NEWダンガンロンパV2 絶望のコロシアイホテルツアー (肘鉄)
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プロローグ

 とある少年が撮影機材の前に佇んでいた。

 長身に黄緑色のウェーブヘアー、そして多数のピアスやネックレスなどを身につけた少年。所謂「チャラい」とでも言うべき見た目の彼だが、その表情におちゃらけた様子は欠片もない。

 

「じゃあ準備はいいかな?ドッキドキの撮影タ~~イム!!」

 

 何処からか現れた白と黒の獣がその特徴的な声で叫ぶ。準備などとっくにできている。

 

「~~~~~~~~~……」

 

 言うべきことを全て喋り終えた少年は眼を閉じ、ここまでの出来事に想いを馳せる。

 これまでの狂った、狂ってしまった出来事に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が口を揃えて「お前は幸運だ」などとのたまう。

 それもそうか。宝くじに当選したり電車の脱線事故から五体満足で生還したりしていればそうも見えるだろう。だけど、幸運が幸福に結び付くとは限らない。

 

 何の後遺症にも苦しんでいなくてもあの事故で味わった恐怖は消えないし、心を病んだ遺族から八つ当たりに等しい手紙や電話はひっきりなしにくる。生活費の心配は無くなったが、両親は人が変わり会ったこともないような親戚は数えきれないほど連絡を寄越してくる。

 

 そんな俺の「幸運」も、とある奴らにとっては才能と呼べるらしい。俺の元には()()希望ヶ峰学園から超高校級の幸運としてスカウトの話が来ていた。

 

 あの学園に集まる奴らなら、俺のこの才能をどうにかしてくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて俺は希望ヶ峰学園の前に立った。

 

 

 

 

 筈だった。

 

 

 

 

(どこだよ……ここは)

 

 先ほどまでは確かに希望ヶ峰学園の校門前にいた。だがしかし目の前に広がるのはやや薄暗い廊下。高級そうな敷物がしてあるとはいえ、こんな床に寝転がっていたなど不自然すぎる。

 

「あれ、まだ人が居る」

 

 不可解な状況を訝しんでいると突然背後から声がした。

 

「なんだ……あんた」

「…まぁ警戒するよね普通。僕は痣街後生(あざまちごしょう)、多分君と同じ境遇だよ」

 

 やや陰を感じさせる雰囲気の少年は痣街、と名乗った。

 

「多分同じってことはあんたも何故ここにいるのかわからないのか?」

「そう、まさにその通りだよ」

 

少年は驚いたとばかりに掌を出す。

 

「まだ人が居る……ってことは俺達の他にも存在してるんだな」

「あれ、せっかく説明しようと思ったのに……。まぁいいや、それも正解。皆で他に人がいないか探してるところなんだ。そろそろ集合の時間だから君も来る?」

「ああ……そうさせてもらう」

 

 トントン拍子に進む話を疑いながらもそれ以外に選択肢はありそうにない。痣街と共に俺は歩き出した。

 

 これからどんなことが起きるか、その覚悟もせずに。



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プロローグ2 ようこそホテルモノクマへ

 

 所々にモニターや監視カメラが設置された通路をぬけると、行き着いたのはロビーのような場所だった

 

「……ホテル?」

 

  さっきまでは学園の前にいた筈なのだが。やはり不可解だ。

  広い空間に並べられたテーブルと椅子、そして受付。暗くて外は見えないがガラス張りの自動ドア。動く気配はないがよく見ると何かをぶつけたような傷がある。

 

「やっぱり気になるよねそれ」

「ああ……なんなんだあの傷」

「さっき言った皆のうちの一人がね、壊して外に出られないかってイスを投げつけたんだけど……結果は見ての通りだよ」

 

  発想が乱暴過ぎやしないだろうか、その人物。

 

 

「おや、さっきは見なかった顔っすね」

 

 

  突然受付の横、どこかへ通じる廊下から声をかけられた。

 

「やぁ天海(あまみ)くん、そっちはどうだった?」

「ダメダメっす。何の収穫もなさそうなんで先に切り上げて帰って来たんすよ」

「そうかぁ……」

 

