戦姫絶唱シンフォギア 三本角の英雄 (タロ芋)
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01
後悔はしてない!!!!
『いいかい、君は君だよ? そりゃまあ別の人物というか人外?になってるから仕方ないけどだけど、その中身は君自身なんだ。 誰かが言ってたけど "自分は自分にしかなれない" ってね。 だからさ、君はいつか君になればいいんだよ姿かたちが違う生き物でも根っこは君なんだからさ』
朧気な記憶の中、ただずっと心の中に留まり続ける。 そんな言葉が思い起こされる・・・
〇
星々が輝く夜空の下、ライダージャケットを着込んだ青年が夜の街を見下ろしていた。
「今日はなしか……」
そう呟き、屋上の縁から片足をおろし背中を向けようとするとどこからともなくコーカサスオオカブトを思わせる金色の機械的な昆虫が飛んできた。
「来たか」
それを見ると青年は下ろそうとしていた足を戻し、そこから飛び降りる。
常人ならば着地した瞬間にひき肉となるはずだが、青年は特に変わった様子もなく着地した。
それといつの間にか彼の傍には金色を基調としながら落ち着いたデザインのバイクが止まっており、ヘルメットを被るとそれに乗る。
そして少し走り出すと遠くから警報の音が鳴り響いた。
「やはりお前より遅いな ”コーカサス”」
そう呟きつつ、青年は片手をバイクのグリップから外し横へ掲げる。
すると黄金の光が手元に。
彼は一拍置くと───
「変身」
『HENSHIN』
瞬間、彼の体を閃光が包む。
光を掻き消すようにバイクが飛び出すと、その座席には先程の青年の姿はない。
──頭部は三本の短いツノと昆虫の複眼を模したナニカ
──肩から足にかけて銀色の鎧になっているが、右肩の方は大きくナニカを包むようなショルダーアーマー
──そして、腰には先程の光が
「さて、やるとするか」
呟き、その視線の先にあるのはカラフルなマスコットの姿かたちをする存在たち。
しかし、実態は触れるだけで人間を殺す災厄 "ノイズ"
その群れに対して、恐れることなくバイクのアクセルを握りさらに加速させ突っ込んでいく。
「キャストオフ」
その途中ベルトに装着された ”コーカサスゼクター”
その3本あるうちの上2本のゼクターホーンを弾く。
これにより全身の装甲の隙間にプラズマが走り僅かに浮き上がると、残った中央の角を真横へとたおす。
『CAST OFF』
ゼクターから電子音が流れ、全身の装甲がノイズたちに向け弾き飛び何体かをを巻き込んで灰化させる。
『CHANGE BEATLE!』
先程までの重装甲とは打って変わった軽装へと変わる。
重々しかった銀の装甲は全て排され、代わりに動きやすい黄金のプロテクターとなり。
右肩のショルダーアーマーは鋭いスパイクアーマーに。
頭部には顎を起点に巨大なツノがせせりあがり、装着されると3つにわかれ一際強くコンパウンドアイが発光し周囲へ衝撃波を放つ。
更に、それに連動しバイクのアーマー部分もすべてパージする。
前輪部分のタイヤが中心から2つに別れ、三本の長大なブレードがせせり出す。
コーカサスエクステンダーはマスクドモードから戦闘形態のエクスモードへの変形を完了させる。
そして、三本のヒヒイロノカネ製のエクスアンカーにタキオン粒子が収束させプラズマを放つ。
その一撃必殺の突進は悉く行く手を阻むノイズを灰塵へと還し、かなりの距離を進んだところでようやく止まりその席から戦士はゆっくりと降りた。
「さあ、
ぼそりとマスクの下でつぶやいた言葉は戦場の音に掻き消され、戦士はその奥底に秘めた力を開放させる。
○
煤や火の粉が舞う戦場の跡地に一つの影が現れる。
「……また、か」
剣や刀を思わせるプロテクターを纏い、蒼い少女は目の前の光景を見て呟く。
「こちら ”風鳴翼” ノイズは確認できませんが煤と戦った後の痕跡。それと同様のタイヤ痕から恐らく ”彼” の仕業かと思います」
少女は周囲の確認のため歩きながらインカムに向け報告し出す。
『こちら本部、了解だ翼。後始末は一課のまかせて至急帰投してくれ』
「了解しました」
通信を切り、最後に翼と呼ばれた少女は目の前の惨状を見渡して呟く。
「貴方は一体何者なの?」
○
ある戦士の話をしよう。
いわく、彼は突如としてその姿を現し、通常兵器のきかないノイズを倒す。
いわく、彼が現れる前は必ず黄金の光がどこからともなく表れる。
いわく、一瞬だけ目を閉じたときには煤しかその場には残っていない。
いわく、彼は必ずバイクに乗ってくる。
いわく、彼は誰にも素顔を見せずマスクをつけている。
さまざまな話から、人々は彼に対し畏敬の念を込めこう呼んだ三本角の黄金の戦士 ”仮面ライダー” と……
感想とかアドバイス、批評を待ってます。本当に
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02
ある昼下がりの午後、2人の少女が綺麗に整った庭園を歩いていく。
その奥に見えるのは大きな西洋風の舘が見えるが、彼女たちはそこには向かわずにそのすぐ側にぽつんとある小さなガラスドームの扉を開ける。
「おっ邪魔しま〜す!」
「お邪魔します天道さん」
「…… "響" "未来" 幾らなんでも年頃の少女が何処の馬の骨ともしれない男の家に入り浸るのはどうかと思うぞ?」
彼女たちを迎えるのは様々な植物に囲まれた空間にいた平坦だが、呆れ混じりの声色で呟く "天道" と呼ばれた青年だった。
「いやあ、近場でお出かけ出来てそれなりに楽しめそうな場所がココしか思いつかなっくて〜」
「この前一緒に植えたお花の状態が気になったんです」
2人のセリフに天道は少しだけ空を仰ぎ、2人に視線を戻した。
「…… いま水をやろうとしていたところだ。いるのなら手伝え」
「「はーい」」
なぜこんなことになったのだろうか?
