僕のヒーロー&ライダーアカデミア (鎌足大)
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原作前~雄英入試試験
NO.1 緑谷出久:1st Origin


こちらでは今まで読み専でしたが、この作品を機に投稿します。

設定などを許可してくれたみなさん、本当にありがとうございます!


出久Side

 皆さん初めまして。僕の名前は『緑谷出久』。ヒーローに憧れる中学生です。

 

 僕は子供の頃からヒーローに憧れてきました。ヒーローは格好良くて、強くて、僕でなくても他のみんなも憧れていました。

 

 その中でも僕が一番好きなヒーローは―――――誰もが認めるNo.1ヒーロー《オールマイト》です。どんな凶悪な敵にも笑って立ち向かってほぼワンパンで撃退。災害が起これば大勢の怪我人を抱えて救出。そして最後には笑ってこのセリフ。

 

 

『私が来たっ!!』

 

 

 この言葉だけでみんなが希望にあふれた顔になる。まさに最高のヒーロー、平和の象徴だ。

 

 僕も成長して個性が発現すれば彼のようなすごいヒーローになれる!―――――そう思っていた。

 

『無理だね、諦めた方がいい』

 

 四歳になって病院で検査を受けた結果―――――僕は個性を持たない『無個性』と診断された。事実上の死刑宣告だ。

 

 周りのみんなは個性が発現して喜んで騒いでいるのに対して、僕は個性がなくて愕然とした。そのせいでお母さんにも何度も謝られた。

 

 これで僕は夢を諦める―――――ことはなかった。無個性と診断されてからすぐの頃に見たある特集番組に影響されたからだ。

 

 超人社会となる前時代。その時代には悪の組織が作った怪人や別の世界や宇宙からやってきた異形が人々を襲って絶望の淵にたっていた。

 

 そんな世界を守るために現れた存在がいた。その名は『仮面ライダー』と呼ばれていた。バイクに乗って颯爽と登場して怪人達を次々に退治していく。この時点でも都市伝説扱いではあったけれど、それでも陰ながらに世界を守っていく姿はまさに超常が起こる前に人々を守ったヒーローのご先祖様だった。

 

 そんな彼らも超常以降目撃情報が激減。いつしかその存在は忘れ去られ、ヒーローの登場によって過去の遺物となった。それでも僕の中にはすごく印象的だった。何の見返りも求めず、人々の笑顔のために戦いに身を投じる。まさにヒーローのあり方を具現化した存在。その中には僕のように何の力もない人が自らを鍛えることでライダーになった人もいると聞いて僕は驚いた。

 

 無個性でも努力すれば彼らのようになれるのではないか?無個性でも他人のために力になれるのではないだろうか?気がつけば僕は幼くして自分を鍛え始めた。

 

 とりあえずランニングや簡単な筋トレを始めた。最初こそキツかったけど続けていくうちに体も馴れていって腕立てや腹筋、走る距離もだんだんと増えていった。

 

 幼なじみのかっちゃん―――――爆豪君にも『無個性の木偶の坊のデク』なんてあだ名をつけられた。周りの子供達も無個性が無駄なことをしているなんて言うけど、僕が何しようと勝手だった。

 

 そんなことを一年ほど続けていた頃だった。僕たちの幼稚園に転入してきた女の子がいた。長い銀色の髪で前髪で顔はよく見えなかったけど手にはいつも人形を抱えていた子だった。その子が転入してすぐの頃、幼稚園の庭で人形を動かして遊んでいた。それがあの子の個性なのだろうと思っていたら、かっちゃんとその取り巻き達が女の子を囲んで人形を取り上げていた。

 

「か、返して!私のお人形返して!」

 

「へっ、人形動かすだけの気味悪い個性のくせに!こんなモンこうしてやる!」

 

 マズイ!かっちゃんの個性は爆破だ。あの子の人形を爆破して壊す気なんだ。元々ガキ大将染みたかっちゃんは個性が発現してから悪い方向に伸びていってる。

 

 僕はかっちゃんに向かって走って行き、そして突き飛ばした。その瞬間に人形が手から離れたのを見て女の子が取り戻した。

 

「何しやがるデク!」

 

「かっちゃんダメだよ!女の子をいじめちゃ!」

 

「そんな気味悪い個性使ってるやつはいつかヴィランになるんだ!だからそうなる前にやっつけるんだ!」

 

「それでもダメだよ!」

 

 周りの子供に比べれば僕だって鍛えているんだ。僕はかっちゃんとその取り巻き達に向かって突っ込んでいった。そして―――――。

 

「へっ!デクの癖に生意気なんだよ!みんな行こうぜ」

 

 あっさり返り討ちにあってズタボロにされた。正直自分でも情けないと思った。

 

 立とうとしたら目の前に手を出された。さっきの女の子だ。

 

「大丈夫?」

 

 半分泣きそうな顔で僕の手をつかんで立たせてくれた。髪の隙間から顔がちょっと見えたけど結構可愛い子だった。

 

「ごめんなさい、私のせいで…」

 

「いいよ。かっちゃんにお人形壊されなかったんだし。僕緑谷出久、君はえっと―――」

 

「レイ子…柳レイ子だよ」

 

 それが柳レイ子ちゃん――――レイちゃんとの出会いだった。

 

 元々なかのよかった他の友達も僕が無個性だと判ってからは馬鹿にする側に回って友達らしい友達がいなかったけど、この事がきっかけになって僕はレイちゃんと仲良くなってまず独りぼっちと言うことはなくなった。レイちゃんだけは僕のことを『デク』ではなく『出久君』が縮まって『イズ君』と呼んでくれた。

 

 レイちゃんの個性は『ポルターガイスト』と言って見たモノを動かせる個性だそうだ。これの要領で人形を動かして遊んでいたそうだ。周りからは幽霊みたいな個性だって言われているみたいだけど、それでも僕にとってはすごい個性だと思った。

 

 僕が無個性だと言ってもレイちゃんは差別とかしないで普通に接してくれた。家も比較的近所だったからよく公園で一緒に遊んだりおやつを食べたりした。。

 

 かっちゃん達は相変わらずレイちゃんをいじめてきたけど僕が庇って守るようになった。おかげで幼稚園児なのにやたらと防御やかわすことが上手くなった。

 

 けれどその時間も終わりが来てしまった。小学校に上がる少し前に、レイちゃんの家がお仕事の都合で海外に引っ越すことになったのだ。寂しいけれどさすがにこればっかりはどうにもできなかった。

 

 引っ越しの日になって、レイちゃんは最後に僕に会いに来てくれた。

 

「私絶対に日本に戻ってくるから!日本に帰ってきてヒーローになってイズ君のお嫁さんになるの!」

 

「うん、僕も約束するよ!」

 

 今になって思えば子供の約束だ。時間の流れと共にその約束も記憶の中の微笑ましい一ページになった。

 

 

 

 あれから僕も中学二年生となったが、トレーニングは相変わらず続けていた。朝起きれば早朝ランニングと簡単な筋トレメニュー。学校が終われば夕方のランニングに数セットのトレーニングは当たり前となり、普通の中学生にしては筋肉もついた方だ。家では勉強の他に趣味で書いているノートがあった。僕なりにプロヒーローのことを分析した研究ノートだ。そのヒーローの個性や特徴、必殺技など事細かく書いて僕なりの意見も書いてある。ヒーローオタクだなんて言われるけど好きなことは止められない。それは仮面ライダーのことに関しても同じで関連書籍やネットの噂もたくさん集めた。

 

 かっちゃんとは相変わらずいじめられ続けているけど、言いがかりとかは今は軽く流している。たまに個性抜きで殴られたりするけど受け止めるか避けるにつとめている。余計な問題にしたくないしね。

 

 でも今世間では一般人とヒーローはヴィラン以外にも大きな問題を抱えていた。数年前、空に大きな亀裂が現れる現象が起き、その亀裂から人を襲う正体不明の怪物が現れ始めたのだ。最初の頃は頻度も数も少なく2~3人のヒーローでもどうにかなったが、今では頻度は初期の数倍、数も今では多いときで十五体以上も出てくる。

 

 そしてあの日、僕は運命と出会った。

 

 

 その日はヒーロー関係の雑誌を買いに行くために出かけていた。近場の本屋さんでは売っていないので都心の大型書店に向かった。

 

 お目当ての本はすぐに購入できたので後はご飯を食べてちょっと遊んでから帰るつもりだったが、そのとき事件は起こった。

 

 空に亀裂が現れ、そこから怪物が次々現れた。その数は十体や二十体じゃきかない、少なくとも五十体以上はいる。地上に降りるとすぐさま人を襲いはじめ、都心と言うこともあって周りはパニック状態になった。

 

「怪物だ!」

 

「逃げるんだ!」

 

 慌てて逃げ始める人たち。他人を押しのけ、助かろうと必死に走り出す。

 

 ふと僕の目に泣いている子供の姿が映った。すぐに逃げたい気持ちはあった。でもここであの子を助けないと後悔するような気がした。全力疾走で子供のところまで走って行き、抱き上げて逃げる。すぐ後ろから怪物達が追いかけてきた。

 

「待たせたな!」

 

「後は我々に任せろ!」

 

 近場にいたヒーローが折良く早く到着して僕らの避難を手助けしてくれた。

 

 少し離れたところまで逃げると抱えていた子供が「ママ!」と叫んだ。たぶん辺りを見渡しているあの女の人がお母さんだと思いすぐに連れて行ってあげる。女の人は子供を受け取るとお礼を言ってすぐさま避難を開始した。その光景を見て僕はどこかホッとした。鍛えてなければ途中で捕まっていたかもしれない。僕の今日までの努力は無駄じゃなかったと思った。

 

 僕もすぐ避難しよとしたら上から何かが降ってきた。そこには先ほど僕たちを逃がしてくれたヒーローがボロボロの状態になっていた。

 

「大丈夫ですか!?」

「に、逃げるんだ…。今回は今までのような雑魚…だけじゃない。あれは…………化け物だ……」

 

 ヒーローが気絶すると後ろに気配を感じた。そこにはもう一人のヒーローの頭を掴んで引きずってきた怪物がいたけど、その姿はこれまで確認されてきた怪物より明らかに格が違った。

 

 赤くまるで炎か溶岩でも彷彿させるような容姿だ。掴んでいたヒーローをまるでゴミように投げ捨てて僕に近づいてくる。さらに後ろにはまるで兵隊のように他の怪人達がついてくる。

 

 急いで逃げたい気持ちはあった。でも腰が抜けて、恐怖で体が震えて力が入らない。赤い怪人が掌を僕に向けると火の玉を作り出して僕に向かって撃ち出した。完全に終わった。思わず目をつぶって顔を背けた。

 

 

 ………………いっこうに痛みがやってこないので目を開いてみると、そこは何もない白い空間だった。もしかして痛みも感じることなく死んじゃったのかな?

 

「ようやく来たか。ここに来るやつをずっと待っていた」

 

 振り返るとそこには男の人が立っていた。首には紐をつけたピンクと黒のカメラを提げていた。

 

「まずおまえは死んではいない。しかし今元の場所に戻れば確実に殺される。今お前にある選択肢は二つ、このまま諦めて連中に殺されるか、もしくは俺の力を受け継いで最後まで抗うかだ」

 

 それもう実質答え一つじゃないかな!?殺されるのは嫌だし………でも力を受け継ぐって………?

 

「……だいたい判った。お前ヒーローに憧れてるだろ?でもなるために必要な個性がない、でも夢を諦めきれない」

 

 えっ!?なんで判ったの?ひょっとして心読む個性の人なの!?

 

「俺の力はかつて《破壊者》とまで言われてこれまで何度も命を狙われるような目にも遭った。そんな力をお前は受け継ぐことになる。でも力は使うやつの心次第だ。悪意もって使えばヴィランになるし、使い方間違えなきゃヒーローにもなれるだろう。お前はそんな力があれば何をしたい?」

 

 力があれば………僕は個性がない。だからこそ自分を鍛えて自分の救える範囲の人を救いたいと思った。でももっと大きな力があればもっと多くの人を救える。僕が今でも憧れ続けているオールマイトのように。

 

「僕は………僕はヒーローになりたい。みんなを守れる力がほしい!」

 

「そうか。なら、この力で守ってやれ。ただこの力は俺が使っていたときよりかなり強くなってる。でも、お前ならたぶん大丈夫だな」

 

 そう言って僕に二つのモノを差し出してくれた。ピンクの外装のカメラのような物とファイルのような物だ。手に取ると何かが頭の中を駆け巡った。渡された物の使い方が頭に流れ込んできた。

 

「渡したから後は任せた。お前がこの先をどう繋ぐかを楽しみにしてる」

 

「あっ!待って下さい。あなたのお名前はなんですか?」

 

「………門矢士。かつていくつもの世界を旅し全てを破壊し全てを繋いだ通りすがりの仮面ライダー……仮面ライダーディケイドだ、覚えておけ!」

 

 

 ふと気づけばさっきまでいた場所に立っていた。目の前には撃ち出された火の玉が目前まで迫ってきたけど、なんの躊躇もなくそれを避けた。

 

 受け取ったそれを―――――ネオディケイドライバーを腰に当てるとベルトとして装着され、持っていたライドブッカーから一枚のカードを取り出して叫んだ。

 

「変身!」

 

《カメンライド ディケイド!》

 

 その音声と共に二十枚の陰が現れて僕の集まった。僕の姿はピンクと黒、白の三色のアーマーで覆われた。かつてオールマイトと同じく憧れた存在、僕は仮面ライダーの力を手に入れた。

 

 それと同時に敵の情報が頭に流れ込んできた。周りにいる怪人達は初級インベスにマスカレードドーパント、魔兵グールに星屑忍者ダスタード。そして赤いのはマグマドーパントだ。

 

 マグマドーパント以外の怪人が一斉に襲ってきたけど、すぐさまライドブッカーをソードモードにして向かってきた怪人達を次々と切り捨てていく。ある程度数を減らしたところでライドブッカーからカードを一枚取り出してガンモードにする。

 

《アタックライド ブラスト!》

 

 頭上にはなった光弾は敵めがけて降り注いで一掃する。

 

 残りはマグマドーパントだけになるが、近づけさせないように連続で火の玉を飛ばしてくる。相手がドーパントなら僕はこれを使うことにした。

 

《カメンライド ダブル》《サイクロン ジョーカー》

 

 右側が緑で左側が黒のボディ、かつて風都と言う町でドーパント達と戦った二人で一人の仮面ライダー――――仮面ライダーWの姿に変身した。

 

 飛んできた火の玉は巻き起こった風で全て吹き飛ばされ、何にも邪魔されず接近できた。ワンツーのパンチからハイキック、そこから更にジャンプして回し蹴り。マグマドーパントが押し戻されてチャンスができた。これでとどめを刺せる。

 

《ファイナルアタックライド ダ・ダ・ダ・ダブル!!》《マキシマムドライブ!!》

 

 足下から吹いてきた風が僕を浮かべてマグマドーパントに突っ込んでいき境目の部分がスライドしてキックの体制を取る。仮面ライダーWの必殺技『ジョーカーエクストリーム』が炸裂した。マグマドーパントは爆散して倒された。

 

 倒されると同時に空にあった裂け目も収縮していく。これでこの騒ぎも収束するな。

 

「そこのお前!どこのヒーローだ!?」

 

 ふと振り向けば大勢のヒーローがそこに立っていた。他の怪人達を殲滅してここに駆けつけてきたのだろう。

 

「見たことのないヒーローだな。新人か?どこの事務所のサイドキックだ?」

 

 マズイ、僕ヒーロー免許なんて持ってないし、下手をすれば公共の場での個性の不正使用ってことで捕まるかもしれない。

 

 頭をフル回転させて導き出した答えは―――逃げるが吉!

 

《アタックライド ディメンションゲート!》

 

 灰色のオーロラが現れてそこへ逃げ込んだ。

 

「待て!」

 

 すぐさまヒーロー達が追いかけてきたけどオーロラはすぐ消えたからそれ以上追跡できないはずだ。

 

 

 

 家に着いたときに僕は大泣きした母さんに抱きしめられた。テレビでさっきまでのことは大々的に報道されていた。ふと画面が切り替われば監視カメラで見られていた僕の戦闘が映し出された。幸いにも変身したところは映ってなかったので事なきを得た。

 

 ヒーローになれる力は手に入った。でもこの力は怪人はともかく並のヴィラン相手に使うにはあまりに過剰すぎる。もっと制御することが必要だ。

 

 だからこの仮面ライダーの力は来たるときが来るまで母さんにも秘密にすることにした。

 

 言い忘れていたけど。この日が、僕が仮面ライダーとして世界の平和を守るための物語の始まりだった。




投稿自体はPixivで一回止まって数年ぶりですが、なんとか書けました。


重ね重ね御協力してくれたみなさま、ありがとうございます。


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NO.2 緑谷出久:2nd Origin

出久Side

 皆さんどうも、緑谷出久です。前のお話で僕は仮面ライダーの力を受け継ぎ仮面ライダーディケイドに変身しました。

 

 あれから僕はこの力をよく知るために手に入れたライドブッカーからカードを取り出してどのようなカードがあるのかを調べました。結果は以下の通りです。

 

 

ライダーカード:クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ、ディケイド、W、オーズ、フォーゼ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト、エグゼイド、ビルド、ジオウ…計二十枚

 

フォームライドカード:ライダーに基本3~4種類なんだけど多いと10形態もあるので紹介は割合。

 

アタックライドカード:これはもはや数えるのも嫌になるくらい多い。細かい能力や武器にまで至るので同じく割合。

 

ファイナルアタックライドカード:基本的にライダーカードと同数。フォームや使ってる武器によっては違う必殺技も使える模様。

 

 

 とまぁこんな感じかな?えっ、ファイナルフォームライドカードはないかって?そんなカードはなかったはずだけど。

 

 とりあえずは人の来ないような山や林の中で能力とかも試してみたりした。実戦に使うにもまず性能を把握しておかないと。

 

 まずアタックライドカードはディケイドの状態ならどのカードも使えるけど他のライダーやフォームに変身中は同じエンブレムや系統のライダーの能力や武器しか使えない。ここら辺は当然か。後いくつかの能力は生身の状態でも使えるよ。武器のカードはほぼ全部と言っていいね。ただし能力系を使えばライダーの時とは違って体力を消費する。

 

 後は使用回数だ。明らかに能力がチートなカードは体力消費も多いし最低一回、多く使えても2~3回がいいところだろう。そうでもない能力は体力が続けば基本無制限で、一度に三枚まで同時発動ができるから色々なコンボが考えついて楽しい。

 

 そんなことを一年ほど続けた。時折見かけた事件や怪人は隠れて変身して僕が解決したりしているが、これは完全に違法行為なのでいつバレないかと冷や冷やしている。

 

 世間ではそんな僕のことを一番ヒーローらしいヒーローとして取り上げたりしているけど一部のヒーローからはやっぱり自分たちの行動を邪魔しているなど批判の声も多い。

 

 そして学年も中学三年生となって僕も次の道を考える時期となった。

 

「えーお前らも三年生と言うことで、本格的に将来を考えてゆく時期だ!今から進路希望のプリントを配る―――――と言ってもみんなヒーロー科志望か!!」

 

 クラスのみんなが一斉に沸くように個性を発動させた。構内での個性使用は原則禁止なのに。先生がそれを咎めていると。

 

「先生みんなとか一緒くたにするんなよ!俺はこんな没個性どもと仲良く底辺なんざいかねーよ」

 

 机に脚を上げながらしゃべり出したのは幼馴染みのかっちゃんだ。今じゃ無個性の僕だけじゃなくて個性のある人も没個性と呼んで格の違いを思い知らせようとするようになっていた。

 

「おいおいそりゃねぇよ勝己!」

 

「モブがモブ言うんじゃねぇよ!!俺はこの学校で唯一の雄英合格圏内、しかも模試だってA判定だ!俺はいつかオールマイトも超えトップヒーローになって必ずや高額納税者ランキングに名を刻むんだ!!」

 

 高額納税者のトップって………早い話誰よりも税金でお金取られるじゃん。確かに凄いことには凄いけどさ。

 

 でも確かに雄英の入試は全国でもトップクラス。偏差値は79で過去最高、倍率も300倍以上だ。ヒーローを育成するヒーロー科を持つ高校の中では『東の雄英、西の士傑』と呼ばれるぐらい屈指の難関校だ。

 

 まして卒業生には現在ヒーロートップ2のオールマイトにエンデヴァーに加えベストジーニストと言った有名人を始め多くの卒業生達が様々な場で活躍している。

 

「そういえば緑谷も雄英志望だったな」

 

 先生の余計な一言でクラス中の視線は僕に向けられた。そして直後に爆笑の渦となった。

 

「おいおい緑谷は無理っしょ!!」

 

「勉強だけなら爆豪にも負けてないけど無個性でヒーローはさすがに無謀だろう!」

 

 みんな僕のことを無個性だと判っているだけにやっぱり馬鹿にしてくる。確かに今では個性持ちが当たり前だけど無個性の人間だって決してゼロじゃない。そんな人だってやりたいことをやっているんだ。僕がヒーロー目指してもいいはずだ。現に秘密にしてるだけで力はあるんだし。

 

 そんなこんなでホームルームも終わり、後は帰るだけになった。けどそれも簡単にはいかなかった。スマホを弄りながらノートを片付けていると、手に取ったノートを取られた。そこにはかっちゃんとその取り巻きがいた。

 

「すぐには返さねぇぞデク」

 

「何このノート?『ヒーロー考察ノート』!?無個性のくせに変なことまでオタクやってんな!」

 

「い、いいだろ。返して―――」

 

Boooom!!!

 

 かっちゃんは目の前で奪ったノートを爆破して窓の外に捨てた。

 

「いいかデク、トップヒーローは大概学生の頃から逸話を残している。俺はこの平凡な市立中学から始めて!唯一の!雄英進学者っつー箔をつけるんだ。つまりは完璧主義者だ。だからよぅ―――お前雄英受けるの止めろ。ヒーロー科はもちろん普通科でもだ。普通科でも雄英生ってだけで箔がついちまうからなクソナード君―――っ!」

 

 気づいたらかっちゃんの顔をぶん殴っていた。

 

「ま、マジかよ……」

 

「俺知らねぇぞ………」

 

「テメェ……無個性のくせに俺の顔に傷を「無個性だからなんだよ」はぁ?」

 

「個性持ってるなら何言ってもいいのかよ。無個性の人が……夢を持っちゃいけないのかよ!!」

 

 そこから先はほとんど無我夢中だった。かっちゃんに飛びついてもう一発殴ろうとしたけどその前に蹴りを入れられて机と椅子に衝突した。鍛えているけどやっぱり痛い。

 

「ちょっと鍛えてるからっていい気になんじゃねぇぞクソデクがぁ!」

 

 倒れているのを良いことに今度はスタンピングを繰り返してきた。しかも顔とかじゃなくて足とか胴体の服で隠れる部分をだ。

 

「そんなに個性ほしけりゃ良い案あんぞ!屋上から飛び降りてワンチャンダイブでもしな!!来世では個性出ますようにってなっ!」

 

 それだけ言って教室から出て行った。これだけの事されても誰も手助けどころか注意さえしようともしない。みんな怖がってみて見ぬふりだ。

 

 机と椅子を直して荷物まとめてから捨てられたノートを回収しに行った。所々黒焦げになったノートはすぐ下にあった水槽に浮かんでいた。

 

Side Out

 

 

 

 

???Side

 

 マズイ、マズイ!非っっっっっっ常にマズイ!!!

 

 馴れない町と制限時間を気にしすぎて奴の入ったペットボトルを落としてしまうなんて………。奴の個性ならあんなところはすぐに逃げ出せるはずだ。

 

 早く探し出して再び捕らえなければ………!

 

Side Out

 

 

 

 

出久Side

 いつもだったら家にすぐに帰ってトレーニングをするんだけど、さっきのこともあって今日は遠回りして帰ることにした。

 

 ヒーロー目指している人間がこう言うのもあれだけど、かっちゃんに一撃加えたときになんだか心が晴れたような気がした。そりゃ十年以上も苛め続けられていたんだ、不満が決してなかったわけじゃない。でもやっぱり僕がしたことはヒーロー志望としては最低なことだ。

 

 そんなことを考えていると、近くの繁華街に人集りができて騒がしかった。しかもよくよく見れば黒煙も上がっている。

 

「すいません、なんの騒ぎですか?」

 

「あぁヴィランが暴れ回っているんだよ。ヘドロみたいな奴でなんか爆破の個性使える中学生人質にとって取り付いて暴れているからヒーローも手出しできないそうだよ」

 

 取り付く、それに派手こんな爆破する中学生ってまさか!

 

 すぐ人垣をかき分けて前に出ると、そこにはヴィランに取り付かれて爆破して暴れまくるかっちゃんがいた。

 

「サイコーだぜ!こんな良い乗り物手に入るなんてよ!!」

 

「離しやがれ…………クソヴィランが………っ!!」

 

「本当に感謝するぜ、君は俺のヒーローだ!!」

 

 精神力の強いかっちゃんはギリギリ堪えているけどあのままじゃ時間の問題だ。ヒーローはいないのかと辺りを見渡すと、すでに現場に到着していたヒーローがいた。けれど………。

 

「私二車線以上じゃないと無理よ!」

 

「爆破を使うんじゃ俺の個性じゃ相性が悪すぎる。今回は他に譲ってやる!」

 

「有り難いね。こっちは消火で手一杯だ、誰かやってくれ!」

 

「ダメージ覚悟で突っ込むことは可能だが、流動体では奴を引きはがせない。奴に有利な個性のヒーローが来るまで人質には耐えてもらうしかあるまい」

 

 みんな自分では無理だ不利だと言って助けに行こうとしない。これが今のヒーローなのか?確かに皆が皆オールマイトのようになんでも出来るわけじゃないけど、有利になるまで耐えてもらう?違うだろ!

 

 すぐ側のビルに入って屋上まで一気に駆け上がる。荷物を下ろしてディケイドライバーを腰に当てる。

 

「変身っ!」

 

《カメンライド ディケイド!》

 

 変身した僕はすぐに屋上から飛び降りてヘドロヴィランの前に立ちふさがった。

 

「あ、あれは………」

 

「仮面ライダーだ!」

 

「マジかよ本物だ!」

 

「生ける都市伝説仮面ライダーの登場だ!」

 

 ヒーロー達は驚き戸惑って周りの人たちは歓喜にあふれている。

 

「仮面ライダーだぁ?ちょうど良いぜ、あいつに復讐する前に……テメェを潰して箔をつけてやるぜ!」

 

 かっちゃんの体を操って攻撃してきたけど、すぐさまバックステップで後ろに下がって近場にあったポリバケツを手に取った。

 

「そんなもんで何をする気だぁ?」

 

「決まってるだろ。その人質を返してもらう」

 

「へっ!バケツで何が出来るってんだ《アタックライド スチールベント!》……へっ!?」

 

 僕のすぐ横にかっちゃん、そしてヴィランが取り付いてるのは、さっき僕が拾い上げたポリバケツだ。

 

 今使ったスチールベントのカードは相手の持っている武器や物を自分にテレポートさせるカードだけど、実は自分の持っている物と移し替えることも出来る。だからポリバケツとかっちゃんを入れ替えたんだ。

 

 一同が呆気にとられている隙に、もう一枚のカードをセットする。

 

《アタックライド フリーズベント!》

 

 手から放たれた冷気でヘドロヴィランを氷付けにする。これで物理攻撃が通る。そして止めだ!

 

《ファイナルアタックライド ディ・ディ・ディ・ディケイド!!》

 

 黄色いカード状のゲートが目の前に現れ、それと同時にジャンプしてキックの体制でゲートをくぐり抜けて凍り付けのヘドロヴィランにキックを炸裂させる。ディケイドの必殺技『ディメンションキック』で凍り付いたヘドロヴィランはバラバラになった。解凍すれば再生できるだろうしね。

 

 そのまま立ち去ろうとしたら「待ちやがれクソ仮面野郎っ!」かっちゃんが鬼の形相で僕を睨めつけてきた。

 

「俺は一人でもやれたんだ!俺は助けなんざ求めちゃいねぇ!!」

 

 どこまでも気高く、そしてどこまでも唯我独尊な僕の幼馴染み。今まで苛められ続けてきた、今回だって見捨てることだって出来た。でも僕は見捨てられなかった。だって君は、

 

「僕は君が凄い奴だと思った。だから終わらせたくないと思った。それだけだよ」

 

 君は僕の身近な凄い人だったから。

 

「それとヒーローの皆さん。聞けば自分たちが不利だから彼に耐えてもらうって言ってましたね。それでもし間に合わなかったとき、あなたたちはどうするつもりだったんですか?」

 

 ヒーロー達は身震いして動けなくなった。最悪の事態になれば事務所はもちろん自分たちの達立場だって危ない。ヒーローが目の前の一般人を救えない、それはヒーローには一番あってはいけないことだ。

 

「肝に銘じて下さい。あなた達が正義を名乗りたいなら」

 

《アタックライド ディメンションゲート!》

 

 ゲートを通ってビルの屋上に戻って変身を解いて荷物を回収。すぐそこを立ち去った。

 

「………………マジで!?」

 

 気づかなかった。このとき僕のことを見ていた人がいたなんて。

 

 

 

 とぼとぼと歩きながら帰路についていた。

 

「はぁ~………何で僕ヒーローの人に偉そうなこと言っちゃったんだろう?」

 

 とっさに思ったことを言ってしまって罪悪感で一杯になっていた。今年から受験生だし、仮面ライダーの行動はしばらく制限しよう。

 

「ちょっとそこの君!」

 

 ふと振り返ると、なんだか外見が骸骨みたいでガリガリに痩せた金髪の男の人がいた。見るからに怪しい。

 

「そう身構えないでくれたまえ。私はただ君にこれを届けに来たんだ」

 

 差し出したそれは、かっちゃんに爆破されてボロボロになったノートと僕の生徒手帳だ。………ん!?なんでこの人が持ってるの!?だってどっちも鞄にしまっていたはずじゃ!

 

 慌てて鞄の中を漁ってみたが入ったいて場所にはなかった。

 

「驚いてるね。実はさ―――さっき君が仮面ライダーに変身してるとこ見ちゃった」

 

 ……………最悪だああああぁぁぁ!!!まさか見られてたなんて!ヤバいよ、生徒手帳も見られたって事は僕の本名も住所も学校も全部バレたって事じゃん!警察かな?警察に連行されて刑務所…いや僕の歳なら少年院か!?そうなるとベルトもカードも没収されて下手すれば解体されたり処分されるのか!?

 

「大丈夫だ誰にも話なりしてないよ、警察にもヒーローにもね。私は君をある人物に会わせたくてきたんだ。すぐそこの公園に一緒に来てほしい」

 

 秘密握られた以上従うしかない。僕と男の人は近くの公園まで来た。既に夕方で公園には子供一人いない。

 

「あの………僕に会わせたい人って?」

 

「………誰もいないな。君に会わせたい人物、それは――――」

 

 男の人から湯気って言うか蒸気みたいなのが吹き出てきて身体がどんどん大きくなっていく。風船のように膨張していく筋肉、そしてその顔は、

 

「この私さぁ!!!」

 

 僕が、いやみんなが憧れるナンバー1ヒーロー―――オールマイトがそこにいた。

 

「おおおおおおお、オールマイトォ!?嘘でしょ、だってさっきまで痩せてたのに!?」

 

「そう!偽物でも変身でもソックリさんでもないぜ!私がオールマイトだ!さっきまでの姿はプライベートでの姿、ずばりトゥルーフォームさ。みんなには内緒だぜ!」

 

 確かにあの姿じゃ誰もオールマイトだなんて判らないもんな。

 

「少年よ、私は礼と提案をしに来たんだ。先ほど君が倒したヴィランは実は私が一度捕まえたは良いが詰めが甘く取り逃がしてしまったんだ。本来なら自分の尻拭いは自分ですることなのだが君が解決してくれた。本当にありがとう!!」

 

 そんなオールマイトに御礼言われるなんて、なんか恥ずかしいな!

 

「そして提案だ。なぜ私がプライベートの姿で君の前に現れたと思う?」

 

 そう言えば。ずっと秘密にしてきたのに何で僕にそのこと教えてまで現れたんだろう?

 

 するとオールマイトがさっきのプライベートの姿になって、シャツを捲って見せた。左の脇腹辺りに痛々しい傷跡があった。

 

「五年前、ある大物ヴィランとの戦いの時に一瞬の油断で深手を負わされたんだ。呼吸器官半壊に胃袋全摘出。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね、今や私のヒーローとしての活動時間は三時間ほどでしかないんだ」

 

 そんな、オールマイトのような強いヒーローでもそんな深手を負わせられるなんて。

 

「この事は私が世間に公表しないでくれと頼んだからなんだ。もし平和の象徴が崩れたとあったら悪の芽が一気に吹き出てしまう、それだけは避けたかった。笑いながら人々を救う平和の象徴は悪には屈してはいけないんだ。私が笑いながら人々を救うのもヒーローとしての重圧や恐怖から自分を欺くためさ」

 

 そうだ、いくら強いヒーローでも結局は人間なんだ。傷つけば痛いし、傷つけられるのは怖い。オールマイトはヴィランとだけじゃなくて自分の恐怖とも戦っているんだ。

 

「だからこそ見つけたかったのさ。私が引退する前に私の意思を、平和の象徴を引き継いでくれる人物を!そして、君は私が望んでやまなかったそれを持っていた!だからこそ君に――――私の『力』を受け継いでほしい!」

 

 ………へ?力を受け継ぐ?力ってもしかして個性のこと?

 

「何言ってんだって顔だね。でもそれが提案の本題さ。私の個性は今まで謎だらけでブーストだ怪力だと言われ続けてきたが、私の個性は代々受け継がれてきた個性なんだ。私の個性は聖火の如く引き継がれ続けたもの。個性を譲渡する個性、それが私の受け継いだ個性!冠された名は――――――《ワン・フォー・オール》!!」

 

 ワン・フォー・オール………一人は、みんなのために?

 

 それからオールマイトは語ってくれた。一人が培い、その力を一人へ渡しまた培い次へ、救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶だと。

 

「でも何で僕なんかに力を……ヴィジランデみたいな事して、違法でヒーロー活動してたのに」

 

「さっき君はヒーロー達に叱責していたね?最近のヒーローはどうにも派手なことばかりに目が行きがちで、どこかやれるところを限定する節がある。だからこそさっきの一言は我々ヒーローにとっても教訓になるんだ」

 

「でも無個性の僕がそんな都合よく受け入れても良いのか?」

 

「………えっ、君無個性なの?さっきの仮面ライダーって個性じゃないの!?」

 

 あっ、ついぽろっと言っちゃったけど。この人にならしゃべっても大丈夫かな?

 

 その後僕は自分が仮面ライダーになった経緯を話した。その上でその力を隠しつつ制御することに努めてきたことやこれまでの自分の人生、さっき助けたのが僕を苛めてきた幼馴染みであると全部白状した。

 

「そうか、昨今無個性者はいじめの対象になりやすいからな。ましてそれでも足掻く君を目障りに思う人は多いだろうね。しかしそれがどうした!正しいことに足掻いて何か悪いことがあるのか?少なくとも無個性であっても君は諦めなかった。そしてさっきは長年のいじめっ子であっても助けた。私はますます君に受け継いでほしいよ!」

 

「………本当に良いんですか?無個性の人間にあなたの力を受け継いでもらって」

 

「トップヒーローの多くが学生時代から逸話を残している。しかし彼らの多くは最後にこう結びつける―――気づいたら身体が勝手に動いていたってね。それに君が無個性だからって心配することはないさ。私も先代から個性を受け継ぐまで無個性だったんだから、君の気持ちは痛いほどわかる」

 

 オールマイトも元々は無個性!?そこから今はナンバー1にまで上り詰めたのか!?

 

「まずライダーの力は本当に必要になるまで公には隠しておいた方が良いね。聞けば変身できなくてもある程度力は行使できるようだし、それに私の代まで培ってきたワン・フォー・オールが加わればまさに最強さ!あえて言おう――――君はヒーローになれる!!」

 

 それは僕が生きてきた中で一番に言ってほしかった言葉だった。お医者さんに諦めろと言われ、親に謝罪され、周りに無駄だと言われ続けてきた中で、僕が一番欲した言葉。

 

「………本当に、僕はなれますか。貴方のようなヒーローに!」

 

「大丈夫だ。私がしてみせる!」

 

 これが僕のもう一つのオリジン。僕が最高のヒーローになるための第一歩だった。



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NO.3 Oの継承/集結する運命

今回のタイトルは仮面ライダーWのタイトル風でお送りします。

これからは仮面ライダーのタイトルやヒロアカのタイトルのスタイルで行きます。


???side

 夏休みのある日、ウチはいつもよりやたらと早く目を覚ました。ちょうど朝日が半分ほど顔を出してきてる。

 

 両親はまだ寝ているようだったから着替えてそっと家を出た。たまには早朝の散歩も悪くないし。

 

 あっ、自己紹介まだだった。ウチは耳郎響香。辺須瓶中学の三年生、つまり今年は受験だ。ウチは今進路のことで悩んでいた。

 

 両親が音楽関係の仕事をしているためか、小さいときから楽器や音楽が好きだった。家にある楽器も大概扱える。その方面への進学も考えていたけど、周りの同級生と同じくヒーローにも憧れていた。

 

 模試の判定はB。だから勉強もう少し頑張れば雄英だって十分狙えると先生から言われているが、どうしても音楽のことも諦めきれない。

 

 進路希望もヒーロー科のある学校か音楽学校かで悩んでいる。先生も一つに絞った方が良いと言ってくる。当然だけどね。

 

 煮え切らないまま夏休みに突入し親からも絶賛心配されている。

 

 近所の道から違うコースを通って海沿いに出た。この辺海流のアレやらでゴミとかが漂着してそれにつけ込んで不法投棄している輩もいるんだよね。

 

 ふと海岸を見ていると何かが動いているのが見えた。興味本位でそれを見に行くと、ウチと同い年ぐらいの男の子がタイヤを担いで一カ所に集めていた。

 

side out

 

 

出久side

 お早うございます皆さん、緑谷出久です。僕は今この多古場海浜公園のゴミ掃除をしています。ワン・フォー・オールは継承したかって?実はまだオールマイトの個性は受け継いでいません。

 

 あの日から二日した早朝。僕はオールマイトの指示でこの多古場海浜公園の清掃活動をすることになりました。

 

 ワン・フォー・オールはオールマイトの代まで八代かかって培われてきた強力な個性だった。なんの準備もなく僕が引き継げば身体の方がそのパワーに耐えきれずに四肢がもげて爆散してしまうそうだ。つまり今やっている清掃活動は体を鍛えるためのトレーニングでもあるがもう一つ、

 

『最近のヒーローは派手さばかりを追い求めているけどね、ヒーローってのは本来奉仕活動!地味だなんだと言われてもそこだけはブレちゃいかんのさ!この区画一体の水平線をよみがえらせる!!それが君のヒーローとしての第一歩だ!!』

 

 と言うわけでトレーニング込みの奉仕活動、そしてオールマイトの指示による雄英入試のためのスケジュールプラン、食事や寝る時間さえ管理して僕を鍛えてくれるオールマイトのためにも僕はそのメニューをこなしてきている。

 

 ゴミ掃除をする際には約束事として仮面ライダーに変身してやったり能力行使を禁止にしていた。それで楽してはトレーニングにならないからだ。故にディケイドライバーとライドブッカーはオールマイトに預けていた。僕が持っていたら力の誘惑に負けそうだし。

 

 清掃を開始して約四ヶ月ほどが過ぎた。海岸線はだいぶ片付いてきた。オールマイトも合間を見て様子を見に来ているけどこれなら受験一ヶ月前には完了とのことで何度かのスケジュール調整もされてきた。

 

 そして今日も張り切って海岸線の掃除だ。

 

「ちょっとあんた何してんの?」

 

 ふと声をかけられたので上を向くと僕と同い年ぐらいの女の子がこっちを見ていた。

 

 休憩がてらそのこと少し話した。女子とまともに話すなんて初めてで緊張するよ。彼女は耳郎響香さんと言うそうだ。

 

「それじゃ春先からずっとここの掃除してるの!?」

 

「うん、ヒーロー科目指すならトレーニングは必至だったし。それにここの海岸が綺麗になれば近所の人たちだって喜ぶしね」

 

「そっか、緑谷はヒーロー目指してんのか。ちゃんと目標あって良いな。けどウチは全然ダメダメ、進路希望で優柔不断になっちゃってさ」

 

 ふと耳郎さんが言葉を漏らした。何か悩みでもあるのではないかと聞いてみれば耳郎さんは今進路で悩んでいるそうだ。ヒーローになるために音楽を諦めるのか、音楽のためにヒーローを諦めるかで両親にも心配をかけているそうだ。

 

「緑谷は良いよね。これだって言う道を見据えて真っ直ぐ走ってきたんだから。ウチは分かれ道でどっち行けば判らないしさ」

 

「う~ん………悩むんだったらどっちも選べば良いんじゃないかな?確かヒーローって特例で副職持てるんだよね?ヒーローをやりながら音楽をやるのもありじゃないかな?」

 

 耳郎さんは鳩が豆鉄砲でも食らったような顔になった。

 

「でも………なんか欲張りじゃないかな?一挙両取りしても両立できるか不安だしさ」

 

「確かに不安かもしれないけどさ、人間人生は一度きりだからやらずに後悔するよりはやって満足した方が良いかな。自分のなりたいモノになればいい、僕はそう思うな」

 

 ふと耳郎さんは何か考え込んでそして立ち上がった。

 

「サンキュー、なんかすっきりした。なりたい自分になるか、超ロックじゃん!」

 

「覚悟は決まったみたいだね」

 

「うん!帰ったら父さんと母さんに話すよ、ウチはヒーローになって音楽もやるって」

 

 完全に吹っ切れたみたいだ。

 

 その後互いに連絡先を教え合って別れた。

 

 そしてその次の日、耳郎さんも時間があれば海岸の掃除を手伝うと言ってやってきた。僕のトレーニングだし手伝ってもらうのはズルじゃないかと思ってオールマイトに相談してみたところ、

 

「何を言っているんだ!君が行動で示し、そして君が言葉で諭した結果じゃないか!もちろんOKさ!!ただ私が指導していることは秘密にしといてくれよ。バレたらバレたで面倒だし」

 

 あっさりと許可は下りた。

 

 それからは二人で海岸の清掃、時には一緒に受験勉強などもしていく内に耳郎さんは僕のことを名前で呼び始めた。家族以外で名前で呼ばれるなんて初めてだった。

 

 そして時間は流れてゆき―――。

 

side out

 

 

 

オールマイトside

 私は今凄い光景を目の当たりにしていた。目の前にあるのはゴミの山、そしてその頂に立っているのは、

 

「うおおおおおおおぉぉぉ!!!」

 

 緑谷少年が雄叫びを上げていた。そして海岸線にはゴミ一つ残ってない綺麗な砂浜が復活していた。そう、私が指定した区画以外も全部だ!

