ハリー・ポッターと父親の再従兄弟 (sunplane)
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子世代 第一話

とりあえず大筋だけ考えてあります。アイデアが浮かぶままに書いていきます。


1981年10月31日  

 

ゴドリックの谷(Godric's Hollow)

 

手遅れだと、その光景を見たならば誰もがわかったはずだ。それでも、黒ずくめの青年は彼女の命を諦めることが出来なかった。幼き日の唯一の希望の灯火だった彼女をかの“闇の帝王”から守らんがために闘ってきた彼にとって、これは受け入れがたい結末だった。

 

「リリー、リリー返事をしてくれ!頼む!君にまだ出産祝いを渡せてないんだ!!」

 

 

もはや光を映さない若い女性の肩を揺さぶり、泣き叫ぶ若い男。この頃はしっかり整えていた黒髪もこの時ばかりは振り乱され、埃が吸い付くことにも気づかない。

 

「――!!」

 

凄惨な現場を切り裂く甲高い声。若者はそれを聞いて我に返り、その声の主が崩れた屋根の隙間に奇跡的に入り込んでいることをみるや、杖を向けて

 

「レビコーパス! ロコモーター!」

 

慎重に、それを引き寄せた。それは赤子だった。彼にとって命よりも大事な女性と、忌々しい男との間の、ただ一人の子であった。わずかに瞼から垣間見える瞳はエメラルドグリーンで、母とうり二つである。青年はその瞳から涙が流れるさまを許容できなかった。とにもかくにもそれを止めずにはいられなかった。

 

「これはこれは、ポッターの血筋であることが一目瞭然だな。この癖の強い黒髪、ジェームズにそっくりだ。どことなく私にも似ているかもしれないな。しかし目だけは細君のものだ」

 

壊れ物を扱うように、事実吹けば飛ぶような小さな命を必死にあやす若者を、なんとも悲壮な、それでいて滑稽さを感じずにはいられないと言いたげな男がゆっくりと歩いてきた。

 

「原因の追究は後でもできる。ひとまずはこの子の保護が先決だ。私には彼を保護する義務がある。セブルス、その子と、ハリーと一緒についてきてくれ」

 

 

「チャールズ、……リリーをここに野ざらしにしておくのは」

 

 

「リリーは死んで、ハリーは生き残った。其れこそ彼女の意志だ。安心しろ。埋葬はきちんとするさ」

 

 

そういってセブルスはチャールズと呼ばれた男とともに赤子を連れて、空気がぬけるような音とともに姿を消した。ハリーを包んでいた毛布の中から、わずかに黄金色の液体が入った小瓶が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは参ったわい、ダンブルドア先生のお願いを果たせんじゃないか」

 

小山のような男は恩師の命を果たせずじまいに終わり、その体を信じられないほど小さくして泣きながら詫び続けたという。

 

 

 

 

 

あけて11月1日、セブルス・スネイプとチャールズ・バードリック・ポッターJr.は死喰い人(デスイーター)達の追跡や待ち伏せを警戒しつつ短距離の姿現しを繰り返し、明け方にスティンチコームのポッター家本邸にたどり着いた。

 

「お帰りなさいませ副党首様。プリンス様もようこそお越しになられたのでございます」

 

「ただいまスクラニ―。アメリアとウォルターは大事無いか」

 

「それはもう何事も起きておりません。奥様もウォルター坊ちゃまもお休みになられておりますです。副党首様ご不在のすきを狙いました不埒ものどもはこの屋敷の守りは崩せなかったのであります」

 

 

玄関ではポッター家付きの屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)―名をスクラニ―(やせぎす)という―が三人を出迎えた。

 

 

「それはよかった。では済まないがこの子のベッドを用意してくれ。」

 

 

「!この子はもしや、御党首様の」

 

 

「そう、ジェームズの子ハリーだ。いずれポッター家当主となるだろう。頼めるな?」

 

「お任せくださいませ!」

 

 

飛び跳ねるように物置に走っていく屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)を見送り、チャールズはリビングのドアを開け、ソファに座った。向かいにセブルスを座らせると、これからの計画を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

1991年7月30日 

 

 サリー州 リトルウィンジング プリベット通り4番地 (Number Four Privet Drive, Little Whinging, Surrey)

 

 

「ハリー、もうすぐあの“まともじゃない”学校からフクロウが飛んでくるんじゃなかったか」

 

「まともじゃない、て。せめて“普通じゃない”くらいで頼むよビッグD」

 

「うるせえ、まともじゃないものはまともじゃないんだ。」

 

