蒼穹のファフナー 〜Wunsch〜 (naomi)
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第五次蒼穹作戦
第一話「初陣」


鳴り響く警報音、迫り来る敵、それを予測していたかのように迅速に動く人々

 

「第3及び第4ベルシールド展開、バトルフィールドスタンバイ完了」

 

「よし、ファフナー発進スタンバイ」

 

目の前にそびえ立つファフナー、遂に訪れた瞬間。不安げな母の視線を背中で遮り前に進む。

 

指輪に手を通して広がる景色、ありとあらゆるものが小さく見える。

 

「敵は3体」

 

「エスペラントやコアのお陰で予想よりかなり少なくなってはいるが、その分憎悪に満ちているそうだ。ジークフリードシステムの支援もなく、ファフナーはお前1機初陣だというのにすまない。」

 

「大丈夫ですよ、訓練通りやればこのくらいのフェストム、僕だけでも倒せます。」

 

「無理難題なことを言わせてもらう…死ぬなよ。」

 

「了解!!」

 

「よし、ファフナー発進」

 

水中のなかを加速する愛機、勢いを維持したまま海上に飛び出す。

 

「これが、僕のいる島…」

 

目の前に広がる島。僕は今、戦士になった。

 

「あなたはそこにいますか。」

 

僕に気がついた黄金の敵は思ったよりも綺麗だった。

 

「僕はここにいるよ、君はここにいるの。」

 

敵はなにも答えてくれない

 

「彼らに同じ問を返すとは、やはり面白い子ね。亮一。」

 

「…ルヴィ姉さん、また僕をからかったな。」

 

ルヴィ姉さん、いやルヴィ・カーマ様と呼ぶべき人か、僕の住む海神島のコアとして皆に崇められている存在。

 

「初めての貴方を厳しい状況に巻き込んでしまいました。ごめんなさい。」

 

「ルヴィ姉さんやエスペラントの皆が敵が来るのを防いでくれていたのは知ってるよ。だから謝らないで。」

 

「ありがとう亮一。」

 

「それに、美羽姉や真壁司令達は大丈夫だと判断したからあの子をAlvisのほぼ全戦力を持って連れ戻す作戦に行ったんだ。僕は皆の期待に応えるよ。」

 

「私が最大限サポートします。行きなさい亮一」

 

「わかった。」

 

僕達は目の前にいる敵へ向かい歩み始めた。

 

「ファフナーエンゲージ」

 

「亮一、誰かと話してなかったか。」

 

「コアのクロッシングを確認しています。」

 

「なるほどな、よしこちらも最大限バックアップする。」

 

敵に向かい飛んでゆくミサイル、しかし敵には効いていない。

 

「CDCからの援護射撃…やっぱり効かないよね。」

 

「亮一」

 

気がつくと3体の敵に囲まれていた。

 

「しまった」

 

とっさに目の前の敵に攻撃するが防がれ、集中放火を浴びる。

 

「落ち着いて、その攻撃から脱け出して」

 

「そう言われても…ウワー」

 

僕の身体から緑色の結晶が出てくる。

 

「亮一」

 

「マークノイン改『フレイヤ』にて同化現象が発生」

 

「なに、亮一しっかりしろ。飲まれるなよ」

 

痛みともに敵が僕の心に入ってくる。

 

「あなたはそこにいますか」

 

「僕は…ここに…いるよ。君は…ここに…いるの。…答えてくれないんだね…」

 

「じゃあ、僕から答えを聞きにいくよ」

 

「〜〜〜〜〜〜!!」

 

「どうやら同化現象に耐えきったようです。」

 

安堵する大人達

 

「敵の一体が他の二体を攻撃し始めました。」

 

「なんだと」

 

「『フレイヤ』のアクセラレーターが起動。SDPを発動を確認」

 

「初陣でSDPを発動かよ、しかもこれは…」

 

「よろしくね、一緒に頑張ろう。」

 

「〜〜〜〜〜!!」

 

「亮一貴方。」

 

「大丈夫だよ。ルヴィ姉さん、行くよ。」

 

僕は一体にルガーランスを突き刺す。暴れる敵

 

「ごめんよ。」

 

ルガーランスから出る電磁砲で一体が消滅、もう一体も彼が倒してくれた。

 

「さてと、君ともさよならだ。」

 

激しい憎悪を向けて彼は僕に向かってきた。

 

「君の存在、確かに感じたよ。」

 

彼に刺さるルガーランスから電磁砲が放たれ、彼の存在は消滅した。

 

「フェストム消滅を確認。」

 

重苦しい沈黙がCDCを包み込む。

 

「俺達を救ってくれた戦士を温かく迎え入れよう。」

 

「お疲れ様亮一。」

 

「ありがとう。ルヴィ姉さん。どう僕の初陣は。」

 

「かなり危険な初陣でした。もし力が使えなかったら。貴方は確実に消滅していました。」

 

「うん。危なかった。もっと訓練しなきゃ。」

 

「でも、貴方に皆が救われたのは確かです。ありがとう。」

 

「皆がサポートしてくれたおかげだよ。」

 

「ゆっくり休みなさい。あと早く貴方の顔を見せて上げなさい。心配し過ぎて今にも倒れそうよ。」

 

「わかった。ありがとうルヴィ姉さん。」

 

(…うん、なんとか護れたよ。…そうだね。護るよ絶対、だから信じて待ってて。)

 

「どうしましたか。亮一」

 

「なんでもないよ、後で会いに行くよルヴィ姉さん。」

 

「わかりました。待ってますね。」

 

(…美羽。)

 

 

ファフナーを降りると皆が僕の無事を喜んでくれた。

 

ハイタッチをしてくれる人、握手をしてくれる人、手荒い祝福をしてくれる人と人によって様々だ。

 

そんな中、ただ一人だけ僕を見て抑えていた涙をこれでもかと流す人がいた。

 

「ただいま、母さん。」

 

「おかえりなさい。よく無事に戻ってきてくれたわ。」

 

「恵さん、亮一くんが戻ってくるまでずっとここで待ってましたもんね。あまり心配かけちゃダメだよ亮一くん」

 

「そう言われましても、戦いなのでどうしても心配はかけちゃいますよ。」

 

「気分は悪くない。」

 

「大丈夫だよ、母さん」

 

「そう。余り遅くならないように帰ってらっしゃい。」

 

母さんはそう言ってブルグを去った。

 

(こちらは亮一のおかげで無事です。…ごめんなさい。私達の力不足で想定よりも早く送り出してしまいました。そちらは…そうですか。わかりました。次の策を考えましょう。貴女達の無事の帰還を待っています。)

 

「ルヴィ姉さんどうしたの。」

 

海神島のミール『アショーカ』の前で祈りを捧げるルヴィ姉さんを見つけた。

 

「亮一。美羽とお話をしてました。作戦が終り帰還するようです。」

 

「美羽姉達帰ってくるんだ。作戦はどうなったの」

 

黙ってこちらを見続けるルヴィ姉さん。

 

「そうか…連れ戻すことは出来なかったか。」

 

「そのようです。」

 

「美羽姉達は大丈夫なの。」

 

「いなくなった方はいないようです。ただ、真壁一騎が途中離脱したことによりファフナー1機を奪われました。」

 

真壁一騎。僕らファフナーパイロットの英雄、母さんからは1つ下の世代で母さんたちが子どもの頃からファフナーのエースパイロットとして戦い続けている人だと聞いている。

 

「一騎さんやられたの。」

 

「いえ、力を使い過ぎたため眠りにつきました。彼は世界の傷を塞ぎ調和をもたらす存在。いなくなることは、まずありません。あとはアマテラス、スサノオ、ツクヨミが大破、直せないことはないですがここ最近では一番酷いやられ方だということです。」

 

「彗さん達がそんなにも…」

 

「アズライールのパイロットが敵の同化現象で目を失い」

 

「そんな、真矢さんが。」

 

遠見真矢。彼女も真壁一騎と共に母さんが子どもの頃から戦っているファフナーパイロットだと聞いていた。

 

「彼女の目は私達の力で治るわ、安心しなさい。あとは彼らの管理者も深刻な同化に晒されたようね。彼は今の立場からは今後は離れるべきね。そして一番深刻なのは…」

 

「まだあるの。」

 

「イザナミが消滅した。」

 

「パイロットは。」

 

「アマテラスの力で身体は回収、けど意識は戻ってないようね。」

 

聞いている限りでは大損害だ、作戦も失敗。自分の『夢』が遠退いて行った気がした。

 

「今日はここまでにしましょう。」

 

「ルヴィ姉さん、でもまだ」

 

「しっかりと休みなさい。また今度お話しましょう」

 

僕は彼女と話したいことを話せぬまま、帰路についた。

 

「お帰りなさい。思っていたより早いわね。」

 

「ただいま。うん、姉さんにしっかり休めって言われた。」

 

「そう、夕飯出来てるわ、手を洗ってきなさい。」

 

「うん、いつもありがとう母さん。」

 

手を洗い、食卓につく前にとある写真を眺める。その写真には若い頃の母さんと男の人が写っている。

 

(…おやすみなさい。)



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第二話「戦士達の帰還」

僕が初めて敵と戦って3日が経った時、第五次蒼穹作戦を実行していたAlvisの主力部隊が海神島に帰ってきた。

 

「第五次蒼穹作戦実行部隊R分隊及びL分隊、今海神島に帰還した。」

 

「お帰りなさい真壁、美羽から大体のことは聞きました。」

 

「そうか、流石は美羽くん話しが早い。作戦は失敗した。皆城総士は連れ戻すことが出来ず。ファフナーもこの有り様。島の助言が欲しい。」

 

「まずは、皆さん休みなさい。機体を元に戻すのにも時間がいるでしょう。心と身体を癒し、次に備えなさい。」

 

「そうだな、まずは皆の身体を休めることとしよう。溝口俺達は今後のことを協議するぞ。」

 

「俺は休めねーのかよ、真壁」

 

「真壁司令、俺も参加します。」

 

「剣司君。いいのかね、家族が待っているだろう」

 

「大丈夫です。妻には帰りが少し遅れると連絡します。」

 

「そうか、すまんな。」

 

「若造にそんなこと言われちゃ、休みたいなんて弱音は吐けねーな。」

 

「私も、参加します。」

 

「お嬢ちゃん…」

 

「君はだいぶ傷を負った。ゆっくり休みたまえ真矢くん。」

 

「傷なら、ジークフリードシステムに乗っていた近藤君の方が重いはずです。私は大丈夫なので、お願いします。」

 

「遠見でもお前目を…」

 

「近藤君ありがとう。私は大丈夫。島に戻ってこれたなら、治せる。」

 

「なら先に治療を受けてからだ。」

 

「…了解」

 

「君もいいかね。島のコア」

 

「私は、貴方達を導くためにここにいます。」

 

「ありがとう。」

 

 

主力組が続々と島の大地に降り立った。

 

「彗さん、零央さん、美三香さん。お帰りなさい。」

 

「亮ちゃんだー。ただいま」

 

勢いよく美三香さんが抱き締めてくる。

 

「亮一、戦ったそうだな。」

 

「はい3回程。皆さんみたいに全然上手く戦えませんでした。」

 

「俺達は常に3人で戦ってきたからな、1人で戦って生き延びたお前は凄いぞ」

 

少し照れる僕。

 

「零央さん。また訓練つけて下さい」

 

「おう。みっちり鍛えてやる。」

 

「里奈さんはどうですか。」

 

流れる沈黙

 

「まだ、目覚めてない。でも今回は間に合った」

 

「彗さん…」

 

「大丈夫だ、きっと…」

 

再び流れた沈黙

 

「んっもう。そういう辛気臭いのなーし。早くお家に帰ろ」

 

勢いよく走る美三香さん。

 

「全く美三香のやつ。行くぞ彗」

 

「うん。じゃあまたね亮一」

 

「はい、お疲れ様でした」

 

「亮一じゃあないか」

 

すぐ後ろから将陵佐喜さんがと陣内貢さんが出てきた。母さんの小さい頃から母さんを気にかけてくれているらしく。今も僕と母さんを見守ってくれている。

 

「佐喜さん、陣内さんお帰りなさい」

 

「ただいま。お母さんに心配かけてないか亮一」

 

「もう、皆子ども扱いして」

 

「ハハハ。亮一は幼い顔してるから、皆可愛くてしょうがないんだよ」

 

「これだからオバサンは…」

 

「なんだと亮一」

 

すぐに佐喜さんに捕まり、頭を拳でグリグリされた。

 

「相変わらず元気そうで良かった。初陣したんだってな亮一君」

 

「はい。陣内さん」

 

「これからは共に島を護る同志だね。よろしく頼むよ。」

 

「よろしくお願いします」

 

(見てるか…お前の息子はこんなに立派に成長してるぞ)

 

「陣内さん、早くしないと舞さんが待ってますよ」

 

「ったく、こういうところはまだお子様かな。じゃあ先に失礼するよ」

 

陣内さんは足早に去って行った。

 

「私もお母さんに会ってくるよ、またな亮一」

 

「佐喜さんお疲れ様でした」

 

「もうすぐあの子も来るから待ってな」

 

にやつく佐喜さん。

 

「!?だからそんなのじゃないですってば」

 

すると

 

「亮一みーつけた」

 

誰かに後ろから目隠しされた。声で一瞬でわかった。

 

「お帰り美羽姉」

 

日野美羽。フェストムと対話が出来る『エスペラント』と呼ばれる人の一人で、美羽姉はそのエスペラントの中でもずば抜けて能力が高い一人だ。

 

「当たり。ただいま」

 

その清んだ瞳と輝く笑顔は、僕には眩し過ぎる。

 

「美羽ちゃんと亮一かい」

 

声のする方を見ると杖をついた女性が歩いてきた。

 

「家の旦那見なかった」

 

「咲良お姉ちゃん。剣司お兄ちゃんなら会議で遅くなるって言ってたよ」

 

「ったくあいつは、連絡くらいよこせっての。ありがとう美羽ちゃん」

 

すると咲良さんは僕に近づき

 

「邪魔して悪かったね亮一」

 

そう耳元で囁いて来た道へ戻って行った。

 

「亮一大丈夫」

 

照れている僕に美羽姉が近付いてくる。

 

「大丈夫だよ、大変だったね美羽姉。ルヴィ姉さんから聞いたよ」

 

「うん…」

 

しまった。こんな悲しい表情を見るために待ってた訳じゃない。

 

「諦めないで美羽姉。美羽姉が諦めなければきっと総士もマリスも戻ってくるよ」

 

「そうだね。ありがとう亮一」

 

美羽姉に笑顔が戻る。やはり僕には眩しい。

 

「久しぶりに会う分いっぱいお話ししよ」

 

「…うん」

 

手を差し出す美羽姉。僕はその手をしっかりと握り返した。




「いらっしゃいませ…佐喜さん。」

「ただいま恵」

「お疲れ様でした。作戦は上手くいきましたか」

「いや…失敗だよ」

「そうですか…」

お店を見渡す佐喜

「ここでも、花屋なんだね」

「はい。私と亮一と『あの人』の還る場所はやはり、ここです。」

「そっか。亮一戦ったんだってね、フェストムと」

「…はい。ファフナーに乗っている時の生き生きとした姿が、そっくりなんですよ」

「そっか…」

恵の瞳から大粒の涙が溢れ出る

「やっぱり『あの人』の子だなとこれも運命なのかなと考えさせられます」

佐喜は恵をしっかりと抱きしめる。

「私達であの子をしっかりと見守ろう。アイツの待つ故郷に戻るために」

「はい」

「この花貰うよ」

サルビアの花を取り、佐喜は店をあとにした。

恵は涙を拭い、その後ろ姿を見送った。


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第三話「結成」

「初めての戦闘でSDPを発動させのか」

 

連日のように今後の展開を話し合うブリーフィングで、僕の話には入ったのは始まって3日目のことだった。

 

「はい。蒼穹作戦実行部隊が海神島を離れていた間に海神島近海ををフェストムが7回通過。内3回こちらに気付き敵意を持って進行してきたため、まだ実践経験はありませんでしたが霧島亮一をファフナーに搭乗させ対抗。ファフナーは亮一君一体でしたがコアのクロッシングによるサポートとSDPの発動により無事退けました。」

 

「そうか。我々の留守の間島を護ってくれてありがとう。亮一君」

 

Alvis司令官真壁史彦。島の人々から信頼されている。Alvisの最高責任者。そんな方からお礼をされ照れる僕。

 

「SDPの能力は。」

 

「類似する能力を1つ見つけました。『支配』です」

 

動揺が走るブリーフィングルーム。(皆どうしたのかな…)

 

「『類似』とはどういうことかね」

 

真壁司令も驚きつつ冷静に報告を聞く。

 

「海神島のコアによると、『支配』を発現させた前任者は対象者を完全に支配下に置き自由にコントロールが出来ました。亮一くんの場合は強制的に『服従』させているとのこと、そのため対象も限定的で解放された対象者は、凄まじい憎悪を持って襲ってきます」

 

「実際、発動した際全ての敵が凄まじい憎しみを持って攻撃して来ていました。我々にもわかる程強い憎しみでです。」

 

「フェストムに感情ってあるのですか」

 

「相手も我々と同じく学びながら進化している。その可能性はありえる」

 

「亮一君のSDPは『服従』か…」

 

「さらに、それは先天的に身に付いた能力で、彼の本来の能力はまだ発現していないとコアは考えているようです。」

 

「SDPを2つも持っているなんて初めてのケースですね」

 

皆の視線が僕に集まる。

 

「そうか。彼も十分我々の戦力として計算出来そうだな」

 

「どういうことですか、真壁司令」

 

「この3日間の話し合いの結果。皆城総士探索任務は少数精鋭で行うこととなった。現状動かせるファフナーがないことを踏まえると1週間程は時間を有するであろうが、亮一君を戦力として計算に入れれることで派遣できるファフナー部隊も増える」

 

皆が納得した表情をしていると

 

「その任務は俺達がやる。今すぐにだ」

 

ブリーフィングルームの扉が開き入ってきたのは、真壁一騎だった。

 

「一騎君…」

 

「一騎もう大丈夫なのか」

 

「ありがとう剣司、俺は大丈夫だ」

 

(この人が伝説の英雄真壁一騎さんか!)

 

「今すぐ動くには派遣出来る人員が不足しているぞ」

 

「急いで、総士を見つけて取り返さないとヤツらに洗脳されてしまう」

 

「それはわかる。だが島が不安定な状態で動く訳にはいかん。今の我々に残された場所はここだけなのだ」

 

「わかってるさ父さん。だから総士探索任務は俺と来主・甲洋で行く。その間に立て直してくれ」

 

「移動手段はどうするつもりだ」

 

「ボレアリオスで行くさ」

 

「…。わかった許可しよう」

 

「真壁司令、よろしいのですか」

 

「彼の言うことはもっともだ、彼ら3人なら我々の計画に充分過ぎる余裕を与えてくれる」

 

「あと、その子も連れていく」

 

一騎さんはそう言い僕を指さした。

 

「僕ですか」

 

「君の力が必要になるかもしれない」

 

「実戦経験はまだ浅いぞ」

 

「戦うのは俺達がやる。万が一の時、君の力を借りたい」

 

「彼を1人行かせる訳には…」

 

「俺が保護者をしよう。いいだろ一騎」

 

「溝口さんありがとうございます」

 

「いいのか溝口」

 

「連絡役に亮一の保護者を同時にこなせるのは、俺だけだろ。亮一の母さんを説得する必要もあるしな」

 

「すまんな溝口。亮一君、君はどうしたい」

 

突然の真壁司令の問いかけに動揺する僕。

 

「決めるのは君自身だ」

 

一騎さんも優しく問いかける。

 

「…僕行きます。」

 

「ありがとう。すぐにでも出発したい、準備を急いでくれ」

 

こうして皆城総士探索部隊が結成された。



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第四話「船出の時」

「そうですか…」

 

作戦の経緯を母さんに説明する溝口さん。

 

「行ってくるね、母さん」

 

「1つ聞いてもいい」

 

母さんが僕の顔を抑えじっと見つめる。

 

「貴方は無事に帰って来てくれる」

 

すぐに返事が出来なかった。島を離れる以上安全な場所はどこにもないことは、皆の話しを聞いてある程度想定していた。

 

「うん。総士を探しに行くだけだし、きっとすぐに、戻れるよ」

 

「溝口さん。亮一をよろしくお願いします」

 

深々と溝口さんに頭を下げる。

 

「しっかりと連れて帰る。任せろ」

 

 

 

数時間後、空母ボレアリオスが海神島に到着した。

 

「彼が、霧島亮一かい一騎」

 

「そうだ」

 

「春日井甲洋。必ず君を守るよ」

 

「よろしくお願いします。甲洋さん」

 

すると、突然男が現れる。

 

「来主操だよ。よろしくね亮一」

 

「よろしくお願いします。来主さん」

 

「クルスでいいよ、亮一。ふーん君はあの人の後継者なんだね」

 

「子どもね、クルス」

 

「わかってるよ。相変わらず堅いね君」

 

「子どもと後継者では全然意味が違う」

 

「そうなの」

 

苦笑いしか出来ない僕

 

「相変わらずお前らの会話は抽象的でわかりにくい」

 

荷物をまとめた溝口さんがボレアリオスに乗艦する。

 

「よろしく頼むぜ」

 

「溝口。よろしく頼む」

 

「おう。任せろ」

 

「一騎、亮一くん。二人にはこちらを用意した。必要な時には迷わず使いたまえ」

 

真壁司令が目をやる先には2機のファフナーがあった。ファフナーブルクエンジニアの小楯保さんが説明してくれた。

 

「まず、一騎くんにはマークエルフリペア。マークエルフのデータを元にエインヘリアルモデルで新造した。マークザインには及ばないが一騎くんの力を充分発揮出来るはずだ。亮一くんはマークアハトだ。ジークフリードシステムとスレイブニールシステム搭載型で中距離支援機。実質指揮官機を想定している。トルーパーを2機あらかじめ一緒に配備してあるから。良かったら活用してくれ」

 

「ありがとうございます」

 

「かつて俺と一緒に島の為に戦った機体だ。お前を必ず助けてくれる。」

 

「この機体の前任者は剣司さんなんですか」

 

「そうだ。機体の微調整もこれまでの亮一の戦闘データをフィードバックして済ませてある。必ず生きて帰るんだぞ」

 

「剣司さんありがとうございます。大切に使います。」

 

「島がこの座標を動くことはない。君達のなるべく早い帰還と良い報告を待っている」

 

「はい、行ってきます。…ところでこの船の船長は誰ですか」

 

「部隊の司令官は俺だが、船は…」

 

「ぼくだよ亮一」

 

またしても苦笑いが止まらなかった。

 

「亮一」

 

振り向くと母さんが勢いよく抱き締めてきた。

 

「気をつけてね」

 

「うん。行ってきます」

 

こうして、皆城総士を探す旅が始まった。

 

 



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皆城総士探索任務
第五話「外の世界」


「えっ、じゃあこの船はクルス自身ってこと」

 

皆城総士探索任務開始翌日、よく話しかけてくる来主操と早くも打ち解けていた。

 

「そうだよ、凄いでしょ。僕の前の存在が一騎達とぶつかりながら生み出してくれたんだ」

 

「じゃあクルスはフェストムなの」

 

「そうだよ。一騎達もね」

 

予想外の一言に開いた口が閉じない。

 

「来主誤解を生むからちゃんと説明しなくてはいけないよ、僕と一騎は肉体がフェストムなんだ。元の身体は長い戦いと同化現象によって消滅してしまった。でもフェストムの身体を受け入れることで僕達はここに存在し続けることが出来るようになったんだ」

 

「そうなんですね…。」

 

フェストムの身体をした人間…どんな気分なんだろうと不意に考えた。

 

「お話し中にすまん。亮一ちょっと来てくれ、折角島の外へ出たんだ外がどんな感じか興味はないか」

 

「島の外…溝口さん見たいです」

 

「よし、じゃあ甲板に上がるぞ」(この後のフォロー頼むな三人とも)

 

生まれて初めて見る島の外の世界は…絶望的だった。

 

「なにこの景色…なにもない」

 

「これが俺達の暮らす地球の現状だ。俺達の島のように人間が住んでる地域はごくわずか、あとはなんもないか、フェストムがうじゃうじゃいるかのどっちかだ」

 

「そんな…」

 

「そして島の外で暮らす人々は毎日フェストムの脅威と隣り合わせで暮らしている」

 

「…どうして僕達の島はあんなにも皆が笑顔で過ごせるんですか」

 

「島のミールの加護とお前の先輩達がお前らのために戦って守り続けてきてくれたからだ」

 

「ファフナーパイロットになることは…先輩達が戦って守り通してきた島を僕達が背負い戦うことなんですね」

 

「亮一一人で守る訳じゃあない。俺や一騎達、島の人々皆で守るんだ。だがファフナーパイロットはその責務を一番背負うことになるってことを覚えておくんだ」

 

「はい…」

 

「俺達が戦う理由…掴めたか」

 

後ろにあの三人が立っていた。

 

「何のためにファフナーに乗るのか少しだけわかった気がします」

 

「そうか。その気持ちを忘れるな、そして改めて一緒に戦おう」

 

「はい」

 

(流石はAlvisのエースパイロット。説得力のあるフォローありがとよ)

 

「…あっ、誰かが襲われてるよ」

 

「一騎」

 

「あぁ行こう。溝口さんは船内に亮一はマークアハトを起動して待機。ジークフリートシステムの起動を忘れるな」

 

「わかりました」

 

クルスが敵の存在に気づいて1時間後、ファフナーとフェストムの戦闘に遭遇した。

 

「あれは…ファフナー。島のファフナーとは違うな」

 

「人類軍のファフナーだな結構被弾してるな」

 

「溝口さん。『人類軍』って」

 

「『新国連』って地球規模の人類の組織に所属する軍隊だ。」

 

「人類軍…助けますよね」

 

「まぁ任務とは関係無いが、見過ごす訳にはいかんな」

 

「じゃあ行きます」

 

「亮一。クロッシング出来てるか」

 

「一騎さん出来てます。甲洋さんもクルスともOKです」

 

「基本戦略としては戦闘は俺達でやる。亮一はジークフリートシステムで溝口さんと協力して俺達のフォローを頼む」

 

「…わかりました」

 

三人が出撃した。フェストム達はその存在に気がつき標的を3人に代える

 

三人の戦闘は凄まじい。一騎さんは同化の力でフェストムをどんどん同化してゆき、甲洋さんは武器に毒の効果を常備させ、クルスは敵の動きを予測しているかのようなもの凄いスピードで敵を倒して進む。

 

「これは出番は無さそうだな」

 

「亮一」

 

溝口さんが呟いた矢先に一騎さんに呼ばれる。

 

「どうやらあの機体のパイロット動けないようだ、救出頼めるか」

 

「任せてください」

 

すぐにマークアハトでボレアリオスから出撃する。近くで見ると三人の戦闘の凄まじさがより伝わってきた。

 

三人が引き付けてくれていたおかげで動かなくなったファフナーのもとへ無事たどり着いた

 

「パイロット聞こえますか」

 

再三尋ねるが応答が無い。無理矢理コックピットを開けると

 

そこには一人の少女が気を失っていた。



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第六話 「外の戦士」

「あの、大丈夫ですか」

 

パイロットはまだ気を失っている。いつ敵がこちらに気づくかわからず焦る僕。恐る恐るヘルメットを外す。

 

「女の人なの」

 

その人は長く美しい黄金色の髪をした女性だった。(綺麗な人だな…同い年、年上かな)

 

「くっ」

 

痛そうな表情を浮かべながら女性は目を覚ました。

 

「貴様何者だ」

 

夕日のようにオレンジがかった赤い瞳が僕を鋭く睨み付ける。

 

「あの…大丈夫…」

 

「触るな」

 

後ろのファフナーを見て彼女は察した。

 

「Dアイランドの兵士か」

 

「D…アイランド」

 

「亮一だいぶ手間取っているようだが大丈夫なのか」

 

溝口さんから通信が入る。

 

「負傷したパイロットを1名保護しました。どうしましょう」

 

「なっ、私はどこも…痛」

 

「よくやったぞ亮一、一騎達も敵を倒し終えて帰投してる。お前も戻れるか」

 

「パイロットの人に激しく抵抗されてしまって、身動きがとれません」

 

「それじゃあ、船を近づけるから待ってろ」

 

「わかりました」

 

通信を切る。

 

「私を捕虜にしようとは、いい度胸だ」

 

「僕は助けただけなんですけど」

 

「…調子が狂うな貴様」

 

「あのお名前は」

 

「カンナ・メネス」

 

「可愛いらしい名前ですね」

 

「なっ、お前が名乗れと言うから名乗ったら人の名前を馬鹿にするのか」

 

「そんなつもりは…すみません」

 

「…本当に調子が狂うなお前と話していると」

 

「照れますね」

 

「誉めてない」

 

「えーあーお二人さんもうよろしいでしょうか」

 

気づけばボレアリオスが待機していた。

 

 

 

「カンナ・メネス…人類軍南太平洋生存圏防衛艦隊マホロバファフナー部隊アッカード中隊少尉ね」

 

カンナさんは船内で溝口さんの取り調べを受けていた。

 

「正確にはそうなる予定だった。転属の名を受けて同じく転属になった兵士と共に移動中に奴等の襲撃にあった。だから正確には人類軍北ヨーロッパ方面守備軍第08ファフナー部隊少尉だ」

 

「なことはどうでもいい。お嬢さんどうするご存知の通り俺らと君らって仲悪くてさ、下手に近付けないのよ」

 

「勝手にしろ、捕虜の扱いを捕虜に聞くな」

 

「おー、気の強いお姉さんだこと」

 

「1つ聞いていいか、他の連中で生存者はいなかったか」

 

「あぁ、残念ながら生き残ったのはお嬢さん1人だ」

 

「くそっ」

 

歯を噛みしめ悔しさを滲ませるカンナさん。

 

「どうする亮一このお嬢さん」

 

「えっ僕ですか」

 

「俺は真壁からお前達の保護者は任されちゃいるが指揮権は任されてないからな、このお嬢さんをどうするかは、お前が決めな」

 

「なら一騎さん達が…」

 

「俺達は総士捜索には強い権限で意見するが、その他のことは特に意見するつもりはない。どうしたいか君の意思を尊重するよ」

 

「僕は…」

 

 

