された人は戻らない!」

 

 

 鱗滝の手紙で禰豆子がこれまで人を喰ってない証明にはなったが、これから喰わない証明にはならない。

 

 

「確かにそうだね、人を襲わないという保証ができない。証明ができない。ただ……人を襲うという証明もまた、証明ができない。禰豆子が二年以上もの間、人を喰わずにいるという事実があり……禰豆子のために四人の者の命が懸けられている。それを否定するには否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない」

 

「…………っ!」

 

「……むぅ!」

 

 

 不死川と煉獄は産屋敷の言い分に思わず押し黙ってしまう。

 

 

「それに重富と炭治郎は鬼舞辻と遭遇している」

 

「そんなまさか!? 柱ですら誰も接触したことが無いというのに!! こいつらが!?」

 

「あぁ重富の鴉から人相書きと彼が潜んでいた家族の報告書が送られてきている」

 

 

 産屋敷が報告書のことを言うと今度は左に座る少女が人相書きと報告書を柱たちに見えるように開いた。

 

 

「し、重富人相書きなんていつ書いたんだ?」

 

「ん? 浅草を出る前に書いた。鬼舞辻が紛れ込んでた家族は鴉に調べさせて報告書を書いた。まぁもう意味ないだろうけど」

 

「そ、そうか……」

 

 

 もうとっくに顔なんて変えているだろう。よって人相書きはもう無意味だ。

 

 

「そんなことより能力についてはわかったのか!?」

 

「戦ったの?」

 

「鬼舞辻はなにをしていた!? 根城は突き止めたのか!?」

 

 

 柱たちは血相を変えて重富に問いただす。重富はあたふたして目がまわる。

 

 

「ちょ、いっぺんに言われたって答えられないって!」

 

「いいから答えろ!」

 

「黙れ俺が先に聞いてるんだ! おい! そっちのお前も答えろ!」

 

 

 柱ですら出会えなかった鬼舞辻無惨に最近入隊したばかりの新人が遭遇したとあって場が騒がしくなる。それを見ていた産屋敷はゆっくり片手を口元へ持っていき──

 

 

「まず鬼舞辻の能力を……」

 

 

 人差し指を立てるとぴたっと場が静まり返った。

 

 

「鬼舞辻はね、二人に向けて追っ手を放っているんだよ。私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を掴んで離したくない」

 

 

 それは単なる口封じかもしれない。が、鬼舞辻無惨と出会い今も尚こうして生きている。それは鬼舞辻無惨を倒す何かのきっかけになるかも知れない。

 

 

「恐らくは禰豆子にも鬼舞辻にとって予想外の何かが起きてると思うんだ。わかってくれたかな?」

 

 

 産屋敷の考えを聞きその判断にも一理あることを感じたのか柱たちは反論できなくなってしまう。一人を除いて……

 

 

「わかりませんお館様! 人間なら生かしておいてもいいが鬼はダメです! 承知できない!」

 

 

 下唇を血が出るほど噛み締め不死川は突然自分の日輪刀で腕を切った。

 

 

「証明しますよ俺が! 鬼という物の醜さを!!」

 

「実弥……」

 

「オイ鬼! 飯の時間だぞ喰らいつけ!!」

 

 

 不死川はそう言って傷口から出た血を禰豆子の木箱に垂らす。

 

 

「不死川、日なたでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出て来ない」

 

「……お館様、失礼仕る」

 

 

 伊黒の言葉で不死川は木箱を掴み日の当たらない屋内へと一瞬で移動する。

 

 

「禰豆子ォ! やめろ──っ!!」

 

「そろそろいい加減にッ!!」

 

 

 炭治郎と重富が不死川へ飛びかかろうと足を踏みしめた時、彼らの隣にいた伊黒と悲鳴嶼に押さえつけられた。

 不死川は刀で木箱の金具を破壊し強引にこじ開けた。

 

 

「出て来い鬼ィィ! お前の大好きな人間の血だァ!!」

 

 

 箱をこじ開けられた禰豆子はゆっくりと立ち上がり元の大きさに戻る。金具を破壊した時に刃が刺さったのかところどころ出血している。

 訳も分からず攻撃され目の前に血まみれの腕を突き出され固まってしまう。

 

 

「伊黒さん、悲鳴嶼さん強く抑えすぎじゃないかしら? 少し弛めてあげてください」

 

 

 炭治郎は伊黒に肘で押さえつけられ、重富に悲鳴嶼に頭を掴まれて身動きを止められていた。そんな二人を見かねてカナエが両名に弛めるよう言う。

 

 

「動こうとするから押さえているだけだが?」

 

「然り。嗚呼、可哀想なほど非力だな重富……」

 

 

 依然として重富たちを押さえる力を弱めない。

 

 

「……竈門君、肺を圧迫されている状態で呼吸を使うと血管が破裂しますよ」

 

 

 カナエに次いでしのぶが炭治郎に忠告する。

 

 

「血管が破裂!! いいな響き派手で!! よし行け破裂しろ!」

 

 

 血管が破裂するという響きに反応して興奮する宇髄を余所に体に力を込める炭治郎。そんな炭治郎に共鳴するように重富も押さえつけられる力を押し返さんとする。

 

 

「ガァァァ!!」

 

「ウォォォ!!」

 

 

 ブチブチと体内の血管が千切れる音がしながらも炭治郎は構わず続け、重富も徐々に悲鳴嶼の手を押し返しつつある。

 そして炭治郎は伊黒の手を払い拘束された縄を引きちぎった。重富も剛腕の悲鳴嶼の押さえつけを押し返し抜け出した。

 拘束から逃れた炭治郎と重富は縁側に肘をついて叫んだ。

 

 

「「禰豆子!!」」

 

「っ!!」

 

 

 二人の声を聞き禰豆子は我に返る。

 

 

『人は守り、助けるもの、傷つけない。……絶対に傷つけない』

 

 

 その言葉と共に頭をよぎるのは大切な家族との、大好きな人たちの笑顔。

 禰豆子は着物を掴み、プイッと不死川の腕から顔を逸らした。

 

 

「どうしたのかな?」

 

「鬼の女の子はそっぽを向きました。不死川様に刺されていましたが目の前に血まみれの腕を突き出されても我慢して噛まなかったです」

 

 

 目をつむり産屋敷が尋ねると右隣の少女が答えた。

 

 

「ではこれで禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね」

 

「っ!!」

 

 

 産屋敷の発言に不死川は衝撃を走らせた。己のとった行動が逆に鬼の認める証明になるとは思わなかったのだろう。

 

 

「炭治郎、重富。それでもまだ禰豆子のことを快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない……これから、炭治郎と重富、そして禰豆子が鬼殺隊として戦えること。役に立てること」

