【雷霆】ガンヴォルト (ガンヴォルトはカッコ可愛いMk-2)
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001【雷霆】
三人称side
活気で賑わうとある町の市場。其処では町の住人たちがその日の夕食を買う声や、仕入れた新鮮な野菜をその日のうちに完売させんとする商人たちの客引き声、さらには日が暮れ初めていると言うのにまだ遊んでいる
治安が特別いいと言うわけでもないので時たま強盗や野盗の類は現れるが、そこに目を瞑れば平和な町。
そんな夕食まっしぐらな時間にその男は歩いていた。
その男の髪の毛は黄金を溶かしたかのような綺麗な金髪で、そんな髪の毛を男は煩わしそうな後ろに短く纏めている。買い物した後なのだろうか、男はその細腕からは想像も出来ないような量と重さがある紙袋を汗ひとつもかかずに持っていた。
普通に考えれば周りの人達から忌み嫌われそうな光景だが、町の人々は平然としていた。何故ならその光景は彼ら町の住人からして
「日用品は……これで全部買えたか?」
男は時折紙袋の中を覗き込んでは、それを抱えている方とは逆の手に握られているメモ用紙を交互に見やりながら首を傾げていた。
そんな時……
「おーい
そんな時、恰幅の良い肉屋の主人が、自身が切り盛りしている店から大声をだして男を呼び止めた。
「なんだい!?」
「良い肉が入ったんだ!見てくれよこのツヤ!この油!この赤身!!」
成る程確かにその肉は非常に美味しそうであった。だが残念な事に男は既にその日の買い物を終えていた。それに男は必要最低限以上の金銭をあまり無闇に持たない性格であり、その日も男は
「すまないね!生憎と、今は手持ちがないんだ。また今度あったら購入させて貰うよ!!」
「じゃあしょうがねぇなー!今は経営カツカツだから無理だが、安定したらその時に割引するぜー!!」
「感謝するよ!」
そのまま会話を打ち切った両者は別れ(既に分け隔たれていたようなものだが)、男は口の中の
(うし。言質は取った!今度あったら目一杯割引してもらおう!!)
男は別に肉に興味がないわけでも無かった。
『キャーーーーーーーー ッ!!?』
だがそんあ平和なやり取りの後、突如として街に悲鳴が響き渡った。
男は条件反射的に腰の
やっぱり引き抜いておけばよかったよコンチキション。
男はそう後悔した。
「だっ、誰も近づくんじゃねぇ!?この女がどうなってもいいのか?アァン!!?」
そこにはいかにもな悪人面している粗暴そうな男が、女性の喉元にナイフを突き付けながら周りを牽制していた。手には
「み、道を開けろォ!じゃねぇとこの女の首を掻っ切るぞ!?」
『……ッグ!』
自警団の青年たちが悔しそうな顔を浮かべながらも、その剣を納め今も女性の喉元にナイフを突きつけている犯人に向かって道を開けた。
「へ、ヘヘッ!そうだよ…それでいい……オラァ!てめえもこっちに来い!」
「キャッ!?」
男は自らに開けられた道を歩きながら、今現在もナイフを突きつけている女性を乱暴にエスコートしていた。
あぁ、このままでは街でも評判だったあの女性は連れ去られてしまう。あの女性が辿る末路は強姦かそれとも奴隷落ちか……いずれにせよ確かに不幸ではあるが、ここら一帯では然程珍しくもない事だった。女性がこのまままんまと男に連れ去れきられたとしても、明日になれば『あぁ、あれは不幸な出来事だったな』で片付けられる。
町の人々もそれを理解してしまっている為か、特別悲しそうな顔をしているのは、ここに来て日が浅い者か、その女性の肉親や兄弟達だけだった。
そんな時ヒュン!という風切り音と共に、男の手首に一本の
「あん?なんだこりゃ――――」
同時にバチィ!という音と共に男の手首に極小の【魔法陣】が形成され、蒼雷が走った。
「ッ―――ギャアア!?」
雷によって感電した男は女性とナイフを取り落とし、痺れた片腕を抑えながらも蹲った。女性は急に離された事によって蹌踉めき、あわや躓いて転びそうになってしまうが、そんな事実を嘲笑うかのように女性は宙に浮かび始め、針金が発射された方向に向かってフヨフヨと浮遊した。
