愛すべからざる光 -Mephistopheles- (無慙さますきbot)
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1章
美麗刹那・序曲


イベントのビスマルクのアネキがかっこよすぎたので


やっぱり鉄血の元ネタ的に厨ニごころは大切だからね、そういう風によるのも仕方ないね。


まあ陣営として好きなのは鉄血だけどキャラとして一番好きなのはぶっちゃけたぬきだからね、どっちも出すよ!


あと一つだけネタバレすると、作者はヒロインと主人公が殺し合うのが好きなのでたぬきと主人公は殺しあわせます。


ロイヤルネイビーの学園、その秘された一角。踏み入るものに冷たい印象を与える牢獄(ゲットー)を、軍靴の音を空間に響かせながら男は歩いていた。

 

 

彫りが深く整ったゲルマン系の顔立ち。頬に走る三本の傷痕に目につく全てを射殺さんばかりに鋭く細められた目。およそ暗がりで会えば十中八九悲鳴を上げられるような強面の男だった。

 

 

着古したロイヤルの軍服と、ある艦と揃いの純白のマフラーに身を包みながら、その実彼の忠誠心はロイヤルにはない。今も昔もいつまでも、彼は遥か彼方の祖国(ヴァルハラ)のみを見据えていた。

 

 

いつかもう一度、祖国の土を踏み、愛すべき同胞と再び轡を並べることだけを、彼は永劫望んでいるのだ。

 

 

たとえロイヤルのいずれの艦に、その想いを捧げられようとも―――彼は何処までも国に恋焦がれている。

 

 

 

忠誠こそが、我が名誉(ジークハイル)―――」

 

 

 

ぽつりと、されど激烈な意志を込めて男が呟いた鋼の宣誓は、冷たい廊下に溶け消えた。

 

 

 

 

 

 

 

―――これより、序曲(オーベルテューレ)の幕を上げる

 

 

―――総員、奮起せよ。間もなく願いは果たされる。

 

 

―――鉄と血と悲鳴に満ちた鉄風雷火の戦場で、断崖の果てを飛翔せよ。鉄の誇りを胸に抱け。血の誓いを示すのだ。

 

 

―――我ら鉄血。大海を総べる覇者なれば。恐れることなど何もない。

 

 

 

 

―――――進め!栄光は、我らの頭上にこそ照り輝いて満ちるだろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官!委託から帰ってきたわ!」

 

 

「ああ、御苦労さま。」

 

 

執務室の扉を開け放って入ってくるウォースパイトに、書類に向けていた顔を上げて応じながら指揮官は微笑を浮かべた。

 

 

踵を鳴らして真っ直ぐに執務机までやってきたウォースパイトは左手に持っていた報告書を指揮官に渡し、ソファに腰掛けた。太陽を反射して照り輝く金髪が翻る刹那、微かな潮の香りが指揮官の鼻孔を衝く。ほんのわずか、過去を脳裏に浮かべた指揮官の眼が妖しい光を宿したが、幸か不幸かウォースパイトはそれには気付かなかった。

 

 

 

「他の艦船はどうした?」

 

 

「ベルファストとエディンバラは今紅茶を入れてるわ。リアンダーとサフォークは日向ぼっこね。」

 

 

「そうか、彼女たちも今回の委託で滞在は終わりだ。後でねぎらっておく。」

 

 

「ええ、それがいいでしょうね。」

 

 

書類から目を背けず会話をする指揮官を眺めながら、ウォースパイトは己が指揮官の境遇に思いを巡らせる。

 

 

ここロイヤルの学園に常在している艦船はそう多くはない。常に第一艦隊分―――6隻いればいい方であるし、そもそも正式に籍を置いているのはウォースパイトだけだ。

 

 

それは彼の出自に関わる話だが、とにもかくにも、ロイヤル上層部は彼を警戒していることは確かだった。本音から言えば、ロイヤルは優秀に過ぎる彼を処分したがっている。されど、彼を殺せばまず間違いなく鉄血はこちらを仇敵と見定めるだろうことは火を見るより明らかだった。それは上層部にとって避けたいことだ。

 

 