あのロックケーキとやらはうまかったがな、と独り言ちるブロンドの少年―ダドリーにあれをまともに食せる従弟の顎力に驚嘆を覚えて久しいハリー・J・ポッター。別名、“生き残った男の子”は自らの誕生日を恒例となったダーズリー家で過ごしていた。本音を言えばかなり繊細に魔法の話題を避けなければ家主の怒りを買ってしまうこの家をハリーは苦手としていた。自らの父母が正義感の強い善良な人物であったことはハリーの誇りだが、結婚前のあいさつで叔母夫婦にいったい何をやらかしたのか(しかも、おそらく善意で!)いつか死のヴェールをくぐったら問い詰めてやらなければならないと決意を新たにした。

 

7月の終わりのころだった。イングランドには短い夏の日差しが降り注いでいた。ペチュニアが少年たちにビーチパラソルを庭で広げるよう促した。バカンスに行く前に、一冬分の綿埃を落とそうというのだ。ハリーはダーズリー一家のバカンスメンバーに当然のように自分が入っていることが不思議に思えた。

 

7の月が終わる日になった。ハリーは朝起きて髪をとかし(叔母は身だしなみと芝生の手入れにはとてもうるさい!)スリーク・イージーの直毛薬があれば一発なのにとぼやきながらキッチンで腕を振るうペチュニアにあいさつした。

 

「おはようハリー。お寝坊さんのダッダーちゃんを起こしてきてくれるかしら。目玉焼きの焼き方は?」

 

「サニーサイドでお願いします。ベーコンはカリカリで、塩を一つまみ」

 

「終わったら新聞を取ってこい」

 

誕生日だというのにいまいちお祝いムードがない、いつもと変わらない朝だった。いつもと違うことがあるとするならば、切手を貼っていない分厚い手紙が入っていたことと、郵便受けに一羽のふくろうが乗っていたことぐらいだ。ハリーはふくろうに二階の自室の前の枝にとまるよう指示した。今時伝書鳩だって奇異の目で見られる。フクロウは言わずもがなだった。こんなことでバーノンの機嫌を損ねる気はハリーにはなかった。

 

朝食を食べ終えるとバーノンが書斎から包装されたプレゼントを持ってきた。中身は学生カバンで、牛皮だからか手入れ道具も一式入っていた。ダドリーも同じものをもらっていた。カバンのふたの裏には《Dursley》と刺繍が施されていた。

 

「違う名前にするのが面倒だったのでな」

 

などとバーノンは言い訳がましくしていたが、彼がハリーも家族の一員として受け入れていることがハリーには温かく感じられた。

 

ハリーは片づけられたダイニングテーブルの上で分厚い手紙を開けた。夫妻は露骨に顔をしかめたが、事前に説明されていたこともあり黙ってそれとハリーを交互に見た。

 

 

【ホグワーツ魔法魔術学校

校長 アルバス・ダンブルドア

マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、

最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員

 

 

親愛なるポッター殿

 

このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でふくろう便にてのお返事をお待ちしております。

 

敬具

 

副校長 ミネルバ・マクゴナガル】

 

「締め切り今日!?」

 

慌ててハリーは署名欄に万年筆を走らせ、ペチュニアを怒らせない程度に駆け足で階段を上ってふくろうに返信を託した。魔法界のふくろうは普通のそれよりずっと速く、(おそらく“姿あらわし”のような方法で途中をショートカットして飛んでいるのだろう)当日中にはダンブルドア校長の元に届くだろう。

 

 

 



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子世代 第二話

ある程度子世代の話が終わったら親世代の章書きたいと思います


1981年11月2日 イングランド西部 スティンチコーム村 リンフレッドの館   (Linfred's residence of Stinchcombe)

 

 

リビングに座り込んだ瞬間、先ほどまで抱えていたハリーの温かさと対照的なリリーの冷たい亡骸の感触がまざまざと思い起こされ、スネイプは今にも叫びだしそうな自分を必死に抑えた。覚悟はできているつもりだった。あの占い師の予言が“名前を言ってはいけないあの人”の耳に入ってしまった以上、そしてそのうえで息子を生かすため、リリーがあらゆる手を尽くすだろうことが伝わってきた時に。それでも彼は、例え彼女がほかの男のものになったのだとしても、リリー・エヴァンズに生きていてほしかった。

 

 

 

 

 

「コーヒーも紅茶もあるぞ。どちらがいい?」

 

 

 

「気遣いはありがたいが、今は何も受け付けられそうにない」

 

 

 

 

