ナルト先生の新人下忍育成記 (赤いUFO)
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ナルト先生のアカデミー卒業試験・前

「担当上忍~!?」

 

「そうだ。お前には今年卒業見込みのある下忍三人の担当上忍を任せたい。もちろん、卒業試験込みでな」

 

 火影室に呼び出されたナルトは里の長である六代目火影であるはたけカカシから下された命に首を傾げる。

 

「でもさ、カカシ先生! オレってば、ついこの間まで色んな任務に引っ張りダコだったんだぜ。サクラちゃんもサスケに付いて行って里に居ねぇし。そんな余裕あんの?」

 

 ナルトの質問にカカシは目を細めて笑う。

 

「今の忍界は五里が和睦を結んでいることでかつてない程に安定している。それにお前も将来火影になる気なら、後世の育成に携わることも大事だ。なによりナルト。お前はついこの間、お子さんが生まれたばかりだろ? 担当上忍なら、ある程度時間が出来るし、ヒナタを安心させてやんなさいよ!」

 

「あ、ありがとうだってばよ! カカシ先生」

 

 穏やかな口調で言うカカシにナルトは照れ笑いを浮かべて頬を掻く。

 妻であるヒナタが長男であるボルトを妊娠していた頃に、ナルトは多くの危険な任務に身を投じて碌に面倒が見れず、ヒナタの実家である日向家に頼りっきりになってしまっていた。

 出産にこそ立ち会えたものの、やはり子供の面倒も任せっきりになっていて、申し訳ない気持ちもある。

 なにより、長男がもう少し大きくなるまでは家族としての時間を大事にしたいという想いもあった。

 そこでカカシが念のため、冗談めかしてだが釘を刺してくる。

 

「一応言っとくけど、時間を取りたいばかりに試験を手抜きするなんて真似はするなよ?」

 

「へっ! わかってるってばよ、カカシ先生! 未来の木ノ葉を背負うガキを見定めるんだ。手抜きなんて出来ねぇし、してやらねぇよ!」

 

 そう言って手の平に拳を軽く打ち付けるナルト。

 そしてカカシは指示を出した。

 

「ならこれから、イルカ先生の所へ行って担当の卒業生に関する資料を貰ってくれ。頼んだぞ、ナルト」

 

「任せてくれってばよ!」

 

 親指を立てて火影室を後にするナルト。

 

「さて、と。アイツに先生が務まるか不安だけど、ま、なるようになるでしょ」

 

 火影という里のトップを目指す以上、下の者の育成に無関心という訳にはいかない。

 それに歴代の火影も善悪はともかくなんだかんだで優秀な忍びを育て上げている。

 カカシ自身がそれに該当するかは自信はないが、どの道、一度くらいは担当上忍(せんせい)を経験するのはナルト自身にとってもプラスになるだろうと信じている。

 ここから先はかつての部下を信じるだけだとして書類仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、お前が先生になる日が来るとはなぁ」

 

「どういう意味だってばよ、イルカ先生」

 

 感慨深げに言うイルカにナルトは少しだけ拗ねたような態度を取って見せる。

 しかしすぐに意識を担当する生徒に向けた。

 

「それで、オレが担当するのはどんな奴らなんだってばよ?」

 

「ほら、これが資料だ」

 

 渡された資料に目を通す。

 子供の頃はこうした書類や資料に目を通すことをめんどくさがっていたが、流石に木ノ葉の忍として任務をこなしていくうちに読むのは慣れていった。

 それでも、シカマルやサクラなど、同期の頭脳派には敵わないわけが。

 

「日向の家の子供も居んのか……」

 

 最初に目を通したのは日向家特有の白眼を持った気弱そうな少年。

 次に活発そうであり、生意気そうなトンガリ頭の少年。

 最後に大人しそうな金髪の少女だった。

 こうして資料を見ると、自分が下忍として、教室で待った時のことを思い出す。

 忍者としてスタート────正確にはまだスタートラインにすら立っていなかったのだが。それでもこれから忍者として活動していくことに興奮を抑えきれなかった。忍者の厳しさなど知らなかった子供の頃の自分。

 それを写真に写る子供たちに投影してしまうのはナルト自身、なんだかんだで精神的に成長したからだろう。

 

(とにかく、カカシ先生みたいに大遅刻だけはしないようにしねぇとな!)

 

 心の中でそう決意しながらナルトは細かな情報を頭に叩き込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忍者アカデミーでの卒業試験を合格した子供たちが集まる教室の中にナルトが入ると教室の中でどよめきが走る。

 

「え!? アレってうずまきナルトさん! なんでここに!?」

 

「もしかしてどこかの班はあの人が先生に付くってこと!?」

 

「えー。いいなぁ! ズルい~!」

 

 数年前の暁のペインとの戦いから第四次忍界大戦。そして月の落下事件など、里や忍界を救った英雄として人気と知名度は絶大なモノがある。

 それは数年程度では衰えてはいない。

 そんな感じに室内が騒がしくなると、イルカが一喝した。

 

「静かにしろ! お前たち! これからお前たちは担当上忍の指示の下で様々な任務をこなしてもらう! 上忍の先生の指示に従って任務遂行に励み、各々の技を磨くように! それでは各先生、お願いします」

 

 言われてグループになった卒業生生徒たちに上忍たちが近づいていく。

 当然ナルトも自分の担当する生徒へと近づいていく。

 

「オレがお前たち第七班の担当上忍の、うずまきナルトだってばよ」

 

 新品の額当てをした子供たちが驚いた表情をし、それを見た周りが「いいなー」とか「わたしもナルト先生が良かったー」などと言う。

 

「早速外へ出ろ、お前ら。これから厳しい任務の始まりだってばよ!」

 

 そう言ってナルトは卒業生3人を促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、同じ班でやっていくんだ自己紹介でも始めるか!」

 

 かつての自分と同じように適当な広場に腰を下ろさせて自己紹介を始める。

 

「オレの名前はうずまきナルト! 好きな物はラーメンとおしるこ! 趣味は花の水やりってところか。そんでもって将来の夢は火影になることだ。こんな感じで左から順にな!」

 

 言われて左に居た日向家の少年がは、はい! と緊張した様子で始める。

 

「ボ、ボクは日向コムギって言います! す、好きな物は卵料理で、趣味は家庭菜園、です……将来の夢は、特に……」

 

 オドオドとした様子で自信無さげに話す姿はかつてのヒナタを思い起こされる。

 次に明るい茶の髪を逆立たせた元気のある少年がおう! と勢い良く手を上げてから、頭の後ろに回す。

 

「オレは、火縄ヒヒ! 好きなもんは肉料理全般! 趣味は写真を撮ったり、見たりすること! 将来の夢は色んな所を旅して見て回ることだぜ!」

 

 旅と聞いて、ナルトはかつて自来也の連れられた修行の旅を思い出す。

 師の修行は厳しかったが各地を渡り歩くのは素直に楽しかったなと思い返す。

 最後に金髪の大人しそうなぼんやりとした感じの女の子が話を始めた。

 

「ながれメイ……趣味と好きな物は薬の調合。将来の夢は医療忍者になって薬の研究にをすること、です?」

 

「いや、なんで最後は疑問形なんだってばよ……」

 

 中々に癖のある性格の生徒が集まったな、と思いながらナルトは本題に入る。

 

「それじゃあお前ら。これからこのメンバーで任務に当たるがその前に明日やることがあるってばよ」

 

「あ? なんだよやることって、先生」

 

 不思議そうに訊くヒヒと不思議そうにしている2人の反応にかつての自分を重ねながらナルトはカカシと同じ答えを返した。

 

「サバイバル演習だ。こっからが、お前たちのホントの卒業試験を開始するってばよ」

 

 ナルトの言葉に3人は動揺が走ったが、ヒヒが笑い飛ばした。

 

「冗談きついぜ先生! だったら、学校での卒業試験はなんだったんだよ!」

 

「あれは下忍になる可能性のある生徒を選別する試験だってばよ。試験を受けるための試験ってとこか? ちなみに、この試験は脱落率66%の超難関試験。落ちたら、忍者学校に戻るか、忍者の道をスッパリ諦めるかだってばよ」

 

「つまり、下忍になるには先生に実力を認めてもらうことが条件?」

 

「そういうこった。細けぇことはこのプリントに書いてあるから。しっかりと頭に叩き込んどけってばよ!」

 

 

 3人は渡されたプリントを険しい表情で睨む。

 その姿にナルトは内心、懐かしさで苦笑した。

 

(カカシ先生も、オレたち第七班の説明ん時、こんな気持ちだったのかもしんねぇなぁ)

 

 自分たちも試験に合格するために意気込んでいた。

 こういうところは幾分か時間が経っても変わらない。

 

「じゃ、明日、指定された場所にちゃんと来いよ! 時間を守ってな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー! ちゃんと全員揃ってんな! えらいぞー」

 

「バカにすんな! 当たり前のことじゃねぇか!!」

 

「そうだよなー…………カカシ先生に聞かせてやりたいってばよ」

 

 なんせ、ナルトたち第七班の演習の時、担当上忍であるカカシは数時間遅刻した上に、謝罪する気あるのかと言いたくなる言い訳を聞かされたのだ。

 

(うん。今思い出してもちょっとムカッとするってばよ)

 

 これから忍者になれるかの瀬戸際なのにあの遅刻癖と態度。あの時はサスケは段々と機嫌が悪くなり、サクラは集合場所を間違えたのではないかと不安になり、ナルトもジタバタと文句を言っていた。

 

(まぁ、そのおかげで変な緊張はしなくてすんだんだけどさ……)

 

 そこまで考え、メイが感情の乏しいが透き通った声で質問した。

 

「それで、試験の内容は?」

 

「あぁ、コレだ」

 

「鈴、ですよね? 2つ」

 

