賢者の孫『常識知らずと自重知らずの英雄譚』 (【ユーマ】)
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第0話『導師と行き倒れの少年』

ニコニコアニメで存在を知り、漫画(ネットUP版)に小説とハマっていき、気が付けばキーボードを打っていました。不定期更新になるかもですがよろしくお願いします。


 ゆっくりと意識が浮上し、目の前には見慣れない天井が映る。

 

「おや、目が覚めたかい?」

 

 そんな自分の顔を覗き込んでるのは薄い桃色の髪をしたお婆さん。ゆっくりと上半身を起こし辺りを見渡す。やっぱり見慣れない場所、少なくても自分の家じゃない。

 

「まったくびっくりしたよ。家の前に知らない子供が傷だらけで倒れてて、おまけに何日も目を覚まさないままなんだからね。一体何があったんだい?」

 

 と、お婆さんが尋ねてきたから、それに返事をするべく自分の記憶を振り返る

 

「確か……故郷の村に魔物がやってきて――」

(確か……大学のサークル活動で遅くなって――)

 

「……え?」

 

(友達も村の人達もみんな殺されて――)

(それで眠気でボーっとしながら駅のホール電車を待ってて――)

 

「あ……う……」

 

「ど、どうしたんだい?」

 

 おかしい、変だ。記憶を掘り起こすと2つの記憶が浮かんでくる

 

「お父さんのおかげで、僕……だけが、逃げる事が……出来てっ」

(その時、誰と体がぶつかって、バランスを崩して――)

 

 振り払うように少し大きな声で記憶を口にしたのに、もう一つの記憶も止まる事無く思い出される。

 

(何処行けば良いか分からないまま歩き続けたら、ここの家を見つけて)

「線路に落ちると同時に電車が来て……違うっ! 違う違うっ!」

 

 自分じゃない筈の誰かの記憶、なのに自分の感情と頭では自分のモノだと認識してるそれが口から発せられ、思わず頭を抱えて首を横に振る。

 

「しっかりおしっ!……仕方ないね」

 

 そう言うとお婆さんは自分の目の前に手のひらを翳し――

 

「辛い事を訊いて悪かったね。もう大丈夫だから今は何も考えず、ゆっくりお休み」

 

 そして、手のひらがぼんやりと光ったかと思うと、急激に眠気が襲ってきて僕の意識は再び途切れた――

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「故郷の村に魔物、か。そのショックで記憶が混乱してたってところかね」

 

 そして、父親が命からがらこの子だけをなんとか逃がした。自分だけ、と言う事は村は全滅したのだろう、と言う事は群れか、もしくは災害級か……。どっちにせよ問題はこの子をどうするかだ。こうして拾った以上放って置く訳にも行かないし、追い出したとしても身寄りも何もない状態では生きていく事は困難だろう。

 

 (そう言えば――)

 

 そんな時、ふと知り合いの爺さんが数年前に拾った赤ん坊の事を思い出す。あの子は今年で5歳。この子も見た感じ歳は近そうだ。そしてあの爺さんは世俗を離れ森で隠居してる身なのもあって、あの子にも同い年の友人なんて居ない。ならば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……丁度良い、と言うのは流石にこの子に失礼だろうね」



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第1章『英雄の孫、王都に立つ』
第1話『英雄の孫、二人』


アニメ第10話の段階でチーム名決定+初出撃。残り2話と考えると魔人軍団との初戦闘+『俺達の戦いはこれからだ』的なエピローグ、かなぁ。

魔人サイドはオリバーは帝国滅ぼしただけで終了だし、ゼストやミリアと言った主要キャラはほぼ顔見せ程度の出番だし、暫く魔人との戦いがメインな状況が続く原作を考えるとやっと本筋に入り始める段階でアニメは終了って感じですね・・・




「まぁ、こんな所かな……」

 

 そう言いながら、手に持った羽ペンを置き、机の上に乗ってるピンポン玉サイズの宝石を摘み上げる。

 

(今日は魔物討伐の実践。こいつを試すにはうってつけの相手だ)

 

 今から5年前、俺の村は魔物と呼ばれる魔力の暴走により狂暴化した動物、その中でも一際強力な『災害級』と呼ばれるそれに滅ぼされた。命からがら俺を村から脱出させてくれたお父さんも追撃してきた魔物から俺を守る為に囮となった。身寄りも何もない5歳の少年が一人放りだされた所でどうする事も出来ず、飲まず喰わずのまま何日も彷徨い続けて行き倒れてた所、一人の老婆に保護された。

 

「セイン、そろそろ出かけるよ。準備は済んだのかい?」

 

「うん、今行くよ。お婆ちゃん」

 

 セイン・ボーウェン。俺を保護し育ててくれる女性、メリダ・ボーウェンより『ボーウェン』の姓を貰い、立場上は彼女の孫となった、それが今の俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、この間から作ってたものは完成したのかい?」

 

「とりあえずは、ね。今日は魔物と戦うみたいだからその時に試してみるつもり」

 

「全く、何処の世界に10歳で魔物と戦おうとする子供が居るんだい……」

 

「と言ってもね、ただの動物だともう殆ど相手にならないし。まぁ、流石に今回はおじいちゃんが手助けしてくれるみたいだけどね」

 

「当たり前さね。そもそもセインの歳で動物相手じゃ物足りないと感じる事自体おかしいんだからね」

 

 と言われても、事実なのだから仕方ない。お婆ちゃんは魔法を付与した道具、魔法具の扱いに造詣があり、その孫である自分も魔道具製作の手ほどきを受けている。魔道具と言うのは魔法の力が付与された特殊な道具の事。つまり魔道具を作成する以上、自身も魔法の力を扱える必要がある。

 

「おーい! 婆ちゃん、セインー!」

 

 やがて一件の家が見えてきた。家の前には一人の少年と男性の老人が立っており、少年の方は大きく手を振っている。

 

「おはようシン、お爺ちゃんも」

 

「ほっほっほ。今日も元気そうじゃの、セインよ」

 

 そんな俺、と言うか俺達に魔法を教えてくれているのが彼、マーリン・ウォルフォード。姓こそ違うが、おばあちゃんと一緒にかなりの頻度で彼の家にお邪魔したり泊まったりしており、俺にとってはお爺ちゃんと呼んでも差し支えない程だ。そして――

 

「なぁ、セイン。この間言ってた奴完成したのか?」

 

「ああ。ほら、この通り」

 

 そう言って、何も無い空間に手を突っ込み、宝石を取り出して見せた。俺と同い年の少年はシン・ウォルフォード。彼は赤ん坊の頃にお爺ちゃんに拾われたらしい。以降はウォルフォードの姓を貰い、おじいちゃんの孫として暮している。お互い英雄と言われた二人に拾われて更にある共通点を持ってるもの同士と言う事もあり、今では兄弟同然の中だ。

 

「マーリン、分かってると思うけどくれぐれも二人に無茶させるんじゃないよ!」

 

「わ、分かっておるわい。じゃから今回はワシも同行するんじゃし……」

 

「そもそも、二人ともまだ子供なんだ! 魔物討伐をさせる事自体――」

 

 そんな中おばあちゃんが少し険しい顔でおじいちゃんと話している。若干押されぎみなおじいちゃんの様子に俺達は顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「付与なんだけど、靴の方は同じのを作れたけど武器の方は俺のじゃ無理だったんだ」

 

「そうなの?」

 

「付与自体は出来たんだけどね」

 

 そう言って何もない空間に手を入れて、そこから白色の宝玉を取り出す。これは『異空間収納』と呼ばれる魔法で荷物を自由に出し入れできる。

 

「シンの剣と違って刃と柄がしっかり接続されてる所為で持ち手ごとぶれるんだ。まぁ、代わりの付与もちゃんと考えてきてるから問題ないよ」

 

「二人ともおしゃべりはその辺りにしておきなさい。もうすぐ魔物の居る領域に入るぞ」

 

