放浪者の元傭兵 (nobu0412)
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危険な旅

男は歩いている

数週間前までは仕事をしていたがついに目標額の貯蓄を貯め元いた部隊を離れ放浪と旅をしていた

 

必要なもの以外は入っていないリュック、いつでも使えるように下げて持っているガスマスク、そして彼のトレードマークとも言える薄汚れたオリーブドラブカラーのブーニーハットを深く被っている

 

ガスマスクを除けば登山やトレッキングでもしているように見えるがこれは立派な旅の装備だった

 

彼は安全地帯から安全地帯を渡り歩くことを繰り返している

当然安全地帯など近くにあるものではない、乗り物に乗らなければ丸1日かけても辿り着くことなどできない

それでも彼は歩いているのだ

 

ここ1週間は自前の食料で過ごし時にはE.L.I.Dや鉄血人形にも遭遇したがどうにか切り抜けもうすぐ次の安全地帯へとたどり着く

 

その矢先であった

道中の廃墟の続く旧市街地でのことだった

鉄血人形集団とG&Kことグリフィンの人形部隊のような集団が戦闘を繰り広げていた

避けるよう脇をコソコソとしていると偶然正面に出てきた鉄血人形と鉢合わせしてしまった

一瞬処理落ちしかけたが長年の経験により反射的に持っていた拳銃で2発ずつ頭部とコア撃ち抜けた

相手は人類に仇なす人形だ、迷うことなどない一瞬でも遅れていれば間違いなく殺されていた

 

そして奥からわんさかと湧いて出てきた人形たち、破壊したのはサブマシンガンを使うタイプであったためリッパーと判断した

2丁持ったサブマシンガンで乱射してくるが持っているお手製のジャマーを使うとあらぬ方向へ撃ち始める

 

その隙に窓から建物に入り全力疾走で廊下を駆け抜ける

ジャマーを起動しているとはいえこれにも限界があるが何よりグリフィン側の人形にも影響があるため早めに切る必要がある

意味もなく恨みを買う必要はない、ただ無事にここを抜けることができればいいのだ

 

途中の部屋に逃げ込み扉を閉めて息を殺していると扉の向こう側からガチャガチャと騒音を鳴らしながら通り抜ける音を聞きやり過ごす事が出来た

 

一息つきながらペットボトルの容器に入っている水を取り出した

少し口に含み容器をしまうと窓から身を出さないように外を伺う

 

やはり所々で小規模な戦闘が起きているらしい

煙が上がるところ、聞こえてくる遠方の銃声、時たま飛んできた鉄血の偵察機であろう型番はスカウトが飛んできては身を隠す

現状あまり出歩くのは得策ではなかった

 

少し早いが止まる準備をしようと選択しようとした時だった

偶然通りを移動中であったグリフィン小隊のの1体の人形と目があったような気がした

 

思わず窓から離れて反対側の窓から外を見るとこちらに指をさしてなにやら話している

どうやら何かいると認知されてしまったようだ

 

確かにグリフィンとは敵対したくはないが別にもう関わりたいとは思っていない

出来るだけ遭遇せずにやり過ごすのがベストだがこのままではそうはいかない

 

このままではここに来てしまうだろう、そして望まぬ遭遇になる

正直、現状あらゆる組織に関する団体とは関わりたくない

危険地域を放浪としているなんて怪しすぎるからだ

 

そうなればここから離れる、とにかく遠くに離れしれっと安全地帯まで逃げるだけだ

扉を開き誰もいないことを確認すると廊下に出てT字路に差し掛かる手間まで移動した

 

するとぬるりといった様子で向こう側から人形が現れた

容姿からすればグリフィンの人形で向こうは面食らったように、おそらくこちらも同じような顔だっただろう

キャミソールにジャケットという戦場では目を疑う格好だが確かに銃を持っていた

ぱっと銃を見れば旧世代のアサルトライフルの型だった

 

何か言う前に行動していた、素早く拳銃を構えて腹の底から大きな声を上げた

 

「伏せろっ!」

 

「---!」

 

目の前の人形が反応して伏せると銃声が響く

3回の耳をつんざく破裂音、彼の銃口の先には1体の鉄血人形がコアを撃ち抜かれ力なく倒れた

 

一瞬の静寂が訪れる、それを打ち破ったのは人形の方だった

 

「・・・銃を捨てなさい」

 

言われた通り銃を置くと当然拘束されて一番近くの部屋に連れ込まれた



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放浪者とFN小隊

はい、忘れないうちにネタを使います(戒め)


「で? あなたはここで、なにをしているわけ?」

 

両手を縛られ椅子に座らせられた男を見ながら、FN小隊の隊長FALは対面しながら銃を携えている

 

先程助けられたが立場上怪しい人物であることに変わりはないので尋問をしていた

 

「(ねぇ、49。 さっきのブリティッシュ小隊からの連絡であったのって…)」

 

「(は、はい…やっぱりあの人だと思います…)」

 

部屋の隅で小隊員であるFNCとFN49が小声で会話していた

 

先程L85A1から連絡があり近くにいるため調べに来れば先程のことが起きたのだ

間違いなく彼女が見つけた不審人物としてみていいだろう

 

「FNC、49? なにしてるの?」

 

先程から手荷物の検査をしていたFive seveNがコソコソと話している2人に声をかけてきた

どうやらあらかた検査が終わったらしい

 

「ん? いや、なんでもないよー。 それよりなんかあった?」

 

FNCが話題を変えるようにいうとFive seveNはやれやれといった様子で肩を竦めた

 

「日用品ばっかね…旅行っていうにはちょっと仰々しいわね」

 

食べ物、水水筒、防寒着、固形燃料のコンロ、小型スコップ、簡易寝具マット、医療品、着替え、予備の靴等リュックにはお出かけというには少し日常と離れたものの組み合わせでありまるで軍人の行軍装備のようだった

 

所持品検査でもポケット代わりにつけていた旧式のチェストリグにコンパスと地図、双眼鏡、赤色に遮光されたライトそして一番怪しい手首の袖口に小さなナイフ、ブーツに括りつけられたナイフそして持っていた拳銃が出てきた

 

言ってしまえばスパイと考えるのも仕方ない

民間人には必要のないものが多すぎたのだ

 

グリフィンに敵対しているのは鉄血工業だけではない。 人類人権団体、危険地帯にはこびる強盗団、グリフィンのライバル社など数多にある

鉄血はまずないとしてもテロリストの一員である可能性が出てくる

それを考えてしまえば不審人物から危険人物であることになる

 

しかし、当の本人はめんどくさいと言った様子で「…ただの放浪者だ。 安全地帯を求めてやってきた」と答えるがそんなことを信じるほど現代は甘くない

 

いよいよスパイ説が濃厚であることになり始めると通信が入ってきた

FN小隊を納める指揮官からの通信だった

 

『FAL、無事か?』

 

「えぇ、無事よ。 それよりも、この怪しい男の対処を指示して頂戴」

 

『…FN小隊は一時離脱してくれ。 近くの飛行場まで向かってくれ。彼も頼むぞ』

 

「わかったわ。 アウト」

 

通信を切り全員に向き直る

 

「聞こえたわね? 帰るわよ」

 

「わかったわ。 彼も連れて行くの?」

 

「えぇ。 仕方ないけどね」

 

手を縛っていた物を切り預かっていた拳銃と予備マガジン、ナイフを返した

自分の身は自分で守れというころだ

 

「…言っておくけど、変なことしないでね」

 

武器類を受け取り頷いた

 

飛行場に行くまでこれといった戦闘もなく、呆気なくたどり着いた

 

「呆気なく着いたわね…まぁいいわ。 指揮官、聞こえる? こっちはランディングゾーンアルファに到着したわ」

 

指揮官に到着の報告を入れると帰ってきたのは焦るような内容だった

 

『FAL、気をつけろ。 そっちにマンティコアを率いる部隊が向かっている情報が入った』

 

マンティコア、鉄血側の四脚型無人歩行戦車であり多脚式で機動力が高いのか装甲持ちであるにも関わらずそこそこの回避値を持っている上に火力も高い

一度戦闘になれば安くはない被害が出るのは確実だ

作戦前のブリーフィングには確認されていなかったが突如現れたのだ

 

「マンティコア!? どうして!?」

 

『わからない。 とにかく着陸地点を確保してくれ』

 

「無理難題な注文よ…」

 

『すまないがしばらく指揮が取れない。 前線にハイエンドモデルが出てきた。 そちらに集中する』

 

「了解…アウト」

 

通信を切ると部隊員たちは焦り始める

今回FN小隊は偵察任務に当たっていたため多少の武装はあるがダミーを引き連れていない

オリジナル各個だけでは厳しいのだ

 

「ど、どうするの!? 私達だけじゃ難しいって!」

 

「まずいわ…今、徹甲弾があるのは49だけよね?」

 

「ふ、ふぇえ!? わ、私だけじゃ無理ですよ〜!」

 

応援を呼ぶにも着陸地点まではなかなかの距離である

しかしこの着陸地点を奪われるわけにはいかなかった

 

「…考えがある」

 

今の今まで会話に入るどころか喋ってもいなかった男が言い始める

 

「…何かしら?」

 

「マンティコアを攻略するなら手立てがある」

 

「…それに従う必要はないわよね?」

 

「私は構わない。 君たちは死ぬ、私も死ぬ、それだけだ」

 

男の淡々とした言葉には選択肢を迫る強みがあった

どのみちこのままでは全滅だ、誰が好き好んで全滅するだろう

逃げてしまえば着陸地点は制圧され市街地にいる味方部隊は撤退ができなくなってしまう

この男は怪しいが考えがある、まさに賭けだった

 

「…いいわ、乗ってあげる」

 

「ちょっと、FAL正気!?」

 

「私達だけじゃ全滅するわ。 それにこの飛行場は死守しなきゃいけない、わかるでしょ?」

 

非難の声を上げるFNCだが他の者も渋々といったところだ

懐疑的に彼を見ているのは皆同じだ

 

「…待たせたわ。何をすれば?」

 

「出来るだけ早くこの飛行場にある使えるものを集めてくれ」

 

「わかったわ。 聞いたわね、行動開始よ!」

 

4人の人形たちと1人の人間がせわしなく動き始めた




戦闘は次ですかね…


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銃を撃つだけが戦術ではない

まだ大丈夫だ、まだ…


「敵の戦力は大分部分にマンティコア、そして小隊ほどのアイギスとニーマムだ」

 

「なぜわかるの?」

 

「マンティコアが出てくるならこの組み合わせがセオリーだ。 市街地を抜けてこようがこまいが大部隊で鈍い装甲部隊が見つからずここまでくるとは無理だ」

 

男は見つけた倉庫から弾薬と扱える副兵装と爆薬を分配しながら話す

大部隊を動かすなら当然それは目立つ

鉄血の兵器たちは隠れる行為をしないためハイエンドの指揮がない限り正面から堂々とやってくる

 

おそらくハイエンドの指示でここの飛行場の襲撃を企てたのだろうがおそらくこっちにはハイエンドモデルは来ない

何故なら確認されているハイエンドモデルは市街地の1体だけだからだ

ハイエンドモデルは良くも悪くも目立つ

マンティコアが見つかったのだからハイエンドも付随している情報がなければおかしいのだ

マンティコアに関するの情報が正しければの話だが

 

とはいえ接近戦だけのアイギスも後方から狙撃してくるニーマムも装甲持ちだ

ただライフル弾だけでは倒すのに時間がかかるだろう

 

「どちらにせよ大部隊となれば移動は遅い。 その間にどこかしらの部隊が発見して応戦して数を減らすだろう」

 

「まぁ…そうだけど」

 

「どちらにせよ私達にできるのは奴らを待ち伏せして潰す事だけだ。 マンティコアを潰せばあとはどうにかしてくれ」

 

偶然見つけた弾薬の他にカービンライフルがあった

ストックが畳めるモデルのためおそらくパイロット用の護身武器の予備だろう

できれば7.62mm弾以上の高火力、長射程のものが良かったがないものはない上に贅沢は言っていられない

 

カービンライフル本体と5.56mm弾の詰まったアモボックスと持てるだけのマガジン4本を持って自分の配置に向かう

弾を込める時間も余裕もない以上来る前にその場でやるしかないのだ

 

指示した位置に爆薬を仕込ませるときある場所でFive seveNから「貴方正気?」と言われたが答えず準備を進めた

 

「爆薬のセット完了したよ!」

 

「て、徹甲弾っ! 準備完了です!」

 

「グレネード弾、準備いいわ」

 

「全域を見渡せる、この位置ね」

 

「了解…奴らを待て」

 

プラスチックでできたシースルータイプマガジンに1発1発弾を込めながら隣にいるFive seveNと共にくるであろう敵の軍勢を待つ

 

 

 

「…来たわ」

 

男が持っていた双眼鏡を頼りに索敵するとやはりひらけた道、通常車両などの進入に使われるゲートから堂々とやってきた

 

通信を入れ全員に進入経路と規模を報告した

驚くことに殆ど男が言った通りマンティコアと小隊規模のアイギスとニーマムがやってきた

 

「予想通りね…起爆は?」

 

「まだだ。 セオリー通りならアイギスとニーマムが散開してその真ん中にマンティコアが中央を陣取る」

 

2人は飛行機用の格納庫の脇の草むらに伏せていた

手入れは行き届いておらず隠れるには絶好のポジションでもあった

 

監視をしているとまるで男に誘導されたように円で陣を組むようにアイギスが四周の警戒、ニーマムが援護、そして中央にマンティコア

 

 

 

---舞台は完成した、あとは役者が踊るだけ

 

 

 

飛行場のあちこちに仕掛けた、今現在鉄血集団がいる地面のc4爆薬が起爆した

 

電気信号を受信し一瞬のタイムラグを起こしつつも思い通りに瓦礫の山の中や落ちていた看板の下に仕掛けたもの、大きめの缶詰の中に仕掛けたc4が爆発した

 

鉄血の装甲兵器は大半の銃弾は防いでしまうが徹甲弾や爆破には弱い

装甲を貫通したり、装甲の縫い目や爆風による飛翔物の貫通、侵入にはめっぽう弱いのだ

 

特に足元、真下から起爆された人形は防ぎようがない

鉄血の設計者もある程度は対策していたが装甲を厚くしすぎるとただでさえ鈍いものがさらに鈍くなってしまう

故にこのように装甲を一部薄くしたのだろう

真下からの攻撃には鉄壁の防御を誇るアイギスも、ニーマムもひとたまりもない

 

何体かのアイギスとニーマムを破壊し鉄くずにしてやると次に段階に出る

まずはFNCだ

 

先程伝えられた指示を思い出す

 

---始まったら当てなくていい、撃ちまくって注意を引いてくれ。

ただ、一番危険なのは君だ。 FALと49が失敗すれば間違いなくマンティコアどもは君に向かっていく

 

間違いなく危険な役割を押し付けられたが仕方がなかった、他に適任などいない

だがやるだけの価値はあった

 

「反撃できないくらい、コテンパンにしてあげる!」

 

飛び出したように連射で出来るだけこちらに気づくように仕向ける

あっという間に1マガジンを撃ち尽くし物陰に隠れた

 

「FAL! 頼んだよ!」

 

 

 

 

鉄血の人形、正確にはマンティコアの注意がFNCに向き攻撃をし始めた

機関砲が抉るようにFNCの隠れるバリケードを壊していく

 

「好機を逃すな…!」

 

FALはセットされた前装式のグレネード弾を使いマンティコアの足に向けて発射した

間抜な音を立てて見事、マンティコアの右前の足を破壊しに命中し機動力を落とすことに成功した

 

 

 

---マンティコアは姿勢が崩れるとまず姿勢制御プログラムが働く、つまり意味もなく立ち上がろうとする

だから足を潰せば時間が稼げる

だが特にこれは失敗できない、1発目が失敗したら49の狙撃の後に撃て

2人が失敗すればFNCがまず死ぬだろう

 

 

 

「…全く、ナメられたものね」

 

FALはもう1発のグレネード弾を準備し始めた

 

 

 

 

 

---君はバックアップに当たってもらう

FALが成功しても失敗した時も、君が徹甲弾を使ってマンティコアのジョイント部に撃ち込んで動きを鈍らせるんだ

そのあとは遊撃に回って一掃してくれ

 

「FALさんっ、成功した…!よぉし、撃つわよ!」

 

倉庫の屋上、マンティコアの右後ろのアームジョイント部に撃ち込む

吸い込まれるようにジョイント部にあたり動きをさらに鈍らせることができた

 

しかしFN49の存在に気づいてニーマムが応戦してきた

 

「いいですとも、全員撃っちゃいましょう!」

 

徹甲弾を使いどんどん反撃を始める

普段から自信なさげな彼女だが今は流れに任せて前のめりに戦闘をしていた

 

 

 

「増援が来るわ! 49、ゲートからよ!」

 

『了解ですっ!』

 

Five seveNは全体を見渡しサポートに全力を注いでいる

もとよりハンドガンタイプは観測系のサポートを重視する働きを持つため戦闘よりもスポッターとして動いた方が良いのだ

 

指示したとおり49がゲートから来る増援を狙撃する

 

 

 

---君は全域における監視、オーバーウォッチをしてもらう

何一つ動きを見逃してはならない

それは皆の死に繋がる

 

 

 

 

「さて、本命の準備はいい?」

 

「…準備完了」

 

「マンティコアは動けないわ、今よ!」

 

「起爆!」

 

男は準備していた起爆装置、無線や電気信号でないタイプである有線起爆装置で残りのc4を起爆した

 

手間がかかってしまったが同じ電気信号にしてしまうと誤爆しかねないため安全策としてあえて使い勝手の悪い有線を使ったのだ

 

しかし利点もある、起爆の際電気信号の不調やジャミングによる不発の可能性が低いのだ

 

構造は単純で切れてもペンチなど被覆を剥く道具さえあれば繋いで使える

はるか昔からのものだが使い方によっては今だに通じるものがあった

 

起爆してc4は電波塔の足元で爆発し姿勢を大きく崩した

支えがなくなった電波塔はみるみる倒れ動けないマンティコアを飲み込むように倒壊した

何トンの鉄の塊たちを支えられるはずもなくそのまま潰され、周りにいた数体ももれなく巻き込んだ

 

「…勝負ありね」

 

いつもならダミーがいても苦戦していたマンティコアが呆気なく一方的に倒されFive seveNは勝利を確信していた

 

「…残党狩りだ」

 

未だ残っていアイギスの数体に向かって駆け出しカービンライフルをバーストで連射した

 

アイギス、ニーマムの残党を倒しあたり一帯を掃討し終えとるとそこにはぐちゃぐちゃになった飛行場と戦術人形たちと1人しか残らなかった



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遠い記憶とS09指揮官

まだいける、まだ行くぞ!



マンティコアを倒し数十分後

グリフィンの回収ヘリが到着し共闘した彼女たち一行とS09地区司令部へと連行されることになった

 

大人しく座っていると飛行場がめちゃくちゃだなんだと言っていたが結果的にどうにでもなってしまいヘリのローター音が響く中で目を瞑っていた

 

目を閉じるたびにあの小隊の彼女たちを思い出す

特にこの目を閉じる行為で、あの戦術人形の彼女を

彼女は相変わらず目を閉じているのだろうか? 相変わらず相方は繊細なのだろうか? 傭兵時代から組んでいた彼女も元気だろうか?

数週間前までいたため少し心残りのようなものがあった

しかしいつまでも戦場に身を置くつもりなどない、あとは好きに生きるだけのはずだった

 

しかしやれることをやった以上もう既にいる意味などない

仲間たちの存在と過ごしてきた時間は掛け替えのないものだった

組み始め、その最期の瞬間まで

 

そんなことを考えながら感傷に耽っているとS09地区とやらについたのかヘリが着陸した

 

「降りて」とFALに促され言われるがまま降り立ちFALに追従した

不審者としての扱いのため手錠をかけられ腕が不自由ながらも歩くことができるためそのままだ

 

しばらく歩いた後独房のような場所に入れられた

何もできず、虚無のように何も感じず独房の壁を眺めていた

 

未だに思い出す、傭兵時代で初めて家族にような仲間ができたあの日

思えばこんな風に独房で過ごしていたのを思い出す

当時若かった彼は悪行の限りを尽くしていた

 

全ては金のため

 

10代の終わり頃は産業スパイの真似事をやっていた、クスリも売った、人殺しもやった、仕事に失敗し服役になった時は人生を諦めた

 

 

 

 

 

 

そこへやってきたのだ

 

 

 

 

 

 

鉄格子からカンカンと鳴らす音が聞こえ首を横に向けるろそこにはグリフィンの制服を着た若い男と数時間前まで一緒にいたFALがいた

 

「どうしたのよ、壁なんかじっと見て」

 

「…」

 

問いかけには答えなかった

今度は隣のグリフィンの指揮官が口を開いた

 

「初ここのS09地区の指揮官だ。 名前は立場上明かせない。 悪く思うな」

 

簡潔な自己紹介をすると今度はこちらのようだった

 

「私は…ただの放浪者だ。 何もない、ただの人間だ」

 

「そうか、ただの放浪者か。FALの話の通りだな」

 

指揮官の男が扉の電子ロックをデバイスを使い扉を開けた

その様子を呆れた表情でFALは見ていたが止めはしなかった

鍵を使い手錠を外すとにこやかな笑顔になった

 

「長い時間拘束して悪かった。 君をここから出そう」

 

手錠をはめられていた手首を摩る

特に違和感はなく、異常などはなかった

 

「FALたちが世話になった。 飛行場はメチャクチャだが、鉄血の連中に取られるよりはマシだ」

 

指揮官は外へ向かって歩き始める

FALを見るとため息をつきながら肩を竦めた

 

どうやら本当に解放されるらしい

指揮官の後に続くように独房を出る

指揮官に続いて歩を進めると外へと出た

基地内では銃を持った戦術人形や作業員、車両やヘリが忙しなく動いていた

 

「見ての通り少し忙しくてな。 ここ最近は鉄血の動きが盛んになり始めた」

 

基地内の様子を見ながら指揮官が語り始めた

内容はやれハイエンドの出現や最近の情勢など愚痴にも近いものであった

 

「あんた、行く当てはあるのか?」

 

「…行く当てなどない。故に放浪者さ」

 

「なら、ウチに来ないか? 補佐官でも整備員でも戦術人形の訓練官でも、なんでもだ」

 

何かと思えば勧誘だった

指揮官はマンティコアの部隊を少数の人形とともにほぼ無傷で全滅させたこの男の手腕を買っていた

丸め込めればより彼女たちの生存につながり、戦闘効率の上昇につながると見ていた

しかし、応えは決まっていた

 

「…すまない」

 

「そうか、わかった。 …FAL、彼の荷物を」

 

FALが指示通りに取り上げられていた荷物を持ってきた

中を確認しない物が無いかを確認し全てあったため身に纏う

最後に拳銃を受け取りプレスチェック(薬室の装弾確認)を行い腰のホルスターにしまった

 

「最近ではどこでも一緒だ。 鉄血の動きが激しい。 気をつけて行けよ」

 

「…忠告、感謝する」

 

「じゃあな、放浪者。 今度は捕まらないようにな」

 

「手間をかけた。若き指揮官よ」

 

クルーガーには気をつけろ、と最後に口に出さず別れを告げた

 

S09地区基地を出て安全化された都市部へと向かった

 

都市部は最盛期ほどでは無いが人の往来で行き交っている

隅に目を向ければホームレスや盗んだ商品を露店販売などもちらほら見える

 

いつまでもぼけっと止まっているわけにはいかない足速に体を休めるための宿泊所を見つける

 

安く、少し薄汚い所だったがシャワーなどの設備はある程度整っているため良しとした

 

体を清め、清潔な服を着込み、荷物の手入れをする

特に必要なのが拳銃とお手製ジャマーだった

 

お手製のジャマーは先程隠していたため見つからなかったが、見つかっていれば没収されただろう

 

しかしこれは渡せない、渡すわけにはいかない

仲間が遺したものの1つだから

 

陽が沈み、太陽が見えなくなると街灯がつき始める

久しぶりに見る人工の光も悪く無い

そう思いつつ、明日は使ってきた備品を補充しておく必要があった

使える金は使える時に使い、補充はすぐにする

それが習慣のため明日1日はそれに費やすだろう

今までの旅の疲れを癒すためベットに横たわり目を瞑った

 

今日1日は酷く濃厚だった

彼の意識は深く、闇に落ちた




主人公についてはそのうち名前とかわかってきます
名無しじゃないよ!


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閑話 戦術人形の記憶

とある戦術人形の過去話


とある日のことだった

私はとある小隊に配属された

構成は私を含めた試作戦術人形2体と外部の傭兵の、それも人間による男女の2名だった

 

最初は興味もなく、どうでもよかった

脆弱な人間だ、死んでも代わりがくると思い期待などしていなかった

 

試験的に構成された小隊の目的は私ともう1人の戦術人形の調整、観察、訓練などが目的だった

軍用の人形として作られた私たちは特殊な個体で私は電子戦特化、相方の戦術人形が戦闘特化という分担だった

 

挨拶代わりになぜ傭兵を使うのか疑問に思い聞いてみれば『軍は貴重な人的資源を失いたく無いのだろう』と返された時は人間のくせに人間らしく無い物言いだった

帽子をかぶった傭兵の相方、女の傭兵は「ウチの相方はこんなもんだ」と言うだけだった

 

 

 

 

 

訓練は予定通り進んだ

実戦闘、ハッキングの応用、相方の戦術人形との連携、通常では考えられない速度での最適化工程を経てダミーの運用も予定外ではあったが訓練課程に追加された

 

特に戦術に関してはあの2人、特に帽子をかぶった傭兵には敵わなかった

 

これといって個人では特殊な何かがあるわけでも無い

戦い方はオールラウンダー、言ってしまえば器用貧乏、何を取っても特化していない能力だった

だがこの男の行動は読めなかった

合理的な行動を徹底するかと予測すれば非合理的なことを平気でやってしまう狂人だった

 

普段は不要なものを見て、それに気を取られるのが嫌だから目を閉じていた

目を閉じていても特に不便しないし、判断能力が落ちるわけじゃない

しかし彼と戦う時は必ず目を開く、演算処理能力を上げ、どんな隙も動きも見逃さない為に

それでも彼には勝てない、2体の優秀と言われている戦術人形が1人の傭兵相手に勝てないでいた

 

そんな日が続く中私は尋ねた、「どうすればあなたに勝てる?」と

意外にも男は応えた。「戦術を意識しなければ高いだけの性能は役立たずだ」

それを元に考えて、その日は少しだけ、優位に立てた

 

いつからか彼に興味を持ち始めた

勝つ為の戦術だけでなく、彼自身のことも

いつ生まれて、どうして傭兵を? 相方の女とはどんな関係などと、どうでもいいはずの情報を私は欲した

彼を知りたいから、彼に私を知って欲しいから

 

男はただ冷淡とも取れる対応で一つ一つ返してくれた

態度はともかく、どんなことでも応えてくれる彼が嬉しかった

簡素で、大事なところが抜けているのは薄々気が付いたが結論を教えてくれる

 

同じように、初めは嫌そうな顔で訓練を取り組んでいたが今では彼女も私と同じだった

同じように彼に教えを請い成長を望んだ

私から見てもそれは依存に近いものだった

 

いつか彼が所属していた部隊なのか数人で写っている写真、彼と女傭兵も写った写真を見た

相変わらず無表情で、鉄血人形のように光が灯っていない瞳が写っている

相変わらずだった

 

 

彼は私たちを強く育ててくれる

彼の言葉、「無理をすることはない。皆が選ばれし者などではない」という言葉で視野が広がった

同じ視線であることで様々な物を見ること、感じることができた

演算処理能力の向上を図ることができた

 

どうして戦うのか聞いた

現代は戦術人形が戦闘するというのに生身の人間が出るなんて死にに行くようなものだ

珍しく、よくわからない答えを返された

「いつかきっと見えるものが、望んだものと信じて」

 

 

ある日は彼が持っていた拳銃をなくしてしまった

先の戦いで爆発物に巻き込まれて壊れてしまった

幸い銃が壊れただけで彼は無事だった

柄でも無いのに思わず目を見開き、敵を全力で殺しに行った

その時は彼も、彼女たちもなんとも言えない表情になってしまった

 

代わりに私が手に入れた拳銃をお礼と称し彼にあげると「大切に使わせてもらう」といつもの冷淡な態度でも、嬉しさを含んでいたのがわかった

古いものを使い回している彼に新品のものは少し違和感があった

 

それを女傭兵に話すと「お前たちはあいつより人間らしいな」と言われた

あの女傭兵はどうにも変だ

私たちを作った研究者や軍上層部の人間と話しているのを目撃した

言動などからして彼女はただの傭兵ではなさそうだ

彼は知っているのだろうか?

 

数多の短く無い時間を過ごし時に戦場を共に歩き、同じものを見て、多くを感じさせてくれた

 

 

 

---あの日までは

 

 

 

実践任務ということで私たち4人の小隊が立派な部隊として派遣された

 

依頼の内容は廃棄されたI.O.P社に残された重役の回収だった

これから作る戦術人形に使われる技術者だが襲撃に遭い、取り残されたままだった

 

技術者を連れ帰るというのが私達の任務だった

ヘリで現場の近くまで移動しファストロープ降下での迅速な展開をし現地までデータでは有り得ない速度で制圧していった

 

そして救難信号の発信されている現場に向かうが重役は既に死亡していた

 

止むなしに帰還をしようとした時だった

状況が一転し一気に押し込められてしまった

正規軍と民間軍事会社の混合部隊は混乱し敵もこちらに押し寄せていた

 

脱出する時は迎えに来たヘリに高層フロアからビルから飛び乗るというまるで映画のようなことをした

女傭兵、相方の人形、私、そして彼の番だった時だ

迫ってきた敵の猛攻からヘリがその場を離れてしまった

 

戻るよう脅しに近いことをパイロットにいうが無線から聞こえた声は聞き慣れた玲たんな声だった

 

『行け、離脱しろ』

 

「置いてなんか行けない!」

 

『…ここは戦場だ。 運命は自ら切り開け』

 

それを最後に彼から通信は入ってこなかった

現場に戻ることはなく、基地へと帰投してしまった

 

最新の情報では鉄血に占拠され近づくことは出来ないとのことだった

 

茫然とした

今までいてくれたあの人がいない、受け入れられなかった

 

絶望した

どんなに願っても帰ってこない現実に、目を背けたかった

 

 

気づけば意味もなく声を上げて、瞳から水気のようなものが滴り落ちていた

脳の演算処理ができない、義体がいうことを聞いてくれない、コアのメンタルモデルが乱れている

 

 

 

---あぁ、そうか。これが涙か

 

 

 

 

 

「----、起きてください」

 

目を開けずとも、分かった

今まで同じ道を歩んできた相方の声だった

小休止をしていたが気がつけば眠っていたのだろう

 

「…また彼のことを?」

 

心配そうに尋ねてくる彼女の言葉を聞き瞼を拭うと、わずかながら水気を帯びていた

どうやら未だ決別できていないようだった

情けない、こんなところを見られては彼に示しがつかない

銃を手に取り立ち上がった

 

「…手を煩わせたわ、行きましょう」

 

「えぇ…出発しましょう」

 

通信を入れ指揮を執る彼女に報告を入れる

 

「聞こえるかしら? K12に到着したわ」

 

『了解。 時期を見て殲滅しろ』

 

「了解」

 

2体の戦術人形は銃を取り、歩み始める

 

いつかきっと見えるものが、望んだものと信じて




ネタはまだある(慢心


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崩壊した世界情勢

(戦闘は)ないです
今日の午前は仕事で午後は暇ですが大雨でキレそうです


目を覚ますと朝日が昇り始め光が差し込んでくる

起き上がり荷物のチェックをする

拳銃の状態、所持していたもの、リュックの中身、無くなったものがないか確かめ着替えて必ず身につけているブーニーハットを被り荷物を持って宿屋を後にした

 

都市部の朝は早い

世界が滅びかけていても人間が生きている限り文明は存在し、今も生きている

 

出勤するもの、露店で店を開くもの、グリフィンのパトロール、様々なものが行き交う

 

その中では男は異質だった

住んでいるわけでもなく、定職についているわけでもない

大きなリュックを背負い街中を歩く姿は第三次世界大戦前でも物珍しい、というより変わり者の類であったのかもしれない

 

しばらく歩き続けると今の時代には珍しい、お洒落と形容するべきだろうか、カフェなるものがあった

 

幼い頃に見たことがあるチェーン店であった

まだ存在していたのか

店内でも設けられた小規模のカフェテリアでも飲食をすることができる店だ

 

入り口付近にあるメニューボードを見るとさ様々な商品が白いチョークで描かれている

最近はまともな食事を取っていない上に贅沢もここしばらくしていない

 

朝食はここにしようと決め扉を開くと呼び鈴が鳴り始めた

 

「いらっしゃいませー! すみません、まだお出しできるものがないので、少々お待ちいただけますか?」

 

「構わない。 ブレックファーストのセットを頼む。それと、新聞か雑誌はあるか?」

 

若い女性店員の軽快な挨拶で対応を受け求めていた雑誌、ないしは新聞を「こちらになります!」と案内を受け雑誌と新聞を取り外のカフェテリアで読むことにした

 

ふと通りを見ると先程より人の行き来が多くなっている

多くの人が立ち止まり上を見上げている

そこには巨大なディスプレイで最新のニュースや広告映像を流す、言わば広告塔だった

 

当然こんなものを設置できる企業など容易に想像がつく

G&KかI.O.P社のどちらか、それとも両方か

 

第三次世界大戦以降始まったPMC台頭による都市運営委託計画により特定のPMC企業の株が上がり、戦闘、警備だけでなくインフラ整備、警察活動、流通、管理などただの傭兵や人形など荒くれたゴロツキ集団である時代ではなくなっていた

 

軍事、警察、公共活動までもPMCが担う時代になってしまった

そんな移り変わりを第三次世界対戦よりも前から見てきたものとしては一つの組織に密集しすぎているという考えであった

 

これはあくまで民間軍事会社のためいずれ株の暴落や組織の壊滅が起きてしまえば人々は路頭に迷い、強盗団か鉄血、E.L.I.Dに殺される未来しか無くなる

 

あらゆることに関してもそうだが今現代において戦闘員が不足している

それを補うための戦術人形だがある程度生身の人間の戦闘員も頭数を揃える必要も考慮しているのだろうか?