「お前はどこからどこまで甘ちゃんだな」

 

自由の身になったカンナさんは、甲板で外を眺める僕に話しかけてきた。

 

「捕虜に拘束器具無しで艦内を自由に歩く許可まで出すとは」

 

「僕は人助けしただけですから」

 

「甘いな。私が今お前を人質に艦内の掌握をし出すかもしれないんだぞ」

 

「カンナさんはそんなことしないですよ。絶対」

 

「何故そう言い切る」

 

「なんとなくです。そんな人じゃないってそう思うんです」

 

「…どこまでも甘いな。しかし、基地まで送り届ける必要は無いのだがな…」

 

「どうしてですか」

 

「いや、お前の善意に感謝しよう。なぁ、どおしてさっきから外を見てるんだ」

 

「今、初めて島を出てるんです。ある程度島の外について話は聞いてたけど。想像以上に酷いんだと思って」

 

「どんな島なんだお前の住む場所は」

 

「澄み渡る海、生い茂る木々、綺麗な町並み、温かい人々。そんな景色を一度に見られる美しい島です」

 

「そうか…私はかつてウィーンと呼ばれていた場所で生まれ育った。昔は美しい街だったらしいが今はこことそう変わらない」

 

「カンナさん…」

 

「そんな町で育ったなら、そんな甘い考えになってもおかしくは無いな。だが一度でいいから行ってみたいなそんな町…」

 

「来ますか僕らの島に」

 

「…全くどこまでも甘ちゃんだな。亮一」

 

「今名前で…」

 

「亮一ブリッジへ来てくれもうすぐ人類軍の基地に着く」

 

僕は外の現実をまた1つ知ることになる…。



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第七話「大人の事情」

「もうすぐ目的の基地に着くぞ、準備しておけ」

 

カンナさんを送り届けるためにボレアリオスは人類軍の太平洋生存圏の基地拠点『シドニー』の防衛圏内に入った。

 

「溝口さん。偽装鏡面は解除しないんですか」

 

「この艦をあちらさんにさらす訳にはいかんからな、お嬢さんの乗ってきたファフナーで単独で行ってもらわなきゃならん。この艦のフェストゥムのおかげで最低限の修理は出来てるはずだ」

 

「フェストゥムが我々のファフナーの修理をしただと…どうやって」

 

「まぁ修理っつっても来主に頼んで、ここのフェストゥムに損傷箇所を同化して貰ったんだ。それで損傷箇所を塞いでる」

 

「…なんとも納得のいかぬ話しだが、世話になったな」

 

「なに、困った時はお互い様だ。それに礼なら亮一に言ってやれ」

 

「そうだな。ありがとう亮一」

 

短い間ではあったが一緒に過ごした為か少し寂しさを感じた。

 

「お元気で、カンナさん」

 

「お前もな」

 

カンナさんの乗ったファフナーは単身『シドニー』へ向かう。

 

「どうしてカンナさんファフナーを起動させないんですか。動いた方が早いのに」

 

「防衛圏内でいきなりレーダーに反応したら怪しまれるからな、見つけてもらって自主回収してもらうつもりなんだろう。俺達も長居すると危険ださっさと圏外に出るぞ」

 

「はい…待ってください溝口さん。カンナさんの機体攻撃されてませんか」

 

「うん。本当だなおい、攻撃されてんぞ」

 

「なんで…」

 

「それはわからんがあのままじゃマズイな」

 

「助けないと」

 

「俺達は人類軍に見つかる訳にはいかん。彼女の運次第だ」

 

「そんな目の前の命を見捨てるんですか」

 

「そうじゃない。今この状態で動けば、やがて島の皆を巻き込むことになる」

 

「どうしてそうなるんですか」

 

「俺達は隠密で動いている。だがその事情を人類軍側は知らない。俺達Alvisは定期的に人類軍側に自分達の動きを公開する協定を結んでるんだ。そんな状態で彼女との関与を疑われたあかつきには、人類軍の奴らは協定違反だと抗議してくる。そして奴らのことだそれを口実に島を滅ぼしにくる」

 

「そんな…」

 

「その可能性が高いからな、今接触する訳にはいかんのだ」

 

「俺の機体を使いましょう」

 

「一騎…どういうことだ」

 

「俺のマークエルフリペアはまだデータベースに登録されてないからこちらのファフナーと疑われる可能性はありますが確証を与えることは出来ません、マークエルフリペア単機で彼女の機体の救出に向かいます」

 

「だが、機体を破壊してみろ、黙ってないぞ向こうは」

 

「亮一のSDPを使うんです」

 

「僕のSDPをですか」

 

「かつて君と似たSDPを持つパイロットは、発動させるとファフナーが起動を拒否する現象を起こした」

 

「すごい。そんなことが」

 

「そのパイロットは自分専用のファフナーを見つけるのに長い月日を要したがな」

 

「…」

 

「君のSDP『服従』であのファフナー達を機能停止に追い込むんだ。その隙に彼女の機体を回収する」

 

「お願いします。溝口さんやらせてください」

 

「…チャンスは1度だ、必ず成功させろ亮一」

 

「はい」

 

ボレアリオスが『シドニー』防衛圏外へ出たところで、僕は一騎さんのマークエルフリペアを借り、出撃した。

 

(ファフナーが一機接近してくる…あれは確かあいつらの)

 

「おい、私のことなどいいからあっちへ行け」

 

「カンナさん。今助けます」

 

「その声は…バカよせこれくらい私だけでも」

 

「まともに武装も無いのに1人でやれる訳ないじゃないですか」

 

「平和ボケした甘ちゃんがやれるほど相手は…」

 

(なんだ、ファフナーの動きが止まった…)

 

「クソどうなってやがる」

 

「どうした動け…動けよ」

 

「今の内に…」

 

「あっ…あぁ」

 

無事にカンナさんをボレアリオスまで回収出来た。

 

「この大馬鹿者。お前まともに戦ったこともないのにあんな危なっかしいことするんじゃない」

 

「ごっ、ごめんなさい。どうしても放っとけなくて」

 

「まあまあ、お嬢さん。でも亮一のおかげでまたあんたは助かったんだ、礼の一言くらいあってもいいんじゃないか」

 

「それは…そうだが…ありがとう亮一」

 

「カンナさん。どいたしまして」

 

こうしてカンナさんを乗せて僕達は再び総士捜索任務に戻った。

 

 



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第八話「二つの人類軍」

再び総士捜索任務に戻ったボレアリオス。

 

途中カンナさんが襲撃された経緯を話してくれた。

 

「なるほどな『独立人類軍』の手に落ちたのか」

 

「はい。ですから私は不審者と判断され攻撃を受けました」

 

「『独立人類軍』…『人類軍』とは違うんですか」

 

「『独立人類軍』はかつて人類軍の将校であった『ダットリー・バーンズ』が『プロメテウス』と呼ばれていたミールと結託し独立した人類軍です。バーンズ将軍は新国連事務総長『ヘスター・ギャロップ』と対立しこの太平洋生存圏で独立。『プロメテウス』と共にDアイランドを襲撃したが失敗し、『プロメテウス』も消息を経ったことにより『独立人類軍』のトップとしてアメリカ・オーストラリア大陸を中心とした太平洋生存圏を治めています」

 

「Dアイランドって」

 

「『竜宮島』だ俺達の帰るべき場所。総士捜索はその手掛かりになるはずなんだ。」

 

「Dアイランドは貴方達が『竜宮島』と呼ぶ島の人類軍側での名称です。ちなみに『プロメテウス』は今『マレスペロ』と名乗っています」

 

「『マレスペロ』って『ベノン』を率いてるフェストゥムの親玉ですよね」

 

「あぁ、あの赤いお月様の親分だ」

 

「Dアイランドの襲撃に失敗したことを知ったヘスター事務総長はその気にじょうじバーンズ将軍他反乱を起こした独立人類軍を粛清しようと軍を派遣し約1年紛争状態となりました。そして停戦後バーンズ将軍率いる『独立人類軍』はアメリカ・オーストラリア大陸を中心に、ヘスター事務総長の新国連率いる『人類軍』はユーラシア・アフリカ大陸を中心にそれぞれ治めることで、恐らく一時的ですが紛争は収まりました」

 

「でっ、お嬢さんが攻撃されたのは」

 

「『シドニー』は元々太平洋生存圏に数少ない『人類軍』の拠点だったのですが、あの時あそこにいたのは『独立人類軍』の部隊でした」

 

「占領されたのか」

 

「わかりません…彼ら曰く『来た時には既に焼け野原の跡で自分達は調査に来たの』だとそのような経緯で『独立人類軍』へ統治権が移っていたため、不審がられ攻撃されました」

 

「どうするお嬢さん。別の基地探すか」

 

「いえ…恐らく『人類軍』でも私は死んだ扱いでしょう。いっそこのまま…」

 

「僕らの島に行きましょ、カンナさん」

 

「おいおい亮一」

 

「カンナさん僕の住む島が気になるって言ってたじゃないですか、今の任務終わったらきっとこの艦『海神島』に帰るんで一緒に行きましょ」

 

「そんな都合のいい話…」

 

「折角こうして出会ったのもなんかの縁だ、こんなところでの垂れ死んでもらっても後味悪いしな、お嬢さんがいいならついてきな」

 

「…では暫くやっかいになろう」

 

「やったー」

 

「ねえー、ちょっといい」

 

クルスが突然僕達が話している部屋に入ってきた。

 

「なっ、こいつどこから」

 

「失礼だなー。この艦は僕の艦。君がお客さんだよ」

 

「…それは失礼した」

 

「どうしたのクルス」

 

「なんかこの人招待してから後ろからつけられてるんだ」

 

「えっ」

 

急いで司令室に戻り、確認する。

 

「あれはまさか『クロウ小隊』」

 

これがアイツとの初めての接触だった。

 



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第九話「黒烏の牙」

「見たことのないファフナーのタイプだな」

 

ボレアリオスの後ろに5機のファフナーが距離を一定に保ってついてきていた。

 

「『ティフシュワーズ・モデル』。独立人類軍オリジナルのファフナーです。バーンズ将軍直轄の精鋭部隊『クロウ小隊』にのみ配属されている、隠密行動特化型のファフナーです。レーダーに反応しないように、何百という周波数を各パーツから常に放出しており、少なくとも人類軍の現技術では索敵は不可能な機体です。個々の技量の高さも相まって遭遇した人類軍のファフナーの生存率は0%を記録しています。…よくわかりましたね」

 

「まあ、来主は元はフェストゥムだしな。人の存在はこの中でもずば抜けて察することが出来る」

 

「フェストゥムとの共存…噂には聞いていましたが、貴方達は本当に成し遂げようとしているのですね」

 

「困難な道のりだがな、今も昔も」

 

カンナさんはその事実にとても驚いた表情をしていた。

 

「ねえ、どうするの。僕達であいつらやっつけていいの」

 

「いや、奴らが攻撃してくるまでは待ってくれ」

 

「えー」

 

「万が一、向こうから抗議があった場合の正当防衛の口実が必要だ」

 

ボレアリオスに『ティフシュワーズ・モデル』から放たれたミサイルが着弾する。

 

「おいおい、偽装鏡面展開してるんだぞ。なんでこんなにピンポイントに着弾出来る」

 

「『ティフシュワーズ・モデル』が展開している無数の周波数がその装備のエネルギーに干渉して彼方には目視出来ずとも位置が特定出来るのでしょう」

 

「ってことは、あいつらに偽装鏡面は無意味なのか」

 

「僕の居場所を傷つけたな」

 

「おい。来主待て」

 

溝口が制止するまえに、来主の乗るマーク・ドライツウェン『クロノス』と『エウロス型』は『ティフシュワーズ・モデル』に反撃をしていた。

 

「くっそ、一騎・春日井、出撃頼めるか」

 

「行くぞ一騎」

 

「あぁ」

 

「溝口さん僕は」

 

「亮一はお嬢さんの監視役だ」

 

「…わかりました」

 

一騎さんのマークエルフリペアと甲洋さんのマークフィアー『アバドン』も戦場に介入を始めた。

 

(あの敵、3人を相手に全く引けを取らない…)

 

「彼等は何故あんな周りくどい戦い方をする」

 

「周りくどい」

 

「あぁ、相手のパイロットに致命傷を与えないようにコックピットに近い部分を避けて、武装を中心に戦力を削ぎ落とすような戦い方だ。『クロウ小隊』はそんな簡単にはやれないぞ」

 

「それが俺達のボス『真壁史彦』の方針だ。『人類とは戦わない、人を討てとは決して命じない』」

 

「甘い…甘過ぎる。そんなことでこの世界を生きていくなど」

 

「お嬢さんはどうやって教わったかは知らないが、俺達はこいつらに『人を殺めること』を教える気はない。勿論その苦しみもな」

 

僕の肩に手を置く溝口さん。僕にとって当たり前のことで二人のこの会話の『重さ』を僕は知るよしが無かった。

 

するとそこへ一騎さんが現れた。

 

「一騎…まさか」

 

「…亮一、俺の替わりにマークエルフリペアに乗るんだ」

 

「えっ、どうかしたんですか一騎さん」

 

「…いいから俺に捕まれ」

 

これまで無かった一騎さんの荒れた口調に自然と一騎さんを掴んでいた。

 

一瞬でマークエルフリペアのコックピットに移動する。

 

「すっ…凄い」

 

「あとは…頼んだ」

 

一騎さんの身体が黄金色に輝き、やがて光となって消えた。

 

「一騎さん…一騎さん」

 

「マークエルフリペアが再起動…亮一君か」

 

「甲洋さん。一騎さんが消えちゃいました」

 

「『力を使い過ぎて眠り』についたのか。…亮一君、SDPを発動してくれ、あの機体達の動きを止めるんだ」

 

「わかりました」

 

SDPを発動する…5機の機能が上手く停止し、その間に甲洋さんがティフシュワーズ・モデルの武装を破壊していく

 

「凄いや亮一、皆動きが止まったよ」

 

「来主。油断しないで『彼等』にもそう伝えて」

 

「了解。ねぇ、皆この人達を食べたそうなんだけど」

 

「それはダメだ。余計な争いを来主も生みたくは無いだろ」

 

「そうだね。戦わないでいいなら戦いたくないな」

 

最後の一機の武装を破壊している時

 

(なに…抗う感じ)

 

手元から同化現象が発現していた。

 

「亮一君どうか…くっ、こいつ『服従』から抜け出した」

 

その機体はアバドンを退け、此方に向かって来ていた。

 

「亮一君気をつけて」

 

クロノスとエウロス型の攻撃を被弾しながらも抜け出し目の前に立ちはだかった。

 

敵のクロウがこちらを突き刺そうと伸びる、僕はそれをルガーランスで反らしながら避けた。

 

しかし敵のもう一方の手がマークエルフリペアの腕を掴む

 

「貴様…何者だ」

 

相手からのまさかの接触であった。

 

「…君は誰なの、なんで僕達を攻撃するの」

 

「それが任務だからな。直ぐにでも貴様を殺りたいところだが、味方を人質に捕られた上に貴様を殺ったところで全滅は間のがれん今回は見逃してやる」

 

「随分上からモノを言うね君」

 

「殺されないだけ、ありがたく思うことだな。貴様、名は」

 

「…霧島亮一」

 

「…亮一か、次に会うときは貴様の死だ。この『リベラル・イェーガー』が貴様を殺してやる」

 

奴のティフシュワーズ・モデルがマークエルフリペアを蹴りその勢いで空に上がると戦場を離れた。

 

「亮一。急いで戻ってこい、このポイントにアイツらの『タイラント』が発射されてる」

 

『タイラント』。人類軍が使う大量破壊兵器で『核ミサイル』と同等…それ以上の破壊力を持つ兵器。それが僕達のいる海域に放たれた。

 

「甲洋さん。来主」

 

「ギリギリまで、僕達は破壊を試みる。亮一君は先にボレアリオスに戻って」

 

「二人とも危険です」

 

「大丈夫だから、早く戻るんだ」

 

ボレアリオスに着艦した時タイラントは強烈な爆風を発生させ、それに連動するかのように機能停止したはずの4機がフェンリルを起動していた。

 

アバドンとクロノスがボレアリオスに着艦する。

 

「二人とも、大丈夫ですか」

 

「ありがとう。大丈夫だよ」

 

「あの光…やっぱり嫌いだな」

 

「そうだね」

 

「あの…残っていた機体は」

 

「フェンリルを起動していた。中のパイロットは恐らく…」

 

「そんな…でもどうして仲間がいるのに」

 

「特殊部隊の彼等にとって任務の失敗は『死に値する』ことなんだと思う」

 

「人命より大事な任務なんて…」

 

「この世界には、僕らににとってわからない価値観が沢山ある。君もこれからもっと知ることになるよ」

 

この出来事が因縁の始まりであった。



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第十話「手掛かり」

「これが現状の報告だ真壁」

 

「うむ。わかった我々の極秘行動の件は此方で人類軍に説明しておく。君達はそのまま任務を続行してくれたまえ」

 

「勿論そのつもりだ。そっちはどうだ」

 

「全機。修理が終わりいつでも行動出来る状態は整った。追加の派遣部隊を送ることも出来るぞ」

 

「大丈夫、この任務は俺達だけでやる」

 

「そうか…。無理はするなよ」

 

「わかった」

 

「美羽くんとコアが探り当てた情報を送る。参考にしてくれ」

 

「ありがとう。父さん」

 

「では、お前達の無事の帰還と吉報を待っている」

 

「おう。それまではゆっくりしてな真壁」

 

総士捜索任務開始から1ヶ月。手掛かりが無いまま時間だけが過ぎていた。

 

「あの『黒烏の牙』から目をつけられたのは、やはり厄介ですね」

 

「『黒烏の牙』…」

 

「あの時亮一が遭遇したパイロット『リベラル・イェーガー』の通り名です。クロウ小隊のエースパイロットで確実にそして忠実に任務を遂行することから、バーンズ将軍が最も信頼しているファフナーパイロットの1人です」

 

「でもクロウ小隊はあの時の戦いでアイツ以外全滅したんじゃ」

 

「特殊部隊ですからね…彼を中心に再編成される可能性があります」

 

「あの甲洋さん。一騎さんはあの時何故突然消えたんですか。『眠り』についたとはどういう意味です」

 

「一騎は無数のクロッシングと『同化』をすることで、相手の『痛み』や『傷』を背負うんだ。その代償で身体が許容範囲を越えると身体を休める為に眠りに就かなければいけない。そうしないと一騎自身が持たないからね」

 

「一騎はなんでもかんでも『痛み』を背負い過ぎなんだよ。敵の『痛み』まで全て引き受けてさ」

 

「俺達は『世界を調和に導く存在』。世界の『痛み』を背負うことは俺達の責務なんだ」

 

「このままじゃ一騎は『空を綺麗だと』思わなくなっちゃう」

 

「どういうことですか」

 

「『人としての感情』が無くなってしまうかもしれないんだ」

 

「そんな…どうにかならないんですか」

 

「それが俺達の力だ。力にはそれ相応の代償が伴う」

 

「一騎さん…」

 

「あーやめだやめだ。辛気臭い雰囲気は終わりだ。海神島からの情報で次の目的地が決まった」

 

「次の目的地ってどこなんです」

 

「『第2Alvis』跡地だ」

 

「『第2Alvis』跡地って…『蓬莱島』ですよね」

 

「あぁ、それらしき島の跡が大西洋で見つかった」

 

「大西洋ですか…新国連と独立人類軍が睨みを利かす厳しい場所ですね」

 

「なんでも、『マリス・エクセルシア』がその島に上陸した気配がするってことだ」

 

「『マリス・エクセルシア』とは誰です」

 

「僕達の暮らす海神島の元島民です。エスペラントとして凄い力を持っていたんですけど、今僕達が探している皆城総士や数名のファフナーパイロット候補生を連れて『ベノン』に寝返ったんです」

 

「成る程。そのマリスという人物が今回の件の元凶なんですね」

 

「うん…」

 

「どうしたのです。亮一」

 

「マリスは亮一の遊び相手になってた時期があったからな」

 

「そうでしたか…」

 

「なんで、島を出ていったのかが気になるなら本人に聞くしかねー。行くぞ手掛かりの場所へ」

 

ようやく掴んだ手掛かりに望みを託し、僕らは前に進んだ。



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第十一話「開放」

第2Alvis『蓬莱島』と思われる跡地を目指すボレアリオス

 

地中海で思わぬ足止めをくらっていた。

 

「このフェストム共、『ベノン』の配下のやつらだな。それぞれがディアブロ型級の強さだ」

 

「亮一撃ち漏らしてはいけませんよ」

 

「はい」

 

前衛は一騎さん達に任せ、僕とカンナさんはボレアリオスの甲板で砲撃支援をしていた。

 

(亮一のマークアハトはまだしも中近距離型とはいえ近距離戦闘重視のフォックスワンでは火力不足が歪めないか)

 

「一騎さん達はもうじき相手を倒しきって戻ってこれそうです。もうひと踏ん張りですよカンナさん」

 

「了解した」(…これは人類軍の識別コード。こちらに接近している)

 

突如降り注ぐミサイルの嵐

 

「なっなんだ。うわぁー」

 

「亮一大丈夫か」

 

「なんとか…なんなんですこれ」

 

「二人とも大丈夫か」

 

急いでボレアリオスに戻ってきた一騎さん達。

 

「大丈夫です。一騎さん相手は」

 

「こちらは片付いた」

 

「僕の艦に攻撃したのは誰」

 

「落ち着いて来主。ここは彼らの領地だからね」

 

いつの間にかボレアリオスは人類軍の艦隊に包囲されていた。

 

「この人達が僕の艦を…」

 

「来主」

 

(向こうからのコンタクトか…まだまともそうな部隊だな)

 

「こちらは人類軍ヨーロッパ方面地中海守備軍第720ファフナー部隊。貴艦は新国連の領海に無断で侵入している。即刻立ち去られたし」

 

「こちらはAlvisの溝口恭介。事前通告も無しに領海へ侵入したことについては、申し訳ない。悪いがこのまま通してはくれねーだろうか」

 

「Alvis…Dアイランドの者か、何故そのような者が何故ここにいる」

 

「詳細は明かせないが、とある任務中でなどうしてもここを通り大西洋に出たいんだ」

 

「大西洋に…何故だ」

 

「すまんが、それは言えないな」

 

「それに貴艦らの行動は事前に連絡があるはず。そのような報告は受けていないが」

 

「上層部間での連絡が上手くいってないのかもしれん。次期にお達しが来るはずだ」

 

(…ロックされてるな)

 

「溝口さん。どうですか」

 

「交渉決裂だなこりゃー」

 

「…通信御借り出来ますか」

 

「お嬢さん。どうする気だ」

 

「私は人類軍北ヨーロッパ方面守備軍第08ファフナー部隊少尉カンナ・メネス。この方達は任務中にフェストゥムの襲撃を受けた私を助け、こちらまで送り届けてくださいました。どうか通してあげられませんか」

 

静まりかえる通信。暫くすると人類軍側からコンタクトが入った。

 

「貴女は本当にカンナ・メネス小尉なのかな」

 

「当然だ」

 

「…証拠は」

 

「そちらに直接赴こう。私のことを知る人物に引き合わせるといい」

 

「えっ、カンナさんなんで」

 

「お前達を無事に通す為だ。私の言うことが真実であるとあちらに伝われば。見逃してくれるはずだ」

 

「そんな…」

 

「私も元いた場所に帰れる。これはお互いに取って悪くない話のはずだ」

 

「まぁ確かにな」

 

「世話になったな。この数ヶ月間悪い気はしなかったよ。ありがとう」

 

「カンナさん…」

 

ボレアリオスに小型船が一隻近づく。

 

「あの…僕もついて行ってはダメですか」

 

「亮一何言ってやがる。そんなことする必要ないだろうが」

 

「僕はもっと知りたい。外の世界のこと…カンナさんと一緒に」

 

「亮一…」

 

カンナは亮一の目線に合わせしゃがみ込み、亮一の目をじっと見る。

 

「一時の感情に流されるな。お前のこの任務の目的はなんだ」

 

「それは…連れ去られた総士を見つけること」

 

「そうであろう。私はその任務中にたまたま遭遇したイレギュラーだ。お前はお前が為すべき事を為せ」

 

「カンナさん…あっ」

 

亮一の額に口づけをし立ち上がるカンナ。

 

「おいよいお嬢さん。亮一にそう言うのはまだ早いぜ」

 

「もし。また逢うことがあったなら。その時はお前の住む島を案内してくれ…じゃあな」

 

こうしてカンナの身柄はボレアリオスを離れた。



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第十二話「所縁の地」

ボヴァリーノに降り立ち長い身元確認を終え車に揺られるカンナ。

 

「まさか、カンナさんが生きていたとは驚きましたよ。任務中に戦死したと伺ったものですから」

 

「お前は今では人類軍の指令官か。出世したなハリー」

 

「少佐になったのはつい最近ですけどね」

 

「お前の兄もきっと喜んでいるな」

 

「…貴女が生きていたことの方がきっと喜びますよ。兄なら」

 

「…」

 

約1日をかけて、ようやく彼女はその地に戻ってきた。

 

(まさかもう一度この地に立てるとは…改めて彼等には感謝しないとな)

 

「どうしました。カンナさん」

 

「久しぶりの故郷に少し感傷したようだ。あの時はまさかここに戻れると思わなかったからな。なぁハリー、家に帰る前に寄ってもいいか」

 

「どうぞ」

 

カンナはユリの花を手に持ち、とある墓標の前に立った。

 

(テリー・ランページ。またこうしてここに立てると思わなかったよ。不思議な出会いがあったんだ。無鉄砲で真っ直ぐな瞳がお前にそっくりな少年がいてな………)

 

その墓標の前で自らの体験した出来事を振り返るカンナ。

 

(…今日はここまでにしておくよ。またなテリー安らかに眠れ)

 

「わがままを言ってすまなかったなハリー」

 

「わがままだなんてとんでもない。久しぶりに貴女に供養してもらえて、きっと大層喜んでますよ」

 

家に着いた二人。その外観にカンナは戸惑った。

 

「お食事を用意させてます」

 

「シャワーを先に浴びていいか」

 

「では、食卓で待ってますねカンナさん」

 

(ここが本当にウィーンか…復興していることは嬉しいが、何故こうも引っ掛かる。この家もそうだ。場所といい外の眺めといい間違い無いのだが、何か大事なモノを失っている気がする)

 

「待たせたな」

 

「カンナさんが戻ってこられるということで、家の者に腕によりをかけて作らせました。是非久しぶりの我が家でのお食事をお楽しみください」

 

「では頂くよ」

 

ハリーと会話をしながら食を進めるカンナ。

 

(深く考え過ぎか…なんだ急に眠たくなって…)

 

 

 

(ここは…私は確かハリーと食事をしていたはず)

 

「いやぁー。止めてー」

 

女性の悲鳴を聞きようやく自分の置かれた異変に気がついた。

 

(ここは、牢屋か。何故私は牢屋にそれに何故手鎖で腕を吊るされている)

 

「おっ。気がついたかカンナ元少尉」

 

「誰だ貴様は」

 

「おー。噂通りの気の強さ、いいねーこれから俺の下僕になると思うと、ワクワクするねー」

 

「貴様の下僕だと…笑わせる」

 

「俺の名はフリード・リフレイン特尉。人類軍のある組織の長をやらせてもらっている」

 

「ある組織だと」

 

「『スクラーベ』っていうちょっとした組織だ」

 

「『スクラーベ』…噂では人としての尊厳を奪われた者達で構成される特殊部隊。命令されればどんなに非人道的な事も平然とやって退けるという恐ろしい部隊。本当に実在する組織だったのか」

 

「あんたもその一員になるっていうのに、余裕だね」

 

「何を戯けた事を」

 

「…まあ普通は信じられないよな。ってことで現実を見せてやろう」

 

カンナはある映像を見せられた。

 

そこにはカンナと同じように牢屋に入れられた女性達が写っていた。違いは何も身に着けていないことと彼女達の目が虚ろであること…

 

「…貴様何をしたんだ」

 

「あんたがさっき言ったじゃないか。【人としての尊厳を奪われた者達】って」

 

「まさか貴様」

 

「そのまさかだよカンナ元少尉。ここにいるのは皆元人類軍の兵士だ。曰く付きのね」

 

「曰く付きだと」

 

「そう。軍規を乱した者や人類軍に対する反乱思想を持った者そして…人類軍から死亡者扱いされた者達だ」

 

「なんだと」

 

「そういう兵士達を再び人類軍の忠実な兵士に再教育してるのさ」

 

フリードの指なりと共に、フリードの目の前に女性が1人連れて来られた。首輪以外に何も身に着けていなかった。そして…目の前でそれは始まった。

 

カンナに悪寒が走る。

 

「やめろ…やめろー」

 

それが終わると女性は崩れ墜ちた。その目に輝きは無い。

 

「こうして人類軍…いや正確には俺に絶対服従する兵士を育てているのさ」

 

「この外道が」

 

「その外道の忠実な下僕になるんだよ、あんたはこれから」

 

「ふざけるな。こんなことに私は屈しない」

 

「いいねー。壊しがいがあるよ、あんたがそう簡単に折れないのは想定内だからね、徐々に壊してあげるよ。まずはあんたはは既に人類軍では死亡者扱いだ」

 

「…脅しているのか。あの日から私は人類軍でまだ軍籍が残っているとは思っていない」

 

「いいねー、その反抗的な態度。では次はどうかな…」

 

「その程度で私が屈するとでも」

 

「あんたは売られたんだ。ハリー・ランページ少佐にね」

 

「何をバカな。ハリーがこのような行いに手を貸すわけが…」

 

1人の男が部屋に入る。

 

「ハリー…。本当にお前が」

 

「早く処分したらどうだフリード」

 

「身内に随分と冷酷な態度を取りますなー。ハリー小佐」

 

「身内。こいつはカンナ小尉の皮を被った亡霊だ」

 

「何を言ってるんだハリー。私はカンナ・メネス人類軍北ヨーロッパ方面守備軍第08ファフナー部隊少尉だ」

 

「だから、あんたはもう人類軍では死亡者扱いだって」

 

「こんな行いに手を貸して、ランページ家の者として恥ずかしく無いのか。ハリー」

 

「家ね…。次期当主になるはずだった兄テリー・ランページをたぶらかし戦場で見殺しにした貴様がよく言えたものだ」

 