「そうだ。この鈴を取れた奴は合格。つまり最低ひとりは学校に戻ってもらう。お前たち()()()()()で鈴を奪いにこいってばよ。忍具や忍術、何でもありだ。殺すつもりでこねぇと、ぜってぇ取れねぇぞ」

 

 色々と考えたが、やはり先生であったカカシと同じ方法がこの試験にはうってつけだと考え、同じ内容の試験にすることにした。

 ナルト自身、そういうのを考えるのが苦手だったのもあるが。

 やや挑発じみたナルトの言葉にヒヒがビシッと指差して豪快に宣言する。

 

「上忍だか里の英雄だか知らねぇが! 俺の実力ならそんな鈴、ソッコーで取り上げてやんゼ!!」

 

「それは口じゃなくて実力で証明してみろってな。それっじゃ今からきっかり2時間。よーい、スタート!」

 

 こうして、卒業生の下忍試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ナルト先生のアカデミー卒業試験・後

NARUTO難しいな。


「まさか、お前がこんなに早く部下を持つことになるなんてな」

 

「なーんでみんな似たようなことばっかり言うんだってばよ……」

 

試験の集合場所に向かう際に偶然出くわしたシカマルと同じ方角を歩きながら話す。

拗ねるナルトにシカマルはわるいわるいと手をひらひらさせた。

 

「シカマルには、担当上忍の話、来なかったのか?」

 

「来たは来たが、今回は辞退させてもらったよ。オレが最初の弟子にする子は決まってるんでな」

 

「そっか……」

 

シカマルの担当上忍であった猿飛アスマ。亡き彼が残した子供は自分が師として育てると決めていた。

だからナルトもそのことについて深く訊くことはしなかった。

 

「覚えてるかナルト。自来也様が亡くなった時に、お前に言ったこと」

 

「あぁ、覚えてるってばよ。オレたちもいつか先生って呼ばれる時が来るし、ラーメンを奢る側になるって話だろ?」

 

「そうだ。意外に早かったが、オレたちもただ自分の夢だけを追いかけて行くわけにはいかねぇ立場だ。めんどくせぇことにな。だけどアスマや自来也様が教えてくれたことを無駄にしない為にも、オレたちもしっかりと後ろの奴らに木ノ葉の忍の背中を見せてやらなきゃならねぇ。そうだろ?」

 

「……そうだな」

 

ナルトもシカマルももう、自分のことだけを考えていられる年齢ではない。

後ろに続く火の意志を継ぐ者たちを育てなければならない。

忍界大戦より続いた平和がずっと続いて行くように。

分かれ道になってシカマルがナルトの胸を小突く。

 

「とにかく頑張れよ。子供たちにくだらねぇエロ忍術なんて教えんじゃねぇぞ!」

 

「余計なお世話だってばよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さーて。上手く隠れられてるみてぇだな)

 

気配を消して隠れる子供たちにナルトは辺りを見渡して確認した。

ゆっくりと歩いていると自分の中の九喇嘛が話しかけてきた。

 

『ナルト。手伝ってやろうか?』

 

「バカ言ってんじゃねぇよ。下忍にもなってねぇガキ相手に、お前の力なんて借りられっか!」

 

今回の試験では九喇嘛の力はもちろん、仙人モードも使うつもりはない。

そんなことをしたら脱落率66%ではなく99%になってしまう。

ナルトの言葉に九喇嘛は鼻を鳴らした。

 

『ふん。なら精々ガキども相手に恥をかかないようにするんだな』

 

「へっ。オレだっていつまでもいたずら小僧じゃねぇんだ。あいつらがこの試験の合格条件に気付かねぇなら、鈴をくれてやるわけにはいかねぇってばよ」

 

九喇嘛との話を終えて、ナルトは自分が今回使える術を確認する。

先程も言ったように仙人モードや九喇嘛の力を借りるのは無し。

螺旋丸も威力が高いため使うにしてもかなり手加減して使わなければならない。

影分身は偵察用か様子見に程度に使う。

通常の変化はともかく、おいろけの術は使用不可。流石に妻子持ちになってあんな術を子供たちの前で披露するほどナルトも面の皮は厚くない。

 

(考えてみっと、オレってばあんまり格下相手に仕える術ってないんだよな。それにガキの頃のオレってば、ホントに無謀だったんだなぁ)

 

なんせ、上忍であるカカシに真っ向勝負を挑んだのだ。向こうが本気なら速攻で試験終了まで体を動けなくされていただろう。そういう意味でも手心を加えられていたんだなと今更ながらしみじみと思う

と考えていると、パンッと音が届き、地面に金属音が響く。

 

「コイン?」

 

バウンドしたのは玩具のコインだった。

それに気づき、警戒しているとバンバンという音と共にコインが何発もかなりの速度で飛んできて、自分の体を貫こうとするが、全て避けた。

 

「なんかの術だな。中々、いい術持ってるってばよ。でもな!」

 

飛来してくる方角から相手の位置を割り出したナルトは笑みを浮かべながら地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!?なんで一発も当たんねぇんだよ!?」

 

コインを飛ばしていた火縄ヒヒはこっちに近づいてくるナルトに対して愚痴を言う。

口鉄砲の術。

ヒヒがコインを飛ばしていた術の名前だ。

体内で作った火薬の爆発で口にはさんだコインを押し出す忍術。

長所は手で投げるより速度と射程が段違いに上がること。

短所は口に挟む関係上、連射に難があり、手裏剣と違って真っ直ぐにしか飛ばないこと。音が鳴ること。そして現状では命中精度に難あり、といったところだ。

今回は鈴の紐をピンポイントで狙っていたのだが、ナルト自身の体か、本体からやや逸れてしまっている。

 

「中々、おもしれぇ術じゃねぇか」

 

「!?いつの間に!」

 

木の枝に立っていた筈のヒヒよりさらに高い木の枝に立っているナルト。

 

「で、こっからどうすんだ?さっきの術の特性上、ここまで接近すると使い辛いはずだってばよ」

 

「ナメんな!こちとら、体術の成績だって悪かねぇ!!」

 

その場から跳躍し、跳び蹴りをするが、ナルトはそのまま木から降りて避ける、丁度真上から落ちてくるヒヒの拳を受け止める。

弾かれて少し間合いが離れた位置に着地したヒヒはそのままナルトに襲いかかった。

体術で応戦するヒヒの攻撃を受け止め続けて、同時に足払いをかけた。

 

「どわっ!?」

 

転ばなかったものの大きくバランスを崩したヒヒを攻撃せずにナルトは腰に手を当てる。

 

「ほらどうした!そんなんじゃあ、忍者になんて成れねぇぞ!」

 

「うっせぇ!そんな鈴、すぐに取って俺の力を認めさせてやるよ!!」

 

「ハハッ!威勢だけは良いってばよ」

 

笑っている上忍に再び立ち向かおうとするとナルトの後ろから日向コムギが向かってきた。

 

「ハァッ!」

 

日向家の体術である柔拳。白眼を発動させた眼でチャクラを纏わせた掌をナルトに向けて突き出す。

ドンと、確かに手応えを感じてコムギはやった!と喜んでいる。

しかし――――。

そこにはナルトではなく、ヒヒの胸に柔拳を喰らわせていた。

 

「えっ!?」

 

一瞬何が起こったのか分からず混乱しているとすぐに何をされたのか理解する。

 

(変わり身の術!?)

 

気付いた時には遅く、ヒヒは柔拳を胸に喰らって蹲る。

 

「ご、ゴメン、ヒヒくん!?」

 

「てっめ、コムギ……!後で覚えてろよ……!」

 

睨みつけるヒヒにオドオドしていると、木にもたれかかっていたナルトが苦笑していた。

 

「今の奇襲、結構いい線いってたけど。まだまだだな」

 

これがもし、初めから段取りを組んで行われた作戦なら、ちょっと危なかったな、と思いながら余裕の表情で肩を竦めた。

 

「で、どうする。今度は2人がかりか?」

 

「だれがッ!そんな鈴取るくれぇ、俺ひとりで充分だぜ!!」

 

「そういうことは、ちゃんと鈴取ってから言えってばよ」

 

「いますぐ、取ってやらぁ!?」

 

そう言ってまたも直進してくるヒヒにナルトは呆れて息を吐いた。

 

(ちょっとヒントやったんだけどな)

 

すると今度は別方向から10を超える苦無と手裏剣が飛んできた。

 

「おっと」

 

それを軽々と躱しながら隠れて飛んできた細長い飛来物を苦無で弾く。

飛んできた千本に液体によるテカリをみてナルトは感心した。

 

「手裏剣や苦無に隠れて毒付きの千本で攻撃か。考えてんな、メイ!」

 

空中から現れたメイがワイヤーを巻きつけた苦無を幾つも投擲する。

ワイヤー部分には多数の起爆札が張られていた。

ナルトを囲うように落ち、一本が腕に巻き付いたそれが一斉に爆発する。

 

「メイの奴やりすぎだろ!?」

 

「せ、先生大丈夫かな!」

 

爆煙で塞がった視界。

ナルトを挟んで反対側に着地したメイが淡々とした表情で呟く。

 

「動かなくなってから鈴を取ればいい……」

 

煙が晴れるとそこには爆発でボロボロになったナルトがいた。

が、パンッとナルトが煙になって消えてしまった。

 

「分身!?いや、影分身!?」

 

「正解だ!」

 

メイの後ろに回っていたその身体をヒヒとコムギの下まで蹴り飛ばした。

 

「で、3人揃ったわけだが、どうすんだ?」

 

相変わらず余裕の状態のナルトにヒヒが苦無を取り出す。

 

「決まってんだろ!すぐにその鈴を奪って――――」

 

そう言って懲りずに向かって来ようとするヒヒ。だが、そこでコムギが煙玉を取り出して投げつけてきた。

また煙が晴れると、そこに、3人の姿はなかった。

 

「作戦会議ってか。さ~てあいつらはこの試験の合否に気付けっかねぇ」

 