天道総司こと、仮面ライダーコーカサスは感情の見せない瞳で2人の少女を見ながらぼんやりと思う。
『それはお主がなんだかんだ言いながらあの娘たちを拒絶していないからではないか?』
すると、天道の頭の中に壮年の渋い男の声が聞こえた。
「喧しいぞコーカサス」
2人には見えないよう隠れている彼の背後の木の幹にはコーカサスゼクターが止まっており、相棒の声に天道は不機嫌そうに答えながら同じことを思う。
なぜこんなことになった? ……と
〇
立花響が "彼" 天道総司と出会ったのは些細なきっかけだった。
いや、彼やほかの人からしたら些細なことではあるが響にとってはとても大きく大切な思い出だった。
「ほーら、怖くないよ〜。おいで〜」
「んにぃ……」
中学生の頃から立花響は度を越したお人好しであり、その日も響は木の枝に登り降りれなくなった子猫をスカートだと言うのに気にせず慣れた様子でよじ登り子猫を助けようとしていのだ。
なお、既に時間は親友のモーニングコール虚しく急いでも遅刻確定であり半ば悟りの境地である。
「よーし、もう少しもうすこーし」
「にゃあ〜……」
子猫を抱き上げようとしたところで、もともとそれほど太くもなかった枝がついに限界を迎えたのかミシミシと嫌な音が鳴る。
「あ、やば……」
そう呟いた瞬間、子猫諸共響は落下していた。
「わひゃぁぁぁあ!!?」
「うむ?」
響は目を瞑り、やってくるであろう衝撃を身構えたがやってきたのはほんのちょびっとの衝撃だけで精々おしりが少し痛んだ程度だった。
「あ、あれ?」
「にゃー」
恐る恐る目を開け自分の体を確認する。骨折すると思う落下の仕方だったはずなのに自分は地面に座り込むような感じになっており、子猫も無事で奇跡が怒ったのかと思ったが
「おい、平気か? 一応衝撃を受け流して座らせたが……」
そんな声が頭の上から聞こえ、見上げてみる訝しげな視線を向けてる和服のような服を着た何故か豆腐の入ったボールを持ったイケメンのお兄さんがいた。
「うぇぇえ!? す、すみません! ありがとうございます!!」
「ああ、礼には及ばんさ。それくらい元気なら平気そうだな。 ……見たところ近くの中学校の生徒だが学校はどうしたんだ?」
青年は響の姿を見て言うと、彼女はその言葉に自分がやばい状況ということに思い出した。
だが、子猫を助けられたから満足ではある。
「あ! そう言えば遅刻しそうだったんだ! すいませんえっと……」
目の前の青年が響の詰まった声に察したのか、軽く微笑んで(響からしたら無表情)名乗った。
「総司。天道総司だ。天の道をゆき総てを司る…… そんな男に憧れる凡夫さ」
軽く皮肉げな自己紹介に、響は
「助けてくれてありがとうございます総司さん! 私、立花響っていいます。13歳です!」
そう言ってその場をあとにしようとした響を天道が引き止める。
「ちょっと待った、今から走っても間に合わない。 ここであったのも何かの縁だ。俺がバイク送っておこう」
「え、でもそんな悪いですよ。それに、バイクなんてどこにも……」
「ああ問題ない。
「え?」
天道の言葉に響は首をかしげると、鼓膜にバイク特有のエンジン音が聞こえてきた。
音のしてきた方向に首を動かすと、そこには公園の入口のすぐ側には変わったデザインの金色のバイクが止まっていた。
「さて早く行くとしよう」
「えぇ!? どうやってバイクがあそこに!? というか総司さんボールどこにやったんですか!?」
「気にするな。それより早くヘルメットつけてくれ」
「んにゃー」
いつの間にか総司はヘルメットを頭に装着し、服の胸元には先程の子猫が収まった状態で響にヘルメットを渡す。
「ええ〜……」
何が何だか分からないことに響は苦笑いを浮かべるが、すぐにいつも通り満面の笑みを浮かべ、ヘルメットを頭にかぶせる。
「まっ、いっか! お願いします総司さん!」
何気に適応能力が高いのが彼女のいいところである。
「ああ。きちんと掴まれよ」
「はい!」
その後、響はどうにか朝のHRには間に合ったがバイクで校庭にダイナミック登校したお陰でクラスメイトや親友から総司のことを質問攻めにされ結局担任に怒られることになる。
〇
「総司さ〜ん、今日の晩御飯ってなんですか?」
「あ、私も気になります天道さん」
「スーパーの特売で手に入れた野菜たっぷりの具沢山カレーだ」
「わーい! 総司さんのカレー大好きなんですよ私!」
「わかったわかった。 わかったからスカートでごろごろするな!」
ガーデニング作業を終え、リビングのソファにねそべる響や机の上に食器を置いていく未来、台所で鍋をかき混ぜながら響を窘める総司。
「あ、そう言えば未来〜。 また "仮面ライダー" が活躍したんだって!」
「そう言えばココ最近良く話を聞くね。ノイズが増えてるのかな?」
「んー、警報がなる前に全部倒しちゃってるからわかんない。 けどやっぱりかっこいいなー! みんなお髭お髭いうけどそれが良くない!」
「響ってば本当に仮面ライダー好きだよね」
「そりゃあもちろん! 今は "ツヴァイウィング" と "仮面ライダー" がトレンドだからね! もしあったらサイン貰うんだ〜」
雑誌を広げ、でかでかとプリントされたコーカサスの写真を見て特撮を見る子供のような声を上げ響は未来と話を咲かせる。
総司は自分のことを話されているので、なんとも言えない顔(はたから見たら無表情)で鍋をかき混ぜソレを2人から見えない位置でコーカサスゼクターが茶々を入れる。
これがココ最近の日常。
もともと自分一人で暮らしていたこの館には荷物がほとんどなく、ほぼ空き家みたいな状態だったというのにこの2人がほぼ毎日来るために気がついた時には使わない収納スペースには彼女たちの私物で埋まっていたり、あちこちに女の子らしい小物が置かれていたりする。
挙句にはお泊まりセットもある始末で、親御さんはどうなっているだと総司はいつも思う。(親公認である)
「さて、出来た。 2人とも運んでくれ」
「わーい、今日も美味しそ〜!」
「いい匂い♪」
2人が目を輝かせ、自分と未来の分は普通盛りにし響ように多めにご飯とカレールーを皿に盛り各々自分の席へと運んでいく。
「「「いただきます」」」
同時に手を合わせ、合掌して晩御飯を食べていく。
育ち盛りなため、凄まじい速度で減っていく響のカレーを横目にマイペースに食べていく。
「美味ひい〜♪」
響は幸せそうに食べてると、
「あ、響ほっぺにご飯粒ついてるよ」
「え、ほんと? 未来とって〜」
「も〜、仕方ないなぁ」
響の頬に着いたご飯粒をとり、未来はそのまま口へと運ぶ。
優しい日常。
気がついたら自分の世界に彼女たちがおり、自分は1人じゃなくなっていく。
だが、
「これも悪くないな」
「? 何か言いました総司さん」
「いいや、なんでもないさ」
出来ることなら、彼女たちはこのまた陽だまりの世界にいて欲しい。
感想、評価、批評やアドバイスを切実に待っております。
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03
「フッ」
短く息を吐き、素早く打ち出した拳が空気を引き裂き葡萄のような形をしたノイズを貫き爆散させる。
「ラァッ!」
鋭い蹴りがノイズを横へと両断し、高くあげた踵を勢いよく振り下ろし地面を陥没させるほどの衝撃で纏めてノイズを吹き飛ばした。
「やはり数が多いな」
場所はどこかの工場内。
その敷地はかなりの広さで、マスク越しでもわかるほどのオイルや薬品の匂いで火気厳禁だと思いつつ飛びかかってきたノイズへ裏拳を叩き込む。
かれこれかなりの数を倒したが、元気が衰える様子のないノイズたちに軽く鬱陶しくなってきた。
だが奴らを野放しにできないために作業とも言える駆除を繰り返す。
長い間こうした害虫駆除みたいなことをしてくると、もはや悟りの境地に至りそうだと思いつつ力を込める。
「仕方ない。 一気に決めさせてもらおう」
呟き、右手を横へと掲げようとした時にコーカサスゼクターが声を発する。
───気をつけよ総司。 上からなにか来るぞ
「む?」
掲げた手をおろし、アイロンのような手で殴りかかってきたノイズの攻撃を受け流し、短い足をひっかけ体勢を崩した所に手刀で地面諸共貫き消滅したところで迫る気配へ視線を向ける。
見えたのは空高くに滞空していた戦闘ヘリから飛び降りるふたつの乙女。
感じるのはフォニックゲインの奔流。
荘厳なる星星の煌めきの中で2人の歌姫がその歌を口にする。
絵画のような場面にマスクの下で息を飲む。
「"Imyuteus amenohabakiri tron"」
「"Croitzal ronzell gungnir zizzl"」
落下する2人の歌姫を光が包み、純白のプロテクターが装着され華麗に着地する。
清廉にして荘厳なる美しき戦姫。
これがシンフォギア……
───ほう、まさかここで奴らと遭遇するとはな。 どうするのだ総司?