 

 しかも今日は奇しくも12月31日の大晦日。たまに手伝ってもらっていたとはいえ彼は年内中にこの海岸の掃除を終わらせるなんて予想外のことをやってのけたのだ。しかも受験まで約二ヶ月の期間を残してだ!どう早くたって一ヶ月前、遅ければ一週間前だという私の予想を大きく覆しやがった!

 

 しかもただ完遂させただけじゃなく完成以上の結果を叩き出した。こいつは……こいつはもう、

 

「オーマイ、グッネス!!!」

 

 驚きのあまり叫んでマッスルフォームなっちゃった。

 

「あっ、オールマイト!」

 

 早朝から元気がよろしい!それにしてももう十二月なのに上半身裸で寒くないのかい?

 

「毎度君には本当に驚かされるよ、このエンターテイナーめ!!これが十代の力か、おじさんうらやましいぞ!!」

 

「お、オールマイトはおじさんじゃありませんよ」

 

 良いこと言うじゃないか。それじゃアレを見せようか。

 

「これを見たまえ。これが春に撮った君の写真、そして現在の君はここまで逞しく成長している。よく頑張ったよ、本っっ当に!!」

 

「なんか……ズルだな、僕は。オールマイトにここまでしてもらえて、恵まれすぎですよ」

 

 何を言うんだ、自分の頑張りのおかげだろう。でもその気持ちはわかる気がするな。私もお師匠から個性を受け継いだときもそうだった。

 

「これは受け売りだが、最初から運良く授かったものと認められ譲渡されたものでは本質が違う!肝に銘じておきな、これは君自身が勝ち取った力だ!!」

 

 大きな力を手に入れたのにもかかわらず自らを律して制御に努める姿勢。君を後継者に選んだことは正解だと思っているよ。今は否定しているが、きっといつか彼も君を認めてくれるはずさ。

 

「では約束通り君に個性を継承しよう。これを受け取れば君は立派なワン・フォー・オール九代目継承者だ!次の平和の象徴として頑張ってくれ!!」

 

「………オールマイト、僕ずっと考えていたんです。オールマイトという一人の巨大なカリスマがいたから平和の象徴が保たれ続けた。正直僕にそこまで出来るかが不安なんです。でも平和の象徴は消してはいけない、だから、だから僕はヒーローの存在そのものが平和の象徴になれる世界を作りたい。そうすれば一人にのしかかる負担は減るし、なにより一人よりも大きな正義の輪が出来ると思うんです!」

 

 なんと!私は若かりし頃、この国の犯罪が減らないのは人々に心の拠り所が無いからと師匠に答えたことがあった。だから平和の象徴があれば人々はそれを拠り所に出来ると思って決して悪に屈さない平和の象徴であり続けてきたが、どうやら緑谷少年は私なんかよりも過酷で険しい道を進む気だな。見据えていた目標はさらに向こうか。

 

 いつかきっと、緑谷少年は私とは違う意味で平和の象徴になるかもしれないな。それも一人では無く一人のヒーローとして。

 

「大きく出たね緑谷少年。私の道も決して楽では無かったが君が目指す道はもっと険しい。だが男が目標掲げるならデカイ方が格好いいぜ!この力が君の未来を歩くための手助けになったくれるはずだ」

 

 私は髪を一本抜いて緑谷少年に差し出してこういった。

 

 

さぁ………食え!

 

 

「………へぁ?もしかして、それが譲渡のやり方ですか?」

 

「そう!別にDNA取り込むんだったら何でも良いんだけどさ、ささ遠慮せずパクッとね、お水もあるよ」

 

「なんか想像してたのと全然違う………」

 

 なんかガッカリさせちゃったな。まぁ良いか!!

 

side out

 

 

 

出久side

 オールマイトから個性を譲渡してもらってから2時間程して、僕の身体が何かオーラのようなものが出てきて赤い稲妻のようなものが走る。これがワン・フォー・オールなのかな?

 

「無事継承完了だ。これでワン・フォー・オールは完全に君のモノとなった」

 

「はい!でもそうなったらオールマイトは無個性に戻ってしまうんじゃ無いんですか?ワン・フォー・オールは僕が引き継いじゃったんだし」

 

「大丈夫さ、ワン・フォー・オールは継承した後も残り火として体内に留まるのさ。でもそれは所詮残り火、使えば使うほど小さくなっていずれは消えてしまう。それまでは私は平和の象徴として働き続けるさ」

 

 そうか、今はよくてもいずれは消えちゃうんだ。だったらそうなってしまう前にワン・フォー・オールを完全にモノにしないといけない!

 

「まずどれぐらいの出力まで上げられるか試してみよう。受けきれる器を作って力を受け継いだと言ってもまだ自在にコントロールできるわけじゃ無いしね。幸い二ヶ月ほど時間はあるから受験日までは力のコントロールに時間を当てよう」

 

 確かにディケイドの時もどれぐらいの力加減で安全ラインか見極めていた。さもないといざ対人で使うとき危なかったし。

 

 要領はなんとなくだけど判る。意識を集中してちょっとずつ力を上げる感じで「おーい出久!」……えっ!?

 

 ふと振り向いたら耳郎さんがこっちに手を振りながら走ってきてた。しまった!今日この後会う約束あったんだ!!

 

「マズイ!」

 

 オールマイトもすぐマッスルフォームからトゥルーフォームに戻った。見られたら色々まずいしね。

 

「じじじ、耳郎さんお早う!」

 

「お早うって……そっちの人誰?」

 

 トゥルーフォームのオールマイトを見て聞いてきた。えっととりあえず誤魔化さないと。

 

「あーこの人この近所に住んでいる人で僕がゴミ掃除してるの見ててトラックとか手配してくれたんだ!」

 

「そ、そうそう!今日で片付いたからご褒美にジュースでもと思ってね。確か君も手伝っていたよね、君も一本どうだい?」

 

「えっと……それじゃゴチになります」

 

 ふぅ~、なんとか誤魔化せたみたいだ。

 

 オールマイトがジュースを買いに行っている間に僕らは片付けた砂浜に座って昇ってくる朝日を見ていた。

 

「まさか年内で終わっちゃうなんて思ってみなかったし」

 

「うん、僕も結構驚いている」

 

「再来月には受験か、お互いに受かると良いな雄英高校」

 

 耳郎さんも雄英の受験を受けることにしたそうだ。苦手だった数学も僕が教えてから成績が上がったと話してくれた。

 

「筆記は問題なさそうだけど。問題は実技試験だね」

 

 そう、雄英ヒーロー科の受験は筆記試験の他に実技試験がある。何をするかはまだ判らないけどまず簡単では無いはずだ。

 

「まずやれることはやろう。そのためにトレーニングだってしてきたんだしさ!」

 

「おう!もう矢でも鉄砲でも何でも持って来いだ!」

 

 うん、その意気だよ!

 

「あの、それとさ………今日大晦日じゃん、その………合格祈願で初詣一緒にいく?」

 

 耳郎さんからの初詣のお誘い。ていうか女子から誘われるなんて初めてだ!

 

「べべべ別に用事あるんだったら良いよ!ウチがかっ勝手に誘ったんだし!」

 

 なんか顔赤いけど風邪気味かな?とりあえず用事は無いから僕はOKした。

 

side out

 

 

 

雄英高校一般入試三日前―――――

 

???side

 私の乗った飛行機が空港に到着した。外は既に夜中だ。時差ボケのこともあるから早めに帰国して正解だ。帰国と言って私が日本に帰るのは約十年振りだった。

 

 小学校に上がる直前に親の仕事の都合でアメリカに引っ越すこととなった。小さかった私は泣いて嫌がったけど結局ついて行くことになった。

 

 それからは一度も日本には帰っていない。向こうの学校で少ないながらも友達を作り個性のトレーニングを続けてきた。もちろん理由はヒーローになるために。

 

 まだ日本にいた頃に唯一出来た男の子の友達。個性を気味悪がられて苛められていた私を身体を張って庇ってくれた。結局返り討ちにあっていたけど私にとってその子はオールマイトよりもヒーローに思えた。

 

 そこの子は私の個性を気味悪がったり怖がったりはしなかった。理由を聞けばその子は無個性でそのせいで今まで遊んでいた子とも仲間外れになってしまったそうだ。お互い仲間外れ同士だったのか不思議と仲がよくなった。

 

 私は彼が『出久』という名前だったので彼を『イズ君』と呼んで彼も私のことを『レイちゃん』と呼んでくれた。家も比較的近かったからよく二人で公園で遊んだのを覚えている。

 

 引っ越しの日に私は彼に会いに行ってお別れを言いに来たけど、最後に約束した。

 

『私絶対に日本に戻ってくるから!日本に帰ってきてヒーローになってイズ君のお嫁さんになるの!』

 

『うん、僕も約束するよ!』

 

 その言葉を支えに向こうで十年過ごしてきた。このたび親の海外での仕事が終了して帰国と相なり、私は日本の高校――――ヒーロー科最難関の雄英高校を受験することにした。

 

 向こうの学校でも成績は向こうでも上位をキープ。個性の方もこの十年の成果もあって今では短時間ではあるけど車だって浮かべて動かせる。

 

 雄英に行ってプロヒーローになれば、ヒーロー好きの彼の目にも留まるはず。出来れば再会したい。彼は忘れているかもしれないけど、私の気持ちは十年たった今でも色褪せていなかった。

 

 必ず合格して私はヒーローになるんだ。無個性故に夢を諦めることを進められても足掻いていた彼の意志を継いで。

 

 これが私――――柳レイ子のオリジンだ!

 

 でもこの時は知らなかった。この三日後、恋い焦がれていた彼と再会するなんて。

 




pixivでのURL張りました。こっちの方でもよければ読んで下さい。


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No.4 雄・英・入・試

今回はフォーゼ風タイトルです。

お気に入り件数がたった三話で200を超えていました。

自分で書いてアレですけど、面白いのだろうか?


出久side

 ついにこの日がやってきた。数多くの有名ヒーローを輩出し、そして何よりあのオールマイトの母校でもある雄英高校の入試試験。

 

 今日までの約二ヶ月はワン・フォー・オールの制御に全力を当ててきた。おかげで今は一部に使用するだけなら二十五%までならコントロールができる。十余年のトレーニングは決して無駄にはならず報われた。他にも隠し玉も用意できた。受験に当たりこれで問題は無い。

 

 前日になってオールマイトは僕が預けていたネオディケイドライバーとライドブッカーを僕に返してくれた。装備品の持ち込みは自由だったし何より変身さえしなければ武器を呼び出したり能力を使っても全然OK だしね。

 

 最後にオールマイトは手回しとして僕の個性に関する医療書類を用意してくれた。記録上中学三年になってから急に個性が目覚めたと言う偽装診断だそうだ。違法だとは思うけどワン・フォー・オールの秘密を守るためには目をつぶってほしいと念を押された。

 

 お母さんにも個性が奇跡的に発現できたと教えたのはつい一ヶ月前のことだ。お母さんは泣いて喜んでその日は出前でお寿司を取ってくれた。

 

 ここまで期待してくれる人たちのおかげでこの土俵に立てたんだ。だから頑張って雄英に「どけクソデク!!俺の前に立つな、殺すぞ」ってかっちゃん!

 

「おっお早うかっちゃん。頑張ろうね、お互い…」

 

 でもかっちゃんは僕を無視してそのまま先に行っちゃった。

 

 実はあのヘドロ事件の次の日、かっちゃんは職員室に呼び出しを受けたそうだ。理由は僕のノートの爆破を誰かが教師側に知らせて他の先生達に叱られたそうだ。担任の先生はこれまでのかっちゃんの行動を注意せず黙認してきたことから減給処分、かっちゃんもうちの中学から唯一の雄英ヒーロー科圏内の生徒と言うことで夏休み中の校外ボランティアの参加で大きな処分を逃れた。夏休み明けに会った時はかなり不機嫌そうだった。

 

 それからはまず変な苛めや威嚇は無くなり、僕もトレーニングがあったから接する機会はほとんど無かった。

 

「おーっす出久。何今の感じ悪い奴?」

 

 耳郎さんが手を振ってやってきたので軽く説明する。

 

「なるほど、あいつが出久のこと苛めてた奴か」

 

「でもかっちゃんは昔から凄いよ。確かに苛めてこそ来たけど、頭も良いし力も強い、個性だってヒーロー向けだよ」

 

「使い方次第だろ。とりあえず会場行こっか。開始まで予習とかしたいし」

 

 それもそうだねと思い一歩踏み出そうとしたら何も無いところで転けた。ほんと不運だよ。……アレでもいつまでたっても転ばない、て言うか浮かんでる!

 

「大丈夫?」

 

 後ろを振り向くと受験生らしい女の子が立っていた。

 

「私の個性、ごめんね勝手に。でも受験日に転んじゃったら縁起悪いもんね。お互い頑張ろうね」

 

 そう言って先に行ってしまう。

 

(今の緑色の髪の子、まさか!……そんなわけ無いか、だって彼は無個性。落ちると判っていて来るはずが無い)

 

 

 

 大学の講堂のような場所での午前中の筆記試験も終わり、少し時間をおいてから実技試験の説明会が始まった。

 

『今日は俺のライブにようこそ!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 説明会の司会はボイスヒーローの『プレゼント・マイク』だ!毎週ラジオ番組聴いてるよ。耳郎さんともこの番組で一緒にハガキ出してリクエスト曲流してもらったことあるよ。でも受験会場故か誰も応答しない。受験じゃ無きゃ確実にシャウトしただろうな。

 

『こいつはシヴィー!!!受験生のリスナー!それじゃこれから実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!アーユーレディ!?』

 

 それから実技試験の説明がつつがなく行われた。各受験生はそれぞれ指定された『模擬市街地演習場』で十五分間で三種類のの仮想ヴィランを倒していくモノだ。別に倒さなくても行動不能にさえすれば加点になるから無理に倒さなくても良いみたいだな。当たり前だけど他の受験生への攻撃などのアンチヒーロー行為は厳禁だ。

 

「質問よろしいでしょうか!?プリントには四種類の仮想ヴィランがいると書いております!誤載であれば日本最高峰である雄英において恥ずべき痴態です!我々受験生は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」

 

 なんか眼鏡の受験生がいきなりしゃべり出してびっくりした。

 

『オーケーオーケー、受験番号7111番君ナイスなお便りサンキューな!四種目の仮想ヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫だ!マリオブラザーズやったことあるか?アレに出てくるドッスンみたいな奴だ。各会場に一体、所狭しと大暴れしいるギミックよ!』

 

 つまりは倒しても加点にならないのか。でもポイントを稼ぐ試験で何でそんな意味の無い奴を設置するんだろう?普通なら逃げの一手だし。

 

『俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校《校訓》をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン=ボナバルトは言った!『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えてゆく者』と!!さらに向こうへ、《Puls Ultra》!!それではみんな良い受難を!!』

 

 張り出されて名簿を見ると僕の会場はDエリア。受験番号が連番のかっちゃんとは別会場だ。知り合い同士で協力させないためかな。

 

 バスで移動した先には塀で囲まれた演習場っと言うよりは一つの街があった。

 

 いつでもスタートできるように腰にはネオディケイドライバーをセット、ライドブッカーからいくつかカードも出しておこう。スタートラインの最前列に立って合図を待つ。

 

『はいスタートー!』

 

 合図がしたので一気に駆け出したけど、僕以外誰も動かない。もしかしてフライングしちゃった!?

 

『オイオイ実戦にカウントもよーいドンもねぇぞ!走れ走れ!!賽は投げられてんぞ!むしろ先に飛び出た奴見習え!』

 

 それと同時に他の受験生達も慌てて駆け出した。

 

 まず最初に1Pの仮想ヴィランが僕の目の前に現れた。

 

『標的補足!ブッ殺ス!!』

 

 仮想だけに口が悪いな。ガンモードにしたライドブッカーで躊躇無く引き金を引いて倒す。まずは一点!

 

 その後も次々襲ってくる仮想ヴィランを倒していくけど、ほとんどライドブッカーの射撃か斬撃で一発で倒せる。武器での攻撃が間に合わなければ手や足にワン・フォー・オールを十%ぐらいの出力で殴る蹴るで倒す。

 

 開始から約五分、順調に倒してゆきポイントも計算違いで無ければ四十点ぐらいだ。次のターゲットを探していると、仮想ヴィランに囲まれているオレンジ色の髪の受験生が視界に入った。たぶん群れが集中しているところで囲まれたんだな。なんの迷いも無く加勢に入った。

 

「こっちは僕が引き受けるから君はそっちの掃討を!」

 

「えっ?う、うん!」

 

 1Pの仮想ヴィラン数体だけを僕は倒し、残りの2Pの仮想ヴィランは助けた人に任せた。ポイント制だけど別に他人押しのけて独占する気も無いからね。

 

「サンキュー、助かったよ!」

 

「御礼は良いよ、残り時間頑張ってね!」

 

 それだけ言ってその場を去った。て言うか囲まれてた受験生よく見れば女の子だった!

 

 それからはポイントを稼ぎつつ他の受験生のフォローをしながら会場を走り回っていると突然の大きな地響きで足が止まった。頭上を見上げれば、周りにビルなんかよりも馬鹿でかいロボットが闊歩していた。

 

『ソイツが0Pだ!!速く逃げねぇと潰されちまうぞ!!』

 

 ついに出たか0P。普通なら逃げるところだけど僕は立ち止まっている他の受験生に声をかけて逃げるよう指示を出す。

 

 ふと見ると、校門で僕を助けてくれた女の子が倒れている。足が瓦礫に挟まっているみたいだ。

 

 すぐに助けないと!周りの人の制止を振り切って彼女の元へ向かっていくと、別の方向から誰かが出てきて女の子の元へ駆け寄った。僕と同じで彼女に気づいたんだな。

 

 瓦礫が独りでに浮いて横に退けられた。モノを浮かせる個性だな。

 

「大丈夫?」

 

「ごめん、足挫いてもうた」

 

「ちょっと待って、今私の個性で浮かせて―――っ!」

 

 マズイ、落ちてきた瓦礫が彼女たちの上に!こうなったら出し惜しみなしだ!ワン・フォー・オールを全身に常時二十%で纏う形で発動。これが二ヶ月の間に編み出した僕だけの使い方『ワン・フォー・オールフルカウル』だ!!

 

 一気に駆け出して二人を抱えて後退。まず救助完了!後はアレを止めるだけだ。

 

 僕が再び前に出ようとすると声をかけられた。さっきの眼鏡の受験生だ。

 

「まさかアレに立ち向かう気なのか?これは入学試験だ。アレを倒してもポイントにはならないんだぞ!なぜそんな無駄なことを!?」

 

「実際にあんなのが暴れ回ってたら。ヒーローならどうする?たとえ試験でも、僕は立ち向かう!」

 

 フルカウルの状態で一気に飛び上がり、最初に用意していたカードをセットする。敵が呆気なさ過ぎたから使うこと無いと思ったけど、用意に越したことは無かったな。

 

《アタックライド ツインブレイカー!ドラゴンフルボトル!ドラゴンスクラッシュゼリー!》

 

 右腕に装着されたのはツインブレイカーというガントレット型の可変式パイルバンカーだ。それをパイルバンカー形態のアタックモードにして、スロットにドラゴンフルボトルとドラゴンスクラッシュゼリーをセットする。

 

《アタックライド スピン!》

 

 自分の身体を高速回転させて0Pヴィランに突っ込んでいく。ワン・フォー・オールのオーラとドラゴンフルボトルのエネルギーがドラゴンの形を成して、0Pヴィランを貫いた。

 

 すぐ近くのビルに着陸したと同時にサイレンが鳴り響いた。

 

『試験終了~!!リスナー諸君お疲れさん!怪我した奴はすぐ救護所に行きな、治癒個性を持った養護教諭が治療してくれるぜ!!』

 

 アフターケアもばっちりか。だからこんな無茶な試験やれるんだな。

 

 さっきの場所までディメンションゲートで行く。突然僕が出てきたんで周りの人は驚いているけどそんなことを気にせず辺りを見渡してさっきの女の子を見つけた。

 

「君、足大丈夫?」

 

「あっ、君校門で転びそうになったモサモサ髪の!さっきはありがとう。おかげで潰れずにすんだわ」

 

「ちょっと待ってね。今すぐ治すから」

 

《アタックライド リカバー!》

 

 僕が持つカードの中で貴重な回復系のカード。使用限度は一日一回きりだけどほとんどの怪我を治せる優れものだ。実を言うと預ける前にオールマイトにもこのカードを使って彼の負傷を完治させてはいた。でもあくまで怪我が完治しただけで後遺症までは完治できなかったからオールマイトの活動限界の短さはそのままになってしまった。けど本人は前より動けるからと喜んでくれた。

 

 足に手をかざして優しい光が傷を癒やしていく。

 

「えっ?痛くない、治ってる!」

 

「これで良しっと。もう歩けるはずだから立っても「イズ君?」えっ?」

 

 さっき彼女を抱えて助けようとした人が僕をイズ君と呼んだ。なんでそんな古いあだ名を、しかもその名前で呼んでくれたのは、

 

side out

 

 

レイ子side

 0Pヴィランが出現して逃げようとしたときに瓦礫に足を挟まれた受験生を見つけてすぐに駆け寄った。すぐ私の個性であるポルターガイストで瓦礫を浮かべて退けた。

 

「大丈夫?」

 

「ごめん、足挫いてもうた」

 

「ちょっと待って、今私の個性で浮かせて―――っ!」

 

 私たちの頭上に瓦礫が降ってきた。咄嗟のことで個性を使うのが遅れた。

 

 もうダメだと思って目を背けようとしたけどふと誰かに抱えられて抜け出していた。

 

 ふと顔を上げれば、校門で転びそうになったあの緑色の髪の受験生だ。間近で見えたその顔は忘れようにも忘れられない人だ。今の私の原点を作ってくれた人、緑谷出久君、イズ君がそこにいた。

 

 その後説明会の時やたら喋っていた眼鏡男と何かを話してまた飛び出して行ってしまった。すると今度は緑と青のオーラみたいなドラゴンが出てきて0Pを貫いて倒してしまった。状況的に考えてやったのはイズ君以外にあり得ない。無個性だった彼がここまで出来るとすれば、私がアメリカにいた十年間で個性を発動した以外に考えられなかった。

 

 確かに超常黎明期の頃は四歳過ぎでも後天的に個性を発動できる人間は存在する。でも現在においてそれは極少数だ。個性研究の盛んなアメリカの研究所ではこんな答えが出ている。

 

『個性は身体機能の一部。故に身体がある程度完成するまで発現しない個性があってもおかしくない。現に定年期で発現しても個性が強すぎて扱いきれない人間が多い』

 

 そういうリミッター説みたいな学説が実際にある。もしイズ君もこれに該当するなら、彼は長い期間を経て個性が芽吹いたことになる。私と出会う前からイズ君は子供ながらトレーニングをしていた。子供だったから走ったり簡単な腕立てや腹筋程度だったけどもしそれを年単位でずっと続けていたとすれば、彼は努力によって個性を発現させたことになる。だとすれば凄いことだ。

 

 試験終了の合図が流れて私は怪我をした子を救護所まで運んでいこうとしたときにイズ君が再び目の前に現れた。女の子とは少し面識があったみたいだ。

 

 何かカードのような物を取りだして腰のベルトにセットする。もしかしてアレがイズ君の個性なのかな?

 

 女の子の足に手をかざすと優しそうな光が出て女の子の怪我を治してしまった。話しかけるなら今しか無いと思った。

 

「イズ君?」

 

side out

 

 

出久side

 もう一人の女の子が僕のことを『イズ君』と呼んできた。『デク』のあだ名なら昔から呼ばれ続けて耳タコだったけど、『イズ君』と呼んでくれたのは僕が知る限り一人だけだ。

 

「な、何でそのあだ名を?だってその呼び方は―――――」

 

 気がついた瞬間女の子が僕に抱きついてきた。てか胸当たってます!

 

「やっぱりイズ君だ!校門で見たときは人違いかなって思ったけどやっぱりそうだった!」

 

 最後に彼女に会ったのは十年も前だ。雰囲気や見た目はだいぶ変わっているけどやっぱり彼女は、

 

「れ、レイちゃん…なの?」

 

「うん!柳レイ子、十年振りにアメリカから日本に帰ってきました!」

 

 やっぱりレイちゃんだ!肩ぐらいまであった髪は短くなってる。前髪も左側ににかかるぐらいでとどめている。何よりさっき瓦礫を浮かべて退けていた。レイちゃんのポルターガイストだ。

 

「えっと………なんかお邪魔みたいだから先行くね」

 

 怪我した女の子は場の雰囲気に耐えきれなかったのかすぐ退散した。

 

 

 試験も終わった着替えて荷物をまとめた僕たちは入り口で話していた。

 

「それじゃお父さんの仕事が終わってこっちに戻ってきたんだ」

 

「うん。住むところも前と同じマンション。イズ君の家の近所のね」

*出久の家は原作と違いマンションでは無く住宅街の二階建て一軒家です。

 

「そう言えばイズ君、個性いつ発現したの?私がアメリカに行くまでは発現していなかったけど」

 

「えっと………去年の春先ぐらいかな。約十年越しでさ」

 

 ワン・フォー・オールの事は口が裂けても言えない。とにかく誤魔化さないと。

 

「おーい出久。待っててば!」

 

 振り返れば耳郎さんが走ってきた。追いつけばレイちゃんに気付いたのかジーッと見ている。

 

「出久、こいつ誰?」

 

「えっと、幼馴染みのレイちゃん、柳レイ子さん。十年振りに日本に帰ってきたんだ」

 

 とりあえず紹介するけど……なんか二人共睨み合ってるんだけど!?

 

「………イズ君の幼馴染みの柳レイ子です(なにこの女。まさか彼女じゃ無いよね?)」

 

「………出久の一緒に勉強とトレーニングしていた耳郎響香です(なんだコイツ、出久の幼馴染み?てか服の上から見ても胸デケぇ!)」

 

 なんか普通に挨拶しているだけなのに凄く怖いんだけど!火花みたいなの飛び散ってるように見えてる!

 

「そ、それはそうと耳郎さん試験の方はどうだった?」

 

「ん………あっ、筆記は出久が勉強教えてくれたからたぶん大丈夫だけど、実技試験がね………」

 

 あれ、なんか暗くなっちゃった。

 

「ウチの実技試験会場さ、あの爆豪って奴と一緒だったんだ。アイツ仮想ヴィラン根こそぎ撃破していってさ、正直合格ラインに入ってるか怪しい……」

 

 かっちゃん……。相手の邪魔をしてないだけに耳郎さんが可哀想だ。

 

「爆豪ってあの爆豪?イズ君の幼馴染みのくせにずっと苛めてきたあのガキ大将の?」

 

 レイちゃんも覚えていたんだ。まぁ僕と仲良くなったきっかけがかっちゃんに苛められたからだったしね。

 

 その後、レイちゃんの連絡先をもらって合否が来たら連絡を取ると言うことでこの日は別れた。

 

 そして一週間ほどが過ぎた頃――――。

 

「出久!雄英から手紙来たわよ!!」

 

 母さんが大慌てで僕に合否通知の手紙を持ってきてくれた。

 

 一人で確認したいから自室に籠もって封筒を開けばなんか小さい投影機のような物が出てきた。スイッチを押してそこに映し出されたのは、

 

『私が投影された!!!』

 

 オールマイト!?な、何でオールマイトが、これ雄英からの手紙だよね!?

 

『驚いたようだね緑谷少年。実は私がこの街に来たのは他でもない、今年の春から雄英に講師として赴任するからなんだ!』

 

 オールマイトが雄英で先生!?凄い、それじゃ学校行けば毎日会えるのかな?

 

『まず合否だが、筆記試験は十二分に合格点だ。そして実技試験だが、撃破ポイントはなんと70点!順位にすれば第二位だ。しかし、我々が見ていたのはなにも戦闘能力だけでは無い。我々が見ていたもう一つの基礎力、レスキューP!しかもコイツは完全審査制だ!!人助け、正しいことした人間を排斥しちまうヒーロー科などあってたまるかって話だよ!綺麗事?上等さ!ヒーローってのは命懸けで綺麗事を実戦するお仕事だ!!レスキューP80!よって君の実技試験でのトータルPは150P文句なしの主席合格さ!!』

 

 主席?最難関とも言われた雄英高校の試験で僕が主席合格したの!?

 

『来いよ緑谷少年。ここが君のヒーローアカデミアだ!』

 

 沢山の人たちの支えがあって僕はここまで上り詰めれたんだ。でもまだスタートラインに立っただけ、本当の道はこれからだ!

 

 レイちゃんや耳郎さんにもすぐ合格の連絡を入れた。二人も合格したそうでレイちゃんが第二位の次席合格、耳郎さんは不安だった実技試験がレスキューPの加点で合格圏に入ったそうだ。

 

 返信で明日合格祝いをしようという話をしていると着信が来た。オールマイトからメールが届いて今夜会いたいそうだ。場所は既にお馴染みに多古場海浜公園だ。

 

 

 僕が到着すれば既にオールマイトがトゥルーフォームで砂浜に立っていた。

 

「オールマイト!」

 

「誰それ!?」

 

 そうだ今はプライベートだった。オールマイトの名前を聞いて他に来ていた人たちが探し始めたので直ぐに人違いですと言って場を収めた。

 

「まず緑谷少年、合格おめでとう。先に言うが私は学校側には君との関係は一切話してないぞ。君そういうズルいの気にするタイプだし、レスキューの審査だって私は見ていただけだからね」

 

 お気遣いありがとうございます。でもオールマイトが雄英の先生になるだなんて驚きましたよ。

 

「学校側から発表されるまで他言出来なかったからね。私が後継者を探していた折にちょうど雄英側からご依頼があって受けたんだ。校長先生もワン・フォー・オールのことや私の怪我のことは知っていたから気を遣ってくれたんだろう」

 

 それじゃ本当なら訓練を受けた生徒の中から後継者を選ぶ予定だったのか。なんか校長先生には悪い事しちゃったな。

 

「心配すること無いさ。私は君が適任だと思って個性を継承したんだ。そして君はそんな私の思いに答えてくれた!これからは教師として教えつつも君の育成にも力を入れるよ!!」

 

「はい!」

 

 ヒーローとしてのまず第一歩。ここから僕が最高のヒーローになる物語が始まるんだ!

 

 あれ?でも僕が主席でレイちゃんが次席だとすればかっちゃんはどうなったんだろう?

 

 

in爆豪家―――――

『――――……つぅ訳でお前さんは三位だ。レスキューP抜きでこの高得点叩き出したのはホント凄ゲェ――――………』バキィン!!

 

「何で…何で!………何で俺が三位!?巫山戯んじゃねーぞ!俺が一番だろッ!!」

 

「ちょっと勝己五月蠅いわよ!近所迷惑になるでしょ!!」

 

「うるせーよババア!!」




折角なので一般入試の結果十位までを載せてみます。

VP=ヴィランポイント
RP=レスキューポイント
TP=合計ポイント

一位 緑谷出久  VP70 RP80 TP150
二位 柳レイ子  VP40 RP40 TP80
三位 爆豪勝己  VP77 RP0  TP77
四位 切島鋭児郎 VP39 RP35 TP74
五位 麗日お茶子 VP28 RP45 TP73
六位 塩崎茨   VP36 RP32 TP68
七位 拳藤一佳  VP25 RP40 TP65
八位 飯田天哉  VP52 RP9  TP61
九位 鉄哲徹鐵  VP49 RP10 TP59
十位 常闇踏陰  VP47 RP10 TP57

出久とレイ子以外は一応原作・アニメで出てきた公認の得点のはずなのでこれで合っていると思います。


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雄英入学~USJ事件
No.5 個性把握テスト、除籍を回避しろ!


わかりにくいと思いますが、初期の頃の鎧武風のタイトルです。

今回の話は今まで書いた中でたぶん一番長台詞が多い回です。


出久side

 中学も無事卒業して今日はいよいよ雄英高校の入学式。新しい制服に新しい環境、新しい出会いにドキドキしています。

 

「出久ティッシュ持った?ハンカチは?忘れ物無いわよね?」

 

 お母さんが結構テンパりながら何度も確認してくる。そりゃ無個性って事でだいぶ困らせちゃったし、僕の雄英合格を聞いて大泣きして喜んでくれたからな。

 

「出久!超格好いいよ」

 

 嬉しそうに僕を送り出すお母さんの顔を見てたら僕もつい笑ってしまう。

 

 玄関を開けた直ぐ先にはレイちゃんが待ち構えていた。一緒に登校しようと約束はしていたけどわざわざ迎えに来なくても駅で待ち合わせれば良いと思うんだけどな。

 

「お早うイズ君!」

 

「お早うレイちゃん。わざわざ迎えに来てもらってごめんね」

 

「別に平気よ、家だって近所だし」

 

 近所って言ってもレイちゃんの住んでいるマンションまで200~300mはあるはずなんだけど…。

 

 最寄りの駅で電車に乗って雄英高校側の駅で降りる。そこから少し歩けば雄英高校だ。

 

「おーっす出久!」

 

 レイちゃんと同じ真新しい制服を着た耳郎さんと合流。この二人なんか会う度に睨み合うけどそんなに反りが合わないのかな?

 

 入り口にクラス表が張り出されていた。僕はA組のようだ。

 

「ウチもA組だ。三年間よろしく」

 

 そう言って僕も返事をしようとしたら、レイちゃんが何か落ち込んでいた。

 

「どうしたのレイちゃん?」

 

「イズ君………私、B組だった…」

 

「いやそこまで落ち込むこと?」

 

「ネットとかでこんな話あるんだよ…。雄英のヒーロー科は互いに競争心を持たせるため二クラスで構成されて、それで競い合いがヒートアップして仲の好かった人同士でも啀み合うほどだって」

 

 いやさすがにネットの噂を鵜呑みにするのも…。でも競争心煽るってところは十分あり得るな。今のヒーローって人気取りも激しいし。

 

 とりあえず教室に向かおう。廊下を歩いて行けば巨大な扉に1-Aと書いてある。バリアフリーなのか?個性の都合で大柄の人もいるかもしれないけどそれでも開けるのに重そう。

 

 あんまり言いたくはないけどかっちゃんと一緒のクラスは避けたいな。小学校から中学までずっと同じクラスの腐れ縁だけどさすがに高校は違うクラスに――――。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

「思わねーよ。テメーどこ中だ端役!」

 

 かっちゃんと受験の時一緒だった眼鏡の人と同じクラスだ!

 

「ぼ…俺は私立聡明中学出身の飯田天哉だ」

 

「聡明~~~!?クソエリートじゃねーか。ぶっ殺し甲斐がありそうだな」

 

「ブッコロシガイ!?君ひどいな本当にヒーロー志望なのか!?」

 

 かっちゃんが早速他の人に牽制してる。お願いだから穏便にして!

 

「えっ、イズ君!?」

 

 ん?なんでB組の扉から入ったはずのレイちゃんがこっちの教室にいるの?

 

「ちょっと柳、あんた今B組の方に入ったよね?」

 

「うん。でもそしたらイズ君達も向こうのドアから………」

 

 よく見ればこの教室変だ。雄英の入試は推薦合格者4人と一般入試合格者36人の計40名を半分に分けての二クラス編成だが、この教室の席数を数えれば黒板を正面に縦5横8列の40個。しかも教室の一部が明らかに増築された跡がある。明らかにヒーロー科の生徒全員がここに集められるように教室を作り替えてある。

 

「おぉ君は入試の時に一緒だった!」

 

 眼鏡の人が僕に気づいて話しかけてきた。

 

「えっと、聡明中の飯田君だよね。さっきの話聞こえてよ。僕は緑谷」

 

「そうか!それより緑谷君はあの実技試験のカラクリに気づいていたのかい?俺は全然気づけなかった!」

 

 いや僕も何かあるかな程度でしか判らなかったし。それよりもどうして教室がこんな状態なのか聞いてみた。玄関の張り紙にはちゃんとクラス分けがされていたのに。

 

「俺たちにも判らないんだ。来たときには既にこの状態、やたらと広い教室に増築改装された跡。おまけにA組のみならずB組の生徒も混ざっている」

 

 飯田君もまだ状況を把握し切れてないのかと考えていると背後のドアが開いた。

 

「ギリギリセーフ。あっ!そのモサモサ頭は入試の時の!」

 

 入試の時レイちゃんと一緒に助けた女の子だ。その前に僕も転びそうになったの助けてもらった。

 

「私麗日お茶子、三重から来たんよ!それにしても君入試の時凄かったね。あのデカイロボット貫いちゃったんだから!」

 

 麗日さんの言葉に全員が反応して僕の方を見た。オールマイトが言ってたけどあの0Pヴィラン挑んだ人はこれまでも何人かいるけど撃破されたことはここ数年無かったそうだ。

 

 かっちゃんがこっちを睨み付けてきた。中学の卒業式の少し前に担任の先生に合格報告したときに絡まれたからな。かっちゃんは自分の人生設計図ズタボロにされたことで怒ってきたけど、この合格は僕が勝ち取ったんだ。それだけは絶対に譲れない。

 

「…お前らお友達ごっこするんだったら他所に行け。ここはヒーロー科だぞ」

 

 声がした方を向けば、寝袋で横になって栄養ゼリーを啜っている小汚い人がいた。

 

 この時全員の心がたぶん一つになったと思う。この人怪しいと!