「違う…あれは、あの件は…」

 

カンナはテリーについて触れられると明らかに動揺し、先程までの威勢を無くしていた。

 

「兄の死以降。ランページ家は没落へ一直線だ、貴様は軍務に勤しんでいたからな。ランページ家の受けた屈辱など知るよしもない」

 

「…」

 

「そんな時さ、スクラーベの存在を知ったのは。こんなにも美味しい話はなかったよ。人を差し出すだけで多額の報酬。そして差し出した人間の活躍によっては地位や名誉まで頂けるんだから」

 

「どういう…」

 

「スクラーベの存在を知る人類軍のごく一部のお偉いさんが黙認してるからなこの組織の存在を。その人達がそいつの行いを評価すれば、組織の長である俺やその人間を差し出した主の評価に繋がる訳だ」

 

「おかげで、ここまで我が家は立ち直ったんだ。私の頑張りでな」

 

「これのどこを評価する」

 

「全ての元凶である貴様が言えた口か」

 

「なっ」

 

「貴様が兄と出会わなければ…違うな貴様がこの世に存在しなければ。私はこんな行いをしなくて済んだんだよ」

 

「私の…私のせいで…あぁー」

 

(ようやく壊れたか)

 

「助かったよ。ハリー小佐」

 

「もういいか。まだ仕事が残っているんだ」

 

「見ていかないのか」

 

「家畜の成れの果てなど見てもなんの価値にもならん」

 

ハリーはその場を足早に立ち去った。

 

(…私も貴女が好きでした。あの頃までは)

 

「さてどう楽しもうかねカンナちゃん…カンナちゃん」

 

カンナは既に憔悴しきっていた。

 

「余程。ハリー小佐とのやり取りが堪えたみたいだな。では遠慮なく」

 

ナイフで身に纏っていた肌着が徐々に破られる。だがカンナには既に抵抗する気力が無かった。

 

(助けてくれ…亮一)

 

「さあ新たな兵士の誕生だ」

 

その瞬間。爆発の音が鳴り響く。音は激しさを増す、急ぎ外部と連絡を取るフリード。

 

「何事だ」

 

「フェストゥムの襲来です…狙いはフリード特尉のいる建物の可能性が」

 

「なに…フェストゥムにここの価値なんてないだろ」

 

「ですが大半がその建物を標的にうわー」

 

「おい。応答しろおい…くそが」

 

建物の外壁が壊され1体のスフィンクス型が近付いてくる。

 

(あ・な・た・は・そ・こ・に・い・ま・す・か)

 

「うるせー」

 

フリードはマシンガンを乱射するがスフィンクス型には通じず、スフィンクス型が放ったワームスフィアで跡形もなく消え去った。

 

(あ・な・た・は・そ・こ・に・い・ま・す・か)

 

再び投げかけられる問

 

「わ、た、しは…」

 

「ありがとう見つけてくれて。いるよ。その人はここに」

 

天井に繋がれた手錠をピストルで撃ち落とす。

 

「お前どうして」

 

そこには見送ったはずの少年が今にも泣きじゃくりそうな表情で立っていた。



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第十三話「憤怒」

「良かった。無事で」

 

「どうしてお前がここに」

 

「それはここを脱出してからです。クルス」

 

「はい。ごめんねもう帰っていいよ…ちがうちがう、その子達は敵じゃない…もう」

 

クロノスがスフィンクス型を撃退する。

 

「やっぱり『服従』は長続きしないね」

 

クロノスが差し出した手に乗り込む二人。亮一はカンナの状態に気がつき自分の纏っていたコートをそっとカンナの肩に掛けた。

 

「ありがとう」

 

「いえ、そんな」

 

「亮一。敵が来たよ」

 

人類軍のファフナー部隊がクロノスに近付いていた。

 

「クルス。例のポイントまで早く」

 

「わかったよ」

 

「他の3人は」

 

「別のポイントで合流することになってます」

 

指定のポイントにつくとマークアハトが置いてあった。マークアハトに乗り込む二人

 

「早く助けに来てね」

 

クロノスが先行して人類軍のファフナー部隊に突っ込んだ。

 

「しっかり捕まっていてくださいね。カンナさん」

 

「あぁ…」

 

クロノスの援護に向かうマークアハト。

 

「やっと来た亮一、どうする」

 

「先陣は頼むよクルス。僕のSDPで動きを止める」

 

「わかったよ」

 

亮一のSDPが次々と人類軍のファフナーを機能停止に追い込む。

 

「合流ポイントはどこなんだ」

 

「ブレストって場所だそうです」

 

「だいぶ距離があるぞ」

 

「大丈夫ですよ。クルスもいますし」

 

移動中、1台の車が亮一の目に留まる。

 

「…クルス先に行って」

 

「亮一どうしたの」

 

「すぐに追いつくから」

 

「わかった」

 

クロノスはひたすら前へと進んだ。

 

(あの車は確か…亮一)

 

「亮一。何をしている」

 

「あいつはカンナさんを苦しめた。生かしてはおけない」

 

カンナはふと溝口の言葉を思い出した。

 

(俺達はこいつらに『人を殺めること』を教える気はない。勿論その苦しみもな)

 

「何を考えている。止めるんだ亮一」

 

「あいつの存在がカンナさんを苦しめるんだ。あんな常軌を逸脱したやつを生かしてなんかおけない」

 

「お前がそんなことの為に人を殺める必要は無いんだ。やめてくれ亮一」

 

「許さない。僕はあいつを絶対に…」

 

カンナの平手が亮一の頬を叩く。

 

「カンナさん…」

 

「バカ野郎。折角これまで人を殺めずにここまで暮らせたんだろう、その『幸せ』を自らの手で手放すな」

 

「でもこいつはカンナさんの想いを裏切り。カンナさんを苦しめたんだ。そんなやつがノウノウとこのまま生きていくなんて、僕は許せない」

 

「私は、あいつが存在することよりも今お前があいつを殺め、その後苦しむ姿を見る方が…苦しい」

 

「…」

 

車めがけて跳ぶマークアハト。機体は車から1km先で着地した。着地の風圧で車は横転する。

 

「二人とも大丈夫」

 

クロッシングでやり取りを聞いていた来主が駆けつける。

 

「二人ともどうして泣いてるの」

 

「ありがとう亮一。お前はやはり優しいな」

 

二人の泣きじゃくる声がグラーツの夜空に響いた。



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第十四話「忘却する思い出」

脱出劇から2日後。亮一達は無事にブレストでボレアリオスに合流した。

 

「ギリギリ間に合ったな。ったく間に合わないんじゃないかと、心配したよ」

 

「すみません。溝口さん」

 

「お前が無事ならなんの問題もねーよ。亮一」

 

「来主もありがとうな。亮一のわがままに付き合ってくれて」

 

「ありがとうクルス」

 

「うん。楽しかったよ、気付かれないようにコソコソ動くの」

 

「わがままって」

 

「うん。亮一がどうしてもお前さんを置いて行きたくないって言うからよ、でも一騎達は総士の捜索に出来る限り時間を消費出来ないって意見が割れたから二手に分かれたわけだ」

 

「そうか」

 

「…まだ、カンナさんに僕達の島を見てもらってないし。見せるって約束してたから」

 

亮一は頬を赤らめ俯き呟いた。

 

「お前のおかげで助かったよ。ありがとう亮一」

 

「いえ、そんな…。そんなことより新しい手掛かりは見つかりましたか」

 

「おう。それも重要な手掛かりだ。『レガート』と遭遇した」

 

「本当ですか。溝口さん」

 

「遭遇したのは甲洋だがな」

 

「『レガート』とは」

 

「Alvisが研究用に管理していたミールから分岐して誕生したフェストゥムの1体だ。海神島にいるエスペラント『日野美羽』の記憶から日野美羽の父親に模倣している。第五次蒼穹作戦でマリスと共にベノンに寝返ったやつだ」

 

「何故そいつがここに」

 

「わからん。だがレガートと接触出来れば、総士の居場所を見つける手掛かりが掴めることは間違いないだろう」

 

「そいつはどこに…」

 

「もう、ここにはいない」

 

「甲洋。…撒かれたか」

 

「うん。海に逃げた。恐らく目指しているのは…」

 

「蓬莱島…」

 

頷く甲洋。

 

「どうやら俺達の目指す場所は間違ってなさそうだな」

 

「問題が無ければ、すぐに目的地に向かうぞ」

 

徐々に陸から離れるボレアリオス。カンナは甲板に上がりじっと少しづつ視界から消える陸地を眺めていた。

 

「カンナさん。どうしたんですか」

 

「亮一か。あんなことがあったのにまだ寂しさを感じている私がいてな。せめてこの目から見えなくなるまではと思ってしまっている」

 

「『故郷』ってきっとそういうものなんじゃないですか」

 

「えっ」

 

「僕も初めて海神島を離れたとき、なんだか寂しくなって島が見えなくなるまでずっと見ていました」

 

「…」

 

「僕のお母さんの故郷は海神島じゃなくて『竜宮島』っていう場所らしいんです。僕が生まれたのもその『竜宮島』みたいなんですけど、そこにいた記憶って生まれたばかりだったらしく全然無くって…。記憶に焼きついているんです。毎日のように海岸を訪れて『竜宮島』があるっていわれている方向をじっと見つめているお母さんの姿が。その時のお母さんはいつも涙を流して、悲しそうでした」

 

「そうなのか」

 

「だから、たとえどんなことがそこであってもカンナさんの今の気持ちは間違いじゃないと思います」

 

「そうか」

 

「はい」

 

「…お前も一緒に見ててくれないか亮一。私の隣で」

 

「えっ、はい。僕で良ければ」

 

「ありがとう。…なんだか私はお前に感謝してばかりだな」

 

「そうですかね。ハハハ」

 

(もし、次にあの地を踏み入れることがあっても。この感情は湧いてくるのだろうか…私の知る故郷はもうあの場所には無い…。私は決めたよテリー。敵であった私をなんの疑いもなく慕い何度も助けてくれるこの子を。私は…護る)

 

「どうしたんですカンナさん。まだ陸地見えますよ」

 

(去らばだ。お前と過ごした日々は私にとって掛け替えのないモノだったよ)

 

微かに見える陸地に背を向けカンナは艦内へと入った。

 

 



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第十五話「蓬莱島」

「遂にたどり着いた」

 

「さぁ上陸するぞ」

 

「僕はいいや。なんかここイヤ」

 

「来主は留守番な、じゃあ頼んだぞ」

 

「行ってらっしゃーい」

 

蓬莱島へ上陸した僕達5人。その光景に僕は絶句した。

 

「何も…ない。ここもAlvisの管理下なんですよね」

 

「あぁ…。何十年か前に俺達の同胞がいたが、今はもういない」

 

「人類軍では、フェストゥムによって滅ぼされたと教わりました」

 

「どうなんだろうな。噂では人類軍に接収されてたって話も聞く。総士の手掛かり探しがてら、その真相の調査を平行して進めてもいいかもな」

 

「…気をつけた方がいい。気配を感じる」

 

甲洋さんの注意喚起に僕は唾を呑んだ。すると一騎さんが速足で進んで行く。

 

「一騎さんどちらへ」

 

「気配はこっちだ」

 

探索を続けていると、見れば見る程構造が海神島に似ていると思った。

 

(もし、僕が島を守りきれなかったら…)

 

「亮一君。余計な事は考えない方がいいよ。そういった負の感情は自分を弱気にさせる。迷えば戦場では死ぬよ」

 

「甲洋さん。ご忠告ありがとうございます」

 

一通り外を探索するが何かの残骸が点在するだけでこれという手掛かりは見つけられず、内部に入った。

 

「1人のようだね」

 

「恐らくレガートだ」

 

気配を感じ取った2人は確信付いたように進んでゆく。

 

(この先にレガートが)

 

たどり着いた先は、海神島では丁度CDCがある部屋であった。

 

扉が開くと、頭にバンダナを巻いた男の背中が視界に入った。

 

「こいつが、レガート」

 

「思ったよりも早く来たな」

 

「何故お前がここにいる」

 

「対立している君らに教える必要はない」

 

「総士はどこにいる」

 

「安心しろ、総士は我々にとっても大事な存在。なに不自由なく平和に暮らしている」

 

「お前達は何故総士を拐った」

 

「『完全な平和』を手にする為だ」

 

「『完全な平和』…」

 

「お前達の目指す『平和』は偽りだ」

 

「どういうこと」

 

「お前達がこれまで築き上げてきた『平和』は他者を踏み台にして築き上げている。しかし本当に『平和』を求めるのならば全ての者が『平和』だと心から想える『平和』を築きくべきであった」

 

「…」

 

「お前達もここに来るまでに様々なモノを犠牲にしてきたのであろう。家族との時間、相手を退け、目的の為に大事な場所を捨て…果たしてそれを『平和』と呼べるのか」

 

「皆が平和だと心から想える世界か…」

 

「何がおかしい」

 

「それはこの世界に生きる人達も想っている。だがこの世界はそれを実現出来る程優しい世界ではない」

 

「ならば、諦めるのか」

 

「俺達もそれを目指して今日まで歩んできた。多くの痛みを背負って正しい道だと信じて」

 

「ならば俺がお前達の道を否定する」

 

「ねえレガート。レガートの言う『平和』ってもう実現出来ないんじゃない」

 

「どういうことだ」

 

「総士を僕達のもとから連れ去った時に一騎さんや島の人達の『平和』は無くなってしまったんじゃないかな」

 

「…」

 

レガートはその事実を突き付けられ少し困惑しているように見えた。

 

「だからさ、また手を取り合おうよそれで一緒に目指そう。レガートの想う世界を…」

 

「それは…出来ない」

 

レガートはゲート発生させ姿を消した。

 

(一騎。スペクターが出てきた)

 

「…交渉決裂か」

 

「戻ろう。あいつを無力化して総士の居場所を聞くんだ」

 

急ぎボレアエイオスに戻る僕達。

 

「あいつ。フェストゥムなんだな」

 

「カンナさん」

 

「事前に聞いていなければ人だと思っていたと思う」

 

「それだけフェストゥムも進化したってことだ」

 

「俺達は直ぐに出る。亮一達も準備が出来たら頼んだ」

 

「わかりました」

 

ボレアエイオスの周辺には既に来主が乗るクロノスとエウロス型がスペクターと対峙していた。

 

「マークアハト準備OKです」

 

「…厄介なことになってるなおい」

 

「溝口さん。どうしたんですか」

 

「人類軍が蓬莱島の海域に展開していやがる」

 

1つの島に様々な立場の者達が集結した。

 

 

 

 

 

 



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第十六話「入り乱れる戦場」

スペクターと対峙する僕達を囲むように展開する人類軍。睨み合いが続いていた。

 

「展開している人類軍の意図がわからんな」

 

(東側から来ているということは狙いは…)

 

「溝口。狙いは恐らく私だ」

 

「なに。どういうことだ」

 

「東側から展開しているというとこはおそらく新国連の人類軍。スクラーベに関連した部隊ではないかと」

 

「スクラーベってお嬢さんの言っていた組織か」

 

「はい。口封じに来ているのではないかと」

 

「じゃあお嬢さんは変に出撃しない方がいいかもな」

 

「私を囮に…」

 

「そんなこと亮一が許すと思うか」

 

「…それもそうだな」

 

「いいか。お嬢さんは下げるぞ」

 

「わかりました」

 

「おいおい反対側からも部隊が来たぞ」

 

後ろを見ると、別の人類軍の艦隊が迫っていた。

 

(しかもあのなかに独立人類軍の旗艦『イナンナ』がいるってことは…)

 

「こんなところで何をしているんだ。溝口」

 

「バーンズ。真壁から聞いてねーか、調査だよ調査」

 

「ここは我々独立人類軍の領海だ。活動する際は許可を取る取り決めではなかったか」

 

「真壁経由で取っているはずなんだけどな」

 

「まあいい。貴様らの目的はなんだ」

 

「あのファフナーの鹵獲だ今回の任務の貴重な情報源だからな」

 

「バーンズ将軍。反対側に展開中の人類軍から砲撃です」

 

「痺れを切らして撃ってきたか。全艦迎撃…。まぁあまり我々の邪魔をしてくれるなよ溝口」

 

「お気遣いどうも」

 

砲撃の嵐が蓬莱島に着弾する。

 

「近辺に反応。フェストゥムの群れです」

 

(レガートが呼んだのか)

 

「どうしても戦うのか、亮一が差し出した手をはね除けてまで」

 

「彼の言葉を認める訳にはいかないからな」

 

構えるスペクター

 

「一騎。ここは僕に任せてもらえないか、スペクターは僕が抑える」

 

「わかった。亮一俺達でフェストゥムと人類軍を抑えるぞ」

 

「わかりました」

 

1つの島に出来る無数の戦場。そこにはただ激しい火花だけが乱発していた。

 

「還りな。お前達のいるべき無へ」

 

(凄いな一騎さん。迫り来るフェストゥムを一瞬で、よし僕も)

 

SDPを発動させ人類軍のファフナーを機能停止に追い込む。

 

「見つけたぞ、霧島亮一」

 

一機が突っ込んできた。

 

「大丈夫か、亮一」

 

「大丈夫です。君は確か」

 

「約束を果たそう。お前を殺す」

 

リベラル・イェーガーの乗るティフシュワーズ・モデルが僕のマークアハトを襲う。彼に対応するので精一杯で次第にSDPが解け、人類軍のファフナーが行動を再開する。

 

「くっ、砲撃」

 

ボレアリオスの方向からの攻撃

 

「ありがとうクルス」

 

「あいつ厄介だね、このまま食べちゃおう」

 

クロノスとエウロス型がティフシュワーズ・モデルに集中砲火を浴びせるが、見事にかわしてみせた。

 

「俺をその程度の攻撃で殺れると思うな、フェストゥム」

 

次第にエウロス型が倒されていく

 

「こいつ僕の家族を」

 

「クルス。落ち着いてそんな闇雲に攻撃しても当たらないよ」

 

「いいのか、かなり荒れているようだが」

 

「来主のことは一騎と亮一に任せればいい。僕は君を逃さないこと」

 

「それは叶わないな」

 

アバドンに強力な光線が飛んでくる。

 

(この規模の攻撃。まさか…)

 

「10時の方向…『ギガンテス型』です」

 

「甲洋。大丈夫か」

 

「一騎、撤退しよう。あいつが現れたということは、ベノン配下のフェストゥムも来ている。これ以上入り乱れた戦場でレガートを鹵獲するのは至難の業だ」

 

「アイツを俺がやれば」

 

「ただでさえここに来て力を使い続けてる。そんなのはダメだ」

 

「だが」

 

「一騎。俺も撤退を提案する」

 

「溝口さん。なんでです」

 

「あのタイプを人類軍が倒そうとするのに考える手は1つしかない。巻き込まれない為にも今すぐにでもここを離れるべきだ」

 

「折角手に出来る手掛かりなんだぞ」

 

「ここで誰かを失うことになったら意味ないだろ」

 

「…」

 

「お話し中すみません。例のティフシュワーズ・モデルが急に撤退を始めたんですけど…」

 

「亮一。直ぐに全員蓬莱島を離れるぞ」

 

「えっ、でもレガートが」

 

「人類軍がタイラントをぶっぱなす可能性が高い」

 

「えー。でもクルス。あの機体追いかけて行っちゃいましたよ」

 

「なに」

 

「一騎。連れ戻さないと」

 

「わかった」

 

(撤退していく…この場は離れた方がよさそうか)

 

三機がクロノスに接近する。

 

「来主。撤退するぞ」

 

「一騎止めないで、アイツ僕の家族をたくさん殺した。やっつけないと」

 

「このままじゃ人類軍の火に焼かれてまた沢山死ぬぞ」

 

「せめてあいつだけでも…」

 

(ボレアリオスは来主じゃないと動かせない。どうすれば説得出来る)

 

「一騎さん提案があります…」

 

「亮一」

 

「来主。早く離れるぞこのままじゃあ皆死んでしまう」

 

「離せ。邪魔をするなら君を食べるぞ」

 

クロノスがアバドンにルガーランスを向ける。

 

「来主落ち着いて」

 

「僕を離せ」

 

(ごめんね。クルス)

 

クロノスの動きが止まる。

 

「…来主」

 

「みんな…かえるよ、ここを…はなれよう」

 

(まさか…亮一くん)

 

蓬莱島の沖にいたボレアリオスが島を離れ始める。艦隊から煙とともに何かが打ち上げられる。

 

「急げ。お前ら」

 

「亮一」

 

着弾する厄災、一瞬で蓬莱島は爆炎に飲まれた。

 

ギガンテス型を残し僕達は蓬莱島を後にした。



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第十七話「遺恨」

ギガンテス型を葬り去る為に両人類軍の放ったタイラントからなんとか逃れた僕達は大西洋をさ迷っていた。

 

「引き揚げる為とはいえ、あのタイプを残したのは不味かったか」

 

「むしろ、あのタイプをターゲットに探せば、レガートとやらと再び遭遇出来るのではないか」

 

「あぁ、当面はあのフェストゥムを追う」

 

「その前にあっちの問題をどうにかしないとな」

 

脱出する際に起きてしまった問題が僕達の進む道を阻んでいた。

 

「クルス…ごめんね」

 

「亮一酷いよ。僕を『服従』させようとするなんて」

 

「本当にごめんなさい」

 

「もう。あっちに行ってくれる。君とは話したくない」

 

来主はどこかへ行ってしまった。

 

「クルス…」

 

「時間が必要なだけだよ。そんなに思い詰めなくても大丈夫」

 

「甲洋さん」

 

「そんな悠長なことを言っていて大丈夫なのか、これを機会に敵になるってことも…」

 

「もし、そうなら俺達は既にこの艦から強制的に弾き出されている。この艦は来主自身だからな」

 

「そうなのか」

 

「来主もわかってはいるんだ。ただ心の整理に時間が必要なんだ」

 

「心…」

 

「フェストゥムに『心』って顔だな」

 

「あるんだな。奴らにも」

 

「だが、あまり長引かれても任務に支障が出る。キッカケが欲しいな」

 

【2人】の問題もあり身動きの取れないボレアリオス。悠長なことは言っていられなかった。

 

「もう見つかったか。どっちだ」

 

「…あいつだ」

 

「来主。待って」

 

「あの反応ってことは、バーンズのとこか」

 

ティフシュワーズ・モデルの攻撃がボレアリオスに向けられる。

 

「あのタイプは迎撃するしかないな」

 

「行くぞ、亮一」

 

「…」

 

「亮一」

 

「はっ、はい」

 

「敵だ。行くぞ」

 

「溝口。亮一が心配だ私も出るぞ」

 

「すまんな。頼む」

 

遅れて僕とカンナさんが出撃すると、既にクロノスとエウロス型そしてアバトンは、ティフシュワーズ・モデル部隊と交戦し、マークエルフリペアはボレアリオスの近くで静観していた。

 

「どうしたのだ、参戦しないのか」

 

「…厄介なヤツらも混じって来た」

 

後方からはスペクターと見たことのないファフナー達が接近していた。

 

「あのファフナーなんだ」

 

「わからん。スペクターに似てるが見たことの無いタイプだ」

 

「あれはファフナーじゃない。あいつらの全身からフェストゥムの気配を感じる」

 

「…フェストゥムが擬態したファフナー、レガートが引き連れてるっぽいし差詰め『ファフナー・ベノンモデル』てか」

 

「お前達は危険だ。ここで始末する」

 

「2人は向こうを頼む」

 

「でも一騎さん。1人でこの数の相手は」

 

「来主が心配だ、最悪また亮一の『力』が必要になるかもしれない」

 

「そんな…」

 

「代わりに甲洋をこっちに呼んでくれ」

 

「行くぞ亮一」

 

「カンナさん。でも」

 

「彼を信じろ。強いんだろ」

 

「…わかりました」

 

来主の元に向かう僕達。追おうとするスペクターをマークエルフリペアがルガーランスで止める。

 

「1人でやる気か、随分舐められたものだ」

 

「…」

 

 

 

「こいつ、こいつ…また僕の家族を」

 

「来主。落ち着いて、他の家族が混乱してる。君が冷静でいなきゃ」

 

「なんで、こいつをやっつけれないんだよ」

 

「…援軍。2人とも」

 

「甲洋さん。こっちは僕達がレガートが変なファフナー部隊を引き連れて一騎さん1人で応戦中です。甲洋さんはそちらを」

 

「こんな状態の来主をほっとけないよ」

 

「…僕がまた制御します」

 

「亮一くん…」

 

「安心しろ、私が2人の動向を注視しておく」

 

「…わかった。頼んだよ」

 

アバトンは急ぎマークエルフリペアのもとへ向かった。

 

「来たか、霧島亮一」

 

彼のティフシュワーズ・モデルが一直線に僕に向かって来た。

 

「お前の相手は僕だ」

 

クロノスが間に入り応戦する。

 

「亮一。周りのヤツは私が牽制しておく。2人で黒烏の牙をやれ」

 

「はい、やろうクルス」

 

「君は邪魔だよ」

 

「クルス…」

 

2機で応戦するが連携が全く出来ておらず。むしろ圧され始めた。

 

その隙を付き、ティフシュワーズ・モデルはクロノスをワイヤーで捕らえ、斬りかかる

 

 

(ダメだ、やっぱりこのパイロットに僕の力は効かない)

 

咄嗟にクロノスを押し出していた。

 

「いたい、亮一…」

 

機体を貫かんとする武器が迫る。すると強い衝撃が機体に走った。

 

「なに…えっ…」

 

振り返ると、僕が受けるはずだった攻撃をフォックスワンが受けていた。

 

力無く崩れ落ちるフォックスワン。

 

「カンナさん」

 

僕は急ぎ海に堕ちて行くフォックスワンを追いかけた。



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第十八話「声」

「カンナさん」

 

堕ちて行くフォックスワンを僕は必死に機体で受け止めた。

 

「カンナさん応答してください。カンナさん」

 

返事は…無い。僕は頭の中が真っ白になっていた。

 

「どうした。亮一」

 

「溝口さん。どうしましょう、カンナさん…カンナさんが」

 

「落ちつけ亮一。来主、フォローに回れ」

 

「えっ…あっうん」

 

クロノスも動揺したのか明らかに動きが鈍かった。容赦無く敵の攻撃は続く。

 

「一騎。向こうがマズい」

 

「わかってる」

 

「行かせるものか」

 

マークエルフリペアとアバトンの前にスペクターが立ち塞がり。2機は身動きがとれないでいた。

 

「亮一しっかりして、あいつら来てるよ」

 

「どうしよう、どうすれば…」

 

「あーもう、お前達許さないぞ」

 

「亮一。来主とエウロス型が援護している。今のうちにお嬢さんを連れて撤退しろ」

 

「カンナさん…応答して。カンナさん」

 

(完全にパニックになってるな。来主はまた冷静さを欠き始めた。一騎と甲洋は各々身動きがとれない状態…これはマズイな)

 

「亮一。そっちにあいつが行ったよ」

 

クルスの声に気がつくとティフシュワーズ・モデルが1機僕のマークアハト迫っていた。

 

「これで終わりだ霧島亮一」

 

 

 

(諦めるな)

 

 

マークアハトにを貫かんこうとする武器が寸前で止まった。

 

「なんだ…以前食らった感じと全く違う…やめろ…俺の中に入るな」

 

彼のティフシュワーズ・モデルがもがき苦しんでいるように見えた。

 

(この力…あの少年ではないな、この俺の心を屈服させようとする力はどこから来ている)

 

「一騎。スペクターの様子がおかしい」

 

「あぁ…」

 

「お前達どうした」

 

傍にいた『ファフナー・ベノンモデル』達がスペクターを攻撃し始めた。

 

「仲間割れ…」

 

「この隙に3人と合流して、撤退するぞ」

 

 

「どうしよう…今ならこいつらをやっつけれる」

 

クロノスとエウロス型はティフシュワーズ・モデルの部隊を取り囲んだ。

 

「来主。ボレアリオスに戻るぞ」

 

「一騎。今のうちにコイツらを」

 

「彼女を助けることの方が先だ」

 

「でも…」

 

「お前達を助ける為に彼女は身を投げ出したんだぞ」

 

「それは」

 

「今なら確実にここから離れられる。行くぞ」

 

「わかったよ。一騎」

 

「逃がすか。くそ何故お前達が俺に攻撃を」

 

全機、ボレアリオスに帰還しすぐに移動を開始した。

 

 

 

(あとは、頼んだ)

 

(はい)

 

 

「ここからだが、一時任務を中断し島に帰還する。いいな」

 

全員一致で次の指針は決まった。

 

「亮一。ちょっと離れて」

 

カンナさんの看病をしていると、クルスが近づいてきた。

 

「クルス。何をするの」

 

クルスが彼女に触れると一瞬で同化現象を引き起こした。

 

「何やってるのさクルス。やめて、カンナさんを同化しないで」

 

しかし、その同化現象は一瞬で終わり。見たところ外見に変化は無かった。

 

「知ったら。彼女は怒るかもしれない」

 

そう言いクルスはその場を離れた。よく見ると、傷口が全てふさがっていた。

 

「クルス…ありがとう。ごめんね」

 

「なんで君が謝るのさ。僕の方こそごめんね。ありがとう」

 

「なんでクルスが謝るのさ。…カンナさんありがとう、行きましょう僕達の島に。だから…頑張ってください」

 

思わぬ形で僕達は故郷に帰ることとなった。

 



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第十九話「帰還」

「亮一。どうだお嬢さんは」

「まだ目覚めません」

「あれから、未だに目覚めないのは心配だな」

「…」

「そう、落ち込むな見えてきたぞ俺達の島が」

甲板に上がりここを出発して以来の海神島を眺める。

ここまでの出来事が一瞬甦るように思い出し、僕はうっすら涙を浮かべていた。


「任務ご苦労であった。負傷したという人類軍のパイロットは」

 

「来主が傷口は塞いだから大事に至ることはねぇーとは思うが、しっかりと診た方がいいだろう」

 

「溝口さん、お疲れ様です。報告にあった彼女はどこですか」

 

「こっちです。遠見先生」

 

すぐに遠見千鶴先生が駆けつけ。状態を確認する。

 

「傷口を塞いだとはいえ予断は許さない状況ね。ストラクチャーを早く」

 

「千鶴さん。頼みます」

 

「はい。お任せください」

 

「先生。僕も付き添っていいですか」

 