今でこそ敵対関係にあれど、鉄血も元は同じ陣営。もっと言えば、よしんばレッドアクシズとの全面戦争に勝利したところで、怨敵たるセイレーンが残っている。そうなれば滅びるのは同族同士の争いで消耗した人類という種族だ。さすがにそんな愚行は犯せない。

 

 

故に上層部は彼という人質を処分することはせず、学園という名の牢獄に押し込めているのだ。その能力を無為に腐らせることも出来ず、さりとて重用すれば古参のロイヤル指揮官から顰蹙を買う。上からしてみれば彼は非常に扱いにくい人間であると言えるだろう。

 

 

 

ここに艦船が常在しないのも其れが理由。彼個人が抱える戦力は少ない方が良いし、長く居させて艦船側から情が移ってしまっても厄介。ではなぜ自分がここにいるのかといえば、それは楔と、監視だった。

 

 

彼と懇ろな仲になれば彼が裏切る可能性を低く出来るが故の楔、そして彼の動向を探るが故の監視。それこそが、ウォースパイトに課せられた使命だ。

 

 

 

「フゥ・・・」

 

 

 

「あら、書類整理は終わった?」

 

 

 

「ああ、腹も減ったし昼食にしよう。」

 

 

 

そう言い、長く座りっぱなしであったためか硬くなった体をほぐし、椅子から立つ指揮官を見る。平時こそ穏やかであれ、戦闘指揮を執る彼は冷酷であり苛烈なまでに敵を追い詰め、撃滅する滅尽滅相の申し子だ。そのギャップを恐ろしく思う艦船は、少ない数ではない。

 

 

その爪牙がロイヤル(こちら)に向く日が来ないよう、ウォースパイトは総身奮起せねばならない身だ。その動機にロイヤルへの忠誠心が故というのも無論ある。だがそれと同じくらい、彼と殺し合いがしたくない事も確かであった。好いた男と好んで殺し合いをしたい倒錯的な性癖は持っていないと、彼女自身理解しているから。

 

 

揃いの純白のマフラーを巻き終えた指揮官を見て、一層ウォースパイトは己の誓いを強固なものへと変えていくのだった。




上層部「懐柔に女を使うのは当然だよね。でも良い仲になった子が多すぎるとスパイがあっちに付く可能性が出て不確定要素は増えるから、そうなった時を予想するなら一人か二人が適任やろ!」


なお、魅了するつもりが魅了されたたぬきちゃんかわいい。



ドイツ語翻訳はふんわりだから「此処違うぞクソ劣等のイエローモンキーが!訂正してやるから土下座して咽び泣きながら俺のケツをなめやがれ!」ってかんじで誤字報告していただければ直します。


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穏やかな昼食

穏やかと言ったら穏やかです(念押し)


率直に言って、ロイヤルの料理はまずい。それが指揮官の大体の感想だった。

 

 

具体的に何がまずいのかと聞かれれば答えに窮するところもあるし、そもそも国が違えば味付けなんかも変わるために、これは単純に自分という鉄血の人間の舌に合わないというだけかもしれないが、それを抜きにしてもひどい。

 

 

だがそんな不味いロイヤル料理でも、総てが総て不味いわけではない。中には旨い料理だってある。その旨い料理の最たるものが、朝食であった。

 

 

「ロイヤルに来たら三食すべて朝食を食べろ」などという皮肉なのか称賛なのかよくわからない言葉がユニオンにあるくらいに、ロイヤルの朝食は絶品と言っていい。それは指揮官も認めるところであったし、だからこそ食堂ではなけなしの指揮官権限を使って三食すべて朝食を出すよう厳命した。

 

 

―――だというのに。

 

 

 

「なんだこの・・・なんだ。」

 

 

 

「サフォーク!待ちなさい!あなた朝食も満足に作れないってどういうことなの!こら!待て!!!」

 

 

「ふえぇ~~~~~~~~ごめんなさ~~~~~い!!」

 

 

 

目の前に鎮座する外宇宙的物質を常の数倍死んだ目で眺める指揮官と、オールドレディとしての慎ましさを水平線の彼方に放り投げて、怒りの形相でサフォークを追い回すウォースパイト、そしてそれから涙目で逃げるサフォーク。ちなみに本来の調理担当はエディンバラであったが、あいにく彼女は紅茶を淹れる練習で忙しいらしく、変わってもらったらしい。