  痣街は彼を知っているようで、驚く様子もなく会話を始める。彼はその喋り方や見た目からどこか軽薄な印象を与える人物だった。

 

「で、そちらの人は?」

「そういえば僕もまだ聞いていなかったね」

「俺は……阿笠(あがさ) (はやと)だ。よろしく」

 

  阿笠 隼。それが俺の名前だ。

  俺はこの名前が好きではない。生まれた時から似合わない名前を背負っているということが堪らなく苦痛だからだ。

 

「『隼』か。カッコいい名前っすね」

「なんだよ、皮肉か?」

「いや、そんなつもりはないっすよ。俺は天海蘭太郎。一応超高校級の冒険家っす」

 

  唐突に出てきた『超高校級』という単語に一瞬たじろぐ。

 

「超高校級って……もしかしてあんた希望ヶ峰学園の生徒か?」

「あれ?痣街君から聞いてないんすか?」

「ああごめん、伝え忘れてたよ。ここに集まってる人は皆希望ヶ峰学園の生徒なんだ」

 

  それは『つい』で済まされないと思うのだが。

 

「そうだったんだな」

「君もそうなんすよね?それで、才能は何なんすか?」

「俺は……」

 

  一瞬、言い淀む。

 

「俺は超高校級の幸運、らしい」

「ああ。あの抽選で決めるやつだね」

「……まぁそうだな」

 

  説明が面倒臭いのでそういうことにしておく。

 

「じゃあ痣街も何かしらの才能を持ってるんだよな?聞いていいか?」

「僕?実は、何の才能を持っていたか忘れちゃったみたいなんだ。笑っちゃうよね」

「そんなにあっけらかんとしてていいのか……」

 

  痣街は特に気にする様子もなく答えた。嘘を言っている素振りもない。おそらく本当のことなのだろう。

 

 

 

 

 

  そんな他愛もない会話をしているうちに、どんどん人が集まってきた。俺を含む14人がロビーに会する。話を聞く限り新しく合流したのは俺だけで、探索できる範囲ではこれで全員ということらしい。

 

「よし、では阿笠とやらの為にもう一度自己紹介しようではないか!我は鬼龍院 孝麿(きりゅういん たかまろ)!ある教えを広めている!」

 

  法衣を着た剃髪の男が高らかに叫んだ。やや呆れている周りの態度から鑑みるに、常にこのテンションのようだ。

  そして鬼龍院を皮切りに他の者たちも次々と口を開いた。

 

日比野 憲明(ひびの のりあき)。ユースチームでサッカーやってんだわ。んな感じでよろ」

 

「アタシは宮本(みやもと) アンジェリカだよ。居合道やってるんだ。段位はまだ三段だけどね」

 

頬白 善次(ほおじろ ぜんじ)だ。隣人トラブルで困ってるならこの名刺の番号にかけてくるといい」

 

葉山 曜(はやま よう)。整体師。以上」

 

石動 信二郎(いするぎ しんじろう)。いずれ登山家としてこの名前を世界に轟かせる予定だ」

 

篠宮 明(しのみや めい)です…。あの、小説を嗜んでます…」

 

五十嵐 伊月(いがらし いつき)です!私の矢は百発百中と言われてるんですよ!」

 

 

「………………」

「フフ…………」

(なんなんだコイツらは……)

 

  残り三人のうち二人は喋る気配が一向にない。見かねた最後の人物がやれやれといった表情で口を開いた。

 

「あ~…その二人は色々事情がありまして。そちらの無口な女性は綾倉 莉乃(あやくら りの)さん。超高校級の歌手で喉を消耗品だと考えてるんだそうです」

「成る程だから声を発さない、と」

 

  綾倉がコクリと頷く。意志疎通をするつもりは有るようだ。

 

「で、こちらの男性が草野 仁政(くさの じんせい)さん。画家だそうです。一度創作について思考しだすと……」

「ンフフ……フフ」

「こうなるわけだな」

「残念ながら…」

 

「そして申し遅れました。私は星宮 観音(ほしみや みおん)。女優をさせていただいてます」

「……ああ、知ってる」

「そうでしたか。それは失礼しました」

 