そんな不思議現象に警戒した粗暴な男は、女性の浮かんで行った方向を仰ぎ見た。
「……大丈夫?」
そこには先程男も見かけた金髪の男が浮かせた女性を優しく受け止めていた。
「あ、あ、ああ………」
「…そうだよね。急にこんなこと言われても混乱して受け答えなんか出来ないか。」
男はそっと女性を下ろし、腰を抜かして立てない女性のためにどこからとも無く取り出したハンカチを地面にしき、そこに女性を座らせた。
「でも、安心して。」
金髪の男は180度反転して、今も蹲っていた男と向き合う。その男の目は正しい正義による怒りの目で、彼と同職の者達からすれば、まずしないような目をしていた。
「君を害した男を……今から僕がボコボコにするから。」
そのまま彼はゆったりとしたペース――着実には近付いている――で男に歩み寄った。
「これは魔術師ほぼ全員の思想だが…奪うのなら当然。奪われることも覚悟しているんだろうな?アナタは」
己が装着している手袋に描かれている魔法陣から発生した雷でさらに大きな魔法陣を描きつつ、男はそういった。
「ヒッ!ヒィィ!!?」
男は急に後ずさりを始めた。
何故なら男―――この世界の一般人達にとってはまさに「恐怖の代名詞」のような存在だと理解したからだ。
「お、おい!?コイツ【魔術師】だろ?お前ら助けてくれよ!!?」
【魔術師】とは読んで字の如く、まさに魔術を嗜む者達のことである。基本的には自身の【領地】に引き篭もり、魔術の深淵を極めんと切磋琢磨しているが、魔術の中には生贄を使用した方が大規模に出来る物もあるため、街へと赴き奴隷を購入したりはたまた勝手に誘拐したりするので、この世界では
一転して自身を弱者に仕立て上げたと
「…………へ?」
市民からの視線は白々しいもので、その表情は「コイツは一体何を言っているんだ?」という奇異な者を見るかのような顔だった。
「バカ言ってんじゃないわよ。確かに魔術師さんは悪いのが多いけど、この人だけは別よ。」
「そうだそうだ!町の奴らが攫われたり襲われたりした時も、教会の奴らよりも早く来てくれる!」
「お布施や救出金だって要求しない!!」
あーだこーだと己を援助する発言をする者たちに向かって金髪の男は困ったかのような表情をし、「…別に、無償ってわけじゃないんだけど。」と静かに呟いた。
この世では絶対的な悪と言われる魔術師を、町の住人が庇いに庇いまくっている。そんなまるでこの世ならざるかのような光景を見せ付けられた強盗の男は、自身の近くに転がっていたナイフを半ばヤケクソ気味に掴み上げ、金髪の男へ向かって走った。
「―――クッソ、死ねぇ!!?」
異常な光景を見たことによる若干の精神異常を引き起こした男の斬撃を、最低限の動きで危なげもなく避けていく金髪の男。
「太刀筋が乱れ過ぎている……もうちょい鍛えてから来た方がいいんじゃないの?これなら自警団の新入りさんの方がいい線いってる。」
そう評価を下したのちに男は強盗の手首を捻り上げ、強盗のナイフを見つめる。
「ナイフも、もうちょっと手入れしたら?こことか、刃の部分歪みまくってるし。」
そのままおもむろにナイフの刃を握り締め――不思議と血は流れなかった――叩き折った。
「ヒェ―――」
「……フンッ!」
直後金髪の男から放たれた首を刈り取るような蹴撃―ブラジリアンキック―を……寸止めで放たれた。
男はそのことへの衝撃によって腰を抜かし、そのままズボンからひどい匂いを漂わせた。
「ったく、大の大人が小便垂らしてんじゃない。」
あきれた様子で男が歩み寄った。
男の左手には先程男が放った謎の針金が発射された筒状のもの。右手には円状の幾何学的な美しさを持った魔法陣を手で弄んでいた。
「う、うあ…ウゥ‥‥……」
誘拐(未遂)の男はその場で男が放つ極限のプレッシャーに宛てられすぎたのか、その場で泡を吹いて気絶した。
「―――計画も技術も度胸も無し、呆れた実行犯だね。」
呆れを通り越して無関心にまで冷え切った男は気絶した未遂犯の足首を掴み、その細身からは考えられないような力で男の体を片腕で持ち上げた。