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。君たちは合理性に欠けるね」

 

「イレイザー、お前またそれか。寝袋で移動するのは止めておけ」

 

 もう一人の人が来た。こっちの人は知っている、ブラッドヒーローのブラドキングだ。血を操って戦うヒーローだ。それにイレイザーってもしかして…。

 

「諸君入学おめでとう。B組担当のブラドキングこと管赤慈朗だ。気軽にブラド先生とでも呼んでくれ」

 

「A組担当の相澤消太だ、よろしく」

 

 自己紹介が終わったところで早速飯田君が手を上げた。僕たちの考えていた疑問がやっと解けるかもしれない。

 

「質問があります!クラスがAとBで別れているのになぜ一緒の教室なのでしょうか?」

 

「理由は簡単だ。今年からヒーロー科の教育カリキュラムが変更になり、それに伴って二クラスのヒーロー科を一つに統合したんだ。これなら指導効率に差も出ないから合理的だ。A組とB組は早い話がグループ分けだと思え。基本授業は一緒だが時と場合によってはこのグループで分ける」

 

「何より近年になって現れ始めた怪物達との戦闘。これまでは小規模な物で留まってきたが2年前には都心で大規模な侵攻があったのはニュースでも知っているだろう」

 

 あれか、僕が仮面ライダーとしてデビューを飾ったあの事件。

 

「2年前の都心での襲来でこれまでには無い強力な個体が確認された。並のヒーローでは一人で勝てる相手じゃ無い。ゆえにヒーロー科を持つ学校ではこれからは個の強いヒーローの育成では無く、複数人数で連携のとれた群れのヒーローを育成する方針に変わった。お前達は雄英においてその第一号だ」

 

 なるほど、僕もオールマイト便りの今の体制じゃいつか限界が来ると思って協力し合えるヒーローになりたいと思っていたけど、あの怪物事件のことで世間もそういった事に乗り出してくれたんだ。これは渡りに船だ。

 

「では早速君たちにはこれに着替えてグランドに集合してもらう」

 

 相澤先生が自分が入っていた寝袋から取り出したそれは雄英の体操着だった。受け取るとなんか生暖かかった。

 

「えっ、入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は《自由》な校風が売り文句、それはまた《教師側》もまた然りだ」

 

「俺も入学式やガイダンスの後で良いとは言ったが、校長が許可したんだ。我慢してくれ」

 

 相澤先生の後にブラド先生が謝罪してきた。

 

 とりあえず更衣室で着替えるよう指示を出されたので教えてもらった場所へ行き着替え始めたけど、最初の状況が状況だったせいか、A組とB組の生徒同士での会話が成り立った。

 

「俺切島鋭次郎、お前筋肉凄いな」

 

「鉄哲徹鐵だ、お前だって良い体つきだ」

 

「漆黒の凶鳥」

 

「暗黒の咎人」

 

「その尻尾椅子とか座るとき大変そうだな」

 

「うん、結構苦労するんだよ」

 

 などと和気藹々で話している。一部を除けば。

 

「君中学の時ヴィランに捕まったんだってね?嫌だねぇやっかいごと持ち込みそうで」

 

「うるせー端役が!俺がA組って事は俺が上だって事だ!B組のモブ共はおとなしく引っ込んでろや!」

 

「止めないか君!これからのヒーローは共闘すべきだと先生も仰っていたではないか!」

 

「物間も止めてくれ、俺たちを妙な争いに巻き込もうとするなよ」

 

 かっちゃんとB組の物間君との間で既に罅が入り始めている。

 

 そんなこんなで着替え終わって全員がグランドに集合した。

 

「全員そろったな。ではこれより個性把握テストを執り行う」

 

 個性把握テスト?体力テストみたいなモノかな?でも個性なんて人それぞれでどうやって………。

 

「お前達が中学生になったからやってきた個性禁止の体力テスト。アレを個性を使って行う」

 

「まぁ説明するより実戦した方が早い。爆豪、お前中学の時のソフトボール投げいくつだ?」

 

「67m」

 

「個性使ってやってみろ。円の外出なきゃなにやったって良い」

 

 相澤先生からボールを受け取ってかっちゃんが定位置についた。

 

「んじゃまぁ(球威に爆風を乗せる)―――――死ねえぇ!!!」

 

 

……………死ね?

 

 

 かっちゃんの叫んだ言葉に僕もみんなも呆気にとられたけど、ボールは爆風と共に遠くまでぶっ飛んだ。

 

「爆豪記録705.2m。まずまずだな、さすがは入試3位だけのことはある」

 

 その言葉を聞いた瞬間、かっちゃんは鬼の形相になって振り向いた。

 

「先生ェよ、俺はどうしても納得がいかねーんだ。なんで俺が一位じゃねーんだ!?撃破ポイント77も稼いで何で俺がトップじゃねーんだ!?」

 

「そいつは簡単だ。お前はヴィランPだけで77Pも稼いだ。例年だったらこれで主席になる奴もいる。だが今年の入試においてヴィランPと合否結果の際に説明したレスキューPのトータルでお前のポイントを上回った者が二人いた。しかも主席に至ってはヴィランPこそお前に及ばなかったがレスキューPが過去最高点、しかも合計Pもここ十年ほどの入試で最高点の150Pを叩き出したんだ。お前もレスキューでいくらか稼いでいれば次席は夢じゃ無かった…「一位以外価値ねーんだよ!主席はどいつだ!?俺の方が上だって判らせてやる!」

 

 ヤバい、ここで僕が主席だって言ったらかっちゃん絶対僕に何かしてくる………。

 

「良いだろう。なら主席にもやらせて納得してもらおう。と言う訳でお前も投げろ。入試主席の緑谷」

 

 先生が僕にボールを投げてきて思わずキャッチしちゃったけど、周りの人たちの視線が一気に僕に集まった。

 

「クソデクが!?ありえねーぞ!だってそいつ無個性だぞ、入試だって何か不正したに違いねぇ!」

 

 いきなりバラすなよかっちゃん。それで更にみんなが驚いた。けどそれを相澤先生が制止した。

 

「静かにしろお前ら。緑谷は確かに無個性だったが、去年の春先に個性が急に発現したそうだ。ちゃんと医師の診断報告書も出ている」

 

「馬鹿な!?個性の発現はもれなく四歳までじゃ…「アンタ知らないの?アメリカの最近の研究じゃ四歳以降でも身体が出来上がってから急に個性が発現するケースがいくつかあるらしいのよ。超常黎明期にだって四歳過ぎに発現した人間も多い」

 

 かっちゃんの言葉をレイちゃんが遮った。勇気あるな。

 

「没個性のモブ女が勝手に喋るんじゃ………ぐっ!?身体が………」

 

「私の個性はポルターガイスト。見たモノを浮かべたり動かしたり出来る。人間に対して使えば動きだって封じられるわよ。ちなみに次席が私よ」

 

 レイちゃんがかっちゃんの動きを止めてくれたんだ。それにしても凄いな、後でノートに書き加えないと。

 

「その辺にしておけ柳。とりあえず緑谷もやってくれ」

 

 一悶着あったけど僕も同じように円に入ってボールを構える。

 

「クソデクごときが俺に勝てるわけねーだろ!!」

 

「君知らないのか!?彼が入試の時、あの0Pを撃破した唯一の人間だと言うことを!」

 

 飯田君が何か言ってるけど、気にせず指先にワン・フォー・オール一部使用25%でスマッシュ!!結構飛んでいったけど、もしかしてかっちゃんの記録を………。

 

「緑谷出久、記録1974m。これが答えだ」

 

 この記録を見て他のみんなも一斉に歓声が上がった。

 

「すげーぞ、最初の爆豪も凄かったけどあのいかにもひ弱そうな奴が記録塗り替えちまった!!」

 

「てかこのテスト面白そうだな、個性思いっきり使えるって」

 

「今まで禁止だっただけに楽しそうだ!」

 

「面白そう、楽しそうね………ヒーローになるための三年間そういう腹づもりでいるのなら、トータル成績最下位の奴は見込みなしと言うことで除籍処分とする」

 

 盛り上がった空気が一気に驚愕に変わった。無理も無い、入学早々に入学式も無しに下手をすれば除籍って言われたんだし。

 

「俺たち雄英教師は三年間君たちに様々な困難と試練を用意して立ち塞がろう。生徒の如何は俺たち教師の自由だ。ようこそ雄英高校ヒーロー科へ、この困難もPlus Ultlaで乗り越えて見せろよ」

 

 皆身勝手だ理不尽だと言うけど、そんな言葉に相澤先生はヒーローになればヴィラン・大事故・災害などが理不尽に襲いかかってくる。ヒーローはその力を持って覆す者だと。僕は偉大なヒーローから力を受け継いで仮面ライダーの力を継承してここまでこれたんだ。ならどんな困難が来ようとも乗り越えるだけだ。

 

 

第1種目50m走―――――

 一度に二人でスタートするこの競技で一緒に走るのは飯田君だ。ここはディケイドライバーを取り付けて《クロックアップ》のカードで高速移動。結果は0.01秒。飯田君は得意科目であったためかガッカリしていた。

 

 でも同じクラスで推薦入学したという人は創造の個性で乗り物を出してゴールして周りの人から反則じゃ無いかと言われたけど先生は個性だからOKだと言って収めた。

 

 

第2種目握力―――――

 指先に25%の出力で力一杯やったら握力計が壊れて先生に謝ったが、増強系の個性持ちの生徒がたまにやらかすそうなので事なきは得た。

 

 耳郎さんは握るときに自分のイヤホンジャックで一緒に締め付けて記録は125㎏だった。他にも腕を複製して握ったり万力を使っている人もいた。

 

 

第3種目立ち幅跳び―――――

 下半身のみにワン・フォー・オールを25%で発動して結果は68m。かっちゃんは僕に負けじと爆破で飛んでいって87m。でも満足していなさそうだ。

 

 

第4種目反復横跳び―――――

 ここはさっきとは違いフルカウル20%で137回。隣にいた葡萄みたいな頭の人より回数が多かったけどその人なんかガッカリしている。

 

 

第5種目長座体前屈―――――

 ここはカードの力。腕が伸びる《エクステンデット》で腕を伸ばし、蛙みたいな女生徒と同着で20m。

 

 

第6種目上体起こし―――――

 ここはさすがに普通にやって大した記録は出ませんでした。

 

 

第7種目ソフトボール投げ――――――

 さっきやったので二投目はパス。でもレイちゃんがポルターガイストで263m、麗日さんは自身の個性《無重力(ゼログラビティ)》でボールを遙か彼方に飛ばし記録が∞となった。

 

 

第8種目持久走(1500m走)―――――

 さすがに皆疲れの色が見え始めてきたけど諦めず走ったが、さっきの創造の個性の人がスクーターで走っていたのでさすがに反則だと抗議されたが個性で作ったからとやっぱりOK。だったらと言うことで僕はカードで《ジェットスライガー》を呼び出して完走した。さすがに巨大バイクを呼び出して空を飛んだのはまずかったかな?先生達も含めて皆目が点になってたし。

 

 

 ようやく全種目を終えて一息ついた。いつものトレーニングに比べればまだ良い方だけど除籍が掛かっていただけに精神的に疲れた。

 

「諸君ご苦労。いちいち説明するのは合理的じゃ無いからパパッと結果だけ発表するぞ」

 

 空中に投影された順位では僕が一位だった。最下位の人であろうさっきの葡萄みたいな人ががっくり項垂れている。

 

「ちなみに除籍は嘘な」

 

 ………………へぁ?

 

「君たちの実力を最大限にまで引き出すための合理的虚偽だ」

 

「「「「はああああああああぁぁ!!!!??」」」」

 

「あんなの嘘に決まってますわ。ちょっと考えれば判ることです」

 

 いやあの時の相澤先生の目は絶対本気だった!それでもなお除籍無しって事は……少なくともここにいる全員が見込み有りだと判断したんだと思う。

 

「デクぅぅぅぅ!!!テメェ今までこの俺を騙していやがったのかぁぁ!!」

 

 かっちゃんが爆破をしながら僕に飛びかかってきた。迎え撃とうとするとかっちゃんに何かが巻き付いて爆破が止まった。

 

「んだこの布……固ぇ……」

 

「炭素繊維に特殊合金の鋼線編み込んだ捕縛武器だ。それとお前の個性は俺の個性で打ち消した」

 

 ゴーグルに捕縛武器の布、それに個性を消す。間違えない、メディアにあまり出ないからさほど有名では無いけど、相澤先生は抹消ヒーロー《イレイザーヘッド》。相手の個性を打ち消す個性を持つアングラヒーローだ。

 

「ほう、俺のことを知っていたか。爆豪、あんまりお痛が過ぎると除籍すんぞ。雄英がお前ら生徒の中学時の素行を内申書以外で調べてないと思っているのか?」

 

 と言うことは僕ら生徒の素行は既に調べ済みか。ここで何か問題を起こせば即除籍。いくらかっちゃんでも無茶はしないはずだ。

 

「判ったらさっさと教室に戻れ。長時間俺に個性を使わせるな。俺はドライアイなんだ」

 

 個性凄いのに凄くもったいない弱点!

 

 結局かっちゃんも観念して大人しく教室に戻っていった。

 

「ねぇそこの緑の君!」

 

 ふと声をかけられた。振り向けばオレンジ色の長い髪をサイドテイルで纏めている人が僕に話しかけてきた。

 

「えっと何か……」

 

「その髪と腰につけているベルト、やっぱり君だ。私ずっと御礼言いたかったんだぞ」

 

 御礼?僕この人に何かしたっけ?

 

「覚えてない?入試の時に助けてくれたの」

 

 入試の時……あっ!そう言えばこの人入試の時に仮想ヴィランに囲まれて僕が助けた人だ!

 

「あの時はホント助かったよ。私は拳藤一佳。B組だけどよろしくな」

 

 手を差し出されたのでとりあえず握手したけど、なんか背後から悪寒が!?

 

 恐る恐る振り向けばレイちゃんと耳郎さんが怒った顔でこっちを睨めつけている。何で!?

 

 

 

 教室に置かれたカリキュラムの書類や教科書を受け取ってその日は解散となった。

 

 トレーニングもあるのですぐさま帰ろうとしたら飯田君に声をかけられた。

 

「緑谷君本当に凄かったぞ。50m走や持久走は自信があったんだが、やはり世間は広い!これからも一緒に頑張ろう!!」

 

 飯田君まじめだ。受験の時は怖そうな人かと思ったけど、なんとか仲良くなれそうだ。

 

「お二人さーん、駅まで一緒に行こ!」

 

「イズ君、同じ方向なんだから一緒に行くよね?」

 

「ウチも途中までだけど良い?」

 

 麗日さんとレイちゃん、耳郎さんが一緒についてきたので途中までご一緒することにした。

 

「君は∞女子!」

 

「∞女子!?私麗日お茶子です!飯田天哉君と緑谷…デク君だよね!」

 

 すると麗日さんの肩をレイちゃんと耳郎さんが掴んだ。

 

「お茶子さん、だっけ?イズ君のことをデクとかって言うのは止めてほしいな」

 

「ウチも同感」

 

「え?でもあの爆豪って人はデクって呼んでたよ?」

 

 ちゃんと自己紹介してなかったからな。僕は飯田君と麗日さんに僕の名前の読みが《いずく》であることと、かっちゃんが幼馴染みで無個性で名前がデクとも読めるから無個性で木偶の坊のデクと呼ばれていたのを説明した。

 

「蔑称だったのか。無個性だったとはいえ酷い者だ」

 

「でも、デクって頑張れって感じで私好きだな」

 

「いや麗日デクで頑張れってそれは…「デクです!」

 

「ちょっとイズ君!?」

 

「いいの出久!?十年以上蔑まれてきた渾名で呼ばれて!?」

 

「しっかりしろ緑谷君!」

 

 そう言って皆色々言って来たけど、僕はちょっと嬉しかった。今まで馬鹿にされる形で呼ばれ続けてきた《デク》と言う渾名を頑張れって感じの《デク》と良い意味で呼んでくれる人と出会えて。

 

 初日は色々大変だったけど。僕はこの日、とても良い友達と巡り会えて良かった日だと思います。




気づいていた人はいるだろうか………?今回の話にヒロアカすまっしゅのネタが織り交ぜられていたことに!


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No.6 緑谷はなぜ一人で立ち向かうのか

更新停滞していて申し訳ない。

仕事が忙しくなったのと、空き時間を艦これのイベント攻略に当てていました。

最後のEー4堀の結果バケツが10を切りました。しばらくは溜めに専念せねば。

ちなみに今回のタイトルはドライブ風です。

今回から一部の単語にルビを振りました。それに伴って他の話にもルビ振りしました。


出久Side

 入学式をすっ飛ばして除籍を逃れるために死力を尽くして乗り越えた個性把握テストの翌日。時間はただただ普通に流れていった。

 

 午前中は必須科目・英語などの普通の授業。これだけならごく普通の高校生活だ。ちなみに英語の授業は海外生活が長かったレイちゃんと海外から留学してきた彼女と同じB組の角取ポニーさんが無双していた。これに対してやはり物間君が挑発してきたので無視することにした。

 

 お昼は大食堂でクックヒーロー《ランチラッシュ》が手がける一流料理を安価で食べられる。種類も豊富で飽きが来ないように時折期間限定メニューなども置かれるそうだ。ちなみに僕は本日カツ丼を、レイちゃんは親子丼、耳郎さんはワンタン麺、飯田君はカレーライス大盛り、麗日さんはかけうどんにネギと天かすを山盛りだった。

 

 そして午後、僕たちヒーロー科が今か今かと待ち望んだ授業の時間。ヒーロー科の生徒が誰もが楽しみにしてきたヒーロー基礎学だ!

 

「わーたーしーがー!!普通にドアから来た!!」

 

 今日の授業はオールマイトの担当。しかも着ているのは銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ。生で見られるなんて感激だ。

 

「オールマイトだ…!すげぇや本当に先生やってるんだな…!」

 

「画風違いすぎて鳥肌立つぜ…」

 

 やっぱりNo1ヒーローが教えるってだけで皆興奮している。かくいう僕も一年指導を受けてきたけどやっぱりワクワクするのは変わらない。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローになるための素地をつくるための様々な訓練を行う科目だ!!そして今日の授業内容は―――戦闘訓練!!それに伴って入学前に提出してもらった個性届けと要望に沿ってあつらえた戦闘服(コスチューム)!!」

 

 壁がスライドして組と出席番号がナンバリングされたアタッシュケースが収容されている。皆が自分の要望と個性に合わせて考えたコスチューム。自分のを着るのも楽しみだけど他の人のコスチュームを眺めるのも楽しみだ!

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!格好から入るってのも大切なんだぜ少年少女!!自覚するのだ、今日から自分がヒーローなんだと言うことを!!」

 

 これを着ればまずヒーローの第一歩。そんなことを考えながら更衣室でコスチュームに着替える。

 

 僕のは緑色のジャンプスーツに白いラインが引かれ、腰にはディケイドライバーを装着。あとは膝と肘に白いサポーター、オールマイトを模したようなフード付き。シンプルだけどこれが動きやすい。フルカウルの機動力に十分対応している。

*早い話が、原作でのスーツβです。

 

 ちょっと着替えに戸惑って僕が最後だったけど、グラウンドには既にコスチューム姿のクラスメイト達が集合している。

 

 僕みたいな全身スーツの人もいれば、アーマード系やマントやマスクを装着している人もいる。

 

「あ、デク君!?格好いいね地に足ついた感じで。私なんかパツパツスーツだったよ。ちゃんと要望書けば良かった」

 

 麗日さんは宇宙服を模したスーツでピンクと黒の色合いは良いけど、ぴっちりスーツで身体のラインが強調されすぎてあまり直視できない!

 

「ヒーロー科最高だな!」っと隣で同じA組の峰田君がグーサインを出している。

 

「イズ君!見てみて」

 

 レイちゃんが声をかけてきたので振り向けば、口元にマスクをして白いミニスカ着物を着たレイちゃんがいた。どことなく召還師とか思い浮かべそう。でも足の方は黒いブーツだ。

 

「レイちゃんもよく似合っているよ!もしかして前に相談したギミックも?」

 

「正直イズ君のアドバイス受けて正解だった。これなら色々対応可能だし」

 

「出久のおかげで自分じゃ判らなかった穴とかも補填して要望かけたしね」

 

 そう言って出てきたのは耳郎さんだった。ロックンローラーみたいな格好だけど、ブーツが指向性スピーカーを内蔵した特別製で、両手のグローブもあの機能が搭載されているはずだ。

 

「よく似合ってるぞ皆、格好いいぜ!それでは始めようか有精卵共!!戦闘訓練の時間だ!!」

 

 オールマイトの号令で皆いったん話とかを止める。

 

「先生!ここは入試の時の演習場ですが、また市街地演習をするのでしょうか?」

 

 全身鎧の人が質問した。声からして飯田君だな。格好いい!

 

「いいや、2歩先に踏み込む!これから行われるのは屋内での対人戦闘訓練だ!!」

 

 確かにヴィラン退治は屋外でしているところがよく見かけるけど、屋内でやるとするば銀行やお店への強盗襲撃、人気の無いところでの裏取引、籠城に軟禁や監禁。ヒーローに見つからないようにするにはまさに屋内の方が最適と言ったところか。

 

「これから君たちはチームを組んでヒーロー側とヴィラン側に別れてもらうが……クラスの中で既に不協和音で罅が入っていると聞いている。それも考慮して一チームA・B組二名ずつの四人一組でチームを組んでもらう。これからの時代事務所は別でも現場ではチームを組むのは当たり前になるからね」

 

 相澤先生やブラド先生も怪人対策でこれからは群れのヒーローを育成すると言っていた。これはたぶん不仲でも協力する事を学ぶ訓練だ。

 

「基礎訓練も無しにですか?」

 

「その基礎を知るための実践さ!ただし今度はただぶっ壊せばOKのロボ相手ではないというのがミソさ」

 

「勝敗システムはどうなります?」

 

「ぶっ飛ばしても良いんスか?」

 

「相澤先生みたく除籍とかあるんでしょうか………?」

 

「別れるときはどのように別れれば良いのでしょうか?」

 

「このマントヤバくない?」

 

「おいおいせっかちすぎないか?これだからA組は!!」

 

「アンタも五月蠅い!」

 

「んんん~~~~聖徳太子ぃぃぃ!!!ちょっと落ち着いてね、今説明するから!」

 

 ポケットからカンペみたいな紙取り出して説明を開始した。まだ教えるの不慣れなんだ。

 

「いいかい、状況設定はヴィラン側がアジトに核兵器を隠してヒーロー側がそれを処理しようとする状況だ!ヒーロー側は制限時間内にヴィランの捕まえるもしくは核兵器の回収をする。逆にヴィラン側は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事」

 

(((((設定アメリカンだな!)))))

 

「ちなみに組み分けと対戦相手はクジで決める」

 

「えっ!?適当で良いのですか?」

 

「ほらプロヒーローは他事務所と急増でチームアップする事も多いし、そのためじゃ無いかな?」

 

「なるほど先を見据えて計らい。失礼しました!」

 

「さ、さすが緑谷少年。良いところに目をつけるね(ヤッベぇ実は本当に適当だった)」

 

 と言う訳でA組B組でクジを引いチームが決まり結果は以下の通りになりました。

 

 

Aチーム:緑谷 麗日 柳 拳藤

 

Bチーム:轟 障子 鱗 角取

 

Cチーム:八百万 峰田 回原 小森

 

Dチーム:飯田 爆豪 物間 円場

 

Eチーム:芦戸 青山 吹出 塩崎

 

Fチーム:口田 砂籐 骨抜 鎌切

 

Gチーム:耳郎 上鳴 取陰 庄田

 

Hチーム:蛙吹 常闇 黒色 小大

 

Iチーム:尾白 葉隠 泡瀬 凡戸

 

Jチーム:瀬呂 切島 鉄哲 宍田

 

 

「Aチームに異議あり!!」

 

「何で緑谷以外女子固まってんの!?」

 

 チーム割りを見るなり峰田君と上鳴君が叫んできた。でもクジの結果だし………。

 

「君たち公正なクジで決めたことに文句を言うんじゃ無い!」

 

「そうよ!(神様信じてないけどイズ君と同じ組になれたから感謝します!)」

 

(出久と違う組か……。しかもよりによってこの馬鹿と一緒か)

 

(デク君と同じ組。頑張ろう!)

 

(入試の時は助けられたけど、今度は私が助ける番だ!)

 

「俺の足引っ張るんじゃねぇぞモブ共が!」

 

「おいおいずいぶんなセリフじゃないか!そう言って自分で足を引っ張らないでくれよ!!」

 

「さてチームも決まったところで最初の組み合わせは………この二組!ヒーローサイドAチーム、ヴィランサイドDチームだ!!」

 

 僕たちのAチームがヒーローでヴィランチームは………よりによってかっちゃんのいるチーム!?うわっ、僕のことめっちゃ睨んでる!!

 

(デクのチームと初っ端からやれる。あのクソナード、よくも俺を騙しやがったな!今度こそ教えてやんよ、どっちが上でお前がここにいる必要がねぇ事をな!!)

 

side out

 

 

No side

 先にヴィランチームがビル内に入って核兵器であるハリボテをセッティング。ヒーローチームはその五分後に演習開始。その間にAチームの四人はお互いの個性を簡単に説明し合って作戦を立てていた。

 

「まず私の個性はポルターガイスト。身近にあるモノを動かすことが出来る。無理をすれば軽トラックぐらいの重量まで浮かべて動かせる。人間に対して使えば動きを止めることも出来るわ」

 

「私の個性は大拳。文字通り掌を巨大化させれる。大きくした分だけパワーも上がるよ」

 

「私は知っての通り無重力(ゼログラビティ)。指先の肉球で触れれば触ったモノの重さをゼロに出来るんよ。でも自分浮かせたりキャパオーバーすると酔って吐きそうになる」

 

 他の女子二人が欠点らしい欠点がない分麗日が落ち込んだ。

 

「いや麗日さん、弱点差し引いても十分強い個性だよ。最後に僕は超パワーとこのベルトに専用のカードを差し込んで色々な能力を発動したり武器やアイテム、乗り物なんかを呼び出せる。超パワーの方は許容上限があって全身で使えば20%、一部だけで使えば25%が限界」

 

「えっ、そのベルトってサポートアイテムじゃ無いの!?確かに色々やってるから変だとは思ったけど……超パワーに加えて特殊能力盛りだくさんチートじゃん!」

 

「えっと…超パワーはたぶんベルトの恩恵みたいなモノだと思うよ」

 

「それに一佳、イズ君は中学三年になるまで無個性だったのよ。それまではずっと体を鍛えていた。だから私はこの力はイズ君自身が勝ち取った力だと私は思っている」

 

 実際は継承したのだが、ワン・フォー・オールに関して言えば自分の努力の成果とも言って良いので一概に間違えとは言えなかった。

 

 そして演習開始の時間が着て、出久は最初にカードを取り出してネオディケイドライバーにセットした。

 

《アタックライド スコープ!》

 

 まずビル内をサーチして目標である核兵器の場所を特定する。

 

「核兵器は5階だね。ヴィランチームは二人組の二手に分かれている。動いて迎撃する組には多分かっちゃんがいるはずだ」

 

「何で爆豪君がいるって判るの?」

 

「幼馴染みだからね。僕のこと気にくわないと思っているし、真っ先に僕のことを潰したいと思っているはずだ」

 

 昔から馬鹿にされ続けてきた。そんな相手が自分と同じ土俵に立つこと自体を気に食わない彼なら絶対に自分を攻撃する。二人の関係を知るレイ子も同意見であった。

 

 まずは出久を先頭にして続く形でレイ子・拳藤・麗日の順で壁沿いに進んでいく。

 

 一階はまず誰もいなかった。しかし出久のスコープで二階に待ち伏せがあることが判った。そこで一つの作戦に打って出た。

 

 

 二階の階段の手前で爆豪が構えていた。姿を見せれば直ぐに攻撃できるように構えていた。

 

 ふと影が見えてきた。二階から上がってきたヒーローチームのなは判っていた。まず姿が見えたら初撃の爆破で先制と攪乱、そして潜んでいるもう一人と一斉攻撃で一網打尽というのが手であった。

 

 通路の角から姿を現したのは出久であった。爆豪も彼の幼馴染みだ、危ないことを女子にやらせるとは考えにくい。ゆえに先頭は出久であることに関しては確信に近かった。

 

「死ねぇクソデク!!」

 

 容赦ない爆破が数発出久に向けて放たれた。爆煙が晴れると、ボロボロで倒れている出久の姿があった。

 

「けっ、ようやくボロ出しやがったか!テメェの考える事なんざお見通し―――「本当に予想通りだよ、かっちゃん!」

 

 爆豪の後ろに突然出久が現れた。咄嗟のことで反応できなかった爆豪は出久に腕を捕まれて一気に投げ飛ばされた。

 

「皆今のうちに行って!」

 

 その声と同時に角の手前で隠れていた3人が一気に駆け出して上への階段を目指す。

 

 しかしここで妙な爆音が聞こえる。爆豪の爆破音とは違う。どちらかと言えばエンジンのような爆音だ。

 

 柱の陰から飛び出し何かが麗日に向かって突っ込んでいく。

 

《アタックライド マッハ!》

 

 咄嗟に高速移動のカードを使用して二人の間に割って入り麗日への攻撃を阻止した。

 

「もう一人いたのは知っていたけど、エンジン音から飯田君かと思ったけど…A組生徒優先で狙ってきたから君だったか、物間寧人君!」

 

「あれぇ?一人で十分だとかって言ってた割には無様だね。これだからA組はっ!」

 

 出久がガードした物間の足には飯田の個性の象徴であるマフラーが延び出ていた。

 

「(物間君の個性はコピー!触れた相手の個性を5分間使い放題。同時使用は出来ないとは言っていたけど、切り替えも可能なはず!)皆は先に行って、ここは僕が押さえる!」

 

「で、でも2対1じゃ不利だぞ!?」

 

「やりようはあるさ」

 

《アタックライド イリュージョン!》

 

 出久の身体からスライドするように三人の分身体を生成する。

 

「なるほど最初にやられたのは囮の分身か。でも姿を消せたのは?」

 

「簡単に種は明かさないよ!」

 

 二手に分かれて爆豪と物間の相手をする。

 

「行こう!今なら上は二人、人数の上じゃこっちが有利だ」

 

「「イズ君(デク君)、無茶だけはしないで!」」

 

 三人が階段を上っていったのを確認して戦闘を再開する。

 

「デク、テメェはむかつくんだよ!強い個性が出て俺に隠して楽しかったかぁずっと!!」

 

 二人で囲んで距離を保ちながらライドブッカーの銃撃で牽制しつつ切り込んで接近戦、攻撃をかわされても即座に下がってそれを繰り返す。

 

((((狙いは核兵器の確保完了か、二人のスタミナ切れ!!))))

 

 物間の相手をしていた分身の一人が組み付いたが直ぐに吹き飛ばされた。掌から硝煙が上がっていることから爆豪の爆破をコピーしていたのだろう。

 

「これで一対一!大したことないねA組も――――《アタックライド フラッシュ!ステルス!》えっ!?」

 

 分身の一人の右腕に巨大な懐中電灯のようなモノが、右足には紫色のパーツが取り付けられ、放たれた光で物間は一瞬目を瞑った。目を開くがそこには出久の分身の姿は無かった。

 

「どこにいった!?」

 

「ここだよ!」

 

 振り向けば空間に絵を描くように分身出久が現れ、捕獲証明のテープを物間に貼り付けた。これで物間は戦闘不能だ。

 

「そうか……さっきもそれで姿を消して」

 

「まぁね(最初の囮はジェミニのカードで分身作って、本体がクリアーベントのカードで透明になって回り込んだんだけどね)」

 

 捕まえた物間を壁の隅まで運び、出久本体と分身と交流して囲い込んだ。

 

「三対一で有利になったつもりか!?いくら人数が多くても雑魚が群がったところで雑魚には変わらねぇんだよ!」

 

 爆破で一気に分身の一体に接近して行くが、分身も直ぐ身構える。しかし爆豪も馬鹿では無かった。

 

閃光弾(スタングレネード)!」

 

 爆破の威力を調整した閃光弾で目眩まし。先ほど出久が物間に対して使った手段だ。しかし物間の時とは違い爆豪はすぐさま爆破で攻撃を加えて分身は耐えきれず消えてしまう。

 

「ハズレか、ならこっちだ!」

 

 今度はもう一方の分身に向けて爆破の推進力で突っ込んでくる。

 

 迎撃するために分身出久も突っ込んで拳を振るうが、掌を前方に向けた爆豪が軽く爆破を起こして減速。分身出久の拳は空を切り、再度突入してきた爆豪が分身出久の顔を掴んで顔面を爆破。これで分身は全て消えた。

 

「運が良かったなデクゥ。ご自慢の囮はもういないぜ」

 

「それでも君からは逃げないよ!」

 

「元無個性のクソナードが粋がるじゃねぇぞ!テメェは一生俺の足下で這いつくばっていろよ、木偶の坊のデクが!」

 

「僕は昔の木偶の坊のデクなんかじゃ無い!今は……頑張れって感じのデクだ!!」

 

 出久の表情からは恐怖もおびえも一切感じられなかった。すさまじい気迫は、爆豪でさえ肌を振るわせていた。

 

「テメェのストーキングなら知っているよな?俺の爆破は掌の汗腺からニトロみてぇなモンを出して爆発させている。もしこのコスチュームが要望通りの設計なら、この籠手の内部にそいつを溜めて…」

 

『ストップだ爆豪少年!彼を殺す気か!?』

 

 慌てた様子でオールマイトからの通信が入るが、

 

「当たんなきゃ死なねぇよ!!」

 

「っ!…待ってかっちゃん!後ろには物間君が――――――」

 

「んなこと知るかよッ!」

 

 籠手についているピンを外した瞬間。大きな爆発が出久に襲いかかった。




今回の小説で初めてNo sideで書きましたが、あんまりにも久しぶりだったので上手く出来たかが判りません。

近いうちにアンケートも採ろうかと思うのでお待ち下さい。


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No.7 決着

今回はクウガ風です。漢字二文字のタイトルは渋いです。


前回言ったアンケートですが、色々聞くために活動報告でお話しします。


耳郎 side モニタールーム―――――

「さあ皆もモニターにて観戦だ!!見て学ぶのも重要だぞ!(緑谷少年、今は教師と生徒。成績は贔屓一切無しで厳しくさせてもらうよ)」

 

 モニターで出久がレイ子達と何かを話している。多分自分たちの個性を教え合って対策考えているんだろうな。

 

 何せ相手があの爆豪がいるチームだ。出久のことだからまず対策は練ってくるに違いない。どういった作戦を立ててくるかを予想するためにウチは出久から預かっていたそれを開いた。

 

「あら、響香ちゃんそのノートは何かしら?」

 

 ふと梅雨ちゃんが声をかけてきた。まぁ好きに見ても良いって言ったから見せても大丈夫か。

 

「出久がどんな作戦立ててくるか考えようと思ってさ。預かってたこれで予想立てようと思ってね」

 

 訓練が始まる前に出久から終わるまで預かっておくよう頼まれたヒーロー考察ノート(クラスメイト編)。前の個性把握テストの時に観察していたモノを書き留めていたのだ。

 

 まだ埋まっている項目は少ないが、それでも把握できる範囲で考察し、それがどこまでのことが可能なのかも予想を加えながら書かれている。

 

「緑谷ちゃんって結構マメなのね。あら、私のこともちゃんと書いてあるわ」

 

「出久の趣味みたいなもんだってさ。無個性だった頃から常に観察して評価をしつつ、それでどんなことが出来るかを予測しながらまた観察して考察。ウチは出会って一年もたってないけど、出久は努力もして、常に周りを見ている奴なんだ」

 

「ケロ、響香ちゃんずいぶんと緑谷ちゃんを持ち上げるのね」

 

 うっ…。ちょっとハズいな。

 

 そうこうしている内に演習がスタートした。モニターはオールマイト以外には音声が聞こえないのでちょっと臨場感に欠ける。

 

 二階への階段を上りきる手前で出久がカードを一枚取り出してベルトにセットすると、出久が二人に分裂した。そしてもう一人の方がもう一度カードをセットすると今度は透明になった。なるほど分身囮にして透明になった本体が回り込むのか。

 

 映像が続いて通路の角を出たところで爆豪が囮の分身に攻撃を仕掛けた。爆煙が晴れると囮の分身が倒れていて爆豪が囮に近づいたところで姿を現した出久が爆豪の腕を掴んで投げ飛ばした。

 

「どっちも奇襲してきたけど、なんかズルくねぇか?」

 

「そうだぜ男らしくないぞ!」

 

「いやいや奇襲も実戦では立派な戦術の一つさ!いくら強くてもほんの一瞬の油断が命取りになる。実戦ではルールも決まりも存在しない。まさに一瞬の判断が命運を決めるんだ(かく言う私もその油断のせいでこの様だったしね)」

 

 オールマイトの解説を聞きつつもう一度モニターに目を向ける。

 

 今度は隠れていた物間が最後尾の麗日を狙って飛び出してきたけど出久が割って入って止めた。先頭のレイ子攻撃すれば足止めできたんじゃ無いのか?

 

 女子三人を先に行かせると、出久がまたカードをセットして分身を三人作り出して爆豪と物間を囲んで攻撃を開始してきた。

 

 対物間の方は分身が一人倒されたけどアイテムを呼び出した出久(分身か本体かは判らないけど)が目眩ましと透明化で物間に捕縛テープを巻き付けて戦闘不能にした。やっぱり強いよ出久は。

 

「緑谷の奴やるな。物間は口は悪いけど個性の能力は強い方だしな」

 

「でもA組見下し傾向だからそこに油断したのかもな」

 

「さっきの奇襲も柳狙えば足止めできたのにね」

 

 物間、同じB組の奴からも酷評されてるよ。

 

 んでモニターに目を戻せば、今度は爆豪が分身の出久二人を蹴散らして一対一に持ち込んだ。出久も言っていたけどアイツ才能あるし。口が悪いのと凶暴な性格除けば。

 

 すると爆豪が右腕を出久に向けて何か言っているけど当然音声は聞こえない。でも何か嫌な予感がした。

 

「ストップだ爆豪少年!彼を殺す気か!?」

 

 突然オールマイトがマイクに向かって叫んだ。爆豪が籠手についているピンを引き抜いた瞬間、眩しい爆炎が画面を覆い尽くして画面が砂嵐になった。

 

「せ、先生……これ訓練ですよね。なんか不味くないですか!?」

 

「と、止めた方がよろしいのでは!?」

 

 ウチもそう思った。いくら何で訓練でこれはやり過ぎだ!

 

「うむ………両チーム、いったん訓練中――――むっ!緑谷少年大丈夫か!?」

 

 出久が応答してくれた。良かったまだ生きている!

 

 モニターの映像が回復していくと、戦闘服(コスチューム)こそボロボロだったけど出久が腕を交差して防御の姿勢を取っていた。よく見れば出久の皮膚が金属のようになっている上に正面にはバリアみたいなモノが張られている。背後には何か石柱が立っていて、崩れると気絶していた物間がいた。

 

 そうか、出久は自分だけじゃ無くて後ろにいた物間も守ったんだ!