  星宮 観音と言えば知らない方が少ない程の大人気女優だ。

  4歳から子役として芸能界に入り、その整った容姿からすぐにブレイク。代表作は数知れない。実をいうと俺もファンだったりする。

 

「芸名じゃくて本名なんだな。俳優って皆芸名使ってるイメージだったから意外だ」

「子役から入る人は多くが本名なんです。……売れてもそのまま俳優になることができるのが少数というのが一番の理由でしょうね」

 

  そう言った彼女の表情は気苦労を感じさせた。

 

 

 

 

「皆ありがとう。よくわかったよ」

 

  全員分の挨拶が終了したので、礼を述べた。

 

「それにしてもアタシら何でこんな所に居るんだろう。皆も入学式の為に学園に居たんだよね?」

「入学式の前……わかったぞ!入学前のレクリエーションだな!そうに違いない!」

「ないわ。だったら床なんぞで寝てねぇんじゃね」

 

  これが学園側の催しであることも思案したが、日比野の言うとおりそれはないだろう。

  俺はともかく、彼等は超高校級の才能を持ち未来を期待されている存在だ。それをこんな乱雑に扱うとは考えにくい。

 

「そもそもここおかしいです!時計の類いが一切ありません!これじゃご飯の時間がわからなくなりますよ!」

「今は食事のこと考えてる場合じゃないと思いますよ五十嵐さん…」

「取り敢えずここから出る方法を」

 

 

『やぁーーーーーーっと全員揃った!!遅くて待ちくたびれちゃったよ!!』

 

 

  カン高くて・・それでいて不快な口調の大声が響いた。全員が音の元、つまりモニターに視線を注ぐ。

 

「…………は?」

 

  そこに映っていたのはふざけたマスコットのようなヌイグルミだった。白と黒半々の模様をした熊・・と表現すべきだろうか?それは間違いなく俺たちに向けて話しかけていた。

 

『このままオマエラの呆けたバカ面鑑賞するのもいいけど、時間巻いてるからさっさと進めるよ!じゃレストランに集合ってことで!』

 

  ヌイグルミが言い終わるとブツリと映像が途絶える。同時に俺と痣街がやって来た通路とは反対に位置していた大扉から施錠が解かれる音がした。

 

「………………」

 

  あまりに突然の出来事に皆が沈黙している。学園からホテルへの知らぬ間に移動。そして謎のヌイグルミ。こんな不可解すぎる状況を瞬時に飲み込める訳がないのだ。

 

  そんな中一番に動き出したのは痣街だった。

 他の者も顔を見合わせた後でそれに続く。

 

  扉を開けた先は豪華、とまではいかないが中々にセレブな雰囲気の内装が施されたレストランだった。

  そして長大なテーブルの上に各々への宛名付きで薬のようなものが置いてある。その白い錠剤を手にとって観察する。毒・・ではなさそうだ。

 

「害はないと思うけど最初に僕が飲んでみるよ」

「お、おい」

 

  言うが早いか痣街はすぐに赤い錠剤を飲み込んだ。

 

「ぐっ……」

「だ、大丈夫か!?」

「……ああ、心配ないよ。ちょっと頭痛がしただけさ」

 

「毒なんか入ってないってば!」

 

  奥の小さなテーブル。そこから先程の不快な声がした。

 

「お主いったい」

「あーもーそういう反応いいから。ボクのこととかオマエラの置かれてる状況はその薬を飲めば理解できるよ。痣街クンを見れば心配ないってわかるでしょ?」

 

  鬼龍院の問いは心底鬱陶しそうに遮られる。

 

「ホラ時間巻いてるってさっきから言ってるでしょ!早く早く!」

 

  本当に大丈夫なのか・・?

  皆が手には取ってみたものの飲み込もうとはしない。

 

「言う通りにするしかなさそうっすね」

「さっすが天海クーン!理解が早い!」

 

  ・・覚悟を決めるしかなさそうだ。それ以外に選択しはないように思える。俺は恐る恐るその錠剤を口に入れた。瞬間、頭痛と共に幾つものワードが頭を駆け抜けていく。

 

 

 

  支配人?コロシアイ?学級裁判?クロ?卒業?