密かな期待を胸にナルトは3人の捜索に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナルトから離れて2人を退避させたコムギ。真っ先に噛みついて来たのはヒヒだった。

 

「おっまえぇ!?いきなり何すんだ!!」

 

普段大人しいコムギのいきなりの行動に驚きつつも怒声を上げるヒヒにメイが口を塞いだ。

 

「騒がないで。ナルト先生に気付かれる」

 

言われてバツが悪そうに舌打ちした。

そこでコムギがいつものオドオドとした表情で自分の意見を述べた。

 

「うん。その……たぶん、僕たち1人1人で鈴を取るのは無理、だと思うんだ。ナルト先生も全然本気でやってないし……だから3人で協力しない、かな……」

 

コムギの発言にヒヒが吐き捨てる。

 

「バッカじゃねぇの、お前!例えそれで鈴2つ取れても、1人我慢しなくちゃいけねぇだろうが!それとも、お前が引いてくれんのかよ!」

 

「それは……」

 

「私もヒヒに同意。私たちは仲間じゃなくてライバル同士。いつ自分の得の為に裏切られるか分からないのに組めない」

 

メイも同意見のようで、自分の装備を確認し始めた。

ここでまた別々に行動になろうとなった時に尚もコムギが言葉を続ける。

 

「で、でも!もう時間もそうないんだよ!」

 

その言葉に流石に2人も顔を強張らせた。

残り時間既に30分を切っている。

単独で動いてナルトから鈴を1つでも奪えるとは思わなかった。

 

「……」

 

それは2人とも感じていることだった。だから焦り、言動がピリピリしてしまう。

同じ手が通じる相手でもなく、このまま行けば自分たち全員が失格になってしまうのは誰の目にも明らかだった。

そこでヒヒがガシガシと頭を掻いた。

 

「だぁっ!しっかたねぇなぁ!!」

 

観念したように深呼吸をした。

 

「合格云々もそうだけど。あの先生に一泡吹かせてやらなきゃ気がすまねぇ!どっちにしろ次が最後御チャンスだろ。だったら、3人で挑めば鈴の1個くらい取れるかもしんねぇしな!メイ!お前はどうする!!」

 

ヒヒの問いにメイも若干渋い顔をしたが、仕方ないと呟いた。

 

「どっちみち、手持ちの装備も少ない。それに2人が組んで私が単独で動いても勝率は低い。協力するしかない」

 

メイの言葉にコムギはホッと胸を撫で下ろす。

 

「さっきも言ったが次が最後だ!出し惜しみなしで行くぜ!」

 

「うん!」

 

「負けっぱなしじゃいられない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中で捜索をしていたナルトは歩いていた足を止める。

 

「居るのは分かってんぜ。出て来いよ!それとも、こっちから行った方が良いか?」

 

気配を感じてナルトがそう言うと、また遠距離からコインが高速で飛んできた。

一拍ごとに飛来してくるコインに避け、森の中をジグザグに動く。

 

「良い術だとは思うが、そう何度も驚かねぇってばよ!」

 

言っていると、ナルトの頭上から糸が切れる音がした。

 

「あん?」

 

すると、頭上から大量の煙玉が落ちて、破裂し、視界を覆う。

 

「さっきの術はワイヤーを切るためか。ってことは……」

 

ナルトは背後から感じる気配を察して回避する。

 

「っ!?」

 

「白眼のあるお前なら、この覆われた視界でも関係ねぇもんな!白眼のことはオレもちょっと詳しいんだってばよ!」

 

初手を躱されてもコムギは逃げずにナルトの相手を続けた。

しかし一撃も当てられず、全て受け流される。

 

煙玉の範囲から脱出したと同時にコムギが一度ナルトから離れた。

それと同時に下がったコムギの後ろに居たメイが再び両手の苦無と手裏剣を投げると同時に手にし、咥えていたワイヤーを引っ張る。

予め仕掛けていたのだろう。大量の苦無と手裏剣。千本が襲いかかってきた。

 

「おらぁ!!」

 

それを回避し、または苦無で弾きながら安全圏まで移動する。

 

(本気で俺の命狙って来たってばよ!!)

 

これくらいやってもナルトを殺せないと確信してのことだろうが。生徒たちが自分の力を認めたことに対して少なからず喜びもある。

 

(さて、ここからどうすっか)

 

トラップをやり過ごすギリギリの間を狙ってコムギが今度はナルトの脚にしがみ付いて来た。

 

「メイちゃん!」

 

「コムギナイス……!」

 

折り畳まれた大きな手裏剣を広げる。

それはナルトにも見覚えがあった。

 

「風魔手裏剣・影風車」

 

メイがその名を言うと、ナルトへと投げつけた。

狙うは腰にぶら下がった2つの鈴。

 

回転しながら進むそれをナルトは体を低くして躱した。

 

「残念だったな。お前ら」

 

ちょっと冷や汗を掻いたナルト。

しかし足にしがみついていたコムギが首を振る。

 

「いえ、作戦通りです」

 

ナルトが躱した影風車がボンッと音を立て、別の変化。いや、戻った。

それは、手裏剣に変化していたヒヒだった。

 

「これでぇ!!」

 

咥えているコインを高速で撃ち出す。

不安定な体勢だったナルトは反応が遅れてしまう。

ヒヒのコインは確かにナルトの鈴の紐を1つ切り落とした。

 

「やっとぅああああああああああああっ!?」

 

しかし、ヒヒも崖のギリギリで変化を解いてしまい、そのまま踏ん張りが利かず、足を踏み外してしまった。

 

「やべっ!?」

 

ナルトが即座に助けに入ろうとするが、その前にコムギとメイが飛び出して落ちるヒヒの腕を掴んだ。

 

「大丈夫、ヒヒくん!?」

 

「世話、焼かせる」

 

「わ、わりぃ!」

 

仲間を引っ張り上げる2人。

そこで――――

 

ジリジリジリジリジリッ!!!?

 

『あ』

 

時間が訪れ、試験終了を告げるアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の集合場所に戻って来た4人。

生徒3人は気落ちした様子で地面に視線を向けていた。

 

「鈴、取れなかったな」

 

ナルトの言葉に3人は悔しそうに唇を噛んで睨んできた。

 

「それじゃあ、試験の結果を発表するぞ」

 

どうせ落ちたんだろと思っている3人は暗い表情のまま耳を傾けていた。

そんな3人にナルトはニッと笑って結果を発表した。

 

「火縄ヒヒ。日向コムギ。ながれメイの3人はうずまきナルトの名を持ってこれより、下忍卒業試験を合格とするってばよ!」

 

『えっ!?』

 

コムギとヒヒが驚きの声をハモらせ、メイも不思議そうに首を傾げていた。

最初に質問したのはヒヒだった。

 

「でもさ!俺たち鈴、取れなかったじゃん!紐から落としただけで」

 

「お前たちがこの試験に合格する本当の条件を満たした。だから、オレはお前たちを合格を決めた」

 

「本当の合格条件?」

 

「そうだ。この試験を突破する正解。それは――――チームワークだ」

 

ナルトが笑顔で答えると納得できないようにメイが質問する。

 

「でも、鈴は2つしかない。それじゃあ、仲間割れだって……」

 

「これは、そうなるように仕組んで行われる試験なんだよ。この状況下の中で、自分の利害に関係なく、チームワークが出来る奴らの合否を判断するためのモンだ。忍者は、裏の裏を読めってな」

 

ナルトの説明にメイがなるほどと頷く。

それから嬉しそうにナルトは説明を続ける。

 

「オレがお前たちの合格を決めたのは、最後のヒヒが落ちそうになった時、お前たちは鈴を無視して仲間を助けたことだ」

 

あの時、メイかコムギのどちらかが鈴を取ろうとすれば、ナルトはそれこそ九喇嘛の手を借りてでも阻止していた。

だが、2人はヒヒを迷わず助けることを選んだ。

そして3人でナルトから鈴を取りに来た。

合格にする理由はそれで充分だ。

 

「これは、オレがカカシ先生――――六代目から最初に教わった忍者の心構えだ。確かに忍者には卓越した技量は必要だ。だけど、それ以上に重要なのはチームワーク。そして忍者の世界じゃルールや掟を守れない奴はクズ呼ばわりされる。でもな、仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」

 

それはナルトの中で未だに息づいている大切な言葉。

忍者になって。色んな戦いや任務。そして戦争を潜り抜けられたのは皆の協力があったからだ。

そんな仲間をナルト自身が絆として大切にしてきたから。

だから、後ろに続く木ノ葉の忍者たちに最初に教えて置かなければならない教えだった。

 

ナルトの言葉を下忍たちがどう受け止めたのかは分からないが、この教えの意味に気付く、立派な忍になってほしい。今はまだ、ぼんやりとした意味でしか感じ取れなくても。

 

「これを持って第七班の演習を終了とする。おいお前ら。合格祝いにオレがラーメン奢ってやるってばよ!行くぞ!」

 

「え!マジ!!」

 

「い、いいのかなぁ」

 

「でも、お腹は空いた……」

 

ナルトの言葉に三者三様のリアクションをすると善いからいいからと促した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日火影室の前に通された4人の前で六代目火影が笑みを浮かべた。

 

「それでは第七班の初任務を命じる」

 

任務内容は当然Dランク任務。子供のお使い程度の任務にどこか気の抜けた表情をする3人。

そんな生徒たちの反応にナルトは喝を入れる。

 

「ほら、そんな顔すんじゃねぇ!里を潤す大事な任務だ。それじゃあ六代目!第七うずまきナルト班、初任務出動するってばよ!!」

 

こうして、ナルトの担当上忍としての任務が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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木登りの行

今回から、生徒3人がメインです。


 うずまきナルト。

 第四次忍界大戦を終わらせたと言われる忍界切っての英雄。

 歴代の火影の名前は知らなくてもうずまきナルトの名前は知っているという者も若い世代には少なくない。

 そのうずまきナルトの生徒となった火縄ヒヒは少なからず浮かれていた。

 里に自分の優秀さ。延いては将来性を期待されているようで。

 そして卒業試験のあの日、自分たちを圧倒しながらもどうにか下忍として認められたあの日に言われた言葉。

 