「魔物が居るって分かるの?」

 

 頻繁にこの森で狩りをしてきた事もあり動物の気配とかは何となく判るが、どれが魔物かはさっぱりだ。

 

「ほっほ、それじゃあどうやって魔物の探すか教えてやろうかのう」

 

 そう言ってお爺ちゃんが教えてくれたのが『索敵魔法』。自身の魔力を薄く広げることにより、それに触れた別の魔力の反応を感知できると言う事。索敵範囲はどれだけ大量の魔力を広げられるかで変わって来る。

 

(薄く広げる、か)

 

 そう言われてもピンとこない。このピンとこない、と言うのは魔法を使う上で致命的な要素だ。何せ魔法を行使するに必要なのは『術者が自身の内に取り込み制御した魔力』と『イメージ』だ。“あの世界”で一般的に概念づけられている魔法みたいに決まった呪文や魔方陣といった類は存在せず、魔法の形はイメージで決まるのだ。

 

(なんか参考に出来るものは無いかな……)

 

 そう考え、自分の記憶を掘り起こす。ただ、掘り起こしてるのはセインの記憶ではない。此処とは異なる世界“地球”と呼ばれる世界で生きていたもう一人の自分の記憶だ。お婆ちゃんに保護された日を境に自分の中にはセインとしての記憶とは別の自分の記憶がある。最初はその事実に戸惑い、恐怖し、魔物襲われたショックも合わさり、かなり精神的に不安定になっていたが、それらが落ち着いて冷静にもう一つの記憶と向き合ってみるとそれは知識の宝庫ともいえた。ちなみに、シンとのもう一つの共通点がこれであり、シンも地球での自分の記憶を持っている。

 

(うん、これなんか良さそうだな……)

 

 クレープと言う食べ物がありその皮の作り方が鉄板の上にたらした生地を薄く広げて焼いていくものだ。いきなり広げていくのではなく、まずは自分を中心に魔力を集める、そしてそれを目に見えないヘラで薄く延ばしていくイメージ。自分の魔力が広がっていくのを感じ、その中でポツポツと何か別の魔力を感じる。途中一際大きめな魔力を感じたが位置的にはここはおじいちゃんとシンの家、と言う事はおばあちゃんか。

 

(っ!?)

 

 そして、もう一つ大きな魔力を感じた。しかし、それはとてもどす黒く禍々しい。

 

「……この黒い魔力」

 

「それが魔物の魔力じゃよ」

 

 魔物の恐ろしさはよく知っている、つもりだったが実際に魔力を感じる事であの時どれだけヤバイ存在が村を襲ったのかを改めて実感する。

 

「じいちゃん、セイン早く行こう! あんなもん放っておいたら大変な事になる」

 

「うん」

 

「そうじゃのう、ちとこれは不味いかもしれんの」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

 魔力の反応があった場所に到着するとそこに居たのは一匹の熊。全体が真っ赤に染まった眼球、視認できるほどの黒いオーラ。動物の種類こそ違うが5年前に村を襲った奴と同じ特徴を備えたそいつが、一匹の猪を貪り喰っている。

 

(あの時は……)

 

 逃げる事しか、誰かに守られる事しか出来なかった……けれど、今の俺ならっ!!

 

「シンッ!」

 

「うんっ!」

 

 異空間収納から一振りの槍と水色の宝玉を取り出す。そして、刃の根元に空けた窪みに宝玉をはめ込む。シンも腰の鞘からを剣を抜いて構える。

 

「待つんじゃっ! 二人とも」

 

「先手はもらった!」

 

 もう片方の手で風を集め、熊にめがけて撃ち出す、狙いは左目だ、風のの弾丸は熊の目に着弾。普通ならば熊の目玉を潰して終わりだ。しかし俺が放ったそれはそのまま目玉を貫通し、頭部に小さな風穴を空ける。ただ風を圧縮して放つのではなく螺旋状にして放ったのだ。これもドリルと言う地球の記憶にある採掘道具がイメージの元となっている。

 

「すっげぇ」

 

「油断しないで、来るよっ!」

 

 魔物化した事で生命力も強化されてるのか、熊は一瞬だけ怯むもそのままこちらに突っ込んでくる。

俺とシンはそれを左右に飛び退いて避ける。そして着地する前に靴に魔力を通すと靴底から空気が噴出した。これがシンの考えた魔道具ジェットブーツだ。流石に完全に空を飛ぶ事は出来ないが、それでも機動力はかなり増す。因みに自分とシンは魔物のところへ向かってる間もコレを使っていたが、お爺ちゃんは身体強化魔法を掛けこそしたが、生身で普通に俺達に着いてきた、年老いても流石は英雄と言った所だ。俺とシンで熊を前後で挟む形で陣取る。俺達がそれぞれの武器に魔力を通すとシンの剣は振動し、俺の槍の刃は水を纏う。

 

「たぁっ!」

 

 シンが距離を詰め、熊に斬りかかるが熊もそれを避ける。そして、お返しとばかりに二本足で立ち、前足の爪をシンに向かって振り下ろそうとする。

 

「させないっ!」

 

 熊が二本足で立った瞬間、自分も距離を詰めて後ろ足めがけて槍を振るう。殆ど手ごたえを感じる事無く槍は熊の足を一本斬り飛ばした。

 

(なんと言う斬れ味じゃ!? しかしセインの槍は単に水を纏っているだけの筈……いや、あれは)

 

 マーリンはセインの槍に纏わり付いてる水を凝視した。そして――

 

(ただ纏っておるだけじゃない。物凄い勢いの水流が発生しておるのか)

 

 火や水を纏った剣や槍と言うのは魔法の武器としては定番中の定番。この世界でもそう言う武器は存在していたが今では完全に廃れている。何せこの世界には異形の生物と言う意味合いでの魔物は存在しない、この世界の魔物は魔力が暴走しているだけで元はただの動物だ。つまり地球の物語り出てくる様な、特定の属性の攻撃に弱いと言った特徴はない。火を纏っただけの剣で攻撃しても『斬る』と『叩く』の違いはあるが少し頑丈な松明で殴るのと大して変わらないし、火で焼くのが目的ならそれこそ火の魔法をぶち込んだ方が手っ取り早い。剣や槍を使った方がより正確に狙った場所を焼く事が出来る、と言う利点はあるが。

 

「よし、狙い通りっ!」

 

 けれど、水の力と言うのは案外バカにできない。水の流れは勢いが強ければ強い程、威力は増し、それは金属すら切断する。事実、地球にも水を使いモノを切断する道具は実在している。

 

「セインは心臓をっ!」

 

「了解っ!」

 

 熊は二本足で立つ事が出来るが実際は4本足の動物だ。そんな熊が二本足で立っている状態でいきなり片足を斬り飛ばされればとどうなるか、とっさに前足も地についてバランスを取ろうとするだろう。その瞬間、熊は無防備となる。俺は付与を解除すると宝玉を外して異空間に収納、そのまま今度は緑色の宝玉を取り出し装着、すぐさま魔力を通す。

 

(今度は風、付与の内容を書き換えたのか!?)

