BLEACH~ほんとはただ寝たいだけ~ (真暇 日間)
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オリ設定集~ネタバレもあるよ!~

 

 四楓院夜一の斬魄刀について

 

 名前は『明神』。解号は「(まろ)ばせ」。賽子型の斬魄刀。

 能力は未来の固定。サイコロを振って出た目にあわせて未来が変わる。ユーハバッハが未来を破壊しつくした場合、その未来に行く目は出なくなる。

 確率が0でなければ1%まで引き上げることもできるが、夜一は『目が小さければ小さいほど自身に有利なことが起こる斬魄刀』程度の認識しかしていない。そして賽子の目で未来が決まることが嫌な夜一はよっぽどの状況でなければ自身の意思で使おうとはしない。

 

 卍解『ちくわ大明神』

 

 可能性の神ともいえる斬魄刀。ユーハバッハにあらゆる未来を破壊されつくしたとしても、存在しない未来を作り出してそれを現実にすることもできる。ただし確率は最大1%。

 完全に独立した意志を持って動き、現実には存在しない場所で勝手にサイコロを振って世界中に様々なことを起こし続けている。たまに腹筋が死ぬ。

 夜一には自身の名前を伝えていない。

 

 裏話

 

 実は色々と形について考えられていた。超巨大なパイルバンカー型(動きがクソほど鈍るので使わない方が強い)とか、衛星軌道上に存在するバンカーバスター型(尸魂界では遮魂膜に阻まれて使えない。現世では被害半径がでかすぎて使えない)とか、ペン型(文字通りただのペン。書いた内容を具現化できるとかも考えたけどそもそもそれならもっていかない理由がないよなと考えて没)とか。

 そんな思考を過ぎて夜一の自由人な性格から『自身の未来を運で決められる』という斬魄刀にすることで精神的に嫌だと思わせて百年前に置いて行かせ、更に実際に使う時にこちらが色々と遊びを入れられるようにしている。一護の発狂が都合のいいものになった原因とか、たまに混ざる奇妙な夢の原因とか。

 

 

 

 

 完現術について

 

 原作における完現術は『母親の腹の中にいることの虚に襲われたものが身に着ける可能性のある技』ということになっていたが、幼いころに襲われた一護や高校生になってから襲われたチャド、井上等も身に着けていたことから『虚の霊圧を身体に取り込むことで霊体が変質して使うことができるようになる』と作者は認識した。

 そんなわけなので、戦いの中でもしも再び虚の霊圧を取り込んでいった場合、新しく完現術が発動する可能性はゼロではないとこじつけてみた。

 要するに……原作以上にチャドが強くなるよ!やったね! 井上もだよ!

 

 

 

 

 チャドのオリジナル完現術について

 

 基本的にチャドにできるのは「まっすぐ行ってぶっ飛ばす、右ストレートあるいは左ストレートでぶっ飛ばす」です。それを強化するための力として、移動能力と地面を蹴った力をより強く拳にまで伝えるために『龍の両脚』が生まれました。

 何故龍なのかと言うと、チャドの能力名は巨人の右腕と悪魔の左腕です。どちらも神話によっては神に匹敵しうる存在として描かれた存在でしたので、追加するならばそれもまた神でなくしかし神に匹敵しうる存在である必要があると考え龍にしました。

 能力的には響転の使用、それに伴う動体視力の向上、拳から打ち出すアレのように脚からジェットを出して空を飛ぶことが可能となっています。

 

 

 

 

 井上のオリジナル完現術について

 

 井上は原作と違い盾舜六花に加えて二つの基点を得ました。名称は烏頭(うず)狐花(きつねばな)です。なお、現実に存在するこれらの花はどちらも有毒。別名トリカブトと曼殊沙華。本体の姿が本編中に言及されることはまずありえないのでここで発表しますが、井上と喰い合った虚の井上が本体です。

 

 無天隠盾(むてんいんしゅん)

 狐花を主体とした盾であり、自身を中心として張る隠匿・隠形の盾。外からの感知を拒絶し、中に居るモノが感知された事実を拒絶します。ユーハーヴェーハーでも中身は見れなくなるんじゃないでしょうか。ただし、中身の見えない何かがあると言うことは気付かれるので意味があるかどうかは不明ですが。

 

 虚天変盾(きょてんへんしゅん)

 烏頭を主体とした盾(?)であり、井上と混じりあった虚と人間の状態を一時的に逆転させます。簡単に言えば、これを使う事で井上は一時的に虚になります。

 虚になることで虚化と同じように霊圧が上昇し、お互いに喰い合っている状態は基本的に拮抗しているのでほぼ状況は変わらないまま行動できます。ただし、本能に忠実になります。

 

 五天封盾(ごてんふうしゅん)

 舜桜、あやめ、椿鬼、烏頭、狐花による相手を封じる檻を作り出す術です。四天抗盾のように内側からの攻撃を弾き飛ばします。

 

 六天絶盾(ろくてんぜっしゅん)

 火無菊、梅巌、リリィ、舜桜、あやめ、椿鬼による最強結界です。ただし、とにかく防ぐことのみを目的としているため弾き返して反撃することはできません。

 

 二天埋盾(にてんまいしゅん)

 烏頭と狐花により相手を埋め込む形で張られる盾です。埋め込まれた相手の力そのものを拒絶することで放出する系統の術を無効化し、さらに原作で力を失ったルキアが入っていた義骸に入れたような状態にすることができます。当然相手の動きをある程度封じますが、気合の入った相手であれば結構普通に動けます。(反動が無いとは言ってない)

 

 

 

 

 井上の味覚について

 

 井上が虚と同一化したことによって霊子の味を感知する味覚を身に着けました。ここにその味の一覧を載せておきます。

 

 十刃

1.ジビエ系のお肉

2.小学校で受けてた苛めで食べさせられたチョークが一番近いかな?

3.鯛ダシのお吸い物

4.自然な甘さの葛餅

5.激辛クリームコロッケ

6.レモンとキウイのフルーツサンド

7.中途半端にぼやけたサッカリン

8.卵抜きのゴーヤチャンプルー

9.満漢全席を一口に集約しちゃった感じ

10.塩

 

 死神(隊長格のみ)

元柳斎.炭

雀部.紅茶

砕蜂.炭酸入りの蜂蜜

大前田.120℃の熱で溶けたバター500cc一気飲みした感じの味 

一夏.普段から霊子を放出してないから食べられない

(市丸.関西風きつねうどん)

吉良.昔食べさせられた蟻の味によく似てる

卯ノ花.鉄錆と消毒液

虎徹勇音.シャーベット(ミント味)

藍染.甘苦く渋みもある、織姫曰く『諦観の味』

雛森.関東風田舎うどんの出汁が凄い浸みた天かす

白哉.熟しきってない酸味の強いさくらんぼ

恋次.下処理が不十分なテールステーキ

狛村.……なんか、汗? みたいな?

射場.濃い口ソース

京楽.梅の糖蜜漬け

伊勢.海老のお刺身

東仙.イナゴの佃煮

檜佐木.……ちょっとこれに類するものを口にしたことがないからわからない。(石油)

日番谷.かき氷(ポン酢)

(松本.稲庭うどん)

更木.死臭と鉄錆

やちる.更木と同じ。何しろ更木の刀なもので。

マユリ.強いて言うなら多種多様な薬剤を下水でごった煮にしたような味

ネム.ゆめのようなあじだよぉ~~(お目目ぐるぐる。どうやら身体に仕込まれていた薬剤の効果のようだ)

浮竹.湿布薬

海燕.海水のようなえぐみの強い塩味

ルキア.かき氷(薄荷油)

 

 現世組

一護.(織姫補正付きで)天にも昇る味。表現不可。

石田.ニラ玉

チャド.ひややっこ(醤油)

浦原.芥子の実

夜一.銅と亜鉛を一緒に口に含んだら電気が通っちゃったような味(曖昧)

たつき.いちごジャムとバターを挟んだクロワッサン

夏梨.チョコミント

一心.焼きたてのバーガーのバンズ

真咲.濃い目の甘酒

 

 

 

 

 

 

 

 千年血戦篇について

 

 霊王の左腕とか心臓はどうするの? という質問がもしかしたらあるかもしれませんが、はっきり言いましょう。もう存在しません。

 左腕たるペルニダは一夏の出した武器に侵食した結果一夏の武器=千の顔を持つ英雄の一面を持つようになり、千の顔を持つ英雄=一夏の武器である以上一夏はそれを自在に扱える能力を持ちます。つまり、霊王の左腕は一夏の物になりました。

 心臓たるジェラルドは一夏の武器となったペルニダに侵食されてペルニダと合一。一夏の武器になりました。

 ……え? パンジャンにしてないのか? 流石にこんなクソ危ないだけのパンジャンとか作るわけが(ナパームクラスターパンジャンを横目に)……ナイジャン?

 

 そんなわけなので、もしも千年血戦篇がこれから先に起きることが万が一あったとしても星十字騎士団は存在せず、見えざる帝国も存在せず、ユーハバッハも知識を司る脳や心臓などを完全に失った状態での参戦になり……まあ、お察しと言う事で。

 

 

 

 

 一夏の斬魄刀について

 

 一夏の斬魄刀は片方は二枚屋王悦の作ったものですが、もう片方は一夏の千の顔を持つ英雄です。千の顔を持つ英雄なのであらゆる武器になります。相手の武器をコピーとか言っていますが、単純に新しく作っているだけです。要するに千の顔を持つ英雄で作った斬魄刀の能力は現状確認されていません。

 ただし、この世界の存在である霊子で作り上げた際にいくつかの種類の霊子を混ぜ合わせて再現した特殊な十二の形態を完成系変体刀として普段使いしています。

 

 絶刀・鉋

 虚の鋼皮と死神の斬魄刀からできている頑丈な刀。卍解は『不毀の湖光(デュランダル)』……ということになっています。ただ物理的に頑丈なだけの刀から、物理的にも概念的にも折れなくなる感じです。

 

 斬刀・鈍

 死神の斬魄刀の特化型。とにかく斬れる以外は普通の刀。卍解は『二次元の刃(イビルメタル)』。触れれば斬れるから触れなくとも斬れるようになります。

 

 千刀・鎩

 死神の斬魄刀。普通の浅打。ただし無限に増える……ということになっている。実際には普通に作るだけ。卍解すると他の刀も増やせるようになる……という設定。卍解は『千の顔を持つ英雄』

 

 薄刀・針

 斬魄刀と滅却師の動血装。なおこれで居合するのが一番早い。斬刀は実は二番目。卍解は『全刀・錆』。あらゆる棒状のものを刀とできる。繋がり? 知らね。

 

 賊刀・鎧

 虚の鋼皮と滅却師の静血装。防御力は随一。卍解は『巨鎧兵』。スパロボです。

 

 双刀・鎚

 全てを満遍なく。お陰で重量が凄い。卍解は『如意禁箍棒』。重い武器で一番最初に知ったのがこれになります。

 

 悪刀・鐚

 虚の超速再生と滅却師・ペルニダの浸食。卍解すると名前そのまま寄生型回復用ナノマシンに。正しい手順で取り除かないと自爆します。

 

 微刀・釵

 完現術。自動人形として動き回ってくれる。卍解しても自動人形。賊刀と合わせて使うと効果的。

 

 王刀・鋸

 人間と死神。毒性を浄化する刀。卍解すると無名の逆刃刀になる。るろ剣かな? 無名だから当然名前も無い。と言うかそもそも卍解するときに名前を呼ぶ必要もない。

 

 誠刀・銓

 完現術を基礎に他を少しずつ。自分の精神に作用する系統の刀だが、他人に使わせることで他人の精神を落ち着けたりもできる。王刀使わせた方が早いとか言ってはいけない。卍解は現状存在しない。

 

 毒刀・鍍

 虚特化型。精神に作用し、力を持つと振るいたくなるという思いを増幅する。王刀を持ってると対抗できる。滅却師が持つと虚の霊圧に侵されて死ぬ。最近虚の霊圧を流し込むことで対象を虚化できるようにもなった。卍解は『妄想毒身』。わかれ。

 

 炎刀・銃

 滅却師特化型。遠距離攻撃を行うことができる。卍解は『ミサイルサーカス』的なあれ。ちゃんと鬼道とか虚閃とかも撃てるから大丈夫。

 

 

 二枚屋王悦の作った方の斬魄刀の能力ですが、本編にあった通りに相手の状態を写し取り、そして自身の状態を反映させる能力です。写し取ったものが傷つけば同じように傷つき、写し取った自身が傷つけば同じように写し取られた対象も傷つきます。流石に変顔しても変顔したりはしません。

 そして二枚屋王悦の斬魄刀は死神の力の結晶であると同時に虚の力の結晶でもあります。虚化しても帰刃しても見た目は変わりませんが、霊圧が虚寄りになったりはします。

 

 

 

 

 その他追加中

 



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原作開始前
BLEACH~01


なんか令和になったので初投稿です(雑)


 

 side 織斑一夏

 

 死後の世界と言うのは様々だ。例えば霊体として地獄に行き、裁判を受けることになったり、あるいは適当に現世を彷徨ったり、特殊な所では英霊の座に登録されて色々な世界に呼び出されたり、あるいは死んだ先に物語などなかったり。

 しかし、作品によっては死んでからが本番と言う物もある。幽☆遊☆白☆書はその筆頭とも言えるが、それ以外にも死ぬ、あるいは死と同様に身体から魂が一度抜けてからが本番という作品もある。転生前の俺でも知っている作品だと、BLEACHと言う作品がそれにあたるはずだ。

 

 ……そして今、おそらくそのBLEACHの世界だと思われる場所に来ている。理由? 日本刀持った黒い和服の奴らが死神名乗ってそこら辺にいる幽霊の額に柄の先端当ててなんか判子みたいな感じのが付いたと思ったら尸魂界とか言う所に行くんだ安心しろ、みたいなこと言ってる世界とかそこしか無くね? あとなんか仮面被った化物が暴れまわろうとしてるところにそいつらが現れて仮面叩き割ったら消えるとかそれしか無くね?

 まあともかく、そんな感じで俺が今いるこの場所はブリーチにおける現世だと判断した。ついでに自分の身を守るために色々と特訓とかもしてみたが、必要無かったような気もする。

 いやほら、俺って大本英霊だろ? 要するに一般人と比べて魂の質量と言うかなんと言うか、まあともかく質が大分違うわけだ。例えて言うなら、一般人は掌サイズのプラスチック製のスポンジで、英霊は人間大かそれより大きい鉛の彫像ぐらいの差がある。完全に別物ですね解ります。

 そして仮面の化物……なんて言ったかな……まあいいや、仮面の化物はスポンジに水を含ませて重くした感じで、それが寄り集まってできたでかいのは水を吸ったスポンジの集合体みたいな感じ。で、それらが食い合ってできるのは水ではなくスポンジ部分を増やして重量と強度を上げていく感じだな。かなり雑な認識だと自分自身思っているが。

 

 さてそう言う訳で俺も簡単に死なないために霊力の修行をすることにした。斬魄刀は……出せた。ただ、斬魄刀は本人に馴染ませた方がいいとかなんとか言う話があった気がするのでまずは馴染ませるところから。剣技に関しては霊力という意志の力の通りやすいものを扱うことで二の太刀とかそう言うのがかなりやりやすくなっているので心配はしないが、術とかそう言うのに関しては全く分からん。最終的に霊圧が全てだ気合で殺せとか言う脳筋過ぎる戦法こそが正義な気もするが、この世界結構矛盾が多かったりするから信用できないんだよな。

 まあともかく普通に人間として生きてきた俺だが、死んでからの方が長かった。死んだら大抵座に戻るんだが、ここでは魂が死ぬまで戻れなさそうだ。魂が死んだら普通は完全消滅だろうと思うんだが、俺の場合は違うらしい。理由は不明。

 そんなわけでそれなり以上に昔々の話だが、一応人間として生まれた俺は現世でそれなりの間霊媒師のような仕事をして食っていた。当時の人間達は結構霊的な能力を持っている奴が多く、見るくらいは誰でもできて更にある程度戦うことができる奴も多かった。そんな中でトップクラスの戦闘力を持っていた俺だったが、俺の戦い方ってのはあれだ、虚とか滅却師に似ているらしくどんどんと現世の方に魂の比重が傾くからやめろと死神からストップがかかるくらいになった。だったらそもそも被害が出る前に対応しろと返してやったし、暴力に訴えようとする奴には暴力で返してやった。霊圧差か何かは知らんが結構勝てんのな。

 だが人間の身体であると言う事は即ち老いると言う事。そして時間が過ぎればやがて死ぬと言う事。はい、寿命で死にましたとも。なんか胸の鎖が気持ち悪いから霊力操作を応用して身体に取り込んでみたらなんか取り込めてしまったので俺はある意味完全な霊体としてこの世界に存在することができるようになってしまったわけだ。意味が解らん? 安心しろ、俺も意味が解らん。世の中意味の分からん事ばかりだな、本当に。

 

 あ、あとなんか虚的な力に目覚めた。これあれだ、完現術とか言う奴だ。ちなみに媒体は多分俺の魂そのものだ。相変わらず凄まじいものを作るよな俺。どうも『健康である』という能力らしく、傷を負ったり疲れたりしたら即座に回復するらしい。しかも次に同じ質の負荷が掛かったら損傷を半減か無効にする効果付き。某運命の十二の試練かな? 流石に蘇生は無理っぽい……と言うかそもそも試す気にもならないが、多分無理だろう。多分。

 虚っぽい力に目覚め、死神のっぽい斬魄刀を使えるようになった。となれば後は滅却師っぽい能力の練習をするべきなんだが……あれって結局のところなんなん? 周囲の霊子を使って武器を作って打ち出すってことしかわからん。あれだな? 死神は自分の持ってる霊力で戦うが滅却師は周囲の霊子を集めて戦うという感じの、燃費だけ考えれば間違いなく滅却師の方が遥かに良いと言い切れる感じの奴だな?

 ともかくよくわからんので周囲の霊子への干渉だけはできるようにしておいたが、これって死神が空中に立つときとかにやってるから滅却師特有のってわけではないと思われる。いったい何をどうすれば滅却師なんだ……?

 




Q.初手から大分やらかしてません?
A.自覚はあるからほっといて……

Q.斬魄刀、完現術、滅却師、虚擬き……一話から飛ばしてますな
A.これから多分もっと飛ぶ。


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BLEACH~02

 

 side 織斑一夏

 

 死んでからしばらくの間、なんかよくわからんが虚に襲われたり死神の相手をしたりしながら過ごしていたが、ようやく死後の世界、この世界で言う尸魂界に行くことができた。成仏していく奴の後を追おうとしてみたり、死神の移動方法とかを見て真似ようとしてみたりと色々やったが、結局空間ぶった切って入るのが一番楽というね……ちゃんとした術式を学ぶことができれば話はまた変わってくるんだろうが、学ぶ場所が今のところ無いからな。仕方ない。

 見て覚えることができたのは精々鬼道と呼ばれる術の一部くらいだ。なんかオサレな詠唱をして、格好よく構えて、なんか出る。時々詠唱しないで出している奴もいたが、多分あれだろ、詠唱破棄とか無詠唱とかそんな感じに呼ばれる方法があるってことだろ。多分。

 そしてそう言う方法があると言う事は、ああいう術は霊力……多分霊力を正しく運用すればちゃんと使えるものであると言う事だ。多分な。

 

 さてそういう事でようやっと尸魂界に到着した俺は、色々と面倒ではあるものの死なないようにするために色々と学ぶことは辞めないでいた。そろそろ原作も忘れているし、霊子でできた原作本を出して内容を読み、ある程度思い出したり新しく覚えたりしながら霊力の扱いを覚える。あとあれだ、霊圧ってのは本人の持つ霊力の密度だ。だから使えば弱くなるし卍解したりして出力が上がると強くなる。そういう事だろう。

 俺の斬魄刀? あーほら、俺の斬魄刀ってのはあれだ、千の顔を持つ英雄を使って自前で出した奴だってのは覚えているか? まあ俺の出した武器は大体そうなんだが、そもそも千の顔を持つ英雄自体が俺の魂に紐づけられている能力だ。何が言いたいかと言うと、俺の斬魄刀は千の顔を持つ英雄で、その能力は想像できる限りあらゆる武器を生み出すことができる、ってのになるわけだ。

 ……これ、斬魄刀の始解や卍解とは少し違うよな? どちらかと言うと破面の刀剣開放の方に近い気がする。使うのに解号とか必要無いし、身体の形態が変わるわけでもないから何とも言えんけど。なんか、本体とか言うのにも会えんし。

 

 ともかく面倒ではあるが勉強である。霊的な力の扱いを覚えると、恐らくだが英霊としての俺の力も強くなるんじゃないかと期待していたりするんだが、その辺りはどうなんだろうな? 実際魂って言う繋がりがあるはずだから問題なく持って行けると思うんだが……まあ頑張ろう。

 で、困ったのが霊術院とか言う所の試験だが、俺はそう言うのがよくわからん。なんかそこで斬魄刀を貰うだとかなんだとかいろいろ言われていた気もするが、BLEACHはそのあたり本当に曖昧で以前言っていたことと今言ってること違うじゃんとかそんな感じのがかなりあるから信用できん。

 あとこの世界だとある程度以上霊力持ってると腹減るのな。霊力の実用ができない奴は使ったら死ぬから消費もされず供給も必要ないようだが、ある程度以上持っていると無意識に使ってしまうようだ。あれだ、霊圧という形で垂れ流しになる感じだ。で、周囲の大気圧のような霊圧に届かなかったり拮抗するくらいの量しかない奴だと周りからの霊圧に負けて放出できないから消費されない、と。多分そんな感じだ。多分な。

 なお俺は周囲の霊子を取り込むことで自分の霊圧を上げ続ける訓練中だ。だから今の俺を見ても霊圧は一切感じないだろうが、勘のいい奴なら俺が霊子を操って取り込み続けている事を悟って俺にそう言った能力があることくらいはわかんじゃねえかな? 知らんけど。特に霊圧受けても全部吸収するから俺自身鬼道系統の技は効かんし。虚閃とかもう完全に餌です本当にありがとうございました。ただ、結構な数の魂が混じってドロドロになってる奴の虚閃はあんま美味くない。濃縮したセロリみたいな味がする。青臭い。霊子に味はあるのかって? 何言ってんだ尸魂界にも食い物屋はある。そして尸魂界の物質は全て霊子だ。つまり、霊子にも味はある。間違いない。

 

 それと俺はあまりに暇になったんで流魂街で炊き出しをすることにした。貧しい所に行っては無料でそこそこの味の物を出しては振舞う。襲ってきた奴には顔面に泰山麻婆を叩き付ける。盗みをする奴は全員捕まえて正座させ、説教の後年齢を見て辛めの物を食わせる。最大レベルはやっぱり泰山麻婆だ。美味いが辛いんだよな、あれ。

 炊き出しは結構な人気だが、毎日同じところでやるわけではない。毎日移動して別の所で炊き出しして、それからまた移動してを繰り返している。大抵子供たちが盗もうとするからさっさと捕まえて正座させてお説教から酸辣湯麵食わせたりしている。大人の場合は地獄麻婆に顔面を叩き込んでる。

 そんなことを繰り返していたら、何人かの子供達が俺に付いてくるようになった。今では助手として料理させたり皿を洗ってもらったりしているが、ちゃんと大人になったら自分の道を見つけるんやで……という思いで色々と仕込んでいる。ちょっとした戦い方とか逃げ方とかな。瞬歩は便利。飛廉脚も便利。何より響転が超便利。瞬歩は足元に霊子を固めて踏み込みの力を一とした場合の反発力を一以上にすることで行う高速移動。足元の霊圧が高まるからわかる。飛廉脚は足元を霊子で固めて霊子を操作して高速の流れを作ってそこに乗って移動する。霊子を固めるから霊圧感知に引っかかる。そして響転は霊圧を一か所低くすることでそこに流れていく移動法。霊圧が高まらないので察知されない。便利。

 まあ、瞬歩と飛廉脚の同時使用はできても響転を組み合わせるのは難しいからな。そもそも霊子が薄い場所だとあまり速度が出ないし。尸魂界より虚圏の方が霊子が濃いからそっちではより便利だろうな。完現術は……ほら、適性が必要だから、な?

 




Q.響転ってそう言う技なの?
A.知らん。こうでもなければ霊圧知覚をすり抜けて移動とか無理だろうなと思ったからそう言う設定にした。

Q.……これずっと続けてると流魂街出身の死神たちと知り合いになれる感じじゃね?
A.なりそうですね。なるかどうかはこれからをお楽しみに。


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BLEACH~03

 

 side 織斑一夏

 

 一日一万回、感謝の正拳突き。そんな修行法があるそうだが、確かにそんなことを続けていたら正拳の速度は凄いことになるだろう。また、一回ごとにしっかりと祈りを捧げて正拳突きをすると言う事は一瞬で集中力を高めることができるようにもなるはず。ちゃんとできるかどうかはその修行にどれだけ本気で取り組むかにもよると思うが、結局のところ最後に頼ることになるのは武器ではなく自分自身だ。子供達にもそのことは徹底して教えているのでそれぞれ一日百回の正拳突きを義務付けている。まあこの百回はだんだん増えていくんだけどな。

 そして正拳突きが終わったら炊き出し。これがまた体力を使うんだが、慣れって怖いな。なんか俺の出したものを食い続けたせいか霊力を少しずつ強化しているようで、自分の身体を強化して大鍋とかを持ち上げられるようになっていた。ちゃんとした食事をすれば強くなれるって証拠だな!

 なお、俺が引き連れている子供達に原作キャラは多分いない。糸目の胡散臭い関西弁の少年もいないし、茶色なのか金色なのかわからん髪色した少女もいない。と言うかはっきり言って今が原作のいつ頃なのかもわからん。なにしろ俺が生きていた時代にはカレンダーも無ければ西暦なんて言葉も無かったからな。とりあえず江戸時代よりは前だと思われる。鉄砲どころか鉄器も無かったから……いや、マジでいつだ? 石器はあったと思うが俺は自前で黒曜石を拾って研いでナイフ作ってたりしたから細かい時代は本当にわからん。あとブリーチの時代考証もわからん。

 

 まあそれはそれとして、結構な時間をかけたおかげでそれなりの情報が入ってくるようになった。まず、一番隊の隊長にして総隊長は炎を纏った刀を振るうおっさんらしい。爺さんではなく、おっさんらしい。つまるところかなり昔だってことがよくわかるわけだな。一体どれだけ昔なのかは知らんが、まあ二千年強って所だろう。

 そして、霊術院……今の名前で言うと死神統学院は既に開かれていて、ついでに死神はそこで色々な術を学んだりもするようだ。一応斬魄刀って物が周知され、浅打が大量に用意されるようになっているそうだから零番隊は発足済みなんだろう。斬魄刀を作った奴、尸魂界の全てに名前を付けた奴、義魂を作った奴、回道の先駆者、マジキチ技術者……なんと言うか本当にどいつもこいつも頭がおかしい。特にあれだ、全てに名前を付けた奴とか完全に頭がおかしい。相手の名前を知っているとか呪術においてこれほどのアドバンテージは存在しないし、名前を知っていてなおかつ覚えていると言う事は即ち相手の能力なんかも全て理解していると言う事になる。それに加えて塗り潰しと書き換えまで可能となると死神で勝てる奴とかいないんじゃないか? 特に尸魂界で生まれた死神は絶対無理だと断言できる。なぜならそれは即ち尸魂界の全てに名前を付けた男の掌の上にあると言う事だからだ。

 もしも死神でそれに対して何かできる奴がいるとしたら、現世生まれの死神くらいだろう。それも純粋な死神ではなく色々混じっていた方が恐らく勝率は上がる。そんな奴は早々居ないだろうが。

 

 それはそうと俺の斬魄刀、千の顔を持つ英雄ではない浅打としての意識が芽生え、さらに俺に馴染み始めたようで変化し始めた。ただし、その姿はどう見ても俺なんだよな?

 まあそれはそれで楽しみにしているが、きっと頭おかしい能力なんだろうなと。どんなだ? この世界で手に入れた技術は多分座にまで持ち帰りが効くだろうから便利なのがいいんだが……可能ならトリッキーな奴の方がいい。そう言う奴の方が面白いからな。まあ俺の現身みたいなもんだと聞いているし、多分滅茶苦茶な奴になるだろう。

 

 今日も今日とて炊き出しと移動だ。移動する度に何かしらの脅迫やら誘拐やら窃盗やら強盗やらが起きたりもするが、とりあえずそう言う奴は全員叩き伏せている。炊き出しで食った奴にさらにもう一杯とかはしない。邪魔だからな。そして移動の度に子供達が増える。大人がせめてこの子にはひもじい思いをしてほしくないと思って渡してくる感じか、もしくはこのままこの場所に居たら死ぬと思った孤児たちが勝手についてくる感じなんだろうが……まあ、追ってくるだけなら止めないし排除もしない。殺すだけなら結構簡単にできるしな。霊圧と剣術だけで現世と尸魂界の間の壁を切り捨てて乗り込んで来たやつを舐めんなって話だ。

 と言うか、殺すだけなら刀も霊圧も必要ない。そこそこの殺気を叩き込むだけで意識を失うくらいはするだろうし、全開でやれば多分周囲の生き物は大抵死ぬ。虚を相手に実行したら塵になったことがあるからまず間違いない。ただの霊相手ならそれだけで十二分だ。多分やらんが。

 

 ……そろそろ、ちゃんと学びに行ってみるか。統学院。優秀なら誰でも入れるそうだし。

 




Q.そんな前なの?
A.そのくらい前です。

Q.ちなみに統学院に行ったとしたら孤児たちはどうなるの?
A.与えられた畑を耕したりしながら元気に過ごすと思われる。


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BLEACH~04

 

 side 織斑一夏

 

 一番最初に俺の所に来た子供たちが成人したのをきっかけに、俺はちょっとした新しい世界を作ることにした。まあ簡単に言えばいつもの奴だな。霊子についてはそういう物だという理解で千の顔を持つ英雄で大量に放り込んで行けばいいだけだし、なんとでもなる。

 その上でその世界で様々な物を育てる班とそれを炊き出しとして配り歩く班に分けてそれぞれの班に班長を置いた。俺が多少修行を付けた以上そこそこに強くはあるが、実際の戦闘なんかはやっていない以上どのくらい強いかは不明。一応俺を呼ぶ鈴とそれぞれの世界を結ぶ紐の腕輪を作っておいたから、まあ後は自由にやるだろう。別に炊き出しを続けるべきだとは言わんし、俺がやってきたように孤児の引き取りなんかもやる必要はない。俺が住むための小さな家を一つ分、それだけ残っていればいいと言ったしな。

 

 ……そう言う訳で俺は今、統学院に通っている。鬼道系統はよくわからんが結局のところ術式だろうから色々と自作してみたが、霊力と相性のいい術式って詠唱式なのな。あれだ、言霊系統使うのが一番楽。なるほど、それであんな感じのオサレな言葉になるわけか。

 俺の場合は色々あれだ、言霊使いとしては結構な腕でな。概念術に通じるところもあるから便利だぞ。相手の名前を覚えられないから敵対時に役に立つことはあんまりないけども。

 で、言霊を使うことをしっかり意識しながらやってみたらかなり簡単にできてしまった。何度かやれば感覚は覚えるのでそれで覚えて、最終的に九十番台とか言われる鬼道も習得できた。一年目で鬼道に関しては卒業レベルとお墨付きを貰った。

 

 二年目。鬼道の方は感覚を覚えたので適当に新しい術式を組み上げつつ体術と歩法を学ぶ。とりあえず最高速度と小回りと一歩で移動できる最大距離を鍛えつつ鬼道と体術を合わせてみる。確か原作でこんな感じの技があったから俺も使うと言うだけだ。と言うか鬼道と剣を一緒に使うって考えがあるのに体術と鬼道を一緒に使うって考えにならない理由がよくわからないんだよな。斬魄刀が自分自身である以上、斬魄刀じゃない自分でもできて当然だと思うんだが。

 まあそんなこんなで二年目は終わり、鬼道と体術、歩法は卒業レベルを遥かに超えていると言われた。

 

 三年目。ようやく斬拳走鬼の四つ目である剣術を学ぶ……が、実のところ剣術も剣道も色々と覚えているので学ぶほどの物が無い。特技は篠ノ之流の居合だが、あれって女子供の護身術だから非力な奴が使うべき術理の流派なんだよな。いや、時代が追いついていないせいもあってかかなり使えるけども。大抵の奴は一刀両断できるけども。霊圧込めれば空間ごと切り捨てたりとかもできるから多少の加減が必須になったりもしたけども。あと、才能がある奴が始解を見せびらかしてきたのをガン無視して切り捨ててやったりもした。原作でも終盤まで卍解どころか始解すらしていないまま隊長格になった挙句戦闘部隊で最強クラスだったような馬鹿もいるしな。できるできる。

 なお、俺の斬魄刀はちゃんと俺のになってはくれた物の俺に名前を教えても無駄だってのをよく理解しているようで名前は教えてくれなかった。仕方ないな。

 ただ、能力については教えてくれた。相手の能力の完全模倣だそうだ。ただし、斬魄刀のそれに限る。

 ……つっかえねえ、と思ったらまさかの本人が同意してくるという事件があったりもしたが、ともかく三年目が終わった頃にはもうどこの隊に入っても席官を務められるレベルだとすら言われるようになった。多分事実だが、まあ何でもいいわな。

 

 四年目……と行きたいところだが、なんでもこの学校始まって以来一度も無かった事になるそうだが、飛び級が認められることになった。まだ始解ができていないからと突っぱねさせてもらったが、そうしたら俺の授業は自由になって代わりに斬魄刀の始解をすることができたらその時点で卒業と言う事になった。

 あと、俺が作った方の元浅打は既に始解ができるんだが名前をちゃんと覚えるまで呼ばないように言われていて、入学時に貰った方の浅打は……あれだ、すっげえ理不尽な能力に目覚めてしまった。

 まず、名前が無い。しかし呼べばその形になる。何が言いたいかと言えば、例えば某完成系変体刀の名前を呼べばそういう形になるし、そう言う能力になる。例えば某竜物語のきせきのつるぎなんてものがあるが、その名前を呼べばそれになる。斬ったら回復するようにもなる。

 そして、他人の斬魄刀の名前を呼べばそれになる。能力も全く同じものになる。恐ろしいのは斬魄刀と言っても死神のそれに限らないところだ。

 ……一番やばいのは他人の名前で呼んだらそいつそのものの肉人形のようなものになり、それを殺すとその姿の元になった奴も死ぬって能力があることくらいか。なおこれはどれを真似ても同じ、他人の斬魄刀を真似た上で折れば元になった斬魄刀も折れるし、それが卍解だった場合は可哀想なことになる。卍解は治らないそうだからな。

 問題は、俺は名前を呼べないってことくらいだが……まああれだ、こいつは『(なまくら)』と言う事にしておこう。解号は……あれだ、単純明快に『斬れ』でいいや。そういう事にしておこう。何しろ斬刀だしな。

 

 さあ卒業だ。

 




Q.自前の方はともかく貰った方の能力やばくね?
A.普通に使っていれば攻撃系、しかし呪詛系の能力もあり。便利!それに自前で作った奴は要するに完全に自分でしかないわけで……自分にできないことができるようになるわけがないんですな。この世界では憑依という形で自分以外を取り込んでいるわけではありませんので。
 その点、貰った方は一応この世界生まれなのでちょっと能力に幅が出ました。

Q.……これ『しら筆一文字』とか真似た上で折ったらどうなんの?
A.真名呼和尚が二度と物に名前を付けられなくなります。たーいへん。


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BLEACH~05

 

 side 織斑一夏

 

 どうもこんにちは織斑一夏です。今俺は席官間違いなしと言われた実力を微妙に発揮して現世で適当に虚を虐殺している所だ。とりあえず出たら狩る。それだけ。時々賞金がついてたりするから中々悪くない稼ぎになるんだが、ついつい他の死神の範囲まで行ってしまい怒られることもそれなりに。来るのが遅いのが悪いと思うんだが?

 いやだって何あれ、頭おかしいんじゃないの何あの遅さ。現世で全力とか全然出せない俺の十分の一どころじゃない速度、あれで本気とか流石に笑う。と言うか俺の目の前で背後からの虚の襲撃に気付きもしないで死にそうになってたところを助けたにも拘らずこれとかもしかして俺は救わない方が良かったですかね? とかまあ色々と言ってしまった結果、十一番隊の所属にされてしまった。強い奴が偉い、という十一番隊だが、俺は別にバトルジャンキーではないのでまあ適当に。

 ……なお、売られた喧嘩は全て買ってやったが後悔はしていない。一部は斬魄刀を使わないで戦って勝ったりもしたが、なんで喧嘩を売ってくる相手は減らないんだろうな? お陰でいつの間にか副隊長だよこん畜生。拒否ったのに……。

 

 なってしまったものは仕方ないので副隊長としての仕事は最低限終わらせつつ適当に休みを取っては流魂街の異世界に残してきた子供たちを見に行ってのんびりする日々。たまに戦闘があるがまあ負けんわな。多分今の隊長相手なら直接斬られても斬れねんじゃね? ってくらいには頑丈だからな、俺。

 ただ、俺の斬魄刀の名前ってことにしてしまった鈍はとにかく斬ることに特化したものだ。加減はできないし刀身に触れれば斬れる。物理的に斬ることに関してこいつに勝る斬魄刀は現状存在しない、とまで言われるようになった。実際には無い事は無いんだが、無いってことにしておいた方が平和だから別にいいや。

 

 で、事件には極力触れないようにして生きてきたわけだが……副隊長ともなればどうしても巻き込まれることが増えてしまう。荒事専門の十一番隊は難しい事には関わらないことになっているからまだ助かっているが、十一番隊の中で特に話がわかると言われて重宝されるようになってしまったのは痛恨の極みだ。俺は割と自由人な方なんだが、目でも腐ってたのかね?

 最近巻き込まれた中で面倒臭かったのは滅却師との抗争だろうか。護廷十三隊の殆どが投入されたらしいが、俺は大した活躍をしないまま普通に終わってくれたので助かった。面倒だからな、ああいうのは。

 

 ……ああそうだ、やっとちゃんと名前を覚えたので俺の作った方の斬魄刀の名前を呼んでいいと本人からお許しが出たので紹介しようと思う。

 形態に関しては基本そのまま、ただし始解をすることで知っている斬魄刀を写し取って再現するんだが、ここで一つポイント。こいつ、形が無いのが形みたいな斬魄刀であるため増やせる。片手に鏡花水月、片手に鈴虫、背中に黒縄天譴明王。ちなみに同じ斬魄刀の始解状態と卍解状態を同時に使うこともできなくはない。

 ……まあともかくそんな感じに増やせる。そして鏡花水月の幻術の中にいない間に鏡花水月に触れていれば能力の効果は出ないって制限があるそうだが、俺のが真似た鏡花水月でも問題ないらしい。写してるからな。

 始解の名前は『照魔鏡(しょうまきょう)』。解号は『写し取れ』。卍解しても照魔鏡のままだが解号が『写し盗れ』になり、まあ簡単に言うと相手は俺が真似ている間は卍解も始解も使えなくなる。滅却師が襲撃して来た時に使ってたあれの上位互換みたいな感じになるわけだ。

 あと、俺が盗んでいる間に持ち主が死んだら俺の手元に残るようになっている。地味だと思ったが中々……いやでもはっきり言って千の顔を持つ英雄で相手が使えなくなるところ以外は完全再現できるんだよな。やっぱりあまり使えない。

 

『わかる。実際俺なら結構普通にできるよな。一応相手から奪うって能力付けたのは英断だった』

 そうだな。それが無かったら多分存在忘れてたと思う。

『ああそうそう、俺はお前だ』

 知ってる。

『つまり、自分の名前をちゃんと覚えている保証が無い、ってことだ』

 ……なるほど。確かに俺もちゃんと名前を覚えるには見本のような物が無いときつかった。こいつが俺ならそうなるな。要するにこの能力は殆ど俺の能力であって斬魄刀由来では無いと。

『一応奪い取るのは斬魄刀由来だぞ。だから多分大本はそう言う能力なんだろうな』

 奪い取る、使えなくする、そう言う系統の能力か。なんかあれだな、敵キャラに居そう。

『わかる』

 で、最後には主人公一人を相手にして個人ではなく絆の力で負けてその力を失う感じな。

『あーそれっぽい。もしそれに続きがあったとすれば、唯一付いてきてくれた無邪気だけれど有能ではない腹心あたりに絆されて似たような、ただし奪うんじゃなくコピーする系統の力を使えるようになって帰ってきそう』

 すっげーわかる。まあ俺には適用されないだろうけども。

『だな』

 

 そもそも俺は誰かを率いるとか絶対無理なタイプだ。気ままに個人でやってる方がよっぽどいいんだが……そう言う点では十一番隊は中々いい職場だ。脳筋が多すぎるのとバトルジャンキーが多すぎるのとそいつらに四六時中戦いを挑まれるのが面倒ではあるが。それ以外は結構いい職場なんだ……。 

 




Q.副隊長まで速くね?
A.九十番台の破道と縛道、最強クラスの剣術とそれに誂えたかのような始解、莫大な霊力量。これらを併せ持った奴が一般死神のままでいられるとお思いで?

Q.名無しの斬魄刀とどう違うの?
A.奪って使うから相手が使えなくなるのが照魔鏡(仮)、見た目と能力を真似てかつ自身の状態を相手に押し付けるのが名無し。状況次第。


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BLEACH~06

 

 side 織斑一夏

 

 さーて問題です。原作におけるBLEACHでは護廷十三隊の隊長格になるためにはいくつかの条件がありますが、その中でも強ければ許されるという意思が最も強く出ているのはどれでしょうか?

 まあわかるな。200人以上の隊員の見る前で隊長と決闘をして勝ったら隊長になれる、ってやつだ。十一番隊で最も多い隊長のなり方だな。ちなみに俺も結構挑まれているんだが、問答無用で殴り倒してやればまあ問題ない。実際に問題らしい問題が出た事は無いし、殴り倒された方も畜生次こそ俺が勝つ的な感じで後に残さないからな。そこだけは脳筋相手の良い所だ。

 だが、そんな脳筋相手に色々としかけてこようとする奴もいるもんで。気に入らないなら関わりに来るなと思うんだが、職場が近いから仕方ないっちゃ仕方ない。態々挑発するだけしに来る奴は死ね、とは思うんだが、そんな馬鹿はそうそう居るもんじゃない。全くいないわけではない辺り頭が痛くなる案件だが。

 

 さて俺は基本的に原作の登場人物たちに積極的に関わりに行く気はない。向こうから来たらそれなりに相手はするが、だからと言って態々こっちから接触しに行くようなことはまずない。無いわけではないがまずない。あっても仕事だ。

 そう言う訳で一応副隊長として秒で書類を全部終わらせ、出すところに出して適当にぶらぶら。仕事が終わっているからぶらぶらしてても何も言われないし、それに色々あってぶらぶらしながらでも修業はできるしな。主に霊子操作系統のだが。

 適当な茶屋に入ります。茶を啜り、団子を食いながら空を見上げます。殆どの場合雲が浮いているので霊子操作で干渉して形を自由に変えようとします。それが上手くなると鬼道の腕が上がります。いや、マジな話ね。あれ霊子とかの扱いで威力やら発動速度やらが変わってくるから。特に詠唱破棄とか無詠唱だと余計に。

 

 ……しかしあれだな、俺でもわかる原作の登場人物は一番隊の総隊長の爺さんと副隊長のおっさん、四番隊の隊長で元十一番隊の隊長の戦闘狂くらいってのはどうなんだ? まだ黒猫女も下駄帽子もいないし、ついでに言うなら原作における仮面の軍勢になる隊長陣も不在だし。いったいどうなってんだろね? と言うかマジで今っていつなんだ? 原作何年前とかそう言う流れが全く分からん。多分五百年は前なんじゃないか、ってくらいだな。

 お陰様で十一番隊の副隊長として長いこと務めることになった。仕事は多いが書類だけなら完成品を完璧な状態で出せばいいだけだし、鍛錬については日常の中でそれなりに続けている。剣術に関しては篠ノ之流らしく居合特化でやってみたが、ののちゃんのあれがやばいものだってことくらいしかわからんかった。身体能力では俺の方が大分上のはずだってのに、何がどうなってののちゃんのあれは出来上がっていたのか実に不思議だ。それでもそこそこ上手くはなったが。

 一日一万回の感謝の正拳突きならぬ、一日一万回(どころじゃないが)、無念無想の抜刀術だ。抜いて切って納めてまた構えるまでを零呼吸でできるようになった。やったぜ。あと、霊圧なしで空間も断てるようになった。走る方も瞬歩のような高速移動をやっていたはずがなんでか縮地になったりもしたが、まあ、うん、はい。体術? そこそこ。

 

 ただしそのそこそこの体術と歩法と鬼道を組み合わせて縮地と瞬歩となんちゃって瞬閧を実行していたら隠密機動の奴に眼を付けられた。そう言えば瞬閧は隠密機動の秘術的な位置にある技だったような気がしなくもない。俺が使っているのはモドキだから背中や肩の布がはじけ飛ぶような事は無いし、術の発動の中心は肩ではなくて腰回りだったりするんだが……まあそのあたりは個人差だろう。足技を多く使いたいなら俺の方式の方が出力は上がるぞ。やりすぎると酷いことになるが。具体的に言うとあれだ、雷獣っぽくなる。仕方ないね。

 瞬歩だけなら俺以上の奴ってのは居る……多分いるだろうが、俺の場合は瞬歩そのものだけでなく飛廉脚と縮地も混ざるから早々追いつかれないんだよな。速度だけなら負けることがあってもそもそも走る距離を縮めてしまうからな、縮地は。

 おかげさんで大抵の場合逃げ切れるし、暗殺を仕掛けようとしてきたら反撃できる。毒物なんかは基本効かないからスルーだが、美味い毒ならともかく不味い毒は仕込んだ奴にお返しだ。死ね。隠密機動の秘儀だか何だか知らんが、そんなに真似されたくないんだったら大事に箱の中にでもしまっておけ。

 




Q.瞬閧……そう言えば隠密機動の極意とも言える技だったね?
A.あんな目立つのが隠密機動の極意ってあたり隠密って言葉の意味を調べ直してほしいです。

Q.飛廉脚や瞬歩はわかるが縮地ってなんぞ? どう違う?
A.紙の上を歩くとして、純粋に速度を上げて一瞬で紙の端まで行くのが瞬歩や飛廉脚。紙を折り畳んで普通の一歩で紙の端まで行っちゃうのが縮地。折り畳んだ紙は即座に元の形に戻るものとする。


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BLEACH~07

 

 side 織斑一夏

 

 基本的に瀞霊廷の中では斬魄刀の開放は認められていない。例外はそれぞれの隊の訓練場と死神統学院の実技場内、ついでに霊圧を完全に遮断する室内であれば始解どころか卍解したところで気付かれないので問題ないが、本来はアウトだからやらないように。

 しかし例外があり、常時開放型、つまり一回解放するとずっと解放されたままの斬魄刀は、いくら何でも斬魄刀を使うなとは言えないからそのままだ。俺の斬魄刀はどちらも完全に変化する開放型だからそれについては考えなくてもいいんだが、面白い能力を持っている斬魄刀を見るのに色々な手続きが必要なのは面倒臭い。十一番隊の馬鹿野郎どもの斬魄刀は基本的に物理型の攻撃系だし、鬼道系も見ておきたいから仕方ないっちゃ仕方ないんだよな。

 ……あー、できれば相手の能力を無効化するような能力の斬魄刀でも手に入らんものかね。集中すれば相手の霊子をこっちで抑えて能力の発動を潰してやったりとかもできない事は無いんだが、それが霊子の扱いに長けた滅却師相手にもできるかどうかは未知数だ。そして能力でやばいのと言えばやっぱり滅却師。なんだろうなあの致死量だとか全知全能だとか世界調和だとかは。馬鹿じゃないのかと。殺したら死ねよ。俺だって殺されたら死ぬぞ? 早々殺されないだけで。

 

 まあそれは置いておくとして、色々と面倒なことをしている割にあまりいい結果は得られなかった。隊長格であれば基本的に卍解はできるはずだが隊長格がそこらで卍解することなんぞそうあるものではないし、始解もできる奴はできるができない奴もいるって扱いだった。席官なら大抵できるそうだが、ヒラの隊員だとできなくてもおかしくないレベルだとか。

 そしてそう言う奴は上に行こうと努力する奴とそのままでいいと現状維持をしたがる奴に分けられる。現状維持したがる方はどうでもいいが、上に行きたがる奴が偶然そこに居た副隊長(それも割りと話の分かる方)にアドバイスを求めない訳がなく俺はそこそこの頻度で訓練を願いされたりもしている。大抵断っているが、俺自身やることがあるから仕方ないわな。

 まあ訓練中に始解できるようになってそれを俺が見ることができる事態にはそうそうならないが、たまーにそういう事もある。ごくたまにだが、無い事は無い。正直そんなのを待っているくらいだったら自分から積極的に教えに言った方がよっぽど効率良いんじゃないかってくらいには低確率だが、多分原作が始まればそれなり以上に斬魄刀の開放が見れるだろうからそこまで気にはしない。あと……何だっけ? 名前忘れた……ヨン様的なあれ、あー……いいやもうヨン様(仮)で。あれの斬魄刀も覚えておきたいからな。原作にある奴は見ないでも真似られるんだが、基本的に写し取る方でやっておこうと思う。多分それで問題なく催眠から抜けられるしな。

 なにより、本人の名前を憶えておかないと切札が使えない。滅却師の親玉は世界の全てを見て全てを理解し全てを改竄できるらしいが、だったらこの世界とはあまり関係のない俺の事は見えるのか? 俺の事を改竄できるのか? 俺のやったことを改竄できるのか? あとついでに名前がわかれば名無しの方で真似て殺してハイ終わり、って手が使えると思われるからちゃんと名前も覚えないとな……特に滅却師の親玉の方。ヨン様(仮)の方はやろうとすればなんとかなると思うし。

 

 ……不思議に思っていたんだが、滅却師が虚を斃すと虚は消滅する。しかし現世と尸魂界の魂の総量のバランスが崩れる。つまり滅却師は実際に虚を消滅させているのではなくあくまでも霊子に分解しているだけで完全に消滅させているわけではないんじゃないかと言うのが俺の理屈だ。霊魂は霊子が寄り集まったもの、って認識なわけだな。じゃなけりゃ霊子でできた世界である尸魂界に器子(現世の構成物質)が無いのに現世には霊子がある理由がわからんし。

 それを逆に考えれば、霊魂を霊子から作り上げることも不可能ではないはず。そして魂の総量が増えるから駄目というのなら、現世に漂う霊子を集めて魂を作り、その魂を尸魂界に持ってくれば問題なくなるんじゃないかと言う理論を作ってみたが、証明はできない。と言うかそもそも霊魂が霊子からできているのは当たり前のことだが、だからと言って霊魂を一から全部くみ上げようとかそんなことをする奴はそういない。なにしろ難易度があまりに高すぎるからな。具体的にどれくらい難しいのかと言えば、人間一人を原子から再構成するくらいの難易度だ、まあ基本無理だと思ってもらっていい。

 しかし世の中には義骸やら義魂なんてものも存在する。つまり、魂らしきものを作り上げることは不可能ではないという事だ。だからと言って本物と変わらない魂を一から、あるいは零から作ろうとする馬鹿はそうそう居ないと思って構わないだろうが。

 

 ……やってみるか。時間はあるし。覚えないといけない名前については多分あと百年くらいは余裕があるだろうからゆっくり覚えていけばいいだろうし。やりたいことを並行してやるのたーのしー。

 




Q.滅却師の能力のうち一夏にも効果があるやつってある?
A.使った本人を強化する系統は多少。ただし一夏に干渉する系統はまあ効かない。

Q.具体的に。
A.
 A、全知全能→そもそも世界が違うので見えない。見えない物は変えられない。
 A、完全反立→立ち位置を変えようとしても霊圧差で弾かれると思われるが霊圧差が関係ないなら効く可能性の高い三番目。
 B、世界調和→不幸を分けられても一夏が傷つくレベルの不幸って世界崩壊かな? 使ったらみんな死ぬのである意味無効。有効にしたら全て死にます。効く可能性の一番高いの。
 C、強制執行→同化した瞬間一夏の細胞に食われます。
 D、致死量→健康なので効きません。
 E、爆発→多分当たった物に霊子を混ぜ込んで結合を破壊し、結合分のエネルギーを爆破に回していると思われるので霊子操作能力で上回れば効果あり。なお上回っているとは言ってない。可能性高い四番目。
 F、恐怖→健康なので(ry
 G、食いしん坊→物理技だけどそれが通るほど強くないので効果無し。
 H、灼熱→ちょっと服が焦げるか霊圧で服に焦げ目すらつかないかの二択。
 I、鋼鉄→硬くなっても……ねぇ?
 J、監獄→滅却師は閉じ込められないそうなので無意味。
 K、???→能力不明。多分NARUTOの修羅動的な物だと予想。まあ効かないよね。
 L、愛→健康(ry
 M、奇跡→自己強化型だから効果はあるけど最大強化が不明。まあ普通に負けると思われ
 N、???→能力不明
 O、大量殺戮→一夏に届くまでに一体何億人犠牲にするつもりやら……まあそこに届く前に殺されると思われます。
 P、力→純粋な筋力で一夏に勝てるとかドラゴンボール世界でもそういないので無意味では?
 Q、異議→異議あり!「うるせえ寝かせろ」
 R、咆哮→咆哮!「うるせえ寝かせろ」
 S、英雄→要するにファンを消滅させてから当人も消滅させればいいだけなので……。
 T、雷霆→電撃とかカモです本当にあ(ry
 U、無防備→健k(ry
 V、夢想家→剣八に勝てないのに一夏に勝てると?
 W、紆余曲折→認識できないと曲げられないそうなので時間止めて斬りましょうねー
 X、万物貫通→霊圧勝負なら多分無効。ただし霊圧関係ないなら効果あるかも。まあBLEACH世界は最終的に霊圧がモノを言う世界なので……。効く可能性の高い二番目。
 Y、貴方自身→残念ながら一夏は必要とあらばいくらでもその瞬間に強くなれるのですよ……。
 Z、死者→け(ry
 結論、基本全部効かない。なお効果があっても被害が出るとは限らない。


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BLEACH~08

 

 side 織斑一夏

 

 できちゃった。ただ、完全に新しい魂として作るんじゃなく誰かと全く同じ魂に作り替えるってところまでだが、できてしまった。これはあれだな、完全に霊子を解析することができる道具とその通りに並べられる道具があれば十分作れるってこったな。作る価値があるかは知らんが。

 まあ作ったのは小動物の魂だ。具体的に言うとトカゲ。そこら辺を走っていたから捕まえてみたんだが、結構いけるもんだ。

 あと食えた。味はそこそこだが食えない事は無い。まあトカゲなんぞ肉にすれば鶏のそれとそう変わらんからな。食えない理由はそんなになかろう。気持ち悪い? どうせ肉だけになればわかりゃせんだろ。

 

 さてそれはそれとして、俺の仕事がまた増えた。秒で終わるとはいえ隊長の仕事を肩代わりしているし、隊首会とかもなんでか俺が参加することが多いし、十一番隊名物の大訓練大会で馬鹿やった奴らの傷を治すのも俺だし、なんなら教えるのも俺だし、その上で料理まで任された。そろそろ俺はキレてもいいと思うんだよ。

 始まりは……ああ、そうだ。俺が仕事を終わらせて自作の飯を食っていたら隊員が話しかけてきて、弁当はどこで買ったかと聞かれたから自作だと答えた結果だったっけか。それが巡り巡ってなんでか俺は十一番隊の奴らのメシまで作ることに……いやまあ作れるよ? 作れるけどね? めんどくせえし仕事もかなり多いからマジで勘弁してもらいたいところなんだよね?

 一応レシピなりなんなりを適当に残しておく予定だから多少はマシになるだろうが、それでも脳筋戦闘部隊十一番隊だからな……その程度でマシになるかはわからん。ならない可能性も十分にある。ほんと勘弁してほしい。できる奴がやればいい、じゃなくて、できない奴をできるようにしようぜ? じゃないと俺過労でぶっ倒れるぞ? そうなる前に逃げる可能性もあるが。

 あれだな、なんでもできるから駄目なんだな。もう少し手を抜こう。こいつら良く動くから味は濃いめで量多くとか、そんなこと考えないで適当に作ればいい。栄養のバランスを考えて朝昼晩で献立を変えるとか週で管理するとかそう言うのが仕事の手間を増やしているわけだ。と言うかなんで十一番隊は給食風なんだろうな? 他の隊は社員食堂って感じなのに。

 

「副隊長!肉下せえ!」

「にーく!にーく!」

「にくぅぅ!」

「わーったわーった、大人しく待ってろ。そこに整理券があんだろそれ取って注文内容書いて半券千切って置いとけ」

『うす!』

「あと野菜も一応食え。肉と一緒に作ってるから肉みたいな味しかせんから」

『……うす』

「残したら俺と一緒に『濃厚蜂蜜授業~ポロリもあるよ☆』に強制参加な」

 

 なお内容はクソほど濃い暴行と殺戮の宴。死ななきゃ安いをモットーにした『死んでなければOKルール』適用型の超難易度修行体験だ。十一番隊の奴は隊長を含めて大抵これを一度は受けている。そして多大なトラウマを受けている。効果は中々高いんだが受ける側の根性がな……なおポロリすんのは大抵内臓なので注意な。

 どの辺が蜂蜜か? 命の危機が無いんだから蜂蜜だろ。甘いって意味で。

 そんな感じの事が周知されているせいで基本的に俺に逆らう奴はいない。隊長? 胃袋掴めば一発よ。結婚を申し込まれたこともあるが寝言は寝て言えと突っぱねた。そしてついでに首も刎ねそうになったが流石に堪えた。いきなりこんなところで殺しはまずいどうせいつか殺してもばれにくい大きな争いがあるんだからそこまで我慢……いや、バレなければ殺してもいいんじゃないか? バレる気しかしないが。傷口に残った霊圧から個人の特定とかもできるしな……めんどくせえ。

 

 あー……副隊長とかやめたい。平の隊員になって馬鹿みたいに仕事を押し付けられる状況から脱出したい。でも平だと給料やっすいんだよな。生活はできるが贅沢はほぼできないレベルで。金を多めに貰ってんだからこの忙しさも仕方ないのかもしれないが、俺がやってる書類の七割は隊長がやらねえといけない奴なんだ。めんどくせえ。

 ちょっかいかけてくる奴も面倒だし、本当にマジでこの問題児共どうしてくれようか。斬れるならそれが一番楽なのは間違いないが、斬って全てがするりと片付く時代じゃないしな。責任とかなんとかを俺が取らなきゃならんのがマジで面倒臭い。仕事しないんだったらマジで隊長辞めろと。

 あとついでにむやみに俺の仕事増やす奴も死ね。俺がやってる分を真面目にやったら多分お前ら死ぬぞ? 不真面目にやってる俺でもイライラしてんだからマジでそうなる未来が見える。死神は死んだらそこで終わりなんだから身体に気を付けろと。

 

 




Q.今の隊長って女?
A.男だから『寝言は寝て言え』でした。

Q.おっそろしい蜂蜜授業があったもんだな……
A.なお他称は『死ぬ以外の人生の不幸を全部味わえる絶望人生フルコース』


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BLEACH~09

 

 side 織斑一夏

 

 ようやっと俺の知っているキャラが増えた。まあ敵側なんだが知っているキャラに違いはあるまい。あれだ、youは馬っ鹿だ。なんか響きは凄い似てたはずだ。滅却師の親玉だな。

 ……あと、あれだ、多分俺過去現在未来を見通す千里眼系の技と認識した事実を改竄する能力はともかく、力を与えたり奪ったりは俺もできるわ。多分だが。と言うかあれ血族とかそう言うのだからできるとばかり思ってたんだが、実際の所血族だからじゃなくて構成する霊子の相性なんだな。俺個人の意識で言えばどうでもいいが。

 

 まあ要するに、原作開始千年前辺りの滅却師との戦争が始まったわけだな。すぐ終わったけど。結構な数の死神が死んで、それ以上に滅却師が死んだ。現状においては死神の勝利と言えなくもないし、ほぼ全員を殺してみせたが残念ながら本当に全ての滅却師を殺し尽くしたわけではない。これがいずれ千年血戦篇に繋がると思うとワクワク……いや、ワクワクはしねえな。

 かと言ってアレが復活しないようにする方法なんざ知らん。未来の操作とか現実の改竄とかを相手に何をしろと。できることと言えば未来あるいは過去から時間を越えて斬るくらいしか思いつかないんだが、それをやったところで多分あっと言う間に傷を治されるよな。やっぱり直接やるしかない。具体的には現在過去未来全てを纏めて一刀両断するしかない。これぞ因果の破断と言う奴よ。まあ俺のはちょっとどころじゃなく邪道な方法だけども。

 本当だったら因果を絶たれればおよそあらゆるものは両断されるか消滅するが、俺の場合は初めから存在しなかったようにする。あれだ、灼眼のシャナで存在の力を奪われた人間みたいな感じで初めからいなかったことになる。ただしめっちゃ疲れるし消した相手によっては世界の寿命がクソほど縮むし認識が馬鹿みたいに歪むこともあるが、知らん。初めから存在しなくなれば治すも与えるもありはすまい……。

 なお、十一番隊は戦闘部隊として戦ったせいで被害は一番大きかったんだが、それでも随分と生き残りは多かった。あと俺も参加したがそんな強い奴らはいなかったから苦労もそこまでしなかったしな。やっぱり時代が違うと強さってのは変わってくるものだ。

 

 

 

 

 

 side another

 

 音もなく滅却師が崩れ落ち、解体され、消えていく。

 鞘走りの音も鍔鳴りもなく、言葉も歩く音もなく、滅却師の身体が寸断され、血の一滴が地に落ちるより早く消えていく。

 男の周囲に制空圏が見える。その場所までは男の支配領域である領域が、じりじりと範囲を広げていく。滅却師の飛ばす矢もその広がりを止めることはできず、制空圏に入った瞬間に断ち切られ形を失い解け消える。

 滅却師の一人が叫ぶ。矢が届かない。

 滅却師の一人が喚く。矢が作れない。

 滅却師の一人が嘆く。弓が消えた。

 そして制空圏に飲み込まれていった順に、切り刻まれ霊子に分解されて消えていった。

 

 制空圏は広がる。その場の霊子を支配しながら着実に。老いも若いも問答無用で呑み込んで。

 制空権の中に一人佇む男は、ぼんやりと空を眺める。そこでは男の所属する護廷十三隊の総隊長と、今回の敵の頭であるユーハバッハがぶつかり合い、被害を大いに広げていた。男はその被害を逸らし、弾き、打ち消し、時には打ち砕きながら制空圏を広げていく。

 

「……あー、なあ、三席」

「はい!」

「今すぐ全体に退かせろ。無駄に巻き込まれるぞ」

「はっ?」

「総隊長の爺さん、どうも本気でやるみたいだからな。できる限り離れろ。間に合わないで巻き込まれたら自分の足の遅さを恨みながら死ね。……行け」

「はっ!! しかしこの場は……」

「見ての通り俺一人で十分だ」

 

 男はそう言うが、既にこの場に敵はただ一人、恐らく大将であるとみられるユーハバッハのみになっていることを感じ取っていた。それは自身の制空圏に入り込んできている相手が既にいないことを察知しての事だが、その察知の感覚が霊圧のみではないと気付いたものが一体何人いただろうか。いたとしても霊圧を完全に消していた者もそうでない者と同じように霊子の塵に変えられており、それを伝える術を持たない。

 三席と呼ばれた男はそれを聞いて一瞬逡巡し、しかしその直後に了解の言葉を告げて走り始めた。周囲に総隊長が全力で戦うから巻き込まれたくなければ逃げろと叫びながら。

 それを見るでなく観ながら男は刀を手にじっと戦いを眺める。構えることすらなくただ立っているだけにしか見えないが、現実には単純な速度を以て時の流れを越えて動き、敵の攻撃を居合にて切り伏せている。そしてそうしてできた隙を突き、総隊長と呼ばれた老人は敵の大将を跡形もなく焼き払った。

 

「……やれやれ、何人巻き込むつもりだったのやら」

 

 面倒臭げに男は呟き、影すら残さず消え去った。

 




Q.みてるだけ? 手は出さんの?
A.今は出しません。

Q.過去斬りとか未来斬りとか因果の破断とかおっそろしいこと言ってんな!?
A.何を言っても出来てしまうから仕方ないね。


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BLEACH~10

 

 side 織斑一夏

 

 隊長は死んでいた。滅却師との戦いで単独で突っ込みすぎて死んだらしい。そんなわけで副隊長である俺が一時的に隊長の権限の代行をしているわけだが、いつもとやっていることがそんなに変わらないってのはなんでだろうな? あと隊長への任命はお断りしておいた。今でも面倒なのに正式に隊長とかやってらんねえわ。態々ほかの理由考えるのも面倒だから真っ正直にこの通り言ったらめっちゃ怒られたけど気にしない。ついでに今の俺の仕事の量を聞かせたら黙った。十一番隊は怪我人が多いし、器物破損も多い。そう言ったものに対しての書類やらなにやらをちゃんと作るのに俺じゃなかったら半日くらいかかるだろうし、それ以外の料理だの訓練だのと言った奴も加えればまともな奴なら寝る時間も取れないレベル。ここに正式に隊長の任務も加わるとか絶対嫌だ、と真っ正直に言ったら若干哀れみの視線が増えた。

 そう言う訳で希望は『最低限隊長としての仕事はしてくれる人』。別に口が悪かろうが戦闘狂だろうが構わんから仕事だけは片付けてくれ。そうすれば俺の仕事の三割くらいは消えんだわ。年に何度か孤児の世界に行って家の中でのんびりするだけの休日を過ごしてはいるが、できればもうちょい休める時間を増やしたいんだよな。

 

 ……それはそれとして、俺は色々あって死神としての能力の他に滅却師の能力と俺と言う存在を基にした完現術者の能力もあるという話を覚えているだろうか。まあ忘れててもいいし、正直滅却師の能力ははっきり言って霊子の集束と分解を極めれば大体できるから滅却師固有の能力ってわけでもない。完現術者としては自分の再生能力だから基本無視して構わんし、死神としての能力……は、斬魄刀の名前を覚えはしたもののそもそも斬魄刀の方が自分の名前を正しく覚えている確証が無い、つまり原作で言う『藤孔雀』みたいなことになっている可能性もあるわけだ。

 だから死神としての能力については未知数だとしても、もう一つ覚えられる方向がある。そう、虚だ。似たようなものである完現術が使えるんだから行けない理由は無い。行ける行ける絶対行ける大丈夫大丈夫間違いない信じて行けよ行けるって。

 行けた。崩玉が必要かもしれないと考えはしたんだが実際にはそんなことは全くなかった。ほら、俺ってこの世界では生前から虚を狩りまくってたじゃん? そしたら当然虚の霊圧とかも受ける訳よ。大して効かんけど。で、その時の感覚を思い出してやってみたら仮面出せた。で、有給取って虚化を鍛えようと思ってたら俺の中で名称不明の斬魄刀である仮名照魔鏡と、俺の色が白黒っぽくなったのが談笑してた。破壊衝動に塗れてるわけないとは思ってたがまさかここまで和気藹々としているとはちょっとしか思ってなかったので驚いたが、まあ好都合だわな。

 

「よう俺」

『お、来たか』

「待ってたぜー」

 

 ちなみにこの世界には名無しのあの刀はいない。正確にはこの世界は俺の世界であるから俺以外は入れない。元々俺である虚の俺と、元は千の顔を持つ英雄である仮名照魔鏡は俺だから問題なく入れるが、名も無きあの刀は俺の力を受けて育ちはしたものの俺では無いからこの世界にはいないわけだ。いや、もしかしたらいるのかもしれないが、少なくとも俺には発見できない。

 あいつに会うにはあいつを使ってあいつの心象に行かないとならん。まあ特に何もしないでも行けるこの世界と比べていく頻度が落ちるのはしゃあないわな。

 

「合言葉は」

「『そうだ、布団行こう』」

「完璧だな。虚の力使いたいんだけど暴走とかさせないでくんね?」

『三食はいらんから朝寝と昼寝と夕寝と夜寝を所望する』

「それ24時間寝てないか? まあ寝てれば大人しいのも俺っぽいか」

『俺はお前だからなぁ……あ、それとあの名前のない刀あったろ?』

「あったな」

『俺の刀にしたからな。始解状態は今のままだが卍解として帰刃できるようにしておいた。見た目は特に何も変わらないから安心しろ。何しろ俺はお前だからな』

「名前は?」

『俺はお前だ。要するにそういう事だな』

「……もしかしたら俺もそうかもしれん。霊圧を完全に遮断するようなところで試してみてくれ」

「わーお。解った、やってみよう」

 

 話はついた。正直こんな簡単でいいのかと思ってしまったが、まあ別に構わんだろう。楽に終わるならそっちの方がいい。ただ、相手が俺だと言う事を考えると色々と仕込んでても不思議には思わない。まず間違いなく俺が破滅するような事ではないだろうが、代わりに何が起こるかはいまいちわからん。多分周囲に被害は出ない類だろうが……出たとしても敵だけだろう。

 原作では虚の自分は本能に忠実だとか言う描写があったが、俺の本能は睡眠欲でおよそ八から九が埋まっているので妥当な線か。戦いにならなくてよかったよかった。強くなりたいって欲もまあ多少はあるが、基本的かつ根本的に他人のために強くなりたいとか思えない質だからな。あれだ、俺は俺のために強くなることを決めた、って奴だ。あんま意味はねえけど。

 




Q.ちょっと待ってそれでいいの?
A.本人がいいって言ってるんだいいいんじゃないですかね?

Q.解号ってまさか……
A.『布団いこう』だったら面白いですけど残念ながら変えたやつに合わせて変わるんです。


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BLEACH~11

 

 side 織斑一夏

 

 零番隊には尸魂界の全ての物に名前を付けた男がいる。そいつははっきり言って大分頭がおかしいが、何より頭おかしいのは斬魄刀が言霊特化型と言う所だ。なんだよ言霊特化って頭おかしいんじゃないのかと。流石の俺でも他人に名前を呼ばれることで死んだ自分を蘇生させるとか頭のおかしいことはできんぞ。

 だが、言霊ってのは極めればこんな頭おかしいことができるわけだ。噂をすれば影、って言葉があるが、真名呼和尚のあれはその究極系だな。名前を出せば蘇る。名前を出せばそこに居る。この世界における言霊使いの究極点と言える存在だ。流石に真似るには時間がかかりそうだし、それに関してはのんびりやっていく事にする。

 

 それと新隊長が決まった。また脳筋だったがそれでも一応仕事はやろうとしてくれる。一切やろうという気配を見せなかった前隊長と比べるまでも無いが、しかし戦闘に関してはやや劣る、と言ったところか。まああんなんでも十一番隊の隊長をやってた奴なわけだし、実力で言うなら非常に高くて当然なんだよな。面倒臭いが。

 だが、一応副隊長として色々教えればちゃんと覚えようとしてくれるしありがたいっちゃありがたい。失敗もそこそこするが徐々に減ってきているし、書類の前で頭から煙を出して突っ伏しているのを見ると新鮮な気分になる。俺の書類作りが早すぎるのがある意味問題だそうだが、それに関しては数百年も隊長から執務を押し付けられながら自分の時間を作るために努力すればできるようになると答えさせてもらった。事実ではあるが実際は仕事はさっさと終わらせて普通に自分の時間を作っていたんだがそこまで言う必要は無いからどうでもいいな。うん。

 時々仕事から逃げ出す事もあるが、息抜きは必要だから三時間程度は大目に見ている。ただし、当たり前の事なんだが片付けない限り書類は減らないしむしろ増える。そして何が何だかわからないうちに身体が闘争を求め、フロムがアーマードコアの新作を出す。いや、出ないが。

 

 そういう事もあって俺の縛道の腕は着々と上がっている。隊長の足を縛り上げて逃亡を阻止したり、隊長の身体を縛り上げて逃亡を阻止したり、隊長と周囲の空間を区切って逃亡を阻止したり、ともかく逃亡阻止と足止め系の縛道は中々に上手くなった。多分鬼道衆でもそこそこやっていけるレベルだろう。知らんが。

 あとついでにオリジナルの鬼道も覚えた。と言っても基本は霊子操作系の技能であって鬼道と言っていいかどうかは知らんのだが、相手の鬼道系の術を霊子に分解することで無力化する術だ。多分原作における二番目の破面の能力にも対応できるだろう。相手の術の効果が出るより早く分解するようにできているからな。

 ただし、これは鬼道だ。つまり死神であれば練習すれば大体使えるようになると言う事だが、俺なら自前の操作能力だけでできるのをなんとかかんとか術にまで落とし込むのは中々面倒だった。

 基礎は断空。そこに滅却師の使うゼーレシュナイダーをヒントにして敵の術や霊圧放出系の技を解体して霊子に戻す術式を組み込み、術を受け止めつつ解体した霊子は受け流すように作り替える。面倒だったしそもそも俺には必要かどうか怪しい術だったが、とりあえず鬼道衆には教えておいた。上手く使えば虚閃も無効化できるはずだが、その辺りは使う奴次第だ。俺は知らん。

 攻撃系の術? 霊子の膜を拳に纏わせてそれを高速で振動させながら殴る疑似振動破砕なら作った。普通の振動破砕は……と言うか俺の持つIS系の元転生特典は全部完全物理だ。原子ではなく霊子で構成されたこの世界だとイマイチ役に立たない。役に立つとしたら自分の思考速度を上げる不可侵の秘書と移動速度を上げるライドインパルス、投擲物であれば原子も霊子も関係ないスローターアームズくらいで、よく使っていたディープダイバーやシルバーカーテンなどは霊子をすり抜けられなかったり物質的ではない光を操作できなかったりと機能不全を起こしてしまっている。残念極まりないが仕方ないね。世界の法則と構成物質が違うからね。

 

 しっかしまさか俺がここまで真面目に働くことになるとは思わなかった。今までは真面目と言っても裏で色々と遊んだりしていたし、本当に必要だった動きをしたりとかしなかったのにな。まあそれもこれも原作の知識だのなんだので未来を知っていたから言えることで、周りが何も知らない以上俺が責められるような事は全くなかったわけだが。

 それはそうとそろそろ俺も自重を少しずつなくしていこうか。仕事はきっちりするがそれ以外は色々とぶん投げる方向で行こうと思う。責任とかそう言うのは俺じゃなくて隊長にお願いします。俺はあくまで副隊長なんでね。副隊長としての仕事は十分してるはずだから文句を言わせるつもりはない。

 護廷十三隊を抜けるとしたら、多分原作が終わってからになるだろう。それまでは十分仕事を片付けつつできるだけのんびりと死神生活をしていこうと思う。

 




Q.転生特典って機能不全起こすんだ……?
A.よく考えて? アクセル・ワールドの世界にノーゲーム・ノーライフのジブリールがいたら、電脳空間では魔法が使えないからポンコツにしかならないでしょ? 原作順守ならそう言う風になるようになってるんだし? いやまあ身体能力は高いけども!

Q.ちなみにアクセル・ワールドに一夏が行った場合どうなんの?
A.元々の加速に加えて自前の加速によって時間を止めるどころか巻き戻し、自分がダメージを負ったと言う事実を無くしながら一方的に殴ってきます。まあそもそもダメージを喰らうようなことがあるかどうか怪しいですが。あと、電子系世界なのでISは大体機能します。インフィニット・ストラトスを除く。


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BLEACH~12

 

 side 織斑一夏

 

 パンジャンドラムって知ってるか? 知ってる奴は知ってるだろうし一回あれについてちゃんと知ったらあまりの馬鹿さに忘れられなくなるだろうがあえて説明しよう。パンジャンドラムとは紅茶をキメた英国紳士淑女によって作り上げられた英国面に落ちた兵器の一つである。簡単に言えば自走する機雷のような物だが、まあ英国面に落ちた兵器と言われるだけあって色々と問題点の多い兵器だ。

 が、そんなものは知ったことじゃないので緑茶と紅茶とコーヒーの三択だったら一応紅茶を選ぶ俺はパンジャンドラムを量産してみた。触れると火傷するぜ? いや、マジで。

 

「……あの、副隊長。それは一体なんです……?」

「見ての通りだ」

「……」

「『見てわかんねーから聞いてんだよ』と言いたげな顔をしているな」

「ヒエッ」

「教えてやろう。それはパンジャンドラムと言う。一応武器だ」

「武器!? これが!?」

「転がして使う」

「転がして!?」

「触れると爆発するから気を付けろ」

「怖っ!?」

 

 実際にただ触れただけで爆発するような事は無いんだが、ある程度以上の衝撃を与えられるとその衝撃で爆発したりはするな。ニトロみたいなもんだ。勿論改造によって爆発を接触直後にするか接触からの時限式にするか衝撃感知型にするかと言った操作は受け付けるし、ついでに思念で動かしたりも可能だ。パンジャンドラムは本来どこに向かって転がるかわからないものだったが、思念による操作ができればその問題は一気に解決するな。流石は紅茶の国の兵器だ。

 ……そう言えばセシリーはあの英国生まれ英国育ち。そして英国のISは思念操作を可能とするBTシステム……そうか、そういう事か。英国はついにパンジャンドラムを積んだISにBTシステムを積んでノルマンディー攻略をするつもりだったに違いない。謎は全て解けた。ノルマンディーはパンジャンの炎に包まれる。

 あとついでに次に暴走した馬鹿もパンジャンの炎に包まれる。威力の高い爆弾は作らないと無いし、試作品にそんな威力が高いのを積むほど馬鹿ではないつもりなので死にはしないだろうが、まあ火傷ぐらいはするだろう。威力の高い爆弾についてだが、実際にあるものを霊子で組み立て直せばちゃんと爆弾として機能するので実践で使うことが万が一あったらそうすればそこそこのダメージは与えられるだろう。そんなもの使うより殴った方が強いし速いというのは言わないお約束で。

 

 それはそれとして、俺の斬魄刀の本当の名前が俺と同一だった件。いやまあ俺から生まれた俺なんだから俺の名前で何も間違っていないとは思うぞ? 実際その名前で照魔鏡を始解してみたら盗める数に制限が無くなったり効果が上がってたり改造できるようになってたりと色々な恩恵があったからな。あと卍解だと思ってたのはどうやら卍解ではなく滅却師のよく使う霊子の隷属の効果をガン上げした結果写し取った際に相手の斬魄刀の能力だけではなく中身まで奪ってしまうことによって起きるものだったらしいと言う事まで分かった。つまり、こいつにはもう一段階先があると言う事だ。

 そして名無しの刀の方は、俺の名前で解放することで……特に変わらない。俺は虚としての自分が俺とそう変わらない姿であることを知っているしおかしいとは思わないが、能力については大きく変わった。

 まず、名前を呼べばそのものになる能力。滅却師の隷属のあれはあまり効果を発揮していないらしく中身のない外側と効果だけを真似た物でしかない物だったのが中に虚としての俺が入ることで協力的な意思を持ったその刀、という感じになった。勿論入らないことも可能でわざと折ったりする時には入らないようにしている。あとその能力だがどうも俺自身の言霊使いと言うか今まで学んだ呪術使いとしての俺の能力が強く出ているらしい。だからこんなよくわからん能力になったわけだな。

 意志を持つことで変わったところはそれだけではない。霊子の繋がりやら何やらを参照することで敵の姿を写し取ってから作戦を読み取ることもできるようになったし、相手の固有の能力も使えるようになるらしい。あの滅却師の親玉……(カンペ確認)ユーハバッハの名前を出せばユーハバッハの姿と力を持った俺が出来上がるわけだな。やっべえ。

 

 落ち着け。まあ落ち着いて紅茶でも飲め。そしてハギスを用意しろ。新鮮な山羊の胃袋に肝臓、心臓、肺と言った内臓を細かく刻み、同じように刻んだ玉ねぎやハーブ、オートミールと混ぜたものを詰め込んで茹でるか蒸すかするだけだ。案外簡単だろう。

 だがはっきり言って美味くはない。なんでオートミールを入れるのかと。どうせだったらもっとしっかりと臭みを取るためのハーブを混ぜてオートミールを抜いてオーブンに放り込み、胃袋の中で肉汁によって煮込む感じにしたものを飯で食えば絶対行けると思うんだが。実際セシリーに食わせたら驚いてたし。ソースは大味の物がいい。繊細な風味とかを感じさせるにはハンバーグ風ハギスは臭みが強いからな。

 あとウナギのゼリー寄せ。なんでゼリー寄せにしちゃったかな……まず骨は抜こう? 内臓も処理しよう? 話はそれからだよ。わざわざレモンとかで誤魔化しに行かなくともウナギって脂っこいけどそれなりに美味いからさ。な?

 ……よし、紅茶をキメた俺に死角はない。あってもパンジャン転がせばなんとかなる。流石に英国面に落ちっぱなしだと頭がおかしくなってくるからそろそろ日本人頭に戻すために緑茶キメ直そう。

 




Q.セシリアのビットはパンジャンドラムだった……!?
A.セシリア「訴訟」

Q.紅茶をキメてから緑茶をキメたところで脳の作りが変わるとは思えないんですが。
A.それを変えてしまうのが紅茶と緑茶では?


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BLEACH~13

真暇はP1グランプリを応援しています。


 

 side 織斑一夏

 

 俺が何を考えていたのかちょっとよくわからない。なんで俺はパンジャンドラムなんぞ作ってたんだ? 態々今作らんでもその場で作ればいいだろうに……。

 まああれだ、こういう欠陥兵器を見たら日本人としては改造を施してどうにか使えるようにしたくなるよな。日本人の本能みたいなもんだ、もったいない精神ってのはな。

 

 そういう事で色々と魔改造してみたが、もうこれパンジャンドラムじゃねえだろと言いたくなるようなものが大量にできてしまった。

 例えばこれ。水圧式縦型航空パンジャン。言いたいことはわかる、空飛んだ時点でそれパンジャンじゃないと言いたいんだろう。わかる。だがまあ聞いて行け。

 鬼道を応用することで内側から水を出し、回転しながらロケットのように飛んでいく。内部には当然爆弾があるので当たれば爆発する。飛ばすのにわざわざパンジャン使った理由? 知らね。俺の頭が湧いていたに違いないな。

 それからこれ、とりあえず被害半径を広げることだけを考えた結果、実際に使ったら計算上瀞霊廷全体に綴雷電がぶちまけられ一寸先は綴雷電二寸先も綴雷電三寸先も四寸先も五寸先も綴雷電当然その先も綴雷電と言う状態になってしまうと思われる衝撃反転型跳躍式雷電パンジャンドラム。当たり前のことを言うが無差別だしこれを起動させるだけの霊力があるならそれ使って別の術を使った方がよっぽど効率がいい。衝撃反転式と言うのは破道の一である『衝』を使って本体を上空に跳ね上げることでジャンプ地雷と同じように被害半径を増やす試みで作られたものだ。成功だが失敗だなこれは。

 そして成功っぽいと思ったのが浮遊型術式起点補助パンジャンドラム。簡単に言うと、これを操っているとパンジャンドラムの方から鬼道を撃てるようになる。あと結界の起点にしたり防壁張って空中飛び回らせたりすることで囮もできる。

 

 ところで知ってるか? 紅茶と緑茶ってのは結構同じ葉を使っているものが多かったりするんだ。つまり日本人の事を緑茶をキメた変態だと言うなら英国人も同じようなものだと言う事だな。そしてチャイをよく飲んでいるインド人もだ。インドのは砂糖やらスパイスやらが大量に混ざっているからちょっと違う気がしないでもないが。

 しかしよく考えて欲しい。インドの神格と言えばそのスケールから考えて色々と頭おかしい奴らの巣窟だ。世界崩壊とかよくあること。踊り踊って世界崩壊、妻といちゃいちゃして宇宙を焼き払いかける、そんなことが当たり前にある神格ばかりが集まる場所、それがインド。そんなインドに住んでいる人間もまたインド頭だ。要するにチャイをキメている訳だ。何もおかしくは無い。

 おかしいのはどちらかと言えば総隊長の方だ。なんでそんなに俺を隊長にさせたがるんだか。俺は現状卍解擬きはできてもちゃんとした卍解はできないってのに。と言うかあるのか俺の作った斬魄刀に卍解とか。ほぼ完全に俺の同位体を俺として呼んでその結果だぞ? もはやあれが卍解なのでは?

 ただ、始解だけでもそこらの奴に負ける気はしない。実際卍解されたところでそこまで強くないしな。元々俺の生まれが上位世界なせいか、魂の強さと言うか存在の重さと言うか、ともかくそう言うのには自信がある。実際には下位世界に押し込む際に余った部分を削ってチートとかそう言うのにするそうだが、俺は削られた後にもう一度同じように存在の力を増してしまったからな。色々な世界を巡って修行もしてきたし。

 卍解……卍解ねぇ……待てよ? この中にいる俺が真実俺だとするなら、織斑一夏の名前じゃなく大本の俺の名前になるはず。上位世界から落ちたときに削った物でチートが作られるなら、文字通りの意味で千の顔を持つ英雄からできた俺は俺だ。だったらやってみる価値はあるかもしれんな。パンジャンドラム片付けよ。もし火種とか出てきたら誘爆しそうだし。

 

「副隊長!隊長がまた逃げ出s」

 

 ズドン。

 

 

 

 

 

 ……よし、いつもだったら少し時間をやるところだが、今回は許さん。たっぷりとパンジャンドラムを楽しんでいくといい。ノックもせずにいきなり開けて爆発の直撃を受けた隊士が黒焦げアフロになっているが、まあ適当に治して転がしておけばいいだろう。十一番隊ではよくあることだ。

 あと、名も無き刀の方を『侘助』の名前で呼んでおき、その能力を一時使えるようにしておいた。あれだ、斬ったら重量が二倍になる、ってやつだ。これはかなり便利だよな。鬼道系の能力なのか物理系かよくわからん能力だが、まあ恐らく鬼道系だろう。それも縛道系統だ。

 逆に言えば、斬魄刀という形であってもそれができているということはつまり再現すれば同じことができるようになると言う事だ。今回丁度いいし真似てみよう。どんな斬魄刀使っても相手を重くできるかもしれん。実験台はやっぱり今回逃げ出してくれやがった隊長にお願いするかね。

 




Q.卍解擬きってなんぞ?
A.今使っている完成系変体刀十二本を始解として、それの上位互換になりうる物を卍解擬きと設定しています。

Q.ちなみにどんなの?
A.
鉋→思いつかない。と言うかこれの上位互換ってなんぞ?
鈍→二次元の刃(脳嚙ネウロより)
鎩→増やせる対象が自分の開放可能なもの全部に
針→そもそも使う機会ある?
鎧→モビルスーツその他巨大ロボ
鎚→如意金箍棒(西遊記より)
鐚→寄生系回復用ナノマシン(ただし正しくない手順で取り除こうとすると自爆する)
釵→自動人形系で適当に。鎩で増やされるなら大抵こいつだと思われる。
鋸→木刀は木刀だしとりあえず『洞爺湖』とでも彫られる?
銓→多分これからもこれを武器として使う事は無いんじゃないかなーと。
鍍→もしこれが滅却師に奪われたら多分その滅却師は一夏に完全に毒された感じになる。
銃→空間から大量の銃口が出てきて無限に何らかの弾をぶち込んでくると思われる。

Q.あともう一つ。紅茶に対してのその信仰心にも似た思い込みは何なの?
A.ネタです。


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BLEACH~14

 

 side 織斑一夏

 

 パンジャンドラムに乗って空を飛び、パンジャンドラムを飛ばして索敵し、パンジャンドラムで結界を張ってパンジャンドラムから爆撃。パンジャンドラムを囮にパンジャンドラムを叩き付けパンジャンドラムで行き先を封じパンジャンドラムの模様で幻術をかけパンジャンドラムを突撃させパンジャンドラムの自爆に巻き込みパンジャンドラムで轢きパンジャンドラムに捕えてパンジャンドラムで運ぶ。

 

「なんだこいつは……」

「panjandrum」

「は?」

「panjandrum」

「なんだそいつは」

「あ、隊長が今座ってるところは爆弾なんで気を付けて」

「おいコラ一応隊長を爆弾と一緒に閉じ込めるとか何考えてんだ!?」

「毎日二時間さぼらせてあげてるんだからむしろ温情だと思うけども? 衝撃加えると爆発するんで動かないことをお勧めしますよ……おっと石」

「避けろ!避けろよ!?」

「大丈夫、俺は爆発した瞬間逃げられるから問題ない」

「俺の命に問題が出るぞ!?」

「それも大丈夫。ちょっとアフロになる程度の威力しかないのは確認済み。よかったね」

「そもそも爆弾がある時点でおかしいだろどうやって作った!?」

「霊子を圧縮して閉じ込めるだけでなんちゃって爆弾くらいなら簡単に。ただそれだけだと寂しいんでちゃんと釘やら鉄の欠片やらを入れて手榴弾のように周囲に被害をまき散らせるようになってます」

「あっぶねえなおい!」

 

 ちなみにこのパンジャンドラムは二重構造になっていて、外側が回転しても内側はそのまま動かないため中に物を入れたまま転がしても大丈夫と言う画期的なパンジャンドラムだ。こんなもの作るくらいだったら別の物を使えばいいとか言わないでいいぞ、俺もそう思ってるから。

 それと今日の隊長のメシはウナギのゼリー寄せを中に入れたスターゲイジーパイにマーマイトをトッピングしたブリタニアの餌にしてやるから覚悟しておけ。単体でもまずい物をいくつも混ぜるとどうなるか知ってるか? 奇跡がいくつか重なるレベルで運が良ければびっくりするほど美味くなったりもするが、大抵の場合は地獄が顕現する。スターゲイジーパイはちゃんと下処理をしてから適切に料理すれば結構美味いのができるし、ウナギのゼリー寄せ……と言うか煮凝りは骨や内臓の処理と調味料の見極め&加減を間違えなければまあ食える物ができる。マーマイトは……あれは俺も諦めた。あれは無理。好きな奴は好きなんだろうが俺は無理。

 そして今回は罰ゲーム用なので本場のちゃんとしたウナギのゼリー寄せとスターゲイジーパイにマーマイトを用意しました。地獄絵図だな。

 そもそもあの国はマジで極限状況にあるからな。主に緯度と地質の問題で。

 全域で雪がガンガン降る島国。緯度が高いから夏でも割と涼しく冬は頞部陀(あぶだ)かってくらいに寒い。頞部陀ってのは八寒地獄の一番浅い所だな。確かに寒いが一番マシな所だ。それでも寒いし生きた人間ならあっという間に氷漬け確定だが。ちなみに未来の十番隊隊長の卍解で有名な大紅蓮地獄は摩訶鉢特摩と言う八寒地獄の八番目、一番寒さがきつい所の別名だ。

 そのため植物が育ちにくく、地質的に木を育てるには向かない場所が多い。植物が少なければ当然草食動物は減るし草食動物を食って生きる肉食動物はもっと減る。雑食の人間と豚が生き残るのは必然だったわけだ。豚と言っても昔のイギリス、ブリテンにいた豚は家畜化されているものばかりではなく害獣としての猪も多かったそうだし、やっぱりこうなっても仕方ないっちゃ仕方ないわけだ。俺は絶対に正式なイギリス伝統料理は食わんけどな。

 

 ……不味い料理ってのは毒を食わせるより心を折るのに役立つよな。特に周りの奴らがいいもん食ってるのに自分だけ糞みたいなもん食わされると本当にきつい。それに関して俺はよく知っているが、なんで知っているかは気にすんな。俺にもそこそこ良くない環境で生まれ育ったことがあるってだけの話だ。

 

「さあ食え特製ですよ」

「明らかに人間が食ったらまずい物な気がするんですがそのあたりどうなんですかね織斑さん」

「死にはしない。食え」

「アッハイ」

 

 なお味覚は死ぬ。たまに嗅覚も死ぬ。そしてスターゲイジーパイの見た目によって視覚も死にかけること請け合いだ。マーマイトのソースがかかっててグロい色してるしな。

 あとマーマイトって結構しょっぱい。だから味付けにはマーマイト以外の物は使っていないんだが、臭い消しとかのために色々突っ込んだ分風味はある。マーマイトに負けているからわからんと思うが。

 結論。俺はもう二度とこの料理が作られないことを切に望む。だってこれを作ってる最中も凄い匂いがしていたし、できる限り作る機会は減らしたい。作らなくちゃならないんだったら完成品を直接出すことにする。ただその場合レシピがずれる可能性があると言うか多分イライラして意図的に不味くなるようにずらした上で味見もしなくなるだろうからやめておいた方がいいと思われる。まあ今まさに一口目を口にした瞬間白目を剥いて泡を吹き卒倒してビクンビクンとやばい感じに痙攣している隊長を見ればこうなりたいと思うやつはそうはいないだろう。だがお残しは許さないので残りは全部隊長の口に詰め込んで無理矢理呑み込ませておいた。静かになったし大丈夫、暫く安静にしておこう。実際不味いだけだし。

 

 なお、隊長はこの後一週間目を覚まさず、目を覚ましてからも一月の間全身に違和感が出るようになったという。ブリタニアのメシって怖いわ。

 




Q.新しい隊長って誰よ? 更木剣八?
A.いいえ、名前も出てこないオリキャラです。これからも多分名前は出てきません。

Q.ところで、スターゲイジーパイってそんな不味いの?
A.そもそもあそこ土地がやせまくってるから美味い穀物が取れないんですよ。あと水が硬いから少なくとも日本人の口には壊滅的に合わないです。


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BLEACH~15

 

 side 織斑一夏

 

 悪戯っ子がいきなり訓練に乱入してきたらどうするか。まあ、普通に考えればつまみ出すんだが十一番隊では違う。例えそれがお偉い貴族の出身だろうが年端も行かぬ子供だろうが女であろうが関係ない、強い者が正しい。それが十一番隊だ。だから俺が実質的な支配者をやってられるわけだが。

 そんなわけで逃げ足だけは早い子供を追いかけ回す訓練をさせたが、どうも単純に足が速いだけでなくそれなり以上に鍛錬を積んでいるらしい悪戯っ子は見事に逃げ回ってみせた。隊士のいい訓練になっただろうと言う事で飯を食わせてさっさと帰したが、そしたらちょくちょく乱入してくるようになった。走るばかりでなく体術面もできるようだから武器不使用で攻撃可としてみたらなかなかいい勝負になった。未来は明るいな。いや明るいのかどうか知らんし実際には事件が死ぬほど起こると思うが。

 

 ……そう言えば、零番隊の自称一番いけてる零番隊士は斬れ過ぎて鞘に納めることもできない刀を作ったらしい。多分物質としての強さはあっちの方が上だと思うが、能力としては鈍の方が上だと思われる。鈍は斬ると言うより分子間の結合を無くして二つに分ける感じだし、それで鞘が切れない理由はそもそも刃の切れる部分が鞘に触れない作りになっているからだ。だから普通の刀に比べて少々摩擦が強く、血で濡らして摩擦を減らすことでより早くするなんて無茶な技が実現するわけだ。普通なら美しく仕上げた鞘の内面より血濡れにした方が早いなんてことは無いからな。超絶どうでもいいかもしれないが。

 まあなんにしろパンジャンで轢けば大体の物はどうにかなる。時々轢くと言うか挽く感じになるが細かい事だ。あと虚相手だとパンジャンで爆殺すると滅却師と同じようなことになるからちゃんと斬魄刀で殺りましょう。勿論始解あるいは卍解するとパンジャン型になる斬魄刀なら全く問題ないけどな。俺のみたいに。

 

 脱線したので話を戻すが、あの子供は恐らく護廷に入ってくるだろう。入ったからなんだと言う訳でもないんだが、そこそこ以上に使える奴だと思われる。適正を考えれば二番隊の刑軍辺りだろうか。十一番隊には入らないと思うが、まあ本当に入ることがあったら是非とも遊びに来てくれ。歓迎しよう。盛大に。

 それと、いたずらっ子を捕まえられなかった隊士たちにはペナルティとしてたっぷりと鍛錬のお代わりをさせておくことにした。楽しむといい。

 

「副隊長。俺ら死にます」

「気合が足りんとは言わんが限界すれすれまではやれ。強くなるためならとりあえずぶっ倒れるくらいはやれ。血反吐吐いてからが本番と言わないだけ温情だぞ」

「ぶっ倒れるまで全力で、ですか……」

「ぶっ倒れた後に俺がお前たちの身体を操って死ぬまで走らせてやってもいいぞ」

「止めてください死にます。わかりましたぶっ倒れるまでやらせていただきます!」

「ちゃんと訓練メニューをこなした奴には昼飯にカツを食わせてやるから頑張れ」

「ウッス!全力でやらせていただきます!」

 

 こいつら基本飯で釣れるから楽なんだよな。全力で動いた直後にカツカレーとか出しても普通に食うし、あと十一番隊に貧弱っぽいモヤシが入ってきた時に飯当番として色々と叩き込んだ結果雑用係ではなく飯係として大事に扱われるようになったみたいだしな。単純なんだこいつら。

 あと悪戯っ子にも同じものを食わせてやるが、一口食べた時点で目をキラキラさせてそれからすぐに掻き込み始めた。口に合ったようで何よりだ。しかしこの飯は護廷十三隊で共通の物ではなく十一番隊でしか出ないものだと説明したらかなり真剣な目になった。多分あれはいかにして十一番隊に入ろうとしているかを考えている眼だ。

 一応言っておくと十一番隊は強さを重んじる隊だ。だがこの強さってのは別に戦闘能力に限らない。一番わかりやすいのが戦闘能力だから重要視されているように見えるが、原作の時期ならともかく今は鬼道だろうが剣だろうが最終的に生きていた奴が、あるいは自分の意思を貫き通して相手に意見を曲げさせられる奴が強いってことになっている。だから飯係として毎日の飯を作る元モヤシは戦闘能力は高くないがそこそこの力を持っている扱いになっているし、飯と書類(給料に関わる)と戦闘力がある俺は隊長ではないにもかかわらず隊長相手であっても真正面から話ができるわけだ。

 要するに、十一番隊に入りたいなら強くあれ。一番手っ取り早い方法はそれで間違いない。優秀すぎると一番隊とかに引っ張られることもあるからそのあたりは気を付けないといけないが、一番隊がどうしても欲しいというようなことはまず無いから安心していい。ちなみに俺は一番隊に欲しいと言われたが全力で拒否った。規律とかそう言うのがあまり得意じゃないんでな。

 ……帰る? そうか。気を付けて帰れよ。不審者を見かけたら解決しようとか考えず近くにいる信用できる奴に伝えること。いいか? 

 よし。じゃあな。

 




Q.この子供ってまさか……
A.夜一ではないと言っておきます。血族ではありそうですが。

Q.十一番隊、原作とだいぶ違くね?
A.一夏がいるからね。仕方ないね。


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BLEACH~16

 

 side 織斑一夏

 

 時が過ぎるのは早いもので、ちらほら原作で見た顔を見かけるようになってきた。ただ、原作では隊長だった奴が隊長ではなく席官だったりするが、まああまり大きな差ではない。そして俺はいつもの通り隊長への昇進は遠慮させてもらった。まだ卍解もできてないし、仕方ないね。

 ……実際卍解はできていない。いや、もしかしたらできているのかもしれないがわからん。こちとら持ってる斬魄刀が両方ともまともじゃないんでな。名無しの方は適当に名前を呼べばその通りになるからもうこれが卍解でいいんじゃないかなと思っているし、虚の俺の名前を呼べば虚化もできたりするから最悪斬った虚の力を溜め込んで纏うことでパワーアップする能力とかそんな感じの事を適当に言っておけばいいだろう。卍解は使えないことにしているからそんなことを態々説明するまでも無いと思うが。

 あと元照魔鏡の方だが、やっぱり織斑一夏が名前だった。一応俺は織斑一夏として英霊の座に登録されているからこっちだろうとは思っていたが、やっぱりこっちだったな。

 能力も俺と変わらん。ただ、織斑一夏としての俺がいるなら恐らく織斑一夏じゃない俺の名前でも反応するだろうと思って色々と名前を呼んでみたところ、大体の物には反応した。

 イギリス生まれの魔法使いにも反応したし、恋姫の世界で使っていたいくつかの名前でも同じように反応した。忍んでない忍者世界の俺の名前でも反応したしシュテルンビルトでヒーローやってた時の名前でも反応したが、一番いい反応をするのはやっぱり織斑一夏の名前なんだよな。多分これからも今まで通りの名前で呼ぶわ。

 

 そして原作のキャラクターの中でかなり変わったと思えることが一つ。糸目銀髪の関西弁の少年と、なんか光の具合で髪の色がかなり変わって見える少女。その二人が俺の所の奴らの中にいた。まあ、少なくともこの中にいる限りは飢えることだけは無いから安心するといい。その他の危険については流石に知らんが、事件なんかがあったら是非教えてくれとだけ伝えておいた。

 まあ、信用されてるかどうかはわからんが少なくとも俺がここを治めてるってことは納得してくれたらしい。そもそも始まりは俺が色々な場所で炊き出しをしていたことで、行き場のない孤児たちが集まってできたのがこの場所だからな。結構強めの結界が張ってあるから早々中には入れないし、入ったとしてもここにあるのは食材くらいだ。一応家畜もいるにはいるが変わらんな。

 ……このままだと原作通りに進む事は無いかもしれんな。まあそれはそれで構いやしないんだけども、俺としてはここから何があれば原作のように進むかを考えたい。世界の修正力的に考えれば原作部分をできるだけその通りにしたいはずだし、どうすればああなるか。

 まず、似非ヨン様がここを見つける。そして実験台にする。その時に少女の方が被害に遭う。それを関西弁の彼が覗き見る。こんな感じか?

 だったらまずは見つからないように隠すことだが、これはそう難しい事ではない。霊子に満ちた世界であってもハリポタ的な魔法は使えないわけではないからな。秘密の守り人のあの魔法を使えばいい。少なくとも霊子の流れで何かがあることは確信できてもそこに入ることはできなくなるからな。入るところを見られたり、入れる奴に連れ込まれたりすると効果が無くなるが。

 

 ……鏡花水月のせいで普通に潜り込んでくる未来しか見えない。一応結構有名な集団だし、いなくなったら探されたりもするだろうから狙われにくいとは思うんだが……どうかねぇ……世界の修正力ってのはかなり強いからそれなり以上の対策をしても割と簡単に対応されたりするからなぁ……。

 対策されない方法? まず主人公を世界からリタイアさせればその時点で根幹が歪むからいくらでも弄れるようになる。ただし弄れば弄るほど歪みは大きくなるから気を付けんといけないけどな。歪みすぎると世界から切り離されてしまうから。

 鏡花水月を何とかする方法……初めから鏡花水月を盗んでおけばいいんじゃね? あるいは俺の方で鏡花水月を何本か作っておけば催眠状態にはならないだろうし。お守りとして作った鏡花水月の刃を折ったものを袋か何かに入れて持たせてやれば最低限催眠にはかからんですむだろうか。能力的にやって意味があるかは知らんが。いくら相手の特殊能力が効かなくなったからと言ってレベル1の勇者がレベル100の魔王に勝てる訳がねーんだなこれが。ステータスの暴力って奴だ。闇の衣を纏ったゾーマより純粋にレベルとステータスで圧倒されている相手の方が辛かったりする。だって闇の衣は剥がせるし。

 

「―――僕の顔に何かついてます?」

「あー……なんと言うか、何かついていると言うか、なんかついてなさそうな顔してる」

「幸薄って言いたいん?」

「いや、なんかあれだ、自分の大事な人に危害を加えた相手をいつまでもいつまでもいつまでもいつまでもつけ狙って殺す機会を探って最終的に殺すのに失敗しそうな顔……?」

「どんな!?」

「わからん。ただなんかそんな感じに見えた。とりあえずお守りやるからちゃんと持っとけ」

 

 お守り(鏡花水月の破片)だがな。便利だぞ。

 




Q.あれ? 卍解できるんじゃ?
A.卍解と言う事にしているだけで卍解そのものではないんです。見た目卍解以外の何物でもないですが。

Q.原作どうなんの……?
A.さあ? とりあえずぶっ壊れるのは確定的に明らか。


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BLEACH~17

アンケートですが20話で締め切らせていただきます。


 

 side 織斑一夏

 

Q.鏡花水月対策で一番いい方法は?

A.俺そもそも鏡花水月効かないからわからん。

 

 うん、そうなんだわ。効かないんだわ。だってほら、鏡花水月って催眠及び洗脳系だろ? 俺は自分が健康体であり続けるようになってるだろ? 洗脳も催眠も毒も効かないだろ? そういう事よ。要するにあれだ、デバフ完全無効って奴だ。実際には睡眠のデバフは効くと言うか通ると言うか通しちゃうんだが、そこに悪夢を見せるとかそう言うのが入ると途端に効かなくなる。寝るだけなら効くのにな。

 ちなみにこの実験は名無しの刀を鏡花水月と呼んで実験したものだからマジで敵で出てきたらどうなるかはわからない。恐らく効かないと思うが、あくまでも俺だけなんだよな効かないの。

 あと、糸目の少年に渡した欠片だがあれを肌身離さず持っていれば鏡花水月は防げるはずだ。実際効いてなかったしな。ついでに大事な相手用に一つ欲しいと言われたから渡してやったが、俺が見てないうちに自分のと中身を入れ替えていた。同じだ同じ。違いがあるとしたら重さとか形とかそんなんだ。効果は同じ。言ってはやらないが。

 

 それはそうと俺にも仕事があるので十一番隊に戻る。わーいやっぱり仕事が山になってやがりますがなド畜生。一応隊長もやってはいるようだが脳筋に一体どれだけの仕事ができると言うのか。ちゃんと計算のできる脳筋ならいいんだが、脳筋って大抵の場合計算に根性論と気合と筋肉を捻じ込んでくるから実質計算できないのと変わらないんだよな。パンジャンで追いかけながらだとちゃんとできるのに何で座ってるとできないんだ? 普通座ってる方が覚え良いよな? まさかとは思うが本当に筋肉で物を覚えているから筋肉を動かしながらじゃないと覚えられないあるいは覚えた物を使えないとかそんなんじゃないよな? ないと言って? まあこういう場合本当に無いと言われたところで現実は変わらないから気休めにしかならないんだけどな。流石に筋肉で物を覚えるとか無いとは思っているが。

 そう言えば、俺は死神としての勉強はしたし修行もした。虚と言うか仮面付きの修行も一応したしそこそこ物にしてる。ただし俺の仮面は無いので出しっぱなしにできる時間とかわからんけどな。普通に使ってるし。それから滅却師の修行もした。滅却師って基本的に霊子操作で何でも完全再現できるからそこまで苦労はしなかった覚えがある。

 だが、完現術についてはほとんど何もしていない。何もしないでも勝手に発動し続けている自動発動型だからかもしれないが、物質の魂に干渉したりとかは……あ、できた。結構簡単なのな。多分霊子でできている世界だから余計に簡単なんだと思うが。

 後は完現術の強化だが……いや、デバフ完全無効だけで十分すぎる。睡眠については受けながら動けるから全く問題ないな。デバフ完全無効の強度だけ上げとく感じでいいか。無効化を貫通されたりとかしないようにそう言う所はちゃんとしておかないといけない。とりあえず概念的な方向からの対処と世界法則を弄ってくるタイプへの対処、あと因果関係を弄ってくる奴にも対処しとかないといけないな。

 なお、俺の斬魄刀は俺本体であるため完現術が強化されると斬魄刀もその影響を受ける模様。一番の反則は完現術だった……? まあどいつもこいつも極めるか極める寸前まで行けば一般人からすれば反則みたいなものにしかならないけどな。中国拳法の七孔墳血の人とか。

 

 毎日毎日修業は続くが色々な世界でその世界風の修行を続けてきた俺にはそこまで苦痛ではない。一番きつかったのはドラゴンボールだな。何しろあの世界だと俺がいくら強くなっても簡単に上回る奴が出てくるから上限が見えなくてきつい。加えて身体能力だけで俺以上の奴とかもいないわけじゃないし、まさか俺が全力で技術に逃げないといけない時が来るとは思っていなかった。まあ技術に逃げれば大抵勝てるんだがね。

 そんな感じで様々な世界で培ってきた修業レパートリーはそう簡単に尽きるものではない。そもそも霊力を使わない高速移動方が無いってだけで武術はそこそこ止まりだとわかってしまう。気も魔力も霊力も、超常の力を一切使わないまま目にも止まらぬ高速移動くらいやってみろと。力任せじゃなくてまともな人間程度の身体能力に抑えても決して不可能ではないはずだ。少なくとも俺はできた。この世界でも全く問題なくできた。まあ技術だからできない方がおかしいんだが、たまに世界が根幹から違うせいでできない世界とか身体もあるんだよな。電脳世界とかだとマジで技量による増幅とかそう言うのを科学的に抑え込んで無理矢理一般人の常識にまで抑え込んで来やがるから難しい。そう言う時には内側から作り変えてやればいいんだが、それを実行した場合恐らく消されてしまうから実行するかどうかは難しい。人間の手から離れた純粋に自然の電脳世界でもあれば話は別だが、そんなものは今まで見たことがないからな。裏インターネットですら一応は人間の作った物だったし。

 ……デジモン世界ならワンチャンある場合もあるか? 行ったこと無いから知らんが。

 




Q.お守りが役に立つことはあるんですか?
A.あるかもしれないし、無いかもしれない

Q.ドラゴンボール……お疲れさまでした。
A.インフレ激しすぎんですよねあの世界……

Q.そう言えばアンケートでどれを選んだら書き直しになるの?
A.正直ヒロイン無し以外どれ選んでも若干遅くはなります。書き直しかかるのはバンビちゃんです。

Q.具体的にどのくらい書き直しかかる?
A.平均文字数2100×20話くらい?



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BLEACH~18

 

 side 織斑一夏

 

 えーっと……どうしようか。これ、困るな……うん、マジでどうすっか……。

 まあいいや、なるようになる。と言うかなってくれないと困る。だからなるようになれ。

 

 さて、原作において始まりの頃、尸魂界編でのラスボスにして死神としては最強格の男、名前は……藍染惣右介。なんか死神としての限界の先に行くために死神と虚の境界を超越しようとした男だが、この男、主人公に言わせれば『ただひたすらに虚無だけが心の中に広がっていた』らしい。あまりにも強すぎるが故に自身の死神としての力を失いたかったんじゃないかと予想すらされていた男だが……ここで問題です。俺と藍染、戦えばどっちが勝つでしょう?

 まあ、俺だな? 鏡花水月無効、霊圧俺の勝ち、霊力量俺の勝ち。はっきり言ってしまうと最初期の死神の力を自覚していなかった頃の主人公と始解を覚えたあたりの更木の剣八くらいの差がある。まあ、全力で斬りかかっても肌に刃が通らないくらいか? あるいは斬りかかった方の手の皮が裂けてついでに斬魄刀が粉々になるくらい?

 まあともかくそのくらいの差があるわけだが、ここで再び問題。自身が強すぎることによって孤独感を感じていた男が自身より強い男が人生エンジョイしているのを見つけました。どうなるでしょうか?

 

 まあ、喧嘩の一つ二つ売ってくるわな。纏めて買い叩いてパンジャンに放り込んで爆破してやったけど。

 なお喧嘩の結果、腕力も脚力も走力も体術も霊圧も霊力操作も剣術も鬼道も全部俺には劣ることを確認され、なんかとても清々しい顔で笑っていた。キモい。

 

「キモいは酷くないですか?」

「ちょっと想像してみ? なんかいきなり喧嘩売ってきた相手がほぼあらゆる出来事でぼっこぼこにされて何一つ勝てないことを刻みつけられているにも関わらず清々しい感じの笑みを浮かべたと思ったら悪役三段笑いを思いっきりかましている所を見たら、お前ならどう思う?」

「……キモいですね。すみません」

「うん、めっちゃキモいわけだ。マジで勘弁してほしいレベルでキモいわけだ」

「そうですね。私でもちょっとよそでやってほしくなります」

「そう言う訳だから一旦落ち着くまで俺から離れて? 可能ならちょっと視界から外れて?」

「あ、いえ、もう大丈夫です。落ち着きました。ちょっと客観的に自分の現状を見つめたらその瞬間落ち着きました」

「ほんとにござるか?」

「ござる!? え、ええ、本当です」

 

 まあ突然夢が叶ったら一時的に正気を失うのもわからなくはない。ただ、どうもこの眼鏡の坊ちゃんはここに来るまでに色々とやらかしてきていたようで、その辺りを全部知って訴えたら二千年くらいは務所に入れられるんじゃないかと思ったりもする訳だが……なんかその辺全部ぶっ飛んでる気がする。

 ……こいつが色々やらかしたらとりあえず首を飛ばしておくつもりだったんだが、なんかやらかさない感じになってますね? いやもうやらかしてはいるんだろうが、致命的なところまではやらかしてないね?

