緋弾のアリア 転生者はハートネット (狭霧 蓮)
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序曲……物語の始まり
プロローグ……時の運とは?


お久しぶりであります。

気分転換に埋まってた緋弾のアリアをリテイクし直しました……キャラとプロットの大幅改稿なので前の「黒猫の名を継ぐ閃士」とはもうほぼ別物になってますがよろしくお願いします。

では行きますか


目が覚めたら赤ん坊になっていた……言ってる意味がわからないか?

ああ、僕にもいみがわからないよ。

落ち着け、俺。まず俺の本名は……思い出せない!?

 

「……えっぐ……おぎゃあ、おぎゃあ!」

 

おっといかん……感情がリンクして泣き出してしまった……体が……

抱き上げられて俺は見知らぬ女性にあやされている……金髪に溌剌としていそうな美女だった。

 

「はいはい、泣かないでねー」

 

彼女は愛しそうに俺を見つめている……本能でわかった。彼女はこの赤ん坊……俺の「母さん」なのだろう。

その隣にはでんでん太鼓を持った栗毛の癖っ毛が特徴のどことなく猫のような雰囲気の美丈夫が立っている。

 

「元気がいいなぁ〜……瑠璃香、抱かせてくれないのか?」

「もう、あなたったら……ハヤトはもう少し寝かせてあげないとダメよ?」

「……そうだな、また今度にするか。ハヤト、おとなしくしてるんだぞー?」

 

あの人は俺のお父さんか……かなりイケメンだったな。というか言葉は英語か?一応日本語で聞こえてくるんだが……?

どうやら最適化……言語が日本語で聞こえるみたいだ。

しかし、俺は見知らぬ女性に抱かれてるが……いつの間に輪廻転生した……のか?

思い出せないな……死んだのかどうかもわからん。

 

『おんしは死んだよ……この声が聞こえとるかのぅ?』

 

……誰だ?

 

『この声が聞こえとるということは無事に転生したようじゃな。声の主である儂はまあ(わらべ)の世界で言う所の神様とも言えるのかのぅ?』

 

なんで疑問系なんだよ……

 

『まぁ細かいことは端に置いとくぞ。おんしは因果調律の歪みから死んでしまっての……あの世も黄泉も保留国も高齢化の影響を受けて人口が増大しておってな……イレギュラーな御霊は受け入れ不可となっておった。』

 

コマケェな!てか端に置いてないぞ!?

 

『さて、それでおんしには別の世界で転生してもらったぞ。並行世界線上の世界なのでのぅ……超常の理が存在する世界での……まぁなんじゃ《異能ばとる》と言うのか?そんなものがある世界じゃ』

 

……何だと!?

 

『おんしには幾つか儂からの餞別として幾つかの潜在能力を与えておくぞぃ……えっと〜なんじゃったかのぅ……これじゃな……自分で確認しとくれ』

 

匙投げやがったな!?……と、俺の頭に浮かぶ文字の羅列は6つだった。

 

一、異能「タキオン掌握因子」

一、異能「颶焔の器」

一、異能「知りたがりの猿真似道化」

一、スパコン並みの高速演算能力

一、鷹の目……類稀なる直感に「動体視力と条件反射」

(ひつ)、両親の愛と才能

 

『おんしはかなり規格外の異能使いと成れるだろう。 それなり以上の努力をすれば開花してゆくぞぃ。頑張って日々精進するのじゃぞ?では儂はこの辺で失礼するぞぃ、健闘を祈っておるぞ!』

 

気配が消えた……?

 

ということは……これでわかったことは俺が転生者であることぐらいじゃねーか!?

能力の説明はなしかい!?匙投げですか、そうですか!

まともにわかるの3つだけじゃねーかと、俺は心の中で頭を抱えていた。

……仕方ない。どんな能力かはもう少し成長してから検証とかを重ねて判断しようと思う。

俺はとにかく、体の成長を待ち今は両親の会話から聞ける範囲の情報と言葉を覚えることにするのであった……まぁ聞き耳立ててたらおねむに……あ、俺いま赤ん坊だったな……オレの意識は暗闇の底に落ちていくのであった……

 

 

 

 

お久しぶり、オレはハヤト。フルネームは天道・H・ハヤトである。一応武偵である……Eランクだがな!

Hはミドルネームでハートネットの略である。

現在は15歳となり、とある豪華客船に搭乗していたのだが……武偵殺しの襲撃に遭い、そこで出会った武偵の女性カナさんと一緒に迎え撃っていた。俺は見つけた爆弾の解除方法を探していたのだが結局カナさんに避難を促されてボートに乗り込んだ。そして、俺は船を脱出したはずだった。

 

「はぁ……とんでもない目にあったな……」

 

ボートには水夫もおらず俺一人、どうしたもんかねぇ。 とそんな呑気なことを考えていたら何者かが俺の口にハンカチを当ててきたってえぇ!?

 

「ムゴゴゴっ!?」

 

暴れようとするが意識が遠退く……クロロホルムを嗅がされたようだった……畜生……あっけねぇな俺は……

こうして、俺の意識は簡単に刈り取られたのだった。

 

 

 

 

めがさめたら見知らぬ天井だった。

このセリフに限るな……マジに見知らぬ天井だったわけだが。

俺はベットから降りて絶界から武器を引っ張り出そうとしたがそれができなかった。

絶界とは俺の持つ式力……簡単に言えば魔力で作り出した異空間のようなものが絶界だ。

そこにはいろいろな銃器や剣を直しておいたはずなのだが、それを引き出すことができない。

 

「無駄だよ?君の絶界は凍結しているからね。」

 

後ろから声がした……振り向くとそこには伝説がいた。

 

「君も僕の事を知っているかもしれない。嫌という程書籍や映画で僕の名を聞いているだろうと思う。でも、あえて名乗らせてもらうよ……僕はシャーロック・ホームズ。君を歓迎するよ、天道・H・ハヤト君」

 

いったいどうなっているのか……俺に聞くな。

この出会いが俺の人生を大きく左右する事になるとは……思いもしなかったがな……どうなることやら……

 

(続く)




とりあえず、書き直しました!

また一からスタートです!

強くてニューゲームでなく、これからは訓練編からスタートとします。


では次の話でお会いしましょう!


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プロローグ その2……その名はリサ

リサ、満を持して登場!


オレは過去を振り返っていた。

あ、どうも。オレ、ことハヤトです。

転生してからもう15年経って厨二病真っ盛り……とわいかない年齢になりまして……今は見知らぬ土地で戦闘訓練に勤しんでおります、はい。

2歳頃から自分に与えられた潜在能力を探り始めて正体は一応つかめました……13年かけて掴んだ正体でしたけどね!

まずタキオン掌握因子とはなんなのか……噛み砕いて言うとどこぞのカブトライダーの使うクロックアップみたいなものでした。しかし、まだ体にタキオン掌握因子が慣れてないので目にしかタキオン粒子流せません。

それにタキオン粒子はオレの魔力から生成されるので乱用できないって弱点があるのでそうそう長くは使えない感じかね?

 

魔力の使いすぎはオレの寿命を削りかねないから……多用は無用ってね。

 

次に颶焔の器。これは風属性と炎属性を合わせた物だと思う。この能力はどうやら俺の体内にある異能機関『幻器』を通して魔力を使うことで風もしくは炎を体外に放出できる異能のようだ。

圧縮と増幅とかの工夫次第ではかなり使えそうな異能だな……攻撃に防御、サポートや捕縛にも応用が効きそうだから探求と研鑽の価値がある異能だと俺の師匠であるシャーロ……教授(プロフェシオン)から評価をもらった。

知りたがりの猿真似道化は異能トレース能力だった。しかし、扱うにはかなり根気がいる物だとわかった。

すぐにモノにできれば苦労はないともいえるが……この猿真似道化に関しては気の遠くなるような反復練習の末にその異能をオレの身体能力に合わせて調整、習得できる異能だ。

大雑把に言えば「血汗にじむ努力をすればなんとかなる」能力ともいえる……これはいろんな意味でぶっ壊れな異能だと思うのだが……日々の努力と長い時間さえあればなんとかなるって結構使えるぞ!?

 

……まぁここまでの「検証に費やした時間」=「オレの年齢」だから自身の才覚の愚鈍さに嫌にもなる。

しかし、これは産んでくれた両親に対しての侮辱にもなってしまうのでネガティブに考えず前向きに捉えようと思う。

 

そして、オレは第Ⅳ種混成第Ⅰ種ステルスだ。

と言うのも『幻器』と言う異能機関を持つヒトが極端に少ないために魔力と呼ばれるチカラの源がまだ明確に解明されていないため、第Ⅳ種ステルスと言う扱いとなるらしい。

教授(プロフェシオン)からルーン魔術の師事を受けているので第Ⅰ種ステルスとしてもオレは扱われるわけだ。

まぁ……どんな枠分けだったかはややこしいから忘れてしまった。

 

オレは現在、伊・Uの根城として使われている太平洋のどこかの無人島にて教授(プロフェシオン)の指導の元に己を鍛えているのだ。

最初の頃は拉致られたばかりだったので混乱していたが、教授(プロフェシオン)がオレを拉致った理由を説明してくれて落ち着くことができた。

 

彼のいうことを要約すると、こうだ。

 

オレのお父様であるトレイン・ハートネット三世の頼みでオレを引き取り、鍛え上げる。

うちの両親も武偵。

とあるヤマを解決するために国外に出張る際、オレ一人を屋敷に残すのはキケンだと判断して教授(プロフェシオン)に預けることにしたようだ。

 

父さん……伊・Uも十二分にキケンだと思うのはオレが間違ってるのでしょうか?

 

たまにやってくる幹部クラスの人々と半ば強引に模擬戦させられて毎度死線を越えさせる超スパルタ戦闘訓練にシャーロック=サンの苛烈なしごきも加えて毎日死にかけてんだけどな……あれ?なんでだろ、目尻に汗が。

 

とにかく、基礎トレーニングと簡単な戦闘訓練(笑)で満足していた1年前のオレを殴りたくなってきた。 あと、3年前より髪の色が変化してる気もするんだけどな、父さんに似た茶髪が朱金髪になってきた気もするし目も青に緋が混じって薄い紫っぽくなってきた。

なんかの病気か? それとも色素が変わったのか?……原因不明なので近々教授(プロフェシオン)に相談するのもアリか?

 

彼ならなんらかのことは知ってる気がする……だって教授だしな……決めつけが過ぎるって?これくらいは言わしてくれよバーニィ。

 

……まぁ愚痴ったところで仕方ないな。

 

さて、休憩タイムもそろそろ切り上げて自主練に戻るか。

 

 

 

 

「さて、ハヤト。 君に紹介したい女性がいるが少しいいかね?」

「いつも有無なしに模擬戦させてるだろうが、あんたは」

「なんのことかね?それはまぁ端に置いておきたまえ。 リサ君、入って来なさい」

 

トボける教授(プロフェシオン)が手招きして「はい!」と若干気合の入った少女の声が聞こえてきた。

オレは彼女を見て……思わず惚けてしまった。

 

まっすぐに整えられた長い不思議な色合いの金髪。

モデルのように整った愛らしい顔立ちとグラマラスかつスリムな体型にではなく、彼女から感じられる純粋さにオレは心惹かれた。

 

「リサ・アヴェ・デュ・アンクです。 リサとお呼びください!」

「えっと、オレはハヤト。 天道・H・ハヤトです」

 

オレはリサ、彼女に一目惚れしてしまったようだ。 心臓のを落ち着かせようと必死に動悸を抑えるが暴走したように心臓は早鐘を打ち続ける。

 

「リサ君。 彼は君にかつて助言したが、『西から来る初心で恥ずかしがり屋な貴族の少年』だよ」

そのことばにリサが反応して「あなたが……」と呟くや否やオレに抱きついてきたってアイェェェッ!?ナンデ!?

 

「リサは、リサは。 リサのご主人様をずっと、お待ちしておりました! 末永くリサをお可愛がりください!!」

 

目がハートになっているリサにオレは目を白黒させることしかできない。 一体どういうことなんだ!?誰か説明してくれ〜!?

 

「……これより緋色の運命が動き出す。 ハヤト君、君はどんな選択をするのかな?」

 

シャーロックのつぶやきは大混乱状態のオレには聞こえなかった。 これがオレと「万能侍女(メイド) 」と呼ばれ恐れられる史上最狂メイド……リサとの出会いだった

 

そして時は流れて、オレがこの伊・Uの根城に来て迎える冬。 2月中頃である。

例のごとくオレは射撃訓練場で弾道の見切りの練習をしている。

 

オレと向かい合うようにM60重機関銃を設置してあり、オレは引き金を引くために足元のペダルを踏む。

するとフルオートの弾丸が俺に向かって銃口から飛来する。

ペダルを踏むと機関銃の引き金が引かれるのだ。

オレはペダルを離して「S&W M29 .44マグナム(6.5インチモデル)」を右手で構える。

そして、オレは眼に体内で生成したタキオン粒子を流して見える周りの景色を置き去りにするようなスーパースローに変える。

 

これはどこぞのライダーたちのクロックアップ……つまりは超高速の「動き」を見ることができるようになる能力の模倣だ。

彼らのようにタキオン粒子を体内に流動させて動こうとすると間違いなく体が空気抵抗とその速度に耐え切れず蒸発するだろう。

 

だからオレはこの能力を単なる視覚強化に使うことにしたというわけだ。

話が逸れた……オレはそんなことを考えながら.44マグナムの引き金を引く。

 

ドゥッ!ドゥッ!ドゥッ!ドドドンッ!

 

バヂバチバチバチッ!

 

30発の7.62mmNATO弾をオレは6発の.44マグナム弾で弾く。 これはオレ命名の「ディフェンス・カートリッジ チェイン」だ。

オレは迫ってくる7.62mmNATO弾の弾道を完全に見切り、.44マグナムの6発連射でその全てのNATO弾を弾く曲芸射撃だ。

シャーロックが銃の応用の際に見せてくれた技を猿真似道化でオレなりにコピーした結果、こんな曲芸射撃になってしまった。 まあ、使い所はあるから問題ないけどな……どこでつかうのかは知らん。

NATO弾5発に対して1発の弾数で弾けるとは……やっぱマグナム弾はパワーが違うな……そのかわり反動(リコイル)がでかいが。

 

意識してな撃たないといけないのは仕方ないとして……対策も練らないといかんな……マグナムを使用する際は。

ふと、射撃場の入り口に気配を感じた俺はそちらを向く。そこにはリサがいた。

リサはクラシック調……ヴィクトリアンメイド服で清楚にきめているが、その腰には革ベルトで吊るした剣を下げてある。ベルト付属ホルスターには「コルト・ガバメント」が収められており背中にはスリングで吊るした「Browning M1918 」を背負っている。

 

……あの、どこの戦場に向かうんですか?オレのメイドさんは。

 

「これがリサの標準装備なのです!」

「お、おぅ」

 

俺はそう返すことしかできなかった。 今リサ、俺の心読まなかったか? 気のせいだよな?

 

「で、なんでそんなに重装備なんだ?」

「リサも射撃訓練しようかと思いまして。もうそろそろ時期ですから」

 

あぁ、そういうことか。

 

リサの言う時期とはオレと彼女が伊・Uを抜ける日が近いことを示している。

と言うのも、教授(プロフェシオン)が俺たちに教える事は全て教え終わったと告げてきたのである。

この世界に生まれ落ちて早くも16年。俺もそろそろ将来を考えて武偵高に行こうと思ったのだ。

武偵……武装探偵になるために必要な知識は多く取り込んだし、シャーロック本人が教える事はないというのだ。素直に指示に従って置いて問題はないだろうと思う。

 

ちなみにリサは俺についてくるらしい。身の回りのお世話は彼女の好きにやらせている。

彼女曰く俺は「運命のご主人様」だと言う……意味がわからんが、こんなに可愛いメイドさんが自分からついてきてくれるのだ……断る理由もないので一緒に行くと約束した……事については色々と後悔した。

俺はもう童貞ではない……と言うかリサに食われました(意味深)。

素の戦闘力も、お世話力も高いリサさんだったが、あっちまで戦闘力高いとは聞いてない。

昨今のメイド養成学校では生徒が望めば夜伽に関してもレクチャーするとかなんとか……リサからの情報なのであてにはできんがな。

 

しかもリサはナニだけの関係でもいいと言い出すからなんと言えばいいのやら。 「第2夫人の枠でもリサはご主人様に奉仕できるだけで幸せなのです!」と言われたのでどうしようかと頭を抱えている。 どうせオレは迫って来られたら押し返せないヘタレ野郎だと骨身にしみてわかった。

 

だからオレは誓う。リサを泣かす事だけは絶対にしない……と。

隣のレーンで機関銃を直立姿勢でぶっ放すリサの横顔はとても精悍で頼もしい、そんな横顔にオレは改めて彼女に惚れ直したのだった。

 

 

 

 

「さて、今日2月28日をもって君たちの伊・U内での学績は抹消されたよ。今までよく頑張ってきたね……君たちそれぞれには僕からの餞別を贈ろうと思う」

 

シャーロックはリサに箒をオレには臙脂色のアルスターコートを手渡してきた。 あと俺には黒鞘に収められた剣と黒いガンケース。

 

「なんだ、このケースは……玉手箱じゃないよな?」

「今ここでは開けないように。あとリサ君、ハヤト君を食すのは構わないが……」

「は、はい……なるべく抑えるように善処いたします……」

「R18な展開は期待すんなよ!?」

 

……リサは頬を紅潮させながらもじもじとする。わかりやすいな、おい食われんのはオレだからな!?

 

「さて、君たちの道は君たちで切り開きたまえ。 さぁ、華々しい花道を」

 

シャーロックは待機させていたヘリに乗り込むよう俺たちに促す。

オレはリサの手を取り、歩き出した。

 

教授(プロフェシオン)。今までお世話になりました。オレ……もっと強くなるよう努力します!」

「君ならあるいは――まぁいい。期待しているよ、天道・H・ハヤト君」

 

今日この日の門出を俺は忘れない。

 

リサは……オレが守る……と改めて誓うのであった。

 

(続く)




感想の乾燥から目をそらしながら今日はこの辺で!

感想、評価は首を長くして待ってます!

では次の話でお会いしましょう。


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ハヤトの設定とリサの設定……改稿版

ハヤト「設定の書き直し……か」

作者「読み返してみたら、説明不足なことがちらほらと見られてね……上げなおしたよ」(汗

リサ「今度こそ、ご主人様の恥ずかしい過去が明らかに!?」

ハヤト「そんなわけ……」

作者「あるよ」

ハヤト「……ふぁっ!?」


主人公設定

 

天道・ハートネット・ハヤト

 

ICV 黒執事 セバスチャン・ミカエリス 小野 大輔氏

 

長身細身の痩躯で身長175cm体重60kg。

 

心優しく弱き者を叱咤激励して強者にする事を趣味としている、長髪で朱金髪に薄紫色の双眸を持つ少年。

 

美しく整った中性的な顔立ちで、遠目から見た彼は女性にしか見えないとリサにも他の武偵高生徒が証言するほどである。

 

視力が非常に良く、突然変異の染色体の影響で猫の様に夜目が利く。

 

両利きで拳銃の精度は右左で誤差がほぼない精密な射撃が可能。

ヒステリアモードのキンジとの撃ち合いでも勝つ自信があるとハヤトは豪語しているが、純粋に「勝てる」のはヒステリアノルマーレのキンジまでである。

 

剣の腕はシャーロック直々の指導によって達人の域に到達しているが、まだまだ伸び代はある模様である。

 

徒手格闘も得意で、弾丸を拳、拳銃本体を鈍器として格闘戦を挑む「ガン=カタ」と近接格闘(CQC)、合気道、マーシャルアーツ、カポエラなどを総合的に纏め軽業(アクロバット)を活かした高機動格闘を好んで使用する。

 

ハヤトは第Ⅳ種混成第Ⅰ種ステルスで、魔力と呼ばれる未知のリソースを魂と体内に常時循環させている特異体質の持ち主でもある。

 

元々の武偵ランクはEだったのだが、それは自身の潜在性に振り回されていた結果だったのだが……伊・Uでの経験(死にかけるほどのスパルタ)が生かされて、潜在性を落ち着いてコントロールできるようになったためにSランクの武偵になれた。

自身を「偽善者」として謙虚に動こうとするが、やることすべてがダイナミックになることもしばしばある挙句に本人はスマートに解決したと勘違いする側面も見られるとかなんとか。

 

社交的ではあるが身分の違いと両親の業績から自分に自信を持てなかった過去があるため、本当の意味で「友達が」いない。

キンジに対してはアリアに釣り合う一定の実力を身につけさせようと策謀。

ルームメイトのよしみで彼にいろいろと世話を焼く一面も持つ。

 

異能能力・特異体質

 

タキオン掌握因子

 

時の流れが結晶化したものとされるタキオン粒子を体内で生み出せる特異体質であり、タキオン粒子を目に流動させることで人離れした動体視力を得ることができる。

間違っても体内に流動させることはしてはいけない。

空気抵抗の摩擦によって発火と人体の限界によって体組織が崩壊。結果、身体が空気中で蒸発する。

そのため、ハヤトは動体視力の強化のみタキオン粒子を使う。

 

颶焔の器

 

ハヤトの異能その2。

体内の異能機関、「幻器」に魔力を流し込むことで、風を司る颶風の異能「炸裂・切断・暴風・防壁・足場・飛行」と火を司る焔熱「爆裂・熱断・燃焼・破壊・障焔・強化」が使用可能。

魔力は一定量がハヤトの魂と身体の間を循環しているが、放出しすぎるとハヤトの寿命が縮むデメリットがある。

 

知りたがりの猿真似道化

 

ハヤトの異能その3。

見た技、技能をハヤトなりのアレンジを加えてコピーする異能。

しかし、ものにするためには長い反復練習と努力が必要となるが……これに慣れればとんでもない意外性のある規格外の異能に化ける。

この異能を利用してハヤトは苦心の末にシャーロックの銃術と格闘センスを模倣した。

 

高速演算能力

 

人間の頭脳の限界に近い演算能力を持つハヤトはこの頭脳を生かして推理から魔術の制御も苦もなくこなす。

しかし、演算能力に偏ったためか時に残念な行動を引き起こすこともある……自分で蹴り上げた、気絶した敵の下敷きに自らなったりなどなど。

 

遺伝異能

 

父 トレイン・ハートネット3世

 

類稀なる銃撃センスと魔術の知識。

 

母 天道 瑠璃香

 

天性の弾道予測能力とリボルバー瞬間リロードの才能。

 

後天異能

 

ルーン魔術

 

護符や宝石に式力を充填し、それに刻んだルーン文字のコンビネーションで術式を組み立てる事で効力を発揮する魔術である。

ハヤトは栞ほどの大きさの羊皮紙にルーン文字を刻み込んで式力を充填して携帯している。

ルーン護符は効果発揮後に燃焼して破棄される使い棄て。

宝石を使うと威力が倍になり、式力の充填で再利用もできるメリットがある……制御不良を起こすと爆散するが……。

ハヤトが得意なルーン属性は「壁・氷結・帝雷」

 

常時展開隔離結界「絶界」

 

式力で構築する異次元の領域。

神の眷属たる神獣、などの能力から魔術師たちが苦心の末編み出した式力力場で、維持には膨大な式力が必要となるが、ハヤトにはあり得ない量の魔力があるので維持には困らなくなっている。

宝物庫、武器庫、食料庫、倉庫の役割を果たすハヤトの「四次元ポケット」であり、便利なものとしてハヤトは使っている。

 

武装

 

装飾銃(ハーディス)

 

ハヤトのメインアームで、彼が多用する旧式二つ折れ式の大型拳銃でⅩⅢと刻まれている。

銃本体が詳細不明な漆黒の超金属(オルハリコン)で製造されていて、雑な扱いだろうが巨大な瓦礫の下敷きになろうが破損しなかったという逸話がある。

使用弾薬は.44マグナム弾で、「S&W M29」と共用で使うことが可能。

ルーン文字が銃全体に刻まれていて、雷のルーン効力が付加されている。

オルハリコン自体が帯電性質も持っているので、電気を蓄電させて銃撃と共に電撃を撃ち出す擬似的な「超電磁砲(レールガン)」を使うこともできる。

 

.44マグナム「S&W M29」

 

ハヤトのサブアームで、装飾銃と合わせて威力重視の二挺拳銃(トゥーハンド)を使う際に左に持つ。

弾数の都合上、多対一の状況では全く使えない。

一対一(サシ)の勝負を前提とした時に使用するサブアームである。

 

コルト・ガバメント/ハヤトカスタム

 

世界的に有名な45口径の大型拳銃。

好みに応じてカスタムできることから人気である。

伊・Uの根城に度々訪れる中華系武器商人のツァオツァオに金を積み、改造を依頼した。

ハヤトはレセプター切り替えのセミ、三連バースト機構を組み込んで弾倉は16発ロングマガジンを使っている。

このガバメントは「ハヤトカスタム」と呼ばれている。

 

デザート・イーグル/ハヤトカスタム

 

IMI社が世に送り出した「自動拳銃(オート・ピストル)」では世界最強クラスの威力を誇る大型拳銃。

ハヤトはやはりデザート・イーグルもツァオツァオに金を積んで改造した。

三連バースト機構を組み込んでいて速射性も優れている。

またその銃身にはルーン文字が刻まれており、ハヤトの「切り札」が封印されている。

 

聖宝剣 清く高らかな焔(オート・クレール)

 

シャーロックから餞別に手渡された剣。

黄金の柄と特殊式反応鋼「ミスリル」を鍛えた刀身を持つ片手両刃剣(クロス・ソード)

ミスリルはオルハリコンと並ぶほどの強度を持つ超金属で、折れる心配はないとされている。

ハヤトの颶焔の器の魔力にも耐える強度を持つため、剣に魔力を纏わせて斬撃を飛ばす荒技も使える。

 

装飾剣(クライスト)

 

シャーロックの餞別で……はなく、ハートネット家に家宝として伝わる漆黒の刀身を持つ、オルハリコン製のサーベル。

最高硬度を持つ剣で、厚さ10mmの鉄板もバターの様に切り裂く斬れ味を持つ。

しかし、なぜハートネット家この剣が伝わっているのかは詳細不明である。

見かけによらず超重量のこの剣をハヤトはかろうじて片手で振るう事ができる。

 

リサ設定

 

リサ・アヴェ・デュ・アンク

 

原作キャラであるがステータスと性格が改変されている本作のヒロインのメイド様。

リサ曰く、第二夫人もしくは愛人枠で満足しているため「妻」の立場にはこだわっていない。

伊・Uでは計算と経理を任されていたが、自身の「仕えるべきご主人様」を探すために伊・Uに所属していた。

ハヤトの童貞を奪った張本人で、リサ曰くハヤトのアレは「大きか(ry」らしい。

 

身体能力が高く、爆薬の扱いにも長けていて(メイドとは一体……)どこぞのロナアプラを急襲したメガネの給仕婦並みの戦闘力を持つが、隠密行動は苦手である。

その戦闘能力の裏付けに師匠は戦闘侍女(バトルメイド)の始祖であるロベルタ・アインツェルニ。

彼女の元では、棒術、剣術、近中銃撃戦闘についての師事を受けた。

料理の腕も一線級で、フレンチのシェフにも負けないと自負しているその腕前は舌の肥えた貴族様アリアの胃袋を鷲掴みにするほどである。

メイドとしてハヤトに仕え、彼を影からサポートもしくは盾となることも辞さない。

 

武装

 

仕込み箒「虎徹」

 

教授(フロフェシオン)から授かった餞別で、リサの近接格闘武器である。

基本的に掃除の時に使うが、緊急時には棍、槍、刀として使える。

箒の先端にはハルバートの穂先が、持ち手の柄頭には硬質クリスタルが。

そして持ち手の柄頭側のロックを小さくスライドさせれば、「流星 斬鉄剣 菊一文字」の傍である「彗星 斬鉄剣 虎徹」と言う直刃の刀が仕込まれている。

鋼鉄すら両断できる切れ味を持つが、なぜかコンニャクは斬れない。

普段次はハヤトの絶界に収納してもらっている。

 

ブローニング M1918/リサカスタム

 

天才ガンスミスのブローニングが生み出した自動小銃で長物であるが、リサはこの銃を軽々と扱う。

メインアームにした理由は使いやすく、信頼性があるからとか。

弾倉が20発から36発に拡張改修されていて、空冷式のバレルには包帯にルーン文字を刻んだものが巻かれてある。

このルーンは膨張する銃身の肩代わりをして少しづつ燃焼するルーンが刻まれてる。

速射性と銃身を少し詰めており、有効射程はおちたが、弾幕を張るためにリサは使うことが多い。

 

コルト・ガバメント

 

ノーカスタムの漆黒のガバメントでサブアームである。

 

バレットM82A1

 

対物ライフルと呼ばれる種類の大型狙撃銃。

.50BMG弾を使うこのライフルは、最大射程が2kmと長く、威力も高い。

リサは狙撃もそつなくこなせるため、所持している。

 

武装日傘

 

リサの師匠、ロベルタ女史からの餞別。フランキ・スパス12を改造した日傘で防弾性の布地を3枚重ねて作られた傘部分は盾に使える。

装弾数は7+1発でセミ・オートショットガンとしても使える。

 

防弾トランク

 

ロベルタ女史の餞別その2。

あるものが仕込まれた謎のトランクで、収納スペースが少ないため「何か」がトランクの大半を占めて詰め込まれている可能性がある。

取っ手の部分から見たら銃口のようなものが二つ覗いているとハヤトが言っているが……?




幾つかの設定が追加されてます……と言うか、書き忘れてしまってました!

本当にすいません!

リサ「ご主人様……リサは一生ご主人様のお友達ですよ!」

ハヤト「……どうせオレはぼっちだよ……」


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第1巻……動き出す緋色の運命
1弾 新生活と初陣


ハヤトの初陣……武偵高ではですけどね!


伊・Uを退学したオレとリサは問題なく東京武偵高校に転入することができた……新学期の始まる1週間前だったが、防弾制服も着ており準備は万端である。

ちなみシャーロックの餞別(臙脂色な外套)も防弾ブレザーの上に装備している。

世間でのオレの扱いは行方不明扱いだったらしい。勝手に殺されてなくてよかったと思うべきなのだろう……そう思っておこうと思う。

 

伊・Uから日本に入国した際。司法取引をさせられた……取引内容は「伊・Uの情報」だ。

が、しかし。俺は「伊・Uの構成員」ではなく、「拉致られた」被害者側。 伊・Uの情報なんぞ持っているわけがないと俺はシラを切った。

シャーロックには恩がある。それ故に裏切るのはいけないだろう。 で、武偵手帳の再発行の手続きと武偵高への編入手続きを平行して済ませた。

武偵高に関しては父さんの根回しのおかげですんなりと編入することができた。

オレとリサの扱いはロンドン武偵高校からの留学生らしい。

 

そして武偵高こと、東京武偵高校。そこは武装探偵と言う職業の人材を育成する教育機関で、「普通」とはかけ離れた学園生活を送る変わり者の生徒が多い学校だと言う。

そもそも武装探偵と言う職業とは?

過去から右肩上がりに増え続ける凶悪犯罪、テロ事件に頭を悩ませた国連がそれらに対抗するべく設立した国際資格だ。

武偵免許を持つ者は武装する事を許可されて、逮捕権も与えられる。 民間の警察官と言うべきか?

そして、武偵は金で動く。武偵法の許容範囲内であればどんなに危険だろうが下らない仕事でもこなす、大雑把に言えば便利屋(・・・)だな。

学園島と呼ばれる人工浮島(メガフロート)の上に建設されているのが東京武偵高校である。

余談だが、隣の風力発電機が設置されている島は空き地島と言うらしい。

 

そして、この東京武偵高校には様々な専門科目の履修を受けれると聞いていた。

例に挙げると、武闘派の強襲科(アサルト)、どこぞのゴルゴの後継者がいそうな狙撃科(スナイプ)、ボンド氏の弟子がいそうな諜報科(レザド)などなど。 挙げて説明すると丸一日かかりそうなので割愛させていただきたい。

 

で、武偵には武偵ランクによる格付けがある。

通常のE〜Aランクとその道を極めた者が与えられるSランク。 そして、「世界レベルの指折で数えられる天才」が到達するRランクとされている。

Rランクの武偵は国家首脳の警護、王族のエスコートなどの国賓クラスの警護を任される事が多い。

そしてRランクの武偵は世界で8人いて、うちの父さんと母さんがその格付けを賜っている武偵だ。

 

そして、その武偵ランク査定試験の模擬戦が今日この廃ビルのフィールドを使って行われると聞き、オレとリサはそこに赴いた訳だ。

 

「広いビルですねー」

「セットにしてはなかなか迫力があるな」

 

目の前にそびえる廃ビルは七階建てで、大きく解放感のある鉄筋コンクリート製のビルの大型模型だ。

おそらく内部は壁を取っ払った広い空間に遮蔽物を適当に配置した物だろう。

 

と、こちらに歩いてくる黒髪のポニーテールの女性が手を振ってる。

 

「よぉーきたな。ウチは今回の試験を担当する事になった蘭豹や」

「これはご丁寧にありがとうございます。僕は天道ハヤト。今日はよろしくお願いします、蘭豹試験官」

 

オレは猫を被りつつ胸に手を当てつつ頭を下げる慇懃無礼の挨拶を帰す……第一印象は大事だからな。

 

「リサ・アヴェ・デュ・アンクです!よろしくお願いします!」

 

リサは元気な挨拶を帰すとシンプルな紺のロングスカートの裾をちょこんと持ち上げてお辞儀する。

 

蘭豹試験官は「なかなかできた奴らやな」とつぶやきながら感心しているようだ……一応オレも貴族なのでね……。

 

「自己紹介はここらでえぇやろ。ほな今回の試験内容を説明するで?……ズバリ、鬼ごっこや。」

 

武偵版の鬼ごっこ……つまり、追跡(チェイサー)か?

 

これは武偵の必須スキルの一つ、抜足、忍び足、尾行(スニーキング)強襲(アサルト)の練度によって格付けが当てはめられる。

 

「銃の使用はあり。ただし、ゴムスタン弾を使ってもらうで……通常の装弾は危険やさかいにな」

 

オレとリサは詳細なルールを聞いて納得した。

試験を受ける者はバトルロワイアル方式で相手の生徒を捕縛する、もしくは気絶させる。

その人数に応じて武偵ランクの評価を下されるそうだ。

ちなみに、オレとリサは幸いな事に同じブロックではなかった。

 

「じゃあリサ。また後で会おう」

「はい!ご主人様!」

 

オレとリサのやり取りを遠巻きから眺めている男子生徒たちが血涙を流しているのが目に付いたが……放っておこう。

 

「おい……」

「はい?なんでしょうか?」

 

オレはいきなり肩を掴まれだが、後ろを見ないで応答した。

 

「貴族だがなんだか知らねぇが、調子こいてんじゃねぇぞ……?」

「ご忠告、謹んで賜っておきます。ですが……」

 

オレは頭を少しだけ後ろに向けると派手な毛色に髪を染めた男が立っていた。

 

「テメェも身の振り方をわきまえろよ……?」

 

そのまま睨み返して啖呵を切っておいた。

この試験、楽しくなりそうだな……

 

 

 

 

オレは現在、三対一で戦いを繰り広げていた。

 

おそらくこの3人組のリーダー格はさっきの派手頭であとは腰巾着。 多分、金で雇ったお付きだろう。

武偵は金で動く、自身の試験より金を選択したのだろう。

 

「なんだ!?こいつの動き……普通じゃねえぞ!?」

「怯んでんじゃねえよ!!近づけるな!撃ちまくれ!」

「クソッタレが!!」

 

まぁ当たるはずもないがな……

 

「お前ら……そんなもんか?そんな大甘で下品な狙い方でオレに銃弾をヒットさせれるとでも思ってんのか?」

 

オレは壁を蹴り宙を舞い、回避しつつ相手の生徒達に問いかけた。

 

「化け物が……!」

 

数撃ちゃ当たるって言葉もあるが、オレには通じないぞ?……と内心で毒吐きつつ……

 

「プレゼントだ。うけとっておけ」

 

飛来する十数発ゴムスタン弾をオレは絶界から引き出した「コルト・ガバメント/ハヤトカスタム」のレセプターを三連バーストに切り替えて弾丸を迎え撃つ。

 

バババムッ!バババムッ!

 

弾頭がゴムなので跳弾が通常は予測できない方に飛んでいく。しかし入射角やぶつかり合う角度を調整してやれば……その弾丸を相手に返すこともできるのだ。

 

「ディフェンス・カートリッジ ギフト」とでも名付けるか?まぁ……贈り物でいいか。

 

「な、何ぃ!?」

「ぎゃあ!?」

「跳ね返しただと!?グギャッ!?」

 

オレの返した弾丸は数発が相手に命中して戦闘不能扱いに。ゴムスタン弾が眉間に当たって気絶する奴もいた。

 

「クソが……ありえねぇ……」

 

捨て台詞なのかそれとも独り言なのかわからないが……ほっとくか。

 

気絶した奴らを絶界から引っ張り出したロープで縛って吊るしタグを奪う。

このタグは倒した相手のタグを奪って自身の得点に還元するのだと説明を受けた。

 

しかし……これ、全員〆たんじゃないのか……オレ?

 

前の武偵ランクはE……やっぱ童貞捨てたら一皮むけるのか?……絶対違うよな!そうだよな!

 

そこらには縛られて吊るされた生徒が多くいる。

 

「……!」

「ほう……大した奴だな。全員縛り上げたのか?」

 

オレは反射的に銃を構える。そこにはどこかのゴルゴ13みたいな雰囲気の男が立っていた。

 

その距離は10m……相手にもよるが一瞬で距離を詰められかねない距離だ。

 

「この距離で気がつくのも高評価だ……俺は試験官。狙撃科(スナイプ)で指導している教務課(マスターズ)の南郷だ」

「なるほど。スナイパー養成の指導をなされていれば、その抜足にも納得ですよ」

 

嘘偽りなく俺は南郷試験官に警戒しつつ相手の力量を図ろうと観察する。

 

鍛え抜かれた肉体に劇画チックな顔は……リューク・東郷を連想させる。

 

「安心しろ。お前が仕掛けてこない限り、俺から仕掛けることはない……このビルに潜んでいる試験官全てを無力化すれば武偵ランクがSランクと扱われるがな」

 

が、無謀に突っ込むのは駄目だろう……相手は徒手もできるはずだ……なめてかかると痛い目にあう可能性大……最悪持っていたタグを全て失う危険性も孕んでいる。

 

しかし……

 

「そうですか……南郷試験官のタグを奪えば……」

「仕掛けてけてくるつもりか?」

「……もちろん!そのつもりです!」

 

オレはコートの中に繋がる絶界からデザートイーグルを引っ張り出しながら流れるように構えてセミオートで撃つ!

