転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!? (西園寺卓也)
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第1話 プロローグしてみよう

ハーメルン初投稿です!
(普段は小説家になろう、で執筆中ですf(^^;))
のんびり暖かい目で見守っていただければ幸いです!
なろう先行分に追いつくまでは、ほぼ毎日更新予定です。
たまに更新を飛ばした場合は「大将やっちゃった?」的な感じで気長にお待ちいただければありがたいです!
コメントや感想、ご意見には出来る限り目を通していきたいと思います。
よろしくお願い致します。


よっ! 俺の名は「火薬田○ン」よろしくなっ!

 

・・・いや、「豪蔵院屯田丸」の方が勢いあるかも・・・?

 

 

えっ? 何してるのかって?

迫力のある名前の方がいいかなーって。

 

だって、今の俺、スライムだし。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

いや、俺だってなりたくてスライムになったわけじゃねーぞ?

 

気づいたらスライムになってたんだからな!

 

ホントだぞっ!

 

実は少し落ち着いたので、とりあえずイカツイ名前を考えていたってわけ。

 

ホントの名前? 矢部裕樹やべひろき 御年28歳。社会に出て4年。社畜のよーに働いて働いて。

 

・・・2浪したわけじゃねーぞ? 大学院まで出たんだからな? ホントだぞ!

 

・・・実はね・・・

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ん?んんっ?」

 

何だ、か、体が・・・動かない?

あれ・・・? 俺どうしたっけ?

確か・・・会社の自分のデスクでPCに向かっていたはず・・・。

 

「ああ、寝落ちか。そーいうことね。だから体が動かないのね~、よくあるわ~ってあるかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

なんだか周りは真っ暗で、まったく体も動かない・・・。

・・・いや、手も足も動かないけど、よく頑張ってみれば、もそもそと体全体が動く気がするな。え・・・っと、こっちがこうで、そっちがこう・・・。

って、スライムになってるじゃねーかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

だが、俺の精神は発狂する!いい意味で。

 

「ついにキター!ラノベの女神様ありがトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

クゥ~ハハハハハ! だてに北千住のラノベ大魔王と呼ばれてねーぜ!(自称)

6畳一間のボロアパートの北側の窓から左右の壁はすべて大型ホームセンターで買ってきた一番大きな組み立て式の本棚に囲まれている。

本棚にはラノベ満載! もちろんコミカライズされたコミックもバッチリ抑えてあるぜ!

え? 窓が北側? 窓が南側なんて条件のいいアパートなんて高級すぎて住めませんとも、はい。

 

 その本棚中央、一番上の棚に、俺様が最も崇拝する神ラノベが飾ってある。

その名も『転生したらス○イムだった件』!

伏○先生ありがトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!

 

そう!転生してスライムといえば、大魔王になったり、大賢者で美人エルフに抱きしめられたり、ダンジョンのボスモンスターになったりと、スーパーチートの代名詞!

ついにこの俺様もチート塊のスキルで異世界無双してチーレム生活だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

 

・・・・・・

 

 

って、思っていた時期がありましたっ!

ねーよ!全然ねーのよ!チートスキル!!!!

てか、スキルすらねーんじゃね?

 

なんとかかんとか、グニグニムニムニ動くことができるようになったけど、

その他な~んにも出来ねぇぇぇぇぇぇ!

 

『ステータスオープン!』

『スキル発動!』

『ギフトカモーン!!』

『ファイアボール!』

『深淵なる闇の波動よ・・・』いやいやこれはこじらせそうだ。

それにしても、な~んにも起きねぇ。

 

これはマジでヤバイ!やべちゃんヤッベー!

 

あ、これ自虐ネタでよく使ってるやつね!・・・いや、白い目で見られても。

 

スライムっていやー、ファンタジーゲームでも真っ先に仕留められるザコキャラだぜ。

このまま誰かに見つかれば、ソッコーゲームオーバー、いやこれが現実なら人生、いや、スラ生か、が終了してしまう。

いったい、どうすればいいんだ・・・




今後ともどうぞ「転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない!?」 長いので略して「まさスラ」お付き合いの程よろしくお願い致します。


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第2話 周りの状況を把握してみよう

とにかく、自分がヤベーことはわかった。

ここがどこかもわからない。真っ暗だし、何も見えない。

唯一、自分の体の下が草っぽいとだけ触感? でわかる。

 

とにかく、周りの状況を確認しないと、早々に詰んでしまう・・・。

う~ん、う~ん、と唸っていると、なんだか体の中でぐるぐるとエネルギーが回っている気がしてきた。

いや、体がグニグニしている話じゃなくて、体の中をエネルギーが回っているという話ね。なんだか落ち着かない感じだ。

だいたいスライムだし、目とか鼻とか口とかもなさそう・・・いやまで、鼻が無いのはよくあるパターンだが、目や口はスライムでも存在しているパターンがあるぞ。

まずは周りの状況が分からないとどうしようもない。

目で見るイメージも大事だが、周りがどうなっているか何としても探らねば。

 

そう思ってなんとかならないかウンウン唸っていると、そのうち視界が開けて自分の周り360°の情報が伝わってくる。

どうやらここは森の中のようだ。鬱蒼とした木々に囲まれている。自分の周りはわずかに開けて草むらになっているようだ。

 

(てか、何で俺、360°全開で周りの景色が見えるんだ? というか、見えるというか、わかるというか・・・?)

 

おかしいと思いつつも、周りの景色が分かり始めたため、うれしくなって周りをぐるぐると見渡す。

 

(なんだかスゲー森の中・・・? いったいここはどこなんだよ・・・)

 

急に不安になってキョロキョロしてみる。見えることで不安になることもあるのね。

 

ガサガサッ

 

(な、何だ? どこだ・・・?)

 

音のした方に体を向けて目を凝らす。今の俺に目があるかどうか知らんけど。

集中して見ると、周りのイメージだったものが、視界のイメージに代わる。

 

じーーーーーっ

 

さらに集中して見ると、木々の根元に生える雑草の向こうに、キツネかイタチのような小動物が顔を覗かせていた。少し見ていると草むらの向こうに消えていった。

 

(ふーーー、びっくりした。ゴブリンやオークだったらどうしようかと思ったぜ・・・)

 

あれ? 今はスライムだから、モンスターより人間の方がヤベーのか?

俺ってばザコキャラすぎて、どっちがヤベーかわかんねぇ!

 

それにしても、360°俯瞰イメージの位置からすると、今のイタチかキツネ、すげー遠いな。あれを見つけるって、視力6.0くらいあるんじゃねーか?

 

むむむっ!今度は音を拾おうと集中してみる。

 

体の中のエネルギーをぐるぐるしながら集中して見ると、周りの音が聞こえてきた気がする。

イメージとして取り込んでいるようだが、俯瞰イメージと違って音は人間の頃に耳で聞いていた感じと同じだ。違和感がない。

風になびく木々のざわめきや、遠くで鳥の鳴き声などが聞こえてきた。

 

視覚、聴覚の他に、触覚もある。自分の腹?の下の草の感覚が感じられるからだ。

だが、それ以外の感覚は不明だ。とりあえず違う触感を試そう。

 

俺はズルズルと近くの木の根元まで寄っていく。

そのまま木の幹にべっとりとくっついてみる。

幹の触感がじんわり伝わってくる。

 

(むむむむむ~)

 

木の幹に自分のイメージでは両腕で抱きかかえるようにくっついてみる。

もちろん腕はないが。

自分の体が伸びて幹の両側から巻き付くように伸びていく感覚が分かる。

きっと傍から見たら奇妙な光景だろうな。木に纏わりつくスライム。う~む、シュールだ。

 

それにしても、周りは完全に木々に囲まれている。

森の中だ。完全に森の中だ。

それ以外に言いようもない。

 

(そうだ!さっき俯瞰で周りの景色がイメージ出来たぞ。それならば気合を入れればもっと広く遠くまでわかるかも!)

 

早速体内のエネルギーっぽいものをぐるぐる回すイメージをしてから周りの景色を見ようとさらにイメージする。

 

(おおおっ!)

 

自分の頭上から視線が空にずっと上がっていく感じがして、広い森が全体に見えてくる。

 

(すげー、スライムってこんな感じで周りを認知してるんだな~)

 

当然スライムなんて元いた世界じゃいなかったから、自分の主観でしかないけれど。

 

(おっ、あっちに村っぽいのが見える! ヤベーな、そんなに今の位置から遠くないな)

 

村のような集落が確認できた。少なくとも人が住んでいる証拠だな。人とコミュニケーションをとりたいところだが、今の所その方法がわからない。場合によっては瞬殺される。

 

(おっ、反対側に泉があるぞ! すぐ近くだ)

 

自分の場所からすぐ近く、木々の合間から泉らしき水が溜まった場所を見つけた。

 

(あ、あれ・・・?なんだかグワングワンしてきたぞ・・・あれれ?)

 

そして、俺の意識は暗闇に包まれていった・・・。




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第3話 とりあえず動いてみよう

・・・気が付くとそこは、森の中だった。

 

(変わってねーよっっっ!)

 

て、自分で突っ込んでいてもしょーがないな。

あのぐるぐるエネルギー、使いすぎると意識が飛ぶみたいだ。

こういう時にステータスとか数値でわかるようになってると楽なんだがな~。

やっぱゲームってよく出来てたわ。現実はツライな。

 

この状態で意識を失うと、敵が来た時にヤベーな。

疲れて意識が飛ぶ直前でやめるか・・・。でもあれが魔力だとすれば、枯渇するくらい使い込むと総量が増えていくってのがラノベのお約束だ。

そのあたり、どのように折り合いをつけて対処していくか、悩むところだ。

 

 

とにかく、触覚、視覚、聴覚の3つは確認できた。

先ほどから、ズルズルと引きずるように移動することはできる。

全体の体のイメージからすると、かなりデローンと溶けて崩れているような気がする。

いわゆる『グロデスク系スライム』のイメージだ。

これは間違いなく討伐系でジ・エンドのパターンだ。

 

某伝説のRPGゲーム「ドラ〇エ」のように『かわいい系スライム』としてティアドロップ型をマスターし、「ボク、スラえもん! 悪いスライムじゃないよ!」って宣ってかわいい巨乳エルフの胸元にダイブするのだ!

 

・・・ほっといてくれ。

 

だいたい、ズルズル引きずる移動自体気持ち悪いし、何より遅い。

だが、ティアドロップ型のスライムならば、ぴょんぴょん飛び跳ねて逃げることでスピードを上げることができる。何より、気持ち悪さ軽減だ!

 

例のエネルギーぐるぐるを行いながら、なんとか体を丸くなるようにまとめていく。

 

(ぐぐぐっ・・・ぐぐっ・・・)

 

だんだんギュギューっと丸く集まってくるが、

 

(ぐはっ・・・疲れた!)

 

疲れ切ってエネルギーぐるぐるが出来なくなると、途端にデローンと崩れてしまった。

 

(うわ~、この姿ラクだわ~)

 

デローンと伸び切った状態だと、ほとんどエネルギーを消費しない。

深夜残業を終えて帰ってきたマイホームパパが背広の上着を放り出し、首元のネクタイを緩めてリビングのソファーにドテーッと寝転がった時くらいラク。

 

(だがなぁ・・・)

 

どう考えてもこの「デローン」はヤバイ。見つかればソッコーアウトだ。経験値の元だ。

何としてもかわいい系をマスターせねば生きる道はない。

 

(やったるぜー!)

 

 

そして2か月後(笑)

 

 

いや、もはや体感的に、だから。テキトーだから。

ケータイチェック出来るわけでもないし、カレンダーで確認出来るわけでもない。

日が昇って、そのうち日が暮れて夜になって。でもってまた朝になって日が昇って。

最初の一週間くらいかな。今日もしかして日曜日? みたいな自虐ネタ考えてたの。

以降数えてもいない。

 

この間気づいたのは、腹も減らなきゃ、排せつも無し。眠くもならない。熱い寒いも意識をしないと感じない。ただしエネルギーをぐるぐるするとメッチャ疲れる(苦笑)

だが、かなりエネルギーぐるぐるに慣れて来たのか、長時間ぐるぐるしていても疲れにくくなってきた気がする。それにぐるぐるしているエネルギーの総量が大きくなった気もする。

これについてはやはり読み通りというべきだろう。

魔力だよね? 魔力だよね? 誰か魔力と言って! まほー使いたい(苦笑)

まあ、それは置いておくとして。

 

スライムボディ、なかなか強靭だということが分かった。

木登りしていて枝がボキッと折れて地面に落下し激突した時も、ちょっとビシャッっと飛び散っちゃった気はするが痛みも無くまた一つに戻ることが出来た。

 

野生の草や花も包み込むようにして取り込もうとすると消化するのか体内に吸収できた。

ちょっとチャレンジして小動物(うさぎっぽい何か? うさぎに角は生えていなかったはずなのでうさぎっぽい何かだ)を捕まえて吸収したりもしてみた。

反撃されて噛まれても全く痛くなかったし、噛みつきも手ごたえなさそうだったし、このボディに攻撃は通じにくいのかもしれない。

 

・・・もっとも油断は禁物だ。何せ大半のゲームでスライムはザコキャラなのだ。どこかの戦士におおかなづちで一撃もらえば木っ端微塵に爆散してしまうかもしれない。

 

・・・とりあえずザコキャラとしての悩みは横に置いておこう。

トレーニングの結果、ついにティアドロップ型でぴょんぴょん飛び回ることができたのだ。

今は達成した事象を噛みしめ喜ぶこととしよう。・・・共感してくれる相手はどこにもいないが。

 

だが、油断すると・・・

 

(うわぁぁぁぁぁ~)

 

デローンと溶けるように崩れてしまう。

 

(これは、このティアドロップ型でいることが自然になるくらいにならないとな・・・って俺はスーパーサ〇ヤ人かっ!)

 

一人ツッコミを入れながら、俺は一生懸命丸くなった。

 




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第4話 体の色を変えてみよう





俯瞰イメージで見つけていた泉へ行ってみる事にした。

 

もちろんマスターしたばかりのティアドロップ型でぴょんぴよん飛び跳ねて移動だ!

・・・すげー疲れるな。モロにうさぎ跳びしながら移動している気分だ。

デローンスタイルでズルズル移動する楽さに比べれば雲泥の差なわけだが、これも修行だ。

ソッコー狩られないためにも愛くるしさを身に着けることは必須なのだ。

 

ぴょんぴょん飛び跳ねることしばらく。泉の畔に着いた俺はそうっと泉を覗き込んだ。

気を付けて覗かないと、油断して泉に落ちたら大変だ。

濁り気味の泉に映る自分の姿を見て衝撃を受ける。

 

(色味がキタネェ!)

 

デローンとしたボディをなんとかティアドロップ型に鍛え上げた?俺だが、

自分の姿を真正面から見ることは出来なかった。

泉に映る自分のボディを見ると、全体は緑っぽいが、中には紫や赤っぽい場所もあり、中心部には丸くて赤く光る部分があった。

 

(まさか・・・、コレ、スライムの核ってやつか!?)

 

デロデロとしたスライムの全体に対して、中央部の赤い核の部分がある程度はっきりと見える。

 

(スライムとしての弱点である核がはっきりと見えるって・・・絶対ダメなヤツじゃん!コレ!)

 

ただでさえザコキャラであるスライムが、はっきりと弱点である部分をさらけ出している。

ふふっ、涙が止まらねーぜ!

 

これがド〇のモノアイだったらまだマシだったろーがな!

 

(核が赤いなら、体も赤くならねーかな? ス○イムベス仕様なら核が見にくくなるかも?)

 

んぐぐぐぐ~と力を入れて赤くなるようイメージする。

もはや力んで顔が赤くなるのと同じようなイメージだな。

再び泉を覗き込んでみると、全体的には赤くなった気がする。泉が汚いからはっきりわかんないけど。

いや、赤いスライムって攻撃的な気がする。

逆に核を内側に押し込むイメージで隠せないかな。もしくは例えば緑色で同色にカモフラージュするとか。

再びエネルギーをぐるぐるしながらイメージしてから泉を覗き込むと、確かに赤い核が見えなくなった。

 

(これは無意識で常時発動できるようにトレーニングが必要だな)

 

弱点である核をのさばらせておくわけにはいかない。

どうにかして核が見えないようにしなければならない。

いや、これがスライムの核かどうかはわからんけど!

リスクを鑑みれば、危険度の高い核だと想定する方が安心だ。

今のところ考えられる方法は、赤っぽく同化させる方法と、体内に隠し込む方法と2パターンだな。

やはり赤はイメージがあまり良くない。何とか体内に隠し込もう。

目標はやはりぷるんとしたボディに似合う水色だな。うん。

ノーチートな上にスキルも無いっていう地獄のスライム人生?だけど目標は生きて行く上で大事なものだ。俺は綺麗な水色王になる!ってか?

そのうち、メタリックに光り輝いて見たり、金ぴかになってみたりとか!・・・ゴールドはやめた方がいいな。冒険者に目をつけられたらメッチャ狩りに来られそうだ。

俺はエネルギーをぐるぐるしながら色のイメージを作り上げていく。

 

(・・・よし!)

 

泉に映る俺様のボディはあのゲームでよく見る美しいブルーに染まっていた。

泉が汚いからあんまり綺麗に見えないけど。

ん、一回色を決めたら、エネルギーをぐるぐるしなくても色が変わらないぞ。

これはいい。助かるな。もしかしていろいろイメージしたら、カラフルに点滅したりできるかな?レインボースライムとか。・・・だから、悪目立ちするとダメだっての。狩られちゃうから!

 

今気づいたけど、俺は俯瞰的に周りを見ることができたっけ。今の自分も見られるってことだよね。早速見てみよう。エネルギーぐ~るぐるっと。

 

・・・いやん、水色って目立つわ~、なんたって森の中だもんね。浮きまくっとりますわ。

森の中にいるのなら、やはりグリーンか?緑なのか?

早速グリーンをイメージしてエネルギーをぐるぐるしてみる。

慣れて来たのか、色がすぐに変わる。

 

(お~、周りの木々に溶け込めそうな感じだな)

 

俯瞰で見ていた俺の体がグリーンになると、ぱっと見どこにいるかわからなくなる。

最もエネルギーそのものを感知することは出来るから、ちゃんとどこにいるか意識すれば色が似通っていても関係なく居場所はわかるけどな。

 

(あれ?イメージで色が変わるってことは、もしかして・・・)

 

俺は木々の葉っぱの中にガサガサと入り込む。

そして周りの景色を見ながらイメージ。

 

(おおっ!まるでカメレオンだね)

 

まるで景色に溶け込むように俺の体の色が変わる。

今度は幹の方に移動して幹と同じ色に同化するようにイメージする。

もうイメージは色の変化というより、同化だね。うまくいけば冒険者に追いかけられても忍者のように壁と同化したりしてやり過ごせるかもしれない。忍者スライム!・・・斬新だな。

 

そこへ、ガサガサと森の奥から鹿が現れた。ちょうど大木の幹と同化中なので、鹿にバレないか試して見る。鹿は俺の前をふんふんと鼻を鳴らしながら通り過ぎていき、そのまま森の奥へと行ってしまった。

 

(動物に見つからなかったってことは、なかなか効果が高そうだ。ピンチの時には即同化!だな)

 

とにもかくにも、色が色々変えられることはわかった。

 

どれ、綺麗に染まった俺様の勇姿を泉に映してみるかな・・・。

 

と、不用意に近づいた俺が馬鹿だった。畔の足元が崩れ、泉に落ちてしまった。

 

あれ・・・? 俺やばくない?

 

 




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第5話 泉の水を浄化しよう

・・・落ちたよ、落ちた。

 

ゆらゆらと現在泉の底に向かって沈没中。

 

どーしよう?

 

泉の底に沈んで行きながら、どうやって脱出しようか考える。

だが、俺様はラノベ大魔王!もちろんあの神作品が力を貸してくれるはずだ。

その名も『転生したらス〇イムだった件』!

伏〇先生ありがトゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!(2度目)

 

作品中、スライムのリ〇ル大先生は池の水を吸い込み、ジェット噴射のように吐き出してその推進力を脱出に利用していた。

俺も早速真似してみよう。

 

 

・・・・・・

 

 

んん?

 

ぜ~んぜん水を吸えない!

というか、口の概念がなかった(苦笑)

と言ってる間に泉の底に着いてしまった。

 

(どーしよう?)

 

泉は水面からの光により、多少ではあるが光が底にも届いている。ただ、全体に淀んでいるため、透明度はいまいちだ。

 

(とにかく、泉の底を這いずり回って探検だな!)

 

 

泉の底はヘドロが溜まっているようなことはなかった。

これで、泉の水自身が汚染されていることが想像できた。

 

(ただ、長い間汚れた水が流れ込んで汚染されてしまっているのか、汚染源自体がこの湖にあるのか、見極めないとだめだな)

 

泉の底をスルスルと移動していく。体を広げるように移動していくと、浮力が働くのかふわふわとした感覚がある。

 

(まるでマンタにでもなった気分だな)

 

俺が気持ちよく泉の底を優雅に移動していると、何だか黒くなった魚が2~3匹俺を突きに来たので逆に取り込んで吸収してやった。

吸収するときに、何か毒とか悪いものがないか意識してみると、やはり具合の悪そうなものがあるのか、吸収する時に何か引っかかるような成分があるような気がした。そこで吸収する時にその成分だけ別にしようと頑張ったら、体内の一部にその成分だけ別に保管できた。・・・分離したこれが何かはわからんが。

 

その他泉の底に沈んでいた草や苔みたいな物も吸収していった。ちょっとずつ毒物っぽいものがあるらしく、別に隔離されていく。・・・一回やると、次から自動的に隔離されていくな。・・・結局これが何かわからんけど。

 

(ん?・・・何だ?)

 

何だか奥の方に淀んだ黒い靄みたいなものが体から出ているデカいトカゲみたいな生き物がいた。

 

(うわ~、絶対この泉が汚れているのはコイツのせいだよな)

 

トカゲモドキはこちらを見つけると泳ぐようにやってきて、大きな口を開けて襲い掛かってくる。

ざーんねんだったな! 俺様という無敵スライムはお前のようなトカゲモドキの噛みつきなど効かないのだよ! 俺様はトカゲモドキ全体を包み込むように体を左右に大きく広げていく。トカゲモドキは焦って爪を振り下ろして来る。水の中とは思えないようなスピードだが、それも俺様には効かないのだ。振り下ろされた前足ごと取り込んでいく。

思いっきり強力に消化するイメージを出すと、見る見るうちにトカゲモドキは俺様の体の中に吸収されていった。もちろんヤバイ毒っぽい成分は分離だ。

 

これで泉も平和になるだろう。

 

と、言っても自浄作用が働くのはずいぶんと時間がかかるだろうな。

ここはひとつ俺様が一肌脱ぐとしますか。スライムだから肌無いけど。

 

ジェット噴射に失敗した俺は、まず水をどうやって取り込むか考えていた。

さっきのようにモンスターならその対象を包み込んでしまえばいい。では水ならばどうするか?その答えがこれだ!

俺はスライムの体の一部をタコの口のように丸く細くした。イメージはホースだな。

ここから水を吸い取る。

 

(おおっ!成功だ。体内に水が入ってきたぞ)

 

タプタプと水を吸ってスライムボディが膨らむ。早速吸い込んだ水を毒素や汚れだけ分離してきれいな水にして放出しよう。

同じようにホースをイメージして伸ばした触手の先から綺麗にした水を放出していく。

 

(・・・・・なんだかオシッコしてる気分だな)

 

泉の水を浄化しているはずなのに、なぜか背徳感に襲われてしまった。

 

 

・・・・・・・・

 

 

ピュリファイピュリファイピュリファイ・・・

 

呟きながら延々と泉の水を浄化していく。

 

そして二か月後(笑) もういいって?

 

(うおっしゃー! カンペキだ!)

 

泉の底から水面を見上げる。僅かしか光を通さなかった泉は今、完璧な透明度をもって燦燦と太陽の光を泉の底まで届けている。泉の魚たちも質の悪そうな者たち以外は取り込むことをせず、自浄作用に任せている。そのうち泉の生き物たちも綺麗な水の中で生活することにより、生態系は回復して行くだろう。

 

(いー仕事してますねぇ)

 

俺は自画自賛で泉の底から水面を見上げる。

 

(・・・どーやって脱出しよう!?)

 

結局、問題は解決していなかった。

 




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第6話 ジェット噴射で脱出しよう

(さてさて・・・、どうやってこの泉の底から脱出しようか?)

 

汚れた泉も浄化出来た。

これ以上俺が泉の底で魚している意味も無いだろう。

もっとも、マンタの如く湖の底をふわふわと泳いでいるのも気持ちいいけどね。

 

どうやってこの湖の底から脱出するか。

 

まず、触手をプロペラのようにぶん回して上がれないか試しにやってみたが、

水中で全然素早く触手を動かすことが出来ない。水の抵抗は相当なものだ。

 

体をうすーく伸ばしてゆらゆらしてみても、ゆらゆらするだけで湖面に上昇することは出来ない。

 

後は空気を含んで、風船のように膨らんで上がっていくか、水圧をジェット噴流のように吐き出しロケットのように飛び出すか・・・

タコの口をイメージしてホースを作り泉の水を取り込む事は出来たんだ。

爆発的に吸い込んだ水を吐き出すイメージが完成すれば脱出も可能だろう。

 

まずは細いホースからより巨大な大筒をイメージ。タービンを回すかの如く巨大な水流を作り上げて水を吸い込んでいく。

 

エネルギーをぐるぐるしながら吸い込んでいくので水の圧力がハンパないことになっている。

 

準備が出来たところで、その砲身ともいうべき大筒のような口を泉の地面に向ける。

 

ヒュィィィィィィィン

 

圧縮した水を一気に打ち出そうと体内の水をコントロールする。

なんだか巨大戦艦でも発信しそうな雰囲気だが、ここはまじめに泉を脱出できるよう最善を尽くす。

 

(ファイア!)

 

心の中で発射ボタンを押す。一気に水が自分の体から出て行く感じがする。

 

(うぉぉ!?)

 

圧倒的な圧力がかかりスライムボディがひしゃげるように悲鳴を上げたかと思うと、カタパルトで打ち出されたかの如くの勢いで泉の中を上昇していく。

 

ザッパーーーーーーン!!

 

泉の水面を突き破るかのごとき勢いで飛び出す俺様。

 

(うわわっ!?)

 

泉の真上、結構な高さまで打ち出される。このまま落下すると、また泉にぽちゃんして逆戻りになってしまう。それはまずい。

 

(秘技、スライムムササビの術!)

 

と言いつつ、体を薄っぺらく伸ばして風の抵抗を受けるようにする。

今考えれば落下傘みたいな形にすればよりゆっくり地面に降りられたのかもしれなかったが、今さら変えようとしても間に合わない。

 

ムササビっぽく風を受けてふわりと飛んでみたのは良いが、全くコントロール出来ず。

近くの木の枝にガサガサと突っ込む羽目になった。

 

近くにいた鳥が音にびっくりして逃げて行く。

 

(いや、悪いね、悪気があったわけじゃ・・・)

 

ガサガサと葉っぱや木の枝に突っ込んだものの、木の枝にひっかかり落下は免れたようだ。

と思ったのもつかの間、枝からずるりとスライムボディが落ちてしまう。

 

(わっ)

 

ドスン、ドタン、ボデン、ドサッ!

 

まるでパチンコの玉よろしく枝から枝へ落ちて行き最後は地面に墜落する。

(イタタタタ・・・って痛くはないのか、スライムだし)

 

結構な高さから落ちたはずだが、怪我などなく、痛みも無い。

この時ばかりはスライムボディに感謝だな。

 

 

(それはそうと、このジェット噴射、何か他にも使えないか?)

 

 

ということで、とりあえずいろいろ試して見ることにする。

 

まずデローン型で立つ。周りからは見られない位置、つまり体下に発射口を準備。

弱い勢いで打つ。

 

ボシュン!

 

水の噴射とともに体がちょっと浮き上がる。

 

なるほど、いい感じだ。

 

噴射する強さと持続時間によっては空も飛べるかもしれない。

 

早速やってみる。

 

ヒュィィィィィィン!

 

ドパンッ!!

 

ブシューーーー!!

 

勢いよく噴射した水によって俺様は空中へ弾き飛ばされるように飛んでいく。

 

グラリ

 

体勢が傾いた瞬間、噴射した水を止めていないことに気づく。

 

あ、いかん。

 

無理に体勢を戻そうと捻ったため、その場でシュルシュルシュルとねずみ花火のように水を噴射したまま回転し出してしまった。とりあえず水を止めよう。

 

ひゅるひゅると地面に落下した俺はとりあえず一息つく。

あー怖かった。

そういや相当周りに水をまき散らしてしまったな。ついでだ。周りの森に水でもやるか。

潤いは大事だからな。

 

そう言って俺はスライムホースを泉に垂らすと、ホースをずっと長くして移動し始める。もう一本水を吐き出す側のホースを製作して移動しながら木々に水をやっていく。

 

イメージは消防車のポンプ車だな。

自分の体内に溜め込んだ水を使用するのではなく、吸い上げてそのまま噴射する感じ。

スライム生活に慣れてくれば、いろいろなことが出来そうだ。

 

俺は泉の周りにある木々に水をやりながらこれからの事を考えた。




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第7話 自分の能力を確かめてみよう

泉をピカピカにして、ジェット噴射で脱出した俺様は泉の畔でのんびりしていた。

 

「あ~、泉がピカピカだと気持ちいいね~」

 

泉が濁っていたころは、光の反射もなく空気さえも淀んでいる感じだったけど、今はすがすがしいったらありゃしないわ、ホント。否定形で肯定する矛盾も何のその、ひと仕事やり終えた「漢おとこ」として、いや、水職人として、いやいや泉の精霊として(?)、やり切った満足感がハンパない。せっかくだし、しばらく泉を見守るとしよう。

 

あ、どうせなら水を体内に溜めておくか。

体の一部をホースのように伸ばして、泉の中に垂らす。

 

ズズズズズ~

 

素晴らしく澄んだクリーンな水を大量に吸い上げる。

え、そんな水をどこに仕舞っておくのかって?

実は素晴らしい能力に目覚めました!

 

タララタッタタ~! 名付けて「亜空間圧縮収納」!

 

これはもう、スキルと呼んで差し支えないのでは?

ノーチートノースキルでスラ生大丈夫かって悲観していたけど!

ラノベのテンプレ能力「無限収納」。いわゆるストレージ、インベントリなどと呼ばれるあの能力だ。だよね?誰かそうだと言って!

 

泉の底でピュリファイピュリファイしている時に不純物の処理に困ったんだよね。

どんどん不純物が溜まるから。

そこでさらにエネルギーをぐるぐるして不純物の圧縮に努めまくったわけ。

そしたら、エネルギーの先に開いたのよ!空間が(笑)

いや~、びっくりしたね。とりあえず不純物を放り込んでみる。

どんどん放り込みながら、これはなんだろ~なんて考えていたら・・・

 

すると、何ということでしょう!

何と放り込んだ不純物の名前が分かったのです!

 

【ポイズンウォータードレイクの毒】

【詳細:致死毒。成人男性に対して致死量は約3g。現在1412g保持】

 

よっしゃー!鑑定機能付き!これはもう絶対スキルだよね?よね?

どうやって取得したか分からんけど。後毒がヤバイ程溜まってる(汗)

 

その他毒以外の不純物は無毒化して排出。スライム細胞はすごく優秀なんだよね!

エネルギーぐるぐるしてイメージすると、有毒物を無毒化出来た。

それ以外にも消化液を出して溶かす、接着剤代わりにくっつける・・・、うん、他にもいろいろ頑張る。

 

そんなわけで、自分で綺麗にした泉の水を亜空間収納でズゴズゴ吸い込んでいる。

 

【奇跡の泉の水】

【詳細:汚染された泉が浄化され、水の精霊に祝福され奇跡の泉となった水。体内の解毒、新陳代謝の活性化を促す効果あり。】

 

(Oh・・・・・)

 

いつの間にやら、水の精霊に祝福された奇跡の泉になってました!

ホントいつの間に?

てか、やっぱり精霊っているのね。この世界。

 

とりあえずトン単位で頂いていきましょう。奇跡の泉の水(笑)

そのうち、カレーとか作って食べたいな~。この水で料理すれば、すごくうまそうな料理ができる気がするぞ。それをこの世界の人間に食べてもらえれば・・・。うん、いいぞ!きっと「異世界うまいぞー!」って感じでフレンドリーに対応してもらえそうじゃない?

 

・・・俺料理できないけど。

 

どー考えても、このナリで料理してると怪しすぎる。

魔女ばりに巨大寸胴鍋を棒でかき回すくらいしか出来ないかも。

せめて包丁でトントントン、なんてくらいには料理できるようになりたいな。

というか俺、取り込んで消化してるから味わからないんだよね。

・・・最も狼やら兎やら草やらを消化してるから、味が分かったら最悪だと思うけどね。そういう意味では今は味が分からなくてよかったってところかな。

 

能力という意味では、スライムボディの変化にはかなり柔軟に対応できるようになった。

やはり体を動かすのはあのぐるぐるエネルギーが必要だが、逆に言えばぐるぐるエネルギーさえあればかなり自由に体を変化させることが出来る。

 

目下練習中なのは高速触手発射ね。

さっきテストしたのは高いところの枝に2本の触手を高速発射して、巻き付けた後自分の体を引き上げるって動作。これ、かなりうまくいった。慣れれば木と木の間をターザンや野生の猿の如く高速移動できそうだ。

 

・・・自分で触手って言ってるとちょこっと悲しいな。何とか、右手とか左手って言えるくらい器用に動くようにトレーニングしなくては。

 

ぐるぐるエネルギーを体に巡らせると、体自体の大きさもコントロールできるようになった。ちょっと気合を入れれば、今までの3倍以上の体積になることもできる。最もその状態で動くとぐるぐるエネルギー的にしんどかったので、移動の際には通常のサイズに戻ることにしている。逆に小さくなれるのか試して見たが、普通に小さくもなれた。小さくなるのにもぐるぐるエネルギーがいるんだけどね。

やっぱり一番楽なのは標準サイズのデローン型だな。うん。

 

スライムと言えば、分裂だけど・・・、ちょっと自信ない。怖いよね。戻らなかったらどうしようとか。分裂したもう片方が勝手にどっかに行ったりとか。もうちょっと様子見よーっと。・・・決して日和ったわけではない、うん。

 




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第8話 ケガしたヒヨコを助けよう

今日も今日とて、泉の周りに水をやる。

・・・別にヒマしているわけではないぞ。うん。

 

それにしても・・・、泉の周りの木々だけ、少し大きくなった気がするな。

葉っぱも若々しくなった気がするし、木々の根元近くに生えていた綺麗な花にも入念に水をやっていたら、わさわさと満開の花を咲かせるようになった。

もしかして、この奇跡の水、新陳代謝が良くなるって事だったけど、植物にもいい影響があるようだな。すごい。

改めて、俺はいい仕事をしたようだ(自画自賛)

 

 

 

「ピヨ~~~~~~~!!!」

 

えらい鳴き声が聞こえた。チョロチョロと花に水をやっていた俺様は鳴き声の方に身を向ける。

 

(何だ?)

 

バサバサッ!

 

「ピヨピヨピヨ~~~!!」

 

茂みから黄色いヒヨコがバサバサと羽ばたきながら走って飛び出してきた。

涙をちょちょぎらせながらピヨピョ泣いて転がり出て来たところを見ると、命からがら逃げてきたようだ。

 

その後ろから茶色い狼が追いかけて来た。やっぱり想像は当たっていたようだ。

 

(あっ!)

 

狼が左前脚を振り下ろすとヒヨコの脇腹をざっくりとえぐった。血飛沫が舞う。

 

「ピピィーーーーーー!!」

 

血をまき散らしながらヒヨコちゃんが俺の目の前にばったりと倒れる。

狼は仕留めたヒヨコを頂こうと近寄って来て、俺に気づいたようだ。

 

「ガァァァァァ!」

 

仕留めたヒヨコを横取りされまいと、狼が俺の方に大口を開けて襲い掛かってくる。

悪いな、俺様というスライムは狼ごときに遅れをとらないのだ。

俺は右腕をイメージして触手を右ストレートを放つかの如く伸ばしていき、狼の口の中に突っ込んだ。

 

「グボッ!」

 

狼は苦しそうにうめき声をあげる。だがこの俺様に牙を向けた以上は覚悟してもらおうか。

狼の口の中に触手を伸ばし、その奥の内臓まで突っ込んでいく。触手の先から酸性の溶解液を出す。

 

「ギャワワワワン!」

 

内部から溶かされ、断末魔の悲鳴を上げる狼。悪いな、俺にケンカを売るとこうなるのだよ。

その後狼の全体をスライムボディで包み込み、消化していく。

一応何も食べなくても大丈夫みたいだが、取り込んで消化するとエネルギーが上がる気がする。数値で表示されるわけでもなし、感覚でしかわからないけど。

 

さて、狼は消化したが、目の前の瀕死のヒヨコはどうしようか?

ヒヨコは「ピヨ~~~」とかなり弱々しい鳴き声でつぶらな瞳をこちらに向けてきている。

よく見ると脇腹をざっくりとえぐり取られているため、このままでは死んでしまうだろう。

 

(う~ん、スライムの細胞を使ってみるか・・・)

 

再び伸ばした触手をヒヨコの傷口に当てる。

ヒヨコの体に同化するイメージを送り込み、傷が埋まったらプチンと切り離す。

 

くっついたスライムが光り輝くと、ヒヨコの傷がすっかり消えている。

 

「ピ?ピヨ!?ピヨヨーーーーーー!!」

 

ヒヨコは傷が無くなって助かったことに驚いているようだ。

バッサバッサ翼をはためかせて飛び回っている。

 

「ピヨヨーーーーーー!!」

 

元気になったヒヨコが俺に纏わりついてくる。

 

(うおおっ)

 

バタバタ翼をたたきつけたかと思うと、くちばしでめちゃめちゃ突いてくる。

 

「ピヨピヨピヨピヨ!!」

 

(いたたたた! いや、痛覚ないから、厳密には痛くないけどっ! 何か啄まれてる啄まれてる!)

 

あれ?コイツこんなに大きかったっけ?瀕死の時より一回りくらい大きくなってないか?

ちょっとスライム細胞譲渡しすぎたか?

 

それにしても、コイツの喜びっぷりは半端ない。というかもう迷惑だ。

 

『コラっ!いい加減にしろっ!』

 

念話するようにイメージすると、ヒヨコがビクッとして止まった。

 

『ボスッ!お助け頂き誠に恐悦至極に存じます!』

 

うおっ!ヒヨコが敬礼しながらスゲー丁寧に答えてきたぞ!

やたら軍人風なヒヨコだな。すごく面倒くさそうなやつだ。

 

『ボスに助けられましたこの命!今後身命を賭してボスに仕える所存であります!』

 

『え~~~~~、別にいらないけど』

 

『ボスッ!? そっそんな!』

 

ものすごい涙目で目の前に左右の翼を組んで全力でお願いポーズをするヒヨコ。

翼の扱い起用過ぎないか?

もうほとんど翼の先がグーに見える。

 

『わかったわかった。好きにするといいよ』

 

ヒヨコが部下になったからって、何ができるわけでもないだろうし。

 

『ボス!ありがとうございます!』

 

今度は片膝つきながら片方の翼を地面につけて下を向く。

このヒヨコ器用すぎるだろ。てか、ヒヨコって膝あるの?

 

その時だ。

 

ガサガサッ

 

森から先ほどの狼より一回り大きい狼が現れた。

 

『むっ!』

 

狼に向かい合おうと俺は体を向けるが・・・

 

『ボス、ここは私にお任せ下さい』

 

と言って、俺の前にヒヨコが踊り出る。

いや、お前さっきはあの狼より小さい狼に殺されかけてたよね?

ざっくり脇腹やられてたよね?

 

俺に仕えるなんて言ってたから、イイトコ見せようと無理してるのかと思ったのだが。

ヒヨコは目にも止まらぬスピードで左右にフットワークを始める。

あまりの速さに狼がビビッて止まる。

 

「グオッ!?」

 

ヒヨコは飛び上がると狼の全身を超高速で突きまくる。

 

「ピヨピヨピヨピヨ!」

 

「ギャワワワッ!」

 

嘴で突きまくられ、毛を毟られまくっている狼を見るとちょっとだけ同情する。

もはやズタズタにされた瀕死の狼は起死回生とばかりに大口を開けてヒヨコに飛び掛かる。

 

「ガウォォォォォ!」

 

特攻してくる狼をヒヨコは躱すのかと思いきや、迎え撃つ体制をとる。

 

「ピョ!ピョ!ピョーーーーーー!!!」

 

右翼を地面スレスレからねじり上げるようにアッパーカットを放つ!

ヒヨコ自身も竜巻のようにスクリュー回転で上昇しながら狼の顎を打ち抜く。

どう見てもそれ、昇○拳だよね?よね?

てか、掛け声もそれっぽいってどういうこと?

狼は血反吐を吐きながらもんどりうって絶命した。

ヒヨコは狼を俺の目の前まで引きずってくる。

 

『ボス!狩りの獲物を献上いたします』

 

いや、君さっきまで狩られる側だったよね? 何で急に狩る側に変身しちゃってるの?

大体自分の体の何倍もある狼引きずって来るって、どれだけパワーアップしてるわけ?

やっぱり俺のスライム細胞のせい? もしかして俺様はチートが全然ないのに、細胞あげると相手がチートになるってか?

 

『え~っと、お前は食べないのか?』

 

『自分は肉でも木の実でも肉でも何でも大好物であります!』

 

『では一緒に食べるとするか』

 

『光栄であります!』

 

と言って狼を嘴でめちゃめちゃ突きながら平らげている。

バイオレンスなヒヨコだな。

 

 

・・・・・・

 

 

『ふうっ! お腹いっぱいになったか?』

 

俺様は満腹感ってないから、よくわからないが、ヒヨコのこの体でこのデカイ狼食べたらそうとうなもんだよな?

 

『大満足であります、ボス!』

 

元気に敬礼するヒヨコ。うん、ブレないね、コイツ。

 

『さてと・・・、これからどうするか・・・』

 

とりあえず呟く俺にヒヨコが、

 

『ボス!よろしければ一族その他仲間を集めてボスに仕えたく存じます!』

 

などと宣ってきた。え~、一族郎党全部面倒見るの?

 

『きっとボスのお役に立って見せます!』

 

えらくやる気だね・・・。まあ、あまり止める理由もないか。

 

『そうか、ヒヨコ隊長に任せるよ』

 

何気なく言った言葉にヒヨコがびっくりするくらい反応した。

 

『我を隊長に任命くださるのですか! 感激であります! 誠心誠意ボスに尽くす所存であります!』

 

隊長に任命しただけで暑苦しさ100倍だよ。

 

『では早速ボスのためにヒヨコ軍団を形成してはせ参じたいと思います!しばしのお別れです!それでは!』

 

といってぱたぱたと飛び上がって見えなくなるヒヨコ隊長。

ヒヨコって飛べるんだね。知らなかったよ。

 




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第9話 兄貴と呼ばれたので子分どもをまとめてみよう

ヒヨコ隊長が自分の一族郎党を引き連れに戻ってからしばらく。

 

せっかく出来たばかりの自分の部下がいなくなって寂しいかって?

ぜーんぜん、そんな事はないのです。

むしろ暑苦しくなった。

その理由は・・・

 

 

 

『ボス!ボーーーーース!』

 

誰だよ? やたらめったら叫びまくってるの。というか、ボスって誰だよ? もしかして俺? いや、もしかしなくても俺か。

 

『あ!ボス!大変です!』

 

狼牙族が集団で俺の元へ走ってくる。やっぱり俺の事か。そりゃそうだよな、念話だもんな。

狼牙族ろうがぞくはいわゆる普通の獣である狼と違い、魔物の類であるとのことだ。

え、何で知ってるのかって? 狼牙族のボス本人に聞いたからね。・・・魔物の狼を呼ぶのに本人ってどうなのかな・・・まあいいか。

ちょっと前にこいつらのボスをコテンパンにしてから、狼牙族全体から俺はボス呼ばわりされて纏わりつかれている。コテンパンにした元ボス(今は俺様をボスと勝手に崇めている)にいろいろ聞いてみたのだ。コミュニケーション取れるって素敵なことね!

よく考えたら、スライムにいきなり転生して、独りぼっちでずっと泉の周りでウロウロしてただけだから、先日のヒヨコ隊長が初めてコミュニケーション取れた相手だったな。すぐ一族郎党引き連れに戻っちゃったから、また独りぼっちに戻っちゃったけど。

そしたら、その次にコミュニケーション取れたのが狼牙族だったわけ。

その狼牙族、俺をボス扱いして俺の周りから離れなくなった。だから条件を出してやった。

 

俺をボスと呼んで部下になりたければ

1.人間を襲わない

(狩りに来た冒険者を含む。但し他の人間を襲っている悪党は除外する)

2.俺の仲間同士で争わない。

3.俺に絶対服従(笑)

 

という条件を出した。狼牙族のボスは『よろこんでー!』と居酒屋チックに答えてた。わかってんのかな?

大体、俺様にはすでにヒヨコ隊長というれっきとした部下がいるのだ。・・・仲間連れてくるって言ったまんま、まだ帰ってこないけど。

 

『で、どうしたんだ?』

 

『街道近くで人間に襲われました! 多分ボスのいう冒険者ってヤツです! 剣と弓と魔法で襲い掛かってきました。俺たちは人間を襲ってはならないってボスの言いつけを守るために、うちの大将が囮に・・・』

 

『何だって!』

 

しまった!村の人間といつか交易したくて、人間から危険だと認識されないよう人間を襲わないってルールを作ったんだが、普通に向こうからは肉目当てで森に狩りに来るわけか。

 

『どこだ!案内しろ!』

 

『ボス!こっちです!』

 

一匹の狼牙が走り出す。俺は高速移動で追従する。最近分かったことだが、ティアドロップ型でぴょんぴょん飛ぶより、デローン型で前の土を掴み引き寄せるように進むと、土の上をすべるように移動出来た。こちらの方が断然移動スピードが速い。

 

街道から少し入ったところに狼牙族のリーダーが倒れていた。血まみれだ。かなり攻撃を受けてしまったようだ。

 

『ア・・・アニキ・・・』

 

ハッハッと荒い息をする狼牙族のリーダー。

 

『馬鹿野郎! お前たちの実力なら、冒険者たちくらい追っ払えたろうが!』

 

自分でルールを決めておきながら、リーダーが傷つけられてしまった事が許せなかった。

 

『ヘヘッ・・・俺たちはアニキの子分になりたかったから・・・』

 

息も絶え絶えといった感じでつぶやく。

 

『何言ってんだ。もうお前たちは立派な俺の子分だ! 仲間だ!』

 

俺は絶叫する。

 

『ア・・・アニキ、俺の仲間たちをお願いします・・・』

 

もう自分の命はないとわかっているのか、一族の心配をするリーダー。

 

『ふざけんな!お前もひっくるめて面倒みてやる!』

 

『ア・・・アニキはやっぱり最高だぜ・・・』

 

あ、感動のキャッチボールしてる場合じゃないや。早く治してやらないと。

俺はリーダーをすっぽり包み込むとケガをした部分にスライム細胞を与えていき、

傷を受けた部分に同化させ塞いでいく。

 

『あ、あれ?』

 

狼牙族の元ボス(わかりにくいからリーダーと呼ぼう)は自分が瀕死のケガを負っていたはずだったのが、すっかりケガが治ってしまったのを不思議がった。

 

『これは、アニキの力ですか?』

 

『そうだ。俺の細胞を分け与えて傷を塞いだ。だからお前の体には俺の体の一部が宿っている』

 

その説明を受け、感激に咽ぶリーダー。

 

『オオオオ~~~~~ン! 今ここにボスに終生の忠誠を誓います!』

『『『『『誓います!!』』』』』

 

リーダーとその後ろに控えた一族連中が吠える。

まあ、忠誠を誓うっていうんだから、いいか。

あれ? リーダーってあんなに大きかったっけ? ヤベ、スライム細胞渡し過ぎたか? 二回りはデカくなってるな。まあいいか。

 

『ボス。よろしければ私に名前を頂けませんでしょうか? 終生の忠誠の誓いとして、ボスに名付けられた名前を死ぬまで名乗りたいと思います!』

 

狼牙族のリーダーは畏まって俺の前にお座りしているな。

名前が欲しいのか、かなりしっぽが左右にぶんぶんと振られている。わかりやすいな、コイツ。

 

『え~っと、ローガでどう・・・?』

 

『ウオオオオオオーーーーーーー!! ボスよりローガの名を頂いたぞーーー!!』

 

『『『『『ウオォォォォォ!!』』』』』

 

暑苦しいやつらだな。えらく盛り上がっちゃったよ。

 

『そういや、お前たちはどれくらいの数がいるんだ?』

 

『私を含めて六十匹ほどおります、ボス』

 

多いな!おい。食糧問題とか、大変だな、こりゃ。水だけはここにたっぷりあるけど。

こいつらの面倒みるのかー。

え、狼牙族のリーダーにローガと名付けるって、安直すぎる?

まあ、喜んでるからいいんじゃないかな。

 




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第10話 子供たちと話してみよう

今日も今日とて泉の畔で水を吸い込む俺。

でも泉を枯渇させないように水の量には気を付けないとね。

 

ガサガサッ

 

ふいに茂みから何かが出てくるような気配がしたので慌ててそちらに向き直る。

 

「にーちゃん、魔物が出てくるかもしれないから、村から遠くへ行っちゃいけないって言われてるよ・・・」

 

小さな少女が隣の少年の服の裾を掴んで呟く。

 

「どうしても水がいるんだよ、チコ。村はずっと雨が降らずに作物も枯れかけているし」

 

にーちゃんと呼ばれた少年が答える。

そういえば、俺がスライムになってこの森に居座ってから、雨降ったっけ? 記憶に無いな。

もっとも泉の底で沈んている期間もそこそこあったけど。

 

「でも・・・、森の泉も毒で汚れてしまったって村長様が・・・」

 

不安げに呟くチコと呼ばれた少女。

 

「そう言われてたけど、井戸の水も少しずつしかもらえないし、母ちゃんの具合も良くならないし、どうしても水がいるんだ。少しでも可能性があるなら、調べてみないと」

 

振るえるように、それでも力強く一歩一歩泉の方へ歩みを進める少年。

 

「カンタにーちゃん・・・」

 

なにっ!にーちゃんはカンタって名前だったのか!

であれば、妹はチコではなくメイちゃんであれ!(ムチャクチャ)

 

兄妹は俺が見えるところまで来たのだが、急に走り出し俺を素通りして泉の畔にしゃがみ込む。

 

「み、水が綺麗だ・・・」

 

「ホ、ホントだよ、カンタにーちゃん!水がキラキラしてる!」

 

カンタと呼ばれた少年は泉に顔を突っ込んでゴクゴクと水を飲み出した。

チコと呼ばれた少女も両手で泉の水をすくって喉を潤し始める。

 

「ぷはー!生き返った!」

 

「にーちゃんおいしいね!」

 

兄妹はたらふく水を飲んで満足したのか、嬉しそうに話す。

そして、ふと横を見て俺に気づく。

 

「わああ!」

「きゃあ!」

 

慌てた兄妹はしりもちをついてびっくりする。

そりゃびっくりもするか。

というか、ヒヨコや狼牙族とはコミュニケーション取ってるけど、人間と会ったのはこれが初めてだぞ! ついに、人とファーストコンタクト! く~、緊張するねぇ、子供とはいえ。

やはりここは友好的な態度で臨まなくては。

 

(あー俺は・・・)

 

って、声出ねーよ?俺。ヤベー!久々やべちゃんヤッベー!

どうやってコミュニケーションとるよ?

 

「魔物か!? 見たことない魔物だ・・・。チコ!ここはにーちゃんが食い止める! お前は逃げろ!」

 

「にーちゃんも一緒じゃないとやだよ!」

 

「チコ!早く逃げるんだ!」

 

ああ、仲のいい兄妹のテンプレ会話聞いててほっこりしている場合じゃないわ。

敵意が無いって教えないと可哀そうだよね。

 

とりあえず地面に字を書いてみるか。

 

ボクは悪いスライムじゃないよ・・・っと。

 

「な、なんだ?何か魔物が書いてるけど・・・」

 

「にーちゃん、字、読める・・・?」

 

「ばかっ!にーちゃんに読めるわけないだろ。村長かザイーデルばあさんじゃないと」

 

うお!異世界教育恐るべし! 田舎の村では識字率低いか!

ならばっ!必殺パントマイム!

 

「うわっ! なんだかウネウネし出したぞ」

 

「ちょっとかわいいかも」

 

兄妹も少し落ち着いてきたみたいだけど、やっぱコミュニケーションとれねー。

ほとんど不思議な踊りだからな。どうするか?むむむ・・・

 

『少年よ、聞こえるか?』

 

俺はエネルギーをぐるぐるしながら、念話をイメージして心で語ってみようとする。

 

「うわっ!頭に声が直接響いてきた!」

 

「にーちゃん、あたしにも聞こえるよ」

 

えっ!? マジで念話成功? やった!何でもとりあえずトライしてみるもんだね!

トライさんありがとー!(意味不明)

魔物以外でも念話って通じるのね。

 

『泉の水は俺様が浄化したから、とっても綺麗だぞ。いっぱい飲んでいいぞ』

 

「ほ、ほんと!?」

 

少女が嬉しそうに聞いてきた。

 

『ああ、たくさん飲むといい』

 

「あんた、水の精霊か?」

 

少年の問いに俺は体をデローンMr.Ⅱ型から美しいブルーのティアドロップ型へ変更する。

え? いつの間にデローン型がデローンMr.Ⅱ型へ進化したのかって? まあ気にしないでくれたまえ、気分の問題だ。

 

「うわっ!変身した!?」

 

『俺は水の精霊ではないよ。だが水の精霊の力を借りて、この泉は奇跡の泉になった。お前たちにも水の精霊の恩恵があるだろう』

 

ちょっと言い回しが難しかったか?

 

「恩恵・・・?」

 

『体の不調が改善したり、体の調子が良くなったりするだろう』

 

「ほ、ホントか!?」

 

泉を見て興奮するカンタ。どうかしたのかな?

 

「なあ、俺たちのかーちゃんも助けてくれよ! 水をたくさん飲ませてやりたいけど、体調が悪くて起きられないんだ・・・」

 

そう言って俯いてしまう。

 

俺様は早速俯瞰イメージを起動する。

 

『お前たちの村はここから近いのか?』

 

「ああ、そんなに遠くないよ」

 

『村の入り口は竹の柵で囲ってあるところか?』

 

「え、よく知ってるな。行ったことあるのか?」

 

ないよ。何たってここから全くと言っていいほど動いてないからね(笑)

ほぼヒキコモリ?

そんなわけで俯瞰イメージを拡大して空から村を観察中。

 

『いいやない。それでお前たちの家はどこだ? 入口からどう行くのか説明してくれ』

 

「あ、うん。ウチは入口から入って右手の建物の3軒目のさらに奥の小さい家だよ」

 

『家の横に空の大甕があるな』

 

「そ、そうだよ! とーちゃんが生きているころは家の中にしまってあって、村の中央にある井戸に水を汲みに行ってたんだけど、とーちゃんが死んでからは、かーちゃんが力仕事していたけど、体調を崩しちゃったから、甕を家の外に出して、近所のおじさんが余裕のある時に水を汲んでくれてたんだ。でも村の井戸の水も少なくなって・・・」

 

『入り口を入って中央の井戸を超えた左手は大きな畑が広がっているな』

 

「ああ、村のみんなで畑をやっていて、作物が取れるごとに行商人が来るから、それでいろんなものと交換するんだ。でも雨が降らないから作物も育たなくて・・・」

 

俯きながら話す少年の瞳に涙が溜まっていく。どうにもすることのできない悔しさがあるのだろうな。

 

『少年、名前は?』

 

「えっ、ああ・・・、カンタっていうんだ」

 

「あたしはチコ!」

 

答えた少年に続いて元気よく少女も答える。微笑ましいな。

 

『カンタ、チコ。お前たちは約束を守ることが出来るか?』

 

「約束?」

 

『そうだ、約束だ。この泉で俺に会ったことを誰にも教えないという約束が守れるのならば、お前の家まで水を運んでやろう』

 

「えっ!? ホントか!」

 

『ああ、本当だ』

 

今はまだ俺の存在を村全体に知られるわけにはいかない。泉が綺麗になったことが知られれは大勢の村人がここまで押し寄せるだろうし、何より俺が討伐されかねない。

 

「守るよ!約束! だから、水を届けてくれ! かーちゃんを助けてくれ!」

 

「チコも守る!」

 

『そうか、優しい兄妹よ。では俺も約束を守って水を届けよう。今日は気を付けて帰るがいい』

 

「うん!」

「ありがとう!」

 

いい笑顔だ。なんだかいい事をした気分だな。まだ何にもしてないけど。

 

「アンタ、なんて名前なんだ?」

 

「お名前、教えて?」

 

二人して目をキラキラ輝かせて聞いてくる。

 

『俺様はスライムのヤーベだ』

 

「じゃーな!ヤーベありがとう!」

 

「スライムさんありがとう!」

 

元気に挨拶して村へ帰っていく兄妹。

ヤーベなのかスライムなのかわからん挨拶をしてしまったな。まあいいか。

 

 

・・・・・・

 

 

『ローガ、いるか?』

 

『はっ!ここに』

 

俺が念話すると、瞬時にそばに控えるローガ。どこにいたんだろね?ほんと。忍者だね。

 

『あの人間の兄妹が無事に村まで帰りつけるよう見えない位置から守れ』

 

『ははっ!』

 

ピィ!と口から鋭い音を鳴らすと、さらに3匹の狼牙族の狼が並ぶ。

 

『先ほどの人間の子供たちが魔物に襲われたりしないよう守れ。気取られるな!』

 

『ははっ!』

 

3匹は風のように消える。ほんと、忍者かっての。

 

『ボス、村に水を持って行って恩でも売る作戦ですか?』

 

『まずは子供2人だからな・・・、恩ってほどでもないだろうな』

 

『ボスは気長ですな』

 

スライムだから、気が長くなったんですかね~。

俺は今日の夜村に水を運ぶため、さらに泉の水を取り込んでいった。

 




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第11話 村に水を届けよう





カンタ、チコの兄妹と約束したからにはしっかりと責務を果たそうではないか。

日が落ちて月が真上に来るころ、俺は村に向かって出発した。

 

『ボス、私と部下2名、護衛のために同行致します』

 

ローガが部下を2名連れて俺に並んでくる。頼もしい奴らだ。

 

『頼む。だが村人に見つかるなよ?』

 

『ははっ!お任せください』

 

まあ、ローガたちの俊敏性は今やとんでもないからな。頼りになる。

ずるずると移動を始めるとローガが声をかけて来た。

 

『ボス、我が背にお乗りください。村まですぐにでも到着して見せましょう』

 

おおっ!リ〇ル大先生とラ〇ガのような関係だな! かなりあこがれてたんだよね。俺。

 

『うむ、頼むぞローガ!』

 

言うなり俺はローガの背中に飛び乗る。

 

『それでは行きますよ、ボス!』

 

ドンッ!

 

強烈な瞬発力を見せ瞬時にトップスピードで加速するローガ。

当然の如く吹き飛ばされその場に転がり落ちる俺。

・・・悲しい。

 

 

『ボスッ!大丈夫ですか!』

 

慌てて戻ってくるローガ。そういやリ〇ル大先生はスライム形態時ねん糸スキルで体を固定していたっけ・・・。ねーよ!そんな万能糸スキル! くそう!ノーチートの俺ではリ〇ル大先生には近づけないってのか!?

 

と、言いつつ再度ローガの上に飛び乗る。

 

『ボス、どうやって俺につかまりますか?』

 

そんなん、触手伸ばすしかないやんな。なぜ大阪弁?

 

にゅい~んと両サイドから触手を伸ばし、ローガのお腹の前で触手をつなぎ合わせる。

 

『うひゃひゃ! ボス! くすぐったいです! 無理です!』

 

触手をお腹に回した途端、暴れ出すローガ。こらじっとしないと俺が落ちるだろ・・・ってぶぎゅる!

 

ローガが転げたため、地面に押し付けられて潰れる俺。ひどすぎる。

 

『ああっ、ボス、すいません!』

 

ローガが思いの他くすぐったがりということは分かった。あまり役に立たない情報だが。

こうなったら直接首当たりの毛を掴もう。

再度ローガに飛び乗ると、スライムボディの接触部からローガの毛の感触を感じる。

認識出来たところでスライムボディの一部を毛に絡ませ掴むようにする。

これで振り回されても落ちることはない。

 

『よし、村に向けて出発だ』

 

俺はやっと村に出発することが出来た。さあ約束の水をたっぷり持っていくぞー!

 

 

――――――――――

 

 

ものの3分で到着。マジで速いな、ローガ。

 

『村の人に気づかれないように注意してくれ』

 

『わかりました、ボス!』

 

早速、カンタ、チコ兄妹の家に水を届けに行こう。

俺はローガから飛び降りると、ズルズルと家の方へ移動する。

 

ここがカンタとチコの家だな。甕が外に置いてある。中は空っぽだ。

俺はホース型にした触手を甕の中に伸ばしいれる。

だが、このまま水を入れてはいけない。

しばらく使用していなかったみたいだしまずは掃除だな。

俺は背中側に空気取り込み口を作って空気を取り入れてからホース型の触手の先から吹き出す。甕の中のごみや埃を吹き飛ばすように掃除だ。

今度は綺麗になった甕の中にホースのように伸ばした触手から水を出す。

 

じょぼじょぼじょぼ~

 

よし、満タンになった。

俺はついでにカンタやチコの家の扉をそっと開け・・・開かなかった。

きっとつっかえ棒でもしてあるのかな。

うん、用心が肝心だ。でもちょっと悲しい。

でもでもでもでもそんなの関係ねぇ~、なんてったって俺様はスライム。

そんなわけで扉の隙間からにゅるんと家の中に入る。

 

家の中に入ると、薄めの布団にお母さん、カンタ、チコが寝ていた。

台所っぽいところに行くと、鍋や水差しが置いてある。

どうせならここにも水を入れて行こう。

 

じょぼじょぼじょぼ~

 

どうだろう、これくらいの水でどのくらい生活できるんだろうか?

一週間くらい持つのかな?

またカンタにでも聞いてみよう。

 

次に畑に移動だ。

確かに作物がしおれている。

俺様は触手のホースの先をジョウロ型に変更する。

 

しょばしょばしょば~

 

広大な畑だが、頑張って水を撒いていく。

 

しょばしょばしょば~

 

畝の間を移動しながら、まんべんなく水を撒く。

 

何といっても水の精霊の加護を受けた奇跡の水だ。

もしかしたら作物がいっぱい採れたり、おっきくなったりしないかな。

・・・泉の周りの木々や花たちはかなり元気に育っていたな。この畑も期待していいかもな。

 

結構広い畑だったが、俺様はなんとか撒き終わった。

 

よし、それじゃ帰るか。おーい、ローガ。

 

『ははっ!』

 

早速ローガの背中に乗って早々に去る。

 

『いい事したら気分がいーなー』

 

『よかったですね!ボス』

 

 

 

―翌朝、村にてー

 

「かーちゃんかーちゃん! 見てみて! 甕に水がいっぱい入ってるよ!」

「ええっ!?」

「にーちゃん、水差しにも鍋にも水がいっぱい入ってるよ!」

「うわっ!ホントだ」

「ええっ!? どういうことなの?」

 

母親が二人に問いかける。

 

「にーちゃん、これってスライムさんが入れてくれたのかなぁ」

「ばかっ! チコ、それは内緒の話だろ!」

「内緒って何かあったの?」

 

母親は心配してカンタに尋ねる。

 

「何でもないよ、かーちゃん。でも、きっと水の精霊様が水を恵んでくれたんだよ、きっと!」

「かーちゃん、お水飲んでみて!」

 

チコは水差しからコップに水を灌ぐ。

母親は粗末なベッドから身を起こしコップの水を口に含んでいく。

 

「・・・ふう、ずいぶんスッキリしたわ。ありがとう」

 

母の笑顔に喜ぶ姉妹。二人にとって森の泉に二人だけで行くことは大冒険だったのだが、結果として大成功に終わったようだ。

 

 

 

「・・・村長!見てみろ! 雨も降っていないのに、畑に水が・・・」

 

「おおっ・・・これは神の御恵みなのか・・・」

 

「いったいどういう事なんだ・・・?」

 

ずっと雨が降らずに水不足で困っていた村にとって、雨が降った形跡がなく、井戸が干上がり気味なのに畑だけに水がたっぷりと降り注いで潤っているのは、まさに神の奇跡というべき情景だった。

 




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第12話 精霊たちの誤解を解こう

いつものエネルギーぐるぐるを行っていてふと気づく。

ぐるぐる練り上げて貯めたエネルギーを放出していろんな現象を起こしているわけだ。

ならば、このぐるぐるエネルギーを外から自分の体内に取り込めたらすごくないか?

 

仮にだが、このぐるぐるエネルギーを「魔力」とした場合、外から「魔力」を吸い込み使えるようになれば、自分の体内でぐるぐる練り上げる以外にも強力な切り札になるはずだ。

 

自分の体内のぐるぐるエネルギーを練り上げるのではなく、渦のようなイメージで回し出す。まるで水が渦を巻き吸い込まれていくように力をイメージしていく。

 

ズオンッ!

 

俺様の周りの空気が変わり、木がざわめきだす。ゆっくりと空気が俺様を中心に回り出しているような気がする。

 

ズズズズズッ!

 

自分の体内にぐるぐるエネルギーがものすごい勢いで満ちてくる。自分で練り上げるよりずっと早い。

 

(おおっ!これはいいぞ!)

 

調子に乗ってもっとエネルギーを集めてみようと力を入れてみる。

 

ズゴゴゴゴッ!

 

木々が大きくざわめき、空気が加速するように流れ出す。

その時だ。

 

「ちょっとちょっと!アンタ何やってんのよ!」

「そんな事をされると、とても困ってしまいます~」

「風たちも困っているので、もっと優しく接してもらえると嬉しいです・・・」

「お前、アタイにケンカ売ってんのか!」

 

え~っと、美少女4姉妹がそろい踏みです。姉妹かどうかわからんけど。

後、何気に空飛んでるな、コヤツら。何だが水色っぽい衣装の女の子は元気娘って感じだ。水色のミニスカから健康的な足がスラッと伸びている。ボーイッシュな髪形も元気倍増なイメージだ。

茶色っぽい衣装の子は腰まであるツヤツヤのブラウンヘアーが美しいおっとりしたお姉さんって感じだな。パレオのような長いロングスカートに薄茶のブラウスが清楚な感じだね。緑っぽい衣装の女の子は、だいぶ引っ込み思案な感じ。でもすごくかわいくて優しそう。膝くらいまである薄緑のフレアスカートを靡かせると一段とかわいさが増す。

真っ赤な髪を逆立ててタイトなミニスカートを穿く赤い衣装の子はちょっとヤンキー入ってる感じ。

 

『え~っと、どちら様ですか?』

 

この前子供たちと試してうまくいった念話で話しかけてみる。4人?いるから、全員に伝わるように意識する。

 

「ボクは強制的に魔力を吸収しようとするのは良くないと思うな」

 

水色のボクッ娘に言われた。

 

「契約したりして、頼まれれば風の力を貸すこともあるけど、無理やり魔力を吸収するのはどうかと思うのです」

 

緑色の清楚な子にもダメ出しされた。

 

「無理やりはイケないと思うの~。もっと分かりあってからの方がいいと思うわ」

 

茶色いお姉さんは何か違う気もするが、そこはあえてスルーだ。

 

「てめえ!ぶっ飛ばすぞ!」

 

うん、赤髪トサカはヤバいヤツっと。

 

『あ、やっぱりこのぐるぐる回ってるエネルギーで魔力なんですか?』

 

 

「え? 何で実践してるキミが知らないの?」

 

水色のボクッ娘が首を傾げて俺に聞く。

 

『自分、ここで生まれて基本一人で生活していて、誰にも何も教えてもらってないんで。』

 

「うっわ~、チョー寂しいヤツ!」

 

赤髪トサカが俺を馬鹿にしたように声を上げ、下げずんだ目で見降ろしてくる。

 

ほっとけ!誰も好き好んで寂しい思いをしてるわけじゃねーよ!

スライムだから仕方ないだろ!

 

さらに赤髪トサカがとんでもないことを言いだした。

 

「魔力を吸い取ってるから、邪悪な存在なら滅ぼそうと思ってきてやったんだ」

 

『ちょ、ちょっと!俺は邪悪でも何でもねーよ! 試しにエネルギーが集まらないか試して見ただけだから』

 

「何だ、残念だな。邪悪な存在なら遠慮なくアタイの必殺技、<獄炎拳弾ファイア・ラグナック>を炸裂させてやろーと思ったんだけどね」

 

赤髪トサカは拳に炎を纏わせ体の前で左右の拳をゴツゴツとぶつける。怖いからやめて下さい。

 

「そう言えば、キミこの前この泉をすっごく綺麗にしてくれたから、泉にボクの加護つけたんだよね。もしかして泉だけじゃなくて、キミ自身にも加護欲しかった?」

 

水色のボクッ娘がニコッと笑顔で聞いて来たので、シンプルに疑問をぶつけてみる。

 

『加護って何ですか?』

 

「加護って、ボクたち精霊が与えるもので、ボクなら水の加護をあげられるよ! 水の魔法の抵抗力が上がったり、水の魔法を使いやすくなるよ。加護とは別に契約ってのもあるけどね」

 

『じゃあ君は水の精霊なんだ。加護と契約は違うんだ?』

 

「加護はボクたちが一方的に付与してあげるチカラ何だけど、契約は相互協力だから。キミの魔力をもらって力を直接貸すことが出来るようになるよ。直接的には水の精霊魔法を使用できるようになるのと、契約した私自身を精霊界から呼び出すことが出来るようになるね」

 

『いつでも呼び出せるんだ? じゃあ友達だね!』

 

「と、友達っ!?」

 

水色のボクッ娘がびっくりした顔をする。

 

『うん、俺基本独りぼっちでここにいるし・・・。契約して友達になってくれると嬉しいな~』

 

あまり深く考えずに思ったことを言う。そう言えば今はローガたちは獲物取りに行ってるし、ヒヨコも軍団結成の旅に出ているため、今は俺しかいない。うん、だから嘘じゃないよね。実際寂しいし。

 

「うわ~、寂しいね~。キミには泉も綺麗にしてもらったことだし。そう言えばキミ、子供たちにも自分が水の精霊様だー! なんて言えたのに、正直に水の精霊に力を借りたって言ってたね! ボクは正直な人が大好きだから、ボクの加護を付与して契約もしてあげるよ!」

 

『えっ!? ほんとっ! やった!』

 

水色のボクッ娘が両手を開いて前に突き出す。

正直スライムの俺を人って呼んでくれるのはありがたいやら複雑やらだけど・・・。

 

両手のひらが光り輝いたと思ったら、俺に抱き着いてきた。

光に包まれたと思ったら、光が収まっていく。

 

「ボクは水の精霊ウィンティア! これからよろしくね!」

 

そう言って水の精霊ウィンティアは俺に抱き着いてくる。スライムボディはたゆんたゆんして抱き心地がいいだろう? だが、こちらもウィンティアが抱き着いて接触している個所の触感を集中して感度アップ! ウィンティアのぽよぽよおっぱいとスレンダーなフトモモを堪能だ!

 

・・・これは相互協力によるWinWinな関係だからな?

 

俺が全身でぴょんぴょん飛んで喜びを表すと、他の精霊たちも興味を持ったみたいだ。

 

「あなたは~、泉の水を撒いて木々に安らぎを与えてくれましたし~。私、土の精霊であるベルヒアからも加護を付与し契約も行ってあげましょう~」

 

『わ! ありがとう!』

 

茶色のロングへアーなゆるふわお姉さん、土の精霊ベルヒアも光り輝いたかと思ったら抱き着いてきた。

光が収まって加護と契約が完了する。

 

「あなたの魔力はとても力強くて優しいです。きっとあなたの存在はこの世界において無くてはならないものになって行くでしょう。私、風の精霊シルフィーも加護と契約を授けましょう」

 

緑色の清楚な娘、風の精霊シルフィーも光り輝き出し、抱き着いてきた。

 

『すごく嬉しいよ!』

 

「アタイは加護も契約もやらねーぞ! そんな安い女じゃねーからな!」

 

胸の前で腕を組みそっぽを向く赤髪トサカ女。

 

『じゃあいいや。三人も友達が出来たし十分だよ』

 

「えっ!?」

 

俺があっさり諦めたので、信じられないって顔をして俺を見る赤髪トサカ。

 

『3人同時に呼び出した時はすごく賑やかになるね!バーベキューでもしたいね』

 

「バーベキューって?」

 

ウィンティアが小首を傾げて俺に聞く。

 

『仲の良い者同士集まって料理して食事したり、ゲームして遊んだりするんだ』

 

結構適当な説明だな!自分で言ってて情けないけど。

 

「へー、楽しそうだね! 私たちは魔力を高めて実体化すれば触れるようになるし、物を食べたりも出来るようになるよ。食べたものはすべて魔力にエネルギー変換されるけど」

 

すごいな、エネルギー変換率100%! うらやましい・・・って、もしかして俺もそうだったりするかな? 排泄しないし。

 

「待て待て待てぇ!」

 

赤髪トサカが喚き立てる。

 

『なんだよ?』

 

「いやいや!ここはぜひとも契約と加護をお願いしますって泣いて頼むところだろっ!」

 

赤髪トサカが捲くし立てる。

 

『いや、別に』

 

「何でだよ! 俺様にも加護と契約をお願いしますって言えよ!」

 

『だが断る!』

 

「どどど、どうしてだよ! 俺様にまさか不満でもあるってのか!」

 

『むしろ不満だらけだ』

 

漫画であればガーンといった表現がバックに出ること間違いなしの表情でショックを受ける赤髪トサカ。

 

「チクショー! こうなりゃ無理やり加護与えて契約してやる!」

 

赤髪トサカは全身に炎を纏わせて輝きだすと俺に突っ込んでくる。

 

『ばっ、こら!やめっ・・・あちゃちゃちゃちゃ!』

 

ジュ~~~~~といい音がしながら赤髪トサカに抱き着かれる。

俺から煙が立ち上ってるだろ!

 

「ふんっ! 炎の精霊フレイアだ。加護と契約を与えてやったんだ。死ぬほど泣いて感謝しな!」

 

『アホかっ! 焼け焦げて死ぬほど熱かったわ!』

 

俺は炎の精霊フレイアを睨む。

あ。スライムだから暑さ寒さに強いのかと思ってたけど、今焼かれて熱かったぞ。

やばい!炎耐性とかどうやって取得するんだろ?

トレーニングとしては、フレイヤを呼び出して毎回焼かれて経験値を稼ぐ・・・つらいな。

 

「あ、これで4大精霊と契約しちゃったね!過去の歴史に4大精霊と同時に契約した人なんていなかったから、キミすごいね!」

 

「私の感じている通り、きっと世界に無くてはならない存在になるくらいすごい人ですわ」

 

ウィンティアが褒めればシルフィーも同意する。

 

「でも、気負わなくてもいいわ~、自然の中でゆっくり生活してね?」

 

ゆるふわおねーさんのベルヒアが言う。

 

「俺はお前をまだ認めてねーからなっ!」

 

フレイアは俺のまえにゲンコツを突き出し宣う。

ならなぜ加護を寄越して契約する?

 

「これでボク達は一旦帰るけど、いつでも呼んでね!」

 

そう言って精霊たちは見えなくなる。

 

水の精霊 ウィンティア

土の精霊 ベルヒア

風の精霊 シルフィー

炎の精霊 フレイア

 

4大精霊たちから加護と契約をもらってしまった。

これってチートって言ってもいいのかな?

わかんねーけど、チートだね!うん。そうしよう。そう決めた。

 

でないととっても寂しいから。

 




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第13話 村人たちの諍いを仲裁しよう

あれから3~4日ごとにカンタとチコの家に水を届けてやっている。

ついでに村の畑に水を撒いてやっている。

なんだが畑が急速に元気になっている気がするな。にょきにょきと元気に育っていたり、色の悪かった実がツヤツヤになったりと奇跡の泉の水効果が出ているようだ。

きっと村では喜ばれていることだろう(自画自賛)

 

『ボス! 大変です』

 

ローガが俺の横に馳せ参じた。

 

『どうした?』

 

『ボスが水を届けに行っている村を監視させている部下からの報告なのですが、カンタ、チコの兄妹が村の一部の人間から敵視されているとのことです』

 

俺は衝撃を受けた。

 

『何だと! どういうことだ!?』

 

『はっ! 人間たちの会話を拾わせたところ、どうもカンタ少年の家だけにきれいな水があるのが、村の井戸の水を盗んでいると指摘している人間がいると・・・』

 

『馬鹿な! あの子供たちや母親がそんなことが出来るわけがないだろう』

 

『その通りだと思いますが、どうも今現在村の井戸が枯れる寸前まで枯渇しており、その状態でカンタの家だけ水瓶が満タンなのはおかしいと・・・』

 

むうっ! 確かに村の井戸が枯れているのにカンタの家だけ水瓶が満タンなのはそりゃおかしいだろうけど・・・。だからと言って、枯渇気味の村の井戸から水を盗んだことにはなるまい。というか、もはや枯渇気味の井戸からは水瓶を満タンにするほど水が盗めまい。

 

『畑とカンタの家だけ水不足が解消しているため、村長を含め、自分たちの生活に必要な水を確保できない者達が、カンタ少年たちに対して不満をぶつけているようですな』

 

ああ、俺が泉の事を内緒にするように頼んだからだ!

あの兄妹は律儀に俺との約束を守っているのか。なんて子たちだ。

自分たちが村の連中に攻められているんだ。この泉や俺から水を貰っていることを話して水の出所を明らかにすれば攻められることもないだろうに・・・。

 

『なかなか律儀な兄妹ですな』

 

俺の考えていることを読んだのか、ローガは努めて平静に話す。だが、ローガだってきっと俺と同じ気持ちだろう。

 

『ローガ、すぐ村に出向くぞ』

 

『ははっ! して、部下はどれくらい引き連れますか?』

 

『全員だ』

 

『・・・よろしいので?』

 

『ああ、自分たちの事しか考えない大人たちにはキツイ対応も必要だろう』

 

多少剣呑な雰囲気で俺は答える。

 

『ですな』

 

ローガもニヤリと笑った。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

村では、村長以下多くの村人が枯れた井戸の周りに集まっていた。

 

「カンタよ。なぜお前の家だけ水瓶に水があるのじゃ」

 

村長はカンタ、チコの兄妹に質問をぶつける。

 

「カンタ、どういうことなの? 何か知っているの?」

 

カンタの母親は家から出ていなかったため、井戸の水が回復したとばかり思っていた。

だが、実際には井戸の水はほぼ枯れており、村人全員の水を賄えない状況になっていたのだ。

水を飲んでいたら体調が良くなって床から起き上がれるようになったので家から出てみたらカンタたちが村人に囲まれていたのだ。

 

「お前が水を盗んだんだろう! 水を返せ!」

 

村人の中でもいつもリーダーを気取って皆を纏めようと空回りする男、ウーザがカンタを怒鳴りつける。

 

「村の水なんて盗んでない! そんなことするもんか!」

 

カンタは全力で否定する。

妹のチコはカンタの左腕にしがみついている。

 

「にーちゃん・・・」

 

その目はスライムさんの事を村長に言わないの?と問いかけているように見えた。

だが、カンタは約束したのだ。泉の事は喋らないと。

そしてスライムのヤーベは、約束を守って水を届けてくれている。

カンタにはどれだけ村長たちに攻められようと、ヤーベとの約束を破る気はなかった。

ヤーベはちゃんと約束を守って水を届けてくれているのだから。

 

「しかし村長、畑がめちゃくちゃ元気で、作物も急にデカくなってますよね? これ、行商人が来たら、すごくいい値で引き取ってもらえそうですよね」

 

まじめに畑一筋でコツコツと作業することで定評のあるムニージが村長に話題を変えるように話しかけた。

 

だがその気遣いをすぐにウーザがぶち壊す。

 

「行商人が来るまでに俺たちが干上がっちまうよ! カンタが水を盗むせいでな!」

 

ウーザに睨まれるカンタだったが、一歩も引くことなく村長たちに向かい合う。

 

「俺は悪いことはしていない!」

 

カンタは両手に拳を握り、必死に涙をこらえる。

 

「カンタ・・・」

「にーちゃん・・・」

 

チコも母親も心配でカンタに寄り添う。

 

「村長、井戸水が枯れて水が足りないのは心配だが、畑の作物が想像以上に育っている。水がない分は水分の多い収穫物を村人たちで分けて何とかしのげないだろうか?」

 

ムニージは村長に今できることを提案していく。このあたりが挫けずにまじめでコツコツ何事も進めて行くと評判の男らしい反応だ。

 

「だが、それもこの畑が急に元気になったからだ。カンタの家だけ水瓶が枯れないことも含めて、原因がわからぬことには、またいつ畑が萎れてしまうやもしれんし・・・」

 

村長の発言を受けてウーザがまたカンタを目の敵にする。

 

「お前の家だけ水瓶に水があることが怪しいんだよ! 畑だって何をやっているんだ!」

 

ついにカンタの胸倉を掴むウーザ。

 

「ウーザ、落ち着け! 相手は子供だぞ!」

 

ムニージの窘めも聞かず、ウーザは力を緩めない。

 

「約束したんだ! 誰にも言わないって!」

 

カンタは涙目になりながらも、それでも言わなかった。

 

 

「そこまでだ!!」

 

 

その時、ものすごく大きな怒鳴り声が響いた。

 

「な、何だ?」

「誰だ?」

「あ、あそこに何かいるぞ!」

 

誰かが指さした方向を見れば、村の広場にある小さな教会の屋根に何かがいるのが見えた。

大きな狼の上に何かが乗ったシルエットが映る。

 

「ヤ、ヤーベ!」

「スライムさん!」

 

カンタとチコが同時に叫ぶ。まさしく二人が泉で出会い、その存在を内緒にすることを条件に水を届けてくれた相手、スライムのヤーベだった。

 




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第14話 村の井戸を復活させてみよう

「そこまでだ!!」

 

・・・あれ?

