無限の龍と偽物の始まりの蛇 (アザミさんに踏まれ隊)
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蛇が生まれ落ちた世界

 メカクシティアクターズというアニメがあった。カゲロウデイズという小説でもいい。

 それを見て、便利か能力だな、と思った。姿を消したり、自分を違うモノに見せたり、記憶したり、とにかく便利だ。

 だから、ただ何となく欲した。

 気が付くと白い部屋にいて、白い机があって、上に置かれた紙に何か欲しい力をリクエストしてください、そう書かれていて、カゲロウデイズ全ての蛇の力と書いた。

 この時は夢だと思っていた。夢ならばどれだけ良かったか。

 現れた扉をくぐり、その先に待っていたのは無限の闇。

 音もなく臭いもなく光もなく味もなく感触もなく温度もない無。

 時間の感覚も曖昧で、体感時間で三日は経つと最早気は狂いそうになり、しかしその精神は常に『覚めて』いた。

 そんな状況で、狂うことも出来ず、感触を欲して肉体を生み出した。目を『醒まし』た後は己の身体を抱き、やがて足りなくなると己の身体を傷つけた。何でも良いから刺激が欲しかったのだ。

 それからどれだけたったか、ある時身体を一瞬にして焼く光が放たれた。理由はこの世界の隣にありしかし普通に向かってはたどり着けない場所で変化が起きたからだ。

 この闇の世界と同様何も存在しない世界で、この世界と違い何かが存在し続けることが不可能な真なる『無』に『限りない』何かが生まれた。その影響により隣接する世界に衝撃が走ったのだ。

 そうしてこの世界にもエネルギーが満ちあふれた。エネルギーはやがて物質化して元素が生まれる。

 目を『凝らして』その光景を眺めていた。それだけでだいぶ満たされた。

 やがて元素同士が互いに持つ引力によりくっつき、気体……ガスが生まれる。それはやはり引かれ合い個体、小さな石が生まれ始める。

 石同士はぶつかり合い、質量が増すごとに引力が増す。質量が大きすぎて己自身で生み出したエネルギーで常にも得ている星に目を付けた。あれはきっと、太陽だ。その引力に引かれながら、しかし遠心力で一定の距離をとる岩の塊も生まれ始めた。いや、最早星と呼ぶべきだろう。その中で自分にとっては最近生まれ始めた元素である水素や酸素を取り込む星に目を付け引力に引かれながら落ちる。

 大気摩擦関係なく星の持つ温度で焼かれるが焼け死なない身体に作り替え、落下の衝撃で潰れた肉体を元の形に作り直す。

 赤く溶けた大地は一秒とて同じ模様や形にはならない。形があるモノを目にするのがこんなに幸せだったのかと噛みしめる。

 空は入道雲の下よりもなお黒い雲に覆われていた。日がいっこうに刺さず、しかしやがて雲は水となって地上に降り注ぐ。直ぐに蒸発し辺り一帯が湯気に覆われる。こけて崖に落っこちた。

 出口を探して数日、上から降ってきた………と言うよりは最早落ちてきたと呼べるほどの大量の水に流された。

 水の中の生活を楽しむこと恐らく数年。あ、あの時の火山が大きくなってる。あっちには地割れで崖が、と中々楽しめたが生物がどれだけ目を『凝らして』も居ないことに気付く。

 元となる成分がないのだろうか?腕を爪で引き裂き世界中の海を回る。細胞を構築するタンパク質が変化を表したと思えば爆発的に増え始めた。

 数万か数億、もう違いなんて対してわからない。その頃になると珍妙な生物群が生まれた。一応は自分の血を引いて居るとも言える生物達が妙な形を取るのは、何とも奇妙な感覚だ。巨大隕石がぶち当たり月ができて、その月の誕生に巻き込まれ何とか地球に戻ると全く別の生態系が出来ていたけど。

 地上は虫の楽園になっていた。その虫を食う生物は水の中。水面に近づいた虫を食い、地上に栄養があると知った魚はやがて肺魚に進化して、中には足のようなモノを持った個体がほんの数匹。しかしそれらは他の魚より多くの虫を食え、長生きできるため多くの子孫を残した。そんな個体が増えれば今度は餌が足りなくなる。

 だから、もっと奥を目指し本格的な足を持つ者達が現れ始めた。触ってみた。ヌルヌルプニプニしていた。

 しかし彼らは自ら離れすぎると乾いて死ぬ。弱い。弱すぎる。

 と思えば硬い皮膚を持った者達が生まれ始めた。それからさらに数億年。

 恐竜や哺乳類、鳥類に爬虫類など様々な生物が生まれ始めた。自分の感覚では短い間に様々な変化をする彼らを見ているのはとても楽しい。

 しかし、また隕石が落ちた。落ちすぎた。今度は月にならなかったが…。

 生物達の大半は滅びた。が、体が小さく餌が少なくすみ、多くの栄養を蓄えて仮死する……いわゆる冬眠能力を持つ種族たちが何とか生命を繋ぐ。命は自然の脅威に負けたりしないようだ。

 それからさらに経ち、漸く人間が生まれ始めた。それと、どうやら自分の姿は力のモデルと同じになったようだ。力を持って、それ故に身体のイメージがこれになったのだろう。数十億年この形だ。今更前世の姿も思い出せず、姿はこのままでいいかと世界の観察に戻った。

 だいぶヒトが増えてきた。しかし、やけにでかい。原始人とはあんなものなのだろうか?