 

 槍に纏っている風は最初に放った風魔法と同じ様にドリル状になっている。その槍で俺は熊の心臓を貫き、シンは剣を振り上げ首を撥ねる。幾ら魔物でも首を撥ねられ、心臓も貫かれれば確実に死ぬだろう。初めての魔物討伐、オーバーキルぐらいが丁度良い。首が地面に落ちると同時に胴体もゆっくりと横に倒れる。

 

「「やったーっ!!」」

 

 武器を仕舞い、ハイタッチ。二人でおじいちゃんの所に駆け寄る。

 

(まさかこれ程とは……)

 

 マーリンが着いてきたのは二人が少しでも危なくなった時に手助けをする為。今回は二人に魔物との戦闘を経験してもらうのが主な目的で、実際に討伐できるとまでは思ってなかった。けれども、二人はマーリンの予想を上回り、危なげなく魔物を討伐してみた。

 

(これは、楽しみじゃのう……)

 

 10歳という幼さでこの強さだ、これからも鍛錬を重ねればどれ程までになるのか。マーリンは密かに口元を釣り上げ笑みを浮かべるのだった。




今後、後書きでは本文中に書くタイミングが無かった部分や補足説明を必要に合わせて行っていきます。と言う訳で最初の補足はオリ主の容姿について

・海色の瞳に栗毛色のミドルヘアー。左目の辺りの前髪を一房長めに伸ばして白のメッシュにしてます。これは本文中に書いた精神的に不安定な時期にストレスから髪の一部が白くなり、まばらだとかっこ悪いということで周りの髪も白く染めてメッシュにした(裏設定)

・服装は紺色のズボンに白のワイシャツ、その上からベストを羽織っている(シンのプロテクトスーツと同じ内様の付与を施してる)

成人後の容姿については服装は同じですが目付きが若干鋭くなった姿を考えて下さい。



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第2話『理解と結果』

「なんだって!? 魔物化したレッドグリズリーを二人が瞬殺した!?」

 

 シンとセインが眠った後、マーリンはメリダ、そして二人に武術の手ほどきをしている茶髪に緑の目をした男性ミッシェルに魔物との戦闘の様子を話していた。話し終わるとメリダは「ふぅ……」とため息をつくとゆっくりとソファに腰を下ろす。

 

「一体何者なんだろうね、あの子たちは……」

 

 魔法の習得スピード、武術鍛錬、誰も見たこと無いようなオリジナル言語による付与魔法。10歳と言う若さでシンとセインは大人の魔法使いに迫る実力を備え始めている。

 

「実は二人は別の世界から来たって言われても信じられるよ」

 

 メリダの冗談混じりに言った言葉は当らずとも遠からずだ。シンもセインも紛れもなくこの世界の人間。この世界で生きていた名も知らぬ夫婦の間に生まれた子供だ、ただその記憶の中に別世界での自分の記憶もあるというだけの。

 

「まぁ、何者でも構わんよ。元は拾い子じゃが今ではシンの事もセインの事も本物の孫じゃと思っておる。ワシはあの子たちが可愛ゆうてしょうがない。強くなるのはあの子たち自身を守る事になる。何も問題はありゃせんよ」

 

「まさか、あの『破壊神』やら『業火の魔術師』やら言われたアンタがそんな事を言うなんてねぇ……」

 

「あの……その呼び方やめてくれんか? 若かりし日の黒歴史が蘇って身悶えしそうなんじゃが」

 

 気まずそうに視線を逸らすマーリンだが、ふと思いついたように「そう言えば」と呟いた。おそらくは話題逸らしも兼ねているのだろう……。

 

「セインのあの槍は一体なんなのじゃ? 水と風、二つの魔法が付与されてるみたいじゃが」

 

 刃に水や風を纏わせるだけでなくそれらが螺旋や流れを生み出す別の効果も付与されている。初めてそれを見た時は付与の内容を変えたのかと思ったが、槍に二種類の効果が付与されていると考えるのが普通。しかし、それでも説明できない部分がある。

 

「あれだけの付与。たとえ二人の使ってるオリジナルの言語でも文字数が足りるとは思えないのじゃが」

 

 付与魔法とは魔法のイメージの定着に『術者が理解できる文字』を使用している。そして素材ごとに付与できる魔法のキャパシティには差があり、それは書き込める文字数の違いと言う形で現れる。シンとセインはその制限に対して一文字で意味を確立させる事も出来る文字、『漢字』を用いる事で幅広い付与を可能としている。

 

「魔法が付与されてるのは槍ではなくて宝玉の方さ」

 

「宝玉?」

 

 確かにセインは戦闘時に槍に宝玉をはめ込んでいたし付与の属性が変わる直前にも付け替えを行っている。

 

「ある魔法具に付与された効果を魔法具本体ではなく別の対象に対して発揮させてるんだ」

 

「なんと!?」

 

「セインは『付与魔法の効果が発揮されるのはなにも魔法具本体だけじゃない』そう考えて付与自体は文字数の多い素材に刻み、けれどその効果は別の道具に発揮させる事が出来るのではと考えたわけさね。つまりセインが行ったのは『付与魔法の付け替え』実際の槍のほうにはなんの魔法も付与されないんだからね」

 

「付与魔法の効果は道具本体以外の対象にも現れる、これは新たな発見と言う事ですな」

 

「いいや」

 

 ミッシェルの言葉にメリダは首を横に振った。

 

「新たな発見でも何でもないよ。治癒促進の効果を付与した包帯が良い例さね。あれだって付与自体は包帯に施されてるが、効果が現れてるのは包帯を巻いた生き物のほうだろ?」

 

 その言葉にマーリンとミッシェルはハッとなる。

 

「あまりにも当たり前で普通すぎる事だから気づかなかった。それにあの子は気付いた、それだけの事だよ」

 

 飽くなき研究の末か、ちょっとしたきっかけか地球の人間は『火が燃える』と言う当たり前の現象をより深く理解しようとした。そして火は何故燃えるのかを理解し、その理解の下でどうすればより強く燃えるかを追い求めた結果、人は木と木を擦り合わせるなんて手間をかけずともボタン一つで火を点けて、火力の調節も簡単に行える様になった。

 

 前世の知識や技術もそうだが、何よりセインが一番感心を持ったのは物事をより深く理解しようとする地球の人間の探究心。イメージさえ出来れば『理解』が浅くとも大抵の『結果』は引き寄せることが出来る魔法が実在しない世界の人間だからこそ持ちえた考え方。

 

「あの子は常に理解しようとする。たとえそれがどれだけ当たり前でどれだけ常識的な『結果』の事であってもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから5年後、物語は大きく動き出す。二人が15歳となり成人となった日に賢者の口より衝撃の事実が発覚する事によって。




セインの付与魔法、タグから予想できるかもしれませんがマテリアみたいなもんです。











次の話でやっと成人編、衝撃の事実とは『賢者の孫』最初の迷セリフ(うp主の中で)のあれですwww


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第3話『賢者の失態』

「さて、我らが英雄マーリン殿とメリダ殿のお孫さんたちがこの度、めでたく15歳になり成人した。コレを祝って乾杯したいと思う」

 

 今、マーリンの家には普段から家を訪れる人達全員が集まりテーブルを囲んでいる。

 

「それではシン君とセイン君の15歳の誕生日を祝って、乾杯!」

 

「「「乾杯っ!」」」

 

 あれから更に5年の月日が流れて俺とシンは15歳となり成人、つまり大人となった。それを祝うべくこうしてパーティが開かれてる訳だ。

 

「あの小さかった二人が成人するとはね」

 

「ほっほっほ、わし等も年を取るわけじゃな」

 

 と言った感じに主に俺達の幼少の話をメインに盛り上がっていた時だ。

 

「そう言えば二人は、これからどうするのかね?」

 

 金髪の髪と口ひげを生やした妙齢の男性、ディセウム。俺らはディスおじさんと呼んでる男性から、そんな事を聞かれた。成人した以上は何時までも森で隠居暮らしというわけには行かない。社会にでる必要があるし、お爺ちゃんとお婆ちゃんだって何時までも生きてる訳じゃない。……まぁ、おばあちゃん達が死んでる光景なんて思い浮かばないほど、まだまだ元気なのは確かだが。兎に角、二人の庇護を離れても生活している様になる必要はある。

 

「そうですね。とりあえず近くの町へ行ってみます」

 

「そうか、それから?」

 

「それからの事は町に着いてから考える予定です。この世界の事や社会常識とかある程度はお婆ちゃんから教わってはいますけど、こう言うのはやっぱ実際に肌で感じる必要はあるでしょうし」

 

「まぁ、シンとセインの二人なら大丈夫だろ」

 

 銀色の髪に青い目をしたイケメン。ジークことジークフリードがステーキを指したフォークを持ちながら会話に混ざってきた。

 