俺、今声が出たな。

俺の怒りの度合いがあまりに激しかったのか、文句を言うために発声器官が完成してしまったようだ。純粋に口が出来たのはありがたいが、原理は不明なり(汗)

 

とりあえず口が出来た?のなら話が早い。カンタを助けてやろう。

俺はローガに合図を送る。

ローガは念話を送らずとも俺の意図を寸分違わず汲んでくれる。

 

教会の屋根を飛び上がると、カンタの前に着地する。

もちろんカンタの胸倉を掴んでいた男を吹き飛ばして。

 

「ヤ、ヤーベ!」

 

思わず泣き出しながら抱き着いてくるカンタに、俺は優しく触手で頭を撫でてやる。

 

「お前、結構律儀なのな。こんなに大人たちがお前に文句言ってるとは思わなくてな。俺様の事を内緒にしろなんて言って悪かったな」

 

俺はカンタに謝る。

 

「そ、そんなことねーよ! 俺だってヤーベに水を運んでもらってかーちゃんも元気になったんだ。俺の方が助けられたよ」

 

そんなことを言うカンタの頭を今度はワシワシしてやる。

 

「で? 大の大人たちが寄って集って子供相手に何してんだ? 事と場合に寄っちゃあ、カンタの代わりに俺が相手になってやるよ」

 

少々剣呑な雰囲気を出して俺は周りを見回していく。

 

「ま、魔物なのか・・・?」

「でも、あんな魔物見たことないぞ?」

「というか、あの巨大な狼も見たことないぞ!」

 

ざわざわしだす村人たちを一喝するようにウーザが怒鳴り散らす。

 

「魔物が村に入り込んだんだ! みんな退治するぞ!」

 

気勢を上げるが、誰もついては来ない。そりゃそうだよな、ローガを見てケンカ売れる奴は相当だと思うぞ。

 

「退治する? 俺をか? いや、俺たちをか?」

 

俺のセリフに反応するようにずらっと狼牙族60匹が村人たちを取り囲むように姿を見せる。

 

「きゃああ!」

「な、なんだ?」

「村長!狼に取り囲まれているぞ!」

 

急に大勢の狼に取り囲まれて村人たちは大パニックになった。

はっはっは、子供たちをイジめた罰だ。反省したまえ。

 

「スライムさん! 狼さんはスライムさんのお友達?」

 

チコちゃんが狼牙族に恐れることなくローガを思いっきりナデナデしながら聞いてくる。

ローガよ、そんな何とかしてください、みたいな目で俺を見るな。耐えろ。

 

「そうだよ。大事なお友達さ!」

 

『ア、アニキ・・・』

 

感動してちょっと目がウルウルしているローガ。自分の部下がいるところではアニキと呼ばずボスと呼ぶようにしているようだが、思わず感動して出ちゃったみたいだ。

 

「貴殿は狼たちのボスということでよろしいか?」

 

村長らしき爺さんが話しかけて来た。さっき村長って呼ばれてたし、間違いないだろうけど。せっかくだから出来るだけ友好的なコミュニケーションを取りたいものだ。うまくいけば、村に遊びに来れるようになるかも。

・・・もっとも狼牙族60匹も引き連れて村人囲んでおいて友好的も何もないもんだけどな! どうせ大人のくせにカンタを攻め立てていたヤツは許さんし、問題なしだ。

 

「そうだな、俺がこの狼牙族を纏めている」

 

「そうですか。出来る限りの事はさせてもらいますので、どうか村人たちには手を出さないで頂けませんでしょうか?」

 

村長は俺に深々と頭を下げる。

 

「俺はカンタたち兄妹が一部の村人に攻められていると聞いてやって来ただけだ。もともとこの村をどうこうするつもりはないよ」

 

俺の言葉に心底ホッとした表情を浮かべる村長。狼牙族に囲まれているし、だいぶ心配したみたいだな。そりゃそうか。

 

「そうですか・・・ありがとうございます。ところで、貴殿がカンタたちに水を届けていたのですかな?」

 

「そうだよ。こうやって畑にも水をやっていたな」

 

俺はそう言うと触手をホースのように伸ばして水を勢いよく飛ばす。

 

「「「おおっ!」」」

 

村人たちが水をみてびっくりする。

 

「この水は貴殿が生み出しているのですかな?」

 

「いや、森の泉の水だ」

 

村長の問いに正直に答える。

 

「森の泉は汚染されていたはずですが・・・」

 

「俺が浄化した。今は水の精霊の祝福を受けた奇跡の泉としてきれいな水を湛えているぞ」

 

「な、なんと・・・!」

 

村長は俺が泉を浄化しただけでなく、水の精霊に祝福を受けたことに驚いているようだ。

 

「貴殿は、まさか水の精霊様でいらっしゃるのですか・・・!」

 

俺はデローンMr.Ⅱからティアドロップ型へ姿を変える。ポヨンッ!

 

「「「おおっ・・・!」」」

 

ふふっ!ここで「ボクは悪いスライムじゃないよっ」てやりたいけど、どうも村人みんなスライムにみんなピンと来てないようだし、きっとムダだね。

 

「いや、俺は水の精霊ではない。水の精霊は友達だがね。で、村長。随分とカンタを攻め立ててくれたようだが?」

 

再度威圧するように村長に向き直る。

 

「も、申し訳ございません! 村人たちの生活を支える井戸が枯れかけてしまっております! 水が村人全員に十分行き渡らなくなってしまい、困窮しているところへカンタの家の水瓶だけ水が枯れない状況に一部の村人が不満を持ってしまいまして・・・」

 

いきなり土下座したかと思うと、状況を説明し出す村長。

 

「じゃあ、井戸が復旧してまた水が出るようになれば誰も文句言わないな?」

 

俺は村長に確認する。

 

「もちろんでございます!」

 

すがるような村長の視線に多少辟易するが、このままにもしておけんしな。

何とかしてみよう。

 

「ウィンティア! ベルヒア! 力を貸してくれ!」

 

俺は契約した水の精霊ウィンティアと土の精霊ベルヒアを呼び出す。

 

「はいは~い!」

「お待たせ~」

 

俺の左右に水の精霊ウィンティアと土の精霊ベルヒアが現れる。

 

「「「おおおおお~~~~~」」」

 

村人たちが俺の左右に現れた精霊に驚いている。

 

「二人ともすまない、力を貸してくれ」

 

「もちろんいいよ! 君は僕の友達だしね!」

「私ももちろんOKよ~」

 

二人とも頼もしいね!

 

 

 

「まずはウィンティア。この井戸なんだけど、枯渇しかかっているんだ。水源そのものに問題がないか確認できるか?」

 

「ちょっと待ってね!」

 

と言いつつ水の精霊ウィンティアは右手から光を出し、井戸の底を探っていく。

 

「うん、水源自体は問題ないようだね。この地面の下に水はあるよ」

 

と、言うことは水の出が悪いのは地盤の問題だな。

 

「ではベルヒア、水源までの地層がどうなっているかわかるか?」

 

「は~い、ちょっと調べてみますわね~」

 

と言ってふわりと浮き上がると井戸の底へ降りて行く。

 

「ヤーベちゃん、わかったわよ~」

 

ふわふわと浮かび上がって帰って来た土の精霊ベルヒア。

 

「何がわかったんだ?」

 

「もともとこの井戸の下に硬い岩盤層が少しあるみたい。今までこの硬い岩盤層にある亀裂を通じで水が染み出て来たみたいだけど、少し地殻変動があったみたいで、亀裂がほとんど塞がっちゃったみたいね。だから水源から水が上がって来ないんだと思うわ」

 

土の精霊ベルヒアの説明で理解できた。今までは硬い岩盤層のわずかな亀裂から水が出ていたのが、塞がってしまって水が出て来なくなってしまったわけだな。

 

こんなことでカンタやチコやお母さんが村人たちに言われない中傷や疑いをかけられるとは許せないな。

 

「硬い岩盤層は15mほどありそうよ。大丈夫?」

 

俺がどのような方法をとるのか想像しているのか、ベルヒアが聞いてくる。

 

「12発さ!」

 

俺はニヤリと笑うと必殺のスライム触手(右)をぶん回した。

そして井戸の真上に飛び上がる。

 

「スライム流戦闘術奥義! トルネーディア・マグナム6連!」

 

勝手に名付けたスライム触手でのコークスクリューパンチ6連撃。6連撃なのは依然泉の畔でヒマしてた時にいろいろ必殺技を考えて試していた時に実際やってみて、超スピードでのアタックでは6連撃がコントロールできる限界だったからだ。

ちなみにスライム流戦闘術は矢部氏の脳内でイメトレされたものである。

ありがたいことにこの世界に彼をチュウニビョウとさげずむ者がいないのは僥倖であろう。

 

ドゴォォォォォン!

 

ド派手な音を立てて井戸の底に亀裂が入る。だが、もう一回だ。俺様は再度井戸の上空へ飛び上がる。

 

「もう一丁! トルネーディア・マグナム6連!」

 

ズゴォォォォォォン!

 

再度のアタックにひび割れが大きくなり、一気に水が噴き出る。

 

ブシューーーーーー!

 

「おおおっ! 水が! 水が出たぞ!」

 

村長が興奮した様子で叫ぶ。

カンタたちを攻め立てていた男もバンザイして喜んでいる。いい気なもんだ。後でオシオキコースだな。

俺は水が噴き出した井戸を見ながら村人の前に姿を現してしまったことで、今後の対応をどうするか考えることにした。

 




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第15話 井戸の復活をお祝いしよう

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「・・・で、精霊様は普段どちらにおられるのですかな?」

 

「・・・いや、だから精霊じゃないんだけどね・・・」

 

「ほっほっほ、まあそれは置いておくとしましてですな・・・」

 

 

なぜか今俺は村の井戸がある中央広場に一段高く作られた席のど真ん中に座らされている。

みんなが集まっている上に食事と言う事なので、取りあえずデローンMr.Ⅱからティアドロップ型へ変化させ、色も美しいコバルトブルーへ変更している。あまりに水色だと某RPGっぽくなりすぎてしまうしね。まあこの世界じゃ誰もわからないだろうけどさ。

 

無事井戸を復活させて、水の供給不足と言う状況を改善した俺。そうしたら村長が井戸を復活させて村人みんなの飲み水の心配を解消してくれたお礼と、カンタたちを心配させたせめてもの償いとして、村人総出でお祭りをやろうということになった。もっとも、今まで水不足で生活もままならないほど厳しい状態だったのだ、いろいろごちそうがすぐ用意できるわけでもなかった。

 

「でも、畑の作物ですごく元気になったり、大きく育っている野菜もありますから、それを収穫してみましょう」

 

ムニージが率先して野菜の収穫に出向いていく。

 

俺も何か手伝えないかな・・・

 

「ローガ」

 

『はっ!』

 

「部下たちとともに、村の周りでイノシシとかウサギとか、獣を狩れるか?」

 

『もちろんです、ボス! 狩りは我々狼牙族の最も得意とするところです』

 

ニヤリと笑うローガ。ウン、ローガのイカツイ笑い顔にもだいぶ慣れたな。

 

「それはそうと、念話でなく普通にしゃべっているが、俺の言葉理解できてるんだ?」

 

疑問だったので率直にローガに聞いてみる。

 

『はい、問題なく。なぜかはわかりませんが、今まで喋られていた内容はすべて理解できております。どうも私だけでなく、部下たちも理解できておるようです。』

 

そう言うと、他に3匹ほど俺の前に風のように現れる。

 

「お前たちも俺の喋っている言葉が分かるのか?」

 

『『『ははっ!理解できております』』』

 

「そうか、何はともあれお前たちと意思疎通が出来ることは僥倖だ。それでは狩りを頼むぞ!」

 

『『『ははーっ!!』』』

 

俺の前に来た3匹を筆頭に60匹が一瞬にして消える。村の外に狩りに出かけたのだろう。

張り切り過ぎて狩りまくらなければいいが・・・。

 

ん?

 

「あれ?ローガ、お前は行かないのか?」

 

俺の横にドーンとお座りして微動だにしないローガに声をかける。

 

『はい、我はボスの護衛という最も大事な仕事がありますゆえ』

 

俺が話しかけると、きりっとした顔で答えるローガ。でも尻尾パタパタ揺れてますよ。

それにしても俺の護衛? 

 

「別にいつも護衛しなくてもいいぞ。今日とか、みんなで狩りに行っても」

 

『我々狼牙族は今まで狩りをしている時が一番幸せでしたが、今はもっと幸せな時がありますから』

 

「ん? どんな時だ?」

 

『ボスの隣にいる時です』

 

・・・ローガァァァァァァ!!

 

誰もいなかったら抱きついて泣いていたかもしれない。

だが、ここには村人たちもいっぱいいるのだ。

自重せねば。

 

「そ、そうか」

 

俺のコバルトブルーの体、赤くなってないよな?

 

 

 

そうこうしているうちに、早くもローガの部下たちが帰って来た。仕事早いな!

 

・・・気合、やっぱり入っちゃったよね~

 

村の入り口から砂塵が舞う。

どうやら獲物を引きずってきているようだ。

 

『『『ボス! ただいま帰りました!』』』

 

「おう、お帰り~、というか、だいぶ大量だな」

 

『ははっ! 人間たちもそこそこ人数がいるようでしたので、ボスの威厳を見せつけるためにもだいぶ気合を入れましたよ』

 

次々と運び込まれる獲物たち。巨大イノシシが4,5,6・・・

細かいウサギも次々山積みにされていく。

 

「うぉぉー、すごい獲物の数だ!」

「しかも大きなイノシシばかりだぞ」

「見て、ウサギもあんなに!」

 

村人たちが色めき出す。まあ、すごい数の獣だしね。相当肉が食えそうだよ。

 

『いい仕事だぞ、お前達』

 

ローガが重厚な雰囲気で部下たちを褒める。リーダーの威厳を出そうとしてますね、ローガさん。

 

「「「うぉぉぉぉぉーーーー」」」

 

入り口近くで村人たちが盛り上がっている。

 

『なんだ?』

 

ずぞぞぞぞっ!と音がしたかと思うと、巨大なクマを数匹の狼牙族で引きずって来た。

 

『ボスッ! 今回の狩りの一番の大物になります』

 

目の前には巨大なクマ。結構いろんなところから血が出てますケド。

 

「こ、これは・・・!」

 

村長が巨大なクマを見て驚く。

 

「たまに冬眠前になると村近くに来るのか、村の畑や家畜にも被害が出たりすることがあったのですが、とてもじゃないですが、討伐などできるサイズのクマではないので、気を付けるだけで放置されておったのですよ」

 

それを倒してきたわけだ。そりゃ村長も安心するよね。

 

『これは、キラー・グリスリーですな。体長5mに満たない程度ですので、この種としては少し小ぶりですが、このあたりの人里近い森ではかなりの脅威かと。今仕留められたのは僥倖ですな』

 

あ、そうなんだ、結構ヤバイやつだったのね。名前からしてキラーグリスリーだもんね。

でもこの巨体なら食いでがあるね。村人たちには喜ばれるだろう。

それにしてもローガ、獣に詳しいのね。

 

『このキラー・グリスリーは我々と同じ魔獣です。我々狼系とこ奴ら熊系は犬猿の仲でして。油断すると手ごわい連中もおりますし、なかなか大変なのですよ。ただ、肉は少々堅めですがうまいですぞ』

 

そう?熊って臭いイメージ有るけど。まあ、村人たちにも振る舞えばいいか。

 

「イノシシやクマは毛皮も役立つだろう。村で使ってくれればいい」

 

「ほ、本当ですか? これらすべてよいのですかな?」

 

村長が驚いた顔を俺に向けてくる。まあ、俺たち食べる以外に用途ないからね。

 

「ああ、俺たちには毛皮は不要だな。ただ、今日はコイツラに腹いっぱい肉を食わせてやってくれ。余った分は干し肉に加工したりして村で食べてもらって構わないよ」

 

俺が今日肉食べたら後は全部あげるよ、と言ったので、村長たちは感激したようだ。

 

「精霊様に肉と毛皮を頂いたぞ! 今日は開村祭の前祝いだ! 存分に楽しもう!」

 

 

「「「わああああ~~~~~」」」

 

 

村人たちが大事にとっておいた酒を出してきたようだ。そして復活した井戸からの水を

汲み出しては村人たちに配って行く。

 

「村長、開村祭って?」

 

「年に一度、村を開いた時期にお祭りをするのです。それを開村祭と呼んでおります。

それがもうすぐ開催が迫っておる時期でしてな。それなのに井戸が枯れてお祭りどころではなくなっておりましたが、井戸も復活させて頂けたことで、無事に開村祭を開催できそうです」

村長が嬉しそうに話す。

 

「そうか、じゃあ開村祭には俺たちも協力しよう。今日くらいの獲物をまた狩って村に届けるとしよう」

 

「おお!それはありがたい。ぜひ精霊様にもご参加いただきたいものですな!」

 

そして俺の前にも村長がコップを差し出す。せっかくなので触手を出して受け取ることにする。

 

「井戸の復活と精霊様の加護に、乾杯!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

いや、何度も言うけど精霊様じゃないからね。精霊は別にいるからね?

てか、いつの間に加護あげたことになってるの? 俺そんなチート能力持ってないからね?

 

「おーい、みんな聞こえる?」

 

ちょっと小さい声で虚空に話しかける。

 

「聞こえるよ」

「聞こえてます」

「聞いてるわ~」

「お前何勝手に精霊扱いされてんの?」

 

水の精霊ウィンティア、風の精霊シルフィー、土の精霊ベルヒア、炎の精霊フレイアが

俺の後ろに顕著する。フレイアだけキレ気味なのはなぜ?

 

「何か精霊扱いされているんだけど、俺大丈夫かなぁ?」

 

何気に不安で聞いてみる。大精霊様とかがいて、勝手に精霊名乗った罪で成敗されたりするとか? でも魔物扱いされるよりは、精霊扱いの方が危険少なくていいんだよなぁ。

 

「まあ、いいんじゃないかなぁ?ボク的にはなんだかヤーベが仲間になった気がしてうれしいけどね!」

 

水の精霊ウィンティア、このボクッ娘ホントに俺の心をついてくるな~。

チョー嬉しいよ。

 

「精霊だって偽って悪いことしないならいいのではないでしょうか・・・?」

 

風の精霊シルフィー、この子は優しいな~。いつもそよ風に吹かれているような心地よさがあるね。

 

「お姉さんが包み込んであげるから大丈夫よ~」

 

土の精霊ベルヒア、ほんわかお姉さんだけど、言ってることはわからないです。ハイ。

 

「お前、精霊語って悪さしたらショーチしないからな!」

 

炎の精霊フレイア・・・ノーコメントで。

 

「コメントしろよな!」

 

俺は村長に復活した井戸の水を注がれながら精霊扱いも悪くないかも、と考え始めていた。

 

 

 




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第16話 ヒヨコの軍団を結成しよう

『ボス!仲間のヒヨコを集めてボスにヒヨコ軍団を献上して見せます!』

『わかった!お前には隊長の座を用意しよう! ヒヨコ隊長! 隊長の名にふさわしい軍団の構築を頼むぞ!』

『ははーーーーーっ!!』

 

とかなんとか言ってヒヨコ隊長が旅立って幾年月(笑)

実際には一ヶ月も経っていないかな?

現在ローガたちには森の奥へ探索に行ってもらっている。

ローガだけは俺の護衛に残りたかったようだが、探索効率のため、自分の部下を直接指揮してもらうため出かけてもらった。

そのため、一人で泉の畔で水やりをしている。

一人で過ごすのはちょっと懐かしささえ感じるようになったね。

 

そんな時、軍団は唐突にやって来た。

 

「「「「「「「「ぴよぴよぴよ~~~~~」」」」」」」」

 

わわわ! なんだ?この軍団? すごい数だけど・・・

ものすごい数のヒヨコが飛来してきた。もしかしてヒヨコ隊長が部下を連れて帰って来たのか?

 

 

「ぴよぴよ!」

 

ひと際大きい鳴き声が聞こえたかと思うと、全ヒヨコがビシッと整列し出す。

 

「ぴよ~~~ぴ!」

 

鳴き声一閃、一糸乱れぬ動作で隊列を組むヒヨコたち。

 

『ボス!ヒヨコ隊長戻りました! 新たにヒヨコ200匹を軍団に納め、ボスに仕えたいと思います!』

 

おお、本当に軍団を形成してくるとは、やるなヒヨコ隊長!

 

『うむ!ヒヨコ隊長の名に恥じぬ見事な働きである!』

 

仰々しく褒めてみる俺。出来る上官をアピールだ。

 

『ははーーーーっ!ありがたき幸せ!』

 

『これで見事なヒヨコ軍団を結成することが出来た』

 

ただ、取り立てて軍団が出来てもやることないんだよね。

 

『まずは長旅で疲れただろう、今日はゆっくりとその辺で休むがいい』

 

『ははっ!ありがたき幸せ!』

 

いちいち硬いね、ヒヨコ隊長。それにしても200匹を賄うエサがいるじゃん。

俺は食べなくても大丈夫だけど、ヒヨコたちはそうはいかないだろう。

魔物狩りにでも行かねば・・・。

 

『それでは皆の食糧を確保してくる。ゆっくり休んでいるといい』

 

と言って出かけようとしたのだが・・・。

 

『ボス!それには及びません!』

 

と言ってヒヨコ隊長が俺を止める。

 

『おいっ!』

 

そう言ってヒヨコ隊長が声をかけると、後ろからデカイイノシシを引きずって来るヒヨコたち。

 

『こちらへ向かっている途中でこのレッドボアに出会いましたので、仕留めてまいりました』

 

わお、りっぱなイノシシだ。レッドボアっていうのか? 魔物かな? 赤毛の巨大イノシシだね! 顔が怖いね(汗)

 

『これで今日はパーティと洒落込みましょう!』

 

ずいぶんと張り切っているヒヨコ隊長の意見を却下する理由も無い。

 

『出来れば皮を剥いで肉を焼いて食べたいものだな』

 

俺の呟きにヒヨコ隊長が反応する。

 

『わかりました!レッドボアの丸焼きと行きましょう』

 

そう言って「ぴよぴよ~」と部下に指示を出す。

あっという間にたくさんのヒヨコたちに突かれたレッドボアの皮は剥がされて肉がむき出しになる。

結構太目な枝をたくさんのヒヨコたちで引きずって来ては明らかに火で炙るための準備を始めようとしていた。

 

『おいおい、大丈夫か?』

 

巨大なレッドボアを串刺しにしてヒヨコたちが薪を集めて火を起こす準備すら完了しそうだ。恐るべしヒヨコ!

いまどーやって串刺しにした?てか、まるでモン〇ンのように獣肉を火で炙るシステムが木の枝で組まれてますけど?

これ、カソの村で開村祭の時にヒヨコたち連れて行ったらバーベキューの準備完璧なんじゃね?

 

「「「ぴよぴよぴよ~」」」

 

そのうち3匹が鳴き声を上げると、まさかの火の玉が薪に向かって飛ぶ!

そして見事に薪に火が付いた。

 

(えええええ~~~~~!!)

 

ヒヨコ、魔法使えるの!? 火の魔法使ったよね? それで薪に火をつけたよね?

恐るべしヒヨコ!

てかうらやましー! 俺も魔法使いてー!

なんならヒヨコ俺に教えてくれ!

 

そして、やたらとうまそうな匂いがしてくる。あれ?焼いてるだけだよね?

 

え? いつの間に匂いもかげるようになったのかって?

いやね、先日カソの村で歓待を受けた時にね、井戸の水の後にお酒も振る舞ってもらったわけ。お酒とくれば、ただ流し込むのももったいないじゃない? なんとか味わかんないかな~、匂いわかんないかな~と思ってたら、分かるようになりました!

いや、多少エネルギーぐるぐる、てかもう魔力でいいよね?精霊たちもそう言ってたし。

ぐるぐるした気はするけど、そんなに必死に何とかしようと思ったわけじゃないんだけど、何とかならんかなーと思ったら、何とかなったという(苦笑)

まあ、気持ちの問題って大事よね?

 

・・・あれ? ヒヨコ隊長どこ行った? アイツ、他のヒヨコより一回りはデカいからな。すぐわかるはずなんだが。

 

 

・・・いた、けど・・・

 

「ぴよぴよぴよ~」

「ぴよよ~」

「ぴよぴよ~」

 

『はっはっは、お前達、そう慌てなくともみんな相手してやるから』

 

ピキキッ!

 

えーと、ヒヨコ隊長の周りに7匹くらいヒヨコが集まってますな・・・

ええ、どっからどー見てもあれはハーレム、というやつですな。

こちとら、異世界飛ばされてまったく何の説明もないまま、スライムになったと気づいたときにチートでハーレムだーと勝手に喜んだ挙句ノーチートで今だヒロイン候補の登場も無し。

これがラノベの小説だったらぜってー売れねーぞ!

スライムと狼とヒヨコしか出て来ない物語なんて。

誰得だよ!ヒロインどころか、美人の女性すら出て来ないのに、ヒヨコはハーレムだとぉ!

 

俺はスルスルとヒヨコ隊長の前に移動する。

 

『あ、ボス。バーベキューの準備はまだ・・・』

 

「ギルティ」

 

『な、なぜぇぇぇ!』

 

触手をブン回してヒヨコ隊長を追い回す俺。

涙をちょちょぎらせながら逃げ回るヒヨコ隊長。

そしてヒヨコ隊長の愛人だか嫁だか知らんヒヨコたちからは悲鳴。

 

 

『ぴよっぴよ~(隊長とボス、仲がいいなぁ~)』

『ぴよぴよ(まったくだ。羨ましい限りだな)』

『ぴよぴよよ(俺たちもボスに相手してもらいたいもんだぜ)』

 

なぜかヒヨコの部下たちからは羨ましがられていた。

 




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第17話 ポンコツ女騎士を追い返そう!

ついにヒロイン?登場です!
読み返してみて、ホントにこれでいいのかと葛藤してますが・・・
後、局地的豪雨があったようです。7月になり暑い日も始まりますね。皆様も体調には十分お気を付けください。


「嫌っ!離して!」

 

えらく金切り声が響いてくる。やっとこ泉を浄化して周りの魔物を消化しまくって、水汲みに来た子供たちや村人達と仲良くなって平和な生活を手に入れられると思ったのに。

またまたトラブルか?

そういや、ローガたちはまだ森の奥の探索から帰って来ていないし、ヒヨコ隊長の軍団は逆に町の方へ情報収集に行かせている。狼と違ってヒヨコは人間たちにあまり警戒されないだろうしね。カソの村からさらに徒歩で約2日、冒険者ギルドがあるソレナリーニの町がある。その町の周りにヒヨコ軍団を派遣している。

そのため、またまた1人で泉の畔で水やりをしている。

1人で過ごすのはちょっと寂しささえ感じるようになったね。

 

ああ、状況を思案している場合ではなかったな。

見れば、騎士風の女が二人の盗賊風な男に襲われていた。

金属で出来た胸当てと腰回りのパーツからハーフプレートを纏っていると推測する。

ガントレットも金属製のようだ。なのに太ももはむっちり素肌が出ている。

異世界どーなってるの?装備バランス。

 

「きぃーひっひっひ!こんなウソに引っかかるオメーが悪いんだよ!」

 

「全くだぜ!チョロいにもほどがあるぜぇ」

 

男2人に襲われて悲鳴を上げる女騎士。というか、こんなゴブリンみたいな盗賊風の男2名にあっさり襲われる騎士がいるのか?もしかしてなんちゃって騎士?

 

肩のアンダーシャツを引っ張られ、肩当が外れてしまい、服が破られた。

 

「やだっやだぁー!」

 

泣きじゃくるように叫ぶ女騎士。ついに男の片方に馬乗りに圧し掛かられた。

 

「へへっ、観念しろってーの!」

「俺たちが薬草取りを教えてやるって本当に信じてたのか? オメー本当に馬鹿だな!」

「ひ、ひどい!」

 

泣きじゃくる女騎士の胸のプレートを男が引き剥がそうと力を籠める。

 

「お前たちなどに汚されるくらいなら・・・くっ、殺せ!」

 

(え~~~~~~~~!! ホンモノのクッコロシンドローム!!)

 

いや~、さすが異世界!あるんだね~、ホントに。

クッコロなんてラノベネタだとばっかり思ってたけど。

惜しむらくはゴブリンのような盗賊風の男ではなく、オークであれ!

 

「へっ!そんなに殺して欲しけりゃ殺してやるよ。もちろん散々楽しませてもらった後だがなぁ!がはははは!」

 

「うううっ・・・!」

 

これからの惨劇を想像し、絶望の表情を浮かべる女騎士風。

いや、こりゃ女騎士風だよ。絶対。こんな弱い女騎士いないだろ、普通。

だけどまあ、男どもはクズ決定だな。容赦しなくてよさそうだ。さあ助けようか。

 

「お~~~~い」

 

「なっ?何だ?」

 

俺は右手?を思いっきり伸ばした。

 

ドゴォ!

 

「ぶぺらぱっ!」

 

馬乗りになっていた男が振り返ったその顔目掛けたパンチが見事右顎をヒット!

顎を粉砕して男を吹き飛ばす。

 

「えっ?えっ?」

 

女騎士風の女は(ややこしいな!)急に男が吹っ飛んだことに戸惑っているようだ。

 

「なななっ!なんだっ!」

 

もう一人の男は仲間を見捨てて逃げようとするが、もちろん逃がさねーよ?

俺は次に右手?をぐるぐると振り回して遠心力を乗せると男を狙う。

 

「発射!」

 

ゴスッッッ!

 

ものの見事に逃げる男の後頭部を直撃する。

 

「もげげっ!」

 

男は顔面から地面に突っ伏して倒れる。

えっ?いつの間にこんな攻撃が出来るようになったかって?

ふふんっ!俺も進化したってことよ・・・あれ、信じてない?

 

実の所、右手をイメージして作った触手の中に、石を握り込んでました!

石を握り込んで槍のように直線で伸ばしたのが最初の1撃。モーニングスターや鞭のように振り回して先端に握り込んだ石をぶつけたのが2撃目。拳よりも一回り大きめの石でいったからな。相当なダメージだろう。

 

「大丈夫か?」

 

「えっ?えっ? ・・・もしかして君が話しかけているのか?」

 

女騎士風は助けてもらったことよりも、俺が話しかけたことの方にびっくりしているようだ。そりゃそうか。スライムに助けられるなんて想定外だよね。だいたい喋ってるのも非常識かな?

 

「そうだよ」

 

「ま、まさか魔物がしゃべるとは・・・、はっ!無頼者たちを倒して助けた代わりにこの体を好きにさせろと・・・くっ、犯せ!」

 

「なんでだよっ!? なんで助けたのに犯さなきゃならねーんだよ! ていうか、そこは殺せだろ!」

 

「だっ、だが助けてもらったのに私には何もお礼に差し出せるものがない!この体くらいしか・・・、はっ!さきほどの触手に絡め捕られて、ヌメヌメにされて・・・くっ、犯せ!」

 

「だからあ! そこは殺せだろ! というか、殺さねーし犯さねーけど!」

 

「そ、そうなのか・・・」

 

「何でちょっと残念そうなんだよっっっ! おかしいだろーが!」

 

「す、すまない・・・ちょっと気が動転しているようだ」

 

動転しすぎだろーよ。

だいたい、盗賊相手にあれほど泣いて嫌がっていたのに、このスライムである俺には犯せっておかしいだろーよ・・・

 

「まさかモンスターフェチとかじゃないだろうな?」

 

「ええっ!? そそそ、そんなことはないぞ・・・うん。ただ、私の命をその身を挺して助けてくれた喋る魔物さんにドキドキしているなど・・・うん、ないぞ・・・」

 

うぉーい!全部心の中を吐露しちゃってるよ!

基本的に白馬の騎士がスライムだったら、普通ドキドキしなくね?

いや、食べられるかもって違うドキドキがあるか。

 

てか、前世で全くモテず、ドーテイまっしぐらで賢者どころか大賢者も間違いなしだった俺様が、なぜスライムになったとたんモテている? だいたいねーよ! ヘソまで反り返った俺様のピーーーーが! なにせスライムだからな! ・・・ええ、誇張しましたよ! 俺様のピーーーーなんてヘソまで反り返ってなかったですよ! 

だいぶ盛りましたけど何か?

 

「あの・・・、魔物の君はずっとここにいるのか?」

 

女騎士はやたらモジモジしながら俺様に聞いてくる。

 

「ああ、俺はスライムだし、町に買い出しとか無理だから。金無いし。」

 

まあ、カソの村には姿を見られてしまったが、なんだか精霊の一種みたいに見られているようだし、内緒にしてもらうように言ってあるしな。てか、カソの村はお店とかあったか?

 

「なんだろう、すごく切実に極貧な冒険者と会話しているようだ・・・」

 

やたらとかわいそうな目で見てくる女騎士。ほっとけ。

 

「そういや、君の名前を聞いてないな」

 

女騎士を見つめてみる。・・・最も俺様に目があるかどうかわからんから、見ているかどうかわからないだろうけど。

 

「・・・そんなに見つめられると、照れるじゃないか。むっ、ジッと見つめてこの私に自ら体を開かせるようプレッシャーを・・・くっ、犯せ!」

 

「だからなんでだよっ!・・・て、なんで俺が見つめてるってわかるんだ?」

 

まさかこの女騎士、魔眼持ちとかか? ラノベにありそうなポンコツ女騎士と見せかけて実はチート持ちってヤツか?

 

「ん? だって、こんなに熱い目で私を見つめているじゃないか・・・」

 

と言ってこちらに歩いてくる。

女騎士は右手の人差し指を突き出してくる・・・なんだ?人差し指がデカくなって・・・

 

ツン!

 

「グオオッ!」

 

「わあっ!」

 

女騎士は軽く突いたようだが、俺の体は柔らかいため、ぷっすり刺さったみたいだ。

ていうか、外から見たら俺の目があるってことか?

痛覚が無いから痛くはないのだが、ぷっすり刺さったことにより驚いて大声をあげてしまった。

 

「すっ、すまない!痛くなかっただろうか・・・?」

 

すごく心配そうに覗き込んで来る女騎士。やべっ!よく見るとコイツかわいいな。

 

「痛くはないから大丈夫だ。ちょっとびっくりしただけで。というか、俺に目があるのか?」

 

「うん、すごくつぶらな瞳で私を見つめているぞ・・・」

 

両手を頬に当て、赤くなる女騎士。全くもってスライムのこの俺のどこがいいのかわからんが。自分で言って悲しくなるけど。

ていうか、つぶらな目があるのか!俺に。集中して見ると目が出てくるのかな?

自分では見られないからな。コミカライズでもされないとわからねーな、ハハ!

 

「というか、まだお前の名前を聞いていないが?」

 

肝心なことを忘れていたぞ。いつまでも心の中でポンコツ女騎士と呼んでいるわけにもいかないからな。

 

「あ、ああ、すまない。私はイリーナだ。イリーナ・フォン・ルーベンゲルグという。よろしく頼む。」

 

うわ~~~~~、ワケあり来た~~~~~!

フォンって確か貴族の家名に使うやつじゃね?貴族の娘がこの可愛さで弱いポンコツ騎士の格好で一人でフラフラして盗賊に襲われてたって、どんなワケありだよ!ワケありにも程があるだろーがよ!

ていうか、よろしく頼むってスライムに何を頼むつもりだよっ!

 

「で? アンタはなんでこんな所に来てあの二人に襲われてんだ?」

 

「せっかくイリーナと名乗ったのだ。イリーナと呼んではくれまいか・・・?」

 

めんどくせーーーーー!!

 

めんどくさいが、言うことを聞かないともっとめんどくさくなるパターンだと推測する。

 

「で、イリーナはなぜこんなところで盗賊に襲われてたんだ?」

 

そこで血を吹き出しながらぶっ倒れている2人を見ながら問う。

あ、そうだ。逃げ出さないように縛っておくか。

俺は触手を伸ばして木の弦を引っ張ってくると、2人の盗賊を縛っておく。

 

「私はとある事情で王都にいられなくなったので、田舎に逃げてきたのだ。ソレナリーニの町まで旅をしてきて、冒険者ギルドに登録して初めてのクエストに薬草採取を選んできたのだ。その時に冒険者ギルドの酒場にいた2名がこいつらだ。こいつらも旅の途中だったみたいで、薬草取りが得意だから教えてくれるっていったので一緒に来たのだ。このすぐ近くのカソの村までは行商人たちと一緒に来たので、こいつらも私を襲わなかったのかもしれない。カソの村から薬草の話を村人に聞いて森に入ったところで襲われたのだ。やはり最初から私は狙われていたという事だろうな・・・」

 

うわ~、初めてのクエストで目をつけられて襲われるって、何たるテンプレ!しかも俺が助けなかったら完全アウトな感じじゃなかったか? というか、こいつら盗賊じゃなくて、質の悪い冒険者?

 

「とりあえず、冒険者ギルドにこの2名を引きずってでも連れていけ。襲われた経緯を話して対処してもらえよ。」

 

「わかった・・・」

 

と言って弦を引っ張るが、大の男2名分を引きずっては行けないようだ。

 

「むむむっ!重い・・・」

 

「は~~~、すぐ近くのカソの村に話を付けてコイツラを縛ってソレナリーニの町まで連れて行ってくれるように村人にも協力してもらおう。開村祭が近いから、お祭りの協力を申し出ればこちらへの協力も得られるだろう。冒険者ギルドに行って報告した上早く引き渡してしまえ」

 

そう提案すると、イリーナは両手を胸の前に組み、花の咲いたような笑顔で俺を見る。

 

「そ、そうか!さすがは魔物の君だ。早速村に行って人を呼んでくる!」

 

そう言って早速村へ走り出そうとしたので俺は慌ててイリーナを止める。

 

「イリーナ、わかっているだろうが俺の事は誰にも言うなよ? 喋るスライムなんて言ったら変な目で見られるか、討伐対象になって襲われるかどちらかだからな」

 

「なんと・・・、こんなにも真摯な魔物の君の事を誰にも言えないというのか?そんな寂しい事・・・」

 

と言ってすごく寂しそうな顔をして俯くイリーナ。

これは、うまく念を押さないとコイツはポンコツだからどこでやらかしくれるか全くわからん。カソの村では俺様は精霊という事になっているが、コイツは冒険者ギルドに戻った時に俺の事をうまく説明できるとは思えないしな。それに今カソの村にはコイツラを運んできた行商人たちがいるようだ。どんなものを扱っているか見たいところだが、俺が姿を見せるのはまだまずいよな・・・

 

「イリーナ。俺の事は俺とイリーナの二人だけの秘密だ」

 

「ふっ、二人だけの秘密・・・! 魔物の君との・・・!」

 

イリーナは顔を真っ赤にして両手で頬を抑え、体をクネクネさせる。

特別な感じを出して俺の事を秘密にさせようと思って言ってみたが、なんだか効果があったみたいだ。

 

「ところで、さっきからスライムという言葉が聞こえた気がしたのだが・・・」

 

「ん?」

 

「スライムって一体何のことなのだ?」

 

「んん?」

 

スライムって何のことって・・・それこそ何のこと!?

 




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第18話 ヤーベの仲間を勢揃いさせてみよう

「スライムって一体何のことなのだ?」

 

「んん?」

 

俺はイリーナが何のことを言っているかすぐ理解できなかった。何の事って?

 

「あっ!もしかして魔物の君の名前なのかな? ス、スライム殿とお呼びしてもよいだろうか・・・」

 

「いや、名前じゃねーし。というかスライムってモンスター知らないのか?」

 

「やっぱり魔物の君はモンスターだったんだね。でもスライムって種族は聞いたことないな」

 

何だって・・・スライム知らないのか? というか、この世界にはスライムはいないってことか・・・? いや。このポンコツイリーナがただ知らないだけって可能性の方が高いな。

 

「イリーナは冒険者になる時に魔物の情報をもらったか?」

 

「うむ、冒険者ギルドに登録した時に、近隣の森に出る魔物の情報をもらったぞ。討伐対象で報奨金が出る魔物もいるからな」

 

「そこにスライムはなかったんだな?」

 

「うむ、スライムという魔物の情報無かったし、王都に住んでいた時に聞いた話や物語を読んだりして得た魔物知識の中にもスライムなどという魔物が出てきたことは一度もないぞ」

 

なんてこった・・・。スライムがいない、もしくはレアモンスターの可能性もあるってのか。

 

「もしかして、魔物の君はすごく特殊な魔物なのだろうか?」

 

ちょっと顔を赤らめて両手を頬に当て訪ねてくるイリーナ。俺に聞かれても知らねーし。

 

「う~ん、これは一度ちゃんと調べた方が良さそうだな・・・」

 

だが、当然俺はこのまま村や町に行って図書館などで調べるわけにもいかない。どうしたものか・・・。

 

「一度、村に戻ってそれとなく調べて来るとしよう。不埒者どもを引き渡さねばならないことだし」

 

イリーナの言葉に俺はちょっと感動した。俺のためにスライムを調べてくれるなんて・・・。ポンコツ女騎士だなんて思ってごめんね!

ついでに採取依頼の出ていた薬草を渡してやる。

亜空間圧縮収納による鑑定能力が備わってから、あらゆる草を取り込んで鑑定しまくってたので、薬草や毒消し草は山のようにあるのだ。

 

早速悪党2人を引きずってカソの村の近くまで連れて行く。

村の見張りの男に村長を呼んできてもらい、事情を説明する。

 

「それは大変でしたな・・・。荷車に縛り付けて村の青年2人がかりで運ばせましょう。

なになに、精霊様のお願いです。なんてことはありませんよ! それで開村祭の事なのですが・・・」

 

やっぱり気持ちよく協力してくれたな。・・・こっちもいろいろお願いされたけど。

まあ祭りを盛り上げるためだ、出来る限り協力しよう。

 

よく見るとイリーナがポカーンとしている。

 

「ま、魔物の君は私には誰にも自分の事を言うなと言っておきながら・・・、このカソの村の住人とはとても仲良しにしているではないか!」

 

なんかちょっとプリプリして怒っている感じのイリーナさん。なんで?

 

「このカソの村では、村の井戸が枯渇して困っているところだったのを改善できたんだよ。それ以来『精霊様』って呼ばれるようになっちゃってね・・・。一応村長さんから村人たちに俺の存在は他の村の人たちには言わないように口留めしてもらってるけどね」

 

「そ、そうなのか・・・、精霊様として・・・。それなら魔物の君として知っているのは私だけということ・・・? なら約束通り、ふ、ふたりだけの秘密ってことに・・・」

 

なんだか顔を赤らめてクネクネしているイリーナ。なんだ?風邪か?俺にうつすなよ。

 

そして村の青年たちの協力を受けてカソの村からソレナリーニの町へ旅立って行った。

スライムの事を調べて来るとか言っていたが・・・、まあ、依頼達成料や2人の盗賊?を引き渡した報奨金も手に入るかもしれない。わざわざこんな何もない俺のところへまた戻ってくる必要もないような気もする。・・・ちょっと寂しい。

 

 

 

しばらくして、泉の畔で花に水をやっていると、イリーナが戻ってきた。やたら早いな。ソレナリーニの町って歩いて片道2日のはずじゃあ・・・?

向こうに1日居たとしたって、計算おかしい気がする。もう1~2日かかりそうなものだが。

走って来たのか? 汗をかいてハァハァ言ってるな。・・・うん、変な気持ちにはならないよ。ダッテボクスライムデスカラ。

・・・ん?大きなリュックを背負ってるな。明らかにリュックの上部にはテントらしきアイテムが鎮座している。

 

「・・・イリーナさん?」

 

「やあ、スライム殿! 無事に悪党2人は引き渡せたぞ。薬草採取も無事達成となって報奨金とギルドポイントを受け取ることが出来た。ありがとう、これも全てスライム殿のおかげだ」

 

満面の笑みを浮かべて喜びを表すイリーナ。だが、背中の大荷物は何だろう?

 

「で、イリーナさんは何でそんなに大きな荷物を持ってるんだ?」

 

「スライム殿。スライム殿は私の命の恩人だ。さん付けなんてやめて、どうかイリーナと呼び捨てで呼んではもらえまいか」

 

前も言われたね、それ。そういえば俺もイリーナって呼んでたね。

 

「・・・で、イリーナは何でそんなに大きな荷物を持ってるんだ?」

 

「イ、イリーナと呼び捨てに・・・、きっとこの後触手で絡め捕られて「イリーナ、お前は俺の女だ!」って抑え込まれて・・・くっ、犯せ!」

 

「イリーナと呼び捨てにしろって言ったのそっちだからね! ていうか、大体荷物の話はどこへ行った!?」

 

「もちろん、スライム殿のそばで暮らすために決まっているではないか。私はまだスライム殿に何の恩返しも出来ていないのだからな」

 

そう言って嬉しそうに泉の畔にテントを立て始めるイリーナ。君、イイトコのお嬢さんだよね?

 

「もしもーし、イリーナさん? 暮らすの? ここで? どうやって?」

 

「スライム殿・・・。スライム殿は私の命の恩人だ。さん付けなんてやめて、どうかイリーナと呼び捨てで呼んではもらえまいか」

 

「それ、さっきと同じパターンだからね? 呼んで妄想して「クッオカ」パターンだからね? しつこい天丼ノーセンキューだからね?」

 

「スライム殿。ちょっと何を言っているのかわからないのだが」

 

「狙って言ってるとしたらサンド○ッチマンレベルだからね?」

 

可愛く首を傾げて俺を見つめるイリーナにかなり激おこプンプン丸レベルでプリプリしてみる。よくわかってないイリーナ、無駄にくっそカワイイなぁ、おい!

 

『ボス! 調査からただいま戻りました!』

『ついでにエモノ取ってきましたぜ~』

『そろそろあの村で祭りが始まるでがんしょ? いいエモノ捕まえやしたぜ!』

 

ん? ローガたちが帰って来たか。

何か1匹聞いたことないヤツいるな? だいぶキャラ濃いけどそんな奴いたかな?

 

「なななっ!? 狼たちがたくさん? くっ、魔物の君をやらせはしないぞ!」

 

よたよたと腰の剣を抜きかまえるイリーナ。ぜったい弱いよな、イリーナって。

 

『ボス。なんです?このへっぽこそうな女は』

 

いや、ローガよ、そう思ってもストレートに言葉に出してはいけないときもあるのだよ。

君はもう少しコミュニケーション能力を学びたまえ。

 

『あ、わかったでがんす。人間の雌のようですし、アニキの女じゃないですかい?』

 

だから、キャラ濃いんだよ。てか、誰だよお前?

 

『おおっ!ボスも嫁を取ったってことか!』

 

部下の言葉にローガが勝手に納得する。勝手に人の嫁にするんじゃないよ。

てか、ローガよ。お前直属の部下にそんなキャラの濃いヤツ居たか?

 

「安心してくれ、イリーナ。この狼牙族は俺の部下なんだ」

 

「ま、魔物の君はこんなにもたくさんの部下がいるのか?」

 

周りの狼牙族を見渡してびっくりするイリーナ。

 

「まだ帰って来てないけど、200匹(羽?)のヒヨコも部下にいるぞ」

 

「ひ、ヒヨコ?」

 

『ボス、ヒヨコも部下にしたのですか?』

 

ああ、ローガには話してなかったな。

 

「ローガが部下になる前にヒヨコを助けたら部下になったんだよ」

 

俺の説明にガーンとなって落ち込むローガ。どうした?

 

『わ、我がボスの一番最初の部下とばかり・・・』

 

あ、順序気にしてるのか。となると・・・

 

①ヒヨコ隊長

②ローガたち狼牙族

③ヒヨコ200匹(羽?)

 

という順番だな。

 

『やはり、我には先輩となるヒヨコが1匹おるわけですな。しかも隊長の役職を持っているのですな』

 

若干ジトッとした目で見てくるローガ。そう言われましてもね・・・。

 

そこへヒヨコ隊長以下200匹のヒヨコ軍団が帰ってくる。

 

「「「ぴよぴよぴよ~」」」

 

バサバサバサッと約200匹のヒヨコが戻ってくる。

 

『ボス!ただいま戻りました!』

 

俺の前で膝をつき傅くヒヨコ隊長。いつ見ても硬いね、コイツは。

でも俺は忘れない。コヤツはハーレム王なのだ。

 

『むっ・・・』

 

ヒヨコ隊長を初めて見たローガがこちらへ寄ってくる。

 

『貴殿がヒヨコ隊長であるか。我は狼牙族リーダーのローガ。ローガの名はボスより頂いたものだ。貴殿の方が先にボスの部下になったと聞き及んでおる。これからよろしく頼む』

 

ローガよ。お前も律儀で硬いね。

 

『おお、貴殿もボスの部下になられたのであるか! それにしても狼牙族とは心強い限りでありますな! これからもぜひお互いボスの力になりましょうぞ! よろしくお頼み申します、ローガ殿!』

 

と言って両翼でローガの前足を取るヒヨコ隊長。

というかヒヨコ隊長も部下のヒヨコたちも狼牙族がたくさんいたのに、全然気後れせず戻って来たな。もしかしてヒヨコって強い?

 

「こ・・・、こんなに魔物の君にはたくさんの部下が・・・、す、すごい! やはり魔物の君は優良物件であるな!」

 

独りで両こぶしを握り、ふんすっ!と気合を入れるイリーナ嬢。

いや、アナタ貴族の娘で揉め事のために王都から逃げて来たポンコツ不良物件だからね!

俺を見る前に自分見て!

 




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第19話 集めた情報をまとめよう





 

さてさて、奇しくも全員勢揃いしたんだな。

 

「ローガ達もヒヨコ隊長も良く戻って来てくれた。お疲れさん。早速だが、報告を聞こうか」

 

『ははっ! それでは我から報告を行いましょう』

 

ローガがずいっと前に出る。ヒヨコたちにも出来るところをアピールしたいのかな?

 

『この森から北にはしばらく行きますと大滝があります。滝壺はこの泉よりも大きく、より水の確保が容易になりましょう。周りの魔物は殲滅しないように指示を受けておりましたので調査程度にとどめておりますが、比較的大物としてはキラーグリスリーかジャイアントパイパーくらいが生息しているようです』

 

ふむ、この場所から北に行くと滝があるのか。マイナスイオンを浴びに出かけるのもいいかもしれないな。

 

『北東には森の奥深くにダンジョンがありました』

 

おおっ!ダンジョン! ファンタジーっぽいな。

 

「ダンジョンってどんなものだ?」

 

『ダンジョンは魔物の住処ともいわれており、我々のようなもともと獣が魔素の取り込みで魔獣へ変化した種族の他に、ダンジョンの奥深く魔素の濃い地域から生まれ出でる者達もいます。ダンジョンの奥深くに潜れば潜るほど手ごわい魔獣が住むと言われております』

 

「へー、ローガは物知りなんだな」

 

『いや~、それほどでも』

 

と言いつつ、胸を張って相当尻尾をブンブン左右に振っているな。

褒められると嬉しいらしい。

部下は褒めて伸ばすことにしよう。

 

『ダンジョンはソレナリーニの町の人間が徒党を組んで攻略に出かけているようです』

 

ああ、冒険者たちが稼ぎに来ているのね。そこそこ人が出入りしているのなら、ローガ達では中の調査は難しいな。

 

「さすがにダンジョン内の魔物調査は難しいか」

 

『そうですね・・・我々では人の目に留まるでしょうから難しいですね』

 

『それでは我々にお任せください』

 

と、ヒヨコ隊長か。

さすがに足元をちょこちょこ走り抜けるヒヨコは目立ちにくい?のかな。

 

「ダンジョン内でも視界は確保できるのか?」

 

トリ目って、暗いところはダメなんじゃなかったかな?

 

『大丈夫です!お任せください、ボス』

 

「わかった、今すぐじゃなくていい。ダンジョンに出かける前に調査してもらうとしよう」

 

ダンジョンがあるってわかった以上、一度は出かけてみたいよね。最も人間の冒険者も頻繁に来ているようだから、今の姿のまま出かけて行くとこっちが狩られてしまう可能性が高いしな。対策を練ってからじゃないとだめだな。

 

「ヒヨコ隊長たちの調査はどうだった?」

 

「ははっ! ソレナリーニの町周辺および、町の中の情報を収集してまいりました」

 

ビシッと傅いて報告するヒヨコ隊長。ホントブレないね、隊長は。

 

『ソレナリーニの町は規模といたしましてはカソの村の軽く十倍以上はあるように思えました。町自体も町を覆う壁があり、4か所の入り口には兵士が2名ついており、町に出入りする人間をチェックしておりました。町に入る際はどうも何かを渡しておりましたので町に入る際は何かアイテムが必要になると思われます』

 

「それはたぶんお金だな。金、銀、銅などの金属で出来ている丸いものだと思われる」

 

最も、俺もこの世界に来てから一度もお金見てないけどね!

イリーナにこの国の事や通貨の事を後で教えてもらおう。

如何にポンコツでもそれくらいはわかるだろう。

 

『おおっ!ボスは物知りですな!』

 

「町中の雰囲気はどうだ?」

 

『街中はかなりの人間が生活しているようです。ボスのチェック要求がありました施設では、冒険者ギルド、商業ギルドがありました。その他宿屋、武器屋、防具屋、雑貨屋、錬金術屋などの名前も確認することができました』

 

「なるほど、思っている以上に店が充実した町のようだ。食事が出来るところも多かったか?」

 

『はい、人間がいろいろ食べている建物もかなり多かったです。いい匂いがしていましたよ』

 

『ぴよぴよ~(俺、人間に食べ物もらったぞ~)』

『ぴ?ぴよっぴ~(なにっ!ホントか?)』

『ぴよぴよ~(あ、俺ももらった。うまかったな~)』

 

何だか知らないが、ヒヨコたちは人間にご飯を貰っていたようだ。

人気があって何より。

 

『情報としましては、裏通りにある鍛冶屋兼武器防具屋が知る人ぞ知る名品を扱う店らしいです。後、町の北側にあるスラム街では何やら不穏な動きがあるとか。その他代官のナイセーはこのあたり一帯を治めるコルーナ辺境伯の覚えも良く、評判が高いようです。町自体の評価も高いようで、今後の発展に商人たちが期待しているようでした』

 

おお、なかなかいい情報じゃないか。結構今でも発展しているようなイメージだけど、今後さらに発展して行けるよう町なのか。ソレナリーニとかいう名前なのに全然それなりじゃないぞ、これは期待大だ!

 

『ただ、町の雰囲気をよく観察してきましたが、人間族以外の種族がほとんど見当たりませんでした。ボスが町に行く場合は工夫が必要だと思われます』

 

うん、ヒヨコ隊長。君は完璧だ。100点花丸をあげよう。

 

・・・おお? 気が付けば、イリーナ嬢が俺の横に正座して座っている。どーした?

 

 

「イリーナ嬢、どうした?」

 

「むっ、スライム殿。いい加減嬢付けもさん付けもやめて、どうかイリーナと呼び捨てで呼んではもらえまいか」

 

いや、その天丼もうお腹いっぱいですけど!?

クッオカいらないから!

 

あ、でもそう言えばスライムについて調べてきてくれるって言ってたっけ。

 

「・・・イリーナ。そう言えばスライムについて調べてきてくれるって言ってたね。何かわかったかい?」

 

俺はイリーナの方を向いて聞いてみた。

 

「イ、イリーナと呼び捨てに・・・、クッオ・・・あ」

 

いや、クッオカ早すぎるからね! 妄想すっ飛ばしてますから! てか、「あ」って何? もしかして・・・

 

「ス、スライム殿に早く会いたくて・・・調べて来るのを忘れてしまった・・・」

 

やっぱりー!! ポンコツ過ぎるわ!

 




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第20話 イリーナの一念発起を応援しよう

 

「え~~~、イリーナさん?」

 

俺は横で正座したままあわあわしているイリーナに向き直る。

 

「あうっ・・・スライム殿がまたさん付けに戻ってしまった・・・、くっ犯せ!」

 

「いや、呼び捨てしてもクッオカでさん付けでもクッオカってどーいうことよ?」

 

もう天丼超えてカツ丼だよ、カツ丼。満腹どころか胃もたれダラダラだよ。誰か胃薬くれ!

 

「スライム殿の部下は優秀でたくさん報告しているのに、私は何にも報告できない・・・くっ」

 

と言いつつガバリと立ち上がってダダーッと走り出す。

 

「こら、ちょっと待て」

 

俺はにゅいーんと触手を伸ばし、走り出したイリーナの首根っこを引っ掴む。

 

「ぐえっ!」

 

あ、喉が閉まったようだ。

 

「あ、ゴメンゴメン。でもイリーナ、急に走り出してどこへ行くんだ?」

 

「スライム殿の部下に負けないよう、私も何か情報を仕入れて来なければと・・・」

 

何故急にそうなる? 確かにスライムの事を調べてきてくれるって言ってたけど。

よく考えたら、ポンコツイリーナに調べものって、元から無理があったんじゃないかって思えて来た。最も、ヒヨコ隊長たちがあんなにしっかりと情報取って来てくれると思ってなかったからな~。

 

「で、急に走り出して、どこへ行くつもりだったんだ?」

 

「え~と・・・、ソレナリーニの町?」

 

「なぜに疑問形!?」

 

ポンコツ過ぎる! イリーナという女性は、どうもあまり深く物事を考えないようだ。

表面的に頭に浮かんだ内容ですぐさま行動を起こしてしまうっぽいな。

こういう人間は非常に扱いづらい。所謂「当てにできない」タイプだ。

 

「で、ソレナリーニの町へ戻って何を調べるんだ?」

 

「それは・・・スライム殿の事を調べに?」

 

・・・だからなぜに疑問形だよ。

 

「で、スライムの事をどうやって調べるの?」

 

「それは・・・冒険者ギルドの職員に問い合わせて・・・」

 

「アーーーーウツッ! アーーーーーウツッ!」

 

「ええっ!?」

 

「ギルドに俺の話をしたら、珍しい魔物がいるって討伐にくるでしょ!」

 

プンプンしてイリーナに説教する俺。

ギルドに相談、ダメ!絶対!

 

「そ、そうか・・・、で、でも調査とか保護とかしてくれるかもしれないぞ!」

 

ふんすっと両手でグーを握るイリーナ。

 

「調査でも保護でも、連れて行かれて研究されたりするのは嫌だよ。自由だってないでしょ」

 

「そ、そうか・・・」

 

極端にショボンとするイリーナ。ちょっとかわいそうに見えて来たよ。

 

「私ではスライム殿の力になれないのだろうか・・・」

 

ぺたんと女の子座りした状態からこちらを覗き込むように見てくる。そんなに目をウルウルさせられると、ポンコツでもいいかって思えて来るな・・・何が?

 

「なれるとも。イリーナでなければダメな事だってたくさんあるさ」

 

俺はイリーナを元気づけるようにイリーナの肩に触手を置く。

 

「私でしかダメなこと・・・、わかったスライム殿!初めてなのだが、優しく頼む」

 

と言って鎧の肩当てを外そうとするイリーナ。うん、ポンコツだ。わかってたけど。

 

「ちがうよイリーナ・・・。君にはこの世界の事を教えてもらいたいんだ。貨幣価値なんかも聞きたいし。これはやっぱり魔物の部下たちには聞けないことだしね」

 

俺は極力ニッコリした顔を作ってイリーナに話しかける。・・・俺、笑った顔ってどんなだろう?これもコミカライズ待ちだな、ハハ!

 

「わかった!スライム殿、私に任せてくれ!」

 

と言いつつガバリと立ち上がってダダーッと走り出す。

 

「こら、ちょっと待て」

 

俺は再びにゅいーんと触手を伸ばし、走り出したイリーナの首根っこを引っ掴む。

 

「ぐえっ!」

 

あ、また喉が閉まったようだ。

 

「で、イリーナどこへ行こうとしたんだ?」

 

「ス、スライム殿のために世界の事やお金のことを調べに行こうと・・・」

 

・・・ポンコツすぎない? 想像を遥かに凌駕している気がする。俺、この子とうまくやっていける自信ないわ~

 

「イリーナよ。調べに行く前に、まず今知っていることを話してくれるとありがたいが。だいたい、イリーナはお金持っていないのか?」

 

「そうか!スライム殿は天才だな! ちょっと待ってくれ」

 

と言ってガバリと立ち上がってダダーッと走り出す。

今度は止めない。なぜならテントの方へ走って行ったから。

テントに駆け込んで、大きなリュックを持ち出してくる。

そして、リュックをひっくり返しドサドサと荷物をぶち撒ける。

 

「何かいろいろ入ってるね・・・」

 

服やら下着やらもぶち撒けてますよ、イリーナさん?

 

「これだ! 私の全財産なんだ」

 

と言って布に撒かれた硬貨を見せる。やはり金貨、銀貨、銅貨のようだ。

 

「物価はどうなんだ? 例えば普通のパンはいくらで買えるんだ?」

 

「そうだな、普通のパンなら1つで銅貨1枚くらいだろうか」

 

ふむ、とすると感覚的に銅貨1枚で100円くらいか。

 

「銅貨は10枚で銀貨1枚と同じ価値になるぞ。そして銀貨10枚で金貨1枚だ。私は持ち合わせがないが金貨100枚で白金貨1枚になる」

 

白金貨だけは金貨の100倍なんだね。倍率違ってるね。

 

「通常の買い物は銅貨や銀貨を使う感じだな。高い買い物は金貨を使うイメージだ」

 

うん、イメージしやすい。

 

「わかりやすい説明ありがとう、イリーナ。貨幣価値はよく理解できたよ」

 

再び、イリーナの肩に触手をポンッと置く俺。ありがとうが伝わればいいけど。

 

「スライム殿・・・」

 

ウルんだ瞳で見つめてくるイリーナ。

 

『おおっ! やはりボスの嫁決定だな!』

『いやいや、ボスにはハーレムを築いてもらわないと! これからもガンガン行ってもらいましょう』

ローガにヒヨコ隊長、なに勝手なこと言っちゃってくれてるのかな?

 

『ボスの奥さんに決定でがんしょ? こいつぁ春から縁起がいーね!』

 

てか、お前のキャラなんだよ? で今は春だったのね? 後でローガ、コイツの紹介しろよな!

 

「で、イリーナ。俺の事はヤーベと呼んでくれ。スライムは種族であって実は名前ではないんだ」

 

「おおっ! 真名を教えてくれるとは・・・クッ」

 

「いいから、それ」

 

クッオカを遮ってイリーナを止める。

 

「ヤーベ殿! 私は絶対ヤーベ殿の役に立ってみせるぞ!」

 

右手で握った拳を高々と突き上げ、いかにも我が生涯に一片の悔いなし的なポーズで宣言するイリーナ。

とりあえず気持ちだけ受け取っておきます。

 




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第21話 お金を稼いでみよう

だいたいの貨幣価値はわかった。

ならば! 早々にお店デビューするべし!

 

「よし!それでは町に買い物に行くか!」

 

俺様は元気に宣言した。

 

『おおっ! 買い物ですな。人族の文化ですな。我々魔獣は力で相手を屈服させるだけですからな』

 

ローガがしみじみと語る。

そうだね、買い物は人間の文化の象徴かな?

独特だよね。知的生命体の特権だね!

ちなみに俺様は間違いなく高性能な知的生命体だ!うん。

 

『ボスッ! 楽しみですね! 何買われるんですか?』

 

ヒヨコ隊長がワクワクした表情で聞いてくる。

 

『そうだな~、いろいろ欲しいものがあるが、やっぱりおいしい食べ物買おうか!』

 

俺様はまずやっぱりおいしいものを食べたいのだ!

何せこの前のカソの村で味覚、嗅覚を完成させてしまったからな。

・・・ちなみに魔物を狩って取り込むときは味覚嗅覚OFFだ。

 

というか、スライム細胞で直接取り込む時は五感が働かない。

というか働いてもらっては困る。働いたら大変なことになる。

 

俺様は左手を腰?に当て、右手を多分町の方に向けて指を指す。

 

「買い物ツアーにしゅっぱ~~~~~つ!」

 

『『おお~~~~~』』

 

狼牙族もヒヨコたちも盛り上がっている。

だが、俺は気が付いてしまった。気が付いてしまったのだ。

 

「そう言えば、お金持ってないわ・・・」

 

『『ズコッ!』』

 

ローガ達もヒヨコ隊長たちも綺麗にコケる。

ド〇フ張りだな。ちなみに仕込んだ覚えはない。

 

そーなんだよ。当たり前だけど、お金持ってないわ。

だって気づいたらスライムだったし。

神様か女神様か知らんけど、チートもスキルもお小遣いもくれなかったし。

ふん!イジけてやるわ!

 

・・・まあイジイジしても仕方ない。

お金を稼ぐ方法を考えよう。

 

 

ぽややや~ん

 

「今日も君たちの働きに期待する!安全疾走でよろしく」

『『『わふっ!』』』

元気に返事するローガ達の背中に大きなリュックを括りつけて行く。

「それぞれ、届け先は覚えたか?」

『『『わふっ!』』』

元気に返事するローガ達。

「では行け!」

『『『わふっ!』』』

大きなリュックを背負ったローガ達が一斉に散る。

 

狼牙急便。大事な荷物を大切なあの人へ。迅速かつ確実に。

 

 

・・・うん、何となく儲かりそうだけど。

 

『我々が荷物を預かって、届けるという仕事ですか?』

 

ローガが首を傾げて聞く。

 

「そう。ローガ達は足が速いしね。人気でそうだな」

 

『ですが、相手の場所がわかりませんね』

 

「そうか~、住所みたいなもの、あるのかな~」

 

『後、我々が町を疾走すると衛兵たちが追ってきそうですな』

 

そりゃそうか。荷物括りつけた狼が町中疾走してたら騒ぎになるわな。この案は却下で。

 

 

他に何かアイデアは・・・

 

 

ぽややや~ん

 

 

「今日も依頼者の大切な気持ちとともに運ぶんだよっ!」

『『『ぴよぴよっ!』』』

「それでは、今日の自分の担当場所を覚えたかな!」

『『『ぴよ~ぴ!』』』

「大切な手紙は持った?」

『『『ぴよ~!』』』

そして、返事した後に嘴に手紙を挟むヒヨコたち。

「それでは行け!他の鳥たちに気を付けてな~」

バサバサバサッ!

一斉に飛び立つヒヨコたち。

 

ヒヨコ郵便。預かった大切な手紙を、あの人の元へ―――――

 

 

・・・うん、何となく儲かりそうだけど。

 

『我々が手紙を預かって、届けるという仕事ですか?』

 

ヒヨコ隊長が傅きながら聞いてくる。うん、固いね。

 

「そう。ヒヨコ隊長たちは空飛べるから、街中でも追っかけられないかな?」

 

『ですが、やはり相手の場所が良くわかりません』

 

「そうか~、でもギルド間とか、決められた場所から場所への手紙配達なら行けるか? どちらにしても個人配達は却下で」

 

 

 

うーん、なかなか儲かる仕事が思いつかないな。

いろいろぽややや~んって想像して検討してみるけど、いまいちいい案が出ない。

 

「やっぱり魔物の素材をギルドに降ろすのが手っ取り早いのではないか・・・?」

 

「!!!」

『『『!!!』』』

 

全員がものすごい勢いで振り返る。

そこにはポンコツイリーナ嬢が。

 

しまった!俺としたことが! 北千住のラノベ大魔王ともあろうものが!

テンプレ中のテンプレ!冒険者になって金を稼ぐ!

自分がスライムになってたからすっかり頭から外れてた。

 

「ローガ! ヒヨコ隊長!」

 

『『ははっ!』

 

「金になりそうな魔物を狩りに行くぞ! ギルドに大量に持ち込むのだ!」

 

『『ラジャー!』』

 

ローガ達狼牙族とヒヨコ隊長率いるヒヨコ軍団が森の奥へ散って行く。

 

「ヤーベ殿、みんな気合が入っているようだが・・・?」

 

イリーナが大丈夫かといった感じで聞いてくる。

初めての買い物だからね。

みんなも気合が入っているみたいだね。

 

 

 

そして次々運ばれてくる狩られた魔物たち。

狼牙族は元より、ヒヨコたちもバシバシ獲物を狩ってくる。

すげーなコイツら。

 

目の前に山のように積まれていく魔物たち。

よく見るウサギやイノシシの他、クマや巨大蛇それから・・・コレなんだ?

ライオンみたいですが、あ、尻尾がヘビですね。よくこんなの居たね?君たちどこまで行って来たの?

 

『はっはっは、ボス!大量ですぞ』

 

ローガがうれしそうに報告してくる。

 

「よしよし!早速ギルドに納品して換金しようじゃないか!」

 

ローガやヒヨコ隊長を労いながらワクワクして出発しようとする。

 

「ヤーベ殿、どうやって・・・?」

 

「!!!」

『『『!!!』』』

 

全員がものすごい勢いで振り返る。

そこにはやっぱりポンコツイリーナ嬢が。

 

「どーやってって・・・イリーナが?」

 

イリーナに押し付けようとする俺。

言われてみれば、俺が冒険者ギルドに狩った(というか狩らせた)魔物を持ち込むわけにはいかない。であれば、現在ギルドメンバーであるイリーナ嬢に働いてもらうしかない。

俺は元より、ローガやヒヨコ隊長にギルドに行かせるわけにも行かないしな。

 

「わ、わわわわたし!?」

 

「そう、たわし。いや、わたし」

 

「い、いいいいやいや、無理だろう。どう考えても私が倒したって信じてもらえないぞ!」

 

自分自身で盛大に宣言するイリーナ。自分で堂々ポンコツ宣言。ブレてませんね。

 

『確かに、イリーナ嬢の腕前ではこれらの魔物に瞬殺される可能性大ですから・・・、狩ったと持ち込んでも怪しまれるかもしれませんな』

 

ローガが心配する。結構遠慮なく失礼だが、それも心配しての事だな、うん。だからと言ってイリーナでなくてヒヨコが持ち込んでも信じてもらえないだろうけどな。ヒヨコの方は真実の狩りの結果だが。

 

「いいコト思いついた! イリーナは師匠の代理として、師匠の狩った魔物の換金を頼まれただけってことにしよう!」

 

「師匠?」

 

「そう、師匠。だから、師匠の依頼だから、詳しいことはわからないって言って逃げちゃえばいいんだ。どうせ魔物を渡せば終わりなんだし」

 

代理作戦、いいかも!

実にシンプル。

 

「そうか・・・、とにかく師匠に頼まれて魔物の換金に来た、と言えばいいのか?」

 

イリーナは改めて俺に確認を取る。

 

「その通りだ。簡単だろ。早速出発だ!」

 

「・・・どうやって持っていくのだ? この大量の魔物たち・・・」

 

俺たちは山と積まれた魔物たちの前で立ち尽くした。

 




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第22話 町に向かって出発しよう

山積みになった魔物を見ながら、誰も一言も発せない。

 

「えーと・・・」

 

イリーナが俺の方を見る。

 

『町の入口まで我々が運んでいきましょうか?』

 

ローガが申し出るが、町中運べないと意味無いしな。

というか、みんなに説明してないわ、アレ!

 

タララタッタタ~ン! 亜空間圧縮収納~!

 

というわけで、俺様は山のような魔物をガンガン収納していく。

 

『おおっ!ボスの能力ですか?すごいですな』

 

ローガが感心したようにこちらを見る。

ふふん、もっと崇めてくれてもいいのだよ!

何たって俺様はデキるスライムなのだからね!

 

『それで、ギルドへどうやって納品するのです?』

 

ヒヨコ隊長の疑問にみんなの視線が集まる。

だから、俺の姿を見られないようにすればいいわけで・・・

 

ぴこんっ!

 

閃いた。イリーナが荷物をぶちまけて空になった大型リュック。それをテントからダッシュで取ってくる。

 

「イリーナ。リュックを背負ってくれ」

 

「ヤーベ殿。背負うのは良いが、リュックは空っぽだぞ・・・」

 

と言いつつ背負ってくれるイリーナ。そして俺は空っぽのリュックにピヨーンとダイブ!

 

「わっ!」

 

イリーナがびっくりするが、きっと俺はそんなに重くない。重くないったらない!

大事な事だから二度言おう。

そしてリュックの蓋を自分で閉める。触手って便利!

 

「どうだ、外から俺が入っているとは見えないだろう?」

 

『さすがですボス!リュックの蓋が閉まっていると全然わかりませんぞ』

 

ヒヨコ隊長からOKがでる。よし、これで万全だな。

 

「いいか、イリーナ。この状態で冒険者ギルドに行くんだ。そして収納魔法をマスターしたとか適当な理由で、魔物を俺が出す。後は話を合わせればよい」

 

「な、なるほど。さすがはヤーベ殿だ。「ギルドで魔物を換金できたのは俺のおかげなのだから、分け前が欲しければ俺の女になれ」と・・・くっ犯せ!」

 

「分け前は後で考えるから、とにかくさっさとソレナリーニの町に行くぞ」

 

リュックから触手を伸ばし、クッオカをスルーしてイリーナの頭をポコポコ叩く。

 

「わ、わかったぞ、任せておくのだ」

 

リュックのベルトをギュッと握り、やたら気合を入れるイリーナ。大丈夫かね。

 

「ヒヨコ隊長、お前もついて来てくれ。リュックの上に陣取って、周りの状況を俺に教えてくれ」

 

『はっ!お任せを』

 

早々にヒヨコ隊長がイリーナの肩に乗る。ヒヨコ隊長もやたら気合が入ってるね、大丈夫?

 

『ボスッ!我は・・・』

 

ローガが聞いてくるが俺は無常に告げる。

 

「ローガは留守番な」

 

『な、なんですとぉぉぉぉぉ!!』

 

血涙を流し絶望するローガ。留守番1つでそこまで!?

 

「ローガはどうやっても町中に連れて行けないしな。致し方あるまい」

 

ローガが突っ伏している。尻尾も完全にヘタレている。

部下がローガを優しく慰めている。いい部下を持ったな、ローガよ。

 

「あ、でもよく考えたら町の手前まではローガに乗って行った方が圧倒的に早いか」

 

俺はカソの村にローガに乗って移動した時の超速ぶりを思い出した。

ローガに乗って行ったら時間短縮にもなるし、何よりイリーナも楽だろう。

 

「でも、ローガ大丈夫か? イリーナと俺を乗せると重くないか?」

 

『と、とんでもありません! むしろ軽いです。お任せください!!』

 

さっきまで突っ伏していたローガが瞬間的に復活した。ローガ、元気だな。

 

「イリーナが直接お前の背中に乗るから、全力疾走はダメだぞ。トコトコ散歩する程度のスピードで大丈夫だ」

 

『どんなスピードでもお任せください!』

 

ローガもやたら気合が入ってるね。大丈夫?

 

「むっ!トコトコ散歩のスピードなど。ヤーベ殿、いくら何でも私を甘く見過ぎというものだぞ。早くギルドに行って換金する方が良かろう」

 

イリーナよ。君のポンコツぶりはすでに実証済みだ。

君の感覚は砂糖にはちみつとメープルシロップぶっかけて口一杯頬張ったほどに甘い!

 

「ではどこまでのスピードに耐えられるか試してもらおうか」

 

まずはイリーナをローガに股がらせる。

俺様はリュックに入ったまま左右から触手を伸ばし、ローガの(たてがみ)あたりを握る。

 

「では出発。他の連中はすまないが留守番だ。しっかり待っていてくれよ!」

 

『『『了解です、ボス!』』』

 

ヒヨコも狼牙族もそろって返事をしてくれる。仲良くなったな、お前達。

 

というわけで、早速ダッシュだ、ローガ。

 

シュババババッ!

 

「はぶぶぶぶぶっ!」

 

猛ダッシュしたローガのスピードに耐え切れずイリーナの顔は見てはいけないレベルに風圧負けしている。だから言ったのに。

 

「いぎがでぎない~」

 

「え?なんて?」

 

「やーべどのぼぉぉぉ!いぎがぁ!いぎがぁ~」

 

どうもイリーナは風圧がすごすぎて息が出来ないようだ。死んじゃう?

 

『ローガ、スピードを落としてくれ。イリーナが落ち着くくらいまで』

 

『了解!』

 

結構なスピードで走っていたから、久々に念話でローガに指示を出す。

ローガがぽっくぽっくと散歩チックなスピードまで落としていく。それでも早いけど。

 

「ふああ~、ローガ殿は本当にすごいのだな・・・、とんでもないスピードだぞ」

 

風圧に負けて見てはいけない表情になっていたイリーナが、顔面を抑えてボヤいている。

俺様はイリーナのほっぺの筋肉をグリグリとマッサージするように撫でていく。

 

「ふぁっ・・・ひゃ、ひゃーべどのぉ~」

 

「イリーナのかわいい顔が強い風を受けて酷いことにならないようにマッサージだよ」

 

「きゃ、きゃわいいだなんてぇ・・・きょ、きょのままイリーニャきゃわいいよっておしたうぉされてぇ・・・くっうぉかせ!」

 

イリーナのほっぺを触手でぎゅるぎゅるしているので、イリーナが喋ってもよく聞こえないね。スルーしよう。

 

「ひょわわ~」

 

 

 

 

なんやかんやで、もうすぐソレナリーニの町に到着する距離まで来た。

 

「さて、ローガよ。お前はここで留守番だ」

 

『ぬおっ!ボス何故です!』

 

だから血涙流すなって。

 

「さすがにお前を連れてソレナリーニの町に入ることは出来ないからな。このあたりで待っていてくれ。他の旅人たちに見つからないようにな」

 

『ぐううっ・・・、了解です』

 

止まらぬ血涙と死んだように萎れた尻尾を見るとちょっとどころではなく可哀そうになるが、これも致し方なし。

 

「さあ、イリーナ、ヒヨコ隊長、行くぞ」

 

『了解!』

「わかった、ここからは歩いていこう」

 

俺たちはソレナリーニの入口門に近づいて行った。

 




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第23話 町の門をくぐってみよう

振り返れば、まだローガが血涙を流しながらお座りしている。

尻尾も全く振られていない。

 

ちょっと手を振ってやるか。

 

ローガよ、二本足で立ち上がって前足を全力で振るのはやめなさい。

後、遠吠えもやめなさい。旅人に警戒されるから。

 

 

 

さてさて、早速ソレナリーニの町に入るとしよう。

 

『ボス、町の入口に二十人ほどの人間が並んでおります』

 

ヒヨコ隊長、ナイスな報告だ。デキる部下は違うね。

 

「イリーナ、早速町の入口に並ぶぞ。早く町に入ろうじゃないか。で、イリーナはこの町に何度か入っているだろ?お金いるのか?」

 

「いや、私は冒険者登録したから、たとえFランクでも町の出入りにはお金はかからぬよ」

 

それは良かった。

というか、イリーナってFランクなのね。たぶん、Fランクが最も低いんだろうな。うん。

それにしても、だいたいラノベのテンプレで初めての町訪問って何かトラブルが発生するパターンが多いよね。

だが、ここはヒヨコ隊長の調査により、亜人がほとんどいない人間ばかりの町と判明している。そして、ここにはイリーナとリュックに隠れた俺、そしてペットに見えるであろうヒヨコ隊長しかいない。くっくっく、弱そうなゴブリンだとかイチャモンを付けられたりしてケンカを売られる心配は皆無!テンプレは回避すべきものなのだ!(力説)

 

「ねーちゃんカワイイなぁ!」

「その辺でお茶でもせーへん?」

「お茶以外もいろいろしちゃおーぜ!」

 

ズドドッ!

 

俺は器用にもリュックの中でひっくり返った。

 

「わわっ!ヤーベ殿大丈夫か?」

 

こしょこしょと小さな声で俺の方に声を掛けてくるイリーナ。

リュックが大きく揺れたから心配をかけてしまったか。

それにしても町に入る前の審査待ちでナンパとか、あまりにも斜め右上すぎて予想すらしなかったわ!

 

「な、なななんだ、お前達・・・。私に構わないでくれないか?」

 

イリーナが明らかにビビッてオタオタしている。

・・・イリーナよ、君はこんな雑魚もあしらえないのかね。帰ったら地獄の特訓だな。

 

「おいおい、アレ、Dランクパーティ<鬼殺し(オーガキラー)>の連中じゃねーか?」

「マジかよ?相当タチ悪いって噂のか?」

「ああ、街中でも結構ヒデェらしいぜ」

「近寄りたくないなぁ」

「あの女の子も可哀そうに」

「冒険者なんて一人でやってるから・・・」

 

人々のコソコソ話が聞こえてくる。

リュックに入って直接視覚が使えなくとも、俺様にはぐるぐるエネルギー(笑)で鍛えた視覚強化と聴力強化がある。魔力(ぐるぐる)エネルギーってとっても便利。

 

そしてコイツらは相当タチが悪い冒険者ってところだな。

Dランクの冒険者が調子に乗るってラノベでもテンプレだよな。

やっぱり多少結果が出てランクが上がったりして、いい気になる頃合いなんだろうな。

 

そのうち男の一人がイリーナの手首を掴む。

 

「ほらほら!こんなトコで並んでないでアッチの森でイイコトしようぜ!」

 

ナンパちゃうやん! もう誘拐やないか~い!

おっと、思わずどこかの男爵チックに突っ込んでしまったぜ。

いずれ叙爵して貴族生活でも・・・いや、面倒が多いだけだな。

 

とりあえず、イリーナを連れて行こうなどと。

ならばこのスライムのヤーベ容赦せん!

 

 

バチィン!!

 

 

「ぐわっ!」

 

「な、なんだ?」

 

イリーナは何が起こったかわからないようだ。

 

これぞ必殺のスライム流戦闘術奥義<雷撃衝(ライトニングボルト)>だ!

原理は単純で「静電気」だ。だからこの電気は実は魔力ではなく静電気による物理的衝撃なんだよね!

 

ただ、静電気を起こしたのは俺のスライム細胞を魔力コントロールして使ったけどね。

プラス電荷とマイナス電荷をそれぞれスライム細胞に持たせ、高速振動を起こすと一瞬で数万ボルトの静電気を発生させることが出来た。

 

ちなみにこのスライムボディは雷耐性が強力で俺は全然痺れない。

アースコート代わりに被膜の如く薄く伸ばした俺の触手をイリーナの手首を掴んでいる男の手のひらに滑り込ませ、<雷撃衝(ライトニングボルト)>を喰らわせたのだ。

・・・<雷撃衝(ライトニングボルト)>ってカッコ良くない?(自画自賛)

もちろん今の俺の魔力でパワーを上げると間違いなく相手が黒焦げになる気がするから、威力はそれなりに抑えてある。

 

器用だねって?

ふふっ。泉の畔での生活は驚くほどヒマなのだよ。

どれだけ泉の周りに出てくるホーンラビットで<雷撃衝(ライトニングボルト)>の威力調節の練習したか・・・。

まあ、ローガ達にはホーンラビットのご馳走がたくさん食べられて嬉しいって好評だったけどな。・・・ちなみに最初丸焦げになって完全に炭化してしまったので、『さすがにコレは食べられません』とローガに食事を拒否られてしまった。

 

その後も三回くらい炭になってしまったので、『さすがにコレは・・・』を三回喰らって俺は心の中で『さすコレ』と略すようになった。まあ俺の心の中だけの事だけど。ローガにさすコレって言っても伝わらんだろうし。

 

「こっ・・・このアマ!!」

 

雷撃衝(ライトニングボルト)>を喰らって痺れてダメージを負った右手を左手で抑えたまま、激昂する男。他の二人もそれぞれ武器に手をかけた。

うん、容赦不要と判断シマス。

 

ビッビッビッ!

