あの雪に咲く花はまだ誰も知らない。 (カカッ)
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出会い

あの花見ながら思いついた拙文です。でも何故かあの花のメンバー出てきません。


中学生から高校生に。

 

一般的な人なら何を思うだろうか?

新しい友達や新しい体験にわくわくしているのだろうか?

もしくは、中学の時に虐めを受けていて新天地で最初からスタートを切ることに対して高校こそは。そう思いながら待ちきれなくて普段なかなかしない早起きをして高校に向かってしまうのだろうか?

 

 

 

 

「お兄ちゃん、まだ朝の6時だよ?学校行くには早すぎじゃない?」

 

世界一可愛い妹に怪訝な顔をされながら聞かれるが浮き足立つ心は止まってくれない。

 

「早い分には問題ないだろ?」

 

「中学の時にあんな事があったから期待するのは分かるけど...浮かれて事故に合わない様にね」

 

「いや別に浮かれてないから。行って来るよ小町」

 

「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」

 

この会話が最後になるなんて夢にも思っていなかった。

 

 

それを見付けたのは偶然だった。信号待ちをしている時に向かい側の飼い犬のリードが外れて赤信号にも関わらず飛び出して来る。黒塗りの高級車が速度を落とすために急ブレーキをかけるが突然の飛び出しで間に合う筈もない。そう考えながら俺の足は犬の元に駆け出していた。

強い衝撃に自分がどうなっているのかもよく分からない。かすかにボヤけて見えている風景が赤く塗りつぶされていく。その赤色が自分の血の色だと気付いた時には意識も途切れていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

妹の...小町の声が聞こえる。

 

「打ち所が悪くこれ以上は...残念ですが」

 

「そんな!?お兄ちゃん!!ねえ起きてよ!お兄ちゃん!!」

 

「23時8分」

 

「駄目!!お兄ちゃんはまだ生きてるもん!お兄ちゃん!!」

 

なん、だこれ?目の前に俺が寝てる?小町が泣いて...え?というか家族がいるのは分かるが少し後ろで見てるこの人達は?

 

「あの、その...」

 

黒髪の女の子が小町に声をかけようとするが小町は拳を握りしめて睨め返していた。

 

「貴女のせいだ...貴女のせいでお兄ちゃんが!小町の大切なお兄ちゃんが!!もう帰ってよ!!二度と、二度と小町の前に現れないで!!」

 

小町が怒鳴っている姿もこんなに怒ってる姿も俺は初めて見た。恐らくだが見たことないこの人達が俺を跳ねた車に乗っていた人達。もしくは関係者なのだろう。

 

「...本当にごめんなさい」

 

それだけ言って黒髪の女の子は病室を出て行く。黒髪の女の子に良く似た、というより成長したような美人さんと男の人は残って両親と話をするみたいだ。小町の啜り泣く声だけが病室に響く。小町をこんなに悲しませてしまった。その事に胸がはち切れそうになる。

 

「小町..ごめっ!?」

 

小町に届かないであろう言葉を言おうとしたら急に体が引っ張られた。誰かに捕まっているわけではない。見えない引力の様なもので引っ張られているようだ。

 

引っ張られた先には黒髪の女の子が俯いて泣いていた。居心地が悪くて逃げたくても足が無いから歩く事が出来ない。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

 

繰り返し聞こえてくる謝罪。恐らくあの車に乗っていたのだろう。俺自身不運だったと思う。だけど赤信号なのに飛び出したのは俺だ。本来なら俺が謝らなくてはいけない状況だったんだ。それに黒髪の女の子は運転していたわけでも無い。なら罪はないんじゃ無いか?全く気にするなとは言わないがそこまで責任を感じる事は無いんだ。

 

だからだろうか。

 

「なあ」

 

届く筈のない呼びかけをしたのは。

 

「...だれ?」

 

!?目が合ってる?それに聞こえてる?後ろを見ても誰もいない、周りに誰かいるわけでもない。

 

「見えるのか?」

 

「冗談ならやめてちょうだい...今はそんな気分ではないの。私は人を殺めてしまったから」

 

その言葉は重く、深く。

 

俺はその言葉に。

 

 

ーーーーーー苛立っていた。

 

 



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出会い2

自分は人を殺めてしまった。

その言葉の意味は言葉にするよりも重い。目の前の女の子は言葉の重みを理解して言っているように見える。軽んじて言ってるわけじゃない。

 

だからか?

 

こんなにもイライラするのは。

 

「別にあんたのせいじゃないだろ」

 

口調が荒くなってしまったのは余裕が無いからなのかそれ程憤慨しているのか。

 

「貴方に何が分かるの?関係のない貴方に。それに不愉快だわ、消えてくれないかしら?」

 

「俺はあんたが言う殺した相手なんだが?」

 

「貴方何を言って...足が」

 

どうやら俺の足は他人から見ても無いようだ。幽霊のようなものに自分がなってしまった事に違和感を感じない。そのせいか実感がいまいちわかないところもあるがそんなことよりも。

 

「お前は車に乗ってただけだ。そして俺は赤信号にも関わらず飛び出した馬鹿。どっちが悪いかなんて子供でも分かるだろ?」

 

「形式上だけ見ればだけれど。事実はそんなに単純では無いわ。あそこの道は40キロ走行、そこを50キロで走行していたのは此方の過失だわ。それにその理由は...私よ」

 

そのままうつむきながらポツリポツリと話し始める女の子。目の前の女の子は入試の試験で1位だったらしく一言言わなければいけない状況で6時30分までには来ていてくれと学校側から言われていたらしい。思ったよりも道が混んでおり到着時間が遅れていた事もありスピードを出した結果が今回の事故に繋がったのだという。入試の成績が良いとそんなこともしなくてはいけないのか。正直今の話を聞いてもめんどくさそうという感想しか湧かないが目の前の女の子は違うようだ。

 

「つまり私用で交通ルールを破って事故になったから全て自分が悪いと?」

 

「ええ...貴方には、いえ違うわね。貴方達家族には取り返しのつかないことをしてしまった」

 

「馬鹿なのかお前?」

 

「え?」

 

「そもそもだが法定速度守って運転してるやつがどれくらいなのか知ってるのか?恐らくだが9割以上は守ってないぞ?お前自身が全く責任を感じるなとは言わねーよ。でも全ての責任感じるのはおかしいだろ?俺達は万能でもなければ神様でもない。間違いもすれば嘘もつく。それでも気にするなら一つお前に頼みがある」

 

俺が唯一後悔していること。

そして俺自身を許せないこと。

 

「小町を頼む」

 

それは妹を泣かせてしまったことだ。

 

 

「妹さんを...?けれど私は貴方の妹さんに二度と姿を見せないと」

 

「見せないとは言ってないだろ?お前は謝っただけだ」

 

こんなものは方便だ。だけど俺の姿が見えている奴にしか頼めない。それにいつまでこうしていられるのかも分からない。もしかしたら消えるのかもしれない。もしかしたら目の前の女の子にも見えなくなるかもしれない。

 

「分かったわ。でも直ぐに会いに行くのは心の整理がつかないから後日でも大丈夫かしら?」

 

女の子の言葉に胸をなでおろす。これで少しは安心できたかもしれない。恐らくだけど目の前の女の子はこの約束を守ってくれる。そう思う。

 

「それじゃあ、よろ」

 

「あーれー?雪乃ちゃん。こんな所でどうしたの?」

 

俺の言葉を遮って来たのは男なら誰でも目を奪われる様な容姿をした明るい人だった。

 



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