 

(なんだろう、この感じ……ふわふわする)

 

 

 炭治郎は産屋敷の自分へ向けられた声を聞いて今まで感じたことのない感覚を覚える。

 

 

「まずは十二鬼月を倒しておいで、そうしたら皆に認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる」

 

「俺は……俺たちは鬼舞辻無惨を倒します! 俺と禰豆子、そして重富が必ず! 悲しみの連鎖を断ち切る刃を振るう!」

 

「今の炭治郎には無理だからまず十二鬼月を一人倒そうね」

 

 

 炭治郎の意気込みを産屋敷はばっさりと切り捨てた。

 

 

(ダメだ……今笑ったら炭治郎に恨まれる……)

 

 

 結構カッコよく言った上で切り捨てられた為、思わず笑いが込み上げてくる。重富だけではなく煉獄以外の柱たちも笑うのを必死に堪えていた。

 

 

「それと重富ももっと強くならないとダメだよ……」

 

「えぇ〜っとぜ、善処します……」

 

「うん、じゃあ炭治郎たちの話はこれで終わり、下がっていいよ。そろそろ柱合会議を始めようか」

 

 

 こうして禰豆子の命をかけた裁判は閉幕した。

 

 

「でしたらこの子たちは私たちの屋敷でお預かり致しましょう。ねぇしのぶ?」

 

「はい、二人の怪我の治療もしないといけませんし」

 

「じゃあ隠の方々二人を連れて行ってください!」

 

 

 カナエが手を叩くをすぐさま隠が数人現れ重富と炭治郎を担ぎ上げた。

 

 

「では柱合会議を……」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 

 産屋敷の声を遮り炭治郎が声をだいにして叫んだ。

 

 

「その傷だらけの人に頭突きさせてもらいたいです! 絶対に! 禰豆子と重富を刺した分だけでも! 頭突きなら隊律違反にはならないはず……いてっ!」

 

 

 屋敷の柱にしがみつき騒ぎ立てる炭治郎の頭を重富が手のひらで叩いた。

 

 

「うるさい、俺の事はまだしも禰豆子ちゃんのことはまた後でいいだろ。俺は左肩を貫かれてるんだぞ? 早く休みたいんだとっとと行くぞ」

 

 

 重富は炭治郎を柱からひっぺがして襟を掴んで引きずってその場を立ち去る。

 

 

「んじゃ失礼しま〜す」

 

 




後書きコーナー
鬼滅の刃の公式ファンブックを買ったので重富君のプロフィールを更新したいと思います。

狛江重富
階級:癸(みずのと)那田蜘蛛山編の時点
誕生日:1月1日(記憶がない為この日を誕生日にした)
年齢:16歳
身長・体重:170センチ67キロ
出身地:記憶喪失な為不明
趣味:月の出た空を眺める、散歩
好きなもの:竈門家で作った食事、うどん


皆さんお忘れでしょうが重富君は炭治郎君と故郷の山で出会う以前の記憶がありません。


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機能回復訓練編
第18話 蝶屋敷


どうも、鬼滅の刃のBluRay1巻のイベント参加に応募して落選したため執筆のモチベがガン萎えな作者です。

あとついにしのぶさんが初登場ですね!萎えたテンションも爆上げです!


あと炭治郎お誕生日おめでとう!!


 柱合会議の裁判を終え、珍しくタダをこねる炭治郎の首根っこを掴み産屋敷邸を出てからまた隠に担がれて運ばれる。

 隠の人にせっせと運ばれるなか、柱が怖すぎて炭治郎が騒ぎ始めた時は死ぬかと思ったらしく引き剥がした重富は涙目でお礼を言われた。

 

 重富の育手のつてで柱に稽古して貰ったことがある重富は柱の怖さは身にしみて知っていた為、場は一気に柱チョーこえー談話で盛り上がる。

 

 

「そんでお前ら担ぐ為に前通った時もすっげぇ怖くってさ!」

 

「わかる! わかるよォ! 俺も初対面の時おっかなくってさ! 特に悲鳴嶼さんと不死川さん! あの人たちと自分が同じ人間とは思えなかったね!」

 

「そうそう! もう目つきからして怖いよね!」

 

 

 柱のことをよく知らない炭治郎を余所に柱の怖さを語る会話は弾んでいるうちに目的地の胡蝶カナエと胡蝶しのぶの屋敷に到着する。

 

 

「ごめんくださいませー……やっぱり全然誰も出て来ねぇわ」

 

 

 屋敷の玄関を開け、人を呼ぶもいつまで経っても返事がこない。

 

 

「勝手に上がるのもなぁ……」

 

「後藤さん庭の方に回ってみましょうよ。あ、俺降りますね」

 

 

 自分を運んだ隠の後藤にそう言って重富は背から降りる。一同は一旦玄関から出て庭へ回る。庭へ入ると庭の中心に少女の人影があった。

 

 

「あっいる、人いるよ」

 

「あれはえ──っと、継子の方だ。お名前は───」

 

(あ、あの子山で会った子だ)

 

 

 

 重富が那田蜘蛛山で会った少女のまわりには蝶が舞い、指に止まった蝶を見つめて微笑んでいた。

 

 

「───栗花落(つゆり)カナヲ様だ」

 

「栗花落カナヲ? あり? どっかで聞いたことがある気が……いや、そもそも選別より前に会った気がするような……う〜ん、気のせいか?」

 

 

 那田蜘蛛山で会った時は切羽詰まっていて気がつかなかったがよくよく思い出したら声や面影から選別より以前に会った気がし出す重富。

 

 

「重富、継子ってなんだ?」

 

 

 カナヲの顔を眺めて悶々と唸る重富に今だ隠の人に背負われた炭治郎が聞いてきた。

 

 

「え? あー継子ってのは柱が直々に剣術を教えている奴のことだ。相当才能がないと駄目らしくってな、今でも継子がいるのは花柱と蟲柱の二人だけらしい」

 

(あ、最終選別の時と子だ)

 

 

 炭治郎は重富の簡潔な説明を聞きながら少女が選別の時にいた合格者だと今気づく。

 

 

「胡蝶様方の申し付けにより参りました。お屋敷に上がってもよろしいですか?」

 

 

 後藤はカナヲへ一礼し丁寧な口調で要件を話した。しかしカナヲは何も答えずただ微笑んだ。

 

 

「よろし……い?」

 

 

 ニコニコと微笑み答えない。屋敷に入っていいのかイマイチわからない。

 

 

「よろしいですかね……? あの……え──」

 

 

 明確に許可が出たわけではないので屋敷に入るわけにもいかず後藤がアタフタし始めると、

 

 

どなたですか!! 