 

僅か三発。

 

周りの連中は何が起こったのか全く分からず、ただ三人の男たちが眉間から血を吹いて倒れたのを見た。

ちなみにイリーナも何が起こったのかわからないで呆然としていた。

 

これも必殺のスライム流戦闘術<指弾(しだん)>! ・・・指がないのに指弾とはコレ如何に。

まあ気にしないでくれたまえ。

どうせイリーナにも指弾と言う技だと説明して、イリーナが目にも止まらずやったことにするのだからな。

 

「うおっ!あのお嬢ちゃんすげえ!」

「<鬼殺し(オーガキラー)>の連中をぶっ倒しちまったぜ!」

「あんな可愛いのに腕利きか?」

 

周りの連中が騒ぎだしてしまったな。面倒なことにならなきゃいいが。

コイツらどうしよう?個人的にはあの森あたりに埋めてしまいたいが。

 

『ボス?ちょっと剣呑な感じが出ていますが、悪い事考えてません?』

 

『おっ?何でバレた?』

 

『ボスはなんやかんやでイリーナ嬢の事を大事にしてますからね。連れて行かれそうになったので反撃したのはわかりますし、倒した後もまだオシオキが足りないって感じでしたよ』

 

と笑顔で言うヒヨコ隊長。

俺も気づかないうちにイリーナを大事に思ってるのかぁ。

そんなことない気もするケド。

 

「こらぁ、お前ら何を騒いでいる!」

 

どうやら門の衛兵が騒ぎを聞きつけて助っ人を呼んでこっちに来たようだ。

門の外にいた二名以外にもう一人増えて三名でこっちに向かってきた。

門はさらに別の二名が受付を担当しているようだな。

 

「ヤーベ殿、どどど、どうしよう・・・」

 

イリーナでは説明できまい(何せ全部俺がやったし)。手助けするか。

俺は触手を細く伸ばし、イリーナの左耳に差し込む。

 

「ひゃわっ!」

 

「こ、コラ!変な声を出すな」

 

思わず喋って突っ込んでしまう。

 

「ヤーベ殿ぉ・・・耳はぁ・・・耳は弱いのだ・・・」

 

(やめて・・・ヘンな気持ちになるから)

 

とりあえずイヤホンをイメージしてイリーナの耳にぶっ刺す。

 

『イリーナ、聞こえるか?』

 

「ひゃわわっ! ヤーベ殿の触手が私の耳を蹂躙して・・・くっお・・・ん?ヤーベ殿の声がはっきり聞こえるぞ?」

 

『イリーナ、俺の声をイリーナの耳に直接届けている。今俺の声が聞こえるのはイリーナだけだ』

 

「ヤ、ヤーベ殿の声が私だけに・・・くっ!なんて甘美な!こうして「私だけは特別だよっ」と私の気持ちを捉えて・・・くっ犯せ!」

 

『それは良いから。衛兵に尋ねられたら、俺の言う通りの事を繰り返して衛兵に言うんだ』

クッオカをぶっち切りでスルーして用件だけ伝える。妄想に突っ込んでいるヒマはない。もう衛兵は目の前だ。

 

「お前か、騒ぎを起こしているのは!」

 

『いや、違うな。騒ぎを起こしたのはコイツらだ』

「いや、違うな。騒ぎを起こしたのはコイツらだ」

 

「おいおい、三人とも眉間から血を吹き出してるじゃねーか。お嬢ちゃんがやったのか」

 

『そうだ。ここで町に入るために並んでいたのに、三人で私を拉致してそこの森に連れ込もうとしたのだ』

「そうだ。ここで町に入るために並んでいたのに、三人で私を拉致してそこの森に連れ込もうとしたのだ!」

 

俺の言葉を繰り返してるだけのはずなのに、自分が連れ込まれそうになったのを思い出したのか、怒気を含んで説明するイリーナ。怒る気持ちはわかるけどね。

 

『まさか身を守った事を咎めるわけではあるまいな?』

「まさか身を守った事を咎めるわけではあるまいな?」

 

衛兵を睨みながらセリフを言うイリーナ。いつの間にか腕組もしてるし、演技うまい?

 

「いや、そんなことを言うつもりはないが・・・」

 

その間に他の二名が周りの人たちに聞き取りをしているみたいだ。

概ね事実を皆伝えている。

・・・コイツらの評判が地に落ちていてよかったよ。

 

三人の衛兵が揃う。

 

「ああ、お嬢ちゃんの説明通りだ。問題ない。この三人は俺たちが詰所へ連れて行くよ。それにしてもお嬢ちゃん強いんだな?」

 

「ああ。この程度の奴ら、問題ない!」

 

ふんすっと腕を組んだまま胸を反らすイリーナ。

うおーい!誰がそんな事を言えと言った!?

お前の実力じゃないんだから、ヘンにハードル上げるのやめてくれよな!

 

「ちなみに、この三人をどうやって仕留めたんだ?正確に眉間に打ち込んでるみたいだが?」

 

「えっ? え、えと・・・気合?」

 

「何故に疑問形?」

「どうやってこんな攻撃を・・・」

「なんかすげぇ攻撃だよな? もしかして凄腕か?」

 

三人の衛兵に囲まれるように問いただされることに。

 

Fランクのポンコツ冒険者が凄腕なわけないでしょーに!

勝手な事喋るからこういう事になるんだよ、まったく。

 

よく見ればヒヨコ隊長も唖然としているようだ。

 

『冒険者の切り札はメシのタネでもある。詮索は些か無粋ではないか?』

「ぼっ、冒険者の切り札はメシのタネでもある。詮索は些か無粋ではないか?」

 

あたふたと答えるイリーナ。

 

「そりゃそうか、自分の手の内は簡単には明かさないわな。りょーかい」

「一応冒険者のギルドカードを見せてくれ」

 

『見せていいぞ』

「見せていいぞ」

 

「は?」

 

『アホか!お前が見せていいって口で言ってどうするんだ!ギルドカードを衛兵に見せるんだよ!』

「ああ!そうかそうか。うむ、これがギルドカードだ」

 

と言って胸元からギルドカードを取り出す。

 

「お、お前Fランクなのか!? その腕で? コイツらDランクパーティの五人の内の三人だぜ!」

 

『登録したばかりなのでな、誰でも最初はFランクからなのだろう?』

「登録したばかりなのでな、誰でも最初はFランクからなのだろう?」

 

『ついでにニヤッて笑え』

「ニヤッ」

 

口でニヤッって言うヤツがいるか!どこまでポンコツなんだコイツは!

 

「ま、まあ確かに登録したてはFランクだろうけどよ・・・。まあいいや、この三人を捕縛して詰所に運ぶから、一緒に町に入りな。冒険者なら入街税も不要だしな。迷惑を被ったんだし、並んで待つ時間くらい短縮してやるよ」

 

「あ、ありがとう」

 

(や、やっと町に入れる・・・)

 

俺はリュックの中でぐったりした。

 




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第24話 町中の決闘はスピーディに片付けよう

「やっと町に入れた・・・」

 

俺は独り言にしては大きい声で呟いた。

 

「ヤーベ殿、大丈夫か?疲れていないか?」

 

「イリーナ。俺はリュックの中でじっとしていただけだったはずだから、普通なら疲れるはずもないんだけど、現在は疲労困憊だよ。主に精神的な理由で」

 

ヒヨコ隊長もイリーナの肩で苦笑している。

 

「それでは、早く冒険者ギルドに行って魔物を買い取ってもらってお金を手に入れよう」

 

珍しく建設的になイリーナの意見に全面賛成する。お金を手に入れなきゃ買い物は元より宿にも宿泊できないしな!

 

それにしても、イリーナのポンコツぶりには溜息100連発だぜ。

急いでいなけりゃ小一時間は問い詰めてやりたくなる状況だ。

 

おっと、ついつい小一時間ネタが口をついてしまったぜ。

元の世界にいたころ、数少ないラノベ友人たちとラノベを読み合った事を思い出す。

今思い出したのは埴〇星人大先生の大人気ラノベ『フェア〇ーテイル・ク〇ニクル』に出てくる一節だ。話が抜群に面白いのはもちろんツッコミの言葉の中で『小一時間問い詰めたくなる』が仲間内でめちゃツボにハマッてお互い使いまくった。

 

「おい、早くメシ行こうぜ!」

「小一時間待ってくれ」

 

「どこにいるんだ? みんな揃ってるぞ」

「スマン、遅れてる。小一時間待ってくれ」

 

「スマン!ラノベの新刊持ってくるの忘れた!」

「何やってるんだ!小一時間問い詰めてやろうか!」

 

・・・今考えると明らかに使い方間違ってますね、うん。ほぼノリと勢いで生きてましたね、あのころ。最終的に小一時間が何分の事を指しているのかは誰もわからなかったな。些細なことだ。

 

ちなみに小一時間が流行る前は『天〇の城ラ〇ュタ』に出てくる女海賊頭の「40秒で支度しなっ!」だったからな。ちょっと待って、なんて言ってくる仲間には「40秒で支度しなっ!」て返すのが流行ったな。・・・40秒って、かなりムチャ振りだよな、うん。

 

「・・・ヤーベ殿、ヤーベ殿!」

 

「お、おお?どうした、イリーナ」

 

「どうしたではないぞ、ヤーベ殿。話しかけても全く反応しなかったからヤーベ殿こそどうしたのかと思ってしまったぞ」

 

イリーナが存外に心配しているのだぞとアピールしてくる。

 

「そうか、スマンな。少し考え事をしていたようだ」

 

「・・・問題なければいいんだ。それで、先ほどの冒険者三人を倒した技はどのようなものなのだ?良ければ教えてもらえないか?」

 

「フッ・・・知りたいかね?」

 

「知りたいというか・・・さっきの衛兵たちはうまく躱せたが、問い詰められて回答せねばならないこともあるかも知れぬだろう? その時どのように説明すればいいのかと・・・」

 

そりゃそうだ。小一時間も問い詰められたらゲロするしか無くなるわな。もういいって?

 

「最初にお前の手首を掴んできたヤツに食らわせたのが<雷撃衝(ライトニングボルト)>、静電気による電撃だ」

 

「静電気・・・? 聞いた事がないな」

 

「電撃・・・雷だよ」

 

「おおっ!精霊魔術に雷を操るものがあると聞いたことがあるが・・・、ヤーベ殿は精霊魔術にも精通しておられるのだな!すごすぎるぞ!精霊魔術を操るなど、王都でも僅かな者達しかいなかったぞ」

 

おお、また精霊扱いされてしまいそうだな。もう精霊ってことでいいか。四大精霊ともお友達だしな。

 

「冬の乾燥した時期に、金属を触ったりしてバチッて痺れたりすることが無かったか?」

 

「ああっ!私はあまりなかったが、騎士の訓練を良くしていた兄は偶にあったみたいだな。「妖精の悪戯」と呼ばれている現象だ」

 

コッチではそんな風に言われているのね。

 

「そのバチッ!をすごく強力にした技だ」

 

「おおっ!それはずいぶんと痛そうだな!」

 

嬉しそうに笑うイリーナ。パワー上げれば痛いじゃすまないけどね。何たってローガも「さすコレ」ものの威力だから。

 

「条件は接触だ。まあ、俺の触手が接触できれば相手に電撃を叩き込めるから、イリーナが直接触らなくでもいいんだが」

 

「じゃあ、電撃を喰らわせたい相手に手を向けて<雷撃衝(ライトニングボルト)>!と叫べば、ヤーベ殿が電撃を発射してくれるのか?」

 

やたらと嬉しそうに聞いてくるイリーナ。なんか俺を便利なアイテムと勘違いしてない?大丈夫かしらん?

 

「まあそうだが。あまり乱発しないように。相手との距離も対応できる距離と対応できない距離があるしな」

 

瞬間的に見えないほど細く触手を伸ばす必要があるため、あまり遠いとシンドイ。多分だが、周りの環境の影響も受けやすい。なにせバレない様に触手を伸ばすとなると、かなり薄く細くなるからね。建物内ならともかく、外では風の影響を相当に受けてしまうだろうな。

相手に発射した触手が逆風で戻って来てイリーナに接触、イリーナがシビビビビッ!って・・・、ウン!ギャグマンガでありそうなパターンだ。いや、今の流行はアババババッ!かな?

 

「それで・・・、三人の眉間を打ち抜いたのは?」

 

「それは<指弾>という技だ。もちろん俺様に指はないがな!」

 

「それはどういう技なのだ?」

 

ヒヨコ隊長も興味がありそうで俺の説明を待っている。

 

渾身の自虐ネタだというのに、誰もツッコまない・・・ちょっと悲しい。

 

「<指弾>というのは指で石や豆とか硬くて小さな粒状の物を弾いて相手にぶつける技だよ。俺の場合は弾に合わせて触手の筒形状を調整、亜空間圧縮収納にたくさん拾って入れてある小石を使用して打ち出しているがな」

 

これも泉の畔でヒマしてる時にせっせと小石を拾って溜め込んでいたものだ。

結構練習したら、簡単に撃てるようになった。

イリーナのリュックに隠れている場合はあまり自由に撃ちまくることは出来ないだろうが、リュックから触手をこっそり出して打つくらいは可能だ。時間があるなら触手の筒を長く伸ばしてライフルのようにじっくり狙って遠くを狙撃することも可能だろう。

 

俺自身でやるなら、全方位に爆散させることも出来るかもな。

 

 

大通りを歩いていくと、通りの正面に大きな建物が見えてくる。

 

「ヤーベ殿、あれが冒険者ギルドだぞ」

 

指さす方向には正面に見えた大きな建物が。やはりあれが冒険者ギルドなのか。

その時、

 

「待てゴルァァァァァァァァ!!」

 

あ~、何となく予測できなくもないけど。

叫び声を聞く限り、明らかに怒気を含んでいる。となると、「迷惑かけてゴメンね」パターンではなく、「身内がやられてメンツ丸つぶれ」パターンだな。

え? 誰かって。どうせ<鬼殺し(オーガキラー)>とかいうDランクパーティの残り二人だろーよ。パーティリーダーみたいなやつがいなかったから、きっと叫んでるのがそうなんだろーねー。

 

「てめぇがウチのモンをやった女か!」

 

デカイ斧を右手に持ったハゲ筋肉だるまが走って来た。裸にして赤パンツ穿かせたらレスラーまっしぐらだな。その横には皮鎧の盗賊風の男が「ア、アニキ~」とか言ってヒーヒー言いながら走ってきている。ハゲ筋肉だるまより遅い盗賊に価値があるのか?

 

「ななな、なんだ!?」

 

イリーナが目を白黒させている。そうだろーな。なかなか見ないよ、あんなハゲだるま。

 

「よくもウチのモンをやりやがったな! 今すぐ決闘だ!覚悟しやがれ!」

 

斧を突き付けて騒ぎ出す。イリーナ決闘やるってよ。

後、どう考えても反社会勢力の方にしか見えませんけど?

冒険者ギルドに通さず闇営業でもやってるかな。

 

『決闘って、ここで今やるのか聞いてくれ』

「決闘って今ここで行うのか?」

 

「ああそうだ! 今すぐここでだ! 叩きのめしてやる!」

 

『決闘を受けるメリットはあるのか?』

「け、決闘を受けるメリットはあるのか?」

 

「メリットだとぉ!ふざけやがって! 俺に勝てたらこの全財産をやらぁ!金貨五枚は入ってるぜ!」

 

といって懐から財布らしきものを出すと地面に叩きつける。

あ~、身内が女一人に三人もやられて、冒険者仲間内で舐められない様にって事かな?

 

『決闘のルールは?殺してしまってもいいのか?』

「決闘のルールは?ころっ・・・ええっ?」

 

「今殺すって言ったかこのヤロー! ルールなんざどっちかがぶっ倒れるまでだ! 行くぞぉ!」

 

男が斧を振り上げる。決闘の承諾をした覚えもないけどな。

 

「キャア!」

 

イリーナがビビッて硬直する。しょうがないね。

では奥の手と行こうか。

 

『装着!アーマードスライム』

「ひょえっ?」

 

リュックの隙間から、両手首と、両足首のみ薄く伸ばした触手を輪っかにしてロックする。

肘、膝まで超薄くしたスライムボディをアーマーコーティング化する。

 

男が斧を振りかぶって襲い掛かってくる。その攻撃を触手でイリーナを操って躱す。

 

「わわっ」

 

イリーナがびっくりしているようだ。

 

『イリーナ、少し力を抜いていいぞ。俺がイリーナの手足を動かす』

「なんとっ! ヤーベ殿に私の手足を束縛されて・・・くっ犯せ!」

『いや、手足のコントロールやめてもいいけど?』

「あ、ヤーベ殿見捨てないで!」

 

しょうがないな。まあここまで一緒にいるんだ、見捨てたりしないけど。

 

『さあ、イリーナをSランク冒険者に仕立て上げようか』

「ええっ!?」

『行くぞ!スライム流戦闘術究極奥義<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>』

「ほわわっ!」

 

躱された斧を再度振りかぶり攻撃してくる男。どう見てもこれが当たると死ぬよな。

殺す気マンマンじゃねーか。じゃあ容赦しなくていいか?

大きく振り下ろされた斧を躱し懐に瞬時に入る。

 

『<雷撃衝(ライトニングボルト)>!』

「ラ、<雷撃衝(ライトニングボルト)>!」

 

右手を突き出させ、相手の胸に触れる。

そして放つ電撃!死んだらゴメンねレベルの一撃を放つ。

 

「ごばぁぁぁ!」

 

煙を上げてもんどりうって倒れる男。そう言えば名前も聞いてねーな。

 

「ア、アニキー!」

 

この盗賊からはアニキしか聞いてねーし。

 

「お前ら町の往来で何やってるんだ!」

 

あ、衛兵がまた走って来た。町の門のトコでも見たよ。デジャビュ?

 

「ギルド前で何を騒いでいる!」

 

冒険者ギルドからはマントを翻して白髭のダンディーな爺さんがこっちへ向かってきた。

 

あれ~、これメンドクサイパターンですか?テンプレ回避の戦略練って来たはずなのに?

どーしてどーして?

 




またも冒険者ギルドに届かず・・・
早く魔物を売ってお金を手に入れて楽しい買い物三昧を~!
今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!


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第25話 冒険者ギルドで説明しよう

は~、トラブル回避のために隠れて来たのに、

 

『衛兵さん、さっきはどーも』

「え、衛兵さん、さっきはどーも」

 

衛兵さんは、さっき町の門で俺たちを相手してくれた一人だった。

 

「なんだ、またお嬢ちゃんか。今度はどうした?」

 

『多分さっきの三人の仲間が襲い掛かって来たんです。決闘だーって』

「多分さっきの三人の仲間が襲い掛かって来たんです。決闘だーって」

 

「決闘!? 町のこんな大通りでか?」

 

「ええ、そう言ってました。いきなり攻撃されましたし。とんでもない奴です!コイツは」

 

ぷりぷりとお怒り気味でイリーナが答える。

ヒヨコ隊長が男が捨てた財布を嘴で拾ってくる。お財布を加えたままイリーナの肩に戻って来た。

『ボス、戦利品です』

『ご苦労。リュックの蓋の隙間から放り込んでくれ』

『了解!』

羽を器用に使ってリュックの蓋を上げて財布を押し込む。

ヒヨコ隊長、君は本当にいい仕事をするね。

 

「ふー、ギルドマスター。申し訳ないが、この倒れている男連れて行きますよ?往来で揉め事を起こしたのですから、調書を取らせて頂きます。こちらのお嬢さんは被害者のようですから、調書は後回しでもいいですけどね」

 

「うむ、それでかわまぬ」

 

ギルドマスターと呼ばれた男は仰々しく答える。

長く伸ばした白い髭にこれまた長く伸ばした白い髪。そして背中には二刀を背負っている。クロスして背負っているところを見ると、双剣使いか?

 

「それでは、先にギルドで話を聞こう。ついて来てくれ」

 

ギルドマスターに言われ、その後ろをついていく。

そして冒険者ギルドの大扉を開けて中に入った。

 

「はああ~」

 

つい声を漏らしてしまう。

いや~、冒険者ギルドだよ!あの冒険者ギルド!

何と言っても異世界転生とくれば、生きて行くために冒険者ギルドで登録、冒険者としての活動で名を上げて行く。

ラノベを読みまくりながら妄想したあの世界が今!目の前に!

これが興奮せずにいられようか!いやいられぬ!

 

「ヤーベ殿、どうしたのだ?」

 

リュックの中で興奮してわさわさ動いてしまったのでイリーナから声を掛けられてしまった。少し落ち着かねば。

 

中は結構な人数がいる。どいつもこいつも冒険者チックだぜ!

というか、冒険者なんだろうけどね。

あ、あれが依頼書を張り付ける依頼ボードかな?

見たい!見たいぜ~。

 

「何をしている?このカウンターに座ってくれ」

 

言われるままカウンターの手前にある椅子に座る。

受付嬢に隣にズレる様伝え、ギルドマスターが対面に座った。

 

「冒険者カードを提示してくれ」

 

言われるまま胸元から冒険者カードを提示するイリーナ。

 

「フム・・・、イリーナ。Fランク冒険者か・・・」

 

カードを返しながら、ギルドマスターが問いかける。

 

「それで、なぜあのような騒ぎになった?」

 

そこで、町の門の前で三人に襲われたところから、先ほどの決闘騒ぎまで順を追って説明する。

 

「なるほど・・・あの連中には厳しい措置が必要だな。それにしても君一人でよくあの五人を退けられたな。特に三人を相手にしたのもそうだが、<鬼殺し(オーガキラー)>のリーダ―である斧使いは戦闘力だけならCランクにも届こうかと言った実力だったが」

 

『まあ、なんとかなった』

「まあ、なんとかなった」

 

「どうなんとか何ったのだ?」

 

おいおい、突っ込んで来るな・・・。

 

『それより、魔物を狩って来たんだが、買取をお願いしたいのだが?』

「それより、魔物を狩って来たんだが、買取をお願いしたいのだが?」

 

「ん? ああ、どこに持ってきているんだ?」

 

『収納から出すぞ』

 

そう言って亜空間収納から魔物を次々取り出す。

カウンター前にはフォレストウルフ、ホーンラビット、キラーグリスリー、ジャイアントバイパー・・・すぐに小高い山のように積みあがった。

 

「お、おいおいおい! 収納魔法の持ち主なのか!? それにしてもどれだけの魔物を・・・というか、Cランクモンスターのキラーグリスリーやジャイアントバイパーまであるじゃないか!」

 

『解体費用は差っ引いてくれ。いくらくらいになりそうだ。ちなみにまだ魔物あるぞ』

「解体費用は報酬から差し引いてくれ。いくらくらいになりそうだ。ちなみにまだ魔物あるぞ」

 

「な、なに? まだあるのか? どれほどの収納量だ・・・、というか、これ全てお前が倒したのか!?」

 

「え、ああ、倒した?かな」

 

「なぜに疑問形!?」

 

『全部を自分で倒したわけではなく、大半は師匠のお使いで換金に来ていると言え!』

 

「あ、ああ、全部が全部自分で倒したわけではないんだ。大半は師匠が倒した魔物を換金するためのお使いみたいなものだ」

 

「し、師匠だと?」

 

「そうだ!我が師匠はとても素晴らしいのだ! ヤーベ殿の素晴らしさは一言では語れぬな」

 

「ヤーベ?」

 

『コラーーーーーー!! 何で名前言う!』

 

「あ」

 

「あ、ってなんだよ、あ、って。どうもオメーおかしいなぁ」

 

ギルドマスターがイリーナを怪しみ始めた。困ったね、どうしたもんかな・・・

と思ったら、ギルドマスターに魔力が集まる。ぐるぐるエネルギーがギルドマスターの目に宿るように感じたんだ。やっぱぐるぐるエネルギーって魔力だったんだな。相手が使うのを見るとよくわかるよ。

 

「ぐわわっ! 目がぁ!目がぁぁぁぁぁ!」

 

急に両目を抑えてどこぞの大佐の様に苦しみだすギルドマスター。どうした?

俺は眩しくないぞ?

 

「ど、どうしたのだ?」

「ぐうう・・・、なんだかとんでもねーな、ちくしょう」

 

と思ったら、再度ギルドマスターに魔力が集まる。ぐるぐるエネルギーがギルドマスターの目に先ほどよりも強く凝縮される。

 

そして、ギルドマスターがまるで産まれ立ての小鹿の如く小刻みに震え始める。

 

「?」

 

イリーナも怪訝な顔をする。ギルドマスターどうしたんだろ?

 

「お前・・・一体・・・」

 

そう言うと、さらにぐるぐるエネルギーが強くなり再度ギルドマスターの右目に宿る。

 

「ブフォッ!」

 

ギルドマスターが鼻血を吹く。

そして何かしら液体が滴るような音が微かに聞こえた気がした。

 

「ご、ごごご、53万だと・・・」

 

ん?ギルドマスター、何を言っているのだろう?

 

「どうかしたのか? ギルドマスター殿」

 

イリーナが不審に思ったのか問いかけるがギルドマスターはそれに答えず、

 

「師匠と言ったな・・・?本当に師匠がいるのか? 自分の力を隠しておきたいがための嘘ではないのか?」

 

プルプルしながらそれでも倒れまいと踏ん張っているように見えるギルドマスターが問い詰めて来た。

 

「とんでもない!本当に師匠のヤーベ殿は実在している! 理由あって町にはなかなか来られない方だが、本当にすごい人なんだ!」

 

なぜかイリーナが憤懣やるかたないと言った感じで捲くし立てる。

 

「・・・ならば連れてこい!今すぐだ!師匠とやらを連れてくれば信用してやる!できなかったときはお前の秘密を喋ってもらうぞ!」

 

・・・なるほど、イリーナの不自然な戦闘力や収納魔法やらを問い詰めたいというわけだ。どうせ師匠の存在は自分の力を隠す隠れ蓑だとでも思ってるんだろうけどな。まあ、隠れ蓑はイリーナの方なわけだが。

 

「むううっ!そこまで師匠のヤーベ殿を愚弄するか!いいだろう!師匠を何としても連れて来よう。連れて来たら師匠に謝ってもらうからな!」

 

なぜ俺に謝ってもらう必要があるのか全く理解できないが。

 

『師匠を連れて来るまでに魔物の査定をしておいてもらってくれ』

「あ、師匠を連れて来るまでに魔物の査定を完了しておいてくれ。満足する値を付けてもらえないと師匠は今後この町に魔物の買取を出さないかもしれないぞ!」

 

そう啖呵を切ってギルドを出て行くイリーナ。買取にクギを指すとはなかなかやるね。それにしても、師匠って・・・どーしよう?

 




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第26話 早速師匠を呼びに行こう

冒険者ギルドを勢いよく呼び出したイリーナ。

 

「さあ師匠!ドーンとお姿をお見せください!ギルドマスターをギャフンと言わせましょう!」

 

意気込むイリーナに対し、俺様はリュックから触手だけ出すと、ぐるぐる回転させた後イリーナの頭をポカリと殴る!

 

「このオタンチン!」

 

「あいたっ!」

 

イリーナは涙目になって後ろを向く。

 

「何をする、ヤーベ殿」

 

頭を擦りながら文句を言うイリーナ。

 

「このスライムの姿で出られないからお前に代理を頼んだんでしょ!」

 

「あっ」

 

ヒヨコ隊長もイリーナの肩で「やれやれ」といった表情で溜息を吐いている。

ヒヨコ隊長にまで馬鹿にされるイリーナ・・・どこを切ってもポンコツだぜ!

 

「ううう・・・すまない、ヤーベ殿」

 

ズーンと落ち込むイリーナ。

 

最も、イリーナがギルドマスターにキレ気味に啖呵を切った時にはもう覚悟を決めてはいたけどね。後は俺の姿をどうやってごまかすかだ。

ありがたいことに、決闘とやらで手に入った軍資金もある。

 

「イリーナ、早速買い物だ。買い物の本番は討伐した魔物の買取金が手に入ってからだが、今は俺の姿をごまかすためのアイテムを購入しに行かねばならん」

 

「おおお・・・、ヤーベ殿。やっぱり私のために秘策を・・・くっおハプッ!」

 

俺様は最後まで言わせずに触手で口を塞いだ。

 

「言わせねーよ、人の多い往来で何を口走ってるんだ」

 

「ハププププッ」

 

「さあさあ、まずは鎧を見に行こう」

 

イリーナの口を押えたまま、もう1本の触手でイリーナの尻を叩いて出発した。

 

 

 

「らっしゃい」

 

気難しそうな親父のいる店だな。

道端でしっかりとした鎧を売っている店を聞いたら、この店を紹介されたのでとりあえず入ってみた。しっかりした鎧を探そう。

 

「ヤーベ殿、どんな鎧を探すのだ?」

 

「所謂全身鎧、フルプレートだな。それこそ全身が隠れないとどうにもならん」

 

「なるほど、ではこの騎士のような鎧はどうだろう?」

 

「あん、お嬢ちゃん、そんなフルプレートは重すぎるぞ。やめとけやめとけ、こっちの皮鎧にしておきな」

 

そりゃそうか、イリーナがリュック背負ってるだけだから、誰がどう見てもイリーナが鎧探しているように見えるわな。

 

「店主殿、少し試しに装着してみてもよいだろうか?」

 

イリーナが奥の店主に問いかける。

 

「諦めの悪いお嬢ちゃんだな。好きにしな。但し鎧に傷を付けたら買い取ってもらうぞ。ちなみにそのフルプレートは金貨五枚はするからな」

 

「むうっ!なかなかに高級品だな」

 

だが、俺は気にせず試着しちゃう。OK取ったことだし。

早速フルプレートの隙間から入り込み、手足の部分を含めた全身に収まるように形を変える。

 

「では、動いて見よう」

 

ガシャン、ガシャン。

 

「おおっ!どうだヤーベ殿、着心地は?」

 

動けると言えば動けるが、これで戦闘はつらいな。触手で鎧を支えている状態なので触手で攻撃することもできないし。大体金属鎧だと<雷撃衝(ライトニングボルト)>の使用も出来ないな。

 

「な!ななななな・・・」

 

ん?あ、店主がこっちを見ている。

イリーナが鎧を着ていないのに鎧が歩いている。

そりゃヤバイか。

 

「い、一体どうなって・・・」

 

俺様はイリーナの耳に触手を大至急差し込む。

 

「あふんっ!・・・ヤーベ殿、耳はぁ・・・ダメなのだぁ」

 

『やかましい!自分は鎧を操る鎧使い、操るにちょうどよい鎧を探しに来たのだが、しっくりくるものがなさそうだ。また来ることにしよう、と言って店を大至急トンズラだ!』

「じ、自分は鎧を操る鎧マスターなのだ・・・さよなら!」

 

誰が鎧マスターだよっ! とにかく騒ぎになる前にトンズラだ!

ばたばたと鎧屋を後にする。

 

「鎧マスターってなによ?」

 

「ヤ、ヤーベ殿が言えって言ったのではないか!」

 

ぷりぷりしてイリーナが俺に文句を言う。

 

「誰も鎧マスターなんて言ってないだろ?」

 

大体なんだよ、鎧マスターって?

 

「それより、次はどこへ行くのだ?」

 

「鎧がダメなんだから、次は魔導士だな。ローブを買おう。だから魔道屋だ」

 

「わかった、裏通りにいい店があると情報を仕入れているぞ!」

 

わたわたと走りながら魔道屋へ向かう・・・魔道屋っていう?

 

 

 

 

「失礼するぞ・・・」

 

やたらと薄暗い店に入る。

 

「魔導士の店、キャサリン・・・大丈夫なのか?この店」

 

思わず口に出てしまう俺。

 

「何が大丈夫なんだい?失礼だね」

 

わあっ、急に奥のカウンターにいたはずのオババが目の前にいた。

 

「うわっ!びっくりした」

 

「なんだい、嬢ちゃん一人かい?」

 

「ええ、まあそうだな、うん」

 

反応が怪しいですよ、イリーナさん。

 

『魔導士が着るローブを見せてもらえ』

「魔導士が着るローブが欲しいのだが、見せてもらえるだろうか?」

 

オババが首を傾げる。

 

「あんた魔導士じゃないだろう?何でローブがいるんだい?」

 

「ああ、師匠が着るためのローブを探しているんだ」

 

「ほう、あんたの師匠は魔導士かい」

 

「そのようなものだ。プレゼントしてびっくりさせようかとな」

 

お、うまい言い訳だ。これで本人が来ていない理由付けにもなるな。

 

「普通のローブならそこに山積みにしてあるよ。どうせ魔術付与された高級なローブは買えないんだろ?」

 

オババがちらっと見てくる。むむっ!ビンボー確定されるのは些か気分が悪いが、金がないのも事実。魔獣退治で金がいっぱい入ったら見てろよオババめ!高級ローブと杖を買ってくれるわ!

 

「そうだな、とりあえず普通のローブでいいよ。後魔導士が持つ杖も見せてほしいんだが」

 

「杖もいい素材の高級品は奥に飾ってあるけど、どうせ金が無いんだろ?」

 

ズバリその通りなんだが、他に言い方はないのか。

 

「ヤーベ殿、この色はどうだろう?」

 

そう言ってクリーム色のようなローブを山から引きずり出し、ばさばさと埃を払う。

とりあえず来てみるか。

リュックからしゅるりと出るとローブを上から被る。

おお、これは楽だな。地面に裾が擦ってしまうが、コントロールは触手だけでOKだ。ローブだから重さもほとんど感じないし。

 

「ヤーベ殿、この赤い宝石が付いた杖はどうだろう?」

 

「お、カッコイイな、これ」

 

色と言い、明らかに俺は今あの伝説のRPGドラ〇ンクエ〇トの大魔道にそっくりな自信がある。すごく無意味な自信だが。

 

「おお!ヤーベ殿、よく似あっているぞ!」

 

イリーナが両手を胸の前で組んで褒めてくれる。何となく照れるな。

 

「お、おお?お前さんそれは一体どうなっているんだい!?」

 

あ、いけね。店にはオババもいたんだった。

 

『私はローブマスター。師匠にプレゼントするローブも操ってしまうのだ』

「私はローブマスター・・・ってローブマスターってなんだ!?」

 

「何だいローブマスターって? 何でローブと杖が浮いているんだい?」

 

オババが怪しんでこっちへ来る。

 

『とりあえずお会計』

「ああ、とりあえずお会計を頼む」

 

オババの前に立ちはだかる様に会計を告げる。

 

「魔導士の杖が金貨二枚、ローブは銀貨三枚でいいよ」

 

とりあえずイリーナはちょっきりお釣りの無いようにオババに金貨と銀貨を払う。

 

「毎度あり。で、それどうなっているんだい?」

 

オババがローブを覗き込もうとする。近寄るなオババ、俺はオババ趣味ではないのだ。

 

『イリーナ、行くぞ!さっさとドンズラするのだ』

「あ、ああ、オババ、また来るぞ」

 

そう言ってローブがふわふわしたままイリーナがわたわたと店を出る。

 

「なんかあったらまた来るんだよ!」

 

オババの声が後ろで響く。「魔導士の店、キャサリン」、もう来ねーかな。

 

イリーナの横で杖を持ちながらローブを着て歩いていく。

初めて自分の足?で町を歩くな。ちょっと感動がある。

さて、冒険者ギルドでもうひと暴れしようか。

 

 




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第27話 ギルドマスターを納得させよう

イリーナの横を走っている俺。

おお、町中を歩く感覚。

ちょっと感動だ。

結構人の往来があるな。人にぶつからない様に走ろう・・・、いや、なぜ走ってる?

 

「おい、イリーナ。そう言えばなぜ走ってる?」

 

「んん? キャサリンの店から慌てて出て来たからではないか?」

 

「じゃあもう急ぐ意味ねーよ!」

 

「ああ、そうか」

 

というわけで、ギルドへは歩いていこう。

ゆっくり歩くとなると大通りの屋台も気になって来るな。

 

「うまそーだなぁ・・・」

 

連なる屋台からは煮物や焼き物のいい匂いがしてくる。

 

「ヤーベ殿、何か食べようか?」

 

イリーナがにっこりして聞いてくる。

 

「魔物の換金はまだだが、お金は大丈夫か?」

 

「もちろんだ、それほどあるわけじゃないが、屋台で食べるくらいは問題ないぞ」

 

イリーナの言葉に早速屋台を覗きに行く。

 

「肉だぞ、肉」

 

「らっしゃい!今日は新鮮なホーンラビットの肉が入ってるから、串焼きうまいぜ!」

「こっちは珍しいジャイアントバイパーの串焼きだ!どうだい?」

「さらにこっちはオークの煮込みだ!定番だが病みつきな味ですぜ~」

 

お、オークはまだ食べたことないな。煮込み買うか。

 

「今日だけだよ~、フォレストリザードの新鮮肉は今日だけだ~、塩焼きタレ焼き二種類とも銅貨五枚だよ~」

 

ちょっとのんびりした親父が呼び込みしてる。フォレストリザードって森蜥蜴ってことだよな? トカゲって固そうなイメージあるけど、今日だけなんて言われると気になるよね~。限定に弱いの、俺。

 

「おっちゃん!タレ、塩、二本ずつね! こっちの子とそれぞれ一本ずつちょーだい!」

 

「あいよ!」

 

「イリーナ、お金よろしく」

 

「ああ。店主、これで頼む」

 

イリーナは銀貨を二枚渡す。

 

「まいどっ!」

 

景気よく返事して、出来上がった串を渡してくる。

 

「待ってました!」

 

待ちきれないとばかり、串を受け取ろうと手を伸ばす。

 

「うわわわっ!」

 

店主が串を頬り投げる。おっとアブナイ、俺はひょいひょいっと串をキャッチする。

 

「危ないな、どうした?」

 

と店主に声を掛けながら「あっ」っと気がつく。触手だよ~、俺のバカ!

 

「いやなに、だいぶ昔に魔物にやられてね」

 

「お、おう・・・そうか、アンタも大変だったんだな。もう一本サービスしとくよ」

 

そう言って塩焼きを一本寄越してくれる。

変な同情を買ってしまったが、くれるならありがたく貰おう。

 

「はい、イリーナ」

 

「ありがとう!ハフハフ、なかなかおいしいんだな!フォレストリザードというやつは」

 

「うん、うまいっ!」

 

一切れをヒヨコ隊長にやって自分も食べきる。

ああ・・・町に来てよかった。

 

「あ、ヤーベ殿、そろそろギルドに行くとしようか」

 

「その前に雑貨屋へ行って手袋買おう」

 

俺は食べきった串を屋台の親父に返して、雑貨屋で皮手袋を買ってから冒険者ギルドに向かった。

 

 

 

バンッ!

 

ギルドの大扉を叩き開けるようにイリーナが飛び込む。

 

「ギルドマスターはいるか! 師匠を連れて来たぞ!」

 

「来たか・・・こっちへ来い」

 

といってカウンターを指さす。自身はすでにカウンターの反対側に座っていた。

 

「そこへ座れ」

 

イリーナはドカリと座ると早速ギルドマスターに食って掛かる。

 

「さあ!我が師匠のヤーベ殿を連れてきたぞ!」

 

イリーナさんめちゃくちゃ気合入ってるね。何で?

そんなに魔物の買取金が欲しいのかな?まあ、俺も買取金額で買い物しようって当て込んでるけどね!

 

「で、お前の師匠とやらがその怪しいローブの魔導士ってことか?」

 

「怪しいとは失礼な!我が師匠のヤーベ殿は素晴らしい方なのだぞ!」

 

プリプリと怒るイリーナ。

そこまで言われると逆に恥ずかしくなってくるね。

 

「で、名前は?」

 

俺の方を向いて質問してくる。鋭い眼光だ。威圧してくるつもりか?

 

「・・・ヤーベだ」

 

魔導士の杖をカツンと床について名を答える。

 

「師匠は何でも知っている、まさしく森の賢者と言っても過言ではないぞ!」

 

イリーナが俺を賢者だと持ち上げる。

 

「いや、俺は賢者ではない」

 

「師匠?」

 

「そう、俺を呼ぶなら大魔導士と呼んでくれ」

 

 

昔大ファンだった某有名な伝説の冒険漫画の魔法使いが言うセリフを思い出す。

 

「何が大魔導士だ・・・」

 

むっ!ギルドマスターの右目にぐるぐるエネルギーが集中していく。

 

「ぐわわっ!やっぱり目がぁ!目がぁ!」

 

再びどこかの大佐の様に目を抑えて苦しむギルドマスター。何で?

 

「くそ・・・!やはり分離している・・・」

 

右目を抑え苦しそうに呟く。怪しいクスリやってるわけじゃないよね?

 

再びぐるぐるエネルギーが右目に集まって行く。

懲りない人だね。

 

「むうっ? ・・・たったの5だと・・・?」

 

イリーナを見ながら呟くギルドマスター。何が5なの?

そしてこっちを見る。

 

ブバッ!

 

いきなり鼻血を吹き出すギルドマスター。あれ?前も吹いてた?

 

じょろろろろろ~

 

んんっ?

 

何かしら漏らした音してない?大丈夫?

 

「ごごご・・・53万だと・・・? やはり間違いないのか・・・?」

 

超高速でぷるぷる震え続けるギルドマスター。

 

「ギ、ギルドマスター大丈夫ですか? 裏で少し休みましょう」

 

といってギルド職員の女性に肩を支えてもらい移動していく。

なんだが足元濡れてますけど?

 

「お、おおい!換金はどうなるのだ!?」

 

イリーナががたんと椅子から立ち上がりギルドマスターの背中に声をぶつける。

 

「換金査定は終わっておる・・・カウンターで受け取れ」

 

そう言ってギルド職員の肩を借りながら奥の部屋へ入って行ってしまったギルドマスター。

なんか知らんが、話はこれで終わりのようだ。

それならカウンターで討伐した魔物の換金額を受け取って買い物に行こう。

 

「イリーナ、早速換金額を受け取ろう」

 

「わかった。早速だが買取金額を頼む」

 

買取カウンターの受付嬢に声を掛けるイリーナ。

 

「はい、承っております。こちらが買い取り額の金貨225枚となります」

 

「わわっ!」

 

ずっしりとした革袋を受け取るイリーナ。

 

「師匠!すごいぞ!」

 

「そうだな、やっと買い物できるし、宿に宿泊できるな」

 

「お師匠様のギルド登録はなさいますか?」

 

「いや、俺はいいよ」

 

事務的に尋ねてくるギルド嬢に俺は答える。

 

「さあ、行こうかイリーナ」

 

俺は魔導士の杖で床をコンコンと突いて立ち上がると、ギルドを後にした。

 




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第28話 やっぱりギルドで登録しよう

ギルドを出て大通りを歩き出す。

 

「どうするヤーベ殿。大金が手に入ったが」

 

「そうだな~」

 

実際の所、亜空間圧縮収納の魔物在庫はまだ半分以上ある。

必要に応じで買い取りに出せばいいだろう。

薬草や魔物の収納状況から、収納した物は腐敗が進んでいないことが分かっているので多分長期保存しても問題ないと思われる。

 

それにしても、手袋を手に入れたのは僥倖だった。

スライムの触手をコントロールするにあたって、触手自体は自由に操れるようになったが、細かい作業はあまりうまくこなせなかった。巻き付けたりして物を持つことは出来るのだが、指先のような微細な調整はうまく出来なかった。

 

ところが、触手の先に手袋をつけたので、触手の先が強制的に手袋内で別れて、手のひらの様になった。その感覚を覚えたため、人間であったころの感覚と合わせ、指先、手のひらを作り上げ、コントロールすることが出来るようになった。

 

「これは大きいぞ。これで揉んだり摘まんだりできるようになる」

 

何を?と思わなくもないが、取りあえず出来るか出来ないかで言えば、出来る方がよいのだ、うん。

 

『ところでボス、よろしかったのですか?』

 

ヒヨコ隊長が問いかけてくる。

 

「何が?」

 

『ギルドでの冒険者登録ですよ。人間の町に出入りするためには身分証が必要だったのでは?』

 

ヒヨコ隊長が鋭く突っ込む。

 

「・・・ダメじゃん?」

 

『なぜに疑問形です!?』

 

ぴよぴよっと驚いた表情のヒヨコ隊長。

 

「そういやそうだ。ギルドに縛られたり、個人情報取られたくなくて登録はいいやって言ったけど、身分証はいるじゃん!」

 

あた~、失敗した。常にイリーナのリュックの中に隠れて町を出入りするわけにもいかない。

ギルドに登録すれば、間違いなく俺の個人情報を引き出そうとしてくるだろう。

先ほどのギルドマスターの様子も変だったし。

何より強制的に招集されたりするのは嫌だ。

だが、ラノベを読みまくっている俺の情報からすると、強制義務が発生するのは高ランクになってからのはず。それならば登録だけしておいて、ランクを上げず、最低限の仕事だけこなしてランクを保持しておけばよいか。

 

「うん!気が変わったぞ。やっぱり冒険者ギルドで俺も登録しよう。身分証がないといつもイリーナのリュックに隠れていなければならないからな」

 

「むうっ、私ならば、ヤーベ殿の役に立つのならばいつでもリュックを背負うくらいの苦労は厭わないつもりだが」

 

口を尖らしてアピールするイリーナ。

 

「いつもイリーナに背負ってもらうわけにもいかないし、何より場合によっては俺だけで町の出入りをしなくてはいけない可能性だってある。やはり登録しておこう」

 

「むう・・・致し方ないか」

 

依頼を請け負わずに魔物の買い取りだけお願いしておけば、ランクを上げないまま買い取りの金額を受け取っておけば良いだろう。

 

「さて、早速冒険者ギルドに戻るとしよう」

 

俺たちは早々に冒険者ギルドに向かうべく大通りをUターンした。

 

 

 

 

冒険者ギルドの大扉をドバーンと開け放つ。

チリンチリンと鳴るベルがけたたましい音を立てる。

勢いよく開け過ぎたようだ。

 

ギルド内にいた冒険者たちが何事かと振り向けば、先ほどギルドマスターと話し込んでいた怪しい魔導士と女冒険者が戻って来た。

 

怪しい魔導士はきょろきょろとあたりを見回し、カウンターのギルド嬢を見つけるなり、

 

「おーい、さっきのお姉さ~ん!」

 

とけたたましく声を上げてカウンターにすっ飛んでいった。

 

「なんだありゃ・・・?」

 

冒険者たちは触らぬ神に祟りなしとばかり、関わらない事に決めたようだ。

 

 

 

「お姉さ~ん、やっぱり冒険者登録お願いね!」

 

冒険者ギルドのカウンター、先ほど買い取り金額の支払いを行ってくれた女性だ。

ラッキーなことに受付が空いていたので、直行した。

元気よくお願いをしたところ、奥の部屋から「ブフォッ!」って誰かが何かを噴く音が聞こえたが、まあ気にしないことにしよう。

 

「はい、冒険者登録ですね?」

 

「そう、お願いできる?」

 

「わかりました、ではこちらの申込書に記載をお願いします。代筆は必要ですか?」

 

そういってギルド嬢は申込書を出してくる。羊皮紙のような厚い用紙だな。

じっと見ると記載項目の説明が読める。

ペンを借りて、名前を書いてみる。

 

「これ、読める?」

 

「・・・ヤーベ、様でよろしいですか?」

 

お、日本語で書いたのだが、なぜか読めるようだ。助かる。この年で語学を一から勉強するのははっきり言って苦痛以外の何物でもない。

 

「では書き込んでいこう・・・名前、出身地・・・職業? 能力・・・はい、書けた」

 

俺はギルド嬢に書き込んだ申込書を提出する。

 

「はい、承ります・・・お名前はヤーベ様。出身地は奇跡の泉の畔・・・?」

 

「そう、奇跡の泉には俺がしたんだけど」

 

いや、水の精霊ウィンティアのおかげか?まあいいか。

 

「職業は大魔導士・・・」

 

「そう」

 

「むっ!私の師匠と書いてくれてもいいのだぞ? あ、後・・・師匠だけでなく、は、は、伴侶と書いてもらっても・・・」

 

何かごにょごにょ言いながらすごい赤くなってクネクネしているイリーナ。

どうした?

 

「え・・・? <調教師(テイマー)>?<召喚師(サモニスト)>?」

 

「そう」

 

「・・・えっと・・・部下って書いてありますけど、使役獣のことですか?」

 

「そう」

 

「・・・えっと・・・狼牙族一族郎党60匹って・・・」

 

「ダメ?」

 

ちょっと可愛く聞いてみる。

 

「召喚は四大精霊・・・!!」

 

「そう、とってもイイコたちだよ」

 

「・・・少々お待ちください」

 

ギルド嬢は額に手を当ててクラクラしたのか頭を振りながら俺の書いた申込書を持って奥の部屋へ消えて行く。

 

「な、なんだこれは!」

 

誰かの叫び声が聞こえる。うん、きっとギルドマスターだな、たぶん。

 

 

 

ガチャリと扉から出て来た受付嬢が俺に向かって声を掛ける。

 

「ヤーベ様、イリーナ様、こちらの部屋へお入りください」

 

呼ばれたので部屋に入ってみると、やっぱり先に会ったギルドマスターが居た。

 

「やあ、ギルドマスターじゃないか。どうした?」

 

「どうしたじゃねーんだよ!なんで登録に戻って来た!」

 

バンッ!と俺の書いた申込書を机に叩きつけてギルドマスターが怒鳴る。

え~、何で怒られてんの、俺?

 

「え~、だって身分証がないと町の出入り困るじゃん」

 

「そりゃそーだけどよ・・・、で、お前何がしたいんだ?」

 

「え? 別に何も。魔物狩ってお金に替えてもらう以外特に用はないな」

 

俺ははっきりと目的を伝える。

 

「名前はヤーベ・・・何だよ、年齢が『謎』って。ふざけてんのか・・・。職業大魔導士・・・頭痛ェ・・・」

 

クラクラしているのか頭を振りながら読み進めるギルドマスター。

 

「<調教師(テイマー)>?<召喚師(サモニスト)>?」

 

「そう、いいだろ」

 

ドヤ顔で自慢してやる俺。まあ、ローブで包まれてるし、顔はわからんだろうけど。

 

「使役獣は狼牙族一族郎党60匹・・・召喚は四大精霊・・・おまーホント何でもありかよ!」

 

キレ気味に怒鳴ってくるギルドマスター。何を言う!神様からチートももらえず生きるのに精一杯なただのスライムに向かって失礼な。

 

「友達だけは増えたな」

 

「普通使役獣や召喚精霊は友達って言わねーんだよ・・・」

 

しみじみと嘆息するギルドマスター。

 

「そうするとものすっごく寂しくなるから却下で」

 

俺はきっぱりと告げる。彼らは友達です。

 

「はあ・・・登録は認めてやるから絶対問題起こすんじゃねーぞ! 何かわかんねーことがあったら絶対俺に相談しに来い! 勝手な行動すんじゃねーぞ!いいな!」

 

「ああ、うんうん、わかったわかった。じゃあよろしく」

 

と言ってさっさと出て行こうとする。

 

「ちょっと待て、後一つ質問だ。お前、冒険者ランクを上げる気あるのか?」

 

「ないよ」

 

何の確認か知らんが間髪入れず答えておこう。何か俺に期待されても困る。面倒はお断りだ。

 

「・・・わかった。行っていいぞ」

 

「じゃあな。また魔物の買い取り頼むぞ。イリーナ、買い物に行こう」

 

「わかった師匠、早速買い物に出かけよう」

 

俺たちは今度こそ冒険者ギルドの後にした。

 




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閑話1 ギルドマスターの憂鬱 前編

俺の名はゾリア。現役時代は双剣のゾリアと呼ばれたAランク冒険者だった。

今はソレナリーニの町の冒険者ギルドにてギルドマスターを賜っている。

この町は今まさに発展途上にある。辺境にあるこのソレナリーニの町だが、北には迷宮があり、辺境の町の中では交通の要所にもなる場所にある。この先この町は間違いなく発展して行くだろう。この町の冒険者ギルドを任される事は誉れでもある。

 

そんなある日の事、ギルドの看板受付嬢でもあるラムがギルドマスター室に駆け込んで来た。

 

「ギルドマスター大変です。衛兵の詰所より連絡があり、<鬼殺し(オーガキラー)>のメンバー三人がFランクの女性冒険者一名に迷惑行為を働いた挙句、返り討ちに会い衛兵の詰所に連れて行かれたそうです!」

 

あのバカども!最近Dランクに昇格してからというもの、態度はデカいわ、他の連中にケンカを売るわ、ロクでもない対応ばかりでギルドマスターとしても制裁発動を検討していたところだ。ただ、冒険者同士の諍いだし、ギルドが表立って出ることはないか。

 

「その上、<鬼殺し(オーガキラー)>のリーダー、ドンガがキレてその冒険者に決闘を挑むとギルドを飛び出して行ったと・・・」

 

「バカがっ!」

 

俺はすぐさま席を立ち、ギルドを後にする。

さすがに決闘などとばかげたことは止めないと。まして相手はFランクの女性冒険者一人。

・・・Fランクの女性冒険者一人だと? まさか・・・先日登録したばかりのポンコツそうな女騎士っぽいヤツか!?

 

大通りを走って行くと、そこにはすでにぶっ倒されていたドンガが。そして衛兵と話していた一人の女性冒険者。

 

衛兵が話しかけて来るが、半分も耳に入ってこない。

まさか、こんなひ弱そうな女騎士っぽいやつが

ドンガを倒す?戦闘力だけならCランクにも届こうかといったヤツだぞ!?

 

「うむ、それでかまわぬ」

 

とにかくギルドに戻って話を聞かない事には埒があかぬ。

ギルドに入ってからもきょろきょろと落ち着かない女性冒険者に、明らかに不審なものを感じる。とにかくカウンターに座ってもらい話を聞くことにしよう。

 

「フム・・・、イリーナ。Fランク冒険者か・・・」

 

やはりこの前登録したばかりのやつじゃないか。

どう考えても<鬼殺し(オーガキラー)>の連中を倒せる実力があるように思えない。

 

騒ぎの理由を聞けば、<鬼殺し(オーガキラー)>の連中に非のある話ばかり。騒ぎ事態に問題はないのだが・・・。

 

「なるほど・・・あの連中には厳しい措置が必要だな。それにしても君一人でよくあの五人を退けられたな。特に三人を相手にしたのもそうだが、<鬼殺し(オーガキラー)>のリーダ―である斧使いは戦闘力だけならCランクにも届こうかと言った実力だったが」

 

「まあ、なんとかなったかな」

 

目を泳がせながら言うイリーナ嬢。どうかしてるぜ、この娘。

 

「どうなんとかなったのだ?」

 

突っ込んで聞いてみたのだが、討伐した魔物の買い取りなどと抜かしてきおった。リュックにどれほどの討伐部位があるのか知らんが、見てやろうじゃないか・・・と思ったのだが、出るわ出るわ、まさかの収納魔法から山のような魔物が出てくる。この辺境の町周りでは最強クラスのCランクモンスターまで。しかもとんでもない量だ。この女、どんな魔力をしているんだ!?もともと収納魔法の使い手など、ほとんどお目にかかれない。そして、収納魔法の要領は魔力量に比例するはず。とすれば・・・。

 

「というか、これ全てお前が倒したのか!?」

 

「え、ああ、倒した?かな」

 

「なぜに疑問形!?」

 

やっぱりこの女、ヘンだ。しまいには師匠の使いだとか言い始める。たとえモンスターを師匠とやらが討伐していたとしても、<鬼殺し(オーガキラー)>の連中を跳ね返したのはこの女のはずだ。

 

ここは俺の切り札を使おう。

俺には冒険者時代を支えた虎の子のスキルがある。

それが<魔探眼(またんがん)>と<魔計眼(まけいがん)>である。

 

我が<魔探眼(またんがん)>は魔力を探すことが出来る。魔力の強さによりその魔力は明るさで判別できる。そのため迷宮探索などでは我が<魔探眼(またんがん)>により魔力を伴う罠などの発見や、魔力の強い魔獣の襲撃を察知することが出来た。我が冒険者としての実績を支えた正しく虎の子のスキルといえよう。

 

そして、あからさまに怪しいリュックを背負った女を<魔探眼(またんがん)>で調べた時だ。女の魔力はごくわずかしかなかった。それがどうだ、リュックに目を移した瞬間、

 

「ぐわわっ! 目がぁ!目がぁぁぁぁぁ!」

 

あまりの眩しさに目が眩むどころか、潰れるかと思った。

一体どれほどの魔力があればあれほどの輝きになるのか!?

以前この国の宮廷魔術師を<魔探眼(またんがん)>でサーチした時も「ああ、明るいな」程度の感覚だったのに。

 

「ど、どうしたのだ?」

 

イリーナという女冒険者が心配したのか俺に声を掛ける。どーなってんだよ!お前のリュックは!

 

「ぐうう・・・、なんだかとんでもねーな、ちくしょう」

 

こうなったら<魔計眼(まけいがん)>を発動させてやる。これは魔力そのものを数値化して認識することが出来るスキルだ。<魔探眼(またんがん)>に比べると地味なイメージだが、魔力を数値化できることは案外有用なことが多い。明りで漠然と判別するのではなく、はっきり数値化することでわかることも多い。例えば魔力強度を測ることにより、罠の危険度を判別したり、魔道具の威力を推定できたりする。

ということで<魔計眼(まけいがん)>を発動させたのだが・・・

 

「ブフォッ!」

 

鼻血が噴き出す!

 

「ご、ごごご53万だと・・・?」

 

じょろろろろ~

 

まさかの下半身がコントロール不能だ。ちくしょう!

 

我がスキル<魔計眼(まけいがん)>で捉えた魔力を数値で見た時に、大体一般人は1~5程度、冒険者で鍛えている者でも5~15あたりだ。

ちなみに目の前のイリーナ嬢は魔力数5だ。

魔術師のように魔力を常にフルで使用するような職業はさらに魔力が高い者がいる。30~50程度を示す者もいる。それ以上となると、そうざらにはいない。

過去100を超える者を確認したのは二名だけだ。

最高値は134、この王国の宮廷魔術師だ。

 

それがどうだ、このイリーナ嬢が背負っているリュックから感じられる魔力数は「53万」である。私は体の震えが止まらず、鼻血を吹き出し、下半身は粗相してしまった。

 

53万だぞ・・・、確認できた最高の宮廷魔術師ですら134なのに・・・。

一体何倍なのだ! 53万って! 凄すぎてピンとすら来ぬわ! 規格外にも程があるだろう!?程が!

一体、リュックの中に何を隠しているんだ!?コイツ・・・一体何を企む?

 

「師匠と言ったな・・・?本当に師匠がいるのか? 自分の力を隠しておきたいがための嘘ではないのか?」

 

このイリーナという女本人の力がまるでないように感じられる。そしてリュックからの化け物じみた魔力。一体何を隠しているのか?

ともすれば体の力という力が抜け落ちて倒れそうだが、倒れてしまうわけにはいかない。

 

「とんでもない!本当に師匠のヤーベ殿は実在している! 理由あって町にはなかなか来られない方だが、本当にすごい人なんだ!」

 

何だよ師匠って?何の設定なんだ? それともそのリュックの中に師匠とやらがいるのか? いっそリュックの中を見せろと言うか・・・、いや、それはヤバすぎる気がする。長年生き抜いて来たギルドマスターとしてのカンが囁いている!あのリュックの中身はヤバいと!

 

「・・・ならば連れてこい!今すぐだ!師匠とやらを連れてくれば信用してやる!できなかったときはお前の秘密を喋ってもらうぞ!」

 

どうせ明かせないからこそ、師匠という架空の存在をアピールしているのだろう。

ギルドを飛び出て行くイリーナ嬢を見送りながら、俺は心を落ち着けるように深呼吸を繰り返した。

 

 




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閑話2 ギルドマスターの憂鬱 後編

バンッ!

 

冒険者ギルドの大扉が勢いよく開かれる。

存外に早くイリーナ嬢が戻って来た。

てっきり売り言葉に買い言葉で悩んでいるとばかり思っていたのに。

イリーナ嬢の隣には、肌色っぽいローブをすっぽりかぶり、魔導士の杖を持った怪しいヤツが。

 

「ギルドマスターはいるか! 師匠を連れて来たぞ!」

 

「来たか・・・こっちへ来い」

 

といってカウンターを指さす。俺はカウンターの内側に陣取る。

 

「そこへ座れ」

 

指示してやるとイリーナ嬢はドカリと座る。

そして隣のローブを指さして俺に食って掛かる。

 

「さあ!我が師匠のヤーベ殿を連れてきたぞ!」

 

いたのかよ!師匠!マジか?マジなのか?

 

「で、お前の師匠とやらがその怪しいローブの魔導士ってことか?」

 

「怪しいとは失礼な!我が師匠のヤーベ殿は素晴らしい方なのだぞ!」

 

イリーナ嬢が立腹しながら立ち上がる。

こりゃ、適当なヤツを連れて来たってワケじゃなさそーだな・・・。

 

「で、名前は?」

 

「・・・ヤーベだ」

 

魔導士の杖をカツンと床について名を答えてくるヤーベとやら。

少なくともこんな怪しいヤツがいるとは報告を受けていない。

 

「師匠は何でも知っている、まさしく森の賢者と言っても過言ではないぞ!」

 

イリーナ嬢は自分の師匠のヤーベを賢者だと持ち上げる。

 

「いや、俺は賢者ではない」

 

「師匠?」

 

「そう、俺を呼ぶなら大魔導士と呼んでくれ」

 

・・・何だコイツ? 自分で大魔導士とか言ってるぞ。

自分で大言壮語を吐く人間ほどダメなヤツが多いのはもはやお約束だ。

 

「何が大魔導士だ・・・」

 

俺はこのヤーベとやらの化けの皮を剥ぐべく、<魔探眼(またんがん)>を発動させる。

 

「ぐわわっ!やっぱり目がぁ!目がぁ!」

 

くそっ!もしかしたらもしかすると<魔探眼(またんがん)>を発動させたが、先ほどイリーナ嬢のリュックが眩しく光っていたのに、今はまったく光っていない。

代わりに超強烈に眩しく光っているのはこの怪しいローブ、ヤーベだ。

 

「くそ・・・!やはり分離している・・・」

 

右目を抑えぼやく。

てか、リュックの中に隠れてたんかーい!

どういうつもりだよ! 意味不明だよ。何で最初リュックの中にいたんだよ!

よくリュックの中なんかに入っていられたな?

というか、明らかに今のローブ姿はリュックに入っていた時より大きいですが!?

 

もう悪い予感しかしないが、仕方ない、確認のためだ。

俺は<魔計眼(まけいがん)>を発動させる。

そしてイリーナ嬢を見る。

 

「むうっ? ・・・たったの5だと・・・?」

 

やはりイリーナ本人は大したことがないようだ。

さっきはリュックの魔力に何か秘密があるのかと思ったが・・・。

そしてヤーベを見る。

 

ブバッ!

 

いきなり鼻血が吹き出る。

 

じょろろろろろ~

 

「ごごご・・・53万だと・・・? やはり間違いないのか・・・?」

 

心配そうに覗き込んでくるイリーナ嬢。

私は再び体の震えが止まらず、鼻血を吹き出し、下半身は粗相してしまった。

 

 

あの53万の魔力・・・それはイリーナ嬢がリュックに隠した切り札的な魔道具などではない。このヤーベという男だ。姿は見えないが、声から男だと判断する。

つまり、このヤーベという男が53万もの魔力値を保有する「存在」だということだ。

 

この男が味方となれば圧倒的な戦力をこの冒険者ギルドは手に入れることができるが、逆に敵対すればソレナリーニの町は跡形もなく消し去られることにもなりかねない。

 

為政者ほどその傾向は強くなるだろう。

この男を取り込もうと躍起になるか・・・それとも、脅威となる前に抹殺するか。

 

「ギ、ギルドマスター大丈夫ですか? 裏で少し休みましょう」

 

副ギルドマスターのサリーナが肩を貸してくれる。

ああ、優しい彼女を副ギルドマスターに据えておいて今日ほどよかったと思った事はない。

 

「お、おおい!換金はどうなるのだ!?」

 

イリーナががたんと椅子から立ち上がる。

 

「換金査定は終わっておる・・・カウンターで受け取れ」

 

とりあえずギルドとしてどうすべきか対策を練らねばならぬ。それも早急にだ。

とりあえず魔物討伐分の買い取りを行った金額を渡して少し落ち着いてもらうとしよう。

こちらにも時間が必要だ。

 

そして金を受け取り、ヤーベはギルドに冒険者登録をせずに出て行った。

ふうっ、このギルドに所属しないとすれば、この俺の監督も不要ということだ。

 

 

と、思って一息入れようとサリーナにお茶を入れてもらったのだが・・・

 

 

「お姉さ~ん、やっぱり冒険者登録お願いね!」

 

「ブフォッ!」

 

俺は飲みかけのお茶を全力で噴いた。

 

あいつが戻って来た!? しかも冒険者登録だと!?

あ、頭痛ェ・・・。

 

 

そのうち、受付嬢のラムが部屋へやってきた。

 

「ギルドマスター、申し訳ありません。こちらの冒険者申込書を見て頂きたいのですが・・・」

 

そう言って俺の目の前に申込書を置く。

 

「な、なんだこれは!」

 

頭の痛さが倍増だぜ・・・さすがは53万の男ってところか。

 

「すまないが、連中を呼んで来てくれるか?」

 

ラムが奴らを呼びに部屋を出て行く。

くっそ・・・なんて声を掛ける?俺はヤツがこの冒険者ギルドに登録するとして、どうする?

ちょっと腕の立つヤツ、将来期待の持てるヤツ・・・そんなレベルの話じゃねェ。

あんな魔王みてーなヤツ、扱いきれねェぜ・・・。

 

「やあ、ギルドマスターじゃないか。どうした?」

 

入って来るなり、のうのうと言い放ちやがる。

 

「どうしたじゃねーんだよ!なんで登録に戻って来た!」

 

バンッ!申込書を机に叩きつけて怒鳴りつける。

理不尽な気がしないでもないが、さっき登録をせずに出て行ってホッとしてしまったから余計イラつき加減が増してしまう。

 

「え~、だって身分証がないと町の出入り困るじゃん」

 

くっそー、そんな理由で登録しやがって!

 

「そりゃそーだけどよ・・・、でお前、何がしたいんだ?」

 

「え? 別に何も。魔物狩ってお金に替えてもらう以外特に用はないな」

 

金か?それだけチカラ持ってりゃなんでもやりたい放題じゃねーのかよ!

なんで魔物狩って金に換えるなんてチマチマしたことやってんのよ。

どっかの王様でも宮廷魔術師でもやってろよ・・・冒険者ギルドじゃ扱いきれねーよ・・・。

 

「名前はヤーベ・・・何だよ、年齢が「謎」って。ふざけてんのか・・・。職業大魔導士・・・頭痛ェ・・・」

 

クラクラする。頭痛薬持ってきてほしいぜ。

 

「<調教師(テイマー)>?<召喚士(サモニスト)>?」

 

「そう、いいだろ」

 

ドヤ顔で自慢してやがる。まあ、ローブで包まれてるし、顔はわかんねーけどな。

 

「使役獣は狼牙族一族郎党60匹・・・召喚は四大精霊・・・おまーホント何でもありかよ!」

 

思わずキレちまう。なんなんだコイツは! 魔力値53万なだけじゃねーのかよ!?

使役獣60匹に四大精霊召喚・・・コイツ一人で戦争おっぱじめられても勝てる気がしねェ・・・。

 

「友達だけは増えたな」

 

ちょっと嬉しそうに言いやがる。

 

「普通使役獣や召喚精霊は友達って言わねーんだよ・・・」

 

溜息が止まらねェ。

 

「そうするとものすっごく寂しくなるから却下で」

 

そりゃこんな化け物じみた魔力値じゃあ友達だって出来やしねーだろーよ。

 

「はあ・・・登録は認めてやるから絶対問題起こすんじゃねーぞ! 何かわかんねーことがあったら絶対俺に相談しに来い! 勝手な行動すんじゃねーぞ! いいな!」

 

「ああ、うんうん、わかったわかった。じゃあよろしく」

 

と言ってさっさと出て行こうとする。コイツ、ゼッテーわかってねーだろ!?

 

「ちょっと待て、後一つ質問だ。お前、冒険者ランクを上げる気あるのか?」

 

「ないよ」

 

間髪入れず回答しやがる。ねーのかよ!

ランクを上げる野望がねーってことは、コイツは名声や権力に全く興味がねーってことだ。

ならば、何を求める・・・求めている・・・?

 

「・・・わかった。行っていいぞ」

 

「じゃあな。また魔物の買い取り頼むぞ。イリーナ、買い物に行こう」

 

「わかった師匠、早速買い物に出かけよう」

 

(とにもかくにも様子を見るしかねェ・・・)

 

出て行く二人を見送りながら、俺は覚悟を決めた。

 




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第29話 買い物に行こう

「ヤーベ殿、どこに買い物にいくのだ?」

 

冒険者ギルドから出て来た俺たちは大通りを歩きながらどこへ向かうか考えていた。

 

「冒険者登録も済ませたしな。身分証があれば基本的にどこでも買い物が出来るよな」

 

チャラりと首?にかけた冒険者タグを見る。Fランク冒険者の証。

 

「ヤーベ殿に合うもっと良い素材のローブでも見に行こうか?」

 

イリーナが俺のローブを気にしてくれた。でもこの色、大魔道っぽくて気に入っちゃったんだよな。イリーナが選んでくれたものだし。大体、キャサリンの店にはしばらく行きたくないかな。

 

「ローブはいいよ。イリーナに選んでもらったこのローブを気に入っているから」

 

「うっ・・・こんなに素直にヤーベ殿が私を褒めてくれるなんて・・・この後、私を褒めて褒めてトロトロにされて・・・くっ犯せ!」

 

「いや、なんで俺がイリーナを褒めて褒めてトロトロにしないといけないわけ?」

 

イミフな会話を続けながら、大通りを歩いて行く。

 

「んっ? ヤーベ殿、また屋台街に向かっているのか?」

 

ふっふっふ、バレてしまったのならば仕方がない。

時間も昼過ぎくらい。昼飯を狙った客がひと段落したころだろう。

屋台が空き始めてくる今がチャンス!

 

「そうだ。ヒヨコ隊長の部下やローガ達にお土産を買っていかねばならないのだから。金は十分に用意できた。ならば、うまいものを買い占める以外にすることはない!」

 

「か、か、買い占める!?」

 

「そうだ!キャツらの胃袋を舐めてはいかん。あればあるだけ食べる奴らだ。それに、ソレナリーニの町は多少離れているからな。出来るだけまとめて買っていこう。俺の亜空間圧縮収納なら、食べ物は傷まないから」

 

『ボス!部下たちの事まで考えて頂き、感激です!』

 

ヒヨコ隊長もイリーナの肩で喜びのダンスを踊っている。

 

そういうわけで早速片っ端から屋台街の食べ物を買い漁ろう。

もちろんヒヨコ隊長の部下やローガたちのお土産のためだ。

決して俺があれもこれも食べたいから買い占めるわけではない。ないったらない。

大事な事だから二度言おう。

 

「おーいオヤジ!また来たよ~」

 

さっき食べておいしかったフォレストリザードの肉を串焼きにしている店に再びやって来た。

 

「よう、さっきのローブのダンナか。どうした?フォレストリザードの串焼きが忘れられなくてまた来てくれたのか?」

 

笑いながら気さくに声を掛けれくれるオヤジ。いいなー、こういう雰囲気。結構長い間泉の畔で独りぼっちだったし、ローガやヒヨコ隊長のような部下が出来ても、気さくなコミュニケーションってのはなかなか無かったからな。ちょっと感激だ。

 

「そうそう、フォレストリザードの串焼きうますぎて。全部ちょーだい!」

 

「・・・えっ?全部?」

 

「そう、全部!タレも塩もぜ~んぶ!」

 

両手を広げてオーバーにアピールする俺。

 

「ダンナ、たくさん買ってくれるのは嬉しいが、どうやって持って帰るんだ?100本以上あるぜ?」

 

早速焼きながらも、持ち帰りの心配をしてくれるオヤジ。いい人だね。

 

「安心しろ、俺は収納スキルの使い手なのだ。いくらでも持ち帰り可能だ!」

 

皮手袋の手のひらでブイサインを作って大丈夫アピール。じゃんじゃん焼いてくれ。

 

「おお、剛毅なダンナだね~」

 

隣の屋台の親父が羨ましそうに声を掛けて来た。オークの煮込みを作ってる屋台だったかな? 大鍋をぐるぐるとかき回しながらこっちを見ている。

 

「なんだ、売れてないのか?」

 

「今日は気温が高めで、あったかい煮込みはイマイチ人気がでねーのよ。味は最高何だぜ!試して見てくれよ」

 

そう言って小ぶりな器に少し取り分けてくれる。

早速口に運んで味を見る。

 

「うまいっ!」

 

一口食べてすぐ感動。何といってもトロトロに煮込まれたオーク肉がうまい!濃い目の味だが、豚の角煮みたいでうまいねーコレ。

残りをイリーナに渡すとイリーナも食べて気に入ったみたいだ。

 

「全部貰おう」

 

躊躇なく伝える。

 

「ええっ? 全部かい!?」

 

びっくりして声が裏返っている親父に丁寧に説明してやろう。

 

「そうだ、全部貰おう。鍋ごと。小分けで食べたいし、小鉢皿も全部貰おう。イリーナ、金貨出してくれ」

 

「うむっ!ここに預かっているぞ」

 

「えええっ!?」

 

親父が唖然としている。

 

「ちょうどよいではないか。鍋も小鉢皿も新しいのに買い替えると思えば」

 

「わ、わかったわかった。もうみんなダンナに売っちまうよ」

 

「商談成立だな」

 

そう言ってオーク煮込みがたっぷり入った大鍋や小鉢皿を亜空間圧縮収納に保管して行く。

 

「マ、マジで消えた・・・」

 

オーク煮込み屋の屋台は完全に空っぽになった。

 

「ローブのダンナ、こっちも焼けたぜ」

 

「おおっ!早速貰おう」

 

そう言ってフォレストリザードの串焼きを収納して行く。

 

「イリーナ、お金払っておいてくれ」

 

「うむ、オヤジ、支払いだ」

 

「ま、毎度っ!」

 

金貨を何枚ももらって驚くオヤジ。完全完売だ。

 

「ローブのダンナ! ホーンラビットの串焼きはどうだい!」

「いやいや、ジャイアントバイパーの塩焼きもどうだ!」

「ダンナー、こっちはオークのモツを焼いたモツ焼きそばだよ!」

 

「モツ焼きそば! 全部貰おう。後そっちのホーンラビット、ジャイアントパイパーもあるだけ焼いてくれ。全部買い取ろう」

 

「うおーダンナ!御大臣だな!」

 

「はっはっは! うまい食べ物には糸目を付けんぞ!」

 

「ヤーベ殿、あそこのサンドイッチもおいしそうだぞ!」

 

イリーナが俺のローブの裾を引っ張ってアピールする。

 

「お、お嬢さんお目が高い!ロックバードの炭焼きサンドイッチだ。ロックバードの肉を香ばしく焼いて、キャベキャベの刻みとトマトマのスライスを挟んだ最高の逸品だぜ!」

 

なんとうまそうな!キャベキャベとトマトマってキャベツとトマトだよね?

 

「一つ頂こう」

 

「いやいやダンナ、ダンナには一つサービスだ。味を見てくれよ」

 

そう言って一つ俺に渡してくる。

早速ガブリ。うまいっ!

ロックバード?すごいジューシーじゃないか!キャベキャベとトマトマもいい味出してる!

 

「全部貰おう」

 

「まいどっ!」

 

もう一つロックバードのサンドイッチを貰ってイリーナに渡す。はむはむと咀嚼するイリーナ。・・・ちょっと可愛い。

 

その後も他の屋台からダンナダンナと声を掛けられまくり、サービスだ味見だといろいろ貰うたびに全部買いまくった。大満足ナリ。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

少し時間のたった冒険者ギルド―――――

 

 

 

「サリーナ、すまないが屋台街で昼飯を買ってきてくれないか?」

 

ギルドマスターのゾリアは書類整理で仕事が押してしまったため、昼休憩を取り損ねていた。

 

「遅い昼食ですね、ギルドマスター」

 

お茶を俺の前に置きながら心配してくれる副ギルドマスターのサリーナ。

やっぱり彼女を副ギルドマスターにしてよかった。

さっきは頭の痛い事ばかりだったからな。あ、油断したら頭だけでなく胃まで痛くなってきた。

 

「ご希望はございますか?」

 

「何でもいいよ、腹に溜まるものがいいかな」

 

「わかりました」

 

そう言ってギルドを出て行くサリーナ。

 

 

・・・結構時間がたつのにサリーナが帰って来ない・・・。

ど、どうしたんだ?何かあったのか?

 

と、思ったらやっとサリーナが帰って来た。

・・・しかも手ぶらで。

 

「ど、どうしたんだ? サリーナ、何も持っていないが・・・」

 

サリーナに限って上司に嫌がらせなんてないと思うんだが・・・

 

「屋台街に出向いたのですが、全ての屋台で売り切れでした」

 

「はあっ!?」

 

確かに昼のピーク時間は過ぎている。だが、全部の屋台が売り切れってありえないだろ・・・。

 

「一体何があったんだ?」

 

「はい、何でもローブの御大臣が従者の女性騎士を伴って、全ての屋台で料理を全て買い占めたそうです。屋台街の端の方の店はローブの御大臣がみんな買い占めて行くので、態々材料を急に増やして儲けようとしていた屋台主もいたとか」

 

「・・・あのヤローかぁ!!」

 

俺は拳をテーブルに打ち付けた。

 

「軽く調査してきましたが、どうも金貨200枚程度は購入しているかと」

 

それは魔物の素材買い取りで得た報酬のほとんどを使ってるじゃねーか。

 

「それで、屋台街の店主たちからは伝説の人物として認識されており、『屋台街の奇跡』『根こそぎのローブ』『ザ・御大臣』『爆買い大魔王』などと謎めいた呼び名が飛び交っております」

 

あ、頭痛ェ・・・。悪いことしてるわけじゃないのにハラ立ちすぎんだろ、アイツ。

とりあえず、今日は昼飯を諦めなきゃいけねぇって事だけは確実なようだ・・・。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!


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第30話 部下と精霊にハバられたので泣いてみよう

 

ソレナリーニの町でギルド登録して身分証を手に入れた俺。

魔物もそれなりに換金して金貨を手に入れた。

・・・ほとんど使っちゃったけど。

屋台の料理はおいしい物ばかりだったからな。致し方ない。

 

血涙が流れ切ったのか、お座りしながら干からび気味だったローガに串焼きを与えて復活させた後、帰路についた。

帰りにカソの村に寄って来たので、というわけでもないが、泉に着いたのは夜になった。

疲れたので着いてすぐ寝た。

 

 

・・・・・・

 

 

翌朝俺はのんびり起きた。うーん、良く寝た。

え? スライムは睡眠不要じゃなかったかって?

そうなんだけどね。

ずっと夜も起きてるとヒマでヒマで。

精神的にも休まらないし。

ボーッとしてるのも辛いので、休む方法を考えてみました!

そしたら、いつものエネルギーぐるぐる(笑)というか、魔力循環を弱めてやると、とてもリラックスして休めることが分かったんだねー。

交感神経と副交感神経見たいな?違うか。

 

そんなわけで、朝になったからゆっくり起きてみたのだが・・・

 

なぜか目の前には精霊四娘とヒヨコたちが。

 

「かわいー!」

『『『ぴよぴよ~』』』

「人懐っこいですわね~」

「ボクの手に乗ったよ!見て見て!」

『『『ぴよぴよぴよ~』』』

「なかなか愛嬌のあるヤツラじゃねーか」

 

え~、俺様を差し置いて何で精霊四娘とヒヨコたちが仲良くしてるの?

てか、俺精霊召喚してないけど?

 

「君たち、何をしてるのかな?」

 

俺は四娘の前に移動して問いかける。

 

「あ、ヤーベ見て見て! ヒヨコたちがこんなに懐いてるよ!」

 

ボクッ娘ウィンティアの手のひらや肩や頭にもヒヨコたちが群がっている。

 

「わあっ、すごいや、はははっ!ちょっとくすぐったいよ」

 

すごく楽しそうだ・・・

 

「このヒヨコさんたち、とっても可愛いですね!」

 

シルフィーもヒヨコに囲まれてご満悦のようだ。

 

「あらあら~私にもいっぱい寄って来てくれるのね~」

 

ベルヒアお姉さんにもヒヨコたちが群がっている。

 

「くっ・・・可愛いじゃねーかチクショー!」

 

まさかのフレイアにも懐くだと!? 恐るべしヒヨコ!

 

ものすごい疎外感を感じた俺は、とりあえず散歩に出かけた。

いいんだチクショー。俺は孤高の戦士さ。

 

 

次の日・・・

 

 

「おはよー、今日もいい天気だね~」

 

誰ともなく挨拶してみる。だいたいイリーナは朝弱いからなかなか起きてこないし。

 

そして、衝撃の光景が。

 

昨日は精霊四娘とヒヨコたちが仲睦まじく遊んでいたのだが、今日は何と狼牙族までいるではないか。一昨日ソレナリーニの町からの帰り、カソの村に寄った際に三日後に迫った「開村祭」の協力を改めて依頼されたから、ローガ達に獲物を仕留めて来るべく狩りに出かけてもらっていたのだが。

 

 

 

「キミ、すごくモフモフだね~!」

 

ボクッ娘ウィンティアに抱きつかれているのはローガだ。

 

『はっはっは、我の自慢の毛皮はいつでもフサフサよ!』

 

ローガよ、えらく自慢げではないか。

 

「本当にモフモフで素敵ですね!」

 

『で、がんしょ? 毛皮にはいっぱし自信があるでやんすよ』

 

シルフィに撫でられているお前。だから誰だよ! ローガよ説明プリーズ!

 

「モフモフさんたちがいっぱいです~」

 

ベルヒアねーさん。牙狼族とヒヨコたちに囲まれ過ぎでは? もうほとんど顔しか見えませんが。

 

「お前ら、ついてこい!」

 

『『『わふわふっ!』』』

 

フレイヤが狼牙族の一匹にまたがって走っている。その後ろを三匹くらいの狼牙族がわふわふ言いながらついて行った。

・・・楽しそうだ。

 

 

 

ナニコレ。俺以外でみんなめちゃくちゃ仲良くなってる。

いや、仲良くなってることは問題ない・・・と言うか、部下同士のコミュニケーションが取れていて喜ばしい・・・と言いたいが。

 

何故に俺だけ除け者?

 

ローガよ、俺を呼びに来てくれても良いのではないか?

ヒヨコ隊長よ、俺を連れに来てくれても良いのではないか?

 

な、何かすごく悲しくなってきた。

 

「うわ~ん」

 

俺は泣いて走り出した。

 

俺だってモフモフしたいのに~ぴよぴよ戯れたいのに~

 

というわけで(何がというわけなのかは不明だが)、泉より北にある滝に来た。

 

ふう、心頭滅却すれば火もまた涼し!というわけで、滝に打たれて寂しい煩悩を退散させるぞ!

 

・・・よく見たら、打たれる場所ないわ。

そのまま滝壺に落ちてるし。

結構高さあるし。

 

・・・そう言えば、泉では俺の体は沈んだ。でも今はスライム細胞をある程度自由にコントロールできる。

そんなわけで体に空気を取り込んで行くと体がぷくっと膨らむ。さてさて、これで滝壺に入るとどうなるか?