 

「む……ん!」

 

南郷試験官はさも当たり前のように抜いたナイフでゴムスタン弾を切り裂いた。

だが、それは想定内だ……オレはデザートイーグルを三連バーストにして連射、残弾全てを彼に撃ち出す。

スライドオープン状態になったデザートイーグルを絶界内に放り込みながら外套の中からオートクレールを引っ張り出した。

 

「……!超偵だと!?」

 

ナイフでゴムスタン弾を捌き、弾きながら南郷試験官の驚愕の声。それと共にオレの聖宝剣とナイフがぶつかり合い火花が散る。

刃を弾き合い、俺は距離を取ると同時に牽制のゴムスタン弾(.45ACP弾仕様)を三連バーストで彼の移動先を予測して弾丸をスライドオープン状態になるまで撃ち尽くし絶界にしまう。

 

回避行動する南郷試験官を追い詰めるべく、空いた左手で絶界からルーン護符(魔力充填してる物)を取り出して颶焔の器の燃焼で着火して試験官に向けて投げる。

 

氷結のルーンは彼の足元に着弾して護符が燃え尽きると同時に着弾地点が氷結状態になった。

 

南郷試験官はとっさに跳び上がり、氷結から逃れる……が彼が逃れた先には新たな護符が仕掛けてある。

 

バチチチチッ!バチバチバチッ!

 

帝雷のルーン護符が起爆してあたりにスパークと閃光が迸る!

 

「ぬおっ!?……ぐぅ……」

 

南郷試験官はさすがに痺れたようで、その場に倒れ伏した……が、俺は警戒を緩めない。

 

聖宝剣を絶界にしまうと、そろりそろりと距離を詰めて彼の体を縛ろうと手を伸ばすと……南郷試験官がカッと目を見開きオレの右腕を掴んだ!?……が……

 

「ぐぉっ!?」

 

再び感電した南郷試験官はそのまま沈黙した。

 

南郷試験官がオレの腕を掴んだ瞬間にコートに刻んでいた帝雷のルーンが起動したのだ。

あの一瞬で彼の体にはスタンガンを食らったような電流が流れたのだ、これで気絶しないほうがいろいろおかしいんだし。

 

しかし……南郷試験官の隙をつくことで倒したが、真正面からの戦闘じゃ手も足も出なかっただろうな……彼の身のこなしから見て本職は狙撃主(スナイパー)だろうし……つか、ゴムスタン弾をナイフで切り裂くのは凄まじいとしか言いようがない。

 

オレは彼のタグを奪い、残りの試験官も捜索することにする……めざすはSランクだ。

 

 

首尾よくオレは教官全員縛り上げた。

支給されたゴムスタン弾の残弾ゼロ、護符も使い尽くしてなんとか縛り上げれた。

手加減してくれたのだろうが……南郷試験官なんか「よく全員捕縛できたな」と言ってきたし……この言い草だと一部の人は本気だったのだろう。

オレはリサと合流しようと待ち合わせ場所に向かうのであった。

 

 

◯sideリサ

 

はい、リサです!

リサは現在、廃ビルの最上階の遮蔽物の裏に隠れて愛用しているブローニングM1918……(以下BAR)の弾倉(マガジン)交換しながら頭を少し出して……すぐに引っ込めます。

バチッ! はい、現在リサは狙撃手(スナイパー)と撃ち合いをしています。

 

遮蔽物の影に隠れながらリサは狙撃手の死角に飛び込んで距離を縮めて行きます。

ジグザグに動き、正確に捉えられないように走り遮蔽物に飛び込みます。

 

「ハッ!」

 

遮蔽物に飛び込みながら弾幕を張って牽制しまして……相手の狙撃を阻害。

リサは肩から転がるように着地しつつ遮蔽物の影に転がり込みます。

しかし、このままではジリ貧ですね……打開策は……!そうでした、リサにはあれがあったのです!

集中して……

 

「……ンゥッ!ワンッ!」

 

リサのヘッドドレスを押しのけかねない勢いでピョコッとリサの頭にはご主人様曰く、ケモ耳(だったでしょうか?)が生えてきます。

このケモ耳は狼の耳ですので聴力に優れているのです!

ピコピコと耳を傾けて首を傾げて、相手の位置を探ります。

ムムムどうやらポイントを移動してしまったみたいですね。

ならリサも移動して、接近戦に持ち込みます!

BARを背中に背負い、スリングを締めて。むぅ、胸が支えてしまいますが気にしてられません。

 

遮蔽物を楽々と飛び越えて、リサは音のする方へ疾駆します。

遮蔽物の影から覗く銃口、相手の狙撃手は引き金に指をかけています!

リサに狙いを定めて引き金を絞るしかしです!

 

「ぐぅるぉうっ!」

 

放たれた弾丸はリサの眉間に一直線!

でも直前に、リサは疾走しながら遮蔽物を蹴り跳躍して弾丸を回避!

一気に相手との距離を詰めさせてもらいます!

宙でくるくると縦回転しながら、相手の頭上に落ちながら……その脳天めがけて両脚でカカト落としを繰り出しました。

 

これってサマーソルトって技でしたっけ?

 

ガッ!

 

当たる寸前に相手はM700のストック部分を縦にして凌ごうとされましたが……甘いです!

ストック部分を蹴ってさらに跳躍しながらBARのスリングを緩めて腰だめに構えます。右手で腰のホルスターからコルト・ガバメントを引き抜いて

 

「チェックメイド!……なんちゃって」

 

リサの一斉射撃が相手の生徒に降り注いで

 

「きゃっ!?」

 

小さな悲鳴と共に相手の狙撃手は過剰な弾数……36+8発のゴムスタン弾を全身で受け止められたために気絶されました。

 

……ふぅ、リサはケモ耳をもう一度ピコピコさせて安全を確認して……相手の狙撃手を捕縛用ロープで縛らせてもらい、タグを頂きます。

 

これで捕縛完了ですね。

 

耳を元に戻して索敵……「サーチ&ですとろい」でしたっけ?ご主人様、リサに言葉を教えてくれるのはいいのですが、物騒な言葉を本当によく教えてくださりますね。

ご主人様ご本人がこの場にいらっしゃらないため愚痴の言いようがないのですが。

ガバメントの弾倉交換(マグチェンジ)しながら、リサは階段を降りて辺りを警戒。BARのスリングを締めてガバメントを構えます。

 

背後、左右、正面の順で警戒しつつ、室内にある遮蔽物に隠れながら索敵を繰り返します。

倒した相手のタグは頂けないルールだったのでリサの持つタグはあの狙撃手(スナイパー)物しか持ってません。

袖をめくって手首のご主人様からもらった白金のバングルモデルな腕時計(ブルガリでしか?)の文字盤を確認すると、残り時間は20分ですかね。

 

狙撃手(スナイパー)に手こずって時間を掛け過ぎましたかね? リサもメイドとしてまだまだ未熟だということなのでしょうか。 お師匠様のような「M E I D O」への道はまだまだ険しそうです。

 

時間が勿体無いので、索敵を継続します。 むむ!

抜いていたガバメントを構えなおしアイアンサイトの先に男子生徒2名を確認しました!

 

「へぇー……メイド服見たいな防弾制服か……君、転校生かなんか?」

「めっちゃ美人だな!」

 

じろじろとこっちを見てくる男子生徒2名に私はガバメントを挨拶よろしく発砲します!

 

ダァンッ!

 

……あ……ゴムスタン弾じゃなくて実弾間違えて込めちゃいました。

 

「うぉ!?」

 

「ぬわッ!?」

 

……反射的に銃弾を避ける男子生徒2名……

 

「す、すいません!」

 

すぐにスライドオープンにして薬室(チェンバー)から実包を弾き出して、弾倉交換(マグチェンジ)

 

「……流石に焦ったよ!?」

「そうだった……これ実戦形式の試験だったよね!ナンパしてる暇じゃないってな!」

 

相手のお二方は、慌てながら胸元から拳銃を抜いてます。

その隙にリサはスリングを緩めてBARを構えます。ガバメントはホルスターに収納しました。

 

「BARだと!?」

「モダン・アンティーク自動小銃!?」

 

よくわからないことを仰られていますが、構わず引き金を絞り10連射して走りながら弾幕を張り、右の男性と距離を詰めます。

 

「アバババアァァ!?」

「兄貴ーッ!?グフォボァラ!?」

 

隣の男性が気を取られている隙にBARを横薙ぎに振り回して横腹を勢いよく銃身でぶん殴ります!

 

吹っ飛ばされた男子生徒と銃撃をモロに受けた男子を縛って二つのタグを頂こうと手を伸ばすと……複数の殺気!?

慌ててバックステップでその場がら飛びのいて距離を取り、そのままBARで射撃しつつ全弾撃ち尽くしながら後退。

さっきまでリサのいた場所にはいくつもの着弾の痕跡がありました……弾頭はゴムなのであらぬ方向に跳弾していったのか見当たりません。

遮蔽物に隠れてスグに弾倉交換(マグチェンジ)してリサは物影から様子を伺います。

 

厄介な……足音の数は3、4人でしょうか……?

 

「なかなか勘が良いみたいねぇ」

 

リサは、エプロンスカートのポケットからコンパクトを出し、物影からゆっくりと出して状況を確認すると……相手の生徒の数は3人……全員女子生徒ですね。

 

「出ておいでよー。 時間ないよー? こいつらのタグもらっちゃうぞー?」

 

……明らかに誘ってますね。 リサの隙ができるのを見計らって仕掛けてきたようですし。

再びエプロンスカートのポケットからご主人様に頂いたルーン護符を出したリサは同時に出した「魔石ライター」でルーン護符に着火します。

ルーン護符は魔力充填されていれば魔術使いでなくとも、魔石ライターで火をつけることで効果を発揮させることが可能なのです!

リサはタイミングを計り、遮蔽物から飛び出して……ルーン護符を床に叩きつけて起動させます!

 

燃え尽きた護符から効果が発揮されて……高さ200cm、幅150cm、厚さ30mmの氷壁がリサの目の前に生成されました。

そこに飛んでくるゴムスタン弾は全て弾かれて、跳弾。厚さ30mmの氷の壁をゴムスタン弾で抜くことができるわけもありません。

しかし、この氷壁は効力が20秒。その効力が切れた直後にリサは飛び出して右手で抜いたガバメントをぶっ放しながら牽制、一人の手を撃ち拳銃を弾き飛ばすと……BARを振り回すように腰だめに構えて引き金を絞り、近距離で弾幕を張ります。

 

「ンゥッ!」

 

リサは腰を落として息を止めてBAR、その全自動射撃(フル・オート)反動(リコイル)に耐えます。

 

1人の腹部に、1人の腕にゴムスタン弾が直撃。痛みに悶えるその人たちを無視して弾幕をくぐり抜けできた人の左手に抜かれていたナイフを右手のガバメントで弾き飛ばして回れ右しながら彼女の横腹に薙いだBARの銃身を叩き込み、吹き飛ばします。

そしてそのまま背後から迫っていた伏兵(もう1人)の鼻先に銃口を突きつけ寸止めです。

 

「よろしければ、貴女のタグ。 いただけませんか?」

 

「は、はイィ」

 

顔面蒼白でその場にへたり込む女子生徒からタグを受け取り、倒した生徒さんのタグをいただいた後に彼ら彼女らの手当てをして捕縛させてもらいました。

そして、試験終了のブザーが鳴り……後にリサはAランクの武偵にめでたく登録されました!良かったのです!

 

 

 

 

……しかし、ご主人様はSランク武偵になっていました……ってええ!?ビルに潜んでいた試験官全員を倒した!?

何でしょうか、この激しく追い抜かれた気分は……ええい!それならリサもいつかSランク武偵になってみせますとも!

 

そして、リサは衛生科(メディカ) 武偵ランクAに。

ご主人様は強襲科(アサルト) 武偵ランクSの成績で編入が決まりました……この先、リサはSランクを目指して……ご主人様の……天道・ハートネット・ハヤト様の相棒となれるよう、リサは尽力してまいります!

 

「では、お久方ぶりに……リサにお情けをくださいまし、ご主人様!」

「あ、いや……待ってくれリ……アーッ!?」

 

(続く)




リサの戦闘も圧倒的な物に書けたかな?
ではこの辺で失礼します!


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2弾 新学期……幼馴染はアリア

アリアとちょこっとだけ原作主人公の登場……キンジ、強く生きろよ(違


春の陽気はまだ少し遠い4月1日、オレとリサは一週間

泊まっていた都内の某高級ホテルのチェックアウトを済ませてから東京武偵高校に向っていた。

 

「今日から登校ですね、ご主人様!」

 

「ああ、そうだな。俺たちのクラスは2年A組だったか?」

 

「そうですね、えっと……はい。その通りです」

 

リサは立ち止まり、「ある物」が仕込まれている防弾トランクからA4サイズのプリントを取り出すと確認してくれる。

 

プリントをしまい、防弾トランクを片手に持つリサの横顔を眺めて視線をずらして彼女が片手に持つ日傘に目を向ける。

 

日を避けるようにリサがさしている彼女の師匠からの餞別だと言う武装日傘……フレームがフランスで生み出されたイナーシャ式の半自動(セミオート)ショットガンの「フランキ・スパス12」を改造した物なのは気のせい……じゃないよなコレ。

 

紫外線カットの布地はツイスト・ナノ・ゲブラー(以下TNK)で編まれているし、それが三層になっているので防弾性も推して知るべしだ。

 

リサと模擬戦する時も彼女はこの武装日傘を好んで使っていた……攻防一体の武器なので相手取ると実に厄介だった。

 

リサは軽々とそれを片手で持ち上げてるがそれ、軽く4kg超えてるはずなんだがな……まぁ出逢ってからもう「リサだから」にも慣れてきたし気にはしてない。

 

……が、周囲の視線が痛いな。

 

オレの服装は武偵高の防弾制服に防弾ブレザー。その上に臙脂色のアルスターコートを着ている……ちなみに、このコートは重量がかなりあってな……大体8kgはある。

 

まぁ、リサの格好も目を惹く理由だろう。

 

TNKの布地で作られた防弾制服を彼女なりにメイドっぽく改造しているからな……ヴィクトリアン調のメイド服を好むリサらしく、スカートはロングスカートだ。

 

制服の上に装備している腰のベルトにはノーカスタムのガバメントが収められたホルスターとベルト固定されたポーチには予備弾倉(スペア・マガジン)がしまわれている。

 

その背中にはスリングて吊るしたブローニングM1918(以下BAR)を持っていて布で隠してはあるが、長物の特徴は隠せていないな。

スリングを締めてるためにその……なんだ……リサの大きな胸が乳袋みたく盛り上がっている。

それを食い入るように見ている側道の男どもに鉛玉をくれてやりたくなる衝動を抑えながら……俺たちは武偵高に辿り着いた。

 

門をくぐり、周囲の視線に不快感を感じながら俺は教務課(マスターズ)に向かった。

そんなに珍しいか……朱金髪の長髪男子て?

 

 

 

 

教務課で武偵徽章を受け取り、始業式に出席するために体育館に向かう。

 

道中、リサは充てられたロッカーに武装日傘と防弾トランクをロッカーに入れて体育館に向かった。

 

そして、無個性な……特徴の掴めない校長のありがたいのかどうでも良いのかもわからない話を聞いて始業式が、終わる。

 

オレとリサは他の生徒とは別のルートで教室に向かう。

 

担任の高天原ゆかり先生がサプライズ形式で紹介したいようだ。

 

で、オレとリサの隣には……あいつ(・・・)がいた。

 

「あ、あんた……もしかしなくても……ハヤトじゃない!?あんたごときが生きてたの!?」

 

大体5年ぶりに会うだろうか、目の前の「小学生(ちびっ子)みたいな高校生」は……うちと同じ「H」のイニシャルを持つ、うちよりも高名な貴族の出身でイギリスで名を知らぬ者はいない鬼武偵でオレの「一応」幼馴染の……神崎・H・アリアだった。

 

「なんだ、お前もちゃんと生きてたんだな。まぁ、そのなりなら大抵の銃弾や刃物ならしゃがむだけで避けれるだろうな……ってうお!?」

 

ガキィンッ!

 

オレの皮肉に反応してアリアは背中から抜いた小太刀二刀流で俺に切りかかってきたのだが、タダでは斬られまいとコートの裏からオートクレール……ではなく、ただの剣を二本引っ張して切り結ぶ。

 

「うそっ!」

 

切りかかってきたアリアは勝手に驚いている。

そりゃ、ロンドン武偵高にいた頃のオレだったらこの切り込みに対応できず防弾制服の上から肝臓付近をぶん殴られて悶え、こいつの足元で転げ回っていたことだろう。

 

「相変わらず短気だな、アリアは……」

 

「……」

 

アリアは我に帰るが、刀は納めない。

それに何かを企むように考える仕草までしている……マズイぞ……この表情のアリアは大概、面倒なことを考えているそんな表情だ……ッ!

 

この妙な間の中でリサは若干臨戦態勢。担任の高天原先生は顔面蒼白でおろおろしている……高天原先生って、切ったが張ったが日常らしいこの武偵高では珍しいタイプの気が弱い女性か……なんでこの学校の教師やってんだ?

 

「あ、あのぅ……」

 

涙目の先生のつぶやきにオレはため息を吐き、自分から剣を納める。

アリアはふふんっという感じでのドヤ顔しながら小太刀を納めていた……お前いったい何やったんだよ。

 

ジト目で睨んでいるとアリアと目があったので……

 

『……ふんッ!』

 

お互い、同じようなタイミングでそっぽを向く。

 

高天原先生はやはりと言うか何というか……おろおろしていた……「血塗れゆとり(ブラッディー・ゆとり)」……今や面影なしっとな。

 

 

 

 

転校してきたと言うことでアリア、オレとリサの順番で自己紹介した後。

 

二人の美少女に男子達が沸いて、オレには女子達が沸いた……思わず「颶焔の器」の真空防壁を生み出して黄色い悲鳴をシャットアウトした位の声量で……鼓膜にはやさしくない物だった……で……

 

「先生。あたし、あいつの隣がいい」

 

ズルリと、席から落ちる冴えない黒髪男子を指差しながらアリアはいきなりそう告げる。

とりあえず、あの生徒には同情しておこう。

 

「ハヤト、あんたはあたしの隣に座りなさい!」

 

……何でだよと言うわけにもいかんので……

 

「無茶言うな。先に座ってた子たちはどうなる」

 

と言うオレの抗議にアリアは形のいい眉をギギンッと釣り上げながら「ハヤトのくせに生意気だ!」と言い出した。

 

……生意気はどっちだよと言おうとしたら、拳銃……ガバメントに手をかけそうになるアリアに頭を抑えながら……

 

「わかった、好きにしろ」

 

オレは他の生徒の被害が出ないうちに素直に折れておこうと思う。

全く。H家の人々はどこか子供っぽく、子供みたいにプライドが高い……マジに勘弁してほしいぞ。

 

しかも、こいつ……まだあの問題(・・・・)を解決してないかもな……

 

「キンジ、これ。さっきのベルト」

 

アリアはつかつかと歩いていき、持っていたベルトを男子生徒に投げる。

 

それを見た金髪のアリアにも負けない位のちびっ子が席を立ち、騒ぎ出すのを尻目にオレはリサに声をかける。

 

「リサ、すまんがオレの幼馴染殿のワガママに付き合うことにするが、問題ないな?」

「はい!リサはわかっています……ご主人様ですから!」

「ば、バカ!?声がでかい!」

 

……あ。

 

顔を紅潮させてのそのセリフはマジでやめてください、リサさん。 恐る恐る振り返ると教室はシーンとなっていた。

 

「ご、ご主人様?」

 

青い顔でキンジと言う男子生徒の隣に座っていたガタイのいいツンツン頭が呟いた。

 

「はい!ハヤト様はリサのご主人様なのです!」

 

教室はさらに静まる。 一部の男子は血涙を流してオレを睨んでいた。 何故だ?

 

「あー、何でしょう。 ミドルネーム教えとくべきですかね。 オレはハートネット家出身です。取り敢えずよろしくお願いしますね」

 

さらに沈黙――な、何故だ!?

 

「ハートネット家? それって、黒猫(シャ・ノワール)二つ名(ダブルネーム)を持つ三代目トレイン・ハートネットの!?」

 

「は、はい」

 

こうなるから言いたくはなかったのだ。 おれにはまともな友達はいない。家柄を明かすとみんなが遠巻きにオレに羨望間を持って接してくる。

でもオレには両親のようなカリスマや、才覚はない。だからみんなオレに幻滅して。

 

「ご主人様……」

「ッ!」

 

いつの間にかリサがオレに抱きついてきていた。

リサの鼓動を感じる。 そうだ、もうあの頃のオレじゃないハートネットの名を持つことを誇れるくらいに己を鍛え上げた!

 

「もう一度言う。オレは天道・ハートネット・ハヤト! 貴族だろうが平民だろうがオレはオレだ。 少しみんなと価値観がずれるかもしれないが気兼ねなく任務(クエスト)に、遊びに誘ってくれ!」

 

オレはそれだけをみんなに伝えた。

そんな俺がテンパってるのをよそに ずぎゅぎゅんッ! と銃声が聞こえた。 その発生源は、アリアだった。

教室の空気が凍る。

 

「恋愛なんて……くっだらない!」

 

キンキンキキーン……静かな教室に床に落ちる空薬莢の音がいやに響く。

アリアの撃った銃弾が命中した場所には.45ACP弾の弾痕が刻まれていた。 子供みたいなアリアの弱点……こいつにその手の話はご法度だ。

オレもからかい半分で恋話をしたらメヌエットの前で撃たれた記憶が新しい……今でも思い出せるがな。

 

「全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言う奴には……風穴あげるわよ!」

 

……これがアリアの武偵高デビューのセリフだったと言うのは……笑い話ではない。

 

 

アリアがコルト・ガバメントによる二挺拳銃で弾丸を全自動射撃(フルオート)で放つ……が、俺はその弾丸16発をS&W .44マグナムの連鎖撃ち(チェイン)で6発全弾であらぬ方向に弾き飛ばす。

銃は小手調と言わんばかりにアリアはガバメント二挺拳銃をホルスターに収納しながら背中から小太刀二刀を引っ張り出す。

俺はコートの内の絶界に.44マグナムを放り込みながら手を突っ込んで二本の柄を掴むとそれを引きずり出して……

 

「ふ……んッ!」

「えいやっ!!」

 

ギギギギィンッ! 強襲科(アサルト)の体育館内部にある訓練場内で剣戟が奏でる不愉快な響き……観客(オーディエンス)の前に剣閃の閃きがライトの光を反射して場を静寂に包む。

オレの聖宝剣(オート・クレール)装飾剣(クライスト)のでの二刀流(トゥー・ソード)を振るい、アリアの小太刀二刀流で斬り合っている。

オレは現在、ピンクのちびっ子……アリアと模擬戦の真っ最中である。

 

模擬戦のルールは簡単。相手をぶちのめした方が勝ち……だ。

 

なぜこうなった……とオレはアリアの小太刀を上体反らし(スウェイ)で躱しながら小一時間ほど前のやり取りを思い出していた。

 

 

 

 

遡ること一時間ほど前の昼時。

 

オレはリサの作って持参してくれていた弁当をリサが仲良くなった幾人かの女子生徒と共に食べていた。

オレは基本的に女性の相手をする時は聞きに徹して、意見を言うタイミングを計る流儀(スタイル)で話をする。

 

「で、ハヤトくんってリサちゃんと付き合ってるの!?」

 

……いきなり追及されるとは予想外だったが、オレは冷静にそれを否定する。

 

「付き合ってる……と言われても困りますね……僕はまだ未成年。まだ(・・)彼女と結婚することはできないですからね」

「リサはご主人様に奉仕できるだけで幸せなのです!」

 

……話を振ってきた鷹根さんは「メイドと主人の危ない関係なのね!」と一方的な決めつけて熱く語っている。

その様子をオレは微苦笑で流すことしかできなかった……が、さすがに否定すべきところは否定した。

 

そんなやり取りをしつつ、弁当を突いていると……ピシャリッと引き戸が開けられてズカズカとこちらに向かってくる足音が聞こえたので振り返るとそこには幼馴染殿が仁王立ちでこっちを睨んでいた。

 

「あんた、自分のメイドに加えて女の子3人もはべらして……どう言うつもりよ!」

 

一応アリアも誘ってやろうと思っていたが、こいつ……昼休みが始まってすぐに教室から飛び出して行ってしまった。そのため誘うことができなかったのだが……

 

「アリア、侍らすというのはさすがに誤解だと思うが?」

 

オレはあくまでも冷静にアリアに対応する。が、しかし幼馴染殿は納得がいかないようで地団駄を踏む。

 

リサに鷹根さん、早川さんと安根崎さんの相手を任せて……リサに仕込んでおいた女子の好きそうな話題で釣ってもらう。

 

「なんですって!?」

「確かにオレにはリサがいる。でもこの3人と食事をするのは(はべ)らしているということなのか?彼女たちがオレとリサを誘ってくれたんだぞ?」

 

オレはやましいことがないので真っ正面からアリアに食らいつく。もしも、やましい考えをしているなら真正面からアリアに答えられるはずもない。

 

「まぁ座れよアリア」

「ふんッ!」

 

隣の席から椅子を拝借して、アリアの席を作る。

アリアはそっぽを向きながらも自分の席から弁当を持ってくると、すぐに食べ始めて弁当の容器を空にしてしまう……つかアリア。弁当箱ちっさくねぇか?

どうせまだ足りないだろう……おまえ結構大食いなのに。

……そう思い、オレはコートの裏から絶界を通してあるものを取り出してずいっと、アリアに差し出す。

 

「こ、これ……ももまん?」

「お前、これ好きだっただろ?」

 

オレが絶界から取り出したのはアリアが好きな食べ物のももまんである。

子供の頃「H」家の人と共に行った旅行先の高級飯店で食べ飲茶に出ていたももまんをアリアは好んで食べていたのを思い出して、登校途中のコンビニで見つけたももまんを見て食べたくなり、買っておいたものだ。

 

……まさかこいつこんなに早く、しかも日本で会うとは思ってもみなかったからなぁ……。

アリアはオレの手からももまんを奪うようにぶん取るとはむはむとももまんを頰張る。

 

「もうちょいゆっくり食えよ……」

 

オレは呆れたが、アリアは構うことなくあっという間に自分の拳よりも大きなももまんを平らげていた。

 

「ハヤトにしては気が効くわね……ぁりがとぅ……」

 

もじもじしながら皮肉と小さな声で礼を言うアリア……もうちょい大きな声で言えよとは言はない。

こいつは俺に対してはいつもこんな態度だからな……なれたんだよ。

口元についていた餡子に苦笑いしながらオレは出したハンカチで拭ってやると、アリアはいつもの赤面壁を発揮させて真っ赤になる。

 

「で、アリア。オレに何か用があったのか?」

 

オレはアリアに用件を聞くと、少し間をおいて我に返って落ち着いたアリアが語り出した。

 

「……あんた、「武偵殺し」の案件知ってるでしょ?」

「ああ。オレが行方不明になった事件だな」

 

その事件についてはオレも知っている……カナさんとオレが伊・Uに拉致られたあの事件だ。

 

話を聞くと、どうやらアリアは被害者であるオレに話を聞きに来たそうだ。

オレはアリアに口の動きを見ろと瞬き信号(ウィンキング)で伝えると……

 

「すまんが、オレは幽閉されてた。その組織について知ることはない……(アリア……もし、伊・Uについて調べてるならすぐに手を引け)」

 

オレは日本語で喋りつつ、口は英語で動かしてアリアに読取らせる。

危ない橋を渡ろうとする幼馴染を止めるつもりだったのだが……これはオレの中での一つの賭けだ。

ここで思い止まるならオレの勝ち……突き進むなら……アリアの覚悟を見極めることにしたのだ。

まぁ、多少手荒い(・・・・・)方法になるだろうけどな……。

 

「あんた……もしかして知ってんの……?」

「オレは何も知らない(知りたいなら、オレと模擬戦しろ)」

 

腹話術を使えばこんな風に話すことができるんだよな……

 

そして、昼過ぎの今から放課後までの強襲科(アサルト)の履修を活用して闘技場(コロッセオ)を借りたオレとアリアが一騎打ちに臨んでいる……というわけだ。

 

 

 

小太刀を構えて超人的な瞬発力でアリアは俺の懐に入り込んで来る。

それを迎え撃つようにオレの剣が振り下ろされて小太刀に滑らせる様に受け流されるが、そのまま一回転した俺の右手の剣がアリアに迫る。

 

「どうした?……踏み込みが甘いぞ!」

「ッ!?」

 

ガギィンッ!!

 

オレはアリアの小太刀をすべて捌き、はじき返していた。

アリアと彼女の制服は土まみれの泥だらけだった。

一方的に攻め立てるオレ。 楽しいか? んなわけねぇだろうが!!

 

力量の差が開きすぎて相手にならないのだ、Sランク武偵のアリアでも、俺には及ばない。

武器の質量(ウェイト)の差も全てがオレにアドバンテージがある。

 

「その程度で伊・Uに刃向かうのか?挑戦しようってのか?……舐めてんじゃねぇぞ……アリアッ!!」

「しまっ……キャアァッ!」

 

オレは切りかかってきたアリアの小太刀ひとつを弾き飛ばし、宙で身動きの取れない彼女を蹴り飛ばした。

完膚なきまでに叩き潰して、その自信をへし折ることにしたのだが。 正直言って、胸クソ悪いものである。

だが、この程度で伊・Uに立ち向かうのは死に急ぐようなものだ。

加減したくもなるが、ここは心を鬼にしてアリアに問いかけた。

 

「アリア、おまえは弱いよ。 おまえ自身が思ってる以上に、な? だから諦めて現実を見ろ。 それにおまえ、その様子じゃあまだパートナーを見つけてないな?」

 

アリアはビクリッとその言葉に反応した。

 

「諦めろ、ですって?」

 

「そうだ、諦めろ」

 

オレはあくまでも冷静にアリアに言う。

 

「諦めるなんて、無理よ!!」

 

アリアは自身を叱咤するように震える足で小太刀を支えにしながらも立ち上がる。

何がアリアをここまで突き動かすんだ。 いったい、何が……

 

「あたしがここで諦めたら、ママを助けることができないのよ!!だから、だから――諦められるわけないでしょ!?」

 

なん、だと?

 

「どう言う意味だ、アリア?」

「ママは、奴らの。 伊・Uに着せられた冤罪(・・)で懲役864年の判決が決まりそうなのよ! あたしにはもう……時間がないの!!」

 

あの人が、かなえさんが「武偵殺し」の冤罪(・・)で懲役の判決を言い渡しされただと?

 

「本当なのか、それは……?」

 

俺の声色から棘が抜ける

 

「……ええ。嘘じゃないわ」

 

オレは剣を絶界に納めて、アリアに向き直る。

 

「わかった、アリア。お前の推理では「伊・U」が真犯人だと言うんだな?」

「……そうよ、あいつらがママを」

 

アリアはギリギリと歯ぎしりして、血が滲むほどに拳を握り締めて悔しさと怒りをあらわにしている。

評価が甘いかもしれないが、オレの猛攻に耐え抜いたこのタフさを評価してアリアにこう告げる。

 

「仕方ないな。 約束通り、お前に話せることは全部話すよ。 あと、パートナー探しも手伝ってやる」

「え!?」

 

我ながら酷い手のひら返しだ……しかし、偽善と言われても良い。オレはアリアに手を貸すことにした……手荒い方法で見極めようとして蹴ってしまった罪滅ぼしだしな。

 

「パートナー探しって、あんたがパートナーになってくれたらいいじゃない! ハヤト、あんたSランクの武偵なんでしょ!?」

 

やっぱりそう考えていたのか……

 

「そりゃ俺がお前を手伝えばすぐに終わるかもしれん。 だがな、先に目をつけた奴に失礼だと思わないのか?」

 

「……あ、あんな強猥男……あんなケダモノ!!」

 

あのキンジって奴、アリアに何したんだ?

……まぁ気が向いたら話しかけてみるか。

 

「とりあえず、今すぐにオレと組むのは無しだぞ?それは最終手段としておけ」

 

オレはアリアを甘やかせるわけにもいかないので彼女の提案を一蹴した。

そして、アリアに「加減してたとは言え、蹴飛ばして悪かった」と謝罪してから別れて帰路を迎える。

リサは一足先に充てられた寮室に帰らせておいたので問題はない。

オレは蘭貓先生から指示された武偵高強襲科(アサルト)の寮を目指したのだった。

 

 

 

 

で、どうしてこうなった? オレは今充てられたはずの寮室に来た。

しかし……開かれたドアの向こうは真っ暗の煤まみれで壁には爆破痕と弾痕があり、ドアには黄色い立ち入り禁止のテープが貼られている。

 

……荷物を先に送ってなくてよかった。

 

どうやら俺がこの部屋に来る前、この寮室のルームメイト達が大ゲンカして手榴弾の投げ合いやら銃の撃ち合いになって……ボヤ騒ぎどころか部屋そのものが機能しなくなったようだ……シャレにならんぞこれは……

 

一応、抗議の電話を蘭豹先生にしたが、彼女は別の部屋に行けと指示を出してガチャンッ!バキッと最後に聞こえて……乱暴に電話を切っていた。電話の受話器に手を合わせつつオレは仕方なく指示された探偵科(インケスタ)の寮に向かう。

そして、その部屋には……アリアを強猥しようとした物好きがいるとは知らずにオレは辿り着いた部屋のチャイムを鳴らすのであった……

 

「俺はロリコンじゃねぇ!!」

 

(続く)




はい、どうも。

アリアさんと主人公のハヤトは……と言うわけで幼馴染です。
メヌエットさんに関しては……「いつか出したいなぁ」と思っております。

ちなみにアリアのガバメントはアニメ版と同じです。
では次の話でお会いしましょう


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3弾 自己紹介とロリコンと……「ロリコンじゃな(ry」

キンジ登場です……そして、メイドさんはいい!


武偵高の教務科(マスターズ)にもどり、ルームキーを交換してもらって今度こそ帰路に着く……一応帰路だ……多分。

武偵高に戻ったついでに「遠山キンジ」についてを強襲科(アサルト)の生徒に聞いてみたところ……「あいつは凄いやつだった」「どこか普通じゃない奴だった」……などなどと皆が口を揃えて言うのはかなり「デキる」生徒だったと言う。

 

高校入試ではSランクの成績で入学してから高1の冬に探偵科(インケスタ)に転科してからは著しくランクを下げて今はEランクになっているらしい。

……話を聞いて思ったが、普通に裏があるだろ……遠山キンジには。

まぁ……あの「双剣双銃(カドラ)のアリア」から一度逃げ切ったとも聞いたので「それなりの実力」ではなく「それほどの実力」はあるはずだ。

オレは来た道を走りながらリサに『別の部屋に変わった〜』とメールを送っておく。

 

颶焔の器の「焔……強化」で身体を強化してさらに「颶……風壁」で向かい風を遮断して常にトップスピードで歩道を疾駆。

信号待ちが嫌なのでビルの壁を蹴って跳躍。

街路樹の頂上を蹴って電柱の上に登ると、電線を伝って空を蹴るように次の電柱に移動していく。

そうして、オレは指示された探偵科(インケスタ)の寮の部屋にやって来た。

ここに来るまでかかった時間は5分もかからなかったのでついた頃はまだ夕日が落ちる前だった。

そして、インターホンを鳴らす。

 

ピンポーン

 

間をあけて待つが誰も出てこない、のでもう一度鳴らすかと思っていると中から足音が聞こえてきた。

 

「誰だよ?」

 

……

 

「あのー?なんかようですか?」

「あ、いや。 すまない」

 

戸を開けて出てきたのは、遠山キンジその人だった。

 

 

 

 

オレは遠山に事情を説明して部屋に上げてもらった……同情の気遣いには感謝しようと思う。

 

「すまないな、いきなり押しかけてしまって」

「いや、あんたには同情しておくよ……死ね死ね団(アサルト)の……奴らの気の短さは相変わらずか」

「まさか充てられた部屋が煤だらけの爆破痕、弾痕でボロボロ……部屋として機能していない部屋に当たるとは思ってもみなかったよ」

 

オレは苦笑しつつ出されたインスタントのコーヒーをすする。

 

「なんだこれ?」

 

飲んだ事のないコーヒーの味に思わず首をかしげてしまった。

 

「……どうした?」

「これはなんてコーヒーなんだ?」

「いや、ただのインスタントコーヒーだが……飲んだことないのか?」

 

……なんだかよくわからない味なんだがコーヒーを闇鍋みたいにしたカオスな味だ。

 

「いや、何分慣れてなくてな……これがインスタントコーヒーか」

 

オレは一人成る程と納得する。 いい加減、普通の味にもなれないとな

 

「しかし、君が今日の爆弾騒ぎの被害者だったとは……」

「まぁ、な……強襲科(アサルト)のドンパチ、撃ちあいに慣れっちまったからな……この程度の騒ぎはもう慣れっこだ」

 

遠山って苦労人だな、ホントに。

それと、アリアのことも聞いてみるか?

 

「それに、アリアにも目をつけられて困ってるとか?」

「……まぁ、な……」

「災難だったな、ロリコン扱いもされて」

「俺はロリコンじゃねぇぞ!?」

 

遠い目するくらい憂鬱なのか、と思ったらツッコミが帰ってきたいい反応だ。

 

「そう言えば、遠山。 お前、兄弟いるのか?」

「なんでそんなこと聞くんだ?」

 

遠山の空気が変わったな。 やっぱり何かあったか?

 

「実はあの冬。 オレは遠山金一武偵に助けられたからな」

「兄さんを知ってるのか!?」

「まぁな。アンリベール号に乗ってたんだよ。乗客として」

 

オレは遠山にあの日のことを……伊・Uのことは伝えないように気をつけながら一応、俺の知る情報を与えておく。

 

「だから、カナさん……いや、金一さんは生きてるよ」

「そうか……兄さんは生きてるのか……」

「会いに来れない事情でもあるのかもな……あの日以来、彼には会ってないから詳しいことはわからないがな」

 

オレはぼかすように話を切る。これ以上遠山をこっち側に引き込むわけにもいけない。

この国で伊・Uを知ってるやつは「抹消される」からな。 アリアのパートナー候補をうっかり消すわけにもいかん。

 

そろそろリサが着くはずだが、買い出しを頼んだからやっぱり時間がかかるのか。

 

ピンポーン

 

「遠山、誰か来たぞ?」

「……居留守を使う。 何か安心したらどっと疲れた」

 

ピンポンピンポーン

 

しかし、遠山の自転車に爆弾を仕掛けたのは一体誰なんだろうな。

 

ピポピポピポピポピピピピピピンポーン!ピポピポピンポーン!