 

今となっては戦闘員を辞め只の放浪者として生きているわけだが興味がないわけではなかった

今起きていることを知ることができれば世を渡り歩くことなど容易い

それこそ生存につながる習慣というものだった

 

ディスプレイに映されるものはニュースを放映している

控えめに音楽を流しながらキャスターが世界の情勢を伝える

 

今現在の軍やグリフィンの戦闘の状況、テロ活動の声明、企業の不祥事、周辺の注意喚起、グリフィンの政治活動の開始の兆しか、など言ってしまえばどこにでもよくあるニュースのようだった

 

なんだかんだと言って世界が滅んでいても人間のやることなど変わらない

どの時代に生きようが大きな変化などないのだ

 

たしかに放射線汚染地域やE.L.I.D、鉄血人形、テロ活動など命に関わる事柄は多くなってきたがその程度では人間は死滅していなかった

世の中便利か不便かの違いでしかないのだ

 

ディスプレイに映されていたニュースが終わりいつでもどこでも見てきたグリフィンとI.O.P社の広告が流れ始める

 

特に見るものでもないので持ってきた2日分新聞と週刊誌、2つとも紙媒体による情報源だった

 

遠く昔から、彼が生まれる前からあるもので今でこそ出版数や発行部数なども多く削減されているが古き良きものとして今の今まで存在している

 

まずは今日の新聞に目を通してみる

やはり特に代わり映えのないものばかりであった

先程ニュースで見ていた内容と大体同じかグリフィンとI.O.P社の賞賛をしている記事があった程度だ

 

そんな記事を見て鼻で笑った

とんだ茶番だ。 これよりも、もうひとつゴシップ誌に載っているグリフィンの悪事の有無について言及している記事を見た方がまだ納得できる

 

グリフィンの黒いところはよく知っている

企業に闇などいくらでもある

しかしグリフィンの闇はそんなものではない

しかしそれが明るみに出れば? 間違いなくグリフィンの責任者、べレゾヴィッチ・クルーガーに問われ企業を運営できなくなる

その先にあるものが破滅そのものだ

人間が存在する限り、存在している文明を保つことができないなどとお笑いではないだろうか

 

ちょうど頼んでいたメニューが女性店員によって運ばれてきた

 

内容は朝から昼にかけての活動にはちょうどいいといった内容だ

ありふれたメニューだが今でこそ貴重なものだった

 

カフェを後にし買い足しておきたい物を買い足しておき明日の朝に向けて出発準備をしていた

 




日曜の仕事が無くなってキレそうなので書いておきます…


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望郷の唄

題名とか考えないでやってましたが考える事にしました

気がつけばUAが1000を超えていた事に驚きました(震え声
感想や意見、指摘なるものがあれば書いていただくとすごく喜びます
読みづらいなどのことがあれば改善していこうと思うのでどうぞよろしく…


出発の時

再びこの都市で朝を迎え出発をする時であった

都市を出るゲートには厳重な人形部隊の警備がある

よほどの理由がなければ入ることも出ることもできない

 

策がないわけでもない、賄賂や脇を見て抜け出す

人形にも趣向品は人気と聞き試したところ地区によってだがやはり通ずるものがある

相手が女性型であり戦術人形なら甘い菓子類などは中々有効であることが多い

人間相手ならば同じように賄賂が通じる

こちらはわかりやすく地区が荒廃していれば金よりも煙草や食べ物の方がよい

 

朝方を選んだのは勤務交代の間際を狙うためであった

長い時間の勤務を終え下番する間近に次に上番する部隊に申し送りをする

 

その間ゲートに立っている警備を除き情報共有と物品の確認のために本部はよほどのことがない限りあまり機能しない

その隙に抜けるか賄賂を渡して抜け出すというものだった

 

仮に失敗してもジャミングを装置を使い出来る限り遠くへ抜け出すという強行突破もできるが追跡部隊がこない保証もない

ある程度逃げてしまえば問題ないがそれでも油断などできない

 

ゲートの人形に声をかけて見れば意外にも、知っていた顔だった

あのFN小隊の一員であるFNCとFive seveNだった

 

「やぁ、おはよう」

 

「えっ、あっ! あなたはあの時の!」

 

「あら、前日ぶりね。 どうしたの?」

 

向こうも覚えていたのか先日からそれっきり話にも上がらなかった知り合いに驚きと再会の喜びを感じているようだった

 

「外に出たいのだが、可能か?」

 

「もしかして、また旅に?」

 

「外は危険よ。 ここで暮らせばいいじゃない」

 

2人は単純に心配してくれているようだ

Five seveN の言うことは最もだろう

ここは安全化も図られているし、物流や暮らしも高い水準だ

しかし男は断る、理由は単純明快、男がそれを望まなかった

 

「危険など承知だ」

 

「わかったわ…でも、無茶しちゃダメよ?」

 

「いつでも戻ってきてよ! そしたら今度はみんなで遊ぼう!」

 

「あぁ、また会う日を楽しみにしている」

 

持っていた紙袋を手渡す

男が「餞別だ」と言いFive seveNに渡した

賄賂として用意していたがこう言うのも悪くない

2人に通してもらいゲートを抜けた時だった

 

「ねぇ、そういえばあなたの名前は?」

 

Five seveNが呼び止めるように言い放つと首を横に向けて言った

 

「またあったら教えよう」

 

「そう…その約束、忘れないでね?」

 

「じゃあね、バイバイ。 また会おうね!」

 

再び歩き出しふと上を見ると見張り台に2体の人形、FALとFN49がこちらを見ていた

手を挙げて振ってやると向こうも律儀に返してきた

 

しばらく歩き都市地区が遠目になってきた頃ふと立ち止まり都市へ振り返った

 

FNCやFive seveNの言葉を思い出す

また会おう…か

あぁ、そうだな

 

「…いつになるのか、知らないけど」

 

男は再び歩き出す

ついには都市も見えなくなってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒廃した道を歩く

ここの周辺は都市で情報収集をした際イエローゾーンという括りであった

 

グリーンゾーン、安全化された都市やPMC、軍の庇護化にある生活区域

 

イエローゾーン、安全化されつつあるが危険は否めず、戦闘の恐れがある区域

 

レッドゾーン、鉄血やE.L.I.Dの支配地域でありいつ何処で戦闘が起きてもおかしくない危険区域

 

そしてダークゾーン、未だかつて調査に向かいなにも解明されていない未知の区域

 

噂では人間同士の殺し合いで物資を奪っているなどの噂があるがそれは文字通り闇に飛び込まなければならない、言ってしまえば自殺に近いものだった

 

とはいえこの周辺にはイエローゾーン程度の地域しかない

指揮官が優秀な為かなかなか見ない場所ではあった

 

しかしそんな暮らすには理想な場所を蹴ってませ男は旅に出る

男の信念に基づいて、実行していた

 

イエローゾーンの途中で休息を挟む事にした

ふと、水を飲みながら見えた山景色を見て思い出した

 

かつて一人の仲間が山を見るたび歌を口ずさんでいた

 

出身である州の州歌だった

よく口ずさんでは仲間たちに茶々を入れられていたが男は黙って聞いていた

故郷に帰りたい、そんな内容だった

 

それが始まりだったのかよく声をかけられるようになった

一時期は陸軍で働き少尉まで昇進し、半ば売られると言う形でこんな傭兵になったとぼやいていた

それでも絶対に故郷に帰ると決意していた

 

あの日を境に皆は別れてしまった

生きているのかもわからない

 

お手製ジャマーは彼の遺物であり預かっている

いつか会えると信じて、必ず返すために

 

ふと男もその歌を口ずさんでいた

ただ孤独で切ない、望郷の歌が虚しく奏でた

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が下がり始め暗くなった頃だ

なんの施設かよくわからないが廃墟と化したコンクリート建物に入る

 

拳銃を抜き安全を確かめる

見つかったには老朽化した物と、いつ倒されたのかもわからない人形だった

胴体を何発も撃ち抜かれ、とうの昔から放置されて自然に侵食されつつもあった

 

特になにもないため今夜はここで夜を越すことを決めた

 

比較的ましな部屋は窓がまだあったが隙間風も通り、暖房などの設備もない為当然冷え込む

あろうことか、先程言った既に活動を休止している人形がいる部屋だった

 

縁起でもないが相手はもう事切れているし、放置しされていることから強盗団など生身の人間はやって来ないということだ

 

ここのあたりで警戒すべきは狼などの野生動物だろう

窓から外へ光が漏れ出さないように窓を布で覆い固形燃料を取り出し暖をとりながら食事を始めた

 

缶詰の食料は質素で、塩分の割合が高いものだった

今は贅沢など言っていられない

早めに済ませると眠気がやってくる

 

簡易マットを敷き都市で調達した寝袋に包まる

慣れてしまえばすぐに眠れてしまう

長年に渡る経験は似たり寄ったりな状況で活かされていた

 

今日の昼間ごろに歌っていた曲をまた歌っていると思い出す

自分の故郷は何処でどんな場所だったか、親はどんな顔をしていたか

なぜだろう、思い出せなかった




歌っている曲はみんな知ってるであろう曲です
筆者も純粋にこの曲は好きです。本家英語版ね
さぁなんですかねぇ。当ててみましょう


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死んだ街と独り

明日から仕事〜!!
つらい


誰かが僕を呼ぶ声がする

見慣れた天井を見てぱっとベッドから飛び出すように出る

 

僕は呼ばれてから行くのが早いとお父さんとお母さんに褒められる

もっと褒めてもらうために、前よりも早く向かいたい

 

そんな気持ちで急いで部屋を出て

階段を降りると僕を呼んだお母さんが朝ごはんを作っていた

 

「お母さん! おはよう!」

 

元気いっぱいに朝の挨拶をするとお母さんはこっちに振り返っーーーーーー

 

 

 

 

 

目を開けると見慣れぬ天井だった

いつもに通りに起き上がり周りを見渡す

どうやら夢を見ていたらしい

 

なにやら最近夢をよく見る

記憶の断片か少年時代の夢だった

小さな家で父親と母親、そして自分の3人で暮らしていた

おそらくまだ第三次世界大戦も北蘭島事件もない、平和な世界だっただろう

 

チェストリグのポケットからメモとペンを取り出した

夢で見た内容を記録しておく、いつか忘れてしまっていることを思い出すために、僅かながらの可能性があると信じてやっている習慣だ

 

メモを取り終え荷物を片付けて部屋を出る前に部屋の隅で動かない人形を見て一つ呟いて出て行った

 

「お邪魔したな」

 

人形は返事をしない

そして再びその部屋は永い永い静寂に包まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな街が見え始めた

遠目で見たところ住宅街のようなものが見えた

そこを目指して歩き続けて半日、ようやくゲートまでたどり着いた

通常このような場所では鉄血の1体や2体いてもおかしくないが不思議なことに鉄血はいなかった

 

ゲートにある錆びついた歓迎の看板を通り過ぎ街を見渡す

街の中は静かすぎた

検問所のような跡地、ガラスが全て破られている店舗、道に散乱している服やゴミ、放置された車、もはや光を発さない街灯

 

この街は死んでいた

文字通りゴーストタウンのようになっている

しばらく街を歩き探索していると錆びついた薬莢や白骨化した死体があった

 

即興で作ったであろうバリケードや戦闘の跡を見ると何かしら戦闘が起こったのだろう

しかしそれなら鉄血の人形は居座るはずだが1体もいない

 

手近な建物を探索するもなにも出てこない

時にどこかの戦術人形のガラクタやガラス片など放置されすぎて使えないものかなにもないのどちらかしかない

 

3階に上がり双眼鏡をだす

網目のネットを反射しないようレンズにかぶせテープで固定している

こうすることで光の反射による発見の可能性が低くなる

 

窓から少し離れた位置で外を見るが風に揺られて空き缶が転がるくらいだった

 

あるものを取り出す、それは爆竹だ

先の都市で爆竹を買っておいたのは正解だった

あれば陽動に使える代物だ

それ以外では人でも人形でも動物にも有効なもので威嚇に使える

どこでもダース売りしていることが多いため金さえ払えば手に入りやすい代物だった

 

一つ取り出し近くにあったレンガブロックに紐で括り付ける

爆竹本体だけでは軽すぎるため投擲しても遠くへ飛ばない

通りのど真ん中に落ちて欲しいため安定性を重視してこのような処置をした

 

火をつけ窓の外に放り投げると通りに落下して行き火薬が連続で破裂する音が通りに響く

こんなにも静かなら広範囲に聞こえるだろう

それを聞きつけた人なり人形なり姿をあらわすだろう

 

数十分観察してようやく動きがあった

人だった、意外にも予想していなかったものが現れ驚きを隠せなかった

 

中年の男だ、薄汚れた格好で通りの爆竹が破裂したところのあたりでウロウロしていた

一見すればタダの間抜けだ

 

しかしこちらから接近するなど愚を犯すわけない

人がいるという事実が明らかになった以上他にもいるかもしれないので警戒する他ない

 

男は中年の男が立ち去るまでそこで観察していた

 

 

 

 

 

 

 

中年の男が立ち去ってから数時間

建物という建物を物色していた

 

探索しているうちに地下貯蔵庫のような場所にたどり着いた

 

鍵が壊れていてこじ開ける他ないと感じ先程拾ったバールで鉄の扉を壊すと大きな音を立てて扉が外れた

するとそこには大量とまではいかないがある程度の衣服や食料の缶詰があった

 

1人で使う分には何日も持つ量だった

しばらく漁っていると声が聞こえた

 

「おーい、誰かいるのか…?」

 

廊下から聞こえてきた声

おそらく先程の中年だろう、音を出しすぎた結果ここにきてしまったのだ

 

ここには1本道しかないため声の人物と遭遇する他ない

バールを構えて扉のすぐそばのボックスの陰に隠れた

 

足音が近づき部屋に入ってくると食料に目が行きそろりそろりと近づく

そしてその後ろから声をかけた

 

「動くな」

 

「…!?」

 

反応が遅れてこちらを振り向くと両手を挙げた

しかし、彼には片手がなかった

包帯で

 

「…待て、敵対するつもりはない。 この通りだ」

 

手に持っていた鉄パイプを置き手をあげる

ポケットの中を見せるようにいうと出てきたのはタバコだけであった

 

とりあえず戦闘にならず、無下にに殺す意味もないのでこちらもバールを降ろすと相手も安堵したかのようにため息をついた

 

いざとなれば拳銃で殺してしまえる

警戒は解かず接することにした

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーん…なるほど、旅して回ってるって事だな」

 

「そういうことだ」

 

先程から数刻、中年の男ことショーンとともに夜を越すことになった

話せば意気投合し、気づけば警戒は薄れていった

先程見つけた缶詰を分けて暖の取れる寝床を提供してもらった

 

「ショーン、あなたは何故ここに?」

 

「…ここはなぁ…俺の故郷なんだ」

 

天井を見上げぼぅっと懐かしむように話す

 

「今じゃこの街に居るのはもう俺だけだ…ここで生まれて、育って、結婚して、幸せだった…娘も大きくなって彼氏の1人でも連れてくる歳頃だった」

 

色あせた写真を取り出して涙ぐむ

その様子を黙って聴き続けていた

 

「人形が暴れて、家族とも引き剥がされて、腕もなくしちまった…あの頃は戦争に、バケモノに、人形に何もかも…人形のやつら…!」

 

ショーンは憎くてたまらないのだろう

家族を引き剥がした原因は人形によるものだと容易に想像できた

 

「…人形が憎いのか?」

 

「あぁそうだ、憎くて仕方がないんだ!!」

 

声を荒げて怒鳴り散らすがすぐに頭を押さえて弱々しい声にになった

 

「…すまない」

 

「…いや、お前さんには関係ない話だ。悪かった」

 

お互い申し訳ない、気まずい空気になり仕方ないとリュックからあるものを出す

 

「グラスは…無いか。 回して呑もう」

 

「お前さん、そりゃあ…」

 

出したのは酒だった

ブラックマーケットを偶然見つけたとき酒を売っていたのだ

趣向品として非常に貴重な一品のため賄賂としての価値が非常に高かった

 

しかしショーンの気持ちもわからないことはない

しかし、彼にも彼なりにあるのだ

気を紛らわすために一気にラッパ飲みしショーンに渡すとショーンも一気に飲んだ

お互い久しぶりに酒に少しずつ先程の空気が柔らかくなった気がした

 

「でもよぉ…俺もわかってんだ。人形を責めても意味なんてねぇってヨォ…」

 

酔いが回ってきたのか顔を赤くし少し呂律が回っていなかった

度数の強い酒を一度に多めに呑み1本開ければば酔いのまわりは遅くなかった

 

「戦争も、人形も、全て人間が始めたことだ…じゃあ俺は誰を責めればいいんだ…?」

 

今まで黙って聞いていたが口を開いた

 

「…私にもわからない」

 

「…だろうな」

 

「多くを見てきた、家族もいた、仲間もいた、人形と共に生きていたこともあった。 その全てと、別れてしまったが…」

 

「…」

 

「だから私はわからない。わかったことはまだ生きていたい、というよりは死にたくはないということだけさ」

 

そういうと寝転び始めた

 

「明日はよろしく頼む、ショーン。 おやすみ」

 

明日の朝、出発の際にこの街の出口を案内してもらう予定だった

ショーンも返事の代わりに「残りは頂くぞ」と残った酒を一気に飲み干し眠りについた




少し長くなってしまった…
ここまで戦術人形があんまり出てないのマズイんだよなぁ…


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旅の途中

なんかオマケみたいな感じの回になってしまった…
水増しじゃないよ


太陽の光が差し込む

うすらと目を開けると太陽が窓の外に見えた

それに遅れて隣からうめき声が聞こえる

どうやら彼も起きたらしい

 

二日酔いとも取れる症状を我慢しつつ準備してショーンに連れられ街の反対側まで案内をしてもらった

なかなか入り組んでいたため下手をすれば2、3日は立ち往生していたかもしれない

 

そんな道のりをショーンと共に歩き、反対側ゲートにたどり着く頃には頭痛も怠さも無くなっていた

そして別れの時が来た

 

「ショーン」

 

「…ん、なんだ?」

 

「何故私を殺そうと思わなかった?」

 

実際、殺そうと思えばお互い殺せただろう

放浪者は特に狙われやすい

1人が雨風凌げない状況でも過ごせるものを一通り持っている

奪わない選択などないはずだった

 

「…ここでもう5年独りだったんでな。 話し相手が欲しかったんだろうよ」

 

「…そうか。本当にここに残るのか?」

 

「生まれ育った場所だ。 死ぬならここで死にたい」

 

固い意志、というより諦めといったほうが正しいだろう

ショーンは若くもなければ生きる希望もない

只々、生きているだけの人間だった

だからこそ、自分に正直に生きてほかった

 

「わかった…だがここにいても何も変わらない。 この街のように貴方も死んで行く」

 

「…かもしれんな」

 

「気が変わったら、あっちのゲートを出て南にずっと行くといい。 3日もあればS09地区に行ける」

 

「…そうか。 そうだな」

 

何度か頷き考えるようだった

だが、彼は変わらないのかもしれなかった

 

いつもならさっさとこの場を去ってあとは知らぬ存ぜぬというスタンスだったが今回だけはお節介焼きとも取れる行動をとったことに不思議な気持ちだった

 

非常な生き方をしてきた自覚はある

沢山悪い事もしてきた、昔話などでは済む話でもなかった

 

だからこそ、生きていてまともに人と接するのは久しぶりだった

彼と同じように、寂しかったのかもしれない

 

「じゃあな、気をつけてな」

 

「あぁ。ショーンもな」

 

互いに握手を交わして旅立った

ずっとずっと遠くに向かって

振り返らず次の場所へと向かっていった

 

 

 

 

 

 

 

「変わったやつだったな」

 

ショーンは自分の住処へと戻り椅子に腰掛けた

 

安価なパイプ椅子はお世辞にも座り心地など良いはずもなく、使いまわしてきているためボロボロだった

 

机の上には沢山の思い出、妻と娘が写った写真だ

結婚した時、娘が生まれた時、娘の幼少期から死んでしまう少し前の写真が色褪せながらもそこにあった

 

今じゃ全て失い、左腕までも失った

生きていても仕方がないと思い避難せずこの街に留まり5年という期間が流れて行く水の如く流れていった

 

きっと気が狂っていてもおかしくない

しかし何も感じない、全てがどうでもよかった

 

しかし、やってきた放浪者と話してみれば悪いやつではなかった

なんだか気持ちが楽になった気がした

 

机の引き出しを開けると古い拳銃が出てきた

使う事もなく放置されていたものだ

一度は自殺しようとしたがそれはできなかった

今はどうだろうか? 拳銃を手に取ってみた

 

今でこそ、前は言えないことを彼は言い捨てた

 

「馬鹿馬鹿しい」

 

もう少しだけ、生きてみよう

自殺なんて馬鹿なことはもうしない

精一杯生きてから2人に会いにいこうと決意した

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐか」

 

国道沿いを歩きながら案内表示の看板を見て呟く

あれから数日が過ぎ次の場所へと向かっていた

 

目指すはそこそこ大きな都市であり確かS08地区に向かっている道中だ

何もない、砂漠地帯のような道を歩いていた

車なりバイクなりあれば使いたいが残念なことに、民間ではなかなか流通していない

 

仕方なく歩いているわけだがいい加減、移動手段の一つでも欲しいところだ

 

安全化された都市まで、まだまだかかりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノーヴィ、右の1体をやれ。 アバカンは左、私は中央をやる」

 

小声で左腕が義手の女が小声で言う

2体の戦術人形は頷き敵のアサルトライフル型の人形、ヴェスピドに狙いをつける

 

3…2…1

 

銃声が3つ響いた

3体の鉄血人形はコアを撃ち抜かれ倒れた

 

3体を倒し進んだ時だった、見えていなかった残党が1体現れノーヴィと呼ばれていた戦術人形が狙われる

 

「---っ!」

 

反応しきれず撃たれてしまうが地面に倒れて回避することで1発肩を掠めただけだった

すぐさまフルオートで5.45mm弾を反撃し事なきを得た

 

「…危なかったな」

 

義手の女傭兵が安堵したように銃を下ろす

相方であるアバカンの手を借りて立ち上がり埃を払う

 

「やはり、バックアップには奴が…」

 

「アンジェリカ、いけません」

 

女傭兵、アンジェリカがある男の名を出そうとしたがアバカンによって遮られた

無い物ねだりしても仕方ない、しかしそれほどまでに抜けた穴が大きいのだ

 

「…ダメよ、無い物ねだりしちゃ。 彼に顔向けできないわ」

 

「…はい」

 

いないものはいない、仕方のない事だ

でもそれがとても辛くて、悲しくて、涙が出そうだった

人形なのに、どうしてこんなに辛いのだろう

機械なのに、どうしてこんなにも胸が痛いのだろう

心などないはずなのに、どうして、こんなにも切ないのだろう

 

答えなどなかった、出せるものなどではない

でも、願わくばもう一度彼に会いたい

 

「…行くぞ」

 

アンジェリカの指示のもと再び2体は動き始めた

 

 

 

旅は、まだ終わりそうもない

 

 

 

 




いつ合わせようかな…

6.18にて誤字修正の指摘ありがとうございます!
こう言うのすごく嬉しいのでどんどんお願いします!


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逸れ人形

ねむいのでとくにないです


長い長い国道を歩きようやくS08地区が見えてきた

もう一息でまともに休める、S09地区を出発して役5日、長い旅路であった

物資も持っているものは食料品が消耗しているため早く補充したかったため助かったと他ならない

アスファルトで舗装された道路を踏みしめてS08地区へと向かって歩き出した

 

 

 

 

 

 

様子がおかしい

放棄されている市街地のゲートをくぐった時思った事だ

 

劣勢になると居住区などは避難のため縮小されたりするが妙だった

 

安全化されているとはいえ危険なことが起きないわけではない、鉄血だろうがE.L.I.Dに攻め込まれれば当然戦闘になる

 

ここの市街区は戦闘があったにしては荒廃しきれていない

様々な様子の放棄された地区を見てきたがここは比較的にもまだマシ、つまり縮小したのはつい最近のように感じた

 

本当に荒廃したところは何もない、閑散とした状態になる

 

見ればグリフィン、鉄血問わず人形の成れの果てが転がっている

人間の死体もちらほら転がっている

逃げ遅れた住民が戦闘に巻き込まれ殺されていたのだろう

 

子を庇うように死んでいるもの、何が起きたかわからない表情で死んでいるもの、逃げていたのか背中を撃たれて死んでいるもの

 

数日前に訪れた死んだ街とはまた違う状況だった

戦闘が起きていてもおかしくないが銃声は聞こえない

 

前回、S09付近の戦闘地域のように人形で編成されたパトロール部隊がいてもおかしくないため慎重な行動が必要だった

 

しばらく歩いていると道行く道にバリケードがあるため安易に通ることはできなかった

 

しかし違和感を覚える、まるで誘導されているような地形だった

 

すると進行方向から足音が聞こえる

足音の感覚は短く走っているそうだった

近くの建物、かつては飲食店だった場所に入り身を潜めた

 

扉は入ってこられないようにあり合わせのバリケードがあったが店内が見えるほどの大きなガラスは割れているため割れたガラスに刺さらないように跨いですぐにカウンターへ身を潜めた

 

すると足音が近くまで迫り店内にまできたと思えば身を投げるように人型の何かが飛び込んできた

 

一見すれば金髪の女性が怪我まみれで至る所から血を流し制服のような衣装を血で汚している

 

それは手が届く位置に飛び込んできたと思えば目があっててしまった

驚愕の表情を浮かべて騒ぎそうだったが口と向けてきそうだった銃を押さえた

 

「むぐぅ!?」

 

「静かに、敵ではない」

 

静かに、小声で行った後に手を離し耳をすませた

直ぐにバタバタと聞こえる足音と話し声が聞こえる

様子から察するに複数いるようだ

 

「クソっ、あの女どこに行きやがった」

 

「落ち着け、この辺なのは間違いねぇ。 探すぞ」

 

声は2人組の男の声だった

どうやらやってきたこの人物を探しているらしい

 

どうやら状況は思った以上に面倒な状況だったらしい

男たちが立ち去るのを身を潜めて待っていた

 

「…行ったか」

 

「あの、ありがとうございます」

 

掠れていて今にも気を失いそうな声で女性は言った

どうやら敵ではないと認識してもらったのだろう

安直ではあるが

 

「私は、S08地区…所属の、M1ガーランドです」

 

「そうか…私は唯の浮浪者だ。 物資を求めて遠くからやってきた」

 

「そう、なのですね…」

 

「とにかくここを離れよう。 歩けるか?」

 

「大丈夫です…歩けます」

 

バックヤードへ向かい奥に身を潜めた

落ち着いたのか大きく「…ふぅ」とため息をつき座り込んでしまった

 

「状況は見てわかるが、何があったんだ?」

 

「…えぇ、それは---」

 

M1ガーランドと名乗る人形は状況を説明し始めた

 

つい3日前、鉄血人形の襲撃があったそうだ

それならば日常茶飯事のようだが同時にE.L.I.Dもやってきたらしい

 

瞬く間に舞台は混乱、暴徒も現れ始め壊滅状態に陥り指揮官の撤退の命令を最後に通信が途絶えたようだ

 

鉄血も時折見るが今では暴徒が暴れまわって人形狩りをしているらしく実際にさっきまで彼女は追われの身だったため実際に人間に襲われると言うのを実感しただろう

 

話が進むにつれ声が弱々しくなって行く

居た堪れない話だろう

人間を守るために作られた結果、自分勝手な理由で守るべき人間に襲われるなど気分のいい話ではない

 

タチが悪いことに、人形は指揮官の許可が降りなければ人間に対して応戦することができない

先制攻撃など以ての外だ

 

指揮官はおそらく死亡したか退避してしまい彼女は逸れ人形と化したのだろう

それの弊害によりセーフティシステムなるものが解除できず逃げ惑っていたわけだ

 

やつらが人形狩りをする理由など単純だ

武器も手に入り、人形だが性欲の捌け口になるのだ

人形は人間の体と遜色なく作りが精巧なためそう言うことも出来てしまうのだ

 

グリフィンの使うI.O.P社の人形は民生から派生したものがほとんどの為、それの影響もあるのだろう

 

そんな話を聞きここでの活動は単純だが簡単には行かなくなってしまった

おそらくS08地区は壊滅しただろう

ここに居座る理由などない

さっさと出て行き、次の安全地帯に行くだけだ

 

「あの、申し上げにくいことなのですが…私も、連れて行ってもらえませんか…?」

 

M1ガーランドはすがる思いで目の前の放浪者を頼ることにした

確かに戦術人形は鉄血やE.L.I.Dには有効だが今の主軸の敵は彼女を狙う強盗団だろう

故に、共に行くのは危険すぎる

 

「すまないが、同行はしたくない」

 

「…」

 

男は拒否を選択した

誰が好き好んで危険に飛び込む真似をするのか

現時点での目標は生き残ることでありリスキーな行動は避けるべきであった

 

「君を助けて指揮官殿から御礼の品でも貰えれば話は別だがね」

 

「…お礼が出来ないわけではなさそうです」

 

「…ん?」

 

M1ガーランドが言うには司令部まで辿り着ければ物資を回収できるかもしれないと言うことだった

大量に備蓄があったため数日では使い切れない量ではあったと言う

 

これはこれで考えものだった

危険だが物資を確保するチャンスではある

先程までは利がなかったが今度は違う

危険が伴うが物資が手に入る

そうなれば話は別だ、その司令部にお邪魔することにした

 

もとより選択肢などない

無ければ集めるか奪うかの違いだ

こればかりは金や時間が解決するものではない、やるしかないのだ

 

「…仕方がない。 賭けだがやるとする」

 

「ありがとう…ございます…!」

 

拳銃をホルスターから抜き薬室を確認した

弾は多くは持っていない

戦闘は絶対に避けるべき試練だった




これ結構続くかも…です


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強盗団とS08地区

ついに恐れていた間隔が空いてしまった…
こうなるとまばらになるんですよねぇ…


 

まずは出来るだけ物資を回収して移動手段の確保だ

基地から基地までは歩いて行く距離はそれなりにあるが特にここは長く、来るまでの道中に障害が多かったため時間がかかるのだ

 

乗り物さえあれば大幅に短縮できるがまずは手に入れてからだ

 

M1ガーランドに案内を受ける道中、ふと彼女が口を開いた

 

「あの、どうして放浪などしてるのですか?」

 

「ん? …あぁ、野暮な質問だ」

 

同行しているM1ガーランドに素っ気なく返事をすると再び沈黙が訪れる

 

強盗団の目を掻い潜るため路地など細かな道を行き、道を渡るために建物から通りへ出ようとした時だった

 

「…伏せろ」

 

放浪者がしゃがむとM1ガーランドも同じようにしゃがんだ

 

エンジンの音が聞こえた

覗き見ると2人の男女が走ってきた

 

「こっちだ! 急げ!!」

 

男の叫びに近い言葉でよからぬ状況にあることを察した

放浪者たちがいる建物の目の前まで来た時だった

 

「出るな」

 

思わず飛び出そうとしたM1ガーランドを制した

 

突如男女の2人が血飛沫と内臓を撒き散らしながら倒れた

見た限り、大口径、それも重機関銃の類の威力だ

男は即死したのかピクリとも動かない

しかし女の方はまだ意識があるのかまだ動いていた

 

「…ぅぁ…たす…け…」

 

何かに縋るように助けを求めるが追っては容赦なくショットガンで女に2発撃ち込み絶命させた

 

「何か持ってるか?」

 

「…ダメだ、何も持っちゃいねぇ」

 

「クソが」

 

唾を吐き捨て彼らの元へやって来たのは装甲化された軍用車両だった

サンルーフは機銃が取り付けられている

おそらく、さっきのはあの機銃のせいだろう

 

追っての2人が荷台に乗り、車両は去っていった

 

「…私たちに出来ることはなかった」

 

「…っ」

 

居た堪れない様子の彼女に言い放つ

悔しくて仕方ないのだろう

人間を守るために生まれたのに、その使命を果たせないなど

 

しかし今は生き残らねばならない

でなければただただ嬲り殺されるだけだ

誰もいないことを確認し、司令部に向う

 

司令部まであと少し、目と鼻の先までだった時だ

気づかれてしまった

後ろから撃たれながら急いでM1ガーランドを連れて逃げる

 

車の陰に隠れて銃撃をやり過ごすが反撃しないわけにはいかない

しかしショットガンやライフル相手に拳銃では部が悪い

 

「君の銃を」

 

M1ガーランドは一瞬躊躇したが言われたまま自身の銃を渡した

薬室を確認し安全装置を解除して構えた

 

狙いを素早くバイタルエリア、心臓などの内臓器官が集中する胴体へ2発撃ち込む

 

7.62mm×63弾が大きな反動を生み出し追っ手の男に突き刺さり倒れる

すぐさま隠れ反撃を凌ぐ

しっかりと釘付けにしながら迫って来る

 

今度は車の下からアーバンプローンという体の側面を地面につけ銃口をできる限り下方向に射線を取る姿勢で車の僅かな隙間から撃ち込む

 

足を撃たれた男はその場で叫びながら倒れ、そのまま胴体を4発撃たれた絶命した

 

「行くぞ!」

 

2人を殺しM1ガーランドと再び走り始めた

 

ここで厄介な奴が来た、先程の装甲車両だ

車両の装甲は厚く、窓ガラスを撃てば破れるかもしれないが照準している暇はない

 

細い路地に逃げ込み車両が来られない道を縫うように抜けていく

それを繰り返して追っ手を撒いた

 

ようやくゴールが目の前にあった

彼女の帰る場所、S08地区司令部だった

 

 

 

 

閑散とした司令部のゲートにはバリケードがあり入るのには少し苦労したが敷地内へ入ることができた

 

電子ロック類の扉をM1ガーランドに開けてもらい中に入る

突如銃を突きつけてくる人形たちが現れた

 

しかし彼女たちには安全装置という枷があるため発砲はできない

故に脅威にはならなかった

 

「待ってください! 彼は味方です!」

 

「ガーランド!? よかった、生きてたんだね!」

 

彼女の同僚、M1918が飛びつくようにM1ガーランドに抱きしめた

ガーランドも同じように抱き返す

 

「ガーランドさん。 このお方は?」

 

放浪者の立ち位置は微妙であった

まだ周りの人形たちは警戒をしているようだ

 

「彼は私を助けてくれたお方です。 みんな、銃を下ろして下さい」

 

M1ガーランドの説得により銃口は外してもらえたがまだ警戒は解かれていない

ボルトアクションの型をしたライフルを持つ人形が歩み寄ってきた

 

「はじめまして、私はスプリングフィールドと申します。 先程のご無礼、どうかお許し下さい」

 

「気にするな、約束は果たしてもらうだけだ」

 

「約束?」

 

スプリングフィールドに事の事情を話した

すると快く「良いでしょう」という返答がやって来た

しかし少し付き合って欲しいと頼まれ肯定の返答をした

 

 

 

 

 

物資の補給を済ませ終わりスプリングフィールドに案内され基地内を歩いていた

物資は可もなく不可もなく、取り合えず十分な量のためそれ以上は求めなかった

 

案内されついた場所は司令室、グリフィンの指揮官が本来いるべきところだったが肝心の指揮官がいない

 

聞けばここの指揮官は先日起きた大規模戦闘に巻き込まれ死亡したとのことだった

 

此処は分断され孤立した状況になってしまい、グリフィン本社からも連絡が来てもコンソールを起動できないため応答できない

 

彼女は自衛のため安全装置を外して欲しいとのことだった

土台一介の放浪者にできるかは賭けであった

 

放浪者はぎこちない手つきでコンソールを弄ると指揮所のモニターが起動しパスワード入力の画面が出てくる

 

その表示に苛立ちを感じあからさまに大きな舌打ちをしてコンソールに向かって大きく腕を振りかぶった

 

「お待ちください! 何をなさるおつもりですか!?」

 

「…あぁすまない、取り乱した。 私やリシーツァはこういうプロテクトを見るとぶち壊したくなる性分なんだ」

 

「そ、そうですか…そのリシーツァさんは、お仲間ですか?」

 

「…失言した、忘れてくれ」

 

過去の仲間の名前を思わず口に出してしまい後悔した

だが、まぁいいだろう。 もう出ていくつもりだったためどうでもよかった

 

結局起動できてもプロテクトは解けないため役には立てなかった

出ていく際に、引き止められたが構わず出ていく

そういう生き方を選んだのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

「結局、出ていかれましたね…」

 

司令室に戻ったスプリングフィールドがつきっぱなしになっているモニターに囲まれるなか呟いた

 

できれば護衛としてもう少しいて欲しかったが致し方ない

このままでは時期にあのバリケードや電子ロックの頑丈な門もいずれ破られてしまうだろう

 

そうなれば全滅の他ない

手立てもなく考えている時だった

突如モニターが異変をきたし、ノイズを放つ

 

するとモニターに映し出されたのは目を瞑った女だった

 

「聞こえるかしら、指揮官のいない戦術人形さんたち」

 

 

 

 

 

 

 

 




マジで描きたいシーンまであと少し、がんばります


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放浪者を追う者

なるべくすぐ投稿したいですがねぇ…


S08基地から出て行き市街地へ戻る

物資を補給する目的は達成し後は移動手段だったが必要分の物資は揃ったのである気でも問題ない

 