 

 

陸ではかなり、色々とゆるいサフォークになぜ頼んだのかとエディンバラを問い詰めたくなった指揮官だったが、今は目の前の二人を諌める方が先決だと思い直した。

 

 

 

「ごめんなさいごめんなさい!今から作り直しますぅ~・・・」

 

 

「サフォーク、気にするな。」

 

 

「し、指揮官さん・・・」

 

 

「暗殺兵器としては見た目と臭いが致命的だが、効果はある。胸を張れ。」

 

 

「うえぇえぇぇん!」

 

 

 

フォローかと思ったら追い打ちを喰らわされたサフォークは泣きながらうずくまった。先ほどまで追いかけ回していたウォースパイトも、そのあんまりな仕打ちに心なし顔が引きつっていた。というか引いていた。

 

 

そんな一幕はあれど、戻ってきたベルファスト監修の元べそをかきながら料理を完成させたサフォーク、散歩から帰ってきたリアンダー、ベルファストと共に戻ってきたエディンバラと共に机を囲み、昼食の時間は穏やかに始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばお前たち、今回の委託で滞在も最後だろう?」

 

 

「ええ、そうですが・・・?」

 

 

「なに、そう警戒するな。滞在が終わる奴らを毎回労っているからな、今回もそれと同じだよ。なにか欲しいモノは無いか?」

 

 

ベーコンに目玉焼きの黄身を絡めて口に放り込みながら、指揮官は気軽な調子でベルファスト達に声をかけた。それは彼にとって通例とも言える、なんてことはない提案でしかなかったが、受け取る側からしてみれば餌を放り投げられたに等しい行為であった。

 

 

その証拠に、ロイヤルが誇る武勲艦にして現メイド長たるベルファストが、瞳に危険な色を宿したのをウォースパイトは見逃さなかった。

 

 

 

「では指揮官・・・いえ、ご主人様の鉄血時代を知りたいのですが」

 

 

「っ!?」

 

 

瞬間、食卓を支配するのは驚愕だ。あのベルファストが、よりにもよって鉄血の英雄たる彼を己が主と、そう称したこと。それは昼食を共にした艦船全員に少なくない衝撃を与えた。中でも特にその衝撃が大きかったのは当然の如くウォースパイトだ。

 

 

 

(一体いつコマしたって言うのよ!お風呂やトイレ以外、寝るときだって同じ部屋だったって言うのに!)

 

 

四六時中共にいたと言っていい彼女にとって、この事態はまさに青天の霹靂、寝耳に水であった。ロイヤルに忠義溢れる艦船としての危機感と、彼を好いた女としての嫉妬が、胸の中で黒々とした澱みを作る。それを敏感に察知してか、嫌に婀娜っぽい目でベルファストがこちらを一瞥した。

 

 

それは常の慇懃として、誰に対しても敬意を払うベルファストにしては、いやに挑発的な所作で在ったと、後にエディンバラは死んだ目で語った。

 

 

 

 

「フム、まあ構わんが。」

 

 

そしてそんな水面下の争いに見て見ぬふりを決め込む指揮官。彼は鈍感でも難聴でもないし、なんなら感性豊かなはずなのだが、それでもその点に関しては無視を決め込んだ。「それは指揮官としては正解だろうが、男としてはこいつ最低だなー。」と割と辛辣な評価をエディンバラが内心で下したことを、彼は知らなかった。

 

 

 

「では何処から話そうか―――」

 

 

 

話し始めた指揮官を、5人は心なし顔を好奇心に輝かせて聞き入った。そうして、指揮官の話というおかずを一品加えながら、表面上は穏やかに、されど水面下では―――というか机の下ではウォースパイトとベルファストの熾烈な争いを繰り広げつつも、昼食の時間は過ぎていくのだった。




基本的にベルファストは


指揮官呼び→軍人として従っているだけ。含むところは一切ない。


ご主人様呼び→メイドとして従っている。含むところしかない。


って感じで思ってくれれば。まあこのベルファスト、この後自分の本来の基地に戻るんで当分絡みないんですけどね!