 

インターホンの爆押しに耐えかねた遠山が

 

「あーもう、うっせぇな!」

 

重い足取りで立ち上がり、ドアに向かって歩いて行った。

そこで止まってドアの向こうの誰かとやりとりしているが……誰なんだ?

 

「まて、勝手に入るな!」

 

叫ぶ遠山……その手が掴もうとしたのはアリアだった。

 

「トランクを中に運んどきなさい!ねぇ、トイレどこ?」

「トイレはそこだ」

 

とオレが言うとアリアが「ありがと」と言ってトイレに入っていった。

そして、トイレから出てきたアリアは……

 

「って、ハヤト!?なんでここにいんのよ?」

「充てられるはずの部屋に問題があってな」

 

俺が事情を説明するとアリアは同情にも似た視線でオレを一瞥する。

 

「なるほどね。あと、キンジ。あたしのことはアリアでいいわ」

 

アリアはリビングで寛ぐオレを尻目に部屋を見渡す。

 

遠山はトランプ柄のトランクを玄関に引きずり込んでいた……何が入ってんだよ、アレ。

 

「あんた、一人部屋なの?」

「話聞いてたのか?」

 

俺のツッコミはスルーでアリアは「まぁいいわ」と言う。 どこがまぁいいんだよ、アリアさん?

夕日の差し込むリビングを背にアリアがキンジに振り返ると長いツインテールがアリアを追うように動いて夕日を反射。

煌めくように輝き、そしてキンジにとんでもないことを言い出した。

 

「―――キンジ。 あんた、あたしのドレイになりなさい!」

「本気で言ってんのか、アリア?」

 

思わず一言。

 

「当たり前でしょ!」

 

アリアの言葉を一言で言えば……ありえん。

そりゃ冗談で言っているのであればお笑い事で済ませることはできるぞ?

しかし「パートナー」ならまだしも、ドレイときましたか……

 

「ほら!さっさと飲み物くらい出しなさいよ!無礼なやつね!」

 

……いかん、アリアのご機嫌メーターが不機嫌に偏って行っている。

 

ピンポーン

 

また誰か来た

と言うのは冗談で、いいタイミングに来てくれた。

 

「えっと、ちょっと待てアリア。うちのメイドに用意させるから……いつものエスプレッソ・ルンゴ・ドッピオだろ?」

「……砂糖はカンナよ!」

 

オレのメイドさんの出番だな。

 

 

 

 

キンジが意外とすんなりリサを入れてくれたのは嬉しい誤算だった。

つか、メイドって存在を生で見たことがないとか……

ちなみに、アリアご所望のコーヒーは……

オレの絶界内の在庫がもうなくなると思っていた高級豆を泣く泣く、全部持っていかれました……キビ糖も在庫切れだよちくしょう!

まぁ、俺も最後の一杯は飲めたからよしとするが。

 

で、やっぱりリサは恐ろしいほどに有能だった。

 

アリアのわがままにも笑顔で応えてるし……本当にメイドさんの鑑だよまったく。

 

で、オレは現在……リサと一緒に夕飯の支度をしている最中だ。

キンジ(名前で呼ばせてもらう許可をもらった)とアリアの会談を手助けするつもりなので、オレの手料理を振舞うことにした。

リサに買い出しを頼んだのはそれが理由だ。

 

今回振舞おうと思っているのは……アリアの好物の一つ。ハンバーグである。

主食は欧米式のパンにした……ガーリックフランスだ。

主菜は高品質の日本産の牛、豚、牛脂を混ぜ合わせて作ったハンバーグステーキ。

副菜はバター風味の甘露温野菜。

スープはコーンポタージュスープにした……ドリンクはミネラルウォーターのクリスタルガリバーだ。

 

なお、デザートはももまんかプリンである。

 

……なに?ナゼ料理ができるだって?

 

……伊・Uにいた頃は自分で身の回りのことをしたからな……自分で料理も出来ないと不自由だったんだよ!

 

……誰に俺は切れてんだろうな……虚しいからやめだ、やめ。

で、アリアとキンジは互いに探り合うように話し込んでいる……

アリアはキンジをパートナーにしようとしている。

キンジはアリアを遠ざけようとしている。

 

二人の話は平行線、堂々巡り。

 

なので、第三者の俺が二人に提案を出した。

 

「二人で任務(クエスト)を協力して達成するのはどうか……」と提案してみた。

 

結局、キンジが乗り気でなかったので無理強いはしないつもりだったの……で、問題はないはずだ……多分。

 

「ハヤト、リサ。ごちそうさま」

「ごちそうさん。意外とうまかったぞ」

「よかったです!リサも頑張った甲斐がありました!」

「あいよ、で……話はまとめれそうか?」

 

『…………』

 

……無理だったか。

 

「キンジ、アリア。無理に組めとは言わない。でも、相性は見ておいて損はないぞ?」

「……」

 

キンジは黙り込んだ、そしてアリアは台所に逃げ込んだ。

やれやれ、ほんとどうなるんだろうな。

 

「キンジとアリアを頑張ってくっつけてみましょう」作戦、第1弾は失敗だな。

で、アリアからチャリジャックの全容を聞いてオレは確信した。

なにを確信したって?

 

キンジがロリコンだってことだよ。 とまあ、冗談はこの辺にしとこうと思う。

明日から作戦の練りなおしだなと、心機一転して台所での後片付けをリサとともに開始する俺たちだった。

 

(続く)




さて、今回は日常編にしました……日常ってなんだっけ?
ではこの辺で失礼します!

次のお話でお会いしましょう!


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4弾 来るはキンジの幼馴染とりこりん

風呂上がりばったりイベントはハヤトの手腕で回避……よかったね!キンちゃん!


オレはキンジの制服の首根っこをつかんで引き摺るように部屋から連れ出した。

突然の暴挙にキンジが目を白黒させているが、オレは気にせずアリアに目配せしておいた。

 

「すまないな、キンジ ……女子には男子がいるとやり辛いことがある。それとも風呂を覗きたいか?」

「……わかった、だから離してくれ」

 

オレは少しキンジをいじりたくなったので……襟を放してやり

 

「しかし、意外だったな」

「何がだ」

「キンジがロリコンだったってことさ」

「だから俺はチビ専でも、ロリコン、ショタコンでもない!」

「そこまで聞いてないぞ?……しかし……ふふっ」

 

いかん、キンジが面白すぎる……飽きがこないな。

 

「な、何がおかしいんだよ!」

 

……キンジよ、なぜ頰を赤らめる。

 

「キンジ……お前まさか……男色家か!?」

「んなわけねぇだろうが!でも一瞬、その……横顔が可愛く見えっちまったんだよ!」

「うん、よく言われる……性別間違えて生まれてきたんじゃないのかってな」

 

まぁ今となっては慣れっこ、大して気にしていないのでスルーだ。

顔は母さんに似たからな……オレ。

 

そんなしょうもないやり取りをしながらオレとキンジはコンビニに入った。

そこでオレは新聞を買おうかと悩んでいるのを尻目にキンジはマンガ雑誌を立ち読みしていた。

が、店員の眼差しに折れたのかその手に一冊をとると買っていた。

 

「まだかかるかもな……どこで時間を潰すか……」

「すぐに終わるだろ、そんなもん」

「はぁ……紳士たるもの女性の気持ちを考えることだ」

「英国紳士の嗜みか?」

「女性にとって風呂とは癒しの時間でもあるのさ……それに……風呂から上がったアリアと鉢合わせたくはあるまい?」

 

……キンジは黙りこくった……まぁこいつの体質には「女」と「毒」はほぼ同じだ。

 

そこをわかっていたからこそキンジを連れ出したわけだがな……リサにアリアの世話をさせているから問題はないはずだ。

 

それから暫く、オレとキンジは当てもなく寮近くをブラブラと歩いていたのであった。

 

 

 

 

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

「……リサ……なんでネグリジェなんだ?」

「え?なんでって……リサは……」

 

頰を赤く染めるリサ……今夜も狙ってましたか、この肉食女子は!?

 

「な、なんでカッコして……!」

 

……案の定、キンジは女の柔肌を見慣れてないのだろう……ヒスりかけていた……まぁ童貞くんの目には毒だわな……リサの肢体は!

バックアップと言うか単にムカついたのでキンジの両手で視界を塞いでおく。

 

「さ、サンキュ!ハヤト!」

 

キンジは俺の思惑とは別に礼を言う。

 

「ふぁ……あたしは先に寝るわよ、キンジ、ハヤトおやすみ」

 

アリアは寝室に勝手に入って行った。

 

「リサ。今日は「お情け」は無し!異論は認めない!」

「はぅう!?そ、そんなぁ……ご主人様!リ、リサはこの火照りをどう鎮めればよろしいのですか!?」

「じ、自分で処理しなさい!」

 

オレは外套の内側に繋がる絶界から「着ていたポロシャツ」をリサに押し付けるように渡してリサの背を押してを寝室に押し込んだ。

 

……キンジにヒスられたら色々と面倒になりそうだから彼を風呂場に押し込む。

で、オレは……風呂が開く順番を待つ……その隙間の時間を使って絶界から引っ張り出した銃器のメンテナンスをして、それが終わらせる。

そして、自室となる部屋に行きその床にルーン対応魔法陣を描いていく。

そして式力を魔法陣に流し込むと……絶界から移動させられた俺の家財道具がこっちに顕現する。

 

家具に抜けがないことを確認してオレがタンスから寝巻きを取り出していると……

 

ピン、ポーン……

 

とても慎ましくインターホンがなった。

 

……誰か来たのか。

 

オレは待たせてはいけないと思ってドアに向かい、待ち人を迎えようと手をかけたら……

 

「まて……うぉっと!?」

 

ドテンッとキンジが転んで音が響く。そんなことは知らない俺がドアを開けると……

ジャキッ!と鼻先に抜き身の日本刀(・・・)を突きつけられた……ってエェェェ!?

 

「あなたは誰ですか?」

「……お、落ち着こうか、お嬢さん……」

「……!?ご、ごめんなさい!!」

 

俺の声を聞いたその日本刀を突きつけている少女は巫女服に長い黒髪ロングのストレートに頭には白布の白いリボンをつけた美少女だった。

片手には風呂敷で包んでいる……(お重か?)を持っていた。

 

「お、おい!白雪何やってんだよ!?」

 

オレに刀を突きつけた少女をキンジは白雪と呼んでいた。

 

「き、キンちゃん……ごめんなさい!」

 

この反応はどうやら……この二人は幼馴染だな?

 

「オレはハヤト。天道・H・ハヤトだ……」

 

とりあえず、自己紹介はしておく。

 

「わ、私は星伽……白雪です……」

 

後ろめたさがあるのだろう……俺に日本刀を突きつけたことだろうけどな。

 

「知らない人がキンちゃんの部屋から出てきて……あんまりにもキレイな顔立ちだったからつい……刀を抜いてしまいました……ごめんなさい!」

「いや、大事には至らなかったからオレは気にしてないよ!……顔上げなよ星伽さん。」

 

刀をすぐ抜くのはやっぱり武偵高ならではのアクションなんだな。

オレは目を隠しチラチラとキンジの上半身を盗み見する星伽さんをフォローしつつ後ろのバカに「服を着ろ!」と目で言っておくことにした。

で、星伽さん改めて白雪さんの応対をキンジに任してオレは風呂に入りながらこれからのことを模索する。

まずはアリアとキンジの歯車を噛み合わせることだな……

そう思いながらオレは長風呂を愉しむのだった。

 

 

 

 

「……うん?」

「ご、ご主人様ぁ……」

 

……リサの声が聞こえた気がしたので上半身を起こすと、下着姿のリサがオレのベットに潜り込んでいた……っておい!?

 

「……どうやってあのトラップを避けたんだ?」

 

オレは二段ベッドの下で眠ることにした。キンジはもともと上のベッドで寝ていたようなので問題無しとのことだ。

で、今現在。 寝室の半分はアリアの縄張りみたいになっている、南北朝鮮の国境よりも危ない罠や地雷が見えるのは気のせいだ。 気のせいだと思いたい。

で、リサはオレの右腕をがっちりとホールドして安心したように幸せそうに眠っている。

 

……カワイイなホントに。

 

「ぐぅ……ももまんピラミッド。 くふふふ……」

 

じゅるりっと涎の音をさせながらアリアは眠っているようで、こっちは見た目通り色気も何にもないお子様である。

 

しかし、キンジはなぜアリアで変化したのだろうか? 心当たりは金一さんの体質。

ヒステリア・サヴァン・シンドローム……性的興奮するとスーパーモードになれるあれだそうだ。

 

おそらく、アリアはその「スーパーモードキンジ(仮称)」を目の当たりにしてパートナーにしようとしているに違いはないだろうか? オレはこの二人の橋渡りになれるように頑張ろう。

と決めながらオレは意識が闇に落ちるまで、リサの柔らかな髪を撫でるのであった。

 

 

爽やかな朝日が寝室に差し込み、オレの顔を照らす。

 

不快感はないので、そのまま起きた。

 

「今何時だ?」

 

オレは手を伸ばして印をきると、空間と絶界が繋がりその先にぽっかりと20センチほどの穴が開く。

躊躇せず穴に手を突っ込むと、オレはその中から銀色の懐中時計を引っ張り出した。

 

「6時半過ぎか。 二度寝するのも気がひけるな」

 

中途半端な時間に起きてしまったものだと考えながら傍に眠るリサを起こさないように注意しながらオレはベッド降りる。

 

「っとぉい!? ……あ」

 

寝ぼけ眼で俺は足元を見なかったために……リード線に足を引っ掛けかけて慌てて避けたが……対人地雷を踏んづけてしまった……っておい!?

一気に目が覚めたが……これはアリアの仕掛けた対人地雷だな!

 

どうにかして静かに処理しないとならんな、コレは!

 

俺はまず身体を「焔……強化」で補強して次に地雷の周りを「颶……防壁」で囲い空気を抜く事で真空にしてやる。

で、タイミングを合わせて、地雷から足を退ける!

 

防壁内で弾ける地雷。 ちなみに俺の足は無事だった。

 

防壁の内側が真空状態なので爆風、轟音は響かない。なんとか、なんとか静かに処理できたな。

オレは今度こそ、細心の注意を払って寝室を後にしたのだった。

洗面所で顔を洗い歯を磨くと棚からヘアブラシを取り、霧吹きで髪を湿らす。

そしてゆっくりと自慢の朱金、ロングヘアーの長髪を梳かしてもつれを取る。

 

髪の手入れは本当に大事だ。 脳天からサイドの髪をまとめて一旦ゴムで括る。

後頭部の髪をまとめながら括っていた髪と合わせてルーンを刻んだ細い白布で髪を括るとポニーテールの完成である。

 

ちなみにこのルーン文字を刻んだ白布はオレのリミッターみたいな物だ。

コレは必要なもので他の超偵(ステルス)に変な圧力を、つまりはプレッシャーをかけないようにするためだ。

正式な測定をしたことがないから、今週中に超能力捜査研究科(SSR)に行こうかとも思っている。

教授(プロフェシオン)もそこらへん適当だったんだよな……まあ、致し方ねぇが。

オレはそんなことを考えながら、制服に着替えてキッチンに向かい、壁に掛けてある浅葱色のシンプルなエプロンを着用して調理開始だ。

多分、アリアがキンジに「飯を出せ!」と顔をあのちっこいアンヨで踏ん付けながら無茶振りをするだろうしな……さすがにそれは哀れなので助けておこうと思う。

 

千切りにしたキャベツをマヨネーズで和えてボウルに盛ってその上には棒状に切ったにんじんときゅうりを飾りつける。

なんちゃってコールスローサラダだな。

ベーコンをフライパンの上で軽く炙り卵を入れてコショウを軽く振って蓋をすると、弱火で蒸し焼きにする……朝食ではポピュラーなベーコンエッグの完成だ。

 

主食は米でもパンでもどっちでもいいだろう。

 

エプロンを元の場所に掛けてオレは先に「いただきます」から「ごちそうさま」までをすませる。

ラップを付けた3人分の作り置き、リサの席に指示のメモを残して武偵高ブレザーの上に外套をはおりながら静かに寮を後にする。

 

リサ宛てのメモには勝手にベッドに潜り込んだことの罰としてアリアの世話をするように「命令」を出しておいた。

リサの手綱を握るのはオレだ……正直乗り気じゃないが、ケジメはつけねばならんだろう?

寂しいのはわかるが、夜伽を断ったのはキンジにアリアがいたからだ。

正直言って「ナニ」してる時に声を我慢するなんて無理だしな……って俺は一体何を言ってるんだ。

オレは色ボケするために武偵高に来たわけではない。 断じてな……と、自分で言っててなんだが説得力に欠けるのは行動のせいなんだろうな。

オレはそんなことを考えて勝手にブルーな気持ちになってしまったが、落ち着きを取り戻してバス停に向かう。

 

 

 

 

武偵高行きのバスに乗って早朝登校。

目的は射撃レーンでの朝練だ。

あとはめぼしいアリアのパートナー候補探しか?

 

まぁアリアに合わせられるのは協調性の優れたバックアッパーかアリアに匹敵するフロントマンだろうな。

 

そんなフロントマン……俺くらいか?

 

……いや、いるな……遠山キンジが。

身のこなしには脂肪がついてしまってはいるが、腐っても強襲科(アサルト)の生徒だ。

条理予知(コグニス)はまだ完全に使えてないが……オレは断片的に未来を予見することができる。

オレが見た未来ではアリアとノーマルキンジが組んで「武偵殺し」の事件でアリアが怪我をする未来だったんだよな……

この未来を避けようとは思うが、オレがその棘を抜くのは間違ってると思う。

ぶっちゃけると、アリアとキンジがその未来を回避しないと意味がないのだ。

 

だから、オレは断片的にキンジに伝えることにする。

 

あいつは必ず強襲科(アサルト)に戻ってくる。

 

アリアに折れて必ずな……と、射撃レーンに着いたのでオレは思考を切り替えてコート裏に絶界を繋いで漆黒のリボルバーを引き出す。

漆黒の銃身、XIIIの刻印が刻まれたその銃の名は「装飾銃(ハーディス)」と言う……超金属(オルハリコン)と呼ばれる特殊合金で作られたそれはとても重く、果てしなく頑丈だ。

 

オレが父さんがら授かったハートネット家に伝わる家宝の旧式リボルバーは.44SP弾を使えるので、「S&W M29」の弾丸と併用できるので以外と便利だ。

 

オレは二つ折れ式のリボルバー、そのシリンダーに弾薬を6発詰めてリロード。

武偵手帳の非接触ICチップをシステムコンソールに読み込ませて射撃レーンを起動すると、ターゲットが動き出した。

 

オレはシングルアクションで引き金を引き、銃声を奏でる。

ダァン!と激しい銃声が6連発。すべての弾丸は高得点ゾーンの銃を象ったマスに吸い込まれるようにその地点を貫く。

オレは母さんから受け継いだ高速リロードの練習も兼ねて……弾薬を装填する。

 

二つ折りに開きながらシリンダーから空薬莢を弾き出しながらバラでポケットから無造作につかみ出した.44マグナム弾をシリンダーに落としながら誤差を修正。

そのまま銃弾6発を納めてその反動を利用して銃を閉じてターゲットを再び銃撃。

 

先と同じように6発はターゲットを蜂の巣にした。

 

……ここまでの時間は約……1.7秒だ。

 

オレは男だから天道家に伝わる「おっぱいリロード」なる行為ができないので、母さんみたいに胸に隠した弾薬を空に出して一瞬でリロードする離れ技なんでできない。

まぁ、まぁ。 S&W M29でならそれに似たことはできるんだ。 弾薬を手で空に投げて一瞬でリロードとか。

 

この後、オレは「S&W M29」「デザート・イーグル」と「コルト・ガバメント」と立て続けて練習した。

弾薬が切れた頃合いにオレは射撃レーン近くの売店に向かったのだが……「.50AE弾」と「.45ACP弾」が揃って売り切れていた……が「.44SP弾」は在庫が余り気味らしい。

 

回転弾倉式拳銃(リボルバー)は装弾数が極端に少ないからな……コルト・ガバメントと撃ち合っても「装弾数(スタミナ)」で劣るがパワーはリボルバーに軍配が上がる。

構造が単純な分、強力な弾薬が使えるのがリボルバーの長所だ。

オレが好き好んでリボルバーを使う理由は簡単だ……母さんと父さんの影響だ。

二人は誰よりもリボルバーを使うことにこだわるからな、その影響も少なくはない。

 

しかし、どうするか? 自動拳銃(オート)2挺が使えないとなると困るな。

 

「そこのおにーさん!お困りなのだ?」

「誰だ……ってうぉ!?」

 

振り向くとそこにはパンパンに銃口を逆に突っ込まれて、安全のために弾倉(マガジン)が付いていない数種類のアサルトライフルが詰まったリュックがオレに話しかけてきた。 声の高さが不自然なのだが?

 

「ここなのだ!見下げるのだ!」

「……へ?」

 

オレが下を見るとそこには武偵高のセーラー服を着たちびっ子がいた……っておい。

小学生がこの物量運ぶって無理があるだろう!?

つーか、あんたはM◯Pの龍人族の行商バァか!?もしくはねこバァか!?

 

「お嬢さん、小学生なのによくそれだけの量を運べるね?」

「あややは小学生じゃないのだ!」

 

アンダー150のミニな身長の少女がぷりぷりと怒っているが……身長差のせいで小学生が怒ってるみたいだ……いや、ほんとマジで。

 

「す、すまない。君は?」

「あややは装備科(アムド)の2年生、平賀 文なのだ!おにーさんは何て名前なのだ?」

「失礼、先に名乗らせてしまいましたね。僕は天道・H・ハヤト。ハヤトで結構ですよ」

「じゃあてんどーくんでいいのだ?」

 

……まぁいいか

 

「如何様にもお呼びください見たところで平賀さんは……武器商人ですか?」

「あややは銃職人(ガンスミス)なのだ!」

 

……なるほどな……つまり

 

「なら話が早い。.50AE弾と.45ACP弾は取り扱っておられますか?」

「少々お待ちくださいなのだ!」

 

平賀さんはリュックをドシンッ!と大きな音と共に下ろすとその大きなリュックの中に頭から潜り込む。

そしてゴソゴソとリュックの中で「これじゃないのだ、これでもないのだ!」と尻をふりふりさせる。

1分程リュック内を探索してようやく「あったのだ!」と、下の方で物を掴んで頭にバネやネジをくっ付かせた平賀さんが満面の笑みで弾薬ケースを出してきた。

 

「あややが作った徹甲弾(ピアス)と弱装弾なのだ!いちりゅーの武偵としての働きをサポートすることのできる仕上がりなのだ!」

 

徹甲弾(ピアス)に弱装弾か……オレは顎に手を添えて思案した。

弱装弾とは火薬の量を減らして弾丸の威力を落とした物だ……つまりは使えるな。

徹甲弾は簡単に言えば貫通弾……エンジンブロックも貫くことができるとかいうが撃ったことはないのでわからない。

 

「じゃあ、弱装弾を買わせてもらうよ。いくらだい?」

 

オレが値段を聞くと……平賀さんはキャラのデフォルメされたくまさんの電卓を出して計算して満面の笑みで電卓の電子画面を見せてきた。

 

「……ふむ……この程度なら」

 

オレは絶界からギッチリと諭吉さんがおしくらまんじゅうされた財布(ルイヴィトン)を引っ張り出してお金を払う。

 

「お買い上げありがとうございますなのだ!これはサービスなのだ!」

 

平賀さんは.50AE弾と.45ACP弾のそれぞれの弱装弾に徹甲弾をサービスとしてつけてくれた。

……若干押し付けられた感もあるのだが……まぁいいか。

そんなことを考えながら、オレはリュックを背負い直し、歩いていく平賀さんを見送るのだった……。

 

 

 

 

「ヨォ、初めましてだな」

 

目元を隠すように黒のソフト帽を被った男が俺に話しかけてきた……

 

「……久しぶりだな。 次元英介」

「……おいおい。 オレはただの武偵の卵だよ、今はな」

 

何でこいつがこの学校にいるんだよ、こいつの名は次元 英介。

あの大怪盗ルパン三世の相棒だった男。 次元 大介の養子(ムスコ)だ。

オレはとある案件でこいつのチームと一度組まされた事がある。 教授(プロフェシオン)の命令でな。

 

「いやー、ブラドの試練の時はお互いに苦労したな」

「まったくだ。まぁ、そんなことはどうでもいい何でお前までいるんだ。 五ェ門」

「殺気を納められよ、天道の」

 

ゆるく天然パーマのかかった黒髪の男がオレの背後に立っていた。 こいつは五ェ門と言うが、苗字はないらしい。

 

「やっほー、ハヤトん!」

 

ふりふりのフリルだらけの改造制服に身を包み、オレのことを「ハヤトん」と言うふざけたあだ名をつけて呼ぶイタイ姿のちびっ子。

 

「久しぶりだな理子……いや、ルパン四世」

「その名前であたしを呼ぶな……くふふっりっこりんでーす!」

 

一瞬鋭い目になったが、その場でくるりと回転しておどけた顔になった理子。

このチビ女はその大怪盗ルパン三世の娘である、峰・理子・ルパン四世。

 

やれやれ「武偵殺し」いや、「武偵攫い(・・・・)」の真犯人が以外と近くにいたとは思いもしなかった。

 

「理子。先に言っておくが……オレはお前が派手な動きをしない限り介入しない……ねらうのはアリアだけにしておけよ?」

「くふっわかってますよー……何て言うと思うか?」

「今は仕掛けねぇよ……不当強襲罪に問われるのはごめんだからな」

 

男喋りの理子にオレは一応釘をさす。

 

まぁ破るだろうけどな……約束をしたわけでもないがな。

 

「次元、五ェ門……相変わらず尻に轢かれてるのか?」

「何でそーなるんだよ!」

「俺はただジジィの遺言に従っているだけだ……他意は決してない」

 

……相変わらずだな、こいつらは。

 

「理子。一応、警告はしといたぞ?」

「はん、何とでもすればいいよー?くふっ」

 

ニヤーっと意地の悪い笑顔で理子は……次元と五ェ門を連れて去っていく。

やれやれこりゃ、一波乱起きそうだな割とガチで。 そんな予感をオレは胸に秘めて、教室に向かうのであった。

 




夜這いではなく添い寝……だから問題ないよね!?
ではこの辺で失礼し……の前に

感想書いてくださった方々。ありがとうございます!
おかげさまでモチベーション保ったまま書くことができました!
感想も増えたらいいなーと思いつつ……では、この辺で失礼いたします!


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5弾 強襲科……悲劇の返り討ち(相手が

ちょこっとだけ理子の過去を……そして、ハヤトの無双回!


理子の過去は凄惨なものである……あいつ自身ではなくその凄惨な行いを笑いながら話してきたブラドから聞いたので真実なのだろうと思うが……。

 

まぁ、オレには「だからどうした」と言う反応はできない……なんだかんだ言ってオレもハートネット家の落ちこぼれだったからな。

天道家の跡継ぎはナシルで決まってる……ナシルってのは、ちとブラコン気味なオレの実妹である。

 

天道家に伝わる閃術を修めており、神速の早撃ちに高名なリロード法(おっぱいリロード)を習得していて、トップクラスの異能使いな……金髪巨乳美少女だ。

 

ガチの喧嘩はした事もないし……したくもない。

 

と言うか……なんだかんだ言ってオレ……あいつには甘いんだよな、本当に大甘である。

ブラコン気味とは言ったがオレもシスコンのヶがあるからあいつもブラコンなのだろうな……お互いを大事に、尊重しあうからこそ……愛情が強く、深くなるのだろうか?

 

……とまあ、オレの家族のことは路端に置いておく。

 

理子は、ボロ布を服の代わりに着せられて檻の中で飼われるような生活をしていた……ブラドは彼女の事を繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)と呼んでいたそうだ。

理子の体格が小さいのはろくな食事も与えられず、栄養不足のために体が成長阻害されていたから。

そして、ブラドの娘であるヒルダの熾烈な虐待も理子の心に歪みを作る原因となったと聞いた……理子はヒルダに玩具のように乱暴に扱われたそうだ。

つまりは人として扱われない交配用の牝犬よりも酷い扱いをブラドによって受けていた過去が理子にある訳だ。

そんな中で理子は隙を着きブラドの元から逃げ出して、シャーロック……トドのつまり、教授(プロフェシオン)と出会い伊・Uに入学したと聞いている。

 

貪欲に努力して力を取り込み続けた理子と俺が出会ったのは教授(プロフェシオン)がオレに試練として与えたブラドとの決闘に挑んだのがきっかけだった。

 

その時に次元と五ェ門、理子と組んでブラドを追い詰めたものの……時間切れで引き分けとなった。

 

その時使ってた前の「S&W M29」がとある事情で破壊された時、母さんから教わったゼロ距離射程閃術の天龍星撃(トルネード・インパクト)を叩き込んだのだが……ブラドは後ずさりして膝を折り、暫くしたら復活してたのは嫌な思い出だ。

 

メインの攻めは理子を中心に行い、オレと次元に五ェ門のサポートがあったが一度はブラドを退けた理子の頑張りを評価してブラドの奴は彼女に完全開放の条件として「初代アルセーヌ・ルパンを超えろ」と告げて、当の本人は教授(プロフェシオン)の軍門に下った。

 

しかし……ブラドの言い方には裏がある……奴はハナから理子との約束を守る気はない。

おそらく、今は放し飼いにして様子見にしてるはずだ……奴の中ではな。

 

だからこそ、初代アルセーヌ・ルパンが斃せなかったブラドを倒して理子は初めて初代ルパンを超えたことになるのだろうが、彼女はアリア……つまり、今代のシャーロック・ホームズ4世のアリアを斃す事で初代ルパンを超えた事を証明しようとしている。

 

アリアはオレの幼馴染でSランクの武偵。

そう簡単にやられるタマじゃないとは思うが……子供の頃からの猪突猛進気味の悪癖はまだ治ってないようなのでちと心配だ……ホントにな。

 

だからこそHSSのキンジをアリアのパートナーに仕立て上げたいオレである……一応と言うか、理由はちゃんとある。

言いたくはないが、アリアとオレの実力差が大きすぎるのだ……致命的なほどに……な。

 

オレの動きにアリアはついて来れないのだ……ぶっちゃけた話だが、オレは他の人間と合わせて動くのが苦手だ。

誰にでも合わせることができるリサが例外なだけでオレは基本的に多対一の戦闘が得意だ。

リサも単体での戦闘力が俺に合わせられるくらいだから誰にでも合わせることができるのだろうがな……。

 

チームワークが大事な武偵の強襲で、もしも協調性の乏しいオレが同じく協調性の乏しいアリアと組んだら……敵に致命的な隙を突かれて「dead end」になりかねんだろう?

 

それも含めるからこそアリアとは組めないのだ。

 

「あんた、一体どうやって無傷で地雷を回避したのよ!?答えなさい!」

 

「だぁぁ、うっせぇよ!」

 

オレは朝から元気につかみ掛かってくるアリアの手を払い、躱す。

 

オレが対人地雷を踏んで爆発した……どうやら、その痕跡が残っていたらしい……のでアリアはトリックというかどうやって逃れたんだと問い詰めてきているのだ……って!?

 

「ご主人さまぁぁぁっ!」

 

「ファッ!?リサざぁおぶるぼふぉ!?」

 

死角から飛び込んできたリサの低空ダイビングショルダータックルがオレの鳩尾にめり込んでクリーンヒットした……意味のわからん文字の羅列が口から出たのは……それほどの威力だったと察して欲しい。

 

教室の床でのたうち回るオレに器用に抱きついてくるリサは……何かをオレから補充している感じがするが……なんだこれ?

 

「リサは……リサはとても悲しく、寂しかったのです!今の一時くらいは甘えさせてください、ご主人様!」

 

おい、リサ……「自分の行い反省してるのか?」とも思ったがオレはその言葉を呑み込む。

リサは本当に素直なメイドで、とても甘えん坊なのだ……ちょっと今回は厳しすぎたかもしれないな……と人知れず反省しながら今後のことはまた考えるとしよう。

 

「わかったよ、リサ。明日からは一緒に登校しような」

 

「はいっ、ご主人様!」

 

腹の痛みも引いたので立ち上がると、オレはリサの手を取って立たせてやる。

 

「で、アリア。武偵なら今朝のトリックについては自分で考えて推理しろ……これはオレからの宿題だ」

 

「なんですって!?」

 

「お前なぁ……質問してきたキンジに「太陽はなぜ登る?月はなぜ沈む?」って言ったんだろ?」

 

アリアにオレは質問に質問で返すくらいなら自分で調べろ……と遠回しに伝える。

自分の事を棚に上げて質問攻めってのはこっちが納得できないからな。

オレの言葉にアリアはぐぅの音も出ないようで……

 

「わかったわよ!あんたのこと……隅々まで詳細に調べ上げてやるんだから……首洗って待ってなさいよ、いいわねっ!?」

 

そう言うとアリアは自分の席に戻っていった……どうやら一般教科の授業が始まる時間だな。

 

オレはリサを席に座らせて自身も教科書を出して準備をするのであった。

 

 

 

 

一般教科の授業が終わった午後からの時間。アリアはキンジの受けた探偵科(インケスタ)の依頼と内容についてを調べると言って強襲科(アサルト)の授業はパスするとのことだった。

 

で、オレは衛生科(メディカ)からリサが強襲科の見学に来るというのでエスコート役を買って出たというわけなのだが……リサは射撃レーンを見て目を輝かせて背負っていた「ブローニング M1918」……BARを構えると高得点ゾーンに弾丸を矢継ぎ早に叩き込んでいく……相変わらずすごい光景だよ……本当に。

 

「えらいメディックDA候補もおったもんやなぁ」

 

「あ、蘭豹先生。こんにちは」

 

野太刀などの大刀を背に5本ほど背負った蘭豹教諭がリサを見て感心していたのでオレは失礼のないようにと挨拶をした。

 

「せや、天道。お前、この後暇か?」

 

「はい、予定はありませんが……何かご用ですか?」

 

「ちと、な……ここ最近強襲科(アサルト)のガキどもに刺激が足りひんでなぁ……お前によこす手筈やった寮のボヤも不完全燃焼のガキ共のフラストレーションの捌け口になってもうたみたいでなぁ」

 

……教諭の言いたいことが理解できないぞ?

 

「お前、神崎と私闘やったな?」

 

「……ええ、まぁ……」

 

「あれな、ウチも観戦してたんやで?」

 

マジかよ……ってことは……

 

「察しのいい天道にウチから課題や。強襲科(アサルト)伝統の10人抜き(テン・ブレイク)に挑戦してもらうで?」

 

「いつですか?」

 

俺が恐る恐る聞くと、蘭豹先生はニヤリと嗤いながら……

 

「んなもん、今からに決まっとるやろ?」

 

 

 

 

「て、てめぇは!?」

 

オレの目の前にはC装備に身を包んだ屈強な強襲科(アサルト)所属の男子生徒がいる。

 

彼らの平均の武偵ランクはBらしい。

 

そして、前列で声を上げている強化プラスチック製のヘルメットを被っている奴には見覚えがあるぞ……確かオレが試験で〆た奴だ。

 

「おいテメェら!こいつを倒したら蘭貓先生が神崎の連絡先渡してくれるらしいぞ!気合い入れていけ!」

 

『オォォォォッ!!』

 

仲間を鼓舞するために叫んでいるが……救い様のないロリコン共の巣窟なのか……強襲科(アサルト)は……はいはい、キンジはロリコンじゃないよな。

 

ちなみにオレの装備は普段の外套に防弾制服だけ(・・・・・・)だ……C装備は性に合わない。

 

「お手柔らかにお願いしますね……では……行きますよ?」

 

オレは先手必勝とばかりに仕掛ける……最初の犠牲者はだーれだっとな。

 

一番手近な相手との距離13m……を一瞬で詰めると、オレの至近距離(クロスレンジ)に持ち込む。

 

「うぉ!?」

 

相手は持っていたナイフをとっさに突き出すが、オレは斜に構えて左手でその右手首を掴み、引き寄せながら右肘を相手の鳩尾にC装備防弾ベストの上から叩き込む。

 

「惚けていてはいけませんよ……武偵は常在戦中なんですから」

 

「ぐぉろ!?」

 

重く当ててすぐに肘を引いたのでかなりのダメージを負ったはずだ……っておい。

体をくの字に折って吹っ飛んだ生徒はそのまま闘技場(コロッセオ)の壁に激突、沈黙した……ちょっとやりすぎたかな?