「貴方はまずお家に帰りなさい。待ってる人がいるでしょ、それからお見舞いにいらっしゃい」

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

ストラクチャーに乗せられたカンナさんは、急いでメディカルルームに運ばれた。

 

「亮一君。ご苦労であった、ゆっくりと休むがいい」

 

「真壁司令」

 

「お母さんも心配している。遠見先生が仰ったように早く元気な顔を見せて挙げなさい」

 

「わかりました。失礼します」

 

「お前達もよく無事で戻った」

 

「ただいま。父さん、保さんいる」

 

「保か、なんの用だ」

 

「機体のことで相談が…」

 

「そうか、わかった話しを通しておこう。お前達もゆっくり休むといい」

 

「いや俺達は…」

 

僕の足取りは重かった。どんな顔で母さんに会えばいいのかわからなかった

 

「あー。亮一兄ちゃんだ」

 

小さい男の子と女の子が僕に近寄って来た。

 

「衛一郎、フェイ。ただいま」

 

「外はどうだった」

 

僕は一瞬躊躇った。

 

「すごいところだったよ…」

 

「わー。いいなー僕も早く見てみたいな」

 

「大きくなったら見れるさ」

 

「衛一郎、フェイ。いらっしゃい」

 

「ママが呼んでる。じゃあね亮一兄ちゃん」

 

「じゃあね」

 

入れ替わるように剣司さんが声をかけてくれた。

 

「よく無事で戻ったな」

 

「剣司さん。マークアハトのお陰です」

 

「どうだった、初めての外は」

 

「この島の素晴らしさが良くわかりました」

 

「そうか。母ちゃんが心配してる。早く帰ってやりな」

 

「はい。それではまた」

 

「おう。またな」

 

「もしかしたら。衛一郎達も戦場に立つのかな」

 

「どうだろうな」

 

「…今なら母さん達の気持ちが少し解るよ。こんなにも…胸が裂けそうな気持ちをずっと母さん達は抱えてたんだ」

 

「させねー。そうなる前にこの戦いを終わらせるんだ」

 

「剣司…」

 

「俺も咲良ももうファフナーには乗れねーけど。俺達にはまだ出来ることがある。今はやれることをしっかりとやろう」

 

「そうだね」

 

 

 

遂に家の前に立つ。変わらない花達が優しく出迎えてくれた。

 

カランカラン

 

「いらっしゃいませ…」

 

「ただいま…母さん」

 

すぐに駆け寄り母さんは僕を強く抱きしめた。

 

「お帰り。お帰りなさい」

 

「ただいま母さん。…怖かった。怖かったよ」

 

自然と大粒の涙と弱音が溢れ出てきた。

 

「ありがとう。無事に帰って来てくれて」

 

「うん…うん。あのね母さん」

 

「どうしたの」

 

「カレーが食べたい」

 

「わかったわ。じゃあご飯食べながらいっぱい聞かせてね」

 

「うん」

 

僕の初めての任務は特に成果を挙げれられなかった。でも不思議と悔しさは湧いてこず僕の1年にも及ぶ初任務はこうして幕を閉じた。




「…とこれが今回調査した島の記録だ」
 
「ご苦労だったな」
 
「俺達の技術がその遠因になってるってのが…くそ」
 
「彼らの葛藤と生きたいと思う意思が今日の我々の機体の発展に繋がっていると信じよう」
 
「また背負うものが増えちまったな。真壁」
 
「…そうだな」


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ワダツミという名の楽園
第二十話「見知らぬ世界」


「カンナさん、僕だよ。解る」

 

目が覚めると、亮一が涙を浮かべながら嬉しそうにこちらを見ていた。

 

「亮一…ここは」

 

「遠見先生。カンナさんが目を覚ましました」

 

「おい。亮一…痛」

 

身体は思うように動かせない。

 

「カンナ・メネスさん。初めまして、Alvisアルベリヒド機関研究主任の遠見千鶴です。ここはAlvisのメディカルルームよ」

 

「Alvis…ということは」

 

「はい、僕の暮らす海神島です。カンナさん」

 

「ここが…海神島」

 

「あと3日程は安静にした方がいいわ」

 

「お前達の任務はどうなったのだ」

 

「一時中断して、島に戻りました。一騎さんと甲洋さんとクルスは一旦一緒に戻って、すぐに出発しましたけどね」

 

「お前は良かったのか。亮一」

 

「…このままでは3人の足でまといになりそうでしたし、カンナさんが心配だったので」

 

「そうか。ありがとう」

 

顔を真っ赤にする亮一。その表情が愛おしく想えた。

 

「亮一くん。そろそろお家に帰りなさい、お母さんが心配してるわよきっと」

 

「わかりました。じゃあまた来ますねカンナさん。おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

私が病室から出る許可が出るまでの3日間。亮一は決まった時間に毎日会いにやって来てくれた。

 

退院早々、私はAlvisの司令官に呼び出された。

 

「こうしてしっかりと話すのは初めてだな。Alvis司令真壁史彦だ。大方溝口から話しは聞いている。我々の同胞を守ってくれてありがとう」

 

「元人類軍北ヨーロッパ方面守備軍第08ファフナー部隊所属カンナ・メネス少尉だ。こちらこそ部外者でありながら治療をして頂き感謝する」

 

「君は今後どうする」

 

「…」

 

「身寄りがあるならば、我々からコンタクトを取り君をそちらまで送るが」

 

「人類軍で私は既に死んだ身の人間だ。身寄りはない」

 

「そうか。君が望むならこの島に留まることも出来る」

 

「いいのか」

 

「ここには元は人類軍側だった者も大勢いる。誰であろうとこの島にいることを望む者であれば歓迎するよ」

 

「そうか。ではやっかいになろうと思う」

 

「わかった。これからよろしく頼む。カンナ君」

 

海神島に滞在することとなり手続きを始めると亮一が声をかけてきた。

 

「どうした。亮一」

 

「早くカンナさんを案内したいなって思って」

 

「それは楽しみだ」

 

「カンナさん。服どうします」

 

「服がどうかしたのか」

 

「Alvisの制服ありますけど、カンナさんが抵抗あるならその格好でも」

 

「そうか…今は暫くこっちを身に着けるとするよ」

 

「カンナ・メネスさん。次はお住まいになる場所についてなのですが」

 

「住む場所か…」

 

「僕の家に来ますか、カンナさん」

 

「いいのか」

 

「僕は大歓迎です」

 

「お前のご両親は」

 

「今から聞いてみます」

 

側にあった電話機を手に取り自宅に確認を取る亮一。

 

「母さんもいいって」

 

「そんなのでいいのか」

 

「カンナさんがよろしいのでしたら、こちらは問題ありませんよ。あくまでここに上げた候補は提案ですので」

 

「どうしたの。カンナさん」

 

「いや、ここまで個人の意思を尊重されたことは人類軍では無かったから。戸惑っている」

 

「そうなんですね」

 

「軍隊はそういうところだから致し方ないことではあるがな」

 

「手続きは完了しました」

 

「やった。行こカンナさん」

 

上機嫌な亮一に手を引っ張られ、私は彼の家に居候することとなった。



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第二十一話「親子」

「母さんただいま」

 

亮一の家は花屋だった。一束一束丁寧に心を込めて手入れされた綺麗な花の数々。

 

「おかえりなさい」

 

声とともに女性が顔を見せた。

 

「貴女がカンナさんね、霧島恵。亮一の母です。息子を助けてくださったと聞きました。ありがとうございました」

 

「カンナ・メネスです。いえいえ亮一くんには私もたくさん助けてもらいました。それに見ず知らずの私を受け入れてくださり。ありがとうございます」

 

「亮一が凄くそれを強く望んでました。それなら断る理由がありません」

 

「やめてよ母さん」

 

「フフ…照れちゃって…」

 

「あの…なにか」

 

「いえ、ごめんなさい。貴女を見てると昔の仲間を思い出しちゃって」

 

「…昔の仲間ですか」

 

「貴女に似た子がいたんです。まだ赤子だった亮一がとても懐いていた人で私も彼女とは凄く仲良しでした」

 

「今はもういないのですか」

 

「ええ。島の未来の為に命懸けで戦ってくれました。その人に雰囲気が似てるなと。だからなんだか亮一が貴女を気にするのが、納得いきました」

 

「もう。母さんったらこれから一緒に暮らすんだからそんなに他人行儀にしないでよ」

 

「あのね亮一、こういったことには段階があるの。これからよろしくねカンナさん」

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

その日は霧島家に慣れる為に外出はやめ、この島での暮らしのイロハを恵さんから教えて頂いた。

 

家の中を案内してもらい、休憩がてらリビングの椅子に座ると飾られた家族写真が気になった。

 

「この方が旦那様ですか」

 

「うん。幼なじみでねずっと一緒にいて結婚して、亮一を授かったわ」

 

「ご存命では…ないのですか」

 

「生きてるわ。ただ訳あってずっと離ればなれなの」

 

「彼はお父さんに会ったことは」

 

「生まれたばかりの頃しか一緒に暮らしたことがないから。覚えてないんじゃないかな。カンナさんはご家族は」

 

「両親は幼い頃にフェストゥムにやられました。孤児として育ち。気がつけば人類軍の兵士としてファフナーに乗って戦場にいました」

 

「そっか、大変だったのね。あの子と会った時衝撃じゃなかった」

 

「正直。このご時世で平和ボケしたガキがなんでこんなところにいるんだと思いました」

 

「そうよね。カンナさんの環境で育ったら」

 

「すみません。…ただ約1年一緒に行動しこちらの文化や思想にも触れることが出来。まだ世界に希望はあるんだなと。亮一くんを見て思えることが出来ました」

 

「それは良かった。明日はどうする」

 

「亮一くんが島を案内してくれると言ってくれたので外を歩こうと思います」

 

「母さんお腹空いた」

 

「今作るは…どうしたの」

 

「すみません。意外と甘えん坊なんだなと、任務中はしっかりしている印象だったのでなんだか意外で」

 

「あの子もファフナーに乗って戦いに出たとはいえ、本当ならもっと無邪気に遊んでいて欲しい年頃なのよね」

 

「…。大丈夫です彼は強い、それにいざとなれば私が彼を守ります」

 

「ありがとう。でもいなくなってはダメだよ、たとえ亮一が助かっても貴女がいなくなっては意味の無いことになるから」

 

「はい」

 

「よし。しんみりとした話しはおしまい。カンナさんこ御飯作るの手伝ってくれる」

 

「はい。喜んで」

 

3人で囲む食卓。笑顔の絶えないその光景に私はまるで別の世界にいるような気分であった。

 



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第二十二話「学びの場」

「じゃあ母さん行ってきます」

 

「気をつけてね」

 

翌日。早速私は亮一の案内のもと海神島を見て回った。

 

その町並みはとてもこの世界の町とは思えない美しさと綺麗さそして穏やかさがあった。

 

「どうです。カンナさん」

 

「あぁ、亮一の言う通りな島だなここは。ところで今はどこに向かっているんだ」

 

「学校ですよ」

 

「…学校」

 

「ファフナーに乗って戦場に出たといっても、島の人達からしたら僕は子どもなので」

 

「カンナさんは学校に通ったことは無いんですか」

 

「あるぞ。ただ軍隊の学校しか知らない、ここから行く学校もそういったところか」

 

「いえ、銃の扱い方やファフナーの乗り方は学校では学びません。ここで学ぶのは今日までのこの世界の歴史やこの島が守ろうとしている『平和という文化』そのような『人として大切な事』を学んでいるんだと先生は言っています」

 

「そうか。それは楽しみだ」

 

昔はそのような教育の場所が至るところにあったとは聞いていた。しかしこの世界に本当にそんな場所があるとは思いもしなかった。

 

「おはようございます」

 

「はい。おはよう」

 

学校に着くと、小さな子ども達が元気良く挨拶しながら門をくぐっていた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう。久しぶりの登校だね亮一」

 

「近藤先生おはようございます」

 

「欠席した分の宿題山程あるからね。逃げるんじゃないよ」

 

「えー。そんな」

 

「先生も少しだけなら手伝ってやるから。…そちらが例の」

 

「はい。カンナ・メネスです」

 

「近藤咲良です。この学校で教師をしてます」

 

「近藤先生は僕のクラスの担任の先生なんです」

 

「亮一。おはよう」

 

近藤先生という方と話していると、1人の少女が声をかけてきた。

 

「先生おはようございます」

 

「美羽ちゃんおはよう」

 

「美羽姉おはよう」

 

「どうだった初めての外の世界は」

 

「うん。大変だった聞いてたよりも」

 

「そっか。またいっぱいお話ししようね」

 

「うん。またね美羽姉」

 

少女との会話に亮一が照れているように感じた。

 

「えっとカンナさん。一応これから授業になるので行きますけど、どうします」

 

「どうしますとは」

 

「初等教育になるので聞いていたカンナさんの年齢では聞いていても退屈されるのではないかと」

 

「いえ、この島の『文化』というものに触れたいので是非見学させてください」

 

「わかりました。学園長は既に承知済みなので自由に見学してください」

 

私は亮一の授業を教室の外から見学させてもらった。年相応の無邪気な彼に私は癒された。

 

(兄様。また俺のを勝手に使ったな)

 

(うん。それはカンナがやったんだぞ)

 

(何故。私の名前が出てくる)

 

(俺。カンナがハリーの部屋の机あさってるの見たんだよなー)

 

(なっ、あれは自分の私物が間違えてハリーのところにないか確認しに行って欲しいとお前に頼まれたからだろテリー)

 

(…)

 

(私じゃあない。そんな疑いの目で見るなハリー)

 

 

(ハハハハハ。やっぱりカンナは面白い)

 

(テリー貴様)

 

(わっあぶねー。そんなモノ振り回すなカンナ。ハリー、カンナを止めろ)

 

(自業自得だよ兄様)

 

「カンナさん。どうかしました」

 

気がつくと授業は終わっていた。

 

「あぁ。お前の姿と幼き日の私がダブって昔のことを思い出してた」

 

「そうですか…」

 

「…あの1件があるからな。亮一からしたら私の過去について心配になるだろうが、別に昔が全て嫌な思いをしたとは思わない」

 

「本当ですか」

 

「機会があれば、話してやるよ。それよりもっと学校を案内してくれ」

 

「はい」

 

学校を一通り見学し、まだ見ぬ未来に目を輝かせる少年少女達を見て、私の成すべきことを今一度確認した。



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第二十三話「師弟」

この日、私は修行をしに行くという亮一についていった。

 

「海神…道場。ファフナーの訓練とは違うのか」

 

「勿論。ファフナーの訓練も受けてますけど、ファフナーに乗る為には技術以外にも必要な事があると、師匠は仰ってました」

 

「師匠…」

 

「僕の先輩ファフナーパイロットで年はカンナさんに近い人です」

 

「そうなのか」

 

元気良く亮一が道場の門を潜ると、確かに私と年齢の近そうな男女が先に利用していた。

 

「なあ、ここは神聖な場所だからよ。それは家に置いてこいよ。美三香」

 

「わかってないな零央ちゃん。美三香にとって【コレ】を読むことが零央ちゃんにとっての修行と同じ役目を果たしてるんだよ」

 

「ったくよ。おっお疲れ亮一」

 

「お待たせしました。師匠」

 

「ったく。師匠はやめろ、そんな大層なもんじゃねぇから」

 

「それでも僕にとって零央さんは師匠ですから」

 

「そう思ってくれるのは勝手だけど、やっぱ師匠呼びはやめてくれ」

 

「わかりました」

 

「亮ちゃーん」

 

美三香と呼ばれていた女性が亮一に勢い良く抱きついた。

 

「美三香さん苦しい」

 

「あっ、めんごめんご。亮ちゃん『機動侍ゴーバイン』最新巻読む」

 

「えー。ゴーバインの最新巻出てるんですか。読みます読みます」

 

「こら。美三香そっちに誘惑するな、亮一どうやら今日は一段としごく必要が有りそうだな」

 

「お手柔らかにお願いします…」

 

「っと、客人もいらっしゃるのにとんだ失礼を、御門零央です。よろしく」

 

「水鏡美三香です」

 

「カンナ・メネスです。よろしくお願いします」

 

「あんたが亮一の手助けをしてくれてたんだって。ありがとう」

 

「いや、彼には何度も助けてもらった。礼を言うのは私の方だ」

 

「よければあんたもやってくか」

 

「そうだな。是非やらせてもらおう」

 

そうして私も亮一と同じく修行を受けることとなった。

 

慣れない胴着を美三香さんに手伝ってもらい身につけ、始まりは脚を組み身体を一切動かさず瞳を閉じる『座禅』と呼ばれることから始まった。

 

「ファフナーを動かす上で安定した心は、敵からの同化や読心能力に対して優位性を得られる。まずは心を空にしリラックスした状態を創るんだ」

 

少しすると、隣から何かで叩かれる音が聞こえた。

 

「邪念を捨てろ亮一。今は心を空にすることに集中しろ」

 

「~~~」

 

(一方でこっちは流石に外の世界を生き抜くだけあって。安定してるな)

 

(Dアイランドの戦士達はこういった観点からも訓練してきたわけか。どうりでその場で叩き上げに近い方法で生き抜く人類軍と違い。パイロット一人一人が優秀な訳だ)

 

そんなことを考えた刹那、私の背中に激痛が走った。

 

暫くそのような精神面を鍛える修行を行いより実践的な修行にここでも私は思わぬ方法を目撃した。

 

「…刀を使うのか、しかも刃が付いているではないか」

 

「より実践的な方がいいのでね。よし来い亮一」

 

「よろしくお願いします」

 

「危険ではないか、止めさせるべきだ」

 

「大丈夫ですよ。零央ちゃん強いし」

 

「そういう問題では…」

 

「この修行の目的は『命』の大切さを学んでるんです」

 

「これがなのか」

 

「勿論誰もがやる訳じゃないんですよ、亮ちゃんも最初は木刀だったんです。だけど亮ちゃん真面目に取り組む子だからメキメキと力を付けて零央ちゃんと対抗出来る位まで成長しました。木刀だと相手を倒す勢いできちゃうけど、私達は敵を倒す為に戦うんじゃない。島を…大切な人達を護るために戦っています」

 

「それはここ何日かこの島に触れてわかった、だがこの方法は矛盾している。これでは誤って相手を殺しかけないではないか」

 

「『自分達に大切な人達がいるように、刃を向ける相手にも大切な人達がいる。それを理解し忘れず戦うことが戦士の責任だ』って零央ちゃんはそう亮ちゃんに言い聞かせています」

 

「『戦士の責任』…」

 

「だから敢えて刀で修行するそうです。自分の手にした力が相手を傷つける危険性を肌で感じて『命の尊さ』を。もし相手を殺めてしまう必要性がある時に討ち果たした後身に襲いくる『命の重さを背負う覚悟』を身につける為に」

 

「…いるのか、この島に『人を殺めてしまったパイロット』が」

 

「…。いますよ私達の先輩に」

 

ギャキーン

 

丁度そのタイミングで私の目の前に刀が転がって来た。その方向を見ると亮一の喉元に刃が突き付けられようとしていた。

 

「外の世界を知って心配だったけど、忘れてねーみたいでホッとしたぜ」

 

「…正直危なかったです。カンナさんがいなければ」

 

「そうか…。あんた…」

 

気がつけば私は目の前の刀を握り構えていた。

 

「私にも教えてくれないか…『命の尊さ』を」

 

「…手加減はしませんよ」

 

「あぁ。頼む」

 

そこから私はひたすら『命の尊さ』を学ばせてもらった。



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第二十四話「重みを知る者」

あくる日。私達はとある家を訪ねてた。

 

「はーい。亮一だ珍しいね亮一が家を訪ねて来るなんて」

 

「こんにちは美羽姉。そうだね今日は用事があって来たんだ」

 

「貴女は、校門の前でお会いした」

 

「カンナ・メネスです」

 

「貴女がカンナさん、日野美羽です。…呼んできますね」

 

「…私の用事がわかるのか」

 

「真矢お姉ちゃんですよね。すぐに呼んできますね」

 

「あっあぁ…」

 

(彼女はエスパーか)

 

(美羽姉は『エスペラント』なんです。次世代の担い手として島の皆から期待されています)

 

『エスペラント』。『希望』という意味を持つミールと対話できる能力者で資料によれば、ミールとクロッシングができ、人の心を読んだり。高度かつ複雑と言われるミール及びフェストゥムと感覚的に対話出来る者達らしい。私は実在する人間を初めてみた。

 

(ここは『遠見家』ではないのか)

 

(美羽姉のお母さんがこれから会う。『遠見真矢』さんのお姉さんなんです。ご両親は既に亡くなられているので遠見家が引き取ったと聞いています)

 

「貴女がカンナさんね」

 

奥から、1人の女性が姿を見せた。

 

「こんにちは。真矢さん」

 

「こんにちは。私に用事なんだって」

 

「はい」

 

「上がって」

 

「出来れば外の方が…」

 

「構わない。別に人がいても」

 

「では…お邪魔します」

 

(彼女もエスペラントか)

 

(いえ、違うと思いますけど)

 

リビングにお邪魔すると知っている顔の2人がいた。

 

「亮一くん。カンナさんいらっしゃい」

 

「お邪魔します」

 

「遠見千鶴先生と…真壁司令」

 

「どうだね。島には慣れたかね」

 

「えぇ…何故真壁司令が遠見家に」

 

「今、家で1人になることが多くてね。足の調子が悪くなってから医者である遠見先生に勧めてもらい。此方に居候している」

 

「そうでしたか」

 

「私が初めて人を殺したのは…」

 

あまりの唐突過ぎる出だしに私は【聞きたかった】ことではあったが驚きを隠せなかった。

 

「どうしたの」

 

「あっ、いや。まさかこんなにもいきなりそちらからお話し頂けると思わなかったので…」

 

「別に聞いて困ることではないわ。…3年前Alvisで『島外派遣』と呼ばれるエリアシュリーナガルから約2,500kmにある人類軍のダッカ基地におよそ22,000人の生存者を避難させ、その後に戦力を整えて摘出した今の海神島のコア『アショーカ』を移植して再び成長させてアルタイルとの対話を実行する為に約2週間の予定行程で行われた作戦に私はAlvisの派遣部隊の一員として参加した。派遣部隊とペルセウス中隊の戦力を合わせて1機のファフナーで車に乗りこんだ500人の民間人を護衛しながら移動する、過酷なミッションだった。ベイグラント…今のマレスペロによって誘導されてきたアビエイター群の襲撃を受け更にダッカ基地がアルゴス小隊に乗っ取られたことで私達は『交戦規定アルファ』の対象となったわ。その際に私は人類軍の爆撃機が難民キャンプを爆撃しようとしている所を目撃して…その爆撃機を撃ち落とした。それが私の【初めて】」

 

あまりの生々しい話しに沈黙する周囲をよそに真矢さんは淡々とした口調で話しを続けた。

 

「交戦規定アルファによってダッカ基地への合流が不可能となった私達は第二次移動を決断した。北西へ転進し、「トリプルプラン」の一つ「シャッター作戦」により作られたフェストゥムの密集地を通り、さらに大陸消滅後のモンゴル海峡を経由してハバロフスク・エリアから「希望の地」へ向かう。その「希望の地」こそこの第三Alvis『海神島』だったわ。シュリーナガルからダッカ基地までの道のりの4倍を超える1万km以上の距離を移動する上に、輸送機半数の損失と物資を消費した状態でのさらに過酷な状況での移動だった。ダッカ基地までの移動で消費した物資を放棄された基地で確保すると共に、アショーカの力でフェストゥムのコアを燃料に変化させて移動する。しかし、攻撃を受けた翌日に荒れ地を経由するこの移動と人類軍からの攻撃に絶望した市民の多くが命を絶ち、引き返そうとする市民の説得に1日を要したために、移動の開始はダッカ基地部隊の攻撃を受けた2日後となった。「シャッター作戦」の壁を越えようとしていた頃よ。アルゴス小隊から送り込まれたスパイによって私達の仲間が殺されそうになった。そして私は再び引き金を引いたわ」

 

ここにいる誰もがその過酷な状況を想像し、言葉を失った。

 

「あの…心境の変化はありましたか。私は正直『人と戦うこと』に慣れてしまってその事に対して感情が既に湧かないんです」

 

「カンナさん…」

 

「不思議と何も感じ無かったわ」

 

その答えは意外だった。

 

「撃ったことに対してその時は何も思わなかった」

 

「そんなの嘘だよ」

 

突然、日野美羽が立ち上がった。

 

「【あの時】から真矢お姉ちゃんがずっと思い悩んで苦しんでいたこと美羽は知ってるよ。でも皆に心配かけないようにいつもの真矢お姉ちゃんでいようと振る舞ってた。そうやって自分を苦しめないで真矢お姉ちゃん」

 

「ありがとう、美羽ちゃん。私は大丈夫だよ。それにその事が私に新しい戦う理由を持たせてくれた」

 

「戦う理由…」

 

「うん。もう誰も島の人達に私と同じ経験をさせない。そしてその為なら私はまた引き金を引く。誰が相手だろうと」

 

「真矢お姉ちゃん…」

 

「真矢…」

 

「だから、亮一くんが島の外で同じ経験をしなくて済んだって溝口さんから聞いた時はホッとしたわ。ありがとう2人共【その道】を選らばないでくれて」

 

「君はどうかねカンナ君」

 

「どう。といいますと」

 

「報告では亮一君達と出会った頃は所々で垣間見える。この島の方針に異議を唱えていたと聞く。人類軍に入れば、我々の方針に違和感を抱くのは当然のことだ」

 

「…」

 

「今の君にはどう見える」

 

「あの頃に比べれば、この島の方針に理解出来るようになったと思います」

 

「出来れば君が今後その手を汚すことが無いことを願っている」

 

彼女の抱き続けた想いを聞き、初めて【その道】を取った時の感情を久しぶりに抱いた。

 



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第二十五話「未来を背負う少女」

「2人共早く早く」

 

この日、私は日野美羽の案内で海神島のコアと会うこととなっていた。

 

「待ってよ美羽姉」

 

辿り着いたのは海神島のミール『アショーカ』の傍にある高台だった。

 

「こんにちは。ルヴィ」

 

日野美羽は小さな少女へ一目散に走って行った。

 

「こんにちは美羽。亮一も」

 

「ルヴィ姉さん。こんにちは」

 

「貴女ははじめましてですね。私はルヴィ・カーマ。この海神島のコアです」

 

「カンナ・メネスです。よろしくお願いします」

 

人の言葉を話すコアを私は初めて見た。そのことを悟ったのか、彼女は「驚きましたか」というような表情で微笑んでいた。

 

「さぁ。始めましょう美羽」

 

2人はお互いの額を重ね合わせ、祈るように瞳を閉じた。

 

「2人は何をしているんだ」

 

「クロッシングの力を使って総士の居場所を探しているんです」

 

「そんなことが出来るのか」

 

「高度なクロッシングが出来るエスペラントは出来るみたいで、美羽姉は海神島で一番高い能力を持つエスペラントだそうです」

 

「亮一は出来ないのか」

 

「…僕は美羽姉やルヴィ姉さんみたいなこと出来ないです」

 

「この島で探している『皆城総士』は2人と交信出来るということはエスペラントなのか」

 

「わかりません。僕は彼とよく遊んでましたけど、そんな素振り見せませんでした」

 

暫くして、二人が祈りの姿を止めた。

 

「どうだった」

 

「これまでと変わらず気配がありません」

 

「どうして、総士の存在を感じ取れないんだろう」

 

「考え方を改める必要があるかもしれません」

 

「どういうこと」

 

「これまで私達は人が生きられる場所で探していました。ですがそれ以外の場所に皆城総士が存在する場合。私達の方法では当然見つけることは出来ません」

 

「それ以外の場所とは」

 

「本来なら人が生きていくのが困難な場所…2人はどこを思い浮かべますか」

 

「海の中とか」

 

「確か総士はシャトルに乗せられて連れて行かれたんなら、宇宙とか…それこそ『赤い月』とかは」

 

(赤い月…マレスペロが3年前の戦いで失ったベイグラントのコアの残骸から再形成したゴルディアス結晶の塊だったか)

 

「そう。そのような考えの及ばない場所にいる可能性を考慮した方がよいかもしれません」

 

「でも、これまでの探索範囲に追加してそんないるかもわからない場所探すってその隙に移動されたりするかもしれないし美羽姉やルヴィ姉さんへの負担が大きすぎるよ」

 

「だとしても、やらねばなりません。この世界がマレスペロの手に堕ちてしまう前に」

 

「ほら、一騎さん達も探索してるんだし。せめてルヴィ姉さんが言う人が生きていくのが困難な場所に絞ってもいいんじゃない」

 

「でも、一刻でも早く総士を見つけなきゃ」

 

「美羽姉…」

 

「…確かに亮一の言うとおりかもしれません。これまで探っていた場所は3人に任せて、私達は人が生きていくことが困難な場所に絞りましょう」

 

「でもルヴィ」

 

「広範囲で探して見落とすよりは、集中して力を使った方がいいでしょう」

 

「…わかった。ありがとう亮一。私達を心配してくれて」

 

日野美羽に頭を撫でられ亮一の顔は真っ赤になった。

 

「少し休んでから再開しましょう」

 

「じゃあ亮一、総士を探しに行った時の話しの続きを聞かせて」

 

「えっ。そうだねどこまで話したっけ」

 

世界の行く末を決めかねない任務から一時的に解放された少女達のその表情は、無邪気に遊ぶ子どもの笑顔そのものであった。



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楽園の子
第二十六話「動き出す刻」


「行ってきます」

 

「気をつけてね亮一」

 

「はーい。カンナさん今日こそ一本取りますからね」

 

「期待せず待ってるよ。しっかりと勉強してくるんだぞ」

 

「じゃあまた道場で」

 

「あぁ。先に行って待っている」

 

総士を探索に初めて外の世界を見てから2年が経った。僕は母さんとカンナさんの3人でこの世界で唯一の『平和』を謳歌していた。

 

「おはよう亮一」

 

学校に行く途中、美羽姉に会った。

 

「亮一学校終わったら用事ある」

 

「カンナさんと修行に行くよ」

 

「そっか…」

 

「どうしたの」

 

「美羽も行っていい」

 

「いいけど…どうしたの美羽姉にしては珍しい」

 

「亮一と話しておきたいことがあったの。出来れば2人の時に」

 

「今なら聞けるよ」

 

「そうだね…あー遅刻しちゃう」

 