「二人のなら魔物ハンターにだってなれるし、付与魔法で魔道具屋だって開ける。それに二人ともそんだけ男前なんだ。女の子と仲良くなって養って貰えるかもしれないし」

 

「待って最後の奴。それ独り立ちする意味がなくね?」

 

「全くです」

 

 赤い髪のポニーテールをした女性。クリスが呆れた様な目線をジークに向けた。

 

「そんな事を考えるのはアナタだけですよ。アナタも少しはセインを見習って考えを改めたらどうです?」

 

「あぁっ!?」

 

「何かっ?」

 

 とクリス姉ちゃんとジーク兄ちゃんが互いにメンチを切り始めるがこれは二人が揃った時の恒例行事みたいなもの、最初こそオロオロしたものだが今では特に気にする事無くスルーしている。

 

「魔物ハンター? 魔物って討伐したらお金もらえるの?」

 

「魔物ハンターを知らんのか? 魔物を討伐してその牙や爪などの素材を売ったり、指定された魔物を討伐して報酬を貰ったりできるんだよ。実力主義の面が強いから身分とか生まれに関係なく誰でも出来る仕事さ」

 

 代わりに若干モラルが低い輩が混ざってる時もあるが……。

 

「そう言う仕事があるんだ」

 

「最初のうちは魔物ハンターで稼ぐ事になるだろうな。なんにしても俺達はまず社会の中での生活に慣れる事から始めなきゃいけない、つまり社会勉強も兼ねた自立って事だな」

 

「そうだよね。これからはお金の使い方とかも覚えていかないといけない訳だし」

 

 ……ちょっと待て。今シンはなんて言った?俺と同じ気持ちなのか一同全員無言になり視線がシンに集中している。

 

「まさかとは思いますが……シンさん、今まで買い物とかした事ありますか?」

 

 そんな中、恐る恐る口を開いたのは茶色の髪と目をした少し恰幅の良い男性のトムさん。俗世を離れ隠居してる俺達に生活に必要な物資を色々と売ってくれてる商人だ。

 

「買い物はトムさんからしかした事無いですね。お金のやり取りはじいちゃんがしてたからやった事無いです」

 

「……シン、失礼な事訊くかもしれんから先に謝っておくぞ」

 

 そう言って、俺は異空間収納から財布を取り出し、何種類かの硬貨を並べる。

 

「あ、これがこの世界のお金なんだ。これだけ間近で見たのは初めてだな」

 

「……」

 

 各硬貨の価値が分かってるか訊こうかと思ったが、お金を見たシンの一言で全てを察し、そのまま無言でお金をしまう。そして、俺も含め全員の視線が今度はお爺ちゃんに集中する。

 

「マーリン……!? あんた……」

 

「マーリン殿……これは……」

 

 やがておじいちゃんは一瞬だけ目を見開いて

 

「そう言えば、常識教えるの忘れとった」

 

 テヘッと舌を出して、とんでもない爆弾発言をしてくれた。つーか、老人の男性がそんな事してもぜんぜん可愛くねぇよ、お爺ちゃん……

 

「「「「何ぃ~~~~~~~~~~~!?」」」

 

 そして数秒の無言状態の後、全員が驚きの声を上げる事になった。そういや俺もお爺ちゃんからは社会の常識とかそこら辺は全然教わった記憶が無い……。思いっきり世間知らずの常識知らずにはなってしまってこそいるが、シンに人間としてのモラルや道徳はキチンと備わっているのは前世の記憶のお陰でもあるのだろう……

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 そんな賢者にあるまじき大失態が発覚した次の日、俺達は森から離れたある荒野に来ている。ここは俺とシンが魔法の練習や魔道具の試運転を行ってる所だ。目的はシン、そして俺の魔法の実力を確かめる事らしい。常識を教えるのも忘れるほど、熱心に魔法の手解きをしたのだ。どれほどになってしまっているのか確認したくなったとの事だ、主に不安だからという意味だろう……

 

「はぁ~っ、こんな空間魔法が使える辺り既に……ああ考えたく無いねぇ」

 

 そう言って、後ろに開いている紫色のドアのない枠の様な何か、シンが考えた転移とは別の移動魔法『ゲート』に目を向けた後に頭を抱えてしまった。

 

「しかしメリダ師。社会に出た後、彼らがどんなトラブルに巻き込まれるか判りません。諦めて確認しましょう」

 

 あれ?ある程度常識教わった筈の俺まで不安視されてる……?

 

「えっと、じゃあ俺からで良いか?」

 

 そう言って、皆から少し離れた所に立つ。

 

(基本イメージは風の槍)

 

 そして俺はお得意の風魔法の構築に掛る、微かに緑色の輝きを放つ風の槍を二つ生み出す。狙いは目に付いた大岩。

 

(望む結果は貫通。そこに至る過程は刺突のではなく、掘削)

 

 この風がどういう過程を持って岩を貫くのかのイメージも重要だ。刺すのか、それとも削るのか、この過程のイメージが変わると魔法の性質も大幅に変わってしまう。やがてイメージにそって槍の周りの風が螺旋状に渦巻き始める。そして放たれた風は岩とぶつかり、少しずつ岩に食い込んでいく。3秒ほどで岩を貫通すると同時に元の速度に戻り、遠く離れた所で霧散。魔法のお披露目を終えた所で俺はみんなの方を振り向く。全員が唖然としており、おばあちゃんは再び頭を抱えている。

 

(俺の魔法でこの反応。シンの魔法を見たらどうなるんだ、これ……)

 

 そして今度はシンが俺の横に立ち魔法の準備にかかる。シンが選んだのは火の魔法。まずは魔力で火種を作り、大気中の酸素と水素を集めそれで包む。そしてそれを放ち着弾と同時に酸素と水素の混合気に引火。酸素は火が燃えるのに必須、そして水素は火をつければ爆発する。それは地球では子供の段階で習う知識だ。そしてこの2つが充満していればいるほど爆発の規模も大きくなる。つまり――

 

(初めてこれをみた時は“人間爆弾”って言葉が思い浮かんだっけなぁ……)

 

 爆音が響き、大気が震える。爆発の後もモクモクと煙が立ち昇り、あまりの高温に爆心地の表面部分の一部がどろどろに融けかけている。焚き火もコンロもどちらも火を点けると言う結果を導き出す事はできる。けれど、焚き火と比べコンロは火力の強弱が容易だ。それは火が燃える原理・過程を理解し、その理解の下に作られた道具だからだ。過程を知り、大前提が崩れない範囲で変化を加える事で生み出す結果に変化を持たせる。イメージに『過程』を組み込んだ魔法、それが俺とシンの魔法であり、過程のイメージの大部分は地球の知識と技術が元になっている。因みにシンと比べて術の構築は遅くなるがやろうと思えば俺も同規模の事は出来る。実戦で使うにはちょっと勝手が悪いが……

 

「マーリン……ア……アンタ……」

 

 あ、お婆ちゃんキレ掛けてる。その後も指定された属性の魔法を放ち、一通りの魔法を撃ち終わった所でお婆ちゃんがお爺ちゃんのローブの襟に掴みかかった。

 

「何でこの子達に「自重」を教えなかったのさぁ!!!」

 

「だって教えた事はみんな吸収しよるんじゃ。ついどこまで出来るか見たくなったんじゃもん」

 

「何が「じゃもん」だい!! 気色悪いっ!!」

 

 確かに初めてシンの爆破魔法見た時は他の魔法使い達もこんだけの事が出来るのか若干気にはなった。が、それを実際に知る機会は無かったし、大は小を兼ねると言う言葉もあることだし『まぁいっか、やれるところまでやってみても損は無いだろ』と、お爺ちゃんと同じ考えになり、何時しか気にするのをやめてた。まぁ、言えば拳骨飛んでくるのが目に見えてるので言わないが……。

 