此処に残る意味はない、強盗団にグリフィン、鉄血とE.L.I.Dと危険要素が揃いすぎている

そんな危険地帯に長居するのは得策ではない

さっさとこの地域を出て行き次の地域まで退散するべきだ

 

また耳をすませば銃声が響き渡る

大規模な戦闘になる前にこの街を出る必要があった

 

あれから数時間

街のいたるところにバリケードがあるため街から出るのが難航した

なんとしてでも今日中には出て行きたい

道が使えないことが多いため一度高い建物から全域を見渡しルートを建てる算段を取ることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『放浪者の男?』

 

スプリングフィールドは現在の状況をAK12という人形に報告した

 

この人形は軍部から派遣された人形であり、このS08地区の現在の調査を行なっているとのことだった

 

識別コード確認し、安全だと判断した彼女は話せることを話した

 

「えぇ、私の同僚を市街地からここまで護衛してくださったのですが。 数時間前に此処を発ってしまいました」

 

『…そう』

 

一瞬の静寂

そしてAK12は再び男について言及した

 

名前、年齢、人種、特徴、所属など粗方身分を特定するものを聞き出そうとするが不明な点が多く、年齢や人種についても曖昧な回答しかできなかった

 

『…最後に一ついいかしら?』

 

「はい、なんでしょうか?」

 

『その男は帽子をしていたかしら? それと、瞳は見たかしら?』

 

確かにあの男はブーニーハットをつけていた

しかし、それがなんなのだろうか

記憶媒体に残る男を思い出す

たしかに帽子をしていたし、帽子のつばから覗く瞳はたしかに瞳は暗く、死んでいるようだった

 

男が言っていた言葉の中にリシーツァという名前が出てきた事も伝える

 

それを話すとAK12という人形は酷く取り乱したような様子だった

驚愕と困惑、しかし次第に喜んでいるようにも思えた

 

『わかったわ、ありがとう。 貴方達なのだけれど安全装置をハッキングして外した後は基地を放棄してS09基地まで撤退してもらうわ』

 

「わかりました。感謝します」

 

『その間だけれども、何か質問はあるかしら?』

 

最後に不明瞭な点を聞くことを許可された

たしかに聞きたいことはいくつもあるが単純に気になったことを聞くことにした

 

「あのお方についてですが…」

 

『彼について知る必要はないわ。 ただ、もし見つけてくれたら教えて頂戴』

 

威圧を含んだ声色、有無を言わさない物言いには圧力のようなものがあった

それ以上は聞くまいと判断し、今後の動きを調整し通信は終わった

暫くすると安全装置が外され、これであの外道共の強盗団に反撃することができる

 

スプリングフィールドは仲間達を集めるため基地内放送で集まるよう呼びかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生きている

正確には生きているかもしれないということだった

帽子に死んだ瞳、これだけでも彼かもしれない可能性があった

 

「アンジェリカ」

 

「ノーヴィ、S08の人形は従ってくれそうか?」

 

「えぇ。でも、そんなことより聞きたいことがあるの」

 

アンジェリカは怪訝な顔をしてノーヴィの聞きたいことを聞くことにした

珍しい、普段の彼女ならどうでもいいことなど毛ほども気にしないというのに

 

「リシーツァ、誰か知っているかしら?」

 

「…どこでその名前を?」

 

「早く答えなさい」

 

どうやらただ事ではないことはたしかだ

しかも知っている名前も出てきた

アンジェリカにとっても気になることだ

 

「私達が傭兵小隊時代に組んでいた女の狙撃手だ。短い時間だったが共にいた」

 

「…なるほどね」

 

繋がった

僅かながらでも確かなものになっていく

外見の特徴、名前、喋り方、まさに彼だ

正真正銘、死んだと思っていた彼だ

 

彼に会いたい

今まで何をしていたのか、そんなものはどうでもいい

彼に会えるなら

 

早く会ってこの寂しさを埋めて欲しい

 

早く会ってこの傷ついたメンタルモデルに感じる痛みを癒して欲しい

 

早く会ってこのコアの奥に潜む、彼を想うたびに熱くなるこの正体を教えて欲しい

 

早く、早く、早く

 

胸の高鳴りが抑えきれない

気がつけば自分でも恐ろしくなるくらい笑顔になっていたそうだ

 

きっと私たちと離れて傷だらけに違いない

 

きっと私たちと同じように寂しいに違いない

 

きっと私たちのようにまた戻りたいに違いない

 

早く終わらせて彼を探そう、見つけて連れ戻して、やっと元どおりになるわ

待っていて頂戴? 必ず会いに行くから

 




さぁ、はやく会えるよう、頑張りましょう


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放浪者と同行者

気がついたらUA3000達成ありがとうございます!
始めた当初読んでくれる人がいるか心配でしたが、なんやかんや皆様のお陰で続けております。
今後とも放浪者を見守ってあげてください


あの危険地帯を抜け出し、出た先は森林地帯であった

とにかく離れるという考えででたのは浅はかであった

 

しかしまともなルートで行くと何かしら遭遇する可能性が高い

大回りだがとりあえず次のS07に向かう目処が立った

 

木々を掻き分けながら進むと都市部の戦闘が聞こえなくなった

漸く一息つける、近くの木に腰掛け水を飲む

食事も摂る暇がなかったためやっと食事にありつける

 

缶詰を取り出し開けた時だった

ふと、何かの鳴き声が聞こえた

動物の鳴き声で弱々しい声だった

がさがさと音を響かせて茂みを掻き分ける音が近づいてくる

無言で拳銃を出し向けた

 

そこからでてきたのは仔犬だった

土を被った白い毛並みを靡かせるその仔犬は弱っているように見えた

ふと放浪者と目が合うと尻尾パタパタと暴れるように振りヨタヨタと近づいてくる

 

害があるものでないと判断し銃をしまう

ヘッヘッヘと舌を出して近づいてくる仔犬には害はないだろうと決め食事を摂ろうとした時だった

 

俺にもくれと言わんばかりに胡座をかいている足に仔犬が前脚をかけているではないか

立ったような姿勢になり尻尾を振りながら息を荒くして缶詰を凝視していた

余程腹が減っているとみた

 

正直放浪者は犬に良い記臆がない

敵の追跡してくる犬や、獲物を探す野犬、E.L.I.Dと化した犬を相手にして来た

どれも凶暴で噛まれればひとたまりもない

おまけに足も早く鼻が効いて延々と追ってくる

悪夢のような経験から犬は忌避して来るようになったのだ

 

少し追い払うように足を動かすと仔犬はあっさり横転した

しかしまた起き上がり前脚をかけて缶詰を見上げる

 

そんなやりとりを数回したあたりで放浪者が缶詰の中身をくれてやった

そうするとさも嬉しそうに缶詰にありつき始めた

 

まだ半分くらい残っていたがこのまま相手をするのも面倒だ、一度離れて距離を置こう

 

荷物を持っていきある程度移動したら今日はもうそこで休もう

 

木々を掻き分けていくと道路が見えてきた

ちょうどいい、方向感覚もここなら見失わない

簡易マットを敷き寝袋に入り休息をとった

 

 

 

 

 

 

 

明け方、顔面に妙な湿り気とザラザラした獣のような何かが頬を這う

 

覚束ない意識を覚醒させて目を開けてみると目の前に犬がいた

 

慌てて跳びのき予め直ぐに寝袋から脱せるようにしていたため抜け出した後片膝立ちになり銃を抜こうとした

 

ホルスターに収まっている銃に手を掛けたとき動きは止まった

 

寝ていた時に見えた犬は大きくなく、寧ろ小さい。獣の中では狩られる側のようだ

 

というより、昨日遭遇した仔犬ではないか

土を被った白い毛並みと暴れている尻尾

まさにあの仔犬

 

「わふっ!」

 

仔犬が挨拶がてら元気に鳴く

数秒間状況整理をしていたが自分の顔を舐めていた正体が判明し表情が呆れたものになる

 

しかし考えてみればあの場所からここまでの距離はそう近くはない

その距離を仔犬ながら正確に彼の位置までやって来たのは賞賛に値する

なかなかガッツがあるというか、タフというものか

 

荷物を整理して出発準備をする

歩き出す前に缶詰を開けてそばに置いておく

要はエサで釣ってまた置いていくのだ

 

飼ってやれるほどの余裕などない

しかも仔犬だ、おそらく親犬は死んでしまったか何処かへ行ったのだろう

 

その場しのぎにしかならないがそれでも食べて生き残ってくれということだ

 

歩き出して前に進む

なかなか険しい道のりだ、しかしここを越えればS07地区に行ける

とにかく先へ行こ…

 

「わふっ!」

 

不穏な声

後ろを見るとあの犬がいた

いや、薄々気が付いていた、缶詰も食べずにずっとついて来たのだ

あの険しい道を、ドロドロに汚れてもなお付いて来ていた

 

ここまで来てしまった以上、知らぬ存ぜぬなど少し大人げないのではないだろうか

 

「…一緒に来るか?」

 

「わふっ!」

 

元気に鳴く足元でクルクルと周り始めた

少し鬱陶しくもあり、可愛らしいと思える

しかしこのまま敵に遭遇してしまうとこの仔犬とてただでは済まない

 

リュックに余剰の荷物を入れるための雑のうの中に入ってもらうことにした

 

「悪いが、しばらくそこにいてくれ」

 

「わふっ」

 

雑のうの蓋からぴょこりと顔を出している姿はなかなか愛護心をくすぐられる

まるで好奇心旺盛な子供のようだった

 

まさか、同行者ができるとはな

思っても見なかったことであった

まぁ、そういう日もあるということだ

 

「よろしくな」




一度でいいからやってみたかった、犬を拾うというシチュエーション


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お尋ね者の放浪者

放浪者、ついに顔割れる


放浪者と人類人権団体

 

例の仔犬と出会い名前をつけてやることにした

元気が良いことを由来にスパークリーと名付けた

名前を呼んでやると一瞬呆けた顔をしたと思えば飛び跳ねて走り回ってはしゃいでいた

元気が良すぎるの考えものだ

 

スパークリーと旅を始めて早2日、あの修羅のS08から逃げ出し現在はS07地区は眼前にあった

まだまだ歩く必要はあるが

いい加減スパークリーも運動したいだろう、雑のうから出してやるとパタパタと飛び跳ねて走り始めた

 

のんびり行くかと思えばスパークリーを追いかけて行くとすでにゲート前まで来てしまっていた

 

「そこの貴方、止まってください」

 

ゲート前でスパークリーを捕まえて持ち上げると銃を持った人形、ブルパップのライフルにレオタードのような衣装を身につけている

 

どこか剣呑な雰囲気では声をかけられている以上下手なことはできない

慎重に事を運ぶ必要がある

 

「どこから来たのですか?」

 

「S08地区から来た。 あそこは壊滅して逃げて来たんだ」

 

「壊滅…やはり、本当なのですね」

 

「S08に知り合いが?」

 

「えぇ、やはりお隣の地区なので…」

 

世間話のように会話を繋げておく

こうすることによって相手を少し信用させることができる

 

やはり人格があるものは話したりするだけでも効果がある

剣呑な雰囲気ではなくなっている

 

「タボール〜? なに話しとるん〜?」

 

もう一人の歩哨が変わった口調で近寄ってくる

あの銃は見たことがある。 傭兵家業についていると様々な銃に出会うことが多い

同じ傭兵家業の者をみれいるとやはり銃は東側のものが多いがこれまた西側寄りの銃を使う者も多い

 

「ガリル。 大丈夫です、ただ世間話をしてただけですわ」

 

「ふ〜ん。 あんた、流れ者かい?」

 

「あぁ、放浪者だ。 安全地帯を探してここまでやって来た」

 

「なるほどな〜。 ウチはガリル、よろしくな〜」

 

「申し遅れました、私はタボール21ですわ。よろしくお願いします」

 

自己紹介をしてもらいとりあえずS07地区の近況を聞き出してみた

どうやらここは鉄血やE.L.I.Dよりも人類人権団体の活動が盛んな地域でありそれはそれで面倒だった

 

人類人権団体

わかりやすく言えば人形などのアンドロイドを敵とみなし排除する過激派の組織である

グリフィンの各施設の爆破などのテロを行い、人形による人類の支配から解放すると謳っている連中だ

 

放浪者としてはどうでもよかった

戦場でやりあったわけでもない上、あまり関係のない組織だった

しかし害をなすなら別だ。 叩けるところまで叩き甚大な被害を与える

今はどこで何をしているのかわからない、隊長のやり口だった

 

「とにかく、気ぃつけていきな」

 

「あぁ。 そうする」

 

快くゲートを通してもらい中に入るとS09ほどではないが活発とした都市があった

いつも通り宿を探しそこでまずは休息をとる

スパークリーも疲れたのかベッドの脇で眠っている

いろいろ忙しいやつだなと思いながらもまぁいいかと結論付けた

 

部屋でのんびりとしている中、部屋に来客だ

廊下と部屋をつなぐ扉を叩く音がする

知り合いなど身に覚えがない、もし彼女達だったら正直心臓がいくつあっても足りないだろう

 

ドアにチェーンをかけて扉を開くと何やらぞろぞろといる

すると一番前、目の前にいる男は話し始めた

 

「我々人類人権団体は、ロボットによる支配を許さない! 是非とも、貴方の力を貸していただきたい!」

 

なるほど、数の暴力による勧誘か

威圧的な雰囲気や人数をちらつかせ無理にでも引っ張り込もうとしているところだろう

 

「すまないが、今日はお引き取り願いたい。 私は疲れている」

 

有無を言わさず扉を閉めようとするが靴を挟み込まれ扉を閉めることができない

 

「閉めれないのだが」

 

「閉めさせないためだ」

 

男が扉に手をかけて開けようとするが放浪者も扉を閉めようと力を込める

しかし相手が悪く2、3人が扉に手をかけ始めた

これでは流石に勝てない

どう仕方ものかと思った矢先だった

 

「何をしている! 立ち去れ!」

 

女の声だ、声の主は手に軽機関銃を持っていた

もう一人の相方もサブマシンガンをホルスターに下げて携帯している

おそらくグリフィンの人形だろう

 

「忌々しい機械風情が、我々の活動を邪魔するか!」

 

「アンタたちなんてどうでもいいけど、一般人を巻き込まないでくれるかしら? 警告よ、全員今すぐ帰りなさい」

 

威圧的に引かれた槓桿から弾が装填された事を意味する

それを聞くとすごすごと連中は解散していく

大きくため息をつく戦術人形は独りごちる

 

「全く、なんなのかしら。 揃いも揃って」

 

「バカだからこんなことしてるんでしょ」

 

2体の戦術人形はやれやれといった様子で今度はこちらを憐れむようにした

 

「貴方も大変だったわね。 あんな連中に付きまとわれて」

 

「災難だ」

 

「これからは気をつけて歩きなさいよ? 出ないと…」

 

ツインテールに露出の高い服を着た人形が言葉を止めまじまじと放浪者を見る

 

ピンクの髪をし機関銃を持った人形も怪訝な顔をし始めしまいには2人でこそこそと話し始めた

 

「ねぇ、ネゲヴ。 コイツもしかして、さっき通達があった例の…AK12とかいう人形が見つけたら教えろって言ったやつじゃない?」

 

「…そうね、一致してるわ」

 

ヒソヒソと話しているがしっかりと聞こえている。

完全に不穏な話だった

なぜその名が?

平静を装い「用がないなら失礼する」と扉を閉めた

 

ノーヴィ、まさか気づいたのか…?

休むつもりが、とんだ面倒ごとに絡まれてしまうだろう

急いで出来る限り荷物をまとめ出て行く準備を始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、どちら様かしら?」

 

『S07司令よ。 AK12、でいいわね?』

 

通信モジュールに連絡が入った

S08地区の人形をS09まで避難させ彼女の最優先事項である、男の捜索をしていた

 

「何の用かしら?」

 

『情報にあった男、例の貴方が探している人間と思しき人物が見つかったわ』

 

「…今、その男はどこにいるの?」

 

『地区外れにあるモーテルだそうだ。 うちの人員を使って捕まえるか?』

 

「あら、協力してくれるの? じゃあお願いするわ」

 

通信を終え、彼の痕跡を探している相方であるアバカンを呼び寄せる

 

「アバカン、ここはもういいわ。 彼の居所をつかんだわ」

 

「え…本当ですか!? 本当に、彼の居所が…!」

 

普段こんなはしゃぐようなことはしないアバカンだがやはり彼女も彼との再会を望んでいる

彼女もまた、彼が戻って、部隊が元どおりになることを望んでいるのだ

 

「いくわよアバカン。 彼を迎えに」

 

「えぇ、行きましょう!」

 

外に留めていたバイクに乗りS08からS07地区へ向かう

ここからなら、今日中には着きそうね

 

エンジンを始動させ2台のバイクと人形はまっすぐS07地区に向かった

 

やっと会える、どれほどこの日を待ち望んだだろうか

 

絶対に連れ戻してあげるから




まってて、今行くから


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閑話 放浪者の夢

それが、彼の日常だった


「〜♪」

 

白いハチマキを巻いた男が歌う

休憩中山を見るといつも望郷の曲を歌う

それは彼の出身である州の州歌であるが故に出てくるものだった

 

「…リシー、俺の睡眠の邪魔をするその歌を止めてくれ」

 

「あいよ」

 

パコーンッ、と音を響かせて頭を叩くと望郷の歌は停止ボタンでも押されたようではなく、「んがっ!?」と情けない声を出して止まった

 

「いっ、てぇなぁリシー! 手加減しろっつーの!」

 

「うるさいねぇ、歌止めても騒ぐじゃないか」

 

「んだと!?」

 

二人のいがみ合いを仲裁しようと若く、重火器を持っている男が割って入ろうとする

 

「え、エヴァンさん、アネサン! 今休憩中っすよ! 静かにしないと敵に…」

 

「アネサン言うなっていってるじゃあないか! ヤギール!」

 

どんどんと手の施しようがなくなって行く状況になりはたから見ている女、最近入ってきたアンジェリカと一緒にいる男は気にも留めず休憩している

 

「止めないのか?」

 

無言で止めないと言う意思表示をした

見兼ねた隊長格の男、ラーデルによって仲裁が入る

 

「うるさいぞお前たち。 静かにできんのか」

 

「そりゃあラディ、俺だって静かにしたいさ」

 

「このアホが騒ぐからねぇ。 ちなみに叩けっていたのはラディの指示だよ」

 

結局収まりがつかずわいのわいのと騒ぎ始める

この小隊では日常茶飯事のことだった

 

「なぁおいどう思うよ、ーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

顔に水滴が垂れる、木々から落ちる水滴だ

目が醒めると雨は上がり、陽も出てきていた

放浪者は立ち上がり足を動かす

 

どうやら少しだけ眠っていたそうだ

懐かしい夢を見ていた気がする

普段は少しでも思い出してメモを取るのだが、今回はそんなことをしなくていいと感じた

 

スパークリーがふっ、と目を覚ます

どうやら飼い主が起きたことを察知したようだ

仔犬ながら主人思いで能力も高い、将来が楽しみだ

もっとも、生きていればの話だが

 

犬嫌いなところはなくなり、以前は見るだけで石でも投げてやろうと思うほどだったが今では自分でも思うように随分と丸くなったものだ

 

今にして思えば環境が悪すぎた

今まで組んできた者たちは大概犬が嫌いだったためそれに触発されたのかもしれない

まぁ、もうどうでもいいことだが

 

「行こう」

 

「わふっ!」

 

湿り気のある土と草を踏みしめて次の目的地に向かう

最後に留まると決まることはできるのだろうか?

おそらく無理かもしれない

しかし人生とはわからないものだ、ふとしたことで変わってしまうのだ

 

太陽が濡れた自然を照らし、まるで宝石のように輝かせる

その景色は、神秘的で、心を奪うものだった

 

ふと、同行者の仔犬をみる

仔犬は主人を見上げじっと見ている

 

「いつかきっと…見えるものなのだろうか」

 

それは仔犬に語りかけたのか、独り言なのか

誰も知らない

彼らは今日も、きっと明日もずっと歩きつづける

 

望んだものを求めて




それはすでに過ぎ去ったもの
遠い昔の話


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放浪者と過去の脱走映画

映画のように激しいアクションで脱出などはありえない、やはりいつの時代も金だ


「ここね」

 

夜間S07地区の外れ、ネゲヴ小隊とトンプソン小隊はとある外れの宿の付近へ来ていた

散会し取り回しの効くネゲヴ小隊数名が突入し、トンプソン小隊は狙撃ができるM21とSuper SASSのスナイパーチームが周りを見渡し囲んでいる

 

宿屋の店主が「本当にきやがった…」と新聞紙を落として唖然としていたが一応許可が出ている作戦だった

 

指揮官に呼び出されたかと思えば突如襲撃してこいと命令を達せられ捕まえる男の写真を見たときには驚かされた

なにせ、ちょうど昼ごろ見かけた男だったのだ

 

偶然にしてはできすぎると思っても仕方ない、むしろ仕組まれているのではないかと疑問を持ってもおかしくない

しかしなぜこの男を?

そんな疑問は捕まえた後晴らせばいい、とにかく逃がさないとこだ

 

問題というより、隊長であるネゲヴとトンプソン、この場にいる人形が気に入らないのは部外者染みた軍用人形2体がここにいることだった

 

突然やってきて「今からかしら?」などとのんきにやってきやがった

追い払おうとしたが指揮官からは彼女達に関わるなと一点張り

不信を募らせるのも無理はないがやるしかなかった

 

「気に入らないわね…どっちもどっちで」

 

「まぁ、言うなよ。 ボスの命令じゃあしょうがないさ」

 

「ふんっ…」

 

与えられた情報、宿屋の細部情報だった

2階建てで中に入ると先ず受付がありその右手に二階への階段、右手に行かず奥には宿泊用の部屋が4つ、上の階も同様だ

 

合計8部屋、しかしグリフィンから宿屋の主に連絡し確認するとどうやらネゲヴが人権団体の集団を追い払った部屋から移動していないという情報だ

監視の結果、外へは出ておらず宿からは出ていない

 

全部屋を見回るなど効率が悪い上に時間がかかりすぎるため2小隊と2体では無理がある

 

『隊長〜、突入準備ええで〜』

 

通信モジュールに暢気な口調で突入準備完了の報告を受けた

突入の号令をかけるときだった

 

「ダメだ、なっていない」

 

突如ネゲヴの隣で突入の合図を邪魔してきたのは先程から物言いが冷たく、傍観している2組の1人AN94という人形だ

 

「何かしら、いきなり」

 

「もういい、どいていろ。 見張りはご苦労だった」

 

ずかずかと2人組の人形は上がり込み部屋のの扉に張り付いた

 

『なんやねんっ、もぉ〜ネゲヴ〜』

 

「…好きにやらせなさい」

 

ネゲヴは小隊を下がらせ2階と周辺の警戒に当たった

AN94とAK12がマスクをつけドアの両側に貼り付いた

 

AN94が先ずドア様子を確かめる

ドアブリーチの際罠がないかを確かめているのだ

簡易的ではあるが罠の有無、突入方法に使う道具を決めるためである

 

AN94はドアブリーチ用の少量の爆役をドアノブに引っ掛けた

彼が教えてくれた手軽に爆破する方法だった

テープを使わず素早く仕掛け突入する方法の一つだった

 

ドアノブ爆破の準備をしている横でAK12はスタングレネードを用意する

ピンを抜き安全レバーを離さないように準備をした

 

ドカンッ、爆発にしては軽い轟音を響かせて古めかしいドアノブは基部の木ごと抉り取った

続けざまにAN94が後ろ蹴りで扉を破りAK12が一瞬の隙間も許さないようなタイミングでスタングレネードを扉から1mの地点で投げ込んだ

 

そしてAN94、AK12の順番でクロスオーバー、入り口で対角線に入る突入法で室内へ入る

その様子はまるで音もなく影が一瞬で消えたようだった

 

後ろ蹴りの理由や1mの位置で投げる、全て彼に教わったことだ

現実で、実戦で教えてもらったことがどれほど通用するか多く体験してきた

教えた当の本人に対してはどうだろうか?

 

AN94とAK12の連携は阿吽の呼吸というに相応しいものでとにかく時間のロスがない

側から見れば慎重さがないと思われるがお互いどうしてほしいかを電脳で理解し実演できている

 

人間では考えられない連携と速度を用い部屋に入る

ドア側の死角の角を一瞬で確認し部屋の中を見るが、空だ

 

誰もいない、荷物もない

虚しく部屋の床にドアの破片と使用済みのスタングレネードが転がっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数時間前〜

 

「景気はどうだ」

 

夜分遅く、店番をしている亭主に放浪者が声をかけた

 

「…よくはねぇ。 この宿を使ってくれる奴は少ない。 それで? 何の用だ」

 

ぶっきらぼうに、年老いて痩せこけた中年の店主が答える

 

「部屋に忘れ物があってな。 部屋にあっても邪魔だから預かってくれ」

 

それはタオルだった

部屋に添えつけで置いてあってもおかしくはない、タオルだった

 

「ふんっ、さっさと支度でもしな」

 

店主が忘れ物を受け取りカウンターの中へ押し込んだ

 

「おいっ、客の面倒見てやれ」

 

「はーい、お客さんこちらね〜」

 

暢気な声の、店主と似た用紙を持った若い、まだ青年ほどの男が奥から手招きしてくる

 

床下を開けるとそこには樽があるが中身は空、それを退かして板を剥がすと通り穴、地下トンネルがあった

 

そう、先程までの会話は全て隠語だ

部屋に忘れ物、これがキーワードであった

代金は札束一つ、放浪者の財政状況では大した出費ではない

グリフィンに、あまつさえノーヴィたちに今捕まれば何をされるか分かったものではない

 

「お気をつけて〜」と見送る青年の胸ポケットに店の分も含めたチップを入れて縄梯子で下に降りると上の蓋を閉め、樽を乗せ、床下収納を閉じた音が聞こえた

 

くらい闇の中、ライトの遮光を剥がし橙色の光で先を照らす

スパークリーも後ろから追従してくる

 

そもそも、なぜここまでして逃げるのか

放浪者が傭兵だった時代まで遡る

 

グリフィンとは傭兵時代、特に創設当初で所属していたのだ

まだ人形ではなく人間が主体だった頃の話だ

 

放浪者がいた小隊が特に能力が高く、暗躍していた記憶があった

 

とある任務が原因で部隊は散り散り、アンジェリカと彼だけが残ったのだ

 

最後の仕事を約束に、軍用人形の訓練試験小隊の配属、そして別れ

 

故に、多少なりとも機密情報も持っている

面白くないことに情報的にまずいものが多い

現状グリフィンに捕まるのも面倒ごとしかない

 

前回のS09ではただの不審者で扱われて若き指揮官の判断で上に挙げずなあなあにはしてもらえたが今回はそうはいかなさそうだ

 

クルーガーかヘリアントスかどちらか知らないが捕縛命令を出してきたのかもしれない

しかもノーヴィとアバカンも使って

 

軍とグリフィンの繋がりもよく知っているため戦術人形の1体や2体貸してもおかしくない

 

そこまでして捕まえる程の人物かと言われればそうでもないだろう

 

確かに暗躍はしていたが情報係は仲間の一人と隊長だったため優先はそちらだろう

しかし昼に助けてくれたとはいえ感じ的に良くないところを見て退散を決意した

 

ちなみに、なぜこの宿にこのような地下トンネルがあるのがわかったか

 

それは経験故に仕入れた知識だった

 

はじめの頃、宿屋に矢鱈と壁に円の中にPと書かれたものを見て駐車場ではないと思い、闇市の住人に話を聞かせてもらったのだ

 

それは脱走経路がありますよ、という合図だった

どこの地区にでもあるらしく、先ほども言ったが「忘れ物」がキーワードで部屋の備えのタオルを使うらしい

 

言葉はどうあれ忘れ物に隠した札束一つ渡せば取り合ってくれるのだ

呆けた顔をすれば違うと判断すればいい

 

なぜPなのか、それは映画のタイトルが元らしい

 

それならBも必要だろうと思ったが、分かり易すぎるのもなんだと思い口には出さなかった

 

しばらくライトを照らして歩いていると向こう側が開き照明の光が差し込む

ライトを消し外に出ると体格のいい、筋肉質の男が出迎えてきた

 

「おう、お前がそうだな?」

 

「そうだ」

 

抽象的な言葉の会話だがお互いそういうものだと理解している

 

どうやらトンネル内側から開けることはできないようで外から開ける係が必要らしい

 

外に出ると工事が止まっている下水管に出てきた

下水は通っていないがほんのりと臭ってくる

嗅覚が鋭いスパークリーには申し訳ないが少し我慢してもらおう

 

男が蓋を閉めるとどうやら蓋を閉めてロックし瓦礫で隠しているようだった

ふと開閉係の男が口を開いた

 

「オプションはいるか?」

 

「何がある?」

 

オプション、初めての響きだ

実際こうやって賄賂を使って宿の隠し道で逃げるのも初めてだが実際に使ってみれば悪い人間に良心的なシステムがあるらしい

 

「足だ。 今すぐ2つくれりゃとびっきりのを用意してやる。独りのあんたにゃぴったりだ。割引も可能だが---」

 

人差し指を立てて説明してくれる男の人差し指にポンと札束2つを乗せ渡す

 

「おぉ、珍しいな、ちょっと待ってくれ。

俺だ、最高の準備を」

 

無線機を取り出し連絡を取るとすぐに切った

「よし、こっちだ」と案内を受けスパークリーとともに下水道を抜け待っていたのは新品同様のオフロードバイクが燃料も満タンで用意され手書きだが次の地域までの地図が用意されていた

 

「いやぁ、嬉しいねぇ。 こりゃ儲けた儲けた」

 

「世話になった」

 

「いいってことよ。あんたみたいな客は神様みたいなもんだ」

 

バイクを用意した男と開閉係の男にチップを渡す

宿でもしていたがこれは存在の口止め料と言った意味があった

 

「随分羽振りがいいねぇ?」

 

「金は使える時に使わなければケツを拭く紙にしかならないか、使う前にマリア様によろしくするかだ」

 

「はっはっはっ! 気に入ったぜ、もう2度とあわねぇだろうが覚えておくぜ?」

 

隠されていた大きな穴、そこは壁の外側であり地区の管轄外だ

脇にかけた雑のうにしっかりと相方がいることを確認した

 

「行くぞ、スパークリー」

 

「わんっ!」

 

バイクにエンジンをかけて、アクセルを捻り走り出した

 

「じゃあなー! くたばんなよー!」

 

意外にも陽気な別れの挨拶をもらいながら出発をした

 

真っ暗な道を走る、生き残れることを願いながら

 

目的地はないが、帰り道も忘れた、そんな生き方でもいいだろう

 

選んだのは私なのだから

 




説明回の如く長く、めんどくさくなってしまいました…
UAが4000を超えお気に入りが71件…正直びっくらこきました

放浪者よく考えたら大したことしないでタラタラしてるだけだったから心配しかないですね(名探偵)

とりあえず、ここから一歩も通さないS06地区の活躍をお楽しみください


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人形の追跡

追いかけっこが始まるぞー(白目)


「いない…?」

 

制圧した部屋には人はおろか荷物もない

ライトで照らしながらベッドの下やクローゼット、隠し扉がないか、窓の開けた形跡などを調べるが部屋から手がかりはでてこなかった

 

「AK12より各員へ。 標的はいない、空よ」

 

「おいなんだ!?」「なんの騒ぎだ!」などの怒号や赤子や子供の泣き声が宿の部屋という部屋から聞こえてくる

 

タボール21やガリル、マイクロUZIなどが廊下で部屋に戻るように、銃をちらつかせ威圧するように指示する

 

「どうなったのですか!? 目標は消失したのですか!?」

 

「わ、わかんないわよ!」

 

「ネゲヴー! 客がわんさか出てきおる。ウチらじゃもう持たん、何とかしてや!」

 

通信モジュールを使い混乱する現場から外で待機しているネゲヴに通信が入った

 

「トンプソン! スナイパー組は何か見た!?」

 

「残念だが、何も見てないようだ。 M9とM1911にスポッターとして配置している。 見逃すはずはない」

 

ハンドガンタイプの人形は夜目が効く、広い範囲を夜間でも見渡せるがどうやら引っかかった者はいない

誰も、外には出ていないのだ

 

混乱する現場で場違いなのは、まるでゆったりとした様子で部屋から出てきた2体の人形だった

廊下を渡る際に、ただ落ち着いて部屋から出てきた

 

「何してるん!? はよ止めるの手伝ってぇや!!」

 

ギャーギャーと騒ぐ宿泊客とガリル、AK12は一瞬動きを止め安全装置を解除し2発、地面に撃ち込んだ

破裂音が響き一瞬で現場は静まり返る

唖然とするネゲヴ小隊と宿泊客、AK12はマスクをしたまま冷たく言い放つ

 

「寝てなさい」

 

それは誰もが背筋に氷水をかけられた様な感覚だろう

全員が部屋に戻り廊下にはネゲヴ小隊の人形たちが残されていた

 

『ガリル! 発砲したの!?』

 

「ちゃうで、ウチやない…あの目ぇ閉じた人形が威嚇で撃ったんや」

 

『余計なことを…!』

 

AK12はそんな会話を気にせず唖然と座り込む店主に目をつけた

ただ一言だけ言った、「彼はどこ?」と尋ねた

 

「か、彼…? なんのことだ、客のどれかか?」

 

「死んだ目に帽子、大きなリュック。 早く答えて」

 

ふと彼女の手に持つ銃は安全装置が解除されているのがわかりやすく示されていた

人形には安全装置があるはずだが、この人形から発せられる殺気には耐えられそうな人間は場慣れの人間ぐらいだ

しかし、逃し屋をやってもう早数十年、仕事を果たすまでだ

ビビってなどいない、人形ごときに、グリフィンごときにビビっていてはこの仕事は成り立たない

 

「さっきの部屋にいねぇんなら、もうどっか言ったんだろ。 しらねぇよ」

 

「あなたが店番をしていたのでしょう?」

 

「知らねぇもんは知らねぇし、出てきてねぇもんは出てこねぇよ。 どうしろってんだ」

 

「…」

 

カウンターの奥にAN94が入り込もうとすると店主が「おい! 何勝手に入ってきてんだ!」と止めに入るが戦術人形の擬態に筋力勝負でまず勝てるはずもなくカウンターを散らかしながら止めに入る

 

鬱陶しく振り払うと中年の店主は尻餅をつき、その様子とカウンターの中を一瞥すると違和感があった

 

タオルがある、正確にはタオルで包まれた何かだ

不審に思いタオルを手に取り中を見るとバラバラと札が出てきた

それを見つけたAN94が店主を向く

 

「これは? なんだ、大した額じゃないか」と無言で威圧かけてくるのがすぐにわかった

店主はそれでも言い募る。「やめろ! 店の売り上げになんて事しやがる!」と言いながら腰を上げようとするが歳のせいで思う様に体が動かない

そして次に、店主に似た容姿、店主の息子の胸ぐらを掴みあげ壁に押し付けた

足をバタつかせ脱出は不可能の様だった

 

「どこだ」

 

「な、なにがです…」

 

「どこにいるんだッ!!」

 

冷徹な様子から表情を歪め怒り狂った様に怒鳴り散らし銃口を腹に押しつけた

 

「や、やめろ! 息子に手を出すな!!」

 

「うっ、うわぁあぁああああぁぁぁ〜〜!」

 

「何しとんねん! ええかげんにせぇや!」

 

制止の声が響き情けない声で涙を流し、男が失禁しズボンから垂れ流し床を汚していく

それを無視する様にAKは脇を通り中を調べる

 

バックヤードには調理場や、貯蔵庫がある

迷わず貯蔵庫の荷物の表面を見る

埃の有無を確認している

 

荷物の裏でないと見るや今度は床を見始める

敷物を数枚退かしてようやく床下収納が現れ開けると中から大きな樽が出てくる

 

「アバカン、来て」

 

AN94は男を用済みに如く放り投げAK12の元へ行くと意図を察したのか彼女を援護する様に構えて、樽を出すのを見守る

 

樽は軽くあっさりと出されその下の蓋を取ると、見つかった

隠し通路が見つかった

すぐさま店主の元に戻り掴み上げ持ち上げた

 

「随分凝った隠し通路ね。お見事だこと」

 

「か、隠し通路!? な、なんの…」

 

「砂の積み方が雑だったわね。 あれは多すぎよ」

 

店主は初めて心から恐怖する

こんなにも手段を選ばず、詰め寄る連中は初めてだ

 

「さて、どこに繋がってるの。 話しなさい? 時間がないの」

 

これ以上やれば殺される

もはや店主は長くないかもしれないが息子は違う、まだ未来ある息子を、死なせたくなかった

 

「…今頃地区の外だろうよ。 もう遅い」

 

「S07指揮官? 聞こえる」

 

『なんだ』

 

「ドローンに映ってないかしら。地区の外側なのだけれど」

 

『やってみる』と数分後、位置情報を転送された

 

S06に向かっている

しかもこれは数分前の情報だ

 

「アバカン、行くわよ」

 

「了解、追跡します」

 

バイクを取りに戻り急いで彼を追いかける

 

 

 

 

ここまで来た、どうして逃げるの?