 

「ところでお前崩玉作った?」

「……ええ、まあ、作りましたが」

「完成してないだろ」

「はい。よくご存じで」

「一応言っておくとあれに魂を削って与えたところであんまり意味無いからな。やるんだったら崩玉と同等の密度まで圧縮した魂魄の結晶体みたいなものでも与えないと」

「……よくご存じで」

「そうやって完成させた崩玉がこちらになります」

「 」←絶句

「そしてその予備がこちらになります」

「 」←忘我

「さらに予備の予備がこちらになります」

「 」←白目

「なおこれらに与えた魂魄結晶はかつて現世で砕かれた虚の物を再構築したもので賄っているため完全に合法。むしろ現世に留まり続けている魂魄の量を減らしているから褒められることはあっても罰される事は無いと自負している。そもそも消滅した虚に対しての法なんて無いしな」

「 」←転倒の後しめやかに気絶

 

 なお実際には完成体で出したのが二つ、未完成の状態で出してそこに魂魄結晶を与えて完成させたのが一つなんだが、態々言うような事じゃないし構わんだろう。あと虚を消滅させることによって現世に増えた魂魄を(プラス)に戻して尸魂界に還元するとかマジで表彰物じゃね? 零番隊に推薦されてもいい感じじゃね? されても受けないけど。

 

「欲しい?」

「……いえ、自分で作ります」←復活

「あっそ。だったらあれだ、もう一人崩玉を作っている奴がいるからそいつから貰って食わせれば完成すると思うぞ。あいつのはほぼ完成しているが完全ではなく、お前のはガワができている程度だが中身さえ入れればほぼ完成だ」

「なぜ、そこまで教えていただけるのです?」

「暇だから。できればあれだ、世界が崩壊しない程度に荒れてもらいたいね」

 

 大体の事が自前でできるってのは一種の悲劇だ。何でもできるが故に努力しようにもする努力が見つからない。努力しないでもなんでもできるというのは心を腐らせる。周りから見れば羨ましいかもしれないが、やってるこっちからするとずっと続けば倦んでいく。

 だからこそ、妙に強かったりする奴は色々とぶっ飛んでる奴が多いわけだ。大抵の場合ある程度の才能と時間があればおおよその事はできるようになるし、天才ってのがひねた目で世界を見るようにもなる。仕方のないことだが、面倒臭い。

 

「……荒らせ、と?」

「いや? 荒らしたいんだったら荒らせばいいと思うし、荒らしたくないなら荒らさなくていいと思うぞ。と言うか崩玉作ってるならわかると思うが俺の願いを吸って実現のために動いているだろうからほっといてもいずれ大荒れになると思うがな」

「……なるほど。それでは私は……コホン。僕はこの辺りで。楽しい一時でした」

「俺もそこそこ面白かったぞ。できれば今度は勝算を持って挑んで来い」

「……ええ」

 

 ……さて、これからどうなるか。楽しみではあるな。

 




Q.えっ
 ……えっ
A.一夏の勝ち

Q.……一夏さん、裏ボス化です?
A.いいえ、ラスボスより強い上にいつでも戦えるけどいつでも強制敗北イベント戦闘をしてくるタイプの中ボスになるだけです。


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BLEACH~19

 

 side 織斑一夏

 

 更木剣八と言う男がいる。非常に強いが強すぎる故に自身の実力に蓋をしてしまった男だ。

 まあそう言う訳で、ちょっと蓋を取っ払いに行くことにした。流魂街に眠る原石の発掘って名目でな。実際にあいつとマジで戦ったらいろいろと問題が出てくる予感しかないが、一応世界を区切っておくから多分大丈夫だろう。多分な。

 そう言えば、更木剣八っていったいいつから生きてるんだろうな? 現四番隊の隊長が十一番隊の隊長をやってた頃に子供だったはずだから、結構な年だとは思うんだが……まあいいや。ともかく行ってみようか。

 

 行ってみた。向こうから駆けつけてきた。勝負した。一応勝ちはしたがこいつくっそ強えのな。一応倒す度に治しはしたが、治す度に襲い掛かってくるとは。せめて少しくらい話を聞いてくれてもいいんじゃないかね? 聞いてくれないのは何となくわかっているがそれでもそう思ってしまうのは仕方ないだろう。だって相手は更木剣八だもの。

 そう言う訳で起きては斬り起きては斬りを繰り返していくとだんだん硬くなっていくし、だんだん速くなっていく。それでも俺の剣速にはついてこれてはいないし斬ろうと思えば斬れるから問題なく相手しているんだが、これ最終的にはどこまで上がるんだろうな? あとそろそろこいつの霊圧で世界を区切ってある隔離結界にガタが来てるからそろそろ一回終わりにしようと思う。

 四肢を斬り落とし、腹を貫く。この状態でも笑みが止まって無いんだから本当に戦闘狂ってのは厄介だ。力が勝っていれば御しやすくもあるんだが、力関係が逆転すると途端にやりにくくなる。まあ獣の論理みたいなものだから仕方ないっちゃ仕方ない。

 四十六室の奴らがいたらここで殺しておけと言ってくるんだろうが……それは俺の仕事じゃないから却下だ。可能な限り黙っていてもらいたい。

 

 ……そう言えばこいつの育ちって更木だよな? 文字読めんのか? 読めねえだろうなぁ……仕方ないから今回の発掘の成果はこいつってことにして今回は戻るか。あっちにいるこいつの斬魄刀も持って行かねえと。

 こいつが文字を読めるんだったら適当に書置きでも残しておけば護廷に来ようとするだろうが、多分じゃなくまず間違いなく読めねえだろうしな……それにこいつの霊圧から周囲を守るために世界を区切っておいたからこいつが起きてから戦った相手の事を聞いても誰も知らないと答えるだろうし……全く、仕方ないな。

 とりあえず斬魄刀をしまって、剣八の斬魄刀も鞘にしまう。それから超いい笑顔でぶっ倒れてるこいつを背負って……

 

「おい、そこのちっこいの。さっさとついてこい」

「……わたし?」

「そうだよ。お前こいつの斬魄刀だろうが」

「……なんで?」

「俺は色々と不思議な人間でな。まあ人間じゃないと思ってくれていいぞ。人間じゃないと言われたら喧嘩売ってると取るけどな」

「ふーん……剣ちゃんをどうするの?」

「放置しといたら暴れまわりそうだから俺の目の届くところに置いておくんだよ。多分だがこのまま暴れさせたらあのクソめんどい奴らから討伐指令とかが出てくる可能性もあるし」

「誰のこと?」

「四十六室って言う頭の固い老害の集まりだな。あそこはいったい何がどう役に立っているのかよくわからん」

「……ふーん」

「あ、お前わからなかったから流しただろ」

「うん」

「正直な奴め」

 

 まあうだうだと表裏の乖離が激しすぎる面倒な言葉を使われるよりはよっぽどいいけどな。なんだよもうすぐ生まれる子供が元気に育ってくれればいいって話が家庭教師の紹介をしてほしいって意味になるとかわからんわ。一応言っておくが俺は日本語はわかっても察する能力はそこまで高くは無いからな? と言うかあれはもはや察する能力云々以前の問題だ。元からそういう物だと知っていないとわからん。

 しかし、こいつを連れて帰るとなると色々と怖いな。四番隊の隊長が八千流モードに入ったりしそう。あとこいつ絶対他人のいう事とか聞かないだろうから隊長クラスじゃないと問題が出るだろうし、斬魄刀の方のちっこいのも確か副隊長としていたはずだからそのあたりの調整もして、それからこれが起きたら説明をぶち込んで……あーめんどくさい、仕事が増える。しかしこいつがいないとある意味もっと面倒だしな……何だよ想像を現実に変えるとか。馬鹿じゃねえの? いやまあ多分俺なら勝てるけども。あと、未来の改編とかマジで頭おかしいわ。まあ俺なら多分勝てるけども。

 

 ……あー、そう言えば有能な奴と言えば細目の少年やその相方っぽい髪色の変わる少女も結構な霊圧の持ち主だったっけか。今のところ死神になる理由は無いはずだが、もしも死神になりたいって言うんだったら多少推薦してやるか。あと鍛えてもやった方がいいかもしれん。才能はあるはずだしな。

 それと、もしそれをやらないんだったらどこぞの天才児をこっちで探して拾ってくる方がいいかもしれん。霊圧云々で斬魄刀が暴走して冷気が充満するようになってたはずだからな。

 




Q.今原作何年前?
A.とりあえず四百年以上前。

Q.剣ちゃん強すぎないっすかねぇ……?
A.まあ更木剣八だからね。仕方ないね。


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BLEACH~20

この話の投稿を以て今回のアンケートは終了となります。夜一さんですね……書き直し部分が少なめでよかったですわ。


 

 side 織斑一夏

 

 原作とは変わったいかれた仲間の紹介をしよう。

 まずは藍染惣右介。原作では五番隊の副隊長及び隊長をやっていたが、何が起きたのか十一番隊で三席をやっている。毎日楽しそうに俺に挑みかかり、ぼっこぼこにされては笑みを噛み殺しきれずに笑ってる。ただし、裏でこそこそ後ろ暗いこともやっている模様。大丈夫、対象はみんな虚だから責められない。

 次に市丸ギン。そもそも護廷に居ない!だって藍染ってば非人道的な実験は虚相手にしかやってないからな!なんか最近祝言上げるとか言ってたからいつも通り個人の畑と家を建ててプレゼントしてやったよ!税として全体の一割を貰ってるけどな!なお、この貰った一割は時間を止めて飢饉などの非常時に使われることになっている。今まで旱魃も大雨も一度もなったこと無いし、飢饉もそこまで酷いことにはなってないけどな。

 松本乱菊。ギンと祝言を上げて仲良く暮らしていらっしゃいます。良かったな。なお持つこともないと思うので灰猫は頂いておいた。ついでに神槍も。

 更木剣八。二百人以上の集まる中で前十一番隊の隊長を見事に倒してのけたので現在隊長になっている。ただ、俺を見かける度に突然斬りかかってくるのは非常に面倒なのでやめてください殴り倒しましたよ(過去完了形)。

 草鹿やちる。更木剣八と同時に十一番隊に就任。第二副隊長としていつでも剣八にくっついている。たまに悪戯が過ぎると俺が殴りに行くことになるからほんともう少しおとなしくしてほしい。

 

 とりあえずこの五名が原作と大きく立ち位置の違う者たちだろう。

 さてそんなわけで五名のうち戦える三名と一緒にやってきました見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)

 

「瀞霊廷にこんな場所があったとは……よくご存じでしたね副隊長」

「六百年……七百年か? まあそのくらい前に滅却師がここに逃げ込むのを見逃してやってな。そろそろ回復して強いのも出てくるころだろうと思って連れてきた」

「……お前最高だな、一夏」

「はいはいそいつはどうも。ただどいつもこいつも強いわけじゃない。ピンからキリまでいるし、能力の相性が悪い奴も多分いるから油断はすんなよ。俺も一部の奴相手だと真正面からやったんじゃ勝てないと思うし」

「ハッ!楽しくなってきやがった!」

「なるほど……それでは私も行ってきます」

「おう。負けても構わんが死にはするなよ」

「負けねえよ!」

「死にませんよ」

「剣ちゃんは負けないよ!」

 

 三者三様の回答になかなか面白いものを感じつつ、とりあえずこいつらがいないことを誤魔化せる時間はいいとこ三日くらいなのでそれまでに戻ってくるように言っておく。ちなみに誤魔化し方は気合と変身だ。俺より背の高い剣八は色々と無理があるし、藍染もあの雰囲気を真似るのが辛いがなによりやちるの真似が辛い。具体的には背が辛い。いや、一応真似てはいるけどな? 真似られるけどな? でも辛い。

 さて、俺も色々と斬っておこうか。可能ならユーハーヴェーハーを霊子にまで分解して虚に組み替えて二度と滅却師の力を取り戻せないように加工してやりたいところだが、それをやると更木にキレられそうなんだよな……でもやる。だって危ないもの。

 まあとりあえず、無銘の斬魄刀を賊刀・鎧と炎刀・銃に変えて近付いてきた滅却師を片っ端から撃ち落としておく。無銘の斬魄刀についてまた色々と調べてみたところ、死神の力以外にも色々と混ぜ込めることに気付いた。絶刀は虚寄りの死神の力、斬刀は完全に死神、千刀も同じく完全に死神だが鬼道系、薄刀は完全に滅却師、賊刀は死神寄りの虚、双刀は完現術と虚、悪刀は完全に虚の超速回復、微刀は完現術、誠刀は何も無し、王刀は全部を持っているがそれらすべてを相克し続けて消していき、毒刀も同じく全部あるがこちらは全てを増大させていく。ちなみにこれを滅却師が持つと多分虚の力に負けて死ぬ。そして炎刀は滅却師の能力で、まあ滅却師の矢を撃てる。物理の弾丸も同じく撃てるが滅却師の矢が一番威力高いから他のをやる意味はあまりないというね。

 ちなみにやろうとすれば全部の刀に全部乗っけられなくもないんだが、適正と言うべきものがそれぞれの刀にあるようで、頑丈さが必要なら虚の鋼皮、まともな刀なら死神、技量を要するなら滅却師といった傾向がある。例外と言うべきかは知らんが完現術はよくわからんのと、誠刀はそもそも刀身が無いから武器じゃない。なんか自分の心を量る刀らしいが……一遍更木に持たせてみるか。なんかあるかもしれん。

 

 まあそんな俺は未だ死にっぱなしのユーハーヴェーハーの顔を拝みに行く。そこに行く時に色々と邪魔も入るが、立ち塞がるなら容赦なく殺しておく。時々静止の銀を心臓の中に直接出して滅却師としての能力を完全に封じ込めながら一方的に殺していくが、やっぱり態々真正面からやるよりこうやって嵌め殺した方が楽だよな。

 ……霊子について多少知識ができたおかげかこういうのも普通に作れるようになったし、霊子体の金属も爆発物に変えられるようになった。やっぱり知識と慣れは大切だわ。

 あと、いつでも殺せるようにユーハーヴェーハーの名前も覚えておかんといかん。ユーハバッハだったはずだ。ユーハーヴェーハーと呼ぶことの方が多くなるだろうが。

 




Q.……ん? え? こんなんアリ!?
A.アリです。

Q.と言うかこれだとバンビちゃん出てこれないんじゃ……?
A.だからバンビちゃん選ばれてたら書き直しが必要になるんですよ?

Q.これ千年血戦篇どうなるの……?
A.そもそも起きないか起きたとしても規模がかなり小さくなる感じですね。多分。

Q.もしもバンビちゃんがヒロインに選ばれてたらどんな感じになってた?
A.まず、この時点で突撃しないで原作が始まってからの突撃になります。そして黒崎が死神の力を失ってる頃に一人で潜入してたでしょう。
 それからバンビちゃんがイライラしている時に部屋に呼ばれて殺されそうになる(殺されるとは言ってない)けど生き延び、眠りながら起きているのと変わらない行動ができる体質と言うか性質を利用して霊子を抑え込みながらバンビちゃんのバスター(隠語)をバインバイン(隠語)し続けてたでしょうね。
 そこからちょいと関係を広めてまあ色々。流石にそれ以上は考えてないです。


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BLEACH~21

 

 side 織斑一夏

 

 滅却師はそろそろいい感じに力を取り戻してるんじゃないかと思ったんだが、どうやらそうでもないらしい。原作で瀞霊廷に乗り込んできた奴らはまだ生まれていないようだし、そいつらに力を与えただろうユーハーヴェーハーも復活していない。なんとか生きているのが限界と言う感じですらなく、そもそも心音を取り戻すのに900年かかるんだからそりゃそうだと、なんとも不完全燃焼に終わった。不完全燃焼で終わったせいで、更木と藍染を相手に割と本気で殺し合いにほど近い訓練をすることになった。大失敗だわ。

 そしてそのせいで瀞霊廷の影の中に存在していた見えざる帝国は文字通りの意味で壊滅。中にいた滅却師は恐らくすべて死に絶え、ついでにユーハーヴェーハーも死んでいるうちにバラバラに解体してそれぞれに封印をかけておいたから復活しようにもできないだろう。なにしろ封印場所には霊子が一切無いようにしたからな。

 

 そんな殺し合いにほど近い鍛錬をした結果、最後には見えざる帝国が崩壊しさらに瀞霊廷にまで被害が拡大。およそ二割程度の建物が消し飛び、三割近い建物が倒壊を起こし、そうでない場所にもそれなりの被害が出たが……人的被害は一切出さなかった。それもこれも俺が表に出していた分身達が最速で救助と被害の軽減に動き回ったためだが。

 もし俺が動いてなかったら……まあ、瀞霊廷の七割が消滅、瀞霊廷を越えて流魂街まで被害は広がり、一桁番地は壊滅状態になっていたことが予想できる。やっべえなマジで。

 そして今回の被害の原因を探ってみれば、更木と藍染、そして俺の霊圧に加えて死神の物ではない霊圧の痕跡が出てきた……はっきり言って滅却師の痕跡も見つかった結果、査問を受けることになった。仕方ないね。

 

「此度の事件……なんぞ申し開きでもあるかの?」

「総隊長が討ち滅ぼし損ねたユーハバッハの微弱な霊圧を瀞霊廷の影の中から感じ取ったので近くにいた更木隊長と草鹿副隊長、藍染三席を連れて影の中に乗り込んだら大量の滅却師の生活区域があったので滅ぼしてきました。ユーハバッハの眠る場所に強力な結界があったので更木隊長と藍染三席を煽って最大威力をぶち込ませたところに合わせて攻撃したら結界を破ることに成功し、生きてはいないが死んでもいないユーハバッハの影のような存在が本体を守っていたので三人で打倒、その際の余波が影を通して瀞霊廷を襲ったと思われます。そして本体の首を持って来ました」

「 」

 

 なんか今にも『オッフ』とか言いそうな顔をされた。なおこの首は脳味噌と眼球を取り出した後の空の物だから流石にこれから復活はしないだろう。脳の方は大脳の右脳と左脳、小脳、間脳と言った具合に小分けしてそれぞれ別の場所に封印しておいたから、最悪の場合でも霊王の腕のようになるくらいで済むはずだ。

 

「すでに瀞霊廷の中に入り込んでいる滅却師が突如瀞霊廷内に現れて破壊の限りを尽くし、そこに完全体のユーハバッハが居るのと今の状況では間違いなく今の方がマシだと考えますが」

「……いつから気付いておった?」

「影の気配の事でしたら数日前の隊長との実践訓練の際に霊圧のぶつけ合いで影として瀞霊廷とあの場所を隔てる術式が緩んだようでして、その際に」

「被害を抑えることはできなんだか」

「総隊長殿が瀞霊廷内で残火の太刀を振り回すのに比べればよっぽど被害は少ないと思いますが? それに影とはいえユーハバッハです。無理を仰る。むしろ、大分抑え込んでなおこれです」

「抑えてなおこれか」

「逃亡阻止と威力上げのために結界を張っておりまして。まああちらとこちらの攻撃のぶつけ合いで消し飛びましたが」

「このことに関しての主犯は?」

「俺ですね。初めに気付いたのは俺、行くことに決めたのも俺、隊長たちを連れていく事にしたのも俺、行くための術式を組んだのも俺、行くための道具を作ったのも俺、あとついでに滅却師の霊子操作を見て滅却師が現世で滅ぼし霊子にまで還元された虚の魂魄を集めて整に戻す技術を実現しようとしてるのも俺です」

「そうか……待て、消滅した虚を整に、じゃと? できるのか?」

「さあ? 術式は組みましたが今まで試す機会がありませんで。半日頂ければ実験結果の記録くらいは提出しますが」

 

 総隊長の爺さんは、非常に疲れたような大きなため息を一つついた。

 

「……瀞霊廷内に潜んだ賊、それも滅却師の根絶ともなればその功績は極めて大きいと言わざるを得ない。証としてユーハバッハの首……だけでは少し弱いが、滅却師の矢の霊圧を確かに感じることから、少なくとも瀞霊廷内に滅却師がおったというのは明白。襲撃を未然に防ぎ、さらに死者も出しておらん……故に、今回の件に関しては不問とする!」

「あ、一応他の滅却師の死体なんかも持って来てはいますがここで出します? ただ隊長がぶった切ったり藍染三席がぶった切ったり草鹿副隊長がぶった切ったり俺がぶった切ったりしたせいで結構な数の部位が足りないと思いますが」

「……一応数がわかるような物だけ出しておけ。鼻か、右の耳といったところか」

「おお、えぐいえぐい。了解です総隊長殿」

 

 べしゃり、と保存しておいた滅却師の死体から右耳を削ぎ落して山を作る。結構な数だが、これで罪も無くなるだろうしその方が楽だ。

 

 

 

 千年血戦篇・完

 




Q.ほんとに終わらせよったよ……。
A.一番初めに千年血戦篇が終わるBLEACHとかこの作品だけじゃないですかね?

Q.これからどうなるの?
A.まあユーハバッハが居なくなったことを考えてそのあたりの事を色々と調整してから原作入りですかね?


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BLEACH~22

 

 side 織斑一夏

 

 前回の瀞霊廷内における滅却師討伐戦によって甚大な被害を出してしまった結果、俺と更木と藍染の三人にはついに瀞霊廷内でも限定霊印がなされることとなった。要するに、何もなければ常に五分の一の霊圧でいろってことだな。

 まあ、全力でぶつかり合ったら瀞霊廷と同じ大きさの異空間が消し飛んだ、なんてことを聞いてしまえばそうなるのもわからなくはない。普通に考えて何らかの制限は必要だろう。俺の場合こういった枷を付けた方が実力を上げやすいから是非とも来てほしい感じなんだがな。

 あと、滅却師が瀞霊廷内に潜んでいたと言う事には箝口令が敷かれているので俺達が何かを言うことはできない。同時にそのことについて俺達が何らかの形で罰されることも無くなったわけだが、俺と更木と藍染は別の隊に分けられてしまった。

 更木は十一番隊に居残り。藍染は五番隊の副隊長に就任し、俺は四十六室及び総隊長からの命令で三番隊の隊長に強制的に就くことになった。ヤダヨー……と言ってみたところで今回ばかりは許してもらえなかった。畜生め。これでも結構頑張って藍染や更木を抑えてたんだがなぁ……あと三番隊は俺の気風に合わないんだが、まあとりあえず仕事は最低限やりつつ適当に遊んでおこうか。面倒臭いが。

 それと藍染だが、俺から離れたことで色々と吹っ切れたのか結構動き回っているようだ。なにしろそこの隊長は藍染の事をこれっぽっちも信用していないみたいだが、藍染は藍染で鏡花水月フル活用して勝手に動き回っているようだからな。ついでに原作通りと言っていいのか悪いのか、あの盲目の男も仲間に引き入れたらしい。

 と、俺は何も知らないことにするためにあまり藍染から俺に関わろうとはしてこない。戦闘面で我慢できなくなったら更木の所に行ったりもしているが、俺の所にはあまり来ない。と言うか崩玉を自前で作っていた時点でそこそこに苦手意識を持たれていたようだ……と言う事になっている。なお、そのような事実はない。

 

 さて、おそらく藍染はおよそ原作の通りに護廷を荒らすことだろう。本人はどう荒すかを俺に秘密にしているようだが、何となくわかる。なぜなら原作のある世界と言うのはできる限りその原作の通りに物語を動かそうとするものだからだ。まあ最終章のラスボスは封印してしまったから、もしも出てくるとすれば霊王の左腕のように頭だけで動くくらいだろう。頭だけでも十分以上に強い可能性があるのが恐ろしい所だが。

 藍染の性格その他を考えれば、今までは大分抑えていたとしてもここから一気に加速させていくはずだ。俺から離れた途端に始めるってのがなんとも藍染らしいと言えばらしいのかもしれないが、原作からは大分離れたな……。

 で、尸魂界が荒れたなら当然戦いが待っているわけで、戦いが待っているなら更木はとても喜ぶわけで。それに今は限定霊印のおかげで自動で手加減がしているのに加えて俺が作ったハンデ用の眼帯に常時そこそこの量の霊圧を食わせている状態。それでも今の十一番隊の三席である射場を相手に傷一つ負うことなく勝てるんだから本当にぶっ飛んでるよな。俺か? そんな更木が限定解除と眼帯外して始解して完全にガチになった状態を相手に今の限定霊印付きでも多分勝てるくらいか。かなり技術に頼ることになるだろうが。

 なお、俺は無為無想とかそんな領域にはいない。俺は基本的に身体能力任せだからな。薄刀を効果的に振るうために多少剣術を学んだりもしたし、色々な世界のキチガイ剣術も取り入れてはいるが基本的には一般人だ。俺が覚えている中で気やら魔力やらと言った特殊なエネルギーを一切使わない純粋体術で一番強いのは財団神拳だし、魔力とかを使っていいなら純粋物理で物理学に喧嘩を売れるレベルでもあるし、なんなら転生及び召喚無しで世界間移動とかもできなくはないが、一般人である。以前行ったことのある身体の一部を斬り落とすなりなんなりすることでそれを武器にできる特異な人間のいる世界に行った時には本当に人間かどうか疑われたりもしたが、少なくとも俺の認識上では精神的には一般人である。酷いよな、俺は別に腕を落とされるとその腕がチェーンソーの付いた槍みたいになったりするわけでもないのに人間扱いされないんだ。しかもそんなことができる奴は人間扱いなんだぜ? 酷くね? ちょっと右手からビーム撃って敵軍を城塞のある山ごと消し飛ばしただけなのにな。確かにちょっと威力が高くて拳から山を繋ぐ直線上とその延長線上に長く伸びた谷を作ったりもしたけどさ。

 

 ……話が逸れたな。ともかく、ここから一気に世界は進んでいく事だろう。色々と仕込んだから藍染は原作以上に優秀な部分がそれなりにあるだろうし、逆に頭を使う事の一部は苦手になっているだろう。隠し事は多分上手くなってると思うがな。さて、どこまでやってくれるのか……楽しみにしている。

 




Q.藍染の計画は止めないの?
A.荒れてくれた方が楽しいと宣う主人公ですからね。

Q.ついに隊長ですか。
A.ついに隊長です。そして一部のボスキャラに枷が付きました(効果があるとは言ってない)。
 ちなみにですが、もしこの三人が現世に行く場合には追加でもう一つ限定霊印が付けられることになります。二十五分の一になるわけですね。外すには四十六室の許可が必要になります。

Q.ところで体の一部を切り落として武器にする奴が居る世界とは?
A.かつて明らかにR-18なのに全年齢として売られていた武林クロスロードという小説がありましてね? あとは察して。


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BLEACH~23

 

 side 織斑一夏

 

 色々あった。そりゃもう本当に色々なことがあった。

 例えば霊体消失事件だとか、死神の虚化事件だとか、十二番隊隊長の実験によって何人もの隊長格が虚にされただとか、当時の二番隊の隊長がそれを連れ出したとか、まあそんな感じの事だ。本当に色々ありすぎて困った。

 俺にできることと言えば、二番隊の隊長が書いたように見える手紙をこっそりと未来の二番隊の隊長に渡したり、トップツーが抜けた鬼道衆の育成に多少力を貸したり、不思議なことに突然暴れ始めた未来の二番隊隊長がウラハラコロスウラハラコロスと妙な呪文のような物を唱え続けるようになったのを抑え込んだり、一気にいなくなってしまった隊長格の穴埋めのために奔走したり、本当に忙しかった。この一連の騒ぎが終わったらしばらく休みを取ろうと決心するレベルだな。なお休みは取れなかった。久し振りに限定霊印を内側からぶち壊して更木とやり合った。藍染も混ざってきたが気にせず続行した結果、旧見えざる帝国跡地は再び消し飛んだ。今回はちゃんと瀞霊廷に被害が出ないようにしていたから消し飛んでも大丈夫だけどな。よかったよかった。

 

 ちなみに公的にはこの場所は無くなったことになっているが、俺はあくまでも『瀞霊廷の影の中に滅却師が作っていた見えざる帝国と名を付けられた場所は無くなった』と言ったのであってこの場所、つまり影の中の空間が無くなったと言った覚えはない。今ではこの場所は藍染を主体とした研究チームの研究所本部になっていたりする。虚を改造したり調整したり俺が体系化した術で作った一般人の整に虚を混ぜ込んでみたりと割とやりたい放題しているが、まあ早々バレんよな。人間そこにあると思って無ければそうそう見つけられんようにできている。面白いもんだよ。

 まあ、だからこそ俺が色々とやらかしても大丈夫だったりするんだが……十二番隊がああなってからは少しやりにくくなったな。あれのおかげで色々と隠れることが難しくなったし、誤魔化しも効きにくくなった。面倒な物を残してくれたもんだよ。その意趣返しとしてあの手紙を作ったわけだが。

 俺としては自分の身に危険が及ばないように世界で最も強く、ダントツで強くなってありとあらゆる面倒事や危害を加えてくる奴を一方的に虐殺できるだけの力を持ちたいってだけなんだがなぁ……大抵の場合そうなると俺に対しての対応が二極化される。敵対か、懐柔かの二択だ。敵対なら滅ぼせばいいし、懐柔なら無視すればいい。俺から利用されてやってもいいと思うような相手じゃないなら利用されるのは御免被る。面倒だしな。

 ……これってあれだな、剣と魔法の世界で食事が必要ない精霊系のドラゴン辺りが考えていることに近いな。そして状況的にもそんな感じ。もっともドラゴンだった場合は懐柔はほぼあり得ないが。一方的に敵対して一方的に悪の看板を押し付けて討伐されるのを待つ。そんな感じだろう。面倒なことだ。

 こんな時こそ八つ当たりだ。具体的にはいくら殺しても再生する霊王の左腕を相手にひたすらボコる。再生するのは構わん、むしろもっと再生しろ。そして俺の八つ当たり用のサンドバッグとしての人生を永遠に歩み続けてくれ。俺はお前を殺したいだけで死んでほしいわけじゃないんだ。俺は殺すつもりでお前を攻撃するがただひたすらにお前は生きろ。反撃しても構わんが死なないようにやれ。だが殺す。

 ……原作では過剰再生による細胞の限界によって死んだはずだが、それさえなければこいつは恐らく永遠に生き続けるだろう。過剰再生は通常の再生に比べてエネルギーをかなり食うし、ついでに再生した細胞はそこまで強くない。超再生と過剰再生の違いと言う奴だな。まあ気にせず死ね。

 

 

 

 

 

 side 砕蜂

 

『砕蜂へ

 この手紙をお主が読んでおると言う事は、おそらく儂はもう尸魂界を出ておることだと思う。直接の挨拶も無しにお前を置いて出て行ったことをまずは詫びさせてもらいたい。しかし、もしも顔を合わせてしまったらお主は必ず儂についてくると考え、こうして手紙を残して去ることに決めた。

 まず、儂らに掛けられている容疑は全て事実ではない。しかし、事実でないことを悟られてはならぬ。そして儂等に罪を着せた者の事をこの手紙で伝えることもできぬ。

 お主には儂の跡を継ぎ、二番隊を率いてもらいたいと考えておる。まだ少し早いかもしれぬが、それもまた経験と考え、精進せよ。どれだけかかるかはわからぬが、儂は必ず戻る。その時まで息災でおれ。

 

 追伸。浦原の奴に襲われ、嫁に貰われることになった。この逃避行は新婚旅行を兼ねている物でもある。お主もいい男を見つけたら逃すなよ。

 四楓院改め、浦原夜一』

 

 この後しばらくの記憶がない。なんでも現世に行くための穿界門を開かせようと暴れまわり、止められて気絶させられたらしい。ただ、ウラハラコロスウラハラコロスと繰り返し呟き続けていたらしいが……うっ、頭が……!

 

「私は……一体何を……?」

「これだ。追伸のとこはもう読むな。いいな?」

「しかし夜一様の手紙を読み切らないなどt……ウラハラコロォォォォォォス!!!」

「せいっ」

「がべっ!?」

 

 私は気絶した。すいーつ。……すいーつとはなんなのだろうな?

 




Q.冤罪が酷すぎやしませんかねぇ!?
A.仕事を押し付けられまくったからその反撃でしょう。それにこの手紙によって未来が大きく変わる可能性も……。

Q.砕蜂さんは進化しますか?
A.原作と同じ程度にはなると思われます。


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BLEACH~24

 

 side 織斑一夏

 

 考えてみよう。俺が今までやったことで変わった、変わらざるを得なかった未来についての事だ。

 まず、流魂街での炊き出しとそれに伴った子供たちの保護と村のような集落のような場所の作成。これによって原作において三番隊の隊長をやっていたギンと十番隊の副隊長をやることになる乱菊が死神になることはまず無くなった。俺の集落で二人仲良く暮らしているからな。

 それから砕蜂についてだが、恨みの矛先が変わった。俺の手紙のせいだな。日々『ウラハラコロスウラハラコロス』と呟きながら鍛錬を繰り返している。最近瞬閧を会得したようで火力が上がったが、風の瞬閧なので一瞬の破壊力は雷の瞬閧に若干劣る。持続性なら間違いなく風の方が上なんだがな。勿論真似させてもらった。俺のは属性らしい属性が無いから気分で染められるんだよな。

 そして藍染。色々吹っ切れて更に強くなっているが、つい最近まで結構満たされていたせいか脳筋っぽくなっている。それでも隠し事は上手いし策を練るのも上手いんだが、まあ是非ともやらかしまくってほしい。

 あと更木。始解ができるようになり、さらに原作では最後の方までつけっぱなしだった蓋が外されて凄いことになった。隊長になった時期もだいぶ早いが、実力だけなら誰もが認めざるを得ない物になっている。なお、草鹿は更木が始解を会得しても副隊長をやっている。ただし始解すると斬魄刀の中に消える。

 

 さらに、俺がユーハーヴェーハーを滅ぼしたので恐らく原作における主人公の母親や主人公の仲間の滅却師の母親が死ぬ事は無くなっているはずだ。だってほら、力を奪われることも心臓に銀が現れることも無くなるわけだから特に何もなければ死にはしないよな? まあここまで色々変えたんだからそもそも主人公が産まれてこない可能性も十分にあるし、主人公どころか主人公の母親や父親が産まれてこない可能性も無くはない。無ければよかったんだが残念なことにあるんだなこれが。主人公不在のまま進んでいく原作!もう完全に原作崩壊と言うかなんと言うか、ともかくそんな一言で済ませて良いレベルじゃない。だが一言で表すと原作崩壊になっちまうんだよなぁ……。

 まあ、遡れる時代が長ければ長いほど世界は分岐する。分岐した世界でどうなるのかは知ったことじゃないが、多分大丈夫だろ。もしかしたらどこかの世界ではTSしている主人公君とかが居たりするかもしれないが、それはそれでネタとしては非常においしい。本人からすればたまったもんじゃないかもしれないが非常においしい。人気が出るかとかは知らん。前回同じようなことをやったから多分ならないが。

 

 大きなところで言えばこんな感じか? これらからバタフライエフェクトが起きたとして、一体どこまで未来が変わるのか……とりあえず千年血戦篇は恐らく起きないだろうし、たとえ起きたとしてもかなり簡単に鎮圧できると思われる。それから尸魂界篇は……藍染の気分次第だろうが状況から考えて多分起きる。続く破面編も恐らく起きるだろう。どこまでこの想像が正しいかは俺にはわからんが、何となく確信がある。

 死神代行消失編? まあ、状況次第じゃね? ほら、当時藍染を倒せる可能性があったのが原作では主人公だけだったが、ここだと更木とか俺もいるし……な? そもそも死神の力を失わない可能性が……な? 死神の力を失わなかった場合どうなるのかはちょっと予想もできんが、まあ問題ないんじゃないか? あの組織……X-LAWSだっけか? そいつらに会わなかったり、会ったとしても初っ端戦闘になったりするくらいで。完現術を学べなくなったりとか色々あるかもしれないが、別にその後に戦闘があるわけでもあるまいし。あっても総隊長の爺さんがどうとでもしてくれるだろうし。

 

 小さい所はそれこそ山のようにある。俺が三番隊の隊長なんてやっているのもそうだし、四十六室の構成員の一部が何者かに証拠一つ残さず暗殺された事件が起きたり、二番隊の新しい隊長の私室から『夜一様!夜一様!夜一様!夜一様ぁあああぁぁわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!夜一様夜一様夜一様ぁぁあぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!夜一様の射干玉のような御髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!織斑から貰った写真の夜一様麗しかったぁ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!良かったね夜一様!あぁあああああ!麗しい!夜一様!美しい!あっああぁああ!今月分の写真集も買取できて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!ぐあああああああああああ!!!写真なんて本物じゃない!!!!あ…文書も映像もよく考えたら…夜 一 様 は 本 物 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!現世えぇぇぇぇぇええぇ!!この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?写真集の夜一様が私を見てる?写真集の夜一様が私を見てるぞ!夜一様が私を見てるぞ!写真の夜一様が私を見てるぞ!!映像の夜一様が私に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!いやっほぉおおおおおおお!!!私には夜一様がいる!!やったよ雀蜂!!ひとりでできるもん!!!あ、写真の夜一様ああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!あっあんああっああんあ夜一様ぁあ!!夕四郎様ぁああああああ!!!やっぱり夜一様ぁあああ!!!!ううっうぅうう!!私の想いよ夜一様へ届け!!現世在住の夜一様へ届け!』とかそんな声が夜な夜な響いているとかもあるが、特筆するような事でもない。そこにそっと忍び込んで無断で拝借してきた夜一の上着を一枚顔にかかる様に被せてやったら暴走が激しくなったとか俺は知らん。次の日つやっつやしてたとか全然知らん。と言うか知りたくない。

 




Q.……なんぞこれェ?
A.砕蝶は進化したよ!や(らかしちゃ)ったね!

Q.ところで他にやらかしたことは?
A.今のところないよ!(多分)


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BLEACH~25

 

 side 織斑一夏

 

 なんか霊力を暴走させている子供がいるから引き取りに来てほしいという手紙をもらったので流魂街の俺の家に戻ってみたら、そこに居たのはどう見ても俺の知ってる未来の十番隊隊長さんでしたとさ。ついでになんか未来の十三番隊隊長さんとその夫になりそうな赤パイナップルもいた。だいぶちっこかったけど。

 知ってはいたが流魂街への炊きだしはずっと続けているようで、それによっていろいろ情報を得たり治安が良くなったりしているらしい。まあそこらのチンピラよりはよっぽど強いしな。一部の席官を一方的にボコれたりもするし。

 それと、虚に襲われて命を落とした奴は完現術が使えるようになっていたりする。ただ、霊力が無かった奴については俺の所の食材でブーストさせてからの発現だから練習は必要だが、死んでから最も長く使っている思い入れの強い物……まあ、大抵の場合農作業の道具なんだよな。しかも俺が出したやつ。

 凄いぞ? 一振りで5×10m耕せる鍬とか、一度で3×5m土をひっくり返せる鋤とか、物を載せている間は重量を八割近く軽減し、さらに本来の十倍近く物を載せられる大八車とか、しっかり自分で手入れして使っている物であればあるほどそう言う能力が発現しやすくなっている。

 一部、糸目関西弁の男から貰った帽子を大事にしている金髪だか茶髪だかわからん髪色した女はその帽子で完現術を使おうと頑張っている。まあ虚に襲われたことがない奴には難しいと言うかまず無理なことだが、なんとびっくり俺と言う虚によく似た存在がここに居る。そして俺が訓練じゃなく修業を付ければ恐らくできるようになるぞと言ったら乗ってきた。糸目関西弁の男も乗ってきた。後悔しているらしい。

 

「死ぬ……あかんこれは死ぬ……」

「死にそうになったら回復させてやるからちゃんと言えよ」

「ボクさっき言ったよな!?」

「何言ってんだ言葉にできる程度だったらまだ追い込みが足りないに決まってるだろ」

「鬼!悪魔!死神!」

「鬼ではないし悪魔でもないがお前にはこれから死神としての修行も付けてやろう。大事な女を守れる力を付けられるぞ、泣いて喜べ」

「うう……畜生……やらせていただきます……!」

「……あの、ギンは大丈夫……?」

「大丈夫大丈夫、ただこいつ大事な物ってのがお前さんくらいしか無いから完現術には向いてないってのを忘れてただけだ。愛されてるな」

 

 はーい茹で蛸二匹あがりー。蛸って数え方は匹でいいんだったっけ? 一杯二杯だったっけ? それは烏賊か?

 まあいいや、若い奴を揶揄うのは楽しいね。まあ若くなくても純情な奴なら揶揄ってて楽しかったりするんだが。

 そしてこいつら普段から熟年夫婦みたいなことをやってるくせにそう言う所でからかわれることに慣れていないせいか自分たちの行動を言葉にして確認されると凄い照れる。見ていてこれほど面白いものは中々ないぞ。やることもやってるくせにな。

 それに、こいつらお互いを勝手にダシにしあってどんどん強くなろうとするからそう言う所も見ていて楽しいんだよな。どちらかと言うとギンの方が進んでいるが、ギンが進むと乱菊の方もぐんっと伸びる。ちょっとバランスの取れていない比翼の鳥かと。

 ……できることならこいつらが戦闘なんぞしなくていいまま過ごしていければいいんだがね……世の中そうそう上手くは行かないもので。俺は過去の事なら大体わかるが未来の事はあまりわからないから必ず巻き込まれるとかそう言うのはよくわからんが、可能性は低くないだろう。なにしろ流魂街は治安が悪いからな。昔は態々当時の十一番隊の隊長がやってきて斬りかかってきたりすることまであったし、そういう事が無いとは言えん。

 ちなみに斬りかかってきた当時の十一番隊の隊長は相手からするととてもつまらない方法で仕留めたから俺を付け狙うような事にはなっていない。具体的には殺気石の剣を出してそれで斬りかかった。霊圧を一切通さず霊子に影響されない剣、しかも触れただけで斬魄刀が分解されてしまうどころか触れなくとも魂魄ごと分解されてしまう剣を何百か並べてそいつの周りに壁を作ってやった。つまらんだろ?

 さて、殺気石の断面から発される遮魂膜を抜けられる物質と言えば何か。そう、殺気石だね。そう言う訳で相手を殺気石の檻に閉じ込めた状態で殺気石でできた串を投げまくる。触れれば当然魂魄は分解され、触れなくとも魂魄は分解される。ちなみに俺は分解された魂魄を自力で再構築し続けると言う他人に知られたら頭おかしいと言われること間違いなしの方法で克服していたから平気なのであって、それを知らずに俺が触っているんだから大丈夫だろうと触ったりしたら当然分解される。そんな感じで嵌め殺した。

 

 ……まあそいつ今も生きてるけどな。四番隊で隊長やってるよ。しかも俺のことをいつもニコニコと超絶いい笑顔で見つめてくんだよあの女。超怖い。最近二番隊の新隊長になった女が知り合いの顔の書かれた紙を張り付けたサンドバッグに瞬獄殺やって『次は貴様の番だ浦原ァァァァァ!』と叫んでる時の顔より怖い。そうやって叫んでるところに『今月分の写真集でーす』と持って行くと一瞬にして超デレデレした顔になるのも怖いが元十一番隊隊長現四番隊隊長のあの笑顔の方が遥かに怖い。

 あ、最近その四番隊隊長が俺と更木隊長との模擬戦を目撃してしまい、俺を見かける度に鯉口を斬って鍔鳴りさせまくるのもかなり怖い。嫉妬か? 自分は更木の実力に蓋させてしまったのに俺がその蓋を取り除いたことによる嫉妬か? まあ流石にこれを真正面からは聞けんな。

 




Q.何やってんすかね?
A.どっちの話? 修業の方? それとも殺気石セイバーの方?

Q.殺気石の串を投げんなよ……
A.なお、最近殺気石から出る遮魂膜の波動を解析して遮魂膜ビームなる必殺技を開発したそうな。


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BLEACH~26

 

 side 織斑一夏

 

 俺の特技はネタ技だ。と言うか、ネタ技で強い強いと言われている相手を倒すのが結構好きだったりするんだが、この度ネタ技を用いて新しい六番隊の隊長を打倒することに成功した。ちなみにそのネタ技の名前は『ワキチョップ』である。内容は簡単、相手の腕を捕らえるか振り下ろされる腕を止めるかして相手の腕が上がっている状態にして、そしてあらわになった脇にチョップするだけである。簡単。

 ただし、このワキチョップはただのワキチョップではない。普通のワキチョップは表面、精々脱臼か骨折程度までしかいかないが、浸透勁と発勁、そして衝撃系の鬼道を乗せたある種の瞬閧と同時に行うことで、相手の体内全てに多大なる衝撃を与え、上半身でも上の方にある肺と心臓を圧迫した上で骨や筋肉、脳までを揺らして一瞬にして継戦能力を奪い取ることができるのだ。

 なお、これをやるくらいなら直接頭に打ち込んだ方が楽だし速いし効果的なんだがそこはネタ技と言う事で。態々脇から全身に衝撃が通るようにするには調整その他が大変だし、技術的にも頭を上から叩いて全身に衝撃を通した方が遥かに楽なんだが……ネタ技だからな。しかも見た目はただのワキチョップだし。

 

 さて、どうして俺がこんな風に六番隊の新隊長を苛めて……訂正、訓練をしているのかと言うと、この貴族のお坊ちゃんが俺の所の世界の中で暮らす一人の女に本気で惚れたから嫁に欲しいと言われたせいだ。俺としては全く問題ないんだが、一応実力の確認と言う事で戦ってみたところ……まあ、あれだ、察せ。死神としての修行は積んだものの実働はしたことのないギンとどっこいどっこいか少し弱い程度、と言ったところだったわけだ。藍染とか更木ほどとは言わんからもうちょっと実力が欲しいと思うのも仕方ねーわな?

 そんな訳でちょっと鍛錬を積ませることにしたわけだが、訓練でぶっ倒れる度に恋仲にある女といちゃいちゃいちゃいちゃ……イラっと来たので写真と動画に残してやった。結婚式で流してやることに決めたよ俺は。呼ばれなくても勝手に行って勝手に流すからお構いなく。

 そう言うことで最低限実戦経験の殆ど無いギンと五分五分くらいまで強くなったら嫁取りを許すことにした。あと、身体が弱いからちゃんと薬とかの準備も整えておくつもりだが、それに関しては妹の方がとてもよく働いてくれているのでまあ何とかなるだろう。なにしろ自分の姉のために俺に(労働力的な意味で)身体を売ってその代価に知識と技術を得て幼馴染の赤かぶみたいな髪の男と共に薬草畑を作り上げて数々の薬草を栽培し薬を作り、姉の健康を何とか守ろうとしているくらいだからな。ちゃんと週に一回は妹の方が直接姉の顔を見るのと状態を見るために朽木家に行くことにもなっているので寂しくは……あるかもしれんが致命的ではないだろう。多分。

 ちなみに死ぬときは嫁にとった相手より遅く死ねと言ってある。身体が弱かろうが何だろうが最低でも数百年は持たせる予定なので簡単には死ねないだろう。もし嫁より早く死んだら蘇らせてまた殺す。そして墓を建ててからパンジャンドラムで爆砕してやるから覚悟しておけよこんボケぇ。

 なお、俺は織斑一夏としてIS世界で生きてきた時には嫁の誰より早く死んだ。だからこのことに関しては強く言えないんだが、まさか魔術とかそう言うのが全くない世界で波紋に似たエネルギーを生み出して老化を止めるとか想定してねえ。ただ、そう言うことがあったおかげで俺の常識は色々と振り切れたわけだな。

 つまり、今こうして俺の前に六番隊の隊長とギンがぶっ倒れて恋人と妻に介抱されているのは全部俺の一番初めの嫁たちが原因だと言う事だ!

 

俺は別に結婚したいなら勝手にすればいいと思っているし、結婚よりも家のおきてとやらが大事なんだったらそれを守って生きていけばいいと思っている。結局どう生きるかなんてのは自分にしか決められないんだから、周りが何を言ったところで意味などあるわけもない。ただ面倒なだけだ。

 だが、それは力があればの話。力が無ければ周りの意見に流され、自身と言う物を失ってしまう。周囲からの圧力と言う物は大抵貴族や王族といった特権階級に強く働くもので、大抵の場合はそう言った圧力に屈してしまう物らしい。まあそう言った力を上手く使いこなせれば個人の力より大きなものになるのだからそれを求めて流されると言うのも悪くは無いだろうし、俺も何度かそう言った流れに身を任せたこともあるが……やはりどうにも性に合わないんだよな。

 かつて、第二次世界大戦において伐刀者と呼ばれる魔術師たちが活躍して日本を勝利に導いた世界において俺は本気で周囲の圧力に抗ってみた。俺を縛ろうとするモノ全てに対して反発し、最終的に生まれた国において国防の要となる生家の人間のほぼ全てを斬り捨てて国外に出奔、面倒事を持ってこようとする奴は片端から切り捨てながら生き続け、最後には捨てた身体を太陽に飛び込ませて生涯を終えた。あの世界での俺はとても自由だったし、気楽だった。二度と行こうとは思わないが、そこそこの印象はある。

 だから俺の言うことを逐一守らんでいい。そのことに気付いてもらいたいんだが、この貴族のお坊ちゃんは本当に真面目で仕方がない。もう少し頭を柔らかくしないと必要以上に苦労を背負い込むことになるからお薦めしないぞ? 言っても聞かないだろうがな。

 




Q.何やってんの!?
A.朽木家のお坊ちゃんに稽古を付けつつまだ少し厚くなりやすい所の残っている彼を煽って愛を叫ばせて録音してそれを携帯の着信音にしてます。

Q.ごめん聞きたいことが増えたんだけど本当に何やってんの!?
A.凄くどうでもいいことかもしれないけれどなんと驚くことに現在朽木白哉より市丸の方が強いです。(答える気/Zero)


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BLEACH~27

 

 side 織斑一夏

 

 一応藍染に確認してみたが、裏で色々と動いているらしい。細かい内容までは聞いていないからよくわからんが、とりあえず崩玉は七割程度完成しているのに加えて浦原の崩玉を手に入れるためにも色々と探りを入れているようだ。

 まあ最終的には手に入れることになるんだろうが、手に入れたからと言って俺に勝てるとは思わんことだ。死神と虚の境界を越えて魂魄強度の限界を超越してそれでようやく俺との勝負のスタートラインに立つ資格を手に入れることができる抽選会への参加資格を得るってだけの話だからな。しかも参加したからと言って必ずスタートラインに立てる訳じゃないし、スタートラインに立ったからと言って既にスタートしている俺に追いつけるかどうかも知らん。やるやらないは任せるが結果がどうなっても恨むなよ。

 

 そんな感じでだんだんと原作に進んでいくわけなんだが、貴族の坊ちゃんに嫁入りした姉を持つ集落の薬師が死神になりたいと言い出した。本当は死神になりたいわけじゃなく姉に会いに行きやすい状態を作りたいだけだろうなと察してはいたがまあ許可は出した。そしたらその幼馴染の赤かぶあるいは赤パイナップルのような男もそれに便乗して来たのでそっちの方も許可は出した。と言うかなんで俺に許可を取るんだろうな?

 一応薬草畑や薬については後継者を作っておけと言っておいたが、既に作ってあったと言うかそもそも薬師集団として何人かで過ごしていた中で一番腕が良かったのがその薬師だったと言うだけで若干劣りはするものの薬を使える奴はいるそうな。

 

 ……あと、名前を聞いてみたらルキアだとさ。そうだね、初めのうちは正ヒロイン的立ち位置だったけどいつの間にかサブヒロインになったあのお嬢さんだね。そして赤パイナップルの方は……あばら骨オーブン? とか言う奴だ。なんか自分と結構長いこと一緒に居た斬魄刀に卍解の本当の名前を教えてもらえなかった男だ。こう聞くとあれだな、全てを見せてもらったと思い込んで結婚したものの本当はさらに大きな隠し事があった、みたいな感じだな?

 まあ二人とも霊力を扱う才は十分あるようだし、真面目に学べば結構偉くなれるんじゃないかと思う。確か原作では隊長にまでなってたよな? 後日談的な最終話での話だったけども。なんか子供も居たし。

 しかしそう考えるとやっぱり原作のある世界ってのは修正力が強いもんだな。その修正力をぶち抜いて色々と捻じ曲げてきた俺が言う台詞じゃないかもしれんが。

 

 ともかくまずは最低限の実力の確認だ。才があっても今使えなければ入学もできないだろうしな。霊術院。俺が卒業してから随分と経つが、今では名前も変わり学ぶことも変わり色々なことが変わっている。鬼道も増えたし一部の犠牲破道が禁術扱いになったりもしたし、あと授業中に命を落とすような奴はかなり減った。昔は生徒の死亡率がかなり酷かったからな。もう少し優しくしてそこそこ使える程度の奴も増やさないと全部には手が回らないだろうからもう少し優しくした方がいいとは言ってたんだが、ここに来てようやく……いや、実際にはもっと早いこと優しくはなっていたそうだが、本人も気付いてたんだろうな、戦闘で命を落とす奴より自身が訓練で殺した数の方が最終的に多くなると。そして殺した分の人手を考えると多少甘くしてでも数を増やして手数にした方がいいと考えたんだろう。今更過ぎる気もするが。

 昔はすごかったからな、ここも。護廷と名乗ってはいたものの名ばかりの殺人集団で、どいつもこいつも十一番隊みたいな感じだった。当時の十一番隊は今の十一番隊と比べて遥かに血の気が多かったからそのあたりも大変だったな。俺に文句をつけてくる奴の多くを殺さんように叩き潰していったらいつの間にか副隊長になっていたし、やっぱりかなり乱暴な所が多かった。まあ総隊長が総隊長だったからな。

 だが、昔と比べていくらか優しくなったと言ってもそれでも護廷はエリート死神の集まるところ。席官ではないヒラ死神でもそれなりに稼げるような仕事場の倍率が低いわけもない。ちゃんと霊術院に入れるように色々と叩き込んでおかないといけない。それが無理なら諦めさせると言うのも視野に入れなければいけないしな。

 

 さてそう言う訳で色々と確認していったんだが、こいつらだったら多分今でも入れる。ただ、卒業までどのくらいかかるかはわからないしついでに言うと入ってから何年で卒業できるかもわからない。飛び級は難しいだろうなってくらいだ。

 まあ飛び級は別にそうしなければいけないと言う訳ではない。するんだったらしても良いがしないんだったらしなくてもいい、って感じだ。別に金がかかるわけでもないしな。あの場所は四十六室からある程度の金が出されてその金で運営しているからむしろどんどんやればいい。別にこんな面倒な所に通う必要が無いと思うんだったら直接隊長に喧嘩を売りに行き、二百人以上の隊員の前で決闘して勝ってみせればあっという間に隊長になれるぞ。

 なおいきなり素人が隊長になると事務作業で死ぬからお薦めしない。マジで。本当にきついぞ?

 




Q.死神統学院……丸くなったね。
A.昔はすごかったらしいですからね。

Q.今って原作開始何年前くらい?
A.さあ?(雑)

Q.凄い今更なんだけど、死神の中で一夏に斬魄刀の能力が効く奴って居るの?
A.とりあえず隊長・副隊長だけで。
山本元柳斎重國→燃えないし斬れない。
雀部 長次郎 忠息→受けても特に何ともないしそもそも電気系は簡単に防げる
砕蜂→蜂紋華が出ない。そして雷公鞭の方は当たっても何ともない。
大前田希千代→当たると砕ける(斬魄刀の方が)
吉良イズル→斬ると重くなるがいくらでも身体能力を上げられるしそもそも重力も扱えるので意味があるのかないのかで言うとない。
卯ノ花八千流→能力知らね。
虎徹勇音→同上
藍染惣右介→健康だし効かない。
雛森桃→威力が足りない。
朽木白哉→一枚一枚の威力が足りないため効かない。
阿散井恋次→威力が足りない。
狛村左陣→威力が足りない。
射場鉄左衛門→能力知らない。
京楽春水→色鬼で受ける場合のみ効果あり。他は卍解含めて効果なし。
伊勢七緒→能力知らない。
東仙要→始解・卍解共に効果なし。
檜佐木修兵→霊圧を完全に消費しきっても主人公は死なないが、拘束すると言う点では効果あり。
日番谷冬獅郎→地水火風全てを凍結されても時間が凍結されないので基本無効。
更木剣八→唯一物理で効果があるかもしれない。なお防げないとは言ってない。
涅マユリ→毒と薬物は効かないんですよこれが……。
浮竹十四郎→反射されるような技は基本遊び用なので……効果あるっちゃあるけど物理で殴れば死ぬ。
朽木ルキア→凍っても平気だしそもそも凍らないので効果なし。


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BLEACH~28

 

 side 織斑一夏

 

 霊力の制御ができずに宿った斬魄刀に翻弄されていた少年を霊術院に放り込んでから数年。その少年は飛び級を繰り返して既に護廷の席官として働ける程度の腕を持つようになった。何とも優秀なことだ。

 俺の下につけるかという話も出たんだが、本人が望むところに行くのが一番だろうと思い本人の希望を聞くことにしたんだが、特にこれと言った要望が出なかったので空き員の多い十番隊に放り込んでおいた。結果的に原作と大体同じ流れになっているな。問題は原作における副隊長は今は俺の作った集落……もう集落と言うほど小さくないがともかくそこでいい感じに母親をやっている事だろうか。ちなみに出産祝いに鯛を尾頭付きで二匹贈った。美味しく食べてくれ。

 

 ……しかしなんだ、護廷の中で俺に頭が上がらない奴がそこそこの数いる気がする。夜一グッズで買収してついでにそれを使っている所を録画&録音した二番隊の隊長の砕蜂だろ? 五番隊の副隊長から隊長になった藍染だろ? 六番隊の隊長で嫁取りの時に色々あった坊ちゃんだろ? 藍染繋がりで俺にそこそこ会いに来つつ若干俺にトラウマ持ってる鈴虫の人だろ? 十番隊の副隊長になったシロちゃんだろ? 十一番隊は全体的に俺の言うことを聞くようになってるし、隊長の更木も俺の言葉には一応無条件で耳を傾けるくらいはしてくれるだろ? 十二番隊は……うん、前に破面もどきを実験体として放り込んだり虚の斬魄刀を実験対象として持ち込んだりしたから俺の意見を一応聞くくらいはしてくれるだろ? まあ聞くだけで実行するかどうかは本人の匙加減なんだがそれは置いといて、あと十三番隊は隊長の病弱っぷりを何とかしようとした結果霊王の右腕を排除して肺を付け替え、全身の病巣を霊子操作で無理矢理作り変えた結果霊王の右腕を失った分最大火力は落ちた物の継戦能力と病弱な身体を霊圧で支えなくてもよくなった分連続して十分な火力が出せるようになったからまあ成功として、それで大分大きめの貸しがあるから茶菓子を持って行けばもてなしてくれるくらいの関係にはなってるだろ?

 あれ、俺ってもしかして結構どころじゃなく顔広い? 現世に逃げた浦原とかにも時々会いに行ってるし、元隊長格の……仮面の軍勢の連中もそこそこ繋がりがあるし、やっぱり結構顔広いんじゃね?

 

 それはそうと、本日は新たな敵を求めて虚圏に足を延ばしてみた。藍染が色々と手を出しているからそこまで荒すつもりは無いんだが、俺が行くと不思議といつも荒れてしまうんだよな。なんでだろ? とても不思議だ。

 現状では破面と呼ばれるものはそう多くない。崩玉はまだ完成していない以上、完成するまでは最上級大虚は破面にしないで取っておいているはずだ。じゃないとあまりにもったいないしな。だからここに居るのは基本大したことのない奴ばかりだと思うんだが……大したことがないと言うのと厄介ではないと言うのはまた別の話になるわけだな。

 例えばあれだ、あの……あー……名前忘れた、あのなんか似非科学者っぽい奴。解号が『啜れ』な奴。ざ……ざ~……ザッケンナコラーとかそんな感じの名前の奴。なんか違う気もするけどもうこれでいいよな面倒だし。あいつは純粋な戦闘能力だけで言えば決して強くはないが、はっきり言って面倒臭い敵だ。流石に『未来を改変しました、私は死にません』とか『過去を改変した、お前の技はみんな知ってる』とかそのレベルじゃないし、『死んだけど別に平気』あるいは『死んだけどなんともない』クラスでもない。殺せば死ぬし死んでから蘇るまでに一定のプロセスを踏む必要があるし、さらに言えば殺さないように封印したら出られないだろうし。なお、俺が本気で相手するなら相手の霊子構造を分解して能力とかガン無視して消滅させるね。だってまともにやったら面倒だし。

 純粋に強くて面倒なのはやっぱあいつだ、自分を二人に分けた銃使い。虚閃はいくらでも分解吸収できるから困らないが、狼型のあれは魂そのものだから簡単に分解はできなくて困る。できないわけじゃないんだけどな。

 能力的に厄介なのは虚無の死を司るあいつ。超速再生にかなり固めの鋼皮、かなり高めの機動力と命中率はそこそこだが威力高めの雷霆の槍。全体的に性能高めで面倒臭い。

 なお相性的に楽なのが老化の爺さんとカチカチの五番、吸収の九番だ。まず爺さんの老いは俺には効かん。時間を止めて殴れば影響を受ける前に殴り殺せる。それから五番の蟲みたいなやつは普通の大虚より多少硬いだけで斬ろうとすれば斬れる。と言うか斬刀使えば普通に斬れるし斬刀じゃなくてもやろうとすればまあ。吸収の九番は要するに真正面からの力比べで勝てれば問題なく勝てる。そして俺は対群戦闘ではまあ無敵と言えるわけで……負けるはずも無いわな? ああ、一応八番の支配のあれも俺には効果がない。だって支配されてる状態って健康じゃないだろ?

 

 色々と言ったが今回の一番の収穫は、虚圏に存在する多くの虚をぶち殺せたことだな。虚が斬魄刀に斬られて整に戻る時の霊子の状態を結構な数眺めることができたし、色々と暴れまわって追加徴金かかってる虚を斬って臨時収入が入ったのもでかい。あと十二番隊への土産になんか斬魄刀を消して霊体を吸収乗っ取りする虚を生きたまま捕らえておいた。なお俺のを消そうとしたら霊圧差によってそいつが消えそうになったので結構簡単に捕縛できた。やったね。

 




Q.乱菊に子供出来たん!?
A.まあ結婚してればすることもしてるでしょうしねぇ……。可愛い男の子(乱菊談)です。

Q.また凄まじく原作ぶち壊してますね!?
A.千年血戦篇が多分無くなるし、良いかなと。

Q.虚圏に大惨事が起きようとしている……!
A.と言うかもう起きてますねこれ。

Q.海燕殿の死因が……消えた……!?
A.アーロニーロさん弱体化のお知らせ。



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BLEACH~29

 

 side 織斑一夏

 

 原作が始まったのか始まってないのか、そもそも原作開始というのはいったいいつからになるのだろうか。まあ大抵の場合は漫画なり小説なりが始まった第一話を原作開始とするんだろうし俺も今までそう言う認識でいたんだが、原作開始前にこれだけ動き回って原作崩壊確定状態にまで持って行った以上、原作と言う物が一体どれだけ信用できるものかと。

 ……と言っても、世界ってのはできる限りつじつまを合わせに来るものだ。生きていてもあまり未来の変わらない奴は結構生きたり死んだりするし、この場で死んでおかないと未来が明らかに変わってしまう奴は大概そこで死ぬようにできている。総隊長の爺さんなんかもそうだが、あそこで死ななかった場合霊王宮の被害が甚大なことになってただろうしあそこまで苦戦することも恐らく無かっただろう。いや、結局最後には主人公と藍染が居なかったら間違いなくこの世界は崩壊に向かっていただろうが。

 原作開始と言うのはとりあえず一巻一話開始時と言う事にしておくが、さあ聞いて驚け主人公の母親生きてます。父親は元死神だがとりあえず勝手に出奔した時には追いかけてぶん殴っておいたからいいとして、まあ大体原作通りに進んでいると言ってもいいんだろう。多分。ただ、問題は俺の方だ。

 

 暇だ。心の底から暇だ。暇で暇で暇すぎて更木が売ってきた喧嘩を毎度買って総隊長に怒られたり四番隊の隊長から売られてんのか売られてないのかよくわからん喧嘩を買って総隊長に怒られたりしてしまうくらいに暇だ。もうすぐ騒ぎになるってのはわかっているし、赤ナッポーと貴族の坊ちゃんが格落ちサブヒロインが現世で行方不明になったと聞いて俺に色々と話を聞きにきたりするのを適当にあしらったりもしているが、マジで暇で仕方ない。

 これはあれだ、今までは時間があまりに長かったから気にしないでいられたのが、自分の力で見えるくらいに近くなったせいで気が急いているんだな。こういう時には寝るのが一番だ。とりあえず仕事は全部終わらせて、それから人を駄目にするクッションの上でごろごろする。あーだめになるわー。

 

「隊長、書類を……」

「全部済ませた。内容が同じのがそこらにあるからもってけ」

「えっ……あ、あった……え、なんで?」

「それと俺はこれから暫く寝るから起こしたら殺すって言っといて」

「え、ちょっ、まだ仕事が残って」

「ねえよ全部終わらせた。今から先一週間分終わらせてそこに積んだから上から持ってけ」

 

 お休み。

 

「いやお休みじゃなく!」

「書類で足りないのがあったら起こしていいぞ。あと更木は近付けるなよ寝起きの俺は加減ができないから文字通り瞬きの間も無く首を刎ねる可能性が高いんでな」

「え゛……はい、それはわかりましたが周りへの影響や隊長としての威厳がですね……」

「俺を知ってる奴なら書類仕事の能力については知ってるだろ。威厳についても戦闘中以外はそんな物見せない方がいい。無駄に緊張して失敗が増えるだけだろうしな。わかったらさっさと行け」

 

 人を駄目にするクッションは本当に人を駄目にするからな。なお、この世界のこの時代にはまだ人を駄目にするクッションなんてものはどこにも売りに出されていないからやろうとすれば多分特許も取れる。やらんが。

 ……どうせならこれ瀞霊廷に広めるか? 書類仕事を長くやってる奴には間違いなく喜ばれるだろうし、結構人気出るんじゃないかと思うんだが。椅子じゃなくても長く座ってると腰痛とかその他にも色々と問題は出てくるし、それらの予防策としてこれはありなのでは? むしろ歓迎されるのでは?

 でもこれを量産するとなると十二番隊の仕事にあるだろうしなぁ……そこそこ話は通じなくはないとはいえできればあまり付き合いたくはないからなぁ……十二番隊は色々な意味で面倒怖い。何が面倒って知識欲が旺盛すぎて真理の探究のためだったら寝ている奴を無断で改造して爆弾に変えて捨て駒にするとか当たり前の顔でやってきそうなところがあるが、それが面倒。自分のためだったら何でも許されるわけじゃねえんだぞおいコラ。まあそこの現在のトップ相手なら俺は非常に相性がいいから殺そうとすれば殺せると思うがな。何しろ疋殺地蔵の出す手足を動かす信号だけを遮断する高尚な薬物は俺には効果を及ぼさないし、卍解で出てくる金色芋虫の撒き散らす毒も俺には効かない。まあはっきり言って天敵だわな。

 加えて色々と開発を繰り返して作り上げた様々な薬物・毒物も俺には効かない。そう言ったことに関して俺はあいつらに何かを伝えた事は無いが、多分知ってるだろ。知らんでも構わん、面倒だからな。

 

 ……( ˘ω˘)スヤァ

 




Q.人を駄目にするクッション……
A.広めた結果元柳斎すら駄目にした実績を持つクッションです。(この世界に限る)

Q.量産は十二番隊が?
A.座っての仕事が多い十二番隊では同じ材質で作られた円座クッションが大人気です。

Q.初代剣八さんの喧嘩を軽率に買わないでください。
A.大丈夫、最終的にどちらも無傷で終わらせました。(途中で殺しかけてないとは言ってない)


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尸魂界編
BLEACH~30


主人公の斬魄刀・ボツ案

「千の顔を持つ英雄で作られた方の俺です。ここでは作者が一応考えはしたもののいくらなんでも駄目だろ……と思った斬魄刀を紹介していくぞ。記念すべき一つ目はこちら」

ちくわ大明神

鬼道系の斬魄刀。相手の言葉を一部「ちくわ大明神」に変えることができる。
例:
「君臨者よ!血肉の仮面 万象 羽搏き ヒトの名を冠す者よ! 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ!」

「君臨者よ!血肉の仮面 万象 羽搏き ヒトの名を冠す者よ! 真理と節制 罪知らぬ夢の壁に僅かにちくわ大明神!」→鬼道は暴発する

例2:
「万象一切灰燼となせ『流刃若火』!」

「万象一切灰燼となせ『ちくわ大明神』!」→当然解放はできない

「ボツ理由は簡単。あまりにもカオスすぎるしネタとしては美味しくてもこれをどう進めればいいのか……シリアスが完全に死ぬね?」

例3:
「最初から誰も天に立ってなどいない。君も、僕も、神すらも。だが、その耐え難い天の座の空白も終わる。これからは、私が天に立つ」

「最初から誰も天に立ってなどいない。君も、僕も、神すらも。だが、その耐え難い天の座の空白も終わる。これからは、私がちくわ大明神」→欠片も格好がつかない

「もう完全にシリアスに別れを付ける斬魄刀だね? あんまりにもあんまりなんで卍解の方は能力すら考えてないよ! アデュー」





 

 side 織斑一夏

 

 長期休暇を取った。三番隊の業務は副隊長である吉良に押し付け、何かあったら藍染か朽木にでも相談しに行けと残して一月くらいの休暇。もうすぐ尸魂界編が始まるってのになんで休暇を取ったかと言うと、まあ簡単に言うと俺が仕事をしたらどう考えてもあいつらが目的を遂げることができなくなるからだ。

 よく考えてみろ。一応仕事とはいえ俺がこのころの主人公達の前に敵として立ちはだかるとする。俺は未だに霊子を取り込んで霊圧やら何やらを強化し続けているが、強化中は周囲に一切の霊圧が漏れる事は無い。そして状況から言ってあいつらは急いでいるだろうから俺の事を敵とみなして襲いかかってくるだろう。襲いかかられたらもう相手をするしかないだろう? そして俺が反撃したらまあみんな死ぬだろ? 原作終了お疲れさまでした、になるだろ? 流石に駄目だろ。

 

 そう言うことで俺は自分の仕事を前倒しで三か月分終わらせ、それをもって総隊長に休暇を申請し、なにがなんでも受理してもらって休むことにしたわけだ。八月一日から三十一日まで。

 原作では確か夏祭りが八月一日、そして一週間程度で尸魂界に向かい、色々あって過去に飛ばされて五日か六日ほど巻き戻る。つまり大体そのあたりにやってくるはずだ。それに合わせて俺は休暇を取った。

 そして休暇開始の当日。俺が瀞霊廷から西に出ようとしたら目の前に門が落ちてきた。これで俺は一時的に出れなくなったわけだが、関係ない、出る。霊子を隷属させる滅却師と同じことをして、俺が通る時だけ門の霊子を分解してあたかも通り抜けたかのようにして外に出た。なお、門はそのまま残っているから安心してくれ。穴も開いていないぞ。

 そして目の前に広がる巨大な男のケツ。確かこいつ主人公にすっ転ばされてたはずだから脇にどいて、ちょいと戦いを眺めてみた。

 

 ……うん、弱いわ。瀞霊廷の門を守る存在だから尸魂界から集められた強者だって話を聞いたんだが、これだったら俺の所の集落の餓鬼の方が三倍くらい強いわ。一番驚いたのは門番のくせに自分で守るべき門を傷つけたことと、殺気石でできている壁に傷をつけたこと。あれって超質量の巨大な塊でもなければ早々破れないはずなんだがねぇ……。

 と言うか、あれだ。十本兕丹打祭りとか言いつつ十本どころじゃない数を打ち下ろしてるとか、数が巻き戻ったり飛んだりしてるとか色々と言いたいことはあるんだが……必殺技がこれとかほんと大した事ねえな。まああの体格から振り下ろされる斧は結構な威力になるだろうが、尸魂界……と言うかBLEACH世界では霊圧が物を言う世界だし、受け止められてる時点でそこそこ止まりでしかないわけで。あとBLEACHもジャンプの漫画だからな。パワーインフレが激しいのなんのって。

 そう考えたら、この辺りに出てくる奴の実力が大したことなかったとしても何もおかしくはない。ただ、期待していたほどではないってだけの話だ。まあ見た目で言うとこの辺りの地盤が吹き飛んだりめくれあがったりとパワー系の奴だってのがわかる描写はしてあるが、そのパワーを受け止められる主人公すげえ、って方向にもってくためのキャラだよな、こいつ。

 あと、技は先に出した方が負けるってのがBLEACHのお約束。かっこいいかどうか微妙な技でも先に出しちゃったからな、こいつは。

 

 あと、門番が侵入者に対して門を開けるとかどうなんだそれは。駄目だろう? 門番は門を守るのが仕事だ。門を開けるのもまあ門番の仕事と言っていいかもしれないが、呼ばれてもいない奴を入れるかどうかの判断は門番がするべきではない。……俺、休暇中なんだがなぁ……。

 

 門を掴もうとした腕を斬り落とす。開けることはできず、かつ殺さないようにするってのは結構面倒だったができないわけではない。両腕の肘から下を狙えば、まあ開けることはできなくなる。そして貧血なりなんなりで倒れたらそこで血は戻さないようにしつつ腕をくっつけてやればいい。それで完成だ。

 門番は悲鳴を上げる。突然腕が斬り落とされたらそりゃそうなるが、身体がでかいだけあって凄い五月蠅い。

 

「おいおい、門番が招かれざる客に門を開いてどうするよ」

 

 俺の声にその場にいた全員が反応する。まあ、敵地でいつの間にかそこに居た見知らぬ男となればそりゃ警戒の一つもするだろうが……反応が遅いんだよな。

 

「なあ、門番は門を守るのが仕事だろう? それ以外にやることがあるとしたら通ろうとする奴を通すための許可を願うくらいでお前の判断で通したら駄目ってくらいわかるだろうに」

「お、オラ゛は負げだだ……負げだ門番が門を開ぐのは当然だべ……!」

「いや、門番が負けるってのは死んだか門を破られたかの二択だからな? どちらにしろ負けた門番が自分から門を開くことはねえよ。……立つのも億劫になった頃に腕は戻してやる。そこで大人しくしてろ」

 

 ふい、と視線を旅禍に向ける。全体的に白っぽい眼鏡と肌が褐色に近い大柄の男、胸のサイズだけ身長と釣り合っていない女とオレンジ色の髪の不良っぽい男、そして黒猫。間違いなく主人公御一行だ。

 

「……ほー。滅却師に死神に完現術者が二人、そして百年少々前によく見た顔が一つ……で、目的は?」

 

 門番の腕から零れる血の量を眺めつつ問いかける。答えそうなやつは一人だけだが、ちゃんと答えてくれるかどうか……。

 

「ルキアを返してもらいに来た」

「……なるほど。とりあえず、俺はこれから二百年ぶりの長期休暇なんだ。その直前にこんな面倒事に巻き込まれたとなったら報告とか面倒だから一回帰れ。どうせ今のお前たちじゃ俺には勝てんよ」

 

 純粋な事実としてな。

 

 




Q.長期休暇!?
A.本人も言ってますが主人公達とマジで敵対したら……ね?

Q.隊長格が長期休暇とか無理じゃね……?
A.そのあたりはほら、なんとかできそうな人がいるじゃないですか。仕事で邪魔されたら困る計画をやろうとしている人が。


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BLEACH~31

「いえーいボツ案第二回目だぞーい。今回紹介するボツ案はこちら!」

造物主の鍵(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)(ネギま!)

魔法世界において、あらゆる物を対象にあらゆることができる鍵。この世界においては霊子体に限定されるがあらゆる物を対象にあらゆることができる。霊子体に限定されるが。

「……いや、これはいくら何でもチート過ぎませんかね……? そんな訳で没になりました。作者は普通に使ってても十分に強いチートの使い方を工夫して最強になるのが好きですが、誰がどう使っても最強以外の何物にもならない物は好きではないのです」



 

 side 織斑一夏

 

 大人しくなった門番の腕を継ぎ、薬を使って無理矢理寝かしつける。そしてこっそりと離れようとする黒猫をつまんで膝の上に。昔っから毛並みは良いんだよな、こいつ。

 

「……で、なんでお前当たり前みたいな顔してここに居るんだよ」

「ん? ああ、今のお前たちじゃ隊長格と出会ったら確定即死だから多少戦えるくらいにはしてやろうってのと、そっちの二人……完現術者なのはわかるが能力が随分と未発達と言うか不完全な形で無理矢理出しているのがわかるから命を削りだすより前に多少教えてやろうかなと。あと夜一を揶揄うためだな」

 

 猫の状態の夜一は良い感じにモフり倒すとダレる。ダレると言うかたれる。正直人間の姿の時より猫の姿の時の方が好みだ。本人どころか誰にも言った事は無いが。

 

「ああ、一応言っておくが門番の腕を斬り落としたのは仕事だからだ。瀞霊廷の中にいる時は休暇中でも急な仕事が入ったら対応しなきゃならんし、さっきのあれは急な仕事として対処させてもらった。あとさっきも言ったがお前ら弱いから隊長格に遭ったらまあ即死するから多少は戦える程度にまでなって貰おうと思ってな」

「おい、俺達だって結構修業を」

「ん? もっぺん言ってみ?」

 

 殺気は込めないまま霊圧を上げる。込めた霊圧は精々が一番新人の隊長が卍解した時程度。ここから技を使ったりすればかなり上がるし、俺の本気からは程遠いんだが……この程度でも完全に呑まれてしまっているのがわかる。一部は気絶すらしそうになっているし、と言うかいっそ死にそう? 殺気は込めてないんだが……と、一応ここで抑える。なお夜一は跳び退こうとしたところを抑えつけたので未だ膝の上だ。

 

「はっきり言っておこうか。今のくらいなら隊長の席に座っているやつだったら誰でも同じことができる。副隊長でも一部は同じことができるし、極一部では三席でもできる。お前らはただそこに極一部の三席がいるってだけで、普段なら相手にもならないような雑魚相手に苦戦どころか殺される可能性すらあるってことだ。理解したか? と言うか、これで理解できないんだったら今すぐこの場で穿界門作って現世に送り返してやるから自己申告な。理解できなかった奴挙手ー。ついでに修行受けたくなーいって奴も挙手なー」

 

 一応見回してみるが、誰も手を上げていない。そりゃあ俺みたいのが目の前に居たら、そして今くらいのなら結構誰でもできると言われたらそう言う反応にもなるわな。実際結構できる奴ならいるし、なんなら殺気をしっかり使えばこれ以上の奴とか普通にいるし。

 そう言うことで全員修行場に放り込む。こいつらが今霊体、いや、この世界だと魂魄あるいは霊子体とでも言うんだろうが、ともかくそれでよかったと思うのは、霊圧を放つことができる類の存在はこの尸魂界の中において老化が遅くなる傾向があると言う事だ。それはこいつらが救い出そうとしているあの娘、ルキアが百五十程度とはいえ人間の寿命を遥かに超えて生きているという点からもわかるだろうが、とにもかくにも非常に都合がいい。

 俺はその状態を利用して、こいつらの霊子体と肉体の老化の速度を釣り合わせるように内部の時間経過の速度を上げる結界を張った。霊圧が高ければ高いほど加速度は上がっていくが、逆に低ければ低いほど一度に使える時間は短くなる。仕方ないわな。

 あと、一応夜一の方も相手をしているが、こいつ大分鈍ってるな。ちょっと後で追いかけっこしよう。捕まえたら頭のてっぺんから尻尾の先まで全部ブラッシングします。拒否は認めない。

 

 そう言う訳であれだ、ちょっと護廷の方にテコ入れしすぎたから今度は主人公の方にもテコ入れする必要に駆られてしまったわけだ。だって今のまま行ったら十二番隊とかは俺との関わりが薄いからまだいいにしても、十一番隊の奴らが全体的に強くなってるからな。もしかしたら途中で負ける可能性もあるし、ついでに言うと主人公が廷内に侵入して一番初めに見つかる相手がその十一番隊三席のはずだから可能性は結構高めなんだよな。うん。

 滅却師の方は多分大丈夫だろうと思うし、それに合わせて女の子……何だっけ、木上(きのうえ)だっけ? も多分大丈夫だと思うが、茶渡って男が多分不味い。原作では結構な数を倒して全員が動きやすい状況を作り上げた裏方と言う名の縁の下の力持ちが機能しなくなると大分問題が出てくるだろうからな。

 あと夜一は……うん、追いかけっこをしたら風呂だな。全身泡塗れにしてやる。

 

 そう言う訳でこれから暫く修行パートだ。しっかりかっちり強くしてやるから安心して強くなれ。できなきゃ死ね。

 

 それと、どうでもいいかもしれないが霊子体が霊圧を放つことができるようになるとその強さに応じて老化が遅くなる理由についてだが、原作において更木が主人公の刀を肌で受け止めたことがあっただろう? あれは主人公が殺すために研ぎあげた刀から放たれる霊圧より更木が垂れ流している霊圧の方が遥かに強かったから起きたことなんだが、あれは実のところ物質に限らない。霊圧によって時間の流れから受ける影響を弾いているわけだ。だから霊圧によって老化の速度が変わる。まあ霊体になるとそもそも物質よりも精神の影響を受けやすくなるから若いつもりでいるとずっと若いままだったりもするけどな。

 




Q.なんか繋がり無くない?
A.あの後一護の顔面掴んで夜一の背中つまんで一旦引かせたようです。なお、兕丹坊は現在貧血で倒れています。

Q.どのくらいまで強化するの?
A.ここから修行パート入るので自分の目で確認してください。


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BLEACH~32

「本日のボツ案のコーナー。今回紹介するボツ斬魄刀はこれだ」

鎮守府

かつて自身が暮らしていた鎮守府。勿論艦娘たちもいて、艦娘たちを出撃させて戦う。本人が殴った方が早いとか言ってはいけない。

「ボツ理由は完全にクロスオーバーになってしまうのと、最近の艦娘の事をあまりよく知らないからだ。ゴトランドis誰?」



 

 side 織斑一夏

 

「ほいじゃまずお前さんだが、まずは自分の能力についてしっかりと知っておく必要があると俺は思う訳だ。自分の力に対しての理解ってのは大事だからな。ここら辺ができているのとできていないのとでは出力や扱いに天と地ほどの差が出ることもある。脚を早く動かそうとする時に腕に力を入れてもしょうがないだろう? まずはそんなところから始めていこう。ちなみにこれについてはお隣のでかい坊主も同系統の能力者だから纏めるぞ」

「オス!」

「ヌ……わかった」

 

 いいお返事と悪くはないけど良いとはとても言えないお返事だ。だがまあ肯定の返事が返ってきているので一旦は良いとする。

 まずは初歩から。霊力についてはまあ多少わかっているようだから良いとして、霊圧……は、理性でどうこうする類の物ではないからこれも後回し。完現術ってのがどういう物かについての説明からしていこう。内容については原作でも読み返して補完しておいてくれ。俺が説明した内容は要するにそれと変わらん。物質に宿る魂を引き出し、自身の霊圧なりなんなりと言う形で魂を加えて増幅し、様々な形で力を見せる術。また本人がにとって特別な思い入れのあるものを媒体にして発動するそれは物の形すら変えて特殊な能力を得ることもあり、でかい坊主こと茶渡の方は肌がその媒体であり、お嬢ちゃんの方は髪についてる小さな髪留めがその媒体だと言う事も話しておいた。ちなみに完現術ってのは尸魂界においてはくっそマイナーで総称としてそう言う名前があることすら知らない奴ばかりだから名前については覚えておく程度でいいと言う事。初歩はこんなところかね。

 次に、完現術と言うのは完成したら変化しないと言う事。しかし逆に言えば完成するまでは色々と手を加えることができると言う事でもある。まあ結果が先にあってそこに向かっていく感じだから手を加えられると言ってもそこまで大したことじゃないんだが、とりあえずは完成を目指してみるところから始めよう。

 

 そこで二人を分けてそれぞれの部屋に。お嬢ちゃんの方をまずは担当するが、こいつの場合能力的には相当キチってるんだよな。事象の拒絶、要するに『私はこの傷を認めないから怪我していると言う事実は消えろ』を現実で実行した挙句に実現させる感じだ。はっきり言って頭おかしい。

 その上でまずは言霊を削るところから。まあ要するに能力を使い慣れるところから始めていくつもりだが、無理はさせない。この時期、と言うかもう少し先になると普通にそれをやっているから多分今でもちょいと練習すればでいるだろう。あと、盾の両面の拒絶を行う奴がいるが、これを三天結盾あるいは双天帰盾に加えることで拒絶の能力を底上げできるだろうことを伝えて実行させる。まあ後はできるまで練習あるのみだな。原作では戦闘力は最後の最後までつかなかったが、防御力だけなら原作有数まで成長したからその半分くらいはやってみようか。

 

 もう一人、茶渡の方だがこっちはこっちでやりすぎると命を削ることになるからちゃんと休みを取らせておく。まず、自身の能力については知らせた。そしてその能力が何のための物なのかを自覚させた。まあ簡単に言えば、茶渡の右手に宿る力が攻撃のための物ではなく防御のための物だと自覚させる必要があった。

 祖父の言葉を守り続けていた茶渡は、俺の言葉に大分感銘を受けたようだ。主人公と出会ってからもこいつの右手は常に何かを守るために振るわれてきていたはず。ならば思い入れを形にする完現術の性能からして防御に傾くのは当然のことだと思ったのだろう。実際そのはずだがちょろくて助かる。

 そして、そのことを自覚することで茶渡の右腕は進化した。正確にはやや元の姿に近くなったと言った方がいいだろうか。具体的には虚圏に突入する直前のあの状態になった。そして、左腕にも同じような物が生まれる兆しが見え始めてきたが……今回はここまでだ。十分だろう。と言うか少々強化しすぎた気も……いや、大丈夫か。最終形態とも言える右腕盾状態にはなってないし、左腕も悪魔の左腕は出てきてないし。

 

 そう言う訳で基本はできたからあとはその力を身体に慣らす作業だ。慣れない力を使おうとすると振り回される。ついうっかり自分の寿命全部一撃に込めてぶっぱしちゃいました、なんてことになったら笑えないからな。俺は『うわ馬鹿すぎるwww』と笑うかもしれないが流石に不謹慎だし。いくら俺でも実行は……するかもしれないが多分多少我慢しようとはすると思うしその時の俺の我慢に期待したい。それ以前にそもそも自爆するようなことにならないのが一番なんだが、残念なことに恐らく自爆覚悟の攻撃はすることになると思うんだよな。だって相手にあの京楽がいるんだから。あいつあんな風体あんな言葉遣いあんな行動してるくせにかーなーり強くて厄介なんだ。殺すだけならいくらでもできるがあの遊びを事実にする技はやばい。そして面倒臭い。あの遊びって本当にどうなってるんだろうな?

 

 ……まあ、この二人の修行パートはこんなところだ。あとは当人たちの霊圧の容量広げて無茶できるようにすることに時間を使わせるよしよう。

 




Q.どのくらいまで強化予定?
A.とりあえず完現術士二人は虚圏突入辺りまで。あとの二人はもう少し待って。

Q.夜一の強化はあります?
A.あるっちゃあるけど意味があるとは言ってない。


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BLEACH~33

 

 side 織斑一夏

 

 滅却師。何百年か前に俺が滅ぼした一族の名だが、とにもかくにも霊子の操作能力に長けた種族だ。滅却師の戦闘能力は究極的には霊子操作能力にある。どっかの始祖から力を受け取ってそれを使う場合はまた話が変わってくるがそれに関しては割愛。あと究極形態については完全に自爆技だからそれも割愛。

 死神に教わることなどない、と意地を張っていたが、炎刀から滅却師の矢を撃ちだしてやったら明らかに驚いた顔で俺を見た。まあ死神が滅却師の矢を真似るとか想像もしないわな普通。ちなみに炎刀からは滅却師の矢以外にも虚閃や鬼道を撃てたりします。便利。

 

「まあそう言う訳だ。昔々にお前らの始祖とも言えるような奴と戦ったことがあってな。その時真似た」

「滅却師の能力と言うのは血によって紡がれるものだ。真似ようとして真似られるようなものではない!」

「いやいや、再現性があると言う事はそれは種のある技術に過ぎない。そして技術であり技法であり何らかの形で体系づけられている方法ならば、その何らかの部分を再現すれば同じように使えるようになるのは当たり前だろう? 現世での有名所で言えば……野球の投手がボールを投げて軌道を変えるにはそれぞれ決まった形でボールを握り腕を振らなければならないが、それを理解して実行すれば練度にもよるが誰でもある程度はできるようになるのとそう変わらん」

「むぅ……では他にどのようなことができるんだ?」

「こんな感じの事かね」

 

 滅却師・最終形態、と言っても俺の場合根本から自前で霊子操作をやっているから限界を超えて霊子を集めるとかそういうことはない。限界量は限界量でちゃんとあるし、そもそも強制的に集めなくとも霊子の支配くらいならできるしな。原作最後の方で死神たちが霊子で空中に足場を作れなくなってたりしたが、それと同じことが当然のようにできる程度の支配半径と強度を持っている。それが俺だ。それを活用すれば今のように形だけ最終形態を真似ることもできる。

 ただ、そんなことを知るわけもない滅却師のメガネモヤシは驚愕に満ちた表情を浮かべている。わからなくもないがこのくらいの事で驚いていたら出演の度に『なん……だと……!?』しか台詞を貰えない落ちこぼれキャラになってしまうぞ。俺個人としてはどうでもいいが。

 そして最終形態モドキを解除してから散霊手套を改造して、必要な時に必要なだけ効果を弱められるように改造したものを与える。これによって本人の扱える霊子集束力をほんの少しだけ超えるように調整しながら弓を扱わせることで最終形態でいられる時間を伸ばし、修業完遂まで散霊手套を外しきらないままいられれば常時最終形態と同じだけのことができるようになると言う画期的な修行だ。俺はそんなことしないでも普通にできたからやってないが、とある俺の集落に暮らしていた女を娶った四大貴族のお坊ちゃんとの合同修行で五分五分まで持って行かれて悔しがった糸目の青年がもっと強くなりたいと言って来たのでこれを使って霊子の操作を極めさせてみたらなんと自分の霊力と言うか霊子と言うかそんな感じの物を一切使わないまま大気に満ちる霊子のみを使って大分難しめの鬼道を発動することすらできるようになったものだ。なお、そいつには滅却師としての才能はこれっぽっちも無かったので途中で散霊手套を外しても何もなかったことを付け加えておく。

 

 ……まあ、本当は自身の身体が持たないほど霊子を集めると言うのはよろしくないのは本人でもわかっていると思うんだが、結局のところそのあたりはその能力を使う当人が決めることだから俺には何も言うことができない類のお話だ。必要な時に必要な力が無いってのは悔しいものだからな。わかるわかる。俺にだってそう言うことはある。

 例えばあれだ、某グレートスピリッツを巡って戦うシャーマンたちの戦いがある世界で初めから幽霊として存在した時は面倒だった。どこぞの『ちっちぇえな』が口癖の奴に焼かれそうになって反撃して一方的にボコって地獄に送って地獄まで追いかけて地獄でもボコって冥府に落として冥府にまで追いかけて冥府でもボコって阿鼻地獄にまで叩き落してそこまで追いかけてボコって精神を綺麗に磨り潰してから帰ろうとしたら流石に帰れず、仕方ないから幽霊として帰るのではなく目の前にいたボコった相手の身体を奪い取る形で現世に復帰して乗り捨てようとしたらそれができなかった時とかにはもう少し練習しとけばよかったと本気で思ったもんだ。

 なお、その後そいつとして普通に生きて普通に死んだから悪い事は無かったんじゃね? ちゃんと戦いには参加したし、持ち霊として火の大精霊ことスピリットオブファイアを持ってたし、霊体人生長いから巫力もだいぶあったしな。具体的な数値で言えば2000000000000000000000くらいだ。一番上の数字以外全部切り捨てだけどな。

 

 そう言うことでヒョロメガネモヤシをマチョメガネモヤシに鍛え上げるために色々と画策してみたが、流石に肉体面でマチョるようなことは起きんな。霊力的な面では大分脳筋になったけど。頭のいい脳筋って怖いよな。

 




Q.シャーマンキング行ったの?
A.行った。そして優勝もした。

Q.石田君はマッチョになるの?
A.物理的にはなりません。


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BLEACH~34

「今回お見せするボツ案は、まあはっきり言って意味があるのかと言うような物だ。まあこんな風に迷走したりもするわけだな。うん」

聖杯

強者の魂を捧げることによって願いを叶えることができる。なお、この場合の強者とは自身よりも何かが優れている存在に限る。

「まあ簡単に言えば俺が俺である限りこの世界じゃ使えねえ奴だ。使えねえ。」


 

 side 織斑一夏

 

 さて主人公であるオレンジ色の髪の少年だが、強化するにあたってこいつが一番厄介と言うか、加減をしっかり考えないといけない奴なんだよな。今の状態で多分人間として一日過ごすのと同じだけの老化を魂魄に起こさせるのに必要な時間は恐らく二週間と言ったところ。さらに色々と叩き込むことで実力を上げていけばその最中でもどんどんと伸びていくだろうから、まあ一月くらいを目安にしておこうか。

 で、こいつの場合まずやるべきは自分の状態についての説明だ。

 

 主人公は今現在父親由来の死神の力を使っている。しかし今現在こいつの中には母親に取り付いた縁から来た虚の力と母親自身からの滅却師としての力の二つが眠っている。虚の力の方は最近起きだしてきてるんだったか? まあ色々あったはずだが、ともかく能力としては死神の物を基本に虚が混じり始めているって所か。

 そう言う訳でまずは選択肢を与えよう。どれから上げていくかだ。

 

 死神としての力を上昇させる。要するに卍解を目指して修業をするわけだが、これには原作でも使ったあの温泉と人形みたいなものを使うことで効率を上げられる。ただし、更木と戦って斬月とある程度分かり合ってもいないような状態でそれができるかはわからないし、ついでに言っちゃうと多分実力が足りないから無駄になる可能性もある。斬月の強度に任せた戦い方ではなくもう少しまともな戦闘を行うことはできるようになるかもしれないから完全に無駄になるとは言い切れないけども。

 次に虚としての力を鍛え上げる。これに関しては多分今でもできる。あと、根っこの部分……斬月は結局どこまで行ってもお前自身なのだからしっかりと受け入れてしまえば傷つけられるようなことなどありえないと言う事を理解しておけば負けることもないような気もするが、こいつの場合自分の中に虚がいるのを『自分自身』とは認めないだろうからやっぱ普通に戦う感じになるだろう。まあできるかどうかは知らんが。

 そして滅却師として目覚める。これはこいつに足りていない防御を補うことができるようになると思うが、滅却師として目覚めさせるならヒョロ長メガネモヤシと一緒にしておいた方がやりやすかろう。ただ、滅却師は基本死神的には抹殺対象だからお薦めしない。強くなれるかどうかもわからんし、目覚めさせることができるかもわからんからな。

 なお、完現術に関してはその条件を満たすような物を持ってきていないから今回は無しだ。

 

「選べ。死神としての基礎能力を上げるか、虚の力を扱えるようになって一時的ではあるが強大なブーストを得るか、滅却師として目覚めることで継戦能力と基礎能力を追加するかだ」

「全部だ」

「……全部か」

「とにかく俺は強くならなきゃならねえ。全部だ」

 

 ……全部か。困ったな……いくら時間を伸ばしたところで限界はあるし、こいつの成長が早いからと言ってそんないくつも別の方向に同時に成長させるのは難しい。イメージはグラフのような物だ。中心を0として、上下に線が伸びる。上向きの線が死神としての力量で、下向きの物が虚としての力量。能力を完全に使い切った場合にはこの線が長い方が強いとすると、その両方があることで実力が一気に伸びるのもわかるだろう。ちなみに滅却師は横線の右側、完現術者は横線の左側みたいな感じだが、今は関係ないから割愛な。

 さて、こうなったら本当に三つ同時進行するか。ただし、現実世界だと恐らく無理だから精神世界に入ってからやることになるな。他人の精神世界に干渉する刀なんてのも一応あるからそれ使おうか。

 誠刀・銓。自身を量る誠実さの刀。所有者は俺だがこれを貸すこともできるので、こいつで主人公に刃禅をやらせる。そうすることで斬魄刀との共有地である精神世界の中にお邪魔することができるが、誠実さを顕す刀である以上勝手に入り込むことはできない。と言うかこいつの中にいるあれってユーハーヴェーハーなんだよな。なんかこいつの意思に押されまくって完全に保護者っぽくなってたはずだけども。

 

 そんな訳でご対面。うん、やっぱこいつどう見てもユーハーヴェーハーだわ。千年くらい前のやつな。

 

「……」ジー

「……」メソラシー

「…………」ジトー

「…………」クビソラシー

「………………」ジロリンチョ

「………………」カラダソラシー

「いやあんたら何やってんだよ!?」

「見覚えある面があったからこんなところで何やってんのか聞いても答えないだろうから瞳を覗き込んで内心を読み取ろうとしたら避けられたから追い回していた」

「トラウマのある相手が絶対来ないだろうと思っていた場所に現れてこちらの顔を覗き込もうとするものだから必死になって視線を逸らし続けていた」

「お前やっぱユーハーヴェーハーか」

「その呼び方なら許容しよう」

「斬月じゃなかったのか!?」

「何言ってんだこいつが斬魄刀の化身な訳ねえだろこいつ滅却師だぞ」

「実はお前の斬魄刀を一時的に取り込んで今の身体の限界を越えないように制御しているのが私だ」

「マジで!?」

「まあ見た限りお前の斬魄刀ってこいつが封じきれなかった分の上澄みを使ってるだけだからいいとこ一分くらいだろ?」

「そんなに多いわけが無いだろう。私の力を甘く見てもらっては困る」

「むしろ俺としては他人の身体の中にある残滓の残滓程度のやることとはいえお前が封じきれてないって事実が驚きの対象なんだがな」

「一護は優秀だからな」

「女相手にはヘタレな気もするが」

「ああ、まあ、そう言う所もあるな」

「うるっせえよ!と言うかあんたらなんの話してんだ!」

「「お前/一護の話に決まっているだろう」」

「あああああああああ腹立つ!」

 

 おっとそう言えば修行だったなこれからやるの。思った以上に話が通じて面白かったからついやってしまった。

 




Q.今の状況でばらして大丈夫なの!?
A.本人復活できない状態ですし、良いんじゃないですかね?

Q.ちなみに一夏の使う気とかそういうのはグラフにするとどのあたり?
A.奥行。


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BLEACH~35

「今回のボツ案は実質作品の中にも出ているぞ。ただ、これを本当の斬魄刀にするのはどうにも違和感があったためボツになった。仕方ないね」

無限の火薬車輪

パーンジャン♪
つまりはそう言うことだ。
パンジャンドラムを召喚する。無限に召喚し自在に操る。そして当然自爆もする。宝具で言うと対軍宝具。

「これにするくらいならもう普通に出した方が早いと思ってボツ。仕方ないね(二回目)」


 

 side 織斑一夏

 

「ぱんころ~」

「逃げるぞ一護。あれの攻撃は馬鹿にしているようにしか見えんがどれもこれも威力は折り紙付きだ」

「わかったけどなんで斬月のおっさんはあいつのこと知ってんだよ!? あとなんかゆーはーなんとかって呼ばれてたよな!?」

「ああ、まあ色々あってな。それと一護、足元注意だ」

 

 垂直跳躍式縦ジェット型航空パンジャンによる爆撃を喰らえ!下からな!なお下から喰らった場合、当たる場所は足か腿か股間の三択だ。必死に逃げろ。

 

「あいあむざぼーんおぶまいぱんじゃん」

「斬月のおっさん!なんか変な呪文っぽいの唱え始めたんだが!?」

「あれを唱えるとなんかよくわからないが転がってきたり飛んでたりするあれが理不尽に増えるぞ。霊圧とか一切ないのに突然どこからともなく増える。気を付けろ!」

「怖いなそれ!? と言うか何をどう気を付ければいいのか全く分からねえんだが!?」

「一応言っておくがこの修行を受けることによりなんか強くなるぞ」

「なんか強くなるとか意味わからねえし怖いんだが!? 理屈はどうなってんだよ!?」

「死神の学問を詳しく学んでないと欠片も解らん類の話になるが本当に聞くか?」

「あーわかった聞かねえから具体的にどんな感じに強くなるのかだけ教えてくれ!」

「お隣にいる自称斬月なユーハーヴェーハーに認められれば卍解って言うもう一段の解放ができるようになるんだが、今のところ死神の力の方ではそれを目指している。卍解終わったら虚の力の方に入るから覚悟しておけよ。なにしろユーハーヴェーハーはなんでかお前に大分甘いが、虚のお前は厳しいからな」

「虚の俺ってなんだよ!?」

「お前がどうしても呼んでほしいと言うなら今すぐに呼んで一緒にやってみるがどうする分かったお前がどうしてもそうしたいと言うならそうしよう全く仕方のない奴だな我儘な奴め」

「俺が何も言ってないうちに勝手に俺の意思が決定されて勝手に仕方がない我儘な奴扱いされてんだけど!?」

「諦めろ、あの男はそう言う奴だ」

「ぱんじゃんふぉー」

「なんか全体的に白い俺が増えた!?」

「なんだこりゃあ!?」

「来たか。私には応援しつつともに走ることしかできんが頑張れ」

「お前が虚の俺って奴か!? って今はとにかく走れ!」

「あぁ!? 何が―――」

「パンはパンでもお前らをぶち殺して血祭りにあげるパンはなーんだ? パーンジャン」

「―――よし逃げるぞ!」

「色々と話をしたいのはお互い様だろうが後でな!」

「そうだな!」

「うむ、では走るぞ一護!」

「「おう!」」

 

 仲良きことは良いことだ。共に苦楽を乗り越えればそこそこに仲良くなれる物だ。それが虚と死神でもそう変わらん。まあ普通は協力体制を敷くような事にはならないから実現する事は無いんだが、今みたいにある意味全員同一なんだったらそうなる可能性は十分ある。滅却師の力としての象徴であるユーハーヴェーハー、死神の力としての象徴である主人公、虚の力としての象徴である白い主人公。俺の中のあいつらほどとは言わんから仲良くなればそこそこ力を貸してくれるようになると思うんだよな。

 それはそれとしてパンジャンを増やす。地を駆けるパンジャンだけでなく空中を舞うパンジャンやなんか伸び縮みして内側に対象を取り込んで起爆する特殊なパンジャン、花火のように爆弾が爆発すると周囲に小型の爆弾をばら撒いて被害半径を拡大させるクラスターパンジャン、重ね設置によって凄まじい加速を得ることに成功した弾丸パンジャンなども用意してある。

 

 バシュンッ!ズドォォンッ!!

 グワァァァァァ!!

 オレェェェェェェ!!?

 イカン!カサネセッチシキチョウソクヒショウガタダンガンパンジャンドラムダ!

 ナンダソリャ!?

 イイカラニゲルゾイチゴ!

 アイツヲオイテハイケネエ!

 

 あとこれもお薦めだ、風車式風船型空中爆雷パンジャンドラム。一応パンジャンドラムだから自前で動けるんだが空中爆雷の名を持つだけあって遅い。ただ、こいつは数を揃えてばら撒くと相手の動きを制限できるから中々便利だ。ただし、触らないように一か所に集めて爆破されると全部爆破するから気を付けないと巻き込まれる場合もある。パンジャンドラムが味方を巻き込むのはまれによくあることだから仕方ないね。

 あと滅却師としての能力を目覚めさせるために昔滅却師と戦って殺して回った時に滅却師の身体を分解して取り込んだ霊子を身体に慣らすことで後天的に得た滅却師としての霊圧で爆発を起こしているから繰り返していれば多分目覚めるだろ。

 

 グワァァァァァ!!

 ザンゲツノオッサン!

 ワタシタチハオマエジシンダ!オマエガシナナイカギリワタシタチガシヌコトモナイ!

 ダッタラ!オレガオレヲマモルコトニナンノモンダイモネエヨナ!

 イカン!ニゲロイチゴ!ホッピングシキチョウヤクガタアッサツパンジャンドラムダ!

 ヒトメミタダケデソレガワカルッテザンゲツノオッサンスゲエナ!?

 トイウカアッサツッテ・・・ウワァァァァ!!

 イチゴォォォォォ!!

 

 おっと酷いことになってるな。例の温泉に放り込んで……いや、温泉に放り込むより紅茶を飲ませるか。経口摂取で紅茶を取ってる間はまだ大丈夫だ。紅茶風呂もまだ戻れる。紅茶を血管に直接取り入れようと点滴やら注射やらを始めたらもう戻れないからそこだけ気を付けておこう。

 




Q.これパンジャンドラムがトラウマにならない?
A.多分大丈夫。と言うかパンジャンドラムなんて欠陥珍兵器を実用してるのは一夏くらいなんで大丈夫。

Q.紅茶漬けにするつもりかよ……。
A.一旦英国面に堕としてから日本茶で中和させるから平気平気(大丈夫とは言ってない)


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BLEACH~36

「今回もやってきましたボツ斬魄刀シリーズ。今回紹介するボツ斬魄刀はこちら」

虚刀・鑢

斬魄刀を持つと弱くなる。

「完全にデメリット斬魄刀です本当にありがとうございました。しかもそもそもこれなしでも虚刀流の技だけなら使えるしな……いや、形だけだが」


 

 side 織斑一夏

 

 修業は続くよどこまでも。具体的にはあれだ、ユーハーヴェーハーと虚の主人公と主人公が合体して虚圏で四番に追い詰められた時になったあの状態になってもまだ続く。とりあえず一応の卍解はできているし、仮面を出したままそこそこ行動できるようにもなっているし、若干ではあるが静脈に霊子を流して静血装を使えるようにもなっている。動血装の方は現状ユーハーヴェーハーは使わせるつもりはないようだが、まあそれについてはどうでもいいな。目的は十分強くなる事であって滅却師の能力を意識的に使えるようになる事じゃないし。と言うかこいつ教えれば教えるだけ砂漠の砂に水を流し込むような感じで吸収していくから教え甲斐がある。なお、リアルに砂漠に大水をいきなり出したら砂に吸収されるんじゃなくて細かすぎる砂と水との間に空気の層ができて吸収しきれずすさまじい勢いで砂の上を水が転がっていく感じになるから絶対やらないようにな。できんだろうけど。できたとしても突如として実行するような馬鹿はおらんだろうけど。

 ……うん、よく考えたら今の状態でそこまで強くなったら色々と問題が出てくるような気がするぞ? そこ止まりだったら平気だとは思うが藍染は大丈夫か? ……大丈夫か。ここまでやってギリ同等に届かないってとこじゃね?

 

「おーい、今くらい鍛えれば大体の奴には勝てると思うがどうする?」

「……朽木白哉には勝てるか?」

「あ? あー……初手不意打ちで飛廉脚と瞬歩の同時使用で気付かないうちに背後から最速で近づいて首を刎ねるくらいの事はできると思うぞ。真正面から戦った場合の勝率は知らん。俺の物差しはkm単位でな。ミリ単位の差なんぞ測れん」

「今でも俺とあんたにそこまで差があんのかよ……」

「一応言っておくが俺が転がしてたパンジャンドラムは趣味と暇潰しを兼ねて適当に作った遊び道具だぞ? 使うのが俺なら怪我すらしない奴を必死に避けて、爆風の余波だけで死にかける奴に言われてもな」

「マジかよ……」

「あ、最後に俺と戦ってみるか? お前は卍解でも虚化でも何でも使っていいぞ。俺は二番目に殺傷能力の低い鋸で相手してやる」

「鋸!?」

「ん? ああ、俺の斬魄刀は特殊でな。始解の形と卍解の形がそれぞれ十以上あんだよ。頑丈さの鉋、切断力の鈍、数の鎩、軽さと脆さの針、防御力の鎧、重さの鎚、回復力の鐚、人間らしさの釵、毒気の無さの鋸、誠実さの銓、毒気の鍍、距離と連射力の銃、って具合にな」

「……それぞれに別の能力があるのか?」

「あるのもあるし、無いのもある。ただ一つ言えるのは、始解一つにつき卍解一つ、ってことだ」

「……そういやあの刃の無い刀……」

「あれが銓だ。自身を見つめ、自身の迷いや悩み、欲を斬るための刀だ。だから刀身が無い。効果としては……集中力が異常に増すくらいだな。その分休みを多くとらないと疲労で死ぬが」

「あれ使って入ってきてるんじゃねえのかよ!?」

「俺の斬魄刀を経由してお前が刃禅やってんだから当然俺の意識の塊である斬魄刀から俺が入ってもおかしかねえだろうよ。そんなことより、さっき言った鋸ってのはこれだ」

「……木刀?」

「その通り。ただし、ただの木刀だと思って甘く見るなよ。そもそも人間は木刀でも死ねるんだ。死なないように加減はするが―――死んだらすまんな」

「……卍解!」

 

 俺の前で主人公君は習得したばかりの卍解を使う。全身を覆うマントのような黒い衣に黒一色の打刀、卍解としては異様なほどに小さなそれを構えた主人公君は、まあ一番隊以外であれば隊長格にも引けを取らないだろう。更木に勝てるかは知らん。藍染に勝てるかも知らん。ただあの爺さん相手だと分が悪いだろうな。『分が悪い』程度である時点で末恐ろしいが。

 さらにそこに虚化の仮面を被ることで力が跳ね上がる。これで多分総隊長の爺さんとも結構いい勝負ができるんじゃないかと思うが、あの爺さんの切り札は面倒臭いからな。ちなみに俺がそれを受けた場合、炎と同化できるから鋩に集めた炎がまず一切効かない。死んだ奴らが纏わりついても全部一瞬で爆破できる。一帯を焼き尽くされても特に何ともなく、一万五千度くらいなら問題なく耐えられるから危ないのは尸魂界だね。

 ただ、今の主人公君はそれに比肩できるだけの能力を持っている。と言っても通常状態でそんなことができる訳も無く、動血装と虚化、卍解の三つを同時に使うことで一時的にその域にまで踏み入ることができるってくらいの物だが……十分にやばいわな。

 

「先に行っとくが、できる限り虚化と動血装は使うなよ。虚も滅却師もここじゃ目の敵にされる存在だからな」

「……必要になったら使うぜ」

「使わないと勝てないような奴と戦うな、って言ってんだが……まあいいさ、聞くとは思ってないし」

「そうかよ」

 

 お互いに構える。俺は本当なら無行の位が得意なんだが、今くらいは良いだろう。相手を殺さなければいけないわけでもないんだし、その辺りは手抜きだ手抜き。

 

「最後に一応言っとくが、俺の事は誰にも言うなよ。言ったらついうっかりお前の部屋の引き出しの中に母親の洗濯物の下着が迷い込むかもしれん」

「おいふっざけんなよてめえ!?」

「真面目に言っている。俺にこうして手習いを受けたこと、そして俺に出会ったことは誰にも言うな。もしも誰かに伝えれば、お前の部屋の机の引き出しの上から二段目に母親と妹達の洗濯前の下着が迷い込むからな?」

「増えてる上に洒落にならねえからヤメロ!わかった誰にも言わねえよ!」

「よし約束だぞ!約束を破ったらさっき言った通りお前に変身して空座町の空を変態的な編隊飛行して街を騒がせてやるから覚悟しておけ!」

「さっきと言ってることがまるで違「隙アリィ!」グワーッ!!」

 

 よし勝った。やっぱセクコマ強いわ。

 




Q.実行すんの!? と言うかできるの!?
A.可能です。そしてもしも一護がそれについて口にしたら実行することでしょう。

Q.つっよ。一護つっよ。今の時点で原作のどのくらいの強さ?
A.恐らく虚圏編で現世に返ってきた直後以上最後の月牙天衝使用可能状態未満、ってとこだと思います。


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BLEACH~37

「今回のボツ斬魄刀だ。ちょっとネタ色が強すぎると思ってな……」

丸太

丸太である。それ以上でも以下でもない。丸太である。
ちょっと流刃若火の炎を受けても焦げ目一つつかず、完全版の天鎖斬月を受けても傷ひとつつかず、ユーハーヴェーハーの能力でへし折ったり無かったことにしたりもできないだけのただの丸太である。
いい丸太だな……

「何よりこの設定だと『みんな!丸太は持ったか!』ができない。困るだろう?」



 

 side 織斑一夏

 

 原作との相違を説明しようと思う。

 まず主人公。この時点で卍解習得。さらに虚化も習得し、自身に滅却師の能力があることも自覚。ただし、滅却師の能力については自身で完全に制御することはできず中にいるユーハーヴェーハーに任せているらしい。

 ヒロイン。言霊を削って術名すら言わずに術を使うことが可能に。強化版の盾である四天抗盾を会得し、防御力と回復力に磨きをかけた。まあ回復についてはやっぱり霊圧の回復は遅いようだが、肉体を治してから霊圧の回復をさせるのは容易なことだし問題は無いだろう。

 ヒョロガリメガネモヤシ。流石に常時最終形態とはいかないが、相手に意思が無くかつ自身の傍に存在するものであれば霊子の隷属を行えるようになった。これにより某十二番隊隊長を務めるバイキンマンみたいな声の男の卍解の毒は問答無用で分解できるようになったと言う事だ。頭おかしいね。

 ゴリマッチョこと茶渡。こいつだけ苗字が二音だから覚えられるのはありがたいが、結局あれから成長はあまりしていない。攻撃よりも防御の方を大事にしすぎているからだろうが、まあそれについて俺は文句を言うつもりはない。多分だが本当に必要になったら出てくるだろ。保証はしないが。

 

 主人公達に関してはこんなところだが、ともかく今日一日の間に色々と話を付けに猫一と一緒に花火師の所に邪魔することにした。ちなみにだがここの兄は原作では死んでいたが、普通に生きている。そのためここの弟の方もそこまで死神嫌いではないようだが……はてさて一体どんな風に変わっていく事やら。一応霊圧とかの操作を主人公にも多少教えはしたし、主人公も自分の中にいるユーハーヴェーハーに聞いて学んでいたからそこそこはできるようになっていると思うんだが……さてどうなることか。

 

「で、お前どうやって入る予定だ? 西流魂街に来てるってことはあれだ、空から入る感じで合ってるか? つなぎは取ってるのか? あとお前の跡を継いだ砕蜂だが毎夜毎晩お前の姿がプリントされた抱き枕を抱きしめながらお前の名前を呼び続けるようになったぞ気を付けろ。それとお前が尸魂界を離れることになった理由が浦原の奴に性的に襲われ食われた結果の新婚旅行みたいなものだと思ってるはずだから未だにお前の事大好きだぞ。声をかければ協力してくれるだろうから一遍合っとけ」

「頼むから待て」

「『夜一様!夜一様!夜一様!夜一様ぁあああぁぁわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!夜一様夜一様夜一様ぁぁあぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!夜一様の射干玉のような御髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモ」

「砕蜂の声で妙なことを叫ぶのを止めろォ!」

「いや俺じゃないし。これ録音だから俺が言ったんじゃなくて本人が叫んでるのを記録しただけだから」

「嘘だ!嘘だと言え!」

「別に言っても良いが事実は変わらんぞ?」

「ぐぬぁああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 猫一が俺の膝の上から落ちて床にビタンッ!ってなった。しかしそれを意に介せずごろごろと転がっているのは何なんだろうな。見た目美人な猫なのに。

 前にも何度か思ったが、俺は人間状態の夜一より猫状態の猫一の方が好きだ。特にモフモフがいい。

 

「……なぜ儂が喜助に嫁いだと思われておる……?」

「俺が筆跡と霊圧を真似て砕蜂に手紙を書いて残しておいたから」

「貴様の仕業かぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!?」

「腹心の部下に何も言わずに出て行ったりするからそれを利用されてこんなことになるんだよ。良かったな、利用したのが俺で。もしお前が何らかの理由で戻ってこれたらちゃんと味方にできるように動いてやったんだぞ」

「ぐっ……!!」

 

 まあ何も言えんわな。実際それは助かることなわけだし。もしも俺が何もしていなかったらまず間違いなく一度は敵対することになっていただろうし。

 

「ああそれと、お前が置いて行った斬魄刀だが砕蜂が持って行ってたぞ。ちゃんと毎日手入れをしているそうだ。何に使ってるかは知らないと言うことになっているがな」

「なんじゃその含みのある言葉怖いんじゃが」

「何に使っているかの予想を聞きたいか? お前の絵の描かれた抱き枕の丁度股間の部分に斬魄刀の柄を入れるのにちょうどいい穴が開いていてな?」

「もういいわかったいやわかりたくないがわかったからそのことについては触れるな頼む」

「全く仕方のない奴だ。いくら急いでいたからと言って普通斬魄刀置いて行くかね? だからこんなことになってるんだが?」

「ぐぬぬ……」

 

 ぐぬぬと言っても現実は変わらない。まあ精々後悔しているといい。あと、多分だが砕蜂なら猫一ならともかく夜一が瀞霊廷に入ったら匂いで大体の位置を掴んで接近してくると思うぞ。言わんが。

 あれだ、精々頑張れ。錆落としくらいは手伝ってやる。

 




Q.うわぁ……。
A.事実だからね。仕方ないね。

Q.夜一って斬魄刀持ってたの?
A.持ってるはず。でも使ったところは見たことがない。名前も知らない。だからこんな扱いになりました。


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BLEACH~38

「今回のボツ案は……すまない、実はそろそろネタ切れなんだ。まあかなり初めの方からいい感じに完成系変体刀なんて物を思いついてしまったからね。仕方ないね。そう言う訳でこれで最後だ」

四次元ポケット

ドラえもんの例のあれ。なお、中身が入っているとは言っていない辺りもう本当にネタ。

「まあこいつ単体だとネタにしかならないが、中身を作れるとなるとネタどころじゃなくなるんだよな。そして俺は作れる。でもそもそもその場でさっと作った方が早いと言う……要するにどこまでもネタ枠」
「そう言う訳で、さらば」


 

 side 織斑一夏

 

 丸一日。たったそれだけの時間で全員がかなりのレベルアップを果たしている訳だが、これはとても喜ばしいことだ。一番変わったのが主人公で、次点が茶渡か。ただ、一番応用の範囲が広がったのはヒョロモヤシだろうな。いくつか滅却師用のアイテムをくれてやったからできることは広がったはずだ。

 まずは銀筒が百二十万本とそれを入れておくためのちょっと空間が歪んだ小さなホルスターが一つ。お値段は本物の散霊手套の解析。それから霊弓弧雀の改造により連射力を高めた銀嶺弧雀……に近い形をした弓。お値段はそこまで高くなく、モヤシの霊力を溜めた銀筒を五本。あとゼーレシュナイダーを五百四十とそれを納めるちょっとばかり空間が歪んだホルスターが一つ、お値段はずっと使ってきた滅却師十字の解析。他にも少々。

 それとお嬢ちゃんだが、基本的に即応性ばっかり上げていたからあまり強くはなっていない。言霊なしで防壁を張れるようにはなっているし、それまでの技に両面の拒絶をするあいつを加えて技自体の強化も可能になり、さらに攻撃手段として六体全部使って盾の両面を拒絶してぶった切る技も使えるようになった。まあそんなもの使わないで守り続けてた方がよっぽどいいと思うけどな。ついでに消滅した奴も復活させられるようになった。よかったよかった。

 

「黒崎、お前……相当強くなったな」

「石田もな。チャドもか」

「ム……」

「私も!言霊削って即座に技が使えるようになったよ!」

「すげえじゃねえか!」

 

 なんとも青春しているな。ただ、猫一の驚きが凄い。まあそりゃそうだ、流石に今の状態では抑えているようだが、全開にすれば原作で言う『俺自身が月牙になることだ』状態一歩手前くらいの霊圧があるからな。しかも現在虚の力も滅却師の力も意識的に抑えて使ってないのにその状態だ。今の状態なら頑張れば隠せるんじゃね? めっちゃ頑張れば、だけど。

 そう言う訳で場が驚きに包まれたんだが、一応これから突入と言う事で目的地である志波の花火師の所までの正確な地図をくれてやってから俺はのんびりと俺の作った集落に引きこもる。これから毎日二十時間は眠り続ける予定だが、合間に集落での相談事やら何やらを解決したりもしておく。あと暇だったから久し振りに全力で飯を作って老若男女問わずにメシの顔をさせておいた。愛情でカバーできる範囲を軽々と超える料理も作れるが、流石にそんな物を作ってしまったら破局する奴らも出てくる気がするからやめておいた。俺は優しくて思いやりがあるからな。一夏君優しいって言って?