「これは……おいそれと世間に出せなくなったな」

 

「これ程の威力を持った魔法……先ほどのゲートの様な移動魔法。使い方次第では世界征服すらできるレベルだ」

 

「加えてミッシェル様に武術の稽古もつけてもらっています。これが知れたら各国が二人を取り込もうと躍起になりますね」

 

 また、此処では話題なっていないが俺の『付け替えられる付与魔法』、名前が長いので記憶の中の元ネタそのまんまに『マテリア』と呼んでいるそれも汎用性ならびに利便性の点から周りに大きな影響を与えかねない。だからこそ去年ディスおじさんに国に対してコレの技術開示を提案した際に、逆に無闇に開示するのはやめる様に釘を指された。

 

「マーリン殿、少し話があるのですか……」

 

「その前に、この婆さん……何とかしてくれんか……」

 

「誰の所為で締め上げられてると思ってんだいっ!!」

 

「お婆ちゃん、なんか大事な話っぽいしとりあえず一旦離してやった方が。締め上げるのは後でも出来るだろ」

 

「……それもそうだね。それで、話ってのはなんだい、ディセウム」

 

「え……まだ締め上げられるの、わし?」

 

 

 

 

 

「マーリン殿、メリダ殿。二人の力は正直異常……世の勢力分布を狂わすほどです」

 

 そしてシンは言わずもがなだが、俺の社会に関する知識もお婆ちゃんに教わったり本で読んだ程度で実際に自分で体験した訳でない。それで居てどの国も欲しがる程の実力を備えてるとなると、社会勉強も兼ねて自立させるにはリスクが大きすぎるとの事だ。

 

「そこで考えがあります。二人を我が国にある高等魔法学院に入学させませんか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、お爺ちゃんの雰囲気が変わった。鋭い眼光に張り詰めた空気、普段の好々爺とは似ても似つかない、それは賢者と呼ばれるに相応しい強者の気配と威圧感。

 

「……それはお前の国に取り込もうと言う考えか」

 

「二人を軍事利用しない事はこの場で誓いましょう」

 

 そんなお爺ちゃんの視線と真正面から向かい合い、ディスおじさんもハッキリと言葉を返した。

 

「私自身、甥っ子同然の彼らを戦いに巻き込みたくない」

 

 王都にある高等魔法学院。それは成人前の義務教育を終えた後に魔法が優秀なものを集めてその素質を更に伸ばす為の機関。

 

「そこなら、二人が“他の魔法使い”と比べて規格外か知る事が出来るでしょう」

 

(規格外って……そこまで言うか)

 

「それに二人にとっても同世代の友人を得るよい機会になります」

 

 シンに同世代の友人を、それがお婆ちゃんが俺を保護して孫として育ててくれた理由。けれどその目論見はある意味では失敗と言える。何せ俺とシンは殆ど兄弟に近い間柄になってるのだから。

 

「なるほどのう……」

 

 ディスおじさんの提案を聞いていたお爺ちゃんはやがていつもの雰囲気に戻った。

 

「どうじゃ、二人とも。ディセウムの言う事はもっともじゃし、ワシも良いと思うが」

 

「オレもそれで良いよ。学校通ってみたいし同じ年の友達出来るなら……楽しそうだし」

 

「いきなり独り立ちはリスクが高いんだろ? だったら考えるまでも無いさ」

 

 王都の高等魔法学院は完全な実力主義。その為ディスおじさんが便宜を図り、入学試験をパスする事は不可能。そんな魔法学園では貴族、更には王族の権威すら意味を成さない。それどころか権力を利用した行いはもれなく厳罰に処されるほど。つまり学校に入学しその保護下に入れば、少なくても国内の貴族は簡単に手出しは出来ない。下手にこのまま自立するより遥かに安全と言える。それとは別に今まで人の世を離れて隠居していたのだ。社会にでる前に青春を楽しみたい、と言う考えもある。

 

「ところで、さっきから便宜だとか、厳罰だとか……ディスおじさんって実は権威ある人なの?」

 

「おお、そういえば言ってなかったな」

 

「と言うか、それすら知らなかったのか。シン……」

 

「私の本名はディセウム=フォン=アールスハイド。我がアールスハイド王国の国王だ」

 

 そう、俺達にとっては親戚、もしくは近所のお兄ちゃんお姉ちゃん間隔で接してる人達はその大半が国の重鎮。ミッシェルさんも元・騎士団総長だった人物だ。因みに12歳の時にその事をお婆ちゃんから聞いた時「わー英雄の人脈ってスゴーイ」と言う月並な感想になってしまうほど衝撃を受けたのは言うまでも無い。




セインの口調ですが、マーリン、メリダ、ジークとクリス以外の年上や目上には敬語となりますが、その他には素の口調となります。


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第4話『祖父母の名声』

小説では茶色となってますけど、マンガのカラー絵やアニメだとマリアの髪って明らかに赤に見えるんですよね。


「でかっ! 俺達こんな所に住んで良いの!?」

 

「住んで良いって言うか、ここは元々私らの家だよ」

 

 目の前に建つ大きな屋敷を見上げていると隣のシンがそんな事を口にした。お爺ちゃんの教育と育児のしかたに問題が見つかり、社会勉強と同世代との交友関係拡大の為に高等魔法学院に通う事になった俺とシン。その為に俺達4人は王都に移住する事となった。そしてその移住先はどう見ても貴族階級の人々が住んでそうな屋敷、二人が若い頃に国を救った褒賞として貰ったモノらしい。辺境の小さな村に住む村人のままだったら一生縁が無かったモノだろうし、前世の自分でも同じだ。さて、何時までも呆けてるわけにも行かない。とりあえず中に入ろうとドアを開けた次の瞬間――

 

「「「「「「お帰りなさいませ」」」」」」

 

 正面を空けるように左に執事、右にはメイドが数人並んでおり、一糸乱れぬ会釈と挨拶が飛んできた。少し奥のほうには一人の執事とメイド、コックさんが立っており、こちらに近づいてきてから一礼。

 

「初めましてマーリン様、メリダ様、シン様、セイン様。私はこのウォルフォード邸の女中頭を務めさせていただきます、マリーカと申します」

 

「同じく、この屋敷で執事長を務めさせて頂きますスティーブと申します。この屋敷の事は万事取り仕切りますのでよろしくお願いいたします」

 

「私は料理長を務めさせて頂きます、コレルと申します。皆様に満足して頂ける様に務めます。よろしくお願いいたします」

 

 スティーブさんの話によると賢者様と導師様がお帰りになると聞き、色々な方面から是非とも屋敷で働きたいとの応募が殺到、高倍率の試験を勝ち抜いた使用人の選抜チームとの事だ。

 

(俺らって王族でも貴族でも無い筈だよな……)

 

 今までは食料調達から洗濯といった家事も自分で行うように習慣づいてると、いきなり全て人任するのは気が引けると感じるのが普通の感覚と言うものだ。

 

「そう申されましても、私どもも陛下のご命令を受けて参っております。ましてや英雄殿のご家族なのです。無下に扱い事など出来るはずがございません」

 

 同じ事を思い、それを口にしたシンの言葉に対するスティーブさんの返事がこれだ。と言うより、家の事やらせただけで無下な扱いなるのか。とは言え、彼らも王の命を受けてここで仕事をするというのだ。無理に手伝うのも職務遂行の邪魔になるだけ……そう考える事にしよう、うん。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 と言う訳で、王都での生活を始めてから、今までは家事や狩りの為に割いてた時間が丸ごと空いてしまったのでその時間で入学試験に向けての勉強をしたり、魔法や魔道具の研究をして過ごしている。そして今日は息抜きの為に王都を散策することにした、何せこれから生活していく事になる場所だ、地理は早めに把握しておくに限る。屋台で串焼きを買い食い(シンにとって初のお買い物)したり、魔法具屋を冷やかしたりしながら辺りをぶらついていると、行列が見えた。

 