『忍者の世界じゃルールや掟を守れない奴はクズ呼ばわりされる。でもな、仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ』

 

 その言葉の重みこそまだ理解していくても、胸にくるものがあったのは、きっと先生自身がその言葉の実感しているから。

 

 だからこそ、ヒヒはこれからの忍者としての生活に強い緊張と期待を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 抱いていたのだが──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、お前らー。掘り返した野菜、こっちに持ってこいってばよ!」

 

 その忍界の英雄は今、首にタオルを巻いて両脇に大量の大根を抱えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ナルト先生……」

 

「どうした、ヒヒ。早く収穫しねぇと、日が暮れちまうぞ」

 

「俺ら、忍者になったんだよな?」

 

「……その額当てはなんだってばよ」

 

「だったら!! 毎日毎日何でこんなショボい任務ばかりなんだよ! 最初は逃げた猫の捕縛! 次は留守番中の子守り! そして今日は野菜の収穫! 二ヶ月こんなんばっか! アカデミーのレクリレーションじゃねぇんだぞ!」

 

 首に巻いていたタオルを畑に叩きつけて自身の憤りを爆発させるヒヒ。

 そこでコムギからフォローが入る。

 

「でもボク、今回のお仕事楽しかったよ!」

 

「そりゃあ、お前の趣味は家庭菜園だもんな! っていうかアカデミーで習ったことが全く活用されてねぇ!!」

 

 ヒヒがトンガリ頭を掻き毟っていると依頼主であるお爺さんが笑いながら話しかけてきた。

 

「ほっほっ。元気があって良いですねぇ」

 

「悪いな、爺ちゃん。文句ばっかで」

 

「新人の忍者の方が手伝いにくると大体そうですよ。あなたも、そうだったのではないですか?」

 

 お爺さんに言われてナルトはバツが悪そうに苦笑して頬を掻いた。

 ヒヒの憤りはナルト自身も身に覚えがあるが、ここは先生として諭そうと振る舞う。

 

「いいか、ヒヒ。任務ってのは下忍、中忍、上忍に分けて、それぞれ任務の難易度や得意不得意を上が判断して振り分けられるんだ。お前たちはまだ下忍に成り立ての新米。精々Dランク任務を任されるぐらいだってばよ。それに、こうした小さな任務を積み重ねが、お前たちの信用、延いては木ノ葉の信用に繋がってだなぁ」

 

 柄ではないと思いつつもナルトは新人。特にヒヒへと説明した。

 ナルト自身、かつては三代目に駄々をこねまくってCランク任務(実際にはAランク任務)を受けたことがあるため、気持ちは分かるがそれはそれ、これはこれである。文句を言う教え子を諭すのも自分の仕事だ。

 

「つまり、こういう任務だって大切なもんで、文句言ってるようじゃまだまだだってことだな」

 

 今回の任務もナルトが多重影分身をすればすぐに終わる任務だが、それを敢えて使わずにいるのはメインがあくまでも新人下忍たちだからだ。

 

 ナルトの言葉をヒヒは理解はしたようだが、納得はしてない様子でう~と唸っている。

 そんな子供らしい反応にナルトは苦笑いを浮かべた。

 

「ま、でも、ヒヒの言いたいことも分かるってばよ。オレもガキの頃、散々駄々こねたしな!」

 

「ナルト先生が、ですか?」

 

 若干驚いた表情をするメイにナルトは恥ずかしそうにまぁなと返す。

 

「だからこの任務が終わったら、お前らに修業を課す」

 

「修業?」

 

「あぁ。とりあえず今は早く畑の収穫を終わらせんぞ。説明する時間が無くなっちまうからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で? 修業ってなにすんだ! 先生!」

 

 目を輝かせて待ちきれない様子のヒヒにナルトは木に手を触れた。

 

「木登りだ。お前らにはこれからこの木の天辺まで登ってもらう」

 

「木登りーっ!?」

 

 今度は明らかに不満そうな顔をするヒヒにナルトはまぁ見てろとチャクラを足の裏に集め、手を使わずに歩いて登り始めた。

 それを唖然とした様子で見ている3人。

 一番低い位置の枝に移動し逆さのまま腕を組んでこの修行について悦明した。

 

「チャクラを使えばこんなことも出来る。これはチャクラのコントロールを身に付ける為の修行だ。足の裏は最もチャクラが集めにくい部位とされている。この修行でお前たちのチャクラコントロールはかなり上達するし、忍者がそのコントロールを維持しなきゃいけねぇのは絶えず動き回る戦闘中だ。この木登りでそれを維持する持続力(スタミナ)を身に付けてもらう」

 

 説明を終えるとナルトは木から落ち、そのまま着地した。

 

「これが出来りゃあ、とりあえず下忍としてはいっちょまえってことだ。それにこれが出来れば戦闘で壁を足を付けて戦うことも出来るし、もう少し難しくなると、水面なんかも走ることが出来る。この修行を3人がクリア出来たらオレから六代目にCランク任務を受けさせてもらえるように言っとくってばよ」

 

「ホントだな、ナルト先生!」

 

「あぁ。任務がない日や、終わったらここで木登りだ。登れた位置にクナイで線を付けて、次はもっと登れるようにしろ。お前たちは最初から歩いて登るなんて無理だろうから、走って天辺まで登れ。それと、危ない感じに落ちそうな奴がいたら、他の2人で助けてやれよ。それもチームワークだ!」

 

 言い終えて、ナルトは親指で木を指さし、とりあえず登ってみろと指示する。

 ホルダーからクナイを取ったヒヒがナルトを指さす。

 

「へへ! こんな修行、ちゃっちゃと終わらせて、すぐにCランク任務を受けてやるぜ!」

 

「ま、頑張れってばよ」

 

 3人はチャクラを練り、それぞれの木に向かって走る。

 

「だっりゃぁああああああああてぇっ!?」

 

 4歩ほど登ったところでチャクラの吸引力が乱れ、ヒヒは地に背中を打ち付けてのた打ち回る。

 

「んっ!?」

 

 もう少しで一番低い枝に届きそうなところで木に弾かれ、そのまま着地した。

 

 残ったコムギは────。

 

「へー。さすが柔拳使い。中々のモンだってばよ」

 

 下から2番目の枝に座っているコムギ。見た感じ、まだ余裕がありそうだ。

 日向の柔拳使い。チャクラの一定量を集め、維持は慣れたものなのだろう。

 

「こりゃ、1番初めにこの終業をクリアしそうなのはコムギか。メイも医療忍術を学ぶ気なら、もっと精密なチャクラコントロールを要求されっぞ。こんなんで躓いてられねぇな」

 

 ナルトの言葉にむ、とするヒヒとメイ。

 

「じゃ、程々に頑張れってばよ」

 

「ちょっ!? 先生!! せめてコツとか教えてくれよ!」

 

 まったく登れなかったヒヒが焦ったように頼むがナルトは敢えて突き放すことにした。

 

「あのな。こういうのは、自分で色々試しながら、コツを掴んでくモンなんだよ。お前もイッパシの忍者を気取るなら、ただ教わるんじゃなくて、自分で考えながらモノにしろよな」

 

 ナルトの言葉にヒヒは何か言いたそうにしていたが、自分の両頬を張った。

 

「分かったよ。見てろよ! 明日には木の天辺まで登りきってやっからな!」

 

 その強がりにナルトは小さく笑みを浮かべた。

 印を結び、頑張れよ、とだけ言って文字通り煙と共にその場から消えた。

 

「ホントに消えちまったよ……」

 

「帰ったんじゃないかな? ナルト先生、ご結婚なさってるし」

 

「そうなの?」

 

 メイの返しにコムギはうん、と頷く。

 

「先生の奥さん、日向宗家の方だから。最近、子供もお生まれになったって聞いた」

 

 へぇと、2人が感心しているがすぐにヒヒが首をブンブンと振るった。

 

「そんなことより! さっさと登っちまおうぜ!」

 

 木に指をさし、チャクラを練る。

 

「どりぁあああああっ!! あ、あ~っ!?」

 

 走って木に登るがすぐにまた落ちてしまった。

 

「コント?」

 

「ちげぇよ! くそっ! ゼッテェ登ってやるからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 

 

「なんで……俺だけ登れねぇんだよ……!」

 

 呼吸を乱しながら、仰向けに寝て悔しそうに木を見上げるヒヒ。

 コムギはスイスイと登り続け、メイも何度かやってコツを掴んだのか今はコムギを追い越さんばかりに徐々に高い位置へと印を刻んでいる。

 

 既に半分程登り終えたコムギが下りてくる。

 

「大丈夫、ヒヒ君」

 

 心配そうに訊いてくるコムギにヒヒは一瞬渋い顔をしたが、よし! と何かを決めたように話しかける。

 

「コムギ、ちょっとコツ教えてくれ……」

 

 自分から駄々を捏ねておいて足を引っ張る形になったことに多少の後ろめたさがあったことと、自分だけ進歩しない焦りからコムギにアドバイスを求めることにした。

 それに少し驚いた表情をしたが、コムギはすぐにうん、と説明を始める。

 

「チャクラは精神エネルギーを使うから、変に気を張り過ぎたらコントロールが乱れちゃうんだ。リラックスしてチャクラの一定量が足の裏集まるようにしながら木に集中しないと」

 

 説明が終わると立ち上がり、大きく深呼吸をした後に印を結んでチャクラを足の裏に集めた

 

「おりゃああああああああっ!!」

 

 木に駆け上がる。

 今までで一番安定して登っている。

 もう少しで一番最初の枝に手が届く。

 

(もう少し。もう少し!)