ぷかぷかと浮かぶんですね~

触手をオールの様に平べったくして水をかいていき、滝壺の滝下へ移動して行く。

 

「さあ、滝に打たれて煩悩を吹き飛ばそう!」

 

と、滝下へ近寄ったら、あっさり水の勢いに押されて滝壺の底へ押し込まれた。

 

「うががっ」

 

水の中でぐるぐる回転して錐揉みされて、最後ぷかーっと浮いてみた。

・・・一人どざえもん。

 

なにやってるんだか。

 

「や、ヤーベ殿~!!」

 

急に声がした。イリーナか?どうしてここに?

 

ざぱーん、誰かが飛び込んだ音がした。よく見るとイリーナが飛び込んでこちらに泳いで来て・・・来ているように見えて・・・溺れてるな。

仕方ない、助けるか。

 

ざばざばざば。

 

「おーい、イリーナ。どうした?」

 

「ガボッ、ゲホッ! ヤ、ヤーベ殿が触手で優しく私を助けてくれて・・・くっ犯せ!」

 

「てか、よくわからんが助けに来てくれたのはイリーナの方じゃないのか?」

 

イリーナを連れて滝壺から陸に上がる。

 

するとヒヨコ隊長率いるヒヨコ軍団やローガ率いる狼牙軍団、それに精霊四娘もそろっている。

 

「みんな揃ってどうした?」

 

「どうしたじゃないよ!キミが急に走って行っちゃったって聞いて心配したんだからね!」

 

水の精霊ウィンティアがぷんぷん怒ってますとアピールしながら文句を言う。

 

『何かありましたか?ボス』

 

ローガがお座りしながら聞いてくる。

 

「いや、みんなが俺を除け者にして、盛り上がっていたから、邪魔なのかと・・・」

 

ちょっと触手でイジイジ地面にのの字を書いてみる。

 

『ボ、ボス!何を言っているのです!?』

 

ヒヨコ隊長が狼狽する。

 

『そうですよ!ボスが邪魔なんてありえないじゃないですか!』

 

「どうしてそんな風に思っちゃったのかしら~」

 

ベルヒア姉さんがあらあらまあまあといった雰囲気で頬に手を当てて考える。

 

『我々はボスとイリーナ嬢が町に出かけて戻って来た時にどうもお疲れのようでしたので朝起こさずゆっくりとして頂いていたつもりだったのですが』

 

え、そうだったの?ローガ。

 

『ボスがお休みの間に心配された精霊さんたちが来てくれたので、いろいろ情報交換していたのですよ』

 

ヒヨコ隊長が説明してくれる。なんだ、そうだったのか・・・。

 

「我々は全員がボスの元に集まっているのです。ボスをないがしろにするなどあり得ぬ事ですよ」

 

そう言ってローガはわふわふと笑う。

 

「み、みんなー!!」

 

そう言って俺は連中に飛びつく。

うははっ! なんだ、コイツらこんなにいい奴だったんだな!

 

そう言えば精霊娘たちとは何を話してたの?

 

『カソの村の開村祭で我々が何か出し物をやれないか精霊のお嬢様方に相談に乗って頂いておりました』

 

ローガが報告する。え、何か出し物やるの?

 

獲物を丸焼きにして村人に振る舞う以外にも何かやる気なんだ。

じゃあ、俺も楽しみにしていればいいのかな?

 

ん、ダメ?俺の感想を貰ってからでないと披露できない?律儀だね君たち。

まあいい、それでは明日に迫った開村祭を盛り上げるための準備を進めようか。

 

俺はイリーナをお姫様抱っこしたままローガに股がり、みんなと泉の畔に戻って明日の開村祭に使う獲物の処理を進めることにした。

 

「くっ・・・犯せ・・・」

 

なんか顔を真っ赤にしてイリーナが呟いていたが、スルーしよう。

 





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第31話 開村祭の準備をしよう

さてさて、本日はカソ村の開村祭当日。

準備もあるから、朝早くから村に出かけることにしよう。

 

「みんな~、出かけるよ~」

 

俺はメンバーに声を掛ける。

 

「うむっ!準備できているぞ!」

 

大きなリュックを背負ったイリーナ嬢。リュック持って行くのね。

でもテントは立てたままなんだな。

そう言えば、イリーナはここに来てからずっとテント暮らしだな。

大丈夫か?

 

『ヒヨコ隊長以下200羽準備できております!』

 

『『『ぴよぴよ~』』』

 

ズラリと整列するヒヨコ軍団。精悍だね。

 

『狼牙族、全61匹揃っております』

 

ズラリと整列する狼牙族。精悍だね・・・61匹? 増えてない?

 

「ローガよ、以前お前たちは全員で60匹ではなかったか?」

 

「はい、先日北の大滝を見回りに行った際に、はぐれを1匹見つけまして。ボスの話をしたところ、ぜひ参加に加わりたいということで連れてまいりました。紹介する前にボスの様子を見たいとのことで、正式にまだ紹介させて頂いておりません。おい、ガルボ!」

 

『なんでやんす?リーダー』

 

よく見ると、毛が少しバサついた、ちょっと大柄の狼牙族の1匹がやって来た。右目がケガでつぶれてしまったのか、片目だな。

 

『もういいだろう、ガルボ。ボスに挨拶しろ』

 

ガルボと呼ばれた元はぐれは佇まいを正すと正式に俺に頭を下げた。

 

『初めやして、ご挨拶させて頂きやす。あっしはガルボってケチな狼牙でやんす。親からもらった名なんで、似合ってなくてもご容赦願いやす。こちらのローガ殿に声を掛けて頂き、素晴らしいボスに仕えているってんで、ぜひあっしもお目にかかれる機会を頂きたくてやってまいりやした』

 

・・・えっと、とにもかくにも、仲間になってくれたってことで。

 

「ああ、よろしく頼むよ」

 

『寛大なご対応ありがとうございやす!』

 

ぺこりと頭を下げるガルボ。

謎の狼牙が気になっていたけど、やっと誰かわかったよ。ちょっと落ち着いた。

 

「というわけで、全員でカソの村に行くからな~」

 

『『『おおー!』』』

 

俺はローガにまたがり、イリーナを前に乗せて出発した。

 

 

 

 

 

「おおっ!精霊様!」

 

 

満面の笑みで走ってくるカソの村の村長。

 

「精霊ではないんだが・・・」

 

「まあまあ。それより、皆さま総出でお越しくださったのですかな?」

 

狼牙軍団とヒヨコ軍団を見て村長は嬉しそうに聞いてくる。

 

「そうだよ。ワイルドボアの大物が獲れているから、丸焼きを振る舞うよ。それに、アースバードがたくさん狩れている。俺特製の「唐揚げ」という料理をご馳走しよう。早速準備を始めようか」

 

「おおっ!精霊様からの差し入れとは、ありがたい限りですな!」

 

「いや、だから精霊ではないのだけど・・・」

 

「ヤーベ!」

「スライムさん!」

 

おおっ!この声はカンタとチコちゃんだな。

ならば俺もかわいくなろう。デローンMr.Ⅱからティアドロップへ変身だ。

 

 

ぽよんぽよん。

 

 

「やあ二人とも!元気にしてたか?」

 

ぽよぽよボディになった俺に二人が抱きついてくる。

 

「やっと来てくれたじゃねーか!」

「会いたかったよー!」

 

二人とも元気そうで何よりだよ。

 

「ヤーベにお礼を言いたかったんだ」

 

「ん?お礼?」

 

「本当にありがとうございました、精霊様」

 

顔を上げると、そこには綺麗な大人の女性が。

 

「かーちゃん、こんなに元気になったんだ!」

「スライムさんのお水のおかげだよ!」

 

ああ、カンタとチコの母親か。元気になってよかった。

ちなみに精霊じゃないけどね。

 

「やあ、お母さん。元気になってよかった」

 

にっこりスマイルスライム。

 

「これもヤーベ様のおかげです。体も治って家の仕事も出来るようになりました」

 

「これもカンタとチコちゃんが頑張って泉まで来てくれたおかげですよ。褒めてやってください」

 

「まあまあ、本当にありがとうございます」

 

お母さんも嬉しそうだ。カンタとチコもお母さんに抱きつく。

 

「よしっ!準備を始めよう。ヒヨコ隊長、ワイルドボアの丸焼きのための木組みとアースバードの毛を毟る作業を頼む」

 

『了解です!』

『『『ぴよ~~~ぴ!』』』

 

元気に散らばって行くヒヨコたち。

ちなみにワイルドボアは巨大なイノシシみたいな奴だ。

アースバードは鶏のでっかい奴だ、うん。

 

「ローガ、ワイルドボアの解体を頼む。毛皮は村に進呈するから、綺麗に頼むぞ」

 

『了解!』

『『『わふっ!』』』

 

ローガ達も作業にかかる。ヒヨコたちがアースバードの毛を嘴で突いて毟りまくっている。すぐに丸ハゲになるアースバード。

 

「ローガ、アースバードも解体よろしく」

 

『ラジャ!』

 

ピィ!と口笛を吹くと三匹の狼牙が揃う。

 

『アースバードを解体せよ』

 

『『『ははっ!』』』

 

言うが早いか、毛を毟られたアースバードを爪の斬撃でばらばらに解体して行く。

メッチャ優秀だね、君たち。

 

「ヤーベ殿、我も何か手伝いたいのだが・・・」

 

イリーナがおずおずと尋ねてくる。

 

「もちろんイリーナにやってもらいたいことはたくさんあるぞ。手伝ってくれるか?」

 

「もちろんだ!」

 

俺の問いかけにイリーナはパアッと顔を明るくさせ元気に返答してくれる。

 

「この大鍋に、この油を半分くらい入れてくれ。そしたら火をつけて油を温めよう」

 

「わかった!」

 

てきぱきと準備を進めて行くイリーナ。ぽんこつイリーナとは思えない手際だな。

 

「ローガ達がぶつ切りにしてくれたアースバードにこの粉を塗してくれ」

 

どんどん異空間圧縮収納からポンポンと必要なものを取り出す。

ソレナリーニの町で屋台の料理を買い占めた後、カソの村の開村祭で料理を振る舞おうと計画していた俺は食材だけでなく、調味料や料理に必要なものを探して回っていたんだ。

そこで思い出したのが「唐揚げ」。何とかでっかい鉄鍋に小麦粉っぽい粉と、揚げ物に使用できそうな質のいい油を手に入れることが出来た。

・・・みんな屋台の親父に聞いた情報で手に入れたんだけどね。買い占めのお礼かな?いい情報ばかりもらえたからいいものをたくさん買えたよ。

 

ヒヨコ隊長たちはワイルドボアを太い棒で串刺しにして、木組みにセットして行く。

 

『『『ぴよぴよぴよ~!!』』』

 

またも火炎魔法だ。アッと言う間に焚火に火がついた。ヒヨコたち、本当に優秀だよな。

そしてワイルドボアを貫いた太い棒をクランクでつないでヒヨコたちがゆっくり回していく。

 

油を入れた鍋もいい温度に上がってきたようだ。

 

「さあイリーナ、粉まみれにしたアースバードのぶつ切り肉を油の中に投入するのだ!」

 

「わ、わかった」

 

イリーナはそーっと粉まみれの肉を油に投入していく。

 

じゅわわわわ~

 

「おおっ!すごいぞヤーベ殿!油の中でバチバチいっているぞ!」

 

俺は泉の畔でシコシコ作った木の箸を取り出す。

尤もイリーナが箸を使えると思えないので、木を削って作った串も出す。

 

「イリーナ、この串を使って油の中の肉を転がしたりしてくれ。色が茶色くなったら突き刺して皿に取り出してくれ」

 

「任せろっ!」

 

やたら気合入ってますね。イリーナさん、味見希望かな?

唐揚げ驚くかな~。振る舞うのが楽しみだ。

 





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第32話 開村祭を盛り上げよう

アツアツの唐揚げ第一弾が揚がったところで、村長さんが開村祭の開催を宣言する。

 

「皆の者!これより開村祭を開催する!今年は精霊様のご加護もある!全力で楽しむとしようぞ!」

 

「いや、精霊でもないし、ご加護も授けられませんけどね」

 

何度目かのやり取りかは不明だけど、俺様はもう精霊様らしい。

 

やってることはワイルドボアの丸焼きとアースバードの唐揚げしかやってませんけどね~

 

見れば村人たちは色とりどりの服を着ている。

 

「あれは今日のための一張羅を着ているのですよ。普段は畑仕事ばかりですからな」

 

楽しそうに村長が説明してくれる。

 

俺たちの用意した丸焼きと唐揚げの他にも、村で取れた野菜を使った野菜炒めをおばちゃん達が作っている。大きな鉄鍋で野菜をお玉でかき混ぜながら炒めているな。実に素朴な感じだがとってもおいしそうだ。

 

炒めた野菜を木皿に盛って行く。自由に取って食べるスタイルなんだな。

 

「こ、これは!何てうまさだ!」

「この村の野菜ですよね!」

「これは王都でも大人気になりますよ!」

 

やたら盛り上がってるな。よく見ると村人ではなさそうだ。

 

「ほっほ、ソレナリーニの町や遠くは王都からの商人たちにわが村の野菜が大評判でしてな。この前からヤーベ殿に水をやって頂いた畑で取れた野菜ですぞ。通常より大きく育ってたくさん実もつけて、何よりおいしいのです。「奇跡の野菜」として売り出そうと計画しております」

 

いやいや、商魂逞しいね。俺、ずっと畑にお水撒く作業はお約束しませんけどねっ!

まあ、俺のせいじゃなくて、奇跡の泉の水のせいなら、泉から汲んで来ればいいのかな?まあ、泉の畔で暮らしてる俺からすると、泉に毎日押しかけられるのはあまりうれしくないけどね。

 

おっと、子供たちがイリーナが揚げている唐揚げの元へ集まって来たぞ。

 

「子供たちよ、おいしいおいしい唐揚げだぞ~。あまり鍋の近くに寄ると油が跳ねて熱いからな~。ちゃんと並べ~、たくさんあるから大丈夫だぞ~」

 

「「「はーい!」」」

 

子供たちに声を掛けると、素直に返事をしてお行儀よく並ぶ。いい子たちばかりだな。

 

俺は唐揚げを串にさして子供たちに一本ずつ渡していく。

 

「熱いから気をつけて食べろよ~」

 

「「「はーい!!」」」

 

一斉にアースバードの唐揚げにかぶりつく子供たち。

 

「「「はふっはふっ、おいしー!」」」

 

アースバードの唐揚げは子供たちにも大人気のようだ。

 

「ヤーベ殿、次のアースバードを出してくれないか。どんどん揚げて行く事にするよ」

「わかった」

「それにしても子供たちはヤーベ殿の言うことをよく聞くのだな?」

 

イリーナが粉塗れにしたアースバードの肉を油に投入しながら感想を述べる。

 

「そりゃそうさ、何たってヤーベは神様何だからな!」

「うんうん!」

「かーちゃんを元気にしてくれたし!」

「みんなにも自慢したんだよー」

 

そばに来たのはカンタ、チコちゃんも一緒か。

この二人が仲間の子供たちにいろいろ自慢したんだな。

それにしても、ついに精霊様から神様にランクアップしましたね。何故に?

とりあえずせっかくだから、カンタとチコちゃんにも唐揚げを食べてもらおう。

 

「うまー!」

「おいしー!」

 

二人にも大好評だ。そうこうしているうちに子供たちがおいしそうに食べている唐揚げに興味を持った大人たちもやってくる。野菜炒めに感動していた商人の人たちもやって来た。とりあえず一人一個で様子見てね。

 

「うまいなー」

「おいしいわ!」

 

村人にも好評だったのだが、商人たちは想像以上に食いついた。

 

「こっ、これは何といううまさだ!」

「これは何という料理なのですか!? 唐揚げ?」

「アツアツのサクサクなのに中はジュワっと肉汁が溢れる!」

「アースバードの肉なのですか!? 調理法は!」

 

商人たちが群がってくる。はっはっは、大人気だね~・・・・・・あ!

俺、ティアドロップ型とは言え、スライムのまんまだったわ。

商人たちに姿をバッチリ見られちゃったけど、どーしよう? まずいかな?もうどーしようもないけど。

 

「ほっほっほ、ヤーベ殿のお姿は精霊様が顕現されているため、無礼を働くと精霊様のご不興を招くことになりかねませんぞ、とは伝えておりますのでどうぞご安心を」

 

え~、どう安心していいかはわかりませんけども!

 

そうしていると、中央広場に出来た催し舞台で出し物が始まる。

 

歌を歌うものが続いたかと思うと、子供たちの演劇があったりする。

おや、次はヒヨコ軍団じゃないか。

 

・・・ズラリと並んで、まさかのベリーダンス?翼を組んでぴよぴよ足を上げながら踊る。

め、めちゃくちゃ可愛い!いつの間にこんな練習を!

大体、俺に見てもらって感想を貰わないと出し物出せないって言ってたくせに~!

俺の気づかないうちにこっそり練習していたんだな~。

俺に見せたのはぴよぴよと歌う歌だけだったのに!

最もヒヨコたちは小さいので観客の皆さんもかなり前に集まって来ているけど。

 

見ると、風の精霊シルフィーと土の精霊ベルヒアがヒヨコたちを見守っていた。

 

「上手だよー!」

「がんばってね~」

 

あの二人の特訓なのか?

仲良くなるのはいい事だけどね。

 

ヒヨコ軍団の後は何故か狼牙軍団が部隊へ並んで移動して行く。

こちらもズラリと並んでお座りした。まさか狼牙族も出し物あるのか?

そして水の精霊ウィンティアが何故か指揮棒を持って出て行く。

そして、舞台中央で観客に向いて一礼。ローガ達もペコリとお辞儀。

スチャッと指揮棒を構えたウィンティアが一振りする。

 

「「「「わわわわ~ふ!」」」」

 

一糸乱れぬ声で歌いだす。ウィンティアの指揮棒がリズミカルに振られると、ローガ達狼牙族が見事な輪唱で歌い上げて行く。

 

「わわわわ~ふ」「わわわわ~ふ」「わわわわ~ふ」

 

おおっ!ローガ達がこれほどの団結力を見せるとは、素晴らしいの一言だ!

 

ヒヨコ軍団も狼牙軍団も大喝采を浴びていた。よかったよかった。

 

おっと、ワイルドボアもいい具合に焼けてきているようだ。

ずっと火の番とくるくる回しを担当していたヒヨコたちを労いながら、メインのワイルドボアを切り分ける準備を始めようか。

 

 





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第33話 開村祭を締めくくろう

いい感じに焼けたな~、ワイルドボア。

ヒヨコ軍団よ、いい仕事してますね~

 

「さあみんな~、ワイルドボアが焼けたぞ~、今から切り分けるから食べるから食べたい人は並ぶんだぞ~、ちゃーんとルールを守って並ばない子には美味しいお肉をあげないぞ~」

 

俺は触手を振るってアピールする。

 

「「「「わああ~!!」」」」

 

子供が走って集まってくる。

 

「さあ、並べ並べ~」

 

俺はワイルドボアの肉を削ぐように切る。

どうやって切るかって?

もちろん万能スライム触手でですよ!

触手の先端のスライム細胞をぐるぐるエネルギーで硬く薄くすることによって刃物みたいにしているのだ!

さらにエネルギーを保持したままにしているので、多分魔力で切れ味を増してる?感じかな。ワイルドボアの肉をスパスパ切ってます。

肉だけでもいいんだけど、この村で取れたキュキュウリ(きゅうりそっくりだけど、ずっと大きかった)の千切りとトマトマ(トマトそっくりだった、これも大きい)のスライスを村で焼いてもらった焼き立てのパンに切れ込みを入れて挟む。サンドイッチ?ケバブ的な何か?だな。うん。

 

「おいしー!」

「うまうま!」

 

子供たちに大人気だ。となると大人もやって来るよね。

 

「おおっ!これは絶品だ!」

「おいしいわね!」

 

でもって、村人の絶賛を浴びると、その次にあの方たちもやって来るわな。

 

「おおおっ!ワイルドボアの肉汁とキャベキャベの千切りの触感とトマトマのみずみずしさ!」

「これはうまいっ!」

「王都でも売れますよ、これは!」

「販売許可お願いします!」

 

商人が群がって来た。村長が俺の方を見る。

いや、自由にしていーよ。俺が考えたわけじゃないし。

 

村長は商人たちを集めていろいろと相談しているようだ。

 

「それで、この料理は何という名前なのですか?」

 

えっ!? 名前・・・?ケバブでいいのか? それともパンで具を挟んでいるのだからサンドイッチ・・・?

 

ここで俺は何故かイタズラ心が出てしまう。

 

「これぞうまいものを纏めて挟んで一気に食べる! スライム流食事術『スラ・スタイル』!」

 

「ほほう!スラ・スタイルというのですか」

「いろんなおいしい物を挟んで一気に食べる・・・」

「それがスラ・スタイル!」

 

やっべー!やべちゃんヤッベー!

急に調子に乗ってスラ・スタ~イルなんて恰好つけちまったぜ!サンドイッチ伯爵すいやせん!

 

「早速王都で流行らせましょう!」

「いやいや、ソレナリーニの町が一番最初に流行りますよ!」

 

商人たちが盛り上がっている。スラ・スタイルが本当に流行ったらどうしよう?

だいぶ恥ずかしい気がするぞ。

まあ、いいか。それより次はお待ちかね、俺様の出し物だ。

 

「カソの村歴史ク~イズ!」

 

舞台に上がって叫ぶ。その後ろでは大きな木の(たらい)に俺様の体の一部をブリンと入れてある。

 

ローガ達がロープを引っ張って木の盥を持ち上げて行く。それにしても、このからくりもヒヨコ軍団が作ってたけど、ヒヨコたちってホントに器用だよな。というわけで、クイズに間違えるとそのスライムボディがデローンと回答者にぶっかかるという日本で時たまあったバラエティ番組をイメージしたイベントだ!

 

・・・体をちぎる時は勇気がいったな~。もちろん俺様の大好きラノベにある「スラ〇ム転生。大賢者が〇女エルフに抱きしめられてます」月〇 涙大先生の傑作小説にもあるように、分離したスライムボディーが「分身」でありながら意思を持って個別に大活躍したら嬉しいが、俺のようなノーチート野郎が意思を持った分身を生み出した場合、俺様本体が逆にボコボコにされて吸収されて消えてしまう可能性だってありうるだろう。月夜〇大先生の作品の様に、分身たちが「スラ〇ム・フォー」なんて大活躍してくれるならこれほど頼りになる事はない。だがそれも大賢者たる実力が本体にあってこそだろう。俺のようなノーチート野郎が無理をするとどうなるかまったくわからないのが怖いところだ。

 

・・・プルプルプルッ! おっと恐怖のあまりスラプルプル(スライムによる高速貧乏揺すりの意)してしまったぜ。チクショー!俺だって「スラ〇ム・フォー」とかやらしてみたいのに!非才の身が恨めしい!

 

だが、怪我を治すときにスライム触手の先端をちぎって相手にくっつける作業をしても問題なかった。そういうわけでちょっとちぎっては自分に再度吸収、ということを繰り返した結果、自分の3分の1位までを切り離しても問題ないことが分かったのだ。切り離した分離側は特に動かない。切り離し後に動けっと命令してもウンともスンとも言わなかったので、とりあえず俺に分身を操る能力はない・・・わかっていたが、自分がノーチートのスライム野郎だってことを改めて実感・・・オノレカミメガ!

 

それはさておき、クイズ大会を進めよう。

まずは子供たちに参加させる。「この村の名前は?」「この国の名前は?」「この村の村長の名前は?」など、誰でも正解できるカンタンな問題で正解させ、喜ばしてやる。正解者へのプレゼントは町のお母さん方の協力による手作りお菓子プレゼントだ。

 

次にお年寄りの参加で、村にあった過去のトラブルネタやお祝いネタを事前にインタービューしておいた内容でクイズ形式に質問して行く。大半のお年寄りが正解して、お菓子を手にできた。また、たまに間違えるおじいちゃんに若手からツッコミが入ったりして盛り上がった。

 

さて、俺様の本命を呼ぼうではないか。

 

「最後にウーザ君、こちらへ」

 

「へっ・・・オレですか・・・?」

 

「そう、君だよ君、ウーザ君」

 

と言って俺は触手を勢いよく伸ばし、くるくるっとウーザに巻き付けて引っ張る。

 

「わったった・・・」

 

舞台に半強制的に引っ張り出し、木の盥の下に立たせる。

 

ローガとその部下が(たらい)を吊っている紐を固定している。

ヒヨコ隊長の合図でローガ達が紐を引っ張れば、(たらい)が傾いて俺様のスライムボディーが頭からぶっかけられることになるのだ!

 

「あ、あの、その、一体これは・・・?」

 

「最終クーイズ! カンタとチコちゃんに文句を言っていたウーザ君に対して、私ヤーベは・・・怒っている!マルかバツか!」

 

「えーーーーー!! いや、あれは、その・・・」

 

「怒っていると思えば、マル! 怒っていないと思えばバツ!」

 

「ええっ!、あ、いや・・・」

 

しどろもどろなウーザ君。はっはっは、しっかり答えてもらおうか。

 

「回答をどうぞ!」

 

村人が固唾を飲んで?(大半は酒を飲んで笑ってるけど)見守る中、ウーザ君の答えは・・・

 

「えっと・・・怒っていらっしゃる・・・とか・・・」

 

「ウーゴ君の答えはマル! さて正解は・・・ドゥルルルルルルゥゥゥゥ」

 

口でドラムロールは難しいな。

 

今は(・・)怒ってない! というわけでブッブーーー!! 不正解! よって頭からスライム落下~~~~~!」

 

「わああっ!?」

 

「ピヨピー!」

 

グイッ!ロープが引かれ、木の(たらい)が大きく傾き、スライムボディが落下する。ズポンッ!

 

「ギョバギョバ!」

 

ウーザがスライムボディでぬちょぬちょになってヒーヒー言っている。

よしよし、これでオシオキ完了だ。ちなみに怒ってないと言った場合、あの時は怒ってましたーと言って不正解だ。どちらにしてもウーザはスライム塗れの運命にあった。フッ!

 

ヒヨコ軍団がバケツを持ってウーザに頭から今度は水をぶっかける。そのすきに触手を伸ばして分離したスライムボディを吸収。

 

「まあこれでスッキリ全て水に流して綺麗さっぱりだよ、ウーザ君」

 

「はははっ・・・」

 

苦笑いのウーザ。まあ、これで反省してくれればよいのだ、うん。

びしょびしょのウーザが舞台を降りて行って、代わりに村長が舞台に立つ。

 

「皆の者!開村祭は大変盛況に行うことが出来た。これも村人全員の協力といつもお世話になっている商者殿のご協力、そして何より大変面白い催しと美味しい御馳走を振る舞ってくれた精霊ヤーベ殿のご尽力によるものである。改めて皆に感謝を申し上げる。ヤーベ殿最後に何か一言お願いできるじゃろうか?」

 

おいおい!急な無茶ぶりだな!そーいうのは事前に根回ししてくれよぉ。

大勢の前で話すなんて、大学院で研究発表のプレゼンやった時以来だよ。社会人時代はブラックだったから、そんな機会なかったし。

舞台の中央に来て、深呼吸・・・俺、呼吸してねーわ。

 

「みんなー、楽しかったかー!」

 

大声で叫ぶ。

 

「「「わああ~!」」」

 

盛り上がってくれたみたいだ。

 

「来年はもっと盛り上がろうぜ!」

 

触手を振り上げて大声を張り上げる。

 

「「「うおおおおーーーー!!」」」

 

みんなで盛り上がった開村祭になったかな。大満足。

 




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第34話 ピンチの状況を伝えよう

あ~、のんびりだ。

 

俺は今、泉の畔で鬼の様にのんびりしている。

鬼の様に、とのんびりがマッチしないのは百も承知だが、それほどのんびりしていると言いたいわけだ。

 

開村祭を無事盛り上げることに成功して、昨日泉の畔に帰って来た。

日が変わった翌日は朝から天気も良く、気持ちの良い気候だった。

 

そんなわけで朝から泉の畔でゴロゴロと休む事にしよう。

ローガにもたれる様に休む。うむ、モフモフだ。

ヒヨコ隊長以下ヒヨコたちもそれぞれ休んでいる。

精霊四娘たちでさえ、何もせずにぐでーっと休んでいる。

 

「ああ、平和だなぁ」

 

俺が青い空を見ながら呟いていると、ばさりとテントの入口が開いた音がした。

見れば、もそもそとテントから起きて来た寝ぼけ眼のイリーナ。

 

ぽてぽてと泉の畔まで歩いて行ったかと思うと、両膝をついてしゃがみ、泉の水で顔をバシャバシャと洗い始めた。泉で直接顔洗うって、貴族の令嬢としてどうなの?と思ったが、すでにテントで何日も生活しているイリーナには今さらって感じもするな。うん。

 

「ぷはっ・・・おはよう、ヤーベ殿」

 

タオルで拭き拭きしながら挨拶してくるイリーナ。やっと目が覚めたかな。

 

「おはよう、イリーナ」

 

「で、ヤーベ殿。いつになったら我がテントに忍んで来てくれるのだ? 一人で寝るのは些か寂しいのだが?」

 

「まて、いつの間に俺がイリーナのテントに忍んで行くのが既定路線になっている?」

 

「いや、こうして好意を持ってヤーベ殿のそばで暮らすとまで覚悟を決めてやって来ているのだ。テントを立てて準備をして待っていると言い換えてもよいぞ。そんなわけで早く忍んで来てくれないと寂しくてたまらないのだが」

 

「いや、そんなわけでもなんでもあるか! だいたい何の準備よ?」

 

「一人で寂しく眠っている私のテントにそっと忍び込んで、上から覆い被さるようにして、『イリーナ、待たせたね。寂しかったかい?』と囁きながらも、触手で我が手足を蹂躙し、動けないようにして・・・くっ犯せ!」

 

「いや、のんびりしてるとクッオカモーソーも長めだね!って、やっぱりそんな準備かい!聞くんじゃなかったわ!」

 

 

 

そんなのんびりした麗らかな朝をけ破るような鳴き声が。

 

「ぴぴぴぴぴぃ!」

 

ヒヨコ軍団の一羽がのんびりしたムードをぶち破って飛んでくる。

 

「ぴぴぃ!ぴぴぴぴぃ!(ボス!大変です!)」

 

この頃、ヒヨコ隊長に通訳してもらわなくても、ピーピーいう鳴き声で言いたいことが分かるようになった。慣れって素晴らしい!

 

「ぴぴぴぴぴぃ!ぴぴぴぃぴ!(迷宮で異変です!鳴動が起こっています!)」

 

「メイド・・・?」

 

俺様はメイドをイメージした。

 

「黒いミニスカートに黒いシャツ、白いエプロンの裾はレースのフリフリ。もちろんニーソも純白の一択だ。おっと忘れちゃいけない、頭にもレースのカチューシャつけて・・・うん、可愛いね、メイド」

 

俺は自分のイメージするメイドに満足した。

 

「むう! ヤーベ殿がイメージするメイド服を着込んで、『ご主人様、ご飯にするか?それともお風呂にするか?・・・それとも、私にするのだろうか・・・?』と聞いて、すぐにでも『もちろんイリーナに決まってるだろ!』と押し倒され・・・くっ犯せ!」

 

「あ、やっぱりこの世界でもそんなメイドパターンあるんすね」

 

ちょっと感動。どの世界でも似たようなパターンはあるんだな。あ、クッオカはスルーで。

 

「ぴぴぴぴぃ!ぴぴぴーぴぴぃ!(違いますよ!迷宮の鳴動ですって!)」

 

「えー、迷宮のメイド? 迷宮にメイドさんいるんだ? 可愛い?」

 

「迷宮のメイドの方が可愛かったら・・・くっ・・・コッチはさらにスカートを短くするしか・・・くっ犯せ!」

 

「ぴぃぴぃぴぃぴぃぴー!(いい加減にしろー!)」

 

あ、ヒヨコがキレた。スライムボディを容赦なく両方の翼でバシバシ叩く。

 

「ぴぴぴぃ、ぴぴ(こらこら、やめんか)」

「ぴぴぴぴぴ!(隊長、でも!)」

『ボス、とりあえず真面目に報告を聞きましょうか? 報告を頼む』

 

「ぴぴぃ!(はっ!)」

 

片膝をつき、翼を地面に降ろして報告するヒヨコ。

 

要約すると・・・

 

『迷宮で鳴動が確認されました。しかも過去を知る長老の言葉では、かなり高速振動を行っておりその感覚も極めて短いとのこと。迷宮の魔物が溢れ出るのはもはや時間の問題との事です!つまり<迷宮氾濫(スタンピード)>が発生します!』

 

 

 

「・・・・・・ええ~~~~~!! それ大変な事じゃん!?」

 

「ぴぴぴぴぴぃ!(だから大変だって言ったでしょ!)」

 

何かヒヨコが怒ってマス。

 

んんっ? 今長老って言った?

 

「ヒヨコ隊長、長老って?」

 

『はい、長老は我が一族を含む、複数のヒヨコ族を束ねる長なのであります』

 

「あ、ヒヨコ隊長たちだけじゃなかったんだね」

 

『そうであります。我が一族だけ、ボスにお仕えするため、里から飛び出したのであります』

 

「え? それって長老怒ったりしないの?」

 

『外の世界に羽ばたくのもヒヨコの務めの一つであります。今回ボスに知り合えたことで、長老に一族でボスに従うことを許可貰ったので問題ないであります』

 

「そうなんだ、ヒヨコの世界も複雑だね。じゃあ、まだ長老が住む里にはヒヨコがいっぱいいるんだ?」

 

『はい。まだ我が一族の他にも五つの別グループがおり、総勢で千羽を超えております』

 

「わお、まだまだ多いね」

 

『ですが、我らほど器用にいろいろこなせるヒヨコはほとんどおりません。やはりボスの恩恵を授からないと強くはなれないようです』

 

いつの間に恩恵授けた事になってるんだろ? まあいいか。

 

「で、具体的な鳴動ってどんな感じだ? どれくらいのモンスターがいつ出てくる?」

 

『それは全く分かりません。迷宮の鳴動の強さが尋常ではなく、鳴動の間隔もかなり早い事から、そう遠くない時期に強力なモンスターが迷宮から溢れて来ると思われます』

 

「えええ・・・、それ、劇的にヤバイんですけど・・・」

 

迷宮から溢れた魔物がどこに向かうのか?それが一番の問題だ。

せっかく仲良くなったカソの村だったり、やっとギルドに登録して身分証が出来たので町に入れるようになったソレナリーニの町が魔物に蹂躙されるなんて事になれば、もちろん許容できない事態だ。俺のこれからの幸せなスローライフに多大な影響が出る事は間違いない。

 

「・・・まずは、カソの村の村長に情報を流した後、ソレナリーニの町のギルドマスターに報告するしかないな」

 

俺はいつの間にかスライムになっていて、泉の畔で一人のんびり生きて来た。そんな俺にも部下やら友達やら知り合いやらが出来てきたんだ。こいつらを奪われるなんて、絶対に許せることじゃない。のんびりスライム人生楽しめればよかったけど、こいつらを守り通すためにも、この<迷宮氾濫(スタンピード)>、町への被害を止めて見せる。例え俺がノーチートの単なるスライム野郎だとしてもな!

 

「ヤーベ殿・・・」

 

隣には不安な表情を浮かべたイリーナが。

 

「大丈夫だ。イリーナは俺が守るよ」

 

触手の先を手のひらにして、イリーナの手を握る。

 

「ヤーベ・・・!」

 

イリーナは跪いて俺のスライムボディをギュッと抱きしめて来た。

 

(クッオカしないイリーナも可愛いな・・・)

 

俺は改めてみんなを守ると気合を入れることにした。

 




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第35話 ギルドマスターに相談しよう

「おーい、大変だぞー!」

 

とカソの村に到着したは良いが、あまり騒ぐと子供たちに悪影響が出てもいけないので、村に入ると騒ぐのをやめて、村長の家に直接向かった。

 

「おお、これは精霊様。先日の開村祭では大変お世話になりました。これもひとえに・・・」

 

「ゴメン、挨拶は省略で。大変な事が起こっている事が分かったんだ。ソレナリーニの町の北にある迷宮がかなり短い間隔で鳴動を繰り返しているらしい。これは迷宮が<迷宮氾濫(スタンピード)>する兆候に間違いないらしいんだ。ウチの部下からの報告だが、どうやらその鳴動がかなり激しく危険な状態らしい。それも氾濫まであまり時間がないらしいのよ」

 

「な、なんですとぉ! <迷宮氾濫(スタンピード)>ですとぉ!」

 

驚愕の表情を浮かべる村長。

 

「村長、知っているのか?」

 

「<迷宮氾濫(スタンピード)>については、ワシのひいひいひいひいひい爺さんの知り合いが書き残した文献で見たことがあるんですじゃ。このあたり一帯を治めておったガーリー・クッソーさん(108)が書き残した内容によりますと、やはり鳴動のような細かな地震が続き、大きく揺れたかと思うと大量の魔物が押し寄せて来た、とありましたのじゃ」

 

「じゃあ間違いないな。ひいひいひいひいひい爺さんの知り合いって何百年前かわからんけど。後、ガーリー・クッソーさん(108)すげー長生きだったんだな」

 

俺は考える。このカソの村の防衛能力と<迷宮氾濫(スタンピード)>による魔物の攻撃力の比較。

 

カソの村防御力・・・3 (村の周りに多少柵がある。村全体を覆い切れていない)

 

迷宮氾濫(スタンピード)>による村への攻撃力・・・2000 (魔物が1匹攻撃力1とした場合の換算。約2000匹が氾濫した場合)

 

うん、無理。大体、カソの村には魔物と戦える冒険者がいない。せいぜい獣を狩猟する狩人たちだけだ。

 

「どう考えてもカソの村は魔物の氾濫でペッシャンコだなぁ」

 

「精霊様、ヒドイ!」

 

うぉーんと泣きながらヒドイと文句を言う村長。

 

「だが、どう頑張ってもこの村の防衛能力では魔物を防ぐことは出来ん。何ともならない」

 

「この村を捨てるのは忍びないですのぅ」

 

さめざめと泣きながら肩を落とす村長。

 

「だから、この村で防衛できないんだから、村に接近する前に魔物を殲滅すれば大丈夫だな」

 

「・・・へっ!?」

 

「だから、魔物1匹この村には近寄らせないって言ってるの。あんまり言わせないでよ。恥ずかしいから」

 

人助けやヒーローなんて柄じゃない。俺はもっと利己的な人間だ・・・今は人間でもないけど。ただただ仲間を守りたい、世話になった人たちの笑顔を消したくない、それだけだ。

 

「迷宮はあくまでソレナリーニの町の北にある。ソレナリーニの町で防衛し切れば、カソの村まで魔物が来ることはないはずだ。俺はこれからソレナリーニの町の冒険者ギルドに出向いてギルドマスターにこのことを相談してくる。どうやって守り切るかギルドマスターと対策を練って来るよ」

 

「おおっ・・・! やはりあなたはこのカソの村の救世主であられましたな! いや、もうこの村だけでなく辺境全体の救世主に間違いなくおなりになりますな!」

 

嬉しそうに村長が俺の肩を叩く。・・・肩の辺だね。辺。

 

「とにかく、騒動が落ち着くまで全員自宅に籠っていてくれ。外出は禁止だ。子供たちにもよく言い聞かせてくれ。言う事聞かないと精霊様の唐揚げ祭りは今後無くなるってな」

 

「はっはっは、それは言う事を聞かない者など誰もおらんでしょうな」

 

村長は髭を擦りながら笑った。

俺は早速亜空間収納からイリーナに選んでもらったローブと魔導士の杖を装備する。

 

「さて、これからは大魔導士ヤーベが出陣するとしよう」

 

そう言って村長の家を後にしてローガに跨り、ソレナリーニの町へ大至急出発する。

・・・イリーナよ、なぜ俺の背中にくっついている?

 

「例え役に立てなくても、ヤーベのそばにいたいのだ・・・」

 

そう言われちゃ断れないか。振り落とされるなと伝えて、ローガにダッシュさせる。もっとももちろんのことだがイリーナが落ちないよう触手でガッチリサポートしてますけどね。

 

 

 

そんなわけであっという間にソレナリーニの町に到着する。

そう言えば、以前ギルドに登録した際に「使役獣には使役者の魔力を登録するペンダントを付ける様に」と言われていたな。何でも町に入る門で申請すればくれるとか。それを覚えていた俺様は全60匹のローガの部下を先行でソレナリーニの町に行って町の近くで待機するよう指示を出していた。

 

町の門の手前街道から少し外れた場所にずらりと並ぶ狼牙達。一糸乱れぬままお座りして待つ姿に街道から少し離れているとはいえ騒然となった。衛兵たちも集まってくるが、襲ってくる気配はないため、どうするか冒険者ギルドのギルドマスターに連絡を入れていた。

 

「おーい」

 

そこへ俺様登場。衛兵たちが街道に集まっている。

 

「何だ、どうした?」

 

「見ろよ、強力なCランクモンスターの狼牙があんなに・・・ってもしかして?」

 

「うん、俺の使役獣。ホラ」

 

ギルド発行のギルドカードには魔力を流すと俺の名前とランク、職業が。そこには<調教師(テイマー)>の文字が。

 

「脅かすなよ!」

 

衛兵にキレられた。

 

「悪い悪い。町に連れて来たのは初めてだったしね。ところで使役獣の証ちょーだい」

 

「ちょーだいって、お前なあ・・・、まあ首にペンダント巻いてもらわないと使役獣ってわからないから・・・てか、あれ全部か!?」

 

「そうだよ、今乗ってるヤツ含めて61匹」

 

「ろっ・・・61匹!?」

 

「そう」

 

「ねーよ!そんなにペンダントが! あれ、冒険者ギルドが無料で供給しているとはいえ、魔導具だぞ・・・、ギルドマスターまたキレなきゃいいけど・・・」

 

頭痛いと手をおでこに当てて天を仰ぐ衛兵。

俺、何かおかしな事したかな?

使役獣に証のペンダントが必要だから頼む・・・至極まっとうだな、うん。

 

「この西門には10個のペンダントしかないんだ。他の3か所の10個を合わせても足りないか。おい、馬を出せ。各門のペンダントを回収してくる者と、冒険者ギルドに足りない21個を補填してもらう者それぞれ1名を選出して向かわせろ!」

 

「はっ!」

 

とりあえず先の10個を受け取り、首につけて行ってやろう。

おおう、ローガよ、いの一番に並んで尻尾をブンブン振らない様に。周りの人が驚くからね。その後ろにはローガの直属の部下である三騎士+ガルボで狼牙族四天王を名乗らせている。ちなみにガルボだけ後から来たのに名前があったので、三騎士が名前を羨ましがったから、ローガに確認した上で3匹に名前を付けている。「風牙(ふうが)」「雷牙(らいが)」「氷牙(ひょうが)」。それぞれ、風系の魔法、雷系の魔法、氷系の魔法およびスキルを使用できる、狼牙族の中でもとびっきりの戦闘力を誇る奴らだ(ローガはさらに別格)。それに風来坊なガルボ。それぞれ役割を任せられる頼もしい連中がローガの下に付く。

 

まずはローガの首にペンダントを掛ける。

 

『ボス!光栄です!一層の忠義を誓います!』

 

ローガが力強く吠える。頼もしい限りだが、ここでは落ち着こうな。周りに一般人がいっぱいいるから。その後も首に使役のペンダントを掛けて行ってやる。

そうこうしていると他の門にあったペンダントが届けられる。

俺はペンダントに魔力を通してからどんどんペンダントを狼牙達にかけて行く。

 

「ヤーベ様、お久しぶりです」

 

「んっ?どちらさまでしたか?」

 

「冒険者ギルド、副ギルドマスターのサリーナと申します。ギルドに冒険者登録を行って頂いた時にギルドマスターの横に控えておりました」

 

「ああ、これはどうも」

 

こんな美人の副ギルドマスターがいたんだね。ギルドマスターのゾリアの趣味だな。完全に。

 

「それにしても、圧巻の使役獣でございますね。全部で61匹とか?」

 

「そうですね。いい奴らばかりですよ」

 

「確かにそれは肌で感じることが出来ます。ただ、お伝えしておきますが、使役獣の起こした問題は全て使役者に責任が還元されます。魔力を通した使役のペンダントで使役者が分かる様になりますので、十分にお気を付けください」

 

「なるほど、よくわかりました。コイツらは自分たちが攻撃されない限り人を襲ったりしませんよ。とても賢いから」

 

「そうですか・・・、よろしければ少し撫でさせて頂いても?」

 

副ギルドマスターのサリーナの目がキラリンと妖しく光ったように見えた。

 

「どうぞどうぞ。どうせなら狼牙族最強のローガをモフモフしてやってください」

 

にっこり笑って伝えてみる。最もローブをすっぽりかぶっているけどね。

 

「ローガ、少しサリーナさんにモフらせてやってくれ」

 

『了解です! ドーンと来てください!』

 

「お、おっきい・・・、いいのですか・・・?」

 

サリーナさんは恍惚の表情でローガを見つめる。

 

「さあ、触ってみて」

 

俺はサリーナさんの背中を軽く押してやる。

 

ふわっ!

 

「な、なんて柔らかい毛・・・、ふわふわです!」

 

といいつつ、顔を埋めて体全体でモフモフし始めるサリーナさん。

ふっ、これでまた一人ローガの虜になってしまったか。

 

「サリーナさん、最後の1つを作って持ってきましたよ・・・って何してるんですか?」

 

ローガの体に半分くらい埋まったままモフモフし続けているサリーナさんは、ローブ姿でやって来た男が声を掛けても反応しない。

 

「ふわわ~幸せです~」

 

「そちらはどちらさま?」

 

とりあえず代わりに俺が聞いてみよう。

 

「ああ、これは申し遅れました。私は錬金術師のランデルと申します。実は冒険者ギルドから、在庫の使役獣のペンダントが足りなくなってしまったので、大至急1つ作って西門に届けるよう依頼を頂きまして」

 

「ああ、そうなんだ。それ俺のせいだな」

 

はっはっはと笑って誤魔化す。

 

「あ、あなたが使役獣を61匹も持つ大魔導士ヤーベさんですか?」

 

「そう。迷惑かけたね」

 

「とんでもない!ここ2年ほど<調教師(テイマー)>の方が訪れず、使役獣のペンダントを使用する機会が無くて、ついさきほどまでギルドマスターよりペンダントの納品を打ち切られる直前だったのですよ。これで仕事が無くなると落胆した時にサリーナさんの元へ西門の衛兵さんが来て使役獣のペンダントが足りないと報告が入りましてね。逆に打ち切りどころか、特急で1つ仕上げる様に注文を頂くことが出来ましたよ」

 

「あ、そうなんだ。じゃあ俺のおかげで仕事がつながったんだ。そりゃよかった」

 

「ホントです。ヤーベさんは私にとって神様みたいなものですよ」

 

快活に笑うランデル。いい人っぽいな~。こんないい人の仕事を打ち切ろうとは、ギルドマスターのゾリアの野郎トンデモねーな! 俺様が使役獣を増やしまくってやるか!ウッシッシ。

 

「副ギルドマスター殿!大丈夫ですか?手続きを進めないとまずいのでは?」

 

「はっ!?」

 

ランデルの声掛けに我に帰る副ギルドマスターのサリーナ。

 

「これが最後の一つです。どうぞお使いください」

 

「ありがとうございます。さあ、ヤーベ殿これで61個すべてお渡しできました。使役獣のペンダントが揃いましたら、町への入門受付を完了してください」

 

「了解だ。じゃあお前達。規則正しく行進して行くぞ!」

 

「「「わおーん」」」

 

さあ、冒険者ギルドまで行進だ!

 




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第36話 迷宮氾濫の対策を立てよう

「よーし、お前達、きちんと並べ~」

 

「「「わふっ!」」」

 

俺は先頭を歩いていく。イリーナが俺に並んで歩いてる。

後ろを振りかえると先頭のローガにサリーナさんがべったりだ。ほぼ体が半分埋まっていながら歩いている姿はある意味不思議な光景だ。

 

ローガの後ろには四天王が四列に並んで歩く。その後ろにさらに狼牙達が続くので、四列行進だ。一糸乱れぬ行進に町の人々が驚いたり遠巻きに怯えたりしている。

 

さすがに狼牙がこんなに行進していると驚かれるか。というか、町中に一匹ならともかく、こんな軍団で歩いている事なんてまずないよな。もしかしたら魔物に門を破られて攻められていると勘違いする奴らも出てくるかもしれない。

 

ふと大好きなラノベを思い出す。神〇月 紅大先生の超人気ラノベ、レ〇ェンドだ。結構ラノベにはまった初期の事から愛読させてもらっていた。主人公とその相棒の従魔の物語だが、最初恐れられていた従魔がだんだん町の人に受け入れられ、町のアイドルになるほどかわいがられる様には感動したものだ。やはりモフモフは正義なのだ。

・・・うちのローガ達も、レ〇ェンドの〇トの様に町のマスコットアイドルにならないか・・・、無理だな。数が多すぎるわ。こんな軍団が全匹マスコットになったら逆に大変な気がするな。

 

でも、ローガのファンは確実に増えて行きそうな気がする。すでに他の狼牙達に比べても二回り以上大きい。その上長めの毛がふっさふさなのだ。それこそサリーナさんが抱きつくとサリーナさんが半分くらい埋まってしまう位に。というか、サリーナさんずっと半分くらい埋まってますが大丈夫ですか?

 

 

 

「大変申し訳ないのですが、ローガさんたち狼牙族の皆さんはギルドの建屋の中には入れませんので、隣の厩舎にて待機いただくようになります。本当に申し訳ございません」

 

ギルドに着いたのだが、サリーナさんが本当に申し訳ないと言った感じで伝えてくる。

・・・ギルド内でモフモフできなくて残念だからではないよね?

 

ローガ達を隣の厩舎で待つように指示し、俺とイリーナはサリーナさんを先頭にギルド内に入る。

サリーナさんは俺とイリーナを奥の部屋まで案内してくれた。

 

 

 

「失礼致します、ギルドマスター。無事ヤーベ殿の使役獣61匹にペンダントが行き渡りましたので報告いたします」

 

ノックして部屋に入るなり報告するサリーナ嬢。

 

「そうか、とりあえず入れ」

 

許可をもらったのでギルドマスターの前に座る。

 

「やっほー、お久!」

 

「お久じゃねーよ! どんだけ使役獣連れてきてるんだよ!」

 

ギルドマスターご立腹。まあ想像できたけどな。使役のペンダントって魔道具って言ってたし、ランデル君は仕事打ち切られそうになったって言ってたしな。ならば援護射撃だな。

 

「おいおい、大魔導士を舐めるなよ? まさか使役獣がこれだけで終わるとは思ってもいまい?」

 

ギルドマスターにニヤリと言ってやる。ローブ被ってるから笑ってもわからんだろうけどさ。

 

「それこそおいおいだろうが! まだ増えるってのかよ!?」

 

「ペンダントはたっぷり用意して用意した方がいいぞ?」

 

「くそー、またギルドの予算見直しかよ・・・、頭痛ェ」

 

はっはっは、これでランデル君も食いっぱぐれ無くなるかな。

・・・ん? ギルドマスターの前、テーブルの上に食べ物がたくさんあるな。昼食中だったか。それにしても、どこかで見たような・・・。

 

「んっ? 田舎モンのお前さんにゃ初めて見る食べ物かもしれねーけどな。ワイルドボアのスラ・スタイルって料理と、アースバードの唐揚げって食べ物だ。今この町で大流行りなんだぜ。王都でも流行る事間違いなしって人気の食べ物さ」

 

どや顔で説明してくれちゃうギルドマスター・ゾリア。

恥ずかしー!スラ・スタイル流行っちゃったよー!

なぜあの時俺は調子に乗った!あの時の俺を殴りたい。

 

「これはヤーベ殿が考案した料理ではないか。カソの村の開村祭で振る舞った時の」

 

イリーナがあっさりと事実をバラす。

 

「ブフォッ!」

 

ギルドマスター・ゾリアは噴いた。

 

「おわっ!汚い!」

 

「ギルドマスター、大丈夫ですか?」

 

そう言って机の上を布巾で拭くサリーナさん。その後ギルドマスターにお茶を入れる。ついでに俺たちにもお茶を出してくれる。ええ娘や。

 

「お、お前が考えたのか!?」

 

「まあなんだ、そうなるかな・・・」

 

自分で考えたわけではないんだけど、前世というか、地球の時の話なんて出来ないしね。

 

「お前、多才なんだな・・・。この料理、今屋台でも大人気だぞ。ワイルドボアのスラ・スタイルが一番人気だが、ジャイアントバイパーのスラ・スタイルもうまい。

アースバードの唐揚げは屋台だけじゃなく、酒場のおつまみでも大人気でバカ売れしてるらしいぞ。この前屋台街に視察に来ていた代官のナイセーも大絶賛していた。そういや商人たちが広めていたが、カソの村でお前の料理の情報を仕入れてきてたんだな」

 

「ああ、開村祭で振る舞った時に料理の作り方とかいろいろ聞かれたからな・・・」

 

「まあ、そのおかげでこの町の屋台街も盛り上がってる。経済的にもいい影響が期待できるってナイセーも言っていたしな。その事は素直に感謝したいところだ。特に俺はこのアースバードの唐揚げにめちゃくちゃハマっていてな・・・、これホントにうまいよな」

 

そう言って唐揚げを頬張るゾリア。

 

「役に立つことが出来て何よりだよ」

 

「それで? 今日は使役獣の自慢にでも来たのか?」

 

「ああ、そう言えばこの町の北にある迷宮で<迷宮氾濫(スタンピード)>寸前って情報が入ったんでね。ゾリアに相談に来たんだけど」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

しばし無言。

 

「・・・・・・早く言えーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

あ、噴火した。

 

「ス、ス、<迷宮氾濫(スタンピード)>だとぉ! 本気なのか!ホントなのか!事実なのか!」

 

「いや、落ち着けよ。本気だし、本当だし、事実だけど」

 

「唐揚げの話してる場合じゃねーじゃねえか! サリーナ!そんな情報入っているか!?」

 

「いえ、まだギルドには何も・・・」

 

「どうしてそんな情報が手に入った!?」

 

「俺の部下には狼牙族の他にヒヨコたちもたくさんいてね。情報収集のためにいろんな町の近くへ出かけて行ってるんだよ。そのうちの1羽が迷宮の情報を掴んできた。迷宮の鳴動が相当短期間で激しくなっているらしい」

 

「イヤ・・・、まずいぞ! 非常にまずい!」

 

「ギルドマスター、緊急発令を掛けますか?」

 

「いや、まだ情報が足りん。ヤーベが嘘を言っているとは思わんが、ギルドも情報が欲しい。職員を迷宮に大至急派遣してくれ。それから衛兵詰め所に行って、迷宮管理担当に現地管理の交代員を送るタイミングで情報を取る様に指示してくれ。<迷宮氾濫(スタンピード)>なんてことになれば、どれだけの被害が出るかわからん」

 

「わかりました」

 

「それから、指示を出したら、お前が直接代官邸に赴いて代官のナイセーに取り次いでもらって事情を説明して来てくれ。出来ればすぐにでもこちらで打ち合わせを行いたいと申し入れてくれ。それから、情報は統制しろ。変に伝わるとパニックになりかねん」

 

「了解しました。それではすぐに対応します」

 

そう言ってサリーナさんは部屋を出て行く。さすが副ギルドマスター、仕事の出来る人だ。

 

「ヤーベ、お前にはもう少し詳しい話を聞かせてもらう、いいな?」

 

鋭い目を向けるギルドマスター・ゾリア。

そりゃそうか、この町を守るのは何も衛兵という役人に雇われた者達だけではない。この町に根付く冒険者ギルドの冒険者たちもまた、当然この町に深く愛着があるだろう。

 

「ああ。町に被害が出ないための対策を相談に来たのだからな」

 

さあ、<迷宮氾濫(スタンピード)>の対策を練る事にしようか。

 




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第37話 お代官サマーにも相談しよう

 

「で、どうなんだ? ホントのところ」

 

ギルドマスター・ゾリアの視線が厳しい。

 

「どうって?」

 

「<迷宮氾濫(スタンピード)>だよ! どれくらい余裕ありそうだ?」

 

「ほとんどないかな?」

 

「うお~~~~~!なんでだよ!」

 

「何でって言われてもね・・・」

 

「そんなに確実なのか? だいたいお前<迷宮氾濫(スタンピード)>見た事ないだろ」

 

「そりゃアンタもそうじゃないのか? 一応カソの村にも危険を伝えるために出向いたんだが、村長がひいひいひいひいひい爺さんの知り合いが書き残した文献で見たことがあるらしいぞ。なんでもガーリー・クッソーさん(108)が書き残した内容によると、やはり鳴動のような細かな地震が続き、大きく揺れたかと思うと大量の魔物が押し寄せて来たとのことだ」

 

「なんだよ、そのひいひいひいひいひい爺さんの知り合いって」

 

「ガーリー・クッソーさん(108)の事だな」

 

「知らねーよ!」

 

ドンドンドンッ!

急に扉が叩かれる。

 

「何だ!」

 

ガチャッ!扉が乱暴に開かれたと思うと、ギルド職員が入ってくる。

 

「ギルドマスター大変です!Cランクパーティ<呪島の解放者>が迷宮で大けがをして戻って来ました!」

 

「なんだと!」

 

ゾリアが血相を変えて立ち上がる。

 

「<呪島の解放者>って?」

 

「この辺境の冒険者ギルドじゃトップクラスのパーティだ。剣士のバーン、戦士のギイム、神官戦士のエイト、精霊使いのディードリヒ、盗賊のツリージッパー、魔術師のスーレンの6人で構成されていてな。パーティバランスが高く、高難度の依頼もミスなくこなす実力者達なんだ」

 

「え~~~~? じゃあもしかして、パーティ名の「じゅとう」ってもしかして「呪われた島」って書く?」

 

「そうだ、よくわかったな」

 

「でもって、このあたりに呪われた島があるのか?」

 

「いや、島どころか海も湖もねーよ」

 

「じゃあ何で呪島なんだよ!?」

 

「わからん。リーダーのバーンがある日、神から天啓を受けたとかで」

 

一体どちら様でしょうか? まさかの転生者がらみか?

悪ふざけだとしたら版権の問題もあるから、5寸釘くらいのぶっとい釘を刺しとかないと。

 

「で、怪我は大丈夫なのか?」

 

ゾリアが状態を心配する。

 

「とりあえず診療所に運ばれました。バーンとギイムが重傷です。魔術師のスーレンの話だと、迷宮の奥で爆発的に魔物が発生して、退却もままならないほどの激戦に見舞われたと・・・」

 

「前衛が重傷だと、<迷宮氾濫(スタンピード)>時の防御対応には戦力に計算できねーな。それで、迷宮に出た魔物の種類は!」

 

「オークやゴブリンが大半だったとのことですが、まずもってその数が尋常じゃないとのことです。そして中にはオーガの姿もあったと・・・」

 

「オーガ!」

 

ギルドマスター・ゾリアが驚愕の表情を浮かべる。

 

「オーガってヤバイのか?」

 

確か大半のラノベではオーガは「鬼」って感じで、ゴブリンやオークよりも体が大きく、強い上位な魔物に分類されることが多いのだが、果たしてこの世界ではどうか?

 

「単体でゴブリンがEランク、オークがDランクだが、オーガは単体でもCランクだ。これが複数出ると、それぞれワンランクアップの危険度になる」

 

ああ、思った通りのランク付けだな。

 

ゴブリン < オーク < オーガ

 

となるわけだ。種族も違うし、同系列ってわけでもないけど、この3種はイメージが似通るよね。一応人型っポイし。

 

「・・・あれ? そういや、狼牙たちはCランクって言われてたか?」

 

衛兵たちが言ってたよな、確か。

 

「・・・そうだな。狼牙は単体でもCランク認定だ。お前は軍団で率いているから、Bランク脅威認定だな」

 

「勝手に脅威認定しないでくれ」

 

「だが、今はこれほど力強い味方はいねーと思ってるよ」

 

ニヤリと凶悪な笑みを浮かべるゾリア。

 

「どれほど期待に応えられるかはわからんがな」

 

トントン。

 

そこへノックの音がした。

 

「入れ!」

 

ギルドマスターの横柄な返事に、ドアを開けた副ギルドマスターのサリーナが少し顔を顰めながら入って来た。

 

「失礼致します。代官のナイセー様をお連れ致しました」

 

「失礼するよ」

 

そう言ってサリーナの後に入って来たのは比較的高価に見える衣服に身を包んだ若い男だった。

 

「ナイセー殿。ご足労を掛けてすまんな」

 

本当にすまないと思っているのかわからないような挨拶で返すギルドマスター・ゾリア。軽く会釈程度に頭を下げているようにも見えるが、これもそんなにすまなそうには見えない。もっともゾリアの人となりがそうさせているのかもしれないが。

 

「代官?随分と若いんだな」

 

俺は思ったことをサラッと言ってしまった。

この世界のお偉いさんがどんな感じか全く情報を持っていないのだから、もっと慎重に口をきくべきかと思ったが、もう手遅れだな。

 

「まあね。辺境だから人手不足ってのもあると思うけどね。それで、君が噂の大魔導士さんかい?」

 

「ああ、大魔導士のヤーベだ・・・噂になってる?」

 

「うん、ギルドマスターからも町の屋台街からも君の情報は挙がってるよ。未知数の実力者で、分かってることは屋台街の料理を買い占めるほどの食べ物好きの大金持ちで、今日は<調教師(テイマー)>としての実力も超一流で狼牙を61匹も使役してるって話も来たよ。冒険者としての能力は規格外という判断だね」

 

「はっはっは(まあ、スライムって種族からして規格外ですけどねっ!)」

 

「そうなのだ!ヤーベ殿は素晴らしいのだ!」

 

目をキラキラさせてグーを握り力説するイリーナ。まあ、説得力ゼロですけどね!

この町の実績は屋台の買い占めと使役のペンダント61個所持だけだしね。

 

「それで? <迷宮氾濫(スタンピード)>とのことですが、本当に起こりえるのでしょうか?」

 

ゾリアに真剣な目を向け、確認するナイセー。

 

「サリーナ。その他の対応はどうなっている?」

 

「はい、衛兵の交代には人数を増員してもらって、時間を早めてすでに出発してもらっています。それ以外では迷宮から帰って来たCランクパーティ<呪島の解放者>及び、その他の冒険者たちからの聞き取り調査を行っております。いずれも、迷宮の魔物が異常に増力している事、迷宮自体が鳴動を行っていることなどが報告されました」

 

「そうか・・・」

 

腕を組み、難しい顔をするゾリア。

 

「間違いないのかい?」

 

心配そうに問いかけるナイセーにゾリアは重い口を開く。

 

「ああ、もう間違いないな。後はどのタイミングでどれだけの魔物が迷宮から溢れるかだ」

 

「そうなのか・・・」

 

ナイセーも表情が暗くなる。

迷宮氾濫(スタンピード)>が間違いないとなると、必ず魔物が溢れて外に出てくる。この魔物を野放しにすることは出来ない。

問題は、いつ出て来るか。どれだけの魔物が出て来るか。そして出て来た魔物がどこへ向かうかだ。

 

「迷宮の入口を塞いじゃえばいいんじゃね?」

 

俺は素直に思った事を言う。

 

「迷宮の入口はかなりデカいんだ。それをモンスターの氾濫を防ぐような強度の扉というか、蓋を製作することはまず無理だろう。それに過去の資料によれば、<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物はかなり精神が異常のようで、猪突猛進に突き進む傾向にある。入り口付近に兵を集め、出てきたところを叩くのが戦術としては定石だが、戦力を広く展開できないのはこちらも同じだ。一点突破で魔物に押し切られる可能性が高い」

 

「それではどうすると?」

 

ナイセーは歴戦のギルドマスター・ゾリアが無策であるとは思えなかったので、その後の言葉を待った。

 

「この町には外壁がある。外壁前にもう一段柵を講じてこの町で迎え撃ちます」

 

「やはり、この町でないといけませんか・・・」

 

出来ればこの町に接近する前に仕留められないか・・・存外にそんな希望を滲ませながら呟くナイセー。だが、平原で<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物を真正面から受け止めるだけの軍隊がこの町にはない。まして冒険者ギルドの所属冒険者たちもトップランカーが大けがを負う程の状況である。柵と外壁で魔物を受け止めながら遠距離で攻撃して行く以外に方法が無かった。

 

「王都には救援の急使を出しましょう。出来れば正確な<迷宮氾濫(スタンピード)>の規模を報告したいところですが、それまで待てません。まずは状況だけ報告出来るよう・・・」

 

そう打ち合わせをしていたところで、ギルド内が何かざわついていることに気が付いた。

そしてトントンとノックされる。

 

「はい」

 

誰だろう?と皆が首を傾げながらも、副ギルドマスターのサリーナが席を立ちドアを開ける。

 

「きゃっ!」

 

そこには頭にヒヨコ隊長を乗せたローガがいた。

というか、ローガよ、よくここにいると分かったな。そしてノックうまいね。

 

「おいおい、ギルド内に使役獣を入れるのは禁止されているんだがな」

 

ジロッと俺を睨んで来るゾリア。だが、よほどのことがない限りローガは言われたことを守るはずだ。であれば、この状況は緊急性が高いということだ。

 

「そうなんです、ローガちゃん。建物内には入ってはだめなのですよ・・・」

 

そう言いながら跪いてローガの首に手を回し顔を埋めるサリーナ嬢。

ここでモフッてはいけません。

 

「こ、これが使役獣の狼牙? なんと立派な・・・」

 

代官のナイセーも初めて見るローガに驚いている。

ふっふっふ、うちのローガはそんじょそこらの狼牙族とはわけが違いますからね!

 

堂々と開けてもらったドアをくぐり部屋に入ってくるローガ。

 

『ボス!ヒヨコ隊長より重大な報告があるとのことですので、緊急を要すると判断し参上致しました』

 

「わかった。ゾリア、ナイセー。どうも重要な情報のようだ。このまま報告を聞いていいか?」

 

「ぜひお願いしますよ」

「俺たちにも教えてくれよ」

 

二人が許可を出したのでヒヨコ隊長を促す。

 

『<迷宮氾濫(スタンピード)>が始まりました! 迷宮より魔物が溢れ出ています!』

 

「えっ?」

 

俺が絶句したので、他の二人が俺をせかすように声を上げる。

 

「どうした!」

「何があったのです?」

 

「<迷宮氾濫(スタンピード)>が始まって、迷宮から魔物が溢れ出たって」

 

「「えええーーーーーーー!!」」

 

ソレナリーニの町防衛の戦略は風雲急を告げるのだった。




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第38話 お代官サマーに意見を具申しよう

「ま、間違いないのか!」

 

ゾリアの顔が一層険しくなる。それ以上険しくなると怖すぎるからそのあたりに留めてもらいたい。

 

「間違いないのか?」

 

『はい。多分人間の馬も飛ばして走ってましたから、そのうち人間からの情報も来ると思われます』

 

「そうなんだ。人間の馬も走ってたっていうから、衛兵からの情報もそのうち来るだろうってさ」

 

「そうか、とりあえず無事にこっちへ逃げてきてるんだな」

 

少しホッとした様子で腰を落ち着けるゾリア。

 

「それで、規模はどのくらいなのです?」

 

代官のナイセーがさらなる情報の確認を希望する。

 

「で、どのくらいの規模だ? そいつらはどこへ向かってる?」

 

『はい・・・この目で見て来たのですが・・・』

 

「んん? ヒヨコ隊長が言い淀むって、珍しいな。どうした?」

 

不穏な空気を感じ取り、ゾリアとナイセーが真剣な表情を向ける。

 

『その数、約一万』

 

「いっ、一万!」

 

さすがに俺も想定外の数字に声が裏返る。

普通、こういった場合、数百とかがいいところでないかい?

 

「「なんだと!!」」

 

ゾリアとナイセーが一斉に立ち上がる。

 

「い、一万って言ったか! それって魔物が一万匹ってことか!」

 

俺のローブを引っ掴んで揺すりまくるゾリア。苦しくないけどやめてほしい。

 

「ま、魔物が、一万の魔物が迷宮から溢れたというのですか・・・」

 

ナイセーも信じられないと言った表情で座り直す。

 

「それで、どこへ向かっている?」

 

ヒヨコ隊長に確認する。

 

『はい、一万の魔物は真っ直ぐここへ向かっております』

 

「真っ直ぐここへ来るってか!?」

 

俺は天を仰ぐ。

この町が迷宮から一番近いからそうだとは思ったけどさ!

一糸乱れぬ勢いでここへ向かって来るって。

少しは寄り道したらいいのに・・・、イカン、他へ向かわれても困るか。

 

「なんだと・・・! 一万の魔物がこの町へ真っ直ぐ向かって来るってのか!」

 

だから、ゾリアよ。俺のローブを引っ張るなっての。

 

「ゾリア殿。この町の衛兵は約1000人、そのうち約半数を町中の警備、巡回に当てています。基本的に外への防備を担当するのは約500人しかいません。もちろん休みや交代を無視しての事ですがね」

 

両指を組んで両肘を膝に付き、考え込む代官ナイセー。

ナイセーの頭の中はこの町をどうやって守り切るか、その戦略を練っているのだろうか。

 

「ナイセー殿。冒険者ギルドの強制依頼命令が発動できるのはCランク以上の冒険者に限る。現在Cランクパーティ<呪島の解放者>の連中がケガで動けない。その他となると、同じCランクパーティでも<路傍の探究者>と<彷徨う旅人>の2パーティしかいないんだ」

 

「・・・どちらも戦闘を生業としているとは思えないパーティ名だな」

 

俺は若干呆れ気味に確認する。

 

「そうなんだよ、どっちも探索と素材収集などで実績を積み上げている連中でな。魔物退治ももちろん対応できるから総合ランクでCまでランクアップしているのは間違いないんだが、真っ向戦闘には向かない奴らなんだよな」

 

「Dランク以下の連中は強制じゃないんだ?」

 

「ああ、そうだ。Dランク以下は強制ではない。あくまで自主的にギルドの緊急依頼に対応してもらうことになる」

 

「それで、Dランク以下の冒険者たちはどれくらいいるんです?」

 

「・・・100人前後だろうな。それも依頼を受けてもらうのが前提でだが」

 

ナイセーの問いにゾリアは苦渋の表情で答える。

 

「目一杯集めても1000人防衛に回せるかどうか・・・。それで約10倍の魔物に対峙せねばならないのですね」

 

「ああ、もはや外壁頼みでしかないがな。とにかく弓矢を集めて準備を始めないと、もう時間がない」

 

 

そこへ、衛兵が飛び込んでくる。

 

「め、迷宮の魔物が氾濫しました!」

 

衛兵の報告が入るが、ここにいる全員がすでに<迷宮氾濫(スタンピード)>の事実を認識している。

 

「それで、規模は?」

 

代官のナイセーが必要情報の確認を行う。

 

「そ、それが・・・いきなり迷宮から魔物が溢れ出し、大量に真っ直ぐこちらに向かって来ましたので、正確な規模は・・・」

 

あたふたと答える衛兵。

 

「あなた以外で規模の確認を行っている者は?」

 

「交代員と詰めていた者が私を含めて六人おりましたが、私はこの氾濫の情報をいち早くお伝えすべく戻ってまいりましたので・・・」

 

「わかりました。下がって休んでください。他の者が戻りましたら至急冒険者ギルドへ連絡を寄越すよう伝えてください」

 

「わかりました」

 

そう言って部屋を出て行く衛兵。

 

「・・・俺たちはツイているのかもな・・・。ヤーベがいてくれたから正確な情報が得られた」

 

「そうですね。その事については僥倖という他ないでしょう」

 

あら、存外にお褒めの言葉を頂いてしまったな。

 

「俺の情報も当てになる精度かどうかわからんぞ?」

 

俺はおちゃらけ気味に努めて明るく言ってみる。

 

「今さらそんな謙遜いるかよ」

 

「いかに正確な情報が命綱となるか・・・。衛兵たちだけでは、一万の氾濫だと気づけず、普通の対処で何とかなるかと勘違いしかねませんでしたね」

 

「まったくだ」

 

「ヤーベ殿様様ですよ。それよりこれから第一級緊急警報を発令します。全衛兵を招集、一般市民は自宅待機の戒厳令を含みます。それから私の代官邸より、このギルドを対策本部としたいのですが、いかがですか?」

 

「ああ、いいぜ。協力しよう」

 

二人が協議を進めて行くのでこちらも情報を精査しよう。

 

「ヒヨコ隊長、魔物の分類は?」

 

『はっ! 先頭にゴブリンの集団で約4000。その後にオークの集団でこちらも同じく約4000です。4000の集団は100匹単位でまとまっており、ほぼ直線的に向かって来ております。残りの2000にはオーガ、トロールのような大型魔物の他、ジャイアントエイプのような野獣系の魔物も混じっております』

 

「そうか、大きく扇型に広がっていないのだな?」

 

『はい、真っ直ぐな陣形となっております・・・最も奴らが陣形を守っている認識があるかどうかは不明ですが』

 

「ふむ、直線の陣形で真っ直ぐ突っ込んで来る・・・ね」

 

頭の中で戦略を練る。

 

「とりあえず間に合わなくても王都に救援を・・・」

 

「ちょっとまった」

 

俺は立ち上がる。

 

「どうした?」

 

ゾリアが問いかけてくる。ナイセーも俺を見ている。

 

「提案があるんだが・・・聞くか?」

 

ニヤリと笑って伝える俺・・・もちろんローブで表情は見えないだろうが。

 

「もちろん・・・この危機的状況を回避できるすべがあるのであれば、何を持っても聞かせて頂きますが・・・」

 

ナイセーが若干藁にもすがりたい的な目で俺を見る。

 

「俺の手勢だけで打って出る」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

ゾリアとナイセーは無言で見合わせてから、

 

「「えええーーー!!!」」

 

ハモッて驚いた。

では俺の作戦を具申するとしようか。

 

 




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第39話 町を守るために出陣しよう

「お、お前の手勢だけで打って出るだと!」

 

ゾリアが大声を上げる。

まあ、一万の魔物を自分たちだけでどうにかする、と言っているようなものだがらな。驚かれるのも無理はないか。

 

「しかも、打って出るということは、この町の外壁を盾に防御しながら対応する、ということでなく、平原で真っ向相手に当たるってことか!?」

 

信じられないという表情を浮かべて捲くし立てるゾリア。

 

「そう言う事だな」

 

「い、いくら何でも自殺行為では?」

 

代官のナイセーもさすがに無理があると思ったのか、疑問を呈する。

そりゃそうだよな・・・、実際の所、一万ってどーなのよ?と自分でも思わないではない。

だが、どう考えてもこの町に一万の魔物が押し寄せて来たら、今までの平和な生活は崩壊するだろう。俺はそれを許容できない。何があろうとも。

・・・所詮ノーチートのスライム野郎でしかない俺が、一万もの魔物をどうにか出来る・・・それは思い上がりでしかないのかもしれない。うまくいかないかもしれない・・・。でもまだわずかしか滞在していないが、この町の人々が好きだ。そして、カソの村の人々も好きだ。なら、そんな人たちが笑って生活して行けるよう、脅威は排除せねばなるまいよ。

 

「うまくいくかどうかはわからないが・・・比較的直進的に向かって来てくれるのであれば、策がないわけでもない。最も、万一を考えると、当然この町の外壁で防御戦を行えるよう準備はしておいてもらった方がいいと思うけどな」

 

「その言い分だと、うまくいけば魔物はこの町に魔物が来ないように聞こえるが?」

 

ゾリアが俺を見つめる。

 

「そうだな、気持ち的には一匹たりとも魔物を通すつもりはない」

 

言い切る俺・・・カッコイイ?

隣を見ればイリーナが真剣な目でこちらを見ている。

・・・てっきり両手を胸の前で組んで目をハートにでもして感動しているかとばかり思ってたのに。まあ、ここでクッオカ出されても困りますからねー。

 

「具体的にはどのような戦略で?」

 

ナイセーはこの町を取りまとめて来た代官だ。実務に長けた人間であるだけに、具体的な方法がわからないと納得できないだろう。だが・・・。

 

「俺様必殺の魔法?で、みたいな?」

 

「なんだそりゃ」

 

あきれ顔のゾリア。

 

「それでは安心してお任せすることが出来ませんよ・・・」

 

代官のナイセーも顔を顰める。

 

「もちろんこの町を救って頂けるのであれば、それに見合った報酬も用意せねばなりません。特に一万もの魔物の襲来という未曽有の危機を救ってくださるというのですから、その報酬は莫大なものになるでしょう。そしてこの町を救った英雄としての地位も。それらは、一万の魔物を退けたという結果が必要です」

 

一万の魔物を退けたという結果・・・。

この言葉の意味は深くて重い。

 

俺という存在を示す意味で、一万もの魔物を退けられるという存在がどういうものか。

筋力馬鹿っぽいゾリアと違い、このナイセーは町を預かる代官だ。

この<迷宮氾濫(スタンピード)>も領主やその上の王都へある程度正確な報告が必要だろう。その時俺という存在はどのように映るのか・・・。

 

「それに関して、相談というか、提案がある」

 

「何だ?」

「何でしょう?」

 

同時に口を開くゾリアとナイセー。案外この二人仲がよかったりしてな。

 

「俺は自分の手の内というか、能力をある程度秘密にしておきたい。だから自分の手勢だけで打って出ると提案した理由もそこにある。だが、俺が迎撃に出た後「魔物を討伐した」と言って帰って来たとして、討伐した魔物が全く残っていなければ、現実として討伐が完了したかどうか判別は出来るか?」

 

「ま、魔物が全く残っていない・・・だと?」

 

「それは・・・、基本的には依頼完了、と判断できかねる事象ですね・・・」

 

そうだよね、証拠となる一万もの魔物が残っていないんだもの。

 

「だが、現実として多くの魔物がこの町へ押し寄せてきているわけだ。魔物の迎撃は必須・・・。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それならば、処理はともかく、報告はやりようがあるだろう?」

 

「・・・どういうことだ?」

 

ゾリアは意味が分からないと言った表情でナイセーに聞く。

 

「つまり、報告は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。という事でしょうか。()()()()()()()()()()()()()()

 

「ご名答」

 

俺は魔導士の杖で床をコツンと鳴らすように突いた。

 

「・・・ですが、それでは一万の魔物を退けた英雄としての結果を隠すのと同じことです。報酬も栄誉も無くなるということですよ?」

 

「おいおい、無報酬で働けってのかよ!?」

 

冒険者ギルドのギルドマスターであるゾリアが厳しい表情をナイセーに向ける。

こういうところは単純なゾリアに好感が持てるけどな。俺も一応だがギルドに登録している身だし、報酬無しで冒険者が働くという事は容認出来ない・・・という事だろう。

 

「むろん、さすがに無報酬というわけにはいかないと思いますが・・・、一万という魔物の規模を隠す以上、それに見合う報酬はもちろん出せません。そして、結果を確認するための魔物そのものが存在しない状況では、<迷宮氾濫(スタンピード)>の被害を防いだ英雄としての評価も出来ない・・・ということになりますが」

 

「一体、魔物の存在を残さないって、どうするんだ? 極大呪文でもぶっ放して消し炭にでも変えちまうってか」

 

「ナイセーの言う通り、一万という規模の魔物を仕留めるという報酬は事実を隠す以上無理がある事は承知できる。元々英雄なんて立場に興味もないし、それも問題ない。後は<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物たちを仕留めたことをどう確認してもらうかという事と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を取ってから出陣したいという俺の希望を叶えてもらえるかどうかだな」

 

「なに?」

 

「・・・やはり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()・・・・とお考えなのですね」

 

ナイセーは溜息を吐く。

 

「なぜだ?町を救う英雄だろうがよ!それこそ王都で国王様から褒美が給われるかもしれない規模の災害だぞ!」

 

「だから、それが不要だと言っているんだよ、ゾリア」

 

「だから何故だ!男なら誰しもが英雄に伸し上がる事を夢見るはずだ! これはチャンスなんだぞ、ヤーベ!」

 

力強く語るゾリア。きっと正道を駆け抜けて来たであろうゾリアの言葉は重く響く。

だが・・・。

 

「まあ、なんだ。お偉い方々からすれば、異質な力は不気味に映るものだよ。その力がどこへ向くのか・・・とか、益体も無い事を考えてしまいがちなものさ。ならば、最初からそんな力があると知られない方がリスクは少なくなるということだ」

 

「・・・・・・」

 

ゾリアは沈黙した。目の前に映るこの俺が、いかに怪しく見えるか。ローブをすっぽりかぶり、その姿を見せることはない。そして、一万の魔物を迎撃すると宣う。

 

「・・・俺がこの国の王ならば、お前を宮廷魔術師に迎えるんだがな」

 

ふっと苦笑するように言うゾリア。俺という存在のリスクを少し感じたような苦笑いだな。

 

「もし、辺境伯や国がお前に何か良からぬことをしようと企むなら、俺がお前の味方に付いてやるぜ。何といっても誰にも言えなくてもお前はこの町を救う英雄になるんだろうからな!」

 

ゾリアが今度は悪ガキが悪戯でも思いついたような悪そうな笑顔を浮かべる。

 

「そうならないために、彼は私とあなたにその秘密の一端を話してくれたんだと思いますがね」

 

今度はナイセーが苦笑しながら言う。どうやらナイセーには正しく俺の気持ちが伝わったようだ。後は()()()()()()()()()()()()()()()()、だな。

 

「領主様と王国への報告は結果だけを伝えて、うまくあなたの事を隠しておきます。最も、分かる人間がみれば、必ず調査が入るでしょうから、そうなれば冒険者ギルドの助力を得た、という事にしますので、ゾリアからもうまい説明協力をお願いしますよ」

 

「俺かよ!?」

 

「逆にあなた以外の誰がいるというのですか・・・」

 

ゾリアの驚きに呆れた声で返すナイセー。

 

「ところで、私も今気が付いたのですが・・・」

 

「どうした?」

 

俺とゾリアはナイセーに視線を移す。

 

「彼女はよろしいのですか?」

 

そうナイセーの指さす方向には・・・ローガに半分ほど埋まったままモフモフし続けていた副ギルドマスターのサリーナが。

 

「うおうっ!?」

 

「サリーナ、そんなところにいたのか! そういや話に夢中になってたけど、サリーナの気配がいつの間にか全くしなくなってたな」

 

「ふえっ?」

 

やっとローガから顔を上げるサリーナ。

 

「ローガ、ずっとモフモフされてたのか? 何なら声を掛けてくれればよかったのに」

 

『ボスが非常に重要な話をされていると思いましたので・・・』

 

若干サリーナに困ったような表情を浮かべながら気を使ってくれていたローガ。そりゃ悪かったね。

 

「で、我々の言質は取るとして、彼女はどうします?」

 

俺に意味ありげな笑みを浮かべて聞いてくるナイセー。

副ギルドマスターであるサリーナはギルドマスターであるゾリアの指示に従うんでないかい?

 

「サリーナよ、それで・・・」

 

話しかけたゾリアの言葉を遮るサリーナ。

 

「ヤーベ殿は素晴らしい人物。それだけです。私にはそれだけで十分です。モフモフは正義なのです!ローガ殿の主人ならば悪い人であるわけがないのです!」

 

えらく力説してくれるサリーナ嬢。

・・・まあなんだ、ありがたいですが。これもローガのおかげ・・・かな?

