やはり俺達のボーダーでの生活はまちがっている。 (シェイド)
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始まり
プロローグ①


今作品の設定

・八幡と小町の両親黒トリガー化。
・黒トリガーは二つとも第一次近界民侵攻の際の敵国の手元に
・最初から強すぎる、とかA級1位、とかない。
・奉仕部は中学の話。すべてが一世代下がる形に(夏を除く)
・八幡、最初仕事大好き人間、というかワーカーホリックだろこれ。
・時系列が半年遅くなってる。しかしこれ以降はワルトリ原作と変わらずに進む。
・俺ガイル勢が加わることによるランキングの変化有り。が、極端には変わらない。(攻撃手1位、とか射手1位、とかない)

……今のところこれくらいですかね。


青春とは嘘であり、悪である。

青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。

自ら取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。

何か致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。

例を挙げよう。彼らは万引きや集団暴走という犯罪行為に手を染めてはそれを「若気の至り」と呼ぶ。

試験で赤点を取れば、学校は勉強するためだけの場所ではないと言い出す。

彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も社会理念も捻じ曲げてみせる。彼らにかかれば嘘も秘密も、罪科も失敗さえも青春のスパイスでしかないのだ。

そしては彼らはその悪に、その失敗に特別性を見出す。

自分たちの失敗は遍く青春の一部分であるが、他者の失敗は青春でなくただの失敗にして敗北であると断じるのだ。

仮に失敗することが青春の証であるのなら、友達作りに失敗した人間もまた青春ど真ん中でなければおかしいではないか。しかし、彼らはそれを認めないだろう。

なんのことはない。すべて彼らのご都合主義でしかない。

なら、それは欺瞞だろう。嘘も欺瞞も秘密も許術も糾弾されるべきだ。

彼らは悪だ。

ということは、逆説的に青春を謳歌していない者の方が正しく真の正義である。

結論を言おう。

リア充爆発しろ。

 

「なぁ、比企谷。私が授業で出した課題は何だったかな?」

 

「……はぁ、『中学生活を振り返って』というテーマの作文でしたが」

 

「そうだな。それでなぜ君は犯行声明を書き上げている?新手のテロリストなのか?それともバカなのか?」

 

「少なくともテロリストではないです」

 

「君の目はあれだな、腐った魚の目のようだな」

 

「そんなにDHA豊富そうに見えますか。賢そうっすね」

 

「……はぁ。君は捻くれているな」

 

「そうですか?」

 

「……君は部活やっていなかったよな?」

 

「はい」

 

「よし、ではこうしよう。まずはこの舐めた作文はやり直しだ。書き直せ」

 

「……はい」

 

「それと、この作文の内容や君の言動から罰を与える。その罰とは奉仕活動だ」

 

「え」

 

 俺はこの後、人生の分岐点とも呼べるであろう奉仕部に入部させられ、雪ノ下雪乃と出会い、奉仕部として色々な活動を行い、色々な人の感情を知った。

 その中でも最初の依頼者でその後部員となった由比ヶ浜結衣や、修学旅行後の重苦しい空気の中で生徒会選挙の依頼をしてきた一色いろは。彼女たちと出会い、日々を過ごすことは小学校の俺からしたら想像もできないだろう。

 こんな生活も悪くない……と思っていた時だ。

 《近界民》による第一次近界民侵攻が起こったのは。

 

 

***

 

 

 俺の両親は現在ある界境防衛機関、通称《ボーダー》の前の組織、所謂旧ボーダーに属していた。

 そんなこともあれば、幼いとはいえ中学に上がってから俺もその人たちと顔を合わせ、トリガー技術による戦闘などを教わったりしていたものだ。

 

 そしてあの運命の日。

 

 俺は小町とともに自宅にいて、両親は旧ボーダー組織のところに行っていた。

 昼を過ぎたごろ、三門市内全域に異世界からの扉が開いた。

 そこから《近界民》が飛び出し、縦横無尽に暴れまわった。

 俺と小町はいち早く家を飛び出したおかげで怪我を負わずに済んだものの、家は《近界民》の踏みつけによってぺしゃんこになってしまった。

 俺はすでにトリガーをもらっていたため、小町をボーダーの組織が作った避難所に連れて行き、戦闘に参戦した。

 まだまだ立派とは呼べない戦いだったが、バンダーやバムスターを少しずつ撃破していた時だ。

 目の前にナニカが勢いよく地面に衝突し、俺はその余韻で吹き飛ばされた。

 すぐさま顔を上げると、ボロボロになった両親と一人の男がいた。

 

「親父、お袋!」

 

「八幡!?」

 

「きちゃダメ!!逃げなさい!!」

 

「お前、何しやがった!!?」

 

 無我夢中でアステロイドを謎の男に向けて放つ、が、男は全く意に返していないようでガードしながら笑っている。

 

「あれは君たちの子供かな?良いトリオン量だ。連れて帰ったら有益な存在になりそうだ」

 

 男はそう言うと一瞬にして俺の目の前に現れ、右腕で俺の腹をつこうとした。

 全く反応できずに俺は攻撃をくらうところだったのだが……

 

「ぐっ!!」

 

「ああっ!」

 

 親父とお袋が俺を庇ったのだ。

 

「……やはりどの国でも子を思う親は強いな。だがもう、限界のはずだが」

 

「どうやらお前の言うとおりらしいな、ぐっ……」

 

「……八幡。あなたを放置して小町ばかり可愛がってごめんなさい。あなたは一人でもなんでもできるからと、ちょっと放置し過ぎていたわ……」

 

「急に、なに、言ってんだよ……?」

 

「すまなかったな……最後の頼みを聞いてくれ。今すぐ逃げろ!小町の元に走れ!!」

 

「なんで、なんで親父、お袋!死ぬんじゃねえよ、おい、おい待てよ、待ってくれよ……」

 

「少し待ってろ、死ぬんじゃねえよ。ずっと一緒だ」

 

 そう言って両親は自分たちのトリオンと全生命を注ぎ込み二つの黒トリガーとなった。

 

「親父!?お袋!?あ………あ、あぁ、なんで、なんで!?なんでこうなるんだよ!?」

 

「………黒トリガーが二つですか。これさえあればこれ以上の侵略は必要ないでしょう。もらっておくぞ」

 

「おい、返せ……それを返せよ!!」

 

「少年、一つ教えてあげよう。ほとんど、この世の不利益はその当人の能力不足だ。君が弱かったから両親は死んだんだよ。ま、その両親が救ってくれた命を大事に生きろよ、くくっ」

 

 そう言い残し、男は目の前からまたしても一瞬で消え去った。

 その時俺の中にあったのは弱すぎる自分自身に対する怒りと、両親がいなくなったことに対する悲しみだけだった。

 

 

***

 

 

 近界民による初めての大規模な侵攻は2日に及び、東三門地区が壊滅。死者1200人以上、行方不明者400人以上の被害が生じて幕を下ろした。

 そんな中、界境防衛機関「ボーダー」が、三門市内に現れた近界民を撃退して、組織の存在が世間一般に認知された。

 ボーダーはすぐさま巨大なボーダー本部を作り上げ、近界民に対する対策や、防衛隊員の募集をし始めた。

 俺は旧ボーダーからいたため、そのまま組織に所属した。

 城戸さんや忍田さん、林藤さんに両親が黒トリガーと化したこと、二つとも敵に奪われてしまったこと。家が壊され、財産もすべて揉み消されてしまったことを話した。

 すると、本部基地の中の部屋を自宅代わりに使っていいと言われ、小町とともに暮らし始めた。

 小町は最初、両親が亡くなったことを知った際ショックで気絶してしまい、半年くらい病院に入院していた。

 その間、俺は小町のお見舞いを毎日行きつつ、まだ体制が整っていない中で唯一しっかりとしてある防衛任務をこなしていった。

 見舞い以外の時間をほとんど費やしたことで生活していくことはできるだろうぐらいのお金が手に入ったが、小町の中学校入学を考えると余裕があるとは言えなかった。

 

 学校が始まってもその生活は変わらなかった。

 奉仕部にも行かず、遅く学校に来て終われば即帰宅→小町のお見舞い→防衛任務と毎日を過ごす。

 周りに色々言われていたような気もするがまったく耳に入らずこの生活を半年以上続けた。

 半年経ったことで小町が回復し、学校に行きだして以前と同じように振る舞い始めていた頃だっただろうか。

 ある日の防衛任務で警戒区域外に向かおうとする近界民を追い、弧月で近界民を倒した時のことだ。

 その近くに三人の一般人がいたのだ。

 その三人とはーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ようやく見つけたわ、比企谷君」

 

「ヒッキー……」

 

「先輩……」

 

「お前ら……」

 

 約半年前まで日常のすべてといっても過言ではない奉仕部と生徒会長一色いろはだった。




毎日一話、多分途中でぱったり止むかもですが……。


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プロローグ②

正直今作品は作者の独特の思想やら捉え方やらなにやらが加わっているため読む人によっては不快になるかもしれません。

分からないけど。


 俺は防衛任務を終了し、始末書類を作成してからボーダー本部を後にする。

 目指すは学生の強い味方であるサイゼリアだ。

 何故かと問われれば先程の三人に呼び出された、としか言いようがない。

 トリガーの換装体を解き、私服の上着の内ポケットからMAXコーヒーを取り出し体内に糖分を摂取する。

 昔から好きだったが、このところ毎日が忙しいため頭を使いすぎており、糖分を大量に摂取できるマッカンを、俺は重宝していた。

 ちなみに新たな家となったボーダーの中にある家の冷蔵庫にはすでに箱で入っている。

 サイゼに入ると、由比ヶ浜が手を上げていたため、4人が座っている席に向かう。

 ん?4人いる?

 

「って、小町……」

 

「お兄ちゃん……」

 

 席には雪ノ下、由比ヶ浜、一色に加え、なんと小町までいた。

 小町とはここ2ヶ月ぐらい、ろくに会話をしていない。

 理由としては俺が仕事を入れまくっていることと、小町が一度寂しくて俺が新トリガー開発の手伝いをしている場所まで来て、邪魔をしてきた時に大声で怒鳴ってしまったことが原因で気まずいのだ。

 しかし、座れる場所が小町の横しか空いていないので、一色と小町が座っているサイドの座席に座る。

 少しだけ無言の時間があった後最初に口を開いたのは雪ノ下だった。

 

「あなた……ここ半年以上ろくに顔すら見ないと思ったら……ボーダー隊員になっていたのね」

 

「正確には元からボーダー隊員だがな」

 

「そんなことはどうでもいいの!なんで私たちに隠してたの、ヒッキー!」

 

 由比ヶ浜が怒ったように言う。

 ……意味がわからない、なんでお前が怒るんだよ。関係ないだろうが。

 

「別に隠してない。ただ、防衛任務やらなにやらで忙しかっただけだ。話は終わりか?」

 

「ちょ、待ってくださいよ先輩!こんな可愛い後輩を置いてどこにいくんですか!?」

 

「書類整理、戦闘訓練」

 

「あなたが働いているなんて嘘も大概に……いえ、先ほど働いていたものね」

 

「……ああ」

 

「ヒッキーが働くなんて……」

 

 確かに約半年前の俺からしたらありえないくらい働いているんだろうな。ま、今ではこれくらいが普通で、むしろ今日は防衛任務しかしてないため少ないくらいだ。

 なんだ?こんなくだらない話をするために俺を呼んだのか?

 時間の無駄でしかない。とっとと帰るかな。

 

「じゃ、話は終わりでいいよな?」

 

 俺はそう言い、席を立つ。が、左手をガシッと掴まれる。

 

「ま、待って!まだ話は終わってないよ!」

 

「……じゃあ早くしてくれないか?俺は忙しいんだ」

 

「なんで……なんで……」

 

「あん?」

 

「なんで私たちのこと避けてるし!」

 

 ……ぶちっ。

 由比ヶ浜の一言で俺の中のなにかが切れた音がした。

 ……なんだ、なんなんだ、お前らは一体何がしたいんだよ?

 

「じゃあ、あれか?お前が俺の代わりに俺たちの生活費を稼いでくれるのかよ?」

 

 自分でも驚くほどに低い、威圧する声が出た。

 

「ヒッ、キー?」

 

 由比ヶ浜も普段の俺とは違う威圧的な声に怯えている様子だ。

 すると、由比ヶ浜に代わって雪ノ下が話し始める。

 

「比企谷君……あなたのご両親が亡くなったこと、そしてそれに伴って生活費や学校の教材費なんかのお金が必要なことを小町さんから聞いたわ」

 

「ごめんねお兄ちゃん……小町は何もしてなくて、ただ寂しがって。お兄ちゃんばかりが時間を使って、ボロボロになって」

 

「何言って……ッ!」

 

 何言ってるんだ、と言おうと小町を見ると目から涙を流していた。

 小町は小町なりに今の状況、自分たちの状況を確認して、俺が仕事をすることが生きていくには必要なことに気づいていた。

 小町自身も1人の時間が多くて寂しかったのだ。

 それなのに、俺を心配してくれていたのだ。

 

「………ごめんな、小町。兄ちゃん、周りが見えてなかった」

 

 ここ最近は何を食べたかすら覚えていないほど無為に1日を1日を過ごしていた。

 これじゃあ、まるで機械だ。

 

「ううん、小町も勝手に雪乃さんたちに話しちゃったから。ごめんなさい」

 

 こうしてお互いに謝罪し、最近全く話さなくなっていた小町との間は元に戻った、と思う。

 しかし、まだ根本的なことは解決していない。

 そう、俺たちの生活費……お金のことである。

 そのことについて小町と話そうとした時、一色が立ち上がった。

 

「なんだ、どうしたんだ一色」

 

「雪乃先輩、やっぱりあの案がいいですよ!」

 

 あの案だ?

 

「ええ。小町さんとの仲も戻ったようだからこの際提案するわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私たちもボーダーに入ろうと思うの」

 

 え?は??

 

「は?」

 

 おっと、突然のことで頭がパンクしそうだった。おい、文脈が意味不明すぎるぞ。なんで俺と小町が仲直りしたらお前らがボーダーに入ることになるんだよ。

 

「なんで、お前らがボーダーに入ることになるんだ?」

 

「今の比企谷君はB級個人の隊員。防衛任務でしか給料を受け取れず、防衛任務は出来高払いとその日その日で収入は異なる。そうでしょう?」

 

「雪ノ下……なぜその事を知ってる」

 

「雪ノ下建設がボーダーのスポンサーについているからその時の説明の中にあったのよ」

 

「じゃ、じゃあお前らが入る理由ってのは……」

 

「比企谷君。私たちとチームを組んで、A級になりましょう。そうすれば出来高払いに固定給がついて、生活が安定すると思うわ」

 

 やはり、か。

 ボーダーは本部を作り上げた後半年間の間で様々な制度を作っていたが、その中にランク制というものが存在する。

 ランクは精鋭のA級、一般戦闘員のB級、見習いのC級で、黒トリガーを持つ人は規格外としてS級扱いになりこのランク制ピラミッドの外に分類される。

 B級からA級に上がるためにはチームとして昇格試験に合格しなければならないため、現在A級部隊は狙撃手として最初の隊員である東さん率いる東隊しかおらず、B級個人やB級部隊である。

 たしかに良い話ではある、が。

 

「断る」

 

「!?」

 

「な、なんでですか?!」

 

「わざわざお前らが俺のためにボーダーに縛られる必要はないだろ。それにトリオン兵には恐怖しか湧かないんじゃないか?家を壊されたりしなかったとしてもあの化け物共が何をしたかは目にしただろうが。そんな相手と戦闘なんてできるのか?」

 

「……お兄ちゃん……」

 

「……俺たちの生活を気遣ってくれるのは嬉しい。だがそこまでしてもらう必要はない。要は俺がこの生活を続けていけば問題はないんだしな」

 

 そう言って出された水を飲む。

 こいつらは善意で言ってくれているのだろう。伊達に半年前まで一緒に過ごしてきたわけじゃない。

 だが、わざわざボーダーに入ってまで俺に付き合う必要はない。

 こいつらには、こいつらの時間があり、将来があるのだから。

 静かになり誰も話さなかったので見回すと、小町はこっちを見ていて三人は俯いていた。

 ありがたいことだったが施しは受けないようにしているからな。さてさてせっかくサイゼに来たんだし、ミラノ風ドリアと辛口チキン、ドリンクバーでも頼もうかね……。

 と、俺がメニューを頼もうとしていた時だった。

 

 

バンッ!

 

 

 由比ヶ浜がテーブルを叩きながら立ち上がった。

 

「少しはさ、私たちを頼ってよヒッキー……!」

 

「由比ヶ浜、俺は別に「ヒッキーが私たちの時間を自分のために使うことをやめてほしいってのはわかった!でも、私たちだってヒッキー助けたいの!」

 

「今までは一人で抱え込むしかなかったとしても、今は違うでしょう?私たちがいるわ」

 

「先輩……そんなに、私たちは頼りないですか?」

 

「お前ら……」

 

 …………ああ、そうか。

 ……そう、だよな。

 俺は何でもかんでも一人でやろうとしていたのだろう。一人でやるべきことだと思っていた。

 それは間違いではないだろう。だけども正解でもないのかもしれない。

 困った時は周りの人に頼る。人が当たり前のようにしていることが、俺にはできていなかったのだ。

 これじゃあ、雪ノ下のことなんも言えねえな……。

 

「……本当にいいんだな?」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

「そうか……なら、よろしくな」

 

 こうして第一次近界民侵攻から約半年。

 雪ノ下たちがボーダーに入隊することが決まった。

 

 

***

 

 

「じゃ、解散だな。小町、今日はここで晩御飯食べて帰ろうぜ」

 

「わかった!」

 

「あ、じゃあ私も食べて帰る!」

 

「私もです!」

 

「私も食べて帰るわ。だから比企谷君。食事の間ボーダーについて詳しく教えて欲してちょうだい」

 

「了解」

 

 結局全員で食事を注文し、ボーダーについて話し合うことにした。

 さすがに四人席に五人は多いので先に俺と雪ノ下と由比ヶ浜、小町と一色で別れ、大体のことは俺と雪ノ下で話すことにした。

 ひとまずランク戦の仕組みを伝え、それぞれのポジション決め(仮定)をすることに。

 話終わりぐらいに料理が運ばれてきたので食べ始める。

 その中俺の話を聞きながら考えていたであろう雪ノ下が話し始める。

 

「……なるほど。つまりはランク戦でどのくらい勝ち進んでいけるかが昇格のための条件ね」

 

「ああ。それに、昇格試験の内容がわからないからな。簡単には上がれないはずだ」

 

「まだA級部隊が一つだけなのだから少なくとも簡単ではないはずよね……それで?あなたの中に計画はあるのかしら?」

 

「……そうだな。まずは半年程度……次の夏休みくらいまでと考えているが、その間に力をつける。俺たちはもうすぐ中三に上がるし、小町が中学入学するからな。ゴタゴタするだろうし、毎日毎日訓練するわけにもいかないしな」

 

「いいんじゃないかしら。私は賛成よ」

 

「よし、お前がオッケーなら他もオッケーだ」

 

「結衣先輩はともかく私もですか!?」

 

「ちょっといろはちゃん、それどういう意味!?」

 

 由比ヶ浜と一色が何か騒いでいるが無視である。

 

「それで、肝心のポジションなんだが……こればっかりは適正もあったりするし、初めはセンスがモノを言うだろう。まあ、最初からある程度の目安をつけておくことぐらいはできるか」

 

「比企谷君はどのポジションなのかしら?」

 

「俺は攻撃手と射手を合わせた万能手ってポジション。あんまり弧月……剣の腕はすごくはないが、今また別のトリガーの練習をしているからなんとも言えないな」

 

「トリガーにはどんなものが……」

 

 その後もトリガーの武器の種類や、ポジションの説明をしていく。

 結果、とりあえずとしてポジションを決定した。

 

 雪ノ下:攻撃手

 由比ヶ浜:射手

 一色:狙撃手

 小町:オペレーター

 

 本人たちの希望なども合わせているためトリガーの適正に合わないかもしれないが、一応このスタイルで行くことにした。

 さぁて、みんなが基礎からやるなら俺もスコーピオンを使いこなせるようになるか……。

 ここから、俺たちのまちがったボーダー生活が幕を開けたのだった。

 




うーん、最後雑すぎましたかね?
反省しています。

現段階での八幡のプロフィールです。

比企谷八幡
14歳
中学生
8月8日生まれ
ペンギン座
A型

トリオン9
攻撃8
防御・援護7
機動5
技術6
射程5
指揮2
特殊戦術1

トータル43

サイドエフェクト:脳機関一部強化

脳全体強化、とかいうものではなく戦闘中に思考可能な平行思考能力や人よりも頭の回転が少し早くなるくらいのもの。
そのため数学の成績は赤点回避ぐらいまでしか上がっていない。

メイン:孤月、旋空、シールド、フリー
サブ:アステロイド、バイパー、シールド、バッグワーム

まだまだ序盤なのでこのくらいで。

このあとの流れとしては
・このまま入隊からB級部隊結成、A級へ
・時系列を高2の四月に飛ばす

のどれかですかねえ。
まあすべては私のその時の気分で決めようかと思います。
では、また次の話でお会いしましょう。


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ボーダー入隊日

シェイドです。
最近、勉強がつらくなり現実逃避気味にスマホからこの小説を打ち込んでいる次第です。
なのでちょっとクオリティが下がるとは思いますが、毎日一話。これは徹底したい(受験勉強本格化してスマホ没収の時まで)。

ではどうぞ。


 三門市。人口28万人の街。

 ある日この街に異世界からの門が開いた。

 『近界民』

 後にそう呼ばれる異次元からの侵略者が門付近の地域を蹂躙。

 街は瞬く間に恐怖に包まれた。

 ()()()の世界とは異なる技術を持つ近界民には地球上の兵器は効果が薄く、誰もが都市の壊滅は時間の問題と思いはじめた、その時。

 突如現れた謎の一団が、近界民を撃退しこう言った。

 

「こいつらのことは任せてほしい」

「我々はこの日のためにずっと備えてきた」

 

 近界民の技術を独自に研究し、「こちら側」の世界を守るために戦う組織。

 界境防衛機関『ボーダー』

 彼らはわずかな期間で巨大な基地を作り上げ、近界民に対する防衛体制を整えた。

 そして、その近界民による大規模侵攻から約半年。

 ボーダーは防衛隊員を欲していた。

 表立つ前から人がいたと言っても数十人という小さな規模。もしも、また同じような大規模侵攻が起きれば次は全滅だってありえる。その時までに民間の被害者がゼロになるように備えられる、戦える人員が足りていないためだ。

 訓練施設や階級制度、防衛任務の回し方にランク戦など、さまざまなルールを作ってきたボーダーではあるが、いかんせん人がいなければルールなど意味をなさないのだ。

 そして今日。

 ボーダーは第三回目の新米隊員の入隊日を迎えていた。

 

 

***

 

 

 入隊日に特別にすることと言えばオリエンテーションのみ。

 すでに所属隊員となっている俺に参加義務はないが雪ノ下達が参加するため付き添いという形でボーダー内の体育館にいた。

 特に雪ノ下は方向音痴が酷すぎるのはすでに今までの付き合いでわかっていることだ。全く同じような道に見えるボーダー基地内では付き添いがいなければ迷ってしまうだろうとの懸念も踏まえている。

 

「……なにか私に対して不愉快なことを考えなかったかしら?」

 

「……ねーよ」

 

 ……怖いわ!なんでわかるんだよ……そういうサイドエフェクト持ちとかいないよね?いたら鬼畜にもほどがあるだろ。

 しばらく四人で談笑していると、ステージに明かりがつき始める。どうやら始まりのようだ。

 新規隊員がステージに注目していると、ステージ横から忍田本部長が現れ挨拶を始めた。

 

「私はボーダー本部長忍田真史だ。君たちの入隊を歓迎する。君たちは本日C級隊員……つまり訓練生として入隊するが、三門市の、そして人類の未来は君たちの双肩に掛かっている。日々研鑽し正隊員を目指してほしい。君たちとともに戦える日を待っている」

 

 そう言い切り、忍田本部長は敬礼の格好をとった。

 それを機に周りの新米隊員からは拍手が送られる。

 拍手が鳴り終わると、忍田本部長は話を続ける。

 

「さて、このあとはオリエンテーションとなるわけだが、スナイパー希望の訓練生は君たちの後ろにいる東隊員について行ってくれ。スナイパーはアタッカーやガンナーとは違う形式の訓練を行っているため訓練場所も別になっている」

 

 後ろを見ると最初のスナイパーで現No.1スナイパーの東春秋さんがいた。

 

「おお、比企谷じゃないか。どうしたんだこんなところで」

 

「東さんこんにちは。俺は彼女らの付き添いですよ」

 

「そうなのか。ということは彼女らと隊を組むのかい?」

 

 この人は相変わらず鋭い。すぐに推測してくるあたりが頭の回転が早い証明だろう。

 

「はい。ちょっと色々あったんで……」

 

「……なら楽しみにしているよ。早く上がって俺たちとランク戦しようじゃないか」

 

「もちろんです。んじゃ、一色、お前は東さんについていけ」

 

「了解です!」

 

 わざわざかしこまポーズでウインクしてくる一色。相変わらずあざとい。

 というか待って、かしこまポーズって小町の十八番みたいなものじゃなかったっけ?

 俺が変なことに思考を巡らせている間に少し話が進んだようだ。

 

「君たちは訓練生だ。B級に昇格して正隊員にならなければ防衛任務には就けない。じゃあどうすれば正隊員になれるのかを説明しよう」

 

 忍田さんの言葉に合わせて壇上の天井からモニターが降りてきた。

 

「各自、自分の左手の甲を見てくれ」

 

 忍田さんの言葉に合わせて雪ノ下達も自分の手の甲を見る。俺もつられて見ると6084と示されていた。 ……雪ノ下達にランク戦のこと話したって馬鹿正直に幹部会議後に言っちゃったからな……5000くらい引かれたんだっけか。

 

「君たちが今起動させているトリガーホルダーには各自の適正に合わせた戦闘用トリガーがひとつだけ入っている。その左手の数字は君たちがどれくらいトリガーを使いこなしているかを表す数字と思ってくれ。そして、その数字を4000まで上げることがB級昇格の条件だ」

 

 もちろん雪ノ下、由比ヶ浜、一色は全員1000。他の隊員達も同様に1000だ。

 

「ポイントを上げる方法は二つ。一つは週二回行なっている訓練生だけの合同訓練でいい結果を残すこと。もう一つは個人のランク戦でポイントを奪い合うかだ。では、これにてオリエンテーションを終了する。みんなが正隊員になり活躍することを願っている。頑張ってくれ」

 

 忍田本部長がそう言ってオリエンテーションは終了となった。オリエンテーションが終わるとまず最初の合同訓練が始まる。ボーダーに勤めている一般の職員が先導して訓練室に行くようだ。

 流石にそこまではついていけないため、三人と別れた俺は個人ランク戦のブースに向かった。

 防衛任務は14時からで、今は11時。だいぶ暇だ。

 

「誰かいないもんかね……」

 

 正直柿崎さんや嵐山さんを別とすれば新しくB級隊員になったやつに興味はない。どうせ戦っても勝つ、というか勝たないとダメなんだが、最悪そいつの心を折ることにつながりかねず、それはボーダーの戦力ダウンにもつながる。なのである程度の実力を持つ俺は相手も選ばなければならないのである。

 ……なんか俺って強いんじゃね?とか思ってしまうがそんなことはない。敵わない人だって割といる。例えば……。

 

「ん?比企谷じゃねーか。暇か?よし暇だな。ランク戦するぞ!」

 

 この人とかな。

 太刀川慶。

 高校一年の先輩で半年前のボーダーができたばっかりの頃に入隊してきた人で、先ほどの忍田本部長の弟子である。ちなみに俺も弟子と言えば弟子。全然習ってないし最近は書類整理とかでしか接点がないが。

 忍田本部長は俺の両親よりも前から旧ボーダーで活動を続けてきており、黒トリガーを除いたボーダーのトリガー使いとしては最強に位置している人だ。何度も戦ったことがあるがまだ数本しかとったことがない。それもまぐれがほとんど。まともにとれたのは一つぐらいだろうか。

 そんな俺に比べ太刀川さんはすでに数十本はとっている。そりゃまあ自分から弟子入りして数え切れないほど戦っているのもあるが、戦闘センスがズバ抜けている。

 

「いいっすよ。本当に暇なんで」

 

「よし、じゃあ俺は101に入るからな」

 

「俺は103ですね」

 

 ランク戦のブースに入り、対戦相手の中から孤月:13685を選び、申請する。

 承諾の意が画面に表示され、転送が開始される。

 ステージは市街地A、10本勝負だ。

 

 

***

 

 

 あまり距離が離れていなかったためお互い視認できる位置まですぐに近づいた。

 

「よっしゃ、一丁斬りあおうぜ!!」

 

「はあっ!!」

 

 お互いの弧月がぶつかり合い軽く火花を散らしたかと思えば、太刀川さんは俺の弧月を抑え込みにかかる。力と剣の技術では完全に差があるためこのままでは不利だ。

 

「アステロイド!」

 

「おっと」

 

 一旦距離を取るために通常弾のアステロイドを放ち太刀川さんから離れる。

 弾の着弾で煙が起きて太刀川さんの姿が見えないためレーダー頼りで位置を確認しつつ距離を取る。

 通常弾とは言えども当たればトリオン体を蜂の巣にできる威力があり、かなり至近距離であったが、どうやら太刀川さんはシールドを展開していたらしく、右肩から少しだけトリオンが漏れ出しているだけで大したダメージは与えられていなかった。

 まあ、最初の目的である離れることができたのだから良しとしよう。

 

「相変わらず判断が早いな。サイドエフェクトのおかげか?」

 

「それでもダメージ全然与えられませんけど」

 

「そりゃあ、この程度ならな。お前だって同じ状況なら俺と変わらないだろ?」

 

「……それもそうですが」

 

 この程度で終わりならボーダー隊員を続けていくのは厳しいものがあるだろう。近界民とは違い対人戦だとは言っても戦闘に変わりはないのだから。

 

「んじゃ続きと行くぞ!」

 

 そう言って太刀川さんは弧月を光らせてこちらに遠隔斬撃を放ってくる。

 旋空だ。

 弧月のオプショントリガーで瞬間的に攻撃を拡張するトリガー。

 太刀川さんの旋空は正直頭おかしい威力をしており、一度距離を誤り回避が遅れれば即真っ二つになってしまうのだ。何それ怖い。

 なんとか旋空を回避して距離を詰める。

 

「バイパー」

 

 俺が変化弾で四方八方から攻撃を仕掛けるもシールドで防ぎながら近づいてくる太刀川さん。

 

「旋空弧月」

 

 さすがにバイパーではどうすることもできず旋空を放つ、が、全く同じ軌道に旋空を撃たれ俺の旋空は霧散してしまった。

 おいおい同じ軌道って変態かよ?俺できないよ?

 

「よしよし、悪くないな。それじゃそろそろ決めさせてもらうぜ!」

 

 太刀川さんが旋空を放ちながら弧月を手に走ってくる。

 俺は旋空をかわしながら距離を取りつつアステロイドやバイパーを放つが、どれもかわされるかシールドで受け止められる。だめだ、これ勝ち目なくね?

 ならば相打ち覚悟だ。

 

「旋空弧月」

 

「旋空弧月!」

 

 太刀川さんが打った瞬間に俺も旋空を放つ。

 旋空を打つ瞬間は誰しもが無防状態。シールドも展開できなくは無いのだが、いかんせん旋空の威力の方が高いためほぼ意味をなさない。よって互いの身体能力によっての回避しかない。

 が、俺は先ほど旋空を撃ってしまった直後に太刀川さんの旋空が到達したため防ぐ手段がなかった。よって真っ二つになる俺。

 

『活動限界、ベイルアウト』

 

 飛ぶ前に俺の旋空がどうなったか知りたかったため太刀川さんの方を見ると右手がなくなっていた。

 相打ち覚悟で行ってもこれかよ………。

 

 

***

 

 

 結果、対戦は8ー2で太刀川さんに負けた。

 未だに勝ち越したことがないが、強い人とランク戦をすればその分自分も強くなれるためかなりの回数戦闘をしている。

 いつの日か、太刀川さんも隊を組んでくるはずだ。その時までには俺が互角以上になっていなければうちの隊は太刀川隊に勝てない。多分。もっと努力しないとな。

 

「比企谷、前より強くなってるな。それでも、次も俺が勝つけどな!」

 

「いえ、次は勝ち越しますよ」

 

「言うじゃねえか。またやろうぜ」

 

「はい」

 

 こうして俺は太刀川さんとランク戦をした後オリエンテーションを終えた雪ノ下たちと合流し、後ほどサイゼで落ち合うことを決めたあと、一人で防衛任務へと向かったのだった。

 今日も金稼ぎの時間、スタートだせ!

 




うーん最後らへん頭働いてないの丸わかりやーん。
誤字脱字とありましたらよろしくお願いします。

また明日!


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B級昇格へ

遅くなりましたがどうぞ〜


 防衛任務を終えた俺は一度自室に戻り、始末報告書と次の防衛任務の日程確認をし、本部に提出した後、前回雪ノ下達と話し合いをしたサイゼに向かっていた。

 今日も今日で私服の懐からマッカンを取り出し、飲み干す。

 くぅ~この甘さが脳に染み渡るんだよなぁ。

 サイゼに着き、これまた前回同様三人と二人で別れ今日の入隊日のことについて話を進める。

 

「で、どうだったんだ?」

 

 雪ノ下によると訓練自体は問題ないらしい(雪ノ下はほぼほぼ一位で由比ヶ浜は中位ぐらいだったらしい)。それに、ランク戦自体も雪ノ下と出水、ってやつが飛び抜けていたくらいで由比ヶ浜は勝ったり負けたりだったらしい。由比ヶ浜が当たり前なんだけど雪ノ下がいるせいか霞んでるな……。

 一色は射撃訓練でしかポイントが加算されないから雪ノ下や由比ヶ浜よりもB級に上がるのが遅くなる。その分確実に的中率を上げていってほしいものだ。

 小町は中央オペレーターの仕事を学び、俺たちがB級に上がったら俺たちの隊のオペレーターに転向する予定である。

 

「それにしてもボーダーってすごいねー!銃だよ銃!撃つ時の感覚とか撃たれた時の感覚とかなんかふわふわしててさー」

 

「それはどうなんですか……」

 

「私は前に剣術をやっていたからか、あまり違和感はなかったわね。あとは慣れるまで使いこなすだけだわ」

 

「さすがだなお前……」

 

「えーっと、スナイパーって難しいですね!」

 

「おい、お前それ大丈夫なのか……?」

 

 一色については不安だが……B級に上がってからならどうとでもできるし放置しておこう。

 また、由比ヶ浜がランク戦にはまって全く勉強しなくなることを避けるためにランク戦をする時は二人一緒に行くというルールが雪ノ下により設けられた。由比ヶ浜は目に見えて勉強嫌だー!って顔をしていたが、すぐに雪ノ下に抱きつき百合百合していた。君たち仲良いよね。

 

 それから1ヶ月。

 全員ボーダーでの訓練がある生活に慣れ、雪ノ下がそろそろ4000が見える、とかいうところまできた。

 いや、雪ノ下ランク戦あんまりしてないよね……この早さってほぼ全勝してないと無理なんだけど……。

 現在、俺はランク戦を観戦中である。

 

「じゃあ今から出水くんと戦ってくるわ」

 

「あーあれか、お前とほぼ同じポイントくらいのやつか」

 

「ええ。彼、バイパーを使いこなすのが上手いのよ。正直勝ちきれるかどうか微妙だわ」

 

「……お前、本当に雪ノ下か?」

 

「……どういう意味かしら」

 

「いや、だってお前なら『絶対勝つわ』とか言うだろうが」

 

「その裏声でいった部分は私のモノマネかしら?気持ち悪いから今度からやめてちょうだい」

 

「へいへい」

 

 じゃあ行くわ。という雪ノ下を見送り、俺は現在のC級隊員の戦いを観戦する。

 うーん、あまりセンスを感じる奴はいねえな……由比ヶ浜が地味に敵を笑顔で蜂の巣にしているところは見なかったことにしよう……。

 

「おっ」

 

「きたきた出水と雪ノ下さんの対決」

 

「雪ノ下様~頑張って!!」

 

 周りにいたC級が騒ぎ始める。どうやら雪ノ下と出水が戦い始めたらしい。

 てか様付けって……。

 訓練生のランク戦はほぼ真正面に立たされ即戦闘開始となる。

 雪ノ下の前に立つ男が出水か……ちっ、金髪イケメン野郎かよ、リア充は敵だ!