鉄血とかいう愛が重い陣営にいたんだから、誰か一人を選んだら選んだで他のヤンデレ艦船が暴れだすからね、見て見ぬふりするのも仕方ないね(レ)。実際暴れて軍として公私混同やらで統制が取れなくなるのが一番やばいし、軍人としては別に間違ってないっていう。


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予兆

作者が心躍る厨ニワードは”特異点”です。対戦よろしくお願いします(?)





「特異点の育成も上々・・・あの陣営は本当に人材の宝庫ね」

 

 

深淵よりもなお深い深奥で、魔性の人魚がそう謳う。それは祝福のようであって、その実総てを嘲笑する化生の微笑みであった。

 

 

かつての大戦、その歴史。繰り返される悲劇を前に、ヒトはいかな行動を取るか。それを知ることこそが化生の至上命題であり、それを成さしめるのが特異点であった。

 

 

尋常なモノでは繰り返される大戦、その因果の破断には至らず、当然運命の踏破は敵わない。故に現行生物総ての規格を越える上位存在たる特異点、その存在をこそ彼女は求め、そしてその可能性と言えるモノを見つけた―――それも、二つ。

 

 

特異点に必要なのは折れない意志、そしてその意志を実行出来る力。二つの内の一方は、幸運にもそのどちらもを高水準で備えていた。だが、もう一方は。

 

 

 

「まさか人間が特異点だなんて。これでは宝の持ち腐れと落胆してしまったけれど・・・あは、中々どうして。すごいわね、彼。」

 

 

 

ヒトは海に立つことは出来ないし、海を滑走するなど以ての外。頭はいいが、それだけだ。世界を縛る因果の鎖を、その既知感を破壊することなど頭が良いだけで力なきものには出来はしない。故に意志を揮う力は無いと断じ、勝手ながらも落胆した。実際、その判断は間違っていなかったが、しかし。

 

 

あの日、特異点の片割れたる鉄血の筆頭を唆した時。誰に取ってもの予想外、いいや彼にとっての天啓というべきか。彼の真意は定かではないが、ただ一つ確かなことがある。

 

 

あの時運命の舵を切ったのは、なにもビスマルクだけではなかった。その半身たる彼もまたそうだ。それは運命という大海原を進むには余りに頼りない一本のオールだが、それでも確かに、彼を特異点たらしめる、まぎれもない純粋にして暴虐なる力だった。

 

 

「メンタルキューブが見せる大戦の歴史・・・フネの視点から見るそれは、ヒトにとっては過ぎた(地獄)だというのに、()()()()()()()()()()()。で、あれば。

 

 

今の彼ならば、十二分に特異点の適性を満たしている。」

 

 

 

故に踊れ、運命の生贄。永劫続く破壊の輪廻、それを断ち切る刃と成れ。

 

 

その果てにこそヒトは真の安寧を見るのだから、先人として後の人間の礎となるのは誉だろう―――?

 

 

 

「果報は寝て待て、だったかしら。私が動く(劇薬を投与する)のはまだ早いし・・・先人の言葉に倣いましょうか。」

 

 

そうして人魚は一時のまどろみに身を窶す。いつか来る特異点との再びの邂逅を夢に見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルファスト達臨時艦隊が元の学園に戻った現在、指揮官とウォースパイトは暇を持て余していた。出撃もなければ委託もない。ウォースパイト一人でも委託にいけなくはないが、資源の収入も微々たるものだし、厳密にいえばやる意味がない、というところだ。

 

 

そんな現状であるから、書類整理も学園の維持のためのものや、数少ない従業員の嘆願書のみであり、若干ワーカーホリックの気がある指揮官はとても、そうとても暇を持て余していた。ウォースパイトと共に訓練でもしようか、とも思ったがロイヤル屈指の武闘派でもある彼女の訓練は、ヒトの身である指揮官にはいささか以上に厳しいモノがある。

 

 

それは逆に、()()()()()()()()()()()()()()程度のものでしかない、ということの裏返しでもあるのだが、指揮官としてはそこまでしてウォースパイトと訓練することに意味を見出せなかった。情報とは共有するものであるが、切り札とは隠すものであるが故に。

 

 

 

「ふぅ・・・セイレーンの糞共でも攻めてきてくれれば良いのだが。ああいや、ウチには出撃できる艦隊すらなかったか」

 

 

 