セブルスはチャールズに応えながらなすべきことを考えた。かつての彼にとってリリー亡き後の世界など彼にとっては生きるだけ無駄なものであっただろう。しかしセブルスは、リリーが護った子供を見捨てることを自分自身に許さなかった。彼女の遺志を継ぐことは彼の中で最優先事項であった。元々は殆どリリーの気を惹きたいがために紆余曲折の末継承した名門プリンス家の継承者の地位とそれに付随する権威をそのために役立てることに否はない。

 

その時セブルスの思考に割り込むように、屋敷しもべ妖精(ハウスエルフ)が独特の魔法で音もなくトレーを運んできた。その上には水差しと、レタスとスクランブルエッグのサンドイッチが載せられていた。

 

 

 

「スクラニ―はベッドを用意しました。ハリー坊ちゃまを寝かしつけましたでございます。」

 

 

「ご苦労様だったスクラニ―。アメリアがそろそろ起きるはずだから、彼女のもとにいてやれ」

 

 

 

サンドイッチを受け取り、チャールズは少しの間、虚空に目をさ迷わせた。

 

 

「さて、“闇の帝王”がハリーを殺せなかったのだとしても、ハリーをそのままにして逃げたとは考えにくい。連れ去るなり、増援を呼ぶなりできたはずだ。しかしそうはならなかった」

 

 

 

 

リリー・エヴァンズはハリー・ポッターをかばって“闇の帝王”に殺された。そして彼女の何らかの魔法が“帝王”の死の呪文からハリーを護った。では“闇の帝王”が予言の子殺しに失敗したとして、彼はどうなったのか。

 

 

 

「ここで考えても仕方のないことではあるが、ひとまずハリーはここにいれば安全だ。妻ももうじき起きてくるだろう。そしたらもう一度ゴドリックの谷に行こう。ジェームズ達を相応しい所に眠らせなければ」

 

 

 

 

 

 

1991年 8月10日  

 

ロンドン ヒースロー空港 (Heathrow Airport)

 

ダーズリー一家とアンダルシアでのバカンスを終え、その足でハリーはヒースロー空港から別行動を取ることになっていた。彼の現在の保護者であるチャールズはロンドンに住んでおり、魔法界とマグル界を行き来する多忙な人物である。ホグワーツでの教科書、学用品、何より杖を手に入れるため、今日はハリーに付き添うことになっていた。

 

 

チャールズは会う人物に目的地までの付添と護衛を頼んでいた。ペチュニア達が“血の守り”に協力してくれているとはいえ、その効果範囲を過信するわけにもいかない。そしてその付添人はことハリーを守るということに関してはもっとも信頼できる人物の一人であった。最も、その人物とハリーとの相性は決して一筋縄ではいかないものであったが。

 

「やあ、なんでよりによってセブルスなのさ」

 

 

ロンドン地下鉄ピカデリー線との連絡口でハリーは開口一番無遠慮にそういった。

 

 

「まったく英雄殿は人をこき使って悪びれもせぬ。吾輩とてほかに適任者が存すればこのようなことはせぬ。しかしこのような場で相応しい装いや立ち振る舞いができるものはそうはいない。まったく吾輩の周りには碌な」

 

 

「わかったよわかったから。セブルスはしっかりしてるしなんでもこなしちゃうからみんな頼るんだ。そのベストもネクタイもイカしてる。悪の組織の幹部みたい」

 

 

「悪の組織云々は余計ですぞ英雄殿」

 

 

「次“英雄殿”ていったらセブルスのこと半純血の貴公子(ハーフブラッドプリンス)呼びで学校が始まってから1か月間呼び続けるよ。大体本当に英雄と呼ばれるべきは僕じゃないことはあなたが一番よく知っていることじゃないか」

 

 

「……まったく口の減らなさは父親譲りだなハリー。行くぞ、待ち合わせに遅れる」

 

 

「ペチュニア伯母さんにはあっていかないの?」

 

 

「時間がないのだ。それにMrs.ダーズリーも好んで吾輩に会いたいとは思っておらぬであろうよ」

 

 

セブルス・スネイプはつまらなそうにため息をつき、ハリーにチケットを渡すと速足で改札へと向かっていった。

 

 

 

 

ダイアゴン横町の入り口である漏れ鍋で、ハリーは尋ねた。

 

「こんにちはマスタートム、チャールズ・ポッターは来てる?」

 

「おおハリーさん。Mr.スネイプも、ようこそいらっしゃいませ。Mr.ポッターは2回の3号室にいらっしゃいます。そうじゃ、さきほどアイスティーとフィッシュアンドチップスのご注文が入りましたな」

 

「それ、持って行ってあげるよ。」

 

「助かりますな。ではこのシードルもおまけしましょう」

 