 

 でもやっぱりダメージはあったのか出久も片膝をついて息が荒くなっている。

 

side out

 

 

出久side

 い、今のは正直かなりヤバかった。爆破に飲まれる直前で僕は3枚のカードをセットした。皮膚を金属にする『メタル』、エネルギーのバリアーを出す『バリア』、そして物間君を守るために石の防壁を出す『ディフェンド・ランド』。本来ならこれは正面からの攻撃を防ぐための三重層の防御コンボだったけど、物間君を守るために石柱の防御を外したから防御力が落ちてしまった。

 

 第一層のバリアーで爆破の威力を幾分か軽減、そしてあとは金属の皮膚となった身体でひたすら耐えるのみ。これでなんとか凌いだけどやっぱり体力はごっそり持っていかれた。

 

 ふと通信機からオールマイトの声が聞こえた。この状況だ、訓練を止めようとするのかもしれなかったので僕は大丈夫だと声を漏らした。

 

『むっ!緑谷少年大丈夫か!?』

 

「なんとか……まだ戦えます!」

 

 ちょっと無理をして立ち上がった。正直フラフラだ。メディカルのカードで回復剤を出せばある程度回復できるとは思うけど、かっちゃんがそんな余裕をくれるとは思っていない。

 

『ふむ……判った。訓練続行!ただし爆豪少年、さっきの攻撃もう一度使ったら今度は反則負けで強制的に訓練を終了する!』

 

「ちぃ…りょーかい。爆破がダメなら、殴り合いでぶっ潰す!」

 

 かっちゃんが爆破のターボで僕に突っ込んでくる。避けようとしたけど身体が思うように動かない。なんとか身体を横に反らしてかっちゃんの攻撃を転がりながらかわした。

 

「無様だなデクぅ!さっきまで有利だったのにもうお寝んねかぁ!?」

 

 好きで動けないんじゃ無いよ!

 

「昔から人の神経逆撫でしやがって!いくら潰しても気づけば這い上がって来やがって!無駄なトレーニングとかして目障りなんだよ!!」

 

 動けな事をいいことに今度はスタンピングの嵐だ。捕縛テープを貼り付ければいいのにそれをしない。かっちゃんは僕を完膚なきまでに敗北させる気だ。

 

「コイツで……止めだ!!」

 

 最後に飛び込む要領で爆破を仕掛けようとする。動けない相手に対しての大ぶりな攻撃、迂闊だぞかっちゃん!僕はまだ完全に動けない訳じゃない。

 

 腕を振り上げてデコピンの体勢を取る。指先にワン・フォー・オールを25%の出力で集中。威力は多少分散するけどこの距離なら!

 

「デラウェアスマッシュ!!!」

 

 デコピンの要領で撃ち出されたその衝撃はかっちゃんに命中、そのまま打ち上げられて天井へ激突した。そのままかっちゃんは落ちて床に叩き付けられた。

 

 今でのかなりのダメージを与えられたはずだ。今のうちに回復を――――。

 

「ぐっ……テメェ、舐めた攻撃…しやがって」

 

 もろに食らってまだ立てるのか!?遠距離で指向性がない分威力が下がったけど、まともに食らったはず。なんてタフネスなんだ。

 

「今度こそ……終わりだあああぁぁぁ!!!」

 

 かっちゃんが右腕を振り上げて僕にとどめを刺そうとしてきたけど突然かっちゃんの動きが止まった。

 

「この感じ……まさか……」

 

 かっちゃんの目線の先にいたのは、上に向かったはずのレイちゃんだった。

 

「どう?私が編み出してイズ君が命名してくれた私の必殺技『ゴーストロック』の拘束力は!」

 

 更にレイちゃんの後ろから二つの陰が飛び出した。拳藤さんと麗日さんだ!

 

「出久甚振った分とウチの物間巻き込んだ分だ。大拳『裁きの鉄槌』!!」

 

 巨大化した平手でかっちゃんを頭上から叩いた。手をどかせばかっちゃんは完全にのびていた。仕上げは麗日さんが捕縛テープを巻き付けてかっちゃんはリタイアとなった。

 

「イズ君大丈夫!?」

 

「ごめんデク君。折角チャンス作ってくれたのに無駄にしちゃって」

 

「いいよ、僕の見通しが甘かったんだから……」

 

「何言ってんだ。物間守ったあげくここまで爆豪追い込んだんだから十分敢闘賞だよ」

 

 拳藤さんは僕を称えてくれた。こんなにも褒められるなんて初めてだった。

 

 でも制限時間も迫っているので早く核兵器の確保に出ないと。

 

《アタックライド メディカル!》

 

 左腕に装着されたボックスからコズミックエナジーが凝縮された回復材が入ったアンプルを二本取り出して胸に突き刺す。ちょっと痛いけど体力と傷が癒えていくのがわかる。三人とも急に僕が注射したんで驚いたけど、1分もしない内に立てるまでに回復した。

 

 残り時間も少ない。核兵器の確保か飯田君と円場君の二人を捕縛しないと僕たちの負けだ。再度スコープで確認を取ったけど二人は5階から動いていない。

 

 走って階だんをっきにのぼりきったフロアに飯田君と円場君が空中に立っていた。

 

「ギャハハッ!!よく来たなヒーロー共!下手な抵抗は止めろ、こっちには核兵器があるんだぞ!」

 

「飯田…いくら訓練だからってそこまでまじめに成り切らなくても。…ぷっ」

 

 飯田君訓練でもまじめに役になりきっている。円場君は頑張って笑い堪えようとしてるし。

 

「空中に立っている!?」

 

「円場の個性だ。アイツの個性は『空気凝固』吐いた息を固めて透明な壁を作れる。それを足場にしているんだ」

 

 そう言えば円場君は個性把握テストの時はあの個性で立ち幅跳びて空を渡り続けてかっちゃん抜いたんだっけ。

 

「飯田そろそろ動くぞ。凝固できる時間だって限界がある」

 

「そうか。ならば残り時間このまま逃げ切るぞ!」

 

 飯田君が核兵器のハリボテと円場君を抱えて飛び出す。直ぐに円場君が新しい足場を作って部屋の中を縦横無尽に飛び走る。

 

「どうだ僕のスピードと円場君の個性!これを捕まえることが出来るかヒーロー共よ!!」

 

 そっちがそうするならこっちにも考えがある。

 

 通信機で他の三人に小声で作戦を伝える。直ぐに首を縦に振って作戦を開始した。

 

 まず麗日さんの個性で僕と拳藤さんを浮かべる。無重力になっているので軽く地面を蹴るだけで一気に飛び上がれる。曲がるときは壁や天井を蹴って方向を変更。

 

「空中戦か。しかし俺たちとは違い壁や床、天井でしか方向転換できない君たちには不利だぞ」

 

「残り時間五分。一気に逃げ切るぞ!」

 

 飯田君が更にスピードを上げる。ここまでは予想通り。下準備は出来た。

 

「今だ麗日さん、レイちゃん」

 

「解除!」

 

「それっと!」

 

 麗日さんが個性を解除して僕と拳藤さんが着地して壁際まで下がる。飯田君と円場君は天井に張り付けられた。

 

「な、何だこれはっ!?」

 

「よく見ろ飯田。これ極細のピアノ線だ。それがネットみたいになってる」

 

 藻掻いているところで捕縛テープが飛んできて二人に巻き付き、麗日さんが自分の個性で浮遊して核兵器にタッチした。これで回収条件クリアだ。

 

 作戦としてはこうだった。まず足場を作って逃げられる二人に対してただ追いかけては制限時間を迎えてしまう。だから僕と拳藤さんは麗日さんの個性で縦横無尽に飛び回って二人を捕まえようとするフリをした。床に目をいかせないために。

 

 床にはレイちゃんがポルターガイストで袖の裏に隠していたネット状のピアノ線を床のあちこちに配置。レイちゃんのコスチュームの袖には僕の思いつきで捕縛用のワイヤーやら捕縛ネットを隠すスペースを設けていていた。あとはタイミングを狙って麗日さんの個性を解除して壁際に退避、ポルターガイストで打ち上げたピアノ線のネットで捕縛。

 

 僕一人でクロックアップで高速移動して捕らえたりコンファインベントで個性無効化して捕まえても良かったけど、これはあくまでチーム戦。チームの力で勝つことが重要だと思ったので使うのは本当に時間ギリギリになるまで取っておいた。

 

『ヒーローチーム…WIIIIIN!!』

 

 こうして僕たちAチームは初の戦闘訓練で勝利を勝ち取った。

 

side out

 

 

no side

 モニタールームに戻った両チーム(爆豪と物間は気絶につき医務室に運ばれた)は整列してモニターで観戦していた他の生徒からの講評を聞いていた。

 

「今回のMVPは飯田少年と円場少年の二人だ!」

 

「えっ、俺たちMVPなの!?」

 

「しかし…訓練結果は負けのはずでは?」

 

「そこを判る人は手を上げて」

 

「はい、オールマイト先生」

 

 真っ先に手を上げたのはA組の八百万百であった。

 

「今回の演習、爆豪さんは私怨むき出しで戦闘に望み、かつ核兵器を守る状況下にもあったにもあれほどの大規模攻撃で施設の破壊。下手をすればビルの倒壊で自身や他のチームメイトを巻き込む可能性が高く核兵器を誤爆させてしまう可能性もありました。物間さんも爆豪さんほどではありませんが私怨で動いてましたね、相手チームを先に行かせないようにするなら先頭の柳さんを狙うのが一番いいのにもかかわらず最後尾の麗日さんを狙うのは愚策です」

 

 やっぱりなぁと言った顔をしたのはB組の面々であった。

 

「ヒーローチームの方も緑谷さんの能力が突出していたとは言え二人相手に一人で時間稼ぎは少々無謀でしたね。最初から四人と掛かればおそらくは無傷で捕らえることも可能でしたと思います。でも爆豪さんのあの大爆発の攻撃から敵とは言え物間さんを守ったのはヒーローとしては正しい判断だと思いますわ。柳さんと拳藤さん、麗日さんも個性を使っての援護はよく出来ていましたけど、やはり飯田さんと円場さんがご自身の個性をフルに使って核兵器の防衛を行ったところが特に評価できますわ」

 

「そ、その通りだ八百万少女。飯田少年も少し硬いところがあったが、よく出来ていたと思うよ(思っていた以上に言われた!!!!)」

 

 こうした風に戦闘訓練は続けられた。ビルの破損が思った以上に激しかったので場所を移して直ぐに二戦目が始まる。

 

 ちなみに爆豪と物間は二戦目が始まる頃に戻ってきた。

 

 さすがの爆豪も味方ごと巻き込んでの攻撃で他の生徒からの罵声を浴びたが、これを止めたのがオールマイトと出久であった。

 

「確かにあの攻撃は恐ろしいまでの破壊力だったが、爆豪少年も僅かにだが狙いをずらしていた。威力も派手だったが怪我をしても少なくとも死ぬことはなかっただろう」

 

「はい、防御したとは言えもろに受けていたら多分僕も完全に気を失っていたと思います。だから皆、あまりかっちゃんのことを攻めないであげて」

 

 結局出久の言葉でその場は収まった。しかしその後の爆豪は気に入らないという顔つきで残りの時間を過ごしていた。

 

 ちなみに物間はこの件でさんざん爆豪に文句やら嫌味をしてきたが、拳藤の手刀が首に炸裂して再び気絶した。

 

 二戦目ではA組推薦入学の一人轟焦凍がビル全体を氷漬けにして内部にいたヴィラン側を制圧して核兵器を確保するなど、他のチームも己の個性をフルに生かして戦闘訓練を行った。

 

 そんなこともあって彼らの初の戦闘訓練は終了した。

 

「お疲れさん!!大きな怪我もなく無事訓練を終われたね。色々課題も出たけど初めての訓練にしちゃ上出来だったぞ!本日はこれまで、着替えて教室にお戻り!!」

 

 そのままダッシュでその場を離れた。この時点でマッスルフォームを維持するのが既に限界ギリギリになっていたのだ。

 

 着替えて教室に戻ればホームルームまでの間出久はクラスメイト達に囲まれて揉みくちゃになっていた。

 

「緑谷凄ぇよ、あんだけやった爆豪の奴庇っちまうなんてよ、男だぞ!!俺切島鋭次郎、よろしく頼むぜ!!」

 

「ホント速くなったり分身したり忍者みたいで凄かったよ。あっ、私芦戸三奈ね!」

 

「B組の骨抜だ。物間の奴あの後礼も言わないで悪かったな。あんなんでも悪い奴じゃないんだ」

 

「捻くれてるけどな。私は取陰切奈よろしく」

 

 男女構わず出久に自己紹介やら凄いだ格好いいだなの感想を言っている内に相澤とブラドが教室に来てHRとなった。

 

 

 放課後。一年ヒーロー科の教室には生徒がまだ残っていた。今日の戦闘訓練のビデオを見て反省会をすると言うことになった。そこに爆豪の姿はなかった。黙って帰ったようだ。

 

 しかし出久はそれを見逃さず人知れず教室を出て玄関で爆豪を呼び止めた。

 

「かっちゃん!」

 

「ああ?」

 

 振り向いたがやはり機嫌は悪そうだった。

 

「俺のこと……笑いに来やがったのか?今で散々馬鹿にして来たから、俺にこと見下しに来たのか!?」

 

「………そんなこと言わないよ。かっちゃんは僕にとっては憧れでもあったし、同時に目標でもあった。個性が出て、今まで以上にトレーニングを積んで、少しでも追いつきたかった。だから…君ももっと本気になればいいよ!今回は運良く僕が勝ちを拾えたけど、ならもっと強くなって今度こそ僕に勝ちなよ!!僕がやれたならかっちゃんだってもっと強くなれるはずだよ」

 

 しかし爆豪は振り向こうともしなかった。

 

「……だから何だってんだ!?俺は今日、お前に負けた。そんだけだろうが、そんだけ………。氷の奴見て敵わねぇんじゃねぇかと思っちまった…!!ポニテの奴の言った言葉に納得しちまった…!クソ、クソッタレがッ!テメェにもだ…デク!!俺は……俺はここからだ!!ここから這い上がって、強くなって、そして………ここから俺が一番になってやる!!今度こそ……テメェが俺に勝つことなんてねぇからな!!クソが!!」

 

 それだけ言って爆豪は校舎を出た。側の木の陰からその様子をオールマイトは見ていた。

 

(ケアが必要かと思ったけど……余計なお世話だったかな。立ち直った爆豪少年がこれからどんな成長を遂げるかが楽しみだ。爆豪少年、自尊心も大切だけど自分の弱さ認めるのも大切なことなんだぜ!)

 

 生徒達の成長ぶりが楽しみになってきたオールマイト。

 

 しかし物語はそう簡単に進むモノではない。この数日後、雄英高校……いや、ヒーロー社会にも大きな影響を与える恐ろしい事件が起こることを誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 ここはどこかのバー。椅子に座っている男が置いた新聞の一面にはオールマイトが雄英高校の教師になった記事が載っていた。

 

「見たかこれ?教師だってさ…。なぁどう思う?平和の象徴が………ヴィランに殺されたらさ」

 

 真に賢しい悪意が、いよいよ牙をむこうとしていた。




今回レイ子と拳藤が使った必殺技、実はイナズマイレブンのモノを参考にしています。

レイ子のゴーストロックはゲーム3で採用された必殺タクティクス『ゴーストロック』。尾刈斗中が使った相手に暗示・催眠術をかけて動きを止める技です。

拳藤の裁きの鉄槌は世宇子中のディフェンス技『裁きの鉄槌』ですが、本来なら足の形をしたエネルギーみたいなモノが振ってくる技ですが、拳藤の大拳に合わせて巨大化した掌のビンタになりました。

この先もこのような必殺技が出てきます。ご了承下さい。


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NO.8 級・長・決・定

No side

 初の戦闘訓練の翌日。雄英の校門の前にはマスコミが群れを成して道行く生徒や教員にインタビューをしていた。その目的はもちろん先日新聞の一面を飾ったオールマイトの雄英での教師風景がどんなモノかを聞くためだった。

 

Qオールマイトの授業はどうですか?

「えっと……」

 

「すいません私たち今日日直なんで失礼します(嘘)」

 

 

Q平和の象徴が教壇に立っているとどんな感じですか?

「えっと……筋骨隆々?」

 

 

Q教育方針新体制の中オールマイトはどのようなことを?

「えっ、これテレビ映ってるの!?お父さんお母さん見てる?」

 

 

Q生徒から見たオールマイトはどんな感じですか?

「キラッキラだよ☆僕よりね」

 

 

Qオールマ……って君確か去年のヘドロの時の!?

「やめろ」

 

「すいませんコイツあの事件のこと気にしてるんでカットで。早く行くぞ**!」

 

 

Q小汚っ!貴方誰ですか!?

「彼今日非番です。授業の妨げになるのでお引き取り下さい」

 

 

 と言った具合に報道陣が詰め寄るが、校門さえくぐれば後は雄英鉄壁のセキュリティ、通称『雄英バリアー』が学生証や通行許可IDを持っていない者をシャットアウトする。

 

 そんな様子を人混みに紛れて見ている者がいる。

 

 

 

一年ヒーロー科教室―――――

「お早う諸君。昨日の戦闘訓練ご苦労だったな。Vっと成績見せてもらった。爆豪、能力はあるんだからもうガキみたいなことすんな。後で今回の訓練の罰があるから放課後に職員室に来い」

 

「…………わかってる」

 

 爆豪はそれ以上何も言わなかった。

 

「あれれれぇ、優秀なはずのA組が処罰されるなんて。これからは気をつけてほしいもんだね、味方ごと爆破に巻き込まれるのはごめんだよぉ~。あ~あ怖い怖い」

 

「物間、あんまり言い過ぎるとお前もブラックリストに載るぞ」

 

 担任のブラドに釘を刺される物間であった。

 

「とりあえず今日のHR、急で悪いのだが今日は君らに…」

 

 生徒達の取り巻く空気の色が変わった。ここはヒーロー科、そして発するのはあの相澤先生の言葉。臨時のテストか?それとも新たな試練か?皆体を強張らせる。

 

「A・B組それぞれ学級委員長を決めてもらう」

 

「「「「「学校っぽいの来たああぁ!!!」」」」」

 

 予想に反して意外にも普通であった。

 

「委員長!!やりたいですそれ俺!」

 

「オイラのマニフェストはスカート膝上30cm!!」

 

「僕のためにあるヤツ☆」

 

「リーダー!!やるやる!!」

 

 やる気満々の生徒達はこぞって手を上げる。だがこの男だけは違った。

 

「静粛にしたまえ!!多を牽引する責任重大な仕事だぞ…!やりたい者がやれる仕事ではないだろう!!周囲からの信頼があってこそつとまる聖務…!民主主義に則り真のリーダーを決めるというのなら…これは投票で決めるべき議案!!」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!なぜ発案した!!」

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

 

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそここで複数投票を取った者こそが真にふさわしいと思わないか!?どうでしょうか先生方!!」

 

「時間内に決まれば何でも良いよ」

 

「その辺はお前らの自主性に任せる」

 

 こうして飯田の発案で決まった学級委員長投票選挙。全員が他推自推して結果はこうなった。

 

A組

緑谷 3票(本人他推)

 

八百万 2票(本人自推)

 

耳郎・麗日・轟以外各1票(4人以外全員自推)

 

 

B組

拳藤 10票(本人他推)

 

柳 4票(本人自推)

 

鉄哲 2票(本人自推)

 

物間・泡瀬・取陰・黒色 1票(全員自推)

 

「何でデクに3票も入ってるんだ!?」(自推)

 

「まーおめぇに入れるよかわかるけどな!」(自推)

 

 性格に難のある爆豪に入れるよりは、話のわかる出久が委員長になるのが無難であると納得する者がほとんどであった。

 

 ちなみに投票発案者の飯田は。

 

「僕に……入れてくれた人がいた」

 

「他人に入れたのね………」(自推)

 

「お前もやりたがってたのに。……何がしたいんだ飯田…」(自推)

 

「あれれ?なんで僕1票なのかなぁ~」(自推)

 

「柔軟に考えてお前が委員長になったらA組との仲拗れまくるだろう」(拳藤に投票)

 

「それなら姉御肌の拳藤や柳に入れた方がまだ安パイだ」(レイ子に投票)

 

 結果、A組は出久が委員長、八百万が副委員長。B組は拳藤が委員長、レイ子が副委員長で決定した。

 

side out

 

 

出久side

 なし崩しの形で委員長になっちゃったけど、正直不安しかなかった。そんな不安を他所に時間が過ぎてお昼になった。

 

 いつものように食堂はヒーロー科はもちろん他の科の生徒も食事をするので満員御礼で席を取るのもちょっと一苦労だ。

 

 ちなみに今日の僕のお昼は回鍋肉定食。本当はカツ丼にしようとしたんだけどレイちゃんが、

 

「イズ君、カツ丼ばっかりだと栄養偏るよ。野菜も食べて栄養もバランス良く取る!」

 

 と言われてこれになった。

 

 例の如く席にはレイちゃん以外に麗日さんと耳郎さん、そして飯田君のいつもの顔ぶれが長テーブルの一角に集まった。それに加えて、

 

「出久、こっち座っても良いか?ほか空いてなくてさ」

 

 料理を乗せたお盆を持った拳藤さんと小大さんが声をかけてきた。

 

「別に構わないよ」

 

「食事は大勢でした方が楽しいしな」

 

 そして席に座る二人が持て来た料理に僕らは目を疑った。拳藤さんはスパゲティにサラダとジュースと普通だったけど、その隣の小大さんはハンバーグ定食と大盛りご飯だけならまだしも、からあげ(3個)、小鉢のヒジキの煎り煮、揚げ春巻き(2本)、エビフライ(2本)、ポテトサラダと追加注文していた。

 

「こ、小大君…そんなに沢山の量ちゃんと食べきれるのか?」

 

「平気平気。唯って見かけに反して結構食べるから」

 

「ん、これでも普段より少ない方」

 

(((((この量で少ない方!?)))))

 

 確実に食べ盛りの男子より多いと思うけど。そんなのも気にせず小大さんはひたすら箸を動かして料理を口に運んでいる。

 

 ふと話の話題がさっきの学級委員長の話になった。B組の拳藤さんはレイちゃんに一票入れていたらしいのだが、半数が拳藤さんに投票してなし崩しに委員長になったそうだ。

 

 そして僕の3票だけど、なんと僕に投票してくれたのはここにいる耳郎さんと麗日さん、そして飯田君の3人だった。僕は飯田君に入れたんだけどな。

 

「そうかアレは緑谷君だったのか。確かに委員長にはなりたかったが、僕は僕の意思で君がふさわしいと思った。戦闘訓練での強さに相手を許す心の広さ、認められたからこそ選ばれたんだ」

 

 認められた……僕はオールマイトに認められて個性を受け継いだ。仮面ライダーの力もそうだ。いろんな人に認められたから僕がここにいられるんだ。

 

「ねぇ、さっき僕って言ったけど飯田君って坊ちゃん?」

 

「ッ!?そう言われるのが嫌で一人称変えていたのだが……。あぁ俺の家は祖父の代から続くヒーロー一族で俺はその次男だ。《ターボヒーロー》インゲニウムは知っているかい?彼は俺の兄なんだ」

 

 インゲニウム!東京で事務所を構え65人ものサイドキックを雇っている若手の大人気ヒーローだ!!

 

「さすが緑谷君。兄は規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー。俺はそんな兄に憧れてヒーローを目指したんだ。まだまだ未熟な俺より、皆に認められる緑谷君が選ばれるのが正しいと俺は思う」

 

 そっか、僕がオールマイトや仮面ライダーに憧れたように飯田君もお兄さんのインゲニウムに憧れたんだ。原点こそ違うけど、目指す先は同じなんだ。

 

 それでも僕には………、

 

ウウゥ―――――――――!!!!!!

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』

 

「セキュリティ3が破られた!?」

 

「こんなの今までなかったぞ!?」

 

「ヴィランか?学校に侵入者が来たぞ!」

 

 突然の警報で生徒達が一斉に避難しようとして混乱が起こった。一斉に避難しようと据える生徒達出入り口がごった返しになっている。

 

 目の前の拳藤さんと小大さんが人波に飛ばされてしまい転びそうになった。咄嗟に手を伸ばして二人の腕を掴んだ。とりあえず転ばないで良かった。

 

「ごめん出久助かったよ」

 

「ん、ありがとう」

 

 どういたしまして。でも避難するにも全員を落ち着かせないと―――――。

 

「大丈ー夫!!侵入してきたのはマスコミです!パニックになることはありません、大丈夫!!今先生達も対処しています、落ち着いて急ださい!!」

 

 入り口の上に張り付いた飯田君が大声をあげてその場を収めた。ほかの生徒達もマスコミと聞いて落ち着きを取り戻したのかその後の避難は運良く怪我人0で終わった。

 

 その後、駆けつけた警察によってマスコミは不法侵入で撤退を余儀なくされた。

 

 そして午後の授業の前。選んでくれた人たちには悪いけど委員長を飯田君になってもらうよう提案した。あの状況下で皆を纏める飯田君がやるのが正しいと思ったからだ。

 

 こうして飯田君がA組のクラス委員長に決まった。しかし食堂での出来事でしばらく彼は『非常口』の渾名で呼ばれることは言うまでもなかった。

 

side out

 

 

no side

 騒ぎの発端となった校門へ教師達が集まっていた。

 

「ただのマスコミがこんなこと出来る?」

 

「そそのかした者がいるね………」

 

 目の前にある校門は、まるで瓦礫が崩れたかのようにボロボロ、幾重もの特殊装甲で出来た壁を崩すとなれば強力な分解系か崩壊形の個性持ち。

 

「邪な者が入り込んだか、もしくは宣戦布告の腹づもりか………」

 

 

 

どこかのバー―――――

「――――…内容は以上です。既に手はずと人員は整いましたので後は決行を待つだけです」

 

『ありがとう黒霧。では弔、思う存分やってくると良いよ。君のために用意したおもちゃも存分に使いたまえ』

 

「あぁ………ありがとう、先生」《ビルド》《エグゼイド》《クウガ》

 

 弔と呼ばれた男が、テーブルの上に置かれた3つの時計のようなモノを手に取りポケットへしまった。




今回の投稿の後にアンケート取ります。

内容は柳レイ子が変身する仮面ライダーを決定させることです。

色々悩んで、読者の決選投票で決めることにしました。色々すいません。

pixivでもアンケートを採るのでその結果のp合計で決めます。


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No.9 USJ襲撃

長い停滞でお待たせしました。七月中頃から仕事に忙殺されてなかなか書き切れませんでしたが、なんとか九月に入る前に書き上げました。


No side

 マスコミ侵入事件から何日かして、今日もヒーロー科の皆はヒーローになるための授業に取り組んでいる。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトそれともう一人の3人体制で見ることとなった。本当はブラドも入れて4人だったが、今日は運悪く出張だ」

 

 急に人数を増やしての授業。原因があるとすれば先日のマスコミ侵入事件が関係しているのだろうと考えている者は少なかった。

 

「はーい!今日は何するんですか?」

 

「災害水難何でもござれ、人命救助(レスキュー)訓練だ!!」

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

 

「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!腕が鳴るぜ!!」

 

「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

 

「まだ途中だぞ。今回の訓練コスチュームの着用は個人の判断に任せる。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

 相澤の号令で直ぐに着替え始めたヒーロー科の面々は玄関前に止まっているバスに集合した。皆コスチュームを着用していたが、出久だけは体操服に手袋やサポーターなどの一部装備をつけていた。

 

「デク君体操服だ、コスチュームは?」

 

「前の戦闘訓練の時にボロボロになっちゃったから今修繕中で…。サポート会社で素材とか一部仕様変更してから戻ってくるだって」

 

「皆静粛に!クラスごとに出席番号順に二列に並んでいこう!!」

 

 クラス委員長の飯田は委員長の仕事をフルスロットルで行おうとするが、バスの内装が都バス仕様だったため各々自由に座った。

 

 ちなみに長椅子の席に座った出久の両隣には耳郎と麗日が陣取っていた。

 

「両手に花かクソが!」

 

 親の敵で見るように峰田が睨んでくるが誰も気にしなかった。

 

 施設に着くまで雑談をしていると、出久の迎えに座っていた蛙吹梅雨が声をかけてきた。

 

「私思ったこと何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「えっと、何かな蛙吹さん?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。貴方の個性、どこかオールマイトに似ていると思って」

 

 ほぼ核心を突くようなことを言ってきたので出久は似ているだけだと言って全力で否定する。

 

「確かに似てっちゃ似てるけどオールマイトはベルトにカードさして武器出したり能力使わないぜ」

 

「バリバリ肉弾戦って感じだしな」

 

「でも増強系はシンプルだけど派手なこと多く出来て良いよな。俺の個性の《硬化》は対人戦じゃ強いけど地味だしな」

 

 他人の個性を羨ましがる切島に出久は「十分プロに通用するよ」といってフォローする。

 

「派手で強ぇつったら緑谷以外だと轟と爆豪だな」

 

「爆豪ちゃんはキレてばかりだから人気出なさそう」

 

「んだとコラ出すわ!!」

 

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるって凄ぇよ」

 

「テメェのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」

 

 普段怖いイメージしか持たない爆豪が周りから弄られるのを見て、出久と両サイドにいた麗日と耳郎は必死に笑いを堪えていた。

 

 

B組バス―――――

 一方B組のバスでもA組と同じように雑談をしていたが、その中で暗い表情をしている者がいた。そうレイ子である。

 

(イズ君と同じバスに乗りたかったなぁ~。こういう時だけ同じA組の響香とお茶子が羨ましい)

 

 出久と同じバスになれなかったので肩を落としてガッカリしていた。

 

「そんな落ち込むなって。教室じゃ一緒なんだしさ」

 

 落ち込むレイ子に声をかけて励ましてきたのは隣に座っていた拳藤だった。

 

「レイ子は幼馴染みなんだしチャンスは十分あるよ。私なんかハンデが大きすぎる」

 

 その言葉を聞いてレイ子は目を見開いた。

 

「一佳…まさか貴女も……」

 

「レイ子も強敵だけど、麗日や耳郎も出久と仲良いしね。でも負ける気はないよ」

 

 事実上の宣戦布告。だがレイ子も負ける気などさらさらなかった。

 

「私だって負けないよ。10年以上のこの想い、絶対成就させるから!」

 

 決意を新たにするレイ子。

 

 しかし、誰も予想だにしなかった。この後起こる全国に知れ渡る大事件を、ヒーロー社会を揺るがす真実を、そしてクラスメイトの知られざる真実を。

 

 

 施設に到着し、中に入ったヒーロー科一同はその内装に驚いた。まるで関西にある某テーマパークを彷彿させるようなものであった。

 

「すっげー、USJかよ!?」

 

 倒壊した市街地もあれば森林地帯、火山地帯に渦潮を作っているプール。この施設だけでほとんどの災害や事故が再現されている。

 

「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も『ウソの災害や事故ルーム(U  S  J)』!!」

 

(((((本当にUSJだった!!)))))

 

 現れたのは重厚な宇宙服のような人物。《スペースヒーロー》13号だ。災害救助でめざましい活躍をしている紳士なヒーローだ。

 

「わー、私13号大好きなの!!」

 

 好きなヒーローが現れて麗日は飛んで喜んだ。

 

「13号、オールマイトはどうした?ここで待ち合わせるはずだが」

 

「先輩それが………オールマイト通勤時に制限時間ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでいます」

 

「不合理の極みだな(まぁ念のための警戒態勢だ…)。全員整列しろ」

 

 整列して最初に口を開いたのは13号だった。

 

「えー、では訓練を始める前に小言を一つ二つ…三つ…四つ…」

 

(((((増える……)))))

 

「皆さんもご存じだと思いますが、僕の個性は《ブラックホール》どんなモノでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「はい、その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

「えぇ……しかしです、この個性は簡単に人を殺せます。皆さんの中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 出久のワン・フォー・オールは高出力で使えば簡単に人を殺せる。爆豪の爆破や芦戸の酸、麗日の無重力(ゼログラビティ)だって浮かべて高いとこから落とせば十分に殺傷能力がある。仮面ライダーの力だって決して例外ではない。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないで下さい。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したと思います。この授業では心機一転!人命のために同個性を活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。以上!ご清聴ありがとうございました」

 

「ブラボー!皆13号先生に拍手を送ろう!!」

 

 飯田に言われずとも全員が13号に向けて拍手や声援を送った。

 

「よしそれじゃまず……――――っ!」

 

 中央の噴水広場から黒い靄のような物が現れたことに相澤が気づいた。

 

 靄は広がり、そこから全身に手をつけた男を先頭に異形型個性であろう者達や鉈や鉄パイプを持った大人数がぞろぞろと現れた。

 

「全員一かたまりになって動くな!!13号生徒を守れ!!」

 

 突然叫ぶ相澤に全員が身震いした。

 

「なんだあいつら?」

 

「入試の時みてぇにもう始まってるってパターンか?」

 

 何人かが雄英お決まりの緊急試練だと思った。しかし……

 

「動くな、あれはヴィランだ!!」

 

 その考えは相澤のこの一言で一瞬に粉砕された。

 

side out

 

 

出久side

 ヴィラン!?何でここにヴィランが現れたんだ!?

 

「13号に……イレイザーヘッドですか…。先日頂いた教師側のカリキュラムにはオールマイトがここにいるはずなんですか……」

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったのか」

 

「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…オールマイト…平和の象徴……いないなんて…。子供殺せば来るのかな?」

 

 コイツ……雰囲気だけでもかなりヤバいぞ!!並の怪人どころじゃない、下手をすれば危険度は強個体の怪人ぐらいはある。

 

「ヴィランッ!?バカだろ、ここ雄英だぞ、ヒーローの学校だぞ!」

 

「プロやヒーロー候補生いるの判って襲撃するなんてアホだろう!!」

 

「先生、侵入者用のセンサーは?」

 

「もちろんありますが……」

 

 現れたのはここだけなのか?それとも学校全体なのか?どっちにしてもセンサーが作動しないってことはおそらくヴィラン側にそれを無効化できる個性持ちがいる。

 

 校舎から離れた隔離空間、授業受ける生徒に担当教諭まで割れている。少なくともあいつらは目的を持って用意周到に準備をしてここに来た。目的までは判らないけど。

 

「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策も頭にある連中だ、電波系の個性で妨害している可能性もある。上鳴お前も個性で連絡試せ」

 

「っス!」

 

「相澤先生はどうするんですか!?戦うにしてもイレイザーヘッドの戦闘スタイルは個性を消して捕縛すること。多勢に無勢では不利ですよ!」

 

「……いいか緑谷、一芸だけじゃヒーローは務まらん」

 

 相澤先生が突撃を仕掛けた。それを見た連中の一人が先生に手を先生に向けた。おそらく射撃型の個性。でも発動されることはなく捕縛布で捕まって分銅のように振り回されて相手と倒していく。

 

「馬鹿、コイツはイレイザーヘッドだ!見た相手の個性を使えなくさせるヒーローだ!」

 

「なら俺たちの出番だ!個性消すつっても異形型の俺らは無理だろう!」

 

 異形型個性持ち二人が襲いかかってきたが、先生はそれを軽く避けて拳で目潰し、足下を狙って体勢を崩す。

 

「確かに変形系や発動系しか消せないが、お前ら異形系のような連中は基本近接主体が多い。だがその辺も対策している」

 

 近接戦闘も出来てゴーグルで誰の個性を消しているかも悟らせない。そのせいで連中は連携が取りづらくなっている。先生の本来のスタイルは多対一!後でノートに書き込まないと。

 

「感心してないで早く逃げるぞ緑谷!」

 

 あっごめん。直ぐ避難する皆の後を追う。

 

「させませんよ」

 

 避難する僕らの前に靄のヴィランが立ち塞がった。

 

「初めまして、我々は敵連合(ヴィランれんごう)。せんえつながら…この度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 はっ!?こいつらの目的はオールマイトを……殺すために来たのか!?

 

「私の役目はこれ」

 

 何かしようとした瞬間13号先生が構えようとしたけど僕の横から何かが飛び出した。かっちゃんと切島君だ!

 

「その前に俺たちにやられるとは思わなかったのか!?」

 

「死ねクソ靄野郎!」

 

 二人の攻撃が靄のヴィランに決まった………かに見えた。

 

「危ない危ない……そう、生徒といえど優秀な金の卵」

 

「ダメだ、どきなさい二人とも!」

 

 二人が前に出ては13号先生のブラックホールに巻き込まれる。これでは手出しできない。

 

「散らして、嬲り殺す」

 

 靄が広がって僕たちを包み込もうとする。何人かは範囲外だけど確実に飲み込まれる人もいる。

 

 さっきこの靄からヴィラン達が出てきた、考えるにコイツの個性は貴重なワープ系個性か。そしてさっきのセリフから察するに、僕たち生徒を大勢で潰す手はずがある。

 

「皆近くの人と固まるんだ!孤立することだけは絶対に避けるんだ!!」

 

 孤立して各個撃破されるのは最悪のパターン。戦闘向けの個性じゃない人はもっとマズイ。生き延びる可能性を少しでもあげるのなら、最低でも二人以上のグループで飛ばされる方がましだ。

 

 僕は近くにいたレイちゃんと泡瀬君の腕を掴んだ。他の人たちもなんとかグループを作っている。

 

「出久!」

 

 小大さんの腕を掴んでいる拳藤さんがこっちに走ってきた。少しでも固まらないと。

 

 僕は腕を伸ばすけど、その前に視界が暗転した。拳藤の手に届かなかった。

 

side out

 

 

no side

 視界の黒い靄が晴れて出久の目に映った先には、鬱蒼とした森林地帯の上空であった。すぐ側には手を引いた泡瀬とレイ子もいた。

 

 3人はそのまま林の木に突っ込んで地面に落ちた。幸いにも木がクッションになったので大きな怪我はなかった。

 

「ぺっぺッ!おいお前ら大丈夫か…―――」

 

 泡瀬が見たその先には。出久の下敷きになったレイ子の姿があった。しかも出久の右手はしっかりとレイ子の胸を掴んでいた。

 

「「っ!!//////」」

 

 二人とも顔を真っ赤にして直ぐ立ち上がった。

 

「ごごごごごごごめんレイちゃん…別に悪気は……」

 

「いいいいいいいいいの、別に気にしてないから……」

 

「お前らイチャついてる場合じゃねーぞ。多分施設の中だとは思うけど皆とバラバラにされちまった。どれぐらいのグループに分散されちまったかは判らねーけど、戦闘向けの個性持ちじゃない奴らが固まったら危ないぞ!」

 

 現状出久が咄嗟に固まるように言い放ったのだからさほど分散はされていないとは思うが、それでも少人数のグループに大勢を送り込んでもおかしくない。

 

「とにかく今は出来るなら他のグループと合流して共同戦線を張ることと先生達のいる中央広場に行くことが先決だね」

 

 味方と合流できれば襲われるリスクも少なくなる。それにプロである教師達と合流できれば勝ち目も十分ある。

 

 とにかく合流を第一目標として出久達は動くことになった。

 

 移動する前に周囲に敵がいないか確認をするために出久がスコープで索敵すると、自分達にに接近する反応が7つ確認できた。

 

「二人とも気をつけて、ヴィランが来る!」

 

 叫んだのとほぼ同時にヴィラン達が飛び出してきた。

 

「見つけた3人いるぞ!」

 

「男二人に女一人だ」

 

「ちっ、女は一人だけか」

 

「やっぱり向こうに行けば良かったぜ」

 

 ぼやくヴィランだが現れたのは4人だけ、となると残り三人はどこへ。

 

「まぁ美人だし胸もデケぇ。コイツは遊び甲斐がありそうだ。野郎二人とっとと殺っちまってから向こうと合流すんぞ!女の方はお前らに任せた」

 

 ふとレイ子の頭上から陰が堕ちてきた。上空からトンボの羽を生やしたヴィランと鳥形のヴィラン、下半身を竜巻のようなモノで覆って飛ぶヴィラン。その三人がレイ子に強襲を仕掛けてきた。

 

「レイちゃん!」

 

「お前の相手はこっちだ坊主!」

 

「血ぃ流せや!!」

 

 岩のような体表のヴィランとカマキリのようなヴィランが出久に襲いかかってきた。既に実戦経験をそこそこ積んでいる出久には攻撃が雑に見えるのでアッサリかわされる。

 

(威勢の割には攻撃が雑だ。おそらく程度で言えばチンピラ程度か。それならつけいる隙は十分ある!)