物騒なことをつぶやきながら、整った顔に自嘲の笑みを浮かべる指揮官。牙をもがれ、爪を折られた我が身を情けなく思うと同時、自分をこの牢獄に押し込めているロイヤル上層部への反抗心が胸の内で膨れ上がる。それはさながら空気を送り込まれる風船のようで、いつかきたる破裂の時を、今か今かと待っているようでもあった。

 

 

しかし同時に、その時は今ではないということも彼は理解していた。この学園の周りには、いざとなれば彼を殺せる戦力が集っている。ここで半旗を翻したところで、その包囲網を突破することもかなわず果てるだろうことは明白だった。だからこそ、彼は未だ雌伏の時を耐え忍んでいるのだ。

 

 

「だが、それももうすぐ終わるかもしれんな。」

 

 

自嘲の笑みから一転、猛獣を思わせる凄惨な笑みを浮かべそう呟く。それというのも最近、アズールレーンの領海の境目で、レッドアクシズとの小競り合いが増えていると情報があった。それは即ち、本格的な戦争に向けての偵察隊ではないか、というのがロイヤル上層部の見解らしく、また指揮官もその点に関しては同感だった。そして、それは彼にとって好機ともいえる。

 

 

ロイヤルとユニオンは確かに強いが、それは鉄血や重桜も同じこと。いいやクソッタレの人魚共の力を御している以上単純な個々の実力で言えばこちら(鉄血)が上だろう。だがそれでも、数という暴力で殱滅するユニオンが敵である以上、いかに個々の実力が高かろうと苦戦は免れない。量が質を凌駕するとは言わないが、その差が蟻と象ほどの絶対的なものではない限り、量は質を凌駕しうる可能性がある、というのも事実だった。

 

 

だからこそ、内から崩す奇襲の一手がなにより必要不可欠なのだ。そしてそれは、来たる大侵攻の時にこそ成就する。大侵攻が始まれば、戦力をそちらに割くために自分を監視する目は最低限まで減らさざるを得ないだろう。とはいえそれだけでもただのヒトの身では艦船と対峙するなど悪夢以外の何物でもないが―――

 

 

「・・・フン。」

 

 

脳裏によぎるのはいつかあった鉄風雷火の戦場の記憶。記録ではなく記憶として、極めてリアルな質感で体験した地獄の具現。脳味噌に無遠慮に手を突っ込まれて掻き回されるような極大の不快感と、神経を鑢で削られるような激痛は、なるほど確かに常人には気が狂いそうなほどの地獄だろう。

 

 

 

―――()()()()()。その程度では魂の底から叫ぶ慟哭は止まらないし止まれない。どこまでも、いつまでも古巣を思う孤独な狼は、ただただ「帰りたい」という犬の帰巣本能が如き渇望を支えにその永劫に続く地獄を踏破した。

 

 

 

その結果として得たのが化生の力。唾棄すべき人類の敵の力を我が身に宿すのは虫唾が走るほどに忌々しい現実だったが、それでも確かに彼の中の足りない最後の一ピースでもあった。そうしてその時から、彼は伏して反抗の時を待つこととなったのだ。

 

 

 

「この身はもはや人にあらざる魔人の身。故に総てを灰に帰さしめん、ダビテとシビラの予言の如く―――Dies irae(怒りの日)を、喉が枯れ果てるほどに謳うがいい。それが貴様らの破滅(救い)なれば」

 

 

 

黄昏の斜陽が照らす執務室、地の底から這いずり上がるかのような低い声で、魔人は呪いのようにそう言祝いだ。

 




実際ユニオンとかいう数の暴力+基準値以上の練度でブン殴ってくるチート陣営がいる限り、セイレーンの力ありきでもレッドアクシズの勝ち目めちゃ薄いと思うんですけどね。


厨ニとキチガイが強い神座時空ならレッドアクシズボロ勝ちするんだろうな、とは思いましたね。重桜は割とキチ入ってるやつらいるし、鉄血は厨ニぢから高いし。


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鉄の激情、その矛先

足引きババア「進むの早すぎィ!ちょっと待てお前この野郎!(ナハツェーラー)」


アネキ「明日(あのひと)に向かって飛翔(ついらく)しなきゃ(烈奏)」


自分と同じステージに引きずり下ろすのではなく、自分が同じステージに上がろうとする漢女(失礼)、それがビスマルク戦艦級ネームドシップ。


でも「綺麗」って言われて照れる姉御も可愛いよね、わかrrrrr



にくすべ「ロイヤルをぶっ■してやるぜ!」な話。どうぞ。


レッドアクシズ―――それは人類の守護者でありながら、魔性の力をも取り込んだ者たち。

 