「えっ、まずい急ごう美羽姉」

 

学校目指して必死に走る2人。

 

「おは…よう…ござ…います」

 

「おはよう。2人ともギリギリだね」

 

「間に合って良かった」

 

「ほら、朝礼始まるよ急いだ急いだ」

 

「じゃあ後でね亮一」

 

「うん」

 

「…ははーん。デートか亮一」

 

「えっ、そんなのじゃないですよ近藤先生」

 

「照れるな照れるな。いゃー青春だね」

 

「もう。近藤先生」

 

「ほら、早くしないと遅れるよ」

 

「あっ、待ってください先生」

 

この何気ない日常。僕は2年前の事もあってかこの日々をこれまで以上に感謝しながら過ごしていた。

 

あれからAlvisとしての任務はしていない。

 

学校帰り、美羽姉と道場に向かっていると

 

「おっ、亮一と美羽ちゃん」

 

「佐喜さん陣内さん。こんにちは」

 

「どうした2人揃って」

 

「これから道場で修行しに行きます」

 

「美羽ちゃんも。珍しい」

 

「私は見学だけどね」

 

「お2人はどちらに」

 

「お前の家。母ちゃん泣かしてないか」

 

「ちゃんとお手伝いしてますよ」

 

「そうか、偉い偉い」

 

「もう…子ども扱いして」

 

「俺達からしたら、亮一はまだ世話の妬けるお子ちゃまなんだよ」

 

「それは別として、亮一のお母さん誘って堂馬食堂で夕飯でも食べようかなって」

 

「えー。いいな」

 

「まぁ、亮一は修行頑張ってこい」

 

「…にしてもお前の義姉ちゃん。凄いな」

 

「カンナさんがですか」

 

「流石に実戦慣れしてるからか、訓練でも常にトップクラスの評価を受けてる」

 

「…そうですか」

 

「どうしたの亮一」

 

「まだ、納得いかないって顔だな」

 

それは半年前。カンナさんは海神島での生活に慣れ島の人達とも打ち解けていた。

 

(どうしたのカンナ。私達に話があるって)

 

その日、僕ら親子はカンナさんに呼ばれリビングで座っていた。

 

(お話ししたい事が2つ。まず1つ目は例の話を受けさせて頂こうと思います)

 

(そう。良かったわね亮一)

 

(うん)

 

(これからは『霧島カンナ』としてよろしくお願いします)

 

(じゃあお互い呼び方をもう少し家族っぽくしないとね)

 

(母さんどういうこと)

 

(だってカンナは私のこと『さん』づけじゃない。亮一は亮一でカンナのこと『さん』づけだし)

 

(…。)

 

(折角家族になるんだものこれを気に家族っぽく呼び合いましょ)

 

(そうですね。なるべくそう呼べるよう努めます)

 

(僕も)

 

(まぁ焦ることはないわ、タイミングもあるし。ところでカンナもう1つの話しって)

 

(はい。第一種任務を私は溝口さんの元で働こうと思います)

 

(そんなカンナさんなんで)

 

(…)

 

(私がこの島ですぐに役に立てることは人類軍にいた時の経験値です。もちろんファフナーパイロットとしての経験も)

 

(そんなに焦らなくていいんじゃない)

 

(勿論。第二種任務でこの家で働きます。しかしどうも私はただ平和に過ごすだけというのが性に合わないみたいです)

 

(カンナさん…)

 

(わかったわ。嫌になったらいつでもいいなさい。私も出来る限り助力するから)

 

(ありがとうございます。…お義母さん)

 

(っもう。照れちゃって)

 

「僕はカンナさんにはもっと安全な場所で暮らして欲しいんです」

 

「それは、きっとカンナも亮一に想っているし、貴方のお母さんもそう想ってる。皆大切な人にはそうして欲しいと想っているわ」

 

「そうですね…」

 

「そう落ち込むな。溝口のおやっさんのお墨付きだ、彼女はそうそうやられないさ」

 

「そうですよね」

 

「ねぇ、亮一いいの時間」

 

「あっ。佐喜さん陣内さんそれじゃあまた」

 

「おう。カンナによろしくな」

 

急ぎ道場に向かう。

 

道場の目の前で美羽姉は急に立ち止まった。

 

「どうしたの。美羽姉」

 

「…亮一。急な用事が出来た 。また今度」

 

「えっ。美羽姉大事な話しがあるんじゃ」

 

「また、時間作るからまたね亮一」

 

そう言い残し足早に美羽姉は立ち去った。

 

「遅れてすみません」

 

「おう。亮一」

 

「零央さん。こんばんわ」

 

「遅いぞ、何していた」

 

「佐喜さん達と偶然会って立ち話してました」

 

「私はいつでもいけるぞ」

 

「今日こそ、カンナさんから一本取ります」

 

「その意気だ。行け亮一」

 

「はい。ウオオオオオー」

 

こんな日常がいつまでも続けばいいのに…その思いは日に日に増していた。

 

 

 

そんなのは幻想だ

 

 

 

世界は僕の願いを受け止めてはくれなかった。




「すまんね。美羽くん」

美羽はルヴィに呼ばれAlvisをを訪れていた。

「真矢お姉ちゃんに、剣司お兄ちゃん…」

呼ばれた場所にはAlvisの主要メンバーが揃っていた。制服を身に纏い…

「ルヴィどうしたの」

「彼が戻りました」

「こんばんわ。美羽ちゃん」

「甲洋お兄ちゃん。どうしたの、一騎お兄ちゃんと来主は」

「2人には先に手筈を整えてもらってる」

「手筈…」

「総士を見つけた」

止まっていた歯車が動き出した。


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第二十七話「それぞれの役目」

「僕も行きたいです」

 

皆城総士が見つかった。真壁司令は素早く救出部隊を編成し出発の手筈を整えていた。

 

僕はそのメンバーには入れてもらえなかった。

 

「今回のお前の任務は俺達不在の間の俺達の島の防衛だ亮一。これも大切な任務だぞ」

 

「零央さん達と一緒に任務に行って役に立ちたいです。僕もパイロットなんだから」

 

「今回は総士を助けに行くんだ、メンバーは最小限で素早く行動出来た方がいいんだ」

 

「僕1人増えたくらいで変わらないじゃないですか」

 

「お前のアトムは中距離支援機だろ。今回の隠密行動の任務にその火力は不向きなんだよ」

 

「そんなんじゃ、納得いかないです」

 

「彗。お前もなんか言ってやってくれ」

 

「俺に言われても…零央が言うこと全部言ってくれたし」

 

「まあまあ亮ちゃん。帰ったら一杯遊んで挙げるから」

 

「子ども扱いしないでください。美三香さん」

 

「…なんでこのタイミングで地雷を踏みにいった」

 

「あれ…違ったか、エヘヘ」

 

「亮一くん。いい加減にしなさい」

 

「真矢さん…」

 

「これは任務。個人的な感情で動くことは全体の死を招く結果になる。真壁司令はこの編成が最善だと判断して指令を出してるの、貴方がAlvisの一員であると自覚があるのなら、トップの下した判断は尊重し実行しないといけない。わかる」

 

「それは…わかります…なんとなく」

 

「亮一」

 

美羽姉は僕の額に自分の額を重ね合わせ瞳を閉じた。

 

「亮一のお仕事は、私達の島を守るってとても大切なことだよ。総士は私達が必ず助けるからね」

 

(総士。亮一早く)

 

(待ってよ美羽お姉ちゃん)

 

(あた)

 

(総士大丈夫)

 

(痛い…)

 

(泣くなよ総士。ほら美羽お姉ちゃんが待ってる。行こ)

 

(うん)

 

「…またあの頃みたいに3人でいっぱい遊ぼ」

 

「…わかった」

 

「ほんとわかりやすいな。亮一は」

 

「じゃあ、留守は頼んだぞ亮一」

 

「はい。お気を付けて」

 

そうして皆はRボートに乗り出発した。

 

「…」

 

「お前には、お前にしか出来ない事がある。まずは目の前の任務をしっかりとやり遂げるぞ」

 

「溝口さん。わかりました」

 

「まぁ前みたいにフェストゥムが現れることは無いとは思うがな」

 

そんな時、思わぬ事態へと巻き込まれることとなった。

 

総士を救出する部隊が出発して暫くして人類軍側からコンタクトがあった。

 

「なんだ。溝口今はお前がそこの椅子に座っているのか」

 

「バーンズ。真壁は出払ってるよ俺達の『希望』を救出にな」

 

「そうか。お前達に頼みがあってな」

 

「頼みだ。なんだあんた自らってのが嫌な感じだが一応聞いてやるよ」

 

「フン。減らず口を…まあいい。新国連が隠蔽しているある組織がな、我々にちょっかいをかけて来たのでな、お前達の戦力を貸してほしい」

 

「ある組織だと…」

 

「『スクラーベ』だ。聞いたことはあるか」

 

因縁が僕達に牙を向いた。



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第二十八話「因縁との対峙」

「…『スクラーベ』だと」

 

「あぁ…人類軍でもごく一部の者しか知らない曰くの噂の耐えん組織だ」

 

「…知らねーな」

 

「まあそうだろうな。知っていたとしても何故貴様らが知っているのかという問題になるからな」

 

「で、そのスクラーベって組織がどうしたんだ」

 

「我々の将校を次々に消しにかかっていてな、タチの悪いことに我々の裏切り者達を使って」

 

「それで…なんで俺達が協力しなきゃならねーんだ」

 

「なにぶん。2年前どっかの輩が派手にドンパチをしてくれたおかげでこちらが隠密に動かせる戦力に限界があってな、スクラーベを叩くのに戦力が足りんのだ」

 

「俺達だって隠密に動かせる戦力は無いぞ」

 

「…報告は上がっている」

 

「…」

 

「24時間やる。良い返事を期待している」

 

「ったく秘匿回線使って良かったぜ」

 

「溝口さん。今の話し」

 

「亮一。それにカンナもなんでいる」

 

「私はたまたま亮一の帰りが遅いので迎えに来ていた」

 

「どうするんです」

 

「どうするもあるもんか、俺達に割ける戦力は無い。真壁達の帰りを待って検討するよう交渉していくしか無いな」

 

「やりましょうよ溝口さん」

 

腰を下ろそうとした溝口さんは立ち直した。

 

「やるって誰が参加するんだよ」

 

「僕が行きます」

 

「なんでお前が」

 

「あんな組織を野放しになんてしておく訳にはいかないじゃないですか」

 

「余計な事に口を突っ込む必要はないんだよ、必要以上の正義感は自分の周りそして自分自身を殺すことになる」

 

「そんな…あの組織の実態を溝口さんも知ってるじゃないですか」

 

「俺達の任務は島を守ることだ。履き違えちゃいかん亮一、スクラーベはまだ俺達に何も危害を加えていない。今ここで踏み込めば、将来的に島を危機にさらす危険性が高いんだ」

 

「危害を加えて無い…いやそれは違います溝口さん」

 

「なに」

 

「奴らは既に僕の大切な家族に危害を加えています」

 

「…」

 

「…言っちゃ悪いが、確かにあの一件で俺もスクラーベって組織の存在を知った。今はその1人の被害で済んでいるが、今介入すればそれ以上の被害をもたらすんだぞ」

 

「徹底的に叩けばそんなことは」

 

「隠密で動く部隊でスクラーベのような根の深い組織を壊滅させるのは不可能だ」

 

「もういい」

 

カンナさんの声が響き渡る。

 

「あの…溝口さん大丈夫ですか」

 

「あぁ、大丈夫だ。すまなかった」

 

「溝口さん。亮一の言うことに私は賛成です」

 

「でもよ、カンナお前」

 

「ありがとうございます。溝口さんのお気遣いには感謝します」

 

(気遣い…)

 

「ですが。あの組織を私も見過ごす訳にはいかないと思います。潰すチャンスがあるのなら徹底的に潰しておくべきです」

 

「…人が関わっているんだぞ」

 

「その時は私が引き受けます」

 

「ったくよ、お子ちゃまのくせして頑固な2人だな…皆が知る必要の無い極めて闇の深い任務になる。期限は3日。それまでに『ケリ』をつけてこい」

 

僕達は直ぐに出発の準備を始めた。

 

「追加の派遣部隊として行くことになったの」

 

「…うん。なんでも緊急を要する事態なんだって」

 

「そう…。2人共気を付けてね」

 

「行ってきます」

 

 

 

「行くのですね。亮一」

 

「うん」

 

「本当は止めるべきなのでしょうが、決めてしまったのなら仕方がありません」

 

「ルヴィ姉さん…ありがとう」

 

「貴方達に島の加護がありますように祈っています」

 

 

 

「ほんとにいいのか真壁の判断無しに」

 

「最終的に真壁には報告するが、他の皆に知られなければ、取り敢えず今はいい」

 

「フレイヤと念のためにマークエルフリペアを搭載しておいた。必要なら使ってくれ」

 

「ありがとうございます。保さん」

 

「いいか2人共、必ず生きて帰ってこいよ」

 

「はい」

 

僕とカンナさんは2人で指定座標に向かった。

 

「ありがとうございます。カンナさん」

 

「ハッキリと言っておくが、今回の件は溝口さんの方が正しい」

 

「…」

 

「だが、お前の私を労ってくれる気持ちも良くわかった。だからお前に感謝も込めて賛同した。あのまま勢いだけで行きそうな危なっかしいお前を1人で行かせる訳にもいかないしな」

 

「すみません…」

 

「焦る事は無いんだ、本当は。亮一の力が本当に必要な時は、きっともっと先の事なんだから」

 

「カンナさん…」

 

「やると決めたからには徹底的にやるぞ。ここで少しでも逃せばそのツケは私達の島に悲劇を生む」

 

「わかりました」

 

自動潜行モードで移動していた艦が指定座標に到着する。

 

「…まだ誰もいないのか」

 

「貴様らがバーンズ将軍より連絡のあったDアイランドの戦士か」

 

聞き覚えのある声の男がこちらに向かって歩いて来た。

 

「俺は独立人類軍のリベラル・イェーガー。今回の一件の指揮を任されている。よろしく頼む」

 

それは2年ぶりの初対面であった。



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第二十九話「共闘」

「独立人類軍のリベラル・イェーガーだ。よろしく頼む」

 

その名前に僕は動揺した。

 

「私は、木島環奈だよろしく頼む」

 

(えっ、カンナさん咄嗟に…)

 

「そっちは」

 

「き…木島竜一です」

 

「お前達姉弟か」

 

「あぁ。ハーフだからな見た目は似てないかもしれないが、竜一は私の弟だ」

 

「よろしくお願いします」

 

「…まあいい、しかしDアイランドはこんなガキも平然と戦場に送り出すのか」

 

「今は改良が進んでいるからそう思うだろうが、少し前までは私達の年齢ではファフナー自体に乗れなかったんだ。むしろ私とお前の方がイレギュラーだよ」

 

「ふん、作戦について説明する。他のメンバーを別の場所で待たせているからなついてこい」

 

イェーガーの後ろをついて歩く。

 

(どうして本名を名乗らなかったんですか)

 

(こういう共同作戦で個人情報を漏らすのは厳禁だ。本当に信頼の置ける相手ならまだしもだ。それに奴の名前…余計こちらを知られる訳にはいかないだろう)

 

(確かにそうですね。でもカンナさん木島環奈って、名前言っちゃってますよ)

 

(っつ。あれは咄嗟だったからな、亮一こそ何故姉弟ということにしたんだ。変なフォローをすることになったじゃないか)

 

(でもカンナさんの言うとおりならなんであいつ本名を)

 

(リベラル・イェーガーという名がそもそも偽名なのかもしれん)

 

「ついたぞ」

 

そこには2人の男女が待っていた。

 

「独立人類軍所属ガウルン・ヘルベルトだ」

 

「同じく、ミレイヌ・アモンド」

 

「木島環奈と木島竜一というらしい」

 

「姉弟仲良くってか、Dアイランドは余程人員不足なんだな」

 

「そちらもわざわざ此方に助けを乞うとは人類軍も随分弱体化したんじゃないか」

 

「んだと、やるか女」

 

「ふん。力に自信があるのか知らんがあまり女だからと馬鹿にしない方がいいぞ」

 

「てめー。ぶち殺してやる」

 

「ガウルン。止めろ」

 

「リベラル。けどよ」

 

「先にけしかけたのはお前だ。すまなかったな」

 

「いや。こちらこそすまなかった」

 

カンナさんを挑発した男は不満そうに拳を下げた。

 

「この5人で人類軍の組織スクラーベを壊滅させる。スクラーベについて2人はどれくらい情報を持っている」

 

「そちらの上官がある程度の情報を提供してくれた」

 

「そうか。ならば本題から説明する。いいか小僧」

 

「大丈夫です」

 

最後の一言に少しムッとした。

 

「スクラーベの本拠地とされる場所がユーラシア大陸南部にあるサラエボという場所だ。この拠点と必ず消しておく必要がある人物がいる。それがこいつだ」

 

1人の男の写真が情報端末に共有された。その時カンナさんの表情が強張ったように見えた。

 

「人類軍南ユーラシア方面総司令官ピクルス・ハーパー大将。この男がスクラーベの実権を握っている」

 

「確かなのか」

 

「こちらの諜報員が自らの命と引き換えに掴んだ情報だ。間違い無い」

 

「そうか…」

 

「今回の作戦だが、ターゲットは近頃近辺の警備を厳重にしているということだ。恐らく自分がターゲットになっていることに気づいている」

 

「まじかよ、大丈夫なのか」

 

「やるしかない。潜入しターゲットを殺るのは俺達3人でやる。お前2人は陽動と潜入中の俺達を通信でフォローしてくれ。どちらがどっちをやる」

 

「陽動は私がこの子がフォローする」

 

「待って、僕より姉の方がより冷静に状況確認が出来る。だから姉が…」

 

「陽動は危険な任務だ私がやる」

 

「…こちらとしては、物事を冷静に視れそうな姉がフォローしてくれた方が助かるが」

 

「僕は大丈夫だから。ねっ」

 

「…」

 

「決まりだ。早朝には拠点に到着しその夜には決行する。以上だ」

 

その夜、僕はカンナさんに顔を強張っていたことを尋ねた。

 

「そうか…私もまだまだだな」

 

「知ってる人なんですか」

 

「よく知ってる。士官学校で私の教官を勤めてくださり、私達が一人前になるまで卒業後も自らの部隊に私達を組み込んで指導してくださった方だからな」

 

「私達って」

 

「2年前の件で、ハリーという男を見たろ。あいつも一緒だった」

 

「…」

 

「そんな顔をするな。あの時までは、ハリーも私にとって大切な家族みたいな存在だった。…だからかな、ピクルス教官もハリーもまだ信じたいと思う自分がいる」

 

「僕はあいつが許せない」

 

「…前も言ったろこの事でお前の手を汚す必要は無いんだ。始末は彼等がやってくれる。これで私の過去と本当にケリがつくんだ。きっと…。さあ明日は早い寝るぞ」

 

「はい。おやすみなさい」

 

これで決着をつける…その決意を胸に朝日が昇る頃僕達は目的地を目指した。



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第三十話「恩師へ向ける刃」

人が町で賑わう頃に僕達はサラエボに到着し町の中に紛れた。

 

「やたら軍服が目立つな、こんな状態でやるのか」

 

「次の被害者が出る前に一刻も早く壊滅させねばならない」

 

(…ハリー)

 

「木島姉。どうした」

 

(あいつは…)

 

「すまん。どうにも見られているような気がしてしまい、思わず顔をうつ向いてしまった」

 

「はっ、自信過剰もいいとこだぜ。知り合いがいるわけでもあるまい。痛」

 

思わず男の踵を軽く蹴った。

 

「このガキ。なにしやがる」

 

「騒ぐな。ガウルン」

 

「でもよこのガキ」

 

「この男が気にさわる発言をしたのなら変わって謝罪する。だが今は任務中だ。感情的な行動は控えてもらいたい」

 

「ごめんなさい」

 

「よし。1500までにこの町及びスクラーベの本拠地の実態を把握。2000から作戦を決行する」

 

 

 

そして2000作戦が実行された。

 

「こちらフェネクス2、敷地内に侵入。ポイント4-7だ」

 

「フェネクス2、確認したそのままそのルートを直進300m先に階段だ」

 

「ラジャー」

 

「フェネクス4よりフェネクス1へ、その曲がり角に警備兵がいるポイント6-1まで後退し、5秒待てその警備兵が通過する」

 

「了解だ」

 

「こちらフェネクス3。ターゲットを確認ポイント7にある大広間に入っていった」

 

「フェネクス4よりフェネクス3へ10m後ろに脇道があるそこから大広間の声をジャミングしてくれ」

 

「フェネクス3了解」

 

「あの…僕はいつまで待機ですか」

 

「まだだ、ここまでは順調だ。予定では15分後に出番が来る」

 

「わかりました」

 

(やはりこの建物似ている…ということは、あの人は)

 

「こちらフェネクス3。この大広間が例の施設だという証拠となりうる音声を探知した」

 

無線に流れる人々の声。そこにはあの時カンナが聞いた音と声が響き渡っていた。

 

「マジかよ、これ…」

 

「…これで俺達の正統性を立証出来る」

 

「…最低」

 

「…フォックス1と2はフォックス3に合流を」

 

「了解」

 

「あの…急にフォックス4と連絡が取れなくなったのですが、原因わかりますか」

 

「なんだと…確かに」

 

「あの女。どこ行きやがった」

 

「裏切り」

 

「姉はそんな人じゃありません」

 

「落ち着け。フォックス5これから俺達は突入をかける。俺が合図を出したらファフナーを起動し陽動を頼む」

 

「これ、本当に大丈夫なんですよね」

 

「俺が前にいた部隊で使っていたファフナーの機体コードを誤魔化すジャミング装置だ。性能は保証する」

 

「わかりました」

 

「よし。行くぞ」

 

 

 

その頃カンナは地下にあるとある部屋に足を運んでいた。

 

「まさか…生きていたとはねカンナ」

 

「お久しぶりです。ピクルス教官」

 

「卒業しても君だけは変わらず教官と呼んでいたね。私を」

 

「そうですね。私にとって貴方は部隊の隊長よりも、教官としての思い出の方がありますので」

 

「その教官に君は何を向けているのか。わかっているのかね」

 

「はい。その為にここに来ました」

 

「よくここがわかったな」

 

「教官は人が大勢集まる場所を嫌ってましたから、見取り図を見た時。似てると直感しました」

 

「似てるとは」

 

「私達の学校の見取り図にです」

 

「ふむ。そうであろうなあの学校はこの建物を参考に建っているからな」

 

「…お認めになるのですか」

 

「認める…何をだい」

 

「スクラーベの存在と組織の実権を貴方が握っていることです」

 

「君はどう見る」

 

「私は、今も教官がそのようなことをするとは思えないと思っています。ですがこの状況と我々が手にした情報。それに学校で立っていたある噂で検証すると事実は…」

 

「噂とはなんだね」

 

「学校内で行方不明になっていた女性達が学校長の部屋にいるという噂です」

 

「なるほど、一理ある考察だ」

 

「ハッキリとしてください。出来れば貴方に引き金を引きたくない」

 

「そのいざというときの甘さも変わらずだなカンナ」

 

突然部屋の扉が空き、慌てて入ってきたハリー。

 

「ピクルス大将。ご無事で、独立人類軍と思われる部隊の奇襲です…」

 

バーン…1発の銃砲が鳴り響く。

 

「これが答えだよ。カンナ」

 

「ハリー」

 

「…なぜです。ピクルス大将」

 

「2度目無いと言ったはずだこの無能が」

 

カンナはハリーの身体を受け止めた。

 

「あれ…なんでここにいるの…そうか夢か…ここにいるはずないもんな」

 

「ハリー…いるぞ。私はここにいるぞ」

 

「…これより任務に戻り奇襲部隊の迎撃に向かいます…教官」

 

彼の目から光が消えた。

 

「なぜ…なぜですか教官。なぜハリーを」

 

「なんだね。自分を売った身内の為に涙するのかね」

 

「…なぜそれを」

 

「なぜ。それを命令したのが私だからだ」

 

「なんですって」

 

「参謀本部より異動が命じられ、君が私のもとを去った時私は涙したよ。君は私のお気に入りの娘だったからね。だから驚いたよ生死不明となっていた君が現れたと聞いた時は、同時にもう二度と私の手から離さないと決めた。そしてそこの無能に命令した」

 

「無能だと」

 

「そこの無能はな、一族の復興の為に私に協力すれば地位と名声をくれてやると言ったすぐに私の僕として動く犬になったよ。兄テリーや君を失い、自分が一族の主となっても君ら二人の後ろについてゆくだけの金魚のフンの姿勢は変わらなかった。あの頃から軍人として役に立たないポンコツだと思っていたがね君達二人の心を安定させる存在だったようだから。致し方無く、君達と一緒に行動させたよ」

 

「…」

 

「私のもとに君を【仕上げて】連れてくるように命令したが、失敗し命かながら生き延び。君はまた行方不明となった。私は器の広い人間だ。チャンスを挙げたよそこの無能に、だが今日、組織の存在を敵に知られ、奇襲を招いた。取り返しのつかない失敗をしたんだその無能は」

 

「それ以上。ハリーを馬鹿にするな」

 

カンナ腕に力が入りピクルスの額を捉えた。

 

「さあ、今の真実を聞いてどうする。私を殺るのか、それとも亡き弟に詫び私のもとへ来るか。君があの時大人しく私のもとにこれていれば、大切な身内は今ここで死なずに済んだのだからな」

 

「ピクルスーーーっ」

 

あの頃の思い出と共に再び銃声が響いた。

 

倒れたのはピクルス…しかしカンナは引き金を引いた実感が無かった。後ろを振り向くと彼がいた。

 

「ターゲットを撃つのになにを躊躇っている。フォックス4」

 

「フォックス1…」

 

「Dアイランドの人間は人を殺さないと噂で聞いたことがあるが。それでか」

 

「そうかもしれんな…」

 

「まあいい。急げ陽動をしているフォックス5が危ない」

 

「そうだな」

 

過去を清算したカンナは、急いで今いる家族を助けに向かった。



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第三十一話「力を求めて」

作戦が決行され亮一に陽動をするよう指示が下る。イェーガーから貰った装置で仮コード『イーグル1』となったマークノイン改『フレイヤ』は亮一のSDP『服従』を使いながら孤軍奮闘の活躍をしていた。

 

(作戦は成功したのかな、カンナさんどこに行ったんだろう)

 

次々に襲いくる人類軍のファフナーと攻撃。徐々に不安を覚えた亮一に迷いが生まれた。

 

(武器だけ狙っても、次々に来るし命中率も低くなる。それにより神経を使う…胴体やコックピットを狙って1機でも破壊していった方がいいかな)

 

その頃他の4人は合流していた。

 

「テメー勝手に持ち場を離れやがってどこに居やがった」

 

「すまない」

 

「ターゲットを見つけたが通信障害が起きて連絡出来なかったそうだ。実際俺が彼女を見つけた時に2人に連絡を試みたがノイズが酷くて出来なかった」

 

「イェーガーが言うなら。そういうことにしておこう」

 

「陽動は上手く行っているな」

 

「もう間もなく予定安全エリアに着く」

 

「陽動している義弟は」

 

「…敵に捕まってて、脱出出来ないみたい」

 

「そんな」

 

「にしても、なんであいつ敵のファフナーを破壊しないんだ。さっきから武器やメインモニターばかり」

 

「人を殺さないのがDアイランドの方針らしい」

 

「ハッ。それで死んだら意味ねーのにな」

 

(それにあのファフナーの動きを止める戦い方…まさか)

 

(このままでは亮一が…なにか策は)

 

カンナは保の言葉を思い出した。予定安全エリアに到着した4人。

 

「おい、どこに行く」

 

「イーグル1についてるジャミング装置はまだあるか」

 

「あぁ。あと2つ」

 

「一つ貸してくれ私が行く」

 

「なに」

 

「予備の機体を使う早く」

 

「どうする」

 

「…機体への設置を手伝う。これであちら側に被害を出して任務を達成しても、バーンズ将軍に顔向け出来ない」

 

「俺達の面子に関わるしな」

 

「どっちでもいい」

 

3人に装置を着けてもらっている間にマークエルフリペアに乗り込むカンナ。

 

(ファフナーに乗る適正はあるが、元々島の外出身の私が高いシナジュティックコードが求められる島の機体を扱えるだろうか)

 

「装置はつけたぞ」

 

「ありがとう」

 

「5分だ、それまでは支援してやる」

 

「それだけあれば充分だ…頼む私に亮一を…家族を守る力くれ」

 

(だんだんSDPを使うのも辛くなってきた。うっこれは)

 

力を使い過ぎた亮一の手元が同化現象を起こし始める。

 

「フォックス5。増援を送った。あと少し持ちこたえなさい」

 

「ミレイヌさん…了解。とは言ったものの」

 

反応の鈍くなったイーグル1に容赦なく集中砲火が浴びせられる。

 

(こんなところで死にたくないよ、母さん、カンナさん…)

 

イーグル1と敵の間にレーザー砲が一直線に地面を駆け、ファフナーが1機間に立った。

 

(イーグル2…でもこのシルエット)

 

「亮一。大丈夫か」

 

「カンナさん。えっマークエルフリペアに」

 

「あぁ、機体が私の願いに答えてくれた。やれるか亮一蹴散らすぞ」

 

「はい」

 

突然の登場に驚いた人類軍のファフナー達も、一瞬止めてしまった攻撃の分を取り返すといわんばかりに怒涛の攻撃を再開した。

 

(…頼む私に守る力を)

 

イーグル2が左腕を出すと巨大な防壁が展開され全ての攻撃を無力化した。

 

「イージスも無しで…凄い」

 

やがて空からの攻撃も交じるとルガーランスを空に突きだしそこからヴェルシールドのようなシールドを2機を包み込むように展開した。

 

「亮一。今だ」

 

「はい」

 

その隙にイーグル1は次々と人類軍のファフナーを打ち倒した。

 

砲撃が少なくなって来たところで空から煙幕弾が戦場に降り注ぐ。

 

「よくやった。撤退しろ」

 

2人は無事戦場を切り抜けた。

 

「今回は助かった。礼を言う」

 

「こちらこそ。ありがとう。これで奴らは壊滅出来ていればいいが」

 

「どうだろうな。あの手の組織は熱狂的な信仰者の手で復活する可能性もある。暫くは人類軍の上層部を注視する必要があるな」

 