 

ちなみにオレの勝利条件は相手全員を砂の床に沈めることだ。

バックステップで距離を取りながら、絶界から「S&W M29」を引き出すと共に2発打ちながら飛来する数発、直撃コースの9mm弾を連鎖撃ち(チェイン)で撃ち弾く。

そして、直立姿勢で3発の「.44SP弾」を相手の生徒達に向けてぶっ放す。

 

「ぎゃっ!?」

 

「うぉ!?」

 

「のわッ!?」

 

得物の拳銃を手から弾き飛ばされた生徒たちの一瞬の隙も見逃さない。

拳銃が撃たれた衝撃で仰け反る奴の太腿にオレは容赦なく残りの1発を撃ち込んだ。

すると、撃たれた奴は銃弾に足を払われてコケる前に、伏臥姿勢で一瞬滞空する。

 

オレはそいつとの距離を詰めて……滞空している生徒の防弾ベストをオーバーヘッド気味に蹴りつけて非武装の2人めがけて弾き飛ばした。

ボウリングのピンみたく3人は仲良く吹っ飛ばされて折り重なる様に気絶。

 

外套を翻しながら.44SP弾を絶界から出して左手に握る。

 

……これで後の残りは6人だ。

 

「ひ、怯むな!奴は弾無しだ!」

 

半ば怒鳴る様に派手頭がゲキを飛ばす。

 

「リロードすればいいのでしょうが」

 

オレは空薬莢をシリンダーから排出すると、空いている左手で絶界から出した銃弾6発を空に投げる。

無造作に銃を振るい、ちゃきっと音がした頃には全弾シリンダーに納まっていた……いわゆる空中リロードだ。

 

シリンダーを銃に納めて飛来する弾丸を跳躍で躱すと共にオレは2発を空中で撃つ。

オレの銃弾はこちらに標準を合わせていた2人の拳銃、その銃口に食い込む。

相手の拳銃は銃口に弾が詰まったことにより発砲と共に内部で高圧ガスが逃げ場をなくして銃身が膨張、破裂した。

 

「なんだよ!?こいつ!?」

 

「うわっ!?」

 

オレは着地と同時に動く。

着地先に置くように撃たれた銃弾をくぐる様に左手で片手側転しながら4発射撃と同時に銃弾を避ける。

オレが撃った時には武器破壊(アーム・ロスト)でナイフを構える2人を撃っておいた……腕と腹を撃って動きを封じながら距離を詰めた。

銃のグリップをハンマー代わりにしながら相手のヘルメットが側頭部をぶん殴り、頭を揺らす。

脳震盪で白目をむいた大男をもう1人に向けて蹴っ飛ばしながら空に弾薬をばらまいてシリンダーから空薬莢を排出。

そしてその場で小さく回転してリボルバーにリロードしながら外套を翻してコルト・ガバメントを絶界から引き出すと3連バーストにレセプターを切り替え牽制程度に撃ち込み、スライドオープンになるまで撃ち続けた。

 

生き残りの生徒たち4人は足元に計16発の.45ACP弾が飛来してパニクり、雑なコサックダンスを踊るという醜態をさらしている……追い打ちをかけるように.44マグナム(リボルバー)が轟音と共に火を噴いて意識を刈る死神が這い寄るように弾丸が放たれる。

 

6発撃って2人に、肩腹膝に3発づつ下から上に叩き込んで転倒させて戦闘不能に。

使っている弾丸は情けをかけるつもりはないが、弱装弾なのでそこまでのダメージはないはずだ。

 

弾切れになり、ガバメント、.44マグナムを両人差し指に吊るしながら絶界からバラの.44SP弾とガバメントの弾倉(ノーマルマガジン)を引き出して手に取り、空に投げるとオレはその場で宙返り。

弾倉を落とし、回転弾倉(シリンダー)から空薬莢を排出して宙でグリップを握りなおしてクロスさせるように腕を振るう。

 

かしゃんちゃきっ

 

弾薬をそれぞれに再装填(リロード)

 

オレは着地と同時に向かってくる相手の撃ってきた9mm弾十数発を再び.44SP弾3発での連鎖撃ち(チェイン)で防ぎながら単発のレセプターに切り替えたガバメントの.45ACP弾6発を浴びせつつ懐に潜り込みその場で小さく回転すると右肘で鳩尾を殴り、リボルバーのグリップでヘルメット越しに鼻頭を強打。

 

「ぐあ!?」

 

吹っ飛ばされたそいつは鼻血を垂れ流しながら意識を失ったのか背中から砂の床に落ちて沈黙した。

 

「さて、後は貴方だけですが?」

 

「ち、チクショウ!」

 

「ヤケを起こしても戦局は変わらないでしょうが……はぁ……」

 

オレはナイフを片手に闘牛のごとく突撃してきた派手頭を迎え討つように外套を翻しつつ絶界に二挺の拳銃を収納しつつ二振りの剣を引き出して、流星のように光る漆黒と白銀の剣閃を煌めかせた。

 

キンッ……ぽとり

 

その場で小さく回転しながら装飾剣(クライスト)を上段めがけて閃かせ、ナイフの刀身を斬り折る。

そして、相手の首筋に半回転で迫る聖宝剣(オートクレール)を寸止めした。

 

「……まだやるかい?」

 

オレがちろっと殺気を立てると、顔面蒼白の派手頭はそのまま意識を失うように後ろに倒れた……やべ、殺気を立てすぎたか。

 

剣気に飲まれて意識を失ったのだ……これで生き残りはゼロだな。

 

「そこまで……課題クリア、ええもん見せてもらったわ。おおきにな、天道」

 

格の違い……蘭豹先生はこれを見せたかったのだろう。

 

「しゃーけど、もうちょい本気出してほしかったなぁ……」

 

「あれに関してはまだ調整出来てないので使えません。……ので悪しからず本当に勘弁してください」

 

先生はオレのルーン魔術(ステルス)について言っているのだろう……だがしかしだ。

完全に対人の調整が終わったわけではない……あの試験で南郷先生を完全に感電させることができなかったのはいい経験になった。

 

「わかっとる、わかっとるわ。あれの類は死亡事故も起こりよるさかいにな……しょーみ、使わんのは正解やで?」

 

そんな物騒なことを微笑みながら言ってくる蘭豹先生は……そんな顔もできるのかと言いたくなるほどに美人になっていた。

 

「おう、クソガキども!今のがSランク武偵の実力や!これくらいを目標に死ぬ気でやれよ……ええなぁ!?」

 

……前言撤回。

 

蘭豹先生は美人ではない……残念な美人としておこうと思う。

気絶した生徒たちの襟部分を乱雑にまとめて掴むと彼女はずるずると引きずり、救護科(アンビュラス)に纏めて連れて行った。

血の気の多さは強襲科(ここ)向きの性格だな……それにあの怪力……人間バンカーバスターのあだ名は伊達じゃないってな。

 

「ご主人様はやっぱりリサの勇者様なのです!お強いです!」

 

観戦していたリサは開口一番にオレを讃えてくれるが、この程度で褒められても気恥ずかしいだけなのだ……相手の平均武偵ランクがBなのだから勝って当然……だとアリアには言われそうだしな。

 

そんなことと反省点も考えながらリサを連れてオレは闘技場(コロッセオ)を後にするのであった。

 

(続く)




と言うわけで最新話です。

そして、ヒロインのアンケートも実施いたします。

詳細は活動報告に書いておきますので、アンケートの回答は活動報告のコメント欄にお願いしますね。
間違っても感想欄に回答を書かないようにお願いします……

では、批判と感想、 評価も首を長くして待っておきます。
次の話でお会いいたしましょう。

では


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6弾 秘密の花園……キンジと理子の逢いびき?

そろそろバスジャックが近いです。

アンケートの締め切りが近いヨ!


10人抜き(テン・ブレイク)のひと暴れから一夜明けた放課後。

オレはキンジに頼まれて学園島のビデオショップにて「ある物」を途中で入手。

そして、女子寮の温室について来ていた。

キンジ1人で来るのはさすがに嫌だとご本人が言うのでルームメイトとして仕方なく……だがな。

 

「理子」

 

赤い薔薇が密集して咲くバラ園の奥で緩くウェーブのかかった長い金髪を揺らしてくるりと振り返る少女がいる。

 

「キーくぅーん!」

 

そのちっこい手をブンブン振っているのは……理子か?

ちなみにだが便宜上初対面な赤の他人として接しているので理子とは呼ばない。

 

「相変わらずの改造制服だな……なんだ、その白フリル過剰な改造は」

 

「コレは武偵高の女子制服・白ロリフリルスペシャルだおー!キーくん、いい加減ロリータの種類覚えようよぉ……あれ?あなたはだぁれ?」

 

理子も俺と合わせるつもりなのか初対面のフリをしている。

伊・Uでの付き合いもそこまでなかったからな……妥当だな。

 

「お初にお目にかかります。僕は天道ハヤトと申します」

 

「ハヤト……じゃあハヤトんね!理子は峰理子、りこりんって呼んでね!」

 

こら理子そのあだ名で呼ぶな……というよか珍妙なあだ名だ、やっぱり。

 

「りこりん……ですか。可愛らしいあだ名ですね」

 

「おいハヤト、リサがいるのにナンパのつもりか?」

 

「え!理子誘われてるの!?」

 

「2人とも、誤解を招く物言いはやめてください」

 

後ろからチリチリと俺に向けて殺気が放たれている気がしたのだ……後ろを確認しても誰もいないので理子に向き直ろうとした時……チラリと透き通るような白金髪の髪が後ろの木陰に隠れた……ように見えた……って!?

 

……あのーリサさん。

 

見えてますよチェック柄の布に包まれている長物(BAR)の銃身先端が(銃がモロに見えるを略してガンモロだったかな?)丸見えで……隠れているつもりだろうがそれは……

 

オレが突っ込むべきかどうか悩んでいるとキンジが理子に何やら差し出す。

それは紙袋に入れられて梱包された箱のような物2つだ……正式な依頼として後でオレにももまんを買ってくれる契約で来る途中で入手した「ある物」の正体が分かる。

 

なんだ……男がももまん好きで何が悪い!甘くて美味(びみ)なんだよ!

嗜好は人それぞれだろうが!……ってオレは誰に切れているのだろうか?

 

「いいか?ここでのやり取りはアリアには漏らすなよ?」

 

「うー!ラジャー!」

 

理子は気を付けの姿勢に両手を敬礼のようなポーズで固まる……なんだこの動きは?

オレがさらに首を傾げているのを尻目にキンジは苦い顔。

ふんふんと荒い鼻息でびりびりと梱包を剥がす理子は……まるで獣のようである……オレを支えてくれてるメイドさんは半獣人(ライカン)だけどな。

 

「うっっわー!『しろくろっ!』と『白詰草物語』に『(マイ)ゴス』だよぉー!これ全部理子の欲しかったのだよぉー!」

 

キンジが理子に渡したのはロリータ系の衣装に身を包んだキャラ達が描かれている物で……いわゆるギャルゲーだ。

 

おそらくだが……身長のせいで小学生扱いされた理子が報酬としてキンジに「おつかい」を依頼したのだろう。

……なんでもやる便利屋(・・・)が武偵だしな。

で気になるキンジの理子に対する依頼はなんだ?

 

ちなみにオレが買ってきたのは『(マイ)ゴス』である……ビデオショップのお姉さんにあらぬ誤解を受けていないかどうかとても心配だがな……手遅れだろうけど。

 

ちなみに、理子は伊・UでR18指定の掛かったギャルゲーをやってたそうだ……だからそっち関連の知識も豊富だとかなんとか……誰からの情報だって?

……リサからの余計な情報だよ。

いろんな意味で伊・Uは「無法地帯」だったからな……遠い目はしてないぞ、うん。

 

「あ、このゲームはいらない」

 

ついと理子がふくれっ面でキンジに押し返したのは……キンジの買ってきた『しろくろっ!』の続編である『くろしろっ!!MSL!(マイ・スゥイート・ラヴィ)』なるゲームだ……これってまさか……

 

「なんでだよ?これ他とあんまり変わらんだろう」

 

「違うもん。続編(・・)なんて個々の作品に対する侮辱だもん……理子的には、すっごぉぉぉいイヤな呼び方なの!」

 

続編という単語から、自身の呪い……数字を連想したのかもしれないな……理子は。

キンジはには訳が分からんかもしれないが、理子の過去を知る身としては胸がチクリと痛む。

数字……4世と呼ばれるのを理子は本当に嫌がるからな。こっちで再会した時、軽々しく「ルパン四世」なんて呼ぶんじゃなかった。

オレが心の中で後悔していても理子には分かるまい……いつか謝罪か罪滅ぼしをしよう……絶対に。

オレの懺悔を知る由もなく、キンジと理子が話を進めていた。

 

「まぁ、とにかくだ、この続編以外のゲームはくれてやる。その代わり、俺の依頼……アリアについて調査したことをきっちり話せよ?」

 

「あい!」

 

なるほどな……「昼行燈」のキンジも一応武偵の端くれだったて訳か。

武偵同士の勝負……その初戦は実戦ではない。

多角的に標的(ターゲット)を調査して、弱点や得意なことを調べ上げて対策を練る……つまりは「情報戦」だ。

 

そして理子は……伊・Uにいた頃、「ある人物」にその情報戦のコツを伝授されている。

過去のルパン……金品を狙う怪盗ではなく、理子は情報を奪うことができる現代の情報怪盗だ。

 

まぁ、理子の一番の得意なことは殿向きの才能……異常なほどの逃げ足の速さだ。

 

伊・Uで模擬戦やった時は正面から来るのではなく遠回し遠回しにこっちの隙を突く戦い方だったからな。

その時はオレが『ルーン魔術(ステルス)』を使わなかったのもあるが、引き分けに持ち込むほどに粘っていた。

根性も胆も据わってる大した女なんだよ、理子って。

 

最近少しだけ蘇った前世の記憶からルパン三世の行いも思い出した。

この世界の彼は基本的に戦うのはそこまで(・・・・)得意じゃなかったが、信頼できる仲間と共に「困難極まる盗み」と言う名の偉業を成し遂げていたからな。

 

そして、基本的にルパン三世の行いは窃盗……犯罪に違いはないが、彼らは「善人」ではなくて「悪党」なのに同じ「悪党」を倒していた。

 

優善懲悪……善も悪も関係のないこの世界ではどうなんだろうな……行き過ぎた正義も時として「悪」になるからな……

本当に難しい世の中だよ……と、オレは思考の海から意識を浮上させながらキンジと理子のやり取りに耳をすませる。

 

「よし、それじゃあとっととしろ。俺はトイレに行くフリをして小窓からベルトのワイヤーを使って脱出してきたんだ……アリアにバレて捕捉されるのも時間の問題でな。だから手短に頼むぞ?」

 

キンジは近くにあった足の突く高さにあった柵に座る。

 

理子は紙袋を破いてしまったためか服の中にゲームをしまいつつキンジの隣に座る。

身長のせいか足が地面につかないようで膝下からをぷらぷらさせているが。

 

オレは2人の座る柵近くの木に背中を預けて立つ。

 

「ハヤトんも一応聞いたらどう?」

 

理子がそう提案してきたのだがオレは……

 

「僕はここで聞くことにしましょうかね……ほとんど接点のない女性の隣にいきなり座れというのは英国紳士には些か無茶振りですよ?」

 

やんわりと断っておく。理子に盗聴器を仕込まれても困るというのが本音なのだがな……。

 

「ふーん……ハヤトんがそうしたいなら理子的には何もいえなーい。」

 

「……座りゃあいいじゃねぇか」

 

「キンジ、あまり気を使うな……オレのしたいようにさせてくれ」

 

口調を反転させつつオレはそこからはだんまりを決め込んだ。

 

「じゃーあー……あ、ねーねー。キーくんはアリアのお尻に敷かれてるの?カノジョなんだからプロフィールくらい自分で聞けばいいのに」

 

「あのピンクチビ鬼が俺のカノジョだぁ?んなもんちげーよ」

 

「えー?2人は完全にデキてるって噂だよー?今日も昨日の朝も腕組んでキンジとアリアが2人で寮から出てきたっていうんでアリアファンクラブの男子たちが『キンジ殺す!』って大騒ぎしてるんだよー?それにリア充撲滅委員会もハヤトんのことマークしてるし」

 

……なんか変な単語が聞こえたがオレはスルーしようと思う。

 

「あれは、腕にしがみついてきたアリアを引きずってただけだ」

 

「ねぇねぇ、どこまでしたの!?」

 

「何がだ?」

 

「えっちぃこと!」

 

「バカ!するか!オレはロリコンじゃねぇよ!?」

 

「理子もキーくんのストライクゾーンなの!?きゃー理子、キーくんに襲われちゃうの!?」

 

「アホか!それもしねぇよ!チビ専じゃない!」

 

なんと言うコントだ……ミスター豆にも引けを取らんなこいつらのやり取りは……

 

「ふはははっ!2人ともいつまでもバカやっててもいいのか?時間がないぞ?」

 

弄られるキンジが哀れなので助け舟を出しておいた。

理子も咳払いしてキンジに向き直っていた。

 

「ごほんっ。じゃあアリアについて聞きたいこと、キーくん教えて?」

 

真面目モードになった理子にキンジは質問をしていく。

 

ここから先のほとんどの情報はオレの知るものだったので聞き流した。

そして、理子は一旦シリアスに声のトーンを落としながらキンジに言う。

 

「で、ね。イギリスで活動していた時のアリアは犯罪者を一度も逃したことがないんだって」

 

「逃したことがない?」

 

「狙った相手を全員捕まえてるの。99回連続、それもたった一回の強襲で……ね……キーくんもハヤトんもこの意味わかるよね?」

 

「アリアはイギリスで大暴れしていたからな……オレもその活躍は知っている」

 

「なんだよ……それ……」

 

キンジは事態を飲み込んだようだな……アリアは強い。

これは俺が保証する……が……それでもあいつは未完成なのだ……だからパートナーが必要なのだ……!

 

「なぁ、キンジ。お前……そこまでアリアのこと嫌いじゃないよな?」

 

「……何言ってんだよ、ハヤト」

 

「大ッキライなら乱暴にも追い出せるだろ……お前は武装した武力を持った探偵……武偵(・・)だろう?」

 

HSS……これの特性を俺が知ってるとは知らないキンジは黙り込む。

 

「お前がアリアにやられそうになった発砲をなぜしない?拳銃をチラつかせれば出て行ってくれるかもしれないのに何故だ?」

 

「その程度であいつを追い出せたら苦労はしないだろうが!それをしたらあいつから逃げたことになる。1人のオトコ(・・・)としてやってはいけないんだ!銃見せて追っ払ったんじゃあ……俺は笑いもんだ……違うかよ?」

 

「腐っても強襲科(アサルト)の生徒か……キンジ、オレはますますお前が気に入ったぞ……」

 

「は?何言ってんだよ」

 

オレはどうしてもキンジをアリアと組ませたくなった……だから、大事な幼馴染(妹分)のために無駄に高いプライドを捨ててオレはキンジに……温室の床に正座して握った拳を床につけながらに頭を下げ、土下座をした。

 

「頼む、この通りだ!一度だけでいい!アリアと組んでやってくれ!」

 

「お、おい!?何やってんだよハヤト!頭上げてくれ!」

 

オレが頭を上げると視界に入った理子の顔が驚愕に染まり、目を見開いて絶句していた。

そして、茫然とするキンジに理子が

 

「キーくん……この頼みを蹴るのはマズイよ?」

 

「何がだよ……」

 

キンジの額にはベットリと大粒の脂汗が滲んでいる……事態を把握しかけているがそれを認めたくないのだろう。

 

「理子ね、ハヤトんの事は転校してきた日にちょっと調べたんだー……誇り高きイギリスの伯爵(・・)が頭を下げるのって初めて見た……しかも土下座でなんて」

 

キンジは動揺の色が隠せないようで膝が震えている。

 

オレは内心でほくそ笑むが……もちろん表情には出さない。

アリアとキンジが一度でも組んでしまえば……強固な絆が生まれるとオレは未完全な「条理予知(コグニス)」で推理したのだ。

確証はない……だがオレはオレの直感を信じて今はクソの役にも立たないプライドを捨てる!

 

断り辛い状況に持っていくことが大事なのだからな交渉というものは……それにオレは善人ではない「偽善者」だ。

アリアに借りを作るつもりだ……とは考えてないがな……伊・Uと戦う覚悟を俺に見せたアリアのためにキンジを落とすぞ!

 

「伯爵……だと……」

 

「言い忘れてたな……オレもアリアも貴族だ。さぁキンジ、返答を聞かせてくれ」

 

「待ってくれ!卑怯じゃねぇか……まさかこうなる事を考えて土下座したのか!?」

 

「その辺はなんとでも言ってくれて構わない。報酬なら望む金額を出そう……なんなら前金も出そうか?」

 

オレはコートの内側からを5キロ相当の金塊(インゴット)を引っ張り出してキンジの目の前にそっと置いた。

 

Hola(おい)ッ!?」

 

「ふぁっ!?」

 

うん、いいリアクションだぞ理子にキンジ……つか理子……フランス語になってるぞ。

 

「そうか、まだ足りないのか……欲張りだなぁキンジは」

 

オレはさらに金塊をだす……ゴトリッゴトリッと計15キロの金塊だ。

 

「今日の金1g単価に照らし合わせた単純計算だが大体約4700万円程の価値だぞ?」

 

キンジは話についていけないのか脂汗をにじませながら後ろにひっくり返ってしまった。

 

理子はその大きな目を見開いて唖然としている。

 

オレはコートの内側に出した金塊を直しながらキンジに

 

「武偵は金で動く……賢い判断を待ってるぞ、キンジ!」

 

オレはキンジを温室に残すようにして外套を翻し、颯爽とその場を離れるのであった……さて、どんな決断をキンジは下すのだろうかね?

 

「どうすりゃいいんだよぉぉぉ!?」

 

キンジの叫びに意地の悪い笑みを心の内に秘めてオレは帰宅した……ついでに木陰に隠れていたリサを連れてな。

 

(続く)




2日連続更新……やればできるな(白目

はい、皆様……お楽しみいただけましたか?

ハヤトは善人ではないと言ってますが……ただのお人好しでしょうね。

アンケートの方はバスジャック事件までが期限です。

感想批判と評価にアンケート回答も密かに楽しみにしつつ……ではこの辺で失礼します!


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7弾 結成の凹凸コンビ!とハヤトの懸念

メヌエットの登場……電話越しですけどね!


キンジを温室に残して俺とリサは寮に帰宅した……え?

リサは女子寮に帰らないのかって?

こっちにリサの荷物を間違えて(・・・・)召喚してしまったので、この部屋に居ついてしまった。

今更ながら追い出すのは気がひけるし、キンジの了承も勝手(・・)に得ているので問題はない。

 

なんだかんだ言ってキンジを第二のご主人としてリサは扱ってるようだしな……料理もアリアが褒めたことからかいつも気合を入れて作ってくれる。

 

「リサはびっくりなのです。ご主人様の死角から覗き見をしていたと思っていましたのですが……」

「リサ。君が背負ってるその機関銃は布で隠しても目立つんだぞ?長い銃身が目立つし、何よりリサしか持ってないんだからなBARなんて」

 

俺が種明かしをするとリサはガーンという顔になって道端にうずくまり、地面を指でなぞり始めてしまう。

 

「うぅ……どうせリサなんて、天然で抜けてるメイドですよぉ……隠密のスキルは『アリア』お姉様の方が上手でしたし……」

 

イントネーションの違う『アリア』とはリサの師匠であるロベルタ女史の弟子で、リサの姉弟子となる人だ。

ロベルタ女史とは、戦闘侍女(バトル・メイド)の始祖で「現世紀最強(ジェネレイト・メイド)」の二つ名を持つ天下無双地上最強の『MEIDO』だ。

ロベルタ女史は、うちの実家に仕えてくれている従事者長(マスターフットマン)ことセバスチャン・アレキサンドリアとタメを張れる強さを持つ「一応人間」な女性の1人である。

武勇伝がいくつかオレたち貴族の間で語り継がれており、そのうちの幾つかを例にあげると……

一つ、彼女の「お片付け(サイレントキル)」によってこの世から姿を消した人々の数は千を超える。

一つ、イギリスのロンドンから一瞬で消えて、10秒後にはフランスのパリに渡っていた……

などなどと彼女は人知を超えた偉業(?)を数多く成し遂げたとかなんとか……現在はバッキンガム宮殿に支えているらしい。

 

「リサ。そろそろ帰るぞ……いつまでもここでうじうじしているというのならオレは先に帰る」

「ま、待ってくださいご主人様!リサを放っていかないでくださいぃ!」

 

俺が立ち去ろうとすると、リサはその場で少しジャンプして立ち上がりダッシュして俺の腕に飛びついてきた……少しだけ意地悪がしたくなっただけだったのに……やっぱりリサは可愛いな!

 

そんなバカなことを考えていると俺のポケットから、ナナ様の某楽曲の着うたが鳴る。

ナナ様が誰だと?水樹奈々さんの事だよ。

 

二つ折りの、赤色の携帯を開くと画面には見知らぬ番号が表示されているが……誰だ?

 

「……誰だ?」

 

オレはいたずら電話も予期して少しだけ、ぶっきらぼうに電話を受けた。

 

『やや粗暴な話し方……ハヤトお兄様にしては珍しく好戦的ですね……ここまでのお話でもう私が誰かは推理できましたよね?……お久しぶりです、ハヤトお兄様』

 

懐かしく感じ、聞き覚えのあるこの落ち着いた感のある低いアニメ声……その声の主をオレは知っている。

 

「3年ぶりか……相変わらず遠回しな話し方の癖は治らないようだな……久しぶり、メヌエット」

 

電話の相手はアリアの異母妹で3つ年下の少女だ。

 

彼女の名はメヌエット・ホームズ。

名探偵でオレの師匠である教授(プロフェシオン)の曾祖孫にあたる。

 

『突然で申し訳ありませんがハヤトお兄様。やはり、私の推理どおりに全ての物事が進んでいましたか……』

 

話が見えん……いったい何が推理通りなんだ?

 

「何がどういうわけだメヌエット。推理の意味もわからんぞ?」

『では小舞曲(メヌエット)のステップの如く、順を追ってハヤトお兄様に説明して差し上げましょう』

 

……この口癖も治っていないのか……前口上みたいだぞ?

 

『まず、お兄様の声です。 以前の、気弱な声音がこの3年の間に強く逞しい頼れる声音に変化していて自信を身につけられていること。 それは武装探偵としての格が上がったと見るべきで、お姉様と遜色のない武力……もしくはそれに近い武力を身につけたと言っても良い』

 

……相変わらずの推理力だよ。今回もピッタリ当ててきたことに恐縮していると、メヌエットはオレの沈黙を是と見たのかさらに続けてとても余計な推理を聞かせてくれた。

 

『そして、お兄様。男としても一皮向けられましたか?』

「……は?どう言う事だ?」

『お兄様。それ(・・)を淑女たる私に言わせるおつもりですか?』

 

……本当に余計な推理だ事だよ。

 

『まぁ、その話は今度。時間があるときにでも、お兄様への嫌がらせにとっておきましょう』

「やれやれ、嫌味な性格はなかなか治らないようだな」

『ハヤトお兄様とお姉様への嫌がらせは私の生き甲斐ですのでお許しください』

 

……つか、話が脱線してきてるぞメヌエット嬢よ。

 

「それは聞き流す。推理の続きを聞かせてくれないか?」

『近々、伊・Uが……「緋色の運命(スカーレット・ダイス)」が動き出すという事です』

「緋色の運命?」

『「あの日」からもう2年と少し経ちます。そして今年の夏……お兄様は選択を迫られます』

 

メヌエット……お前も「その先」を見ようとしてるのか?

 

「なるほど……警告を俺にくれてるのか?」

『この先、お姉様には困難が幾多にも訪れるでしょう……お兄様。どうかお姉様を助けてあげて欲しいのです』

 

メヌエット……なんだかんだ言ってもお前はアリアを想っているんだな。

 

「わかった。それについては善処するよ……でもアリアはまだパートナーを見つけてないんだがな」

『大丈夫です。私の推理ではそろそろパートナーが見つかる頃合いだと思いますので』

「ドンピシャだよ……さて、メヌエット。こっちはもう夜なんだ……また電話しておいで」

『はい、では……お兄様、どうかお姉様を守ってあげてください……お姉様をお願いします』

「任せとけ、アリアについてはお前の頼みだしな」

『お休みなさい……また電話させてもらいます』

「ああ、おやすみ」

 

オレはメヌエットとの電話を切り、携帯をポケットにしまった。

 

「ご主人様、電話の相手は誰だったのですか?」

「アリアの妹だよ……まぁ、幼馴染と言うより妹みたいな子だけどな」

 

変に勘ぐるリサの頭を撫でながら安心させるようにオレは彼女に笑いかけた。

 

「大丈夫だ。お前の考えてるような関係じゃないよ」

「ご主人様……はい!ではスーパーに行きましょう!買い物を済まして今日も美味しいご馳走を作りますよ!」

 

リサは走っていく……オレは苦笑いしながらその後を追うように……「緋色の運命」とはなんなのだろうかと考えながらリサを追って走り出すのであった。

 

 

オレとリサが帰宅した頃。アリアの姿がなかった……

 

キンジがオレに買ってきたももまんを差し出しながらアリアが出て行ったと俺に報告してきたのだ。

 

「そうか、強襲科(アサルト)に自由履修で戻るとアリアに約束したのか」

「ああ。 アサルトに戻って最初に起きた事件を一緒に解決するつもりだ」

「なるほど。 条件付きの降伏か」

「まぁな。 これならあいつも納得してくれたから」

 

オレがキンジの体質を知っている事については言っていない。 まぁ知らん振りで通すけど。

 

「じゃあ、一時的な凹凸コンビ結成だな」

「極端な身長差だがな」

 

オレが言うとキンジはアリアに対して毒を吐く。

 

まぁそこには同感だがな。

 

「ご主人様、遠山様!ディナーの用意ができましたよ!」

 

リサが元気にテーブルに料理を並べ始めたので、オレとキンジは話を切り上げて……リサの愛情が隠し味のご馳走に舌鼓を打ちながらオレはキンジにある物を渡した。

 

「なんだよこれ……よくわからん札か何かか?」

「それは「ルーン護符」だ。まぁ、オレからの前金だよ……御守り代りに財布にでも入れとけ」

 

そう言いながらオレは「とある効果」を充式構築したルーン護符をキンジに渡したのだ。

虫の知らせ……大事にならなければいいがなと思うオレの願いは……天に届く事はなかったのだから。

 

(続く)




この作品でのキンジは「平穏な武偵になること」を目標にしてます。
……その理由は………次のお話で明らかにいたしましょう!

はい、平日に更新できました。

アンケートの期限も後2、3話ですので投票はお早めにお願いします!

感想、批判、評価まってます!

では、この辺で失礼いたします。


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8弾 ようこそアサルトへ!リハビリ訓練

キンジのアサルト帰還




戻ってきてきてしまった……この明日なき学科(アサルト)に……

俺は自由履修の申請と装備の点検のためにこの強襲科(アサルト)棟に来たわけなのだが……例のごとく、アサルト名物の「死ね死ね団……愉快な仲間たち」に捕まってしまった。

強襲科では、大体の生徒が同じパーティーを組むことも多いので自然と人も懐っこくなるもので……

 

「おう、キンジ!お前なら戻ってくると信じていたぞ!さあ1秒でも早く死んでくれ!」

 

「うるせぇよ夏海。お前こそすぐに死にやがれ!」

 

「ここは間抜けな奴から死ぬからなぁー」

 

「じゃあなんでお前が生きてんだよ三上」

 

郷に入れは郷に従え……いかん、このままじゃあ訓練にならん。死ねと言われて死ねと返すのがアサルトでの挨拶なのだが……ここまで人が多いとそれだけで時間が……!

 

「おーい、キンジ。何やってんだよ」

 

声の方を見ると、いつもの外套を羽織ったハヤトの姿があった。

 

……ん?

 

ハヤトがこっちに来ると人があいつに道を譲るように一歩後ろに下がっていってるんだが……

 

「強襲科へwelcome(ようこそ)、キンジ!」

 

アメリカ訛りのない綺麗なイギリス英語で俺を迎えてくれるのはいいのだが……ハヤトは、一体どこに帯銃しているのだろうか?

 

銃を羽織った外套の中から出してるのは見たことがある。けど、どこから出しているのかは流石にわからないな。

 

「さて、キンジ。アリアと組むと決めた以上、オレのプロデュースには従ってもらうぞ?」

 

「なんだよ、プロデュースってのは」

 

「まぁ、ついて来い」

 

ハヤトはスタスタと行ってしまいそうだったので仕方なくその背中を追うと、第2グラウンドに出てしまった……

 

「キンジ。お前は強襲科を抜けて探偵科(インケスタ)に転科したのは3学期からだな?」

 

「あぁ、そうだ。正直言ってブランクも長いし腕も、体力も鈍った……なんでこんな俺をアリアと組ませたいんだ?組むと決めた以上話してくれないか、ハヤト」

 

「そうだな……事件を1つ解決したら教えてやるよ」

 

結局はぐらかすのか……

 

「まぁいい、なら事件を解決したら絶対に教えてくれよ?」

 

「ハートネット家、当主の名に誓って……答える」

 

ハヤトは答えると約束してはくれたが……と考えていると

 

「キンジ、ハヤトぉー!」

 

アリアがこちらに手を振って走ってきた……なんでだろうか、あのアリアが可愛く思えると無性に……なぜか自分に腹がたつ。

 

「よし、アリアもきたし……そろそろ始めるか」

 

言うとハヤトは羽織っていたコートの裏側から鈍色の濁った水晶玉を取り出す。

 

「何それ?」

 

「……何を始めるんだ?」

 

「まぁ、見てろ」

 

俺とアリアの疑問をハヤトは一言で遮りながら、

 

「キンジ、アリア。お前たちには特別な訓練を受けてもらう……この「時と精神の空間」で……な」

 

ハヤトは水晶玉をグランドに叩きつけて割ると……そこから溢れ出した閃光に俺たちは包まれた……ってなんだ!?

 

光が晴れると、そこは……さっきと同じ第2グラウンドじゃない……のか?

 

「ここは時間が切り取られた空間だよ……ほれ、そこ見てみろよ」

 

言われるがままに俺とアリアは、ハヤトの指差す上空を見上げる……と……

 

「何あれ!?」

 

「どういうことだ……!?」

 

空には、飛行機雲とその先にある飛行機がまるで時が止まったかのように静止(・・)していた。

 

「この空間はな、時間から切り離された幻影みたいなもんだ……効力は一時間といったとこだからさっさと始めるぞ」

 

「な、なにがなんだかわからんぞ!?もうちょい説明してくれ!」

 

「キンジの言うとおりよ!」

 

俺とアリアが騒ぐように説明を求めると、ハヤトはジト目で俺たちを見る……なんだよ、その目は

 

「お前らなぁ……理解できんのか、その残念なオツムで」

 

ハヤトはこちらがカチンとくる言い方で切り返してきたのだ……

 

「なんですってぇぇ!?」

 

「おい、アリアよせ!」

 

「うるさい、援護なさい!」

 

怒ったアリアが……背中の小太刀二刀を引っ張り出してハヤトに襲いかかる……がハヤトは焦った様子もなく

 

「この空間はある一種の蜃気楼なんだ……俺たちはその蜃気楼の中にいる状態だ」

 

アリアが振り回す寸詰まりの小太刀の連撃を手で払うようにいなしながらハヤトは説明を始めた。

 

「要するにだ。ここは特異点で空間から時間を切り取った俺たちしか存在しない世界って訳さ……と言うわけで、諸君。理解できたかな?」

 

ハヤトは上体そらし、ステップにしゃがみ込みを併用して華麗に避けて……説明しながら両手人差し指と中指の二本立てはしっとアリアの小太刀二刀を挟む……変則的な真剣白刃取りを披露してくれた……そういえば、ハヤトもバリツ使えるとか言ってたか?

そう考えたら、昨今の英国貴族には類稀なる武力が必須なんだろうか……何故って、この2人とも……べらぼうに強いだろ?

 

アリアがハヤトの手から小太刀を外そうと足掻くが、押しても引いてもビクともしない。

てか、ハヤトよ……なんつー握力なんだよ。

 

「時間がないからバカもやってられん。だからアリア、落ち着け」

 

ハヤトがパッと小太刀を離してそれを引っ張っていたアリアが真後ろに盛大にひっくり返って……アリアを受け止めようとした俺の方に……って!?

 

「のわっ!?」

 

思った以上に勢いがついていたために俺も一緒にひっくり返ってしまい……ドウシテコウナッタ。

 

アリアが俺の頭をその小さなお尻で下敷きにしている。

 

ドクンッ……

 

たとえ小さくとも女性の尻だ……脂肪のかたまり?それは違う……柔らかく、包み込んでくれる素晴らしいものだ……なぜか……女性の尻だからだよ……

 

ドクンッ……!

 

文字通り尻にひかれた状態で、冷静にも俺はそんなことを考えてしまった。

その時点でわかってしまった……

 

言いようのない感覚。

 

焼けそうに熱く滾った血液が体の中央に……芯に集まってそれがむくむくと大きくなっていくような感覚。

 

ああ、なってしまう……なってしまった……ヒステリアモードに……!

 

「あぅぅ……へ……!?」

 

スクッとアリアが立ち上がり、そのまま足を俺の顔に落とそうとする。

しかし、俺は全身をバネのように使いその場に跳ね起きた。

 

「あ、ああ、あんた!ひ、ひとひとひと人目も気にぜず……は、は、は白昼どどどど堂々うぇっぷ!?」

 

ぼふっ。

 

アリアの顔は灼けた鉄よりも真っ赤になりながら台詞を噛む……しかし、不幸にもなってしまったな……今回は。

 

「さぁて、準備運動……そっち(・・・)のキンジになったところで始めるか」

 

「今なんといった?」

 

「まぁ、気にするな……万が一にも俺に勝てたらそっち(・・・)の意味を教えてやるよ」

 

イタズラに笑いながら、ハヤトはコートの裏側から剣の柄を引っ張り出して二本の剣を地面に突き刺した。

 

「ナイフとロングソードじゃあ不公平だろ?どっちの剣でもいい……使えよ」

 

まさか、ヒステリアモードについて知っているのか……?

 

俺は警戒しながらも両刃の白布を巻いた黄金の柄を持つ白銀の刀身の西洋剣(ロングソード)を引き抜いて、軽く振ってみる……すごいな……手入れの行き届いたこの剣、ちょっと振っただけで手に馴染んでしまった。

 

「いい剣だろ?名前はまぁ知ってるかは知らんが、聖宝剣 オートクレールって言う業物だ……丁重に扱ってくれよ?」

 

「確かに、いい剣だ」

 

「こいつは装飾剣(クライスト)

 

言いながらハヤトは漆黒の刀身を持つシンプルな西洋刀(サーベル)を引き抜く。

 

「まぁ説明はいらんよな……!」

 

ハヤトが剣を振るうとバンッと衝撃波が起こって……ッ!?

 

俺はベルトに剣を挿し固定してアリアを抱くとその場から逃れるように後ろに跳躍した。

どうでもいいが、俺よ……ヒステリアモードになるとどうしてもお姫様抱っこになるんだな。

アリアを下ろした俺を見ながらハヤトが口元を緩ませながら嗤う。

 

「はははっ!よし、それでいい。キンジ、アリア……2人でかかってこい!」

 

ハヤトはそんなことを言いながら、コートの裏側から栞サイズの羊皮紙を出して手に握る……そして、どういう理屈かはわからないが火種であるライターも無しに羊皮紙に着火して俺たちに投げてきた。

 

「キンジ、避けなさい!」

 

アリアが俺に飛びつくようにして押し倒す。

 

「大胆な子だな……アリアうぁ!?」

 

押し倒され俺に当たりそうになっていた羊皮紙が空で弾けて俺たちから離れた場所に着弾して……大きな氷柱ができていた……ってなんだ!?

 

「あれはルーン魔術!ハヤトは攻撃的なタイプの超能力者(ステルス)よ!」

 

超能力者(ステルス)……だと……!?」

 

超能力者……字だけではかなり怪しい存在だが……この世には不思議な力を行使する者たちがいる。

それらを1つの分野にまとめて、育成する学科がこの武偵高には存在する……超能力捜査研究科が……!

 

「もうそこまで調べたのか……そこまで片鱗は見せてないはずなんだが……」

 

「言ったでしょ、首洗って待ってなさいって!」

 

アリアは一般教科の授業をフケてハヤトの調査をしていたのか!