 

「わふっ(恐縮です!)」

 

笑顔で答えるローガ。出来る部下を持つと安心感が違うな。

 

「それでは、最後に・・・。我々としましては、町への脅威が完全に無くなった事をどうしても目で確認したいのです。つきましては、魔物を持ち帰れないという事であれば、ギルドマスターのゾリアを同行させてください。さっきの言葉にあったように、ゾリアはあなたを信頼しており、場合によっては領主や国と比べてもあなたを指示すると言っている。であれば、あなたの見せたくない手の内とやらを見ても、あなたに不利益になるような事はしないでしょう。どうです?」

 

ナイセーは問いかけてくる。そうだな、どうしても魔物の消滅を目で確認しないと安心できないわな。ゾリアなら・・・そうだな、遺失の魔法、とか、特別なスキル・・・とか、何とか説明を付けるか。納得しなきゃ・・・唐揚げで釣るか。

 

「おおっ!任せておけ! ヤーベ、お前に命を預けるぞ!」

 

バンバンと俺の肩?あたりを叩くゾリア。

さて、お目付け役付きとなったが、この町を守るために出陣するとしましょうか!

 




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第40話 ピンチは臨機応変に対応しよう

「で、ホントのトコどーなのよ? どうやって敵を殲滅するつもりなんだ? 跡形も無く・・・さ」

 

しつこく問いかけてくるギルドマスター・ゾリアをスルーしながら、ソレナリーニの町大通りを六十一匹の狼牙達と注目を集めながら大行進し、今は北門から町の外に出るための手続きを行っている。

 

「しかし・・・使役獣のペンダントを回収して行ったからどうしたのかと思えば、とんでもない数の使役獣だね。凄腕の<調教師テイマー>なんだね~」

 

門を守る衛兵の一人が気さくに話しかけてくる。

 

「まあね、みんな気のいい奴らなんだよ」

 

「そうだね、こんなにビシッと整列しているんだ、頭もいいんだね。よっぽど質の悪い人間より賢いよ」

 

そう言って快活に笑う衛兵。

いつも町の門を守っていて、いろんな人たちに対応しているのだろう。文句を言ったり割り込んだりしたり、問題を起こすような人間もいることだろう。そんな連中よりずっと狼牙達が良い奴だと笑ってくれる。

こんな気持ちのいい衛兵がいる町を心の底から守りたくなってくる。

 

「次にこの町に戻ってきたら、こいつ等を連れて各門にペンダントのお礼を言いに回るよ。時間があればモフモフタイムを設けようか?」

 

「おおっ!そりゃすごいな。こんな立派な狼牙達を触れるなんて機会ないからね。楽しみにしてるよ」

 

ニコニコしながら手続きを進める衛兵。

 

「はい、これで手続完了だ。気を付けて行って来てくれよ」

 

笑いながら手を振ってくれる。

 

「おや、ギルドマスターもお出かけですか、どうぞお気をつけて」

「うむ」

 

どこへ行くのかはもちろん知らないだろうが、俺は冒険者のギルドカードで手続しているからな。冒険者としての依頼を受けて町を出て行くと思っているだろう。

・・・間違いではないのだが。

 

 

「さて、急いで迎撃ポイントまで移動しようか」

「お手並み拝見と行くぜ」

 

俺たちは真っ直ぐ北の迷宮方向へ移動を開始した。

 

 

 

 

 

「ピヨピヨピ!(ボス!報告致します!)」

 

ヒヨコが三羽飛んできた。ローガの頭の上にいるヒヨコ隊長に挨拶もそこそこに俺への報告を行ってくれる・・・優秀だ。

 

こちらは町を出てから約二時間、ギルドマスター・ゾリアの乗る馬のスピードに合わせてローガに乗った俺は移動している。そのためかなりの距離を移動して来た。ここで迎撃しても町への影響は少ないだろう。

 

「ピピピピーピヨ!(敵はこの先北よりこちらに向かって来ております!)」

「ピヨピヨピヨ!ピヨ!(敵の進軍は最初の報告通り、ゴブリン、オーク、大型系の魔物となっております! 距離は我々の移動速度で約三十分程度です!)」

「ピヨピヨピヨー!(敵集団は百匹単位程度の集団が直線的に移動しており、迷宮から外へ出てから、全く変わっておりません!)」

 

「了解だ。ローガ、ヒヨコ隊長。このまま後一時間ほど移動して敵との距離を縮めるぞ」

 

「おう、出来るだけ町から離れて戦った方がありがてぇしな」

 

ローガに乗った俺を先頭にさらに移動を開始した。

 

 

だが、予定の一時間を移動しないうちにヒヨコからの急使が届く。

 

「ピヨピーーー!(ボス!大変です!)」

 

さらに三匹のヒヨコが飛んできた。先の連中と違い、かなり慌てており、疲れているようだ。

 

「どうした?」

 

俺は移動を止め、落ち着いて報告を聞けるようにする。

ゾリアもヒヨコたちの様子が通常と違うのに気付いたのか、真剣な表情で待つ。

 

「ピヨヨヨヨー!(敵の一部が移動方向を変え、カソの村に直接向かい出しました!)」

「ピヨピピピー!(その数、ゴブリンの一部とオークの大半で約二千!)」

「ピピピーピヨ!(残りの約八千はそのままこちらへ進軍しております!)」

 

「なんだと!!」

 

俺はローガから飛び降り、ヒヨコたちの話を再度確認する。

 

「どうした、ヤーベ」

 

俺の反応が鬼気迫るものだったのか、ゾリアが慌てたように聞いてくる。

 

「魔物の一部・・・ゴブリンとオークが進軍方向を変えてカソの村に直接向かったらしい。その数約二千」

 

「な、なんだと・・・!」

 

絶句するゾリア。カソの村は冒険者ギルドの出張所も無く、防御という面でほとんど対応が出来ていない村だ。そこに二千もの魔物が向かったとしたら、どのような惨劇が待つのか、想像だに難くない。

 

ドスッッッ!

 

魔導士の杖を地面にものすごい勢いで突き刺す。

ゾリアが目を剥いた。

 

「ローガよ」

 

些かドスが聞いた声が出てしまう。若干自分をコントロールできない。

 

『はっ』

 

「全狼牙族と、ヒヨコ隊長の全部隊の指揮をお前に預ける。今よりカソの村へ急行し、村へ迫る魔物を一匹残らず殲滅せよ。ヒヨコ隊長はローガの指揮下に入り、敵の陽動とこれ以上分離した魔物が別の場所へ行かないよう牽制を行え。屠った敵の死骸は後で俺が回収に行くのでそれまで待つように。ちょうどいい、この魔物の死骸で<迷宮氾濫(スタンピード)>討伐証明とする。他に質問は?」

 

『・・・恐れながら、ボスはどうなさるおつもりで?』

 

「俺はここで残りの敵を待ち受ける」

 

『こちらの方が多うございますが』

 

「問題ない。元より一万の魔物は俺が一人で引き受けるつもりだった。お前たちの役目はやられ始めた魔物が散り散りに逃げた場合の追撃の予定だったからな」

 

『なんと・・・』

 

ローガは敬愛するボスがすごい存在だとは肌で感じていたのだが、その片鱗をまだ見たことが無かった。ただ、今のボスが醸し出すオーラはまさに王者のものだ。

 

「行け!必ずカソの村を守り切れ! 俺もここが片付いたらそちらへ向かう」

 

『わかりました。ボスのご命令承りました。こちらが先に片付くかもしれませんので、殲滅完了時にヒヨコより伝令を飛ばします』

 

「わかった。頼むぞ!」

 

『御意! 全員聞いたな! 我々は至急カソの村へ向かい、別離した魔物を殲滅する!行くぞ!』

 

『『『『おおっ!』』』』

 

勢いよくローガ達は西へ向かいカソの村へ向かった。

 

残されたのは俺とイリーナとゾリアだけだ。

カソの村に急行するローガ達を呆然と見送るゾリア。

表情を一言で言うなら、「マジで?」だろう。

逆にイリーナは全く表情を変えず、真剣な眼差しで俺を見つめている。

イリーナよ、君はいつからそんなに強くなったっけ?

・・・まあ、良い事か。

 

さてさて、打ち漏らしをローガ達に面倒見てもらうつもりだったのだが、そうもいかなくなった。しっかりと事前準備の上、ぶちかますとしようか。

 




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第41話 迫りくる魔物を殲滅しよう

迫りくる魔物は約八千。

土煙が濛々と見えて来ている。

こちらは謎の大魔導士とFランクポンコツ冒険者とゾリア。

 

「あれ、やばくね?」

 

ゾリアはローガ達狼牙族が戦力の中心だとばかり思っていたのだが、なんとヤーベはカソの村急襲の報を聞いて全戦力をカソの村救援に送ってしまった。

 

「えーっと、俺たちだけになってしまったが・・・」

 

ゾリアがポリポリとほっぺを掻く。

 

「そうだな」

 

特に感情を込めず回答する俺。

 

「目の前には濛々と土煙が見えるな」

 

ゾリアが指を指しながら言う。

 

「そうだな」

 

特に感情を込めず回答する俺。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

しばし沈黙。

 

「・・・おまーふっざけんなよ! 使役獣全部他へやっちまってお前だけじゃねーか!どーすんだ?どーすんのよ!死んじまう!死んじまうぞ!」

 

急に暴走するゾリア。

俺の胸倉を掴んで揺すりまくる。

ゾリアほどの男でも取り乱すんだな。

 

「あー、みんな元気?」

「はあっ?」

 

俺の呑気な声にゾリアがキレ気味に反応するが、

 

「はーい、元気だよっ!」

「元気ですわ~」

「元気です、お兄さん」

「あたいの出番だなっ!」

 

四大精霊のみなさん元気で何より。

シルフィーよ、いつの間に俺はお兄さん? 後フレイアよ、今回お前の出番はないぞ。

 

ゾリアは俺の胸倉から手を放してポカーンとしている。

 

「ヤーベ、大変な事になったね!」

 

ニコニコしながらボクッ娘の水の精霊ウィンティアが話しかけてくる。

大変な事と言いながら、メッチャ笑顔じゃないっすか。

 

「ヤーベの実力なら心配いらないもーん」

 

ぴょんと肩に座って頭をポンポンしてくれるウィンティア。

 

「ああっ!お兄さんには私がポンポンしたかったのに~」

 

風の精霊シルフィーはほっぺを膨らませて抗議する。

 

「あらあら、ヤーベとはとっても仲良しね~」

 

土の精霊ベルヒアねーさんは今日もあらあらうふふモードだ。

 

「さあヤーベ、俺の力を貸してやるぜ!敵を殲滅するぞ!」

 

炎の精霊フレイアよ、心の中のセリフだがお前の出番はない(二度目)。

 

「おおっ!精霊がいたか!これで何とかなるのか!ヤーベ!」

 

急に元気になるゾリア。現金なもんだ。

 

「まあ、何とかするけど。ちょっと派手な能力を使う。ゾリアが俺を見て何を思うかはわからんが、町を守るためにはこれしかない」

 

「・・・何をするんだ?」

 

「ちょっと能力で大幅に姿が変わる。だいぶ気持ち悪くなるかもしれん」

 

「ヤーベ、心配するな。お前がどんな姿になろうと、俺たちは友達だ。永遠にな!」

 

・・・いつお前と俺が友達になった? まあいいけど。

 

「まずはウィンティア、力を貸してくれ。念のためにみんなを守る力を」

 

「いいよ~、ボクの力をおにーさんに注ぐから、受け取って!」

 

「<水の羽衣(ウォーター・ヴェール)>」

 

透明な薄い水の膜がイリーナ、ゾリアを纏う。

 

「次にシルフィー、力を貸してくれ。この先魔物の軍勢に他の生き物が混じっていないか確認したい。殲滅する際に巻き込まれて犠牲者が出ないようにね」

 

「了解! さあ、私の力を注ぐわ、お兄さん。精霊魔法を使ってね!」

 

ニッコリ微笑んでくるシルフィー。

・・・妹、ありかも。

 

「<微風の探索(ブリーズ・サーチ)>」

 

優しい風が俺を吹き抜けて行く。

 

大勢の魔物たちが向かって来るのが風の間隔の中に伝わってくる。

 

「ヒヨコたちの報告通りだ。逃げ遅れて巻き込まれている人間や他の種族もいないな」

 

よし!これが確認できればもう問題ない。

後は打ち漏らしや拡散さえ防ぐことが出来れば安心だ。

 

「ベルヒアねーさん、今度はねーさんの力が借りたい。いいか?」

 

急に後ろからギュッと抱きついてくるベルヒア。

 

「・・・いいわ、あたしの力、みーんなヤーベに貸してあげる。そのかわり、後で・・・ね?」

 

ベルヒアねーさん!後で!後で・・・ねってなんすか!ねって!

そんなキャラでしたっけ?

 

「・・・女はいつでも不思議を纏うものよ? さあ、私の力を注ぐわよ」

 

「<土壁建造(アース・ウォール)>」

 

ズガガガガガガッ!

 

俺たちの場所から左右に五メートル程度を空けるように土壁がそそり立っていく。

ハの字の様に斜めに切り立った高さ三メートル程度の壁を出現させた俺はその空いた空間、いわば漏斗の出口部分に陣取る。

 

ついに魔物がその姿を現す。

 

 

「ギギャーーーーー!!」

 

ああ、ゴブリン語わからなくてよかった。「お前ら殺すゴブ」とか「うまそう、食ってやるゴブ」とか言われたらゲンナリするところだわ。

 

「ちっ、本当に大丈夫なんだろうな、ヤーベ?」

 

背中の剣を抜き、一応構えるゾリア。

一方微動だにしないイリーナ。

・・・イリーナ生きてるよね?大丈夫だよね?

 

「ねえねえ、どうするのヤーベ?」

 

ボクッ娘ウィンティアが興味津々といった感じで聞いてくる。

 

「あまりに魔物の数が多いんでね。焼いたり切ったりして風や水や土に悪い影響が出ても

いけないかなーと思うんで、みんな吸収します」

 

「わおっ! 取り込むんだ・・・おにーさんのパワー増大だねっ!」

 

ウィンティアよ、ついに君もおにーさんになってしまったね。

 

「ひっさびさに魔力(ぐるぐる)エネルギー全開で行きますので。もし万が一暴走しそうだったら止めてね?」

 

ちょっと可愛く言ってみる。

 

「はっはっは、心配するなヤーベ、お前が暴走したら俺が責任もって丸焼きにしてやる!」

 

「どこにも安心できる要素ねーよ!?」

 

フレイアは相変わらずだな。だか今回お前の出番はない(三回目)。

 

「変身!スライムボディエクストラ!」

 

一応、変身!って言ってからローブを脱ぎ去る。

その姿はデローンMr.Ⅱだ。

 

「全開!魔力(ぐるぐる)エネルギー! スライム細胞よ、増殖せよ!」

 

ムリムリムリムリッ!

 

伸ばした触手がまるでマッチョな男の太腕のようにボコボコと膨らんだかと思うと、本体ボディよりも大きくなっていく。

そして<土壁建造(アース・ウォール)>で作った壁の前に増殖したスライム細胞をあふれさせていく。

 

スライム細胞への命令は一つ。

 

「触れたものを取り込み、消化せよ」

 

どんどんとスライム細胞を増殖させていく。増殖したスライム細胞は俺のような形をせず、ただボコボコと粘体をくねらせる様に大きくなっていく。色だけは本体の俺と同じグリーンだけど。

まあ、見る人が見れば気持ち悪いと言えるだろう。

 

「わー、すっごいねおにーさん。これからどーなるの? ボク期待しちゃうな!」

 

ワクワクしまくって聞いてくるウィンティア。何を期待してるんですかね?

俺無双するつもりではありますが、あんまりヒーローっぽくないっすよ?

 

「みんな、ボコボコ増殖させたスライムには絶対触るなよ。取り込まれて消化されるぞ」

 

「キャー!お兄さんと一体に?」

 

シルフィー、それダメなヤツだから。ヤンでるヤツだからね?

一緒に居たかったらいつでもいるから、一体はダメだからね? ダメ、一体!

 

「ヤーベ殿、来たぞ!」

 

イリーナが叫ぶ。ついに接敵した魔物軍団。だが、先頭のゴブリンたちが俺が仕掛けたスライム細胞に触ると状況が一変する。

 

「ギョエェェェッ!」

 

至る所で叫び声が溢れる。次々とスライム細胞に取り込まれていくゴブリンたち。

取り込まれて大きくなったスライム細胞が後ろから押し寄せる新たなゴブリンたちを次々飲み込んで消化してゆく。

 

「こ、これは・・・。だから、直線的に向かって来るなら策がある・・・と言ったのか」

 

ゾリアが信じられないといった表情で呟く。

 

目の前の光景は、次々と大きな網が張ってあるのに気が付かず真っ直ぐ泳いでくる魚を捕獲するが如し。

後ろからどんどん猪突猛進してくるのだ。勝手に増殖したスライム細胞にぶつかって取り込まれてゆく。

ぶつかって左右に散らばる連中が出ても<土壁建造(アース・ウォール)>で大きく遮断しているため、迂回して進むことは出来ない。

 

そしてゴブリンがオークに変わった。

 

「ブモーーーーー!!」

 

あ、やっぱりオークはぶもーなのね。なんかブモーってミノタウロスのような牛のイメージもあるけど。

まあ、オークに変わったところで、俺はやることに変わりない。

というか、増殖させたスライム細胞は取り込んで消化せよという命令1点のみを繰り返しているため、魔物を消化してエネルギーに変えて行くたびに勝手にどんどん大きくなっていく。だから俺は最初の一手の後は、ぼーっと見ているだけだ。

 

「ヤベェ・・・このまま約八千の魔物を完封するのか? ありがてぇがナイセーになんて説明すりゃいいんだ?」

 

頭を抱えだすゾリア。

町が無傷で助かるんだ。そのくらいはうまく働いてくれ。

 

そしてついにオーガやトロールと言った大型の魔物が見えた。

土壁建造(アース・ウォール)>を三メートルにしてよかった。

二メートルだったら顔を出されてるよ。

どっかのマンガみたいに壁の上から巨人に顔を出されるのって結構なトラウマになりそうだもんな。

こちらも綺麗さっぱり吸収させてもらおう。

 

ドオンッ!

 

「チッ!圧がすごいな! みんな!下がれ!」

 

オーガの突進力が想像以上に強力だった。

オーク程度なら増力したスライム細胞がそのぷよぷよボディで受け止めて包み込んで高速吸収して行ったのだが、オーガの第一陣を受け止めた後、吸収し切る前に第二陣、第三陣の突撃を受け、スライムボディが第一陣のオーガごと押される。土壁がきしむ。

 

「よっしゃー、俺の出番だな!燃やし尽くすぞ!ヤーベ!」

 

フレイアが右肩をぐるぐる回してアピールしてくる。

だがフレイアよ、今回君の出番はない(四回目)。

 

増殖させて魔物を吸収させまくったスライム細胞は当然の如く俺の触手が元になっているため、俺という本体と接続されたままだ。

 

つまり、ゴブリンから初めてすでに六千以上の魔物を吸収し切っているという事。

つまりは圧倒的エネルギーをすでに俺は得ているのだ。

 

 

ドンッ!

 

 

「さらに倍!」

 

増殖した吸収消化用スライム細胞を一気に二倍に膨れ上がらせる。

俺のセリフがクイズ・ダー〇ーを思い起こさせるのは元々二十八歳だった俺の年齢からすれば些か古いか。まあクイズ好きだから、良いよね。

 

一気に倍にしたスライム細胞は縦に飛び掛かる様に増殖させたため、第二陣、第三陣のオーガ、トロールの上空から降り注ぐ様に包み込んでいく。

 

「ギョギャーーーー!」

「グモモモモー」

「ギャーーース!」

 

・・・ちょっと怪鳥みたいな叫び声も聞こえたが、まあ気にしない事にしよう。

 

そして<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物は一匹残らず吸収され尽くした。

 

「ははは・・・、やった、やっちまったよ。八千の魔物を完封だぜ!こっちは被害ゼロだ。チクショー、こんなのSランク冒険者でもできやしねぇぜ!数の暴力ってな、どうにもならん時も実際はあるもんなのに・・・、ヤーベ、おめぇすごすぎっぞ!」

 

「ゾリア、落ち着け。言葉遣いが戦闘民族みたいになってるぞ」

 

「おおっ? 変だったか?」

 

「ああ、とにかく落ち着け。これで<迷宮氾濫(スタンピード)>の対応も完了だ。後はゆっくりナイセーと上への報告を頑張ってくれ」

 

「ああ、それがあったか・・・」

 

急にテンションがダダ下がるゾリア。

 

「いや、どっちかってーと、お前の仕事はそれが本番のはずだが?」

 

「いや、お前、こんなすげーもん見せられて、何の説明も出来ねーんだぞ!? 本当に英雄にならなくていいのかよ? Sランク冒険者への推薦だって夢じゃねーぞ?」

 

「いや、そんなメンドーな立場はいらん。今後ともFランクでよろしく」

 

「こんなFランクがいるか!」

 

「なんと言われようと上げる気はない。試験も受けないぞ」

 

「ギルドマスター権限で上げてやるわ!ふはははは!」

 

「悪の総督みたいに笑ってんじゃねーよ!」

 

「わー、すごいねおにーさん。ところであのぽよぽよを通り越してぶよぶよした巨大化おにーさんの一部はどうするの?」

 

おっと、ゾリアとの無駄話ですっかり忘れていたが、取り込み消化の命令中なスライム細胞を放っておくと危ないから。もちろん回収です。

 

「そりゃ!」

 

ギュォォォォン!

 

本体に一気に吸収されるスライムボディ、おかげで本体がものすごく巨大化した。優に3mを超えている。土壁よりも高い。土壁から覗く巨大スライム・・・トラウマ必死ですな。

 

「ヤ、ヤーベ殿・・・その、ヤーベ殿はそんなに大きくなってしまったのか・・・? それでは私などは・・・私などは・・・」

 

なんかぶつくさ呟いているイリーナ。でっかくなっちゃったから聞き取りづらいわ。

もちろんこんな巨大ロボットみたいにでっかくなったままじゃ町の屋台も楽しめない。

俺様はぐるぐるエネルギーという名の魔力を使って細胞を圧縮していく。

 

シュルシュルシュル~。

 

「お待たせ。で、何か言った?」

 

いつもの大きさに戻ってイリーナの前に立つ。

 

「ヤ・・・ヤーベ!!」

 

なんだかいきなり泣き出して縋り付いて来るイリーナ。

どこにこんな感動の再開?みたいなフラグがあったのだろう? 全然気づかなかったけど。

 

「たくさんの魔物が来るのに、町を守るために一人で戦うって・・・心配したのだぞ! それにでっかくなっちゃって、もしかしたらもうイリーナはいらないって言われるかもしれないと思ったら急に不安になって・・・」

 

心配かけたのは悪いと思うが・・・、もともとイリーナいるって言ってない気がするけど、それを指摘するのは野暮ですかね!?

 

「まあ、なんだ。心配かけてゴメンな? でももう大丈夫だ。俺もイリーナも、町もな」

 

「ヤーベェ!」

 

泣きながらぎゅうぎゅう抱きついてくるイリーナ。

これをメンドクサイなんて言ったらダメなんでしょうね? なんだがいつもの「クッオカ」の方が処理しやすい気がしてくるのはどうしてでしょうね!?

 

「ねえねえ、ヤーベ? ローガ達が心配だし、そろそろカソの村へ様子を見に行った方がいいんじゃない?」

 

あっと、ベルヒアねーさんナイスツッコミ!そうだよ、ローガ達に任せたカソの村の方も様子を見に行かなきゃ。

まあ、ローガ達はぶっちぎりで強いからな。ゴブリンやオークが何匹いようとも全然心配してないんだが。

ヒヨコからの報告が来てないから、向こうの戦闘が終わってはいないんだろうけど。

 

「よし、カソの村へ行こうか」

 

 

 

そして、呆然と立ち尽くす一人。

 

「で、出番無かった・・・」

 

炎の精霊、フレイアであった。

 

 




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閑話3 疾風怒濤のローガ達

草原を怒涛の如く突き進む一団。

砂煙を濛々と上げながら超高速移動しているこの集団を通りすがりに見た商人は、後にこう語っている。

「あまりの速さにマジビビッた!」・・・と。

 

 

 

『お前たち!ボスからの直々の命令だ!絶対に抜かるんじゃないぞ!』

 

『『『おおっ!』』』

 

今まで、ボスであるヤーベからの指示は、基本的に「お願い」だった。

 

「泉の北を調査に行ってくれるか?」

「カソの村でお祭りがあるから獲物をたくさん狩って来てくれるか?」

 

普段とても優しいボスは命令がいつも依頼口調だった。

もっと厳しく手足の様に使ってもらっても構わないと伝えたりしたのだが、

 

「お前たちは大切な部下であると同時に仲間だから」

 

と言ってニコニコしていた。

 

だが、今回ははっきりと伝えられた。

 

「全狼牙族と、ヒヨコ隊長の全部隊の指揮をお前に預ける。今よりカソの村へ急行し、村へ迫る魔物を一匹残らず殲滅せよ」

「行け!必ずカソの村を守り切れ!」

 

身震いするほどの高揚。敬愛するボスからの勅命。

これで奮い立たなければ男ではない。

 

 

 

『隊長!ローガ殿たちの速度に追いつけません!』

 

ローガ達狼牙族の一団が超高速でカソの村に向かったのだが、気合が入りすぎているのか、ヒヨコたちの飛行速度を上回る速度で進行していたため、ヒヨコの一団が遅れていた。

 

『くっ!ローガ殿はボスの勅命にかなり気合が入っていたからな・・・』

 

全速力で飛びながら会話するヒヨコ隊長。

 

『二手に分かれる! 半数を今カソの村へ向かっている一団を追っている別動隊と合流させろ。半数はこのまま俺に続け!』

『はいっ!』

『別動隊と合流したらカソの村へ伝令を飛ばせ!俺を見つけてその距離を報告しろ!』

『はっ!』

 

そうしてヒヨコの半数が分かれて離れて行く。

 

『とはいえ・・・ローガ殿達のやる気を考えると・・・到着した時、我々のやる事が残っているのか、若干不安だな・・・』

 

ヒヨコ隊長は全然別の内容で不安を感じていた。

そして、その不安は的中する。

 

『た、隊長!』

『なんだ、どうした?』

『ボスが、出立する直前、伝言を!』

『なんだと! 何と言った!?』

 

後ろから何とか追いついて来たヒヨコがとんでもない事を報告してきた。

ローガ殿が勅命を受けて猛ダッシュで出立したのでそれに送れないよう急いで飛び立ったのだが、まさかボスが後方の部隊に伝言を残していたとは・・・

 

『はっ! なんでもオークという魔物は比較的肉がうまい可能性が高く、出来れば形を残して仕留めるように、との事であります』

『なっ!なんだと!』

 

ヒヨコ隊長は若干狼狽した。

出来れば形を残して仕留める、だと・・・。

今のやる気満々なローガ殿一党が敵に突入したら・・・。

 

『まずいっ!何としても追いつかねば、戦闘が始まったら敵は形を残さず消し飛んでしまいかねんぞ!』

 

ローガ殿の戦闘力は言わずもがなだが、現在四天王と言われる四頭の狼牙。この連中の戦闘力がハンパない。風牙、雷牙、氷牙、ガルボ、このうち風牙、雷牙、氷牙はその名の通りの自然現象を操るスキルを持つ。魔法も併せ持つので広範囲の敵も殲滅するだけの実力を持つ。ガルボ殿は比較的力任せのイメージがあるが、他の三頭がその魔力をフルに顔砲してフルパワーで戦闘をすれば、地形すら変わりかねない。オークの原型が残ることなどまずないだろう。

 

『このまま追いつけずオークが消し飛んだら、ボスに合わせる顔がない!何としても追いつくぞ!』

『ははっ!』

 

ヒヨコたちはさらに速度を上げローガ達を追いかけた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

ザンッ!

 

ローガ達はカソの村から少し離れた場所に陣取った。

陣と言っても、ローガを中心に一列に並んでいるだけだ。

まだ敵の姿は見えない。

 

『お前達、準備は良いか?』

『『『もちろんですリーダー!』』』

 

ズラリと並んだ狼牙達が一斉に返事をする。

 

『ボスは我々の敵の四倍もの数を一人で受け持つと言われた。何としてもここに来る敵を速攻で殲滅し、ボスの援護に戻るぞ!』

 

『『『『ははっ!』』』』

 

そしてやってくるゴブリンたち。

 

「ギャギャギャ!」

「ギャギャー!」

 

『ふんっ、何を言っているのか全く分からんな』

『まるで知性の無い魔物というのは哀れすら感じますな』

『仕方あるまい、ボスから力を頂いている我々とは違うのだ。知性も無いのだから、殲滅するのに気を病む必要もない』

 

四天王の内、ヤーベから直接名を賜った三頭がゴブリンをあざ笑うかのように前に出る。

 

『先陣は任す。油断するなよ』

 

『『『ははっ!お任せください!』』』

 

三頭が飛び出す!

 

『は~、やる気が違うでやんすね、あの三頭は』

『ボスより直接名を賜ったからな。それだけの結果を見せねばならんと考えているだろうよ』

『こりゃあ、俺の出番はないでやんすなぁ』

 

ガルボの苦笑にローガも頷く。

 

『それでもかまわんがな、油断だけはするな。お前は万一この布陣を抜けてくるような魔物が出たら必ず仕留めてくれ。まあ、そんな奴が現れるとは思えんが』

『了解でやんす』

 

ローガとガルボが話している間も三頭を先頭に狼牙達が攻めあがる。

 

『我が名は風牙!ボスより頂いたこの名に恥じぬよう、この戦先陣を切らせて頂く! まずは受けよ! わが身に纏いし風よ!切り裂け!<真空烈波(エアブラスト)>』

 

風牙の体が風を纏い、高速で駆け抜ける際に真空刃を発生させ敵を切り裂いていく。

 

『ふはははっ!ならば我も負けてはおれぬ。我が名は雷牙。我の力を受けてみよ! 大気に宿りし陽炎の力!今こそ降り注ぎ彼の敵を打ち破らん!<雷の雨(サンダーレイン)>』

 

雷牙の前方に広範囲にわたり雷が降り注ぎ、敵を焼き尽くしていく。

 

『ふっ!ならば我も力を見せようか。我が名は氷牙!我が前に立つことは自ら死地へ踏み込む事と同じと知れ! 大気に集う零下の子らよ、氷雪に舞え!<凍結細氷(ダイヤモンドダスト)>』

 

氷河の前方に強力な冷気が放たれ、魔物が凍り付き砕けて行く。

 

 

その後ろから狼牙達が突撃して行く。その爪と牙を縦横無尽に振るい、敵を屠って行く。

実際の所、ゴブリンやオークは狼牙と比べると魔物の分類ではワンランクかあツーランク低い。とはいえ圧倒的にゴブリンやオークの方は圧倒的に数が多い。通常ならばまともに戦うのは無謀とも言える戦力差であったが、ヤーベの部下となった狼牙達は与えられたスライム細胞で強化されたローガを筆頭に狼牙一党が圧倒的な実力を持つように進化した。ローガの力がその一族にも流れ込むようなそんな強化状況にあった。

 

『ローガ殿!攪乱担当します!』

 

別動隊の敵を追っていたヒヨコたちが、敵の間を飛び回り攪乱して行く。

 

『集団から単独で逃げ出さない様に監視してくれ』

『了解!』

 

もはやゴブリンやオークは陣形を留めることも出来ず、ばらばらに蹴散らされていく。

切られ、焼かれ、凍らされ砕けて行く。

 

あっという間にゴブリン、オークの軍勢を殲滅したローガ達。

そこへやっとヒヨコ隊長たちが到着する。

 

『ローガ殿!』

『おお、ヒヨコ隊長。ご苦労さん。敵は殲滅してしまったぞ』

『しまった・・・遅かったか』

『何かあったか?』

『出立する時、ボスが後方のヒヨコに伝言を・・・』

『何!?何とおっしゃったのだ!』

『オークという魔物は比較的肉がうまい可能性が高く、出来れば形を残して仕留めるように、との事でした』

『なんだと!?』

 

ローガが立ち上がり、目の前の状況を確認する。

 

『これは・・・手遅れ・・・か』

 

ローガがうなだれる。

ヒヨコ隊長は全力で飛んで来たにも関わらず間に合わなかったことにがっくりと翼を落とした。

 




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閑話4 ギルドマスターの葛藤 前編

はあ~

また、溜息が出ちまった。

先日ヤーベとかいうバケモノがギルドに登録して行った。

それ以来現れないので、最近はちょっと落ち着いて体調も戻って来た。

ヤーベが帰った直後は小便が近かったり、鼻血が出やすかったがそれも解消されてきた。

最近は食欲も戻って来て昼飯がうまいってもんだ。

 

今も手が離せなかったので、副ギルドマスターのサリーナに屋台へ買い出しに行ってもらっている。

最近屋台で流行り出した食べ物がすごいウマイんだ!

「ワイルドボアのスラ・スタイル」って料理なんだが、これが食べやすくてウマイんだ。

ワイルドボアのジューシーな腿肉に新鮮なキャベキャベの千切りとトマトマのスライスを柔らかいパンに挟んでタレをかけたものだ。

一つあたりは片手で持ってかぶりついて食べられる程度の大きさだ。俺の腹からすると五個くらいはペロリと食べられるな。

この挟んでいっぺんに食べる食べ方をスラ・スタイルと呼ぶらしい。

ワイルドボアの他にジャイアントバイパーやサンドリザード、オークの肉を挟んだスラ・スタイルも販売してるみたいだしな。

 

だが!このスラ・スタイルよりも俺のお気に入りがあるんだ。

それが「アースバードの唐揚げ」だ!

この唐揚げなる食べ物、あまりに画期的だった。大量の油の中で揚げる、なかなかに高価な料理なんだが、一度に結構な量の調理が出来るらしく、屋台でもじゃんじゃん揚げていた。

もうすでに各屋台でアースバードの唐揚げにかけるタレの違いをアピールしているようだ。最も俺は何もかけないシンプルな唐揚げが一番好きだ。

聞いた話によると油は何度も使用すると劣化するらしいので、一日使ったら処分して新しい油にするのがうまい唐揚げを作る秘訣

らしい。

調理自体は簡単なので、屋台だけではなく食事処でもおかずとして人気が出ていたり、居酒屋ではおつまみメニューとして大人気らしい。

 

代官のナイセーも先日屋台街を視察して、相当な盛り上がりに経済活性化に期待できると言ってたしな。

まあ、難しい事はナイセーに任せて、俺は唐揚げが山盛り食べられれば十分だ。なんなら三食すべて唐揚げでもいい。

 

 

ああ、イカンイカン。今はランデルと話している途中だった。

ランデルはギルドが魔道具を製作依頼している錬金術師だ。

今まで毎年<調教師(テイマー)>用の「使役獣のペンダント」を十個発注、納入してもらっていた。だが、ここ二年は<調教師(テイマー)>の登録も無くペンダントの使用が無かった。他の町から来ることを考えて東西南北の各門に十個ずつ使役獣のペンダントを常備している。そしてこの冒険者ギルドにも二十個の常備がある。正直これ以上増やしても無駄だろう。そんなわけで錬金術師のランデルを呼び出して、今年以降は使役獣のペンダントを購入しない旨伝えていたわけだ。

 

「・・・何とかなりませんかね・・・」

 

「そうはいっても、もう二年も使用実績が無いしな。今の在庫品で十分だとギルド側としては判断した。悪いが今年から納品は不要だ」

 

「そうですか・・・」

 

ランデルは仕事の一つが切られたことに落ち込んでいるようだ。

ランデルは決して腕が悪いわけでも仕事料が高いわけでもない。

だが、ギルドの財源も有限だ。不要な事に予算を振り分けられない。

 

落ち込むランデルがギルドを出て行った後、入れ替わるようにしてサリーナが帰って来た。

 

「ギルドマスター、ご所望のワイルドボアのスラ・スライルとアースバードの唐揚げを買ってきましたよ」

 

優に五人前はありそうな量をテーブルの上に置くサリーナ。

お茶まで用意してくれるのはさすがだな、ありがたい。

 

「少し食べ過ぎでは? スラ・スタイルには多少野菜が含まれていますが、唐揚げはお肉の塊ですし、脂っこいでしょうから食生活のバランスがイマイチだと思いますよ?」

 

「まあまあ、野菜は今度取るとして、今はアースバードの唐揚げだな!」

 

まるで母親のような忠告をくれるサリーナの苦言をスルーして、ホクホクと唐揚げを頬張りながらサリーナが用意してくれたお茶を飲む。

 

「大変です、ギルドマスター! 西門に狼牙が大量に現れ、街道から少し離れた場所に一列に整然とお座りしているとの連絡がありました!」

 

「ブフォッ!」

 

「キャッ!」

 

思わず口の中のお茶と唐揚げを噴いてしまう。

 

「ゲホッ!ゴホッ! な、なんだと!」

 

狼牙が大量に整然と並んで・・・って、ヤツの仕業以外に考えられねーだろうがぁぁぁ!!

 

「ギルドマスター、どうしますか?」

 

「すまんサリーナ。お前西門に出向いて様子を見て来てくれるか?」

 

「わかりました」

 

そう言ってギルドを出て行くサリーナ。

・・・ったく、何考えてんだ、アイツ。

 

 

 

 

 

人心地つけて、食事を再開したのだが・・・

 

「ギルドマスター、大変です!」

 

別の職員がまた部屋に駆け込んで来る。

 

「今度は何だ!」

 

「西門の衛兵が来て、使役獣の証明のためのペンダントが二十一個足りないので至急追加分を西門まで届けて欲しいとの事です」

 

「・・・あっ!」

 

しまったーーーーーーーー!!

あのヤロー、大魔導士なんて書いてあったが、<調教師>テイマーでもあったんだ。そういや狼牙族六十匹だったか・・・。ランデルに使役獣のペンダントいらねぇって言っちまったよ・・・。何で気が付かなかったんだ俺! さっきランデルにもういらねーとか言っちまった俺をぶん殴りてぇ。

 

「頭痛ェ・・・、ん? 何で二十一個だ?」

 

「何でも、西門に常備してあった十個では足らず、各門の十個を回収に行かせ、これで合計四十個集まるらしいのですが、使役獣が合計六十一匹のため、まだ二十一個足りずギルドのストックを頂きたいとのことです」

 

「何で一匹増えてんだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ぎょっとする職員。だが仕方ねえだろ。

この前のギルド登録申込書には狼牙族六十匹と確かに書いてあった。いつの間に一匹増やしてんだよ!

 

「で、ギルドマスター、どうしましょう?」

 

「在庫から出して持ってけ・・・あ! 一個足りねーぞ!」

 

「ええっ!?」

 

「ええいっ! いいからとりあえず在庫の二十個を衛兵に引き渡せ!」

 

「わかりました!」

 

「それから、さっき帰った錬金術師のランドルを再度ギルドへ呼んでくれ。大至急だ!」

 

「は、はははい!」

 

職員が部屋を飛び出していく。

 

 

 

 

 

「お呼びと聞きましたが・・・?」

 

錬金術師のランデルが再度やって来た。

 

「わざわざ戻ってもらってすまないな。緊急事態だ。特殊な<調教師(テイマー)>が現れてな。大至急使役獣のペンダントを一つ製作して納品してくれないか・・・」

 

「はっ?」

 

先ほどもういらないと言われてギルドから帰ったのに、もう一度呼ばれて、今度はすぐ一つ作れと言われたんだ。すぐに理解できなかったか。

 

「マジで急いでるんだ。一個でいいから完成したら西門にすぐ届けてくれないか?」

 

「ええっ? 先ほどもう使役獣のペンダントは不要だと言う話だったのでは?」

 

「だから、特殊な<調教師(テイマー)>が急に来たんだよ!」

 

「今すぐですよね・・・? 特急料金になりますが」

 

「ぐ・・・仕方ねぇ」

 

足元見られてるような気がしないでもないが、特急で対応が必要な事は事実だ。

 

「わかりました。それではすぐに取り掛かります。一つだけならそれほど時間はかからないと思いますので、完成したらすぐ西門まで届けますよ」

 

「ああ、頼む」

 

「それから、毎年十個納品させて頂いていました使役獣のペンダントはどうしますか?」

 

少々ニヤッとした表情で聞いてくるランデル。

 

「・・・予定通り納品を頼む」

 

「毎度ありがとうございます。それではとにかくすぐ一つ作って届けてきますね」

 

そう言っていそいそとギルドを出て行くランデル。

 

「くっそー、これでまたギルドの予算見直しだ・・・」

 

俺は頭を抱えた。

 




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閑話5 ギルドマスターの葛藤 中編

「やっほー、お久~」

 

「お久じゃねーよ! どんだけ使役獣連れて来てるんだよ!」

 

副ギルドマスターのサリーナを西門にやってしばらく、ヤーベの六十一匹の使役獣登録が終わったと報告を受けた。ヤーベも来ているとのことで部屋に入るよう告げたのだが、入ってすぐのセリフがこれだ。

こいつ、本当にふざけてやがる。

挙句、使役獣のペンダントをたっぷり用意しておけだと!

ギルドの予算は厳しいっての!

 

そういや、まだ食事の途中だったな。ヤーベの野郎、テーブルの上にあるスラ・スタイルや唐揚げに興味津々と言ったところか。どれ、一つ俺様が解説してやるか。

 

「田舎モンのお前さんにゃ初めて見る食べ物かもしれねーけどな。ワイルドボアのスラ・スタイルって料理と、アースバードの唐揚げって食べ物だ。今この町で大流行り何だぜ。王都でも流行る事間違いなしって人気の食べ物さ」

 

はっはっは、ヤーベのような田舎モンにゃあ、食べたことない料理だろうさ!

食べたくてもやらんぞ!俺のメシだからな!

 

「これはヤーベ殿が考案した料理ではないか。カソの村の開村祭で振る舞った時の」

 

「ブフォッ!」

 

なんだと!?

 

「おわっ!汚い!」

 

「ギルドマスター、大丈夫ですか?」

 

サリーナがテーブルを拭いてお茶をくれる。本当にサリーナを副ギルドマスターに抜擢してよかった。それにしても・・・。

 

「お、お前が考えたのか!?」

 

「まあなんだ、そうなるかな・・・」

 

若干遠い目をして語るヤーベ。それを横で見ているイリーナ嬢。

なんだよ、訳ありか?

とんでもねー魔力の持ち主だと思ったら、料理も出来るのかよ。

 

「まあ、そのおかげでこの町の屋台街も盛り上がってる。経済的にもいい影響が期待できるってナイセーも言っていたしな。その事は素直に感謝したいところだ。特に俺はこのアースバードの唐揚げにめちゃくちゃハマっていてな・・・これホントにうまいよな」

 

唐揚げを口に入れる。外側のカリッとした触感に対して中の肉のジューシーな事と言ったら!ヤーベは気にくわないことが多いが、このアースバードの唐揚げだけは褒めてやってもいい。

 

「役に立つことが出来て何よりだよ」

 

こーいうトコ、良い奴っぽいんだよな、ヤーベってやつは。

裏表なく、シンプルに人が喜んでくれることを喜べる奴ってのは間違いなく良い奴なんだ。

 

「それで? 今日は使役獣の自慢にでも来たのか?」

 

「ああ、そう言えばこの町の北にある迷宮で<迷宮氾濫(スタンピード)>寸前って情報が入ったんでね。ゾリアに相談に来たんだけど」

 

はっ? コイツ、今何て言った・・・?

迷宮氾濫(スタンピード)>・・・?

 

「・・・・・・早く言えーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

迷宮氾濫(スタンピード)>だとっ! 冗談じゃねぇ!

過去300年以上記録が残っている限り<迷宮氾濫(スタンピード)>は一度もない。

このタイミングでか!

 

「ス、ス、<迷宮氾濫(スタンピード)>だとぉ! 本気なのか!ホントなのか!事実なのか!」

 

「いや、落ち着けよ。本気だし、本当だし、事実だけど」

 

「唐揚げの話してる場合じゃねーじゃねえか! サリーナ!そんな情報入っているか!?」

 

「いえ、まだギルドには何も・・・」

 

ヤーベの話では使役獣にいるヒヨコたちの情報収集からってことだが、かなりの広範囲から情報を収集できるみてーだな。

それにしても<迷宮氾濫(スタンピード)>か・・・、事実であればとんでもないことになるな。

 

「ギルドマスター、緊急発令を掛けますか?」

 

副ギルドマスターのサリーナが心配そうな顔で聞いてくる。

だが、ヤーベの報告だけで事を進めるわけにはいかん。

俺たちも自分の情報網で確認をしなければ。

 

「いや、まだ情報が足りん。ヤーベが嘘を言っているとは思わんが、ギルドも情報が欲しい。職員を迷宮に大至急派遣してくれ。それから衛兵詰め所に行って、迷宮管理担当に現地管理の交代員を送るタイミングで情報を取る様に指示してくれ。<迷宮氾濫(スタンピード)>なんてことになれば、どれだけの被害が出るかわからん」

 

「わかりました」

 

「それから、指示を出したら、お前が直接代官邸に赴いて代官のナイセーに取り次いでもらって事情を説明して来てくれ。出来ればすぐにでもこちらで打ち合わせを行いたいと申し入れてくれ。それから、情報は統制しろ。変に伝わるとパニックになりかねん」

 

「了解しました。それではすぐに対応します」

 

こんな時でも冷静なサリーナ。本当に頼りになるぜ。

 

 

 

 

 

さて、<迷宮氾濫(スタンピード)>の情報をヤーベから引き出そうと会話を続ける。どれくらい余裕がありそうか聞いたら、ほとんどないとか言いやがる。なんでだよ!

 

大体、カソの村の村長のひいひいひいひいひい爺さんの知り合いでガーリー・クッソーさん(108)の書き残した資料って!何だよそれ!知らねーよ!

 

そのうちCランクパーティ<呪島の解放者>のケガ情報が入って来た。

そして迷宮にオーガが出たとの報告が入る。

 

「オーガ!」

 

「オーガってヤバイのか?」

 

ヤーベが聞いてくる。こいつは魔物の事なんも知らねーからな。

 

「単体でゴブリンがEランク、オークがDランクだが、オーガは単体でもCランクだ。これが複数出ると、それぞれワンランクアップの危険度になる」

 

・・・あれ? そういやヤーベが使役してるのって、Cランクモンスターの狼牙じゃなかったか?それが六十匹?いや、六十一匹か。あれれ、<迷宮氾濫(スタンピード)>で出てくる魔物の数にもよるが、ヤーベの軍団だけで結構迎撃行けるんじゃね?

 

「・・・あれ? そういや、狼牙たちはCランクって言われてたか?」

 

「・・・そうだな。狼牙は単体でもCランク認定だ。お前は軍団で率いているから、Bランク脅威認定だな」

 

「勝手に脅威認定しないでくれ」

 

「だが、今はこれほど力強い味方はいねーと思ってるよ」

 

今ほどヤーベがいてくれてよかったと思ったことはない。

何せ魔力五十三万の男だしな。

 

「どれほど期待に応えられるかはわからんがな」

 

いやいや、ヤーベよ、おんぶにだっこでお前の力を借りるとしよう!

 

 

そして協議は代官のナイセーも交えて進んでいく。

俺は町の外壁を使った防御を提案するが、ナイセー殿が渋い顔をする。そりゃそうだよな、町の外壁で防御するのは、もはや背水の陣だからな。失敗は許されない。

どうせならヤーベが突撃して俺TUEEEEで魔物を蹴散らしてくれると最高何だが・・・。

 

議論を進めていると、ギルド内でなにやらざわざわしている。。

 

俺はサリーナと顔を見合わせる。

 

トントン

 

扉がノックされた。

 

「はい」

 

サリーナが首を傾げながら扉を開けると、

そこには頭にヒヨコを乗せた狼牙がいた。

コイツ、狼牙にしてはデカくないか?

 

「おいおい、ギルド内に使役獣を入れるのは禁止されているんだがな」

 

「そうなんです、ローガちゃん。建物内には入ってはだめなのですよ・・・」

 

そう言いながら跪いて巨大な狼牙の首に手を回しふさふさの毛に埋めるサリーナ。

だ、大丈夫か?

 

「こ、これが使役獣の狼牙? なんと立派な・・・」

 

代官のナイセーも初めて見る巨大な狼牙に驚いている。

もしかして、この狼牙Cランクどころの騒ぎじゃないんじゃないか?

 

ヤーベと狼牙とヒヨコは何か意思疎通しているようだ。

調教師(テイマー)>ってすげえな。ちょっと羨ましいぜ。

 

あれ?なんかヤーベがびっくりしてないか?

 

「どうした!」

「何があったのです?」

 

「<迷宮氾濫(スタンピード)>が始まって、迷宮から魔物が溢れ出たって」

 

「「えええーーーーーーー!!」」

 

もう!?もうなのか!早すぎない!?ねえ!

こーなったら、もう、ヤーベよ!

その力、全力で貸してくれ!

 




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閑話6 ギルドマスターの葛藤 後編

あっさり<迷宮氾濫(スタンピード)>が発生したとか言いやがる!

こっちの準備全く整ってねーよ!

 

しかも、規模が・・・

 

「いっ、一万!」

 

さすがにヤーベの声も裏返るほどの驚き。

迷宮氾濫(スタンピード)>の規模が一万だと・・・!?

国難の災害レベルじゃねーのか!?それは。

しかも真っ直ぐここへ向かって来ると言う。

悪夢以外の何物でもねーな。

 

俺とナイセーは防御に回せる人員の確認と打ち合わせを進めて行く。

くそ・・・これほどの規模の災害に対応できる冒険者グループなんぞ存在しちゃいねーっての!

 

そこへ、衛兵が飛び込んでくる。

 

「め、迷宮の魔物が氾濫しました!」

 

衛兵の報告が入るが、俺たちゃヤーベからの情報ですでに知っているからな。

<迷宮氾濫>スタンピードの事実は認識済だ。

 

「それで、規模は?」

 

代官のナイセーが必要情報の確認を行う。

 

「そ、それが・・・いきなり迷宮から魔物が溢れ出し、大量に真っ直ぐこちらに向かって来ましたので、正確な規模は・・・」

 

あたふたと答える衛兵。

 

「あなた以外で規模の確認を行っている者は?」

 

「交代員と詰めていた者が私を含めて六人おりましたが、私はこの氾濫の情報をいち早くお伝えすべく戻ってまいりましたので・・・」

 

あーあ、使えねーな・・・いや、ヤーベの情報が的確で速すぎるだけだな。

一万もの魔物が溢れりゃ腰抜かしてダッシュで逃げて来るだけでも精一杯かもな。

 

「とりあえず間に合わなくても王都に救援を・・・」

 

ナイセーの言葉を遮り、ヤーベが立ち上がる。

提案があるとか言いやがったから聞いて見たら、なんと自分の手勢だけで打って出るって言いやがった。正気か?コイツは!

 

だが、その後自分の能力を隠したいなど、いろいろと条件や要望を言ってやがったが、魔物は跡形も無く殲滅するって言い切りやがった。その上で仕留めた結果を報告しない、自分の名誉はいらないって言いやがったぞ、コイツ。

信じられねえ。これだけの規模の災害を食い止めりゃ、どう考えても死ぬほどの褒美が出るだろ、それも国王からな。下手すりゃ叙爵だってありうるかもしれねえ。Sランク冒険者への道だってある。なのにそれらを全て放棄したうえで、町のために敵に立ち向かうっていう。なんなんだ、コイツ!俺を泣かせてーのかよ?チクショー!

 

ナイセーに言われ、敵を壊滅させた確認を俺がとる事になった。

出撃するヤーベに並んで俺も町を出る。

 

「で、ホントのトコどーなのよ? どうやって敵を殲滅するつもりなんだ? 跡形も無く・・・さ」

 

探りを入れるもヤーベからの回答は無し。

さすがに手の内は簡単に明かさねーか。

 

さっきから何度かヒヨコが飛んで来てはヤーベに報告している。どうも敵の位置を逐一報告に来ているようだ。隣のイリーナ嬢はだいぶ緊張しているのか表情が硬いな。

 

だが、進軍を開始してしばらく、緊急のヒヨコの連絡が来たようだ。

雰囲気がピリピリし出した。

 

「なんだと!!」

 

ヤーベがいきなり叫ぶ。

 

「どうした、ヤーベ」

 

あまりにヤバそうな雰囲気だが、聞く以外にない。

 

「魔物の一部・・・ゴブリンとオークが進軍方向を変えてカソの村に直接向かったらしい。その数約二千!!」

 

「な、なんだと・・・!」

 

そいつはマズイ!

カソの村はさらに辺境の村だ。柵すら町を覆えていない。

 

その時、魔力の塊が溢れ出した気がした。

 

 

 

ドスッッッ!

 

 

 

ヤーベが魔導士の杖をものすごい勢いで地面に突き刺す。

杖を中心に魔力が渦巻くようだ。

 

「ローガよ」

 

いつもよりヤーベの声にドスが効いている。

飄々とした感じは完全に失せ、使役獣の狼牙達に指示を出した。

え・・・?全員行っちゃうの?ねえ!マジで?全匹カソの村に行っちゃうわけ?ホント?

 

その後、何を聞いても「そうだな」としか言わないヤーベ。

 

「・・・おまーふっざけんなよ! 使役獣全部他へやっちまってお前だけじゃねーか!どーすんだ?どーすんのよ!死んじまう!死んじまうぞ!」

 

俺はキレた。

 

ところが、ヤーベは落ち着いた様子で四大精霊を呼び出す。

ナルホド!精霊たちがいたから落ち着いていたのか!

それにしても、精霊たちと和気藹々な感じだけど、八千もの魔物がこっちに向かってきてるんだよな?

 

「まあ、何とかするけど。ちょっと派手な能力を使う。ゾリアが俺を見て何を思うかはわからんが、町を守るためにはこれしかない」

 

「・・・何をするんだ?」

 

「ちょっと能力で大幅に姿が変わる。だいぶ気持ち悪くなるかもしれん」

 

ヤーベは若干硬い声で言った。

敵に緊張しているというより、自分の能力に緊張している感じだな。

ここはひとつ俺様がほぐしてやらねば!

 

「ヤーベ、心配するな。お前がどんな姿になろうと、俺たちは友達だ。永遠にな!」

 

いつお前と友達になったよ、みたいな目で見るなよヤーベ。最もローブの奥の表情は変わらんが、その雰囲気はわかるぞ。

お前友達いなさそうだからな、俺がなってやるぞ、たとえお前がどんな風になってもな!

 

精霊の力を借りて準備を進めて行くヤーベ。

よく考えたら、精霊魔法を操る奴って、ほとんどいないよな。魔術師とか神官はいるけど。

 

そしてヤーベがその能力を開放した。

 

「変身!スライムボディエクストラ!」

 

ローブを脱ぎ去ったヤーベ。

何だか緑色の塊みたいな体だ。どうなってる?

まるで魔物のような体にも見えなくない。

それとも魔力の塊みたいな状態なら、精霊なのか・・・?

 

「全開!魔力(ぐるぐる)エネルギー! スライム細胞よ、増殖せよ!」

 

ムリムリムリムリッ!

 

ヤーベの体から触手のような腕が伸びる。

その伸ばした触手がまるでマッチョな男の太腕のようにボコボコと膨らんだかと思うと、ヤーベ本体よりも大きくなっていく。

そしてヤーベの作った壁の前に巨大な触手が陣取る。

ちょっと友達宣言した事を後悔しかかった。

 

そしてヤーベが呟く。

 

「触れたものを取り込み、消化せよ」

 

そして魔物の第一陣が突撃してくる。

ゴブリンの大群だ。

 

「ギョエェェェッ!」

 

至る所で叫び声が溢れる。次々とヤーベが準備した巨大触手に取り込まれていくゴブリンたち。

取り込まれて大きくなった巨大触手が後ろから押し寄せる新たなゴブリンたちを次々飲み込んで消化してゆく。

 

「こ、これは・・・。だから、直線的に向かって来るなら策がある・・・と言ったのか」

 

俺は目の前の光景が現実のものか判断するのに時間がかかった。

後ろからどんどん猪突猛進してくるゴブリンたち。次々と突撃して巨大触手にぶつかって取り込まれてゆく。

だが、この策があるからこそ、自分一人で約八千もの敵を受け持ったのか。

どんな能力なのか全く分からないが、あの触手はゴブリンやオークが触れるたびに取り込まれ溶かされていく。

 

「ヤベェ・・・このまま八千もの魔物を完封するのか? ありがてぇがナイセーになんて説明すりゃいいんだ?」

 

あいつTUEEEEEE!!

 

マジで無双してんじゃねーか!

どんなSランクの冒険者でも魔物を八千体も一人で倒すって、どんな小説ネタだよ!

何の能力だよ、コレ!

ちょっと詳しく説明してくれませんかねぇ!

 

 

ドオンッ!

 

 

なんだっ!? と思ったらオーガとトロールの群れが襲い掛かって来ていた。とんでもねえ迫力だな!

 

「チッ!圧がすごいな! みんな!下がれ!」

 

ヤーベが指示を出す。

吸収しきれずにその後ろに次の部隊が押し寄せてくる。

ヤーベの作った土壁が軋むほど押される。

全くもってトラウマ間違いなしの情景だ。

だが、このままでは押し切られてしまうぞ!

その時だった。

 

「さらに倍!」

 

ヤーベのコントロールする巨大触手が一気に二倍に膨れ上がる。

 

一気に倍になった巨大触手は縦に飛び掛かる様に第二陣、第三陣のオーガ、トロールの上空から降り注ぐ様に包み込んでいく。

そして<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物は一匹残らず吸収され尽くした。

 

「ははは・・・、やった、やっちまったよ。八千もの魔物を完封だぜ!こっちは被害ゼロだ。チクショー、こんなのSランク冒険者でもできやしねぇぜ!数の暴力ってな、どうにもならん時も実際はあるもんなのに・・・、ヤーベ、おめぇすごすぎっぞ!」

 

「ゾリア、落ち着け。言葉遣いが戦闘民族みたいになってるぞ」

 

「おおっ? 変だったか?」

 

自分が興奮しすぎてどんな口調かわかんねえ位だぜ。コンチクショー。

これで町が<迷宮氾濫(スタンピード)>から救われたんだ。ただの一人も犠牲を出すことなくな!誰がなんと言おうと、ヤーベはソレナリーニの町の救世主だ!英雄だ!

 

「ああ、とにかく落ち着け。これで<迷宮氾濫(スタンピード)>の対応も完了だ。後はゆっくりナイセーと上への報告を頑張ってくれ」

 

「ああ、それがあったか・・・」

 

気分が落ち込む。メンドクサイったらないぜ。

大体、こんな話、ナイセーにしても信じねーだろうな・・・。

 

「いや、どっちかってーと、お前の仕事はそれが本番のはずだが?」

 

「いや、お前、こんなすげーもん見せられて、何の説明も出来ねーんだぞ!? 本当に英雄にならなくていいのかよ? Sランク冒険者への推薦だって夢じゃねーぞ?」

 

どう考えたって、英雄として評価を受けて巨額の報酬貰った方がいいと思うんだががなぁ。

 

「いや、そんなメンドーな立場はいらん。今後ともFランクでよろしく」

 

「こんなFランクがいるか!」

 

どんな詐欺だよ!

八千もの魔物を完封するFランク冒険者とか聞いたことないわ!

てか、八千の魔物を完封すること自体聞いたことねーけどな!

 

「なんと言われようと上げる気はない。試験も受けないぞ」

 

「ギルドマスター権限で上げてやるわ!ふはははは!」

 

「悪の総督みたいに笑ってんじゃねーよ!」

 

何と言われようとヤーベはFランクなんぞに置いとけるか!

勝手にランク上げといてやる!

 

そのうち精霊に何か言われたヤーベは巨大触手を自分の体に引き戻す。

・・・そしてヤーベは巨大化した。

どーなってんだぁぁぁぁぁ!!

ゆうに三メートルはあるぞ!

 

わたわたしている間にシュルシュルと小さくなって、元の大きさに戻った。

そしてイリーナ嬢が抱きついて泣いている。

まあなんだ、とりあえず元の大きさに戻ってくれてよかったよ。

三メートルもあるとギルドの建屋に入れねーよ・・・そんなレベルの話じゃないか。

 

「ねえねえ、ヤーベ? ローガ達が心配だし、そろそろカソの村へ様子を見に行った方がいいんじゃない?」

 

精霊の一人がヤーベに言う。

そうか、こっちが片付いてもまだ、カソの村に向かった一団がいたか。

 

「よし、カソの村へ行こうか」

 

ヤーベが宣言する。

よし、こっちもついてくぜ!

 

「イリーナ、掴まれ」

「わかった!」

 

なんだか緑の塊になったヤーベの頭あたりを抱きしめる様に掴まるイリーナ嬢。

その背中を触手みたいなもので支える。

 

「シルフィー、力を貸してくれ」

「うん!お兄ちゃん任せて!」

 

高速飛翔(フライハイ)

 

ドギュン!

 

ヤーベが浮き上がったかと思うと、一瞬にして豆粒の様に小さくなっていく。

速ぇ!

 

・・・あ。

 

「待ってくれ~!」

 

俺は慌てて馬に乗ると追いかけた。

 




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第42話 迷宮氾濫の後片付けをしよう

高速飛翔(フライ・ハイ)>の精霊魔法で空中を超高速で移動する俺。

 

「アバババババッ!」

 

「ヤーベ、待って待って!」

 

精霊たちが追い付いてくる。

ん? どうした?

 

「お兄ちゃん早すぎ~」

 

やっと追いついて来たウィンティアが文句を言う。

 

「お兄様、魔力が凄すぎます~」

 

シルフィーよ、お兄さんからお兄様にランクアップしているぞ。

 

「あらあら~イリーナちゃんが死んでいるわ~」

 

「アババババ~」

 

おうっ!移動が速すぎてイリーナが耐えられなかったみたいだ。

ベルヒアねーさん、イリーナは死んでません。死にかけているだけです。

 

「イリーナ!イリーナ!大丈夫か?」

 

と言って右触手でイリーナを往復ビンタする。

 

「はぶぶっ!」

 

「おお、イリーナ目が覚めたか」

 

「何気にヒデーな、ヤーベの奴・・・」

 

フレイアが若干引いていた。

 

「じゃあ、イリーナも目が覚めたことだし、少し速度を落として飛んでいこう」

 

「ヤ~ベ~、お手柔らかに頼むにゃ」

 

へろへろになったイリーナがへろへろな返事をする。

 

「さあ出発だ」

 

俺たちは再びローガ達の救援に向かった。

 

 

 

さて、カソの村の近くに着いたのだが・・・

ズラリと並ぶローガ達狼牙族一党の土下座?というか、伏せてると言うか・・・、どした?

 

『ボス・・・! 今さら顔を合わす面目もございませんが・・・』

 

ローガが顔だけ上げて話し出す。

よく見れば、魔物は完全に殲滅されているな。

バラバラ、焼け焦げ、凍結破砕。ウン、四天王の三頭がやりまくったね、コレ。

その他引き裂かれている魔物も多い。その他狼牙達も十分に活躍したようだな。

これを見る限りローガとガルボはただ見てただけだな。

 

ヒヨコたちも居たし、戦力過剰だったか・・・って、なぜヒヨコたちも土下座、というか、翼が三つ指ついたどこかの女将みたいにひれ伏してるの?

 

『ボスがヒヨコたちに伝えたご指示・・・オークの肉確保のため、出来る限り良い状態で仕留めるようにとのことでしたが・・・』

 

ローガが話しながら落ち込む。

 

『申し訳ございません、ご指示を頂いたヒヨコがローガ殿達の戦闘開始までに間に合わず、ご指示を伝達することが出来ませんでした』

 

ヒヨコ隊長が説明する。

ああ、そういう事ね。

飛び立つヒヨコに伝えたな。

オークという魔物は結構ラノベの中でも豚肉のような感じでおいしいという設定が多かった。ならば食べてみたいと思うのも人(?)情というもの。

それにソレナリーニの町のオーク煮込みはうまかった。ならば焼いてステーキにしたりオーク肉で唐揚げを作ったりとおいしい料理も試したい。それにうまいならばギルドでの買取もいい値が付きそうだ。そう思って出来る限り肉がよい状態で仕留めてもらいたかったのだが・・・。

まあ、なんだ。大半が無残な状態だな。

ローガ達は気合入っていたし、ヒヨコが到着した時にはすでに殲滅完了!というわけか。

 

『ボスのご期待に添えず、このローガひと思いに腹掻っ捌いて・・・』

 

と言って急に立ち上がるローガ。

 

「アホかっ!」

 

そう言って触手でローガの頭をひっぱたく。

 

「グワッ!」

 

地面に突っ伏すローガ。

 

「まったくどこでそんなネタ覚えて来るかね。どんな時でもローガ達が死んだりしたら俺が悲しいでしょ! 俺を悲しませることがお前たちの責任の取り方か!?」

 

『は、ははーっ!』

 

土下座というか、伏せの状態がより厳しくなって土下寝みたいになってるぞ。

 

『ボスのお心を汲めずただただ恥じるばかりでございます!』

 

「ローガ、お前固いって。だいだい今回の任務はカソの村を守るために敵を殲滅する事が目的だった。出来れば、の希望が伝わらなかったことで対応できなかったとしても、それがどうということはない」

 

何でもないと言った感じで伝えてみる。

ローガって、結構真面目過ぎるんだよね。もっと気楽にやってもらっていいのに。その辺はガルボを見習ってもらってもいいくらいだ。・・・ガルボはもう少し真面目でもいい。

 

『ボス・・・!』

 

涙を流して感動しているローガ。だから固いって。

ヒヨコ隊長たちもホッと胸をなでおろしている。

う~ん、今度から指令も気を付けないと、コイツら本当に真面目でいい奴だな。

 

それにしても、なかなかに凄惨だ。焦げ臭いし、ばらばらで血の匂いも酷いね。とりあえずこの魔物たちを<迷宮氾濫>スタンピード対処完了の報告に使おう。2000くらいいれば、まあそれなりの形として報告出来るだろう。

そんなわけで俺様は得意の亜空間圧縮収納へ魔物を放り込んでいく。うん、四天王の3匹の倒した奴は厳しいが、普通の狼牙達が倒したオークは十分形が残ってはいる。

解体して肉だけもらおう。

 

 

 

さて、収納し終わったので、カソの村へ連絡に行こう。

 

「おーい、村長元気?」

 

「おおっ!精霊様ではないですか」

 

「いえ、違います」

 

「まあまあ、ところで、村に来られたと言うことはもしかして?」

 

「うん、<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物は全て殲滅したから、もう大丈夫」

 

「おお!さすが精霊様でございます!」

 

「いえ、違います」

 

「これで村は救われました! 早速祝勝会の準備をせねば!」

 

いそいそと村の奥へ準備に向かおうとする村長。

 

「村長すまないね。これからソレナリーニの町の代官に<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物殲滅の報告をしに行かなくてはいけなくてね。祝勝会には参加できそうもない。村の人たちだけでゆっくりしてくれ」

 

「なんと、それは残念ですが、<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物討伐完了報告となれば、急いでおられるでしょうな。お引止めしますまい。ぜひまたの機会にお寄りくださいませ」

 

「そうさせてもらうよ。それでは、また」

 

そう言ってローガにまたがり、ソレナリーニの町に出発した。

 

 

・・・・・・

 

 

「何ですと! もう<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物をすべて討伐してきたというのですか・・・!」

 

ソレナリーニの町冒険者ギルド。そのギルドマスター室で待っていた代官のナイセーは俺の報告に驚いた。

 

「まあ、移動スピードが速いからね、俺」

 

通常ならカソの村まで歩いて1~2日。しかも総計一万もの魔物と戦闘して殲滅させてきて、今は夕方。ちなみに出発は昼過ぎだったからな。いかにスピーディに済ませて来たか、いい仕事が出来たと自負しよう。

 

「それで、ギルドマスターのゾリアは・・・?」

 

「あ」

 

「・・・その反応は?」

 

「どっかにおいて来たな」

 

はっはっはと笑う俺。笑い事じゃないか。

 

「ただ、八千の魔物を仕留めるところは確認してもらった。実は一万の魔物の内、約二千がカソの村に直接向かったという報告が入ったのでな。カソの村を守るためにローガ達を先行でカソの村防衛に送ったんだ。俺が八千の魔物を仕留めて即ローガ達の救援に向かったから、その時にゾリアが遅れたんだろう」

 

「で、カソの村ももちろん無事なんですよね?」

 

代官のナイセーは確認してくる。

 

「もちろんだ。村に近づく前にローガ達が殲滅したよ。そっちは死体を回収してある。裏の倉庫に出すか?<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物の証拠になるだろう」

 

「ぜひお願いします」

 

そうしてギルド裏の解体倉庫にやって来た。

 

「お願いします」

 

代官のナイセーの指示に従い、ゴブリンとオークの死体を出して行く。

バラバラ、焼け焦げ、凍結破砕した死体が大半で数が数えにくい。

 

「まあ、数のチェックと解体はギルドに任せるよ」

 

「・・・はい」

 

ギルド職員も数と状態に開いた口が塞がらないといった感じだったが、なんとか返事だけはした。

 

そこへギルドマスターのゾリアが帰って来た。

 

「おうヤーベ、置いて行くなんてヒデーじゃねぇか」

 

文句を言ってくるゾリア。

 

「いや、お前を待っていてカソの村救援が間に合わなかったら本末転倒だろうが」

 

「そりゃそうだが、出来ればそう言ってくれよ。少し追いかけたが全く追いつけないだろうなと思ったし、カソの村救援だろうと分かったから先にギルドに帰って待つかと思ったんだが・・・なんでお前の方が先なんだよ!」

 

「はっはっは、遅いぞゾリア」

 

「おまーふざけんなよ!大体、また北門の外に狼牙達を並べて待たせてるだろ! きちんと並んでお座りしている狼牙達を衛兵たちがモフッてたろーが!」

 

「いや、また全員で町中を行進するのもどうかと思ってな。町の外に待機させたんだが」

 

「なんだか異常に人気になってたぞ・・・」

 

「おっ!そうか、あまり人にびっくりされると狼牙達もヘコむからな。喜んで貰ってるなら何よりだが」

 

「衛兵たちが率先してモフ・・・コミュニケーションしてるから、門を通る商人や旅人にも狼牙が怖くないように見えてみんなに撫でられてたぞ」

 

「そうか~、いい人が多いんだな、この町は」

 

狼牙達が怯えられてなくて何よりだな。

 

「それで、このばらばらだったり、黒焦げだったり、粉々の氷みたいになってるのがカソの村を襲った<迷宮氾濫(スタンピード)>の魔物か?」

 

「そうだよ」

 

「じゃあ、これで完璧に<迷宮氾濫(スタンピード)>対処完了だな!」

 

「そうだな。そう考えていいだろう」

 

「守られたのですね・・・この町は」

 

「ああ、ヤーベのおかげでな」

 

ナイセーとゾリアは俺に笑顔を向けた。

うむ、良い事をした後は気持ちがいいな。

早速ローガ達やヒヨコ隊長のために屋台街で食い物を買い占めるとするか!

 




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第43話 ハーレ・・・奴隷制度について聞いてみよう

ナイセーが報奨金を準備してくれるとのことで、先に夕方暮れなずむ町に繰り出し、屋台で買い占めることにした。

と言っても夕暮れなので、全部買い占めると生活している人たちにも影響が出てしまうだろう。そのため、各屋台から少しずつ全種類買うとしよう。

 

・・・え、金持ってるのかって?

 

モチのロンですよ~、先日狩った魔物の半分を買い取りに出して報酬を受け取った際にもう半分も買い取りに出していたのですよ!

前回最初に稼いだお金は屋台の食事を買い占めるのにほとんど使っちゃったけど、

そんなわけで、預けていたもう半分の報酬を受け取って軍資金として屋台へ繰り出すとしよう。

 

街へ入る前にローブ姿に戻った俺だが、魔導士の杖は出し忘れていたな。

亜空間圧縮収納から魔導士の杖を取り出す。

うん、これで大魔導士ヤーベの誕生だ。

 

「おお、ダンナ!久しぶりだな!」

「ダンナダンナ!今日も買い占めか?」

「よっ!御大臣!」

 

屋台の親父達が次々と声を掛けてくる。

 

「いやいや、この時間に買い占めたら町のみんなから恨まれてしまうよ。そうだな、各屋台とも十人前ずつ頼むよ」

 

「「「「「あいよー!」」」」」

 

『ぬおおっ! これは素晴らしい匂いがしますな!』

『ヒヨコ的にはあの肉を炭火で焼いた串焼きが希望ですぞ!』

 

ローガにヒヨコ隊長も俺と初めて買い物する屋台にテンションが上がっているようだ。

 

 

「おっと親父、ちょっと悪いんだが、串焼きはもう十人前ずつ頼むよ」

 

「「「あいよー!!」」」

 

串焼き系の親父達が勢いよく返事をする。

 

「ダンナ~、そりゃ殺生な」

 

オークの煮込み屋の親父が苦笑しながらこっちを見る。

 

「なんだ、俺がさらに十人前買ったら、屋台を贔屓にしている地元民に恨まれたりしないか?」

 

あはーん、みたいな感じで怪しい外国人風に肩を仰々しくすぼめ、両手を上に向ける。

 

「何言ってんだいダンナ!ダンナにたっぷり食べてもらおうと、みんなこの前から仕込みには気合を入れてるんだ。ダンナ達の使役獣にだって腹いっぱい食べてもらっても屋台が空にはならねーくらい気合が入ってるぜ!なあみんな!」

 

「「「「「おお!!」」」」」

 

「わかったわかった!親父達には参ったよ。みんな後十人前頼むぞ!」

 

「「「「「おお!さすがダンナ!!」」」」」

 

俺は屋台街でワイワイと出来た料理を受け取って亜空間圧縮収納へ放り込んでいく。

 

「ダンナはホントにすげえ魔導士様なんだな。料理が消えて無くなるなんてよ」

 

「はっはっは、何といっても俺様は大魔導士だからな!」

 

本当にこの町を守れてよかった。心の底から、そう思う。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「おーい、ナイセー!準備出来てるかー?」

 

冒険者ギルドに戻って来ると、受付嬢のラムが受付カウンターから出てきてくれた。

 

「ヤーベさん、お待ちしてました。ギルドマスター室にご案内しますのでこちらへどうぞ」

 

そう言って案内してくれる。

夕暮れのため、かなり込み合う冒険者ギルド。特に依頼達成の報告をしようと受付カウンターに並んでいる冒険者たちが一斉にこちらを見る。

ギルドに入っていきなりギルドマスターではなく代官を呼び捨て。

どこの頭のおかしい奴だと思われても仕方がないな。

少し反省が必要か。

そして人気受付嬢でもあるラムちゃんがカウンターを放り出して俺の案内を始めるものだから、他の冒険者からの視線が痛い。心が弱かったら倒れていそうだな。

テンプレでよくある冒険者ギルドでの絡み、マジいらないです。ノーセンキューです。

早くギルドマスター室に入ろう。

 

「お待ちしていましたよ、ヤーベ殿」

 

代官のナイセーが声を掛ける。

 

「ヤーベ、報酬準備できてるぞ」

 

ゾリアが笑顔で言う。

 

「まずは冒険者ギルドからだ・・・と言いたいんだが、かなり予算も厳しくてな。代官のナイセーよりお金としての報酬は面倒を見てもらうことになった。だから、ギルドとして特例だが冒険者ランクを・・・」

 

「あ、結構です」

 

「何でだよ!」

 

「なんか強制で呼ばれるとかノーセンキューなんで」

 

「ギルドのいろんな特別割引受けられるんだぞ!」

 

「それでもいらないや」

 

「ぬうううううっ!」

 

「それでは、今後ヤーベ殿がこのソレナリーニの町の冒険者ギルドに魔物を卸してくれる限り、解体費用を無償にするというのはどうでしょう?」

 

「お。それいいね!」

 

「え~~~~~」

 

副ギルドマスターのサリーナよりなかなか魅力的な提案が出たので喜んだのだが、ギルドマスターのゾリアは不服のようだ。

 

「ヤーベにはもっとだなぁ・・・」

 

ぶつくさ言うゾリアにサリーナが耳元に口を寄せて囁く。

 

「(ギルドマスター、ヤーベ殿は現段階では一組織に縛られるのを良しとしないようです。で、あれば、このギルドに来ることによりヤーベ殿に得があるようにしておけば、また来ていただけます。まずはそれを絆の一つとして残して置く事が最善かと・・・)」

 

ボソボソと囁くサリーナの話を聞いていたゾリアがニヤリとしだす。

 

「わかった。それではこのソレナリーニ冒険者ギルド、ギルドマスターのゾリアが保証しよう。ヤーベがこのギルドに魔物を卸してくれる限り解体費用はギルドが持つとしよう」

 

「わかった。よろしく頼む」

 

俺は立ち上がり右手・・で握手を求める。

ローブの裾から出す右手は、手袋をした手の先だけでなく、下腕までもが見える。だがそれはスライムの緑色でもなく、スライム触手でもなく、紛れもなく肌色の人間の腕に見えた。

それをちらりと見るゾリア。

 

「・・・期待してるぜ、ヤーベ。これからもな。出来ればこの町にずっと居てもらいてぇところだが、そうもいかねえんだろう。この町を出るときは一声かけてくれよな」

 

そう言って凶悪な笑みを浮かべる。

まあ、俺もこの男が気に入っていると言えば気に入っている。不義理はしないつもりだ。

 

「ああ、そうすることにするよ」

 

「では、ギルドの手続きと解体部への通達を行ってきます」

 

副ギルドマスターのサリーナはそう言って部屋を出て行った。

部屋には代官のナイセー、ギルドマスターのゾリア、俺とイリーナの四人だけになる。

ちなみにローガとヒヨコ隊長は冒険者ギルドの横にある厩舎で待機中だ。

 

きっと休憩に入っているギルド嬢たちがローガとヒヨコ隊長に食べ物を持ってモフりに言っている事だろう。この前ローガがヒヨコ隊長を頭にのせてギルド内に入って来て、誰はばかることなく堂々とギルドマスター室の前まで歩いて行き、前足で華麗にノックしたのを見て一気にギルド嬢たちがローガとヒヨコ隊長のファンになってしまったらしい。最初入って来た時は危険なのかと身構えてしまったのだが、非常に堂々と凛として歩いて来たので、誰も止められなかったのだが、それがかっこよかったらしい。その後副ギルドマスターのサリーナがローガのモフモフ具合をこれでもかと自慢して語ったらしい。何してくれてんのサリーナさん。

・・・まあ、ローガ達がいつまでも怖がられているよりはずっといいけど。

 

「それでは、ヤーベ殿への報奨金をお支払いすることにいたしましょう」

 

そう言って代官のナイセーが大きめの袋を足元から取り出す。

ドシャッ!

すごく中身の詰まった袋をテーブルの上に置く。

しかもそれを四つ。

 

「一袋に金貨五百枚。合計四袋で金貨二千枚の褒賞です」

 

おおっ!一気にお金持ち!すげーな、ナイセー太っ腹!

そう思っていたら、

 

「ヤーベ殿には大変心苦しいのですが、一部を秘匿したまま辺境伯及び王都へ報告を出す以上、あまり金額の融通が利かせられないのです。正確に報告して沙汰を受ければ、間違いなく金貨一万枚以上の褒賞は確実かと思われます。だが、それとは別にやっかいな柵も発生してくるでしょう。それはヤーベ殿の望むところではないはず」

 

頷く俺。お金の事だけを考えれば、もっとやりようもあるだろう。

だが俺はこの世界の事も、もっといえばこの国の事もよく知らない。あまりにも知識不足だ。ラノベの世界でも知識不足は後で致命的なパターンになる事が多い。転生したてでチート能力振り回して召喚国が正義だと思っていたら逆に腐っていて戦争の道具にされていた・・・なんてパターンが山の様にある。というか、そのパターンの方が多くね?

・・・まあ、ラノベは創作物語だから、その方が盛り上がるということもあるだろう。だが、俺が生きる世界は現実だ。盛り上がるよりも堅実な安全が大事だ。

 

「問題ない。ナイセー殿の配慮に感謝する」

 

そう言えば、D~Cランク級の魔物と食用に人気なホーンラビットなどを中心にギルドに卸した時の買い取り額が金貨で二百枚ちょっと。その十倍はすごいと言えばすごいが、数は圧倒的に今回の方が多いし、危険度も高いだろう。だが、倒した魔物の大半がオーク、ゴブリンだしな。そうなると褒賞自体は妥当?金銭感覚よくわからなくなってきたな。まあ、食いっぱぐれがない程度で十分だろう。

 

「後、私の報告が辺境伯及び王都に提出された後、確認に人が来る可能性があります。その場合、出来る限りあなたの事を秘匿するつもりですが、場合によってはそれも叶わない事がありえますのでその点はご留意頂きたい」

 

「承知しているよ、ナイセー殿」

 

ナイセー殿は役人だ。どれだけ俺のために無理を聞いてくれたとしても限界があるだろう。特に直属の辺境伯には詳細を問われればある程度情報出さざるをえないだろう。それは仕方がない。

 

ナイセーは俺の返事に少しホッとした表情を浮かべる。

 

「ヤーベ殿この度は本当にありがとう。貴方のおかげてこの町は救われた。大々的に感謝できないのは残念ではありますが、この恩は決して忘れない。何かあれば出来る限り貴方の力になりましょう」

 

「ああ、俺からも改めて感謝するぜ。ヤーベ、本当に助かった。冒険者ギルドはいつでもお前の味方だ・・・まあFランクだから、他の町へ行ったら舐められるかもしれんがな。その場合はあまりやり過ぎないようにしてくれ」

 

問題を起こすことを前提にクギ刺しやがって。

そういうテンプレはすべて華麗に回避する予定なんだよ、くっくっく。

 

「わかった、それから俺からいくつか尋ねてもいいだろうか?」

 

「ええ、なんでも聞いてください」

 

「この国でハーレ・・・いや、奴隷制度についてはどうなっている?」

 

「「??」」

 

何でそんなことも知らねーの?みたいな表情を浮かべる二人。俺の出目は説明してないからしょうがないけどさ、もちっと常識ない人(?)に優しくしてくれてもいーんでないかい?

 

ギュッ!

 

ん? なんだ?

イリーナが俺の頭を自分の胸にギューッと押し付ける様に抱きしめてくる。

今のイリーナは皮の胸当てをしているので柔らかくないです。俺はスライムだから痛くはないけどね。

 

「どうしたイリーナ?」

 

イリーナの表情を見れば、あり〇れた日常で世界最強の4コマに出てくる涙目のリ〇アーナ姫にそっくりな表情じゃないですか! あり〇れた職業で世界最強という白〇良大先生の神ラノベを、その日常を切り取ってハイテンションギャグ4コマに仕立てるという、もう神×神でどう絶賛していいのかわからないほどの大ファンな作品をつい思い出してしまった。まるで御餅をちょっと焼いてぷくってしたところを逆さにひっくり返したような目に涙をいっぱい溜めて俺を見るイリーナ。何かあったか?