 

「うおうっ!?」

 

 

 完全に意識がカナヲへ向いていた重富は突如背後から出された大声に素っ頓狂な声を出してしまう。

 

 

「あ、アオイだ」

 

「……重富さん?」

 

 

 振り返るとそこには髪を二つに結った少女と目が合った。

 

 

「重富、この子とも知り合いなのか?」

 

「まぁな」

 

 

 無駄に鬼殺隊内の顔が広い友人に疑問に思った炭治郎は思わず聞いてみた。

 

 

「なんで重富はそんなにいろいろな人と知り合いなんだ?」

 

「選別で炭治郎と会う前に柱とは育手経由で稽古つけてもらったことも多かったんだけどその度に大怪我してな、毎回死にかけでここに担ぎ込まれてるうちによくしゃべるようになってな……それで……」

 

「重富……?」

 

 

 柱たちやこの少女との出会った経緯を話すにつれて重富の目の光が失われていく。

 

 

「毎回毎回……指導を受けるたび骨が折れて血反吐ぶちまけて……ホント、よく生きてるなぁ~俺」

 

「重富っ!? 大丈夫か!?」

 

 

 そう言う重富の表情からは一切の生気を感じられなかった。

 

 

「それは貴方が毎回毎回柱の方々を挑発してまで稽古をつけてもらおうとするからでしょう!」

 

「いやいやでもだよ? たかだかガキの挑発で半殺しにする? 俺はもうあの人たちが本当に年上なのかわかんないよ」

 

「私も貴方の様に毎回そんな目に合ってるのにも関わらず懲りずに次もまた挑発するような人が同い年なのかわかりません! またこんな大怪我して! また誰かを挑発したんですか!?」

 

「あれ? 俺を誰かれ構わず挑発する人間だと思ってない? いだだだ! ちょ、左肩貫かれてるんだから引っ張らないでくれ!」

 

 

 重富はアオイに左手を掴まれ屋敷内へ連れていかれる。後藤たちもその後に続き屋敷内へと上がりこむ。

 屋敷の廊下を進むと聞き覚えのある汚い高音が重富たちの耳に入る。

 

 

「五回!? 五回飲むの!? 一日に!? 三か月間飲み続けるの!? これ飲んだら飯食えないよ! これすげぇ苦いんだけと! 辛いんだけど! ていうか薬飲むだけで治るの!?」

 

「静かにしてください~」

 

 

 善逸の対処に困り果てるアオイよりも幼そうな少女の声を聞かず善逸は騒ぎ続ける。

 

 

「誰かもっと説明して! 一回でも飲み損なったらどうなるの!? ねぇ!?」

 

「静かになさってください!」

 

 

 必用に泣き喚く善逸にアオイが一喝する。

 

 

「説明は何度もしましたでしょう! いい加減にしないと縄で縛りますからね!」

 

 

 丁寧語でありながらも強く善逸に叱りつけるアオイ。きっと騒ぎ出すのは今回が初ではないのだろう。

 

 

(多分この屋敷に来てからしょっちゅう騒いでるんだろうなぁ)

 

 

 思わず耳をふさぎたくなるような善逸の泣き喚きが頻繁に起きると思うと同情せずにはいられない。

 

 

「今治療道具を持ってくるのでそこで大人しく待ってて下さい!」

 

 

 善逸だけではなく重富もそうアオイに一喝された。

 

 

「ハイハイ、わかったよ」

 

 

 やれやれと一息ついて近くにあった患者用のベットに腰掛ける。するとふと誰かが寝ていることに気づいた。

 

 

「あぁ、すんません。いるの気づかなくって」

 

 

 すぐさま立ち上がり寝ていた人に頭を下げて目を向けると意外な人物がいた。

 

 

「いいよ、きにしないで……」

 

「え? 伊之助?」

 

 

 そこには到底本人とは思えないほど静かで大人しくベットの中に収まっている嘴平伊之助がいた。

 

 

「い、伊之助!? 伊之助がいたのか!? 全然気がつかなかった!」

 

「末恐ろしいほど落ち着きがあったから存在を認識できなかった……」

 

 

 あの隙あらば他人に喧嘩を売り力比べをしたがる猪魂が溢れていたあの嘴平伊之助が全く覇気を感じさせない状態に驚きを隠せない炭治郎と重富。

 

 

「俺もここに来た時ビックリしちゃってさ〜なんでも自分が倒せなかった鬼を重富が倒して追いかけようとしたら突然半々羽織に知らないうちに縄で縛りあげられたって」

 

(半々羽織って冨岡さんのことか……でもあれ? 伊之助が落ち込んだ原因ってもしかして俺?)

 

 

 重富はまさか無意識とはいえあれほど自身に満ち溢れていた伊之助がこんな状態になった理由が自分にあるとわかると些か罪悪感が込み上げてくる。

 

 

(いや、でも俺伊之助が危なくなったのを助けただけだし悪くないよな! きっと悪いのは冨岡さんだ!)

 

 

 内心で抗議し罪の意識を消してせめてもの償いとして蝶屋敷にいる時は面倒を見てやろうと決意する。

 その後、間もなく治療道具を持ってきたアオイに手当され治療中は嫌味を言われ続け体より精神に来たと重富は語った。

 

 その日のうちに重富、炭治郎の治療が終わった。

 

 

 重富はあばら骨を複数骨折。左肩に刺傷。

 

 炭治郎、顔面及び腕・足に切創。擦過傷多数。全身筋肉痛重ねて肉離れ下顎打撲。

 

 善逸、最も重症。右腕右足蜘蛛化による縮み・痺れ。左腕の痙攣。

 

 伊之助、喉頭及び声帯の圧挫傷。

 

 禰豆子、寝不足!! 

 

 

 五人は蝶屋敷でそれぞれが回復するための休息に入った。

 

 

 

 

 胡蝶姉妹が柱合会議から帰ってくると首根っこを掴まれ別室へ連行された。

 連行された理由はもちろん、最終選別に行く前に行ったあと連絡をしなかったお説教だ。

 

 

「全く貴方は何故連絡をするという簡単なことさえできないんですか? その割に鬼舞辻無惨の事に関しては立派に仕事してそれができるのに何故選別で竈門君に会ったから行動を共にしますと一言言えなかったんですか? 選別の時にカナヲと会わなかったんですか? カナヲが報告しなければどうするつもりにだったんですか?」

 

 

 重富は正座してただただしのぶの言葉を受け止めすっかり縮みしゅんとしていた。

 

 

「しのぶ? そろそろ充分じゃないかしら? 重富ももうこれ以上小さくなったら消えちゃうわよ?」

 

 

 部屋にカナエ、しのぶ、重富しかいない場でカナエは重富を呼び捨てで呼ぶ。

 

 

「でも姉さん!」

 