 ところでだが、訓練生に支給されているトリガーは一つしかトリガーを入れることができず、また緊急回避機能もついていない。

 そのためC級は訓練時以外のトリガーの使用は禁止されており、破れば記憶消去の除隊処分だ。記憶消去とか怖すぎるだろ。

 

 俺が別のことを考えているうちにも闘いが始まる。

 出水がバイパーで雪ノ下を狙うも雪ノ下は民家の影に隠れてバイパーをやり過ごす。

 まぁ、正直そうするしか手がないからな。訓練生用のトリガーは一つしかトリガーを入れられないため中距離からでも放つことができる銃型トリガーは圧倒的に有利なのだ。

 出水がバイパーで雪ノ下を狙い続け、また雪ノ下はやり過ごすために民家に隠れる。

 隠れるなんて雪ノ下らしくないと思ったがこればっかりは仕方がない。が、次の瞬間雪ノ下が出水の真正面に飛び出した。

 

 通常なら隠れてなんとか斬りつけられる範囲まで忍び寄り奇襲するのがC級では当たり前だが、そこは安定の雪ノ下。正々堂々と勝負するらしい。

 あいつらしいと言ってしまえばそれまでだがさすがにこればっかりは無理があるのではないだろうか。

 見ると出水が雪ノ下に向け3×3×3の27分割のバイパーを放った。

 ………まじか、俺の方が前からボーダーにいるのに同列の奴がもう現れやがった。二宮さん?なんのこと?あの人を同じカテゴリーに入れてはいけない。

 

 バイパーはもちろんのこと雪ノ下に当たーーーらなかった。

 バイパーの変化を見切ったのか雪ノ下が左前方に駆け、バイパーを全てかわしきり出水を弧月で斬り裂いた。

 

「……やっぱ雪ノ下は化け物だったな」

 

 そんな感想しか出なかった。

 

 

***

 

 

「5ー5で引き分けね……次こそは勝ち越して見せるわ」

 

「いや、C級トリガーで引き分けとか化け物だろお前」

 

 あのあとは互いに一勝を続け10本勝負は引き分けに終わった。

 出水もやはり頭が良いからか雪ノ下の動きを読んで行く先々に弾を放ち雪ノ下を蜂の巣にしていた。奴もなかなかに鬼畜である。

 雪ノ下がかわすか、出水が予測的中させるか、その勝負だった。

 この二人はすでにB級中位の力はあるだろう。

 俺の方に来た雪ノ下とは別に出水はブースを出たあと太刀川さんに話しかけられていた。

 あの感じ絶対隊組む気だろ……早く組んで先にA級隊上がってくれないかなぁ、同じシーズン過ごすのだけは勘弁してもらいたいところだ。

 

「そういや雪ノ下、由比ヶ浜は今ポイントいくつなんだ?」

 

「前見たときは2700くらいだったはずよ。私が10本勝負している間も闘っていたのなら今頃2800は行ってるんじゃないかしら?」

 

 なかなか由比ヶ浜も素質があるということか。

 最初の頃射手としてアステロイドを使っていたが思うように勝つことができず、本人も使いこなせないことを感じていたため、その後銃手に転向した。

 それからというものアステロイドを撃っては民家を楯に敵の背後に回ったり、ジャンプして屋根の上から銃を撃ったと思えば民家を壊して姿を隠し、至近距離から蜂の巣にするとかいうエグい戦法を使いこなすようになっていた。

 ……何故だろう、なんか、由比ヶ浜が遠くに行ってしまったかのような、そんな気持ちになってしまう。

 

「ヒッキー、変なこと考えてる?」

 

「うおっ!なんだ由比ヶ浜、顔は笑顔なのに目が笑ってないぞ」

 

 いつのまにかブースを出ていたのか由比ヶ浜が後ろにいた。

 

「由比ヶ浜さん、ポイントは今いくつなのかしら?」

 

「えーっとねゆきのん、さっき3800の人と10本勝負して9本勝ったからか3467になったよ!」

 

「……!」

 

 あーっと、雪ノ下の目が静かに燃えている。これはあれだ、負けず嫌いが発動したな。

 今の雪ノ下のポイントは3281。前まで雪ノ下が上だったとしたら、ガハマさん今日めっちゃランク戦したんだね。見た目運動できなさそうな奴が実は銃撃ちまくる狂気のマシーンと化しているなんて誰が思うんだろ。初見でガハマさんと当たったら俺負けるかもなー。もちろんC級トリガーなら、の話だが。

 結局雪ノ下がブースに戻っていき、由比ヶ浜もそれについていったため手持ち無沙汰となった俺は自室に帰ることにした。

 俺と小町の自室はA級部隊の隊室がある階と同じ階に存在している。多分俺たちが隊を組んでA級に上がったら俺たちの部屋も含めての隊室になるのだろう。

 

 部屋のロックを解除して部屋に入る。

 中に入るとすぐに見えるのはキッチンで、近くには二人用のテーブルと椅子がある。

 その奥の扉を開ければ風呂や洗面所に繋がり、キッチンの左側の扉からは小町の部屋に、右側の扉からは俺の部屋に行くことができる。

 小町は不在だったため、多分中央のオペレータールームにいるだろう。

 俺は自分の部屋に入りトリオン体の換装を解いて動きやすいスポーツ着に着替えて部屋のルームランナーを起動させる。

 トリオン体においては体力も上限がなく日常での身体能力を軽々と上回る身体能力を使うことができるが、そこに現実での体の使い方がかなり関わってくる。

 トリオン体でできる動きはあくまで現実での体の動きの延長戦なため、トリオン体でより体を動かし十全に機動力を上げるためには生身でのトレーニングはとても大切なことだ。

 

「はぁ、はぁ」

 

 走り続けていれば汗が滴りもちろん疲労が溜まってくる。

 こんな時、俺は自らに言い聞かせるようにしている。

 

 思い出せ。近界民に目の前で追い詰められ黒トリガー化した両親を。

 

 思い出せ。誰の力が足りないせいで両親があんなことになったのか。

 

 思い出せ。誰が小町を悲しませるようなことをしたのかを。

 

 強く思え。お前は弱い、弱いなら強くなるしかないんだ。

 

 強く思え。必ず両親を取り戻すと、奴らに復讐すると。

 

 誓え。たとえ自分の身がどうなろうと、小町だけは助けると。

 

 誓え。もうこれ以上、自分を失望させないと。

 

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 

 まだ、まだだ、もっと、もっと負荷を……!

 

 

「……お兄ちゃん」

 

 

***

 

 

 そして、さらに3ヶ月後………。

 

「では、本日6月24日をもって、B級10位、雪ノ下隊の結成を認定する」

 

 俺たちは隊を結成した。

 




さて、次回はランク戦の模様をお届けしたのち、物語の時系列を飛ばしに行きます。
さすがにこのまま続けていくとグダる可能性が否めないのでところどころしっかりと補足しながら原作半年前まで進めればと思っております!


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B級ランク戦とA級への道

なんとなく、ここで切ってあったからそのままだしてみました。

続くか未定ですが……。


 B級に上がった俺たちは早速あてがわられた隊室を改造していくと同時に、ランク戦に参加しA級への昇格試験を受けるため、トレーニングルームで連携の確認を行おうとしていた。

 

「第一目標であったB級部隊を組む、ということは達成したのだけれど……今の私達では悔しいけど現在のB級部隊に必ず勝てるとは言えないわ。勝ってA級部隊に上がるためにも、今シーズンのB級ランク戦は見送りたいのだけれどいいかしら?」

 

 隊長である雪ノ下が隊員全員に向けて提案する。

 これは前々から俺と話し合っていたことだが、B級に上がったばっかりの俺らはまだ個人個人の熟練度やチームとしての戦術、試合のスタイルなどが決まっていないため、早速とばかりにランク戦に行っても勝ち上がれはしないだろう。

 負けることで学ぶのがランク戦の意義ではあるものの、チームとしてのスタンスや動き方が決まってない状態でランク戦やっても意味がないしな。

 

 ちなみに隊長が雪ノ下である理由だが、基本的に雪ノ下はなんでもこなせる天才である。その中でも同時に二つのことを行える並行処理能力も高い。

 部隊の中での役割として最も重要なのは、隊としての動き方や味方への指示だしを行うリーダーと相手の隊員を落として点を取るエースだ。

 雪ノ下は戦闘スキルに味方への指示も出せる戦える指揮官を目指せる人材である。いくら俺の考え方が卑屈で虚を突くものだとしても、正攻法なんてものには精通していない。が、戦闘スキルは俺の方が上。

 そういうチームとして戦う事情を考えた時、雪ノ下をリーダーにし俺がエースの席に座った方が合理的という判断だ。

 リーダーがエースを兼任するのはそいつに負担がかかりすぎる。いくら雪ノ下であろうと、例えばだが太刀川さんの相手をしながら俺や由比ヶ浜に指示を出すのはかなり、いや、とてつもなく厳しいだろう。

というか現時点では絶対に無理だ。

 2ヶ月前、雪ノ下がB級に上がったばかりの頃、正規隊員のトリガーセットを組み、現個人総合1位である太刀川さんに10本勝負を挑んだ。

 結果は1ー9。一本取れたことにかなりの衝撃を受けたが、雪ノ下自身は「次こそは必ず……勝ってみせるわ」と相変わらずの負けず嫌いを発動させ、かなり成長している。

 

 が、最新の結果も1ー9。剣の達人との差は大きい。

 

 単純に雪ノ下の剣が太刀川さんと相性が悪いということもあるが、やはりまだまだルーキーの動きである雪ノ下では太刀川さんには張り合えない。

 俺はここ最近3ー7、一回まぐれで4ー6とまぁまぁ戦えないことはないくらいにはなってきた。

 剣だけだったら0-10だけど。

 以上、こう言った理由から雪ノ下が隊長として雪ノ下隊を結成した。

 ………俺の目が腐ってて、隊としての顔なら雪ノ下一択だったってわけじゃねえからな!

 

「いいんじゃないですかね?私まだまだ練習足りてませんし、実戦で狙撃できる自信がないです」

 

「うん、ゆきのんがそう言うならそうした方がいいよ!」

 

「小町も雪乃さんに従いますよ~!」

 

 一色の奴が珍しく素直である。一色は狙撃スキル自体に関してはそこまで悪くはないが、トップレベルではない。こればっかりは技術や経験をコツコツと積み上げていく他ない。

 由比ヶ浜と小町はちゃんと考えてないだろ。アホの子がバレるぞ。

 

「ありがとう。では目標として次のチームランク戦シーズンでの全勝。そのままの勢いでA級部隊昇格、というところかしら。では早速……」

 

 B級部隊のチームランク戦は年に2シーズンあり、1シーズンごとに上位2チームがA級部隊への挑戦資格を得る仕組みである。現在のB級部隊はうちを合わせて10チーム。このうちの1位と2位がA級への挑戦権を得られるのだ。

 

 早速雪ノ下先導の元、チームとしての練習がスタートした。

 

 相手部隊からしてみれば俺や雪ノ下は早めに人数をかけて潰しておきたいはずだ。俺は旧ボーダー時代から所属していることに加え、現在攻撃手4位に個人総合6位のため必ずマークされるだろう。雪ノ下も今期の新人王争いを出水とし続け、その称号を得た大型ルーキーである。

 そのため俺や雪ノ下を囮に由比ヶ浜がバッグワーム奇襲をする戦法や、一色の狙撃で仕留める戦法、俺と雪ノ下のコンビネーション、俺と由比ヶ浜のコンビネーション、雪ノ下と由比ヶ浜のコンビネーションと、考えつく戦法をひとまず一度行い、実戦でも使えそうなレベルのものを何度も繰り返す。

 

「……なぁ」

 

「……?どうしたのヒッキー?」

 

 そして、この訓練を始めてわかったことが一つ。

 

「俺、人と合わせるの苦手だわ」

 

「知ってるわよそんなこと」

 

「まぁ、ヒッキーだしね」

 

「まぁ、先輩だし」

 

「まぁ、お兄ちゃんだしね」

 

「お前ら仲良いな!」

 

 来る日も来る日もチームとしての練習をし、結果、基本として俺は単独行動、雪ノ下と由比ヶ浜が合流してから攻める、一色が全体の援護、という形に落ち着いた。

 一色は自分の狙撃スキルが不安だと伝えてきたので東さんに弟子入りし狙撃について学ぶことにした。ついでとばかりに俺も習った。

 一色が根気よく練習したおかげでチームとしての練度がさらに高まり手応えを感じるぐらいにはいいチームワークが出来てきたのでは……と思いつつも勝つために個人ランク戦に勤しみ防衛任務をこなす日々。

 

 そして………数ヶ月後、新シーズンが始まろうとしていた。

 

 

***

 

 

『B級ランク戦開始まであと2分です』

 

「あ~緊張するー!」

 

「始めてのランク戦なら誰でもそうだろ」

 

「そういう比企谷君は平気そうね?」

 

「まぁな。最近二宮さんに蜂の巣にされ続けてから怖いものがなくなった……」

 

「あー、あれ先輩可哀想なくらい穴ぼこにされてたやつですね」

 

「おい、思い出しちゃうからこれ以上引っ張るんじゃねーよ」

 

「そろそろ転送時間なので指定の位置にしっかり立ってください!」

 

「「はーい」」

 

『B級ランク戦昼の部、転送開始』

 

 




正直、最近ワートリ読み返してないためか頭に戦闘シーンが浮かばなかった。

不定期更新作品ですね……全部か。


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ボーダーでの奉仕部
数年後の雪ノ下隊


ワルトリ読み返して書きたくなりました。
今回の話は解説的な話になりますが、よう実の方をメインにちょくちょく更新していけたらなと思っております。


 俺と小町が両親を失ってから三年。

 また、雪ノ下隊がA級に上がってから一年が経とうとしていた。

 そんな今日は4月6日。高校二年生としての始業式である。

 始業式なんてものは、校長先生の長い眠たくなるような話を聞き、生徒会長やらなにやらの言葉も聞き、校歌を歌わされて帰らされる日だ。 ただ、今の生徒会長はB級王子隊の射手である、蔵内先輩であるため去年みたいに退屈ではなかった。

 長かった始業式を終えた俺は、早速帰ろうと2-Fの教室から出ていこうとする。

 その時。

 

「待ってヒッキー!」

 

 振り返ればピンク髪のお団子頭娘が目の前にいた。

 由比ヶ浜結衣、雪ノ下隊の銃手である。

 個人的なポイントはマスタークラスにようやく届いているレベルなのだが、何故か俺と同じで集団戦にとことん強い。あの怪物、二宮さんを奇襲で落としたことがあるくらいだ。

 雪ノ下とのコンビネーションも抜群であり、連携だけで言えば辻と犬飼先輩のコンビに引けを取らず、ボーダー随一と言えるだろう。個人的に相手を引き付けたりすることや集団を操ることなどは出来ないが、小町のサポート下の元、相手への脅威になっていることは確かである。

 

「うおっと」

 

「あ、ごめんねヒッキー」

 

「気にすんな。ちょっと近くてびっくりしただけだから」

 

「うん……あ!今からボーダー行くんでしょ?一緒に行こうよ!」

 

「行くというか自分の家なんでね……」

 

 俺は4年前に起きた近界民の大規模侵攻により、両親と家を失った。

 幸いにも現在の界境防衛機関、通称ボーダーの前組織に両親が所属しており、俺もある程度は手ほどきを受けていたため、妹の小町と共に、ボーダーで生活を送りながらB級隊員として活動をしていた。

 だが、ただの中学生一人が妹を養いながら任務に出て生活を送っていくなど無理があった。 防衛任務を入れられるだけ入れた上に、年齢を偽りバイトまでしていた時期もあった。周りの大人に止められても、俺は止まらず、小町の注意も碌に聞いていなかった。

 そんなある日、中学で部活を共にしていた雪ノ下、由比ヶ浜に、依頼人であり生徒会長であった一色と妹の小町に諭され、目が覚めた俺は奉仕部として依頼し、雪ノ下隊を結成。

 俺の隊務規律違反や雪ノ下のB級での全勝宣言などもあったせいか、当初の予定より大幅に遅れたA級昇格となったが、今では固定給のおかげで生活も落ち着き、学校に楽に通えているのである。

 

 

***

 

 

 由比ヶ浜と二人でボーダーに着き、雪ノ下隊の隊室へ向かう。

 中に入ると、既に小町がいた。

 

「あ、お兄ちゃんに結衣さん、学校お疲れ様です」

 

「やっはろー小町ちゃん。中学校の方はもう終わったの?」

 

「はい、結構早かったです!」

 

「小町ちゃん中三なんだから、ちゃんと勉強もしなさいよ」

 

「ふふふ、小町にはボーダー推薦なるものがあるのだ!わざわざ勉強なんてしなくても…」

 

「……太刀川さんみたいになるぞ」

 

「小町勉強大好き!雪乃さんにも教えてもらおっかな♪」

 

 さすが小町。太刀川さんの駄目人間さをよく理解していらっしゃる。

 A級1位、太刀川隊隊長の太刀川さんは、個人ランキングの攻撃手&総合で一位のである戦闘の天才で、俺の兄弟子でもある。

 だがあの人、剣の腕以外は見習うところが餅を焼く技術ぐらいしかないからな……月見さんには剣以外の全てを見ない方がいいとまで言われたが、反論出来なかったんだよなぁ……。

 餅を焼くことだけに関して言えば、うちの隊の天才である雪ノ下であろうとも敵わない。前に雪ノ下の負けず嫌いが発動して多くの隊員にどちらの焼いた餅が美味しいか勝負をしていたが、惨敗していた。

 確かその日が雪ノ下が初めて太刀川さんに勝ち越した日でもあったっけか。

 

 ちなみに雪ノ下隊の隊室は他の隊の隊室よりも倍ぐらいに広い。

 理由としては俺と小町の家でもある、ということなんだが……部屋が広いせいで、溜まり場になってしまっている。昨日なんて三馬鹿がゲーム持ち込んでいたからな。

 それに俺も加わって、四人で雪ノ下に怒られたのは言うまでもないだろう。

 自分の部屋で鞄なんかを整理してからリビングに戻ってくると、ソファーに見慣れた亜麻色髪の少女が座っていた。

 

「あ、先輩、ただいまでーす!今から狙撃手の練習会があるんですけど、先輩も来ませんか?」

 

 一色いろは。俺と雪ノ下、由比ヶ浜で中学の頃にやっていた奉仕部に依頼人としてきた人物で、勝手に奉仕部に居座るようになった。

 知らず知らずのうちに雪ノ下や由比ヶ浜、小町と仲良くなり、一緒にボーダーに所属すると言ってきたやつだ。可愛い顔をしておきながら、戦闘では佐鳥のなんちゃってツインスナイプをガチでやっちゃう子である。一発躱した先に撃ち込んでくるとか嫌にもほどがある。コイツも仲間で良かったよ……。

 

「おう、なら行くか」

 

「お米ちゃーん、ちょっと先輩借りてくねー」

 

「だから小町はお米じゃないですって!!」

 

 いつもながらの掛け合いをしている二人を見つつ、俺は狙撃手合同訓練の場所へと向かうのだった。

 

 

***

 

 

 狙撃練習では7位という結果に終わったが、一色が3位でドヤ顔してきたのには腹が立った。

 今度スコーピオンの練習とか口実つけてボコボコにしてやる。

 隊室へと戻ると、部屋をいい香りが包み込んでいた。

 

「あら比企谷君。合同訓練は終わったのかしら?」

 

「おう。一色が3位で、俺は7位だった。本職じゃないとはいえ、一色に負けたのはくるものがあるぞ」

 

「鍛錬を積むしかないでしょう。スナイパーこそ日々の鍛錬の積み重ねなのだから。変に器用に色々とこなして7位なら上出来でしょう」

 

「まあ、そう言われればそうなんだが……」

 

「紅茶、いるかしら?」

 

「……いる」

 

 雪ノ下雪乃。

 A級9位の雪ノ下隊隊長であり、万能手である彼女はボーダーでもトップレベルの実力を誇っている。

 基本的には弧月の一刀流にアステロイドを使うスタイルだが、腕を切り落とされたらスコーピオンへと戦闘に対する切り替えや判断が早い。B級の頃は弧月で何とか俺が勝っていたが、途中から俺がスコーピオンに切り替えたこと、雪ノ下の成長速度の異常さにより今では剣だけだと勝てない存在だ。

 

「…どうぞ」

 

「おう」

 

「今年は交通事故にあわなかったようね。事故谷君としては順調な滑り出しだわ」

 

「おい、事故谷とか言うんじゃない。事故起こしまくってるヤバい奴みたいになっちゃうから。違うからね?俺は不可抗力だからね?」

 

「……自分から猫を助けた癖に何を言っているのかしら」

 

「……返す言葉がありません」

 

 中学の頃は由比ヶ浜の家の犬を助けようとして雪ノ下の家の車に轢かれたが……高校一年の入学式の日、今度は猫を助けようとして信号無視をしたトラックに轢かれてしまった。

 信号無視なんてするとも思わなかったからトリガーを起動しようとも思わなかったし、まず規定違反だ。そりゃあ、死にそうなときはした方がいいのだろうが、A級に上がったばかりで浮かれていたのだろう。

 結局悪いのは俺って言うことになるのか。いや、信号無視したおっさんが悪いな。俺は悪くない。

 

「一応私達だけでランク戦には挑んだけれど、A級の壁は予想よりも高かったわ。一時は四位にまで上がれたけれど……」

 

「単純に相手からしたら対戦したことないようなチームだっただけで、途中からは慣れてきたのか負け続きだったものな」

 

「……今回は上を狙うわ」

 

 負けという言葉に反応したのか、雪ノ下は強い気持ちのこもった声を出す。多分悔しいのはみんな同じだ。

 俺は約二か月の入院生活に加え、トリガーの勘を取り戻すまで思っていたよりも手間取ってしまった。最後の方は出られたが、雪ノ下に却下されたためA級ランク戦は次のシーズンが初めてとなる。

 

「目標は?」

 

「1位、と言いたいけれど9位の現状から考えると3位を目指すのが現実的ではないかしら。ボーナスポイントもない私たちはより多くのポイントを必要とするもの。無謀なことはしなくていいわ」

 

「……珍しいな。お前なら『何を言っているのかしら比企谷君、1位以外にあり得るわけないでしょう』くらい言いそうなのに」

 

「その気持ち悪い声は私の真似かしら?不愉快だからやめてもらえる?」

 

「すいませんでした」

 

 さすがに気持ち悪いか。けど声真似ってちょっと楽しくてついやってしまうんだよ。

 それからは雪ノ下と無言でお互いに本を読んでいると、隊室に人が入ってきた。

 

「あ、やっはろーゆきのん!」

 

 早速と言わんばかりに由比ヶ浜が雪ノ下に抱きつき、雪ノ下は困ったような表情になる。

 

「結衣、あまり近い距離は……」

 

「えっ……」

 

「い、いえ、大丈夫よ」

 

「ゆきのーん!」

 

 相変わらず百合百合してることで。

 

「あ、ヒッキーも戻ってたんだね」

 

「俺はついでなのかよ。まあ気持ちは分かるけどな」

 

「分かるんだ!?」

 

「それよりなんだ、一色に小町まで戻ってきて」

 

「ふっふーん、先輩より順位の上だったいろはちゃんですよ~」

 

「いろは先輩うるさいです。邪魔です」

 

「な!お米ちゃん酷いこと言うね!」

 

「お米じゃなくて小町です!雪乃さん、依頼者がきました」

 

「そう……中に通してくれるかしら」

 

 雪ノ下はそう言いながら紅茶を客用のカップに注ぎ、小町が依頼者を中に入れる。

 俺たちも雪ノ下側に集まったところで……

 

 

「ようこそ奉仕部へ。早速だけどどんな依頼かしら?」

 

 

 これは雪ノ下隊兼奉仕部inボーダーの少し変わった青春物語である。

 

 

***

 

 

人物紹介。

 

A級9位雪ノ下隊。

 

万能手 雪ノ下雪乃(隊長)

 

年齢:16歳 高校二年生

誕生日:1月3日

かぎ座 B型

座右の銘「目には目を、歯には歯を」

 

 トリオン:8

   攻撃:10

防御・援護:8

   機動:7

   技術:9

   射程:4

   指揮:9

   特殊:1

 トータル:56

 

メイン:弧月(改)、旋空、シールド、スコーピオン

 サブ:アステロイド(改)、ハウンド、シールド、バッグワーム

 

個人ポイント

弧月:11430

アステロイド:7610

スコーピオン:8106

ハウンド:5574

 

 

 

完璧万能手 比企谷八幡

 

年齢:16歳 高校二年生

誕生日:8月8日

ぺんぎん座 A型

座右の銘「押してだめなら諦めろ」

 

  トリオン:11

    攻撃:11

 防御・援護:6

    機動:6

    技術:11

    射程:8

    指揮:3

    特殊:1

  トータル:57

 

メイン:スコーピオン(改)、バイパー、シールド、バッグワーム

 サブ:スコーピオン、バイパー、シールド、ライトニング

 

サイドエフェクト:脳機関一部強化

 

個人ポイント

スコーピオン:8562(規律違反により-10000)

バイパー:6805(規律違反によりー6000)

アステロイド:5710

ライトニング:7218

弧月:9172(規律違反によりー3000)

 

 

 

銃手 由比ヶ浜結衣

 

年齢:16歳 高校二年生

誕生日:6月18日

うさぎ座 O型

座右の銘「命短し恋せよ乙女」

 

  トリオン:8

    攻撃:7

 防御・援護:11

    機動:5

    技術:6

    射程:4

    指揮:1

    特殊:2

  トータル:44

 

メイン:アステロイド(突撃銃)、メテオラ(突撃銃)、シールド、バッグワーム

 サブ:徹甲弾(突撃銃)、シールド、レイガスト

 

サイドエフェクト:感情識別体質

 

個人ポイント

アステロイド:8574

メテオラ:8358

レイガスト:4000

 

 

 

狙撃手 一色いろは

 

年齢:15歳 高校一年生

誕生日:4月16日

はやぶさ座 B型

 

  トリオン:6

    攻撃:7

 防御・援護:9

    機動:5

    技術:8

    射程:9

    指揮:3

    特殊:1

  トータル:48

 

メイン:イーグレット、スコーピオン(改)、シールド、バッグワーム

 サブ:イーグレット、アイビス、シールド、ハウンド

 

個人ポイント

イーグレット:9207

アイビス:7941

スコーピオン:4409

ハウンド:6380

 

 

 

オペレーター 比企谷小町

 

年齢:14歳 中学三年生

誕生日:3月3日

みつばち座 O型

座右の銘「使えるものは兄でも使う」

 

  トリオン:2

  機器操作:7

  情報分析:7

  並列処理:7

    戦術:6

    指揮:6

  トータル:35

 




この作品もチートはありません。
設定上、多少強くされていますが、ブラックトリガーに勝ってしまうことはありません。チームなら相性良ければワンチャン?
八幡自体の戦闘力としては、一対一より集団戦の中でポイントかっさらっていくスタイルが強いので、人数が多ければ多いほど強くなる感じですかね。
一対一だと、太刀川さんに二宮さん、弓場さん辺りにランク戦につれていかれてはボコボコにされています。
三馬鹿とは割と近い実力。
木崎さんや鳥丸、小南辺りにも勝ち越せないぐらいですかね…状況次第で変わりますが。

気が向いたら更新していきたい……。


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依頼者:三輪秀次

こんな形で出していきたい。
駄文の上に短いのですぐに書けてしまった。頭使ってないとか言われても仕方がないかもしれません。

まぁ、気が向いたから書きました。


 本日の依頼者はA級7位三輪隊隊長、三輪秀次だった。

 実はだが、俺は雪ノ下隊の中で一番三輪と仲がいい……というかボーダー組織全体においても、俺は三輪と一緒に任務を行ったりすることが多い。

 理由として、同級生かつ同性であり、四年前の大規模侵攻時に俺は両親、三輪は姉を失っているという共通点があることに加え、お墓参りに行くと必ず遭遇する点、実力が近い点などから結構付き合いが多いのだ。

 

「それで、三輪君の依頼は何かしら?新学年始まってすぐに相談なんて……」

 

「ああ。俺もこんな形でここに来るつもりはなかったんだが……俺や奈良坂では手に負えない事案が発生したから、どうにかしてもらいたくてな」

 

 三輪が手に負えない?そんな馬鹿な……近界民を異常なまでに憎むところ以外、高スペックイケメンな三輪が手に負えないとか……あ、もしかして。

 

「なぁ、三輪。もしかしてだが…米屋か?」

 

「…比企谷は知っていたのか?」

 

「いや、昨日三馬鹿と俺でゲームしてた時に笑いながら言ってたんだよ。まさかだとは思うが…」

 

「…本当だ」

 

「…マジか」

 

「比企谷君、三輪君、詳しく話してもらえるかしら」

 

 俺と三輪で考える人のポーズをとっていると雪ノ下が詳細を尋ねてきた。

 まあ、あれなら雪ノ下に頼るのが一番だよな…。

 

「……俺の依頼は、うちの米屋の更生だ」

 

「更生?ヒッキーみたいによねやん捻くれちゃったの?」

 

 ああ、確か俺が奉仕部に連れて来られた理由は捻くれた孤独体質の改善だったな。正直大規模侵攻があったせいで色々有耶無耶になってしまったが、孤独ではないだろうし、あれは達成されたとみなそう。いや、みなせ。

 由比ヶ浜の疑問に三輪は首を横に振った。

 

「もっと酷い。今日、春休みの課題の提出があったんだが……米屋の奴、全て真っ白だったんだ」

 

「真っ白って!」

 

「それ、結衣先輩より酷いじゃないですか!!」

 

「結衣さんより酷いなんて!」

 

「うわーん!いろはちゃんと小町ちゃんが私をイジメる!ゆきのーん!」

 

「結衣が前日にも関わらず国語の課題を丸ごと残していたのが悪いもの。二人は間違ってないわ」

 

「うわー!ゆきのんまでー!!」

 

 昨日、ここに泊まり込みで雪ノ下と課題やってたもんな……俺は寝たけど。

 しかし本当に真っ白で学校に行ったのかよ。潔いっつーか、ある意味すごいな。

 

「それでも、由比ヶ浜は課題を出したんだろ。米屋の奴は、このままだと本気で太刀川さんのようになってしまいそうで……依頼を受けてくれないか」

 

 三輪、太刀川さん苦手だもんな。まぁなんとなく分かる。三輪は真面目だしな。

 加えて、目が合ったら必ずバトルするポケモントレーナーかってぐらい、目が合ったらランク戦とかいう意味不明な人だからな。

 三日前に目が合ってしまって連行されたが、軽く50本やるかとか言うんだもん。9-35に引き分け6でボコボコにされたから覚えてるぞ。

 

「さすがに同級生としても同じA級隊員としても見過ごせないわね。依頼を受けるわ」

 

「助かる」

 

「ところで、問題の米屋はどこにいるんだ?」

 

「……出水と緑川とランク戦中だ」

 

「……俺、あいつ連れて来るわ」

 

「頼んだわよ」

 

 三輪と二人で隊室を出てランク戦のブースに向かう。

 二人で歩いていると、三輪が声をかけてくる。

 

「比企谷。明日、学校の終わりに行くぞ」

 

「…おう、わかった」

 

 言葉にはしなくても、お互いに分かりあえる。

 ……花と線香を買いに行かないとな。

 

 

***

 

 

 無事に米屋を捕獲し、雪ノ下に引き渡した俺は残った出水と緑川、そして三輪の三人とランク戦をすることに。

 

「じゃあ僕がハッチ先輩とだね」

 

「比企谷、緑川を扱いてやれよ。今回は爆散させてしまえ!」

 

「なんか不穏なフレーズが!」

 

「嫌だよ。こいつ今シーズンから敵だよ?草壁隊期待の超大型ルーキーとか凄すぎるだろうが」

 

「俺、強いからね!」

 

「出水、早くやるぞ」

 

「おうよ、珍しく三輪がやる気だからな。楽しみだぜ」

 

 緑川は前回の新入隊員として入ってきたんだが、これがアホみたいにセンス抜群なんだよなぁ…。何?初めての戦闘で4秒とか……俺が中学の時に出せる記録じゃないんですけど…。

 けどまぁ、所詮はルーキーだ。出水にも言われた通り、爆散させますかね…。

 

 お互いに転送され、早速緑川が向かってきた。

 

「最初から飛ばしていくよ!!」

 

 緑川は俺の周りにグラスホッパーを無数に展開し、突っ込んできた。

 乱反射(ピンボール)。緑川の得意技で、こいつの代名詞とも言えるだろう。

 技のキレだけを考えれば風間さんにも届きうるのではないだろうか。

 ……まあ、風間さん相手だと乱反射(ピンボール)を決めること自体が難易度高すぎるけどね。

 

 乱反射をスコーピオンで防ぎながら、隙を見て背後のグラスホッパーをバイパーで消し、一旦距離を取る。

 

「どうしたのハッチ先輩!消極的じゃん!」

 

「いいんだよ。ガツガツしてる奴より静かな奴の方がかっこいいだろ?それと一緒だ」

 

「それは人次第でしょ!」

 

「だよなぁ」

 

 下がる俺に迫る緑川。

 前の対戦は緑川がB級に上がったばかりの時で、俺からガンガン攻めたから自分が強くなったと錯覚してるんだろうか。

 ……確かにルーキーとしては歴代最強だろう。成長速度も化け物だ。

 だがまあ、

 

「俺の勝ちだ」

 

「え?」

 

 周辺に隠しておいた置き弾のバイパーが緑川に向かい、緑川はシールドで防ぎながらも近づいてくるが……シールドの隙間に全力でスコーピオンを投げつける。

 当然、それをスコーピオンで緑川は弾くが…

 

「!?」

 

「俺のスコーピオンは爆発するぞ」

 

「前回してなかったのに!!」

 

 弾いた瞬間爆発を起こし、緑川の身体を巻き込んだ。

 

 

***

 

 

 10本戦ったが、結果的に10-0で圧勝した。

 

「ハッチ先輩のスコーピオンおかしいよ!なんで爆発するの!?」

 

「A級隊員にはトリガーの改造を行える権利があるんだよ。スコーピオンだけだと風間さんに手も足も出なかったから、二徹して作った」

 

「そういうところは熱心だよなお前……」

 

 出水がそう言ってくるが、お前も似たようなもんだろ。何だよ、弾と弾で合成できるんじゃね?って思ったら出来たって。天才かよ。あ、天才だったわ。

 ……今日は圧勝したが、これが半年立てばどうなるんだろうなぁ。嫌だなぁ、後輩に負け越すとか嫌すぎるんですけど。あ、そう考えたら雪ノ下は後輩に当たるから、すでに負け越してたな。問題なかったか。

 

 スコーピオン(改)はメテオラを内蔵したもので、相手に触れると爆発する機能を施している。

 それだけだと投げるだけで勝てるじゃないかと思われがちだが、触れると爆発するのだ。そう、絶対に。

 前に一色や由比ヶ浜にも実験に付き合ってもらったが、狙撃の弾を当てられても爆発するし、銃で撃たれても爆発した。結果、触れたら爆発するんだということが分かった。

 なんとか任意での爆発を目指しているのだが、現状では目途すら立っていない。メテオラ自体が爆発する性能の時点で無理があったのだろうか。無理だったのかもな。

 しかし、これで無理矢理心中する戦法が使えるので問題はない。サブに普通のスコーピオンを入れているおかげで、どっちを使っているのかが相手には分からないからいい戦術ではある。

 ……スコーピオン(改)のせいで余計に単独行動が決定付けされちゃったけどね。前のB級チームランク戦なんて一色すら俺に援護してくれなくなったから……俺一人で弓場さんやら生駒さんやらと心中したり斬り結んだりと大変だった。多分、次のA級チームランク戦もそうだろう。うわ、やる気なくなってきた。

 

 その後も相手を変えながら全員と20戦したところで一度米屋の様子を見に隊室へと行ってみることに。

 そこでは―――――

 

「米屋君、誰が寝て良いと言ったのかしら。まだ今日のノルマの3分の1も終わってないわ。分からないところは教えてあげるから、とにかく腕を動かしなさい」

 

「誰か助けてくれよ……」

 

 椅子に正座で座らされ、春休みの課題と思われる冊子の積み重ねられたものを見ながら、ひたすら机に向かわされている米屋陽介の姿と。

 隣で読書をしたり紅茶を飲みながら、間違えたり飛ばそうとするごとに毒を浴びせながら強制的に課題をさせている雪ノ下の姿があった。

 ちなみに他の面々は端っこで怯えながらスマホ弄ったりしていた。

 

「……比企谷、花と線香を買いに行ってからまたこよう」

 

「……そうだな」

 

「緑川、俺たちは何も見なかったことにしような」

 

「もちろんだよ……」

 

 憐れ米屋。だから昨日、課題写してでもしとけって言ったのにな……ま、ドンマイ。

 俺たちは静かに扉を閉め、隊室から離れていくのだった。

 

 

***

 

 

 数日後。

 俺がボーダーの中の自販機で飲み物を買おうとしていたところに、三輪と米屋がやってきた。

 

「お、二人は防衛任務終わりか?」

 

「そうだ」

 

「お疲れさん。んで、米屋、お前大丈夫だったの……か?」

 

 ん?米屋の目に光がない気が……

 説明を三輪に求めようと視線を向けるが、背けられてしまった。え、どういうことなの?