 

《アタックライド ドッガハンマー!》

 

 呼び出した紫色の魔鉄槌『ドッガハンマー』で岩ヴィランを叩き飛ばす。続くカマキリヴィランもライドブッカーをガンモードにして撃ち落とす。

 

「緑谷手貸すか武器くれ!溶接したいけど触る暇がねぇ!」

 

 武器を持ったヴィラン二人に追いかけ回されている泡瀬。さすがにステゴロはキツいようだ。

 

「これ使って!」

 

《アタックライド ジカンデスピア!》

 

 緑色の槍『ジカンデスピア』が現れて泡瀬の元に飛んできた。

 

「槍………なのかこれ?」

 

 形状からして槍かどうかが疑わしいが、出久が出した武器ならまず間違えはないと思ったのか使うことにした。

 

 振り下ろされた鉈を受け止めて押し返す。鉈は若干刃をこぼしたが、ジカンデスピアは無傷であった。

 

「マジかよ!?どんだけ固てぇんだ。このパネルみたいなのも何だ?」

 

 試しに押してスライドしてみると『カマシスギ!』と音声が鳴って槍が鎌に変形した。

 

「槍が鎌になった!?」

 

「ごちゃごちゃうるせぇぞ!」

 

 鉄パイプを持ったヴィランが襲いかかってくるが、直ぐにバックステップを踏み鎌の先で足を引っかけて相手を転ばせる。その隙に相手に触れて相手と地面を溶接させた。

 

 泡瀬の個性は《溶接》。触れたモノを分子レベルで結合させるので相手の体を地面と結合させて拘束したのだ。

 

「コイツ!」

 

 鉈を持ったヴィランが襲いかかってきたが、後ろから出久がドッガハンマーで頭を叩いて気絶させた。

 

「緑谷……お前顔の割に結構えげつない攻撃するな。ヴィランとはいえ鈍器で頭ぶん殴るとか」

 

「正当防衛だよ。それよりもレイちゃんの方を―――――」

 

 ふとレイ子の方を向けば、レイ子を襲っていたヴィラン達はネットで捕縛されたり、ワイヤーで縛り上げられたりしていた。

 

「よく捕まえられたなこいつら飛んでたのに」

 

「林の近くでワイヤートラップ張ったり近づいてきたところでネット飛ばしただけよ。アメリカにいたときも不審者襲ってきたときに同じ事して捕まえたわ。あっちじゃ正当防衛なら個性の使用は目を瞑ってもらえるし。日本は変なところで規制固いから」

 

 さすがはアメリカ帰りというか何というか。とりあえずレイ子が捕らえた三人と出久が倒した三人も地面に溶接して逃げられないようにした。

 

 その間に出久はもう一度スコープで辺りをサーチし、他にもディスクアニマルのアカネタカ、カンドロイドのタカカンドロイドを呼び出して四方に飛ばす。

 

 なぜここまで入念に探りを入れるのかと言えば、先ほどのヴィランが言った一言が頭に引っかかったからだ

 

 

『やっぱり向こうに行けば良かったぜ』

 

 

 そして合流するとも言っていたところからこのエリアには他にヴィランのグループと生徒のグループがいるはず。それを探り当てるにはスコープだけではカバーしきれない。ゆえに索敵能力のあるカンドロイドやディスクアニマルも動員したのだ。

 

 詳しい索敵の結果不味いことが判明した。

 

「近くに二人いる。しかも十人ぐらいの大人数に追われている!」

 

「「…ッ!」」

 

「さっきこいつらは向こうに行けば良かったって言ってた。こいつらの言動からして追われているのは多分女子生徒だ」

 

「最悪じゃねぇか!」

 

「どうする?救援呼んでたら多分……」

 

「……行くよ。僕たちで助けよう!」

 

 三人の行動方針が決まった。




この投稿を持ってアンケートの募集を終了します。

皆様のご意見や一票ありがとうございました。


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No.10 ガールズ・イズ・デンジャラス

かなり久しぶりの投稿でお待たせしました。

最初に言っておきます。今回登場するヴィランははっきり言ってゲスです。私が思いつく限りで頑張って書いて犯罪者です。そして主犯格は他作品のキャラを流用しました。

それでも大丈夫という方はどうぞ!


一佳side

 今私と唯は森林の中を全速力で走って逃げていた。後ろからはゴツいヤツや武器を持ったヴィランが私たちを追いかけていた。

 

 最初に連中と鉢合わせたときまず真っ先に逃げた。戦っても良かったが人数は向こうの方が上、いきなりの遭遇で心の準備も出来ていなかった。あの時出久に手を掴めていればと後悔するのは後だ。

 

「待てよ嬢ちゃん達!」

 

「お兄さん達と楽しい事しようぜ」

 

 何が楽しいことだ。完全に身体目的の変態共だろ!自分で言うのも何だけどスタイルだって自信あるし男勝りなところもあるけど美人だとも思っている。唯だって口数少ないけどスタイル良いし女の私から見ても綺麗だ。男子からの人気も高い。

 

 でも走ってだいぶ敵の数も少なくなってきた。事前に唯とも打ち合わせていたから合図を送った。

 

 唯が投げたのは肩や腰に付けているポーチに入れていたナットやネジ、ベアリング等だ。それを後ろに投げつけてから「大」と一言言うと投げた物が大きくなって追ってはそれに潰されたり衝突してしまう。

 

 唯の個性は《サイズ》。手で触れた物(生き物以外)を任意のタイミングで大きくしたり小さく出来る。解除するときは麗日と同じで手を合わせている。

 

 レイ子みたいに物を動かす系の個性持ちと組めば飛んできたボルトやナットとかが突然大きくなって絶大な攻撃力を発揮するが、逃げる分には今の使い方で十分だ。

 

 ある程度振り切ったところで一度小休憩。走ってばかりでは体力が持たない。

 

「だいぶ振り切ったと思うけど唯はまだ走れる?」

 

「ん。まだナットやベアリングも十分ある」

 

 逃走するには十分。後は上手く他のグループか先生達の所までたどり着けば一番良いけど―――。

 

「全くチンピラ達は役に立たないっすね。ここはアタチの出番ってわけっすよ」

 

 しまったまだ追っ手がいた!林の奥からヴィランが二人姿を現した。一人は蜘蛛みたいな奴でもう一人はガスマスクみたいなのを被っている。

 

「お嬢ちゃん達美人っすから良い作品が出来そうっすよ」

 

 コイツどこかで………思い出した!テレビや新聞で全国指名手配になっているヴィラン名『タランス』。婦女暴行・殺人と現金強奪、しかも被害者女性をいたぶる様を動画で録画してネットでアップさせる猟奇殺人犯だ。

 

「その様子からしてアタチが誰か気付いたみたいっしゅね。そうでーす!全国区で有名人のタランスことタラちゃんで~す!!」

 

 こんな気持ち悪くてテンション高いタラちゃんはいてほしくないな。

 

「黒霧から預かった兵隊全然役に立たないから頭きて自分から動いてやったしゅよ。まぁ大半が金に目がくらんできたチンピラだから仕方ないっしゅけど、アタチはちゃんと頭使う方っしゅよ!」

 

 口から何か飛び出してきた。木に命中するとネット状の蜘蛛の糸だ。コイツの個性は《タランチュラ》。粘性の糸を飛ばして相手を捕まえたり、速乾性の高い糸を弾状にして拳銃やマシンガンのように撃ってくるとテレビで言っていた。

 

「お嬢ちゃん達はアタチだけで十分。なんかあればアレで動き封じるように」

 

「了解」

 

 隣にいる男が下がった。二対一、仮にもう一人が参戦したとしてもなんとか切り抜けきれる!

 

 思ったと同時にタランスに突撃を仕掛けた。唯も援護のためにナットやボルトを投げてくる。

 

 私に当たらないようタイミング良く巨大化させて目眩ましをする。これは目眩ましと同時に楯だ。一気にかけて背後に回り込む。

 

「アタチの個性のことはテレビとかで見ていないんすか?糸が出るのは口だけじゃなくて、腰のこの糸囊からも出るんしゅよ!」

 

 大きなネット状の糸が飛び出たがその辺は対策済みだ。すぐさま手に持っていたナットを頭上に放り投げた。「サイズ!」と叫んだのと同時に唯が個性を発動。

 

 このナットは唯が一度触ったナットだ。合図と同時に大きくさせる。ネットは私ではなくナットを捕らえた。

 

 この隙を逃す訳にはいかない。一気に接近して拳を振り上げる。これで止めだ!

 

「言ったしゅよね、アタチは頭を使うって!」

 

 振り返って両手を構えたタランスの手から糸のネットが発射され、私を捕獲しそのままフルスイングして近くの木にぶつけた。

 

 な、何で!?アイツの個性は蜘蛛っぽいことと口と腰の糸囊から糸を出す個性のはず。手から出るなんてテレビでも報道されてないのに………。

 

「テレビでアタチの手の内バレてるんすよ、対策打つのは当たり前。連合に加わったときの前金使って手からでも糸を出せるサポートアイテムの製造依頼してたんすよ。アイテム使うのはあんたらヒーローだけじゃないんすよ!」

 

 裏の違法サポートアイテム!コイツが強気で来たのはそのせいか。

 

「一佳!」

 

 私が捕まったのを見て唯が飛び出してきた。

 

「ツートンカラーの嬢ちゃんにはコイツをくらいな!」

 

 もう一人のマスクを付けた男が唯に向けてガスを放った。

 

(毒ガス!?)

 

 ガスを受けたけど直ぐ後ろに下がった。

 

「あ~あ。浴びちゃったスか、そのガスを」

 

ボトッ

 

 何かが落ちる音がした。ふと見ると唯が腰や肩に付けていたポーチが落ちている。それだけじゃない、唯のコスチュームがどんどんボロボロになって崩れていく。

 

「ちょっ……うそっ……」

 

 咄嗟に身体を隠そうとしたけど、直ぐにタランスが糸玉を飛ばしてきて唯を側の木に貼り付けた。

 

「俺の個性は可燃性の分解ガスだが、通常時では精々紙を解かすのがやっとだし飛距離も短い。だがタラさんの助言でこのマスク付けたおかげで飛距離も伸びマスク内で濃度を自在にコントロールできる」

 

「金と手間と慣れは必要っすけど薬で弱個性強化するより安全。ヒーローと、まして雄英の生徒相手するんすから用意周到でないとね」

 

 完全に甘く見ていた。その直後にさっきまで私たちを追いかけてきた連中が合流してきた。

 

 

side out

 

 

no side

「さっきはよくもコケにしてくれたな嬢ちゃんよ!」

 

 2~3人のヴィランがネットで身動きのとれなくなった一佳をスタンピングし始めた。腹を蹴り、頭を踏みにじる。それでも一佳は涙を見せず逆に睨み返した。

 

「ストップストップ!傷だらけじゃ商品価値下がるっす。出来るだけ綺麗に、そしてその娘が一番悔しがって絶望したところを動画に収めてから殺すっす」

 

 一人がビデオカメラを回し始め、タランスが一佳の頭を掴んで無理矢理立ち上がらせる。

 

「動画をご覧の見なさ~ん、配信者のタラちゃんで~す!今日は超スペシャル企画『雄英高校襲撃!無残に散る二人の女ヒーロー候補生』!!アタチ達は今雄英高校に敵連合として襲撃、そして今年入学したばかりの未来のヒーロー候補の女二人を見事に捕獲しました~!」

 

 カメラがじっくり一佳と唯を撮して再びタランスにカメラを向ける。

 

「ではこれより、無抵抗の女ヒーロー候補を複数のヴィランのお兄さん方が無茶苦茶にしちゃいます。まず最初に………そこの無残にコスチュームを溶かされちゃった黒髪ちゃんからいってみましょう!」

 

「っ!…やめろ!唯に手を出すな!やるんだったら私だけにしろ!!」

 

「おいおい自分の立場判ってるのか?安心しな、そっちの嬢ちゃんが嬲られるの見届けさせてやったら直ぐ嬢ちゃんも同じ目に遭わせてやるからよ」

 

 仲の良いクラスメイトの前で公開処刑。これほど精神的ダメージが大きい物もない。顔を背けようとする一佳を無理矢理唯がいる方に向けさせた。

 

「しっかり見せるんすよ、お友達を目の前で壊されて自分も同じ目に遭うんすから!」

 

「ハイよタラさん。どっちもガキにしちゃ良い身体してやがるから楽しめるぜ」

 

 舐めるように唯の身体を見る男達。唯自身もこの後自分が何をされるのかを判っているのでなるだけ目を背ける。

 

「犯っちまうぞ!俺はそのたわわな胸からだ!!」

 

「残ったコスチュームも全部剥ぎ取っちまえ!!」

 

「口も尻も全部使うぞ!」

 

 一斉に男達が襲いかかってきたそのときであった。

 

『クロックアップ!!』

 

 その音声と共に唯に飛びかかろうとした男達が一斉に吹き飛ばされた。同時に唯を拘束していた糸も切り飛ばされて唯の身体も自由になった。

 

「な、なんすかせっかくの良いところで………」

 

『クロックオーバー!』

 

 唯が顔を向けたそこには彼がいた。雄英の体操着に手袋やブーツなどの一部のコスチューム、そして独特の形状のバックルがついたベルト。緑谷出久がこの場に推参した。

 

「出久!」

 

「……緑谷君」

 

「ごめん遅くなった。大丈夫――――って小大さんコスチューム!」

 

「ん!?////////」

 

 赤面になった唯が直ぐ身体を隠す。下半身こそ膝など一部に穴が空いているだけだが、上半身は既に胸全部が見えるか見えないかの状態であった。

 

 出久は直ぐ自分の体操着の上着を脱いで唯にかぶせた。紳士である。

 

「ごめん、とりあえずそれで我慢して」

 

「ん…ありがとう………」

 

 再び振り向けば起き上がったヴィラン達が再び立ち上がってきた。

 

「巫山戯やがってせっかくの楽しみを!」

 

「テメェぶち殺して仕切り直しだ!」

 

 威勢よく突撃を仕掛けるが、それは空から降り注いだ銃弾の雨によって阻まれた。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

 上を向けば、スライダーモードのマシントルネイダーに乗った泡瀬がGX-05ケルベロスを構えていた。

 

「無事か拳藤、それに小大も!」

 

「泡瀬!」

 

「私もいるよ!」

 

 マシントルネイダーから飛び降りてきたレイ子は両手に無双セイバーと大橙丸を構えていた。

 

「泡瀬君は上から援護、こっちは僕とレイちゃんが引き受ける」

 

《アタックライド ガルルセイバー!カブトクナイガン!》

 

 レイ子と同じく二刀流になった出久も同時に駆け出して戦闘を開始する。

 

 向かってくる敵を剣で切り伏せ(殺していません。峰や側面で叩いています)、敵の数を減らしていく。

 

 レイ子も近くに落ちている唯のポーチを見つけて即座に個性でナットやベアリングを操って牽制しながら切り込んでいく。

 

「もうなんすか、たかが三人増えたぐらいで!こうなったら全員纏めて一本釣りにしてやるっすよ!!」

 

 タランスが両手を合わせて巨大な蜘蛛の巣状のネットを出久達の上空に撃ち出した。

 

 これに反応した出久はすぐさま持っている剣を捨てて新しい武器を呼び出した。

 

《アタックライド ヒーハックガン!ファイヤースイッチ!》

 

 ヒーハックガンにファイヤースイッチをセットしてその銃口をネットに向けた。

 

《ファイヤー! リミットブレイク!!》

 

「ライダー爆熱シュート!!」

 

 放たれた火炎放射で頭上のネットを全て焼き尽くした。

 

「そんな!?」

 

「僕のクラスメイトを、仲間を傷つけようとしたお返しだ!」

 

 今度はタランスに向けて火炎放射を発射するが、ガスマスクのヴィランが前に立ち塞がった。

 

「ここは一端引きましょうタラさん!」

 

 可燃性ガスの煙幕を発射し、煙幕に引火した炎が爆発を起こした。爆炎が晴れた後には二人の姿はなかった。

 

「逃げられた!」

 

「イズ君、今は逃げたアイツらよりコイツらの捕縛が先。野放しにしたらやっかいだよ」

 

 レイ子が追撃しようとした出久をなだめて止める。今倒した連中だけでも捕縛しなければ他のエリアに合流して他のクラスメイト達も危ない。

 

 泡瀬が降りてきて倒したヴィラン達を溶接して動けなくさせる。レイ子もネットで捕らえられていた一佳を解放した。

 

「助かったよ三人とも。あのままだと私たち酷いことされてた」

 

「イズ君に感謝してね。少ない情報で追われてるのが女子生徒だって気付いてこっちに向かってきたんだから」

 

「サンキュー出久。ほら唯も御礼―――唯?」

 

 ふと唯の方に声をかければ身体を震わせていた。無理もない、一歩遅ければ自分がヴィラン達の慰め物にされていたのだから。

 

「ごめんね小大さん、僕たちがもっと早く到着していればあんなことにならなかったのに」

 

「ん……緑谷君は悪くないよ。でも…もしあのまま来てくれなかったらと思ったら……もの凄く怖くなって……」

 

 身体を震わせながら涙がこぼれ落ちた。

 

「女性ヒーローだとそんなことに遇う可能性も高いと思う。でもそれは一般の人だって同じだよ。警察でも対処しきれない犯罪に立ち向かうヒーロー、僕たちがプロになったらそんな現場に立ち会うかもしれない。でもその時は、僕らが被害者を助けて安心させるんだ。同じように困ったヒーローがいれば僕たちが手を差し伸べれば良い。ヒーローだって普通の人間なんだ。小大さんが困ったなら、出来る範囲で僕も助けるよ。だってこれからのヒーローは助け合いが必要だから」

 

 震えている唯を優しく抱きしめた。唯の中で唐突な安心感があふれ出した。

 

「………困ったらまた助けてくれる?」

 

「できる限りで良ければ」

 

「ん……ありがとう/////(何だろう?凄くドキドキする////)」

 

 感動的な場面に見えるがレイ子と一佳の目には別の物が思い浮かんだ。

 

(イズ君……ヒーローとしての高説は良いけど……なんでそうナチュラルに女の子落とすの!?)

 

(これ絶対唯落ちちゃったよね?完全に出久に惚れちゃったよね?)

 

 嫉妬と同時に怒りの炎が燃え上がった。それを見ていた泡瀬は(女の嫉妬は怖ぇ)と内心でびびっていた。

 

「とにかく他の皆も助けつつ先生の所に行こう」

 

「けど一つずつ回っていたら時間掛かるぜ」

 

「大丈夫、手は考えているよ」

 

 出久はライドブッカーから新たなカードを出した。

 

《アタックライド イリュージョン!》

 

 イリュージョンのカードで分身体を作り更にカードをセットする。

 

《アタックライド デンライナー! ゼロライナー! ドラゴライズ!》

 

 呼び出したのは時の列車『デンライナー』と『ゼロライナー』、そして巨大ファントム『ドラゴン』を呼び出した。

 

「分身達にこれで皆を集めて貰うよ。頼んだよ」

 

「「「任せてよ!」」」

 

 分身出久達はそれぞれ乗り込んで他の生徒の捜索に向かった。

 

「僕たちは先生達の所へ直接向かおう!」

 

《アタックライド タイムマジーン!》

 

 エアバイク形態のタイムマジーンを呼び出してコックピットに乗り込む。

 

「皆も早く乗って!」

 

 乗り込むようにせかすが一同は唖然としていた。分身をだすだけならまだしも、空を飛ぶ列車にドラゴン、はたまた巨大エアバイクまで呼び出す出久になんと言えば良いか言葉が見つからなかった。

 

「これ……やり過ぎじゃね?」

 

「今更イズ君の規格外能力に質問されても……」

 

「でもとりあえず安全第一ってことで……」

 

「ん………」

 

 取り合えず何も言わずに受け入れることにした。

 

 

「ちょっと中狭いのは勘弁してね!」

 

「いやこんな安全な乗り物で移動できるだけで十分だ!」

 

「おまけに空飛べるし。見た感じ変形とか出来そうじゃん」

 

「うん、実際ロボットモードになれるよ」

 

「ロマンの塊か!」

 

 安全に移動できるためか、心なしかテンションがハイになっている。

 

「見えた、僕たちが最初にいた広場だ!」

 

「後は先生と合流できれば―――――っ!?」

 

 一同はモニターに映ったそれを見て思考が停止した。

 

 かなりの人数のヴィランが倒されているが、その中央には―――――黒い巨躯で石のような牙、鳥のような尖った口、頭部から目元にかけて脳みそのような物が囲んでいる目、そして血塗れで腕をへし折られている相澤を押さえ込んでいる。

 

 離れたところでは13号が負傷して倒れている。背中が酷い裂傷で戦闘不能状態だ。

 

 ふと少し離れた水辺に人影が見えた。梅雨に峰田、それに回原に小森の4人がいたが、相澤が倒された光景を見て身動きが出来なくなっていた。

 

 ふと手だらけの男―――――死柄木弔が4人に気づいて、一気に接近してきた。

 

「マズイ!」

 

 タイムマジーンを自動操縦に切り替えて出久は飛び出して、頭上から男に攻撃を加える。

 

「やめろぉぉぉ!」

 

 慌ててはいたが出久は力の制御を怠ってはいなかった。自身も傷つかず、なおかつ相手にダメージは与えるが死なないレベルの攻撃。

 

 出久の攻撃は楯になった黒い巨躯の怪物に命中した。しかし怪物は微動だもしなかった。

 

(無傷!?一部使用の最大上限二十五%のスマッシュが効かない!?)

 

 死柄木が梅雨に触れたが何も起こらなかった。

 

「…しぶといな、イレイザーヘッド」

 

 既にズタボロだった相澤が個性を無効化していた。

 

 そのすきに梅雨が長い舌と両腕で出久達4人を抱え込んで退避しようとしたと同時にUSJの入り口のドアが吹き飛んだ。そこに現れたのは、

 

「もう大丈夫。私が、来た!!」

 

 No1ヒーローが救援に来てくれた。



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No.11 MHA:襲来!アナザーライダー

なんとか二話目投稿に持ち込めた!

多分この後仕事で忙しくなるから更新できないかもしれないので頑張りました。


オールマイトSide

「オールマイト!!」

 

「あ―――――…コンティニューだ」

 

 嫌な予感がして校長先生の話を無理矢理振り切ってきて良かった。途中施設を脱出して校舎に向かっていた飯田少年からだいたいのあらましは聞いていた。

 

 生徒達は怖かっただろう。当たり前だ、ヒーローになるための訓練を始めてまだ一ヶ月も経ってないんだぞ。教師達も倒れ孤軍奮闘。良くここまで粘って頑張ってくれた。

 

 だからこそ私がここで言わねばならない。皆の不安を取り除くために。

 

「もう一度言うぞ。私が、来た!!」

 

「待ってたよヒーロー、社会のゴミめ。あんたが来ないからせっかくのゲームがクソゲーで終わるかと思ったよ」

 

 ゲームだと?生徒達を怖がらせたあげくプロヒーロー達を血祭りに上げたことをゲームだというのか!?

 

 残っていた雑魚共を通り際に一蹴し相澤君を回収。彼も実力者の一人なのに両腕も顔もボロボロだ。ここまで負傷されられるとは。遅れて本当に申し訳ない相澤君。

 

 彼を回収後水辺にいた緑谷少年達5人を救出。手に男にも一発食らわせてやった。同時に空に浮いていたマシーンが降りてきた。おそらく緑谷少年が呼び出した物だな。

 

「オールマイト先生!」

 

「小森に回原、梅雨ちゃんに峰田も無事だったんだ」

 

「ケロ。回原ちゃんと小森ちゃんが頑張ってくれたおかげよ。峰田ちゃんも頑張ってくれたわ」

 

「俺の個性役に立たねーと思ってたのに皆救えたんだぞ!!」

 

 こっちは緑谷少年抜きで頑張ったのか。ならここからは私の仕事だ。何せヒーローはお節介と綺麗事を実践するお仕事だからね!!

 

「ああああ……ダメだ…ごめんなさい…!お父さん……」

 

 あの手がお父さん?この男は一体………。

 

「すれ違い様に一発殴られた…。ははは国家公認の暴力だ。流石の早さだ、目で追えないけれど思っていたほどじゃない。やはり本当だったのかな……?弱っているって話………」

 

 どこでそんな情報を……?アイツの方も問題だがまずはこっちのデカイ奴を!

 

「オールマイト気をつけて下さい!その脳味噌ヴィラン、さっき僕の全力のパンチをまともに受けてもビクともしなかった」

 

 緑谷少年の全力のパンチ。腕が無事と言うことはおそらく最大出力二十五%の威力。並の奴ならそれで十分大ダメージだがそれが効かないと言うことは個性で防御したか、それ以上に高い耐久力を備えていると言うことか。

 

「ありがとう緑谷少年、でも大丈夫!ここは私に任せて君は相澤君と13号の治療のを頼む」

 

 一気に駆け出す。まずはこれでどうだ。

 

 

CAROLINA……SMASH!!!

 

 

 攻撃は間違えなく直撃。だけど本当にビクともしない!結構本気で放ったんだけどな。

 

「そいつは対平和の象徴、改人『脳無』。アンタの馬鹿力に対して持つ個性は『ショック吸収』。打撃は無意味だぜ。ダメージ与えたきゃ肉をゆっくり抉るでもしないとな。やれるかどうかは別だけどね」

 

 わざわざ自分の口から答えるとは…!でもそういうことなら、こうすれば良いだけの話さ。地面に抜けないように突き刺す、これならショック吸収も意味がない!!

 

「無意味だ。黒霧」

 

「はい、死柄木弔」

 

 地面に黒い靄が…!?脳無とか言う奴が飲み込まれる……くっ!そういうことか…。

 

 私のしたから脳無の上半身が飛び出してきた両脇に爪を突き立ててきた。そこ結構痛いのにな。

 

 個性でもないのに凄いパワーだ。抜け出せない。

 

「目にも止まらぬ速度の貴方を拘束するのが脳無の役目。そして貴方の身体が半端に留まったゲートを閉じ引き千切るのが私の役目」

 

 私の身体を引き千切るつもりか。早く抜け出さなくては……。

 

「オールマイトーっ!!」

 

 緑谷少年!?相澤君を蛙吹少女に任せてこっちに向かってきてる。

 

 来てはダメだ!!変身すれば対抗も出来るが今そんなことをすれば君が雄英にいられなくなる。なんとしてでも脱出して止めねば!

 

「浅はか」

 

 黒い靄が動いた、マズイ!

 

「どっけ邪魔だ!!デク!!」

 

side out

 

 

No side

「かっちゃん!?」

 

「爆豪少年!?」

 

 突然現れた爆豪の攻撃を受けて、黒霧は倒れそのまま爆豪に押さえ込まれた。更に脳無の身体が徐々に凍り付いていく。轟の個性だ。

 

「テメェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いていた。平和の象徴はテメェら如きに殺れねえよ」

 

「コイツ!!」

 

「オラァッ!!」

 

 切島と鉄哲が死柄木に殴り掛かってきたが軽くかわされる。

 

「「俺たち良いとこねぇ……」」

 

 頭上にはドラゴンと遅れて到着したデンライナーとゼロライナーが他のエリアに散っていた生徒達をつれて戻ってきた。

 

「相澤先生大丈夫ですか!?」

 

「とにかく下がろう。出久達が今押さえ込んでるみたいだし」

 

「神よ、戦場にいる方々にご武運を」

 

「お前も早くこっち来い」

 

「ウエーイ……」

 

 

「電車が飛んできたのには驚いたけど助かった」

 

「ヒットアンドウェイで粘った甲斐があったな」

 

「あたしも頑張って囮になったよ!」

 

「みんな慌てすぎ☆」

 

フルフル……

 

「しかし助かったぞ緑谷の分身よ」

 

 

 手の力が緩んだところでオールマイトも脱出し、死柄木は完全に包囲された。

 

「やっぱりな、全身靄の物理攻撃無効人生なら危ないなんて言わねぇからな。靄で覆われている部分は限られていて、実体部分を靄ゲートで覆っているだけだろ!?なら服の上から押さえつければ問題ねぇ。怪しい動き少しでもしたらぶっ殺す!!」

 

「それヒーローのセリフじゃねぇぞ爆豪よう」

 

 形勢は逆転した。しかし死柄木は慌てた素振りは一切見せていなかった。

 

「逃げ道押さえ込まれたか……コイツはピンチだな……。攻略された上全員ほぼ無傷…。スゴイなぁ最近の子供は…。恥ずかしくなってくるぜ敵連合。おい脳無、凍り付いてないでさっさと爆破小僧をやっつけろ、出入り口の奪還だ」

 

 死柄木の命令で脳無が再び動き出した。凍ってしまった部分が砕けるのにもかかわらずにだ。そしてその部分から再び手足がはえてきた。

 

「身体が割れているのに…動いている…!?」

 

「馬鹿な、そいつの個性はショック吸収じゃなかったのか!?」

 

「別にそれだけとは言ってねぇぞ。こいつは超再生だ。脳無はお前の100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバック人間さ」

 

 脳無が爆豪に襲いかかろうとしたが、オールマイトが割って入ったため爆豪は無傷で済んだが黒霧を解放してしまった。

 

「………加減を知らんのか…」

 

「仲間助ける為だ仕方ないだろう?俺はなオールマイト!怒っているんだ!同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ善し悪しが決まるこの世の中に!!何が平和の象徴!!所詮抑圧のための暴力装置だお前は!暴力は暴力しか生まないんだとお前を殺すことで世に知らしめるのさ!」

 

「メチャクチャだな。そう言う思想犯の眼は静かに燃ゆるモノ。自分が楽しみたいだけだろ嘘吐きめ」

 

「バレるの早……。黒霧と脳無はオールマイトを今度こそ殺れ!!俺はガキ共を相手する!!」

 

 脳無ト黒霧がオールマイトに、そして死柄木が出久立ちに迫る。

 

「君たちは下がっていなさい!!」

 

「でもオールマイト、貴方はそろそろ」

 

 活動時間も限界が近い、そんな状態でその三人を相手取るのには無茶がある。

 

「大丈夫さ!!プロの本気を見ていなさい!!(限界稼働まで後5分と言ったところか。一年前の緑谷少年の治療の甲斐あって活動時間が短くなるペースが緩やかになった。限界は近いがやるしかない!なぜなら私は……平和の象徴なのだから!!!)」

 

 オールマイトの目つきがこれまでにないほどの威圧を放った。それをもろに受けた死柄木と黒霧は動きを止めてしまった。

 

 あくまで猛進してくる脳無の前にオールマイトは、全力の拳で応戦した。

 

「ショック吸収って…さっき言ったじゃん」

 

「そうだな!でも吸収であって無効化ではないんだろ?限度があるんじゃないのか!?私対策?100%に耐えられるのならそれを凌駕しようじゃないか!!」

 

 一発一発が100%以上の攻撃。そんな攻撃を受け続けていく内に脳無は、

 

「ヴィランよ、こんな言葉を知っているか!!?

 

 

更に 向こうに!!!!

 

 

Plus Ultra!!!!

 

 最後の一発で脳無は吹き飛び、中央の岩場に突っ込んでめり込んで停止してしまった。

 

「やはり衰えたな……全盛期ならこれぐらい5発で済んだのに……300発以上もも撃っちゃったよ」

 

 強敵であった改人脳無をついに撃破した。

 

「やったぜ!」

 

「やっぱりオールマイトは最強だ!!」

 

「当たり前だ。オールマイトはNo1ヒーローだからな!負ける訳がねぇ!!」

 

 歓声の声がUSJ中に響き渡った。

 

「……脳無は?」

 

「あの様子ではもう動けませんね。死柄木弔ここは一端「アレを使うぞ」……ッ!?しかしアレの力はまだ未知数ですよ。あの方が渡してきたとはいえ我々が使うのは―――」

 

「誰が俺とお前が使うって言った?あそこにいるだろ、こそこそこっちの様子覗っている活きが良さそうなのか」

 

「……なるほど。データ取りには十分ですね」

 

 黒霧がワープゲートを展開して出てきたのは、先ほど出久達が取り逃がしたタランスとガスマスクのヴィランだ。

 

「アイツらさっきの!」

 

「死柄木に黒霧……どういうことっすか?アタチ達はオールマイトを確実に殺せる算段があるって言うからついてきたのに…切り札の脳無がアッサリやられちゃったじゃないっすか!」

 

「それは俺たちも予想外だった…。でも切り札は脳無だけじゃねぇ」

 

 死柄木はポケットから時計のようなモノを取りだした。

 

「アナザーライドウォッチ。こいつを使えばまずオールマイトに止めは十分させる」

 

「ほーっ!そんなモノがあったんしゅか。それじゃとっととそいつでオールマイトもガキ共もやっつけるっすよ。でも女子だけはちょっと生かすっすよ、後で撮影に使う「使うのはお前ら二人だ」へっ?」

 

《ビルド》

 

《エグゼイド》

 

 アナザーライドウォッチのスイッチを押して二人の身体に押しつけると、ウォッチは身体に取り込まれ、二人の姿は怪人―――――アナザービルドとアナザーエグゼイドの姿になった。

 

「怪人だと!?連合は人工的に怪人を生み出す力を持っているのか!?」

 

「これでアンタの勝ち目はなくなった。今度こそ終わりだ」

 

「やってみないと……判らないだろう!!」

 

 活動時間はもう限界ギリギリ。せめて一人でもとオールマイトは二人のアナザーライダーに立ち向かった。

 

「オールマイト無茶です!アナザーライダーは―――――」

 

「DETROIT SMASH!!そしてからの、TEXAS SMASH!!」

 

 アナザービルドに渾身のデトロイトスマッシュ、飛びかかってきたアナザーエグゼイドにもテキサススマッシュで応戦。アナザーライダーはその一撃で倒れた。

 

「見かけ脅しか」

 

「無駄だ」

 

《ビルド》

 

《エグゼイド》

 

 その音声と共にアナザービルドとアナザーエグゼイドは復活した。

 

「馬鹿な!?手応えは確かに―――」

 

「アナザーライダーは仮面ライダーの力を怪物化させたモノ。倒すには同じライダーの力でしか倒せない。そしてコイツらの能力はライダーと同じ」

 

《ゴリラ+ダイアモンド ベストマッチ!!》

 

 アナザービルドにゴリラのパワーとダイアモンドの高度が加わった。そこから繰り出されたパンチは先ほどの脳無より強力でオールマイトも後ずさりをする。

 

「止めだ」

 

『カイシンノイッパツ!』

 

 高くジャンプしたアナザーエグゼイドのキックがオールマイトに命中、そのまま吹き飛ばされてオールマイトは階段に衝突した。

 

「ウソ…だろ?」

 

「オールマイトがこうもあっさり………」

 

「まだだ!!オールマイトが負けるはずねぇ!!俺は…俺はオールマイトが勝つ姿に憧れたんだ!あんな化け物なんかにオールマイトが負けるはずが……―――――っ!!?」

 

 土煙が晴れた先には、ガリガリに痩せたオールマイトの姿があった。今の一撃でとうとう活動時間が限界を迎えてしまったのだ。

 

(マズイ!よりにもよってこんな時に活動限界が……しかも、他の生徒達に見られてしまった!)