 

「奴隷・・・ダメ、絶対・・・」

 

「え~~~~、コホン」

 

軽く咳払いする俺。見ればナイセーもゾリアも生暖かい視線を送ってくる。やめろ!そんな目で俺を見るな!

 

「どういう事かな?イリーナ嬢」

 

「・・・イリーナと・・・呼んで・・・」

 

グスグスと泣き始めてしまったイリーナ。お得意の「クッオカ」も出ないじゃないですか・・・今出されても困るけど。

 

「どうしたんだ、イリーナ」

 

「奴隷・・・いらない・・・ヤーベには私がいる・・・」

 

「え~っと・・・」

 

要約するとこうですか?

俺にはイリーナがいる。

だから奴隷(他の女)はいらない。

だからハーレム禁止。

そう言う事でしょうか?

 

「なあ、イリーナ。別に奴隷制度の話を聞いたからってイリーナがいらなくなったり、イリーナを捨てたりしないぞ・・・というか、そんな言い方もアレなんだが・・・、イリーナは俺のそばにいたいからずっと一緒に居るんだろ?」

 

コクンと頷くイリーナ。その目にはまだ焼き御餅を逆さにしたような涙を一杯に溜めている。

 

「じゃあ、この先仲間が増えたり、奴隷を買うことになったりしても、イリーナが俺のそばに居たいならずっと一緒に居ればいいよ。俺はどんなことがあってもイリーナを嫌ったりしないよ。イリーナの好きにしていいんだぞ」

 

俺は出来る限り優しく、子供に語り掛ける様にゆっくり話す。

 

コクコクとかわいく頷き、俺の手を両手で握るイリーナ。

・・・ちょっとかわいい。

 

その間、ずっと生暖かい視線を送り続けているナイセーとゾリア。

やめれ、その視線!

 

「コホン、俺はずっと森の奥で魔道の研究を研鑽し続けていたのでな。世の中の事はよくわからんのだ。イリーナという女性も預かる身だしな。社会の常識も身に着けておいた方が良いかと思ってな」

 

明後日の方を向きながら説明する俺。俺の右手はイリーナに握られたまま。

 

「そうですか、それはそれは。私で答えられることはなんでもお教えしますよ?」

 

「そうだな、何でも聞いてくれ。特にハーレ・・・おっと違った、奴隷制度とか、ナイセーは当然この町の代官だしな。詳しいだろうし」

 

ニコニコしながら話すナイセーと、くっくと笑いながら話すゾリア。

ゾリアてめーわざと言い間違えただろ!

 

イリーナの俺の右手を握る力がキュッと少しだけ強くなった。

 




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第44話 この世界の事を勉強しよう

「それでは、気になっておられます奴隷制度の事を簡単に説明した後、この世界の事から説明することにいたしましょうか?」

 

にっこり笑って説明を始めるナイセー。

すいませんね!ラノベで育ったラノベ大魔王としては、ハーレムコースの確認をせずにはいられないのですよ!だいたいねーよ! ヘソまで反り返った俺様のピーーーーが! なにせスライムだからな! ・・・ええ、誇張しましたよ! 俺様のピーーーーなんてヘソまで反り返ってなかったですよ! 

だいぶ盛りましたけど何か?

後、魂の絶叫は二回目ですけど何か?

 

「奴隷制度ですが、まず購入者には厳格な人物証明が求められます。貴族は当主であれば問題ありません。商人であれば商人ギルドのギルドカード、冒険者であれば冒険者ギルドのギルドカードですね。一般市民であれば町クラスの市民証が必要です」

 

「市民証なんて誰でも持っているものでは?」

 

「実は市民証をちゃんと保持している者ばかりではないのですよ。市民証は一定の税を、それも比較的高いランクで支払い続けている者だけが発行されます。一般の市民の大半は市民証ではなく登録証という別の証明書を発行されています。こちらは銅貨五枚で誰でも発行されます。これがあれば町の出入りは税がかかりません」

 

「なるほど、登録証では奴隷が買えないのだな?」

 

「その通りです。登録証では奴隷を買うことは出来ません。ある程度財力がないと奴隷を維持することが難しいと考えられているからです」

 

「なるほど、そうすると奴隷の権利というものはある程度確立されているのだな」

 

「そうですね、権利と言っていいのかどうかわかりませんが、奴隷を買う側にはいくつか制約があります。買った奴隷がまともに生活できないと言ったことが無いように食事を与える義務や健康に留意する義務などです。また奴隷に対する安全配慮も義務が生じます」

 

「安全配慮?」

 

「明らかに死ぬと分かっているような業務に従事されるような事・・・などですね。あまり多くの事象はないでしょうが、極端に無理な事をさせない・・・という意味合いでしょうか。また、もちろん殺人などの人を害する犯罪を強要することも出来ません」

 

「なるほど」

 

「奴隷契約には<協定の契約(ミューチュアルコントラクト)>という魔法を使います。先の奴隷法を順守するという買い手側と主人を害さない、命令を遵守する、といった奴隷側の意思を確認した後、制約するものです。制約後は奴隷側に「奴隷紋」が浮かび上がります。これは必ず右手の甲に出ます。そのものが奴隷であるという証明をいつも確認できるようにするためです」

 

「そうなのか」

 

奴隷紋に関してはなかなか厳しい措置だな。奴隷を隠したい状況でも、右手の甲をずっと隠すのは難しいだろう。それこそずっとガントレットを付けたまま・・・などなかなかあり得ぬ状況だ。最も奴隷の身分を隠さねばならないシチュエーションなどなかなかあり得ないだろうけどな。

 

「奴隷契約は同じ方法を用いますが、条件に<借金の完済>が付く場合があります。これは事情により借金をしたものが自分の買い取りを前提に奴隷落ちする場合です。この場合は奴隷を買っても一定の額を奴隷本人が稼いで借金が完済出来た時に奴隷契約が消滅します」

 

「借金の完済が条件の場合、奴隷を買っても権利が残らないのだな」

 

「そうです。ですがその場合、最初に奴隷の権利を買われる場合の金額は一生権利が付く場合に比べてかなり安くなります」

 

「なるほど」

 

特殊な従業員を雇うようなイメージか?

借金の完済が条件に付かない場合は一生その奴隷を面倒見るようなイメージだから、家族・・・か? まあ、奴隷はたぶん売却することも出来るんだろうけどな。俺はきっとそれをすることは出来ないだろう。そんな事が出来る相手なら、最初から金を出して買わないだろう。

 

「この町にも奴隷商人はいますが、この辺り一帯を治めるコルーナ辺境伯の住まれる城塞都市にかなり大きな奴隷商館があります。必要ならばそこへの紹介状も書きましょう」

 

「よろしく頼む」

 

間髪入れず返事をする俺。

ハーレムは少々横に置いておくとしても、やはり奴隷商館の見学など実に必要な事だ。異世界生活に慣れなければ、うんうん。

 

ぎゅうううっ!

 

イリーナさん?両手で握っている手が強くないですか?

痛みは感じませんけどもね、ええ、俺の右手が原型を留めにくいほど握りしめるのはどうかと思いますが?

 

「では、奴隷制度の話はこれくらいにしましょうか。詳細がお知りになりたい場合は実際にお買いになる時に奴隷商人から直接説明を受ける方がいいでしょう」

 

「うむ」

 

そうだね、奴隷商館に紹介状も書いてもらえることだし! その時に詳しく説明を聞こう・・・イリーナを置いて出かけねば。

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

ほわわっ!

 

イリーナさん、だから、形が変わるほど握りしめないでくれません?

 

「それでは世界情勢について説明しましょうか。この世界はレーヴァライン大陸と呼ばれる大きな陸地に大まかに分けて5つの国が栄えています。そのうちの一つがこのバルバロイ王国。建王ロルガメント・アーレル・バルバロイ一世が建国した王国です」

 

おおっ!苦節何か月か(笑) やっとこ判明する世界の大陸と国名! バルバロイ王国ってなかなか勇ましい感じするね。

 

「現在はワーレンハイド・アーレル・バルバロイ十五世が国王として統治しています」

 

ワーレンハイド・・・なんだかごっちゃになったような名前だけど、気にしないことにしよう。

 

「バルバロイ王国には三大公爵家があり、別に四大侯爵家もあります」

 

多いな!三大とか四大とかありがちだけど!

後、小説なんかだと公爵と侯爵の記載違いは分かるけど、喋ってるとどっちも「こうしゃく」なんだよな? トークニュアンスでわかるのかな? お貴族様たちは。

まあ、そんなトップクラスの家柄間違える奴は貴族社会で生きて行けねーか。

 

「その他、伯爵以下貴族たちがおります。ヤーベ殿がこの先バルバロイ王国内を旅するのであれば、その町を納める貴族の評判を十分留意するがよろしかろうと思いますよ。貴族には偏屈な人間や横暴な人間も残念ながら珍しくない」

 

やっぱりそうなのね、ザ・貴族!

この先はヒヨコたちの諜報活動が生命線だな!

 

「ちなみにこのソレナリーニの町は先も名前が出ましたが、フェンベルク・フォン・コルーナ辺境伯が納める地域になります。辺境伯様は立場的には侯爵と伯爵の中間の位置とされていますが、コルーナ辺境伯様は侯爵とほぼ同等の立場として扱われております。この西の辺境はカソの村の奥地に広がる森には強力な魔物が住み着いており、開拓が非常に困難になっております。その広大な未開地を時間をかけて開拓して町を増やしていったコルーナ家の長年の実績が辺境伯という爵位まで与えられる結果となり、また他の貴族様方に一目置かれる存在にもなったのです。今はその実力、財力共に王国内に広く知れ渡っています」

 

コルーナ辺境伯・・・なかなかの御仁のようだ。

会ってみたい気もするが、面倒を起こすのもどうかと思うしな・・・。まあ、なるようになるか。

 

「地理的にはこのソレナリーニの町から東に向かってコルーナ辺境伯が住む城塞都市フェルベーンがあります。さらに東にいくつかの町を経て、タルバリ伯爵の納める領があり、その東に王都バーロンがあります」

 

王都に向かうならば、コルーナ辺境伯領、タルバリ伯爵領を超えて王都バーロンまで向かわなくてはいけないということだ・・・。今のところ王都に向かう理由はないが。

 

「あまり私から貴族間の派閥情報など言わない方がよいでしょう。偏った情報になってしまうかもしれませんしね」

 

ナイセーは首を振りながら言う。

もともとそのあたりの情報は自分でもフィルターを掛けるつもりだった。それを事前に自分でストップさせるのも好感が持てるな。きっと俺が質問をすれば答えてはくれるんだろうけどな。

 

さてさて、<迷宮氾濫(スタンピード)>も落ち着いたことだし、これからの事を考えるとしようか。

 




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第45話 これからの事を検討しよう

ソレナリーニの町の<迷宮氾濫(スタンピード)>を制圧した俺様達は代官であるナイセーの心遣いで代官邸に招待された。一日ゆっくりした後、朝起きて泉の畔にのんびり帰ろうか・・・そう考えていたのだが。

 

「ヤーベ、この後どうするのだ?」

 

イリーナが問いかけて来た。

どうも、ナイセーと奴隷制度の話をしてから、今まで以上に俺に対する距離が近い。

そして、今まで「ヤーベ殿」だったのが、「ヤーベ」と呼び捨てになった。

イリーナはいつも自分の事を呼び捨てにしろって言ってたけど、俺を呼び捨てにすることは無かったんだが。

・・・まあ、もっと俺のそばにいることをアピールしないと、俺が奴隷、しかも女性の奴隷などを購入した際にそちらに意識が言ってイリーナの事を忘れてしまうのではないか・・・と心配でもしているのだろうか。

 

ナイセーの話の中で、この国が一夫多妻制だと確認している。最も、多夫一妻でも問題ないらしい。ようは、生活できるだけの財力があり、双方が了解すれば結婚という形を取る事は問題ないとのことだ。

 

何らかの理由で俺が奴隷の女性を買ったとしても、ぜひとも仲良くしてもらいたい・・・などというのは、俺からすると傲慢な考え方だろうな。

 

ラノベのお約束である「ハーレム」だが、少なくとも俺にはチート能力がないので、「チートで大活躍してハーレム」という所謂「チーレム」コースはありえない。

となると、自力で奴隷を購入して増やす「通常ハーレム」コースを目指すしかない。

・・・別に目指す必要もないんだが。

 

奴隷制度はひとまず置いておくとして、「ハーレム」というものについて真面目に考えてみる。男の俺からすればメリットは山盛りなイメージだが、もちろんデメリットもある。経済的な事もそうだし、増えれば増えるほど相手とのコミュニケーションの気を使う事になるだろう。一人だけを相手にしている場合と違い、プレゼントもふれあいも夜の生活もある程度平等にこなさないと女性側からの不満が出ることは想像に難くない。

では女性側の視点からすればどうか?

メリットは・・・どうだろう? よほど相手の男が好きで、複数でも問題ないと決断すれば相手と結婚できる、生活を共にできる事になる。

デメリットは当然相手を独り占めできない事だろう。

 

ハーレムは男の夢、なんて良く聞く言葉だし、ラノベでは幸せなハーレム生活の物語が多い。だが、現実的に考えた時、本当にそうだろうか?

複数の女性を相手にするとき、全員を平等に相手にしないと、誰かが悲しんでしまうだろう。

夜の生活など、どれほど体力があればよいのか?

一人二時間として、五人も居れば十時間じゃないか。百人ハーレムとか言ってるヤツはアホじゃないのか。

最も俺にはへそまで反り返ったピ・・・あ、もういいですか。

 

ただ、この異世界はハーレムというか、一夫多妻が必要な世界でもあると思われる。

非常に危険の多い世界だ。冒険者とか、魔物の存在とか、とにかく危険が多い。

そして、その危険を請け負うのは多くが男ということになるだろう。冒険者にしても、騎士にしても女性はもちろんいるだろう。だがその絶対数はそれほど多くないはずだ。そしてそれらの職業は死亡率もそれなりに高いだろう・・・。つまりこの世界は女性の方が多く生活している可能性が高い。となると、財力のある男性、甲斐性のある男が複数の女性と生活することにより、女性一人で生活しなければならない状況も少しは改善できるのかもしれない。

 

・・・やたら難しい事を考えてみたが、ハーレム自体悪い事じゃないような気もするが、俺には荷が重いってことだな、うん。

だがら、イリーナよ、安心していいと思うぞ。俺が女奴隷を買う事など、きっと・・・まず・・・どうだろう?

まあ、結論をすぐ出す必要はないな、うん。

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

ボーッと考えていたのか、イリーナに返事をしなかった俺は右手をイリーナに握りつぶされている。

 

「イリーナよ、形が変わってしまうからあまり強く握らないでくれると嬉しいのだが」

 

「・・・ヤーベ、これからどうする?」

 

掴んだ右手を話さないままイリーナが再度聞いてくる。

 

「これからとは?」

 

「ずっとこの町で住むのか?泉の畔に戻るのか?それとも王都にでも出かけるのか?」

 

これからの行動についてどうするのか、ということね。

 

「そうだな、俺たちの今後だが、こんなことを考えている」

 

そう言って今後の方針を説明する。

 

①泉の畔に帰って家を建てる

②カソの村へ行って祝勝会

③ソレナリーニの町に移住

④城塞都市フェルベーンへ旅行

⑤いきなり王都を目指す

 

「ヤーベもいろいろ考えていたのだな・・・」

 

イリーナさん、なんか俺の事何にも考えてないイケイケドンドンなヤツだと思ってません? 一応これでも思慮深い男だと思ってますが。

 

「ちなみにずらっと出してみたが、カソの村はタイミング的にも無理があるだろう。行けば盛り上がってくれる気もするが、無理をさせるのも悪い。いきなり王都も無い。行く理由もない」

 

そう言ってイリーナから目を逸らして空中に視線を泳がせる。

できれば揉め事を起こさずスローライフを送りたいものだ。

・・・そういう事を言っている主人公がスローライフを送れた試しがないのがラノベのお約束だが。ま、俺はスライムだし、町でのんびり暮らすってのは今のところ難しいしな。

 

「それではこの町に移住するのか?」

 

イリーナの問いに首を振る。首がどこと言われると困るが。

 

「ナイセーやゾリアなら許可をくれると思うけどな。まだ俺が町でのんびり暮らすのは難しいよ」

 

「そうなのか・・・」

 

少しがっかりした表情で俯くイリーナ。イリーナは町でゆっくり暮らしたいのだろうか。

代官の家では久々に風呂に入っただろうからな。

俺もこの世界に来て初めて風呂に入った。

・・・めちゃくちゃ気持ちよかった。

なんか「お背中御流しいたします」的なメイドが風呂に来ようとしたが、頑として追い返した。この姿を見られたら悲鳴だけじゃすまない。

 

「そんなわけで、泉の畔に戻って家でも建てるか、城塞都市フェルベーンへ魔物狩りなどで金を稼ぎながら出かけるか、どうしようか迷っているところなんだ」

 

「泉の畔に家を建てるのか・・・?」

 

イリーナが小首を傾げて聞いてくる。

 

「いい加減、イリーナがテント生活では心配だからな」

 

「・・・ヤーベ!」

 

急にイリーナが抱きついて来た。そんなに感動しなくても。

 

「ただ、どうやって家を建てればいいかは見通しが立っていないが」

 

俺の言葉に絶望の表情を浮かべるイリーナ。

だって仕方ないじゃないか。俺は家なんて建てられないし。

頼むならカソの村の村長に大工の派遣を依頼するくらいしか思いつかん。

費用なら今回の報酬で何とかなりそうだけど。

 

ただ、この町の情報も全部精査が終わったわけじゃない。

何か忘れてるような気もするが。

 

「ぴよぴよー!(ボス!大変です!)」

 

「どうした?」

 

「ピヨピピピピー!(北のスラム街で不穏な動きがありましたので監視しておりましたが、この町でテロ行為を行う計画を練っている連中を見つけました!)」

 

「ええっ!」

 

全然スローライフ出来ないじゃん!

 




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第46話 テロ対策を始めよう

「おーい、ナイセー」

 

代官屋敷の朝。

その屋敷の主たる代官であるナイセーを緊張感のない声で呼ぶ。

メイドたちが驚く。

主を呼び捨てにする怪しげな男。

そう、俺様。

 

「おはようございます。朝食の用意はもう出来ておりますよ」

 

そうにこやかに声を掛けてくる。

普通屋敷の主を呼び捨てにするものなど皆無である。

なのに、その事を咎めもしない。

急に屋敷へ招待された怪しげな客と使役獣。

だが屋敷の主であるナイセーの態度が、どれほど重要な客を連れて来たのかを物語っている。

 

「ナイセー、おはようさん。実はヤバいネタをヒヨコたちが掴んできてね。至急耳に入れておきたいんだが?」

 

何でもない事の様に伝える俺。

なんだが出来る探偵みたい?

 

「・・・それは、早くお聞きした方がいいのでしょうね。バーバラ、お客人との朝食は執務室で取ります。軽く摘まめる物と飲み物だけ準備してください」

 

「!・・・畏まりました」

 

一瞬驚いたものの、即座に礼をしてテキパキと準備を進めて行くバーバラと呼ばれたメイドさん。ちらりと横にいるイリーナを見る・・・俺もこんな出来るメイドさんが欲しい。

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

「おうふっ!」

 

イリーナさん、昨日から手を握る力加減おかしくないですかね!?

 

「さあ、こちらへどうぞ」

 

執務室の扉を開け、中に入るよう促すナイセー。

失礼しまーす。

 

おお、ザ・執務室! 奥のデスクにはきちんと整理されてはいるものの、うず高く積まれた書類の山が。

だが、打ち合わせは執務デスクではなく、その前にある高そうなテーブルを挟んだソファーに座って行えそうだ。

 

「お座りください」

 

ナイセーの言葉に従って俺とイリーナ、そして俺の頭に乗ったヒヨコがいる。ちなみにヒヨコ隊長は屋敷の外の厩舎で寝ているローガの所に居たのだが、部下の緊急報告で付いてきているのでイリーナの肩に止まっている。ヒヨコ隊長が俺の頭に乗っていないのは、緊急の情報を持ち帰ったヒヨコが説明を行うため、その場所を譲っているのだ。

 

ちなみに、ヒヨコたちにとって俺の頭に止まる事は相当な誉れらしい。一種のあこがれ、ステータスのようなものだとヒヨコ隊長が言っていた。この報告を持ってきたヒヨコも、『ボスの頭に止まらせて頂けるのですか!感激であります!』って言ってたし。

 

「早速だがナイセー、部下のヒヨコがとんでもない情報を掴んできた」

 

俺は寄り道無しの直球で話した。

 

「どのような情報でしょうか?」

 

「北のスラム街で、数人の人間がこの町でテロ行為を働こうとしている相談をウチのヒヨコが聞きつけて来た」

 

「・・・テロ行為! 一体どのような行為かわかりますでしょうか?」

 

「どうだ?」

 

『ぴよぴよぴぴー!』

 

「なんでも、毒を撒いて大勢の人間を苦しめるそうだ」

 

「なんてことだ・・・。それはいつどこで?」

 

『ぴよぴよー!』

 

「今、別の部下が数羽で監視中のようだ。動き出せば報告がある」

 

「では動き出して、奴らが毒を使おうとした瞬間を狙って捕縛するわけですな!」

 

「そうだな、それが一番確実だろう。今仕留めても毒の保持くらいでしか罪に問えないだろうしな」

 

そこへヒヨコがさらに戻ってくる。

 

『ピピピー!(奴らが動き始めました!)』

 

「よし、敵が動いたみたいだ。俺は先に出て奴らの決定的瞬間を抑える。ナイセーは衛兵に連絡して衛兵隊を連れて来てくれ。場所はヒヨコたちの連絡で案内できるようにする」

 

そう言って俺は屋敷を出る。

 

「ローガ!」

 

『ははっ!ここに!』

 

傅くローガ。

 

「緊急事態だ。お前はイリーナを乗せ、ヒヨコの部下から場所を確認しつつナイセーを案内してこい。俺は空から先に行く」

 

しまったな、こんなことなら狼牙族みんな町に入れておけばよかった。連中がいればスラム街など、すぐに制圧できそうなのに。

まあいい、急ぐか。

 

「ヒヨコ隊長、部下とともに案内を頼むぞ。シルフィー、力を借りるぞ!<高速飛翔(フライハイ)>」

 

ヤーベの体が風を纏い宙に浮く。

 

「案内しろ!」

 

『ピピー!(こちらです!)』

 

猛スピードでヒヨコと謎の物体ヤーベが空を飛んで行った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ケェ~~~ケッケ! この井戸にこの毒をぶち込んだらイチコロよ!」

「アニキィ!たまらねーな!」

「いくつの井戸を回るんだ?アニキ」

「ああ?後十か所もありやがるからよ!さっさとこの毒をぶち込んで・・・って、わあっ!」

 

いつの間にか上からスーっと降りて後ろに立っていたヤーベ。

井戸の周りにいた三人の男たちがいきなり現れたヤーベを見て驚く。

リーダーらしき男が毒の瓶を井戸に傾けて中を垂らそうとしているのをジーっと見ていた。

 

「な、なななんだお前!」

 

「あー、それが毒なんだ。どんな毒?」

 

「ああ、何でこれが毒だってわかるんだ!? てか教えるわけねーじゃねーか!」

 

激高するリーダー。単細胞だね。

 

「あ、そう」

 

シュパッと触手で毒の瓶を回収。

 

「あれっ!?いつの間に!」

 

でもって亜空間圧縮収納へ放り込んでみる。

 

【ポイズンウォータードレイクの毒】

【詳細:致死毒。成人男性に対して致死量は約3g。瓶内50g 現在合計1462g保持】

 

「Oh・・・」

 

いつぞやの泉で対峙した猛毒トカゲの毒じゃないですか。ものすごく致死性の高い奴。

 

「最悪だな、お前ら。こいつはかなり致死性の高い毒だ。大量殺人だな。死刑間違いなし。だから、今のうちに洗いざらい吐いておいた方が楽だぞ?」

 

「たった一人で何言ってやがる!おい!お前ら、見られたからには生かしちゃおけねえ!やるぞ・・・あれ?」

 

リーダーの男は振り返るが、すでに他の男2人は倒れている。

ちなみに俺様がリーダーと会話している間に、足元から触手を2本伸ばして、後ろの二人を締め落としただけだけどね。

 

「てめぇ!」

 

ナイフを振りかざし襲い掛かってくる男。もちろん触手で手首を引っ掴んでまるでハエタタキの様に石畳に叩きつける。

 

「ガハアッ!」

 

あっさり無力化成功。トラブルは未然に防いでこそってね。

 

そこへナイセーが衛兵を連れてやって来た。ローガよ、案内ご苦労さん。

 

「ヤーベ殿、賊はどうなりました?」

 

「無力化完了、奴らの持っていた毒がこれだ。致死性が極めて高いポイズンウォータードレイクの毒のようだ」

 

「なんですと! ポイズンウォータードレイクの毒は毒そのものが珍しく、解毒剤が作りにくいので非常にやっかいな毒なのです。即死するほどではありませんが、比較的死に至るまでの時間も短い。本当に毒が混入される前に阻止出来てよかったです。助かりました」

 

ホッとした表情でお礼を言ってくるナイセー。いいって事よ、昨日は御馳走になったしね!

 

「はぁ~~~はっは! これで解決だとでも思ったか!バカめ!」

 

衛兵に取り押さえられたリーダーらしき男が急に騒ぎ出す。

 

「どういう事です?」

 

「この町でのテロは失敗したがな、もうフェルベーンではすでに始まっているんだよ!」

 

「ま、まさか・・・!」

 

ナイセーは絶句した。もう始まっている、それはこの地を納めるコルーナ辺境伯がいる城塞都市フェルベーンでのテロを示唆していた。

 

俺は皮手袋をした右手でリーダーの男の顔を掴む。

 

「フェルベーンでも同じ手口なのか? 誰がお前らのボスだ? 何が目的だ?」

 

「はっ!誰が喋るか・・・うぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 

俺はアイアンクローの状態で万力の様に男の頭を締め上げる。

 

「で、フェルベーンでも同じ手口なのか? 誰がお前らのボスだ? 何が目的だ?」

 

「はががががががが!」

 

メリメリメリメリッ!

 

聞こえてはいけない音と出てはいけない何かが見えてしまった気がした。

 

「ヤーベ殿、尋問はこちらで」

 

ナイセーが声を掛けてくる。

 

「ナイセー、お前さんの上司に大至急連絡を取る方法があるか?」

 

「王都と違い、ここには通信魔道具がないのです・・・」

 

唇を噛むナイセー。やはり辺境伯や城塞都市が心配なのだろう。

 

「ならば大至急辺境伯宛に手紙を書いてくれ。俺がどういう人間か、それからソレナリーニの町にて起こったテロ未遂事件の概要をな。急げ」

 

「分かりました!」

 

急いで衛兵長に犯人から出来る限り情報を得る様に指示する。

 

「至急代官邸まで戻りましょう!」

 

走るナイセーの後を追って俺たちも代官邸まで戻る。

 

手紙を受け取ったら大至急城塞都市フェルベーンまで出発だ。

 




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第47話 城塞都市を調査しよう

城塞都市フェルベーンまでの道程は<高速飛翔(フライハイ)>ではなくローガに乗って大移動した。ローガ達狼牙族六十一匹が全力疾走!滅茶苦茶驚かれたね、街道で。

絶対魔物の群れがフェルベーンまで侵攻したって後でいろんなギルドに情報が上がるだろうな。ナイセー、スマン。

 

「な、なんだお前ら!敵襲か!だが、その程度では城塞都市フェルベーンは落とせんぞ!」

 

城塞都市フェルベーンに到着した俺たち。

城壁にある町入口と思われる門で衛兵たちが十人以上、ズラリと並んでいた。まあ、さすが城塞都市フェルベーンだ。今も五十人以上の人たちが入門手続きを待って並んでいる。

 

「緊急の使者なり!ソレナリーニの町代官ナイセー殿より火急の要件にてコルーナ辺境伯まで手紙を届けに来た!至急対応されたし!」

 

大声を出して伝える。何か侍っぽくてカッコイイ?

 

「なんだと!門番長を呼んで来い!」

 

なかなか訓練された衛兵たちだ。顔の見えないローブという怪しい俺、狼牙族を引き連れている怪しい俺、大量のヒヨコたちは・・・あ、先に町中を調査に行かせたわ。だから今いないし。後はイリーナか。うん、俺怪しい以外に説明のしようがないわ。

自分で言ってて悲しくなるな。

 

「どうした!」

 

門番長らしきガタイのいい衛兵が門から走ってくる。

 

「はっ!この者がソレナリーニの町代官ナイセー殿よりコルーナ辺境伯様宛に火急の要件とのことで、手紙を預かって来たとのことです!」

 

「ふむ、では確認しよう。手紙を見せてくれるか」

 

俺は懐を探る振りをして亜空間圧縮収納から代官印にて封印された手紙を取り出す。

こういう場合、魔道具の封印具で封をすると、対応する魔道具で開封しないと手紙が燃えて灰になってしまうらしい。異世界恐るべし。

 

「あいよ」

 

「こ、これは確かにソレナリーニの町代官印だ。間違いない。火急との事であれば、通ってよい。但しお主は代理の者だな?」

 

「そうだ、ナイセー殿に依頼された冒険者だ」

 

「では入門手続きだけ行ってもらう。こっちへ来てくれ」

 

人々が並んでいる門の横。今は閉ざされたより大きな門を守る衛兵の元へ案内される。

 

「この魔道具にギルドカードと使役獣のペンダントを当ててくれ。これで町に入ったという記録が残る。もちろんどの門から町を出てもいいが、必ずカードをチェックしてもらってくれよ」

 

なるほど、これで町の内外の人の流れをチェックできるのか。最もカードを偽造されたりすればダメだろうけどな。

 

「わかった」

 

「それでは気を付けて行ってくれ。使役獣が多いから問題を起こさないようにな。後コルーナ辺境伯様の邸宅はこの大通りを真正面に進んでいった先の広場から左へ向かった方向にある。町がデカいからな。距離があるから、分からなければ都度衛兵に尋ねてくれ」

 

「了解、親切にありがとうよ」

 

「ああ、それじゃ」

 

そう言って俺はローガ達を引き連れて町の中へ入って行く。

 

「・・・あんな使役獣をたくさん率いるテイマーが火急の要件でナイセー殿の代わりに・・・。何かヤバイことが起こらなければいいが」

 

門番長は嫌な予感に襲われるのだった。

 

 

 

 

「さて、町に入ったは良いが、とりあえずコルーナ辺境伯の元に向かえばいいか、それとも少し町の情報を探ってからの方がいいか・・・」

 

「ヤーベ、どうしたのだ?」

 

ローガに乗ったまま、町に入った大通りで立ち止まり考えに耽っていた俺にイリーナが声を掛ける。

 

「ああ、すぐコルーナ辺境伯の元に向かう方が良いか、少し町の情報を調べてから向かった方が良いかと思ってな」

 

「なるほど、それでは大きな町でもあるし、向かいながら情報を仕入れようではないか」

 

「おおっ! ポンコツイリーナとは思えぬ回答!」

 

「ナニカイッタカ?」

 

「イイエ、ナニモ?」

 

そう言うわけで大通りをテクテクとローガに跨って歩いていく。

それにしても、相当大きな町だが、活気がイマイチないな。

商店もいくつか閉まっているし。

 

ちょっと開いている店を覗いて見るか。

 

「はいよ、まいど」

 

イマイチ元気のない親父があいさつした。

 

「ここは八百屋か。野菜の種類が豊富だな」

 

「こんなもん、今日は少ない方ですよ。持ってきてくれる農家の親父さんが風邪で寝込んだようでね。ここ二~三日入りが悪いんですよ」

 

「風邪ね・・・、そういや親父さんもあんまり顔色良くないようだけど?」

 

「そうなんだよね、俺もちょっと風邪気味なのか、疲れが溜まったのか、少し体がだるくてね・・・」

 

おいおい、まさかだよな?

 

「調子悪いなら医者へ行った方がいいぞ」

 

「医者ってなんだい?」

 

「えっ!?」

 

医者って通じねーのか!? ヤベちゃんヤッベー!・・・程でもねーか。八百屋の親父さんとの会話だしな。

 

「いつもは体の調子が悪くなったらどうしてるんだ?」

 

「教会にお布施をすれは<癒し(ヒール)>を掛けてもらえるよ。それで体力が回復できる。ケガなんかも治してもらえるんだ。後は金が無い時は町の薬屋か、治療院があるが、そっちはあまりアテにはなんねーからな・・・」

 

「治療院があるのか。何でアテにならないんだ?」

 

「結局教会に<癒し(ヒール)>のお布施代金が払えない連中が行くからな・・・。薬草を煎じてくれたりして多少はマシになるみたいだが、劇的な回復は望めないからね・・・」

 

そりゃそうだろうね。現代医学のイメージがある俺は劇的瞬間回復なんて逆に信じられませんけどね・・・。

それにしても、ついに来たぜラノベのテンプレ! 教会での<癒し(ヒール)>。

相場がどれくらいかは知らんが、悪徳神父が暴利を貪っているか、美しいシスターが薄給で<癒し(ヒール)>をかけまくっているか、基本はどちらかだ。※矢部氏の個人的見解となります。

 

所謂魔法が全く使えない(精霊魔法は自由に操っているが、精霊たちに力を借りているので自分の能力だという認識が無い)俺からすると<癒し(ヒール)>は憧れの的でもあるな。最も神様を信仰しろって言われたら100%無理だけどな!

そんなわけで俺には回復魔法の習得はまず不可能ということで、出来ればイリーナにマスターしてもらいたいのだが。

ちらっと横を見る。

・・・無理だろうなぁ。

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

「ほわあっ!」

 

イリーナさん、だから手のカタチが変わりますって!

ちなみにローガに跨っている俺だが、今は俺の前に横座りでイリーナが乗っている。

でもって、俺の腰(?)に右手を回しているのだ。これはかの有名なお姫様と遠乗りバージョンでは!?

ただ、イリーナだしな、うん。

 

『ぴよよー!(ボス!左手の裏通りに人がたくさん集まっています!)』

 

「そうなんだ、ちょっと様子を見て来るか」

 

俺はヒヨコの案内で裏通りに入って行った。

 

 

 

裏通りの一角、小さめの石作りの建物に人の行列が出来ていた。

 

「何だ?」

 

よく見ると、「ボーンテアック診療所」と書かれている。

建物の中を覗こうとすると、「おい、並べよ!」と文句を言われた。

 

「あ、俺は患者じゃないから。ちょっと話が聞きたいだけ」

 

そう言って中に入る。

すると、

 

「ああ!もうどうしたらいいんだ!みんながみんな同じ症状で調子が悪いと言ってくる。この症状はアレ(・・)に似ているが、そんなはずないし・・・。ああ、薬草がもう在庫切れだ!」

 

「あるよ」

 

そう言って亜空間圧縮収納から基本的な薬草を出して渡してやる。

薬草にもいろいろあるが、今出したのは奇跡の泉近くで取れたもので、比較的珍しくないが俺が奇跡の泉で水を撒いていたので非常に効果が高いものだ。

 

「おお、これはありがたい。早速追加で調合を・・・ああ、水も切れた。裏の井戸から汲んで来なきゃ!」

 

「あるよ」

 

そう言って俺は近くのヤカンにそっと触手を伸ばして水をじょろじょろ出してやる。もちろん奇跡の泉産だ。効果は抜群だ。

 

「何と!それは助かる。早速対応しよう」

 

そう言って、薬草と水で飲み薬的な物を作り、並んでいる患者に一口ずつ飲ませて行く。

三十分以上かかって行列をさばいた時には、男はぐったりしていた。

 

「大変だったな」

 

「ああそうだね・・・って、キミは誰だい?」

 

今頃気づいたのか、呑気な返事をする男。

 

「聞きたいことがあって来た。俺はヤーベ。こっちはイリーナだ。外の狼牙達は俺の使役獣だ」

 

「ボクはボーンテアックって言います。この診療所の所長です・・・ってボクしかいませんけどね。で、聞きたいこととは?」

 

「この調子悪そうな人はいつごろから多発している?」

 

「う~ん、ここ数日急激に増えたね。ちょっと前から体がダルイとか、熱がある、とか、風邪みたいな症状を訴える人はいたんだけど・・・」

 

「さっき、この症状は「アレ」って言ってたけど、アレって?」

 

「う~ん、実は信じられないかもしれないけど、今患者で来ている人たちの多くはポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状に似てる気がするんだ」

 

「ポイズンウォータードレイクの毒だと!」

 

「わ、ビックリした」

 

ボーンテアックは椅子からひっくり返りそうになっていた。

線の細い優男のイメージ通りのひ弱さだな。

 

「うん、今来た多くの患者の症状はポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状だと思えるんだ。風邪に似てるんだけど、重くなると目のクマ、手の震えなども出るから」

 

「ちなみにだけど、教会でお金を払えば<癒し(ヒール)>が受けられるって聞いたんだけど、この症状は改善されると思うか?」

 

俺は疑問だったことを聞く。

 

「<癒し(ヒール)>だけではダメだと思うね。体力は多少回復しても原因の毒を取り除かないと」

 

「毒を消すポーションとか、魔法は無いのか?」

 

「魔法は<解毒(ディスポイズン)>があるんだけど、毒が溜まっている部位が分からないと魔法の効果が薄いんだ。そして、このポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状はどこに毒が溜まっているのかわかっていないんだ。だから結構適当に辺りを付けて<解毒(ディスポイズン)>を乱発すると治る場合も通常はあるんだけど、このポイズンウォータードレイクの毒を魔法で治したって記録は無いんだよ」

 

「毒消しのポーションは?」

 

「カルノレッセの実を絞った果汁が特効薬として知られているけど、珍しい実でね。通常はまず手に入らないんだ。干したものを粉末にした粉薬も効果があるけど、果汁の方が即効性があるね」

 

「それ以外で解毒できないのか?」

 

「実際の毒があれば、その毒そのものを使って効果を中和するような解毒剤を作れると思うんだが、さっきも話したようにポイズンウォータードレイクの毒自体が非常に珍しいものだからね・・・」

 

「あるよ」

 

と言って俺は亜空間圧縮収納から悪党から取り上げた毒の瓶を取り出す。

 

「うそっ!あるの?何で?」

 

「まあ、いろいろとあってな。俺には何の役にも立たない毒だが、アンタならこれで人を救えるんだろ?ならやるよ。解毒剤製作は任せるよ」

 

「ああ、わかった!なんとか製作してみるよ」

 

にっこり笑って毒の瓶を握りしめるボーンテアック。

 

「あ、毒足りなければまだいっぱいあるから」

 

「何で!?」

 

とりあえず返事をせずに診療所を出る。

それにしても、ポイズンウォータードレイクの毒による中毒症状・・・。致死率が高い上に、僅か3gという分量での致死量だ。非常に少量で死に至る毒を、僅かばかり使用して少なくとも何日か摂取させた。しかも比較的広範囲で多くの人間に・・・。

 

「あっ!」

 

俺は診療所にダッシュで戻る。

 

「ボーンテアック!」

 

「わあっ!びっくりした。何だ、ヤーベさんか、どうしたんです?」

 

机に向かっていたボーンテアックがこちらを振り向いて再度の訪問について尋ねた。

 

「お前自身は調子悪くないのか!?」

 

「ああ、私ですか、私は別に・・・」

 

「お前、水はどこから手に入れている?」

 

「水なら・・・自分の診療所の裏に井戸がありますから、そこで」

 

「自分の敷地内の井戸で、自分専用なのか?」

 

「ええ、そうですけど・・・って、まさか!」

 

「そのまさかの可能性が高いが、まだ町の連中には言わないほうがいい。何かわかったら知らせに来るから、お前は解毒剤頼むぞ!」

 

そう言って再度診療所から飛び出していく。

 

「彼は一体何者なんでしょうか・・・」

 

ボーンテアックの呟きは俺には聞こえなかった。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!


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第48話 辺境伯の娘を助けよう

診療所を後にした俺たちは再びローガに跨って大通りに戻る。

 

「コルーナ辺境伯に会って手紙を渡した後、町の井戸という井戸をチェックしないとダメだな」

 

「やはり井戸に毒が入れられているのか?」

 

俺の独り言にイリーナが返してきた。

 

「そうだな。たくさん入れると死人が出てしまうだろうから、絶妙な量をコントロールしているか、もしくはより上位よりただ「コレを入れろ」と決められた分量を渡されているだけかもしれない」

 

「その場合、かなり組織的になるな」

 

「うむ」

 

・・・すげー、イリーナと真面目に話をしている。

イリーナもこんな会話出来たんだ。

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

「ほわあっ!」

 

イリーナさん、だから手のカタチが変わりますって!

 

『ぴよよー!(ボス!この先の通りに人がたくさん集まっています!)』

 

「なんだ?」

 

『ぴよぴよ~!(なんだかちょっと怪しいです)』

 

「むっ?」

 

ヒヨコが怪しいと言うんだ。きっと何かあるんだろう。

ヒヨコの感受性は相当豊かだからな!

 

聖神会(せいしんかい)の御祈祷薬を買えば、今の辛さを改善できますよ! これがたったの銀貨一枚だ。聖神会(せいしんかい)に入会して銀貨一枚払うだけで辛さを改善できますぞ!」

 

何か怪しい神父が叫んでいる。何でも聖神会(せいしんかい)に入会して銀貨一枚払うだけで辛さを改善? ああ、具体的には御祈祷薬を飲めば辛さが軽減ってわけか。なんとか手に入れて分析したいが、悪党臭くてもかっぱらうのは頂けないし、金を払うのは良いが、怪しい宗教に入りたくはないな・・・。

 

「お、にーちゃん御祈祷薬買ったのか?」

 

怪しい神父の人だかりから出て来た具合の悪そうな兄ちゃんに声を掛ける。

 

「あ、ああ・・・、だるくて体に力が入らなくてね・・・」

 

俺は懐から銀貨一枚を出した。もちろん実際は亜空間圧縮収納からだが。

 

「ちょっとだけ御祈祷薬見せてくれない? コレ手間賃」

 

といって銀貨一枚を兄ちゃんに握らせる。

 

「いいけど・・・ちゃんと返してくれよ?」

 

「もちろんもちろん」

 

そう言って御祈祷薬とやらを頭上にかざしたりしながらふと後ろを向いて兄ちゃんの視界を一瞬遮る。

 

「(今だ!)」

 

俺は亜空間圧縮収納へ一瞬仕舞い、解析する。

 

【カルノレッセの実の粉末(劣)】

【ポイズンウォータードレイクの毒に対する解毒剤。但し、ほとんど小麦粉でカルノレッセの実の粉末はわずかしか含まれない。解毒効果(劣)】

 

・・・最悪だ。

何が最悪って、ほんと気持ち楽になる程度の効果しかない物を売っているのもそうだが、これを売っている時点で犯人だと言っているようなものだよな。

ボーンテアックの話だと、ポイズンウォータードレイクの毒もカルノレッセの実も非常に珍しく手に入りにくい物らしいからな。

 

「にーちゃんありがと」

 

でもって御祈祷薬とやらを返す。

 

「にーちゃんもう一仕事頼む」

 

「な、なんだよ」

 

「もう三人分買って来てくんない? コレお手間賃ね」

 

そう言って今度は銀貨5枚を渡す。

 

「お、おお、わかった」

 

そう言ってまた人の輪の中に戻って行く兄ちゃん。

 

「どうしたのだ?その御祈祷薬がどうかしたのか?」

 

イリーナが小首を傾げて聞いてくる。

 

「ああ、劣化品の解毒剤のようだ。そんなものを売っているということはこのポイズンウォータードレイクの毒を使ったテロの犯人だと言っているようなものだがな」

 

「では、あの聖神会(せいしんかい)というのが犯人なのか?」

 

「ああ。もしくはさらに裏の組織があるかもしれないがな」

 

待っているとさっきの兄ちゃんが帰って来た。

 

「はいよ、三人分だ」

 

「ああ、ありがとう」

 

「じゃあな」

 

俺は三人分の御祈祷薬を受け取る。

 

「その薬をどうするのだ?」

 

「特にどうもしないが、とりあえずコルーナ辺境伯にはコレを渡して聖神会(せいしんかい)が怪しいと報告しないとな」

 

「なるほど、証拠の一つということだな?」

 

「そういうことだ」

 

イリーナににっこりと微笑むと、俺たちはコルーナ辺境伯の屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「ここが辺境伯の屋敷か。相当デカいね」

 

今俺たちはコルーナ辺境伯の屋敷の前に到着した。

 

大きな門の左右に衛兵が立っている。

 

「こちらはコルーナ辺境伯の屋敷であっているか?」

 

「そうだ、何か用か?」

 

「ソレナリーニの町代官のナイセー殿より火急の要件にて手紙を預かっている。コルーナ辺境伯に直接手渡ししたい。先振れはないが辺境伯にお取次ぎ願いたい」

 

そう言って手紙の封印を見せる。

 

「間違いない。ソレナリーニの町代官のナイセー殿の印だ。少々待ってもらえるか?」

 

そう言って衛兵の一人が屋敷の中へ入って行く。

 

そのうちメイドを一人連れて戻って来た。

 

「それでは入ってくれ。このメイドに案内を頼んだので付いて行ってくれ」

 

「こちらへどうぞ。ご案内致します」

 

「よろしく頼む」

 

「使役獣はそちらの庭にてお待ち頂けますようお願い致します」

 

「わかった。ローガ、そこで待っていてくれ」

 

『わふっ(了解です!)』

 

ヒヨコ隊長にあえて声を掛けなかったのは、イリーナの肩に止まって隠れているからだ。

 

「ではご案内致します」

 

 

そうして屋敷の中に入ったのだが・・・

 

 

「貴様!それでも聖職者なのか!」

 

とんでもない怒声が聞こえて来た。

 

「きぃ~~~ひっひっひ、もちろん聖職者の鏡ですよぉ。こうして聖水を持ってきているではありませんか」

 

「金ならいくらでも払う!その聖水とやらで娘が治せるのなら使ってくれ!」

 

「ですからぁ、欲しいのはお金じゃなくてぇ、この地を治める経営権ですよぉ」

 

「馬鹿な!そのような物、渡せるはずも無かろう!」

 

「では、娘さんは死ぬしかありませんなぁ」

 

「ああ、ルシーナ!」

 

「あ、あの・・・少しお待ちを・・・」

 

しどろもどろになるメイドさん。

そりゃそうだよな、いきなりすげー修羅場だよ。

扉の外側から聞いただけでも辺境伯大ピンチってとこか。

聖職者とか言ってるって事は例の聖神会(せいしんかい)のメンバーなんだろうね。

 

 

ゴンゴン!

 

 

扉を勢いよくぶっ叩く。

 

「お、お客様!」

 

メイドが目を剥く。少し待てと言ったのに、まさかこの修羅場に乗り込もうとは思わなかったようだな。だが俺という男・・・いや、スライムは空気を読まないのだ。

 

「何だ!」

 

「毎度、正義の味方でおま」

 

左手をちょいと上げて部屋にずかずかと入って行く。

 

「ヤ、ヤーベ! さすがにその挨拶はどうかと思うのだが!」

 

イリーナが俺のローブの裾を摘まんでついてくる。

 

「な、何だ貴様は! どこから入って来た!」

 

この激おこぷんぷん丸な人がフェンベルク・フォン・コルーナ辺境伯なのかな? ベッドで寝込んでいるのがルシーナと呼ばれていた娘さんで、そのそばで手を握って泣いているのが奥さんか。メイドや執事はこの場にはいない。どうせこの悪徳神官とのやり取りがあるから人払いしたってところか?

 

「どこからと言われれば、玄関からだが。ちなみに俺はヤーベ。こっちはイリーナだ。ソレナリーニの町代官のナイセー殿より火急の要件で手紙を預かって来た」

 

そう言って手紙を差し出す。

 

「火急の要件だと! 今はそれどころではない!出ていけ!」

 

怒鳴り散らして手を払うフェンベルク卿。

そこそこ年のようだが、白髪のダンディーな親父さんって感じだ。でも娘の事で余裕が無さすぎだな。

 

「まあ、出て行けと言うなら出て行くけど。さっきも言ったけど一応正義の味方として来てるんで。娘さんの事とか後悔しないといいけど?」

 

「なんだと! 貴様このフェンベルク・フォン・コルーナを脅すか!」

 

俺のローブの胸倉を掴むフェンベルク卿。

 

「いや、脅されてたのはあいつにだろう? 俺じゃなくて」

 

「むっ? それもそうか・・・、だったら貴様は何なんだ?」

 

とりあえず一周して少し落ち着いたか?

 

「とにかく手紙に目を通せよ。これでもソレナリーニの町で起きた毒によるテロ事件を未然に防いだ功労者だぞ。ナイセーの手紙にも書いてあるはずだが?」

 

「なんだと!」

 

そう言って慌てて手紙に目を通すフェンベルク卿。

 

「未然に防いだ・・・だと?」

 

怪しい神官がこちらをねめつける様に睨んで来る。

 

「お前さん、聖神会(せいしんかい)の悪党か? ソレナリーニの町での毒散布は止めさせてもらったぞ。ちなみに貴様らが町で毒を井戸に投入して町の人々をポイズンウォータードレイクの毒で中毒症にしているのも、その御祈祷薬と言って気持ちばかりの偽解毒剤を暴利で売っているのも全て知っているぞ?」

 

「な、なな何だと!?」

 

驚く神官。

 

「貴様、許さんぞ!」

 

フェンベルク卿は神官を怒鳴り上げる。

 

「証拠はあるのですかな! いきなり無礼でしょうに!」

 

掴みかかろうとするフェンベルク卿に顕然と言い放つ神官。

 

「ここまで無礼な仕打ちは記憶にありませんな。この聖水は渡せません。これで失礼する!」

 

そう言って出て行こうとする神官を俺は捕まえる。

 

「逃げんなよ、この悪党」

 

威圧するように睨みを効かす。

 

「証拠の一つはコレだ」

 

ポイっと御祈祷薬をフェンベルク卿に渡す。

 

「これは聖神会(せいしんかい)が御祈祷薬として銀貨一枚で売っていた物だ。中身はカルノレッセの実の粉末をわずかに混ぜた小麦粉だ。これはポイズンウォータードレイクの毒で中毒症になっている事を想定していないとこのようなものは用意できない」

 

「確かに!」

 

悪徳神官を目だけで殺せそうな勢いで睨むフェンベルク卿。

 

「ああ、ちなみに屋敷に入る前に部下に聖神会(せいしんかい)と名乗ってこの御祈祷薬を売っている連中を全てしょっ引いてくるように指示してるから。集まったヤツ尋問すればすぐ吐くんじゃない?」

 

「おおっ!」

 

今度は嬉しそうな表情で声を上げるフェンベルク卿。

俺が味方だってやっと認識してきたっぽい。

 

「クソどもが!ならば永遠に後悔するがいい!」

 

そう言って持っていた瓶を床に投げつけ踏みつけて壊してしまった。

 

「貴様!何てことを!」

 

「これで貴様の娘は永遠に助からない!サマーミロ! ハッハッハ」

 

バキィ!

 

フェンベルク卿怒りの一撃が悪徳神官の右頬を打ち抜く。

このままほっておくと間違いなく悪徳神官と娘のルシーナは死んでしまう。

悪徳神官が死ぬのは一向に構わないが、ルシーナは死なせるわけにはいかない。

 

俺はベッドで横たわるルシーナの元へ行く。

 

「ああ、娘を、娘をお助けください・・・」

 

涙を流しながら俺のローブを掴みすがる奥さん。

 

「お任せください。全力を尽くしますよ」

 

そう言ってルシーナを見る。

非常に辛そうだ。頬もこけ、顔色も悪い。

ポイズンウォータードレイクの毒による中毒症だろう。それも重篤な状況だ。

金も権力もあるコルーナ辺境伯が教会に助力を頼まないわけがない。ということは<解毒(ディスポイズン)>で解毒に失敗しているということだ。<癒し(ヒール)>で回復し切れない場合、<解毒(ディスポイズン)>も試しているはずだからな。

 

ポイズンウォータードレイクの毒が<解毒(ディスポイズン)>で解毒出来ないのは、体の一か所に毒が溜まり続けていないからだろう。ならば毒はどこにあるのか? 俺は一つの仮説を立てる。日本の医療に「人工透析」というものがあった。これは腎機能の低下により血中の老廃物を処理できずに体に様々な悪影響が出るというものだったはず。ではこのポイズンウォータードレイクの毒も同じように血中を回り続け、腎臓で処理できずに悪影響を体に与え続けているとすれば・・・。

 

俺はルシーナの右手首を掴む。

 

「あ・・・」

 

異性?に手を握られて恥ずかしいのか(実際は手首を掴んでいるけど)ものすごく顔色が悪いのに少し頬に紅が差すようにはにかむ。照れてるのかな?

 

「さて・・・」

 

俺は掴んだルシーナの手首の一部に自分のスライム細胞を「同化」させて行く。

これはスライム細胞に「対象の細胞と同化せよ」との指令を出している。

そして同化を進めて行き、手首の中に潜り込んでいく。血管にたどり着いたスライム細胞に血管へ接続させる。もちろん抜いた血液を戻るための接続も忘れない。

 

何をしているかって・・・もちろん「スライム透析」に決まっているでは無いですか。

それも水の精霊ウィンティアの加護パワーを使って、血液浄化対応!血液を解毒してピカピカサラサラにして返してあげるのだ!ぐるぐるパワーがあればなんとかなる!

ルシーナの血液を吸い上げ、解毒浄化した後、再度血管へ戻す。

 

「ああ・・・、もの・・・すご・・・く・・・楽・・・に・・・」

 

ルシーナが掠れた声で途切れ途切れに伝えてくる。

 

「ああ、無理して喋る必要はないぞ。少し水をやるから、ゆっくり口に含んで飲むんだ」

 

そう言って触手を一本増やして、ルシーナの口に差し込む。

 

「ひっ・・・」

 

「何だそれは!」

 

ルシーナが少し怯え、フェンベルク卿がキレる。

でも必要な事だからあまり騒がないで欲しいね。

 

「落ち着いて、水をゆっくり飲んで」

 

「ふわっ・・・」

 

コクコクと水を飲むルシーナ。

 

「お、おいひいれす・・・」

 

ニコッと笑ってそう伝えてくれるルシーナ。

そりゃおいしいと思うよ。何てったって、水の精霊ウィンティアの加護を受けた奇跡の泉の水だからね。

ルシーナの顔に赤みが戻ってくる。もう大丈夫かな。

 

「ば、ばかな! ポイズンウォータードレイクの毒は今捨てたカルノレッセの実を絞った果汁が無いと治らないはずだ!貴様どうなってる!」

 

「全力で自白ありがとう。お前が町の人たちに、そしてこのルシーナに毒を持った犯人だな」

 

「ば、ばかな! なぜそれを!」

 

「いや、今自分でそう言ったじゃないか」

 

呆れて物も言えないな。

 

「貴様がルシーナを苦しめたのか!」

 

ドボォッ!

 

フェンベルク卿の強烈なボディブローが怪しい神官に突き刺さる。

 

「ゴボゲロゴボ!」

 

ああ、出てはいかん物が出ているな。見なかったことにしよう。

俺は慌てず騒がず、ゆっくりとルシーナの血液を綺麗にしていった。

 




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第49話 なぜかモテる状況をなんとかスルーしよう

 

俺はゆっくりルシーナの血液を「スライム透析」にて浄化して行く。

浄化が進むごとにルシーナの顔色が良くなっていく。

当然通常の透析なら不純物を取り除くだけだろうけど、何といってもコレは俺様特製「スライム透析」だ。水の精霊ウィンティアの加護により血液に水の加護を与えている。具体的な効力は<生命力回復(ヒーリング)>だ。毒により体力を奪われているルシーナには劇的な回復効果が望めるだろう。

 

「ああ、ルシーナの顔色が良くなってきているわ!」

 

奥さんが喜んで、ルシーナの左手を握る。

俺が右手を掴んでいるから、ベッドの反対側に回り、ルシーナの左手を握っていた。

すでに悪徳神官を沈黙させているので、衛兵及びメイドを部屋に入れている。

見た目の問題もあるので、ルシーナの口に入れていた触手は回収している。

 

「・・・声も出る様になってきました」

 

まだだるそうにしながらも笑顔を向けてくるルシーナ。

 

「ああ、ルシーナ!」

 

奥さんがルシーナに抱きつく。本当に心配していたんだな。家族っていいね!

ちらっと見ればフェンベルク卿も目に浮かべた涙を拭っている。

 

「・・・? あれ・・・イリーナちゃん?」

 

ルシーナがイリーナを見て呟く。

 

「ふえっ!? バレた?」

 

「くすくす・・・、そんな格好してるからちょっとびっくりしたけど、分かるよ。イリーナちゃんとは仲良しだもん。少し前に会えなくなって、行方不明って噂も流れて・・・、とっても心配してたんだよ?」

 

「今はルシーナちゃんの方が心配だよ?」

 

そう言って二人はくすくすと笑った。

 

「イリーナちゃんだったんだ・・・」

 

奥さんが呟けば、

 

「まさか、ルーベンゲルグ伯爵令嬢がルシーナを助けに来てくれるとは・・・」

 

フェンベルク卿も信じられないと言った表情だ。

 

「ええっ!? イリーナって伯爵令嬢だったんだ!?」

 

思わず信じられないような物を見るような目でイリーナを見てしまう俺。

 

「え、ああ、うん、そうだな・・・」

 

俺のツッコミに急にモジモジして照れだすイリーナ。

 

「え・・・、イリーナちゃん、その人って・・・」

 

未だにルシーナの右手首を掴んで、謎の治療中のヤーベを見つめるルシーナ。

そう言えば意識がはっきりしてからもまだ、名前すら聞けていない。

 

「え、ああ・・・、うん・・・、その、私の・・・大事な人・・・かな?」

 

イリーナが高速モジモジをかましながらそんなことを宣う。

 

「「ふえっ!?」」

 

俺とルシーナが同時に驚きの声を上げる。

俺はいつの間にイリーナの大事な人に!?

ローブを纏った怪しい奴ですけど!?

自分で言うのもなんですけどね!

 

見れば奥さんもフェンベルク卿も驚いた顔をしている。

 

「イリーナちゃんの大事な人って・・・結婚するの?」

 

ええっ!? 結婚!? 俺が!? イリーナと!?

まず、人ではない俺が結婚ってどーなのよ!?

 

「え・・・」

 

チラッと俺を見るイリーナ。

顔を真っ赤にしている。

 

「うん、結婚する・・・」

 

すんのかーい!!

今初めて聞きましたけど!?

後、イリーナのご両親にも会った事ありませんけど!?

後、再確認しますけど人じゃないですが!?

 

ルシーナが今度は俺に視線を向けてくる。

 

「お名前・・・教えて貰ってもいいですか・・・?」

 

ルシーナが俺に聞いてくる。

 

「お、俺・・・? ヤーベって言うんだけど・・・」

 

まだ俺自身も気持ちが落ち着かない。

イリーナが事あるごとに俺にモーション?をかけてくれるのは気づいていたが、まさか大真面目に結婚とか考えているとは思わなかった。

というか、イリーナは俺が魔物の体だと知っているはず何だが。

 

「ヤーベさん・・・奥さんは二人いても大丈夫ですよね・・・?」

 

「はいっ!?」

「ふえっ!?」

「まあっ!」

「何だと!!」

 

そこにいた主要メンバー全員はそれぞれ声が裏返った。

 

「ル、ルシーナちゃん、ヤーベはダメだよぉ・・・」

 

ちょっと涙目で俺の右上腕部を抱えるようにするイリーナ。

揺すらないでね?まだ治療中だから!

 

「でもでも、イリーナちゃん、こんなすごくて素敵な人と知り合ってずるいよぉ・・・私だって仲良くしたいよ」

 

「そうねっ!ルシーナ。大事な人だって思ったらたくさん積極的になるのよ!」

 

ニコニコしながら左手を握る奥さん。

 

「お母さま!」

 

母親の応援を受けてより元気を増したルシーナがさらに俺に質問をする。

 

「ヤーベ様は奥様がたくさんいた方がよろしいですか?」

 

「ふええっ!?」

 

イリーナがもっとびっくりした顔でルシーナを見る。2人だけじゃなくてたくさん奥さんがいるの・・・!?

 

「ダメダメ!ルシーナちゃんと2人でも大変なのにもっと一杯なんてだめだよ~」

 

イリーナはヤーベの周りに自分とルシーナ、そしてたくさんの女性がいる場面を想像してもだえ始めた。

 

「そんなにたくさん女性が居たら、イリーナはポンコツだからもういらないって言われちゃうよ・・・」

 

急にグスグスし出すイリーナ。

 

「大丈夫だよ!イリーナちゃん。私と二人でヤーベさんを支えて行けばいいんだから」

 

「ふえっ!? 二人で・・・?」

 

「そう、二人で!」

 

そう言ってはにかむルシーナ嬢。すでにイリーナの味方だよ!みたいな感じで丸め込まれてますよ、イリーナさん?

 

「イカンイカン! 結婚なんて何を言っているんだ! 大体まだルシーナには早すぎる!」

 

急にフェンベルク卿が騒ぎ出す。

 

「あら、貴方? ルシーナの命を救ってくださった奇跡の魔導士様が、まさか気に入らないとでも?」

 

いやいや、お気になさらずに。というか命救ったら求婚って、お医者様はハーレム状態になっちまうよ。

 

「いや! そう言うわけではないんだ、感謝はもちろんしてるさ!対価もちゃんと支払わなければと思っているよ!でも結婚は早いんじゃないかと・・・」

 

「あら貴方、すでにルシーナは十六歳ですわよ。去年社交界にデビューを果たしておりますし、何の問題も無いではないですか。すでにいくつかの貴族よりルシーナを娶りたいと申し出が来ておりますし」

 

「むうっ! だが、やはり早いからそういった申し出も断っているではないか」

 

「それは相手によるからですわ。今まで申し出のあった貴族のお相手は皆さんイマイチでしたもの。それに比べてこのヤーベ様はとてつもない力の持ち主ですわ!ルシーナの伴侶にふさわしい!」

 

いや、怪しいローブを羽織った顔すら見せない謎星人ですけど?

俺のどこにダンナ要素ありますかね?

あ。屋台で食い物買い占めた時はダンナって呼ばれてたわ!

 

「そうですね、お母さま。イリーナちゃんと二人でしっかりヤーベ様を支えたいと思います!」

 

「うん!その意気よ」

 

「イリーナちゃんも一緒に頑張ろうね!」

 

「え・・・、うん・・・」

 

おうっ! オペレーション・なし崩し!

いつの間にやらイリーナとルシーナちゃんがタッグを組んで俺を支えると言うのが既定路線に!?

 

コルーナ辺境伯家の女性陣、恐るべし!

 

「あの~、フェンベルク様? この悪徳神官を引っ立ててもよろしいですか?」

 

衛兵たちが気絶している悪徳神官を連れて行こうとしている。

 

「お、おお、頼むぞ!尋問をきつく行って情報を吐き出させよ!」

 

タジタジだったフェンベルク卿だが、仕事モードに切り替わって指示を出す。

 

そのうち、玄関でピヨピヨと騒がしくなってきた。

 

「ああ、多分聖神会せいしんかいの怪しげな布教活動を行っていた連中をウチのヒヨコたちが連れて来たんだろう」

 

そう言って伝えた時、ルシーナの血液循環が一周して加護がつながった感覚がした。

 

「うん、治療完了。もう大丈夫だと思うよ。後はゆっくり水分を取って消化にいいおいしいものをいっぱい食べて体力をつけてね」

 

「あ、はいっ! ありがとうございます!」

 

上半身を起こして頭を下げるルシーナ。

 

「まだ無理しなくていいから、ゆっくり休んでね。ではフェンベルク卿、玄関に集まった聖神会せいしんかいの関係者を全員ひっ捕らえるとしましょうか」

 

にっこり微笑んでフェンベルク卿に伝える。ローブだからきっと顔がわからないだろうけどね。現在、顔がわかると大問題なのもあるけどさ。

 

 

 

俺とイリーナ、フェンベルク卿は館の玄関から外に出る。

すると、続々と悪党・・・いや、聖神会せいしんかいの神官っぽい男たちがヒヨコに宙吊りにされて運ばれてくる。大人の男をヒヨコ三羽で宙吊り・・・、いつの間にかの大パワー、ヒヨコさんマジハンパないっす。

 

そして、連れて来られた悪徳神官・・・聖神会せいしんかいの連中は狼牙族に囲まれてビビっている。

あ・・・急に一人立ち上がって走って逃げ出した。

狼牙の一頭が二本足で立ち上がって・・・ビンタ! 男は錐揉み三回転で吹っ飛び、中央へ戻される。

・・・狼牙マジハンパないっす。

ローガや四天王だけじゃなく、もはや一兵卒まで圧倒的な戦闘力を保持しているような気がするな。

 

「全員ひっ捕らえて徹底的に尋問だ! 詰所に連れて行け!」

 

フェンベルク卿の号令で衛兵たちが動き出す。

これで背後関係が割り出せれば、万事解決なのだが。

今回の事件も、イリーナとルシーナの関係も、スッキリ片付いてくれないものか・・・。

俺は溜息を吐いた。

 




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第50話 重篤な患者を助けよう

 

次々と引っ立てられて行く聖神会(せいしんかい)の神官たち。

 

「詰所で厳しく取り調べよ!」

 

フェンベルク卿の号令で衛兵たちがテキパキと詰所へ連れて行く。

 

さて・・・、この聖神会せいしんかいの連中が何を狙っていたのかが気になる。

ソレナリーニの町でも同じ毒でテロを狙っていた。

だが、よく考えればソレナリーニの町でテロを行おうとしていたのは盗賊チックな三名だった。フェルベーンではすでにテロ行為が始まっていると喋ったので大至急フェルベーンへ向かったため、その後の捜査を代官のナイセー殿に任せてしまったが、ソレナリーニの町でも聖神会せいしんかいの仕業なのか? それにしては実行犯が盗賊チックな連中だったし、毒の瓶から直接入れようとしていた事も雑さを感じる。

 

そしてその目的はどこにあるのか。

コルーナ辺境伯に恨みがあってこの地を混乱に陥れるのが目的か、それとも聖神会(せいしんかい)とやらの信者獲得が目的か。金儲けにしては杜撰過ぎるしな。

ただなぁ、信者獲得が目的なら、こんな城塞都市で始めるよりももっと小さな町や村で始めるべきだろう。このような大都市ではあまりにリスクが高い。

先ほど、聖神会(せいしんかい)がどのような組織なのか、この国の教会組織とどのような関係があるか衛兵に聞いてみた。

すると、聖神会(せいしんかい)なる宗教組織はほとんど名を知られていなかった。そしてこの国の教会組織とは全く関係のないものだった。

この大都市で知られていないだけで辺境の小さな町では知られている可能性も無いではない。先に想像した大都市でのリスクも、すでに小さな町では実行済みだったのかもしれない。そのあたりは取り調べを待つしかない。

 

「ふぃ~」

 

俺はまた溜息を吐く。

つい先日まで泉の畔でのんびりしていたはずなんだが・・・。

 

あ、のんびりしてる場合じゃない!

辺境伯の娘は助けることが出来た。だが、町中にはまだ苦しんでいる人がたくさんいるんだ。

しかもヒヨコたちが捕まえて来た聖神会せいしんかいの神官たちは十人を超えている。すると、かなり広範囲で被害が出ているはずだ。

 

「フェンベルク卿。街中でも貴方の娘さんと同じような症状で苦しんでいる人達が大勢いると思われる。ボーンテアック診療所というところで解毒剤を作ってもらっているのだが、なるべく早く町の人々に配れるように頼んでくるよ。薬代って、辺境伯からの支払いで大丈夫か?」

 

「ああ、もちろんだ! いくらかかってもいい。早く領民を助けてもらいたい。娘の事にかかりきりで、町のトラブルもここ数日は代官に任せっきりになっていたしな。私もすぐ町中の状況を把握するように努める」

 

「それではまた後で」

 

「ああ、頼むぞ!」

 

俺とイリーナはローガに乗ってボーンテアック診療所へ向かった。

 

 

 

 

 

「おーい、ボーンテアック」

 

俺たちはボーンテアック診療所の前にやって来た。

相変わらず列を成して患者たちが押し寄せている。

 

「おお、ヤーベ殿。解毒剤が出来たので薬草と合わせて患者に服用してもらったら劇的に回復してきましたぞ」

 

「おお、それは良かった」

 

ボーンテアックは助手に患者の相手を任せるとこちらにやって来た。

 

「だが、もう解毒剤の元になる毒が無いんだ」

 

ボーンテアックは以前渡したポイズンウォータードレイクの毒が入った瓶を振る。瓶の中は空っぽだ。

 

「あるよ」

 

と言っボーンテアックの手に握られた空の瓶を手(?)に取ると、亜空間圧縮収納に仕舞い、毒を詰めて再度取り出す。

 

「ほい」

 

「・・・君は手品師か何かかい?」

 

「否定はしない」

 

「しないんかい!」

 

ボーンテアックのツッコミを華麗にスルーし、ついでに薬草も取り出す。

 

「ああ、薬草もありがたいが・・・。実はもう僕では手に負えない患者がたくさん教会に集められているんだ。君に何とかしてくれとお願いするのは筋違いかもしれないんだが、なんとかならないだろうか・・・。かなり中毒症状が進んでしまって、解毒作用の効果が出なかったり、体力が限界に近い人たちがたくさんいるんだ。教会でも<癒し(ヒール)>で延命処置を施すのが精一杯のようなんだ」

 

「むっ、それはイカンな」

 

「な、何とか出来るのか?」

 

「行ってみないとわからんが、何とかするしかないだろうな。早速行って来る」

 

「教会は大通りに出て右手に見えるよ。よろしく頼む」

 

そう言って頭を下げるボーンテアック。

いい奴だよな。ボーンテアックが悪いわけでも何でもない。だが、自分が助けられない患者のために動く俺に頭を下げることが出来る。そんな奴の診療所はもっと力を入れて貰ってもいいだろう。主に国に。

 

 

 

 

「こんちは! ボーンテアックの依頼でお手伝いに来ました」

 

教会の大扉を開けて中に入り声を掛ける。ちなみにローガ達六十一匹は教会の庭で待機な。

 

「おお・・・、手をお貸しいただけるのですか、大変ありがたい事です」

 

かなり年配の・・・というかお爺さんな神父さんが出て来た。

 

「かなり重篤な患者さんが集められているとか」

 

「そうなのです・・・ボーンテアック殿より解毒剤と薬草を頂いて回復出来た者達も多くいたのですが、今現在教会に寝かされている人々はそれでも回復しない人たちばかりなのです」

 

「なるほど・・・様子を見せて頂いても?」

 

「こちらです」

 

教会の大聖堂へ案内される。この部屋がもっとも広いからだろうが。

扉を開け、中に入る。

そこには壮絶な光景が広がっていた。

ざっと見ても百人以上が寝かされている。

どの人もかなり重篤な状態のようだ。

四人ほどシスターがタオルを持って患者たちを見て回っているようだ。

別の神父が<癒し(ヒール)>を掛けている。

 

「これほどの数とは・・・」

 

「ヤーベ、どうしよう。みんなルシーナちゃんと同じような感じで危険な状態みたいだ・・・」

 

ルシーナちゃんを助けた時のような「スライム透析」ならば助けられるだろう。

だが、正直透析する血液に直接水の精霊の加護を与えるのは若干ためらわれる。

加護ではなく、直接<生命力回復(ヒーリング)>を魔法で掛ける方がいいだろう。

 

後は「スライム透析」を行うにしても一人一人ではとても間に合わない。助かる命も助からなくなる。

となると、触手をどういう風に説明するかだが・・・。

 

「神父殿」

 

「なんでしょう?」

 

「大変申し訳ないが、今この大聖堂にいらっしゃる皆さんに一度退出をお願いしたい」

 

「それは何故でしょうか?」

 

少し不審な表情を浮かべ問いかける神父様。

 

「患者の皆様を助けたいのですが、あまりに時間がありません。そのため大規模な魔法を行使したいのですが、患者以外の人間が範囲に入ると都合が悪いのです」

 

「それほどの魔法ですか・・・出来れば見学させて頂きたいのですが」

 

「申し訳ありません、集中せねばなりませんのでご遠慮いただけますでしょうか。できれば皆さん全員を助けたいので、少しでもリスクを減らしたいのです」

 

俺の説明に神父さんたちは「それでは皆さんをお願い致します」と全員退出して行った。

みんな疲れているし、休憩にとりあえず納得してくれたのだ。

 

俺とイリーナ、そして患者さんだけとなった大聖堂。

イリーナはジッと俺の方を見る。

 

「ウィンティア、シルフィー、力を貸してくれ」

 

「うん、もちろん。任せて!」

 

「お任せください!お兄様」

 

「<生命力回復の嵐(ヒーリングストーム)>」

 

大規模な範囲で<生命力回復(ヒーリング)>を使うため、水の精霊ウィンティアと風の精霊シルフィーの力を借りて合成魔法を作成、唱える。

精霊魔法の合成、など可能なのかと思ったが、力の行使時に精霊たちの力を借りると、精霊魔法を唱える時の力の流れに、かなり自由度があると感じていた。なので相反発しない力であれば、うまく調整することで合成したり二つの効果を持たせたりできるのではないかと考えていたが、それを実践で試すことにした。

 

具体的にはウィンティアの力を借りて<生命力回復(ヒーリング)>を拡大展開し、シルフィーの力を借りてその効果を風の力で広く拡散させる。

 

そして百人以上の患者の右手首に触手を接続。もちろん同時にだ。

別人の血が混じってはいけない。当たり前のことだが。

先のルシーナちゃんの治療で「スライム透析」のコツはもう掴んでいる。加護の力を使わず浄化するだけなら、スライム細胞の仕事もわずかで済む。

そんなわけで百人以上に同時に接続して、全員の血を混ざることなく「スライム透析」して血液浄化を実施した。

 

「ふう、全員回復出来たな。うん、間に合ってよかった」

 

俺は呼吸の落ち着いた患者たちを見て安堵した。

 

「ヤーベ、お疲れ様」

 

そっと俺の右手を抱える様に寄り添ってきたイリーナ。

俺はイリーナの笑顔に少し癒されたような気がした。

 

 




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第51話 『城塞都市フェルベーンの奇跡』を華麗にスルーしよう

本来、俺様はそれほど奥ゆかしい人間ではない。

実際の所、モテたいし、褒められたいし、尊敬されたい。

それ自体は別に悪い事でも恥ずかしい事でもないと思っている。

生活が楽になる様にお金だって欲しい。

 

だが、今の俺は・・・スライムなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

 

なんてったって、モテる前に!褒められる前に!尊敬される前に!狩られてしまう!

もう正直こればっかりは何ともならん。

俺が狩られないためには、目立たず騒がず大人しく生きるしかない。

それに、ある程度スライム能力でいろいろな事が出来るようになった今、権力者から目を付けられかねない状況でもある。

狙われるのは本当に面倒くさい。勘弁してもらいたい。

 

大体モテたってスライムの体じゃ、ヘソまで反り返った俺の(以下略)。

これがチート能力満載でイケメンにでも転生していればモテ街道も楽しめただろう。冒険者でSランクとか目指していたかもしれない。全力でハーレム狙っていたかもしれない。たくさんのお金を稼いで豪邸でも建てて住もうと思ったかもしれない。

 

だが、今の俺は・・・スライムなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!(2回目)

 

今更だが、何でスライム?

一度神だか女神だかに聞いてみたい。

あなたは~何故に~スライムにしたのですか~

 

「はぁぁ・・・」

 

俺は深い深いため息を吐く。

 

「ヤーベ!もっと奥に隠れるのだ!」

 

イリーナが俺を裏路地の奥へ押し込む。

 

大通りを神官たちが走って行く。

 

「使途様はどこへ行かれたのか!」

「何とかお戻りになってお礼をお伝えせねば!」

「出来れば我々にも神力によるご教授を賜れぬものか・・・」

 

誰が使徒だよ!使徒って敵のイメージの方が強いのはアニメ好きのせいですかね!?

 

俺とイリーナはあの後七つの教会を回って約千人近い人々を治療し切った。

どこも「ボーンテアック殿に依頼されて来ました~」で挨拶したから、ボーンテアック治療院の関係者で押し通すつもりだったのに。何でこんなことになった!?

 

「いや、ヤーベ。それは無理があるだろう・・・」

 

「そう?」

 

「ボーンテアック殿の協力があって回復へ向かった人たちが沢山居たとはいえ、解毒剤や薬草で回復できなかった重篤な患者をわずかな時間で百人以上いきなり回復させたんだぞ。奇跡の御業以外にないではないか」

 

「いや、神の力なんて欠片も無いけど。なんせ神に会ったことないし。でもきっといるんだろうね、神。何たって人の体をこんなにしたの、絶対神だからね」

 

俺は高速スラプルプルで若干怒りを示す。

 

「ならば私は神に感謝せねばならんな」

 

「なんでよ?」

 

「そのおかげで私はヤーベに出会えたのだから」

 

輝くような一片の曇りもない笑顔を向けてくるイリーナ。

 

「イリーナ・・・」

 

ちょっと見つめ合ってしまい良い雰囲気になったと思ったら、大通りからまた大声が聞こえてくる。

 

「こちらの方に来たと思ったんだが」

「お、西の教会の連中じゃないか、どうした?」

「奇跡なんだ!神が降臨なされた!」

「何だって!」

「まさに『城塞都市フェルベーンの奇跡』だ!」

 

「ブフォッ」

 

もう使徒でも何でも無くなってんじゃねーか!神そのものになってるし!

 

「そっちもか! こっちもだ!」

「ローブに身を隠されて女騎士を従者になされておられた!」

「何としても見つけてその御業をもう一度!」

 

教会デンジャラス!

回復系の大パワーを実行したとは言え、自分たちの常識では計り知れない事は全て神の御業と判断するのは教会の悪いクセだと思います!

 

「どうする?ヤーベ」

 

とりあえず、服装を変えるか。

 

「どこかで服を買おう。イリーナは騎士風の鎧を着ているから、俺と同じローブを上から被れ」

 

そう言って亜空間圧縮収納から予備のローブを取り出す。

 

「わ、わかった」

 

そう言って灰色のローブを被る。これで女騎士の従者は消えた。

さて、俺はどうするか・・・。

 

「こ、こちらに「奇跡の使徒」様が来ていると聞いたのですが!」

 

「ブブフォッ!」

 

奇跡が、勝手に奇跡が増えています!

 

「私も、母も助けて頂いたのです!なんとかお礼をお伝えしたくて・・・」

「いや~、我々も何とかお礼が言いたくて探しているのです。こちらへ来たという情報はあるのですが・・・」

「きっとあまり騒ぎになるのを好まない御方なのかもしれません」

 

そう!そのとーり!だからそっとしておいて!

 

「路地裏などで少し休んでいるかもしれません。裏通りも探して見ましょう!」

 

 

グッハア!

 

 

騒ぎを好まないと看破しておきながら路地裏までくまなく探そうとする、何か矛盾してませんかねぇ!

 

「や、やばいぞヤーベ。ここも時間の問題だぞ!」

 

ヤッベー!久々ヤベちゃんヤッベー!どうする!?

 

「こちらの方も捜索して見ましょう」

 

本気でヤバイ!どうする!?

 

「あ、思い出した!」

 

「な、何だ!?どうしたヤーベ?」

 

「行くぞ!スライム流戦闘術究極奥義<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>」

 

「ひょわわっ!」

 

エネルギーをぐるぐるしてイリーナのローブの内側に滑り込み、背中に張り付く。そして手足をスライムボディでコーティングして行く。

 

「ああ、ヤーベに私の手足を束縛されて・・・くっ犯せ!」

 

「久々クッオカ頂きました!」

 

そう言って俺様はその場を飛び上がる、その勢いは建物の二階の屋根に軽々届く。

 

「わあっ!す、すごいぞヤーベ!」

 

「しーーーーー!!」

 

見つかるからデカい声出さないで!

 

今まで居た路地までドヤドヤと神官たちが押し寄せて来る。

 

「マジで危なかった・・・」

 

「ヤーベは本当に神様扱いされてしまっているな。もう「私が神だ」とか言って出て行った方が話が早くないか?」

 

「誰が神か!」

 

「ん!?」

 

ヤベッ!

声が聞こえたのか神官たちがキョロキョロしている。

このままイリーナの体を操って屋根伝いにコルーナ辺境伯家まで戻るとしよう。

 

「とうっ!」

 

「わわっ!」

 

屋根から屋根へ飛び移る様に動くとローブがはためいて動きにくい。

 

「メンドイから脱いじゃおう」

 

そう言ってローブを脱がして亜空間圧縮収納へしまう。

 

「ヤーベが私のローブを脱がして・・・くっ犯せ!」

 

「久々聞いたと思ったら乱発しますね」

 

そう言って<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>で張り付いているスライムボディをものすごくカッコイイ女戦士風の鎧をイメージして形作る。

 

「とうっ!」

 

「ひょわわ~」

 

俺様は動きやすくなったことに気を良くして屋根から屋根へまるでどこかの怪盗の如く飛び移った。追い詰められていた状況を一気に打破できると調子に乗った俺はその時点で気が付かなかった。イリーナの衣装は上半身のハーフプレートを装着していたが、下半身は太ももが見えるミニスカートだったことを。そして今現在、怪盗が暗躍する深夜でもなく真っ昼間であったことを。そして、異世界だからと言って、上を見上げるものが決していないわけではないことを。その事に気が付くのは少し時間が経ってからの事になる。

 




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第52話 『聖女のおパンツ騒動記』を華麗にスルーしよう

 

華麗に屋根から屋根へと飛び移って移動しているヤーベ。

ぐるぐるエネルギーを巡回させ移動すると、体が羽の様に軽くなったような気がして、かなり調子に乗って移動した。時には大通りを跨ぐように空中を飛んだ。

 

「いやー、空中を飛ぶって気持ちいいな、イリーナ」

 

「ひょわわ~」

 

空中を飛んで移動する事にすっかり慣れたヤーベに比べて、いまだ体を操られているイリーナは奇声を上げてビビっていた。

 

 

 

「ふうっ!一息入れよう」

 

俺は屋根の上で一旦止まってイリーナに一声かける。

 

「ひょわわ~」

 

よく見ればちょっと目が回っているようだ。三半規管弱すぎだぞ?

コルーナ辺境伯家はこの先、坂になっている大通りを上がって行けば着く。

もうすでに視界には入っているしな。やっとここまで移動出来たわけだ。

 

と、少し落ち着くと腹が減って来たな。

 

・・・いつから腹が減る様になったかって?