 さて俺はさっき言った通り暫く寝るからここで一旦お休みだ。事件の内容については多分主人公一派の誰かが解説してくれるだろう。もしかしたらそれ以外にも俺と関わることで魔改造されてしまった誰かが話すことになるかもしれないが、まあ割とどうでもいいよな。

 

 ……あ、そう言えば休みの前に今週分の夜一シリーズを砕蜂に渡してくるの忘れた。あいつもしかしたら夜一不足により禁断症状出てる可能性があるんだがもし本当に出てたとしたら本人を目の前にして一体どんな反応を返すか予想がつかない。

 例えば、そうだな……本人が瀞霊廷に突入してすぐに気配だか匂いだかでその存在を感知して普段から速いのにそれと比較してなお速い瞬歩で瀞霊廷中を探索して夜一を見つけ出し、猫の状態の夜一の腹に顔を埋めてクンカクンカスーハースーハーして恍惚の笑みを浮かべたりしそう。それに我慢しきれなくなった夜一が人の姿に戻ったと思ったら再び抱き着いて乳だか腹だかに顔を埋めてぺろぺろしだすところまで見えた。そんなところまで見えなくていいと思うが見えた物は見えたんだから仕方ない。千里眼(偽):EXってこういう時不便だわ……。

 ん? どこでそんなもの手に入れたか? あれだ、直感:EXと千里眼(真):Bとちょっとした魔眼を組み合わせたらできちゃってな。偽物だけあって不安定だし確定したものでもないんだが過去と未来と現在が見える。ただし、その多くは並行世界の物だから役に立つことは少ないんだがな。

 俺がそれを見てしまったと言う事はマジでそうなる可能性があるってことだし、俺が見えたと言う事は結構確率は高いと言う事だ。確率として高い事象は人類史を樹とした時には太い枝に当たるわけで、そして太い枝の方が見やすいのは当然なわけで。

 頑張れ夜一、応援だけはしておく。ただしあくまでも応援だけだから謝ることはしないし後悔もしない。勿論責任も取らん。仕事を放り出して勝手に逃げ出したお前らが悪い。と言うかそもそも藍染に嵌められた間抜けなお前らが悪い。パンジャンドラムを作って転がし始める時に地面から零距離に置かなかったせいで落下の衝撃で爆発してしまったくらい間抜けなことをしたお前らが悪い。そしてその仕事の多くが何故か十一番隊と三番隊に回された挙句に一時的に俺が二番隊の指揮を執ることになりクソほど仕事量が増えて睡眠時間が減った。絶対許さないからな……未だに許してないからな……。

 




Q.石田君贔屓されすぎじゃない?
A.虚圏突入寸前くらいの強さなわけですが……まあ、大抵の奴には勝てますね。

Q.ちなみに一番変化が少ないのは?
A.夜一。毛並みはモフモフ度が上がったぞ!


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BLEACH~39

 

 side 黒崎一護

 

 あの修行と言う名の拷問を受けてから、身体が軽い。と言うか、ふわふわと浮いていて地に足がつかないような感覚だ。織斑さんは一気に強くなりすぎた弊害だと言っていたが、なんと言うか早めに慣れておかないとヤバい気がしている。魂そのものが俺の霊圧に軋みを上げているような、そんな感覚。今本気出したら俺死ぬんじゃね……?

 ともかく俺は大分強くなったが、瀞霊廷の中には今の俺よりも強い奴がそこそこいると言うのだから行動は慎重にしないとまずい。まあ門が使えなくなったから侵入はド派手になるんだが。

 それと、なんだかよくわからねえけど夜一さんがずっとぶつぶつ文句を言っている。何があったのかはわからねえけど何か良くないことがあったみたいだ。いや、純粋に良く無い事とも言い切れないから困っている、みたいな感じか?

 

「……着いたぞ」

 

 ……何だここ超入りたくねえ。なにあの旗持ってる腕……絶対こんなの作っちゃうから町中に居られなくなっただけだろ? 絶対そうだろ? 夜一さんは『中々良い』とか言ってるけどどこがいいのか全く分からねえ……。純粋な死神と俺とじゃここまで大きな認識の差があるのかよ……!? いや、別にその認識の差を埋めたいとは思わねえけども!

 いや、良いから入るぞとか言われても超入りたくねえんだけど……いや入る、入るから少し心の準備を―――

 

「はよせい」

「……ハイ」

 

 夜一さん怖え。強さで言えば多分今の俺の方が強い……いや、強いかどうかはともかく霊圧だったら俺の方が間違いなく上だと言う確信があるが、あの雰囲気には逆らえそうにない。怖え。

 それより今はこの状況……この奇妙なオブジェの立てられた残念な家に入らなければいけないという受け入れがたい事実を受け入れねえといけない訳か……織斑さんとの修行で色々と理不尽に慣れたつもりでいたが、まだまだだったか……世の中は理不尽で満ちているってのは本当だったな。まさかこんな理不j

 

 ゴッスゥ!

 

「はよせい」

「……鼻が……鼻はどこだ……」

 

 めっちゃいてえ。このくらいだったらすぐ治るのはわかってるけどすげえ痛い。霊圧感知……と言うか、斬月のおっさんから教えてもらった滅却師としての霊子感知で前が見えなくても何がどこにあるのか、だれがどこにいるのかくらいはわかるようになってるが前が見えないとかなりきつい。人間はやっぱり視覚がないときついわ。

 まあそんな訳で思いっきり凹まされた顔面をさすりながら夜一さんに続いて階段を降りていく。なんで玄関入って二秒で階段なのかはわからない。こんなところに階段を作るんだったら上に建ってるあの建物の必要性は何なのかと。金彦と銀彦の住居か?

 ともかくこれから色々とやらなきゃならないことがある。まずは今の状態に慣れることだ。このふわふわした状態じゃあ戦いにくくて仕方がない。身体が霊圧に慣れてきているのか少しずつ馴染んでは来ているが、完全な状態になるまでは時間がかかりそうだ。

 

「く、黒崎君、その……大丈夫?」

「おう。ちょっと前は見えねえけど大丈夫だ」

 

 そろそろ治ると思うんだが……お、治った。めり込んでいた鼻が元に戻り、前も普通に見えるようになった。よかったよかった。なんか井上が物凄い物を見る目で俺を見ているんだが、大丈夫か?

 

「黒崎、お前は一体いつの間に人間を辞めたんだ?」

「俺は今も昔も人間のままだぞ!?」

「いや、あそこまで顔が凹んでいる状態から普通に治しておいて人間と言うのはちょっと……」

「ヤロウ……」

「大人しくしておれ」

「「ハイ」」

 

 夜一さん怖え……。

 

 そんなコントにも似たことをやりつつ進んでいくと、そこそこ大きな場所に出た。そこに居たのは……隻腕の、女。ただ、この女が只者じゃないってことだけは今の俺にもわかる。なんと言うか、身体の感覚が鋭いんだか鈍いんだかわからねえ今の状態でも何となくかなり強いってことはわかる。……夜一さんと同等か、少し劣るか、って所だろうな。

 ……と言うか、ほんとさっきからこの感覚はなんだ? 同じものを見ているはずだってのにその瞬間ごとに全く違う姿が見えてくる。およそ、四つ、か……? そのくらいの物がほぼ同時に重なって見えるせいで感覚が定まらない。

 多分だが、四つのうち三つは死神としての霊圧知覚、虚としての探査回路、滅却師としての霊子知覚だろう。これらのそれぞれ違う方法での感知能力が全部混ざることで今みたいに感覚が滅茶苦茶になっているんだろうなと思うが、あと一つは何だろうな……?

 

 俺が迷っている間になんか話は進んだらしい。いつの間にか移動することになっていて、いつの間にか移動していて、そしていつの間にかなんかでかい大砲みたいなもので空から瀞霊廷に入ることになっていた。別にそれに問題があるわけではないし、あの拷問……じゃなかった、修業のおかげで俺も多少は霊力を扱えるようになったからとりあえずこの球に霊力を込めてm

 

 ズヴォン……!(あまりに大量に込められた霊力によって半径にして二十キロほどが瞬間的に隔絶された図)

 ドボシャァ!(驚いて気を緩めたら爆発しそうになったがそれを滅却師の能力で抑え込んだは良いものの落下に対処するのを忘れて顔面から行った図)

 

 ……調整はマジで必要だわ……クッソ痛い……。

 

 




Q.四つ目の感覚は完現術士の感覚?
A.いいえ、人間としての感知能力です。意味が解らない? 大丈夫、いつかわかる。多分。

Q.二十キロって……やばくね……?
A.やばいよ? あと藍染にばれたよ?


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BLEACH~40

 

 side 黒崎一護

 

 死ぬほど怒られた。まあこれについては間違いなく俺が悪い。軽く霊力を込めたつもりだったんだが馬鹿みたいに多かったらしい。いったいどんだけ霊力があるんだと驚かれたが、あの修行で一気に増えたせいで制御が難しいんだよな。自分ではちゃんとやってるつもりなんだが、実際にはかなり大雑把になっているらしい。ただ、今みたいな失敗をしても瀞霊廷のあの壁のおかげで全く気付かれていないだろうからそこだけは安心していいらしい。

 

「黒崎、お前……いつからあんなに……!?」

「あー……あの修行で何回か、どころじゃなく死にかけてな……それでまあ、色々あって強くはなった。ただ一気に強くなりすぎて制御の方がどうもなぁ……」

 

 あと、なんか怪我の治りも早くなったし霊圧の回復も早くなった。ついでに全力で月牙を撃つと黒くなるようにもなった。そしてあの修行の中で、常に覚悟を持って戦うことを覚えさせられた。

 元々浦原さんに教えては貰っていたんだ。恐怖ではなく、覚悟を持って戦う。そうして戦っているうちに、俺は織斑さんの剣から色々な物を教えてもらった。

 

 織斑さんが、俺を殺さないようにするために手加減に手加減を重ねていたこと。殺してしまうことがないように、例え即死一歩手前の傷を負わせたとしても即座に回復させられる準備をしていたこと。そして、修業が一旦終わった今も、俺は織斑さんの本気を一度も引きだせてすらいないと言う事。

 卍解をした。虚化もした。滅却師の力も使った。それでもなお織斑さんには届かない。卍解に虚化を重ねて動血装でさらに速度と力を上げても、織斑さんの動きについていく事はできそうになかった。少なくとも、織斑さんは卍解も虚化も滅却師の力も俺との試合で使う事は無かった。ただの一度も、だ。

 ……いや、本当のことを言おう。俺に対して使った武器は、攻撃能力を持つ織斑さんの始解の中で最も攻撃に向いていない木刀だった。そして俺は、その木刀一本に全力で向かっていったにも拘らず木刀を斬るどころか折ることも、傷をつけることもできないままぼろ負けした。何度も回復してもらって時間一杯戦って、結局傷一つつけるどころかそもそも剣を触れさせることすらできなかった。

 

 ……夜一さんの言うことがよく分かった。これが隊長格。俺達よりずっと長く生きてきて、その時間の多くを己を鍛えるために使い続けた戦闘部隊を率いる存在。正直、俺がどれだけ強くなってもその遥か先に居るのがわかる。織斑さん自身から『俺に勝てる死神は相性の問題で死神相手なら完全に封殺できる王族特務の和尚しかいないから安心していいぞ』とか言われていなかったら正直折れていたかもしれない。

 ついでに今の俺と戦いができるか俺を封殺できる奴について教えてもらった。一番隊の隊長である山本の爺さんこと、山本元柳斎重國。同じく一番隊副隊長、ただしこっちは卍解を使わない制限を設けているらしく、卍解無しなら割と余裕で勝てるだろうと。二番隊の隊長である砕蜂は同じ位置に二度攻撃を受けると問答無用で死ぬ技を使ってくるらしい。霊圧でその技を引っぺがすことができるならそこまで強くないらしいが、そんな霊圧を持っている奴はそういないし俺でも少し難しいらしい。それと四番隊では隊長だけが凄まじく強いらしく、剣技において右にでる者はいないとか。五番隊の隊長である藍染惣右介は割と策士で気が付いたらすべて終わっているような状況にしてくるから注意しなければならないと言うのと、十一番隊の隊長である更木剣八は純粋な戦闘能力だけで言えば死神と言う存在ではトップクラス、十二番隊の隊長である涅マユリは時間を与えれば与えるほど厄介になってくるタイプの研究者らしく、こいつにだけは本当に滅却師の能力を見せてはいけないらしい。

 注意されたのはこれだけだが、逆に言えばこれだけ今の俺でも勝てるかどうかわからない奴がいると言う事。死神としての力だけでも十分戦えると言う話はされたが、限界まで追い詰められたとしても滅却師の能力ではなく虚の方の能力を出せと言われているが……理由はわからない。多分死神が滅却師と敵対関係にあったことが原因なんだろうが、そこまで気を付けなければいけない事なのかは俺にはわからない。

 わからないが……従っておこうと思う。織斑さんの言う事だし、何か理由があるんだろう。面倒臭いとか俺と相性が悪いとか俺と性格的な相性が悪いとか色々。何の理由もないのにそう言うことは言わないだろうしな。ただ、まだまだ経験が足りないから何人か戦いになる相手と戦っておいた方がいいと言われているから適当に出会った相手に挑んで……いや、一番隊の隊長と四番隊の隊長だけはやめておけって言われてた。じゃあその二人以外で適当に何人か選んで戦ってみようか……一番戦って身になる相手は更木剣八だって話だが、凄まじく厄介だからしっかり覚悟をした上で戦いに挑むように言われている。そう言うと言う事は相当強いんだろうが……多分、織斑さんよりは強くない。じゃなかったら薦めたりしないだろうし。

 

 ……つまり、隊長格の中にも強い奴と弱い奴がいる、ってことか? それも実力差が結構ある感じで。それがどの程度かはわからないが、多分戦闘を専門とする隊長とそれ以外の隊長で結構違ったりするんだろう。

 いや、それより今は霊力の操作を何とかしねえと。このままだとまた暴発しそうになるだろうし、そもそもあの大砲の中に入れない。

 




Q.と言う事は他の隊長格ならコンスタントに勝てると?
A.まあ、一応は。ただし浮竹(NOT病弱)と京楽には経験の差でかなり苦戦すると思われます。

Q.白哉相手なら?
A.原作でもあった「あの時、剣を止められていなければ……」が実現しますので勝てます。


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BLEACH~41

 

 side 黒崎一護

 

 五分でできた。ちょれぇ~。あの拷問じみた修行に比べたらちょろすぎて欠伸が出るレベルだ。超ちょれぇ~。これは要するにあれだ、空中に立つ時に霊子を固めて足場を作るのと同じような感じでできるな。込める霊力の量を調節するのが難しいが。

 そんなこんなですぐに出発。一応休みは入れたがそこまで疲れてはいないし、腹も減っていない。……あくまでも俺は、なのでちゃんと休憩はするし飯も食うけどな。

 その間、空鶴さんの弟である岩鷲と話をしたりしたが何とも微妙な対応をされた。こう、普段は荒っぽいことをやっている不良が何とか上辺だけでも取り繕って敬語使って対応されているような感じだ。実際そうなんだろうが。

 

 さて、ともかく俺は今の状態に慣れていかないとならない。身体は眠らせつつ頭の中で霊圧の扱いに慣れていく。そうして慣れさせていった霊圧のを身体に馴染ませて、また頭の中で霊圧を扱っていく。周囲にできるだけ漏らさないように抑えてはいるが、この抑え方だと多分問題が出てくると思うんだよな。斬月のおっさんに頼んで滅却師と同じ方法で抑えているし、なんとか普通の死神と同じように霊圧をできるだけ抑え込めるようにならないといけない。

 まずは呼吸だ。呼吸法によって霊圧の魄動を緩やかなものにする。霊圧ってのは基本はイメージで何とかなるそうだが、流石に何の情報も無くそれだけ言われてやってみろと言われてもできるわけがない。基本だけは教えてもらったからそれをやっていこう。

 

 黒だ。死神としての霊力は、基本的にどこまでも黒い。その黒を、俺は常に身に纏っている。心臓の鼓動と共にゆらゆらと揺らぎながら溢れ続け、揺蕩っている。

 その霊力の波に流れを作る。渦を巻くように俺の身体に引きつけ、鼓動と共にできる波紋を引きつけて圧縮しながら身体の中に飲み込んでいく。ただ霊圧を放つのではなく、放った霊圧を捕らえて集め、身体の周りに集束させる。これでちょっとした鎧のように使える……らしい。織斑さんには木刀でぶった切られたから本当に鎧として使えるのかはわからねえが、多分できるんだろう。多分。

 そうやって馴染ませていくと、いつの間にかしっかりと身体に霊圧が馴染んでいる。この場合は身体にと言うより魂魄にと言った方がいいのかもしれねえが、まあ身体でいいだろ。似たようなもんだ。

 ……霊圧に関しては今のところこれでいい。霊力に関してはなんとかなった。実戦経験は織斑さんのおかげで数えきれないほどさせてもらった。斬月の名前を知り、斬月について知り、斬月のもう一つの名を知り、そして斬月が斬月では無い事も知った。虚の俺が中にいることを知り、虚の俺と戦い、虚の俺に俺自身を認めさせ、戦いの本能を目覚めさせた。そしてその二人から虚と滅却師の力の使い方は教わったし、そこそこならできるようにもなっている。しかし死神としての力だけは俺自身が磨かなければならない。そのための教材として、織斑さんは力を貸してくれていた。

 剣を振るうだけが死神ではないが、剣を振るえないよりは振るえた方がいい。そして斬拳走鬼、剣術と体術、歩法、鬼道の四つのうちできないのが一つだけならば残りの三つを鍛え上げることで穴埋めはできる。そう教えられてから鬼道が苦手な俺に剣術と歩法を叩き込み、ついでに力が付いたと思った俺の鼻っ柱を叩き折るために大量のパンジャンドラムを―――いや、パンジャンドラムについては忘れよう。忘れたい。忘れさせてくれ。

 

『ぱんころ~』

「!!?」

 

 ……幻聴か。幻聴でよかった。いきなり起き上がったせいで岩鷲がなんか驚いた顔で俺を見ているが、俺は気にしない。今はとにかくパンジャンドラムが転がってこないことを喜ぼう。

 

「……なんでそんなにしてまで助けに行くんだ? 休む時間も削って妙なことやってよ」

「あ?」

「そんなに大事か?」

「いや別に」

「あ? じゃああれか、助けてやるとかって約束でも」

「してねえ」

「なら金か!」

「ここと俺らの世界じゃ通貨がちげえから貰ったところで使えねえよ」

 

 ……そう、そんなんじゃねえんだ。約束とか金とか大事な奴だからとか、そんなんじゃねえ。ただ、俺はあいつにでかすぎるくらいでかい借りがあって、それを俺に貸したせいで今処刑されそうになっている。そいつを見殺しにするような男になるのは御免だ。ただ、それだけの話だ。

 結局のところ、俺は俺があいつを助けたいから助けに行くと言うだけの話。誰のためでもなく、俺のための行動だ。虚の俺には馬鹿にされたし、斬月のおっさんにはあまり危ない事はしてほしくないと心配そうな顔をされたんだが、これに関してはどうにも譲れねえ。俺がやると決めたんだから、俺はやる。ここまで来て逃げ帰ったんじゃあ何のためにここまで来たんだって話になるしな。

 

 さて、明日のためにそろそろ寝るか。休むことも戦うためには必要だ。

 




Q.なんだかどんどん変わっていってるような……。
A.まあ未来なんてのは過程が変われば結構変わるものですからね。

Q.霊力ってそんななんだってどこかに描いてあったっけ?
A.オリジナルです。ただ、和尚の力の源が黒であり、和尚は死神相手に負ける事は無いと言う話が合ったので死神の霊力は黒、と言う事にしました。ちなみに一夏の霊圧は結構事由に染め変えれる感じです。


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BLEACH~42

 

 side 黒崎一護

 

 でっかい大砲の中に入って空から瀞霊廷の中にダイナミックエントリー。なお、あの壁から出てた遮魂膜は越えられたがそこで勢いを失って一人で放り出された模様。

 ……井上が心配だ。石田と一緒だから多分大丈夫だとは思うんだが、それでも心配なことに変わりはない。チャドについては負けるところとか想像……織斑さん以外には想像つかねえし、夜一さんは多分大丈夫だろう。経験だったら俺達の誰よりも積んでるだろうし。

 

 そう言う訳で落ちた先はなんかよくわからん端っこの方。霊子を掴んで空中で減速しながら静かに降りたから周りに被害は出てないが、結局場所がわからないしルキアがどこにいるかもわからねえからあまり意味は無さそうだ。

 周りには……とりあえず二人。好戦的そうな坊主頭と……なんか鳥みたいな羽っぽいのが何本か生えてるおかっぱ。

 さて、とりあえず戦いになるだろう。大分好戦的なようだし、ついでに言えば明らかに敵意を向けてきているしな。逃げようとしても追ってくるのは間違いないだろうし、もし俺より強ければ逃げたところで追いつかれる。俺より弱いなら倒して進めばいいだけの話。ともかく……一当たりしてみるか。

 

「……そこの奴。ちょっと聞きたいことがあんだが、いいか?」

「あん? 俺の名前か? 班目一角だ」

「聞きたいのはそれじゃねえよ……戦って俺が勝ったらまた聞くぜ」

「お前にできるのか?」

「やらなきゃなんねえからな。」

「そうか。で。お前は?」

「? ……ああ、黒崎一護だ」

「一護か。いい名前じゃねえか」

「ありがとよ」

 

 じゃあ、始めるか。ルキアの事を考えるのは一旦置いといて、戦闘に集中しねえとな。

 

 

 

 

 

 side 班目一角

 

 黒崎一護と名乗ったそいつが背負った身の丈ほどの大刀を握った瞬間、空気が変わった。まるで更木隊長を目の前にしているかのような圧倒的な存在感。巨大な包丁のような奇妙な刀身に巻かれた布が落ちていくほどにその圧力は強まり、やがて誰もがそれに気を取られてしまうまでに大きくなる。

 そして、一護は小さく刀を横に振った。即座にその場から離れるために跳躍する。

 ―――跳躍、しようとした。しかし、身体が動かない。いや、動いてはいるようだがその動きは嫌に遅く感じる。全速力で、瞬歩まで使って跳躍していると言うのに、まるでナメクジのようにゆっくりと俺の身体は動く。

 俺の意識の中では緩やかに、しかし実際には俺の限界の速度で跳躍した俺の足元を何かが走る。それが俺の足元を越えた次の瞬間に俺の速度が上がり、そして俺の背後の壁が静かに両断された。

 

「おー、避けんのか……やっぱまだまだだな」

 

 再び剣が振るわれ、俺が乗っていた壁が縦に両断される。いや、壁どころかその先の道も建物も、一刀のもとに両断された。

 

「お前……強いな」

「おいおい、まだ一発も当てられない奴に言うのは早いんじゃねえか?」

「こっちはかなりぎりぎりで避けてんだ、誇っていいぜ。俺の所属する十一番隊は護廷きっての戦闘部隊。その中で三席やってる俺を防戦一方にさせるたぁな……」

「……三席? マジか……でも戦闘部隊だろ? 他の隊の副隊長くらいには強いと思っていいよな?」

「……まァな」

 

 戦いの最中とは思えない口調。殺すどころか完全に追い詰められているのがわかる。しかも、明らかに一護は本気を出していない。

 鬼灯丸を呼んで構え、一護の一挙手一投足を観る。ただ、さっきので分かるのは今の俺じゃあ一護には勝てそうもねえと言う事だ。あれを使えば可能性はあるが……使わねえ。絶対に。

 どこまで俺がこいつを測れるかはわからねえが、ともかく戦いだ。正直更木隊長といい勝負ができるんじゃないかと言うくらいだが……始解することで霊圧が上昇している今なら一撃を加えることもできるはずだ。

 踏み込む。瞬歩の最中にさらに瞬歩を重ねて加速する。そのまま鬼灯丸の切先を跳ね上げて顔面に突き立て―――

 

 目が合った。

 

 切先が皮膚に触れる寸前、一護は顔を背けることで刃を躱す。その間もしっかりと俺の事を視界に収めながら、しっかりと俺と目を合わせながらだ。

 腹に衝撃が走る。避けられたのがわかった瞬間に固めてはいたが、一護の……恐らく膝だと思われる衝撃は俺の腹筋を易々と貫いてきた。まるで腹の内側で鬼道が弾けたような感覚。痛いと言うよりも熱いと言う感覚の方が正しいとすら思えるそれを受け、俺は吹き飛び壁に叩き付けられる。致命傷で無いのは感覚的にわかるがそれでも身体が動かなくなる。

 

「かっ……!?」

 

 直後、顔の横に突き立てられる大刀。鬼灯丸を掴んだ腕は片足で抑えられ、一方的に命を握られる感覚。ここまで圧倒的な相手を、俺はほんの数人しか知らない。

 十一番隊隊長、更木剣八。元・十一番隊副隊長であり、現・三番隊隊長、織斑一夏。そして実際に本気で戦っている所を見た事は無いが、一番隊の隊長にして護廷十三隊の総隊長でもある山本元柳斎重國。俺が『測り知れない』と思った相手はこの三人だけだ。

 だが、一護も同じように測り知れない実力を持っている。ならば更木隊長の無聊を慰めることができる相手になるかもしれねえ。

 

「……聞きたいことがあるって言ってたな。なんだ?」

 

 俺は身体に走る痺れるような痛みをこらえながら、一護に問いかけた。

 




Q.この時点で月牙使えるようになってるの?
A.使えはしますが小っちゃく振って斬撃を飛ばしたのはただの剣圧です。

Q.……え?
A.崩玉と融合中の藍染との最後の戦いで剣をぶつけ合わせて山をぶった切った時と同じ、剣圧です。規模は小さめ。


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BLEACH~43

 

 side 織斑一夏

 

 ( ˘ω˘)スヤァ・・・

 ( ˘ω˘)・・・・・・

 ( ゚ω˘)パチッ

 ( ゚ω˘)・・・・・・

 ( ˘ω˘)スヤァ・・・

 

「……ほんまによく寝る人やね」

「今思いっきり目を開けてたけどね……」

「たまに寝たまま動いとるし今更や。ただ寝言には注意せなあかんよ」

「寝言?」

「ぱんころ~」

「逃げるで乱菊」

「なんd……わかった逃げましょ」

 

 この後滅茶苦茶爆発した。

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 ルキアの居場所を聞いた。なんか南に行ったら詰め所があるからその西の端にある白い塔の中にいるらしい。嘘を言いそうなタイプでは無いから信用しても大丈夫だとは思うが、それを言った直後に今回の分のは終わったからともう一回戦うことになるとは思わなかった。今度は真空飛び膝蹴りで気絶させてやった。歯が何本かへし折れたそうだが知らん。

 あとなんかアホ毛っぽいのが何本か生えたおかっぱにも同じように襲われたが、こっちはこっちで殴り倒しておいた。まあ、武器無しでも一応勝てるな、うん。いきなり刃が増えたせいで少々やりにくかったが、まあ隙間に貫手で何とかなった。肉を貫いた感触が生々しいと言うか生臭くて好かないんだが、虚の俺と日々やり合ってたせいで慣れた。ちなみにやられる方も慣れた。あいつ容赦ねえんだもんよ……ちなみに怪我については斬月のおっさんが治してくれた。頭が上がらなさ過ぎてやべえ。

 ……俺も誰かの怪我を治すのができればいいんだが、どうにもなぁ。正直一角が刀に薬を仕込んでおいてくれて助かった。俺の場合は斬月に仕込むのは無理だし、死覇装に仕込んだら卍解の時に消えるから使えねえしで意味がない。だからって石田みたいに鞄みたいのを持つ気にもなれないし、これに関しては諦めることにした。井上みたいな能力に目覚めるのは色々考えて望み薄だしな。

 あと、十一番隊の隊長はやべえと言う情報を貰った。知ってる情報ではあるが、やっぱり相当強いんだろうなとは思う。尸魂界に来た時の俺でも十分強くなったと思ってたんだが、織斑さんから付けられた修行であの時の俺とかゴミだったと言えるくらいに強くなり、更に今の俺と十分戦えるだろう奴が瀞霊廷に何人もいると言う。それどころか俺でも手が届かないほど強い相手すらもいるとか。瀞霊廷やべえな。

 

 さてそれはそうと俺もここでいつまでも動かないでいることはできない。ボロボロではあるが一角達も起きたし、さっさとあの白い塔を目指していこう。南行って、建物の群れが見えたら西だったな。端っこの方に白い塔が建ってる、と。

 だが、とりあえず走ってみたが中々広い。門から門まで歩いて十日、円の周径は直径の3.2倍程度として壁を伝って一周するのにおよそ四十日。つまり直径は歩いておおよそ12日って所だ。瞬歩を使って全速力で移動すればそこそこ短い時間で到着するだろうが、瞬歩は霊圧の感知に引っかかるらしいから見つかる可能性がある。

 それに、他の奴らも見つけねえといけないしな。チャドは平気だろうが石田や井上は……まあ、頭がいいから大丈夫だとは思うが心配だ。できるだけ早いとこ合流したい。夜一さん? 大丈夫だろう。何しろ昔二番隊で隊長やってたらしいし。ただ、猫なのによくそんなことできるよな。

 

 しかし本当に広い。ここまで広い場所をあれだけの高さの壁で覆うとなるといったいどんだけの労力が必要になるんだろうな。しかも使った物が霊力を完全に遮断する殺気石。かなり特殊な方法を使わなければあんな綺麗な壁を作り上げるなんてことはできないだろう。兕丹坊でも削れたんだから削るくらいは簡単にできるのかもしれないが。

 ……と言うか、兕丹坊に削れるんだったら結構普通に削り切れるってことじゃないか? 壁を削り切ったとしても遮魂膜はあるだろうから入れないままかもしれないが、もしも全体を均等に同時に削り続けることができれば中に入ること自体は案外簡単なのでは……? まあ、だからこそあれだけの大きさの壁になっているんだろうが。

 

 ともかく適当に南に……南ってこっちだよな? こっち南で合ってるよな? 一角は端の方に居たそうだし、壁とは逆側に走ったんだが合ってるよな? 壁は見えたがその周りに白い塔とか見えなかったし多分合ってるはずだ。もし違ってたらまた適当に誰か捕まえて聞くしかねえ。

 

 と、そんな感じで走ってたら確かに人混みが見えた。それも多くの死神が出入りしている建物もだ。多分あそこが隊の詰め所って奴だろう。

 そうなると今走ってきた方が北だから、西は右側か。よーし大体わかった。後は白い塔が見えてきたらそこに向かうだけだな。

 

 ……ただ、どうも俺も見つかったらしい。霊圧は消しているんだがこうやって堂々と姿を見せたらそりゃ見つかるだろうし、ついでに俺の髪の色ってかなり目立つから味方に居れば少しくらい話に出てもおかしくない。それが無いならまず間違いなく味方ではないと思われるだろう。侵入したのはバレてるわけだしな。

 仕方ない。ともかく走って撒くとしようか。撒けるかどうかはわからないが、最悪ぶった切ろう。

 




Q.待って一護かなり強くね? 原作でどのあたりくらいの強さ?
A.前にどこかで言った気もしますが虚圏編で現世に返ってきた時以上月牙になった時以下です。

Q.もっと具体的に。
A.断界で修業して刃を受け入れた直後よりは弱いですが、とりあえず藍染を始解状態でギリ斬れる程度。なおそこまで強くなっても現在の剣八は始解じゃどう頑張っても斬れない模様。


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BLEACH~44

 

 side 黒崎一護

 

 漸くと言うかなんと言うか、白い塔が見えてきた。あそこにルキアがいるはずだが……多分あの建物も殺気石だよな? どうやって入る?

 ……いや、それより前に、その前に立ってるあいつを何とかしないとな。

 

「……久しぶりだな。俺の顔を憶えてるか?」

「忘れようにも忘れられねえよ……阿散井恋次」

 

 俺はあの時より強くなった。だが、織斑さん曰く副隊長より上の席次だと現世に行く時には霊圧を五分の一まで抑える限定霊印とか言うのを付けられるらしい。つまり恋次も白哉も霊圧はあの時の五倍。今の俺が勝てるかどうかはわからない。

 ただ、一角と弓親のおかげで身体の調子にも慣れてきたし、感覚も戻ってきた。今なら多分一角の時よりもう少し力を出しても大丈夫だろう。少なくとも俺自身の霊圧に身体や骨が負けて軋むとか痛むとかそう言うのは無さそうだ。いや、あまり出しすぎたらどうなるかわかんねえけどな。

 

 身体の調子も確認できた。それより今は戦いだ。斬月に巻かれた布を払い、構える。そして切先を恋次の身体の中心に向けて、全体を眺める。

 

 ―――斬る。

 

 身体が勝手に動くような奇妙な感覚。織斑さんに叩き込まれた瞬歩と飛廉脚の合わせ技。相手が本気を出していないとか、斬魄刀の始解をしていないとかは関係ない。戦いになるとわかっているのにまだしていないそいつが悪い。そう思うように織斑さんに教え込まれた。本気を出していないからとか、そう言うのはいらない。自分に負担がかかるほどの物を常にやる必要はないが、自分に負担がかからない程度の備えはいつでもしておくべきだと。

 だから、俺はまだ戦いの準備を終えていない恋次を斬った(・・・)。会話を続けようとしていたが、容赦なく。斬魄刀を抜こうとした体勢のまま半ばまで鞘に収まった斬魄刀ごと、胴を薙いだ。

 

 恋次の斬魄刀は砕け折れ、恋次自身も脇腹から血を流す。かなり深めに斬ったし、内臓が一部損傷しているかもしれない。

 

「ごばぁっ!!?」

「悪いが、俺は止まれねえんだよ、恋次。ルキアを助けに来たからな」

「が、ぐぅ……っ!て、めえのせいで!ルキアは処刑されるってのにか!」

「だから助けに来たんだろうが。何のために何十回も何百回も死ぬような思いして強くなったと思ってんだよ」

 

 ……正直、内容を思い出すだけで目が死ぬよな。いやマジで。具体的にどこがどうやばいとかじゃなく、もう全体的に全てがやばい。あとイギリスのとある欠陥兵器に詳しくなった。

 だが、あの時には手も足も出なかった恋次に勝てた。いくら始解をしていなかったとしても、あの時の五倍の霊力量の恋次が相手でもこうして勝てる程度に強くなっている。織斑さんには本当に頭が上がらない。

 

「俺はルキアを助ける。そう誓ったんだから助けるさ」

「誓い、だァ……? 何に、だよ」

「俺の魂にだ」

 

 さて、恋次はこのまま置いといたら間違いなく死ぬな……仕方ないから近くにいる奴を適当に攫ってきて治させるか。あ、いや、治せる奴って少ないんだっけか。じゃあ攫ってくるんじゃなく恋次を適当な奴に押し付けた方が早いか?

 鞘ごと叩き切った刀と一緒に恋次を担ぐ。そしてそのまま霊圧を探ってこの近くで集団から離れたところに居てかつ移動を続けているやつを探る。俺達が派手に突入したもんだから今はどこでも騒ぎが起きていて、そのせいだろうが一人で移動している奴はほとんどいない。一人だったとしてもその周りには誰かがいることが大半で俺が望んでいるような状態の奴は……あ、居た。

 

 走る。恋次の身体がどんどんと冷たくなっていくような気がするが、あんだけ血を流せばこうなるのも当然っちゃ当然か。

 そしてそいつの目の前に降りると、そいつはぽかんと俺を見上げる。まあ、結構な勢いで落ちてきたからな。戦い慣れてない奴だったらこうやって呆然としてもおかしかねえか。

 

「なあ、あんた」

「ひゃっ!ひゃいっ!」

「声裏返ってんぞ……まあいいや。あんた怪我とか治せるか?」

「へ……は、はい!僕は四番隊ですから、よっぽど酷くなければ……」

「お、そうか。じゃあちょうどいいな。こいつ頼むわ」

 

 恋次をポイっと渡しておく。体重が結構あるから受け止め切れなかったらしいそいつは尻もちをついたが、すぐに状態がかなり悪いと言うことに気付いて治療を始めた。こいつ、内臓に届くような怪我でも治せんのか。すげえなオイ。井上なら……あ、井上も焦ってなければできそうだわ。

 

 ここにもう用はない。俺はルキアを助けに行こう。

 

「あの、あなたは……?」

「黒崎一護。ちょっと知り合いを助けに来ただけだ」

「知り合い……?」

「ルキアって奴だ」

「ルキア……四季崎ルキアさん、ですか?」

「……知り合いか?」

「ええ、少し。……阿散井副隊長を治すまで、待っててもらえませんか」

「なんでだよ?」

「ルキアさんの居る懺罪宮の鍵……僕ならご用意できます」

 

 ……。

 

 そいつは恋次の傷を治しながら、俺の事をじっと見つめる。

 

「初めまして。僕は、山田花太郎。四番隊の第七席で、ルキアさんと色々お話をする程度の仲です」

「……もう一度言うが、俺は黒崎一護。現世であいつに助けられてな。俺を助けたことが原因で処刑されそうになってると聞いたから、俺にできることはやっとこうと思ってる」

「そうですか……それじゃあ、よろしくお願いしますね。一護さん」

 

 花太郎は俺を見て、幸薄そうな儚げな笑顔を浮かべた。

 




Q.……四季崎?
A.この世界のルキアは朽木家に引き取られてはいません。そして一夏は自分の斬魄刀として扱っている完成系変体刀十二本から自分の作り上げた集落を四季崎と呼んでいます。苗字のない人はそこから名字を付けられます。

Q.でも恋次は阿散井なのね?
A.そう名乗ってますからね。ルキアの旧姓とか知りませんのでとりあえずそう言う設定にしました。


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BLEACH~45

 

 side 茶渡泰虎

 

 ばらばらに落ちてしまった。一護が一人で落ち、夜一さんもまた別の方向に。石田と井上が一緒なのは本当に良かった。石田は死神相手には加減をしないだろうから、井上をしっかりと守ってくれるだろう。

 それに、一護については何の心配もいらないだろう。一護は強くなった。多分、俺達の中で一番伸びたのは一護だろうし、一番強くなったのも一護だろう。俺も完現術と言う物を覚え、死神が使うような瞬歩とはまた違う形での高速移動ができるようになっているとはいえ、今の一護に追いつける自信はない。もう少しで今の俺の能力が殻を割るような感覚があるが、なんと言うか今の俺には何かが決定的に足りていないと言う事だけがわかった。

 織斑さんが言っていたように俺の能力が虚に近いものだとするならば……俺の能力を完全な物にするには虚についてよく知る必要があるのではないかと思う。

 

 ……ともかく、今は戦いだ。右の拳に力を込めて、一護のために敵を殴り飛ばす。数が多ければただ殴るのではなく霊圧の塊を撃ち出すことで纏めて排除し、数が多くなければ一撃ずつ腹に拳を叩き込んで終わらせる。気絶させないように無力化させるつもりだったが、俺も一護ほどではないにしろ大分力が強くなったことで上手く加減ができていない。これでは四季崎ルキアの居場所がわからないんだが……仕方がない、俺にできる範囲で何とかするしかない。

 地面を完現術(フルブリング)して反発力を上げて速度を上げる。靴を完現術して衝撃を俺の足にまで届かないようにしつつ反転させてさらに速度を上げる。右腕の肌は黒を主体とした硬質な物に形を変え、左腕には未だ完現術として完成とは言えない僅かな完現術の光が纏わりついている。そのせいか左の拳も以前より威力が出るようになっているようだが、未だ完成には至らない。

 

 立ち塞がる男たちをなぎ倒し、時には女であってもなぎ倒し、傷の浅そうなやつを起こして問いかける……が、大抵の奴はそのまま何も言わずに気絶するか既に気絶してしばらく起きそうにないような奴ばかり。もう少し加減して相手をしなければならないが……しかし俺以上に強い奴は瀞霊廷には結構いると織斑さんに聞かされている。つまり、できるだけ最初から相手を殺さない程度に全力でやるのが一番だと言うことになる。中々要求としてはきついが不可能ではないはずだ。本当に強い相手に突然あたりでもしない限りは。

 瀞霊廷内には数多くの死神がいる。そしてその死神の殆どは今の俺より弱いそうだが、基本的に隊長を相手にしたら勝てないと思い、副隊長を相手にしたら命を懸ける戦闘をすれば勝率が五分五分と言ったところだとか。三席以下なら大体は勝てるだろうが、十一番隊なら三席でも相手をするとわりと難しいらしい。

 

 十三隊のそれぞれのトップ、つまり十三人だが織斑さんは休暇中と言う事でいないから実質十二。副隊長がそれぞれの隊に一人、十三人。これで合計は二十五人。そしてこの二十五人と鉢合わせすることなく抜けられる道を見つけなければいけないわけだ。

 俺は今どこにいるかもわからない。落ちる時におおよその位置は見てきたつもりだったが、縮尺がうまく合わないせいか迷ってしまっている。一護の霊圧が消える気配が全くないのが救いだが、どうやっているのか一護の霊圧があると言う事はわかるんだがその霊圧の元がどこにあるのかと言うのは全くわからない。石田の霊圧もわからないから何かあるのかもしれないな。

 井上の霊圧は小さすぎてわからない。一護の霊圧はあるのはわかるがどこかわからない。石田の霊圧は恐らく弓矢を作らなければ発される事は無いだろうし、夜一さんの霊圧はここに来る前からほとんど感じ取れない。恐らく何らかの方法で霊圧を隠しているのだろうが、どうやっているのかは不明だ。つまり、今の俺は運任せにするくらいしか合流するための方法を持たないと言う事だ。

 

 ともかく今はできることをする。俺がこうして多く倒していけばそれだけ他にかかる追手が減る。つまりそれだけ他の奴が安全に行動できるようになる。ならば俺は向かってくる奴はできるだけ殺さないように気を付けながら、けれど逃がすこともないようにしつつ倒していこう。

 ……単純に小さい霊圧と、大きい霊圧を抑え込んでいる霊圧の差も何となく理解することができてきた。だったら俺じゃあ手が届かないような奴は後に回すか、もしくは全力で逃げ回るかのどちらか。完現術について知ってから霊圧を抑えるのもやりやすくなってきたから逃げ回るだけなら十分にできそうではあるが……一護の助けになるためには積極的に手数を減らさせていった方がいいんだろうな。

 

 自分のためではなく、一護のためにこの拳を振るう。俺は一護にそう誓った。一護が俺のために命を懸けてくれた。だから俺も一護が命を懸けて守りたいものがあるなら、そのために命を懸ける。そのことに何の躊躇もない。

 

 さあ、戦おう。

 




Q.チャドさん男前っすね?
A.原作でも男前でしたからね。

Q.チャドの強さはどのあたりで?
A.おおよそ虚圏突入寸前です。しかしここから少し変わってきます。


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BLEACH~46

 

 side 石田雨竜

 

 霊子を集束し、矢を番え、撃つ。この三つの工程を一息でできるようになるまで、僕はそれなりの時間をかけた。そんな僕の目の前で『態々弓使うとかしゃらくさい、霊子操作で矢だけ出して矢だけ撃ち出せばいいじゃん』とか言いやがった挙句に実行して成功させたのが織斑さんだ。滅却師を何度も見てその力を真似たと言っていたが、どう考えてもおかしい。滅却師は種族だ。ならば織斑さんにも滅却師の血が流れていると考えるのが正しいはずだが、なんと織斑さんは滅却師の祖が生まれる以前に生まれ、そして死んでいると言っていた。つまり、滅却師の祖の血を引いていることは絶対にありえないと言うことになる。

 ならばどういうことか。それはつまり、織斑さんは滅却師の祖と同じように滅却師としての力を血縁ではなく持っていたと言うことになる。織斑さんが新たな滅却師の祖となるのか……間違いなく酷いことになるだろうな。霊子の隷属ができるようになるまで滅却師と名乗らせてもらえなさそうだ。

 

 まあそれはともかく、目の前の卑怯で汚い死神を撃つべし!撃つべし!本当なら秒間に千発ほど打ち込んで挽肉未満の蛋白質の塊に変えてやりたいところだけれど、井上さんの目の前でそれはまずいと言うことくらいはわかる。もし本当に実行したとしても、今の井上さんならそれでも治せてしまいそうだしね。

 けれど、やはりこの服は死神の中では非常に目立つようだ。何しろ相手は全員が死神で、死覇装を着ている。一部の例外もあるが、その中で目に付くことがあるのは全員が隊長格。隊長格の顔を知らないものなどそうはいない。となると、どこかで調達してくるべきなんだろうけど……そこら中にあるから適当に見繕えばいいかな?

 

 ……いや、適当に見繕うんじゃ駄目だ。まず、死覇装の内側にどこかの隊の隊章があるのと、それぞれの隊によって特色のある装備をしているはずだ。狙い目は……四番隊、だろうか。四番隊は他の隊と違って治療に特化した隊で、戦闘力については低いものが多いらしい。唯一隊長だけは非常に強く、織斑さんと戦いの体を成すことができるくらいの実力はあるらしいからそこは避けて……特殊な装備については治療用の道具の詰まった鞄のような物を持っているらしいからそれも一緒に奪い取ればいい。そして治療班として走り回っているように見せかければどこを動いていてもそうそう怪しまれることはない……はずだ。

 一番やってはいけないのは、十二番隊の隊員の死覇装を奪うこと。織斑さん曰く、十二番隊の隊長はマッドサイエンティストで人情なんてものを初めから持ち合わせておらず、隊員に爆弾を仕込んで近付け、爆破してきたりすることも十分に考えられる相手だとか。そんな奴だからまず間違いなく自分の隊の隊員の持ち物には発信機や盗聴機などを仕込んでいるだろうし、戦った相手の情報を収集して自分の手元に送る細菌のような物を感染させていたとしても何もおかしくないような奴らしい。

 初めて聞いた時にはそんな奴がいるのかと思ったものだが、研究者なんてのは一皮剥けばどこまでも自分勝手な奴ばかりだと言い切られてしまった。ちなみに織斑さんも多少被害に遭ったことがあるらしい。具体的な被害の内容は教えてもらえなかったけれど、反撃はしたそうだ。

 

 その作戦を井上さんに伝え、霊圧をできるだけ隠しながらこっそりと移動する。僕は滅却師だからそこまで気にしないでも霊圧は発するものではなく集めるものだから矢を出していない限りはそうそう感知される事は無いけれど、井上さんはそう言う訳にもいかないからね。

 そして四番隊らしき人達を見つけたらその人たちが二人以下になる時を狙って襲い掛かり、縛り上げて死覇装を奪う。そしたら着替え……着替え……草履履くの難しいな……あと着替えの位置が普通逆だと思うんだけど……いや、井上さんがいいなら別にいいんだけどね?

 

 ともかく、これである程度バレにくい状態を作ることができた。設定上では僕たちは四番隊で、とにかく走り回って怪我人を探している状態。これならある程度単独行動になってもおかしくは無いから大丈夫……のはずだ。

 

 ……ついでだし、今からでも少しずつ織斑さんの真似をして霊子を分解しながら周りに漂わせておこうか。形にしないことで戦闘準備が終わっていることを悟らせたりしないで済むし、一発くらいなら弓を使わずに先制できるかもしれない。織斑さんと違って僕は不器用だから弓を使わず矢だけを作って撃ち出したりするのは難しい。散霊手套を七割から八割ほど脱げば可能だとは思うが、今の僕の限界は半分までだ。それ以上散霊手套を外すと僕の制御能力を超えてしまい、力を失うことになる。

 なお、もし本当に失ったら戻してやれるからおいでと言われた。そして修行中に本当に戻してもらえた。体力と精神力を限界まで削った状態でとある部分に霊弓の一撃を受けるのが霊力を取り戻す唯一の方法だとかわかるはずがない。実際に取り戻した以上は信じざるを得ないわけだけれど、本当にあれは何なんだろうね……? それ以上に織斑さんって本当になんなんだろうね……? 本人は『ちょっと長く生きているだけの一般的な死神』とか言ってたけど絶対嘘だゾ。

 




Q.卑怯な死神……ああ、あれ。
A.そう、あれ。

Q.ちなみに結局どこの隊のを取ったの?
A.四番隊です。


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BLEACH~47

 

 side 四楓院夜一

 

「夜一様!夜一様!夜一様!夜一様ぁあああぁぁわぁああああああああああああああああああああああん!!!あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!夜一様夜一様夜一様ぁぁあぁわぁああああ!!!あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくんんはぁっ!夜一様の射干玉のような御髪をクンカクンカするお!クンカクンカ!あぁあ!!間違えた!モフモフするお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!織斑が言ってた通り夜一様が来てくれたぁぁ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!浦原から逃れられて良かったね夜一様!あぁあああああ!麗しい!夜一様!美しい!あっああぁああ!」

「……」(死んだ目)

 

 一護たちと分断され、瀞霊廷内で姿をくらませようとした瞬間、砕蜂に捕らえられた。それも、儂が夜一だと理解した上でだ。

 そして今、猫の状態の儂の腹に顔を埋めながらすーはーすーはークンカクンカと儂の匂いを肺一杯に取り込もうとしておる。どうしてこうなった……? あと浦原とは特に何も無いから安心せい。

 

 ぽす、と肉球で頭を叩いてみるが、それをする度に『ああぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ夜一様の肉球が私の髪に触ってる!触っちゃってる!フォェェェェェェェイ!!』とテンションが急上昇してしまうため何もできない。あと砕蜂は随分と腕を上げたようじゃ。この身体とは言え儂が逃げ切ることができんとはの。

 

『その砕蝶は俺が鍛えた!』

 ふざけるでない。と言うかどこから声が……いや違う、これ声じゃない。なんかよくわからんがなんか通じている。理由はわからんし解決方法も解らん。あと砕蝶ではなく砕蜂じゃ。

 と言うか、なんぞ風の瞬閧を纏ってこちらの行動を絡めとったり動きの起点を潰されたりするせいで抱き着かれた状態からほとんど動けんのじゃが?

『それの練り上げも俺が案を出して目の前でやってみせた!疲れた!』

 死ね。頼むから死ね。なんという事をやらかしてくれよったんじゃ本気で死ね。

『いやだってお前らが俺に仕事を押し付けていくから……当時俺がした苦労分を補填してくれたっていいだろ?』

 どう考えてもこれの方がきついような気がするんじゃが……と言うか会話になっとるのはなぜじゃ?

『あれだよあれ、ほらあれ』

 どれじゃ!?

『なんか気合で何とかなる系統の奴だよ。わかるだろ?』

 わかるかっ!!と言うかこやつをこうしたのがお前なら何とかできるじゃろ!? なんとかせんか!

『いやぁ、俺は今寝てるし無理かな? まああれだ、何も言わずに出て行ったのが原因なんだから諦めて受け入れてやれよ。とりあえず適当に頭でも撫でてやんな。夜一成分を十分に摂取したら治るさ。多分』

 儂の成分ってなんじゃ!?

『あ、ごめん俺これから夢の中でパンジャン転がし祭りを開かないといけないから時間無くなるわ。じゃあな』

 待て織斑!織斑ァァァァァ!!!?

 

 ……あやつの声が消えよった。どうやら本当に儂を置いて行ったようじゃな。今度会った時に何してくれようか……。

 

「……失礼いたしました、夜一様。久し振りの純夜一様成分の補給だったものでつい暴走してしまいました」

「純な儂の成分ってなんじゃ……」

「ですがもう大丈夫です。純粋な夜一様成分を取り込んだことで私の調子は最高潮、今ならどんなことでもできるような気がいたします。さあ、浦原の奴を殺しにまいりましょう!」

「いやいや違うぞ!? 儂が尸魂界に戻ってきた理由はそうではない!」

「……? !もしや、私に会いに来てくださったのですか!?」

「全くの0ではなかったが会えればいいな程度の感覚であったわ」

「やはり私と夜一様は両想い……!」

「その両想いは一般的に使われるそれと意味が違うような気もするがまあ間違ってはおらんの」

「ああぁあぁぁぁぁぁああああぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁああああl!!!」ビクンビクン

 

 うわぁ……なぜこんなになるまで放っておいたんじゃ織斑の奴……最終的に儂に擦り付けるのだからと手を抜いたか? あるいはむしろ手をかけさせるためにこんなにした可能性もある。おのれ織斑め……!

 ……だが、今行われている行動で分かった。間違いなく砕蜂は今の儂よりも強い。百年の錆は織斑に何度か殺されかけて落としきったが、正直雷獣戦形をやったにもかかわらず『よーしよしよしよし』とかされて無力化されるとは思っておらなんだ。あと正直儂自身の織斑に対する好感度があそこまで高いとも思っておらんかった。儂の雷獣戦形は気分で色々変わるのは知っとったが、まさかああなるとは全く思っておらんかった。

 それに、好感度が高いと言ってもそれも気分で変わる物だとばかり思っていたんじゃが……本能が強く出すぎるせいで攻撃に行くどころか媚びに行くとは思わんかった。ただし織斑もそうなるとは思っていなかったようで眉間を人差し指で抑えておったのを覚えておる。そして雷獣戦形の儂はその指の上から同じように指をぐりぐりと押し付けておったな。

 

 ……よし忘れよう。忘れたい。全力で忘れたいから忘れることにした忘れた。よし。

 

「砕蜂。少し手伝え」

「はっ!」

 

 ……刑軍の統括がこれでいいのかの? 駄目な気がするんじゃがなぁ……。

 




Q.もうこれ駄目じゃね?
A.完全に駄目ですありがとうございました。

Q.と言うか速攻捕まったんか……。
A.降りようとしたらそこで超いい笑顔で待ち構えられ、そこから術で移動したら移動先で捕まりました。


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BLEACH~48

 

 side 織斑一夏

 

 瀞霊廷内にて戦闘が多数勃発。死神達は手痛く負け、旅禍は無傷と言ってもいい状況で一日目が終了した。そして二日目に事態は移り変わっていく。あとなんか十一番隊が大分損耗したのと、一部の上位席官がボコられていたので多分大きな騒ぎになるだろう。上位席官は俺は大体五席以上って認識で、隊長格と言うと副隊長以上って認識だ。まあ十一番隊の五席と三席、六番隊の副隊長、七番隊の四席などなど、被害は甚大だな。

 あと、俺が休み取ってるにも拘らず呼び戻そうとしていたが、集落に入れる入れないは俺の意思によるので俺を呼びに来る奴は入れないようにすればそれで済むわな。

 

 二日目。五番隊の副隊長が朝っぱらから悲鳴を上げる。多分藍染の死体を見つけたんだろうが、残念ながら俺にはわからない。なぜなら俺にはそもそも鏡花水月が効かないせいで藍染が見せようとしている幻覚にかからないからだ。

 それもあって藍染は俺に長期休暇を取らせるために早目に四十六室を壊滅させて成り代わってたんだろうが、策としてはかなり優秀だと思うぞ。早めの行動は大切だ。

 

 ここまでは大体原作と同じなんだが、ここから色々と変わってきている。なにしろ怪しまれていた三番隊の隊長はギンじゃなくて俺になっているし、十番隊の副隊長も変わっているからな。と言うかはっきり言って俺が初日で外にいる時点で色々と原作がぶっ壊れていないはずがないんだよ。なにしろ俺も一応隊長格なもんで。

 怪しまれたのは俺ではないし、三番隊でもない。と言うか殺されたのはまず確実だったとしても誰に殺されたのかはわからない状態だ。旅禍が怪しいと言う者もいたようだが、それはまずありえないと言うお墨付きがある。黒い猫を膝に乗せて撫で続けている二番隊の隊長からの発言だが、少なくとも瀞霊廷の中央部に旅禍が侵入した形跡はないとのこと。実際には膝に乗ってる黒猫は旅禍扱いされている猫一なんだが、まあ気にしてはいけない。

 まあそんなこんなで戦時特例により斬魄刀の常時帯刀と解放が許されたわけなんだが、正直心底どうでもいい。現状俺にはほとんど関係ないし、猫一によって二番隊が丸々手に入ったような状況にあるからある程度自由に動き回ることができるようになっているだろう。二番隊の警邏をやっているのは副隊長が率いる警邏隊だが、基本的に探し物がとても上手な奴らで構成されている。そんな奴らに見つかったとしても積極的に手を出されることがないと言うのは侵入者としては幸運なことだろう。

 

 ここから一体どうなるか。色々と原作がぶち砕かれているから原作通りになることはまずありえないと思っていいが、それでもある程度は踏襲することになるだろう。猫一が主人公を助けに行けるかどうかはわからないがな。だって砕蝶がいるし。抱き着かれてるし。振りほどけないようだし。

 霊圧は瀞霊廷を囲む壁によって阻まれているからわからんが、気配の方は普通にわかるんたよな。命の気配じゃなくて霊的な気配だから感知方法が少し違うんだが、できないわけじゃない。これでもそれなりに霊とか神とか悪魔とかがいる世界を渡り歩いているからな。

 

 ここからどうなるのかを楽しみにしつつ、とりあえず俺は五度寝をすることにした。

 

「……あ、また寝た。あの人ほんま飯より寝るのが好きなんやな」

「霊力はあるはずなのにどうして食べないでやっていけるのかしらね?」

「あー、確か……霊圧と言う形で外に放出するから腹が減るんだから霊圧を出さないようにすれば腹は減らないとか何とかいっとった気がする。真似ようとして見たけど無理やった」

「ギン、あんたね……無理な物は無理なんだから無茶したら駄目よ? 子供たちも真似するんだから」

「あらら、怒られてもうた」

 

 いちゃいちゃしやがって。これはあれだな、こいつらが末永く爆発するように立派なパンジャンドラムを作って爆破させるしかないな。

 そうだな、まずは中心に火薬玉を仕込んだ黒曜石を大量に用意し、それを本体の爆弾の周囲に配置していく。この状態で本体の爆弾が爆発したら周囲に黒曜石の球が飛び散るようになるわけだが、このままだと本体の爆弾が爆発した時に黒曜石の方の火薬玉も一緒に爆発して被害半径はあまり大きくならなさそうだからそのあたりにも改造が必要だろう。

 理想は爆弾で黒曜石の球体を周囲にある程度飛ばしてからそこで火薬玉で爆破する、いわば打ち上げ花火みたいのになってくれるのが一番なんだが、あれはある意味芸術品だからな。純粋な火薬玉だけであんなのは俺にはちょっと無理。なのでいつもの通りに『そう言う物』として出してしまう。そうすればちゃんとした爆弾と火薬玉でなくても花火のように良い感じになるだろう。

 そしてそのままだとクラスター爆弾のように破片を周囲に撒き散らすものになるので、ちゃんと燃焼もするようにしたい。そう言う訳でナパームを用意して火薬玉の周囲にくっつけておく。上手いこと爆発すれば黒曜石の破片がクラスター爆弾の破片として飛び散り、砕けながらナパームによって燃焼するようになるはずだ。

 

「……ギン。なんかやばいものが作り上げられている気がするんだけど」

「あァ、こらあかん、サーキュラーソー式オブシディアンクラスターパンジャンやな。逃げるで」

「なんだかよくわからないけどとりあえず危ないってことだけはわかったわ」

 

 この後無茶苦茶パンジャンフォー。

 




Q.どうして今回の一夏はよくパンジャンドラムを作るのですか?
A.『今回のギャグに使うネタはそれにしようぜ』という天啓と、とある動画との出会いが原因です。

Q.どういう事やねん。
A.気になった方はニコニコ動画で『マーマイト茜』で検索検索ゥ!その結果何が起きても自己責任でお願いします。


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BLEACH~49

 

 side 黒崎一護

 

 山田花太郎。恋次を預けようとしたらなんでか協力してくれると言ってきたそいつに連れられて地下通路に入る。ここにルキアの牢に入るための鍵があるらしいんだが、俺にはどれが何だかさっぱりわからねえ。

 

「……なあ、なんでお前は協力しようと思ったんだ? 俺一応旅禍だぞ?」

「あはは……ちょっとだけ、付き合いがあったんですよ」

 

 そう呟いて、花太郎は話をしてくれた。ルキアが懺罪宮に入る前に六番隊の隊舎牢に居たこと。そして花太郎がそこの清掃を任されていたこと。話しかけて、優しくしてもらったこと。少しずつ打ち解けていき、色々な話をしたこと。

 そして、その話の内容の多くが俺の事だったと言う事。

 

 ……ほんと、馬鹿野郎だ。いや、男じゃねえから野郎ではないかもしれないが、ともかく馬鹿だ。そしてそんな馬鹿を助けようとここで色々とやってる俺もまた同じくらいの馬鹿野郎なんだろうな。

 だが、今は疲れた。周囲の警戒を続けながら慣れない瞬歩を連続して使い、その上戦闘を四回。しかもそのうち一回は集中力を限界付近まで引き上げた超加速状態だ。一瞬しか使わなかったとはいえ、流石に疲れた。身体の状態には慣れたつもりでいたんだが、流石にまだ無理があったか。

 

 身体の状態は悪くないが、良くもない。軋むほどの負担はかかっていないが、じくじくと蝕むような痛みはある。俺の意思で静血装を常時発動できていれば自分の霊圧や動きで身体が軋むような事は無くなるんだろうが、瀞霊廷の中にいる間は滅却師としての力は極力使わないようにすると約束しちまったからな。そもそも俺じゃなくってまだ斬月のおっさんの方に力を貸してもらわないと使えねえし。

 斬月を両膝に乗せて刃禅をする。こうしていれば身体は休まるし、頭の中で修業もできる。出ようとすればすぐに出れるようにもしてあるから大丈夫だろう。少なくとも感知能力に関しては俺よりよっぽど上手い奴が二人も揃ってる。

 

「……花太郎」

「! はい、なんでしょう?」

「……少し、休む」

 

 返事を聞くことも無く意識を内側に仕舞い込む。そうして俺が目を開けると、そこにはすでに見慣れた俺の精神世界が広がっていた。

 そして、そこには俺を除いて三つの影があった。

 

「よう、また来たのか、王よ」

 

 虚の俺。ある意味じゃ俺の戦い方の師匠とも言える存在。こいつにはこいつの思惑があると言うのはわかっているが、結局のところ俺が強くなれば同じだけ強くなる以上本能によって俺が騎馬になるか王になるかが決まると言う。理屈はわからなくもないが、負ける気はない。

 

「さて、ここに来たと言う事は修業の続きか? 身体を休めながらなのだろうが、最悪の場合身体の方に傷がつくことは覚えておけよ」

 

 斬月のおっさん。本当の名はユーハバッハと言うらしいが、俺にとってはやっぱり斬月だ。滅却師の力の制御を教えてくれている。

 

「精神修行なら任せろ。態々俺に感染してまで力を求めるような奴は中々いないからな。手伝えるだけ手伝ってやるよ」

 

 織斑さん……の姿をしているが、実際には織斑さんではない。織斑さんの斬魄刀の開放形態の一つ、毒刀の名を持つ刀、鍍。刀を握れば人を斬りたくなる、刀の毒そのものとも言えるそれを俺は受け取り、そしてその毒を飲み干した。お陰で俺は他人を斬ることも他人に斬られることも躊躇わずに済んでいる。

 ただ、この毒は少しずつ薄れて行っている。この毒が完全に無くなる前に、俺はしっかりと他人を斬ること、そして自分も斬られることについて覚悟を決めなければならない。

 ……しっかし織斑さんの刀ってどこまで無茶苦茶なんだろうな。驚きだよマジで。

 

 さてさっきも言った通り、ここは俺の精神世界だ。それさえわかっていれば俺はこの世界では何でもできる。自分を一度三人に分けて、ここに居る三人の教師にそれぞれの事を習って統合することもできる。その状態で戦うと当然弱くなるが、まあ仕方ない。意志で強さをある程度ひっくり返せるこの場所で虚の俺と戦って引き分けるくらいのことができないんだったら、ルキアを助けることなんざ夢のまた夢みたいなものだろう。

 

「また頼む」

 

「おう、今回も念入りに殺してやるよ」

「わかった。私の知る全てを教えよう」

「無論だ。俺を乗り越えて見せろよ」

 

 こうして俺の修行は未だ続く。虚の俺を降し、斬月のおっさんから学べるだけ学び、鍍の毒を飲み干して精神を鍛え上げる。恐怖を殺すのではなく手懐け、力をただ振るうのではなく自在に操り、無数の経験を積み続けていく。届かない星に手を伸ばすようにと織斑さんは表現したが、俺にとって星は届かないものではない。必ず、ルキアを救い出して見せる。俺が俺にそう決めた以上、俺は絶対にそれを実行する。

 

 ただその、パンジャンドラムだけはほんとに勘弁してもらってもよろしいですかね? できればパンジャンドラムを思い出させるような円形の物も使わないでいただけると……。

 

「俺は使わねえよ。使えねえしな」

「私は使えるが使わんから安心しろ」

「駄目だ、使うね」

 

 鍍は本当に毒を吐いてきやがるな……(吐血)

 




Q.鍍はパンジャンドラム的なものを使ってくるの……?
A.んなわきゃない。

Q.鍍の能力はそういうのにしたのね。
A.まあ、真庭鳳凰が四季崎記紀に乗っ取られてましたし、こういう使い方もありかなと。


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BLEACH~50

 

 side 黒崎一護

 

 ……数時間ほど過ぎて、身体が回復したのを確認してから目を開ける。虚としての超速再生を持っているから虚化できれば早いんだが、流石にこんなところで突然虚化するわけにもいかない。それに花太郎がいるところで虚化したら間違いなく疑われるどころじゃすまないだろうからな。

 

「……あ、おはようございます」

「おう、おはよう」

 

 座りっぱなしで硬くなった身体を伸ばすが、刃禅を始める前に比べて大分霊圧が身体に馴染んでいる。今までは霊圧の衣を纏っていたような感じだったのが、しっかりと俺の一部になったような感じだ。いや、実際には初めから俺の一部だったんだが、普段から使っているバイクのエンジンだけが突然超高性能な別物に変えられていたせいで全速を出すと車体が持たなさそうな感じだったのを、車体の方のチューニングを繰り返すことによって全速を出しても大丈夫だろうと思えるようになった。

 ……外は今頃夜になっているころか? だったら丁度いいな。死覇装は黒、夜に溶け込むにはぴったりだ。霊圧も溶け込まさないといけないんだが、まだ俺の霊圧操作は完全じゃない。できる限りやるつもりだが多分見つかるだろうとも思う。

 

「今、外はどんな感じだ?」

「えっと……多分夜になってると思います。騒ぎが結構大きくなってるみたいですね」

「そうか……で、そこに居るのは誰だ?」

「え?」

 

 じっと見つめると、そいつは静かに姿を現した。明らかに隠密のそれとわかる衣装、織斑さんの言ってた二番隊の奴だろうとすぐに分かった。

 

「……二番隊隊長、砕蜂様より、身の丈ほどの大刀を背負ったオレンジ色の髪の死神、黒崎一護殿に言伝を預かっております」

「は? 俺に?」

「はい。申し上げます。『夜一様より話は聞いた。表立っての協力は不可能だが、情報提供と攪乱くらいはしてやる。』……以上です」

「……そうか。ありがとう」

「礼は不要です。仕事ですので」

 

 それだけ言い残してそいつは消えた。一瞬霊圧を僅かに大きくしてから即座に全力で隠蔽し、同時に瞬歩で移動する。一瞬残された霊圧によって知覚が攪乱されてどこに行ったか分かりにくくする方法のようだが……多分俺には合わねえな。残念だ。

 しかし、夜一様、ねぇ……一体何があってどうなったのかはわからないが、夜一さんも色々と動いてくれていると言うのはわかった。ただ、こんなに簡単に俺達の味方をさせて、更にその部下まで使えるとなると仕事とか全部放り出させることができるような情報があったってことだよな? 何かは知らねえけど。

 

 ……浦原さんも色々と隠し事をしているようだし、多分他にも知らされてない事ってのはあるんだろうな。今はルキアを助け出すことばかり考えているが、終わったら腰を据えて聞いてみるのもいいかもしれない。

 

「あの……」

「ああ、悪いな花太郎。じゃあ行こうぜ」

「あ……はい」

「疲れてるなら少し休んでくか?」

「いえ、大丈夫です。僕もすぐ休みましたから」

 

 ……嘘だな。恋次の傷を治してここまで移動して、それから鍵を探してたんだ。疲れているだろう。だったら俺ももう少し休んでいく事にしよう。身体の方は大体平気になったが、意識の方は休めてないからそれを休めるのにもいいかもしれない。

 それに、さっきの男は恐らく瀞霊廷の索敵やなにかをやっている隊なんだろう。それがこっちについていると言う事は、ある程度隠れていれば早々見つからない、あるいは見つかっていても問題ないと言うことになる。当然、思いっきり見つかってしまえば手を出さざるを得ないだろうが。

 それに、傷は無いし霊圧もほとんど消費してないんだが精神疲労はある。まあ織斑さんにパンジャンドラムで追い回されるのに比べればほんと大したことないんだが、それでも全く無いわけではない。さっきまでのは身体を休めるための物であって精神の方はずっと起きっぱなしどころか斬り合いしてたしな。虚の俺と。

それに精神修行もあったし。

 

 だから俺も少し休みたい。そう言って横になると、花太郎もおずおずと横になった。ちゃんと床に布を敷いている辺り育ちがいいように見える。俺は……ほら、持ってねえからな。柄布はこれ巻いてないと斬月に軽く触っただけで最悪腕がすっぱり行くから巻かないわけにもいかないんだよな。もう少し伸ばせれば……。

 いや、待て。確か虚の俺は柄布を掴んで斬月を振り回してたりもしたよな? しかも明らかに元々の布の長さより遥か先に。それだけじゃなく、俺が戦っている時に柄布が邪魔になったことがない。元々柄に巻いてあるのを刃にも巻き付けてたんだが……もしかしてこの柄布って伸び縮みすんのか……?

 

 やってみた。めっちゃ伸びた。何度か畳んで即席の敷布団くらいにはなった。そうだよな、斬月ってこの布も含めて斬月だよな。しかも今までも無意識とはいえ何度も伸ばしたり縮めたりしてきたんだからできて当然だよな。そりゃそうだ。

 なんかかなり伸ばせるようだから、花太郎の所にまで伸ばして上に一枚かけるようにしておく。俺の霊圧で編まれた布だからなのか、布とは思えないくらいに頑丈だからな。突然爆発が起きてもある程度大丈夫だろう。本当に大丈夫かどうかはその爆発の規模にもよるが。

 




Q.職権乱用じゃないっすかねぇ!?
A.ここの砕蜂ならこのくらいやってくれると思いまして。

Q.これ後でめっちゃ怒られない?
A.筆頭は大事な時に居なかった一夏でしょうけどね。


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BLEACH~51

 

 side 黒崎一護

 

 起きた。身体は全快、霊圧も問題なし、あと精神的にも余裕がある。睡眠としてはあまり長くない物だったはずだが、それでも十分に回復できた。

 花太郎の方は……少なくとも恋次を回復させた直後に比べれば大分回復したらしい。これ以上の休憩は時間の浪費にしかならねえから回復してくれて助かった。

 

 花太郎を連れて懺罪宮まで戻る。恋次は適当な所に放り出しておいたから流石に待ち伏せされてたりはしないだろう……と、思っていたんだがそうでもないらしい。隠す気も無いのがわかる剣呑な霊圧。その圧は俺達を威圧して来た時の織斑さんのそれより遥かに重苦しく、鋭い。多分、織斑さんに聞かされた要注意人物の誰かだろう。

 ただ、こうして直接的にやってくると言う事は―――

 

「……花太郎、平気か」

「ぅ……ぁ…………」

 

 ……平気ではなさそうだな。霊圧に当てられた、って奴か。俺はまだ何とか平気だが、このままの状態がずっと続けばせっかく回復したってのにまた精神がやられちまう。

 幸い即座に襲い掛かってくるつもりはないらしい。そして何か罠が仕掛けられていると言うようなこともないようだ。十二番隊ではなさそうだし、十三番隊の隊長や八番隊の隊長ならばこうして威圧してくるような事はまずないそうだから……十一番隊の更木、って奴だろう。一番隊の総隊長なら威圧するより先に斬りかかってくるそうだし、多分間違いない。

 

 ともかく、まずは花太郎をなんとかここから移動させねえとまずい。隊長格が目の前にいるなら流石に二番隊の奴も手を貸してはくれないだろう。だったら……俺が移動した方が早いだろう。

 花太郎を近くの建物に寄りかからせ、俺は瞬歩で移動を始める。とりあえずついてきているのはわかるんだが……流石と言うかなんと言うか、速い。懺罪宮は殺気石でできているらしいからこんな霊圧の持ち主でも中にいる奴に影響は出さないだろう。とりあえずそっちの方に移動しておく。

 数分。たったそれだけで十キロには届かないだろうが五キロは移動した。少し前までなら信じられないような移動速度だが、追手は迷うことなくついてきている。ほんと、自信無くすぜ。

 

「……この辺りでどうだ?」

「ああ、いいぜ」

 

 声がかけられた方に即座に斬月を走らせる。霊圧を研ぎ澄ませ、霊圧を食わせ、巨大な霊圧の刃を放つ。

 しかしそれは止められた。ボロボロの刃をもつ長刀によって、月牙そのものがへし折られると言う形で。

 

 ……霊圧を食って斬撃そのものを巨大化させて飛ばす月牙天衝。それを真正面から弾き飛ばされると言う事は、巨大化して重くなった斬撃でも弾き飛ばせるだけの力が相手にはあると言うことに他ならない。それも、横から弾くとかではなくて真正面から打ち消される形で。

 流石に眩暈がしそうだ。それに、さっきから感じる霊圧がどんどんと跳ねあがっていくのがわかる。テンション次第でどこまでも性能が上がっていくテンションモンスターとかマジかよ護廷の隊長は化物か。……ああ、織斑さん含めて化物だったわ。

 

「……あんたの事は聞いてる。十一番隊の、更木剣八―――だよな?」

「ああ、そうだ。お前と殺し合いに来たぜ」

「……十五秒待ってくんね? 卍解して、あと一応切札も使うのにそのくらい必要なんだ」

「あん? さっさとしろよ。今のままじゃ勝負になんねえぞ」

 

 織斑さんの言うとおり、強い相手と戦うためなら少しくらい我儘を聞いてくれるようだ。その間に俺は卍解し、そして虚の仮面を被る。更に天鎖斬月に死神の霊力と虚の霊力の両方を食わせ、月牙を纏わせて一撃の威力を上げる。さらに加えて更木剣八は霊圧感知が苦手と言うだけでなくこっちの手の内に関してはかなり大雑把な反応しか返さないと聞いていたので、こっそりと動血装を纏って速度と威力を上げる。

 

「……待たせた」

「ハッ!いやいや、俄然楽しみになってきたなオイ!さっきまでのとはわけが違う!今の状態なら俺とあいつ、あと爺さん以外には勝てるんじゃねえか?」

「まあ、かなり努力はしたからな……」

「いいぜ!早速始めようじゃねえか!」

 

 聞いていた通りの戦闘狂。強い相手と戦いたくて、しかし戦えないせいで自身に無意識のうちに枷を嵌めてしまうほどの化物染みた使い手。織斑さんの方が強いらしいが、そのせいか織斑さんと戦う時には初めっから全開で戦うようになっているらしい。

 逆に言えば、それ以外の奴に対してはそこそこのリミッターが付いた状態から戦いが始まるらしい。そのリミッターによって制限されている能力が解放される前に、リミッターの開放が行われないような状態から最大威力の一撃を一発目からぶち込む。それが今の俺にできる対更木剣八用の最適解。そして一発目で致命傷を与えられなければ、潔く諦めた方がいいと言われた。怪我とか関係なしにテンション次第でどんどん強くなるそうだから、油断はとてもできそうにないな。

 

 お互いに踏み込む。卍解状態なら速度は俺の方がそこそこ上。月牙無しの一撃の威力は剣八の方が圧倒的に上で、月牙ありならトントンには届かない物の差はかなり縮まるだろう。

 そして俺は回復したての霊圧の殆どを月牙につぎ込み、しかし刃の大きさを上げずに形も大きさもそのまま斬撃そのものの密度と威力を更に上げて斬りかかる。

 

 勝負は一瞬で着いた。初めから全力の俺と、無意識の手抜きによってかなり実力の落ちているだろう剣八。しかしそれでも上回ったのは僅かで、虚の仮面は既に砕け散ってしまった。

 

「……おぉ……俺の剣を折りやがるかよ……しかもまだ成長途中と来た。おもしれえ、また今度殺ろうや」

「勘弁してくれ」

「お? なら今やるか? それじゃあ楽しめそうにねえなァ……」

「わかったまた今度な……今はほんとに勘弁してくれ」

「おう、良いぜ」

 

 ……なんでか助かった。いや、理由はわかる。ある程度先が楽しみだと思われたからだろう。織斑さんから『自分に届きそうなやつがいない? だったら自分で育ててみればいいだろう』とか言われて多少そっちの方も考えるようになってたらしいからな。それが無かったら間違いなく死んでるところだぜ……いや、本当に。

 とにかく、花太郎の所に戻ろう。霊圧の回復は……仕方ないから周りにある霊子を少し取り込んでおく。滅却師の力だからあまり使わない方がいいらしいが、背に腹は代えられない。

 

 俺は姿を隠しながらその場を離れた。恐らく、と言うか間違いなく、ここで起きた戦いとも言えない霊圧のぶつかり合いの原因を探るために誰かが向かってきているだろうからな。

 




Q.なんか剣八丸くなってね?
A.普段から割と全力で戦える相手がいますし、ついでに一夏から『他人を育てる』と言う事を学んだので期待できる相手には少し優しくなっています。

Q.でも殺すんでしょ?
A.戦いになれば殺します。


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BLEACH~52

 

 side 黒崎一護

 

 花太郎は気絶こそしていなかったが戻ってくるのに暫く時間がかかった。その間俺は体力と霊圧の回復に時間を使ったわけだが、花太郎が起きてから霊圧の回復を手伝ってもらった方が遥かに早かった。多分、起こすのに時間を使った方が最終的に効率が良くなってただろうなと思えるほどだ。

 聞いてみたんだが、井上の回復と違って死神の回復はまず霊圧の回復から始めるそうだ。そしてその霊圧を使って魂魄の損傷を埋めていく方法を取るらしいのだが、魂魄の損傷度合いによっては回復させる以上に傷から霊圧が外に出てしまって間に合わない場合もあるそうだ。

 なので、今回の俺のように身体に傷らしい傷はほぼ無いが霊圧は殆ど枯渇している状態で霊圧を回復させるのはとても簡単なんだとか。

 

「……花太郎、お前結構すげえのな」

「えへへ、ありがとうございます……でも、四番隊にいるなら大体の人はできると思いますから……」

「いや、それでもすげえよ。ありがとな」

 

 花太郎の頭を撫でて、それから懺罪宮を見上げる。正直、やばい霊圧だった。今の俺からしても相当やばかったのだから、少し前の俺がもしも出会っていたら文字通り蒸発していたかもしれない。いや、花太郎が形を保っているのだから大丈夫だとは思うんだが。

 

 ……!? チャドの霊圧が、揺らいだ……!?

 

 

 

 

 

 side 茶渡泰虎

 

 何人も倒してきた。何十人も、もしかしたら何百人も。

 防御の力だと自覚した俺の右腕は非常に硬く、しかし攻撃の力が宿る気配は未だ無い。左腕に纏わりつく光がその前触れだと織斑さんは言っていたが、どうやら発現するにはまだまだかかるらしい。

 

 ただし、色々とわかったこともある。昨日の時点で四季崎の居る場所はわかったし、そこまでの道も大体だがわかっている。それから、俺は戦闘部隊でなければ三席くらいなら勝てるようになっているらしいと言う事もわかった。

 そして、死神を倒していく度に、俺の左腕に纏わりつく光も強さを増している。これなら、もう少しで何とかなるかもしれない……そう思った時、俺の前に一人の男が現れた。

 

 十三番隊副隊長と名乗ったその男は、変化させた斬魄刀に水を纏わせ、高い位置を起点にした円運動で斬撃と水圧による打撃を同時に仕掛けてくる。一撃受けるだけで右腕が軋みを上げ、こちらからの攻撃は水によって威力を減衰させられた上で丁寧に弾かれた。

 

「なあ、そろそろ諦めちゃくんねえか」

「すまんが、それは無理だ」

「はぁ……なんでこういくつも事件が重なるのやら」

 

 事件が、重なる……? 俺達が入ってきた以外にも何かが起きているのか……?

 

「すまんが、俺達はここで止まることはできない。四季崎ルキアを助けないといけないんでな」

「ルキアを? そりゃまたなんでだ。あいつが現世に居たのはせいぜい数ヶ月くらいだろ?」

「ああ。だが、一護が助けたがってる。命を懸けて」

 

 約束したんだ。一護と。

 

「十分だ」

 

 一護が俺のために拳を振るい、俺は一護のために拳を振るう。

 

「俺が命を懸けるのに、それ以上の理由は必要ない」

 

 何かが俺の中で弾けた。左腕に纏わりついていた光がしっかりとした形を取り、右腕の色を反転させたような白い腕になる。硬く重厚な感覚の右腕とは違い、硬く鋭い感覚の左腕。俺は新しく出来上がったその腕に霊圧を乗せ、構える。

 

「……そうかよ、わかった。だがこっちも退くわけにはいかないんでな。いい感じに気絶させてやるから、あまり動くなよ」

「すまん、無理だ。全力で行かせてもらう」

 

 織斑さんに習った。拳を打ち込む時には大雑把に分けて二つやり方があると言う。重く、鉄鎚で叩くような衝撃を目的とするものと、鋭く、突き刺すことを目的とするもの。水を相手にするならば衝撃ではだめだ。散らされてしまう。だから、鋭く研ぎ澄ませた一撃を打ち込む必要がある。

 速く、鋭く、全てを貫く一撃を―――!

 

 向かう俺に波濤が迫る。大質量の水塊に、真正面から左の拳を打ち込む。細く、鋭く、全てを貫くように。

 同時に右腕を身体の前に構える。水を貫きはしたものの、それでも多くの水は俺に向かってきている。ここで相手を倒せたとしても、俺が先に進めないのであれば意味はない。生きて進まなければ。

 

 衝撃。水塊を打ち抜き相手に十分なダメージを与えた手ごたえを感じた。しかし同時に自身に降りかかる水の圧力に右腕が軋みをあげる。霊圧の殆どを左腕から打ち出したばかりの今、直撃を喰らったら暫く俺は動けなくなるだろう。それを防ぐために残った僅かな霊力を右腕に集め、身を守る。

 しかし水は全身を叩く。頭と胴体の一部は守れたものの、他の大部分は凄まじい勢いの水塊に叩かれ弾き飛ばされる。こちらの攻撃によって水塊が僅かに散らされていたからこうして思考を保つことができているが、それが無ければ完全に意識を失っていただろう。

 志波海燕と名乗っていた死神は、俺より怪我は少ないようだ。それに、どうやら鋭くした打撃は水流によって逸らされて脇腹部分を削り取る程度のダメージしか与えられていない。いや、脇腹部分を削ってやれば大抵戦闘不能になるだろうが、死神と言うのは霊圧で、ひいては意志の力である程度の傷はなんとかなるらしいからまだ続けられるだろう。

 対して俺は、ただ立っているだけでもやっとの様相。俺に傷を治す力は無いし、隠れて休もうにもこの出血ではすぐに場所を辿られてしまうだろう。

 

「……ケッ。死神でも滅却師でもない人間相手にここまでやられるとはな……まだ隊長格は遠いぜ」

 

 どしゃり、と倒れる音がする。視線を向けると、死神がその場に倒れていた。意識は失っていないようだが、動けるわけでもなさそうだ。

 

 俺はゆっくりと進んでいく。右腕の鎧は引き裂かれ、おびただしい量の血が地面を濡らす。

 

「おい、やめとけよ。お前そのままじゃ死ぬぞ?」

「……」

「おーい、聞こえねえのかよー」

「……聞いて、いる。だが、止まれない……!」

「いいや、止まってもらうよ。ここでね」

 

 誰かの声が聞こえた、気がした。

 




Q.最後の誰?
A.京楽さん

Q.海燕さん強くね? チャドは虚圏編くらいの強さでしょ?
A.その海燕も出てましたね? ルキアをほぼ一蹴してましたね? そんな感じです。ただ、数多くの虚を取り込んで強化されている分を除けばこんな感じかなと。


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BLEACH~53

 

 side 黒崎一護

 

 ……大きくなって、小さくなって、また大きくなって、最後に小さくなったまま戻らない。チャドの霊圧は消える気配こそ見せないが、小さくなったままだ。

 チャドが、負けた……? 信じられないがそう考えた方が無難だろう。織斑さんが言ってた化物も多いし、俺自身ついさっきまでその化物の一人と戦っていた。一応剣はへし折ったし、あのまま戦いはしないだろうから剣八じゃあないとして……誰だ?

 

 いや、まずはルキアだ。まずはルキアを拾って、それからチャドと……あ、ルキア助けた後にどうやってそれを伝えるか決めてねえや。チャドは伝えようとしても今動けないだろうからこっちから行くとして、良い感じに霊圧を隠してる石田と井上、それに夜一さんはどうすっか……。

 とりあえず、見張りをぶん殴って気絶させる。声を上げる間もなく意識を奪ったし、大丈夫だとは思うんだが実際に大丈夫かどうかはわからない。剣八相手に結構暴れたしな。誰かがここに向かってきている可能性は十分にある。

 

 で、花太郎に持ってきてもらった鍵で牢の扉を開けてみれば、そこにはちゃんとルキアがいた。ただ、俺がここに居ることにかなり驚いているようだが……知ったこっちゃねえ。

 

「よう。助けに来たから大人しく助けられてろ」

「きっ……来てはならぬと、あれほど言ったであろうが……莫迦者め」

「悔しかったら自力で助かってみろ。まあ今のお前じゃ絶対無理なのはわかりきってるけどな。オラ部屋の隅っこでブルブル震えて『お助け~』とか言ってろ。ちゃんと助けてやるからさ」

「……私の意見は?」

「あ、すまんいきなり耳が遠くなってよく聞こえねえわ。なに? 『オタスケクダサイイチゴサマ』?」

「いっとらんわそんなこと!」

 

 当然わかっているが聞くつもりはない。ルキアを抱えあげてさっさとこの場を去る。

 ……いや、その前にやっておくべきことがあったか。

 

「花太郎」

「はい? なんですか?」

「ここの鍵を持ち出したら問題になるよな?」

「……ええ、まあ、なるでしょうね」

「自分の怪我は治せるか?」

「? そこまで酷くなければできますけど……あ」

「そう言うことだ。悪いな」

 

 そこそこ血が出るように、しかし致命傷にはならないように花太郎を斬る。その場に懺罪宮の鍵を放り捨て、俺が花太郎を脅して無理矢理鍵を開けさせたかのように。

 意識は失わせないようにしながらそうやるのはかなり難しいが、滅却師の力の使い方によって相手に麻酔をかけて痛みだけを感じさせないようにしながら斬ることができるから問題はない。

 

「一護、貴様っ!?」

「ここで斬っとかねえとあとで花太郎が困るだろうが!一応俺は剣八と戦って生き延びてるし、俺に脅されたってことにしとかねえと花太郎が罰受けるだろうがよ!」

「……大丈夫です、ルキアさん。死なないように切ってくれたみたいですし、それに鋭く切ってくれたのですぐくっつけられます」

「しかし!」

「大丈夫です。それに……痛くないんです。一護さんですよね?」

「まあな。さっさと傷塞いでくれ。全部治しきらないようにしてくれると治している途中で限界が来て気絶した感が出て良いと思うぞ」

「ははは……ルキアさん、お元気で」

 

 花太郎はゆっくりと自分の傷を治し始めた。花太郎は随分と腕が良いようで、放置していても死なない程度に傷を治してからは目立たないように出血を抑え、痛みを抑える方向に移っていった。本当に優秀なんだな、花太郎。

 俺はルキアを抱えあげたまま瞬歩で走る。ついでに懺罪宮の尖塔の一つを剣圧で斬り砕いておいた。これで多分わかるだろう。花太郎の居ないところを狙ったし、中に残っている花太郎も多分大丈夫だ。

 

 ……だが、どうも簡単にはいかないらしい。俺の霊圧を感じ取ってきたのか、それとも今俺が剣圧で懺罪宮をぶった切ったのを見て飛んできたのかはわからないが、朽木白哉がそこに居た。

 

「……ルキア。そこで大人しくしてろよ」

「莫迦者!お前が義兄様に勝てるはずが」

「うるせえ、黙って見てろ」

 

 こっそりと滅却師のやり方で周りの霊子を吸収して霊圧の回復をしていたおかげで普通に戦える程度の霊圧はある。剣八相手に限界寸前まで使った時に比べれば雲泥の差と言えるくらいだ。いや、最悪の時と比べてどうするんだって話だが。

 まあとりあえず、先手必勝ってことで剣圧を飛ばすが瞬歩で避けられる。一角相手には今ので十分通じたんだが、流石は隊長格と言うべきか回避しながら向かってきている。

 だが俺も強くなった。動きは見えているしこの程度なら十分に防げる。ついでに織斑さんが俺の……と言うか俺達の月牙を見てその場で見様見真似してくれたのをさらに俺が見様見真似した手刀での月牙で斬りつける。剣八相手だったら絶対効果がないとやらないでもわかるが、白哉相手なら十分効果が見込めそうだ。

 実際効果はあった。刀は弾くことができたし、そのついでに肩口から斬りつけることもできた。傷自体はかなり浅く皮一枚ほどではないにしろ肉で十分止まっている。やっぱ織斑さんみたいにはいかねえか。

 

「なん―――」

 

 白哉の言葉を叩き切るように斬月を振るう。月牙は霊圧によって斬撃そのものを巨大化させて飛ばす技だが、飛ばさず纏わせることもできる。だったらこういう使い方もできるんじゃないかと考えて練習している所を織斑さんに見られて『こんなか?』と実演されて凹みつつ覚えた、斬撃を打撃に変えて撃ち出す峰打ち攻撃。死ぬこたないだろうが暫く寝ててもらうことにした……んだが、防がれてしまった。

 

「大丈夫か、朽木」

「……兄か」

「あー……どちらさんか聞いても? あ、俺は黒崎一護。ルキアを助けに来た旅禍だ」

 

 俺の打撃の月牙を刀一本で受け止めた白髪の男は、少し驚いたような顔をしつつ答えてくれた。

 

「十三番隊隊長、浮竹十四郎だ」

 

 ……ああ、確か霊圧を使った放出系の攻撃を吸収反射してくる性格の悪い斬魄刀の使い手だったっけか。あと瞬歩がクソ上手いって聞いた。

 さて、こうなると色々難しいな……どうするか。

 




Q.なんで当たり前の顔して花太郎斬ってんの!?
A.実は現在一護さん発狂中で人情が欠如しています。

Q.なんでそんなことに……。
A.修行中に何十回か死んだからじゃないですかね? あとこちらで勝手に決めたとあるオリジナル斬魄刀のせい。


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BLEACH~54

 

 side 黒崎一護

 

 結論から言うと勝てなかったが負けもしなかった。いや、まさかあそこからさらに追加で二人来るとは思わないだろ? 逃げたよ。ルキアを連れて。

 六番隊の白哉と、十三番隊の浮竹、その二人と戦っていたところに乱入してきたのが七番隊の狛村と九番隊の東仙。合計四人の隊長格を相手にするには場所が悪すぎたし、消耗もかなりあった。まともにやってたら逃げることもできなさそうだったが、だったらまともにやらなければ問題は無いわけだ。

 

 月牙天衝。斬月の能力であるそれはとてもシンプルで分かりやすい能力だが、使い方は色々工夫ができる。と言うか使ってるのを見た織斑さんに言われて色々と新しい使い方を試さざるを得なくなった。正直辛かったが役に立っている。

 普通に飛ばす方法。飛ばさず纏わせて威力を上げる方法。纏わせて斬撃を打撃に変える方法。そして放ちはするが飛ばさずにその場に固定して空間に罠として仕掛ける方法。罠の状態から一発きりの固定砲台に変える。様々な使い方ができる。

 狛村と言う男の巨大な一撃にはその衝撃と対抗できるだけの一撃を撃つために打撃に変えた月牙で弾き返し、東仙の無数に分裂して飛んでくる刃は剣圧で真正面から撃ち落とす。飛ばした月牙を跳ね返してくる浮竹にはこちらからはできるだけ手を出さず、白哉は超接近戦を挑み続ける。こうすることで音を使った攻撃や高速で飛び回る千本桜をかなり弱体化させることができた。

殺さないように加減はしているが、流石に四人を相手に殺さないようにしながら勝ちに行くのは難しい。殺してもいいからとにかく勝ちに行くなら何とかなりそうなんだが、本当に殺した場合まず間違いなく現世にまで追手がかかるからな……どうしたもんか。

 

 そう言う訳で置き月牙を上手く使って相手を足止めし、逃げ切った。俺が離れるとそれに合わせて音が追ってきたり無数の花弁のような刃が追ってきたりしたが、全速力で走ったら逃げ切れた。俺、いつの間にか音より早く移動できるようになってたんだな。流石に驚きだ。

 

「一護……強くなったな」

「まあ、色々あってな……」

 

 色々。(木刀による突きで作り上げられた衝撃波の壁に圧殺された思い出)

 色々。(全力の月牙天衝を木刀で真似られ真正面から撃ち負けた思い出)

 色々。(置き月牙を真似られた挙句改造されて自動操縦月牙を何百単位で撃ち込まれた思い出)

 色々。(月牙で作ったパンジャンドラムで追い回されてなんか爆発に巻き込まれた思い出)

 色々。(自動操縦月牙と月牙パンジャンの合わせ技で切り刻まれた思い出)

 色々。(突如として背後や横から現れるパンジャンに轢かれた思い出)

 色々。(なんか爆発した思い出)

 色々。(天鎖斬月を引っ張り出されて纏めて爆破された思い出)

 色々。(月牙天衝を突きで使われてぶち抜かれた思い出)

 色々。(黒い月牙天衝を素手で蚊でも払うかのように払われた思い出)

 色々。(虚化+動血装+卍解状態なのに速度で負けた思い出)

 

 ……本当に色々あったな、もう忘れたい。忘れないが忘れたい。

 

「一護。目が遠いぞ」

「大丈夫だ。大丈夫とは言い難いが大丈夫だ」

「それは果たして大丈夫と言っていいのか……?」

「霊圧失って戦うこともできない奴に心配される程じゃねえよ」

 

 はいぐぬ顔頂きました。実際こんな状態のルキアに心配されるような事じゃねえし、こんな状態のルキアに心配されたところで何かが変わるわけでもねえしな。俺は何も間違っちゃいねえ。

 

 さて、これからどうすっか。みんな集まらねえと帰れねえからまずは合流するために行動するとして……その間ルキアの事をどうするかも問題だよな。戦うどころかまともに走ることもできない状態なわけだし、一人で置いて行くのは論外。だが誰かに預けるにしても問題は誰に預けるかだ。

 石田と井上が一緒に居るようだしあの二人に預けるのがいいか? だが周りに誰かいるようだし、いきなり現れた俺と仲良さげに話しているのを見咎められれば問題になるだろう。

 チャドは……どうやらまだ捕まっているらしい。霊圧が安定しているようだから状態は悪くないと思うが、早めに助けに行ってやりたい。

 夜一さんは……猫だしなぁ……。

 

 ……気配。

 

「誰だ」

「黒崎一護殿ですね。お迎えに上がりました。こちらへ」

 

 そう言ってその影は方向を変えて跳んでいく。今のは確か、二番隊の……いや、名前は聞いてなかったな、確か。

 俺はその姿を追いかける。霊圧は抑えて、跳躍もしないようにしながら瞬歩で走る。暫くすると、千罪宮からも見えていた巨大な武器のある崖に連れてこられた。

 

「こちらで二番隊隊長、砕蜂様がお待ちです。私はここに入ることを許されておりませんので、ここで失礼いたします」

 

 それだけ言い残してそいつは即座に移動していった。隠密機動……中々の速度だよな。まあ隠密で機動部隊なのに遅いとか笑い話にもならないから速くて当たり前なのかもしれないが。

 霊圧を感じ取ってみると、崖の内部から夜一さんと知らない誰かの霊圧があるのがわかる。戦闘状態にはないようだが、なんか夜一さんの霊圧がすっげえ平坦になってる気がする。安定してる、ってのとも違うんだよな。理由はわかんねえけど。

 ともかく入って―――

 

「アンチが何を言おうが夜一様が神なのは揺るぎない事実。

 まず高い教養からくる物だろう圧倒的カリスマ。一人で他の隊長格を根底から超越する存在感がある。

 さらに戦闘能力も高くテクニックと速度があるし、超絶技巧とも言える瞬閧はもはやジャンル・・・いや、人間という壁を越えた凄まじい能力だ。

 しかも元柳斎殿をも上回る尸魂界トップクラスの白打技術を持ち、瀞霊廷の情報網を支える部下までいる。

 それだけを考えても護廷十三隊どころか西梢局まで含めた尸魂界全土と張り合える。

 その上実力者のみが就いてきたの歴代二番隊隊長達の技まで物にしている。

 夜一様の姿を見てしまったら他の何を見ても感嘆の感情が沸き上がらなくなるほどの魅力がある

 だいたい最近の―――」

「―――」(死んだ目)

 

 ……。

 

「間違えました」

 

 さて、ルキアをどうするか……。

 




Q.砕蜂さんは何をやらかしておられるの?
A.怪文書を次々吐き出しておられます。

Q.隊長格四人相手に勝ち寄りの引き分けとか強過ぎね?
A.改造されてますからね。仕方ないね。


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BLEACH~55

 

 side out

 

 四人がかりで戦っておきながら何たる無様か。朽木白哉は内心そう吐き捨てた。

 現世で義妹から死神の力を奪い取った男が、その時よりも遥かに強力になって現れた。そして自分を含む四人の隊長格を手玉に取り、まんまと逃げおおせてみせた。それも、義妹を連れてだ。

 自身の隊の副隊長である阿散井恋次が敗北したと聞いた時には情けないと思ったものだが、これほどまでに強くなっているなどと誰が予想できるだろうか。できるはずもない。少なくとも白哉にはそんなことは予想だにできなかった。

 

「やれやれ、逃げられたか……」

「何を悠長な……」

「無茶はよせ、狛村。その手首、折れているんだろう?」

「この程度どうと言うことはない!」

「完全な状態で簡単に対処されたのが怪我をしている状態でよくなるとは思えん。まずは治療を受けておくべきだと思うぞ俺は」

「それに関しては僕も同意だ。君の卍解は君の身体の状態に左右される。最大戦力を出すためにも一度治療は受けておくべきだと思うよ」

「ぐっ……!」

 

 三人の言葉を聞いているうちに、白哉の胸の内に二つの感情が生まれた。

 一つは貴族としての自分から生まれた感情。例え妻の妹であり、妻の健康を保つための薬師であり、彼女がいなくなれば妻の健康は失われてしまうと言うことを理解していてもなお、貴族として掟を破ることはできない。故に義妹であるルキアを逃してしまったことに対する自身への憤り。

 そしてもう一つは、個人として、緋真の夫として、ルキアの義兄としての自分から生まれた―――安堵であった。

 ルキアが逃げることができた。ならば恐らく逃げ込む場所はあの場所だろう。かつて自身が通い詰め、特殊な事情により内部から招かれることがなければ例えそれが霊王であろうとも踏み入ることのできない特殊地域。作った本人曰く、流魂街番外地区・四季崎。

 あの場であれば、内から招き入れられない限りは例え護廷十三隊の者であろうとも入ることはできない。つまり、命を落とす事は無い。

 

 突如として自身の内側より沸き上がる吐き気に白哉はその場で膝を落とし、胃の中身をその場にぶちまけないように無理矢理抑え込んだ。

 自分は今何を考えた? 白哉は自問する。義妹の事を自分から救おうともせず、ただ外から救われるのを見て自分の手が届かなくなった事を感じ、安堵した?

 こみ上げてくる吐瀉物を無理矢理に胃へと流し込む。背を摩る浮竹の手から流れ込んでくる治療の霊力に僅かではあるが癒されたためか、喉が胃酸に焼かれる感覚は消え去っている。

 

「朽木、お前も一度四番隊に行くべきだな」

「……必要ない」

「行くべきだ」

「必要ない」

「三番隊に行くか?」

「…………………………………………………………四番隊に行く」

「それでいい。東仙、狛村についてやってくれ。無茶して四番隊に寄ろうとしないかもしれないからな」

「そうだね。わかっているよ」

「ぐぬ……わかっている。ちゃんと行く」

「そうだね。では共に行こう」

 

 東仙に連れられた狛村と、浮竹に抱えられた白哉がそこそこの速度で四番隊に移動している間、浮竹の思考はまた別の方に向いていた。

 藍染を殺したのは、間違いなく彼ではない。四対一という状況ですらこちらを殺さないように手加減をし、さらに手を出してこない物にはできるだけ攻撃しないという戦い方を見て、あまりに完璧に殺されていた藍染への行動の違いを認識した。

 つまり、藍染を殺した者は別にいる。

 

 そもそもおかしい事ばかりだ。侵入して来た旅禍の人数は多く見積もっても十人には届かない。遮魂膜を打ち抜いてきた玉の大きさから見てもそうだし、今まで旅禍に襲われ気絶させられた者達の証言からは四人分の姿しか得られなかった。陽動として大きく暴れているのだとしても、隠れていられる人数は精々一人か二人。隠密機動の目をかいくぐってそれ以上の人数が潜んでいるとはとても思えない。

 そんな状態で、態々藍染を殺しに行くことに一体どんな利点があるのか。あまりに無益であり、同時に無駄であるとしか言えない。それでは陽動の他に誰かがいると教えるような物であり、そこから先の隠密行動がより難しくなるものでしかない。隊長格一人を落とせるというのは利点になるかもしれないが、そもそも藍染があのような状態で死んでいるというのも納得いかない物がある。

 藍染は元十一番隊であり、現在の十一番隊の隊長である更木剣八とも十分に戦うことができる程度の実力は持っていた。しかしその藍染が、敵がどこにいるかもわからないという状況において無防備に背後を取られて鎖結と魄睡を抉り取られる等と言う真似が可能だとはとても思えない。

 

 ……それに、今回の四季崎への判例はあまりにも異常だ。

 現世で死神の力を民間人に与えたこと。そして死神の力を失い、尸魂界の捕捉から逃れたこと。報告も無く現世で死神代行を作ったこと。精々その程度だ。この程度の罪状で双極による処刑が行われるようなことは通常あり得ないし、彼女が現世から戻ってから処刑が決まるまでが早すぎる。そして更に処刑までの期間までもが早まろうとしている。

 何かが、今回の件の裏で蠢いている。それも相当悪意の強い出来事が。

 

 ……今回は流石に元柳斎先生に怒られるだけじゃ済まないだろうなと思いながら、浮竹はこれからどうするかを考え始めた。

 




Q.なんで朽木隊長は勝手に精神的に折れそうになってるの?
A.この人も昔一夏のブートキャンプに参加したことあってな? そういう事や。

Q.浮竹さんリアルアイディア高すぎない?
A.もともとそういうキャラでしょうに。


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BLEACH~56

勝手ながら今回で夜一の斬魄刀の名前については締め切らせていただきました。
……大明神人気ですね。


 

 side 黒崎一護

 

「まあ待て一護。間違っとらんから入れ」

「むしろ間違っててほしかったんだが!?」

「残念ながらこれが現実じゃ……はよ入れ」

「もっと素直に夜一様の御姿を受け入れて欲しい。

 そして現実に見てみろ。

 いかに夜一様が他の死神達をぶっちぎりに超越した神かわかるぞ?

 まあ百十年前は浦原の奴について行っちゃってたけど技量とか瞬閧見てみろ? 本気で神だから。

 まさか私の瞬閧をも呑み込んだ夜一様の半生そのものである雷神戦形を披露していただけるとはこの道三百年の私でも思わなかったけども。

 相変わらずにゃんこな猫一様は狂気に満ちてたわ。

 それに猫一様を見たらいくら猫嫌いでも夜一様を認めざるを得ないだろう。

 こんなに凄い夜一様が世界を獲れないとか本気で思っちゃってるやついるの?

 もう少し夜一様と同じ時代に生きていられるという己の幸運を噛みしめたほうがいいんじゃないか?」

「ところでこの怪文書創作機はどちら様で……?」

「砕蜂隊長……!?」

「……隊長なのかよ!? 大丈夫か護廷十三隊!?」

「大丈夫ではない、問題じゃ」

「あとあんた誰だ!?」

「夜一じゃ。目の前で戻ってやれなんだせいで驚きの顔はイマイチじゃの」

 

 夜一さんだった。怪文書を垂れ流してるこれから何度も名前が出てたからもしやとは思っていたが、マジで夜一さんだった。世の中どうなってるんだか……。

 ちなみに夜一さんだがなんか背中の部分が全部空いて袖もない死覇装を着てた。そして怪文書製造機は夜一さんの背中と脇腹の間にある布に顔を突っ込んでふがふがしながら怪文書をまだ垂れ流していた。怖い。なんだこいつ……。

 

「いや、実力はあるんじゃよ? ただどうも儂と離れとった百年少々の間に変な方向に進んでしまったようでな」

「方向ってかもう全体的におかしくねえかその人」

「真面目になれば隊長格にふさわしい実力もある」

「褒めていただけた……夜一様に褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた褒めていただけた……うッ! ――――――ふぅ」

「ほんとに大丈夫なのかこの人……?」

「多分大丈夫じゃ……多分な」

「砕蜂隊長……このような方だったのか……」

 

 何とも奇妙な出会いだし、この状態では多分自己紹介とかしても覚えてもらえねえだろうな。だってこの人完全に意識が夜一さんの方に向いちまってるし。

 

「……失礼した。久方振りの濃厚な夜一様成分に我を忘れてしまっていた。許せ」

「お主昨日も一昨日も同じこと言っておらんかったか……?」

「十五分以上補給できなければ久方振りです。しかし夜一様が瀞霊廷内にいてくださるお陰で瀞霊廷の空気を吸うだけで僅かですが夜一様成分を補給できるようになったのは嬉しいですね」

「助けろ一護」

「すんません無理っす」

 

 だって助けろと言われた直後からすっげー目で俺の事睨みつけてくんだもんよ。めっちゃ怖いわ。織斑さんほどじゃねえけどめっちゃ怖い。

 

「ああ四季崎、お前は暫くこの場所に居ろ。ここはかつて夜一様成分が足りずに夢遊病を発症した私が当てもなく彷徨っていたところ偶然見つけた夜一様の遊び場だ。浦原の奴の手で作られているせいで純度は低いがしっかりと夜一様成分が染みついておられるここは私のお気に入りの場所でな。私の手で霊圧の遮断と隠蔽が行えるようにしっかりと改造を重ねてきたのだ」

「……。

 まあそういう事じゃ。ここに居る限りは基本的に外には霊圧が漏れん。修行するにも隠れ潜むにも優れた場所じゃ」

「浦原さんが作ったのか……」

「うむ。儂と二人でコッソリの」

「……こんな馬鹿でかい空間をコッソリ?」

「うむ。まあいろいろあっての……ここで詳しく話をすると身の危険を感じるのでやめておくが文句は無いな?」

「ウッス」

 

 一瞬で瞳から光が消えたあの怪文書製造機を相手にしたくないのでとりあえずここは頷いておくことにした。だって怖えし。

 あと、そろそろ俺も休みたい。剣八とはお互い一閃しかしてないが戦って、それから花太郎を気を付けながら斬って、直後に白哉を含めた隊長格四人と戦って逃げてきたわけだ。疲れてもおかしかねえだろ?

 それにルキアもルキアで殺気石でできているらしい懺罪宮の中で暫く過ごしていたせいだろうが霊圧に当てられてまいっているのがわかる。さっきから俺の肩に担がれているにもかかわらず文句を言ってこないのがその証拠だ。いつものルキアだったらさっさと降ろせだのなんだの言ってきたりするだろうし、間違ってはないはずだ。

 

 布団なんかがあればそこに降ろしてやるんだが見当たらないので、斬月の柄布を伸ばしてそれを敷く。花太郎と一緒の時にやったのと同じ方法だが、これがまた結構悪くない。少なくとも、直接石や土に寝転ぶよりよっぽど身体の疲れは取れるだろうし、上手く使うとハンモックのようにもできる。あまり使わないが。

 

 ……助ける、というにはまだ早いし、これから捕まったままのチャドを助けてそれから出て行かなくちゃならない。大丈夫かね……?

 まあ、多分大丈夫だろ。多分だが。

 




Q.怪文書……こわ……なにこれ……。
A.一応元ネタもありますけどね。音楽系のコピペだった気がします。

Q.これ事が済んだ後に現世に戻れる? 無理じゃね?
A.察せ。


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BLEACH~57

 

 side 石田雨竜

 

 外道撃つべし!