不敵な声に飛来してきた飛行型ノイズの攻撃をカウンターの回し蹴りを放ち、蹴り砕きつつ答える。
「どうでもいい。 掃除の邪魔をしなければな」
───フッ、それもそうだな
「おーおー、相変わらずの蹂躙ぶりだなー」
こちらに目もくれず戦い続ける重装甲に身を包んだ戦士を見ながらシンフォギア "ガングニール" の装者、天羽奏は笑みを浮かべながら口を開く。
「それで、どうする翼? 一応ノイズ残ってるけど」
「ええ。 だけど彼には捕縛命令が下されている」
もう1人のシンフォギア "アマノハバキリ" 装者、風鳴翼の声に総司は少しだけ意識が向いた。
──当然そうであろう? ノイズには本来なら奴らの用いる聖遺物で倒せるというのが共通の常識。
だと言うのに別の手段で倒せるものがいるというのならなんとしても捕まえたくもなる。
それもそうか。
本来、ノイズには物理攻撃を無効化する位相差障壁がある。
だがそれをシンフォギアシステムの "調律" を使用し、強制的に人間世界の物理法則下に引きずり込んで位相差障壁を無効化していた。
彼の用いるマスクドライダーシステムには無論そんなものは無い。
それに、彼自身なぜノイズを倒せるか知らない。
「奏…… お願いしてもいい?」
「…… ハイハイ。 幸いアイツがノイズをだいぶ倒してくれてるから任しときな。 翼はちゃちゃっと仮面ライダーを捕まえてよー?」
「うん。ありがとう奏」
どんと胸を張る奏に翼は頬を赤くして、熱の篭った視線を向ける。
───ふむ、なにやらあそこの空気が桃色になっておるな
「ちゃちゃを入れるなコーカサス」
いくら戦ってるのが自分のため、暇だからと言ってこうも喋られると鬱陶しく感じてくる。
そうして、奏とは真逆の位置にいる近くにいたノイズを全て処理し終えた総司の元へ翼は歩き出す。
「…………」
「仮面ライダー、貴方には捕縛命令が下されています。 大人しく私たちに投降して下さい」
断れば力づくで、と刃を構える翼に総司はやれやれと言ったように首を振る。
こうなる前に方をつけたかったのだがなぁ
できる限り彼女たちとは戦闘を行いたくはない。
両手を上げ、戦闘の意思はないと伝えようとしたが、その寸前で脳裏に響と未来2人の笑顔が掠めた。
あげようとした手が下がる。
何故か彼女たちの笑顔が離れると思うと胸がざわつく。
───ならば……
「戦うしかあるまい」
人に対し拳を振るうのは己の信条を反する。
しかし、それでもとゼクターホーンへ手を伸ばし、2本の角を弾いた。
「キャストオフ」
装甲が浮き上がり、残ったゼクターホーンを横へと倒す。
『CAST OFF』
勢いよく装甲が弾け飛び、銀から黄金の戦士へと姿を変えた。
『CHANGE BEETLE!』
角がせり上がり、3つにわれると周囲へ衝撃波を放つ。
「「…………」」
両者は互いに対峙し、無言で構えをとった。
二人の間に風が吹き砂塵が僅かに舞う。
「おっりゃあ!!」
そして離れた場所から奏の戦闘音と声が聞こえ、それが戦闘開始とゴングの代わりとなる。
「ハァァッ!!」
勢いよく地面を蹴り、踏みしめた1歩だけで距離を詰め常人では回避不能の鋭い一撃が捉え───
「───」
ることはなく、刃が当たる瞬間に手甲で剣の軌道を誘導するように動かし、その攻撃を受け流した。
「なッ……!?」
零距離、額が触れる距離で翼の驚愕した顔が見える。
敵を前にしてそれは悪手だぞ?
「ハッ」
僅かにできた隙を利用し、彼女へと掌打を放つ。
その一撃は確かに翼をとらえ、後ろへとその軽い体を吹き飛ばした。
しかし手応えが少なく、僅かにそのマスクの下で眉をひそめる。
───ほーう、先の攻撃の一瞬のあいだに防御しつつ、後ろへ飛ぶことで威力の大部分を逸らすか。 まだ若いというのに大したものよ
お前は一体どっちの味方なんだ?
───無論、貴様に決まっておるだろう? だが確かな実力を持つものを称賛するのも大事だ
相棒の返答に真顔になりつつも、その意識は前方へと向ける。
「クッ、やはり一筋縄ではいかないか」
地面にぶつかる瞬間、片手でバランスをとり体操のように回転し地面へ着地した翼は鈍い痛みに呻きながら声を漏らす。
『
彼女の師であり叔父の "風鳴弦十郎" の言葉を思い出す。
別に自分の力を過信したというわけなどではない。ただ、人類を守る剣として、防人として戦う翼は目の前の存在がどうしてもわからなかったのだ。
戦場にふらりと現れてはノイズ諸共周りを掻き乱し、人類の敵かそうでないかハッキリさせない中途半端さに。
それを確かめるため、翼の内心を読み取り奏は行かせてくれた。
その事に気恥しさがあるが、自分を信頼してくれている彼女に嬉しく思う。
だから、
「私は負けるわけにはいかないんだッ!!」
叫び、その手には2本目の刀が現れる。
ダンッ!!
地面を踏み砕き、コーカサスへ切りかかる。
放たれる怒涛の斬撃。
大気を引き裂き、震わせる攻撃を休めず続ける。
その度にコーカサスは防ぐ、逸らす、避ける。
装甲に刃がぶつかるごとに火花がほとばしり、衝撃が地面を砕く。
「私は負けない!!」
双剣の柄を連結させ、刃に炎を纏わせ振り回す。
【風輪火斬】
「グッ!?」
その攻撃をはじき返す。
だが、衝撃は消しきれずたまらず声が漏れた。
「信じてくれた
後方へ飛び、瞳に炎が点る。
「今ここで超える!!」
一瞬の構えから、地面が爆ぜ姿が掻き消える。
【無月】
瞬間、目にも止まらぬ速度ですれ違いざまに神速の居合切りを放つ。
「ガァ!!?」
防ぎはした。だが、完全には威力は相殺しきれずに黄金の装甲から火花を散らし吹き飛ばされる。
──さすがに素手では厳しいか?
──ならば俺を呼べ総司。 こういう時こそ俺の出番だ
その声、"ヘラクス" か
コーカサスゼクターとは別の声が聞こえ、空間から銀色の光と1本の剣が飛び出す。
「仕方ないか」
あまり乗り気ではないが、このままではジリ貧でもある。
ゆっくりと立ち上がり目の前の地面に突き刺さった "ヘラクスブレード" を引き抜く。
銀色のヘラクレスオオカブトのようなロボット "ヘラクスゼクター" がヘラクスブレードへと自動的に装着される。
「変身」
つぶやき、ゼクターを僅かに傾いていた状態から90度回転させた。
『HENSHIN』
ゼクターから電子音が鳴り、腕を起点に全身を無数の小さな六角形が覆い光を放つ。
光を引き裂きソレは現れる。
金色だった装甲は銀色へと変化し、頭部のライダーホーンは突き出すよう変形する。
青い複眼は深紅となり、ショルダーアーマーも形を変えた。
──さぁ "仮面ライダーヘラクス" のお披露目だ小娘
ヘラクスブレードを構え、その赤い複眼を輝かせる。
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04
風鳴翼は目の前で起きた予想を超えた出来事に驚愕した。
ライダーが空間から現れた機械的な見た目の剣を握ったかと思うと、銀色の光が剣の峰部分へ装着される。
それは突然だった。
剣を起点に全身を無数の小さな六角形が包み込む。
閃光を放ち、シルエットが少しずつ変化したかと思うと次の瞬間には光を引き裂き姿が一変した戦士がそこにはいた。
黄金から銀へ、拳から剣へ。
拳士から剣士となった戦士は自身の状態を確かめるかのごとく、剣を振るう。
「ッ!!」
たったそれだけだと言うのに、剣士として翼の本能が警鐘を鳴らす。
──アレは野放しにしてはまずい、と
先に動いたの翼の方だった。
再び一瞬の構えから距離を零にし、不意打ちのように必殺の居合を放つ。
【無月】
その流れるような美しき一閃は確かに仮面ライダーを捉え、傷をおわせ切断しかねない一撃であった。
誰もがそうおもえるほどの一瞬の攻撃。
だが、当人を除いてだが。
「なっ…… に……?」
【Rider Slash】
予想に反して手傷を負ったのは翼の方だった。
切りかかる、神速の抜刀術を放ったのはいい。だが、それよりも速く、正確な攻撃を放ったのだ。
翼が切りかかるやいなや、やつは剣の峰にセットされていたヘラクレスオオカブトのようなものが180度回転させ振り抜き一閃。
己の動体視力を超える雷を纏わせた刃の一撃に翼は数十メートルも吹き飛ばれる。
だが、体勢を崩さずすぐにも持ち直したのは風鳴としての意地かそれとも彼女の技量か。
ピシリ、小さな音だがたしかにそんな音が自身が握るアームドギアの刀身から響いた。
「剣の心得すら…… 持っているのか……!」
半ばから折れた刀身を見つめ、翼は気圧されたように叫ぶ。
深夜の時間、極寒とまでは行かないはずだが冷える時間だと言うのに翼の背中に汗が伝う。
ただ無言で剣を構え、姿の変わった仮面ライダー。
気圧された翼だが、怖気付いた訳では無い。
寧ろ同じ土俵に立たれたことで余計に負ける訳にはいかない理由ができてしまった。
「風鳴翼、推して参るッ!!」
──おい総司、お前手加減しただろ?
当たり前だ馬鹿野郎。 今までだって殺さないよう手加減していたのをお前は…… 勝手にライダースラッシュッを発動させやがって彼女を殺す気か?