 

今ある人類を、世界を守るだけでなく、その先へとステージを進めようとする者たち。それは言ってしまえば生物として当然の欲望でもある。欲望とは限りないものであり、また飽きないものであるが故に。前へ前へと進む様は、さながら未来へ向かって墜落しているようですらあった。

 

 

否、事実として。彼女はどこまでも深い底へと堕ちているのだろう。さながら太陽へと近づきすぎた蝋翼が如く、身の程をわきまえない愚か者にして世界への叛逆者。ただ一つだけ違うとすれば、その身を焼くのは太陽の赫怒の炎にあらず、ただただひたむきな一人の少女の恋の激情()なれば。

 

 

それが灰塵と消え失せるか、あるいは成就の日の目を見るか。今はまだ、岐路の途中でしかないのだ。

 

 

「恋とは()()()もの―――ならば底から這い上がり、きっとあなたに手をかけて見せるわ。せいぜい今のうちに、囚われのお姫様の配役を楽しんでおくことね―――Adomirāru」

 

 

紅い気炎を身に纏い、黒鉄の筆頭は今は遠く敵地に囚われた指揮官へと、静かな声で宣誓した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビスマルク!」

 

 

「どうした、伯爵?」

 

 

それは常の冷めている、この世総てを憎んでいながら、なにもかもを諦観しているような彼女らしからぬ激情を携えた声だった。彼女らしくない大声は空間を罅割れさせんばかりの熱量を伴っていたが、受けたものはどこ吹く風と受け流す。

 

 

その反応が余計に腹立たしく、怒声を上げた艦船―――グラーフ・ツェッぺリンはルビーのような紅眼を赫怒に細めながら己が陣営の筆頭を睨めつけた。

 

 

 

「一体いつまでまごついているつもりだ」

 

 

「機が来るまでよ」

 

 

「その機は何時だと聞いている!」

 

 

再びの怒声。冷静沈着なツェッぺリンの珍しい姿にすわ一大事かとにわかに艦船が野次馬として集まってきたが、そんなことも気にせず、ツェッぺリンとビスマルクはシベリアが如き冷たさを以て相対していた。

 

 

片や信任厚き鉄血のリーダー、片や他の鉄血艦船から信頼される古参の艦船。その二人の女傑の間に割って入れるものなどそれこそ一握りであり、そしてその一握りがいない現状で、彼女たちの睨みあいを止める者はいなかった。

 

 

 

「Adomirāruを奪われてから腑抜けたか、ビスマルク」

 

 

「あなたは少し短気になったな、伯爵。ちゃんとカルシウムは取りなさい」

 

 

「忠告感謝する。だが今私に必要なのはカルシウムではなく指揮官を奪えというお前の命令ただ一つだけだ。それで総て事足りる」

 

 

「それはならない。私はこれでもリーダーをやらせて貰っている身でね。待てが出来るあなたには申し訳ないが、私の言葉が貴方達を殺すということを十分に理解しているつもりだ。そうおいそれと、策も成さぬままにあなたたちを殺すつもりは無いわ」

 

 

「私を犬畜生と同列に語るか。」

 

 

静謐な声。しかし周りの野次馬からしてみれば、嵐の前の静けさとしか思えないほど底冷えする声だった。その証拠に、赫怒の炎が揺らめく紅眼はいよいよ拭えることのない激憤を蓄え、視線で穴が開きそうなほどビスマルクを凝視している。

 

 

その闘争意欲の高まりを察してか、俄かにビスマルクが臨戦態勢を取ろうとしたが、それを止める涼やかな声が、静かな廊下に響き渡った。

 

 

 

「やめなさい、アンタ達。」

 

 

「む・・・」

 

 

「オイゲンか」

 

 

「アンタ達、仮にも艦隊指揮を担っているんだから、上層部同士での言い争いなんてやめなさい、みっともない。下の子が混乱するでしょう。」

 