 膨大な記憶の中から知識を探る。おそらくあれはネオンデルタール人なのだろう。直にホモサピエンスに住処を奪われる。まあ、それも仕方のないことだ。この世界強い奴が生き残る。

 ネオンデルタール人達はどうも自分のことを神か何かと思っているらしい。彼等に石器の作り方を教えてやったからだろうか?飯を差し出してくるので農業も教えてやった。

 今更ながらこれは本来の歴史から大きくそれてしまうのでは?と思ったが、まあどうでもいい。

 久方ぶりに純度100パーセント自然を見に行くと山に入り天然の果物を食べていると村の方で大きな煙が上がったのが見えた。あの部族は自分に直接農作物を届けることのできる唯一の部族。他の部族に狙われることなど無かったはずだが?

 首を傾げ向かうと人の形をした人ではない何かを見つけた。それはネオンデルタール人とは別種の人を地に放逐する。

 あれはホモサピエンスだ。ネオンデルタール人より現代人に近い。つまりホモサピエンスは外来種だったのだろうか?

 取り敢えず、あれは自分達を放逐した存在を神と崇めているらしい。古い神など抹殺の対象に違いない。その場を後にした。

 目を『凝らす』と世界各地で似たようなことが起きていた。人のようで人でない者達は人としか呼べない力の弱い者達を土地を与え武器の使い方や炎の使い方を教え、神として崇めさせている。

 人が立ち寄れぬ山からその光景を見ていると、突然山が海に沈んだ。しかし数キロ先は水がないのだ。どうも巨大な円柱状に水が出現したらしい。山の頂は出ていたのでそこに向かうと巨大な船が現れた。

 

「え、ひ、人!?」

 

 船から下りてきた人間たちの代表であろう男が叫んだ。他の連中も驚愕に目を見開いている。そして、男は何かに納得したように頷く。

 

「私達以外にも、神に生きることを許された信心深い方が………良かった。他にも生き残りが居てくれて、良かった」

「?神だと、生憎だが私はそんな者を信じては居ない」

「え!?そ、そんな!しかし、貴方はこうして現に世界を沈めたあの大津波をやり過ごして──!」

「私にとってはどうということもないからな、水没など。それに世界を沈めた?あの水が沈めたのは世界のごく一部だぞ。そもそもお前達は何者だ?」

「わ、私はノアと申します………」

「そうか。で、だ……ノアよ。お前が何を勘違いしているかは知ら───」

 

 唐突に、光の矢が飛んできた。その場から飛び退きかわすと地面に突き刺さる。飛んできた方向をみると背中から純白の翼をはやした男が浮かんでいた。

 

「ノアよ、耳を傾けてはいけません。それは人の心を惑わす悪魔です」

「何だ、貴様は?」

「悪鬼よ。神の名の下に、穢らわしい身で生まれてきたというその罪を償え!」

 

 再び光の矢が放たれる。チラリとノア達を見れば皆翼の男にひれ伏し、子供がチラリと視線を向けてきたかと思えばその目に恐怖と嫌悪を宿し石を投げてきた。どうやら本当に悪魔だと思われたらしい。

 翼の男は休む間もなく矢を放つ。面倒だ、殺すかと髪がザワリと動いた瞬間、翼の男が吹っ飛ばされた。

 彼女は何もしていない。突然現れた別の男が殴り飛ばしたのだ。

 

「あの馬鹿親父は本当によぉ……現地住民敬えよ。ここは元々此奴等の世界。お前等は侵略者……本来なら頭下げてよろしくお願いしますってすべきだろうが」

 

 やれやれ、と呆れたように肩を竦める青年。その背中には闇のように黒い六対12枚の翼。翼の男は怒りに満ちた顔で黒翼の男を睨みつける。

 

「貴様、裏切り者のアザゼルか!」



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蛇が見つめる世界

 人の思いをエネルギーに変える『システム』を作った魔術師がいた。

 様々な奇跡起こせる能力者が蔓延る世界があった。

 偉業の民が暮らす国があった。

 それは早い段階で生物が生まれた世界。早い段階で生命が進化した世界。寿命も長く有り余ったり、或いは不老の法を得ていたりする。

 彼等は支配者を名乗りたくなった。自分達の下を作りたなった。そこで丁度言い場所を見つけた。

 緑と水と肉が溢れた異界の星。そこに自分達をもして作った無能を送り込んだのだ。そして無知なる彼等に鉄の作り方や火の扱い方、武器の作り方などを教え神として崇めさせた。

 

「うちの場合は楽園から追放させて、沈めて、新天地を与える~なんて嘯いて信仰心を高めようとしたな。うちのクソ親父が生命創造できるほどの魔術師だから……あ、今は普通に神とか名乗ってるけどな」

「そうか」

 

 アザゼルはあっさりと返す少女になんだかなぁ、と頭をかく。おそらく現地住民、天使に襲われていたから助けたのだが、もう少し感謝とかしてくれないだろうか?しかし彼女が着ている黒い服、この辺りでは見かけないな。何処かの神話の支配下にされた所からの脱走者か?

