兄の運命を変えるために (のっぽパンマン)
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1話

はじめまして!のっぽパンと申します。

シスイにこんな妹がいたらという設定で書いていきます。


とある冬の日。

 

私は高熱を出し倒れ、床に伏していた。意識が朦朧とし、体が自分のモノとは思えない程重く感じる。それこそ指の一つすら動かすのが辛いほどに。

 

「はぁ……はぁ………、お兄様……。私は……助かるでしょうか……」

 

揺れ霞む視界。それでも目を微かに開きすぐ横にいる存在を確認する。その姿を確認出来ると、弱った気持ちが少しだけ持ち直す。私の唯一にして最愛の家族、シスイ兄様。

 

「何を弱気な事言ってんだ。しばらく安静にしていれば直ぐに良くなる」

 

その手で私の頭を撫で、気さくに笑う兄様。でも私は知っていますよ。私が倒れた時すごく焦っていた事を。

 

瞬身のシスイ、うちは一の手練。そう呼ばれる兄様があたふたしていたのを思い出すと、苦しいながらもクスリと笑う事ができた。

 

 

「お兄様……少しわがままを言ってもよろしいですか」

「あぁ何でも言ってみろ、ユイナ。俺が何とかしてやる」

 

「ありがとうございます。では、今夜はずっとお傍に居て欲しいです」

「なんだ、そんなことか。頼まれるまでもないさ」

 

 

兄様はそんなことと言うが、たくさんの任務を抱える優秀な忍。時間は一分一秒でも惜しいはずだ。

 

いつもなら遠慮してこんなわがままは言えるはずもないのだが、どうやら私の体と心は支えを欲しているようだ。兄様の迷惑を考えないで欲を出してしまう。

 

今日だけは、今日だけはと言い訳を胸の中で唱えながら。

 

 

「さぁ、もう寝ろ。寝て起きたらきっと良くなってる」

 

 

兄様の笑顔と言葉は、睡眠薬のように私に眠気を与える。体力も限界だった私はそのまま意識を手放すことにした。明日には兄様にご迷惑をお掛けしないようにと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。とても摩訶不思議な夢を見た。

 

 

その夢の中で、私は木ノ葉の里とは全く違う場所にいた。というより違う世界に居たという方が正しい表現だ。

 

天に届くのではないか、そう思えるほどの建物がずらり並んでおり、見たこともない物が至る所に存在する。そして夢の中の自分はその世界で生活していた。

 

頭では違和感を覚えながらも、体は勝手に動く。そこに私の意志は存在しない。だが、この体は自分のものだというのは不思議と実感できる。

 

 

その世界には忍がいなかった。ただ技術力や科学力等は素人目の私から見ても圧倒的な差があった。

 

 

知らない世界、知らない街、知らない物。見るものはほぼ全て初めてだが、少し考えるだけで使い方、使った経験などが蘇ってくる。

 

 

長く、ひたすら長く続く夢。まるで別の人の人生の追体験、走馬灯のような時間。その中で自分が一番興味を持ったのはある物語だった。それはその世界では漫画や小説、アニメとして人気タイトルの一つ。

 

 

───『NARUTO』

 

 

その世界観はあまりにも私の世界と酷似していた。忍、チャクラ、木ノ葉、五大国……そしてうちは一族。

 

最初は記憶がごちゃ混ぜになった夢かと思った。しかし、おかしい点がある。時系列が明らかに私の世界より未来なのだ。これはもしかして私の世界の未来の話なのだろうか。だとしたら壮絶な未来が待っている。

 

 

 

主人公であるナルトなる人柱力の子。そのライバルであり私の知り合いの弟の運命。

 

木ノ葉崩しに、暁と呼ばれる勢力。

 

第四次忍界大戦の引き金を引く、うちはオビトにうちはマダラ。

 

千手とうちはの因縁や、チャクラの祖たる者の陰謀。

 

 

 