 しかし今回の外道は前回の外道と違って非常にしつこい外道だ。撃っても撃っても倒せそうにないだけでなく、自分の部下を使ってこちらに攻撃を当ててきたりもしてきた。まったくなんて外道だ。死神にも多少いい奴がいると思えて来たばかりだと言うのに、尸魂界に来てから出会った死神には外道が多くて困る。

 

 しかしこの乱装天傀の改造版は便利だ。よくよく考えれば普通に肉体があるならともかく、身体が霊子に置き換わっている今の状態で態々霊子の束を使って動かす必要はない。霊子を操るのが滅却師の本領であるならば、そもそも自分の身体を構成している霊子をそのまま動かしてしまえばいいだけの事なのだ。

 脳から送られる四肢を動かす信号だけを選択して遮断する薬物を斬った相手に投与する剣。何とも陰険な武器だし、それを使うために自分の部下を使ったり部下ごと斬り捨てたりするというのは死神以前に人間として本当にどうなんだと。

 とりあえず今は井上さんにあいつの部下の傷だけ治してもらって、その上であいつと戦っている。可能ならばさっさと殺してしまいたいところだが、残念ながらそう簡単に殺されてはくれないようだ。体内に入れられた薬は霊子の隷属で霊子そのものにまで分解しているから少しずつ抜けているが、ここに来て新たな毒まで撒き散らしてくるとは……。

 

 いや、これに関しては僕は大丈夫だ。撒き散らした毒を霊子に分解してしまえば無毒化できる。しかしあまり離れていない井上さんはまずい。三天結盾は前面の防御能力は高いが、側面には何の防御もない。そしてこの毒は霧の形で撒き散らされる。当然前だけではなく横からも上からも毒が来るわけだ。

 僕であれば体内に入ったとしても死ぬ前に霊子にまで分解して無毒化できるだろうが、それを他人にやるのは非常に難しい。と言うか僕には無理だ。

 井上さんの所に毒が回る前に決着をつける。最終形態一歩手前の状態で周囲の霊子を解体し、できる限り毒も分解して矢を作る。毒の成分を残して撃ち込むこともできるが、今回の毒は相手の血液から作られたもので本人には効果がないらしいので全部霊子に変換して撃ち込む。腕の一本や二本程度の被害であれば簡単に治して見せる相手であることはわかっているので、とりあえず胴体をぶち抜いておくことにした。頭を撃ち抜いた方がよかったかもしれないが、流石に頭を狙っては躱される可能性の方が高いだろうことはわかっていたので胴体だ。

 

 僕の中でこいつを今この場所で殺しておけという声もするし、正直その声には抗いがたい魅力があるが……それでも今は耐えることにする。ここで殺したら僕たちがここから出る際に本気で邪魔をされそうだしね。いや、こうして結構な傷を負わせている時点で既にかなり本気で邪魔をされそうだけれど。

 

 弓を引いて、弦を放すことなく矢を放つ。この弓ではそういうことができるため連射速度は大幅に上昇。結果的に攻撃力も上がっている。

 そして何よりも、撃ち出した矢の軌道をある程度変えることも不可能ではない。速ければ速いほど操作性は落ちるが、ぎりぎりで躱そうとしている相手の身体を抉り取るくらいの事は十分にできる。

 喋る暇は与えない。喋らせれば喋らせるだけ色々と聞いていないことまで解説したがるタイプだと聞いているが、それ以上にこいつの言う言葉が不快すぎてどうでもよくなってきている。

 

 身体を動かせなくなる刀からさらに形を変えた毒をまき散らす金色の芋虫のような形の刀を撃ち抜き、その向こう側に居た涅マユリの胴体に風穴を開けた。織斑さん曰く、頭さえ無事なら何らかの方法を用いて復活してくるタイプだと聞いているが、本当にここから復活できるのか?

 ……と考えながらボロボロになった涅マユリを観察していたら突如自分の首に刀を刺し、何故か液体になった。しかも蛍光黄緑色ではっきり言って気持ちが悪い。

 しかし、液体になったらこちらの攻撃はほぼ効かない。滅却師は霊子を扱うのであって炎や雷を使うのは極一部。霊子による攻撃というのはこの全てが霊子でできている世界においてはほぼ純粋な物理攻撃と変わらない。液体をなんとかするのであれば、それこそ一部を閉じ込めておいてその状態で元に戻った時に閉じ込めた部分が心臓や脳などの重要器官であることを祈るくらいしかできない。そして大概の場合そういった願いは叶わない。

 

 けれど、とりあえず勝てた。毒が井上さんの方に行く前に何とかなったし、霊子の隷属によって分解された霊子はそれまでの形や状態がなんであっても問題なくただの霊子として扱えることも分かった。これなら次以降僕自身には毒は効かなくなる。ありがたいことだ。

 ……ちなみに、織斑さんは霊子集束の究極系として相手の意思の有無すら無視して霊子を分解解体集束する技術を見せてきた。上手く使えば虚をこれで分解して組み替え、虚になる前の正常な霊体に戻すこともできるらしい。今度習いに行こうと思う。

 

 それはそれとして……この人どうしようか? 怪我をしているし動けなくなっているが、ここに置いていっても大丈夫だろうか?

 




Q.そう言えば石田が戦ってるところを見たことがないような……?
A.はいはいキンクリキンクリ。

Q.霊子の隷属強すぎね? あとこれ滅却師の力を失わないんでしょ? やばくね?
A.原作で最後の敵も滅却師でしたからね。このくらいできてもいいのでは? と。


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BLEACH~58

 

 side 石田雨竜

 

 突然空から何かが降ってきたと思ったら、凄まじい威圧感を放つ髪が雲丹の針のようにとがっていてその先に小さな鈴がいくつもついている奇妙な風体の男と目が合った。

 これはやばい。さっきのイカレ科学者とはまた別方向にやばい存在だ。純粋に強く、そしてひたすらに戦闘を求める戦闘狂の顔をしている。

 

 だが、運がいいのか悪いのかはわからないがじっと見つめてくるばかりで襲い掛かってくる気配はない。殺気も無く、しかしただそこに立っているだけで凄まじい重圧が身体にかかる。乱装天傀によって無理矢理立っている僕はまだ大丈夫だが、井上さんは……

 

「……黒崎君と戦いました?」

「ああ。将来が楽しみな奴だったぜ。もうちっと強くなってくれねえと楽しい戦いにはできねえだろうが……まあ待つさ」

「なんでこの状況で普通に話しかけられるのかな井上さん!?」

 

 以前から空気を読まない行動とか結構していたけれどこの状況でその行動は読めなかったかな!? と言うかなんであっちの方も当たり前のように応対してるんだ!? 流石に全く意味が解らないんだが!?

 と言うか黒崎の奴はこれと戦って生きてるのか……思っていた以上に黒崎の奴は強くなっているのかもな。それがどの程度のものかは知らないが、僕より強いんじゃないか……?

 

「あいつの話ができるってことはお前らもあいつと同じ旅禍ってことでいいな……色々と話をしなきゃならねえことがある。ついてこい」

 

 そう言うが早いかそいつはひょいっと井上さんを背負って走り始めた。僕も飛廉脚で後を追うが、凄まじく速い。見失う事こそなさそうだが、どう見ても相手には余裕がある。僕はかなり全力で走っていると言うのにこれだけ差があるのか……これが隊長格……。!

 

「一応言っとくが俺より速い奴も強い奴も霊圧の多い奴も上手い奴もいるからな。俺はどの分野でも二位か三位って所だ」

「強さの分野では?」

「…………殺し合いなら四……いや、三位、か?」

「ちなみに一位から五位の方の名前は?」

「織斑、総隊長の爺さん、俺、卯ノ花八千流、藍染だろうな。俺と卯ノ花は前後するかもしれねえが……今の俺なら勝てるだろうよ」

「ほわぁ……凄いんですね」

「はっきり『頭がおかしい』と言ってもいいぜ?」

「? 強い事は良い事だって言ってましたよ?」

「ほぉ? 俺と意見が合いそうだな」

 

 なんで井上さんはほぼ誘拐されてるような状態でこんなに和気藹々と会話ができるんだ……? 僕の方がおかしいのか?

 

「あの、どこに向かってるんですか!?」

「あ? あ~……確かあれだ、旅禍が一人捕まってるらしくてな。そいつを引っ張り出して一護にくれてやって、その代わりにまた一遍やり合う予定だ。あいつなら乗るだろ。多分」

「あ、黒崎と戦うことが主目的なんですね……」

「たりめーだろ。ついでに他の隊長格とも戦えりゃ言うことなしだな」

 

 戦闘狂ってこういうののことを言うんだろうな……と思いつつ後を追っていくと、壁に挟まれた道ではなくもっと開けた建物の密集地帯に出た。ただ、どこからも知り合いの霊圧を感じ取ることはできない。黒崎の霊圧はどこにあるのかはわからないけれど瀞霊廷中に散っているからここに居てもわからないかもしれないし、夜一さんの霊圧は猫の姿だった頃から非常に感じ取りにくいものだったからわからないでも仕方がないと思たけれど、茶渡君がここに居るならそのくらいはわかりそうなものだ。それすらわからないというのはおかしい。

 

「捕まった奴ってのは霊圧を封じる枷を付けられる。完全に抑え込むことはできねえらしいが、術を使おうとするとそれに干渉して使えなくなるとか言ってたな」

「へぇ……」

「それは、霊圧だったら何でも抑え込める?」

「そうなんじゃねえか? 詳しい事は知らねえが、昔それで武器を作ろうとして失敗したって話もあったな」

 

 ……なんと言うか、細かい事は考えていないし憶えてもいないけれど、浅く広いものに限定するならかなり知識があるんじゃないかこの人? あと、隠し事をすると何となく見つけられそうな気がする……。

 でも、霊圧を感じ取れないんじゃ僕たちがどう頑張っても茶渡君を見つけることはできなかったと言う事だ。多分黒崎の奴でも同じだろう。ここで会うことができてよかったと思うことにしよう。

 ただ、随分派手に壊しながら来ているのだけれど、これは大丈夫なんだろうか。主に直す時のお金とか、どこから出ることになるんだろう……。

 

「あ、そうだ。黒崎君の居場所は知ってるんですか?」

「? 知らねえのか?」

「探せばわかると思いますけど……今はちょっと」

「そうかよ。まあ暴れてりゃそのうち出てくんだろ」

 

 思考回路は完全に脳筋のそれなんだけど、多分それもあの実力に裏打ちされてのものなんだろう。死神って言うのはどれだけぶっ飛んだ奴が多いんだ? 能力的に一番ぶっ飛んでいるのは織斑さんだし、性格が一番ぶっ飛んでるのはあのイカレ科学者。そして趣味嗜好が一番ぶっ飛んでるのがこの更木剣八。死神と言うのは個性の坩堝なのか……?

 

「おいヒョロモヤシ。お前今死神全体が濃すぎて呑み込めねえ、みたいなこと考えただろ」

「……ハイ」

「濃いのは上位席官の一部と隊長格くらいだ。他はそこまで濃くねえから安心しろ」

「アッハイ」

 

 思考を読まれたのか……? いや、言ってる内容自体は大体あってたけど細かい所は外れてたから何となくそんな気がしたとかそう言う奴だこれ……こわ……死神の隊長格こわ……。

 




Q.石田君死神という種族に苦手意識出てきてません……?
A.出てきてますがお気になさらず。

Q.井上はよく当たり前に声をかけられたな?
A.原作でもそんな感じに会話してる描写がありましたしね。

Q.やちるは?
A.現在別行動。



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BLEACH~59

 

 side ■■■■■■

 

 カロロロロロ……

 賽子の転げる音がする。

 転げまわってやがて止まって、そして全ては動き出す。

 

 瞳に移る無数の未来。選定し、数値を当て嵌め、賽子を転がす。

 くるりくるりと転げ落ち、地に落ち弾けて目を見せる。

 見せた目に映る未来を一つ選んで進んでいく。

 

 カロロロロロ……

 カロロロロロ……

 

 繰り返し、賽子を転がす。転げ(まろ)びて跳ね回り、思わぬ世界に道が開ける。

 

 未来が一つ、はじけて消えた。

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 急にチャドの霊圧が現れた。一度弱まってそれから回復して、その直後に一瞬で押し潰されるようにして消えたから何かあったんだろうとは思っていたが、多分封印されていたんだろう。どんな方法でそれをやったかは知らないが、瀞霊廷の科学力は侮れない。

 ルキアを夜一さんと……夜一さんに抱き着いて猫吸いしていたちょっとお近づきになりたくない二番隊の隊長に預け、外に出てその方向に走り出す。

 ……剣八がいる。そしてそのすぐそば、それこそ背負われてるんじゃないかと言うくらい近くに井上がいて、そのすぐ後ろを石田とチャドが追いかけている。剣八のそばにいつもいたピンク色の髪のちっこいのは……どうやら邪魔が入らないように適当にその近くにいる奴を相手に飛び回っているようだ。剣は抜いていないようだし、これなら遊びで済む範囲ってことなんだろうな。

 

 その方向に走っていけば、双極の丘とは完全に逆方向に走っていた剣八たちに追いつくことができた。剣八がもう少しゆっくり走ってくれていればもっと早く追いつけたんだが、剣八変な所でめっちゃ速え。井上が後ろから走って追ってる俺を見つけれくれなかったらあと数分は走り続けていたところだ。

 で、なんで剣八が井上たちと一緒に居るかを聞いてみたんだが……俺と戦うためだったそうだ。

 

 まず、俺は現世で白哉に一方的に倒されている。いや、白哉どころか恋次にも負けている。それから一月と過ぎていないのに俺は恋次を瞬殺し、白哉を圧倒した挙句に四人の隊長格を同時に相手にして勝ちに近い引き分けにまで持って行っている。その成長速度を知って、とりあえず一回見逃してもう一度戦ってみたいと思ったらしい。

 俺がここまで強くなれたのは浦原さんが基礎を作ったところに織斑さんが基礎を増築してその上に城をおったてようとしたせいなんだが、そんなことは言われないとわからねえだろうしまあ仕方ねえわな。それに織斑さんとの約束で俺は瀞霊廷内で事が終わるまでは織斑さんの名前を出さないようにしているから伝えられないしな。

 だから今の俺にできる限界は少し前に剣八にやった卍解+虚化+動血装のあれと変わらないんだが……それを聞いても多分剣八は止まらないだろう。

 と言うか、なんで剣八の剣は折れてから一日二日で綺麗に元通りになってんだろうな。いや、元が綺麗じゃないから綺麗に元に戻ったって言っていいのか微妙な所だが。

 

「まあ何でもいい、とりあえず()ろうや」

「マジで勘弁してほしいんだがなぁ……ああわかってる、わかってるから。どうせあれだろ? 逃げても追っかけてくんだろ? で俺が戦わざるを得ない状況にまで持って行くんだろ? わかってるって」

「強くて物分かりのいい奴は嫌いじゃないぜ?」

 

「……でもよ。周りに面倒な奴らが来てるようだからできればまた後でにしてもらいてえんだが」

「あァ?」

 

 背後に跳び、斬月を振るう。月牙ではなく大気を切り裂く剣圧が、放たれた炎を切り捨てる。なお月牙を放たなかったのは霊子は燃やされるが霊子のない真空は燃えないからだ。

 そして視線を向けた先では、俺の知った顔と知らない顔がいくつも並んでいた。

 

「ほぉ……山じいの炎を斬り捨てるのか。こりゃまた随分と強いんだねぇ」

「いやあんたも相当だろ。見ただけで分かるわあんた強い」

「そいつはどーも」

 

 ……こいつは辛いな。あの燃えてる刀を持ってんのは間違いなく織斑さんの言っていた一番隊総隊長、山本元柳斎重國。威力だけで言えば最強の斬魄刀を持つ最古の死神。

 それから隊長格の事だけは聞いていた。六番隊の朽木白哉、七番隊の狛村左陣、八番隊の京楽春水、九番隊の東仙要、十番隊の日番谷冬獅郎、十三番隊の浮竹十四郎。それに加えて今すぐ襲い掛かってくるかどうかはわからないが十一番隊の更木剣八もいる。

 

 いや、これほんとマジで詰んでないか? ここから何をどうしたらひっくり返せる? 俺も人間であるからして、ひっくり返せる戦力差には限度ってもんがね?

 

「山じいがいきなり斬りかかっててなんだけど、一つ質問があるんだけどいいかい?」

「? なんだよ? 答えられることなら答えるぞ」

「藍染君を殺したの、君かい?」

「藍染……確か、五番隊の隊長だっけか。いや、俺はここに来てから誰も殺しちゃいねえよ」

「そうかい……なるほどね。彼女の予想は正しかったってわけだ」

 

 何が何だかわからないが、とりあえず今すぐに戦いになるわけじゃねえみたいだな。ただ、あっちの爺さんと白哉、それと狛村は俺の事を狙ってるし、他の奴らも今すぐ襲い掛かってきたりはしなさそうだが俺達の誰かが逃げようとしたら即座に追いかけていくだろう。

 

 ……どうする?

 

 いや、答えは決まっている。俺はルキアを助けに来たんだ。だったらここで止まっているわけにはいかねえし、誰一人失うつもりもねえ。

 さあ、斬ろう。

 




Q.最初の何?
A.後々わかる。

Q.一護がなんか脳筋になってない?
A.一夏に関わると大抵脳筋になるんですよね。びっくり。


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BLEACH~60

 

 side ■■■■■■

 

 放たれた賽は止まらない。結果が出るまで触れることは許されず、自然に止まるを待つばかり。

 転がる賽が静かに止まり、世界はその道に繋がれた。

 

 二つの賽を抓み上げ、掌中に転がし再び放る。果たして世界はどのように……

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 戦いに必要な物は覚悟だと教わった。

 敵を斬る覚悟。決して死なせないようにする覚悟。武器よりも何よりも、そういった意思こそが必要なのだと。

 それを鍛え上げるために、強い意志を練り上げるために、馬鹿みたいに何度も何度も俺の事を殺しかけた。そしてその度に俺に優しい言葉を吐いて、俺がその言葉を拒否する。それだけで、俺の意思は固まった。

 

 勝つために必要な物を集めよう。

 霊圧。十分以上に確保している。

 剣。この手の中にある。

 意志。胸の内に燃えている。

 だったら後は動くのみ。

 

「おい一護」

「……なんだよ」

「約束しろ。あとで俺と殺しあえよ」

 

 ……敵が一人減って、一時的に味方が一人増えた。剣八が隊長格の中でどれだけ強いかは知らないが、俺が戦う時にちゃんとした戦いになると言われた三人のうちの一人だ。卍解は周りの被害が大きくなりすぎるから使わないだろうと言われた数人を除いて、の話だが。

 

「ああ、わかった」

 

 石田とチャドに視線を向ける。方向は俺が走ってきた方、双極の丘。その道は無理矢理にでも俺がこじ開ける。

 俺の意図にチャドが気付いた瞬間、俺は斬月を大きく振った。

 

 月牙天衝。俺の霊圧を食って斬撃そのものを巨大化させて放つそれは、直撃を受ければよほど俺との差が無ければ両断される。隊長格は流石と言うべきか即座に跳躍して躱してみせたが、そこにさらに追撃を行う。

 迫る炎を剣圧で両断し、足先から月牙を放って周囲の牽制。大量に飛んでくる刃の雨を弾き飛ばし、巨大な剣を打ち払う。

 無数に散った細かな刃をちっこい隊長の出した氷で受け流し、無理矢理作った道をチャド達が走っていくのを見届け……チャド達に襲い掛かろうとする山本の爺さんの剣を受け止める二人の隊長の姿を見た。

 京楽春水と浮竹十四郎。一体なんでこちらに協力してくれようとするのかはよくわからないが、ともかく手を貸してくれるようだ。ここにはいない四番隊の隊長さんが関わっているらしいが、ともかくこれで少しは楽になったと思っていいだろう。

 

「……剣八」

「あ?」

「何人と戦いたい?」

「……は、よくわかってんじゃねえか。全員寄こせ……と、言いたいところだが、一人は譲ってやるよ」

「じゃあ白哉は貰うな」

「俺の邪魔しやがったらお前から斬るぜ」

「肝に銘じておく」

 

 場所を移すために白哉の胴体に蹴りを入れる。体勢を崩して吹き飛んでいく白哉に追いついてまた蹴り飛ばす。加速していく白哉に繰り返し追いついて何度も蹴り飛ばしながら、千本桜の刀身が追いついてこれない程度の速度で果てまで走る。詠唱を無くした鬼道で目眩ましを仕掛けてこようとしたが、受けずに躱して更に追撃。二十も蹴り飛ばしたころにようやく周りに人がおらず、ついでに剣八からも十分離れられたと思える距離に来たので場所を見つけて白哉を蹴り墜とす。

 さらに追撃。千本桜が戻ってくるより早く肩口を斬月で貫き、織斑さんがやっていた突きの月牙を叩き込む。白哉の腕が吹き飛んでくるくると宙を舞い、握られていた柄だけの斬魄刀がガシャンと落ちる。

 しかし刀身は未だ戻ってくる最中だろうし、とりあえず柄の方に月牙を飛ばして使用不能にしてから本人の方を蹴り飛ばす。腕で防がれたが防いだ腕をへし折って顔面に踵を入れる。井上も斬り飛ばされた腕をくっつけるどころか元通りに生やすことだってできるんだし、こっちの技術でも繋げられるだろう。死んだら……流石に無理だろうけど。

 

 刀身の形ではなく霊子の塊になって飛んできた千本桜の刀身が、真っ二つになった柄に二つになって集束していく。真っ二つにしてもこうして元に戻るってのはすげえな……と言うか、斬魄刀がへし折られても元に戻るのは精神世界に限ったことじゃないんだな。剣八のもそう言えば元に戻っていたっけか。

 

 さて、この状況での戦力の確認をしておこう。

 まず俺。霊圧はほとんど減ってない。怪我無し、武器の損耗も無し。ついでに相手の情報は大体持っていて、俺の情報は殆ど見せてない。卍解も虚化も滅却師の術も見せてないしな。

 対して白哉はというと、右腕の肩から先を失って出血多量、斬魄刀の柄を両断されてまともに振ることもできないが、卍解の方法によっては十分使えるだろうからこれについては保留。卍解は始解の完全上位互換で、ほぼそのまま量が増えた感じだそうだ。使い方次第では刃を固めて剣の形にすることも可能だとか言ってたっけか。

 

 まあ、五分だな。油断できない。遠距離はあっちの間合いだし、接近戦で行こう。

 




Q.これで五分とか一護の脳味噌腐りきってんじゃねえの?
A.紅茶漬けになっているだけだから大丈夫です。

Q.と言うか一護強くね?
A.インフレ激しいジャンプ作品で一人先取りしているキャラですからね。


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BLEACH~61

 

 side ■■■■■■

 

 時は来た。賽の目は収束し結果が定まる。それが誰の得になるのか、あるいは損になるのか。誰も理解できぬまま。

 

 

 

 

 

 side 四楓院夜一

 

 突然の事だった。斬られたことを知覚した次の瞬間には砕蜂も同じように斬り捨てられていた。

 感知など全くできなかった。何もいないはずの場所からの突然の攻撃に、為す術なく倒されてしまった。

 しかし、儂も砕蜂も隠密機動を率いる、あるいは率いていた者。自身の身体に刃が食い込めばそれを即座に察知して身体を翻らせる程度の事はできる。お陰で胴が真っ二つになる事は無かったが……しかし、動くことはできそうにない程度の傷を受けた。

 

「―――腰から下を斬り落とすつもりだったのだが……流石と褒めておけばいいのかな?」

「―――藍、染……!?」

 

 砕蜂の目が大きく開かれる。砕蜂の情報では藍染は儂らが瀞霊廷に入り込んだ次の日に何者かに殺害されていたはず。それが今こうして儂らの目の前に立っており、儂等を攻撃して来た。即ちそれはいつからか瀞霊廷は藍染の手の中で転がされていたと言うことに他ならない。

 そして今ここに来ていると言うことは、狙いは間違いなく―――四季崎ルキア。

 

 今の四季崎はほぼ人間の霊体と変わらない。隊長格の霊圧を間近に受けて、立っていられるほど一般的な人間の霊魂と言うのは頑丈にはできていない。膝をつき、ただ震えながら藍染を見つめることしかできていないのがわかる。

 逃げろ、と叫んだところで逃げられるような状態にないのは見ればわかる。そしてそれ以前に、刀傷が肺にまで達しているせいで声を出せない。呼吸もままならず、繰り返し血を吐き出しながらその光景を見ている事しかできない。

 

 ふと、手に触れるものがあった。百年以上も触れていなかった、自身にとって最も身近で最も役に立たない武器。始解状態の名は知っているが卍解の名を知らず、しかし何故か卍解し続けるという奇妙な斬魄刀。

 何が起こるかわからない。良い方向にも悪い方向にも状況を変えうる、自身の刀。既に呼吸もままならないままに、儂は儂の知る刀の名を呼ぶ。

 

(まろ)ばせ―――『明神(みょうじん)』」

 

 声にならない声。しかしそれでも刀は形を変え、十の面を持つ賽子へと形を変えた。

 同時に自身の置かれた状況が客観的に理解できるようになる。まるで自身が物語の登場人物であり、自身の意のままに動かすことができる、一番近いもので言うならばかつてやったことのあるTRPGが一番近いだろうか。

 状況は、はっきり言ってかなり悪い。体力は刻一刻と減っていくし、身体はまともに動かせない。この状況で頼ることができるものと言えば……

 

 賽を振る。放たれる、というよりは転がり落ちると言った方が正しく思えるほどの弱々しい投擲だが、これに関してはこれでいい。ころころと転がり、出された目は―――

 

『……相変わらず、こういう時には運がいい』

 

 世界が向かうレールが切り替わった音がした。最高の結果ではないにしろ、少なくとも悪い方には行かないと言うことがほぼ確定した。

 再び賽を拾って投げる。一度切り替わったレールがさらに切り替えられ、予想だにしない方向へと向かっていく。

 目の前では四季崎が胸を貫かれ、その中に封印されていた崩玉を藍染が引きずり出している。決定的な結果が出る前に、もう一度。

 

 ……世界は決定づけられた。

 

「そこまでです、藍染隊長……いえ、大逆の罪人、藍染惣右介」

「……ほう。予想よりはるかに速い……なぜここが?」

 

 四番隊隊長、卯ノ花烈。なにがどうしてそうなったのかはわからぬが、運良く致命的な結果が出るより早く到着してくれたようじゃの。

 

「昨日、貴方の死体に強く違和感を感じ始めました。故に貴方の死体は完全にあなたの死体にしか見えませんでしたが、貴方の死体ではないという前提で動き始めました。初めは隠れるならば禁踏地である清浄塔居林を探しましたがあなたの姿はなく、けれどあなたが生きた状態でその場にいたという確証だけは得ました。そこで―――」

「ああ、もういいよ。摑趾追雀だろう? 虎徹君かな」

「―――ええ、そうですね。ですが一つわからないことがあります。一体あなたはいつ、あれほどまでに精巧な死体を用意することができたのです?」

 

 それから聞かされた話は、なんとも言えない物だった。鏡花水月。解放の瞬間を一度見せればそれ以降全ての存在に対して完全催眠に落とし込むことのできる斬魄刀。死体があるように見せ、四十六室を全員殺害して乗っ取り、全てを騙して自在に操る能力。

 ……そして、もう一人の隊長格、九番隊の東仙要の裏切り。

 

 それを話してから藍染は悠々とこの場を去った。脊髄が両断されて腰から下を動かせん砕蜂と、脊髄は無事じゃが内臓が全体的に腹からこぼれ落ちようとしておる儂。そして霊圧に当てられて動くこともままならぬ四季崎。儂と四季崎はともかく、このままでは砕蜂が隊長に復帰できるかは非常に怪しい。上手く治してくれるとありがたいんじゃが……。

 




Q.夜一の斬魄刀って十面ダイスで合ってる?
A.合ってます。

Q.幸運ロールして成功すると幸運が訪れる感じで正しい?
A.正しいです。

Q.ところでちくわ大明神は?
A.卍解!


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BLEACH~62

 

 sode ■■■■■■

 

 賽を振る。幸運成功。復帰可能。

 賽を振る。幸運成功。後遺症無し。

 賽を振る。入院期間は半月。リハビリ含む。

 賽を振る。チェック失敗。1D6……4の減少。

 

 賽を振る。幸運成功。復帰可能。

 賽を振る。幸運失敗。傷が残る。

 賽を振る。入院期間は三日。リハビリ無し。

 賽を振る。チェック成功。1D2……1の減少。

 

 賽を振る。幸運クリティカル。即時復帰可能。

 

 賽を振る。幸運ファンブル。魔王顕現確定。

 賽を振る。幸運成功。生存確定。

 賽を振る。幸運ファンブル。社会的死亡確定。

 賽を振る。幸運クリティカル。後遺症無し。

 

 腹筋弾け飛ぶwwwwwwwww

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 白哉の両腕と片足を斬り落としている最中、突然頭の中に声が響いた。なんでも五番隊の藍染と言う隊長が色々と仕組みまくってこの状況を作り上げたらしい。目的はルキアの中にあった崩玉と呼ばれるもので、それがあれば死神と虚の境界を越えて更なる強さを手に入れることができるようになるとか。

 ルキアを俺が攫ってしまったために魂魄を蒸発させるほどの威力を持つ双極での処刑ではなく、浦原さんが残した研究の成果を使ってルキアから崩玉を取り出した藍染は、今は転移して双極の丘の上に佇んでいるという。

 

 ……話が終わった時点で俺に繋がっているこの術を逆向きに辿って四番隊だという人に声を届ける。白哉の両腕と片足を斬り落としちゃったんだけど落とした手足があればくっつけられるか聞いてみた。めちゃくちゃ驚かれたが、できないことはないらしい。

 四肢の三本を落とされているにも拘らず霊圧で出血を抑え、意識を保ち続けている白哉を斬月の布で包んで運ぶ。落とした手足と真っ二つになった斬魄刀も一緒に持って行くが……ルキアがいた双極の丘からかなり離れてしまったせいでもう暫く時間がかかりそうだ。

 

 それと、こんなことになるならここまでやらなければよかったという思いもある。せめて腕一本で終わらせておけば本人に走ってもらうこともできただろうに。どうも瀞霊廷に来てからやりすぎてしまうことが多くなった気がする。

 理由については……多分、織斑さんの修行によるものだ。人間性を捧げて強さを得るような修行だったからな。少し血液に紅茶が混じったような気もするがきっと気のせいだ。パンジャンは怖い兵器であって崇拝するものでもなければ気分やノリで作るようなものでもない。そう考えられる時点で俺はまだ紅茶はキマっていないはず。

 なおそれを織斑さんの前で言うつもりはない。言ったら多分ヤギの内臓にヤギの内臓を入れてヤギの体液で煮たものを食わされる。こわい。

 

 ともかく双極の丘の地下、浦原さんがこっそり作ったという修行部屋に戻ってみると、そこにはかなり深く身体を斬られた夜一さんと怪文書製造機……改め、砕蜂さん(呼び捨てにするほど親密になりたくない)が治療を受けているのが見えた。あと、ルキアも転がっているようにみえるが……見たところ外傷は無いように見える。中身は知らないが。

 

「……随分と派手に斬りましたね。旅禍―――黒崎一護」

「……俺、あんたに名乗った覚えはねえんだけどな。まあ、初手から卍解使わせるわけにもいかねえし、できる限り手早く無力化しようとしたらどうしてもな」

「……朽木隊長をこちらへ。斬り落とした四肢も綺麗に並べて」

「うっす」

 

 背中に背負った四の文字。多分この人が護廷十三隊における最強の剣術家にして最恐の女、卯ノ花八千流だろう。見た目は優しげに見えるがそれはあくまでも見た目だけで実際には地獄の鬼すら泣いて逃げ出すような剣の鬼だと聞いている。あと、直接切り殺した数は恐らく現在の護廷十三隊の中ではトップ3に入るのは間違いないという話も聞いた。ちなみに斬り殺した数なら卯ノ花さんが上かもしれないが、純粋に殺した数なら間違いなく織斑さんの方が上らしい。生きていた頃に国を二つ三つ土地ごと物理的に消滅させたと言っていた。人間じゃねえ……おっと死神……いや生きてた頃だからやっぱ人間……?

 ともかく治療中に逆らってはいけない類の人間だという話は聞いていたので、言われた通りに白哉本人と斬り落とした腕と足を綺麗にくっつけて並べておく。なんかそれを見た卯ノ花さんがうずっとこみ上げた何かを抑え込んだような気配があったが、多分それに気付いてしまったらさらにうずうずされると思ったので流すことにした。対応自体は多分正解だと思うが、時々聞こえる鍔鳴りが超怖い。

 

「黒崎君!」

「井上? 早かったな。あと助かった」

「?」

「いや、気にしないでいい」

 

 本当に助かった。明らかに非戦闘員である井上が来てくれたおかげで鍔鳴りその他が収まったからな。マジで助かった。ここに井上大明神を祀る祭壇を立てよう。

 

「とりあえず、白哉を治してやってくれるか」

「え? !? わ、わかった!すぐやるね!」

「頼んだ」

 

 霊圧を考えなければ井上の回復術は死神たちの使う術よりだいぶ上っぽいからな。血が足りないとかそういうのはあるかもしれないが、これで少なくとも死ぬことはなくなるだろう。

 

「……素晴らしい術ですね。かなり特殊なようですが」

「らしいな。色々見て回ったけど井上みたいな術の使い手はいなかったし」

 

 さてと。それじゃあ俺は藍染って奴を止めに行くとしようか。できるかどうかはわからねえけど。

 




Q.なんで腹筋弾け飛びそうになってるんですかね?
A.ダイスの女神様大爆笑的な?

Q.一護君やりすぎこえてやりすぎすぎじゃない?
A.片腕斬り落として武器破壊して五分だと宣うくらいですからこのくらいするかなと。


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BLEACH~63

 

 side ■■■■明神

 

 時は遡る。私が行った世界への干渉が、いったいどのような物だったのか。それを辿るために。

 

 

 

 久し振りに私は目を覚ました。私の最初の探索者がしばらくぶりにこの尸魂界に戻ってきたのを感知したからだ。

 尸魂界内であればそこまで困るものでもないのだけれど、流石に尸魂界と現世ほども離れてしまうと私の意識は一時的に消えてしまう。本体ともいえる私の探索者の中にも私はいるけれど、やはり私はこちらだから仕方がない。

 

 賽を転がす。織斑一夏が壁を出るのと同時に壁が下りてくる幸運×6ロール……成功。

 賽を転がす。織斑一夏が面倒だからと皆殺しにしない幸運×8ロール……自動成功。

 賽を転がす。織斑一夏が修行を付けるかどうかを幸運×3ロール……クリティカル。いい感じにつけてくれます。

 賽を転がす。織斑一夏に精神世界で殺され続けた黒崎一護のSANチェック……失敗。5D6……22。発狂。

 賽を転がす。黒崎一護の発狂内容の決定……常軌を逸した四季崎ルキア救出への執着、加えて情動の一部欠如。

 賽を転がす。明日の十一番隊の夕食は極厚ヒレカツ定食おろしポン酢掛け。ごはんと味噌汁、漬物付き。希望者は有料で味噌汁を豚汁に変え、さらに豚汁にバターを入れるかどうかを選べる。

 賽を転がす。探索者に対しても修行が行われるか否か幸運×5ロール……失敗。錆落とし程度に収まった。

 賽を転がす。黒崎一護たちの平均的な成長度合いを1(1D3-1)……2。実力を瀞霊廷編から二つ進め虚圏編程度にまで。

 賽を転がす。織斑一夏がついてきてくれるかを幸運×0.1ロール……失敗。と言うか元々1%未満の事をできなかったからと言って私に当たられても困る。

 賽を転がす。黒崎一護が砲弾をちゃんと作れるようになるまでの時間を1D10……1。すぐできる。

 賽を転がす。瀞霊廷が黒崎一護の砲弾に気付いたかを幸運×1ロール……成功。藍染の幻覚でみんな見えてなかった。

 賽を転がす。今日の四季崎ルキアの夢はゲス顔Wピースな朽木白哉と愉快な仲間達(六番隊)のコーカスレース。

 賽を転がす。この状況の異常さに更木剣八が気付くかをINT×2ロール……成功。気付いた。

 賽を転がす。藍染の思惑に更木剣八が気付くかをINT×1ロール……失敗。気付けなかった。

 賽を転がす。この状況の異常さを更木剣八が誰かに伝えるか……自動失敗。戦い好きの更木剣八が伝えるわけなかった……。

 

 賽を転がす。侵入時に纏まって落ちることができるか幸運×5ロール……失敗。

 賽を転がす。探索者が砕蜂に捕まらない敏捷対抗ロール……自動失敗。捕まる。慈悲はない。

 賽を転がす。今回の怪文書はルイズコピペ。探索者の目が死んだ。

 賽を転がす。ちくわ大明神。

 賽を転がす。……はい、私です。

 賽を転がす。黒崎一護が落ちた位置にいる敵を設定……十一番隊第三席、及び五席。

 賽を転がす。黒崎一護が斬り倒した阿散井恋次を治せる四番隊員を都合よく見つけられるか幸運ロール……クリティカル。治せる上に味方になってくれる山田花太郎が迷子になっていた。

 

 賽を転がす。雛森桃が藍染惣右介の死体(?)に気付けるか……自動失敗。雛森桃にSANチェック。自動失敗からの10D3……18。発狂。

 賽を転がす。雛森桃の発狂内容を設定……殺人衝動。自身を含めた周囲の人間に斬りかかる。

 賽を転がす。目を覚ました雛森桃が自殺しないか発狂&幸運ロール……成功。目を覚ました時日番谷冬獅郎がいたため止められた。

 賽を転がす。瀞霊廷中にこっそり隠されていたパンジャンドラムの一部が戦闘に巻き込まれて誘爆、多大な被害を出す。ついでに本来茶渡が戦うはずだった八番隊の隊長はそれに巻き込まれて一時別の場所へ。

 賽を転がす。石田の戦闘カット。

 賽を転がす。なんかよくわからないがなんかなってなんか井上織姫と涅ネムが少し仲良くなった。

 

 賽を転がす。黒崎一護が四季崎ルキアを助け出す際に邪魔が入るかどうかの幸運ロール……ファンブル。朽木白哉参戦に加え、近くにいた浮竹十四郎、狛村左陣、東仙要までもが参加。なお蹂躙される。

 賽を転がす。藍染惣右介が次に見る夢はバニーガールな山本元柳斎重國五人に囲まれてお酌()や接待()される夢。ついでに寝起きに悲鳴を上げるかどうかも……上げないのか。残念。

 

 この後、私は実に百年以上振りに探索者に呼ばれることとなる。と言っても探索者は私の詳しい能力については知らず、賽子を振って出た目が小さいほどいい事が起こる、程度の認識であるようだが。

 ともかく私は世界を動かす。ただし、時折動かせない相手もいるのだが。

 例えば、寝ている織斑一夏。動かそうとすると間違いなく破壊を齎すし、その破壊はちょっとした広さではとてもとても抑えきれない、結局目的のためならば手を出さないようにするのが一番だ。あれは、無理。

 




Q.知らん事とか色々あるんですけど!?
A.ネタ度も高いね!グッピー殺し!

Q.一夏は若干扱いづらいとか書いてあるけど?
A.一夏だからね。仕方ないね。


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BLEACH~64

 

 side 黒崎一護

 

 双極の上に眼鏡をかけた優男が見えたのでとりあえず超遠距離から突きの月牙をぶち込んでみたんだが、片手で払われた。マジかよあいつ人間じゃねえ……あ、死神だったわ。

 月牙で俺の居場所がばれたようで俺に視線を向けたかと思うと嫌な予感がしたので即座にその場を離脱。すると直前まで俺の居た所をなんか異様に太いビームが貫いていった。多分鬼道って奴だろう。斬魄刀の能力にしては刀を向けるだとかそういう動作がなかったし、そのくらいならなんとなくわかるようになった。

 まああくまでもわかるだけであってそれに対処する方法とかはわからないんだけどな。真正面から撃ち落とすとかそういうの以外は。

 

 そんなわけで逃走―――しようとした瞬間再び嫌な予感がしたので斬月を背後に回す。するとそこにはさっき双極の丘の上に居た藍染が。瞬歩は慣れれば視界範囲内なら移動できるようになるとか聞いたことはあるけど俺も瞬歩で逃げてんのに余裕綽々で追いつくのかよ!?

 

「どこへ行こうと言うのかね?」

「剣八と同じかそれ以上にやばいと思ったから他の隊長格が集まる場所まで誘導しようかと」

「正直なことだ……できると思うかい?」

「やらないと死ぬなら無理でもやるさ」

 

 斬月を通して伝わってくる強さは、これまでで最高のもの。総隊長の流刃若火の炎が相手でもあそこまでの圧はなかった。まああれは零れただけの炎を相手にしていたからかもしれないが、まさか威圧感において剣八以上がいるとは思いもしない。織斑さん? あれは別格すぎて比較対象にならないから……。

 まあ、織斑さんより弱くても俺より弱いとは限らない。瞬歩と飛廉脚を合わせて全速力で走ってるってのに当たり前のようについてきている事からも藍染が今の俺よりも強い事が窺える。

 

「まったく、今回は僕の目的は達成されていたからこれで失礼しようと思っていたというのに、君のような血気盛んな若者に襲われてしまってはたぎりが抑えきれないじゃないか」

「あんた同性愛の気でもあんのかよ」

「ないよ殺すぞ」

「じゃあ戦闘狂の気でもあんのかよ」

「そっちはあるよ」

「あるのか」

「あるよ」

「じゃあ俺と本気で死合おうや」

 

 瞬間、俺と藍染の間に馬鹿みたいな霊圧が降ってきた。その直後、金属と金属のぶつかり合う音が耳元でダイナマイトでも鳴らしたかのような音量で響き渡る。何かが割れる音がした気がして空を見れば、そこには俺達が破ってきた瀞霊廷を覆う遮魂膜に入った巨大な皹。原因は―――間違いなく今起きているぶつかり合いによるものだろう。

 

「よう、藍染。殺しても死なねえと思ってたから敵になってくれて嬉しいぜ」

「ああ、貴方はそういう人だったね、更木剣八」

「お前も三割くらいはそうだろうが?」

「否定はしないでおこうかな……それで、いつから気が付いていたんだい?」

「あァ? んなもん織斑の奴が一月も長期休暇取って瀞霊廷の外に出たって時点で何か起こると思ってたぜ? 上の奴らは織斑の奴をできるだけ自分の目の届かないところに置いておきたくねえだろうってのは知ってた。だってのに突然長い休みを取らせたんなら……なぁ?」

「……なるほど」

 

 ……この状況じゃあ流石に手が出せない。と言うか出したら間違いなく剣八に斬られる。楽しい戦いのために俺を二度も見逃している剣八なら、そのくらいの事はやる。

 

「剣八! 他の隊長たちはどうした!?」

「あ? 大体斬ったぜ。一応殺さねえように加減してやったが……あいつらじゃあ百年経ってもそこそこしか楽しめそうにねえな」

「それはお前が強すぎるのが原因だと思うんだが……」

 

 つーかやべえなこの二人。一体何をどうしたらこんな風になるんだよ? 二人とも聞いた限りじゃ広域破壊系の能力を持つ斬魄刀は持ってねえらしいのに、剣の一振り一振りで瀞霊廷が揺らいで遮魂膜に皹が入ってやがる。流石に遮魂膜が崩れ落ちるとか言う頭のおかしいことにはなっていないが、皹が入ったまま振動が繰り返されるせいで遮魂膜同士が擦れあって上げる軋みが酷い。すげえ五月蠅い。こんなこと言ってる場合じゃないし、何ならマジで尸魂界全体の危機だってのもわかってるつもりではあるんだがそれでもうるせえ。

 そして、今の俺じゃあどうにもならないということはわかった。卍解に虚化を重ねてもどうにもならないだろう。この状況で滅却師の能力まで重ねる気にはならないからそれが限界だしな。

 

 なら俺にできることは、藍染と剣八の攻撃の巻き添えにならねえようにこの場から離れるだけ。そもそも俺の目的はルキアの救出だ。藍染の目的がルキアの中にあった崩玉とか言うもので、既にそれを取り出された後だってんならわざわざ藍染とこの場で戦わなければいけない理由もない。

 ……まあ、置き土産くらいは残していくけどな。

 

 仮面を出さずに一瞬だけ虚化し、卍解をしていない斬月を振るう。虚の霊圧を込められた月牙は黒く染まり、薄く薄く研ぎあげられて停滞する。

 その場に繰り返し全く同じように全く同じ場所に月牙を配置し、それらを全部まとめて藍染と剣八の戦っている戦場に見えにくくして設置する。これで準備は整った。

 よし、逃げるか。

 




Q.剣八察しが良すぎない?
A.ちくわ大明神のお達しですからね。仕方ないね。

Q.一護は何をしてるの?
A.ほぼ嵌め技?


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BLEACH~65

 

 side out

 

 更木剣八と戦う藍染を中心に、護廷十三隊の隊長陣が揃う。山本元柳斎重國。卯ノ花烈。傷を治した朽木白哉。狛村左陣。京楽春水。東仙要。日番谷冬獅郎。浮竹十四郎。これだけの数の隊長陣を相手にしては、いくら完全催眠の能力を持った藍染とはいえ勝つことはおろか逃げることもできるわけがない―――

 

「等とそんなことを考えていたのだろう? 私からすれば実にお笑いだ」

「……爺さん、あんたこんな弱かったか?」

 

 僅か五分。周囲への被害を考えていたとはいえ、更木と戦いながらの片手間で護廷十三隊の隊長陣はほぼ全滅。立っているのは藍染と更木、そして東仙の三人のみ。見事に蹂躙されていた。

 完全催眠と言われる幻術により、隊長たちの視界には全く別のものが見せつけられる。それは例えば匂いを視覚化したものであったり、口の中に広がる鉄の味が音楽として聞こえてきたり、指先で触れる物の感触が口の中に味として広がったり、それまで生きてきた中で全く経験のない状態に陥っていた。

 平衡感覚と位置覚が入れ替わり、聴覚が触覚と味覚の三つで入れ替わり……そのような状態でまともに動けるはずもない。致命的だったのは、霊圧知覚が痛覚と入れ替わったことだろう。藍染の霊圧を感じ取ろうとする度に痛みが走る。元から霊圧知覚をほとんど使っていない更木剣八を除き、その場にいたほぼ全員がその痛みに耐えられずにいた。

 

 今ここには初めから視覚を持っていない東仙要と鏡花水月を握る藍染惣右介、そして藍染惣右介の霊圧以上の霊圧を体内に押し込められ続けているために完全催眠に陥っていない更木剣八の三人だけが立っていた。

 

「何やったのかはわからねえが、やるな、おい」

「それはどうも」

「今の状況からして……そいつも敵ってことでいいんだよな?」

「そう。東仙要は僕の部下だ」

「そいつ弱いぞ。鍛えてやったらどうだ」

「鍛えてこれさ」

「……見る目ねえな」

「胸が痛いね」

「織斑の奴に任せてみたらどうだ? あいつなら三日あれば猫でも獅子にできんだろ」

「虫を竜にするくらいでなければ難しいと思うがね」

「そうか。まあ死ね」

「断るよ」

 

 会話の最中にも関わらす剣戟が飛ぶ。性に合わないからと一日足らずでやめた剣道ではなく、しかし戦いの中で手に入れた自己流でもないそれはまさに剣術。細かい技は面倒だと覚えもしなかったが、いくつかの使いやすく効果の高い技だけを織斑から勝手に学んだ。

 例えば、この技もその一つ。

 半歩にて音を超え、一歩の時点で敵に隣接し、二歩目で敵の足を踏み砕き、斬る。本来は一歩目にて接近し二歩目で敵の足を奪い三歩目で敵の頭を拳で打ち抜く三歩必殺だが、剣ならばそこまでの溜めも必要なく速度と勢いを殺さないままついた方が手っ取り早いという事で省略した技だが、はっきり言って剣八にとっては普段やっている事と変わらない。ただいつもより少し力が入りやすくなる程度の事だ。

 そしてそれを藍染は真正面から受け止める。ただ受けただけでは鏡花水月を折られかねないことを理解して、霊圧で覆い、強度を増した状態で。

 瀞霊廷中に響き渡るような金属音が波となって周囲を砕く。音そのものが衝撃波となって大気を揺らす。

 

 藍染は表面上余裕の笑みを浮かべていたが、ひっそりと冷や汗も掻いていた。自身は限定霊印を外していて、剣八は外していない。霊圧放出量を五分の一に抑えられてなお自身と剣で打ち合うことができるというのはあまりに驚きだ。限定霊印によって体内に抑え込まれ、濃厚になりすぎた霊圧のおかげで鏡花水月の完全催眠にかからずにいるのだから限定霊印は必須かもしれないが、その状態で自身と戦える者など一人しかいないと思っていた。

 藍染が四十六室を殺害したのは、彼らがいては今回の計画が決して上手くいかないだろうということを理解していたのに加えてもう一つ。自身より間違いなく強いと言い切れる相手である織斑一夏を瀞霊廷の外に出すことで自身の計画から排除しようとした事に遡る。あと自身の限定解除を自由に行うことができるようにと言うのもあったがそれはほぼおまけのようなものだ。

 そうして藍染は十分な戦闘能力と自由に動くことができる状況、そして天敵ともいえる相手を一時的にではあるが排除することまでできるようになったために目的のために行動に出ることができるようになった。

 想定外だったのは黒崎一護の異常なほどの成長速度とそれによって四季崎ルキアが処刑前に奪われてしまったことだったが、それについても二番隊の隊員をそこそこの数催眠にかけてしまえば十分に取り戻すことができた。

 

 ……しかし、自身と同じように限定霊印で縛られ続けていた更木剣八がこうして目の前に立つことも、限定霊印を解除していないにもかかわらずこれほどの実力を持つことも予想できていなかった。藍染の背筋を伝う冷汗がそれを如実に語っていた。

 藍染の思考はすでにこの後どうやって更木から逃れるか、という点にのみ絞られていた。

 




Q.えっぐぅ……
A.まあいきなり匂いで物を見ろとか言われてもできるわけありませんからね。一番手っ取り早い方法です。

Q.ちなみにこれを考えたのは?
A.一夏です。


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BLEACH~66

明日の投稿は少し難しいかもしれません。



 

 side 織斑一夏

 

 ……うっせえな。

 

「あれ? どこ行きますん?」

「ちょっとうるせえのを黙らせてくる」

「さいですか。うちの子たちも寝てますんで、できるだけ静かに頼んます」

「おー。憶えてたらな」

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 嫌な予感がする。と言うかなぜか嫌な予感が止まらない。具体的にはあれだ、精神世界で上下を含めた全周囲から月牙ぶち込んでもびくともしないパンジャンドラムが編隊を組んで飛んできた感じの嫌な予感だ。そう、多分回避不能って意味でもな。

 このまま全速力でここから離れたいが、そうするとここに仕込んだのが全部無駄に……いや、もしかしたら未来でいつか役に立つ時が来る可能性も無きにしも非ずか? 多分ないと思う、と言うか無い方がありがたいんだが織斑さんがいるからな……多分暴発したとしてもなんとかしてくれるだろ。

 

 既に状況は変わった。藍染と剣八の戦いは一旦終わり、藍染とその部下である東仙は空から差し込まれた反膜(ネガシオン)というものによって完全に守られながら空に昇って行っている最中だ。なんでもあの光はその中の物を完全に守り切るとか言う話だが、始解を使った剣八の一撃で皹が入っていた。皹が入ったとわからないほどの速度で修復されたが、どうやらあれは完全と言う訳ではないらしい。いや、剣八の始解レベルの一撃が必要ならあれはもう完璧と言っても―――いいやぱんじゃんどらむじゃないんだからかんぺきとはほどとおいそんなものはこうちゃをけいこうせっしゅしているだけのおれでもじゅうぶんにりかいできることであってわざわざれっせいされたほかのかたがたにうかがいをたてるまでもないかいてんがたりないんだよかいてんがあとしゅんじになおるのならばそれをりようしてしゅんじにばくはしてまわりにひがいをばらまくとかくらすたーのようになるとかざんげきにかぎらすこうげきをうけるときにかいてんしながらうけることによってひがいをへらすとかいろいろとできることはあっただろうにいったいあれのどこがかんぺきだというのかまったくわからないたぶんあれはかんぺきなどではなくただただかたいだけのおきもののようなものにちがいないちがうわけがないちがうなどということはありえないあれはおきものあれははりぼてゆえにきっとぱんじゃんどらむによってもじどおりもくずときえさるうんめいなのださあともにぱんじゃんどらむをたたえよぱんじゃんどらむをあがめよこうちゃをきめてまーまいとをおかずにすたーげいじーぱいでおまつりだわーいわーいおりむらさんやさしいやったーおりむらさんやさしいやったーおりむらさんやさしいやったーおりむらさんやさしいやったーおりむらさんやさしいやったー(発狂)

 

『目を覚ませ!』

 

 斬月のおっさんにひっぱたかれた。なんか嫌な予感がしたせいで一時的に発狂してしまったらしい。精神分析で何とかしたらしいが、俺が今みたいに発狂すると俺の心象世界に巨大なスターゲイジーパイが乱立して一つ一つが樹齢数百年近い樹木ほどもある魚の頭が星を眺めながら旧支配者のキャロルを唄いゼリーの泉を泳ぐ鰻が水音で歪んだ伴奏を付けるせいで中にいる斬月のおっさんや虚の俺も発狂しそうになるんだとか。

 ……なんか、わりい。

 

 なんだかんだしている間に藍染が浮き上がり、ゆっくりと割れた空に吸い込まれていく。そして光の中で藍染は眼鏡を握り砕き、言った。

 

「私が天に「ハイ失礼」ブベェッ!?」

 

 ……光の中にピンク色のドアが現れたかと思うとそこからすっげえ見覚えのある顔が出てきて藍染の顔面を地面に叩きつけた。浮いていた足場が藍染の頭で砕かれ、藍染と織斑さんが地に落ちる。

 

「お前さ、うるせえんだよな。わかる? うるせえの。ギャリギャリギャリギャリと馬鹿みたいに雑音たてやがって何様のつもりだオラ言ってみろ。と言うかさっきのなんだよ私天ってあれか臓物の天ぷらか食わせてやろうかヤギの臓物にヤギの臓物と体液詰めてヤギの油で揚げた奴をよ」

「ブヘッ!ベベェッ!?」

「安心しろ下処理はやってやる。イギリス式の下処理だから生臭さはそのままだし味もよくねえけどな」

 

 ……なんつーか、流石織斑さんだわ。俺達があんだけ苦労した藍染をああも簡単に打ち伏せるとか……今もなんとか浮き上がろうとしてる藍染の身体を何度も叩きつけてるし、流石だわ。

 いやその前になんで当たり前のようにあの中に入ってるんだ? なんか内側と外側は完全に隔絶されてるから無理だとか言って……ああいや剣八がぶち砕こうとしてたし完全に隔絶されているわけじゃないのか。それにそもそも内側と外側で会話が成立してるから完全な隔絶とは程遠い気もする。

 まあ、音や光が通るんだったらその道を通って織斑さんなら十分入れるな。どうやって入るのかは正直なところ全く分かんねえけど。

 

 まあきっとあれだぱんじゃんどらむだぱんじゃんどらむはすべてをかいけつするだってほらなんどもたたきつけられているあいぜんのあたまのきせきがぱんじゃんどらむのごとくえんをえがいているだからきっとあれはぱんじゃんどらむにちがいないぱんじゃんどらむならばなにがおきてもおかしくはないなぜならぱんじゃんどらむはぱんじゃんどらむでぱんじゃんどらむのぱんじゃんどらむにぱんじゃんどらむなぱんじゃんどらむゆえにぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃんぱんじゃん

 

『目を覚ませ!』

 

 斬月のおっさんにひっぱたかれた。

 




Q.完全に発狂していらっしゃるんですが
A.一護は発狂していると前にどっかに書いた気がするんで今更ですね。

Q.どのあたりがパンジャンなの?
A.回ってればパンジャン?

Q.区分けが雑ぅ……
A.マーマイト茜ちゃんが言ってたから間違いないと思うんですけどね……。


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BLEACH~67

 

 side 黒崎一護

 

 自分一人が入ることはできるが他の奴を連れて出ることはできないらしい織斑さんは藍染を気が済むまで静かにさせてから思いっきり上にぶん投げた。大気摩擦か何かで着物がはだけてふんどし姿で飛んで行ったが、まあ見ている奴はそう多くなかっただろうから致命傷ではないだろう。多分。あっちでどういう風な扱いになるのかは知ったこっちゃねえけど。あの飛び方だとあっちで落ちた時車田落ちになるか犬神家になるかの二択だと思うけど。

 今の状況を言葉にして表すならば、気が付いたら全てが終わっていた、とでも言うべき状況だ。なにしろ夜一さんを除いた俺達と剣八以外は誰一人として立つこともできないまま倒れ伏していて、その俺と剣八は藍染が光の柱の中で織斑さんにマウント取られてボコられていくのを見てることしかできなかったのだからそう言いたくなる気持ちもわかってもらえるだろう。剣八は剣八で何十回も光の壁を切りつけ続けていたが、結果は大して変わらない。俺も俺で月牙を何千と重ねて圧縮して、ついでに不可視化して罠として置いておいた月牙も総動員して全部使って卍解して斬りつけてみたんだがそれでも剣八と同じかやや劣る程度の傷しか入れられなかった。

 

 で、織斑さんはさっさと帰って行ってしまったわけなんだが……俺はこの状況をどう説明すればいいんだ? 藍染が鏡花水月を解除したのか護廷の奴らは続々と起き上がってきているが、一応敵対関係は解消してる……ってことでいいのか? 俺は大分暴れまわった自覚があるんだが。

 まあ、最悪の場合かくかくしかじかでいいか。あと夜一さんに押し付けるとかな。正直技術的な面とかについては一番詳しいのは浦原さんで、浦原さんがここにいない以上は夜一さんってことになるんだろうし。

 

 井上に任せてきた以上、白哉や夜一さんが死ぬことはないだろう。それに四番隊の隊長さんもいたし、大丈夫なはず。隊長をやっている以上、霊圧の回復については花太郎よりずっと上なはずだしな。そもそも井上以上に回復がうまい可能性だって十分あるわけだし。

 それにもとはと言えばここの所属の藍染が原因だったわけだし、俺が悪くないとは言わないが主体は藍染だよな?

 

「ちなみに藍染を放置しておいたら色々とやらかすのは間違いないと織斑の奴は言っていたから俺とあいつの下である三席においていたのを四十六室の奴らが強制的に異動させたせいでもあるな」

「マジかよ……と言うかそれって何年前だ?」

「百年以上前だな」

「百年以上前から察してたのか……」

「織斑だからな」

「超納得した」

 

 織斑さんだからか。だったら納得するしかねえな。だって織斑さんだしな。

 

 

 

 

 

 side 織斑一夏

 

 遺憾の意。

 まあいいや。とりあえず静かになったし、もうひと眠りするとしよう。

 

「あら、おかえりなさい」

「おかえり~」

「おー。とりあえず暫くは静かになるだろうからもう暫く寝るわ」

「ほんっとよく寝るなぁ……まあここはあったかいしなぁ……」

 

 こいつらは本当にいつまでたってもお熱い夫婦だこと。今も膝枕してもらってるし。

 それに、子供たちも近くですやすや眠っている。原作では気に入った相手を丸呑みにするとか何とか言ってたやつが、平穏の中に身を浸しているとここまで丸くなるのか。乱菊の方も面倒臭がりではあるが結構家事とかも上手いし、酒もあまり飲まないようにしているようだし、変われば変わるもんだ。

 世界は多分原作のそれより多少は平穏だ。なにしろ原作では起こっていた滅却師たちの面倒事は滅却師が現世に残った一部以外に居なくなったおかげで起きていないし、それによって死神たちが一気に殺される千年血戦篇は多分起こらない。一応起こる可能性が皆無という訳ではないんだが、多分無いだろ。

 ……あ、これフラグか。一応備えとこ。無いといいなぁ。面倒だし。

 

 さてこれから俺は寝るんだが、その前に一応色々作っておこう。最近はパンジャンドラムばっかり作っていたからそろそろ別の物でも作ってみるか。

 

 そういう訳で自走するパンジャンドラムを安全確実に目的地まで運搬するパンジャン母艦を作ってみた。結果的にパンジャンに関係ないものを作ったから問題ないな。いや、タイヤは平和利用されたパンジャンドラムなんだったっけか? じゃあみんなパンジャンドラムってことでとりあえずパンジャンフォー。

 なお、パンジャン母艦の中では無限の材料によって超高速で作り上げられるパンジャンが編隊を組んで静かに並んでいます。発進するときにはパンジャン母艦の横と上が開いてパンジャンドラムが編隊を組んだまま空を飛んだり大地を疾走したり遥かなる蹂躙制覇しようと雷を纏ったらその瞬間爆弾に触れて誘爆したりするよ。爆発したら当然他のパンジャンにも誘爆するからカラダニキヲツケテネ!

 なお一回思いっきり誘爆して周囲が火の海になったが五分で元通りに直した。まあ燃えてる所を消して元の形に直せばいいだけだからな。これだから世界の創造とかそういう系の技術はめっちゃ便利なんだよ。直しついでにパンジャンドラムの胸像を作ってみたが後悔はしていない。実用できるしな。

 ん? パンジャンドラムの胸はどこか? 気にすんな。

 




Q.藍染はどう落ちたの?
A.砂漠に突き刺さるスケキヨっぽくなりました。

Q.パンジャン母艦とかお前……
A.パンジャンはボカン!(爆発)するものでしょうに何言ってんのやら。


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BLEACH~68

 

 side 織斑一夏

 

 一か月の間暇になるはずの予定だったんだが、上からの命令が藍染の出した偽の命令だったという事で一か月間の長期休暇はなくなってしまった。そういう決定を出してくれやがった総隊長の爺さんの自室にパンジャンドラムを転がしておいたので報復はこれでいいとして、後は色々と壊されていた建物なんかの修理をさっさとやっておく。

 霊子を使っているので一見普通の壁にしか見えないようにしたが、実はこれ内側が金属製なので俺の意思で爆破できる。初めのころは難しかったが最近は霊子の金属でも爆破できるようになってきた。いや、昔も単純にやりにくいだけだから全くできないわけでもなかったんだが、斬魄刀に触れたら爆破させるとかそういう感じに使ったら斬魄刀は折れるが目に見えるほどの爆発は起こせない程度だったからな。慣れって凄いわ。

 一応隊長である俺がさっさと動いて建物やら何やらを直してしまうので他の隊員たちもかなり必死に直そうとしているようだが、まあ追いつけんわな。だってわざわざ崩して基礎を組みなおして土盛って壁塗って……なんてやってる横でポンっと出すだけだもの。なお一部が崩れているだけの壁は滅却師の霊子集束を使って分解して組みなおしている。便利。

 

 さてそれはそうとして、藍染相手に文字通りに手も足も出なかった護廷十三隊の皆さんを相手になんでか俺が修行を付けてやる羽目になった。これも更木の奴が「なんかわからねえが光の柱の中に直接現れて藍染ボコってた」とか言ったせいだ。更木は一番に全身の関節を外して転がしてやった。意識はしっかりしたまましばらく呻いているがいい。

 ……呻いてろっつったろうがなんで少しずつ自分の筋肉の力で関節嵌めなおしてんだよ馬鹿か。

 

 さてまず最初に、俺はそもそも毒物とか幻覚とかそういうのが効きません。体質で。そのため鏡花水月とか俺の前では実質ただの剣です。だからまず体質改善から始めねえと俺と同じようにするのは無理だね。しゃーない。

 それから基本あれは初見殺しオブ初見殺しだからほんと気を付けねえと一発目で詰むから気を付けろよ。もう遅いが。どうしてもあれと真正面から戦いたいなら完全催眠に対しての対策をしておかないとな。もう無理だが。

 ……ん? 更木は耐えてた? あれは結構簡単でな。霊圧を自身の身体の中に限界以上にため込むことで催眠に使われる相手の霊圧を身体に入れさせないようにするからできるんだが、藍染の場合それを実行するのに必要な霊圧がそれこそ化け物レベルで必要になるし、そもそも藍染の霊圧自体がキチガイだし、放出量を五分の一に抑え込むということは即ち体内にため込まれる霊圧は雑な計算でもおよそ五倍程度にはなるわけだ。その状態で藍染と戦えるって自体おかしいからまず無理だぞ。更木はあれおかしいから。霊圧を五分の一にされたなら放出された後の霊圧をもう一度圧縮しなおして威力上げるのを本能的にやってるとかあれはまともな人間でも死神でもねえから。マジで。

 

 そういう訳でまずは人間をやめるところから始めようか。大丈夫、人間を辞めたところで死ぬわけじゃないし、そもそもお前ら死神であって人間じゃないから第一条件はクリアしてるしな。

 霊子体を強化するには意志の力が重要になってくる。少し考えてみればわかると思うが、護廷十三隊の隊長陣ってのはどいつもこいつもキャラが濃いだろう? それはつまりある程度以上変わり者でなければそこまで強い意志を持つのは難しく、そして強い意志を持たない物はそこそこまでしか強くなれないということを示している。だから強くなりたいのならば自身の目指すところを明確にし、そこに行くために必要な物を見つめ、なにがなんでもそれを手に入れるという感情を強く強く持つ必要がある。

 ちなみに俺の感情は『俺の睡眠を邪魔する奴を問答無用でブチ転がす』だ。そのために強くなったと言っても過言ではない。今のところそれができなかった相手は……ドラゴンボール世界には結構いた気もするが、工夫すればなんとかかんとかそいつらも殺せた。時間の存在しない空間に閉じ込めて永遠に放置するだけの簡単なお仕事だ。たまに止まった時間の中を平然と動き回ったりする奴もいたから面倒臭かったな。

 

 ちなみにどうやって人間やめるかと言うと、藍染の霊圧がどう頑張っても体内に侵入してこなくなるまで霊圧を高めるか体内に霊圧をため込めるだけため込んで鎧にしてもらう方法をとった。ちなみにこれを完璧にこなすと死神と言う時間の流れがめちゃくちゃ遅い存在の中にあってなお不老不死とか言われるくらいになれるぞ。俺みたいにな。

 これ要するにH×H世界における纏みたいなものだからな。ちなみに俺は念を覚える前から通常の生み出すオーラが多すぎて普通に念を使ってる奴らが見えてたとか言うね。股間おっ勃てて迫ってくる変態クソピエロが気持ち悪かったです。(小並感)

 

 ……冗談みたいな方法だが結構効率的なんだよ。と言うか多分これが一番効率的だと思います。

 




Q.大丈夫? 数時間後にもっと効率のいい方法見つけたりしない?
A.全員に鏡花水月の欠片を持たせておけば実際には万事解決したりして……。

Q.……え? じゃあその修行の意味は?
A.強くはなれますよ?


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BLEACH~69

 

 side 織斑一夏

 

 正直心底面倒ではあるが一応これでも護廷十三隊の隊長格の一人である以上は責任ってものがある。ちなみに一月の休みを取る際に旅禍の襲撃やらなにやら用の書類も用意しておいたせいで痛くもない腹を探られる羽目になったがこれは仕方ない。俺だってそんなものを当然のように用意されていたらそいつの腹を探る。

 ちなみに藍染に通じていたんじゃないかと言われたが、通じてはいないが多分いつかこういうことはするだろうと思ったし四十六室から俺への長期休暇の命令が出た時点で絶対事が起きるなと考えてできる準備だけはしておいたことは伝えておいた。毎度毎度四十六室からの命令とかが鬱陶しくてできることなら皆殺しにしたかったとかそういうことは心の中に秘めておいたからばれてないばれてない。よしんばばれていたとしても今の俺を相手に何か言える奴は存在しないから問題ない。ついでに俺自身は実行してないから何も悪くない。原作知っててまず間違いなく四十六室全滅するだろうことを知っていたけど俺は悪くない。

 

 なんでか罰は受けたけどな。俺は何もしてないってのに。何もしていないのが問題だとか言われたが、だったら今度から俺が必要だなと思ってそれをやっている最中に罰とか与えんなよと返してみたら黙った。でも罰は受けた。腹が立ったので一番隊の隊費で瀞霊廷を覆う瀞霊壁の改造を実行しておいた。瀞霊壁は円形なので、いいパンジャンになることだろう。

 

 さてそれは置いといて、今後藍染が何をしてくるかはなんとなくわかっているので現世組にもっかい修行しておくかと聞いてみたところ、全員修行を受けることに同意してくれた。主人公は今発狂中だから治しておいた方がいいだろうしな。

 そういう事で再びの修行パート。そこに早く死神の力を取り戻したいルキアともっと強くなりたい恋次、ついでに一護にぼっこぼこにされた隊長格であり、ついでに俺の修行も受けたことがある朽木も参加することになった。と言ってもやること自体は変わらない。方向性を定めてそれを説明し、そしてそれを伸ばしていくだけだ。

 

 まず主人公。発狂状態だがどうせこの修行でも発狂するのは確定しているのでこのまま行く。

 こいつが目指すところは万能の極地だ。虚と死神、そして滅却師の能力を同時に扱いきることができるようにすることで戦闘力を飛躍的に高める。なお、個人でそれをするなら挫折やら何やらを味わってからでないと難しいが、挫折の代わりに高い壁として俺がいる。こいつ以上に死神の力を持ち、こいつ以上に滅却師としての力を持ち、こいつ以上に虚の力を扱い、こいつ以上にそれら全てを上手くまとめ上げている。完現術についてはまだこいつは知らないから除外な。

 ……と言うか原作において最後の方の戦いで完現術は役に立ってなかった気がするんだよな。そもそもその存在そのものがほとんど忘れ去られていた気さえする。

 だが、こいつには虚の力がある。虚ってのは大抵の場合何かしら固有の能力を持つものだが、それを上手く使えるようになれば色々と便利なこともできるだろうからそれを目指していかせようと思う。

 

 お嬢ちゃんと茶渡の完現術組は新しい技術を与えるために猛毒刀与を行う。虚としての霊圧をもう一度魂に浸みこませることで別の能力の開花を目指していくわけだが、おそらく事前にある程度方向性の決まった完現術を発現している以上は似たような物になると思われる。お嬢ちゃんなら盾、茶渡なら鎧だな。恐らくだが。

 ただ、毒刀は俺の中の虚の力を使っているからはっきり言って結果が読めない。流石にこいつらの魂を食い荒らしたりはしないだろうが、修行時間についてわがままを言ったりしたら突如身体を乗っ取って全裸になり白目をむいて尻を叩きながらベッドを使った踏み台昇降運動を繰り返しつつ『びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!』と繰り返し叫ぶ羽目になるかもしれないが、まあ修行時間の事をちゃんと伝えておけば多分大丈夫だ。多分な。

 

 滅却師であるモヤシは……完聖体にはならないだろうが代わりに俺から能力を与えておこうと思う。具体的には聖文字『A』だ。流石に全知全能は無理だが完全反立なら与えることができる。そういう能力を与えられる物質がこの世界に存在する以上、それを再現すれば同じようにすることは十分に可能だからな。まあ本当に再現してしまうとユーハーヴェーハの聖別で魂ごと持ってかれてしまう可能性もあるから基礎を俺の地にして再現するんだが。

 あと最終形態あるいは完聖体の安定使用を可能にするための修行だが、これに関してはもう慣れろとしか言えない。ただ俺に言わせてもらえれば霊子の集束力が人間の限界を超えるから滅却師の力を失うならば完聖体になることで霊子の隷属及び絶対隷属をやっているあいつらが能力を失わないわけがないのでやりようは間違いなくある。それに消えた能力を戻すこともできるしな。

 

 そして隊長陣だが……今回はこいつら主体でやってくことにするか。このままだとマジで藍染相手に何もできないまま十刃に殺されかねん。

 




Q.まだ強くすんの……?
A.最終的に原作終了時より強くなると思われます。

Q.白哉はどの程度強くするおつもりで?
A.一護と張り合え……ごめん無理。


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BLEACH~70

 

 side 織斑一夏

 

 修行だ修行。そういう事でまずは死んでもらいますね^^

 ……と言うのは流石に冗談としても、霊圧によって圧縮した時間にも限りはある。主人公は霊圧においてはかなりでかいが、それでも現状主人公以上にでかい霊圧を持つ奴は結構いたりするからな。藍染とかもその一人だ。

 

 まあそれはそれとして、今回の目標はとりあえず主人公が虚圏に行った時に死にかけることがない程度にまで強くすることだ。第六刃と第四刃に襲われてもなんとかできるようにするってこったな。可能不可能で言えば十分に可能だが、今の主人公ができるのは卍解と仮面だけの虚化、滅却師の動血装と静血装。ここから何をどう上げていくかによってここから先の能力値が大きく変わっていくことが予想できるわけだが……とりあえずは死神を基礎にして上げていった方が精神的にもいいだろう。

 じゃあどうするかだが、原作でもあった霊王スケールの修行を今付けることにする。ちょっと……ちょっと? 大分? 早いが、まあ何とかなるだろう。実際原作において当時のあいつはあの湯とかに対して全く意に介していなかったからな。今でも多少はきついだろうがしかし我慢はできる範囲だと思われる。服に関しては……知らん。適当に新しく出しておくくらいだな。

 

 ……こういう時には主人公が女体化とかしてなくて本当に良かったと思う。普通に考えてセクハラってレベルじゃねえもんな。サスケ? あいつはほら自分から言ってきたから……。

 そんなわけでまずは霊王スケールで傷を治し、霊王スケールで飯を食わせ、霊王スケールの服を与え、しっかりと体に力を蓄えさせる。その上で霊圧をガンガンかけて身体の強度を上げ、斬魄刀を虚と滅却師の力に分けで打ち直す。某一番いけてる零番隊士のようなことをしなくとも十分できる。と言うか状況を整えるだけなら不可能なわけねえんだよな。ここは俺の世界だし、ついでに言うならあいつのはあくまでも技術であって特殊な固有能力ではない。技術であるなら再現性がないわけがない。

 そんなわけで斬月は二振りになりましたとさ。主人公はマジビビりしてたが知ったこっちゃない。『えっ待ってなんで二振りになってんだ意味わかんねえファーーーwww』みたいな感じになってたがよくあることだ。慣れろ。

 

 あと二振りに分けたことで虚の力の制御も恐らくしやすくなったはずだ。問題は今まで大刀一つだったのが双剣になったことで使い勝手がかなり変わることくらいだが、最近は月牙を剣の形に固めて双剣もどきとかできてたはずだから大丈夫だろ。多分。

 虚の扱いがしやすくなったと言うか、そもそもこの主人公様の場合は死神の力と虚の力が完全に合一しているような状態だったから斬魄刀としてちゃんと打ち直しをしたことでユーハーヴェーハーに持ってかれちゃったせいで解けちゃった変身状態みたいなものにもなれるようになっていた。これでスペックの強化自体は十分だろう。

 そうなれば後は実践だな。スペックがいきなりクソほど上がったらそれにならすのが大変なのはよく知っているだろうから文句は言わせない。

 

「そういう事で軽く千回ほど死んでもらいますね^^」

「千回はやばいだろ普通に考えて!?」

「あ、そうだね。増やすか」

「減らせよ!マジで千回とか俺の正気が持たねえよ!」

「当TRPGはなれの概念を採用しておりまして、一定以上同じ内容でSAN値が減ると同じ内容ではそれ以上減らなくなります。ガチャで言うと天井システムってやつだな」

「その表現は絶対的に何かが間違っているだろ!?」

「ところでここに1/1スケール剣八人形があるじゃろ?」

「おい待て嫌な予感しかしねえんだけど」

「大丈夫だ。動力はパンジャンだから殴れば自爆して止まる」

「なんでパンジャンを動力にしてんだよバッカじゃねえの!? あとその自爆って威力どのくらいだよ!?」

「瀞霊廷の中心で自爆させたら遮魂膜に遮断されて流魂街には被害がなんとか出ないくらい」

「瀞霊廷全域焦土になるとかやばすぎねえか!?」

「大丈夫だ。瀞霊廷全土を焦土にする程度なら総隊長の爺さんの卍解でもできる」

「同じことができる奴が他にいるからと言ってそれが大丈夫ってことにはならねえよ!?」

「大丈夫だ。ちゃんと生き物には被害が出ないように特殊な爆発を起こすようになっているからな。消えるのは服だけだ」

「それはそれでテロじゃねえか!?」

 

 まあテロだわな。ちなみにこういった服だけに被害を出す系統の爆弾はとある宇宙人が地球にやってきてうんぬんかんぬん系統のハートフルラブコメ漫画の世界で手に入れた技術だったりする。あの世界はもう本当に色々と馬鹿すぎたし、被害自体は出なかったから俺ものんびり寝られることも多かったんだが……時々出てくる地球崩壊規模の災害的存在はマジで面倒だから勘弁してほしいと思った。

 その世界の名前? 気にすんな。彩南高校とかがあったからそれで調べれば出るだろ。多分。

 

 それはそれとしてパンジャンフォー。

 




Q.あの……原作的には今の一護の強さはどんなもんですか……?
A.霊王との修行を終えた直後とほぼ同等です。

Q.では他の人たちもそのくらいまで……?
A.気分次第。


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BLEACH~71

 

 side 織斑一夏

 

 虚。それは人間の魂魄が変質したもの。要するに、人間であれば誰しも虚になることで強くはなれるわけだ。その強さが本当に本人の求めたものかどうかは意見が分かれるところだが。

 しかし実行して成功すれば強くなれると言うのもまた事実。失敗率はそこそこ以上に高い……と言うか、そもそも生きている状態で虚化ってどうやるんだとかそういう文句その他もいくらか聞かされることはあるが俺も知らん。俺にできるのは虚としての俺の霊圧を相手の魂魄に叩き込んで共鳴させることで相手の魂魄を虚に近しいものに変えることくらいだ。そもそもそれができる時点で色々おかしい? うるせえ山羊の血を山羊の腸に入れて蒸し固めたものを食わせるぞ。味付けもハーブも無しの奴な。

 

 さてそういう訳で、完現術組に新しく虚の力を突っ込むことにした。お嬢ちゃんの方は基本的にもう完成しているし、茶渡の方は未完成とは言ってもこのまま完成させるよりも新しく押し込んでから完成させる方が強くなれるだろうが成長速度自体はやや鈍る可能性もある、ということを話しておいたがそれでももっと強くなりたいってことだったんで実行。

 まず、鍍を出します。鍍に虚の霊圧を込めて、茶渡とお嬢ちゃんに渡します。渡されるとそこから虚の霊圧が流れ込んでいきます。

 結果。お嬢ちゃんの方は虚化に加えて新しい奴が二人追加され、茶渡の方は虚化はできなかったが虚としての力を完全に取り込んで自身の完現術をさらに進化させた。副次効果として霊圧もかなり上がったので時間の流れもより遅くすることができ、ついでとばかりに戦闘訓練……なのはあくまでも茶渡の方だけでお嬢ちゃんの方は自分の中の虚との対話や新しい能力の確認などに費やしてもらった。茶渡の方はもう完全に虚は消えてしまったようなので対話とかできないからな。暴走の事を考えればおそらく茶渡の方がいいんだろうが、出力の事も考えればお嬢ちゃんの方も悪くないんだよな。

 

 ……しっかし崩玉ってのは無茶苦茶だ。お嬢ちゃんの願いをかなえるためにその場にあったものからなんとかかんとか使えるものを集めて能力を作り上げたうえで付与するとか、色々とありえん。俺が他人に能力を与えるときにどれだけ苦労しているのかを考えると色々と馬鹿らしくなってくるな。

 虚となった兄に襲われ、その際の霊圧が魂魄に残っている間に起きた出来事だからこそ出来上がるまでの過程の似た完現術として現れた。完現術だから虚のそれに似ていて、しかしあこがれた対象が死神でもあったからこそ斬魄刀に似た形態として六の花弁が現れた。

 で、俺は今そこに新しく添えてやろうとしているわけだが……さて、どんな形で現れることになるやら。

 

 

 

 

 

 side 井上織姫

 

 誰かがいる。私の中。心の奥深く。思考と本能の狭間。霊圧の奥底に。

 私をゆっくりと変えていく。崩していく。食らっていく。私を私のまま私以外の何かに変えるそれは、きっとどうしようもなく私そのものなのだろう。

 弱い私が嫌だった。黒崎君を守れない、黒崎君に守られてばかりの私が嫌いで、黒崎君を守ってあげることもできない私をいっそ憎みすらした。

 私を変えていく私は、きっとそんな私にあの人が力をくれた結果なのだろう。虚としての力。六花を強くすることも、私自身を変えることもできるその力。そんな力を取り込んで、弱い私(憎い者)を喰らい尽くして変えていく。

 

 ……けれど、このまま全部変えられてしまう訳にはいかない。だって黒崎君は死神だ。私が虚になればきっと一番近くにいる黒崎君が私の事を斬らなければならなくなる。黒崎君はきっと迷って、それでもちゃんと私を斬ってくれるだろうけれど―――それじゃあ黒崎君の負担になってしまうから。

 もしも私を斬ってくれたのが黒崎君ならば、黒崎君はきっと私の事をずっと忘れないでいてくれるだろう。けれど私はそれから二度と黒崎君の隣には立てなくなる。今の私の力は六花たちの力。そして六花たちは私のヘアピンから生まれている。尸魂界には多分ヘアピンは付けていけない以上、私は戦う力も何もかもを失ってしまうことになる。

 

 それは、いやだ。

 

 私は私の前に立つ。私を食べ続ける私の前に立って、私と同じように私を食べル。

 虚の私が人間としての私を喰らうのと同じように、人間である私が虚の私を食べる。

 私の中に私が流れ込んでくる。私ノ思いが私の中に混ざりこむ。私は私だけれど、私と私は同じだけれど、それでも私と私はゆっくりと同じになっていくのがわかる。

 六花も私と同じように、黒い六花たチとお互いを食べあっている。食べあっていると言うより、少しずつ溶け合っていると言った方がいいかもしれない。私と私がお互いに食べあうほどに、六花たちはゆっくりと溶け合っていく。

 私と私は食べあって、食べあって、食べあって、食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって食べあって。

 私と私は同じになった。

 

 私が言う。黒崎君と一緒にいるために、何でもしたい。

 私も言う。黒崎君と一緒にいるために、何でもはできない。

 私が叫ぶ。黒崎君のために、私はなんだってする。

 私も叫ぶ。黒崎君と一緒にいたい私のために、私はなんだってはできない。

 肯定と否定が溶け合って、思いと思いが混じりあって、明るい思いも暗い思いも軽い思いも重い思いも全部全部一つになって。

 

 私たちは、一つになった。

 

 目を開く。鎖で縛り付けられた身体が視界に入る。身体が痛いのは、多分このせいだろう。随分と暴れようとしたらしい。

 けれど私は私のまま帰ってこれた。元から持っていた六の花弁に加えて、私自身にも見ることのできない二つの花を携えて。

 

 それから私は私の力を学んでいく。超速再生とは言えない程度の、ただし人間としては異常に速いと言えるだけの速度の再生能力と、六花の力を私自身にも使うことができるようになったこと。今までの六花の組み合わせを変えてより強力な術を作り、新しく得た力を使って全く新しい技も得た。

 そして、虚の仮面を一時的にではあるけれど被ることによって霊圧を上げることもできるようになった。これに関しては盾で私を覆い、人間の部分を拒絶することで一時的に虚に変わり、虚の部分を拒絶することで人間に戻ることができる。私と虚が全く同じ存在であるからこそできる技なんだと思う。

 そして私が織斑さんの修行部屋を出たときには、ちょうどみんながでてくるところだった。

 

 私はちゃんと今まで通りに笑えているだろうか。

 私の笑顔は歪んでいないだろうか。

 私の思いを自覚して、私と同じになったことで二倍に膨らんだこの思いが、私の態度から表に出てしまってはいないだろうか。

 

 私は笑顔を浮かべながら、今まで通りに黒崎君に話しかけに行った。

 




Q.えっ……えっ??????
A.発狂からのダイスロール異常な物を食べたがる自分自身。結果的に虚の自分と精神世界で食い合って合一。やったね井上さん!強くはなれたよ!

Q.ダメだろこれ!?
A.どっちも最低一回結構やばい発狂している夫婦として有名になれるんじゃないですかね(鼻ホジ)


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BLEACH~72

 

 side 織斑一夏

 

 茶渡はお嬢ちゃんの方とは違って随分と荒れた。虚の力を取り込む方法が、お嬢ちゃんは食べることだったのに対して茶渡はと言うと戦いの傷から定着させるものだった。これが大抵の場合の適切な方法であってお嬢ちゃんの実行したお互いに食べあって共有した挙句に同化するとか言う頭のおかしい方法は実行しない方がいい。繰り返すがあれは頭のおかしい方法だからな? いやまあ多分一番安全だと判断したら俺も同じようなことをやると思うが。

 まあそんなこんなで戦って、そして戦っている間は俺が抑え込んで、いい感じに一見まともな成長をしてくれた。実際にまともかどうかは知らんし正直どうでもいい。強けりゃいいんだよ強けりゃ。

 

 出来上がった新しい完現術は、巨人の右腕悪魔の左腕に続いて龍の両脚と名前が付けられた。あれだな、どいつもこいつも神ではないが神と同等の力を持ち得る存在だ。巨人は北欧神話、悪魔は主にキリスト教、龍に関してはそれこそ世界各地に神としてあるいは怪物としてその存在が描かれている。なんで神って名前を付けないのかは知らんが、まあ神の名前を付けられまくってるのは虚ではなく滅却師の方だからおかしくはねえのか。虚の方だと考えると確かに結構な割合で物々しかったり毒々しかったりするしな。

 で、新しく出来上がった完現術だが、これは主に移動補助らしい。近づいて殴らなければいけない能力であるにもかかわらず、今までの茶渡には高速移動能力がなかった。手が届かないこともあっただろう。龍の両脚はそんな茶渡の意思を汲み取って作り上げられた能力じゃないかと思うんだが……まあ使えりゃそれでいいわな。

 

 新しい能力を覚えてすぐに実戦とかどう考えても頭がおかしいのでまずはその能力について色々と確かめてみることになった。

 一番わかりやすい能力は、移動の踏み込みの際に巨人の右腕や悪魔の左腕と同じように霊圧を発射して地面を強くけり出し、加速することができるもの。これに関しては言うことはない。蹴りでも踏み付けでも攻撃できるようになったとはいえ茶渡の場合は基本の攻撃方法が拳によるものだからな。大して変わらん。

 次に、動体視力の大幅な向上。これに関しては一見だけでは難しいようだが、両脚が発現した結果それを使えるようになるために動体視力がよくなったんじゃないかと思われる。何しろ自分が高速で動いた結果、周りが見えなくなって死にましたじゃああまりに格好がつかなさすぎる。笑い話にもなりゃしないだろう。だからこそ十分に使いこなせる下地として動体視力をなんとかする必要があったんだと思われる。

 そして最後に、破面の扱う高速移動術である響転を扱えるようになっていた。これに関してはあくまでも扱えるだけであって使いこなせるわけではない。脚だけは響転で動いているのに上半身がついてこれないのが原因だと見たから、上半身をついて行かせることができるように腹回りの筋肉でも鍛えておこうと思う。

 

 

 

 

 

 side 茶渡泰虎

 

 足腰を鍛えるためにと言われて始めたこの修行だが、思っていた以上につらい。

 突然現れたパンジャンドラムに追い回されて響転と言うらしい虚の使う特殊な歩法を使えるようになったのは良いんだが、響転を使いながら狙ったところに拳を打ち込めるように大量のパンジャンドラムに追いかけまわされながらパンジャンドラムの爆発しない部分に響転で近づいては殴り飛ばし、拳の貫通力を高めると言われて拳を打ち込む際の腕の使い方をいくつか教えてもらうことで今まで通りのもの以外に固い相手を撃ち抜くような攻撃の仕方も覚えた。ちなみに一点に威力を集中して貫通させるのを失敗すると周囲の爆弾に衝撃が伝わって爆発する。何度か死にかけたが未だ生きている。

 

 ……正直、一番うまくなったのは衝撃に耐えることと受け流すことだと思う。

 

 曰く、俺の戦い方と言うのは非常に単純なものだと言われた。それについては俺自身そう思うし、それ以外の事はできる気はしないから別にいい。近づいて殴る。それこそ俺にできる唯一と言ってもいい。だからこそその持ち味を生かすために全体の底上げをひたすらにやっているのだと言われた。

 

 俺の能力、完現術と言うのは最も自身の意思が強く出てくるものだと言う。意志が揺らげば完現術も弱くなり、強い意志を持てば同じように強くなる。

 強い意志を持って展開した右腕はより頑丈になり、左腕はより強力になる。両脚については未だわからないところも多いらしいが、それでもより強くなっていくのは間違いないらしい。

 それは井上の方も同じであるらしく、井上は更に強くなっているらしい。元の力の差を考えればある意味でだれよりも伸びているのが井上だとか。主に倍率の話らしいが……ちなみに次点が一護だそうだ。

 

 俺も負けてはいられない。俺は一護の隣に立つと決めた。だから、こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。

 ……正直な話、爆発に晒され続けてだいぶ慣れてきたしな。

 




Q.……なんか思ったより普通だね?
A.迷いに迷った結果普通になりました。迷いすぎて昨日の更新に間に合いませんでしたごめんなさい。

Q.完現術ってそんな設定あったっけ?
A.原作には無いです。オリ設定と言う奴ですな。


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BLEACH~73

知ってますか? マーマイト茜ちゃんがまた新しいパンジャンを転がしていたんですよ!
ニコニコ動画で見れますからみんな見てみましょう!(ダイマ)


 

 side 織斑一夏

 

 最終形態を常態にできるようになった滅却師に教えることと言えば、正直これくらいしかない。霊子を隷属させることができるようになれば霊子に満ちたこの場所でおよそあらゆることができるようになるし、あとは発想の問題だ。発想に関してはあくまで個人のもの。できるできないという思い込みもまた個人のもの。俺は地の実力を上げさせてやるくらいの事しかできはしない。

 そういう訳でやっているのは霊子の綱引きだ。周囲の霊子をお互いに隷属させての奪い合い。今のところ俺の方が大分上手いようだが、少しずつ力が増してきているのを感じ取れる。ただ、あまり増しすぎるとせっかく慣れてきた霊子集束能力に身体がついていけなくなるのでそのあたりの事も考えないといけないな。マジで。

 それと、あのマジキチ科学者。あいつは自分と戦ったことのある相手の身体に監視用の菌を感染させる奴だからまずはそいつを分解しておく。虚圏で困るかもしれんが後でまた再現しておくから問題なかろ。あっても知らん。

 どうしても集束能力をもっと上げたいんだったらゆっくりやっていかねえと身体が持たずに滅却師としての力が焼き切れてしまうからマジでやめておいた方がいい。慣れるまではな。

 ついでに霊子集束しすぎて焼ききれそうになったモヤシの魂と身体を見ていて気付いたんだが、霊子集束をしすぎて大量にため込むと心臓の洞房結節右19mmの所に静止の銀が生成されるから滅却師は力を失うらしいな。多分霊子を集束した時に体内にある何かと結合してそうなるんだろうが、今度確かめてみよう。

 

 ……あ、そうなると一つ方法はないことも無いか。身体に直接収束するから集めた霊子の霊圧に身体が耐え切れなくなるのであって、身体以外に集束できるようにすることでそれは解決できる。具体的に言うならば、原作で言う完聖体の頭の輪に集めるように身体と繋がりを持たない場所に集めればいいわけだ。若干使い勝手は悪くなるがな。

 なお、俺の場合は身体が健康に保たれるのでそういった反動とかも全部無視できる。健康こそ俺の力の根源と言っていいかもしれないな。マジで。

 今言った自分以外の物を中心に霊子を集めることの欠点は、一回集めてから実際に使うまでの間にほんのわずかな物とはいえタイムラグができてしまう事と、集めている物の核が壊されると一気に集束能力が落ちることくらいだが、このくらいならば永遠に滅却師の力を失うことになると言うリスクに比べれば軽いものだろう。

 

 そういう訳で一応教えてみたんだが、滅却師十字を核にして見事に背中から生える翼を切り離して展開し、そこに霊子を集めることができるようになった。所要時間十二分。一回展開するまでにかかる時間は三秒、実戦闘では大きすぎる隙だわな。あと展開中はそっちの制御に意識を取られすぎるせいで使い物にならない。こういうのは集束力を高めるために表面積の大きい代わりに不安定な翼の形にするんじゃなくて、ちゃんと安定を求めて円形とかそういうのにするべきだと思うんだがね。

 ……ああ、なるほど。だから完聖体の霊子の集束器は円形なのな。

 

 よし、それじゃあちゃんと使えるようになったら祝いに聖文字でもくれてやろうか。俺式のだけどな。

 

 

 

 

 

 side 石田雨竜

 

 死にます(チーン)。

 ……いや、死んでたまるか。そうそう簡単に僕は死なないぞ。それに死にそうになったら止めてもくれるみたいだしな!(ヤケ)

 

 しかし、本当にあの人の発想はすごい。自分の身体に霊子を大量に取り込むことで滅却師の力を失うのなら、自分の身体から少し離れた場所に霊子集束をすればいい。確かにその通りだ。今まで思いつかなかった自分が馬鹿だと思えるほどに。

 それに、最終形態を使う事でなぜ滅却師の力を失うことになるのかと言うメカニズムまで解明して見せた。静止の銀と呼ばれるそれが滅却師の能力を失わせる鍵となっているなど全く知らなかった。お爺様なら知っていたかもしれないが、僕にそんなことを教えてはくれなかったからな。

 

 ただ、教えてもらった方法は制御があまりに難しい。最終形態のように翼の形に展開してみたのだが、揺らぐし集まってくる霊子の量が多すぎて安定しないしで本当にきつい。いい感じに制御する方法はやはり慣れるしかないようだが……これに慣れるのはかなりきつい。

 仕方ないので集束力よりも安定性を求めた形に変えていくことにする。流体を制御するのに安定した形と言えばやはり円形しかありえない。翼を丸め、先端と付け根を融合させて二つの翼を一つの円に変える。そうすることで収束した霊子の流れを一つの方向に向け続けることができるので制御がこれだけでかなり楽になった。

 後はこれに集めた霊子を使う分ずつ引き出していく方法を……は、簡単だ。流れている霊子の一部を分割して流れを手元に持ってくればいい。これに関しては最終形態の翼から手元に霊子を持ってきて矢を作るという経験が生きた。矢を作って弓で打ち出すのではなく、弓に直接番えた状態の矢を作り出して打ち出せば連射能力も上げられるだろう。霊子の流れの勢いを利用すれば即座に撃ち出すこともできるかもしれない。

 

「一応言っとくが一番早いのは相手の体内に直接矢を作り出すことだからな」

「えげつなさすぎるだろうそれは!?」

 

 だめだ勝てない。

 




Q.石田をこれ以上に強くできんの?
A.まあ、やろうとすれば。(やるとは言ってない)

Q.具体的には?
A.未来でも見せればいいんじゃないですかね?


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BLEACH~74

 

 side 織斑一夏

 

 覚えているだろうか。一応他の隊長格も俺の修行に参加していると言うことを。主人公をほんの一日程度で現隊長格の殆どを圧倒できるまでに鍛え上げた俺の手腕に頼ってきたと言う訳だな。

 そういうことになっているのでどんどん強化していくことにする。一番隊の隊長と副隊長、四番隊の隊長、五番隊の副隊長、十二番隊の隊長と副隊長、十一番隊の隊長と副隊長は不参加だが、他の隊長格は大体参加している。一番やる気があるように見えるのは、今回良い所がまるでなかった六番隊の副隊長だろうか。ちなみにこういう時には真っ先に参加してきそうな更木が不参加なのは、更木は修行だってのにガチで俺に襲い掛かりに来て面倒臭いからだ。更木だからね。仕方ないね。

 

 まあそういうのは置いておくとして、流石に純粋な死神たちを勝手に虚化させるのはまずいので死神として強化させていくことになるんだが……卍解とかは本人たちに任せるとしてとりあえず基礎スペックを上げていくことにした。死神の力を失ったルキアが霊子に満ちた尸魂界でのんびりすることで死神としての力を取り戻すことに成功しているんだから死神をたっぷりの霊子漬けにしてやればそのスペックも多分上がるだろうと言う事で、場所を区切ってそこに大量の霊子を集めてやった。霊王宮よりなお濃い霊子の海に溺れてみなと。

 なおルキアは流石にまだ早いと思ったので霊王宮より少し薄い、虚圏程度の霊子濃度に抑えておいた。それでも瀞霊廷にいるよりよっぽど回復は早いだろうから構わんだろう。

 それから技術開発局の奴らは藍染の完全催眠に対抗できる方法を模索している最中だ。更木が自身の霊圧を五倍に圧縮した結果藍染の霊圧の侵入を阻止して催眠を弾いたって事から霊圧による催眠防御をしようとしているようだが、はっきり言って更木のあれは俺も正直予想外の力技OF力技だからな。再現するにしても更木と同程度の霊圧を時間をかけて体中に浸みこむまでため込み続ける、とかそんな感じの条件になりそうな気がする。まあ霊圧の増幅器とか言うのも存在しているはずだから不可能ではないかもしれないが、原作において出てきた増幅器は結構なサイズがあったから難しいかもしれないな。

 

 ……あと、俺の斬魄刀はあくまでも千の顔を持つ英雄を使って作ったものであって本物ではなく、色々と改造だのなんだのができるようになっているんだが、この度いくつかの完成系変体刀に新しい能力を付け加えることにした。『そういう能力を持ったこういう形の刀』として出せば出せちゃうから本当にやばいよな。

 そういうわけで新しく能力が追加されたのが、王刀・鋸と毒刀・鍍の二振りだ。鍍は相手の魂魄を強制的に虚化させ、王刀は相手の魂魄を虚から整に戻す。勿論オンオフは可能にしておいた。じゃないと主人公との模擬戦で虚が消えなかった理由に説明ができなくなるからな。

 なおサイレント修正で銓には相手の心象世界や夢に入り込む効果を持たせてみた。大して使い処が無いのがある意味一番の問題かもな。

 

 とにもかくにもこれで多少出力は上がるだろう。多少出力が上がった程度であの全感覚シャッフル催眠に耐えきれるとは思わねえけどな。だって普通に考えてみ? 当時は視覚と聴覚とか嗅覚と平衡感覚だとか触覚と味覚だとかそういう感覚を入れ替えられてただけだったが、もしも全感覚を痛覚に入れ替えられたらどんだけやばいと思うよ? 目で見たら痛い、そしてその痛みで風景を察知しなくちゃいけないのに加えて耳で聞いた音も痛みとして伝わり、口を切ってしまい口内に広がった血の味も痛みとして、剣を握る皮膚の感覚も痛みとして、霊圧知覚すらも痛みとして感じ、それら全ての痛みが全部混じりあった状態で戦えるか? 無理だろ?できるんだったら俺は割と本気でそいつを尊敬するぞ?いやマジで。 全感覚を痛覚に変えられるってことはつまり呼吸して肺が膨らみ切ってこれ以上は入らないって感覚とかも痛みになるわけだし、まあ普通に考えて戦闘不能とかそんなレベルの話じゃ済まされんわな。ある意味生殺与奪を握られてるわけだ。平衡感覚が痛みに置き換われば身体の傾きもわからんし、血圧が上がってくらくらするのも痛みに変わればもうほんとどうすればいいのかと。

 だが、確かあのあの斬魄刀、鏡花水月は個人にのみ催眠をかけると言うのはできなかったはずだ。催眠をかけたら即ち全員に同じものが見える。そうなっていたはずだが……あくまで原作だからな。もしかしたら今は違うかもしれん。

 もし違うのであれば、間違いなく自分たちの兵である十刃達には催眠をかけないままこちらにだけ催眠をかけてくることだろう。戦場は大荒れとかそんなレベルじゃないことになりそうで笑える。パンジャンでも生やすか?

 

 

 

 

 

 side 四季崎ルキア

 

 霊圧が身体に纏わりつく。尸魂界のそれよりはるかに濃厚な霊子の圧力に魂がきしみを挙げているような気さえする。

 ただ、そのおかげで私の身体に眠っていた死神の力が少しずつ回復してきているのも実感できている。なるほど、霊子の多い場所にいれば死神の力を取り戻せると言う事ならば、こうして尸魂界よりもさらに霊子を濃くすればより早く死神としての力を取り戻せると言うのはある意味では道理なのだろう。ただ、私には何をどうすれば霊子の濃度を操れるのかはわからないが。

 ……周りでは私に被害が出ないように結界で区切られてはいるが、義兄様や恋次たちが織斑様にジョイヤーペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッペシッジョイヤーされている。確か……田植え、と言ったか? よくわからんが。義兄様は姉さまの名を叫びながら小パンで吹き飛ばされたが、恋次は恋次で『認めねえぞぉーっ!』とかなんとか叫んで小パンで飛ばされていた。流行っているのか?

 もしや、私も同じように何か叫んで吹き飛ばされなければならないのだろうか……?

 




Q.パンジャンって生えるもんでしたっけ?
A.紅茶を決めればパンジャンは生える。庭があったらやってみたらいかが?

Q.うちプランターしかないんですが……。
A.大丈夫、パンジャンドラムは場所を選ばない。


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BLEACH~75

 

 side 織斑一夏

 

 さて今の状態をもう一度よく見直してみよう。

 

 発狂して情動を失っている上に追加発狂でパンジャンに絶大なる信頼を置くようになった主人公。ついでに紅茶もキメるようにもなった。

 発狂して食人癖(自分)と自分を食ったことでセルフ発狂した結果新しく表れた食人癖(虚)を発症したヒロイン。

 霊子の詰め込みすぎで発狂しかけたが何とか耐えているライバル。

 唯一完全に正気なんだが何故か一番敵っぽい感じのビジュアルになった親友。

 

 ……大惨事だね? 原因の多くは俺だけども。

 それと、愛した女の名前を叫んで吹き飛ばされる六番隊の隊長となんか顔を大火傷してそうなことを抜かしながら飛んでいく恋次。恩人の名前を叫んで飛んでいく犬頭。年上の幼馴染の名前を叫んで飛んでいく最年少の隊長格。全体的になんかよくわからんことになっている。

 しかしあれだな。やっぱ色々とひっどいことになってんな?

 

「原因お主じゃろうが」

「はーいそんなことを言っちゃう猫一はもふもふしてやろうなー」

 

 やっぱ人間状態の夜一より猫一の方が好きだわ。にゃんこかわいい。砕蝶がこっち見てる? 今にも血涙流しそうな視線? 知らんな。せめて霊子の重圧に負けずに立てるようにしてから出直して来い。まあ砕蝶のとこだけ霊王宮クラスになってる周りの霊子濃度の更に五十倍くらいにまで濃度を上げてるからもしかしたら霊子で窒息しそうになってるかもしれないが……まあ大丈夫だろう。多分。

 なお猫一の周りもかなり濃いめの霊子で覆っているから結構辛いはずなんだが……さて、どうなんだろうなそのあたり。大抵の場合飄々としてるからそのあたりよくわからんのだ。俺にできることと言ったら精々ちょっと慣れてきた所にさらに追加で霊子を入れてやることくらい……。

 

「死ぬわ」

「いやいやそう簡単に死にゃせんて。と言うかそう簡単に俺が殺してやるとでも?」

「納得した」

「納得されて悲しすぎてパンジャン生える」

「何生やしとるんじゃお前……」

「パンジャン。入ってみる?」

「嫌じゃパンジャンドラムになどはいりとうない」

「あっそ。でもこのまま手を離すと不思議なことにあそこで転がったまま俺をめっちゃ睨みつけている砕蝶の方に転がっていくぞ」

「わざとじゃろ!? それ絶対にわざとじゃろ!?」

「偶然だよ偶然。だからあのパンジャンが変形合体して砕蝶を取り込んでパンジャンロボになってもそれは偶然」

「そんな偶然があってたまるか!」

 

 偶然パンジャンがロボになったっていいじゃないか。きっと紅茶が足りていないんだろうな。俺は寝れなくなるから紅茶は飲まないようにしているが。だが最近思ったんだが、薬物系統が俺に聞かないんだったらカフェインの覚醒効果とかも基本無視できるよな? 普通に娯楽にできるよな多分?

 試しに一杯飲んでみることにする。完璧な紅茶は種類にもよるが美しいルビーのような色になるとか聞くが、実際のところそれが事実かどうかは俺は知らない。なぜなら今までカフェインを警戒してできるだけ取らないようにしてきたからな。だがこれからはもっと飲んでみてもいいかもしれないと思っている。

 ……あ、やっぱ効かねえわ。これなら眠気覚ましの効果を無視して単純な娯楽にできそうだ。

 

「何を黄昏ておるさっさとこいつをしまえ!」

「お、中に入りはしなかったが上に乗って方向を調節してんのか。上手いこと考えんな」

「いいから早くしまえと!」

「一度転がり始めたパンジャンドラムが自爆しないまま止まるわけがねえだろ何言ってんだ」

「こっちの台詞じゃそれは!お主何言っとるんじゃ!?」

「世界の真理?」

「そんな真理があってたまるかアホゥ!」

 

 正直お前の斬魄刀の方がふざけてるしあってたまるかと思うんだが。確率操作とか頭おかしいからな? 俺でもまだできないからな? ……まあ本当にやばくなった場合座の方から幸運バックアップとか時空間跳躍斬撃とかが飛んできたりするから困ったことは殆どねえんだけど。ついでに言えば今までそんなバックアップが必要になったのはインフレ激しいことで有名なジャンプ漫画の中でも特にインフレが激しいことで有名なドラゴンボールの世界くらいなもんだったしな。その世界でもマジでやばくなったとしても大抵時間停止で何とかなったし、数える程度しか受けたことねえけど。

 確率操作と言えば、一応原作でも出てきてたっけか。確か名前は……すしざんまいもえとか言う奴の、ジャックポット・ナックルだったな。あれはあくまでも大当たりの出目を引き出すとか言うものだったが、多分あれ俺には何の効果もねえんだよな。

 だってほら、運よく急所に当たったとして、例えばそこが眼球だったとして、効くと思うか? 俺は瞼を閉じないで眼球に直接両手持ちの剣八の全力攻撃喰らっても傷一つ負わなかったくらいだし、正直あの程度の人間の拳が体のどこに当たったとしてもダメージ受ける光景が見えない。万が一股間に当たったとしても多分大丈夫だわ。そもそも当たらんだろうが。

 TRPG風に言うと、自動であらゆる攻撃を回避99振って成功したら回避できてしかも1ラウンドの回数制限なし、かつダメージカットが常時150点分あるような感じか。150点のダメージって何がどうすれば出るんだ? 理論上25D6最大値ってことになるんだが、そんなダメージ受けるようなことがあったら俺以外のまともな人間は間違いなくミンチより酷いことになるよな?

 

 ……そう考えるともしかして俺はまともな人間ではないのか? まあ飲まず食わずで二十日間眠り続けた挙句一週間以上心臓を止めても何の後遺症も無く起きれる時点で察してはいたんだが、こうして自分で納得してしまうと何とも物悲しいものがあるな。こんな時こそパンジャンだ。

 

「増やすなっ!!」

「もう増やしちゃったから……」

 

 さて自爆させるか。

 




Q.最近投稿遅れ気味だね?
A.仕事先が今月末で潰れることになってない……就活中なんよ……

Q.あっそ。それよりまた猫一虐めてんのかよ
A.パンジャンに乗っけてるだけじゃん。大丈夫じゃん?

Q.現在の護廷十三隊隊長を強い順に並べよ
A.一夏>>>>>超えられない壁>>>>元柳斎>剣八>>卯ノ花>浮竹>=京楽=砕蝶>白哉>日番谷>狛村>涅。ただし斬拳走鬼と斬魄刀のみを基準としたもので特殊な術や研究成果、本人の性格などは考慮に入れないものとする。


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BLEACH~76

 

 side 織斑一夏

 

 藍染が虚圏に行って……俺に投げ込まれてから一週間が経過した。その間に主人公は剣八とガチバトルをやらかして剣八の卍解を引き出させたせいでせっかく作ったなんちゃって虚圏が文字通り崩壊してしまったり、恋次の卍解の正式名称を知っている俺がついつい恋次の事を『お情け卍解野郎』と呼んでしまったことによって事実が発覚して恋次が卍解修行をもう一度やり直したり、死神の力を取り戻したルキアが自身の斬魄刀の効果を誤解していたからそのあたりを正したり、それはそれはいろいろなことがあったがもう俺はそのあたりの事を気にしないことにした。面倒だしな。

 あと、主人公がまだ残してた嵌め技の置き月牙が大量にあったので全部こっちで掌握しておいた。本当はあらゆる場所に仕掛けておいてそれを全部一纏めにして超威力の月牙をぶち込んでやるつもりだったそうだが、その程度じゃあ届かないと思ったらしい。まあ多分届かんよなあの程度じゃ。藍染も藍染で原作よりだいぶ強くなってるし、仕方ないね。

 

 兎にも角にも大分平和になってきたわけだが、問題はこの後どうなるか、だ。はっきり言って藍染が本気出したら俺と更木以外はほぼ確実に指一本触れることもできずに藍染のやることをただ見ているだけに終わると思うし、更木は更木で色々と面倒なことを考えるくらいならと敵陣に突っ込んでいって虚圏あたりに封じ込められそうな気もする。俺は実のところあまり藍染と本気で戦うようなことはしたくない。だって俺が本気で殺す気になれば藍染くらいなら苦労せず殺せるからな。

 ……この世界においては若干俺が藍染の暴走の原因になってるっていう理由も無くはないが。

 

 まあこれについては面倒なことになるから置いておくとして、一週間ほど過ぎたと言うことは要するに主人公たちが現世に帰る時が来たと言う事だ。その間毎日毎日俺に修行を付けてもらいに来た結果、ちょっと大分結構かなり強くなってしまった。特にお嬢ちゃんがやばい。発狂を直しても直しても自分の中の虚と喰い合いを始めるせいであっという間に発狂しなおす。と言うか多分あれ発狂を治しきれてないんだろうな。多分だが。

 現状主人公も似たような状況にあるからあまり気にしなくとも大丈夫だろうが……確か未来であの二人くっつくんだよな? その時まで発狂してたら大分まずいことになりそうだ。自分自身とは言え食人癖と言うか食虚癖のある妻と、一部情動の消えた虚を宿す夫。……ん? お似合いか?