 

逢いたい、会いたい、あいたい

 

ただ、あって、抱きしめて、人間らしい事を彼としてみたいだけ

 

絶対に捕まえてみせる

 




何処までも追いかけるから


次回、終末カーチェイス、デュエルスタンバイ


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望まぬ再会

愛を伝えるために


ここでまさかの…


『AK12! AN94!』

 

「あら、アンジェリカ。 どうしたの?」

 

通信モジュールに受診したのはアンジェリカの声だった

怒りを露わにしており声を荒げていた

 

『どうしただと!? お前たち、一体何をしているのかわかっているのか!?』

 

「何を? 当たり前じゃない。 アンジェリカ、これは必要なことなの、あなたにもわかるわ」

 

バイクを走らせながら通信を続けている

アンジェリカとしてはS09に人形を避難させる任務で行方不明になりS07の指揮官に連絡を取りようやく繋げたのだ

 

聞けば普段の彼女たちならしない、常軌を逸脱した行動の報告が舞い込んでおり、止めなければならなかった

 

『やめろ! 命令だ、今すぐその作戦を中止しろ!」

 

「アンジェリカ、大丈夫。 すぐもどるから」

 

『おい、ノーヴィ---』

 

通信モジュールを一方的に切りローカル無線に切り替える

余計な声を入れずアバカンと連携を取るためだ

 

「さぁ、やりましょう。アバカン」

 

「はい、ノーヴィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンジン音を響かせ土埃を巻き上げながら荒野に近い道を駆け巡る

真っ暗で人間の肉眼では見ることなどほぼ不可能であり

ヘッドライト光は手前しか照らさない、真っ暗で何も見えない

 

スパークリーも時たま顔を出して外の風を浴びている

きっと昼間にここにいれば広大な荒野が観れるのだろうがどうやらそんな暇はない

明日の朝までにはS06に着きたい

しかしS06も同じだろう、誰かしら捕まえにくる

しかしそれなりに札束を使った甲斐があるというものだ、地図にしっかりと抜け道を記してくれている

 

「なんとかなりそうだな、スパークリー?」

 

エンジンの音で聞こえないと思うがスパークリーは「わんっ!」と返事をした気がした

 

しかし難題が一つある

ここ最近ではS07地区はS06と最近交通の便がない話を聞いた

鉄橋が工事されているのだ

もしかすれば建っていないかもしれないと地図に記されている

その場合のルートなどもしっかり書かれている、至れ尽せりとはいい言葉だ

 

風を切る様に走り抜ける。なるほど悪くないバイクだ、少々エンジン音がうるさいがまぁ、そういうものだ

久しぶりに優雅と言っても過言じゃない旅ではないだろうか

待ち望んでいた乗り物に乗って次の目的地に行く

実に心が躍るではないか、と考えてもいい時だった

 

スパークリーが何かを感じとったのか目を見開き雑のうから顔を出して「わんっ、わんっ!」と何度も吠え始める

仔犬であるがゆえ可愛く見えるが、どう見てもそれは威嚇などの類、外敵に遭遇した様子だった

 

ミラーと直視で後ろを見るが何も見えない

しかしヘルメットをしていなかったことが功をそうしたのか、明らかのこのバイクとは違うエンジン音が聞こえる

 

念には念を、用意しておいて正解だった

ポケットに手を突っ込み、手にいっぱいのそれを出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標接近」

 

無機質な声がノーヴィから発せられる

目を開き演算処理を行いながらどのぐらい離されていて、どのぐらいの速度でどのぐらいの時間で着くかを深度演算しながらバイクを走らせていた

 

『ノーヴィ! 目標補足。 接近する!』

 

「待って、焦っちゃダメ。 ここで何か来るわ、備えて」

 

戦術人形には暗視装置が義体に搭載されているため、ライトを壊して接近を悟られない様にしていた

 

『射程圏内に入った。 予定通り射撃を開始する』

 

片手で構えた銃をアバカンは取り付けられた光学機器で前を走るオフロードバイクのタイヤに狙いをつけた

 

『っ! 何か地面に投擲したわ』

 

片手で走行しているとき、不意にバイクの姿勢が安定しなくなった

ハンドルがガタガタと揺れて操作が上手くいかない

 

「っ!」

 

銃口から2閃が走る

毎分1,800発の射撃速度で高速で跳ぶ弾はわずかにタイヤから外れた

追いつこうとアクセルを吹かすが速度が上がらなず、車体もガタガタ不安定になる

 

二輪の車は性質上速度があったほうが安定する

道は通常の車道のため明らかに何か異常があった

 

『アバカン、やられたわね。 タイヤがバーストしてるわよ』

 

いつのまに?

相手は銃撃はおろかこちらにも気づいていないはずだった

 

『私が追うわ。 あとで合流しましょう』

 

「すみません…」

 

『いいわ。 じゃあね』

 

通信が途切れ見る見る2人は見えなくなった

バイクを止め、状態を確認すると夥しい量の釘が前後輪に刺さっていた

先ほどの投擲物だろう

 

「…相変わらず、やってくれるな」

 

バイクを捨て義体の全力の出力で追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐで S06に繋がる橋付近だ

しかし防衛線を敷かせているため通ることなどできない

しかし絶対に何か考えがある

アバカンでなければ正確に走行中のバイクのタイヤだけを撃ち抜くという芸当はできない

 

すると突如、ルートを変えて道路外へ出たではないか

舗装されていない道路をバイクで走るなど危険極まりない

速度も落ち、安定性もかける

しかしあれはオフロードバイクだ、少なくとも私が乗っているバイクより適性はありある程度安定するはずだ

 

同じように道路外へ出て砂漠地帯道を走る、しかしこのままでは当然谷があり行き止まりだ逃げることなどできない…

 

ふと、過去の記憶が蘇る

そう、彼と最後に当たっていた任務の時

逃げる時上層階からヘリコプターに飛び乗るという発想をしたのは彼だった

 

まさか、超えるつもりなのか? あの死の陰の谷を

出来るはずがない、あってはならない

おそらく違うだろうが否定しきれない

 

なんとしてでもここで止める必要がある

砂漠の砂を噛みすぎたバイクが不調を訴える

 

決めるなら今しかない

狙いをつけ、単発で何発も撃ち込んだ、するとバイクは横転し派手に転んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相手の機動力を潰そうと撒菱紛いの曲げた釘や尖っている金属片を撒き散らしておいた

効果があったかはわからないがやらないより良かった

 

一瞬、ミラー越しで何かが小さく光った

しかしエンジン音がうるさい時でも聞こえた

銃声だ、まずい、相手もバイクでしかも銃で撃ってきた

 

確実に仕留めるつもりだ、しかし絶対に捕まるわけにはいかない

 

出来るだけ速度を上げてまっすぐに進む

おそらく、またそろそろ仕掛けてきてもいい頃合いだ

アスファルトでできた道路から離れ砂漠のような道に進む

 

砂が主で走りづらいがこのオフロードバイクのおかげで横断は楽そうだ

 

追っ手も撒菱のおかげかやってきておる様子はない

撒いたか---

 

突如、バイクがバランスを崩し、身が放り出された

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼんやりする意識

痛む身体、特に右の足が熱い

身を投げ出され、それから

 

考える間も無く、バイクは爆発炎上した

 

まずい、早く逃げなければ

痛みが走るこの足で近くの枯れた木に身を隠した

 

気がつけば荷物がない、古く、継ぎ接ぎや穴が多かったリュックはおそらくショルダーストラップをちぎりどこかへ飛んでいってしまったのだろう

当然スパークリーが入っていた雑のうもない

 

嘘だ、急に不安と焦りが募り出した

スパークリーはどこに? まさか投げ出されたのか? 無事なのか? あるいはもう…

 

そうこう考えているうちにエンジン音が炎上しているバイクの下までやってきた

 

バイクを降りて周辺を調べ始めた

早く離れなければ

そう思い行動した時だった

 

突如銃撃を受けた

慎重に行動したつもりだったが気づかれた、こっちに走ってくる

 

急いでマグマが隆起し岩山となっている山へ身を写した

 

乾燥した植物の陰に身を隠し傷の具合を見る

右足は裂傷のような傷、おそらく何かで切ったというより銃弾が掠ったのだろう

 

出血は酷くはなく、上着を千切り止血した

硬い地面を歩く音、奴が来た

吹き荒れる風と粉塵によって情報が遮られてくる

 

シルエットが見えた

女だ、銃を持った追っ手だ

 

こちらに確実に近づいてくる

気配を殺し岩の陰に隠れる

隙間などないためここまで来たら戦うしかない

 

こちらに都合が悪いように動いてくる相手に対して内心舌打ちをした

 

こっちに来た

そして、あと少しで遭遇する

 

しっかりかけ出せる様に構えて、彼女が見えた瞬間、駆け出した

 

悪条件が重なった場所では戦術人形も普段の性能は引き出せなかった

反応は悪くなかった

しかし眼球に砂利混じりの砂をかけられ怯んだ

 

銃の掴み合いになりわざと指をかけ発砲すると方向へ撃ちまくりマガジンが空になった

義体の力で顔面を殴られる一瞬意識を落としかけるが急いでまた岩肌1枚の陰に隠れた

 

お互いの膠着、口を開いたのは相手側だった

 

「あぁ…セイカー…漸く会えたわ…またこの名前を呼べる時が来るなんて!」

 

感極まった声を上げたのはかつての教え子で仲間であった戦術人形、AK12、又の名をノーヴィであった

 

「ノーヴィ…!」

 

「あぁっ、ああぁっ!! また、あなたにっ、そのっ、名前で、呼んでくれるなんてっ!! セイカーっ! セイカーぁあッ!!」

 

呟く様に言ったのだが聞こえていたらしく狂喜した様に声をあげた

どうやら彼女の様子は変だ

話し合いなどない、最初からそうだ

それは自分が彼女たちに教えて来たこと

 

降伏も和平交渉など存在しない、戦うほかない

 

誰も望まぬ戦いが、始まってしまった




逃げ出すために




ここでまさかの放浪者おじさんの名前登場
いやぁ長かった…


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砂漠での死闘

書き上げるの苦労した…
UAがアーッと言う間に5000近くまで登り詰めて興奮気味です
まだ書きたいこと書ききって居ません
まだ私は行けます


岩陰に隠れて相手の視界から姿を切る

チェストリグからあるものを取り出し、足元に落ちていた拳一つ分の石を拾い上げる

 

岩の向こう側に奴がいる、絶対に正面から遭遇すれば勝てない

 

「何が目的なんだ?」

 

率直に、相手の目的を聞く

素直に聞き出せるとは思えないがやるだけやってみる

 

「グリフィンか軍から私を殺せと命令でも受けたか? 立派に殺し屋に育ったじゃないか」

 

返事は返ってこないと思っていた

しかし、意外にも、帰ってきたのだ

 

「貴方を殺す…? 何故かしら?」

 

意味がわからないと言った返答だ

どういうことだ、てっきり私を含めたあの当時のメンバーを殺しにきたのかと思えば、全くの見当違いなのか

 

「私はな、グリフィンと軍の、大した情報じゃないがブラックな情報を持っている。それの隠滅のために…」

 

「それこそ意味がわからないわ。 だってあなた、死んでいるもの」

 

「じゃあ、何故」

 

「そもそも、私がグリフィンや軍に従って『はいわかりました』なんていってやるとでも思ってるのかしら?」

 

「違うのか?」

 

「私はただあなたを連れ戻しにきただけ。 グリフィンには少し手伝ってもらってるの」

 

また意味がわからないことを言いはじめる

グリフィンが動いたのは彼女の独断?

じゃあ、グリフィンや軍から狙われるというのは私の独り相撲だったのか?

 

「連れ戻す? 一体なぜ?」

 

「どれだけ、どれだけあなたに会いたかったか、わからない…? 死んだと思った時は、人形なのに涙が出て、とても悲しくて、辛かったのよ…! …貴方を連れ戻して、元どおり。 逃げないで…みんなそれを望んでいるの、そうすればまた…」

 

怒りを抑える様に、それと同時に泣き出しそうなのを抑えて語り出した

泣き出した様に話したと思えば、抑揚のない声で話し始める

彼女のメンタルモデルに異常でも来したのか?

 

「理解できないな。 私は変わった、戻るつもりなどない」

 

「…私もよ。 私も変わった、でもあなたを諦めるなんて絶対しない」

 

互いに沈黙を始めた

吹き荒れる嵐の中、静かな戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岩陰から出て声が聞こえていた位置にローレディ、銃をほぼ水平に構えてノータイムで射撃する姿勢で近づくと彼はいない

 

すると突然、石が飛んできた

しかし当たったのは左脇の装備品

構わず反撃し数発打ち込むが手応えはなかった

 

なぜ石を?

彼のことだからリュックには予備程度の装備しかないはずだ

いつでも使える様に携行しているはず

見た限りではサブマシンガンなど小型の銃が限度だろう

フォールディングストック類のライフルもなきにしもあらずだが火器の一つはあるはずだ

 

問題は彼が使わないのか、使えないのか

確かにこの状況では銃は不調になりやすくジャムの可能性や残弾を考慮すれば使わない手もあるが何かあるはずだ、警戒にに越したことはない

 

ふと、岩山の陰に何か見えた

見つけた、走って近寄り何かをしていたところを撃ち込む

手応えはあった

元から手足の1本や2本を駄目にしてでも連れ帰る

迷いなどない、絶対に連れ帰る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成功…か」

 

先程の位置を離れて近くの岩山の陰からあるもの、パラコードを編んで作った投石機で先程拾った石を投げたのだ

 

投石機は銃が生まれるよりも前の原始的な武器ではあるが強盗団など人間相手でなら使いようは幾多でもある

 

とにかく、狙った通り左脇の物に当たったと音で考えるとしよう

次はーーー

腕に来る衝撃と熱

思わず後ろに倒れこんでしまった

 

しまった、反撃に撃たれてしまった

急いでそこから逃げるとぼんやりと影が見えた

おそらくノーヴィが探しにきたのだろう

まずい、血の跡はこの砂嵐でもすぐには消しきれない

 

点々と残してしまった血の跡を見て腕の負傷を見る

浅いが鋭く、出血量が多い

これは早く決しなければならなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血の跡を頼りに追いかける

道中、紐だけの見せかけの罠に遭遇するなど、明らかに時間を稼いでいる

遅滞戦闘も彼は習得している

ゲリラ戦を一通り行えるためこう言った工作など彼のやり口だった

 

精神的に不安を与え、攻める

人間でも戦術人形でも通ずるものがあるため、応用はいくらでも効くのだ

 

しかし彼は手負いだ

だからこそわからない、早く決しなければいけないのはあちらだと言うのに、なぜ遅滞戦闘を?

考えても仕方ない、彼を捕まえるのは遅いか早いの違いだ

勝つために、攻める

 

点々とした血の跡を辿るとこの砂漠地帯の影響で枯れている一本の木があった

 

そしてチラリと見える、帽子のつばと上着

その場に座り込んでいるように見える

 

罠だ

これまでの行動、記憶している行動パターンからすればこれは罠だ

 

木の枝か何かに引っ掛けて座っている様に見せる演出だ

 

しかしあの場に座って居てもおかしくない

だからこそ、この何もない砂嵐の中、何処から襲ってくるか

 

ーーー砂中かッ!!

 

ノーヴィはフルオートで地面を抉る様に撃ちまくる

砂に突き刺さる高速弾は砂を巻き上げ、嵐がそれを消す

この砂漠のなかに埋もれている、そう確信した上で射撃し1マガジン撃ち切った

まだ手応えはない

 

射撃が終えた時だった

止まったその瞬間から撃たれた

何処を狙ったかわからないが正面から弾の飛翔音、亜音速で飛んできた弾丸

 

急いでリロードし、コッキングレバーを引いた時だった

ボルトが、閉まらない

銃に異常はないはずだった、なら、まさか?

 

銃に装填したマガジンは、歪んでいた

そうか、あの時の石は、これを狙って居たんだ

 

さらに予備のマガジンで叩きだす様に装填したマガジンを弾き飛ばしたが遅かった

あの木の裏で座り込んでいたのは影などではない、本物の彼だった

一気に近寄られ、体当たりをしてきた

押し倒され、銃は弾き飛ばされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝った

私は賭けに勝った

彼女を信じて、囮の様な物は撃たず、地面を手当たり次第に撃ち始めた

正直、砂中に隠れて不意をつこうか考えたが、間違ってなんかいなかった

必ず、私の考えを読み取ろうとし、読みを外した

 

弾が切れた頃合いで、ここでの秘策、もはや頼らねばならない、彼女からもらって使い続けてきた、拳銃を向けた

 

狙いをつけ、ズレを計算し、あとはたかが数キロの力を加えるだけだ

 

だが、一瞬、戸惑ってしまった

 

ーーー彼女を撃つ必要があるのか?

 

仕方ない、仕方ないんだ

撃たねばどうなるかわからない

僅かな迷い、それを生み出し、それは現れた

 

1発目を大きく外した

何をやっているんだ、馬鹿が、撃たねば

 

ーーーできない、お前は彼女が大事な存在だったから

 

わかっている、わかっている

だからこそ、今まで銃を使わなかった

しかし、使わねば、やられる

 

見ればリロードを終わらせていたようだったが様子がおかしい

そうか、あの投石が効いていたのだ

 

ならば、チャンスだ

彼女を傷つけない、最後のチャンスだ

彼女に飛びかかる様に体当たりをして、銃を弾き飛ばした

 

しかし彼女も銃がないから戦えないわけではない

今度は拳銃の奪い合いが始まる

かわし、受け流し、一瞬で幾重にも繰り広げられる攻防に、ノーヴィがナイフで肩を刺し容赦ない膝蹴りが脇腹に入った

 

横転させ、銃を回収するために、這いずってでも取ろうとした

しかし、あと一歩、そこで拳銃の弾が彼女ではなく、その先の彼女自身とも言える銃、AK12を撃ち抜いた

 

「終わりだ」

 

砂嵐は二人を包む、誰にも邪魔をさせないために激しく吹き荒れていた

 

 




※実は操作ミスって全部お釈迦になってます


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砂の落し物

繋ぎですがどうぞ

昨日の今日でもう、UAが6000いきそうです。はやい(震え)
お気に入りやしおり、誤字修正指摘など大変ありがとうございます
ドルフロクラスタの皆様に満足いただけるよう、書けるだけ書いて行きます

それではどうぞ


 

 

「…どうして」

 

吹き荒れる砂嵐の中で、彼女の掠れた声が聞こえた

タチが悪い、前々から思っていたがなんで人形は、こんなにも感情というのがわかりやすいのだろう

座り込み俯いていた彼女が顔を上げる

 

「どうして…あなたは私を拒むの? どうして、私たちから離れていくの? ねぇ、どうして? 深度演算なんかじゃ、答えが出せないの…教えてよ…!」

 

ぽたぽたと、彼女の目から、まるで涙の様なものが滴り落ちる

 

嗚咽を上げてそれ以上は何も言わなかった

ただ、本当に彼女は帰ってきてほしかっただけなのだ

 

「…私が決めたからだ。 私が決め、それを貫く、ただそれだけなんだ」

 

銃を下ろし彼女を見据える

そこには、ただただ弱い、人形がいた

肩に刺さったナイフを掴み、力一杯引き抜くと痛みとともに、血が流れ出る

 

ナイフを力なく捨てると血がついたナイフは次第に砂に埋もれていった

彼の心を隠す様に、砂は飲み込んだ

 

「帰るのが嫌なら、私があなたの元へ行くわ…? だから…」

 

縋る様に彼女が手を伸ばす、しかし彼の答えは非情だった

 

「来るなっ!」

 

「えっ…?」

 

「帰れっ! お前の来るべきところは先も見えぬ険しき道でも、私の元ではない!」

 

「どうして…なんでっ」

 

振り返りよろよろと砂嵐の中に消えてゆく

全てを放って、彼は去ってゆく

 

「待ってっ! なんでわかってくれないのっ!? 行かないで!!」

 

まるで癇癪を起こした子供の様に、懇願する声に耳を貸さず、とまでいかなかった

一瞬思いとどまった様に止まったが足を引きずりながら立ち去った

 

 

 

 

 

 

手の震えが止まらない、初めてだ

生きていて長い間、教え子に、元とはいえ敵対していない仲間に銃弾を撃ち込んだのは初めてだった

 

---戻りたい

 

やはり心の中でそう思っている

彼女たちを一目見て、感じたことだった

 

しかし変わり果てていた、凶暴さを増しいずれ怪物になってしまうだろう

 

おかしなことに人間でも人形でも同じ様だった

 

それでもいい、彼女たちと同じ戦場に立って同じものを見ていたあの頃に戻りたい

 

---戻ればいい、そうすれば元どおり

 

---戻ればいい、彼女たちは受け入れてくれる

 

---戻ればいい、何を恐れて拒んでいる、受け入れればいい

 

そんな甘言を謳う声を振り払う

しかし、彼には迷いがあった

暗闇のなか、目の前も見えないなかを手探りで進む様に

 

戦場に戻れば、自分は化け物になってしまう

どんな理由でも人間から化け物になったものは生きていてはいけない

人間はそれを許さない

 

「スパークリーっ、スパークリー!」

 

逸れた相方を探して悲鳴にも近い叫び声で、嵐の様に叫んだ

彼が人に許すことができなかった心を、ただの、主人想いで逞しい仔犬にだけは許すことができた

今でこそ、あの仔犬が彼の心の支えであった

 

「スパークリーッ!」

 

喉が枯れて、声がかすれてしまう

しかし、この広大で空虚なる砂漠は周りを見渡しても何もない

 

まるで誰も寄せ付けない、放浪者の心を表している様な空間だった

 

「スパークリー…」

 

呼んでも返事が帰ってこない

あの火花の様に弾ける元気と鳴き声は聞こえない

嵐にかき消されどこかへと消えてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノーヴィ! ノーヴィ!!」

 

砂嵐の中アバカンは相方で、どんな時でも道を示してくれた彼女を探していた

 

砂嵐で位置情報がつかめず、最後に確認できた位置で探し回っていた

 

ふと、砂が舞う視界の中に何か見えた

目を離さず銃を構えて近づくと、それは荷物だった

ぐしゃぐしゃに散乱し砂に埋もれているものもあり、一瞬何かわからなかったが、仔犬がいた

 

怪我をして弱々しく歩く仔犬は血で自らの毛並みを汚しながら低く唸り声を上げている

明らかにこちらを威嚇をしていた

 

なぜこんな所に仔犬が?

そんなことはどうでもいい、とにかくこれを調べねば

 

 

できるだけ回収し、ショルダーストラップが切れたリュックの中にしまおうとした

 

カバンの奥底から、紙切れが見えた

気になりそれを見ると写真だった

アンジェリカに私とノーヴィ、そしてなんとも言えない表情をした彼が写っていた

 

「…セイカー」

 

彼の名をつぶやく

何もかもわからなくなるのが怖かった

そんな思いを電脳の片隅に押しやり荷物を背負い立ち去ろうとした

 

右足の靴に、違和感を感じた

視線を下ろしてみると仔犬が噛み付いている

力はほとんどなく、振り払えば容易く離せるだろう

 

仔犬を振り払うと立っているのも辛いのか横たわった

 

そのまま彼女を探しに行こうとした

しかしあの仔犬が気になり振り向くと

前足が使えないのか覚束ない足取りで、よたよたとこちらに来る

 

その翡翠色の瞳は、戦う意志を見せていた

 

この仔犬は、この荷物を守って…?

 

仔犬に近寄り、リュックを降ろすと彼女とリュックを遮る様にやってきた

 

枯れて、ろくな声も出せていないが何度も吠えていた

 

…この子も連れて行こう、きっとセイカーの連れだろう

 

仔犬を優しく抱き、リュックを背負う

仔犬は最初こそ抵抗していたが、次第に静かになっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイカー…」

 

茫然と砂嵐の中に消えた彼を探していた

座り込んで立てないまま、向こうを見続ける

 

彼は帰らないと言った、彼は来るなと言った

じゃあ、どうすれば…彼の隣に居れるの?

どうすれば、また彼に受け入れてもらえるの?

 

ずっと、砂嵐に吹かれながらそんなことを考えていた

 

すると、誰かが私を呼ぶ声がする

長い間、ともにしてきた相方だ

私を探している、行かなければ

 

立ち上がり声のする方へ行くと仔犬を抱えているアバカンと合流した

 

「ノーヴィ、無事ですか!?」

 

「えぇ…アバカン、その仔犬は?」

 

「…セイカーの荷物を守っていました。 おそらく彼の連れです」

 

「…そう…なら、彼に届けないとね」

 

もはや静まり返ってしまい、意識がなくなりかけて弱っている仔犬の頭を少し撫でた

 

「…彼は去ってしまったわ、今日はもう引きましょう。 そっちは何かあったかしら…?」

 

「…えぇ…また後で話します。 バイクはまだありますか?」

 

「壊れかけだけど、ここから北東300のところよ、行きましょう」

 

2対の戦術人形は帰るために歩き出す

砂嵐は彼女たちも、彼をも 、全てを覆い隠す様に強くなる

 

残ったのはなにもない、この砂漠には、何も、残らない

 



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空虚なる砂漠

それは、お前を苦しめるもの


傷を受けた体は重たい足取りで砂漠地帯を歩く

もはや自分でもどうすればいいかわからない状況だった

 

吹き荒れる砂嵐、意識を朦朧とさせる出血、体温を削り取る気温、そして心を蝕む孤独

 

道具もなく、絶望的だった

あるのは使い切れないほどの金がある口座、少量の水と食料、そしてあと数発しか入っていない拳銃だった

 

コンパスもあるにはあるが先の戦闘で壊れてしまい使い物にならなかった

 

目の前に広がるのは砂と闇、外敵に襲われる可能性は低いが、この砂漠を出なければ待っているのは緩慢な死だった

 

確かもうすぐS06まで来ていた筈だが景色が変わらない

目の前は砂と闇が轟いていた

ふと、砂の丘から顔を上げると誰かが手を振っている

 

誰か確認しようにも砂嵐がひどく誰かわからないが仕草や動きからして女性の様だった

道はない、彼女を信じて彼女の元へ向かう

 

ふと、彼女が砂の丘から消えた

どこかへと踵を返したのだ

どうかしたのかと少し早足で丘に登ると彼女の姿が見当たらない

 

 

 

丘の先にあるもの、木が見えた

枝から緑が広がり、果実を実らせていた

非現実的な光景に目を疑った

 

「なんだ、あれは…?」

 

見たことはないが聞いたことがあるものだ、しかしそんなものは夢の産物で、こんな枯れ果てた砂漠に生えるはずなどない

木の根元には澄んだ緑が広がり、生命を感じる

ゆっくりゆっくり近く

 

 

 

 

 

---このしがみつくものは?

 

 

 

 

 

景色が変わる

生命を感じた青々しい緑は枝の先から死んでゆく

 

「あれは…」

 

 

 

 

-----この砂からどんな命が芽生ええてくるというの?

 

 

 

 

緑は消え失せ、果実は灰になる様に崩れた

そこにはなかった

 

「木だ…!」

 

 

 

 

-----人の子よ、貴方にはわからない

 

 

 

 

枯れ果て、僅かな生命も感じない、木があった

それは成れの果て、結末

 

 

 

 

-----貴方には壊れた過去への想いだけ

 

 

 

 

緑はそこにはなかった

最初から何もない、虚無だった

 

 

 

 

-----嵐は貴方の姿と声を隠し、全てを砂で埋める

 

 

 

 

「くそっ! ぐるぐる回っていただけだ…!!」

 

方向感覚を失い、まっすぐ進めず、あの枯れ木の元まで帰ってきてしまった

 

 

 

 

 

-----すべて、この砂の中に落とした

 

 

 

 

誰の声か、一番知っていた

無意識のうちに、頭の中で響いてくる

膝から崩れ落ち砂に着いた手が、何かに触れた

 

砂に埋もれていたもの、それは銃だった

壊れて、もはや使えない銃だった

意味もなく拾い上げ、立ち上がった

 

今いる場所もわからず、嵐の中、傷だらけで彷徨っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、話してもらうぞ」

 

グリフィンS07地区のとある一室にて、アンジェリカを眼前にしていた

 

見た様子では怒っているとも取れ、心配してくれているとも思える

 

「何をして、何があった? 事細かく、全てをだ」

 

ノーヴィとアバカンは全てを話した

セイカーを見つけたこと、追いかけたこと、拒絶されたこと

事細かく全てを話した

 

意外なことにアンジェリカは彼の生存には少しだけ驚いただけでどこか納得していた

 

「…そうか、わかった。 とにかくしばらくは大人しくしていろ。 クルーガーからは私が話しておく」

 

「よく考えて行動しろ」と釘を刺すように言って部屋から出て行った

 

部屋には重々しい沈黙が流れる

静かな空間で口を開いたのはノーヴィだった

 

「ねぇ、アバカン」

 

「…どうしましたか?」

 

「私は…間違っていたのかしら」

 

「…いいえ、そんなことはありません」

 

アバカンにも思うところはあるだろう

しかし、彼女の言葉を否定した

 

「貴女は正しいことをしていた。 私も同じ気持ちで貴女に従っていたのです。 彼には、帰ってきてほしい」

 

それを聞きしばらく考え込むように黙り込んでいたが、ふっ、と笑った

 

「…いきましょうか」

 

「え?」

 

「貴女が拾ってきた犬の容体を」

 

少しだけ、にこやかに笑っていた気がした

彼女の後を追いかけ、部屋を出て行った

 

また会うときは、あの砂漠で迷わないように2人で行こう

 

アバカンは、人知れず誓った

 

待っていてくれ、今度は私も会いに行く




すみません、思ったほど長く書けなかったです

UAが7000超えるの早すぎじゃないですかね(震え声
ありがとうございます、手と声の震えが止まりません
肝心なところまで来ました
今後の放浪者の展開はある程度まで構想は付いているんですけど、その先が決まっていません
ピリオドか、続くか、それはその時に



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戦術人形と仔犬

おまたせしてしまいました申し訳御座いません
体調を崩し、エライ目に遭ってしまい心が折れそうです



戦術人形と仔犬

 

S07地区救護室にてノーヴィとアバカンは傷だらけで前脚や身体に包帯が巻かれて眠っている仔犬をまじまじと見ていた

やはりこう見ると可愛らしく、見ていて癒されるものがある

 

「ふーん…なんだか悪くないわね」

 

「そ、そうですね…!」

 

なにやらアバカンがそわそわした様子で仔犬を見ている

その様子はさながら興味深々の子供のようであった

 

「撫でてあげたらいいじゃない」

 

「えっ、だ、大丈夫なんですか?」

 

「いいじゃない、ちょっとくらい」

 

「はい…で、では…!」

 

そーっとアバカンが仔犬の頭に手を伸ばす

手が仔犬に近づくにつれて彼女の頰が綻んでゆく

しかし寸手のところで仔犬がぱっと頭をあげて彼女をじっと見ていた

思わず手を引っ込めた彼女の表情は残念と他ならない表情であった

 

「残念ね…おはようおチビさん。 ご機嫌はいかがかしら?」

 

パチパチと瞬きをした後、喉を鳴らし始めた

一瞬どうしたのだろうと思えばこれは威嚇であったのを後に知った

 

 

 

 

 

 

 

 

戦術人形たちはかれこれ数十分苦戦していた

先の作戦で拾ってきた仔犬は泥や砂、血を洗い落とし毛並みが美し可愛らしい外見の仔犬は意外にも獰猛だった

ずっと周りを威嚇し続け特にアバカンには吠えるまでしていた

 

「な、なぜこんなにも警戒されているのでしょう?」

 

「さっきからずっとこうですね…」

 

救護室で仔犬の看護をしていた人形のMP5が横で見ていた

怪我をしているため今は横たわり大人しくはしているが治ったらきっとバタバタ暴れるに違いない

仔犬が故許されるものがあるが成犬だった時は脅威になりかねなかった

しかしどうしてこんなにも仔犬が警戒しているのかよくわからなかった

期待いっぱいで触れようとしたアバカンは仔犬に威嚇されたショックで表情が沈んでいた

 

「私たち悪いことでもしたのかしら?」

 

「…まさか」

 

アバカンが救護室から出て行きしばらくするとボロボロで破れている箇所が多いリュックを持ってきた

言うまでも無くこれは放浪者のものだった

そのリュックを見た仔犬はすぐさま顔を上げて反応した

 

仔犬専用に用意していたゲージからフラフラと立ち上がり出ようとするが疲労と傷のせいで体がうまく動かせない

アバカンはリュックをゲージの近くに置くと仔犬に手を差し伸べた

 

「…おいで」

 

優しい声色に仔犬は警戒の色を見せる

少し強引だが抱き上げるが意外な事に噛み付いてこなかった

リュックに下ろすと仔犬はリュックの匂いを嗅ぎその上で横たわると先ほどの獰猛さなど嘘だったように弱々しい声で鳴き始める

 

「そうか…お前も寂しいんだな…」

 

「奇遇ね…あなたの主人に私たちも会いたいわ…」

 

2人がそっと仔犬を撫でると抵抗することなく2人を受け入れ始めた

やはり疲れていたのか段々と仔犬の意識は閉じて行く瞳に連なって鎮まった

 

「そういえば、この子って名前は無いのかしら?」

 

「…そういえば、そうですね。 もしかしたら彼の所持品から何かわかるかも知れませんね」

 

「彼のことだから『ない』って言いそうよね?」

 

「ふふふっ、まさか。 流石に無いと思いますよ」

 

救護室担当のMP5に「じゃあ、後はお願いね」と任せ所持品が保管されている倉庫へと向かった

アバカンが場所を知っているため真っ直ぐに向かい箱に入っているものを調べる

食料や医療品などは徴収されたのかなかったがそれ以外のものはそのまま回収できた分だけ入っている

防寒着や簡易寝具マットなど日用品ばかりばかりだった

目ぼしいものがないところ、彼らしいと思った

そういえば、アバカンが思い出したように箱の中を漁るとお目当てのものが出てきた

 

「それは…」

 

「彼のリュックから出てきました」

 

これはあの時、私たちが試験小隊から立派に部隊になった時に撮影したものだった

彼は何とも言えない顔をしていたがやっぱり嬉しそうに後で笑っていたのを覚えている

今ではもう帰らないと言って私を拒絶していたがまだ持っていてくれていたのだ

あの日の思い出も、私があげた拳銃も

思い返すだけで胸が熱くなる。拒絶されたことよりも、もっと強くなる

 

「アバカン」

 

「…はい」

 

「どんなに拒絶されてもいい、受け入れられなくてもいい、忘れられてもいい…それでも彼に会いたい?」

 

「…はい。私はまだお礼を言えていない。 それに、あなたが行くなら私もどこまでも付いて行きます」

 

「…そう。 わかったわ」

 

彼に会いに行こう

今度こそしっかり話して

きっと、それが私たちにとっても、彼にとっても、最善なのだから

 

ふと写真を裏返すと英語でsparkly(スパークリー)と書いてあった

可愛らしくも、下手くそでまるで小さい子供が描いたような不恰好な犬と火花のような絵だ

そういえば彼はこういうのは苦手だって言ってたわね

それにしても下手くそな絵

今度会ったらからかってあげましょう

 

そして、最後にさよならをして、別れよう

 

「ノーヴィ、アバカン。 ここにいたか」

 

振り向くと今までずっと組んできていたアンジェリカがそこにいた

写真のアンジェリカとの違い些細でありやはり義手なのは変わっていないし風貌も少し老けたぐらいだろうか

 

「どうした? ジロジロと見て」

 

「アンジェリカって、あんまり変わらないわよね。 ちょっと老けたぐらいかしら?」

 

「いきなり罵倒とはいい度胸だ。 最適化工程を1%まで戻してやろうか?」

 

「あらあら、怖い怖い」

 

「まったく、それよりも仕事は当分休みだ。 ここの基地でしばらくは大人しくしていろ」

 

アンジェリカはそれだけ言い残し倉庫から出て行った

彼女はどう思ってるのかしら?