 

 

 

  あぁ、わかる。理解できる。・・いや、知っている?

 まるで元から持っていた知識のようにそれらの情報は頭に定着した。

 

「よーし皆飲んだね。じゃあ確認。ボクの名前は~!?」

 

  モノクマがイタズラっぽく質問してくる。

  頭痛に頭を抱えながら俺はその言ってはいけないような・・・悪魔の名前を呟いた。

 

 

「モノ……クマ……」



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プロローグ3 ミセシメ

「せいか~~~い!!他のミンナもちゃんと理解できてるみたいだね!」

 

「いや、でもコロシアイって」

「しょぼーん……信用してくれないんだね……これだけ工程を簡略化してあげてるのに……」

 

 落ち込むモノクマだがこんなことをいきなり始められて信じられる訳がない。それは皆も同じようで、ほとんどが疑問符を掲げている。

 

「ま、良いもんね!そのためにコイツを準備させてるから。カモーーンエグイサル!!」

 

 モノクマが宣言するとレストラン入口の大扉が開かれる。そこからさっきまで影も形もなかった一機のロボットがズカズカと入ってきた。

 二足歩行で片方の腕には・・・

 

「き、機銃!?」

 

 アンジェリカが恐怖にひきつった顔で叫ぶ。

 

「このホテルではボクが支配人。オマエラはそれに従ってればいいの!まだ信じられないヤツもいるみたいだし……」

 

 

 

「一人死んで貰おっかな」

 

 

 

 モノクマが玩具のような赤いハンマーで目の前のボタンを叩くと、何処からか現れたルーレットが周りだす。

 本気だ。何故かはわからないがそう思った。コイツは本気で俺達を・・・殺害するつもりだ。

 

 回転が遅くなる。よく見るとルーレットにあしらわれているのは俺達を模した顔だ。

 

 また回転が遅くなる。全員が固唾を飲んで見守る。

 

 更に回転は遅くなる。そして針の役割を担っているであろう点灯表示が遂にその動きを止めた。

 14つに分けられたうち光輝いているのは・・・

 

 

「お……れぇ?」

 

 

 

 天海だった。

 

 

 

「ミセシメは天海クンにけってーーい!!うぷぷ、やっぱり不幸だねぇキミは!」

「ふ、ふざけるな!!お前やっぱり最初から……!」

 

 先程会った時からは考えられない激昂具合で天海が大声をあげた。

 

「ふざけてなんかないよ?意図的に決めるならわざわざキミを選んだりしないって。だからこれは間違いなく厳粛なるルーレットの結果なんだよ」

「そん……な」

 

 エグイサルが動き出す。その機銃が天海に向けられた。

 

「じゃ……いってみようか」

「……あ…………」

 

 機銃が作動音をあげ始める。しかし天海は既に諦めたといわんばかりに動こうとしない。

 

「天海!!」

 

 思わず声を張り上げる。同時に痣街がエグイサルに向けて走りだした。

 

(一体何を……!?)

 

 そして機銃が斉射される瞬間、痣街はその華奢な身体つきからは考えられないスピードでエグイサルに接近し、()()()()()()()()()()()

 

 直後凄まじい勢いで弾丸が発射された。悲鳴と叫び声、そして銃声が飛び交う。弾丸が天井にぶつかり、跳弾でテーブルや椅子が砕けていく。破砕物の破片が飛び散る。

 俺は伏せることしかできなかった。そんな中、誰かに覆い被さられる。

 

 

 

 

 

 

 

 斉射が終わり、エグイサルがその動きを止める頃には食堂は滅茶苦茶になっていた。やがて舞い上がった埃が薄まっていき、視界が開けていく。

 

「皆さん!無事ですか!?」

 

 散らかったテーブルや置物のせいで皆の姿が確認できない中、まず始めに星宮が声をあげた。それから次々と無事を知らせる返答が続く。

 

「天海も生きておるぞ!怪我も大したことない!」

 

 鬼龍院が天海の生存を確認したようだ。残るは・・・

 

「大丈夫か!?」

 

 俺を守る様に覆い被さっていたのは痣街だった。

 

「痛った……大丈夫だよ」

 