そして夢の最後に見てしまった。一族の終焉、そしてシスイ兄様の死を。ソレを見た時私は心が引き裂かれる思いに襲われた。叫びたくても叫べない他人の体で、心だけが暴れる。

 

 

同時に夢の世界にも終わりが訪れた。

 

 

 

 

 

「───ッ!!」

 

 

その事実と光景に夢から飛び起きた。視界が揺れ、妙に景色に赤みがかかっている。だが、そんな事はどうでもいいのだ。

 

夢だとわかっている。いや、夢に決まっている。あの兄様が命を落とすだなんて。それでも今はただその姿を探した。一目その姿を確認して安心したかった。

 

 

 

しかし、私の布団の傍にシスイ兄様は居なかった。

 

 

「いや……」

 

 

今夜はずっと一緒にいてくれると言ったのに。

 

「いや……」

 

 

自分の中で嫌な予感が大きくなっていく。動悸が激しくなっていく。そして心の悲鳴と共に、眼に力が溢れた。

 

 

「いやあああああああああああああああああ!!」

 

「どうした!?ユイナ!」

 

 

部屋の外から聞こえる兄様の声に我に戻ろうとも、眼にチャクラが溜まっていくのは止められなかった。そしてソレは遂に堰を切ったように力を発揮した。

 

視界に入っていたこの部屋の棚。そこが私の視界の中心。ただそこに焦点を合わせただけだった。だが次の瞬間、その一点を基準に捻れ曲がった。その現象に棚に使われている木材は耐えきれず、音を立て破損した。

 

 

ただそんな現象はどうでもよかった。シスイ兄様がいる。それだけで安心出来て、心が落ち着いていく。

 

「はぁ……はぁ……お兄様。……あぁ、本当に良かった」

 

「ユイナ、その眼……」

 

眼……?そういえば視界が赤いし、眼球から軽くだが痛みを感じる。痛みを誤魔化す為、右手で目頭を摘もうとする。その過程で視界の更なる異変に気づいた。

 

「これは……チャクラ?」

 

右手のチャクラの流れが視覚化されていたのだ。この状態をわからないうちはの者はいない。どうやら私は写輪眼を開眼したようだ。

 

 

写輪眼とは、言わずと知れたうちはが誇る瞳術眼である。血継限界や秘伝忍術、呪印術や封印術といった特殊な習得方法以外の忍術・体術・幻術に分類される全ての術を視認するだけで見抜き跳ね返すとされる。 

 

今はまだ幼い私は開眼の条件を、うちは一族の者の一部の家系の者が開眼できるとだけ知っていた。

 

しかし、先に見た夢では「愛情の喪失を感じて深い悲しみ・怒りの感情に飲まれた時」や「己の力不足に対する憤りを爆発させる時」であると書いてあった。 

 

たかが夢と思いきや、妙に納得出来る事もある。

 

現にシスイ兄様が写輪眼を開眼したのは、任務で仲間が絶体絶命の窮地に至った時と聞いている。ただ、まさか悪夢で開眼するとは思わなかった。あれをただの夢で済ませる訳にはいけないが。

 

 

「見てみな」

 

私が少し落ち着き、自らの状況を整理していると、兄様がどこからか手鏡を持ってきた。それを手渡され自らの顔を覗き見ると、私はさらに困惑した。写輪眼の形状が違う。

 

通常は勾玉文様が浮かぶ眼のはずだが、私のは大きな円の中に小さな円が互いに接する様に三つ入っており、大きな円と小さな円が接する所から突起が外に向けて伸びている。言葉にすると難しいが、要は普通じゃないのだ。

 

 

本来の私はこの眼について知らないが、あの夢の中で出てきたので今はわかる。恐らく万華鏡写輪眼と呼ばれる状態なのだろう。その認識が正しいか、ただの夢の産物で別の何かなのか。

 

「ユイナ、何があった?」

 

「…………夢を見ました」

 

「夢?」

 

「はい……あまりにも現実味を帯びた夢…………悪夢でした」

 