「捕まえるまでが僕の仕事だ、あとは君たちに任せるよ。」
無造作に腕を振るい、男を投げ捨てた男はそう言って手をフリフリと振りながらその場を後にした。
その後来た『教会』の聖騎士たちは、その後の住民たちの嫌悪の視線と辺りに広がっている焼け焦げた跡を見て揃って歯噛みした。
ここ数年にこの港町に現れ、教会を嘲笑うかのように人々を助けることを至上とした極異端の『魔術師』。
二つ名は―――――――――
【雷霆】のガンヴォルト。
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002【魔王候補】
ガンヴォルトside
俺の名前はガンヴォルト
所謂転生者と呼ばれる部類の人間だ。前世では大震災の際に倒れてきた電柱によって感電死したっぽい。因みにこの名前は偽名だ。本当の名前を付けて貰った両親は俺を魔術師から救う為に死んでいった。
気付いた時には見覚えのない天井を見て思わず『……知らない天井だ』発言した俺に両親はひどく戸惑っていたことはいまでも脳裏に深く思い出せる。
俺が生まれた民族は『ヴァンパイアハンター』ならぬ『魔術師ハンター』で生計をたてる集団で、過去にご先祖様がとある親切な竜に電流を発する遺伝子を組み込んでもらったかなんかで、魔術紛いの電撃が出来る種族で、俺はその中でも一際強い発電能力があるということで期待されていた期待のニューホープだったそうだ。
だが俺が10歳の時にとある魔術師に誘拐されてしまった。
どうやら特殊な力も持つ俺の一族は生贄として優秀らしく、その中でも高圧高効率の俺はその中でも生贄としての適性は頭一つぶち抜けていたそうだ。救出しに来た同族は次々と返り討ちにあい。もうダメかと半ば諦めていた時に辺境の魔術師を退治しに行ったという俺の両親が件の魔術師を強襲した。
俺の両親は集団ピカイチの電力を誇る強力な『魔術師ハンター』で、親が来たときは思わず泣き出してしまったものだ。だが件の魔術師も強力な魔術師で、両親と魔術師の戦いは熾烈を極めた。
結果は…………親の勝ちとも言えるし、負けともいえる決着だった。
魔術師の不可視の矢が二人を貫き、死に至るまでの一瞬。母が放った特大の電流が止めを放ったことで油断した魔術師を感電させ、父が手に高圧電流を纏った抜手を魔術師の心臓を突き破った。
魔術師は人外の再生能力を持つ筈なのだが何故かそのまま再生せずに崩れ落ちてった。
件の魔術師が死んだため俺を縛っていた摩訶不思議的チェーンが腐り落ち、俺はすぐさま親の元に走り寄った。両親は虫の息で、俺の顔を見た瞬間二人同士して『よかった』とだけ呟いていき、その生涯を閉じた。
その
あのクソ魔術師は集落も壊滅させやがった。
基本木造建築だった我が家や友人の家はさぞかしよく燃えたのだろう。その場にいたのは対魔術師としてはナンバーワンの戦力と知名度を誇る教会の聖騎士たちだった。口調としては俺の事を存分に労ってくれていたが、笑みを見ればこいつ等が俺の事を『ザマァw』的に捉えているのは一目瞭然だった。その場にいた超強面(バッタリあったら泣く自信がある)おじさんがその魔術師の金銀財宝や村の資金を全て俺に譲渡してくれたからよかったもののあの人いなかったらあのクソ共に襲い掛かった。
俺は傷がつきまくった精神と体を奮起させ、十年間世話になった(なお集落の生き残りは俺だけだったらしい)集落に別れをつげた。
そこからはどかに行くかも決めていない行き当たりばったりの旅路だった。幸いにして路銀は先程もらった物を含めて結構な金額だったので生活自体には困らなかった。問題は極短いスパンで俺を襲ってくる魔術師達だった。
実はあの魔術師は絶命する瞬間に広範囲に渡って俺がどれだけ魔術の触媒として使えるのかを広めたらしい(これは俺を最初に襲撃してきた新米魔術師をぶちのめして吐かせた情報だ)、最初のうちは俺の事をただの子供と侮った奴らだけだったが日時がたつにつれて逃げ隠れなくちゃいけない一流とはいかないまでも二流上位の魔術師も出て来た。