 

 

二人が振りかえった先にいたのは、急いできたためか若干乱れた銀髪を手櫛で整えている最中のプリンツ・オイゲンだった。その少し後ろで床にへたり込んで息を荒げるライプツィヒを見つけ、おそらく彼女がオイゲンを呼んだのだろうとあたりを付けたビスマルクは、熱くなった思考を強制的に冷却した。そうしてビスマルクが落ち着いた頃、一方のツェッぺリンもまたオイゲンに窘められていくらか常の冷静さを取り戻していたようだった。

 

 

とはいえそもそもツェッぺリンとて、リーダーたるビスマルクに反逆しようなどとは欠片も思っていなかったのだ。その証拠に、ビスマルクが鉄血全艦船に通達した「指示があるまで待機」という命令を律義に守っていたのだから。命令を無視してロイヤルの支配海域に突っ込もうと思わない程度には、彼女もビスマルクの指示に理解はあったのだろう。それを、感情が納得できなかったというだけで。

 

 

 

だが一度、鬱憤を晴らすのも良いかもしれないな、とビスマルクは考えた。今回はツェッぺリン自身が少しの冷静さを残していたことと、オイゲンの救援があったからおさまったようなものだが、次があった時今回のように丸く収まるとは考え辛い。ならば次の不満が出る前に、少々発散くらいはさせてやらなければならないだろう。

 

 

 

「―――落ち着いた?」

 

 

 

「ああ・・・すまない。我らしくもなく、少々熱くなっていた。」

 

 

 

「いいわよ、別に。アンタの気持ちも理解は出来るし。」

 

 

 

「―――ツェッぺリン。」

 

 

「む、ビスマルクか・・・今回はすまなかった。処罰は甘んじて受けさせてもらう、トイレ掃除でも一カ月料理当番でも謹慎でも、なんでも言ってくれ。」

 

 

「それは後で追って伝える。その前に、だ。次の威力偵察に貴方も行きなさい。第二拘束までの解放を許可する。ただし、深追いは禁ずる。相手が撤退したのなら追うな。いいな?」

 

 

「それは・・・願ってもない。だがいいのか。」

 

 

「かまわない。部下のストレスコントロールも上司の務めよ。」

 

 

jawohl Mineher(了解した、上官殿)・・・ならば私はこれで失礼する。戦果を待っているがいい。」

 

 

 

言うや否や銀の長髪を翻し、不敵な笑みを浮かべながら、その場から颯爽と去っていくツェッぺリン。最初に怒鳴りこんできた時との落差を思い、ビスマルクはその美貌を苦笑で歪めたのだった。




ツェッぺリン「煮込んでいる、すべてを(ボルシチ)」


赤城のキャラスト的に、伯爵はメシウマ。はっきりわかんだね。料理当番のときはみんなキラキラしてそう。


なお、このあと姉貴は他の艦船のストレスコントロールもこなさないといけなくなった模様。差別は良くないからね、仕方ないね。


そういえば全然関係ない話するけどブレブレの結婚イベ、アリス様がヌルヌル動いて可愛さ5000兆倍なの分かる人おる????ぜってえ開発陣にアリス様すきbotいるよね、俺は詳しいんだ


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僅かな罅

時系列順的に


旧アズ―ルレーン発足(ユニオン・ロイヤル・鉄血・重桜)

セイレーンとの戦争が一段落

レッドアクシズ発足、新アズ―ルレーン発足(この時点ではまだ主人公は人質じゃなくて鉄血にいた)

なんやかんやでロイヤルの捕虜になる

1話


こんなかんじ


「うぅん・・・」

 

 

カーテンの隙間から入り込む朝日にあどけなさの残る、されど確かに整った相貌を照らされながらウォースパイトは眼を覚ました。

 

 

未だ眠気の残る眼をくしくしと擦りながら、自身の隣のスペースを見るが、案の定探し人はそこにはいない。彼とこの学園に着任してからそれなりに経つが、彼の寝顔を見たことは一度もない。彼は着任当時から私よりも遅く寝て、私よりも早く起きるからだ。

 

 