 また米屋を見ると、とてつもない小さな声で何を呟いていることが分かった。

 なんだ……?

 

………勉強最高勉強しなきゃ勉強やってから遊ぶ勉強やらないと……

 

 うわぁ……壊れてしまってますねこれ。

 

「なんか、うちの隊長が悪い」

 

「いや、改善を頼んだのは俺だ。実際に改善されてはいるからな」

 

「方向ぶっ飛びすぎだろ……」

 

「お、米屋じゃん。ランク戦やろうぜ!」

 

「ランク……戦、ランク戦!!おっしゃ、やるぞ!」

 

「あ、戻った」

 

 ランク戦好きすぎだろ。戦闘狂かお前ら……。

 まあ、米屋に関してはいつも通りがしっくりくる。

 ガリ勉の米屋とか見たくないしな。

 

「また、何かあったら依頼する」

 

「……改善はやめておいたほうがいいと思うぞ」

 

「……そうだろうな」

 

 こうして依頼は達成……できた?のだった。

 




時系列的に原作開始の半年前なので、緑川のスペックが少し下がってます。
修を倒したときの緑川スペックだと3本は取りそう。八幡とは相性悪そうだから何とも言えませんが。

こんな風に依頼でやっていこうかと。ワルトリ側から特にヒロインを出そうとは考えてないです。
短編集風だし。


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依頼者:加古望

……もしかしたこれ、毎日書けるかも。
今のところ大学が遠隔なので、出せるだけ出していきたい。

戦闘描写をもっとうまく書けるようになりたいです……。


「失礼するわね」

 

 一般公募の新入隊員が入隊してきた数日後。

 A級8位加古隊隊長の加古望さんがうちの隊室を尋ねてきた。

 ……要件は多分あれだろうな。

 

「加古さん、どうされましたか?新作炒飯でしたら比企谷君が食べたがってましたので連れて行ってもらって構わないですが……」

 

 おい待て、いつ俺が食べたいなんて言ったんだ。

 どうやら雪ノ下の奴は俺を生贄にしたいらしい。

 加古さんは趣味でよく炒飯を作る。しかも絶品だから言うことはない……というわけではなく、稀におぞましい炒飯も出てくるのだ。

 何も知らない時に、雪ノ下隊全員でごちそうになったときは最高の炒飯で、雪ノ下が作り方を習うくらいには絶品ものだった。

 だから、それからしばらくして雪ノ下と二人で食べに行ったのだが……どうしてブルーベリーとタルタルソース混ぜようとしたんだろうね。口の中でぶつかりあって、同席していた堤さんや太刀川さんと共に見事に死んだ事件があった。

 それからようやく、外れ炒飯なるものが存在することが分かり、堤さんと同じ時に食べると9割外れという事実も聞いた。

 ……あの炒飯食べるなら今の由比ヶ浜のクッキーを食べるほうがよほどマシだと言えるくらいのものだ。や、昔のクッキーなら嫌なんだけどね。だって炭みたいなもんだし。

 

「あらそうなの?それも嬉しいんだけど…今日は依頼がしたくてきたのよ」

 

「依頼ですか?」

 

「そう、今回の新人隊員の中でトップの成績だった黒江双葉ちゃんって子がいるでしょう?あの子をチームに加えようとして勧誘したんだけど……うまくいかなくって」

 

「それで、私たちは何を?」

 

「出来れば加古隊に入ってもらえるように計らってもらいたいの。少し奉仕部としての理念からは外れると思うけれど……駄目かしら?」

 

 奉仕部の理念。『魚を与えるのではなく魚の釣り方を教える』みたいな方針だったか。

 なら今回の依頼だと『勧誘の仕方を教える』という感じだろうか。いや、勧誘の仕方とか分からねえよ……。

 

「なるほど……ちなみに、彼女はチームを決めているんですか?」

 

「まだC級だもの。でも、多分もうそろそろ上がるんじゃないかしら」

 

「緑川には及ばないにしても11秒は相当ですからね。……センスあるんだろうなぁ」

 

「一先ず私達で黒江さんと接触してみます。加古さんは比企谷君に炒飯でも食べさせてあげてください。結衣、いろはさん、小町さん、行くわよ」

 

「うん!」

 

「はいです!」

 

「了解です!」

 

「え、ちょ、待って。俺も奉仕部の一員……」

 

「比企谷君、隊室に行きましょうか。すでに堤君と太刀川君はいるのよね……今日はどんなものを作ろうかしら」

 

「……はい」

 

 数十分後、加古隊隊室に三人の男の死体が転がっていた。

 どうしてイチゴとキウイにケチャップとタルタルソースを合わせたんだ……。

 

 

***

 

 

 なんとか復活した俺はランク戦のブースに向かう。

 そこには緑川と見慣れない少女の姿があった。

 

「双葉、もうB級に上がったの?すごいね」

 

「駿はもうマスタークラスなんでしょ。早く追いつきたいもの」

 

「そう簡単には……あ、ハッチ先輩、ランク戦しに来たの?やろう!僕とやろうよ!」

 

 緑川が俺に気づき、それにつられて少女もこちらを見てくる。

 なるほどな、コイツが黒江双葉か。本当にB級に上がったらしい。有望な隊員なことだ。

 

「駿、この人は?」

 

「比企谷八幡先輩だよ。A級9位の雪ノ下隊の万能手で、個人ランキング5位だった人」

 

「だった人?」

 

「規定違反してな。10000ポイントのマイナスを食らったんだ」

 

 あれはイライラしたからな。

 ボーダーに所属する正規隊員はボーダーのホームページに名前が掲載される。

 たまたま中学が同じな奴らがボーダーの入隊試験を受けて落ちてから、雪ノ下達に暴言を吐いていたからな。ついカッとなってスコーピオンを首筋に沿えて脅してしまった。

 それを上層部に報告した結果、一時期の間の減給と個人ポイントの剥奪の処分を下され、今では孤月が一番ポイントが高くなっているというわけだ。

 ……カゲさんのことなんも言えないからな、俺は。

 

「ふーん……特徴的な目ですね」

 

「おっ、珍しい。ハッチ先輩の目のことを腐ってるって言わないの、双葉が初めてかも」

 

「腐ってるのは世界と近界民のせいだからな。あと仕事」

 

「……この人、駿より強い?」

 

「数日前に20回戦って20回負けたよ」

 

「当たり前だ。いくら大型ルーキーと言われようと、センスがよかろうとすぐに負けるわけにはいかないんでな」

 

「戦闘スタイルが面倒なんだよハッチ先輩は。アタッカーのことカモとしか思ってなさそう」

 

「そんなことはねえよ。太刀川さんとか風間さんとかカゲさんとか、関係ないとばかりにボコボコにしてくるからな」

 

「比べてる対象がおかしいからね、それ」

 

 さて、黒江の奴が加古さんの勧誘を断った理由が知りたいんだが、いきなり聞いたところでな……入られても加古隊が強くなるから嫌なんだけどね。

 

「先輩、私と戦いませんか?」

 

「え、双葉本気?」

 

「興味があるんだもの。どんな戦闘をするのかどれくらい強いのか、どれくらい通用するのかを試したい」

 

 真剣な目で、闘う意思を宿した目で俺を見てくる黒江双葉。

 なんだ、緑川と親しい時点で大体予想していたが、コイツも戦闘狂かよ。

 

「いいぞ。なんならスコーピオンかバイパー、選ばせてやってもいい」

 

「両方のスタイルは?」

 

「あるぞ」

 

「ならそれで」

 

「……分かったよ」

 

 B級に上がったばかりの新人を、大型ルーキーとはいえ本気スタイルでやるとかいじめに思われたりしない?大丈夫かな?

 ま、まぁ、なんとかなることを信じてやるか。

 

 

***

 

 

 転送された直後、一直線に俺の元へと駆けてくる黒江。

 ……シールドは使えるよな。

 

「バイパー」

 

 先日の入隊式の日に見て弧月を使うことは知っている。B級に上がったばかりとは緑川といたんだ。多分そこらの5000ポイント辺りを倒してある程度はシールドなんかの使い方も分かっているだろう。頼むから使って!

 結果として黒江はシールドを使った。ある程度は防げていたが……

 

「あっ」

 

 時間差の上空と横からの同時攻撃を防げずにベイルアウトしていった。

 ……い、いや、黒江がしたいといったんだ。俺は悪くないはずだ。

 

『先輩、もう一本お願いします』

 

「構わないが……大丈夫か?ポイント」

 

『さっき減ったのが5ポイントぐらいなんで、あと20回はやらせてください』

 

「……分かった、やってやるよ」

 

 こうして、黒江との対戦は何回にも何十回にも、下手したら100を超えていたかもしれない。

 緑川曰く、この時の対戦がブースの大画面に表示されていて、俺が大型ルーキーにお灸を据えているとひそひそ言われていたんだとか。俺のイメージが……いや、元から悪かったからいいか。

 闘うごとに強くなる黒江。緑川と同じようなものを感じるな。成長速度が速い。地味に旋空を放てるぐらいには余裕ができている。

 

「バイパー」

 

「もう慣れました!!」

 

 慣れたって……全方向から時間差で撃ってるのに躱してやがる。あ、斬った。

 そうしてだんだんと近づいてくるようになった黒江だが、本人からはどっちも合わせたスタイルが良いと言われているからな。

 

「ほいっ」

 

「効きません!えっ」

 

 あー……爆発しちゃった。

 この時も緑川によれば『最低』『新人相手にあれは……』『お兄ちゃんポイント低すぎ!マイナス!』とかいろいろ言われていたらしい。最後のは間違いなく小町だな。

 しかし、黒江は想像を絶する程の戦闘狂だな。スコーピオン(改)まで食らってもう10本て……やる気に満ち溢れすぎだろ。

 

 ここで俺の戦闘スタイルを説明しておくと、近距離のスコーピオンの二刀流感を出しながら中距離ではフルアタックバイパー、遠距離ならアイビスで狙撃と、なんでもかんでも手を出している。

 一部では半端な木崎と呼ばれているらしい。ま、筋肉ないからね、俺。

 基本、雪ノ下隊として戦うときはバイパーを主体にしているが、スコーピオンの方が強い。バイパーを時間差で放っておいて、バッグワームで隠れながら、バイパーを対処している敵にスコーピオン(改)を投げるのが俺の基本スタイル。うん、今考えるとえげつないな。

 アタッカーの間合いに入っておきながら、旋空を撃たせる隙を作らせなければ勝ちだ。どうしても剣を使うアタッカーたちにはスコーピオンを剣で受けてしまう癖があるので、爆散してくれるというわけなのだ。

 緑川みたいに近距離最強のスコーピオン使い相手だと基本負けない。風間さんは除く。あの人は同じカテゴリーに入れていい人じゃない。カメレオンなしでもトップレベルなのに姿消されたら詰むよ、そりゃあ。

 

 結局、200戦して200勝0敗。対戦ブースから出てきた黒江はぽかぽかと俺を叩きながら泣いていたが、悔しかったんだろう。

 C級で負けを知らず、B級に上がっても勝っていた。そしたら意味わかんない男に意味わかんないことされて負け続けた。そりゃ悔しいに決まってるよな。

 ……さすがに視線が痛かったため、泣き止んでもらえるように頭を撫でていたのだが、むしろロリコン疑惑をかけられてしまった。解せぬ。

 どっかの妹は『お兄ちゃんがジゴロの手口を!?』と興奮していたが知らん。中一に対して何言ってんだアイツ。

 

「……ぐすっ、先輩……私、強くなりたいです。先輩に勝ちたいです」

 

「お前、思ったより負けず嫌いなのな」

 

 あ、これ、ついでに加古隊への勧誘行けるかもな。

 

「なぁ、黒江はどこか所属する部隊とか決まってんのか?」

 

「……いえ、初日に声をかけてもらえたんですけど、まだボーダーのこと詳しくなかったから断っちゃって……」

 

「加古さんに誘われたんだろ?あの人A級チームの隊長だからな。……なぁ俺に勝ちたいか?」

 

「…はいっ!」

 

「なら加古隊に入れよ。俺はA級の雪ノ下隊の一員だがら、次のシーズンで加古隊とも当たる。戦えるぞ。チームでだけど」

 

「……私、加古隊に入ります」

 

「入ってくれるの!ありがとう黒江ちゃん、いや双葉ちゃん!歓迎するわ!」

 

 うわ、加古さんいたのかよ……あれ、何か手に持ってますね?スマホ?

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「うん、これから一緒に頑張りましょ」

 

「あの、加古さん、そのスマホなんでこっちに向けられてるんですか?」

 

「動画に撮ってるのよ」

 

「「………え?」」

 

 

***

 

 

 あのあとボーダー関係の様々なLINEグループで回され、比企谷八幡はロリコンか?などの疑惑が浮上し、からかわれ、関係を聞かれ、さらには上層部にも伝わって……説教されてしまった。

 必死に誤解だと訴えたのだが、噂になった時点でA級隊員としての自覚が足りないと言われ、今後このようなことはしないようにと言われてしまった。

 もちろん奉仕部内でも取り上げられ、雪ノ下裁判長に有罪を言い渡され、しばらくは部屋の掃除の係を一人ですることになるのだった。

 

 黒江とは明確な師匠、弟子の関係ではないが、会えば話すようになり、目が合ったらランク戦という間柄に落ち着いた。

 ……そのうちA級の特権を生かして試作品トリガー韋駄天を開発した黒江に、俺は敗北してしまったが、喜んでガッツポーズをしている黒江が可愛かったので別にいいかと思うのだった。

 

 ……あれ、俺ってやっぱロリコンだったりするのか?

 




加古隊が6位ではなく8位なのは、黒江がいないことを加味しているから。一応BBFと真実と偽りの境界線は読み込んでいるつもりですが、至らないところがありましたら報告してくださると嬉しいです。

……いつまで続くかな。リクエストとか募集するのはありかもしれない。


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依頼者:出水公平

……三日連続投稿になるとは。
これは完全に趣味小説ですね……。


 今日の依頼者は出水公平。

 A級1位に君臨する太刀川隊の射手で、弾バカと称されるほどの射手トリガーの使い手。最近の流行である合成弾の開発者であり、本人曰く「やってみたらなんかできた」らしい。

 これだから天才は……

 

 そんなイケメン弾バカ野郎は、どんな依頼をしにきたのか。

 

「依頼は何かしら?」

 

「敵であるお前らに頼むのは間違っているかもしれないが……唯我を強くしてくれないか!」

 

「……なるほど」

 

 A級1位の太刀川隊は、最近メンバーが変わったのだ。

 万能手でトップレベルの使い手だった烏丸が、本部から玉狛支部へ移動するにあたり太刀川隊から抜け、それと入れ替わるようにボーダーを支援する有力スポンサーの息子である唯我がコネで太刀川隊に加入した。

 

 最初からスポンサーの息子であることを示し、自身が隊長になろうとした唯我だったが、出水にドロップキックを食らわされ強制的に模擬戦をさせられ、泣き叫んで謝り倒すほど太刀川さんに斬られ続けたらしい。

 それでやめていないのがこれまた凄いよなぁ……。

 

「確か、唯我君はB級隊員のレベルにすら到達していないのよね?」

 

「おう。この前入ってきた黒江ちゃんとかなら一瞬でボコボコにできるだろうな」

 

「……今はどこかの誰かさんが鍛えてしまってるせいで、異常ともいえるスピードで成長を続けているから、さらにボコボコにしそうね」

 

「……悪かったって。つーかお前ら前回の依頼の時何してたんだよ?」

 

「黒江ちゃんにお菓子を上げていたに決まってるでしょう」

 

「アウト判定じゃねえか」

 

「貴方みたいに気持ち悪くないから大丈夫なのよ。さて、唯我くんが弱すぎるのはうちとしても張り合いがなくて困るのだし、その依頼受けるわ」

 

「お、マジで?雪ノ下も言うようになったもんだな。うちに勝てると?」

 

「あら、私は勝つ以外にないと思っていたのだけど……」

 

「上等だ。なんなら今からランク戦するか?」

 

「いいでしょう。じゃあ比企谷君、唯我君のことよろしく頼むわね」

 

 こいつら三年前の新人王を争ってからというもの、ライバル関係のままだからな……未だに勝率が五分とか負けず嫌いにもほどがあるだろ。

 ……って。

 

「いや、俺銃あんまり使わないんだけど……由比ヶ浜にやらせろよ」

 

「結衣は……参考にならないでしょう?」

 

「……そうだな」

 

 由比ヶ浜は銃を持つと性格が変わる。普段の優しさはどこに行ったんだと言わんばかりに笑顔で敵に銃撃を浴びせていくのだ。

 加えて、乱戦状態の中にバッグワーム状態で突っ込み奇襲徹甲弾(ギムレット)……ピンクの悪魔とはよく言ったもんだ。

 地味に近接戦になったらレイガストで粘るから余計質が悪い。剣として使ってるとこ見たことねぇけど……。

 で、雪ノ下が到着したらレイガスト捨てて援護に回る。二人のコンビネーションはボーダーでも屈指だし。二宮さんとこの犬飼先輩と辻のコンビにも連携攻撃だけなら上回るからな……その他諸々考えると別だけど。

 

 雪ノ下と出水はランク戦をしに行った。由比ヶ浜は学校の友達と遊びに行っていると聞いたし、一色と小町はオペレーターたちと女子会中だ。

 結局一人なのね……

 

 太刀川隊の隊室は案外近くにあるので、さほど苦労せずに辿り着く。

 

「お邪魔しまーす」

 

「おや、このA級1位のチームに何の用だね?」

 

 うわぁ……なんかいるんだけど。

 コイツが唯我尊か。偉そうだな。

 

「おっ、比企谷じゃねーか。なんだ?ランク戦の誘いか?」

 

「違います。出水がうちに唯我を鍛えてくれと依頼してきたので来ました」

 

 奥の方に太刀川さんもいた。あれ?確か大学のレポートの件で風間さんが探していたが……まぁ、俺の関与するところじゃない。怒られるは太刀川さんだし。

 

「唯我を?必要なくね?」

 

「はっはっは!やはり私の素晴らしい実力に……」

 

「半人前どころか人の10分の1もない強さだぞ。意味なくね?」

 

「容赦ないフェイント!!」

 

 太刀川さんの辛辣な言葉に地面に崩れる唯我。

 でもまぁ、実際その通りだしなぁ。

 出水に唯我の戦闘を見せてもらったが、あれは闘うとかの問題じゃない。最初から負けてるようなもんだ。

 

「そうかもしれないっすけど、一応依頼なんで。うちの隊長が張り合いがないのは困るって受けちゃいましたから」

 

「ほーん、雪ノ下は異常な負けず嫌いだからってのもあるんだろうが……唯我一人くらいハンデでちょうどいいくらいだぞ。今度の1対1の1dayトーナメントで雪ノ下にそれを思い知らせてやろう」

 

 笑いながら太刀川さんが闘志をむき出しにしている……雪ノ下、頑張れ!

 未だ地面に這いつくばっている唯我は確かにお荷物だろう。しかし、鳥丸がいたときの太刀川隊は意味わかんないぐらい強かった。近接最強の太刀川さんに、天才射手の出水、絶妙に手の届かないところにサポートを入れ、自身も十分な攻撃力を持っていた鳥丸。誰が勝てるんだって話だ。

 現在は鳩原さんの一件でB級に落とされた二宮隊だが、昨シーズンまではA級にいた。しかし、射手最強である二宮さんが率い、マスタークラス三人が躍動する二宮隊ですら2位が最高だった。つまり誰も太刀川隊に敵わなかったということだ。

 その太刀川隊は鳥丸の脱退により戦力を低下させ、さらに唯我というお荷物を抱えたが……それでも勝ち筋が見えない。唯我落として逃げ回った方がいいかもしれないぐらいには、太刀川さんと出水だけで過剰な戦力だ。

 

「あれ参加したくなかったんですけど……うちの隊強制的に参加させられたんですが」

 

「そりゃあ、お前ら強いからな。正直なとこ、お前が昨シーズンにいたらどうなってたか分からないからな」

 

「だとしても、太刀川隊と二宮隊には勝てなかったと思いますよ」

 

「それでもだ。少なくとも順位は変わってただろうな」

 

 A級9位ではある雪ノ下隊ではあるが、前々回シーズンのB級ランク戦で全勝昇格というかつてない偉業を達成している。

 まぁ、風間隊がA級に上がった後なんだけどね。カメレオン怖すぎるし、毎回俺斬られるし。

 バイパーでカメレオン解除させるまではいいんだが、なんでか風間さん毎回俺から落としに来るからね。風間さんと菊地原に気を取られていたら後ろからカクレオン状態の歌川に斬られるという。そして毎回菊地原にスコーピオン(改)を投げつけ、爆散させるとこまでが一連の動きだ。いつもそうなるから雪ノ下達は俺が落とされるまで他の部隊を攻撃するようになってしまった。

 援護くらいしてほしかったな……もしかしたら四人で仲良く爆散出来たかもしれないのに。

 

「まあ、当たったらお手柔らかにお願いします。じゃあ、そういうことで唯我鍛えますんで」

 

「訓練室使うか?俺やり方さっぱりだが」

 

「俺出来るんで大丈夫です。それと、そろそろ逃げた方がいいと思いますよ」

 

「ん?」

 

「風間さんが太刀川さん探してたんで」

 

「げっ!そうか、サンキューな比企谷。俺は逃げる!」

 

 青い顔をした太刀川さんは一目散に逃げていったが、少ししてから『やめろー!』なんて聞こえてきたから、多分捕まったんだろうな。

 ……俺は唯我を鍛えることに専念するかね。

 

「おい、御曹司」

 

「君、どこの誰だか知らないが僕にそんな口の利き方を……」

 

「ボーダー隊員になった時点で御曹司だろうがなんだろうが関係ないんだよ。強いか弱いかだ。あと活躍できるかどうか」

 

「な、なんだと!」

 

「出水にまた蹴られるぞ……とりあえずトリガー構成を教えてくれ」

 

「は、はい」

 

 出水のことが怖いのか、ドロップキックが余程堪えたのか、名前を出しただけで大人しく話し出す唯我。後輩に容赦ねえなあいつ……。

 唯我のトリガーを見る限り、両手の拳銃で攻撃するんだろうが……カメレオンとかなんで入れてるの?これ動ける人だけ有効だけど大体の人は使いこなせないんだぞ?風間隊を見て使えると思ったんなら外させよう。あれは菊地原のサイドエフェクトとかいうチートがあるせいで凄まじい連携と回避能力が備わっているが、他の部隊が真似しようとしても無理があるんだし。

 それにしても両手拳銃スタイル……ちょっとかっけえな。一時期俺もハマったっけなぁ……二宮さんにボコボコにされて『お前は射手の方が合ってる。銃なんて使うな馬鹿が』って言われたキリ使ってないけど。怖すぎるんだっての……。

 

「一先ず俺と模擬戦な。本気で殺しに来ていいから」

 

「はい、了解であります!」

 

 いい返事だ。さて、出水の要望にはどれくらいで届くものか……。

 

 

***

 

 

 唯我を鍛え始めて一週間が経った。

 二丁拳銃スタイルは、前にある程度のレベルには至れるメソッドを確立してはいた。あとは唯我のやる気次第。

 最初の頃はすぐにヘタレるし逃げ出そうとしていたが……今では立派にB級隊員とは張り合えるだろう。

 もう依頼完了でいいよね?よくない?俺もランク戦したいんだよ……ハウンドの練習か、久々に弧月でもしたい。

 

「比企谷……こいつ本当に唯我か?」

 

「おう、もう依頼達成でいいよな?疲れたんだけど」

 

「B級中位くらいの実力があるよな!?一週間でおかしいだろ!」

 

「そうか?基礎すっ飛ばして徹底させることだけをひたすら叩きこんだからな。臨機応変な対応は出来ないし、元の肉体を鍛えてるわけじゃないからあれが限界だけど」

 

「十分だろ……油断しすぎてて、一瞬負けるかと思ったぞ」

 

「結局ハチの巣にしてただろ」

 

「コイツに負けるくらいならボーダー辞めるからな……で、なんであいつ隊室の隅っこで体育座りしてんの?」

 

「あー……実はだな……」

 

 唯我には武者修行として一昨日からランク戦をさせていた。

 個人戦は僕の得意分野ではない!と言い続けてごねていたが……無理矢理部屋に入れて出入口塞いだらしぶしぶといった感じで戦い始めた。

 ポイントが2000スタートというB級隊員どころかC級隊員にも劣っていた唯我だったが……初めて勝てた興奮からか二日連続でランク戦をやれるだけやり、今ではアステロイド:4231とB級レベルの数値にまで到達した。

 いや、まさかポイント6000代に勝つとは……俺も想定していなかった。

 その急激な変化に、調子に乗った唯我はアステロイド:8574に挑んでいったが……うん、お相手はピンクの悪魔だ。

 開始早々、意気揚々と二丁拳銃を構えて突っ込んでいった唯我だったが……由比ヶ浜が笑顔で徹甲弾(ギムレット)を撃ってきて、シールドで防ごうとしたものの割られて敗北。

 マスタークラスだから仕方がないと思ったのか、今度はバッグワームで隠れながら奇襲を仕掛けたのだが……またしても笑顔で銃撃を食らわされ敗北。

 その後も敗北を続け、由比ヶ浜がトラウマになってしまった唯我は現在、部屋の隅で震えているということだ。

 調子に乗られても困るところだったから助かりはしたが……しばらく戦闘出来ないだろうな、あれだと。

 

「唯我、お前……無茶なことを」

 

「由比ヶ浜の場合、カゲさんと違って自分に向けられる感情じゃなくて相手が抱く感情自体を把握しちまうから……近距離での不意打ちだけ異常に強いんだよな」

 

「バッグワームつけて奇襲しても、急にぐりんと銃を向けてきて笑顔で放ち続けるからな……お前の隊の女子でまともなの、いろはすと小町ちゃんだけだろ」

 

「一色も一色で意味わかんないときあるけどな。ツインイーグレットとか佐鳥かよって思ってたのに、それが通常モードだぞ。おかしいっての」

 

「居場所バレてもお前のスコーピオンとハウンドで攻撃してくるからな……落としにくいったらありゃしない」

 

 雪ノ下は雪ノ下で、細剣に改良した弧月で見惚れるような剣技を繰り出しながら、加古さんの影響か由比ヶ浜や小町の影響かは定かではない、雪の結晶のように見えるアステロイドを容赦なく放ってくる……氷の女王の名は似合いすぎてて出水と笑い続けたっけ。

 うん、うちの隊でまともなの小町しかいないわ(白目)

 

 とりあえず、唯我を強化するという本来の目的は達成した。

 ……ちょっとばかしトラウマがついてきてしまったが、それくらい許してもらえる……よね?

 




クオリティを気にせずに書けるのはいいですね。悪くない。
俺ガイル勢も少しずつ入隊させてみようかな……色々変化しそうで怖いけど、なんとかなるさ!……多分。


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閑話 1dayトーナメントにて

23巻読んでからちょっと書きたくなった。
パソコン壊れたせいかわかりませんが、他の小説の書き上げていた次話が全ておじゃんになったので、スマホから投稿できそうな作品のみちょくちょく出していこうと思います。

また突然更新やめたらごめんね?


 1dayトーナメント。

 不定期に開催されるイベントの一つであり、様々な形態がある。

 例えば、集まった人間でバラバラにチーム分けして戦うこともあれば、今日みたいに一対一の個人ランクトーナメントだったりと多岐多様な種類が存在している。

 個人ポイントを増やすいい機会でもあり、順位次第では褒賞も用意されるという、ボーダー隊員にとっては一つの楽しみだ。

 

「……負けたわ」

 

「お、おう、お疲れさん……」

 

「完敗よ。やはりトップとの差は簡単に詰まるものではないのよね……今日はちょっと帰るわ……」

 

「ゆきのん……ど、どんまいだよ!また今度頑張ろっ!」

 

「そ、そうですよ!次がありますよ雪乃先輩!」

 

「ええ……ありがとう2人とも」

 

 ふらふらと隊室の方に向かう雪ノ下を俺たち3人は見送った。

 先程あった4回戦、早くも優勝候補同士の対戦となった太刀川さんVS雪ノ下の対決。

 ステージ天候ランダムな五本勝負で、雪ノ下は勝つと意気込んでいたが……太刀川さんが強すぎた。

 そういや前にA級一位の強さを見せるとか何とか言ってたが……本気で倒しに行ってたな。あれは勝てないだろ。弧月二刀流はカッコよくて強い……さすがだな。

 

「それにしても、何で私たち全員参加なんですか!私なんて本職スナイパーですよ!?おかしくないですかー!」

 

「たははっ……でもいろはちゃん勝ち進んでるじゃん!」

 

「そりゃあ、相手が良かったのとまぐれですよ……次が……」

 

 俺たち雪ノ下隊は今回、全員が参加している。基本的に自由参加なこともあり、腕試しや楽しそうという理由で出ている人間がほとんどだ。

 それでも全員参加な理由は、今回のランク戦で俺が本格参戦すること、改めてB級全勝昇格のチームとしての強さをアピールすること、らしい。

 ……まあ、前回のA級ランク戦、B級で全勝した割に最下位で終わったから、ちょっと疑心暗鬼になってる隊員もいるみたいな噂も聞いてるし、俺たちが活躍することでそれを払拭させてA級がもっと強いことを見せたいのだろう、多分。

 

『続いての対決は雪ノ下隊の一色いろはさんと、二宮隊の二宮匡貴さんです!!』

 

 ……まあ、優勝候補の2人にかなり早い段階で当たってしまった雪ノ下と一色は運が悪かったとしか言いようがないが。

 

「じゃあ、死んできますね♪」

 

 声の感じはいつもの一色だが、その目が死んでいた。

 

「が、頑張っていろはちゃん!」

 

「……はーい」

 

 まるで死地に向かう戦士のような雰囲気を出している一色は置いといて……さっき辻に勝ったから俺もそろそろ5回戦が……お、黒江か。

 最近あんまり会う機会なかったし、戦うのも久々だな……前は確か、韋駄天に対応したけど5勝5敗だったっけな……あれ、ワンチャン俺負ける?

 

「比企谷先輩!」

 

「ん、黒江。久しぶりだな」

 

 名前呼ばれた方を見ると、次の対戦相手である黒江双葉がこちらに駆け寄ってきていた。

 

「はい!今日は勝たせてもらいます!」

 

「お前も言うようになったな」

 

「も、もうくすぐったいですよ!」

 

 弟子のような存在の成長を感じ、つい頭をわしゃわしゃしてしまった。可愛いなこいつ。

 すると周りからはひそひそ声が。

 

「ねぇ、あれ犯罪のような絵図ね」「本当だ、危ない人に騙されそうになってる小学生みたいな」「見てあの顔!目が腐ってるわ!」「おいおい、ハッチのやつロリコン疑惑がますます深まるんじゃないか?」「いろはすの奴が二宮さんにボコボコにされてるのを見てすらいないぜ?」「うん、やっぱり比企谷君が犯罪に走る前にどうにかしないとね!」「ですね!」

 

 ……酷い言われようだ。ロリコンと言われるのはもう慣れた。慣れていいものでもないが。

 あと俺の目は元から腐ってるからな!覚えとけよ新人と思われるお前!

 

 黒江と指定部屋の前に向かいながら映像を見ると、一色が涙目でスコーピオン(改)を投げまくりながら逃げ、全てを破壊しながら悠然と距離を詰める二宮さんの姿が確認できた。

 ……あと二つ勝ったら風間さんで、その次二宮さん、決勝で太刀川さんか……よし、風間さんに勝てるように頑張ろ。あとは知らん、ボコボコにされないことだけ考えておこう。

 

 

***

 

 

「また負けました……」

 

「いや、かなりギリギリだっだぞ。めっちゃ強くなっててビビった」

 

 黒江との試合は3ー2の接戦だったが何とか勝利した。旋空と韋駄天の組み合わせに苦戦したが、今回用にアイビス抜いて弧月入れてたのが良かった。シールドは斬撃に対してはほぼ役に立たないこともあり、受太刀出来たのが大きかったな。

 普通の動きからの韋駄天のスピードという緩急差で一度やられ、旋空からの韋駄天からの旋空でやられたものの……バイパーで追い詰めスコーピオン(改)とスコーピオンでとどめを刺す、もしくはその逆といういつものパターンで2回勝ち、最後は黒江の足元にシールドを発生させて韋駄天時の体勢を崩したところを孤月で斬りつけて勝利した。

 

「ありがとうございます。でも、まだまだです」

 

「今度またランク戦やろうぜ。連絡してくれたら時間作る」

 

「!……はい!」

 

 よし、黒江に勝ったから次はベスト16……雪丸か。レイガスト使いは珍しいが、俺と相性最悪だから全方位からのパイパーとスコーピオンで行けるな。

 問題はその次だ……風間さんには一度勝ちたい。これまでに何度も10本勝負したことあるが、太刀川さんと二宮さんと風間さん、この3人にはまぐれでも勝ち越したことがない。

 まぐれで4本はあるが、太刀川さんは加古さんの炒飯にやられた後だったし、二宮さんは大学が忙しくて全然ランク戦してない時の試合勘を取り戻すためだったし、風間さんは太刀川さんのレポートを徹夜で手伝ったあとだったし……全部コンディション悪いときばかりだから実力が近づいてるとは思ってない。

 この3人と戦えてること自体が凄いとたまに言われる。

 それでも雪ノ下雪乃のチームのエースとしては……もっと強くなければならない。

 ……別に最近雪ノ下に負け気味だからってわけじゃないよ?ホントダヨ?