 

「なあ、お前………」

「……………」

「おーい………」

「……………」

「おーい……」

「……………チッ、何ださっきから」

 

 さっさと行こうとしてしまう薄情な女を呼び止める。力の質からして、原生生物だとは思うんだが………この世界のどの生物にも共通する反応を感じる。それも結構色濃く。というか、まさかこの世界の生物全般がコイツの血を引いてたり?は、ねぇか。この世界にはそういった超常的な生物は確認されていない、

 

「ああ、いや……お前、これからどうすんのかなって………」

「…………知らん。私に食事を提供していた村ももうないことだし、適当に回る」

「ほーう、なんだ、咒師でもやってたか?」

 

 この世界には超常的な存在は生息しないが超常的な力を持つ人間は少なからず居る。それが自然を操る咒師などだ。とはいえいかい神話の連中に比べれば力は弱いが、それでも村々では崇められる。

 

「死なぬだけだ」

「へぇ………え?」

 

 死なない?聞き間違いか?この世界に不死は居ない。長く生きても数百年の生物が海の中に少し。知的生命体に永い時を生きられる者がいないからこそ、真実を偽り嘘の神話を塗り固める場所に選ばれたのだ。

 

「お前、一体………」

「………私はアザミ、幾星霜の時をただ生きるだけの、化物だ」

 

 アザミと名乗った女の目が赤く光る。途端に、アザミの姿が消えた。

 

 

 

 

 『目を凝らし』世界を見続ける。鉄と火を与えられた新人類は瞬く間に文明を発達させて行く。

 『目を合体(あわ)せる』力で新たに『目を移す』を生み出し長距離を移動し、その場を実際に見て回る。

 何処の人間も神を名乗る来訪者達の下僕ばかり。面白かったのは神を否定した王か。来訪者が己を崇めさせる為に作ったり、来訪者の血が混じった者達が造ったり、来訪者とは別の、最近産まれたこの星本来の超常的存在が作ったりした様々な武具、宝物を集め、面白いから不死をやろうかと訪ねればそんなもの要らぬはと断った王。

 死んでしまったが彼と過ごした時間はそれなりに楽しかった。

 しかし時代というのは自分にとっては瞬きのような時間ですら移り変わる。

 妙な男が蛇か、よし、次は巨大な蛇を作るぞ!とか言ったり他の来訪者達の世界でも怪物達が蛇を模しはじめたり………いや、多分、自分の真似なのだろうなと呆れること数回。

 神を名乗るバカ共を何人も石にしてやった。その光景が人に見られもした。だからこそ神々は神のライバルとして彼女の存在を納得させるために神に匹敵する怪物達を生み出したのだ。様々な神話に神の敵、或いは神そのものとして蛇が現れ始めた。始まりはアザミである。

 

「つまりだ、サマエルも後から創られた。蛇がアダムとイヴに知恵の実を食わせたという話もバベルの塔が壊されたあとの時代に広められたのだ。全く、迷惑な話だ」

「そうですか。苦労なさったのですね」

「……貴様、仮にも神の子であろう?否定したりせぬのか?」

「確かにそう言われたいます。神の声も、確かに聞いています。しかし神が真に全能であるなら、我等はそもそも知恵の実を食らう事も、人種の違いで争う事もなかったでしょう。私は神の子として、人の為となる教は広めましょう。しかし神にはすがらない。神は、きっと私を見捨てるのだから」

「ならば、私が逃してやろうか?」

「いいえ。罪人として捉えられた私が逃げれば、私の弟子達と、協会の者達が本格的に殺し合いをしてしまう。それは、望まぬ事です」

「…………つまらん。お前は欲がない、そんなんだから、神に利用されるのだ。お前の神に死後はないぞ?仏教共ならあの世があるが……」

「死すればそれで終わり。天の国も地獄も、私、実は信じてないんです」

 

 だから異端者と言うのも間違いではありませんでした、と朗らかに笑う男。翌日には茨の冠を被せられ、十字架を背負い丘へと登った。同時に同じ監獄に捉えられていた悪魔憑きが姿を消した。

 その死後、生死の確認のために心臓を刺された。

 あれだけ神格化されていた男の血を浴びたのだ、神々が好む武器作りの核としては充分な触媒だろう。

 その男の死体は天使に持っていかれ、復活したなどと噂が流れるもその男ととある化物が再び出会うことは二度となかった。



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