 

「キンジ、ハヤトはあんたとあたしを試すつもりよ」

 

「つまり、ハヤトは今本気だってことか?」

 

「本気じゃねぇよ。お前らにおあつらえ向きな……合わせた出力だ」

 

ハッタリであってほしいな……これがハヤトのそこであってほしいが!

 

「そろそろ仕掛けてこいよ……説明は不要なんだしよ!」

 

ハヤトが西洋刀を肩に担ぐように持ち、左手に護符を持ちながら俺たちに向かって歩いてくる!

 

俺はベレッタM92Fを抜き、ハヤトの借り物である西洋剣を構えて一剣一銃(ガン・エッジ)に、アリアは小太刀を収めて二挺拳銃で構える。

 

「足を引っ張らないでよ、キンジ!」

 

「任せてくれ……アリアを守る」

 

アリアは硬直して動かなくなった……だが、これでいい。

 

踏み込んできたハヤトは左手に持った二枚の羊皮紙を着火して燃焼させる。

そして、その手には……氷で生み出された剣を握っている……魔法の剣ということか?

 

そして

 

「なるほど、まずは一対一でやりあうって腹づもりか」

 

「いや、俺だけでやってみせるとも」

 

言いながら俺はベレッタの安全装置(セーフティー)を解除しながらハヤトに向けて斉射(フル・オート)発砲した。

 

すると、ハヤトは生成した氷剣を投げて飛来する銃弾16発を迎撃するつもりだと思う……と!

 

「甘いな……防御とカウンターは紙一重だぞ?」

 

ハヤトが投げた剣は空中で分散するように弾けただと!?

……銃弾を迎え撃つ破片に触れると……その場で銃弾が凍りついて重みが増し減速。

それに加えて破片の運動エネルギーが残っており減速した銃弾と相殺する形でぼとぼとと落とされた……!

さらに残りの破片が俺に向かって飛んでくる……!

 

「クッ!」

 

世界がスローになる……直撃コースの破片はそんなに多くない……なら!

俺はオートクレールを振りかぶり、俺に当たる破片の全てを刀身で弾き飛ばす!

 

その弾き飛ばされた先には飛来する破片がある。

破片と破片がぶつかり合い、相殺されて弾けた氷であたりの空気が極低温になりキラキラと光を反射して煌めく。

ダイアモンドダストが発生したのだろう。

 

出来るかどうかは五分だったが……なんとかできたな。

 

「なかなかできるな……次は銃だ」

 

ハヤトはその場に剣を刺すとコートの裏側から.44 S&Wm29(マグナム)を引き出して構える。

そして連続で俺を撃ってきた……再びスローで見える景色……弾丸の狙いは俺の両肩、両膝、腹に2発ずつ。

 

俺はオートクレールを縦横無尽に振り回して、すべての弾丸を弾き、斬る!

……ッて弾丸斬れた!?

 

「弾丸斬りもできるのか……お前本当に人間か?」

 

「ハヤトには言われたくないな……」

 

「ごもっともだ……さて、ウォーミングアップは終わりでいいか?」

 

「ああ……来い!」

 

俺ははじめて闘うことを楽しいと思えた……こいつ、何かしたのか?

 

まぁ今はなんでもいい。

 

ハヤトと手合わせがしたい……そう思えるのだ。

 

「さあ、お前の実力を見せてくれ!」

 

ハヤトは剣を抜き、俺に正面から突っ込んでくる!

 

俺も……真正面から突っ込んだ!

 

昔、兄さんと手合わせできることが嬉しかったあの日と同じで……ハヤトは何かを俺に教えようとしている。

 

学校の事情で俺は一般の高校に入ることはできない。

転校も、武偵から足を洗うことも考えていたがどちらもできない。

 

一般の高校に潜入した時、俺はその生活の中にある雑音に反応してしまいずっとビクビクしていたのだ……帯銃を許されない環境下で俺はノイローゼになりかけた。

だから……武偵にしか俺はなれないのだ。

 

だから今は……この剣戟を楽しもうと思う!

 

ハヤトの繰り出した剣と、俺の持つ剣がこの閉鎖された空間で甲高い音を響かせるのであった……。

 

◯sideアリア

 

あたしは何を見ているの?

 

あたしにセクハラをしたキンジが別人みたいになってこの一年で飛び抜けて強くなったハヤト相手に大立ち回りしているこの状態……誰か説明しなさいよ!

 

「やるな、キンジ!」

 

ハヤトが漆黒の剣を閃かせてキンジに貸している自分の剣と斬り結ぶたびに青白い火花が散って光る。

ハヤトの流れるような剣閃はまるで円舞曲(ワルツ)を踊るように優美で繊細な物。

それを防ぐキンジは荒々しく、研ぎ澄まされた剣の使い方……えっと、侍のそれよ!

 

「はっ!」

「!」

 

ハヤトの自然な上段打ち下ろしから跳ね上がるような斬り上げ……虚空にV字を描くように繰り出された剣撃をキンジは剣で受け流しつつ、再装填(リロード)した拳銃(ベレッタ)を突き出しながら三連バーストで弾丸を発射。

牽制しつつ、斬り上げられる剣に銃弾を当てて軌道を狂わせながらキンジはバックステップで距離をとっていて……なにこのやり取り……いや、オカシイでしょ!?

あんた達の動き方絶対にオカシイわよ!?

 

ハヤトは紙一重で銃弾を躱しながら、空いている左手のルーン護符をチラつかせながらキンジにプレッシャーを与えているけど、それを使うそぶりは見せない。

さらに縺れ合うように剣を接触させ続けるキンジとハヤト……もうそろそろ目も慣れてきたかしらね。

あたしはガバメントをきつく握りしめて、地を蹴りハヤトに肉薄した!

ハヤトの剣めがけて照準を合わせながらあたしは「アル=カタ」を彼に仕掛ける。

 

ハヤトのお腹を狙って撃ちながら、懐に潜り込んで回避した先に肘先を置くようにしてエルボーを叩き込むとまともに受けたハヤトが身体をくの字に折って吹っ飛んでいく。

 

「キンジ、あんただけ暴れてどうすんのよ!」

 

あたしがハヤトにダメ押し、スライドオープンになるまでガバメントのフル・オート射撃で牽制していると……

 

「ナイスタイミングだ、アリア!」

 

ハヤトはあたしの弾丸に気を取られて、キンジの接近を許した。

横薙ぎに振り抜かれた剣を避けようとスウェイで躱すハヤトだったけど、その左手首に剣が当たり握ったルーン護符を手から落としていた。

少しだけ悶絶したような素振りだったけど、あたしの追撃、蹴りに足の裏を当てて軽やかに跳躍しながらハヤトは距離を取り離れた。

 

「ははは……オレが一撃もらうとはな……まだまだ修行が足りないってことか」

 

笑いながらハヤトはアルスターコートの内側に剣を挿してどこかに収納しながら、漆黒の大型回転弾倉拳銃(リボルバー・マグナム)を羽織っているコートの中から引っ張り出してる。

 

「二対一なら銃を使うぞ……答えは聞いてないけどな!」

 

ハヤトはモーション無しで拳銃を構えると、目にも留まらぬ速さで引き金を6回引いて……弾丸を弾く!

 

あれって、早撃ち(クィック・ドロウ)の6連射……ハートネット家の人間が多用できるリボルバー特化の早撃ちスキルじゃない!

 

対するキンジは、あたしを庇うように前に立つけど……再装填(リロード)を済ませたあたしのガバメントが火を噴く。

 

ギギギギギィン……ギィンッ!

 

あたしのガバメントが吐き出した.45ACP弾の7発はハヤトの.44SP弾6発をあらぬ方向に弾き飛ばして行く。

これは連鎖銃弾撃ち(ビリヤード・カノン)と言う射撃技……銃弾パワーは7発もあれば互角!だから全部の弾を弾けたわけでね。

でもハヤトは予測済みと言わんばかりに拳銃本体(・・)を投げてきた……ってなんでよ!?

 

「あう!」

 

あたしの右手からガバメントを弾き飛ばしてハヤトが腕を引くと、投げられた拳銃に繋がっていたワイヤーが巻き取られて彼の手に収まる……仕掛けワイヤーね。

 

ハヤトは二つ折りにして開いた拳銃の回転弾倉(シリンダー)から空薬莢を弾き出すと、空いている左手を振って空に弾薬をばら撒きながら後ろに跳躍。

キンジの接近を躱して宙返りしながらちゃきっと音を鳴らしてこちらに向くハヤトは……折れていた拳銃を閉めてこちらに向ける……回転弾倉(シリンダー)に弾薬を再装填(リロード)し終わっているの?

 

「よし、面白いもん見せてやるよ……!」

 

そう言いながらハヤトは黒い拳銃を握る手に力を込めて……何あれ……!?

ハヤトの握る銃からはピリピリと細かい稲妻が発生していてそれが段々と危険な感じな閃光とか紫電を走らせてるんだけど!?

キンジも異変に気がついて額に大粒の脂汗を浮かべてる。

 

「お前ら、超電磁砲(レールガン)って知ってるか?」

 

言いながらハヤトの拳銃は眩い光を放ち続ける……!

 

「詳しいことを説明してたらこの空間が壊れてしまうから説明は割愛するぞ……要するに、ローレンツ力で投射体なる物を加速させて撃ち出す電磁力を使った兵器だな」

 

紫電の光と閃光が今にも弾けんばかりに膨らんでいく……!

 

「これは銃に刻まれたルーン術式で擬似的なローレンツ力を生み出し、銃弾に付与する事で破壊力と初速を底上げする魔術と科学の融合……!」

 

先程とは打って変わって銃の明滅が落ち着いたみたいに穏やかな光を帯びたそれの存在感は凄く大きなもの……危険な感じが本当にする……ヤバイわよ絶対!

 

ハヤトは天に向けて拳銃を構えると

 

「まぁこれ、まだ(・・)完成じゃないから対人には使えないんだよ……試合終了の花火といくか!」

 

ハヤトは引き金を絞りながら言う……

 

「迸れ、苛烈なる電撃……ブチ抜け、『擬・超電磁砲(レールガン)』!」

 

天を突くようにハヤトが構えた漆黒の拳銃からは激烈な紫電と閃光、稲妻を纏わせた弾丸が発射された!

 

ビッシャアァァァァンッッッッ!!

 

「ひゃうぁっ!?」

「うおっ!」

 

思わず情けない声を出してしまうほどに驚いたあたしとキンジ。

思わずキンジに抱きついちゃった……あたしは雷が苦手なのよ!も、文句ある!?

魔術の電撃に加えて銃弾のエネルギーが増し増し状態……そんな物がぶつけられたらどんなに強固な戦車でも吹き飛ぶでしょうね……これ……

 

ぽっかりと空に開いた穴を見ながらあたしとキンジは絶句。

ぱらぱらと光の粒子が煌めきながら、ドーム状の結界が壊れていき……見慣れた第2グラウンドの姿が見えて来た。

 

「よし、とりあえず……オレの実力はわかってもらえたかな?」

 

アルスターコートの裏側に拳銃をしまいつついい笑顔でハヤトはあたし達に問いかけるけど、一体あの臆病者のハヤト(ハヤト・ザ・チキン)はどこに行ったのかしら、無尽蔵に湧くハヤトの自信は天井知らずねぇ。

 

「お、おぅ……超常現象はもうこりごりだよ……」

 

キンジはこめかみを押さえながらハヤトに返答……まぁこれが正常な反応よね。

 

「うむ。わかってもらえたのであれば結構!では、放課後にでも会おうぜ」

 

そう言い残してハヤトは第2グラウンドを後にして行ってしまう……けど、あたしとハヤトじゃ組めないわね。

気をとりなおしてあたしはキンジを連れて強襲科(アサルト)の施設に戻った。

 

 

 

 

「ちょっと調子に乗りすぎたか……」

「はい?」

「いや、何でもないよ」

 

オレとリサは下校途中に学園島のゲームセンターによっていく事にした。

と言うか、キンジとアリアについて来たんだが……

 

「むぎぃぃ!!」

「壊れるな、落ち着けアリア!?」

 

何でこうなったよ……軽く状況を説明すると、アリアがレオポンなる不思議なネコ科動物モドキのぬいぐるみを欲しがってクレーンゲームにお金を突っ込み続けているのだ。

 

ちゃりんぽと。ちゃりんぽと。ちゃりんぽと。

 

かれこれ3千円は消費してると思うが、アリアは意地になっているな。

……メヌエットにポーカーで勝てないからってアリアが何度もなんども挑んでいく風景を思い出した。

結局勝てなくてメヌエットにいろいろ譲らざるを得ない状態になってたもんなあのときのアリアは。

 

「アリア、貸しとこうか?」

 

オレは絶界から財布を取り出すと中から黒いカード(ブラックゴールドカード)を出した。

アリアはむぅぅという顔になるが、オレの手からカードを取ろうとした時、あわててキンジがアリアを止める。

 

「筐体ごと買おうとしてんじゃねぇ!?」

「うるさいうるさいうるさいぃーっ!レオポンほしぃんだもんっ!」

 

アリアが駄々っ子モードでジタバタする。

 

「わかったからとってやるから落ち着けアリア!」

 

キンジは仕方なしに財布を出すと100円を投入して狙いを定める。

 

「あれだな……」

 

キンジがクレーンを操作して、レオポンなる動物の胴をガッチリと掴む!……お?

クレーンがつかんだレオポンのタグに絡まるようにしっぽが引っかかったレオポンも一緒に取れている。

 

「キンジ、見て!釣れてる!」

「釣れてるって何だよ……」

「ちゃんと取らないと風穴よ!」

「後のことはどうにもできねーよ」

 

微笑ましいキンジとアリアのやり取りを眺め人知れずオレもドキドキしている。

 

ぽとぽと……

 

「やったあぁぁ!」

「よっしゃあ!」

 

ぱちぃっ♪とアリアとキンジがハイタッチしている様子を見て……オレは確信した……そして、アリアのことをキンジに任せてみようと考察し始めていた。

これはいい傾向にあるな。

 

そんなことを考えながら、ハッと気がついてそっぽを向き合う2人に苦笑いをしながらリサを伴い、ゲームセンターの奥に足を踏み込んでガンシューティングゲームのスコアを塗り替え続ける。

 

タイムクライシス、ハウスオブザデッド。この辺のポピュラーなゲームのスコアを書き換えつつゲームを楽しんだ。

ランキングに載っていた次元の名前を抜かしてオレの名前を置いておく。 我ながら小さいやり方だが、これはこれで面白いだろう。

躍起になる次元の顔を想像しながらオレたちはゲームセンターが閉まるギリギリまで遊び呆けるのであった。

 

……まあ、全部オレの奢りだったけどな!

 

(続く)



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9弾 緊急事態……仇敵の急襲と傲慢な贈り物

仇敵の登場と触れることのできなかったバスジャックです。


リサを連れてオレは最近見つけたお気に入りのカフェにて早朝モーニングを食べ終わり、無糖のコスタリカ・コーヒーを飲みながらに煙管(キセル)に詰めたハーブボール(タイム、オレガノ、ローズマリーなどを合わせた調合ハーブオイルを極少量の香木屑で練り合わせたもの)にマッチで火をつけてすうっと煙を吸い、ふぅっと吹かす。

前世で吸っていたメンソール系のタバコに近い風味を出すのには苦労した物だ……ちなみに、特注の煙管は中間部にフィルターを付けれるように工夫している。

タバコではなく、アロマハーブなので脱法ハーブでもないが……まぁ、周りの視線は無視する。

 

煙が出なくなったのでオレは灰皿に火皿の灰を落とし、それをコート裏の絶界にしまい、まだ少し熱いコーヒーを飲み干して暫し余韻に浸る。

 

「ご主人様。そろそろ登校いたしますか?」

「ん?……ああ、そうだな。」

 

昨日はよく遊びすぎたな……出費はそこまでなかったが(それでも100kは使ったか?)とりあえず遊びすぎたな……うん。

そういえば今日……オレの条理予知(コグニス)がアリアが怪我をすると推理した日だが、事件らしきそれはまだ起こってないな……このままはずれてくれればいいのだが。

 

現在の時刻は午前7:30……リサが朝食を作り置きしていたからキンジに問題はないだろう。

寮から遅刻しない距離だからオレとリサは毎日歩いて登校している。

だが、そろそろオートバイ(400cc)の購入も考えている……のんびり歩くのもいいが、オートバイ二人乗りで学校に行くのもありだろうしね。

ちなみに、バイクの免許は持っている。

国際免許だから乗る場合は教習を受けないとならんがな。

 

今日は東京に近づく台風の影響で雨だからなぁ……まぁ、傘を差しながら登校するのも良かろうと思い歩きなわけだが。

 

「あいにくのお天気ですね……」

「偶にゃあこう言うのも悪くないさ」

 

隣を歩くリサは雨で少しご機嫌斜め。オレはフォローしようと話題を探すが……!

 

「リサ……奴だ……!」

「……この臭いは!」

 

リサも鼻を効かせて反応した。

 

雨に紛れてわかりづらいがわずかに、死体の匂い(・・・・・)が近くの裏路地から漂ってきた。 オレは傘を放り、コートを翻しながらその裏路地に走り込む。

後に続くリサも背中のBARの保護布を取っ払い、安全装置(セーフティー)を外し構えた。

雨で濡れたその路地には雨水の混じった赤い血溜まり、そして首元を切り裂かれた女性が倒れていた……!

 

「大丈夫ですか!?」

 

すぐに衛生科(メディカ)所属のリサが駆け寄り、脈をとるがリサは首を横に振る。

オレは惨殺された女性に心の中で黙祷して状況を確認する……

 

「リサ、警察に連絡を頼む」

「かしこまりました!」

 

ミントグリーンのケータイでリサが警察に通報するのを尻目に辺りを見渡す。

女性には抵抗した様子はなく、凶器も見当たらない……奴がやったのなら……その気配も……ある!

 

「出てこいよ……」

「……くひ、くひひひひひひィィィッ!」

 

不気味な笑い声が路地裏にこだまする、その声の主はまだ姿を現さない……と!

オレの前、日差しの影となった場所には黒々とした「沼」のようなものが湧き出てくる。

ズブズブと不快な音と笑い声をあげて、そこから現れたのは、長く燻んだ金髪を俺と同じように一本にまとめて紅い双眸を持つ、端正に整った顔立ちは例えるならば蠱惑的なイケメン。 身体は針金のように細く鍛え上げられた長身。

そして古いタイプの神父の服装……しかし、こいつはそこらにいる善人の神父ではない。

 

「きひひひひひぃぃッ!こんな……こんな辺境の島国で秂狼姫並びに神滅の魔王(・・・・・)様と出会えるとは、まさに天啓!我が主の示された誠なる天啓ぃ!ハレルゥゥゥゥヤッッッ!!」

 

……意味不明なことを口走るこのイカれ神父はオレの仇敵!

オレの大事な人を傷付けて、3年前のあの日オレの体に血のように、ルビーのように、焔のように緋い金属片を刺し、手術で取り出せない位置に抉りこんだ忘れられない(イタミ)をオレに与えた憎き仇敵、ホーンデッド・グリード・アンデルセン!

 

「この人は……テメェが?」

「ええ、ええ。 それはそれはいい断末魔、いい悲鳴をあげて激情と素晴らしい未練の叫びを残して逝かれましたよぉ。 甘露な生者の魂が泣き喚くゥ、嗚呼、素晴らしきはこの世界!」

「相変わらずのイカれ具合だな……」

「さあ、貴方様とわたくしがここで出会ったのも我が主の示された天啓なのです!わたくしの手をとり共に「魔の物」たちに殲滅、滅亡の名に則り、彼らを救済いたしましょう……我が主、魔王様あぁっ!」

 

……本当に狂ったらこうなるのだろうか……ホーンデッドは元々、名の知れた魔術師だった……

降霊術師で錬金術師、生命術師、召喚術師の肩書を持つその時代「最強」の名を欲しいがままにしていた優秀な魔術師だったのだが、因果真理(アカシック・レコード)に手を出して禁忌とされる因果刻印により、自らの魂を因果真理(アカシック・レコード)に刻み込んで不老不死となったと後世に伝わり、今に至る……らしい。

殲魔士(エクソイザー)……神父の格好は趣味で全くもって宗教には関係ない……わけではなく、元々は神父だったらしい。

その当時はバヨネットの神父と呼ばれていたそうだが……真相は定かではない。

 

「意味不明なことを……とにかく、殺人の現行犯で逮捕する!」

 

オレは絶界から装飾銃(ハーディス)を引き出しながら、ノーモーションで6発の早撃ち(クィック・ドロウ)で相手の体に風穴(・・)を6つ開ける。

 

ん?武偵法9条破り?

……そんなものが目の前の災厄(ディザスター)に通用すると思うか?

肩から、膝から、眉間、左胸から血を吹き出してホーンデッドはぐらりと後ろに倒れそうになるが……ズルリと気色の悪い動きで直立不動になるホーンデッドの身体の傷は一瞬で完治していた。

気色悪いが恍惚で愉悦に浸るそれはそれは気色悪いいい笑顔をしながら

 

「嗚呼、やはり痛みはいいぃっ!私に生きていると実感を与えてくれるぅぅ!」

 

ほざく言葉に不快感指数が右肩上がりだ。

そのセリフを無視してオレは後転宙返りしながら、空薬莢をシリンダーから弾き出しつつ、左手で弾薬をばら撒きながら空中リロードしつつ、着地しながら左手に装飾銃を持ち変えて装飾剣(クライスト)を絶界から抜く。

 

「あぁ……わたくしは本当に果報者でございますぅぅ!」

 

ホーンデッドはどこからか銃剣(バヨネット)を2本とりだすとオレに接近戦を挑んでくる……が、相手はオレだけじゃねえぞ?

 

「リサ!」

 

「お任せください、ご主人様!」

 

オレが側転でリサの射線条から抜けると、BARの使用弾薬である7.62x51mm NATO弾が銃口から全自動斉射(フル・オート)で飛び出す……リサのBARは近代化改修を受けているため、NATO弾を使えるのだ。

まともに銃撃を受けたホーンデッドは風通しが良くなった様にハチの巣にされるがそんなことは構わないとオレに飛びかかってくる。

普通なら死んでいてもおかしくないが、モザイクで閲覧規制したくなる穴だらけの……その姿でもこいつは生きているのだ。

 

赤黒い光と赤い煙が奴の体から立ち登り、傷が再生していく……おそらくは生命魔術で新陳代謝を弄って再生速度を引き上げているのだろう。

だが、構うことはない……!

 

「くらえ!」

 

オレはホーンデッドとの距離5mを一瞬で詰めて漆黒の西洋刀(サーベル)を片手で上段から振りかぶる。

対してホーンデッドは心底嬉しそうな貌をしてバヨネットを俺の心臓めがけて突き出す……

 

「―――黒爪(ブラック・クロウ)!」

 

装飾剣はブラフ。その場で超高速回転……ほぼ(・・)同時に繰り出した装飾銃による4発の打撃はホーンデッドのバヨネットを当たり前の様に砕き、ホーンデッドにも襲いかかる。

が、ばらばらとホーンデッドが下がりながらばら撒いた何かが描かれた紙に打撃がぶつかると強烈なカウンターショックによってノックバック。

……距離を取らざるを得なくなった。

 

「チッ……」

 

流石に跳ね返ってきたダメージがキツイな……返ってきたダメージは「真壁(シンヘキ)のルーン」……外套に付与されていた物でダメージ半減の効果を持っているのだが……どうやら跳ね返し(カウンター)の威力は倍になって帰ってくるみたいだな……まるで「倍返しだ!」……どこの半沢直樹もしくはシローアマダだよ

簡単に解釈すれば半減したダメージは元と同じ威力になって帰ってきたわけだからな……

 

「聖書を破くたぁなんて罰当たりな……」

「フフフ……負け惜しみですか……まぁわたくしは神父ではございませんよ」

 

口元に鉄の味が……ツーっと血をにじませながらオレは奴を睨む。

はらりはらりと奴を守っていた紙が地面に落ちる……雨に濡れるそれは……聖書だった。

 

「もとより今日は顔合わせと……あなたの「緋刃(scarlet sword)」の覚醒の調子をと思いまして。 ふむ。いい感じで目覚めていますねぇ、む?」

 

マジマジとオレを値踏みする視線、だめだ、動けない。

 

「ご主人様から離れなさい!」

 

リサがBARを乱射してホーンデッドにNATO弾をたらふく食らわせている。

眉をひそめながらゾンビヤロー(ホーンデッド)は後退していく。

遠くからパトカーのサイレンが鳴り響き近づいてくる……これに気がついたのか?

 

「さて、わたくしはこれにてお暇させていただきますね。 うふふ、また会いましょう。 そうですねぇ、次は伊・Uの本部で。 因果は全て刻んでおりますが故に。 では、失礼いたします」

 

ズブズブとホーンデッドは沼の中に消えていく

 

「クソッ……限界か……」

 

意識が持たない……オレはその場に崩れる様に倒れるのであった。

 

 

「そうか、アリアが怪我を」

 

「すまなかった。 俺が不甲斐ないばかりに」

 

ホーンデッドとやり合った後ダメージによって意識を失い武偵病院に運び込まれたオレは当てられた病室(個室)でキンジと話していた。

受けた診断は全身打撲と衰弱……つまりは魔力なる(リソース)をいつの間にか奪われていたことだ。

オレが倒れた後、バスジャックが発生したらしいのだ……で、アリアがキンジを庇った際額を掠めるようにして銃弾が通過……アリアは脳震盪で気絶して手当と精密検査のために入院したとのことだ。

 

「いや……いいんだ。 オレが悪い」

「なんでだよ」

「自分勝手に、お前に期待してアリアを任せたオレが悪いんだ。 巻き込んで悪かったな、キンジ」

「どういう意味だよ!」

 

条理予知(コグニス)の描いた未来を伝え損なった……浮かれていたのはオレだったんだ……

 

「すまない。 じつはな」

 

オレは全てを、条理予知(コグニス)で見たことを全てをキンジに伝えた。

それを聞いたキンジは「なんで教えてくれなかったんだ!」とオレを責める……その怒りは正しい。

 

だからオレは……

 

「キンジ。 この先は最近見た条理予知、お前は大きな時代のウネリに飲まれる。 伊・Uの奴らに狙われるアリアと共に」

「!」

「だから、備えろ。 迫り来る戦いに、そこにはオレも巻き込まれるんだ。 絶対に!」

 

共に戦ってくれ……アリアの戦う理由を見つけろとオレはキンジに話した。

 

「アリアの戦う理由?」

「『武偵は自立せよ』この言葉に則ってオレからは答えを言えない。だから、自力で調べてくれ」

 

話を一方的に切り、オレはキンジから目をそらす。

 

納得いかない雰囲気のキンジは……オレの心を読んだのだろうか……

 

「わかった……お前もお大事にな……ハヤト」

 

完全敗北に心が傷ついたオレの心情に気がついてくれたのだろう。 キンジは踵を返して病室を後にしていった。

その後、オレとリサが居合わせた現場で起きていた殺人事件について聞きに来た刑事に応対した後1人で今回のことを考えていた……緋刃(scarletsword)の意味……なぜホーンデッドがこのタイミングで俺の前に現れたのか……それらを調べる必要がある。

 

だがその前に、オレに必要なのは休養か

退院は早くても今週末なんだがな。 だが、次は止めるぞ理子!

決意を新たに、再び来た眠気に身を任せてオレは……病室のベッドに体を預けて眠るのだった。

 

 

オレが入院している救護科(アンビュラス)に隣接する形の武偵病院構内をオレは点滴スタンド引いて歩いていた。

全身打撲と衰弱と診断されたが、実際はホーンデッドがオレに「衰者の呪い」をかけたからであり……通常医学では治せない代物だ。

なのでオレは歩いて気力を辺りに散らすことで 体内の瘴気を抜く最もポピュラーな方法で解呪しようとしていた。

もちろん体外に発散される呪力はオレの魔力で、浄化する事で無害にしている……誰かに呪いが連なる事はない。

そんなこんなで小一時間程歩き、自分の病室に戻る途中である名札を見つけた……オレの個室と同じVIP階層にある一室に、「神崎・H・アリア」と名札がつけられた部屋があったのだ。

 

見舞いはまだ行ってなかったな……

オレは病室に掛けてあった外套(アルスターコート)を肩に羽織り、武偵病院に併設されたコンビニに向かう。

あるだけあったあったかいももまん5つを買い、絶界に直してアリアの個室に向かう。

 

「アリア。オレだ」

 

病室のドアをコンコンっとノックして少し待つ。

 

「いいわよ」

 

アリアの声が返ってきたので、オレはドアを開ける。

 

「お見舞いにきたの……ってそう言えばあんたも入院してたのよね」

「まぁそんなところだ」

 

言いながらオレは買ってきたももまんを絶界から出すとアリアが鼻をすんすんと鳴らす。

 

「……ももまん?」

 

……匂いでわかったのかよ。

 

「おう、一緒に食うか?」

 

オレは1つ出して後の4つをアリアに差し出すと彼女はオレの手からバッとビニール袋を奪い、ももまんを2つ鷲掴みで手に取るとガツガツと勢いよく頬張り出した。

その光景を苦笑いして眺めていると……もう食べてしまったのかアリアは空になった袋を丸めて後ろのゴミ箱に投げ込んだ。

 

「……ももまんは逃げないよ……って食うの早すぎだろ」

「う、うるさいわね……!」

 

ぐきゅる〜っと鳴る音の発生源はアリアだった……まだ食べていなかったももまんをずいっと仕方なしに、オレはアリアに出す。

 

「お前、武偵病院(ここ)の飯食ってないだろ……やるから食え」

「ぁりがとぅ……」

 

顔を真っ赤にしてアリアは小さな声でオレに礼を言ってきた……プライドの高いアリアには珍しい反応だな。

そして、ももまんを頬張るアリアの額を見たオレの胸にチクリと見えない針が刺さる。

 

すれ違いかけた医者に聞いたのだが、包帯が巻かれた額……そこの下にある傷はかすり傷だったらしいが完治しても傷痕がどうしても残ってしまうらしい。

なのでオレは入院して暇な合間に偶然作れたルーン術式をアリアで試してみる事にした。

 

「それ、ずっと残る傷痕らしいな」

 

オレがアリアの額を指差したのを見て彼女は

 

「別にいいわよ。 生傷が絶えない仕事なんだから仕方ないじゃない」

「治してやろうか?」

「あんた医者じゃないでしょ?ムリよ」

「らしくないな。『ムリ、疲れた、面倒くさい』お前が嫌いな言葉じゃなかったか?」

「変なことしたら殺すから」

 

物騒な物言いのアリアに「小学生に興味はない」と皮肉を言いかけて寸でのところで言葉を飲み込む。

しゅるりとアリアが包帯を取るとその額には腫れの引いていない二本の線が交差したような赤く浮き立っている傷があった。

 

「そのくらいならなんとかできるぞ?」

 

オレはコート裏からルーン文字の描かれた真新しい栞サイズの羊皮紙を取り出すと、それをアリアの額にペタリと貼り付ける。

 

「これをどうするのよ?塗り薬なわけ?」

「まぁ見てろ」

 

オレが右手でパチンッと指を鳴らすと、羊皮紙が熱もなく一瞬で燃え尽きた。 そして、オレの左腕に鋭い痛みが走るが表情には出さないでおく。

 

「な、なに!?熱くなかったけど、なんだったの!?」

「これでどうだ?」

 

オレは軽い混乱状態のアリアに額を見てみろと視線で訴えると、彼女がサイドテーブルにあった手鏡で渋々といった感じで額を確認すると

 

「え? なんで、どうして!?」

 

アリアが驚くのも無理はない。

そこにあったはずの傷はキレイに完治していたのだからな……。

 

「な? 治っただろ」

 

オレはそれだけを言うと踵を返して背をアリアに向けながら話す。

 

「それなら、日曜日に会いに行く時……かなえさんに心配かけることはないだろ?」

「……知ってたの?」

「ああ。かなえさんの弁護士にも会ってきた……伊・U絡みのことを話すためにな」

 

実は最近にオフの時間を使ってかなえさんの弁護をしている連城弁護士とオレはあっていたのだ。

 

「……!」

「だから、今週末の面会にオレも連れて行ってくれないか?積もる話も……直接話したいこともあるしな」

 

オレが振り向きながら、アリアに訊くと彼女は首を縦に振ってくれた。

 

「わかったわ。一緒に行きましょ……ハヤト?」

「いや、なんでもない。じゃあオレもそろそろ病室に戻るわ。 お大事にな」

 

オレは言うと再びアリアに背中を向けて彼女の病室を後にした ポタリ と血が数滴オレの履くスリッパに落ちる。

 

いてぇな。 こんな傷を負ったのか、アリアは。

 

アリアの額にあった傷は魔法のように消えたわけではない……単に、オレに移動しただけなのだ。

これの原理は「時間の共有」。

時間と空間はずっと横にスライドするように流れ続けている……今回、オレが行ったのはそのスライドしたアリアとオレの時間を入れ替えたのだ。

オレが入院した時とアリアが怪我をしたおおよその時間を入れ替えたので……タイムラグが発生して俺の左腕に移動してきた傷は開いた状態だったと言うわけでな。

 

病室に戻るとリサが居たので彼女に事情を話して止血と消毒をしてもらい包帯を巻いてもらった。

 

「ご主人様は優しすぎます……誰にでも」

「なぁに、自己満足だよ……多分な」

 

リサに礼を言いながらおどけるように肩をすくめてみせると彼女は苦笑いしていた。

 

「さて、そろそろ寝る。リサ、帰っていいよ」

 

オレがそう言うと

 

「ご命令なら仕方ありませんね。ご主人様、お体をいたわってあげてくださいね?では、失礼いたします」

 

言いながらリサは帰って行った。

 

ちなみにキンジの話では、リサがオレ達の寮室に完全に住み着いてしまったらしい。

キンジの世話をして気を紛らせているらしく、献身的すぎてキンジがドン引きしていたらしいがな。

 

……まぁいいか。

 

 

 

 

退院したオレは制服で移動するわけにもいかず、今日は私服である。

春らしい桜色のポロシャツにすらっとしたスリムタイプの白いジーンズを履いている。

いつものコートを羽織り式力を流し込んで色を変える。

今日はカーキ色にしておくか。

いつもの制服とは違いたまにはお洒落をすると気分が新鮮なものになるな。

ライトグレーのスニーカーを履き、寮を出た。

 

電車を乗り継いで、アリアと待ち合わせ場所の新宿警察署の前で待っていると……アリアがキンジを連れて歩いてくるのが見えた。

 

「なんだよ、キンジも誘ってたのか?」

「違うわ。尻尾丸見えの尾行に勘付いたから一緒に歩かせたのよ」

「なんで新宿警察署前で待ち合わせなんだよ」

『あんたの(お前の)考えてる線じゃない』

 

オレとアリアの声が被った……まぁいいか。

 

「あんたも『武偵殺し』の被害者だし……ここで追い払うのも気がひけるわ……ついていらっしゃい」

 

そう言うとアリアを先頭にオレとキンジは後に続くように歩いていくのであった。

 

 

 

 

「お久しぶりですね、かなえ叔母様」

「まぁ……3年ぶりかしら。うふふふ、立派になったわね。ハヤトくんも」

 

管理官2人が背後にいるアクリルガラス越しに会ったおっとり系美人の……アリアの母親の神崎かなえさんと面会した。

 

「あら?そちらの方はアリアの彼氏さん?」

「ち、違うわよママ。こいつは遠山キンジ。断じてあたしとはそう言う関係じゃ無いわ。最近起きた3件目の『武偵殺し』の被害者よ」

「まぁ……」

 

かなえさんは表情を硬くしながらキンジに向き直る。

 

「キンジさん、初めまして。わたしはアリアの母で―――神崎かなえともうします。娘がお世話になっているようですね」

「あ、いえ」

 

しどろもどろに答えるキンジ。 あれか、ロリコンのくせに年上もイケるクチか?

 

「余計なこと考えてねぇか、ハヤト?」

 

ジト目でオレを睨むキンジはさておき

 

「こいつらのことはどうでもいいから。ママ、面会時間も3分しかないから手短に話すわね」

 

アリアはここ最近に起きた『武偵殺し』の事件についてをかなえさんに伝える。

聞きに徹したかなえさんだったが……彼女がパートナーの事についてをアリアに訊くと彼女は言葉に詰まる。

……あと30秒くらいか……頃合いだな。

 

オレがコートのポケットに忍ばせていた小さな水晶玉に魔力を注ぐと……周りの景色が切り取られたような感じになっていく―――これは時と精神の空間だ。

 

「神崎、時間?」

「な、なんだこれは!?」

 

時計が止まっているのを見て管理官達が慌て始めた。

オレは彼らの背後に絶界を繋いで、はらりとルーン護符をその足元に落とすと……パチンッと指を鳴らす。

 

バチチチチッ!