「そうね、今回の件については全面的に重富君が悪いけど必用以上に叱ったら駄目よ?」

 

「う、うん」

 

 

 カナエに言われて言い過ぎたことを反省し俯いた。しのぶが必要以上に叱ってしまったのは決して重富が嫌いだからではなく心の底から心配しているからこそだ。

 

 カナエはしゃがみ込み正座して縮こまって下を向いている重富に目線を合わせる。

 

 

「ねぇ重富。しのぶがここまで怒ってる理由はわかってる?」

 

「わかって……ます」

 

「じゃあ何で連絡をしなかったの? できないほど大変だったわけではないんでしょ?」

 

「それは……」

 

 

 重富は口ごもった。ここから先は誰にも炭治郎にすら言ったことがない。心の内の話だから。

 

 

「連絡ができる暇は確かにありました……でも言えなかったんです」

 

「どういうこと?」

 

 

 カナエが首を傾げて聞き返す。確かに重富は選別へ向かい会場の藤襲山に着いても連絡のことは頭に入れていた。炭治郎と再開するまでは……

 

 

「二年ぶりに会えた時は本当に嬉しくて、でも禰豆子ちゃんが鬼なったって聞いて……そしたらもうどう伝えたらいいかわからなくなって……」

 

 

 鬼殺隊の隊員は鬼に憎しみを持つ者がほとんどだ。カナエやしのぶも両親を鬼に殺されて鬼狩りになった。

 だからこそ伝えることはできない。大切な人を殺された鬼への憎悪は重富も身をもってよく知っている。

 カナエやしのぶの両親を殺した鬼とは違うとはいえ同じ鬼を命をかけて守る……二人の事情を知った上でそれをするということは二人への侮辱に他ならない。

 

 

「カナエさんやしのぶさんだって鬼に怨みがある。でも禰豆子ちゃんは殺せない。だから……」

 

 

 二人の両親を殺された経験がある、辛い思いをしたことも知っている。しかし禰豆子は殺せない。伝えることもできない。

 両極端は思いは本人を答えの出ない酷い迷路に迷わせ……結果、答えは出ないままだ。

 

 

 

 

 顔をうつむかせ答えを出せなかった重富は自分に苛立ちを覚え拳を強く握りしめる。

 黙って聞いていたカナエはそっと重富の拳に手を添えた。

 

 

「カナエ……さん?」

 

 

 重富は顔を上げる。目の前にあったカナエの顔はいつもの優しい穏やかな笑顔ではなく厳しく真剣そのものの表情をしていた。

 

 

「しっかりしなさい狛江重富。貴方はなんの為に剣を握ったの? 友達を守る為でしょう?  なら、守ることだけを考えなさい。貴方はずっと自分の大切な人を守る為にここまできたんでしょう?」

 

 

 普段は彼女からは見られない柱としての花柱・胡蝶カナエの姿がそこにはあった。

 

 

 〜*〜

 

 

「重富、今日はもうやめましょう? ただでさえ今日も煉獄さんのところで稽古つけてもらったんでしょ?」

 

 

 ある日の夕焼けが空を紅く染める時刻。既に着物は自分の血が濁って黒く汚れその上、土で全身泥だらけで至る所アザだらけの重富に向かってカナエは言った。

 

 

「そうですけど、それでもまだ……もう一本お願いします!」

 

 

 重富は立ち上がり木刀をカナエへ向けた。重富がズタボロなのに対してカナエは無傷だ。

 

 

「お願いって貴方、毎日柱の人たちの方々に頭下げて稽古つけて貰って新しいアザを増やしてるんでしょう? 私までアザを増やしちゃったらしのぶに怒られちゃうわ……」

 

 

 重富の体は地獄のような柱の稽古に悲鳴をあげ、今ですら立って口を利けるのが不思議な程だ。

 

 

「俺がこうしてる間も俺の友達はどこかで生き抜く為に頑張ってるハズなんです! 俺が寝ている訳にはいかない! だから! だからもう一本お願いします!」

 

(お願いって……怒られるのは私なんだけど……)

 

 

 重富のその目は到底何を言っても曲げる気がないという意思が含まれていた。

 

 

「はぁ……あともう一本だけよ? これ以上はホントに私がしのぶに怒られるんだから……」

 

 

 根負けしたのはカナエの方だった。正直、今の状態でも結構怒られることは確定なのだが重富の目に免じてカナエは怒られることを覚悟した。

 

 

 〜*〜

 

 

 

 

「確かに鬼には許せないのもいるけど……重富が信じるなら私も禰豆子ちゃんを信じる。 私だけじゃない。しのぶやカナヲ、アオイにきよたちも……柱の皆さんだって貴方のこれから次第でみんな信じてくれる」

 

 

 重富は二年間で多くの人たちと知り合い、炭治郎や禰豆子を守る為だけに強くなった。

 

 

「私たちは重富がどんなに頑張って来たか知ってる。柱の人に稽古をつけてもらってボロボロになったってあの時は生きてるかもわからない友達の為に立ち上がったじゃない」

 

 

 今度はいつも通りの優しい笑顔を浮かべて重富を抱き寄せた。

 

 

「重富なら大丈夫。大変な時は私たちが力になるわ」

 

 

 抱き寄せてそっと頭を撫でられると重富の中から抑えられた感情がこみ上げてくる。

 

 

「う……くっ……」

 

 

 溢れだしそうな涙を必死でこらえているとカナエは可笑しそうに笑う。

 

 

「あら、泣かないの? こういう時くらい泣いちゃってもいいのよ?」

 

「泣き……ません。涙は最高に嬉しい時までとっとくんです」

 

「…………そう」

 

 

 その一言だけ言ってカナエは子をあやすように重富を抱き寄せつつ頭を撫でる。そんな光景を微笑みながらじっと見守るしのぶはふと、

 

 

(やっぱり姉さんには敵いませんね……)

 

 

 そんなことを思っていた。




後書きコーナー

重富「今回から回復機能訓練編に突入するぞ!」

作者「次回はカナエさんがご存命してる理由について書く予定ですのでお楽しみに!」

重富&作者「「それではまた次回!お楽しみに!!」」


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第19話 回復機能訓練、開始

遅くなってすいません。


「あーもうホンットに穴があったら入りたい……」

 

 

 月明かりが照らす蝶屋敷の屋根の上で重富は赤く熱を持った顔を手で覆う。

 

 

 

 〜*〜

 

 

「あの……そろそろ人の頭撫でるのやめてもらえませんか?」

 

 

 重富は目頭を赤く腫らして、胡蝶姉妹にそう言った。カナエに抱き寄せられつつ頭を撫でられて涙をこらえて重富が泣くのを堪えようとする際にその都度、耳元で「よく頑張った」とか「偉い偉い」とか(ささや)くのでその度涙が溢れそうになりまた耐える。