 所々擦り傷があるものの、大怪我は負っていない。

 

「良かった……」

 

 本当に良かった、と心からの安堵の声が漏れる。

 

「そっちこそ大丈夫?」

「ああ。お前のおかげでな。ありがとう」

「そんな表情もできるんだね」

「……うるさいな」

「アハハ、ずっとしかめっ面だったからさ」

「チッ……」

 

 

 

 

 

「うぷぷ」

 

 

 

「!」

 

 全員がモノクマの声に反応して即座に緊張した空気を放つ。

 

「結果的に誰も死んでないけど、これで本気だって信じてもらえたよね」

 

 確かに信じるしかなかった。モノクマは本気だ。あの威力の弾丸が命中していれば間違いなく天海の命は無かっただろう。

 

「エグイサルのテストもできたし、今回はこれでおしまい!こんな序盤から人数減らしちゃうと苦情来ちゃうしね。感謝してよオマエラ!」

 

 テスト?苦情?与えられた知識の中にはそれに該当するような項目はない。

 

「あと痣街クン!キミだから今回だけは見逃すけど、エグイサルへの故意の攻撃はルール違反だからね!」

 

 エグイサルが何処かへ退散していく。どうやら本当にこれで終わりらしい。

 

「それぞれの個室に『モノクマフォン』を用意してるからちゃんとルールを確認しておいてね!それじゃ、あでゅー!」

 

 言い終わるとモノクマもスルリと物陰に消えた。

 

「たす……かった……?」

 

 放心していた天海が口を開く。

 

「生きてるよな?なぁ!オレ生きてるよなぁ!?」

「ぬお!?ど、どうしたのだ!」

 

 天海は我を取り戻したかと思うと鬼龍院を問い詰めるように叫んだ。

 

「大丈夫、生きてますよ。まずは落ち着いてください」

 

 星宮が仲裁に入った。他の者も自分より取り乱している天海の存在のせいか、あれだけの事が起こったにも関わらずパニックにはなっていない。

 

「ハァ…ハァ………すいません。俺、ちょっと取り乱したみたいっす」

 

 天海はようやく落ち着いたようだ。

 

「殺されかけたのだ。気にするな」

「そうです!悪いのはあの横暴なヌイグルミです!個室もありますし天海殿には休息を進言します!脚を怪我されているようならお手伝いしますので!」

「すいません、じゃあお願いするっす……」

 

 鬼龍院と五十嵐に支えられ、天海はレストランを出ていく。

 

「痣街、個室って」

「うん、受付横の通路、最初に天海くんがやってきたところだね。その先に個室が有るんだ」

 

 俺以外は既に知っている情報だ。痣街から個室のことを聞いている間に他の者が次々と扉の向こうへ消えていった。皆、疲れきった表情をしている。

 

「……俺達も行くか」

「うわ、ちょっと」

 

 痣街の肩に手を回して支える。この腫れて膨らんだ右足首では歩くのは困難だろう。

 

「気付かれてたかぁ」

「あんな鉄の塊を思い切り蹴り上げればこうもなる。それに……」

 

 俺を庇ってできた傷もあるのだ。ある程度の責任は感じる。

 

「でもなんか……情けないな」

「お前のおかげで助かった命があるんだ。胸を張っていいと思うぞ」

「その通りですよ痣街さん」

「星宮さん」

 

 星宮も痣街に肩を貸す。

 

「あなたがあの行動を起こさなければ、天海さんの命は無かったんですから」

「そうかな……そのせいで皆を危険に晒しちゃったし」

「でも誰も死んでいません。結果良ければ全て良しです」

「そう……だね……」

 

 一瞬、暗い表情を覗かせたが、それはすぐに隠された。

 そしてその様子に、疑心で満ちた視線を送る人物がいたことに俺は気がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 やや長い通路を抜け個室の集まるフロアに出る。途中、幾つかの扉が有ったが、星宮によると開かないものが多いらしい。

 

「ありがとう二人とも。結局更に情けないことになったけど」

「だから気にするなって……」

 

 部屋へ消える痣街を見送り、自らの個室を探す。

 