「あの、これ何の列ですか?」

 

「舞台さ! 『賢者マーリンと導師メリダの物語』」

 

 建物を通り越し、向こうの曲がりを曲がった先まで続く長蛇の列。公演されているのはお爺ちゃんとお婆ちゃんが若い頃に王国を救った時の事をベースとした英雄譚で、二人が王都に帰還した事を祝して特別公演が決まったとの事らしい。因みにこの公演の他にも二人の事は本にも綴られている。まぁ、当人たちが実際に読んだ時の感想が「これ誰?」と言う程、人物像は脚色されたみたいだが……。

 

(お婆ちゃんから少しだけ聞いてはいたけど、ホントに英雄なんだな。あの二人……)

 

 年月が経ち当時はまだ生まれても居なかった人にすら尊敬の念を抱かれているのを見ると、改めてそれを実感させれる。そして――

 

「二人の顔に泥を塗らねぇように、頑張んなきゃな……いろんな意味で」

 

 俺は小声でポツリとそんな事を呟いて、劇場を後にした。その後は特に何事もなく辺りをぶらつき、やがて表通りから裏通りを散策している時だ。

 

「イヤっ! やめてください!」

 

「ちょっとあんた達! いい加減にしなさいよ!」

 

 女の子の声が聞こえ、そちらに目を向けるとそこには革の鎧に腰には剣をさした如何にも剣士ですと言わんばかりの大男が三人。

 

「おぉコワ、そんな怒んなよぉ俺らと一緒に遊ぼうぜぇ」

 

「そうそう、俺らと遊ぶと楽しいぜぇ、ついでに気持ちいいかもなぁ」

 

 ギャハハハと下品な笑い声を上げている男性達。王国治安は他国と比べて良い方だ。とは言え、これだけ広い都だ、この手の輩が一人も居ないかと言われれば答えはご覧のとおり。

 

「おぉ、なんとテンプレな……」

 

 そう呟いて、シンが男たちの方に近づいていく。確かにこう言うシチュエーションは地球の物語では割と定番だ。そして――

 

「それに首を突っ込むシンも、な」

 

「あー、そこのお嬢さん、お困りですか?」

 

 とは言え、いきなり「やめろ!」とは言わず、一応確認は取るらしい。

 

「はい! 超お困りです!!」

 

 男に囲まれてるせいで顔は見えないが隙間から少し茶色味かかった赤い髪が見えており、その赤毛の少女から返事が返ってきた。

 

「なんだぁガキ! 何か用か!?」

 

「おぅおぅカッコイイねぇ、正義の味方気取り?」

 

「俺らは魔物狩ってこいつら守ってるんだぜ、俺らのほうが正義の味方でしょ」

 

 ああ、魔物ハンターか。ハンターの仕事は身分や生まれは関係なく誰でもなる事が出来るが他の仕事と比べ、自己責任な部分が多い。 故にこいつらの様な他の職に付くには少しモラルが不足してる連中でも実力さえあればやって行ける訳だ。

 

「お兄さん達、魔物を狩るのは正義の味方かもしれないけど、女の子まで狩っちゃったら悪人だよ」

 

「ふむ、座布団0,2枚って所だな」

 

「上手くないなら、上手くないってはっきり言って良いぞ……」

 

 いや上手くないなら、座布団は持ってかれるからな。なんてやり取りをしてると下卑た笑みを浮かべていた男たちの表情が一気に険しくなり――

 

「ンだと! このガキ!」

 

「痛い目見ないとわかんねえ様だな!」

 

 そう言って三人の内、二人が殴りかかってくるがシンはそれを避けて腕を掴むと同時に足払いで転ばせる。続く二人目はカウンターで腹に一発打ち込んでからの背負い投げを決める。2人が倒された事で、からまれていた少女達の姿がハッキリと映る。若干つり目気味な大きな茶色い瞳をした少女、見た目や先の男とのやり取りからも割りと勝ち気な女の子だろう。

 

(……へぇ)

 

 シン一人で問題無さそうだし俺は傍観決め込むつもりだったが、その赤毛の少女の一人の姿を見てちょっと考えが変わる。

 

「死ね! コラァ!!」

 

 最後の一人は素手だと分が悪いと悟ったのか、腰に挿してた剣を抜いてシンに斬りかかる。

 

(まぁ、武術の実践はあまりしてなかったしな……)

 

 と、自分に言い訳をしてシンと男の間に割り込み、剣を持ってる方の腕の付け根を手で押さえる。

 

「う、うごかねぇ!?」

 

 何かを殴る、剣で水平もしくはナナメに斬りつけると言った動きは身体を中心とした回転運動に近い動きとなる。そしてその運動の作用点は肩、だからこそそこを押さえて回転運動を封じれば、結果はこの通り。そのまま反対の手で掌底打ちを男の顎に叩き込みノックアウト。

 

「大丈夫? 怪我してない?」

 

「あ、はい! 大丈夫です」

 

 シンが赤毛の女の子に声を掛けると、彼女は一言そう返事をして今度はこちらの方に近づいてきた。

 

「それより、貴方こそ大丈夫? あいつ、剣まで抜いてたし」

 

「かすり傷一つねぇよ。あの程度の太刀筋なら簡単に見切れる」

 

 実際、剣速もそんなに早いものでもなく、わざわざ肩を抑えて止めなくも余裕でいなす事も出来ただろう。

 

「え、結構鋭いと思ったんですけど……」

 

 そう言ったのはもう一人の女の子、赤毛の女の子とは対照的に青い髪に大人しげな雰囲気をした少女だった。

 

「とりあえず、こいつ等が目を覚ます前に一旦此処を離れようぜ。……シン?」

 

 と、シンに声を掛けたが反応が返ってこない。視線は青い髪の女の子に向いたまま動かない。

 

「おい、シンっ!」

 

「えっ? ああ、そうだね。とりあえず何処か落ち着ける場所……カフェにでも行こうか?」

 

(そのセリフは完全にナンパなんだが……まぁ、いっか)

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 

「改めてお礼を言うわね。助けてくれてありがとう」

 

「えっと……ありがとうございます」

 

 あの後、シンの提案どおりに少し離れたとおりのカフェで女の子二人とテーブル席を囲んでいる。

 

「構わないよ。大した相手でも無かったし」

 

「もう、魔法さえ使えてたらあんな奴ら簡単にやっつけられるのに」

 

「駄目だよ、マリア。街中で攻撃魔法は使っちゃダメなんだよ」

 

 そう、この王都内では攻撃魔法を使用する事は基本禁止されている。使えるのは主に治癒魔法や身体強化といった類の魔法だ。身体強化に関してはどういう目的で使うかにより変わるので割とグレーゾーンなのだが。

 

「あ、そう言えば自己紹介まだだったわね、私はマリア。こっちはシシリーよ」

 

「あ、シシリー……です」

 

「ご丁寧にどうも。俺はシンって言うんだ。こっちは――」

 

「セインだ。まぁ、よろしくな。ところで、魔法を使えるって事は高等魔法学院の生徒なのか?」

 

 見た目そんなに年が離れてる訳でも無さそうだし、学校に行ってるとすれば高等部だろう。

 

「来月の入試で受かればね」

 

 俺達と同じって事は同い年。無事に合格すれば同級生って訳か

 

「へぇマリアも来月の入試受けるんだ?」

 

「そうよ、こっちのシシリーと一緒にね」

 

 ジュースを飲みながら言葉返したマリアはふと何かに気づいたようにコップから顔上げた

 

「っていうか、『も』?」

 

「うん、俺とセインも来月受けるからね」

 

「ウソ……あれだけ体術が使えるのに魔法使い?」

 

「てっきり二人とも騎士養成学院の生徒さんかと思ってました……」

 

 学院こそ入学してないが引退した騎士団総長様に幼少時代からミッチリしごかれてはいるからな。因みに魔法抜きの純粋の武術ではまだまだミッシェルさんには敵わず、稽古をつけて貰うたびに地に伏す事になるのはお約束となっている。