 

 

***

 

 

「よっ、比企谷。お疲れさん」

 

「太刀川さん、優勝おめでとうっす」

 

「当たり前だろ?何だって一位だからな俺」

 

 わっはっはと笑う太刀川さん。その後ろに忌々しげな表情を浮かべて舌打ちしている二宮さん。

 トーナメントは太刀川さんの優勝、二宮さんの準優勝、俺の三位で幕を閉じた。ちなみに四位は由比ヶ浜。

 俺は辻に黒江や雪丸、風間さんを破ったことにより改めて注目され、由比ヶ浜も木虎や弓場さんに勝ったことでピンクの悪魔の異名は更に轟くことになりそうだ。

 勝っといて何だが、まさか風間さんに勝てるとは思わなかった。そりゃ試合中は無我夢中だったが……スコーピオンだけなら完全に負けてたな。

 置き玉に時間差射撃、孤月投げにスコーピオン投げ……俺の今の全部を出して、本当に僅かな差で3ー2勝利だった。

 風間さんに、「強くなったな比企谷。今度リベンジさせろ」って言われたのはかなり嬉しかった。

 

 ま、そのあと準決勝で二宮さんにボコボコにされたがな。

 

 いや、正直風間さんに勝つために頭使いすぎた。結果的に1ー4で敗北し、3位決定戦に。

 同じく由比ヶ浜も0ー5で太刀川さんに負けていたから、同隊同士での対決になったが……まあ、俺が勝った。

 由比ヶ浜の強みは混戦時の奇襲と雪ノ下との連携だ。サイドエフェクトによる近距離の不意打封じと徹甲弾による攻撃はかなり厄介であるものの、4ー1で快勝した。

 結果3位。まさか3位になれるとは思っていなかったが……トーナメントの組み合わせが俺も由比ヶ浜も良かったからな。次は一回戦で太刀川さんとかありそうだ……。

 

 ちなみに3位の特別報酬が、何故かパンさんがボーダーの隊服着てる限定ぬいぐるみだったので、落ち込んでる雪ノ下にやったら無言でもふもふしていた。

 ……どうやら太刀川さんにボロ負けした傷は相当深かったようだった。

 




読み返してみたら矛盾点割とあったので、次の話出すまでには修正しますね……。

あと毎回思う、話の終わり方が分からん。。。


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依頼者:嵐山准

スマホめっちゃ書きづらいですね。
早くパソコン帰ってこないかな……。


「さて、戦犯谷君。何か申し開きはあるのかしら?」

 

「……いえ、何もありません。申し訳ありませんでした」

 

 A級ランク戦第二戦終了後。

 俺は隊室で正座をして頭を下げた。

 

「ぶーぶーだよヒッキー!私物凄く痛かったんだからね!?」

 

「そうだよお兄ちゃん!罰として今度結衣さんと一緒に買い物してきてね!」

 

「うええ!?」

 

 そう、相手チームではなく由比ヶ浜を爆殺してしまったのだ。あと雪ノ下の片腕。

 一戦目を大差で勝利し、一気に5位に浮上した俺たち雪ノ下隊だったのだが、今回の相手は風間隊と嵐山隊だった。

 

 転送位置から雪ノ下と由比ヶ浜が合流を果たし、一色が二人を援護できる位置に着き、俺は一人バッグワームを着て倒せそうな相手を探していた。

 嵐山さんが一人でいたのでチャンスだと思い、奇襲を仕掛けたのだが、それ自体が罠だった。バッグワームを着た時枝と木虎が襲い掛かってきたため嵐山さんは諦め、スコーピオン(改)を地面に放り、爆散させてから逃走を図った。

 逃げた先で風間さん達は合流を狙っており、三人揃われると敗北間違いなしなのでまず一人倒そうとしたら、それが運悪く風間さん本人だった。

 これが歌川や菊地原なら腕一本ぐらいで済ませられなくもないのだが、風間さん相手だと普通に敗北する。だからスコーピオンで戦闘しつつ、歌川と菊地原が嵐山隊に捕まっている間に由比ヶ浜と雪ノ下に援護に来てもらうように要請した。

 普段なら俺を放置する雪ノ下なのだが、嵐山隊と歌川菊地原コンビの元に行くにはどうしても俺と風間さんが戦闘中のルートを通る必要があったので仕方なしに助太刀してくれるという流れに。

 ……同じ部隊なのに仕方なしに助太刀っておかしくない?

 

「で、その後由比ヶ浜がいつも通りの徹甲弾での奇襲を風間さんに仕掛けたわけだが」

 

「その瞬間、たまたま先輩が放ったスコーピオン(改)を風間さんが避けて、それに結衣先輩の徹甲弾が当たって……」

 

「背後に控えていた上にシールドまで張った私ですら片腕を失うくらいの大爆発が起こった、と」

 

「いや、でも仕方なくね?風間さん相手に時間稼ぎとかスコーピオン(改)使わないと無理だしよ」

 

「その機を逃さんとばかりにトリケンに狙撃されたゆきのんと、風間さんを狙撃したいろはちゃん」

 

「そしてお兄ちゃんが乱戦に突撃して木虎ちゃんを落としたけど……」

 

「嵐山さんと時枝君のクロスファイアを食らって脱落。一色さんに姿を隠してもらったからなんとか2-2-2で済んだけれど……普通なら大敗北よ」

 

「はい……まことに申し訳ありませんでした」

 

 俺は謝りつつ土下座をする。この隊の中で一番地位が低いのは俺なので下手に出続けるしかない。中学から変わらないだろうって?ほっとけ!

 その後も一色の「大体先輩は~」から始まる日頃の恨みまで入ってそうな愚痴に、「ヒッキーのロリコン!」という一時期B級以上の隊員たちにいじられ続けたネタからの由比ヶ浜の愚痴、更に「やはり比企谷君には更生措置が必要なようね」と雪ノ下により怖いお言葉の数々に、「お兄ちゃんは義姉ちゃん候補がこんなにいるのになんで誰も選ばないの?!」という意味不明なお説教を受けていた中。

 コンコン、と隊室のドアがノックされた。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼するよ」

 

 そう言って入ってきたのは先程俺たちと戦った、A級暫定6位の嵐山隊隊長、嵐山准だった。

 

「ランク戦終わりで悪いんだが、少し頼み事があるんだ。次の入隊オリエンテーションと広報活動に協力して欲しいという話なんだが……」

 

 嵐山さんによれば、美形ぞろいの雪ノ下隊は現役高校生と中学生のみで構成されており、同じような中高生の隊員をもっと獲得できることに繋がるのではないかという話だった。

 ……ふっ、やはり俺は美形に入るのか。目以外はイケメンと自負していただけのことはあったな。

 

「あ、でも比企谷。お前は改造するって」

 

「改造……?」

 

「改造しないと駄目に決まってるじゃないですか。その目が全てを台無しにしてるんですよ」

 

 突如として聞こえてきた声の主は、地味に嵐山さんの後ろに立っていた。

 さっき俺が無理矢理倒した木虎である。

 

「酷えな」

 

「酷いのはどっちですか!あの乱戦の中、私だけにスコーピオン投げてバイパーで閉じ込めるとかおかしいです!」

 

「いや、あの状況だと、お前だけちょっと浮いてたから……歌川と菊地原はちょっと距離あったし、嵐山さんと時枝は2人揃ってたからな……少し距離置いてたお前が悪い、俺は悪くない」

 

「ぐぬぬ……」

 

 リアルでぐぬぬとか言ってるとちょっと痛い子なんだが、木虎がやると様になってるから不思議。流石は生意気な後輩枠の1人だな。

 ちなみに他には菊地原も同じ枠にいる。

 

「で、そこのそれを改造するのは当然として、私たちは何をすればいいのでしょうか?」

 

「今から嵐山隊の作戦室でその件に関する会議をやるから、来てもらえるかな?あ、比企谷は木虎について行って改造してもらってこい」

 

「マジかよ……」

 

 え、俺何されんの?目抉り出されたりはしない…よな?

 

 

***

 

 

「おおー、中々悪くないじゃないですか。もう普段からそうすればどうですか?」

 

 俺を改造するというのは、トリガーの改装機能を使ってトリオン体時の顔を変えるというものだった。

 いやまあ、本当に目以外は俺の顔まんまだし、目だけ変えているが……ここまで変わんの?俺の目以外はイケメン説って本当だったのか……自分で言ってて今初めて気づいたわ。

 

「おま、そんなことしたらトリオン体解除した時に詐欺だとか何だとか言われるだろうが。それにお前、この見た目で俺が今までと同じような戦闘したらどうなる?」

 

「……見た目完全に別人なんで、反応できないかもですね」

 

「だろ?」

 

「自分で言ってて悲しくならないんですか?」

 

 木虎が呆れた目を向けてくるが、事実だから仕方ない。……今夜は枕を濡らそう。

 

「ま、その見た目なら雪ノ下先輩達に見劣りしませんから、それで広報活動と入隊オリエンテーションは出てくださいね」

 

「……烏丸とどっちがイケメンだ?」

 

「そりゃもちろん烏丸先輩……って!??」

 

「いや、見た感じバレバレだから。まあ、カッコいいもんな烏丸。元A級一位の万能手で強いし、ユーモアあるし……家族思いの良い奴だからな」

 

 あわあわと赤面している木虎だが、あれは惚れても仕方がない。師事してたなら尚更だな。

 何なら烏丸はファンクラブまであるって噂だし……嵐山隊は全員あるんだろうけど。あ、佐鳥はなさそうだな。

 

 見た目を改装したトリオン体で嵐山隊を訪ねると、室内にいた全員が『……誰?』と言ってきたことで後ろにいた木虎が吹き出した。

 そりゃ顔違うけど、一応輪郭同じなんだから何とか気づいて欲しかったな……地味に小町まで本当に分からないみたいな顔をしていたのが傷ついた。

 ……後ろで必死に笑いを堪えている木虎は、後でランク戦して痛い目見せてやろ。

 

「その、木虎さん、こちらの方は……」

 

「くふっ……えーっと、目を変えただけの比企谷先輩です」

 

「……ヒッキー?」

 

「おう」

 

「あの、好きな飲み物は何ですか?」

 

「はぁ?マッカンに決まってるだろ」

 

「将来の夢は?」

 

「専業主夫」

 

『あ、比企谷だ』

 

 俺の見極め方ってマッカンと専業主夫なの?雪ノ下達と佐鳥はともかくとして、嵐山さんと時枝と綾辻まで……もうちょっと真面目に生きようかな。

 

 ちなみにだが、オリエンテーションでも広報活動としてテレビ出演しても、終始無言かつジェスチャーのみで対応したことから、『あのイケメン隊員は誰だ!?』と、一時期ボーダー内で噂されるのは別の話。

 また、正体を見破って俺を訪ねてきたB級やA級の隊員が、顔面詐欺と笑いまくっていて、俺がランク戦で復讐したのもまた別の話である。

 




いや、本当、ネタに困らないからこそ困る……八幡だけ隊員歴長いから、誰とでも話してそうで……誰かしらとは相性悪そうなのに、大体絡ませると面白くなりそうなのもこれまた困る。


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閑話 那須玲との特訓

ヒロイン出さないとか言ったけど、エピソードがないとは言ってない。
ってより、全員と付き合うことないけどジリジリと仲を深めたり外堀埋められたりしながら、最終的に全く考えてないところからヒロイン出してみたりしたい。

後何故か6000字くらいになった。深夜に書くと文章量上がってクオリティ下がるのが難点だな……。


 突然だが、奉仕部について話そう。

 奉仕部はボーダー本部に認められた活動である。活動の理念は『魚を取ってあげるのではなく、その取り方を教える』。つまりは問題解決の方法を提示したり、導いたりはするものの、解決自体は依頼者本人がするってわけだ。

 ……まあ、最近だとただの便利屋になっていたりもする。丸投げしても大体解決してくれるという認識を持たれてそうだ。

 米屋の課題消化然り、黒江の入隊勧誘然り、唯我を鍛えること然り、広報活動然り……まあ最後のはA級部隊の任務内容でもあるから依頼とは呼べないかもだけど。

 

「終わりました」

 

「流石八幡君、仕事が早いわね。じゃあ次これね、よろしく!」

 

「……はい」

 

 今、俺は資料作成と整理作業を手伝わされているが、給料が出ているため奉仕活動ではない。雪ノ下や由比ヶ浜、一色が俺に押し付けてきたわけじゃない。

 ……俺がやれみたいな雰囲気は出しまくってたけどね。

 旧ボーダー時代から少し手伝いをしていた俺は、上層部からも割と仕事を回されていたりする。

 もちろん、今やっている一般隊員向けの資料や、広告資料作成などではなく、もっと組織の機密に関わる案件を調べたり手伝ったり処理したりなんてしている。

 ……二宮隊がB級に降格したのは驚きだった。現場任務についていなかった人間の中で、他の隊員で知り得ているのは東さんと俺だけというのもまた、ボーダー上層部側の人間扱いされている感がある。

 このことを雪ノ下達は知らない……いや、なんとなく雪ノ下だけは気づいてそうでもある。聡い分、推測くらいなら立ててそうだしな。

 

 奉仕部の話に戻すが、提案したのは雪ノ下だ。

 もちろん俺たちが中学時代にやっていた活動で、由比ヶ浜がボーダーでやるのも楽しそう、と言ったことが根本には存在するものの、まだ未成年の人間が多いボーダー隊員達の手助けや悩み相談を行え、心のケアも出来るのではないか、それはボーダーの内部には無いものではないか、みたいな感じで上層部に話を持っていくと、これが珍しくすんなりと通って一年前に設置された。

 当時は確かB級二位でA級昇格試験を突破し(雪ノ下は全勝出来ていないことに不貞腐れていた)、俺が規律違反したことで即座にB級に逆戻りしたんだっけな……今考えると雪ノ下隊は目立つことし過ぎな気がする。

 雪ノ下の太刀川さんとの300本勝負(うち40勝250敗10分)であったり、由比ヶ浜のダークマターによる被害者の会が結成されていたり、一色があざとさ全開で一部のボーダー隊員を良い道具扱いしてしまったり、小町が将来の義姉探しで大規模な嫁度対決大会を開いていたり……なんとまぁ、暴れてきたものだ。

 

「今ふと思ったんだけど、八幡君って誰と付き合ってるの?なんか、たくさん噂聞くんだけど……」

 

「あ、それ全部デマですよ」

 

「そうなの?小南ちゃんに嘘つかないから凄く懐かれてるとか、綾辻ちゃんと温泉デートしたとか、三上ちゃんと観覧車の中で5時間閉じ込められてたとか、那須ちゃんの身の回りの世話をしてるだとか……最近だと黒江ちゃんをストーカーしてるって話も聞いたんだけど……」

 

 ……毎回思うんだけど、誰がこの噂流してんだ?しかも微妙に間違ってない。

 いや、黒江の件は完全なデマだけど。どうせ米屋辺りだろう。後でアイツしばき倒そう。

 

 小南とは旧ボーダーの頃から知り合っていたし、歳が一緒だったこともあって話すことが多かった。騙されやすい……いや、騙されやす過ぎるくらい純粋だって気づいてからは、悪意から守らないと、なんて思ってしまって小南に対しては嘘をついたことはない。

 でもそれだけだぞ?戦闘狂だが、戦うと良い訓練になるからいつも玉狛支部行く時は30本くらいやってるし……。

 勝ち越した方が負けた方に一つ命令できるルールでやっており、俺が勝ったらカレー作ってもらったり奢ってもらったりで、小南が勝ったら頭撫でたり膝枕したり……俺の膝が気持ちいいってのは中々驚く話だったが、特に困ったことでもない。

 

 綾辻と温泉に行ったのは確かにその通りだ。だが、あれはたまたま町で会って買い物に付き合ってもらって、福引券引いたら旅館のの無料券2人分が当たったってだけで……雪ノ下達は数合わないし、誰かに送るとしても期限が次の日だったから仕方なしに綾辻と行っただけで温泉は男女別だったし。

 ……部屋は一緒で布団一つしかなかったのは綾辻に本当に申し訳なかったが、特に間違いを起こすこともなく、お互いリフレッシュ出来た良い旅行だった。

 

 三上のは……あいつの弟や妹達が遊園地行きたいってことで、暇だった俺と小町が一緒に行って、観覧車に乗るタイミングがトイレで小町達とズレて、更に俺と三上の乗ったリフトがちょうど真上に来るタイミングで小町達が降りた辺りで止まったってだけで……なんつータイミングだ、今思うと偶然って怖過ぎるな。

 5時間も復旧されなかったが、スマホと水とお菓子あったからそこまで退屈じゃなかったな。トイレ済ませてたのも大きかった。

 ……まあ、ボーダーのLINEグループとか煩かった記憶はあるが。あの状況で憎まれ口叩いた菊地原はランク戦でポイント奪い取ってやったが、歌川から三上のことを思っての発言だと知らされて謝ったんだったか。

 

 那須は……まぁ、小町が日浦と仲良く、女隊員ばかりでウチも似たようなものだから付き合いが多いのだ。防衛任務もかなりの頻度で同じだしな。

 那須はトリオン体だと元気だが、生身が病弱で……前にボーダーから家に送ってた時に、倒れられてからはかなり気を遣うようにはしているが……身の回りの世話はそこまでしていない。するとしても、食事の準備とか食べさせたり、話し相手になったりくらい。

 誰だよ、俺が那須の着替え手伝ってるとか言い出した奴……三馬鹿の誰かだな、どうせ。今度スマブラで三人ともぶっ飛ばそう。

 

「半分デマです。あと別にやましい事とかないですよ。全部流れでそうなってしまったことばかりですし。あと黒江には稽古つける以外何もしてないです」

 

「半分は本当のことなのね……」

 

「まぁ、嘘ではないですが、大した話でもないっすよ。小南は昔馴染みみたいなもので、綾辻と三上は偶然、那須は体調壊した時に居合わせて、それから気を遣ってるだけなんで」

 

 よし、書類整理完了っと。これだけで給料増えるんだから本当に助かるな……。

 

「あ、残りも終わりました」

 

「ありがとう八幡君!お疲れ様!もう帰っていいわよ」

 

「うっす。あ、そういや沢村さん、忍田さんにアピール出来てますか?」

 

「うえっ!?」

 

「いや、そろそろ何か進展あってもいいんじゃないかって話、俺の周りでも聞くんすけど……」

 

「お、大人を揶揄うのはやめなさい///……私も八幡君君の噂のことは言わないから!」

 

「わかりましたよ」

 

 ふっ、チョロい。沢村さんなんてこの話題で一発で逃げ出せるぜ。

 俺と共に書類仕事をしていたのは本部長補佐の沢村さんだ。二年前まではバリバリのアタッカーで、忍田本部長に師事してたから地味に姉弟子でもある。

 俺は沢村さんが入ってくる前から所属していて何かと関わることが多かったため、割と親しかったりする。仕事仲間みたいな感覚だな。今でもこうやって事務仕事一緒にやるし。

 沢村さんが忍田さんに惚れているなんて見れば一発で分かる。俺の観察眼を舐めるなよ!……まぁ、大体の古株隊員や沢村さんを知っている人は皆知ってることなんだけども。

 

 資料室から出て、とりあえず歩き始める。

 午前中は仕事で手一杯だったが、午後は防衛任務もなく暇だ。飯食べた後、ランク戦ブースでも覗いてみるとするかね。

 

 

***

 

 

 食堂でA級気まぐれ炒飯を食べた後、俺は個人ランク戦のブースに来ていた。

 炒飯の具は蟹で、安いし美味かったのだが……やっぱり炒飯と言えば加古さんの当たり炒飯が一番だよなぁ。

 食堂の炒飯を普通とした場合、加古さんの当たり炒飯が天国でハズレが地獄だ。安定を選ぶのが一番かもしれないが、一度当たり炒飯を食べると、忘れられないくらいには美味いため、これからもギャンブルみたいに抜けられないんだろうな……。

 

「あ、八幡君。今からランク戦?」

 

 俺が炒飯について考えていたところで、声をかけてきたのはB級14位那須隊隊長の那須玲だった。

 バイパーの軌道をリアルタイムで引ける数少ない射手の一人で、マスターランク手前の実力を持つ。最近よくランク戦したり教え込んだりしてる黒江と同じで、弟子ってわけでもないが、たまに戦闘スキルを教えたりする間柄だ。

 

「おう。那須は?」

 

「私も今来たとこ。熊ちゃんと一緒に来たわ。ほら、あれ」

 

 那須が示した先には、緑川に攻められまくってる熊谷がいた。

 ……あ、乱反射食らった。これは負けだな。

 思った通りそのまま攻めを受けきれずベイルアウトしていくのを見ていると、那須が話を続けてきた。

 

「八幡君、今から特訓ってことでランク戦付き合って?」

 

「それはいいが……熊谷といいお前といい、今日はマスターランクに挑む日なのか?」

 

「うん、前回のランク戦で勝てなかったのは、もちろん戦術や連携がうまく行ってなかったこともあるけど、個々の力量が足りてなかったのもあるから。ポイントも大事だけど、強さの方が大事だからね」

 

 那須の言うことはもっともだな。

 マスターランクと呼ばれる個人ポイント8000点は、確かに強者の証でもある。だが、ポイントだけで隊員の強さは目安にはなったとしても、正確に測ることはできない。

 例えばB級弓場隊隊長の弓場さん。あの人はマスターランクの銃手で強さ的には銃手NO.1だが、ポイントとしてはそこまで高くはない。自分よりも強い相手や同じくらいの相手とすることがほとんどで、マスターランク以下とはほぼやることがない。それでもポイントを維持できており、トップレベルの隊員であると言えるだろう。

 うちの隊で言うなら由比ヶ浜。あいつはマスターランクに成り立てぐらいのところをうろうろしているが、格上に挑むことが多く、ポイントにこだわりがない。

 俺もまぁ、ポイントにこだわりはない方だと思う。隊務規律違反してポイント大幅に減らされてることからもそう言えるはずだ。

 

「自力の強さはチームの戦力に直結するから、悪くない手だな。今回はどうする?射手縛りでいいのか?」

 

「うーん、最初の10戦は射手縛りで、次の10戦がスコーピオンの爆発しない方も込みの射手縛り、最後10戦が全部あり、かな」

 

「………わかった」

 

 軽く30戦することになってしまったが、まあいいか。那須の射手としてのセンスは抜群だし、成長には目を見張るものがある。バイパーの軌道なんかは結構参考になるし、俺の訓練にもなる。那須とのランク戦は結構有意義なのだ。

 

「じゃあ私、203に入るわね」

 

「俺206な」

 

 

***

 

 

「やっぱり強いね八幡君!全然敵わなかったよ」

 

「いや、那須も前より強くなってたぞ」

 

 ランク戦30本やった後、一旦休憩ということになり、俺はマッカンを、那須はカフェラテを買ってブース前のソファに腰掛けていた。

 結局、最初の10本は7ー3、次の10本が9ー1、最後の10本は10ー0と26ー4で勝利した。

 射手としては、那須のバイパーに3回やられてしまったが、合成弾を作る隙が大きかったため、そこを利用して置き玉や時間差ハウンドを利用して勝利した。合成弾を使うタイミングや合成速度を上げていくと、そのうち勝率は5分になりそうである。

 スコーピオンを使うとオールラウンダーとの練習になると踏んだのだろうが、俺は迅さんや風間さんのスコーピオンの戦闘を参考にしつつ、独自のスタイルにバイパーを合わせるスタイルのため、那須としては相当やりづらかったと思われる。

 

 射手が怖いのは中距離だ。つまりは近づいて仕舞えば射手は基本的に不利になる。なお二宮さんは除く。

 その距離でもぐら爪やフェイントをかけたスコーピオンの攻撃を見せながら、その対処に追われている間に上空からバイパーやハウンドでトドメを刺したり。その逆だってある。

 那須が弱いのではない。射手は基本、この俺のスタイルとは相性が最悪なのだ。もちろん、二宮さんは除かれ、戦いすぎて全部かわせるようになった出水も除く。射手トップの二人だし、納得出来てしまうのだが。

 

 スコーピオン(改)も使いだすと、対応が追いつかなくなる。もちろん狙ってそうしている。

 建物に向かって投げて爆破させ、バイパーの軌道を見えなくしたり、スコーピオンによる速攻を仕掛けたり、ひたすら投げつけることもあれば、投げた後に自らのハウンドで当てて目の前で爆破させたりなど、多岐多様な使い方が可能なのだ。

 難点は狙撃による攻撃に弱いことなので、射手相手ならかなり有効だ。当然、二宮さんには効きやしないけど。出水には効く。

 

「やっぱり合成弾はよくないかな」

 

「よくないってわけじゃない。合成弾は強力な攻撃だし、当たれば確かに有効だろ。だが、作るまでの時間のロスとタイミングがまだまだだな。出水みたいに2秒でやるのは無理があるとしても、10秒かからない、出来れば5秒前後まで練習したらかなりの力になるはずだ。あとは使うタイミングだな。これはチーム戦術もあるし、チームで考えた方がいいかもしれん」

 

「そっか。ありがと八幡君!凄くわかりやすくて、今後の方針が決まったよ」

 

「それは良かった。俺もいい訓練になったし、楽しかったぜ」

 

「あ、もうこんな時間だ。家に帰らないと……」

 

「送ってく。前みたいに倒れられたら、お前の両親に合わせる顔がない」

 

「え、私の両親?」

 

「ああ、前にちょっと話してな。娘さんの世話を男がしてるってのは嫌な顔されると思ったんだが、なんかお礼言われて那須のこと守るとか言ってしまったからな」

 

「……そうなんだ///」

 

 そうなのだ。熊谷が少し前に話したらしく、スーパーで声をかけられたことがある。

 なんで分かったのかと聞くと、特徴的な目にアホ毛、常にダルそうにしているとの情報で、俺しかいないと思ったらしい。

 ……一発で話しかけられて当てられたのは嬉しいことかもしれないが、内容が内容だけに悲しくなった覚えがある。今でもちょっぴり悲しいしな。

 その那須の親に話しかけられた時は、娘に悪い虫がついてると思われて声をかけてきたのだと思い、その場で土下座したのは余談である。

 いや、だって小町にそんな男いたら、俺血涙流して殲滅しに行くと思うし。千葉の兄妹としては普通の行動……なはずだ。

 

 で、土下座したから那須の両親困惑して、オロオロされたっけ。その時通りかかった一色が面白そうとばかりに動画に撮って、雪ノ下達に見せたり三馬鹿に見せたりしたせいで一悶着あったりもしたが……頭を上げてくれと言われて、打たれるかと思えば、物凄くお礼言われたんだった。

 なんでも、那須のご両親曰く、仕事のために自分たちがついていない時に那須の看病だったり適切な対処をしてくれたことが嬉しかったのだとか。

 その後は那須の家でご飯ご馳走になったり、帰ってきて泊まるつもりだったのだろう那須隊メンバーが那須に向かってニヤニヤしてた記憶もある。

 ちなみに俺が何故人の看病や緊急時の対処が出来ているのかと言えば、ボーダー隊員として働きつつ、そういった知識を勉強していたからだ。その場で緊急処置が行えれば、助かる命が増えるかもしれない……などと言う立派な目的ではなく、目の前に小町が倒れて何も出来ないのは嫌だったからという理由である。

 

 その日はいつものように那須を家に送り届けると、ご両親に食事に誘われてご馳走になった。

 それがどこからかボーダー隊員達にバレて、俺がスコーピオン(改)で爆殺するのはまた別の話である。

 




那須さんは可愛い。健康になって欲しいけど、病弱という設定が儚さを上げてて更に綺麗に見えるから悩みどころじゃないかと作者は思うんだけど、皆はどう思ってんだろ……?


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依頼者:荒船哲次

閑話は基本、特訓とか飯食べ行ったりLINE内容だったり。

依頼は依頼者中心にしながら、たまに雑。

……みたいな?


 A級ランク戦、第5戦目終了後。

 

『では今回の総評を、影浦隊からお願いします』

 

『今回のMAPは市街地A。特にこれといった特徴のないノーマルマップで、三部隊での乱戦を狙ったと思いますが、影浦隊の思惑通りだったと思われます。ただ、雪ノ下隊と戦う際に乱戦を選んだのは少し失敗だったと思いますね』

 

『と、言いますと……?』

 

『雪ノ下隊はバランスの取れた良いチームで隙が少ない。弱点が殆どないことでも知られていますが、中でもエースの比企谷と銃手の由比ヶ浜。あの二人は乱戦に特に秀でています。人が集まったところでごちゃらせてから点を取るのが得意な比企谷と、近距離での奇襲が効きづらく、むしろ奇襲を仕掛けることが多い由比ヶ浜。この2人を揃えてしまったことは反省点と言えるでしょう。影浦には不意打ちも狙撃も効かない、しかし比企谷と戦いながら由比ヶ浜の援護射撃を避けるのは相当やりづらかったと思います』

 

『それはもちろん、三輪隊にも言えることでしょう。今回は珍しく、比企谷が爆破スコーピオンを使わないでバイパーでの支援に徹してたことも大きかった。米屋が爆破スコーピオンから意識を削がれていたところに、バイパーを放つ素振りから流れるようにスコーピオンを投げられ爆発。一撃で倒されてしまった。あれで比企谷としては随分と楽になっただろうからね』

 

『雪ノ下が三輪を止めている間に、北添と絵馬を釣り出して一色と由比ヶ浜が抑えに行く。前持って決められた動きだったと思われます。もしも米屋が生きていれば、由比ヶ浜は一色を手伝うことが出来なかったでしょうし、比企谷を狙撃で倒せたかも、と思いますね』

 

『比企谷と影浦は実力的には5分と言っていい。米屋も状況次第でどちらも倒せる実力者だけど、由比ヶ浜の援護が効いてたね。米屋が倒れたところで由比ヶ浜が姿を眩まし、エース同士の一騎打ち状態に持ち込んだ。通常通りの雪ノ下隊なら、比企谷は放置で残り三人が纏まって点を取りに行くスタイルがほとんど。今回みたいに比企谷と由比ヶ浜が組んだ例は過去に一握りほどしかなかったから、そんなレアケースに当たった影浦隊と三輪隊は虚をつかれてもしょうがないね』

 

『比企谷の役割が敵部隊のエースとの一騎打ちなことが多い分、援護があるだけでやりづらさが段違いだったことでしょう。三輪と米屋が揃って仕掛ければ、比企谷も1人でも多く道連れにする戦法に切り替えたと思いますが、雪ノ下が完璧に三輪を抑え込んでいたことが地味に良い仕事してました。奈良坂と古寺の2人は、バラけて援護するより三輪を援護して確実に雪ノ下を倒しておいた方が良かったかもしれませんね。影浦が比企谷を倒したとは言っても、足を失った状態では一色を探しにいかなかった。雪ノ下隊に点をやらないことだけを考えるなら、影浦隊を諦めて1人ずつ倒すのも面白かったかもしれません』

 

『なるほど……東さん、迅さん、解説ありがとうございました!さて、今回の対戦結果で暫定順位が入れ替わります。3得点を挙げた雪ノ下隊が4位に浮上、影浦隊と三輪隊は変わらずーーーーーー』

 

 

***

 

 

 チームランク戦で基本的に俺はディスられる側なのだが、今回は仕掛けがうまくいったようだ。

 二宮隊がB級に落ちたことで、代わりとばかりにB級一位の影浦隊がA級に上がって初の対戦だった今回。

 初期転送位置から雪ノ下が三輪の足止めを行い、米屋との合流を阻止。影浦隊がやりたかったであろう俺と米屋にカゲさんをぶつける作戦に乗っかった。

 ゾエさんの適当メテオラもうざかったし、由比ヶ浜との距離が近かったから、スコーピオンしまってバイパーで2人を牽制しながら、シールド使って守りに入り、由比ヶ浜に射撃をしてもらって動きにくくしながら後退していき、前がかりになってきたところを唐突のスコーピオン(改)を投げつけて米屋を爆破。

 一色がゾエさんと絵馬の位置を把握したってことで、由比ヶ浜にそっちに行ってもらった。おかげでカゲさんとタイマンすることになって結果的には負けたものの、ゾエさんと古寺を雪ノ下と一色が倒す時間は作れた。

 ちなみに三輪は絵馬に狙撃され、絵馬は奈良坂に狙撃され、ゾエさんを一色がハウンドとスコーピオンで追い詰めたところに由比ヶ浜がバッグワーム徹甲弾奇襲でゾエさんを滅多打ちにし、古寺に由比ヶ浜が狙撃されたことで雪ノ下が古寺を倒した。

 あとはみんな隠れて残り時間やり過ごしてたな。点より安全をとったことになる。カゲさんは片足だけど動けなくてもマンティスで殺しにくるし、そこに手間取って奈良坂に狙撃される危険があったからな。雪ノ下の良い判断だったと思う。

 これを本人に言ったら、「上から目線な上司面谷君、影浦先輩に負けた言い訳はないのかしら?」って言われたけどな。

 いや、米屋倒したんだから許してくれよ……あと上司面谷は語呂悪すぎ。

 

 結果3ー2ー2でうちの勝利。順位上がって4位になり、次は加古隊と冬島隊が相手になっている。

 ……超絶面倒なニチームが揃って相手になるって最悪なんだが。トラッパーいる部隊が同時に二つはキツすぎるだろ……マップ選択権は加古隊にあるし、嫌な予感しかしない。

 第三戦は草壁隊と片桐隊に勝って3位に浮上し、第四戦で太刀川隊と二宮隊にボロ負けを喫して今回で4位に戻ってきた……次勝っても太刀川さんとこだろうし、楽に勝てるところがどこにもねえ……いやまぁ、A級ランク戦の時点で全部隊強いんだけどね?

 

 

***

 

 

 自室でマッカン飲みながら本を読んでいると、ドアをノックされた。

 

「なんだ?」

 

「依頼者よ比企谷君。今回の話はあなたが適任だから任せるわね」

 

 突然やってきて一方的に話を通した雪ノ下がスタスタと隊室から出て行った後、部屋から出て居間に行くと、荒船さんが紅茶を飲んで待っていた。

 

「よっ、比企谷」

 

「荒船さん、どうしたんすか?」

 

「今日はお前に用があって来たんだよ」

 

 荒船さんが俺に用?孤月でランク戦やろうって話か?

 B級荒船隊隊長の荒船哲次。荒船隊は隊長の荒船さんがエースで孤月使いの攻撃手で、隊員の穂刈さんと半崎が狙撃手という珍しい構成のチームだ。

 特に荒船さんはマスタークラスの攻撃手で普通に強い。前に那須がアタッカー対策手伝って欲しいとか言っていたのは、荒船さんに斬られたことも関係してるんだろうな……。

 

「ランク戦すか?最近ハウンドと孤月を連動させる練習してるんで、喜んでお受けしますが……」

 

「お前ハウンドも使うのか?そういや、前に那須とランク戦やってた時使ってたな……まぁそれも面白そうだが、別件だ」

 

「別件?」

 

「俺はアタッカーをやめる。いや、この表現は間違いだな……アタッカーからスナイパーに転向する」

 

「え、何故です?……村上先輩に抜かされたからですか?」

 

 荒船さん程の人がアタッカーから転向する理由が分からん。半年前くらいに弟子に取った鈴鳴第一の村上先輩がポイントで抜かしたから、それで……いや、ねぇな。この人はそんなタマじゃない。

 

「違う。俺の目標は木崎さん以来の完璧万能手なんだよ。攻撃手、銃手、狙撃手のマスタークラスまで導けるメソッドを確立して、将来完璧万能手を増産して軍隊みたいに作るのが今の所の最終目的だ」

 

 うわっ、何かめっちゃ物騒なこと言い出したぞ。

 木崎さんに次ぐ完璧万能手になる?それはいい、この人アタッカーとして普通に強いし、なってくれたら戦力上がるし全然いい。むしろ応援する。

 だがマスターレベルにまで至るメソッドの確立……道のり険しすぎるだろ。凄え向上心だな……。

 ……ん?そうなると俺を訪ねて来たのは……?