 

 その姿を見た生徒達は一様に絶望に満ちた顔となった。No1ヒーローの弱った姿、倒すことの出来ない強敵、援軍も間に合わなかった。

 

 そんな中でこだまするのは死柄木の狂ったような笑い声であった。

 

「はっはっはっはっはっ!!!やっぱりか、やっぱり先生の言っていた話は本当だったんだ。オールマイトは6年前に大怪我して活動時間に限界があるってさ!!見ろよあの骸骨、萎んだ身体!!もうこれで終わりだ、このゲームは完全に攻略したアアァァ!!」

 

 もう絶望しかなかった。だがそんな中で一人闘志を消さなかった者がいた。

 

 確かに敵は同じ仮面ライダーの力でしか倒せない、しかしオールマイト以外は知らなかった。この場で唯一この状況を打破できる存在がいることを。

 

「さぁ止めだ!これで平和の象徴は完全に終わ―――「まだ終わってなんかいないぞ!」あぁ?」

 

 出久がオールマイトの前に立ち塞がった。その顔に恐怖はなかった。あったのは逆風にも負けない不屈の闘志と覚悟を決めた思いであった。

 

「さっき邪魔に入った奴か。脳無も倒せなかったお前が今更何が出来るってんだ?」

 

「確かにあの時の僕じゃアイツは倒せなかった。でもアナザーライダーが相手なら、僕には勝つ秘策がある!!」

 

「(少年よまさか………)やめるんだ…緑谷少年!今この場でそれを使っては君は雄英にいられなくなってしまうぞ!!!」

 

 出久の正体が仮面ライダーだとバレてしまえば雄英退学はあり得ないことではない。まして仮面ライダーの力を利用する輩もいるはずだ。

 

 それでも出久は止まらなかった。ライドブッカーから変身に必要なカードを取り出した。

 

「オールマイトは言いましたよね?ヒーローはお節介と綺麗事を実践するお仕事だって。たとえ僕が雄英にいられなくなったとしても、僕はお節介で皆の未来を守れればそれでいいです!(皆、今までありがとう)………変身!!」

 

《カメンライド ディケイド!!》

 

 約一年ぶりであった。あの日オールマイトと出会ったのあの日以来の変身。二十枚のプレート状の陰が現れて出久に集まり、ディケイドに変身した。

 

「あ、アレって!?」

 

「……ウソでしょ?」

 

「ん………!!」

 

「デク君が…」

 

「仮面、ライダー?」

 

 レイ子達が驚いているが、一番驚いたのは爆豪の方であった。何せ一年前に目の前にいる人物に命を救われたのだから。

 

「クソデクが………仮面ライダー?去年あのヘドロ野郎を倒したのも……その前から怪人をぶっ殺してきたのも……全部デクだと!!?」

 

 ディケイドの登場は敵連合にも予想外の出来事で動揺が走った。

 

「まさか雄英の生徒が仮面ライダーだったとは………」

 

「……巫山戯んなよ。オールマイトやっつけられると思ったら仮面ライダーだと?アナザーライダー共ォ!!とっととそいつもやっつけてオールマイトを殺せェ!!」

 

「……やれるモンなら、やってみろよ!!」



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No.12 覚醒のGとZ/ヒーローもライダーも助け合い

新年になってやっと更新。今年もよろしくお願いします。



「この本によれば、仮面ライダーディケイドの力を受けつぎヒーローを目指す少年・緑谷出久は、ヴィラン連合と呼ばれる悪の組織と戦う状況になってしまった。強敵である改人・脳無は辛くもオールマイトの手で倒されたが、連合の首魁である死柄木弔は手下とアナザーライドウォッチでアナザービルドとアナザーエグゼイドに変貌させた。活動限界を迎えたオールマイトは弱った姿を生徒達に晒してしまい絶望の淵に落ちるが、決意を決めた緑谷出久は皆の目の前で変身。仮面ライダーディケイドとして戦うが、さらなる強敵が現れ苦戦を強いられるがそこに二人の少女達が―――……おっとここからは未来の話だ。なお、私ことウォズも本編にてもう一度登場します。次の登場まで失礼させて頂きます」


No side

 オールマイトを殺そうと襲いかかるアナザービルドとアナザーエグゼイド。それを阻止するためにディケイドに変身した出久が応戦を開始した。

 

 なれた様子でアナザーライダー達の攻撃を捌いていく。

 

「戦闘訓練の時もやたら慣れた感じだったから変だと思ってた」

 

「慣れていたんじゃない……既に実戦経験済みだったんだ」

 

 そんなところでアナザービルドがボトルを二本取り出し腰のベルトにセットしてハンドルを回す。

 

《鷹+ガトリング ベストマッチ!!》

 

 左右の色がオレンジと黒に変わり、右手にはまがまがしい形のガトリング砲が装着された。

 

 撃ち出された銃弾にディケイドが押されるがダメージはそれほど大きくはなさそうだ。

 

 ライドブッカーから新しいカードを取り出した。

 

「ビルドにはこれだ!」

 

《カメンライド ビルド》《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!イエーイ!!》

 

「勝利の法則は決まった!」

 

 ある世界で天才物理学者とも悪魔の科学者とも呼ばれた青年が変身した生物と無機物がベストマッチした科学の仮面ライダー――――仮面ライダービルドに変身した。

 

「姿が変わったぞ!?」

 

「でもなんか……あの怪人に似てる」

 

 アナザービルドのガトリング攻撃にいも返さず飛び跳ねて蹴りを入れる。

 

「コイツで止めだ!」

 

《ファイナルアタックライド ビ・ビ・ビ・ビルド!!》《ヴォルテックフィニッシュ!!》

 

 幾何学のラインが先導していき、キックはアナザービルドに命中。爆発で吹き飛ばされたアナザービルドからアナザービルドウォッチが排出されて爆散、元のガスマスクヴィランに戻った。

 

 続くアナザーエグゼイドが腕を振ると色とりどりのコインや空中に浮かぶブロックなどが出てきた。

 

 ブロックを上っていき、コインを次々に集めていく。

 

《高速化!鋼鉄化!ジャンプ強化!マッスル化!》

 

 スピード上昇、肉体の鋼鉄化とジャンプ力強化に加え攻撃力アップのアイテムを集めて一気に決めようとする。

 

「このラウンドは勝たせて貰うよ」

 

《カメンライド エグゼイド!》《マイティジャンプ!マイティキック!マイティマイティアクションX!!》

 

 電脳ウイルス『バグスター』に感染した患者を治療するために生まれたドクターライダー―――――仮面ライダーエグゼイドへ変身を果たす。

 

「ノーコンティニューでクリアだ!!」

 

《アタックライド エナジーアイテム・反射!》

 

 現れたコインをタッチする。攻撃を受けたDエグゼイドは受けた攻撃のダメージが衝撃波という形でアナザーエグゼイドに跳ね返した。

 

《ファイナルアタックライド エ・エ・エ・エグゼイド!!》《マイティクリティカルストライク!!》

 

 ジャンプからの連続キックの嵐。止めの一発を放つとアナザーエグゼイドは吹き飛んで爆発、タランスが降って来て同じく落ちてきたアナザーエグゼイドウォッチも砕け散った。

 

《PERFECT! 会心の一発 GAME CLEAR!!》

 

 アナザーライダーはディケイドに変身した出久によって全て倒された。

 

「ば、馬鹿な………アナザーライダーをこうもあっさり。あのディケイドとか言う仮面ライダー、あらゆる仮面ライダーに変身できるのか!?」

 

「……………」

 

 

「オールマイトが手も足も出なかった相手がこうもあっさり……」

 

「すげぇ……凄ぇぞ仮面ライダー!緑谷!俺はお前が何だろうと絶対味方するぞ!」

 

「そうだぜ!緑谷がいなかったら今頃どうなっていたか判ったもんじゃねーぞ」

 

「頑張れ緑谷!お前がこの場で最後の希望なんだ!」

 

 不安や恐怖、疑念に支配されていた生徒達が一同に出久の応援をし始める。

 

「イズ君頑張れ!」

 

「デク君ファイト!」

 

「敵はあと二人だ出久!」

 

「このまま一気にたたみ込め!」

 

「ん!!」

 

 一部では疑惑の声さえ上がる仮面ライダーに対して、今は最後の希望として声援が送られる。しかしそれを黙って見過ごす死柄木ではなかった。

 

「黒霧、脳無こっちに持って来い」

 

「死柄木弔?しかし脳無は行動不能…「いいからさっさとしろ!!」

 

 叫びだす死柄木に従い壁にめり込んだ脳無を側までワープさせる。

 

「切り札ってモノは最後に使うもんだ」

 

《クウガ》

 

「死柄木弔!まさか脳無をアナザーライダーに!?ダメです何のデータも無く使えば下手をすればこっちが危ない!」

 

「黒霧よぅ……俺はな、今すぐ目障りなモンぶっ潰したいんだよ!!!」

 

 アナザークウガウォッチが脳無に入り込む。閉じていた目が再び開き、脳無は雄叫びを上げながら立ち上がり、その姿を巨大な赤い鎧の怪物―――――アナザークウガへと変貌した。

 

「ギャアアアアアアアアアアァァァ!!!!!」

 

「ウソだろ!?化け物が更に化け物になったぞ!!」

 

「大丈夫だ!アイツもきっと緑谷が…――――」

 

 そんな希望を他所にアナザークウガは無差別に口から火の玉をあちこちに撃ち出した。目の前のディケイドはもちろん。後方の生徒達、そして死柄木達ヴィラン連合にもその攻撃は放たれた。

 

「やっぱり無理があったか……。このままでは我々も危ないです、もっと離れましょう」

 

「仕方ねぇ……アナザークウガ!好きに暴れていいが、ヒーローはプロも卵も絶対に殺せ!」

 

 ワープゲートを開いて死柄木と黒霧はその場を離れた。

 

「逃げた?いや別の場所から高みの見物か」

 

《アタックライド ブラスト!》

 

 牽制攻撃で注意を少しでもこっちに向けようとしたが、アナザークウガはそんなのにも目もくれず生徒達に襲いかかろうとした。

 

「皆逃げろ!!」

 

 ディケイドが叫ぶまでもなく一斉に散り散りにに走り出す。

 

 アナザークウガが連続で火の玉を撃ち出した。その先には逃げようとするレイ子と唯の姿があった。

 

「レイちゃん!小大さん!」

 

《アタックライド クロックアップ!バリア!》

 

 クロックアップの高速移動で二人の前に割って入り、バリアで防御しようとしたが、あまりの連続攻撃でバリアが砕け、ディケイドがもろに攻撃を受ける羽目になった。吹き飛ばされた衝撃で変身が解除されてしまう。

 

「イズ君!」

 

「緑谷君!」

 

「(あの脳味噌が素体のせいか…さっきのアナザーライダー達より遙かに強い!)ぐっ……二人とも……逃げて!」

 

 二人に逃げるように指示するも出久を意地でも連れて行こうと担いでいこうとする。

 

「僕は放っていても良い……二人だけでも「絶対に嫌だよ」

 

 肩を担ぐレイ子が言う。

 

「イズ君はいつもそうだ。自分が傷つくのも構わずに誰かを助けようとする。周りの人が心配しても大丈夫だっていって我慢する。私は……私はもう助けられるだけじゃ嫌!ようやく雄英に入ってヒーローになるための一歩踏み出したんだ。だから今度は私が助ける。ヒーローは助け合いでしょ?」

 

「ん!私も緑谷君から勇気を貰った。だから自分だけで背負わないで」

 

 ふと後ろの方が騒がしくなった。振り返ってみれば、一度は散り散りになった生徒達がアナザークウガに立ち向かっていた。

 

「デクばっかりに良い格好させんな!!俺が………NO.1ヒーローだ!!」

 

 爆豪がアナザークウガの顔面に爆破を叩き込む。

 

「的がデカけりゃこっちの攻撃だって当たるぜ!」

 

「硬くなる個性舐めるなぁ!!」

 

 切島と鉄哲が硬化した腕で重いパンチを浴びせる。

 

 他にも峰田が足下にもぎもぎボールを投げつけて動きを制限。そこに凡戸がセメダインで足を固め更に轟が足を凍らせて動きを止める。

 

 小森がアナザークウガの顔にキノコを生やし、取陰がトカゲの尻尾切りで分散させた自分の身体で目眩ましをする。

 

 瓦礫や倒れた木を麗日が個性で重さを無くして泡瀬がそれを溶接し、シュガードープでパワーを増強させた砂籐がそれを放り投げる。直撃する前に麗日が個性を解除したので加速した重量物が直撃してアナザークウガが吹き飛んだ。

 

「今だ一斉に掛かれ!!」

 

 近接主体の生徒達が倒れたアナザークウガに一斉に掛かっていく。

 

「緑谷ばっかりに任せるな!!」

 

「俺たちだってヒーロー目指してるんだ!!」

 

「仮面ライダーもヒーローも同じだ!守りたいモンのために戦うんだ!!」

 

 一人に任せるのではない。一人一人が手を合わせて難関に立ち向かっていく。これからは個の力ではなく群れの力で困難を乗り越えていく。これから目指すべきヒーローのヴィジョン。それが目の前に広がっていた。

 

(一人の平和の象徴ではなく、ヒーロー全てが平和の象徴。緑谷少年、君が目指すべき道が……今そこにあるぞ!)

 

 個性の都合上攻撃に参加できなかった口田に支えられたオールマイトが目の前に広がる光景に未来を見ていた。

 

 しかしそんな攻勢も長続きはしなかった。火炎弾から衝撃波の雄叫びで取陰のパーツは吹き飛ばされ、再び固められた足場は背中の羽を羽ばたかせて力尽くで地面から足を引きはがして空を飛び、突撃してきた生徒達を一降りで振り払った。

 

「皆!」

 

「クソッが………!!」

 

「緑谷の奴……こんな奴一人で相手していたのか?」

 

「今更ながらホント頼りすぎてたんだな……仮面ライダーやオールマイトに!」

 

「クソッ……(こんなところで終われるか…俺は母さんの個性()で親父の個性()を否定する…!)」

 

 既に満身創痍。次に攻撃を受ければ全滅してしまう。

 

 出久は支えて貰っていたレイ子と唯を振り払って走り出した。

 

「アナザークウガに勝つには同じクウガの力。僕がまた変身してクウガになれば勝機はある!!」

 

 既にボロボロの出久にアナザークウガは特大の火炎弾を撃ち出した。

 

 出久がネオディケイドライバーを腰に付けて変身しようとしたときだった。レイ子と唯が前に出て出久を守ろうとした。

 

「イズ君は殺させない!」

 

「私たちが…守るんだ!」

 

 火炎弾が直撃しようとした瞬間、二人の視界が白く染まった。

 

side out

 

 

レイ子Side

 私の目の前に白い空間が広がった。さっきまで隣にいたはずの唯も後ろにいたはずのイズ君もいない。

 

「君は選ばれたんだよ。僕の力に」

 

 ふと後ろを振り向けば男の人が胡座の体勢で宙に浮いていた。

 

「俺はかつて一度命を落とした。だけど15人の英雄の眼魂の力で再び生き返ることが出来た。俺の力はいずれ後生に託すつもりだったけど、ある事情で託すまでに大分時間が掛かってしまった」

 

 英雄?眼魂?生き返るって……この超人化社会の時代において「あり得ない個性なんてあり得ない」なんて漫画染みた言葉はどこにでもある。

 

「俺の力を君に受け継いで貰いたい。君の大切な人がディケイドの力を受け継いだように、君にも俺の持つ仮面ライダーの力を受け継いでほしい」

 

 仮面ライダーの力を!?その力があれば、私はイズ君の隣に立てる。もうイズ君だけに大変な思いをさせなくて済む。

 

「………受け継がせて下さい。私は、好きな人を守りたい」

 

「うん。君の守りたいモノのために、その命を燃やして戦うんだ。君には15人の英雄、そして君なら仮面の英雄の力も引き出せる」

 

 彼は私のそれを渡してきた。眼のような形のモノでGHOSTの文字が書いてある。受け取ると同時に私の腰にベルトが装着され、それと同時に使い方が頭の中に流れ込んできた。

 

「後は頼んだよ。新しい仮面ライダーゴースト」

 

 貴方から託された力、大切にします。先代ゴースト天空寺タケルさん。

 

side out

 

 

唯Side

 目を開けた先は真っ白い空間。そこに王様が座るような椅子とそこに座る男の人。私たちより2~3歳年上の感じがする。

 

「やぁ、君が俺の力を受け継ぐんだね。俺の魔王の力を」

 

 魔王?まさかこの人ヴィラン!?

 

「そんな警戒しなくても良いよ。確かにある未来線で俺は全てを破壊する最低最悪の魔王になった。でも他の未来線では最低最悪の魔王になって一度全てをリセットしたり、魔王の力で最善最高の魔王になった。君の同級生の持つ力と同じ、全てのライダーの力を行使する力」

 

 同級生って………もしかして、緑谷君と同じ仮面ライダーの力!?

 

「この力を受け継げば君は魔王の力を継承することになる。その時君がその力でどんな王様になるのか…「私は王様になんかなりません「え?」

 

 私がなりたいのはヒーローだ。困っている人を助けて笑顔にする。どんな困難も仲間と一緒に立ち向かって乗り越える。そんな新しい時代のヒーローに私はなりたい。

 

 緑谷君も言っていた。これからのヒーローは助け合いが必要だって。

 

「ヒーローか……それでもいいよ。俺は最善最高の魔王になるためにこの力で戦った。君はこの力で最善最高のヒーローを目指しなよ!」

 

 渡されたそれはヴィラン連合の奴らが使っていた時計みたいなモノに似ていたけど、これにはあれのような禍々しさが見られなかった。

 

「祝え!我が魔王、常磐ソウゴが研鑽し完成させた魔王の力。時空を超え世界を超え、その力を受けついたヒーローを目指す少女・小大唯。継承する力は全てのライダーの力を受けついた時の王者・仮面ライダージオウ!今、新たな歴史の一ページが描かれようとしている!!」

 

 急に変な人が出てきてなんか語り出した。

 

「ウォズ、ウォッチは渡したからアレを」

 

「お任せを。では、我が魔王の後継者よ。これを貴女に授けます」

 

 お盆のようなモノに載せられたそれ、ウォッチを手にしたときにそれの情報や使い方が流れ込んできて名前は知っている。ジクウドライバーを受け取ると、周りに19個のライドウォッチが現れて私の身体の中に入っていく。

 

「君の意思で出し入れできるよ新たなジオウよ。いずれ私と彼の力を受け継いだ二人が君を助けてくれるはずだ。さあ!舞い戻り給え、君がいるべき場所へ!!」

 

 私は今度こそなってみせる。緑谷君みたいな、皆を笑顔に出来るヒーローに!

 

side out

 

 

no side

 爆炎は突然出た光にはじかれて爆散した。煙の中からレイ子と唯、そして出久の姿が現れる。

 

「イズ君、もうイズ君だけに大変な思いはさせない」

 

「ん。私たちも戦う。この受け継いだ仮面ライダーの力で」

 

《ゴーストドライバー》

 

《ジクウドライバー》

 

 二人の腰にベルトが装着された。

 

「二人とも………ちょっとキツい戦いになると思うよ」

 

「上等!」

 

「ヒーローになるって決めたときから危険は承知の上」

 

 その光景を見て死柄木のイライラは更に積もっていった。先ほどまであった希望は今度こそ潰えたと思っていたのにまた這い上がってくる。自分の思い通りに行かないいらだちが死柄木を怒らせる。

 

「巫山戯んな!卵風情が何でそこまで立つんだ!?」

 

「ヒーローだからだ!」

 

 声を荒げる死柄木に答えたのは出久であった。

 

「誰かが助けを求めたときに手を差し伸べる。理不尽な暴力から人々を守り、笑顔で安心させる。それがヒーロー、平和の象徴だ!」

 

「お前ェ………一体何なんだ!?」

 

「通りすがりの仮面ライダー、そして未来の平和の象徴だ!!」

 

 

 

「「「変身!!」」」

 

《カメンライド ディケイド!!》

 

《アーイ!バッチリミナー!カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》

 

《ライダータイム! 仮面ライダージオウ!》

 

 

 

「更に向こうへ!PLUS ULTRA!」

 

「命、燃やします!」

 

「ん、行ける気がする」

 

 出久のマゼンタと黒の仮面ライダーディケイド、レイ子の英雄の魂を宿す仮面ライダーゴースト、唯の平成ライダーの歴史を受け継ぐ仮面ライダージオウ。今この場に三人の仮面ライダーがそろった。

 

「うそ………レイ子と唯も!?」

 

「でもテレビで確認されている仮面ライダーは一人よ?」

 

「もしかして………新しい仮面ライダー誕生?」

 

 出久だけでも驚きなのに更に新しい仮面ライダーが現れて一同は騒然とした。

 

「行くぞ!」

 

 ディケイド、ゴースト、ジオウの三人は一気に駆け出した。

 

《ガンガンセイバー》

 

《ジカンギレード》

 

 ゴーストドライバーとジクウドライバーからそれぞれの武器が出てきた。それを剣の状態で足下を切りつけていく。

 

「小大さん、まだタイムマジーン消してないから取ってきて!」

 

「ん!」

 

 ジオウが離れるを援護するためにゴーストが浮遊して注意を引く。

 

 直ぐにタイムマジーンがロボット形態になってアナザークウガに攻撃を仕掛けて来る。同じ大きさの相手の攻撃でアナザークウガは一度はよろけるが、すぐさま火炎弾を撃ち出して反撃。大ダメージを受けたタイムマジーンは消えてしまったが、唯は爆発直前に脱出していた。

 

「コイツはクウガのアナザーライダー。クウガの力で対抗するしかない」

 

「ん、これの出番」

 

 ディケイドがクウガのカードをジオウがクウガのライドウォッチを出す。

 

「えっと………私クウガの力なんて……」

 

 一瞬戸惑うゴーストだが先ほどのタケルの言葉を思い出した。

 

 

『君なら仮面の英雄の力も引き出せる』

 

 

 その言葉に気がついて、二人にクウガのカードとライドウォッチを出すように頼んだ。

 

「どうするの?」

 

「私の予想が正しければ」

 

 カードとライドウォッチの前で印を結ぶと、ゴーストの紋章が現れカードとライドウォッチから光が集まってクウガの紋章が現れたと同時に新しい眼魂が完成してゴーストの手に収まった。

 

「なるほど。これならレイちゃんも」

 

「うん、一緒に戦える」

 

 三人が並んでそれぞれのアイテムをセットする。

 

《カメンライド クウガ!》

 

《カイガン!クウガ!超変身!変わる全身!》

 

《アーマータイム! クウガ!》

 

 超古代にグロンギと戦い現代に甦った古代の超戦士、仮面ライダークウガの姿と力を持つディケイド、クウガのゴーストパーカーを身に纏うゴースト、クウガの鎧を纏うジオウ。

 

 クウガの力を宿す3人の仮面ライダーの誕生だ。

 

「一気に片を付けるよ!」

 

「「了解!」」

 

 

《ファイナルアタックライド ク・ク・ク・クウガ!!》

 

《ダイカイガン!クウガ!オメガマイティ!!》

 

《フィニッシュタイム!クウガ!マイティタイムブレーク!!》

 

 

 必殺技を発動させる。一歩一歩駆け抜けていく度に右足に炎のエネルギーが蓄積していく。大きくジャンプしてアナザークウガの胸にDマイティキック・クウガソウルキック・マイティタイムブレークが炸裂。

 

 クウガの紋章が大きく浮かび上がったアナザークウガは大爆発し、元の脳無の姿となった。アナザークウガウォッチは体外から排出され砕け散った。

 

「やった………アイツら勝ちやがった!!」

 

「よっしゃああああアアァァ!!!」

 

 生徒達が一様に大歓声をあげた。これで万事解決―――とは行かなかった。

 

 再び靄のゲートが現れて死柄木と黒霧が姿を見せた。

 

「せめて脳無の回収だけでも……」

 

「いやその前にせめて………ガキを一人でも殺しておこう!」

 

 構えた死柄木が駆け出そうとしたが、突然の銃声と共に死柄木が倒れた。足からは血が流れ出てくる。更に立て続けて両腕ともう片方の足も撃ち抜かれた。

 

「来てくれたか!」

 

「遅くなってすまなかったね。動ける物を出来るだけ集めるのに時間が掛かってしまった」

 

「一年ヒーロー科、A組クラス委員長が飯田天哉!!ただ今戻りました!!!」

 

 飯田の他に根津校長をはじめとした大勢のプロヒーロー教師達がそろい踏みした。

 

「あーあ来ちゃったか…ゲームオーバーだ。帰るぞ黒霧、この際脳無はくれてやろう」

 

「仕方ありませんね」

 

 靄のワープゲートが再び展開されて死柄木と黒霧を包み込む。

 

「今回は失敗だったけど………今度は殺すぞ平和の象徴オールマイト。それまでにくたばってなければな」

 

 恨み言を残して敵の首魁達は消えていった。しかしプロヒーロー達は以前警戒を解かなかった。まだ施設内に残党がいる可能性があることも考えられているが一番の問題は目の前の二つの状況であった。

 

 厳重に隠していたオールマイト弱体化の事実を生徒に知られてしまったこと。そして目の前にいる三人の仮面ライダー。

 

「この状況は一体……」

 

 離脱していたため飯田も目を疑っていた。ガリガリに痩せた男性と世間を騒がせていた仮面ライダーが目の前にいるのだから。

 

 ライダー達が変身を解けば、そこにいたのは今日まで苦楽をともにしていたクラスメイトであった。

 

「緑谷君!?それに柳君と小大君まで!?」

 

 驚く飯田を他所に、出久は重傷の相澤と13号の前に走り寄ってきた。

 

「相澤先生に13号先生、遅れてしまいましたけど治療をします」

 

《アタックライド リカバー!》

 

 直ぐに相澤と13号の傷がふさがっていく。

 

 相澤が軽く手を握り、次の瞬間には捕縛布を飛ばして出久、レイ子、唯の3人を縛り上げた。

 

「先生なんで!?」

 

「大人しくしてろ。その方が合理的だ」

 

「でも緑谷達は俺たちを―――「助けてくれればルールは破って良いのか?」くっ……」

 

 抗議の声も黙殺された。捕縛された出久も既にこうなることは判っていたのか特に抵抗はしない。

 

「真偽の程は後ほど。とにかく今は生徒の安否と残党の捕縛・掃討さ」

 

 こうして後に『USJ事件』と呼ばれる騒動は終結した。

 

 

どこかのバー―――――

「オールマイトは確かに弱っていた。でも……仮面ライダーがいるなんて聞いてないぞ先生」

 

 両手足を撃ち抜かれた死柄木が床に倒れると同時に目の前のモニターに映る人物に話しかけた。

 

『流石にこればかりは僕も予想外だったよ。まさか生き残りがいたなんて……それとも、連中の力を受け継いだのかな?』

 

「それとさ………オールマイト並みに速い奴が一人いた。戦い方もどこかオールマイトくさかった。そいつがテレビに出ていた仮面ライダーだった。アイツが邪魔さえしなければ多分オールマイトを殺れた…!」

 

『………へぇ。でも悔やんでも仕方が無い!今回の失敗と元に次へ生かそう。今度はもっとじっくり時間をかけて精鋭をそろえようじゃないか!我々は自由に動けない!だから君のようなシンボルが必要なんだ。死柄木弔!!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!』

 

 悪意は未だに健在であった。

 



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No.13 決意

長らくお待たせしてすいません。仕事が忙しかったり糖尿病発症で半月指導入院したりと今日まで忙しい日々を送ってきながらこつこつ書きためたこれを世に出します。

あと数話に渡ってアンケートも実地します。


no side

 ヒーロー科の生徒達は教室で沈黙していた。いや、正確には何を話して良いか言葉が見つからなかった。

 

 あの後、USJは警察や外部からのプロヒーローの応援で気絶したり捕縛されていたヴィラン達を逮捕・回収、脳無に至っては厳重な拘束の上で護送された。

 

 出久・レイ子・唯の三人は別室に呼ばれて事情聴取。他の生徒達は一度着替えて教室で待機となった。

 

「「「「「………………………」」」」」

 

 いつもなら騒がしいくらいで相澤の注意が飛んでいる教室だが、起こったことがことだけに不気味なぐらい沈んでいた。

 

 無理もない。本来ずっと先のことだと思っていたヴィランとの戦闘、プロヒーローである教師達の負傷、NO.1ヒーローの弱体化の真実、そしてニュースで話題になっていた仮面ライダーが自分達のクラスメイトであったこと。

 

 あまりにも色々ありすぎで心の整理が追いついていなかった。

 

「………緑谷、退学とかならないよな?」

 

 ふと切島が声を漏らした。

 

「なってもおかしくはないだろう。彼は以前から無免許でヒーロー活動をしていたんだ。法というルールに乗っ取れば無くはない」

 

 ふと冷たく飯田が返した。

 

「でもよ!緑谷は俺たちや先生達を助けてくれたんだぜ!!こうなることも判って上でアイツ自分の正体バラしたんだろ!?なのに何でそんな平気そうな顔でそんなこと…「平気な訳があるか!」……!?」

 

「確かにいけないことをした。でも彼は僕の友達なんだ!お堅いだまじめだ言われていた僕に彼は普通に接して普通の友達になってくれた。彼がルールを破ったとしても……僕は友達として放っておけない…!」

 

 普段まじめ一直線の飯田がはき出した本音。彼にとっても出久はかけがえのない親友なのだ。

 

「そうだ!俺たちだけでも緑谷の味方になるぞ!」

 

「俺も緑谷に助けて貰ったんだ。恩を仇で返すのはヒーローのする事じゃねぇ」

 

「あはははは!全く何でこうもA組は問題ある奴ばかり何だろうね?今回は借り作ったけど今度は僕たちB組が借りを作ってあげるよ」

 

「お前はちょっと黙ってろ!」

 

 煽る物間の首に一佳の手刀が炸裂。あえなく沈黙する。

 

「待機中は静かにしていろ。騒いでも合理的じゃないぞ」

 

 相澤が扉を開けて入ってきた。その後ろには出久達件の三人も一緒であった。

 

「先生!緑谷達どうなっちゃうんですか!?まさか除籍とかってことは…」

 

「……そのことを説明するから全員席に着け」

 

 淡々と生徒達を座らせる。出久達は教卓の横に並んで立つ。

 

「まずは緑谷達三人だが、警察からは厳重注意だけで済んだ。柳と小大に関しては突然変身できるようになったとしか言えないらしく原因究明中だ。そして緑谷は以前からこの力でヴィランや怪人に対して戦闘行為を行ってきたが、今雄英を追い出して非道に走られても困る。まして仮面ライダーの攻撃は怪人には絶大的に有効、ゆえに対怪人戦での最大戦力を失う訳にはいかないというのが理由で処分は回避された。あの場で俺が三人を捕らえたのも逃走を防ぐことも理由の一つだが、教師として雄英で生徒を守るためには残って貰うのが一番合理的だからだ。下手に逃走されて妙な連中に利用されたらそれこそ本末転倒だからな(悪い言い方をすれば雄英で監視してきちんとしたヒーローに育てて社会に出すのが一番良いという判断だがな)」

 

 一見暴挙にもとれた相澤の行動だが、反面で生徒を守るため、そして今後の怪人やヴィランに対しての頼りになる戦力流出を防ぐためであった。

 

「それともう一つ、お前らには説明せんとならんことがある。入ってきて下さい」

 

 扉が開くと、頭に包帯を巻き腕にギブスをはめたオールマイトが入ってきた。その姿はいつもの筋骨隆々のマッスルフォームではなく、ガリガリに痩せたトゥルーフォームであった。

 

「えっと………本当にオールマイト先生、何ですよね?」

 

「…そうさ。これが私の本来の姿さ」

 

 やはりアレは現実であったと生徒達は信じざるを得なかった。

 

「オールマイトのこの状態に関して知っているのは現状ヒーロー協会と警察の上層部と一部のヒーロー、主治医でもあるリカバリーガール、そしてヒーロー科の教師である俺たちとお前達一年の生徒だけだ。彼の弱体化はヒーロー社会において一番の大打撃になる。いつかは彼も引退の日が来るかもしれないが、お前達にはそれまでに立派なヒーローになって貰わんと市民が不安になる」

 

「オールマイトはどうしてそんなことに?」

 

 一佳が手を上げて質問してきた。

 

「もちろん話そう。そのために来たんだからね」

 

 オールマイトはなぜ自分がこんな状態になったのかを語り始めた。勿論ワン・フォー・オールの件については伏せて話す。

 

 オールマイトにそこまでの大怪我をさせたヴィランがいることにも驚いたが、自分達の知らないところでそんな大事件が起こっていたことにもショックは隠せなかった。

 

「この事に関してはお前達にも箝口令を敷く。もし漏らしたりでもしてみろ、即刻除籍だぞ、厳重監視の上でな」

 

「機密保持ってことですか?」

 

 轟が質問してみる。自分の父親はオールマイトを追い抜くためにあらゆる手段を講じてきた。自分のその一つであったが、オールマイトの現状を知って今まで自分がされてきたことにも余計に腹が立った。

 

「ウチからも質問良いですか?」

 

 今度は響香が手を上げてきた。

 

「オールマイト、前にウチと会っていますよね?去年の大晦日の日に。それにもしかして、出久は知っていたんじゃないの?オールマイトの現状を」

 

 それを聞いて全員が目を見開く。出久とオールマイトは罰悪い顔になる。

 

「じ、耳郎よう、どうゆうことなんだ?」

 

「ウチは夏休みに出久と知り合って時折海岸掃除を手伝っていた。そして去年の大晦日にそれが終わってゴミを運ぶためのトラックを手配していた人と出会った。それが今のオールマイトなんだよ」

 

「マジかよ!?じゃあ緑谷ってオールマイトの………」

 

「………判った、白状しよう。そうさ、私は入学前から緑谷少年が仮面ライダーであったことも知っていたし、弟子としてこれまでに指導を施してきた」

 

 出久がオールマイトの指導を受けていたことに対して全員が驚いた。

 

「ただ先に断っておくよ。緑谷少年は訓練の際は仮面ライダーの力は一切使っていない。それどころか変身に必要なアイテムを全部私に預けていたぐらいさ。入学してからはあまりそう言ったことはしていない、君ら生徒と同様に育てていきたかったからね。今や雄英の生徒になった緑谷少年は勿論、君らにも強く立派な正義の御旗になるために私も出来るだけの努力をしよう。今は私が平和の象徴と呼ばれているが、今度は君たち有精卵が力を合わせて新しい平和の象徴を形作っていってくれ」

 

 オールマイトは深々と頭を下げた。

 

「僕も皆にずっと黙っていてごめん。でも秘密だって約束もあったから。皆さえ良ければ、こんな僕をもう一度仲間に迎えてほしい「何馬鹿なこと言ってんだよ緑谷」え…?」

 

「オールマイトの弟子だろうが何だろうが俺たちは同じヒーロー科の仲間だろ!」

 

「そうよ緑谷ちゃん。私たちも皆もお友達よ」

 

「緑谷には何度も助けて貰ったんだ。今更変なこと言うのは無しだぜ」

 

「むしろ俺たちにも色々教えてくれよ」

 

「イズ君もずっと隠して大変だったんだから、もう気にせず楽になって良いんだよ」

 

「ん、困ったことがあったら頼って」

 

 一部を除いて皆が緑谷を励ました。

 

「盛り上がっているところ悪いが、マスコミが押しかけてくる前に全員下校しろ。明日は今回のことで臨時休校だ、家にマスコミが押しかけてきても絶対妙なことは話すんじゃないぞ」

 

 こうして無限にも思えた長い一日がようやく終わった。

 

Side out

 

 

爆豪Side

 デクの奴がオールマイトの弟子?しかも去年俺をヘドロ野郎から助けたあの仮面野郎だと?

 

 冗談じゃねぇぞ!今までこそこそ何かしていたのはオールマイトの指導を受けていたからだと。

 

 確かにそれ以前からトレーニングはしていたが、急にあそこまで伸びたってことはそれ以外に何かあるはずだ!

 

 仮面ライダーやオールマイト以外の何か………それが何であろうと俺には関係ねぇ。

 

 俺はいつかNO.1ヒーローになってやる!たとえオールマイトだろうがエンデヴァーだろうが、仮面ライダーだろうが全部ぶっ潰して最強となった俺が頂点に立つ!

 

 今に見てろクソデク。テメェが俺の足下に及ばないことを証明してやる!

 

Side out

 

 

No side

 

次の日―――――

「「「ん?」」」

 

 駅でお茶子、響香、そして一佳はばったり鉢合わせていた。そう、出久の家の最寄り駅でだ。

 

「何であんたらいる訳?」

 

「えっと………散歩?」

 

「休みの日にどこ行こうが自由じゃん」

 

 響香はなんとなく二人の目的を察していた。

 

「単刀直入に聞くけど出久ン家いくの?」

 

「「ドキッ!?」」

 

「だろうと思った。麗日は最近やたらと出久にひっついてくるし、拳藤もわりかし話しかけてきてる」

 

「そう言う耳郎ちゃんはなんなん!?」

 

「アンタもやっぱり緑谷目的か!?」

 

「えっと………散歩/////」

 

「「下手な誤魔化し方するな!!!」」

 

 

 結局三人で出久の家に行く羽目になった。

 

「何だってこんな時に鉢合わせるかな?」

 

「響香は中学の時から緑谷と接点あるだろ。家に行ったことぐらいあるはずだ」

 

「そりゃ受験勉強一緒にしたりしたけどさ」

 

「「中学違うのになんて美味しい展開!!」」

 

 そんなこんなで歩いて行けば、今度は横道からレイ子が出てきて鉢合わせた。

 

「何でアンタまで出てくる。ややこしくなるだけじゃん」

 

「イズ君の家は近所、私はお使いで料理のお裾分けに来ただけ。そしてそれを口実にイズ君の家で―――――「「「抜け駆けすんな!」」」

 

 結局更に一人加わって四人で行くこととなるが、出久の家の前に見知った顔が立ち尽くしていた。唯であった。

 

「唯、アンタまで……」

 

「ん!?……えっと、昨日借りっぱなしだったジャージ返しに………」

 

 持っていた紙袋から借りたままになっていた雄英の体操着を出す。

 

「いやにしたって、なんか少しめかし込んでない?」

 

 唯の格好は服を返しに来たにしては確かにちょっとおしゃれな格好であった。

 

「やっぱり、唯も?」

 

 一佳の言葉に顔を赤らめてコクコクと首を縦に振る。

 

「イズ君、高校生になってからモテすぎだよ」

 

「その片鱗は中学の時からあったよ。現にウチがそうだったし」

 

 緑谷出久、自身の知られざるところで人生初のモテ期到来であった。

 

「あれ、皆どうしたの?」

 

 ふと声をかけられて振り向けば、5人の意中の人である出久がそこにいた。紺色のジャージで首にはタオルを巻いていた。

 

「イズ君!?…えっとトレーニングの帰り?」

 

「うん、休日のランニング。ところで皆もどうして僕の家に?」

 

 突然の問いかけ。来る理由があるレイ子と唯はともかく、一佳、お茶子、響香の3人はただ会いたいというだけで来てしまったので返す言葉に困った。しかし助け船は出た。

 

「あら出久お帰り。そんなに可愛い子達連れてきてひょっとしてこれからデートかしら?」

 

 庭先から出久の母・引子が顔を出してきた。

 

「デデデデデデート!!??ちちち違うよ母さん!彼女たちは雄英のクラスメイトで―――――」

 

「あらそう?でもせっかく来てくれたんだし上がってお茶でもどうかしら?」

 

「「「「「……お邪魔でなければ」」」」」

 

 あっさり出久の家に入り込めた。

 

 

 取り合えず5人はリビングに案内された。出久本人は帰ってきて早々に引子から買い出しを頼まれた。せっかくなので彼女たちと一緒にお昼を食べようと言うことなので必要な材料を書いたメモを渡されて家を追い出された。

 

 ジュースが注がれたコップが5人の前に置かれ、引子はその向かいに座る。

 

「レイ子ちゃんも本当に綺麗になったわね。響香ちゃんも一緒に入学できて良かったわ。他の皆さんも含めて出久と仲良くやってちょうだい」

 

「「「「「あ……はい」」」」」

 

 しばし沈黙する。その沈黙を引子が破る。

 

「一つはっきりさせたいのだけれど、あなたたち出久のこと好きなのかしら?」

 

 突然核心を突いてきて全員が動揺したが、引子は気にせず話を進める。

 

「親の私が言うのはアレだけど出久は正直モテる方じゃなかったわ。イケメンってわけでもなければ社交的でもないし、何より去年まで無個性だった」

 

 無個性。この超人化社会において個性は今や魅力ステータスの一つ。強く他人を引きつけるような個性ならば多少の問題ならば物の数ではない。

 

 しかし出久は無個性。ヒーローに憧れて自身でもデータを取り、自分なりにどんなことが出来るかをシミュレーションして他人の個性を伸ばしたり、使っている本人でさえ気づかないような考えに至ることもある。

 

 しかしどんなに個性についての知識を蓄えても、どれだけ体を鍛えても無個性というこの時代において異端に見られるその事実に出久はずっと苦しめられてきた。

 

 しかしオールマイトが、それ以前から仮面ライダーがそれを変えてきた。自分でも出来ることをして伸ばせるだけのことを伸ばしてきた。たとえ他人から馬鹿にされようとも愚直にそれを幼いときから続けてきた。

 

 その結果、オールマイトに認められ個性を受け継ぎ、原因は不明だが仮面ライダーの力も継承できた。出久自身でも諦めずに続けてきた奇跡と言ってもいい。

 

「私はずっと出久が無個性であったことが不憫で仕方なかったわ。でも出久はそれにめげずにトレーニングを続けてきた、それこそお友達がほとんど離れてしまってもね。だから私は知りたいの、貴女たちが出久の何に惹かれたのかを。レイ子ちゃんは昔出久に苛められていたのを助けて貰ったからだと思うけど、他の皆は何に惹かれたのかしら」

 

side out

 

 

レイ子side

 私は転園した幼稚園で苛められていた。原因は私の個性『ポルターガイスト』を気味悪がられたからだ。

 

 当時は今ほど個性も強くなかったので精々人形などを浮かせて動かすぐらいしか出来なかった。他の子供達は強化系やヒーローのような派手な個性を持つ子が多くて少し特殊な私の個性は受けが悪かった。

 

 そんなこともあって友達も出来ずに一人で幼稚園の庭で遊んでいるときだった。あの爆豪をガキ大将としたいじめっ子達が私の個性が気持ち悪いと言って私の持っていた人形を奪って爆豪が爆破しようとしたときだった。

 

 爆破なんて子供から見ても危なそうな個性を持っているのにもかかわらずそれに立ち向かった男の子―――イズ君が爆豪を突き飛ばして人形を取り返してくれた。

 

 その後は多勢に無勢でボロボロにされちゃったけど、あの瞬間から私の中でイズ君は私のヒーローになった。彼が無個性だと判明しても私の気持ちは変わらなかった。無個性でもヒーローのように立ち向かっていく男の子。

 

 けど現実は厳しく、個性のない彼ではヒーローになる可能性がほぼゼロだ。だから私が彼の夢を引き継いでヒーローになろうと思った。ヒーローになって彼の目に止まってくれれば良い。出来れば再会したい。それだけを思ってトレーニングを続けた。

 

 雄英の入試の時にイズ君と再会した。最初は人違いかと思ったけど、次に会ったときは間違えなく彼だった。

 

 ただでさえ倍率の高い雄英入試試験を次席の私に大差を付けて主席で合格。個性を発現してからの彼は凄く楽しそうだった。でもその反面で無茶をするようになった。

 

 戦闘訓練の時は真っ先に飛び出して身を挺して仲間を守り、敵チームであっても身体を張って守る。USJの時だって大怪我してもおかしくない状況だったのにその身一つで彼は私たちを守ろうとした。

 

 だから改めて決めた。イズ君と一緒にヒーローになって、彼を隣で支えたい。無茶をするなら今度は私が身体を張って止める。そのための力も手に入った。

 

 もうイズ君一人に負担をかけさせない。だってヒーローもライダーも協力が必要だから。

 

side out

 

 

響香side

 正直ウチは自分でも情けないぐらいに優柔不断だった。進学の時期になってどっちか一つを決める取捨選択でウジウジと迷っていた。

 

 そんなウチの殻を破ってくれたのは他でもない出久だった。

 

 ヒーローか音楽か、諦められないなら両方取ってしまえば良いなんて欲張りな考え方はあの時のウチには正直考えつかなかった。自分のやりたいことをやってしまえば良いと出久は背中を押してくれた。

 

 だから受験勉強も迷わず集中できた。判らなければ出久も教えてくれた。逆に判らないことがあればウチも教えた。

 

 会ってたかだか半年程度だったけど、出久の何かを引きつけるような魅力に惹かれた。

 

 入学してレイ子や麗日なんて強敵も現れたけど、ウチは負けるつもりはなかった。

 

 ヒーローも音楽も欲張って目指したんだから、もう一つぐらい欲張っても良いよね?出久の隣にいること、それがウチに出来たもう一つの目標だ。

 

side out

 

 

一佳side

 初めてあいつと出会ったのは入試の実技試験の時。仮想ヴィランの取り囲まれた私に加勢してくれた。しかも自分は1Pを2~3体倒して残りのポイント高い奴を私に譲ってくれた。

 

 次に会えたのは入学式初日の教室。最初は声をかけようと思ったけど直ぐにあの除籍の掛かった個性把握テスト。その時は仮面ライダーだなんて知らなかったけど、爆豪よりもスゴイ超パワーの投擲力(麗日は別にして)、走らせれば飯田より速い上に0.1秒以下とか、巨大エアバイク出したり腕が伸びたりと本当に驚かされた。その後に話す機会が出来たので入試の時の御礼を言うことが出来た。

 

 本格的に気になり始めたのは初めての戦闘訓練の時。一人でチームの楯になって、こともあろうが巻き込まれそうになった物間の奴も守っちまった。あれだけディスってきたのにそれでも守りにいっちまうなんて……アレで惚れない訳無いよ。

 

 次のUSJの時には本当に危なかった。あの時、緑谷がもし間に合っていなければ私も唯もあの男達に酷いことをされて、ネットで晒し者にされて殺されていた。でも緑谷は少ない情報で仲間の危機を察知して助けに来てくれた。たとえ襲われていたのが私たちじゃなくても来てくれただろう。

 

 そして雄英にいられなくなることも覚悟の上で自分の秘密を明かしてくれた。

 

 他の皆もそうだけど、それを知ったからこそ力になってやりたくなった。勿論ヒーローの仲間としても、一人の女の子としても。

 

 アイツが無茶するなら今度は殴ってでも止められるぐらいの存在になりたい。

 

side out

 

 

麗日side

 好きになった切っ掛けは入試でレイ子ちゃんと一緒に助けられたときだ。校門で転びそうになった男の子を助けたら、実技試験で瓦礫に潰されそうになったところを助けて貰った。私みたいに地味そうなのに0P仮想ヴィランに立ち向かっていくその背中が大きく見えた。

 

 小さい頃、初めてヒーロー活動を見たときにヒーローの活躍よりも周りの人たちが喜んでいるのに目がいった。いつも疲れた親の顔を見るのが辛かった私にとって人が喜ぶ顔を見るのが好きだった。だから困っている人がいたら助けるのが当たり前だと思っていた。

 

 でもデク君を見とってその当たり前がどれだけ大変なのかを思い知らされた。怪我をしたり嫌な思いをしてでも助けにいく。戦闘訓練を通してデク君のしている人助けがちょっと異常に思えた。

 

 だから考えた。ヒーローが困ったときには誰が助けてくれるのか?ヒーローが辛いときに誰が手を差し伸べるのか?