 

(引退後であれだもんな、現役時代はどれほどだったのやら)

 

「来月の試験に受かれば同じ学院生だね。お互い頑張ろう」

 

「勿論、私主席入学目指してるからね、負けないわよ」

 

 そう言いながらシンとマリアが握手を交わす。

 

「まぁ、こっちはボチボチやるよ」

 

「なによ、張り合い無いわねぇ」

 

 そうして、シンは同じ様にシシリーにも握手を求めた。

 

「えっと……あの……」

 

 が、マリアの時みたいにすぐには応じず、何処か戸惑う、と言うより恥ずかしがってる様に見えた。

 

「ちょっと、どうしたのよシシリー。具合でも悪いの?」

 

「え!? ううん、なんでもないよ! えと、が、頑張りましょう!」

 

 そう言いながら、両手でシンの手を掴んで握手を交わす。なんと言うか初対面の女の子相手だというのにこの対応。社交性が高いのか、それとも単に鈍いだけか。

 

「そう言えば二人はどこの中等学院? 同い年の割りに見たこと無いけど」

 

「王都にはつい最近移り住んだばかりでな」

 

 中等どころか初等の学院すら通ってない。まぁ、移り住んだのは確かだしウソは言ってない……。今気付いたが、これって就活する時大丈夫か?学歴とか。

 

「へー、なるほどね。そうだ! 二人は知ってる? 最近、賢者様と導師様も王都にお戻りになったらしいわよ」

 

「あ、ああ……そうらしい、ね」

 

「そういや、劇場でも行列できてたな」

 

「何よ、興味ないの!? 救国の英雄、稀代の魔法使いでありながら勇猛果敢に魔物を仕留める賢者マーリン様と魔道具を操りその美しい容姿からは想像も出来ないほど苛烈に魔物を狩る導師メリダ様よ! この国、いえこの世界に生きている限り最高の憧れの存在、生ける伝説よ!」

 

 マリア、その辺にしてやってくれ。シンの奴が恥ずかしさのあまり密かに悶えてるから……

 

「しかし、そこまで熱く語るなんてマリアって導師様と賢者様の事がよっぽど好きなんだな」

 

「当然でしょ! それに今年はそのお二人のお孫さん達も魔法学院の入試を受けるみたいなのよ!!」

 

(おおう、話はそこまで広がってんのか……)

 

「ああ、一体どんな方達なのかしら。その方達と同い年であった幸運に感謝したいわ」

 

 こんな方達ですよ。と心の中で返事をしたところで気まずくなったが、これ以上此処に居てボロを出すのを避ける為か、シンが伝票を手に席から立ち上がったので、俺も残りのコーヒーを一気に飲み干しそれに続く。

 

「そ、それじゃあ。俺たちはこの辺で……」

 

「ちょっと! 私達の分は払うわよ!」

 

「良いから良いから、女の子に払わせるなんて格好悪いじゃん。ここは格好付けさせてよ」

 

「おっ、そっか? そんじゃ遠慮なくゴチにならせてもらうかな」

 

「いや、女の子につったよな!?」

 

「冗談冗談、わーってるよ。そんじゃ二人とも、またな」

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 二人が居なくなってから少しした後、シシリーとマリアの二人もカフェを後にして表通りを歩いていた

 

「なんて言うか……カッコイイ奴らだったわねぇ」

 

「うん……」

 

「顔も良いし、強いし、魔法学院受けれる位魔法使えるみたいだし、おまけに押し付けがましく無いし」

 

「うん……」

 

「……去り際も格好良かったね?」

 

「うん……」

 

 此処でマリアはシシリーの様子が少し変になっていることにで気付いた。

 

「ねぇ、チュウしていい?」

 

「うん……」

 

 試しにあえておかしな提案をしてみるも結果は同じ、心此処にあらずだ。

 

(これって……)

 

「……ねぇ、セインさ、あたし貰って良い?」

 

「うん……」

 

(こっちじゃないか、てことは)

 

「じゃあ、シンも貰って良い?」

 

「う……え!? あ、ダメっ!!」

 

 どうやら、当りだ。心此処にあらずと言うよりはシンの事を考えていたのだろう。クックッと笑ってるマリアの姿を見て、シシリーは漸くからかわれた事を悟る。

 

「も、もう! マリア!」

 

「あっはっは、いやぁゴメンゴメン。シシリーのそんな様子なんて初めて見たからさぁ。で、何? まさから助けられたからベタに一目惚れしちゃったとか、物語にありがちなヒロインみたいな事言わないでよ」

 

「そ、そんなんじゃ……ない、と思う……けど」

 

(……あ、あれ?)

 

 冗談のつもりで言ったのに、シシリーは顔を赤くして少し俯きがちだ。

 

「凄く緊張するって言うか……心臓がどきどきするって言うか、体が熱くなるっていうか……」

 

(ちょっとちょっと、マジですか……)

 

「おい、お前」

 

 直後、シンやセインとは違う高圧的な雰囲気をした声が聞こえ、二人は声がした方を振り返った。そこに居たのは―― 




今回の補足は『小説の視点や場面転換について』

次話より普段は登場人物の誰かの視点で執筆、その際の地の文もそのキャラの口調に寄せたものにしていきます。例外として戦闘時は第三者視点をメインに地の文も特定のキャラのものでは無い一般的?な文章にします。

また既に何回か使用している『数行空けて※マークまた数行空ける』と言う表現は引き続き場面転換、時間経過で使うと同時に、本文中で視点が変わる際にも使用します。極力『本格的な戦闘シーン』⇔『その他のシーン』の移り変わり以外では使わないようにはしますが、今回のように視点となるキャラが変わる必要が出た時はやむなく使用しますので、予めご了承下さい。

後、今回半端なところで切りましたが、この直後の出来事はあえて割愛です。


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第5話『英雄の孫、世のレベルを垣間見る』

 このアールズハイド王国は三大高等学院と言うのが存在し、騎士、魔法使い、そして商人や文官と、それぞれ専攻する分野が違う。その他にも高等学院と呼ばれるものは存在しているが、やはり人気が高いのはこの三大高等学院だ。何せ全生徒の学費等の諸経費を国が予算の一部として計上しており、生徒側の金銭的負担はゼロ。身分や権力を笠に着せた振る舞いは厳罰対象になる事もあり、受かりさえすれば貴族から平民まで誰もが健やかに学業に勤しめる仕組みとなっている。それは将来国を担うであろう人材の才能を生活環境や階級格差によって埋もれさせない為。卒業後は必ず国に仕える事を強制されていないのだが、それでも卒業生の大半は三大学院卒業と言う学歴を一番活かせる王国内でその後の進路を決定している。

 

「流石王国を代表する三大学院の一つ、スゲー受験者数……」

 

「やっぱり、倍率は高そうだな」

 

「だろうな」

 

「おい貴様、そこをどけ」

 

 人気と言う事は当然受験者数も多く、倍率も高いという事だ。俺とシンは受験会場の案内板の前で自分の会場を探している。

 

(さて、ディスおじさんの話だと俺とシンの魔法の技術は規格外との事らしいが……)

 

「おい、貴様! 聞こえないのかっ!!」

 

 とは言え、それはあくまで実技の話。筆記試験については今日までお爺ちゃんやお婆ちゃんにキッチリ叩き込まれてこそいるがそれでも、中等時代からここの合格を目指して勉強してたであろう他の受験生と比べれば勉強量は少ないのは確かだろう。

 

(なら、稼げる所で点数を稼いでおくに越した事はねぇ、か。よし試験は全力で、だな)

 

「この無礼者が!」

 

 直後、誰かがシンの肩を掴み、そしてすぐさま後ろ手にされて捻りあげられてる。

 

「ぐあっ! 貴様ぁ、何をするっ! 離せっ!」

 

「さっきから何なのアンタ? いきなり人の肩掴んどいて何をするはないんじゃない?」

 