「そんな、僕だってお小遣いくらい持ってるよ。ガリオンでも、ポンドでも」

 

「まったくですな。子供を甘やかしては碌な大人にならない」

 

「いえいえ、もとより魔法界の英雄殿をただで小間使いのように扱ったとあってはマダムやご意見番の皆様に何と言われることやら」

 

「英雄だなんて、僕自身がなにかしたわけでもないのにね」

 

「そうかもしれません。しかしあなたがこれほどまで持て囃されるのはかの“例のあの人”への恐怖の裏返しでもあります」

 

 

ハリーはやれやれと言わんばかりにかぶりを振った。それくらいは許されるはずだと彼は思った。後ろでは“ハリー・ポッター”が来たと聞いてに一目会おうとする客たちがスネイプの突き刺さるような視線にすごすごと退散を余儀なくされていた。ハリーは二人分のアイスティーのグラスを見てチャールズが誰かと商談をしているのだろうと思った。

 

 

 

ハリーが料理の入ったトレーを持って個室に入ると、いつも以上に髪の毛をかき乱した彼の三従弟叔父のチャールズと、余裕綽々という風情でテーブルの上を見つめる金髪の紳士がいた。つまるところ、彼らはチェスをしていて、チャールズは敗色濃厚なのであった。

 

 

「叔父さんこんにちは。チップス持ってきたよ」

 

 

その言葉にチャールズと紳士はこちらに向き直った。

 

 

 

「ああハリー、2週間ぶりか。アンダルシアに行ってきたんだろ?少し日焼けしているな。楽しかったか」

 

 

「それなりにね。写真とお土産は家に送ってあるよ。それはそうと、そちらの金髪の紳士はどなた?」

 

 

金髪の紳士はハリーの言葉に応えた。

 

 

「ウィルトシャー・マルフォイ家のルシウスだ。ハリー・ポッター、魔法界の英雄殿、お会いできて光栄だよ。セブルスはホグワーツの理事会以来か」

 

 

 

丁重に、しかし言葉とは裏腹に微塵も感激した様子を見せずにルシウスは手を差し出した。

 

 

「ハリー・ポッターです。Mr.マルフォイ、以後お見知りおきを。」

 

 

ハリーは料理をテーブルに置いて握手に応じた。値踏みされるような眼差しは慣れたものだったが、ルシウスのそれはこれまでとは一味違う威圧感を伴っていた。ハリーは彼がセブルスが学生時代なぜか気に入られて世話になった人物だと聞いた覚えがあった。

 

 

 

「セブルスから話は聞いている。普段はマグル界で過ごしているとね」

 

 

 

言外にこちらのことは知らないだろうといわんばかりに口角をわずかに上げた。

 

 

「ええ、ずっとこちらの学校に通っていました。魔法界のことはいろんな人から教えてもらいましたけど、聖28氏族(Sacred Twenty-Eight)の御党首にお会いできるとは思ってもいませんでした」

 

 

 

「ほう、よくご存じのようで」

 

 

「よい先生に教わっていますので」

 

 

ハリーはセブルスのほうを見た。彼は素知らぬ顔をして周囲を警戒していた。

 

 

 

 

「意外だなセブルス。随分と慕われているようだ」

 

 

 

「御冗談を、これが起こす面倒ごとの後始末をさせられているだけです。常々吾輩が貴重な時間を割いて教えたことを悪用することしか考えていないのではないかと」

 

 

心外である、と言わんばかりに薬学教授は眉をひそめた。

 

 

「ふむ、血は争えぬというわけだな」

 

 

ルシウスの言葉にハリーは少々ばつが悪いとでもいうように眉間にしわを寄せた。

 

 

「そんなことより、叔父さんはMr.マルフォイと何かお話があったんじゃないの?」

 

 

 

「大した話じゃあないよ。これからホグワーツに通う子供を持つ保護者同士の、ちょっとした世間話さ。さてハリー、お楽しみのダイアゴン横町に行こうじゃないか。Mr.マルフォイはいかがされますか?」

 

「私は既に粗方の用事は済んでいる。息子も先日学用品は揃えたのでね、本日は失礼させていただく」

 

 

チェス盤を無言の消失呪文でかき消して、ルシウスは席を立った。セブルスの横を抜けて扉を閉めようとした時、思い出したように彼はハリーに言い放った

 

 

「ハリー・ポッター、君が名誉あるスリザリン寮に選ばれることを期待させてもらうよ」

 

と。

 

 

 

 

 

 

 



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子世代 第三話

出すだけ出すの精神です。


ゴドリックの谷(Godric's Hollow)