 

「ぬぉ!?」

「ぐあっ!?」

 

感電したのだろう……管理官2人はその場に崩折れて気を失った。

 

「は、ハヤト!?何やってんだよ!?」

 

キンジが驚くのを尻目にオレはアリアに話しかける。

 

「時間がないから手短に言うぞ。この空間は前に使ったアレだ……時と精神の空間。効力は15秒を15分に変える時間遅延だ」

「……え?」

 

言ってる意味がわからないとアリアは首をかしげる。

 

オレは絶界から装飾剣(クライスト)を引き出すと一閃二閃して分厚いアクリル板を紙切れを切るように細切れにする。

 

「ハヤトくん!?」

 

かなえさんもびっくりしてオニキスの瞳を見開いている。

 

「大丈夫ですよ、かなえさん。この空間はある一種の特異点ですから、壊しても元の空間に異常はありませんから」

 

オレは彼女に微笑みかけて問題ないと言い放つ。

 

「アリア……ほれ」

 

オレはアリアの……彼女の背中を押してかなえさんに渡す。

2人は顔を見合わせあって硬直。しかし……

 

「ぇ……ぁ……ママ……ママぁ!」

「ぁ……アリア……アリア……!」

 

親娘2人は躊躇いながらも、抱きしめ合い……泣き出した。

 

キンジが何か言いたげな目で俺を見る。

 

「大丈夫だ。なんの問題もない……最悪の場合、終身刑で親娘が『冤罪(・・)』で離れ離れになることの方が大問題だよ」

「お前なぁ」

「で、キンジくん。君はどう思う? あの親娘を見て」

「こんなのおかしいに決まってる。本当に冤罪ならかなえさんが拘束される理由がない。なんで彼女が『武偵殺し』の容疑者にされてるんだ?」

 

キンジの疑問も最もだな……

 

「アリアが立ち向かおうとしている組織……伊・Uがかなえさんに冤罪を着せてスケープゴートにしたからだよ……まぁそれ以外にも理由はありそうなんだがな……」

 

予測できるのはイロカネと呼ばれるもの絡みのことだと思われる……教授(プロフェシオン)の研究の中に「緋色の研究」なる議題があったのを思い出した。

ふと気がつくと、アリアとかなえさんは本当に楽しそうにして親娘の時間を過ごしている……こんな時間がいつかあの2人に還ることをこっそりとオレは願った。

しばらくして空間の効力が切れかけてきたのでオレは後ろ髪を引かれる思いだったが、かなえさんに話したいことを話す。

 

オレが伊・Uにいた事とそこで修練を積んで今に至ることを全て包み隠さずにアリアとキンジ含めて3人に話した。

かなえさんは驚いた様子で俺を見て……何か納得していた。

 

「そう、ならハヤトくん。 あなたは緋刃を宿しているのね」

 

かなえさんが何かつぶやいた気がしたか、オレは聞き逃していた。

 

「念のために言っておきますが、この空間での事は他言無用で頼みます」

「わかっていますとも。ありがとうね、ハヤトくん」

 

オレは照れ隠しに顔をそらした。

 

「でもなんでこんなことをしたの?」

 

アリアがオレに尋ねてくるが……そろそろ時間がやばい。

 

「お前とかなえさんが、言い方が悪いがかわいそうだったからだよ。 親娘ならこうやって触れ合うのが普通だろう?」

 

オレは2人に堂々と言い放った……後悔もしない。

誰かに「傲慢だ」と言われようがオレはしたいようにした……ただそれだけのことだ。

 

「そろそろ空間の効力が切れますので、かなえさん。元の場所に」

 

「ええ。 アリア、頑張ってパートナーを見つけなさい。 走る子は転ぶものだから」

 

そう言って最後にかなえさんはアリアの頭を撫でる。

 

オレはキンジにさっきの場所を示して立たせて、アリアを同じ場所に座らせる。

そして、光の粒子が視界いっぱいに溢れて空間が消え失せた。

 

「……神崎、時間だ」

 

回復していた管理官は何事もなかったかのようにかなえさんの肩を掴んで立たせると、そのまま連れて行った……いや、シャーロック直伝の催眠術で記憶をいじったから証拠も隠蔽済みだ。

クリーム色の優しい色とは裏腹に重厚な音をさせて……そのドアは閉まっていった。

 

 

 

 

「ハヤトはこれからどうするんだ?」

「明日にでも方針は決める。オレはちと野暮用があるからこの辺で失礼するぞ」

 

アリアとキンジに手を振り、俺はその場を後にしながら赤い携帯をポケットから出して実家に電話をかける。

そして、マスターフットマンのセバスチャンにある「頼みごと」をして電話を切った。

 

うまいことやってくれよ……元ジェームス・ボンドさん……

 

(続く)




バスジャック編はハヤトは触れませんでした……ハイジャックは武力介入するけどね!

この更新時にアンケート結果を活動報告を出しておきました……台本形式で茶番混ぜ合わせ私の決意も一緒に書いてます!では失礼いたします!


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10弾 空飛ぶリゾート……『武偵殺し』と哀しみの数字

朝昼はいつも通りの授業を受けて今日は車輌科(ロジ)の自由履修を受けた。

江戸川先生に師事してもらい、バイクの講習をついでに終わらせたのだ。

 

「お前さん筋が良いな……車輌科でも十分にやっていける気がするがどうだ?」

「いえ、遠慮しておきます」

「そうか……少し残念だが仕方ない」

 

少し厳つい顔を残念そうに崩す江戸川先生には申し訳ないが、オレは強襲科の生徒だしな……超能力捜査研究科(SSR)の勧誘を何度も断っているんだが、未だにある……いかん、嫌なことを思い出してしまった。

特殊捜査研究科(CVR)の結城先生がオレを女子と間違えて勧誘してきたときは真面目に泣きそうになったがな……

 

しかし、今日は風が強い……台風の影響だろうか?

 

……いや、それしかないか。

 

これで国際免許が有効になったからな……江戸川先生にお礼を言い、オレは車輌科を後にする。

ホームルームが終わった放課後、オレはリサと一緒にモノレールに乗って青海に向かう。

 

理由は注文していたバイクの受け取りだ。

 

ネットで見つけて電話でバイク店に詳細を聞いたところ、俺の条件に合う物だったので即決で購入を決意した物だ。

などと考えていると……店が見えてきたな。

 

「お待ちしてましたぁ〜!……ってその人メイドさん!?いや〜本物っているんですね、しっかもメチャクチャ可愛いし!メアド聞いても良いっすか?……あ、だめですか」

 

ノリの軽い店長がリサにメールアドレスを聞こうとしているが、無言の……リサの氷のような微笑に後ずさりすぐに諦めていた。

 

「えーっと……」

「あ、スンマセン。あんたが天道さんっスね?俺はこのバイク店で店長やってますスズキっス」

 

オレが頰をかきながら店長さんを見ると鈴木さんが自己紹介をしてくれた。

 

「このバイクですよね、あんたの頼んだヤツって」

「ええ、違いありません。」

 

そう言いながら見るのはスポーティーなボディを持つ黄緑色と黒で統一された車体を持つ川崎重工の作り出した2009年では最近のモデルである「Ninja 250」だ。

 

しかし、スポーティーな見た目とは裏腹にこのバイクが積んでいるエンジンは長距離向けの物なのだ。

が、お金を積んで魔改造(カスタム)を同じクラスの武藤に頼んでいるので問題はない。

 

「でも、天道さんって本当に高校生なんっスかぁ〜?即金でバイク買うとかどんだけ?」

「いやまぁ……武偵ですから任務をこなすことで報酬を受け取ってるんですよ、僕は」

 

契約だのなんだのとやり取りを済ましてオレはバイクを引き取った。

 

「あざっしたー!」

 

ジェットヘルメットをかぶりバイクに乗車。

同じようにリサも半帽ヘルメットを被るとオレの後ろに乗車する。

手を振って送り出してくれる鈴木店長に会釈をしてオレは国道に向けてバイクを走らせるのだった。

 

 

 

 

オレとリサがつかの間のツーリングを楽しんでいると、国道を走る若者が目に付いた。

黒い髪を風に揺らして疾走するそいつは……

 

「おーい、キンジ!」

「……ッ!ハヤトか!?」

「どちらに向かっておられるのですか、遠山様?」

 

なにやら相当焦っているような気がする……!

 

「すまない2人とも……今は話してる暇がな……」

「リサ、ここから寮に帰れそうか?」

「……はい、帰れます」

 

リサは半帽ヘルメットを脱ぐとキンジに渡している……ほんとにオレのことはなんでもわかる彼女に脱帽しつつ、オレはキンジに声をかける。

 

「……乗れよキンジ。 場所は羽田空港だよな?」

「……ハヤト?」

「良いから乗れ!時間がねぇんだろ?」

 

オレは少し強引だがヘルメットを被ったキンジを後ろに乗せ、リサに「帰りは遅くなりそうだ」と言い残してバイクを急発進させる。

 

バイクを走らせながらオレはキンジに思いついたことを話す。

 

「キンジ、おまえいつそれに(・・・)なった?」

「やっぱり、知ってたか? ヒステリアモードについて」

「金一さんの弟なら持っててもおかしかねぇだろ?遺伝性の体質だっだな……ヒステリア・サヴァン・シンドローム。 金一さんはHSSって言ってたな」

「ならどういうモノかも知っているのか?」

「性的興奮……てのは語弊があるな。恋愛感情物質のβエンドルフィンが過剰に分泌されて大脳から脊椎の中枢神経系が劇的に亢進することにより、論理的思考、判断力、条件反射能力などが飛躍的に強化される……要約すると〈子孫を残すためにパワーアップする〉特異体質だろ?」

「……」

 

雰囲気でわかるが……自らの体質を知られてキンジはかなり焦っているな。

 

「安心しろ。オレがアリアにも誰にも話すことはねぇから……俺の名に誓っても良いぞ?」

「その言葉を信じておくよ……そろそろ着くか?」

「ああ、もう羽田空港だ」

 

道の標識には羽田空港とあったので……すぐに着くだろう。

今日、アリアは朝練の時に一旦イギリスに帰ると言っていた……そのチャーター便は午後7時に出発する。

そこでアリアは合う『武偵殺し』に……いや、アイツ(・・・)に。

 

「キンジ、お前も『武偵殺し』が出ると踏んでアリアのところに行くんだよな?……その推理はどうなってる?多分俺と同じだろうと思うが……参考程度に聞かせてくれ」

「同じ推理かどうかはわからないが……武偵殺しはまず最初にバイクジャックを始めた。その次にカージャック……つぎにハヤトと兄さんを攫ったアンリベール号のシージャック」

 

長い推理に耳を傾けてオレは流れていく景色を尻目にバイクを走らせる。

 

「そして、ジャックの対象は一旦小さくなる……俺のチャリジャックにつぎに大きくなって武偵高のバスジャック……アリアが言っていた電波傍受の時にさっき言ったシージャック以外の4件はアリアも電波を傍受してたんだ。」

「つまり……4件は遠隔操作でシージャックは……」

「ああ、直接対決だったんだよ……シージャックは!」

 

キンジの推理とオレのは同じみたいだな。

 

「で、これから起こるであろうハイジャックで……アリアを狙って『武偵殺し』が現れると?」

「……そうだ。だからオレは台場からあの交差点まで走ったんだ……アリアを助けたかったから」

 

……良いことを聞いた気がするな。

 

「わかった……俺も行こう」

「……!」

「HSSがきれたお前は……になるかもしれないからな」

「なんて言った、今!小声で通常の俺は『お荷物』って言いやがったな!?」

「よく聞こえたな……」

 

羽田空港第2ターミナルに着き、オレはキンジに言った小言の弁解をしながらバイクを駐車してキンジを下して「悪かったと」謝罪した。

 

時刻は午後6:58……ちとヤバイな!

 

「走るぞ、キンジ!」

「当たり前だ!」

 

チェックインの受け付けに武偵徽章を突きつけて通り抜け、金属探知機のゲートもショートカット。

ボーディングブリッジを走り抜けて、オレとキンジは間も無く出発するANA600便・ボーイング737-350、ロンドン・ヒースロー空港行きに飛び込んだ。

飛び込んだ刹那に背後ではバタンッとハッチが閉ざされた。

 

もう降りれないぞ……この舞台(ステージ)からは……!

 

「―――武偵だ!離陸を中止しろ!」

 

キンジが武偵徽章を近くにいた小柄なフライトアテンダントに突きつけて怒鳴る。

 

「お、お客様!?失礼ですがど、どういう―――」

 

目を丸くして言うアテンダントさんに同情しとくよ……一応な。

 

「説明している暇はない!とにかく、この飛行機を止めろ!」

 

アテンダントはビビリながらこくこくと頷いて二階へと走っていく。

 

オレは涼しい顔で隣のキンジは肩で息をしている……スタミナなさすぎだろうよ……

 

「間に合ったか……」

「いや、そうでもなかったようだぞ?」

「何を……!」

 

ぐらりと機体が揺れる……動いてるな……

 

「間に合わなかったな……まぁこれは仕方ない……管制塔からの要請でないと離陸中止はできなかったはずだ……」

 

「なんだと!?」

 

キンジの驚愕の声……

 

「オレを睨むな……今思い出しっちまったンだよ……このことは」

 

オレが肩をすくめるとキンジはとりあえず睨むのをやめてくれた。

 

「あ、あの……だ、ダメでしたぁ……」

「大丈夫ですよ。管制塔からの命令がなければ止められない……んですよね?」

「は、はい……」

「僕もそれを()思い出してしまいましてね……僕の友人があなたを怖がらせ、怯えさせてしまったことをお詫びさせてください」

 

オレは深々と頭を下げた……ビビらせてしまったのは謝っておかないと良い思いはできないからな。

 

「あ、あの……頭を上げてください!別にいいですから!」

 

アテンダントは丁寧なオレの応対に焦っている……この国ではお客様様は神様……だったな。

 

「さて、1つお願いしてもいいですか?」

「え、あ、はい……」

 

オレはアテンダントに1つお願いをする。

 

「後で、この飛行機に乗っている神崎アリア様のところへ案内していただけますか?」

 

 

 

ベルト着用サインが消えてオレ達はあの小柄なアテンダントに案内してもらって……アリアのいる個室に案内してもらった。

 

「……キ、キンジ!?ハヤト!?なんであんたたちがここに!?」

「……さすがはリアル貴族だな。これチケット、片道で20万近くにするんだろ?」

 

ダブルベットを見ながら言うキンジにアリアはその八重歯気味の犬歯を少し剥いて

 

「―――断りもなく、いきなり部屋に押しかけてくるなんて失礼よッ!」

 

と少々怒りながらアリアは言うが……説得力が無いぞ。

 

「お前にそれを言えるのか?言う権利は無いだろ」

 

キンジの言うことは正しいので、アリアはうぐと言葉に詰まっていた。

 

「キンジも……ハヤトもなんでついて来たのよ」

「太陽はなんで昇る?月はなぜ輝く?」

「うるさい!答えないと風穴あけるわよ!」

 

スカートの裾に手をつくアリア……ちゃんと帯銃してるんだな。

 

「武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対守れ」

「……?」

 

わけがわからないという顔をするアリア……それに構わずキンジは続ける。

 

「俺はこう約束した。強襲科(アサルト)に戻ってから最初に起きた事件を、1件だけお前と一緒に解決してやる―――『武偵殺し』の1件はまだ解決してないだろ?」

「なによ……何もできない、役立たずのくせに!」

 

まぁ、アリアの言い分ももっともだな……ここはオレがワンクッション置くか。

 

「アリア。キンジはお前のことを知らなさすぎたんだよ……でも、昨日こいつは知りすぎたんだ……かなえさんのこととお前が、これから立ち向かう敵についてを」

「だからなに!?やっぱりあたしは『独唱曲(アリア)』!これはキンジ、あんたのおかげでよ〜〜〜くわかったのよ!帰りなさい!あたしのパートナーになれるヤツなんて、一部例外はそこにいるけど世界のどっこにもいないんだわ!」

 

……オレを指差して言うアリア……それは最後の手段だよな?

 

「だからもう、『武偵殺し』だろうが誰だろうがこれからずっと1人で戦うって決めたのよ!……誰かさんががあたしと組んでくれるまでね!」

 

……罪悪感ががが……おい、そこ。棒読みじゃ無いぞ?

 

「……もうちょっと早く、そう言ってもらいたかったもんだな」

 

キンジは個室内の座席に腰を下ろし、わざとらしく眼下の街を見る。

 

「……ロンドンについたらすぐに引き返しなさい。エコノミーのチケットくらい、手切れ金がわりに買ってあげるから……あんたはもう他人!あたしに話しかけないこと!」

「元から他人だろ?」

 

おどけたようにキンジが言うとイラッとしたのかアリアは

 

「うるさい!喋るの禁止!」

 

と言い放つのだった。

 

「オレは喋ってもいいのか?」

 

困ったようにオレが言うと……

 

「好きにしなさい!」

 

あ、はい……とオレもキンジと同じく黙って備え付けの座席に座るのであった……多分キンジはもう毒を食らわば皿まで……と腹を決めてるようだしな。

 

 

アリアがヤラれて後ろに下がっている間、なんで俺がこいつの足止めを。

赤色灯の光を反射して赤く光る銃弾がオレを捕らえようと飛来する。

 

「あははっ!逃げてばっかじゃ何もできないよ〜ハヤトん?」

 

漆黒の剣を振るい、飛来する弾丸を斬り、弾き、逸らす……理子の言う通り攻撃しなければ相手を倒すことはできない。

しかし……なぜかは不明だが理子を傷つけたくないと思う自分がいると言うのは建前だ。

自分でもわかっている……オレはコイツを認めているんだ。

自分を証明するまでにひたむきに努力してきたコイツを知っている……汗に泥に、時に赤い血に塗れ傷つき痛い思いをしてもなお、ただ貪欲に力を求めていた理子を……。

 

「やりにくいもんだな、理子……やっぱり、女を相手にすると弱くなるらしい……オレの弱点だな」

「なら理子をアリアのとこに行かせて?」

「それは無理な相談だ……せめてあいつが立ち上がるまでの時間は稼ぐよ」

 

肩をすくめてオレは理子に言う。

 

「煮え切らないなぁ〜ハヤトん」

 

ワルサーP99から放たれる9mm弾(ルガー)の軌跡を読み避けるために動くが……それに合わせるように理子が動く。

タキオン粒子を生成して目に流し込み、スーパースローで見える世界……弾丸に追いつきそうな勢いで理子は髪を蠢かしながら迫ってくる。

剣で弾丸を斬り、バックステップで距離をとるとオレのいた場所をナイフが通り過ぎていく。

そのまま理子は突っ込んできてナイフによる連撃に繋げるように至近距離からの銃撃をはさみ仕掛けてくる。

上体反らし(スウェイ)、体捌きを駆使して射線上から逃れつつ裏拳と掌底でナイフ刀身を弾いて捌く。

 

「くふっ!」

 

オレがコートを翻して左手に装飾銃(ハーディス)を握ったことに理子は実に楽しそうに笑う。

装飾銃(ハーディス)が出たということはオレが少しだけ追い込まれたと言うことになる。

 

「よくできました!」

 

オレは言いながら.44SP弾を装飾銃(ハーディス)の銃口から解き放ち、理子の肩を狙う。

しかし、軽やかにステップを踏むように理子は銃撃の射線上から逃れた。

 

「くふっ。ハヤトんの真骨頂だったよね一剣一銃(ガン・エッジ)の構え方って」

「んーそうでもないぞ?まぁ……今は(メザ)本気だけどな」

 

この発言に理子の目が鋭く細められる。

 

「……まだ何か隠してるのか?」

 

見せるわけにもいかんな……アレ(・・)だけは

 

「なんのことだ?」

「あくまでもとぼけるのか……ならこの飛行機爆破(・・)しちゃうぞ〜?」

「……!」

「この飛行機に乗るときぃ〜間違って貨物室に爆薬置いてきちゃったんだよねー」

「嘘をつくな嘘を。この飛行機が墜落したらお前も死ぬだろうが」

「理子は死にませんよ〜っだ」

 

あっかんべーと舌を出してくる理子……余裕のあるこの反応は……マジみたいだな。

もしダメだったとしたらの保険で爆弾を仕掛けたってわけかよ……!

 

「ハヤトんの本気も見てみたいしなー理子的には起爆したくないしぃ〜……どうする?ハヤト」

 

こいつに見せたら教授(プロフェシオン)やブラドとかに知れ渡るだろうな……だが……背に腹はかえられんか。

 

「わかった、わかった。じゃあ見せてやるよ……!」

 

しゅるり……とオレは拘束具(・・・)代わりの髪をまとめている白布を解き、背中までのロングヘアを下す。

オレのこの白布は封じ布……例えるならばリミッターとか足枷とか言う物だ。

オレの意識が覚醒している時、その素の状態だと魔力を抑えるのに苦労する……だからこそこの封印式の術式を刻んだルーンリボンで髪を纏めているのだ。

そしてこれを解くと何が起こるのか……それは……

 

「これを見せるのはお前が初めてだ……見たいなら見ろ……今の、オレの醜い姿をな……」

 

オレの朱金の長髪の毛先から付け根までが真紅に染まる。

……そして紅い、赤い、赫い光が……明滅しながら髪を通じて迸り始める……!

 

「我、紅蓮なる者……災禍を災禍を持つて祓う者……!祖は災禍討つ紅蓮姫(カラミティ・モード)……!」

 

オレの瞳が紅く光るが……存在するかどうかわからない高位情報式の「ヴァーミリオンの瞳」とは違う代物だ。

が、タキオン粒子が任意のタイミングで流し込まれるので動体視力の向上率はかなり上がっている。

この災禍討つ紅蓮姫ことカラミティ・モードは教授やブラドにも見せたことがないヒトの限界を超えるオレの切り札その1だ。

身体能力、条件反射、動体視力などオレ自身のスペックの限界値を5倍(・・)に跳ね上げれる……所謂、ステキモードなのだが……非常に燃費が悪い。

継続可能時間は5分しか保たない……それ以上使おうとすると身体と脳がオーバーワークしてしまい、脳の身体保護機能が働いて失神してしまうが今は手加減のために少し発動させたようなもの……全力の10%ほどの出力だ。

 

「な、なんだそれは……⁉︎」

 

理子も驚きを隠せないのかかなり焦っているな……彼我の戦力比を基本としている武偵ならこれは基本中の基本技能だからな……これが出来ない奴は早死にする。

 

「こいよ理子……お前のリクエストに答えたんだ」

「あははははっ!凄くいいよハヤトっ‼︎その眼……ゾクゾクくる……っ!」

 

戦闘に酔った戦闘狂(ガモンガー)見たく理子が仕掛けてきた……髪のナイフが赤色灯を反射して赤い軌跡を描きながらオレを斬ろうと迫ってくる。

理子の9mm弾(ルガー)がオレを仕留めようと数発飛んでくる。

 

全てを置き去りにしてオレの視界はスローになっていく。

 

黒爪(ブラック・クロウ)!」

 

亜音速の拳銃弾を2発、漆黒の剣閃で同時に切り裂きながらその場で超高速回転したオレはほぼ同時に猫の爪痕のような装飾銃(ハーディス)の打撃、4連撃で弾丸を明後日の方向に弾き飛ばす……!

 

ヘゴッ!と足がめり込むほどの強さで床を蹴り、強化された瞬発力を活かして俊動……!

理子の左側に回り込みながら連続早撃ち(クイック・ドロウ)2発でナイフの横腹の、同じ場所を撃ち破壊する。

 

黒十字(ブラック・クロス)……!」

「あうっ⁉︎」

 

黒爪の派生系である黒十字で髪に握られた、迫ってきたナイフを弾き追撃でへし折り、宙を舞いこっちに飛んできた刀身を装飾銃(ハーディス)でドォンッ!と撃ち軌道を逸らす。

 

残り残弾は1発……オレは装飾剣(クライスト)を絶界に直して空いた右手でくしゃくしゃと頭を掻きながら理子に言う。

 

「なぁ理子……もういいんじゃないのか?」

「何がだ……」

 

オレはブラドの言ったことを思い出しながら理子に問いかける。

 

「例え今日アリアを斃したとしても、ブラドの言うことは嘘なんだぞ?」

「……」

 

理子は答えない……わかっているのか……

 

「初代ルパンを超える……それの証明方法は別にもあるんじゃないのか?」

「あたしにできるはずがないだろう⁉︎ヤツ(・・)を倒すなんて無理だ!」

「ならヤツを……ブラドをオレが倒してやる」

 

オレは言い切ることにした……ブラドのやり方は元々気にくわない部分が多いからな。

 

「……な……ブラドを倒す⁉︎」

「お前を物だの欠陥品だの言うヤツは気にくわないからな……オレが、その強さを認めた理子を物扱いするのはオレに対する侮辱だ」

 

理子とは激しい戦闘を繰り広げたがそんなのは気にしていないと、あっけからんにオレは言う。

 

「理子。少なくとも、オレはお前を認めてるんだぞ?」

「な、何を⁉︎」

 

顔を一気に赤くする理子……アリアと同じような反応で、急速赤面癖持ってたのかよ理子も

 

「それに……お前じゃアリアとキンジには勝てないよ」

「……何?」

「オレの後押しはな、確実にあいつらの距離を縮めたはずだ……オレはあいつらの絆を信じて「お前が勝てない」と、そう思ってる」

 

我に帰ったのか赤くなっていた顔を元に戻して理子は鋭い視線をくれる。

 

オレは長髪を白布で乱雑に括りまとめる。

 

紅蓮姫が封印されてオレの身体は元のスペックに戻る。

 

言いながら思う……実際問題なのだが、オレは……自身が認めている相手には友好的になる。

キンジも男として認めているし、アリアも幼馴染で評価は甘くなるが、認めてる。

そして理子……こいつには好意を抱いている。

伊・Uでは接点がないとは言っていたが、あれはオレ自身を誤魔化していただけで……今、理子とやりあっているのは……本当は心が痛いのだ。

 

まぁ……とうのご本人が気がついてるのはどうか定かじゃないがな。

 

「いいよ、なら……アリアたちを殺して証明してやる‼︎」

 

そう言うと理子は髪の中から柄だけになって破損したナイフを投げてくるのをコートを翻して弾く。

 

そしてオレの足元にコロリと転がってきた金色の懐中時計……なんのつもり―――‼︎

 

「く……!」

 

理子が投げてきたのは懐中時計に模した閃光手榴弾(フラッシュグレネード)だった!

 

「あははっ引っかかった〜♪ハヤトんの目って猫見たく夜目が効くんだよね〜?知っててやる理子ってほんとわるいこでしょー?」

 

音がないところを見るに……改良版の閃光手榴弾か……!

 

まばゆい光がオレの視界を灼く……目がぁ、目がぁ!?

なんてどっかのバルス大佐みたいなこと言ってる場合じゃない……!

 

「盲目の猫に用はないのですよーだッ!

 

はしっとオレの足を理子が払い、たまらずオレは背中を強打しながらに派手にひっくり返る。

そして……一瞬の刹那にオレは条理予知(コグニス)を自分の意思で使う……!

 

バシィッとオレの鳩尾めがけて落とされる理子の肘をなんとか受け止める。

 

「5分だ……行けよ理子……俺の負けだ」

「嘘つき……本気で相手してたらハヤトんの勝ちだったんでしょ?」

「言ってなかったがオレはお前のことが……いや、なんでもない……」

 

オレは出かけた言葉を呑みくだす。そして理子の肘を離し装飾銃(ハーディス)を床に放る。

静かなバーにゴトリと重々しい音がしてオレは両手を頭に乗せる。

 

降参の意思表示だ。

 

「くふっ……知ってますよ〜だ、ハヤトんの気持ち♪」

 

……しってたんかい。

 

「なんのことやら……まぁすまなかったな。お前を数字で呼んで。あと、最後に言わせろ……お前はだれがなんと言おうと「理子」だよ。」

 

理子にオレのできる最大の敬意を払う。

 

認めてくれてるヤツが一人でもいれば……こいつは変わるかもしれないだろう?

そんなオレの甘々な考えを読み取ったのか理子は止めを刺さない。

 

「ありがとね、ハヤトん……じゃ、ばいばいきーん♪」

 

とててと遠ざかっていく足音。一時的な盲目になった以上下手には動けない。

視力が回復するのをオレは座り込んで待つしかできなかった。

 

「あーあ……『また勝てなかった』『どうして勝てないんだ』『僕は』……わざと負けるのも、一苦労だよな……しゃーんなろー」

 

敗北の二文字を背負いながらオレはバーの壁に背中をあずけるのだった。

 

(続く)




はい、どうも!

フラグも建てておいてここまで!

ではこの辺で失礼します!


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11弾 颶精姫召喚!

今回はハヤトの守護精霊が出てきます……魔の法則のご利用は計画的に!


閃光手榴弾(フラッシュグレネード)の光に灼かれた視界が回復してオレは一階奥にあった貨物室のハッチを蹴っ飛ばして破壊、内部に侵入した。

 

「いろいろあるな……ん?」

 

オレは貨物室のハッチ手前にあった不自然に置かれたキャリーバックを見つけた。

嫌な予感がしたのでルーン護符を燃焼させて氷結のルーンを起動、キャリーバックを瞬間凍結させてその留め具を絶界から出した装飾銃(ハーディス)のグリップでぶん殴りブチ壊して中身を拝見すると……案の定爆弾だった。

 

敷き詰められた炸薬の量は自動車を簡単に吹き飛ばせる量……こんな量が爆発したら燃料タンクに引火して大爆発だろう理子よ……。

とりあえず、炸薬を凍結させたので爆発の心配はない。

 

起爆もできなくなっているからな……と……!

 

飛行機が途轍もなく、大きく、激しく揺れる……なんだこの揺れは⁉︎

オレは貨物室から飛び出してコックピットの方に向かう―――直感がざわめく……やばい事態だと……!

 

 

 

「遅い!」

 

アリアが犬歯を剥いてオレを睨みつけてきた。

 

「ハヤト、無事だったのか」

「オレがそう簡単にやられるとでも思ったか?……理子は?」

「逃げられたよ……機外に」

 

コックピットに入る前、機内一階に大きなシリコンシートで埋められた穴を見たので理子は炸薬か何かで壁を吹き飛ばし機外に逃げたのだろう。

 

「この悪天候の中セスナが飛んできて理子を回収していったよ……おそらく打ち合わせか何かを誰かとしたのだろう」

 

キンジの報告を聞いてオレはそのセスナの操縦者を推理した……おそらく俺の知る一時期、車輌科(ロジ)に所属していた強襲科(アサルト)の生徒だろう。

……まぁ次元だろうけど。

 

あいつはセスナから戦闘機までの航空機の操縦が得意と伊・Uで自慢していたからな。

それに今までの爆弾は五ェ門が作ったものだ……装備科(アムド)諜報科(レザド)に所属していたあいつなら簡単に作成できるだろう。

元々は犯罪組織に対しての破壊工作に秀でた学科だったはずだが五ェ門はそれを悪用しているからな……どうなることやら。

 

「さっきの衝撃はなんだったんだ?」

 

オレは疑問を口にした。

 

先刻見た外の光景……翼のエンジン4機ある中で内側の2機が煙を上げていたの見て気になったからな。

 

「ミサイルを撃ち込まれたんだ……どこから来たのかは不明のミサイルだった」

「なるほどな……で、アリアが今操縦していると」

 

キンジの説明を聞き飛行機の操縦席に座り、操縦桿を握っているアリアを見ながらオレが言うと

 

「ジェット機なんて飛ばしたことはないわよ……精々セスナを飛ばしたことがあるだけ」

 

とりあえずキンジとアリアに飛行機の操縦を任せてオレは

コックピット内で昏倒していた機長と副機長の容体を確認する……麻酔弾を撃たれて昏睡状態になっているだけのようだったのでひとまず安心だな。

邪魔にならないようにコックピット内の壁際に彼らを寄せて座せる。

 

と、羽田空港の管制塔とやり取りしているキンジが機長から拝借したであろう衛星電話で誰かに電話をかけている。

 

「誰にかけてんだ?」

 

Bluetoothの接続機能でスピーカーに繋がれた電話越しに聞こえてきたのは……

 

『もしもし?』

「変な番号からですまないな、俺だよ武藤」

『キンジか⁉︎いったいどこにいるんだよ!お前の彼女が大変なことになってるぞ!』

「彼女じゃないがアリアなら隣にいる。あとハヤトも」

 

車輌科(ロジ)の武藤剛気だった……彼はどんな乗り物も操縦できる特技があると聞いている。

 

『ちょ、おま……つか、転校生も何やってんだよ!』

「武藤君。 武偵が事件に首を突っ込むのに理由は必要ないだろう?」

「か……かの、かの……⁉︎」

 

アリアが真っ赤になって不平を口にしようとするとキンジが優しくアリアの唇に指を当てて止める……手馴れてるなおい。

 

「……!」

 

案の定アリアは硬直して固まる。

 

「―――武藤。ハイジャックの事よく知ってたな。報道されてるのか?」

『とっくに大ニュースだぜ―――』

 

武藤の話では乗客の通報でわかった事件発生に乗客名簿を通信科(コネクト)が調べたところ、アリアの名前があったので教室に生徒が集まっているらしい。

 

そしてキンジは状況を武藤並びに羽田コントロールに伝える。

 

そのやりとりを幾つか聞き取ると、どうやらこの飛行機は燃料漏れを引き起こしているらしい……アリアが武藤に怒鳴る。

 

「燃料漏れ⁉︎止め方を教えなさいよ!」

『……方法は無い。その型の飛行機は内側のエンジンが燃料系の門も兼ねてんだ。そこを壊されると、どこを閉じようが漏出を止められない』

「あ、あとどのくらい持つの?」

 

少しの間をおいて武藤が返事を返してきた……聞きたくなかったが……

 

『残量はともかく、漏出のペースが早い。言いたくは無いが……15分ってところだな』

「なるほど、さすが先端技術の結晶だな」

 

オレはさっき羽田コントロールが嘯いた言葉をおうむ返しでつぶやき愚痴る。

 

『キンジ、さっき通信科(コネクト)に聞いたがその飛行機はそもそも相模湾上空をうろうろ飛んでたらしい。今は浦賀水道上空だ―――羽田に引き返せ。』

「元からそのつもりよ」

 

アリアが武藤に返す……しかし、このままではマズイ。

 

この飛行機は台風の中を飛んでるんだ……最悪の場合も考えると今のうちにできることをしておくべきだろう。

 

「キンジ、アリア。操縦は任せるぞ」

「ハヤト、何をするんだ?」

 

キンジの問いかけを聞き流しながらオレは数枚のルーン護符を絶界から引き出してからさらに魔晶石にした大粒なエメラルドの原石を出す。

 

魔晶石とは宝石の原石にルーン文字を刻んで魔力を圧縮しながら流し込むことで生成できる魔道具だ。

宝石としての質が高い物ほど充填できる魔力許容量が大きくなるが、作る過程で許容量を超えて魔力を充填すると魔力量によっては魔導災害をもたらす危険性もあるので慎重に取り扱わないとならない。

 

ポケットから白のチョークを出してオレは円陣やルーン文字の記号を用いて簡易的な召喚陣を描くと、そこに式力を流し込んで起動準備をする。

式力を流し込むとチョークが揮発してルーン文字と陣が床に焼き付く。

そこにルーン護符を規則的に貼り燃焼させると、召喚陣を発動させた。

 

空間が少しだけ歪み、オレの契約した精霊種が異世界から現界する……魔晶石から継続的に魔力が発散されて、風の塊が魔法陣の中で揺れ動く。

 

「我と契約せし風の翔霊よ……我が呼びかけに応え、姿を現し給え……風に踊り、颶を従えし女王――召喚!エアリアル!」

 

コックピット内で爆ぜる風の塊……!

 

「な、なんだ⁉︎」

「何が起きたのよ!」

[妾の前で静かにできんのか、この人共は……]

 

キンジ、アリアの驚きの声に召喚陣の中にやたらと大仰なセリフで喋る麗人がいる。

腰あたりまである長い藍色の髪に作り物のように端正な顔立ちは例えるならアンティークドールのよう。

スラッとしているが出るところは出ているという欲張りな肢体はシンプルな純白のドレスで隠されている。

しかし、ヒトよりも尖った耳にその藍色の髪の間、背中からは水晶のように透き通った翅が生えている。

 

簡単な文章で彼女を説明するならば……「ファンタジーの世界から飛び出してきたような美しい妖精」だ。

 

[ご無沙汰じゃのぅ、ハヤトよ]

「お久しぶりです。颶精姫、エアリアル様」

 

彼女は風の精霊種を束ねる王族の末裔。

アルヴヘイムがシルフの長で最強の意味を持つ「颶精姫」の名前を持つエアリアルだ。

 

[堅苦しい……敬語など不要。妾のマスターならば堂々とせよ―――して、妾に何用か?]

 

オレはキンジたちにエアリアルを紹介した後、こっちの事は気にするなと目で言うとエアリアルに向き直る。

 

「ならいつも通りで喋るぞ。実は……」

 

オレは今までの経緯をエアリアルに話す。

助力を求めている事を言うと彼女は頷き、快くそれを引き受けてくれた。

 

[つまりはこの鳥を落とさなければよいのか?]

「いや、そうじゃ無い。今はまだそのタイミングじゃないんだが……」

 

オレがエアリアルのやり取りをしていると不穏な気配を感じた。

 

「キンジ、何があった?」

 

颶精姫様に断りと謝罪して少しの間待ってもらう。

険しい顔でキンジが考え込んでいるが、なにかあったのだろうか?

 

「羽田空港が着陸に使えない。それに、外を見てみろ……俺が考え込む理由がわかると思うぞ?」

 

言われてコックピットの窓から外を確認すると……いるよ、F15イーグルが……!

 

「海に出たら撃墜されるな……これは」

「げ、撃墜⁉︎この飛行機には民間人も乗ってるのよ⁉︎」

 

テンパったアニメ声でアリアが叫ぶが、オレたちにはどうすることもできないが、まぁ……

 

[あの煩い羽虫を落とせば良いのか?]

「いや、それはやめてほしい。問題にしかならないから」

 

オレの懇願でエアリアルの暴挙を止めて……閃いたぞ、この飛行機の着陸方法―――!

 

「キンジ、オレに考えがある」

 

オレは今思いついた事をキンジたちに、手短に話した。

 

「わかった……武藤、頼みたいことがある」

 

衛星電話、キンジを通して武藤にある言伝をしながらオレはその準備にすぐさま取り掛かる……あと10分……乗客乗員、全てを救うぞ……必ずな!

 

 

 

東京上空。

 

オレたちの乗るANA600便はもう東京タワーよりも低い高度を飛んでいる。

 

オレはキンジを通して武藤にある依頼を出した……

学園島隣の空き地島にモーターボートか何かで渡り、光を灯してほしいと頼んだのだ。

車輌科(ロジ)装備科(アムド)の備品を勝手に使うことになるがオレが責任を取ると言うと行動を開始してくれたらしい。

 

……何枚反省文書かされるのだろうか……

 

「アリア、この飛行機はもう東京タワーよりも低い高度を飛んでる……くれぐれも当てないでくれよ?」

「バカにしないで」

 

キンジが言うのも一理ある。燃料をもう無駄に消費できないからな……

 

[キンジよ、妾はいつでもいけるぞ?]

「なら、こちらの出すタイミングを合わせてくれないか?」

[承知した。では……]

 

キンジが窓の外を注視する……メガフロートもそろそろ見えてくるはずだ……

 

「よし、着陸するぞ……!」

 

衛星電話の向こうからは多くの生徒の声が聞こえる……

 

大半の生徒が、キンジが言うにはバスジャックで救った生徒たちらしい。

 

「止まれ、止まれ止まれ!」

 

生きているエンジン2機の逆噴射をかけるアリアの絶叫

 

「ハヤト、エアリアル……今だ!」

 

キンジの、オレはその声と同時に……この飛行機全体にオレのありったけの魔力を力場を作って流し込む……!

 

「焔……強化……‼︎」

[行くぞ……叩きつける暴風……テンペストゲイル!]

 

オレのやろうとしている止める方法……シンプルな魔の法則たる魔法で物理法則をねじ伏せるゴリ押しだ。

 

上から大質量の空気でこの飛行機を押しつぶすようにして慣性を殺す……上からの力で抑えて止める方法……!

エアリアルの発動した魔法が空から大質量の空気の塊となってこの飛行機に叩きつけられる……!

 

バッスンッッッッ!

 

飛行機が、メガフロート全体が一瞬大きく揺れる……そして―――!