 

 その焦りからチャクラのコントロールが乱れ、木から弾かれそうになる。

 だが────。

 

「おっしゃあっ!!」

 

 木の枝を掴み、そのままぶら下がった。

 

 すれ違いで落ちてきたメイがパチパチと小さく拍手をしていた。

 

「こっから、すぐにお前たちにも追い付いてやるぜぇ!」

 

 ヒヒはクナイで印をつけ、勝気な笑みで枝から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おし! こんなもんか」

 

 木登りの行を課して数日。ナルトは自宅で長男であるボルトのおむつを取り替えていた。

 おむつを替え終わるとナルトは息子の感触を確かめるように頬を痛がらない程度に押したりひっぱたりする。

 そうしているとヒナタがやって来た。

 

「ごめんね、ナルト君。ボルトの世話を任せちゃって」

 

「なに言ってんだよ。オレだって父ちゃんとしてちゃんとボルトに構ってやりてぇんだ。それに謝るなら、ずっと任せっきりだったオレの方だろ」

 

 ニカッと笑うナルトにヒナタも笑みを返す。

 そうして夫婦でボルトの様子を見ていると、不意にナルトが話始めた。

 

「なんつーかさ。子供が成長ってのは早いもんなんだな」

 

 それは日に日に大きく、重くなるボルトのことででもあるし、自分が受けもった生徒たちのこともある。

 

「今日、木登りの行をさせたあいつらの様子を見に行ったら、もう3人とも半分も登ってた。それを見たら、なんか、凄く嬉しくなっちまって」

 

 子供の頃から火影になることを夢見て、多くの出会いと別れ、修業と経験を積んできたナルト。

 今では忍界で一目置かれ、彼と戦える者すら少ないまでに成長した。そしてかつて忌み嫌っていた里の者たちもナルトを慕うようになった。

 

「オレ、今まで自分が強くなることばっか考えてた。でもこれからは。本当に火影になるなら、後ろに居る奴らもしっかり見守ってやらなきゃいけねぇんだなって。そう思うんだ」

 

 ナルトの夢。その芯は子供の頃から変わっていない。

 だが、子供の頃のようにただ前だけを見て突っ走るだけではいけない。

 カカシがナルトを特別上忍として気付かせたかったのはそういうことなのではないかと今は思う。

 

「うん、そうだね」

 

 そんな、今でも成長しようとする夫にヒナタは微笑んで体を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木登りももう少しでクリアできそうになった時に休憩がてらに3人は話をしていた。

 

「そういえばさ。お前らはなんで忍者になりたいんだ?」

 

 近年では、子供たちが忍者アカデミーに通うことは強制ではない。これも忍界が平和に向かっている証拠だろう。

 

 最初に答えたのはコムギだった。

 

「僕は、日向の家だから。忍者になるのは家の方針だからっていうのが大きいかな。僕自身、なにかしたいっていうのもないし」

 

 血継限界、白眼を持つ日向一族。

 その眼を狙う者たちは多く居る。

 だからこそ、忍者として力を付けさせるのは当然のことだった。

 

 次に話したのは、メイだった。

 

「私は、前の戦争でお父さんが亡くなったから。自立するのに忍者は都合が良かったから、かな」

 

 第四次忍界大戦で親を失い、孤児となった子供は大勢いる。メイもその1人だった。

 アカデミーにも親を亡くした子供はチラホラと居たが、実際本人から話されるとどう答えたら良いのか解らない。

 その空気を察したのかメイは首を横に振るった。

 

「気にしないで。珍しいことじゃない。それに孤児院の院長も良い人だから。顔が蛇みたいで怒らせると怖いけど」

 

「怖いの?」 

 

「怖い」

 

 顔は無表情なままなのに肩を小刻みに揺らしていることから本当に怖いのだろう。

 珍しい反応をしながらもでも、と付け加える。

 

「すごい医療忍者で、私は院長みたいな忍者になりたい。それが私の目標」

 

 何故かそれを本人に言うと、すごく微妙な表情で苦笑いされるのだが。

 

「俺は、強くなって里の外を旅するんだ! そしたら、今まで見た事のない、色んなモノを見てみてぇ! その為に忍者として力を付けてぇんだ!」

 

 里の外へと思いを馳せるヒヒ。そうして彼はある提案をした。

 

「なぁ。もっと3人で強くなったら、少しの間、3人で旅をしねぇか?」

 

「え?」

 

「そしたら、たくさん色んな景色を見て、美味いもん食って。悪い奴らがいたらブッ飛ばしてさ。そうやって世界を見て回ろうぜ! お前らとなら、きっと楽しいだろ!」

 

 にヒヒと笑うヒヒに2人は。

 

「悪くないかも……」

 

「うん。きっと楽しいね」

 

 そんな話をしていると、足音がした。

 

「なんか、面白れぇ話してるな」

 

「ナルト先生!?」

 

 現れたナルトは持っていた包みを掲げて生徒たちに見せる。

 

「休憩中なら丁度いいな。オレの嫁さんが、お前らに良かったらって、弁当を作ってくれたんだ。どうだ」

 

「ヒ、ヒナタ様がですかっ!?」

 

 分家であるコムギからすれば、宗家の者であるヒナタに弁当を貰うというのは戸惑う事態だった。

 それを察してかナルトは気にすんな、とコムギに言う。

 

「ヒナタもそういうことを気にされるのは嫌だろうし。せっかく作ったんだから食べてくれたほうが嬉しいってもんだ。味は保証するってばよ」

 

 言うと、コムギははい、と返事を返す。

 包みを広げて弁当を食べ始めると、ヒヒがナルトを箸で指さした

 

「ナルト先生! 俺たち、もうすぐ木登り終わっからな! 約束、忘れんなよ!!」

 

「そうか。頑張ったなお前ら」

 

 そう言って3人の頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。

 生徒たちの成長を嬉しく思いながら、希望溢れる未来を信じて疑わない彼らを、守り、一人前の忍者に育てることを誓った。

 

 

 

 この時は光溢れ、暗い陰など誰にも見えはしなかった。

 ────そう、誰にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メイの暮らしている孤児院はカブトが院長をやっている孤児院です。


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Cランク任務・壱

「今日、お前も任務で里の外へと赴くのだったな」

 

「はい、父さま」

 

 朝食を終えて今日の任務のために荷物の点検をしているコムギに父であるコショウはどこか感慨深げに言う。

 言葉は短く、彼なりに息子を激励する。

 

「まだ下忍とはいえお前も木ノ葉の忍者だ。その額当てに恥じない行動を心掛けなさい」

 

「……はい。わかっています」

 

 それが、息子に伝わっているかはまた別問題であるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくんな!」

 

 ヒヒは荷物を肩にかけ、これからの初めて里の外に出ることへの期待感に胸がいっぱいだった。

 

 ────カラクリ玩具屋『火縄』

 

 それが、火縄ヒヒの実家だった。

 父は中忍。母は下忍のまま忍者を引退し、父である火縄イオウが忍者時代に培ったカラクリ技術を子供用の玩具を製作し、販売と修理を縄張りとして営業している店である。

 ヒヒの口鉄砲も、イオウが開発したとある玩具をヒントに編み出した忍術である。

 

「元気なのはいいけど、先生の足を引っ張るんじゃないよ!」

 

 母である火縄ナベかそう言うと、だいじょうぶだって! と返す。

 

「バッチリ活躍して! 大手を振って帰って来るからよっ!」

 

「アンタのそういうところが不安なのよ……」

 

 浮かれている息子に呆れながらナベは心配そうに眉を寄せた。

 

「まぁ、いいわ。怪我だけはしないようにね」

 

「おう! じゃあ行ってきまーす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「薬や忍具点検終わり。これで準備良し」

 

 いつも通りの淡々とした口調で荷物を詰めた鞄に封をすると、下忍になってから借りた集合住宅(アパート)を出た。すると、知っている人がいた。

 眼鏡をかけた、蛇のような顔に真っ白い肌。それは、彼女が少し前まで世話になっていた孤児院の院長だった。

 

「カブト先生」

 

「やぁ、メイ。もう出発かい? 早いね」

 

「はい。先生はどうしてここに?」

 

「君はボクが院長になって初めて忍者になった子だからね。外の任務を受けたって聞いたからちょっと様子を見に来たんだ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 頭を撫でると普段無表情のメイが少しだけ嬉しそうに目を細めた。

 カブトはメイに医療忍術と薬に関する知識を叩き込んだ師だった。孤児院の院長になる前は凄腕の医療忍者だったというのも聞いたことがあり、メイ自身の目標でもある。

 

「私も、もっと頑張って。先生みたいな医療忍術を身に付けたいです」

 

「……それは、やめた方がいいんじゃないかなぁ」

 

 メイが自身の目標を言うと、何故かカブトは困ったようにやんわりと否定する。その態度にメイは首を傾げるのがいつものやり取りだった。

 

「とにかく。頑張りなさい」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい! ナルトォ!!」

 

「ゲキマユ先生! 久しぶりだってばよ!」

 

 集合場所に向かう途中、昔世話になった人物に呼び止められて嬉しそうに早歩きで近づいた。

 車椅子に乗った、片足に根性と書かれたギブスを付けている男性。

 マイト・ガイ。

 かつて現、六代目火影であるはたけカカシのライバルであり、木ノ葉────いや、忍界最強の体術使いだった忍者である。

 先の大戦で片足を失い、車椅子生活を余儀無くされたが、不貞腐れることなく今でも変わらないそのノリがナルトには嬉しかった。

 

「これから、任務か?」

 

「あぁ。担当してる新人下忍と一緒に近くの村までな!」

 

「ということはCランク任務か。そういえばナルト。新人下忍といえば、お前はどうするんだ」

 

「何が?」

 

 さすがに話を飛ばし過ぎたか、とガイは改めて言う。

 

「中忍試験だ。今回は、雲隠れの里で行うから、そろそろ下忍の推薦や準備も始まるぞ」

 

 ガイに言われてナルトはあー、と声を出した後に、懐かしそうに頬を緩めた。

 