 なんて事を数回繰り返すうちに何故かしのぶが参戦して可笑しそうに重富の頭を撫で続ける。

 

 

「なんかとってもいじらしくなっちゃって……ねぇしのぶ?」

 

「えぇ、こういう所……変わってないんですね……」

 

「? それってどういう……」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 懸命に泣くのを我慢する重富を見て母性的な何かが刺激されたのか胡蝶姉妹はとにかく今の重富が可愛くって仕方ない。

 

 

「あーいいからもうやめろって言ってるでしょうが!」

 

 

 羞恥には耐え切れずいまだに撫で続ける手を払い除ける。

 

 

 

 〜*〜

 

 

 

 結局、その後も撫でられた恥ずかしさからろくに顔を見れず深夜となった。

 

 

「どっと疲れた……このことでしばらくイジられるだろうなぁ〜あーヤダヤダ」

 

 

 誰に対してでもない独り言はとある人物によって返された。

 

 

「大丈夫?」

 

「ほっといてくれよ真菰。俺はここでしばらくじっとしてるから」

 

 

 いつの間にか当然のように横に座った真菰にそう言った。

 

 

「でも、屋根の上に登ってから結構経ってるよ?」

 

 

 重富が屋根の上で自分の羞恥心で悶えている間に二時間が経過していた。

 

 

「こんな状態で戻っても寝れないんだからしょうがないだろ」

 

「今の重富見たら錆兎が怒るよ? 男がうじうじ考えるなって」

 

「あー言いそう、それすごく言いそう」

 

 

 錆兎は炭治郎にも男ならと心が折れかけていた時に語っていたと重富は聞いていた。しかしだからといって今戻っても寝れないのも事実だ。

 

 

「でも、少し意外だったかなぁ……」

 

「意外って何が?」

 

「重富はもっとどこでもしっかりしてる人かと思ったから」

 

「ん〜そんなつもりはなかったけど、炭治郎や禰豆子ちゃんの前では意識してたかもな」

 

「炭治郎たちの前だけ?」

 

「そ、あの兄妹の前では頼りになる友人でいたいからさ」

 

 

 重富にとってそれほど二人の存在は大きい。

 他人のために自分のことを省みずに行動することが出会った時から多かったため少しでも困った時に頼ってもらうように振舞っていた。

 

 

「でも、あの人たちの前では全然違ってたよ?」

 

「あの人たちは……まぁ、既にいろいろ炭治郎でも知らないようなこと知られたというか……何故か()()()()()()()()……」

 

 

 重富が初めてここに来て怪我をした時、初対面の彼女たちの反応は異質なものだった。あるで死者を目の当たりにした様に唖然としていた。それが子供が顔面を満遍なく腫らしていのがあまりにも酷かったからなのか、はたまた育手がいきなり訪問したことに驚いたのか重富にはわからないままだ。

 

 

(それに、俺が記憶喪失ってこと言うと妙に驚いてたし)

 

 

 いくら記憶喪失だからといってあそこまで驚くだろうかと思考を巡らせるがやはり答えはでない。そしてその事を聞いた二人の顔はどこか悲しそうな表情だったことを覚えている。

 

 

「もしかしたらあの事に関係してるのかもな〜」

 

「あの事って?」

 

 

 話を聞いていた真菰は重富に心当たりがあるのかと首をかしげる。

 

 

「カナエさん、随分前に鬼に殺されかけたんだよ」

 

「え?」

 

 

 鬼殺隊最強の剣士の柱のという立場のものが鬼に殺されかけたと聞いて真菰は自分の耳を疑った。

 

 

「数年前のある日、恐らく十二鬼月の中でも相当強い鬼にカナエさんは殺されかけた……」

 

「でも、あのお姉さん生きてるよ? 何とか倒したんでしょ?」

 

「いや、倒してないらしい……カナエさんを殺そうとした鬼に()()()()()()()()がいた」

 

「え、鬼が?」

 

 

 さらに告げられる言葉に開いた口が塞がらない真菰。鬼は基本群れないというのが鬼殺隊の常識である。しかし結果的にとはいえ瀕死のカナエを鬼が救ったのだ。

 

 

「その鬼は何でそんな事したの?」

 

「そんな事俺にわかるわけないじゃん、この話もアオイから聞いた話だし……」

 

 

 鬼がなぜ鬼を攻撃したのか、それはわからない。その鬼たちの間にいざこざがあったのか意図的に助けたのかそれは鬼のみぞ知ることだ。

 

 

「あと、強いて言うなら……」

 

「まだ何か心当たりがあるの?」

 

 

 ここまでずっと驚きっぱなしの真菰が半分呆れ気味で聞いた。

 

 

「カナエさんがとどめを刺されようとした瞬間に一般人の子供が飛び出したらしい」

 

「その子はその後どうなったの?」

 

「わからん、その事についてはアオイも知らないらしい……」

 

 

 アオイから聞いた話にしろわからない部分が多すぎる……と重富は改めて思った。なぜ子供がその場にいたのかその子供は生きているのかどうか、重富には知る術がない。

 

 

(アオイに他言無用の条件でこの話聞いたし……カナエさん達に聞いても答えないだろうしなぁ〜)

 

 

 謎が多い分、真相が気になってしまう重富。そのまま悶々と考え続けている間に夜明けとなり、様子を見に来たしのぶ見つかりに説教を受けることになることをこの時の重富はまだ知らない。

 

 

(それに、妙なのはカナエさんたちだけじゃないんだよな……)

 

 

 

 ~*~

 

 

 

 蝶屋敷にて休息を取り、しばらくがたった。その間、炭治郎は筋肉痛に苦しみ、禰豆子はひたすら寝て、善逸は騒ぎまくり、落ち込み続ける伊之助を両側から炭治郎と善逸が必死に励ます。そんな日々がしばらく続いた。

 

 ちなみに重富は夜な夜なベットから抜け出していたのがしのぶにバレて説教され、包帯を取替えに来たアオイをからかって騒ぎまたしのぶに怒られる日々だった。

 

 

「体の調子は皆さんどうですか?」

 

 

 しのぶは療養している炭治郎たちに笑顔を向けて訊ねる。

 

 

「もうかなりよくなりました! ありがとうございます!」

 

 

 感謝を述べる炭治郎は礼儀正しく一礼する。ニコニコと笑うしのぶに何かを感じたのか重富が口を出した。

 

 

「みんな、憶えておいてくれ。この人が笑顔で来た時はだいたい自分たちにとって嫌な事が起こる」

 

「今の重富じゃ説得力が違うな」

 

 