近々聞いてみよう

 

目的である仔犬の名前を知ることができ、写真も箱に戻して倉庫から出た

新しい仲間かと思ったけど、付き合いは短そうね

しばらく続きそうな退屈をすごしましょう

来たるべき日のために




前回あっという間にUA7000ってなってヤッター!状態でいたのですが9000を超えて若干声に出ない驚きをしたのはいい思い出になりました
ありがとうございます
しばらくは仕事の都合上間隔が空くかもしれません
最近はこれ書く以外楽しみがないのでつらい
では、また


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旅路にあるもの

繋ぎですねぇ!


今度は後ろを振り返りつつ、先ほどのように戻らないように目印などを頼りに歩いていた

疲れや怪我、水分不足などあらゆるものが重なり先ほどのような幻覚ほど酷いものでは無いが時折おかしなものが見えていた

一瞬、スパークリーが現れた時は本当に焦ったがやはりすぐいなくなってしまった

本当に幻覚だったか怪しいが、おそらく幻覚だ

 

しばらく歩くと、岩山一つを見つけた

不思議なことに、洞窟があった

そこに倒れこむように入り、この砂嵐をやり過ごす

しかしここはどの辺りなのだろう

方向感覚が狂った以上どうにもできない

S06に向かっていればいいがその逆は最悪だ

 

今持てる唯一の行動計画

S06についたところでグリフィンに捕まる可能性が大きいが、覚えていた抜け道を使う

現金はリュックに入ったままで今は文無しだが口座があるため引き下ろしができればなんとかなる

洞窟の奥に留まり、考えに考えていたが気づけば眠りに落ちていた

 

 

 

 

 

 

「…報告は以上だ」

 

通信デッキを借りてアンジェリカはG&Kの社長であるベレゾヴィッチ・クルーガーと通信を取っていた

理由は単純明解、ノーヴィたちが起こした騒動の事後報告というもので謝罪も兼ねているものである

事の発端はS08地区の戦術人形たちを逃す任務だったがS09に届けた後、突如ノーヴィたちが姿を眩ましたのだ

手持ちの通信機器の範囲にはおらず、S07指揮官に広域の通信モジュールを借りてようやく連絡が取れたがすでに遅かった次第だった

命令系統の偽造までしてS07指揮官を欺きグリフィンの部隊を無断で動かし些細な問題では済まなさそうなためアンジェリカとしてはこの後の処理に頭を痛めていた

 

クルーガーが報告を聴いて驚いたのはかつて社員だったあの男が生存していたという事であり、原隊の小隊はほぼ全滅し最後に生存を確認したのは軍から秘密裏に人形の訓練人員として差し出した時だった

彼としてはセイカーは只の一社員、学位は無く犯罪者に等しいが勤務成績は優秀であったが変わり者であったためあの小隊でも立ち回れていた

細かな事情には首を突っ込まず、任務を達成して戻ってくるあの男を含め、あの小隊を失ったのは痛手であった

生きているなら報告をしに戻ってきてほしい、彼は社員なのだから

 

「手は回しておくか…」

 

受話器を取り内線電話でヘリアントス代行官の執務室へ繋ぐ

 

「私だ。 隊員捜索の任務の藩命を出す。 あの部隊に捜索させろ」

 

内線電話の受話器を置きPCに記録されている社員簿のデータを送信した

PCのキーボードを打ち込み捜索命令の書類を出し、副官にヘリアントスへ届けるよう命令した

 

「…手のかかる男だ」

 

彼はPCのデータディスク内に内に保存されている創設当初のメンバーの写った写真を見て呟いた

そこにはかつての小隊も彼と共に写っていた

いつも何故か被っている帽子、そこからのぞかせる死んだ瞳

彼は変わったのだろうか?

会えばわかる話だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、スパークリー…偉いわ、しっかり食べなさい?」

 

「ふふっ、かわいいなぁ…」

 

救護室にて偶然通りかかった自称戦闘のエキスパートことネゲヴは見てしまった

あの時散々現場を引っ掻き回して何処かへと消えたと思ったらここにいたのだ

見かけた為文句の一つや二つ言ってやると思っていたが状況がおかしかった

小隊員であるガリルから彼女たちの行動の色々聞いてはいたがそれを鑑みて小動物に癒されるなどという人間の乙女とも取れる行為を行っているのだ

噂に上がっている人形虐待嗜好者がグリフィンに出没したという話を小耳に挟んだが彼女たちもそっち側、イカれた類である故笑いながら敵を殺している姿の方がしっくりくるというものだ

 

「あら、あなたは…」

 

目を瞑っている方に気づかれた、確かAK12だったはず

気づかれたというのも語弊があり、別に隠れているわけでもないし不都合があるわけでもない

ただ単純に関わり合いたくないというのものがあった

 

「御機嫌よう。 意外ね、動物を愛でる趣味があるなんて」

 

「そうねぇ…彼のだから、かしら」

 

「彼の…?」

 

彼という言葉にいまいちピンとしなかった

言ってしまえば心当たりがない、知らないものだった

いや、思い当たる節があるとするなら彼女たちが追っている男だろう

その犬を彼女たちが掌握している。 人質にでも取るつもりだろうか?

 

「…まぁ、いいわ。 ごゆっくりしていなさい、私は通りすがりだから」

 

ネゲヴは話を切り上げて足はやに去っていった

そんな彼女には目もくれずアバカンは目を輝かせながらスパークリーの食事を見ていた

スパークリーで見ていて面白いのは用意されたふかふかのゲージではなくあの古びたボロボロのリュックに頭から突っ込んで中に居座るのだ

時に頭を出して引っ込める。 時に頭や尻を出したまま眠っている

そんな様子を見ては多くの戦術人形やスタッフが癒されていた

何も知らない人形が片付けようとしたこともあったがもはや定位置と化していた

最初こそ警戒心の強い仔犬だったが今では少しずつ心を開いているのか呼べば返事をしてくれる

やはり賢い犬だった

 

「将来が楽しみね?」

 

「えぇ。 でも、仔犬のままでも…」

 

凶暴さと冷徹さを兼ね備えている人形とは思えないほど今の彼女たちは優しい笑顔でいた



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傭兵だった夢

早く進まないですかね…


「ねぇ。 愛情ってどういうことかしら?」

 

藪から棒に、そんな言葉が一番しっくり来る一言だった

時は終末で近年での出来事は数年前に16Labが創設されあまつさえそこの優秀な軍用個体の訓練を任されている

 

正直言ってしまえば軍のあれこれなど知らない会社員など派遣するなど上層部は考えというものがないのだろうか

軍人として活動したことなどない上教えれることなど高が知れている

それほど期待されておらず民間企業に押し付けるという形なのだろうか

 

そんなことはまぁいい、今現在の状況というか議題である『愛情』についてだ

人形が突然そんなことを聞いてきたがここ数ヶ月見てきてまぁ不思議というかおかしな質問ではないとは言い切れなかった

きっと興味本位だろうが応えてやるとしよう

 

「心じゃないか?」

 

「ふ〜ん…心、ね」

 

「心…ですか…?」

 

「不満か?」

 

回答に彼女たちに微妙な反応をされるが正直納得を得られるとは思っていない

そういうものだ、答えは一つではない、人によって答えは違う

 

「いえ、貴方が心なんていう曖昧な答えを出すなんて予想を大きく外れててね? 前に言った『いつかきっと見えるものが、望んだものと信じる』と同じかしら?」

 

「…君は私が愛情も知らないで育った可哀想な人間だとでも言いたいらしいな?」

 

「違うの?」

 

ベシッ、と頭を叩くと「いたぁ〜い」などと戯けた態度で頭を押さえた

 

「じゃあ、貴方は何に対して愛情を注いでいるの?」

 

「大事な大事な君たちと答えれば及第点か?」

 

「あら、お上手ね?」

 

「セイカー…真面目に応えてください」

 

どうやら臭いセリフは彼女たちには受けが悪かったようだ

 

「ノーヴィ、少し飽きてきただろう?」

 

「そんなことないわ。 興味深いの、愛っていうのが」

 

「私も、気になります」

 

「おいおい…そんなことならアンジェリカかそこら辺の兵隊でも捕まえてくればよかっただろう?」

 

「アンジェリカは何か違うし、兵隊は下の答えしか返ってこないわ」

 

内心そんなものを教えろと言われても答えに困る

質問の意図もわからないし、答えがそもそもないことである以上威張って教えれるものではない

これはひょっとして議論をしたいのか?

彼女たちが考えていることとに私が考えていることを照らし合わせればいいのか?

とりあえず、切り口に愛とは何かを口にする

 

「慕う気持ちではないだろうか」

 

「それは上官を慕う、でも同じじゃないかしら?」

 

「敬愛とも取れるだろう。 他にも親愛、恋愛、家族愛、様々だ」

 

「慕い方ってことかしら。 おかしな話ね?」

 

「愛は自分次第だ。心に聞け」

 

いつも使っている滅音器付きの狙撃銃を取り出し分解し整備を始める

先の戦いで銃身と一体化している滅音器が寿命を迎えてしまった

大分長く使っていこうと思っているがどうしても消耗が激しいため節用しようにもこればかりは仕方なかった

 

「では、私も…」

 

まるで次の質問を用意している子供を相手にしているようだ

何が楽しくて訳の分からん質問を大層ご丁寧に応えなければならないのだ

アバカンは真面目だがこっちからすれば「何を言っているんだ」の一言で終わる質問ばかりだ

正直この2人が妙に絡んでくるのも気になるがまぁ、どうでもいいだろう

 

「今、こんな状況で人を愛するということが理解できないのです。 どうしてですか? なぜ人は人を愛するのですか? 自分が生きねばならないのに…」

 

こんな状況、第三次世界対戦やE.L.I.Dのことを考慮してのことだろう

たしかにその通りかもしれない、人に構っている場合があれば自分のことを優先しろという言い分だろう

 

「さぁな。 そいつに聞いてみたらどうだ?」

 

「そうですか…では、セイカーはどうなんですか?」

 

「私…私か…」

 

なにをするかと思えば言った通り聞いてきたがまさかすぐやるなんて思わないだろう

考えてみれば無いと思っていたが、そんなことはなかった

意外にもあるものだ、そんな状況でも愛していた

あの小隊もそうだった、彼らは家族も同然だった

そして色を忘れたあの景色も、聞こえなくなったあの声も、この胸にしまって抱えてある

覚えているんだ、何もかも

 

「…愛していたさ」

 

予想が大きく外れたのかアバカンも、ノーヴィも驚きのあまり「…え?」と漏らしていた

 

「…気にするな、ただこれは受け売りだが教えおこう…『人はどんな時でも人を愛せる』とな」

 

「理解できません…どういうことですか?」

 

「人でも理解できないことが人形にわかるはずないさ…感じろ、それが全てだ」

 

銃の分解整備を終わらせ銃を組み上げた

役職上、通常とは違う銃を使うことが多くなったため少し手入れが面倒だったがそういうものだ

 

「ねぇ、正しい答えってあるのかしらね?」

 

ノーヴィが真剣な声で、しっかりと向き合っていた

それは答えようがない、私にもわからない以上これが正解などと言えるものか

 

「…正しい答え…というより、答えの数を教えよう」

 

「答えの数?」

 

少し不満げに答えるが彼女も興味津々にしていた

やはり人形からすれば人間の感情というやつが気になって仕方ないのだろう

 

「今生きている生命の数だけ答えはある。 君たち自身も答えの内だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目がさめると、砂嵐は止んでいた

全身が砂まみれだったが顔面だけは帽子を使って防いでいたため無事だった

砂埃を払い外に出ると月明かりが夜空と大地を照らしていた

先程から大分時間も経っていたのか眠る前に打った注射が効いて出血も止まり痛覚も収まっている

不幸中の幸いにして足は無事だなんとか歩ける

残り少ない水を少し口に含んで口腔にある砂を吐き出してから喉の渇きを癒す

 

歩こう、それしか生き残る術はない

先程夢を見ていたが、曖昧で忘れてしまった

最近夢を思い出すことができなくなってしまった

きっと、大した事ではないだろう

きっと、この砂の中に落としたのだろ

何もかも失ったがまだ生きている

歩くしかできないが、それでも

 

放浪者は何処へ向かうのか、砂を踏みしめ歩き出した




ようやく動き始めた、長い、長いよ砂漠にいるの


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未開の土地での探索

砂漠を歩き続けてどのぐらいたっただろうか?

月明かりが照らす冷たい砂漠の夜はいつのまにか明け方の赤い陽が地平線から見え始めた

地平線の続く大地を歩き砂の丘を越えるとついに見えた、人口の建築物だ

雰囲気からして都市のゴーストタウンの可能性が高い

しかしなにもない今、1からとは言わないが必要なもの全て集める必要があった

 

「…行くぞ」

 

自分を奮い立たせるように言い聞かせ歩く出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浅はかだった、最近こんなことばかりだ

街にたどり着いたと思えばここは確実にS06地区でもなければS07地区でもない

もらった地図を思い出す、地図の端にはなぜか黒く塗り潰され「?」の記号が描かれていたのを思い出した

ここは十中八九、間違いなく、あろうことかまさかの悪名高きダークゾーンだった

なにがあるのかわからない、未知の土地だった

 

タチの悪いことにここはどうやら人と人の殺し合いが活発な地域だ

いきなり姿を見られたと思えば撃ってきたのだ

急いで逃げ出しやり過ごしてから考えをまとめていた

 

どうやらここでは金は燃やして使うかケツを拭く程度にしか使えないとみた

使えるのはここを出てからということだ

使えるものはないかとチェストリグを漁り出てきたのはたいしたものはない

一番痛かったのは遮光までしていた双眼鏡が片目しか使えないというところだったが使える分まだマシだろう

早速偵察をするとしよう、高所を取り双眼鏡で窓から露出しすぎないように覗く

見たところ強盗団のような一団がいる

強盗団は強盗団で徒党を組んでいるそうだ

殺しあってくれれば横から入り込んで奪えるものは奪うのだがそうは行かなさそうだ

 

「…ん?」

 

一瞬、陰から何か見えた気がした

注目してみるとどうやら強盗団だけではないようだ

あれはいつかどこかで見たPMCだ

今現在PMCは制服、いえば統一された戦闘服の着用と所属を示すID表示が義務付けられていた

確かあれは西側のPMCだったはずだ、なぜこんなところに?

 

すると何処からか強盗団の集団は銃撃に晒され全滅した

一帯に強盗団の脅威がなくなるとわらわらとPMCが部隊規模で現れ始めた

どうなっている?

ここはまずい、すぐに見つかってしまう

建物を後にして通りに出ると人気はなく視界に入った僅かに空いていた車のガレージに入りシャッターを下ろして鍵を閉めた

 

車のガレージとはいえ車はない

あるのは経年劣化したオイルと工具箱の中に錆びた工具があるだけだ

オイルは貰い、工具もある程度持っていくことにした

スパナ数本とドライバー程度だが役には立つだろう

そのまま家の中を探索させてもらうことにした

 

ガレージから家に入ると意外にも中は埃は被っているが綺麗な状態だった

おそらく避難してからそのままの状態なのだろう

保存食と水も見つかり取り敢えず体に疲れを癒すことにした

どうせ昼に動き回れば強盗団にもPMCにも見つかる

強盗団からすれば余所者、PMCからすれば強盗団の一味

見つかっていいことはない、動くなら活動を休止する夜だ

 

服を脱ぎ捨て、体を出来るだけ清潔にする

そして傷口の確認をしできる処置をしておいたがあとは時間が解決するのを待つしかない

 

クローゼットにあった服一式を拝借し着替えた

長い時間放置されているため清潔とまではいかないだろうが今まで着ていたものより断然マシだ

 

とにかく、今日はもう休もう

久々にまともなベッドで眠ることがこんなにも喜ばしいとは、思いもよらなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

S06砂漠地帯にてとある部隊が小さな洞窟、人一人入るのがやっとと言うほど小さい穴倉を調べていた

中の砂の量やわずかに残った足跡、そして比較的近い時間に使われたであろう注射器が捨ててあった

 

情報ではこの砂漠地帯を最後に何処かへ消えた男の捜索だった

正直言って楽な任務の類ではあった

敵地のど真ん中にあるジャミング装置の破壊やドローンの回収などよりよっぽどマシなものだ

 

「45姉ぇ、何か見つけた?」

 

「…痕跡があるわ。 おそらく数時間以内にはいたわね」

 

手に取った注射器を置き地図を見る

ここは基地と基地の間には特になにもない

橋が建設中のため渡れないため入るにはヘリを使うか抜け道を使うかだった

 

S06とS07地区にはいない

なぜなら捜索する必要がない

でなければ私たちが雇われるなどないからだ

では此処から何処へ向かう? 地図に描かれている真っ黒に染まった場所、ダークゾーンだ

 

「…簡単かと思ったけど、そうでもなさそうね」

 

「むぅ…そんなのいいから、早く行こうよぅ。 此処砂だらけで寝れないよ…」

 

1体の容姿が幼い人形が眠たそうな声で目を擦る

そばにいたアサルトライフルの型をした人形、目元に赤い涙のようなタトゥーがある人形が呆れた声をだす

 

「アンタは、いつもそればっかりね。 寝ても砂に埋めていくからね」

 

「う〜…」

 

二人のやりとりは日常的なものだった

そんな様子を横目に地図をしまった

 

「行こう。 この先にダークゾーン地域があるわ」

 

「ダークゾーン? 45姉、まさか…」

 

「そのまさかよ、ナイン」

 

「はぁ…なに考えてダークゾーンに行ったんだか」

 

「やましいことがあるからじゃない? ほらG11、寝ぼけてないで行くよ」

 

「ん〜…」

 

彼女たちは存在しない部隊、Task Force 404 Not Found

グリフィンの汚れ役を担う特殊部隊

彼女たちはダークゾーンへ向かって出発し始めた

そこでなにが起きているかもわからずに

 

 

 




わ゛ぁ゛ーーーーー!! わ゛ぁ゛ーーーーー!!
404小隊のおなぁ〜りぃ〜!!!

はい


実を言うとAR小隊のある人形も存在していることがどっかに描写してますあります
これではないです


はい


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閑話 捕まった放浪者

(コンプライアンス的に)マズイですよ!!
大丈夫かこれ大丈夫か!?
書いてて思ったんですけど大丈夫ですかこれ!!


if

 

朧げな意識の中、砂の上を引き摺られていた

見えるのは嵐で舞い上がった砂と夜の闇

そして再び意識は途絶えた

 

 

 

 

 

 

目を開けると、見慣れぬ天井が見える

手と足は拘束されている

やられた

完全に捕まってしまった

彼女との戦闘で出血が激しく気を失ってしまったのだろう

 

ガチャガチャと拘束具をいじっていると部屋の扉が開かれる

そこには先程戦っていたノーヴィだけでなく、待ちきれないと言った様子のアバカンも一緒だった

 

「おはよう、セイカー」

 

「…なんのつもりだ?」

 

拘束から抜けられず彼女たちに遭遇してしまった

なにをされるかわからない、賭けでもなんでも今すぐ拘束を解いて逃げるのを試みるしかない

 

「怖がらなくてもいいわ。 私たちは貴方を連れ戻すこともそうだけれど…私たちは貴方を抱きしめて、人間らしい事をしてみたいだけ」

 

「大丈夫ですセイカー…怖い事なんかありません…」

 

「大丈夫よ、ただ…私たちは部隊の関係からもっと近い…そう、私たち家族に近いものになれるから…ね?」

 

先程から何度も大丈夫と言っているが全くと言ってもいいくらい意味不明だ

大丈夫? なにがだ!?

意味がわからない、本当になにをするつもりだ!?

 

身につけている装具を脱ぎ捨て上着などの衣服も床に落とすと体の線が出てくるほど薄い服装になって最後には全て…

人形とはいえ女性そのものだ、そう言うことをしでかすつもりか!?

ベッドの上で暴れて逃げようとするが手足の拘束がそれを許さない

 

「だめ、逃げないで?」

 

「やめろっ、来るな!」

 

もはや話し合いなど通じない

ノーヴィとアバカンがベッドに上がり放浪者の頰を包むように手添えて、口づけをした

長く、長くされていたが離されると惚けた表情で声を上げ始めた

 

「はぁ…はぁっ…ふわぁああぁあぁあぁぁあ!!!!」

 

気でも狂ったように、それは喜びという感情が彼女の電脳を支配し始める

処理しきれなくなった感情は声に、躰に出始めた

抑えきれない喜びは電脳を支配し、躰を震わせる

そしてそれは欲望へと変換される

 

そんな様子を隣で見ていたアバカンが「わ、わたしも…っ」と同じように口づけをする

あろうことか舌まで入れてきたのだ

まるで舌が生きた触手のように蠢き、すべてを吸い取らんばかりに舌から歯茎まで隅々まで彼女の触手のような舌が這う

 

離された口づけはまだ足りないと言わんばかりに銀の橋をかけ、再び繋がれたら

 

今の彼女はまるで獣のようだった

血肉を貪り食う、肉食の獣だ

瞳に光は宿らず狂ったように彼を貪り続ける

彼女はすでに電脳を欲望で支配され今の行為を止められない、止めるつもりがなかったのだ

 

「ずるいわぁ…アバカン… それなら、私はこっち…」

 

快楽の悦から帰ってきたノーヴィが今度はズボンを止めているベルトに手をかけた

やるつもりだ…!

やめろとは声が出せない、抵抗できぬまま、彼女は…

 

や、やめろ…

 

やめろーーーーーっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ!!!」

 

目を覚ますと 、そこには誰もいなかった

さっきまでいた彼女たちは夢の産物、言ってしまえば恐怖が作り出した妄想だった

下手をすれば猟奇的なことをされていたかもしれないが、どちらかといえば幸せな方だったことは救いだった

 

彼としては彼女たちはそういう目では見てこなかったが、どうなのか

なんともいえない、それが彼の答えだった




…ふぅ


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現時勢力調査

目を開けると周りは薄暗く夕闇に照らされている

都市部のせいで月明かりも差し込まず、人工的な明かりに頼るしかない

そうなると発見は免れない、その前に目を慣らしておくためにこの時間に起きた

外の動きはここからだとあまり確認できない、精々時折銃声が聞こえるだけだ

 

そういえばまだこの家も探索しきれていない

非常食と水は入手できたがそれを持ち運ぶ物がない

家を漁ると登山用で前のよりも小さく、色も蛍光色のためあまり使いたくない

しかしこれ以外に使えそうなものはない

多くのものも持って行けそうにない

暫くはどこか拠点を作り体制を整える

出なければあの砂漠は超えられない

 

ふと、クローゼットに南京錠が掛けられているのを見つけた

鍵らしきものは今のところ見ておらず、探すほど呑気ではない

仕方ないと昼間回収したスパナを2本使う

南京錠の錠をかける穴にスパナを突っ込み、梃子の原理を使い南京錠の鍵を壊した

大きな南京錠だったためできなかったかも知れなかったが経年劣化のせいかあっけなく壊れた

 

中からはクロスボウが出てきた

カーボン製の矢もケースで保管されている

埃っぽいが状態は悪くない、十分使える武器だ

矢は折れ曲がったりしなければ再利用できる

もちろん回収できればだが

いざとなれば作れる見込みがあった

 

ここでこれほどのものが手に入るなど、中々運がいいのではないだろうか

しかしクロスボウなど扱ったことのない武器だ

シンプルで必要なもの以外はなにもない

よくわからない部品が出てきたが使い方がわからないためこれは後ほど研究するとしよう

 

スコープを載せるためのレール付いているが今は何もない

ちょうど意味もなく砂漠から持ってきていた銃、壊れたというより壊したAK12に取り付けられているコリメーターサイトを付けることにした

 

試した結果付けることができた、後は調整だけだった

 

AK12ついてだが機関部は生きておりバレルを替えれば使えそうだ

AK74シリーズの銃が出に入れば使えそうな気もする

弾も入手する必要があるが使える方がいい

 

そういえばこの家に石鹸はあるだろうか

バスルームを探して石鹸を探すと、旅行用かアウトドアのために貯めていたのか粉石鹸があった

しかしこれはまだ使わない

使う時が来たら、使う

 

とにかく、物は揃ってきた

武器、食料、水だがまだ足りない

この都市は広い、まだまだこの家のようにろくな調査もされていない民家があるはずだ

菓子類の1つも見逃すことは許されない

短い期間で集めるだけ集めて出発をする

 

今すべきことはこの地区の現状、このダークゾーンはどんな状況なのかを知らなければならない

 

手負いで、ダークゾーン自体初めてな上に情報量がただでさえ多い

ここにまた別の組織でも参入すれば混乱どころではない、その時によるが人間同士紛争まがいのことが始まるに違いない

 

そうなれば生存の見込みも、物資の調達も叶わない

何も知らずに爆死などしたくもない

今は情報が必要だった

 

現状確認できる勢力は強盗団とPMCこれだけでも十分におかしいが鉄血やE.L.I.Dは居ないのだろうか?

グリフィンの出現も考えられないことはない

いつまでもダークゾーンを放っておくはずがない

全て調べる必要があった

 

 

 

 

 

 

あの家から離れて張り込み通りが多そうな場所を選定し張り込みをするがやはり夜のせいか動きはあまりない

寝静まっているなどと馬鹿な話はないだろう

見張り程度はいておかしくない

見たところ人口の光など存在せず、明らかに見つからぬようどの勢力も隠れている

 

今のところE.L.I.Dはいないが鉄血の小隊をガチャガチャ動いているのところを見つけた

これで3勢力、ふと鉄血の小隊が銃撃を始めた

しばらくすると銃撃は収まり鉄血は去っていった

改めて周辺を偵察し何もないことを確認したところで銃撃した小隊を確かめに行く

 

しばらくの距離を移動して先ほどの位置まで来れた

しかし厄介なことが判明した

先ほどの鉄血が銃撃したのは人間、それも昼に見た西側のPMCとは違う組織、東側のPMCのようだった

 

しかもたちが悪いのは軍の息がかかったPMCであることを知っている

つまりはグリフィンと同じ立場の会社であることがIDカードで判明したこれで4つの勢力がこの地域に密集していることがわかった

正直意味がわからない、このダークゾーンに何があるというんだ?

 

死んでいるのは2人でおそらく偵察か何かをしている最中奴らに出くわしてやられたのだろう

軍の息がかかっているだけあってやはり高々個人装備だが高水準のものばかりだ

最新の通信モジュール、ボディアーマー 、暗視装置付きヘルメット、新品に近い銃と一人が持つにしては過剰な装備だ

 

しかしいただけるのなら頂く

持っていたリュックと銃、暗視付きヘルメット、通信モジュールをいただき撤退することにした

これで装備の面は当分大丈夫だろう

帰ってリュックの中を見るのが少し楽しみだ

 

夜道を慎重に移動し、現在拠点にしている家へと向かった

その日は活動を辞めて朝を待つことにした




放浪者おじさんの装備をととのえたぞ!

色々と揃えて行きます
いやぁ、殺意が高い(震え越え

そしてついにUAが10000越えです!
これも皆様のおかげです! これからも誤字指摘や感想もどんどんください!
では、おやすみなさい!


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放浪者のお手製武器整備術

超無理矢理感半端ないです
捏造タグつけてよかった…


どうにも、状況はおかしい

そんなことは昨日から知っている

現状の勢力は西側のPMC、東側のPMC、鉄血、強盗団と勢力がいる

たった今偶然のことだがグリフィンと思える人形たちがいた

少女4人が銃を持って戦場を歩くなどグリフィンの人形部隊ぐらいだ

偵察兼物資回収の帰り際で見つけたのだ

 

これで5勢力、放浪者を含めれば6つの勢力がこの都市に集中していた

どうにもきな臭い、確かにこのダークゾーンは都市部で比較的ダメージは軽く占領できれば再び都市として運営できるだろう

 

問題はここにいる組織が矢鱈と多く、どこも協力関係を築いていない

鉄血と強盗団はそうだがPMC側の3勢力は明らかにおかしい

西側と東側のPMCが戦闘しているところを先程から何度も見ている

グリフィンのPMCに至っては加勢などの姿勢どころか我関せずだ

一体どういうことだ? この地区で一体何が起きている?

 

協力関係を結んで都市奪還というより奪い合いだった

小さいところでは物の奪い合い、大きなところでは地区の奪い合い

人間と人間が殺し合いを始めている

それほどまでにここには何かあるのか?

 

所々で戦闘が繰り広げられる中を避けて通り現在の拠点である住居へ戻った

前日から仮眠こそ取っていたが夜通しで動いていたため眠気がやってくる

寝る前に回収した物資を確認することにした

 

先ほどの銃はカスタマイズされたAK74MNであった

傭兵時代の頃は東側の武器を多用していたが最新の軍用ライフルは使ったことがあまりなかったためオプティックスの光学機器だフラッシュライトやグリップなど楽々つけられる事ができる便利さにはこの上ない喜びを感じる

旧世代のライフルにテープや結束バンドなどで無理くりライトやグリップをつけていたのは懐かしい記憶だ

 

しかし残念なことに夜間で確認せず持ち出したのが悪かったのか機関部が撃ち抜かれていた

これでは元も子もないが幸い他の部品やオプティックスは無事だった

 

光学機器などのオプティックスは贅沢にも西側の高価なものが使われている

現代でもやはり精度のいい光学機器は高価なものだった

やはり大手PMCでは支給などされるのだろうか?

グリフィンの頃はそこそこなものがあったが結局全員自前で揃えていたため金の節約という名目で使っていなかったのは放浪者だけだった

時たま死体から拾うなどもしていたがやはり壊れていたりすることもあった

 

銃だけでも十分な収穫だがまだまだある

暗視装置とヘルメットは置いておこう、これは十分だ

リュックには着替えと銃弾、換えのマガジン水に携行食、銃の手入れ用品、爆薬など役に立つものばかり非常に良い収穫だ

未だ衣料品がないのは痒いところだがこれだけでも御の字だった

 

「すごいぞ、役に立つものしかないぞスパークリー…」

 

思わず口にした同行者だったものの名を呼ぶが元気な声は聞こえず静寂だけが流れるようだ

ふとあたりを見渡すがあの飼い主想いの仔犬はもういない

受け入れたくなかった。 最後のやりとりであんなに呆気なく別れてしまったのだから

喜ばしいことを共有するものが居ないだけで、どうしてこんなにも虚しいのだろう

確認したものを自分の気持ちも一緒に回収したリュックに詰め込んだ

ある物を確認できたためもう満足だった

 

リュックの蓋を閉めて頭を抱えて黙り込んでいたがまだやるべきことがある

銃を治さなければならない

手元にあるAK12とAK74MNを分解し始めた

同じ系列の銃ではあるがやはり違うものがあり機関部などは流用できなかった

 

しかしAK12が破損している部品は銃身とハンドガードだ

銃身を見てみると作りはほぼ同じだ、無論分解し移植する

違和感なく銃身ははまり後はハンドガードの取り付けだった

ハンドガードは上部は多少の破損だが下部の損傷が酷くこのままでは使えない

そこでAK74MNの下部ハンドガードを使おうとしたがはまらない

見ればちょっとした突起物がぶつかりはまらない

 

「…確かあったはずだ」

 

独り言を呟きながら家の中を探すと出てきた、鉄ヤスリである

これを使い気長に作業をすることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

 

突然、隣で一緒に食事を摂っているノーヴィが何かを察知したように顔を開け目を開いた

突然の行動にアバカンとスパークリーが反応した

 

「ノ、ノーヴィ? どうかしましたか?」

 

「…いえ、別に…ただ何故かしら」

 

自身の体を確かめるように触り始めた

 

「体をいじられている気がしたの、そんなことは無いのだけれど。 不思議ね、嫌な気分じゃ無いわ」

 

「はぁ…」

 

「ごめんなさい、早く食べましょう」

 

突然の奇行に近い行動は、なかったかの様に終わってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

「…できたな」

 

見事に突起物を削り取り、AK12に装着できるようになった

所要時間約数時間弱、なかなか手強い相手であった

そもそも装着法も違うため結局お得意のテープで三角に近い形状のフォアグリップとフラッシュライト共々ハンドガード付近に巻きつけるを選択した

オプティックスだがスコープ類の光学機器以外の物はトップレール以外にないためまともな付け方では無いが使えるため良しとしよう

 

少しちぐはぐのような感じもするが、これはこれでいいのかもしれない

あとは撃って試すだけだ

 

長時間の作業を終えて、その日は眠りについた

まだまだ物資は足りない、揃えに揃えてから出撃することにした

 

 




UAが12000行ったった…
ありがとうございます!