 

「俺に用って、唯我を鍛えたことっすか?」

 

「ああ。前回のランク戦みたが、あのお荷物が凄まじいくらいに変わってたからな。で、出水に聞いたらお前が鍛えたってことだったから、その方法を聞きにきた。あとついでに木崎さんにアポ取ってくれると助かる」

 

「なるほど……いいっすよ、協力します」

 

「ありがとよ」

 

 そういうことなら何なりと話そう。……多分使えないだろうけど。

 唯我の鍛え方はシンプルだ。まず、銃でひたすら撃つ感覚を体に覚えさせ、意識しなくても指が反応するレベルにまで練習させる。

 次に、銃の間合い……距離の限界を叩き込んだ。と言っても、家何個分くらいまでなら届くからーって程度の教え方だから、大したものでもない。

 最後に実践でやらせ続けた。俺との模擬戦での動きからみて勝てそうな相手に挑ませて勝たせ、調子に乗らせる。それで勝手に強いやつに当たってくれたら現実を知るだろうと思ってやらせてたら、案の定由比ヶ浜にボコボコにされたから想定内。

 臨機応変な対応を捨てる代わりに、一週間で戦力に少しはなるレベルには出来る。やることなんて間合いに来たら撃つ、隠れてたから一撃で仕留めるように撃つ、右で顔狙って撃って、左で足狙って撃てば大体勝てる。まぁ、相手に先手を取られると何もできない戦闘法だからA級とかだと瞬殺されるんだけど。

 

 この話をすると荒船さんにどん引きされたが、何かおかしいこと言ったか?一週間泊まり込みでひたすら訓練させればこの程度出来るようになる。学校の時間と食事の時間と睡眠の時間以外全てを当てれば楽勝だぞ?唯我の奴も途中からテンションハイになってたし、楽しそうだったんだが……。

 俺は一応攻撃手、射手、狙撃手と手を出しているので、荒船さんとその後も話し続けた。育成プログラムを考えるのがかなり楽しかったと言うのもある。

 

 そして夜。

 レイジさんに連絡を取り、玉狛支部に向かうのだった。

 




今回は雑なパターン。
あ、基本時系列適当なので「この時くらいかぁ?」って勝手に思ってもらえると助かります。


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閑話 ある日のグループチャット

チャット風で書いてみましたが……しくじった。
正直読めるレベルにまで書けてないです。想像の遥か下を行くクオリティ。

キャラ崩壊&見づらさMAX&内容なさすぎなので、本当に何でも許せて文章ごちゃごちゃでもいい人だけお読みください。



米屋:なぁ、ちょっと暇な奴いる?

 

出水:なんだ米屋

 

米屋:A級ランク戦終わった後で言うのも何だけど、ハッチと黒江ちゃんはやっぱり怪しいと思うんだよ

 

出水:おいおい槍バカ、忘れたのか?その噂を聞いた比企谷に、お前爆殺されまくってたじゃねぇか。ここ高2グルだぞ?死ぬ気か?

 

米屋:ならこうすればいいんじゃね?

 

 

ーー米屋がヒキガヤを退会させましたーー

 

 

出水:お前……よくやった!

 

奈良坂:これで何を語っても問題はないな

 

出水:おっ、奈良坂までノリノリなんてどうした?

 

奈良坂:いや、この件に関しては少し話せることがあってな

 

米屋:……マジ?

 

出水:さては槍バカ、お前ノリだけで話題出しやがったな……

 

奈良坂:少し前に日浦が言っていた。『1dayイベントの時、比企谷先輩が黒江ちゃんの頭をわしゃわしゃー!ってしてたんです!されてる黒江ちゃんも普段の無表情じゃなくて、満更でもなさそうにニコニコしてて……あの2人危ないですよ!特に黒江ちゃんが危険です!』って感じでな

 

熊谷:あー、あれね。玲と茜が犯罪現場言ってたやつ

 

那須:あの光景を見たら、誰でもそう言いたくなるわよ

 

由比ヶ浜:玲ちゃんの言う通り!ヒッキーはロリコンだったのかなぁ……

 

小佐野:まず黒江ちゃんって誰だっけ?

 

出水:黒江は緑川の次に入隊してきて11秒出した新人

 

米屋:B級上がってすぐに加古隊に入ったし、前回のA級ランク戦にも出てたぞ

 

由比ヶ浜:あと可愛い!

 

雪ノ下:けれども彼女はまだ中学1年生よ

 

小佐野:そんな才能の塊で可愛いJC成り立ての子に、ぼっちマンの奴は手を出そうとしてるわけ?

 

出水:そうなるな

 

奈良坂:久々に聞いたな、ぼっちマン……

 

那須:今でもたまに『俺はぼっちだ』とか言ってるわね

 

小南:実際ぼっちで根暗な奴だったわよ

 

出水:その話、未だに信じられないんだよな……俺が入隊してから初めて話した時は割と普通だったし

 

雪ノ下:話したあと、本人が『噛まないでよかったぜ、これで俺もぼっち卒業か……フッ』とか言っていたのだけど

 

由比ヶ浜:最近はヒッキー言わなくなったけど、前は『フヒッ』とか超気持ち悪い声出してたし

 

出水:マジか!

 

奈良坂:今の比企谷からは考えられないな

 

小佐野:誰か当時の声録音してないー?

 

雪ノ下:一度警察に訴える時のために録音したものがあるわ。小佐野さん、今度うちの隊に遊びにきた時にでも聞きましょう

 

小佐野:おっけー

 

那須:あ、私も聞いていい?

 

熊谷:私も

 

雪ノ下:もちろんよ

 

米屋:待て待てお前ら!今はハッチがぼっちだったって話じゃなくて、黒江ちゃんと怪しいって話だろ!

 

出水:そう言えばそうだった

 

小佐野:すまーん、脱線したー

 

雪ノ下:比企谷君に関しては通報する案件が多すぎるもの。話がズレても仕方ないと思うのだけど

 

由比ヶ浜:ヒッキーマジキモかった時期あったから仕方ないよゆきのん!

 

奈良坂:チームメイトにボロクソ言われてる比企谷はドンマイだな

 

米屋:退会させられてボロクソ言われるハッチwww

 

出水:退会させたのお前だろwww

 

小南:仕方ないでしょ、アイツだもの

 

宇佐美:その割には『八幡はいつ来るのよ!もう2日も来てないのよ!?おかしいでしょ!』とかよく言うよね〜

 

小南:ぎゃぁぁぁぁあ!!?栞、変なこと言わないで!?私はただ戦う相手が欲しいだけなの!

 

宇佐美:なら烏丸君やレイジさんとやれるよ〜?

 

小南:レイジさんは自己研鑽に励んでるし、とりまるはバイトじゃない!

 

宇佐美:まぁ、確かにそうだね。ランク戦100本とかやってくれるの比企谷君ぐらいだもんね

 

小南:ええ、そうなのよ!

 

雪ノ下:それはよく分かったわ、でも……

 

由比ヶ浜:こなみん、どうしてヒッキー限定なのかな?

 

雪ノ下:そうね、そこをもっと具体的に話してもらえるかしら?

 

由比ヶ浜:馬鹿なあたしでも分かるような説明をね?

 

小南:……そ、そう!元個人総合5位で強いじゃない!攻撃手としても私に次ぐと言っていいし、射手としても元3位でしょ!色んな攻撃パターンでシミュレーション出来るから、戦うのが楽しいのよ!

 

雪ノ下:それなら、本部に顔を出せばいいじゃない。一時期攻撃手1位だった貴女なら、対戦相手はいくらでも選べるでしょう?

 

小南:それは、そうだけど……

 

宇佐美:そろそろ小南が泣きそうだから勘弁してあげて。って話題出したの私だけど

 

小南:.°(ಗдಗ。)°.

 

那須:既に泣いちゃってない?

 

米屋:(女子怖すぎじゃね??)

 

出水:(比企谷は何故か一部にはめっちゃモテるからな…)

 

米屋:話を戻すぞ!

 

出水:二人怪しいってことだが、米屋はなんか証拠みたいなの掴んでんのか?

 

米屋:一応な!って言ってもA級から全員知ってるかもだけど

 

熊谷:A級ランク戦で何かあった的な?

 

米屋:そ!A級ランク戦の時、冬島隊VS雪ノ下隊VS加古隊の三つ巴があったろ?

 

出水:第6戦のやつだな。俺解説したぞ……あー、あれか

 

米屋:そう!ハッチが黒江ちゃん落としに行って、黒江ちゃんが道連れにしたやつ

 

出水:抱きつきながら一緒に爆死したやつな。喜多川の設置した罠が容赦なくてビビった覚えある

 

雪ノ下:おかげでうちは敗北したわ。黒江さんの最後の足掻きを甘く見た比企谷君が悪いのだけど

 

由比ヶ浜:……あの時、双葉ちゃんが『先輩、心中ですよ!!』って言ってたよ……

 

米屋:つまり……ハッチ→黒江だけじゃなくて、黒江→ハッチもあるということか……

 

出水:よし、通報しよう。放っておいたら比企谷が犯罪者になってしまうからな

 

 

ーー綾辻がヒキガヤを招待しましたーー

 

ーーヒキガヤが参加しましたーー

 

 

那須:あ、私と熊ちゃんは急用ができたわ

 

熊谷:そういうことで

 

小佐野:麻雀誘われたから落ちるね

 

雪ノ下:結衣、連携の確認しましょう

 

由比ヶ浜:もちろんだよゆきのん!

 

宇佐美:やしゃまるシリーズの作成があるから落ちます

 

小南:カレー作んなきゃだから

 

奈良坂:日浦の訓練に付き合ってくる

 

米屋:ちょ、待って!?

 

出水:お前ら俺たちを見捨てる気か!?

 

ヒキガヤ:綾辻ので確認済みだからな……よし、米屋と出水はランク戦ブースの前に30秒後集合な

 

米屋:悪かったってハ

 

出水:槍バカ!?

 

 

 この後爆散させられたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熊谷:そう言えば、なんで比企谷の名前はヒキガヤでカタカナになってるわけ?

 

雪ノ下:太刀川さんが漢字だと読めないからだそうよ

 




綾辻、三上、辻、氷見、若村、三浦、三輪、仁礼に関しては、グループ入ってるけど今回だしてないだけです。

チャット風で書ける人マジで尊敬するわ。


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依頼者:柿崎国治

いや、ほんと、読みたいもの書くって難しい。
妄想で事足りてしまうのがほんと難点。考えるのだけなら楽しいんだけど、毎回内容変わるから記録代わりに書いてる感じなんよな……。

リクエスト募集してネタに困らないようになりたい(書く内容はめっちゃくちゃあるのに、ただ書く順番を決められないだけという)。

時系列的にはランク戦シーズン外の5月で、前のLINE直後からです。


「ハッチごめん!悪かった!今度焼肉奢るから勘弁してくれ!」

 

「……」

 

「だから悪かったって!無言で旋空放つのやめて!?」

 

「……ちっ」

 

「その『躱すな』みたいな目やめて!?」

 

「旋空弧月」

 

「はっ!?それ生駒旋k」

 

『戦闘体活動限界 緊急脱出』

 

 

***

 

 

 ……ふー、落ち着いた。これであいつらも懲りてくれたことだろう。

 個人ランク戦ブースを出ると、目の前のソファに倒れ伏している出水と米屋を発見した。

 

「比企谷容赦なさすぎだろ……あと殺し方がえげつなさすぎる」

 

「生駒旋空いつの間に使えるようになってたんだ……?」

 

 えげつない?出水に攻撃させないくらいスコーピオン投げつけまくったことか?

 

「ちげえよ!お前二本目から俺が逃げられないようにモールクロー使って動けないようにしてただろうが!?それに逃げ出したらバイパー変な軌道で回り込ませやがって!変態か!?」

 

「普通に心読むな」

 

「分かりやすいんだよ比企谷は!」

 

 モールクローは基本中の基本だろ?何を言ってんだ?奇襲としても足止めとしても使える上に足を止められなくなる。相手を思い通りに動かすための技の一つだ。

 風間さんにスコーピオンで全く勝てなかった頃、スコーピオン(改)の開発を依頼している間に本人に頭下げてどんなタイミングで使えば効果的なのかをレクチャーしてもらったからな……これくらい出来なきゃ風間さんに顔向けできん。

 

「出水とやってる時スコーピオンばっか使ってたのに、俺と戦るときは弧月使うんだもんな。全然動き変えやがって……生駒旋空いつの間に使えるようになったんだよハッチ?」

 

「え、使えてた?マジで?無我夢中で殺しに行ってただけなんだが……」

 

「無我夢中になってまで俺を殺そうとするな!」

 

 米屋がぎゃーぎゃー言っているが、そんなことよりも俺が生駒旋空を使えていたとは……。

 B級生駒隊の隊長、生駒さんの編み出した通称生駒旋空は、射程40mと銃手すら驚く射程を誇っている。

 旋空は効果発動の時間が短ければ短いほど射程が伸びる仕様となっており、確か前にログで見たら0.2秒の時間に完璧に剣速を合わせていたはず。

 ……生駒さんとも結構ランク戦してきたし、個人的に練習していたが……後でログ見直そう。

 

「で、焼肉奢ってくれるんだろ?小町呼んでいいか?」

 

「はぁー、まああれは悪ノリが過ぎたしな。……ついでにポイント返してくれたり?」

 

「無理だな」

 

「でも比企谷、あのLINE内容見たら分かると思うが、雪の女王とピンクの悪魔が露骨にお前の悪口言ってたがあれはいいのかよ?」

 

「……ああ、あれか。やっぱ悪口だよな?中学の頃から日常的に言われてることだし、今でもたまに言われるから慣れきってて……」

 

「「……焼肉行こうぜ」」

 

「お、おう」

 

 二人に憐みの目線を受けながら、肩を抱かれて慰めの言葉をかけられつつ、俺は寿寿苑に足を運ぶのだった。

 ……ついでに奢りだしと小町も呼んでみたところ、何故か日浦と一色がついてきたが、ちゃんと米屋と出水で奢ってくれた。

 ゴチでした。

 

 

***

 

 

 学校も終わり、隊室で本を読みながらゴロゴロしていたところ。

 一色が依頼者を連れてきた。

 

「よっ、比企谷。久しぶりだな」

 

「ザキさん、どうしたんすか?」

 

「ああ、ちょっと奉仕部に依頼がしたくてな……いやどっちかっていうと相談なんだが」

 

「分かりました。どうぞこちらに」

 

 訪ねてきたのはB級の柿崎隊隊長の柿崎国治さんだった。

 柿崎さんはまだ嵐山隊がB級の頃に嵐山隊に所属していた元嵐山隊で、尊敬できる先輩である。あとリア充。

 嵐山さんと同時期に入隊しており、当然俺とも面識がある。というかランク戦もするし、たまに遊びに誘われることもある。

 ザキさんを来客用のソファに案内したところで、ザキさんを連れてきた一色が露骨に頬を膨らませて不満です私アピールをしていた。何だ?

 

「ちょっと先輩~!なんで柿崎さんに対してはそんなに丁寧なんですか!?私の時と雲泥の差何ですけど!?」

 

「は?何を当然のことを。ザキさんは信頼できる先輩で、お前は生意気な後輩だぞ?」

 

「なんですかそれ~!?」

 

 一色が突っかかってくるので適当にあしらっていると、ザキさんが笑いながら声をかけてきた。

 

「お前たちは仲いいよな」

 

「いやいやいや!全然ですよ、むしろ……」

 

「むしろ?何ですか先輩?」

 

「……何でもないです」

 

 むしろ敵とまで言えます、と言おうとしたが、いい笑顔でこちらを見てくる一色が怖くて言えなかった。

 一色がいると話が進まないので、ランク戦ブースに向かわせた後ザキさんの話を聞くことにした。

 

「それでザキさん、今日はどうしたんです?」

 

「ああ、実はだな……」

 

 柿崎隊はザキさん合わせて四人構成の部隊で、隊全体の仲が良い。たまに俺とか小町とか由比ヶ浜とか一色も声をかけられたりするが、隊で遊ぶことも多いらしい。

 それで先日の休みに、四人で遊園地に行ったとのこと。ジェットコースター乗ったり観覧車乗ったりコーヒーカップに乗ったりと、色々と楽しんだらしいが……お化け屋敷に行ったらしい。

 ……オチが読めたな。

 

「それでだな……」

 

「照屋が怖すぎて幽霊ぶっ飛ばしたか、お化け屋敷自体を壊してしまって親を呼ぶ羽目になり、照屋が申し訳なさで落ち込んでいる……ってとこですか?」

 

「……お前は迅か?」

 

 いや、だって前にその話一色から聞いたし……。

 柿崎隊の万能手、照屋文香はお嬢様学校に通っている、家も裕福な本物のお嬢様であり、ボーダー隊員として同時期の入隊だった歌川や奈良坂と新人賞を争ったくらいの逸材だ。

 そんな照屋が柿崎隊に入りたいと志願した理由が、「柿崎さんは支えがいがあると思った」という完全に世話焼き女房の視点からの理由だったのは驚きだった。

 月見さんといい、照屋といい、才色兼備でお嬢様な人は駄目なところがある男を世話したいとかいう思いがあるのかと本気で考えたものだ。

 ……ここに専業主夫志望の駄目人間がいると言いたいが、俺にはそういった人はいない。何それ悲しい。

 

 そんな照屋だがお化けが大の苦手という、可愛いところもあったりする。だがその反撃が過激すぎるのだ。

 

「照屋がお化けが苦手なんて知らなかったんだよ。連れて行った俺たちにも責任はあるんだが……最近照屋が落ち込んでいてな、どうにか元気付けたいと思ってんだ」

 

「なるほど……で、何故うちに?嵐山さんとか時枝辺りに聞けば解決しそうですけど」

 

「いや、もちろんそれも考えたが……最近広報の仕事が忙しいだろ?ランク戦シーズンでもないから、より広報の仕事増えてっからな~。ちょっと言いづらくてだな……」

 

「それで、相談事や依頼を受け持つ奉仕部があるうちを訪ねてきた、と」

 

「おう、そういうことだな」

 

 ……タイミングがなぁ、こういう話なら一色の方が……いや、あいつは照屋とタイプが違いすぎる。駄目だな。

 雪ノ下と由比ヶ浜は今日は家の用事だし……俺が対応するしかないか。

 

「依頼は照屋の落ち込んでいる状態を改善したい、でいいですかね?」

 

「ああ、それで頼む」

 

「じゃあ、何とかしてみます」

 

 ザキさんに依頼されたら、どうにかしないとな。

 

 

***

 

 

「あ、比企谷先輩」

 

「おう照屋。呼び出して悪いな」

 

「いえ、ランク戦してくれるなんてどういう心境の変化ですか?前弟子入り志願したら断ったのに」

 

「弟子取れるほど立派な人間でもないんでな。ランク戦は正隊員同士の模擬戦だし……あんま時間合わんのか全くランク戦する機会ないけど」

 

「そうですね」

 

 ザキさんに依頼された俺は、早速翌日に照屋と会うことにした。

 基本的にボーダーから支給されている携帯端末には、B級以上の隊員の連絡先は大体入っている。これでも元総合ランキング5位であり、奉仕部も兼ねているA級部隊の一員だ。今の隊員たちの中だとかなりの古株に分類されるから、入ってきてランク戦or防衛任務をして連絡先交換、ってのが一連の流れだ。

 

「じゃあランク戦しましょう。今回は近接縛りでお願いします」

 

「分かった。じゃ、233に入るぞ」

 

「了解です」

 

 ランク戦する必要は正直ないだろうが、ランク戦は話題作りに苦労しないからな。

 実力を上げたい照屋のためにも、ちゃんと本気でやろう。

 

 

***

 

 

「お疲れさん、強くなってんな」

 

「訓練は欠かしてませんから。比企谷先輩には敵いませんけど」

 

 ランク戦は10本して9-1で俺が勝った。前やった時も9-1だったが、やりづらさが段違いだ。

 奈良坂や歌川がA級部隊で活躍しているため目立ちはしないものの、能力的には間違いなく有能だと言えるだろう。

 

「もう少しスコーピオン使いには距離を取るか、もしくは攻撃速度を上げた方がいいぞ。近すぎれば枝派やもぐら爪の餌食になり兼ねない。手っ取り早いのは相手の対処速度を上回る攻撃を組み立てて攻め続けるか、中距離と近距離をもっと使い分けて戦うことだな。例えばだが……」

 

「なるほど……そうなると……」

 

 照屋は才能もあって努力家だ。家のことや学校もあってランク戦ばかりする戦闘狂どもと違ってそこまで時間を取れていないらしいが、努力の跡も見えるし学ぶことに貪欲だ。

 そのうちマスタークラスに上がると俺は踏んでいる。それがいつになるかは分からないが。

 

「ご指導ありがとうございました。またランク戦してくださいね」

 

「ああ、もちろんだ。……話変わるけど、照屋の好物って何だ?」

 

「好物、ですか?そうですね……プリンが好きですよ」

 

「そうなんだな……」

 

「……どうかしましたか?いきなり好きな食べ物聞いてくるなんて」

 

「え、いや、特に理由はない。ちょっと気になっただけだ」

 

 照屋の好物を聞いた理由はもちろんある。

 ザキさんによれば、ランク戦シーズンでもないため照屋と会う機会が極端に減っていると言っていた。というか照屋が隊室にいないことが多いとのこと。

 加えて声をかけてもすぐに逃げてしまうらしい。

 なら、まずはきっかけを作る必要があるから、照屋の好きなもので釣って話させようというありきたりな作戦でいくつもりだ。

 俺がLINEでザキさんに作戦の概要を伝えていると、何やら視線を感じた。

 

「……どした?」

 

「いえ、その……そういったことはいろはちゃんにしてあげてくださいね」

 

「そういったこと?」

 

「いろはちゃんの好きなもの知ってますか?」

 

「知らん」

 

「即答ですね」

 

「あ、イケメンか?中学の頃言っていたが、ステータスになるからとか何とか言って……お、ちょうどいた」

 

「誰がです?」

 

「一色が好きな相手」

 

「え!?」

 

 俺が指さした方向を驚いた様子で見る照屋。

 そこには金髪のC級隊員がいた。

 葉山隼人、俺が嫌いな奴である。

 黒江と同時期だとは思っていたが、仮入隊してなかったのか……いや、あれは三浦や戸部のペースに合わせてんな。B級あがったら隊組むって話由比ヶ浜から聞いたし。

 

どういうこと?いろはちゃんは事あるごとに先輩先輩言ってるのに……難儀な恋と思ったら理由は本人のせい?今度女子会で話し合いが必要かな……

 

 照屋は何やらブツブツと言っているが、何かまずいこと言ったか?俺?

 

 

***

 

 

 数日後、ザキさんが訪ねてきてお礼を言ってきた。どうやらうまくいったらしい。

 ちなみにどうしたかと言えば、ザキさんに宇井と巴に協力要請をさせ、照屋の一番好きな美味しいプリンを人数分購入後、自然な形で宇井が照屋を隊室に呼び寄せ、食す。

 そこにザキさんが登場し、逃げられないように巴がごく自然に出入口を塞いだ後、ザキさんによる謝罪と照屋にいつも通りに接して欲しいと話してもらった。

 小町情報により、照屋がザキさんのことを好いていることは分かっていたためこの作戦を決行したが、無事成功。その時の照屋は顔を真っ赤にしていたらしい。

 

「ありがとな比企谷。おかげで前みたいに隊全体で楽しく過ごせてる」

 

「いえ、奉仕部の務めですので。ところで照屋は今日どうしたんすか?ランク戦の予定を取り消していきましたけど……」

 

「ああ、なんだっけか?女子会がどうとか言ってたぞ」

 

「えぇ……」

 

 

***

 

 

「ちょっといろはちゃん、どういうこと?」

 

「そうそう、自分から勝負捨ててるよね?」

 

「いや、その、当時は好きだったといいますか、それ以降先輩に話しかける口実にしてたと言いますか……」

 

「そういうこと言ってるから、比企谷先輩に誤解されたまま面倒な後輩扱いされてるんだよ?」

 

「アピールからやり直そ?」

 

「……そ、そんなことより文香はどうなの!?柿崎さんとは進展あったの!?」

 

「……///」

 

「ふ、文香に先を越された……?」

 

「あ、いやそんなことないよ。ただ仲間として接して欲しいって説得されたことに喜んでるだけだから」

 

「真登華!?」

 

「ほらほら~、文香だって似たようなもんじゃん」

 

「妹枠のいろはちゃんよりは頑張ってるの!」

 

「……私からすればどっちもどっちかな」

 

 女子会は大いに盛り上がったそうです。

 




頭の中にヒロイン浮かんだけど、完全に犠牲者(ハートブレイクされる人)増やすから迷い中。
次はどこを書こうかな……。


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依頼者:香取葉子

個人的な考えですけど、香取って五等分の花嫁の二乃とかスクストの天音っぽいと思うんすよ。
ツンドラからの身内に対して(ただし華さんのみ)愛情あるっていう。
で、多分唐突に出てきたイケメンに弱い(憶測)。

あくまで個人的な考えなんで「ふーん?」程度に流し読みしてください。マジで。


「ねえ、ここってボーダー隊員なら何でも依頼出来るのよね?」

 

「そうね。もちろん内容次第ではあるけれど」

 

「雪ノ下さんなら何でも解決できるでしょ?依頼あるんだけど」

 

「それは依頼内容によるわね。例えばそこのシスコンをランク戦でボコボコにしろとかなら出来るけれど、シスコンを改善する、なんてことは出来ないわ」

 

「とにかく、依頼を受けてよ」

 

「だから内容次第だと言っているでしょう。貴女話通じてるの?」

 

「はぁ?」

 

 ……なんだこの雰囲気。正直今すぐにでも逃げ出したいのだが。

 目の前で行われているプライドの固まり同士の舌戦。由比ヶ浜と一色は小町とオペレーター女子会の方にそそくさと行ってしまい、俺もランク戦しに行こうとしたのに何故か雪ノ下に引き留められた。おかしい。

 俺はあの雪ノ下にですらガンを飛ばし、今も何やら言い合っている本日の依頼人を見つめる。

 

「ちょっと何そんな気持ち悪い目を向けてきてるわけ?キモいんだけど」

 

「視姦谷君、依頼者にそんな目線を向けるなんて相変わらずね。でも私の品位にも関わるからやめてくれるかしら」

 

「へいへい、悪かったよ」

 

 この二人から罵倒くらうと、中学二年の頃を思い出す。三浦と雪ノ下に同時に罵声浴びせられると怖かったんだよなぁ……今はもう怖くもなく、慣れきってしまっているのだが。

 今回の依頼者はB級香取隊隊長の香取葉子だ。万能手でスコーピオンはマスタークラスになってるしA級レベルの実力者。銃手としてもそろそろマスターになりそうな感じだったはず。

 ただコイツ、天才型だからかは分からないが、とにかく生意気で口が悪い。雪ノ下にランク戦挑んでボコボコにされたからか、はたまた容姿やボーダー内での評価も関係しているだろうが、一方的に雪ノ下をライバル視している。

 雪ノ下は完全に眼中にないとか言ってたけどな。

 ちなみにだが俺も一度絡まれてランク戦でボコボコにしたところ、俺のことは敵視するようになってしまった。

 ……染井に俺の戦闘記録参考にしてること聞いた時はびっくりしたもんだ。二丁拳銃スタイルで追い詰め、相手が接近してきたところを腕からスコーピオン生やして相手の首を掻っ切るのが最近のお気に入りらしい。

 ……ボーダーに所属してる女子戦闘員って基本的に容赦ないから、オペレーター組がモテる理由も分かるというものだ。

 

「依頼を言わないなら帰って頂戴。私達だって次のシーズンに向けて訓練しなきゃならないし、時間は有限なの。貴女の我儘に付き合っている暇はないわ」

 

「……チッ、分かった。アタシの依頼は……」

 

 途中色々と脱線していたようだが、流石に香取が引いたらしい。

 つーか俺の目の前で当たり前のように俺の悪口を言うな、日浦みたいに泣くぞ?

 ……やめておこう、色んな奴に引かれることが簡単に想像できる。

 

「アタシの依頼は、あのイケメン隊員に会わせて欲しいってこと」

 

「……それは最近入隊したC級の葉山君のことかしら?あれは顔だけはマシだものね」

 

「葉山?ああ、あれは周りに変なギャルいるからどうでもいいわ」

 

 憐れ葉山、雪ノ下に顔だけマシとか言われるなんて……あれ?俺も『比企谷君は戦闘と書類整理だけは得意なのだからもっと働きなさい』ってしか言われたことない気が……やめとこう、これ以上考えると悲しくなってくる。

 それより、香取って葉山のこと知ってたのな。正直黒江が飛び抜けすぎててあんまり話題になってないと思ったのに。これだからリア充は……。

 

「アタシが言ってるのは、前に嵐山隊とその男を除く雪ノ下隊が広報活動してた時にフリップで会話したり誘導したりしてた、イケメン隊員のこと。あれ以降どこ探しても姿見ないし……雪ノ下さんなら知ってるだろうと思ってきたわけ」

 

「……彼に会ってどうする気かしら?」

 

「べ、別に……ちょっとお話してみたいなって思うくらいで……//」

 

「……」

 

 おい、無言でこっち見るな。やめろ、その『お前がどうにかしろよ』みたいな目やめろ!

 香取が言っているのは、恐らく広報用に改造された俺だろう。目だけをイケメン使用に変えただけであら不思議、あのボーダー屈指のモテ男である烏丸レベルのイケメンになってしまったのである。

 そういや、沢村さんからファンレターめっちゃきてるみたいな話聞いたな……中身は俺でも一言も話してなければ容姿が全然違うため、受け取りはしなかったが。

 

「……分かったわ、依頼を受けましょう。彼は特殊な隊員だから普段は姿を現すことはないの。でも、香取さんのために私がなんとかしましょう」

 

「雪ノ下さん…!なんだ、話分かるじゃん!」

 

「明日の夕方6時にランク戦ブースにいてくれるかしら?彼には話を通しておくわ」

 

「じゃあよろしく~!」

 

 おいおい、さっきまでの険悪さはどこ行った……とばかりに笑顔になって楽しそうな雰囲気になった香取はニコニコ顔で隊室から出ていった。

 無言のまま雪ノ下を見つめる俺と、優雅に紅茶を飲んでいる雪ノ下。

 

「おい、何勝手に約束取り付けてんだよ。香取の奴めちゃくちゃご機嫌になってたぞ?あれで正体が俺って分かったら……」

 

「ええ、絶望するでしょうね」

 

 ……ん?

 

「ああいうタイプは一度痛い目を見なければずっと突っかかってくるわ。というわけでよろしくね比企谷君」

 

 なんという素晴らしい笑顔だろうか。思わず綺麗と思ってしまった自分を殴りたい。

 要は香取に痛い目を見てもらうために俺を使うということか。明日何が起きるか分からないが、どこかのタイミングで香取に正体をバラし、絶望させろと。

 ……俺だと絶望するってかなり悲しいことを言われているが、現実だからしょうがない。

 それにこれ、俺が香取を操ることも可能っぽいし、ちょっと色々フリップ仕込んでいくかな……。

 

 

***

 

 

 その日、ランク戦ブースはざわついていた。

 ある男女が待ち合わせをしていたからである。

 一人はB級香取隊隊長の香取葉子。マスタークラスの実力者であることから知名度はそこそこある。

 問題は男の方だ。

 嵐山隊と共に、新入隊員のサポートや広報活動に顔出ししていたものの、全て無言でフリップのみで会話をこなすという謎すぎるイケメンその人だったのだ。

 ……実際のところざわついているのは一部の正隊員とC級のみであり、謎のイケメンの正体を知っているボーダー隊員達は「面白そう」という理由から二人に注目していた。

 

「え、えと初めまして!B級香取隊隊長の香取葉子です、今日は会ってくれてありがとうございます」

 

『!?』

 

 ざわつく隊員達。

 普段口も悪く年上にも生意気な態度をとってばかりの香取が、こんなにも丁寧でしおらしい態度をとっているのだ。かなりの衝撃である。

 ……雪ノ下を初めとした数名は笑いをこらえるので必死だったのだが。

 

『初めまして。俺は優斗って言います。あんまり声出すのが得意ではないので、こうしてフリップを使わせてもらいます、申し訳ないです』

 

「い、いえいえ気にしないでください!アタシの我儘で会ってくれているので……//」

 

『ありがとうございます。香取さんは良い人ですね』

 

「そ、そうですかね///」

 

 この時点で明らかにおかしいのだが、香取は今自分の心を落ち着かせるので精いっぱい。全く気付く気配がなかった。

 普段と違い可愛らしい香取の姿に事情を知らない訓練生や正隊員達は騒めき合い、雪ノ下に事情を説明されている一部の隊員たちは、これまた笑いをこらえるので大変な思いをしていた。

 もちろん、香取はそんなこと知る由もなく、髪をいじいじ、そわそわと落ち着かない様子だった。

 

『今日は何か予定でもありますか?』

 

「全然ないです!暇です!あ、写真一緒に取ってもらっていいですか!?」

 

『構いませんよ』

 

 この後も一緒に居たいがための暇アピールが凄まじい。

 ちゃっかりツーショットも撮っている。どこかの弾バカが「あれ比企g」といったところで雪ノ下に張り倒されていたものの、二人は気づく由もない。

 

『何かしたいことはありますか?一時間くらいなら時間取れますよ』

 

「……な、なら一緒に食事に行きましょ!」

 

『ええ、いいですね』

 

「……やったっ」

 

 簡単に食事に誘えたことについ喜びを隠しきれず、優斗に背を向けて小さくガッツポーズをとる香取。

 その時の笑顔は大変可愛らしく、それを見たかなりの隊員たちが心を奪われてしまったが、本人は知る由もない。

 事情を知っている隊員たちは、記念とばかりに写真や動画を取り始めている。

 

「おすすめのお店があるんです。早く行きましょう!」

 

『はい』

 

 そして、香取が優斗の手を取ろうとした、その時だった。

 

 

「あれ、何してるんですか比企谷先輩」

 

 

 ちょうどブースに入ってきた木虎が、爆弾を落としてしまったのだった。

 

 

***

 

 

 凍り付いた。

 その表現が正しいだろう。

 今、俺の目の前で固まってしまった香取と、その反応にきょとんとしている木虎。

 

「おっ、比企谷先輩だ~!今日はその姿なんすね~……あれ?」

 

 そこに現れたのは佐鳥賢。嵐山隊のスナイパーである。

 俺が正体を晒すために用意したのは佐鳥だったのだが、まさか木虎が現れるとは。綾辻から今日は忙しいって話聞いてたんだけどな……とりあえず佐鳥ごめん。今度何か奢ってやろ。

 

「……どういうこと?」

 

 固まっていた香取が動き始める。いや、まだ表情引き攣ってんな。

 

「どうもこうも、この人はA級4位の雪ノ下隊の比企谷先輩ですよ。この顔は広報用に目だけ変えただけのトリオン体です。あ、でもこれ知ってるの嵐山隊と雪ノ下隊だけですね……もしかして香取先輩、比企谷先輩に惚れたんですか?」

 

 途中まで説明する感じだったのに、最後の方完全にニヤニヤしながら言ってやがる。木虎と香取とか水と油っぽいもんな。仲悪そうというより、雪ノ下同様相性が悪いイメージがある。

 そして、ここでようやく整理できたのか香取がズンズン俺の元まで歩み寄ってきて……

 

「ねえ、さっきの話ホント?」

 

「……そうなるな」

 

「雪ノ下さんと共謀してアタシを騙したってわけ?あーもうっ、イラつく……!」

 

 目の前で髪を掻きむしり始める香取。

 その様子を見て後ろで噴き出す雪ノ下、とその他俺の正体を見破っていた勢。

 ……改めて雪ノ下って容赦ないなと思いました(白目)。

 

 香取はそのままどこかに走っていった。

 ざわつきが増すブース内。ヒソヒソとこちらを見てくるC級隊員達。

 ……とりあえず香取の依頼は達成できたし、雪ノ下達笑ってる奴らをボコボコにするか。

 

 

***

 

 

「……で?」

 

「で?じゃないわよ、冷めるわよ?」

 

「お、おう……いや、待てなんでこうなった?」

 

 その日の夜。

 俺はイケメン状態のまま、香取と高級店でディナーを食べ始めようとしていた。

 あの後香取が逃げ出し、よく分かっていないながらも『いい気味だわ』とか言ってドヤってた木虎を始め、雪ノ下や出水を爆散させた後、佐鳥に今度焼肉奢る約束をして……さすがに悪いことをしたと思い、香取隊の隊室に向かったんだった。