 

ザァァッ……

 

2050メートルでは止まらないと聞いていた飛行機が緩やかに……止まる……

 

振動、揺れが収まり叩きつけられた空気の弊害もないようで……よかった。

機体は無事だ……強化も成功した……。

 

と、そこでオレの意識が朦朧としてきて―――

 

[ふむ、成功のようじゃのぅ……ハヤトの魔力供給が断たれたので妾はお暇とさせてもらうぞ?]

 

落ちていた大粒のエメラルドを片手に、駄賃としてもらうと言い残してエアリアルは現界を解除して……空気に溶け消えるように気配も、その存在も消滅したと同時にオレの意識は暗闇に落ちていくのだった。

 

そして、気を失う前にふと思った……精魂使い果たしたがこんなのも悪くない……と。

 

(続く)




さて、そろそろ1巻も終わり。

次の話はハヤトとリサのイチャラブと原作ブレイクな展開が……ご期待ください!


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12弾 台風明けて……強襲の幼馴染!

一巻のエピローグから2巻に向けての間ですね、ハイ。




気を失って目覚めたら全部夢だった……そんなオチに期待ができるのであれば期待したかったがな。

 

現実は時として残酷である。

 

ハイジャック事件を解決したあとオレはマスコミの取材やらを丁寧に断り、警察の事情聴取を受けてなんだかんだとやっていたら……夕方になってしまった。

 

帰宅途中のオレの携帯がなる。

 

「もしもし?」

 

『ふはははっははは!私でございますよ若様!』

 

声の主はオレの実家……ハートネット家に仕えてくれている従事者長(マスターフットマン)のセバスチャン・アレキサンドリアだった。

オレは電話越しの暑苦しい笑い声に我慢しつつ要件を聞いた。

 

お片づけ(・・・・)の件で何か問題でも起きたか?」

 

『……事後処理等は滞りなく、何も問題なく済ませてありますよ、若様』

 

セバスチャンの口調が一転して研ぎ澄まされたつららのような声音に変わる。

これはセバスチャン・アレキサンドリアから世界最強の暗殺者(アサシン)の……ジェームス・ボンドにマインドチェンジした合図だ。

 

「そうか、ロンドン武偵局は?」

 

『幾人かの幹部が突如として行方不明(・・・・)となったために幹部会の人事再編に乗り出したようでございますが……そちらにも手回しを済ませてございます。』

 

「……手回し?」

 

どういう訳か(・・・・・・)若様のご学友であらせられますアリアお嬢様と、若様のシンパの者たちが人選に選ばれております』

 

なんだとセバスチャン……⁉︎

 

「それはやり過ぎだぞセバスチャン⁉︎」

 

さすがにオレは声を荒げてしまう……いったい、何人の(タマ)を詰んでるんだよ……!

 

『若様、私は最初に言ったはずでございます。なんの問題もない(・・・・・・・・)……と』

 

セバスチャンがこう言うと本当になんの問題ないのだが……

 

「……わかった。それはセバスチャンを信じよう」

 

『そのお言葉だけでも私は感無量でございます、若様』

 

ハートネット家には粉骨砕身の意志で仕えてくれているセバスチャンを信じなくて何が主人か……今回のことは彼に任せよう。

 

『ところで……脂肪のついた武偵局の豚共はアリアお嬢様を本国に帰還させ、己の溜め込んできた仕事を彼女に押し付けようと某策しておりましたが……?』

 

「……それについては報告だけで結構だ。あとはオレがなんとかするよ」

 

『畏まりました。では……私はこれにて失礼いたしますぞ若様!ふはははっははは!ご健闘と御武運……願っておりますぞ!』

 

その言葉を残しセバスチャンは電話を切った。

 

 

 

 

寮室に戻ると「おかえりなさいませご主人様!」とリサが出迎えてくれた。

 

「リサ、キンジとアリアは?」

 

「アリア様は女子寮の屋上にてヘリのフライトがあるとおっしゃり、イギリスに帰還なさるようでしたが……キンジ様はそれを止めると言い残されて女子寮に向かわれましたよ?」

 

「……入れ違いか!」

 

「ご主人様?」

 

リサに説明する間も惜しいな……オレは踵を返して「この埋め合わせはいずれ!」と言い残して脱ぎかけだったスニーカーを履き直してドアを蹴り開ける勢いで寮室から飛び出した。

 

すまない、リサ……今はかまってやれないが……今は……!

 

階段の柵を乗り越えて5階から飛び降りる……ズダンッ!と衝撃を脚に発生させた式力力場で斥力を生み出し半減させ、外套の衝撃半減効果でダメージを25%にカットしたので普通に動ける。

ノーヘルでバイクに跨るオレはキーを挿し込み、エンジンを起動させると同時にアクセル全開で発進……第3男子寮を後にした。

 

 

 

 

「乗ってけキンジ!」

 

バイクで追いついたキンジを拾ったオレは武偵高第2グラウンドの後ろにある女子寮でバイクを止める。

 

屋上にはヘリが既に停まっていた。

 

キンジを走らせようかと思ったが……ある事を思いついたオレは彼に待ったをかける。

不服そうな顔をするキンジに構わずオレは朱金の長髪を留めている白布を解き……

 

「我は紅蓮の者……災禍討つ紅蓮姫(カラミティ・モード)!」

 

髪を紅く明滅させた、紅蓮姫モードになる。

 

「んなぁ⁉︎なんだそれはハヤとぅぇ⁉︎」

 

キンジの言葉が中断されたのはオレがこいつの制服、襟首を掴んだから。

 

「キンジ、鳥になれ!」

 

「どういう事だアァァァァッ⁉︎」

 

柔道で言う背負い投げ一本!でキンジを投げやりのようにぶん投げる。

 

ジュリッ……バスン!とオレは筋繊維を圧縮して跳躍!

 

足元のアスファルトがオレの足型に凹み、バガンッとクレーターが出来上がるのを無視しつつ上空で先に飛ばしたキンジを抱えると女子寮の屋上に降り立った。

 

ヘリポートを見るとヘリはもう飛び上がる寸前だった。

 

「め、滅茶苦茶だ!何しやがる!」

 

キンジを下ろしてオレはこいつに言う。

 

「そんな事は端に置いとけ……今はアリアだろ?」

 

やりとりしている間にヘリが10メートルほど飛び上がっていた。

 

「……!」

 

オレは髪を白布で留めると後はキンジに任せる。

 

「アリア―――アリア、アリア―――っ!」

 

キンジが叫ぶ……なんども、なんども……。

 

「アリア―――ッ‼︎」

 

今までにない大声でキンジが叫ぶと―――

 

「―――バカキンジ!遅い!」

 

がらんとヘリのスライドドアが開きアリアが顔を出して……ヘリの縁にワイヤーを括り付けると下降気流の強風の中飛び降りてきたのだ。

 

「ちょ……おまっ⁉︎」

 

む……操縦士が慌てたのかヘリが揺れる。

 

「うっ?……あれ?あれれっ⁉︎」

 

当然アリアはヘリにつながっているワイヤーを持っているから……振り子のように揺らされる。

 

「ちょ……お、おい⁉︎」

 

アリアはなんと、揺れるワイヤーを切断して落ちてくる……!

 

キンジめがけて落ちてきたアリア……

 

 

 

 

―――空から女の子が降ってくると思うか?―――

 

 

 

 

がしゃんとアリアがキンジに抱きつく形で金網にぶつかって止まる。

金網は凹んで壊れてしまったようだ……全く、ヒヤヒヤさせやがって。

 

「お、お前なぁ……!」

 

アリア!何やってるんだ!(What are you doing aria)

 

ヘリからは武偵局の役員が叫んでいるがアリアはあっかんべーと返した。

オレも役人に中指を立てて挑発する。

 

ヘリの下降気流にオレは乱雑なポニーテールをピンク色のツインテールを揺らすアリア。

そんなオレたちの挑発に怒ったのか何人かの役人がワイヤーを使って屋上に降りてきた。

 

「全く……クォーターだからそこまで強くは言えないが、英国紳士ならばもっと余裕を持って欲しいところだよ」

 

「ハヤト!冗談言ってる場合かよ!」

 

オレはやるべき事を思い出してキンジたちに向き直る。

 

「お前ら、先に行けよ……あいつらにはオレから話があるからな」

 

「いくらあんたでも勝ち目がないわよ、加勢するわ!」

 

「アリア、荒事はよせ。紳士的に物事を解決するべきだろう?」

 

オレはアリアとキンジに微笑んでやる。

今までは世話を焼いてはきたが、こいつらならもう大丈夫だろう。

 

「男ならアリアを守ってやれキンジ。今この瞬間にな」

 

オレは降りてきた役人数名に英語で話しかけた。

 

キンジはアリア連れて屋上のドアから去って行く。

 

「諸君、公務ご苦労だね」

 

代表の役人がオレを見て硬直する……冷や汗をダラダラと流しているが。

 

「……ハートネット卿……!」

 

「君たちの活躍はよくよくセバスチャンから聞いているよ……自分達ではどう頑張っても上げれない手柄をどうやって上げていたんだい?」

 

オレは彼らに問う。この功績は一体誰が?どうやって得たのか?などと声をかける。

 

役人は脂汗をダラダラ流し無言で……いや、言葉が出せないようだ……そりゃそうだろう。

 

貴族であるアリアから手柄を横取りしている事がオレにバレるとやばいとわかっているからだ。

 

「なんだい?僕はカカシと喋っているつもりはないんけどね?……僕の考えている事が分かるなら今すぐに帰れ。アリアを使って得た功績については不問にしておく……ただし、また同じ事を繰り返すなら……オレが黙ってはいないぞ?」

 

今までの、ロンドン武偵局にいたアリアの扱いをオレが知っている……貴族に対する冒涜は重い罪だ。

それをあえて見逃すと聞いた奴らはオレに深々と頭を下げて降りてきたヘリに乗って逃げるように飛び立っていった。

 

 

台風明けの有明の空には大きな月が輝いていた。

 

 

 

 

あれから数日経った今日。

 

オレはキンジに紅蓮姫モードとヒステリアモードはお互いに抱える弱みだと言いくるめておいた……まぁそんなことはどうでもいいな。

 

「まぁ、いろいろあったが……健闘を祝して……」

 

『かんぱーい!』

 

テーブルに所狭しと並べられた料理をナイフとフォークで食べるオレと箸で行儀よく食べるキンジ、アリア。

 

一応『武偵殺し』を撃退できたとしてオレが開いた小さなパーティだ……表向きではな

 

実はあの後、キンジはアリアに言ったらしい

 

“俺がお前の味方になってやる”……と

 

後から聞いたのだが正義の味方にはなれないがアリアの味方にならなれる……そう言ってアリアを連れ戻すと決意したらしい。

 

キンジもなかなか快男児じゃねえか……そんな事を考えながらリサの作ってくれたパーティ用の料理を食べていたオレたち……一緒に暮らしていればチームワークも育つだろうとオレが言ったが災いしたのかアリアまでもがこの部屋に住み着いた。

 

キンジは困った顔をしていたが今はもうヤケクソだと一緒に暮らす事を容認している。

 

とオレはある事を思い出してアリアの隣でサーモンの刺身を食うキンジに話しかける。

 

「キンジ、お前に報酬渡してなかったな」

 

「……報酬?なんだそりゃ」

 

「アリアと組んでくれるなら金を出す……こう言ってはいたが、さすがに収賄はダメだと思ってな」

 

オレはコートを着ていないので足元に亜空間をそのまま呼び出し、開くとそこから銀色の小型なアタッシュケースを引っ張り出した。

 

「こいつがオレからの報酬だよ」

 

リサにそれを渡してキンジの前で開けてもらうその中身は……

 

「これって……ベレッタM93R……⁉︎」

 

「元々M92Fを使ってだろ?前の拳銃が理子に壊されてたし慣らせば同じように使えると思ってな」

 

今キンジが手にしている拳銃はベレッタM93R……民間には出回らない公的機関の要請があった場合に生産される3連バースト機関の備わった拳銃だ。

今回はコネと言うかロンドン武偵局を強請ってそのコネで手に入れた代物が昨日届いたので今のタイミングで渡したのだ。

 

「民間の所持は違法じゃないのか……?」

 

「元々違法改造したベレッタ使ってだろ?気にすんな」

 

オレが言うとぐうの音も出ないとキンジば黙りこくる。

 

「……じゃあ、ありがたく受け取っておくよ」

 

キンジば席を立ち、拳銃を試しに構えたりしている。

 

そんなこんなでパーティも終わり、後片付けを済ませたオレとリサは部屋にこもる。

キンジはアリアと話すと言ってベランダに出て行った。

 

……で、オレは今現在。

 

今までの埋め合わせにとリサの要望でマッサージしていたのだが……いつの間にかアッチ方面の……うん、恥ずかしくて口に出せないアレ(・・)をしている。

流された結果だったが今回は仕方ないのだ……今までリサに溜まっていたその……ゴニョゴニョを発散させてあげないとな……。

 

燃え上がるように求め合った結果……心身ともに絞りに搾り取られましたよ―――コッチがな!

 

満足げに眠るリサを自室のベッドで寝かせてオレは服を着る……裸族じゃないしアリアもいるからな……服を着ないと二挺拳銃で撃たれるのも御免だ。

と言うのも……この前風呂上がりで鉢合わせたキンジがアリアに銃撃されてたからそこから学習したんだよ。

 

風呂に入ろうとドアを開けてリビングに出るとキンジが震えている。

 

その手にもつ携帯が小刻みに震えているのだ。

 

「あ、アリア……ににに、にに、逃げろぉッ!」

 

「な、何よ。何急にガクガク震えてんのよ⁉︎キ、キモいわよキンジ……」

 

「本当に何震えてんだよ」

 

「ぶ、ぶ、『武装巫女』が―――うっ。き、キタっ!」

 

どどどど……ドドドドッ……‼︎

 

な、何事だ……マンションが震えてる……⁉︎

 

しゃきん……‼︎

 

金属音と共にドアが切り開かれた……!

 

巫女装束に額金、たすき掛けの戦装束に身を包んだ……

 

「白雪……ッ‼︎」

 

星伽白雪さんだった。

 

「やっぱりいた‼︎神崎!H!アリア‼︎」

 

「待て!落ち着け白雪!」

 

「キンちゃんは悪くない!キンちゃんは騙されたに決まってる!」

 

「……話が見えんぞ⁉︎」

 

オレの異議をスルーして星伽さんは上段に刀を構える。

 

「この泥棒ネコ!き、き、キンちゃんをたぶらかして汚した罪……あなたの罪を数えて……死んで償え‼︎」

 

標的にされたアリアは訳がわからないと銃すら抜いていない……その気持ちすっごいわかるぞアリア!

 

「や、やっ、やめろ白雪!俺はどこも汚れてない!」

 

「キンちゃんどいて!どいてくれないとアリアを……そいつを殺せない‼︎」

 

「よ、よせ!星伽さん!よせ!はやまるな!」

 

「き、キンジぃ!なんとかしなさいよ!なんなのよこの展開わぁ‼︎」

 

ドンッと飛んでくる武装巫女。狙いはアリアの首……‼︎

 

見てられずオレは絶界から引っ張り出した装飾剣(クライスト)で横薙ぎに振るわれる日本刀と切り結んだ!

 

ガギィンッと青白い火花散らしぶつかり合う剣と刀……この剣戟で飛び起きたのかオレの部屋から制服を着たリサが飛び出してきた……BARを携えて!

 

「どうしましたかご主人様⁉︎」

 

「……!二匹目の泥棒ネコ!」

 

「リサは猫ではありません!狼です!」

 

「だぁぁ!話がややこしくなる……ッ‼︎キンジ!なんとかしろぉ!!」

 

「なんとかできるわけねぇだろうがッ‼︎」

 

鍔迫り合いするオレ、銃向けるリサにガン垂れる武装巫女さん……なんなんだよ……本当になんなんだよこの展開……‼︎

 

「バカキンジ!なんとかしなさいよ!」

 

「なんとかしなさいよ、って―――俺 が 言 い て え よ !」

 

キンジの絶叫が響く室内は……それが合図になったかのように戦争映画のようなサウンドを鳴らすのであった……明日オレ……生きてるよな?

 

(続く)




と言う訳でちょっとゴリ押しなキンジの新しい拳銃……ベレッタM93R!
私の……作者の趣味が全開になってます!

まぁ……ベレッタM1951出そうかと悩んだのですが、後継モデルのベレッタM93Rに落ち着きました。

この拳銃でキンジはこの先活躍していくのでよろしくお願いします!

そして……原作と違い、キンジがイギリスに嫌われる展開がなくなりますが……これはこれで必要なことなので悪しからず。

では次のお話でお会いいたしましょうノシ


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2巻……朱き焔王と風雷の怪盗
13弾 来るヤンデレ、ハヤトの憂鬱


少し手直しして更新。
改定していくよ、2巻からね!


「セアッ!」

「はい!」

 

青白い火花を咲かせる白銀と漆黒、二振りの刀剣……今まで何度切り結んだのだろうか。

相手の鋭い平突きと切り結び、鍔迫り合いに持ち込みながらオレはふとそう考えた。

鍔迫り合いを弾き距離を取るのは巫女装束にたすき掛け、額がねで切り揃えた前髪を留めた黒髪ロングを勇猛に震わせ、鬼の形相で俺の背後のアリアを睨むのは星伽白雪さんで、キンジの幼馴染である。

なぜこうなったのだろうか。

唯一星伽さんを止めれるであろうキンジはベランダの防弾物置に逃げ込んだため、対抗策も練れやしないぞ。

 

「どいて天道君!アリアを殺せない!」

「落ち着いて星伽さん!武偵法9条忘れたの⁉︎」

 

怒りに我を忘れている星伽さんに正論は通じないっぽいな……って

 

「えええい!」

「うおっ⁉︎」

 

式力切れで動きが鈍くなったオレをバガンッ、と星伽さんがオレの鳩尾に中空両脚ドロップキックを叩き込んできたのでそのまま後方にすっ飛ばされて ガッシャーンッ! とベランダの引き戸のガラスに背中から突っ込んでしまったので派手にガラスの破片が散らばる。

オレは背中を強打してしまい、集中が途切れて肉体強化の焔が散ってしまった。

もう今日はほとんど式力、魔力を使えない。

ハイジャックで使った魔力がまだ快復してないからな。

それに、こんなことくらいで紅蓮姫は使いたくない。

 

「すまん、アリア。 あとはお前がなんとかしてくれ」

「なんとかって何よって―――み''ゃ⁉︎」

「天誅ゥゥゥ!」

 

アリアのセリフを遮るように、星伽さんの刀がアリアの脳天めがけて振り下ろされたのを珍妙な新種の猫のような声をあげながらバチィィィッ!と、両手で挟んで止めるアリア……真剣白刃取りか!

この前やって見せた片手では無理だったか。 やっぱりいや、オレにも無理だな。

星伽さんはおそらく、オレとは違うタイプの超能力者(ステルス)だろう。

剣を交えてわかったのだが、彼女は式力による身体強化の日本で言うところの鬼道術を使っているっぽい。

オレの異能である「颶焔の器」の力で、「焔―強化」と同じような原理で体内に焔系の式力を流し込んで身体を強化する術の一種だ。

 

「もう、泣いて跪いても許さないんだからぁぁ!」

「それは私のセリフゥゥゥ! 天誅ぅぅぅ! 目の前から消えなさい、泥棒猫ぉぉぉ!」

 

とうとうキレたアリアが二刀を抜き、目からハイライトの消えた星伽さんと斬り合いを始めたのを尻目にオレは装飾剣(クライスト)を絶界にしまい、キセルを出すとその雁首に薬草玉(ハーブボール)を入れて火をつける。

二、三服しながら破壊され変わり果てていくリビングを眺めることにした……キンジ出てきたらどんな反応するだろうな……これ。

 

「ご主人様……お怪我はありませんか?」

 

ベランダを伝いに歩いてきたのはリサだった。

この部屋のベランダは繋がっているから他の部屋にも行き来できるからな……

 

「心配ない。式力切れでちと体は怠いけどな」

「それは良かったのです!」

 

リサはゴロゴロと喉をならす猫のようにオレに擦り寄ってきた。 か、可愛いな相変わらず。

戦争映画さながらな音を無視するように、現実逃避してオレはリサと世間話をする事にした。

 

「エステーラのリーフシュガーパイは美味かったぞ……今度一緒に行くか」

「はい!是非お願いいたします!」

 

クラブ・エステーラは台場にある女性向けのカフェなのだが、オレの行きつけの店である。

そこで売っている桜の葉をイメージしたであろうリーフシュガーパイは看板メニューで幾つかのバリエーションがあるらしい。

それに店主のセンスがいいのかケーキも見た目よし味もよしな芸術的な完成度の高い物が多い。

コーヒーも紅茶も良いものを使っているから気が付いたらオープンテラスの席にて女子に混じりオレが午後のひと時を堪能している画がちらほらと見られると武偵女子たちの間で話題にもなっている。

 

リサから聞いたのだがどうやらファンクラブが発足したらしい、どうもオレを対象とする「私たちの貴公子、ハヤト様ファンクラブ」だとかなんとか。 まぁ、オレたちの障害になるようならば排除するがな。

 

「リサのファンクラブもできたらしいんです!」

「そうなのか。 まぁリサの可愛さをわかるヤツらの気持ちもわかるな」

 

それからしばらく談笑していると、戦争映画のような音が止む。

 

「終わったのか?」

 

その声に応えるようにして、防弾物置の戸が開き、中からキンジが出てきた。

 

「多分な、はぁ」

 

キンジはため息ひとつと遠い目をするのはほぼ同じタイミングだった……部屋のあちこちには斬撃と弾痕が残り、散乱している破片は元はキンジの集めていた家具だったものだろう。

南無三。 付喪神がいたら弔おう、いやいなかったけどさ。

 

「お掃除のしがいがあります!」

 

この状況で目を輝かすのはリサだけだろう……掃除好きだからなぁ……エプロンドレスのポケットから仕込み箒を引っ張り出して準備万端、気合い十分だな。

え?リサのエプロンドレスはドラ◯もんの四次元ポケットかだと?

んなわけないだろ……単に、ポケットの中がオレの絶界につながっているのだ。

 

「な、なんて……しぶと、い……どろ、ぼう……ね、こ」

「あんたこそ、さっさと……く、くだばり、なさい……よ……はふぅ」

 

刀を杖代わりにしてなんとか立っている星伽さんと尻餅をつき上半身が倒れるのを腕で支えるアリア。

西洋と東洋の美少女がホコリと汗にまみれて力尽きているその姿は色々と台無しだな、うん。

 

「で、決着はついたのか?みたところ引き分けっぽいんだが」

 

キンジがそう切り出す。まぁ、第三者のオレは無言を貫くことにする。

 

「―――キンちゃん様っ!」

 

キンジに向き直りよろよろとその場に正座する星伽さん……今気がついたのかよ。

黒曜石のような瞳を潤ませながら両手で顔をおおう白雪さんは顔を伏せながらわけのわからないことを言い出した。

 

「しっ、死んでお詫びします!キンちゃん様が私を捨てるんならアリアを殺して、わ、私も今ここで切腹して、お詫びします!介錯はキンちゃん様が、お願いします!」

「なぁ、キンジ。 今は何時代だ? トチ狂っておれは江戸時代にいるのか?」

「バカなこと言ってんじゃねぇよハヤト!? 現実逃避はもういいから!」

 

キンジのツッコミ、なかなかキレが上がってきたな。 にしても、いったいなに時代錯誤な事を言ってんだ、星伽さんは。

つかキンちゃん様て、接尾辞がふたつなんだが?

キンジは頭に手を置いてしばし逡巡まぁ妙案なんざないのだろう。

 

「あ、あのなぁ白雪。 捨てるとか切腹とか一体なにいってんだよ?」

「だってだって、ハムスターもカゴの中にオスとメスを入れておくと、自然に増えちゃうんです!」

「意味わからん上に飛躍しすぎだ!」

「いや、言いたいことはわからんでもないが」

「ちょっと黙っててくれ、ハヤト!?」

 

苛立った声を出すキンジ。 まぁこの惨状ではわからんでもないが。

と、突然顔を上げた星伽さんは立ち上がるとキンジの制服の襟をつかみ揺らす。

 

「あ、あ、アリアはキンちゃんのこと遊びのつもりだよ!絶対そうだよ!」

「ぐえっぐええ襟首をつかむな!」

「はい、星伽さんストップ」

 

さすがにキンジが哀れに思えてきたので助け船を出すことにした。

二人の間に割って入り、星伽さんの目をまっすぐに見る。

 

「キンジのことが好きなら君はどうするべきかわかるのじゃないかな?」

 

オレは目にタキオン粒子を流し込み、妖しく紅く瞳を発光させる。

催眠術の起動に目を発光させているのだが、ホントに残りの式力を振り絞る。

 

「今はただ、キンジに謝罪して、この場を離れる事が、大事、なんだよ?じゃないと、キンジに、嫌われるヨ?」

 

オレは句読点増し増しの片言で星伽さんの意識に言葉を刷り込んでいく。 相手は超偵だが、オレの催眠術はシャーロック直伝の強力なものだ。

相手のコンプレックスを隙と見てそこに言葉を滑り込ませて、式力を通わせながら少しずつ言葉を刻み込んでいく。

それに、オレはルーン魔術が派生系であるガンドを使える。催眠術とガンドのダブルパンチで強力な暗示を与えることが可能なのだ。

 

「サァ、キンジに、謝ろう。 さぁ、明日も頑張ろう。 君は生徒会長、なんだろう?」

「はい、キンちゃん様、ゴメンナサイ。 あした、また、くるから、ね」

 

星伽さんの瞳からはハイライトが消えている……暗示効きやすい性格だったか……虚ろな目がコワイぞ!?

 

「し、白雪!?どうしたんだよ⁉︎」

「っておい、キンジよせ!」

 

そのまま返せばよかったものを、お人好しのキンジは星伽さんの肩をつかんで揺する。

 

「早く帰って。 ……? あれ? あれれ?」

 

星伽さんの瞳に生き生きとした光が戻ってしまった……暗示が解けたのだろう。

 

「はぁ……もういい、あとはお前らで話し合え」

 

オレはそこからだんまりを決め込んで自室にリサと一緒に逃げ込むことにした。

暗示が解けたのはおそらく、キンジに対する強い想いが星伽さんの暗示を解いたのだろう……愛されてるじゃねえか、キンジも。

 

装飾剣(クライスト)を絶界から引き出して刀身の傷の具合を確かめるが、刃こぼれが一つとしてもなかった。

さすがオルハリコンの刀身は伊達じゃないな。

まぁ何時も振っているから少しでもかけたら感覚でわかるのだがな。

しかし、あの日本刀……かなりの業物とみた。クライストとマトモに斬り合って折れない、斬れなかったしな。

自室のベッドで眠り、朝になったら全てが夢だったというオチに期待は……できないよな。

 

そんなことを考えながらオレとリサはともに眠るのだった。

 

(続く)



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14弾 麻薬取締と尊き日常…日常?

やれやれ…あたりからは銃声が鳴り響く。

ここはジオフロント品川。品川区のとある場所に掘られたすり鉢状の土地だ。

元々は都市開発の一環として再整理された品川区の土地を広げようと地下をくり抜いてジオフロントを作り出したのだが、計画が頓挫してしまい結局中途半端な状態で放置された場所。

そこはスラム街よろしく犯罪組織が隠れるには絶好の場所だったためか犯罪組織の温床となってしまっていた。

 

オレは現在リサを連れてそのスラム街に来ていた。

 

理由は至極簡単で教務課(マスターズ)の蘭豹先生から依頼を受けたのだ。

で、先ほどから軽い装備の奴らに追い回されている……相手は短機関銃(サブ・マシンガン)14挺くらいと散弾銃(ショットガン)5挺であと拳銃持ちの奴らがちらほらといる感じだな

 

え?これのどこが軽い装備だって?

 

稀にだが、重機関銃持ち出してくる奴もいるから軽い…軽いよ。

 

「いかがいたしましょうか、ご主人様」

「そうだな…遊撃で行くか」

 

オレはリサに指示を出して、二手に分かれて動くことにした。奴らの相手は夜にリサの相手するよりかは比較的楽だしな…

 

「やーやー、君たち。誰をお探しかな?」

「お、おい! いたずぉ!?」

 

一人の男の前に姿を現してオレはそのままそいつの襟首を掴むと後ろにあったゴミ箱にぶん投げた。

頭からゴミ箱に突っ込んで「ふがふがもがー!」足をジタバタさせているのを尻目にオレはビルの間の小道を三次元的に見て縦にすすむ。

要するに壁を蹴って登る…キッククライムだな。

 

絶界から鋳造の大量生産物の剣を一本引き出して屋上のコンクリート舗装された床に突き刺す。

柄にルーン護符を巻き付けて他のビルに屋上伝いに移動を繰り返して、同じように剣を複数本刺していった。

 

これは大規模な式力力場を構成するための目印(マーキング)でオレは広域に探査の使い魔を出す準備をしているのだ。

使い魔はウィルオウィスプで簡単なもの探しならできる魔導物だ。

 

これを使って麻薬を探す腹積りでな…活用できるものは活用したほうが楽でいい。

 

「…これでよしと」

 

オレはビルに突き刺さる剣の柄に巻かれたルーン護符の術式を展開して起動する。

ここから眺めると、広い範囲で小さな火の玉が宙に浮き始めた。

 

「おっと、リサを待たせるわけにいかんな」

オレはビルの間の小道めがけて屋上から飛び降り、交互に壁を蹴って降りる。

そして、風の魔力強化で脚力を強化して銃声の響く場所を目指し走り出した。

 

リサside

 

「クソッ、クソがぁぁぁ!!?」

「なんであたんねぇんだよぉぉぉ!?」

「はいぃ!」

 

リサは現在、ケモミミモードで「サーチ&ですとろい」中なのです。

物音がしてすぐに銃声が聞こえた時には、箒の一閃で弾をはじき、そらし。 そのお礼にと、ならず者団体様をおもてなししております!

 

「あたらなぉぼ!?」

「せっ!」

 

リサのドロップキックでならず者の1人を蹴飛ばして、蹴った反動で空中一回転。

BARの安全装置(セーフティ)を外し、逆さまになった視界、ゴムスタン弾を撃ち放ち、ならず者の手から銃器を弾き飛ばしながら後退。

まだまだしたっぱの部下らしき人たちがいらっしゃるようなので、リサは線の制圧を得策とはせず、剣舞による制圧を試みることにいたしました。

 

「わっふぅ〜ッ!」

「な、なんだこのメイド!?」

「げ、斬られる!?」

 

BARを背負いスリングを締めまして、気合いとともにリサは仕込み箒から刀を抜き、ならず者たちの間を駆け抜けます!

一陣の風の如く、鋭く剣閃を光らせて刀を流れるように振るう。

 

「うぉ⁉︎」

「ファッ⁉︎」

 

キンッ!と《彗星 斬鉄剣 虎徹》を振るってリサはならず者たちの銃器だけを切って…

 

「また、つまらないものを切ってしまいました…なんちゃって」

 

ちゃきっ…とその刃を仕込み箒に納刀します。

するとバラバラガチャガチャと音がして振り返ると金属の破片となった銃器の残骸が転がっており、その前に顔面蒼白になった幾人かのならず者たちが両手を挙げて降伏の意思表示をしていました。

リサは彼らをエプロンポケットから出した荒縄で縛り、連行の準備をいたします。

ご主人様は大丈夫なのでしょうか…いや、失礼なことを考えてはいけませんね。

 

ご主人様はリサの勇者様なのですから負けることなんてありえないのです!

と、そんなことを考えながらご主人様を待つことにいたしましょうか。

手下たちは全員捕縛済みです。 さて、捕縛漏れと麻薬の証拠を抑えるためにリサも調査を開始しますか!

 

 

オイ…これはいったいどんな冗談なんだ?

 

[僕が一番こいつをうまく使えるんだァァァ!]

 

丸太のような砲身から撃ち出されるロケット砲弾を飛び込み前転で避けながらオレは装飾銃(ハーディス)に魔力のチャージを開始する。

 

土煙が辺りを満たす…背後の廃ビルが崩壊したのは気にしない…気にしないぞ!

で、だ…もう一度言おうこれはいったいどんな冗談なんだ?

 

オレは先ほど麻薬組織のアジトにいた親玉…ひょろっとしたもやしみたいな男を追い詰めたのだが、そいつの部屋にはダストシュートがありそこから逃げられた…と思ったのだが。

 

今現在、ヘンテコな逆関節型の二足歩行兵器に乗り込んだ男がオレに向けてその手に装備されたアサルトカノン砲を向けて乱射してくるので、絶界から抜いたDE(デザートイーグル)のレセプターを3連バーストに切り替えてアサルトカノン弾を狙い撃ちなんとか弾く。

全弾撃ち尽くしながらアサルトカノンから逃げるように反時計回りで回りこむが、戦車の砲塔(ターレット)のように上半身が回るように作られているのだろうか…面倒なことにこちらをロックして離してくれそうにないな。

 

[米国で開発された先端技術(ノイエ・エンジェ)の力を見るがいい!ED200の力を思い知れぇぇぇ!]

 

親玉がそう叫びながらオレを追っかけてアサルトカノンを乱射するからこの狭い広場が弾痕だの砲撃痕だのを量産していく…まずい、この辺り一帯が更地になる前になんとかするか。 つか先端技術て…あれは旧型の欠陥機じゃなかったか?

見た目が映画の[ロボコップ]に出てたED209だし…設計したやつ出てこい!

 

「保ってくれよ…!」

 

オレはDEを絶界にしまうと、装飾剣(クライスト)を引き抜き、コートのベルトに留めてさらに絶界からルーン護符を数枚引き抜き、燃焼させて効力を発揮させる。

 

一枚目をアスファルトに叩きつけて氷壁を生み出して、二・三枚目を生成した氷壁に貼り付けて術式を書き換える。

二枚目には魔力密度を高める効果を、三枚目には多層式の壁となるよう氷壁を構築し直す術式を組み込んだ。

 

[氷の壁かぁ〜?無駄無駄無駄ァ!]

 

アサルトカノンが撃ち込まれて氷壁に着弾するも壁によって阻まれる。

 

[何!?]

「喰らえ!」

 

オレは念動力(PK)を発現させながら氷壁を殴りつけて着弾したアサルトカノン弾のベクトルを移行させる…氷壁内部で反転、相手に向けて射出する。

 

オレも初歩的な念動力なら使えるのさ…無粋だがな。

 

アサルトカノンの弾丸は弾表面に式力を纏っているので一種の魔法弾になっているわけだが。

 

[効かんなぁ、無駄無駄無駄なんだよォ! …ってあれ?動かない⁉︎ アイェェェ⁉︎なんで⁉︎]

 

外部をレールカメラで見ているが、気がつかんわなぁ…脚の駆動部と砲塔の間に弾丸がギシギシと食い込んで、しかも氷結してるなんて。

 

「そら、さっきの威勢はどうした!」

 

オレは動かなくなったED200とやらの武装を解除させようと、ベルトに留めていた装飾剣(クライスト)を抜くと…ダンッ!

 

「フリーフォール、グラッチェエェェストォォォッ!」

 

高く跳躍すると、自由落下で威力を増したクライストにオレの体重を乗せた斬撃が、甲高い金属音を響かせながらED200の右腕に刃を食い込ませてそのまま切断する。

 

ズズンッ…

 

と土煙を巻き上げて落ちる右腕マニピュレーター。

 

[な、なにぃ⁉︎]

「まだまだぁ!」

 

オレはすかさず回り込んで左腕マニピュレーターを真正面から両断!

 

機能しなくなった武装に絶句する男を尻目に…

 

「セイッ!」

 

クライストを平突きで逆関節の脚部制御モーターの繋ぎ目に突き込んで、そのまま斬る!

 

[うおぉぉぉ⁉︎傾いて…ぎゃんッ‼︎]

 

片脚を斬られてバランス制御ができなくなったED200は重量を支えきれず、横にブッ倒れた。

そして倒れたヤツのカメラに向けてオレは蓄電完了させた装飾銃(ハーディス)の銃口を突きつけた。

 

「ギルティ、チェック。 メイトだ」

[や、やめろ!や、やめてくださいお願いします!]

「そうだなぁ…助けてや―――是非も無し!」

[ええぃ!退かぬ、媚びぬ、省みヌゥゥゥ!]

 

最後の悪あがきか、一応機能の生きていた左腕マニピュレーターでオレを殴ろうと振り被るが……どこからか飛来したNATO弾をしこたま食らって機能停止。

 

飛来した方向を一瞬見る……照星(アイアンサイト)の標準を合わせ、《ブローニング M1918》を構えたリサがこちらに微笑んでいた。

 

「終わりだ…森羅をブチ抜け、擬超電磁砲(レールガン)ッ!」

 

オレは装飾銃(ハーディス)の引き金を引く。

 

撃針が雷管(プライマー)を打ち付け、弾丸が飛び出すと同時に、擬似ローレンツ力が弾丸をさらに加速させ、銃弾は力強い極雷の槍となる。

 

[ぎゃあぁぁぁッ⁉︎]

 

直撃を食らったED200のバッテリー部分をブチ抜いた弾丸が廃ビルを貫いて爆ぜる。

 

ドガァァァン…ッ!