 

 幸いにもこれからのヒーローは協力していく方向で時代が進んでいる。だから私は、デク君が辛かったり困ったりしたら手を差し伸べたい。あんな無茶してたらいつかデク君が死んじゃう。

 

 だから私も戦う。ヒーローになる切っ掛けは両親に楽をさせたいことだったけど、デク君の隣に立てるぐらいに強くなって周りを笑顔に出来るヒーローになりたい。頼りにするんじゃなくて頼られるようになりたい!

 

side out

 

 

唯side

 思えばあの日から私は周りに関して無関心になった。幼稚園に通っていた頃に日帰りのバスツアーで事故に遭って両親が他界。それ以降は時計店を営む叔父さんの元に引き取られた。お父さんとお母さんが亡くなってから私は目の前が灰色になった。お葬式で泣きはらして、涙も枯れたと思うぐらい泣いた。楽しかった生活が一つの出来事によって壊されてショックが大きかった私は物事に大きく興味を持てなくなった。

 

 幸い引き取ってくれた叔父さんはいい人で、そんな私を見捨てようとはせず何かに興味を持つように色々なことをしてくれた。遊園地や動物園、水族館にも連れて行ってくれた。クリスマスと誕生日の時はケーキとプレゼントを用意して少しでも喜んで貰うよう努力してくれた。そのおかげもあって以前ほどじゃないけど周りに興味を持つようになった。

 

 ヒーローになろうと思ったのは中学生になったとき。理由はよくわからないけど私はストーカーの被害に遭って、こともあろうにそのストーカーに刺されかけた。その時偶然パトロールをしていたヒーローに助けて貰い事なきを得た。

 

 事情聴取を受けた後に叔父さんが私を迎えに来てくれてこう言った。

 

『今回はラッキーだったよ。ヒーロー飽和社会だなんて言うけど、ヒーローでも助けきれないこともあるんだ。オールマイトだって手の届かないところにいたら助けられないんだ。唯ちゃんを助けてくれたヒーローだって自分の手が届いて助かって良かったと思っているよ。その人の未来を奪われずに済んで良かったって』

 

 その言葉で少し考えた。私の手の届く範囲でも人を救えればその人の未来を奪わずに済むのではと。私みたいな人を少しでも減らせるのではないかと。そんな考えを思考している内に私はヒーローになることを進路に選んだ。

 

 元々成績は良い方だったから努力して勉強をした結果、最難関の雄英に合格して友達も出来た。周りにはすごい個性を持ったクラスメイト達がいた。でもその中でも飛び抜けていたのは緑谷君だった。誰よりも力強く誰よりも早く、そして誰よりも優しい人。

 

 USJで私が酷いことをされかけたときには少ない情報で助けに来てくれた。助かったと思ったと同時に恐怖で身体が震えて動けなくなった私を優しく抱きしめてくれた。暖かかった。すごく安心できた。

 

 その時はこの感情がなんなのかよくわからなかったけど、事件の後でよくよく考えればこれが恋なのだと自覚した。

 

 家族の温もりを与えてくれた叔父さんとも違う。自分意思で絶対に失いたくないと思った温もり。

 

 緑谷君とこれからも一緒にいたい。無茶ばかりをする彼を支えたい。皆の力で彼を助けたい。私によりヒーローになるための目標が見つかった。

 

side out

 

 

no side

 五人の話をあらかた聞き終わって引子は答えた。

 

「貴女たちが出久のことを思っていることははっきり理解したわ。出久は無茶ばかりするから一人が止めても止まるような子じゃない。貴女たち五人で出久を支えてちょうだい。幸いにも今度こんな法律が出来たんだし」

 

 引子が取り出した新聞に書かれた一面、それは―――

 

 

『日本政府来る少子化対策で重婚法可決に踏み切る!』

 

 

 年々問題になりつつある少子高齢化社会を打破すべく政府が打ち出した正直前代未聞の政策。一定状の収入や地位があれば重婚を可能とし、なおかつ最大5人まで奥さん・旦那さんを持つことが出来る。奥さんが複数いれば育児に家事、仕事の継続も可能。逆に旦那さんが複数いれば収入も多くなる。

 

「この法律とうとう可決されたんだ………」

 

「確かに私たちに取っちゃ渡りに船だけど………」

 

「やっぱり皆は出久のことを独り占めしたいの?」

 

 一度無言になるが、直ぐ沈黙は破られた。

 

「でも下手に奪い合いになって出久が悲しんで身を引くよりはましだね」

 

「むしろ私たちで出久支えれば良いよ」

 

「ん!ヒーローもライダーも協力」

 

「私も皆とは友達でいたいしね」

 

「結婚してなおかつ仲が良ければイズ君も喜ぶ。困ったときは話し合いも出来るし、家族の負担も大幅軽減できるね」

 

「満場一致のようね。告白はまだ少し先だと思うけど、出久のことよろしくお願いね」

 

「「「「「勿論!」」」」」

 

 女性陣が互いの利害が一致して少ししてから出久がスーパーの袋を抱えて帰ってきた。その日のお昼は引子を含む六人の女性陣達で作った料理が並んだ豪華な食事会となった。



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雄英体育祭
No.14 大・英・雄・祭


お久しぶりです。今回は全編に渡ってNO sideでお送りします。

今回から体育祭編が始まりますが、結構オリジナルなことが起こるので了承下さい。


事件から二日後。臨時休校明けの雄英の校門にはやはりと言うべきかマスコミが殺到していたが、警備に当たっていた警察や要請できた各事務所のサイドキックヒーローがマスコミを押さえ込んでいたためオールマイト赴任時に比べれば大分楽に生徒は登校できた。

 

「皆―――――!!!朝のHRが始まる席に着け―――――!!」

 

「いや着いてないのアンタだけだよ飯田。ほらほら相澤先生に怒られたくなきゃあんたも早く座る」

 

 糞真面目に委員長の仕事をする飯田に嗜める拳藤。

 

 一見にしていつも通りに見えるが全員が一昨日の事件のことでまだ内心は穏やかではなかった。

 

「お早う」

 

「全員揃っているな?」

 

 相澤とブラドが教室に入ってくる。全員がそれを見て静まった。

 

「諸君、先日は全員生き残って何よりだ。昨日の会議でセキュリティの見直しや多方面のヒーロー事務所の見回りが決定した」

 

「だが君たちの戦いはまだ終わってはいない」

 

「戦い?」

 

「まさかまたヴィランが!?」

 

「上等だ今度は負けねぇぞ!」

 

 各々が意気込んだり不安になったりするが、

 

「雄英体育祭が迫っている!」

 

「「「「「クソ学校ぽいのが来たああああ!!!」」」」」

 

 予想に反して普通であった。

 

「待って待って!ヴィランに侵入されたばっかりなのに大丈夫なんですか!?」

 

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す…と言う話らしい。警備は例年の五倍に強化するそうだ」

 

「そして何より雄英体育祭は……君らヒーロー科にとっては最大のチャンスの場だ」

 

 雄英体育祭。日本でも随一のビッグイベントである。かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。しかし超常によってそれが一変し規模も選手人口も縮小し形骸化した。

 

 日本に於いて『かつてのオリンピック』に代わるのが雄英体育祭。テレビ中継もされ全国のヒーローがスカウト目的で注目する。

 

「資格習得して卒業後は事務所にサイドキック入りするってのがセオリーだもんな」

 

「そこから独立し損ねて万年サイドキックのマイナーなヒーローもいるけどね。多分アンタもその口だアホそうだし」

 

「ちきしょう!」

 

 当然ながらランキングトップの事務所にでも入ることが出来るなら経験・話題性で大分有利になる。雄英在籍中にチャンスは三回、ヒーローを志すのであれば絶対に外せないイベントだ。

 

 

 昼休みになれば皆この話で既にわいわいと盛り上がっていた。その中でもお茶子は特に燃え上がっていてキャラがふわふわして一同は困惑気味であった。

 

 食堂へ行く途中に理由を聞いてみれば、お茶子は究極的に言えばお金が欲しくてヒーローを目指していたそうだ。理由としては実家の建設会社の経営が厳しいからだそうだ。

 

「でもお茶子の個性なら職業用の個性使用許可取ればコスト掛からないんじゃないの?」

 

 超人化社会での個性の公的使用においては大きく分けて二つある。一つはヒーローライセンス習得により個性の自由使用。もう一つは役所などに申請し業務内容と個性の能力で限定的に許可された職業用の許可証。超人化社会においては個性を大っぴらに使うに当たってはこの二つが一般的である。

 

 それも承知で麗日も両親にそう言ったが、両親としてはお茶子自身が夢を叶えてくれた方が何倍も嬉しいと言ってくれた。だからこそ麗日はヒーローになってうんと稼いで両親に親孝行をしたいそうだ。

 

 憧れだけではなく現実味を加味して目指すお茶子を見て一同は感心していた。

 

 そんな話をしている内に食堂が見えてきた。出久と飯田から少し離れた女子五人は今日は誰が出久の両隣に座るかをじゃんけんで決めていた。

 

「よし勝った!」

 

「勝利のV!」

 

 じゃんけんで勝ったのは一佳とお茶子だった。後は料理を受け取って席に着こうとしたときであった。

 

「おお!!緑谷少年が、いた!!」

 

 マッスルフォームのオールマイトが突然現れた。

 

「お昼ご飯……一緒に食べよ?ちょっと話したいこともあるし」

 

 お昼のお誘いであった。そして当然の如く「是非!」と言って料理の乗ったお盆を持って連れて行かれた。

 

「………行ってしまったな。まぁ緑谷君はオールマイト先生の弟子という話だし、積もる話もあるのだろう。個性だって似通っているから随分と気に入られて―――――」

 

 飯田は気づいていなかった。出久を連れて行かれた恋する乙女達が怒りのオーラを纏っていたことに。

 

(((((おのれオールマイトめ!!)))))

 

 溢れんばかりの怒気に周りは気をされていた。

 

 

仮眠室―――――

「1時間半……!?」

 

「あぁ………それが私の現在の活動限界だ。この前の戦いで無理をしてしまったからね。マッスルフォーム維持だけなら3時間行くかどうかって所だ」

 

 ただでさえ個性を継承して残り火しか残っていない今のオールマイト。出久のリカバーによって古傷こそ完治はしたが後遺症と活動限界だけはどうにもならなかった。

 

「それよりも体育祭のことだ。君は今現在ワン・フォー・オールは瞬間的な上限で25%まで操れる。ぶっちゃけて言えばね………私が平和の象徴でいられる時間はもうそんなに長くはない」

 

 USJでの事件に於いて敵はオールマイトの弱体化に気づき始めそれを知られてしまった。メディアにこそ情報は流出してはいないが、バレるのも時間の問題である。

 

「君に力を託したのは私を受け継いでほしいというのが本音だ。そして雄英体育祭という全国が注目するビッグイベント、次世代のオールマイトの意思を受け継ぐ象徴の卵を………君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい!!勿論仮面ライダーのことも公表しても構わない、校長や警察からも既に了承は得ているからね!」

 

 次世代の平和の象徴の卵。軽いように見えてその言葉にはとてつもない重さがあった。

 

「それにことに対して準備をしているのはヒーローだけじゃない。警察だってもうヴィラン受取係なんて言われぬように準備を進めている」

 

 先日の会議で警察内部でも対ヴィラン・対怪人ように仮面ライダーを参考にした強化スーツの開発が進められていることを聞いていた。警察とヒーローの連携は後にも先にも必須。警察も仮面ライダーの行動を見て既に備えている。

 

 むろん現在活躍するヒーローも昨年の出久の言葉で意識改革が始まっている。

 

 だがこと雄英体育祭に於いて成果を残したいと思っているのはヒーロー科の生徒だけではない。

 

 

放課後――――

 ヒーロー科の生徒は教室から出ていない。正確には出られないのだ。出入り口に大勢の生徒達が殺到していたからだ。普通科は勿論、サポート科や経営科の生徒もだ。

 

「出れねーじゃん!何しに来たんだよ」

 

「敵情視察だろ、雑魚共が。襲撃耐え抜いた連中の顔拝みに来たんだろう。意味ねぇから退けモブ共」

 

「爆豪君!無闇矢鱈に他人様をモブとか言うんじゃない!」

 

 やはりと言うべきか、爆豪の発言で不満を漏らす生徒が多い。その中の一人が前に出てきた。

 

「随分偉そうだな、ヒーロー科ってそんな奴ばっかりなのか?ガッカリするぜ」

 

 肩章を見る限り普通科の生徒のようだ。

 

「知ってるか?普通科や他の科にはヒーロー科に落ちた奴も結構いるんだぜ。体育祭の活躍によっちゃヒーロー科への転科も検討してくれる、逆もまた然りだそうだ。敵情視察?少なくとも俺は余裕ぶっているお前らの足ゴッソリ掬ってやる…―――そう宣戦布告に来たつもりだ」

 

 そう考えている人間はこの中にも結構いる。

 

「オイオイ僻みか?僕たちは厳しい試験乗り越えてこの場にいるんだよ。そう簡単にやられるほど―――「関係ねえよ………」はぁーーーーー!!?」

 

「上に上がりゃ関係ねえ。強ぇ奴が生き残るだけだ」

 

 実にシンプルにして当たり前の答え。かなりの人数がその言葉に納得した。野次馬達も、そしてヒーロー科の生徒も。

 

(時間は有限…限られたチャンスの場…なら僕も頑張るよ、子供の頃から憧れていたモノに……僕はなってみせる!)

 

 そこからは全員が各々可能な限りの準備をした。自身の長所を伸ばす者。弱点を克服しようとする者。仮想的を立てて対策を練る者。持てる限りのことを尽くして、あっという間に二週間が経過した。

 

 

 

ヒーロー科控え室―――――

 ついに迎えた雄英体育祭当日。既に持ち物チェックを終えたマスコミやら報道陣が入場を済ませる。そして警備やスカウト目的で来たヒーロー達も大勢集まってきた。

 

「緊張するな………」

 

「テレビ中継の他に全国からプロヒーローが見に来るかんな」

 

「皆準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」

 

「皆先生から指示があったこのリストバンドちゃんと付けるんだぞ!」

 

 他の科も参加する性質上、公平性を保つためにヒーロースーツの着用は禁止されているため全員体操着であったが、ヒーロー科だけには更に両腕にリストバンドをするように指示があった。

 

「おい緑谷」

 

「轟君?」

 

 準備体操をしている出久に轟が声をかけてきた。

 

「客観的に見ても実力はお前の方が上だろう。オールマイトに眼をかけて貰えているからとか仮面ライダーだからだとかそんなのは関係ない。俺は………お前に勝ちに行く」

 

 突然の宣戦布告。予選を勝ち抜いていけばいずれ周りにいる全員が敵になるのは必至。だが出久には迷いもなければ動揺もない。

 

「皆も、他の科の人だってトップを狙ってきているんだ。僕だって遅れる訳にはいかない、僕も……優勝を狙って獲りに行く!」

 

 覚悟の決まった眼には闘志がわいていた。

 

 

『雄英体育祭!!若き卵達が我こそはとシノギを削って頂点を狙う年に一度の大バトル!!』

 

 実況席のプレゼントマイクがDJよろしくと言わんばかりに会場のテンションを上げていく。

 

『どうせテメーらアレだろコイツらだろ!!?ヴィラン襲撃を受けたにもかかわらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!1年ヒーロー科だろぉぉ!!?』

 

 ヒーロー科に続き、普通科、サポート科、経営科も続いて入場するが、やはりヒーロー科のおまけのような印象を持たれる。

 

「選手宣誓!!」

 

 台上で鞭を鳴らす美女は1年主審を務めるヒーロー科教師・18禁ヒーロー『ミッドナイト』だ。

 

「18禁なのに高校にいて良いものか」

 

「不可思議の存在」

 

「断然有り!」

 

「静かにしなさい!!選手代表!!ヒーロー科1-A緑谷出久!!」

 

 選手宣誓はヒーロー科の一般入試試験主席が行うのが通例であった。出久は若干緊張しながらも台上に立ちマイクを握る。

 

『宣誓!僕たち生徒一同は、日頃の鍛錬の成果を見せ正々堂々戦い抜くことを誓います!!ヒーロー科1―A緑谷出久!!』

 

 こうして宣誓を終えたが、出久は台上を降りなかった。

 

『最後にもう一つ。僕は……去年の春先まで無個性でした』

 

 突然のカミングアウトで場の空気が動揺する。

 

『それまでの僕は無個性でもヒーローになれると信じてずっと努力を怠りませんでした。個性こそ得ましたがそのあまりの強大さで未だに完全制御には至っていません。この場にはヒーロー科に入りたくても入れなかった人も大勢います。だからと言って僕は手心を加える気はありません。皆なりたいモノのために今日に備えてきました。だから僕も今日勝つために全力を出し切るつもりで戦います!!』

 

《カメンライド ディケイド!!》

 

 腰にネオディケイドライバーを装着しディケイドに変身した。

 

 突然生徒が仮面ライダーに変身したことに驚いたが、直ぐそれは歓声に代わった。

 

「マジかよ。雄英の生徒が仮面ライダーだったのか!?」

 

「スクープだスクープ!!カメラ回せ!」

 

「コイツは是非ともスカウトしたいな!」

 

 観客やマスコミ、ヒーローも次々注目していく。

 

(変身して自分の過去の暴露や変身。緑谷少年、始めから飛ばしてきたね、自分が来たって!!)

 

 観客席の隅でその様子を見届けていたオールマイトは内心嬉しそうであった。

 

『さーてそれじゃ早速第1種目いってみましょう!!』

 

「雄英って何でも早速だね」

 

『いわゆる予選よ!毎年多くの者がここで涙を飲む(ティアドリンク)!!さて運命の第1種目!!今年は……これ!!障害物競走!!!』

 

 ルールは会場を出て外周4㎞をそうはしてスタジアムに戻ってくる。コースさえ外さなければ何でもありの競争。

 

『ただし……ヴィランとの戦闘をいち早く体験したヒーロー科の生徒には、ちょっとハンデを付けさせて貰います。そのハンデは………ペアを組んでゴールすること!!』

 

 ヒーロー科の生徒は二人一組でチームを組んでゴールをするのが条件。それ以外は自由。ざわめくヒーロー科一同であったが、ここで更にミッドナイトは爆弾発言をする。

 

『ちなみにペアに関しては……アナタ達が自由に決めるのではなく、完全にランダムに決めます。そしてその決定法は入場前に全員に配ったリストバンド!』

 

 手にした機械のスイッチを押すと、ヒーロー科の生徒達が互いに引き合っていく。

 

『リストバンドに内蔵した強力牽引装置で同じ周波数同士の人がペアになります!!』

 

「マジかよ!?」

 

「ランダムってこう言う意味か!」

 

 そして同じ種は数同士のペアが次々に出来上がっていく。

 

切島&鉄哲ペア

「ぬぉっ!?お前が俺とペアか」

 

「なんかいつもセットにされるな」

 

飯田&塩崎ペア

「塩崎君!組こそ違うが互いに頑張ろう!」

 

「神よ、どうか我らに勝利を」

 

峰田&小森ペア

「何でコイツとノコ!?」

 

「知るかよ!?俺だって八百万や拳藤とかが良かった!」

 

轟&八百万ペア

「轟さん、勝つために頑張りましょう!」

 

「足引っ張るんじゃねえぞ」

 

爆豪&物間ペア

「オイオイオイオイ、何だってA組の問題児と一緒なのかなぁ~?」

 

「うっせーぞ物真似野郎!」

 

一佳&響香ペア

「取り合えず共同戦線張るか」

 

「負けたら元も子もないしね」

 

レイ子&お茶子ペア

「イズ君とが良かった……」

 

「あれ、それじゃデク君は?」

 

出久&唯ペア

「えっと……よろしくね小大さん」

 

「ん!」

 

 出久のペアを見事に勝ち取ったのは唯であった。

 

((((なんて羨ましい……!!))))

 

 恋するよにんの乙女の嫉妬の視線が降り注いだ。

 

『では準備は出来たようね。全員位置につきまくりなさい』

 

 ゲートの信号が音を鳴らして点灯していく。最後のランプが緑になった瞬間。

 

『スタ―――――――ト!!!!』

 

 合図と共に一斉スタートする。何でもありの障害物競走の開始である。

 

 

 

 

 

 




全ペア紹介
出久・唯

レイ子・お茶子

一佳・響香

爆豪・物間

峰田・小森

飯田・塩崎

轟・八百万

切島・鉄哲

尾白・葉隠

庄田・吹出

円場・宍田

泡瀬・上鳴

瀬呂・取陰

角取・砂籐

骨抜・青山

凡戸・口田

常闇・蛙吹

障子・鱗

回原・芦戸

黒色・鎌切


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No.15 大波乱、何でも有りの大レース

ミッドナイトside

 ハァーイ、青臭い青春を送ってたり卒業しちゃったりしている皆さん。雄英体育祭1年主審の18禁ヒーロー・ミッドナイトよ。

 

 本編始める前にちょっとヒーロー科に取り付けられたリストバンドについて説明しておくわ。

 

 彼らの付けているリストバンドには同じ周波数で引き合う小型の牽引装置が内蔵されているわ。ちなみに耐電・耐水・耐圧・対ショックとかなり頑丈な作りよ。

 

 この装置は同じ周波数の人同士で引かれあい、3m以上離れたら各所に設置されたセンサーから信号が送られて一番後ろの一にいる人の方に引っ張られる仕組みよ。

 

 ちなみに競技中は外すことは出来ず、ゴールに設置されたセンサーに反応して自動的に外れる仕組みよ。

 

 それじゃぁ本編再開よ!若人達よ………青臭く情熱的なレースを楽しみにしてるわ。

 

side out

 

 

 

no side

 合図と同時に生徒達が狭いスタートゲートに殺到して潜り抜けようとする。しかしここから既に競技は始まっているのだ。そう、個性を使って何してもOKなのだ。

 

 生徒達の動きが急に止まった。足下を見れば凍り付き周りには冷気を感じる。先頭を走るのは轟・八百万ペアだ。足下に氷の道を作り、二人とも着脱式のアイススケートを装着してかなり早く進んでいる。

 

「くっそ動けねぇ……」

 

「寒ぃ……!」

 

 ほとんどの生徒が身動きがとれていない。そう、ほとんどの生徒がだ。

 

「舐めんな半分野郎!」

 

 スタート直後に轟が何かを仕掛けてくるであろうと読んでいたヒーロー科生徒全員が後続から抜け出ていた。各々自分の個性で凍結を回避、もしくは凍り付く直前にジャンプしてかわしていたのだ。勿論他科の生徒の中にも個性を駆使してかわす者は何人かいた。

 

「やはりヒーロー科の方々は全員抜けてきましたね」

 

「そこら辺は想定済みだ。特に尾白と葉隠は一度食らってるしな。他の科の奴らにも思っていたより避けられている」

 

 ヒーロー科生徒達が先頭を独走するその最後尾、出久と唯は一度足を止めた。

 

「どうしたの?早く行かないと」

 

「ごめんね小大さん。やっぱり他の人にだってチャンスはあげたいから」

 

《アタックライド アドベント・ドラグレッダー》

 

 出久が呼び出したのは仮面ライダー龍騎が契約したミラーモンスター・ドラグレッダーを呼び出した。

 

 ドラグレッダーは身動きの乗れなくなった他の生徒達の方を向いて口から火炎放射を吹き出して足下の地面の氷を溶かした。

 

「これで良し。それじゃ遅れを取り戻そう」

 

「緑谷君って結構甘いところあるんだね」

 

 降りてきたドラグレッダーの背中に乗って先行組を追いかける。

 

『すっげーな緑谷の奴!宣誓の時は変身するわ、ドラゴン呼び出して後続組助けるわどんだけ良い奴なんだよッ!?』

 

 マイクの煽りもあって観客のテンションも絶好調。観戦するプロヒーローも出久の評価を高く見る。

 

(だがこれは自己アピールをする場。人助けも良いが自分をアピールしないと指名は貰えんぞ)

 

「おいイレイザー、お前んとこの生徒ホントすげぇな。初見の氷突破するは後続助ける話でよ。私情抜きでも応援してーぞ!!」

 

「一選手のえこひいきはやめとけ山田」

 

「本名で呼ばないで!!」*プレゼントマイク=本名:山田ひざし

 

 実況席の二人はさておき、先行グループは障害物競走の第一関門に到着した。

 

『さて先行組は到着したよな。これは障害物競走、しかし雄英の障害物競走は平均台とかネットなんてお子様使用じゃねぇぞ………第一関門『ロボ・インフェルノ』!!』

 

 目の前に入試の祭に戦った仮想ヴィラン、そして10体以上の0Pヴィランが行く手を阻んでいた。

 

『ここを突破すれば良いがヒーロー科のペア達には更に足枷として障害物でお題をCLEARして貰うぞ!!』

 

 立ててある看板にはこう書かれていた。

 

『ヒーロー科の生徒ペアは小型仮想ヴィラン5体以上、もしくは0Pヴィランを1体以上倒すこと。条件を満たしていない場合はリストバンドの機能で強制的にフィールドに引き戻される』

 

 少し条件が厳しいかと思いきや、

 

「もっと凄ぇの用意してくれよ、クソ親父が見に来ているんだからよ」

 

 轟の氷結で0Pヴィランが氷付けになった。

 

 それに続くかのように他のヒーロー科ペア達も一斉に0Pヴィランや小型仮想ヴィランに襲いかかって次々に撃破していく。

 

「アイツらは想定外にも一度命懸けの実戦を経験した。一度の実戦は100の演習にも劣らない経験になる。大きなものを糧にした連中はもうこの程度じゃ止まれない」

 

 先行最後尾になったか出久と唯のペアも到着した。そして唯の手にはドンカチやマンゴパニッシャーを出久の手にはパインアインアンが握られていた。

 

「いくよ小大さん!」

 

「ん!」

 

 ドラグレッダーの火炎放射で0Pヴィランを牽制、それに続いて出久と唯が持っていたパインアイアンとドンカチとマンゴパニッシャーを0Pヴィランに投げつける。

 

「『大』!!」

 

 巨大化したマンゴパニッシャーとドンカチが0Pヴィランの胴体を破壊、パインアイアンの鉄球部分が頭を叩き潰してそのまま倒れる。

 

「デク如きが目立つんじゃねーぞ!!!」

 

 爆豪・物間ペアは爆破で0Pヴィランの背中に飛び乗って二人同時の連続爆破で沈黙させる。

 

 その足元では霧島・鉄哲ペアが小型仮想ヴィランを徒手空拳で倒していたが、爆豪達が倒した0Pヴィランが倒れてきて二人揃って潰されてしまった。

 

「おい、今誰か潰されたぞ!?」

 

「まさか死んじまったんじゃ………」

 

 突然の事態に驚く普通科の生徒達であったが、

 

「「俺達じゃなかったら死んでたぞ!!!」」

 

 『硬化』と『スティール』で鉄壁状態になって這い出てきた。

 

 次々に第一関門を突破していき、次の関門が生徒達に立ちはだかる。

 

『第一関門は緩いってか!?じゃぁこれならどうだ。落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな。ザ・フォーーーーール!!』

 

 そこが見えない断崖絶壁にロープが張られている。そしてヒーロー科への次の課題は、

 

『ヒーロー科の生徒は絶対に赤い綱を渡ること。ただし飛んで渡るのは可』

 

 よく見れば綱は赤と白の二種類があった。

 

「大げさな綱渡りね」

 

「ダークシャドウ。念のためだ、フォロー頼むぞ」

 

『アイヨ!』

 

 蛙吹・常闇ペアが先行するが、途中で綱に何かが吊されている。小さい透明ビニール袋だ。そしてその中には、有名洋菓子店の半額割引券が入っていた。

 

「………常闇ちゃん、お願いがあるんだけれど」

 

「わかった」

 

 何も言わずにダークシャドウに袋を獲って貰った。しかし吊されている袋はそれだけではなかった。割引券以外にも食堂のタダ券、図書カード、はたまた女性ヒーローの写真集や著名ヒーローの本や漫画の最新刊まで色取り取りに吊されている。そう、赤い綱だけに。

 

『どうだ!別に獲ったって取り上げないしむしろ進呈するぜ!!赤い綱にのみ吊された甘い誘惑の品々。この誘惑に手を伸ばして欲を満たすのか!?それとも時間を惜しんで先を行くのかはオメェラの自由だ!!!』

 

「何でこんなモン吊すんだ?」

 

『ちなみに一番の一押しは、主審を務めるミッドナイトさんの学生時代のコスチュームブロマイドだ!!先輩・後輩やら同級生に頼んで当時の写真用意して貰ったぜ!!』

 

「ちょっとやめなさいよ!私の一番の黒歴史!!」

*今より過激なコスチュームを着たミッドナイト先生の学生時代については番外編である『ヴィジランデ』を読んで下さい。

 

「ミッドナイト先生の過激なコスチュームのブロマイドォォ!!」

 

「峰田諦めるノコ!」

 

「ヒーロー科ばっかズルいぞ!」

 

「俺達だってほしいぞ!」

 

 景品につられて他科の生徒達も赤い綱に群がってくる。

 

「景品なんざんにつられるかよ!」

 

「ハッハー!B組がすごいって所を見せてあげるよ!」

 

 爆豪と物間が爆破で断崖を渡ろうとするが、

 

『飛んでも良いとは言ったけどよ。それに何の対策してない訳ねーぞ。飛んで渡る奴に対しては対空機関砲が撃ち落としに掛かるぜ!ちなみに弾はゴム製の安全使用だ!』

 

 対岸から向けられた機関砲の集中砲火が飛んで渡ろうとした生徒達に襲いかかってきた。

 

「クソが避けろ!!!」

 

「ちょっとあんまり離れないでくれないかね!?」

 

 甘い罠で時間ロスをする者が続出。そんな中でも誘惑負けず突き進む奴もいる。

 

「兄が見ているかもしれないのだ。だからこんなところで………かっこ悪い様は見せられん!!!」

 

『カッコ悪リィィィーーーーーー!!!!』

 

 塩崎を背負った飯田が両手でバランスを取りながらエンジンの推進力で進んでいく。確かに見た目はかっこ悪い。

 

 そうこうしている内に轟・八百万ペアが綱渡りを突破。一位を独走していた。

 

「一位の奴ダントツだな。個性の強さもあるが基礎的な身体能力も相当高いぞ、特に男の子の方」

 

「そりゃそうだろう。あの子フレイムヒーロー・エンデヴァーさんの息子らしいぞ」

 

「オールマイトに続くNo.2の血か。通りでずば抜けている訳だ」

 

「そう言えば仮面ライダーの子はどこだ?」

 

 ふと第二関門の方を見れば、出久と唯の乗ったドラグレッターは崖の下の方を飛んでいたが、少し様子が変だ。ドラグレッダーの他に、可変バイク・オートバジン、アカネダカ、ガルーダ、タカカンドロイドも呼び出して何かをしていた。

 

 そしてようやく向こう岸にたどり着いたら何かを地面に置いた。吊されていた景品であった。

 

「さてと。他の皆さん、僕たちはこれだけ貰っていくんで後はご自由にどうぞ!!」

 

 それだけ叫んで先を急いだ。それを見た者達は我先にと綱を渡りきって出久達が置いていった景品に群がっていった。

 

「ん、良い撒き餌になった」

 

「僕たちは僕たちで欲しいものは手に入ったしね」

 

 出久と唯はそれぞれヒーロー大全集(最新版)と食堂のタダ券(一ヶ月分)を懐に入れていた。

 

『緑谷・小大ペアのおかげかようやく綱を渡りきる生徒が増えてきたぜ。そしてトップグループは最後の関門に突入だ!!一面地雷原!!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃ判る仕様になってんぞ!!眼と脚を酷使しろ!!ちなみに地雷の威力はたいしたことはねぇけど音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

 

「人によるだろ」

 

「なるほどな、先頭なほど不利な障害だ」

 

「轟さん次の試練が……」

 

『ヒーロー科の生徒は、ペアの相手を抱えること(二人三脚や背負うのも可)』

 

「「……………」」

 

「何惚けてやがるんだ半分野郎!!やっぱりおめぇは宣戦布告する相手を間違えた。俺が一番だ!!!」

 

「それじゃぁね、A組の推薦組のコンビさん!!」

 

 二人三脚の構えで爆豪・物間ペアが前に出ようとした。地雷を避けるために爆速ターボで大ジャンプを決める。

 

『あぁ言い忘れてたけど、さっきの関門と同じくこのステージにも対空機関砲が付いているほか、捕縛用のネットミサイルもあるから注意しろよ!』

 

 爆豪・物間ペアに向かって銃弾の嵐とミサイルが襲いかかってきた。

 

「ここでもかクソがッ!!!」

 

 轟も置いていかれまいと八百万を抱えて地雷原に足を踏み入れる。

 

「ちょ、ちょっと轟さん!この格好はちょっと………」

 

「お前は後ろを警戒しろ。後続連中が攻撃してきたら防御任せる」

 

 他の生徒達も続々と地雷原に足を踏み入れていく。

 

「ごめんレイ子ちゃん、機銃やらなければ私の無重力とレイ子ちゃんのポルターガイストで一気にゴールいけるのに」

 

「多分そう言うのも考慮しての仕掛けよ」

 

 二人三脚スタイルで進むレイ子・お茶子ペア。

 

「しっかり掴まってろよ」

 

「邪魔する奴はウチが攻撃する」

 

 響香を背負う一佳。そして、

 

「流石に飛ぶのは無理だね。タイムマジンでもネットミサイルは流石にどうしようもない。僕が小大さんを背負うから――――」

 

 すると唯は出久の正面に立って両手を首に回す。

 

「あの……小大さん?」

 

「ん……このまま身体と脚を持ち上げて」

 

「えっと……はい」

 

 出久がお姫様抱っこの状態で唯を運ぶ羽目になった。

 

((((な………なんて羨ましいんだ!!))))

 

 レイ子・お茶子ペア、一佳・響香ペアから唯へ怒りと羨望の視線が向けられ、

 

((((緑谷の野郎なんて羨ましいことを………))))

 

 男子達からは出久に怒りの視線が向けられた。

 

 次々に地雷原を進選手達だが、途中で目測を誤って地雷を踏んで飛ばされる者が出て、更にそれに驚いたり巻き込まれた者が更に地雷を踏んで後方は大混乱となる。

 

「どわぁぁ!!」

 

「ぎゃあぁ!!」

 

 既に後方は阿鼻叫喚に包まれている。先頭グループも爆豪・物間ペアと轟・八百万ペアが我先にと互いに牽制を入れながらも一歩一歩前に進んでいく。

 

「トップ二組はもう三分の二を超えた。何位までが予選突破できるか判らないけど急がないと……」

 

「ん、緑谷君。先生達はこの競技で変身しちゃダメなんて一言も言ってないよね?」

 

「えっ?そうだけど……あっ!でもなんか他の人に悪いな……」

 

「大丈夫、体育祭はアピールの場。目立ってなおかつ力を示す。別に卑怯じゃない」

 

「………ありがとう、何か気が楽になった」

 

 それを言って出久はネオディケイドライバーを腰にセットした。

 

《カメンライド ディケイド!!》

 

 ディケイドに変身した更にカードをセットする。

 

《カメンライド フォーゼ!!》

 

 宇宙からのエネルギー『コズミックエナジー』を秘めたアストロスイッチで変身する青春と友情を併せ持つ仮面ライダー―――――仮面ライダーフォーゼの姿となる。

 

「宇宙キターッ!更にこれで」

 

《アタックライド ロケット!》

 

 右腕にオレンジ色のロケットモジュールが装着される。唯もしっかりと掴まってロケットのジェット噴射で飛んでいく。

 

「何ッ!?」

 

「ウソォッ!?」

 

『オイオイ緑谷・小大ペアどうした!?飛んだら機関砲とミサイルの集中砲火あるっていっただろ!?』

 

 案の定機関砲の集中砲火とミサイルが二人に向けて放たれる。

 

「要は当たらなければ良いんだ!!」

 

《アタックライド ウインチ! エアロ!》

 

 左腕に装着したウインチモジュールを発射してコース脇のポールに引っかけて一気に方向転換。エアロの大気放出で向かってくるミサイルを吹き飛ばす。

 

「これで後は一気に突っ切る!」

 

《ファイナルアタックライド フォ・フォ・フォ・フォーゼ!!》《リミットブレイク!!》

 

「ライダーロケットダーッシュ!!」

 

 最大出力のジェット噴射でトップ二組を追い抜いて地雷原を突破する。

 

「小大さん、このまま突っ込むからしっかり掴まって!」

 

「ん!!」

 

 コースに沿って一気に飛んでゆき、スタジアムのゲートを潜り抜けた。

 

『ご………ゴーーーーーールッ!!!一着でゴールインしたのは仮面ライダーディケイド・緑谷と小大のコンビだああああぁぁ!!イレイザーヘッドお前のクラス凄ぇなど!!ういう教育してんだ!!』

 

「俺は何もしてねぇよ。アイツらが勝手に火ぃ付け合って勝手に燃え上がっただけだろう」

 

 ゴールした二人に観客席から大歓声と拍手が送られた。

 

「仮面ライダーの子やっぱり凄いな!」

 

「いかに自分が目立つってことが重要なこの体育祭で人助けまで。コイツはポイント高いな」

 

「だがそれで選ばれなきゃ本末転倒だろう。その辺はまだまだ若いゆえに甘いな」

 

「女の子の個性もバカに出来ないぞ。大きさを変える個性、全戦で戦っても良しサポートに回っても良しで汎用性が高いな」

 

 プロ達も各々評価を下す。勿論低く評価を下す者もいるが、それでもしっかりと彼を見てくれていた。

 

(君の芯であろう人を助けるヒーロー……だがこの体育祭はその真逆で勝つために相手を蹴落とす必要がある。人気商売の面が大きい現代ヒーロー…まして君はなまじとてつもない力を秘めてしまったからあまりひけらかさないと思っていた。皆と対等にありたいというのが君の弱点になるのではないかと思ったが小大少女が背中を押してくれたみたいだね。超杞憂だったね。ゴメンな!!)