 そしたら染井が出てきて、『ちょうどよかった。比企谷先輩、これから葉子とご飯行ってあげてください』とか言い出して、中から出てきた私服の香取と共になんやかんやこの店に入って……今に至る。

 

 いや、意味わからんぞ。

 

「おい香取。俺は優斗とかいう作り物のイケメンじゃなくて、雪ノ下隊の比企谷だぞ?お前散々気持ち悪いとか言ってたのになんでこうなった……」

 

「し、仕方ないでしょ!元から予約してたんだし、もったいないじゃない!」

 

 ああ、だから簡単に入れたのか……確かにそれは勿体ないな。

 つーかこいつ、元から飯食う前提だったのかよ?断られたら……染井と行けばいい話か。

 

「ついでだから、ちょっと教えなさい。例えばなんだけど……」

 

「ああ、その場合は……」

 

 その後は今までの香取はどこに行った?というレベルでまともに会話してきた香取が、ランク戦の動画で気になったことを片っ端から聞いてきたため、飯を食べながら俺の教えられることは教えた。

 飯を食い終わり、さすがに送ろうかと思ったが憎まれ口を叩かれ断られたため、店の前で別れることに。

 ……まあ、たまにはこんな日もいいか。

 

 この時、比企谷八幡は気づいていなかった。

 別れた後顔が見えなくなった香取が、ほんのり顔を赤くしていたことに。

 




うーん、無理。甘いものなんて書けないや。
でも何事も挑戦なんでね、今後も頑張りたい(全員ヒロインじゃないけど笑)。

ついでですが、八幡は完全万能手(ただし近接中距離特化)、一色のポイントを減らして狙撃手扱いにしています。変更点です。


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閑話 ボーダー隊員対戦カードゲーム①

ボーダー隊員対戦カードゲームを、ただただ八幡と三馬鹿でやるだけの話。


「次、ハッチ先輩の番だよ」

 

「おう。一枚ドローして……じゃあ俺は特殊カード、"加古望の新作炒飯"を使用。コイントスを行い、表が出れば、次のターン相手の隊員たちの攻撃力は二倍になる。裏が出れば、相手の隊員全てをベイルアウトさせることが出来る」

 

「げ、加古さんの炒飯までカード化されてんのかよ」

 

「俺が堤さんの意思を継いで根付さんに熱弁したらカード化してくれたんだよ」

 

「うわぁ……加古さんめっちゃニコニコしてる」

 

 ボーダー隊員対戦カードゲームは、元々から三門市の住民に、もっと隊員たちのことを知ってもらうために作ろうと考案されていたもので、古株でほとんどのB級以上の隊員達と関わりがある俺をはじめ、東さんやゲーム好きな国近先輩など、多くの協力者の元に完成したカードゲームである。

 基本的には一対一の対戦形式のために作られてはいるが、俺はせっかくだしランク戦形式で二人~五人までのチームで争えるようなカードゲームを開発しても面白いんじゃないかと開発部に話していたりする。

 今は緑川と俺の対決を、出水と米屋が横から見ている形。ちなみに使っているのは出来たてほやほやなプロトタイプだ。

 

「裏だ!」

 

「そ、そんな……太刀川さんに二宮さん、風間さんまで……」

 

「全員ベイルアウトな」

 

「加古さんの炒飯えげつねぇな」

 

「でも実際のハズレ炒飯ならこうなってもおかしくない」

 

「だよな?」

 

 先程まで緑川の盤面には、カードゲームでも最強枠にいる太刀川さんや二宮さん、風間さんが現着していたが、全員ベイルアウト。つまりは戦闘不能になってしまった。

 

「"最速レコード"緑川駿と、"脅威の新人"黒江双葉を現着させる。更にここで特殊カード、"雪の女王の支配"を発動。このターンに現着した隊員はベイルアウトされない」

 

「雪ノ下のこの絵、完全に雪女じゃねえか」

 

「実際ランク戦の時雪マップだと、雪ノ下は雪の女王にしか見えないって」

 

「緑川と黒江で攻撃!ここで攻撃時に特殊カード、"乱反射"を使用!緑川の攻撃が近界民に当たった場合、他の近界民を一体、破壊することが出来る!」

 

「俺強くない!?」

 

 ちなみに対戦の勝ち負けは隊員のベイルアウト数などではなく、自陣にいる近界民五体を全て撃破されたら負けというルールだ。

 緑川の自陣には近界民が三体。しかもバンダーである。B級下位の隊員だとモールモッド辺りを倒せないなど色々と制約があるが、俺が使ってるのはA級隊員のみ。オーバーキルもいいところだ。

 

「ま、負けた……俺に負けた」

 

「本人が本人のカードに倒されてるって面白いな!」

 

 俺と緑川の対決は俺に軍配が上がった。

 正直加古さんの新作炒飯を引けなかったら、敗北確定だったからな……シールドやエスクードは持っていたが、三人のトップ隊員達に攻撃されれば止められるカードなど存在しない。運が良かっただけだ。

 今ここにいる俺、出水、米屋、緑川は単純にカードゲームとして楽しめるからいいのだが……二宮さん辺りは鼻で笑ってきそうだよな、これ。

 

「よっしゃ、次出水と俺でやろうぜ」

 

「おうよ、絶対勝ってやる。比企谷、今のところ組み立ててあるデッキっていくつあるんだ?」

 

「20数個だな。もちろんすべてコンセプトがある。例えばこれは三輪隊メンバー中心のデッキで、こっちは太刀川隊メンバー中心のデッキだ」

 

「ハッチ先輩、いつこんなもの作ってたの?」

 

 米屋が三輪隊中心のデッキ、出水が太刀川隊中心のデッキを選んで机の両端に回り、俺に負けた緑川が席を譲りながら話しかけてくる。

 

「ボーダーで隊員達が集まってきて、一番最初のランク戦が始まった頃だな。一応これでも今のボーダー本部設立前からボーダーに携わってるし、幹部に呼び出されることもあるんだよ。会議とかもたまに呼ばれるし。それで根付さんが如何にボーダー隊員たちの顔を覚えてもらうかってことに苦悩してたから、じゃあこういうのはどうですかって提案したのがきっかけだな」

 

「へぇ~、かなり前から考えられてたんだ」

 

「そうなんだよ。ただ、どういう基準で作ってどこまで情報開示していいのかっていうのが中々決まらなくてな……それで最近、ようやくボーダーの仕組みがうまく回るようになってきて安定してるから、改めて作り始めたってわけだ」

 

「これ、普通にカードゲームとして面白いから流行らせようよ!」

 

「お前の場合は自分が強キャラになってるからだろうが」

 

「バレた?」

 

 緑川は手を頭の後ろにやって笑っているが、実際緑川は凄いからな。

 今まで破られていない4秒の記録。これを超える新人なんてこの先何年も現れないと俺は踏んでいる。それくらいに凄い数字なのだ。訓練生が初挑戦で4秒というのは。

 ……これ、隊員の強さ決めたの俺だから、正直偏りがある。対戦したことない相手とか、結構適当だしな。

 

「っしゃ!カードゲームとはいえ、A級一位の太刀川隊に勝つチャンスだ。負けねえぞ弾バカ!」

 

「A級一位の力舐めんなよ槍バカ!」

 

 そんないつもの調子で、二人の対戦が始まった。

 

 

***

 

 

「……ターンエンドだ」

 

「危ない危ない。負けが決まるところだった。シールドあって助かったぜ」

 

「シールドがB級の攻撃防げるって設定やめようぜ?唯我とかどう考えても雑魚キャラにしかならないだろ」

 

「実際雑魚キャラ扱いのカードだしね」

 

 現在、出水のターンが終わり、出水の残り近界民が3、米屋の残りの近界民が1だ。

 さっき出水専用の特殊カードである"合成弾開発"により、出水の攻撃力が二倍になって近界民二体を破壊。唯我でとどめを刺そうとするも、米屋がシールドを使ってなんとか凌いだってところだ。

 シールドやエスクードは、近界民や隊員が狙われた時に使えるカードで、デッキに戦闘員の数ずつ入っている。手札にあれば攻撃されたタイミングで使うことが出来、シールドであればB級以下を、エスクードであればA級以下の攻撃を防げるようになっている。

 これは国近先輩が、「対戦ゲームで守るカードが少ないと面白みが少なくなる」という意見を出してくれたことにより生まれた。実際にゲームを面白くしているから、協力してくれたことに感謝しかない。

 ……あの件、付き合うことにするか……。

 

「こい、この状況を一変させるカード!」

 

「そんな主人公みたいなことあるかよ。今俺には、俺と烏丸がいるんだぜ?無駄な抵抗はやめとけよ。……あ、唯我は倒しちゃっていいぞ」

 

「そういや、烏丸先輩も太刀川隊扱いになるんだね」

 

「そりゃ、唯我の前は烏丸が太刀川隊にいたわけだし、コンセプトとしては問題ないだろ。カードも烏丸や宇佐美、王子先輩なんかは二種類あるし」

 

「妙にその辺こだわりを感じるんだが」

 

 最初は俺も一種類で作ろうと考えていた。だが、たまたま話を出した相手に木虎がいたのが運の尽き。

 

『か、烏丸先輩は二種類作るってのはどうですか!太刀川隊の時と玉狛支部の時と分ける形で。ほ、ほら、種類合った方が隊員たちのことをもっと知れるじゃないですか?』

 

『……本音は?』

 

『烏丸先輩のカード、カッコいいんで色んなパターン欲しいです』

 

 という、完全な私利私欲の願望だったが、確かにどうせなら他の移動したり移籍した隊員達のこと知れるってのは面白そうだったので、開発部の人にお願いしたら快く快諾してくれて作ってくれたのである。

 ちなみに太刀川隊の頃の烏丸はガイストやエスクードがないため攻撃力、防御力が玉狛バージョンよりも低いものの、太刀川さんと出水と一緒に場に揃うと自動的に勝利というチート級の効果持ちだ。

 いや、だって前の太刀川隊って今よりも化物みたいに強かったからな。あの二宮さんが一度も勝てないレベルで強かった。ボーダー最強とは太刀川隊のことを指してたし。

 ……烏丸が移動して、烏丸が移動した先の玉狛が今最強の部隊と呼ばれているから、実質烏丸が最強と言っても過言じゃないかもしれない。

 

「っしゃ行くぜ!俺は"槍バカ"米屋陽介と"近界民絶対殺すマン"三輪秀次を現着させる!更に特殊カード、"月見蓮の存在"を発動するぜ」

 

「月見さんまでカード化してんのか…そりゃオペレーターだしな。柚宇さんのもあるし」

 

「この特殊カードが作戦室にある限り、相手は太刀川慶を現着させる事はできない!」

 

「おいおい月見さん強すぎだろ……」

 

 いや、だって幼馴染だし。

 太刀川さんは頭上がらないっていつも言っているし、側から見ても二人の関係は完全に月見さんが太刀川さんを尻に敷いている。

 だからカードの絵も、月見さんの呆れている姿と呆れられてる太刀川さんが描かれている。改めて見ると細部にまで鮮明に描かれているんだが、これ誰が書いたんだ?開発室の人だとしたら、娯楽に飢えすぎだと思います。

 

「米屋と三輪で攻撃!ここで特殊カード"三輪隊の十八番"を使用し、"No.2狙撃手"奈良坂透を狙撃手エリアに現着させる!」

 

「くっ、三輪隊が揃いやがった……」

 

 いや、出水?揃ってないよ?まだ古寺がいる……多分米屋が使ってないだけだろうけど。

 

「あれ、三輪隊ってまだ古寺先輩がいたんじゃないっけ?」

 

「言ってやるな、古寺が不憫だ」

 

 緑川も突っ込んできたが、ここはスルーしてやるべきだろう。古寺のためにも……。

 実際の古寺のカードは、奈良坂と共に狙撃手エリアにいた場合、相手の近界民を一体破壊できる効果があり、特殊カード"戦術の勉強"では、月見さんが作戦室にいると三輪隊全員のスペックを倍にする効果がある強力なカードだったりする。

 まぁ米屋は自分使いたかっただろうし、ルール上1ターンに通常現着出来るのは二人までだからな。悪くない判断だと思う。作った俺がいうのもなんだが。

 

「"No.2狙撃手"奈良坂透の現着時効果!現着エリアに俺と三輪秀次がいた場合、相手のA級以下の隊員を一人、強制ベイルアウトさせることが出来る!俺は出水をベイルアウトさせるぜ」

 

「くっ、俺がやられた……」

 

 自分自身がカード化してることもあり、言い回しがなぁ……まぁ仕方ないんだが。

 

「俺と秀次の攻撃はどうする?」

 

「エスクードで米屋を、シールド二枚で三輪を止める!おらっ!」

 

 おお、出水の奴手札に残してたのか。そういや米屋は序盤から使ってたが、出水はほぼ使ってなかったな……。

 しかし……あーあ、逆にすれば良かったのに。

 

「かかったな弾バカ!秀次の効果!攻撃を止められた際、それがシールドによるものならば攻撃力を2倍して貫通攻撃扱いになる!」

 

「はぁ!?まさかのレッドバレッドかよ!?」

 

「俺は止められたが、秀次の攻撃は通ったぜ。次のターンで決めてやる」

 

 これでお互い近界民残り一体、米屋は手札にシールド2枚あるっぽいし、奈良坂を犠牲にすればもう一人も防げる。

 狙撃手は相手の隊員の攻撃時に、自分の攻撃力以下の相手をベイルアウトさせる効果を全員が共通して持っている。その後ベイルアウトすることになるとしても、強力な効果だろう。

 唯我の奴全く能力ないからな……米屋が残してる近界民はモールモッドだし、実質烏丸一人……

 

「って思うじゃん?」

 

「どうした出水、それ俺の口癖みたいなもんなんだけど」

 

「唯我は確かに入隊時はC級レベル、ゴミカスだった……けどな、比企谷の稽古のおかげでB級中位レベルに上がってるんだぜ?」

 

 そう、唯我だけ雑魚キャラ扱いすると、恐らく親御さんから訴えられる可能性があったため、俺は一つ面白い機能をつけてみることにしたのだ。

 それも全隊員で唯我のみ。

 

「俺のターン、特殊カード"御曹司の隠された力"を発動!現着している"お荷物君"唯我尊を、"覚醒した男"唯我尊に進化!」

 

「し、進化!?なんだそりゃ!?」

 

「"覚醒した男"唯我尊の現着時効果!相手の作戦室にある特殊カードを一枚破壊できる!俺は"月見蓮の存在"を破壊する!」

 

「こりゃあ……」

 

「そして俺は"天才肌"出水公平と"最強"太刀川慶を現着させる!既に現着していた"万能手"烏丸京介の効果!現着した隊員に太刀川慶、出水公平、烏丸京介が揃った場合、試合に勝利する!」

 

「かぁー!負けたぁ!!」

 

 勝負は出水の勝利で終わった。

 本人も勝ててご満悦なようだ。カードゲームとはいえ、A級一位として負けたくなかったらしい。

 それでもデッキの使い方次第で米屋が勝つ可能性も十分にあった。要はデッキの組み方だから、あの三人さえ除けばまともなカードゲームって売り出せる気がする。

 俺がせっせと開発室に提出するようのレポートに遊んでみての感想を記載していると、隣で試合をみたりカードの内容を見たりしていた緑川が話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ、ハッチ先輩。これって迅さんのカードもあったりするの?」

 

 こいつ……このカードゲームの問題点のうちの一人を話題に出してきたな。

 そりゃこいつは迅バカって呼ばれて三馬鹿の一員になってるし、気になるよね……。

 

「……なぁ、緑川。もう一戦しようぜ?お前にこの玉狛支部デッキ貸すから。迅さんも勿論入れてある」

 

「本当!?やるやる!」

 

 さぁて、このカードゲーム最大の難題を見てもらうとするか……。

 

 

***

 

 

「俺のターンだね。んー、まずは"完璧万能手"木崎レイジを現着するね。特殊カード"俺のサイドエフェクトがそう言っている"を使用して、デッキから"未来視自称エリート"迅悠一を現着する!」

 

「迅さんのこれって……風刃か!?」

 

 迅さんの扱いはS級隊員。一応二種類あって過去の"スコーピオンの開発者"迅悠一っていうA級隊員カードもあるが、緑川が今出したのはS級の方である。

 イラストがキラキラしているし、風刃に至ってはエフェクトがカッコ良すぎる。あの人絶対俺の未来見て口出ししに行ったな……そうでなきゃこのクオリティにはならんだろうし。

 

「迅さんと木崎さんで攻撃!ここで特殊カード"風刃起動"を発動!相手の10000ポイント以下の隊員全てをベイルアウトさせる!」

 

「うおー、迅さん強ぇ……」

 

「迅さんはS級隊員だから、近界民二体破壊だよ。合計三体破壊!ターンエンド!」

 

 これで俺の残る近界民は一体。さっきまで場にいた"腐り目"比企谷八幡も風刃でベイルアウトしまったし、キツいよなぁ……。

 なんてな。

 

「ドロー……俺は特殊カード"ボーダー総司令官"城戸政宗を発動。このカードは作戦室に永続して置かれるぞ」

 

「城戸司令まで……でもノーマルカード?なんでなんだ?」

 

「ここで"ノーマルトリガー最強"忍田真史を現着させる。忍田真史の現着時効果、自分の場にこのカード以外の隊員がいなければ、手札から二人まで現着させることが出来る」

 

「忍田本部長は流石に強キャラだよなぁ。ポイント50000って……」

 

「俺が手札から現着させるのは、"黒トリガー使い"天羽月彦と"一番弟子"太刀川慶だ」

 

「S級が二人揃ったな。天羽も金ぴかだ」

 

「太刀川さんもそのデッキ入ってんのかよ。これでポイント50000と30000と……天羽は???だな」

 

 緑川が使用しているのは玉狛支部デッキ。恐らく一番安定して強く、入ってる隊員全てがエース級だ。

 だが、俺が使用してるのは確実にこのカードゲームにおける禁止デッキなんだよ。天羽の???がその証明である。

 

「"黒トリガー使い"天羽月彦は基本的に攻撃できないが、作戦室に城戸指令がいるから一回のみ攻撃可能になっている。俺は天羽で攻撃。攻撃時の効果で相手の現着している隊員を全てベイルアウトさせ、近界民も二体まで破壊できる。二体破壊するぞ」

 

「はあ!?チートすぎだろ……」

 

「まだだよ!俺は特殊カード"俺には未来が見えるんだ"を使用して、ベイルアウトする時一回だけそれを無効にする!俺は迅さんを場に残す!S級隊員同士だから、天羽の攻撃は迅さんに行くよ!」

 

 おお、やるな緑川。決まったと思った。近界民残り二体で天羽の攻撃を迅さんに当て、忍田さんと太刀川さんの攻撃を受けても次のターンがあるという心算だろう。

 ふっ、甘い。マッカンより甘いぜ緑川!

 

「ここで天羽の効果!この隊員の効果は破壊した数×30000で計算される。木崎さんと近界民二体を破壊しているから天羽のポイントは90000だ!」

 

「90000とか、完全にゲームバランス考えられてないな」

 

「ああ、迅さんが!?」

 

「緑川泣いてね?」

 

 大好きな迅さんがベイルアウトしたことで傷心気味の緑川だが、まだまだ追い打ちだ。

 

「天羽の三つ目の効果!バトルで相手の隊員をベイルアウトさせた場合、相手の近界民を二体まで選び、破壊できる!」

 

「え、ちょっと、待t」

 

「忍田本部長でとどめだ!!」

 

「……負けた、迅さんを使ったのに俺が負けた……」

 

 確かに玉狛デッキは強いし、他にも初代東隊デッキという理不尽な面子のデッキも存在する。

 だが、このボーダー中枢デッキは単純に性能が桁違いなのだ。天羽の桁違いの強さ然り、忍田本部長の地味に理不尽な効果然り、ノーマルカードなのにめちゃくちゃ重要な城戸指令然り、今回は使わなかったが"総司令官の懐刀"三輪秀次でだったり、"二番弟子"比企谷八幡、"開発室長の力"や"印象操作はお手の物"、"ラグビーやってたんで"などなど、他にも強力な支援カードや隊員達がいるのだ。

 ……これは禁止デッキ確定だろう。

 

 

 後日、遊んでみての報告書を提出したところ、まだまだ改良が必要ということで、これからも遊んでみて実際の感覚を教えて欲しいということになった。

 ……今度は雪ノ下達とやってみるかな。

 




ボーダー隊員対戦カードゲームに関しては、通称なんちゃらと言おうとしたけど、いいのが思いつかなかった。

また、風刃の性能知ってたり、天羽が化け物扱いされていることが平然と受け入れられていることについては突っ込まないでくれると助かります。本人たちが実際に知っていたかどうかは分かんないんで、完全な妄想閑話です。
そのうち書き足す可能性大。


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依頼者:太刀川慶

今回は色んな所で見る、太刀川さんのレポート関連のお話。
正直イマイチかなぁ……もっと面白く書きたい。


「頼む!この通りだ!助けてくれ!」

 

 目の前でボーダーNo.1が土下座していた。

 それを冷たい眼差しで見下ろすのは、我らが隊長兼部長の雪ノ下雪乃。別名雪女。

 

「……比企谷君もそこに座りなさい」

 

「は?」

 

「何かしら私に対して失礼なことを考えていたでしょう?」

 

「そ、そんなことないぞ」

 

「この際だから言っておくけれど、この前小南さんと腕組みながら商店街を歩いていたわよね?」

 

「あー!あたしも仁礼ちゃんとお好み焼き食べてるの見たよ!!」

 

「先輩、この前加古さんの車に黒江ちゃんと真衣と杏と一緒に乗ってましたよね?楽しかったですか?」

 

「……お兄ちゃん、昨日香取先輩と何してたの?」

 

 おかしい、太刀川さんの頼みを聞くところから何故こうなるんだ……。

 確かに小南と食材を買いに出かけた。前の100本勝負の報酬とか言って小南に腕を掴まれたのは事実だ。

 だが腕を組んでたのは一瞬で、次の瞬間にはお互い恥ずかしくなって離れて歩いてたぞ。どんだけピンポイントで見られてたんだ……?

 仁礼とお好み焼き食べてたのは別に普通のことだろ。最近言ってなかったから行こうと思って店に入ったら、先に一人で入ってた仁礼に誘われてそのまま一緒に食べただけだ。途中からカゲさんにゾエさん、絵馬も来たから二人で食べてたわけじゃない。

 加古隊と一緒にドライブに行かされたのは……やっぱ助手席に座ってたのがバレた原因か?あの後市外の森林公園でピクニックしてしまったのは言わない方が良さそうだな……。

 昨日……俺香取といたのか?何故かは分からんが、昨日は記憶が曖昧で……誰かに飲み物貰ったことは覚えてるんだが……?

 

「……黙秘権を行使する」

 

「結衣、いろはさん、小町さん、判定を」

 

「「「アウトー!!」」」

 

「くっ、卑怯な数の暴力だ……」

 

 渋々太刀川さんの隣に座り込み、同じように土下座をする。

 でもよくよく考えてみたら、小南と買い物に行ったのって雪ノ下から逃げるための口実みたいなものだったし、由比ヶ浜に飯誘われたけど一人で食いたくて外出てお好み焼き屋行って仁礼と食べちゃってるし……そこは俺が悪いわな、ごめんなさい。

 でも加古隊とピクニック行った件は別に良くね?普通に楽しかったしいいリフレッシュになった。

 問題は昨日だな、小町がヤバい目をしている。話的に香取が絡んでるっぽいが、昨日の記憶が本当にない。防衛任務した覚えはあるんだが。

 

「次のレポート出さないと単位落としちまうんだよ!頼む、手伝ってくれ!」

 

「とりあえず、すんませんでした」

 

「太刀川さんは自業自得です。私にも大学生の姉が一人いますが、姉は全単位S評価楽勝だったと当たり前のように言ってました。単位とるだけなら最低評価でもいいんですよね?どうしてレポートやらないんですか?」

 

「レポートは気づいたら貯まってることが多いな。あと大学行くよりランク戦した方が楽しいんだよ。それに雪ノ下の姉だろ?比較対象が間違ってる」

 

 雪ノ下の姉、魔王陽乃さんと比べるのは確かに太刀川さんが可哀そうだ。あの人雪ノ下以上に完璧超人だし、成績も姉の方が良い。

 家を継ぐためにボーダーに入ることは許可されなかったと聞いたが……もし入ってたらどうなってたか末恐ろしすぎる。絶対A級に上がってくるだろうな……いや、加入時期によるが東さんに師事したりすれば……太刀川隊越えの化け物部隊とか作ってかもしれん。入ってくれなくてホント良かった。

 

「あー、それは分かるかも。あたしも学校の勉強よりランク戦してた方が楽しいし」

 

「だよな!由比ヶ浜分かってるじゃねえか!」

 

「はい!勉強なんて面白くありません!」

 

 おっと、目の前で馬鹿と馬鹿が共鳴し始めたぞ。

 

「……反省の色はないようですのでお引き取りを。奉仕部としては受けません」

 

「なん、だと……」

 

「結衣、連休の課題は終わったのかしら?昨日終わらせると言っていたから見逃したのだけれど……まさか、終わってないなんて言わないわよね?」

 

「え」

 

 絶望した表情をする太刀川さんと、固まってしまった由比ヶ浜。

 既に太刀川さんのことは眼中にないのか、由比ヶ浜を連れて隣の勉強部屋に行く雪ノ下。

 ……お、これは俺無実解放されるパターンか?

 

「先輩」

 

「お兄ちゃん」

 

 つい気が緩んで顔を上げてしまった。

 目の前には満面の笑みを浮かべている一色と小町。

 ……こいつら忘れてたわ。

 

「ねー先輩?この可愛い後輩のお誘いを断っておいて他の人と出かけていることについて、ちょーっとお話聞きたいんですけれどもー?」

 

「一色、落ちちゅけ、お前が誘う前から誘われてたんだ。先の約束を優先させるのは当然だろ?」

 

「お兄ちゃん、どうして香取先輩にお兄ちゃんとか呼ばれてたの?小町がいるのに?何変なプレイしてるの?」

 

「小町も落ちちゅくんだ!香取が俺をお兄ちゃん呼び?そんなことあるわけ『お、お兄ちゃん……』……嘘やん」

 

 怖い怖い怖い怖い、めっちゃ怖い。なんで女子って皆怒ってる時ニコニコしてるんだろうな……。

 その後は言うまでもなく一色に全てを話すまで解放されず、洗いざらい吐かされた挙句に二人で出かけることを決められてしまった……日にちまで決められてるし、諦めて従うか。

 小町に関しては本当に覚えのないことなので、俺には小町しかいないことを必死に伝え続け、楽しみにしておいたハーゲンダッツ様を献上することでようやく許してもらえた。

 ちなみに太刀川さんがいつの間にか消えていたが、恐らくは隊室に戻ってレポートをやり始めたのだろう。

 ……まあ、国近先輩との約束もあるし、ちょうどいいか。

 

 

***

 

 

「お前らホント助かるぜ。今度なんか奢ってやるからな」

 

「じゃあ俺、焼肉で」

 

「お前焼肉好きすぎだろ……俺たちと行って、前に東さんにも奢ってもらったんだろ?」

 

「いやいや、寿寿苑は自費だと行きづらいだろうが。奢りで行くからもっと美味く感じるんだよな」

 

「それは分かる」

 

 一色に怒られた後。

 俺は太刀川隊隊室を訪れ、太刀川さんのレポートを手伝っていた。

 ボーダー最強の男が大学で留年とかされるとかなりイメージ悪くなるからな……この人地味にテレビとか出てるから、もし留年したら……

 

『ボーダー最強部隊のA級太刀川隊隊長、太刀川慶さんが大学で留年したとの噂ですが、それは誠でしょうか?』

 

『その件に関しましては、少々事情があると言いますか……』

 

 など、記者に攻められて頭を悩ませる根付さんの姿が簡単に想像できる。

 大学がどのようなシステムなのかは詳しくは知らないが、基本的に単位は出席してレポート出してテストで7割取れば落ちることはないって聞いたぞ。この人レポート出さないと落単ってどんだけサボったんだか……。

 

「しかし比企谷が手伝ってくれるとは心強いな。奉仕部に行って土下座までしたのに助けてくれなかったから、本当に終わったって思ったんだぜ?」

 

「雪ノ下は由比ヶ浜を見るので精いっぱいなので。それと俺は……」

 

「あー!比企谷君、来てくれたんだぁ!」

 

「うっす、国近先輩」

 

 そう、俺が太刀川隊に来たのはレポートのためだけではなく、この人との約束があったからだ。

 国近柚宇先輩は一つ上の先輩で、太刀川隊のオペレーターである。あと無類のゲーム好き。

 以前、ボーダー隊員対戦カードゲームを作る際に協力してもらった一人でもあり、手伝いをしてくれるかわりにとある約束をしていたのである。

 

「なんだ?国近と約束でもしてたのか?」

 

「ええ、とある案件を手伝ってもらう代わりに、オールでゲームするのを約束しまして」

 

「柚宇さんも関わってるって言ってたあれか」

 

 出水には既に何のことか告げていたので納得顔だが、太刀川さんは首を傾げたまま。

 しかし、まだカードゲームのことは教えるわけにはいかない。だってこの人絶対ハマる、ハマったうえに色んな人とバトリ初めて大学疎かにする。

 レポートを自力で出せるようになるまでは伝えないようにしておこう……一生教えることないだろうなんて思ってないよ?オモッテナインダヨ?

 

 

***

 

 

 数時間後、ようやく太刀川さんのレポートを俺と出水で手伝って終わらせることが出来た。

 ちなみにだが唯我は家の用事で来ておらず、国近先輩はゴロゴロしながらゲームを並べてた。

 おいおい、いくつする気なんだ……?これ防衛任務まで解放されないな……。

 でも太刀川さんと出水いるし、交代でやれば休む時間も……あれ?

 

「あの、二人ともどこへ……」

 

「俺か?俺は諏訪さんと冬島さんに誘われて麻雀大会に参戦する予定があるからパスな」

 

「俺は普通に眠い」

 

 え、マジで?俺これから国近先輩と二人で夜通しゲームするのか……?

 

「さあ、比企谷君!コントローラーね〜」

 

「……はい」

 

 このあと無茶苦茶ゲームしたッ!

 

 

 

 

 

 ……案の定次の日の防衛任務に遅れ、雪ノ下達に理由がバレてひと騒動あったが、それはまた別の時に話すとしよう。




今回は簡単に書いてるからあんまりかなぁ。
国近先輩と二人っきりという状況で何が起こったのかは各自の妄想にお任せします。
ちなみに、完徹したのに以前よりも元気そうな国近先輩がいたことを報告しておきますね。

……地味に香取と何があったのか気になるけど、多分後々出ると思うんでお楽しみに。


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閑話 雪ノ下隊の捻くれ者

比企谷八幡が隊務規定違反しまくる話です。

かと思えば、雪ノ下達が地味に暴走している理由が分かる回でもあったり。

面白いかと言えば面白くないと断言できますが、まあ必要な話ですし。

評価1でも読んでくださることが嬉しい。ありがとうございます。


 世界が真っ赤に染まった。

 そう表現するのが正しいと思う。

 あの第一次近界民侵攻で多くのものが変わってしまった。

 幸いにも私や、私の家族には被害はなく、生活にはほとんど影響はなかった。

 ……いや、むしろ父は地位を上げた。

 

 近界民の襲撃による被害は前代未聞の規模であったから、多くの建設物や道路が崩れ去り、壊れ、砕け散っていた。

 近代兵器がほとんど意味を成さなかった近界民相手に、『ボーダー』を名乗る人々が近界民を次々に撃退してくれたおかげで東三門市壊滅で済んではいたものの、避難民や家を失った人、家族を失った人は数多く存在した。

 そこで雪ノ下建設は、これからも続く近界民の襲撃に備えるボーダーに投資を行いつつ、私財も投入しながら被災者に支援を行ったことで、より一層大きな会社に成長し、父は県議会議員でもトップの力を持つようになった。

 

 家が大きくなったところで、私自身に特に変化はなかった。復旧した学校に通うようになり、由比ヶ浜さんと奉仕部の活動も再開した。

 たまに一色さんも訪ねてくるようになり、前と同じようで……酷く変わってしまった。

 本を読んでいても……紅茶を飲んでも……気づけばそこに視線をやってしまっている。

 

 ポツン、と一つだけ離れた場所に置いてある椅子。

 そこの席が定位置の彼は、大規模侵攻以降姿を現すことがなかった。

 

 

***

 

 

 再開した学校ではクラスが特別編成で行われていたため、私も由比ヶ浜さんも彼とは会う機会がなかった。

 ……いや、本当は探した。一色さんも一個下とはいえ、生徒会の会長を務め、たびたび彼を頼っていたから、学校中を探したらしい。

 それでも、見つからない。

 

 大規模侵攻から、そして彼と会わなくなってから半年が経った頃。

 私たちは我慢できず、彼の家があったところに向かった。

 ……そこで見つけたのは二つのお墓と、その前で泣き崩れている小町さんの姿だった。

 

 

***

 

 

 彼……比企谷君は妹の小町さんと共に無事だったと聞いたけれど、ご両親は近界民、それも人型に殺されかけ、黒トリガーになったらしい。

 そのご両親そのものと呼べる黒トリガーを敵に奪われ、比企谷君は弱かったからか、敵とすら思われなかったからか、見逃してもらえたという。

 それからというもの……彼は小町さんを守るため、自分たちの生活費を稼ぐため、そして近界民への復讐のためにボーダーで訓練に励み、防衛任務をこなし、バイトをし、目まぐるしく過ごしていた。

 

 ……学校へは来ても、私たちのことすら忘れるほどに。

 

 小町さんから話を聞いた私たちは、どうにかして彼の力になりたいと話し合い、ボーダーに入隊することを決めた。

 人を頼ることは弱いことだと思っていた。それを違うと教えてくれたのは彼だ。なら私は、今こそ彼を助けなければならないと思ったのだ。

 

 最初は拒絶していた彼も、小町さんの涙を見てからは正気を取り戻したのか、私達を歓迎してくれた。

 ……シスコンなところが変わっていないのを見て、少しだけ安心したのは秘密なのだけど。

 

 

***

 

 

 ボーダーに入隊し、B級に上がって隊を組み、ランク戦に参入するようになってから一年くらいたった頃だろうか。

 私たちはB級4位と健闘しており、次の試合結果次第ではA級へ挑める挑戦権を与えられる2位以内に食い込める……と思っていた。

 

 その日、彼は新入隊員のC級数名を、スコーピオンで首を刎ねた。

 ……恐らく、私があることに対しての確信を得たのもその時だった。

 彼のその行為はボーダー隊務規定に違反するものであり、そのシーズンのランク戦資格を私達は失った。

 彼自身にも罰則が加えられ、彼の最も得意とするスコーピオンのポイントを10000点失った。

 私たちは愕然としたものだ……何故、どうしてと彼を問い詰めたものの、彼は『……悪い』の1点張り。

 ……当時個人総合5位だった彼の隊務規定違反は多くの人の間で話題となり、私たちの隊で唯一の男性ということもあってか、悪口を聞くことばかりだった時期もあった。

 

 当時は本当に……比企谷君の悪口を言っていた隊員全員の首を刎ねてやりたかったわね。彼を悪く言うのは私だけでいいのよ。私たちの間だけのやり取りなのだから。

 

 

***

 

 

 彼は旧ボーダー時代からの古株で幹部との繋がりも強いからか、何度かボーダーのスポンサーが集まるパーティで姉と会っていたことも姉本人から聞いた。

 そしてあの姉が、『比企谷君……あれはもう、変わり果てちゃったんだね』と儚げに、まるで過去の彼を懐かしむように言ってきたことを、今でも鮮明に思い出せる。

 私も前々から思っていた。彼は理性が効かなくなっている。

 

 理性が効かないといっても、女性を襲うと言う様なものではなく……少し、いや前の彼から考えればかなり攻撃的な性格になってしまったのだ。

 ステルス戦闘が流行し、圧倒的な強さを誇ってB級1位の地位を得た風間隊に続き、2位でシーズンを終えた私達雪ノ下隊は、無事A級に昇格することが出来た。

 ……全勝出来なかったのは悔しかったけれど、それよりもA級に上がった。そのことの方が大事なのだから。

 

 だが、彼はまたやらかした。次は民間人に対してだ。

 ボーダー隊務規律には民間人へのトリガーの使用は許可されていない。それでも、彼はトリガーを使って痛みを与えたという。

 その結果雪ノ下隊はA級昇格後すぐさまB級に降格。もちろん、前代未聞の出来事だった。

 さすがの私たちも今回ばかりは許せるものではなかった。彼個人のポイントが全体的に引かれたとはいえ、部隊としての連帯責任を負うのだ。

 小町さんも含めた4人で彼を囲み続け……16時間ぐらい粘ったものの根負けした彼はこう告げてきた。

 

『……雪ノ下も、由比ヶ浜も、一色も、そして小町も。全員馬鹿にされた。だから罰を与えてやったんだよ』

 

 ……彼のそういったところは変わらなかったらしい。

 本人が馬鹿にされて、私たちすら気づけない……いや、彼が隠し続けていた嫌がらせの数々も全て受け入れていた話を聞いたけれど、それは悪意の矛先が彼自身だったからなのだろう。

 比企谷八幡、彼はなんでもかんでも自分を犠牲にして解決しようとする。いや、本人に至っては犠牲とすら思っていない。それが当たり前のことだと思って生きている。

 そこに両親の死、近界民への復讐心、残された妹を守らなければならない気持ち、自己鍛錬。

 ……おかしくなっても仕方がなかった。むしろ彼だからこそ、この程度済んでいるのかもしれない。

 

 彼とどう接していくべきか、その話をしていた時……奉仕部を訪れた人物がいた。

 

 

***

 

 

 玉狛支部の迅。S級隊員で未来が見えるサイドエフェクトを持っている人。

 その人がいきなり訪れてこう言ったのだ。

 

『4人にお願いがある……どうにか、比企谷を留まらせる理由になってくれ』

 

 迅さん曰く、将来的にまだ未確定ではあるものの……彼が近界に行ってしまう未来が見えると言う。

 それを防ぐために、私たちに依頼してきたのだ。

 私たち自身が、彼を繋ぎとめる鎖になって欲しいと。

 

 

***

 

 

「そんなことがあったんだねぇ」

 

「はい。なのでそれからというもの、出来る限り彼と一緒に居ようとしています。中々これが難しくてですね……」

 

「だよねー、ヒッキーすぐにどっか行っちゃうんだもん!」

 

「ですですー、先輩には一生私の荷物持ちをしてもらおうと画策しているんですけど、他の方々に邪魔されちゃうんですよ?酷いと思いません?」

 

「思わない」

 

「あざとさ120%の女の子なんてお兄ちゃんに似合いませんよ。お兄ちゃんは小町と一緒にいるのが一番なのです」

 

 そして現在。

 ちょうど彼が嵐山隊と広報の仕事をこなしている間に……協定を破り始めた国近先輩と香取さんを捕らえ、お話をすることにしたわ。

 

「それで国近先輩、二人っきりの状態で何をしたんですか?」

 

「え~っと~……内緒♪」

 

「香取先輩、小町の許可なしに勝手にお兄ちゃんに変な薬飲ませてましたよね?1日連れまわして……何してるんですか?」

 

「……可愛がってた」

 

 迅悠一のサイドエフェクトは、確かに未来を見通す力を持つ。

 それは時に大勢の命を救うこともあれば、事前に策を巡らせることも出来る。

 だが……未来は無限に広がっており、分岐点も無限に存在している。

 いくら未来を見通せるとは言えど、全てを把握することなど人間には出来はしない。

 

 だから、であろうか。迅の依頼は……

 

(比企谷君と一緒に読書したいし、出かけたいし、ずっと一緒に居たいけれど……どうすればいいのか全く分からないわ。気づけば怒ったり悪口を言ってしまっているし……うううぅ……姉さんに頼るしかないのかしら?)