──こういうのは最初が大事だろ? それにこれでやられればその程度の相手だったというだけだ
お前なぁ……!
好戦的な性格のヘラクスゼクターに頭を抱えたくなる。
だが双剣を操り、お姫様の激しくなった攻撃を最小限の動きで捌くのに意識を割いているためそれ以上の返答ができない。
──クックックッ、これだけの相手と立ち合える。心が踊るではないか!!
こ、の
──フハハハハ! 強者と命をかけた戦いこそが俺の生きがいである!!
ええい!!
つばぜり合いに持ち込み、刃がふれあい火花が暗闇を照らす。
こちらを見下ろす形で剣を押し込む仮面ライダーを睨み付ける。
「お前はなぜ戦うんだ!」
「…………」
「それだけの力がありながら!」
「ノイズを壊すだけなら器用な技など必要のないはずだろう!?」
切り払い、後ろへ逃げようとしたライダーに肉薄する。
「ッ!!」
「ハァァァアッ!!」
【蒼ノ一閃】
【1】
【2】
【3】
ヘラクスゼクター内部で生成、貯蓄されたタキオン粒子が刀身へ供給。
タキオン粒子がプラズマとなり巨大なエネルギーブレードを形成する。
【Rider Strash!】
エネルギーの奔流が互いを喰らい合い、波動となって周囲をつつみ爆発する。
そして、青い影が落下し地面へと墜落する。
それとは対照的にゆっくりと地面へ着地するのは銀の光。
──届かなかった……
全身の装甲がヒビ割れ、ダメージに呻きながら翼はこちらを見下ろすヘラクスを見て悔しげに歯を食いしばる。
悔しい、これだけ自分が全力を出しても奴はそれ以上の力を持って叩き潰す。
底の見えない強さに翼の心に暗雲が立ち込める。
「お前の…… お前の目的はなんなんだ…… 仮面ライダー!」
何もせず見つめる赤い複眼は答えず、こちらへ背を向ける。
「敗者には…… かける言葉すら無いというのか……!」
「翼ァ────ッ!!!」
暗闇を引き裂き、天から無数の光が降り注ぐ。
声は工場の外、はるか上空から聞こえた。
槍の雨と言えるそれは等しく破壊をもたらし、翼の心に生まれた闇をヘラクス諸共飲み込んでいく。
【STARDUST∞FOTON】
瞬く間に無数の槍で作られた山と砂塵に消えたヘラクス。
呆然とした様子の翼にひとりと歌姫が側へ降り立つ。
「奏、どうして!?」
「ちょろっと嫌な予感がしてな。 急いでノイズども蹴散らしてきたんだよ。 んで案の定だ…… こっぴどくやられたな翼」
「ッ、ごめんなさい…… 送り出してくれたのに私は」
「そう自分を責めるなよ。 それなら行かせた私も同罪だっと…… オイ、聞こえてるんだろ仮面ライダー! あとはアンタだけだ!!」
答えるように山の一角が爆ぜ、砂塵を引き裂き銀の戦士が現れる。
「ハハハ、わりと全力でぶっぱなしたのにああも無傷だと自信なくすわな。オイ」
威風堂々と現れたヘラクスに奏は静かに舌打ちする。
ノイズなら簡単に破壊できる最大の一撃を受けてなお、確実に地を踏み、その鎧に傷一つ付けられないことに変な笑いが込み上げてくる。
「オイオイ、まさかアレ全部切り払ったのかアンタ?」
奏の問に返答とばかりにヘラクスはその手に握られた光の槍を握り潰す。
ゆっくりと
遊びは終わりだ、と言わんばかりに。
これから始まるのは真の殺戮。
愚かにも立ち向かった乙女を細切れにすべく向かってくる。
だが、退くわけにはいかない。
それはなぜか?
それは2人はシンフォギアを纏う戦士だからだ。理由はそれだけで十分。
「奏、やつは別格。1度見せた技は通じないと思って」
「おうさ。 さっきの攻撃を簡単に見切られたからな」
2人は覚悟を決め剣と槍を構える。
到底自分たちがかなう相手とは思っていない。だが!
ノイズに怯える弱き人々を守るため、唄を歌う戦士として退くわけにはいかない。
自分たちが退けば誰が戦う? 誰がノイズから人々を守る?
確かに1人ではあの戦士に刃が届くことは無い。しかし、2人ならば!
剣と槍を重ね、片翼ではなく双翼となるならば!
『ツヴァイウィング』の翼ならば大空をはばたける───!!!
「行くよ奏!」
「おうさ! そっちこそ途中でへばんなよ翼!」
武器を構える2人の歌姫。
第2ラウンドが始まるかと思えたが、それに水を刺したのはあろうことか仮面ライダーの方であった。
「…………ッ!!!」
戦意を高める2人を無視し、工場の外へ視線を向ける。
明らかな隙、だというのに2人は切りかかることは出来なかった。
理由は不気味であったり、なにかの罠だったりといくつもあるが何よりも奇妙な感覚が胸を走ったからだ。
最初に駆け出したのはヘラクスであった。
もはや歌姫たちは眼中になく、工場の外へと駆ける。
翼と奏は顔を見合わせ、声を荒らげてヘラクスを追いかける。
「待てコラァ! おいあれだけ煽っておいて逃げんなァ!!」
「速い!?」
『翼、奏、緊急事態だ!』
するとインカムから荒らげた風鳴弦十郎の声が聞こえ、2人は立ち止まる。
「なんだよ旦那! いまあたし達は忙しいんだよ!」
『ノイズの援軍だ! デカいぞ!!』
「なッ!?」
その時、おおきな地震がおこる。
急いで工場の外に出ると、見えたのは多くの遮蔽物があるというのにひときわ巨大な影であった。
「でッかぁ…………」
「うそ……」
十五メートルは超えるであろう巨体に絶句する。
まだ数メートルほどなら対応はできる。だが、あれほども巨大さともなるととてつもない耐久力を持っているだろう。無論、攻撃力もあの巨体通りだというのなら想像もしたくない。それが2体だ。
ノイズの恐ろしさは大きさではなく、その数だ。だが、あの巨大なのはそんな次元ではない。
絶対にあのノイズを街に出してはならない。
出してしまっては途轍もない被害が出てしまう。
ここで食い止めなれければ。
翼は刀、奏は槍を。各々は武器を握る手に力を込める。
2人は覚悟を決め、走り出す。
その時、
『いいか2人とも、反応は2つ。片方は彼にまか───』
【Clock Up!】
…………………………………………
【Clock Over!】
『なッ……! 反応が全て消失しただと!?』
地響きが地面を揺らす。
そこには片方の大型ノイズが体を煤へと分解されていく。
上空にはヘラクスが剣を逆手に持ち、装着されたゼクターの足を順に押していく。
【1】
【2】
【3】
「…… ライダーアバランチ」
360度ゼクターが回転し、ヘラクスが呟くと同じようにゼクターから声が発される。
【Rider Avalanche!】
「ハァアァァァアッ!!!」
大量のタキオン粒子がヘラクスブレードへ供給。
プラズマとなったタキオン粒子がエネルギーを発生させ、翼が受けたものとは巨大なエネルギー刃が形成される。
『■■■───、■■■■■■─────!!!?』
空間を歪ませるほどのソレはノイズへと突き刺さり、内部から破壊していく。
あちこちからエネルギーを放出し、もはや原型を留めないほどに破壊し尽くされてなお真っ二つに両断され、煤へと還る。
そして、爆発。 煤や工場の薬品を巻き込み更に炎上し爆発を引き起こす。
連鎖的な爆発は2人の視界を奪い、爆発音が聴覚を奪う。
微かに見えたのはこちらを見つめるヘラクスの姿。
「ま、待って!!」
翼がヘラクスへ駆け寄ろうとするが、すぐに彼女へ背を向け炎の中へと消えていく。
聞こえるのは彼が現れることを表すエンジン音だけだった。
『俺が戦う理由。 それは贖罪だ』
炎に消える前、翼の耳には確かにそんな声が聞こえた気がした。
「……」
胸元を握りしめ、翼はどこまでも後悔や怒り苦しみといった感情の籠った彼の声に苦々しく顔を歪めた。
〇
「仮面ライダー、完全に信号をロストしました」
「そうか…… 二次災害拡大の恐れがある。 避難地域の拡大、避難誘導を急げ」
「了解しました司令」
弦十郎の言葉に職員は慌ただしく動き始める。
彼が見るのは巨大なモニターに映し出され黄金から銀へと変化した仮面ライダーの姿。
だが、すぐに風鳴翼と天羽奏が映し出された。
2人の無事を確認し、弦十郎は安堵の息を深く、そして長く漏らす。
翼の方は見たところ打ち身や擦り傷だけで、先程の戦闘の激しさからは想像できないほどの軽傷で明らかに彼が翼に手を抜いていたのが理解出来る。
翼が仮面ライダーに戦闘をしかけたと聞いた時は喉から心臓が飛び出しかねないほど肝が冷えたし、自分が何度前線に出ようとしかけたことか。(実際出ようとして職員の大半が引き留めようやくやめた)
だが、これにより確信に変わった。彼は人を殺めるという考えはないということに。
「お前は何を目的に戦うんだ?」
脳裏に映るのはかつて家族とはぐれ、ノイズと遭遇してしまった少女を身を呈して守る仮面ライダーの姿。
人身売買や違法な人体実験を行う組織を壊滅させ、子供たちに囲まれ右往左往している姿。
「お前の守るものはなんなんだ…… "コーカサス"」
〇
「うわー、某大企業の工場な原因不明のガス爆発で一帯が壊滅的な被害ですよ総司さん!」
「ああそうだな。 あと近い」
響たちの学校が休みの日、でかでかと印刷された朝刊の記事を響が机に乗り出してそのページを見せてきた。
それを未来が注意する。
「もう、響! 行儀悪いよ?」
「ごめーん。 それにしてもまたガス爆発…… ガス会社の人たちも大変だね〜」
「そうだね。 ここら辺も少し前にあったらしいし……」
「ズズッ……」
モーニングコーヒーを啜り、ぼんやりと記事を見る。
──クハハ、随分と派手に暴れたなヘラクス
──心が踊る立会であったぞコーカサス
お前らなぁ……
2体のゼクターの会話にこめかみを押え、苦虫を数百匹まとめてかみ潰したかのような表情で天井の照明に隠れてるコーカサスとヘラクスを睨みつける。
そのとき、
──まったく、2人とも余り総司くんを困らせてはいけませんよ?