「これで、任務完了ですね」

 

「そうだ。次に会う時は敵同士かもしれないな」

 

「…そうならないことを、祈っているよ」

 

「最後に悪いがこの端末はあと12時間後に完全に使えなくなる。処分をしておいてほしい」

 

「わかった。では私達はこれで失礼する」

 

海神島にコンタクトを取り帰還へ向かう2人。

 

「リベラル・イェーガー…思った以上に優れた軍人だった」

 

「…一区切りつきましたね」

 

「そうだな」

 

亮一の持っていた端末にメッセージが届く。

 

 

お前の本名は霧島だな、今回は見逃してやる。次は俺の手でお前を殺す。

 

 

霧島亮一。それが本当の僕の名前だ

 

 

「亮一どうした」

 

「端末本当に使えなくなりました」

 

「そうか。帰ろう私達の島へ」

 

「はい」

 

2年ぶりの任務はこうして幕を閉じた。非公式ではあるが、初めての任務達成に僕は安堵した。



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運命の器
第三十二話「旧交」


「よく無事で戻った。どうだケリはついたか」

 

「一応ついたと思います」

 

「そうか、それは良かった。コアによれば救出部隊も任務を成功させ、既に島に戻って来ているそうだ」

 

「総士が、帰って来る」

 

そのことに僕の心は昂っていた。

 

「確か皆城総士とはよく遊んだ仲だったと言っていたな」

 

「美羽姉が一緒によく遊んでくれてました。あとマリスも…」

 

「マリス・エクセルシア。日野美羽に匹敵する高いエスペラントとしての力を持ち、ベノンのもとへ去っていった人物でしたね」

 

「マリスは帰って来ますか」

 

「わからん。だがアイツがこの状況を招いた元凶だ。期待はしない方がいいだろう」

 

「そうですか…」

 

「亮一…」

 

「ほら、さっさと帰った帰った。母ちゃんに無事に戻った姿を早く見せてやれ」

 

「帰ろう亮一。私達の家に」

 

「失礼します」

 

「おう。母ちゃんによろしくな」

 

家に帰ると佐喜さんと陣内さんが母さんと立ち話していた。

 

「ただいま」

 

「お帰り。早かったわね。救出部隊はまだ戻ってないって聞いたけど」

 

「それが…」

 

僕達はありのままを3人に話した。

 

「成る程ね、それで私達に嘘ついて行った訳だ」

 

「ごめんなさい」

 

「溝口さんも溝口さんよ、そんな危険な任務を2人だけに任せるなんて」

 

「おやっさんも聞いた限りだと必要以上に島の人々が知る必要がない内容だと判断したんだろ、きっと真壁司令が帰ってきたら報告するさ」

 

「カンナ。平気」

 

母さんの一声にカンナさんの目が潤んで見えた。

 

「大丈夫です。今の私にはお義母さんと亮一がいますから」

 

「そう。それならよかったわ」

 

「ところで皆城総士とはどんな子なのですか」

 

「どんな子か…」

 

「総士は無邪気でね、泣き虫だった」

 

僕の総士に対する印象を聞いたカンナさんは困惑しているように見えた。

 

「皆城総士。その子は生まれ変わりなんだ」

 

「生まれ変わり…ですか」

 

「生まれ変わる前は、一騎君や真矢ちゃんと同年代の青年で、寡黙でその年代では一番大人びた雰囲気だったな」

 

「本当。大人顔負けの頭脳明晰さと大人びた性格してたわ」

 

「そうですか。総士くんも一騎くんとか真矢ちゃんみたいな無邪気なところありましたよ、花言葉を信じる純粋な心を持ってましたし」

 

「あの総士君が意外だ」

 

「恵は彼等と年も近いしそういった一面も見れたかもね」

 

僕は、一騎さんや真矢さんにそのような頃があったのかとそっちに興味が湧いた。

 

「今の総士君はどうなんだ」

 

「あまりしっかりと関わってないからわからないわ、恵は。亮一がよく一緒に遊んでたから付き添いとかで見てたんじゃない」

 

「今の総士くんは、そうね甘えん坊だったわね」

 

「甘えん坊ですか」

 

「うん。一騎くんにベッタリで、亮一や美羽ちゃんが誘うと最初は恐る恐るなんだけど徐々に一緒に遊び始めるの。その姿が可愛いらしくてね」

 

「亮一は弟みたいに可愛いがってたから、よく総士くんと一緒に遊びたがってね」

 

「僕って一騎さんとも遊んだことあるの」

 

「いや、一騎くんは任務で島を離れることが多いから総士くんを私に預ける為によく会ってたけど、亮一とはそんなに関わってないんじゃない」

 

「なにか亮一と皆城総士の思い出はないですか」

 

「そうね…色々あるわ」

 

そうして母さんは幼い日の僕と総士について語り始めた。



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第三十三話「彼方を見る浜辺」

「亮一と総士くんが初めて遊んだのは、確か…」

 

 

 

 

 

それは、恵がまだAlvisで仕事をしていた頃。亮一を迎えに行き家に帰る途中であった。

 

「お母さん、美羽お姉ちゃん凄いんだ。僕の考えてること全部わかっちゃうからトランプいっつも美羽お姉ちゃんが勝つの」

 

「そっか。美羽お姉ちゃん凄いね」

 

「僕も美羽お姉ちゃんみたいにお姉ちゃんの考えてることズバズバ当ててみたいな」

 

「亮一ならきっと大きくなったら出来るわ」

 

「本当に」

 

「自分を信じなさい」

 

「うん。お母さん今日も海見に行くの」

 

「…ちょっとだけいい」

 

「いいよ。あそこ僕大好きだから」

 

「そう。良かったわ」

 

恵は海神島に移り住んで以来、海を眺めることが習慣となっていた。

 

「椎名先輩」

 

いつものように海を眺めていると、制服を着た男が恵に話しかけてきた。

 

「一騎くんどうしたの」

 

「こんにちわ。亮一君」

 

「お兄さん。誰」

 

「真壁一騎さん。お母さんのお友達よ」

 

亮一は照れくさそうに挨拶をした。

 

「実は任務で数日島を離れることになるので、この子を預かってほしいんです。遠見も任務に参加するので預かり手を探してまして」

 

「私でいいの」

 

「そろそろ年の近い子達と関わらせたいとも考えていたので。お願いします」

 

「私達でよければ」

 

「ありがとうございます。総士ご挨拶だ」

 

「…」

 

「あらあら、照れ屋さんなのね」

 

少年は一騎の後ろに隠れたままなかなか顔を見せようとしなかった。

 

「ほら、総士」

 

「あっ」

 

一騎が背中を押すとようやく姿を見せた。

 

「大きくなったわね総士くんも、こんにちわ」

 

「こっ、こんにちわ」

 

「いいか総士。俺は暫くお仕事で一緒にいられない。代わりに恵さんと息子の亮一くんが一緒にいてくれるから。いい子で待っていてくれ」

 

「やだ。離れたくない」

 

ズボンの裾を掴み少年は一騎をジッと見た。

 

「総士…」

 

「痛い。イタタタ」

 

「亮一。なにしてるの」

 

少年の後ろから亮一は頬っぺたをつねっていた。

 

「何をするんだよ」

 

「悔しかったら僕を捕まえて追いかけてみろ」

 

浜辺を走る亮一。少年は必死に後を追った。

 

「…大丈夫そうね」

 

「総士をよろしくお願いします」

 

「わかったわ。必ず戻って来なきゃダメだよ。一騎くん」

 

「はい。あっ」

 

浜辺を走り回ったことの無かった総士は足を捕られ転けた。

 

「別に痛くないだろ、泣くなよ」

 

「泣いてない」

 

手を差し出す亮一。

 

「霧島亮一。よろしく」

 

「皆城総士」

 

手をとって起き上がった総士はその勢いで亮一を押し倒した。

 

「何するんだ」

 

「さっきつねったお返しだ」

 

「やったな」

 

浜辺を走り回る2人。これが2人の出会いであった。



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第三十四話「児戯の覚え」

「それで総士くんとよく遊ぶようになったわね」

 

立ち話もなんだと場所を食堂に移した5人はご飯を食べながら話しの続きをしていた。

 

「なに亮一。総士くんいじめたの」

 

「違いますよ、ちょっとからかっただけです。その後仕返しされましたし」

 

「あの頃の亮一は自分に弟が出来た気持ちだったんだと思います。総士くんと遊べるのが凄く楽しみだったみたいで、前日はなかなか寝付けなくなったりした日もあって」

 

「へぇー」

 

「やめてよ母さん。そんな昔の話」

 

「恥ずかしがることはない亮一君」

 

「陣内さんまで」

 

「はい鶏の唐揚げお待ちどうさま」

 

「おじさん。ありがとう」

 

「そういえばあの写真ある」

 

「写真」

 

「亮一と総士くんを御輿の前で撮ったやつ」

 

「あー。ちょっと待って…これね」

 

母さんが取り出した1枚の写真。

 

そこには御輿に乗った僕と総士、美和姉とマリスも写っていた。

 

「楽しそうですね」

 

「カンナは初めてだったわね。亮一の隣で一緒に御輿に乗ってるのが総士くん」

 

「この子が皆城総士」

 

「で美和姉の隣で僕達を見守ってるのがマリス」

 

「マリス・エクセルシア…この男が」

 

「この写真の私好きなのよ」

 

「あぁ。いい写真だ」

 

「そうですね。この写真はどのような時に撮られたのですか」

 

「確か亮一が3歳になった時だから…」

 

 

 

それは、僕と総士が出会って1年くらいが過ぎた盆祭りの時であった。

 

盆祭り。

 

母さん達が住んでいた『竜宮島』で夏の時期に行われていた「お盆」の習慣を引き継いだお祭りだそうだ。楽しく賑やかなお祭りではあるが

 

このお祭りでは、亡くなった人達の名前を書いた灯籠を海に流し成仏する風習がある。

 

僕の家では顔も知らないお爺ちゃんとお婆ちゃんの灯籠を流していた。

 

「総士~」

 

「亮一。遅いぞ」

 

「ゴメンゴメン。母さんが支度するのに手間取ってさ」

 

「誰のせいで手間取ったと思ってるの。わざわざ前日に浴衣着て汚してくれちゃってさ」

 

「あっ、あれは」

 

「なんだ亮一。そんなにこの祭り楽しみだったのか?」

 

「それは…」

 

「僕より年上なのにお子ちゃまだな~」

 

「なんだと」

 

「はいはい、こんばんは総士くん。一騎君は」

 

「こっ、こんばんは。お兄ちゃんは恵おばさんが一緒なら安心だから好きなように遊んでこいって何処かに行っちゃった」

 

「もう。一騎君ったら、じゃあ総士くん。勝手に離れちゃダメよ」

 

「はっ、はい!」

 

「なんで母さんに緊張してるんだ総士」

 

「うっ、うるさいな」

 

「ほらほら、2人共行くよ」

 

輪投げや金魚すくい、わたあめ作り…母さんに見守られながら2人で遊び尽くした。暫くすると美和姉とマリスに会った。

 

「こんばんは。総士、亮一」

 

「こんばんは」

 

「こっ、こんばんは」

 

「どうした亮一。モゾモゾして」

 

「なっなんでもないよ。」

 

首を傾げる総士、後ろでは母さんがクスクスと笑っていた。

 

「2人とも楽しんでる?」

 

「うん。輪投げは亮一より僕の方が上手だったね」

 

「金魚すくいは僕の方が総士より沢山集めたもんね」

 

「…楽しんでるね」

 

「亮一。そろそろ時間だから私はあっちに行くけど、美和ちゃん達とお祭り楽しむ?」

 

「えっ、いいの母さん!」

 

「美和ちゃん。マリス君、2人に任せてもいいかしら?」

 

「恵お姉ちゃん。美和も灯籠流しするから、一緒に行くよ。ねっ、マリス」

 

「…あぁ、そうだね」

 

「マリス…?」

 

「灯籠流しって何?」

 

「亡くなった人の名前が書いた小舟を海に流して弔うことなんだってさ」

 

「ふ~ん。そうなんだ」

 

「一緒に行こ総士も」

 

「なんだかつまらなそう」

 

「お子ちゃまだな~総士は」

 

「なんだと、亮一は楽しいのかよ。その灯籠流しとやらに参加して」

 

「そっそれは…」

 

「灯籠流しはね。皆の大切な人達が無事に過ごせますようにってお祈りをする年に1回の機会なの、折角だから総士くんもやってみる?」

 

「うっうん。…そのごめんなさい。」

 

「いいのよ。そのうち総士くんにもわかるわ」

 

5人で灯籠流しをする浜辺に向かうと多くの大人が集まっていた。

 

「この人達。皆誰か大切な人を亡くしてるの?」

 

「そうね。亡くなった理由はいろいろだけれど、大切な人だったからこそ、皆こうして見送っているの」

 

「亮一は誰を見送るんだ?」

 

「わからない。お爺ちゃんとお婆ちゃんみたいだけど、会ったことないし」

 

「お父さんは?いつもいないけど?」

 

「父さんは死んでない。きっと何処かで生きてるんだ。ねぇ、母さん」

 

「えぇ…きっと生きてるわ」

 

母さんの表情を見て総士はまたやってしまったと俯いた。

 

「ねえ、美和とマリスは誰を見送ってるの?」

 

「私達はお父さんとお母さんかな」

 

「そうなんだ…」

 

「気にするな、総士。お前のせいで俺達の親がいない訳じゃない」

 

「うん…」

 

「いた。探したよ美和ちゃん」

 

「真矢お姉ちゃんと千鶴ママ、探してたって」

 

「1人でふらっと家を出てから全然戻って来ないから、心配したよ…恵先輩と亮一くんと一緒だったんだ。こんばんは」

 

「こんばんは。真矢さん」

 

「あれ、総士?一騎くんと一緒じゃ…」

 

「私に預けて何処かへ行っちゃった」

 

「そっか…」

 

「どうしたの真矢お姉ちゃん」

 

「一緒にお姉ちゃんの灯籠見送ろうと思って」

 

「…僕はお邪魔かな、またあとでね美和」

 

「いいじゃない。マリス君も一緒に、皆で見送ってあげましょ」

 

「千鶴さん。ありがとうございます」

 

灯籠を見送る7人、静かな刻が流れた。

 

「パパとママにちゃんと届くかな?」

 

「届いたわ、きっと」

 

「終わった?早く行こ亮一」

 

「そうだな総士。行こう」

 

「もう、2人ったら」

 

「恵先輩。良かったら変わりましょうか」

 

「えっ」

 

「まだ…ここに居たいのかなと思って」

 

「…折角だしお言葉に甘えようかしら」

 

「母さんどうしたの?」

 

「もう少しここで眺めていたいなって」

 

「そっか…じゃあ行ってくるね」

 

「私もついて行こうかしら」

 

「お母さんはあっち」

 

「えっ、…そうね。そうさせてもらおうかな」

 

母さんはその場に残り、千鶴さんは遠くで海を眺めるあの方の元へと向かった。

 

母さんその代わりに真矢さんを交えて再び5人はお祭りを見て回った。

 

 

 

「当っり~、これ景品な」

 

「総士やったね」

 

「マリスが手伝ってくれたお陰だよ」

 

「マリス、僕も」

 

「いいよ、亮一」

 

4人の遊ぶ姿を真矢は懐かしげな表情で見守っていた。

 

「一緒にやらないのか?遠見」

 

「一騎くん…遅い」

 

「ごめん。」

 

「…いいの、これで。さっきまで射的やってたんだけど懐かしいなって思って。覚えてる?一騎くん。皆城くんと3人で射的した事」

 

「あぁ。俺と総士が落とせなかった景品を遠見が一発で落としたっけ」

 

「うん。」

 

「景品が銃で結局、俺達と一緒のハズレのりんご飴にしてたっけ」

 

「よかった。ちゃんと覚えてた。4人の姿見てたらあの頃を思い出しちゃった。無知で無垢なあの頃の私達を」

 

「でも。あの頃があるから今の俺達がいる…だろ遠見」

 

「うん。」

 

「総士は?」

 

「あそこで亮一くんと踊ってる」

 

「楽しんでるみたいだな、よかった。」

 

「真矢お姉ちゃ~ん」

 

(またな、遠見)

 

「えっ…一騎くん」

 

「あれ今一騎お兄ちゃん居なかった?」

 

「ついさっきまでね。どうしたの美和ちゃん」

 

「御神輿に総士と亮一くんが乗せてもらったの、写真撮って」

 

「いいよ。美和ちゃんも入りなよ」

 

「うん。」

 

真矢は微笑ましそうにシャッターを切った。

 

 

 

 

「真矢ちゃんからは、そう聞いてます。この写真が撮れた経緯」

 

「亮一は皆城総士と喧嘩ばかりだったのですか?」

 

「お互いに意識しあっていたのよ、きっと」

 

「喧嘩する程仲が良いってやつだな」

 

「この写真見るとなんでマリスくんが総士くんを連れ去ったのかわからないのよね」

 

沈黙する一同。すると凄い衝撃で建物が揺れた。

 

「なに、この揺れ」

 

すぐに鳴り響く警報。

 

「はい、将陵です。」

 

「すぐに警戒態勢に入いれ」

 

「なにがあったんですか?おやっさん」

 

「封印していた【例の機体】が復活した。」

 

それは、これから始まる試練の序章に過ぎなかった。



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力なき者
第三十五話「忘却の再会」


【例の機体】…それは第四次蒼穹作戦で『皆城総士』が搭乗し、多大なる成果を挙げこの海神島を護った美和姉の搭乗する『マークザイン』と対を成すザルヴァートル・モデル

 

『マークニヒト』

 

パイロットの『皆城総士』が同化現象によりいなくなったことで扱える者がいなくなり、世界樹『アショーカ』の加護のもと封印されていた『無の力』が復活した。

 

Alvisはすぐに警戒態勢に入り、僕もブルク待機を命じられた。

 

「僕は出撃しないんですか」

 

「そうだ。ダメだ」

 

「何故です。僕だって島の…」

 

「戦闘経験の浅いお前にあの怪物の相手をさせる訳にはいかん」

 

「保さん…」

 

「いいか、指示があるまではブルク待機だ。絶対だぞ」

 

保さんとの通信が切れた。

 

(状況はどうなっているんだ…)

 

僕はいても経ってもいられず、コックピットを降りた。

 

「どうした?亮一」

 

「外部の映像が見たいんです。いいですか?」

 

「あぁブルクにいる限りはいいと思うぞ」

 

「ありがとうございます。イアンさん」

 

外では既にアズライール・スサノオ・ツクヨミそしてマークザインが対処していた。

 

彼等は性能では圧倒的な不利なはずなのに、マークニヒトを軽くあしらっていた。

 

(これが、ここまで戦い抜いた戦士達の力…)

 

最後はマークザインがマークニヒトをなだめるように額を重ね合わせ、マークニヒトは沈黙した。警報も解除され、安堵の空気がAlvis内に流れる。

 

「一安心ってところだな」

 

「マークニヒトって誰も動かせないんじゃなかったんですか?」

 

「聞いたところでは、連れ戻した『皆城総士』がコアの導きで乗ったと聞いてるが」

 

「総士が…帰ってきた」

 

イアンさんの静止を振り切り僕は総士を探した。

 

「あれ?亮一は」

 

「皆城総士を探して何処か行ってしまったよ」

 

「ったく…あいつは、ファフナーに乗ってたんだから、ここに戻って来るに決まってるってのに」

 

「慌てん坊なお弟子さんだね。零央ちゃん」

 

「2人とも急いで医療ブロックに運ぶよ」

 

「了解。」

 

Alvis内を探して回っても見つけられずブルクに戻った僕はイアンさんから入れ違いで医療ブロックに運ばれたことを聞いた。

 

急いで医療ブロックに向かうと近藤先生に止められた。

 

「いつ会えるんですか?総士に」

 

「わからん。精密検査があるし、何よりニヒトで暴れちまったからな。そう簡単には開放されないだろう」

 

「そんな…って総士がマークニヒトに乗ってたんですか?」

 

「今さらだが、そうだ。総士が乗ったことでアレは目覚めた」

 

(総士がザルヴァートル・モデルに…凄いじゃないか。総士)

 

「早く会わせてください。近藤先生」

 

「面会出来るようになったら、教えてやるよ」

 

その日は諦め家に帰った。

 

 

 

その日の夕飯は総士の話しで持ちきりであった。

 

「そう…総士くんが」

 

「でも、まだ会えないみたいなんだ。近藤先生が面会出来るようになったら教えてやるって」

 

「お義母さん。前から疑問に思っていたことでもあるのですが、何故亮一や美和はファフナーに乗れるのですか?」

 

「どういうこと、カンナさん」

 

「私はファフナーに乗れるのは10代前半…それも思春期と言われる14,15歳から20代前半までと教わった。しかし、亮一や美和…それに聞く限り総士もまだその年齢ではない」

 

「…それはね、【肉体の年齢を無理矢理成長させた】からなの」

 

「それはどういうことですか?」

 

「美和ちゃんは前に話した『島外派遣』の時、アルタイルとコンタクトする際に身体が充分成長していなかった為にアルタイルとしっかりとしたコンタクトが取れなかったの、だから美和ちゃんはアルタイルとしっかりと対話する為に、アショーカに望んで身体を成長させたって聞いたわ」

 

「亮一は?その頃はまだ赤子なのだろ?」

 

「僕は…その…」

 

「亮一は、総士くんがマリスくんに連れさられた後に何も言わないで1人でアショーカの元に行って。自分から身体を成長させるように願ったの」

 

「…。」

 

「帰ってきた時は、驚いたわ。急に見た目が10歳前後の男の子になるし、一週間近く急激に身体を成長させた副作用で寝込むし」

 

「なんて無茶を」

 

「どうしても総士を救出する作戦に参加したくて。間に合わなかったけど」

 

「それだけ、亮一にとって皆城総士が大切な存在ということなのか、羨ましいな皆城総士が」

 

「勿論。それがカンナさんでも僕は一緒の行動をしてましたよ。きっと」

 

「ありがとう。」

 

僕の頭を身体に寄せて撫でるカンナさん。恥ずかしくも嬉しかった。

 

 

数日後。総士の状態が落ち着いたことを聞きつけ、医療ブロックを訪れた。

 

「近藤先生。どうして教えてくれなかったんですか?」

 

「亮一。やめておけ、今の総士に会っても傷つくだけだ」

 

「総士!」

 

扉が開くと、美和姉と総士がそこにいた。

 

「やっと戻ってこれたんだな、総士」

 

「誰だお前。」

 

「えっ…。」

 

僕達の関係は振り出しに戻った。



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第三十六話「失われた絆」

「誰だお前。なんで僕のこと知ってる。」

 

久しぶりに話す総士との第一声に、僕は戸惑いを隠せなかった。

 

「なに言ってるんだ総士。亮一だよ、霧島亮一。」

 

「だからお前のことなんて知らないって言ってるだろ。なんでここの連中は僕のことを知ってる風な顔で話しかけてくるんだ。」

 

「本当に覚えてないの総士?小さい頃美和と総士と亮一でいっぱい遊んだんだよ。」

 

「しつこいな。知らないって言ってるだろ、赤の他人の癖に馴れ馴れしく話しかけてくるな。」

 

「亮一!」

 

僕はその状況に耐えきれず、急いでその場を離れた。

 

「大丈夫ですか?亮一。」

 

僕が向かった先に暫くするとルヴィ姉さんが現れた。

 

「なんで総士は僕の事を忘れてしまったの?」

 

「貴方だけではありません。ベノンによってこの島で過ごした記憶を全て忘れてしまっています。」

 

「どうしてそんな事に」

 

「恐らく、純粋な『憎しみ』によって我々を攻撃させようとしたのでしょう。思い出は確かに人に『力』を与えますが、時として『足枷』にもなります。」

 

「思い出が足枷ってどういうこと」

 

「例えば、亮一は私と戦うことが出来ますか?」

 

「!?。そんなこと出来る訳ないじゃん」

 

「私が貴方の敵だとしてもですか?」

 

「そんなの想像出来ないよ。」

 

「そうですか…。では今の総士はどうですか?」

 

「えっ」

 

「今の総士は間違い無く貴方となんの躊躇いも無く戦うでしょう。亮一はどうですか?島を護る為に総士と戦うことが出来ますか?」

 

「それは…」

 

「亮一がそこで躊躇うのは、総士との大切な思い出があるから。違いますか?」

 

返す言葉も無かった。

 

「別にそのことを責めているのではありません。亮一の思っていることは間違いではありません。思い出が足枷というのはそういうことです。…貴方の総士に対する想いに偽りが無いのなら、また一から築き上げるばいいのです。総士との関係を」

 

「一から築き上げる…。」

 

「貴方なら出来ると私は信じています。亮一」

 

「ルヴィ姉さん。ありがとう」

 

「さぁ、帰りなさい。御家族が心配してますよ」

 

「うん。」

 

「亮一~」

 

声のする方向を向くと、カンナさんがこちらに走ってきていた。ルヴィ姉さんは瞬間でこの場から立ち去った。

 

「千鶴先生から、急に何処かに走り去ってしまったと聞いたから心配したぞ」

 

「ごめんなさい。」

 

「大丈夫か?総士にキツいことを言われたと聞いたが」

 

「もう大丈夫です。ここで初めて会ったんです総士に」

 

「ここがそうだったのか」

 

「総士の奴そのこと忘れているんです。酷いですよ全く」

 

「亮一…」

 

「だから…僕達は一からやり直すんです。今日から、その決意を固めてました。」

 

「そうか。また仲良く出来るといいな皆城総士と」

 

「はい」

 

僕はまだ知らなかった。『皆城総士』が世界に及ぼす影響を、そして僕とはかけ離れた存在だということを…。

 

 



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教え子
第三十七話「再構築」


暫くして、総士が僕の学校に編入して来た。美羽姉と同じクラスらしい。

 

「美羽姉~。総士~」

 

「亮一。お疲れ様」

 

「また、お前か懲りないヤツだな。あれから毎日のように僕の部屋に来て」

 

「だからお前って呼ぶなって言ってるだろ、僕の名前は亮一だ。」

 

「はいはい、それは悪かったな」

 

「~~~。そういえば総士、最近Alvisの部屋から解放されて島に住むようになったんだって?何処に住んでるだ?」

 

「美羽の家だよ。」

 

「えっ…美羽姉の家?」

 

「住まわせてくれると言われたから住んでいる」

 

「そうなんだ…」

 

「なんだ、文句でもあるのか」

 

「別に文句は無いけど」

 

「?」

 

「これから総士とお買い物に行くけど、亮一も一緒にお買い物する?」

 

「僕、用事があるから先に帰る。また明日ね」

 

足早に僕はその場から立ち去った。

 

「なんだアイツ」

 

「…亮一?」

 

 

 

「どうした亮一。そんなに落ち込んで」

 

その日の夕食。僕はそのことを母さんとカンナさんにその時のことを話した。

 

「そっか、良かったわね総士くん島で生活出来るようになって」

 

「うん…」

 

「なんだか、あまり嬉しそうじゃないな亮一」

 

「だって…美羽姉の家にだなんて」

 

「遠見さんが彼を監視しやすいからなのだろう」

 

「そうなのかな」

 

母さんはクスクスと笑っている。そんな母さんをカンナさんは不思議そうに見ていた。

 

「だが、せっかく3人で出掛けられたのに一緒に行けばよかったじゃないか、今日は道場休みだった訳だし」

 

「それは、そうなんだけど」

 

「まぁ、島にいればまた沢山思い出を作る機会はあるわ焦らず総士くんとの関係を築いていきなさい」

 

「うん…」

 

そして思わぬ形で総士との関係が急速に築かれることとなった。

 

 

 

暫くして僕はAlvisのトレーニングルームに呼ばれた。

 

「シュミレーションによる模擬訓練…ですか?」

 

「そうよ」

 

「でも真矢さん。僕は既に実戦経験済みですよ、なんで今更シュミレーションなんですか?」

 

「シュミレーションが必要なのは彼よ」

 

「…総士?」

 

「なんだお前か、お前もファフナーに乗れたんだな」

 

「そうだよ。もうフェストゥムとも戦って倒してるんだ」

 

「なんだと…お前みたいなヤツが僕よりも先にファフナーで戦ってる?本当ですか遠見さん」

 

「本当よ」

 

「では僕が総士の模擬戦の相手をすればいいんですか?」

 

「えぇ」

 

「へん、実戦経験があるからなんだ!僕の力はお前より上だと証明してやる」

 

「素人パイロットに負けないもんね」

 

「素人じゃない、僕は遠見さんと零央さん、美三香さんと戦ってるんだ」

 

(…機体に完全に呑まれてたけどね…)

 

「僕だって、模擬戦で戦ってるよ」

 

「へん、僕は実戦だからな」

 

「そこまで。じゃあ10分後に始めるから2人とも準備して」

 

準備を終え、シュミレーションの模擬戦が始まる。

 

僕の目の前に現れたのは、『マークニヒト』であった。

 

 



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第三十八話「好敵手」

目の前に現れた『マークニヒト』に僕は驚愕した。

 

「なんで総士はマークニヒトなんだよ」

 

「彼が乗ることになるのはこの機体よ、より実戦に近い状態を想定しているのだから当然よ」

 

「そんな~」

 

「なんだ、お前怖いのか?僕が」

 

「…そんな訳あるか!機体のハンデなんて僕には関係無いもんね」

 

「無理して見栄を張らなくても、お前なんて一瞬で倒してやるよ」

 

「なんだと」

 

「亮一くん。これはあくまで現時点での配置よ、彼にあの機体の適正が無いと判断したら、すぐに降ろして別のファフナーに乗せるわ」

 

「なんだって!?そんなの聞いてないですよ」

 

「当然よまだ見極めている段階なんだから、…あと亮一くん。貴方にとってもこれは大事な訓練よ」

 

「えっ」

 

「今後激しさを増す戦いに貴方を参加させるか否かを決める訓練になるわ」

 

僕の中で一気に緊張感が増した。

 

「少なくとも、今の彼に勝てないようならばこれからの戦いに貴方を参加させることは出来ないから。そのつもりでこの訓練に挑むように」

 

「わっ、わかりました」

 

始まる訓練、設定上SDPが使えない為僕はメデューサで牽制しつつ、ワームスフィアやアンカーに当たらぬようにガンドレイクで弾きながら徐々に距離を詰める。

 