 

(ヒッキーを最初に好きになったのはあたしなのに!あたしなのに~!!気づけば玲ちゃんの家には何度も行って親公認みたいになっちゃってるし、生徒会室で遥ちゃんと抱き合てるし!?あたしだって……あたしだってヒッキーに抱き着きたいのに!いきなり抱きついたら絶対引かれるし……)

 

(先輩の攻略難易度桁違い過ぎませんか!?中学の頃だってあの葉山先輩並みに難易度高かったのに、高校上がってからはボーダー組も参戦して更に競争率上がっちゃったしさぁ……もういっそ既成事実を作って無理やりにでも責任取らせた方が……いやいや!まだ学生だよいろは!落ち着いて!)

 

(お兄ちゃんが必死に働いてくれて、小町は生活できてるし、人生を歩めてるからせめてものお返しにいいお嫁さんを探してただけなのに……お兄ちゃんが他の女子と仲良くしてるのを見ると、どうしようもなくイライラしちゃうんだよ……小町、どうしたらいいのかな?お兄ちゃん……)

 

(う~ん、やっぱり攻めすぎたかなぁ~?ゲームずっとしてたのは嘘じゃないけど、どんなゲームしたかまでは……勝者の特権って無理矢理一緒に寝た挙句、寝顔写真かなり撮っちゃったんだけど……いいよね!バレてないし!ちゃんとボーダー組のLINEにも張るから!……半年後ぐらいに!)

 

(別に比企谷になんて……ま、まぁ?トリオン体の改装を身長小さ目のイケメン少年にして召使みたいに扱ったけど……あの開発室の人に貰った、『八幡君専用回復ドリンク(なお1日の記憶が消える上に、1日人の言うこと聞いちゃいます)』とかいうものを半信半疑で飲ませたら本当に言うこと聞いちゃうからつい……ついって!あたしは別に比企谷が好きってわけじゃないんだから!)

 

 頼んだ相手が恋愛音痴ばかりだったのだ。




ゆきのんとその他諸々の口調おかしいと思うけど許して!
次も閑話の可能性大。


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依頼者:葉山隼人

俺ガイル勢の話続くけど許せ。

地味に黒江と同時期入隊の葉山、三浦、戸部、海老名と奉仕部のお話。
何気に最長話。


「やあ、お邪魔するよ」

 

「……誰だお前」

 

「葉山隼人だよ。ヒキタニ君とは同じ中学校だったじゃないか。仲よくしよう」

 

「……お山の隼人?何だそれ」

 

「お山じゃなくて葉山だ」

 

「パーマ?お前パーマじゃねえだろ」

 

「……ヒキタニ君、何か俺悪いことしたかな?」

 

「俺こそおかしなこと言ってるか?駄山君よ」

 

「……」

 

「……」

 

 今日雪ノ下隊の隊室を訪れたのは、先日B級に上がり隊を組んだばかりの葉山隊の隊長葉山隼人。

 何の用かは知らないが、俺はこいつが嫌いだ。こいつも俺が嫌いだからか、名前を知ってるくせにヒキタニとわざと呼び間違える。

 なら俺だって、(リア充共の)お山の隼人だったり、パーマ隼人だったり、駄山隼人と呼んでも問題ないだろう。

 

「……今日は依頼があってきたんだ、雪ノ下さん」

 

 よし、俺から目を逸らしたからお前の負けだ葉山!

 

「依頼?ちょうどA級ランク戦が始まった今の時期に依頼って、ちょっと考えなしすぎるんじゃないかしら」

 

「そうかな?昨日のランク戦を見させてもらったけれど、いい動きをしていたじゃないか」

 

「確かに昨日は勝てたわ。でも、だからって次も勝てるわけじゃない。そんな簡単に勝てるほど、A級は甘くないのだけど」

 

「そうですよ!これから連携の訓練やるところだったんですよ?」

 

「それは……すまない。だが俺たちも時間がないんだ……頼む、力を貸してくれ」

 

 おお、あの葉山が早くも頭を下げた。珍しいこともあるもんだな。

 しかし依頼ってなんだ?葉山達はB級に上がったばかりで防衛任務に苦労している頃だろうに……隊室貰ったんだから、仮想戦闘モードで近界民倒す練習し続けろよ。トリオン兵なんて決まったパターンしかしないんだから、突き詰めていけばどこまででも早く的確に殺せるようになっていける。

 先日玉狛支部にお邪魔したとき、宇佐美の最新作やしゃまるゴールドを木端微塵にしたのは良い思い出である。気分がスカッとしたからもう一度と頼んでみたが、断られてしまった。

 ……帰るときに『次こそは比企谷君を殺せる近界民を作って……フフ、フフフフフ』とか聞こえてきたが、聞かなかったことにした。だって怖いし。

 

 ちなみにだが、今隊室内にいるのは俺と雪ノ下、それに一色の三人と依頼者を名乗る葉山の計四人である。小町は那須隊のとこに遊びに行ったし、由比ヶ浜は今頃弓場さんとドンパチしている頃だろう。そしてそれを里見が見て『うっひょ―!』とか叫んでるはず。

 

「……まさか、貴方たち今シーズンのランク戦に参加するつもりなの?」

 

「……は?」

 

「え……マジですか?」

 

 葉山の依頼内容を推測していたであろう雪ノ下が導き出した答えは、俺と一色が一瞬呆けるくらいには驚く内容だった。

 通常、というより俺たちがそうだったのだが、B級に上がった→隊を組んだ→チームランク戦だ!!とはならない。

 もちろん組んだタイミングにもよるだろうが、基本的にランク戦シーズンが始まる頃に隊を組んだのなら、目の前のシーズンは無視して来シーズンから参加するのがセオリーだ。

 何故、と言えば様々な理由が挙げられるが、大きく二つある。

 

 一つはC級の訓練生の頃とは違い、防衛任務が少なくとも三日に一回くらいのペースで必ず回ってくること。防衛任務自体はこなせても、その後の他の隊への引継ぎや近界民の回収、報告書作りなどやることが一気に増えるのだ。まずはこれに慣れた上で学校に通い、更には自己鍛錬も忘れてはならないため、生活サイクルが整うまでの時間が必要になる。

 

 二つ目としては部隊としての練度の問題だ。これは現在暫定2位の風間隊が例外に当たるのだが、風間さんが訓練生時代の菊地原と歌川をスカウトし、元々から部隊のコンセプトを決めやることなすことを完璧にこなし続けた結果、即ランク戦参加にそのままの勢いでA級に駆け上がっていくという偉業を達成している。

 これは風間さんの考えていたことが完全にハマったと言うのもそうだが、風間さんの意図通りに指示に従い、動き、遂行できた菊地原と歌川の二人の能力の高さによって出来た高度なものであり、他のB級下位の個人隊員が同じことをしようとしても無理な話なのである。

 葉山達がどのように訓練生時代を過ごしてきたかは知らないが、三浦や戸部が訓練しようぜ!なんて言うのは想像できない。葉山が言えば従うだろうが……こいつは命令とか嫌いだろうし、どうせ好きなようにさせてるはずだ。

 

 俺たちだって全員がB級に上がってから最初のシーズンは参戦していない。

 もちろん、初めてランク戦が導入された年でもあり、どんな風にランク戦が進んでいくのかが分からなかったためってのもあるが、何よりも勝つためにチームワークや戦術の研究、個人スキルの向上に地形に慣れるための練習もした。

 それでも4位止まり……いや、俺のせいでなかったこと扱いになってはいるが、実質4位だったことも考えると、そのままランク戦に参加したところで中位で止まるのがオチだろう。

 

「ああ、そうなんだ。戸部と優美子が楽勝だとか何とか言って姫菜を説得して……参加することを既に運営に伝えてしまっていてね。どうにか取り消せないかと思ったけれど、取り消すことに戸部と優美子が反対でどうしようもないんだ。姫菜はチームの雰囲気のためか、否定することをやめてしまったし……」

 

「……それで?あなたの依頼は?」

 

「……俺たちを強くしてくれな「却下」

 

「言ったでしょう?私たちは私たちのことで精いっぱいなのよ。自分たちの力になることならまだしも、葉山君達の部隊を強くしてくれですって?他人に頼りすぎてはないのかしら?自分たちのことは自分たちで高めるべきだと思うけれど」

 

 雪ノ下の言うことはもっともだと思うが……それだと奉仕部の存在意義も揺らがないか?そりゃあ、今シーズンは遠征隊に選ばれる上位三位以内を目標としているから他のことに気を回す余裕がないのも理解できるが……。

 それを置いておくとしても、葉山の言い方も悪かった。……強くなりたいから協力してくださいお願いしますと言えば、雪ノ下がスパルタで教えてくれるのではないだろうか。中学の時の戸塚同様……死ぬ気で素振り、死ぬ気でランニング、死ぬ気でランク戦みたいに。

 ……あながち間違ってないからやってみても良さげな内容だな。今度太刀川さんか風間さんか二宮さん、弓場さん辺りに50本勝負を挑んでみるか?死ぬ気でやれば勝ち越せるかもしれない。

 これまでは偶然の重なりで全員に対して勝ち越したことはあるが、全体的な勝率は恐らく二割を切るだろう。そのくらいの実力差は全員に対してある。

 それでも俺はチームのエースを張ってるんだ。もっと、もっと強くならなければ……俺は……あの野郎に勝つことは出来ないんだ。あいつだけは絶対に……絶対に……。

 

「……先輩?」

 

「っ……なんでもない」

 

 少しばかり潜りすぎていたらしい。ふと気づけば、一色が袖を掴んで心配そうに見つめていた。

 

「……そのウルっとした目やめろ。一瞬ときめきかけたじゃねーか」

 

「ときめきかけた!?それってつまり『お前のそういった顔好きだぜ』ってことですよねそうですよね!?でもまだお付き合いするには段階を踏むべきだと思いますので今すぐは無理ですごめんなさい!」

 

「久々に聞いたぞ、それ。これで俺は何回振られたことになるんだ?」

 

((全然振られてない……))

 

 女子の袖掴む仕草ってこう、グッてくるんですよね。分かるか?分かるよな?

 ……まぁ、今は葉山のことだ。

 

「おい葉山、別にランク戦参加してもいいんじゃないか?それで敗北すれば、三浦も戸部も自分たちは弱いって自覚するだろ」

 

 少し前に由比ヶ浜が葉山、戸部、三浦の三人と対戦していたのでログを確認してみたが……予想通り由比ヶ浜が全員ハチの巣にしていた。

 葉山隊の編成は三人とも攻撃手の風間隊に近い編成。葉山がハウンドも入れていたから実質同じようなものだが、似ているのは編成のみだ。

 三人とも弧月使いでポイントも似たようなものだったが、流石に葉山が頭一つ抜けていた。それでもB級中位に届くか?ぐらいの実力なので、当然三人がかりでも由比ヶ浜が笑顔で穴だらけにしていた。

 

「それは……」

 

「少なくとも考える頭があるお前なら、チームランク戦を勝ち上がるのは容易じゃないって理解できてるんだろ?どうせ防衛任務の報告書もお前が大部分やってるんだろうし、チームのエースだってお前だろ。いくら何でも無理がありすぎる。別にお前がどうなろうが知ったこっちゃないが、お前に限界が来たらチーム自体が駄目になるのは簡単に想像できる。だからやめとけ」

 

「……君のそういった洞察力は本当に凄いな。でも、俺が言ったところで優美子や戸部は聞かないと思う」

 

「それもう隊として致命的じゃないです?」

 

「いろはの言う通りかもしれない。だけど俺たちは、俺はボーダーに所属して住民を守るための力になろうと思って話し合って入隊した。そしてB級に上がって、これからも四人でやっていきたいと思ってる。だから……」

 

 だから、今の状態を保ちたい。チームで、四人でいるために葉山と海老名さんが折れるしかない、と。

 ……中学のあの頃から色々あって関係性も進んだのかと思ったが、彼らは変わらないらしい。そんな偽善で取り繕ってる偽物なんていらないだろうに。

 それでも、彼らがそれを大事にしていることは知っている。

 ……仕方ないか。これしかないだろうし。

 

「なあ、雪ノ下。一つ提案があるんだが」

 

「……聞きましょう」

 

「明日のランク戦が終わった後、防衛任務前の時間で……」

 

 

***

 

 

「よし、じゃあ作戦を立てよう」

 

 俺たち葉山隊の構成は攻撃手三人という、A級の風間隊に近い編成だ。でも彼らのように近距離での連携はあまりしない、どちらかと言えば各人好きに動いて点を取るようなスタイルだろう。

 ……まだ隊としてのスタイルすら確立できてないとも言えるけどね。

 

「それにしてもマジやっばいわ~、A級2位の雪ノ下さんとこの隊と模擬戦とか、めっちゃ燃えるっしょ!」

 

「でも雪ノ下さん達って、この前戦ったから分かるけど結衣がめっちゃ強いだけっしょ?なら雪ノ下さんやヒキオ、一色の奴を倒して結衣に3人同時でかかればいけると思うんだけど」

 

 確かに、結衣とはこの前隊室に来てもらって対戦したけど、俺たち3人とも手も足もでなかった。結衣がめちゃくちゃ笑顔で銃を乱射してきたことが余程恐ろしかったからか、その時優美子は泣いてしまったけれど、あれは俺もチビりそうなくらい怖かった。後で戸部がこっそり『ちびったわ~』って愚痴ってきたときに思わず頷いてしまった程には、恐怖体験だった。

 だが……果たして結衣一人が強いからと言ってA級に勝てたりするものなのだろうか?防衛任務も数回こなしたことで色んな隊とも交流したが、近くで見た近界民を倒す様を見ると、どうにも全員が結衣、もしくはそれより高い実力を持っているはずだ。

 

「いや、優美子。相手はA級部隊で、俺たちはB級に成りたての新米チームだ。前に聞いた話だけど、素の運動能力はトリオン体の動きにも影響があるってことだから、結衣があれだけ動けると考えると……比企谷といろはが結衣と同じくらいの実力で、雪ノ下さんはもっと高い実力を持っているとみるべきだ。気を引き締めていこう」

 

「隼人君の考えすぎっしょ~!結衣が化け物なだけじゃね?俺たち訓練やってた時、結衣より全然弱いやつしかいなかったし?」

 

「隼人は油断するなって言うことっしょ?油断なんてせずに、あの雪ノ下をあーしの弧月で一刀両断してやるんだし!」

 

 駄目だな……二人とも訓練生時代のまんま来てしまってる感じだ。あの時だって確か小学生の黒江双葉って子がすぐさまB級に昇格してA級部隊に入ったって話題になってたんだ。そのほかの訓練生と戦って負けることはほぼなかったけれど……いや、あの比企谷が自信たっぷりにいやらしい顔をしながら告げてきた作戦だ。弱いわけがない。むしろ……いや、まずは試合に集中しよう。

 

「とりあえず支援は任せてね!しっかり隼人君とヒキタニ君を引き合わせるから……ハヤハチこそ至高!」

 

「姫菜!擬態しろし!」

 

 姫菜もこんな感じだし……オペレーターとしての能力は申し分ないと思うけれど、こういうところも何とかしてもらいたいね。

 

『そろそろいいですかー?トレーニングルーム繋げときましたんで、指定してある番号の部屋に1分後集合でお願いしますねー』

 

 姫菜のオペレーターデスクから比企谷の妹の声が聞こえてきた。どうやらそろそろらしい。

 

「隼人!」

 

「隼人君!」

 

「隼人君」

 

 3人が近寄ってきて俺を見つめてくる。そうか、今回は俺たちの初陣と言っても過言じゃないからね。円陣をする気なのだろう。

 

「よし、相手はA級部隊だけど、気持ちで負けないように頑張ろう!」

 

「「「おー!!」」」

 

 転送開始10秒前になり、姫菜がオペレーターデスクに座り、俺たち3人は出撃の準備をする。

 ……ふと、比企谷が提案した作戦が思い起こされた。

 

『明日のランク戦が終わった後、防衛任務前のフリーな時間がある日が1日あるだろ?その日、学校からの帰りに俺たち雪ノ下隊と葉山隊で模擬ランク戦をしてみないか』

 

『……そうね、それが手っ取り早いでしょうし』

 

『ああ。葉山、3日後の夕方、チーム全員で隊室に待機していてくれ。俺たちと模擬戦をしよう。それでお前の依頼……というか考えは達成できる。その後はお前たち次第だ。頑張れよ』

 

『あ、ああ……分かったよ』

 

 正直、理解できてなかったが雪ノ下さんもいろはも比企谷も全員が納得がいってるようだったので悪いことではないと思った。A級部隊との対戦で自信をつけさせてくれる気なのだろうか?

 この時の俺は、こんな暢気なことを考えていた。

 直後、あの言葉の意味を……知ることになるなんて思わなかったんだ。

 

 

***

 

 

「転送後の感じは個人ランク戦と変わらないんだな」

 

 転送された先は前もって伝えられた通りステージA。市街地マップでこれといった特徴がない、ノーマルマップと言われる場所。

 レーダーで位置を見ると、近くには二人、遠くに二人……?俺を合わせても五人しかいない?

 

「姫菜レーダーに四人しか映っていないのって……」

 

『多分雪ノ下さん達のうち、二人がバッグワームを起動してるね。バッグワームは狙撃手や不意打ちを狙ってくる人が使うことが多いって聞いたことあるから、全員警戒してね!』

 

 バッグワームか。確か俺たちがB級に上がってから正隊員のトリガーをもらいに行ったとき、最初から入れてあるやつだな……レーダーに映らなくする機能があるって開発室の人が言ってたっけ。

 

『隼人、あーしと隼人が近いから誰かを挟み撃ちにしに行かない?』

 

『俺はヒキタニ君発見したから早速戦ってくるべ!』

 

「優美子と俺は一先ず合流して雪ノ下さん達を見つけ次第、バッグワームを起動して挟み撃ちにしよう。戸部、くれぐれも無理はするなよ」

 

『大丈夫しょ!ヒキタニ君俺いない方ばっかり見てるぜ?いっちょ倒しに行ってくんべ』

 

 背後からの奇襲なら、戸部でも倒してくれるかもしれない。それよりも優美子と合流して消えていないもう一人を見つけないと。

 比企谷がバッグワームをつけていないことは分かったから、雪ノ下さんか結衣かいろは。狙撃手のいろはがバッグワームを使ってるとみると、残り二人のどっちがつけてるんだ……?

 ……いや、まずは優美子と合流して、それから――――

 

 俺がそんなことを考えていた時、少し遠くの場所から流星のように一つの光がステージから飛んでいった。

 あれは…?

 

『隼人君!戸部っちがベイルアウトしたよ!』

 

「何だって!?」

 

 早すぎる。戸部の奴が背後から仕掛けて比企谷がベイルアウトしたのならまだしも、戸部が……?

 

 

***

 

 

「……今頃葉山の奴、『戸部がベイルアウトしたってどういうことなんだ?』とか考えてそうだな」

 

 さっき拙い動きで背後から旋空を撃ってきた戸部に対し、一歩左に動くことでそれを躱し、目を見開いている戸部の首をスコーピオンで斬った後、先に飛ばしておいたバイパーとハウンドの群れを全身隈なく浴びせて粉々にしやったのだが……本当に特徴のないB級下位みたいな動きだったな。

 あれでランク戦を勝てるとか思ったのか……?舐められすぎだろ。流石にあれでは……B級17位くらいで終わりそう。今16チームしかないから、実質最下位ってことだが。

 

『先輩先輩、もう葉山先輩と三浦先輩撃っちゃっていいですかー?いいですよねー?二人とも絶対にツインスナイプで落とせますよ?』

 

「いや、二人が合流して話し始めた、足を止めた瞬間に三浦を殺せ。最後は雪ノ下と由比ヶ浜がやってくれる」

 

『しっかし舐められたもんですね~?なんでB級に上がりたての素人が暫定A級二位のうちに勝てると思っちゃったんですかね?』

 

「……まあ、葉山はあの二人に合わせてたんだろ。他の訓練生と少しは話してるだろうが、チームランク戦がどんなものか実感してなかったんじゃねえの?ミーハーな戸部や三浦がランク戦を見ていないのは意外だったが……葉山個人だとうちのランク戦見てたっぽいから対策してくると思ったのにな。これは本当に時間の無駄かもしれん。悪い」

 

『先輩が謝ることないですよ。いずれにせよ何回も訪ねられても迷惑ですし、ここらで一回思い知らせておくのは大切ですよ』

 

「そうだな」

 

 だから戸部を殺すのにあんなオーバーキル過ぎる攻撃したんだしな。

 ……そろそろ葉山と三浦が合流して、二人で戸部が落ちたことで混乱してる頃だろうか。

 

 

***

 

 

「隼人!なんで戸部の奴が落とされたわけ?」

 

「……多分、比企谷にやられたんだろう」

 

「ヒキオに?戸部が負けたってこと?奇襲しかけておいて?」

 

「ああ、そうじゃなきゃ戸部はベイルアウトしないだろう。いろはに撃たれたってのも考えたけど、姫菜が狙撃の弾丸の形跡がないことを確認してる」

 

「……じゃあまずはヒキオから挟み撃ちにするっしょ?位置分かってるし」

 

 優美子の言う通り、比企谷は戸部を倒したところから一歩も動いていない。位置が割れてるのは彼だけだし、もう一人は少し遠めだからね……。

 

「分かった。まず比企谷から倒しに行こう」

 

「っし、ヒキオの首を斬り落としてやるし!」

 

 握り拳を作ってやる気な優美子を見ながら、比企谷のいる方向へ行こうとして……一瞬だった。

 

『狙撃警戒!!』

 

「え?」

 

「あ……」

 

『戦闘体活動限界 ベイルアウト』

 

 さっきまで隣にいた優美子が一瞬で仕留められ、ベイルアウトしていった。

 狙撃ってことはいろはか!?完全に警戒していなかった。

 

 ……ああ、なるほどね。今比企谷が言ったことの意味が理解できたよ。

 

「……つまりは実力差を見せつけることで、戸部と優美子にランク戦参加を諦めてもらうってことか」

 

「ええ、それともう一つ。葉山君も含めて単純にチームで戦うことを理解できていないわ。今シーズン全てを準備に使えばそれも解消されるでしょう」

 

「ははっ、そうだね。甘かったのは俺も同じってことか」

 

「で、でも……!えーっと……」

 

「いいんだ結衣、カバーしきれないくらい俺たちの動きは悪かっただろ?」

 

「ええ、悪いわね」

 

「即答だな……」

 

「当然よ。全員誰かに師事することをお勧めするわ。じゃあ、終わりにするわね」

 

 雪ノ下さんと結衣の二人で……いや、雪ノ下さん一人で来るつもりかな。

 いろはの狙撃もあるし、いつの間にか比企谷もレーダーから消えている……考えることって本当に多いんだな。

 雪ノ下さんは……弧月使いか。なら最後くらい一矢報いたいね。

 

 ……そう意気込んで、気づけば俺は隊室のベッドに横たわっていた。

 雪ノ下さんの剣を二回受け止めて……三回目で袈裟斬りにされたんだっけ。

 

「凄いな、本当に……これが正隊員、これがチーム戦、これがボーダーのA級チームか……本当に俺たちは甘かったんだな」

 

 駆け寄ってくる三人を見ながら、俺は気持ちを新たにした。

 ちゃんと準備してからランク戦に参加するよう、二人を説得しなきゃいけないと。

 

 

***

 

 

「で?」

 

「で?って……ランク戦参加は辞めることになったよ。二人とも自分たちの力のなさを分かってくれてね。俺も隊長としての指示出しや動きがまだまだだから、これから頑張ることにしたんだ」

 

「まぁ、妥当だわな。むしろあれで偶然だとか偶々だとか言って参加してたら、雪ノ下に失笑されるところだっだぞ。一色もかなり厳しいこと言ってたし……由比ヶ浜はお前たちと仲いいからあんまり言わないけど。俺はどうでもいいが、俺たちと同級生の奴らがランク戦で失態を晒すところとか見たくねえし」

 

「相変わらずだな。本当に……ログを見たよ、君の強さが羨ましい。弧月を使ってると思えば一番得意なのはスコーピオンって話聞いたよ。どうやったらそんなに強くなれるんだ?」

 

「ひたすらランク戦で太刀川さんとか二宮さん辺りにボコボコにされてれば、自然と強くなれるぞ」

 

「……遠慮しておこうかな」

 

 いい判断だな。前にいけ好かないイケメンの話をしたら、太刀川さんと出水がランク戦で戦う気満々になっちまったから……どちらかの姿を見たら逃げろよ葉山!

 もちろん、そのことは葉山には伝えないけど。

 

 結局、あの後葉山隊隊室で自分たちがランク戦で戦っていけるとは思えなくなったようで、参加は取り消すことになったらしい。

 隊として、これからしっかりと準備してスタートを切ることにしたとか。

 

「ああ、そうだ。戸部が比企谷へのリスペクトで煩いんだ、どうにかしてくれ」

 

「……なんでだよ?」

 

「比企谷に滅多打ちにされてから、あまりの実力差に呆然として比企谷の過去の戦闘を見ていたら……ファンになったらしい。いつかは比企谷とも張り合えるような弧月使いを目指すって意気込んでるんだ」

 

「そうか、戸部には頑張れと伝えておいてくれ。俺は知らん」

 

「ははっ、そのうち絡まれるだろうけど、俺は絡むなとは言わないからね。チームが強くなるんだからむしろ推奨するかもしれない」

 

「……お前、そっちの方がいいぞ。ここは別に学校じゃない、異世界の敵と戦うための組織だ。みんなの葉山隼人じゃなくていいだろ。俺はどっちも大嫌いだが」

 

「……奇遇だな。俺もお前が大嫌いだよ」

 

 そう言い合った後、背を向けて反対に進みだす二人。

 その二人の顔には、笑みがこぼれていたのだった。

 




はい、長々と駄文書いちゃった第二号ですね。
でもこれで葉山がキャラ崩壊しても何の問題もなくなったし……はっちゃけさせていこう。

そういや最近これ書くとき、部屋のテレビでワルトリのアニメ流してやってるけど、二期はまだしも一期目は違和感と拙さが凄いな……オリジナル増えてるところは悪くないけれど。
声が本当にイメージと外れる……。鈴鳴第一が一番アニメだと好きかなぁ。
声だけとのマッチなら断トツで二宮さんだけど。安定の諏訪部ボイス。


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閑話 ボーダー隊員対戦カードゲーム②

我慢できず、また書いてしまった……。
正直なところ、こんな感じのカードゲームがワルトリ世界で発売されることはないでしょうが、現実で商品化はありでは……?普通に面白そうなんですが。

近界民の被害にあっている人のことを考えれば確実に発禁だと思われますので……まあ、今回は雪ノ下隊とゲスト達でやってみた回です。
色々と突っ込みどころありそうですが、自分で書いてて楽しいんで書きました。


「雪ノ下、由比ヶ浜、一色、依頼がしたいんだが今から時間取れるか?」

 

 小町はオペレーター女子会の方に参加してるからいないが、他の3人は防衛任務もないし隊室でゴロゴロしてたため声をかける。

 

「ええ、構わないけれど……珍しいこともあるものね」

 

「あたしもいいよ!」

 

「今日暇なんでいいですけど……それで依頼って何ですか?」

 

「……これだ」

 

「「「……ボーダー隊員対戦カードゲーム?」」」

 

 ボーダー隊員対戦カードゲーム。略式名称は考え中。

 2人で対戦形式が定番ではあるが、最高で5人対5人が可能となっている。

 ルールは以下の通り。

 

 

・デッキは50枚

 

・同じカードは4枚まで同デッキに入れることができる

 

・スタート時の手札は7枚

 

・先行は攻撃禁止

 

・通常、勝敗は自陣に最初から存在している近界民5体(バンダー1 バムスター2 モールモッド2)を全て撃破することで決する

 

・相手の場に隊員が出ている時、攻撃する場合は必ず隊員を攻撃しなければならない

 

・それぞれのカードは、フィールドエリア、作戦室エリア、狙撃手エリア、基地エリアの指定された場所に置かれる

 

・攻撃手、銃手、射手扱いのカードは原則フィールドエリア。ただしベイルアウト時の効果では、作戦室に置かれることもある

 

・狙撃手扱いのカードは原則狙撃手エリア。自陣の近界民が攻撃される場合、自身のポイントより攻撃してきた隊員のポイントが低ければ、1回だけ攻撃を防ぐことが可能。ただし、その後ベイルアウトする

 

・オペレーター扱いのカードは作戦室エリア。相手に除去される、または自身で除去しない限り作戦室エリアに居続ける。特殊カードとしても扱われる。

 

・隊員同士の勝敗は基本的にポイントで決する

 

・1ターンに通常現着できるのは2人のみ。また、特殊カードは(自分、相手のターン関係なく)1ターンに3枚まで使用可能

 

・B級隊員の攻撃はシールド1枚、A級隊員の攻撃はシールド2枚、もしくはエスクード1枚で防ぐことが出来るが、一度使うと使ったカードは基地エリアに置かれる

 

 

「こんな感じだ。かなり前から考えられてた代物で、今実証段階にあるんだよ。実際に遊んでみての感想を聞きたくて、お前らに頼んだってわけだ」

 

「なるほど……比企谷君は開発に携わってるというわけね。そこで遊び相手に困って私たちに依頼してきた、と」

 

「いや、既に出水たち3馬鹿とやってもう一回見つめなおしたのがこのプロトタイプ2号だ」

 

「」

 

「ゆきのんが固まっちゃった」

 

 ふっ、雪ノ下め。お前は今でも俺はボッチだと思ってたんだろうが、既にボッチを名乗ると周りに否定されるくらいには友達が出来たんだぞ!