確かに一人でいた時は睡眠も空腹も感じないし不要だったけどね。

ローガ達やヒヨコ隊長たち、なによりイリーナと生活するようになって、食事の準備をしたり一緒に食事しているうちに、何となく時間になると空腹感を感じるようになった。

生活リズムって大事ね。

 

「というわけでイリーナ。コルーナ辺境伯家に戻る前にメシにしよう」

 

「ほわっ? 何がというわけでかはわからんが・・・確かにお腹は空いたぞ」

 

「じゃあ食べに行こう」

 

「で、何を食べるのだ?」

 

イリーナは小首を傾げて聞く。

だが今の俺は<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>を発動してるため、俺の視線はイリーナの後頭部を見ているような感じだ。ちょっとヘンな感じ。

 

「ふふふ、すでにアタリは付けてある。この屋根の下だ。滅茶苦茶香ばしい良い匂いがする。オレのカンに間違いない」

 

地球に居た頃から、こういった事には鼻が利くのだ。

 

「この匂い、間違いない・・・醤油を使ってるな」

 

異世界ラノベでなぜか手に入らないのが日本食。それも醤油はなかなか希少だったり、手に入らなかったりしている。それは醤油という調味料が日本独自の文化で培ってきたものだからだろう。同義語に味噌がある。だが、異世界だからと言って、無いとも限らないのだ。あっても別におかしくはない。作り上げた職人に感謝すればいいのだ。心の底からありがとうと。

 

今香って来ているモノ、それはチャーハンだ。俺のカンがそう告げている。

 

「イリーナ、行くぞ」

 

「ほえっ!?」

 

俺は屋根から空中二回転した後ふわりと店の前に着地する。

 

「ふっ、華麗に決まった!」

 

そう思ったのだが、

 

「ヤヤヤ、ヤーベ!」

 

イリーナさんが怒っています。どうした?

とりあえず<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>を解除して亜空間圧縮収納からローブを取り出して着込む。

イリーナの前に立った俺をイリーナが真っ赤な顔をしてほっぺを膨らませて睨んでいた。

 

「ヤーベが手をコントロールしているから、スカートを押さえられなかった・・・」

 

「ほわっ!?」

 

イリーナの口調が移っちまった。

というか、イリーナってミニスカートだったな・・・

まったく気が付かなかった。

今、空中二回転で無駄に華麗に店の前に着地した時、足から真っ直ぐ降りた。

両手も無駄に華麗に回した。

スカートは押さえなかった。

つまり、下へ降りた時、スカートは全力で捲れ上がっていた事が予測される。

俺は風の精霊シルフィーと契約しているが、スカートを守ってなんてお願いはしていないから、ラノベのお約束にある美人エルフのミニスカの中が絶対見えない!なんてことは無い。

それは、つまり、イリーナのおパンツが全開で丸出しになっていたということで・・・。

 

「ヤ~~~~ベェ~~~~」

 

イリーナの目は涙が溢れて決壊寸前のダム状態だ!

 

「バカバカバカバカ!」

 

そう言って俺の胸に飛び込み、ポカポカパンチを繰り出す。

地球時代、リア充爆発すべしっ!って思ってたけど・・・ポカポカパンチ、全然痛くない。むしろ守ってあげたくなる。リア充共が感じていたのはこれだったのか!

 

「まあまあ、イリーナのおパンツは俺だけのものだから気にするな。それよりお腹空いたろ? お店に入って腹ごしらえしよう」

 

「ふえっ!? ヤーベだけの・・・ほわっ・・・うん、お店入いりゅ」

 

何だが顔を真っ赤にしてろれつが回らなくなったイリーナ。どうした?俺なんか変なこと言ったか? まあ、ローブの裾はしっかり握っているから、とりあえず大丈夫か。

 

 

 

「毎度! 大将やってる?」

 

俺はボロ目の木でできた引き戸を開けて中に声を掛ける。

 

「毎度。やってるよ」

 

ちょっとぶっきらぼうなガタイのいい親父がカウンターの奥から返事をする。

 

「どこでも好きな所へ座ってくれ」

 

俺はイリーナを促してカウンターに座る。ありがたい事に丁度他の客が誰もいない。

 

「この匂い醤油だな。実に香ばしい良い匂いだ。それをメシで絡めて炒めた料理か?」

 

「そうだ、よくわかるな。チャーハンってんだ」

 

「マジか!」

 

それ、地球時代と同じじゃん!食べるしかねェ!

 

「チャーハン大盛で! イリーナは普通盛りでいいか?」

 

「ふぇ!?」

 

「だから、チャーハンの量は普通盛りでいいかって」

 

「ああ・・・普通盛りでいいら」

 

「さっきから語尾がおかしいぞ?」

 

「ふえっ!? そ、そんなことはないにゃ」

 

「? まあいいか、大将!チャーハン大盛と普通盛りで!」

 

「あいよっ!」

 

俺は大将の鉄鍋を振るう荒業を見ながらチャーハンの完成を楽しみに待つことにした。

 

 

 

-そのころのフェルベーン-

 

 

「み、見たか! 今の・・・」

「ああ・・・、天女だ」

「いや、聖女だろ。大勢の人を回復させて姿をくらましたと思ったら空飛んでたんだぞ」

「・・・しかも、おパンツ振りまいて」

「「「「ステキだ・・・」」」」

 

大勢の男たちが空を見上げながら恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「女神様だ!女神様が現れたぞ!」

「いや、聖女様だ!王都の性悪聖女じゃなくて、本物の聖女が現れた!」

「女神様だ!」

「いや、聖女様だ!」

 

若い神官たちが大通りで揉めている。空を飛んでいた女性を女神様と呼ぶか聖女様と呼ぶかで揉めているようだ。何気に王都の聖女様はディスられていた。

 

「あれほどの重篤な者達を完全に回復させるなど、正しく女神の御業に違いない!」

「確かに!王都の性悪聖女とは雲泥の差だ!」

「バカ野郎!比べるのもおこがましいわ!」

 

イリーナの女神への昇格と共に、王都の聖女のディスりが加速する。

 

「それにしても・・・」

「「「純白のおパンツ、最高でした・・・」」」

 

神官たちは空に祈った。

 

 

 

町の女性たちは通りで狂喜乱舞していた。

 

「見た見た? 今空飛んでたよね! あれ、使途様の従者様なんでしょ?」

「なんだか、あの女性も聖女様みたいよ!」

「女神様だって聞いたけど?」

「「「キャーーーー!スゴイ!!」」」

 

キャイキャイと女性だけで盛り上がる一団。このような井戸端会議的な集団があちこちで勃発していた。

 

「すごーい、女神様だって!」

「ものすごい高価な鎧来てたよね!」

「さすが女神様!」

「それにしても・・・」

「「「白いおパンツ、カワイかった~~~~!」」」

 

イリーナの白いおパンツは女性にも大人気であった。

そして、城塞都市フェルベーンにて、清楚な白いおパンツが大人気となり、お店で売り切れが相次いだのであった。

 

 

 

-そして王都-

 

 

「聖女様!大変です!」

 

王都バーロンの大聖堂。聖女と呼ばれた少女の部屋はきらびやかで豪華な造りであった。

その部屋の扉をノックして神官が入って来た。

 

「何よ!うるさいわね!」

 

美人と言えば美人なのだろうが、口の利き方と目つきで非常にキツいイメージを与える少女が答える。

 

「城塞都市フェルベーンにて、聖女様が現れたそうです!」

 

「はあっ!? 何言ってんのよ。バカじゃないの?私はここにいるでしょ」

 

若い神官を見下すように伝える聖女と呼ばれた少女。

 

「千人以上の重篤な患者を完全に回復させたとか」

 

「なんですって!?」

 

そんなバカな話は無い。重篤な患者を完全に回復させる魔法など、奇跡の御業である。

当然聖女自身には無理な話だ。

 

「そして・・・回復させた後フェルベーンの町の屋根を飛び回って去って行ったとか」

 

「はあっ!? なんで屋根を飛び回ってんのよ?」

 

意味が分からない。

 

「それも、白いおパンツを振りまいて飛んで行ったとかで・・・。フェルベーン町では『聖女の白いおパンツ』として話題沸騰中です」

 

「な、な、な、何言ってんのよ!? あたしそんなハレンチな真似してないわよ!」

 

怒りだす聖女。若い神官も文句ばっかりで態度の悪いこの聖女の事だなどとは露程も思っていない。ぜひともその本物の聖女に王都に来てもらえないか・・・と切に願っていた。

 

「聖女様!大変です!」

 

またも同じセリフでドアがノックされる。先ほど来た若い神官は目の前にいるので2人目だ。

 

「城塞都市フェルベーンで女神様が降臨なされました!」

 

「「はああっ!?」」

 

先ほど聖女が出たという話だったのに、今度は女神!?

 

「千人以上の重篤な患者を完全に回復させ、空を飛んで去ったそうです!」

 

「あ、さっきの聖女様の話ですかね?」

 

若い神官が口を挟む。

 

「そうそう、というか聖女ってレベルじゃないらしいよ!まさに奇跡の御業だって!」

 

神官たちのテンションが上がる。

 

「しかも女神様は清楚な白いおパンツを振りまいて空を飛んで行ったと・・・」

 

「くうう~、すばらしい!」

 

感涙する神官たち。

 

「バカじゃないの!? なんなのお前達は!」

 

王都の大聖堂。聖女と呼ばれた少女は喚き散らしていた。

 




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第53話 店の裏口から脱出しよう

「あいよっ!お待たせ!」

 

慣れた手つきで大きな鉄鍋をこれまた鉄のお玉でカンカンと音を立てて料理していた親父が完成を告げる。

さらに鉄鍋から盛られる料理。炒めたご飯に野菜や肉が入り、そして味付けの決め手はやはり醤油。絶妙な香りが漂ってくる。

 

そして目の前にチャーハンが置かれた。

 

「う、うまそう!」

 

「うまそうじゃねぇ。うまいんだよ」

 

そう言ってニヤリとするクマのような親父。嫌いじゃないね、こういう親父。

早速でかめのスプーンですくう。蓮華(レンゲ)とは違うな、ただのでか目のスプーンだ。

俺様の方のチャーハンは大盛だ。傍目に見てもイリーナの普通盛りより二倍近い量がある。いい盛りっぷりだぜ親父!

 

文字通り山と化したチャーハンの麓にドスッとスプーンを差し込んで持ち上げる。

ふわっと醤油のいい匂いが包み込む。

我慢できずに早々に口に含む。

 

「う、うまっっっっっ!!」

 

口の中に広がる芳醇な香り!これは醤油だけではない!

・・・最も俺には料理の才能は無いし、具体的に醤油以外に何が入っているのかわからないけど。

 

隣を見ればイリーナはまだぽや~っとしたままチャーハンに手を付けていない。

 

「イリーナ?」

 

「ふえっ!?」

 

「チャーハン冷めるぞ? 早く食べよう」

 

「ふわっ!? うん、そうだな、食べるとしよう」

 

そう言って慌ててスプーンを突っ込み、アツアツのチャーハンを口に放り込む。

 

「アチャチャチャチャ!!」

 

アツアツチャーハンを思いっきり口に頬張って叫び声をあげるイリーナ。

 

「ほら、水飲め、水」

 

俺が渡した木のコップをひったくるように奪うとゴクゴクと飲み干す。

 

「ふわわ~、アツアツだったぞ」

 

「そりゃそうだよ、出来立てなんだから。フーフーして食べるんだよ」

 

「な、なるほど・・・」

 

目を白黒させながら水を飲みほしたイリーナは落ち着くと、再度フーフーしながら一口だべる。

 

「お、おいしい・・・」

 

「ウマイよな!このチャーハン!」

 

「うん、すっごくおいしいぞ!」

 

喜んで食べだすイリーナ。

よかったよかった。これでお腹も落ち着けばイリーナ自身も落ち着くかな。

俺たちはチャーハンを心行くまで堪能した。

 

 

 

「・・・ん!?」

 

店の外が騒がしい。

 

耳を澄まして見る。

 

「聖女様見た? 華麗に空を飛んでいらっしゃったわよねー!」

 

「ブフォッ!」

 

イカン、チャーハンが噴き出た。

こういう時は店の親父にバレない様にこっそりスライム的掃除術(スラクリーナー)発動!

触手の先っちょを掃除機のノズルの如く細くして撒き散らしたチャーハンの米粒を回収だ!

 

「ん?どうしたヤーベ」

 

イリーナがこっちを見てくる。

 

「いや・・・」

 

どう取り繕おうかと迷っていると、さらに声が聞こえてくる。

 

「聖女様じゃなくて、女神様らしいよ!」

「なんたって千人以上の人々を回復させたって話だもんね!」

「王都にいるなんちゃって聖女なんかと比べ物にならないらしいよ」

「そんなの比べられるわけないじゃん!本物と偽物なんだから」

「そっかそっか~」

 

何か知らないけど、イリーナ賛歌と王都にいるらしい聖女のディスりが止まらない。

 

「外でイリーナを聖女とか女神とか言って讃えているみたいだ」

 

「な、なぜだ!?」

 

「なんでだろ?」

 

「讃えられるなら、ヤーベを讃えるべきだろう!」

 

なぜかテンションが上がるイリーナ。

 

「もしかしたら、追手を撒くために<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>を発動して移動したから、イリーナしか姿が見えなくなって、イリーナが治療したことになったんじゃないか?」

 

「なんだと!? そんな間違いをしているとは!早速訂正してヤーベこそが神なのだと教えねば!」

 

そう言って店を飛び出そうとするイリーナを羽交い絞めする。

 

「コラ!誰が神か! 大体教えるってなんだ、教えるって! 教えたら教会の人間とか一杯来るでしょ!」

 

「そ、そうか・・・」

 

そうこうしているうちに、外の女性たちは別の話題に盛り上がる。

 

「屋根から屋根へ飛び移る聖女様!素敵よね~」

「違うって!聖女様じゃなくて女神様!」

「そうそう!あれだけの人を回復させるって、もう絶対女神様だよね~」

 

 

「ヤーベ、間違いなく神様扱いだぞ」

「今はお前が女神様扱いだけどな」

 

お互い見つめ合いながら笑う。

ところが・・・

 

「それにしても、女神様の真っ白なおパンツ、ステキだったわね~」

「ホント、サイッコウだったわ~」

「あまりに美しいの!」

「輝くようだったわ!」

「「「女神様のおパンツ、お美しい~~~~!!!」」」

 

 

「「!!!」」

 

笑いながら見つめ合っていたのだが、イリーナの表情が固まる。

マズイ・・・

 

「ヤ、ヤ、ヤーベ・・・」

 

ああ、またイリーナの目が決壊寸前のダムの様に!

 

「大丈夫だ!みんな美しい!最高!って言ってたじゃないか」

「わ、わ、私のおパンツ、みんなにみ、み、見られ・・・」

 

ああ、ダムが決壊する!

 

「イリーナが綺麗だから、みんな最高って褒めてるんだよ。自信持って大丈夫さ」

 

とりあえずガンバ! 見たいな格好でイリーナを励ます。

 

「私が綺麗・・・? ヤーベも私が綺麗だって思う・・・?」

 

「モチロンさ! イリーナは最高に綺麗さ!」

 

この状況で、「別に」とか空気読まずに発言できる心臓は持ち合わせていない。

最もスライムだし、もともと心臓など持ち合わせていないが。

 

「本当・・・?」

 

コクッと首を傾げて、決壊寸前まで涙を溜めた円らな瞳を俺に真っ直ぐ向ける。

 

「本当さ!」

 

今度はイリーナの両肩に手を置いて伝える。

 

「ヤーベ!」

 

イリーナがギュッと抱きついてくる。

とりあえずこれで落ち着いてくれるといいけど。

 

「うん、ヤーベのせいで町の人に私のおパンツを見られてしまったわけだし・・・、これは、ヤーベに責任を取ってもらわないといけないな・・・うん」

 

うん?イリーナが自己完結しているが、なんて言った?

 

「ヤ、ヤーベ・・・、責任、取ってもらえるだろうか・・・?」

 

ああ、またまたイリーナの目が決壊寸前のダムの様に!

デジャビュ!

てか、おパンツを見られた責任ってどうやって取るの!?

 

「ここか!このへんか!女神様がおられたのは!」

「こっちの方へ来たと情報が!」

「どこだ!探せ!」

 

外でドヤドヤと足音と声がする。

 

「ゲッ!」

 

ヤバイ!何でバレた!

てか、そういやイリーナのおパンツを丸出しにしながら店の前に着地したんだったわ。

 

「ヤバイ!逃げるぞイリーナ!」

 

「あわわ、ヤ、ヤーベ、どこから出るのだ?」

 

きょろきょろ見回すイリーナ。

 

もはや店の前の大通りは人集りが出来始めている。

 

「なんか事情があるなら、店の裏口から出なよ」

 

「マジか! 大将恩に着る!」

 

俺は残りのチャーハンをかき込み、代金を払うとイリーナの手を引いて店の裏口にダッシュした。

 

 

 

お店の裏手、細い路地に出たところで、再び<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>を発動して屋根の上に飛び上がる。

 

「ヤ、ヤーベ・・・」

 

「あ」

 

これ以上イリーナのおパンツを振りまくわけにもいかない。

どうするか・・・

 

「イリーナ、俺に体を預けてくれるか?」

 

「ふえっ!? ・・・うん、まかせるら」

 

俺は<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>で張り付くエリアを拡大。手足だけではなく、首から下を全身包む。服の上からだが、フルプレートのイメージで全体を包む。

イメージって大事だよね。俺のイメージは聖闘士セ〇ヤに出てくるゴールドク〇スだけどな!どうせだから、色も同じ金色で輝かすか!

 

「ヤ、ヤ、ヤーベ!何か光ってるぞ!?」

 

「イリーナがやっぱり女神ってことだろ」

 

「ひょわっ!?」

 

そのまま今度は大通りを横切らずに、通りの人々から見られない位置で屋根を移動して行く。そしてコルーナ辺境伯家に到着!

ローガ達はすでに先行させている。コルーナ辺境伯家の庭にずらりと並んでお座りしている。フェンベルク卿に声を掛けようとしたのだが・・・

 

「ヤーベ殿はまだ帰って来ぬか!」

「ははっ! イリーナ嬢と町中を移動していると思われます」

「何としても確保せよ!我がコルーナ辺境伯家の賓客としてもてなすだけではだめだ!我が辺境伯家に所属してもらわねば!」

「すでに給金等の諸条件も用意出来ております」

「絶対王都の連中に気取られるなよ!」

「ははっ!」

 

 

 

「Oh・・・」

 

建物の陰に隠れて様子を見ていたのだが、状況は最悪の方向へ向かっているな。

 

「ヤーベ、どうするのだ? コルーナ辺境伯家に雇われるのか?」

 

「そう言うのが嫌だから代官のナイセーにも内緒にするように言ったんじゃないか」

 

「そうだったな」

 

「大体、コルーナ辺境伯家に雇われたら、イリーナの家はどうなるんだ?」

 

「ヤ、ヤーベ・・・」

 

感動してウルウルするイリーナ。

でも今の俺はゴールドク〇スだから、顔見えないんだよね。

 

「よし、ルシーナちゃんだけにこっそり挨拶してこの町を出ちゃおう」

 

「いいのか?」

 

「良いも何もない。ルシーナの部屋の窓にこっそり上るぞ」

 

「わかった」

 

 

 

窓の外のバルコニーに降り立つ。

そっと覗くと、ルシーナは寝ていた。

スライム触手で、窓の隙間からにゅるりと滑り込ませ、鍵を開ける。

怪盗なんちゃらになれそうだ。

 

そっと部屋に入る。部屋にはルシーナだけが寝ていた。ちょうどよかった。

 

ふと目が覚めるルシーナ。

 

「・・・イリーナちゃん、女神様だったんだ・・・」

 

「ふえっ!?」

 

あ、ゴールドク〇スのままだったからな!

俺は一旦<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>を解除して分離する。

瞬間ローブ着込みは得意技になりそうだ。

 

「あ! ヤーベさん!」

 

「しーーーーー!」

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「君のお父さんがちょっと強引に我々をこの家に留めようとしているようなので、我々は一旦帰る事にするよ」

 

「え・・・、帰ってしまわれるのですか? 父の対応は謝罪致しますから、どうかお食事だけでも・・・」

 

俺は亜空間圧縮収から俺様特製の濃縮薬草汁を取り出す。

 

「これ、プレゼント。ちょっとずつ飲んでね」

 

ルシーナに渡してあげる。

 

「ありがとうございます・・・」

 

ちょっと寂しそうにお礼を言うルシーナ。

 

「また、会いに来るよ! 俺たちの事は内緒にしておいてね!」

 

そう言って<勝利を運ぶもの(ヴィクトル・ブリンガー)>を発動する。

ゴールドク〇スバージョンでね!

 

「き、綺麗・・・」

 

「ルシーナちゃんまたね!」

「イリーナちゃんバイバイ!また会いに来てね!」

 

俺たちはバルコニーから飛び出す。もちろん見つからないようにね!

 

「ヒヨコ隊長!聞こえるか!」

 

『控えております、ボス』

 

「どの城門から出るべきか?」

 

『お待ちください!各部報告せよ!』

 

 

しばし待つ。

 

 

『まだ、どの門もボスやイリーナ嬢を拘束するような命令は届いていないようです』

 

「ならば入って来た西門から出よう。ローガ達にも伝えてくれ。西門集合だ!」

 

『ラジャ!』

 

それにしてもヒヨコすごいな。今も各城門から一定の距離でヒヨコたちを配備しており、念話で情報を超高速で届けていた。あまり長い情報は伝達ゲームの様に途中でおかしくなる可能性もあるけどな。

 

まあ、泉の畔に帰ってマイホームでも建てようか。

俺は屋根の上を高速で移動しながら考えた。

 




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第54話 マイホームを建ててみよう

「久々の畔だぜ~」

 

俺様は両手(?)を上に伸ばし、背筋(?)をピンとする。

迷宮氾濫(スタンピード)>から向こう、ずっと出かける羽目になって帰って来れなかったからな。

・・・まあ、ここに帰ってくるっていう言い方もどうかと思うけどな!

 

「ほわ~、気持ちいい」

 

泉の畔でバシャバシャ顔を洗っていたイリーナ。

君、伯爵令嬢だったんだよね? でもイリーナだし、まあいいか。

 

ローガ達も長旅だったのか疲れて寝ている。

まあほとんどローガに乗って走って来たからな。

ソレナリーニの町で買い込んだ屋台飯を振る舞って慰労しよう。

 

ヒヨコたちもずっと飛んできたからな。

今はゆっくり休んでいる。

ヒヨコたちにも好物の串焼きを用意しよう。

ヒヨコがアースバードの焼き鳥・・・まあいいか。

 

帰り道、ソレナリーニの町の代官ナイセーだけには挨拶に寄った。

城塞都市フェルベーンのトラブルについて報告、対応済みと連絡しておいた。その時にコルーナ辺境伯家によってルシーナちゃんの治療もしたこと、フェンベルク卿の囲い込みがあって脱出してきたことなども包み隠さず伝えた。ナイセーは頭を抱えていた。先日の<迷宮氾濫(スタンピード)>報告も完了しないままテロ事件になったしな。

 

まあ、それはナイセーに全部お任せだ。

 

さて、俺様はマイホーム建築を考えよう。

今、俺たちに建てられそうな家といえば・・・えっ!? イエとイエば・・・ぷぷっ!

オヤジギャク!

・・・自分だけで完結する、ちょっと寂しい。

 

真面目に家を考える・・・まあ、普通に考えてログハウスだよな。

木を切り倒して、組み上げる・・・。

素人の俺には無理だな。

 

「ちょっとカソの村の村長に家の建て方を相談するかな・・・」

 

「おはよう、ヤーベ。やっと普段の生活に戻ったな」

 

イリーナがニコニコしながら朝の挨拶をしてくる。

 

「やあ、イリーナおはよう」

 

だがイリーナにとってこの畔でのテント生活が普通の生活ってどうなんだ?

大丈夫か?

 

「そう言えばイリーナはルーベンゲルグ伯爵家の娘さんだっけか?」

 

「え、ああ・・・そうだな。どうした?急に」

 

「いや・・・、泉の畔にテント生活って辛くないのかなって・・・」

 

「何を言う。前にも言ったではないか、今はヤーベのそばにいることが私の全てなのだ」

 

・・・ジーン。イリーナ、エエ娘や。

 

「よし!ここに丸太でおウチを作ろう! イリーナがゆっくり生活できるように」

 

「ええっ!? 私のためなのか・・・?」

 

「うん、俺はまあ外でもいいんだけど。イリーナは体が休まるベッドとか、暖かいお風呂とかあった方がいいだろ? 寒くなるとテントでは風邪を引いちゃうかもしれないし」

 

「ヤーベ・・・!」

 

そう言っていきなり抱きついてくるイリーナ。

顔を洗うのも、体を拭くのも泉の水を使っているせいか、イリーナはすごく綺麗なんだよな。

 

「嬉しいけど、私はテントでも大丈夫だぞ? ただ、もし可能ならお願いしたいことが・・・」

 

モジモジしながら俺の方を見てくるイリーナ。

 

「クッオカ以外なら何でも聞くよ」

 

「ヤーベは体の大きさを変えられるから、ちょっと大きくなってもらってその上に寝てみたいのだが・・・」

 

「・・・スライムベッドか?」

 

「そんな感じだろうか」

 

イリーナがやって欲しいんだから、要望には応えよう。

 

ローブを脱いで久々のデローンMr.Ⅱをさらけ出す。

一回り大きくしてさらにデローン化を進める。

イメージはゆりかごだ。

 

「さあ、いいぞイリーナ、おいで」

 

「すごいな、ヤーベありがとう!」

 

早速ポヨンッて勢いで俺に座ってくるイリーナ。まるでハンモックみたいに全身を預けてくる。

 

「わああっ!ヤーベすごいぞ!ポヨンポヨンだ!とっても気持ちがいいぞ!すごいすごい!」

 

俺の上でぽよぽよと体を揺らすイリーナ。

 

「ヤーベはひんやりするんだな。ホントに気持ちいいぞ!」

 

嬉しそうに言うイリーナ。喜んでもらえて何よりだ。

というか、俺はひんやり冷たかったんだな。自分は寒暖耐性があるから自分の温度はよくわからんのだよな。冬場は嫌われないようにぐるぐるエネルギーで湯たんぽ化することも検討せねば!

 

「・・・でもイリーナは俺が怖くないのか?」

 

「怖い?ヤーベが?何故だ?」

 

「<迷宮氾濫(スタンピート)>では大量の魔物を吸収したんだぞ。例えばこうして今俺の体の上で休んでいるが、もしかしたら溶けて吸収されてしまうかもしれないとか、思ったりしないのか?」

 

俺の質問に、イリーナはコテン、首を傾げ、その後急に笑い出した。

 

「はっはっは、何を言っているんだヤーベ」

 

実におかしいと言った感じで急に反対を向き、俯せになる。

俺を体全体で抱き包むように両手を広げるイリーナ。

まあ、それでも俺のスライムボディーの方が大きいけど。

 

「私は最初に出会った時にヤーベに命を助けられたんだぞ? その後の<迷宮氾濫>スタンピートだって、ヤーベが居なかったら私は町ごと滅ぼされていたかもしれない。その後のテロ騒ぎだって、私は毒に倒れていたかもしれないのだ。これだけヤーベに命を救われて来て、今さらヤーベを疑うとか、それこそないぞ。ヤーベの事は全身全霊で信用している。もし、私を溶かして吸収する事があるのなら、それはヤーベが何かの理由でそうしなければならないことがあるのだろう。それに対して私はヤーベを恨むような事はしないぞ。きっとそれが必要な事なのだろうからな」

 

ニコ~っと微笑むイリーナ。俯せに寝転がって俺様のぽよぽよボディを抱きしめているので、イリーナの笑顔を俺もはっきりと見ることが出来た。

 

「イ、イリーナ・・・」

 

ヤベッ!感動して涙が出そう!

・・・俺の目がどこにあるかは別として。

 

そんな嬉しい事を言ってくれるイリーナにちょっとサービスだ!

トプンッ!

 

「ほわわっ!?」

 

頭だけ残してイリーナの体を包み込む。

 

その後、立ち上がるようにすると顔だけ出したイリーナが、

 

「ふわわっ! ぽよぽよしているぞ」

 

そのままティアドロップ型でぽよぽよと飛び跳ねて泉の畔の周りを移動する。

 

「わああ~、楽しいぞヤーベ!」

 

「はっはっは!イリーナ専用のボディだぞ!」

 

「わ、私専用なのか・・・くっ」

 

「まあまあ、それはいいからいいから」

 

そう言ってぽよぽよ飛び跳ねる。

 

二人でワーワーと楽しんでいると、ローガ達やヒヨコたちが生暖かい目で俺たちを見ていた。

 

『春でやんすね~』

 

おいガルボ。お前この前も春だって言ってたぞ。ここはずっと春なのか?

 

『うむうむ、ボスもこれでイリーナ嬢を娶れば安泰だな』

『ローガ殿は知らないかもしれませんが、ボスにはルシーナ嬢という二人目の奥さんもいるんですよ』

『なんだと!そのような情報どこで手に入れた!』

『ローガ殿達が庭で待機していたコルーナ辺境伯家のお嬢さんですよ。ボスが命を助けてあげた縁で、ルシーナ嬢がすっかりボスの魅力にまいってしまいまして』

『なんと!ボスも罪作りなものよ』

『いやいや、ボスともなればハーレムも当たり前というもの』

『『『確かに』』』

 

四天王よ、そんなにそろって頷かなくてもいいぞ。

後ヒヨコ隊長。自分のハーレムを正当化するために俺にハーレムを押し付けるのはやめろ。

 

そんなこんなでみんなで盛り上がっていると、泉の畔に来客があった。

 

「これはこれは精霊様方、なにやら盛り上がっておられますな」

 

やって来たのは、カソの村の村長と若い衆だった。

 

「やあ村長。元気にしているか?」

 

「それはもちろん、精霊様のご加護で前よりも健康ですよ」

 

マッスルポーズで元気をアピールする村長。ホントに元気だな。

後ろの若い衆は樽を抱えている。もしかして奇跡の水を汲みに来てるのかな。

 

「こうして若い衆に精霊様の加護を受けた水を頂いております。おかげで作物も元気に育っており、村の若い衆に水を担がせて運んでおります」

 

「村長自ら出向いているんだ?」

 

「もちろんでございます。奇跡の泉の水を分けて頂くので感謝のために自ら出向いております」

 

「わ~~~、殊勝な心掛けだねっ!」

 

飛び出る水の精霊ウィンティア。呼んでなくても、もう自分たちで出ちゃうようになったね! 別にいいですけどね!

 

「私も泉の周りに加護を授けてますから~、とてもいい水になってると思いますよ~」

 

土の精霊ベルヒアねーさんも登場ですか。しかも加護あったんですね!

 

「いいな~、風は加護を与えにくいから・・・」

 

風の精霊シルフィーが残念そうに登場する。

 

「ヤーベは俺の加護で燃やしてやろうか?」

 

一人意味不明なヤツがいるのでスルーします。

 

「ところで村長、ここにマイホームを建てたいのだが、ログハウスとか建てられる職人がいたら紹介して欲しいんだけど」

 

「おおっ! ここに精霊様の神殿を!」

 

「いや、マイホームです」

 

「ログハウス風の神殿ですな! 自然に溶け込む素晴らしいものを造り上げましょうぞ!」

 

「いやマイホームです」

 

「お前達!精霊様の神殿製作だ!村を上げて全力で造り上げるぞ!」

 

「「「「「おおおーーーーー!!」」」」」

 

「いや、だからマイホームですって・・・」

 

俺は天を仰いだ。

 

 




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第55話 マイホームに住んでみよう

 

どうしてこうなった?

 

俺はマイホームを建てようと思っただけだ。

小ぶりなログハウスをイメージしていた。

二部屋か三部屋くらいに、お風呂とキッチン、寝室があれば十分だった。

ローガ達やヒヨコ達とは畔で今まで通り集まっていればいいと思っていた。

 

だが・・・

 

「それーい! 気合を入れて引けーーー!!」

「「「「「オーエス!オーエス!」」」」」

「精霊様の神殿を建てるのじゃー!!」

「「「「「おおーーーーー!!」」」」」

 

巨大な丸太を大勢の若い衆が人力で引いている。細い丸太を下に入れ替えながら運んできている。なぜそんな巨大な丸太がいるのでしょうか?

 

 

「ベルヒア様! 次はどちらの木を伐採させて頂けましょうか?」

「そうですわね、そちらの木と木の間の物をお願い致しますわ。それで木々の間に光も入ります」

「風の通りも良くなりますね!」

 

 

何か偉い頭領みたいな人が土の精霊ベルヒアと風の精霊シルフィーにどの木を伐採していいか指示を仰いでいる。いつの間にか俺の知らない所で精霊たちも協力している。

・・・うん、ありがたいとしておこう。

 

 

「そこにも杭をもう一本打ち込め!しっかり土台を作るんだ!」

「「「ヘイッ!!」」」

「馬鹿野郎!そんなへっぴり腰で精霊様の神殿の基礎を賄えるか!」

「「「ヘイッ!すいやせん!」」」

 

え~~~、なにやら土台を担当している人たちが盛り上がっております。

ちょっとしたログハウスにそんな気合を入れて頂かなくてもいいんですけどね。

 

「精霊様のためならエーンヤコーラ!」

「「「精霊様のためならエーンヤコーラ!!」」」

「丸太を切ってエーンヤコーラ!」

「「「丸太を切ってエーンヤコーラ!!」」」

「しっかり切りそろえてエーンヤコーラ!」

「「「しっかり切りそろえてエーンヤコーラ!!」」」

 

 

え~~~、もう何と言っていいのかわかりません。

職人さんたちが掛け声を掛けながら一糸乱れぬ動きで丸太を切っている。

もはや感動すら覚える。

 

 

「精霊様方、お願いしやす!」

 

んっ!? 何だ?

 

「はーい!お兄様のためにも頑張りますわ!」

「チッ!仕方ねぇ、ヤーベのためだ、力を貸してやるか」

 

シルフィーとフレイアが二人で切られた丸太が積み上がっている場所へ魔法を行使する。

風と炎で熱風を造り上げ、まさかの丸太を強制乾燥させている。

マジすげえ。

これで切り出した木がすぐ建材として使えるようになる。

この二人と親方たちを雇えば建設業で食って行けそうだ。

 

「精霊様!中の間取りでご相談がありやして」

 

「いえ、精霊ではないんですけどね・・・」

 

「実は台所、食堂、お風呂場、寝室など準備しておるんですが、便所はどういたしやしょう?必要でしょうか?」

 

 

・・・はい? 便所?

俺はピンと来なかったのだが、少しして気がついた。トイレ大事!

 

「便所いるわ。来客だってあるかもしれんし」

 

来客と言ってはみたが、チラリとイリーナを見る。俺は元より、ローガ達狼牙族も、ヒヨコ一族も魔獣であり、食べたものは体を維持するため魔力へとエネルギー変換される。そのため排せつという概念が無いのだ。だが、この中で唯一の人間であるイリーナは・・・。

イリーナが俺の視線に気が付き、顔を真っ赤にする。

 

「し、仕方ないではないか!私は普通の人間なのだぞ!」

 

顔を真っ赤にしたままほっぺをぷうっと膨らませて怒り出すイリーナ。

 

「問題ないよ。それにイリーナは普通の人間ではないよ。イリーナは俺にとっては特別な人なんだから」

 

にっこりしてそう伝える。

 

「ほわっ!? と・・・特別な人・・・ヤーベにとって・・・特別・・・」

 

顔を真っ赤にしたままブツブツ呟くイリーナ。

まあとりあえずイリーナの機嫌が落ち着いたのならよしとしよう。

ところで、この世界のトイレってどんな感じなんだろう。

 

よくある異世界モノだと、スライムを捕まえてきて放り込んでおくと全部吸収して綺麗にしてくれるとか・・・スライム・・・スライ・・・

 

「グッハァァァァァァ!!」

 

俺は絶望の淵に叩き落された。

俺か!俺なのか!

俺が毎日ぶっかけられるのか!?

 

ん?しかもウチのメンバーはトイレ使うのがイリーナだけ!?

どんな高度なプレイだよ!

異世界どうなってるんだ!

 

「ど、どうしたでやすか?精霊様」

 

頭領が尋ねてきた。

 

「いや、便所のシステムを考えたら立ち眩みが・・・」

 

「便所のシステムでやすか? 魔法の大鋸屑をたっぷりひいておきやすから大丈夫ですぜ」

 

「魔法の大鋸屑?」

 

「ええ、排せつ物を瞬時に分解してくれる便利な大鋸屑でやす。何年かすると効果が薄くなりやすんで、その時は入れ替えが必要になりやす」

 

「あ、そうなんだ。そんな良いものがあるのね、異世界」

 

「気持ちよく尻を拭けるソフトリーフもたくさん準備しておきやすね!」

 

「おお、そんなモノもあるのか」

 

「最高級ソフトリーフの吹き心地は病みつきになりやすぜ!」

 

「それは楽しみだ」

 

俺は必要ないが、拭いてみたっていいよね?

 

「風呂場はこの横になりやす。湯床も精霊様の加護を得た素晴らしい木で作る予定でやす」

 

「そうなんだ、それは楽しみだな!」

 

俺はトイレや風呂場といったマイホームでも必要な場所を打ち合わせたため、すっかりマイホーム気分でトークを楽しく進めてしまった。

そう、連中は誰もが精霊様の神殿と言っていたのに・・・。

 

俺は作業員のために樽に泉の水を汲んで溜めたり、狼牙達に獲物を狩らせに行って食事の用意をしたりした。

 

作業員の皆さんが気持ちよく作業できるように・・・となぜか頑張ってしまった。

その結果・・・

 

「どうしてこうなった?」

 

目の前にはとんでもない施設が出来上がっていた。

まあ、見ない様にしていたのもあるのだが・・・

ちょっとした小屋をイメージしていたのに、目の前の施設はどう見ても巨大だ。

奥にはローガ達の厩舎と、屋根にはヒヨコ達の休める小屋も出来ていた。

至れり尽くせりである。

 

一番の問題は建物の入口が大きく開いており、滅茶苦茶広い事だ。そしてその奥に、俺の木彫り像がなぜか飾ってある。しかもデローンMr.Ⅱ型である。なんでだ?

 

「バッチリ皆さんがお祈りに来れるよう広く造り上げやしたぜ」

「うむうむ、見事な造りじゃ。これで村のみんなも泉の水を頂きに来た際にお祈りをささげることが出来るのう」

 

頭領と村長が連れ立ってやって来る。

 

「ナニコレ!? どーいうことよ?」

 

「おお、精霊様。いかがですか、神殿の造りは?」

「だから、マイホームだっての!」

「泉で水を頂いた際には、こちらで精霊様の木造にお祈りを捧げさせて頂きますぞ」

「お祈りいらないから!」

「もちろん清掃などもバッチリ対応いたしますぞ!」

「いや、だから清掃もいらないから!」

「あ、生活するスペースには入らないよう配慮致しますので心配はいりませんぞ!」

「てか、生活するスペースだけでよかったんですけどねぇ!」

「はっはっは、何も遠慮することなどありませんぞ!」

「遠慮してんじゃねーよ!」

 

はあ・・・マイホームがこんな豪華な神殿に・・・

しかも、自宅に自分の木像が飾ってあるって、誰得だよ・・・。

ん?村人には得なのか?もうわからなくなってきたぞ。

まあいい、とにかく住んでみようか。せっかく建ててもらったんだから。

 

・・・トンデモない請求書、来ないよね!?

 




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第56話 マイホームに参拝に来る村人は来客なのか考えてみよう

出来上がりましたね~、マイホーム(・・・・・)

ええ、誰がなんと言おうとも、マイホームです。

例えカソの村の皆様が神殿と呼ぼうともね!

 

建て始めてから、完成まで結構早かった気がする。

ただ、数日でって感じでもない。

スマホやガラケーは元よりカレンダーすらないしね。

 

完成して引き渡しを受けた際、建築費用は?と村長に聞いたのだが、「もちろん精霊様からは頂けません!」との事。精霊ではないのですけどね。何だろう、最近村長と会話がかみ合わない気がする。

 

引き渡した際に、「ごゆっくり」と言って帰って行ったので、もしかしたらしばらく来ないのかもしれない。そんなわけで、昨日初めて二階にある自分の部屋として当てがわれた寝室のフカフカベッドで寝た。フカフカベッドでデローンとすると、恐ろしいほどに気持ちよかった。そんなわけで、のんびりグッスリ眠ったのだが・・・。

 

「何故にイリーナが?」

 

俺様のベッドにいつの間にか潜り込んでいるイリーナ。

しかもデローンな俺を抱きしめる様に寝ている。

完全に抱き枕っぽい使われ方だ。

ひんやりして気持ちいいのだろうか。

まさか、裸で!と思ったりしたが、ちゃんとパジャマらしき寝間着を着ていた。

・・・別に残念だと思ってなんかいないんだからね!

 

 

トントン。

 

 

「んっ!?誰だ?」

 

俺とイリーナ以外にこのしんで・・・いや、マイホームにはいないはずだ。

ローガ達は専用の厩舎一階、ヒヨコ達は専用の厩舎の二階にそれぞれ住居が出来た。

ならば誰なのか?

まさか、カソの村の若い娘がメイドとして働いてくれるようになったとか!?

 

俺はウキウキして扉を開けに・・・行けない。

なぜならイリーナが抱きついているからだ。

触手を伸ばせば扉を開けることなどスライムボディの俺には容易い。

だが、イリーナが抱きついている状況を新しく来たメイドさんに見られれば、あらぬ誤解を受けてしまうだろう。今後のメイドさんとも関係もギクシャクしてしまうかもしれない。

そんなわけで俺様は少し裏技を行使する。

 

触手を伸ばしてドアノブを握った俺はそのドアを開ける前に触手の一部にさらにスライムボディを移動させる。

傍から見ればドアノブを握った俺がドアの前に立っているように見える。

そう、送ったスライムボディで偽の本体を造り上げているのだ!

そうする事によってベッドでイリーナに抱きしめられている俺を隠すことが出来る。

 

さてそれでは、ドアを開けよう。

 

「何か用か?」

 

ドアを開ける。

 

『おはようございます、ボス!』

 

 

ズドドッ!

 

 

「お前かい!ローガ!」

 

俺はイリーナを巻き込まない様にベッドから落ちる。

我ながら器用なり。

 

全然メイドさんじゃねーじゃん!

 

『はっ! 我であります、ボス!』

 

「で、何だよ?」

 

『はっ、朝から申し訳ありませんが、カソの村の村長がお越しです』

 

「村長が?」

 

何がごゆっくり、だよ。翌日朝っぱらから早々来てんじゃねーか。

建ててくれたことは感謝するけど、せめて3日くらいゆっくりさせてくれよ。

 

仕方がないので、イリーナをそっとベッドに寝かせてローガの案内で一階に降りる。

一階に降りてくると、中央部の「祈りの間」と呼ばれる広間に出る。実に仰々しい名前だ。もちろん村長命名だ。そして祭壇に俺様の木像。一晩経ってもやっぱり俺の木像だ。変わらないな、当たり前だが。

 

さて、ローガに続いて祈りの間に入ると、村長の他にも何人かが来ていた。

 

「おお、精霊様おはようございます」

 

「おはようございますじゃないよ、村長。建物を昨日引き渡してもらったばかりだよ」

 

多少ぷりぷり感を入れて返事をするが、何せマイホームを建ててもらった身。あまり無下には扱えない。ローガは案内が終わったと厩舎の方へ戻って行く。

 

「はっはっは、失礼致しました。実は我々もしばらく精霊様にごゆっくりして頂くつもりだったのですじゃ。しかしこのバーサマがどうしても精霊様の神殿に連れて行けと・・・」

 

「バーサマ?」

 

「こりゃジジイ!誰がバーサマじゃ!」

 

とんでもないキンキン声が祈りの間に響き渡る。

よく見れば、村長の他にも、護衛らしき若い衆が2名、美人の若い娘さんが1名、そして娘さんよりもずっと小さい、というか低い身長の皺くちゃなバーサマが。

 

「バーサマをバーサマと呼ばなんだら、世の中にバーサマなどおらぬようになるわ」

 

「やかましいわ!」

 

「何だ何だ、朝からジーサマバーサマコンビの漫才を見せに来たのか?」

 

俺は盛大に溜息を吐いて見せる。

 

「いやなに、先も言ったのじゃがこのバーサマがどうしても神殿に連れて行けと朝からうるさくてかないませんでな」

 

村長も心底困り果てたと言った感じで溜息を吐く。

 

「バーサマバーサマって・・・もしかしてザイーデルばあさん?」

 

俺がザイーデルという名前を出したことで、全員が固まる。

 

「・・・なぜ、バーサマの名前がザイーデルとわかったのですかな・・・?」

 

村長が驚愕の表情を浮かべる。

 

「・・・どこかであった事あったかの?」

 

「いいや、初対面だな」

 

「じゃあ、どうしてばーちゃんの名前が分かったんスかね?」

 

ばあさんの問いに正直に答える。若い娘さんはザイーデルばあさんの孫娘なんだな。

水色のショートカットが良く似合うボーイッシュな女の子だな。

語尾に「ッス」が付くのはカワイイ後輩のボーイッシュな女の子と決まっている!(矢部氏の偏見です)

 

「おいおい、精霊様は神の御使いでもあるのか?」

「超能力ってやつだろうな」

 

若い護衛は好き放題言っている。そんなわけないやろ。何で大阪弁?

 

「実は、カンタとチコちゃんが泉に来た時に、村長とザイーデルばあさんなら字が読めるって話してたのを思い出したんだよ」

 

「なるほど・・・」

 

孫娘さんは納得してくれたようだが、他の連中は話聞きゃーしない。聞けよ。

 

「いやはや、精霊様の超能力はまさに神の如しですな」

「ううむ、予言の力かねえ」

「カソの村の行く末とか占ってもらいますか?」

「いいっすね~」

 

良いわけあるかよ。占いなんて出来ねーっての。

予言でも神の力でもないの。聞いたんだって。多分で言っただけだって。

 

「それにしても、村の近くに精霊様の神殿をおったてるなんて言うもんだから、頭がどうかしちまったのかいって思ったんだけどね。畑も元気にしてもらって、井戸も面倒みてもらって、開村祭も盛り上げてもらったらしいじゃないか。そんなお世話になった精霊様だからね。神殿も出来たって事だから、顔を見に来たのさ」

 

ん?その言い方だと、しばらくカソの町に居なかったみたいだけど?

 

「ばーちゃんは、ここしばらくカソの村の北西にあるトーテモヘンッピの村へ薬草づくりに出かけてたッス!だからしばらくこの村にいなかったッス」

 

元気っ娘が教えてくれる。

 

「ああ、それでカソの村を留守にしてたんだね。でもそんな別の村に呼ばれるなんて腕利きなんだな」

 

「ふぁっふぁっふぁ、それほどでもあるぞい」

 

「謙遜しねーのね・・・」

 

「何分こんなばーちゃんだから・・・」

 

かわいい孫娘さんが頭をカキカキ恐縮している。

 

「んで、その腕利きなバーサマが俺に何か用(なにかようか)か?」

 

九日十日(ここのかとうか)

 

「帰れ!」

 

「わあ、ごめんよ精霊様!ばーちゃんギャグが大好きッスから・・・」

 

「ひゃっひゃっひゃっ」

 

「こりゃ!精霊様に無礼を働かないって約束じゃろう!」

 

「村長、もうしわけないッス」

 

孫娘さんだけぺこぺこしてるのってどうなのよ?

 

「ひゃっひゃっひゃっ、これはすまんの精霊殿。では本題に入ろうかの」

 

「本題、あるんだ」

 

「そりゃあるわい」

 

「んで、本題って?」

 

「孫娘のサリーナを嫁に貰わんかの?」

 

 

ガタタタタッ!

 

 

何事かと見れば、イリーナが階段から転げ落ちて来た。

 

「お、おい大丈夫か?イリーナ」

 

大丈夫かと聞いてみたが、若干鼻血が出ているから大丈夫ではないだろう。

 

「ヤ、ヤ、ヤーベ!嫁を増やすってどういうことだ!?」

 

イリーナよ。まずもって嫁を増やすってどういう事だ?

すでに嫁がいるような言い方は誤解を招くのではないかね?

 

「ええっ!? 精霊様はもう奥さんがいらっしゃるッスか!?」

 

ほら、サリーナさんが勘違いしちゃった。

 

「ほっほっほ、精霊様はモテモテですな!」

 

「やかましいわっ!」

 

だいたい何だよ、この連中。ホントに何しに来たんだよ?

 

「村長、参拝目的なら俺の来客じゃなくていいよな?もう引っ込むぞ」

 

俺は背を向けて部屋に戻ろうとしたのだが、

 

『ボス、来客です』

 

ローガが再びマイホームに入って来て告げる。

 

「来客かよ!」

 

ホントに来客かよ・・・フラグって怖いね!

 




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第57話 初来客は丁寧に対応しよう

ローガが俺に「来客」と告げる。

ローガが来客と告げる以上、正式に俺への客だろう。

カソの村の村人が参拝に来ているのとは違うということだ。

そう言えば馬車の音と馬の嘶きも聞こえた。

どうやらマジで来客らしい。

誰が来たのかまったく想像できないけどな。

 

「ヤーベ!」

「スライムさん!」

 

「おおっ!? カンタにチコちゃんじゃないか」

 

二人は走って来たかと思うと俺に抱きつく。

 

「二人とも元気にしてたか?」

 

「ああっ!ヤーベのくれた水ですっかりかーちゃんも俺たちもすっげー元気になったぞ!」

「スライムさんありがとう!」

 

「それは良かった。それで? ローガが客として案内したのはお前達か?」

 

馬車で来ていると思われるので、絶対違うと思ったが、せっかくなので聞いてみた。

 

「俺たちは客を案内してきただけなんだ。ヤーベの住処に案内すればお駄賃くれるって言うんだぜ!」

 

うん、カンタよ。お駄賃で俺様の個人情報を売り飛ばすのはどうかと思うぞ?

だが、来客が身分ある者なら逆にお手伝いは誉れある仕事にもなるか。

で、誰が来たんだろう?

 

「ご無沙汰しております、ヤーベ殿」

 

そう言って姿を見せたのはソレナリーニの町代官のナイセーであった。

 

「ナイセー殿ではないですか。こちらへ帰る際にはご挨拶に寄りましたので、ご無沙汰という程間が開いた気はしておりませんよ」

 

「そう言って頂けると恐縮ですが。時にヤーベ殿はその姿が真の姿になるのですかな?」

 

あ、いけね。ナイセーやゾリアと会っている時はローブ着てたよね。今はマッパだよ。

 

「人間の姿ももちろん取れますがね。この姿が一番楽なのも事実なのですよ」

 

もうどう言い訳していいのかわからんけど。こうなったら精霊で押し通すか?

 

「そうなのですね。尤も<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧何てことを成し遂げてしまうヤーベ殿ですからね。どのような事があっても不思議ではないのかもしれませんね」

 

そう言ってナイセーが苦笑する。

 

「そう言ってもらえるとありがたいがね」

 

「そう言えば、口調も多少違いますね」

 

「ローブの時はお気楽キャラでやらせてもらってましたよ。ゾリアにもある程度あのような喋り方が接しやすいかと思いましてね」

 

元々は地球で四年も社会人やってたんだ。当たり前だが礼節も一通り身についてはいる。

だが、冒険者ギルドで舐められない様に、という意識が強すぎたか、ゾリアとの会話はほとんどタメ口なんだよな。元々ゾリアが偉そうでむっとしたのもあるが。

 

「そうですか、それならばある程度安心できるというものです」

 

ナイセーは少しホッとしたような表情を浮かべる。

 

「何がです?」

 

「王城での王との謁見です」

 

「・・・はあっ!?」

 

「ヤーベ殿がそう言った権力に取り込まれぬよう振る舞っておられるのも、組織に属すのを良しとしないのも十分に理解しているつもりではおります。しかしながら城塞都市フェルベーンで起きたテロ事件の詳細を王都に説明せぬわけにもいかず、その説明におきましては私の主でもありますフェンベルク・フォン・コルーナ辺境伯様よりヤーベ殿の活躍をこれでもかと盛りに盛って報告がされてしまいましたので・・・」

 

「何してくれちゃってるのフェンベルク卿!」

 

「すでに『城塞都市フェルベーンの奇跡』として、千人以上の重篤な患者を救った英雄がヤーベ殿であることも、テロ集団を根こそぎ捕まえたのがヤーベ殿の使役獣である事も報告されてしまっております」

 

「Oh・・・」

 

俺は天を仰ぐ。

 

「何やらかしてくれちゃってるのあの人・・・」

 

「私の<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧報告にて、ヤーベ殿の存在を隠して報告した書面が到着する前に『城塞都市フェルベーンの奇跡』を起こされてしまいましたからな。後から届いた<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧報告書も、「これあれだ、ヤーベ殿の仕業だろ」とすぐ看破されたらしいです。速攻領主邸に呼び戻されましたよ」

 

ナイセーは苦笑を通り越して呆れ気味に話す。

 

「しかも国王に自分の賓客であると堂々と申し上げたそうです」

 

「いつ俺がコルーナ辺境伯家の賓客になったよ!?」

 

「まったくその通りなのですが」

 

プンスカ怒る俺にナイセーが実にその通りだと告げる。

 

「正面から突破できない場合、外堀から埋めるタイプでして」

 

「実に迷惑!」

 

「今回、ルシーナお嬢様の命をお救い頂いたこと、ルーベンゲルグ伯爵令嬢を伴ったことでコルーナ辺境伯様もヤーベ殿を完全に特別な人物として認識してしまっております」

 

「人助けして迷惑被るのってとってもやるせないし」

 

たっぷりと溜め息を吐き、肩(?)を落とす。

 

「心中はお察しいたしますが、ここまで来ればヤーベ殿に悪い話ばかりではないかもしれませんよ」

 

「ん? どういうこと?」

 

「実際問題、すでにコルーナ辺境伯家の賓客として王都に連絡が伝わっております。その上で<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧者として、また『城塞都市フェルベーンの奇跡』の立役者としてのヤーベ殿に王自らが会いたいと使いをコルーナ辺境伯家へ出されました。これは「コルーナ辺境伯家の賓客を王城へ招く」という形を取っておりますので、これが完了するまではどの勢力もヤーベ殿に手を出すことはコルーナ辺境伯家に敵対するのと同じこととなります」

 

「俺は期せずしてコルーナ辺境伯家の後ろ盾を得てしまったわけね」

 

「そうです。何せルシーナ嬢の命の恩人であり、『城塞都市フェルベーンの奇跡』を起こしたヤーベ殿はコルーナ辺境伯家にとってもこれ以上ない恩人でありましょう」

 

「まあ、それはいーんだけどさ」

 

「それが良くはないのが貴族社会というものなのです。これほど多大な恩を受けておきながらまったく恩に報いないとなれば、それこそコルーナ辺境伯家の名に傷がつきます」

 

「大層なものだな」

 

「その上で王の謁見が叶えば、王自らも褒美の打診がありましょう。王自ら家臣取り立てなどはさすがにないと思いますので、恩賞を何かしら頂いて、その上でソレナリーニの町を拠点としたフリーの冒険者を続ける旨伝えれば、とりあえずは収まるのではないかと」

 

「教会とか、追っかけて来ないかね?」

 

城塞都市フェルベーンで散々追い回された記憶が蘇る。

ふと隣を見ればなぜか薄い掛布団を纏ったままのイリーナが目に涙を溜めている。

ああ、フェルベーンでの記憶はトラウマなのね!?ゴメンネ!

 

「イリーナ、今回は大丈夫だから、ね!」

 

「う、う、う・・・ヤーベェ・・・」

 

涙をこぼさないギリギリで踏ん張るイリーナ。

 

「せっかく王様に呼ばれたんだから、王都見学でもするか。それに、イリーナのおウチによってご両親にも挨拶しないとね! きっと心配しているぞ?」

 

「ふえっ!? り、り、両親に挨拶・・・!? ウン、おウチかえりゅ」

 

急に真っ赤になって語尾が怪しくなるイリーナ。泣かれるよりマシか。

イリーナは俺の体にぺったりとくっついてくる。

 

「仲睦まじいようで何よりです。それにコルーナ辺境伯家の後ろ盾だけでなく、王様のお墨付きに、ルーベンゲルグ伯爵家の後ろ盾となれば、王国内でもおいそれとヤーベ殿に手を出してくる輩は減りましょう」

 

「そうだといいけどね、どこにでも空気読めないヤツがいるから」

 

「否定は出来ませんね」

 

俺とナイセーは苦笑した。

 

「アンタ、王都へ行くのかい?」

 

「そう言う事になりそうだな」

 

ザイーデル婆さんに俺は返事をする。

 

「じゃあ、このサリーナも一緒に連れて行っておくれ」

 

「「えっ!?」」

 

俺とサリーナは同時に驚く。

 

「サリーナも驚いているじゃないか」

 

「この子にはこの辺境の村々しか見せてやれてないからね。できれば若いうちに王都にもいかせてやりたいのさ。遠いから女の一人旅なんてとてもじゃないけどさせられないが、アンタと一緒に行けるなら安心じゃないか」

 

ニヤリと笑うザイーデル婆さん。

そりゃ女の一人旅なんて危険でさせられないわな。

・・・よくイリーナは一人でカソの村近くまで来たな。ある意味感心するわ。

 

「遊びに行くんじゃないんだがね」

 

俺は肩を竦める。ローブだからわからんかもしれんけど。

 

「別に王城まで一緒じゃなくてもいいさ。その間は宿にでも待たせておけばいい。帰ってくるんだろ?ここに」

 

再びニヤリと笑うザイーデル婆さん。ちっ食えないバーサマだ。

 

「後生だよ。頼まれちゃくれないかね?」

 

ぺこりと頭を下げるザイーデル婆さん。

周りで村長や若い衆が「ば、ばかな!あのバーサンが頭を下げるとは・・・」と絶句しているところを見ると、よほど珍しい事らしい。それに、サリーナは俺のためでもあるんだろう。サリーナを再びザイーデル婆さんの元へ返す、それはすなわちこの泉の畔に帰って来るって事だ。俺が王都での引き抜きや誘惑に負けてサリーナを放り出さないと分かって頼んでやがる。仮に王都に残る選択をしても、誰かにサリーナを預けて返すような真似をしないだろうということだろう。例え王都に残ると選択しても、一度はここへ戻ってみんなに挨拶できるように。

 

「まあ、良いさ。王都は俺も初めてなんだ。案内は出来ないがね。一緒に行く分には面倒見るよ」

 

「そうかい!恩にきるよ」

 

破顔するザイーデル婆さん、しわっくちゃだな、おい。

 

「サリーナ、その目で王都を見て勉強しておいで」

「お婆ちゃん・・・ありがとう」

「一緒に居ればチャンスも増える、頑張るんだよ」

「お、お婆ちゃん・・・、うん、ボク頑張るよ!」

 

顔を赤らめるサリーナ。何を頑張るというのだろうか?

そして剣呑な雰囲気を出し始めるイリーナ。君、人の布団巻き付けてるけど、寝間着のままなんですね!?

 

「こちらの用意した馬車に乗って移動頂けますから、ヤーベ殿にイリーナ殿、もう一人くらいは乗れますから、大丈夫ですよ」

 

「ナイセー殿が用意した馬車で行くのか?」

 

ローガに乗ってさっさと向かえばいいかと思っていたのだが。

 

「そうです。今回は王家の要請をコルーナ辺境伯家でお受けした形となっております。私共でヤーベ殿を王都までお連れするのも使命の一つです」

 

「そうなんだ」

 

「それに、超高速で移動されますと、王家からの要請から到着までが短縮され過ぎて、またヤーベ殿の能力に関するトラブルの元になるかと・・・」

 

「そりゃそうか。で、ローガ達もみんな連れて行っていいのか?」

 

一応軍団で移動してもいいか確認しておく。

 

「もちろん大丈夫です。移動中の食事もすべてこちらで負担いたします。使役獣の分も含めてです」

 

「太っ腹ですな」

 

「王家からの要請を受けてヤーベ殿をお連れするのですからね。当然の事です。道中の宿もいいところを抑えておりますよ」

 

ふー、至れり尽くせりだね。行かないと言う選択肢はないだろう。ちょうどいい、イリーナのご両親に挨拶も必要だと思っていたし、一度家族の元に返して安心頂かねばならないとも思っていたしな。

 

「いつ出発する?」

 

「出来ればすぐにでも」

 

早えーな!

 

「ではすぐに準備してくるとするか。村長、せっかく建ててもらったマイホームだが、またしばらく留守になってしまうみたいだ」

 

「はっはっは、精霊様はもうすでに国の英雄ですからな。それも致し方ありますまい。神殿は村の者で清掃して管理しておきますよ」

 

「はっはっは、頼むね、俺のマイホーム・・・・・!」

 

「お前達、常に神殿の前に二名で立つようにせよ。一日交替で二人組を作って対応するとするか。その他二名ほど女性の清掃担当を決めるとするか」

 

「村長・・・頼むね、俺のマ・イ・ホ・ー・ム!!」

 

村長の両肩を掴み顔をギリまで近づけて伝える。

 

「おおっ!? お任せください、ピカピカに保ちますぞ!」

 

伝わったか・・・、さて。

 

「ナイセー殿、城塞都市フェルベーンでの対応は・・・もちろんうまくやって頂けるのですよね?」

 

前回の様に神官どもが押しかけて来るのは勘弁だし、おパンツ騒動なんてぶり返されたらイリーナの円らな瞳のダムが速攻決壊してしまう。

 

「え、ええ・・・たぶん・・・大丈夫・・・ですかねぇ?」

 

「何故に疑問形!?」

 

不安しかねぇ!!

 




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第58話 王都に向けて出発しよう

準備を済ませ、ナイセーの準備した馬車に乗り込むとする。

俺様自身は全く用意するものが無い。イリーナに選んでもらったローブと魔導士の杖を持つ。

 

「ヤーベ、王都に行っちゃうのか?」

 

ずっと話を聞いていたカンタが聞いてくる。チコちゃんはもう目に涙を溜めている。

 

「ああ、名誉な事かどうかはしらんが、王様が俺を呼んでるらしいからな」

 

肩を竦めて両手を広げる、外人アハーン風で答える。

 

「それってすっげーことだよな? ホントはもっと喜んで見送らなきゃいけないんだよな・・・」

 

カンタが少し俯く。チコちゃんもカンタの服の裾を握っている。

そんな二人の頭をワシワシとしてやる。

 

「王都で山のようなお土産を買って来てやるからな! 楽しみに待ってろよ~」

 

努めて明るく伝える。

 

「ああっ! 楽しみに待ってるからな! 絶対帰って来てくれよ!」

「うん、待ってる!」

 

さらに二人の頭をワシワシしながら抱きしめる。

 

「当然帰って来るよ! 帰ってきたらこのマイホームでバーベキューパーティだ!」

 

「待ってる!待ってるぞ!」

「早く帰って来てね!」

 

涙を拭きながら送り出してくれる2人。

いい子達だな。

 

「さて、行くか」

 

ふとイリーナを見ると、とんでもない量のリュックを背負っていた。リュックの上にはあのテントまで丸めて鎮座しているではないか。

 

「イリーナ、我々は王家の要請で王都に呼ばれているんだ。道中はナイセーの手配によりコルーナ辺境伯家の案内で連れて行ってもらえる。そんなわけで、まずテントはいらないぞ」

 

「ええっ!? だが、馬車でも一日で町や村まで到着しないだろう?」

 

「それもナイセーの方で手配していると思うよ? そうだろ?」

 

「そうですね、そのあたりは御心配なさらずとも大丈夫ですよ」

 

ニコニコしながら説明するナイセー。

逆にものすごく逞しいな、イリーナは。

 

「そ、そうなのか・・・」

 

そう言って巨大リュックを背負ったまま二階の部屋に戻ろうとして、階段の幅より長いテントぶつけて転んでいる。ふっ、どうかしているぜ、イリーナ。

 

「イリーナ、一応替えの服をたくさん持ってくるといい。ソレナリーニの町で一緒に服を買ったやつでいいんじゃないか?」

 

「あ、そうだな!ヤーベに選んでもらった大事な服だからな、全部持ってくるぞ!」

 

そう言って階段を勢いよく上がって行く。

いつでも元気だな、イリーナは。

 

「サリーナは準備OKなのか?」

 

「うん、ボクの着替えはこのバックに入ってるし、お婆ちゃんにお小遣いもらったからね」

 

ニカッと笑うボクっ娘サリーナ。八重歯がかわいいな。

 

「そうか、万全だな」

 

それにしても、イリーナにルシーナ、そしてサリーナ。

俺はナのつく女性に縁があるのだろうか?

今後、ナのつく女性にあったら意識してしまいそうだ。

 

「ヤーベお待たせ! ヤーベに買ってもらった服は全部持ってきたぞ!」

 

そう言って服と一緒に買ったボストンバッグに入れて準備してきていた。

ボストンバッグをポンポンするイリーナ。

 

「そうか、じゃあ出発しよう」

 

「それでは馬車に案内しますよ」

 

ナイセーの案内で馬車に乗り込む。俺とイリーナ、それにサリーナさんだ。

 

「それでは行って来るよ」

 

馬車の窓から手を振ってみる。

 

「早く帰って来いよ!」

「神殿はお任せくだされ!」

「お土産待ってるぞ~!」

 

村長を始めとしたみんなの温かい言葉に、俺は出来るだけ早く帰って来ようと心に刻むのだった。

 

 

 

 

 

途中一泊してソレナリーニの町に到着した一行。

道中はローガ達の軍団を引き連れて馬車が数台繋がっていく。

途中のテントはめっちゃ豪華だった。

イリーナが超喜んでいたが、俺とイリーナとサリーナが同衾することもどうかと言うことで、別のテントが用意されていた。

・・・寂しくなんかないんだからね!

 

このソレナリーニの町で一日休憩して、明日の朝出発。

なぜか城塞都市フェルベーンでは三日間も休憩するらしい。

その後のルートと予定はフェルベーンで教えてくれるとのことだ。

なかなか徹底しているな。

 

ソレナリーニの町で一番いい宿に部屋を取ってもらっている。

イリーナとサリーナには少し仲良くなってもらおうと、お小遣いを渡して着替えや洋服を買いに行かせた。

そして俺は冒険者ギルドに一人でやって来た。

ゾリアへの挨拶と副ギルドマスターのサリーナ・・・

 

 

「サリーナァァァァ!?」

 

 

冒険者ギルドに入ってカウンターにたどり着く前、急に思い出してしまった。

ザイーデル婆さんの孫娘もサリーナと名乗った。

だが、このソレナリーニの町冒険者ギルドの副ギルドマスターも確かサリーナと言ったはずだ。ラノベの小説を呼んでも、名前が被るってほとんど見た事ないぞ。そりゃそうだよな、被ったらわかりにくいわ。でも現実世界はそうはいかないのは当然だ。同じ名前何て、ざらにある。

 

「ど、どうしたのですか!?」

 

奥の扉が勢いよく開いて副ギルドマスターのサリーナとギルドマスターのゾリアが飛び出してくる。そりゃそうか、ギルド内でいきなり副ギルドマスターの名前を絶叫したんだ。

驚かれても当然か。

 

「ヤーベさん!?」

 

叫んだのが俺だと気が付いてサリーナが近くまで来る。

 

「ヤーベじゃねぇか、しばらくだな。お前とんでもない事ばっかやってんな」

 

笑いながら俺の肩をバシバシ叩いてくるゾリア。

 

「ヤーベさん私の名前を叫んでいましたけど、どうしたのですか?」

 

副ギルドマスターのサリーナは問いかけてくる。

 

「ああ、すまないサリーナ。実は今王都まで一緒に旅をしている仲間に、イリーナともう一人、サリーナという女性がいてね」

 

「まあ、私と同じ名前なのですか?」

 

「そうなんだ、それで副ギルドマスターである君もサリーナだったと思い出して、思わずびっくりして叫んでしまったんだ」

 

てへへ!ってな感じでぽりぽり頭を掻く。

 

「それでは私の名前を忘れていて、ギルドに着いてから思い出されたのですか」

 

ちょっとほっぺをぷっくりさせるサリーナ。なかなかに魅力的だ。

 

「いや、悪気はないんだけどね。なぜか、俺に気を寄せてくれる娘達がみんな名前の終わりに「ナ」が付いていてね、つい気になっちゃってね」

 

「まあ、では私もヤーベ殿に狙われてしまいますね?」

 

そう言って悪戯っぽく笑うサリーナ。

 

「あ、コラッ!ギルド職員をナンパするなよ。サリーナはやらんぞ!サリーナが居なくなると俺が困る」

 

急にゾリアがサリーナの前に出て文句を言う。

 

「俺はともかく、サリーナの恋路を邪魔するようなパワハラ上司は訴えた方がいいぞ、サリーナ」

 

「ふふっ!そうですね、あまりにひどいようならそうしましょうか?」

 

笑いながら応じるサリーナ。

 

「だれがパワハラか! 大体オメー何しに来たんだよ? 王都に向かってる途中だろ?」

 

「やっぱその情報伝わってるのね」

 

「そりゃそうだぜ。『城塞都市フェルベーンの奇跡』ってもっぱらの話題だぜ。派手にやったもんだな。殲滅以外に怪我人の回復も出来るとは恐れいったぜ」

 

「たまたまだよ」

 

「それで王様からの呼び出しだろ? もう英雄まっしぐらだな。否が応でも」

 

「マジで勘弁だからな・・・本当に」

 

「諦めて観念しろって。Sランク冒険者にでもなっとけよ。で、この町いつ出発するんだ?」

 

「誰がなるか! 一応出発は明日の朝だ。お小遣い補充のためにこの前買い取りお願いした魔獣の分の金額を受け取りに来たんだよ。ついでにまた新しい魔獣の買い取りもよろしく」

 

「よろしくは良いけど、この前みたいなマンティコアとかマジでやめてくれよ? ランク高すぎて処理に困るぜ、いくら辺境だからってフェルベーンまで金額処理の申告するのは、めんどくせーんだからな?」

 

「あー、そう言う事言うわけね。ならいいよ、フェルベーンに直接買い取りに出しに行くし。ソレナリーニの町のギルド実績にならなくても俺は困らないもんねー」

 

「あ、テメー汚いぞ!」

 

「今のはギルドマスターが悪いのですよ! 手続きが面倒だからとランクの高い魔獣を持ってくるななどと、ヤーベ殿に愛想をつかれても仕方のない発言ですよ!」

 

ぷりぷりと怒るサリーナ。それはそうだろう。上級の魔物を卸してくれる存在をお断りって言ったら、ギルドの実績ポイントが稼げなくなるだろうしな。

 

「ラム、前回のヤーベ殿の買い取り金額を用意してください。それから倉庫を開けてもらって、今回の魔獣の受け取り受理もお願いします」

 

「了解しました」

 

そう言って受付嬢のラムちゃんが金額を用意してくれる。

じゃらりと金貨の入った袋を受け取る。

王都の土産を買う軍資金が調達できた。

カンタやチコちゃんの期待を裏切るわけにはいかんしな。

倉庫に移動して魔獣を引き渡していく。

 

「今回もたっぷり持ってきてんなぁ」

 

ゾリアが呆れ気味に言う。

 

「ですが、ヤーベ様のおかげで、フェルベーンにも十分に魔獣の素材を供給出来て大変助かっております。今後ともよろしくお願い致します」

 

そう言って丁寧にお辞儀する副ギルドマスターのサリーナ。

彼女の丁寧な対応にまたこのギルドに来たくなる。

ゾリアだけならもう潰れてるだろうな。

 

「王都に行ったらお土産買って来いよな!」

「王都でのお話、聞かせてくださいね」

 

二人に見送られ、冒険者ギルドを後にする。

ゾリアの土産は捨て置くとしても、帰りにサリーナさんにお土産話と、一緒に旅しているサリーナの引き合わせもしてみようか。

そんな事を考えながらホテルに帰った。

 




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第59話 ヒヨコたちの情報を聞こう(PARTⅠ)

 

ソレナリーニの町トップクラスのホテルだけあって非常においしい夕食だった。

ここでも、イリーナやサリーナとは別の部屋だ。

・・・寂しくなんてないんだからね!

 

 

それよりも、一人ならば都合がいい。情報を整理しよう。

一人部屋の窓を開ける。

 

「ヒヨコ隊長、報告を頼む」

 

一言呟くだけで瞬時にヒヨコ隊長と部下が部屋に集まってくる。

ヒヨコ隊長以下、ヒヨコ十将軍の連中だ。合計で十一羽のヒヨコたちが部屋に揃う。

今度十将軍を紹介してもらおう・・・なんかチュウニビョウな匂いが漂って来るから、聞くのも微妙な気がするが。

 

『はっ!それでは部下より報告させて頂きます!』

 

ヒヨコ隊長の一言に部下がビシッとさらに整列する。

 

『ヒヨコ十将軍序列一位レオパルド!序列二位クルセーダー!』

 

『『はっ!』』

 

『報告せよ!』

 

「ちょっ、ちょっと待て!」

 

『ボス、どうしました?』

 

「いやいやいや、ツッコミどころ満載なんだが! そもそも、ヒヨコ十将軍ってなに!?」

 

『実はヒヨコ軍団も細分化し、私の下に直属の十羽を選び出し、さらにその下にグループとしてまとめさせております』

 

「そうなんだ」

 

『ボスに勝手に組織を造り上げた事、誠に申し訳ありません。お気にいらなければ即座に解体し・・・』

 

「いや、別に大丈夫だ。ヒヨコ隊長に任せる」

 

『ははっ!ありがたき幸せ!』

 

しかし、良いのかな? 十将軍選び出してるけど、そのトップが隊長なんだが・・・、まあいいか。

 

『では報告せよ!』

 

『はっ!我々はソレナリーニの町周辺を探ってまいりました』

『ソレナリーニの町周辺はトラブルも無く、異変も確認できませんでした』

『迷宮ダンジョンも迷宮氾濫(スタンピード)以降落ち着きを取り戻し、平常時と変わらなくなっております』

 

「ふむ、この町はテロ事件以降落ち着きを取り戻しているのだな」

 

『『ははっ!』』

 

『次!序列第三位クロムウェル!第四位センチュリオン!』

 

『『ははっ!』』

 

いや、むっちゃ名前カッコイイんですけど!? どうやってつけてんの?

 

『我々は城塞都市フェルベーンでの調査を担当致しました』

『フェルベーンではボスの到着をコルーナ辺境伯が今か今かと待ち受けており、到着後すぐパレードが行われる予定となっております』

 

「何してくれちゃってるのかな!?あの御方は!」

 

『パレード後は大々的な表彰式が行われ、ボスの偉業を讃える会が開かれる予定です。夜は晩餐会でダンスパーティも兼ねるらしいです』

 

「明日速攻でナイセーに相談だな」

 

『後、ボスをコルーナ辺境伯家の賓客として持て成す用意がされております。そして賓客として王家より王都への招待を受けたと発表する予定です。コルーナ辺境伯家の賓客が王様に呼ばれたという箔をつけたいと言う事でしょうか』

 

「どこまでも俺を利用したいようだな・・・」

 

『ボスの威光ともなればそれも致し方なき事かと』

 

「俺はそんなイイモンじゃないと思うがね」

 

『次!序列第五位ヴィッカーズ!第六位カーデン』

 

『『ははっ!』』

 

『我々は城塞都市フェルベーンからタルバリ領までの間で調査してきました』

『各村はそれぞれが良く発展しており、治安も良く問題は見当たりませんでした』

『ただ、タルバリ領境辺りの山間部には蛮族が住み着いているという情報もあり、山間部への魔物狩りや薪回収のための作業に些か影響が出ているとか。素材や薪の価格が高騰気味とのことです』

 

「ふむ、街道まで出て来なければとりあえず今回の移動には影響はなさそうだが・・・」

 

『次!序列第七位カラール!第八位キュラシーア!』

 

『『ははっ!』』

 

『我々はタルバリ領最大の町タルバーンを調査してまいりました』

『この町は領主でもあるガイルナイト・フォン・タルバリ伯爵の治める地となっております』

『ガイルナイト・フォン・タルバリ伯爵はかなりの筋肉質な人物で、ソレナリーニの町冒険者ギルドマスターのゾリア殿と旧知の仲のようです』

 

「あ、そうなの?ゾリアはそんな伯爵と知り合いだったんだ」

 

『なんでも元々同じパーティで冒険者をやっていたとか』

 

「伯爵何してんの!?」

 

『このタルバーンの町の北に「悪魔の塔」と呼ばれる塔が立っているとのことです』

 

「悪魔の塔?」

 

『はい、噂では「悪魔王ガルアード」を封じた塔だと言われております。現在は迷宮ダンジョンと同じ扱いで、塔内の魔物を倒して素材を回収する冒険者が通っているようです』

 

「うん、ヤバイ塔だってことはわかった。近づかない様にしよう」

 

『その他タルバリ領タルバーンでは鉄鋼の精製が盛んです』

 

「鉄か~、武器や防具の新調ってあんまり関係ないんだよな。イリーナは戦闘出来ないし、俺はローブ着てるしな」

 

『武器防具以外にも鉄鋼製品が多く出回っております。お店を覗いて見るのも一興かと』

 

「なるほど、わかった」

 

『次!序列第九位ティーガー!第十位センチネル!』

 

『『ははっ!』』

 

『我々はカソの村及び泉の畔周りの確認をしてまいりました』

 

「あ、そうなんだ」

 

『はい、カソの村はいつも通り平和です。ローガ殿達の魔物狩りで村の周りには大幅に魔物が減っており、安心して生活できる状況が確保できています』

『泉の周りも平穏無事です。神殿も二名の守り手に、清掃担当の女性が二名来ておりました』

 

「あ、そうなんだ・・・」

 

ヒヨコ達にも神殿呼ばわり・・・

まあ、平和ならいいか。

俺はとりあえず城塞都市フェルベーンでの死ぬほど面倒くさいフラグを叩き折るべく作戦を練らないとな・・・

 

 




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第60話 城塞都市フェルベーンに翻る極太のフラグをへし折る努力をしてみよう

どうしてこうなった?

 

現在、俺様は馬車に揺られている。

ナイセーと移動に旅をしてきた馬車ではない。

まるでどこかのエリザベス様が結婚パレードに乗るような真っ白な馬車だ。屋根の無いタイプ。

その真っ白な馬車に俺はイリーナと並んで乗せられている。

前の席にはフェンベルク・フォン・コルーナ辺境伯とその奥方、間にルシーナ嬢が鎮座していた。

町の大通りは左右に人垣が出来ており、大勢の人々が人垣を作って手を振ってくれている。

俺とイリーナで教会に隔離された重篤な患者を回復して回った事を知ったのか、ありがとうありがとうと声を掛けてくれる。ありがたいと言えばありがたいのだが・・・。

 

「はっはっは、コルーナ辺境伯家の賓客ヤーベ殿が帰って来たぞ!」

 

フェンベルク卿よ、俺は帰ってきたわけではないぞ。あくまで王都に呼ばれたので向かっている途中にフェルベーンに寄っただけなんだからな。

それにしても奥様は優雅ににこにこしながら手を振っているだけだ。絵になるけど。

 

「皆さんご心配おかけしました! でも私ももう元気になりました。こちらのヤーベ様に体を治して頂きました!」

 

「「「わああ~~~~!!」」」

 

ルシーナは町の人々にも相当人気なようだ。

ルシーナが一時重篤だったのを知っているのか、相当喜ばれているみたいだな。

 

「後、私はヤーベ様に嫁ぐ事に致します~~~!」

 

「何ぃ~!」

 

フェンベルク卿が馬車で立ち上がりながら隣のルシーナをガン見する。

 

「「「わああ~~~!!」」」

 

「まあ、ステキ!」

 

町の人々の祝福と奥さんの笑顔が眩しい。

そしてルシーナは確実にフェンベルク卿の血を引いているな。外堀から埋めるタイプのようだ。

教育が行き届いてますね!

 

「ふぇぇ~、ルシーナちゃん大胆過ぎるよ~」

 

涙目のイリーナ。負けてますよ?

 

「ヤーベ殿、ありがと~」

 

むっ!? あれは・・・ボーンテアックのやつだな。

アイツこそが多くの命を救った英雄だと思うのだがな。

 

「ボーンテアック!お前の作った薬草と解毒薬は見事だったぞ!お前のおかげて多くの人々が助かったぞ!」

 

そう声を掛けたので、ボーンテアックの周りがざわついて質問攻めにあっていた。

はっはっは、君も英雄になりたまえ。

 

進んでいくと大きな教会の前に神官たちが横断幕を持ってずらりと並んでいた。シスターもたくさんの旗を振っている。

 

横断幕には・・・「おかえりなさい御使い様」。誰の事だよ!?

 

「式典の後はぜひ教会にもお寄りください!」

「我々にもう一度お導きを!」

「お待ちしております~」

 

シスターたちの黄色い声援に一瞬グラリとするが、横にいるイリーナが手を握る。

 

「ほわわわわっ!?」

 

痛い!何故だ!俺はノーチートだが無敵スライムボディでもあるはずなのに!?

最近のイリーナは意味不明にレベルが上がっているのか?

 

それにしてもこの後は領主邸までパレードして、その後領主邸で休憩、その後さらに中央広場にて領主であるフェンベルク卿自ら『城塞都市フェルベーンの奇跡』立役者である俺様に表彰と褒賞を授けるらしい。フェルベーンに到着する前にナイセーに聞いていた。

その極太なフラグを叩き折るべく、ナイセーにはいろいろ相談や提案を行った。

だが、極太フラグは俺様の提案や戦略などものともせず、優雅にたなびくのであった。

・・・悔しい。

 

最終的に、門から町に入る前に脱出するつもりだったのだが、まさか領主であるフェンベルク・フォン・コルーナ辺境伯自ら俺を待ち構えているとは思わなかった。

領主が町の外まで出て待ち構えているとは・・・そこまでやるか!?