中には複数人の奴らもいて―――その時はどこからともなく現れた老婆の魔術師が助けてくれた―――俺の課題は“力を身につける”ことだった。最初のうちは電気をスッカラカンになるまで打ち続け電気の最大保有量を増やしたり、体の成長を妨げない程度に体を鍛えたが、それだけでは足りなかった。
だから俺は【魔術】に手を出した。
自分の集落が滅びた元凶なのにか?という疑問がきそうだが俺の憎しみの対象はあくまで『俺を誘拐し両親を殺し、挙句の果てには集落を燃やし尽くした件の魔術師』であって、【魔術師】自体を、ましては【魔術】を憎むつもりは毛頭ない。だって魔術自体は『道具』だし。
丁度俺みたいな素性の怪しいガキにも魔術を教えてくれる『先生』もいたしな。
数年後。免許皆伝……とまではいかないが『自分の弟子を名乗っても問題ないよ』と言われた俺は近所に町でセクハラ騒ぎを起こしていた姉弟子を手土産に先生の元を去った。
そしてその数年後、たどり着いた
途中その土地の【魔王】に呼び出しを食らってなんか悪いことしたっけと思いながら向かうと【雷霆】の二つ名をもらったり自分の専用武器を作るために町の鍛冶師と共同作業(深い意味はない)したり偶々入手した【異世界召喚】の魔術を使ってみたりした。
……まぁ召喚の反動で俺の家が丸ごと吹き飛んだりしたが。
そんなある日のこと、俺は普段は使わないような魔術の本を読んでいた。
魔術師の力の源はこの魔術を学んだ際に得られる【回路】だ…回路の多さイコールその魔術師の強さと言っても過言ではない。ちなみに俺の回路数は三万七千五百。この数値は世の中でも数十人ぐらいの【魔王候補】の中でも頭一つ抜けているらしい……まぁ俺の場合は先生の蔵書を読み漁ってたからなんだが――――――
「【魔王】が一柱マルコシアス崩御ねぇ…まぁあの人も結構年くってたし、妥当ってところかな」
俺は黒い靄がかかったカラス――恐らくどこかの魔術師の使い魔――からの手紙にそう書いてあった。
「さて十中八九【魔王】の遺産を巡って争いが起きそうだな……ん?」
手紙の端にはこう記されていた――――近日元【魔王】マルコシアス様の領地でもあったキュアノエイデスにてマルコシアス様の遺産のオークションをします。ひいては高名な【雷霆】ガンヴォルト様にも――――その後はつらつらと俺にオークションへ参加してほしいという内容が綴られていた……って二枚目もあるし。まぁこっから先はどうでもいいやと手紙を空中に放って放電によって火をつけ処理した。
「この前行ったばっかなんだか…まぁ一応魔術師として向かった方がいいな。」
はぁ……もう歩いていくのもつまらないから一気に行くか。
次の瞬間俺は体に蒼雷を纏った。
次の瞬間耳元でパァン!という音が響く、何回も聞いて完全に慣れた音だが当初は驚いたものだ。
魔術師と聞くと肉体が貧弱なものを想像しがちだが―――まぁ俺は数十年の旅の間でアイツら相手には絶対に油断しなかったが―――実際はそんじょそこらのマッスルマンよりも強靭な肉体だ。なんだったら一週間飲まず食わずで全力戦闘が出来る。そんな強化魔術に加えて俺の電撃による肉体強化が加われば、軽く音速をも超える。
その内強固な結界魔術が目に入った。確かあれは…ザガンとかいう最近盛況な魔術師の領土の筈だ.
基本的には自身の領地に引き篭もっているようで一度もお目にかかった事はないが…確か今は亡きマルコシアスがかなり物騒な二つ名を付けようとしてたな。
それ以上の感情や興味が湧かなかったのでそのまま通り過ぎようとすると――――――
「魔術反応…ん?妙に雑だな。」
駆け出しとはいえ魔王候補の一人がするような紡ぎ方じゃないな…侵入者か?う~ん一応俺は『困った時はお互い様精神』だから助けにいかないわけにはいけないか……な?隣でなんか蠢いている黒っぽいナニカに向かって雷球をぶん投げつつ、俺は自身の体を雷に変換し結界魔術のスキマを縫うように入り込んだ。
sideザガン
「……ん?」
教会の人間らしき女を帰した(正確には適当にポイ捨て捨てたようなもんだが)俺は乗っ取られたのを感知した。
(これは……二人か?)