 お似合いかどうかは未来で本当にくっついてから考えるとして、とりあえず見送りでもしようか。夜一と技術開発局の初代局長の尸魂界への永久追放刑は解かれたようだし、これからは簡単に行ったり来たりもできるようになるはずだ。それがいい事なのかどうかは知らんが、まあ悪いことではなかろう。俺にとっては悪いかもしれないが……なあに最悪ユーハーヴェーハーでも作ってしまえばいい。そうすれば尸魂界にかなりの被害は出るだろうがちゃんと殺してくれることだろう。

 

 あと、原作通りに主人公には代行証と言う形で発信機が渡されることになった。そんなことしないでも多分大丈夫だとは思うんだが、尸魂界からすれば隊長格の大半より強い人間が当たり前のように現世にいるってのはある意味恐怖かもしれんし仕方ないとは思っている。なお、今の主人公は卍解状態の更木を相手に自滅を待つ形ではあるものの勝ちを拾うことができる程度の力がある。最大限ぶっちゃけると霊王の心臓を相手に一方的に勝ちに行ける。原作最終形態のユーハーヴェーハー相手だと流石にきついと思うが……と言うかあれってこの世界生まれの奴だと藍染の鏡花水月なしじゃ勝てねえんじゃね? マジで。

 もう死んでるけどな。

 

 かなり話は大きく変わるが、今の現世に面倒な奴がいるとするならば、間違いなく主人公の前の死神代行くらいだ。あれは色々と知っているし、ついでに他人の力を奪って自身の物にしたり、奪った力を他者に分け与えたりもするどこぞの世界における裏社会のボスかと言いたくなるような能力を持っている。あと過去改変能力者までいるし、はっきり言って頭がおかしいとしか言えない。馬鹿だろあれ。確率操作、電子的世界操作、空間操作、過去改変、契約によるある種無限の能力……どう考えても完現術者ってのは頭がおかしい。なお俺含む。

 忘れているかもしれないが俺の完現術は俺と言う存在そのものを使った『俺と言う存在を常に完全な状態に保ち続ける』もの。これによって俺は俺が生きている限り死なないと言う矛盾はないけど当たり前だろと言う状態を常に保ち続けているわけだ。寿命も無ければ怪我もしないからはっきり言って破面の序列二位の老いを司るあれも全く効果がない。本人にすら効果があるのにな。

 で、もしも原作のようにあいつらが主人公に接触してくるとしたらその時は主人公は死神としての力を失っていると思われる。もしかすると死神としての力だけ失って滅却師の力が残るかもしれないが、主人公の場合は父親由来の死神の力はともかく母親由来の虚の力は同じく母親由来の滅却師の力と一緒に消えてしまうかもしれないんだよな。いや、斬魄刀が虚の力だから最悪全部まとめて消える可能性すらある。

 ……覚悟くらいはさせておいた方がよかったかもな。してない方がおかしいが。

 




Q.剣八と一護は今どっちの方が強い?
A.純粋な性能だけなら断然剣八。ただし速度だけなら一護がやや有利なので自滅するまで逃げ続ければ勝てないことも無い。それを勝ちと言っていいのかどうかは知らんけど。

Q.嵌め技って置き月牙?
A.置き月牙に後から霊圧追加して威力ガン上げする技です。


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BLEACH~幕間の物語01

 

 色々とあった結果、また夜一はちょくちょく尸魂界にやってくるようになったんだが……最近はなんでか俺の膝枕でごろ寝することが増えている。猫の状態ならともかく人間の状態でも同じようにしているからちょっと問題がある気がしたんだが、まあ猫一の中の人だし別にいいかと思い直しておいた。基本的に邪魔もされねえしな。

 そんな日々を過ごしていると、ふと俺の膝に頭どころか上半身をのっけてだれている夜一の耳が目に入ったわけだ。

 そしてふと、こんなことを考えた。そうだ、耳掃除しよう。

 

「……別に構わんがパンジャンドラムは使用禁止じゃぞ」

「耳ごと頭を掃除するわけじゃあるまいしやんねーよアホ」

「アホにアホと言われた……」

「いいからさっさと耳こっちに向けろ耳かきの梵天の代わりにパンジャンの爆発で最後の仕上げをされたいのか」

「勘弁しろください」

「ならはよ」

 

 そんなこんなで夜一の耳が俺の方を向いたわけだが、ちゃんと掃除はしてあるようで結構綺麗だ。と言うか普通は耳垢とかはよほどべたついてない限りは普通に行動していると乾いて剥がれ落ちていくものだからそこまで大量に溜まるって方が珍しかったりするんだけどな。

 ちなみに耳かきが気持ちいいってのは人間として割と普通の事だ。神経の作りによって耳の内部には快感を感じる神経がそれなりに走っているそうだからな。ののちゃんが耳掃除の時に色々と調べえたらしいことを寝物語のように教えてくれた。五人に一人くらいは快感を感じるよりくしゃみや咳が出てしまう人もいるらしいが、俺の周りにそういう奴はいねえな。今のところ。

 

 耳かきをするときに重要なのは力はあまり入れないこと。耳ってのは骨のすぐ上に薄く皮膚がくっついたようなものだから少し強めに力を入れるだけですぐに傷がついてその傷から化膿したり炎症が広がっていったりすることもある。それを抑えるためにも力は入れないようにするのが大事だ。漫画とかで時々耳掃除のときに『ズドッ!』みたいな擬音とともに凄まじい勢いで耳に耳かき棒を突っ込んでいる奴もいるが、そんなことを現実でやったら一瞬で耳が血まみれになること請け合いだ。いい子も悪い子も絶対に真似してはいけないぞ。耳の中に小型のパンジャンぶち込んで爆発で耳垢を飛ばそうなんてのはもってのほかだ。まあ流石にそれは言わなくてもわかることだとは思うがな。

 ちなみに猫一の頃に散々触ったからわかるんだが、夜一は耳を触られると気持ちがよくなるタイプだ。耳の中に限らず裏とかでも同じく。俺の膝の上でふにゃっとしているのは大抵耳をたっぷり責められた後だからな。おいそこの怪文書製造機、メモしてるか? 夜一の弱点は耳だぞ。優しく優しくするんだぞ。絶対に強くしすぎるなよキレられるからな。強さに関してはそれこそ舌で舐めるくらいの強さでいい。流石に俺は夜一にも猫一にもそんなことはしたことがないが、強さ自体はそのくらいを目指している。

 なおやったことはないがやられたことならまあ何回か……何回か? まあ複数だったら桁が七つや八つあっても何回か、ってことでいいか。めんどくせえし。

 

 ちなみに天井裏ではいつも通り秒で仕事を終わらせた砕蝶が潜んでいたりするが、夜一はまったく気にしていないので俺も気にしていない。流石に夜中五月蠅くしたら額に風穴開けてやろうと思ってはいるが、こいつそのあたりは常識的だからな。そもそも天井裏に潜む時点で常識外れとか言ってはいけない。ちなみに今はメモを取っているようだ。

 まあともかく気にせず夜一の耳をのんびり弄っていく。耳ってのはさっきも言ったとおりに軽く触れられるだけで結構気持ちのいい部位だ。耳全体にゆっくり圧をかけてやる程度でも結構気持ちよくなれる。爪を使うと簡単に傷の付いてしまう部位だからそのあたりはしっかり気を付けないといけないが……自分でやるんだったらそのあたりかなり適当にやっても大丈夫なんだがなかなか気を使う。と言うか俺自身なら自分を炎に変えれば一発だからな。

 

「……随分と、手慣れておるの」

「まあ昔色々あってな」

 

 具体的には初転生の時に姉を相手によくやっててな? 姉以上に束姉さん相手にもよくやってた気もする。始めのうちはなんでもない感じなのにいつの間にか耳が真っ赤になってたりするのが可愛いなと思えたら末期。夜一も今褐色の肌だったのが赤に染まってるのがわかるが束姉さんの肌は黄色人種らしい色の肌だったからな三倍わかりやすかった。

 さてそれはそれとして左は終わったから次は右。奥の方に落とさないように気を付けつつ入口の方から少しずつ……少しずつも何も元々が少ないんだが気にしてはいけない。

 今度は砕蝶あたりを誘ってみるか。ちゃんと覚えられればいい感じにいちゃつけるとでも言えばやる気になるだろう。今の夜一の姿を見てればわざわざ俺から動かないでも向こうから教えを請いに来る可能性もあるがな。

 

「ところで、気付いてるか?」

「ん? ああ、途中からじゃがの。いつからおった?」

「お前が来た二秒後」

「……そうか」

 

 マジな話な。ちょいと気配遮断に関しては鍛え上げてやったからな。自分で一旦放出した霊圧を自分自身にもう一度取り込むなんて技も教えてみた。結果、霊圧感知が役に立たなくなったのと霊圧の回復速度の上昇が見込めた。なかなか驚きの結果だが、原作的に考えて瞬閧が風属性で延々と使い続けることに関しては適性があったためだろう。結構な早さで身に着けた。

 まあ、あまり気にしなくともいいだろう。どうせ手を出してくるような度胸はない。一時的に夜一不足や夜一過多によって暴走すれば話は変わってくるが、最近はよく夜一も来ているからな。一緒に修行もしているし、少なくともここ百年程の慢性的な夜一不足は解消されたと思うんだが、今度は過多の方が心配だ。過多になったところで被害は基本夜一にしか行かないだろうから多分大丈夫なんだが。

 

 仕上げに息を吹きかけると、夜一は身体を一瞬震わせる。夜一ってこれ好きだよな。耳の赤身は増しているようだが。

 




Q.なんで突然耳かき?
A.作者の趣味。

Q.この後怪文書製造機さんは耳かきの練習をしましたか?
A.イメトレは既に開始しています。


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BLEACH~幕間の物語02

 

「ようこそいらっしゃいました!ここはごていちほーだよ!筋肉モリモリマッチョ爺さんや筋肉モリモリマッチョハゲ、筋肉モリモリマッチョ赤かぶなんかが自生しているよ!ゆっくりしていってね!」

「ここはいちばんたいちほーだよ!一番偉いうさぎのおじいちゃんやそのおじいちゃんに忠誠を誓っているおじいちゃんがいるよ!怒らせると死ねるよ!」

「うさぎだぴょん」(真顔)

「ここはにばんたいちほーだよ!日々怪文書制作してる蜂さんがおとものぽっちゃり系をひっぱたいてたりするよ!怒らせると死ねるよ!」

「ヨルイチサマヨルイチサマヨルイチサマヨルイチサマヨルイチサマヨルイチサマ」

「さんばんたいちほーだよ!パンジャンドラムがたくさん転がってきたり、パンジャンドラムが転がってきたり、どこからともなくパンジャンドラムが現れて転がってきたりするから近づかない方がいいよ!怒らせたら死ねるけど怒らせなくてもたまに死ねるよ!」

「ぱんころ~」

「よんばんたいちほーだよ!いつもは優しいけど怒るととっても怖いハシビロコウさんがいるよ!」

「……」(ジー・・・と見つめながら鍔鳴り)

「ごばんたいちほーだよ!えげつない眼鏡がいなくなって寂しくて死にそうになってる爆弾ぶん投げてくるリスさんがいるよ!時々発狂して火炎弾ぶつけてくるよ!気を抜くと火傷するよ!」

「コロサナキャ……アイゼンタイチョウノテキ……コロサナキャ……」

「ろくばんたいちほーだよ!筋肉モリモリの赤かぶとかが生えてるよ!お情け卍解野郎って呼ぶと怒られるけど大して怖くないよ!」

「カブジャネエヨ……」

「ななばんたいちほーだよ!わんちゃんかわいいよ!でもやくざっぽいのもいるよ!怖くはないよ!」

「わんちゃんではない、狼だ」

「はちばんたいちほーだよ!ナンパで軽薄なおじちゃんがいるよ!でも筋肉はやっぱりすごいよ!実力もあるよ!」

「僕は結構強いよ~?」

「きゅうばんたいちほーだよ!よわいよ!隊長も弱かったし副隊長も押しに弱いよ!」

「……そんな弱いか?」

「じゅうばんたいちほーだよ!強い言葉をよく使うせいで弱く見えるよ!剣ちゃんと戦ったら多分十秒で試合終了だよ!弱く見えるけど強いってわけじゃないのにどうして隊長やってるんだろうね!」

「(吐血)」

「じゅういちばんたいちほーだよ!脳筋と戦闘狂の楽園だよ!実は書類仕事は私が結構やってるよ!札付きならぬ鈴付きのライオンさんもいるよ!」

「らいおん? なんだそりゃ……あ? 獅子のことか。なら最初からそう言えってんだ」

「じゅうにばんたいちほーだよ!起きながら眠ってる腐れマッドサイエンティストが色々やってるけど関わったら基本的に害しかないから入らない方がいいよ!たまに入らなくても被害が来るから気を付けてね!気を付けても大抵無駄だけど!」

「ケンキュゥゥゥゥゥシタイネ!!」

「じゅうさんばんたいちほーだよ!いっちーが助けたがってたルキアちゃんはここの所属だよ!あといっちーにそっくりな人もいるよ!」

「ここの隊長は病弱だと言う噂もあったがそのような事実はなかった」

「みんな仲良し!ごていじゅうさんたいちほー!みんなもおいでよ!」

 

 

 

 

 ……………………。

 

 夢、か。一体何がどうなってあんな夢を見たんだ? つーか織斑さんはほんとどこでもパンジャン転がしてんな……。

 夢ってのは記憶の整理を脳がしている時に見るものだって話だったが、俺の脳は何を考えてバニーガールな元柳斎の爺さんとか超真顔で夜一さんの名前を呼び続けている怪文書製造機とかを紹介していく感じの光景を見ることになったんだ? 繋がりが全く分かんねえ……。

 せっかく現世に帰ってきて初めての夢だってのに、なんでこう悪夢なのかもよくわからねえ妙な夢を見ることになったんだ……まさかこれも織斑さんのせいか? 織斑さんならこんなふざけたこともノリとか気分とかそんな理由で実行しそうな気がする。そしてノリとか気分とか言う理由で実行できるだけの力も多分あるだろうしな……。

 ただ、あのメンツかどうかは知らねえけど多分俺が死んだら行くことになるよな? 護廷十三隊。正確には護廷と言うか、尸魂界。もしかしたら俺の中の虚に連れられて尸魂界じゃなくて虚の住む世界……虚圏とか言うんだっけか? そっちに行くことになるかもしれねえが、流石に今から死んだ後の事なんて気にしてもなぁ……。

 




Q.……は?
A.夢です。だからなんでもあり。

Q.なんか一部凄まじくキツイものがあったような……?
A.夢だからね。仕方ないね。


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BLEACH~幕間の物語03

 

 護廷十三隊にはそれぞれの隊によって特色がある。それはここ、十一番隊も例外ではない。

 十一番隊は護廷十三隊きっての戦闘部隊。どいつもこいつも脳味噌まで筋肉でできているような戦い好きの大馬鹿野郎。戦いの中で死ぬならばそれは本望でしかない。

 けれど、何事にも例外と言うものはある。十一番隊において戦闘以外に秀でる存在と言うのが、僕の知る限り二人いる。

 一人は副隊長、草鹿やちる。普段から気まぐれで色々とおかしなことを繰り返すけれど、それ以上に書類仕事の処理速度が素晴らしい。昔の副隊長、現在では三番隊の隊長をしている織斑隊長に一から叩き込まれたと言っていたけれど、きっとそれは事実なんだろうなと思わせるだけのものがある。

 そしてもう一人は、僕自身。僕は十一番隊の調理責任者として二十人ほどの隊を率いていて、日々の食事を作り続けている。戦闘部隊である十一番隊であっても食事をしなければ戦えない。当時の副隊長である織斑さんの言葉に誰もが納得した結果作り上げられた十一番隊調理小隊は、一人一人がある意味精鋭だ。

 

 僕は十一番隊第十五席、調理(しらべことわ)。名前がすげえと織斑副隊長に気に入られ、調理技術を叩き込まれた一人の男だ。

 

 僕の朝は早い。前日の夜から水に沈めて出汁をとった削り節を鍋から取り出して火にかけ、煮立たせないようにしながら切った具材を入れていく。数百人分の味噌汁、それも一人一人がかなり大食いの男たちを満足させるだけの量となると大鍋一つ程度ではとても足りない。それこそ風呂窯一つくらいは最低限必要になるのだ。

 それに合わせてご飯も炊いていく。これも凄まじい量になるけれど、ご飯を炊くのは小隊の一人に任せておけば問題ない。噴きこぼれそうになったら火を弱めさせて暫く放置すればいいだけだ。

 それから今日の朝食用におかずを用意する。十一番隊は脳筋しかいないのでとにかく量が作れるものがいい。つまり、肉だ。肉を6、野菜を3.95、調味料を0.05くらいの割合で一気に焼き上げる。このころになると朝のひと暴れを終えた他の隊員たちが空腹を抱えてやってくるので一気に忙しくなる。脳筋が多いこの十一番隊では小鉢などと言うしゃらくさいものを使う細かい奴はそういないので、飯を盛るどんぶりとおかずを盛る皿、そして汁物を盛る椀に箸を付けて全部一つの盆に乗っければ完成だ。簡単でいい。

 基本は肉と飯、そして汁物。この三つを十分に供給してやれば不満は出ない。ただ、あまり同じ献立が続くとブチブチ言い始める奴もいるので献立自体は百ほど用意してある。兎にも角にも飯を食わせればそれでいい。

 

 朝飯が終わると洗い物と次の飯の準備が始まる。朝は和風で行ったので昼は洋風に仕上げてみることにする。まあ大衆料理なのは変わらないんだが。

 手っ取り早く作れるのは肉の洋風煮込み、織斑さん曰くシチューというらしいが、使った肉の名前によって名前が変わってくるそうだ。今回は牛肉を使っているのでビーフシチューと言うことになるんだろうな。

 焦げ付かないようにという点だけ注意すれば煮込むだけでいいのだから楽と言えば楽。火加減は……鬼道って便利だよな? 特に赤火砲。小さいのをいくつも並べて出せば簡単に火加減の調節ができる竈の出来上がりだ。問題はこれを出しているとずっと霊力を使い続けると言う事だが、ちょくちょく味見をするので問題なく回復できる。

 味は基本的に濃いめだ。なぜかと言えば十一番隊は基本的に脳筋の集まりなので戦う事と強くなることばかり考えている。そのために日々の修行は欠かさないし、欠かした場合もしかすると織斑さんが現れて修行に付き合わされる可能性もあると言う事でさぼろうとする奴はそういない。そしてそうやって真面目に修練を積んでいる以上は汗だってかくし水分も失われる。水と塩分は十一番隊の食事に欠かせないのだ。

 

 昼が終われば再び洗い物をして夜の準備。和食洋食と来たので中華にすることにした。織斑さんがこの厨房の支配者をやっていたときにはひとりで全部やってのけていたそうだけれど、いくら僕でも一人でそれは無理だ。なんでできていたのか不思議に思う。

 だからこそ調理小隊なんてものがあるんだけどな。

 鳥を炊いた澄んだスープ。肉は鶏肉油は鶏油。さっぱりとかそんなことを考えている奴はなかなかいないが、代わりに酒に合わないと嫌がられるからやっぱり味付けは濃いめ一択。毎日毎日食って飲んで大騒ぎ。良く飽きないなと思う事もあるが、戦いが主体で食事や酒こそ息抜きなんだろう。呼吸に飽きる人間がいないように、戦いに飽きる人間は十一番隊には入れない。入ったとしてもすぐに出ていってしまう。

 まったく、十一番隊は地獄だぜ!

 

 夜。適当に誰でも食べていい夜食を作ったあとは、明日の朝食の下拵えで時間が必要な物だけをやってから早めに眠る。十一番隊の食事は戦争のような物だ。体力が無ければやっていけない。休めるときにしっかり休まなければ。

 




Q.誰?
A.オリキャラ。一夏が十一番隊からいなくなる時に調理技術を叩き込んだ設定。ちなみに書類仕事はやちるに叩き込んだ。

Q.他にもこんな感じのオリキャラはいます?
A.いないことはないけど出てくるかどうかは不明


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BLEACH〜幕間の物語04

 

 家に戻れば全部が元に戻る……という訳じゃない。俺の中に虚がいると言う事を新しく知り、俺の両親が霊を見ることができる存在だと知り、そして俺自身も思考の一部分が組み変わったような感じがしている。具体的には、敵と認識した相手に対して容赦がなくなった気がする。今までも喧嘩の相手には容赦してこなかったが、今では多分霊力について何も知らない一般人が本気で喧嘩を挑んできたら俺も霊力で体を強化して本気で返すだろう。いや、流石に殺すまではいかないと思うが。

 ただ、こうして変わってしまった俺でも親父とお袋は普通に迎え入れてくれた。俺の身体に何が起きたのかはうすうす感じ取っているだろうに、それを一切表に出すことも無く。ただ、夏梨はなんとなくどころでなく気付いていて、ついでに隠すこともできていないようだった。遊子は全く気付けてないみたいだけどな。

 

 だから俺は、とりあえず親父とお袋に話を聞いてみることにした。なんと言うか、親父とお袋の霊圧を探ってみると親父はあまり霊圧を感じ取れない……と言うか、自身の霊圧をどこか別の場所に直接送っているような感じでその残滓しか感じ取れず、お袋はお袋で死神や虚のような放出する系統の霊圧ではなく自身に収束させていくような霊圧を感じ取ることができた。つまり、お袋が滅却師で親父が死神ってことなんだろう。虚に関してはどうなっているのかわからないが、多分お袋だ。親父の霊圧からは虚の気配を一切感じ取れなかったからな。

 

「なあ親父」

「あん? どうした一護」

「親父とお袋ってどっちが滅却師なんだ?」

 

 顔面に味噌汁吹きかけられそうになったから即座に避けた。まああれだ、ただひたすらに周囲の雑魚を蹴散らすために作られた散弾ばら撒くタイプのパンジャンドラムが爆発した時に飛んでくる散弾と外殻の残骸よりは遥かに遅い。それにこんな風になるんじゃねえかと予想もしてたしな。

 そっからはまあ、一旦俺と親父の二人で移動して話をすることに。親父は死神で、今の身体を使っている間は人間に近い存在になっていて、お袋は滅却師で、虚にやられて魂が持たないから親父がそれを抑えていて、俺はつい最近まで親父によって虚を抑えられていたと言うことも教えられた。

 ただ、尸魂界に行ってからの俺の霊圧の成長は凄まじいものだったようで既に親父では俺の中の虚を抑えることはできていないらしい。そしてその代わりにお袋の中の虚については大体完璧に抑え込めているそうだ。

 ……俺の中の虚は、お袋の中から来たものだったらしい。俺が生まれた時にお袋の中の虚は一気に弱体化し、そして弱体化した分とほぼ同等の虚の霊圧を俺は纏うことになったそうだ。今までのように現世で生活している分にはよっぽどの事をしない限りは霊圧を上げたりすることは難しいそうだが、俺が身体の成長と共に霊圧を少しずつでも上げていったのは俺の中にいる虚が周囲の霊子を取り込んで喰らい続けていたかららしい。正直なところ全く気付いていなかった。

 

 しかし、織斑さんはどこまで知ってるんだろうな。俺自身親父とお袋が死神と滅却師だったとか全く知らなかったのに。いやまあ確かにかなり昔から護廷十三隊にいる織斑さんなら歴代の隊長格の顔くらい覚えててもおかしくはないとは思うが、滅却師の方を知ってるのは絶対におかしい。滅却師の力は血縁でのみ受け継がれると言うことを教えてもらわなかったら織斑さんはストーカーか何かだと本気で思ってしまうところだった。まあ織斑さんならたとえマジでストーキングしていても理由付けその他によって不問に終わりそうな気がするけどな。そもそもばれないだろうし。万が一ばれることがあったとしても他人に責任押し付けそうな気もする。

 ……言葉だけ聞いてると最悪だな。

 

『今すぐ謝ればお前の夢の中に出てパンジャン転がし祭りを開催することはやめてやろう』

 

 申し訳ありませんでした許してください俺が悪かったです。

 

 ……許されたっぽいな。と言うかどうやって現世にいる俺に織斑さんは声を届けたんだ? しかも俺口に出してない言葉に返されたし。

 ……織斑さんだから仕方ないか。そうだな。織斑さんだし仕方ない。織斑さんだからおかしくない。……やっぱだめだ、いくら織斑さんでもおかしいもんはおかしいわ。なんだよ心を読むとか。しかも現世と尸魂界とか離れてるってレベルじゃないくらい離れてんじゃねえかよ。

 

 そうか、わかった。幻聴だ。織斑さん曰く今の俺は発狂しているらしい。井上も発狂しているらしいが細かい事はわからないから一旦置いておくとして、発狂しているんだったら幻聴の一つや二つ起こしてもおかしくはないはずだ。そう、だから織斑さんが人間離れ勝つ死神離れした能力を持っているわけじゃ……いや持ってるんだが、ともかく俺の発狂が原因なら俺の思考が読まれているわけではないということになる。安心だ。

 

『変態仮面って知ってるか?』

 

 嫌な予感しかしないのでマジで勘弁してくださいお願いします。

 




Q.一夏は何をどうやって言葉を伝えているんですか?
A.本体ではなく一護の中に残った鍍の毒が対応しています。本人ではありませんがほぼ本人ですね。

Q.ちなみに最後の嫌がらなかったらどうなってました?
A.原作で虚の一護が身体を動かしていたことがありましたね? つまりそういう事です。


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破面編
BLEACH~77


 

 side 黒崎一護

 

 代行証が鳴る度に生身で月牙をぶっ放して虚を尸魂界に送り付ける。生身で撃った月牙を自由に動かすことができるようになってからは仕事がはかどるはかどる。斬魄刀で切らないと尸魂界に送れないって話もあったが今の俺は全身斬魄刀みたいなものらしいからな。

 俺の斬魄刀は浅打から派生したものじゃない。あれは俺が初めから持っていた刀だ。死神ってのは浅打に自身の霊圧をなじませて斬魄刀を作るらしいが、俺の場合は俺の中に初めからいた虚が浅打の代役として斬魄刀をかたどっていた。そして俺の中の虚ってのはつまり俺だ。即ち俺の中で虚が役割を担っている斬魄刀は俺だ。斬魄刀が間違いなく俺であるなら、俺が生身で斬った相手を虚から戻してやれないわけがない。

 

 まあそんなこんなでやっと戻ってきた日常を謳歌しつつ遅れてしまった勉強を取り戻したりもしていたんだが、そんな日常に転校生がやってきた。名前は平子真子。さかさまが得意と言っている、おかっぱの男。

 ……で、多分だが俺の同類みたいな感じだ。死神と虚の力を両方持っていると思われる。流石に滅却師の力は持ってないと思うが、どうだろうな? あの身体、多分義骸だと思うんだが中身の霊圧を感知しにくくて仕方ない。俺の親父の義骸と似たような感じだから、多分あれは浦原さんの作品なんだろうな。良く知らねえけど。

 

 で、なんでこの時期に俺に近づいてきたのかを考えてみることにする。まず、俺が藍染と敵対したことを浦原さんから聞いたとする。そして俺の中の虚についても浦原さんから聞いたとする。その場合、多分俺とあいつが何も知らなければ喰い合って暴走したりしていただろうから、制御のためとも予想できる。

 ただ、俺はあいつとそこそこ話もする中で、今更本気で殺し合いをするようなことも無い。……いや、一回やってみるのも悪くねえかもしれねえが、その場合外にどんな被害が出るかわからねえからできれば織斑さん監修でお願いしたい。じゃないと流石に不安だ。

 

 しかし、あれだな。多分こっそり俺に接触したいんだろうが、俺は出動の時も基本的に指一本から月牙飛ばして終わりにするからひっそり会うこともできなくて大分やきもきしてるようだ。最近じゃ仮面が割れて中身の見えている虚が襲ってきたりして面倒なのになんでこうも厄介ごとってのは続くかね。

 ……厄介ごとと言えば、たつきの奴は代行証が見えてるっぽいんだよな。あと多分だけど夏梨も見えてると思う。霊圧も結構強くなってきているようだし、いったいいつごろから……?

 いや、いつ頃からかはいい。多分俺が尸魂界に行く前からだろうと言うのはわかるし、あの頃の俺は少し……大分? 鈍かったからな。主に霊圧感知とかそっち方面が。気付けないのも無理はない。

 それよりも、こっからどうするかの方が問題だ。平子については……放置しておいて変な問題が出るのも嫌だし、一回俺を囮にでもして引っ張り出すか。その前にまず間違いなくかかわってるだろう浦原さんにも話を聞いた方がいいかもな。平子の方は場所はわからねえけど浦原さんの方は場所もわかってるしな。

 

 そんなわけで行ってみたが、聞きたいことは聞くことができなかった。浦原さんとの関わりがあるのはまず間違いないんだが、しかしそれでも収穫はあった。

 まず、平子真子と言う名前はまず間違いなく本名であると言うこと。そして浦原さんは平子たちの事を知っていると言うこと。現在の平子たちの詳しい状況とかは知らないようだが、それでも顔見知りと言える程度の中ではあることも分かった。要するにほとんど何もわからないってことだな。まあ斬魄刀は持ってるらしいから多分と言うかまず間違いなく護廷の方に話を出せばどういう奴かはわかると思う。本音を言えば織斑さんに話を通せば多分全部教えてくれると思うが……逆に修行だとか言われて情報なしで放り出されるかもしれない。織斑さんの修行は俺が限界すれすれまでがんばればなんとかクリアできるようになってる所が嫌らしい。加えてぎりぎりまで頑張るように飴と鞭をしっかり用意しているところもまた腹立たしい。

 

 ……こうやってしっかり考えるようになったのも織斑さんのおかげ、と言うか、織斑さんのせいだな。しっかり考えてから動かないとマジで死ぬ。しっかり考えても行動が遅いと結構死ぬ。行動が遅くなくても割と死ぬ。そして甦るまでがワンセット。

 いや、甦るまでがワンセットってかなり怖いな。当たり前のように言ってるけどそもそも普通は一回死んだら甦ったりはできない。なんか井上は自分以外が対象なら身体が一部残ってれば蘇らせることもできるらしいが……井上もまた異常人側に行ってしまったのか……まあ俺が言えることじゃないってことくらい自覚してるけども。

 こういう面倒ごとはなるべく早く終わらせたい。本当ならそもそも俺がみんなを守らないといけないような状況にならない方がいいんだが、どうにもそれは望み薄らしい。速く終わらせようにも平子の本拠地もわかんねえし、どうすっかなぁ……。

 




Q.なんか妙に好戦的じゃありません?
A.吉良吉影状態。後は察して?

Q.え、なに? また発狂していらっしゃるの!?
A.また発狂していらっしゃいます。殺人癖はないけど戦闘狂の気が若干。


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BLEACH~78

 

 side 黒崎一護

 

 ようやく平子が動いた。一応俺も平子を誘い出すように動いてみたんだが、あっちが焦れたのかそれとも何か急がないといけない理由でもあったのかはわからねえがともかく動いた。

 で、突然斬りかかられたんで大刀で受け止め小刀で剣圧を飛ばし、回避した先に回り込んでもう一発。月牙ではなく剣圧なのは平子の目的が現状わからねえからだが、受け止めようとして押し切られて飛んで行った。仕方ないので追いかけたんだが……なんだろうなこいつ。多分冬獅郎より少し上、狛村さんと同等かちょっと上、ってとこだと思うんだが……斬魄刀を持っててその斬魄刀から虚っぽい霊圧も感知できるからまず間違いなく俺の同類……で、元護廷十三隊の浦原さんがその存在を知っていて、ついでに俺に隠そうとしている点から考えてこいつは元々護廷で隊長格やってたんじゃねえかと思う。確信はねえし証拠も無いけどな。

 

「一応聞くんだが、俺の知ってる平子でいいんだよな? 誰かが化けてるとかそういうのは考えなくていいんだよな?」

「……まあのォ」

「生身なのか、それ。いや、義骸か? ってことは……浦原さんか。護廷を抜けてどこに居たんだ? その霊圧を感知しにくい義骸のおかげか?」

「ノーコメント、やっ!」

 

 再び斬りかかってくる平子だったが、とりあえず素の口調はマジであれなんだろうな。あまり余裕が無さそな状況でもあれってことはそうなんだろう。多分。

 息を吐き、それに打撃の月牙を乗せる。それは割と簡単に切り捨てられたが衝撃は多少通ったらしく白哉の使ってたやつを見様見真似で覚えた相手の背後に回り込む瞬歩で後ろを取る隙ができた。

 大刀を納めて平子の背中に抜き手を突きつける。月牙を纏った抜き手はそれこそ刃物と変わらないし、そのことは霊圧から察することができるだろう。平子はじっとりと冷や汗を流しつつ動くのをやめた。

 

「……で、なんで襲い掛かってきたのかと用件と目的。あとついでに好きなパンジャンドラムについて教えてもらおうか」

「最後のなんで!? いやそもそも俺パンジャンドラム好きやないで!?」

「あっそ。じゃあなんで襲い掛かってきたのかと用件と目的だけ手短に話せ。俺これから晩飯なんだよ」

「俺の用件は晩飯以下か!?」

「用件がわからないから何とも言えねえな」

「……一護。お前、これに見覚えは?」

 

 そう言って出されたのは虚の仮面。そして同時に平子の霊圧が跳ね上がる。小さい方の斬月で平子の剣を打ち払い、手刀で脳天から仮面を叩き割ろうとして躱される。一応皹は入れたが、結構速いな。

 

『なあ、俺よ。なんで俺を出さねえ?』

 フラグってやつだ。切り札は後に出した方が勝つんだとよ。よくわからねえが。

『ああ……そういやそんなことも言ってたっけか。信じてんのか?』

 一応な。だって織斑さんの言う事だし……言葉の後に嘘だとかそういうのもついてなかったし……。

『なるほど。まあいつでも起こせ』

 おう、サンキュ。

 

 爪で空を切るようにして出した月牙を腕に纏う。三日月のように手の甲から肘を覆うそれは触れれば斬れる攻勢防壁。なお斬れる相手の強度には限度があるが何でもそうなので一旦考えないでおく。大刀の方はまだ抜かない。理由? あれだ、フラグだ。織斑さん曰く『先に切札を出すと負ける』とか『切札の解説を長々すると追いつめられる』とかがフラグになるらしい。他にもあるらしいがなんかオサレだとか何とかでよくわからんかった。

 ともかく今はこいつの相手をしなきゃならない。できることなら早めに用件を終わらせたいところなんだがなぁ……上手くいかないものだ。

 それに、義骸に入っている以上は平子は霊力のない奴にも見えてしまうと言う事だ。できるだけ早く終わらせたい理由にはそれもあったりするんだが、中途半端に強い奴を相手にするとそれもできなくて困る。それに俺は回復術なんて使えないから殺しかけた場合マジで死んでしまうから加減が必須なのが痛い。あっちも虚なら超速再生を使えたりは……しないか。あれは一応結構珍しい能力のはずだしな。

 

 一旦発狂して、一度正気に戻ってからまた発狂すると、自分が今発狂しているのかいないのかがよくわかるようになる。そして繰り返し発狂して狂気に慣れてしまえば理性的に狂気を扱えるようになる。言ってしまえば、身体に染み付いた本能を理性的に振るうことができるようになると言うこと。虚の俺の敵を殺せという声を聞き、本能的に襲いかかるでなく理性的に襲いかかれる。何に使えるのかってのは難しいが、便利ではある。

 そして理性を狂気に浸す度に、(死神)()の境界は溶け合って一つになっていく。元々俺の中にいた奴がどうやってこれ以上一つになるのかはわからないが、ともかく一つになっていく感覚はある。虚化の訓練をしていた頃のように意識して保ち続けるような必要はなくなり始めていると思うが、流石にこの状況で一々それを確かめるようなことはできないからな。悲しいが。

 

 ……それに、平子はまだ斬魄刀の解放をしていない。平子の斬魄刀の能力次第ではこの状況も容易にひっくり返される可能性がある。が、手足を斬り落としておくとかそういうことはできない。なんて面倒な状況なんだ……。

 




Q.オサレポイント的にこの一護の行動はどうなの?
A.オサレポイント導入しても勝てない程度に実力差が……ね?

Q.具体的にどのくらい離れてる?
A.死神の力に目覚めたばかりで始解もできてない状態の一護と剣八よりは近い……かな?(なおどう頑張っても霊圧差で斬れない)


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BLEACH~79

 

 side 黒崎一護

 

 一応話を聞いてはみたが、要約すると『俺らと一緒に来い』的な内容だった。スカウトってやつか。まあ俺がわざわざこの町を離れてあいつらの所に行く理由はないわな。だから断ったんだが……それとほぼ同時になんか来た。なんかってのはなんだと聞かれると困るんだが、ともかくなんかだ。

 霊圧の感じからして虚、ただしただの虚ではなく死神にも似た霊圧がある。俺のように死神主体ではなく、虚主体に死神の力が後付けされたような感じだ。

 

 察するに、虚の領域に行った……行ったってか投げ込まれた藍染の手駒だろう。浦原さん曰く、崩玉は死神と虚の境界を崩すもの。織斑さん曰く、崩玉は周囲の存在の意思を読み取ってその願いを叶えるもの。藍染がより強大な力を求め、虚圏で自身の軍を作り上げていったんだとしたら……偵察として数体送り込んでくるのもおかしい事ではない。

 そしてそれが来た場所に向かっているところだが、俺より先にチャドと井上が到着しそうだ。あと、その場にたつきがいるな。運のない奴だな……急がねえと。

 

 

 

 

 

 side 茶渡泰虎

 

 大男と細身の男。どうやらこの状況は大男の方がやったらしい。近くにいる魂魄が凄まじい勢いで大男の口の中に吸い込まれていくのが見えてしまう。

 俺は走る。龍の両脚は水上であろうと空中であろうと大地を踏みしめるのと変わらない速度で俺を走らせてくれる。そして完現術を正しく学んだ俺は、空気の魂を引き出すことでさらに俺の動きを加速させる。織斑さんが見せてくれた虚の高速移動術である響転と完現術の組み合わせは、俺を瞬きの間に目的地にまで運んでくれた。

 

 思い切り大男の腹を打ち上げるように殴りつければ、吸い込まれていった魂の多くが吐き出される。それが全てかどうかはわからないが、身体と繋ぐ鎖に引きずられて引っ張られた魂魄はそれぞれの身体に戻っていった。もしかしたらどこかで混線しているのも居るかもしれないが、流石にそこまでは面倒を見切れない。死神に頼めば一護のように魂を一時的に引っ張り出して入れ替えることもできるだろうが……頑張ってくれ。

 

「て、めえ……!」

「すまない。お前が何を考えてみんなの魂を食おうとしたのかはわからないが、それをされると困るんだ」

 

 蹲ったことで俺の肩の位置まで下がった敵の頭に巨人の一撃を打ち下ろすように叩き込む。打ち付けられた拳によって大地に頭ごとめり込んでいくが、しかし致命傷には程遠い事を拳から伝わる感触が教えてくれる。

 拳を打ち込みはしたが砕けていない。多少の損傷はあるだろう、少なくとも皮膚の一枚程度は破れているはずだ。しかし骨まで砕いた感触はしなかった。これは恐らく立ってくるだろう。

 もう一人の細身の男はどうやら戦いに参加する気は現状無いように思えるが、しかしいつ行動が変わるか分かったものじゃない。この大男が殺されそうになれば恐らく手を出してくるだろう。一気に片を付けたいところだが、この大男の皮膚の硬さから言って一気に決着はまず不可能だ。と言うか、できたとしても多分止められる。

 

 龍の脚で頭を蹴り上げ、左を腹に叩き込む。今の俺にはこれ以上に魂魄を吐き出させる方法は持っていないからここからは普通に戦おう。

 それに……こいつには多分まだまだ上がある。今のままなら負ける気はしないが、しかしこいつが何かしてきた場合に勝ちきれる保証もない。今ですら決して弱いと言う訳ではない。今の一連の流れは相手の油断に上手く付け込むことができたからこその優位だ。もしかしたらこの状況は優位ですらないのかもしれない。

 だからこそできる限り相手の引き出しを使わせるように戦いを進めていく。例え俺がここで負けたとしても、この戦いを見てくれている井上が一護にこいつの事を伝えてくれるだろう。

 

 この拳は守るためのもの。自分自身ではなく、一護を守り抜くためのもの。一護の敵を倒し、俺の友を守るためのもの。……まあ、結構最近倒されたばかりではあるんだが、そのあたりは気にしないでおく。それに今のような霊体ではない生身の戦いならばまだ一護より俺の方が大分強いしな。

 一護が完現術を身に着けることがあればその力関係も逆転することがあるかもしれないが、今の状態で一護が完現術を覚えるとなったらどれだけ時間がかかるかはわからない。一護がいつも身に着けている大切なもの、あるいは思い入れがあったりついついいつも持っているもの、なんて俺には想像もつかないからな。まずはそういうものを作るところから始める必要があると思う。もしかしたらそんなものなしで単純に強化のために完現術を覚える可能性もあると言えばあるが、さて、どうだろうな?

 

 敵の拳を右の盾で受け止める。体格差もあって僅かに身体が弾かれるが抑え込み、こちらも殴り返す。俺の拳は掌で受けられ、思いきり弾いて体勢を崩させる。追撃に行くと見えるように半歩踏み出したところで相手の脚が下から跳ね上がってくるのを察知して盾で受け流し、しかし縦に振られる攻撃は受け流しがしづらく身体が大きく退がらせられる。体勢を崩した状態での蹴りなのになんて威力だ……こいつ、唯者じゃない……!

 




Q.今のチャドでもヤミーと殴り合えんの?
A.まあそのくらいの強化はしてますからね。

Q.井上は?
A.見学?


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BLEACH~80

 

 side 井上織姫

 

 じっと見ていた。茶渡君と相手の戦いを。

 じっと見ていた。敵と戦う茶渡君を。

 じっと見ていた。戦いを見る私を。

 あの人は、じっと見ていた。

 

 戦いの場から目を外し、私を見つめるその人と視線を交わす。お互いに見つめ合い、私は何となくこの人の事を知った。

 何もない、訳ではない。ただ、この人は自身の中にあるものを理解していない。虚無と言いながら大気の詰まった空間のように、その場に自然にあるものをあって当然と思うが故に理解することなく成長してしまった子供のような、そんな感じ。

 じっと見て、じっと見つめて、じっと見つめられて……

 

『おいしそう』

 

 私の中の私が呟いた。

 

『とってもおいしそうだね?』

 そうだね。

『よく出てくる虚って薄いもんね?』

 そうだね。

『私もそう思うよね?』

 うん、そうだね。おいしそうだと思うよ。

 でも、固そうだね。

『そうだね。多分食べられないね』

 料理すれば食べられるかな?

『わからないけど、やってみる?』

 虚って死んだら消えちゃうからね。無理かなぁ……?

『わからないね』

 やってみる?

『やってみようよ』

 でも、いきなり本命だと失敗したときに悲しくならない?

『じゃあさ。そこにいいのがあるじゃない?』

 そこ……ああ、うん、なるほど。

『ね?』

 そうだね。それじゃあ―――やってみようか。

 

 茶渡君と身体の大きい人が殴り合って飛び散った肉片を烏頭と狐花で回収していく。少しつまみ食いしているのは……まあ見なかったことにしてあげようかな。どうせ必要になるんだし。

 そして肉片は少しずつ隠していくけれど、やっぱり飛び散るのを集めたところで大した量にはならないね。茶渡君の肉は飛び散ってないけれど、それでも作った盾と腕には少しずつ凹みができているように見える。圧縮された霊子を纏った相手の両手も血まみれになっている。純粋な強度だけなら茶渡君の方が上だけれど、相手は腰に刀を差しているからそれが抜かれたら形勢逆転もあり得るかな?

 でも、戦い方からして武器を使うよりも素手で戦うのが得意そうなんだよね、あの人。なんでだろう? 死神の人たちみたいにあの刀が変形して鎧や籠手にでもなったりするんだろうか? 茶渡君みたい。

 

「……女。何を見ている」

「……あ、私? えっと……戦い方を?」

「では、お前はどう見る?」

「うーん……多分、現状有利なのは茶渡君。ただ、一番初めにいいのを入れたからであって、実際の実力は多分そっちの人の方が上……? あと、剣を使わないみたいなのに剣を持ってて、しかも切札みたいなものに見えるから……死神の刀みたいに解放すると何かあるんじゃないかな、って思う」

「ほう……」

「あなたは?」

「答える理由はない」

「そっかー」

 

 残念。でもまた少しわかったかな。

 

 ふと、空から何かが下りてくる。真っ黒で、重くはないのにとても強い霊圧。黒崎君だ。

 私はたつきちゃんや他のみんなを三天結盾で守りながら茶渡君が吐き出させた魂の誘導と抜け殻になってしまった身体の移動を舜桜とあやめにしてもらっている。魂は少しずつ戻ってきていて、けれどすぐ近くに大きな霊圧が二つぶつかり合っているせいでなかなか近寄れないみたい。三天結盾の後ろからなら近づけるのがわかってからは少しずつ集まってきているけれど……このまま時間が過ぎると霊圧で潰されちゃうかもしれない。せっかく茶渡君が吐き出させてくれたんだから、それはよくないよね。

 でも、黒崎君が来てくれたから多分大丈夫。二つに分かれた刀のうち、大きいほうだけを出しているのはきっと手加減のためじゃなくて相手に自身の力を誤認してもらうためだと思う。

 

「井上。待たせたか?」

「ちょっとだけ。でも大丈夫だよ」

「そうか。チャド!そっちのは任せていいか?」

「―――ああ、任せろ!」

 

 黒崎君は私に背を向けて、細身の男の人と向き合った。茶渡君も今まで以上に張り切って大きい方の人に向き合った。

 

『……おいしそうだよね』

 そうだね。

『ずっと、我慢してるんだもんね』

 そうだね。

『きっと、おいしいよね』

 そうだね。食べたらきっとおいしいだろうね。

 でも、駄目だよ?

『黒崎君は食べたらなくなっちゃうからね』

 そうだね。

『黒崎君と一緒じゃないのは、いやだね』

 そうだね。一緒に居たいね。

 

 戦うと決めた黒崎君と茶渡君、そして敵の二人の周りを大きな大きな盾で囲う。内側を拒絶し周りに被害を出さないように、舜桜、あやめ、椿鬼、烏頭、狐花によって隔絶された戦いの場を作る。この中で起きたことならば私はそれを拒絶して治すことができるから、この中であれば黒崎君たちがどれだけ暴れまわっても大丈夫。

 それに、椿鬼くんのおかげで外から中の事に気付かれにくくしているし、とても便利な術であることは間違いない。双天帰盾を元にしているこの盾はかなり頑丈だし、早々壊されることはない。壊されたという事実その物を拒絶してしまえるからだ。

 

 ……人間の領分を超えた力だと言われたけれど、使える物はなんだって使わないと黒崎君に置いて行かれてしまう。置いて行かれるのは嫌だ。だから、私は―――私達になったんだから。

 盾の中での戦いは少しずつ激しくなってきているけれど、私はそれを封じ込める。同時に周りに散っていった魂を集めて元の身体に戻る手伝いをする。ただ魂を身体から抜かれただけで体に一切傷が残っていないなら、結構生き返らせることはできるみたいだしね。

 

『黒崎君の霊圧おいしー♪』

 あっずるい私も食べる!

 




Q.烏頭&狐花is誰?
A.新しくできた六花(?)です。詳しくは目次に戻って一番上のオリジナル設定集をどうぞ。

Q.ちなみに井上が使ってた技、名前あんの?
A.あります。詳しくは同上。


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BLEACH~81

 

 side 黒崎一護

 

 誰だかわからねえけど虚と死神の中間っぽい奴で、チャドと戦っていなかった細身の方を相手にしている。平子相手にしたときには小さい方の刀を使っていたから、今度は大きい方の刀を使う。

 まずは軽く剣を振るう。剣圧が飛び、男に向かう。男はそれを片腕で弾こうとするが、寸前で留まって大きく回避した。……なるほど、これで斬れるのか。なるほど。

 

「ほう……中々の威力だな」

「そいつはありがとさん。で、一応聞いておきたいんだが、お前の名前とここに来た目的を教えてくれねえか」

「……。俺の名はウルキオラ・シファー。藍染様の命により、お前を見に来た。そして、邪魔になりそうならば殺せ、という命も受けている」

「ああそうかい。で、どうする? 俺と殺し合うか? 多分だが今のお前相手なら俺の方が強えぞ」

「そうだな。お前の実力は先の一撃で見て取れた。あれは全力ではないだろう?」

「おう。あれはただ剣圧を飛ばしただけで、技とも言えない曲芸みたいなもんだ。今みたいに井上が空間を閉じておいてくれなかったら使えない、物騒すぎる曲芸だけどな」

 

 まあ、多分だがこいつくらいなら十分勝てる。少なくともあの剣圧を避ける理由が命に届きうる威力だったから、ならばだが。もしどこかの誰かさんのように支給された隊長の羽織を汚すと怒られるから、という理由で避けられたわけじゃないならまあ……うん。

 あれは、へこんだ。ぶっ飛んだ人だってのはわかってたつもりだったんだが、俺の理解していた以上にぶっ飛んだ人だった。なんで天鎖斬月に月牙を纏わせて斬りつけて一番にすることが服の心配なんだよ……?

 ともかく、今のを避ける理由が服の心配であると言うのじゃなければまず間違いなく勝てる。剣圧はあくまで剣圧であって技ではない。霊圧もほぼ籠っていない。月牙と比べれば月牙の方が遥かに威力がある。そしてやろうとすれば剣圧と月牙を同時に出すことも不可能ではない。

 

「お前は危険だ。藍染様に届くとは思えないが、万が一重要な時にほんの一手邪魔をされることもあり得る。

 故に、ここで殺す」

「できもしない事をさもできるように言うのはやめとけよ。少なくとも今の俺は、今のお前には負けねえぞ」

 

 月牙を研ぎあげる。ただ放っただけでは三日月のような薄い板のように広がるそれを、一本の細い糸のように圧縮して切れ味を上げる。相手が固くて斬る時に衝撃が欲しい場合には不適な行動だが、剣圧で斬れるような相手であればこうした方が速度や切れ味自体は上がるから効果的だ。

 ……この状態で重さが欲しいなら、刀に纏わせてそのまま行けばいい。そして多分だが、こいつの剣はそこまでやれば折れるだろう。霊圧からくる硬度の感知は滅却師の霊子感知が一番なんだが、かなり密度が高い事だけはわかる。つまり霊圧によって結構な強度になっていると言う事だが……斬月には及ばねえ。

 

 斬る。俺の意思を霊圧に込めて、天鎖斬月ではないただの斬月のまま黒い月牙を纏わせる。そして一息に振り切った。

 

 井上の張った盾の結界。これが無ければこんな真似はできなかっただろう。井上の盾によって包まれた場所は、井上の意思によってさまざまな事象が拒絶される。一度張ることさえできれば、中でどれだけ暴れたとしても最後には井上の力で元に戻せるわけだ。

 今はまだ最後に全部を元通りにすることしかできないようだが、更に上手くなれば戦闘中に受けた傷を拒絶して治すこともできるらしい。今はまだ治すと決めたら全て治すことしかできないようだが、敵を倒しきった後であれば敵を復活させないように治すこともできるらしい。織斑さんの言ったとおり、井上は一番凄まじい能力をしているな。真似できない。何しろあの織斑さんですら完全に真似するのは無理だと言い切ったからな。

 ……疑似的にだったら真似できる辺り織斑さんマジ織斑さん。普通事象の拒絶だのなんだのを真似しようとか思わないしそもそもやり方とか絶対わからねえだろ? なんで真似できるんだかマジでわからん。

 

 月牙が音を超えて飛ぶ。衝撃波が伝わるはずの大気の壁すら斬り捨ててウルキオラに迫った薄く鋭い月牙は見事にウルキオラの身体を上下に両断し……しかしウルキオラは即座に自身の身体を引き寄せ、繋げた。刀は折れているが、身体に傷はすでに残っていない。斬られた名残は胴から下を斬り落とされた服だけになっていた。

 そして斬られた服の裾から見えるのは、4の文字。何が四なのかはわからないが、推測はできる。

 一つ。藍染の所に所属した順。まあこれは恐らくだが無いと思われる。藍染は脳筋で戦闘狂の気がある(自己申告)ものの、かなり効率主義者で頭もいい。そんな奴がたかが入った順で数字を刻むわけがない。

 となるともう一つ。藍染の部下としての強さの順。恐らくこっちだろう。だが、この程度で四番目と言うのはおかしい。多分だが、尸魂界に入ったばっかりの時の一回目の修行直後の俺でも倒せる程度の実力しかない奴に四番の数字を与えるような甘い男ではないはずだ。

 

 ……そうなると、やっぱ刀か。あれを解放するとなんか起きると考えた方がいい。死神としての霊圧は、多分あれから来ているはずだからな。

 チャドの方は……堅実に、しかし確実に削っていっている。あのでかいのは多分ウルキオラよりも弱い。ウルキオラとチャドだと、多分ウルキオラの方が優勢になるだろう。やっぱりここは俺が行くしかねえ。

 

「―――鎖せ。『黒翼大魔』」

「……斬月」

 

 仕舞い込んでいた小刀の方を出し、恐らくだが本気になったと思われるウルキオラに向き合う。なんとも重い霊圧だ。こんなのが近くに居たら息苦しくて仕方がないし、周りの奴らも魂が押し潰されてしまうだろう。本当に、井上がいてくれてよかった。

 そして分かったことがもう一つ。あいつらは斬魄刀を解放すると姿が変わり、強くなるらしい。それがどのくらいまで上がるのかはまだわからないが……まあ卍解の剣八よりは弱いだろうな。多分。霊圧の感じからしてそんなところだ。

 

 ……チャドを巻き揉まねえようにしないとな。

 




Q.井上の盾便利遣いしすぎじゃね!?
A.実際便利だからね。仕方ないね。

Q.と言うかその効果どっかで見たことあるような……?
A.灼眼の……ゲフンゲフン


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BLEACH~82

Q.なんでこんな遅くなったの?
A.ちょっと予定が詰まり始めて……。



 

 side 茶渡泰虎

 

 右腕の力は防御の力。相手の拳を受け止め、打ち払い、受け流し、俺の背後に居る者を守る力。

 左腕の力は攻撃の力。相手の腹を、頭を、全身を打ち付け、排除するための力。

 では、俺の脚は一体何の力なのか。それは、俺の拳が届かない場所、俺の腕が守れない場所に行くための移動の力。これのおかげで俺は霊子を踏んで空に立ち、目の前にいる奴と同じ高速の移動法を使って戦う事ができる。

 

 頑丈さは俺の方がやや上。膂力はあちらがやや上。速度はほぼ同等だが完現術で移動中に加速・減速できる分俺の方がやや有利。総合した結果が現状だ。

 相手の拳を、蹴りを受け止め、受け流し、弾き返してこちらの拳を叩き込む。だがこいつは本当にタフだ。何発叩き込んでもすぐに殴り返してくる。ただ、戦いが好きという訳ではなく相手を甚振ることや殺すことが好きなのだろう。さっきからイライラしているのが手に取るようにわかる。

 

 だが、速度が上がるわけでもなければ威力が上がるわけでもない。虚閃は口から撃つタイプらしいので発射直前にアッパーを叩き込めば暴発させられるし、虚弾はモーションが大きいから懐に潜り込んで打つ前にカウンターを決められる。特に口の中で自身の虚閃が暴発したダメージは無視できない物だったらしく足元がおぼつかなくなっているから、このままできる限り削っておく。

 殴る。殴る。大きく横に振られた腕を踏み込みながら身体を沈めて躱し、沈めた反動を使ってもう一度浮き上げるように拳を打ち込む。今度は吹き飛ばすのではなく、全ての衝撃を相手の体内に潜り込ませるように筋肉の隙間にねじりこむようにして。

 内臓を一つ弾けさせた手応えがあった。だが、虚には超速再生をする個体もいるらしい。内臓一つ程度なら十分動くこともできるはずだし、治せる可能性もある。油断せず更に拳を打ち込み、胸の骨をへし折る。何故胸にしたかと言えば、こうできるからだ。

 

 折れた骨を更に殴りつけ、内臓に突き刺す。位置からして恐らく肺に突き刺せたと思うが、流石にそれを確認するほどの余裕は与えてくれないようで下からの蹴りを足で受け止め、逆らわずに距離を取る。

 相手の顔色はかなり悪い。内臓が一つ破裂し、肺に血が溜まり始めているのだから全くおかしい事ではないが……なんと言うか、さっき感じたイラつきの質が変わってきているような気がする。

 俺に対してのイラつきは当然あるが、それ以上にこの状況……本気を出せれば打開できるのは確実なのに本気を出せない現状にイラつきを覚えていると言う感情もある気がする。一護は剣を合わせれば相手の考えていることがなんとなくわかるような気がすると言っていたが、俺も拳を交わし続ければ多少わかってくることがある。

 こいつの強さの源は、怒りだ。怒りが強くなればなるほど強くなり、筋力も速度も上がっていく。今はほんの僅かずつでしかないが、いずれ速度も力も越えられるだろう。幸運なのは……幸運と言っていいのかどうかはわからないが、恐らくそのことに本人は気付けていないと言うこと。死神のように刀を解放することで本領を発揮するんだろうが、無しでもできていることを認識できていないはずだ。でなければ遅滞戦術を取らない理由がないからな。

 

 突如、重苦しい霊圧が周囲を覆う。重圧の方向は一護と戦っているあの男の方だ。この重圧、霊的な耐性のない魂がこれを受ければ徐々に、などと言う悠長な言葉を使っている暇など与えられないほどの速度で摺り潰されて消えてしまうだろう。井上の盾が覆ってくれていなかったら危ない所だった。

 一護ならば負けることはないだろう。そう思い俺はこちらの敵に集中する。少しずつ上がっていく力と速度、しかしそれ以上に出血や霊圧の消耗によって衰えていく敵の動きを可能な限り封殺しながら繰り返し拳を叩き込んでいく。こいつの皮膚は確かに固いが、中まで衝撃を通せないほど固いわけではなく、踏み込みとその反発で生まれた力を適切に扱えば十分に貫ける程度の固さでしかない。

 流石に右では完全に貫くことはできずかすり傷を与える程度に収まってしまっているが、それでも相手の隙を作ることくらいはできる。しかし相手も戦いの中でこちらの左こそを危険視するべきで、右の方はあまり威力は出ないと言う事を察知しているようだった。

 

 だからこそ、俺は右手に力を込める。防御の力である右の盾をあえて攻撃のために使い、攻撃のための力である左の腕を相手の攻撃を弾くために使う。相手が大きく振りかぶった拳を左腕で受け止め、そして右でへし折った骨を狙って完全に零距離から衝撃だけを体内に叩き込む。へし折れた骨が相手の体内を貫通して反対側から飛び出し、敵は血反吐を吐いて地に伏せる。命はまだ失われていないようだが、しかしこれで立ち上がることはできないだろう。

 それに、井上の盾の中に居る限りは井上の認識した事象であれば井上の意思で拒絶できる。例えこいつがここから高速で再生したとしても、その再生そのものを拒絶して傷が治ったという事実を無かったことにできるはずだ。井上自身が言っていたから間違いない。

 

 俺はその場に座り込み、一護ともう一人の敵の戦いを眺める。俺は一護にこいつの相手を任された。一護は信じて俺に任せてくれた。ならば俺もまた、一護を信じてその戦いを見届けよう。

 




Q.チャド強くね?
A.一護に背中を任せられる男でありたいという願いが叶ってよかったですね!

Q.それはそうとパンジャンは?
A.チャドは紅茶に染まってないので。


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BLEACH~83

 

 side 黒崎一護

 

 黒い雨が降り、黒い翼を生やしたウルキオラが現れる。死神が斬魄刀を解放すると刀の形が変わったりするが、どうやらこいつらの場合は斬魄刀の形ではなく本人の姿が変わるらしい。

 変わったのは姿だけではない。霊圧が一気に増幅し、恐らく剣圧程度では傷一つ負うことはなくなっているだろう霊圧を感じる。それを理解して俺はもう片方の斬月を抜き、小手調べに小さく振るう。

 先ほどまでの軽い剣圧とは違う、見渡す限りを両断する程度の剣圧が斬月から放たれ、それがウルキオラに躱される。速度も相当上がっているらしく、霊圧を固めて作った槍を振るいながら俺に接近してくる。それを小さい方の斬月を振るって弾き返し、大きい方の斬月で斬り返す。槍に斬月が弾かれ、しかしウルキオラの槍も弾き飛ばされる。

 

 速い。追いきれないことはないが変わりようが凄まじい。俺が卍解したときもこんな感じなんだろうか、などと考えながら槍を受け止め、弾き、受け流し、斬り合う。滅却師の感知能力がなければ速度に追いつけずに斬られてしまっていたかもしれない。

 井上の盾によってこの場所は世界から切り取られているため何をしたとしても知られることはない。だからこそ滅却師の能力である動血装によって加速することができ、今のウルキオラの速度についていくこともできている。それどころか徐々に反撃することまで可能になっていた。

 ただ、斬っても斬ってもあっという間に再生していくのが見える。傷跡も残らないところから見て超速再生だと思うんだが、虚の俺がやったそれと少し違うように見える。俺のは脳は流石に無理だと思うが心臓や肺くらいならどうにかなるだろうが、こいつのは元からある程度再生能力がある部位でなければ再生できないようだ。重要器官は再生できない、と思っていればいいだろう、目は……知らん。

 

 両の斬月に月牙を纏わせて威力を上げる。それによって槍との衝突で俺が吹き飛ばされることはなくなり、状況がこちらに傾き始めた。月牙によって威力を上げていれば今までは僅かにしか斬ることのできなかった皮膚も大きく斬ることができるようになり、超速再生に頼ってこちらに突貫してくると言う手も使わせないようにすることができるようになった。

 やっぱり二刀ってのは便利だ。一撃一撃は軽くなりやすいがそれを補う事さえできれば防御と攻撃を同時にできる。威力については月牙で補える俺にとっては一本の時よりかなり使い勝手がよくなっている。

 

「……なるほど。藍染様がなぜお前を危険視したのかは理解した」

「正直、藍染が相手となると不安が残るんだけどな。多分まだ勝てねえよ」

「当然だ。藍染様が貴様程度に敗北することはあり得ない。しかしお前だけでも俺達十刃(エスパーダ)の大半を討ち取ることはできるだろう」

「……なんだその十刃ってのは?」

「俺達の身体に数字が刻まれているのには気付いているだろう? これは俺達の中の強さの順位だ。十以下に限れば数字が小さくなればなるほど強くなる」

「ほー……それにしちゃああそこにいる十番の奴は全開になったらお前より強そうなんだが?」

「ヤミーは特殊でな。解放状態と非解放状態において数字が変わる唯一の十刃だ」

「つまり……その十刃ってのは一から十じゃなく、零から九ってことか」

「いいや、零から十の十体だ。故に―――ここは一旦引かせてもらう」

 

 即座に月牙を飛ばすが、飛ばした月牙はその場に突如現れた黒い穴に呑み込まれてどこかに消えていった。恐らくだがこれがこいつらの居た場所とここをつなげる方法、死神で言う穿界門なんだろう。

 そしてウルキオラはその穴に飛び込んでいく。もう一人の……ヤミーとか呼ばれてたやつの所にもそれが開き、大男の身体を呑み込んでいくのが見えた。

 

「逃がすかよ」

 

 俺もウルキオラの後を追ってその穴に飛び込む……が、それを読んでいたらしいウルキオラは今まで以上に太い槍を入り口に投げつけてきていた。それだけではなく、今までの白い服が消えてさらに悪魔的な形態になっており、霊圧もさらに強くなっていた。

 思考が加速させられる。この感覚は久し振りだ。織斑さんとの修行で磨かれた、俺の命に届きうる攻撃を向けられた際に起きる意識だけが加速した世界。時間が止まったような白黒の世界の中で、ゆっくりと俺に槍が飛んでくるのが見える。

 卍解、は、名前を呼ぶ暇がない。静血装、は、既に使っているにも拘らず命の危険が十分にある。ならば俺に残された手段は一つだけ。

 

『出番か』

 ああ。あいつを殺すぞ。

 

 仮面を被る。その瞬間に精神の加速は無くなり、命の危機を脱したことを理解する。しかし、虚化によって更なる加速と力を得た俺は放たれた槍を正面から撃ち砕き、驚愕の視線を俺に向けるウルキオラを袈裟に斬る。月牙に使う霊圧を斬りつけながら拡散させ、斬りつけた斬撃痕を内側から爆破することで上半身と下半身、と言うには下半身の割合が随分多いが、上と下に爆散させる。

 そして小刀を残った上半身の胸の中央に突き立て、月牙を撃ち出す。

 

「……くそっ」

 

 最後に、そんな声が聞こえたような気がした。

 




Q.マジかよこっから先どうなんだ……?
A.まあ、普通に考えて第四刃に誰か新しく座ってくる感じですかね?

Q.オリキャラ出る?
A.その予定は現状ありません。


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BLEACH~84

 

 side 井上織姫

 

 ようやく中で起きていた戦いが終わった。黒崎君が一人倒して、茶渡君はとどめを刺しきることこそできなかったけど勝ちを拾った。だから私はそれに喜んで、黒崎君たちの戦いによって破壊された街や人の魂の損傷及び消滅を拒絶し、何事も起こらなかったかのように世界を整えた。

 黒崎君は私の術を見て凄いと言ってくれたし、もう大満足!お土産も手に入れたし、もう言うことなしだよね!

 

「……織姫。本当にいいのかい?」

「? なにが?」

「わかっているだろう? 彼の事だよ」

 

 舜桜が私にそう問いかける。あやめやリリィ達も私を不安そうに見つめているけれど、実のところ全く問題はないんだよね。もちろん初めからこんなことをしようとしていたら失敗していたと思うけれど、ちゃんと見計らったから大丈夫。

 烏頭と狐花、新しい私の力になってくれた二人だけで作った盾。舜桜とあやめの二人で作った盾が双天帰盾ならば、烏頭と狐花の作った盾はさしずめ二天埋盾と言ったところだろうか。双天帰盾のような回復効果ではなく、ただただ相手を拘束するための盾。烏頭と狐花の張った盾に相手の身体を埋め込み、対象を決して死なせない、しかし自由にさせることも無い盾。

 その中に、黒崎君に斬られて消えゆくだけだったあの人を取り込んだ。盾に取り込まれたとき以上に欠損することも無く、それ以上に再生することも無い。そんなものをどうするかと言えば使い道はただ一つ。食べるのだ。

 そこら辺によくいる虚はなんと言うかかなり薄い。霊圧を持たない人間よりは多分ましなのだろうけど、それでもほとんど味がない。黒崎君くらいになるとただ放たれているだけの霊圧にも味があるんだけれど、普段の黒崎君はそれを抑えているから味わう機会は多くない。仕方ないよね、だって黒崎君が本気になったりするとそれだけでその辺にいる人間の魂魄は砕けて消えてしまうんだもの。

 だから黒崎君の霊子を食べられるのは私たちにとっては結構珍しい事なのだけれど、今回の事でもしかしたらもっと手軽に食べられるおやつが手に入ったかもしれない。私はうきうきしながら無理矢理に圧縮して小さくした盾を持って家路についた。

 

 

 

 

 

 side ウルキオラ・シファー

 

 死んだ、はずだ。あの、仮面をつけた黒崎一護に斬り捨てられて。

 覚えている。肩口から斬りこまれた刃の冷たさを。痛みとも熱とも取れる感覚が身体を犯し、大半の臓器が欠損したことで生きるための熱が失われていったことも。

 そして、最期に胴に突き刺された刃から炸裂した黒崎一護の霊圧の感覚も、すべて覚えている。

 だと言うのに、俺はこうして生きている。身体はまるで動かすことができず、超速再生もできないが……生きている。

 

 きぃ、と甲高い音が鳴り、一人の人間が姿を見せた。

 

「あ、おはようございます。気分はいかがですか?」

「……ここは、どこだ」

「ん~……じゃあこうしましょう。お互いに聞きたいことがあるでしょうから、順番に一つずつ相手に質問ができる。質問された側は質問には全て正直に答えるか、答えられない旨を述べてもう一度質問を受けるかを選択する。お互いに損も得もする、一方的ではない関係。いいですよね!」

「…………断ったらどうなる?」

「動けない貴方は動けないまま生きても死んでもいない状態でこの世界にくくり付けられます。私はそれでもいいですよ?」

「……わかった。では、俺から質問しよう。ここは、どこだ?」

 

 人間の女は俺を……恐らく笑顔だろう表情で眺めながら口を開いた。

 

「私の家のクローゼットの中です。現世の空座町にありますよ」

「そうか」

「はい。それじゃあ私の番ですね? あなたの名前は何ですか?」

「……ウルキオラ・シファー。第四刃(クアトロ・エスパーダ)だ」

「じゃあ、ウルキオラさんってお呼びしますね?」

「好きにしろ。質問だ。俺は死んだはずだが、何故ここにいる?」

「私がウルキオラさんを死んだ状態から死にかけの状態まで戻したからですよ? 黒崎君に気付かれないように霊子の欠片を捕まえて、この状態まで戻すのに凄く苦労したんですから」

 

 ……人間が、あの、何をしたところで死以外の未来のない状態を覆し、こうして俺を封じているだと?

 壁に埋め込まれた腕を動かそうとしてみるが、全く動かない。感覚も無い。腕がそこにあるのは見えているのに、霊子の壁に呑み込まれた先に力そのものが入らない。

 いや、これは力が入らないと言うよりも……力が入ったと言う事実そのものが消えている、のか……?

 

「私からの質問ですね。ウルキオラさんって、好きな食べ物はなんですか?」

「……そういったものはない」

「ないんですか」

「ない。質問だ。お前はなぜ、俺を蘇らせた上で捕らえている?」

 

 空気が歪んだ。胡桃色の髪が白く塗り替わり、眼球の色があの時の黒崎一護と同じように黒く変わる。そして何よりも、霊圧の感触が人間の物から虚のそれに切り替わった。

 笑顔が歪む。かろうじて人間の姿という殻の中に押し込められていた狂気が溢れ出したようにも感じた。

 

「私達、ご飯が食べたいんです」

『おいしいものが食べたいんです』

「普通の虚は薄いんです」

『黒崎君は食べたらなくなっちゃうんです』

「茶渡君は友達なんです」

『死神はおいしくないんです』

「人間の魂は薄いんです」

『黒崎君は美味しいんです』

「だから」

『だから』

 

「『貴方を食べたいから』」

 

「『私達は』」

 

「『あなたを救ったんです』」

 

 形だけは取り戻していた左腕に食いつかれ、もぎ取られる。痛みは無い。ただ、納得させられた。黒崎一護と言う異常な男の傍にいる女が、異常でないわけがなかったのだ。

 これからどれだけの時を過ごすのかはわからない。しかし、俺はやらなければならないことはやった。黒崎一護を殺すことはできなかったが、それを伝えることはできた。黒控に入った時に、記録を残した俺の目を引っ張り込んだヤミーの身体と共に藍染様のいる虚夜宮に送り込んだ。

 

 けらけらと笑い俺の身体を食い続ける人間だった女の姿を眺めながら、俺はゆっくりと瞼を閉じた。

 




Q.こっから先ウルキオラの出番は?
A.井上のおやつ兼お弁当。

Q.正気で言ってる?
A.井上は発狂済みなので正気ではないです。私は紅茶を飲んでいるので正気です。

Q.そういうのを狂気の沙汰と言うんだ。
A.発狂した人間の思考をトレースし続けてるとだんだん自分が発狂しているような気分になってくるんですよね……。


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BLEACH~85

 

 side 藍染惣右介

 

 ……成程。流石は彼のキチキチ☆ブートキャンプの卒業者だ。ウルキオラがこうまで容易く屠られるとは。流石に予想外だった。

 それに、虚化。未だ卍解を見せていないことからあれよりも更に上がある。そうなると……流石にそろそろ動き始めた方がいいだろうな。

 

 腰の刀を抜き、その名を呼ぶ。織斑副隊長に追いつくために力を求め、屈服させた結果知った鏡花水月の新たな名前。人に催眠をかけるのではなく、世界そのものに催眠をかけることで世界を自在に操る幻術の極地。これを用いて虚夜宮の建物部分を作り上げ、様々な事象を捻じ曲げ……そして捻じ曲げた事実に気付かれて当然のように空間を殴り壊して移動してきた織斑副隊長に「仕事が増えっから戦闘の時までとっとけアホンダラ」と頭をひっぱたかれたのはいい思い出だ。

 上に誰かがいる。下にも誰かがいる。孤独に慣れていた私にはそれこそ最も強力な毒となり、それ以上に強い薬となった。心が弱くなった自覚がある。しかし純粋な能力はそれまで以上に強くなったと確信できる。今ならば山本元柳斎重國と真正面から戦闘を行い、圧倒できるだろう。当然搦め手も使った方が強いとは思うが。

 

 そして、ある意味山本元柳斎重國以上に注意を払う必要があるのが黒崎一護だ。突如送り込まれてきたヤミーとウルキオラの眼球によって黒崎一護の戦闘力が飛躍的に伸びていることに気付くことができた。瀞霊廷での戦いでは必要がなかったからだろうが、ただ一度きり、ほんの一瞬だけしか使っていなかった虚化を見事に使いこなしていた。

 虚が虚圏と現世を移動する際に使う黒腔に飛び込んだウルキオラを追って仕留め、内側から黒腔をこじ開けて出ていくのも眼球だけになったウルキオラの目が記録していた。第四刃、上に三体居るとはいえ十刃の上位をほぼ無傷で打倒できるだけの実力。実際の戦闘能力という面では明確に私より上にいる織斑副隊長と更木隊長以外で私に刃を届かせうる唯一の存在。やはりあの時、実験体にした虚が暴走したのを途中で打ち切りにしないでよかった。これだから世界はとても楽しい。

 更にもう一つ。空座町全体を覆い、外にも内部にも被害を出さないようにしてのけた井上織姫。彼女の能力の異常さは一目見ただけで理解できた。時間・空間回帰にも見えるそれは、実際にはその程度の能力では決してない。盾で覆った場の時間を巻き戻すよりも、空間ごと回帰するよりも、なお上の能力。実質的には治す能力でもなければ修復する能力でもない。自身の意に添わぬ出来事をこの世界から拒絶し、そのようなことは起きていなかったと世界も理も真正面から打ち破る……神の定めた地平を易々と踏み躙る能力。そしてそれは、私の鏡花水月の催眠に対しての対抗措置にすらなりうる。

 

 私の鏡花水月が効果を及ぼすのは、鏡花水月の解放の瞬間を見せた相手のみ。つまり、井上織姫はやろうとすれば私の鏡花水月の支配下にある何者かが鏡花水月の解放の瞬間を見たという事実を拒絶し、なかったことにした場合……それをされた相手は鏡花水月の支配から抜け出すようになる。

 流石にそれをされると色々と辛いものがある。特に更木剣八と山本元柳斎重國を鏡花水月なしで相手にするとなると、ちょっとした被害などという言葉では済みそうにない。そこに黒崎一護が加われば、負けは確定したようなものだろう。

 ……織斑副隊長はもう参加した瞬間こちらの敗北が決まるからノーカウント。彼は根本的に個人に被害が及ばなければ全く危険はないから今回の戦いで敵対することは無いと思うが、万が一にも敵対することになったなら……覚悟だけは決めておくとしよう。決めたところで無駄になる未来しか見えないが。

 

 しかし、これは問題だ。井上織姫があちらにいる限り、こちらの有利に状況を進めることは難しくなる。この状況を覆してこちらの有利になるように進めるにはどうするべきか。

 

 ……。

 

 

 

 

 

 side ???

 

 何もわからなくなって、どれだけ時間が過ぎたか。時間の経過という感覚すら失って、どれだけここにいるか。何もわからないままここにいる。

 記憶を失い霊圧を失い姿を失い、ここにいるのが誰かもわからなくなったままここにいる。

 

 目の前に刀が差しだされる。そしてその直後に何もなかった私の中に私というものが生まれ落ちた。

 

「調整は任せる。有効に使っておくれ」

「畏まりました」

 

 声が聞こえた気がしたが、全てを放棄していた私の身体はそちらに視線を向けることも声を上げることもできないままただそこに居た。そしてすぐに誰かが私に何かを話しかけた。

 

「君の身体を保存しておいてよかった。いつか何かに使えるかもしれないとは思っていたし、君自身の能力も中々に応用の利く能力だからね。無駄にはならないとは思っていたが……ここまで役に立つ機会がやってきたと思うと感慨深いものがあるね」

「……」

「そうか、答えることもできないか……それは重畳。暴れられると欠損が増えてしまうこともあるからね」

 

 腕を取られた気がしたが、それが事実かもわからない。

 私になった私はそのまま意識を手放した。

 




Q.藍染はキチキチブートキャンプ受けてないの?
A.ブートキャンプより戦いに参加していました。脳筋ですね。

Q.ところで最後の誰よ?
A.まだ内緒。


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BLEACH~86

 

 side 黒崎一護

 

 前回の十刃とか呼ばれている奴らの襲撃で空座町を中心とした現世の霊魂の収奪が起き、死者も出た。それ以外にも命は助かったが魂が入る身体を間違えて入れ替わってしまったりしたこともあって尸魂界はてんやわんやらしいが、そんな中でも一応俺への説明がある辺り本当に助かる。わざわざ人をこっちに寄こしてくれる辺り多少は大事に思われてるってことでいいのか? まあ現世の魂魄の保護が最優先だと思うんだが。

 ちなみに送られてきたのはルキアと恋次、あと一角と弓親だ。本当は剣八も行きたがったらしいがあいつは無理だろ絶対。だってあいつ手加減とか無理だろうし。

 

 で、説明を受けたわけなんだが……あいつらは『破面』と呼ばれる存在で、虚の面を剥ぎ取ることで死神の力を持たせることに成功した存在なんだとか。俺とは逆だがよく似てんな。俺が倒した奴はその中でもかなり強力な存在だったようで、大虚の中でも特に上の方、ヴァストローデとか呼ばれる存在だったらしい。確実に隊長格より強いと聞かされたが、まあ確かに白哉よりだいぶ苦戦はしたな。

 ただ、どう考えても剣八の方が強い。暴走して自滅するのを待つだけの戦いだったとしてもあの状態の剣八を相手にするというだけで全力で拒否したい。あれをもう一度相手にするならウルキオラを二十人くらい同時に相手する方がまだマシだ。多分勝率もそっちの方が高い。

 まあそんな感じで反論してみたんだが、頭痛そうに訂正された。総隊長の爺さんと織斑さん、剣八は別格らしい。織斑さんはそこに卯ノ花さんも剣技に関しては別格だと言っていたが、そう言えば恋次やルキアは死神としては結構若い方なんだっけか? 親父より若かったはずだ。だったら知らなくてもおかしくはねえ……のか?

 

 ともかく、あのレベルの敵が二十もいれば尸魂界は壊滅しかねないらしい。いや、総隊長の爺さんとは軽くしかやってないからよくわかんねえけど、剣八なら二十どころか五十居ても無傷で勝てそうだぞ? 霊圧差で傷一つ負うことなくな。

 正直、護廷十三隊って隊長格の中でも強い奴と弱い奴の差が酷すぎると思うんだよな。五人同時に相手にしても打ち直しをする前の始解の俺に傷一つ負わせられないような奴がいるが、同時に本気で殺し合うなら打ち直しは当然として卍解に虚化に動血装を併用してそれでようやく戦いの舞台に立つ権利を得られるような相手もいる。ほんと護廷十三隊ってのは魔境だな。

 

「いやおめえが言うなよ」

「護廷に真正面から乗り込んできた挙句に隊長格の大半と最低一太刀以上交えて生きて帰った奴がなんか言ってるんだが……」

「総隊長の爺さんと卯ノ花さんは交えてねえぞ」

「総隊長殿の流刃若火の炎を斬ったと聞いたのだが」

「交えたのは炎と斬撃であって太刀じゃないからセーフ」

 

 なお俺自身何がセーフなのかは知らん。でも多分セーフ。

 あと、白哉との戦いではあっちにかなり油断と慢心と迷いがあったから遠慮なくそこを突かせてもらったからこそあそこまで一方的な戦いになったんだ。実際にマジでやりあったら……あ、俺が勝つわ。マジでやりあった結果白哉を四肢切断してたわ俺。その後の事が衝撃的過ぎて忘れてた。

 

「まあお前がそんな感じで破面を倒してるから無理に隊長を引っ張り出すことはねえってことで俺達が来ることになったわけだ。で、お前から見てどうだ?」

「何がだよ」

「わかんだろ。俺達とお前が倒した破面、どっちの方が強かったかだよ」

 

 そう言われて思い出そうとするが、俺は恋次の卍解と戦ったことはないし一角の卍解も見たことがない。弓親の斬魄刀の完全開放も知らないし、ルキアなんてそもそもどんな戦い方をするのかすら全く知らない。確か斬魄刀は氷雪系だとかどっかで聞いたことがある気がするが、その内容は知らない。というかはっきり言ってしまうが俺はルキアから霊圧を感じたことがほとんどない。だから大雑把な実力すらよくわからん。

 だがまあ、とりあえず卍解が普通に使える……いや、普通に使えると思ってたところに織斑さんから『お情け卍解野郎』と言われてそもそも二つ頭があって別々に意志を持つ奴の片方からしか名前を聞いていなかったから完全ではなく不完全な文字通りの意味でお情け卍解野郎の恋次を基準にして考えると……全開状態ではないもう一人の十刃をに対して有利は取れないって所か?

 と、そんな感じの所見をはっきり伝えてみたんだが頭を抱えてしまった。単純な事実として俺と戦った時の恋次じゃ絶対勝てねえだろうし、ルキアは知らねえから置いとくにしても……なぁ?

 

「とりあえずあれだ、俺が何を言ったところで実際に戦ってみる以上に情報が集まることはねえだろうからあちらさんの動きを待ちつつ鍛えるのがいいんじゃねえか? お勧めは浦原さんの所な。地下に勉強部屋とか呼ばれてる馬鹿でかい空間があって、そこでならかなり暴れまわっても大丈夫だぜ」

「……まあ、そうだな」

 

 これで話の流れは少し変わるだろう。実際に戦う事になったら大分辛いだろうし、死人も結構出るんじゃねえかと思ったりもするが……本人達が死にに来てるんだから弱いのが悪いってことで。

 



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BLEACH~87

 

 side 黒崎一護

 

 十刃の第四刃を倒したから多分暫くは新手は来ないだろうと判断して鍛えようと思ったんだが、どうにも平子が鬱陶しい。確かに諦めないとか色々と言ってはいたが、だからってマジでここまで諦めないとか誰が思うよ? 少なくとも俺は思っていなかったし、まさかまさか複数人で襲撃してくるとか思わねえだろ?

 だが、一応こいつらには感謝しているところもあったりする。俺の今までの虚化は基本的に完全虚化だ。胸に孔は開くし手はともかく脚は異形のそれになる。しかしこいつらの虚化を見ることで虚化に段階を付けることができるようになった。要するに仮面を出すだけの簡易版の虚化もできるようになったってわけだな。

 この簡易版の虚化のメリットだが、完全虚化した時に比べて体力および霊圧の消費が少ない。死神の身体と虚の身体を行ったり来たりして作り変える手間がなくなった分虚化するまでの溜めもほとんど必要なくなるし、解除も楽だ。逆にデメリットは最大火力が大幅に下がることだが、それについてはまあ仕方ない。あと超速再生もできないし虚版の瞬歩、響転と呼ばれる技も使えなくなってしまうが……瞬時に出して瞬時に消せる以上はどこかで使う機会もあるだろう。多分な。

 

 ……しかし、普通一人相手に結界張る役一人、襲い掛かる役三人に交代要員二人付けての合計六人で来るか? しかも全員初めから全力なのか何なのか仮面付けてきやがるしよ。まあ勝ったけども。

 あんまりにも鬱陶しすぎて仕方なく一旦あっちのアジト的な所についていくことになった。ちなみに交代要員含めた六人のうち現在普通に行動できるのは上下左右前後入れ替えまくってきやがった平子と結界張ってたおっさんだけだ。後の八重歯のちっこいの、眼鏡の女、アフロの金棒使い、金属鞭使いは気を失っているものの生きているし、治せないような怪我は無かったようで静かに背負われたり抱えられたり担がれたりしている。特に恨みがあるわけじゃないが平子が運んでるちっこい奴が起きたら『平子が運んでたけど思いっきりケツ撫でられてたぞ』とでも言っておこうと思う。

 

「シャレにならんボケはやめぇや」

「いきなり仲間率いて襲い掛かってきといてそれで済むなら温情だと思うんだが」

「せやかて工藤」

「誰が工藤だ」

「仲いいデスね……」

「誰がこんなんと!ハッチお前目ぇ大丈夫か?」

「現状大分悪い方よりだと思うぞ流石に。最悪までは行ってねえけど」

 

 最悪だったら顔見るより早く殺しにかかってるからな。俺の中の虚とか斬月のおっさんとかが率先して動いたりすっからマジで俺の知らないところでなんか死んでたり虚が消えてたりすることがある。その選定基準は正直よくわかんねえ。だがまああれだ、とりあえず相手が俺に対して敵意を抱いていると頻度が上がるな。

 

『一応言っとくが俺らの中で一番鈍いのお前だからな』

 マジかよこれでもかなり鋭くなったと思ってたんだが。

『戦闘中はそうだがそれ以外のときはかなり鈍いぞお前。暗殺とかには弱いだろうな』

 マジか……常在戦場は流石に無理だからな……。

『人間ってのは寝る時間が必要だからしゃあねえさ。虚になったりしてみねえか?』

 たまになってんだろ。あと織斑さんが怖いから本格的になるのは嫌だ。

『……そうだったな。忘れてくれ』

 

 やっぱこいつも織斑さんは怖いらしい。俺も怖い。できるだけ敵対したくない。マジで。

 まあともかくこれから何度も襲われるのは正直お断りなのでついていくことにしたんだが……こいつら他にも仲間がいるんだよな? 全員相手にするとなると流石に卍解させられそうな気がする。特に平子相手はやばい。やばいってか、面倒臭い。負けはしないだろうがかなり厄介だ。

 

 そう、卍解だが……虚化で面だけを出すことで省エネな虚化ができるように、卍解も中途半端に卍解することで省エネ化ができないかってのを考えてみた。元々斬月は斬月のおっさんによって封じられていて、その上澄みの始解と卍解を使っていたんだ。織斑さんの打ち直しのおかげでちゃんと使えるようになったが、今までの上澄み版の卍解も使えないだろうかと思う訳だ。

 メリットは省エネと手加減のやりやすさ。デメリットは戦闘能力の大幅な下降。多分上澄みの方だと平子相手でも始解では厳しいだろうし、虚化まで引っ張り出すことになっていたかもしれない。白哉は上澄みの始解でもなんとかなったし、東仙や狛村はまとめて相手にすることもできたんだが……平子のあれはあまりに俺と相性が悪い。霊圧差で押し潰せばまあ行けるか。流石にこの数相手に平子の斬魄刀の能力が合わさると、本来の斬月の大小両方を使わないと無理だったしな。

 ……と言っても、上澄みの方だと卍解しても本来の斬月の片方だけにも及ばないんだよな、出力的に。打ち直ししてもらったばかりのころは斬月の本来の出力に振り回されて大変だった覚えがある。もう慣れたが。

 

「……で、平子。実力に関しては十分か?」

「ああ。十分も何も俺らまとめて倒されてもうたしな。何も言えんやろ」

 

 まあそうだろうな。

 さて、俺はこれまで強くなる修行を続けてきたんだが、意図的に弱くなる修行を積まなければこいつら殺しかねない。やっぱ一時的な能力封印が必要か。

 斬月のおっさんがやっていたように……と言ってもあそこまで上手くはできねえから中途半端になるな。ほんと、斬月のおっさんは滅却師として最強クラスだったんだな。ずっと近くにいたからわかんねえんだけど。

 




Q.今の一護ってどのくらい強いの?
A.最終決戦で空から降ってきたときくらいですかね? なお上手くいくとここに完現術の強化が加わる模様。

Q.あれ? 最終的に原作最強時を上回る?
A.せやで。


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BLEACH~88

虚化織姫`sプロフィール

虚化織姫`s髪


虚化織姫`s肌


虚化織姫`s瞳
ハイライトオフな煤けた灰色

虚化織姫`s目
黒白目。

虚化織姫`s表情
ひび割れた仮面のような笑顔

虚化織姫`s仮面
心を失ったわけじゃないので持ってない

虚化織姫`s精神
虚と人間の感性が混じりあって『好きな人を食べたい』とか本気で考えるようになってる。なお理性も残っているので実行には移らない模様。



 

 side 黒崎一護

 

 なんだかんだあって暫く仮面の軍勢と行動を共にすることになったわけだが、俺は俺で得るものはあった。

 斬月のおっさんのように上澄みだけにすることはできなかったが、とりあえず形状を尸魂界突入直前のあの形にすることもできるようになった。流石に面倒だからやってないが、それの応用で加減も多少できるようになった。加減ってこんな難しいもんだったか……?

 そして全員と顔合わせをして、それからいきなりだが修行に入る。実力に関しても霊圧に関しても十分だとあの戦いの中で認識されたらしい。で、始めることになったんだが……これいつも俺達がやってる鍛錬と何が違うんだ……?

 

『俺がガチになる』

「お前いつもガチじゃねえのかよちょっとショックなんだが」

『言い方を変える。殺さないようにと言う加減と寸止めが消える』

「なるほど理解。つまり鍍との修行状態になるわけか」

『大体そんな感じだな』

 

 ちなみに虚の俺も斬月のおっさんも俺の中に居る俺の力の具現化だ。受け入れてしまえば斬られようが貫かれようが痛みは無いし死にもしない。元々俺の中にあるもんだし、俺の力だ。何もおかしくはない。

 それはあっちにも言えることで、俺が思いっきりぶった切ろうが貫こうが月牙で両断しようが突き刺して内側に月牙を出して体内から吹き飛ばそうとしようが全く問題はない。ただし、それだと実際の戦いで受ける癖がつくかもしれないという事で可能な限り回避したり弾いたりすることにしている。

 

 大小の斬月を握ると、虚の俺も斬月を握る。ちなみにだが今は上澄み版を使いながら卍解することで細身の日本刀の大小にすることができるようにもなったが、まあ使わないけどな。弱くなるだけだし。

 

 

 

 

 

 side 平子真子

 

 新しく入れようとした一護が俺達の予想を遥かに超えて強かったこともあり、ともかく敵にだけはならないように色々と教えて恩を売っとくことにした。その第一弾として内なる虚に呑まれんように早めに教えようとしたわけやが……めっちゃ静かや。

 面は出とる。虚化も進んどる。やけど静かに胡坐をかいて、斬魄刀との対話の形になっとる。

 

「ベリたん、なんかすっごい静かだね」

「せやな」

「もう始まってるよね?」

「孔も開いとるし、そのはずなんやけどな……」

「これいつまでやってりゃいいんだ?」

「戦いが終わるまでや……待て、なんで会話成立しとるん?」

「暇さえあれば戦って勝ったり負けたりしてっから今更なんだよなぁ……あ、虚化だがこれでいいのか?」

「面だけ出せやアホ」

「こうか」

「できんなら初めからやれやボケェ!」

 

 ひよりが思いっきり突っ込んでいったが簡単にあしらわれてそっから戦いが始まった。どうせ虚化の時間を伸ばす訓練も必要やし、意識がしっかりしとるんなら殺しにかかってくることも無いはずやし。

 ただ、虚化で能力自体は上がっとるやろうからそのあたり注意が

 

「ウボアー!?」

「おい大丈夫か!? なんかどっかの皇帝の断末魔みたいな声出してたぞ!?」

「だいじょぶやないわボケェ!」

「あ、そんな大声出せるなら大丈夫だな。んじゃもう一発」

「ウボアー!?」

 

 ……あの一発、めっちゃ重い。攻撃にも防御にも扱える技やな。俺が喰らったときは虚化しとらんかったけどそれでも一撃で全身に衝撃を通されて暫く立てんかったからな。昼飯全部吐き散らかすとこやったわ。

 つーか仮面出してられる時間長いな。もう五分以上出しっぱなしにしとるんやないか? 白以外はそのくらい出し続けられるようになるまでどんだけ苦労したっけか……。

 それを一護は一発でやってのけ、しかも内在戦闘も一瞬で終わらせた。普段からよくやってるとか言っとったが、それがマジでしかも今も生きとるとなるとよっぽど自分の中の虚を上手い事叩き潰したんやろな。あんだけ強いのも納得……いや、そんなことやり続けとったからあんだけ強なったんか。

 

「最後の月牙天衝は俺自身が月牙になることだそうだ。それはつまり、俺と言う霊圧の塊を月牙と同じように放つことで高速移動ができるという事では?」

「実行する奴がいるかこんボケェ!」

「月牙は俺の霊圧を斬撃の形に刃先から飛ばす技。だったら普段から放ち続けている霊圧を圧縮すれば無音無動作で月牙が連発できるのでは?」

「考え付いたからって実行するか普通!? それ以前にできる時点でおかしいわハゲ!」

「霊圧は操ることはできる。霊圧に指向性を持たせることもできる。ならば霊圧そのものである月牙を自在に動かせるのは当然」

「速度に意識が追いつけるんならそうやろな!」

「十字に月牙を置いてその中心に捻りを加えた突きの月牙を打ち込むことで霊圧の刃が渦となって前方に放たれ通過した場所とその付近を切り刻みながら蹂躙していく新技、月牙天輪! なお転輪じゃない理由は察せ!」

「察せるわけないやrウボアー!!」

「あと最近思いついた無数の月牙を鎧のように全身に纏って攻撃および防御の時に必要な部分にだけ霊圧を一気に注ぎ込むことで攻防一体の鎧にして剣へと変えた技!名前はまだないから適当に月牙天鎧!」

「テキトーに考えた技をいきなり使うなボケェ!死んだらどうすんねんコラボケハゲカスゥ!!」

「あん? 完全虚化すりゃ超速再生で脳以外なら治んだろ」

「治らん虚もおるやろ!? それともあれか!オマエの戦ってきた虚はみんな超速再生持ちだった言うんかハゲェ!!」

「次俺の事ハゲって言ったらちょっと尸魂界に行って織斑さんからパンジャンドラム借りてきてお前の全身永久脱毛してやるから覚悟しとけよ」

「それはお前……よせ、勘弁せえや。な?」

 

 ひよりが折れよった……。

 




Q.もし一護がマジでそんな理由でパンジャン借りに来たら一夏は貸しますか?
A.面白がって貸すでしょう。なおその晩ジャンを運んでいる最中に自爆して一護がアフロになる可能性もあります。

Q.天輪が転輪じゃない理由は?
A.察せ。


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BLEACH~89

 

 side 黒崎一護

 

 結局帰るのは夜になっちまったが、ともかく帰れた。今日一日で何回あいつボコったっけか……? 八……いや九? まあともかく結構ボコったわ。仮面だけの虚化にも慣れたし、なかなか実りのある一日だったと言っていいだろう。斬魄刀の上澄み化計画は失敗ってかデメリットがメリットを大きく上回ったからやらない方向で決めたしな。弱体化が凄すぎて無理だわ使えねえ。

 まあそれはともかく、これからしばらく昼は学校、学校が終われば修行で夜は寝るって生活が続きそうだ。昼も修行できればいいんだが、流石に勉強しながら内在世界で戦闘訓練とか死ねる。比喩でなく。

 流石に結構上の方の部下を殺された直後に何も考えず攻め込んできたりするようなやつはいないだろうし、もし居たとすればそれはまず間違いなく藍染の差し金ではなく独断によるものだろう。そういう奴を殺したところでどうこう言ってくることはないだろうし、ついでに言うと四番目があの強さならそれより下の奴らは物の数じゃないし、まず間違いなく藍染一人でそいつら全員殺せるだろう。今の俺でも届くかどうかわからねえしな。

 最後の月牙天衝を覚えたはいいが、これは一回使うと即座に俺自身が無力化してしまう。要するにまともに使うことはまずありえないという事なんだが……万が一使うとしても何らかの形で保険は残しておきたいよな。石田の使ってる銀筒みてーに今のうちに霊圧をため込んでおいて力を無くしたら俺自身の死神の力をもう一度俺に譲渡する形で復活させるとか。

 

『無理だぞ』

 無理なのか? できそうな気がするんだが。

『いや無理だ。お前の死神の力は父親からのもんだが、母親から来た滅却師の力と虚の力と混じりあって離れなくなってる。死神の力が消えれば他の力も当然消えるし、たとえ事前に死神の力を保存できたとしても滅却師の力や虚の力は失ったままになっから全体でみりゃあとんでもねえロスにしかなんねえよ』

 マジかよ。

『死神の力だけならできなくはねえと思うけどよ。全部は無理だろうな』

 そうか。だったら余計に使えねえな。

 

 ……そう言えば、今回の修行の副産物で最後の月牙天衝を覚えて以来、今まで以上に斬月が手に馴染むようになってきた。これは多分俺自身を月牙にするという特性上、俺と言う存在と斬月と言う存在の境界が曖昧になったことによって起きているんだろう。多分だが、卍解したら俺の身体と完全に同化するんじゃないかと思っている。

 必要になったら使うだろうが、できる限り使いたくはない。何しろ文字通りの意味での最後だ。織斑さんに頼めば何とかなる可能性も無くはないが、霊力も何もかもを失った俺には織斑さんにコンタクトを取ることもできはしないわけで。考えたくはないが、一応そういう未来も十分あり得るってことだけは頭に入れておこうと思う。

 いや、だけどほら、俺の魂魄から死神の力が失われたとしても人間の魂魄である以上虚になれる可能性は残ってると思うんだが?

 

『俺はお前だがお前の母親の方から来た存在だ。純粋におまえ自身が完全に虚になったら多分俺よりやべえのが出てくるぞ』

 具体的には?

『なんかパンジャンドラム転がしてきそうなやつになるだろうな。多分』

 マジかよ怖えなオイ。失っても虚になるのはやめます。

『そうしとけ』

 

 ……だが、そうなるとこれからより強くなるのに色々と問題が出てくるな。最後の月牙天衝は使えないものとしても使えるようになったことで俺の能力は大分上がった。俺は斬月で斬月は俺だという認識がしっかりできたからだろうが、今まで以上に斬月を扱いやすくなったし斬月の能力である月牙の改造も上手くいくようになった。じゃねえと流石に月牙天輪なんかできるわけがない。

 あ、いや待て。確か俺の覚えていない新しい力ってのに覚えがある。確かあれは会ったばっかりのころに織斑さんが言ってたはずだ。

 確か……そう、井上とチャドに言ってたはずだ。完現術者(フルブリンガー)なのはわかるが不完全なままどうこう、と。つまり、俺の知らない能力ってのがまだあるってことだ。それが俺に使えるのかはわからねえが、何もしないでただ待ってるってのは性に合わねえ。できることはやっとかねえとな。

 完現術について一番詳しいのは俺の知る中ではまず間違いなく織斑さんだろう。織斑さんが一体どこまで知ってるのかとかは知らないが、ともかく教えてもらえないか交渉してみようと思うが、その前にチャドと井上にも聞いてみよう。あの二人も俺が織斑さんから色々教えてもらっているのと同じように完現術についてはいろいろと聞いているはずだし、アポイントメントの取り方もわからなければそもそも仕事を増やされることが大嫌いな織斑さんに直接会いに行くとか正直勘弁してもらいたい。俺はまだ死にたくはないんでな。

 

 ……織斑さんに聞きに行くのは最後の手段ってことにしよう。いきなりラスボスはちょっとな……聞きやすい方は……やっぱチャドか。今度学校で会った時に軽く聞いとくか。

 




Q.マジで? ここで完現術覚えにかかるの?
A.まあ覚えられるとは限りませんが一応。何しろ存在を知っているわけですから力を求める一護がやろうとしないわけも無く。

Q.最後の月牙天衝使えんのかよ……。
A.使う機会があるかどうかは未定にして不明ですが。


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BLEACH~90

 

 side 黒崎一護

 

 完現術ってのは要するに物の魂を引き出す術であるらしい。それだけじゃあなんのこっちゃと思うところだが、その後の説明を詳しく聞く事で何となく把握した。

 まず、あらゆる物には魂が宿っているということ。その魂の力を引き出し、そのものの持つ性質を強化することができるということ。例えば地面に対して完現術を使えば地面の反発力を増幅して大きく飛び跳ねることができるし、空気に完現術を使えば跳躍してから加速したり方向転換することも可能だとか。しかもこれは霊体の時でも使えるが生身の時でも使えるそうだ。

 それに加えて自身の思い入れがあるものやずっと持ち続けてきたものに対して完現術を使う事でそのものの用途とは明らかに違う特殊な効果を与えたり、形すら変えることすらあるらしい。チャドの場合は祖父からの隔世遺伝で浅黒く染まった肌が、井上の場合は兄からもらったヘアピンがそういった能力の媒体になっているそうだ。

 

 で、完現術を使えるようになるには面倒な制限があるらしい。なんでも母親と一緒にいるときに虚に襲われた経験があれば使えるそうだが……無理じゃね?

 

「一護は虚の力を使えるんだろう? 俺たちの力は虚の力を受けた母親の魂魄から来ているものだ。だったらその大本を持っている一護でも同じことができる……と思うぞ」

「『思う』なのか」

「流石にやったことも無いからはっきりとは言えなくてな……」

 

 ほんと、織斑さんに聞けばもっとスパッとわかりそうなんだがそうもいかねえからなぁ。仕事の邪魔すると怖えし。具体的には仕事がもうすぐ終わるって所で血を滾らせた剣八に襲撃されてパンジャン百裂拳(百で止まるとは言ってない)を浴びせてたのを見たときにはどうしようかと。しかもその時の剣八は卍解状態だったからめっちゃ強いはずだってのに真正面から打倒してたしな。

 俺もまあ勝ったが……相手の身体能力が限界を超えているのがわかってたから自滅待ちだったしな。誇れるようなもんじゃねえ。

 

 ともかく、できることをやっていこうと思う。

 

「一護。俺からも頼みがある」

「? どうしたよ」

「俺は、織斑さんからの二度目の修行の時に虚の力を直接貰って倒したんだ。その力で俺の両脚にも完現術を出してるんだが……虚そのものの力がなくなったわけじゃない」

「あー、大体わかった。虚化について教えりゃいいんだな?」

「頼む」

「俺は別にいいけどよ。場所がねえだろ」

「井上に頼む。井上のあの盾は優秀だからな」

「そうか。……井上がいいって言ってくれたらでいいか?」

「もちろんだ」

 

 ……まあ、井上がいいって言ってくれたとしても場所の問題はついて回るんだけどな。いくら直せるっつっても必要以上に壊して回るのは避けたいが、いい場所なんて早々あるもんじゃない。浦原さんに頼んで地下の勉強部屋でも使わせてもらえればいいんだが……行けるか?

 あー、織斑さんの所の修行場は本当に恵まれてたんだな。どんだけ暴れまわろうが全く問題なかった上に、死にかけてもすぐに回復させてもらえた。あの回復は尸魂界にある夜一さんと浦原さんの秘密の修行場だった場所に湧いてた温泉以上だ。マジで恵まれていた。

 まあないものねだりをしても仕方ないから今できる範囲でやらなければいけない。今できる範囲と言うと、結局チャドと井上が一回目に教えてもらったことを聞いて覚えるくらいしかないんだが……それに合わせて身体も鍛えようか。完現術は生身で使うことが多いらしいから必要になるだろうしな。

 ……ちなみに生身で使うことが多い理由は、思い入れのあるようなものが霊子なら魂魄の状態でも使えるんだが、普通に考えて現世生まれ現世育ちの俺の大事な物と言ったら霊子じゃないだろうからな。チャドみたいに肌が媒介になったりするんだったらどこでも使えるんだろうが、俺の場合大事な物、あるいはずっと持ってたような物ってのはちょっと想像がつかねえんだよな。マジで。

 

 俺の大事なもの、か。ちょっと本気で探してみるか。今までそんなに物に固執したことがねえし、見つかるかどうかはあやしいもんだけどな。

 無かったら……そうだな、作るか。思い入れを。

 それっぽいものを自作して、それっぽく自分自身に思い込ませればいい。完現術が物の魂を引き出す術だと言うならば、俺が魂を込めて作った物であれば結構簡単に呼び起せるんじゃないかと思う。

 

『お前馬鹿じゃねえのか? あんだろ、お前自身が作り上げ、お前と常に共に在り、お前が思い入れているものが』

 ……すまん、マジでわかんねえ。何の話だ?

『俺だよ。正確には斬月か』

 …………ああ、なるほど。確かに。

 そうだ、普通の死神は名前も知らない誰かの作った浅打と言う斬魄刀に自身の霊力を与えて変質させることで斬魄刀を作り上げる。だが俺の場合は俺自身の力が斬魄刀の形をとっている。その時点で俺の斬魄刀である斬月は間違いなく俺の作りだしたものだし、斬月がいれば大体の困難は乗り切れるし、愛剣としてもかなり重要な立ち位置になっていた。

 それが思い入れになるんだったら、確かに斬月は完現術の媒体として相応しいかもしれねえな。

 だが、一応聞くんだが大丈夫なのか? 斬月を完現術の対象にしたらお前が増えたとか流石に困るぞ。

『チャドは自分の皮膚と言う自分自身を対処にしてんだから、お前自身である俺をお前が完現術の対象にしても不具合は出ないと思うぞ』

 

 ……今度時間があったらやってみようか。

 




Q.斬月を完現術の対象にとか……どうなんの?
A.さあ? そもそもできるのかどうか。

Q.斬月に完現術をかけた結果パンジャンに関わることにはなりますか?
A.はっきり言っておきますがありえないので安心してください。


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BLEACH~91

 

 side 織斑一夏

 

 俺の膝の上で猫が一匹寝転がり、天井裏では蜂がぶんぶん飛び回っている。言わずと知れた猫一と砕蝶である。実は砕蜂の名前は普通に呼べたりするんだが、こう呼ぶと反応が楽しいので呼んでいるだけだったりする。まあ最近は慣れてきたのかあまり大きな反応が返ってこないんだが。

 ちなみに猫一は猫一なので当然猫だ。人間状態なら猫一呼びでなく夜一呼びをするしな。俺は猫一の方が好みなんで全く構わんが。

 

「おのれっ……ええい鬱陶しい!なんだこれは!」

「這縄だ。圧縮して細くしたのを二百ほど寄り合わせてるから早々切れんぞ」

「なぜ私にそれを使う!?」

「死んだ目の猫一の腹に顔を埋めてスーハーしてたから犯罪臭が凄くてつい」

 

 俺が言うのもあれだし、今まさにその猫を膝に乗っけて撫でまわしている俺が言うのもなんだがかなりやばい雰囲気だった。完全に目から光が消えていた猫一もまた趣深かったが流石にずっと見ていると可哀想になってくる。だからこうして少しばかり手助けをしているわけだな。

 あと猫の耳っていいよな。特に理由なくくにくにしたくなる。人間の耳に比べて少しだけ固いんだが、全体の大きさはこっちの方があるから柔らかくも感じる。とりあえずもちもち。ぽわっとしている毛がまた良し。

 ただ、あまり触りすぎると猫には嫌がられるから触れすぎないように気を付けないといけない。だって猫だからな。気まぐれでいなくなろうとする時に無理矢理押さえつけたりはしてはならない。耳かきは最近砕蝶が週一くらいでやっているらしいのでやらないが、猫用マッサージでもしてやることにする。基本は人間用のそれと変わらないんだが、あまり力は入れないようにするのが大切だ。猫の身体は人間のそれより脆いから、あまり力を入れると痛みの方が勝ってしまう。猫一でも同じかどうかは知らん。

 ……あと、尻周りは時折発情したような声を上げちゃったりするから聞かなかったことにしてやるのも優しさだ。猫の姿でいる時間が長すぎて服を着るのを忘れてしまったり、肌を晒すことにほぼ全く違和感を持たなかったりとちょっと……ちょっと? まあちょっとと言うことにしておくが、ちょっとアレな所もあるが一応は女だからそのあたり気にかけてやる必要が……あるか? こいつに? 今まさに俺の膝の上でただの猫のようにゴロゴロ喉を鳴らしながら腹を見せててろりと垂れてるこいつに? 必要か?

 

 まあいいや。猫一に合わせるよりも普通の猫に合わせよう。猫一も気を抜いているときは普通の猫と変わらんしな。ちなみにあまりに五月蠅い砕蝶には口の中に直接かなり大きめのボールギャグを放り込んでまともに喋れないようにしてやり、ついでにその上にガムテープを張り付けて声を出せないようにした。うっさいからね。仕方ないね。血涙流してるが知ったこっちゃねーわな。

 あと暴れっぷりが上がったからさらに這縄追加した。もうこれ這縄じゃなくて鎖条鎖縛じゃね? ってくらいの太さになってるがそれも気にしない。なお太さと効力は比例しないので気にしないでいい。効力的には這縄重ねた方が若干上だ。

 

「なんであの縛り方じゃ?」

「海老反りにした方が身体に力入れにくいからだな。砕蝶は身体柔らかいから海老反りどころかパンジャンみたいになってるけど」

「お主円形の物を見るとパンジャンのようと表現するのはやめぬか?」

「土鍋に猫一入れて写真撮りてえ」

「聞いとるか?」

 

 聞いてることは聞いてるが右から左に抜けてるから意味があるとは言ってない。土鍋じゃなくてもいいぞ。ティッシュ箱の横開けてそこから頭突っ込んで尻まで入ったあたりで頭が反対側から出た所を写真に残したい。似たような写真はあるけどな。

 欲しいという念がかなり近くから届いたが気付かなかったことにする。俺が気付かなかったふりをしていることに気付いたようで、パンジャンドラムのようにかなり無理矢理裏向きにたたまれた身体をびったんびったんと跳ねさせている。はっきり言うが気持ち悪い。どこの筋肉をどう使えばあの体勢であんな風に跳ねられるのかが全く分からないが、まあ死神だし霊子を操る能力を応用すればできてもおかしくはないだろう。多分。問題は砕蝶はほぼ完全に身体能力のみでそれをやっているという事だが、些細なことだ。

 それと、猫一がマッサージで垂れてないのはなんか悔しいのでたっぷりと垂れさせることにする。限界まで行くとちょっと人には見せられないような状態になるがここにいるのは俺と砕蝶くらいだし問題はない。そもそも隊長室にその隊の隊長以外がいる時点で大分問題なような気がしなくもないが、元・隠密機動のトップと現・隠密機動のトップがこっそり入り込んできて気付けるやつとか尸魂界には早々いないだろう。山本の爺さんとかくらいじゃね? 剣八は……感知とかそういうのには向いてないから駄目だろうな。四番隊の方の剣八は気付けると思うが、気付いても自身を抑え込んでいるならそうそう問題のある行動には出ないだろう。卯ノ花が怖いことはみんな知ってるはずだし。

 

 つまり、今日一日分の仕事が終わっている俺はここでのんびりと猫一を辱め……ゲフンゲフン、愛でながら時間が過ぎるのを待っていればいいという訳だ。猫一がここにいるってことは、一応刃禅を組んで精神世界にご招待すれば鍛錬は詰めるってことだしな。

 なお、猫一は基本的にそのために俺の部屋までわざわざ来ている。たっぷりと満足させてやるよォ!

 




Q.砕蜂だったら縄抜けとか簡単にやりそうだけど?
A.切れない伸びない縄で正しく縛れば関節外そうが抜けれなくなります。

Q.猫一は満足しましたか?
A.満足しすぎてお昼寝に入ったので一緒に眠ったようです。


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BLEACH~92

 

 side 黒崎一護

 

 なんか夜一さんが羨ましい環境で修行を開始したような気がした。理由はわからないが多分織斑さんがらみだろう。羨ましい。俺もまたあそこで修行したい。パンジャンドラムは全力で拒否したいが織斑さんとの修業は本当にいい経験になる。その一点においてのみ非常に羨ましい。

 でも夜一さんは一体どんな風に修行をしてるんだろうな? 俺が現世に戻る前は隊長格全員に霊圧による負荷をかけることで魂魄強度を上げる試みをしてたと思うが、あれは上手くいったのか? 上手くいったとして、藍染の鏡花水月をはねのけられるくらい強力になっているとはとても思えないんだがそのあたりどうなんだ?

 

「まあ、効果はあったぜ。ただし、鏡花水月を跳ねのけられるほどじゃないってのはお前の予想したとおりだけどな」

「意味あんのか? 鏡花水月を無効化できねえと結局まともに動くこともできなくなるんだろ?」

 

 聞いただけだが、今まで使っていた感覚が全く別の感覚で再現されるとか言う訳のわからないことになっていたそうだし。あれか? 視覚と嗅覚が入れ替わると匂いを見て色を嗅ぎ分けなくちゃならないわけだろ? そんなもん練習しても難しいだろうし練習してないぶっつけ本番ならなおさら無理だろ? しかも万が一それを受けている間に多少慣れることができてできるようになったとしても、藍染の気分次第で今度は視覚と味覚、嗅覚と平衡感覚を入れ替えるとかそういうこともできるわけだろ? 風景を味わって理解するとか今まで全く別の感覚を即座に使いこなせるとは思えねえんだけど? それができねえとちょっとした虚相手だったとしても藍染が出てきて鏡花水月を使ったとたんに勝てなくなるだろ?

 

「意味が無いわけじゃない。少なくとも、藍染の霊圧に防がれて斬りつけても斬れないってことにはならねえはずだ」

「そもそも斬りつける機会があるのかって聞いてんだけどな? 現状それができんの剣八だけなんだろ?」

「織斑さんもだ。まあ織斑さんは今回の件では絶対に現世に出てこねえけどな」

「尸魂界の守りのためか?」

「いや。織斑さんの霊的な存在が重すぎて、現世に来るとそれだけで魂の比重のバランスをひっくり返しちまう可能性があるんだと」

 

 絶対嘘だな。あったとしても考えなくていい程度の確率のはずだ。織斑さんならそのあたりをどうとでもしてくるだろうし、なんでかわからねえけど尸魂界の四十六室とか呼ばれるところは織斑さんを尸魂界の外に出したがらないことは俺も知ってる。多分、織斑さんが外で何をするのかわからないから尸魂界の中で抑え込もうとかそんな感じなんだろう。

 まあ欠片も意味ないと思うけどな。だって織斑さんだし。織斑さんの事だから絶対いくらでも対策とれるだろう。今は面倒だから、あるいは必要ないから対策をしていないか、もしくは既に誰にも気付かれないように対策を終えていてそれを見つけられる奴がいないだけなんじゃないかと思う。と言うか、その存在がバランスを崩すって言うなら織斑さんが尸魂界にいる時点で現世が尸魂界に流れ込んでいなければおかしい。そうなっていない時点でそんな理屈をいくら付けたところでごまかしきれるわけもない。まあ形さえ整えてしまえば誤魔化しきる必要なんてないんだろうな。権力ってのはそういうところがまた厄介だ。

 と言っても、そんな権力も圧倒的な暴力の前では儚く散ることになるってのが藍染の行動によってつい最近証明されたばかりだからな。正直、藍染相手なら鏡花水月さえ使われなければ勝てる自信はなくとも負けない自信はあるが、織斑さんが相手になると勝てる勝てない云々以前にそもそも戦いになるかどうかって所で議論しないといけなくなるからな。まあ今の藍染が俺が最後に戦った時の強さから逸脱していないことが前提条件だが。

 

 ……逸脱してんだろうなぁ……じゃなかったら崩玉なんて何に使うって話になるし。恋次たちは崩玉を破面たちに使うと言うところで考えが止まっているようだが、どう考えてもそれにはその先があるだろう。藍染にとっては多分破面に対しての崩玉の使用なんてのは動物実験と変わらない。動物実験を繰り返した後に待っているのは人間、すなわち藍染本人に対しての崩玉の使用だろう。どうなるかはわからないが、まあ弱くなることだけは無いはずだ。藍染がそれを心の底から求めていない限りは。

 まて。なんでだ? なんで今俺は『藍染が心の底からそれを望んでいればそうなる可能性がある』と思った? なぜかそうだと確信できるのにそれを説明できる理由が一切浮かばない。しかし間違いなくそうなるという確信だけがある。

 

 まあ、とりあえず……今は完現術でも学んでおくか。基礎の基礎だけはわかったし、チャドが軽くやって見せてくれたから何となくわかったところはあるからちょいちょい練習すれば何とかなりそうだ。

 代わりに今度は俺がチャドに虚化その他の事を教えないといけないんだが、俺のやり方だと多分上手くいかないんだよな。俺達の場合織斑さんという共通の天敵がいたから争っている場合なんて全くなく、初めこそいがみ合いとかもあったが結局すぐに一心同体レベルで分かりあえたし。まあ実際に同体なんだが。一心ではないぞ。

 

『まあ俺も俺という個人だからな。一心じゃねえわ』

 だよな。

 




Q.あれ? 今の一護って原作最強時を上回ってるんだよね?
A.斬月の打ち直し、完現術の習得、最後の月牙天衝習得、完全虚化習得、滅却師の能力使用可。しかし藍染も藍染で強くなってますので。

Q.……今まで聞いてこなかったけど藍染ってどのくらい強い?
A.鏡花水月のハメを使えばほぼ負ける相手は無し(一夏除く)。なにしろ未来を見えないようにできますからね。鏡花水月無しだと現時点で剣八と真正面からガチるとほぼ引き分けに近い敗北をします。剣八は眼帯外して限定解除もした状態とします。


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BLEACH~93

 

 side 黒崎一護

 

 とある日。俺が完現術の修行をして、チャドが虚化の修行をしていた日のこと。突然空座町の上空にいくつもの霊圧が現れた。霊圧の感触からしてまず間違いなく例の破面って奴らだろう。あと、使えねえ使えねえと言ってはいたがチャドの修行用に手加減した卍解二刀を使ってるんだがこれがなかなかいい。俺の霊圧に当てられてチャドの虚化の時間はどんどんと伸びているし、元から持っていた能力もさらに強力になったような気がする。形が大きく変わることこそないが、代わりに右腕の盾は強度が上がり、左腕は威力が上がり、両脚はより速くあらゆる場所を駆け回れるようになっていた。

 俺自身も完現術に少しずつ慣れてきていて、俺自身に完現術を使う事で全体的な出力を上げることができるようになっていた。これマジで便利だな。これだけ覚えるとチャドの肌みたいな媒介を見つけるまではくっそ地味だけど。つまり俺の強化はくっそ地味になるわけだな。あと何年かすれば斬月を完現術の媒介にして虚の俺を外に出せたりもするかもしれないが、まだ早いな。

 

『やるんだったら片方だけにしとけよ。両方にやったらお前無防備になるからな』

 わかってるよ。流石にそんな馬鹿はしねえ。

『あと一応聞くんだが、俺を出すだけだったら具象化でよくないか?』

 疲れる。

『なるほど』

 

 斬月に直接完現術を使う以外にも、多分月牙に完現術を使えば月牙の切れ味をさらに上げることができると思うんだよな。

 

 ……っと、今はそれよりもやってきた破面に対しての対応が先だろう。とりあえず手加減状態の卍解を解除していつもの二刀の始解に戻す。そしてその上で軽く霊圧だけで月牙を放ってみるが、流石に弾かれる。雑魚ではないようだ。

 ただ、十番の奴の霊圧を感じる。しかも前回より大分霊圧が大きくなっているんだが、多分これはまだ上限じゃない。ウルキオラよりはまだ小さいが、上限がぶれているように感じ取れる。

 そして感覚的に初めての奴。名前は知らないが解放状態のウルキオラよりははるかに弱い、しかし無視することもできない程度に強い奴。あと……なんだ? 破面っぽくないんだがじゃあなんだと聞かれると破面としか言えないような、奇妙な霊圧の奴。なんだかはわからない。

 

「一護。行こう」

「ああ、そうだな」

 

 ただ、今回は井上は近くにいない。だから盾で街を守ってもらうこともできず、守ってもらえない以上は派手に暴れることはできない。相手が空の上にいてくれるのはありがてえな。

 ルキアや恋次たちも気付いているようで、そこそこの速度で破面たちと思われる霊圧のもとに集結し始めているのがわかる。だが到着が一番早いのは多分俺だな。

 

 到着直後に大小の斬月を振るい十字に斬りかかる。全員に回避はされたが本命はそっちじゃないからまあ問題ない。手近にいた青い髪の野性的な男に剣圧を飛ばし、俺の身体から散っている霊圧を圧縮して作った月牙を十番に飛ばす。前回は十分に通用したそれだったが、今回は片腕を振り回すだけで簡単に砕かれてしまった。やっぱ強くなってんな。チャドで勝てるか?