 しのぶを目で捉えてからずっとデレデレしていた善逸が重富に突っ込みをいれる。

 善逸が目を向けた先には重富がおびただしい程の縄でベットに括りつけられていた。動かせるのは手足の指と首から上だけ、もうただの患者と言うより囚人のような見た目である。

 

 

 

「怪我人のくせにベットから抜け出すお馬鹿さんはほっといてそろそろ機能回復訓練に入りましょうか!」

 

 

 屈託のない笑顔で何かを告げられた炭治郎は首をかしげる。

 善逸と重富を除いて炭治郎と伊之助がしのぶに連れられて退室した。

 数時間程して炭治郎と伊之助が帰ってきた。明らかにげっそりとした顔で……

 

 ふらふらとおぼつかない足取りで炭治郎たちは何も言わずベットに入った。

 

 

「何があったの? どうしたの? ねぇ!」

 

 

 そんな二人の姿を見れば当然小心者の善逸は焦り始める。いつもなら善逸を気遣い、平気だと笑う炭治郎も

 

 

「……ごめん」

 

 

 こと一言である。落ち込むことが滅多にない炭治郎の有り様を見て重富も若干冷や汗を垂らす。

 

 

「な、なぁ重富! 炭治郎たち何も教えてくれないんだけど! 明日から俺も訓練に参加するんだけど! 怖いんだけど!」

 

「だ、大丈夫だろ。少なくとも死にはしないさ……多分な」

 

「多分ってなんだよ! お前あのめちゃくちゃ可愛いしのぶたちと知り合いなんだろ!? 何やってんだか教えて貰ってくれよ!」

 

「ベットに括りつけられた状態で一体俺にどうしろと?」

 

 

 首から上と手足の指先以外動けない重富に善逸の不安を晴らすのは不可能だ。

 

 善逸の焦りは収まらず翌日を迎える。

 怯える善逸を引きずり重富たちが足を運んだのは蝶屋敷内にある訓練場だった。

 

 

(懐かしいなぁ〜よくここで鍛錬したんだよな……あ、やめよう修行時代を思い出すと体が震えそうだ)

 

 

 炭治郎や禰豆子の為とはいえ、毎回毎回稽古や指導を受けるたびにアザを作るか骨を折るかゲロ吐くかを繰り返せば本人にその気はなくても体は恐怖で震える。

 

 過去の痛みを思い出しかける重富をよそに隊服を着たアオイが正座する炭治郎たちの前に立つ。

 

 

「善逸さんや重富さんは今日が初回なのでご説明させていただきますね。まずあちら、寝たきりで硬くなった体をあの子たちがほぐします」

 

 

 訓練場の一部に畳が敷かれその上に布団が二枚用意されていた。その傍で

 待機しているのは蝶屋敷の看護婦三人娘の寺内きよ、中原すみ、高田なほ。

 

 

「それから反射訓練……」

 

 

 アオイが説明を続ける向こうでは長机が置かれ、その上には湯のみが用意されていた。その机の横にはカナヲが正座している。

 

 

「この湯のみの中には薬湯が入っています。お互いに薬湯を掛け合うのですが湯のみを持ち上げる前に相手から湯のみを押さえつけられた場合は湯のみを動かせません」

 

 

 テキパキと説明するアオイはさらに続ける。

 

 

「最後は全身訓練です。端的に言えば鬼ごっこですね。私とあちらのカナヲがお相手です」

 

(あ〜そういややった事あったっけなこんな訓練……)

 

 

 アオイの説明が終了すると同時に修行の合間にやった事あると重富は思い出すと昨晩の炭治郎と伊之助の様子をようやく理解した。

 

 

(二人ともこの訓練でコテンパンにされたわけか……)

 

 

 自分たちと歳も近い少女二人にぼろ負けすれば男なら誰であれ精神が消耗するだろう。重富もこの訓練をした時、カナエとしのぶにずぶ濡れにされまくったのを思い出してウンウンと頷き苦笑する。

 

 

「すいません、ちょっといいですか?」

 

 

 説明を聴き終わった善逸が口を開いた。

 

 

「何かわからないことでも?」

 

「いやちょっと……来い二人とも」

 

 

 立ち上がった善逸は炭治郎と伊之助についてくるよう声をかける。

 

 

「?」

 

「行かねーヨ」

 

「いいから来いって言ってんだろうがァァァ!!」

 

「「「「…………っ!?」」」」

 

 

 突然の事に疑問を浮かべる炭治郎と今だ意気消沈している伊之助に善逸は怒声を上げる。いきなりの事にその場の全員が驚く。

 善逸は炭治郎と伊之助を裏まで強引に引きずり出した。

 

 

「正座しろ! そこに正座!! この馬鹿野郎共!!」

 

「なんダトテメェ……」

 

「フン!」

 

 

 強引に引きずられ流石に激怒した伊之助を善逸が思いっきりぶん殴った。

 

 

「なんてことするんだ善逸! 伊之助に謝れ!」

 

「お前らが謝れ! お前らが詫びれ! 天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇぇ!!! 女の子とキャッキャッしてただけのくせに何をやつれた顔して見せたんだよ! 女の子に体揉んでもらえて湯のみで遊んでる時は手を! 鬼ごっこの時は体触れるだろうがァァ!! 幸せだろうがァ!!!」

 

「わけわかんねぇこと言ってんじゃネーヨ! 自分より体小さい奴に負けると心折れるんダヨ!」

 

「ヤダ可哀想! 伊之助女の子と仲良くしたことないんだろ! 山育ちだもんね! あー可哀想!」

 

「はぁあ"──ん!? 俺なんて子供の雌踏んずけたことあるもんね!」

 

「最低だよそれは!」

 

 

 いいのか悪いのかははかり兼ねるが善逸の参加により士気が入り、非常に気合いが入った。炭治郎を除いて……

 

 

(そんな邪な気持ちで訓練するのは良くないと思うな……)

 

 

 一方その頃、訓練場では善逸のあまりの大声に一部どころか最初から最後まで丸聞こえだったので善逸の下心は重富と女性陣にしっかりと把握できてしまった。

 

 

(善逸お前……終わったな……)

 

 

 蝶屋敷での善逸の評価は決まった。ここから上がることは恐らくないだろう。

 

 




後書きコーナー

重富「19話お読みいただきありがとうございます!」

作者「この度は更新遅れてしまってすいませんでした」

重富「思ったんだけど次回はちゃんと修行するのか?」

作者「するかもしれませんし、しないかもしれません」

重富「おい」


作者「それではまた次回!お楽しみに!」





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第20話 違い

2週間以上投稿サボってすんませんした!
そしてまた投稿が遅れると思います!


因みにですが皆さんコミケには参加しましたか?
私は全日制覇しました!チョーシンドかったですがいろいろいいものが買えてよかったと思ってます!