温和な男の声が脳内に響く。
──む、その声 "ケタロス" か
──おお、ケタロスか! 昨晩の立ち会いはじつに心が踊る時間であったぞ!!
ケタロス、お前からもこいつらに何か言ってくれ……
少しの希望を込めたように言うと、ケタロスは。
──総司くん、次はもうちょっとローアングルで頼みます。 彼女達の絶対領域をこのメモリーにやきつけry
ダン! 思わず総司は額を机にぶつける。
「うわ! どうしたんです総司さん!?」
「大丈夫ですか……?」
「あ、ああちょっと昨日寝不足でな」
──美少女2人が一人の男性を心配する顔…… 最高ですね
ケタロスゼクター、こいつも例に漏れずほか二体とおなじ少し…… いや、かなりどうしようもない
ケタロスゼクター登場なり
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05
ノイズが特異災害として認定をされてからおよそ10年と数ヶ月。
"仮面ライダー" がその存在を現したのは米国の首都であった。
当時、米国の首都には無数のノイズが埋め尽くし、建物と人々を蹂躙していた。
見上げるほどのビルは大半が倒壊し、地面には人のなれ果てである炭素の塊の山が埋め尽くすほどだった。
当然、米国政府は選りすぐりの精鋭で構成された軍を首都へ出動させる。
しかし、米国の最新鋭の兵器はノイズの位相差障壁のまえで物理攻撃は無力であった。
最新の兵器はあっという間に無力になったことに、兵士たちからしたら悪夢だっただろう。
兵士たちは弾丸をばらまき、何とか応戦するが焼け石に水ともいえる行動は逆にノイズの注意を引き一人また一人と痛みを感じる間もなく炭素へと変わっていく。
誰もが絶望し、生きることを諦めていた。
その時、一斉にノイズたちは電源が切れた機械のように動きを止めた。
目の前に人間がいるというのに微動だにぜず、機能を停止したノイズに疑問を覚えたときソレは現れた。
コツコツと足音を響かせ、炭素の塊が広がる地面を悠々と歩くひとつの影。
黄金のアーマーを纏い、顔には特徴的な配置の三本の角に蒼い複眼のマスクが顔全体を覆う。
そして右肩には昆虫の角をもしたショルダーアーマーがあった。
「いたッ……!」
その時、逃げようとして転んだ少女の近くにいたノイズが動き出しその腕を振り下ろす。
「───」
だが、その寸前その腕は少女の顔のすぐ手前で止まる。
否、その人物がノイズの腕を掴んだからだ。
普通ではありえない光景に周囲の人々は息を飲む。
人間では決して触れられないノイズに当たり前に触れ、あまつさえ掴んでいる。
「オォォォ……」
空気が震える。
「ォォォォォォォオォォオッッ!!!!」
雄叫びを上げその人物は、否、戦士はノイズの頭を掴み地面へと叩きつける。
そして、目に追えぬほどの速度で駆け出し別のノイズの顔面へと拳を叩き込む。
そして、それが合図となり至る場所から夥しい数のノイズが現れる。
彼がノイズたちに囲まれるのはそう時間がかからなかった。
だが、その戦士はたじろいだ様子はなく寧ろ不敵な笑みを感じさせる態度でノイズたちに手を掲げ、指を自分側に数回曲げるという挑発すらやってのけた。
蹂躙が始まる。ただし、ノイズたちが蹂躙される側となってだが。
人々は目を疑った。
位相差障壁をものともせず、その拳で足でノイズを粉砕する姿に。
確実にノイズの数を減らしていくその戦いに。
【1】
【2】
【3】
「ライダーブラスト」
【Rider Blast!!】
波動を放つ拳を地面へと叩きつけ、拳を起点に地中へとエネルギーが注ぎ込まれプラズマが波紋のように広範囲へ広がり、範囲内にいたノイズをまとめて爆散させる。
『■■■■■■───ッッ!!!』
「ライダービート」
【Rider Beat!】
5メートルは超える人型ノイズのパンチと戦士のパンチがぶつかり、拮抗することなくノイズがほかの個体をまとめて吹き飛ぶ。
まさに圧倒的にして無双。
おそらく最後の一体を屠ったであろう戦士はその手に握る煤を振り払い、その場に佇む。
人々はまだノイズがいるのではないかと警戒を強めていたが、戦士が動くことがないことから漸く警戒を解き始めていく。
誰かが声を発する。
夕焼けを背にし、自分たちを見つめる黄金の戦士を。
その時、戦士がゆっくりと歩きだす。人間の犠牲とノイズの消滅により作り出された煤を踏みしめ、呆然とした様子の少女のもとへ。
そして、戦士は少女の目線に合わせるよう膝をつく。
──怪我はないか?
少女はわずかに首を縦に振る。
──…… そうか
戦士はやさしく言い、少女の頭へ手を乗せた。
少女はたどたどしく口を開く。
あなたはだれ? と
その問いに戦士は少しの間を置き、答える。
── "コーカサス" それが俺の名だ
戦士、コーカサスは用は済んだとばかりに立ち上がりベルトらしきもののサイドバックルをたたく。
【Clock Up!】
僅かな風が煤を舞い上げる。
その場には少女しかおらず、コーカサスという戦士の姿はなかった。
残された人々は突然姿を消した戦士に呆然とするが、沈黙を破るように歓声を上げた。
「「「「コーカサス! 我らが救世主!! 偉大なるヒーロー!!!」」」」
半ば狂気的な歓声のなかに先ほどの少女もおり、ひたすらに同じ内容を叫ぶ。
この日を境にコーカサスは世界中で目撃され、ノイズを倒す以外にも人身売買、人体実験、違法な薬物の密売を行うような組織を数多く壊滅させていった。
そのたびにネットにはコーカサスの動画が流れ、彼を称えるものが増えていき、彼が現れたと聞けばそこに赴きどれだけ彼が素晴らしいかを昔の宣教師のように人々へ教え三大宗教すら上回る新たな宗教 "コーカサス教" というものが作られた。(内容はボランティアだったり、医療活動などといった意外と慈善活動を主としている)
そして、今日も日本に現れたノイズをコーカサスは倒していく。
○
そういえば今日はスーパーの特売だった……
葡萄のようなノイズの脳天へ踵を叩き込み、ふとピキーンと新しいタイプ的な効果音とともに思い出す。
──総司よ、タイムセームならあと5分ほどで始まるぞ
そうか……
何体目かわならないノイズ、そのうちの飛行型の攻撃をバク転でかわしアッパーで空中へと吹き飛ばし、ホルスターから抜いた "ゼクトクナイガン" で撃ち抜き炭素の塊へ変える。
現在の時刻は午後の2時55分。3時から近所の大型スーパーで特売が始まるというのに間に合わなくなってしまう。
それなのに大空を埋め尽くすように空を飛ぶ雑音たちのせいで無駄に時間を食ってしまう。
肝心のコーカサスエクステンダーは現在メンテナンス中のため、飛んでたたきおとすことも出来ない。さて、どうしたものかと思っていると。
──なら総司くん、私の出番ですね
──ケタロス…… お前が自分から出てくるとは珍しいな
空間が引き裂かれ、そこから
──フ、コーカサスやヘラクスがここ最近活躍してますからね。 少しは私も活躍したいのですよ
本音のところは?