 ……いや、まだ安定しないとはいえチャドにも新しい技はできた。だったら行けるはずだ。少なくとも死にはしないだろう。一応防御を抜く技も持ってるしな。

 

 十番の大男をチャドに任せ、俺は残りの二人と対峙する。一人はさっきの青い髪の野性的な男。そしてもう一人は緑の髪の女。女の方は身体つきからそう判断したが、顔はほとんど見えない。だが、かなり強いと思われる。

 

「てめえが黒崎一護か」

「ああ、そうなるな」

「そうかよ。じゃあ死ね」

 

 男は掌を俺に向けると、そこから虚閃を放ってきた。だが、もうこの程度の虚閃では俺は危機感を覚えない。斬月を振り、小さく月牙を放てばそれ一つで両断できる。驚愕の表情を浮かべた男に向けてそのまま月牙を飛ばすが……女の方に月牙を受け止められた。 いや、それどころか女の方は月牙を食べ、それに虚閃を乗せて撃ち返してきた。

 だが躱せない速度ではない。速度は遅いし拡散もしていないから範囲も狭い。まあ拡散していたらまた斬るだけなんだが。

 

 しかし、これじゃあ遠距離からの攻撃は殆どできないと思っていいな。月牙を纏わせて斬るのはできても放出する系統の技は使わない方がいいと思われる。だったらそれでやりようはいくらでもあるんだが。

 小さい方の斬月に完現術を使う。すると斬月が白く染まり、虚の俺が小さい方の斬月を持って現れた。

 

「どっちがいい?」

「あ? どっちでも変わんねえだろ。結局雑魚だ」

 

 瞬間、青い髪の男が虚の俺に向かって斬りかかってきた。

 

「雑魚とは言ってくれるじゃあねえかよ。なァ!?」

「雑魚に雑魚と言って何が悪い!」

 

 そこから虚の俺と青い髪の男の戦いが始まった。あっちが始めたんだったら俺も俺でこっちを相手にするとしようか。多分こっちの方が強いしな。

 

「で、あんた名前は?」

「……」

 

 女は一切喋らないまま斬りかかってきた。斬月で刀を弾き、腹に蹴りを入れる。脚は片手で受け止められ、しかし受け止めきれずに吹き飛ぶが吹き飛びながら細かく虚閃……ではないのか。小さな霊圧の弾丸をいくつも飛ばしてきた。

 いったいなんだろうな。さっきからずっと殺気と言うか、感情みたいなもんが感じられねえんだよ。理由はわかんねえけど。

 




Q.あれ? グリムジョーの暴走は?
A.ウルキオラが死んだ()のに暴走できるわけないでしょうが。流石に自重してます。

Q.じゃあ今回のこれは何?
A.藍染の命令ですね。

Q.緑髪の女ってBLEACHでは一人しか出てこないんですけど……?
A.多分その人……人? ですね。

Q.ところで現在の状況で一護が藍染、剣八、ユーハバッハ、一夏以外に勝てないあるいは負ける可能性のある奴っている?
A.相性的な問題や状況によってはまあそこそこいます。

Q.え、マジ? 誰?
A.事前に戦う事がわかってたマユリとか、事前に準備万端にしたザエルアポロとか、そもそも接近したら死ぬバラガンとか、本編ではもう絶対出ないけど霊子中毒起こせるナックルヴァールとか。あとこっそり井上も不意打ちなら。


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BLEACH~94

 

 side 茶渡泰虎

 

 以前戦った時に比べ、少しだがこの男の背が伸びている。霊圧もそれに合わせて増加しているように思えるし、膂力や速度も同じくだ。

 一撃の威力が重い。盾で防いでも身体の芯まで響く。だが、逆に言えば盾で防げる程度の攻撃でしかない。防いだのに撃ち抜かれて右腕から肉を削ぎ落とされたり、防いだのに貫通して内臓をかき回されたりするわけでもない。精々気を抜いたら盾が軋むくらいだ。

 

 俺の戦い方は変わらない。攻撃を防ぎ、近付き、殴る。俺にはそれしかできないし、それしか知らない。相手が何か言ってきている気がするが、今の俺にはそれに返す余裕はない。お前が強いから、会話している余裕なんてないとだけ言葉にして俺は今までと変わらず相手を殴る。鋼皮の強度が俺の貫けるぎりぎりまで上がっている。虚化を習得したことで完現術の全体的な能力が少し上がっていなければ何もできずに嬲り殺されていたところだ。鍛えておいてよかった。

 相手からの言葉がなくなった。相手も俺と同じように余裕がなくなったのか、それとも会話をしようとしない俺を殺すことに集中し始めたのかはわからないが、俺に当たりに来る拳の速度が上がり始めている。左腕を攻撃ではなく攻性防御にも使い始めたが、それでも相手の攻撃の速度がどんどんと上がっていくのについていくのがやっとだ。

 

 だが、お互いに致命傷は受けていない。敵の攻撃は盾で防がれ、俺の攻撃は効果が薄い。このまま続けば体力の問題で俺の方が不利だろうが、この状況を打開できるような技を俺は持っていない。鎧のような皮膚を抜くには一瞬の溜めが必要になるが、その溜めを作ることが非常に難しい。

 一護は二人を相手に勝つ戦いをしているというのに、俺はここで一人を相手に負けないように戦うのが限界とは、情けない。一護と共に立ち、一護の背を守るにはこの程度ではだめだ。これからも一護はより強くなっていくだろう。それに置いて行かれることのないように、もっともっと強くならなければならない。

 そのためにも、こんなところで負けるわけにはいかない。こんな所でこんな奴に殺されてやるわけにはいかない。しかし、そう思ったところで決め手がないのも事実。虚化すれば威力は上がるが、制御に失敗すると虚化どころか完現術すら不安定になる諸刃の剣だ。もう少し練度があるならやっていたかもしれないが、今の状態では難しい。こちらばかりが消耗するのがわかりきっている。

 

 だからこそ、やる意味がある。

 

 虚化し、殴りつける。今までのように防がれる感覚も無く、一撃で鎧のような皮膚も筋肉の防御も全て抜いた感覚があった。俺の虚化の実用時間は現在十二秒弱。この十二秒が過ぎる前に一度戦いを仕切りなおす必要がある。

 殴りつけ、肉を削ぎ落し、骨を砕き、歯をへし折り、吹き飛ばす。拳を弾き、腕の肉を削り取り……仮面が砕ける寸前に自分で外す。仮面が自壊した場合に比べて自分で外した方がいくらか余裕ができるというのは何度も繰り返し虚化して来たからわかっているが、やはり十秒と言うのは長いようで短い。

 反撃を受ける。肉を削ぎ落したから威力が落ちているはずなのに、虚化する前より強く感じる。やはり虚化は消耗が激しいな。吹き飛ばされ、叩きつけられ地を転がる。完現術で身体を強化し、更に地面を柔らかくして俺の身体を受け止めさせていなければ危ない所だった。一護たちと違って俺の身体は生身だからな。尸魂界に行ったときのように無茶はできない。

 

 しかし、今この町で戦えるのは俺と一護だけじゃない。

 

 遥か遠く。俺の霊圧知覚領域から外れた距離から閃光のような速度で矢が走る。俺の頭に迫る男の腕が貫かれ、逸れる。それに合わせて俺は左腕を纏い直し、顔面に拳を叩き込む。矢が飛んできた方向に顔を向けることはしない。敵の目の前でそんなことをしたらあっという間に死んでしまうからな。今回の敵はかなり強いし。

 石田は飛ばした矢を自分の意思である程度操れるようになったらしく、二発目以降は一発目が飛んできた方向とはまるで違うところから飛んできた。三発目も同じように違う方向から。ただ、何十発も見ているとおよそ方向はわかってくる。流石にわざわざ一旦通過させてから反転して当てるなんて真似はしないだろうからな。

 ただ、わかったところでこっちからの攻撃が通るかというとそんなわけがない。俺もこいつも肉弾戦が本領で、手が届かない奴を相手にするには難がある。一応俺は拳から霊圧を飛ばせるし、こいつも虚であるなら虚閃が使えるだろうが……そういったただ放出する系統の技は滅却師である石田にはいいカモでしかない。特にこれだけ離れていては届くまでに完全に分解されてしまうだろう。

 だが、石田の矢は致命傷には遠い。かなりの霊圧を感じるが、やはり現世では霊子の薄さもあって滅却師の本領は発揮しづらいんだろう。尸魂界に居た時の矢はこんなものじゃなかったしな。

 

 しかし石田の矢が致命傷に遠くとも、俺の拳はこいつの命に届く。拳一振りの間仮面を被り、鎧を撃ち抜く溜めを経て、俺の拳は大男に突き刺さる。衝撃が大男の腹を貫き、背中から抜き出ると同時に潰れた内臓が肉と一緒に飛び散った。

 仮面の上から男の吐血を浴びるが、仮面が砕けると面と一緒に崩れて消える。男の拳がゆっくりと振り上げられるが、石田の矢によって肩から先が千切られ地面に縫い付けられる。

 

「ち、くしょうが……イラつくぜ……!」

 

 男はそれだけ言って崩れ去った。血も、肉も、骨も、全て綺麗に消えていった。……死神が関与していない虚の消滅というのは、まずいんだったか?

 とりあえず俺はこれから来るだろう四季崎たちへの言い訳の言葉を

 

「ここか!?」

 

 ……考えられずに終わってしまった。

 




Q.チャドが強い……!?
A.チャドは原作においても人間の中では有数の強さでしょうに。

Q.そう言えば居たね石田君。
A.能力も失っていない石田君です。


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BLEACH~95

 

 side 黒崎一護

 

 青い髪の男と、緑の髪の女。そいつらと戦っている間に分かったことがある。

 青い髪の男は俺を本気で殺しに来ている。戦いたい。殺し合い、勝利し、喰らいたい。そういった感情が非常に濃く感じられる。

 しかし緑の髪の女はそういった感情が薄い。と言うか、そもそもそういった感情を一切抱いていないように思える。俺を見ていないと言うか、そもそも俺を認識できていないと言うか……いや、これはあれだ。俺を認識するとかしないとか以前に、意識がない。しかし意識がないまま戦っている。そんな感じだ。

 だが、卍解の時の剣八もそんな感じだったがあの時の剣八はちゃんと俺と戦う、俺を殺すという本能があった。しかしこの女にはその本能すら存在しない。機械か、もしくは動く死体か、身体だけ誰かに操られているのか……そんな感じの想像が難しくない。そして多分その想像は合っているだろう。

 

 だがそれは今この状況では何の関係も無いことだ。機械だろうが死体だろうが操られていようが関係ない。敵なら斬るのみだ。それに、俺にはそういう相手への対処とかできねえしな。

 ただ斬る。しかし躱される。月牙ではなく剣圧で戦っているんだが、現状ではウルキオラより少し弱いくらいだろう。解放状態ではないようだからはっきりとしたことは言えないが、少なくとも今の状態でも刀をただ振っているだけのウルキオラに届かない。解放してもそこまで変わらないだろう。能力によってはわからないが。

 

 だが、今の俺のできることは一つ。兎にも角にも敵を殺すことだ。運のいいことに相手は割とまともな相手のようで、斬れば斬れるし殺せば死ぬようになっているようだ。斬っても斬れない本気の剣八とかより遥かにましだな。比較対象として間違ってる気がするが。

 それに、本気じゃなくとも結構簡単に斬れる。かなり鋭い剣だが重くはないしそこまで速くもない。しかし大分上手い。全力じゃないにしても普通に斬りかかっただけじゃあ捌かれて反撃を喰らいかけるし、剣圧も上手いこと見切られている。最近気づいたんだが、俺の剣圧って要するに俺の刀が動いたところにある霊子を剣を振った時の圧力で押し出したことでできる圧力なんだな。要するに、霊子の薄い現世でやってもあまり高い威力は出ない。チャドの拳圧は実体もあるから霊圧と物理的な圧力の合わせ技で現世でも十分な威力が出せるようだが、多分しっかりと霊子になってからなら霊子の多い場所で使った時の威力が大きく上がるだろう。わざわざ物理の方向に振り分けていた分が統合されるからな。

 

 ……しかし、頑丈だなこいつ。蹴りを何発もぶち込んだし腕も落としてやったってのに動きが鈍らない。痛みを感じていないかのようだ。

 ただ……俺は落とした緑髪の女の腕を感知する。すると女の腕は勝手に動き、指先を俺に向ける。何をしてくるかはわからないが、指先に霊子が集まったところで一瞬だけ指先の延長線上で動きを鈍らせてから再度加速するとその霊圧が俺のいた場所をすり抜けてきたので何らかの攻撃をしてきたんだろう。何かはわからねえけど。

 霊子を固めた弾丸を撃っていたということはわかった。あと、虚閃よりかなり速いってのもわかった。近接距離だと多分避けれないが、少し離れていれば十分避けられる。威力は虚閃より大分劣るようにも感じられた。虚閃との違いは虚閃は言ってしまえば延々と続けられる(限度が無いとは言ってない)高出力のレーザーで、今のはライフルって所か? まあ速度は逆だが。

 斬り落としても遠隔で動かせる……と言う訳じゃなさそうなんだよな。結果的にそうなったって感じでそれを能力として持っているわけじゃあないってのが俺の見解だ。

 

 と、そこで空から光が降ってきた。緑髪の女はその光によって守られ、青い髪の男も虚の俺から隔絶された。チャドの相手をしていたでかいのはすでに倒されているから大丈夫だったようだが……やっぱ一本ずつだと決め手に欠けるか? 少し前まで斬月は一本だったから大丈夫だと思ったんだが、精神世界では二振りになってから長いからなぁ……もう二刀に慣れてしまった。卍解は一本なんだがかなり大きめの大剣であって刀とは違うから同じようには使えない。慣れってのは怖えな……。

 

 緑髪の女はじっと俺を見つめている……ように思える。剣を合わせても何もわからなかったが、何もわからないということ自体がおかしい。尋常なことではない。一手で斬ってしまったのならわからなくもないんだが、あの女とは何度も剣を合わせたのだから全くわからないとは思えない。織斑さんですら少しはわかったんだぞ? 寝たいとかそんなんばっかだったが。

 ……そういや名前も聞いてねえな。まあいいか。もしも次会うことがあったら聞いておこう。会うかどうかはわからねえけど。

 

 それより、なんで帰っていったかの方が気になるな。特に成果がないにもかかわらずあっさりと帰っていったってことはこっちが陽動という可能性も十分にあるわけだが、じゃあ本命は何かって話に―――井上の霊圧が無い。

 なるほど、井上が本命か。井上の能力はおよそ万能だから狙われるのもわかる。

 

 取り返しに行こう。

 




Q.井上さんってそんな簡単に攫われるような人ですか? 原作ならともかくここのは。
A.おいしいご飯につられたんじゃないですかね? 知りませんけど。

Q.ウルキオラ以外がああいうのを上手くできるとは思えないんだけど?
A.十刃の常識人、ハリベル様がいらっしゃるではないか。


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BLEACH~96

 

 side 井上織姫

 

 今日もウルキオラさんをおいしく食べていたのだけれど、また破面の人たちがやってきたようだ。烏頭と狐花はウルキオラさんの封印に使っているからできれば使いたくないんだけれど、四季崎さんたちもやってきてるから多分大丈夫だよね? 大丈夫じゃなかったら大丈夫にするから多分大丈夫。その時はウルキオラさんともお別れかなぁ?

 

「ウルキオラさん?」

「……なんだ、女」

「もしかしたら、もうすぐお別れかもしれません」

「そうか。清々するな」

「ウルキオラさんってば酷いなぁ」

 

 と言っても私だってウルキオラさんと同じような状態だったら同じようなことを言うと思う。もしかしたら怖くて言えないかもしれないけどね?

 

「……いらっしゃい。どちらさまですか?」

「ああ、気付いていたのか。君を攫いに来たよ」

 

 振り向いてみれば、そこには見たことのある人がいた。藍染惣右介。確か、空座町を使って王鍵を作ろうとしているとか言う大悪人。霊圧の差からして勝てる気はしないなぁ……でも、わざわざ攫いに来たって言うなら何か理由があるんだよね? わからないけど。

 

「先に言っておこう。もしも君が私についてこないのならば、尸魂界に突如として全裸の黒崎一護が何十人か現れることになるだろう」

「脅し方が織斑さんそっくり!?」

「ああ、もちろん催眠によるもので決して本物ではないけれど、君も一緒に出演させてあげようか? 黒崎一護に首輪を嵌めてリードを手に持つ女王様として」

「やめてくださいよ本当に!?」

 

 追い詰め方も織斑さんそっくりだ……!? そう言えば織斑さんの部下として過ごした時間がかなり長いとか言ってたような気がする!しかもかなり本気目の忠誠心もあるとか言ってた!尸魂界と敵対したから冗談だと思ってたけど、そう言えば忠誠の対象が尸魂界だとは言われてないね!普通に考えれば尸魂界なんだけど言ってた相手が織斑さんだと普通に考えてた自分が馬鹿だったと思える!不思議!

 

「それと……ウルキオラ。生きているのかい?」

「死んではいないというだけです。ここから出れば死ぬでしょう」

「あ、ウルキオラさんは私のごはんなんですよ!」

「……ごはん?」

「はい!美味しいです!」

「……そうなのかい?」

「自覚はありませんが」

「……そうか」

 

 なんだか頭が痛そうな顔をしてるけど、多分私の方が頭痛いから知ったこっちゃないね!それに誘拐らしいし!ちょっと困ってもらった方がいいよね!

 でも、なんで直接この人が来たんだろう? ウルキオラさんみたいな人たちに任せればいいと思うんだけど……なにかあるのかな?何があるのかはわからないけど。

 

「それで、ついてきてもらうよ。井上織姫」

「うーん……正直勝てる気はしないですし、いいですよ? ただ、どうして私なんですか?」

「君の能力は有用だ。尸魂界にとっても、黒崎一護にとっても、私にとってもね。尸魂界に使わせないようにすると言うだけで私の得になる」

「……ああ、なるほど。そういう事ですか」

「そうとも」

 

 確かにそれならわざわざこの人が来る理由もわかる。そうやって使おうとは思ってなかったけれど、確かにそういう風にも使えるね。そしてそれは多分、この人の能力を考えればかなり致命的になるんだろう。能力を知られてしまったら、もう一度かけなおすのは大変だろうしね。警戒されているなら余計にそうだと思うけど……そもそも解放の瞬間を見せるだけでかけられるなら私が何をしても即座にかけなおして何の意味も無くせると思うんだけど、それだと駄目なんだろうか?

 ……そっか、解放中に解放の瞬間は見せられないよね。つまり、ある程度強い誰かと戦っている時に一番強い人を私が治して、能力を途切れさせたくない時に無理矢理戦うよりはずっといいのかも。この人にとっては事前に潰しておけることだろうしね。

 それなら私を殺して魂を誰かに食べさせればいいだけの話だと思うんだけど、それをやらない理由もなんとなくわかる。もしかしたらこの人を倒せる可能性のある人は、尸魂界では四人しかいないらしい。総隊長のおじいちゃん、四番隊の隊長さん、十一番隊の剣八さん、しっかり解析する暇があるなら十二番隊の涅さん。織斑さんは番外として、この四人。そして私を攫えば恐らく黒崎君は私を助けに来てくれるだろう。現在の現世で唯一この人を倒せる可能性のある黒崎君が。

 要するに、餌にするつもりなのだろう。私は食べるのは好きだけど食べられるのは好きじゃないんだけどな?

 

 なんて言っても、ここで断ったら間違いなく死亡確定。これからも美味しいご飯を食べられるようにするには、大人しく誘拐されておかないといけない。黒崎君の足枷になるのも嫌だし、もしかしたら裏切りとかそういうのを疑われるかもしれないけど……仕方ないね。

 でも、ただ利用されるだけというのは嬉しくない。ちょっとくらい私の我儘も通して見せたい。

 

「……じゃあ、ご飯はちゃんとください」

「勿論だとも」

「襲われたりしない場所をください」

「構わないとも」

「襲われたら反撃の許可をください」

「好きにしたまえ」

「ウルキオラさんはお弁当に入りますか?」

「食べすぎはよくないからね。駄目だよ」

 

 ……最低限通したいところは通したし、まあこれでいいとしようかな。一応書置きとかも残しておいて……さよなら、ウルキオラさん。

 




Q.藍染がなんか変な脅し方してる……
A.誰に似たんですかねー(すっとぼけ)

Q.ウルキオラはお弁当に入らない?
A.入りません。それ以上に食べ物ではありません。


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BLEACH~97

 

 side 黒崎一護

 

 井上が誘拐された。なんか大丈夫そうな気もするんだがそれでも助けにはいかないといけない。こうしている間にも何をされているかわかったもんじゃないしな。なんでか大丈夫そうな気もするが。(二回目)

 

 さて、この度俺と一緒に虚圏に突入するイカれた仲間を紹介するぜ!

 

 俺!

 石田!

 チャド!

 

 以上だ!

 

 ……織斑さんとかにもついて来てもらえると嬉しかったんだが、絶対許可とか出ないと思って諦めた。そもそも行く気があるならひょっこり向こうで出会いそうな気もするしな。

 俺達は浦原さんに頼んで虚圏に行く準備を整えたんだが、浦原さんも浦原さんで色々と考えるところがあったらしく普通に協力してくれた。そもそも井上は狙われるというのも非常に可能性の高い未来として予想していたそうで、それに対して手を打とうとしたものの遅くなった結果云々と言われた。細かいことは知らないが、少なくとも浦原さんのせいじゃねえと俺は思う。

 まあとりあえず俺達は虚圏に送ってもらって、それから明らかに怪しい、と言うか不似合いなバカでかい建物……多分あれ建物だよな? 中入れるよな? 多分建物に向かって走り出した。

 

「なあ石田」

「なんだ」

「お前って滅却師なんだよな?」

「何今更変なことを言ってるんだ」

「いやそうじゃなくて、滅却師でできることは大体できると思っていいか? 霊子解体とか」

「ああ、なるほど。それが出てくるってことは黒崎もできるのか?」

「俺は相手に意志が無ければできねえことも無い、ってくらいだな。お前は?」

「相手が僕以上の滅却師でもなければ生きていようが関係なくできると思うよ」

「すげえなそれは。虚圏じゃ最強の能力なんじゃね?」

「霊子を放出する系統の技は僕には効果がないしね。まあなかなか便利ではあるよ」

「石田の助けがあったにしろチャドは十刃を真正面から倒してたから心配はしてねえんだけど、石田はどこまでできるかわからなかったからな。まあ安心した」

「そうか。僕としてはお前がどこまでできるのかの方が興味があるけどね」

 

 俺は滅却師としては大して強くはないしできることも少ない。死神としての力を中心に鍛えてきたつもりだし、死神の力と虚の力が俺の中では同一のものだったと知ってからは虚の力も同じように鍛えてきた。だが、滅却師の力については動血装と静血装くらいしか使えねえんだよな。弓も出せねえし。

 と言うか、遠距離の攻撃手段としての月牙が有能すぎるんだよな。月牙があるならわざわざほかの遠距離攻撃を覚える意味があまりあるとは思えなくてな。

 

 チャドは……大体わかっている。虚の力と完現術、その二つを合わせてかなり強くなっている。そしてここに来る前に十刃の大男を倒したことでまた少し強くなっているのもわかる。その『少し』ってのがどのくらいなのかしっかりわかっているわけじゃないが、なんか仮面が変わっていたようにも見えたからそこそこ以上に強くはなっているんだろう。多分。

 ただ、戦い方は変わらない。近づいて殴る。チャドらしい戦い方だ。俺の戦い方は変わっちまったからなぁ……。まあ武器の使い方を知らなかったころと知った後で戦い方が大きく変わるのは当たり前の事なんだが。

 

 虚圏は広い。もしかしたら尸魂界より広いのかもしれない。少なくとも瀞霊廷より広いのは確実だろうが、尸魂界と違ってそのほとんどが砂で覆われているというのが面倒だ。走る時に足を取られるし、黒腔を通ってきた時のように足元に霊子の道を作った場合周りから見つかりやすくなるし。俺がもっとちゃんとした滅却師なんだったら霊圧を感じさせないようにしながら霊子を集めることもできるかもしれねえが、今できないことを今求めたところで何の役にもたちゃしない。どうせするなら有意義なことをやっておくべきだ。何が有意義なのかはまあ置いておくとして、とりあえず近くにいる俺に敵意を持っている奴を片っ端から斬り捨てていく。ここまで俺がやったことと言えば走ることだけだったからな。

 とりあえず斬る。敵なら斬る。敵意があっても斬る。敵意がなくとも怪しければ斬る。まあ斬ろうとしたらなんか気が抜けるようなコントが始まる奴らもいたが、そいつらは敵対する気がゼロっぽかったから斬らずにおいておいた。と言うか無限追跡ごっこってなんだよ……?

 

 それはそれとして。

 

「なあ石田、チャド」

「なんだ黒崎」

「どうした、一護」

「あの砂、なんか虚っぽくね?」

「……ああ、なるほど虚っぽいね」

「ム……すまないが俺にはよくわからない」

「ああいや、正直俺も虚っぽいような気がしただけで確認の意味も込めての行動だから気にしないでいい。あんまり自信も無かったしな」

「間違いなく虚だと思うぞ。どうする?」

「俺ができることなんて一つしか無いだろ?」

 

 とりあえず斬った。砂が虚となると斬れるかどうか怪しかったがとりあえず斬った。斬れた。

 

「ヌワーーー!? ルヌガンガ様になんつーことすっぺ!?」

「このまま進んでたらぶつかるだろうが。砂だしいいだろ別に」

「貴様……!」

「邪魔だ直んな」

 

 月牙で斬り捨て、更に斬った場所の再生を阻害する。砂だから集まればくっつく? 残念だったな集まったところで完全に再生はさせねえよ。

 

「僕がやろうか?」

「あ~……いや、余裕がなくなったら頼むわ」

 

 霊子の絶対隷属、だっけか。霊子を奪い尽くして相手を殺す技。相手が砂となると表面積の大きさからして大分有効だと思うし、全身を構成する砂の一粒一粒まで全てを同時に支配しているわけでもないだろうから干渉もしやすい。現に今も少しずつではあるが解体できてるしな。俺が斬り飛ばしたところに霊子を叩き込んでその衝撃でさらに霊子同士の結合を緩めて奪う。石田の剣っぽい武器の真似だが結構便利だな。

 チャドは……流石にこれを相手にできることはねえか。仕方ねえよな拳だし。放出系は苦手だったし。

 




Q.原作の葛藤とかそういうのはどこに行ったの?
A.石田に霊子にまで分解されてゼーレシュナイダーの柄に入ってます。

Q.つまリ原作通りに行くとザエルアポロは原作の葛藤にボロボロにされるということ?
A.原作通りに行くならそうですね。原作通り行くなら。

Q.ところで出会って突然コントを始める奴らって誰?
A.原作でも突然コントしてた彼らです。

Q.……ん? え? あれ?
A.不思議ですねーなんででしょうねー。まだ内緒。


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BLEACH~98

 

 side 黒崎一護

 

 まあなんだかんだルヌガンガとかいうちょっと覚えにくい名前の砂の虚を倒して進む。こっから先はネル達でもわかんねえだろうし、これ以上一緒にいると裏切り者と完全に認識されるだろうからな。もう遅いかもしれないが。

 ……そうそう、遅いと言えばルキアと恋次が合流してきた。おせえよ。織斑さんに頼んでここに送りつけられたそうだが、仕事中はそういう話をされても間違いなく聞いてくれないのはわかっているから仕事が終わってすぐに話をしたそうだ。じゃあしょうがねえかな。仕事中の織斑さんは融通が利かねえから。

 

 そういう訳でやっとこさ到着したわけだが、やっぱでかいな。殺気石じゃあないみたいだから問題なくぶった切れるのが一番の幸運だろうか。と言うか、正直あの石マジで何なのかわからねえよな。霊子を分解する波動を出す霊子構造物ってなんだよ? 普通最初に自分を分解して消えるだろ?

 いやそんなことはどうだっていいんだ、重要なことじゃない。今重要なのは俺の目の前にあるこの巨大構造物が殺気石ではないお陰でそこそこ簡単にぶった切ることができるという事だ。このくらいなら月牙を使わないでも抜けそうだが、とりあえず剣圧で斬り捨てておく。風が通るようになったから多分これで抜けたな。

 

「よっしじゃあ行くか!どこに繋がってるかは知らんが!」

「まあ中に繋がってるのは間違いないだろうから別にいいけどね……」

 

 壁ぶち抜いて風が通るようになってるのに中に繋がってないとか笑えねえんだけど。あと、こっから先は本当に危なさそうだからネル達は置いてきた。自称ゴミ虫とか言ってたくせに割と速いのには驚いたが、まあ俺に追いつけるほど速くはねえのがな。

 ……なんか一瞬だけ凄まじい速度が出せるのには、もうお前それで逃げとけばよかったんじゃねと思ったりもした。何言ってももう遅いから気にしないことにしたが。

 

 で、ぶち砕いた壁の先、建物の内部に到着したが、そこから先はちょうど五つに分かれていた。ほんと、まるで計ったかのように五つだ。一人一つの道を選んで、それぞれが井上を助けるために走る。どこにいるかはわからねえし、もしかしたら途中で合流することもあるかもしれないが、それはここの構造がわからない以上期待することじゃない。

 ……つーか、なんで置いてきたはずのネルは俺についてくんのかね? 霊圧的に耐えられるとは思えないんだがよく当たり前に走ってこれる。

 

 後、もう二人。ペッシェとドンドチャッカも同じように石田と恋次の後を追っかけたみたいだ。ネルと一緒に居てやらないでいいのかよと言いたいところだが、ネルも迷ってるみたいだし多分あいつらも迷ったんだろ。始めてきた所なら仕方ねえわな。俺も迷ってるようなもんだし。

 霊圧感知で大体の事はわかるんだが、わからないこともそれなりに多い。石田くらいになれば霊子の濃度差によって壁か道かが全部わかるようにもなるかもしれないが、俺はそこまで感知能力鍛えてないからな。精々そこそこ以上に強い奴がいればその位置がわかるくらいだ。藍染の位置は……かなり遠めだな。助かる。

 井上は……ん? いや待て何やってんだ? なんか凄いことになってる気がするんだが?

 

 

 

 

 

 side 井上織姫

 

 ご飯の時間。私が敵にいると藍染さんの鏡花水月の催眠を解いてしまう可能性があるということを危惧して誘拐された私は、三食おやつとお昼寝付きで軟禁されていた。……軟禁って言っていいのかな? なんだか凄くもてなされてる気がするんだけど、まあいいよね別に。

 人間用のごはんを三食と、おやつにそのまま連れてきてもらったウルキオラさん。でも今日は間食が入るみたいだね。

 

 三天結盾を襲ってきた黒髪の女の子の身体に重ねるように発動すると、重ねた場所を綺麗に両断することができる。弧天斬盾でも同じことができるけど、そっちはもう一人の方に使っているから使えない。切断力なら弧天斬盾の方が上なんだけれど、三天結盾でもできないわけじゃない。

 そして斬り落とした下半身、今回は左の太股に歯を立てる。……ウルキオラさんよりちょっと甘め? あとちょっとシュワシュワする……かも?

 

「あぁぁぁぁぁっ!? 脚っ!? アタシの脚ぃぃぃっ!!」

「はむ……んー、いきなり襲い掛かってきたんだから、こうやって反撃されることも考えないと駄目だよ? ウルキオラさんだって現世に戦いに来た以上死ぬ覚悟だって持ってたはずだしさ。ね?」

「そうだな。あそこまで強いとは思っていなかったが、何らかの形で死ぬことは覚悟していたぞ。偶然俺が黒腔を開いた先が隊長たちの集まる場所だった可能性などもあったしな」

「ね? だから、いきなり襲い掛かってきたんだからこうやって殺さ(食べら)れちゃう可能性も考慮して動くべきだったと思うんだ。それでもやりたいなら仕方ないと思うけどさ」

 

 そんなことを言っても聞いていないようで、足が足がと泣いている。いきなり襲い掛かってきたんだから仕方ないと思うんだけどなぁ……。

 それに、まだ終わってないんだから。

 人間の私はおなかいっぱい。でもここからは虚の私がこの子を食べる。人間の私と違って虚の私は大食いだから、人一人分くらいなら簡単に食べちゃうから大変なんだよね。ごはんの準備。今日はご飯の方から……おやつの方から来てくれたから準備しなくてよかったし、虚の私は一度食べればしばらく食べなくても大丈夫だからこれでしばらく安心だね!

 

 それジャあ……イタダキマス。

 




Q.大分飛んだね?
A.ネルたちと会って進んだだけですからね。

Q.織姫さん?
A.今日も元気だおやつが美味い。


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BLEACH~99

 

 side 阿散井恋次

 

 破面の三桁ってのは要するに雑魚なんだと思っていたんだが、どうやら三桁と言うのはかつて十刃の座についていた破面であるらしい。ノリが軽いおっさんに聞いた。

 だが、逆に言うならこいつらは間違いなく今の十刃より弱いってことだ。このくらいだったら俺なら始解だけでも十分に倒すことができる。これでも一応織斑さんに軽くとはいえ鍛えてもらったんでな!なお鍛えてもらった結果俺のあだ名はお情け卍解野郎になったわけだが。

 

 ……お情け卍解野郎……まあ状況を考えればそう呼ばれても仕方ないとは思うんだが……やっぱキッツいな。精神的に。

 ルキアはめちゃくちゃ煽ってくるし、一護はとても可哀想なものを見る目で見てきやがるし、織斑さんは五分で卍解できるかわりに失敗すると確実に死ぬ修行と時間はかかるし効果も確実とは言えないが力を蓄えるだけなら十分な修行と絶対に死なないし確実に強くなれるけどいっそ殺してほしくなる修行とを選ばせてくるし……ちなみに俺は最後のを選んだ。死ぬほど後悔した。と言うかあれ詐欺だろ。絶対に死なない(死なないとは言ってない)とか、あるいは最終的に生きてれば死んでないとかそういうレベル。確かに最終的に生きていれば死んでないはずだがまさか織斑さんがちょっとした術で再現したガチの地獄で修行させられるとか思わなかった。しかもあの場所霊圧が凄まじく、初めのうちは立つ以前に呼吸すら意識してしなければできないくらいだった。今では一応身体を起こすことはできるようになったが、呼吸は少し意識を忘れると止まる。きっつい。

 あと、一番きつかったのはルキアが結構簡単にその場所に入って地獄にしか生えない薬草を集めてたのを見た時だな。副隊長の俺は立てないのに、ルキアは当たり前のように自力で歩いて移動していた。死神の力を取り戻したばかりで本調子じゃないはずのルキアが、だ。精神的に折れそうになった。

 それに、ルキアはルキアで卍解も習得していた。俺の狒々王蛇尾丸と違ってちゃんと斬魄刀の能力をすべて引き出す形の卍解だ。要するに、俺は煽られても仕方がない立場なわけだ。これでルキアが卍解を使えないんだったらいくらでも言い返せたんだろうが、卍解が使える奴には何も言い返せない。俺も早いとこちゃんとした卍解が使えるようになりてえな。そのためには蛇尾丸に俺の事を認めさせねえといけないわけだが……前回の時点でもかなりぎりぎりだったんだよな。霊圧はそこそこ上がったから今度やってみるか。

 

 

 

 

 

 side 四季崎ルキア

 

 袖白雪について、私は今まで誤解していた。袖白雪は空間の温度を下げたりするのではなく、私の身体の温度を下げる斬魄刀だったのだ。

 それを知ったのはつい最近のこと。一護に与えた死神の力が回復し、斬魄刀の調子を確かめていた時に偶然織斑さまがそれを見ていて教えてもらった。何故知っているのかが不思議だったが、織斑さまの場合はよくあることだ。

 袖白雪は私の身体の延長。刀から出した冷気も多少操ることはできるが、それ以上に自分自身の体温を操ることの方がよほど簡単にできる。今のように、私に触れようとした敵を完全に凍り付かせるくらいはできるのだ。

 

 目の前に居た破面を凍らせ、殺した。ガラスの筒のような頭に二つの球体が浮かんでいると言う異形の姿だったが、刀剣開放をしたのちには人間らしい部分を見つける方がよほど苦労させられるくらいの姿になっていた。

 そんな状態で私を喰らおうとしていたようだが、その程度の霊圧で私を喰らおうとしても食えるはずがない。触れた傍から凍り付き、砕け、崩れ落ちる。そこそこに強くはあったのだろうが……相性が悪かったな。喰らうために触れなければならないお前では、私に勝つことはできはしない。触れれば終わり。触れずともこちらは冷気で凍らせることもできる。

 ……しかし、相性が良くても強大な敵であったことに違いはない。遠距離攻撃もあったし完全勝利とは言えない戦いだった。今まで通りに氷を扱うこともできるが、体温を操るとわかっていればそれにも幅を持たせられる。調整の難しい斬魄刀だが、調整できないわけではない。今までも調整してきたわけだしな。

 

 砕けた第九刃の頭をさらに踏み割り、私は進む。井上を救うために前へ前へ。次に誰と、あるいは何と会うのかはわからないが、私の歩みは止まらない。私を助けようとしてくれた相手を助けることに、いったい何の躊躇いがある。私はただ、井上を助けたい。そう思う。

 

 

 

 

 

 side 井上織姫

 

 ロリちゃんシュワシュワ美味しい。解放して少し歯ごたえも出てきたし、シュワシュワも強くなって美味しい。毒? 大丈夫無効化できる。もう一人いたメノリちゃんは解放するより早く食べちゃったし、心が折れて解放しなくなっちゃったからそのまま全部食べた。これ、今夜のご飯を食べたら太っちゃうかもしれないね。この場所はいつでも夜だからずっと夕食もしくは夜食だけどね。

 でもやっぱり今までちゃんと食べた中で一番おいしいのはウルキオラさんなんだよね。黒崎君は漏れ出た霊圧を食べただけだからノーカンね。美味しかったけど。

 

 ……あ、四季崎さん勝ったんだ? すごーい。

 




Q.恋次は未だにお情け卍解野郎?
A.はいそうです。

Q.ルキアって卍解使えるの?
A.この時点で使えます。ただし細かい制御はできないのでできるだけ使わないようにもしています。

Q.織姫はなんでこんなに暢気?
A.実際余裕があるからじゃないですかね?


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BLEACH~100

 

 side 茶渡泰虎

 

 ガンテンバインと戦い、この力にも随分と慣れてきた。虚の力に近いらしい俺の力は、虚圏に来たことによって活性化している。活性化したことによって出力が少し上がったがじゃじゃ馬になった力を少しずつ落ち着かせるために、ガンテンバインとの戦いは好都合だった。特にガンテンバインの武器が俺と同じように拳だったというのも良かった点の一つだ。お互いに同じ距離に身を置いて戦う事で、俺の力のざわめきを抑えるのに役立ってくれたからな。

 その礼と言う訳じゃないが、命はとらずにおいていく。そして代わりに、俺の目に前に立ったこの男と戦おう。

 

「よォ……オメーが一番乗りか?」

「ああ、まあ、そうだろうな」

 

 強い。そして何より硬いのがわかる。動きはそこまで速くない……と言うよりは、速く動く必要が無いと思っているから速く動いていないだけなのだろう。それに合わせたわけじゃあないがこういう奴は恐らく初撃はわざと受けてくれるだろうから左で鎧を撃ち抜く殴り方をする。溜めて、わざと緩めた拳を高速で胸に叩き込む。叩き込む時に一度拳の先端を肌に接触させてから握りこみ、衝撃を体内に通す。それだけで鎧のような固い皮膚を貫通させることができる。

 そこまでやっているにも関わらず非常に硬い。殴りつけた拳の方が痛むほどだ。だが同時に十分なダメージを相手に与えることに成功した。腹部に傷はついていないが、貫通させた衝撃で背中側の服が弾け飛んだのが見えたし、感触からして内臓が一つ二つ潰れただろう。超速再生は破面の場合は残っていないことが多いそうだから多分これで致命傷だろう。解放すると傷が治るんだったか? まあ治ろうが何だろうが俺のできることに変わりはないし、俺のやることにも変わりはない。攻撃を掻い潜って殴る。それだけだ。

 

 口から血反吐を吐いた男に追撃をかけるが、即座に振り回された奇妙な形の刃に阻まれこちらの攻撃が届かない。軽く当てる程度ではあの頑丈な皮膚を貫通するどころか傷一つ付けることもできない。つまり、俺がこいつに勝つためには絶対に左での衝撃通しが必要になるという訳だ。

 だが、それはあっちもわかっているだろう。衝撃通しは相手の外皮がどれだけ硬くとも関係ないが、一瞬の溜めがどうしても必要になる。その攻撃を当てるための一瞬の隙を作らなければ触れることもできないだろうな。

 今の一撃で速度は落とせた。外側も骨も大丈夫だろうが内臓は無事では済まないはずだ。解放されれば傷は治るそうだからできれば開放する前に倒したいところだが……

 

「祈れ!」

「させん!」

 

 掴んでいた柄を殴り飛ばし、武器を吹き飛ばす。死神でも、そして恐らく破面であっても、斬魄刀から手を離した状態での開放は不可能。柄や装飾品などを持っていれば違うんだろうが、今回はそんなものをつかんでいる余裕はないはずだ。

 殴る。吹き飛ばした武器から離れさせるように、そして攻撃を受け止め、受け流し、傷を受けないように。ここでの戦いは途中の物だ。こいつを倒したところでその傷が元で井上を救い出すことができなければ何の意味も無い。戦力を減らすという点では意味があるのかもしれないが。

 接触まで十分の一秒も必要ないような近接距離で解放しようとするという大きな失敗の隙をついたからこその現状。ともかく解放を防ぎ、追い詰めていく。顔面を撃ち抜き脳を揺らし、膝が落ちたところで内臓に衝撃を打ち込み、相手の異様に硬い素手での攻撃を盾で防ぎ、反動で移動しようとした相手の脚を踏みつけて動きを止め、更に殴りつける。足を踏みつけたままひたすらに殴り合う。殴り、防ぎ、殴り、躱し、躱され、殴り、弾き、殴られ、殴り返し、そんな戦いをひたすらに。

 恐らく最初の一撃で相手の内臓が潰れていなければ俺は簡単に負けていただろう。ヤミーと呼ばれていた男の時もそうだったが、最近の俺はそういうことが多すぎる。これからも鍛えておかなければまた同じように苦戦するか、もしくは簡単に敗北してしまう事だろう。

 

 破面の身体の構造は人間のそれとあまり変わらない。脳を揺らせば脳震盪を起こすようだし、喉を潰せば喋れなくなる。こいつの場合は虚閃を突き出した舌先から撃っていたのでそれに合わせて下から殴りつければ簡単に舌を噛み切らせることもできる。数字の書かれた舌と血液が白い砂漠にまき散らされ、俺はお構いなしに殴り続ける。

 殴って殴って殴り続けて、最後に思い切り溜めた左の拳で頭を横から撃ち抜く。脳味噌が思い切り振られた豆腐のようにぐずぐずになっていくのが衝撃を通した時の感触でわかる。ほんの一瞬の虚化によって威力を上げていなければこれも今までと同じように脳震盪を起こすかどうか、という程度に収まっていただろうな。虚化について色々と教えてくれた一護や力の大本をくれた織斑さんに感謝しておかなければ。

 こいつはガンデンバインのように命は置いていく、などと言っていられる相手ではない。ここで殺さなければまず間違いなく傷を治して俺達に突っ込んでくることだろう。それも斬魄刀を解放して今よりも能力が上がった状態で、だ。御免被る。

 

 お前に恨みはないが、悪いが死んでくれ。

 

 

 

 

 

 side 井上織姫

 

 ……!激辛クリームコロッケの霊圧が……消えた……!?

 

「待て。激辛クリームコロッケとは何だ」

「えっと……五番の人の味?」

「……ノイトラか」

「多分その人。ちなみにロリちゃんはコーラサワー、ウルキオラさんは自然の甘さを生かした葛餅?」

「…………そうか」

 

 なんだか頭痛そう……大丈夫?

 

「この状況にある時点で大丈夫ではない」

「そっかー」

 




Q.大金星やな!?
A.0と5を倒してますしね。大金星です。

Q.井上ェ……
A.そういうキャラ付されてるからね。仕方ないね。


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BLEACH~101

 

 side 石田雨竜

 

 銀筒をいくつか並べておきます。

 位置を合わせます。

 濃縮霊子を零します。

 勝利。以上。

 

 流石にわかりにく過ぎるだろうからもう少し詳しく説明しよう。まず初めに僕は霊子の感知が上手い。そしてそれによってかなり離れた位置から相手の位置をつかむことが可能である。

 次に、織斑さんに持たされた銀筒がまだまだ余っている。故に僕は相手の攻撃の届かない位置から巨大な滅却師十字を描き、しかしただ作っただけでは流石に出力が足りないので銀筒でゼーレシュナイダーの効力を上昇させたうえで濃縮霊子を叩き込んだ。これによって破芒陣が発動し、相手は自分がなぜ死んだのかもわからない状態で死に絶えた。

 

 つまりはそういう事なのだが、これ以上の説明をしていられるほど僕は暇じゃない。このあたりで失礼させてもらうよ。邪魔な柱や壁を霊子にまで解体しながら移動する作業が残っているからね。あと苦戦している奴がいたら手助けに行ってやらないといけないし、この場所で一番高い所に陣取って……いや、駄目か。高い所には大抵強い霊圧がある。鉢合わせになったら面倒だし、こちらから全体が見えるということは全体から僕が見えるという事にもなる。狙撃手が目立つというのは命の危機だ。僕は狙撃手ではなく滅却師だけどね。

 ……おっと、そんなことを言っていたら危なそうなところを見つけた。撃っておこう。

 

 

 

 

 

 side 四季崎ルキア

 

 破面というものを少し舐めていたかもしれん。私は目の前にいる褐色肌の妙な破面を前にしてそう思っていた。

 十刃のうち私が倒したアーロニーロという男……男? は第九刃であり、十刃の中で唯一の下級の大虚だったらしい。そして今私の目の前にいるのは第七刃であり、上級大虚。下級大虚がどれだけ多くの虚を喰らって強化されてきたとしてもただ格の差があると言うだけで引っ繰り返される。下級と上級の間にはそれほどの差が存在しているようだ。

 それが理解できたのは、私に向けて二人の褐色の男が斬りかかってきた時だった。瞬歩とは違う、確か響転とかいう名が付けられた高速移動歩法に独特の足さばきを加えることで分身しているように見せるそうだが、このくらいなら織斑様に見せてもらった分身の方が脅威であった。なにしろ織斑様は軽く二百人ほどに増えるからな。

 

 ……だが、あの速度が相手となると白蓮は使えない。月白を相手の移動に合わせて即座に使えば効果があるやもしれんがそれもあの速度が相手ではタイミングが難しい。白船はそもそも通常の刀を当てるのも難しいというのにどうしろと。

 まあ、やりようはある。要するに回避しようとしても回避できないような攻撃をすればいいわけだ。

 

 私の身体を冷気が覆い尽くし、周囲の全てを凍てつかせていく。身体の表面から白船と同じ氷の刃が生え、折れて袖白雪と同じ形に整えられる。何本も何本も同じものを作り上げ、浮かせる。袖白雪は私の体温を操る刀だが、同時に氷を操ることも不可能ではない。でなければ白蓮を狙った方向に撃ち出したり、白船で刀を精巧に作りだしたりすることはできないはずだからだ。しかしできている。つまり袖白雪は氷も操ることができる。そういうことになるわけだな。

 その事実にきっかけを得て、義兄様の技を私なりに再現したこの技。

 

「殲景・白船千本桜」

 

 宙に浮かぶ無数の凍てつく刃。全方位を覆った刃の檻を回避するには空間を越える以外に術はなく、例え弾いたとしても砕けた刃は瞬時に再生し、増殖する。

 触れればその部位から凍り付き、動きを阻害する。動きが鈍れば更に刃が突き刺さり、敵の身体を内外から凍結させていく。外からだけならばたいしたことが無かったかもしれないが、体内から凍らされるのは中々に効くだろう?

 

 全身が凍り付いたならば、後は一つ叩くのみ。凍り付き、脆くなった体でその衝撃に耐えられるわけも無く、男は砕けて崩れ落ちた。完全に凍結した身体からは血が噴き出ることも無く、崩れ落ちて床に叩きつけられさらに細かく砕けていく。

 ……ふと、思い出した。私はこやつの名を知らぬ。背後から襲い掛かられたから刀を防ぎ、話をさせぬように攻撃を行い、そして最後に完全に凍らせて砕いただけ。名前も、得意な戦い方も、解放の姿も名前も知らぬ。解放前の戦い方からして恐らく速度を生かした戦いをするのではないだろうか? まあ、いまさら何を言ったとしても確認する術などありはしないのだが。

 

 ……しかし、疲れた。この技は霊力をかなり消耗する。一本一本を袖白雪と同じように私の身体の延長とするからこその負担だが、それが無ければこの技は一気に弱くなってしまうから仕方がない。今はただ勝つことができたことを喜ぶべきだ。白船自体はそこまで大した消費でもないからこそ可能な技なのだが、もしもこうして増やした袖白雪全てで月白や白蓮を実行したら間違いなく枯れて死ぬな。うむ。

 死なぬようにするには私自身の能力をさらに上げるか、もしくは新たな燃費のいい技を覚えなおす必要があるかもしれん。殲景・白船千本桜の代わりになるような技……今は思い浮かばんな。またいつか修行に付き合ってもらうとしよう。

 

 ただ、今は少し休もう。流石に十刃との連戦は堪えた。

 




Q.石田はどこに撃ったの?
A.この後出てくるから待って(直後とは言ってない)

Q.新技できてる……。
A.かなり強力な新技でした。

Q.ところで井上的には十刃の皆さんはどんな味?
A.
1.ジビエ系のお肉
2.小学校で受けてた苛めで食べさせられたチョークが一番近いかな?
3.鯛ダシのお吸い物
4.自然な甘さの葛餅
5.激辛クリームコロッケ
6.レモンとキウイのフルーツサンド
7.中途半端にぼやけたサッカリン
8.卵抜きのゴーヤチャンプルー
9.満漢全席を一口に集約しちゃった感じ
10.塩


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BLEACH~102

 

 side 黒崎一護

 

 走り続けて到着したのは、なんかよくわからねえが異様に広い一室だった。家から下まで全部が白く、こんなところに長くいたら発狂しそうな気すらする。

 だがまあそんなことは気にせずとりあえず目の前で堂々と立っていた桃色の髪の男に開幕で月牙天衝を叩き込もう……として、失敗した。圧縮が上手くいかなかったわけでも飛ばすのが上手くいかなかったわけでもなく、圧縮して飛ばした上で散らされた。

 

「おいおい、いきなり先制攻撃とはせっかちだね」

「急いでるんでな」

 

 一応もう一度、ただし今度は斬月にだけ任せるんじゃなく滅却師としての能力で霊子の圧縮を解除させないようにしてみたが、どうやら多少の効果はあったようで僅かに傷がついたのがわかる。ただ、それでもほとんどの部分は散らされた……と言うより無効化されたというのが正しいのか、触れても傷を負っているように見えなかった。どうなってんだあれは?

 

「無駄だよ、黒崎一護。君の霊圧とその技に関しては全て解析済みだからね」

「マユリみたいなことを言いやがるな」

 

 もう一度斬月を振る。飛んでいく斬撃に呆れたような顔を浮かべ―――しかし気付かれたようで即座に避けられた。

 今回飛ばしたのは月牙ではなく単なる剣圧。俺の霊圧でできた月牙は分解できても、この場所の霊子をかき分ける衝撃そのものである剣圧までは用意していた物では防ぎきれなかったんだろう。その回避で俺から視線が逸れた瞬間に響転を使って霊圧知覚に触れないように高速で移動し、斬月を突き刺して腹の中に直接月牙を叩き込む。例え月牙が拡散されたとして、腹の中に直接撃ち込まれれば拡散する場所は腹の中だ。水が密閉空間で水蒸気になったら一気に体積が増えることで内側から凄まじい圧がかかって密閉空間が持たなくなるのと同じように、こいつの身体が内側から爆散するだろうと思って実行してみたんだが……思った通りとはいかなかったが結構なダメージは通ったらしい。全身が内側から裂けてボロボロになっているのが見えた。

 しかし一旦俺の行動はここまで。背後から覚えのある霊圧が俺に向かって襲い掛かってきていた。斬月を引き抜き、後ろから迫ってくる相手の剣を受け止める。その隙につい今まで押していた相手は距離を取り、そして近くに居た小さめの部下を食い始めた。

 何をしているのかと思うがすぐに気づく。こいつが部下を食うほどに自身の傷を治している。止めるには目の前のこいつをなんとかしないといけないわけだが……面倒なことになってきた。

 

 確認のためネルを置いてきた入り口の所に視線を向けると、そこにネルの姿はない。近くにネルの霊圧も無い。そして目の前の緑髪の女は、ネルと桃色の髪の男の中間のような霊圧……いや、ネルの霊圧の中に桃色の髪の男の霊圧が混じったような霊圧をしていた。

 

「まっ……たく、無茶苦茶してくれるじゃないかこの馬鹿めがッ!!!」

「うるせえよ。敵なんだったらそりゃ殺すだろ」

「へぇ? それじゃあ君の前にいるそいつも殺すのかい?」

「それが必要なんだったらな」

 

 まあ、必要はなさそうだが。

 ただ、こういう輩には同じ手は通用しねえし時間をかければかけるほどに不利になっていく。俺自身の霊圧を解析したってんなら虚化なりなんなりして霊圧を変えればいいだけの話なんだが、こいつがどうやって俺の霊圧を解析して来たのかがわからねえ。予想じゃ多分ネルの身体になんかしてるんだとは思うが、確定じゃねえしな。

 

 ともかく斬る。ネルには悪いが死なない程度に斬りつけて、そして再び桃色の髪の男に今度は虚化した月牙を叩き込む。しかしこれもかなり減衰させられるようで、傷を負わせることはできたが深くない。追撃は傷をおして動いたネルに防がれ、俺は舌打ちを一つ。多分これで虚化した時の霊圧も解析された。後は元の俺の霊圧の圧縮を解除するしかけを虚化の時の俺の霊圧に合わせて使えば俺は黒い月牙も使えなくなるだろう。こうなる前に決着をつけたかったんだが……。

 桃髪の男は今度は回復はしなかった。代わりに刀を抜いて解号を唱える。瞬歩で間合いを詰めようとするがネルの響転に抑え込まれる。虚化してないと響転が使えないのは地味に面倒だな。

 しかし改造されたからと言ってただの破面だったネルがここまで強くなるのか? 確かにネルには普段出している力は上限に掠りもしてないように思えたが、ここまで強いってのは予想外だ。

 

「啜れ、『邪淫妃(フォルニカラス)』」

 

 解放の仕方がキモイ。いや今はそんなことを言っている場合じゃない。いやだが本当にキモイ。具体的にどれぐらいキモイかと言うと四肢を同時に失ってしかし四肢を同時に再生しようとするマユリくらいキモイ。マジで。

 だからこんなことを考えている暇はない。仕方ないのでネルの胴体に斬月のでかい方をぶち込み、壁に磔にしてから桃髪の男を狙う。小さい方の斬月に完現術を使うと虚の俺が出てくるが、でかい方の斬月に完現術を使うと俺の中の滅却師の力、すなわち斬月のおっさんが出てくる。虚の俺の方は現世でネルに見せているから少しくらいデータが取られているかもしれないが、滅却師の力の方はほぼ見せてもいないし大丈夫だろう。抑え込むにも滅却師の力の方が向いてるしな。

 俺の霊圧を突き刺した相手、この場合はネルに身体に流し込み、血管を使って全身に静血装をかける。こうすることで身体を動かせないようにすることができる。これで一対一だ。まあ虚閃が飛んでくる可能性もあるから注意はしているけどな。

 

「ハァァァァァァ~~~~~~~~~~……待たせたね。今更だけど自己紹介と行こうか。僕の名前はザエルアポロ・グランツ。第八刃(オクターバ・エスパーダ)だ」

 

 言葉の直後、何かキモい奴がなんかキモい液体をそこら中にぶちまけた。キモい。

 




Q.なんかキャラおかしくない? また発狂してるの?
A.また発狂していると言うかまだ発狂していると言うか……

Q.発狂治したって言ってなかったっけ?
A.一護君の中にはもともと狂ったようなのがいるでしょう? 日々殺し合いのような鍛錬をするでしょう? 自分の死体を見てSAN下がるでしょう? 再発狂ですわ。

Q.ところでネルはどうなってんの?
A.解説大好きなBLEACHキャラなら解説してくれますよきっと。


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BLEACH~103

 

 side 黒崎一護

 

 なんか出てきた液体は全部回避したが、壁に磔状態のネルにかかってその効果がわかった。ネルにかかった液体はぼこぼこと膨れ上がり、ネルとまるきり同じ姿に変わる。胴体に突き刺した斬月の傷などは複製されていないから、これは多分接触した相手の完全な状態のクローンを作るとかそういう能力なんだろうと推察できる。

 要するに、それに触れるとほぼ詰みだという事だ。

 

 でかいネルの姿をした奴らが一斉に襲い掛かってくる。本体のネルを巻き込まないようにするのは難しいが、できないわけじゃない。それよりも気を付けるべきなのはあいつが足元から伸ばしている気持ちの悪い花のような何かだろう。一体あれが何かはわからないが、ろくでもないものだという事だけはわかる。虚の出してくるものにろくでもない物じゃない物ってあったっけか? 少なくとも俺には覚えが……ああいや、俺の中の虚は別な? だってあれ俺だし。

 ネルの本体はでかい方の斬月が無理矢理固めてるから大丈夫だろうし、静血装の効果で頑丈さも上がってるから巻き込まれたところで早々死にはしないどころか傷一つ付かないはずだ。少なくともあの程度のが相手なら。

 そうして偽物を斬り捨てているうちに、俺が伸ばされた触手みたいなものの上に立たないのに焦れたのかザエルアポロが話しかけてきた。

 

「ところで、どうして彼女が君に近づいたのか知りたくないかい?」

「さっき自分の部下を改造とか言ってたからな。改造した結果小さくなったのか大きくなったのかは知らねえがお前が原因だろ」

「その通りさ!君は知識はあまりないようだが察しは良いね。だが、少し違う。

 彼女は元・十刃でね。色々あって仮面をたたき割ってやったんだけど、その時の傷から霊子が漏れ出して身体が縮んでね。面白そうだから僕が検体として貰ったものを改造して使えるようにしたのさ。力を封じるも出させるも自由自在、身体の大小もね」

「……成程。ちなみに席次はどの程度なんだ?」

「第三刃さ」

 

 強いわけだ。藍染が崩玉を手に入れる前と後では実力が大きく違うってのは聞いてたが、ネルはどっちなんだろうな? 戦ってみた感じだとウルキオラに少し届かない程度って所だが、刀剣解放があるからどこまで伸びるのかわからない。

 それからもザエルアポロの御託は続く。藍染がネルに完全催眠をかけているから本来なら特殊な能力を使えないところを使えるようにしているとか、身体を動かしているのはザエルアポロ自身の触手を飲ませたことで身体を乗っ取っているからだとか、自身の能力をよくもまあペラペラと話すもんだ。今の俺には理解できない。

 あと、そうやって話をしている間に足元に触手を伸ばしているようだがこんなものを受ける訳がない。わからないなら受けるかもしれないがわかってて受けるにはそれなりの理由があるだろう。例えば、周囲にいるネルのクローンたちが一斉に襲い掛かってきたりとかな。

 流石に月牙がまともに使えない状態で一気に襲い掛かられるときついんだが、何故かそれをやってこない。大半はすでに落としているし、ついでにネルに向かっている触手も偶然を装って斬り落としているんだが……難しい。

 俺の事を挑発しようとしたのかネルについて聞いてもいないことをいろいろと教えてもらったし、ついでに本人の能力についても多少。わざわざ敵に自分の能力を説明するとか何なんだこいつ……?

 

 だがまあ、正直そんな説明をされたところでだからどうした、以外の言葉が出てこない。ネル本人は味方かもしれないが誰かに操られている時点でほぼ敵だ。今の俺は少し前のように味方だろうが必要なら問答無用でぶった切れるほどおかしくはなっちゃいねえが、それでも動きを抑えるために腹をぶち抜くくらいは普通にできる。

 ……ぶち抜いた時にネル以外の霊圧に掠ったんだが、多分あれはザエルアポロの霊圧なんだよな。あれがネルを操っている触手の残滓みたいなやつなんだろうか。体内に入ると溶けて神経に侵入することで体を動かすとか言っていたから、あれで動かしているんだろう。

 いくら何でも虚の集合体である大虚に寄生した別の大虚を選択的に滅ぼすとかは俺にはできない。そういう特殊な能力は俺には無いからな。

 

 つまり、ネルを助けるなら操っている本人を倒す以外に道は無いということになる。

 

 実のところ、斬月には卍解の形態が二つある。虚と滅却師と死神の力がすべて同一化した大剣の卍解と、今のように虚の力と滅却師の力が独立した状態の二刀の卍解。出力に関しては間違いなく大剣の卍解の方が上だが、今それを使うとネルの本体が自由に動くようになってしまうからそっちは使えない。なので加減して卍解を使う。

 現れたのは白く短い細身の刀。俺はそいつを振りかぶり、周囲のネル達に剣圧を叩き込む。綺麗に胴体が両断されたネル達は形を保てなくなったようで溶け崩れるが、それに気を取られることなくザエルアポロに剣圧を打ち込む。

 同時に瞬歩でザエルアポロに背後に回り込み、回避しようとする背中を抑えてさらに剣圧を打ち込む。月牙が使えないのは本当に不便だが、まあ仕方ない。

 足元から背後に伸びた触手を両断し、返す刀でザエルアポロを縦に割る。綺麗に二つに割れたが、心配なので更に繰り返し細かく細かく切り刻んでおく。

 

「……一護ぉ」

 

 声をかけられて振り向くと、そこにはさっきまでの人形のような状態ではなく、しっかりと意思の光をたたえた目をしたネルがいた。出血は斬月のおっさんに止めてもらってるし、傷らしい傷は腹に刺さった斬月のみで……

 

 ザエルアポロの霊圧が消えていない。

 

「僕を、殺したと思ったか?」

 

 気味の悪い触手がネルから生え、話しかけてきた。

 




Q.待ってこれ勝てんの?
A.さあ? でもまあ主人公(一応)だし勝つんじゃないですかね?

Q.そんなことより織姫的に護廷のみんなの味が気になるんですけど。
A.面倒なんで隊長格だけね。
元柳斎.炭
砕蜂.炭酸入りの蜂蜜
一夏.普段から霊子を放出してないから食べられない
卯ノ花.鉄錆と消毒液
藍染.甘苦く渋みもある、織姫曰く『諦観の味』
白哉.熟しきってない酸味の強いさくらんぼ
狛村.……なんか、汗? みたいな?
京楽.梅の糖蜜漬け
東仙.イナゴの佃煮
日番谷.かき氷(ポン酢)
更木.死臭と鉄錆
マユリ.強いて言うなら多種多様な薬剤を下水でごった煮にしたような味
浮竹.湿布薬



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BLEACH~104

 

 side 黒崎一護

 

 触手は語る。自分の能力で最も重要かつ最も誇るべき能力について。

 死した時、敵に自身を孕ませ、完全な状態で再誕する能力。死を超越するのではなく、死すらも自身の生命の循環の中に取り込む能力。それを称して完全なる生命。ザエルアポロは誇らしげにそう嘯いた。

 

 ……ネルは、まだ死んでいない。ただし非常に衰弱していて、放っておけば死んでしまいそうだ。伸ばされたザエルアポロの触手を両断しながらこいつの倒し方を考える。殺しても復活する。遠距離からの攻撃は月牙が使えない以上効果が薄い。近距離の場合ザエルアポロの能力によって卵を植え付けられる可能性が高い。ならどうするか。

 周囲を感知する。近くに味方の霊圧は無い。効果的な遠距離攻撃ができる石田の霊圧も感じ取れない。そしてさっき気付いたんだが、少しずつ剣圧の威力が落ちてきている。この周囲の霊子の解析と支配を進めているらしい。本当にこういう奴には時間を与えちゃいけねえよな。

 

 まだなんとかできるうちにこの場所の天井と壁を斬り落とす。この中に居る限り月牙は使えないって話だったから、この宮殿を丸ごと崩壊させることで縛りを消しておく。ネルは斬月のおっさんが静血装で守ってくれてるから大丈夫なはずだし、もしも石田に余裕があればこれで場所に気付くだろうし、土埃が収まれば視線も通るようになるだろう。霊圧感知に長けているあいつに視線を通す必要があるのかどうかは知らねえけど。

 

 そしてここを壊した事で霊圧感知がやりやすくなった。チャドはボロボロになってはいるようだが生きている。ルキアは殆ど傷を負ってねえな。石田もだ。恋次は今まさに戦闘中、って所か。みんな強いな。

 

「……やれやれ。僕の宮をこんなにしてくれちゃって」

「いや普通やるだろ。お前が言ったんだぞ? この宮はお前の支配下にあっておよそ思い通りにできると。だったらとりあえず面倒な追加が来る前に弱体化を狙って潰そうとするだろうがよ」

「なるほど。戦いに生きる奴の考えはわからないね」

「戦いに生きてるんじゃなくて生きるために戦ってんだよこっちは」

 

 月牙を放つ。宮の仕掛けが無くなったおかげか普通に撃つことができたが、回避される。最近月牙も回避されることが増えてきたよな。まあ回避されるのを前提に使ってる俺も悪いのかもしれねえねど。

 回避された月牙を切り返して背後から斬りつける。今度は当たったようでその場に崩れ落ちるが、とりあえず近くに伸ばされた触手を斬り捨てる。ネルの方に向かっているのも斬り捨てる。しかし今度はあいつ自身の部下に卵を産み付け、そして再生。部下の数がそのまま残機になるとか本当にめんどくせえな。

 こういう面倒な奴への対処法……確か織斑さんはなんて言ってたっけか……?

 

『何度倒しても復活する奴? 超再生によるものなら過剰再生で暴走させれば死ぬぞ』

 

 超再生じゃないんすよ。なんか倒すと寄生してきて再誕してくるんですよ。

 

『後はあれだ、どこかに卵とか用意して殺されるたびにそっちに移動する奴なら先に卵を全部潰しておけばいいし、誰かの身体を乗っ取って精神だけで復活する奴なら心を折ればいい』

 

 卵は後出しで産み付けてくるんでその対処は無理っす。精神攻撃は……すんません俺精神攻撃の仕方とか知らないんでちょっと……。

 

『めんどくせえ奴だな。一番脳筋な方法でやるなら相手の存在そのものを一番小さい霊子単位にまで分解すれば無害になるぞ。どんな猛毒だろうが酸素原子、炭素原子、窒素原子、水素原子レベルにまで分解すれば無害になるようにな』

 

 それだ。確か石田がなんかやってたはずだ。滅却師の能力で周囲の霊子を強制的に分解して自分に引き付けるってのが今回の最適解だと思う。できるかどうかは置いといてな。

 問題は俺の滅却師の力を扱ってくれている斬月のおっさんがネルの動きを止めるのに使われてて俺一人だとそれができないことくらいか。石田の真似をしてみたが、俺に触れるか触れないかって所にある霊子を俺の周りに引き付けて使うことはできそうだが、距離が離れている上に本人も霊子を扱う能力を持つ奴を相手に無理矢理分解とかはできそうにない。もしできるとしたら、相手の霊子の結合が突然緩んだりした時くらいだろう。月牙はそういうのには向かないからどうしようもねえ。

 

 だが、どうやら何とかなるようだ。

 ザエルアポロの頭に霊子の刃が生えた。いや、遥か彼方から石田によって飛ばされてきた武器がザエルアポロの頭を貫いたのだ。

 そしてその武器は霊子を分解することに長けていたようで、結合を一気に緩まされたザエルアポロはぐずぐずに崩れていく。石田がザエルアポロだった霊子を集めているようだが、石田から恐らく見えていないだろう地下に張り巡らされた触手やネルの体内にあって支配権が失われた触手を俺が解体していく。石田の武器を見て霊子の分解に振動を使えばいいことはわかったから、見よう見まねでやってみたんだが……割と上手くいったな。振動の音が明らかに俺の方が低いから振動数は向こうの方が遥かに上だろうが。

 

「……いちご……?」

「おう」

 

 ザエルアポロが身体の中からいなくなり、自由に動けるようになったはずのネルは、また小さくなっていた。これから大きな姿に戻ることがあるかどうかはわからないが、今はとりあえず無事だったことを喜べばいいだろう。後の事は後で考える。

 多分まだこっちを見ている石田に手を振っておく。なんか鼻で笑われたような気がしたが、ある意味それでこそ石田だ。

 

 そんじゃ、井上の所に行くか。

 

 

 

 

 

 side 井上織姫

 

 ゴーヤ炒め(ザエルアポロさん)の霊圧がニラ玉(石田君)の霊圧に呑まれて消えた……? これは……石田君は他の誰かの霊圧を取り込んで自身を強化することができるようになったのかな? 凄いね石田君。

 それに、黒崎君も凄い。十刃の人と戦ったのに殆ど怪我もしてないし消耗もしてない。ただ、一緒に居たA5ランク特上和牛っぽい味の誰かはいったいダレダロウネ?

 

 ……ちょっと気になったからウルキオラさんをちっちゃくしてポケットに入れて、お出かけしよっと。

 




Q.石田の矢ってこれ?
A.そうこれ。見事に決め手になってくれました。

Q.ここの石田ってなんかサポートで美味しい所持って行くの多くね?
A.一番遠距離攻撃が多彩で使いやすいからね。仕方ないね。

Q.そんなことより織姫的に現世の皆の味が気になるんですが。
A.仕方ないにゃあ……。
一護.(織姫補正付きで)天にも昇る味。表現不可。
石田.ニラ玉
チャド.ひややっこ(醤油)
ルキア.かき氷(薄荷油)
恋次.下処理が不十分なテールステーキ
浦原.芥子の実
夜一.銅と亜鉛を一緒に口に含んだら電気が通っちゃったような味(曖昧)
たつき.いちごジャムとバターを挟んだクロワッサン
夏梨.チョコミント
一心.焼きたてのバーガーのバンズ
真咲.濃い目の甘酒




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BLEACH~105

 

 side 阿散井恋次

 

 第六刃、グリムジョーって奴と戦い始めてからどれくらい時間が過ぎただろうか。正直よく覚えてねえが、一時間以上は戦っている気がする。

 そもそも俺の卍解とこいつの戦い方の相性が悪すぎる。速度と高威力の接近戦を主体とする相手に狒々王蛇尾丸は巨大すぎて当てにくい。加えて言うと卍解の力を完全に使えるわけじゃねえからな。それはお情け卍解とかそういう話ではなく、単純に四か月と少し程度の修練では卍解を扱いきるだけの修練を積めないというだけの話であって時間さえあればもう少し何とかなるだろうとは思うんだが、さて……?

 

 グリムジョーの放つ巨大な虚閃を狒骨大砲で僅かに弾いて直撃を避け、圧縮されすぎて実体化した霊子の煙を引き裂くように狒々王蛇尾丸を噛みつかせる。片腕片足で抑えられてしまうが重要なのは動きを止めたということ。蛇尾丸の咢を思い切り閉じさせながら叩きつけるが、叩きつける直前に抜けだされた手ごたえがあった。

 蛇尾丸を最速で縮めることでその場から離脱すると、俺のいた場所を貫通するように棘のような物が飛来する。俺を追ってくるようなことはないようだが、破壊力が凄まじいのは外した棘が突き立った砂漠が大きく抉られるのを見ればわかる。あんなもんを喰らったら流石に無傷じゃ済まねえな。と言うか死ぬんじゃね?

 だがそんなこと考えてる時間もありゃしねえ。爪を防ぎ、蹴りも防ぎ、必死になって蛇尾丸を操り続けるが俺にはどんどんと傷が増えていく。一応当たれば傷つけることはできるんだが、どうにも当てづらくて仕方がない。これで当てても効果が無いんだったら諦めもつくんだが、当たれば倒せる可能性は十分あるから諦めきれない。

 始解の蛇尾丸なら当てること自体は簡単になるんだが、それだと今度は威力が足りずに弾かれちまう。霊圧強度は負けてないから一応傷は入るんだが、致命傷まではとても届きそうにない。一護の奴はこいつより強い奴を始解のまま倒したってのに、何とも情けねえ話だ。

 

 ……今回送り出してくれた織斑さんは、俺がこっちで何の成果も得られないままただ倒されるだけとかそんな情けない状態になったら俺の恥ずかしい秘密(内容についてはその時まで秘密)をぶちまけると言ってきた。そりゃもう必死にもなる。相手は織斑さんだ。俺らの事を小さい頃から知っているし、総隊長の秘密まで普通に知っているような人だ。そりゃ俺の秘密くらい知ってるだろう。内容がどんなのになるか今から怖い。

 ともかく、俺がここで倒されたら俺の秘密をぶちまけられる可能性が非常に高い。と言うかあの人なら絶対にやる。間違いなく。だって相手は織斑さんだし。

 何が何でも負けられない。何をばらされるかわかったもんじゃないからな。と言うか、何をばらされたとしても致命傷寸前になる気しかしない。いっそ一撃で息の根を止めてくれと思わないでもないが実際にそれを口にするとマジでやってくるから言えねえ。

 

 だが正直手詰まり感が否めない。このまま戦いが続けばいずれ俺の反応が間に合わなくなって致命傷を受けることになるのが目に見えている。何かきっかけが欲しい。この状況を打破するきっかけが。

 しかしそんなことを望んだところで何が起きるわけもない。俺には俺のできることをやるだけだ。それにこいつがここにいるということは、当たり前だが俺が戦っている間はこいつは他の所には行かねえということになる。最低限それだけでいい。

 

 自覚はあった。俺は今回虚圏に突入するメンバーの中で一番弱い。いや、正しくは手札が少ないと言うべきだろうか。

 一護のように圧倒的な基礎能力があるわけじゃない。

 茶渡泰虎のように小回りと威力の両立もできない。

 滅却師のように遠距離攻撃もできないし、霊子を扱うのも上手くない。

 ルキアのようにおよそあらゆる盤面に使える技も持っていない。

 わかっていた。俺が一番中途半端だと。

 

 だが、だからと言って諦めるわけにはいかねえ。グリムジョーは一護を狙っているらしい。そして一護は恐らく今誰かと戦っている最中だ。そこにこいつと言う敵が増えるのはいくら一護でもきついだろう。

 だからこそ、ここで俺が食い止めるくらいはしておかねえといけねえ。

 

 刃節を外し、狒々王蛇尾丸を刃節だけで動かす。本来俺の霊圧で繋げている刃節を外すことで一つ一つの動きを読みづらくし、一度に多方向から攻撃することも可能になる。頭以外の攻撃はあまり通らないが、それでも繰り返し同じところに何度も傷をつけていけば全く通らないことはない。いくら硬くても全く傷つかないわけじゃないなら、やりようはある。

 普段の蛇尾丸でやるように、何度も何度も同じ場所を斬りつける。斬ると言うより抉る、抉るというよりも削ると言った方が正しいような傷しかつけられないが、それでも傷は傷。何度も繰り返し削っていけば、皮膚から肉に傷が到達するのは必然だ。

 まあ今の状態に持って行くまでにかかった時間とこっちが受けた傷を勘定に入れると割に合わねえってレベルじゃ済まされねえぐらいに負担かかってるけどな!

 そして、こいつには超速再生能力はねえ。削れば削るだけ弱体化させられるし、こいつらの解放が俺達の卍解に相当するものだというのならば解放中に一度削った傷は一旦解放をやめてから再度解放したところで簡単に治るものじゃねえはずだ。元々の姿に傷がついてんだからそりゃそうだよな。同時に狛村隊長の卍解みたいに時間があれば治るのかもしれないが、そんな時間は今とれるようなものじゃねえはずだ。

 

 今、一護の所にあった霊圧が消えた。なんでかあそこの霊圧は何度も数を増やしたり減らしたりしていたからよくわからねえが、多分あっちは終わったんだろう。

 だったらもう、俺も勝つしかねえよなァ!

 




Q.そういや相性最悪だよな……勝てんの?
A.原作の流れのままザエルアポロと戦うよりは勝ち目がありますね。

Q.勝てんの?
A.2:8で負けます。結果はこれからサイコロで決めます。

Q.勝つの?
A.ちょっと待ってて(コロコロ)……マジかよこいつ勝つわ。

Q.勝つんだ……
A.恋次「なんでちょっと残念そうなんだよ!?」

O2.「そんなことより黒崎君食べたい」
O1.「私も食べたいけど我慢ね」



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BLEACH~106

 

 side 井上織姫

 

 閉じ込められてしまった。私が、ではない。私達が、だ。

 黒崎君たちがここにやってきた道は封鎖され、こちらから現世に戻ることはできないようにされてしまった。もしも内側から道を開ける人がいるなら話は変わってくるのだけれど、私も私の中の虚もちょっと無理。そしてその上で十刃の一番、二番、三番の人は現世の空座町を使って鍵を作るために出ていってしまった。

 そしてそのことについては一緒に現世に向かった東仙さんが鬼道で黒崎君たちに伝えていたから多分もうみんな知っていると思うけれど、なんだか色々ちぐはぐだ。

 そもそも戦いに行く必要なんてない。本人が行く必要もない。私を虚圏に引き入れたらその場で鏡花水月を使っておけば済んだ話のはずだ。私がいるように錯覚させる……のは、見せていない人が多いから無理だとしても、初めから十刃全員を空座町に送り込んでおけば流石に黒崎君でも勝てなかったはずだ。それにそれぞれの能力は何となくわかるけれど、ウルキオラさんより上は広域破壊が十分にできる系統の刀剣開放のはず。特に二番のお爺ちゃんは尋常な方法では防ぐことのできない技を使うのだから、搦め手の苦手な黒崎君相手なら完封できただろう。

 なのに、あのお爺ちゃんたちは連れて行って他の全員を残していった。それも留守の間ここがどれだけ壊されても問題ないと言うかのように留守役を誰に任せるでもなく無造作に。

 

 もしもあの人が求めるものが王鍵なんてものじゃなかったとしたら。そもそも初めから尸魂界が想定していたのとは全く別の理由であの人が動いていたとしたら。その計画の着地点は一体どこになるのか。

 考える。一体何が目的なのか。考える。甘いものが欲しくなってきたのでウルキオラさんを抓みながら考える。

 私の知らないことも多い。けれど私の知っていることもある。私の知らないことに関して私が考えても推測にしかならないから一旦置いておくとして、あそこまでの事をして求めたものとは一体何なんだろう? 多分、一応王鍵や霊王と呼ばれる誰かの所に行くことも目的の一つではあるんだろうけれど、本命とは思えない。実は本命はあの人がすでに殺していた四十六室の命であって、他の物はそこまでやってしまったついでに得ようとしているだけなのかもしれないとすら思う。実際どうなのかは私にはわからないけどね。

 

 虚夜宮の中で最も高い場所、尖塔にある玉座の間で私は座り込む。以前見せてもらった崩玉はすでにこの場所には無く、私にできることは……これくらいだろうか。

 

「ウルキオラさん」

「どうした、女」

「……さよならです」

「そうか」

 

 烏頭と狐花の張った分厚い結界が解け、ウルキオラさんが外に出される。ほんの僅かな霊子の欠片から無理矢理に再生され、何度も私に食べられてきたウルキオラさんの身体は、私の能力で保たれていた。それがなくなった今、ウルキオラさんはすでに消えていくしかない。

 まるで大気に溶けるように霊子として消えていったウルキオラさんは、最後まで私の事を見つめ続けていた。私に何かを言いたかったのか、それともただ見ていただけなのか、わからないけれどともかくこれで準備はできた。

 虚夜宮を覆うように舜桜とあやめに結界を張ってもらう。中で怪我をした皆を治すための盾だけれど、人間のままの私だと少し霊圧が足りない。だから烏頭の盾で私自身を一度虚に変える。自分ではどこかが変わったとかそういう認識は無いのだけれど、霊圧は上がった自覚がある。少し歪んでいた結界をしっかりと張り直し、内部を私の近くの範囲に収める。盾で覆った中は私の領域。逆に言うと盾は私の領域外には張れないという事なのだけれど、虚になると人間の時より基礎スペックは上がるから結構遠くまで盾を作れるようになる。

 ぐったりとしている四季崎さんの霊圧を回復させ、細かい傷の多い阿散井さんも同じように。茶渡君は……うん、大きな傷は無いけどちゃんと直しとこっか。石田君と黒崎君は流石だね、傷一つ負っていない。黒崎君の所に居る知らない誰かはちょっと体の中がボロボロすぎるからちゃんと治しておいた方がいいね。じゃないと多分死んじゃうと思うし。

 

 ……実は、私のこれには欠点が一つ。私は虚化すると、黒崎君の事が食べたくて食べたくて仕方なくなってしまう。黒崎君が私の目の前に来たとき、ちゃんと我慢できるかな……? 正直無理な気がする。

 

 すぅ、と息を吸い込むようにこの場に漂う霊子を取り込む。黒崎君が来るまでにこうやってできるだけ食べておけばちゃんと我慢できると思うんだけど、できるといいなぁ……。

 

『自信は無いけどね』

 うん、ないね。

『黒崎君美味しいから仕方ないね』

 仕方ないよねぇ。

『大丈夫。食べたとしても先っぽだけだと思う』

 先っぽだけでも駄目だと思うな私。

『食べても直せるよ?』

 直さなくちゃいけないようにしたら駄目だと思うんだけど?

『駄目だっていうのはわかってるんだけどねぇ……ここしばらく食べてないからね』

 そうだね。暫く黒崎君の霊子を食べれてないよね。

 

 あーあ、おなか一杯黒崎君を食べたいなぁ……絶対やっちゃ駄目だけどね。

 




Q.ウルキオラさんようやく解放されたの?
A.はい。冥福を祈ってあげてください。

Q.我慢できるの?
A.賽子振ってみます。


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BLEACH~107

 

 side 黒崎一護

 

 作り物の空が井上の盾で覆い隠されたと思ったらネルの身体が治り始めた。やっぱ井上の盾って本当に便利だなと思ってしまう。お陰で井上の現在地が少しわかりにくくなったが、直前に居た場所の位置はわかっているからそこに向かって走っていく。

 向かった先は高い塔。中でも一番高い所に井上の霊圧はあった。その周りに他の存在の霊圧は無く、井上だけが一人でそこにいる。石田は俺に気付いているようだが今は恋次の方のサポートをやっているようだし、チャドは近くを走り回りながら大量に存在する同じ霊圧の奴を潰し続けている。どんな奴かはわからないが、自分の手駒を無制限に作り出し続けるような能力だろうか。チャドが抑えてくれていて助かった。

 

 ……しかし、俺が追ってるのは本当に井上か? 井上以外の誰だと聞かれたら困るんだが、井上の霊圧とは大きく違うところがある。なんと言うか、虚化した時のようにがらりと変わっている。

 チャドが虚の力を織斑さんからもらったと聞いて同じような力を持っているらしい井上にも虚の力を渡されていてもおかしくは無いと思いはしたが、それでも疑わしいほど綺麗に変わってしまっている。チャドや平子たちが虚化した時には本人の霊圧の上に虚の霊圧を纏うような感じになるんだが、井上の場合はそもそもの人間の霊圧を殆ど感じ取ることができなくなる。それこそ完全に虚として生まれ変わったかのように。

 これが織斑さんなら『また織斑さんか』の一言で済むし、マユリとかだったら『また妙な研究をしてるのか』とかで済むんだが、井上だからな。何があったのか全く分からない。

 

 だがそれでも足を止めるつもりはない。俺は走って井上の元に向かい、ついに見つける。

 

「井上ッ!」

「―――あ、くろさきくん?」

 

 振り返った井上の姿を見て、俺は言葉を失った。

 白い髪。白い肌。黒い眼球に金の瞳。それはまるっきり俺の中に存在している虚と同じような変化であった。

 

「……井上、だよな……?」

「そうだよ?」

「……井上。何があった?」

「うーん……うん、そんなことよりさ、くろさきくん」

「そんなことってお前―――」

 

「先っちょだけ、タベサセテ?」

 

 悪寒が走る。一瞬背負った斬月に手が伸びかけるのを無理矢理ねじ伏せて、井上の姿を見つめ続ける。

 

「あのね? おなかがすいたの。虚の私なら霊子だけでもしばらく大丈夫だけど、人間の私だとご飯を食べないとおなかがすくんだよ?」

「……ああ、知ってる」

「だから、少し私は私になったの。私なら霊子でできたものでも栄養にできるし、私自身を私にすればそれでもちゃんと健康でいられるから大丈夫だと思ったんだ」

「……そうなのか」

「そうなんだ。それに、ご飯はいっぱいいたけどあんまりおいしくなくってね? だから、黒崎君が食べたいんだ。……先っちょだけ!先っちょだけでいいから!ね?」

 

 正直、悩む。井上は完全に発狂していると思っていいだろう。まあまともな人間が自身の存在を塗り替えて大丈夫なわけがない。これが永続的な物か一時的なものか、もしくは本人がひた隠しにしていた本性なのかという区別は付けられないんだが、もそも一時的に発狂した結果だとしたら発狂状態から戻った時に凄まじい衝撃を受けることになるのはまず間違いないだろう。

 それに何よりぶった切るのは初めから却下だし、しかし斬らないとこれは止められそうにない。言葉で止められるような状態ならこんなになってないだろうしな。

 ならどうするか。斬っても駄目。止めようにも止め方がわからない。だったら方法は一つっきゃねえだろ。

 

「来いよ、井上」

 

 受け入れる。斬月を背に回し、両腕を広げて井上を待つ。歪んでこそいるが汚れてはいない、これもある意味無垢な笑顔と呼べるだろう表情で、井上は俺に抱き着いてきた。

 そして、大きく息を吸い込んだ。それに合わせて俺から放出された霊圧が井上の口に流れ込むのがわかる。ちゃんと俺が普通に放出している分だけ食べて無理矢理魂の奥から吸い出したりしないあたり、本当に『先っちょだけ』なんだな。これを先っちょといっていいのかどうかは知らねえけど。

 別に俺の身体に何が起こるわけでもねえ。ただ俺がいつも自覚しねえで放出している霊圧を井上が吸収しているだけだ。石田のように滅却師としての能力を極めるとこうやって放出したりしなくなるらしいが、意識してならともかく無意識で全ての霊子と霊圧を身体の中に抑え込むことはできそうにないからな。

 

 そうして俺は井上に喰われながらこれからの事を考える。現世に行くには道がない。現世で浦原さんが気付いて俺達の所に黒腔を開けてくれるまで、俺達はここから出ることができない。

 

「―――そんなことないよ、黒崎君」

 

 俺に抱き着いていた井上が離れて、六花の一つを呼び出した。

 

「弧天斬盾。斬って、広げて、繋げて。椿鬼」

 

 井上の盾が、空間そのものを切り裂いた。その中は黒く、暗く、霊子が渦巻く空間。俺達がここに来るときにも通った黒腔に間違いない。

 

「井上……どうやって……?」

「ふふ……ほら、早く行って。黒崎君をたくさん食べたからもう暫くは繋げていられるけれど、それでもあんまり持たないから。椿鬼が先に行ってるから、あとを追いかけていけば空座町に繋がるよ」

「……わかった。ありがとな。井上」

 

 俺は黒腔に飛び込んで、空座町に向かった。

 




Q.井上が虚になった理由って黒腔を開いて繋げるため?
A.そうです。人間状態だと難しかったようですが、虚の状態だと割かし簡単に開けるようです。

Q.ところで、これちゃんと着くの?
A.時間はかかるでしょうが一応は。

Q.霊圧の排出孔は手首にあるそうだけどそれっぽい描写ないね?
A.なに? 織姫が一護の手首に何度も唇と舌を這わせて何ともインモラルな感じなのを見たい? またいつかね。いつになるかはわかんね。




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BLEACH~108

 

 藍染が現世に到着した時、そこには護廷十三隊の殆どの隊長格が揃い踏みしていた。その場にいないのは虚圏に無断出撃した阿散井恋次と、現世に来ることを禁じられている織斑一夏のみ。原作においては虚圏に突入していた更木剣八、朽木白哉、涅マユリ、卯ノ花烈もその場に立っていた。

 

 空座町は今、外界から隔絶された状態にある。建物も人間も全てを尸魂界のはずれに移動させ、代わりに全く同じ建物を空座町の場所に入れ替え、更に空座町を結界で覆う事によって恐らく激しいものになるであろう戦闘の余波に晒されないようにされている。

 四方に柱が立てられ、その柱は予定より多い人数で守られている。虚圏に井上織姫が攫われたという情報が出た時点で数人の隊長格を送り込む予定であったが、実際に向かわせる時になって『必要になったら俺が直接行くから大丈夫』という発言が某三番隊隊長の口から出たことによってそれ以外の隊長陣が全て現世の空座町のあった場所に集結することができていた。

 

「……では、まずは篩にかけるとしようか」

 

 藍染はそう呟き、刀に触れる。護廷十三隊の誰が言葉を発するよりも早く鏡花水月の能力がその場を支配した。

 

 その場にいるほぼ全ての死神たちの感覚がすり替わる。視覚が痛覚に。味覚が平衡覚に。嗅覚が方向感覚に。聴覚が運動覚に。触覚はそもそも人間に存在しない磁気覚に。ありとあらゆる感覚がかき混ぜられ、ほぼ全ての感覚が封じられる。

 これにより痛みで物を見ることのできない人間は視界を失い、身体の位置で物を聞けない人間は聴覚を失い、方向を嗅ぎ分けることのできない人間は嗅覚を失う。全てが封じられるよりも入れ替えられる方が遥かに対処が困難となるという純然たる事実が護廷十三隊の前に立ちはだかるが、それでもその場に両の足で立ち、藍染を睨みつけるものが二人いた。

 一人は更木剣八。自身の霊圧をひたすら高めることによってできてしまった鎧を纏い、藍染の鏡花水月が見せる催眠波をすべて弾いて無力化させた。

 そしてもう一人は涅マユリ。藍染の鏡花水月の霊圧を解析し、それを遮断することで自身も無力化されることのないようにする機構を空座町の模造品の中に埋め込んでいた。ただし、今はマユリにしか効果がないそれだがここからマユリが直接操作することによって護廷十三隊全体にその効果を広げることができる。藍染の現在の能力を解析し、その結果を出すまではマユリ個人を守ることしかできない発明だったが、こうして今まさにマユリと剣八が残って剣八が戦い、マユリが解析するという実に都合のいい状態にある。

 

「私は忙しい。こちらに近づけないでくれたまえヨ?」

「知るか。死なねえ程度にテメーで逃げ回れ」

 

 そういうが早いか剣八は藍染に斬りかかる。そしてマユリはいずこかへと消えていく。剣八と藍染の戦闘を通して藍染の鏡花水月の能力を解析し、無効化できる範囲を自分以外にも広げ、戦いをより有利に運ぶための準備を整えようという企みだったが……上空から飛来する無数の刃によってその想定は崩された。

 

「お前に時間を与えると厄介だということは知っている。故に、ここで殺させてもらうぞ」

「チッ。面倒なことだネ……」

 

 藍染の率いる破面も護廷十三隊の面々も等しく地に伏せる中で、藍染の能力に対抗できる二人の死神と藍染の能力が効果を及ぼさない二人がぶつかり合う。力任せの刀と霊圧任せの刀、異様な霊圧を持つ者同士がぶつかり合った衝撃で、瞬間的に大気が砕け弾け飛ぶ。一瞬の真空とその場に殺到する大気がぶつかり合った二人の肌を叩き、大きな音を響かせた。

 

 

 

 

 

 虚圏の戦いは既に終結していた。現世に渡る術を持たない死神、滅却師、完現術者たちは一か所に集いながらどうやって空座町に戻るかを話し合っていた。

 

「無理だと思う」

「一言目からそれとか君は考える気があるのか!?」

「ム……考える気はある。が、考えたところで俺には空間をいじったりとかそういう細かいことはできんと言う事だけは理解している。故に俺には何もできないから無理だ」

「俺もだな。鬼道に関しては言わずもがなだし、物理で空間に干渉できるほど強くもぶっ飛んでもねえ」

「空間に作用する鬼道は難易度が高いからな。それに行き先が空間を隔てた先である現世となると私にどうこうできるものではない。虚と違って死神が世界を越える際に使う穿界門は道具が無ければ開けんし、黒腔であれば現状開けるのは浦原と織斑殿くらいなものだろうよ」

「ああそうだね君たちに聞いた僕が馬鹿だったよ!そうじゃなかったら黒崎だって普通にここに走ってきてたに決まってるもんな!」

 

 そして即座に自分たちにできることがほぼ何もないということを理解していた。実際、虚圏に突入するだけでも自力でできないのに、そこから脱出することができるわけがないのだ。もしかすれば妙な所に迷い込んだ末に時間の果てに飛ばされ、そこで即死することすら考えられる。流石にそんなことで死ぬ気にはなれないのでそこでもう彼らにできることなど何もない。

 

「ん? 現世に行きたいのであれば黒腔を開けるが?」

「「「「ハァ!!?」」」」

「イヤイヤ、お前たち私を何だと思っているのだ? 一度仮面を全て剥がされたとはいえ破面だぞ? 自力で黒腔を開くくらいの事はできなければ外に出れないではないか」

「オイラもできるでヤンス」

「と言うか、通常の虚ができることは破面にできないわけは無いのだが、なぜそんな事にも考えが及ばないのだ? もしや……馬鹿なのか!?」

「だったらさっさと僕たちを空座町に連れて行け!」

「無理だな。その……からくらちょう? だったか? その場所がわからん。現世にだったら行ったことがあるからわかるのだがな!」

「微妙に役立たずだな!」

「何を言うか!現状で何もできていない雨竜に言われたくはないわこの真っ白白介!」

「白いのは君も同じだろう!? それに僕は白さに誇りを持っているんだからいいんだよ!」

「白さに誇りを……まるで洗剤のような口ぶりだな」

「虚圏に洗剤なんてあるのか!?」

「汚れた部分は砂で削ればいいだろう?」

「やり方が洗剤じゃなくて研磨剤じゃないか!」

 

「あれ、いつまで続くと思う?」

「さてな。まあこういう時には急いても良いことは無いと織斑殿も言っていた。色々と持ってきたから食事にせぬか?」

「お前が持ってたやつ全部冷凍かフリーズドライになってるだろうからいらね」

「チョコならあるが……いるか?」

「くれ」

 



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BLEACH~109

 

 side 藍染惣右介

 

 力とは何か。それだけをひたすらに考え続けた時期があった。

 力があれば何でもできる。傷つけられることも無くなり、全てにおいて自分の思い通りにすることができる。それが力があるという事だと誰かが言い、多くの者がその言葉に同調した。

 では、私は何だろうか。私はやろうと思えば誰でも傷つけられる自信があったし、戦いになればだれにも負けることは無いと確信していた。それは僕自身が生れて間もない頃に母親を僕自身の霊圧で潰してしまったこともあって揺るがぬ事実として認識していた。それは虚と言う存在を初めて目にしたときも変わらなかったし、虚が僕がただ垂れ流している霊圧だけでひしゃげて潰れていくのを眺めていれば、そして僕にとっては触れるまでもない虚に死神が複数で挑んでいるのを見てしまえば確信を強めることはあっても否定する要素を見つけるのは難しいものだった。

 力だけであれば僕以上に強い存在がいなかったわけではない。しかしそれでも戦って負けるとは思わなかったし、あらゆる手を使えば誰が相手でも勝てると思っていた。

 

 そんな思いが砕かれたのが、彼、織斑一夏と出会った時の事だ。

 そこに存在しているということはわかる。しかしその認識はほんの一角、天の星を眺めている時に満月が見えていればそこに意識を引き付けられるように、わざと見えるようにされた全体からすればほんのわずかな霊圧。しかしその全体を把握しようとするとまるで分らなくなってしまう。霊圧の差を理解した。

 ただそこに存在しているだけで、世界そのものが悲鳴を上げているかのようだ。一歩を踏み出す度にぎしぎしと世界が薄氷を踏むように罅割れていく。そこに存在しているだけで、現世とそれ以外の世界で釣り合っているはずの世界の均衡が崩壊しかねない極大の重量と、その重量が人間一つ分の大きさに収められているという事実。

 剣術、白打、鬼道、歩法。その全てにおいてあらゆる存在を凌駕する。それは死神も、虚も、当時は今ほどの完成度は無かったがそれでも通常の虚に比べれば相当の実力を持っていた破面ですらも問答無用で打ち倒せるに足る能力。

 しかし自分と違ってその能力を使っても排斥されることも無く、かといってその能力を隠すわけでもなく、本人の思うとおりに行動するその姿に当時の私は胸の奥底から湧き上がる奇妙な感覚を持て余してしまう。今ならばわかるのだが、あれは恐らく嫉妬というものなのだろう。妬んだことすら理解していなかった私はその感情のままに行動することこそなかったが、理解できない感情そのものを理解するために彼に近づいた。結果として様々な意味で染め変えられてしまったわけだが、正しくはないかもしれないが決して悪い事ではなかったのだろう。こうして私と対等以上に戦える相手も見つかり、私自身は充実した生活を送ることができていた。

 

 満たされた私は、今まで以上に強くなった。満たされて初めてわかる自身の飢え。私に近しい存在、もしくは私以上の存在が私の傍にいる。死神としても人間としてもそれ以外としても異常な存在である私を目をそらすことなくありのままの形で受け入れた彼。そして私に私以上の異常さを持つ存在を見せつけた彼に、私は救われた。彼が求めるのであれば尻を差し出してもいい♂

 ……まあ、求められたこともこれから先求められることもないとは思うが。

 

 意識が徐々に塗り替えられていく。鏡花水月が通らない更木剣八と、何らかの形で対策を済ませたのだろう涅マユリ。その二人を東仙と共に相手をする。鏡花水月の能力からどのように抜け出したのかはわからないままだが、だからといって私と更木剣八の間に圧倒的な霊圧の差があることに変わりはない。

 戦闘能力ではまず間違いなく更木剣八は私を上回る。卍解を使いこなしているのであれば恐らく山本元柳斎重國をも上回っているだろうからそれ自体はおかしなことではない。そして涅マユリは研究者だ。時間と自由を与えておけば自身の能力によって手の届く範囲の全てを網羅しようとするだろう。更に言うならば更木剣八という私の能力下にない存在と自分たちと言う私の能力下の存在がどちらもそろっているのだから、サンプルを取るには困らなかっただろう。

 負けるつもりはない。しかし、死神としての限界値にほど近い私の能力は戦闘に特化されている更木剣八を相手にするには若干であるが足りないものがある。故に、私はこうしよう。

 

 黒腔を開き、閉ざされた虚圏に更木剣八を送り込む途中でこちらに繋がる道を閉ざす。これにより更木剣八は永い時の中でひたすら過ごし続けることになるだろう。

 ああ、しかしこのままではそろそろ多少慣れてきた者が出てくるだろう。鏡花水月の能力によって入れ替えていた様々な感覚を再び別の形に入れ替える。痛覚に入れ替わっていた視覚は冷覚に。平衡覚に入れ替わっていた聴覚は深部覚に。様々な形で入れ替えられた感覚は、それまでの慣れを完全に失わせることに成功した。そもそもどの感覚とどの感覚が入れ替わっているのかを理解することができなければ慣れることもできはしない。そして、この状態でそんな速度で慣れることができるとしたら……浦原喜助くらいのものだろう。なお織斑隊長は除く。そもそも効かないからな。

 

 さて、いったいどのように涅マユリは鏡花水月の完全催眠から逃れているのだろうか。恐らく最低限必要な部品を体内に仕込むことで個人は能力を受けなくなり、同時にこの場に仕込まれている設備によって鏡花水月を一時的に、あるいはこの場においてだけでも完全に使用できなくすることが目的なのだろう。真正面から受けてやるのが嗜みかもしれないが、私はそのようなことをする理由がない。この場に存在していた設備を入れ替えられた街並みごと粉砕した。

 



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BLEACH~110

 

 side 黒崎一護

 

 走る、走る、走る、走る。斬り開かれた空間を辿り、霊子を集めて道を作り、井上の開いた道を進む。俺の前を進んでいくのは井上の使う六花の一人。浦原さんが開いたときよりも綺麗に開かれているように思うのは、一時的とは言え虚になっている井上が開いたからだろうか。俺がこういうのを開ければもっと早かったんだろうが、俺にはどうにも向いていないからな。

 だからこそ、今はとにかく走る。前の話からして恐らく織斑さんは現世には出てくることができない。だったら藍染を止めることができる相手は限られてくる。俺でも止められるかどうかはわかんねえし、もしかしたらただの一太刀で斬り捨てられちまう可能性すらあるが……それでもじっとしてられねえ。

 空座町には家族がいる。親父とお袋も戦えるだろうし、浦原さんだっている。しかし、藍染の能力を相手にする場合には数ではなく圧倒的な質が必要となるもの。多分だが親父たちはその質については要求値に届いていないだろう。

 

 目の前が拓け、藍染の背が視界に入った瞬間。俺は斬月に乗せた月牙を脳天に叩きつけた。しかし俺の刀は藍染が頭上に掲げた刀に受け止められ、月牙も同じように散らされる。チリのように細かく散らされた月牙を藍染の肺に飛び込ませようとするが、それは藍染の霊圧によって阻止される。研ぎ上げられた月牙は単純な霊圧によって摺り潰された。

 藍染の霊圧と俺の霊圧が衝突する。そしてそこに割り込んでくる―――いや、むしろ割り込んできたのは俺の方なんだろう、剣八の霊圧が生肉を見せられた飢えた獣のように飛び込んでくる。

 

「一護か!邪魔すんじゃねえぞ!」

「わかってるよ!」

 

 剣八は俺がどこに居ようが攻撃の手を緩めることはねえだろうからな。巻き込まれないようにしねえと普通に剣八の攻撃で死にかねない。

 剣八は馬鹿でかい斧のような形の斬魄刀を振り回し、藍染がそれを受け流す。霊圧だけなら藍染の方が上なのがわかるが、戦闘能力という点においては剣八の方がやや上回っているように思える。藍染は余裕の表情を崩さないが、その実首筋に僅かに冷や汗をかいているのが見えるし、剣八の攻撃は受け止めるではなく受け流すことに集中しているのもわかる。正面から受け止められるのであれば、恋次にやったのと同じように軽く弾き返すなり受け止めて切り返すなりするだろう。それができていないというだけで剣八の強さがわかる。

 少し離れた場所ではマユリが東仙を相手に戦っているのが見えるが、あれが押しているのか押されているのか俺にはよくわからない。マユリの場合は負けているように見えても最終的に勝利条件を満たしている立場に立っているというよくわからない戦い方をする。ほんとなんだあれ。

 とりあえず霊圧を高めてぶった切りに行くが藍染の刀に弾かれてしまう。剣八の刀は受け止めず、しかし俺の刀は受け止めているあたり剣八の方が威力はあんだな。霊圧だけで藍染の能力を弾いてる頭おかしい奴と一緒にされても困るが。

 

 藍染からは目を離せないが、同時にマユリと戦う東仙からも意識を離せない。意識が藍染に集中しそうになる度に僅かに俺に向けて殺気が飛んでくるあたり、まず間違いなく不意打ちを狙っているからだ。マユリと戦っているくせによくそこまで余裕があるなあいつ。

 移動の際に空気を切った袖から細く月牙を放ってみるが、刀が分かれた一本によって相殺される。だが霊圧を圧縮したものに対しての操作能力は俺の方がよほど優れているようで、砕けた月牙をもう一度集めなおしてその場から撃ち出すと今度はあっさり腕を落としてしまう。それでもかまわず動き回っているのを見ると間違いなく何らかの改造を受けているんだろう。藍染が今の今までいた場所を考えればまず間違いなく破面と同じような能力持ちだろう。腕が高速で再生しているところからもわかる。

 ここで東仙に向けていた意識を藍染に向けなおす。胴を切り離すように放たれた斬撃を受け止めきれずに受け流す。一瞬だけ刀で抑え、その間に最速で身体を引く。次の瞬間剣八が藍染に斬りかかり、俺もそれを避ける。余波が空座町を割り、しかし空座町には誰一人の霊圧も無いためここが偽物だとわかる。

 

 ……倒れてるのが護廷十三隊の死神だけじゃなく、恐らく藍染自身が連れてきたんだろう破面たちもってことは、藍染の鏡花水月の能力は一度かけたらそれを選択的に見せることはできねえんだな。並列じゃなく、全部直列なんだ。だから何だって話だが、少なくとも今見ている光景が突然崩れたら間違いなく藍染の能力の支配下だってことだけはわかった。

 どんだけ面倒な能力を持ってんだよマジで。能力を発動する条件は相手に解放の瞬間を見せるだけで、加えて一度能力の圏内に置いたらいつでもどこでもどんな状況でも能力下におけるとか、能力の強さに反して発動条件が緩すぎる。もっとこう『斬った相手の身体の中に刀身を残す』とか『自身の霊圧を相手の身体の中に取り込ませる』とかそんな感じの難しい発動条件は無かったのかと。いやいっそ難しくなくていいから能力下に置かれたことが本人にもはっきりわかるような条件であればいいのに、内容を考えればそれでもまだ緩すぎるんだよな。

 下に転がっている破面たちは、空座町までの道を拓いてくれた井上の六花のうちの一つが少しずつ解体している。あれをどうするのかはわからない……いや、嘘ついた。多分食うんだと思うが、ともかくほっとけば敵はいなくなるだろうと思う。

 そして東仙の方はマユリが結構簡単に何とかして見せたし、藍染は藍染で殺せないが抑えられてる。ここから何をどうすればいいかはわからないが、とにかく死なないように気を付けながらなんとか藍染を倒す必要がある。殺してもいいが俺の最大威力の月牙を霊圧で摺り潰した上に刀もあんな簡単に受け止められるんじゃどうにもできない。マジで世界終わったかもしれないな。

 

 ……今更だが、俺は藍染の目的を知らない。なんで藍染がこんな無茶苦茶なことをやらかしたのか、全くわからない。刀を合わせてわかったのは、藍染は孤独の中に居て、その孤独を引き裂いて現れた奴がいたってことくらいだ。多分それが織斑さんで、藍染は織斑さんに恩のような物を感じているってことくらいか。

 つまり、今こうやってるのは織斑さんのため……なのか?

 

「勘のいいことだ」

 

 目の前に藍染が立っていた。

 



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BLEACH~111

 

 side 黒崎一護

 

 いつの間にか剣八は地に伏せて芋虫のように奇妙に身体をうねらせ、マユリは四肢を切り取られてビルの壁に磔にされていた。まともに動けていたのは二人だけで、他の奴らは全員立つどころか身動きすらまともに取れずに地面で蠢いている。相性とかもあるだろうが、一度嵌めたらほぼ勝ちってのは反則臭いよな。

 

 とりあえず挨拶代わりに月牙を一つ。一振りを二つに分けてそれぞれを左右から飛ばすが斬り落とされる。ああやって斬魄刀で防いだってことは、当たれば斬れるな。多分。

 

「おやおや。話もしないでいきなりかい?」

「挨拶代わりにはちょうどいいと思ってよ」

 

 斬月の先端から虚閃と月牙を混ぜ合わせて放つ。と言うか月牙と虚閃ってかなり似てんだよな。どっちも霊圧を固めて撃ち出す技だし、斬撃にするか方向だけ決めて垂れ流すかの違いだろ? 月牙より虚閃の方が圧縮率が高めだから同じだけの霊圧を使えば威力が高くなりやすいってくらいで。

 

「ふむ、それでは私からもそうさせてもらおうか」

 

 藍染の霊圧が嵐のように吹き付ける。ただそれだけで最下級大虚の虚閃程度の圧を感じるが、いまさらその程度で傷を負うようなぬるい鍛え方はしていない。藍染を中心に全周囲に虚閃が放たれているような状態だから周りの被害はクソでかいけどな。

 しかし本当にバカみてえな霊圧だ。織斑さんでもここまで頭おかしい霊圧はしていない。

 

「織斑隊長は普段から押さえているだけで、やろうと思えば似たようなことはできるよ」

「予想はしてた」

 

 あとなんか考えを読まれた気がするが、まあ織斑さん関係ならなんとなく俺もわからないでもないからいいか。

 

「古今東西織斑隊長につけられた修行の内容。『霊圧操作で全周囲から虚閃もどきを浴びせられる』」

「『パンジャンで追い回される』」

「『瞬獄殺(弱)受けて気絶寸前で耐える』」

「『霊圧奪われて貧血状態で戦う』」

「『一日十五回腹いっぱい食べるのに栄養不足になるほど追い詰められる』」

「『寝て起きたら一日理論を気絶に適用されて一日二十二時間修行』」

「『霊圧一気飲み内臓鍛錬』」

「『血管に霊圧叩き込まれて血装修行』」

「『鎖結いじめ』」

「『魄睡いじめ』」

「『バスケのボールになる』」

「『サッカーボールになる』」

「『両腕両脚を斬り落とされて霊圧操作で再生できるようになるまで耐久』」

「『縦に分割されて虚の俺と死神の俺に分けて再生できるようになるまで耐久』」

「『尸魂界の瀞霊廷内に潜んでいた王を含む滅却師達相手に本気の殺し合い』」

「『精神加速状態でゆっくり迫ってくる虚閃を撃墜もできずに無防備にただ受けるしかない状態で体感一週間ひたすら耐える』」

「『ようやく作った崩玉がポケットから転がり出てきた挙句『いっぱいあるからそれはやる』とか言われた』」

「はいそれ修行内容じゃないー俺の勝ちー」

「しまった」

 

 勝ったと言ったがなんか勝った気がしない。お互いに斬り合いながらのやり取りだったから本気ではないが、虚閃みたいな霊圧をひたすらに受け続けていた他の奴らはまだ大丈夫だろうか。多分大丈夫だとは思うし、なんならマユリあたりが生きていようが死んでいようが改造(なお)してしまいそうだが。

 

 斬り合いができている。剣八とマユリを軽く斬り倒す藍染と、一応とはいえ。

 わかっていることが一つある。今の状態だと俺は間違いなく藍染より弱くて、藍染は加減をして俺と斬り合いをしている。剣術の腕は藍染の方が上。霊圧は同じか若干俺が上。戦いの経験とか藍染の方が上。俺が間違いなく勝てると思えるのは霊圧くらいか。

 俺も藍染も卍解を残している。俺には虚化や滅却師の技や完現術もあるが、藍染がそれに対抗する技を持っていないとは思えない。まあ最終的には織斑さんがひょっこり現れて拳の一撃で全てが終わりそうな気もするが。

 

「それを言ってはおしまいだろう?」

「言ってねえよ勝手に読み取るな」

「いや、君の顔に出てるんだ。わかりやすいとか顔に出るとか童貞とか言われたことは無いかい?」

「最後のは今ここで関係あんのかコノヤロウ」

 

 言われたことあるが。最後のも言われたことあるが。そして事実だが。

 

「……おや? 織姫に会ってこなかったのかい?」

「なんで井上がここで出てくrいややっぱいい何も言うな頼むから」

 

 くっそこのヤロウ浦原さんみてえな楽しそうなツラしやがって……! 楽しいからねじゃねえよ何も考えんな答え合わせとかヤメロォ!(建前) ヤメロォォッ!!(本音)

 

「ふふ、一勝一敗、かな?」

「くっそこの負けず嫌いが……自分の半分どころか十分の一も生きていない奴を相手にそんなガチになって勝ちに来るかよ?」

「命に届きうる相手であれば生きてきた年齢で相手を見るのは愚かなことだと思うが? 君とて山本元柳斎重國を見た時、自分の五十倍近く生きている老人だから手加減しよう、などとは考えずに対応しただろう?」

 

 何も言い返せねえ。実際あの時はかなりガチになってたし何ならガチになっても倒せなかったという確信もあったから本当にガチでやってた。そして実際逃げることはできても勝てそうになかったから間違いじゃなかったと思ってる。

 

「しかし予想外だったよ。織姫であれば君と出会ったら我慢が効かずに食らいつくか食らいつく(意味深)と思っていたのだが」

「食べたらなくなるから直接は食べないとか言ってたぞ。実際垂れ流しにしてた霊圧は食われたし」

「君のソレは一回でなくなるのかい? 蛸かな?」

「交接腕じゃねえしそっちの方向に話持って行こうとするんじゃねえよ同性相手でもセクハラは成立すんだぞ」

 

 つーかこいつ(藍染)はまともに戦う気がまるでねえな。今も俺との斬り合いを愉しんでやがるし、なんなら俺が成長していくのが楽しくて楽しくて仕方ないって感じだ。今まで経験が無いからわからねえが、久し振りに合った親戚のおじさんが俺を見て『でかくなったな!』とか笑いながら言ってくる感じに似てるんじゃないだろうか。覚えがねえけど、誰かがなんかそんな感じのこと言ってたような気がする。

 だが、それはそれでなんでこいつにそんな感情を向けられているのかがわからねえ。あったことは無いはずなんだが……無いよな? なんか嫌な予感がしてきたんだが、本当にないよな?