善逸はきよ、なほ、すみの三人に体を揉みほぐされる中、激痛が走っても幸せそうに笑っていた。

硬くなった体を半場力技でほぐされれば目じりに涙が溜まるほど痛いはずなのだが一切顔を歪ませない善逸に重富と伊之助は生唾を飲んだ。

 

 

(アイツ…やる奴だぜ。俺でも涙が出るくらい痛いってのに笑ってやがる)

 

(コイツはホントに女が絡むとやべぇな…)

 

 

さらに善逸は薬湯ぶっかけ反射訓練でアオイに勝ち、

 

 

「俺は女の子にお茶をぶっかけたりしないぜ」

 

 

とカッコつけてみせた。…が、善逸の下心を知っている少女たちの目は厳しいものだった。

全身訓練の鬼ごっこでも勝ち星をあげたが、どさくさに紛れてアオイに抱きつき逆にボコボコされた。

 

 

伊之助も善逸の影響と元々の負けず嫌いで反射訓練でアオイに勝ち、全身訓練でもアオイに勝利した。若干…いや結構荒いやり方で

 

 

しかし炭治郎だけは負けが続き薬湯でずぶ濡れになった。

 

 

 

ただ、善逸と伊之助が順調だったのはここまでだった。

両者共にカナヲには勝てなかった。誰も彼女の湯のみを押さえることは出来ないし捕まえることができない。

 

 

「んじゃ、次は俺な」

 

 

重富は長机の前に座りアオイと向かい合う。

 

 

「ってことでよろしくなアオイ」

 

「えぇ、よろしくお願いします」

 

 

そう言って重富はアオイに笑いかけアオイもそれに微笑んで返した。湯のみに意識を向け準備を整えるときよが横に立ち片手をあげる。

 

 

「それでは、初め!」

 

 

きよの声に合わせて重富とアオイが一斉に湯のみに手を伸ばす。相手が湯のみを手に取り持ち上げる前に上から押さえ、逆の手で別の湯のみに手を伸ばす。そしてまた相手が取った湯のみを押さえる。

その攻防が数秒間続き過ぎた後、重富が手に取った湯のみがアオイの手を抜けて机を離れる。

 

 

「っ!?」

 

 

自身の負けを確信したアオイは咄嗟に目を閉じる。重富はそのまま湯のみをアオイの顔目がけて薬湯をかける。

 

ことはなく、湯のみをアオイの頭にそっと置いた。薬湯をかけられると思っていたアオイは呆気に取られる。

 

 

「これで、俺の勝ちだよな?」

 

「えぇ、流石ですね」

 

 

アオイは普段見せない笑顔を重富へ向けて肯定した。湯のみの乗った机を脇に寄せて次は全身訓練に移る。

 

 

きよの掛け声で始まった全身訓練も数秒で重富はアオイを捉えた。

 

 

ここまでは重富も善逸や伊之助と同じく順調だった。

 

 

(ん〜勝てっかなぁ…)

 

 

正直、自信がない…と重富は内心でぼやく。炭治郎はともかく善逸や伊之助より強い自信があった重富だがカナヲが相手となるとわからない。

 

カナヲは重富よりも現役の柱との鍛錬を多くこなしており、明らかに同期の中でも一線を画している。

 

 

重富は背筋に緊張が走りながらも机を挟んでカナヲと向かい合う。

 

 

「では、始め!」

 

「「…………ッ!!」」

 

 

緊張した空気の中アオイの掛け声で開始された。

カナヲはアオイとは比にならないほど早く、動きに無駄がなかった。

一瞬でも気を緩めれば負けると重富は開始直後に確信した。

 

 

(速い!でも、追いつけないほどじゃない!)

 

 

重富は自身の集中を極限まで研ぎ澄ませ、かつ一秒でも相手より長く維持し続ける。全集中の負担が大きく肺にのしかかり痛みに苦しみつつも重富とカナヲの攻防は善逸と伊之助の時の攻防より大幅に長引いていた。

 

 

 

全集中の呼吸の維持が限界に達しようとした時、湯のみの底が机を離れた。相手が湯のみを持ち上げられる前に上から遮るこの訓練においてそれは相手の防御をすり抜けたという事だ。

 

 

そして机を離れた湯のみを持っているのは重富だ。

 

 

「おぉぉ!」

 

「えぇっ!?嘘だろ!?」

 

「ナヌゥゥゥッ!?」

 

 

炭治郎、善逸、伊之助がそれぞれ驚愕の声を上げる。

 

 

「よっしゃっ……」

 

 

パッリィィン!

 

 

誰もが重富の勝利を確信し、重富自身も歓喜をうたおうとした瞬間。何かが割れる音が響いた。

 

何事かと思うと次は重富の頭に液体がかかる。重富はゆっくりと湯のみを持っていた手のひらに目をやると……湯のみが跡形もなく割れていた。

 

 

「り、力み過ぎたーーー!」

 

 

重富、不覚をとる。湯のみをとることに意識を向けすぎて湯のみを握る力加減を間違えたのだ。

 

 

「な、何やってるんですか!」

 

「何やってって割ったんだよ!言っとけどわざとじゃないから!」

 

「ちょっとこっちに飛ばさないでください!臭います!」

 

「おいその言い方傷つくからやめろ!ちゃんと薬湯が臭いと言い治せ!」

 

 

その後、重富は結局勝てたとは言い難いということになった為、再挑戦となったのだが先程の一戦で回復した体力を使い切った重富は善逸、伊之助と同じく惨敗した。

 

 

 

 

〜*〜

 

 

 

紋逸(もんいつ)毬富(まりと)が来ても俺たちはずぶ濡れで一日を終えたな」

 

「改名しようかな。もう紋逸にさ」

 

「辛気臭くなるのやめない?辛さが増す」

 

 

完全に意気消沈している伊之助と善逸に重富が言った。

 

 

「同じ時に隊員になったハズなのにこの差はとういうことなんだろう?」

 

「あの子は継子だし小さい時から鍛錬してたらしいし違いを上げたらキリがないと思うぞ」

 

 

同期であるハズなのに全く歯が立たない。そんな状態が五日間続き善逸も伊之助もカナヲには勝てなかった。

重富は稀に健闘してみせるが勝てそうだが勝てないといった感じである。

 

 

 

更に負けに負け続けた伊之助は負け慣れていないので不貞腐れてへそを曲げた。善逸は善逸で早々に諦める態勢に入り、最終的には二人とも訓練場には来なくなった。

 

 

(まぁ気持ちはわかる)

 

 

女の子相手に負け続ければ不貞腐れたくもなるしへそも諦めたくもなる。重富は善逸と伊之助の気持ちを理解しながらウンウンと頷く。

 