ナイセーもナイセーで、パレードと式典だけはどうにもならないだろうと最初から諦め気味だった。というか、それに俺が出ないと領主の顔を潰すことにもなりかねんしな。俺の脱出の手引きを協力しろというのは元々無理がある話なのだが。

 

やがてパレードは領主邸までやってくる。

 

「皆よ、式典は午後から中央広場で行う!大勢集まってくれよ!」

 

 

「「「わああ~~~」」」

 

 

いや、何でこんなに盛り上がってるのよ。

こう言っては何だが、ヒマなのか?この町は。

 

「さあヤーベ殿、我が家に逗留して一息入れてくれたまえ」

 

「逗留って」

 

「午後から式典にはなっているが、今日から三日間は我が家で持て成す予定だ。ゆっくりしてくれていいぞ」

 

「午後から式典ってだけでゆっくり出来ねーよ」

 

「はっはっは、遠慮する事は無い!」

 

「話聞けよ!」

 

「ヤーベ様、さあこちらへ」

 

ルシーナが屋敷に案内しようと俺の手を取る。

 

「ヤーベ、待ってくれ」

 

イリーナは俺のローブの裾を握ってついてくる。

 

「まあまあ、みんな仲良しね」

 

奥さん、一言で纏めないでくださいね。

 

「まずはみんなで食事にしようじゃないか、さあ入ってくれ」

 

フェンベルク卿にも急かされ、俺は屋敷に入った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「それでは再会を祝して、乾杯!」

「「「カンパ~~~イ!」」」

 

俺は注がれた赤ワインに口を付ける。

 

「・・・うまい」

 

特に酒にうるさくなかった俺だが、このワインはうまいと感じた。

 

「そうか、気に入って何よりだ。王都から無理をして手に入れた甲斐があったというものだ」

 

ゲッ!そんなに貴重なヤツ?値段とか聞くとヤバそうだからスルーしよう。うん、それがいい。

その後もおいしい料理が次々と運ばれてくる。前菜らしきから始まり、メインの肉料理もおいしかった。さすがコルーナ辺境伯家といったところなのだろうな。

チラリと横を見ると、イリーナの顔が蕩けていた。

泉の畔での食事は狩りで捕って来たエモノを処理して焼いたり似たりする料理ばかりだ。後は屋台の料理。そんなわけで、こんなに手の込んだ料理を食べるのはずいぶん久しぶりだ。

もちろん途中で宿泊した宿での食事も十分おいしかったのだが、コルーナ辺境伯家の料理はそれを凌駕するレベルにある。

特にデザートのような甘味はほとんど食べていなかったからな。甘いケーキのようなデザートを食べてほわほわしているイリーナを見ると、結構甘い物が好きだったようだ。というかこちらの世界、甘い物がほとんどなかった。多分、甘味は貴重なのか高級なのか、そう言う事なのだろう。イリーナには悪い事をしたような気がしてきたな。王都ならおいしい甘味もあるんだろう。イリーナに何かデザートでも買うとしようか。

 

「・・・ん?どうした、ヤーベ?」

 

「いや、おいしそうにデザートを食べるなと思って」

 

「あ、いや、恥ずかしいな。甘い物はずいぶん久し振りな気がしてな。途中の宿で食べた料理ももちろんおいしかったのだが」

 

「じゃあ、俺のデザートも食べていいよ」

 

「ふえっ!? で、でも・・・」

 

「いいんだ、イリーナがとても幸せそうに食べているからね」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

そう言って俺のデザートの皿をイリーナの前においてやると、喜んで食べ始める。

ニコニコしたイリーナの顔を見るとこちらも幸せになりそうだ。

 

「ヤーベ様、少し嫉妬してしまいそうですわ」

 

にっこりしながら、ルシーナが俺を見る。

 

「ああ、いや、普段はろくなものを食べていないのでね。やはり甘い物は女性にはたまらないご褒美なのかな?」

 

「クスクス、そうですわね。王都で珍しい甘味のお菓子などが手に入りますと、私も子供の様にはしゃいでしまいます」

 

笑顔を絶やさず、快活に話すルシーナを見ていると、こちらまで元気になりそうだ。

やはりルシーナは良い娘だ。

 

「で、ヤーベ殿、この前はどうして急にいなくなってしまわれたのだね?」

 

食事が終わり、最後のドリンクを飲みながらフェンベルク卿が俺に問いかける。

そんなんお宅の囲い込み作戦が嫌やってん!・・・と言えたらどんなにいいか。

 

「はっはっは、急用を思い出しましてな」

 

気分的には額の汗を拭いたいところだが、残念ながら俺は汗をかかないのだ。

 

「ヤーベ様、お気になさらずに。ちゃんと父には伝えておきました。ヤーベ殿を勝手に縛り付けるような真似をすると御不興をかってしまいますよと」

 

「や、これはルシーナ嬢にも気を使わせてしまい恐縮です」

 

ぺこりと頭を下げる。少し他人行儀にしておかないと、この連中グイグイと距離を詰めてくる。

 

「まあ、そんな他人行儀な言い回しは不要ですわ、ヤーベ様」

 

両手を組んで胸の前に置き、哀願するような表情で距離を詰めてくるルシーナ嬢。ほーらね。

 

「ヤーベ殿にはすまない事をしたようだ。出来ればこの地にとどまり、我が部下として・・・いやいや、我が身内としてその力を振るってもらいたいと思っていたのでな・・・。少し先走りし過ぎたようだ。気に障ってしまったのなら申し訳ない」

 

フェンベルク卿が俺に頭を下げる。さすがにそれはマズイ。

 

「いやいやフェンベルク卿。俺に頭を下げる必要なんてありませんよ。

ただ、いろいろとありまして、ご要望に沿えないこともありますのでね。そのあたりは申し訳ないとは思うのですがね」

 

「いやいや、そう言ってもらえるだけでもありがたいよ。君と好みが結べるだけでもありがたいんだ」

 

そんなに俺とのつながりがありがたいもんかねー。ローブを被ったままの怪しい男ですがね。

 

「それでは、場所を移して王家からの要請内容を説明しよう。その後は式典に出て頂く」

 

「あ、それは確定なのね・・・」

 

がっくり肩を落とす俺だが、ふと気づく。

 

「ん? 要請内容を説明?」

 

俺が首を傾げて聞く。

 

「うむ、王より賜った要請内容だ」

 

え・・・、王城に行って王の前で挨拶するだけじゃなかったんかい!?

 




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第61話 謁見内容を把握しよう

「謁見の内容なのだがな・・・」

 

やたら難しい顔をして語り出すフェンベルク卿。おいおい謁見ってそんなヤバイのかよ?

 

「王に拝謁するだけだ」

 

 

ズドドッ!

 

 

俺は椅子からずり落ちる。

 

「だ、大丈夫か?ヤーベ」

 

「なんだよ、脅かすな!」

 

イリーナの手を借りて俺は椅子に座り直して文句を言う。

ちなみにローブ姿の中はデローンMr.Ⅱ+触手2本(右手左手)というい出で立ちだ。

 

「問題はその前と後だよ」

 

「前と後?」

 

「王への拝謁前には当然身体検査や、礼服の仕度など事前準備に一週間以上かかるはずだ」

 

「面倒臭ぇ! てか、身体検査?」

 

それを聞いてイリーナが俺をガン見する。

 

「そりゃそうだ。武器など持ち込んで拝謁などできんよ」

 

当たり前だが、厳しいんだな・・・。

そうなると、身体検査をどうクリアするか対策を練らないとだめだな。

どう考えてもデローンMr.Ⅱのボディで謁見がOKになると思えないからな。

 

「礼服などは王家御用達の者達が準備するから心配はない。費用もこちらで負担するので心配ない」

 

「謁見前は拝謁準備に時間がかかるという事で理解できた。それで、拝謁後は何が問題なんだ?」

 

「王より賜る御言葉にもよるが、コルーナ辺境伯家の賓客から、国王の謁見を経ると、当然ながら国家に所属してくるよういろいろな組織からの勧誘があるだろうよ。特に王国魔術師団、王国騎士団という王国直属のグループ、教会の大聖堂聖騎士団、神官団という教会グループ、その他私のような貴族に仕えるパターンだな。後考えられそうなのは、王国魔術師団とは別の魔術師ギルトが出張ってくる可能性もあるかもな」

 

「はっはっは、いつの間にこんなにモテモテになっちまったんだろうなぁ」

 

まったく溜息マシンガンが止まらねーぜ。

 

「どうやったかは知らんが、<迷宮氾濫(スタンピード)>を制圧する戦闘力と千人以上の重篤患者を一日で回復させる奇跡の技だぞ? 誰に聞いてもお前が欲しいと言うだろうよ」

 

「お断わりします」

 

「誰しもがはいそうですかと言ってくれると思うなよ? 万一無理矢理お前を引っ張ろうとする奴がいたら、俺のところにとりあえず厄介になってると言えばいい。俺の方は無理にここに留まって力を貸してくれとは言わないようにするさ」

 

「コルーナ辺境伯家の賓客というのは良い隠れ蓑になりそうですかな?」

 

「どこまで役立つかはわからんがね」

 

俺の茶化すようなセリフに、苦笑を交えて答えるフェンベルク卿。

結構腹を割って話してくれているように感じるな。

 

「王もヤーベという人物が傑物であるという認識はすでにあるだろう。だからそれだけにお前自身がどのような者なのか、どのようなことを考えているのか、王国にとって益があるのか、害になるのか、それを見極めるために呼ばれていると言っていいだろう」

 

「アンタ拝謁だけって言ったじゃないかよ!」

 

「拝謁の中身がそれだけ詰まってんだよ」

 

「ふん詰まり過ぎだろうよ!」

 

「王は聡明であらせられる。ヤーベの事は悪く思わないと思うのだがな」

 

「謁見の間で拝謁となった時に気を付けることはあるか?」

 

「うむ、通常多くの貴族が列席する中で拝謁する場合と、かなり絞って人数を少なくして拝謁する場合とがある。実はヤーベ殿がどちらになるかわからんのだ」

 

「む、そうなのか?」

 

「うむ、だからここを出発する際は私も行く。可能なら私も謁見する予定だ」

 

「それは心強いな」

 

「だが、まだわからん。実の所、ヤーベ殿の起こした奇跡はにわかに信じられぬものばかりだ。場合によっては内々での謁見になるかもしれんしな」

 

「気が重いねえ・・・」

 

「はっはっは、天下のヤーベ殿も苦手な事があるのかね」

 

快活に笑うフェンベルク卿。

 

「俺は普段は泉の畔でのんびり暮らしているのですよ? そんな堅苦しい場所、苦手に決まっているでしょ」

 

またまた盛大に溜息を吐く。

 

「知っているか?この国には王家の他に三大公爵家と四大侯爵家があるのを」

 

「ああ、ナイセー殿に聞きましたよ。ただ、家名も伺わなかったし、貴族間の関係も伺いませんでしたね」

 

フェンベルク卿がテーブルに肘を付き両手に顎を乗せて重い息を吐く。

 

「三大公爵家はリカオロスト、プレジャー、ドライセンの三つ、そして四大侯爵家はエルサーパ、フレアルト、ドルミア、キルエの四つだ。四大侯爵はエルサーパ家が水を司り、フレアルト家が炎、ドルミア家が土、キルエ家が風をそれぞれ司っている。四大侯爵家は王国の地水火風を示していると言われているのだ」

 

ヤッベー、どういう意味で司ると言っているかわからんが、俺が本当に四大精霊と契約済でーすなんて言ったらどんなトラブルが巻き起こるかわからん。最近召喚してないのに勝手に出て来くることもあるし、後でよーく言い聞かせておかねばなるまい。

 

「四大侯爵家は実際の所、本当に国を支える四本柱と言っても過言ではない。あまり不穏な噂も無い。そのうちキルエ侯爵家は現在女流当主が務められている」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

「あまり大きな声では言えんが、三大公爵家は一癖も二癖もある。何せ王家に何かあれば公爵家が出張ってくるようになるわけだしな」

 

「関わりたくない感じがビンビンするよ」

 

「特に野心家と言われているのがリカオロスト公爵家だ。実は今の王には長男と長女、そして次女の三名しかおられない。そのうち長女のコーデリア様は隣国のガーデンバール王国の王子に嫁がれておられるので王国にはいない。王太子であられるカルセル様と、王女であられるカッシーナ様のお二人しかいない状況なのだ」

 

「その二人に何かあれば・・・」

 

「不遜な物言いだが、可能性が無いわけではない話なのだ。さらに、カッシーナ王女は五歳の時に宮廷魔術師の私室で起きた事故により、顔を含めた半身に大やけどを負われてしまったのだ。大神官を含めた神官たちの回復呪文によって命だけは取り留めたとのことなのだが、それ以降全く国民はおろか、王城内でもその姿を見ることはほとんどない。一年に一度の新年を祝う式典のみ、顔が半分隠れる仮面をお付けになって国王の挨拶の横に立たれる。だが声を発することも無く王の挨拶の後、会場をすぐ後にされてしまう」

 

「ふーむ、それではカッシーナ王女はほとんど表舞台に出て来ないと言う事なんだな。これでは長男のカシオリ殿の両肩には相当な重荷がかかっているなぁ」

 

「誰がカシオリか!土産じゃねーんだよ!カルセル王太子様だぞ!お前冗談でも当人の前でそんな間違いするなよ!?打ち首間違いないぞ!?」

 

しみじみと呟いたのだが、名前を間違ったせいで滅茶苦茶怒られた。

まあ確かに王太子本人の前でカシオリとか言ったらぶっ殺されること間違いないな。気を付けよう。

 

「話が逸れたな。リカオロスト公爵は王家との繋がりを強くしようと躍起になっている節がある」

 

ビクリとしてイリーナが体を震わせ、俺の手を握ってくる。どした?

 

「王家との繋がりって、王太子に娘でも送り込もうとしてるのか?」

 

「いや、リカオロスト公爵家は長男次男の二人なんだが、それぞれカッシーナ王女に求婚をしつこく続けているようだ。なにせ体の半身を火傷で損傷しているのだから、リカオロスト公爵家からの求婚以外来ていないのも事実なんだが」

 

「明らかに権力だけを見ているのか? カッシーナ王女当人を気に入っているとか、ないのか?」

 

「カッシーナ王女は誰とも会わないんだ。会ってもいないんだから、カッシーナ王女自身の事なんでどうでもいいんだろうさ」

 

「ずいぶんとむかつくヤローだな。火傷の傷もひっくるめて面倒見てやる!くらいの男気見せろってんだ」

 

「はっは、ヤーベ殿は漢気があるな」

 

そう言って笑うふぇんべだが、すぐに顔に険しい表情を浮かべ話を続ける。

 

「それにリカオロスト公爵家は厄介だ。ルーベンゲルグ伯爵令嬢であるイリーナ嬢はよくわかっているだろうが」

 

「どういうことだ?」

 

俺はイリーナを見ながら問う。

 

「リカオロスト公爵家は王家とは別にルーベンゲルグ伯爵家にもイリーナ嬢との結婚を迫っている。それもかなり強引にな。実は今イリーナ嬢が失踪という形でいないことになっているから少し落ち着いているが、ルーベンゲルグ伯爵領への圧力をかけてイリーナ嬢の輿入れを強行させようとしていたんだ」

 

「ヤーベ、それが怖くて私は王都を逃げ出したのだ。父も母も逃げろとは言わなかったが、その気持ちは汲み取れた。兄から最低限の荷物とお金だけもらって王都を脱出したんだ」

 

「そうだったのか・・・」

 

それにしてもあまりに急だし、危険だろう。現にイリーナは俺が助けなければ殺されていた可能性が高い。脱出させるにしても護衛なり何なり必要だったはずだが・・・。

 

「そうなると、王都に着いた際にルーベンゲルグ伯爵家に挨拶に行くのはまずいのか?」

 

「難しいな。俺はもちろん喋るつもりはないがヤーベと共に一緒に居る女性がルーベンゲルグ伯爵令嬢だとバレないという考え方はないだろうな。王都で一緒に行動すれば必ずバレるだろう」

 

「そうか・・・ならば、やるべきことは一つだな」

 

「ど、どうするのだ?」

 

「もちろん、君の両親のご挨拶するのだ」

 

「ほわっ!? つ、つ、ついにヤーベが・・・ウン、おウチかえりゅ」

 

「おっ?ついに年貢を納めるのか、ヤーベ?」

 

「何が?」

 

「ルーベンゲルグ伯爵家に挨拶に行くんだろう?」

 

「そうだ、イリーナの師匠・・・・・・・としてな!」

 

「し、師匠・・・?」

 

イリーナがポカーンとした顔で俺を見る。

 

「おいおいどうした、ソレナリーニの町でもそう言う設定で話をしただろう?」

 

「せ、設定・・・?」

 

なんだか顔を赤くしてプルプルしているイリーナ。

 

「お前・・・それはないだろう・・・」

 

フェンベルク卿も俺に呆れた表情を向ける。

 

あれ?俺何か間違えた!?

 




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第62話 式典で報奨金を即寄付してみよう

 

フェンベルク卿にだいぶ白い目で見られてしまった。

どうもイリーナは師匠ではなく、結婚の挨拶だと思ったようだ。

見ればイリーナはどこかのボクサーの様に真っ白に燃え尽きていた。

そう言えば、ルシーナちゃんを治療している時にも、俺と結婚するとか言ってたな・・・。

そしてパレードではルシーナちゃんが町の人々に俺と結婚するって大宣言してるし。

そこへ来て、俺が両親に会って結婚の話をしないって事は、イリーナからすると俺がイリーナと結婚する気が無いって事になっちまうか。

 

 

 

結婚ね・・・。

俺スライムなんだけどなぁ。

どう考えたってヘソまで反り返った(以下略:2回目)

貴族の娘なんかと結婚したら、絶対血を絶やさぬようにとか言って子供せっつかれるよな。

どう考えても無理な気がするんだけどね。

でも、イリーナが狙われているなら、ダミーの相手として俺がいた方がいいのか。

もしそのリカオロスト公爵家とやらが手を出して来るなら、イリーナからその対象が俺に移るはずだ。それだけでもイリーナを守れる確率が上がるか。それならば悪い事ばかりでもないな。子供の事は別に考えてもいいし、落ち着いてから俺が消えてもいいのだ。

 

「イリーナ、とにかく君の両親に会って、どうするか相談しようか?」

 

「ふえっ!?」

 

「そのリカオロスト公爵家がどのように君の領地に圧力をかけているかわからないからね、対策の打ちようが無いし。とにかく話を聞きに行こうか」

 

「ううう、ヤ~ベェ~、助けてくれるの?」

 

イリーナが俺の腕を取って目に涙を一杯溜めて聞いてくる。

 

「まあ、何だ。俺にとってはイリーナは大事な仲間だしな。イリーナや両親に敵対するような奴は撃退しないとな」

 

 

「ヤ~ベェ~! ふぇ~ん!」

 

今度は俺に抱きついて泣き始めるイリーナ。

やっぱり、今まで不安だったんだろうな。

まして相手は公爵だ。イリーナの両親が責任を持つ領地に影響を及ぼすほどの圧力などと言ったら、なかなか覆すことは難しいのかもしれない。

だが、俺様ならばなんとかできるかもしれない。いや、何とかせねばなるまい。

経済封鎖か、それとも実力介入か、どんな圧力をかけて来るのか・・・。

まあ、聞けばわかるか。

 

 

「さて、午後の式典に向かうか。ヤーベ、俺と一緒に出てくれ」

 

「はあ・・・」

 

仕方なく俺は席を立った。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「皆よ!今ここに『城塞都市フェルベーンの奇跡』を起こしたヤーベ殿を迎えることが出来た」

 

「「「わああ~~~!!」」」

 

民衆がメッチャ盛り上がってる。

フェンベルク卿よ、迎えるって言い方は誤解を招きかねませんからね?

 

「フェルベーンを混乱に陥れようとしていた連中もヤーベ殿のおかげてすべて捕らえることが出来た。体調不良で危険な状態になった者達もヤーベ殿の力で回復させてもらい、死者を出すことは無かった!」

 

「「「わああ~~~!!」」」

 

パレードの時でも思ったけど、やっぱり毒で体調を崩してしまった人たちが大勢出てしまったからだろうな、回復した事に対して非常に喜んでくれているようだ。

 

「ここに褒賞として金貨二千枚を進呈するものとする!」

 

「「「わああーーー!!」」」

 

金貨二千枚・・・すごいね。

よく考えるとナイセーから貰った迷宮氾濫スタンピードの褒賞と同じ額だ。

だから少ないとか文句を言うつもりもないけどね。

 

フェンベルク卿が俺に金貨の袋を渡してくる。

 

「それではヤーベ殿より一言頂く」

 

フェンベルク卿に促されて俺は民衆を見渡す。

よくもまあこんなローブで顔が見えない怪しい男を褒め称えてくれるものだ。ちょっと涙が出そうだよ。

 

「俺は出来る事をしただけで特別な事はしていないつもりだ。だが、感謝の気持ちを示して頂くのは大変ありがたい。そこで、この金貨は私からコルーナ辺境伯家へ寄付させて頂く! 具体的にはホーンテアック診療所の様に、薬草や解毒の治療が誰でもより高い効果で受けられるような研究と整備に使って頂きたい。教会の神聖魔法の治療と合わせれば、この城塞都市フェルベーンでの人々の存命期間は飛躍的に伸びることだろう!」

 

「「「「「・・・うおおおおーーーーー!!!」」」」」

 

一瞬会場に集まった町の人々もお金を返してしまう?というヤーベの行動を理解できなかったのだが、次の瞬間、この町の治療に対する技術向上のためというその理由に衝撃と感激を受けたようだ。

 

「お、おい・・・いいのか?」

 

「うむ、あまりお金を使う理由もないのでな。役に立つ目的で使ってもらった方がいい」

 

「ヤーベってやつは・・・」

 

フェンベルク卿が少し涙ぐんで俺が返す形になった金貨の袋を受け取る。

 

「皆よ!ここにヤーベ殿より、報奨金をそのまま寄付頂けることになった! ホーンテアック診療所を中心に町の治療技術を高めることをここに宣言する!」

 

「「「わああーーーーー!!」」」

 

この城塞都市フェルベーンが活気に満ち溢れれば、コルーナ辺境伯の力も増大するし、王都とのつながりもより深くなっていくだろう。コルーナ辺境伯家の賓客という立場である以上、今の俺の後ろ盾となるのはコルーナ辺境伯家となるのだから、ここで恩をさらに売っておくのも悪くないだろう。コルーナ辺境伯家の力の増大は俺にとってもプラスになるだろうしな。イリーナの両親の領地であるルーベンゲルグ伯爵領へ圧力を掛けているというリカオロスト公爵家へのけん制の意味を含めてコルーナ辺境伯家の力は必要になるだろうしな。

 

「皆よ! この城塞都市フェルベーンに住む全ての住民の事を案じて力を貸してくれるヤーベ殿に盛大な拍手を!」

 

 

「「「わああーーーーー!!」」」

 

パチパチパチパチ!!

 

集まった民衆の万雷の拍手に俺は少しだけ胸が熱くなる。

地球時代、こんなに他の人たちから褒められたことは無い。

いいもんだね、褒められるのって。

まあ、それも程度によるけどさ。

ふと見れば、イリーナが中央広場舞台の袖にいて俺を見ている。

イリーナと一緒に舞台に上がりたかったのだが、この町ではちょっと騒動があり過ぎたしな。

それに王都に近づくにつれ、ルーベンゲルグ伯爵令嬢としての存在をなるべく気取られたくないしな。何か変装することも検討しよう。

 

・・・後、民衆の後ろに横断幕掲げて手を振りまくっている神官団からの逃走ルートも検討せねば。なんだか神官団がサングラスをかけてどこまでも逃走者を追ってくる黒服にダブって見えて来たぞ。

掴まらずに逃げ切って見せる!

 




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第63話 教会を回って挨拶しよう

俺の戦略はこうだ。

 

式典の後にフェンベルク卿が屋敷に帰るのに便乗。

疲れたとか疲労回復とか適当な理由を付けて本日は引き籠る。

明日は朝からイリーナの洋服などをルシーナちゃんに頼んで二人で出かけてもらう。

女性の買い物についていくのはナンセンスだろう。

時間もかかるだろうし、男の俺に見られたくない物もあるだろう。

それに久しぶりにお友達同士、会話が弾むに違いない。

 

そして俺はナイセーに貰った紹介状を持って、フェルベーン一の奴隷商人の店を覗きに行くのだ。

 

・・・もちろん、別に女性の奴隷を買ってウハウハ、なんてことは考えていない。

だが、この国で奴隷というシステムをどのように扱っているのか、この目で実際に見てみることは大事な事だと思っている。

・・・ほんとに奴隷の女性をたくさん買い占めてウハウハなんて考えてないからな!

考えてたら金貨二千枚なんて寄付しねーっての!

でも、金はやはり必要だな。理不尽に買われた奴隷を買い取りたいと思っても、先立つものが無ければ助けてもやれない。尤も、誰もかれも買って助けてやれないのだ。必要な時に必要なだけの金が有るように、ある程度持っていないとダメだろう。魔物狩りに精を出さねば。

・・・主にローガ達がだけど。

 

そんなわけで明日は奴隷商館でみっちりと社会勉強を行い、三日目には朝から出立の準備をして、昼には王都に向けて、タルバリ領タルバーンの町を目指して出発する。

そう青写真を描いていた。

 

だが、どうしてこうなったのか!?

 

確かに、式典の後はフェンベルク卿と一緒にうまく屋敷に帰る事が出来た。

疲労がどうとか、いろいろ理由を付けて引き上げたのだ。

おいしい夕飯と気持ちいいお風呂、ゆっくりできた。

ここまでは良かったのだ。

 

そして翌日、完全休養日の一日をイリーナとルシーナちゃんに買い物に行ってもらおうと伝えたところ・・・

 

「イリーナちゃんの洋服とか、必要なものはもうメイドに準備させていますよ」

 

そうニコニコしながらルシーナちゃんが返答を返してきたのだ!

しかも、イリーナと俺の部屋は別々になっていたので、ルシーナちゃんがイリーナの部屋に夜遊びに行っていろいろ話をして旧交を温めてしまっていたのも計算外であった。

俺様自身も辺境伯家に泊めてもらっている関係で、魔力感知を切っていたため、イリーナとルシーナちゃんの動向を把握していなかったのも痛かった。

 

そんなわけで、なぜかイリーナとルシーナちゃんは真っ白なローブを着て、さながら女性神官をイメージした衣装を着ていて、俺はというと、こちらも高級そうな真っ白ローブに金色の刺繍が入ったものを着せられ、顔は少し仰々しい仮面を付けられている。

そして、またまた準備されたパレードの時に乗った真っ白な馬車に乗せられている。

 

これから、各教会を回って挨拶しなければならないのだ。

魔法は使えない、そう伝えてある。

それでも、二人を従えて教会に訪問することが大事らしい。

いつもの魔導士の杖ではなく、青い宝玉の付いた神杖を持たされている。

なんでも、訪問して皆さん元気にしてますか?みたいに声を掛ければいいらしい。

俺は地球時代に避難所などを回られる天皇陛下の映像を何となく思い出してしまった。

 

・・・余りにも不遜な想像だったな。

 

大体、俺の<生命力回復(ヒーリング)>は精霊魔術であって、神霊魔術ではない。

水の精霊ウィンティアは生命の源を司る力を持っている。

後は俺のぐるぐるエネルギー(魔力)を高めて、ウィンティアの力を高めてやれば強力なヒーリング効果を得ることが出来る。

なので俺自身は神の信仰などまったく持ってない。

どちらかというと、若干恨んでいるくらいだ。オノレカミメガ。

 

そんな俺が教会に行って挨拶する・・・ほぼ詐欺じゃね?

どう考えても実際に神がいるならバチが当たる事間違いなしだよな。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「御使い様に来ていただいたぞ!」

「ようこそ当方の教会へ!」

 

・・・どこへ行っても大歓迎だ。もはやここまで来ると罪悪感を感じるな。

 

元気になった人たちと握手をする。それ自体は問題ないし、それで喜んでくれるなら構わないのだが、神官たち教会関係者が俺を「御使い様」と呼んで、明らかに神の使徒として扱っている事に違和感を禁じ得ない。

尤も、暑苦しい勢いで「やればできる!」なんて講演するつもりもないけど。

 

それにしても失敗した。

よくよく考えれば、ルシーナちゃんとイリーナの二人だけで買い物に行くとか、日本じゃないんだからダメに決まってるよな。貴族令嬢が二人でプラプラ買い物とか、絶対アウトだわな。いろいろメイドなり護衛なりついてきちゃうとなると、俺も呼ばれてしまうだろうし。

呑気に俺だけで出掛けられると思っていた昨日の自分を殴りたい。

 

「御使い様は、いつこの世界に顕著されたのですかな?」

 

凄く白い髭の長い、まるで仙人かサンタクロースみたいな爺様神官が俺に声を掛ける。

 

「御使い様ではないんですけどね・・・」

 

「まあまあ、それよりこの世界はいかがですかな? 楽しまれておられましたら何よりなのですが」

 

ニコニコしながら髭を撫でる爺様神官。

 

なんだろう、デジャヴ。

 

これはカソの村の村長レベルで話が通じないと思われる。

最終的に通っていると御使い様で定着するパターンだ。

これで決まった。俺は教会にはもう来ない。心に固く誓おう。

 

大体、ものすごくまずい事に気が付く。

俺は神様のことなど何も知らない。

いろんな異世界モノがあるが、神が一柱だけではないパターンが多い。

それこそ、この世界にてどのような神が信仰されているのか全く分からない。

興味が無かったから学ばなかったな。

どこかで神について学ぶか・・・それとも完全に教会から距離を置くか。

今日の時点で全く距離を置けていないのが悲しくて泣けて来るが。

 

そう言えば何故かルシーナちゃんもイリーナも女性神官のようないで立ちで集まった人たちに対応している。えらく優しく声を掛けていると思ったら、子供たちが多いようだった。

教会と孤児院が併設されているわけではないのだが、俺が教会に挨拶に行くと伝えておいたため、近くの孤児院の子供たちも教会に集まって来ているようだった。その子供たちにお菓子などを配っているようだった。

 

「なんだ・・・、ちゃんと目的があったんだね。教会じゃなくて孤児院に直接行ってもよかったのに」

 

「ヤーベ様・・・教会に行かずに孤児院だけ行ったら絶対後で神官たちからクレームが出ますよ。もしかしたら孤児院の方にも悪影響が出かねません」

 

「そ、そんなに・・・?」

 

「孤児院の運営は教会が主導していますから・・・」

 

「そうなんだ・・・」

 

世の中世知辛いね・・・。

まあ、子供たちに少しでも元気になってもらいたいしな。ルシーナちゃんやイリーナに任せて俺は後をついていくだけにしよう。

奴隷商館には行けなかったが、子供たちを少しでも元気にできたことを喜ぶとしよう。

王様への謁見で報奨金が出たなら、孤児院を回ってアースバードの唐揚げ炊き出しをしてみようか。

俺はそんなことを考えながらルシーナちゃんやイリーナの後をついて回った。

 




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第64話 突然の魔物急襲もさらりと片付けてみよう

「ふうっ・・・長いようで長いな」

「ヤーベ、一体何を言っているのだ?」

 

王都に向かう馬車旅が長いようでやっぱり長いのでつい愚痴っぽくなってしまう。

それをイリーナに咎められてしまった。

 

「はっはっは、王都は遠いなって話さ」

 

もう少しでタルバリ領最大の町タルバーンに到着する。

まあ、もう少しと言っても馬車の速度だ。後三~四時間くらいはかかるだろう。

城塞都市フェルベーンを出発して数日。

コルーナ辺境伯領の村で二度宿泊した。

何故かフェンベルク卿だけでなく、奥方とルシーナちゃんも一緒に王都に向かっている。コルーナ辺境伯家の一番いい馬車らしい。三人に俺、イリーナ、そしてサリーナの六人が乗っても少し余裕がある。最大八人くらい乗れそうだ。

 

サリーナは俺が城塞都市フェルベーンで心が死にかかっていた(教会を回っていた)頃、ずっと錬金ギルドに行っていたらしい。錬金術師でもあるサリーナは錬金ギルドの会員であり、会員は錬金ギルドの支部で飛込でも仕事が出来るらしい。回復ポーションの製作など、いつでも人手不足とのことだ。一日半ほど働いて金貨二枚も稼いだとドヤ顔だった。

俺が金貨二千枚を寄付したことは知らないらしい。なんてったって錬金ギルドにこもりきりでアルバイトしてたんだもんな。

・・・自分で稼ぐことは大事だ、うん。

 

 

 

 

 

「フェンベルク卿!左手の森よりキラーアントの群れが出現しました!その数三十以上!」

 

「なんだと!」

 

護衛の騎士が馬車に馬を寄せ、報告してくる。

 

「キラーアント?」

 

「ヤーベ殿は知らぬか? かなり硬い外骨格を持ち、武器や魔法が聞きにくい魔物だ。強力な顎で何でも齧る獰猛な連中なんだ。三十以上・・・厳しいな、迂回できるか?」

 

「難しいかと。すでに五~六人の冒険者パーティが追われているようです。その連中が仕留められたらこちらへ向かって来るでしょう。位置関係からタルバーンへ向かう事は出来ません。危険すぎます。ここは騎士団で食い止めます、フェンベルク卿は手前の村まで大至急引き返してください!」

 

そう言って護衛騎士を纏めようとする男。なかなか有望そうなやつだ。

 

「旦那様、どういたしましょう?」

 

執事さんが聞いてくる。この人もコルーナ辺境伯家に仕えて長いんだろうな。こんな時でも落ち着いて対処できている。コルーナ辺境伯家・・・イイじゃないか。

 

「お父様・・・」

「貴方・・・」

 

「くっ・・・」

 

奥さんとルシーナちゃんがフェンベルク卿の顔を心配そうに見つめる。

フェンベルク卿の表情からすると、護衛騎士が十名いてもキラーアントの群れ三十匹以上は厳しいと言う事か。

 

「護衛騎士たちではキラーアントの群れを殲滅するのは難しいか?」

 

「・・・うむ・・・多分誰も生き残れまい」

 

険しい顔つきで眉を顰めるフェンベルク卿。

 

「そうか、ならば俺が出よう」

 

「ヤーベ殿!」

「危険ですヤーベ様!」

 

フェンベルク卿とルシーナちゃんが止めてくれるが、冒険者パーティもピンチらしいしな。

 

「イリーナ、行って来る」

 

「気を付けるのだぞ、ヤーベ」

 

「ああ」

 

言うが早いか、馬車の扉を開けると外へ躍り出る。

 

「<高速飛翔(フライハイ)>」

 

俺はシルフィーの力を借りて矢の如く空を舞い冒険者パーティを救いに向かった。

 

 

 

 

 

「ダメだ!魔力が尽きた!」

「走れ!タルバーンへ走るんだ!」

「どれだけあると思ってるんだ!」

「ならここで死ぬか?死にたくなければ走れ!」

 

男たちが喚きながら街道に向かって走って来る。

六名の冒険者グループみたいだ。

二名が女性、弓を背負った少女っぽいレンジャーみたいな子と、お姉さまみたいなシーフ。

後男四人(雑)

その後ろをとてつもない勢いで追いかけてくるキラーアントの群れ。これはトラウマになりそうな勢いだな。

 

さて、助けるとしよう。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「きゃうっ!」

 

軽装の弓を持った女の子が転んでしまう。

 

「パティ!」

 

後ろで若い男が叫ぶが、パティと呼ばれた少女の目の前にはもうキラーアントが迫っていた。

 

「あ・・・」

 

少女は確実な死を予感した。

 

「<石柱散華(ライジングストーン)>」

 

いきなり放たれる魔力の本流!

 

目の前のキラーアントたちをいきなり地面から石の槍だか柱だかわからないものが突き出て吹き飛ばした。

 

少女の前にふわりと降り立つ白いローブの人物。

 

「大丈夫か?」

 

とても優しく、染み渡るような声。

 

「は・・・はい、大丈夫です」

 

「そうか、それはよかった」

 

そう言って赤い宝玉の嵌った杖を振りかざす。

 

「残りも片付けるか。ベルヒア!力を貸してくれ」

 

『あら、私ばかりご指名してくれるの?うれしくてサービスしちゃうわ』

 

妖艶な雰囲気を醸し出して背中から抱きついてくるベルヒアねーさん。ちなみに今は他の冒険者たちがいるので、誰にでも見える様に顕著していない。俺だけが分かるのだ。

 

「サービスはまた今度で・・・行くよ!<永久流砂(サンドヴォーテックス)>!」

 

キラーアントたちの足元が流砂と化し、渦を巻き始める。

暴れるキラーアントたちも足元がアリジゴクのような流砂になってしまっては身動きが取れなくなる。そしてキラーアントは流砂の渦に飲まれて消えて行く。

 

「ギギッ! ギギ・・・ギィィ・・・」

 

そしてキラーアントの鳴き声も止んで静寂が戻る。

 

『ふふっ・・・ヤーベちゃんは私の力をあまねく使える様になってるわ・・・ス・テ・キ』

「ベルヒアねーさん、褒めて頂くのはありがたいですが、色っぽすぎます」

 

流砂の渦を止めて、大地に戻す。そしてキラーアントの群れは一匹もいなくなった。

 

パティと呼ばれた少女は、キラーアントの群れが消えた辺りを見た後、俺の方を見て目を丸くしていた。

呆然とした他の冒険者メンバーだったが、助けてもらったことに気が付き、こちらに向かってきた。

 

「パティ!大丈夫か?」

 

若い魔術師風の男が俺を無視してパティに駆け寄り助け起こそうとしている。

ふっ、若いな。

 

「すまねえ、助かった。アンタとんでもない魔術師なんだな。あのキラーアントの群れを一撃で仕留めちまうなんて」

 

冒険者グループのリーダーらしき男が話しかけて来た。

 

「こちとらチートなしで地道にやってるんで、魔法くらいは大まじめに取り組んでます」

 

「いや、ちょっと何言ってるかわからないんだが・・・」

 

「そっちの怪我は?」

 

「いや、大したことはない。おかげで助かったよ。それにしても・・・惜しかったな」

 

「何が惜しかったんだ?」

 

「いや、命が助かったから文句はねえんだが、あのキラーアント、すげえ買い取りが高いんだよ。外骨格は硬い上に非常に軽くて、槍や鎧に重宝されていてな」

 

冒険者グループのリーダーらしき男が残念がる。

 

「何!?そうなのか! しまった、危機回避を優先して素材の確保を忘れてたな。それは惜しい事をした」

 

「いや、アンタの判断は正しいぜ。俺たちもアンタがいなかったらパーティーが壊滅していたかもしれないんだ。こっちの魔術師が放った炎の呪文は全く効果を上げなかったし、俺の剣もこのざまだ」

 

素材を高く買い取ってもらえると聞いて心底残念な雰囲気を出してしまったからだろう、冒険者グループのリーダーらしき男が俺の判断は正しいと言いながら自分の剣を見せて来た。

 

「・・・根元からぽっきり折れているな」

 

「ああ、本当にヤバかった。助かったよ。普通なら助かったお礼をしなくてはならんのだが、何分今は手持ちも碌になくてな」

 

「ああ、気にするなよ。キラーアントが高値で売れるって情報で十分だ。次は根こそぎ狩り尽くしてギルドに山積みにしてやるか!」

 

わっはっはと笑う俺に、苦笑いを浮かべる男。俺なら本当にやりかねないとでも思ったかな?

 

「俺はリゲンってんだ。タルバーンの冒険者ギルドに所属するCランクパーティ<五つ星(ファイブスター)>のリーダーをやってる。タルバーンに着いたら冒険者ギルドにぜひ寄って俺たちを訪ねてくれ。うまい店があるんだ。助けてもらったお礼におごるぜ」

 

「お、そりゃありがたいが、結構拘束されている身でな。時間が取れれば挨拶に行くが、あまり気にしないでくれ」

 

「・・・そういや、超豪華な馬車から出て来たな、アンタ。あれは?」

 

「ああ、あれはコルーナ辺境伯家の馬車だよ。当人も乗ってるけど」

 

「げぇ!」

「ウソッ!」

「アンタお貴族様かよ!」

 

冒険者仲間がそろいもそろって驚きやがる。

そりゃ俺だって偉そうに見えないことは承知しているし、大体貴族じゃないのは合っているしな。

 

「いや、俺は貴族じゃないよ。ただ、客として招かれてるだけ」

 

「いや、辺境伯様に招かれる客って一体・・・」

 

実際は王様に招かれてるんですけどね!

言うとまた問題になりそうだし。

 

「ヤーベ、もう片付いたか? フェンベルク卿が問題なければ出発したいそうだぞ」

 

「わかった、じゃあ行こう。それじゃあな」

 

俺は軽く手を振って馬車に戻る。

 

「ふぁー、とんでもない奴に命を助けてもらったらしいなぁ」

 

リゲンはただただ去っていくローブの男を感心するほかなかった。

 

そしてパティは去っていくヤーベの背中を見ながら一言も発する事が出来なかった。

 




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第65話 タルバリ伯爵に挨拶しよう

「おかえり、ヤーベ。無事で何よりだよ」

 

イリーナがわざわざ馬車から降りて俺を出迎えてくれる。

馬車の後ろからローガと四天王も歩いてくる。

 

『ボス、道中に出る雑魚の露払いなど我々にお任せください』

 

ローガがそう言えば、

 

『そうですとも』

『ボスがわざわざ出て行く必要などありませんぞ』

『我々にお任せ下さい!』

『でがんしょ』

 

四天王もそれぞれ俺に任せろとアピールしてくる。

全くもって頼もしい奴らだ。

というか、後ろに行軍してたんだよね、こいつら。

もしかしたら、「お前ら行けっ!」の一言で終わったかもしれん。

 

「さあ、ヤーベ出発しよう」

「あいよ。ローガ達もさあ行くぞ!」

「「「「「わふっ!」」」」」

 

 

 

「それにしても、ヤーベ殿は強いのだな。まさかキラーアントの群れを寄せ付けることなく殲滅させるとは、とんでもない実力だな」

 

「いやいや、それほどでも」

 

「ヤーベ様!とっても素敵でした!」

 

「あらあら、ルシーナの旦那様はとっても強いのね~」

 

「ぬうっ!その話はまだ認めておらんぞ!」

 

「貴方、いい加減になさいませ」

 

コルーナ辺境伯家の会話にツッコミを入れるのも何なので、イリーナとサリーナを見る。

イリーナは俺の手をギュッと握ったままだし、サリーナは馬車の窓から外を見ている。

 

とにもかくにも、タルバーンへ出発してくれ。早く休みたい。

 

 

 

そう願ったせいか、その後は無事にタルバーンへ到着した。

さすが貴族の馬車だ。町の門を潜る際は貴族専用の大きな扉をフェンベルク卿の挨拶だけで通った。何やら短剣をチラ見させていたので、アレがもしかしたら貴族の証明か、コルーナ辺境伯家の紋章なのかもしれない。

 

「ヤーベ殿、ホテルは予約してあるが、宿泊前にここの領主であるタルバリ伯爵の屋敷へ挨拶に行く予定だ。今日の夕食に晩餐会を予定してもらっているのだ」

 

「あ、そうなんだ」

 

「タルバリ伯爵は元冒険者でな、だいぶ厳ついガタイをしているが、根は良い奴だ。ソレナリーニの町冒険者ギルドのギルドマスターであるゾリアと同じパーティを組んで冒険をしていたと聞いたことがある」

 

「そんな人が伯爵なんだな」

 

俺はその情報をヒヨコからすでに得ているが、そうなんだ~感を出しておいた。

 

「ヤーベ殿とは気が合うと思うぞ」

 

ローブを着込んだ素顔が見えない怪しい男と気が合う人って、伯爵も怪しい人かな?

 

 

 

タルバーンの町は、さすがに城塞都市フェルベーンほどの規模は無かった。

だが、製鉄に特化した業種も見られ、熱い雰囲気の感じる街並みだ。

後で散策したい。

よく考えたら、俺は武器全くもってない。

やっぱカッコイイ武器欲しいよな~。

ドラゴン殺せる剣とか(笑)

ただ、俺自身戦闘スキルが全くない。地球時代でも全く格闘技経験がない。高校の授業で剣道と柔道を半年くらいやったくらいだ。

だから、剣でも槍でも買ったはいいが、全く使えない可能性大だ。

見栄え以外の何物でもない。

でもな~、異世界来て冒険者ギルドで登録して、武器買ってませんって、有りなのか?

尤も、鎧とか防具はもっとダメだけどね!何せスライムですから!

 

 

 

煉瓦畳の通りを馬車で進んで行く。

煉瓦造りの建物が結構目に付くな。オシャレ感が高い。

 

「この町は製鉄技術が進んでいてな。アクセサリーなども多く取り扱っているぞ」

 

フェンベルク卿の情報はありがたいが、アクセサリーオススメされても、ルシーナちゃんにプレゼントしたら絶対後で文句言ってきそうだし。

 

「アクセサリーですって!ぜひヤーベ様と一緒に見に行ってみたいです!」

 

両手を胸の前で組んで目をキラキラさせるルシーナちゃん。

何故にそんなフラグをぶっ立ててくださいますかね?

 

ぎゅぎゅぎゅ!

 

「ほわわっ!」

 

イリーナさん!手のカタチが変わっています!

 

「ヤーベ・・・私も行く」

 

ジトっと横目で俺を見るイリーナ。

誰も連れて行かないなんて言ってないじゃないですか(汗)

 

「あ、ヤーベさん。私も行っていいですか?錬金術師としてアクセサリーはぜひ見て見たいですしね」

 

完全にみんなで出かけるフラグがぶっ立ちました。

俺は馬車の窓から見える煉瓦造りの建物を見ながら遠い目をした。

 

 

 

「おお!コルーナ辺境伯。よくお越しになられた、だいぶご無沙汰しておりますな」

「タルバリ伯爵もご健勝で何より」

 

ガッチリと握手をする二人。

ガイルナイト・フォン・タルバリ伯爵。かなり筋骨隆々。ハゲ。

これでモヒカンなら間違いなく世紀末でヒャッハーする人だ。

後、とても暑苦しい。

ただ、冒険者時代の武勇伝はなかなかの物らしい。

ソレナリーニの町ギルドマスターのゾリアとパーティを組んで、お互いAランクまで上り詰めた実績の持ち主だと言うことだ。当人の戦闘力も推して知るべし、だな。

 

「ちょうど美味い鹿が取れたんですよ。今日の晩餐に用意しておりますよ」

「それは楽しみですな」

 

タルバリ伯爵コルーナ辺境伯が気のおけない会話をしていると、奥の部屋から女性が出て来た。

 

「コルーナ辺境伯様、ご家族の皆様、ご来客の皆様、ようこそタルバリ家へお越しくださいました」

 

そう言って優雅にお辞儀をする女性。かなりの美女だ。

 

「妻のシスティーナだ」

 

「つ、妻!?」

 

「ヤーベ殿?」

 

俺が妻という紹介に驚き過ぎて声に出てしまったので、その場の全員が俺を見る。

 

「いや、こんな筋肉ダルマにこんな美人が奥さんだなんて!?」

「ヤ、ヤ、ヤ、ヤーベ!それはあまりにも失礼だぞ!?」

「ヤーベ様、表現というものがあります・・・」

「・・・」

 

イリーナ、ルシーナに怒られた。ルシーナも表現がと言っている事はそう思ってるんだろう。サリーナに至っては目が点になっている。

ちなみにフェンベルク卿は爆笑している。奥様は後ろで苦笑だ。

 

「はっはっは!そうだろうそうだろう。ストレートにそう言うやつは少ないけどな。誰でもそう思っているだろうよ。俺には過ぎた女房だよ」

「まあ、貴方ったら。私は貴方の妻になれて本当に良かったと思っているのよ?」

 

急にラブラブ感が辺りを包む。この感覚羨ましい。

 

「こちらも紹介しておこう。妻と娘、それに我が家に賓客として招いているヤーベ殿だ。その連れのイリーナ嬢とサリーナ嬢だ」

 

「ほうっ! あの王都から訪問要請が出ている・・・?」

 

「そうだ、一応私も一緒に行く予定にしているがね」

 

「なるほど」

 

そう言って俺に鋭い目を向けてくるタルバリ伯爵。俺は人畜無害ですぞ。

その思いが通じたのかはわからないが、にっこりとした表情になると、

 

「さあ、お腹も空いたろう、食堂へ案内しよう」

 

そう言って歩き出すタルバリ伯爵の後ろをみんなでついて行った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「いや、確かに美味い鹿だったな。見事なものだ」

 

フェンベルク卿がナプキンで口を拭きながら食事を終える。

タルバリ伯爵が自慢するだけあって見事な鹿料理だった。

食後のお茶をメイドさんたちが継いで回る。

人心地ついた時だった。

 

「たたた、大変です! フィレオンティーナ様が攫われました!」

 

「な、何だと!?」

「何ですって!?」

 

タルバリ伯爵と奥さんのシスティーナさんがガタリと椅子から立ち上がる。

 

フィレオンティーナ様って・・・誰?

 




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第66話 メタモルフォーゼをマスターしよう

「フィレオンティーナって誰?」

 

俺は率直に口に出して聞いた。

 

「フィレオンティーナは妻のシスティーナの姉だ。町で一番の占い師でな。妹と同じかなりの美人だ」

 

「姉が攫われたとは・・・どういう事でしょうか?」

 

「はっ! フィレオンティーナ様の占いの館が急襲され、建物は半壊、フィレオンティーナ様が攫われたとのことです! 館には悪魔の塔最上階にて儀式を行うため生贄にささげる、とのメモ書きが・・・」

 

「なんだとっ!?」

 

「生贄!? そんなことしちゃいけにえ・・・・!」

 

「「「!!!!?」」」

 

俺様の場を和まそうとした必殺の地球ギャグは殺意を含んだレーザービームのような視線に貫かれることとなった。

 

「お気になさらず・・・」

 

俺は小さくなることにした。

 

「ヤーベ、反省が必要だ」

 

「スミマセン」

 

イリーナにも怒られてしまった。

システィーナさんにしてみれば姉が攫われたのだ、とても心配だろう。

反省。

 

「すぐにでも悪魔の塔へ兵を出そう。必ず君のお姉さんを助け出そう!」

「貴方・・・お願いします!」

 

夫婦でガッチリ手と手を合わせる二人。

 

「すまないフェンベルク卿、緊急事態だ。この後ゆっくり酒でも飲もうと思っていたのだが、そうも言っていられなくなってしまった」

 

「ああ、何か大変なことが起こっているようだな。もし何か相談があればいつでも頼ってくれ」

 

「ありがとう」

 

ガッチリ握手する二人。こっちもか。

 

「タルバーンの町で一番いいホテルを予約してある。ゆっくり休んでくれ」

 

「ありがとう、そうさせてもらうよ」

 

緊急事態のタルバリ伯爵家を後にしてホテルへ引き上げたのだった。

 

 

 

 

 

ホテルはかなり豪華だったが、その中でも一番いい部屋を用意してあるようだ。

・・・もちろんその部屋はコルーナ辺境伯家の皆さんが宿泊しているが。

 

そして、俺様はと言えば、今日も一人だ。

・・・寂しくなんてないんだからねっ!

 

今日もイリーナとサリーナが一緒の部屋で、辺境伯一家が豪華な大きい部屋で。

・・・だから、寂しくなんてないんだからねっ!

大事な事だから二度言っちゃう。

 

タルバーンの町はタルバリ伯爵領最大の町だ。

ここからなら王都の情報もかなり入ってくるはず。

ヒヨコ隊長にはヒヨコ十将軍にフル活動してもらって王都を中心に情報を集めに行ってもらっている。今夜報告があるはずだ。

 

俺は幸いにも一人部屋だ。ヒヨコ隊長達が帰って来る前にやる事がある。

 

それがスライム流変身術<変身擬態(メタモルフォーゼ)>だ。

 

以前、ソレナリーニの町で<迷宮氾濫(スタンピード)>を制圧した際、かなりの魔物を取り込んだため、俺のぐるぐるエネルギー(魔力)はかなり増大している。

そのため新たなチャレンジを試みた結果、とても素晴らしいテクを見につけることが出来た。それが名付けて<変身擬態(メタモルフォーゼ)>だ。

 

スライム細胞の形を変化させるのはかなりぐるぐるエネルギーを消耗する。初期の泉で暮らしていた頃、大きくなったり小さくなったりするのもかなりのぐるぐるエネルギーを消耗していたのだが、今はそのエネルギー総量にかなり余裕が出来たため、スライム細胞の変化にいろいろチャレンジすることが出来るようになった。そうして完成した<変身擬態(メタモルフォーゼ)>だが、目的はもちろん「人間の姿」だ。いつまでもローブでスライムの姿を隠しきれるものではないからな。いつ「脱げ!」と言われるかわからんし(どんな状況だ!?)。

 

だいたい、偉い人との謁見では顔を見せないのは不敬だ!と騒がれるかもしれない。偉い人との謁見なんて無い方がいいんだけど・・・。だいたい、王様に呼ばれて謁見なんだから、この国で一番偉い人に会わなきゃいけなくなったわけで。

 

まあ、そういうわけで、謁見もそうだが、人間の姿になる事は町中で生きて行く上で非常に重要なファクターだ。最初集中してうまくいったのはソレナリーニの町冒険者ギルドのギルドマスター・ゾリアと<迷宮氾濫(スタンピード)>制圧後の打ち合わせで握手した時だ。あれは右触手を肩から手先まで自分の右腕としてイメージして作り上げたものだ。

ゾリアは約八千の魔物を討伐する際に俺のスライムボディを見ているからな。

スライムボディが何らかのスキルで、本体はこちらの人間の体がメインだと思ってくていればいい。

 

その後、泉の畔に戻った時にも夜や早朝、イリーナが寝ている際にトレーニングしていた。

右手の次は左手。右手が出来たので左手は比較的簡単だった。

 

そして両手をコントロールできるようにする。

次は足だ。こちらは両足ないと歩けないので、同時に右足と左足を作り出す。

 

触手にした部分に、それぞれ足のイメージを送り込み、細胞を変化させる。

 

デローンMr.Ⅱのボディに足が二本生えた状態になった。

その状態で歩いたり走ったりするトレーニングをしていたら、ローガ達に見つかって叫び声をあげて逃げられた。だいぶトラウマになったらしい。

 

そして、今日。

俺はついにローブを脱ぎ捨てる。

今の俺の姿はデローンMr.Ⅱ。

そしてぐるぐるエネルギーを圧縮増幅して行く。

そして全身をイメージして行く。

そのイメージは・・・「矢部裕樹(やべひろき)

 

そしてその体が出来上がっていく・・・。

 

 

「ふうっ!」

 

 

ローブを脱いだ状態で出来上がった体。

つまりはマッパだ。素っ裸だ。

尤も部屋には誰もいない。問題ない。

この世界、鏡があまり無い。あってもくすんでいてあまり良く見えない。

 

そんなわけで、出来上がった自分の顔がどのようなイメージが見ることが出来ない。

 

「だが、これで人としての姿を見せることが出来るか・・・」

 

ただ、現状の姿を維持すると言うだけでかなりぐるぐるエネルギーを消耗している。

これはトレーニングでずっとこの姿を保つことにより、細胞にイメージを蓄積して行けばこの姿でいることが当たり前になって来るだろう。そこまでいけば維持にそれほど集中もエネルギーもいらなくなるはずだ。

アレだ。どこぞの戦闘民族が普段から金髪でいるような感じ?

 

「だから今後毎日この姿を維持するトレーニングをしなくてはな。どうせローブを着ているんだ。その中がデローンMr.Ⅱでも矢部裕樹でもどちらでも困らないだろうし」

 

俺は楽観的に考える。

そして、ふと気づく。

気づいて視線を自分の股間に持っていく。

 

「・・・・・・」

 

何もない。確かリ〇ル大魔王もがっくりしていたのではなかったか?

 

だが、俺様はイメージを操るスライム。

ついに、蘇る時が来た!ヘソまで反り返った俺様のピーーーーが!

・・・ええ、誇張しましたよ! 俺様のピーーーーなんてヘソまで反り返ってなかったですよ! だいぶ盛りましたけど、良いのです! なぜならイメージなのだから!

 

「蘇れ!我が愛棒よ!」

 

ドォォォン!

 

ついに!ついに!苦節何か月(笑)

俺様にヘソまで反り返ったピーーーーが!

 

「ふははははっ! つーいーにー蘇ったぞ! 待ちかねたぞ我が愛棒よ!」

 

両手を腰に当て、ドーンと仁王立ちする。

完璧なるイメージは地球時代の実物をも超える!

 

「わっはっは!」

 

俺は勝利を確信し高笑いした。

 

「ヤーベ、明日町へ買い物に一緒に出よう・・・」

 

ノックもなく、いきなり部屋の扉が開き、イリーナが喋りながら入って来た。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

仁王立ちした俺。俺の愛棒はヘソまで反り返ったままだ。

そしてイリーナは俺の顔をガン見した後、その視線を下へとずらしていく。

そしてある場所で停止する視線。

 

「キ、キャーーーーー!!」

 

イリーナが叫び声をあげて帰って行った。

え~と、どうしよう・・・?

 




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第67話 ヒヨコたちの情報を聞こう(PARTⅡ)

う~む、どうしよう。

ただ、もう夜だ。今イリーナの部屋に行くのもどうかと思うしな・・・。

そろそろヒヨコ隊長たちも来るだろうし、イリーナのフォローをするのは明日の朝にしようか。

 

それにしても・・・いきなりイリーナに全身全裸を見られてしまったな・・・。

もう少し俺の姿は内緒にしておきたかった。

どうせならどこか劇的な場所で、バッと姿を見せて、本当の俺の姿はこれなんだー、とかなんかのピンチの時にバサーってローブを捨てて、これが真の俺の姿なんだーっ!とか、ちょっとやりたかったなー。

 

でもって、イリーナと急速接近して、ラブリーな夜を迎えて、幸せな朝チュンを迎える・・・

まあ、計画は吹っ飛びましたけどね!

 

 

コツコツ。

 

 

窓をつつく音。

 

「ヒヨコ隊長、お疲れさん」

 

『ははっ!十将軍揃っております!』

 

「ああ、報告を頼む」

 

『畏まりました。早速報告させて頂きます。ヒヨコ十将軍序列一位レオパルド!序列二位クルセーダー!』

 

『『ははっ!』』

 

序列一位レオパルドと序列二位クルセーダーが前に出て膝を付く。

 

『我々は王都バーロンの調査を行ってまいりました』

 

『ちなみに、王都バーロンは私も含めて3組に調査を担当させています』

 

ヒヨコ隊長が付け加える。

俺も王都情報が集中的に欲しかったからな、ちょうどいい。

 

『王都バーロンのメイン大通り裏手にある「手作りパンの店マンマミーヤ」の看板娘マミちゃんが大ピンチなんです。ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

「情報がピンポイント過ぎっ!」

 

なんだ、手作りパンの店マンマミーヤって!?

看板娘のマミちゃんが大ピンチってどういうこと!?

 

『俺では・・・俺ではマミちゃんのピンチを救ってあげられないんです・・・』

 

がっくりと翼を落とし涙を流す序列一位レオパルド。

だからマミちゃんって何だよ!?

 

王都の情報でいの一番がパン屋のマミちゃんって!?

 

『次に私から報告致します』

 

おいおい、マミちゃんスルーで次行くんかい!?

 

『王都バーロンの中でも三本の指に入る規模で商いを行っている奴隷商館ド・ゲドーにて、ダークエルフのリーナちゃんが大ピンチなんです!次の奴隷入れ替えまでに金貨五枚で売れないと鉱山送りになってしまうそうなんです!なんとかバイトの口を探そうとしましたが我が力及ばす・・・、ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

 

序列二位クルセーダーもがっくりと翼を落とし涙を流す。

なんなんだ、お前らの劇的にピンポイントなピンチネタは!?

大体情報収集に行かせたのにバイトの口探すってどないやねん!

てか、奴隷でダークエルフの少女がピンチってラノベのテンプレにあり過ぎてるから!

 

『次っ! 序列第三位クロムウェル!第四位センチュリオン!』

 

『『ははっ!』』

 

お前ら、ピンチです!でその後スルーですぐ次の情報行くのな。

 

『王都でも南に位置する比較的裕福ではない庶民層の町の一角にある教会が経営する孤児院のシスター・アンリが大ピンチです!質の悪い下っ端貴族がアンリちゃんを狙っており、手下を使って地上げ行為を行い、圧力を掛けているようです。ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

今度はえらい具体的な情報拾ってきたな、おい!

ピンポイントな情報ではあるけれどね!

 

『ハーカナー男爵が陰謀によって殺されてしまい、未亡人となりましたハーカナー男爵元夫人が大ピンチです!テラエロー子爵の陰謀と思われ、その狙いは元々ハーカナー男爵夫人をわがものにせんとする企みからのようです。ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

今度は未亡人来たし。

なんなの今回の情報は?

だれも大ピンチの女探して来いって言ってないし。

 

『次! 序列第五位ヴィッカーズ!第六位カーデン』

 

『『ははっ!』』

 

 

『王都バーロンの西地区にある商業区画の一店舗にあります「定食屋ポポロ」の姉妹が大ピンチです』

 

いや、パン屋に始まって男爵家未亡人まで行ったらまた定食屋に戻った感じがしますけど!?

 

『流行り病で父親を亡くし、母親も働き口を探しながら定食屋を準備しているうちに一ヶ月ほど前から行方不明となっており、今は両親が営んでいた定食屋を守ろうと姉妹が頑張っているのですが、いかんせん幼く、客足が遠のいてしまい、店が立ち行かなくなっているようです。ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

定食屋が立ち行かないのって俺が何とかすべき問題ですかね!?

てか、この定食屋に関しては別に質の悪い圧力がかかっているとかいう情報すらないんですが!?

 

『我は王都の教会で情報を拾ってまいりました。何でも今代の聖女なる人物が城塞都市フェルベーンの奇跡を起こした聖女様を偽物と断罪し、王都に向かっているボス一行を王都の大聖堂に呼び出してその化けの皮を剥がすと息巻いているようです』

 

「そう!そういう情報を待ってたのよ、カーデン君!」

 

『ははっ!ありがたき幸せ』

 

「その聖女、危険だな。近寄らない様にせねば」

 

『その聖女なる人物にいつも虐げられている下働きのアリーちゃんが大ピンチなんです!ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

「カーデンよ、お前もか!」

 

いや、お前達救出イベントフラグ一体何本立てるつもりだよ。

これがラノベなら「王都編」とか始まってるのにちっとも王都に到着しないパターンで、そのくせ王都に着いたらイベント満載でやたら章立てが長いパターンだぞ!

 

『ボス、この後はこのタルバーンの町周りとカソの村周りの報告になりますので、私から追加の情報を先に報告致します』

 

そう言ってヒヨコ隊長が前に出る。

 

「隊長自身も調査に出たのか」

 

『ははっ! 私は王都バーロンの中心にある王城に忍び込みました』

 

「何だと!それは素晴らしいじゃないか」

 

『はっ! そこで、王城の北東にあります塔の最上階にカッシーナ王女が半ば自分を幽閉する形でおります』

 

「自分を幽閉?」

 

『は、カッシーナ王女は部屋に一人の時でも仮面をしたままで、誰にも顔を合わせたくないと申しておりました。それも自分の顔を見られるのがつらいのではなく、見られることで相手に嫌悪感を抱かせたり同情の様に気を使わせてしまうのを気にしているようです。私の様に鳥になって自由にいろんな所へ出かけられたらいいのにって言っていました。ぜひボスのお力で救済をお願い出来ればと思います!』

 

「いや、お前も救済ネタかい!」

 

いや、助けることが嫌とかじゃないんだけどね。

なんだろう、この徒労感。

そんなにいい人キャンペーンやってるつもりはないのだが。

 

『次っ! 序列第七位カラール!第八位キュラシーア!』

 

『『ははっ!』』

 

『我々はこのタルバーンの町周りを調査担当致しました。まず攫われましたフィレオンティーナ様の情報を仕入れてきました』

 

「おお、それはすごい。ぜひ聞かせてくれ」

 

『ははっ! フィレオンティーナ様は非常に見目麗しく、魔力が高い優秀な魔導士との触れ込みです。また占い師としても有名で自身が営む占いの館は盛況だったようです。そのため、悪魔王ガルアードへの生贄としては優秀な人材と言えます。狙われるのも十分にうなずける内容かと』

 

「なるほど・・・生贄のために誘拐されたのは間違いないのか」

 

「御意」

 

『私は悪魔の塔の調査を行ってきました。塔は全六十階層となっており、入った者の行く手を魔物と罠が待ち構えると言う構造になっております』

 

どっかで聞いたことあるような塔ですな。

 

『その最上階では悪魔王ガルアードと思われる石造があり、その前に魔法陣が描かれております。また、怪しい魔導士風の男が準備に追われているのか忙しく動き回っておりました』

 

文化祭の準備か何かかいっ!?

敵の規模が透けて見えるような報告だな・・・。

それにしてもフィレオンティーナがその生贄にされるとなれば、十中八九その魔法陣に寝かされるんだろうな。大ピンチはそれからだろう。

 

「キュラシーア。手の者にその塔の最上階を常に見張らせてくれ。生贄と思われるフィレオンティーナが最上階に連れて来られたら大至急連絡だ」

 

『ははっ!』

 

これが生きた情報ってヤツだろ!

 

『次!序列第九位ティーガー!第十位センチネル!』

 

『『ははっ!』』

 

『我々はカソの村及び泉の畔周りの確認をしてまいりました』

 

「そうか、それで?」

 

「カソの村も泉の畔も神殿も平穏無事であります!」

 

「・・・・・・」

 

その報告いりますかねぇ!?

 

それにしても王都バーロンの救援フラグ乱立・・・、その前に悪魔の塔の悪魔王ガルアード復活の生贄儀式・・・。これがラノベの物語なら詰め込み過ぎだろうよ、多分。

 

でも現実は待ったなしなんだよな、これが。

 

まあ、フィレオンティーナはタルバリ伯爵の身内だ。自分たちで助け出すって言ってたし、なんとかなるのだろう。

・・・パン屋のマミちゃんに、なんだっけ?何人報告来てたっけ?

誰か救出予定リスト製作してくれませんかね~。

 




今後とも「まさスラ」応援よろしくお願いします!


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第68話 行きがけの駄賃に悪魔王を滅ぼして行こう

チュン、チュン、チュン――――――――

 

「んんっ!?」

 

ふああっ、もう朝か・・・、いつの間にか寝てしまったようだ。

最近の俺様はバイオリズムを作っている。

この世界に来たときは腹が減る事も眠くなることも無かった。

だが、イリーナと生活するうちにリズムを合わせて行くと、それなりのタイミングでお腹が空いたり眠くなったりするようになった。

もちろんぐるぐるエネルギーを高めて行けば完徹だろうとドンと来いだが。

 

そんなわけで昨日イリーナに<変身擬態(メタモルフォーゼ)>で変身した矢部裕樹の姿でのマッパ(素っ裸)を見られてしまった。夜遅めだったので、部屋にフォローに行くのをためらってしまった。その後、ヒヨコ隊長たちの報告を聞いて深夜になったのだが、どうやら寝落ちしてしまったようだ。

・・・寝落ちなんて、社畜時代を思い出してしまうな。悲しい。

 

「それにしても、一人で朝チュンとはまた物悲しいね・・・」

 

そう独り言を呟き、窓を見ると、そこには「チュンチュン」と鳴くヒヨコ隊長たちが。

 

ズドドッ!

 

思わずベッドからずり落ちる。

 

「お前ら何してんの!?」

 

『はっ! 昨夜ボスが独り言で「幸せな朝チュンを迎えたい」と・・・』

 

「朝チュンは一人じゃ意味無いからね!」

 

『なんと・・・そうなのですか?』

 

「大事な人や大好きな人と素敵な一夜を過ごした朝に、スズメの鳴き声で起きるのが幸せの象徴「朝チュン」だ! てか、お前たちがチュンチュン言っているのは違和感しかないぞ?」

 

『なんと!私としたことが、一生の不覚!』

 

いや、その言葉大河で乱発して顰蹙モンだった武将がいたな。お前の一生いくつあんだよって。

 

「まあいい、引き続き情報収集を頼むぞ!」

 

『ははっ!』

 

ヒヨコたちの出立を見送り、着替えて朝飯のために食堂に降りるとしよう。

 

 

 

食堂にはすでにイリーナとサリーナが来ていた。

 

「あ・・・、ヤーベ、おはよぅ・・・」

 

イリーナは頬を少し赤く染めて、俺から目を逸らして挨拶を返してくる。

 

「おはようございます、ヤーベさん」

 

そしてサリーナも挨拶してくる。

 

「おはよう、イリーナ、サリーナ」

 

俺も挨拶を返す。

タルバーンの町で一番いいホテルなだけあって、朝食も豪華だ。

焼き立てのパンに、ホテルお手製ジャム、新鮮なサラダに卵料理。おいしい果実水もある。

 

「さあ朝ご飯を食べよう、イリーナ、サリーナ」

 

俺は早速焼き立てのパンにジャムをたっぷり塗って頬張る。

 

「ウマイッ!」

 

パリパリに焼けた表面ながら中はしっとりふっくらな柔らかさを持つパンに感激しながら、チラッとイリーナを見れば、まるでハムスターの様にチマチマとパンを齧っている。

 

「イリーナ、何か買い物に行きたかったのか?」

 

「え、あ、ああ、王都に出発前にヤーベと買い物に行こうかと・・・」

 

「何を買いに行きたかったんだ?」

 

「あ、あの・・・その・・・、ア、アクセサリーを一緒に買いに行きたくて・・・」

 

「そうか、なら朝食を食べ終わったら出かけようか」

 

「ホントか?」

 

「ああ、別にいいぞ」

 

「わかった! 朝食終わったら準備してくる!」

 

そう言ってパンを詰め込み喉に詰まらせて、ンガググしているイリーナを見て取り合えず昨日の影響は残っていないのかとホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

ヒヨコたちの情報から、タルバリ伯爵が悪魔の塔へ救出隊を何組も出している事はわかっている。万一うまくいかない場合、下手すればこちらに救援依頼が来るかもしれない。

ヒヨコ達にはフィレオンティーナが塔の最上階に連れて来られたら緊急連絡を寄越すように言ってある。

 

そんなわけで午前中イリーナ、サリーナと製鉄技術の進んだ町で売られるアクセサリーなどを見に買い物に出た。

 

「製鉄技術が進んでいるというだけあって、鉄の純度が高そうだね! ボクなら錬金技術でインゴットからの加工も可能だから、金属のインゴットを買って自分で加工出来るよ。ヤーベさん何か鉄製品で欲しいものある?」

 

サリーナが俺の顔を覗きながら問いかけて来る。

おお、錬金術ってそんなことまで出来るんだ。スゲー。

ノーチートの俺と違ってサリーナには少なくとも優秀なスキルが備わっているようだな。羨ましい。

 

「サリーナは凄いな。ちょっと鉄製品でお願いする物を考えてみるよ」

 

「遠慮なく言ってね!」

 

笑顔でウインクするサリーナ。ショートカットの髪がわずかに揺れる。

ボーイッシュなサリーナだが、正しく元気娘と言った感じだ。笑顔が良く似合う。

 

その後ろではイリーナが露店で鉄製品のアクセサリーをいくつか見ていた。

 

「いくら純度が高い鉄が素材といってもネックレスや指輪などは鉄より銀や金と言った希少金属の方がよいのではないか?」

 

俺はふとした疑問をイリーナに投げかける。

 

「それはそうなのだが・・・銀や、まして金は非常に希少のためそれらのアクセサリーは非常に高価なのだ・・・」

 

少し溜息を吐き、肩を落とすイリーナ。

そう言えば食事は俺が用意している。買い食い時も魔物を買い取りに出してからは俺が出している。だから、イリーナにはお金を渡していなかったな。

 

「大量に報奨金を寄付したとはいえ、お金はまだまだあるぞ? 欲しい物があるなら買えばいい」

 

そうは言っても奴隷商館にも行くつもりだし、お金はたくさん残しておきたいところだけどね・・・。

 

「ほぎゃぎゃ!」

 

イリーナさん! 手が潰れてしまいます!

 

「ヤーベ、悪い事考えてる・・・」

 

そんな事、そんな事ないですよ!

 

そんなこんなで俺たちは露店などを見て回った。

イリーナには鉄で出来た細工の綺麗なベルトのバックルを、サリーナには純度の高い鉄のインゴッドをたくさん買い込んだ。金額からすれはたくさん買った鉄のインゴッドの方が遥かに高いのだが、サリーナはインゴッドで出来たアクセサリーを俺に確認してもらってからお金に替えたり、使えるものはくれると言う。

 

・・・いい娘や。

 

イリーナにはもっとたくさん買おうと思ったのだが、とりあえず一個だけでいいと固辞したので、バックルだけにした。今は可愛いアクセサリーを貰っても冒険者の格好をしているので、実用的な物が欲しいと言う事だったのでいろいろ探して見て、バックルを選んだ。イリーナは早速自分のベルトのバックルを交換していた。

 

今も嬉しそうにお腹のバックルをそっと撫でている。

イリーナさん、あまりに幸せそうに頬を染めてお腹を撫でないでくださいますかね?

明らかに「あたし、出来ちゃったの」みたいな雰囲気駄々洩れしてますからね?

出来てませんからね?出来るようなこともしてませんからね?だいたい出来るかどうかもわかりませんからね?

 

俺は、どこまでも広がる青い空を遠い目で見つめた。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「ヤーベ殿、準備は良いか?」

 

フェンベルク卿が声を掛ける。

すでにコルーナ辺境伯家の皆さんは馬車に乗っている。

 

「ああ、準備は良いが・・・タルバリ伯爵に挨拶は良いのか?」

 

出立時にタルバリ伯爵の屋敷に寄るのかと思ったが、どうもそれどころでは無い様だ。

 

「昨日のトラブル対策が大変なようだ。昨日のうちに挨拶はすませてある」

 

多少表情を曇らせながらも対応済だと語るフェンベルク卿。

王都へ急ぐ予定でもなければ力を貸したいと思っているのか、フェンベルク卿の表情は晴れない。まあ、これもタイミングだ、仕方がない。

 

 

王都に向けて出発した一行。

だが、やはり流れはうまくいかないものだ。

 

ヒヨコが報告に来る。

 

『ボス、フィレオンティーナ嬢が悪魔の塔のてっぺんに連れて来られました。意識がないようで魔法陣に寝かされています』

 

「・・・マジか・・・」

 

タルバリ伯爵の手勢で救出に向かっているはずだ。

だが、間に合っていないってことだな。

 

「どうした?」

 

「うむ・・・、ヒヨコからの情報なのだが、どうもフィレオンティーナ嬢の救出がうまくいっていないようだ」

 

「なんだと!」

 

「すでに生贄の準備に入っているらしいな」

 

「ぬうっ! ・・・ヤーベは何とか出来そうか?」

 

「ヤーベ様・・・」

 

フェンベルク卿にルシーナと奥さんも俺に期待を寄せて見てくる。

 

「とりあえず塔に寄って王都を目指そうか・・・」

 

俺たちは馬車の移動を悪魔の塔経由で王都に向かうルートに変更した。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「これが悪魔の塔・・・」

 

頂上が見えない。かなりの高さを感じる。

 

「ダメです!第三階層へ上がる階段が見つかりません!」

 

「探せ!何としても最上階である六十階に辿り着くのだ!」

 

「ガイルナイト卿! 第三階層への階段を発見しましたが、鍵が掛かっています」

 

「扉を壊してでも前進せよ!」

 

ガイルナイト卿・・・つまりタルバリ伯爵が塔の前で指揮を取っている。

ヒヨコの情報ではすでに最上階で魔法陣を敷いた儀式が準備されているようだし。

六十階層らしいのに今だ三階層で苦戦。

どう考えても間に合いそうにない。

 

「ガイルナイト卿、戦況はどうだ?」

 

「お、おお、これはフェンベルク卿。王都へ向かわれたのでは・・・?」

 

「我が家の賓客であるヤーベ殿が、フィレオンティーナ嬢がすでに最上階で生贄にささげられる準備が進んでいるというのでな、心配になって、我々が何か力を貸せることは無いかとな」

 

「なんですとっ!フィレオンティーナがもう生贄に!?」

 

「・・・ヤーベ殿、何とかなるだろうか?」

 

「おおっ!お力を貸していただけるのか!?」

 

皆が馬車の中を見るが、すでにそこには俺の姿はない。

 

「あ、ヤーベ殿ならすでに、悪魔の塔の外壁の所に・・・」

 

イリーナが指さした方向、そこには悪魔の塔の外壁に手をつく俺の姿が。

 

この悪魔の塔は当然建物内がダンジョンの様になっており、罠が張り巡らされているんだろうな。そしてヒヨコの偵察から、最上階は屋上であり、そこに悪魔王ガルアードの封印された像と魔法陣があるわけだ。

 

「だから、中を通って行く必要はないよな」

 

そう言って俺はぐるぐるエネルギーを高めて触手を一気に伸ばす。

そして触手は一気に塔の外壁最上段を掴む。そして俺は自分の体を引き上げる。

 

「ひょいっとな」

 

俺はあっさりと塔の最上階に辿り着いた。

 

目の前には魔法陣と寝かされたフィレオンティーナ嬢、そして首謀者らしき男とその手下たち。

さあ、さっくり片付けるとしようか。

 




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第69話 フィレオンティーナ嬢を取り返そう

今回の話は私の作品としては異常に長い9300文字の長文となっております。
通常は3000字前後に抑えて、お仕事や学業の休憩中や、夜寝る前のちょっとしたお時間に読んで頂き、明日の活力の一つにでもしていただければと思っております。ただ、今回の話は二分割にしようかとも思ったのですが、ヤーベ君の考え方、優しさ、激しい怒りなどが次々と溢れ出てきてできれば一度に呼んでもらいたいっ!と思ってしまいましたので長いまま投稿させて頂きます。少しお時間に余裕のある時にでも楽しんで頂ければ幸いです。


「な、な、な・・・何だ貴様は! どこから来た!?」

 

明らかに首謀者のボスだかリーダーらしき中央にいる男がいきなり現れた俺に驚いている。

ここは悪魔の塔の屋上だが、屋上と言っても圧倒的にだだっ広い。

 

広いせいか、最初塔の外壁の最上段を触手で掴み、自分の体を引き上げて屋上の端に着いた時には俺の姿は奴らからは発見されなかった。

 

ただ、その屋上の中央に鎮座するバケモノの石像ははっきりわかった。

高さが三メートルを超える、手が六本、足が四本もあるバケモノの石像が置いてあるのだ。

あれが封印された悪魔王ガルアードだとするのなら、封印が解けたら相当ヤバいと言うのが実感できる。

 

そして像の前に広がる魔法陣、そして陣の中央に寝かされたフィレオンティーナ嬢。

どこからどう見てもフィレオンティーナ嬢を生贄に捧げて悪魔王ガルアードを復活させようとする質の悪い計画だろう。

 

こんな危なそうな石像をなぜ国がこんな塔の上に放置しているのか?

国がこの塔を管理、防衛し、こんな質の悪い復活儀式など簡単にさせない様にしていないのか?

緊急事態時を想定した防衛システムは考えられていないのか?

 

いろいろツッコミどころは満載だ。

ラノベの世界ならある程度ご都合主義で話が進んで行くのも大事な事だろう。テンポは読み手側からすると非常に重要なファクターだ。

 

だが、現実はそんなご都合主義など存在しない。

それだけにこの塔内に騎士団や兵士を拒む山のようなトラップや魔物がいる中で、なぜコイツラが簡単にこの最上階にフィレオンティーナ嬢を連れて来ることが出来たのか?

それは二つの理由どちらか以外に考えられない。

 

一つは悪魔王自身の復活はまだだが、悪魔王の手下が暗躍している場合。

この場合はフィレオンティーナ嬢を攫った奴らも仲間なのだから、塔内の魔物にコイツラを襲わせない様にするか、寄せ付けない様に配慮する事が出来たのだろう。その場合はこの悪魔の塔をコントロールしているのが悪魔王ガルアードもしくはその手下ということになる。

 

そしてもう一つの可能性。こちらの方がずっと厄介だが。

もう一つは国が関与している場合・・・・・・・・・・だ。つまりこの塔自体を国が管理している場合、ある程度塔内の魔物やトラップをコントロールしている人物、ダンジョンマスターというよりは、タワーマスターという存在が居るという事だ。

そして、その人物は王国に繋がっている可能性が高い。

 

しかも、タルバリ伯爵内にあるのに、タルバリ伯爵ゆかりの人物を誘拐し、塔内への兵士を拒むような対応を行っている以上、タルバリ伯爵領内でこの悪魔王ガルアードが復活しても良いと考えている人物が少なくとも王国内に居ると言うことになる。

この場合は非常にやっかいだ。

なぜなら、王国全体がそう考えているのか、それともある一部の人間が王国の転覆を狙って企んだ事なのかによって話が大きく変わってくるからだ。

 

王国全体でそう考えている場合は例えタルバリ伯爵領が大変な事になっても、王都までは被害を出さない腹積もりだろう。悪魔王ガルアードをコントロールする方法でもあるのかもしれない。だが、王国転覆を狙う輩が企む場合は最悪王都が火の海になってもいいと考えている可能性だってある。今の王族が全滅してから王都立て直しのために現れてもいいのだから。

 

「・・・尤も、この悪魔王を倒す手立てをちゃんと考えているのかわかったもんじゃないけどな・・・」

 

どうしてああいう悪役は頭が悪いのが多いのかと思ってしまう。

コントロール出来ないバケモノを解き放ち、自分の気に入らない世界を壊そうとする。

だが本当にその後うまくやれるかちゃんと計画立案してるヤツ、どれくらいいるんだろう? 結構行き当たりばったりなヤツ多い気がするけどな。大抵正義のヒーローとかがバケモノを始末するから平和になるんだけどさ。

 

偶に、あまつさえ自分自身ごと滅ぼそうとするやっかいなサイコ野郎もいるから始末におえない。そう言うのは自分一人でやってくれと心底思う。せめて自分に直接敵対した奴だけを恨んでくれよな。この世界が憎いとか、何であった事もない人まで恨んで殺そうとできるのか、まったく理解できないね。頑張って真面目に生きている人だってたくさんいるだろうに。

 

というわけで、ワナワナしている首謀者らしき男のところまで歩いて来たのでこちらの姿が見つかったのだ。そうして俺を見た男が問いかけてきたわけだ。

 

「どこからというと、地上からだが?」

 

「馬鹿なっ!? 塔の中は魔物と罠で埋め尽くされているはずだぞ! お前なんぞが突破できるはずないだろ」

 

初対面でお前なんぞって・・・お前は俺の何を知っているというのか。

こういった会話一つでも相手のレベルが測れるというものだ。

多分、裏にシナリオを描いた野郎が潜んでいやがるな。

こいつは自分の欲望をエサに操られただけのただの駒に過ぎないだろう。

 

・・・あーあ、こういう敵、嫌いなんだよね。

北千住のラノベ大魔王と呼ばれ、給料の大半をラノベ購入に充てた俺だ。

死ぬほどのラノベを読み込んできている。

 

もちろんいろんな話があるのは理解している。ダークな復讐物も、王道チートでハーレムを築くチーレム物も、いろいろだ。その中で、俺はとあるパターンを苦手としている。

 

それは、メインな敵が姿を現しては、また再登場するというパターンだ。何度も逃げては再び挑んできて、そして主人公が仕留め損ね、また逃げて次の策略を練って挑んで来る。

 

物語としてはわかる。ストーリーを維持しやすいし話の流れが作りやすい。

一定の敵を表示しておけば、話自体も理解しやすいものだ。

だが、現実ならばどうか?

 

その逃げた敵をその場で仕留めておくことが出来たなら、次の犠牲は生まれなかったはずだ。より不幸になる人を生み出さずに済んだはずだ。もちろん何度も戦って最後わかり合って仲間になるなんて青春パターンもあるが、それは一対一タイマンが基本だろう。何度も罠を張り巡らす敵を逃がすことは致命的な結果を生み出しかねない。

 

そう言う意味でも、この世界に来てから「人殺し」をなるべくしたくない、と考えている自分と、「悪・即・斬」の様に敵と定めたら決して容赦してはいけない、と考える自分が両方いる。なぜなら国や町が定める法律の解釈が地球よりもずっと希薄で、魔法なんてものがある世界で「報復行為」を放って置く事は自らの安寧を遠ざける事に他ならないからだ。

 

それでも最初、泉の畔に一人でいた時はそれでもいいと思った。自分だけならばなんとかなるだろうし、自分の命だ。しくじったならば自分が責を負うだけの事だ。

だが、今は違う。イリーナがいる。カソの村の人々がいる。ソレナリーニの町にも知