「中忍試験かぁ。懐かしいってばよ。オレ、結局中忍にならなかったけど」

 

 ナルトは第四次忍界対戦後に火影になったカカシの推薦を持って下忍から上忍へと一気に繰り上がった。

 ただし、その時のナルトは火影クラスの実力を持ちながら、頭脳面や礼儀作法などの面で問題があり、それらを数年がかりの講習を受けさせられることとなった。

 

 その間に中忍試験を受けさせる案もあったが、ナルトの能力から試験そのものが台無しになりかねない上に、他の受験生との実力差が開き過ぎているため、下忍から上忍という異例の出世となった。

 何せ、実力は五影レベル。頭脳面は下忍というアンバランスな忍だ。いくらなんでも他の受験生たちの心を折る結果になりかねない。

 

「今年生徒を受け持ったリーも、試験までに鍛え上げると張り切っていたぞ。オレは、1年しっかりと青春させるよう言ったんだがな!」

 

「ゲジマユが?」

 

 ガイの愛弟子であるロック・リー。彼もナルトと同じ、今年の新人下忍の担当上忍になっている。

 腕を組んで少し考えるナルト。

 

「オレ、今回アイツらを推薦するのは止めようと思うんだ」

 

 以外な解答にガイは意外そうに目を大きく開けた。

 ナルトならば、今回の試験に必ず教え子を推挙すると思っていたからだ。

 

「どうした? なにか、生徒たちに問題があるのか」

 

「いや、アイツらがどうこうじゃねぇんだ。問題はオレのほうなんだってばよ」

 

 ナルトは自分の手の平を見つめる。

 

「オレ、まだ先生として未熟もいいところだし。誰かに物を教えるって思った以上に難しいってわかった。今はイルカ先生とかに色々と教えてもらってる最中だし。それにどうせなら、アイツらがしっかり合格させてやりてぇ。だから、しばらくはアイツらに力を付けさせるつもりなんだ」

 

 木ノ葉丸に螺旋丸を教えたことはあったが、教えたのはあくまでも術の概要と修業方法であって、後は木ノ葉丸個人が自力で習得した。

 それをナルトが伝授したというのは少々語弊があるだろう。

 

「ま! アイツらも優秀だしさ! もしかしたら、こっから一気に成長して、推薦すっかもしれねぇけどな! あ! いけね! そろそろ行かねぇと!」

 

「あぁ。引き留めて悪かったな」

 

「じゃあな! ゲキマユ先生!」

 

 走って去っていくナルト。その背中を見ながらガイは中忍試験で初めて見たナルトを思い出していた。

 まだ幼く、真っ直ぐに前だけを見ていた落ちこぼれの少年は、いつの間にか大きな青年へと成長していた。

 体だけでなくその心も。

 その背中を見送ってガイは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生おっせぇよ!! 時間ギリギリじゃねぇか!」

 

「わりいわりい。ちょっと世話になった人と話しこんじまってよ」

 

 里の門の前で既に集合していた3人の教え子と今回の依頼人。

 文句を言うヒヒを宥めながら今回の依頼人と話をする。

 

「それでは木ノ葉の方々。今回の護衛、よろしくお願いします」

 

 依頼人は五十代のご夫婦だった。

 夫婦は木ノ葉隠れの里の近辺にある小さな村に住む夫婦で、木ノ葉に食料卸し、また、木ノ葉から購入した日用品などを村に持ち帰る商人だった。

 今回、この夫婦の護衛がナルトたちの任務となる

 

「あぁ、任せてくれってばよ!」

 

 頭を下げる夫婦に、ナルトは快活な笑みでそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺も、大分移動し易くなりましたねぇ。以前はここまで移動するのに苦労したものですが、歳を取った私たちには大助かりですよ」

 

 荷を乗せた馬車を馬で引きながら、夫人が世間話をしていた。

 大戦以来、木ノ葉を含め、各里は外へと開いて良き、その一環で交通も少しずつ整備されて行っている。各国でも多くの技術が開発され、そのうち、一気に栄えるかもしれないというのはカカシの弁だ。

 

 始めて里の外を出た下忍たち。特にヒヒは、外の景色を興味津々に見ていた。

 

「外に興味を示すのはいいけど、ちゃんと警戒を怠るなよ。ここら辺だって、野盗とか出ることもあるんだからな!」

 

「野盗が出るんですか?」

 

「オレたちみたいな忍が護衛に居りゃあ、滅多に出ねぇけどな。それでもゼロじゃねぇ。気を抜くなよ!」

 

 里の近くに在る村とはいえ、こうして移動してい間を狙われて強盗に及ぶゴロツキの集まりは途絶えることがない。

 だが、こうして忍者が護衛に就いていれば、彼らは諦め、手を出してこない。

 ナルトたちが護衛して見せているだけで、ゴロツキたちへの牽制になり、抑止になっているのだ。

 それでも襲ってくるなら、物を知らない馬鹿か、その野盗たちがそれだけ切羽詰まった状態なのか、忍者を相手に出来るだけの手練れが居るということになる。

 もっとも、そんな事態は滅多にないのだが。

 だからこそのCランク任務なのだ。

 

「へ! 仮に野盗なんて出てきても、俺たちがあっという間にやっつけてやるよ!」

 

 強気な態度を取るヒヒに婦人が柔らかな笑みを浮かべた。

 

「頼もしいわね。それじゃあよろしくね」

 

「おう!」

 

 親指をグッと立てるヒヒ。

 そこでメイが質問する。

 

「その村までは往復どれくらいかかるんですか」

 

「行きで2日。帰りはペースが違うから早くて1日で帰れるぞ。トラブルがなけりゃあ、向こうで休憩する時間も入れて、3日半くらいの想定だな」

 

「なるほど」

 

 ナルトの説明に納得したようにメイが頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩を挟みながら、半日ほど移動しすると、それが起こった。

 

「わりい、おっちゃん。馬を止めてくれ!」

 

 ナルトが指示を出すと、夫人が慌てて馬を止める。

 すると馬車を囲うように、20人程の男たちが現れた。

 男たちは刀や鎌など、刃物で武装していた。

 

「テメェら! 命が惜しければその荷台を置いてけ!!」

 

 この場でのリーダー格らしき男が、偉そうな叫び声で常套句を言ってきた。

 ナルトは危険がない様に依頼人に指示を出す。

 

「2人は危ねぇから、そこを動かねぇでくれ」

 

 ナルトの指示に怯えたように夫婦がコクンと頷いた。

 木ノ葉の忍びを確認すると野盗のリーダー格の男が叫ぶ。

 

「お前ら! あの人に強くしてもらった修業を思い出せ! もう俺たちは忍者なんて怖くねぇ!」

 

『おう!!』

 

 すると、野盗たちは、印を結び、チャクラを練り始めた。

 

「なっ!? どういうことだってばよ!!」

 

 野党がチャクラを練ったことに驚きながらもそれに硬くなっている暇はない。

 チャクラを練り、身体能力を上げた野盗たちは一斉に襲い掛かってきた。

 

「プッ!!」

 

 ヒヒが口鉄砲で飛ばしたコインを野盗の1人の刀に当て、体勢を崩されたところで顔面に跳び蹴りをかました。

 

「このガキィ!!」

 

 着地を狙われて鎌を振り落とされるが、割って入ったコムギが柔拳を叩き込み、内臓にダメージを負わされた敵はそのまま胃液を吐いて倒れる。

 

「ぐわっ」

 

「なんだ! 体が、痺れて……っ!?」

 

 反対方向では、メイが手裏剣(痺れ薬付き)を投げ、行動不能にする。

 チャクラを練れると言っても、彼らはそれだけの素人だったようで、正式な訓練を受けた木ノ葉の忍たちに呆気なく無力化されていく。

 

「だりゃぁああっ!!」

 

 最後にヒヒがリーダー格の男の鳩尾に体当たりを喰らわした。

 

「どうだぁ!!」

 

 リーダー格を倒したヒヒがガッツポーズを決める。

 依頼人に向けてVサインをしていると、まだ動けるリーダー格の男が鬼の様な形相で立ち上がった。

 

「ヒヒ君、後ろっ!?」

 

 コムギが叫んでヒヒが振り向くと、そこには刀を振り下ろそうとしている男が居た。

 

「調子にのんな、クソガキィ!!」

 

 その刃が、ヒヒに届こうとした時、男の体が大きく吹っ飛んだ。

 

「このバカ! 油断すんなってばよ!」

 

 ナルトが男を殴り飛ばしたのだ。

 見ると、自分たち下忍3人が10人倒している間に、ナルトはもう半分を倒していた。

 そして自分が殴り倒した男の胸ぐらを掴んだ。

 

「おいテメェ! チャクラの扱いなんて誰に教わった!」

 

 彼らのチャクラの扱いは精々チャクラの練り方を教わったばかりのアカデミー生レベルだが、独学でチャクラの練り方なんて習得できるわけがない。

 こいつらにそれを教えた者が居る筈だ。

 

「クソッ!! なんでだ! あの人は俺たちに忍術を教えてくれたのに……!」

 

「おい! あの人って誰だ!」

 

 ナルトが体を揺さぶると、男はそのまま意識を失ってしまった。

 

「先生……」

 

「大丈夫だ。そう不安そうな顔すんなってばよ、コムギ。ただ、こいつはちょっと厄介な任務になりそうだぜ」

 

 何ともなしに嫌な予感に襲われながら、ナルトは曇り空になった空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ。やっぱ、そう簡単にいかねぇか」

 

 木ノ葉と野盗の戦闘を見ていた男は双眼鏡を外し残念そうに、しかし予想通りとばかりに木の枝に座っていた男は頭の後ろに腕を組んで背を預ける。

 

「それにしてもあのうずまきナルトがこんなしょぼい任務を受けてるなんて、木ノ葉はホントに人材が厚いねー。羨ましい」

 