 

「すみません、明日は連れて来ます…」

 

 

炭治郎は激昴するアオイにペコペコと頭を下げながら謝罪する。

 

 

「いいえ!あの二人にはもう構う必要はありません。貴方も来たくないなら来なくていいですからね」

 

 

辛辣な言葉をぶつけられた炭治郎はしょんぼりと肩を落とす。

 

 

「ま、まぁまぁとにかく俺たちも頑張ろうぜ!な?」

 

 

肩だけではなく気も落ち気味な炭治郎を重富は懸命に励まして訓練を開始する。……が何の成果もなく負け続けさらに十日経った。

 

 

「なぁ重富。俺たちはなんで勝てないんだろう?」

 

「炭治郎、それがわかってたら俺はカナヲに勝っている」

 

「そうだけど、一体あの子と何が違うのかな?」

 

「うーん…才能?」

 

「も、元も子もないこと言わないでくれ」

 

「しゃーないだろ。それしか思いつかなかったんだから」

 

「もっと別に何かあると思うんだ」

 

「もっと別にねぇ……」

 

 

二人はよく訓練でのことを思い出してみる。重富と炭治郎のカナヲとの違いはまず反射速度。傷が治り、万全な状態とて勝てるのは怪しい。

 

 

「あのう…炭治郎さん重富さん」

 

 

ふと、後ろから袖を掴まれる。後ろを振り返るときよ、なほ、すみが二人の袖を握っていた。

どうやら二人とも考えにふけり声をかけられていたのに気づかなかったらしい。

 

 

「ご、ごめん!どうした?」

 

 

炭治郎が慌てて聞くと三人はもじもじとしながらも手ぬぐいを差し出した。

 

 

「ありがとう!」

 

「悪いな、ありがとう」

 

「あの…お二人は全集中の呼吸を四六時中やっておられますか?」

 

「「ん?」」

 

 

手渡された手ぬぐいで濡れた髪を拭いているときよの言葉に重富と炭治郎は耳を疑った。

 

 

「朝も昼も夜も寝ている間もずっと全集中の呼吸をしていますか?」

 

「……やってないです。やったことないです…そんなことできるの!?」

 

「そもそも全集中を常時続けるって発想がなかったな……」

 

「見る限りですが重富さんは既にできかけてます」

 

「えぇ!マジで?!」

 

「はい」

 

 

それから二人はきよの説明を聞く、全集中の呼吸を常にできるかできないかで天と地程の差が出ると言う。さらにそれができる者はカナヲを含め一部の鬼殺隊隊員と柱の人間だと伝え、最後に「頑張ってください」と重富たちに告げた。

 

 

 

 

 

翌日、炭治郎と重富は実際にきよたちから教わったことを実践してみることにした。

 

 

「全っ然できなーーい!!」

 

「呼吸を意識して続けようとするとこんなに辛いんだな…」

 

 

炭治郎は全集中の呼吸を長くできるようになる所から、通常より長くできるようになっている重富はさらに持続時間に長くする訓練を蝶屋敷の庭にて行っていた。

 

 

しかし、思った以上にキツくものの数分で炭治郎は膝をついてしまった。

 

 

「わァァ!?」

 

 

体中から汗を吹き出し瀕死の炭治郎が突如大声を上げた。

 

 

「ど、どうした炭治郎!」

 

「び、びびビックリしたーー!今一瞬耳から心臓が飛び出したかと思った!」

 

「落ち着け炭治郎!お前の心臓は飛び出してない!あとちなみに俺は口から心臓が出てくる気がする!」

 

 

全集中の呼吸で脈が早くなっているせいか妙なことを口走っている二人は何とか息を整える。

 

 

「全然ダメだな。重富より続かないしきっと肺が貧弱なんだ。もっと走り込みや息止めの訓練を続けないと」

 

「でもせっかく二人いるんだし全身訓練や組手もやってみよう」

 

「あぁ!」

 

 

それから訓練を再開してしばらく経つときよ、なほ、すみの三人が差し入れを持ってきた。

 

 

「「ひょうたんを吹く?」」

 

 

三人が差し入れに持ってきたおにぎりを頬張りながら重富と炭治郎の声が重なる。

 

 

「そうです。カナヲさんに稽古をつける時にしのぶ様はよくひょうたんを吹かせていました」

 

「へぇー音が鳴ったりするのかい?」

 

 

そう炭治郎が質問すると驚きの答えが返ってきた。

 

 

「いえ吹いてひょうたんを破裂させてました」

 

「へぇー」

 

「破裂かー」

 

 

 

 

((破裂…?))

 

 

 

ひょうたんは通常、水やお酒などを中に入れて持ち運ぶことなどが主な使い道である。決して吹いて破裂させる用途はない。

 

 

「このひょうたんは特殊で通常のものより硬いです。そのうえでだんだんとひょうたんを大きくしていったみたいで、今カナヲさんが破裂させているのはこのひょうたんです」

 

 

そう言って三人が出してみせたのは本人たちのちょうど座高の高さほどの特大のひょうたん。重富と炭治郎は気が遠くなりそなのをグッとこらえる。

 

 

「て、手始めに小さいひょうたんを試してもいい?」

 

「「「どうぞ!」」」

 

 

重富は確認を取ってから普通の大きさの手に取る。重富は息を整え集中し、空気を自身の中に溜めて一気にひょうたんの中へと吹き込む。

 

 

パキ…パァァァンッ!

 

 

するとひょうたんは内側から音を立てて割れた。

 

 

「「「「「おぉぉぉ!!!」」」」」

 

 

炭治郎や三人娘だけではなく割った本人の重富も拳を握って驚きと喜びが混じった声を上げる。

 

 

「初めてて割れるなんて凄いです!」

 

「すぐに割れるなんてビックリです!」

 

「重富さん流石です!」

 

 

きよ、なほ、すみがそれぞれ思い思いの言葉を掛ける。続いて重富は一回り大きいひょうたんに挑戦、破裂に成功する。

 

しかし、そこからはヒビは入るも破裂には至らず詰まってしまった。

 

 

重富と炭治郎の二人はその日からカナヲが割ったという特大のひょうたんを破裂させることを具体的な目標にして訓練に勤しんだ。

 

 




本来はコーナーをする所なんですが私の独り言にお付き合い下さい。

アニメの鬼滅の刃の19話見ました?

とんでもない神回でしたね!アニメ後半あたりからが特に!いやー涙と鳥肌がしばらくおさまりませんでした。

さすがと言わざるを得ません。映像のクオリティもさることながら挿入歌が良かった。まだ見てない方は直ぐに見ることをオススメします。既に見た方は私の独り言を聞いて共感して頂けたら幸いです。


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