「……寝ている時に急にうなされ始めた。本当に心配したぞ」

 

「.......兄様の死ぬ夢を見てしまったのです。それを見て耐えれなくなって、飛び起きたら兄様が居なくて……そしたら無性に気持ちが抑えれなくなって……」

 

「うなされていたから濡らしたタオルでも持ってこようかと思ったんだ。離れてごめんな」

 

兄様は優しく頭を撫でてくれる。そしてもう暫く寝ていろと言い、私の意識が落ちるまでずっと手を握っていてくれた。

 

 

安心し意識が沈んでいく最中、気がかりなことはやはりあの夢である。あれが事実未来の話なのか、それとも私の妄想に過ぎないのか。

 

確かめねばならない。妄想ならそれで良い。それならば私の不安が生み出したただの夢だ。しかし、これが真に未来の話ならば、手を打たねばならない。

 

 

他のどんな犠牲を伴おうとも、シスイ兄様を守らなくては。兄様が居ない世界など、私には必要無いのだから。

 

この右手にある頼りある大きな温もりを、私は失いたくないのだ。

 

 

 

翌日になって私の体調は昨日と比べれば良くなり、私に起きた異変について兄様と話す事になった。と言っても私には別の目的もある。夢の真偽だ。

 

私の知らないはずの万華鏡写輪眼の存在と、それを兄も開眼しており、別天神と呼ばれる瞳術を持っている事。これが確認できれば夢が更なる真実味を帯びてくる。

 

「お兄様、失礼します」

 

まだ少し重い体を正して、兄様の部屋を訪れる。そこにはいつもの優しげな兄様ではなく、任務に向かう時のような真剣な顔をした兄様が座っていた。

 

向かい合うように座ると、ゆっくりと私の異変について話してくれた。

 

結論からすると私の夢の情報と変わらないものだった。開眼条件やその特殊性、そしてここだけの話とシスイ兄様も万華鏡写輪眼を開眼していると話してくれた。私に不安を与えないためか、別天神については一言も話さなかった。

 

ただ兄様の口から語られる万華鏡写輪眼については''こうであろう''とか、''こう伝わっている''など推測や伝承のものが多い。私が見た夢の方が、こと細かく写輪眼や万華鏡写輪眼について述べられていた。

 

やはりあれはただの夢ではなく、これから先にそうなる未来なのではないか。だとすれば……近い将来兄様が死んでしまう。

 

嫌だ……あんな悲しげな笑顔を浮かべて死ぬ兄様の姿は見たくない。どうにかしなければならない。それが他の何を犠牲にするものであっても。

 

 

それが兄様の目指すものと違うものであったとしても。

 

 

「開眼してしまったものは仕方無い。……だがこれは俺とユイナだけの秘密だ。俺はお前を危険に晒したくない」

 

「はい、わかっています」

 

「それとユイナの万華鏡写輪眼の瞳術について少し調べてみたが、あのような瞳術は記録されてなかった。一族で初めての新しい瞳術だ」

 

私の瞳術。一点を捻じ曲げ破壊したあの現象の事だ。別の物語だが、夢の中に出てきていたのを覚えている。確かその作中では歪曲の魔眼と呼ばれていた。

 

途中から「NARUTO」の物語に夢中であまり記憶には残って無いのだが、右目で右回転、左目で左回転の回転軸を視界内で作り、物を捻じ曲げる「歪曲」の力を持つ眼だったはずだ。

 

一度だけ、しかも開眼直後に錯乱状態で発動した為、全ての性能を把握している訳では無いが、似通ったものだろうと把握している。

 

実際に家の小物で試したところ、左右の眼それぞれに回転軸があり、発動条件も焦点を合わせるだけ。なんとも殺傷力の高く、凶悪な瞳術を身につけてしまったものだ。

 

 

この瞳力と不確かな未来の知識があれば、兄様の運命を変えられるだろうか。.......いや、変えねばならない。兄様のいない世界など私には要らないのだから。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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ではまた。


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