これでも俺は自分の魔術の腕には自信があるので、多少傷ついたが―――っむ。結界が乗っ取られただけではなく空からも来ている……?そしてそんなことを考えていたら結界を乗っ取った魔術師が…………………………えぇ?
「なんで黒コゲになってるんだバルバロス」
「俺が聞きてぇぐらいだっ?」
妙にひょろ長く如何にもな不健康顔をしている悪友バルバロスに思わず呆れた声が出た。
「普段の行いじゃないか?」
「あぁそりゃそうだろうな!俺たち魔術師だもんなっ、でもありゃあ確実に魔術の雷だったぜ!!」
「それと勝手に俺の結界を乗っ取るな殺すぞ。」
「今ナチュナルに俺のこと殺すって言いやがったなっ」
"仲がいい"と言われた日には迷わず存在ごと消し去るような悪友と話していると、上から青白い光とパチパチという音が聞こえて来た。
不思議に思って上を見上げた瞬間、俺のとなりに雷が落ちた。
「ッ!?」
雲一つない快晴の筈なのに降って来た雷の方向に振り向くとそこには青と黒が混じった色のトレンチコートを着込んだ金髪碧眼の男がいた。
「結構細かい結界だったな……っと、君がザガンか?俺はガンヴォルト。これでも【雷霆】の二つ名を貰ってるそこそこ有名な魔術師だ。」
「…そこのバルバロスに雷を落としたのは―――」
「俺だな。後悔もしてないし反省もしてない。」
「反省しやがれっ!」
犯人を特定したバルバロスからの熱戦の魔術が
sideガンヴォルト
この子本当に駆け出しか……?魔力が既に【魔王候補】の域に達してやがる――――――っとと、話しかけといて放置は非礼極まるな、取り合えず…………
「先程は申し訳ない。魔王候補たる貴方にしては雑すぎる魔力反応を見かけたもので―――何かあったので?」
俺の目的は別に喧嘩を売りに来たってわけじゃない。ただ単純にさっきの魔力反応が気になっただけだ。ザガンはふと何かを考える素振をした後にこちらに向かって口を開いた
「あー……さっき俺のこの<領土>ないで生贄魔術でもしようとしてた奴がいてな…安眠のためにぶっ殺したら生贄の女が気絶した。俺はそんな類の魔術には興味も無く研究する気もないから女のほうは俺の<領土>の外に転移させた。」
ふーん………ん?
「俺の記憶が確かなら近辺に<顔剥ぎ>とか言う三流魔術師がいて、【教会】の聖騎士が派遣された気が―――――」
「あぁ確か女には教会の紋章があったな。案外その派遣された聖騎士の生き残りだったのかもな。」
むぅ。女性の聖騎士って……
「オイオイおめえ何もったいないことしてんだよ【女】で【聖騎士】の生贄なんぞそうそう手に入んねぇんだぞ?」
「あんな準備も手間もかかる魔術使えるか。しかもあの手のやつは肝心の時に使えん。」
「お前はどう…って聞くまでもねぇか」
「…【煉獄】とは違って俺も生贄を使う系の魔術は使わない主義だ。対価を要求される魔術でも触媒を使ってる。」
俺自身が過去に生贄になりかけた経緯があるため自他とも並みの人よりも生贄魔術を忌避しているが、それを今表に出してもなにもかいけつしないのでぐっと飲み込んだ。
「……それで【雷霆】はなんの用事で来た?」
「俺の名前はガンヴォルトだ。言われた通りさっきのはついでで、本命は『招待』だ。」
「招待だぁ?」
「といっても舞踏会とかの類じゃない。【煉獄】は知ってるかもしれないが、最近【最長老】のマルコシアスが亡くなったことは?」
「もちろん知ってるぜ?っていうか俺もその件についてコイツを誘いに来たんだ。」
「オイ。二人だけで話を進めるな、俺はマルコシアスが死んだこと自体初耳だぞ。」
「…さっきも言った通りここら一帯を治めていたマルコシアスが亡くなってね。近くのキュアノエイデスで―――――」