 そこに居たのは金髪碧眼の少年。これで爽やかな雰囲気でも出してれば絵に書いたようなイケメンなのだが、残念ながらシンを忌々しげに睨む彼にその様な雰囲気は一切感じられない。

 

「貴様! 俺はカート=フォン=リッツバーグだぞ」

 

(フォン、ってことは貴族階級か……)

 

 アールズハイド王国では爵位を得た家系はその証として王族と同じミドルネームを名乗る義務がある。そのミドルネームが『フォン』だ。

 

「? はい、俺はシンです」

 

 と、それに気付いてないシンは唐突に自己紹介をし出したと判断したのか、こちらも普通に自己紹介している。そんなシンの反応がウケたらしく、周りから笑い声が聞こえた

 

「シン、自己紹介じゃねぇよ。俺は貴族だ、平民はさっさとどけろって言ってんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ふん、そっちの平民は判っているみたいだな。判ったのなら、さっさとそこを――」

 

「でもまだ会場見つかってないから、もうちょっと待っててくれ。場所確認したらすぐどけるから」

 

「な!? き、貴様らぁっ!」

 

「あのさ、えぇとカート君? もうその辺にしといた方が良いんじゃない? 貴族が権力を振りかざす事は厳禁なんでしょ?」

 

「今はまだ入学前だからな、その校則は適用外。つまり権力振りかざしても学園側が罰する事は出来ないんだろ。まぁ、それでも入学して速攻、退学&厳罰って目に会いたくないなら早めにその態度は抑えるのをオススメするけどな」

 

「たかが魔法学院の教師なんぞに、この俺を裁ける訳が無いだろうが!」

 

 ディスおじさんの前王の代からこうした貴族主義な考えは改めさせる方針で国を回してる筈だが、それもまだ完全では無いって事か。

 

「そこまでだ」

 

 なんかめんどくなってきたし、そろそろどけるかな、と思ったところで横から割り込む声。そっちに視線を向けると金髪に青い瞳、そしてこちらには爽やかながらもどこか威厳のある雰囲気をしており、まさに絵に描いたようなイケメンがそこに居た。

 

「あ、あなたは……」

 

「そこの君、さっきの発言は一つ間違いがある。高等魔法学院において権力を振りかざし、他の魔法使いを害する事は、優秀な魔法使いの芽を刈り取る行為であり、これを破った者は厳罰に処する。これは高等魔法学院の校則では無く、王家の定めた法なんだ」

 

 校則じゃなくて国の法律か。と言う事は――

 

「それとも、先ほどの発言は王家に対する叛意なのか?」

 

「ま! まさかそんな事は!」

 

 罰するのは学校職員ではなく国そのものと言う事になる。

 

「ならばこれ以上騒ぐな。ここは入学試験会場だ。皆の心を乱す様な事をするな」

 

「は……はっ、かしこまりました」

 

 最後に俺達の方を一睨みしてカートはその場から去っていった。どうでも良いが、会場確認せんでよかったのかね?あいつ。

 

「くっく、あの自己紹介を返したのは傑作だったな。聞いたとおりの世間知らずのようだ」

 

「聞いたとおり?」

 

「ああ、自己紹介が遅れたな。私の名はアウグスト。アウグスト=フォン=アールスハイドだ。近しい者はオーグと呼ぶ。シン、セイン、君達の事は父上から色々と聞いてるよ」

 

 その名前、ああなるほど。つまり彼は――

 

「えっ!! って事はディスおじさんの息子!?」

 

 次のシンの一言で周囲の人間の殆どがギョッとなる。まぁ、一国の王をおじさん呼ばわり、当たり前の事だろう。

 

「くっくっく、ディスおじさんの息子……そんな風に言われたのは初めてだな」

 

「そら大半の人間は恐れ多くてそんなこと言えないだろうし、初めてだろうよ」

 

「だっておじさんの事、ずっと親戚だと思ってたからさ。おじさんの息子って言われても従兄弟?って感じしか。セインだってそうだろ?」

 

「まぁ、あの人が王様だって教えられた時には既に親戚のおじさんとしての印象がすっかり染み付いてたのは確かだが……」

 

 うちに来てる時のディスおじさんは完全にオフの状態でそこに王としての威厳と言うのは殆ど無いに等しかった。 

 

「くっくっく、あははははは!」

 

 そして、そんな反応がおきに召したかオーグはいきなり大爆笑。

 

「そうか従兄弟か……やはり面白い奴だな君達は。もう少し話をしたがそろそろ試験会場に行かないとまずいな。次に会うのは入学式かな? 互いに頑張ろう」

 

 そう言い残し、軽く手を上げながらオーグはその場から去っていった。

 

「さて、俺達も会場に向かうか。シン、また後でな」

 

「ああ、セインも頑張れよ」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

筆記試験は特に何事もなく、地理と歴史が若干芳しくない事を除けば何事もなく終わり、次は実技試験。内容は自分が一番得意とする魔法を披露する、と言う内容だ。そこで初めて自分は他の人の魔法を目にした訳だが……

 

(規格外、まぁ、確かにそうかもしれないが、その差は割りとすぐ埋められると思うが……)

 

 確かに彼らの魔法は詠唱こそ堂に入ったものだがその威力は俺とシンの魔法と比べれば大きく劣る。けれどそれはれっきとした原因があり、その原因の解消は誰にでも行えるものだ。そして、原因が解消されれば俺とシンが規格外扱いされる程、力量差が開く事はない。

 

(魔力制御の錬度不足、それだけの筈だが……)

 

 強力な魔法を使うならそれ相応の魔力が要る、当たり前の事だ。しかし、どう言う訳かその当たり前が欠如していると言う事だろう。現に一人目の眼鏡の女の子は魔力の乱れ具合から制御できるギリギリのライン、イヤ最悪暴発しかねない一か八かのラインの魔力量で魔法を行使したのだろう。他と比べ中々の威力をたたき出していた。

 

「では次の人!」

 

「はい」

 

 呼ばれたので的の前に立つ。

 

「君は……そうですか、君が二人目の。先ほどもう一人の方にも言いましたけど、くれぐれも的を破壊する程度に抑えてください。いいですか!? くれぐれも、ですよ!」

 

 俺より先にシンが実技を受けていた筈だが、あいつなにやらかした?よく見たら試験官の眼鏡、少しヒビ入ってるし。本気でやるつもりだったのだが、抑えろと言われた以上はそうするしかない。とりあえず的を破壊できれば満点は堅いってことだろう。

 

(的の破壊のみ、なら爆発系みたいな周囲にも影響でる様な性質のは避けるか……)

 

 そう判断し、おなじみドリル状の風の槍を二発作る。

 

「うそ……詠唱無しで!?」

 

 先ほどメガネ少女から驚きの声が聞こえた。威力は抑えるにしても無詠唱で使うぐらいは問題ないだろう。おばあちゃん達が若い頃は詠唱無しが主流だったのだから。

 

(狙いは人で言うなら頭と心臓でいいな)

 

 そして、風のドリルを放つ。が、そこで一つ誤算が起きた。的を一瞬で貫通し大きな風穴を二つ空ける。そこまではよかったがそのまま後ろの壁に刺さってしまった。魔力を抑えていた事もあり、穴を開けるには至らなかったが、それでも壁をかなり削ってしまってる。的の強度を見誤ってしまったか。

 

「あ、えっと……スイマセン」

 

「い、いえ……大丈夫です。この程度ならすぐに修理できますので……」

 

 

 

 

 

 米

 

 

 

 

 

 あれから数日後、試験の結果は無事合格。シンに至っては主席合格となった。生活環境を考えると俺もシンも勉強時間は大して変わらないはずなのだが、学力試験でシンに負けていたのはちょっと納得がいかない。が、主席は新入生代表挨拶までしないといけないらしい。まぁ、いきなり壇上に立つのもゴメンだったので結果オーライと言った所だろう。



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