 そんな中で外していた双眼鏡を再び目に当てる。

 レンズに映っていたのは1人の少女だった。

 

「だが、オレのツキもそう捨てたもんじゃねぇなぁ。精々オレのために役立って貰おうかねぇ。いいだろ? メイ」

 

 イヤらしく口元を歪めてその場から男は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Cランク任務・弐

遅れてスミマセン。そして短い。


「おーし! 大事な荷だからな。丁重に降ろせよ!」

 

 目的の村に到着したナルトたちは、馬車で運んでいた荷物を順々と降ろしていく。

 襲ってきた野盗たちは村まで運ぼうにも馬車にスペースが無いため、ナルトが見張りと影分身を1体づつで木ノ葉の里へと向かわせ、回収させることにした。

 彼らは木ノ葉の里で情報を吐いてくれることだろう。

 

「結局、あの野盗の人たち、なんだったんでしょう? チャクラまで練れるなんて……」

 

 不安そうなコムギにナルトはさあな、と軽く返す。

 それにメイが頷いて続くように疑問を口にした。

 

「これからこの村の人たちが木ノ葉に訪れる際に野盗たちに襲われる可能性がある」

 

「そのことなら心配すんな。里の近辺にある村は、木ノ葉の忍者が定期的に訪れるんだ。何か緊急の任務があったら郵便用の忍鳥を飛ばして報せてくれるしな! だから、滅多なことになんてならねぇよ」

 

 心配すんなとメイの頭に手を置くナルト。

 そこでナルトが僅かに表情を動かす。

 

「どうした? ナルト先生」

 

「あぁ。どうやら、木ノ葉があの野盗たちを回収したみてぇだ。これから、木ノ葉に連れてって情報を聞き出すだろうぜ」

 

「なんでそんなことが分かるんですか?」

 

「影分身のおかげだな。この術は分身が消えると経験したことが本体に蓄積されるんだってばよ。情報を引き出したらもう1体の影分身を消して俺のところに情報が入るってわけだ」

 

 便利だろ? とニカッと笑うナルトにヒヒが驚く。

 

「すけぇ! でもずりぃ! 今度俺たちにも教えてくれよ!」

 

「木ノ葉に戻ったらな! っていうか何がずりぃだ、ヒヒこらぁ!」

 

 ナルトがヒヒの頭を拳で挟んで軽くグリグリする。

 や、やめろよーと、腕をペチペチ叩くヒヒ。

 それを見ていた依頼人の夫婦が声をかけてきた。

 

「先生さん。アンタらは、明日の朝にこの村を村を出るんだろう?」

 

「あぁ。そのつもりだってばよ」

 

「なら、今晩、少しばかりのおもてなしをさせてはもらえませんか? 今回は本当に助かりましたので」

 

「いや、オレたちは任務で────」

 

 申し出を断ろうとするナルトだが、いいからいいからと勧めてくる依頼主に押される形でじゃあ少しだけ、と歓待を受けることにした。

 

「お前たちも、夜まで自由行動だ。分かってると思うけど、村の外には出るなよ。それと────」

 

 注意事項を続けようとするナルトにヒヒがわぁってるって! と声を張り上げる。

 

「確かに俺たちは新米かもしんねぇけど、もうアカデミー生(ガキ)じゃねぇんだ! それくらいのことはちゃんと分かってるって! 今、俺たちは、忍者なんだから!」

 

 かつて、中忍試験で自分が恩師のイルカに言ったことと似たようなことを言う。

 それにナルトはへっ、と笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒヒとコムギが村の子供たちに掴まって簡単な忍術を披露して歓声を浴びてる頃。

 メイは1人村を回っていた。

 絵に描いたようなのどかな村。

 メイが木ノ葉忍者と知ると警戒心を解いて親切にしてくれる。

 初めて見る里以外の人の生活する場を眺めていると、懐かしい音が聞こえてきた。

 その音を聞いてメイは眼を大きく開く。

 

「なんで……!」

 

 居ても立っても要られずにメイは音の方角に走り出した。

 今聞こえる三味線の音と。それには聴き覚えがあったから。

 

「偶然……きっと村の人が弾いてるだけ……!」

 

 そう理性では理解していても向かわずには要られない。

 

(だって……この曲は、お父さんの……)

 

 小さい頃からよく聴かされた父の三味線の音にそっくりだった。

 村の隅っこにある林に突っ切る。

 

 耳に届く三味線の音が大きく、鮮明になっていった。

 そしてその音の発する場所へと辿り着くと。

 

「お、父さん……?」

 

 三味線を弾く、懐かしい父の姿があった。

 

「久しぶりだね、メイ。大きくなった。見違えたよ。母さんに似てきたかな」

 

 三味線を弾く手を止めてメイに話しかける。

 

「どうして、生きて……それに、なんでここに?」

 

 覚えている。忍界大戦前に帰ってくると約束してくれた笑みと家を出たその背中を。

 忍界大戦後に紙切れだけで父の死亡通告を受け取ったあの日を。

 そんな父がなぜここにいるのか。

 

「ずっと独りにさせてすまない。大戦後に訳あって木ノ葉に長いこと戻れなくなってしまってね」

 

 頭に置かれた手の温かさは記憶と寸分の違いもなかった。

 訊きたいことが山程あるのに混乱した頭がそれをまとめさせない。

 

「許してくれないかも知れないが、これからはちゃんとメイの傍にいるつもりだ」

 

「それは、木ノ葉に戻ってくるってこと?」

 

「いや。僕は木ノ葉には戻れない。だから、メイにこれからずっと一緒に居られるように手伝って欲しいことがあるんだ」

 

 父の言葉に不信感を覚えながらもメイは続きを聞く。

 

「あぁ、それは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村ではナルトたちを歓迎してもらっていた。

 宴をして、気持ちよく村を出てもらい、次の仕事もお願いするように。

 ナルトは若い村の女性に酒を注いでもらっていると、コムギが横目で。

 

「ナルト先生。あんまり女の人を侍らせてると、ヒナタ様に言いますよ?」

 

 それを聞いたナルトが口に入れた酒でむせる。

 

「バカお前! これはそういうんじゃねぇってばよ!?」

 

 ナルト自身、相手に対して異性として意識している訳ではないが、話を聞いたヒナタがどう思うかは別だ。

 そんなナルトに村の女性がクスクスとからかうように笑う。

 

「ふふ。そうですわね。ですが、先生さんが良ければ、今晩うちの部屋に来ても構いませんよ?」

 

「……勘弁してくれってばよ」

 

 そんなことをしたらヒナタに会わす顔がない。

 

 ヒヒは村で採れた野菜で揚げられたてんぷらを中心にうめぇ、と料理を食べていた。

 途中でナルトに影分身を教えてくれとせがんだりしている。

 

 そんな中でメイは厨房に来ていた。

 

「すいません。ちょっとお水を貰っていいですか?」

 

 メイが訊ねると、給仕の女性があら? と訊き返す。

 

「水で良いのかい? ジュースもあるよ」

 

「はい。お水が飲みたいので」

 

 そうかい? と給仕が水の入った容器を渡してくれた。

 それをコップに注ぎ、中に持って来てあった薬を入れて混ぜる。

 水の透明感は変わらず、ナルトの隣に行く。

 

「先生。お酒ばっかり。お水、いる」

 

 そう言ってコップを差し出してくるメイ。

 

「ん? あぁ。そろそろ、水が飲みたかったんだってばよ。ありがとな、メイ!」

 

 もしかしたら教え子の気遣いを無駄にしたくなかっただけだったのかもしれない。

 ナルトはメイからコップを受け取る。

 

 

 

『メイには、木ノ葉の英雄。うずまきナルトを殺す手伝いをしてほしいんだ』

 

 

 

 ナルトは疑うことなく、教え子から受け取った水を喉に通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Cランク任務・参

 メイの父であるセイは三味線を弾きながら兄であるコウに報告していた。

 

「どうやらメイはこちらに向かっているようです」

 

「お前の娘、うずまきナルトを殺ったと思うか?」

 

「えぇ。あの子は、父親思いの良い子ですから。必ずやり遂げてくれますよ」

 

「なら、死体を持ってこさせて換金すりゃあ、かなりの儲けになるな。それに、下っぱどもにあの村を襲えば暫くは金に困ることもねぇだろ」

 

 上機嫌に笑うコウにセイもまた笑みを深めた。

 そうして雑談に興じていると、ザッと土を踏む音がした。

 

「お帰り、メイ」

 

 普段感情を表さないメイが険しい表情で立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ナルト先生! ぐったりしてないで寝るんならベッドに入れよな!」

 

 周りが宴会で出された食器などを片付けている中、テーブルにうつ伏せになっているナルトの体を揺さぶるヒヒ。

 まったく動こうとしないナルトにヒヒはたくよっ! と悪態をつく。

 そこでドタドタとコムギが入ってきた。

 

「ねぇ! メイちゃん見なかった! さっきからどこにも居ないんだけど!」

 

「部屋でもう寝てるんじゃね?」

 

 呑気な態度のヒヒにコムギは焦った様子で首を横に振る。

 

「居ないんだよ! 部屋にも! 村の中も探したけど、全然!」

 

 コムギの様子にメイに何か有ったのでは思い始めたヒヒがさらにナルトの体を激しく揺さぶった。

 

「ナルト先生! 酔い潰れてる場合じゃねぇぞ! 話、聞いてたん────!」

 

 だろ! と、続けようとした時にナルトの体がテーブルから床に崩れ落ちた。

 見ると苦しそうに胸を押さえている。

 

「先生……? 先生っ!?」

 

 その様子もまた、普通ではないと気付き、ヒヒとコムギは顔を青ざめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒヒに支えられてナルトは座敷を出る。

 

「大丈夫かよ、先生」

 

「あぁ。とりあえず、死ぬことはねぇ筈だ……」

 