そも、私は戦争は嫌いだが、体を動かすことは好きだ。私という艦船が戦争をどれだけ嫌悪していても、私が艦船である以上、やるべきことは戦争でしかない。極論を言ってしまえば戦争をするための軍艦に、『戦争を嫌悪するもの』だなんて我がことながら皮肉なネーミングだとも思うが、しかしその祈りを否定する気もさらさらない。友を、家族を、愛する人を無慈悲に奪う戦争など、()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

ともあれ私とてこれでも戦場を駆ける武人の端くれなのだし、陸での生活習慣はきっちりしている。緊迫感で締め付けられる戦場ならばいざ知らず、陸でならば少なからずリラックスも出来るからだ。ただまあ、夜は早く寝るのでまだ仕方ないとして、日の出とともに起きる私よりも早いというのはやはり怪しい。規則正しいというのとは少し違うだろうという気もする。

 

 

 

「・・・まあ、後でカメラを確認しておきましょうか」

 

 

 

彼は上層部から監視される身であり、そして私はその監視官だ。だが私も人の形を取っている以上、睡眠だって必要になるし、そうなるとどうしたって監視の穴は開いてしまう。だからこそ、その穴を補うように学園の至る所―――それこそ風呂やトイレ、果てはプライベートルームと銘打っている寝室であっても、例外なくカメラが設置されている。

 

 

それこそがこの学園が()()と揶揄される原因であるのだが、過剰であるとは思わない。むしろこれでようやく一安心といったくらいだろう。それだけロイヤルは彼という存在を危険に思い、同時に逃がしたくないとも思っている。

 

 

それは不発弾を体内に抱え込むような危険を伴う行為だが、上層部にはそれを補って余りあるメリットがあると踏んでいるのだろう。まあ、そのメリットがなんなのかは私には分からないが。

 

 

だがそれでも、彼の指揮能力はこれ以上ないほどに理解している。否、()()()()()、というべきか。かつてロイヤルが鉄血に対して同盟国たるユニオンにも()()()()()()()()()に仕掛けた侵攻作戦において、キングジョージ以下ロイヤルの精鋭を選りすぐった決死隊を結成してまで捕縛しようと躍起になった男こそが彼だ。

 

 

その決死隊も、キングジョージと私とウェールズを除いた精強極まる同胞9隻が海の藻屑と散っていった。だがそれすらも、上からしてみればある意味では予想通りの被害だったのだろう。かの鉄血は総艦数こそ少なくとも、上位陣の個々の実力は口惜しいことだがロイヤルの武勲艦達のそれすら上回る怪物たちだ。命令を発した上層部からすれば、決死隊とはまさに名を体で表すがごとくだろう。そうして、その莫大な代償を払った結果、得たのが彼という捕虜だったのだ。

 

 

あの時の陛下の落ち込みようときたら見れたものではなかった。決死隊に選ばれるほどの精鋭であるということは、必然的に陛下の身辺護衛を任されることも多く、また陛下とも仲が良かったのだ。如何に私たちが戦うための存在で、最悪替えが効くとはいえ、いなくなれば悲しいモノは悲しい。そういう感情を素直に出すところもまた、陛下が皆に慕われる要因なのだろうが・・・。

 

 

 

「今考えてみたら、なぜあんな無謀な真似を上層部はしたのかしら・・・同盟者にも独断で、ロイヤルの精鋭を生贄同然に突っ込ませてまで彼が欲しかったというの?」

 

 

などと疑問を口に出しては見るものの、上層部の意図など分かろうはずもない。戦場に置いてあくまで私は使われる駒でしかないのだから、そもそも意図を知る必要などないのかもしれないが。

 

 

そんなロイヤル上層部への僅かな隔意を抱え、ウォースパイトはベッドから下りてカーテンを開けた。水平線の向こうから照りつける太陽の光に眼を細めながら、今度こそ寝惚けた体に活を入れて部屋を出ていくのだった。




技術の進歩は戦争と共にあるけど、それで得をするのは未来の人間であって、実際に戦争をした当時の人たちからしてみれば技術革新を素直に喜べるのかなーって気はする。戦後復興やら戦後処理やらあるだろうし。


いやまあ、第二次世界大戦あたりからの日本はマジキチっつーか勝つのが当たり前だったから素直に喜んでたんだろうけどね。



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