 チャールズ・ポッターとセブルス・スネイプは再び惨劇と奇跡の現場に舞い戻った。既に半日もたてば魔法省の闇祓いや惨事部の部隊が現場に駆け付け、現場検証と片づけに従事していた。チャールズは顔見知りの役人を見つけ、声をかけた。

 

「失礼、Mr.ディゴリーですね」

「おやあなたは、たしかポッター家の類縁の」

「チャールズです。ポッター家当主ジェームズの再従兄弟に当たります。こちらはプリンス家のセブルス」

そう名乗りながらチャールズは“薬匙”と“ヤドリギ”の紋章が描かれた指輪印章(シグネットリング)を見せた。

「確かにポッター家の紋章、ジェームズ・ポッター氏の指輪と一致しますな。Mr.ポッター、昨日のことはどこまでご存じですかな」

「我々がゴドリックの谷に仕掛けられた防衛魔術が突破されたことを知り、ここに来た時には既にこの家は破壊しつくされていた。察するに忠誠の術で護られたこの隠れ家を“例のあの人”が何らかの形で突破し、ジェームズ達を殺害、しかし肝心のハリーを殺すことは出来なかったようですね、我々はハリーがこれ以上危機にさらされることを防ぐため、ポッター邸に彼を連れて行きました。生前ジェームズが作成した公証遺言書には私もハリーの後見人の一人に記載されていますので、問題ない行為かと」

チャールズの言葉に、エイモス・ディゴリーはうなずいた。

「なるほど、ハリー君の姿が見えなかったのはそういうわけでしたか。今捜索チームを選抜しているところでしたが、無駄になってよかった。」

 

ディゴリーは疲弊している様子にも関わらず、準備が無駄骨になったことに嫌味も言わなかった。

「いえ、こちらも妻から連絡させるべきでした。畑違いの部署から応援にいらしているMr.ディゴリーには頭が下がります」

「いえいえ、幼い子供を抱える母親に無理を強いてはいけませんぞ。まして“例のあの人”はもう滅びたのです。そのようなことはもはや些細なことです」

 

 エイモスの何気ない一言にチャールズは衝撃を受けた。セブルスも思わず目を見開き、問いただす。

 

「Mr.ディゴリー、“滅びた”とは如何なる次第ですかな?」

「おや、お二人は日刊予言者新聞の号外をまだ見ていないと見える。“アクシオ!今日の日刊予言者新聞”」

ディゴリーが呼び寄せた新聞には一面から三面まで歓喜に沸く人々の写真が大きく掲載されていた。差し出されたそれにチャールズは目を走らせた。

 

 

“各地に打ち上げられていた死の印、消滅する!”

“アズカバンに収監された死喰い人(デスイーター)達が狂乱”

“狼人間、巨人、闇の眷属が統制を失い、闇祓い達が打ち破る”

“闇の帝王の呪い、終焉”

“ミリセント・バグノールド魔法大臣、勝利宣言!”

“ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドア氏、ハロウィンの夜の真相を語るか!?”

 

 

「……ジェー、いったいどういうことなんだ」

二度と話すことのない再従兄弟の、考えの読めない瞳と、それを感じさせない白い歯の輝きをチャールズは思い出していた。

 

 

1991年 8月10日

ロンドン ダイアゴン横町 (Diagon Alley)

 

「セブルス、そういえば今日は他にも引率する生徒がいるといっていたな」

 

「ええ、マグル生まれや、自身の出自を初めて知った魔法族の落とし子。スリザリンの寮監が引率するのはいささか不適当ではありますな」

「しかし副校長は多忙、ほかの寮監はマグルの町で行動するには向かない、マグル学の教授はついこの間までアルバニアにいたというのだろう。君以上の適任者がいるとは思えないね」

「ものはいいようですな。しかし、潜在的死喰い人(デスイーター)シンパにならぬ様、イギリス魔法界の現状を教えないわけには参りますまい。血統の裏付け無きものは時にサラブレッドに過剰反応してしまうものです。或いはかつての私のように」

苦笑する大人たちの耳に、ドアをノックする音が響く。

「トムです。Mr.スネイプ、お客様が正面玄関前でお待ちです」

来たか、とスネイプは身を翻し、足早に降りていく。

「我々も行こうかハリー、セブルスだけでは大変だろう。君も一足先に同級生に会えるチャンスだ」

 ハリーは大いに頷いた。魔法界とマグル社会を行き来する時には子供ながらに会話に気を使わなくてならない。それに大人にはちょっと話しづらい、同年代だけで共有したい話もあるのだ。魔法について気兼ねなく話せる友人はハリーの目下一番欲するものだった。



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