 覇気に欠ける声で答えるナルトに生徒2人が心配そうにしている視線を置いておいて自身の状態を把握する。

 身体が痺れるが、動けない訳ではない。ただ、チャクラコントロールを乱されていることの方が不味かった。

 

(これ。たぶん昔、綱手のバアちゃんがエロ仙人に使ったのと同じタイプの薬だ)

 

 水を飲んだときに感じた僅かな苦味から綱手の物ほどの完成度は無いようだが。

 酒が入っていたことと教え子から貰ったことで疑わずに飲んでしまった自分の迂闊さを呪う。

 ナルトが生来から師である自来也程の警戒心が無いことも理由だろうが。

 

「でも、本当にメイちゃんが……」

 

「しか、考えられねぇな。自由行動の時になんかあったのは確実だと思う」

 

 ナルトの言葉にヒヒとコムギが息を飲む。

 

(もしくは、初めからって可能性も考えとくか)

 

 あまり考えたくはないが、メイが最初から木ノ葉へのスパイだった可能性も視野に入れる。

 だとしても、このタイミングで行動を移す理由は不明だが。

 ナルトはヒヒから体を離して禅を組んだ。

 自然のエネルギーを取り込み、仙術を使用して広がる感知能力でメイのチャクラを探そうとする

 

 しかし、その行為は彼の中に居る尾獣、九喇嘛によって止められる。

 

『止めておけ、ナルト』

 

「九喇嘛。わりいけど、今は話してる暇はねぇんだってばよ」

 

『バカが! 冷静になれと言っている! チャクラの流れを乱されたそんな状態で自然エネルギーを取り込めば、あっという間に石蛙だぞ!』

 

「……」

 

 九喇嘛の忠告にナルトは無言で唇を噛む。

 かつて、綱手を五代目火影として迎え入れに行った際に大蛇丸との戦いで何故彼が仙人モードに成らなかったのか。

 自然エネルギーを取り込む時間や口寄せの行う隙もあったのだろうが、それ以前に綱手の薬でチャクラコントロールを乱された状態では、仙人になることが不可能だったからだ。

 ナルトは既に師である自来也を越える仙人ではあるが、それでも薬の影響が有るいま、仙術チャクラを練れば蛙化は免れまい。

 悔しそうに顔を歪めるナルトに九喇嘛が鬱陶しそうに助言する。

 

『だから冷静になれと言っている。あの小娘を探すなら、ここにもう1人感知タイプが居るだろう? 白眼の保有者がな』

 

 九喇嘛の言葉にナルトはハッとなった。

 自分で見つけなければならないと教え子の能力を失念していた。

 

(九喇嘛に指摘されるまで気づかねぇなんて、情けねぇってばよ)

 

 どうやら本当に冷静さを欠いていたらしい。

 立ち上がり、ナルトはコムギに指示を出す。

 

「コムギ。白眼で村にあるメイの足跡を探せ。そこからあいつを探すぞ」

 

「は、はい!」

 

 指示を出され、コムギは白眼で辺りを見渡す。

 広範囲に広がる視界からコムギは手掛かりを見落とさないように捜す。

 

「あ」

 

「何か見つけたのか、コムギ」

 

「うん。外に向かって行く足跡。草履の大きさからもたぶんメイちゃんのだと思う」

 

「よし! ならすぐにアイツを連れ戻しに────」

 

 行くぞ! と続けようとするとコムギがなにあれ! と怯えるような声を出した。

 

「どうした!」

 

「外から、武装した人達が村に向かって来てるんです! 数は、50────ううん! 70はいるかも!」

 

「なっ!?」

 

 驚きの声を上げると今回の依頼主が駆け寄って来る。

 

「木ノ葉の皆さん! 村の外に怪しい一団が!?」

 

「分かってる! 依頼のついでだ! オレらでなんとかしてみせるってばよ」

 

「でもよ! メイはどうするんだよ、ナルト先生!」

 

 ヒヒの疑問に答えず、ナルトは親指を歯で噛みきり、術を発動させる。

 

「口寄せの術!」

 

 現れたのは、人の肩に乗れそうな小さな蛙だった。

 

「久しぶりだな、ガマ竜」

 

「どうしたの? ナルト兄ちゃん。ガマ吉兄ちゃんじゃなくてボクに用?」

 

 それは、ナルトの相棒ガマと言うべきガマ吉の弟であるガマ竜だった。兄と違い、未だに大きくならず、大人しい蛙だ。

 

「お前たちはガマ竜と一緒にメイを追え。ただし、危険だと感じたらすぐに戻って来い。ガマ竜はもし、こいつらじゃ逃げることも出来ない事態に陥ったらオレを口寄せして欲しいんだってばよ」

 

 ガマ竜をヒヒの肩に乗せる。

 相棒のガマ吉では身体が大きすぎて村に被害が出る可能性がある。

 ナルトが外の敵を相手にしている間、影分身に村の人達を守らせたい。

 チャクラコントロールを乱された今ではそう多くの影分身を長時間維持するのは難しい。

 ナルトは生徒2人の頭に手を置いた。

 

「この事態はどう考えても普通じゃねぇ。オレは村の人達を守る。だからお前たちがメイを連れ戻すんだ。いいな?」

 

「ナルト先生……」

 

 真っ直ぐ見つめてくるナルトにコムギは緊張から身体が強張る。逆にヒヒは強く頷いた。

 

「任せろ、ナルト先生! メイの奴をすぐに連れ戻して謝らせてやんぜ!」

 

「頼むな! ガマ竜もだ」

 

「うん! 任せてよ!」

 

「行け!」

 

 ナルトの合図に生徒2人はその場から消えた。

 そしてナルトも村に近づいてくる一団の方へと向き、十字の印を結ぶ。

 チャクラを乱され、身体も痺れて動きが鈍っている。

 若干視界もブレて動悸も激しい。

 

 だが、言ってしまえばそれだけだ。

 

(このくらいの状況で音を上げるなら、オレはあの大戦を乗り越えられやしなかったぜ)

 

 これくらい、任務を完了する障害にもなりはしない。さっさと片付けて、教え子を追うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パンッと、頬を張られてメイは地面に身体を倒した。

 

「まったく。ダメな子だよ、お前は。折角渡した毒薬を使わずに戻って来るなんて」

 

「……」

 

 落胆する声にメイは張られた頬を押さえて顔 父の顔を見上げる。

 そこには記憶にはない明らかな失望の表情をする父の顔があった。

 

 メイは渡された毒薬を使わずに自身が調合し、持ってきていた薬をナルトの水に混ぜて飲ませた。

 ナルトに全てを話せば、父は即座に捕らえられてしまうと思ったメイは、自身の言葉で父を説得するための時間を求めた。

 

「お父さん。こんなことは止めて、木ノ葉に帰ろう。訳が有るならきっと、里の人達は分かってくれる」

 

 どうにか、父を説得使用とするメイにその兄であるコウがくつくつと嗤う。

 

「セイ。どうやら、木ノ葉に置いてきたお前の娘は失敗のようだぜ」

 

「その様ですね。岩隠れに仕込んでいた子は従順だったので上手くいくと思ったのですが。これからどうしますか?」

 

「オレは、村の方に行く。英雄、うすまきナルトの首だ。個人的に興味もある。下っぱを全滅させる訳にはいかねぇしな」

 

 兄の言葉にセイはやれやれと頭を押さえた。

 

「それと、そのガキは失敗だ。ちゃんと始末を着けろよ」

 

「えぇ。分かってますよ」

 

 言うや、コウはその場から煙と共に消えた。

 

「お父さん……」

 

 メイには、もしかしたらあの男に父が操られているのではないかという疑惑があった。だから、離れた今なら、話を聞いてくれるのではないかという僅かな希望。

 しかしそれはあまりにも儚い、妄想だった。

 

「本当に、お前は役に立たない駒だったよ。もう必要ないね」

 

 セイの手にはクナイが握られ、殺気が向けられる。

 それだけで、メイの身体が萎縮して動けなくなった。

 握られたクナイが振り下ろされようとする。

 恐怖で動けない筈なのに、頭は現実逃避か、余計なことが過る。

 

(ナルト先生やヒヒとコムギも、怒ってるよね)

 

 理由はどうあれ、皆を裏切るような行動を取ってしまった。今更に後悔が沸き上がる。

 

(せめて、一言謝りたかったなぁ)

 

 近づいてくる死に目蓋を下ろす。

 もうすぐ、自分は実父の手で殺されようとしているのだ。

 

 そこでカキンッと金属音が鳴った。

 

「え?」

 

 地面に落ちたそれは、彼女の仲間が好んで使うコインだった。

 それがセイのクナイに当たり、弾き落とす。

 続いてメイの上を影が一瞬覆った。

 

「ハッ!」

 

 メイを跳び越えたコムギが柔拳の掌打をセイに向ける。

 だがその攻撃はあっさりと避けられた。

 着地と同時にメイを守るように前に立ち、柔拳を構えるコムギ。

 

「メイちゃん大丈夫!?」

 

「たくっ! なにやってんだよお前は!」

 

 後ろからやって来たヒヒも、忍具を手にして構えていた。

 

「どうして……?」

 

 2人がここにいるのか、メイには理解出来なかった。

 

「ナルト先生がメイを連れ戻せって!」

 

「戻ったら拳骨じゃ済まねぇぞ、きっと!」

 

 目前の敵への警戒を怠らずに簡潔に説明する。

 それにセイは息を吐いた。

 

「やれやれ。久々の親子の会話に割って入るなんて、不躾な子達だよ」

 

「何が親子だ! 訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ、おっさん!」

 

「メイちゃんを、傷付けようとした癖に……」

 

 敵意を剥き出しにする2人。

 セイは小バカにするように三味線を構えた。

 

「口の悪い子達だ。これは、本格的にお仕置きが必要なようだね」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべてセイは三味線の弦を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ガマ竜。第一部綱手編でナルトが口寄せした蛙です。

メイの父は上忍レベルだと思ってください。


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