 

暫くして先輩3人組が様子を見に来た。

 

「失礼します。どうですか?訓練の方は」

 

「………観ての通りね。」

 

「おー。やってるやってる、でっ2人のお師匠さんはどっちが勝つと思う?」

 

「俺に振るな。…まぁ間違い無く勝つのは…」

 

「…どっち?どっちなの?」

 

「言わねー」

 

「えっー零央ちゃんのケチ」

 

「大方の予想通りという感じでしょうか?」

 

「そうね。」

 

「問題はそこじゃねーけどな」

 

「零央、どういうこと?」

 

 

 

「訓練終了。2人共お疲れ様」

 

3戦を約6時間にかけて行われた訓練。結果は…

 

「皆さん見てたんですね!どうでした?僕の戦いは」

 

「亮一くん。ビックリしちゃったよ、いつの

間にかこんなに成長しちゃって」

 

「美三香さん、くっ苦しい…」

 

「あっ、めんごめんご」

 

「でも本当に驚いたよ、特にガンドレイクにワイヤーを巻きつけてヌンチャクのように扱ってアンカーを弾いたところは参考になったよ」

 

「エヘヘ。そうですか?でもアレは彗さんの戦い方を参考にしたんですよ。どうでした零央師匠」

 

「…ニヒトを倒したのはよくやった。」

 

「僕成長出来てますかね?島の力になれますかね?」

 

「成長はしている。だが過信するな、過信は隙を生み、その隙はお前自身に刃を向ける。それを胆に銘じとけ」

 

「はい!」

 

師匠に褒められ喜んでいると、師匠はすぐに総士のもとへむかった。

 

「…あいつに1回も勝てなかった」

 

「ったりめーだ。亮一は俺が一番ミッチリ鍛えている後輩パイロットなんだ。訓練はじめたばかりの今のお前に負けたら、俺の名折れだ」

 

「くっそ…」

 

「だが、ニヒトのコントロール…精神のコントロールって点では俺の予想を遥かに超えて安定し、モノにしている。その調子で鍛錬を怠るな」

 

「あっ、ありがとうございます…」

 

総士は満更でもない様子だった。

 

「今日は2人共ゆっくり休みなさい。これで解散だから」

 

真矢さんはそう言って立ち去ってしまった。

 

お辞儀をして見送ると総士が手を差しのべてきた。

 

「どうしたの?」

 

「今日は、僕の負けだ。だがこのままにするつもりは無い。明日から僕の特訓に付き合え、亮一」

 

「総士…いいよ。でも勝ちを譲るつもりはないから」

 

「当然だ。僕は自分自身の力で亮一や零央さん。そして真壁一騎を越えるんだ」

 

ガッシリと握られる両者の手。そんな総士との雰囲気に僕は何処か懐かしさを感じていた。



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第三十九話「競い合う日々」

あの日から僕と総士の切磋琢磨しあう日々が始まった。

 

「どうした亮一。また僕の勝ちだぞ」

 

「まだだ…もう一本!」

 

「挑むところだ」

 

「くっそ~またシュミレーションで負けた」

 

「総士は単純だから動きが読みやすいんだよね」

 

「僕の動きが単純だと!?ならば…よし…こうすれば…。よし亮一もう一回だ」

 

「わかった。いつでも来な総士」

 

「2人共お互いを意識してこの数日でまた急成長をとげてるね」

 

「本当だよね。どうですか2人の成長の様子はお師匠さん?」

 

「…順調に進んでるとは思う」

 

「なに~零央ちゃん。もしかして2人が急に自分の手を離れて寂しいの?」

 

「そんなんじゃねぇーよ…総士。30分後にいつもの俺達とのプログラムをやるぞ。それまでに準備しておけよ」

 

「わかりました」

 

 

 

(…そうですかやはり)

 

(えぇ。貴方としてはどう?一番身近で見守ってきた貴方としての考えは)

 

(俺も、同じ感想を抱いていました)

 

(…辛いなら私が言うけど)

 

(いえ、俺に言わせてください。これは今まであいつを見てきた俺のケジメです)

 

(そう…じゃあよろしくね)

 

(わかりました)

 

「零央師匠どうかしましたか?」

 

「亮一か…いやなんでもねーよ、お前はこの後どうする?」

 

「カンナさんに稽古つけてもらうので大丈夫です。総士のやつビシバシ鍛えてやってください」

 

「あぁ、わかった。しっかり励めよ」

 

「はい!」

 

どこか浮かない師匠の表情がずっと気になった。

 

 

 

 

「そうか、それは気になるな」

 

カンナさんと鍛錬中、そのことを相談してみた。

 

「私が会っている時はそのような印象は無かったがな、美三香さんとの仲も変わらず良好だ」

 

「気のせいなのでしょうか?」

 

「うむ…私よりも亮一の方が付き合いが長いからな、細かい変化にも気がつきやすいのかもしれん」

 

「そういうものなのでしょうか」

 

「恐らくな、ところで亮一。昨日からのこの急激な環境の変化について何か聞かなかったか?」

 

「じきに調査報告が公表されると言ってましたけど、なんでもベノンの影響みたいです。ルビィ姉が言うには『マレスペロ』のSDP『絶対領域』という、感覚を強制的に遮断する領域を展開して、生命活動を停止に追いやる力が海神島を覆っていると」

 

「そうか…先日マリス・エクセルシア達が接触を図って来たと聞いてもしやとは思っていたが、やはり見つかったのだな、ベノンに」

 

「はい。…マリス………。」

 

「敵になった相手のことを考えても今はどうしようも無い。島を護る為に自身のやれることをする。そうだろ」

 

「そうですよね。カンナさん続きお願いします」

 

「あぁ、行くぞ亮一」

 

 

 

翌日。慕っていた師に呼ばれ伝えられたのは自身の予想を裏切る内容であった。

 

「亮一。今後の作戦でお前をパイロットから外す。」

 

戦う決意を固めた少年に突き付けられた苦渋の宣告。それは彼の歯車を狂わせる事となる。



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その傍らに
第四十話「叶わぬ望み」


「師匠。どうして僕は今回の防衛戦に参加出来ないんですか?外の世界で実戦も経験し、マークニヒトにもシュミレーションで勝ちました。なのにどうして」

 

「………。」

 

師匠から告げられた宣告に納得のいかない僕は、おもわず突っ掛かる。

 

「亮一くん。これはね零央ちゃんが悩みに悩んで決めた事なんだよ」

 

「そんなの納得いきません。これまでと違ってしっかりと実績は残しています。」

 

「亮一くん。これは防衛戦だからね。君の戦闘スタイルでは長時間の戦闘は困難だと判断された結果なんだ」

 

「そんな、防衛戦なら陸戦型で近接戦闘の師匠の方が向いてないんじゃないですか?僕は中距離でも対処出来ます」

 

「亮一くん。前にも言ったわよね。これは様々な点を考慮して下された命令よ。Alvisの一員としての自覚があるのなら従いなさい」

 

「なら僕が納得のいく説明をしてください。只でさえ人員不足なのに戦える人を召集外だなんておかしいですよ。それにファフナーの戦闘なら美羽姉や総士よりも、僕の方が…」

 

「美羽ちゃんは彼女の力によって無駄な戦闘を避ける事が出来るし、彼も戦闘力では充分な力を持っているわ。貴方に出来る?あの機体を扱うことが」

 

「それは…出来ないです、でもそもそもマークニヒトは総士以外動かせないのでしょ。ならマークニヒトって観点を差し引いたら僕だって…」

 

「亮一。これを観ろ」

 

師匠から渡された1つの映像。そこには先日の総士との模擬訓練が纏められていた。

 

「これは、初めて総士と訓練した時の」

 

「そうだ、何か気がついたことはあるか?」

 

「気がついたこと…ですか」

 

「そうだ。お前の『フレイヤ』について気がついたことはあるか」

 

「何かおかしいのですか?」

 

「自分の機体をよく視てみろ」

 

よく観てみると、被弾した箇所のペイント弾がどの戦闘でも複数箇所ついていた。

 

「こんなに被弾していたんですか、僕」

 

「そうだ。ファフナーに乗る以上機体の損傷は痛覚として自分の身体にも残る。損傷箇所によっては致命傷にもなりうる。ましてやお前の身体は見た目は立派だが、本来10代前後のファフナー搭乗の条件下からは離れた身体だ。そんな身体でその映像のような損傷を受けたら、お前の身体が持たない危険性がある。」

 

「………。」

 

「それにだ亮一が指摘したように、人員不足な状態で戦闘不能になった機体をフォローするのは非常に困難だ。その穴埋めの為に担当エリアを放棄しなければならなくなる。そんなことしたらそこから突破されて島が滅ぶ。ここまではわかるか?更に損傷した機体を追撃されて命を落とす可能性も高くなる。」

 

「なんで総士は…」

 

「あいつの機体は損傷しても自己再生するからな、あいつが無事なら問題はない。これがお前を今後の戦闘から外す理由だ。これまでと桁違いに激しい戦闘になる事がわかってるからな。この結論に至ったんだ。」

 

「…でも、僕も師匠達と一緒に島を護る為に戦いたい」

 

「亮一。戦いに私情を挟むなって教えただろ?お前の力はこれから先に必ず必要になる。だから今は俺達の判断を信じてくれねーか?」

 

「…でっでも、皆さん長い間戦い続けて身体はボロボロじゃないですか。同化現象の末期症状もいつ発生するかわからないし、1人でも増えればそれだけ皆さんへの負担も…」

 

「亮一。いい加減にしろ」

 

「でも、それでもやっぱり納得出来ないですよ。その訓練の日から更に成長してるって皆さん言ってくれたじゃないですか」

 

「亮一!!!」

 

師匠の怒号が響き渡る。ここまで怒る師匠は始めてだった。

 

「命令に従えないというのなら、破門だ。二度と俺の前に顔を出すな」

 

「えっ………そんな………うぅっ………うわぁー」

 

「亮一くん。ちょっと零央ちゃん幾らなんでも…零央ちゃん…」

 

拳を握り締める零央。その場にいた者は彼の心情を推し量り沈黙を貫くしか無かった。

 

「ったく。亮一のやつ勢い良く人にぶつかっておいて謝りもせず何処かに走っていって。なんだよ」

 

「あの…皆さん何かあったんですか」

 

 

 

「おかえり亮一。ちょっとどうしたの?亮一、亮一」

 

「配達から戻りました。お母さんどうしました?」

 

「カンナ…亮一が今帰ってきたんだけど、あの子何も言わないと一目散に自分の部屋に籠っちゃたのよ」

 

「亮一が…そういえば今日亮一はAlvisに呼ばれたんですよね?何かあったのでしょうか?」

 

「あの子があんな表情見せるだなんて…ちょっとそっとして置いてあげましょ」

 

「いいのですか?」

 

「落ち着くまで待ってあげた方がいいわきっと」

 

「そうですか…わかりました」

 

2人が様子を見ようとした矢先。総士が亮一の家を訪ねて来た。



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第四十一話「衝突」

亮一の家を訪ねる総士。

 

「すみません。亮一君居ますか?」

 

「あら、総士くんどうしたの?」

 

「ちょっと亮一君と話しをしたいのですが」

 

「それが亮一。Alvisから帰ってきてから、部屋に籠っててね、反応が無いのよ」

 

「Alvisで何があったか知っているのか?皆城総士」

 

「どうやら、パイロットから外されてふてくされて出てったみたいですよ」

 

「パイロットを外された?」

 

「ちょっと総士、今はやめなよ」

 

遅れて美羽が駆けつけた。

 

「なんだ美羽か、こういう事は先延ばしせずにハッキリさせておくべきなんだよ」

 

「…じゃあ総士くん。お願い出来るかしら」

 

「いいの?恵お姉ちゃん」

 

「事情を詳しく知らない私達には、本人が話してくれるまでどうしようも無いし、総士と美羽ちゃんにならもしかしたら何か話してくれるかもしれないから。よろしくね。」

 

「わかりました。」

 

「おい、亮一!」

 

「ちょっと総士」

 

「…大丈夫でしょうか?」

 

「…大丈夫よ。きっと彼等なら」

 

ドンドンと誰かが近づいてくる音がする。

 

「亮一。美羽だよ。どうしたの?」

 

「………放っといてよ」

 

「お話ししよ。美羽と」

 

「一人にしてよ!美羽姉ならなにがあったかもうわかってるんでしょ」

 

「亮一………あのね。きっと零央さんは」

 

「情けないな。パイロットから外されたくらいで」

 

「なんだと」

 

扉の向こうから聞こえた総士のいつもの口調が許せなかった。

 

「総士に何がわかるのさ。島の力になりたくてここまで修練を積んできたのに、それをそれを一番傍で見てくれた零央さんに否定されて、あげく絶縁だなんて………」

 

「………。」

 

「皆に特別扱いされている総士になにがわかるのさ!」

 

「言いたいことは、それだけか?」

 

「えっ」

 

「確かに僕はここの人達にとって重要な存在だから特別扱いされている面はあるのかもしれない。でもベノンのスパイじゃないか疑われていた僕から今の僕になったのは、僕が僕の成りたい僕を目指した結果だ。正直パイロットとしての実力なんて亮一と大差ないと思うし。」

 

「実力は僕の方がまだまだ上だもん。それに師匠として仰ぐ人に絶縁を言い渡された気持ちなんて」

 

「わかるもんか。でも別れという意味では、僕はこの島に連れて来られる前に妹を殺されている。真壁一騎に」

 

「一騎さんが?!そんな」

 

「総士。だからそれは」

 

「君は黙っていてくれ、アイツがなんで乙姫を…妹を殺したのかはわからない。だけどだから繋がりが無くなる時の辛い気持ちはわかる。亮一はいいじゃないか。まだいくらでも話す機会があるんだから」

 

僕は何も返す言葉がなかった。

 

「全く。零央さんも大変だな。こんなお子様が一番弟子を名乗ってるなんて、なんで零央さんがそんな事を言ったのか考えてみろ」

 

「うっ」

 

「まぁ、そこで一生塞ぎ込んでいろ。その間にどんどん僕は先に進んでやるからな、じゃあ。行こう美羽。」

 

扉の向こうからまた音が聞こえる。僕は言い返したくて急いで扉を開けた。

 

「なんだ。元気あるじゃないか」

 

「言いたい放題言ってくれたな。総士」

 

「悔しかったら、僕を見返してみろ。………僕は少なくとも亮一のお父さんに敬意を評するよ」

 

そう言い残し2人は家を後にした。

 

(僕の父さん………)

 

「随分言い争っていたようだが、大丈夫か亮一?」

 

心配そうな表情のカンナさんが声をかけてくれた。

 

「大丈夫です。ありがとうございます。カンナさん……母さん」

 

「どうしたの?」

 

「僕の父さんについて教えて」

 

知っているようで、よく知らない父の存在をこの時初めて知る事になった。

 



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第四十ニ話「運命に抗った男」

僕はここまでの出来事を2人に話し、母さんに自分の父親について尋ねた。

 

「そう………総士くんがそんなことを」

 

「その人はあの写真の方ですよね?」

 

「そうよ、霧島亮介。私の夫で亮一の父親」

 

「私も興味あります。そのなんというかその方についてなんだか聞いてはいけない気がしていたので」

 

「あらどうして?」

 

「亮一の幼い頃の話しを聞いていた時にちらっとお父様の話しになるとその……心無しかお義母さんが悲しそうな顔をしていたので」

 

「僕もなんとなく父さんの話しをすると母さん寂しそうになるから聞かないようにしてた。」

 

「そっか。ダメね私も、乗り越えたつもりでいたけど2人に気を遣わせてたのか」

 

「どんな方なのですか?」

 

「とても夢や目標に真っ直ぐでね。曲がった事が大嫌いで、でも誰よりも人やその場に気を遣うから傷付きやすくてそんな彼だからどんな事があっても信用出来たし応援してた。気づいたら彼と結ばれて、亮一を授かったわ」

 

「なんだかわかる気がします。御会いした事はないけれど飾ってある写真から真っ直ぐさやお義母さんを大切に想っている優しさが伝わってきます。」

 

「フフ、ありがとうカンナ。」

 

「父さんの夢ってなんだったの?」

 

「ファフナーのパイロットになること」

 

「成れたの?」

 

「うん。成ったよ凄く苦労したけれど」

 

「苦労……ですか?ファフナーパイロットは選抜されるモノなので苦労というのは今一ピンときませんが」

 

「パイロット候補ではあったんだけど、当時原因不明のトラブルでファフナーに乗れなくて。乗れる素質はあるのにイレギュラーで乗れないことに苦悩していたわ。」

 

母さんは当時の思い出を嬉しそうに懐かしみながら思い出し語り始めた。

 

「そんな事があるのですか?」

 

「ええ、最終的に乗れたのは零央くんや美三香ちゃんや彗くんのあとだから7年くらいかかったのかな?」

 

「そんなにも………」

 

「彼の苦悩をいつも傍で見てたからその時は自分の事みたいに嬉しかったのを覚えているわ」

 

「それでその後は?」

 

「………今はこの島には居ないの」

 

「やはり、そうでしたか。」

 

「カンナは後で調べるといいわ『第四次蒼穹作戦』で『竜宮島』が封印される際に島に残ったの、封印中の島の防衛力を懸念してね。だから今は何処にいるのかわからないの」

 

「生きてるとはわかってるつもりなんだけど、島は無事なのかわからないし、不安になる時が未だにあるわ」

 

「お義母さん………」

 

「大丈夫だよ。母さん」

 

「亮一?」

 

「父さんはきっと今も『竜宮島』を守って僕達の帰りを待ってる。母さんはこれからも父さんを信じてあげて」

 

母さんは僕の自信に溢れた顔を不思議そうに見ていた。

 

僕も何故か自分の発言に自信があった。

 

「吹っ切れたようだな亮一」

 

「うん。総士が言いたかった事がわかった気がする。ありがとう。母さん」

 

母さんから聞いた父さんの生き様。それは失意の僕の心に確かに刻まれた。

 



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帰らぬ人となりて
第四十三話「君を許すように」


ベノンによる海神島への侵攻が始まった。僕は『フレイヤ』の中にいた。

 

それはファフナー部隊が発進を終えたタイミングであった。

 

「・・・亮一?お前ここで何してる。」

 

「あっ、剣司さん。その・・・」

 

「お前はこの作戦は未招集で居住区に避難しているはずだろ。なんでブルクにいるんだ。」

 

「クルスが揉めたと聞いて気になってつい」

 

「………」

 

「羽佐間先生?」

 

「ったく。問題ねーよ、どこで聞いたんだそんな情報」

 

「それは・・・」

 

「困ったわね、いくらAlvis内部とはいえ作戦行動中よ。居住区へ亮一くんを送り届けることは難しいわ」

 

「CDCに問い合わせてはおくか」

 

「とりあえず、『フレイヤ』の中に入ってろ」

 

「いいの剣司くん。勝手に乗せて」

 

「とりあえずの暫定処置ですよ容子先生。下手にAlvis内をうろつかれるより、俺達が把握出来る範囲内にいてくれていた方が安心ですし、一応こいつもパイロットですから最悪ファフナーを動かすことも可能です」

 

「それもそうね」

 

「CDCからはこちらに任せると連絡が来た」

 

「機体から絶対に出るなよ亮一」

 

「はっ、はい!」

 

断続的に発生する揺れ

 

静まり返るブルク。コックピット内には剣司さん達の緊迫した声がときより聞こえてくる。

 

「なんだ、通信障害なのか!?急に他の場所とコンタクトが取れなくなったぞ」

 

「各部署で電力障害が起きてるようだわ」

 

「なっ…敵が内部に侵入してるんですか?」

 

「わからん。だがCDCが保安部隊に調査を要請したのを最後に状況がわからなくなったぞ」

 

(保安部隊…ってカンナさん。大丈夫なの)

 

 

 

 

皆逃げて

 

 

 

「剣司さん。今」

 

「なんだ亮一通信に割り込むな」

 

 

「今。ルビィ姉が」

 

「こっちは僅かに入ってきたCDCがやられたって状況の後追いをしてるんだ。後にしてくれ」

 

 

「でも、ルビィ姉の声が」

 

通信が切れてしまう。外の状況がわからないこの閉め切った空間に僕は徐々に耐えられなくなっていた。

 

「剣司さん出して怖い。怖いよ」

 

「駄目だ。CDCがやられた可能性がある以上お前にとってそこが一番安全な場所だ」

 

「皆どうなってるの?総士は?ルビィ姉は?カンナさんは?」

 

「こっちも状況を把握出来てないんだ。静かにしていてくれ」

 

剣司さんの聞いたことの無い張り詰めた怒声に事態の深刻さが表れていた。

 

沈黙して暫く電力が復旧した。

 

「剣司くん。どうやら第3CDCが立ち上がり。真壁の生存も確認されたようだ」

 

「そうですか、真壁司令の無事が確認出来たならあとはどう合流して建て直すかですね」

 

「それが、指揮権限が第3CDCに委託されたようだ」

 

「………司令になにかあったんですか」

 

「わからない。現状わかっているのはファフナー部隊が全員無事だということくらいのようだ」

 

「そうですか………鏑木?どうした………そうかわかった」

 

「鏑木くんどうしたの?」

 

「例のプランを実行するようです」

 

「そうか、現状打開にはそれしかないのか。」

 

(一騎………)

 

剣司さんと小楯さんの会話を最後に沈黙したブルク。

 

その沈黙は機械音によって破られた。

 

「皆よくやってくれたお疲れ様」

 

「なんとか切り抜けることが出来ました。こちらの被害は」

 

「………まだ全てを把握している訳ではないが、かなり深刻だ」

 

「そうですか………」

 

「まずは2人ともゆっくり休め」

 

「はい。」

 

「お言葉に甘えて」

 

(この声は師匠と美三香さん?戦闘は終わった?)

 

「そんなお母さんは」

 

「おい遠見」

 

「待ってお姉ちゃん」

 

(今のは真矢さんと美羽姉。なんだか真矢さん凄く切羽詰まった声だったけどなにかあったのかな?)

 

機体を出ると既に誰も居なかった。

 

人を探しながらブルクを歩き回っていると

 

「無事だったか亮一」

 

カンナさんが出入り口で待っていた。

 

「カンナさん無事だったんだね。お疲れ様」

 

「バカ者。組織に属する人間ならば、身勝手な行動はするんじゃない」

 

「ごっ、ごめんなさい」

 

「無事で良かった。帰ろう。お義母さんも心配している」

 

帰路につく2人

 

「カンナさん。なんだか凄く深刻そうな状況だったけど、なにか知ってる?」

 

「まずは家に帰えろう。そこでしっかり話す。お義母さんにはしっかり話さなきゃいけないこともあるしな」

 

神妙な面持ちで歩くカンナさん。繋ぐ手から力強さを感じた。

 

そして家にてカンナさんから語られる今回の被害状況。数々の衝撃を受けながらカンナさんが大きく深呼吸をして語ったのは

 

 

 

 

竜宮島の母がいなくなった

 

 

 

 

という知らせだった。



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遺されしを伝え
第四十四話「偉大な功績」


先の戦いで亡くなられた人達を弔う合同葬儀が執り行われた。

 

「恵さんはいないのか?」

 

参列後、総士がこちらに会いにきた。

 

「まだ式場の中だよ、どう真矢さんや美羽姉は?」

 

「どうもこうもあるかよ、辛気臭いから帰る途中だったけど抜け出してきた。」

 

「2人についててあげなよ」

 

「美羽はともかく、遠見さんなら大丈夫だ。彼女は感情を制御出来る人だからな」

 

「そういうことではないぞ皆城総士。彼女の立場上下手に人前で自分の弱った姿を見せられないのであろう。家族であるお前が支えてやれ、ただでさえ実の母親を亡くしたんだ。そのショックは計り知れないであろう」

 

「と言われてもどうやって励ますんだよ。あんたはどう乗り越えたのさ」

 

「私か?」

 

「こういった経験はこの島の人よりあんたの方が多いんじゃないのか?」

 

「どうだろうな、この島の人達も沢山の辛い経験はされているはずだ。ただ言えるのは私の場合は仲間の存在が大きかった」

 

「仲間の存在?」

 

「幼き日に両親を亡くした時も、引き取ってくれた第2の親を亡くした時も、義兄弟との別れも………信頼出来る仲間達が何も言わなくとも傍にいてくれた。そして今は自分のことのように私を心配してくれる亮一と恵さんがいてくれる」

 

「カンナさん………」

 

「だからこそ、今2人の支えになることが大事だと私は思うぞ皆城総士」

 

「支えて癒すか・・・なにか違う気がする」

 

「なにが気になるのさ」

 

「わからない。けどそれは‘‘正しい‘‘とは思うけれど‘‘正解‘‘ではないと思う」

 

「どういう意味?」

 

「だから、わからないと言っているだろ。ちゃんと聞けよ」

 

「総士が分けのわからないこと言うからだろ」

 

「二人ともそこまでだ、皆城総士。迷いがあるのなら先ずは動いてみてはどうだ?自分の‘‘正しい‘‘と思ったことを」

 

「確かに、それもそうだな・・・」

 

「・・・総士?」

 

「すまない。直前の千鶴さんのことを思い出して」

 

首を傾げる僕とカンナさんに総士はある時の出来事を語り始めた。

 

「きっかけは些細な事だったんだ。美羽が千鶴さんのことを‘‘ママ‘‘と呼ぶことに疑問を感じて何故‘‘ママ‘‘と呼ぶのか聞いたんだ。」

 

「?なにかおかしい?」

 

「おかしいだろ、美羽にとって彼女は自分の母親の母親・・・つまり‘‘祖母‘‘だ」

 

「そういえばそうだね。美羽姉がずっとそう呼んでるし別に変だなと思わなかったから気にしてなかった」

 

「これだから亮一は・・・まあいい。その過程で千鶴さんが行ってきたことを知った。亮一にわかりやすく説明すると、『フェストムに対抗出来る人間を作り出す』って感じか」

 

「えっ・・・それって」

 

「端的に分かりやすく伝えたから語弊があるかもしれないが、勘違いするなよ。フェストゥムが出現した時当初の人類にはヤツらの『同化現象』に対抗する手段が無かった。」

 

「・・・。」

 

「そこで千鶴さんは『フェストゥムから子ども達を守る為に』研究を重ねた。そして誕生したのが、真壁一騎や遠見さん、近藤さん達の世代・・・そしてそういった者達がフェストゥムに対抗する為に造られたのが『ファフナー』だ」

 

「そうなんだ・・・」

 

「・・・君の場合は『メモリージング』とやらで知ってるんじゃないのか?」

 

「亮一はお義母さんと亮介さんとの‘‘自然受胎‘‘で生まれたと聞いた。もしかしたらその『メモリージング』とやらは当てはまらないのではないか?」

 

「そうか・・・美羽も‘‘自然受胎‘‘だと聞いているしその可能性もあるのか」

 

「う~ん。カンナさんはどうやってファフナーに乗れるようになったの?人類軍の人達も今ファフナーに乗れるけど」

 

「私達の場合は昔、竜宮島に技術提供された『マカベ因子』を注入することでファフナーに乗れるようになった。」

 

「・・・話が逸れてしまった。その時千鶴さんは『自分の‘‘罪‘‘が清算される日が来ることを覚悟している』と言っていたんだ」

 

「千鶴さんの‘‘罪‘‘とは」

 

「研究の為にその当時あらゆる禁忌とされていた技術を使ったそうだ‘‘遺伝子操作‘‘とか」

 

「でも!そのお陰で今の僕達があるんでしょ?」

 

「その通りだ。僕も千鶴さんの研究のお陰で今、力を持てていることに感謝していると伝えた。でも千鶴さんの中には‘‘子ども達を兵器にしてしまった‘‘という意識が拭えなかったようなんだ。ずっと」

 

「私は千鶴さんの医者としての一面しか知らないから皆に分け隔てなく優しい方だという印象しか持たなかったがそのような苦悩を抱え過ごされていたのか」

 

「僕も母さんが仕事で一人になる時に一緒に遊んでくれた‘‘お母さん‘‘って印象しかなかった」

 

「僕もさ、この島に連れて来られて最初から受け入れてくれたのは美羽と・・・千鶴さんだった。2人が反発する僕をずっと受け入れてくれたから僕は・・・こうしてここにいる。」

 

珍しく総士の頬に雫が流れていた。

 

「だから僕は千鶴さんが遺してくれたモノを決して無かったことにしたくない」

 

「僕もだ」

 

「あぁ、私もだ」

 

「2人とも・・・・・!?そうか分かったぞ」

 

「総士?」

 

「2人ともありがとう。お陰で僕の中の‘‘正解‘‘がわかった」

 

そういうと総士は足早にその場を後にした。

 

「千鶴さんの遺してくれたモノか・・・・」

 

「母さん。」

 

「私達がいつまでも下を向いてたら千鶴さんが浮かばれないね」

 

「お義母さん。」

 

「さあ帰るよ2人とも」

 

 

 

 

 

貴女の遺した衝撃は凄まじいものがあった。あの光景は今でも目に焼き付き思い出すたびに胸が締め付けられ自然と涙が溢れてくる。しかしそれ以上に貴女は多くのモノをこの世界に遺してくれた。

 

 

 

 

 

我々は貴女と貴女の功績を決して忘れない。



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第四十五話「歩みを拒む者」

先の戦いのキズを少しづつ癒そうとする海神島に、元凶からのメッセージが届いたと聞いたのは、合同葬儀が終わり今後の方針を定めようと模索し始めた直後であった。

 

「真壁司令はどうするの?」

 

「直接会って話したいというベノン側の要求を呑むそうだ。」

 

「それって」

 

「あぁ。マリス・エクセルシアと対話をするようだ」

 

(マリス……今更なにをしに来たの?)

 

「それって大丈夫なの?だってマリスは………」

 

「大丈夫。真壁司令は芯のブレない立派な方よ。信じましょう」

 

「母さん………」

 

「では、私は保安部隊の召集に行ってまいります」

 

「カンナさん気をつけてね」

 

「あぁ、亮一もお義母さんを頼む」

 

 

 

亮一・・・・亮一。

 

えっ、マリス?どうして今真壁司令達と話し合いをしてるんじゃ

 

あいつ等との対話はもう終わった。僕は君を助けに来たんだ。

 

助けに来た?