 

(雪乃先輩、先輩がボッチ卒業したってことじゃなくて、自分が1番最初に頼られなかったことにショック受けてるんじゃないかなー?ま、そういうところが可愛いとは思うけどね)

 

「ん?なんだ一色」

 

「何でもないですよーだ」

 

 雪ノ下の方を見てから納得した様に頷いていたんだが。コイツあれか?お前ボッチじゃなかったん?って思ってるのだろうか。俺チームメイトにボッチ思われすぎだろ。

 今までは事実だったわけだが、最近はボッチって自虐ネタ披露するたびに具体例出されて否定されるからな。出水とか綾辻とかに毎回ボッチ否定されてるし……。

 

「でもそれ面白そうだね!」

 

「だろ?出水達とやった時も盛り上がったんだ。つーわけでこのメンバーで対戦やって欲しいってのが俺の依頼だ」

 

「……分かったわ、依頼を受けましょう」

 

「まずデッキ作りからしてほしい。改良したての新規カードが大量にあるから、それぞれ自分なりのデッキを作って対戦しよう。そうだな……総当たり戦をして、一番勝利数が多い奴が優勝にするか。勝利数が並んでたら、直接対決で勝ってた方が順位は上ってルールでいいか?」

 

「優勝者には何かあるんですか?」

 

「優勝者以外からジュース奢ってもらうくらいでいいだろ」

 

「そんな小さなことで征服欲を満たすのは小さい人間のやることではないかしら?」

 

「何、負けるのが怖いのか?」

 

「……いいでしょう。全員に勝って優勝してやるわ」

 

 ちょろい。雪ノ下の奴相変わらず負けず嫌い発動させようとしたらちょろいのな……まあこれで本気でやってくれるだろうし、早速デッキ作りだな。

 

「使うのはこれな」

 

 ドサドサドサ!と音を立てて机の上に広がっていくカードの山。

 まさかここまで多いと思わなかったのか3人とも目を見開いているが、現隊員達をカード化したって考えたらこれくらいは出来るだろ。

 

「カードの効果の意味が分からなかったら聞いてくれ。一応全てのカードの製作に携わったから分からない効果もないだろうし」

 

 3人が思い思いにカードを見始めたのを見つつ、俺も目の前に広がるカードの山に手をつける。

 さて、誰使おうかな……。

 

 

***

 

 

「最初誰からやる?」

 

「先輩、わたし自信あるんでやりましょうよ」

 

「自信あるのか。なら俺と一色、雪ノ下と由比ヶ浜、次にそれの勝った者同士負けた者同士、最後にやってない者同士でいいか?」

 

「異論はないわ」

 

「いろはちゃん頑張ってね!」

 

「はい!先輩なんてボコボコにしてあげます♡」

 

 製作者という多大なるアドバンテージがあるし、負けることはないだろ。むしろここで負けたらかなり恥ずかしいな。

 

「じゃあこのシートを敷いてくれ。ここに書いてあるところに置けば分かりやすい」

 

「了解です」

 

「じゃあジャンケンするか」

 

「先輩。わたし達1ターンがどんな形で進行されるのか分からないんで、説明しながら先行のターンしてもらっていいですか?」

 

 それもそうか。ルールブックの分厚いやつにはターンの流れも記していたが、さっき3人に見せた簡易版は順序が書いてないんだった。まず1つ目の改善点だな。

 

「いいぞ。じゃあ俺のターン。ターンが始まったらまずはデッキから1枚手札に加える。1枚ドローしたら、隊員を手札から現着させたり、特殊カードが使える。俺は"体育会系リア充"柿崎国治と"押しかけお嬢様"照屋文香を現着させるぞ。隊員を手札から現着させられるのは、基本的にドローした後、攻撃する前だ。攻撃し始めたらカードの効果でもない限りは、手札から隊員は出せないルールになってる」

 

 

"体育会系リア充"柿崎国治 《万能手》 ポイント6200

(爽やかにバスケで汗を流している柿崎さんの絵)

・この隊員がフィールドエリアに現着した時、デッキから照屋文香、巴虎太郎、宇井真登華の名前を持つカードを1枚、デッキから相手に見せた後、手札に加えることが出来る。その後デッキをシャッフルする。

・この隊員はフィールドエリアに照屋文香、巴虎太郎の両名がいない限り相手を攻撃することは出来ない。

・フィールドエリアにこの隊員と照屋文香、巴虎太郎がいる場合、この隊員のポイントは2倍になる。

 

 

"押しかけお嬢様"照屋文香 《万能手》 ポイント5500

(柿崎さんにニコニコしながら話しかけてる照屋の絵)

・この隊員が攻撃する時、フィールドエリアに柿崎国治がいるのなら、この隊員のポイントを+2000する。

・この隊員が攻撃する時、フィールドエリアに巴虎太郎がいるのなら、相手の狙撃手を一人ベイルアウトさせる。

・この隊員が攻撃する時、作戦室エリアに宇井真登華がいるのなら、相手の作戦室にある特殊カードを1枚、基地に置くことが出来る。

 

 

「柿崎さんの現着時の効果で、俺はデッキから"綾辻からの推薦人"宇井真登華を手札に加える。デッキシャッフルしてくれ」

 

 

"綾辻からの推薦人"宇井真登華 《オペレーター》

(綾辻に背中を押されながら柿崎さんと向かい合って挨拶している宇井の絵)

・この隊員は作戦室エリアに置かれる。

・フィールドエリアに柿崎国治、照屋文香、巴虎太郎が現着している時、この隊員が作戦室エリアにいる限り、自分の全隊員のポイントを2倍にする。

 

 

「さっき手札に加えた宇井を作戦室エリアに出して、先行は攻撃できないから俺のターンは終了だ」

 

「先輩は柿崎隊モチーフのデッキですか。ホント柿崎さんのこと好きですよね……」

 

「まあな。あの人くらい信頼できる人は殆どいねぇし」

 

「じゃあわたしのターンです。1枚引いて、わたしは"雪の女王"雪ノ下雪乃と"ピンクの悪魔"由比ヶ浜結衣を現着させます」

 

「……比企谷君、後で聞きたいことがあるのだけれど」

 

「ヒッキー、後で話聞かせてね?」

 

 左右から物凄いジト目を感じるが、今は一色との勝負に集中しよう。

 

 

"雪の女王"雪ノ下雪乃 《万能手》 ポイント11000

(微笑んでいる雪ノ下の絵。なお背景に吹雪が描かれている)

・この隊員が現着した時、狙撃手エリアに隊員がいなければデッキから"ゾンビスナイプ"比企谷八幡を狙撃手エリアに現着させてもよい。

・フィールドエリアに由比ヶ浜結衣がいれば、この隊員のポイントは2倍になり、『攻撃する時、相手の近界民を一体破壊する』効果を得る。

 

 

"ピンクの悪魔"由比ヶ浜結衣 《銃手》 ポイント8300

(路地から笑顔で銃撃しながら飛び出してくる由比ヶ浜の絵)

・この隊員が現着した時、相手の8000未満のポイントの隊員を一人選び、ベイルアウトさせる。

・フィールドエリアに雪ノ下雪乃がいれば、この隊員のポイントは2倍になり、『ベイルアウトする時、一度だけポイントを半分にしてフィールドエリアに残る』効果を得る。

 

 

「雪乃先輩の現着時効果で、デッキから"ゾンビスナイプ"比企谷八幡を狙撃手エリアに現着させます!……先輩のカード、名前も見た目も酷いですね。これ自分で作ったんですか?」

 

「おい、引き気味にこっち見るな。あとそれ俺の存在否定みたいなものだからやめてくれるかな?……流石に自分で自分のカードは作れねえよ。東さんと雷蔵さんに任せたらこうなった」

 

 

"ゾンビスナイプ"比企谷八幡 《狙撃手》 ポイント7100

(ライトニングを構え、ニヒル(自称)な笑みを浮かべている比企谷の絵)

・この隊員は狙撃手エリアにしか現着できない。

・この隊員が狙撃手エリアにいる限り、相手の隊員全てのポイントを-2000する。

・相手の隊員が攻撃した時、自身のフィールドエリアに隊員がいなければ、相手の7100以下のポイントを持つ隊員をベイルアウトさせることが出来る。そうした場合、この隊員はベイルアウトする。

 

 

「結衣先輩の現着時効果で、文香をベイルアウトさせます」

 

 まあ、そうするよな。どっちにしろベイルアウトさせに来るだろうが、もしここで残った隊員をシールドやエスクードで守ったとして厄介そうなのは照屋の方だしな。ザキさん攻撃できないし。

 

「雪乃先輩で攻撃!攻撃時の効果で先輩のモールモッドを破壊します!」

 

 比企谷の近界民5→4

 

「雪乃先輩の攻撃対象はザキさんですよ!」

 

「特殊カード"俺には未来が見えるんだ"を使用する。ザキさんはフィールドに留まるぜ」

 

 

"俺には未来が見えるんだ" 《特殊》

(迅さんが遠くを見つめながら黄昏れている絵)

・フィールドエリアにいる隊員を一人指定する。指定された隊員は、このターンの終わりまでベイルアウトされない。

 

 

「そんなカードもあるんですね……でもこれで先制パンチは打てましたし、ある程度場は揃えれましたよ?ターンエンドです」

 

 確かにな。雪ノ下と由比ヶ浜を揃えた上に、俺の狙撃手パターンのカードのせいで俺の隊員のポイントは-2000。

 A級部隊はB級部隊(ただし二宮隊は除く)よりは強く作ってあるが、こうやって対戦すると更に強く感じるな……これは攻めに出るしかないな。

 

「俺のターン、1枚引いて……特殊カード"ザキさんの人望"を使用する」

 

 

"ザキさんの人望" 《特殊》

(柿崎さんと、柿崎さんの後に続く照屋、巴、宇井の絵)

・自分のフィールドエリアに柿崎国治がいる時、自身の近界民を1体除去してもよい。そうした場合、デッキから照屋文香と巴虎太朗と宇井真登華のカードを選び、1枚を場に出し残りの2枚を手札に加える。

 

 

「俺はバムスターを除去し、デッキから"恐怖爆発"照屋文香、"小学生正隊員"巴虎太郎、"激励者"宇井真登華を選び、"恐怖爆発"照屋文香をフィールドエリアに出し、残りの2枚を手札に加える」

 

 比企谷の近界民4→3

 

 

"恐怖爆発"照屋文香 《攻撃手》 ポイント10000-

(目がグルグル状態の照屋がお化けをぶっ叩いて、それを柿崎さん、巴、宇井が驚きながら見ている絵)

・この隊員のポイントは、自分の近界民の数-1000される。

・この隊員がデッキからフィールドエリアに出た場合、相手の狙撃手を一人ベイルアウトさせることができる。

・自分のフィールドエリアに柿崎国治、照屋文香、巴虎太郎しかいない場合、ターンに一度、デッキから特殊カードを1枚、相手に見せて手札に加えてもよい。その後デッキをシャッフルする。この効果は相手のターンには使えない。

 

 

"小学生正隊員"巴虎太郎 《銃手》 ポイント4000

(柿崎さんに笑顔で話しかけている巴の絵)

・自分のフィールドエリアに柿崎国治がいない場合、この隊員は攻撃できない。

・作戦室エリアに宇井真登華がいる場合、この隊員のポイントは+3000される。

・この隊員が攻撃する時、フィールドエリア・作戦室エリアに柿崎国治、照屋文香、宇井真登華がいる場合、『攻撃する時、相手の近界民を一体破壊する』効果を得る。

 

 

"激励者"宇井真登華 《オペレーター》

(柿崎さんの背中を叩いて励ます宇井の絵)

・この隊員は作戦室エリアに置かれる。

・自分のフィールドエリアにいる柿崎国治のポイントは+5000される。

・フィールドエリアから、柿崎国治の名前を持つ隊員がベイルアウトする時、代わりにこの隊員を基地に置いてもよい。

 

 

「照屋の現着時効果で、一色の狙撃手を一人ベイルアウトさせるから、当然俺をベイルアウトさせるぞ」

 

「……自分がベイルアウトしていくのって、辛くなりませんか」

 

「うっせ。更に虎太郎と宇井を出す。ちなみにだがオペレーターは作戦室に三人まで置くことが出来るってルールだ。被っても被らなくてもいい」

 

「ってことは小町ちゃんが三人並ぶのも可能なんですね」

 

「そうなる。"恐怖爆発"照屋文香の三つ目の効果を使用し、デッキから特殊カードを1枚、手札に加える。俺は"加古望の新作炒飯"を加えるぞ」

 

 

"加古望の新作炒飯" 《特殊》

(満面の笑みで炒飯を差し出しているであろう加古さんの絵。なお炒飯の部分は見えない)

・このカードはデッキに1枚しか入れることが出来ない。

・コイントスをする。オモテが出た場合、相手のフィールドエリアに現着している隊員全てのポイントを次の相手のターンの終わりまで2倍にする。ウラが出た場合、相手のフィールドエリア、狙撃手エリア、作戦室エリアに現着している隊員全てをベイルアウトさせる。

 

 

「ヒッ!?」

 

「ゆきのん?って、ゆきのんの顔色がどんどん青くなってる!?」

 

「加古さんの炒飯美味しいじゃないですか。どうしてそんな怯えてるんですか!?」

 

 あ、そっか。俺と雪ノ下は加古さんのハズレ炒飯の恐ろしさを身を持って経験しているが、この2人と小町は当たりしか食べたことないんだったか。……一色と小町は普通に倒れるだろうが、由比ヶ浜だけは「うえぇ……不味いよぉ」とか言いそうである。

 あの自分で作った卵の殻入り粉状のクッキーを食べて「うえぇ~」とか言いつつ、耐えられてるからかなり耐性あると俺は思ってる。ちなみに俺も昔は加古さんの炒飯は当たりでもハズレでも食べていた。最近になってからハズレ引くと意識飛ぶようになったんだよなぁ……あれは耐性付かないからな。黒江のことは本当に尊敬するぜ。

 

「よし、これで柿崎隊も揃ったし……ああ、そうだ。ポイント計算だが、+と倍の効果は+の後に倍になるからな。例えば今俺のフィールドエリアにいるザキさんのポイント計算は、『(6200+5000)=11200って計算してから、11200×2×2』ってことになるから、ザキさんのポイントは44800になる」

 

「えー、ザキさん強すぎませんか!?」

 

 一色がぶーぶー言っているが、正直なところそうでもない。特殊カード飛んで来たら柿崎隊を始め多くの隊は防げないし、防ぐような特殊カードも少ない。

 もちろん、そうならないような作りにはなっているはずだ。デッキが50枚ってのも実はミソで、4枚同じカードを入れていくと隊員は基本2パターンあるので柿崎隊だと隊員を限界まで入れて32枚。シールドとエスクードを4枚ずつ入れたらもう40枚になる。

 そうなると特殊カードを10枚入れるとしても、全てが相手へのカウンターにはならない。隊員を入れなければ基本的に勝てないし、シールドとエスクードないと守りが足りなくなるが、基本的に隊が揃うとポイントが増大していくので特殊カードも多く入れたい……デッキ作りは結構悩ましいのだ。

 基本的には隊員は3枚ずつにするのがセオリーと思ってる。もちろん使う隊員次第なのだが。

 

 ほら、現に口ではぶーぶー言いながら、顔に笑みが浮かんでる。絶対なんか使ってくるな。

 

「ここでわたしは特殊カード"目が合ったらランク戦"を使用します!」

 

 

"目が合ったらランク戦" 《特殊》

(こちらに視線を向けて、手を振ってくる太刀川さんと、それに気づいた迅さんの後ろ姿の絵)

・自分のフィールドエリアにポイント10000以上の隊員がいる時のみ使用可能

・自分のフィールドエリアの隊員1人のポイントを次の自分のターンの初めまで3倍にする

・自分のフィールドエリアの隊員1人と、相手のフィールドエリアの隊員1人を選ぶ。選ばれた2者を強制的にバトルさせる

 

 

「わたしが選ぶのは雪乃先輩です!そしてザキさんと強制バトルさせます!」

 

「マジかよ……」

 

 まさかそのカードを見つけていたとは。太刀川さんモデルのカードは割とあるが、このカードはかなり強力な方に入ってたはず。

 つーか雪ノ下のポイント高すぎだろ……11000だったのが由比ヶ浜がいるから22000で、今は66000?強すぎる。

 

「仕方ない。"激励者"宇井真登華の効果発動。柿崎国治がベイルアウトする時、代わりに宇井を基地エリアに置くことでザキさんはフィールドエリアに留まるぞ」

 

「中々ザキさん庇うじゃないですか……!」

 

「当然。次に虎太郎で攻撃。攻撃時の効果で一色のモールモッド1体破壊な」

 

 一色の近界民5→4

 

「でも虎太郎君のポイントは14000ですよね?」

 

「おう。虎太郎はベイルアウトするぞ」

 

 攻撃するか迷ったが、次のターンにどうせやられることを考えたらここでモールモッド倒してた方が得だろう。

 

「ターンエンドだな」

 

 

***

 

 

 その後はお互いにターンを使い、相手の隊員をベイルアウトさせ、近界民を削っていく展開になっていった。

 そして対戦は最終局面を迎える。

 

「わたしのターン!ドロー!……先輩、勝たせてもらいますよ!!」

 

「悪いが負けるつもりはねぇな。俺こそ次のターンでトドメ刺してやるからな」

 

 現在の俺のフィールドエリアには"恐怖爆発"照屋文香と"将来有望"巴虎太郎の2名が現着しており、作戦室エリアには"綾辻からの推薦人"宇井真登華がいる。残り近界民は2体。

 一色のフィールドエリアには"爆殺魔"比企谷八幡と"雪の女王"雪ノ下雪乃の2名が現着済みで、狙撃手エリアには"小悪魔スナイパー"一色いろは、作戦室エリアに"A級最年少オペレーター"比企谷小町がいる。残り近界民は2体。

 

 

"将来有望"巴虎太郎 《銃手》 ポイント5900

(右手に弧月、左手に銃を持って戦闘している巴の絵)

・この隊員がフィールドエリアに現着した時、基地エリアから柿崎隊の隊員を1人手札に戻すことが出来る。

・フィールドエリアに柿崎国治がいる場合、この隊員のポイントは+4000される。

・この隊員がベイルアウトする時、作戦室エリアに宇井真登華がいるのなら、基地エリアにある巴虎太郎の名前があるカードを1枚、デッキに戻すことが出来る。そうした場合、この隊員はフィールドエリアに留まる。

 

"爆殺魔"比企谷八幡 《攻撃手》 ポイント15000

(悪い顔をしながらスコーピオンを緑川に向けて投げつけてる比企谷の絵)

・この隊員が攻撃する時、フィールドエリアにいる相手の10000ポイント以下の隊員を1人ベイルアウトさせる。

・この隊員が攻撃する時、作戦室エリアに比企谷小町がいるのなら、この隊員のポイントを2倍にする。

・この隊員がベイルアウトする時、相手の20000ポイント以下の隊員を1人ベイルアウトさせる。

 

"小悪魔スナイパー"一色いろは 《狙撃手》 ポイント10000

(あざとい笑顔を浮かべながら、両手にイーグレットを構える一色の絵)

・この隊員は狙撃手エリアにしか現着できない。

・この隊員が現着した時、デッキから《オペレーター》を持つカードを1枚、相手に見せてから手札に加える。その後デッキをシャッフルする。

・相手の隊員が現着した時、相手のデッキからその隊員と同名のカードを1枚、基地エリアに置く。

・相手の隊員が攻撃した時、自身のフィールドエリアに隊員がいなければ、相手の10000以下のポイントを持つ隊員をベイルアウトさせることが出来る。そうした場合、この隊員はベイルアウトする。

 

"A級最年少オペレーター"比企谷小町 《オペレーター》

(一色程ではないが、あざとい笑顔でこちらにピースしている小町の絵)

・この隊員は作戦室エリアに置かれる。

・自分のフィールドエリアにいる比企谷八幡のポイントは2倍になり、相手のフィールドエリアにいる比企谷八幡のポイントは半分になる。

・フィールドエリアから雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣の名前を持つ隊員がベイルアウトする時、代わりにこのカードを基地エリアにおいてもよい。

 

 

 ……俺ほんと厄介だな。小町がいるせいで化け物と化してるし、純粋に破壊能力が凄まじい。爆殺魔って絶対雷蔵さんが付けたな。

 地味に一色の能力がキツい。今回は特殊カード多めのデッキ構成にしてしまったから、隊員は3枚ずつ、もしくは2枚しか入れてなかったりするから……デッキから消されると痛い。

 もちろんそのための虎太郎なのだが、如何せん隊員のポイント差がありすぎる。せめてザキさん現着させれたらこの状況も変わるが……まずはこのターンを凌がないと話にならん。

 

「"阿吽の呼吸"由比ヶ浜結衣と"一心不乱"一色いろはを現着させます!って、このわたしのカード何なんですか!?」

 

 

"阿吽の呼吸"由比ヶ浜結衣 《銃手》 ポイント13000-

(雪ノ下と共に真剣な表情で突撃銃を構える由比ヶ浜の絵)

・自分のフィールドエリアに雪ノ下雪乃がいない時、この隊員のポイントは-5000される。

・【連携】対象:雪ノ下雪乃(【連携】を持つ隊員は対象となる隊員が自分のフィールドエリアにいる時、2回攻撃することが出来る)

・この隊員が攻撃して相手の隊員をベイルアウトさせた時、相手の近界民を1体破壊できる。

 

"一心不乱"一色いろは 《射手》 ポイント6000

(ゆっくりとアステロイドを展開している二宮さんとそれから涙目で逃げている一色の絵)

・この隊員を除く自分の隊員のポイントを+3000する。

・この隊員は攻撃できない。

・この隊員がベイルアウトする時、手札を1枚捨てることができる。そうした場合、この隊員はフィールドエリアに留まる。

 

 

「いや、この前の1dayトーナメントの時こんな感じだっただろ?」

 

「うっわ、外から見たらこんな感じなんですね……涙目のわたしも悪くない……いや、ここまでだと雑魚キャラ感出るんで嫌です」

 

「まだ発売決まったわけじゃねえから。……少なくともあと2年はかかるとみてるし」

 

「この試合勝ったらこのカードの絵についてお話しましょうか。……さて、雪乃先輩で攻撃します!攻撃時の効果で先輩のバンダーを破壊します。攻撃対象は文香です!」

 

 比企谷の近界民2→1

 

「そろそろ本格的にヤベえな……ここで特殊カード"加古望の新作炒飯"を使用。コイントスしてオモテが出たらお前の隊員達全員のポイントは2倍になるが、ウラが出たらお前のフィールドエリア、狙撃手エリア、作戦室エリアに出てる隊員全員ベイルアウトだ」

 

「……何でですか加古さんの炒飯美味しいじゃないですか?雪乃先輩の異常な怖がり方からして何かあるんです?」

 

「……今度食べさせてもらえ。食べてればいつか分かる」

 

「はぁ……」

 

 よし、ここでウラを出して前回の緑川同様全員一掃してやる……!

 

「……あ、オモテだ」

 

「先輩ありがとうです♡」

 

 当然、攻められまくって負けました……。

 開発者の1人なのに……一色に負けちまった。

 ま、まあまだ優勝できないわけじゃない。このあと全勝すればいいだけだ。

 さて、次は雪ノ下と由比ヶ浜か……由比ヶ浜勝ったりしないだろうか?

 




最後駆け足になってます。おかしいところあったら教えてくれると助かります。

基地はカードゲームで言う墓地みたいな扱い。
作戦室は基地にあるだろ!とは思いましたが、他に思い付かなかったんでこんな感じになりました。

まさかの1話に入りきらなかった。続きます。恐らく④、もしくは⑩とかまで行く可能性がありますが、その時は許してね。連続ってことにはならないと思いますが……。

話変わりますが……キャラ崩壊ってタグつけてもキャラブレぶれって言われてつまらないって言われるの、何のためのタグ付けなのか分からなくなるんでやめて欲しいです。

ただ単につまらないだったらいいのに。タグ付けは見たくない作品を避けられるためのもの、好みの作品を見つけやすくする機能じゃないの?ねえ?

……って、思ったけどつけてなかった件について。後から付けました。


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依頼者:忍田真史

こっからどんどん時飛ばしていきます。
修や遊真たちと会ってから日常回で時系列ごちゃごちゃにしそうですが、何よりもまずメインヒロイン早く出てきて欲しい。
そして問題しかない隊を組ませたいのです……いや、ルート分岐が先か。
大規模侵攻時に八幡のとる行動でニルート作りたいな。


『決まったー!最終スコア5ー3ー3で雪ノ下隊の勝利です!』

 

「みんなお疲れー!やったねゆきのん!」

 

「ええ、これで遠征部隊に参加できるわね」

 

「最後の雪乃さんとお兄ちゃんの連携凄かったですー!!」

 

「そうですよ!いつの間にあんなコンビネーション出来るようになってたんですか!?」

 

「……比企谷君、どうして私たちはあんな連携が出来たのかしら?」

 

「……俺に聞くなよ」

 

 さっきまでの戦闘を思い出すと本当に不思議だ。何でなんだ?

 最後のあの場面、風間さんと菊地原VS俺と雪ノ下の真っ向勝負。サイドエフェクトでバイパーもハウンドも全て躱してくる二人に対し、もう成す術ないと思った。

 俺と雪ノ下は連携の練習などほぼしていない。それに対して、攻撃手の連携と言えば風間隊、と言われるほどの連携練度を誇る風間隊の二人。

 

 風間さんの怒涛の攻撃を防いでいる内に背後から菊地原の隠密急襲を受け、菊地原を止めれば風間さんにやられる。一対一に持ち込んでも良かったが、俺と雪ノ下が菊地原に勝てたところで、風間さんにやられるのがオチ。お互いの背を守りながら戦った方が勝てると踏んだが、手傷をどんどん負っていく。

 俺と雪ノ下の強みは弾丸トリガーを使えること。それでもカメレオンを使わせないことが精いっぱいだった。

 

「弧月とスコーピオン繋げるなんて、面白いことを考えたものね」

 

「あの場で咄嗟に思い付いたからな。致命傷とまでは行かなくとも、風間さんの虚を突きたかったんだよ」

 

 弧月で受け太刀して、体制崩れて剣を地面についたと思わせ、そこからモールクロー。

 風間さんから教わったモールクローは、足からどんな場面で使うと有効打に成り得るかってことだった。その時に言われたのが、使うときは相手の視線を自分の顔や他のものに集中させて、地面のひび割れを見られないようにすることだった。

 モールクローは地面を経由して相手にスコーピオンを突き刺す技だが、足から発動すると地面に罅が入ったりしやすい。全身から出せるスコーピオンを警戒する相手だと、普通にバレるし、簡単に躱される。だからどこで使うかの見極めを覚えろと言われた。

 

 だが弧月を地面に突き刺して罅が割れるのは普通だから、その先端からスコーピオン生やすなんて気づかないもんだろう。

 菊地原自身なら躱されていただろうが、風間さんの虚を突くことが出来た。……それでも半分躱したのは流石だったがな。

 普通あれ躱すか?俺なら気づかずに食らってると断言できるぞ。むしろ後手に回って負けるまである。

 

「ゆきのんとヒッキーのコンビ凄すぎだし!」

 

「流れるように互いに位置を入れ替えながら、攻撃、防御、援護射撃のタイミングも完璧すぎましたからね……」

 

「きくっちーのサイドエフェクトを風間さんと共有してからは……もう死闘って言葉でしか言い表せないね!」

 

「なんだ由比ヶ浜、死闘って言葉知ってたのか。凄いな」

 

「ヒッキーはあたしを馬鹿にしすぎだし!最近覚えたの!」

 

(((最近なんだな…)))

 

 由比ヶ浜の言う通り、まさに死闘と言うべき戦いだった。

 元々A級ランク戦は生存点が加算されることが少ない。全員が強者揃いということもあるが、それよりもタイムアップになることがほとんどだ。

 今回も時間5分前に決着がついたから、かなり際どかった。実際逃げられたりしてタイムアップ切れを狙われていたら俺たちが二位に上がることはなかった。……風間さんらしいな。

 

 A級ランク戦、ラウンド16最終戦は風間隊VS雪ノ下隊VS草壁隊の三つ巴だった。

 二つ前くらいのランク戦では、草壁隊と風間隊に敗北していたこともあり、かなり緻密な連携を練習していた俺たちであったが(もちろん俺は一人行動が決められていた)、運が悪く無得点のまま最終決戦に突入した。

 菊地原と風間さんという厳しい相手だったが、何故か負ける気がしなかった。

 

「お兄ちゃんと雪乃さんは、ゾーンに入ってたんじゃないですか?」

 

「極限まで練習を積み重ねたごく一部のアスリートしか経験出来ない、極地と言われる領域のことね」

 

「なんかカッコいいね!」

 

「ゾーンですか……でもそれなら納得です。お互いの位置を視認し合ってないのに分かってるように動いてましたからね……」

 

 小町が少しそっぽを向いてるから、雪ノ下の言葉を聞いてそんな凄いことだったの!?とか思ってそうだが……ゾーンに入ってたのかもな。

 アスリートでなくても、戦争中にゾーンに入って死線を潜り抜けたってのも本で読んだ覚えがある。極限の集中状態であるゾーン状態に入った感覚は、今思えばあったかもしれない。

 前に一度だけ、弓場さんと5本勝負をしたときに同じような感覚になった覚えがある。あの時は攻撃の手段も冴えてたし、自分でも相当うまく出来た感触があり、4-1で勝った。まぐれだと思っていたが……いや、ゾーンに入ったのはまぐれなんだろうけどね?

 

「……とりあえず解説聞こうぜ。今日の解説は二宮さんと加古さんに東さんだし」

 

 二宮さんには辛辣な評価をもらいそうだな。最初かなり動き悪かったのは絶対口出しされるだろう。

 つーかあの三人を解説に呼べる武富はどんな胆力してるんだ?誰も言わないがアイツが一番尊敬されるべき人間だと秘かに俺は思っている。

 

『それでは!時間もあまりないので簡単に総評をお願いします!』

 

『今回は雪ノ下隊の劇的な逆転勝ちだったけれど、どの部隊もいい動きをしていたと思うわ。草壁隊は里見君の技あり時間差射撃で由比ヶ浜さんを早めに落とせたし、緑川君も佐伯君もいい動きをしてた。ただ、宇見君が風間隊に早く捕まったのが悔やまれるわね。もし最後の対決の時に宇見君が残っていれば、草壁隊が搔っ攫う可能性もあったと思うわね。』

 

『風間隊は歌川が単独で動いて一色を落としましたが、風間と菊地原と合流出来なかったのが痛かったですね。攻撃手三人が揃えば近距離は最強と言っても過言ではないですし、風間隊が勝っていたでしょう。風間と菊地原も宇見を落とす前に合流した方が良かったかもしれませんが、狙撃手を落とすのは近接連携が武器の風間隊からすれば必須事項ですから、今回は仕方がない部分もありました。最後の二対二も、無理に戦わずに下がりながら引いていれば、前掛かりに来たところを隙をついたり、タイムアップで逃げ切りも可能だったと思います。まあ、風間ならそんな戦い方はしないで正々堂々戦うでしょうし、実際力量的に風間隊が押していた。ですが今回ばかりは比企谷と雪ノ下の連携が見事の一言につきましたね』

 

『……雪ノ下隊は最初の一色の転送位置が悪かったのもあるが、一色の本職は狙撃手だろ。逃げると見せかけて反撃して歌川を落としたかったんだろうが、白兵戦においては実力差が明確に存在する相手に挑むのはただの馬鹿だ』

 

 流れから完全に二宮さんがうちの総評をするだろうなとは思ったが、東さんの顔的にこれワザとだな。加古さんと二宮さんの間に入るように座っているから位置的にもそうなるかもしれないが……いや最初からこれが狙いで?

 

『由比ヶ浜も仕掛けるなら草壁隊の二人が他の敵と邂逅した瞬間や戦闘中にするべきだった。上位でランク戦を終えるために点が欲しいのも理解できるが、攻めた結果敵に点をやってしまえば尚更その後の展開で無理をしなければならなくなる。その辺りは改善するべきだろうな』

 

 確かに最初、一色も由比ヶ浜も遠征部隊入りするために無理に攻めて返り討ちにあっていた。二人が本気で点を取りに行きたいってことで雪ノ下も許可を出したが、今後はもっと冷静に考えて動くべきだろう。

 ……次は俺と雪ノ下か。

 

『雪ノ下は佐伯と緑川相手に引きながら戦い、うまく風間隊をぶつけて比企谷と合流した。あれは見事な動きだっただろう。もしあそこで仕掛けていれば雪ノ下隊の逆手勝ちにはならなかった可能性は高かった。良い判断と言える。比企谷も風間隊と草壁隊の戦場にうまく絡んで点をもぎ取ったが、無理はしていない。そして最後の対決だが……中々悪くなかったな。風間隊の高速連携に即座に二人で対応していた。射撃用トリガーを持つ強みを生かしつつ、不意を衝く技を使って相手を動かす。最後まで悪くない試合だった』

 

 お、おぉ……かなり高評価だった。悪いところを指摘されるものだと思っていたが、悪くないって二回も言われたのは初めてだ。二宮さんの悪くないって言葉は良かったって意味だから、少し、いやかなり嬉しい。

 

 だが……二宮さん、隣でニヤニヤしながら聞いてる二人がいることに気づかないのか?

 

 

***

 

 

 今季のランク戦は昨日で終わった。

 雪ノ下隊は2位だから、ほとんど遠征部隊確定のようなものだ。

 もちろん遠征に向けての訓練次第で変更もあり…由比ヶ浜がある意味心配でもあるのだが。

 

「比企谷、改めてだが2位おめでとう。飲み物は奢るよ。MAXコーヒーでいいか?」

 

「うっす、ありがとうございます。うちの隊としてもようやくって感じなんで、2位で終えれたことは嬉しいですよ…ただ」

 

「ただ?」

 

 俺の言葉に村上先輩が反応する。

 村上先輩とはさっきまで個人ランク戦をしており、今は自販機近くの休憩スペースで一旦休憩をとっている。

 驚かれるかもしれないが、俺は村上先輩とランク戦をするのが一番好きだったりする。

 大体の人は村上先輩のサイドエフェクトから苦手意識を持つと聞くが、俺はむしろ自分自身の成長になると思っている。

 村上先輩には同じ手が基本通用しないため、攻略するには意識の外を攻める力か発想力か基礎能力向上が常に求められる。自分自身の成長度を測るいい指標、と言ってはよくないかもしれないが…実力アップに繋がってることは確かなのである。

 孤月とレイガストの攻防一体の戦闘が戦士みたいで好きってのもあるんだけども。

 

「…昨日、解説加古さんと東さん、二宮さんだったんですよね」

 

「鈴鳴支部で観てたよ。珍しく二宮さんが褒めてたのが印象に残ってる」

 

「そう、それですよ…」

 

 昨日のランク戦終了後、二宮さんは東さんと加古さんにニヤニヤされてた分を俺で発散しようとしてきたのだ。

 チームランク戦後に個人ランク戦をしに行く俺もどうかしているのかもしれないが、二宮さんのは完全にとばっちりだったし、蜂の巣にされたなぁ…。

 バイパーとハウンドで頑張ったが、アステロイドで蜂の巣にされ続けた。あとハウンドがえげつなさすぎる。ハウンドは追い込み用にしか使ってこなかったのに、絶対にアステロイド当てられるんだもの。そんなのB級でやったら大人気ないなって思っちゃうレベルだった。

 ちなみにだが、俺のトリガー構成は現在メインに孤月、スコーピオン(改ニ)、シールド、ハウンドを。サブにスコーピオン、バイパー、シールド、バッグワームとなっている。

 で、ハウンドを本格的に使い始めたのは前シーズンのB級ランク戦時だったのだが、うまく使いこなせなかったため、加古さんと二宮さんに弟子入りして鍛えてもらったのだ。

 もちろん、二人とも自分だけが教えていると思っていたことにより、タイミングが被った際地獄を見た時もあったが…まあそれは置いとくとしよう。

 

「二宮さんにボコボコにされまして」

 

「ああなるほど、それは仕方ない。弟子ってのもあって鬱憤ぶつけても大丈夫だと思われてるんじゃないか?」

 

「ちょっと弟子入りしたの後悔してきたんですが」

 

 その後も村上先輩と談笑を続けた後、もう10本やり終えて別れ、隊室に戻ろうと歩みを進めていた最中。

 電話が鳴り、呼び出しを受けたため本部長室へと向かった。

 

 

***

 

 

「比企谷、先日のランク戦は見事だった。また腕を上げたようだな」

 

「正直なんであんな連携できたかは未だに謎なんですけどね。とりあえずは安心できました」

 

「だが、まだまだ剣の腕が慶には届いてないな。今度時間があるときに孤月の訓練をしよう」

 

「ウッ…うっす」

 

 呼ばれた先の本部長室で忍田さんから何を言われるかと思ったら死刑宣告だった件。長文タイトルでこんな小説ありそう。いやねーわ。

 たしかに俺は忍田さんにも弟子入りしている。と言っても太刀川さんが忍田さんに弟子入りした際に、『ちょうどいいから比企谷もやれ』って言われての弟子入りだからなんちゃって弟子なのだ。実際孤月の稽古よりも書類整理や補佐での顔合わせの方が数十倍多い。

 なのに何故あまり乗り気じゃないのかといえば、この人二宮さんより厳しいのだ。

 負けるたびに「これで仲間が一人死んだな」って言われるのほんとに精神的にくるものがあるんだよな。おかげで毎回気合い入りすぎて翌日ぼーっとしてしまうのだ。

 

「さて、そんな君に一つ依頼を出したいのだが。いや、正確には君たちになるのだが」

 

「奉仕部に依頼ですか?」

 

「そうだ。君たち雪ノ下隊に広報活動に協力してもらいたい」

 

「それって別にA級の任務に入りません?わざわざ奉仕部に依頼する必要なくないですよね」

 

「具体的に言うなら、ボーダーに入りたい人間にきっかけを与えてもらいたいということになるな」

 

「…何するんですか?」

 

「君たちには、嵐山隊と共に林間学校のスタッフをやってもらう」

 

 林間学校、だと…。




復帰です。リハビリを。
終わり方雑+ありきたり感満載です。ささっと終わらせたい。
これの後林間学校で一話、玉狛支部での一コマで一話。
その後は原作に入っていこうかなと思っとります。

しばらくこの作品とよう実の二つで行きます。
ボーダー隊員対戦カードゲームが好きな方はそのうち出しますが、ネタ募集を活動報告の方でしてますので、暇な方は是非ともネタくださいな。


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