ぶっちゃけ、本編のAKは2挺とも私は持っていません
私はARユーザーなのでAKのセレクターだけは許せませんがAK12は許せます

どうでもいいですが光学機器は今欲しいと考えているELCA◯です
かっこいいけど高い…
とりあえず、次くらいからストーリー進めようと思います


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動き出す者たち

正、今にも仕事を辞めたいのと放浪者とスパークリーを再開させたいNobuです
つらい、でもこれだけは頑張ります


「ノーヴィ、アバカン。 動くぞ」

 

あれから1週間の月日が経つ経ち遂に行動の許可が下りた

色々と面倒ごとはあったが漸く動き出せる

 

「世話になったな」

 

「…もうこれっきりにしていただきたいね」

 

S07指揮官とその配下の人形たちに挨拶を済ませ基地を出る

早速任務があるため準備に取り掛かった

アバカンの肩から下げている雑のうからスパークリーが顔を出す

 

「…本当に連れて行くのか?」

 

「当たり前じゃない。 彼に届けないといけないもの」

 

アンジェリカとノーヴィの横ではアバカンがスパークリーの頭を撫でるとスパークリーは目を閉じて大人しく撫でられている

なんだかんだスパークーはアバカンに一番懐いているようだった

 

「もう好きにしてくれ…」

 

「ふふっ、人気者だったわねスパークリー?」

 

スパークリーはS07基地のマスコットのような存在でもあった

懐くまで時間がかかるがそれに見合う癒しを与えてくれるのだ

彼女たちが連れ出す時には文句を垂れる者もいたが飼い主の元に戻りたいというスパークリーの意思を尊重して送り出してもらったのだ

 

スパークリーが頭を引っ込めると頭を撫でていたアバカンは残念そうにして彼女たちと向き合った

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

新しく渡されたAK12を握りしめてマガジンを装填した

アバカンも同じく新しいマガジンを込めて準備をする

 

「…今度はやらかすなよ?」

 

「大丈夫よ、心配しないで?」

 

3人は用意されていた車両に乗り込みS07地区を後にした

 

もし彼に会えたなら、誓って目的を果たそう

そうしたらもう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間が経ってしまった

物資を集めていく中で見つけた地下シェルターが備わった家を拠点にしていたがどうにも長引きそうだ

最初の収穫から一転して細々とした収穫程度にしかならなかった

思いのほか勢力争いが激しすぎる

日に日に戦闘が激化し始め遂にはこちらに被害が出始めてきた

拠点のしていた家を偶然の砲撃か何かで破壊されてしまったときは本当に焦った

 

拾った通信機からは多少なりとも情報を得ようとするが大したものはなく、有益にはならなかった

 

しかし今腑に落ち無いのはグリフィンの人形部隊だった

あの日から見ておらずどこでも見当たらない

遭遇しないことに越したことは無いがどうにもおかしい

そもそもグリフィンの部隊が姿を見せない

1小隊がいれば多くてもあと3〜5小隊いてもおかしくは無いはずだ

確認したのはあの時以外はない

神出鬼没なのか遭遇すれば面倒ごとでは済まなさそうだ

 

現在は物資集めのために空に近いリュックとクロスボウを片手に地区を散策していた

このクロスボウは非常に優秀で素人の放浪者でも50m以内なら狙って当てることができる

最大射程は試していないがこれなら100mは飛ばせるだろう

何よりこの武器の素晴らしいところは離れればほぼ無音で仕留められる

その上矢も回収して再利用できるため節約にはもってこいの武器だった

意外にも人だけでなく人形にも通じるため相手を選ばないのは大変優秀である

 

しかしいいことがあれば悪いこともある

やはり正面からの撃ち合いでは火力と連射が効かない

隠密には持ってこいだが直接的に戦闘をすると相手の武装、特に銃には歯が立たない

仕方のないことだが其処だけは痛い一面だった

 

チラリと建物の陰から顔を半分出して角を伺い何もないことを確認して素早く通りを移動した

道行く道には死体か鉄血の残骸が散乱している

とにかく、早くここを出る算段を立て脱出しなければならない

最近の収穫は大半がどちらかのPMCの死体からバッグなどを剥ぎ取るなどが主だった

 

どの陣営もこちらを見かけたら殺しにやってくる

理由はシンプルでもあればわからないところがある

こちらもシンプルな答えで敵対するなら殺してでも生き残るという考えであった

 

転がっている死体からバッグを剥ぎ取りの場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それっぽいの見つけた」

 

眠そうな声で外のオーバーウォッチをしていた人形、G11が言う

一瞬その言葉を疑い相方の416がスポッティングスコープで確認したが、確かにいた

1週間手がかりという手がかりもなく追いかけていたが漸く掴んだ

 

「…6番街通りの端。 死体を漁っているわ」

 

『了解、急行するわ。 2人はそのまま監視してて』

 

416が通信モジュールで隊長であるUMP45に伝える

寝そうな相方を叩きながら監視を続ける

 

彼女たち404小隊はある男の捕縛を命じられていた

特徴は帽子と死んだ瞳、特徴が曖昧過ぎで探すのは無理だろうと考えたがご丁寧に写真付きの書類を送り込んできた

どうやら社員らしく、ある任務から帰還せず放浪をしているそうだ

 

たかが社員をわざわざ捕縛するには理由があるのだろう

しかし彼女たちからすれば仕事の足しになればそれでいい、金払いは良い、仕事をこなすだけだ

 

「45。 奴が通りから離れたわ。 4番街の方に向かってるわ」

 

『了解。 ポイントチャーリーで合流しましょう』

 

「了解…ほら寝坊助! 行くわよ!」

 

「うぅ〜ん…」

 

のそのそと立ち上がり416に連れられるように移動を始めた

 

『416、G11聞こえる? 鉄血の小隊が近くにいるから気をつけて!』

 

UMP45の妹、UMP9こと通称ナインからの注意喚起だ

ここ周辺には装甲部隊もちらほら見える

現状の武装では対処は難しいため避けて通っている

 

「わかったわ。 数分後ポイントチャーリーで」

 

通信を切り合流地点へと向かった

遂に標的が姿を見せた、逃すわけにはいかない

2対の人形は通りの出て駆け出した




404と放浪者があったらどうなるんですかねぇ?(すっとぼけ)


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隙あらば

お待たせしました、最新話でございます

ヤダァ…お仕事ヤダァ…

なんだかんだで30回目です
感想やUA、誤字指摘をしてくださる皆様には感謝以外の言葉が見つかりません…

これからも放浪者を見守ってあげてください…


荷物を回収して一度陰に隠れて中を確認した

やはり弾と食料に水などのものでありこの辺りはもうある程度揃っているのだ

あまり多すぎても持ち運べないため消費していく生活だった

正直、刺された肩などまだ痛みがあったが5日休んで大分マシにはなったもののやはり怪我は怪我で痛いものは痛かった

 

しかし困ったことにこの地域で暮らしている形で滞在している

地下シェルターに蓄えた武器弾薬、生活用品は一人が持つには多すぎる量になってしまったのだ

ダークゾーンである以上いつでも油断は禁物だ、心せねばならない

粗方確認して拠点に戻ろう

物資を集めては拠点に戻るを繰り返している

今日は陽も落ちてきたため撤収し明日に備えるとしよう

 

 

 

 

 

「目標捕捉」

 

『了解。 追跡して機を伺うわ』

 

二手に分かれて追跡を行う

UMP45と416、UMP9とG11の組み合わせで目標に接近し続ける

今のところ標的には気づかれていないが奴も慎重に動いている

只者ではない、資料にあった通りグリフィンの特殊部隊の実力は人間でも侮れないということだろうか

 

武装は見たところクロスボウを装備している

正面から撃ち合えば勝てるが殺すことではなく捕縛が任務だ

多少荒っぽくても生きていればいい、それが与えられた仕事だった

 

現段階では接近しても気づかれるだろう

ゆっくり、ゆっくりじわじわと接近して捉える算段だ

標的が建物に入ってから捉えて離脱する

一体何をして私たちみたいなのに追われるのか知らないけど、お気の毒にとだけ思っておくわ

 

『標的、建物に侵入』

 

「了解、合流して416とナインは交代して。そのあとは416とG11で監視して私とナインで捕まえるわ」

 

現在一緒にいた416に指示を出しG11の元へ向かうように指示をした

しばらくすると妹機のナインがやってきた

 

「お待たせ、45姉」

 

「うん。いきましょうナイン」

 

ナインと共に中へ侵入し標的を追いかけた

 

 

 

 

 

 

 

小休止に近くに廃墟に入り体を休めることにする

クロスボウの矢も少しづつ減りつつあるのが現状でありそろそろ治したAK12の使用も視野に入れてくることになった

クロスボウの矢を再利用出来る時はしていたがどうやら上手くはいかない

取りに行くまでがやはり危険すぎるのだ

故に回収できなかったり、折れていることもあれば回収した矢が歪んでいるなどもあった

良いことづくめかと思えばそうでもなかった

 

現状、サイドアームの拳銃が厄介なのである

9mmや45ACPのように流通生産が非常にポピュラーな弾薬ではなく、流通で言えば微妙な弾なのだ

当然店に行けば買えるレベルなのだが実際の戦闘で使っているのはどうやら放浪者だけのようだ

前回の戦闘以降、偶然強盗団の1人が数発持っていたが全然足りない

予備弾倉にも満足に入っていない分しかないので心もとなかった

予備の拳銃もあるがどうしてもこの拳銃を壊れるまで使いたかった

部屋の一角に入り休息を取ろうと椅子に座り回収したバッグから水を取り出そうとチャックを開けた

 

部屋に何かが転がってきた

察した時には既に遅かったのだ

視覚を潰す強い閃光が瞼を閉じていても瞳に突き刺さり爆音が鼓膜を刺激し周りの音を聞こえなくする

やられた、不意にスタングレネードを食らってしまい方向感覚を失い見当識の失調を発生させてしまう

 

フラッシュバンは訓練され、短くとも回復に約4秒の時間を有するがそれだけあれば1人や2人倒すなど容易だ

それもまともに食らってしまい4秒以上もがいていると体を拘束される感覚が訪れた

 

拘束され大人しくしていると視界と聴覚をも回復してゆくと2体の似た容姿をした少女がいた

見覚えはある、前回見たグリフィンと思しき部隊の人形だった

 

「おはよう。 気分はどうかしら?」

 

「…良いように見えるか」

 

「そうね。 まぁ、どうでもいいけど」

 

後ろ手で手錠をかけられるとクロスボウとリュックを剥ぎ取られ、隠していた拳銃も同じように回収され無造作に捨てられた

完全に不意を討たれしまったがここで諦める意味はない

わざわざ殺さず捕まえにきたのだ、何かある

 

「それにしても少し期待外れね。 ちょっとは手こずると思ったけど、そんなことなかったわね」

 

「…私が誰だかわかっているのか」

 

「知ってるわ、でも興味ないわ。グリフィンに引き渡せば終わりだし」

 

なるほどな、カマをかけたとは言い難いが粗方見当がついた

見紛うことなく彼女たちこそ私を狙ってきた刺客だ

やはりグリフィンは狙ってくていたのだ

 

「さて、無駄話するつもりはないし。 付いてきてもらうわよ」

 

もう片方の人形が放浪者を立たせようとした時だった

突如彼を突き倒し銃を入り口に向けた

 

「45姉!」

 

連射で撃ち込むと入り口にいた何かが力なく倒れた

薄汚れたみすぼらしい格好で銃を持っていた

どうやらこの建物の中にいた強盗団の一味でどうやら1人ではない

 

「殺せ殺せ!」

 

「奪えるもん奪っちまえ!」

 

部屋の外から銃だけ出して撃ってくる

2体の戦術人形はそれに応戦し始めた

 

「416、G11、面倒ごとになったわ。 虫けらどもを狙える?」

 

『外からも来るわ。 そっちを片付けるからG11にさせるわ』

 

連携といい動きといい、通常の戦術人形ではない

特殊部隊を彷彿とさせる動きであり人形ならではの動きがあった

 

 

 

強盗団の数が予想以上に多い

外からくる増援は416とG11が排除し、あとはこの階の残党を蹴散らすだけだ

ナインと2人で連携して廊下に出て敵を排除していく

やはり人間相手では歯ごたえがない

戦闘訓練などされていない強盗団は呆気なく死んでいた

来た道を戻ろうと確保した男を連れて行こうとした

 

「…え?」

 

思わず間抜けな声が出てしまった

男は忽然と消えていた

 

 

 

 




流血事案は避けました(白目

ヤンデレーズ「…(無言の圧力)」

アンジェリカ「な、なんだ?」

ヤンデレーズ「…メスブタ」

アンジェリカ「えぇ…(困惑)」


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追うもの、追われるもの

もっと大混乱が起きるような状況が欲しい…

今回ちょいとグロいとこあります
痛い


目の前で戦闘が始まった

隙を見て地肌の腰に絆創膏で仕込んだ切れ味が鋭い糸鋸を取り出し両腕を繋ぐ手錠の鎖小型でアルミでできたものであったためすぐに切ることができた

すぐに戦闘が終わる前に急いで出なければならない

拳銃だけ回収し窓から飛び出て拠点へ向かって全速力で走り出した

 

 

 

 

 

 

標的が居なくなったことに焦ったが呑気にしている場合ではない

急いで狙撃組に連絡を入れた

 

「416! G11! 標的が逃げたわ、追いかけて!」

 

『捕捉したわ、北に向かってるわ。抜かったわね45』

 

416の嫌味とも取れる連絡を切り残党の排除に回った

完全に慢心していた、捕まえて拘束したところでもっと身体チェックをするべきだった

袖口のナイフを見つけることはできたがどうやらまだまだ隠し持っていたらしい

失態という言葉以外に表現が見つからないがそれは後だ

今は奴を追いかけなければならない

 

「ムーブ!」

 

「カバー!」

 

ナインと連携をして援護射撃と移動を繰り返す

弾幕に身を晒したくないのは人間の性だ

当然わざわざ出てくるものはいない

逃げたであろう窓から出て追いかけ窓から外へ出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を切らしながら全力で走り抜ける

追っては今のところはいないがすぐに追いつくに違いない

拠点に向かい武装を整え今すぐ離れる必要があった

持ち運べない物資は仕方がないが置いていくことにした

またお尋ね者になってしまったが今回は洒落にならない

飛翔音と着弾、すぐ近くに弾が着弾した

まずい、もう来たのか?

後ろを見るが姿は見えない、狙撃を受けていた

義体の性能によるがスコープなしでもある程度こちらを確認できるのだろう

狙撃を少しでも困難にするために時折急ブレーキをかけたり方向変換を始める

 

そしてついに、大腿部に衝撃が走った

撃たれてしまい激しく転倒してしまうと傷口から出血し熱を帯び始めるが痛む足に鞭を打ち立ち上がり逃げる

 

「くそっ!」

 

悪態をつきながら角を曲がりとにかく逃げた

捕まれば間違いなく無事では済まない、なんとしてでも生き残らねばならない

 

 

 

 

 

 

 

 

「G11、直線上に見えたわ。 狙撃しなさい!」

 

「もぅ〜、めんどくさい〜!」

 

文句を垂れながらG11が構えて約1km程離れた標的を狙う

1発の銃声が響くが彼女が「あっ! 避けた!」と始まりそこから数発撃ち込み始めた

 

「早く当てなさい! 逃すわけにはいかない!」

 

「わかってるよぅ、集中させて」

 

息を吐き、スコープの向こうに映る標的を撃った

今度こそ命中させ動きを鈍らせることができた

相変わらずやる気がないがここぞという時には役に立つ

約1.5kmの長射程の狙撃をピンポイントでこなせる彼女だからこそ任せることができた

 

「よくやったわ寝坊助。 捕まえるわよ!」

 

「えぇ…やだよぅ…」

 

416に引っ張られながらも追いかけ始めた

恐らくもうすぐにでも45とナインにも合流できる

そうなれば奴も年貢の納め時だ、あなたの運もそこまでよ

 

 

 

 

 

 

 

 

曲がり角を曲がった先の裏路地に入りかつてはファーストフード店だったであろう建物に入る

カウンターに身を隠し急いで戦利品で入手した止血帯を使い包帯を巻く

痛みに耐えかね声を上げて叫びたかったが見つかるわけにはいかない

歯を砕かないように被っている帽子を噛む

想像を絶っする痛みが大腿部を襲う、幸い骨には当たっていなかったが弾が大腿部に残っている

傷口から弾が見事に止まっているのが見える

 

注射器を取り出し、身体に打ち込み薬剤を身体に巡らせると痛みが消えてゆく

進歩した医療技術は痛みを殺すことに成功していた

しかし副作用でそのほかの感覚が鈍くなり、下手をすれば中毒症状を起こしてしまう非常に有効だが危険な薬品だった

 

チェストリグからペンを出し、痛む傷口へ近づけた

一瞬嫌悪感からか傷口から離したがすぐに近づけた、傷口へ入れた

叫んではいけない、薬剤のおかげで痛みは激しく痛い程度で済んでいる

叫びを上げれば声帯が痛むほど、どんなに離れても聞こえる苦痛の音を響かせるほどのものを必死に耐え、気を絶ってしまいそうな中ついに終えた

表情を歪ませほじくり出すようにペンを入れ、弾を取り出すことに成功した

 

荒い息を吐いては吸いながら震える手で傷口に包帯を巻いた

薬剤には止血作用もあるがそれにはしばらくかかる

傷口の保護のためにも包帯を巻きつけて処置を終えた

 

痛みに耐えかね休んで行きたいがそうはいかない

早くしなければ奴らが来る、その前に武装を充実させて応戦できるようにしなければならない

ふと外を除くと今度は鉄血の部隊だ、しかもハイエンドモデルもいる

ブレードと拳銃だけという装備で相当対人戦に特化した個体なのだろう

 

息を殺してやり過ごしていると少し離れたところで戦闘が始まった

恐らく追っ手がハイエンドモデルの連中とやりあっているのだろう

様子を伺いながら、その場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「45! ハイエンドが来たわ! 一旦引くわ!」

 

『…了解。 ポイントブラボーで合流よ』

 

追っていた先にまさかのハイエンドモデルである

相手は小隊を引き連れたエクスキューショナーだ、おそらく近くにハンターも居る可能性がある以上個体でも厄介なため戦闘は避けたかった

 

「逃げるわよ!」

 

「うえぇ…もうやだぁ…」

 

泣き言を発しながら逃げるG11を連れて逃げる

これで標的を完全にロストしてしまった

仕切り直しというには少し違う、再挑戦という形で一度標的は置いておくことにした

 

後ろから追いかけてくる追っ手に応戦しながら逃げる

道中さらに偵察で見た西側のPMCが騒ぎを聞きつけてやってきたため事態は混乱に陥ろうとしていた

この様子なら東側のPMCも来るだろう

激化する前に退散し態勢を整えることにした




薬が無ければ死んでいました(白目
もうすぐ長期休暇でやりたい放題できるのでしばらく投稿はバラバラになります
多分今週辛いかも…


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調査開始

仕事の空き時間を使い執筆するもの、Nobuです
放浪者おじさんボロボロになりすぎですがもっとボロボロになっていただきます
それではどうぞ


痛みよりも妙な感覚を大腿部に感じながら走り抜ける

道中で敵と遭遇しなかったのは幸運に恵まれたが連中の追跡は終わっていない筈だ

辛くも到着し拠点である民家の地下シェルターへと入り内側からロックをして中で装備を整えるに入り装備を整える

 

治したAK12、予備の拳銃、軽量型のプレートキャリア、緊急時にすぐに逃げ出すため作っておいた3日間生活できる内容物が入ったリュック、リュックに括りつけたヘルメット

できるだけ持っていける物は持っていく

せっかく集めてきた大量の物資は置いておくほかない

しばらくはダークゾーンを逃げ回りS06を目指す

 

ここにはもはや居られない、何が目的の戦闘をしているかわからない地域にグリフィンも鉄血もうろつき2勢力のPMCもいるため事態は深刻すぎる

何も知らずに殺されてもおかしくない上に明確に放浪者を狙ってくる厄介者までもいる

逃げる他なかった

 

しかし突如意識が朦朧とし始めた

薬品の服作用の一つで限界を迎えた体を休ませるために強い眠気のようなものが現れるのだ

放浪者は深い深い眠りの中へと堕ちていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかきっと見えるもの

それは人生を一度諦めチャンスを与えられた時に見出すと決めていた

 

「さて、お前を採用するにあたって俺はお前をなんと呼べばいい?」

 

前を歩く男が歩いたまま煙草に火をつけて聞いてきた

この男たちは先程収監されていた自分をどうやったか釈放さで、あまつさえ自分たちの仲間に引き入れるような様子だった

 

「…好きに呼べばいい、どうでもいいことだ」

 

「なるほどな、何か得意なことは?」

 

「…薬品の調合と爆発物の制作程度なら」

 

考え込むように一度間を置き肺いっぱいに紫煙を吸い込み吐き出した

吐き出された紫煙は天に昇るように消えてゆく

 

「よしわかった。 これからお前の配置する部隊の説明をする」

 

男は代わりに部隊員の自己紹介をするように話し始めた

聞けば、彼のような犯罪者や問題の多い人物、訳ありの人物が集まった集団らしい

軍事訓練を受けさせられこれから務めるグリフィンと呼ばれる会社へと出向くらしい

 

「お前には期待しているぞ、シェイカー」

 

「シェイカー?」

 

思わず聞き直した言葉を鼻で笑いながら煙草を捨てた

調理器具の一種の名をまさか自分の名にするつもりだろうか

 

「お前の呼び名だ。 混ぜ物が得意、これでいいだろ?」

 

もう好きにしろとそれ以上は何も言わなかった

監獄を出ると待っていたのはロゴマークの入った軍用車両、おそらくあれがグリフィンのマークなのだろう

 

「おっ、ラーデルが戻ってきたぞ」

 

「ラディ、そいつが新入りかい?」

 

「よしお前ら、こいつは新入りの工兵担当のシェイカーだ。 仲良くしてやれ」

 

「シェイカー? …相変わらずネーミングセンスねぇな」

 

「アンタも大概だけどねぇ?」

 

「やかましいわ。 こいつが名前を名乗らないから…」

 

なんだか騒がしい連中だった

車に乗り窓の外を眺める

もう2度と見れないと思っていた景色が瞳に映り脳裏に焼き付ける

喜ばしいことなのだろうが、何故だか虚しかった

考えてしまえば人生を諦めたのはもっと早かったのかもしれない

親が死に悪事に手を染めて、自分はもうすでに自分ではなくなっていたのかもしれなかった

 

「…い、おいセイカー、聞いてるのか?」

 

ふと声をかけてきたエヴァンという男が声をかけてきていた

正直話を聞いていなかったので先程と自分の名前が変わっていることを指摘してみる

 

「なんだ、やっぱり聞いてなかったじゃないか」

 

「アンタ、そのままシェイカーなんて名乗るの嫌だろ? アタシたちが精一杯考えたまともな名前だ、感謝しな」

 

大した変化はないのではないだろうか

今からでも取り戻せるのだろうか

自分の望むことなどよくわからない、だがいつか見えるのだろうか

少しだけ彼らに付き合ってみようではないか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノーヴィ、アバカン。 やることはわかっているな?」

 

S07地区を出て数時間が経った今現在はS06地区の間にある地点の調査だった

ダークゾーンで起きていることを調べるという任務だ

大概、良からぬことしか起きていないがいつもの通りだろう

もしかすれば、彼がいるかもしかもしれない

可能性はあるが会えるかはわからない

でも、もし会えたのならそれこそ幸運というものだろう

 

ダークゾーンに足を踏み入れる前から銃声や爆発音が遠くから響く

言ってしまえばありふれている戦場の場だった

強盗団や鉄血人形が襲ってきては返り討ちにする、そんな作業の繰り返しだ

正直それでは調査の効率が悪すぎる

 

そこでノーヴィに備わっている能力であるハッキングを使い手近な鉄血人形のスカウトをハッキングし視界をリンクさせ上空から偵察を行うことにした

 

PMCとPMCが戦闘を行なっている様子や鉄血と強盗団など、どの勢力も協力関係にないため今度は戦闘目的を知る必要があった

鉄血や強盗団は言わずもがな、しかし今のところ2社のPMCは調べる必要があった

 

「…ん?」

 

怪訝な声を出したノーヴィが見たものはグリフィン寄りの容姿を持った人形だったがすぐに正体はわかった

映像カメラに映った瞬間スカウトは地に落とされ、最後には真っ暗な背景にオフラインの表示が出てきた

 

「404小隊…厄介ね」

 

彼女達は非正規任務に従事することもあるためその存在を認識していた

こちらの存在が見つかればこれまた面倒な目にあう

なんの目的でここにいるかは知らないが警戒することに越したことはないだろう

 

「404か…ノーヴィ、通信モジュールをハックして情報を集めろ」

 

「了解」

 

「さぁ、楽しいお仕事の時間だ」

 

銃のボルトを引き薬室に弾が入っているかを確認し気を引き締めた

アンジェリカとしては、正直に言ってしまえば見当はついていた

あとは確信に迫る情報を手にするだけだった




滅茶苦茶書きたいシーンがあるんですけどね、繋げるの難しいんですよ
とまぁ、ネタはまだまだありますのでご安心を…
番外編とか書きたいのですがある程度進んでから書くか迷っております
どうすればいいんですかねぇ…?


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人の欲望

放浪者「…(zzz)」


あれから2日が経ったが標的がどこに隠れたのか判らず彷徨うように手掛かりを探していた

回収した荷物を漁るが大したものは見当たらず、食料などの物資はあったため頂戴した

定時連絡のためヘリアントスと連絡を取り捜査は難航している節を伝え通信を切った

 

送られてきた資料に記載されていた通りやはり只者ではなかった

人間と侮り嘗めてかかり弾薬と時間のロスという痛手を負ってしまった

非常に面倒くさいこと極まりない面倒な相手だった

 

グリフィン&クルーガー創設時に設立された部隊、「グリフィン403前線巡察部隊」とあるがこれは書類上だ

追加の経歴には本当の姿、403 Forbidden Group、「見てはならない小隊だったもの」についての記述だった

 

403小隊の活動は私たち404小隊とあまり変わらない部隊であり違いといえば人形か人間の違いだった

言ってしまえば404は403の後釜で彼らの代わりといったところだ

 

構成人物は犯罪者や訳あり、部隊での問題児など鼻つまみ者の寄せ集めの部隊であったことが発端だった

当初は「目を合わせるな」という意味でつけられ創設メンバーは4人、標的の男もそのうちだ

次第に活動は暗闇寄りになり「見てはならない」という豹変を遂げた

 

隊長であった男が特殊部隊崩れであり彼が部隊を強くし、生き残らせてきた

部下も尖りながらも優秀な人材ばかりで数々の任務を遂行し瞬く間にグリフィンの暗部を支える部隊になっていた

 

しかしとある任務を機に部隊は壊滅し解散

残った2人は軍部の人形の訓練を請け負いあの男は消え今に至るのだ

 

セイカーと呼ばれている標的の男は能力的には高水準で数々の機転を利かせて部隊の安定化に貢献してきた人物だ

貧乏性でとにかく最初に支給された銃や衣服など使えなくなるまで使うほどの倹約家であった

その併発か武器なども投石機から爆弾まで作って使いこなす奇人だった

 

特徴はいつも被っているブーニーハットとその鍔から見える死んだ瞳

特徴がそれだけとは探し甲斐があると思っていたが一目見たときに確信することができるほど強烈な人物だった

あっさり捕まえたと思えば逃げ出し追跡も撒いてしまう、やはりグリフィンの特殊部隊崩れであることに違いはない

 

何をやらかしたかは知らないが会社の秘密を握っている人物ということで捕まえるためだろう

殺さないのが解せないが、仕事は仕事だ

 

しかし次にあったら2、3発胴体か何処かに45ACP弾をぶち込んでやりたかった

どうせその程度では死なないのだろう

追い詰めて絶対に捕まえてやる

 

 

 

 

 

 

 

調査を続けていく中、鉄血のスカウトをハッキングし周辺を偵察している時だった

電話信号を確認した

無線などの周辺に周波数を発信するものではない、衛星電話などの類の通話だった

 

残念ながら通話は直ぐに切れてしまい内容は聞けず仕舞いだった

こうなれば直に聞き出すことにした

 

拠点となっていた建物には警備もいる

入るのには少し骨が折れそうな場所だった

 

「さて、どうしたものか…」

 

アンジェリカが遠く離れた目的地を観察していると傍にいたノーヴィが声をあげた

 

「私にいい考えがあるわ」

 

「…聞きたくないが言ってみてくれ」

 

「ノーヴィ、まさか…!」

 

「あまり気乗りはしないけどね…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鼻を刺激する臭いが彼女たちの表情を強張らせる

現在は地下の下水道から建物に向かって移動している

こういうやり方はセイカーの得意分野だったためすぐに思いついた

遺憾せん臭いが気になりすぎるが

 

「クソっ…恨むぞセイカー…こんな風に育てて…!」

 

アンジェリカは過去にあったことを思い出しまさか再び下水道を通るとは思ってもいなかった

アバカンもフェイスガード越しにあからさまに嫌な顔をしている

 

ブーツを汚水に浸しながら漸くたどり着いた

ちょうどこの真上に連中の巣がある

マンホールをこじ開けると駐車場のような場所に出ることができた

車両は停まっているが人はいない、チャンスだった

 

非常階段から上がると駄弁りながらPMC社員は作業をしていた

弾薬を台車を使って運んでいた

 

「仕留めますか?」

 

「…あぁ、やれ」

 

2体の戦術人形は音もなく近寄り細い腕を使い社員を静かに締め落とす

動かなくなったところで解放した

 

廊下を道なりに進み司令室とみられる部屋声が聞こえる

中を覗くと男が衛星電話を使い通話をしていた

指示を受けているのか「はい」などの返事ぐらいしかしていない

通話を切り机に座ると何かをし始める

後ろから近づきノーヴィが接近した時だった

 

「…?」

 

男が怪訝な顔をし振り向いてしまい目が合ったのだ

少し距離があったが戦術人形の義体の能力を駆使して接近して騒がれる前に抑え込めたが大きな音を出してしまった

 

「騒がないで。 私たちが聞きたいことに答えて。 でないとこのナイフが刺さるのを堪えることになるわよ」

 

ナイフを男の胸にあてがい先端を服を貫通させ地肌に少し刺していた

まだ大したことではないが進むにつれていずれ死に至るだろう

 

「ここで何をしているの? あなたの組織は何が目的?」

 

「し、知るかっ。 俺はただ指示受けをしているだけだっ」

 

「…」

 

無言でナイフをじわりじわりと刺していく

服に血が滲み、痛みが走る

しかし騒げばもっと刺さってしまい絶命は免れない

 

「目的も判らずやってるわけではないでしょう? 早くしなさい?」

 

「わ、わかったっ、話すっ」

 

話を聞きながらナイフを進めた結果は彼ら西側PMCはこの地区のパイプラインの争奪戦をしていたのだ

そのためこの都市を占拠し建設運営の実権を握るつもりで武力行使に出たところ同じ目的で来た東側のPMC、鉄血、強盗団と鉢合わせしてしまったのだ

利益のために、この地区は無意味に人を殺し、人格を変え、崩壊していった

他ならぬ人の手によって

 

どんな時でも人間は欲望のためならどのような手段でも利益を欲するのだ

人間は悪意を以て自らと組織を立て、他種族にも同種族にも悪意を持って振る舞い繁栄してきた

そして、その後は身内に悪意を向けながら更なる進化を遂げる

人間は究極的に悪意を持った生き物であり悪意が人間を発展させ世界が崩壊しても今も生き延びている

 

お笑いではないだろうか、彼がいつも絶望しているような表情をしているのがわかる

この世界で起きている全ての出来事は全て人間のせいで起きているではないか

人間が全てを追いやり、自らを追い込んだ

馬鹿馬鹿しいことだ

 

「なるほどな。 もういい、十分だ」

 

アンジェリカがそう言うとノーヴィは男を解放した

その直後、隠して持っていた拳銃を取り出して向けてきたではないか

当然、警戒していたアバカンがバースト射撃を行い2発の弾丸が脳幹を撃ち抜き絶命させた

 

辺りが騒がしくなる

銃声を聞きつけ追いかけてくるだろう

ここは敵の総本山、どれだけいるのか見当もつかないがやるしかないだろう

 

「行きましょう。先頭は私が」

 

「ノーヴィ、ハッキングして奴らの電子モジュールを壊せ」

 

「了解」

 

各々のやるべきことは決まっている

あとはいつも通りだ

扉を開き、外へ出た

 

「レーダースキャン、スタート」

 

無機質な声が、わずかに木霊した

 




はい、私です
今週は土曜に予定があり日曜は仕事です
つらい…しかし来週は落ち着いて来てからお休みを貰えるのでそこでかけるだけ描きますのでよろしくお願いします
それでは皆様、今後とも放浪者を見守ってあげてください


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目覚め

どれだけの間眠っていたか、どうでもいいことだ


「まずいことになった、囲まれたぞ…!」

 

鉄血人形の襲撃により取り残されたI.O.P者の重役技術者の救出という任務も全う出来ず終いには敵に囲まれるという状況に陥ってしまった

幸いなことに技術者の残した記録媒体は無事でありこれさえ持ち帰れば御の字にはなるだろう

 

地上では少数の正規軍とグリフィンの混成部隊が確保していたはずだがどうやら押されつつあり壊滅状態にある連絡を最後に通信は途絶えた

 

「救難信号を出す。迎えを待つぞ」

 

「アンジェリカ。 屋上への道は潰されて登れないわ、帰るなら地上からよ」

 

「あれば地下という手もありますが、期待はできないでしょう…」

 

武器を確認しつつ脱出路の確保を考えるが良い手立てがない

地上までファストロープで降りる手段も考案されたが長さもそれほどでもなく、下に降りるまでの戦闘や移動手段なども含め敵に遭遇した時は危険すぎるのだ

 

「…考えがある」

 

「…セイカー?」

 

彼が出した脱出方法、無茶だとしか言えないがもはやそれしかないほど小隊は追い詰められていたのだ

1面ガラス張りのフロアから跳びヘリに乗り込む

どう考えても成功する確率は低く、無茶な作戦で合理的でも理にかなっているわけでもない

最初こそ他に手があるか考えたが、次第に全員が乗るという形で本部に通信を入れて行動を開始した

 

ガラス張りのフロアがあったのは3階層下だった、地上部隊の通信が途絶えてしばらく経っているためもうそろそろこの階層近くまで来てもおかしくはない

戦闘を考慮して下の階層へ向かった

 

「敵だ、正面」

 

ポイントマンのセイカーが正面方向からくる敵を察知し無機質な声で呼びかけ全員が散開し身を隠す

 

「ゴリアテ」

 

鉄血の自爆型の存在を知らせるとすぐにいつも使っている消音器付きの狙撃銃、VSSを使い数発射撃するとくぐもった銃声を鳴らし向かって来た機械型の鉄血兵器、黒色のゴリアテに命中し動きを止めた

 

ゴリアテが爆発しそれに誘発された他のゴリアテも爆散しこのフロアに尋常じゃない余波が来るが全員無事のようだった

爆発による粉塵の中から鉄血の銃撃が来るがまるで狙いがなっていない

スモークグレネードなどを使うと視覚装置に異常を起こし狙いがおかしくなるのだ

個体によってはそれを克服している物もいる、例えばノーヴィだ

 

「レーダースキャン、スタート」

 

深度演算が行える個体のノーヴィならばスモーク程度の妨害は意味を成さない

正確な位置を特定しアバカンにハッキングの応用を行い位置情報を同期する

位置情報を受け取ったアバカンは敵は見えないが示された位置に2バースト射撃を行い毎分1,800発というレートで撃ち込み確実に仕留める

セイカーとアンジェリカはマズルフラッシュを頼りに仕留めていき瞬く間に敵は全滅した

 

「進め」

 

アンジェリカの号令でアバカンとノーヴィが進み始めると柱からナイフで攻撃してくるブルート3体に接近され2体は処理できたが残りの1体はノーヴィーに向かって行く

しかしその刃がノーヴィを切り裂くことはない、後衛で待機していたセイカーが狙撃し事なきを得たのだ

「ありがとう」の意味を込めたハンドサインを後ろ手で送り前進を始めた

 

 

 

 

 

 

1面ガラス張りの階層へ降り後はヘリを待つだけだった

ヘリパイロットからの無線であと数分で着くときことだった

特に厄介ごともなく順調そのものだったがやはり敵はやってきた

 

「…スケアクロウだ」

 

鉄血のハイエンドモデル、スケアクロウを確認したのだ

配下を引き連れ確実にこちらの殲滅を狙っている

 

「まずい、脱出ルートの障害よ」

 

「フロアを回って迂回する。数を減らして足止めしろ」

 

アンジェリカの指示に全員が行動にかかる

セイカーとアバカンが制圧射撃を行いアンジェリカとノーヴィが移動を終え交代で先に制圧射撃をしていた2人を援護し始める

フロアを回りながら配下の鉄血兵を倒して行くが数が減らない、増援が絶えないのだ

 

「おそらく反対側、下の階から来ている」

 

「そろそろ弾も切れそうよ。 アバカン、余裕はあるかしら?」

 

「私ももう残弾が少ないです」

 

「…よし、ノーヴィ。ハッキングして奴らを操れ。 セイカーとアバカンで増援のルートを切れ。ノーヴィ、アバカンに弾を」

 

ノーヴィがアバカンに「大事に使ってね」と弾倉を渡しそれを受け取った

 