 

「僕がここで『無いよ』と言えば納得するかい?」

「しねえ。むしろ『あんのか』って思う。あと考えてること読むな」

「いや君も大概だろう。刀を合わせればなんとなくでも相手の考えが読めるとか中々に反則だよ? 僕でも難しいさ」

「四分の一スケール織斑さんかよ」

「やめてくれ、その口撃は僕に効く。せめて1/256とか1/512とかにしてくれないか」

 

 そこかよ。



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BLEACH~112

 

 side 東仙要

 

 現世の空を見上げる。この数百年であまりにも汚らしくなった、しかしそれでもなお青く、そして私の目には映らない空を。

 そしてそこで戦う、藍染様と二十年の成果を。

 

 巨大な霊圧だ。目が眩み、何も見えなくなるほどの。全てが霊圧に覆われ、何も感知できなくなるほどの。この場に転がる更木剣八のそれよりもはるかに大きな、傷付けられることもなく無力化された山本元柳斎重國のそれよりもよほど大きな、二つの霊圧のぶつかり合いを眺める。

 

 私の願いは叶えられている。彼女を殺した男を、四大貴族の筆頭とされていた綱彌代の一族であった時灘を殺し、復讐は既に終えている。

 だからこそ私は今、こうして目の前の敵を殺すこともなくただ戦いを眺めている。

 私を動かし続けた復讐心は既に無く、彼女との約束や想いだけで動いている今の私はあまりにも大きな空虚に支配されていた。

 

「……狛村。聞こえていないだろうが、話をさせてくれるかな」

 

 倒れ伏し、まともに身体を動かすこともできない狛村に言葉をかける。狛村からの返事は当然無いが、気にすることなく私は話しかけ続ける。

 

「なあ、狛村。君は案外聡いからもしかしたら気付いていたかもしれないけれど、私はこの世界と言う物が好きではなかったんだ。いっそ憎んでいたと言ってもいいかもしれない」

 

 気付いていないと思っていたが、復讐を終えてよくよく思い出してみれば狛村は時折私を奇妙な感情を載せて見ていたような気がする。それも、大抵私がこの世界について語った後の事で、彼女の願いを私の口から語った時に特に多かった。

 今の狛村に問いかけた所で答えは返ってこないことを理解していながらも、私は狛村に言葉を向ける。

 

「前に話したと思う。私にはかつて思い人がいて、彼女は死神に殺されたんだ。その上、彼女を殺した死神は彼女を殺したことを悔やむでもなくのうのうと生き延びて、私が復讐に走らなくてよかった、死神に守られて生きているのだから今まで通り死神に感謝して安寧の中を生きていればいい……などと言われてね。そこで彼には私の心の安寧のために死んでもらったのさ。彼が言ったことだし、喜んで死んでくれたはずさ」

 

 そんなはずがないと分かり切っていることを口にしながらも、言葉は止まらない。この言葉を聞いていれば、狛村はなんと言っただろうか。復讐は悪だと叫んだだろうか。それとも肯定しただろうか。……いや、彼の事だ。復讐を肯定することは決してなかっただろう。

 空の上ではまだ戦いが続いている。双方が理の外に立つ者であり、一名の殿堂入りを除けば最強格。既に私では決して届かない高みに踏み入っている二人の戦いを見ることもできないまま、空を眺める。

 この空に瞬く星を覆い隠す雲はあるのだろうか。二人の霊圧に吹き散らされ、跡形もなくなっているのではないだろうか。今の状況にまるで関係のないことを考えながらも言葉は止まらない。

 

「なあ、狛村。私は私の思う正義を為したよ。君はそれを正義ではないと言うかもしれないけれど、私にとっては正義だったんだ」

「……すまない。今、私は言葉を誤魔化した。どうせ聞いている者もいないのだし、本音を言おう。私は正義を為したと言ったけれど、本当の所は正義であろうと悪であろうと彼女を殺した男がのうのうと生き永らえているということが許せなかったのだ。それを解決しなければ、正義も悪も為すことができないと思うくらいには、私の思いはその一つだけだったのだ」

 

 あの男を殺した時の事はよく覚えている。苦しませることよりも何よりも、あの男が生きているということそのものが許しがたかった。故に私は藍染様の手を借り、綱彌代時灘を殺した。殺されたという認識すらさせずに、首を刎ね、刎ねた首と残った胴体を砕き、魂魄の欠片でも残していればそこからあの男の悪意が滲み出てくるかもしれないというほぼありえない事すら考えて魂魄どころか霊子すらも解体した。

 それが終わってみれば、私の元には残るものなど何もなかった。正義を為すと口にしていたものの、私の思いは彼女から借り受けたもの。私本来の思いではなく、私は彼女の思いに共感しただけだったのだ。

 しかしそれでも、長年続けてきた行為は私の霊体(からだ)に染みついていた。そして元が彼女の思いであったとしても、既にその思いを私が口にするようになり、私なりの正義を為しながら過ごすこと100年以上。その思いは私の行動原理として不足のないものとなっていた。

 

 藍染様は何を求めているのか。それは知らない。私が知っていることと言えば、霊王の存在とその在り方に藍染様が憐憫を抱いているということと、それを良しとしている五大貴族に対して憤懣やるかたない感情を抱いているということ。それくらいだ。

 

 空を見上げる。霊圧に塗り潰された、青い、青い空を見上げる。

 不意に、光を映さぬ視界の中で何かが輝いたような気がした。私にそれが何かはわからないが、願わくば———この空にも彼女が好んだ星が瞬いていますように。

 



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BLEACH~113

 

 side 織斑一夏

 

 ……なんつーか、色々と終わった気がすんな。理由は知らんけど。因縁とか、諸悪の根源とか、これから起こる面倒事とか。理由は知らんけど。

 面倒事は小さい方が潰しやすいが、潰しやすい面倒事って後処理の方が面倒だったりするよな。小さいのを潰して回ってたら犯罪者扱いされたりすることもあったし。まあ犯罪者扱いしてきた所を纏めて微塵に刻んで静かにさせたが。

 一番面倒だったのはあれか、宇宙から来た狂った炭素系生体採掘機の暴走で地球がピンチになった世界。何が面倒って放置してると人間滅ぶし人間滅ぶついでに地球に重力異常が起きて馬鹿面倒なことになるしかと言って中途半端に手を出すと軍だの国だのが出張ってきてごちゃごちゃ抜かしてくるし少し余裕ができたように見えると勝手に足の引っ張り合いでどんどん自滅していくし……最終的にはその世界で楽しめるものはまるでないと見切りをつけて採掘機の親玉の珪素生命体の所に打電飛ばして『お前んとこのがうちのシマ荒らしてきたからぶっ殺すぞ。答えは聞いてない』的なことを伝えて距離関係なしの呪詛でその世界でそいつらを恨んでいる奴らの怨念やら何やらを増幅してぶち込んで呪殺してやったよなって言う。

 確かそんな世界があったと思うが、正直ディストピア過ぎて見所皆無だったからよく覚えてない。そんな感じで割と終わってる世界はさっさと抜けてきたし、多分そうやって抜けてきた世界の一つにそんな感じのがあったんだろう。もしかしたらなんか別の世界の記憶が混じってたりするかもしれないが知らん。どうでもいい。

 

 ちなみに面白いのは戦闘少なめな世界で相手に変態の称号を押し付けることだ。相手が社会性の生物であればなお良し。絡んでくる相手に対してその行動の内容から頑張れば想定できる範囲の内容の変態的行動をそれなりの音量でぶちまければ結構簡単に広まっていくから相手は社会的に死ぬ。当然相手はある程度選ぶがな。

 

 周囲を見てみれば爆破の跡がいくつか残っていた。多分寝ぼけてパンジャンドラムでも転がしたんだろう。音が五月蠅くない様に爆発音と駆動音が静かな物を作っていたようで、まだいくつか周囲を無音で転がり続けている。

 今使う予定はないのでとりあえず適当な場所にしまっておくとして……さて、どうしようか。

 

 藍染が何をしようとしているのかは知らん。なにしろ俺は漫画における藍染の願いは知っているがこの世界の藍染の目的は知らんからな。変わっているのかどうかもよく知らないし、変わっていたとしてもどう変わっているのかもよくわからない。

 崩玉は恐らくもう持っているだろう。力に関しては知らないが霊王の分けた三界をどうこうする可能性もあるが、それをした所でな……。それに、それを実行したかつての五大貴族は力の多くを失っているし、なんならかつての事を知っていたとしても理解している者は少ない。その理解していた者も藍染の手で殺されている奴が多い。

 ……そろそろ、終わりかもしれないな。まあ、結構長い間お邪魔したわけだし、ここの奴が死んだ後に崩れる霊的なバランスの保全くらいはしてやるとしよう。恐らく虚圏での戦いで結構な数の虚が浄化されているだろうから、三界としての虚圏内の魂がかなり少なくなっているはずだ。特に滅却師が倒すとその虚は砕かれて霊子だけ残ってバランスを崩す原因となるわけだし。今回の場合は残ってないとまずいから正しいと言えば正しいってのがまた問題な気もするが。

 

 なんで俺がこの世界の心配してんだろうな。しかも再現性はクソとは言え霊子から霊体を再構築する技術とか色々と残して世界のバランスを崩さないようにしたりとか、よくもまあそれだけやったもんだ。

 ただ、恐らく俺がここからいなくなったとして……面倒な事件や厄介な出来事ってのは無くならないだろう。この世界ってのはそういう世界だからな。手を出さない場合、世界の崩壊というのが付いて回る世界だったから色々手を出したが、本当は手を出さなくても世界が滅んだりとかしない平和な、それこそ高校とかを舞台にしたラブコメやらギャグコメだと楽でいい。その場合は生活に金がかかるのが問題と言えば問題だが、場所を選ばなければそれこそ深海や宇宙空間だろうと眠れるから困らんけども。

 

 そう言えば、なんかこの後にも色々あった気がすんだよな。細かく何があったとかは正直覚えてないし、あまり細かい所は間違いなくその通りにはならないだろう。だからもう原作なんてのは殆ど役には立たないだろうが、それでも全く役に立たないってことは無いはずだ。多分な。

 一応読み返しとくか。

 



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BLEACH~114

 

 side 織斑一夏

 

 完全に忘れてた。そう言えばあったなこんなこと。だが、確か昔にそんな感じの事があったから一応手は出した気がする。具体的に何をしたかは正直よく覚えてないが、確か……そう、霊王の身体の一部を集めてなんかしようとしてた奴の命令を遂行しようとする奴に霊圧かけて磨り潰してそれから……なんだっけか? 忘れた。

 集められた奴に対して確か、殺しはしなかったが死ぬようなことはした気がする。霊王の欠片さえ集められればいいはずだからとそれを取り出して適当に纏めて……で、霊王の欠片があって当然だった人間達の魂魄が不安定になっていたから何とか霊子で埋める形で誤魔化して……あー、結局どうしたんだっけか? 何人か記憶を一部失ったりしたんだっけ?

 

 まあともかくそこまで悪い関係にはなっていなかったはずだと思う。ただ、あくまでも俺が行った時の話だしその時に『死神の後ろ暗いことやってる奴らがこれこれこんなことやろうとしてたからもうやめといた方が良いと思う』的なことを伝えたような覚えがある。信じないだとか何とか言ってたような覚えがなくもないが、俺は別に信じてもらう必要性を全く感じなかったから言うだけ言ってさっさと帰ったんだよな。霊圧感知システム? 霊圧を一切外に放出しなければ全く問題なかろうよ。

 その後は知らん。もしかしたら原作のように死神に敵対する組織を作っているのかもしれないし、もしくは死神は関係なく完現術師の組合のような物でも作っているのかもしれない。それで何をするのかはマジでわからんけど。

 で、万が一原作と同じようなことをしようとしているのであれば殴り潰してやらないといけない。なぁにここの世界の奴の大半は時間を止めて物理でぶった切れば死ぬさ。死なない奴は完全に分解してやればいいしな。

 

 ……それでも死ななかったら? 世界ごと滅ぼせば何とでもなる。少なくとも世界を滅ぼしてそれでも追ってくるような奴を相手にして手加減するのは面倒だしな。

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 戦いの場は空座町から断界へと移る。藍染の目的がなんだったのかはまだわかってねえが、少なくとも尸魂界が推測していた『王鍵の作成』と言うのは違うらしい。空座町に手を出すつもりはこれっぽっちも無いようで、わざわざ転界結柱とか言う空座町を尸魂界に一時的に移動させるための道具を壊してから世界の境界に移動したんだからまず間違いないはずだ。

 

「そうとも。君ならば空座町を守るためにある程度安全が保障されていた方が戦いやすいと思ったのだがね」

「間違ってねえな。空座町で本気で戦ったら霊圧だけでみんな死んじまうよ」

「その点この場所であれば君がどれだけ霊圧をばら撒いても全く問題ない。それは私にも言える事ではあるのだがね」

「……お前守るものとかあんの?」

「あるとも。私は私のために、私のなけなしの誇りとでも呼ぶ物のために戦っている。そのためならばおよそあらゆるものを犠牲として受け入れるし、およそあらゆる事を行い、また受け入れる」

「へぇ……そうかよ」

 

 誇り。こいつの誇りってのはまだわからねえが、何らかの形で芯は持っている。そしてその目的のために、全力の俺と戦う事を求められているわけだ。

 ……全力か。現実で全力になるのは初めてか?

『そのはずだな』

『そりゃそうだろ、お前が全力なんて出したらそれだけでバランスが崩れ……は、流石にしねえだろうがそれでも相当の被害が出るだろうよ』

 だよな。俺の中の世界なら俺がやる分にはぶっ壊れようがなんだろうがさっさと直るし気にせずやれたんだが、周りに誰かがいるところで暴れ回る気にはなれねえし。

 

 仮面をつけるのではなく、本格的な虚化をする。頭の片方に角が生え、知覚に虚のそれが加わる。

 血管に霊圧を流し、自身の身体能力を引き上げる。皮膚の硬化と移動速度及び筋力の強化。

 精神の中で何度も戦い、何度もぶつかり合い、それでも共に在り続けた斬月の性能をより引き出す。

 名を呼ぶ。現実では初めて、二つの斬月が重なり、鞘から抜かれる。

 

「───『天鎖斬月』」

 

 瞬間。月牙を纏わせた天鎖斬月が、藍染の身体を一刀のもとに斬り伏せた。

 しかし即座に追撃する。片腕を失い、片腹から腰で両断されているとはいえ相手はあの藍染だ。どこまでできるかなど分かったものじゃないしこの程度で止まるような奴じゃないことはよく知っている。実際に追撃の刃は藍染の鏡花水月に阻まれて上半身を吹き飛ばす程度にまで被害を抑えられてしまった。

 しかしそのうちに下半身を縦に両断し、更に刃を纏う月牙を枝分かれさせて無数に切り刻む。

 

「おやおや、念入りに刻むじゃないか」

「目を放したら蹴り飛ばされそうな気がしたんでな」

 

 グズグズになるまで刻んだ藍染の下半身だった肉の塊に天鎖斬月を突き刺し、石田の振動する矢と同じように高速振動させて霊子の結合を緩めて分解、月牙に取り込んで威力を増しておく。月牙は要するに固めた霊圧を斬撃の形で飛ばすものだから、外から霊圧を持ってくればそれでも作れるのは道理。流石に他人の霊圧をどうこうするのは難しいが、かつて他人のものだっただけの今そこにある力の塊であればなんとかなる。死神はそういうのを扱うことに長けているし、滅却師はそれが霊子および霊圧ならば死神以上に扱えるらしいしな。

 しかし、月牙に食わせたはずの藍染の半身の分の霊圧が一瞬で消える。そして一瞬も目も意識も外していないにもかかわらず、藍染の身体が元通りになっていた。

 

 幻覚ではない。間違いない。間違いなく斬ったし霊子にまで分解したし霊圧として食わせた。だが目の前には完全な状態の藍染がいる。そして、今のは不意打ちだからこそ軽く一刀両断できたが次はそう簡単にはいかないだろうと予想させられる。そういう雰囲気がある。

 どういう方法でやっているのかはわからないが、今の回復は鬼道じゃねえし井上のやってるみたいなのでもないということはわかる。あんな一瞬じゃ無理なはずだからな。

 

 俺の知っている範囲で相手のできることを考える。分身……残像ならできるだろうし鏡花水月で幻覚を見せているなら簡単なことだろう。だが多分違う。

 分裂……わざわざそんなことをしない方が強いのは間違いない。分裂したら一時的に弱くなるのは間違いないし、その状態で剣八を相手にできるならいくら不意打ちしたとはいえ俺がぶった切れるわけがねえ。

 超速再生……違う。今の現象に霊圧の動きも生物的な反応もなかった。

 崩玉の力……これは俺にはわからねえから考えるだけ無駄。だが、できそうな気はしなくもないが今は無理そうな気もする。別の事に力を使いまくっている気がするしな。

 

 ……わかんねえなこれ。とりあえず崩玉の力ってことにしてくとする。わからねえものはわからねえしな。

 



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BLEACH~115

 

 side 黒崎一護

 

 決め手のないまま斬り合いをしていてわかったことがある。どうやら藍染には悪意と言えるような物はないらしい。ただ、現状が面白くないという理由が行動原理の大半を占めているようで、その現状をなんとかするために最低でも四十六室及びそれに連なる部署を壊滅させることを目標にしていたらしい。可能であればそれ以上の事もするつもりではあるらしいが、流石にそこまではわからなかった。

 ついでに戦闘に巻き込まれて拘突とかが消し飛んだが、まあ今は良いよな。仕方なし。

 

 ただ、一番の敵は黒いやつらしい。とにかく黒で、なんか黒を使って黒を支配している奴らしい。具体的なことは何も知らないが、なんかそんな奴らしいということはわかった。だからわざわざ制服みたいなのを作って白に染めたわけかと思うとできることはやるつもりなんだなということは理解した。只かっこいいとかそういう理由じゃねえのな……石田と違って。

 

「ああ、そう言えば滅却師の彼は服などの趣味が……その、アレなんだったっけかな?」

「なんで知ってんだよホモか?」

「ホモではない。故にせっかちではない」

「嘘はつくよな」

「ホモは嘘つきかもしれないが嘘つきが即ちホモと言う訳ではない。ホモは嘘つきに包含されてホモ全体が嘘つきである可能性はあるが嘘つきはホモの外にも広がっているため嘘つきであるからと言ってホモであるという断定はできない。そして私はホモではないしこのことに関して嘘はつかない。ついでに言うのであれば私は確かに織斑副隊長に尊敬の意志を抱いているし正直なところちょっとした用事と織斑副隊長との斬り合いの誘いであれば刹那どころか阿頼耶の逡巡すらなく斬り合いを選ぶだろうと予想は付くがそれはあくまでも織斑副隊長との斬り合いにおいて私が得られる物の多さとそのちょっとした用事で私が得られる物の大きさ及び逆の場合に私が失う物の大きさと重さを比較した場合に明らかに織斑副隊長との斬り合いに天秤が傾くからこそ誘いに乗っているだけであってもしも同じあるいはそれ以上に得るものが大きく失うものが少ないものがあるのならばそちらを弾指もなく選ぶことだろう」

「めっちゃ早口で否定すんじゃん。圧縮言語か?」

「一応聞いておくが君は結構な高等技術でありこれを使うことでほぼ全ての鬼道を詠唱破棄の速度で完全詠唱と同等かそれ以上の威力で連発することも可能である圧縮言語を君の前で初めて使っておきながら術を発動したりするのではなく自身がホモであることを否定するために使うラスボスが居たらどう思うね?」

「それまでやってきた事とかそれに掛かってる内容にもよるけど一瞬でやる気なくしてコントローラー投げ捨てるわ」

「君はやる気をなくさなくていい。私はホモではないと証明できる。win-winの関係を結べたところでこの話は終わりにして別の話をしないか?」

 

 正直に言って藍染がかなり本気で嫌がってるのがわかって笑う。まあ流石にな?

 ……とは言ったが、実のところ藍染がホモだろうが俺にとってはどうでもいい。その対象に俺が含まれないのであれば好きな相手を抱けばいいと思う。勿論相手との同意の上でだが。まあ好きな相手より織斑さんとガチの斬り合いしたりしてる方が楽しそうだが。

 

「ホモではない」

「何も言ってねえよ」

 

 確かに一瞬『女よりも織斑さんとの斬り合いを選ぶとか男としては不能に近いんじゃねえか?』とは思ったが言ってないしな。まあ確かに織斑さんとの斬り合いで得られるものは多いしそれで得たもので誰かを守れるのであればそれでいい気もするが、だからってそれで守るべきものを逃してしまうのは馬鹿だろ?

 あとさっきはスルーしたけどちょっとわからん言葉があった。なんとなく非常に短い時間を指すということだけはわかったがどのくらい違うのかがわからねえ。刹那は聞いたことが無くもないが、弾指と阿頼耶ってなんだよ? 多分相当短いんじゃないかと思うけど具体的にどのくらいかh

 瞬きの間と言うにも短すぎるほどの時間で藍染が距離を詰めて斬りかかってきた。四度の斬撃を弾き返し、詠唱も術の名前すらも無いままに発動された雷吼炮に天鎖斬月を突き刺して俺に当たる前に分解して取り込む。

 

「一度目の斬撃から二度目の斬撃までの時間が『弾指』、二度目から三度目が『刹那』、三度目から四度目が『阿頼耶』だ。覚えておく必要はないが一度伝えた以上は弐回目に聞いてきたら嗤うのでそのつもりでいてくれたまえ」

「そんな脳筋極まりない覚え方する奴この世に居るか?」

「更木隊長はこれで覚えたね」

「居たよ……死神的には普通なのかこれ? 普通であってほしくないんだが?」

 

 あと俺の気のせいじゃなければ弾指と刹那と阿頼耶の順にどんどん短くなっていって阿頼耶とか正直反応するのが限界ギリだったんだが。この速度で天秤にかけて結論出して答え出して返事してんのか? もはや怖いとか凄いとかを通り越してキモいな。どんな思考力してんだよ。

 ……仕方ない。正直あんまりやりたくなかったんだが、まあここなら察知されたりとかそういうのはねえだろ。されたとしてもどこだか正確にはわからないはずだしな。

 

 ───行くぞ。

 



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BLEACH~116

 

 side 黒崎一護

 

 井上からウルキオラの霊圧を感じ取ったから聞いてみたんだ。そうしたら、井上はつい最近までウルキオラを()しながら食べていたと。人間の霊体の塊である大虚であるウルキオラを、ただの人間……とはもう言えないかもしれないが、人間の領域から外れてはいないはずの井上が、だ。

 井上が食べたウルキオラの分の魂魄は、霊子に還元されて霊圧として井上の中に存在し続けている。それは虚が人間の魂魄を食べて成長するのとよく似ているが、井上は自身の中に存在している虚と完全に一体化することで人間でありながら虚でもある状態を維持しているらしい。だからこそ人間である自分が死ねば虚の井上も死ぬし、虚の井上が死ねば人間である井上も死ぬ。それでバランスを取っているらしい。

 

 ここからが大切なことなんだが、井上が取り込んだ魂魄を虚として食べることで虚としての井上が強くなり、その結果として井上の霊圧は成長している。これはつまり、霊的存在を使えば一時的にでも自分の霊圧を引き上げることは不可能ではないということだ。

 そしてこの場の物質は全て霊子でできている。霊子を扱うのは滅却師の得意分野だが、そのあたりは斬月のおっさんに任せて霊子をとにかく大量に取り込む。取り込んだ霊子は虚としての俺に食わせて霊圧に変えて、そうしている間に俺の中にいる居候を叩き起こす。

 なんかよくわかんねえけど、意識を持った人の爪。俺の魂の中にいつの間にかいて、ずっと眠り続けていたらしいこいつこそが完現術の力の源。虚の力って聞いてたけど、なんか虚って感じしねえな?

 

 不思議なことに、こいつに意識はあるが自分から動こうとしない。そして自分にも止められたことに対して全力で応えようとする。かなり無茶な事でも、ヤバいことでも、俺に何かを求めることなくただただひたすらに俺の願いにこたえようとするこの爪は……何なんだろうな。

 今回もこいつは俺の無茶な願いに応えようと力を振るう。霊体を霊子にまで分解する斬月のオッサンと、その霊圧を最高効率で取り込む虚の俺。そして取り込んだ霊圧の持つ性質をより高めてこれから撃つ一撃の威力を底上げしているこの爪。俺のやることは、その一撃を外さないようにすることだけだ。

 

 ───最後の月牙天衝。俺という存在の持つ霊圧だけでなく、その霊圧を納める器でもある魂魄の強度をぎりぎりまで削って月牙として放つ、文字通りの意味で最後の技。だがそもそもの話……削るのって俺じゃなくてもいいよなそれ?

 霊圧を放つ物は多くある。尸魂界や虚圏の物質は全てが霊体であり、その全てが僅かではあるが霊圧を放っている。なんなら強度で言うなら霊力を多少扱うことのできる程度の一般的な魂魄よりもよほど頑丈であり、霊圧への耐性もある。霊圧への耐性が高いということはそれだけその存在が霊力的に頑丈であるということで、それだけのエネルギーがそこにあるってことだ。

 それはもちろんこの場所にある拘流や拘突も同じことで、気流のような物でありながらその頑丈さは類を見ない。一度捕まればかなり上位の死神や虚でも逃げることは難しいらしいからな。俺はそこまで感じやしないが。

 だがそれでもそこに存在しているのであれば十分だ。むしろ頑丈であればあるだけいい。解体した時に取り込める霊子の量が格段に多くなるからな。

 

 今の俺と藍染の霊圧は、取り込んだ分も合わせれば俺の方がいくらか勝っている。あっちは崩玉を取り込んでいるが、結局のところ純粋な霊圧量だけなら俺の方が多く取り込んでいるはずだ。

 そんな俺が何をしたいのかと言えば、まあ結構簡単だ。俺じゃあなく、俺以外のものを削って作った霊圧で月牙を放つ。俺一人の霊圧だけでぶっ飛んだ威力が作れるのなら、俺以外の奴から集めれば威力がもっと上がるのは当たり前だよな? それこそ俺が俺以外の存在を全部纏めたよりも霊圧があるとかそういうのじゃなければよ。

 それに、この場所だったら世界が壊れるとかそういうことは気にしなくてもいい。何しろ場所は世界の外側で、尸魂界からも現世からも虚圏からも凄まじく距離がある。じゃなかったら流石にこんなの使えやしねえよな。

 

 俺が最後の一発の準備をしている間に、藍染の身体が変質していく。全身がのっぺりとした白い甲殻に覆われ、それが罅割れて中から一回り強くなった藍染が現れる。蛹が蝶へと羽化するようなその変化によって霊圧の密度が増し、腕に刀が同化する。ある意味じゃ俺と同じだな。斬月は浅打じゃなくて俺だし、そう言うこともあって俺と同じだ。

 流石に藍染の斬魄刀は俺と違って浅打から変えた奴だと思うが、解放ができるようになった時点で大体自分と同じようなものになるわけだしそこまで変わらねえと思う。

 

「なあ、藍染」

「何かな、黒崎一護」

「お前、本当は世界なんてどうでもいいんだろ」

 

 ほんの一呼吸にも満たない時間、しかし確かに藍染の呼吸が揺らいだ。

 

「自分以上の存在が居て、自分の理解も認識も越えた存在があって、それが無くなれば結局俺たちが守ろうとしているこの世界は消えてなくなる。それがわかってるから今をただ楽しむように行動してんだ」

 

「そうだろ?」

 

 藍染の背後から鎖穴を貫き、月牙で引き裂く。引き裂句のに使った月牙の霊圧と藍染の肉から作った霊圧を集めなおしてもう一度月牙を作りながら離れると、藍染に間違いなくつけたはずの傷はまるで全てが幻であったかのように消えた。

 

「……ああ、そうだとも」

 

 そして俺がやったのと同じように、俺の胸から斬魄刀が生えた。

 



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BLEACH~117

 

 side 藍染惣右介

 

 理解していた。ああ、理解していたとも。

 黒崎一護に突かれた図星。その内容を知って、自分ではどうしようもないことだと生まれて初めて諦めた。それまで自身の力と時間さえあれば届かぬものなど何一つないと思っていた自信が、障子紙よりも容易く破られた。

 

 三界は、霊体の重さによってバランスを取っている。尸魂界、虚圏、現世、地獄。この四つの腕を持つ天秤が崩れないように、死神はそれぞれの世界に存在する魂や霊子の量を調整しているのだ。

 しかし、織斑一夏と言う存在がいる。もしも織斑一夏が現世に出ればどうなるか。凄まじい霊子の質量によって一瞬にして均衡は崩れ、三界を隔てる断界は生と死が入り混じった混沌へと一瞬にして姿を変えることは明白だ。

 一応隊長格として尸魂界に縛り付けてはいるものの、その存在は隊長格どころか霊王のそれよりもよほど重い。下手をすれば三界全てを纏めた物より重い可能性すらある。それが表に出ていないのは単に織斑一夏という男の気まぐれにすぎない。もしも織斑一夏が『飽きたから』という理由で尸魂界から去ったり、あるいは三界でも地獄でもない所に移動してしまえば、間違いなく世界は突然の重量の変化によって大きく揺れることだろう。それも致命的な被害が出ることが確定していると言えるほど大規模に。

 

 私は道化になる事を決めた。彼の関心を引き続けるために様々なことをした。笑い、笑わせ、戦い、振り回され、愚かなことも楽しんでみせた。戦闘狂に付き合い、裏では様々な事件の仕込みをして、必要なものを用意するために一般的には外道と言われるようなこともした。私はこの世界に愛するべき所を見出してはいなかったが、しかし滅ぼしたいと思ったことはなかったし巻き込まれて死ぬのも御免だったからだ。

 できることなどほぼ存在しなかった。私がやろうとしたことなど、結果だけならば彼も同じことを私より遥かに短い時間で再現できたからだ。

 彼は忠誠など求めなかった。もしこの世界に彼に対して絶対的な忠誠を捧げる存在が居たとして、しかし彼は気分次第でこの世界を崩壊させるような行動をとるだろう。それこそ飽きたからとこの世界の外側に行かれてしまえば、ただでさえ異常なバランスになっているこの世界が崩壊してしまうのは目に見えている。

 同様に、金銭も権力も求めなかったし、色を求めることもなかった。彼が求めているのは結局のところ娯楽であって、それ以外のものはあっても無くてもそうそう変わらないものでしかない。そもそも権力を握ったとして、あるいは握らなかったとして、彼が本当にそうしたいと思って実力を行使すればそれに対して何かできる存在などこの世界には存在しない。かつて私達が滅ぼした滅却師の王であれば、その未来を改変するというその能力を使って何かできたかもしれないが……すでに滅却師の王は存在しない。尸魂界の影の中で国を作って生き永らえていた滅却師達はほぼ絶滅したと言っていい。涅マユリの研究室に何体か残っている可能性もあるが、それはとても生きているとは言えない状態だろう。

 

 この時点ですでに霊王と言う存在と五大貴族のかつての行為を知っていた私は、今の霊王を廃して私は新たな霊王となる事を目指し始めた。天秤のようにバランスを取り続けなければ容易に崩れてしまうこの世界を、バランスを取らずとも続いていく世界に変えるために。一度変えてしまえば再び元の霊王に戻してもいいし、それを為すために必要なものも少しずつ揃えていった。彼は私のそういった行動を理解していながら私を止めることはせず、楽しそうに私の行動を黙認していた。

 そのためにかつての隊長格を実験の材料にし、私の作戦への障害物として配置できるよう浦原と纏めて現世へと追いやった。あまりにも一方的なものでは飽きられてしまうし、そうでなくとも完全に秘密裏に、誰も気づかないうちにいつの間にか目的を達成しているのでは見所とも言えるところが無くなってしまう。こうした敵は必要だ。

 見所を用意するために大虚を破面へと変え、主人公を用意し、その主人公の成長に合わせて破面達の力を調整し、主人公の成長の糧となるように尸魂界の死神たちを使う。幾つもの戦いを越えて主人公は大きく成長し、やがて私の前に立ち塞がるように場を整えて───

 

 目論見が外れだしたのは、やはり彼が関わるようになってからだった。拘突によって主人公たちが尸魂界に来る時間がずれたことで瀞霊廷から流魂街へと休暇を取らせるようにした彼と出会ってしまった所から私の想定は役に立たなくなっていった。

 ほんの一日の間に私が想定した主人公の最大値から数倍以上は強くなり、主人公を強化するための死神たちはその殆どが何の役にも立たないまま打ち倒されていった。隊長格であればそれなりに戦える者もいたが、本気で戦えば尸魂界が持たないほどの火力を持つ山本元柳斎重國と、主人公の斬魄刀との相性がいい浮竹以外は容易く倒されていった。京楽は初めからやる気を見せていなかったし、砕蜂は戻ってきた四楓院夜一に骨抜きにされてほぼ戦線離脱。更木剣八は……あれを制御する方が難しいので初めから数に入れていない。

 尸魂界での戦いは、あっけなく終わった。

 

 虚圏での戦いも変わらない。想定した実力を大きく上回った主人公たちは関門として用意した十刃を次々と攻略し、急遽追加の戦力として用意したネリエルもほぼ完全な形で救い出してみせた。封鎖した虚圏からの脱出も、いくつか用意しておいた道ではない最短の道を作って一直線にここまで駆け上がってきた。崩玉を取り込んで遥かに強化された私を十分に殺しうるだけの実力を持って。

 

 更に強くなれ。私以上に強く在れ。そして願わくば───

 

 ───彼が消えても世界を崩さぬ楔となれるよう。

 

 数十の死神と、数百の虚の魂魄から作り出した特別製の虚。

 霊王が楔となってから現在に至るまで脈々と紡がれた死神の血。

 霊王に届きうる超越者、滅却師の王たるユーハバッハの直系の血。

 極僅かではあるが、世界の楔となっている霊王の一部。

 

 これだけのものを使って作り上げた、ある意味では私の最高傑作。だからこそ私は。

 

 ここで

 

 君を

 

 殺す

 



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BLEACH~118

 

 side 黒崎一護

 

 胸に突き刺さった刀から伝わるものがあった。刀を合わせればある程度相手の思いを読み取れるが、今まで経験したどの戦いよりも一太刀から伝わってくる情報の多いやり取りだった。

 世界を壊そうと思えばいくらでも壊せる相手を前にした焦燥。自身には届かない目標に対して手を届かそうと思えば簡単に届かせることが出来る相手への嫉妬。まるで蟻が作った地中の世界に無遠慮に割り込んできたブルドーザーに対するような絶望。力があるというのに必要だと思うことに対してその力を振るわないことに対しての嫌悪。そして自身に力が無く、力があるものを動かすこともできないことへの無力感。

 しかし同時に楽しい日々でもあった。限界と認識していた壁など無いと証明する目の前の存在に対する羨望。そこに自身も届きうるという期待。自ら動くことは無いが自身の動きを知ってもまるで気にしない超越者に挑むという愉悦。限界を超えて伸びていく自身の力に対しての希望。そして手に入れた、世界を変える卍解に対しての熱情。

 

 藍染にとって俺は王と馬のような関係だと思っていたのだろう。人間と動物という意味ではない、姿も力も思想も何もかも同じ二つの存在が居たとして、どちらが王となり馬を従え、どちらが馬となり王の力となるのを決めるか。

 虚の俺はそれを本能だと説いた。剣を、力をより求める者が王となり、そうでない者が馬となる。

 俺の中のオッサンは思いだと説いた。自身の意志をより強く持つもの。力も思考も同じであれば、より強い意志を持つ方が他者の意志を平伏させて王となるのだと。

 既に消えてしまったが、少しの間だけ俺の中に居た織斑さんはそもそも王になる必要などなく、不満があれば不意を打って王を殺して力を奪えばいいと言った。まあこれは例外だが。

 

 藍染はここでわざわざ俺を殺すつもりはない。もしも俺が想定より弱かったり、既に成長の限界に達していると判断すれば殺そうとするだろう。だが、力を示してさらなる成長を見せている今の俺であればわざわざ殺そうとはしないはずだ。でなければ───俺の胸に刺さった刀は既に下に振り切られているだろうからな。

 

 半瞬、虚化して藍染の刀を引っこ抜いて傷を再生させる。ついでとばかりに藍染が垂れ流している霊圧と周囲に漂う霊子を虚の力で食って体力回復。出力は上がるがかなり疲れる虚化を解いて再び藍染と斬り合う。

 俺は月牙を使わない。藍染も鬼道は使っていない。お互いにただの剣術で鎬を削り、三界から離れたこの場を霊圧で擂り潰しながら戦い続ける。

 剣を振るう度に周囲に漂う拘流が剣圧で切り刻まれ、その先から磨り潰されて霊子に還元されてこの場に溜まっていく。水の中で剣を振るっているような異様な空気の粘り気を斬り裂き、剣の衝突が重圧を弾き飛ばす。互いの瞬歩や飛廉脚、響転によってかき回された大気はいつの間にか渦を巻き、霊圧を巻き込んでこの場を更に過酷な環境へと変えていく。

 

 藍染の剣は俺の精血装と鋼皮を容易く斬り裂く。俺の剣は藍染の霊圧を抜けて致命傷を与えることができる。お互いに防御らしい防御が必要ではない存在として、ひたすらに斬り合う。

 俺は斬られた瞬間に藍染の刀が抜けた次の瞬間から超速再生で傷を治し、藍染は俺の知らない奇妙な方法で俺から受けた傷を無かったかのように消す。互いに痛みはあるような気がするが、同じように無視を続けてひたすらに斬り合っている。

 周囲を巻き込んで作られた霊圧の嵐が作る闘技場の中心で、いつの間にか回避も忘れて戦いに没頭する。こんなに戦い続けたのは、俺の精神世界の中で織斑さんに修行を付けてもらった時以来だ。あの時は俺の隣に虚の俺が居て、その逆隣にはオッサンがいた。今はどちらも俺の手の中で、俺と共に戦い続けている。

 だからこそ俺はまだ戦える。斬って斬られて裂いて裂かれて貫き貫かれてなお戦いは続く。

 

 そして、ずっと続くと思っていたこの戦いは、突然終わる時がやってきた。

 お互いに殺し合っている間、ずっと互いに高め合っていた俺と藍染の霊圧が、均衡を崩し始めた。さっきまでは俺が10成長すれば藍染も同じように10強くなっていたにもかかわらず、少しずつ藍染の力が俺に届かなくなっている。その少しの差が積み重なって、気付けば俺の斬月が藍染の鏡花水月を斬り折っていた。

 その途端に藍染の傷が治らなくなる。お互いに付け合っていた傷を無視できなくなり、しかし最後の力で藍染が俺の胸に折れた刀を無理矢理に突き刺す。

 

「決着だ、黒崎一護」

 

 持っていけ(・・・・・)

 

 次の瞬間、俺と藍染の霊圧が周囲を巻き込んで作っていた戦いの舞台が内側に崩れるように流れ込んだ。まだ余裕のある俺にではなく、完全に力を失っているように見える藍染に向けて。

 それは言ってしまえば、俺の全周囲から押し寄せる月牙だ。俺と藍染の霊圧が周囲の霊的存在を磨り潰して取り込み、いつの間にか俺と藍染の二人の霊圧を合計したそれより巨大になった、重く、分厚く、斬撃と言うよりは巨大な壁が迫ってきているような形ではあるが間違いなく霊圧の塊と言えるものだった。

 その場の全てを巻き込むような力の塊が藍染に炸裂し、その衝撃で俺は意識を失った。

 

 最後に見えたのは、全身を削り飛ばされながらも最後の瞬間まで刀を放さなかった藍染の腕と、妙に力の抜けた死に顔だけだった。

 



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BLEACH~119

 

 side 黒崎一護

 

「『真竜の戦い』……と呼ばれる現象がある」

 

 そいつはゆっくりと語り始めた。隊長格の数十から数百倍以上と言うとてつもない霊圧を持つ二人が全力でありながら互角の戦いを長時間行った時に起きる現象で、放出された霊圧が周囲の霊子の結合を砕いて液体のような気体のような状態に変化させてその場に留めることでその場に凄まじい力が溜まる。本来は収縮しようとするその力場は内側の二人のぶつかり合いによって押し留められ、圧力を増していく。それが続くことでお互いの身体にはそれまで以上の凄まじい霊圧がかかり、それに対抗して霊圧がより強化されていく。

 そして決着の際、両者の力の均衡が崩れることで内部の霊圧に偏りが生じ、外側を漂うプラズマのような状態の超高密度の霊的エネルギーが敗者の身体に一度に叩き込まれることによって死体すら残らない完全な決着がつく。残るのは凄まじい霊圧の中で鍛え上げられた勝者のみ。

 

「……じゃあなんでお前ここに居るんだよ」

「安心するといい。私自身は既に死んでいるだろうから戦いにはならないよ」

「ここに居る理由を聞いているのであって戦いになるかならないかは聞いてねえんだわ」

「5メガネ!」

「なんのわりばし!」

「そんでもってお前らはそこで何やって……いやマジで何やってんだお前ら……?」

「アンティルールで被らないといけないウーロン茶がここには無いから紅茶で構わないかい?」

「アンティルールでウーロン茶を被る理由を20文字以上100文字以内で簡潔に言ってみろ」

「その紅茶はミルクか?」

「レモンだよ」

「紅茶にレモン? 正気か? もしやお前はまともな紅茶を飲んだことが無いのか? レモネードでも飲んでいろ」

「アンティにするには随分と重すぎだろレモンティーはよ」

 

 ああこいつらの言っていることがまるで分らねえ……虚の俺と斬月のオッサンは良いとしても、なんで藍染がここに居るんだよ? 多分だけどここ俺の精神世界だろ? なんか色々とぶっ壊れてるけど。

 

「おや、もしやまだ説明が必要かな?」

「まだも何もこの状況に対しての説明はまるで受けてねえんだが?」

 

 よくわからねえ戦いの説明をされて、その結果最後に藍染がなんか消し飛んだってことはわかったが、なんで消し飛んだはずの藍染がここに居るのかとかそういった説明はまるでされていない。あと虚の俺と斬月のオッサンがやってる意味わからないゲームらしきものに付いても説明求む。おいなんで『全く仕方のないやつだな』みたいな顔してんだこの状況でわかるわけねえだろもう一回ぶっ飛ばすぞ。

 

「全く仕方のない子だ」

「言いやがったなてめえ」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「だがすまない、そちらの二人がやっているそれについては詳しくは知らないのだが、とりあえずなぜ私がここにこうして存在しているか、と言う所だけ説明するとしよう」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「頼むわ」

「カバディカバディカバディ」

「カバディカバディカバディ」

「……悪いちょっと待った。そっちの二人!悪いんだけどこれからマジな話があるからもっと静かにやっててくんねえかな!?」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「小さくすればいいってもんじゃねえんだけどなァ……」

「はっはっは、賑やかなことだね」

 

 くっそこのヤロウ『余裕です』ってツラしやがって……。

 

「まあ視界的にはまだだいぶ騒がしいが、会話ができる程度には静かになったところで……私がここに居る理由を説明してほしいのだろう?」

「ああ。できればこのあたりがぶっ壊れてる理由も教えてもらえるとありがたいね」

「お安い御用だとも。何しろ暫くは共に在るわけだからね。……そう嫌そうな顔をしないでくれたまえ。私でも傷つくことはあるのだから」

「傷つくことがある(今これで傷ついているとは言っていない)」

 

 で、説明を受けたんだが……ルキアと俺が初めて会った時にルキアが俺に死神の力を送り込んで死神代行になったわけだが、それと同じことを藍染は俺にやったんだとか。それも、あの瞬間に藍染の身体に叩き込まれた大量の霊的エネルギーも一緒に。

 この戦いで負ければ死ぬことが分かっていたから、俺の『最後の月牙天衝』の事を聞いて自分自身の器も力も全部相手に与えれば事実上藍染の2倍以上の霊圧を持つ俺ができると思い、実行したんだと。

 その上、実行してから『どうせ自分の所に大量の霊的エネルギーが来るわけだしそれも一緒に送ってしまえ』と思いついて実行。結果、なんとか藍染の全存在と言っていいだけの大量の霊圧及び霊力と、周囲に存在していた大量の霊的エネルギーの6割程度を俺と言う霊体に詰め込むことに成功したらしい。

 

 ただしその代償として俺の霊体は限界ぎりぎりまで空気を詰め込まれた風船のような状態になっていて、今は虚としての超速再生と鋼皮、滅却師としての霊子操作と静血装で何とか持ちこたえているという状況らしい。内側からの霊圧でみちみちっと引き裂かれそうなところを鋼皮と静血装で強度を上げて、霊子操作で圧を下げて、それでも裂けてしまいそうなところを超速再生で治す。そして死神としての力を使って藍染が回道で治る度により強靭に仕上げていっているらしい。俺は改造人間じゃねえぞコラ。いやまあ織斑さんに人格ごと改造された気がしないでもねえけど。

 

「ともかくそういうことさ。君はもう暫く……短く見積もって2週間、可能であれば一月ほどここに居てもらいたい。時間に関してだが、ここは時間が幾重にも折り重なることで過ぎる速度が違う。長く居ても現世や尸魂界ではほんの僅かな時間しか過ぎていないさ」

 

 まあ、なんか、そうなった。暫くここで足止めを喰らうらしい。

 

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」

 

 ……はっや。

 

「……私とやるかい?」

「やんねえよ!」

 




Q.真竜の戦い?
A.『ダイの大冒険』より。

Q.なんで藍染いんの?
A.『俺自身が月牙になる事だ』みたいな感じで自分の構成そのものを全部渡したからです。



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BLEACH~120

 

 side 黒崎一護

 

 結局なんとか動けるようにはなったものの、藍染曰く『世界の均衡のため』に俺の力に封を付けられることになった。

 当たり前っちゃ当たり前の話だが、織斑さんが居なくなった際に世界のバランスを取れる存在になるってのはつまり最低限織斑さんと釣り合いを取れるようにならないといけないわけで、そんな存在がそこら辺にいたらそれはそれで世界のバランスは崩れるわけで。要するに俺はこれからよっぽどのことがないと本気は出せなくなったということだ。まあ本気出そうとすると霊体が耐えられなくなる可能性が大と言われたら出したくなくなるけども。

 あと、封と言ってもこれは俺の動きや成長を阻害するものではなく、俺が突然倍近く増えた俺自身の力の扱いをちゃんと覚えて自滅することがなくなるまでの補助具みたいなものなんだとか。これが無いと俺の霊圧で大抵のやつの霊体は擦り潰されて消滅しかねないのだそうだ。崩玉を取り込んだばかりの藍染でも意識していないとそうなるそうだから、崩玉を取り込んでから俺との戦いで更に伸びた藍染より強い俺が藍染とあの戦いのエネルギーの半分近くを取り込んだ俺だとかなり本気で抑えにかからなければくしゃみの度に周囲の魂魄が消し飛ぶようになるとか。

 

「なんでそんなことになってんだよオイ」

「私の方が強ければ私が取り込んでいたところだったのだが、君の方が強かったからね。仕方ないね」

「お前……そういうところ織斑さんに似てきたな」

「やめたまえやめたまえ、心無い言葉に私は傷ついたぞ」

 

 傷つきそうも無い上に傷付いたら傷付いたですぐ治る生きたオリハルコンみたいなメンタルしてる奴がなんか言ってるよ。

 

「君も織斑隊長に鍛え抜かれてそうそう揺らがない精神を手に入れたじゃないか。私のも同じようなものだよ」

「俺は織斑さん直々に『発狂してるけど有用だからそのまま放置しとくな。発狂してる間は他のことで発狂しにくくなるし』とか言われてるんだが……同じようなものなのか?」

「同じようなものだね、残念ながら。私の場合は元々鋼のメンタルだったそうだけど、君の場合は元があまり強くなかったようだから今のような状態になっているのだと思うよ」

「マジで同じようなものなのかよ……こわ……」

 

 あと事実上のラスボスを片手間で殺せるを通り越して存在しているだけで心までへし折った挙句世界のために動かさせる織斑さんがそれ以上に怖い。断界の拘流やら何やらまで取り込んだ俺でもまだ届かないってことだろ? こわ……。

 ただ、近寄らないということはどうも出来なさそうだ。俺が近寄らなかったりして暇な時間が続いたらふとした瞬間に世界からいなくなっている可能性が高いそうだし、そうなったらバランスを取るために急いで尸魂界にまで行かないといけなくなりそうだし、一回尸魂界にまで行ったら現世に戻れるようになるまでどれだけ時間がかかるのかもわからない。ついでに俺が尸魂界に居ることで世界の崩壊が抑えられるとなったら絶対に俺を尸魂界に縛り付けようとしてくる相手も出てくるだろ?やってられねえわ。

 

「ああ、そうなったらまず間違いなく零番隊が出てくるだろうね。強さはともかく厄介さという点では間違いなく最強クラスと言っていい」

「全開のお前とどっちが厄介だ?」

「崩玉を取り込み卍解した私であれば恐らく勝てはするだろうが、殺しきれる自信はないね。名前を呼ばれれば自身が死んでいても生きていることにできるような男や、同じように自分が名前を呼ぶことで殺された者を蘇らせることができるのだから流石に難しすぎる。やるのであれば滅却師の力で霊子にまで分解した上で虚の力で食べることができればまあ可能性はある、と言ったところか。ああ、死神の力は『黒』に属するようだからどう頑張っても届かないよ」

「俺じゃ勝てなさそうだから逃げる方法考えとかねえとな」

「いやいや、君の場合は勝てるとも。死神の魂魄を混ぜ合わせて折り重ねることで作った魂魄を虚化させることで斬魄刀と同じような状態にした虚に、君の父親から継いだ死神の力を写し取らせることでかつての君の斬魄刀は形を成していた。ただ、滅却師としての力である彼がそれを抑え込んでいたために斬魄刀となった虚が写し取る力は死神としての力だけでなく滅却師としての力も混ざることとなった。霊王の爪による完現術についてはあくまでも霊王の身体の一部の力であるために君の力として写し取られることは無かったようだけれど、君は死神でありながら滅却師であり、虚でもある」

「わかりづれえ」

「死神としての力を一切使わないなら問題なく戦う事はできるから気にしなくてもいいよ。多分ではあるけれど今の君ならば霊圧を解放してただそこに居るだけでおよそあらゆる攻撃も能力も届かないだろうしね」

 

 ……話していて思ったんだけど、こいつって滅茶苦茶頭は良いし合理的だけど脳筋だよな。合理的だから無力化するのに鏡花水月は使うし必要とあらば裏でコソコソと動いたりもするけど、究極的には力任せにゴリ押しするのが一番得意そうだ。なんと言うか……ゲーム的に言えば『相手がバフとかアイテムとか時間をかけて使ってようやく戦いの舞台に立てる状態になっているのにステータス任せにもう何段か上に舞台を引っ張り上げてくる』みたいなやつ。端的に言えば、自分一人だけスペックが違いすぎるって状況を作ってそのスペックの差を最大限に生かしてくるタイプって言うか……一言で表そうとするとやっぱ『脳筋』になるんだよなこれが。

 あー、最終的に『スペックに任せてゴリ押せばいい』になる奴もう一人知ってるわ。よく見てた生か知らねえけど本当によく似てるよな。

 



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BLEACH~121

 

 side 黒崎一護

 

 最終的にどうするかを考えて、俺は自分自身の身体が俺自身の霊圧に潰されないようになるまで一時的に霊圧をかなりしっかりと封印することにした。封印自体はオッサンと藍染がやるそうで、俺は何もできることが無い。俺にできるのは早いところ俺自身の霊圧に俺の霊体を馴染ませて封印無しでも周りに被害を出さないようにしたうえで行動できるようにすることくらいだ。つまり、できるだけ霊圧を出さないようにしながら日常を過ごすだけ。死神になったり虚になったりとかはもってのほかで、完現術ならまあ一応使ってもいいかなと言う感じらしい。あと俺自身の中での瞑想な。戦闘になると封印を中からぶち砕く可能性があるから駄目なんだそうだ。鈍りそうで怖い。

 ……そう言ったらなんかよくわからねえけど霊王の爪と崩玉が俺の意志を汲んだらしく、俺が長いこと使ってきた代行証(死神代行として行動するときにいつも持ってたから断界での修行のバカ長い時間の時も持っていた)を使って俺の身体の分身みたいのを作ってそこに俺自身がとり憑いて動かして戦う感じの戦闘訓練場みたいなのを作れるようになった。どうなってんだこれ……? 俺の完現術って確か斬月を媒体に虚の俺やオッサンを外に出したりする奴じゃ……?

 

『いやあれただの具象化。だってあれ俺だぜ? ユーハバッハの方もその応用で出してるしな』

 

 そう言やそうだわ。斬魄刀なら普通に具象化できるし、卍解修行の時にオッサンも出されてたし、完現術がそれとか悲しすぎるな。まあ単純に具象化するより強くなったりもするそうだけどよくわからないからいいとして、これで鈍ることはねえな。

 しかもこの完現術は断界の経験もあってか中で色々やっている間の時間は外ではほんの一瞬にしかならず、力は鍛えられないが技術や知識は鍛えられるというめっちゃ都合のいいものになっている。残念なことに外から物を持ち込むには制限があるから無制限に取り込んだりとかはできねえけどな。

 

 まあそんなわけで一時的に戦うことができなくなった俺だが、一応霊を見ることができるくらいには霊力はある……と言うか全力で封印してもそのくらいは漏れ出てしまうから普段はそこら辺を漂っている浮遊霊相手に代行証で魂葬するようにして、虚の相手は新しくここを担当するようになった死神やチャド達に任せて過ごしている。

 ちなみに、最近あまり勉強の時間が取れていなかったから新しい俺の完現術を使って勉強に精を出している。成績も一時期落ち込んでいたが、お陰で最近はまた伸びてきた。テストとかでミスると虚の俺や藍染がめちゃくちゃに煽り倒してくるからそれが嫌でめっちゃ点数上がったわ。それはそれとしてまともに戦えるようになったらあいつら斬月の峰で一発殴る。

 

 あと……そう、井上。井上な。井上なんだが……なんか流れがよくわからないうちに外堀内堀全部埋められて付き合ってることになってる。付き合うことに対して文句や異論があるわけじゃないんだが、なんかこう……なんだ、妙な感覚と言うか気分と言うか、そんなのがある。

 虚を自分の中に飼っている井上だが、そのせいか霊力を持っている相手を見ると取りあえず垂れ流している霊力を食べるのが癖になってしまった。そのせいで藍染との戦いが終わった後に俺が異常に強くなったことがなんかバレたし、なんなら藍染が俺に混じったことにも気付いているっぽい。それはそれとして井上の事でからかってくる虚の俺と井上に手を出さないことで煽り倒してくる藍染は斬月の峰で月牙ぶち込む。大丈夫だ藍染はともかくとして虚の俺の方は俺自身だからぶった切られたところで何も問題はない。だからこそぶん殴るんだが。

 親父については隠し事が多すぎんだよもっと色々言っとけ心配させたくなかったとか聞いてねえし何なら何も聞かないまま色々あったせいで受けた心労の方がよっぽど大きいし多いんじゃボケと一発ひっぱたくだけで済ませた。おふくろの方は……あれだな、聞かなかった俺が悪いな。

 

「なんか俺と真咲で対応違くない!?」

「親父とおふくろを相手にするのに全く対応が変わらない奴とか逆にそっちの方が怖いだろ普通に考えて」

 

 ぎゃんぎゃん騒ぐ親父をおふくろが慰めて、花梨が親父に呆れて遊子がちょっと笑って、まあいつもの日常が戻ってきたと言ってもいいと思う。

 

 ───俺は、色々な物を守るために戦ってきた。ルキアを守るために尸魂界に行って戦って、尸魂界を守るために藍染と戦って、空座町を守るために虚や破面と戦って、井上を守るために虚圏に行って戦って、そして今は世界を守るために戦って。

 やっと、一息付ける感じだな。

 

 漸く闘いの日々に一段落付いたと思うと、少しずつ俺の意識から斬り捨てられていた物が戻ってくる。

 痛みを苦しいと思う感覚も、絶望を踏破する硬い意志も、少しずつではあるが緩んで昔に戻りつつある。ただ、あまりにも濃い経験を続けていたせいか完全に元に戻る気はまるでしねえが……最近の経験を無かったことにしたいとは思わない。だからまあ、これでいいということにする。

 

 それはそれとしてやっぱ藍染と虚の俺はいずれぶん殴るけどな。

 




Q.え、終わり?
A.終わりです。

Q.完現術士編は?
A.どっかで一夏が対処してたはず。

Q.千年血戦篇は?
A.原作開始前に終わらせたでしょ。

Q.……マジで終わり?
A.前のアンケートで外伝作ることになったのでそれを書いたらもう本格的に終わります。小説版もなんか終わらせてましたし。


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外典・原作侵入記録
BLEACH外典01(事前準備)


 

 side ??????

 

 賽を振る。成長判定成功。

 賽を振る。成長判定成功。

 賽を振る。成長判定成功。

 賽を振る。成長判定失敗。

 賽を振る。成長判定成功。

 

 賽を振る。内容確定済。バッドステータス『自爆寸前』解除。

 賽を振る。内容確定。基礎能力・霊圧操作上昇。

 賽を振る。内容確定。滅却師能力上昇、滅却師・最終形態への移行が可能に。

 賽を振る。内容確定。死神能力停滞、鬼道習得率減少。

 賽を振る。内容確定。虚能力上昇、超速再生時により少ない欠片からも再生できるようになった。

 

 賽を振る。追加判定成功。力を使う機会は来る。

 賽を振る。追加判定ファンブル。仲間は誰も連れていけない。

 賽を振る。追加判定成功。死んだら自動で蘇った上で戻ってこれる。

 賽を振る。追加判定成功。記憶等は残る。

 賽を振る。自動失敗。かわいそうにwwwあーあwww

 賽を振る。自動成功。……自動成功? これを? マ?

 ……こわ……近寄らんとこ…………。

 それはそれとして賽を振る。自動成功。…………こわ……。

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 二年ほど過ぎて、ようやくめちゃくちゃ増えた霊圧を扱うことができるようになった。前と同じように漏れ出た霊圧を固めて月牙にしたり、もしくは滅却師の矢にしたり、あるいは虚の虚閃にしたりという使い分けもできるようになった。これだけ霊圧を扱えるようになっても鬼道はまるで使えるようにならなかったから多分致命的に向いていないんだろう。知らねえけど。

 鬼道は藍染から教えてもらったんだが、普通に考えれば俺くらいに霊圧を扱うことができているのであれば下級鬼道の一つや二つは使えない方がおかしいのだと言われた。でもできていないのは、恐らく滅却師的に霊圧そのものを扱うことはできても死神的に霊圧を変換させるのが得意じゃないんだろうという結論になった。まあ月牙もオッサンの能力、つまりは滅却師としての矢を死神の力を通して発動することで斬撃に変えてついでに虚を滅ぼすのではなく尸魂界に送る効果を持たせているに過ぎないわけだし、それについては何となくわからないでもない。だが鬼道が使えない理由が本当にわからない。聞く限りかなり便利そうだから使えるものなら使ってみたいんだけどな。

 

「正直なところ、鬼道のうちの破道の方は覚える必要はあまりないと思うね。君の場合は月牙があまりにも優秀だから」

「縛道は?」

「霊圧で押し潰せば大抵の相手の動きを封じることはできるだろうし、超速再生があるから回道も必要不可欠と言う訳ではないね」

「……話を纏めると、とりあえずぶった切って殺して終わらせるタイプが合ってるって聞こえるんだが」

「大体その通りだね」

「守るための力であれば、守るべきものを害そうとする全てをこの世界から悉く滅ぼせばいい。そうだろう? 一護よ」

「オッサン、言ってることが実質剣八と変わらねえって気づいてるか?」

「まあ守るためだとか言ったところで結局のところ力は力でしかねえ。だったらその力をどうやって自分の求める方向に向けて使うかってことを考えた方が良いんじゃねえのか?」

「メチャクチャ説得力のある言葉を貰って早々悪いんだが喰らっとけ」

「おぼふ」

 

 よし、やっと勝てた。感覚だけは霊圧に慣れてたからもっと簡単に行けると思ってたんだけど大分きついわこれ。

 まあ俺の中で殺したところで問題なく蘇るし、何ならお互い数えきれないくらいお互いを殺し合ってるからどのくらいなら問題ないかはわかってるけどな。ちなみに今やったのは大丈夫なレベル、と言うか、そもそも大丈夫じゃない状態になったところを見た覚えがない。なにしろ相手は超速再生持ちの虚の俺だからな。

 今の決まり手は鋼皮と静血装で固めた抜き手で胸打ち抜いて爪の先から内臓に直接一点から爆発するように拡散する月牙を撃ったことによる爆散。復活までは……まああと数秒か。頭残ってるし。

 

 勉強に訓練にと忙しいことこの上ない。しかしこれまでの事を鑑みるにもっとやばい面倒事が起きてもおかしくないので、できることはできるうちにやっておく。藍染的な感じで最強存在として作り上げられた俺だが、まだまだ最強には程遠いからな。織斑さんの実際の強さがいまだにわからないのはまあ置いておくとして、俺の次ってどこの誰でどのくらい強いんだ? それがわからねえし、相性とかそういうので勝てる勝てないとか結構ありそうだしな。まあ霊圧差で結構な攻撃は俺に通らないそうだけど。それもどのくらいまで通らないのか俺にはわからない。ここ最近相手が虚の俺かオッサンくらいしかいなかったし、その二人は俺が強くなれば強くなるだけ強くなっていく感じの存在だから対比が難しいんだよな。それに相性的に勝てない相手とかも居そうな気がするし、結局最強になれてるのかなれてないのかもよくわからない。スペックでゴリ押しできる範囲がどのあたりまでなのかも微妙にわからねえし、正直なところ相性次第では格下相手でも負けてもおかしくないと思うんだよな。よくある漫画とかだとパワー系の奴がテクニックで負けるとか結構あるし。

 

「相性だとか概念だとか、そう言う物を格差で無理矢理に押し通せるようにしているのだから早々負けはしないよ。今の君を倒すには最低限君より一つ下の段まで上がってくる必要があるが……そもそも今君がどれだけ他の者と離れているのか理解できているのかな?」

「知らねえけど」

「まあ、少なくとも今の君であれば織斑さんが遊びで転がすパンジャンの直撃を受けてもダメージは無いだろうね。それと、全力の更木剣八、彼と戦いが成立しない程度には強くなっているさ」

「滅却師として見れば、恐らくだが完全な状態の霊王を前にしたとしても勝率は一護の方が上だろうな」

「……え、何? 霊王って滅却師なのか? 死神じゃなくてか?」

「滅却師だし、死神でもある。霊王とはそういう存在だ」

「ちなみに虚的には大分やばい所に居るな。めっちゃ強いぞ」

「お前はちゃんと全身治してから喋れ」

 

 まあ確かに、藍染から聞いたがホワイト……虚の俺の少し前の姿みたいなものは一人一人が虚と戦う事のできる死神を結構な数材料にして作った虚で、ほぼ霊力のない数万とか数十万の魂を集めた大虚に十分届きうるようにしたらしい。しかもそこから育っているから……ん?

 もしかしてだが、俺の中で一番系統としての力が弱いのって滅却師の力なのか? 死神の力は虚のそれと混じっているとはいえ結構な量があるし、何なら親父から継いだ分がある。虚の力は俺そのものだから俺が強くなればそれだけ強くなる。完現術は最近強くなった。滅却師としての力は……正直分からねえんだよな。なんか霊子操作能力が上がったくらいか?

 と言うか、そもそも滅却師としての力を意識的に使うのは静血装と動血装の時くらいで弓も無ければ特殊な技もないし、何なら道具もねえから強くなったかどうかもよくわからねえわ。

 

「…………なるほど、わかった。では行こうか」

「? どこにだ?」

 

『修行だ』

 



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BLEACH外典02(準備運動)

 

 side 黒崎一護

 

 なんでかわからねえけど俺はまた尸魂界に来ていた。まずは最近使い慣れた虚の力で黒腔を開いて虚圏に移動し、さらにそこから尸魂界に移動する。で、普通に瀞霊廷に入って織斑さんの居るはずの三番隊の隊舎にお邪魔するとなんでかもう一回発狂するまで心を折られた。まあ俺の心なんて折れて折れて折れて折れてばらばらになったのを粉砕機に入れて粉々にしてから更に磨り潰して高温の炉に入れて溶かして固め直してからが本番だから別にいいけど。(感覚麻痺)

 で、尸魂界では滅却師はあまり歓迎されない存在らしいから俺の中の滅却師の力をこれ以上大きく伸ばすとなると面倒なことが多いからとなんかよくわからねえ場所に突然飛ばされた。

 

 ……いや、嘘だ。この場所がどこかはわかってる。なにせ俺が生まれ育った場所だからな。

 

 だが、どうにも感覚がおかしい。いつもならすぐにわかる井上とチャドの霊圧がかなり弱いし、石田の霊圧も感じることができる。滅却師としては俺より遥かに上であるはずの石田が何でもない時に霊圧を垂れ流しているなんてのは考えにくい。だが、今ここに大きな事件がありそうだとは思えない。

 ここはなんでも重霊地とかいう霊的なものが溜まりやすい土地だそうで、そのせいかは知らねえけど霊力に目覚める奴はそれなりに居る。と言っても幽霊を見ることができるくらいにまでなる奴はあんまり居ないが、それでもそれなりの数いるのは知っている。

 まずは俺。それから遊子以外の俺の家族。石田とその家族に、井上、チャド、たつき。

 浦原さんとテッサイさん、雨にジン太。まだ居るかどうかは知らねえけど夜一さん。それから現世に駐在任務中の死神たちに、時々いるのが観音寺。

 

 だが、なんでかおふくろの霊圧が無い。石田のおふくろさんのもだ。それから……死神や滅却師としての感知にはそうでもないのに虚としての感知にすげえ引っかかるのがいくつかある。

 なにより、俺自身の霊圧が感じられる。俺のとは思えないくらい弱々しいヤツだが、たしかにそこにある。多分何年か前の───ルキアに会う前の俺より弱いんじゃねえか? 感知するのも一苦労なレベルだ。

 

 なんとなく、何の確証も無いことではあるんだが……俺の存在はあまり公にするべきではなさそうな気がする。少なくとも今の段階で俺が大っぴらに外に出ると面倒臭いことになるという予想ができる。何かやるならそれこそ全部終わらせる時か、もしくは俺と言う存在の姿を隠してやるべきだ。そう思った。

 

「霊圧の質を誤魔化すのであれば完現術を主体に戦うか、滅却師として戦うかのどちらかだろうね。この世界にも黒崎一護と言う存在があるのであれば間違いなく私の手は加わっているだろうから、死神としてはもちろんの事虚としての力も尸魂界にも伝わっているだろうからね」

「……滅却師の矢はどう撃つかは正直知らねえし、俺の完現術って他人への攻撃能力皆無なんだが」

「いやアレだ、完現術ってのは使い慣れた道具によって効果を変えんだろ? そりゃそうだよな、スプーンとナイフを同じように使うことなんざほぼねえからな。だったら今この場で何かを材料にもう一つ完現術を作っちまえばいい」

「んな簡単に……今俺が持ってるものなんて死覇装と斬魄刀くらいなもんなんだぜ?」

「……滅却師十字、私の使い古しでよければ使うか? お前はこれに思い入れはないかもしれないが……まあ私の一部ではあるからな。何らかの力にはなるやもしれん」

「斬月のオッサン……どう考えてもそれでできんのは弓だろ」

「「「じゃあ滅却師として戦うということで」」」

「そうなるか~~」

 

 まあそうなるわな。死神としての戦いと虚としての戦いはできないわけだから、だったら残りは滅却師か完現術師のどちらか。そのうち完現術の方は戦闘力が無いとなればもう答えはわかり切っている。

 それに、滅却師の矢は周辺の霊圧を集めて使うものだから俺自身の霊圧は感知されにくそうだしな。隠れて行動しないといけないっつー今の状況から考えても悪くねえ。ついでに仮面みたいのがあればもっといいんだが……そう都合よくあったりしねえよな。

 

「君もはんぺんにならないか───?」

「ならねえ。と言うかなんだよはんぺんって。いやはんぺんについての答えはいらねえ知ってるよはんぺんくらい。問題ははんぺんに『なる』ってとこなんだよ分かるか? 分かれよ? わかっていて無視すんなよ?」

「ああ、そう言えば……私は崩玉と融合して羽化したわけだが、その際に一時的に殻のような物を纏ってね。その時の姿が一部界隈ではんぺんに似ていると評判になってね」

「どこの界隈だよそれ。あとはんぺんに似てるってなんだよ。いや説明も実践もいらねえし俺ははんぺんにならねえから崩玉つまんでこっちににじり寄ってくるのをやめろォ!」

 

 こいつ俺の中に来てからマジで愉快になったな!? なんだもしかしてこれが地か!? 織斑さんに脳まで焼かれて叩き直されて愉快になった感じか!? ギャグ落ちかよ!?

 

「……ああ、やはり振り回す側の方が楽しいな。織斑隊長がよく私達を振り回していた時に楽しそうに笑っていた理由がよくわかる」

「お前マジでいい加減にしろよ……?」

 

 精神世界じゃなかったらこんな風に悠長に話すらしていられないかもしれない状況だってこと忘れてんじゃねえだろうな? まあこいつの場合わかっててやってる可能性があると言うかその可能性がめちゃくちゃ高いのがクソ。なんでこういうイカレてる奴に才能を与えたんだか。

 

「何を言う、黒崎一護。君曰くの『イカレていない者』が現状を打破するために力を求めることなどあるはずが無いだろう?」

「……そりゃそうだ」

 



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BLEACH外典03(準備運動2)

 

 side 黒崎一護

 

 わかったことは、どうやらここでは俺は死神としての力を失っているらしいということだ。死神としての力だけじゃなく、虚の力も滅却師の力も無くしているって言った方が良いか。

 多分だが、最後の月牙天衝をクソ真面目に自分を使ってやったんじゃないだろうか。そうでもなければ生きている状態で俺が霊力に関わる力を失うとか考えづらいもんな? 知らねえけど。

 だけど妙な話だよな。そうなると藍染が俺一人分程度で致命傷を与えられたってことになる。俺と戦った藍染は首を飛ばそうが臓物をぶちまけようが即座に何もなかったように元通りになって戦いを続けたってのに……もしかすると、ここの奴はみんな全体的にそんな強くないのか?

 

 よくわからねえが、ともかく今できることをやろう。俺が一体いつまでここに居るのか、ここに居なくちゃならないのかはまだわからない。もし何日もってことになると、食事なんかが問題になってくるが……それは虚になって虚を食えば賄える。やりたくねえけど井上も同じようなことをやっていたしできなくはない。やりたくねえけど。

 だが本当に腹ごしらえってのは大切だ。腹が減ってちゃまともに戦うどころか動くこともできなくなったりもするからな。仕方ない仕方ない。死神でも生きているし、俺は死神代行で人間だからな。同時に虚で滅却師でもあるけどな。

 

『……おかしい。明らかにおかしい』

 何がだよ、斬月のオッサン。この状況でおかしくない事なんかねえと思うんだが、それでも気付いたくらいおかしいことなら言ってくれ。俺には知らねえことも多いからな。

『現世に居る滅却師の数が明らかに少ない。確かにかつて死神と戦争をして殆どの滅却師は死に絶えたが、それでもまだ数えるのに苦労する程度には残っていたはずだ。しかし───』

 足りないってか?

『そうだ。……ここから先は私の推測となるのだが、恐らくここでは歴史が歪められていないのだろう』

 ……? 歴史が歪む? それはどういうことだよ?

『細かい説明をしたところで理解することは難しいだろう。故に簡潔に纏めると、何らかの事象が原因で私達の辿ってきた歴史とは違う筋道を辿ることとなった世界なのだろう。今時の言葉で表すのであれば、並行世界と言う物が最も当てはまるのかもしれぬ。それも、恐らくは相応に遠い世界だ』

 並行世界に距離の概念とかあんのか?

『正確には距離ではないが……まあ、ある。そして何となくだが原因もわかった』

『俺もなんとなくわかったわ』

『察したね』

 あ、やっぱそういう感じ? じゃあせーので言ってみるか。せーの

 

「『『『織斑一夏』』』」

 

 だよな。こういうでかいことの原因と言えば織斑さんと相場は決まっている。で、織斑さんが何をどうするとこうなるんだ?

 

『いや、恐らくだがこの世界では織斑は何もしていない。存在すらしていないだろう。つまりは何もしていないからこそこうなったのだ』

 あー……つまり、あれか。織斑さんがいない世界だとこんな感じになる、って感じか?

『恐らくな』

 

 そうか、織斑さんがいないとこんな感じになるのか。なんか俺は弱いし、俺以外も弱いし……ただ、どうも物質の強度はこっちの方が高いような気もする。気のせいかもしれねえけど何となくそう思う。そのあたりの事はよくわからねえしどうしようもないから置いとくとして、やるべきことが他にもある。

 飯は虚でいい。着るものは……今なら汚れは霊子だから分解すればいい。住むところについての問題がまだ残っている。すぐ帰れると分かっているならともかく、いつまでここに居なくちゃいけないのかわからねえ今の状況だと住むところが無いのは結構な問題だ。

 が、それもなんとかなる。織斑さんから前に聞いたが、滅却師は昔の戦争で敗走したが瀞霊廷の影の中に空間を作ってそこで生き延びていたらしい。まあ織斑さんに感知されて侵攻されて半日もしないで滅亡させられたらしいが、まあそれはそれ。今の状況には何の関係もない。

 関係があるのは、影の中に空間を作ってそこに入ったと言う所だ。

 

 ……多分だけど、斬月のオッサンもできるはずだ。俺の中の滅却師としての力の象徴らしいし。できるだろ?

『できるぞ。やるか?』

 場所選ぶのは任せるからいい感じの所見つけたらやってくれ。

『夜であればどこでもできる。夜とは即ち地球の影だ』

 思った以上に便利なんだな。滅却師の能力ってのは小技が多いイメージだったんだが、どっちかってーと虚の力が大味なだけなのか。

『死神の力なら使い方次第だがよ。お前の場合はそれも大味だな』

 困った、なんも反論できねえや。実際鬼道とか使えねえし、元からできてた殴る蹴るとか走り回るとかに加えて剣術を少し覚えたくらいだもんな。

 

 それじゃあ衣食住については大体解決したところで、これからどうやっていくかを考えるとしようか。

 ここに来た目的は修行で、俺はもしかしたら起こるかもしれない未来のために強くなりに来た。その未来が一体どれだけ先の事かはわからねえし、そもそも俺が生きている間には来ないかもしれねえけどよ……可能性がそれなりにあって、そうなったらみんな死んじまうんだったら───そりゃあ何とかするために備えるくらいはするだろうよ、当然。

 



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BLEACH外典04(方針決定)

 

 side 黒崎一護

 

 目的は強くなること。強くなるために一番手っ取り早い方法は……やっぱ食うことなんだよな。虚として魂魄を食えばそれは俺の力になるから可能な限り強い相手を食うのが早い。死神の力は藍染が俺に力をぶち込んだのと纏めて宝玉も取り込んでから一気に増えたし、虚は結構そこらで食えるし、完現術は……ちょっと人間の魂魄をそのまま食うのは主義に反するから無理だが、もしも取り込む機会があったらやっておこうと思う。

 問題は滅却師としての力だが、どうやら滅却師はこの世界にはもう殆どいないようで石田とその父親くらいしか存在を確認できていない。追加を得ることは難しいから地道にやってくしかねえな。

 

 斬月のオッサンの作った影の中の空間で寛ぎながら、俺の精神世界で作戦会議をする。影の中から外の感知をするには滅却師であることが最低条件になるが、俺は滅却師だから問題なくできる。今思い出してみると、おふくろも買い物とかで荷物が多くなった時とか手品みたいに荷物を消してたことを思い出した。ある程度以上の力がある滅却師だったらできるんだな、これ。

 ……そう言えば、おふくろがいない理由は何なんだろうな。尸魂界から出られない織斑さんがいることで起こらなくなる現世にまで何らかの害を及ぼすことでかつ滅却師に対して特効があるもの……まっっっっったく想像がつかねえな。

 

「……いや、無くはない」

「え、あんの? イヤまああるだろうとは思ってたけど知ってんのか!?」

「まあ、な……恐らくだが『聖別』だ」

 

 あうすべーれん……技か武器の名前か?

 

「『ヴェ』だ。『聖別(アウス『ヴェ』ーレン)』。まあ、技と言えなくもない……のか?」

「随分と言い澱むじゃないか。確かにあれは技と言うよりは生態に近いものがあるだろうが、自らの意志である程度使用するかどうかを決められるというのであれば技ということでいいのではないかな?」

「さっき捕まえてきた牛みてえな虚の舌がめっちゃうめえ」

「お前何やってんの? 一応さ、ほら、こっから色々とわかっていく感じの流れだったじゃねえかよ。なんで突然飯の話になってんだ? あといつ出たお前」

「月牙だけしか出してねえから平気だろ、多分。あとなんかこっちのお前も全く同じ感じの代行証を持ってたみたいだからもしかしたらここの世界の尸魂界からこっちの一護に連絡が入ったのを傍受できるかもな」

「なんか結構重要そうな情報持ってきてるからこれ以上なんか言うこともできねえしよ」

 

 ……ん? 確か前にかなり軽い感じでなんか言ってた奴がいたような?

 

「……藍染。オイ藍染」

「何かな?」

「お前確か前に瀞霊廷に滅却師の王を含めた奴らが居て昔に殺し尽くしたとか言ってなかったか?」

「言ったね。思い出してくれて嬉しいよ」

「つまり、滅却師の王は斬月のオッサン……の、元になった奴だよな? で、そいつを殺したから現世の滅却師が死ななかったって感じなんじゃねえのか?」

「恐らくはその通りだろう。聖別とは、自身が選ばなかった滅却師達から滅却師としての力を奪い取るものだ。その際に身体にはそれなり以上の負担がかかり、多くの場合は死に至る。私達の世界ではあの男が瀕死で眠り続けていた滅却師の王を殺害して聖別を使わせなかったからこそ現世の滅却師を多く生き残らせることにつながったのではないかと考えている」

 

 ……。

 

「それ、俺もできたりしないか?」

「滅却師としての技量、そして適性が足りない。ただ、滅却師の力は周囲から自身へと集める力。お前が滅却師としてより強くなれば同じようなことができるかもしれないし、相手の力を奪い取るような能力を認識すればそれを真似ることで似たようなことはできる可能性はある」

「食うでいいならできるぞ」

「駄目」

「だろうな」

 

 それでいいならとっくにやってるだろうしな。斬月のオッサンはこれで結構と言うかかなり過保護な所があるし。

 だが、滅却師の王が相手の能力まで奪えるとか凄まじいな。どうやればいいかの理屈もわからねえしなんならそれを殺した織斑さんや一番隊の爺さんもだいぶやべえわ。

 

 結論として、暫くはこのあたりで大人しくしておくが大きな霊圧の動きがあったらその場に急行してその場を観察する。もしもちょうどいい能力があったらそれをじっくりと見て真似ていくと。つっても滅却師がほぼいないらしいから無理だとは思うけどな。

 何かあるまでは俺の精神世界なり代行証の完現術なりで戦闘訓練でもして時間を潰そうか。他にやれることもねえし。

 

「恐らくだが、この世界の黒崎一護が霊圧を失っている間に今の君の霊圧が感知されれば面倒極まりないことになるだろうからね。それについては私も賛成だ」

「滅却師としての能力を極め尽くせば霊子の操作に行きつく。そして死神も滅却師も虚も関係なく術とは霊子の流れや固定などによって再現できる事象に過ぎない。つまりは滅却師の能力を極め尽くせばおよそ何でもできると言っていい。無論、理の領域に入れば話は変わってくるがな」

「『理』とは、それに縋らなければいけない者のためのものだろう?」

「結局全部食えば解決だろ。食っとけ食っとけ。怪しいのは霊子にまで分解するのを忘れんなよ? どんな毒も最小単位の単分子やら原子にまで分解すれば無毒なのと同じように、霊子にまで分解すれば結局同じだからな」

 

 言ってることが脳筋極まりねえのは本当に何とかならねえのか? ならなさそうだなこれ。

 



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BLEACH外典05

 

 side 黒崎一護

 

 ふと気付いたんだが、完現術は物の魂に干渉してそのものが持つ力を引き出す能力だと言われている。それは例えば道路に使われているアスファルトに対して反発力を引き出させて走る際に加速したり、霊子に干渉して足場としてより強固なものを作ったり、水に干渉して手を一切動かさないで水を飲んだりすることもできる。

 だったら、俺自身に干渉して俺の霊力をより引き出すこともできるのでは、と思ったわけだ。特に滅却師の能力を強く引き出せれば一時的にでも強力な技を使ったりできてもおかしくないと。

 

「どう思う?」

「正気じゃないと思うね」

「狂気に満ち満ちていると感じている」

「頭おかしいとは思うが結構好きだぜそういうの」

 

 なんか頭おかしいと言われた。いや実際にチャドは自分の皮膚に完現術を使って肌の強度や殴りつけた時の威力を底上げしているし、俺も似たようなことができないかと思っただけなんだが。干渉するのが肌と言う身体の一部ではなく魂であるというだけで似たようなもんだろ?

 

「車で言うのであれば、あの男が一般の車の外装やタイヤを変えることで速度を上げているとするとお前がやろうとしているのはガソリンエンジンをディーゼルエンジンに変えるのと同程度には規模が違うが?」

「あるいはニトロでも積む感じか? 当然その加速に耐えるために全体を改造する感じでな」

「一般死神と仮面の軍勢程度には違うと思われるがね?」

「そんな違うか? やってみたけどそんな違わねえと思うんだが」

「はえーよホセ」

「誰だよホセ」

 

 やってみた感覚としては、正直そこまで変わらない。感知できる範囲がなんとなく増えたような気がするのと、集められる霊子量が僅かに増えたような気がするくらいだ。まだ慣れてないからかどうにも特定の能力を引き出すのが難しく感じるのはまあ仕方のないことだと思っている。

 だが、結局のところ慣れだ。大体のものは慣れでどうにかなる。多分な。どうやら俺がやっていること自体は基礎の技術であるようだし、そういうのに関してはもう慣れるしかない。人間で言えば走る事とか泳ぐことに近いかもしれねえな。特に練習らしい練習をしていなくても多少はできるがしっかりと記録を出したりするには練習が必須になるって感じだろう。

 とりあえず、使い続けようか。戦うにしてもまずは基礎が必須だってのは織斑さんとの修行でいやって程叩き込まれたからな。流石にありとあらゆる小技を能力の差で踏み潰そうとするにはまだ足りないだろうからこういう基礎をおろそかにはできない。織斑さんはおろそかにしているようにしか見えねえけどなんか寝てるだけで勝手に強くなっていくとかいう頭おかしい状態らしいからあれが織斑さん自身に一番合う修行方法なんだろう。多分。

 

 ……いや待て。そうだ。織斑さん。そうだ。今まで何度も何度も見てきたじゃねえか。自分の魂の力を引き出してなんかやってる織斑さんの姿と、その発露を。まあ大体パンジャンドラムが出てくるんだが。

 あれはまず間違いなく織斑さんの魂の力でなんかやっているはずだ。少なくとも死神の力でも虚の力でも滅却師の力でもなかったし、なんなら完現術でもなかった気もするがそれでも『魂から力を引き出す』と言う一点においては俺が今目指しているところと到達点は同じはず。あれと同じに行くとは思わないがそれでも方向だけは見えた。ちょっと遠すぎるが。

 ただ、同じようなことをやろうとしたら魂にかけている封印が弾けかけた。よく考えてみれば魂から力を引っ張り出すってことはそう言うことだよな。滅却師の力については周りに知られることの無いようにゲーム感覚で鍛えていくとして、できることだけしていこうと思う。無理はできないから無理って言うんだしな。

 

「ついでに死神の力も鍛えようか。バランスを取るのは大切だよ」

「死神の力と虚の力の成長が著しすぎてバランスが崩れたからこうやって滅却師の力の修行をしに来たんだけどな?」

「安心しろ、一護。お前の中の力は成長こそしていないが代わりに崩玉によって魂そのものの格は上がり続けている。だからこそあれだけの霊圧をその身に収めたまま行動できるようになっているのだ。今であれば封印を無くしても問題なく活動できるだろう。周囲の被害を考えなければ」

「最後の一言のせいでまだしばらく封印外せなくなったんだが」

「そんな時こそ滅却師の力で霊圧を収束させればいいんじゃね? ……あ、できねえのか」

「いつも通りお前を殺す」

「やってみろよ王サマよぉ!」

 

 ───ミヨウミマネダオラァッ!ジョインジョイントキィデデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッペシッアッミスッタッ!!

 ───バカガァ!オラァ!フヌケガァ!フヌケガァ!オラア!フヌケガァ!ナントジャロウゲキ!コノカオノヨウニミニククドウダクヤシイカァアハハハハァー!

 

「……おや、今回は負けてしまったか見様見真似であれをするのはまあ落してしまっても仕方ないとは思うがね?」

「場所も悪かったな。あそこでは滝などのエフェクトの関係でラグが発生しやすくコマンドを最速で入れるとたまに入力し損ねることがある。そのあたりも考えねば修羅にはなれんぞ」

 

 なりたくねえよ別に……。

 



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BLEACH外典06

 

 side 黒崎一護

 

 死神の力。虚の力。滅却師の力。完現術の力。この四つの力が俺の中には存在しているが、ちょっと凄いことになっている。

 死神の力担当、藍染。藍染との最後の戦いに勝利した時、藍染の持つ全ての力とその時に藍染が受けた膨大な霊圧による衝撃などを基にして俺の中に現れた存在で、鬼道や歩法などを担当している。

 虚の力担当、虚の俺こと『ホワイト』。元は死神の魂魄を折り重ねてそれを虚化させて生まれた存在で、藍染が俺の中に来て初めて名前を知った。斬魄刀担当でもあり、斬魄刀を使った戦闘は大体こいつが教えてくれる。後は虚としての超速再生とか虚閃とかもだな。

 滅却師の力担当、斬月のオッサンこと『ユーハバッハ』。名前は前から知ってはいたけどなんか隠しているようだったので呼ばないでいたんだが、この度滅却師の力を鍛える旅行ということで一番張り切っているように見える。滅却師の基本戦術である霊圧操作や血管に霊子を流し込んで行う静血装や動血装、飛廉脚……あと月牙も担当している。

 完現術担当…………何だろこいつ? なんか……爪、の、欠片? だ。藍染と斬月のオッサン曰く『多分霊王の左足の薬指の爪の根元の方の欠片』だそうだ。爪だけではなく爪母もついて来ているからちょっとずつ成長できるらしいが正直分からない。どうなってんだろうなこれは。

 完現術担当補佐、崩玉。藍染を取り込んだ際に一緒に取り込んだんだが、なんと言うか凄いことになっているようななっていないような……いや多分なってるな凄いこと。最近は霊王の左足の薬指の爪の欠片と一緒に居て完現術の補佐をしているらしい。願いを現実に表すというその性質と完現術と言う物質の魂に干渉する能力が非常に相性がいいようで、居るといないとではかなり変わってくる。

 

 さて俺はこの世界ではできれば自分の姿や霊圧を隠していないといけないわけだが、今やっている滅却師の能力での影の中に空間を作ってそこに隠れる技を無理矢理纏うことで影の衣で顔も霊圧も隠すことに成功した。これも修行の成果の一つだが、それを覚えている間に色々なことが起きてしまった。

 外ではどうも石田がなんか弱っていて……いや、この世界だと元からこんな感じだったか? 元の世界の石田基準だとよくわっかんねえんだよな。霊圧の揺らぎが大分あるから多分でかい怪我とかしたんじゃねえかと思うんだけど実際にどうなのかはわかんねえ。

 まあともかく、なんか起きているっぽいことだけはわかったので影の中に代行証を入れて外に出た。影の衣を纏っている間は俺の霊圧は外に出ないから顔さえ見られないようにしておけばそれなりに自由に動けるだろう。多分。

 

 何もない状態で情報を集めるとなるとやっぱ足が大事だ。それに加えて霊力がある相手だったら何か行動する度に何らかの形で周囲に霊圧をばら撒くからそれを掴めばわかることが少しだけある。もしそれが話し声によって生まれる霊圧の震えであればその内容もなんとかわかるのだ。空気を完現術して一定の声の伝わりだけを増幅させれば話している内容もわかる。崩玉が無ければあまりにも面倒すぎてとてもじゃないけどできない使い方だけどな。

 近付けばそれができるがまずは広い範囲で探す必要があるなら虚の能力で探査神経を使えば霊圧感知に関しては俺の持つ能力では一番鋭くて一番範囲が広い。俺と言う存在の虚としての能力に完現術をかければさらに強化できるので霊的な存在を探す時にはめちゃくちゃ便利だ。俺のこれより探知できる範囲が広いのは織斑さん……と、なんでかは正直分かんねえけど観音寺くらいしかいねえ。観音寺はもう本当になんでできるのかわからねえ。ついでに言うと観音寺の能力は死神由来でも虚由来でも滅却師由来でも霊王由来でもないような気がするんだが、じゃあなんなんだと聞かれるとマジで困る。織斑さんのよくわからねえ能力と似たようなもんかもしれない。パンジャンのあれとかな。

 それで確認したところ、なんかの拍子に霊力を失った俺は完現術を通して死神としての力をもう一度取り戻すことにしたらしい。完現術に使う道具は代行証らしいが、なんか俺のとは随分と違う道に進んでんな。戦うための力を失ったからこそそっちの方に進んだんだと思うが。

 

 だったら、そうだな。わざわざお邪魔してるわけだし俺も少しだけ手助けしてやるとしようか。まあ手助けって言っても俺にできる方法だとかなり乱暴になるんだけど。教わった相手が相手だし仕方ねえわな。

 

『言ーってやろ言ってやろ』

『私たちも巻き込まれるからやめろ馬鹿者』

『いいじゃないか、強くはなれるだろう?』

『限度』

『壊すものだね。で?』

『……「私は私に力を与える」』

『おや、そこまでできるようになったか。やはり修行は大切だね』

 

 俺ン中で喧嘩すんなマジで。お前らが派手にぶっ壊してるそこ俺の心象世界なんだわ。直すのに苦労は別にしねえが騒がれると困る。

 おい聞いてるか。聞いてねえなお前ら。藍染お前霊圧全開とかやめろ外に出なくても俺はわかんだよめんどくせえ。あと斬月のオッサンもなんか突然力が倍々で増えていってんだけどなんだそれ。無理してるなら今すぐやめてほしいんだが。オッサンが今無理して後で弱ったりしたらそれってつまり俺の修行も無為になるってことだよな? 勘弁しろよ本当に。

 あと、俺の中で戦っても決着つかねえって。本当にただ消耗するだけだからマジで無理無茶無謀はやめてくれ。マジで。

 

『……「私は私の力を奪う」』

『総量は減っていないのにそれで負担が減るのは反則では?』

『そういう理だ。つまり、理に縋らねばそう在れない弱者の手遊(てすさ)びだ』

『手遊び(反則じゃないとは言っていない)』

 

 聞く限り反則くせえんだよな……まあ実際に戦いの場となれば反則もクソもありゃしねえけど。

 



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BLEACH外典07

 

 side 黒崎一護(原作)

 

 銀城から話を聞いて、親父と浦原さんが何か話しているのを見て、井上とチャドに何かがあって……俺はできるだけ急いで死神の力を取り戻さねえといけないと心に刻んだ。

 ジャッキーと戦って俺の完現術は形を変えて纏う物になり、銀城と戦って完成した。完現術の力は俺の中に眠っていた死神の力と混ざり合い、一つになっている。

 

 そして、俺の前では理解のできないことが起きている。

 

 月島。まるで理解できねえけどなんでかそいつは俺の家族と顔見知りと言う顔をしてそこに居た。それどころか井上も、チャドも、たつきも、月島を恩人や家族のように扱っている。

 何もわからねえ。どうなってんのか、どういう状況なのか。ただ、この状況は月島によるものなんだろうということだけはわかっていた。

 

 銀城と話して、状況を確認した。月島を殺すために戦いに挑み、井上やチャドが月島に味方して、それでも戦って。

 銀城が月島に斬られて、銀城が俺の味方をしていた時の方がおかしかったのだと知らされて。

 

 そして、銀城が俺に剣を突き刺そうとしたところで───誰かが現れた。

 

 そいつは黒い外套を着て、顔を隠していた。手も足も顔も、見えている場所全部が黒であるとしかわからなかった。

 そいつはいつの間にか武器を構え、そしていつの間にか銀城の剣を横から消し飛ばしていた。

 そいつは、滅却師のものだと思われる弓を構えていた。

 

「……誰だお前は」

 

 答えは言葉ではなく矢で返された。反りの強い二本の刀の柄尻を合わせたような細身の弓に霊子が収束されて放たれる。銀城が避けるよりも弾くよりも早く武器ごと腕を吹き飛ばしたその矢は銀城以外には一切の被害を出すことなくその場で霊子に溶けて消え、再びそいつの手元に現れた。

 痛みに悶える銀城に気を取られた瞬間、月島がそいつの背後から斬りかかる。だが月島の刀がそいつを斬ることも、それどころか月島がそいつに挟み込むこともないまま同じように月島の腕と武器が消し飛ばされる。

 それを見たチャドがそいつに襲い掛かり、井上が銀城と月島の傷を治そうと双天帰盾を使い、突然完現術が霊子にまでばらけてそいつに取り込まれていく。

 

「……なるほど、こうやるのか」

 

 瞬き一つするより速く、その場に居る全員が戦える状態ではなくなった。俺も、銀城も、月島も、チャドも、井上も、石田も、下に居たリルカたちも、全員が根こそぎ霊圧を奪われた。俺のように霊力そのものを失ったわけではないみたいだからいずれ回復はするだろうが、今ここで戦うということはできそうにない。完現術は解け、異様な重さが身体にのしかかる。

 だが、こいつから霊圧は感じない。藍染のように大きすぎてわからないとかではなく、本当にまるで感じることができない。身体が重いのは霊圧を一気に失ったせいで意識が遠くなりかけているのと、銀城に斬り付けられた身体の出血からくるものだろう。

 

 ガンッ、と銀城がもう一度剣を呼び出して杖のように突き立て、立ち上がる。その一瞬の間に自分を斬った月島は何故か怪我を治して再び斬りかかり、そいつの身体に飲み込まれて消えた。

 

「おい……月島をどうした」

「……」

 

 返答は再びの霊子の矢。今度は受けることなく避けようとして、しかし追尾するその矢に残った手足を撃ち抜かれる。

 

「……便利な能力だな、これは」

 

「立てるか? 銀城」

 

「……おいおい、少しくらい加減してくれてもいいじゃねえかよ。お前は本当に変わんねえな」

「そうだな」

 

 ……何が、起きた? あんだけ不審な目を向けていた相手に突然友好的に話しかけに行くなんて、それは───

 

 どす、と、俺の胸に矢が刺さる。井上にも、チャドにも、石田にも、そして多分下の奴らにも。

 

「なんだ、お前は違うのか」

「見てただろ。黒崎はちげえよ」

 

 俺にだけもう一度矢が撃ち込まれる。石田がそれを防ごうとするがそれも追いつかないほどの速度で俺を貫いて、何も起こさないまま抜けていく。傷も無く、痛みもなく、何が起きたのかもわからないまま。

 

「おい、どこ行くんだよ。黒崎の力はいらねえのか?」

「必要な分は手に入れた。後は勝手にすればいい」

 

「できるものならな」

 

 そいつはその場に何もなかったように立っている月島を残して消えた。その後の事は知っている通り、ルキアたちから死神の霊力を渡されて完現術ではない死神の力を取り戻し、銀城や月島と戦って、勝った。

 護廷十三隊が俺に持たせた代行証の事も聞いた。俺はそれを受け入れて、これからもそれを持っていることにした。戻った死神の力で、これからもみんなを守っていく。

 

 ───ただ、気になる事が一つある。代行証の周囲を監視する力があったはずなのに、あの黒い影の事は全く映っていないようだった。まるで存在そのものが初めから無かったかのように。

 石田も、チャドも、井上も、誰もそいつの事を覚えていなかった。護廷十三隊にもその存在は届いていなかったし、十二番隊の計器も何も感知していなかったらしい。なんならこういうことを一番詳しく知っていそうな浦原さんにも聞いてみたが、やっぱりあの時あの場所には俺達以外には誰もいなかったって答えしか返ってこなかった。

 

 助けられたのか、それとも何かの目的があってそれをした結果勝手に助かったのかはわからねえけど、もしもまた会うことがあったなら色々と聞いてみたいことができた。どうしてあそこに来たのか。どうやって月島の能力を覚えたのか。そして……どうして俺を見る目だけが妙に面倒臭げだったのか。

 もしも次があれば、聞いてみようと思った。

 



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BLEACH外典08

 

 side 黒崎一護

 

 なんかちょうどいい所にいい能力を持ってる奴を見つけたから時間を稼ぎつつ能力を再現できるようにしてきた。相手の能力を奪う完現術と、過去を改変する完現術。それを滅却師由来の霊子の操作で能力の流れだけ貰ってみたところ、何故か霊王の左足の薬指の爪の根元の所の欠片以外に霊王の欠片を取り込んでしまった。ただ、お陰で完現術全体の出力上昇や複数の能力の同時使用をする事ができるようになったのでむしろありがたいことだとも思っている。暴走することもないしな。

 再現できる能力は『ブック・オブ・ジ・エンド』、『クロス・オブ・スキャッフォルド』、『インヴェイダーズ・マスト・ダイ』、『ドールハウス』、『タイム・テルズ・ノー・ライズ』、『ジャックポット・ナックル』の6つ。この世界の俺の完現術は……はっきり言ってただ死神と同じように戦う事ができるようになるだけのものだし、チャドのははっきり言って俺に合わねえし、井上のは……なんと言うかもし俺が井上の能力を再現しているところを俺の世界の井上に知られたら修羅場になる未来しか見えないのでやめておいた。

 で、増えた霊王の欠片なんだが……確認してもらったところ『霊王の右足の脛毛の毛根』が一つ、『霊王の右耳の産毛』が一つ、『霊王の左ふくらはぎの後ろの汗腺』が一つ、『霊王の血小板』が一つ、『霊王の骨髄幹細胞』が一つ、『霊王の尻の毛』が一つと言う結果に終わった。骨髄幹細胞が異様に浮いてんのをなんとかしたいところだが、ちょっとなんともできそうにない。

 あと、再現できるようにしたとは言ったが本当に能力しか再現できないので多分『インヴェイダーズ・マスト・ダイ』は『ドールハウス』用の入れ物みたいな扱いになりそうだし、『タイム・テルズ・ノー・ライズ』は『制限をかけることで目的を叶える』と言う……対価と罰則が存在する代わりにちょっと普段使いしやすくなった宝玉のような形に落ち着いた。能力をほぼ変わらず扱えるのは『ブック・オブ・ジ・エンド』と『クロス・オブ・スキャッフォルド』の二つで『ジャックポット・ナックル』はそもそもの大当たりの確率があまり高くなくなってしまった。多分大当たりしても勝てない時は勝てないということを理解しているせいもあると思われる。

 

『クロス・オブ・スキャッフォルド』と『ブック・オブ・ジ・エンド』は斬月でも月牙でも矢でも虚閃でも、なんなら俺自身の拳でも問題なく発動させられる。だが能力奪取の方は暫く刺しておいた方が良いので斬月を使うことになるだろうし、過去改変は一瞬で済ませられるので月牙や矢で使うことが増えると思う。

 

『……これは、上手く使えば私の『全知全能』を掻い潜れるな。良い能力を手に入れた。それに能力奪取も聖隷と共に使えば、霊子を奪った相手の能力をそのまま奪い取ることも可能になるやもしれん』

 

 す、すくらべらい?

 

聖隷(スクラヴェライ)。周囲の霊的存在から霊子を奪い取る技術だ。確か我々の世界においては石田雨竜がやっていただろう?』

 

 ああ。あれか。基本技術だと思って名前があると認識してなかったわ。あるとしても『霊子の操作』とか『霊子の集束』とかそういう感じだと。そうか、名前があるのか、あれ。

 

『本来であれば集めるに適さない何らかの形をとった霊子を分解して純粋な霊子として扱う技術。それが聖隷だ。使いこなすことができるのであれば、虚を霊子に分解することも不可能ではない。その場合、魂魄としての虚は消滅するがな』

 

 じゃあ使えねえじゃん。

 

『もしも敵が滅却師であり、かつ十分な能力があれば間違いなく使ってくる技術の一つだ。覚えておくと良い』

『対抗策は?』

『自身の霊子を相手に隷属させないようにしっかりと支配しておくことだ。また、大抵の場合そこまでできる滅却師であれば自分の体外に収束した霊子の操作をしやすくする核のような物を出しているからそれを壊せばいい』

 

 ……俺、そんなもん出してなくてもできたんだが?

 

『実力百の相手の全力と実力阿伽羅の相手の0.1%ではどちらが強いかなど分かり切った話だろう?』

 あからってなんだよ。話の流れから数字の単位ってことはわかるけどどんだけでかいのかもしくは小さいのかはわかんねえよ。

『阿伽羅は……わかりやすいように言えば10の224乗だね。大きすぎてよくわからないという顔をしているが、ともかく0.1%が0.00000000001%だったとしても相手が100程度なら負けようが無いだろう?』

 

 でっっっっか。と言うかその話の内容だと俺がそんだけ強いみたいなんだが?

 

『そうだ。お前は強い。十分に』

 

 ……まあ、何をもって十分とするかは俺が後々勝手に決めるとして、今のところ俺にできることは殆ど無い。と言うか今出ていったら問題しか起きる気がしないのでしばらくは何もできないって言った方が良いか。

 影の中に空間を作るという技と影そのものを操る技を組み合わせることで、相手からの攻撃を受けた際には無限の距離を影の中に作り、自分から攻撃する際にはその距離を0にする新しい防御の技もできた。ちなみに斬月のオッサンはこれをそういう風に使うというのは考慮していなかったようですっげえ面していた。まあ実際反応できる攻撃に対しては事実上無敵になる能力だもんなこれ。弱点は威力を上げまくることで空間を歪められると所詮は影と言う薄っぺらい中に作った世界ということもあって破られやすいってことくらいだが、死神にとっては空間をどうこうする術の多くは禁術らしいし、滅却師は霊子の集束が上手すぎるから空間に作用するような特殊な力を専門的に持っていたりしなければ通らない。虚閃のように大量の霊圧を無作為にぶちまけるような方法で、かつ相当の威力が無ければ破るのは至難の業……だよな? まあ抜けてきても静血装で受け止めたりするだろうけど。

 

 攻撃手段は持っていた。防御の手段は手に入れた。移動手段も作り上げた。あとあったら便利そうなのは回復手段だが……死神の鬼道は俺にはどうにも合わねえんだよな。

 かと言って滅却師の方法での回復は斬月のオッサン曰く『理の領域のもの』でしかないらしいし、その理の領域ってのもなんかよくわかんねえ特殊能力みたいなものらしいし。虚の超速再生は俺以外の奴には使えねえから除外として、完現術は新しく作るには思い入れのある物ってのが思いつかない。代行証は幻想闘技場に、斬月のオッサンから貰った滅却師十字は弓に、斬月本体は形はそのままより強靭になるだけだし、俺自身に使っても同じ。要するに無理ってことだが……なんか手段はないか?

 

『気合で頑張る』

『霊圧でゴリ押す』

『霊子操作能力によって集めた霊子を治すべき傷に合わせて変質させ埋め込むことで事実上治ったのと変わらない形にする』

 

 気合と霊圧はボツ。気合でできれば苦労はしねえし霊圧でゴリ押したら過回復で弾けるだろ。やるなら最後のか……めっちゃ手間かかりそう。

 

『めっちゃどころかめっっっっっっっちゃ手間かかるぞ。雑にやっても一時的に塞ぐ以上の事ができないどころか血液の流れを阻害して傷から先が腐り落ちることにもなりかねんからな』

 

 急いでる時には使えなさそうだなそれは。わかった、もう仕方ねえから『タイム・テルズ・ノー・ライズ』で何とかするわ。多分できるだろ、知らねえけど。

 



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BLEACH外典09

 

 side 黒崎一護

 

 かつて織斑さんは俺に言った。俺と言う存在は、全てが伸びしろのような存在だと。

 人間の力、死神の力。虚の力。滅却師の力、そして完現術師としての力。それらの能力を全て兼ね備えている存在など現状では誰もいない。霊王ですらも人間と死神と滅却師、そしてそもそも完現術師としての力は霊王の肉体が持っているものらしいから完現術師としての力も持っているだろう。だが、それでも虚の力は持っていない。

 強さをベクトルで表すとする。原点から離れれば離れるほどにより強くなれるとして、しかし伸ばした力の中心部が原点から離れるほどに負荷は大きくなっていく。

 想像してほしい。指にスプーンを載せて、バランスを取ってみる。ある一点を指の上に乗せていればスプーンは指の上から落ちることは無く、しかしその一点が指の上からいなくなればスプーンはすぐに落ちてしまう。力と言うのはこれに似ている。

 弱ければ関係ない。指と言う大きな受け皿の上にその一万分の一の大きさにも満たない埃のような粉末が乗っていたとして、それがバランスを崩して落ちることを心配することは無い。そもそもバランスがどうこうと言うよりも粉末そのものが吹き飛ばないかを心配するはずだ。

 だが、ある程度強くなってくれば話は変わってくる。鍛え、強くなることで力は様々な方向に延びていく。たとえ話ではあるが、死神として強くなるのであればプラスの方向に延びていく。方向性が鬼道に寄ったものか斬魄刀に寄ったものだとかそういった違いはあるが、ともかくプラスに延びていくとする。そうなると原点に存在していた指先にあった埃のような粉末は大きくなっていき、指からはみ出すようになっていく。そして重心が指という原点から外れれば、重力に引かれて落ちてしまう。それが魂魄の強度の限界であり、強くなりすぎた魂魄が崩壊する原因の一つでもあると。

 ただ、原点で他の奴は指先で支えているにも関わらず掌で支えている奴が居たり、机の上に置いている奴もいる。そう言った奴の能力は大きく伸び、限界値もけた外れになりやすい。

 しかしそれ以外にもより大きく能力を伸ばす方法がある。例え支える位置が指先であっても、伸ばしていく方向がプラスの方向だけでなくマイナスの方向にもあればどうなるか。つまり、死神の力だけでなく虚の力も同じだけ伸びていけばどうなるか。答えは簡単なことで、指に乗せている物が強度的に支えられる限界になるか、支えている指にかかる重さが限界になるまではどこまでも伸ばし続ける事ができるということに他ならない。

 そういった意味で、死神と虚と滅却師という三つの力を人間の器に抱えている俺は伸びしろだけならば無限に存在しているという話をされた。勿論強度の限界などはそのままなので基礎力の底上げはどこまで行っても付きまとってくるということも聞かされはしたが、それはつまり俺の努力によってどうにかなる範囲であることのはずだ。

 事実がどうかは知らないし興味もあまりないが、できることが多いのは有り難いことでもある。

 

 それと、最近は虚の俺にも斬月のオッサンにも割と勝ち越せるようになってきた。斬月のオッサンは俺の中の滅却師としての力しか使えず、虚の俺は俺の中の虚の力と一部の死神の力の塊。そもそもとして出力で負けるようなことはほぼ無く、そうなれば技量の差で抑え込まれるかあるいは技量の壁を俺がぶち抜けるかの差で勝負は決まるんだが、その壁をようやく超え始めたという感覚がある。

 

「そういうことで、これからの相手は私がしよう」

「出たな事実上のラスボスがよ」

「ラスボスはどちらかと言えば織斑隊長だと思うのだがね?」

「織斑さんはあれだろ、クリア後に挑もうと思えば挑める隠しボスとかそういう奴だろ、多分。勝てる気しねえけど」

「ああ、敗北前提で『ゲームシステム的に極め尽くせばここまでできますよ』ということを見せつけてくるタイプのあれか。心折れるね」

「相変わらずの心折設計だよな」

「そういう君は突然背後から首を落とそうとしてくるじゃないか。私とて死ぬときは死ぬんだよ?」

「でぇじょうぶだ、崩玉(ドラゴ○ボール)でなんとかなる」

「君は崩玉の事をそんなモノ扱いしていたのかい……? あと、いくら崩玉でもどうにもならないことはあるよ?」

「織斑さんが霊子操作で霊子から魂魄を作り出してたから、崩玉でブーストかければ俺の中で死んだ以上どうにかなるかと思ったんだが」

「淡々と死者蘇生の方法を考えるんじゃない。しかも若干できそうなのが嫌だ」

 

 俺も正直多分できるなと当たりを付けられるのが嫌だ。作れるのはほぼ義骸みたいなものだったとしてもそれに『ブック・オブ・ジ・エンド』で人格とか挟み込めばほぼ同一人物として作れるなとか思えるのもまた嫌だ。

 ……殺すことはそんなに気にしねえし、殺せと言ってくる相手を生かしておくのも気にならねえのに、どうして新しく命を作る際にまともじゃない方法を取ろうとすると嫌悪感が勝るんだろうな。わかんねえもんだ。

 少なくとも、作った後に問題なく生きて、そして一般的な存在と同じくらいの寿命を生きれるのであれば何も悪くないとは思うんだが、どうにもなぁ……。

 

「いや何黄昏ながら千本桜のように月牙を放って操っているんだ君は。断空で防いでも断空に使っている霊圧を取り込んで巨大化して分裂してさらに数を増やしてくるし」

「できそうだなって思ったからよ」

「できそうだからと言って本当に何でもやっていたら織斑隊長になってしまうよ」

「なってたまるか」

 

 いやマジでなってたまるかよ。

 



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BLEACH外典10

 

 side 黒崎一護

 

 卍解は壊れると元に戻らないらしい。だがよく考えてみてくれ。俺の斬魄刀は虚の俺で、しかも超速再生の能力もあるタイプの虚だ。つまり何が言いたいかと言えば、ワンチャン卍解状態で折れても超速再生で治るのでは? ということだな。

 

「で、できるか?」

「無茶苦茶言いやがるぜこの脳筋。しかも試したことはねえが若干筋が通ってるのも腹立つ」

「試すために折ってみてできませんでした、となると最悪だからな。そもそも卍解が何らかの形で損傷する事態は避けるのが無難だ」

「不可能ではないだろうね。ただし相当疲れることは前提とさせてもらうが」

 

 よっしやっぱりできる可能性はあるんだな。もし折れたらそうやって直そう。そんな機会はない方が嬉しいが。

 

 それじゃあ鍛錬鍛錬。俺がこの世界のこの場所に飛ばされたということは、多分もうすぐ何かがあるんだろう。それも滅却師絡みの事で。そうでなければ相談内容とは違う完現術師と合わせるような時間帯に送り届けたりはしないだろうし。

 だから今の俺がやるべきことは、手に入れた能力奪取などの練度をより上げていく事。『インヴェイダーズ・マスト・ダイ』についてはプログラミングとかは俺にはできないから本当に持っているだけ、もしくは出せたとしても入れ物としての箱を出すだけになりそうだが、流石に今この場でプログラミングの勉強に時間を割くわけにもいかない。まあ雪緒の過去で色々見ていたから本当に何の効果も無い箱を出すだけなら何とかできそうだし、良いとする。良いとすると言うか今はこれ以上できないからもう仕方ない。

 

 しかし、他人の過去に事象を挟み込むっていうのはかなりやばい能力だ。使っていて常々思う。相手が数百年生きていればそれだけの経験を一瞬で詰むことができる上にその内容まで決めることができる。そして変えた過去は変えられた本人にとっては現実として認識される。そして変えられた過去において技術を習得していればそれは実際の経験として積み重ねることができる、と。

 …………要するに、俺自身に過去を挟み込めばほぼ無限に修行を積める? 過去についての設定は過去を挟んだ存在、つまり俺自身が自由に決められるから───

 

 待て。もしかして、これか? あれじゃないか? 織斑さんが何らかの方法でこれと似たような物をどこかで覚えて俺に使うことで一瞬で大量の経験を積ませるためにそういう過去を挟んだんじゃないのか?

 だとすると、これを俺にもう一度使うとワンチャン二回目判定貰って今の経験が全部なくなる可能性も出てきたりするのか? それはあまりにもったいねえな。自分に使うのは一応やめておこう。使うとしたら織斑さんが俺をここに飛ばした方法がこれじゃないってことを確認出来たらか。

 まあ、織斑さんなら俺自身を本当に異世界でも並行世界にでも飛ばせそうだし、逆にそんな手間をかけずに過去だけ作って追体験させてる可能性も十分あるからマジでどっちかわかんねえんだよな。便利だからいいけど。

 

 滅却師の力の修行って基本が全てに繋がるから、本当に霊子操作以外を修める必要性はそもそもないんだよな。基本の矢もそうだし、弓を作るのもそう。石田が前にやっていた銀筒に霊子を貯めて使う術とかはなんかよくわからねえ詠唱が必要らしいけど、詠唱が無くとも霊子操作で完璧に術式をなぞれば同じように発動はする。ただ、これが何でか死神の鬼道には当てはまらないのがわからない。マジで鬼道が難しい。鬼道だけが妙に難しい理由はわからねえが難しいものは難しい。

 

「いや、単純に力の根本が純粋な死神のそれではないからだと思うよ? 君は今まで純粋な死神の霊力を自身の中に感じたことは無いはずだ。君の力は常に死神のそれと虚のそれに加えて滅却師のそれすらもが混じっていたはずだからね。純粋な死神の力であれば結構簡単にできるはずの鬼道に不純物が混じることで効果がおかしなことになっているのだと思うよ」

「え、そうなのか?」

「想像でしかないが、大きく外れてはいないだろうね」

 

 そういえば、確かに死神としての力だけ選んで使うようにして戦うとか俺には無理だわ。死神の力に限らず虚の力も滅却師の力も選んでは使えない。選んで使えるのは完現術くらいじゃねえか? 多分後天的に得たものでかつ俺以外の何かを力の源にしているから選んで力を使うことができるんだと思う。詳しくは知らねえけど。

 しかしそうか。そうなると俺が鬼道を使うのは大分難しいってことでいいのか? 斬月のオッサンのおかげで滅却師の力だったらなんとなくわからなくもないんだが、滅却師の力は滅却師の力で完現術と間違えやすいのが問題になる。霊王が滅却師だったからなんじゃないかと思わなくもないが、霊王は滅却師であるだけではなく死神でもあったそうだからそのあたりで混じったりしているんじゃねえか?