「……まさか」
「そのまさかさ、出るって話だぜ?かの【最長老】の遺品ってヤツがよ。」
「俺の所に招待状が来てね。【かの高名な雷霆様にもぜひ来て頂きたい】ってさ。せっかくだしこれまで関わりの無かったザガン君を誘ったって訳さ。」
その後、条件付きでザガンから金を借りた【煉獄】と一緒に俺はキュアノエイデスへと赴いた………まさか思い付きで連れてった子の運命の相手が見つかるとは露にも知らずに
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003【目と目があう〜】
ガンヴォルトside
バルバロスがザガンに女性のことについてちょっかいをかけていたこと以外は特に何事もなく会場に到着した。
「おぉ……貴方がかの【雷霆】様!お噂はかねがね……さぁさぁどうぞ此方に。」
《噂》ね…何を聞いてきたのやら。
案内人の薄っぺらいお世辞を聞き流しながら会場の特等席とも言えそうな場所にたどり着いた。
「……ガンヴォルトはかなり有名な魔術師なのか?」
ザガンが俺に向かって質問を飛ばして来た。
「…そうだね、エゴサーチ――評判を探ったことはないけど一応【魔王候補】の端くれだからそこそこ有名だっていう自負はあるつもりだよ。」
「オイオイ。アンタでそこそこっつうんなら大抵の魔術師は無名も同然になっちまうぜ?」
バルバロスが急に話に割り込んできた。
「こいつはなァ勿論【雷霆】っていう二つ名が最も有名だが、それ以外にもこうゆう呼び方があるんだぜ――――【魔王候補筆頭】――――っていうのがな。」
「うん?そんな呼び方は初めて聞いたんだが…」
得意顔で言ってきたバルバロスの発言に疑問を覚えた。
ちなみに【魔王候補】とは【魔王】―――【魔物の王】ではなく【魔術師の王】よいう意―――の存在に最も近い者たちのことを指している。
かという両隣のザガンとバルバロスも俺と同じく【魔王候補】の一員だということは知ってるが………俺が【筆頭】?
「おいザガン。お前の回路数いくつだ?」
「なんだ急に…19000前後といったところだ。」
「あぁそうだな。俺だってそのぐらいだ。」
「話の方向性が見えんぞ。ついにまともな会話機能ですら失ったか?」
「うっせ。話の繋ぎ方が下手糞な作者が―――――って俺は何を言ってんだ?」
…まぁいいか と気を取り直したバルバロスが話の続きを始めた。
「コイツの魔術回路数は30000以上だ。」
「なっ……!」
む、それはちょっと違うぞ。
「正確には32000ぐらいだ。魔術師だったらもっと正確なデータを出してからモノを言おうか?」
「……お前有名な割には自分の情報全っ然出さねぇからこれでもそこらの奴らからしたらかなりいいデータ集めたつもりだよ…………」
地面に『の』の字を書き始めた(丁寧に指先に『強化』の魔術を施して土に比べたら断然固い地面に書いていた)バルバロスを尻目に『まもなくオークション開始時刻でーす』と流れ出るアナウンスをBGMにしながら会話を重ねていった。
「つまり
余り興味がなさそうな表情でザガンが問い掛ける。だが、俺は敢えてその問いに異を唱えよう。
「いや…………俺は多分誰よりも魔王には程遠い魔術師だと思うよ。」
「…………………?」
首を微かに傾げ『それはどうしてだ?』と問い掛けようと口を開くザガンだが――――――――――
『ウオオオオォォォォォッ!!!』
「―――――どうやら開始の時刻みたいだ。全部が全部かの【魔王】の品じゃないらしいからよく見分けるといい。」
俺はそれを言ったきり黙り切った。ふむ……なんか微弱だけど強い魔力を感じる。それにこの独特な感じ…希少種族?