セイカーと目が合い、と言ってもノーヴィは目を閉じていたが視線は重なった

彼は小さく頷くとそれを返すように笑顔になった

 

「…相変わらず、お前たち3人は息があっているな」

 

「そんなことないわ。 アンジェリカも含めて4人よ」

 

「はははっ 、それは嬉しいな。 でも最近はあいつに構ってばかりじゃないか」

 

「だって嬉しいもの、彼に褒められるのは」

 

「ふっ、なら今回は帰ったら褒美でももらえ」

 

2人が出発しノーヴィが深度演算、敵のハッキングをするために目を開く

彼女の紅い瞳に捉えられた鉄血兵が操られ味方を攻撃して行く

鉄血にも味方識別装置があるのか一方的に倒されて行くが弱い個体だったためスケアクロウに仕留められてしまった

もう一度、同じように2体3体と繰り返し数を減らし時間を稼いでいた

途中防御性能の高いガードや装甲持ちのアイギスなども操作していると敵の数は明らかに減って来ていた

どうやら増援の切断には成功したようだった

ノーヴィのレーダースキャンに2つの味方反応が出て来た

2人が戻って来たのだ

 

「味方だ! 誤射に注意!」

 

アバカンの注意喚起が聞きこえ2人が戻って来た

 

「よくやった。 どうやって増援を絶った?」

 

「カードリーダーをナイフでぶち壊した」

 

「…本当にあなたはやり方が荒すぎです。…たしかにあなたらしいですが」

 

今現在もこの建物には電気が通っている

くる時はカードキーが必要な場所はノーヴィにハッキングさせて扉を開いていた

セイカーの電子機器を見ているとぶち壊したくなる性分が出て来てしまったようだった

するとようやくヘリのパイロットから通信がやって来た

 

『リベリオン、こちらバズソウ1-6。 目的地まで後2分で着く!』

 

「リベリオン1-4了解…さて、仕上げにかかるぞ。 出し惜しみは無しだ」

 

弾倉を交換し、全員が気を引き締める

 

「ねぇ、セイカー。 帰ったらご褒美ちょうだい? もちろんアバカンにもね」

 

「…考えてはおこう」

 

「大丈夫、私たちで考えておくから」

 

鼻で小さく笑い、銃をハイレディで構える。彼のやり方だった

そして全員が駆け出し連携を取り次々と仕留めていく

そして大詰めのヘリに飛び乗る時が来た

ある程度スケアクロウも引き離せたため時間は少しだけあるが余裕はない

最初にアンジェリカが跳びヘリから垂れる縄梯子に掴まった

それに続きアバカン、ノーヴィが乗り込み最後はセイカーだった

 

しかし、最悪な事態が起きてしまう

スケアクロウが戻って来てしまったのだ

奴が扱う浮遊兵器の閃光が彼女たちを襲う

幸い誰にも被弾せず、ヘリも重要部分であるローターなどは損傷こそしなかったが予備タンクがやられていた

これで帰るまでの燃料に余裕がなくなってしまった

 

「クソっ、退避しろ! 退避だ!」

 

「待ちなさい! 彼がまだ残ってる!!」

 

「無理だ! 退避しないと全員死んじまう!」

 

「戻りなさい!…戻れ!!」

 

銃を突きつけてパイロットを脅すが戻ってもスケアクロウがいる、燃料も限界だ

どうするれば助けられる、どうすれば…

そして、通信がつながれた

 

『行けバズソウ1-6。 離脱しろ』

 

「置いてなんか行けないわ! 約束したでしょう!?」

 

『…ここは戦場だ、運命は自ら切り開け』

 

「そんな…!」

 

『行け。 ペルシカリアに伝えろ』

 

それを最後に彼とは通じない

彼は戦況から物事を天秤にかけ、場合によっては仲間も切り捨てる事も厭わない

しかし、それは自身にさえそうだった

自らを切り捨ててでも任務を完遂する選択をしたのだ

 

彼女たちを乗せたヘリが現場から離れて行く

表情を崩さないが明らかに失意が見えるアンジェリカ

表情を唖然とさせ絶望した表情のアバカン

最後には何も言わずにへたり込んだノーヴィの瞳から、涙のようなものが垂れ落ちていた

 

 

 

 

 

スケアクロウを倒し、下へ下へと向かう

地下施設よりもさらに下、下水道のような道を怪我だらけで歩いていた

 

 

 

 

「まだ死ねない」

 

 

 

 

 

放浪者は朦朧とする意識を覚醒させ自らの意思を口にして立ち上がった

忘れていたものを思い出し、携えた

あの日の記憶を胸にしまって、歩き続けよう

いつかきっと見えるものが、望んだものと信じて

 




間が空いて申し訳ないです!
ちょくちょく書いてはいたのですが、書きたいシーンとその道中をつなげるのが難しく思案中です
ということで今回は放浪者に目覚めてもらいました

早くみんなあわせたい

ということでこれからも放浪者を見守ってあげてください


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すぐ近くに

私です、生きています
若干勤務がエライことになり死にかけ難産もあって大変お待たせしてしまいました…

UA20000がお気に入りが365とちょっと目を離した隙にすごいことになってました(震え声
感想や評価、誤字修正などいつもありがとうございます
これからもどうか放浪者たちとともによろしくお願いします


地下シェルターの扉を開けて外を伺うと異常はなく、人の姿も人形の姿も見えない

慎重に上に上がりながらライフルを構える

体調は万全ではないが薬品による回復のおかげで痛みは僅かに伴うが気にはならない

早く逃げれるところまで逃げて体を休めねばならない

 

あの追っ手の規模がわからない以上下手な行動ができないがもたつけば追い詰められてしまう

手っ取り早く短期決戦へ持ち込むことにした

となれば探す物はひとつ、移動手段だ

 

探せばPMC陣営なり強盗団が持っている筈だ

どちらも難しいがPMCから奪う場合は特に危険を伴う

どちらにせよ命の危機は今そこにある

命をベッドしなければ乗り越えられない状況であることは今更なことだった

今更出し惜しみなどない、死ねばそれで終わりなのだから

 

影の合間を縫うように移動して車両を探す

この際バイクでも車でもいい、早く動ければいい

放置車両を見ていくが動く気配はなくもはや使い物にならない

 

突如銃撃されとっさに身を隠す

車の陰から覗くとどうやら東側のPMCの連中ようだった

 

邪魔をするな、私はただ生きていたいだけだ

治したライフルの安全装置を外し数発撃ち込むと身を隠し始めた

 

用意しておいた手榴弾を取り出し安全ピンとレバーを外し遠慮なく投げる

相手側から悲鳴のようにグレネードの警告の声がこちらにまで聞こえた

 

爆発音が響くとともに飛び散る破片と爆風をもたらすが被害はあまり無いようだった

おそらく誰かが覆いかぶさり被害を最小限にしたのだろう

 

ライフルで撃ち込み続けるが分が悪い

ここは一度退いて姿を眩ますことにした

意味のない戦闘で負傷も死ぬは御免だ

この戦闘に意味はない

 

奪って手に入れたスモークグレネードを投げ遁走を図る

当然煙の中からでも撃ってくるが当たることはなく、その場を離れることができた

 

強い

実際に正面から戦った感想だ

統率と連携も取れ、自己犠牲も厭わない

並みの部隊でもこれほどなのだろうか、そうなればこちらは1人、多勢に無勢という言葉ほどしっくりくる言葉はないだろう

 

身を隠し新しいマガジンを込め直し様子を伺うとどうやらこちらを探しているらしい

どうやら一筋縄ではいかないようだ

だが倒せばそれに見合う装備や物資を持っている

もし車両が来れば奪って逃げ出すまでだ

そうするだけの価値があるというものだ

 

出来るだけ離れて違う地点で待ち伏せをすることにした

西側でも東側でも強盗団でもなんでもいい、襲って、奪う

 

 

 

クロスボウの引き金を引きカーボン製の矢を放つとPMCの首を狙った

ボディアーマーを外した狙いは見事に目的に命中し首を貫いた

あの男から奪った物だがなかなかいいものだ

不意打ちにはもってこいの物だ

うまく使えばもっと有効に使えそうだ

 

「45姉大分上手くなったね、もう使いこなしたの?」

 

「まぁね。 でももっと上手くなれそうな気もするけどこんなものじゃないかな」

 

「まさか、それで撃つつもり? 相手は素早く動いているのよ?」

 

ここ2日間、標的のセイカーを見つけられず四苦八苦していたがついに見つけてしまった

奪ったクロスボウを興味本位で使っているがこれはいい、とても

 

「まぁまぁ416。 G11が足に当てたんでしょ? 人間だから回復に時間がかかるし、機動力も落ちてるよ」

 

「逆に死んだらどうするのよ」

 

「大丈夫、あの男はこの程度じゃ死なないわ。 わかるもの」

 

クロスボウを握りしめて殺すつもりの視線で睨めつけるようにセイカーを見つめる

戦闘が絶え間なく続き終わる気配などない

そんな中で生き残るのは厳しい

しかしUMP45は直感なのかそれとも演算による可能性かはわからないが必ず生き残ると確信していた

 

「もう少し様子を見ましょう416。 取り敢えずそこで寝てる寝坊助を起こして頂戴」

 

「あんたはまた…!」

 

416がG11を無理矢理起こすところを横目にクロスボウの矢を装填した

 

「さぁ、傷を負った孤独な狼はどう出るのかしら?」

 

 

 

 

 

「地下シェルター…か」

 

3人はかなりの量がある物資を発見した

命からがら逃げ出し、入る時と同じルートで脱出し偶然にもこの地下シェルターを発見した

民家のため当然広くはないが1人が生活するには十分なものだ

 

先程から雑のうの中でがさがさと動いているスパークリーを出すため蓋を開けるとすぐさま頭を出したスパークリーがキョロキョロと周りを見渡すがすぐに落ち込んだように「くぅ〜ん…」と鳴く

 

この固まった血痕と血の匂いが残る中に何を探しているのだろうか?

少なくとも食事を要求しているようには見えない

 

スパークリーを降ろしてやると怪我が治りきっていないがよたよたと歩き脱ぎ捨てられている服に向かって歩き始めその匂いを嗅ぎ始めた

 

「…なにはともあれ物資が補給できる。 出来るだけ持っていくぞ」

 

「…そうね。 そうしましょう」

 

アンジェリカと何か訝しげな様子でノーヴィが物資を回収を始める

アバカンもスパークリーを一瞥するが同じように物資を漁り始めた

必要なものを回収して準備を整えた

これを残した物は相当な収集家だったのか食料や衣類、武器や弾薬までも保管されていた

これを残してまでシェルターを開けているということは逃げ出す他なかったか収集中に亡くなってしまった可能性があった

 

「準備はいいか?」

 

「えぇ、いつでも」

 

「準備できました…スパークリー、そろそろ…」

 

おそらくまだ衣類の匂いを嗅いでいるスパークリーを呼ぼうとしたがそこにスパークリーはいなかった

忽然と消えている、先程までちらりと見たが確かにいた筈だ

 

「スパークリー…?」

 

消えた子犬の名を呼ぶが鳴き声は聞こえない

そこには沈黙が渦巻いていた




もっとスパークリーを出したい
この頃です


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安全運転

まーたカーチェイス始まったよ…
大変お待たせしました、Nobuです
最近ゲロ忙しいのに重ね創作意欲低下と難産というジェットストリームアタックを喰らいようやくスパイラルを抜けたところです
書きたいシーンを書き溜めしているスタイルをとっているためそっちに言ってしまうダメな子です
それではどうぞ


待つこと数時間、遂に獲物はやってきた

市内で障害物の多いこの道を在ろう事か車でやってきたのだ

当然速度は落ち、ゆっくりとした走行になる

歩兵部隊の追従が無いことからパトロールや偵察の類と判断し決行することにした

 

影からライフルを構え狙いをつける

光学照準機に投影されるレティクルを運転手に合わせて、ゆっくりと引き金を引き、撃ち込んだ

 

装甲車の類ではないため窓ガラスを貫通し運転手の頭を撃ち抜いた

四輪駆動の車は覚束ない装甲で瓦礫の山に緩やかにぶつかり停止した

車から降りようと扉を開けた助手席の男にも数発撃ち込み先手を打つと崩れ落ちるように地面へと沈んだ

 

どうやら2人だけらしく後部座席には誰も乗っていなかったのは非常に好都合だった

運転席から死体を引き摺り出し車に乗りバックしてからドライブギヤに入れ直し少し無茶な速度で走行を始めた

車体はフロントが少し歪んでいたがエンジンは無事なため走行には問題ないだろう

一刻も早く出る、それが最優先事項でありスピードこそ命でとにかく走らせた

 

 

 

 

 

 

「標的が車を手に入れてもう動き出したわ。 で、どうするの?」

 

標的の動きを416が監視しながら隊長のUMP45に質問を投げかけた

現在は別れてUMP9と行動をしていた

いつもならあの待ち伏せをしている段階で捕まえる筈だがどうにも待てと言って行こうとしない

何を企んでいるか知らないが不気味で仕方がなかった

 

『了解、じゃあ416はナインを連れてパッケージウルフを煽ってちょうだい』

 

「…了解よ」

 

なんでこんな面倒くさい風にやるのか理解できないが隊長の命令である以上やってやるしかないのだ

下の階へ向かいUMP9が事前に用意した2輪車、バイクに跨っていた

 

「動き出しだね! ガンバロー416!」

 

エンジンをかけ始め排気音がガレージに響く

彼女は乗り気だがおそらく姉に貢献しようと純粋な気持ちなのだろう

まったく、厄介な連中しかいない小隊だ

 

UMP9の後ろで跨り最後に銃をチェックした

マガジン内の弾は満タンでチャンバーに弾も装填した、ホロサイトも電源をしっかり入れている

最後にダストカバーを閉めて前に乗る彼女の肩を軽く叩き準備完了を知らせる

 

「よぉし、いくよ416!」

 

アクセルを捻り発進した

ルートは標的、パッケージウルフの真後ろだ

高速で走らせ小回りを繰り返していると先ほどの車両に追いつく

後ろに座る彼女がライフルを構えホロサイトのレティクルを前を走る車に合わせた

 

 

 

 

 

 

「来たか…」

 

バックミラーに映るバイクに乗った少女の2人組を見て1人呟く

やはりやってきたのはグリフィンの人形、運転しているのは前回拘束してきた人形の片割れがいた為確信した

 

やけに静かにしていると思ったが今になってやってきたか

厄介な連中めと内心毒づき片手で運転しながら拳銃を取り出す

 

道が開けバリケードなども少なくなってきたためアクセルを吹かし速度を上げると相手も速度を上げ追いかけてくる

 

すると後ろから銃撃を受けた

数発ずつ区切られた射撃は正確で的確に車へ当ててきている

 

この車両は装甲など皆無の只の乗用車のため下手をすればすぐに体に当てられるか車が壊れるかのどちらかだ

この追っ手はすぐにでも排除しなければならない

彼女たちの目的を考えれば殺されはしないだろうが同じことだ

 

ある程度距離を保って追ってくるのに対してこちらはアクセルをベタ踏みしている

おそらく次は転ばせてくるだろう

向こうもそれなりに速度は出ている以上上手くいく可能性は低い

しかし考えている間ではない、やるしかないのだ

 

サイドブレーキに手をかけタイミングを見計り、レバーを上げハンドルを全開に切った

これによりほぼその場で180°回転することに成功し追っ手と正面で向き合った

 

「ッ!!」

 

一瞬だけだがひどく動揺した様子が見えた気がしたが構うことはない

正面からアクセルベタ踏みで突っ込む

相手は2輪車だ、当然正面からぶつかって負けるのは向こうだ

銃撃をしてくるが銃弾はエンジンで止められる

向こうは全力で回避行動を取り道を避けたが曲がりきれず車体は倒れ2人は投げ出された

そしてそのまま来た道を突っ切った

 

 

 

 

 

「…あぁ…クソっ! やってくれるわね…!」

 

「いたた…45姉! ウルフがルートを逆走した!」

 

計画とは違うことになり急いで連絡をとるが帰ってきた返事は余裕そのものだった

 

『大丈夫だよ、ナイン。 ウルフはそのまま戻ってるんだよね? 私がいるから問題ないよ』

 

「えっ? 45姉? どうしてーーー」

 

ブツリと通信が切られ何も聞こえなくなる

何をするつもりなの、45姉…

不安を覚え来た道を見返してバイクをもう一度使おうとするがバイクはどうやらチェーンが切れてしまいもはや使えなかった

 

「…いこう416。 このままじゃ45姉何するかわかんないよ…!」

 

「えぇ…私はG11を回収してくるわ。 先に行きなさい」

 

これまでにない独断の行動を取り困惑していた

いつもなら冷静でどんなことにも動じないUMP45が自らおかしな事をし始めた

たしかにあの男を取り逃がしたときから様子がおかしかったが一体どうしたのだろう…

2人は別れてそれぞれの行動を取り始めた

 

 

 

 

 

 

来た道を引き返し反対の道へと向かう

遠回りになってしまうが止まることはない、あとは車がどれほど持ってくれるかだった

しかし、嫌な予感がする

こういうことに関しては当たって欲しくないのに当たってしまうのだ

最初に出発した辺りまで来たときだった

 

正面から人影が飛び出し銃を連射してきた

銃撃を受け車体やエンジン、そして厄介なことにタイヤを撃たれて減速してしまう

障害物が多く速度を下げなければ衝突するか巻き込まれて横転の可能性が大きかったせいだ

これによってどんどん速度は落ちる

轢き倒そうと速度を上げたが突如、奴は正面から走ってやってきたと思えば車に体当たりし装備している外骨格を利用し正面から停めに入ったのだ

タイヤは勢いよく回転し地面を擦るがほとんど動かない

常軌を逸した光景に驚くが拳銃を抜き構えるより早く相手が銃を構えてきた

銃口はこちらを捉えており急いで回避行動をとるとシートにいくつもの穴を開けた

それが仇となりハンドルを大きく右に切ってしまいこれを見越していたのかボンネットに転がる乗り上げその場を離れた

車を止めるものがなくなり急発進した車が回避しようとハンドル操作をするが避けきれず障害物を巻き込み最後には道路脇にある店舗のような場所へ突っ込んだ

 

 

 

 

 

 

「ふふふっ…上手くいった…」



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パンくずを追いかけて

私です
夜中にこっそりと投稿していくスタイルです



当初、どうやって止めようか迷ったが外骨格の力を頼り止めることに成功した

外骨格は出力規定ギリギリまで使ったためオーバーヒートしているがもう必要はない、あとはもう捕まえるだけだから

 

弾倉を交換し衝突して止まった車両へ歩み寄り車から引き摺り出してやろうとした

車のドアまで接近し中が見えた途端、突然顔面に向かって何か投げられたのだ

当然警戒していたため投擲物を弾き飛ばすように払うとそれが破裂し視界が白く粉のようなものが舞う

 

目に入り視覚センサーに異常を来し思わず目を閉じ粉状のそれを払っていると肩に衝撃が走る

一発の銃声が響き肩、というより鎖骨付近の整体部品を抉った

お返しに何発もフルオートで撃ち返すが手応えはない

一度下がって身を隠しマガジンを取り替えた

鎖骨を撃たれたためそこから先の腕は使えない

人間という体の構造をしている以上それは変わらなかった

 

「ふふっ…ふふふふふふふっ…本当に、本当会えた…本当に殺したい奴…!」

 

車から降り急いで身を隠したセイカーを見ながら片手と脚を使いリロードを済ませた

 

 

 

 

 

持つべきものを持って急いで車を離れた

タンクからガソリンが漏れ始める以上車に籠城する必要も意味もない

やはり奴らを倒さねばならないようだ

特にあの隊長格の人形であり今現状一番危険だ

彼女が指揮系統を担うなら話は早い、一番初めに倒すべきだ

 

高性能な戦術人形も有り合わせで作った煙幕を食らえば人間や鉄血人形と同じように目くらましに使えるのは本当に助かった

小麦粉とキッチン用品の薄いラップを使ったお粗末なものだが効果はあったようだ

 

バリケードの裏に隠れライフルを確認する

大丈夫だ、傷だらけでもしっかりと役目を果たしてくれる

初段が装填されているか確認し安全装置を解除する

 

ライフルはまるで有り合わせの廃材を使ったような外見をしているがこれでもしっかりとした兵器だ

バレルの規格がやはり僅かに違い装填不良を起こしたり、取り付けた部品が脱落するなど経験を経て試行錯誤の末に完成させ治した1挺だ

なんだかんだと愛着を持ち始めてなくては困るものだった

やはり戦闘をするならライフルは必要不可欠な武器であることを再び認識した

 

ともあれ今はバリケードの向こうに見えるあの憎き人形を倒すため頼りにしているAK12を構え取り付けている光学照準器を覗き込んだ

 

「頼りにしているぞ、相棒」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激戦区の道端、銃声や爆破音が絶えない戦場の中に似つかわしくないものがいた

小柄でのろのろと動くそれは白い毛並みを汚し脚に包帯を巻いているスパークリーだった

 

よたよたと4本の脚を使い歩いては立ち止まり匂いを嗅いで向かう

主人と同じ匂いがしたあの部屋からここまで簡単な道なりなどではない

 

ドタドタと忙しなくあらゆる勢力が混在し戦闘を行なっている

そのほとんどが見落としてはいるが見つけるものもいる

しかし放っておくか、興味をなくして目を離す者ばかりであった事が幸運であった

 

しかし戦場は戦場だ、流れ弾や爆風にさらされかけて更に怪我をしかねない

下手をすれば鉄血人形に狙われるか悪意を持った人間の的当ての的にされかねない

 

しかしこのタフな仔犬はそんな逆境など物ともしない

全ては自らの主人に会いに行くため、まだ痛む脚に鞭打ちしながら歩んで行く

 

硝煙や燃えているもの、血の匂いを嗅ぎ分け段々と近づいて行く

よたよたと小さな身体を使い進んでいく

 

今度は置いて行かないように、置いて行かれないように

 

匂いが強くなってきたのを感じ脚を早めた

 

 

 

 

 

 

「スパークリー! くそっ、どこだ!」

 

スパークリーと逸れてしまい大慌てで叫んでいるのはアバカンだ

セイカーに届けるたに一緒にいるというのもあるが彼女からすればもう立派な仲間だった

 

「アバカン、落ち着いてちょうだい」

 

「ノーヴィ…しかし、発信機が外れている以上、どこを…」

 

「だから、落ち着きなさいと言っているでしょう?」

 

威圧を含んだ言葉に一瞬体を強張らせたがそれを期に深呼吸をし、いつも通り一見冷徹さを見せる表情へと戻った

 

「…すみません」

 

「大丈夫よ、スパークリーがいなくて慌てているのはあなただけじゃないわ。 ね、アンジェリカ?」

 

同意を求めるようにアンジェリカへ話題を振ると彼女は呆れて溜息を吐いた

 

激戦区で呑気に迷子の仔犬など探している状況などではない

西側PMCにもマークされあとは脱出するだけなのだがそれが厄介で困っているのだ

内心は今すぐにでもセイカーを見つけて説教の一つでもしてやりたい気持ちであった

 

「…居ないと困るんだろう?」

 

仕方ないという気持ちが強いが一緒に探しでもしないということを聞いてくれなさそうでもあり何だかんだと彼女もスパークリーのことは好いているのだ

 

「手分けして探すぞ。 20分後ポイントデルタで落ち合おう」

 

「了解。 アバカン、絶対見つけるわよ?」

 

「えぇ、必ず見つけます」

 

3人は別れて迷い犬を探すことにしその場で散らばった

アバカンは強く銃を握りしめスパークリーの行方を示す手がかり、言わばパン屑の後を探すことにした

 

「スパークリー…私たちを置いていくな…!」




スパークリーをもっと活躍させたい…活躍させたくない?

なんだかんだいろんなトコと追いかけっこしている放浪者を書くのが楽しいです

はやく追いかける者同士ぶつけたいなぁ…(暗黒笑み


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この街の銃声は途絶えない

偶然という物を回避することはできない


身を余計に出さぬようバリケードの脇の陰から銃撃をする

耳をつんざく破裂音が響き銃口から5.45mmを吐き出す

高速で撃ち出された弾頭は出てきそうなバリケードの脇や上を狙い撃ち込み続ける

撃ち込む回数を変えたり1箇所に撃ち込む回数を変え変則的に撃ち込むことで読まれないようにしていた

 

それを移動しながら行い違う後方へのバリケードへと移り素早く隠れリロードをする

マガジンを叩き出すように弾き新しいマガジンを込める

空のマガジンを回収する暇などない、今は奴から目を離さない事が先決だ

 

やはり銃撃が途絶えた瞬間撃って来始めた

バースト射撃を駆使して撃ち込んでくる

バリケードに身を隠しやり過ごしているとこちらと同じようにマガジンが空になったのか銃撃が途絶えた

 

念のためクイックピークという壁から一瞬だけ顔の半分を出すテクニックを使い確認してみると銃撃が顔を出した付近を抉った

 

一度引っ込み再度フェイントで違う位置から銃撃すると奴も素早く身を隠した

 

これは厄介だ

攻防の繰り返しで埒があかない

このままでは疲れの影響を受けにくい戦術人形の方が有利に決まっている

このままでは敵側の増援も来て確実に負ける

しかし今は応戦しながら逃げるほかない

 

もう一度クイックピークをし今度は撃ってこない

身を出して銃を構えようとした時だった

奴は僅かに早く出てきたと思えば既に獲物をこちらに向けていた

何かがこちらに向かって飛んできたと瞬時に察知し体を捩らせ倒れこむようにして回避することができた

 

転んで完全にバリケードから身を出した状態で横たわっていてはいい的でしかない

急いでライフルで反撃すると身を屈め射線を切った

 

「あっはははははッ!! 今の躱せるんだ?」

 

狂ったような笑い声が聞こえる

あのボウガンを使っているのか、厄介だ

他に何を携えているかわからない

 

「イカれ人形め…」

 

悪態をつきながらマガジンを変えておく

バースト射撃で何度も制圧射撃をしながら後退していく

それにしつこく食いついて離れられない

本当に厄介な追っ手だ、捕まえるから確実に殺すことに変換していることが今更ながらよくわかった

片腕しか無い状態でここまで追い詰めて来ていることに敵ながら執念深く強い人形だった

 

ふと奴が放った銃弾がコンクリートで出来たバリケードを砕きその破片が顔面に、特に眼球に入ってきた

 

苦し紛れに手榴弾を投げ顔面に飛んできた異物を払う

眼球には異常はなく、問題はない

手榴弾の爆発音が聞こえそれに加えて制圧射撃をする時だった

 

遠く離れて構えている奴と目が合った気がした

 

しかしそんなことはどうでもいい、やつを仕留めなければならない

光学照準器に中倍率で投影されたレティクルを合わせ、引き金を引いた

 

命中した、倒れるのも確認した

しかしこちらの肩を深く銃弾が掠めたのも同じようなタイミングだった

 

衝撃に負け倒れそうになるが追撃して仕留めなければならない

再び構えると奴も当然といったように立ち上がりこちらを撃とうとしていた

 

しまった、一手遅かった

やられる、そう確信してしまった時だった

奴の銃口がそれあらぬ方向へ銃撃した

バリケード越しで何かはわからないが何かを振り払う様な動作をしていた

 

そんな隙を見逃さず、2発セミオートで撃ち込むと今度こそ手応えを感じた

 

崩れ落ちるように倒れすかさず逃げる

走って走って、逃げ続けた

絶対にやられるわけにはいかない

生き残る事こそ、私の目的なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち上がって片手で銃を構える

あと1発これさえ撃ち込めばあの男を仕留められる

引き金に力を込め撃ちだす時だった

 

銃を持っている右手、というより右手首に何かが飛びついてきた

片手で射撃していたためその小さな何かは理解する前に飛び付いてきて射線がずれてしまう

空かさず噛み付いて来て痛みが走る

考えるよりも先に振り払いそれを仕留めようとした時だった

 

2発の銃弾が私を穿いた

左肩と腹を撃たれ崩れるように倒れこんでしまう

人口血液がどくどくと流れ出てくる、電脳が処理落ちを繰り返す

段々と電脳が動かなくなって来たのだ

 

あぁ、眠るように死ぬとはこういう事なのだろうか

所詮機械だ、死ぬことなど恐れていない

最後に邪魔して来た何かの正体を探すとそこには横たわり気を失っている白い毛並みの、小さな仔犬だった

 

「なによ…それ…」

 

邪魔して来たのは仔犬で、それが原因でやられてしまった

余りにも可笑しなことではないだろうか

これではまるであの仔犬があの男を守っていたようではないか

 

思わず零した一言を最後に段々と意識は闇へ落ちていった

 

 

 

 

 

 

「クソッ…スパークリー、どこへいったんだ…?」

 

短い時間ながらある程度の範囲を調べたがスパークリーの姿は見えない

唯一の手がかりとして、解けて外れた血が滲む包帯と点々と続く血痕を辿る

スパークリーはまだ手負いで下手に動けば傷口が開いてしまう

おそらく傷口が開き点々と続いているのは無理をしてでも何かを追いかけているのだ

 

何を追いかけている? そんなことはスパークリーと短いながらも一緒に過ごした以上わからないはずがない

 

いるんだ、セイカーが

あの物資の山はセイカーが集めたもので、荷物の中から彼の匂いを嗅ぎこんな戦場の中を歩いてまで彼を追いかけているのだ

 

無茶だ、危険すぎる

早く見つけて保護しなければならない

急ぎ足で追いかけている時だった

正面から西側のPMCの小隊と遭遇してしまった

 

「いたぞ! 3人のうちの1人だ!」

 

「撃て! 仕留めろ!」

 

反応はこちらが早く2点バーストで正確に1人の眉間に命中させ脳幹を吹き飛ばし血飛沫と肉片を撒き散らした

身を隠し応戦を始める

もうすぐ時間切れになってしまうというのに、邪魔な連中だ

あまりうろうろしてなどいられない、さっさと片ずけてやる

 

アバカンは眉間に皺を寄せて、ただ片付けることに集中する

連れ戻すために

 

 

 

 




ども、Nobuです
サバゲ行ってて気づいたんですけど夏キツイですね(今更)
アーマー勢にはキツイですぞ…


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そこには誰も残らない

全力疾走で出せるだけの全力の移動でその場を離れ息を整えるために車の陰に隠れる

 

残りの残弾は多くはない、リュックにある程度の予備分はあるが心もとない

戻って回収するほどの暇はない、無ければぶんどるまでだ

 

しかしそんなことはどうでもいい

今更気になっていることだが先ほど奴は一体どうしたのだろうか

何かに対して意識がそれていたがその何かが気になる

 

何故だか胸騒ぎがする、一体あれはなんだったというのだろうか

 

いつも愛用している帽子を被りなおし息を整え終えるとマガジンを一度外し弾がまだ十分入っているかを見て戻した

 

 

 

 

 

PMCを排除して再びパンくずの跡(スパークリーの痕跡)を追いかけてついに見つけた

しかし様子がおかしい、その横には404小隊の隊長格のUMP45が人工血液を流しながら倒れている

 

しかしそんなことよりスパークリーの方が重要だ

アバカンもUMP45も特殊部隊、というより存在していることが少し異質な立場である以上外部の関わりを極力減らす必要がある

 

そもそもで言ってしまえば彼女からすれば知ったことではない

ノーヴィとアンジェリカにスパークリー、そしてセイカーさえ居てくれればそれでいい

関係なければ人間だろうが人形だろうがどうでもいいのだ

 

スパークリーを診たところ脚以外の大きな怪我は見当たらないが気絶しているのか唸り声をあげない

呼吸をしていることから生きているのは確実だ

何が起きたのか判らないがとにかく離れる必要がある

急いでスパークリーを抱き上げその場を立ち去った

 

「…っ…クゥ…」

 

抱き上げた際に小さく唸るその声は喜びのような、どこか残念そうな様子だった

 

アバカンはそれを察している

なぜ今の今まで大人しくしていたスパークリーがこんなことをしたのか

この賢くてタフな仔犬はただ主人に会いに行こうとしただけだ

 

それを期待してアバカンも必死に追いかけたが一足遅かったのかセイカーの人影も見つからない

どこにも居なかったのだ

 

セイカーにも会えず、スパークリーも怪我をしてしまい彼女としては残念でならなかった

 

しかしここは戦場だ、例えどんなことがあっても自分を、自らの任務を見失ってはならない

今は生きて帰らねばならない

 

今すぐにでもセイカーを探しにあたりを走り回りたいところだがノーヴィとアンジェリカに合流しなければならない

スパークリーを守りながらその場を後にし合流地点へと向かった

 

 

 

 

 

UMP45を除く小隊のメンバーは来た道を全速力で戻っていた

UMP9が先に向かっていたが道中で鉄血の部隊に足止めされ一度416とG11に合流し最後に姉のUMP45が発した通信信号を頼りに向かっていた

 

普段ならGPSなどによる位置情報を共有していたがなぜか切られており正確な居場所がわからなかったのだ

 

なぜそんな不可解な行動を取るのが理解できなかった

こんなことは初めてであり混乱しかけていたがなった以上対応するしかない

 

最後の送信位置にたどり着くがそこには居ない

数100m離れた場所にいた

 

しかし大量の人工血液を流しうつらうつらとまるですぐ眠ってしまいそうだった

 

「45姉っ! しっかりして!」

 

「…ぁ…ナ…イン…」

 

UMP9の呼びかけによって虚ろな目を向ける彼女の反応は鈍い

これ以上人工血液が漏れ出さないように応急処置を済ませ再び呼びかける

 

「今から離脱するから頑張って! 416、G11! 離脱するよ!」

 

「…了解。 あとで聞かせてもらうわよ」

 

「わ、わわっ、45…!」

 

あの標的のことがどうなったかよりも今回の行動が気になる416と仲間の重症の程が深刻だったことに動揺しているG11

 

そして姉の人工血液を浴びながらファイヤマンズキャリーという抱き上げて、負傷者の腋の下に首を差し入れた後、肩の上に担ぎ上げ空いている手で銃を保持した

 

「…ぁ…ぅ…」

 

「45姉、喋っちゃダメ!」

 

「…ご…ごめんね…ナイン…あいつ…殺せなかったよ…」

 

かすれる声で聞こえたのは耳を疑う内容だった

確かに負傷させることは許可を受けていたが本作戦はターゲットの捕縛が目的であり殺害ではなかった

 

今はそんなことを言っている場合ではない

とにかくこの街から脱出することが先決だ

急がなければならない

聞きたいことは全て終わったあとだ

 

存在しない彼女たちはそこにはもういなかった

そこには何も残らない

 

 

 

 

 

気がつけばこの都市の外へとたどり着いていた

道中に強盗団や鉄血に襲われたがあのPMCどもに比べれば些事なことだった

結局ここで何が起きているかは判らなかったが生きているだけマシだった

 

殺伐とした状況から逃れられたのか段々と怪我をした箇所が痛み始める

特に撃たれた脚が悲鳴をあげていた

 

しかし安心はまだできない

乗り物もない上ここからは砂漠だ

これから目指すS06の方向は分かっている

この2週間近くの期間でどれほどの変化があるかは判らないがその前にこの砂漠を抜け出さねばならない

 

痛みに耐えながら体を引きずるように旅を再開した

どうにも、この旅は長く続かないだろうと思いながらも歩き始めた




どうも、おまたせしましたNobuです
激戦はスパークリーによって防がれた…

感想コメント、誤字指摘、お気に入りやしおり、UAなどありがとうございます!
とくに感想コメントを見るとやる気がうなぎライジングするのでとても喜びます

感想コメント見て思ったのが大半がスパークリーのことなのは思わず笑ってしまいました

みんなスパークリー大好きかよ(歓喜

どうぞこれからも放浪者を見守ってあげてください…


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砂漠の中で

命辛々逃げ出した先にあるのは、途方も無い砂漠だ


砂漠を再び歩き出し早くも数時間が経っていた

今度は道路沿いを歩き方向を見失わないようにしてS06地区へと向かう

照りつける太陽を恨めしく睨み汗を垂らし、時に水分を口に含む

 

あとどれほど歩けば着くのだろうか

辺りを見回しても何もないどこまでも続く砂漠があるだけでもはやあのダークゾーンも見えない

 

S06地区に着いたらまず示されていた抜け道に向かう必要がある

しかし正面から入れば当然グリフィンに捕まるだろう

今や本当にお尋ね者であんな特殊部隊を送り込んで来るほどだ。通常のグリフィンに雇用されている人形も顔くらい知っているはずだ

現にS07地区では顔を見られてノーヴィたちが襲撃してきたのだ、確実だろう

今でも衛星やドローンで見られているかもしれないが現状向かうしかなかった

 

グリフィンがなぜ殺さず捕まえることが目的だったのかは判らなかったがどうでもいいことだ

殺されようが捕まろうが変わりはない

 

となると他のメンバーはどうだろうか

アンジェリカや目の前で死んだヤギールはともかく現状生きているかも解らないラーデル隊長やエヴァンやリシーツァも?