 

そう。君があいつらを救う為に命を懸けることはないんだ。僕と一緒に争いの無い平和な世界で暮らそう。

 

・・・話し合いはどうなったの?

 

気になるのかい?あいつ等は滅びの道を選んだ。それだけだよ

 

どうして島を出ていっちゃったの?ここでの暮らしだって平和じゃないか?

 

・・・君は外の世界を見て何も感じなかったのか?

 

どうしてそれを知ってるの?

 

レガートから聞いたよ。2年前蓬莱島で君達と会ったと

 

・・・・・感じたよ。この島の尊さをいかにこの島が平和な島か。そして外の世界の苦しみも

 

そして君はこの島の偽りの平和で悠々と暮らすことを選んだということか

 

偽りの平和?

 

見ろよ。世界は今も戦い続けている。世界の大半の人達は今も苦しんでいるんだ。

 

海神島は世界がより良く・平和になる為にずっと戦ってきたんでしょ?時には世界とも対峙して

 

多くの人間を犠牲にしてな

 

えっ・・・

 

なんだ亮一。まさか知らないとは言わないよなこの島の・・・Alvisの歴史を

 

Alvisの歴史?

 

そうさ自分達が生き残る為に他者を犠牲にし続けて出来た。それがAlvisだ。

 

それは違うよマリス。

 

どこが違う?生き残る為と言い子どもの遺伝子を研究と称しいじり、機体との適合率を上げる為に痛覚を敢えて残し、自分達が生き残る為という口実を隠し現有戦力では対抗出来ないからと若者を戦わせ、囮に使う・・・それがAlvisだ。

 

違う・・・真壁司令達はそんな自分勝手な理由で戦ったりしない、千鶴さんだって

 

あの人も愚かだよ。真壁史彦に付いたばかりに

 

本当に言ってるのマリス?本気でそう思ってるの?

 

そもそも彼女が戦いを広げた元凶なのさ。遺伝子など弄らず人為的にフェストゥムに対抗出来る人間を生み出さなくても、僕や美羽のように彼等と対話する存在『エスペラント』は生まれたんだ。

 

そんな・・・

 

そうこれまでの犠牲は全て無駄だったんだよ。その無駄な犠牲者の屍の上に僕達は立っているんだ。

 

・・・・・。

 

もうやめにしよう。べノンに従えばもう誰も犠牲にならないし苦しむ必要は無くなるんだ。

 

マリス・・・。

 

さあおいで亮一。僕と一緒に行こう。

 

 

 

それは可能性の一つであってそれが正しいとは限らないんじゃないかな?

 

へぇ・・・・君は

 

(誰?この女性)

 

 

 

{亮一の見知らぬ女性が突如。2人を見つめながら現れた。}



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第四十六話「三つ巴」

へぇ・・・君、ここに干渉出来るんだ。驚いたな探したんだよ君のこと。

 

(誰この女の人。マリスは知っているみたいだけど)

 

それで、君の言う僕の考えが間違っているとはどういうこと?

 

だって、そもそもその時点で君や彼女が生を受けるかなんてわからないじゃない。

 

………。

 

今君がそこにいるのは、この世界が今の時間を辿ったからであってもし今の時間を辿らなかったら君や貴方、もちろん私も生きているかわからないじゃない。

 

随分人間らしくなったね。

 

ありがと。この数年間沢山の事を見て、学んできたつもりだからね。

 

(人間らしく?)

 

じゃあ君はこの現状を、誰かの犠牲の上で成り立つ世界を肯定するのか?

 

肯定か…確かに犠牲は無いに越したことは無いけど。それは果たして『犠牲』なのかな?

 

どういう意味ですか?

 

だってその『犠牲』という感覚はあくまで私達から見た感覚でしょ。貴方が『犠牲』になったと感じる人は、皆『生きる為に』自分自身でその選択をしたのであって他者から強制された訳ではないと思うよ。それをその人達が私達の『犠牲』になったと思うのなら、それは『犠牲』になったでいいと思うけど、私達の感覚で『犠牲』になったと決定付けるのは、その人達の『生きる為の』選択を冒涜することになるんじゃないかな。

 

それはへ理屈に過ぎないな。奴らを正当化する理由としては説得力に欠ける。

 

別に私達は彼等を擁護したいわけじゃないよ。私達は『可能性』を示したいだけ。

 

『可能性』・・・ですか。

 

うん。貴方のようにこの世界の流れを『犠牲の積み重ね』と捉えて見る未来も、貴方のように『願いの積み重ね』と捉える未来も一つの『可能性』。未来は捉え方一つで無数に広がるの。

 

『可能性』・・・『希望』・・・。そのような甘い言葉がより深い『絶望』を与えることになる。

 

『絶望』を『絶望』と捉えるか『絶望にある一筋の希望』を捉えるかでまた別の未来が見える『可能性』が広がるんだよ。君はどう思う?

 

僕ですか?

 

君が望む『未来』は彼の望む未来にある?それとも・・・

 

僕が望む『未来』は・・・

 

亮一・・・

 

 

 

 

 

気が付くと僕はベットに横たわっていた。

 

「あれ・・・母さんとカンナさん」

 

「亮一!大丈夫か」

 

「ここは?」

 

「Alvisのメディカルルームだ。お前突然昏睡状態になって三日三晩ずっとこのままだったんだ」

 

「そうなんだ」

 

「剣司さんを呼んできます」

 

「カンナ、よろしくね。なにがあったの?」

 

「夢の中でマリスが出てきたの」

 

「マリスくんが?」

 

「うん。こっちにおいでって、そしたら知らない女の人が突然現れて」

 

「恐らくべノンの精神攻撃ですね」

 

「剣司くん。精神攻撃って?」

 

「以前Alvisで研究していてマリスとともにべノンへ行った『セレノア』がそのようなSDPを発動している可能性があります」

 

「確かそれで里奈ちゃんが今・・・」

 

「はい。カンナさんから聞いた状態から推測するに可能性は高いかもしれません。前回の戦闘で総士が攻撃を受けた際に総士は[海中にいたはずなのに気が付いたら見知らぬ場所にいて痛みと共に元の海中に戻りいつの間にかスサノオがいて助けてもらった]と意識を別の場所に持っていかれたというような報告をしてました」

 

「何故それに亮一が」

 

「それはわかりません。ただ亮一くんが倒れたのがマリスとの対話が終わった直後だということを踏まえると狙われた可能性がありますね。しかしよく戻って来れたな。里奈は今も昏睡状態が続いているのに」

 

「その夢の中に女の人が出てきたんです。なんかマリスと難しい話をしていて」

 

「そうか、とりあえず無事で良かった。暫くはここで休んでろ」

 

「わかりました」

 

「じゃあ俺は作戦準備の方に戻りますね」

 

「ありがとう。剣司くん」

 

「作戦ってなに?」

 

2人の表情が険しくなり、母さんが一息ついて呟いた。

 

「『第二次L計画』が実行されることが決まったの」

 

それはかつてAlvisが二度と実行しないと誓った作戦計画。絶望へのカウントダウンは刻一刻と迫っていた。

 

 




とある高台で海を眺める一人の女性。

「これで満足か?そうかお前が望むことが出来たなら。私はそれでいい」

「今戻るのか?あの島に?何故」

「私には彼らの力になり得る力はない。それはお前達も理解しているのだろう」

「・・・そうかいつかお前と約束したな。あの島の行く末を見守ると。その時が来たということだな。・・・・・わかった。」

霧に覆われる高台。霧が晴れた後、女性の姿はそこに無かった。


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第二次L計画
第四十七話「絶望への行進」


僕が退院して間もなく『第二次L計画』が実行に移された。

 

総士が示したとされる『竜宮島』へ進路を向ける海神島。

 

『望む未来』を手にする為にLボートが出航した。

 

「カンナさんにブルクで待機指令って。どういうこと母さん」

 

「Lボートへファフナー部隊の主力を全て配置している関係での暫定的な処置なんですって。エレメントの3人が海神島を守ってくれているとはいえ不足の事態に備えて準待機指令が出て、今はブルクにいるわ」

 

「なら、僕も」

 

「あなたは退院したばかりなのよ、自分の身体をもっと大事に考えなさい」

 

「身体は全然問題ないよ、戦力が多いに越したことはないし、僕もブルクに」

 

「亮一」

 

母さんの悲しげな表情が自分の決意を揺るがす。

 

「・・・・・せめて、カンナさんの傍で見守らせて」

 

「なら、一緒に行きましょう」

 

「えっ、母さんも」

 

「あなたと同じで出来ることなら私も、カンナの支えになりたいもの」

 

 

 

 

 

「どうした亮一・・・・っと恵さん!?どうしましたかブルクにいらして」

 

「どうです。カンナは」

 

「流石です。凄く落ち着いてます」

 

「そうですか。なら良かった」

 

「亮一・・・とお義母さん!?どうしてこちらに」

 

外の騒ぎに気が付いたカンナさんの声がブルクに響く。

 

「少しでもリラックス出来るようにサポートに来たよ」

 

「あぁ、亮一が傍にいてくれるのは心強いよ。ありがとう」

 

母さんは何も言わずカンナさんの乗るファフナーを見ていた。

 

「どうしたの母さん」

 

「CDCから緊急の指示だ。マークエルフリペア『シュッツ』出撃」

 

イアンさんが突然カレンさんに出撃を命じた。

 

「そんな。どうしたんですかイアンさん」

 

「こちらのシステムを抜けて本島に直進する反応があるようだ。エレメントはこれ以上外部の敵を中に入れさせる訳にはいけないから身動きがとれないそうだ」

 

「そんな・・・」

 

「了解。『シュッツ』出撃します」

 

「カンナさん」

 

「大丈夫だ亮一。すぐに戻る」

 

「カンナ。無理はしないでね」

 

「お義母さん。亮一を頼みます」

 

「えぇ。もちろん」

 

『シュッツ』のハンガーが降下しブルクからいなくなる。戦況を見守るブルクの面々

 

「一瞬映ったあれは、人類軍のファフナーか」

 

侵入してきた敵に僕は衝撃を受けた。それはある時は対峙しある時は共に戦った機体。

 

「そんな…なんで」

 

「亮一?」

 

「なんだこれ、一方的じゃないか」

 

そこには見えない敵に翻弄され徐々に消耗していく『シュッツ』が映り続けていた。

 

「亮一くん。アレについて知っているのか」

 

「僕とカンナさんは島の外であの機体に遭遇してます」

 

「なんだと!?」

 

「『ティフシュワーズ・モデル』。独立人類軍オリジナルのファフナーで隠密に特化した機体だとカンナさんは教えてくれました。レーダーや探索対策が完璧でレーダー系は無意味になると」

 

「いや、これはそんなもんじゃないぞ。『消えている』」

 

「前に遭遇した時はそんな性能は…あっ」

 

『シュッツ』の右腕が切り落とされる。ルガーランスしか持っていなかった『シュッツ』に為す術はない。『シュッツ』を庇うように小型無人機『サキモリ』が牽制する。

 

なにも出来ない自分に苛立ちを覚える。そんな僕を解き放ったのは思いもしない人だった。

 

「亮一。行きなさい」



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第四十八話「誰が為に、己が為に」

「『シュッツ』右腕破損。機体損傷率60%を超えました」

 

「くそ、飽和攻撃だ。ありったけの火器を『シュッツ』の周囲に放ってやれ、爆撃の煙幕で時間を稼ぐんだ」

 

「でも司令代理。それでは『シュッツ』に被弾の恐れが」

 

「被弾しないギリギリの地点へ放てばいい」

 

島の防衛火器が『シュッツ』の周囲に降り注ぐ。

 

(…どうする。カンナを助ける人員を割ける状況じゃない、敵が『シュッツ』から距離を取っているのかもわからん。なにか、なにか手は無いのか)

 

「司令代理。ブルクから『フレイヤ』が出撃するとのこと」

 

「なに!?そんな指令は出してないぞ。それに『フレイヤ』だとなんでパイロットがそこにいる」

 

「わかりません。ですが既に出撃準備は完了しているとのことです」

 

「ブルクに回線を回してくれ。………こちら司令代理の溝口。おい!なに勝手にスタンバイさせてるんだ。それになんで亮一がそこにいるんだ」

 

「溝口さん。ごめんなさい。カンナさんが心配でこっそり来てました」

 

「亮一。いかん、カンナでも敵わん相手だ。お前にもしものことがあったら……」

 

「溝口さん。行かせてあげてください」

 

「恵ちゃん?!なんで恵ちゃんがそこにいる、それに行かせてあげてって………本当に大丈夫なのか?」

 

「あの子はこれまでちゃんと帰ってきました。そして今回もちゃんと帰ってくると約束しましたから」

 

「………あ〜また真壁に度叱られるなこりゃ」

 

頭を掻きむしる溝口さん。ひと呼吸し目つきが変わる。

 

「許可する。『フレイヤ』出撃だ。全員で『フレイア』及び『シュッツ』をフォローだ」

 

「『サキモリ』が敵を牽制しています」

 

「島のコア・・・・・ありがてー。よし亮一行ってこい!!」

 

「了解」

 

『フレイア』を固定していたハンガーが降下を始める。

 

「亮一」

 

「ありがとう。母さん」

 

「必ず。カンナと2人で帰って来なさい」

 

「・・・・・了解」

 

 

 

 

中破した『シュッツ』。カンナは状況打開の為に思考を巡らせていた。

 

(『サキモリ』の援護があるとはいえ、こうも存在を認識出来ないと打つ手が無い。どうする機体を置いて脱出するか・・・・・いや、そもそも姿が見えないんだ。降りて逃げたところで、どこへ逃げる・・・・・)

 

『サキモリ』の形成したシールドが破られ敵が目の前に姿を現す。

 

(ごめんなさい。お義母さん。ごめん亮一)

 

明後日の方向から放たれた砲撃が『シュッツ』と敵の間を突き抜ける。

 

「後方へ逆噴射!」

 

急に飛んできた指示に従い機体のエンジンを逆噴射する『シュッツ』。勢い余り島の岩壁に身体を打ち付けた。

 

『シュッツ』の目の前に『フレイヤ』が降り立った。

 

「…亮一」

 

「お待たせ、カンナさん」

 

「お前なんで、また勝手に」

 

「大丈夫。ちゃんと司令代理からの指示だよ」

 

「なんだと!?」

 

「そんなに驚かないでよ、こう見えて僕もAlvisのファフナーパイロットなんだから」

 

「それはそうだが」

 

「これは相手を倒す戦いじゃない。島を……いやカンナさんを守る戦い。そして僕の『願い』を賭けた戦い」

 

「亮一の『願い』」

 

「うん」

 

 

 

それは出撃直前であった。

 

(クロッシング………ルビィ姉さん。ありがとう。カンナさんを守ってくれて)

 

(島のコアとして努めを果たしたまでです。亮一1つ聞いてもいいですか?)

 

(どうしたの?ルビィ姉さん)

 

(何故貴方は戦うのですか?)

 

(何故って)

 

(戦う理由は大切です。その意味によっては同じ力でも正しく使われることもあれば間違って使われることもあります)

 

(………。)

 

(私は貴方がこれまで戦いに自ら赴こうとする姿が理解出来なかった。いえ今も理解出来ません。貴方の役割は今我々が乗り越えるべき数多の試練のその先にあります)

 

(ルビィ姉さん………)

 

(理解出来ないのは何故か、貴方から『意志』を感じられなかったから)

 

(『意志』それは『皆を守る為』にだよ) 

 

(何故?それは貴方では無くても、周りの方々がやっています。貴方よりも力を持つ方々が)

 

(それは………)

 

(そう。貴方の戦う理由はあくまで自分の行いを正当化する為の口実であり、貴方の本当に戦う為の『意志』ではありません)

 

(…………)

 

(貴方の『意志』が明確にならない限り、私は貴方を行かせるつもりはありません)

 

(そんな………)

 

(何故貴方は戦うのですか?)

 

(………昔僅かに残ってる父さんとの会話の記憶があるんだ)

 

(貴方のお父様との?)

 

(うん。そこで『約束』したんだ)

 

(何を『約束』したのですか?)

 

(母さんは必ず僕が守るって)

 

(………)

 

(そして最近。父さんのことを知って知れば知る程。こんなことを思うようになったんだ)

 

(どんな思いですか?)

 

(……父さんと会いたい。僕達を待つ父さんに会いたいって)

 

(とても素敵な思いです)

 

(へへっ、そうかな)

 

(では改めて問ます。貴方何故戦うのですか?貴方の『願い』はなんですか?)

 

(僕は、まだ見ぬ故郷と父さんに会いたい。そして母さんを、いや母さんだけじゃない。家族と僕の大切な人達を守る為になにより僕が父さんとした『約束』を果たして胸を張って父さんと会う為に………戦いたい!)

 

(貴方の『意志』確かに感じました)

 

(ルビィ姉さん)

 

(行きなさい亮一。皆と貴方自身の為に)

 

(ありがとう。ルビィ姉さん)

 

(島の加護が貴方を護ります。必ず)

 

 

「亮一。戦士らしくなったな」

 

「カンナ姉。ありがとう。一緒に戦ってくれる?」

 

「亮一お前……あぁ勿論だ」

 

態勢を立て直す『シュッツ』。戦士として覚醒した弟に背を託す姉。

 

島の危機的状況に今『姉弟』が立ち向かう。



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第四十九話「姉弟二人」

「どうする?亮一。奴は以前対峙した機体とは別物だ。一切『姿』が見えないぞ」

 

「大丈夫だよ姉さん。策はあります」

 

僕は『フレイア』のSDPを発動させる。

 

 

 

(くそー。亮一のSDPは厄介だな)

 

総士と共に訓練をしていた頃の後半。SDPを使ったより実践的な模擬戦を行っていた。

 

(どうだ総士。僕のSDPは相手を支配下に置くことが出来るんだ)

 

(支配?僕は亮一のSDPの支配下になったことは無いぞ)

 

(そんな馬鹿な!?だってマークニヒト動けなくなってたじゃん)

 

(確かに一時的に動きを制限されたけど、僕は自分の意思で行動していたし、亮一は僕をコントロールしているって実感はあったのか?)

 

(そういえば……動きが止まるだけで、僕の考えた通りに動いたこと無いかも)

 

(だろ?だから僕はお前に支配された覚えは全く無い)

 

(おかしいな?前にフェストゥムや人類軍のファフナーはコントロール出来たのに)

 

(強大な敵にはそのSDPは効かないんじゃないか?)

 

(そんな……来主だってこの力で抑えたことがあったのに)

 

(味方にそんな力を使うなんて何考えてるんだよ)

 

(そんなこと言ったってあの時はそうしないと全滅した可能性があったし………)

 

(まぁいいよ。そんな事は取り敢えず強敵との戦いには亮一のSDPは効果が無いってことはわかった)

 

(なんだと!?)

 

(ただ一時的とはいえ動きを制限されるのは厄介だな)

 

 

 

「これは!亮一のSDPが敵のファフナーに効いている。無理に動かそうとして誤差が生じる為に一時的に『姿』が見える」

 

「今だ!姉さん!!」

 

『シュッツ』に渡す為に持ってきたドラゴントゥースを『シュッツ』に託す。岩壁を支えにして狙いを定めたドラゴントゥースが敵に直撃した。

 

「やった」

 

「いや、致命傷は避けられた」

 

(思ったよりキツい。こいつはやはり『服従』しきれない)

 

「亮一。大丈夫か?」

 

「アイツにSDPを当てるのに思った以上に力が必要みたいです。クッ!」

 

追撃が無いとみた敵は発砲しながら両機に接近する。

 

「これは『シュッツ』の『力の無力化』。姉さん!」

 

「態勢を立て直せ亮一。お前のSDPが再度使えるようになるまで私がお前を守る」

 

「了解」

 

距離をとりながら『シュッツ』のSDPで敵の攻撃を凌ぐ両機。『フレイヤ』のSDPが発動するたびに『シュッツ』の反撃の砲撃が放たれる。しかし

 

(お互いにSDPを使い過ぎだ。このままではいずれ同化現象に襲われる。なにか打開策を練らねば)

 

「リベラル……『リベラル·イェーガー』」

 

亮一は確信を持っているかのように敵のファフナーに話しかける。

 

「Alvisと独立人類軍は今協力関係なんだろ!なんでベノンと一緒に島を襲うんだ」

 

「その声は…霧島亮一。久しいな、俺の今の任務はその島を滅ぼすことだ」

 

「じゃあ、独立人類軍は協力関係を破棄したの?」

 

「貴様に教える道理は無い」

 

「くぅっ!」

 

「いつか誓ったな、その時の約束今果たさせてもらう」

 

「なにを、やられるものか」

 

(攻撃を当てれそうなところで機体が思うように動かなくなる。ヤツの力か…)

 

(くそ、やはり一時的にしか動きを止められない。そろそろSDPを使うのもキツい)

 

(亮一。聞こえますか?)

 

(クロッシング。この声・・・・・ルビィ姉さん。どうしたの?)

 

(私の力を貴方達に託します)

 

激しい砲撃と格闘戦が入り乱れる。

 

「うっ・・・・・」

 

同化現象が発現した『フレイア』の足が止まる。敵はその隙を見逃さない。

 

「・・・・・戦場で動きを止めることは命とりだ霧島亮一」

 

「これで最後だ」

 

「またお前のその力か、もうその攻撃は・・・・・!?」

 

何度も繰り返された戦法。唯一違うのはその砲撃はドラゴントゥースの砲撃ではなかった。

 

(このエネルギー量はマズい)

 

『サキモリ』と同化したドラゴントゥースが回避した敵の左肩を打ち抜いた。

 

(・・・・・了解)

 

回避と同時に姿を消す敵。警戒する両機。こちらに近づく機影。

 

「もうそこに敵はいないよ。亮一」

 

「クルスと甲洋さん」

 

「外の敵も一時的に引き上げ始めた」

 

「では先行したLボートは?」

 

「敵の奇襲を皆城総士が覚醒したことで退けた。今こちらに撤退している」

 

「総士が・・・・・。良かった皆さん無事なんですね」

 

「・・・・・・。あのね亮一」

 

「・・・・・・クルス?」

 

「今はまず撤退だ亮一くん。SDPの使い過ぎで君の身体が限界を訴えている」

 

「そうですね。わかりました」

 

「よくやったぞ亮一」

 

CDCから通信が割り込む。

 

「溝口おじさん。ありがとうございます」

 

「おじさんはやめろ。早く母ちゃんに無事な姿を見せてやれ」

 

「はい」

 

ブルクに戻り。機体を降りると母さんが僕達を抱きしめた。

 

「お帰り。2人共」

 

「母さん。ただいま」

 

「只今戻りました。・・・・・Lボート部隊は既に帰還したと聞きましたが。なにかあったのですか?」

 

戦士を迎えるには重い雰囲気が漂っていた。

 

「亮一。落ち着いて聞きなさい」

 

無事を祝う喜びの表情が一瞬で強張った。

 

「零央くんと美三香ちゃんが倒れたわ」

 

「・・・・・えっ」

 

覚醒したもう一人の戦士に待っていたのは、喧嘩別れした師の危篤であった。

 



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嵐、来たりて
第五十話「導き」


「ここにいたのか」

 

総士と美羽は亮一を探していた。

 

「すまない。2人を助けられなかった」

 

「………いや。ありがとう総士。聞いたよ、同化されそうになってフェンリルを使おうとしたお二人を総士が助けたんだって。僕にはそんなこと出来ない」

 

「こんなの助けたの内に入るもんか」

 

「あの状況でお二人を助けられたのは、きっと総士だからできたんだよ。もっと誇れよ」

 

「こんな状態じゃあ助けたのうちに入らない。こんな辛うじてなんて………失敗だ」

 

「もう総士ったら、なんでそこで意地を張るの?素直に褒めたられた事は喜びなよ」

 

「そんなことだから君達は進歩しないんだよ」

 

「皆がここに戻ってこれた。今はその事を喜ぼうよ」

 

「………」

 

「………」

 

「亮一も島を守ってくれて、ありがとう」

 

「えっ、うっうん」

 

「また無断でAlvisに入り込んでたそうじゃないか」

 

「ちゃんと出撃の許可はもらったもん」

 

「まぁ、その身勝手な行動のおかげで僕達はここに帰ることが出来たわけだしその点は感謝してやる。僕と張り合うっていうならこれくらいは出来て当然だけどな」

 

「だから、素直にお話ししなよ総士」

 

「うるさあいな、こうして感謝の気持ちを伝えてるだろ」

 

「どうだか~。亮一一緒に来る?美羽と総士はこれからブリーディングに参加するの」

 

「どうしたの?」

 

「なんだ聞いてないのか?僕達が敵の精神攻撃の実態を解明したからそれを踏まえての作戦会議だ」

 

「いや、僕はまだここにいるよ」

 

「わかった。じゃあまた後でね亮一」

 

そうして二人はブリーディングへ向かった。

 

 

(ニ人はどんどん先へ行く。僕よりも2歩3歩先に………このまま二人は…………)

 

帰り道。自分の現状を憂い重い足取りで歩いて寄った海岸

 

そこでは1人の女性が海を眺めていた。

 

(あれ?母さん………いや違う。けど何処かであの人を見た気がする)

 

「なにか用か?」

 

亮一の視線に気がついたのかその人がこちらを向いた。

 

「あのどうしましたか?こんな場所で」

 

「ちょっとな、感傷に浸っていたんだ」

 

その人に見覚えがあった。だが雰囲気がその時とは違う………亮一はその違和感を抱え恐る恐る尋ね続けた。

 

「感傷………ですか」

 

「昔、人間関係で上手く行かなくてさ。大事な仲間だったんだけど考え方の違いですれ違って、対立して、そして………戦った」

 

「そう…なんですね。どうして対立しちゃったんですか?」

 

「彼等と共存出来るか出来ないかって言葉にすると簡単なんだけどとても難しい問題」

 

「彼等と共存………」

 

「君は出来ると思う?」

 

「出来る……と思います。僕の周りには彼等に近い存在の人々が沢山います」

 

「そうか、それは望みがあるな」

 

「あなたもこの島に暮らしているならそうではないんですか?」

 

「どうかな?君のようにこの島に深く関わっていたらそのような人達と出会う機会に恵まれるかもしれないけど、私達はこの地で暮らす事がある程度だからね……」

 

「えっ、この島のひとじゃないんですか?」

 

「普段は気の赴くままに外の世界を周っているからね」

 

「あの………僕2年前に一度世界を見に行ったことがあるんですけど、外の世界ってこの2年で変わりましたか?」

 

「珍しいねその歳で島の外に出たんだ。」

 

「えぇ、まぁ」

 

「より複雑化したかな。特に人類が、新国連と独立人類軍が手を組んだかと思えば、独立人類軍同士が争ったり、一部の新国連と独立人類軍が違う派閥で双方の相反する派閥と争ったり………」

 

「そうですか………」

 

「何かあったのかい?」

 

「さっきの戦闘でその時に交流した人と戦ったんです。その人は独立人類軍の人だったんですけど、さっきの戦闘ではベノンの下で戦っていました」

 

「…………」

 

「わからないんです。彼はその時、仲間や彼の上官をとても信頼しているように見えました。それなのになぜベノンの下で僕達の島を襲ってきたのか」

 

「なんらかの理由があるとは思っているようだね」

 

「はい」

 

「ならばあとは相手を信じることだ。」

 

「信じる事・・・・・ですか?」

 

「前に出会った彼が『本当の彼』だと思うなら、『本当の彼』を信じて向き合うんだ。そしてなにより大切なことは『自分自身を信じる』ことだ」

 

「僕自身を信じる・・・・・」

 

「そうだ。君自身の感性・・・・・いや心って言う方がわかりやすいかな。自分が思ったことを信じて進むんだ」

 

「でも、もし自分を信じて間違っていたら」

 

「その時は君を大切に想っている人達が止めてくれる。だから心配するな。沢山悩み考えた。ならば後は動くだけだ」

 

「・・・・・ありがとうございます。少し気が晴れました」

 

「そうか、なら良かった。でもそれが君の本当の悩みではないね」

 

「えっ」

 

「全てを人に合わせる必要無い」

 

「なっ。なんですか急に」

 

「確かに他の人に合わせることは大事なことだ。人類を一つの集合体と見るなら、相手を傷つけ合う事は止めた方がいいし、争いの無い平和な世界を人類が望む事は悪いことではない」

 

「はぁ・・・・・」

 

「例えが大き過ぎたな。そうだな・・・・・この島が目指す目標に向かいこの島に住む人々が同じ目標に向かい進む事は悪いことではない。むしろこれだけ多くの人々が同じ目標に向かい進めるのは素晴らしいことだ。だけど『目指す場所』は同じでも『目指す場所の目指し方』は皆が同じである必要は無いんだよ」

 

「『目指す場所の目指し方』って」

 

「力を示すことが出来る人と話し合うことが得意な人」

 

僕にはふと2人が思い浮かんだ。

 

「これは正反対に見えるかもしれない。でも一つの目標に向かうのに力を示すことが出来る人が必要な時と話し合うことが得意な人が必要な時が来るかもしれない。そう考えると正反対の2つは『目指す場所』に別々の進み方をしていると言えるのではないかな?」

 

「でも僕はどっちつかずで」

 

「『目指す場所』への進み方はなにも2つではない。人の数だけ進み方がある。だから君は『君に出来る目指し方』をすればいい」

 

「僕に出来る目指し方・・・・・」

 

「それは君にしか出来ない。すぐに答えが出るものでもない。だけど焦ってはダメだ。君が考え続ければ自ずと答えは見えてくる」

 

(自分自身の手で真実を見出してやる)

 

(今日もいっぱいお話しよ)

 

(あなたがいると定めた場所があなたを貴方にするのです)

 

「………お役に立ちそうかな?」

 

「はい。ありがとうございました。…………あの」

 

「どうかしたかい?」

 

「貴女達に僕はお会いしたことがありますか?」

 

「…………そうだな、それは君の予想次第かな」

 

その人はそう言い残して僕に背を向け歩いて行った。僕はその背中にこれからの指針を見たそんな気がしていた。




亮一と対話を終えた女性は島を見渡せる崖に来ていた。

「お前のやりたいことは出来たか………そうか。ならそれでいい」

「これからどうする?………私か?私はお前達がしたいことについて行くたけだ」

「………全く。お前達はこういう時は強引だな。しかし奇遇だな私もそう思った。ではここで見守るとしよう。この島と彼の行く末を」

彼女達は決意を固めるとその場から立ち去った。


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