三人称side
その後突如として出品されたハイエルフを百万金貨という望外な値段で買い取ったザガンを会場全体が見送り、一緒にいたためかバルバロスと一緒に行動していた。
「不味い――マズイマズイマズイッ!エルフなんて化け物で魔術なんて使われたら今俺が準備してる奴だって…ブツブツブツ」
ザガンが購入―――余りこうゆう表現は好きじゃないが―――した奴隷のエルフを連れ帰った後、バルバロスは妙にブツクサ物騒なことを呟いている………さっきから生贄だが儀式だがいってるからたぶん魔術についてだと思うが、明らかに目がヤバい。
アレは明らかによからぬことを考え、若しくは実行している途中の目だ。
……何かあった時は止めるか。
因みにこの時奥の手を使ってなお届かない存在を召喚されることを知っていたらこの場で頭蓋を破壊したことだろうなというのはこの時を以て始まった騒動が一呼吸ついてからの彼自身の独白だ。
三人称side
バルバロスと別れた(というかずっとブツブツ言っているうちにどこかへ行ってしまった)ガンヴォルトはこの街の教会………の裏口へと赴いていた。
かというのもこの教会の責任者は所謂【過激派】であり、いかに『悪』の魔術師を倒すガンヴォルトでも魔術師だから『悪』だと決め付けられる――――実際半年前この街について直ぐに『表彰しますよ~』というみねの手紙が届いたので行ってみたらほぼこの街の総戦力で袋叩きにされた――――どうしようもないクソジジ……失礼。老害なので、彼はいつも教会の情報を利用する時は裏手へと向かっている。
かというのもここには彼の協力者がいるからだ。
「こんにちわ。聖剣保持者」
「そ、その
そこにいるのは赤い髪を腰当りまで下した乙女だった。
「そう言う訳にも…一応魔術師と聖騎士ですので」
普段は絶対に使わない敬語を使う彼は極僅かな敵意を宿しながらも丁寧に会話を続ける。
「…あぁそうだな。貴方の事は聞いている―――部隊も所属もまったく違うが、その件は済まなかった」
「…………………………」
恐らく目の前の彼女が言っているのは自分の幼い頃の出来事なんだろうなぁと男は
ガンヴォルトにとって過去のことは過去の事と割り切るタイプの人種なので、今更(当事者でもない限り)謝られても……という心境だった。まぁ謝られたのは事実なので一応受けておこうと返答を口にする。
「気にしないで下さい。今更言われてもどうしようもないので」
「えっ………」
内心ガンヴォルト『しまった』と思ってしまった。少々キツイ言い方をしてしまった自分自身に舌打ちする。
「すみません……どうもその話題には気が短くなってしまうみたいです」
「あ、あぁ…こちらもすまなかった。君の気持を少しも考えずに軽々しく謝罪なんか…」
その可憐な顔を俯かせながら彼女はしっかりと此方の顔から眼を逸らさなかった。
(やっぱり彼女は【聖騎士】なんかには向いていないな)
彼女の純粋に過ぎる心意気を悪いとは言い切れないが、それは余りにも残酷な事があった場合簡単に折れてしまいそうに感じた。
(でも、それは許されないんだろうな)
彼女の腰に帯剣された剣―――教会の対魔術師最終決戦武具【聖剣】を見据えながらガンヴォルトは『いったい聖剣の担い手の判断基準は何なんだ?』と思いつつ会話……否、情報交換を続けた。
「なるほど…かの【マルコシアス】が崩御したのは此方も情報を掴んではいたが、それによってこのような魔術師が動き出すとはな」
「ムゥ……相変わらずここのトップは過激だな、降参して五体投地した魔術師を拘束して拷問の末に惨殺って…オイオイこれが聖職者のやる事か?」
「ソレを私に言われても……」
「あぁ……すみません。どうやら結構引き摺っているみたいですね」
(…はぁ。結構女々しいのかね、僕は)
どちらかというと断然清い行いの方が大好きなガンヴォルトは知らずのうちに愚痴ってしまい、思いのほか怒ってる自分を【女々しい】と評した。
そこから大体十分後………
ガンヴォルトside
…やっぱり認めたくはないけど、組織のデカさ故のこの情報量の多さはバカに出来ないな。
そう思いつつも俺は最近開発した文字を紙に写す魔術を使い本に投影しつつ、今日はもう充分だなと思いつつもう切り上げようとした。
「そろそろ切り上げよう。貴女にだって立場ち書類仕事があるはずだ」
「さ、さらりとイヤなことを言ってくるな貴方は…」
「……それは抜きにして、これ以上いたら怪しまれるのも確かだ――――これも、ここのトップが魔術師との共存説に賛同してくれたらいいんだけどな」
「それは…」
「―――すみません。無理なことを言いました」
本当になんでここのトップはあんなに俺たちに厳しくて容赦がない……過去になんかあったのか?