「えーと、天海……?鬼龍院……草野……」

「右手側にはありませんよ。阿笠さんと私の個室は左手の奥です。お隣さんですね」

 

 確認してみると確かにそこには自分の個室がある。ネームプレートにSD風の人物像。少々苛つくことにこれも良く出来ていてわかりやすい。

 

「左隣は星宮で右隣は……空き部屋?」

「ネームプレートもありませんし、最初から鍵が掛かっているんです。おそらく使用する予定のない部屋、なんでしょうね」

 

 こんな非日常的なことの為に用意された舞台にしてはテキトーだな。

 

「今は余計な事は気にせず休みましょう。おやすみなさい阿笠さん」

「あっ、あぁ。おやすみ」

 

 ニコリと微笑んで星宮は部屋へと入っていった。不意に見せた笑顔に、屈辱だがドキリとさせられてしまう。

 

 しかし直後に響いた施錠音が俺を現実に引き戻した。

 

 そう、コロシアイはもう始まっているのだと。



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登場人物

阿笠 隼

「まったく幸運なんじゃないさ」

超高校級の“幸運”

数度の大事故に巻き込まれながらも五体満足で生還・宝くじに当選する等の経歴を持つ

 

 

天海 蘭太郎

「俺は天海蘭太郎。よろしくッス」

超高校級の“冒険家”

ピアスやネックレスを多数身に付けた、軽薄な印象を受ける男性

 

 

 

星宮 観音

「枕営業なんかやっていません。本当ですよ?」

超高校級の“女優”

5才から子役として芸能界に入り、数々のヒット作で主演を務めている

 

 

 

 

草野 仁政

「良い絵が描けそうだ・・・」

超高校級の“画家”

見た目通りの変わり者で受賞歴が一度しかないにも関わらず、その圧倒的なセンスから巨匠達からのスカウトが絶えない

 

 

 

頬白 善次

「それ器物損壊罪です。なんなら法廷で争いますか」

超高校級の“弁論部”

弁護士の父と検事の母をもつ

口が上手い

 

 

 

殺生院 高麿

「これは神が我に与えたもうた試練なのだ!」

超高校級の“宗教家”

曾祖父の代から続く日本最大の宗教団体の長

幼いころから親の跡を継ぐべく育てられたためやや感覚がずれている

 

 

 

日比野 先人

「つまり誰かをぶっ殺してバレなきゃ出られる訳だ」

超高校級の“サッカー部”

ジュニア、Jr.ユース、ユースと順調に昇格してきたサッカーエリート

常に気だるげ

 

 

 

 

石動 信次郎

「山はいいぞ!色んな体験ができる!」

超高校級の“登山家”

小学生時に富士山を最も過酷なコースで登頂を達成

以後も海外も含む様々な高山に挑み、中学生にして既にスポンサー契約の話が出ていた

 

 

 

綾倉 莉乃

「…………」

超高校級の“歌手”

13歳でCDデビュー後、出すアルバム全てがオリコンのランキング上位に乗り続けた魅惑の美声の持ち主

自分の喉を消耗品だと考えており喋ることを嫌う

 

 

 

五十嵐 伊月

「集中してますよ~!チョー集中してます!」

超高校級の“弓道部”

小学生から全国大会を連続優勝中で国際大会にも中学生ながら日本代表として選抜されたが本人が大会の存在そのものをど忘れしていたため参加していない

何かを射る時はまったく喋らなくなる

 

 

 

宮本 アンジェリカ

「いや~、英語って難しいね。あたし一生喋れないや」

超高校級の“居合道部”

イギリス人の母親と日本人の父親とのハーフ

日本生まれの日本育ちで『サムライ』に憧れている

 

 

 

葉山 曜

「礼は不要」

超高校級の“整体師”

彼女に体を整えてほしいと仕事の依頼が殺到し、予約は二年待ちとなっている

 

 

 

篠宮 明

「死ぬんだ……!私ここで死ぬんだ……!」

超高校級の“Web小説家”

自身のサイトにて小説を掲載している

 

 

 

痣街 後生

「どんな理由があっても人殺しなんてやる奴は皆クズさ」

超高校級の“???”

やや陰のある雰囲気の少年

何故か自身の才能を忘れている



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