生きているかグリフィンに付いているならともかくだが出来れば生きていて欲しいものだった

 

「…っ」

 

脚の痛みが強まり始める

朦朧としている意識の中、ついに脚が限界を迎えて来た

仕方ない、あの注射器をバッグから取り出した

 

痛みを消し、開いている傷口をも塞ぐその薬剤はまるでおとぎ話に出てくる魔法の薬のようで効果の発揮が異常なほどに早い

しかし当然いいものには悪いこともつきまとうものだ

下手をすれば中毒に陥るなど使い方を誤れば非常に危険な薬品だった

 

針を刺し薬剤を注入するとみるみる痛みがなくなって来た、これなら再び歩くことができる

休憩もせずとにかく前に前に向かって歩く

時折しっかりと武器があるかを確かめながら

 

先程からライフルのボルトを僅かに引き装填されているか確認するチャンバーチェックとマガジンの中の残弾を幾度となく確認している

 

あのダークゾーンでの戦いを支えてきてくれたこのボロボロのライフルは一見部品の寄せ集めのようなもので所々で巻かれている、特にハンドガードに巻いているテープが目立つ

 

無理やりアクセサリーの類を付けているため見窄らしい、酷いなどの印象だがしっかりと使える武器だった

 

ライフルをスリングで吊るし今度は拳銃にも同じように確認作業をする

 

塗装が剥げ鈍い黒色から段々と摩耗や使用により燻んだ銀色になりつつありグリップなどの部品もひびが入り欠けているが錆の一つもない手入れの行き届いた拳銃だ

 

これは今の今まで、放浪者として生きた今まで支えてきてくれた一つだった

これが無ければ今はもう生きてなどいなかった

 

今にして考えれば私も沢山の物を与えられてきていた

多くのものを彼女たちに与えてきたと同じように私にも同じく与えられ続けていたのだ

 

今になってそんなことを思い返すとは、どうしてしまったのだろうか

長く続く退屈で孤独な旅路を歩く中思考は止まらない

考えれば考えるほど変なことも思い浮かべてしまう

 

あのあとノーヴィはどうしているのだろうか

本来の任務に戻っているのか、それともまだ私を探してくれているのだろうか

 

アバカンはきっとなんと言われてもノーヴィについていくだろう

 

アンジェリカはどうだろうか、久しく顔も見ていない数少ない友人と言える人物だ

出来れば生きていてほしい

 

スパークリーは今も生きているのだろうか?

あのタフな奴ならきっと生きているに違いない

もしかしたらあの夜にノーヴィたちに保護されて面倒を見てくれているのだろうか

 

今になってどうして1人でいるのだろう

別にあの時は生き残れたのだ、形はどうあれ戻ればよかったのかもしれない

 

ノーヴィもアバカンも、アンジェリカはどうか知らないが彼女たちは私が戻って来ることを望んでいたのになぜ拒んだ?

自分も同じ望みの癖に、なんでこんなことをした?

 

なぜ今も生き長らえている?

未練などない、いっそ死んでもいいではないのか?

 

どうして旅をしていたという理由さえ、自分がどうして生きているのかさえわからなくなっていた

 

自分はそういう人間だと言い聞かせて生きてきていたが今更になって疑問だらけでもはや取り戻せないところまで来て無様にも生きようとしている

 

何が何だかわからなくなってきていた

力が抜け始め地面に緩やかに吸い込まれるように膝をつき倒れ込んでしまった

 

弱くなってしまった

この程度の砂漠などいつものこと、しかし1人で旅を始めてから日を重ねるにつれて自分はなにもかも弱くなっている

眼に映る全てが悲観したものに見えてしまい心が流されて行く

脱水症状に重なった疲労と傷だらけの体は思うように動かせずいうことを聞かない

 

うつ伏せに倒れ見えるものはどこまでも続く砂と蜃気楼を生み出す太陽、そして鬱陶しく忌々しい青い空が広がっていた

 

強烈な眠気に抗うが次第に瞼を閉じ始めゆるりゆるりと意識が消えていった

 

消えてしまう意識の中見えたのは砂漠の向こうから歩いてくるなにか

それは小さくあっという間に飲み込まれそうなもので、白い毛並みをしたものだった

 

「スパークリー…」

 

伸ばした手も、求める声も届きはしない

最後には瞳を閉じまるで飲み込まれたように沈み、意識は底へと落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

眼が覚めると夜の風が吹き荒れている音がする

ぼんやりとする気持ちで目の焦点を合わせると薄暗いランタンの灯で照らされているテントの中にいるようだった

 

首を動かして傾けてみると男が鎮座し小さな女の子を挟むようにフードの奥から僅かに表情が見える妙齢の女と身を預けて会って眠っているようだった

 

男の顔はターバンで見えないが体格からして判別した

薄汚れたマントを身に纏い、見える腕や体のラインは鍛え上げられているものであり、一番に目を引いたのは持っていた特殊部隊仕様の銃であった

 

男は気づいたのか顔をこちらに向けると寝ていた女の方も起きた

 

「…あら、起きたのね。 どこか痛いところとかあるかしら?」

 

マントのフードを取り払いはっきりと容姿をみせた

一瞬見ほれてしまうほどの絶世の美女という表現が正しいだろう

整った顔立ちに長く漆のように黒く美しい髪にマントを押し上げる胸部は見事に女性としての象徴を実らせているものだった

 

しかし、一瞬体を強張らせるが杞憂だと感じ力を抜いた

何かの罠かと思ったが考えすぎだろう

少なくとも敵ではない、強盗団なら今頃私はこんなに手厚く保護されていない

殺してから全て奪うはずだ、だからこんな真似はしない

 

そして何より、強盗団などのならず者の中に女性や子供はいない

子供は生きていくことができない上、女は嬲られ性欲の捌け口にされるからだ

 

ただ見えたその光景でならず者の可能性を大いに否定する材料が揃っていた

 

女は嬲られた様子はないし、子供もまるで遊び疲れて寝ているだけのようにも見えた

言わば今では珍しいテンプレートのような幸せを体現している家族のようだった

 

極め付けに放浪者も着替えさせられ寒くならないように毛布もかけられ、傷口に巻いていた包帯も取り替えられている

 

「申し訳ないけど、あなたの荷物から使わせてもらったわ」

 

「…構わない、こうして保護されているだけでもありがたい」

 

胡座を掻き座ると男の方はその外見に似合わず小さな子供を割れ物を扱うように自らの膝に頭を乗せさせ横たわらせた

子供は起きることなく寝息を立てて眠っている

 

「貴方達は、どうして私を?」

 

「んー…そうねぇ。 私たちは倒れている人を見捨てるほど薄情な人じゃないし、それに…この子も見てるから」

 

女が首を向けた先には幸せそうに眠っている子供がいる

それを見た女は柔らかく微笑み頭を撫でていた

 

「…そうか」

 

そんな様子を見ていると

 

「あなたはどうして彼処に? あんな砂漠の中でお昼寝とは思えないけれど…」

 

「…あぁ、ダークゾーンから命辛々逃げ出せたものでね。 S06地区に向かうところだったが、限界を迎えてしまったようだ」

 

「そうなの…運がいいわね」

 

女は立ち上がり隅に置いていたリュックを差し出してきた

それは放浪者の荷物であることがすぐにわかる

同じようにライフルと拳銃もあったがそれは渡してはくれなかった

 

「荷物は返すわ。 銃は申し訳ないけど、私たちの出発まで預からせてもらうわ」

 

武器の類は没収されていたがどうやら返してはくれるそうなので心配なさそうだった

しかし警戒は僅かながらに行う。 必ずしも絶対この3人が善人であることという確証などどこにもないからだ

 

「明日の朝には出発するから、それまでね?…じゃあ、ゆっくり休んで行ってちょうだい」

 

マントを被り直し男の膝で寝ている子供を抱きしめ毛布を被った

寝息を立て無防備に眠る姿は親子そのものでありその表情から安心しきっていることが伺える

 

男の方を見ると微動だにせずこちらを見張るように座っていた

見え隠れしている銃を前に変な気など起きまい

信用していないのはお互い様のようだった

 

2人の間に会話はなく只々時間が過ぎるだけだ

先に寝たのは疲労を回復するために疲れからか寝てしまった放浪者の方だった

 




お待たせしました、まだ生きているNobuです
この時期は仕事が絶対忙しくなる時期になります
それも今年までよ…!
大変申し訳ないですが投稿はまたまた遅くなります…

これからも気長に放浪者を見守ってください…


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幸せと愛情と孤独

お久しぶりです。戻ってまいりました
16連勤とかいう狂った勤務を終え要約解放され休みましたが明日は仕事です。くそったれめ

そんなことはどうでもいいので最新話見て行って、どうぞ


「まずいことになったな」

 

「まずいなんて話じゃない…くそっ」

 

状況は最悪だった

小隊長であるラーデルが部下のエヴァンに返事をするように悪態をつく

ライバル社のPMCの重役の暗殺を兼ね施設の破壊という黒い任務を請け負い、任務は完遂し離脱するだけだった

 

離脱の途中、敵に囲まれてしまい若年隊員のヤギールが負傷し持っていた爆発物で自爆で死亡しスナイパーとして単独行動していたリシーツァも連絡が取れないでいた

 

「セイカー、大丈夫か?」

 

ラーデルが先ほどの出来事でセイカーを気遣う

頷いて返事をしておくが内心は大丈夫などではなかった

セイカーの目の前で自爆し、彼は骨のかけらも残さず死んでしまったのだ

彼はまだまだ若く、無鉄砲で可愛がり甲斐のある後輩にあたる人物だった

失敗してはみんなにど突かれ、その存在感を放っていた

重火器の、グレネードランチャーやロケットなどの扱いに長けており誰よりも有効に扱えていた

つい先ほどまで生きていたのが嘘のように、彼は辞世の句もなくあっけない最後だった

その瞬間を、彼は見てしまったのだ

 

「セイカー、セイカー! 2手に分かれる。 お前はアンジェリカといけ!」

 

「予備のジャマーだ、持っていけ…ちくしょう来たぞ!」

 

「セイカー、アンジェリカ! 先に行け! クルーガーに伝えるんだ!」

 

迫り来る敵を応戦し彼らと別れた

それが最後に見た彼らだった

脱出のため用水路へ飛び込み脱出を試みる

 

「クソっ、酷い匂いだっ」

 

アンジェリカが悪態をつきながら追従してくるがこうなった以上選ぶ余地などない

愛銃であるライフルを銃口が汚水に浸されないように上向きにして進む

突如、嫌な気配、殺気というものが脳を通じて全身を駆け巡る

それは殺気、長年の経験かそういった感覚のようなものを感じ取れる上、大体当たってしまうのだ

そして、そこで夢は覚めた

 

 

周囲の音で眼が覚め起き上がると彼らは撤収の準備に取り掛かっていた

先程からしていた音は撤収の音だったのだろう

 

起き上がると女の方が気がついたのか声をかけてきた

 

「おはよう。 私たちはもう出発するけど、あなたは平気かしら?」

 

「…あぁ、平気だ。 問題ない」

 

昨日か今日の深夜かは定かでないが体の調子はだいぶマシだ

昨日はおそらく薬の作用で気絶してしまったのかもしれない

荷物を整理しながら横目で見てみると男は黙々と出発の準備をしそれを手伝う女

そして幸せそうに寝ていた女の子がちらちらとこちらを伺うように見てきている

 

ある程度準備を済ませてあとは銃を受け取るだけだ

向こうが出発するまでは返してはもらえなさそうなのでテントの外に出ると明け方の空と広大な砂漠が広がっている

太陽はまだ地平線から顔をのぞかせる程度であり砂漠の気温は低かった

 

出発は早い方がいいだろう

砂漠にしては気温が低すぎず高くないこの時間で行けるところまで行けばどうにかなる筈だ

地図もコンパスも無いが道路沿いに歩けば迷うことはないだろう

 

荷物を回収しようと戻るころには彼らはテントを撤収するところだった

邪魔にならないように自分の荷物を回収して見ていた

女も子供もただ男の世話になっているだけでは無く協力していたところを見るとしっかりとお互い助け合って生きていることが伺えた

 

それはとても幸せなことなのだろう

彼らの関係はどうあれあの夜の様子を見ていれば察しはつく

どんな関係であれ人が寄り合い生きていることはどんな時でも同じだ

 

放浪者にもあったのだ

家族の愛も知っている、それどころか仲間との愛着も、ノーヴィとアバカン、そしてスパークリーに注いだ愛情も分かっている

それが全て幸せだったともよく知っている

 

それ故に、今になって孤独であることが苦痛になってきたのだ

孤独が辛く、寂しく、怖いのだ

そんな気持ちを誤魔化すように荷造りを進める

 

ついに出発の時になりようやく武器を返してもらった

拳銃もライフルも、その他の武器も異常なく返してもらい別れの時だった

 

「じゃあね。 この先を行けばS06には着けるはずよ。でも道のりはまだまだだから、また倒れないようにね?」

 

「感謝する。 この先のS07は大丈夫だが道中のはずれにダークゾーンがある。 道を外さないように」

 

「ありがとう」「世話になった」とやりとりを最後にやり取りを終えすでに乗って待っている男の隣の馬に乗った

 

「お待たせ。 行きましょう、ラビット」

 

3人と荷物を乗せた2頭の馬はS07地区に向かって歩き始めた

 

振り返り地平線の向こうをみると広大な砂漠が広がる

その先に向かって歩き始めた

自らが求めるものを探して

 

 

 

 

 

 

 

「クルーガーさん。 セイカーの件で報告が上がりました」

 

「…続けろ」

 

上級代理官ヘリアントスは上司であるべレゾヴィッチ・クルーガーに先程通達された報告を続ける

 

内容はセイカーの捜索に送り出した404小隊が標的を捕捉したが激しい抵抗に遭い隊長のUMP45が重症を負い撤退したとの報告だった

 

クルーガーは眉ひとつ動かさず報告を聴いている

報告を終えヘリアントスは事後処理のため部屋を出て行った

しばらく考え込んでいたがクルーガーが大きなため息をついた

 

何をどうすればそうなるのだろうか、たしかに保護しろと通達したはずだが何故そうなるのだろうか

 

たしかにセイカーは消息が途絶える前までここのやり方が気に入らない様子なのは気づいていた

しかし話が通じない男ではない上、意味のない抵抗したり無意味な戦闘は嫌う傾向にある

 

よほど帰りたくないのか、404小隊が暴走したのか

何はともあれ聞き出すなりなんなりすればいい

 

内心被害に遭ったのが404小隊であったことに安堵していた

彼女たちは存在しないと扱われているため被害にはならない

しかしI.O.P社に発注し、業務にあたるグリフィンの人形は正式に存在し勤務している

 

これがもし通常の人間や人形であれば仕留めるよう命令しなければならない

当然、自分たちに攻撃してきたのだ。殺さなければならない

クルーガー自身がそうしたくないとはいえ周りが許さないだろう

多くの部下を持つ彼にとっては大きな問題であった

部下同士殺しあうなど、狂っているにもほどがある

 

「…面倒なことを」

 

起きたことは仕方がない、何はともあれセイカーは保護する

彼にとっては、唯一の生き残った社員なのだから

 

机の受話器を手に取り内線番号を打ち込み呼び出しをかけた

ことを大きくしたくはなかったが仕方がない

 

「…私だ。 全てのS地区指揮官へ伝達せよ」

 

窓の外からは心地の良い日差しが差し込むが、彼の心境はそんなものなどではなかった

 

願わくば、生きて回収できることを祈って




砂漠で出会った3人実は…


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戦術人形と動物たち

皆の感想が楽しみで書いている所存です…

ふとUAを見ると30000をとうに超えていて嬉しさのあまり奇声をあげそうになったところでした

毎度ご愛読ありがとうございます!
感想や誤字指摘などいつもありがとうございます!これからもこの拙い小説をよろしくお願いします


砂漠を歩き続けて数時間、 鋭い光を放ち照りつける太陽を睨む

長い時間歩き続けてようやく遠目だがS06地区が見えてきた

水まだあるが傷口はまだ痛む

S06には長くいられないだろうが傷を癒してすぐにでもS05に行くなり、辺鄙な地域にでも息を潜めるつもりだ

とにかくS06に着かなければ始まらない

方針はある程度決まっているため多少問題が起きてもどうにでもなるだろう

どうにかするしかないのだが

 

S06地区へはまっすぐ向かわず、S07でもらった地図を思い出し正面より右寄りになる様に歩いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

G&K S06地区支部の救護室にてかごで作られた臨時ベッドでゆっくり呼吸しながら眠るスパークリーのそばにアバカンはいた

 

先に任務が終わりS06でしばらく滞在することになりアンジェリカがクルーガーに掛け合い臨時宿舎に泊めてもらえるようだった

 

また怪我をしたスパークリーを治療し安静にさせるべくここで眠ってもらう

麻酔でしばらく起きないだろうが起きたら起きたでまたフラフラと何処かへ行ってしまいそうなのでアバカンがそばにいるのだ

 

というのは建前であり、アバカンは暇さえあればスパークリーのそばに居て救護室から離れないのだ

宿舎に帰らず、救護室に居座り出てくるのは稀である

入り浸っているためか元からいた先住の犬や猫、インコなども懐いていた

 

包帯が巻かれ眠っている子犬を心配しているのか大きな犬や猫が近寄り様子を伺っている

 

「全く、今度は無茶をするんじゃないぞ…?」

 

柔らかく微笑みながら優しく頭を撫でてやると意識はないはずだが心地好さそうに喉を鳴らしながら眠っている

 

すると救護室の扉が開き声をかけられた

ノーヴィやアンジェリカではない、それはここS06地区の指揮官だった

 

「や、やあ。 アバ…AN-94」

 

「…何の用だ」

 

アバカンが先ほどとは打って変わって表情を落とし氷のように冷たい瞳になった

それはまるで感情のない人形のように、人を近づけさせないものだった

 

アバカンはこの指揮官が嫌いだ

受け入れてくれたことには感謝しているがノーヴィとアバカンを見た時の視線や表情はだらしなく、馴れ馴れしい態度で接してきたことが始まりだった

 

特に最初にノーヴィとアバカン、2人の愛称を馴れ馴れしく呼ばれたことが気に入らなかった

アンジェリカがそう呼んでいたため指揮官にも知れ渡ったのだろう

 

セイカーに付けてもらった名前であり、彼とアンジェリカ以外には呼ばれたくないということもありアバカンが威圧して「その名で気安く私を呼ぶな…!」と脅すように言ってしまい少し問題になった

 

この指揮官は人形に目がないのか聞いたところによると人形からはあまり良い評判ではないようだ

どうやらこの指揮官は人形をそういう目で見ている

ノーヴィやアバカンは軍用人形であるため民間軍事会社であるG&Kでもなかなかお目にかかれないものであり更には目麗しいのもあり目を付けられたのだ

 

できれば関わりたくないが向こうから関わってくる以上無視はするなとアンジェリカにも言いつけられているため対応には困っていた

 

「い、いや、何かあるわけじゃないんだ。

子犬はどうかなってな〜」

 

言い訳にしては白々しいにもほどがあるのではないだろう

興味もないくせにスパークリーを引き合いに出すのがより一層電脳とコアに怒りというものを覚えさせる

 

「…安静させておけば大事には至らない」

 

「そ、そうか…それよりも、こんなところに居て退屈だろう? どうだい、一緒に食事でも…」

 

「生憎暇ではないのでな。 遠慮させてもらう」

 

「そ、そうか、わかった…じゃあまた…」

 

少し威圧を含めて返すとすごすごとその場を立ち去って行った

これでまた食い下がるのならどうするものかと思ったが杞憂だったようだ

 

内心「もう私の前に来るな」と罵りながら険しい表情のままスパークリーに向きなおると周りにいた動物たちが困ったような様子で彼女の様子を伺うようにしていた

 

一瞬どうしたものかと思ったがすぐに気づきやってしまったと後悔していた

すぐに表情を崩し微笑む

 

「すまない、怖がらせたな。 食事にしよう」

 

笑顔を作り立ち上がると先程のような様子もなくなり餌を取りに行くアバカンに動物たちはついて行った




すみません、今回は少し短めに作らせていただきました

動物たちと触れ合うアバカンが見たくて書きました

ガチで書きたいシーンまであと少し、頑張ります


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対象、元403小隊所属隊員

すいません、生き返りました
予告もなく間を開けてしまって申し訳ありません
就活と激務と携帯損壊により精神崩壊しかけた挙句バックアップが取れておらず書き置きも全て消え去ったんですすみませんホント…

さてこの作品も章で言ったら最終章です
書き終える心積りですのでどうか最後までお付き合いを…

とりあえず覚えてる範疇で書き直しているのでリハビリがてら短いですがご容赦を…


 

S06へ着いたときには満身創痍と言わざるを得なかった

もとより限界など越えているがやることはたくさんある

一番の優先事項は支払いができていない通行料を支払うことで取り敢えず銀行に同伴者を連れて口座から引き落とすところからだった

 

前世紀とはまた違うやり方であっても銀行はその役目を変わることなく運営している

ある程度金が出回っている証拠でありやはりグリフィンの保護地域に入れば金でどうにかできるということだ

 

順番待ちのため椅子に腰掛けてしまうと眠気がどんどん強くなって行く

そして、その時ことが起きてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ついに出てしまったか」

 

報告書に目を通しS06地区で起きた大規模な銀行襲撃の報告だった

403小隊の人間の関与が濃厚でありその現場にはセイカーの姿も確認されていた

 

こうなっては仕方がない

クルーガーとしては致し方ないと判断し命令書を発行する

 

内容としては『対象人物の捕縛もしくは殺害』だった

 

「まさか…生きているとはな」

 

書類には顔写真も付いており馴染みのある、今でも部下だと思っていた者の顔だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノーヴィ、アバカン、仕事だ」

 

救護所で十分に回復してきたスパークリーの看病をしていた2人にアンジェリカが単節に事を伝える

名残惜しくもスパークリーとの触れ合いは一度お預けだ

「行ってくる」「大人しく待っててね?」と立ち上がり2人は彼女に付いて行った

 

任務の概要は送られてきた人物を捕縛、殺害せよとの命令だった

最近この地区周辺では鉄血を率いた人間が統率を取りグリフィンやその他重要施設への襲撃を行い生活や経済にも甚大な被害を与えている

 

問題はその人物が元403小隊の人物であるという情報もあった

アンジェリカが少し苦い顔をして書類に目を通す

元とは言え彼女も403の人間だ、形はどうであれ元仲間を殺すのは気がひけるだろう

作戦区域、対象へのアプローチ、出没情報など事細かく書かれていることを頭に入れて行く

 

2人は黙って後をついて行きアンジェリカの指示の元で今回は2人での作戦行動をすることになった

戦術人形として義務を果たす、たとえそれが望まぬことでも彼女たちにとっては任務を遂行する以外自分たちというものを表現できない、それはかつての仲間だった彼も同じことだった

好きなように生きて、好きなように死ぬ…それは戦士として望ましい生き方なのだろう

たとえ、どんなことがあっても

 

取り回しの効くバイクで目的地まで移動するため装備を整え車庫に向かう

バイクのエンジンをかけたところで気づいた

アバカンの乗るバイクの座席の後ろ、ドラムバッグが開いていることに気づきジッパーを閉めた

 

『アバカン、行くよ。 先導して』

 

若干違和感を感じるものの言われた通り先導し街中を駆け抜けた

目標を仕留めるために



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閑話 いつかあったかもしれない日

これはあり得たかもしれない彼らの日常の物語である


403小隊が壊滅し新たに編成された人形と人間の構成部隊、タスクフォース•叛逆小隊が立ち上げられ早数年が経っていた

 

あれから難あれど任務を着実にこなし彼らは生き延びている

今の時代軍事的活動は人の入れ替わりが激しく3日もしないうちに誰かしらが入り消えてゆくのは珍しくないことだった

理由はどうであれ長く舞台に立っていられない者は少なくない

やはり人なり人形なり移り変わりに変化が少ない彼らの部隊は珍しい部類に入るのだ

 

何度か補充の人員は来たが変わり者しかいないこの部隊ではやっていけないことがすぐにわかり去るものばかりだった

それだけでなく与えられる任務も不利な状況から逆転させる、持ち堪えるための時間稼ぎなど生存率が限りなく低いというものもあった

 

ノーヴィやアバカンなどの人形は軍用戦術人形のプロトタイプということもありそんな科学者、技術者達の持てる全ての集大成とも呼べる傑作は容易く生産できるものではないため一般の戦術人形がついて来れない、人形での補充人員が取れないということが現状だった

 

珍しく暫くは休暇を取ることを許されたが別に何をするわけでもなく基地のヘリポートに居た

 

いつか戦場のど真ん中で拾った子犬のスパークリーは大きくなり今では部隊の忠犬として貢献してくれている

今でも変わらない無邪気さをもち名前の通り火花のように弾ける元気が日に日に増して大型犬になったことで少し手に負えられないぐらいに育っていた

 

彼らの中で育った忠犬は戦地に出れば一瞬で可愛らしい一面などない本来の狩猟衝動というものなのか敵の喉仏を一瞬で食い破る獰猛な狼のようになる

 

そんな忠犬と戯れていると例の如く2人がやってきた

休暇でも作戦でも同じ時間を過ごして来た大切な仲間達であった

過去の仲間達との付き合いには及ばないがそれでもそれに並ぶことができるほど大きなものだった

 

「あらセイカー、今日もスパークリーに遊んでもらってるの?」

 

「それだけが生き甲斐だ」

 

「おはようセイカー、スパークリー」

 

「あぁ、おはよう」

 

「わんっ!」とスパークリーが元気よく返事をするとアバカンが柔らかく微笑む

なかなか笑わない彼女だがスパークリーといると生々として笑顔になる

まるで本物の人間と一切遜色のない素敵な笑顔だ

 

セイカーが小さいボールをアバカンに軽くトスするとスパークリーはそれに釣られて今度は彼女に遊んでもらおうと追いかけ始めた

最近ではこの忠犬のお気に入りは握り拳ほどのボールで遊ぶことで投げればどんな犬でもELIDにだって負けない速さで取ってくるし、座って右から左へとボールを跳ねさせて遊んでやっても並ならぬ反射神経で追いついてくる

たまに取られるかその巨体で押し倒されるなどもしばしばある

我ながら優秀で、ちょっと困った一面を持った忠犬に育ったと思うと自然と頬が綻んだ

 

「あらあら朝から元気ね」

 

「喜ばしいことだ」

 

そんな2人を微笑ましく眺めている

会話は気が向いた時、好きな時にする

いつでもべらべらと喋る話題などないし、別に気を使う仲でもない以上そんなに無理に話すことはなかった

 

ポケットを漁るとしまったと今朝やってしまったことを思い出した

 

「あぁ…そうだった」

 

「どうしたの?」

 

「忘れ物をしてな、取りに行くにもスパークリーと遊びたくてまぁいいかと後回しにしてしまってね」

 

「まだボケるには早いんじゃないかしら、おじいちゃん」

 

「言ってろ」と毒づく彼女に言い返しているとアバカンとスパークリーが駆け寄って来た

まだ全然遊んでいてもいいのにどうかしたのだろうか

 

「もういいのか?」

 

「いえ、突然スパークリーが戻ったので私も」

 

この忠犬はエスパーでも持っているのだろうか

ここ数年で一番謎であった

聞いても言葉では返すことなんてできないがこの忠犬なら理解できていてもおかしくはないだろう

 

とりあえず忘れ物を取りに宿舎までぞろぞろと3人と一匹で行きセイカーの部屋の扉を開けた時だった

 

部屋に3人の女がいた

一人が403小隊からの付き合いであるアンジェリカだが他2人は見覚えがない

グリフィンの人形にしては何か違うし、どう考えても鉄血でも無ければ慰安用の人形とも思えない

冷静に見てみるとどことなくノーヴィの容姿とそっくりな感じがした

 

しかし普段の任務のせいかそんなことを考える前に流れるように拳銃を抜きノーヴィとアバカンが展開しスパークリーが廊下へ出て外を見張る体制が出来てしまっていた

 

冷静に考えて敵であるはずがないし危険はないとすぐに解るため意味もなく抜いた拳銃をホルスターにしまい2人も銃を下ろしスパークリーも部屋に入って来た

そんな様子をアンジェリカはため息をして見ていた

 

「…よくそんなに流れるように連携が取れるな」

 

「そんなものだ。 その2人は…例の新人か」

 

「まぁ、そういうことだ」

 

写真などの情報はなかったが新入りが2人来ると言うことが聞かされていた

もしかしなくてもノーヴィの姉妹機だろうと思うと若干気が重くなって来た

ノーヴィが3人に増えると言うことは普段ノーヴィを相手にする3倍は疲れるわけだ

 

「今失礼なこと考えたでしょ?」

 

「言っていないからセーフだ」

 

笑顔だが穏やかでない声色に臆することなく言いたいことを言うこの図は微笑ましく取れるのだろうかとどうでもいいことを考え改めて2人を見た

やはりノーヴィによく似ている

 

「初めましてだな。 私はセイカーだ」

 

「AK15だ。 期待していた通り、やはりあなた方は噂通りの部隊のようだな…!」

 

「RPK16です〜。 聞いてた通りに面白そうなところですね〜」

 

2人の新入りと自己紹介を済ませ連れて来たであろうアンジェリカが口を開く

 

「さて、新入りが来たと言うことはわかってるな?」

 

「はぁ…たまには君達が面倒見ると言うことはしないのか」

 

「私は見てて面白いわよ? 新人があなたに調教されるのを見るのは」

 

「私じゃとても…」

 

「わんっ!」

 

「馬じゃないんだぞ全く。それとアバカン、どの口がいうんだ」

 

新人の前にも関わらずいつもの雰囲気でいる仲間達を尻目に本題であるものを机から取り出した

それは2つの部隊章であり取り出し差し出す

汚れを知らない輝きを放ち、同じように彼らの左腕についているものはくすみ、汚れながらも失わない輝きを以てその威光を示していた

 

「ようこそ、叛逆小隊へ。 歓迎する」 




つい先ほどまさかの叛逆小隊追加(本家大陸版)の知らせを受けやりました
キャラについては情報が全くないので独断と偏見で書かせていただきました
あえてシスコン姉妹もしても良かったんですがイメージと噛み合わないのでやめときました

なんでこんなのやったかって?
仮に本編で登場させてもまともに合流させるわけないじゃないですか(混乱不可避)
まぁそんなこんなで気分で書かせていただきました
本編もぼちぼち書いてますがやっぱり間隔はどうしても空いてしまうのでご容赦を…

これからもこの拙い小説を最後までよろしくお願いします


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再会

俺は面倒が嫌いなんだ…お久しぶりですNobuです
時間開きすぎて大変申し訳ないです

スランプに就活にいろいろ重なりすぎて死んでました
もう一回死んできます

とりあえず、最後まで書き切りますのでよろしくお願いします


 

目的地の少し離れた位置でバイクを止め待機に入る

今回の任務は表立って行動せずグリフィンの支援に回るというものであるが練度が低く、操作できるダミーも多くて3体、酷いものはダミーも扱えない程だった以上正直グリフィンは期待できない

 

都心でも隅っこ寄りで人気のない廃ビルに対してドローンなどの偵察により鉄血人形と男の姿が家屋に入っていることが確認されている

 

ハイエンドさえいなければ少なくともある程度出入り口を固め突入すれば特に問題なく殲滅できるレベルでありアバカンとノーヴィだけでも殲滅できる、というもの彼女達はただ人形として練度は少しおかしいということでもあった

 

『ロメオ4-3、ロメオ4-2』(アバカン)(アンジェリカ)

 

「センド」(オクレ)

 

『突入部隊を支援してやれ。 ここのグリフィンの人形は練度が高くない、陣形を整えて戦闘態勢を維持して殲滅しろ」

 

「了解」

 

『4-4は待機し突入部隊が失敗したら追跡を開始しろ』

 

「了解、アウト」

 

「移動する。 ノーヴィ、また後ほど」

 

「いってらっしゃい」

 

通信モジュールを切りアバカンはバイクを降りて

徒歩で突入部隊へと合流しに向かった

そしてノーヴィもバイクを降りたかと思えばアバカンの後部座席に取り付けられたドラムバッグを開けた

 

「こんにちは、おチビさん。いつまで隠れているつもりかしら」

 

呆れた声で言い放ち、あろうことかバッグの中にはスパークリーが息を潜めていたのだ

出撃の際は少し急いでいたし、いつもしっかり閉めるアバカンのバッグが空いていたところから不審がっていたがよもや当たってしまうとは思わないだろう

 

「悪い子ね。 待ってなさいと言ったでしょう?」

 

強めの口調で叱ると「くぅ〜ん…」と情けない声を出して鳴き始めた

しかしノーヴィとしてはこの子犬は末恐ろしさを実感させられていた

 

行動力もそうだが大抵スパークリーが無茶な行動をする時は彼に会える可能性がある時でそれはどんなに低い時でもこの子犬は行動する

この犬には記録や根拠では言い表せない勘でもあるのだろうか

わざわざついてきたということは今回も彼に会えるという可能性が僅かながらあると言うことだった

 

「(でも、どうして? …いくら元403だからと言っても…)」

 

疑問と妄想のような願い事が膨れ上がるがどれもこじつけともいえるもので確証などない

アバカンが向かって行った建物を遠く見据えた

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイスマスクを装着し銃のボルトを少しだけ開け目視で弾を確認して閉めマガジン本体の歪み、内部の弾の並びを目視で確認ことはセイカーに確実にやっておくべきこととして教育を受け実戦でも活かしている

 

当然とも言わんばかりにマガジンは歪んでなどおらず、弾の状態も並びもなんら異常はない

既にグリフィンのチームがスタッグを組み突入を始めた

後ろからついていく

 

練度が低いとはいえダミーを用いた戦い方をする以上本体が損傷することはない

しかしダミーが尽きればそれまでの戦術

てんでなってない、しばらく様子を見て前衛に立つことを決心した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼんやりとした意識の中目を覚ますとどうやら椅子に座らされ目の前には鉄血人形の型番は確か、サブマシンガンタイプのリッパーだったはずだ

 

2体棒立ちでこちらを監視しているように見えるがそれはおかしな事であった

 

鉄血人形は人間を見れば殺しにかかる

例外などあるはずがないがあるとすれば今この状況だろう

いや、ノーヴィのハッキングがあればまた違うかもしれないがそれはないだろう

 

暫くすると扉が開き男が入ってきた

その人物はあろうことか放浪者のよく知っている顔であり、かつての仲間であった男だった

 

「久しぶりだな、セイカー」

 

「エヴァン…!?」

 

酷く動揺するのは仕方がなかった

眼前にいるのはかつてともに戦い生きているかもわからないが再会することを望んでいた仲間だった男だ

 

 

 

 



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