俺みたいに集落かなんかを壊されたとか。…まぁそれを加味してもあの様子はどうみても異常者のそれだが。
因みにさっきまで話し合っていたコチラの【聖騎士】は一応十人ぐらいいるらしい【聖騎士長】の一人もとい紅一点で………ってそういえば
「突然ですけど…いや、もうこの口調はやめよう。アンタ、前に【顔剥ぎ】に殺されかけたのは本当か?」
そう俺が言った途端一瞬で彼女は『やべっ』という顔になった。
「……貴女は仮にも一人一人が【魔王】にも比肩すること請け合いの【聖騎士長】の一員だろ…それは立場としてどうなんだ?」
「それがマズイ事なのは分かってるから…もう許してくれぇ……」
まぁこの人は自分自身でアホみたいに反省するからこうゆう言い方はいらないんだけどな(黒い笑み)
「もう反省してるみたいだから何も言わない――にしても、あんたが魔術師に助けられるとは………」
この前調べた…もといザガンによく聞いてみたら、この聖騎士長―――もといシャスティル・リルクヴィストと完全に特徴が一致したため、彼女を助け、た?
………いや、あれは投げ捨てたと言ってもいいような気がするが。とにかくシャスティルを助けたのはザガンだと判明した。
………にしても、ザガンの城に訪れた時に彼が購入(やっぱこの言い方大嫌いだ)したハイエルフの彼女はどこにいたのだろうか?
「本当に、そろそろお暇するとしよう。」
「うむ、そうだな。私も書類…しょ、書類を片付けるとしよう」
軽く顔を青くさせている彼女を見送った後、俺はそのまま自身の居城…というには狭い所だが、自分の城に帰った。
三人称side
彼……ガンヴォルトは基本どんな魔術でも使える万能系魔術使いだが、その中でも一番の見せ所はやはり『イカヅチの魔術』の種類の多さとその火力だろう。
元々彼の部族―――世間一般的には『
そんな彼は、自身の魔術の発展に邁進していた
「ふ~む…まだまだこの技の
彼の目の前には彼がよく魔術の試し打ちに使っている野原があり、その目の前はスパーク舞い散る焼け野原と化していた。
「いやぶっちゃけ『クードス』の量とかとう判断するんだよって話だよなぁ…………」
ガンヴォルトはウンウン唸りながら手元のメモ用紙に何事かを書き込みながら地面に暇つぶしに紡いでいた魔術回路を起動した。すると魔術を書いていた紋章からパチパチと鳴いているミニサイズの龍が現れた。
(こうゆう魔術の使い方だったら世の中平和だろうに…)
そうふとした物思いにガンヴォルトが耽っていたら魔術に込めた魔力が尽きたためか雷製のチミ龍がいなくなった。そのチミ龍に勇気づけられたような気がして、彼は座っていた倒木から立ち上がり「まず一端使えるSPスキルを全部使ってみるか」と立ち上がり、自身の魔術を行使し始めた。
「…『天体の如く揺蕩え雷、是に至る総てを打ち払わん!』」
ガンヴォルトが使う魔術は基本的に魔法陣を使うが、この魔術群だけは口頭で使用する『呪文』と呼ばれるものを使用している。
「『ライトニングスフィア!』」
呪文の言葉を全て言い終わった彼の周りに雷球が三つ現れ、彼の周りを周回し始めた。
(本来この技はそのまま俺の周りをグルグル回り回ったら消えるが―――ここから…!)
「『マンダラ』!!」
追加の言葉を言うと雷球は彼が指さした方向へと向かって行き、その方向にあった岩を完膚なきまでに打ち砕いた
「精密性と速効性は上がっているんだ……まだだ…まだ先に行ける!」
彼はそう言うと次の呪文を紡ぎだした。
因みにこの後(魔術を)三日三晩打ち続けたせいで、ネフィ関連のことで尋ねて来たザガンが目撃したのは焦土と化した彼の領地に魔力切れと空腹でぶっ倒れたガンヴォルトの情けない姿だった。
因みそこそこ後に某聖騎士長の名前が出て来たのは彼の聖騎士に対する悪感情からの嫌がらせです。決して、決して名前を忘れていた訳ではないんだ…!
あとこの小説最初は彼女がヒロインの予定でしたが原作のカップリングが良すぎて諦めましたw
修正:ガンヴォルトの魔術回路数を情報修正しました。あとザガンの魔術回路数はオリジナルです。
ザガン自体が『バルバロスは自分よりも強い(現時点)』と言っていたのでバルバロスよりもちょっと下の数値にしました。
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