──もう少しでネット注文をした特典付きゲームソフトが届くので早くしてほしいんですよ
自分の欲望に素直すぎないかコイツ?
──仕方あるまい。こやつだし
──さあ総司くん! はりーはりー!!
「はあ…… 仕方ない。 すべては特売のためだ」
──貴様もおんなじようなものだと思うがのう
コーカサスゼクターが呆れたようにつぶやく。
スポーツで使うようなアーチェリーに似た "ケタロスアロー" をつかみ "ケタロスゼクター" がスロットへ自動的に装着された。
「変身」
『HENSHIN』
無数の小さな六角形がケタロスアローを起点に全身へ広がり、光を放つ。
シルエットが形を変え、光を引き裂く。
『Change Beetle!』
黄金の装甲は銅へ、三本の角は顔の全体を占める大きな一本となりショルダーアーマーも同様に形を変え、仮面ライダーコーカサスは "仮面ライダーケタロス" となる。
姿を変えた戦士は手に持った弓を構え、呟く。
「付き合ってやる。10秒間だけな」
『Clock Up!』
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06
──思い出されるのは最悪の記憶
『ノイズ!? なぜよりによってこの場所に!?』
『ヒッ!? だ、誰かたすけ───』
『全員逃げろォォオ!!』
その日はとある遺跡の発掘作業を行っており、私は両親に連れ添う形でそこにいた。
何事もなく終わるはずだったそれは目的のものを発掘した瞬間に脆くも崩れさる。
周辺に現れたのは特異災害ノイズ。
国連総会にて認定された特異災害であり、人類の天敵。
奴等に触れられた瞬間に体は炭化し、人間だけを襲う化け物。その襲撃を受けた私たちは、次々とその餌食にかかっていく。
『2人ともこっちだ!』
『お父さん、お母さん……!』
『ッ、あなた!』
『……え?』
『お、父さん…………』
奴らは大切なものを全て奪っていく。 目の前で炭素の塊へと変換させられる肉親。
そして、パニックを起こしそうになった私を励まし命をかけて逃がしてくれたお母さん。
『ッ…… お母さん、お父さんッ』
涙をこらえ、出口をめざして走る。 そして、ようやく見えてきた出口。そこから漏れる光を見て希望を抱き、全力で出口を抜ける。
──だけど、この世界は残酷だ。
『う……そ…………』
そこには数多のノイズがおり、遺跡内部だけではなく外にまで湧いていたのだ。
私と存在に気がついたノイズたちは一斉に向かってくる。
『ア……ァ…………』
希望など一切ないその光景を見て、私はへたり込む。全力で遺跡の通路を走り抜け、既に息は絶え絶え。精神的にも身体的にも限界だった。
……あんなに頑張ったのに、結局は無駄に終わるのか。
『ッ! そんな、わけ…… ない!!』
脳裏に浮かんだ言葉を即座にかなぐり捨て、歯を食いしばる。
近くにころがっていた採掘道具を掴み、子供が持つには重すぎるそれをなんとかノイズたちにむけて構えた。
『お父さんとお母さんが命をかけて逃がしてくれたんだ…… こんなところで、私はッ!! 生きるのを諦めるわけにはいかないんだッ!』
自分を叱責する思いも込めて叫び、ノイズたちへ駆け出す。
そして────
「……んぁ?」
ふと、目を覚まし少女はぼんやりと体を起こす。
「ふわぁ…… 随分と懐かしい夢を見たな」
ベッドから体を起こし、カーテンを開ける。
窓から外の風景を覗くと、どこまでも澄んだ青空に大きな入道雲が広がっていた。
「うん、いい天気だ」
そんな感想を漏らし、奏はいつもの場所へと向かう支度を始める。
といってもガングニールのペンダントと、緑色の石を嵌められたシンプルなデザインのブレスレットをつけただけだが。
「うし。 今日もがんばりますか!」
「ちわーっす旦那」
「うむ、おはよう!」
指令室に入り、既にいた人物へと挨拶をするとその人物──風鳴弦十郎は快活な挨拶を返す。
「それにしても今日は随分と早いな。 どうしたんだ?」
「ん~…… ちと昔の夢を見たんだよな」
「…………そうか」
奏の声に一瞬だけ悲しげな表情を浮かべるが、すぐに元へと戻すと彼女に伝えようとしていた用件を言う。
「そういえば奏君、了子君がレポートの提出期限が今日といっていたぞ」
「うげっ、了子さんもマメだなぁ……」
奏は顔を顰め、降参といった様子でバッグから小さな端末を取り出す。
「ほら、このとーりきちんとやってきたよ」
「宜しい! 訓練までまだ時間がある。 今のうちに渡してくるといい」
「へーい」
「失礼しまーす」
扉が開き、中へはいる。
「あらん? おはよう奏ちゃん」
「おはよござまーす了子さん」
研究室の中で椅子に座っていた女性が入ってきた奏を迎え入れる。
「はいこれレポート」
「あら、きちんとやって来てくれてお姉さん嬉しいわ〜。 奏ちゃん前回の出してなかったからね」
「うっ…… 気をつけマース」
了子のジト目から逃げるように視線を逸らし、奏は話を逸らすかのごとく喋る。
「そ、そういえば了子さん! 今日の訓練っていつからやんの?」
「確かぁ…… 30分後ね〜っと奏ちゃん。 体調はどう?」
律儀に了子は答え、そして何かを思い出したかのように奏へと体調を聞き、奏は改めて自分の体調を確認してみたが特に異変はなかった。
「ウン、何も問題ないよ。 元気いっぱい」
本来、奏はシンフォギアを纏うことは出来ない。 だが、Linkerという薬品を用いることで無理やりガングニールと適合している。
だが、その薬は副作用があり最初の頃は投与し効果が切れた頃は文字通り血反吐を吐き出す程だった。
しかし、了子の尽力により日々改良され体への負担がだいぶ軽減されていた。
「それにしても最初とはだいぶ改善されたよね〜。 さすがは了子さん」
「フフン、なんせこのだァい天才櫻井了子にかかればお茶の子さいさいなのよん♪」
「悪い翼、待たせた?」
「おはよう奏。 それと全く待ってないよ」
「そりゃよかった。 おはよう翼」
シュミレータールームに入り、既にそこにいた相棒へ声をかけると彼女は気にしてない様子で微笑んで答える。
それに釣られ頬を緩ませ奏は挨拶を返すが、訓練の時間まで刻一刻と迫っているのを思い出す。
「うし、それじゃあやろうか翼」
「うん。 今日もよろしくね奏」
「おう!」
そして奏はポケットからLinkerの薬液が入ったトリガー式の注射器を取りだし、それを首筋へと当て引き金を引く。
この動作は慣れたものだが、相変わらず体の中にナニかが入ってくる感覚は慣れることは無い。
投薬を終え、奏と翼は胸元の形状の似たペンダントを握り頭の中に浮かんだ歌を紡ぐ。
シンフォギアを起動させ、ノイズを打ち倒す力を纏うための歌を聖詠と呼ぶ。
「──Croitzal ronzell gungnir zizzl──」
「──Imyuteus amenohabakiri tron──」
「ハァァアッ!!」
──蒼ノ一閃──
『フッ!』
「グッ!?」
渾身の力を込めた一撃は黄金の戦士による拳の1発で打ち消され、衝撃により翼は吹き飛ばされる。
だが、両の手を地面につけ着地すると脚部のスラスターを稼働させ勢いよく回転しブレードを展開して切りかかる。
──逆羅刹──
「オッリャア!!」
そして背後から槍を持った奏が背後から攻撃を放ち、戦士を挟撃する。
『ハッ!』
「ンナァ!?」
しかし、その攻撃も戦士は靴底を起点に煙をあげるほどの摩擦を産みながら半回転。勢いを乗せた蹴りでアームドギア諸共彼女を吹き飛ばし、迫ってきた横なぎの攻撃はわずかに屈み翼へと足払いをかけ体勢を崩そうとする。
だが、翼は寸前に両の手に力を籠め体を浮き上がらせ空中へと飛ぶと手に持った短刀を投擲する。
その程度、戦士は首をわずかに動かすことでかわし、通り過ぎた短刀は彼の背後の地面へ突き刺さった。
『!!?』
途端、戦士の動きが止まる。
──影縫い──
「(まだ成功率は低いけど決まった!!) 奏!!」
空中で不敵に笑い、翼は片割れに声を上げ彼女も声を出す。
「おうさ!」
──千ノ落涙──
──STARDUST∞FOTON──
剣と槍。 無数の光の雨が上空から降り注ぎ、戦士へと突き刺さる。
誰が見ても確実な一撃だと言わしめる攻撃だというのに、二人の顔は晴れない。
剣山のようなオブジェが作り出され、周囲にわずかな静寂が訪れた。だが、次の瞬間にはそれは破られる。
僅かに山の先端が盛り上がり、僅かなための後に吹き飛ばされた。
『………………』
その中からは首をコキコキと鳴らし蒼い複眼を輝かせ、足元の剣や槍を踏み砕きながら地面へと降りる仮面ライダーの姿があった。
「やっぱダメかぁ……」
「クッ……!」
二人とも苦虫を纏めて噛み潰したような表情を浮かべ、武器を構える。
コーカサスが身を屈め、追撃を行おうとした瞬間
ブブーッッ!!!