 

 観客席からトゥルーフォームで観戦していたオールマイトは両手を合わせながら笑っていた。

 

 その後次々に後続の選手達がゴールしてきた。ヒーロー科の生徒達は一人もかけることなく全員ゴールして予選を突破した。

 

「またか……クソッ………!!クソが………!!」

 

「はぁはぁ」

 

 爆豪も轟も出久に続く形でゴールしたが、トップを独走していただけに土壇場で追い抜かれたことは悔しかった。

 

 ちなみに余談であるが、ゴールした瀬呂と峰田はなぜかボロボロになっており、ペアだった取陰と小森は顔を真っ赤にしていた。

 

 

 

「はーい!それでは予選を突破した上位42人の順位を発表しちゃうわ!!ちなみにヒーロー科の生徒はペアだから順位はタイとして扱うわ」

 

 

1:緑谷・小大ペア

 

3:轟・八百万ペア

 

5:爆豪・物間ペア

 

7:飯田・塩崎ペア

 

9:蛙吹・常闇ペア

 

11:骨抜き・青山ペア

 

13:柳・麗日ペア

 

15:切島・鉄哲ペア

 

17:取陰・瀬呂ペア

 

19:峰田・小森ペア

 

21:泡瀬・上鳴ペア

 

23:尾白・葉隠ペア

 

25:角取・砂籐ペア

 

27:心躁人使(普通科C組)

 

28:拳藤・耳郎ペア

 

30:黒色・鎌切ペア

 

32:芦戸・回原ペア

 

34:障子・鱗ペア

 

36:円場・宍田ペア

 

38:凡戸・口田ペア

 

40:発目明(サポート科H組)

 

41:吹出・庄田ペア

 

 

 

「残念ながら脱落しちゃった人もいるけど心配ないわ、まだまだ活躍する場は残しているから。そして次からいよいよ本戦よ!!ここからは取材陣も白熱してくるわよ!!気張りなさい!」

 

 電光掲示板に次の種目が表示される。

 

「次の種目は………騎馬戦!!2~4人のチームで構成された騎馬で基本ルールは普通の騎馬戦と同じだけど、先ほどの障害物競走の順位に沿ってポイントがもうけられていること。チームになった選手達のポイント合計が騎馬のポイントになって、このポイントを奪いあうのがルール」

 

 内容だけ見れば入試の実技試験と同じだが、ここでミッドナイトは爆弾発言を投下してくる。

 

「ポイントは下位から順に5Pずつ加算れていくわ、ちなみにタイは連判した順位のポイントを足して半分、割り切れない場合は小数点切り捨てで。そして1位で通過した緑谷・小大ペアには………1000万P!互いに分け合って500万Pが貰えちゃうわ!!」

 

「「………ん?」」

 

 突然の発言で二人の思考は一瞬フリーズした。

 

「上位の奴ほど狙われちゃう………――――下克上のサバイバルよ!!!」

 

 体育祭の波乱はまだまだ続く。




ポイント振り分け早見表

1:緑谷・小大ペア 各500万P

3:轟・八百万ペア 各197P

5:爆豪・物間ペア 各187P

7:飯田・塩崎ペア 各177P

9:蛙吹・常闇ペア 各167P

11:骨抜き・青山ペア 各157P

13:柳・麗日ペア 各147P

15:切島・鉄哲ペア 各137P

17:取陰・瀬呂ペア 各127P

19:峰田・小森ペア 各117P

21:泡瀬・上鳴ペア 各107P

23:尾白・葉隠ペア 各97P

25:角取・砂籐ペア 各87P

27:心躁人使(普通科C組) 80P

28:拳藤・耳郎ペア 各72P

30:黒色・鎌切ペア 各62P

32:芦戸・回原ペア 各52P

34:障子・鱗ペア 各42P

36:円場・宍田ペア 各32P

38:凡戸・口田ペア 各22P

40:発目明(サポート科H組) 15P

41:吹出・庄田ペア 各7P


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No.16 超雄英大戦!天下分け目の騎馬合戦

久しぶりの更新です。早出の仕事なのとここしばらくずっと忙しかったので10月入る前に書き上げました。

ちなみに今回のタイトルは平成ライダーMOVIE大戦シリーズの中でも好きな作品の一つをオマージュしました。

後小大ちゃんがちょっとキャラ崩れしてますが……そこは勘弁!


出久Side

 マズイ!さっきまでは言わば個人戦。僕たちヒーロー科はペアで共通目的があったから共闘して予選突破を狙えてきた。でも今度の騎馬戦は違う。

 

 騎馬同士でポイントの奪い合い、必然的にポイントの高い騎馬を集中的に狙ってくる。そしてわざわざ的になるような人と組むメリットはほとんどない。現に周りの皆は僕から目をそらしているし。

 

 でも孤立したら失格。最低でも一人、なら僕と同じ状況下にある小大さんと―――

 

「ハッハー!!さぁ小大、B組の一員として一致団結してA組を見返そうじゃないか!」

 

「いや、離して」

 

 瀬呂君の個性をコピーした物間君に連れて行かれた!!マズイぞ、これじゃ僕だけ孤立して本当に失格になってしまう。せめて……せめて誰か一人と―――――

 

「「イズ(デク)君、私たちと組んで」」

 

 声をかけられて振り向けばレイちゃんと麗日さんがいる。てか今僕とチーム組んでって……。

 

「良いの二人とも?僕500万Pだよ?皆狙ってくるよ?」

 

「むしろ上等。それに上手く逃げ切れば最終種目にも出れるよ」

 

「それにデク君なら私たちに上手く指示出してくれると思うし」

 

 確かに麗日さんの個性なら上空に逃げることも可能。レイちゃんの個性に至っては牽制は勿論、上手く操れば鉢巻きも奪える。

 

 まずはこれで三人、最低人数はそろえたけど出来ればもう一人………。

 

「そこの一位の人、私と組みましょう!!」

 

 顔近いっ!?って確かこの人ヒーロー科以外で予選突破したサポート科の人。

 

「私はサポート科の発目明!貴方のことはよく知りませんが立場利用させて下さい!!」

 

 あけすけだ。何でも発目さんは会場に来ているサポートアイテム会社へのアピールに注目を浴びる僕にアイテムを使って自己アピールしたいそうだ。それにサポート科は自作アイテムの持ち込みが可。むしろこれを利用しない手はない。

 

 発目さんを加えて僕らのチームは完成した。

 

 

side out

 

 

唯Side

 不覚だった。緑谷君と騎馬を組もうと近づいたら物間に掴まって離された。

 

「小大、僕は君の個性は高く評価しているんだ。その力で今調子に乗っているA組を懲らしめて僕らB組がいかに優秀であるかを示そうじゃないか」

 

 A組とB組の優劣に興味はない。むしろ仲良くしたいと思っている。この考えはどっちの組でも大多数………いや、物間以外全員だ。多少の対抗心はあっても優劣を付けたいほどじゃない。

 

 なんとしても緑谷君と組みたい。だから物間を少し困らせることにした。

 

 物間のジャージにこっそり触れて、個性でジャージのサイズを縮めてやった。

 

「ギャアアアァァ!!!し、絞まるぅぅぅ!!!」

 

 可哀想だけど無理矢理連れてきた罰だ。急いで緑谷君の所へ戻ってきたら、緑谷君の所は既にチームが出来上がっていた。しかも内二人はレイ子とお茶子。もう一人はゴーグルを付けたピンク髪のサポート科の女子。

 

 上限は4人まで。今更行ったところで定員オーバー。かといって物間の方に付く気も更々なかった。さてどうしようか。ふと向けばある生徒が目に映った。

 

 爆豪勝己。緑谷君を無個性という理由で虐めていた幼馴染み。粗暴さは目立つけど少なくとも実力はある。可能性は低いけど彼を利用しよう。そして彼の人間関係を利用して仕返しもしよう。

 

「ん、私もチームに入れて」

 

「あん?テメェ、デクとペアだった大小女」

 

「小大が入ってくれるのか?確かに500万P入れば予選突破もほぼ確実だけどよ、こっちにも集中砲火こねーか?」

 

「大丈夫。この騎馬戦でも変身は禁止されていないから私も変身する。それと入れて貰うのとお願いがある。真っ先に物間達の騎馬を潰したいから手伝ってほしい」

 

「………あのモノマネ野郎か。ペア組んでるときからやたらウルセぇわ、B組が優秀だとか、ヘドロだとかで散々なじってやがったからな。良いぜ、ソッコーでぶっ潰してデクと半分野郎の騎馬もぶっ潰して完全勝利狙うぞ!」

 

 取り合えず算段はとれた。でも緑谷君のチームは潰させない。一緒に最終競技に出たいし。それまでは手を貸そう。

 

 

side out

 

 

No side

 チームを作るための時間が経過し、全ての騎馬が揃った。

 

 

合計P順

爆豪・瀬呂・切島・唯チーム 500万451P

 

出久・レイ子・お茶子・発目チーム 500万309P

 

轟・八百万・飯田・上鳴チーム 678P

 

鉄哲・拳藤・小森・塩崎チーム 503P

 

峰田・蛙吹・障子・取陰チーム 453P

 

葉隠・青山・角取・砂籐チーム 428P

 

心躁・常闇・尾白・庄田チーム 351P

 

鎌切・泡瀬・吹出・骨抜チーム 333P

 

物間・円場・回原・黒色チーム 333P

 

耳郎・凡戸・芦戸チーム 146P

 

鱗・口田・宍田チーム 96P

 

 

『よぉーし組み終わったな!!?準備良いかなんて聞かねぇぞ!!いくぜ、残虐バトルロイヤルカウントダウン!!3!!!2!!1!………スターーーーートォ!!!』

 

 マイクの合図と同時にいくつかの騎馬が出久達の騎馬に殺到した。

 

「実質それの争奪戦だぜ!」

 

「緑谷君覚悟!」

 

 鉄哲チームと葉隠チーム、そして鎌切チームが一斉に襲いかかってくる。

 

 回避しようとするが、出久達の騎馬が地面に沈んできた。骨抜の個性『柔化』によるものだ。しかし出久はこの程度ではひるまない。手に持ったスイッチを押せば背負っている発目謹製ジェットパックで急浮上、高く飛ぶためにお茶子も個性で自分以外の重量を0にしているのでかなりの高さを飛べる。着陸には同じく発目謹製のフロートシューズとレイ子の個性で衝撃を大幅軽減。

 

 このまま逃げ切ろうとするがハプニングが発生した。周辺を紫色のボールに囲まれていた。峰田のモギモギボールだ。

 

「奪い合い……?違うぜこれは…一方的な略奪よお!!」

 

 振り向けば障子が突っ込んできたが、複製腕を駆使して背中を覆っている。そしてその隙間から峰田が顔を出す。

 

「そんなの有り!?」

 

「それだけじゃねぇぞ!いけー!!あの忌々しい女神輿に乗ったクソ野郎の鉢巻きを奪え!!」

 

 隙間からまた何か飛び出してきた。長い舌と切り離された両手。蛙吹の蛙の舌と取陰のトカゲの尻尾切りだ。

 

《アタックライド メロンディフェンダー》

 

 咄嗟にメロンディフェンダーを出して手を払いのけて舌を防御する。

 

 すぐさま噴射でトラップ地帯を脱出するが、

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

 爆破で飛んできた爆豪が襲いかかってきた。

 

「ちょっと騎馬から離れても良いわけ!?」

 

『テクニカルだからOK。でも地面に付いたらアウトね』

 

 すぐさまメロンディフェンダーでガードするが反動で飛ばされる。

 

「戻れ爆豪、緑谷もターゲットだけど第一目標は別だろう!」

 

 瀬呂のテープで爆豪を回収。そして爆豪チームが対峙するのは物間チームの騎馬だ。

 

「さあ始めようか、B組こそがどれだけ優秀なのかを証明するための―――って小大なんで君がそっちにいるわけ!?」

 

 騎馬の右にいる唯を見て物間は驚いた。

 

「物間潰す物間潰す物間潰す物間潰す―――物間潰す!!」

 

「いつもと雰囲気違うから怖いよ!!」

 

 唯も物間を発見して即座にジクウドライバーをセットする。

 

《ジオウ!》

 

《ライダータイム! 仮面ライダージオウ!》

 

「そしてもう一つ……」

 

《ゴースト》

 

《アーマータイム! 開眼! ゴースト!》

 

 ジオウに変身して即座にゴーストアーマーにフォームチェンジした。

 

「ええぃ、負けても悪く思うなよ!こっちも使える個性コピーしてきているんだ、仮面ライダーだとしても負けないよ!!」

 

 物間の手が爆破を放ってくる。爆豪の個性を再度コピーしていたのだろう。

 

「無駄。出てきて、パーカーゴースト!」

 

 ゴーストライドウォッチから何体かのパーカーゴーストが現れて爆破を防御する。そして爆豪、切島、瀬呂にそれぞれ装着された。

 

「なんじゃこりゃああ!?」

 

「何これ幽霊!?」

 

「ん、そのパーカーゴーストには英雄と呼ばれていた人たちの魂が宿っている。それ着ていれば限定的だけど能力発動できる」

 

「まじか!?なら遠慮なく……力借りるぜ!!」

 

 騎馬の先頭を務める切島が勢いよく突っ込んでいく。騎馬同士が激突するが、物間チームの騎馬が押し飛ばされて崩れかける。

 

「なんなんだこのパワーは!?」

 

「ん、切島のパーカーゴーストの英雄は『武蔵坊弁慶』。パワーだけなら英雄達の中でもピカイチ。切島の硬化と一番相性が良い」

 

「なら動きを封じ込めるまでだ!」

 

 爆豪チームの騎馬を物間チームの騎馬が旋回し始める。

 

「何するかわかんねぇけど一度距離取るぞ」

 

 爆豪チームが離れようとするが突然何かにぶつかる。見えない壁のようなものが行く手を遮っていた。

 

「しまった円場の『空気凝固』!」

 

 物間達はただ旋回していたのではなかった。空気凝固の壁を作って逃げ道をふさいでいたのだ。

 

「どうだいA組の諸君。これで逃げ場は塞いだ。爆豪君が飛んで逃げても無駄だよ、上の方もちゃんと蓋をしてるからね。後は、じっくり刈り取るのみ!!」

 

 物間の膝からテープは発射された。瀬呂のテープも再コピーされていたようだ。

 

「ヤバい逃げられねぇ!」

 

「大丈夫。瀬呂のゴーストは奇跡の脱出王だから」

 

 爆豪チームの騎馬が鎖に巻き付かれると、ポンッと音を立ててその場で消えてしまった。

 

「オイオイどこ行ったのかな!?」

 

「ここだアアアァァ!!!」

 

 後方から現れた爆豪チームの騎馬が一気に突っ込んでくる。しかも爆豪の手には鎌モードのガンガンハンドが握られている。

 

「脱出王フーディーニ、彼に脱出できない密室はない。そして爆豪のパーカーゴーストはエジプトの王の一人ツタンカーメン」

 

 すれ違い様に鎌の先で物間の鉢巻きを奪う。

 

「やられた………奪い返す―――――!」

 

 爆豪チームを追いかけようとした瞬間地面が凍り付いた。物間チームを始めいくつかのチームが足下を凍らせて動けなくなった。

 

「この個性は……半分野郎か!!」

 

 それだけではなく、フィールドを分断するように巨大な氷壁が出現する。それを契機に動ける騎馬は爆豪チームに攻撃を仕掛けに行く。

 

「クソが!返り討ちにしてやらぁ!!」

 

 

side out

 

 

出久side

 相手を迎撃しつつ僕たちのチームはポイントを取りに行こうとはせずポイントを守る勝ち逃げを続けていたけどそれも長くは続かなかった。突然巨大な氷壁がフィールドを分断、僕たちの騎馬の前に現れたのは、

 

「緑谷、お前らの500万Pは俺達が貰う」

 

 轟君達の騎馬が正面に立っている。

 

 僕たち以外の騎馬は轟君達の騎馬にいた上鳴君の放電攻撃で全滅。それを可能にしたのは同じ騎馬の八百万さんが絶縁シートで巻き添えを食らわないようにしたからだ。他チームの鉢巻きは全て轟君達が回収した。

 

 さっきの放電で発目さんが持参したアイテムはショートして使い物にならなくなった。

 

「改善の余地有りですね」

 

 残り時間はあと1~2分。ここで逃げ切れば僕たちは予選通過は確実。なんとしても………僕なんかに力を貸してくれた皆のためにもこのポイントは守り切る!!

 

《カメンライド ディケイド!》

 

《アタックライド ストライクベント・ドラゴンクロー ガードベント・ドラグシールド》

 

 変身してメロンディフェンダーは後方の麗日さんに、僕は迎撃するために火炎放射を出すドラゴンクローと防御用のドラグシールドで身構える。

 

 火炎放射でで牽制しつつ距離を………。

 

「(ここで使うしかない。緑谷君……否A組の皆でさえ知らない秘密兵器を)皆、残り一分弱……この後俺は使えなくなる。頼んだぞ、しっかり掴まっていろ」

 

 飯田君が何か言っている。まさか僕も知らない隠し球か!

 

「取れよ轟君。トルクオーバー………レシプロバーストッ!!」

 

 何か来ると思った瞬間に身体を反らしたのが幸いした。鉢巻きこそ取られてはいないけどその衝撃波でドラゴンクローとドラグシールドを落としてしまった。

 

「済まん取り損ねた。でも飯田これは……」

 

「トルクと回転数を無理矢理上げて爆発力を生んだんだ。反動でしばらくエンストするがな。クラスメイトの研究を常にしている緑谷君でさえ知らない裏技だったが……流石に勘が良い。まだ動ける内にもう一度仕掛ける!!」

 

 もう一度突撃してくる。今度もあの超スピードか。アイテムを呼び出す暇はない、それなら迎え撃つまで!変身した状態でワン・フォー・オールフルカウル25%。これが今できる最大出力!!

 

 轟君の左腕が伸びてきた。大怪我させないように両腕を振って風圧を生む!

 

 二回目の接近戦は………守り切った!!

 

『タイムアップ!!全員その場で停止しろ。ここで騎馬戦の順位を発表するぜ!!』

 

 モニターに順位とポイントが表示されてマイク先生が読み上げていく。

 

『一位爆豪チーム500万と1263P!!』

 

「雑魚共に時間を取られすぎた!!」

 

『二位ポイントを必至で守り抜いた緑谷チーム500万と309P』

 

 流石はかっちゃんだ。この辺は想定通りだな。

 

『三位轟チーム1252P!!500万こそ取れなかったが頑張ったぜ!』

 

「済まない、500万取ると言って置いて取れなかった」

 

「それでも彼らをあそこまで追い詰めたんだ。十分敢闘賞だぞ轟君!」

 

(あの時………一瞬だが炎を使いそうになっちまった。緑谷の威圧に押されて……使いたくもないアイツの個性を……!!)

 

『最後は鉄哲チー……ムじゃな無くて心躁チーム950P!?いつの間に逆転してたんだ』

 

「知らない間に私たちの鉢巻き取られていたノコ………」

 

「塩崎のおかげで峰田達のチームの鉢巻き奪ったと思ったら時間切れかよ……」

 

 まさか鉄哲君や拳藤さんのチームが脱落するなんて………普通科の心躁人使君。コイツはかなりの強敵だぞ!

 

 午前中の競技が全て終了してそのままお昼タイムに突入した。皆食堂に向かっているけど、僕は轟君に呼び出されて通路で対面している。

 

「えっと轟君………話って何かな?早く食堂行かないと混み合っちゃうよ」

 

 冷たい視線と威圧感。かっちゃんとは別の凄味を感じ取れた。

 

「気圧された。俺は自分で決めた制約を破っちまった。攻撃には絶対に使わないと決めていた左側を」

 

 轟君の個性は『半冷半燃』右で氷を、左で炎を放つ個性。普段の訓練を見ていて気づいたけど、轟君は訓練に置いては氷の方しか使っていない。左は出した氷を溶かすときにしか使っていない。

 

「あの気迫、俺はその気迫に思わずオールマイトを重ねちまった。お前……もしかしてオールマイトとかの隠し子とかじゃないよな?」

 

 ………へ?ええええええぇぇぇ!!!確かに個性こそ元はオールマイトから譲ったものだから似てるかもしれないけど隠し子って………。

 

「……逆に聞くけど、なんでそんなことを聞くの?似てるのはオールマイトの指導を受けたからってことだって考えられるし」

 

「…確か前にそんな事言ってたな。お前ヒーローには詳しいだろ、俺の親父がエンデヴァーだってことも知っているはずだ」

 

 フレイムヒーロー・エンデヴァー。雄英の卒業生の一人でオールマイトに続くNo.2ヒーロー。事件の検挙率で言えばオールマイトを追い越す程だ。

 

「そう、万年No.2だ。だからこそお前には勝たないといけない、No.1の弟子であるお前にはな」

 

 

side out

 

 

轟side

 入学当初からコイツにはオールマイトに近い何かがあると思っていた。そしてUSJでコイツが巷で噂になっていた仮面ライダーであったことよりもオールマイトの弟子であったことが一番驚いた。

 

 だからこそ俺はコイツに勝ちたかった。オールマイトが育てた弟子に勝つことで、アイツを……親父を否定するために。

 

 親父は元々向上心の強い人間だった。その実力でNo.2にまで登り詰めたがオールマイトという目上のたんこぶにはいつまでも届かなかった。だから親父は自分の目的を次に託すことにした。

 

 『個性婚』第2~3世代の間で問題になった出来事。自身の個性をより強化して受け継がせたり、複合的な個性を持つ者を誕生させるためだけに婚姻をする倫理観を無視した前時代的な風潮。金と実績だけはあった親父はその力で母の個性を手に入れた。

 

 オールマイト以上のヒーローに育てようと幼い頃から過酷なトレーニングを課してきた。遊ぶことさえろくに許さず先に生まれてきた兄姉たちともろくに接触させない。時には母にさえ暴力を振るってきた。

 

 母はいつも泣いていた。そしてついには俺の左側が醜いと言って煮え湯を浴びせてきた。それを知った親父は母を無理矢理病院に閉じ込めた。

 

「俺がお前に突っかかるのは見返すためだ。親父の炎を使わなくても母さんの氷だけを使ってオールマイトの弟子であるお前に勝ち一番になる。そして親父を完全否定する」

 

 言いたいことは言った。時間取らせたと謝って立ち去ろうとした。

 

「僕は……僕は元々は無個性だった。個性が出てもまだ制御しきれないし仮面ライダーの力だってよっぽどのことでも無い限り使いたくない使いたくない。だからこそ助けて貰うんだ。自分で出来ることなんかたかが知れている。さっきの騎馬戦だって、皆が僕に力を貸してくれたから乗り越えられた」

 

 ……何を言っていいるんだ?

 

「オールマイト、確かにあの人は僕の原点だよ。でも僕は彼のように上手く出来る自信は無い。だからこそ他の人の手を借りてでも助けたい。君に比べれば大したことないかも知れないけど、僕は一番になって応えたいんだ、僕のために力を貸してくれた皆に。改めて宣戦布告することになっちゃったけど……僕は君に勝つ!」

 

 誰かを助けるために力を借りるか。俺には上手く理解できねえが、それがアイツの目指しているヒーローなんだろうな。



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No.17 トーナメント開始 最初から最後までクライマックス!!

大分お待たせしました。待っていてくれた方々本当にゴメンナサイ。


No side

 お昼ご飯を満喫し、最終種目発表前のレクリエーション種目の開始直前でそれは起こった。

 

『オイオイどーしたヒーロー科女子!!』

 

 現れたヒーロー科の女子達は全員チアガールの格好をしていた。

 

「峰田さん、上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 

 峰田と上鳴は互いにグーサインを出し合っていた。

 

 昼休憩中に二人は八百万に相澤先生からの連絡で女子による応援合戦をやると言われたと言う虚偽連絡しに来た。それに見事に騙された八百万は個性で全員分の衣装を用意して着替えていた。

 

「アホだろアイツら……」

 

「ちょっと恥ずかしいね」

 

「でも本戦まで時間空くし張り詰めててもシンドイから……思い切ってやっちゃおう!!」

 

「透ちゃん好きね」

 

 周りとは裏腹に葉隠はノリノリでやる気だった。

 

 

 全員が整列しレクリエーション種目開始……の前に、最終種目であるトーナメントの組み合わせのくじ引きが行われたのだが、ここで一つ問題自体が発生してしまった。

 

 なんと尾白・常闇・庄田の三人がトーナメント参加を辞退してしまったのだ。

 

 理由を聞けば第二種目の騎馬戦で終盤ギリギリまで記憶が無く、気づけば種目が終了していて正直戸惑っているのだ。訳のわからないまま最終競技に出るのはどうしてもプライドが許さなかったのと何もしていないのにもかかわらず出場するのは体育祭の趣旨に反するそうだ。

 

 これを聞いた主審のミッドナイトは一瞬怖そうな顔をしたが「そう言う青臭い話はさァ………好み!!!」と言って三人の棄権が許された。

 

 その後、騎馬戦五位の鉄哲チームから相談して三人を選出するが、小森は残ったメンツとの実力や相性も考えて自ら辞退し一佳・鉄哲・塩崎の三人が繰り上がりで最終種目に出場することとなった。

 

 くじ引きの結果対戦表は以下の通りになった。

 

 

第一試合 緑谷出久VS心躁人使

 

第二試合 轟焦凍VS瀬呂範太

 

第三試合 小大唯VS拳藤一佳

 

第四試合 飯田天哉VS発目明

 

第五試合 上鳴電気VS塩崎茨

 

第六試合 八百万百VS柳レイ子

 

第七試合 切島鋭児VS鉄哲徹鐵

 

第八試合 爆豪勝己VS麗日お茶子

 

 

(普通科の心躁君、一体どんな個性を使って来るのか。まずは相手の個性を…―――――)

 

「アンタ緑谷出久だよな?仮面ライダーって奴の」

 

 不意に後ろから声をかけられた。振り向けばそこには自分の対戦相手である心躁がいた。

 

「―――――よモッ」

 

「緑谷!!」

 

「ダークシャドウ、緑谷を守るんだ」

 

『アイヨ』

 

 尾白が尻尾で口を塞ぎ、常闇がダークシャドウで二人の間を遮る。

 

「アイツの言葉に応えちゃダメだ。僕たちと同じ目に遭う」

 

 庄田が後ろから小声で話しかけ、三人は出久を心躁から引き離した。

 

「フッ、流石に警戒されるか」

 

 仕込みこそ出来なかったが、試合でどうにかすれば良いと心躁もその場を離れた。

 

 

 

 それからレクリエーションを楽しむ者、応援に精を出す者、試合前に集中する者、対戦相手について語る者と時間は過ぎてゆき、ついに最終種目の時が来た。

 

 スタジアムの中央に教員であるセメントヒーロー・セメントスがバトルステージを作り出して舞台は整った。

 

 ここから先は一対一のガチンコ勝負。頼れるのは己のみ、心・技・体に知恵知識全てを駆使して望むだけだ。

 

 勝負の内容は対戦相手を場外に出す・行動不能にする・相手が降参するかの条件を満たすまで時間無制限のガチンコ勝負となる。ただし怪我に関してはリカバリーガールがいるので道徳倫理は一端忘れても良いが、度が過ぎた行為に発展すればすぐさまセメントスが仲裁に入る。

 

『それじゃあお待ちかね!雄英体育祭最終種目の開始だぜ!!第一回戦!!見かけからは想像も付かない超パワーと特殊能力盛りだくさん、仮面ライダーディケイドことヒーロー科・緑谷出久!! 対 ごめんまだ目立つ活躍無し!!普通科・心躁人使!!』

 

「まいったか……わかるかい緑谷出久、これは心の強さを問われる戦い。強く思うヴィジョンがあるなら振り構っちゃダメなんだ……」

 

『んじゃ早速始めようか!!レディイイイイイィィィ――――』

 

「あのバカ三人はプライドとか言って折角のチャンスを不意にた腰抜けだしな」

 

『スタアアアァァト!!!』

 

「なんてことを―――――」

 

ピキィン!

 

「俺の勝ちだ」

 

 突然出久が動かなくなり会場がどよめき始めた。

 

「緑谷のバカ!だからあれほど注意しろって言ったのに……」

 

「尾白どういうこと!?」

 

「心躁の個性は『洗脳』なんだ!心躁の問いかけに応えれば洗脳に掛かって言いなりになっちまうっ」

 

 

『個性が『洗脳』アイツ見かけより相当ヤバい奴なのか!?』

 

「だからあの入試の実技試験は合理的じゃないんだ。普通科も併願して受けていたってことはこうなることも想定済みだってことだ。総合的には緑谷の方が圧倒的に上だが、こうなれば勝ち目はほぼ0だ」

 

 

「そのまま場外に出ろ」

 

 心躁に言われるがままに出久は後ろを向いて場外へ行こうとする。

 

「イズ君戻って!」

 

「尾白なんとかならないの!?」

 

「ある程度強い衝撃を受ければ解けるんだが………こうなっちまうともう」

 

「つかそんな強個性があっても普通科かよ!?雄英ドンだけ入試厳しいんだ」

 

「情報無きゃ対人戦じゃほぼ無敵だろ!?」

 

 観客席で見ているヒーロー科の生徒達も必死に呼びかけるが、出久はただ場外に向かうだけだ。

 

(来ちゃダメエエェェェ!!!)

 

 入場ゲートで様子を見ていたオールマイトも心で叫んでいた。

 

「お前は良いよな恵まれていて。無個性だったお前にはわかんないだろうけど、個性持っていても能力によっちゃ使えない、でも………こんな個性でも夢は見ちまうんだよ。だからこれで負けてくれ」

 

 出久がとうとう場外の端までたどり着くと、歩みを止めてその場で留まった。

 

「ッ?…何やってんだ、さっさとリングから降りろよ!」

 

 心躁の方からは見えなかったが、出久の口元が笑った。

 

 振り返ると同時に出久はダッシュで走ってゆき、

 

「オラアあぁぁぁ!!!!」

 

 心躁に跳び蹴りを決めた。

 

「!!!!!??」

 

 確かに洗脳で操っていたはずなのに、命令に逆らうどころか逆に反撃を食らって心躁は混乱していた。

 

 出久がゆっくり顔を上げれば、モジャモジャの髪が逆立ち赤いメッシュが一本垂れている。そしてその眼は赤く光っていた。

 

「出久の奴………なんか様子が」

 

「ん………雰囲気が違う」

 

 明らかにいつもと様子が違っている。

 

「へっへっへっ、ようやく俺の出番が来たぜ。俺……参上!!」

 

 急にポーズを決める。

 

 普段の彼をよく知る者達は動揺を隠せないでいた。

 

「な・・・何あの緑谷!?」

 

「く、口ぶりも普段より荒っぽいぞ?」

 

 そんな動揺の中で一番驚いているのは心繰の方だった。完全に洗脳したはずの相手に反撃されたのだから動揺するのも無理はない。

 

「おい出久、そろそろ起きろ!」

 

 出久?が頭を叩くと、赤い光が分離し、砂をまき散らしながらその姿を現す。

 

 現れたそれは、全身真っ赤な鬼の怪人であった。

 

「ありがとうモモタロス。おかげで助かったよ」

 

「へっ、試合前に呼び出されたと思ったら、洗脳対策で取り付けだもんな。でも呼び出したんだから後で何かおごれよ!」

 

 仲良く談笑している中で、心繰は叫んだ。

 

「何でだよ・・・何で俺の洗脳が効かねぇんだ!?」

 

 心繰の声を聞くと同時に出久はカードを取り出してセットする。

 

《アタックライド テレパシー》

 

『念話で会話すれば君の個性は無意味なはずだ。君の個性はおそらく相手の声による返事がトリガーだと推測している』

 

 図星だったのか、心繰の目つきが厳しくなる。そしてその声はスタジアムの観客にも届いている。

 

『質問の答えをするよ。君の個性は騎馬戦で戦った尾白君達から聞いていた。強い衝撃で洗脳は解けるけどその間は無防備、つまり自身による体の指揮権を封じられている。なら別の意識が体の指揮権を奪えばいい。だから試合前に僕は彼らを憑依させた』

 

「そういうことだ根暗紫!出久が洗脳されても俺が体の指揮権ぶんどりゃ後は俺が出久の体使えばいいだけの話だからな」

 

「ちっ、こんな頭悪そうな馬鹿に説教されるのは頭にくるぜ」

 

「んだと誰が頭悪そうな馬鹿だって―――――」

 

 心繰の挑発でモモタロスが洗脳された。

 

「これで手駒が増えた。緑谷を攻撃しろ!」

 

 モモタロスが手を上げようとした瞬間、出久にまた変化が現れる。

 

『もう先輩ったら、すぐカッカするんだから』

 

 もじゃもじゃ髪がストレートになり、青いメッシュが垂れ眼鏡をかけている。飯田とはちょっと違う物腰が柔らかいインテリ風だ。

 

「なっ!?」

 

「また雰囲気が変わったぞ!」

 

 再びの出久の変化に観客が動揺する。

 

『と言うわけで早く起きてよ先輩!』

 

 軽く頭をはたいてモモタロスの洗脳が解けた。

 

「って亀公、何しやがる!」

 

『洗脳される先輩が悪いんでしょう?』

 

『恐れてたことがほんまに起こりおったな』

 

『やーいやーい!モモタロスの馬~鹿!』

 

「熊公に小僧、てめぇらまで一緒になって!」

 

 出久の体から更に青・黄・紫の光が飛び出しモモタロス同様に砂をまき散らしながら姿をとる。亀を模した青の怪人、黄色く熊のような怪人、紫色で龍のような怪人。

 

「おいおい怪人みたいなのがまた出てきたぞ」

 

「でもなんか見てて悪意感じないが」

 

 観客席全体がどよめきだしたところで、相澤が助け船を出す。

 

『えーご観覧の皆様、ただいま緑谷の体から出てきた怪人らしき4人組は、緑谷の能力で呼び出した者で害はありません。第一競技で呼び出した龍やロボットと同様の類いです』

 

『イレイザーおまえ知ってたのか!?』

 

『USJの事件の後、あいつの持っていたカード見聞させてもらって説明受けただけだ。同様の類いの者が他にも2~3体いた』

 

 それを聞いて安心した観客達の騒動は収束した。

 

『と言うわけで、仮に洗脳されても僕は回避する方法がある。だからといって手は抜かないよ!』

 

 

side out

 

 

心繰side

 くっそ!洗脳しちまえばこっちの勝ちだと思ったのに全部看破された!

 

 ホントに羨ましいぜ、お前みたいにそんな強い個性を持っているやつ見るとさ。

 

 昔から俺はこの個性のせいで周りから敬遠されがちだった。そりゃそうだよな、返事しただけで洗脳できるなんてどっちかと言えばヴィラン向きの個性だからな。

 

 そんなんでも俺はヒーローに憧れた。でもあの実技試験じゃ俺の個性じゃ絶対に不向き、だからこそ普通科と併願してまで雄英に入った。すべてはこのチャンスを掴むために。

 

 でもそれも終わった。これで俺の勝ち目はほぼゼロ。殴りかかって行ってもいいが、あっちは生身でも相当鍛えているって話だ。殴り合いじゃまず勝てない。

 

 それでも……それでもやっぱりヒーローになりたい!一度憧れちまったモンは、そう簡単に諦めたくない。

 

 もう一度目を見開くと、そこは真っ白い空間だった。

 

 ちょっと待てどうなっている!?さっきまでスタジアムに―――――

 

「お前か、俺の力受け継げるやつは」

 

 声のした方を振り向けば、男が立っていた。その隣には黒頭巾をして黄色い仮面のような顔の怪人が横に立っている。

 

「俺は桜井侑斗、こいつは俺のパートナーイマジンのデネブだ」

 

「どうもデネブです」

 

「俺は前に力と引き替えに周りの人から俺自身の記憶が消える制約で仮面ライダーの力を得た」

 

 仮面ライダー!?この人も仮面ライダーなのか?

 

「俺の記憶を保持できるのは特異点と呼ばれた人間だけ。そんな過酷な運命背負ってでも俺は戦う理由があった。お前も重荷背負ってでも叶えたいことがあるなら、俺の力を受け取ってくれ」

 

 差し出されたのは一本のベルト。周りの人間から自分の存在が消える。確かに過酷だが、俺はそれでもヒーローになりたい!俺みたいな奴でも、誰かを救いたい!

 

 ベルトを受け取って腰に巻き付ける。

 

「過酷な道を歩む覚悟があるんだな。でも安心しろ、俺と違ってお前にかかる制約はまだ軽い方だ。お前にかかる制約は『一度変身すると一定期間『個性』が使えなくなる』それがゼロノスを受け継ぐに当たる制約だ」

 

 ……………はぁっ!?なんだよその制約!?人が腹括った決断がそれだけか!?

 

 あっ、でもその間無個性だから少し困るか。洗脳で情報聞き出すとか。

 

「と言うわけでお前にはベルトとゼロノスカード、そして時をかける列車『ゼロライナー』とデネブ託す」

 

「俺はゼロライナーの管理や君のサポートをする。だからよろしく頼む人使!」

 

 なんか色々オマケがついたけど時の列車!?それってタイムマシンじゃん。

 

「これから先にとんでもないことが沢山起こる。そのときは他の仮面ライダー達と一緒に、未来を守ってくれ」

 

 未来を守れ、か。解ったよ。せっかく手に入れた力だ。ヒーローになって困った人たちも未来も守ってやるぜ!

 

 

side out

 

 

no side

 急に心繰が俯いたまま動かなくなる。

 

 出久は少し動揺するが、

 

「今がチャンスだ!このまま一気にやっちまえ」

 

 無抵抗の相手を一方的に攻撃するのは忍びないが今は試合中、どちらかが勝たねば試合は終われないし次の試合に移行できない。

 

 意を決して踏み出そうとしたそのときだった。

 

 心繰の服の裾から大量の砂があふれ出てくる。その砂が集まって形をなす。

 

 形をなしたそれを見てモモタロス達は叫んだ。

 

「「「おデブ/ちゃん!?」」」

 

「デネブ!?」

 

「そんな……だってデネブのカードは使ってないのに!?」

 

「モモタロス達、どうしてか判らないけど久しぶりだな!俺、人使と契約したんだ。これからもよろしく頼む」

 

 丁寧に挨拶をするデネブに会場中が呆気にとられた。

 

「挨拶はいいからささと蹴り付けるぞ!」

 

 心繰は腰にゼロノスベルトを巻き付ける。

 

「ゼロノスベルト!?ダメだよ心繰君!そのベルトを使ったら―――――」

 

「心配するなよ緑谷、これを使っても周りから俺の記憶は消えない。少しの間個性が使えなくなるだけだ」

 

 上部のレバーを横に引き、腰のホルスターからカードを出して挿入する。

 

「変身!」

 

《アルタイルフォーム!》

 

 黒のスーツと緑と黄の鎧、頭部のレールから牛のような列車が走り頭部を形成した。

 

「人使、このときの台詞は――――」

 

「知ってるよ。最初に言っておく、俺はかーなーり強い!!」

 

「その通りだ!」

 

 時の列車『ゼロライナー』で時空を駆け、過酷な代償を背負って未来に繋げるために戦った時の戦士、仮面ライダーゼロノスが爆誕した。



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