 

「滅却師の術なら使うことはできるのではないか?」

「霊子操作で再現できない滅却師の術ってあるのか? 血装とか聖隷とかはそれでできるし、影の中に世界を作るのもそれでできたし」

「……無くはないが、単純に霊圧が足りないから増幅させてそれを撃ち出すか陣を敷くかのどちらかだ。お前の場合はそもそも増幅させる必要性がまるで無いし、陣を敷くのもわざわざ敷く手間をかけることもない。霊圧のごり押しでいけるはずだ」

「ステータスさえ上げておけばレベルもスキルも必要ない理論がここでも通じるとか怖いな……あと霊圧が足りない場合の増幅方法について詳しく」

 

 聞いてみたが脳筋だった。圧が足りないなら内容量はそのまま規模を小さくすればいやでも圧は上がるからそれを使う。結局どこまで行っても霊子の操作でどうにかなる内容だった。陣を敷くのも術式としてそういう形を取らせることで効率よく霊子を収束させて規模を大きくしたり消費を少なくしたりする方法らしい。霊子の操作の技術が少なくともある程度の威力を出すための方法だそうだけど、そもそも圧縮させないで垂れ流すだけで十分な霊圧を持っている俺からすれば無用の長物と言える技術であるらしい。使う機会があるとするなら……自分以外の滅却師と敵対した際に相手の許容量以上に圧縮した霊圧を相手に使わせることで身体に負担をかけさせて自爆させるくらいだそうだ。

 ……この世界で滅却師とか石田と石田の家族以外に居ないんじゃなかったっけか? 使う機会なさそー……。

 



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BLEACH外典11(パンジャン侵攻回)

 

 side 黒崎一護

 

 外で何かが起きたらしい。俺の霊圧がどこかに消えた。位置的には浦原さんの店のあたりから消えているから、多分尸魂界か虚圏に移動したんだろう。

 つまり、今なら俺が外に出ても俺と鉢合わせることは無いってわけだ。

 

 しかし、いったい何があったんだろうな?

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護(原作)

 

「さあやってまいりましたP-1グランプリ予選、本日は虚圏特設ステージとなっております。実況はわたくし某紅茶脳なボイスロイドを今だけ真似ておりますマーマイター赤井が、解説は本来ならばあの方をお呼びするのですが残念ながらこちらの世界では伝手がございませんでしたので妹役の蒼井がお送りいたします。よろしくお願いします」

「よろしくじゃねーよなんだよここ。なんかどいつもこいつもよくわかんない仮面付けてるし、仮面付けてる奴らを追い回してる白い服の奴らもいるし、なんか死んだと思ったら死体消えてるし」

「さて会場の解説に参りましょう。「聞けよ」本来でしたら障害物として虚圏にお住みの破面及び虚の皆々様にご協力願うつもりだったのですがどうやら本日はお忙しいようですので、代わりに滅却師の皆様に障害物役になって頂こうと思います。いかが思いますか?」

「はあ、そうですね。滅却師と言えば弓矢をよく使い遠距離攻撃を得意とする存在だと風の噂で聞いたことがありますから、まあいい障害物になってくれるんじゃないですか。知りませんけど」

 

「いや知らねえのはこっちだよマジで!誰だお前ら!?」

 

「おっとお客さんです。やあやあどうも初めまして。P-1グランプリ予選会場へようこそ。本戦は予選が終わった後速やかに場所を変えて行う予定なのでよければそっちも見に行ってね。ついでに赤井ちゃん可愛いって言って?」

「言わねえよ!?」

「アカイチャンカワイイヤッター!」

「井上!?」

「ペッ」

「なんで唾吐いてんだよそっちは!?」

「さあ新しいお客さんも来たことですし張り切ってまいりましょう、既に予選も大詰め、これが最終予選となりますが今回の参加パンジャンたちは明らかに殺意の高いものばかり。果たしてゴールすることができるのでしょうか。まずは参加パンジャンたちの紹介です。」

「エントリーナンバー1、ドリキャスPAN。自称・最新型のドリー〇キャスト型パンジャンドラム、ホイールについたマークが懐かしさを感じさせますね。しかしその性能は最新型を名乗るにいささかの躊躇も必要ありません。

 ドリー〇キャストを名乗るだけありソフトは後入れ式、ただこれはパンジャンドラムですので後入れするのは爆弾と、爆発した際により広範囲により甚大な被害を与えるために用意された散弾です。周囲で燃え盛る青白い炎が挿入前の爆弾に引火しないか心配です」

「そんなものをここで使うな」

「エントリーナンバー2、グレート・デザート・ブラザーズ号。えー……生きていますね。はい。相棒が居れば凄まじく強大な虚閃を撃てるとのことでしたが、残念ながら相方は今回不参加のようです」

「背中のまだら模様を水玉模様と言い張っていた姿には憐れみを隠しきれませんでしたね」

 

「ドンドチャッカーーー!!?」

「ペッシェーーーーー!!!」

 

「おおっとここで急遽相方も参戦、これでようやく本格稼働です。良かったですね」

「良いのかなぁ……?」

 

「お次はエントリーナンバー3、ドン観音寺マイフレンド号。よくわかりませんが現世で今人気のあの男、どうやら虚圏でもファンを増やしているようです。ご覧くださいテンション上がりすぎてもはや何を言っているかよくわからない元第2十刃の彼らの姿を。目をキラキラさせています。作った破面の方もにこやかに微笑んでいます」

「まあパンジャンドラムだから爆発はするんだろうけどね」

 

「エントリーナンバー4、実は斬月は偽名なんだが今まで嘘をついたことが無い者だけ私に石を投げろ号。今大会地味に最も長い名前のパンジャンドラムです」

「なんか……人が磔にされてるように見えるんだけど?」

「なんでも大切な相手に嘘をつき続けていた良心の呵責に耐え切れずに自身を材料にした方がいたようです。しかし参加するからには負ける気はないようで、静血装を体外にまで広げることで強度を確保し、動血装を体外に拡張することで機動力も得ています。速いですよ」

「動力本人とか欠陥兵器じゃねえか」

「血管兵器? 確かにそうですね。私は面白いと思いますよ」

「言ってもいないギャグをさも私が言ったかのように扱った挙句慰めに来てんじゃねえ」

 

「斬月のオッサン!!??」

「別人だ」

「いやどう見ても斬月のオッサンじゃねえか!なんでここに!? つーかなんで外に出てんだよ!?」

「別人だ。お前の中を探ってみろ、恐らく居るぞ」

「探ったことあるけど居なかったんだよ!」

 

「話は後にしてもらうとして最後の予選参加者となります。エントリーナンバー5、俺が斬月だ号。嘘は一つもついていないし時間が無いからわざわざ実践で色々教えたにもかかわらず教えをまるで聞く気が無いどころか信用すらないのでちょっと鬱になってしまった方がエントリー。得意の虚閃で周辺を薙ぎ払います。ただし、内部に乗っているため攻撃方向によっては自爆します」

「自爆しないまま攻撃しに行く奴とかおる? パンジャンなんですけど???」

「ロケットエンジン搭載で空飛ぶパンジャンもおるしへーきへーき」

「兵器兵器(欠陥)」

 

「よう一護」

「斬月のオッサンもそうだけどなんでお前までいるんだよ!?」

「お前今は取り戻したとはいえ一旦ほとんどの力を最後の月牙で放出しただろ? その時の力が固まって姿を取ったんじゃねえか?」

「そんなことある!?」

「まあ殆ど無いだろうな。ああ、危険だからあんま近寄んなよ? 死には……多分しないとは思うが加減とかそんなものはないような物だからな」

「わっけわかんねえよっ!!!」

 

「それでは参加者の紹介も終わりましたのでP-1グランプリ最終予選を開始いたします。誰がゴール地点に最初にたどり着くのか、そこまでの道で何度爆発するのか、そもそもゴールすることはできるのか、見物です。常に夜であるこの世界に煉獄の花が咲き乱れます。果たして死者への手向けか凱旋の祝砲か、ぱんころ~」

 



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BLEACH外典12

 

 side 黒崎一護

 

 代行証を補足されたようで、俺に連絡が届いた。この世界の俺本人ではないが、俺も俺だからいいか。

 

「はい?」

『黒崎一護か!悪いが緊急事態だ!今すぐにこっちに来てくれ!』

「……わかった、すぐ向かう。ただ……」

『ただどうした!?』

「……ちょっと、見た目が悪い方法で行く。浦原さんのとこに行くよりこっちのが早いからな」

 

 虚の力で黒腔を開き、そこに入り込む。その前にこの世界の俺の代行証を浦原商店の地下にある影の中に飲み込んでおく。これで俺が居なくなると同時に代行証も現世からなくなったという事実が残る。

 黒腔はなんかよくわからねえが断界の外側を埋め尽くしているらしいから尸魂界のおよそどこにでも繋げることができるし、やろうとおもえば尸魂界の方で開かれた道に横から開けることもできなくはない。断界の中の時間圧縮を使うことで更に速くできそうではあるが、その場合十二番隊の指定したところに出なければならなくなるので面倒事が増えそうだしやめておこう。

 

 時間にしたらほんの僅かな時間だが、その僅かな時間が一体どれだけ長く感じたのかはわからない。しかしそれでも俺に───正確には黒崎一護にだが、助けを求めてきた相手に大きな被害が出る前に到着できた。ただ、俺が虚化して黒腔を使って現れたことには驚いたようだったがそれでも時間の流れの事なんかはしっかり理解してくれたので説明は少なく済んだ。

 さて、それじゃあ。

 

 まずは手近なところから殺していこうか。

 

 肌が黒い奇妙な杖を持ったヤツを小剣、滅却師の力の宿る方の斬月で叩き斬る。脳天から股下まで綺麗に両断されたそいつから何かが抜けて一番隊の方に消えていくのを感じ取った。

 同じようにもう一人、適当な所に居たこれまた黒い肌に奇妙な髪形の男を斬り捨てると、これも同じように一番隊の隊舎の方に消えていく。

 

 ……どう思う?

 

『私だな。どうやらそこに居るらしい』

『今の力の流れ、もう一度よく見といた方が良いんじゃねえか? 今抜けてった何かって多分そいつの持ってた力だろ?』

 

 ああ、なるほど確かに。じゃあもう一人、適当に誰かぶった切っておくか?

 

『んなことしねえでもそこに転がってる奴に「斬りつけられたが今まで命に届いていなかった」って過去を挟んでやればもっかい見られんだろ』

 

 お前頭柔らかいな……しかももう一回斬れば元通りになるから二回強くなられることもないだろうし。そういう訳で実行。

 

 ……なるほど。なるほど。こうやんのか。なるほど。これは俺には無理だな。先に奪ってもいいがその場合俺の力とくっついたら俺の力ごと持っていかれそうな気がするからやめとく方が無難か?

 ただ、多分再現はできそうな気もする。霊圧任せになるだろうから普通に殴るなり斬るなりした方がよっぽど早そうではあるが。

 

 そんなことを考えながらもう一度斬って挟んだ過去を無かったことにして、ついでにそいつの過去に割り込みまくって滅却師としての修行をしておく。こいつ……ナナナの過去では俺とナナナは滅却師として共に技を高め合った仲だったということになったが、そういうこともなくなった。だが俺には経験として残るのが便利だな。

 しかしなるほど、滅却師ってのは本当に虚に対してあまりに弱いんだな。そんな印象全くないんだが、本当にそうやって教えられていることには驚いた。そして多分それが事実に近いってことにもな。そりゃ虚相手にあんだけ殺意高くもなるわ。

 ……問題は、なんで俺は滅却師でもあるのに虚を宿してなんともないのかって所だが。

 

『あれでなんともないといえるのは君くらいだろうと私は思うね。一応仮説ではあるが、恐らく死神の力が滅却師の力と虚の力の間の緩衝材のような物になっているのではないかと思うが、流石に今この場でそこまで詳しいことはわからないね』

 まあそうだよな。仮説でも情報くれてありがとよ。

 

 で……どっちに行く? 今危なそうな地上か、敵の親玉が居そうな一番隊か。滅却師の特性を考えれば多分親玉さえ生きていれば全部何とかなる類のものだと思うんだよな。逆に言えば、敵の親玉さえなんとかすれば全部解決しそうな感じ。代わりにもう暫く地上では頑張ってもらわないといけないが、そうしている間にもどんどんと死んでいく奴がいる。

 いや、考えるより速くとりあえず一番隊に向かいつつ切れる奴を斬っていこう。まずはそこにいるなんかごつい男を斬り捨てておく。斬り捨てついでに過去を挟んで一瞬で修行を繰り返しておくのも忘れない。そしてこの男が奪ったらしい卍解の入ったメダルも貰っていく。何かに使えるかもしれないしな。なにに使えるかは正直予想もつかないが。

 

 そういえば、一番隊の地下に何があるか知ってるか?

 

『真央地下大監獄という、何らかの理由で殺すことのできない囚人の繋がれる監獄がある。私がいるね』

 お前こっちでも色々やらかしてんのかよ。俺たちの所とは多分理由とかも違うんだろうな。

『そうだろうね。こちらの世界にはどうやら織斑隊長はいないようだし』

 

 織斑さんの消えた世界が即座に崩壊しないようにするための分銅を作る作業だもんな。俺がその分銅にされたことは未だに許してねえけど、まあそれが無ければ俺は産まれてすらいねえだろうから何も言わねえようにはするけどよ。

 



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BLEACH外典13

 

 side 黒崎一護

 

 目の前に男がいる。斬月のオッサンと同じ姿をした男が一人と、藍染と同じ姿をした男が一人。あと、斬月のオッサンに似た男の影の中に一人。とりあえず斬っておくことにした。

 影の中の男には月牙を。斬月に似た男には短い方の刀で直接の斬撃を。藍染と話をしていたようだがそれを待ってやるような優しさは少なくとも今の俺には存在しない。そこで、この男の異常さを理解した。

 

 この男の能力は、未来を見て、そしてその未来を自分の好きな形に改変すること。正しくは、無数に存在する可能性の中から自身の望む未来を探し出して全ての未来をその未来に塗り替えること。なんとも頭のおかしい能力だな、それは。

 

「黒崎、一護……か?」

「お前にはそう見えてんのか?」

 

 いや、俺は知っている。こいつの目に俺は見えていない。いや、肉眼であれば見ることはできるが、未来を見るというこいつの目に俺の姿は映らない。理由はわからないが、多分俺がこの世界の人間ではないからだろうと思われる。なにしろ俺はこの世界から見れば違う世界の人間らしいからな。この世界であれば万能───いや、全能かもしれないが、それは世界の外側には届かない。

 そして、そもそも全能ですら無いことも知っている。じゃなけりゃ俺に斬られて過去の出来事を知られるようなこともなかっただろうからな。

 

 俺は知った。覚えた。やり方も、感覚も、全部だ。それができるだけの実力も今得た。

 目を閉じ、()く。本来のこいつ、ユーハバッハが見ていただろう世界の未来が砂粒のように見える。だが、ユーハバッハがこの世界の事しか見れないように俺にも俺の世界の未来しか見ることはできないようだが……十分だ。見れるようになったことでどうすれば対応できるのかも理解した。

 そして、俺が間違いなくユーハバッハよりも優れていると言い切れる点がある。それは、ユーハバッハは現在より半秒であろうとも過去であれば改変できないが、俺は世界そのものに過去を挟み込むことで今より過去の事を改変できる。それも、過去から見た未来である今や今より前であっても問題なく。

 

 今、俺の前に居るユーハバッハは俺に一度斬られた……つまり過去を挟まれたということを認識できていない。そのことはもう確認した。ここから過去をどう変えることもできるが、それ以上にこいつ自身の滅却師としての成長を覚え、俺も同じだけ強くなり、滅却師として力の上下が出ない程度まで滅却師として強くなった。俺の中の斬月のオッサンも驚きながらも喜んでいる。

 それからユーハバッハの過去の中で出会った数々の滅却師にも同じように挟んでおいて、実力やなんかを集めておいた。できることはできるうちにやっとかねえと後々急がないといけなくなったりするからな。

 

「……武器が、違うな」

「いやいや、斬月だぞ? まあ斬月以外にも使うこともあるけどな」

 

 弓とかな。

 

 

 

 

 

 side ユーハバッハ

 

 誰だ。これは。

 

 目の前に居る存在に対して私の脳が理解を拒む。

 外見は黒崎一護で間違いない。しかし黒崎一護は先程虚圏で確認されており、今は虚圏と尸魂界の中間地でキルゲの檻に囚われているのが見えている。妙な物が走り回って軍勢は戦う前に潰され、キルゲも傷を負っていたようだがそれでも黒崎一護が今この場に居るのは明らかにおかしなことだ。

 そして今、私と遊ぶように戦っているこの存在は───私のいるこの場で滅却師の弓を作り出し、私の命に届きうる矢玉を作り、撃ち出している。

 

「しかし藍染、お前やろうと思えばこんなとこ簡単に出られるだろうに何やってんだ? あれか、自分の計画を見事に崩してみせたことに対しての褒美みたいな感覚でここに居たりすんのか?」

「……なるほど。どうやら君は私の知る黒崎一護とは異なる存在のようだ」

「まあそうだな。俺は藍染とは決着きっちりつけたし」

 

 輝きよりも速い矢が私の剣を貫く。即座に修復し、強化し、斬りつけようとして目の前に矢を発生させられ回避する。矢を放てば矢で撃ち落とされ、私が使っていた霊子を奪われる。滅却師として長く生きてきて初めての経験だ。

 影を使い一時撤退しようにも、この場に影は存在しない。霊圧で見ているから姿形を理解することはできるが、光の存在しないこの場には影すらなく、闇のみが広がっている以上影は使えない。天蓋に矢を放とうにも無間と呼ばれるこの場に限りは無いと言っていい程に広い。事実として果てはあるが、矢を撃ち込んだとしてそれが到達するよりも、そもそも矢を撃ち込むために意識をそらした瞬間に打ち取られる未来が見える。

 静血装を全開にしても意味をなさない。強く張られた布を斬るように容易く傷が入る。

 動血装を全開にしても意味をなさない。純粋な速度と力の差で容易く上回られる。

 力の奪取を行おうとすれば、その繋がりから逆に力を奪われる。

 霊子の支配力も届かない。自身と自身に接触している武器であればともかく、自身から離れた物は容易く霊子にまで分解されて奪い取られる。

 

「わざわざ完全じゃない状態でこんなところまで出てきてくれてありがとよ」

 

 心臓に刃が突き刺さる。心臓から刃へ、私の意志に無い力の移動が起こる。

 

「安心しろよ、ユーハバッハ。どうせ初めから何もなかったことになる」

 

 黒崎一護の姿をしたその男は、それだけ言い残して跡形もなく消えた。

 



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BLEACH外典14

 

 side 黒崎一護

 

 滅却師の能力ってのは凄まじく便利な物なんだな。なんと言うか、世界に干渉するのが基本の能力だからか理にまで干渉しやすい力だ。なるほど、YHVH、ユーハバッハなんて呼ばれるのもわかるな。

 力を取り戻しきっていないユーハバッハでもあれだけ強かった。力を取り戻したユーハバッハであればどれだけ強くなるかなど想像もつかないが、既に見た。そして十分に凌駕した。

 ナナナ・ナジャークープ。ペペ・ワキャブラーダ。ドリスコール・ベルチ。三人の滅却師の過去において、千年前に死亡する前のユーハバッハと一戦交えて勝利し、その力を三度奪い尽くした。そして俺の中の滅却師の力が高まるほどに、死神としての力も虚としての力も追い立てられるように、もしくは引き上げられるように吊り上がっていく。

 藍染との戦いで得た、凄まじい量の力。純粋なエネルギー量で言えば間違いなく世界の崩壊につながるそのエネルギー量を使いこなすのに滅却師の力は非常に役に立つ。滅却師の力が馴染んでいくほどに俺自身の基礎能力が上がっていくのはそういうことなんだろう。

 

 ユーハバッハは立ち去った。俺が見えていないように。俺との戦いなどなかったかのように。少なくともユーハバッハにとっては真実俺は見えておらず、真実俺との戦いなど存在しなくなったのだろう。

 

「驚いたね」

「そうかよ。悪いがお前と話をする気はねえんだ。ちょっとした世間話しただけでどんだけ情報抜かれるかわかったもんじゃねえからな」

 

 磔の藍染を置いて俺はこの場を去る。やることもできることもいくらでもあるんでな。

 それに俺はここに修行に来てるんだ。得られる物は得ておかねえともったいない。藍染に挟んでおくか少し悩んだがやめておくことにした。こいつに俺の能力できるだけ見せたくねえし、なんなら一見されただけで次通じなくなりそうな気もする。頭のいい奴ってのは本当に嫌だな、全く。

 

 今回は滅却師寄りの力で戦った。挟んだ過去でも同じように。そろそろ別の力を主体にどこまで戦えるかも試しておいた方が良いかもな。必要あるかは知らねえけど。

 

『私と戦うにあたって霊子や能力の支配力を高めておくというのは大いに意味のあることだ。何も考えず戦っていれば奪われる可能性があるからな』

『まあ今の一護の能力を奪ったら内側から弾け飛んで自爆しそうな気がするけどな』

『中々高確率であり得るのが恐ろしい話だね』

 いや、今の俺が抑えられてるんだし普通に耐えきれるんじゃねえの?

『無い』

 即否定された……なんでそう無いって言いきれるんだ?

『虚と滅却師と死神の力を宿している君は、一般的な魂魄とはそもそも性質からして違う。通常であれば死神は死神としての力を使うために力に適した形に自身の魂魄を変質させるが、君の場合は虚に適した魂魄と死神に適した魂魄だけではなく滅却師に適した魂魄の全ての性質を併せ持つ形になっている。

 しかし、虚と滅却師は根本的に合わない。そこで死神の力や人間としての成長性などが組み合わさることで水と油とでもいえる虚と滅却師の二つの力を繋げ合わせた上で可能な限り力を活かせる形になっている。恐らくだが、君が死神の扱う鬼道が苦手なのは虚と滅却師の二つの力を馴染ませるために変質させる機能として霊力を炎や雷、重力などに変質させる能力である鬼道を扱う部分を使っているからなのではないか?』

 ……死神の力が無かったら俺は産まれる前に魂魄からパーンしてた感じなのか?

『まあ恐らく』

 

 怖えよ馬鹿野郎。つーかその原因お前じゃねえか。

 

『何なら君が産まれてくる原因でもあるね』

 うるせえぶった切るぞ。

『相手になろう。ただし、また次の機会にね』

 

 まあ確かに今やる事じゃねえわな。とりあえずまた適当に近くに居た奴を一人、異様に長い黒髪ストレートの男を斬っておく。恐怖がどうとか言っていたような気がしなくもないが結局のところ恐怖なんてのは気にしなければいい。いや気にするのが恐怖ではあるし今みたいに若干発狂してねえと無視とかとてもじゃないができねえが、今無視できるからそれでいいとする。

 それから斬った奴から流れていく力を無理矢理押し留めて、奪い取る。ついでに白哉の霊圧を若干感じる丸い板……メダリオンに過去を挟み込んで色々と弄ってから何もなかったことにして叩き割り、中身を白哉に返す。死体に過去を挟み込み、さっきやったように過去でユーハバッハを殺して力を回収しておく。

 いきなり飛び掛かってきた覆面男を斬月と月牙の双方を使うことで両断しつつ過去に挟み込み、その力の内容を理解して即座にもう一人の方も斬っておく。月牙でも過去を挟めるのは本当に便利だよな。

 だがこのままだと話し始める可能性があるので話すことができない程度にどちらもさらに細かく切り刻み、死んだことで能力が回収されていくのを確認してからその能力も奪い取っておく。恋次と白哉が呆然として俺を見ているが知ったこっちゃねえな。俺この世界の存在じゃないようだし。

 

 そうだ、何か土産でも持って帰った方が良い気がする。ただ、あっちの世界に存在するもので織斑さんが手に入れられないものって早々無いと思うし、本気で手に入れたければ作るとかもしそうだし、何を贈ればいいか迷うところだ。

 ……良いのが居るかとか気に入るかどうかもわからねえけど、どんなことをしてもいい女でも贈るか? いつも夜一さんをからかっている織斑さんだが、そういう関係にあるかどうかは知らねえし。というかそういう関係になったことはあってもどちらかというと浦原さんとの方が関係深そうなんだよな、夜一さんって。

 

 まあ、いなければそん時はそん時で又何か考えればいいか。

 



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BLEACH外典15

 

 side 黒崎一護

 

 何度も能力を奪って気付いたんだが、どうやら技術面においては同じ奴から能力を奪っても意味が無いらしい。その代わりに霊圧やらなにやらは増えるので限界以上に集め続けると破裂しそうな感じがする。今でこそそんなことにはなっていないが、少し前までマジで破裂しそうになっていた奴が言うんだから間違いない。

 なのでここからは能力を奪うことはやめておいて、代わりにひたすら鍛えることにしておく。一番鍛えるべきなのは俺自身の霊圧に対する耐性だ。俺自身の強すぎる霊圧に負けて身体がボロボロになってしまうのを防ぐにはそういう感じのを鍛え上げつつそもそも自分を傷つけないようにしっかりと制御するくらいしか思いつかない。挟んだ過去の中では奪わない限り素のスペックが伸びることは無いから技術に傾倒できる。

 あと、思った以上に滅却師の力が沢山手に入ってしまったのでまたバランスが崩れた。これからは死神と虚の力も鍛えていかなければまーた大変なことになりそうだ。具体的には体調を崩してくしゃみで世界を崩壊させそうなそんな感じ。

 

『マジだから怖えよな』

『うむ、事実一度くしゃみで暴発させた際にその影響を影の中に作った世界に逃していなければ間違いなく現世が吹き飛んでいただろう』

『そうなったのは私の責任だ。だが私は謝らない』

『『謝らなくていいから力は貸せ』』

 

 ほんとそれな。今更謝られても正直困るが力はマジで貸せ。具体的には俺以外の誰かが傷ついた時とかに俺は俺以外の傷は治せないからマジで頼む。

 

 ってか、なんか今突然敵の数が増えたな。とりあえず殺しておくか。

 

 

 

 

 

 side out

 

 雨が降るように光が降る。滅却師の聖なる青き光ではなく、虚のような赤黒い光が降り注ぐ。

 その光は死神を避ける。しかし滅却師を避けることは無く、呼び出された聖兵(ゾルダート)達はほんの僅かの間に二度以上その赤黒い光に撃たれて命を失った。

 否、撃たれたという表現は正しくない。その赤黒い光の雨は斬ったのだ。原型が無くなるほどに、肉も骨も臓腑も一切の区別なく切り刻み、その命を奪ったのだ。

 滅却師の中にもそれに対応できた者が居た。皇帝たるユーハバッハは自身の体外にまで静血装を拡張することで防ぎ、側近たるハッシュヴァルトも含めて身を守る。バンビエッタは降り注ぐ光に対してひたすらに自身の聖文字を発動した弾丸を撃ち込み続ける事で爆破し、蒼都は自身の誇る聖文字と静血装によって受けきって見せた。その他にも多くの騎士団員がそれぞれの方法で光の雨を防ぐか、もしくは受けながらも耐え抜いてみせていた。

 

 しかし、そうして防いでいられたうちのいくつかの光の雨が防御など存在しないというかのようにすり抜け、身体すら同じようにすり抜ける。生き延びた全員がそれを受け、しかし一切の影響を受けていないと認識して再び光の雨を防ぐことに注力する。

 そして一部の死神たちは気付く。この光は、黒崎一護の霊圧を持っているということに。

 

「……雨が降っててくれて助かったぜ。何もない所よりも何かあるところの方が混ぜ物はしやすいからな」

 

 顔を半分覆う仮面。身の丈ほどもある大剣。オレンジ色の髪。そしてその身体から噴き出すような莫大な霊圧。その霊圧のほんの僅かな部分が瀞霊廷に降る雨に混じり、ただの雨だったものを漆黒の月牙に変えていることに気付けた者は何人いただろうか。

 その漆黒の月牙が、瀞霊廷を一切傷付けていないことに気付けた者はどれだけいるだろうか。

 その技がどれほどの高みにあるものか、理解できたものはどれほどいるだろうか。

 

 そしてその技が放たれた時点で、既に戦いは終わっているということに気付けた者は一体どれだけいただろうか。

 

 その技が放たれ、その技を受けた。それだけで技を受けた者の過去が改変される。滅却師の過去で知ったことは全て知られ、死神であれば怪我をする前に守られたということになって傷は元から存在しなかったことになる。それは死者も同じで、死の原因を取り除かれた死者たちはその場で蘇り始める。

 当たり前の事ではあるが、これは『ブック・オブ・ジ・エンド』の力だけでは起こりえない現象だ。変えられるのはあくまで過去の事だけであって今現在の状態を変えることはできない。例えば過去で修行を付けていたりすればその修行の分強くなったり戦い方が変わることはあるかもしれないが、怪我を治したり死者を蘇らせたりと言うのは全く話が違ってくる。

 それを可能としているのは、過去で数度殺してその能力を奪い取ったユーハバッハの力によるもの。力を与えることと奪うことは『クロス・オブ・スキャッフォルド』に任せてはいるものの、死をも覆すことのできるその能力はユーハバッハの聖別(アウスヴェーレン)と相違ない。

 

 そして、死者が蘇るということは───

 

「『流刃若火』」

 

 護廷十三隊、最強の男が蘇るということでもある。

 

 上空から降り注ぐ刃の雨を防ぎ続けるユーハバッハにその炎を防ぐ術はなく、しかし全周囲に張り巡らせた外殻静血装によって焼滅することだけは避けられた。完全な別方向から大いなる攻撃を受け続けている外殻静血装は軋み、しかしその形を保ち続ける。

 

「山本重國、貴様───!?」

「……終いじゃの」

 

 再び何も斬ることのない刃が外殻静血装をすり抜け、ユーハバッハの持つメダリオンも同じようにすり抜ける。そしてメダリオンは即座に自身の役目を放棄し、山本重國の卍解の封を解いた。

 軋みを上げていた外殻静血装が更なる熱に蒸発し、ユーハバッハの胴を一点に圧縮された炎が焼き抉る。あまりの熱量に瞬間的に焼き塞がれた傷から血が流れることは無く、しかし外殻静血装が消えたことで今まで防いでいた刃がユーハバッハとハッシュヴァルトに食らいつく───

 

 ───その寸前に、二人の姿は瀞霊廷から消えていた。元柳斎には足元に広がる影が二人を呑み込んでいったようにも見えたが、何にせよ逃がしたということには変わりない。

 一瞬再解放した卍解を再び消し、滅却師の霊圧が消えたことを察したらしく霊圧の刃の雨を降らすことをやめた男の姿を見上げる。

 

「……救われてしもうたの」

 

 これから先の事を想い、元柳斎は重々しいため息をついた。

 



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BLEACH外典16

 

 side 黒崎一護

 

 こちらの世界の俺が出てくる前に見えざる帝国とは違う位相の影に身を隠し、状況を見守りつつ品定めをしていた。滅却師達に過去を挟んだことで大体のプロフィールは掴むことはできたが、これからどれを持って帰るかとなると問題がありすぎる奴が多い。

 戦いの場に女が少ないのはまあ割とよくあることだからいいとして、騎士団二十八人中男が二十二、女が四、男か女かよくわからんのが二と言うなんかよくわからねえことになっている。このうち男を持って帰ってもアレだし、女持って行っても気に入られなければ問題だし、男でも女でもないのは扱いに困る。

 ……いや待て、そういえば男でも女でもないうちの手の方、織斑さんが前に霊圧で物理的に磨り潰して再生能力ごと取り込んだとか言ってた奴じゃね? その他にも心臓の男も同じように取り込んで完現術使ってるとか聞いた覚えがあるわ。それ持って行っても別に強化されることなさそうだし無しだな。

 

 最悪あれか、全員持って帰って選んでもらえばいいか。絶対的に気に入りそうにないやつだけこっちで選んで殺しとけばそれでいいだろ。多分。

 

 ああ、なんつーか、誰かを殺すことにも慣れちまったな。行動の際、殺すことがいつでも選択肢に入るようになってきた。日常生活送っていくにあたって滅茶苦茶問題が起きそうだわ。

 

 ところであんたらこんなところで何してんです?

 

「あ、みつかった」

「そりゃこんな所なんだから見つかったっておかしくないでしょ」

「いや誰だよあんたら」

「私はマーマイター赤井。ここでこっそりP-1グランプリの決勝を開くべく活動している一般ボイスロイドの真似をしている誰かさんだよ。こっちは妹役の蒼井」

「端的に言うと織斑一夏案件だよ」

「オッケー何も気にしねえことにするわ」

 

 織斑さん案件だったら何が起きても仕方ない。だって織斑さん案件だからな。なにが起きるかわからないのが織斑さん案件だし、何が起きても不思議じゃないのも織斑さん案件だ。

 

「じゃあP-1グランプリってなんだよ?」

「よくぞ聞いてくれました。P-1グランプリは由緒正しいかどうかは一旦置いといて色々な所で誰かが作った素晴らしいパンジャンドラムで行われるレースの事だよ。優勝者にはマーマイトだったりポットヌードルだったりが贈られるからみんな頑張ってね。ついでに赤井ちゃん可愛いって言って?」

「よくわかんねえんだが……アカイチャンカワイイヤッター」

「カーッ、ペッ」

「痰まで吐くなよ」

 

 いやうんこの感じ、やっぱ織斑さん関係だわ。この掴みどころがあるような無いような、勢いで全てを押し流していくような感じは間違いない。

 

「ちなみに参加者はこんな感じになってるよ」

「いや正直興味ねいや待てなんだこれ」

 

 メゾン・ド・チャンイチ+1とかチームラスボスとかエクストリームモブLv100とかよくわかんねえ名前が大量に並んでること以上に参加者の方に興味がわくわなんだこれ。

 メゾン・ド・チャンイチは予選で起きた事故で『俺が斬月だ』と『実は斬月は偽名なんだが今まで嘘をついたことが無い者だけ私に石を投げろ』が合体してなんでか追加で昔ルキアから貰ってた死神の力である袖白雪も同乗してるとか、チームラスボスにもなんでか斬月のオッサンがもう一人乗ってるとか、正直名前も忘れた『あああんな奴いたようないなかったような……?』くらいの印象しかない奴らを集めたとしか思えないチームとかよくわかんねえことになってる……。

 

「ちなみに出場パンジャンは『メゾン・ド・チャンイチ+1』『チームラスボス』『エクストリームモブLv100』『初代護廷隊長』『ふんぐるいむぐるうなフォイ』だよ」

「共通項が何一つ存在しないチーム名……」

「日本語表記できるって繋がりがあるよ」

「そこまで拡大したらそれはもう繋がりとは言わねえんだわ。つーか音だけだったら日本語表記できない奴の方が少ねえだろ多分」

「まあそれはそう。実際表記するだけなら『゜ー』とかもできないわけじゃないし」

「今どんな発音した……?」

 

 あまりにもわかんねえ発音されたせいで表記もちゃんとできてねえ気がすんぞマジで。パソコンでメモ帳に書き込んだら下に赤い波線とか付きそうな感じだったんだが?

 ───まあいいや。考えてもわからんということがわかるだけだろうし。俺そんな頭よくねえしな。

 

「で、その……P-1グランプリってのはいつやるんだ?」

「外で『見えざる帝国』が侵攻完了したら、かな?」

「まあ君が暴れまわったせいであっちの戦力もそれなりに減ったみたいだし、すぐに来るかはわからないけどね。って言っても多分そんな遅くならないうちに来るとは思うけど」

「あー……じゃあ来たいようにさせるか? 今から過去をある程度変えてやればできると思うぞ」

「暫くしても来なかったらお願いするね。私達もずっと大会が止まってるのも困るからさ」

「まあこんな大会無くっても困ったりはしないんだけどずっと参加させられるのは流石にね」

「なんか青い方は辛辣だな」

「紅茶が足りてないんよ。ほら飲め蒼井」

「はぁ……まあ、紅茶とスコーンだけは美味しいから別にいいけどね」

「ハギスもあるで」

「山羊の肉と山羊の内臓のミンチを山羊の内臓で包んで茹でた料理はノーサンキュー」

 

 説明の内容が最悪だな。その説明で食べたがる奴いねえだろ……。

 

 ───お? なんか外で動きがあったか?

 



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BLEACH外典17

 

 side 黒崎一護(原作)

 

 なんとかあの檻から脱出したんだが、やってもいないことで礼を言われまくって困惑した。

 なんでも俺はもう来ていて、敵の滅却師の幹部を五人倒してから総隊長の爺さんと敵のリーダーとの戦いに割り込み、そのついでに瀞霊廷全体に月牙を降らせて敵だけ切ったとか、そんなことを言われた。

 当たり前だが俺はそんなことはやっていない、と言うか、そんなことは俺にはできない。月牙を雨のように大量に出すことも、それを操って味方には当てないようにしながら敵にだけ当てるとか、絶対無理だ。

 それに、檻を破ろうと月牙を連発している間に突然天鎖斬月が折れちまったし、治し方もわからねえ。一体何が起きているのか全く分からねえけど、卍解が折れたこと以外はなんかいい方に進んでいるような気がする。

 

 で、なんか礼を言われたり怪我が治り切っていない何人かの知り合いを見舞いに行ったりしていると、突然俺が呼ばれることになった。なんでも零番隊とかいう尸魂界の王を守っている奴らが俺を呼んでいるらしい。俺は今のところ何もできないし、それより卍解をなんとかして治したかったんだがマユリには治らないと言い切られてしまったから困っていたところだし、とりあえず会うだけ会ってみることにした。

 

 で、なんだかんだあって霊王宮に行くことになったんだが……。

 

「……それと、そこに居る方の。お主も連れてくるように言われておる」

「……そうか」

 

 ずるり、と影の中から誰かが現れる。この奇妙な響き方をした声は、少し前に現世で銀城たちと戦ってた時に助けてくれたあいつの声だ。

 

「で、王属特務の御歴々が俺に一体何の用だ?」

「儂等ではない。霊王がそれを望んでおる」

「そうかよ。まあ、断る理由もねえしついて行くだけついてくよ」

 

 その場に居た零番隊以外の全員の警戒をすり抜けて移動したそいつは、いつの間にか零番隊が乗ってきた柱の中に入って姿を消した。あの移動方法は見たことがある。響転だ。

 それだけじゃねえ。姿を消したのは多分現世に来た破面と同じ影を使った技だろうし、刀も持っていた。虚と、滅却師。二つの力を持っていることは殆ど確定のはずだ。

 ただ、どうやら会話をする気も出てくる気もないようで柱の中で消えてからは一切音沙汰がない。到着するまで出てくる気はないらしい。

 

「なんだよ今の奴は……」

「儂等は知らん。霊王曰く『客人』らしいがな」

 

 誰に尋ねるわけでもなく零れた言葉にハゲのオッサンから言葉が返ってきたが、結局なにもわからねえまま。俺はそのまま霊王宮に飛ばされて、霊王宮でよくわからねえまま怪我を治して鍛錬することになった。

 

 ……マジで、何が起きてんのかわからねえ。

 

 

 

 

 

 side 黒崎一護

 

 霊王宮とか言う所にやってきた。こっちの世界の総隊長の爺さんの過去を挟んで覗いたからどんな場所なのかとか、どんな奴がいるのかとかはわかっているんだが……こいつらそんな強いか?

 

『嘗めてはいけない。確かに麒麟寺天示郎や曳舟桐生、修多羅千手丸は直接的な戦闘能力で言えば今の君どころか私にも及ばないだろう。しかし二枚屋王悦と兵主部一兵衛は面倒だぞ』

 勝てないとか強いではなく面倒なのか?

『そうだとも。尸魂界の全ての物に名を付けたことにより尸魂界の物質に対して概念的に干渉を行うことのできる兵主部一兵衛と、斬魄刀を作り出し斬魄刀の能力という形でおよそあらゆる力を扱うことのできる二枚屋王悦。この二人を敵に回した場合、初見殺しを受ければ最悪かなり痛い目を見る可能性がある』

 霊圧で防げねえか?

『調べた限りでは概念を付加する場合には斬魄刀でもある大筆を使うらしい。そして黒く塗り潰すとそれに付けられた名と力を失わせ、新たに名を付けることで新しい名の特性を相手に与えることができるということだ』

 ……よくわからねえが、名前を変えられるとそれになるって感じか?

『おおよそ正解だね。今の君が相手なら効果は無いだろうと踏んでいるが、二枚屋王悦の方はもしかすると本当に負けかねない』

 具体的な理由は?

『霊圧を吸収できる能力の斬魄刀と言う物もあるのだよ』

 

 ……なるほど。そいつは相性悪いわ。多分植物の根とか蚊の口の針とかそういう感じの管状になってるだろうから内側から俺の霊圧通したら弾け飛びそうな気もするけど、そういった圧力の問題も解決してるだろうしな。

 ただ、霊圧を吸収するってことは斬魄刀を通じて俺と繋がるってことだろうから繋がったところから無理矢理逆流させれば奪われた分に+αで返してもらえそうな気もする。わざわざ受ける気しねえし受ける理由もねえからもし本当に敵対することになったら相手が何かする前にぶち殺すつもりでいるけどな。

 

 ああそうそう、影の中の奴らがまたすぐ攻めてくるように色々と過去を改竄しておかないといけないのか。めんどくせえな。しかもあっちには未来視ができる奴がいてそっちの方には干渉できないのがさらに面倒臭い。まあまだ一週間と少しくらいの間は完全には使えねえみたいだけど。

 その間、何してようかね。未来視は俺が別世界の人間だからか俺の世界の事しか見えねえが、元々この力はこっちの世界の滅却師の過去に居たユーハバッハから奪ったものだ。上手いことやればちゃんとこっちの世界でも使えると思うんだが……なんと言うか、ピントが合わないとは少し違うんだよな。位相がずれているというかなんと言うか……なんて表現すればいいのかちょっとよくわからねえ。

 ん~…………ルートが違う、って訳じゃねえよな。道のりが違っても到達地点が同じなら同じようになってるわけだし。縮尺、も、なんか違う。んん~~~~~~~~~???

 

『位置が同じなのに違うように見えるんだったら時間が違うんじゃねえの? 知らねえけど』

 

 ───それか。

 



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BLEACH外典18

 

 side 黒崎一護

 

 正確に言うと時間だけではなかったが、虚の俺の指摘は俺の認識を大きく前進させた。位置と場所があっていても時間が違うなら、確かに見える場所も変わってくる。逆に言えば、時間が同じでも位置と場所が違うなら見える場所も変わる。俺が見ているのは、俺の世界におけるこの世界の現在時。俺の世界では存在しなかった、藍染との戦いの後の力を失っていた期間とその後にあった時間。藍染との戦いから過ぎた時間を当て嵌めてみれば、俺の世界よりも半年以上進んでいるのだ。そりゃあ今の世界を見様としても上手くいかねえわけだ。俺の認識と能力の設定時間がまるで合っていないわけだからな。夏の夜空に冬の大三角を見つけようとしてもそりゃ無理ってもんだ。

 

 そういった考えからあたりを付けて、切札を一つ切ることにした。斬月を抜いて、空を切る。その時に『ブック・オブ・ジ・エンド』の効果を使って世界そのものの過去に俺の存在を挟んで全てを観測することにした。

 世界の時の流れを逆走し、始まりの時まで。今では霊王と呼ばれているただの男が三界を分けたその時まで時の流れを遡り、どのあたりまで戻れば俺のいた世界が見えるようになるのかを確認する。

 すると、ある一点で世界が大きく分岐するのが分かった。これは多分俺が今いる世界と俺の元居た世界の両方を認識していなければそこで分かれたということも認識できないだろうと思う。その原因は、突然どこからともなく現れた織斑さんの存在だった。

 

 ここでも織斑さんかよ怖っ……。

 しかもこれあれだ、織斑さんが存在を始めてから特に何もしていなかったから影響がかなり少ないだけで何か動いていたらこの時点で滅茶苦茶歴史とか変わってたヤツだと確信が持てる。

 ちょっと時間の流れを眺めてみて気付いたんだが、人間一人が産まれたか生まれていないかで未来が大きく変わることはあまりない。全く無いとは言わねえし、俺の知ってる今有名な奴が産まれてなかったりするとそりゃあ変わるみたいだが、それでもある程度話の流れは同じようになる。

 例えば、総隊長の爺さんの持っている斬魄刀が炎熱系最強の流刃若火ではなく、氷雪系最強の氷輪丸だった世界。総隊長の爺さんは変わらず最強で、斬ったものの温度を絶対零度以下にまで下げることで質量消滅を起こす技だとか、あらゆる物の温度を極限まで下げきることで分子の運動だけでなく動きそのものを停止させる領域を纏う技だとか、死んでいった誰かの魂の流れを冷気で停止させて無理矢理この世界に縛り付けて使役する技だとか、方向は違えど今とやってることはそう変わらない戦いをしていた。あの爺さんはあの爺さんでバケモンだな……。

 

 まあともかく、この世界は多少の違いであればあまり流れが変わらないようにできている。未来を見て改変できる今の状態だと、ちょっとした行動でころころと変わりゆく未来が面白い。満天の星の中で星から星へと飛び渡る鳥のような姿は見ていて飽きない。

 ただ、衝撃を受けたこともあった。俺や石田、チャドが女として生まれていた世界だとか、なんか生まれてくる男女のバランスが崩れている世界だとか、そんな世界だと大雑把な流れはそのままでも細かい関係なんかは結構変わったりするようだ。石田が女の世界で俺と石田が付き合ってたりとかな。なんか石田の親父さんがすっごい顔してた。

 

 まあともかく、俺の世界とこの世界、そして他の世界も認識できるようになったのでようやくまともに『全知全能』を扱えるようになったと言っていい。俺が今いるこの世界と俺が元いた世界の区別をつけて改変することもできそうだし、俺以外の『全知全能』を相手に改変妨害とかもできそうだ。

 あと、未来を変えるのはそこそこの力が必要なこともわかった。簡単に言えば、自分にできることでなければ変えられないのだ。

 例えば、未来で総隊長の爺さんの卍解をへし折っておくことはできる。だが総隊長の爺さんの斬魄刀を別のものにすることはできない。折るのは要するに卍解している時に斬月を静血装で保護しながら横っ腹を思いっきり叩いてやったりすればまあ折れるが、斬魄刀を変える方法なんて全く想像もつかねえからだ。そもそも自分に可能なことであれば変えられるが、自分では不可能なことはできないってのはそういうわけだな。

 逆に言えば、理屈さえわかっていて妨害されなければそれをすることができるのであればノータイムかつ失敗無しでできるってわけだ。凄いよな。

 

『世界の過去に介入して未来視して可能性の世界を全部探り倒すとか普通思いついてもやらねえと思うんだけどな? そもそもできねえだろうし』

 思いついちまってできそうだったから試してみたらできたんだよ。確かに情報量多すぎて取捨選択とかかなり面倒だけどよ。

『霊圧、と言うよりは性能の差だろうね。世界のあり方に干渉できる程度の性能がなければ世界の過去に干渉しようとしたところで何もできないだろうし、世界そのものを相手にできるのであればわざわざ過去を相手にしない。そういうことではないかな』

 ……織斑さんが居たからそんな思ってなかったんだが、もしかして俺ってそこそこ以上には凄いのか?

『そこそこと言うのがどの程度かは知らないが、なかなか凄いのは間違いないと思うぞ? 頂点がおかしいだけだ』

 だよな。この世界の強さランキングで弱肉強食的なピラミッド作ると一番上の頂点だけ切り離されて浮いてる感じだもんな。あれがおかしいだけだよな。気が楽になったわ。いやそれで気が楽になったところで事実は全く変わんねえんだけど。

 

 まあともかく、俺は俺の世界にもこの世界にも他の世界にも色々と干渉できるようになった。ただあまり多くの所だとか過去に干渉しすぎると俺が産まれてこないとかそういう感じの問題も出てきそうだし、自重しておこう。必要な所ではいくらでもやるけどな。

 



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BLEACH外典19

 

 side 黒崎一護

 

 この世界の未来を見てみるが、不思議なことに大きく二つに分かれている。ユーハバッハの手で世界の均衡が崩れて生も死も存在しない世界になっている場合と、この世界の俺達が勝利してなんか普通に世界が続ていく場合の二つだ。普通に世界が続いていく方では、ユーハバッハが霊王の代わりに水晶みたいなものに埋められているのとこっちの世界の俺が埋められている場合の二種類が存在するが、どうやらユーハバッハが霊王を殺した上で霊王を取り込まないでいるとこっちの世界の俺が人柱みたいなものにならねえといけないらしい。

 で、それを理解しているからあのハゲオッサンはこの世界の俺をより質の高い要にするべく修行を付けているわけだ。それでユーハバッハを倒せればよし。倒せず霊王が殺されてもこっちの世界の俺を新たな霊王にすれば世界は続く。めんどくせえこと企んでやがるな零番隊ってのは。

 

 ってか、なるほど。この世界の藍染はそういう理由で世界をひっくり返そうとしたわけか。藍染が悪逆の輩とか色々と言っていたが、どっちもどっちだな。

 あー、でもここら辺が変わらないとなると俺の世界も成り立ちは同じか。織斑さんが「それ腹立つわ」って零番隊をデイリークエストのごとく皆殺しにし続けてれば気も晴れそうなんだが、やってくれなさそうだし俺がやっとこ。『全知全能』で。

 

 ……この『全知全能』って、実際のところ別に全知でもなければ全能でもないよな。結局自分にできることしかできないわけだし、未来の事は確認できても過去の事は確認できねえからそれを覆したりもできない。要するに、能力の根幹がその状態を見ることな時点で全能とは程遠い。それに、恐らくではあるが全ての未来を自分の思うがままにすることもできないはずだ。そうでなければ千年前の戦いで総隊長の爺さんに負けることもなければ復活に千年もかけるようなこともなかったはずだし、やっぱりこれは『自分自身の力でできる可能性がほんの僅かにでも存在するのであればそれを今の自分がどんな状態であれ完璧に実行できる』みたいな感じだと思うんだよ。

 逆説的に、自分の力でどうしようもないことであればもうどうしようもない。だから千年前に総隊長の爺さんに殺されたし、俺が挟んだ過去や俺が変えまくってる未来においてユーハバッハの力で変えようとしても俺がその上からそれ以上の力で固定しているせいで変えられずに突如として現れたパンジャンドラム『初代護廷隊長』に撥ねられて残火の太刀で貫かれて内側から汚え花火になるついでに残火の太刀の熱に巻き込まれて自爆した『初代護廷隊長』の爆散した破片に貫かれたりするわけだし。まあそれでも死なないで何とか復活できてる辺りかなり強いんだなと思わなくもないが。

 

『一切の邪魔を受けず、かかる時間も度外視した上で成功する可能性がほんの僅かでもあればすべての未来においてその行為を確定させるというのは非常に強い能力だと思うぞ』

 まあそれはそうなんだが、なんと言うか……比較対象が織斑さんなせいでちょっとな……。

『それは比較対象として出していい存在ではない』

 

 マジでそれな。

 

 ああそうだ、『全知全能』をフルで使えば俺も鬼道をある程度扱えるのがわかった。そもそも理屈がわかっていて霊子の操作とかが十分できるのになんでできていなかったかの方がわからねえんだが、ともかくできるようになった。

 お陰で月牙をただの霊圧を圧縮して作った刃ではなく炎にしたり氷にしたり雷にしたり光にしたりもできるようになったし、月牙を当てたところに残留した霊子と霊圧を使って超小規模な黒棺をその場所で発動させることもできるようになった。練習台になってくれた過去を挟まれた一人の名も知らぬ滅却師に感謝しておこう。ありがとよ。

 まあともかく、滅茶苦茶集中とかすれば鬼道もできないことは無いってことが分かったし、過去を挟んで確認できた聖文字の能力の再現とかもそう難しいことではなさそうだ。あと完聖体とかいうあの形態も多分できる。つまり俺の最強状態は『虚化しつつ完聖体を発動して卍解しながら完現術でそれらを全部強化し続ける』ってことになるのか? これはまた随分と豪華な組み合わせだな。

 

『それを実行された場合、私では勝てないだろうね』

『俺もきついな』

『まあ私たち全員の力を使うのだから、その構成要因の一つでしかない私たちが単独で挑んでも勝率が低いのは仕方のないことだと思うが』

『チクワダイミョウジン』

『だよな』

『誰だ今の……崩玉か? それとも霊王の欠片の集合体か?』

『いやいくら霊王の欠片でも毛の一本一本や爪の欠片なんかが喋るとは思えんのだが……いやしかし霊王だからな……』

『霊王の欠片の意志に宝玉が反応して話せるようになった、という可能性はどうだろう』

『霊王の左足の薬指の爪の欠片に意志があるとでも? ……霊王だし、ありえるのか……?』

『あってたまるかこえーよ』

『ネーヨ』

『無いか―そうかー会話になってんのがもっとこえー』

 

 お前ら俺の中で漫才始めるのやめないか? あと、俺が黒崎一護だ。今後ともよろしく。

 

『ドーモ、レイオウノカケラノシュウゴウタイ、ウタイシュウゴダ。コンゴトモヨロシク』

 名前も集合体なのかよ。いやまあわかりやすくてめっちゃ助かるけども。

『デモオレニハマダイシトカナイカラフツウニコレマデドオリツカッテクレヨナ!タマニコウヤッテカイワトカスルトオボエテイツカイシモッタリモスルカモダケド!』

 ああ、それじゃあその時まで『初めまして』はとっとくことにするよ。

 

 ……予想外だわ。いや本当に予想外だわ。霊王の欠片ってそれ単体で意思持ったりするんだな。いや、そういえば確か霊王の左腕が敵にいたな。あと心臓もか。なるほど、毛根やら皮膚の欠片やら爪の欠片やら造血幹細胞やらが集まって意志を持つことは無くとも受け答えができるようになるならそりゃあ腕やら心臓だったら一つの生物として自立して動くくらいのことはできるか。霊王こわっ。

 



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BLEACH外典20

 

 side 黒崎一護

 

 色々とやっべえモノ見ちまった。見なかったことにして全部忘れたいところではあるが残念なことに色々と使える技術もあるから忘れられねえのが本当に嫌だ。

 

『ガチホモ鬼畜攻め一護とか誰得だよ……』

 ほんとそれな。

『しかも相手が私達と言うのがな……』

 ほんとそれな。

『割と元居た世界に近い世界だったというのもダメージが大きいね。なにしろ君の性的対象が男だったという現状においてはそこまで大きな差異が出ないだろう世界だ。流石に君が子を作るようになれば変わってくるのだろうが』

 ほんとそれな。

 そのくせ霊圧による外装系の身体保護とか強化とか、あと霊絡を使った戦闘術とか思いもよらない方法で戦ってたりもしたからマジで記憶から消したら後悔する類のアレだから困る。相手から発する霊絡そのものを使った拘束術とか追跡術とか、霊絡が相手の霊圧であることを利用した呪詛とか、マジで勉強にはなった。そこの俺は自分の中で斬月のオッサンとか虚の俺とかを拘束してナニするために使ってなければマジで尊敬できたし、霊圧の外骨格みたいな強化法を他人にやることで保護と身体能力強化、もしくは相手の動きを一瞬邪魔するための拘束服みたいにするのは便利だし発想の勝利だと思ったのにな。使ってる内容がマジでよ……ケツに入れる時のスキンの代わりとか馬鹿じゃねえのかそこの俺はよ……。

『まあ、ほら、あれだ、織斑隊長も人間は戦争とエロのために技術を進歩させてきた種族だと言っていたし、そういうこともあるんじゃないかな。実際彼はそこそこ以上に強かっただろう?』

 強かったな。藍染とガチで戦った時に藍染の莫大な霊圧で編まれた霊絡を拘束具にすることで拘束を成功させてたし。まあ屈服させる方法がアレだったけどな。

『┌(┌^o^)┐ホモォ・・・・』

 やめろ。マジでやめろ。あとそれ使い方間違ってるらしいぞ。詳しくは知らねえけど。

 

『……それに過去を挟めばわかるくね?』

 ふざけた案を出してんじゃねえよマジでぶっ殺すぞボケコラカス。

 

 人の心とかねえのか? ……そういえばお前虚だったな。ねえか。

『まあ人の心を失ったからこその虚だな。しかも心がなるはずの仮面も持ってねえし、これがほんとの『♰心を失いし者♰』ってヤツだな』

 十字架つけんなそれで死ぬ奴もいるんだぞ。

 

『タタカイノトコダケオボエトイテホカハケセバイインジャナイノ?』

 それができるような便利な能力じゃねえんだよ『ブック・オブ・ジ・エンド(この能力)』は。できるんだったらもうやってる。あとお前やっぱり若干自意識あるな?

『マダナイヨ。マダ』

 まだか。

『ジイシキテニイレタトオモッタライウカラマッテテネ』

 わかった。楽しみにしてる。

 

 ……さてそろそろ真面目な話に戻ろうか。俺がこの世界で手に入れたのは、結構な数の滅却師の能力と聖文字と呼ばれる特有の能力の与え方。そしてその能力は俺自身に与えることもできなくはないが、そもそも与えることができるということは自分がそれを持っていないと与えるなんてことはできないわけだから聖文字なんてものは無くても俺自身にもできるはずなんだよな。なんか概念的なそれに近いみたいで大分やりづらいけど確かにできなくはなさそうな物ばっかりだし。

 難しい、と言うか、理屈がよくわからないのも無くは無いが、できるはずなんだよな。実力的には。

 実際にEとかHとかは簡単にできるし、Iもまあできる。自己改造が必要な奴とか、自分以外を強化するとかそういうのはあまりやりたくないができないことは無いが不可能という訳ではない。理屈がわかるかわからないかってのは結構でかいんだよな。ただ、初見殺し系の能力だけは対応策と一緒にちゃんと考えておかないといけないからな。俺だって死ぬときは死ぬし。

 ……死ぬよな?

 

 まずA。上から抑え込めるから問題ない。

 次にB。これに関しては全く問題ない。蟻の身に受けた不幸と象の身に受けた不幸が全く同じになるわけがない。100gの石を受けたという全く同じ不幸でも、蟻には致命傷になるかもしれないが象にとっては文字通り小石を受けた程度。要するに、存在としての格が違う相手には通らないということだ。

 C。これは能力と言うよりその存在が面倒な相手だが、Bと同じような理由で向こうから俺に干渉するには力不足だから問題ない。何より霊王の欠片に対しては俺は強いぞ?

 D。これがある意味一番面倒かもしれない。なので俺は同じ能力を自分で再現して相手が下げた分致死量を上げて対応することにした。

 E。そもそも霊子の弾丸が俺の霊圧の鎧を越えて来れないから接触しない。接触しないから爆弾にもならないし被害もない。

 F。もう殺した。あれ復活はさせねえだろ。

 G。俺を噛み切れるほどの力はないし、俺食ったら腹壊させるぞ。一寸法師気分で。

 H。再現可能だしそもそも俺には通らない。Eと同じだな。

 I。固くなるだけなので最悪関節決めてやればいい。まあ普通に斬れるだろうが。

 J。滅却師としての能力であればかなり強いが対応可能だし、聖文字も再現可能かつ俺は滅却師でもあるから意味が無い。それにもう死んでる。

 K。自己改造する気はないし、これは俺に干渉してくる系統ではないので普通に殺せる。

 L。殺した。

 M。こいつを殺せば殺すだけ、傷を与えれば与えるだけ強くなるそうだしなんか剣に損傷を与えるとその傷を俺に返してくるそうだが、霊王の欠片であれば問題なく奪えるので強さは関係ない。

 N。特筆することが無い。普通に戦えば負けないし普通に戦うしかない相手だから問題なく勝てる。

 O。殺した。

 P。力が強くなるそうだがそれ俺に勝てるか? 多分無理だろ?

 Q。剣八が殺してた。

 R。同上。

 S。殺した。声援で強化回復とか面倒臭そうだったので霊圧でファンもろとも擂り潰してやった。

 T。EやHと同じく俺には通らん。

 U。殺した。

 V。……こいつがある意味一番問題かもしれない。想像を具現化してくる奴を相手にするとかマジで面倒臭いことこの上ない。まあ本体や正体はわかってるから察知する前に殺せばいいな。

 W。空間を歪曲させるそうだが、歪曲した空間ごと滅ぼせば問題なく通る。藍染がやっていたが、黒棺で時空間を歪めて崩壊寸前までやっていたから俺もできるだろう。実際できた。

 X。影の空間を通して跳ね返してやればいい。普通に返せるのは確認済みだ。

 Y。総隊長の爺さんと剣八が一人ずつ殺してた。

 Z。直接戦闘なら負ける気はしないし何なら滅却師である俺なら死なない限りは対象にならないが、死体を用意されたり生きてる奴に使われて敵が増えたりってのは面倒臭いし、ついでにこいつ自身がゾンビみたいなものだから霊子にまで解体して矢として撃ち出してやれば死ぬか死なないかは知らんがそう簡単に戻ってこないはずだ。多分な。

 ……あ、そういえばもう一人いた。ϛ 。周囲の霊子を取り込んで無限に復活するそうだが、是非とも殺気石の結界の箱に入れられて欲しい。延々と分解吸収再生を繰り返すだけの肉の塊になれることだろう。

 

 これでよし。滅却師相手はこれでどうとでもなるな。

 



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BLEACH外典21

 

 side 黒崎一護

 

 今、霊王宮ではこっちの世界の俺が修行に明け暮れているところなんだが、その間俺は基本的に暇している。何しろ必要なことは大体終わったし、それには一時間もかけていなかった。和尚の方は俺にも修行をつけるだのなんだのと言っていたような気がしたが、和尚の斬魄刀の能力を真正面から打ち破ってその能力を奪い取り和尚の名前を塗り潰して改名してやったら諦めたらしい。まあ普通諦めるわな。

 ちなみになんか異様に硬いリーゼントのおっちゃんと男か女か微妙にわからない絡繰の手の持ち主と太ったり痩せたり忙しいおb……お姉さんと妙にテンションの高い刀鍛冶も相手をしたが、割と普通に勝てた。

 リーゼントのおっちゃんは普通に速く移動して速く斬りかかるだけなので普通にそれ以上の速度で動いて斬られるより速くぶん殴るだけで片が付く。周囲の霊圧やら霊子やらを奪ってこっちにデバフをかけてくる感じのお姉さんが作った樹の檻は要するに霊子を吸収して成長する物らしいので霊子ではなく霊圧そのもので摺り潰し、なんでも斬れるという鞘のない刀を持ち出してきた刀鍛冶は初手で刀を投げつけてきたので霊絡で絡め捕ってそのまま霊絡を操って剣戟を……しようとしたんだがどうやら一番いい刀だったらしくこれを越える刀が無いせいで打ち合いにならずに斬って終わり、絡繰の手の持ち主は俺の服を仕立て直そうとして失敗していた。まあ俺の死覇装って要するに俺の魂の一部だからな。普通なら魂魄は裸に近い状態か死んだときの服装になるらしいが、俺は死神になれるようになってからはずっと魂を抜くと死神の服だったからな。新しく着た覚えも無いし、この死覇装は俺ってことだろ。多分。知らんけど。

 

 まあそんなわけで自由に動くことの了承を取ったと言うか、そもそも俺を止められる奴がいないし法で縛ろうにもその法を守らせるための力が無いから罰則を与えようとすると反撃を喰らって逆に死ぬので実質法なんてない状態になったおかげで俺は自由にここの中を移動できるようになった。外にも出れるし中にも入れるが、流石に出入りは止められた。俺が通ろうとすれば通れるし止めることもできないが、俺が移動するだけで瀞霊廷と霊王宮の間にある防壁が全部霊圧任せにぶち砕かれて防壁の役割を果たせなくなるからやめてほしいのだとか。まあ流石にそれ聞いたらやめるわな。

 仕方ないので封印されている霊王と言葉を使わない霊圧とかそういうもので対話をしているんだが、なんと言うか霊王って俺と似てんのな。強さとかそういうのじゃなくて、誰かを守るために自分を犠牲にできるって在り方が。だから今みたいに封印されているのも納得しているし、世界の為には、ま、仕方ないかなと思ってはいるものの、五大貴族のやり方には反感を持ってるし死ねるんだったら死にたいとも思っているようだ。そりゃずーっとこんなところで封印されてたら気も滅入るよな。

 

 鎖穴は霊王の身体からなくなっていたが、魄睡の方は残っていたのでそれを貰って過去を挟み込む。霊王の魄睡を改造して霊王の意志で自由に動かせるようにしてやると、なんかすげえ喜ばれた。霊王がまだ自由に暮らしていた時代では存在すらしていなかった物が数多く存在する今を、ほんの僅かな間ではあるが楽しむことができることに喜びを感じているようだった。

 

 霊王はやっぱり今回の滅却師の襲撃で自身が死ぬことは理解していたらしい。そして自身を取り込んだ自身の子ともいえるユーハバッハが自身を取り込んで今の自分と同じような三界を分かち続けるための贄のような物になると言う所まで見えているらしい。

 しかし俺がいることで色々と未来が変わっていき、更には今のように少しだけではあるが自由を堪能できる新たな器を得たことに喜びを感じているらしい。そのことを初めて使う喉で懸命に伝えてきた。

 

 ……霊王は純真なんだな。ただ、あんまりにも長いことこうして存在し続けてきたせいかどうかは知らねえけど随分と自我と言うか感情と言うか、そう言う所が摩耗しているように見えるが……俺の世界の霊王も同じようにしてやろうか。尸魂界の上空に霊王宮が存在し、霊王が居るって所は変わってねえみたいだしな。

 

 霊王を連れて臥豚殿に行くと、ちょうど怪我を治し終えて食事をしていたこっちの世界の俺に出会った。

 

「あれ、あんたは……」

「うわめんどくさ」

「めんどくさってなんだよいきなり!?」

「噛んだだけだから気にすんなって」

「ただ噛んだだけで『めんどくさ』は出てこねえんだよ普通よぉ!」

「おーい『穀王』!ちょっと霊王の封印を一部解いて霊王宮の中だけだが自由に動けるようにした分身作ることに成功したから飯作ってやってくれ!」

「「おまえ/アンタ何やってんだ/い!?」」

「安心しろよ、本体はまだ封印の中だし本体の封印を解く気も封印の中の霊王自身を殺す気もねえからよ。あんまりにも狭い所に閉じ込めっぱなしで気が滅入っているようだったから外を楽しむための端末を作っただけだろうがよ」

 

 まったく、こんな自由も与えないで何が霊王だよ。王とは不自由なものだってのはよく聞くが、こんな風になるならマジで王なんてなるもんじゃねえよな。

 

「良いからほらさっさと飯作ってやんな。腹減ってるはずだぞ? 何しろ今作ったばっかだから腹の中身は空のはずだしな」

 

 霊王はぺたぺたと裸足のまま歩き、椅子に座る。そして穀王をじっと見つめると、穀王の方が先に気付いたらしい。霊王の端末の瞳が、封印されている霊王のそれと全く同じであると。

 

「……ぉ、ぇが、い」

「……ああ、わかったよ、陛下。今すぐ腕によりをかけて美味い飯作ってあげるからね!」

 

 穀王はそういって厨房に引っ込んでいったが、俺は多分もうしばらくここに居ることになる。霊王が俺の服の裾を掴んで離さないからな。

 



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BLEACH外典22

 

 side 黒崎一護

 

 霊王が初めての食事を楽しんでいる間、俺もこっちの世界の俺に色々と話しかけられていた。完現術者である銀城たちに襲われたときの時間稼ぎの事の礼から入り、俺がどういう存在なんだとか、なんでそんなに強いのかとかまあ色々聞かれたが……大体織斑さん案件だから俺に答えられることってねえんだよなマジで。織斑さんにしごかれて最低限強くなってからもっと強さを求めたらこうなった、って感じだし。

 ああ、あと藍染のせいか。

 

『急な飛び火に驚いているよ』

 飛び火じゃねえよお前が出火元だ変な所で馬鹿野郎。

 

 まあとりあえず、やっていること自体はここでやっていることと変わりない。壊れないように細心の注意を払いながら限界ぎりぎりまで身体に負荷をかけて、最低限治したら飯食ってそれから完全に治しながら超回復で強化して、また限界ぎりぎりまで負荷をかけての繰り返し。負荷はここの妙に濃厚な霊子でいいとして、回復はリーゼントのオッサンの所で、飯はここで、あとはまた負荷をかけて治していくループに入るんだが……その前にこっちの俺は斬月折られてんだっけか。

 だったら多分打ち直しがあんのか。俺の場合は斬月のオッサンが滅却師の力で虚の俺が死神と虚の力で、それを短剣と長剣って形にしてもらって使いやすくして貰ったんだっけか。

 

 ……そういえば、俺の斬月は二刀に見えて鞘と本体ってことになってて、小さい方が俺の力を抑える滅却師の力の塊で鞘、でかい方が俺自身の力と融合している死神と虚の力の本体ってなると思うんだが、そもそも斬月って多分だけど斬魄刀じゃねえよな? さっきグラサン刀鍛冶を斬るついでに過去を見て大体の事はわかったんだが、浅打と俺の中の虚って虚化してるかしてないかってさがあるくらいで大体作り方はおんなじらしい。だから虚と死神の力が融合した方の俺が斬月として出てきてるわけだが、そもそも俺の力を写し取ったわけじゃねえから……斬月って何なんだ?

 

『気付いちまったか……実のところ斬月が『狒々王蛇尾丸』みたいなもんだってことに』

『いや、どちらかと言うと『藤孔雀』の方が近くはないかな? まあ結局のところ彼が志波一心の情報を虚から聞き出して適当にそれっぽく名乗っただけの名前であって実際の黒崎一護の斬魄刀の名前ではないと言う話なのだけれど』

『……まあ、実のところ天鎖斬月の方が始解みたいなところもあるな。うむ』

 マジかよ俺ずっとまともな卍解なしで戦ってたのかよ? ってかこれ聞く限り自分の手刀に虎徹とかかっこいい名前を付けて振ってるのと変わらなくね?

『それで勝ててるのが一番の大問題だと思うぜ。あ、刀剣開放(レスレクシオン)もできるがやるか?』

 やんねえ。

『聞く限り『天鎖斬月』が刀剣開放のような物なのだろう? ウルキオラの第二階層のような形で更なる強化は見込めないのかい?』

 それ完全虚化して天鎖斬月振れって言ってるか? それともお前みたいに斬魄刀と同化しろって言ってんのか?

『まあ、正直なところ今浅打を受け取ったら浅打自体が一護の霊圧に耐え切れずに一護を写し取る前に摩耗して消えると思うがな。それに強化になるかも不明だし、どれだけ時間がかかるかもわからない。ここで急激な強化というのは求めない方が良いだろう』

 

 ……わかった。後で織斑さん頼るわ。

『『『わかってないなそれは』』』

 

 多分織斑さんだったらそもそも俺が持ってるのが斬魄刀じゃないって知ってて新しくちゃんとした斬魄刀もくれると思うんだよな。斬月は斬月で今まで通り一緒に戦っていくと思うけど、それはそれとして戦力は多い方が良いってのは間違いないだろうからな。やろうと思えば和尚の特技で塗り潰して名前を付けて別の斬魄刀の能力とか使うこともできそうだし。流刃若火とか。

 

『『流刃若火(アレ)』はトラウマがあるからやめてくれ』

『あー、そうだよな。アンタはユーハバッハだもんな。総隊長の爺さんに残火されて一回死んでるもんな』

 マジで? ユーハバッハは普通に対応してたから大丈夫なんだと思ってたんだが。じゃあ少し考え直さないといけねえな。俺だって斬月のオッサンが嫌がることを無理に実行したいとは思わねえし。

 じゃああれだ、俺に染めるための一つと名前を何度も塗り潰して名前を付けてを繰り返して何でもできるようにするための奴、二振り貰えばいいわけか。名前を付けて消してする方は普段は斬月のオッサンに預かってもらって俺に染めないようにして貰えばよさそうな気もするし。

 

『あ、だったら俺も欲しい。多分俺は俺で斬魄刀持てるぜ? 俺はお前だからお前が染めるのと変わらなさそうだけどよ』

『私も染めようと思えば染められるな。不要だが』

『私の分はもうあるから問題ないね』

『ジャアオレモホシイ』

 機会があったら手に入れとくよ。ただ……シュウゴは、その、持てるのか……?

『モテナイケドホシイ』

 ……まあ、わかった。手に入れる機会があったらいくつか貰っとくな。シュウゴはシュウゴでこれから先成長して持つこともできるようににある可能性もあるしな。うん。

『ヨロシクタノムゼ』

 

 ……よし、それじゃあ一旦修行が止まる前に全部知らせておくか。どうせこのままだとこっちの世界の俺は次の所で浅打を手に入れることができずに三日ほど無駄にするっぽいし、そんな無駄な時間を使わせるくらいならさっさと次に進めるようにしておいた方が絶対にいい。そのあたり理解してねえんだよなここの奴ら。自分が絶対だとでも思ってんのかね? 今でさえ霊王と言う存在に寄生していないと存在を保つことすらできていない分際で。

 



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BLEACH外典23

 

 side 黒崎一護

 

 飯の間に連絡が行ったのか絡繰の手の持ち主が霊王の服を仕立てるためにひょいひょいと測ってさっさと作って着せ替えていったり、エクストリームハイテンション鍛冶師が霊王のための小さな浅打を置いて行ったり、和尚が名前を付けようとしてもう付けられていることに気付いて俺を見つめて何もしないで帰っていったり、怪異温泉リーゼント男がめちゃくちゃ派手に頭を下げようとして食事中なんだから静かにしなと穀王に手刀を落とされていたりしている間に必要なことは多分伝え終わった。

 要するに、黒崎一護という存在についてだ。

 

 父親である黒崎一心、旧姓志波一心は死神で、元々は十番隊の隊長をしていた。ある日部下が空座町で繰り返し失踪しているという話を聞いて空座町の隣町にやってきたが、そこで藍染の作った死神を基にした虚と戦う事になる。そこで何者かから不意打ちを受けて殺されかける志波一心だったが、そこにいた黒崎真咲という女滅却師に救われる。

 そこで一度帰還した志波一心だったが、別れの際にしっかりと礼を言うこともしないでそのまま尸魂界に戻ってきてしまったことを気にして再び現世に戻ってみれば、黒崎真咲は自身を守った傷が原因となって命を落としかけていた。

 滅却師である彼女を人間かつ滅却師として留めるためにはその近くに隊長格クラスの死神の力が必要であると浦原喜助に伝えられ、それを受け入れる。

 そして黒崎真咲は人間のまま命を繋ぎ、志波一心は死神の力をほとんど失ったまま現世に止まることになった。

 

 で、全ての滅却師にはユーハバッハの血が流れていて、全ての滅却師はユーハバッハの意思一つでその力を奪われうる。一護が母親を失った日は、ユーハバッハが聖別を行い多くの選ばれなかった滅却師から力を奪い取った日である。そして石田雨竜の母親も同じ日に力を奪われて昏睡し、そのまま命を落としている。

 そして滅却師の力を持つ母から生まれた以上、一護も同じように滅却師の力を持っている。それこそが滅却師以外の存在を確実に閉じ込めるキルゲの『監獄』を破ることができた理由だ。

 

「マジかよ……ってか、なんでアンタはそんな事を知ってんだ?」

「見たからだ」

「見たって……手は出さなかったのか?」

「過去視だ。見て、まあ聞くこともできるが手は出せない。未来と違って別れてないから見やすいぞ」

「……未来も見れんのか?」

「さてな」

 

 実のところ過去に自分を送ってそこから未来視をする事で大体全部見えるんだがわざわざそんなことを言うことは無い。それに霊王宮と言ってもユーハバッハが見てないわけが無いしな。俺の事は見えなくても俺以外の奴の事は大体見えるんだから対話から話の内容は読み取れるはずだ。あいつ頭は良いしな。夢想家だが。

 

『言うな』

 いや実際かなり夢想家だろ? 正気の俺と同じかそれ以上に甘い所もあったし。まあ今はその甘さは殆ど無くしてるようだけど。いや、一回死んでるから無くしてるって言うか亡くしてるの方が正しいのか? 笑えねえけど。

 

「……くぉぁき、ぃっご」

「ん……お、俺か?」

「ああ、ずっと会話していなかった上に身体ができたてで上手く話せないんだ。少し待て。───『私は汝に声を与える』」

「ん゛っ……ああ、助かる」

「慣れたら返してくれよ」

「無論だ。……さて、黒崎一護。よくぞ()の下へ来た」

「なんかいきなり流暢になったな……いや、こっちこそみんなを守るために強くなる機会がもらえて助かってる。ありがとう……ございます」

「敬語はよい。お前はそうして前に進み続けていれば、それでよい」

 

 作りたての身体ではあるが今まで生きてきた分の経験はそのまま、少し精神的に狂っているところはあれどそれでも今まで三界を見守ってきた存在として、恐らく最も自分に近しくなりうる存在としてまるで実の子を眺めるように愛おしげにこっちの世界の俺を眺めている。こっちの世界の俺も何となくそれを感じているようで、無条件に向けられている好意に気恥ずかしいものを感じているらしい。それを利用するための今回の修行なんだが、それはまあ何の目的もなく与えるだけなんて零番隊がやるわえねえんだよな。特に和尚は。

 

 それはそれとして、伝えるべきことは伝え終わった。こっちの世界の俺はもう次の修行に進んでいいだろう。俺が見た限りでは知るべきことは知っているはずだし、これでまあ普通に話は進んでいくはずだ。多分。知らんが。

 ちなみに俺はそういうことは織斑さんから大体聞いた。それから親父たちに確認取って話してもらった。俺の世界ではユーハバッハが織斑さんに殺されているからかお袋が死ぬようなことは無かったからな。ありがたいことに。

 あとは普通に斬魄刀の打ち直しか。斬月って呼んではいるが、実際のところ斬月じゃないのかもしれない。少なくとも俺のは斬月かどうか怪しいが、和尚の力を一部奪うことに成功したからさっき正式に斬月ということにした。まあ通常状態って言っていいんだろうあれが斬月、開放して大剣になって天鎖斬月まではいいとして……まだ俺は卍解は手に入れてねえのと変わらねえらしいからな。それにこれ以上の強化をしようにも結局俺の身体が持たねえって理由で出力はあんま上げらんねえし、だったら滅却師的な器用な戦闘方法の方が力を手に入れるには向いている。と言うか、これ以上力を手に入れようと思ったらまず霊子と霊圧の操作をしっかりと鍛え上げてからでないと俺の周りが霊圧で死ぬ。そして霊圧を抑え込めたとしても俺自身の霊圧で俺が死ぬ。だから基礎的な身体の強度を上げていかなくちゃならないから、もう一気に強くなるってのは難しい。後はもう術とかそういう方向に伸ばしていくくらいしか方法なくないか?

 

 俺はそんな事を考えつつも次の修行場に飛んでいくこっちの世界の俺に手を振った。考え事をしている俺を、こっちの世界の俺に向けるのと同じような目で見つめている霊王の視線を極力スルーしながら。

 



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BLEACH外典24

 

 side 黒崎一護

 

 名前を付けたことで虚の俺は変わった。姿形はそのままだが、しっかりとした斬魄刀になった、と言っていいんだろう。

 名は『斬月』。滅却師の力で構成された、俺が自滅しない程度に俺の力を抑え込むための鞘と、虚の力で構成された敵と戦うための刃。その二つの力が死神の力によって結び付けられて一つの斬魄刀になっている。

 鞘の能力は『月牙天衝』。俺の霊圧を圧縮して刃や矢にして飛ばす基本の技にして剣聖の技。滅却師で言えば『神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)』に似ているが、死神の力のある霊圧であるため虚を消滅させずに尸魂界に送ることができる。あと、斬月のオッサンによる滅却師的な技術の補助。

 剣の方の能力は……実のところ、無い。ただ単に頑丈で、俺の力をかなり高密度に纏め上げただけの頑丈な剣と言っていい。強いて言うなら虚化とかそういう虚に関わることが能力になるんだろうが、それを能力と言い張るのはちょっと……な?

 

『なんか文句あんのかよ?』

 ねえよ。お前は俺なんだからお前への文句は全部俺への文句になるだろ。

 

 で、俺の中の力を全部纏め上げた『天鎖斬月』。これはまあ、俺自身と言っていいな。死神、虚、滅却師、完現術者。この四つの力を全部纏め上げた俺の全力みたいなものだ。まあ隠し札が無いとは言わねえけど。

 結局できることについては変わらない。そういう風に名前を付けたんだから当然と言えばまあ当然だ。できることと言えば斬ることだけ。ああ、一応虚だから天鎖斬月の状態で折れても超速再生するから安心だな。折らせねえけど。昔は直るかどうかわからなかったが、今は直ると確信を持って言える。

 

 それはそれとして、霊王の食事が終わったので霊王宮を歩き回る。王鍵は霊王の霊圧によって変質した零番隊の構成員の骨だと言う話だが、霊王本人であれば問題なく出入りもできるしなんなら付き添いもできるらしい。しかし見るばかりで触れられず、それどころか動くこともできていなかった霊王にとっては霊王宮の内部だけでもかなり新鮮であるようだ。まあ実際その肉体は新鮮そのものだろうけども。

 あれだな、霊王が使うからっていい年したおっさんの形に作らなくて正解だったわ。いい年したおっさんがあんな感じに無邪気に走り回ったりしても和やかな空気には絶対ならねえだろうし。むしろそういう空気が全力で逃げていくだろうし。

 俺はあの霊王を作った身として霊王が楽しげに駆け回り、色々な所を見て回るのを後ろから眺めながらついて行くに止めた。霊王は臥豚殿での食事を終わらせたらすぐにハイテンション鍛冶師のいる鳳凰殿へ向かい、浅打を一振り従えて出てくる。そのまま温泉を堪能するために麒麟殿に向かい、白骨地獄と血の池地獄の両方を楽しんでいるとそこで霊王のために服を仕立ててきた大織守が現れ新しい服を置いていく。どうやら霊王は霊王で和尚以外にはそれなり以上に好かれているらしい。和尚はわからねえけどな。

 

 俺と霊王がそうやって霊王宮を見物している間に、こっちの世界の俺は鳳凰殿で浅打を一振り従えることに成功したようで鳳凰殿から結構な金属音が響いてくる。

 

「……どうやら、思い通りに成功したようだぞ」

「そうみたいだな」

「色々と、話したくないことまで話した甲斐があったということか」

「そう思うならそれでいいぞ。俺としては別に隠すことでもなければ話したくない事でもねえからよ」

 

 和尚の所で霊王の持つ浅打と俺の霊子兵装である刃を持つ金属製の弓を打ち合わせながらの会話だが、刃を合わせるごとに周囲に霊圧が響く。互いの武器を互いの霊圧で軋ませる度に低く太い音が広がっていくように霊圧が波のように広がっていく。お互い剣術なんてのはあまり知らないってこともあって基礎スペックのぶつけ合いになっているが、抑えているとはいえこの世界の天秤を大きく揺らがせることのできる俺と普通に打ち合いができるあたり霊王ってのもやっぱおかしい存在だということがわかる。

 まあ、本気じゃないのはお互いさまという気もするけどな。霊王は死神だが滅却師だし、使っているのも浅打だし。

 

「よい兵装だ。しかし、連射は利かないのではないか?」

「俺のこれ(・・)は狙った相手の霊圧を使って相手の体内に矢を作って撃ちだすから連射は利かなくていいんだよ」

「……恐ろしい兵装だな。何か概念的な能力でも持っているのかと思ってしまうところだ」

「実のところ、兵装なしでもできるんだがな。距離が遠い相手を狙うとなるとこの方が便利なんだよ」

 

 なお、普通に矢が撃てないとは言ってない。空撃ちのように見せかけて相手の体内に攻撃もできるし、普通に撃っているように見せて相手の体内にも矢を作って撃つこともできる。あと俺は概念的な能力とかまともに持ってねえんだよな。そういうのに一番近いのは完現術だと思うが、完現術はあくまでも霊王の肉体の欠片を持つことによって使うことのできる霊王による世界の魂への干渉みたいなものだからな。俺自身の力と言っていいかは微妙な所だ。

 聖文字付与はできないことはねえんだけどよ……俺の中の織斑さん(妄想)が言ってくんだよ。

 

 別にアルファベットじゃなく仮名でよくね?

 

 そもそも一つに絞る必要もなくね?

 

 何なら初めから文章作っとけば方向性決められそうじゃね?

 

 ……まあ確かに、わざわざ聖文字を一つに決める理由も無ければアルファベットを使わないといけない決まりもねえ。そして平仮名を聖文字として自分に与えた上でその文字それぞれに能力を発現させたうえで文章にすればより強い力が使えそうな気がする。

 ただ、自分にやんのもな、とも思う。でも大本が滅却師のそれだから一番使いこなせるのは間違いなく滅却師なのに俺の霊圧は虚のそれが色濃く混じってるから滅却師にやったら多分マジで死ぬんだよな。霊体が崩壊する感じで。

 

 そうだ、帰ったら井上に『絆の証として』って一通りやろう。どうなるかわからねえけどそれでいい気もする。

 



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BLEACH外典25

 

 side 黒崎一護

 

 こっちの世界に来てからできるようになった様々なこと。過去改変。未来視。未来改変。能力簒奪。存在改変。他にも色々。知らなければよかったと思うこともあれば知っておいてよかったということも色々とわかったが、とりあえず今一番の大問題はこっちの世界の霊王についてだろうか。

 霊王は人間らしい考えを持っている。三界の礎として封じられたことを多少恨みに思いつつも、まあそうなった以上は三界を保ち続けるようにはしないとなという前向きな思考で今まで三界を保ち続けている。時々嫌になる事もあるし、時々死にたいと思うこともあるし、たまには身体を動かしたいということもあるようだが基本的には温厚で、暴れ散らかしても周囲を壊したりすることはほぼ無いだろうと思われる。

 ただ、恐らくそうだと理解はしていても三界を崩す可能性は可能な限り排除しておきたいのが零番隊の総意であり、和尚の考えでもある。だからこそ俺と一緒に居る霊王をよく監視しているし、名前を付けてここから離れないように縛ろうとしていたのだろう。まあ俺の名付けが早かったからその目論見は崩れ去ったわけだが。

 

 死神にとって鎖穴と魄睡は霊力を司る重要部位。この二つが無くなれば普通に死ぬか、生き延びたとしても死神は死神の力と霊力を失う。そして俺の知る限り鎖穴は霊力のブースター、増幅器だと思っているが、じゃあ魄睡は何なのか。

 俺が思うに、魄睡は霊力をため込むタンクのような物なのだと思う。霊力を使う時に魄睡から引き出し、鎖穴を通して増幅させることで魂魄である身体を動かしたり術を使ったりする。ただ生きているだけで霊圧を発するってのはつまり霊力を使う際には必ずこの二つの器官を通すために必ず霊圧が生まれるんじゃないかと思っている。よく知らねえけど。

 で、鎖穴が無い今の霊王は身体を保つための魄睡はあっても増幅器が無いから封印をどうこうすることはできない。鎖穴そのものから生まれた霊王の分身みたいな霊王には鎖穴を組みこんである……と言うか勝手に鎖穴も生えてきたからそれなりに動き回ることもできると思うが、魄睡の機能や性質がそもそもエネルギーを溜め込むことに特化しているように思えるから魄睡の霊王はあまり動こうとしないんじゃないだろうか。いやまあ色々動いてはいるが、あまり本体から離れようとはしないんだよな。不思議なことに。

 

 そもそもの話、霊王が三界を安定させるための贄のような物になっているって話だが、その霊王ってのはどこまで封じられていれば三界は安定するんだ? 鎖穴はいらないようだし、手足も同じく。脳はあるようではあるが手足が普通に喋ったり独立して動いたりしている以上脳の必要性はかなり薄い。そうなると霊力に関わる器官こそが重要なんだと思うんだが、魄睡がこうしてここにあってなお三界は問題なく分かたれている。

 死神にとって重要なのはその二つの器官だってのは聞いたし知っているが、滅却師として重要な器官は多分血管と心臓だよな? 流石に精神が大切だとかそういうことにはならねえだろうし……よくわからねえなぁ。

 

「何を悩んでいるのやら」

「強くなる方法についてだよ。根本的にはな」

「そうか。お前は欲深なのだな」

 

 霊王はからからと明るく笑って言う。まあ、確かに俺の望みはでかいよな。俺に関わる人をできるだけ守りたい。俺に関わる人が可能な限り痛みや苦しみ、悲しみで泣くことのないようにしたい。言われてみれば無茶苦茶にでかい望みだし、欲深だと言われても否定の言葉はとても出せそうにない。

 刀を背負ったまま俺の隣に腰掛けて、瞳を増やして世界を眺める。どこを眺めているかはマジでわからないが、俺も同じように世界を眺める。

 

 この世界。現世ではこっちの世界の俺の家族がこっちの世界の俺を心配していたり、一見気楽そうに患者を診たりしている。石田の親父さんは秘密兵器と言えそうなものを用意していて、夜一さんと浦原さんも何か企んでいるようだ。

 虚圏。最強とされていたバラガンを失い、知られざる強者であったスタークもいなくなった結果、ハリベルが治めていたそこは相変わらず荒れ果てている。ただ、滅却師は既に姿を見せておらず、どうやら一時的なものかもしれないが平和にはなっているらしい。こっちの世界の井上とチャドが何かやってるように見えるが、何やってんだろうな。浦原さんも何考えてんだか。

 尸魂界。大分荒れているが俺がかなり生き返らせたし殺したからそれなりに士気は高い。地下の監獄にいる藍染は……なんと言うか、相変わらずこいつはよくわからねえな。

 

 藍染と言えば、こっちの世界だと藍染が起こした大体の出来事って原因の結構な割合が浦原さんにあるよな。それを理解していてよくああやって普通に暮らしていけるよな。肝がでかいと言うか神経が太いと言うか面の皮が厚いと言うか。色々と備えまくってたのはわかるし実際にそれが役に立ってはいるようだけど、だからってどの立場で物言ってんのかと思う。

 

「……視界が広いようだな」

「まあ、そうできるようになったからな」

「私もそれなりに広いつもりではいるが……過去と未来は見渡せても異なる世界は見通せない。願わくば、その力はお前自身が納得できるように使われることを祈っている。私のように受け入れざるを得ない状況にあるから甘受するのではなく、お前の意志で選び取れるように」

「……オッサンくせえぞ」

「ははは。こうして出たのは久しいが、生きている年代ならばそれこそ人が猿と呼ばれていた頃から存在しているのだ。オッサンどころか爺さんだよ」

「その殆どを強制引き籠りで過ごしてたせいで経験の殆ど無い無垢な爺さんになってるけどな」

「違いない」

 

 ……いやしかし、そうなるともしかして霊王は旧人類だったりするのか? それにしては骨格その他は随分と現代人に似通っているように見受けられるが……いやそれ以前に死神ってのももしかして旧人類か? 一代が数百年程度らしいから、旧人類からぎりぎり現代的人類まで進化でき……いやわからん。できんのか?

 

「はっはっは。変なことを考えているようだ」

「気になるとついな」

 

 今こうして普通に対応できるんだからそれだけでいい気もするが、それでも気になる物は気になるからな。

 



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BLEACH外典26

 

 side 黒崎一護

 

 尸魂界、瀞霊廷にて滅却師の侵攻が始まり、そして即座に終わった。僅かな時間で瀞霊廷内は塗り替えられて滅却師の領域へと作り替えられてしまった。お見事。

 そしてその直後、突然現れたパンジャンドラムのレース会場にされて様々な場所で起きる大爆発。巻き込まれる死神と滅却師。何故か死なずにアフロになるだけで済むが防御しようとしても何故か防げずアフロになるユーハバッハ。当然巻き込まれてアフロになるハッシュヴァルト。不思議なこともあるもんだ。

 まあ俺は俺でお目当ての奴を探して取り込んでおかないといけないんだが……ああ居た居た。

 

 まず一人、影から現れた瞬間に仲間から一人だけ置いて行かれた女、バンビエッタ・バスターバインを俺の纏う影に吞み込む。俺があれだけの被害を出してやったにも拘らず特に何も考えている様子が無いのは、自分の持つ力に対する信頼と、俺が改変した本人にとっての過去の認識によるものだろう。

 滅却師の力って本当に便利だよな。一番理不尽にこの世界の概念とかに喧嘩売っているのは完現術だし、一番破壊に向いているのは虚の力だが、一番小回りを利かせられるのは滅却師って感じだ。まあ小回りが利くことと融通が利くことは=じゃねえけど。

 

「それはどういうことかな?」

「あんたの右腕が滅却師やってる理由もよくわかるって話だよ」

 

 大雑把に言えば、ハードディスクとOSとソフトとアプリとウイルスみたいなもんだろ。パソコン詳しくねえからあんまり自信もっては言えねえけど。

 ハードは世界。OSは世界を適切に動かすための法則。OSに干渉できるアプリが完現術で、OSを正しく機能させるためにウイルス駆除やらをするウイルスバスターみたいなソフトが死神。OSが動くことでどうしても出てくるゴミデータが虚。そのゴミデータにあっという間に領域を取られて動かなくなるから先に自分たちの邪魔にならないようにしようとするアプリが滅却師で、でも滅却師が処理したデータは後から入れられた物だからそれまで適切に回っていたOSには使えない形でデータ容量を食ってOSの動きの邪魔になる。まあ多分大体そんなかんじなんじゃねえの? あってたりあってなかったりしそうだが。

 結局のところ何が言いたいのかってーと、前進を司ると言われる右腕が、その存在として後天的に生まれた滅却師になるってのはまあわからなくはないってだけのことだが。

 

 下でわちゃわちゃと騒ぎ始めている間に更に狙いを付けていた数人を回収しておく。これで回収すべき相手はもういないから暫くはここで眺めていることにする。どうせここまで来るし、ここで待ってた方が巻き込むべき相手を巻き込みやすい。全知全能は未来を見て、その上で確認できた力を無効化する力。そこに霊王としての存在の格を取り込ませて強化することで未来改変に至るわけだが、俺の場合は俺がもう殆ど霊王みたいなものらしいから普通に未来を眺めて改変して、なんてことができる。

 隠れている女の足元に俺の影があったことにして、その影で呑み込む。バンビエッタ・バスターバインとは別の、一枚隔てた別の世界に隔離しておくことで中で勝手に殺し合いになったり、もしくは暴れまわる奴に巻き添えを喰らわないようにした。似たようなことを後二人分繰り返して、あとはこっちで色々と過去を調整してちょうどよくしてやらないとな。

 それはまあ片手間でもできるから、どちらかと言えば下で起きてるよくわかんねえ大会を楽しみたいところだ。

 

 ああ、あと手に入れられそうなのはみんな手に入れといた方が良いか。流石にこんな機会はもう無いだろうし───ああいやまあ一回過去に行って未来に行ってやれば疑似体験はできんだろうけどさ。

 例えば、Vの能力。想像力を基にそれを現実にする。思考さえできればおよそ何でもできるその力は、究極的には滅却師のそれに加えて霊王の身体由来の完現術が合わさったものだ。脳だけで存在し続けたことで、空想こそを最も大切なものとして執着以上の感情を抱くことでそれを完現術の対象にしたんだろう。なんとも無茶苦茶な方法だ。形が無くても、そもそも存在していなくてもそれに執着することができさえすれば本当に何でも対象にできるんだな。頭おかしいだろ織斑さんでもそこまでやんねえぞ多分。実際にできるかどうかは置いといて。

 

 でもまあ、多分やろうと思えばできなくはなさそうなんだよな。流石に全く同じ方法じゃないだろうけど、それでもまあ結果が同じであればそれでいいわけで。むしろ目的を達成することができさえすればいいなら全く同じ方法をとる必要性は欠片も無く、例えば相手を殺すんだったら首を刎ねようが頭をカチ割ろうが同じ。当然、下で縦横無尽にコースを外れて走り回ってゴールより滅却師を狩ることに精を出しているパンジャンドラムに爆殺されても同じ死だ。可哀想に血を撒こうにも血が噴き出ることもなく蒸発したら使えないねぇ……沢山ミサイルやら装備してても元々自爆兵器であるパンジャン相手に火薬は駄目だったねぇ……。

 

 お、こっちの世界の俺が今落ちた。んで近くにいたパンジャンの自爆に巻き込まれた。あーあーせっかく決めてたのに色々台無しになってんな。俺がここに来た時点で、もしくは織斑さんに目を付けられてた時点で台無しになる準備は万端整ってたような気がしなくもねえけど。

 



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BLEACH外典27

 

 side 黒崎一護

 

 ユーハバッハが数人と一緒に上ってきたが、どことも知れない場所に作られた偽の霊王宮で零番隊が対応するらしい。布の裏地がどうとかよくわからねえけど結界みたいなものなんだろう。

 そうして現れたのがユーハバッハとハッシュヴァルト、こっちの世界の石田、あと影の中に何人か。それを眺めているわけだが、どうもこいつらじゃあ勝てそうにねえな。

 

「そうだろうね。彼等は死ぬ。大織守も、穀王も、銭湯鬼も、刀神も、真名呼和尚も、ユーハバッハは止められない」

「当然、お前も死ぬな」

「やっと、と言ってもいいかもしれないね」

 

 生きていても死んでいても大して変わらない状態にあった時間が長いせいか、どうも色々と境界があやふやになっているらしい霊王は自身の生死を軽く口にする。そして恐らく、その未来は何もなければ当然のものとして実現することだろう。俺の目に映るこの世界の未来ではそういう風に見えている。それはつまりユーハバッハも同じように見えているはずだし、霊王の瞳にもそう見えているはずだ。

 だがそれはあくまでもこの世界の存在によって作られた未来の話。俺はこの世界の人間ではないし、実際にこの世界の全てを認識する霊王やユーハバッハの目には映らない……いや、霊王の場合は視野を広げれば映るかもしれないが、今のところ映していない。

 

 しかしあれだ、死神の力から派生したにしては非常に珍しい概念系斬魄刀と、対概念系能力最強の全知全能。未来視相手に初見殺しをしないと概念系攻撃は一切効果を失うとか、何とも反則みたいな性能をしている。そしてそのくらいの対策ができていないとマジで何もできなくなる名と黒の支配者。敵に回したら厄介極まる相手だ。

 ちなみに俺は『全ての黒は儂のものじゃ』とか言っている和尚を相手に『なんか戯言垂れ流してるハゲ』以上の認識をしないかつ相手の作ってる概念とやらをガン無視して真正面から斬り倒した。

 当たり前のことを言うが、黒で塗り舞したら名前を失う? んなわけねえだろバッカじゃねえの? 戸籍謄本の名前を消されて社会的に名前を失ったところで俺は俺、黒崎一護だ。俺が持つ力が消えるわけでも減衰するわけでもない。それが斬月でも同じだし、ユーハバッハでも同じだ。

 戸籍謄本を塗り潰して名前変えたからお前今から黒蟻な!とか言われたとして、それが結構権力がある相手の言葉だからその下にいる奴がそれに従ったとして、別国家の相手にそれは通じねえし通じさせたとしても国家的な脅迫とかそういうのに収まるだろ? 真正面から戦争吹っ掛けられてそれをやってきた奴をぶち殺してやれば問題なく今までの名前も通じるし使える。

 要するに、和尚のあれは自分と霊王の下に存在する奴にしか通りゃしねえんだよ。上限がぶっ飛んでるからなんにでも効果があるように感じるだけで。

 

「それから認識の差だな。長い時間をかけて様々な物に名を付けてきたと言う経歴が、和尚の名付けの力を大きく増している。蛮人相手に通りづらいにもかかわらず十分な効果を出しているのはそういった世界的な認識が原因だろう」

「それでも圧倒的な力の差があれば『うるせえ知らん』で全部無視されるわけだがな」

「そこまで大きく力の差があることなどまずないと言える程度には強いからな、和尚は」

 

 まあ今回の場合は相性が悪いよな。死神相手なら概念系攻撃で常時初見殺しができるしほぼ常に先手を取れるし何なら対策もほぼ無効にできるが、概念系そのものに対するほぼ確実な対策があるとなると明らかに後手に回る。後手に回る経験なんてほとんどないだろう和尚じゃ難しいだろうな。

 

「で、守ってやろうか?」

「不要だよ。私は既に十分に……十分すぎるほどに生きた。死することのないこの身が滅べる最後の機会なのだから、それに逆らうつもりは無いよ」

「そうかい」

 

 まあ、生きていたいと言う奴を救うためならやる気も出るし、死なないといけないと思い込んでいる奴の頭をひっぱたいてやることもできなくはないが、十分以上に生きて生きるのに疲れた相手にもっと生きろってのはあんまりよろしくはねえよな。疲れた奴には休息が必要で、生きるのに疲れたってんなら死なせてやるのも優しさだと俺は思う。その点じゃあこの世界のユーハバッハとも気が合うかもしれねえな。その点以外が致命的過ぎるから結果として敵対はするだろうし実際してるけど。

 

「───だが、短い間であっても私は君から最後に自由を貰ったね」

「……まあ、そうだな。見てらんねえから引っ張り出しただけだから気にしなくていいぜ」

「そう言うだろうとは思っていたが、そういう訳にもいかなくてね。私がこうして存在していると、私が楔として再び囚われる未来が見える。君がユーハバッハと敵対している以上、それは確実だ」

「そうだろうな。俺がいなくなったらあの腐りきっている貴族の自称賢者共がしゃしゃり出てくることだろうよ」

 

 あいつらはっきり言って碌なことしねえからな。碌でもない事しかしねえと言った方がいいのか? まあどちらにしてもあれを頭にしていたらマジで終わりだこの世界。俺たちの世界だと突然現れた爆発する車輪のような物の暴走に巻き込まれて何回か壊滅しかかってるから多少マシなんだが、こっちだとそういうことも起きなかったようだし。

 

「そういう訳で、だ」

 

 ぬるっ。

 

「───おいコラ」

『はっはっは、なかなかいい所じゃあないか。これからよろしく頼むよ、宿主様』

『だいぶやべえのが増えたな。まあこれで完現術の強化にも繋がるからいいんじゃねえか』

『一護。霊王の魄睡を取り込んだ以上、お前は霊王と同じようなことができてしまう。霊王が死した場合、霊王のスペアとして扱われることもあるかもしれん。そうなったとしても自らの意志を押し通せるようこれから更に強くなるのだ』

『……(ニコニコ)』

『ヨッス。オレ、ウタイシュウゴ。コンゴトモヨロシク』

『ああ、先住の方だね。この度メゾンドチャンイチに越してきました霊王の魄睡だ。そうだね……彦禰とでも呼んでほしい』

 

 ……まあ、今更一人増えても二人増えても同じか。なんか藍染が悪そうな顔してるが、こいつを相手するとなると俺一人だと怪しいんだよな。脳筋だけど頭いいし倫理観が死んでるからマジで何してくるのかわからねえって意味で。

 まあ倫理観が死んでるのは今の俺が言えた話じゃねえが。実質人身売買みたいなことをやろうとしているわけだし。

 



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BLEACH外典28

 

 side 黒崎一護

 

 両手で抱えきれないくらいの、山ほどの人を救いたい。そんな願いを持っていた俺だったが、気付けばそのために取る方法が可能な限り素早く敵を殺す、って感じのそれになっていたのは一体何の皮肉なんだかな。

 勿論殺さないで済む相手は殺さないようにはしているが、必要とあらば何の感慨も無く敵を殺せるようになってしまった。虚が相手なら問答無用で仮面を叩き割るし、死神相手なら首を落とす。完現術者相手なら霊王の欠片を奪い取り、人間相手であればひとまず社会的に制裁する。もし社会的な制裁を何らかの形で越えてきてその上で俺や俺の周りに危害を加えようとするのであれば……地獄にでも行ってもらおうか。あんま考えたくねえけど。

 

 そんなこんなで零番隊が壊滅して、霊王が死んだ。こっちの世界の俺が霊王にとどめを刺し、尸魂界を含む三界の崩壊が始まる。

 この世の外から来た俺には、この世のものではない霊王の姿が見える。ユーハバッハには見ることのできない霊王の姿であっても、俺の目には映っている。

 瀞霊廷で浮竹さんが霊王の右腕となり、斬られた霊王を保たせようとする。それを夜一さんが更に留めようとして、石田に邪魔をされて撃ち落とされる。

 ユーハバッハは霊王の力を取り込むためにしばし時間をかけて───ここで、俺が動こう。

 

 霊王宮に死神が戻ってくる前に、まずは一番厄介な『D』の首を取り、力を奪う。即座に俺に武器を向けてきた『X』の視界を煙で塞ぎ、次は『M』。殺した直後は霊子や聖文字と呼ばれる力の発動が無いから助かるな。聖文字の性質上攻撃を受けることを躊躇わないから楽だったが、聖文字が発動した傍からその力を奪い取り、その根源となる霊王の心臓を手に入れる。

 全体に神経を忍ばせた『C』は神経ごと本体まで分解して吸収し、霊王の左腕を頂く。残りは石田と『X』と『B』だ。

 目を開いた『X』が煙を見通し狙撃してくるが、纏う影で受けて空間を曲げて別方向に撃ち出すことで『B』の心臓を打ち抜く。俺の攻撃ではない以上、これで『B』が聖文字や盾で返せばそれは俺ではなく『X』を対象とすることになる。俺は関わってないわけだからな。

 同じように石田の矢を片手で受け止め『X』へ。即座に回避しようとするがその心臓に穴が開き、回避し損ねて片腕が飛ぶ。驚きの目で俺を見る『B』だが元々俺の攻撃ではないのだから攻撃してきた対象に戻るのは当然だろう? お前の聖文字の性質上。

 『X』が完聖体を使ってくるが頭上の輪から足の爪先までを和尚から無断で拝借した黒で塗り潰してただの霊子の塊として、そのまま解体して吸収する。『C』と同じように取り込みに成功したところで残りは二人。『B』と石田だ。

 

『B』は初見殺しの能力を持っているし、それは新たに『A』を得た石田も同じこと。運のいいことに『B』の傷を相手に移す力は完現術由来であるようなのでこちらもクロス・オブ・スキャッフォルドで奪い取ることができる。そうなれば自身の傷を相手に移すことができなくなった『B』はどうとでもなる。実際にどうとでもなった。

『B』は随分と驚いていたようだが、よく考えてみろ。蟻に2mmの深さの傷ができたとして、それはまず間違いなく致命傷だ。だが象に同じ深さの傷ができたとしてそれが致命傷になるかという話。そしてこれは体の大きさだけでなく霊圧の話になるわけだが、俺と『B』の霊圧差は蟻と象程度の差ではない。そうでなければ存在するだけで世界の天秤を揺るがすような真似ができるかよ。

 

 残りは石田だが、石田は敵ではないのでとりあえず置いておく。今は石田を相手にするよりも力を付けようとしているユーハバッハを相手にする方が先だ。

 まあ結局のところ、未来を改変すると言っても改変することができる未来とできない未来がある。自力で何とかできる可能性があるのなら改変できるが、自力では改変できないのであればどうしようもない。

 未来改変は間違いなくユーハバッハ本人の方が使い慣れているだろうが、俺は俺でこの世界に挟んだ過去の経験がある。ユーハバッハの未来改変を抑え込むくらいなら造作もない。

 

 ユーハバッハが霊王を吸収し終えたところで背後から一突き。外から来た俺をその目で見通せないまま死に、蘇ろうと未来を改変するために使おうとした力を俺が更に上から抑え込む。ついでにこのまま力を奪ってもよかったが、それをするとこの世界の礎になる存在がこっちの世界の俺しかいなくなるから死体は残しておいた。

 ……これをこのまま封印処理とかどうやりゃいいんだ? 俺はこういうのに詳しくないし、なんなら詳しくてもできねえぞ。

 

 だが、まあいいかと開き直ることにした。どうせこの後こっちの世界の俺の言葉で和尚が蘇るみたいだし、そして和尚が蘇れば零番隊も蘇る。霊王を取り込み霊王と同じことができるようになったユーハバッハの死体があればあの和尚が適当になんとかするだろう。未だに未来を必死に改変しようとしているユーハバッハの残り物が鬱陶しいが、それこそ虚としての俺が何とでもできる領域だ。

 霊体は残し、遺志を引きずり出してそれを喰らう。俺の中にいる虚が滅却師としてのユーハバッハの全てを喰らい尽くせばもうこれ以上何もできはしない。実際これで未来改変は止まったし、もうやり残したことはなさそうだ。

 

 ───じゃあ、帰るか。俺の世界の空座町に。

 



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BLEACH外典29

 

 side 黒崎一護

 

「戻ってきたか。どうだった」

「ああ、ただいま、織斑さん。土産あるけどいるか?」

「内容次第」

「女」

「…………今度お前の両親に『お宅の息子さんが人身売買に手を染めた』って伝えといてやるよ」

「売りも買いもしてねえから人身売買じゃねえよ」

「その言い訳が通るといいな?」

「通らねえだろうなーとは思ってる」

 

 まあいらねえってんならバラして食うか取り込むかすればそれで解決すんだけどな。そもそもただひたすらに借りだけ作り続けてる状況がまずいなと思ったから織斑さんでも用意できなさそうなものを用意しただけだし。

 流石の織斑さんでも人間用意するのは難しいだろ、って考えたわけなんだが……よくよく思い出してみたら織斑さんってたしかどっかに自分の土地持っててそこに村以上街未満の集落みたいなの作ってるんだっけか? じゃあ人間も用意できたか。

 ……じゃあどうすっかなこいつら。流石に捨てるって訳にもいかねえだろうし、やっぱ殺すか? 完全に霊子でできてる存在だし、いい感じに弱らせてから井上にお土産として持って帰れば喜んでくれるか? いやダメだろ何考えてんだ。確かに色々と外堀埋められたり逃げ道塞がれたりした結果とはいえ恋人相手に女紹介とか完全にアウト。マユリにでも渡せばいいかとも思ったが、一切の前情報なしで渡したらさすがのマユリでも一歩か二歩くらいは後手に回るだろうし、その一歩二歩でそれなり以上の被害は出るだろう。最終的に殺せはするだろうしいい実験体にするのが見えるが、被害もそれ相応だ。

 

「ああ、そこまでできるようになってるんだったら都合のいい未来から今まで引っ張ってくればいいと思うぞ」

「……未来の中から今に連れてくるってことか?」

「そう言った」

「できんのか? いやなんかできそうな気もするけどよ」

「ちょうど今の本人がそこに居るなら割と簡単だぞ。俺も条件さえそろえればできなくはない」

 

 織斑さんで条件揃えないと無理ってのは一般的には絶対無理と同義だと思うんだが。

 詳しく聞いてみると、今現在の本人に未来の状態を上書き保存するようなものだと言われた。パソコンみたいな感じだと思ったが、説明としてはそれで間違っていないらしいし一番わかりやすいだろうと思ってそうしてくれたらしい。あと、失敗しても現在の状況に上書きする形になるから最後に成功すれば何も問題は無くなるらしい。外道か?

 

「外道ならお前の中に居んだろ」

「そりゃそうだけども」

 

 主に藍染とかな。目的のためなら大体何でもやるし、必要なら不可能な事でなければ実行するだろうしな。それで俺が産まれたみたいなとこあるし。

 で、実際にやってみたら結構うまくいった。と言うか上手くいった未来を確定させたから上手くいかせたって方が正しいのか? まあともかくうまくいった。本当にどうなってんだろうな、これ。

 だが、上手くいったって扱いでいいのかこれ? 一応絶対に裏切らないように色々仕込んだりもしたし、俺の仲間に手を出さないようにもさせたけどそれがどこまで効いてるのかもわからねえからな。困るわ。

 

「……なあ、やっぱ預かっててくれねえ? 現世に連れていくだけならともかく、面倒見れねえよ」

「いいぞ。お前らが尸魂界(こっち)に来た時の世話役ってことにしておいてやる」

 

 そんなわけで土産は受け取ってもらえなかったものの、一応織斑さんの手駒として普段は働き、俺たちが尸魂界に行った時には世話役として扱われると言うよくわからない存在が出来上がった。雑に使える人手として便利に使ってくれていいと思いつつ、多分織斑さんとしては本当に預かっているだけと言う認識で保全はしつつ適切に扱おうとしてくれることだろう。その範囲内では相当のことやるだろうけど。

 予想としては……本人さえ無事なら問題なしと細胞を一部貰って検体として色々弄ったりとかしてもおかしくないな。いや、それをやるのは織斑さんじゃなくてマユリか。まあマユリに対して検体として細胞の一部を渡すくらいは普通にしそうだとも思うけど。

 ただ、預かっているだけである以上は遺恨が残るような形で勝手に処理されるようなことは無いはずだ。織斑さんの場合、破らないでいい約束は極力守るようにしているみたいだしな。

 

 未来改変に過去改竄、その両方を使えば結構色々なことができるのはもうわかっているが、この世界に帰ってきてからブレが酷い。多分織斑さんの影響なんだろうな。織斑さんが関わると本当に滅茶苦茶結果がぶれるし、なんなら未来を決定させたのに別の未来に到達することもある。一体どうなってんだか。

 いや、聞いてない。質問じゃない。だから楽しそうに説明用の黒板引っ張り出してくんな。と言うかそんなもんどっから出したんだよ藍染(オマエ)。いや、これも質問じゃないから答えなくていい。しまえ。

 

「一応言っておくな。未来で凄まじい修羅場が起きてるのが見える」

「俺も見えてるよ……どんな状況だこれ」

 

 なんか……いや本当になんだこの……マジでなんだ? マジで修羅場が酷い。

 井上はわかる。ネルもまあわからなくはない。今預かってもらった四人も可能性としては十分ある。なんでルキアがワンチャンあんだよあいつ恋次といい雰囲気だったじゃねえか。あとネムとかハリベルとか三獣神とか……個人的に一番の問題はたつきだよ。なんでたつきだ? しかも井上と一緒とか何がどうなってそうなった? 重婚は現代日本においては禁止されてるはずなんだが?

 

「結婚しないでも体の関係は結べんだろ」

「そういう関係になるって状況が意味わかんねえって話をしてんだけどな?」

 

 ……あー、まあ、いいか。よくねえけどこれもうどうしようもねえわ。変えようと思えば変えられっけど、なんか変えた先だとたつきが幸せそうな顔してる世界が全然見つからねえし、まあ最悪そういう関係になるのも……すっげえ違和感と言うかなんと言うか、妙な感覚ではあるけど受け入れはしようと思う。未来を固定化させなければそうならない可能性もあるしな。

 よし帰ろう。

 



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