ブザーがけたたましく鳴り響く。
すると、コーカサスが不自然な体勢で固まりノイズが走ったかと思うと周囲の景色も一瞬で消え、そこは何もない白い空間に代わっていた。
「どっひゃ〜…… いくらシュミレーションでも強すぎじゃないっすかねぇおっちゃん!」
ギアを解除し、疲労からたまらず地面に座ると奏は堪らずこちら側をモニターしている人物へ愚痴をこぼす。
「ハァ…… ハァ…… 叔父様の動きをトレースして彼の姿を貼り付けただけとはいえ遜色がない強さ…… 流石は櫻井女史の作ったものね……」
その隣では同じくギアを解き、肺に溜まった二酸化炭素を吐き出し翼は汗を拭う。
『あら〜? これでも結構レベル下げてるのよ〜』
「アンナン勝てるわけないっすよ了子センセー!」
そうしているとシュミレータールームの各所に設置されたスピーカーからおちゃらけた櫻井了子の声が流れ、堪らず奏がウゲェ! と悲鳴を漏らした後に叫ぶ。
『ふっふっふ、少し気合い入れて作ったからねぇ。 そんな簡単に攻略されたら堪らないないわよん♪』
『ゴホン、訓練はこれくらいにして2人とも。 汗を流したら了子くんからメディカルチェックを忘れずにな?』
『ついでに感想も聞かせてね~』
弦十郎の声に二人は疲労困憊といった様子で返答する。
「……うぃ~っす」
「…………わかりました」
──ノイズたちへ向かって走り出した直後、上空から降り注いだ衝撃にノイズもろとも私は飲み込まれた。
空から隕石が降り注いだかと思うほどの一撃は地面を砕き、巨大なクレーターを作り出す。
それにより周囲のノイズは消し飛ばされ、私も踏ん張りがきかず勢いよく遺跡内部の壁へとたたきつけられた。
『ガッ!?』
肺の中の空気がすべて押し出され、カエルがつぶれたかのような悲鳴を漏らす。
その時に頭をぶつけたのか、もうろうとし意識が薄れゆく中でかすむ視界には土埃の中でたたずむ影を一つとらえた。
そいつは昆虫をヒト型にしたような姿で、全身が純金のかがやきを放つ重厚な硬皮に覆われ、右手には自分の身の丈よりもある大剣をもち、左手には盾が。 そして頭部には天を突くほどの大きな角と側頭部にも小さな角が一本計三本の角をはやしていた。
そして、そいつはノイズを一瞥したのちに今にも気絶しそうな私を見る。
──―よく頑張った。 あとは任せろ
聞こえないはずなのに、恐ろしい姿とは裏腹に優しい青年の声がかすかに聞こえた。
そして、そいついはノイズたちへと駆け出していく。 奴らと激突する直後、私は意識が途絶えた。
そのあとあいつがどうなったかは分からない。
『…………』
目を覚ましたら私は病院のベッドにいた。 医者が言うにはとある青年が私を抱えて病院に駆け込んできたらしいことと、あの場所には怪物なんていなかったこと。 けど、私の手には不思議な輝きを放つ緑色の石が握られており、あの光景が夢ではなく確かな現実だというのを物語っていた。
目に焼き付いた大きな背中。
自分だけしか知らないあの日の出来事。
あの日、私はすべてを失った。 アレから自分はすべてを捨て復讐の道を選んだ。
そのことを後悔するつもりはないし、しようとも思わない。
あの手この手を使い、聖遺物と適合し血反吐を吐き力を手に入れた。
いつ死んでもおかしくはなかった。 だが、その時はこの手にある石とあの時の声を思い出して這い上がってきた。
「だからあんたに少しはお礼を言いたいんだぜ~?」
あの日からそれなりに時間がたった。
それなのに再び自分はこうして弦十郎の配慮で日常を過ごしている。 人生何が起こるか起こるかわからない、と思いながら自宅の寝室でブレスレットの飾られたスタンドを見ながらつぶやく。
あの時見た黄金の怪物、彼が何者かはわからない。 けど自分をこうして助けてくれた事実は変わらない。
もしもう一度会えるならこの胸に抱いた感情を……
「ンンッ! あ~、もう寝よ寝よ!!」
頭の中の言葉を掻き消し、奏はベッドへと飛び込む。
すると、今日一日の疲れがどっと溢れ出し意識が少しずつ薄れていく。
そのなかで明日はどんな一日なるかと思いをはせながら奏は目を閉じ、寝息を立て始めた。
サラッと誰かさんが奏さんのフラグを建設したらしい。
そして怪物は一体誰なんでしょうねぇ(すっとぼけ)
感想や評価などを投げてくれると私がとても喜ぶしモチベになります。具体的には作業スピードが3倍になったりならなかったり・・・
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07
多分、次の話でライブですかねー?
とある山の中、地面を埋め尽くすほどの数のノイズがそこにはいた。
あちこちには爆炎が上がり、何かが砕ける音が響く。
【1】
【2】
【3】
「ライダー…… アヴァランチ」
【Rider Avalanche!】
突如巨大な青白いプラズマ状のエネルギーが半円状に発生し、群がっていたノイズ共を飲み込み炭素へと変化していく。
そして、ひときわ多く膨張すると一気に収縮し爆ぜ割れ、周囲一帯へ衝撃波をばら撒き生き残っていたノイズ全てを殲滅する。
「ハア…… ハア……」
何もいなくなった空間の中心で仮面ライダーコーカサスは荒くマスクの下で二酸化炭素の塊を吐き出し、手に持つヘラクスブレードを杖にして地面へと膝をつく。
──総司、まだへばるのは早いぞ。 南西に10キロ、敵の援軍だ。 でかいぞ
「……わかった」
コーカサスゼクターの声に答え、総司は言われた場所へと走り出す。
そして、リモート機能によりどこからともなくコーカサステンダーが現れ、走る彼と共に山肌を並走する。
総司はバイクに飛び乗ると一気にアクセルをフルスロットルにし、地面をギャリギャリと削りながら加速する。
──かれこれ数時間も連戦か…… 疲労も溜まっているのではないか?
問題は無い。 いざとなれば
──それもそうだが、あまり無理はするなよ?
お前が俺を心配か? 珍しいこともあるものだな
──孤独なヒーローにも少しくらい労うものがおってもバチは当たるものかよ
「フッ、そうか」
小さく笑い、呟く。
うだるような熱気に晒される中、ただ1人で金の戦士は戦い続ける。
誰の助けも借りぬまま、ただ独りで……
〇
「また出遅れた ……か」
目につくのはいくつも陥没し、えぐれた地面。
なぎ倒され、空へと黒煙を上げる木々。
そしてノイズがそこにいたということを理解させる炭素の塊。
戦闘の痕跡が至る所に散らばり、真新しさの残る戦場特有の独特の臭いに奏は顔を顰めつぶやく。
「仮面ライダー……!」
その隣では
あと日、自分の力全てを否定され自分は無力だと捨てられたかのような屈辱に拳を握りしめ震わせる。
それを見て奏は小さくため息を吐き、その後頭部にチョップを放つ。
「てい」
「いたっ!?」
「まったく、翼! そうやって追い詰めるのは悪い癖だぞ〜 そんなんじゃいつかポッキリ折れちまうゾ」
「や、やめてってば奏!」
わしゃわしゃ〜! とさらに頭を撫で回して彼女を髪の毛を乱す。
日に日に増加する
弦十郎からの指令により、自分たちがそこへと言った頃には既にノイズたちは全滅しており、ソレがさらに翼自身へ無力さを伝えてくる。
それがストレスとなり、彼女をどんどん追い込んでいく。 その過程がまるで過去の自分のようで奏は翼を放ってはおけなかった。
「(ほんと…… 手間のかかるやつだな〜) よーしよしよし!」
「ちょ、奏! 私犬じゃないんだからやーめーてー!!」
気がつけば翼の顔にはどこか危うい影はなくなっており、年相応の笑顔になっていた。
『ゴホン、2人とも幾らノイズが全て殲滅されているといえそこはまだ戦場。 警戒を怠らないように!』
すると、通信機から弦十郎の声が聞こえ、思わず2人は方をビクッと震わせ、互いに目を見合わせる。
「フッ」
「フフッ」
吹き出し、少しだけ笑う。
「よし、じゃあ帰ろうか翼」
「うん。 ……ありがとう奏」
「なぁに、気にしなさんな!」
2人で1人。 双翼は欠けることはない。 これからも。 そして、これからも……
「うし、数週間後にはライブだし気合い入れてレッスンといくか!」
「うん。 完全聖遺物 "ネフシュタンの鎧" を起動させるための大量のフォニックゲインを集める大型ライブ…… 絶対に成功させなくちゃ」
〇
「…………疲れた」
もたれ掛かるように庭園の中心に置かれた椅子に座り、総司は開口一番にそんなことを漏らした。
──さすがに36時間54分12秒ぶっ続けでの戦闘は応えたか?
「ああ…… さすがに、な」
連戦に次ぐ連戦。 最後の戦闘では大型ノイズを複数体を相手にしながら、逃げ遅れた民間人を守るというゲームだったら即投げるほどのことをやり遂げた総司は肉体的にも精神的にもボロボロで、このままずっと眠りたい気分だった。
『ありがとうございます! このことは絶対忘れません!!』
『ありがとう、ありがとう仮面ライダーッ!!』
『ありがとうございますかめんらいだー』
だが、助けた人々が涙混じりに礼を言う姿が脳裏をかすめ、寝落ちしかけた意識をつなぎ止めた。
「……」
──おや、総司くんなにかいい事ありました?
「ん? どういうことだケタロス」
──口元、ですよ
「口元?」
総司はケタロスにいわれ、懐から携帯を取りだし、その光の点っていない画面に自分の顔を映し出した。
そこには微かに微笑んだ自分の顔が映っており、知らずのうちに自分が笑っていたことに気が付かされた。
「ふむ…… "笑顔" か」
──あの小娘どもが顔筋死んでるレベルの無表情オブ無表情と称したお前が珍しいものだ
なかなか失礼なことを銀色のやつがなにやらいってるが、そのことに総司は気が付かなかった。
「これも…… 俺が俺らしくなってるというのかコーカサス?」
──さて、な。 その答えはいずれお主が見つければ良い。 大いに迷い、大いに悩めよ総司。 それを見つけた時お前に与えられた命題は解き明かされよう
「…………そうか」
噛み締めるように呟き、その様子を見るコーカサスの視線はどこか我が子を見守る父親のような感じであった。
そんな時、見つめていた携帯の画面に光が灯り着信音がスピーカーから流れてきた。
その画面には簡潔に "響" という1文字だけが表示され、電話をかけてきた相手が誰だかを示す。
突然の出来事に思わず携帯を落としそうになり、ギリギリ落ちる手前で掴み取り僅かに息を吐く。
「ンンッ、何の用だ響」
──あ、この人何事もないように電話に出ましたよ?
──ハハッ、笑えるなオイ
──なんというかまぁ、のぉ?
そこ喧しいぞ、という視線を込めて金銀銅の奴らを睨みつけ総司は電話に意識を向ける。
『はい、響です! いきなり電話をかけて迷惑でした?』
「いや、特に問題は無いぞ響」
『ならよかった〜。 なんだか昨日から留守してて電話も繋がらないから未来と心配したんですよ?』
「む、それはすまなかった。 ちょっとばかし野暮用でな」
ほぼ丸1日+αノイズと過ごしてたなんて言える訳もなく、当たり障りないことを言う。
そのことに安心したのか、響はすぐに元通りの声色に戻り、不在の間に起きたことを楽しそうに話し出した。
重い荷物を持っていた老婆の手伝いをして感謝をされ、お菓子をもらったこと。
小学生の女の子が気にひっかけた風船をどうにかしてとってあげたのはいいけど、気から落っこちてしまったけどお礼を言われたこと。
提出するはずの課題が終わってなくて頼み込んで未来に写させてもらったが、提出期限が明日だったことといった何気ない日常。
時折総司が相槌を打ち、響が楽しそうに笑う。
そして、気がつけば小一時間話し続けていることになっているのだが、それを指摘するものはおらず、ゼクターたちも総司のことを見守っていた。
『あ、それとですね総司さん! な、な、な、なんと! 私ってばツヴァイウィングのライブチケットの抽選販売に当選したんですッ!』
「ほう…… たしかかなりの倍率だったはずだがよく当選したな」
以前響や未来にツヴァイウィングとはなんぞや? と言った時、響のツヴァイウィングの良さを丸一日使って力説されて以来、時折あのアイドルユニットのことを調べていたため何故かそれほど興味が無いのに人並み以上に詳しくなっていた総司は、彼女の言うライブチケットの購入権を手に入れることの難しさにすこしだけおどろいていた。
『ですよね! ですよね〜!? いやぁ〜、やっぱり日頃の行いですかね! ほんと、当選のメールが来た時なんて思わず家族の目の前で踊っちゃいましたもん!!』
「ハハ、たしかにお前ならやりそうだ」
電話越しでも響が嬉しそうに舞い上がってる様子が脳裏に浮かび、再び自然と総司の口元には笑みが作られる。
『それでですね! 今度未来と一緒に見に行くんです! ぜったいに限定グッズとか色々買ってきて総司さんにもプレゼントします!』
「ああ、心待ちにしておこう」
『ハイ! あ、もうこんな時間…… それじゃあまた今度!』
「ああ、また明日な」
そう言い、通話を終える。
「フッ……」
僅かに笑い、総司は空を見上げる。
空高くには大きな月が浮かび、幻想的な光景を生み出していた。
──確かに、守らなければならないな。 笑顔を
「ああ。 多分、俺はこの暖かい居場所を守りたいんだろうな……」
僅かに手を握りしめ、開く。
すると、その手は人間の手ではなく人とはかけはなれた異形の形へと変化していた。
「これは我儘だ。 ただのどうしようもない化け物のな……」
──構わぬさ。 それがお主の願いならな……
1人の怪物は少女の笑顔を胸に抱き決意する。 正義の味方などではなく、仮面ライダーとしての覚悟を。
──総司、ノイズだ
「ああ。 どうやら今夜は眠れないらしい」
既に疲れなどない。 四肢の端には力が満ち、その瞳は力強く目の前を見すえる。
「────変身ッ!!」
例え、命が尽きようと。
命題を解き明かすため、大切な居場所を守るため。
黄金の戦士は走り出した────
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