 

さらにED200も爆散した。 あ、やっちまったかもな…これは。 何がだって?9条破りだよ…。

 

「汚ねぇ花火だ…」

 

オレはヤケとともにそんな言葉を吐き捨てるのだった。

 

 

「まさか命に別状なしとはな…」

「リサもびっくりしました…あの人只者じゃないのです!」

 

ジオ品川でのロボット暴走事件は一人の死傷者もなく幕を降ろすことになった。

結局、あの旧型を乗り回していた親玉は無事だった…しぶといというかなんと言うか…あの後のやり取りを思い出す。

 

「僕は女神に愛されているんだ!死ぬことなんてない!―――じゃあ、またね!」

 

全身煤まみれのアフロヘアと言う鉄板の格好でゾンビの如く起き上がり逃げようとしたので…

 

「うるせぇよ」

「あぎゃッ⁉︎」

 

オレにぶん殴られて気絶する主犯格を捕縛して警視庁から派遣されてきた警官隊に引き渡し、手下どもも連行されていったのを見送って現場を離れたのだが…

 

何者かがその警官隊を襲撃してヤツら一味を逃したらしい…何か嫌な予感がするな。

そして、主犯格に関しては指名手配がかかった。

 

主犯格の名前はクリード=ディスケンス。どっかで聞いたことがある名前だが…まぁいいか。

 

「さて、家に帰るか」

「はい、ご主人様!」

 

オレが運転するバイクの後ろにリサを乗せてオレたちは湾岸線を走る…オレたちは、海が茜色の光を反射して夕日が学園島を照らす綺麗な景色を楽しむのだった。

 

 

今日までのオレは、警察の取り逃がした麻薬組織「星の追放者(スター・エグザイル)」のアジトを幾つか強襲して何人かの組織員をとっちめたのだが…結局、リーダー格のクリードは捕まえる事はできなかった。

すでに国外に逃亡したのか東京圏から離脱したのかは定かではない。

まぁ逃がす気はないが…今は泳がせておこうと思う。

と言うのも「星の追放者」はある秘密結社の資金源を得るための下請け組織なのだからな。

そのある秘密結社とは…「星の使徒(スター・アステル)」と言う今のMI6の原典となった王設秘密結社「時の番人(クロノ・ナンバーズ)」と敵対していた革命集団だ。

時の番人は星の使徒と長きに渡り覇権を争ってイギリス国内で対立、残酷かつ凄惨、熾烈で苛烈辛辣な戦いを繰り広げたとオレたち貴族の間には伝わっている。

 

そしてオレの実家の曾祖父、初代トレイン・ハートネットが最強の暗殺者である抹消者(イレイサー)として一時期時の番人にて活動していたことから、装飾銃(ハーディス)はうちの家宝として伝わっていると父様からは聞いている。

そして装飾剣(クライスト)も装飾銃と共にうちに伝わった…と言うのも星の使徒と時の番人の戦いの幕引きはあっけないもので…共倒れだったのだ。

そのため、神の作った金属たるオルハリコン製の武具は戦果を挙げたのちに貴族となる抹消者(イレイサー)の家系に預けられることになった。

王宮の下賜の選別の折、ハートネット家は星の使徒の壊滅に多大な戦果を挙げたことから悠久なる武具(クロノ・ウェポン)を二つ賜ったのだ。

 

ちなみにその当時の敵は魔法使いのオズだったと聞いている。

その後、星の使徒は歴史の表舞台から姿を消して生き残りたちが潜伏していたと言うのだが…最近になって生き残りたちの、その活動が活発化してきている。

今もなんらかの革命を起こすことを企てているらしいが、伊・Uの存在が浮上したと共に大人しくなったらしい…万が一に伊・Uと争うと敗北することをわかっていたらしいからな。

 

とまあ話が逸れたな…つか誰に話してんだろうか。

 

「リサ、そっちは終わったか?」

 

先ほど斬撃とかの痕が残っていた廊下を渡りながら補修していたリサに声をかけた。

 

「はい!リサは掃除とお部屋の修復を終了いたしました!」

 

今日は土曜日である。

強襲のために何日か寮を空けていて帰ってきたのが昨日。

 

そして、部屋がぶっ壊されていたのを思い出したオレはリサと協力して壁などにできた斬痕、弾痕を壁用のパテで埋める補修とフローリングを防弾防刃コーティングの施された床材を購入して全面張り替えを昼までに終わらせた。

 

「やっと終わったな…てか白雪さん、そんな顔してんじゃない。君もキチンと手伝ってくれたじゃないか」

「ご、ごめんなさい…私が暴れたせいでキンちゃんとハヤトくんのお部屋壊しちゃったのに今まで掃除に来れなくて…」

「もういいよ、顔上げろ白雪。つかおい、何やってんだよアリア!?」

魔剣(デュランダル)に備えてこの部屋を要塞化するのよ」

 

オレが忙しなく片付けている間、'“Going my way”なアリア嬢はこの部屋の要塞化を進めようとしていた。

それとなく邪魔をしておいたのでなかなか進んでないけどな…例えばアリアの頭上に召喚した絶界の(ゲート)から金だらいを落としたり、防犯カメラを取り付けられそうな場所、壁紙の裏に硬化のルーン護符を張って釘やネジをつけれなくしたりとかだな。

 

「……何で釘が壁に負けて曲がるのよ⁉︎ってみぎゃ⁉︎」

 

釘を打つも壁が硬く硬化しているから打つたびに釘がひしゃげていく。そして―――がいんっ!とアリアの頭にまた金だらいが直撃していた。

その様子をキンジ、白雪さんが眺めて…揃ってザマァと愉悦に浸っていた。

 

とまぁ、何故ここに白雪さんがいるのかと言うと…アリアの依頼者(クライアント)で彼女が周辺警護を引き受けた、その条件としてこの部屋に住む事を要求した…らしい。

ちなみに、さっきアリアが言った魔剣(デュランダル)とはオレたちのような超能者(ステルス)を狙い拐う…世間的に言えば「誘拐魔」の事だ。

しかし、魔剣は存在そのものが眉唾ものと扱われてはいるが…その正体をオレは知っている。

多分と言うか確実にあいつはオレとリサがこいつらの味方と言う事を想定して動いてるに違いはないだろうけどな。

 

「アリア、要塞化は諦めろ…つか防犯カメラを乗っ取り(ジャック)されたらどうすんだよ?こっちの情報が筒抜けになるぞ?」

「…な、何ですって⁉︎」

 

おいおい、どうしてこんな反応するんだこいつは…そんなこともわからんくらいに脳筋なのか?

 

「…監視に関してはオレに任せろ。探知結界を張れば問題ない」

「え、ハヤトくん結界術も使えるの⁉︎」

 

話を聞いていた白雪さんが驚いているが…無理もないことだ。

 

「ああ、そうだ。オレのルーン魔術はチート掛かってるからな…属性が確か―――「原初のルーン(ルーン・オルタナティブ)」だったかな?」

「てことは…やっぱりルーン魔術を修めてたんだね…北欧系の術式がこの部屋に充満してるし」

「なに!? また変な実験してんのかハヤト!?」

「あほう、いつも探求する訳ないだろうが。これはな、強化のルーンだ…部屋を何度も壊されたらたまったもんじゃないから壁と床の強度を上げて防弾防刃の能力を底上げしてるんだよ」

「んな!? そんなことしたら釘が打てないじゃない!」

「おう、だから要塞化は諦めろアリア…で、これを君らに渡しておく」

 

オレはそう言いながら3人に絶界から引っ張り出した複製不可能なセイヨウトネリコの木にルーン文字を刻んだ木札を3つ引っ張り出した。

 

「これはこの部屋に入るために必要な結界解呪の木札だから各自絶対に無くすなよ? 壊すなよ?」

「それがなかったらどうなるのよ」

 

アリアが疑問を口に出してきたので…

 

「ルーン魔術のトラップが発動する。具体的には金だらいが落ちてきたりスタンガンと同等の電撃を食らわされたり、人間樹氷にされるな」

「おい!? 過剰すぎんだろ!?」

「大丈夫だ、死ぬことはないからな。まぁ生死ギリギリのラインだから問題なかろう?」

「「アウトぉぉ(よ)!!」」

「オーバーキルになっちゃうよ!?」

 

キンジ、アリアの息の合ったツッコミと白雪さんの驚きの声…

 

「そうか?じゃあ後で威力調整するかね…キンジ後で実験台に…ゲフンゲフン。協力してくれないか?」

「あ、そうだ!ちょっと外に出てくる!」

 

踵を返したキンジが走ってリビングから出て行ったまだ札渡してないんだが…出て行った音が聞こえてスグにドアが開いた。

 

ガチャン…ガチャ…

 

「財布忘れた―――ってアババババババッ!?」

「き、キンちゃぁぁぁん!?」

「キンジ!?」

「キンジ様!?」

 

…言わんこっちゃないな本当に

 

白雪さんが駆け寄って介抱しているのを尻目にオレは今回のケースの改善点を頭の中で書き出す。

今のは電撃が強すぎたんだろうな…もうちょっと威力を落とすか。

電撃ショックを食らってキンジは気を失っていたが死にはしなかった。

そりゃスグにオレのルーン魔術で快復させたから命に別状なしだった…危ねぇ、9条破りしてしまうところだった。

のちに聞いたことだが、電気ショックを食らった際にヒステリア性の血流が流れたとか何とか…訳がわからんなあいつの体は。

 

「キンちゃん様によくもぉぉぉっ!てーんちゅぅぅぅっ!」

 

そんなことを考えながら、刀を抜いて襲いかかってきた白雪(ヤンデレ)さんと応戦するのだった…なんてこっただよ。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

昨日の乱戦でまた寮が若干ボロボロになってしまった。

真剣白刃取りで刀を取り上げたら分銅の付いた鎖鎌をスカートから取り出して刀を分銅で器用に絡め取った彼女の技量…恐ろしいな本当に。

まぁ今回は俺の粘り勝ちだった…魔力解放、重さ重視で装飾剣(クライスト)を振り回したからな…今日もまた式力不足だよちくせう。

さすがに紅蓮姫は使ってません。

 

筋肉痛にはなってしまったがな…後でキチンと謝罪したのでことなきは得ている。

 

で、だ。

 

今日は昨日の戦いの傷跡残す部屋の修理と白雪さんの引越しの手伝いである。

日曜日で本当に良かったよ。 休日ということもありオレは午前中は予定がなかったので引越しの手伝いを申し出た…

部屋の掃除補修は今朝リサと共に終わらせておいたが―――壁紙も落ち着けるベージュに変えたし…とにかく、室内大戦はもう懲り懲りだ。

 

「武藤くん、本当にタダでいいの…?せめてガソリン代だけでも…」

「いやーいいんすよ!こんぐらいマジで朝飯前っスから!」

 

白雪さんを軽トラに乗せてきた武藤がやたらと俊敏な動きで荷物を降ろしている…その機敏さにキンジが引いていた。

 

「あの…でもここ、オレの記憶が正しければ第3男子寮じゃないスかね?」

「う、うん」

 

わかる、わかるぞ武藤。白雪さんは見た目は清楚で可憐な大和撫子な美少女だ。

惚れるのもわかる…キンジに盲信通り越して狂信しているのを見なければだがな!

 

「空き部屋を物置にするとか…っスか?ま、荷物をまた女子寮に戻したかったら呼んでくださいっス!で…この後とか、ど、どーすかね?軽くお茶とか…」

「あ、キンちゃん!」

 

こちらに気がついたのだろう。

 

白雪さんが手を振りながらキンジの元にかけてくる。

 

「キン……キンジ?」

「あ、あのね武藤くん。私、今日からキンちゃ…遠山くんの部屋に住むの」

「――…え?」

「言っとくぞ、アリアのせいで白雪の護衛になったんだよ。言いふらすなよ」

 

そう言い残してとキンジは寮室に戻っていくので白雪さんは武藤に「ありがとうね!」と伝えて後を追っていく。

 

「…叶わぬ恋もあるさ。 コーヒーくらいは出して話くらい聞いてやるよ」

「――天道。 お前、意外といいやつなんだな…」

「そう言えばきちんと話したことなかったな。ハヤトでいいぞ」

「わかった、剛気でも武藤でもいいぜ。じゃあ、またな」

 

哀愁漂う男の背中を見送ってオレも部屋に戻るのだった…

 

to be continue



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15弾 秋葉原でプチ騒動。ライカの戦姉妹試験勝負!

白雪さんの引越しの手伝いが終わった昼下がり。

 

オレはリサの頼みと言うかお願いを聞いて東京モノレールなどの電車を乗り継いで……「武偵封じの街」こと、秋葉原に来ていた。

 

「相変わらず、人が多いなここは」

 

どこを見ても人、人の海のようだ。

 

電気街やオタクの好みそうなアニメのフィギュア、コスプレ道具の他にも銃器店が軒を連ねていたりする。

 

「ご主人様、メイドがいらっしゃいますよ!?」

 

隣で無邪気にはしゃぐリサは私服だ。

 

春らしい白を基調とした袖なしのワンピースに桜色のカーディガン、白いスラウチハットに例の武装日傘でなく、白いフリル付きの日傘をさしているが……そこは武偵。

抜け目なく日傘の先端はクロム合金で頑丈に作られた刺突用のショートレイピアが仕込まれている。

 

ちなみに、オレも私服だ。

 

空色のポロシャツに紺色のスラックス。それにいつものコートを合わせた……色は山吹色でいいか。

この前もそうだが、このコート……シャーロックが餞別にオレに与えてくれたアルスターコートはオレの式力に反応して表面上の色を変化させることができる。

どこぞのインパルスガン◯ムみたいだが気にするな。V◯S装甲でも通じるかな?

 

まぁ、メタいことは気にしない。

 

入り組んだ路地を入って雑居ビルに入り……そこに入っているとある店に足を踏み入れた。

 

ドアを開けて入った店は……

 

「『おかえりなさいませ!ご主人様、お嬢様!』」

「おかえりなさいませ……でやがります」

 

うちのメイドさんと同じようにエプロンドレスを下げた店員さんがひしめく……メイド喫茶(カフェ)、アットホーム・カフェテリアだった。

1人だけ聞きなれない口調の……乱暴な敬語が聞こえた気が―――って

 

「あ、アリア(・・・)!?」

「御人、なぜあたしの本名を知ってやがりますか?」

 

白銀の髪に緩い弧を描く紫眼。しかし、アンティークドールのように整いすぎた、可憐な顔立ち―――スラッとした長身で控えめな胸を包むのはワンピースドレスに似たヴィクトリアン調に近い漆黒のメイド服にフリル付きエプロンドレス、ホワイトブリムを頭に乗せた―――この場の店員と違うなんちゃってメイドでない、本物(・・)の雰囲気を醸し出す少女がいた。

そして、なぜかその背には……対物ライフル、バレットM82A1が背負われている。

手はフィンガーレスグローブをつけている……鋲付きの。

 

「ご主人様、どうかなされましたか―――あ、アリアお姉様⁉︎」

「……む、どこかで聞いた声と思えば……リサでやがりましたか」

 

彼女は……ホームズ家に使える「戦闘侍女(バトル・メイド)」のアリア・アサミヤその人だった。

固まる俺たちに対して彼女は先導するようにして

 

「席にご案内いたしやがりますよ。ではご主人様、お嬢様ついてくださいでやがります」

 

彼女に促されて俺たちは席の1つに腰掛けたのだった。

 

 

 

 

「なるほど、かなえさんが離婚した後を追ってこっちに来たのか」

「そうでやがります。ハヤト様、あたしの主人はアリアお嬢様と神崎様だけですので」

 

かなえさんが離婚したのは知っていたので別段驚くことじゃない。

ホームズ家のメイド長を務めていたアリアはかなりどころかめちゃくちゃ有能なメイドだ。

家事、炊事は完璧で「お片づけ」も一線級の実力を持つ狙撃を得意とするアリアは現代のゴルゴ13だ。

 

「あたしの顔は劇画チックでないでやがりますよ」

「おっと、失礼……アリアは心読みができるんだったね」

「女性に対して例えがゴルゴ13は失礼すぎるでやがりますよ、ハヤト様」

「すまない」

 

オレは素直に謝罪する。女性に対しての例えではないな。

 

「わかっていただけたのであれば結構でやがりますよ。では、ご注文をお伺いいたしやがりますよ、ご主人様」

 

ころっと調子を変えて注文を訊くアリアに嘆息を交えつつオレはコーヒーとリサは紅茶。あとはリサが欲しがったバベルパフェ……とやらを頼んだ。

 

「ば、バベルパフェを頼みやがりますか……」

「……どういうことだ?」

「いえ、見てからのお楽しみというわけでお願いしやがります」

 

そう不安を煽るような言い方で厨房に下がっていくアリアを訝しげに見送り、オレとリサは談笑に花を咲かせた。

で、数分後の今。アリアの言いたかったことが分かった気がした。

 

「で、デカイな」

「ご注文のバベルパフェとコーヒー、紅茶でございやがりますよ、ご主人様、お嬢様」

「わっフゥ〜!すごいのです!」

 

リサもびっくりしているがオレの座高くらいの大きさのパフェだぞこれ……ビックベンみたいなパフェだ。

 

幾分かの時が流れて……

 

「生クリーム、チョコペーストやら……女子の好きな物がてんこ盛りな塔だな」

「リサはこんな塔に住んでみたいのです!」

 

そう言いながらふにゅ〜っと幸せそうな顔をしてパフェを半分の量に減らしているリサ……甘味に対しての、女子の胃はブラックホールとはよく言ったものだよな。

間も無く、リサはあのバベルパフェを平らげて砂糖なしの紅茶を飲んでいた。

 

「ごちそうさまでした」

 

手を合わせて合掌するリサ――まぁ、教えたのはオレなのだがな。

 

「ご主人様、メイドさんとゲームできるのはご存知ですか?」

「うん?知らないなぁ」

 

前世の記憶でもそうだが、自分が浮くところには極力避けていたのでメイド喫茶なんて来たこともない。

どこにでもいる平凡太郎だったからな……元々のオレはだが。

 

「写真の獲得目指して、アリアお姉様とスピードの勝負をなされてはいかがでしょうか?」

 

スピード……って確か……

 

「手札を全て無くした方が勝つトランプゲームだったか?」

「そうでやがりますよ」

 

声の方を向くと、アリアがトランプを手に立っていた。

 

「イカサマ云々はないので安心して欲しいのでやがります」

 

パフェの容器が下げられてテーブルにはトランプが並べられた。

……オレがやるのか、まぁ今更やめるとも言いづらい。

 

そして……

 

「「スピード!」」

 

オレとアリアのトランプバトルが幕を開けるのだった!

 

 

 

 

「ま、負けた……参りました」

 

かなりの接戦だったのだが敗北したオレは潔く白旗を振った。

 

「潔いことは大事でやがりますよ。では罰ゲームの時間でやがります」

 

……は?

 

「罰ゲーム?聞いてないぞそんなこと」

 

「ご主人様にはそうでやがりますねぇ……女装がいいでしょうかね」

 

……what?

 

「ご主人様!決まれば善は急げですよ!」

「こ、こらリサやめ……」

「潔く辱めに耐えるのが漢でやがりますよなぁ?」

 

威圧感を含むアリアの声に従い……オレは色々と諦めることにするのだった。

 

「……好きにしたまえ」

 

そして数分後……俺の眼のまえには――ええ、ええ、いますよ。

ぎこちない笑みを浮かべた目つきの悪い朱毛の美少女が。

パットで乳を作ってちょうどいいサイズのメイド服にミニスカなのでスパッツを穿いてる。

 

「やはり似合いやがります、ハヤト様に女装は」

「リサもそう思います!ご主人様は絶対性別を間違えて生まれられたとしか考えられないのです!」

 

ケータイで写真を撮りながらリサは興奮気味に熱く語るが……オレのトラウマを抉る真似はしないでほしい。

 

「アリアさん!大変です!」

 

店員が駆け込んできたのにオレは焦りながらコートを羽織って服を隠す。

 

「どうしやがりましたか?」

「お店のまえで怖い人たちが乱闘始めちゃったみたいで……」

「まーた、中国マフィア崩れの奴らでやがりますか……営業の邪魔は頂けないでやがりますよな」

 

アリアの雰囲気が変わり……彼女はゆらりと立ち上がる。

 

「まて、アリア。お前……殺人許可証(マーダー・ライセンス)は日本では機能しないぞ?」

「大丈夫でやがりますよ、殺しは出ないんでやがりますよ……今のあたしは」

 

……引っかかるいい方でアリアは外に向かう。

 

「はぁ……アリア。ここはオレに任せろ」

 

オレはアリアを手で制して止める。

 

「銃なんかを振り回すのは男の仕事だ」

「今のハヤト様は男のコでやがりますが?」

「屁理屈を言うな」

 

そう言い残してオレは雑居ビルから出るのだった。

 

貧乏くじを引いたつもりはないがな!

 

 

 

 

「オイ、お前ら……他所でやれよ。迷惑だ」

「アン?いい度胸じゃねえか、姉ちゃん」

 

……流暢な日本語だなおい

 

「日本語がわかるか?ならばオレの言いたいこともわかるよな?」

「アァべェン!?」

 

パンッと乾いた音が路地に響く……オレが予備動作無しに野郎の顎に掌打を叩き込んだのだからな。

 

瞬間、宙に浮く男の腹を態勢を入れ替えつつ回し蹴りで蹴飛ばした。

ゴミ箱に叩き込まれて昏倒する頭を見て血の気の多い部下どもは群がるようにオレにかかってくる。

 

「お前らじゃオレの相手にゃあならんよ」

 

脱力するように構えて……柔をイメージした。

 

向かってくる右ストレートを左手で払いながら相手の懐に潜り込むように体をひねり一回転。

重心を落としつつ回転して足を払い、部下1を転倒させる。

次にかかと落としを決めようとしていた男の足首を回転しながら掴むと、そのまま投げとばして部下2を他の奴らを巻き込んで戦闘不能にする。

 

あとは……7人か

 

「実力差はわかるよなぁ?逃げたほうが身のためだぞ?」

 

オレが装飾銃(ハーディス)を抜いて残ってる奴らを睨みつけて牽制すると、気絶した奴らを連れて逃げていった。

後で手まわしするか……

そんなことを考えながらオレは着替えるために雑居ビルに戻るのだった……

そして、この時、出しゃばらずにアリアに任せておけばよかったと後悔したのは後の祭りだった。

 

幻の赤毛のメイド……後世にそんな写真が出回るのだからな!

 

 

ラクーン台場、ラクーン・グランドホテルで今の戦妹(アミカ)の麒麟と出会うキッカケになったあの事件で……

 

その人はあたしの、男に対しての価値観をぶち壊した。

て言うかかなり非常識なことをやってのけてくれたのだからそうなっても仕方ないと思うけどな。

 

「本当にあの人に申請するの、ライカ?」

「ライカさん……相手が誰かを理解して戦妹(アミカ)契約するのか……理解されてますよね?」

「あ、当たり前だろ! 相手はあの、天道ハヤト先輩だ!」

 

天道ハヤト……人が考えつかない方法で凶悪犯を捕らえるSランクの武偵であり、超偵だ。

ふと、あたしはラクーン・グランドホテルで起こった誘拐事件の顛末を思い出した。

 

…回想…

 

「今、この子を助けられるのは――あたしたちしかいない!」

 

あかりの決意てあたしたちは誘拐犯に拘束されている女子生徒を救助(セーブ)する事にした。

 

その生徒が紙飛行機を飛ばして位置を知らせてくれたのであたしたちは作戦を立てて相手を拘束する事にした。

 

作戦決行の時……「ターザン 戻りでダイブ」に従って空中で麒麟をキャッチして事なきを得たと思ったけど……

 

あたしの視界の端で銀髪の男が大型回転弾倉(リボルバー)を構えたのが見えた……

麒麟を守るために抱きしめながらプールに向かって落ちるあたし、 ガチでヤバイと感じながら銃声が二発……撃たれる直前に真下(・・)から一発聞こえてきた。

 

驚いて落ちながらそちらに目をやると唖然とする。

 

臙脂色のコートをマントのように翻しながら、垂直の壁を駆け上がる朱毛の生徒がいたのだ……その右手には漆黒の大型回転弾倉拳銃(リボルバー)が握られていた。

 

正直言って非常識極まりない。

 

二発目の銃声は壁を走り上がるあの男のものに違いない。

銃弾を銃弾で撃つ……とんでもない曲芸みたいな射撃でもしたのか?

プールに落ちて上を見上げると……あかりが心底安心したように、胸をなでおろしていた……アリア先輩よりも貧乳のくせに。

しばらくして、長い朱毛をポニーテールに括った男があたしの前にやってきた……なぜかこちらを直視しないで話し始めた。

 

「命あってこそ強襲できる……が、今回の君の行動は評価に値するよ。火野くん……死なない程度にこれからも頑張りな」

「あ、あんたの名前は!?」

「オレは天道ハヤト……強襲科(アサルト)が転入生の2年だ。と、その……」

 

あたしを直視せずに、どこから出したのか大きめのタオルを手渡してきた……

 

「君も淑女なら自分の格好を見たまえ……」

 

そう言い残して天道先輩は去っていった。

 

「どう言うこと……って!?」

 

あたしは言われて気がついた……びしょ濡れでセーラー服が透けていたんだからな!

 

…回想抜け…

 

「あたしはあの人の戦妹になってみせる!」

 

きつく戦姉妹(アミカ)申請用紙を握るあたしをあかりと志乃が

 

「はぁ、ライカって言い出したら聞かないもんね」

「ライカさんが決めた事ですものね、頑張ってください」

「ありがとな、2人とも!なら、善は急げだ!」

 

あたしは教務課(マスターズ)に申請用紙を出すために教室を飛び出して、走り出した。

そして後日、申請は滞る事なく天道先輩に受理されて……戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)の日を迎える!

 

 

「君とはまた会うような気がしてたよ……」

「よろしくお願いします!」

 

3時のティータイムを済ませたオレは、強襲科(アサルト)推奨の戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)を挑んできた火野ライカと地下闘技場(コロッセオ)にて対峙していた。

 

「1年でBランク……身のこなしからして身体能力のスペックは高そうだからね……あまり手を抜く事は期待しないでくれたまえ」

 

オレがそう言うと彼女は好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「上等です!手を抜かれてもこっちとしては面白くないですから!」

 

……いい目をしてくれるな。

 

「ククク……まぁいい」

 

オレはポケットから出した武偵高のエンブレムの印刷された星型のシールをアルスターコートの左胸ポケットに貼り付けた。

そしてケータイを操作してタイマーを30分にセットした。

 

「このエンブレムを30分以内にオレから奪って見せろ。銃、ナイフなんでも使ってもいいぞ?あ、そうそう……無理と思って諦めた時点で、不合格にするからな?では火野くん……」

「分かりました……あと、ライカでいいですよ」

「わかった……じゃあ戦姉妹試験勝負(アミカチャンスマッチ)……始めるぞ!」

 

タイマーがスタートして時間が流れ出した。

 

オレは絶界から「S&W M29」を抜く、ライカはスリングで抱えていた……アサルトライフル(MagpulMASADA)の銃口を向けてきた。

ライカは安定させるために腰溜めで構えるとフルオートで銃弾を撃ち出した。

 

「なるほど、牽制にはいい判断だが……オレには通用しないぞ?」

 

オレは空いている左手で砂床に左手をつきながら、向かってくる弾丸の軌道を読み、側転しながらオレに当たりそうな飛来する弾丸を.44SP弾で撃ち弾きながら牽制に2発撃っておく。

アサルトライフルの銃口を狙ったんだがすんでのところで躱された。

 

「うおっと!危なかった……!」

「気を抜いてんじゃない」

「!」

 

咄嗟にアサルトライフルを盾にしてオレの掌打を受けながらズズズッと足を踏ん張りながらライカは後退した。

 

「〜〜ッぅぅぅ!」

「弾幕を張るときは相手の逃げ場をなくすように撃つんだ。粗悪に弾をばら撒くだけじゃ意味はないぞ?」

 

後退したライカに言い聞かせるようにオレは言葉をだす。

 

様子を伺うと、ライカは冷静にそれを聞いていた。

 

「なら!」

 

とライカはナイフを抜き、姿勢を低くしてオレのストライクレンジに飛び込んできた。

 

「シッ!」

「む?」

 

突き出されたナイフを体を傾けるように右に反らす事で捌き、持ち替えたマグナムの銃口を突き付けようとした時にはカポエラの要領で……オレの側頭部を狙う蹴りが迫ってきていた。

その蹴りを引いた右腕に左手を添えて受けるが……お、重い⁉︎

 

「ぐぅ……⁉︎」

 

さらに返す刀のごとく、反対側の脚がオレに迫る……!

 

「せぁっ!」

 

気合の入った掛け声の蹴りをバックステップで避けて距離を取る。

 

「―――なるほどな。君なら近いうちにAランクに成れるだろう……正直言って嘗めてたよ」

「……まだ本気じゃないって事ですか?」

「そうとも言えるね……だから、少しだけオレの大道芸を見せてあげよう―――課外授業だよ」

 

オレは絶界からルーン護符を数枚引き出すとライカに解説する。

 

「これはルーン魔術のルーン文字を描き刻んだ護符だよ。オレがこいつに着火の魔力で火を点けると描かれた術式が起動して、『現象』を引き起こす事ができる代物だ……例えばこんな風に」

 

オレが着火するとたちまちにルーン護符が燃え上がり、燃焼して効力が発揮される。

 

「な……」

 

ライカが絶句していた。無理もないな……オレの目の前には氷壁が現れたのだから。

 

「これは氷のルーン属性に壁の特性を与えて、そこに魔力結合を強固にする術式を組み込んだから透明度の高い魔力で構成された氷を作れるんだよ……まぁ……君には理解できなさそうだね」

 

ライカは目を白黒させて驚きに戸惑っている。

 

「さてと」

 

オレは魔力結合を解き、氷壁を魔力に還して消滅させる。

 

「時間も惜しいだろうし、再開しようか」

「そ、そうですね。じゃあ、行きます!」

 

ナイフを棄ててライカは身一つで戦う事にしたようだ……嫌いじゃないな、その潔さは

 

「よし、いいだろう」

 

オレもマグナムを絶界にしまう。

 

ナイフ(ドス)なし銃器(チャカ)なしならオレも素手で応えるしかないだろう」

 

我流の構えでライカを迎え撃つ事にした……どちらかといえば仕掛ける方がうまくできるんだがな。

受けに回る事にするか……カウンターでな。

 

じゅりっ……と砂を踏み鳴らして距離を測るライカは……次の瞬間にロケットのように飛び出してきた。

 

「瞬発力だけを見ると、アリア並みだな!」

 

彼女の手が狙うのは、俺の左胸、エンブレム!

 

「だがしかし!」

 

オレは伸びてくるライカの手を掴もうと動くが……

 

「きゃあっ!?」

「うおっ!?」

 

ずるっと足を滑らせたライカがいきなり飛び込んできたので腕を掴む事に意識を向けていたせいで集中力がおろそかになり……

偶然に、ごちんっとライカは顎の左側に頭突きを食らわせてきたのだ……さすがに頭を揺らされてふらついた。

 

「い、今のは効いた……ぞ……」

 

ライカを支えられずオレはそのまま背中から倒れた……いかん、体が言うことを聞かない……

彼女にはケガのようなものは……なさそうだな。

 

「て、天道先輩!?」

「う、ぐぅ……」

 

予想外の展開にオレは……頭が朦朧とする中で、左胸のエンブレムをはがした。

 

「不名誉極まりないな……下負けとは……」

「え?どういう事ですか……?」

強襲科(アサルト)の生徒たるもの、マウントを取られて背中をこの床につけた時点で負けなんだ……だから、君の勝ちだよ、ライカ」

 

オレはそっとエンブレムを彼女の手に置いてやる。

 

「君は諦めなかった……その根性、賞賛に値するよ……だから……」

 

オレは彼女に最大の敬意を払いつつ……少し間を空けて

 

 

 

 

 

「おめでとう、君の勝ちだよ……ライカ」

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

間の抜けた声をだすライカにのいてもらい、オレは立ち上がる。

 

「あの日初めて会った時。なんとなく、君がオレの戦姉妹(アミカ)になる気がしてたよ」

「じゃ、じゃあ……あたしの……勝ち!?」

「まぁ、そうなるね。書類の事はオレの方でやっておくよ……重ねて言おう―――おめでとう、ライカ」

「や、やったーっ‼︎」

 

大袈裟にガッツポーズをしているライカを微笑ましく眺めながらオレは……彼女の未来を導く決意をする。

 

こうして……今日、オレに戦妹(アミカ)ができた。

 

徒弟制度に基づいて彼女を鍛える義務がオレにもできたわけだが……引き受けた以上は鍛えるつもりである。

 

「さてさて、明日からは忙しくなりそうだなライカ」

 

オレは彼女に聞こえるかどうか怪しい声量でそう呟くのだった。

 

(続く)



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16弾 魔剣の遣いリュパン……アドシアード前日

ライカとの戦姉妹(アミカ)契約の書類系をまとめて迅速に教務課(マスターズ)に提出して数日後の今日5月の連休に入っていた。

オレは寮のリビングに置いてある「香久耶ミドリ(ニ◯リにあらず)」にて購入したソファーに腰を下ろし腕を組みながらこれから先、ライカにこなしてもらうメニューを考察していた。

 

ライカの身長は165㎝……女子にしては高い方だ。

 

なので彼女の特徴を生かしてメニューを組むことにした。

まずは長所を伸ばすにせよなんにせよ彼女はまだ一年生だ……だからとにかく基礎を伸ばさないといけないだろう。

なのでオレはライカに合う訓練方法を編み出すほかないのだからな。

 

それに……オレが教授(プロフェシオン)から受けた指導という名の死導をライカに経験させるわけにもいかん。

 

死導を受けながらいつかマジに死ぬんじゃないかとガチに感じていたあの時期が懐かしいな……一年間あそこにいたが、その半分の回数死にかけた。

まぁ、その当時のオレには救いはないのだがな!

 

……話が逸れたな。

 

とりあえず方針はこうだ。

 

一学期……武偵ランクをAにするのを目標として基礎を固め、下地を作る。

二学期……出来上がった下地に骨子という名の応用を叩き込んで鉄骨組みを作る。

三学期……すべての経験を活かして技術を教えてそれを彼女なりに昇華させたライカだけの技を生み出してもらう。

 

これを目標としてライカには指導するか。

 

ふと時計を見ると時刻は夜の8時を回っていた

 

「リサはただいま戻りました」

「おかえり、リサ……あれキンジは?」

「キンジ様は白雪様と共にウォルトランドの花火を観に行かれるらしいですよ?」

 

……そうか、そう言えばキンジとアリアは現在喧嘩中だったのだな。

オレが任務を受けていた中でアイツらは仲違いを起こした結果……キンジだけが白雪さんの護衛をしているわけだ。

 

アリア聞いたから語弊もあると思うのでオレなりに推理してみた。

アリアが帰った時にキンジに組み伏せられていた白雪さんを見てアリアが怒る。

キンジと白雪の言い分無視してキンジを銃撃してキンジが東京湾に落ちて風邪をひいた。

その後も色々あった結果……アリアとキンジが別れたってことになるのかな?

 

まぁアリアの事だ……何か考えでもあるのだろう。

アイツは任務を途中で放り出すようなバカではないからな。

 

「ご主人様、そろそろ晩御飯にいたしましょうか?」

「それもそうだな……晩飯にするか」

 

リサの提案に乗ってオレは壁に掛けてあるエプロンを手にして台所に立つのであった。

 

 

「悪いな、ライカ。休みに呼び出してしまって」

「い、いえ……私は先輩の戦妹(アミカ)ですから!でも、何をするんですか?」

 

連休の終わる前、アドシアードとなる少し前にライカにこれからの目的について伝えておこうと思い、彼女を休日に呼び出した。

 

「いや、デートのお誘いを」

「あ、え!? ででで、でーと!?」

「な、いや。 その場のノリというか――コホンっ。 と言うのは冗談だ。君の指導方針を固めたから伝えておこうと思ってね……あとは渡したいものもあったからな」

「ですよねー……あたしみたいな奴が隣だなんて」

「だぁぁぁ!? すまない! ごめん!? 堅苦しいの無しにしたかったから!? ホントにごめん、ごめんって!?」

「フフッ、焦った先輩。 なかなか面白いですね、べーつに気にしてないですよ」

 

我ながらひどい冗談で、ライカの意気消沈気味が罪悪感でいっぱいにされたと思ったら意地悪をしたはずなのに意地悪で返された。 オレの戦妹(アミカ)はできる奴だな。

気を取り直してオレは、プリンターでコピーした練習メニューを書いたA4用紙をライカに手渡した。

 

「えーと……え?基礎トレを重点的にですか?」

「有無は言わさないぞ?確かにライカはBランクの武偵だ。そこは認めておく、が―――まだ君の下地が出来ていない状態でオレの指導を受けさせる気はない……そもそも……」

 

オレは基礎の大事さをライカに丁寧に教えてそれの大事さを教え込んだ結果……ライカはわかりましたと頷き納得してくれた。

 

「て事は、これからは自習時に走り込みと腕立てを強襲科(アサルト)内のジムでこなしてあとで先輩と合流するって事ですか?」

「そうだ。あとはストレッチをしたりして体をほぐした後にオレと基礎的な近接格闘戦の軽い手合わせ(スパーリング)とその後に射撃場に移って射撃訓練をしてもらうつもりだ」

「うへぇ……結構ハードじゃないですか?」

「バカなのか君は?」

「ば、バカはないでしょ!?」

 

いきなりそこまでを求めるつもりはないのだが……

 

「常に修練を重ねてアマゾネスか、ランボーになるつもりか君は?」

「き、筋肉ダルマなんてなりたくないです!」

「……淑女(レディ)とわかっているから落ち着きなさい。それに、無駄に筋肉を育てても意味がない」

 

一つ拍子を開けてオレはライカに伝えた。

 

「君がオレに憧憬を抱くのなら、その憧憬を現実にするのが戦兄(アミコ)であるオレの役目だ……君なら、いずれはオレと肩を並べて任務をこなせるようになれるよ」

「ハヤト先輩と一緒に……肩を……並べて……⁉︎」

 

何を想像したのかライカは顔を真っ赤にしている……口の端には……涎が見えかけてるぞ⁉︎

 

「何を想像してんだよ、何を⁉︎涎垂れかけてるぞ!?」

 

オレの指摘を受けたライカは変に歪みかけた顔からハッとした……キリッとした顔になって口元を拭っていた。

 

「な、なんでもありません!」

 

訴えかけるような必至の形相でオレに言ってきたので

 

「お、おう」

 

若干たじろぎながらオレは返事を返すのだった……それから雑談や世間話をしていたら時間が過ぎていってしまい……

 

「さてと……誘ったのはオレだし……めしでも食って帰るか……行くぞ、ライカ」

「行くってどこにですか?」

「昼飯だよ……食ってないだろう?」

 

腕時計を確認して時間を見ると正午の12:58で完全に昼時だしな。

 

「で、でも……その……」

 

ライカは口籠り恥かしそうに俯く……やれやれ

 

「ライカ、オレがそこまで甲斐性なしに見えるか?」

「え、いえ、とんでもないです……っ!」

「そうだな言ってなかったか、オレは貴族だからな?」

「……へ?」

 

間の抜けたような顔をするライカを見てオレは不謹慎にも吹き出してしまった。

 

「ハハハッ!そうか、そうか……まだちゃんとしたオレの本名を教えてなかったな」

 

オレは勿体振るように少しだけ間を開けて……

 

「オレは天道・H・ハヤト……ハートネット家の次期当主だ」

「えええぇぇッ!?」

 

名乗った瞬間ライカはオーバー気味に驚いていた。

 

この後驚き戸惑うライカをどうにかなだめて、やっと飯にありつけたのは30分後の事だったがな……世話の焼ける戦妹(アミカ)様だよ、まったく。

そして、先ほどの不敬のお詫びとして彼女の行きたがった渋谷にも足を運んだ。

 

 

ライカを女子寮近くまで送って別れた後……オレは公園を散歩していた。

ちなみに今日はリサに休みを取らせた……ご主人さま命令だが、いつも頑張ってくれるから今日くらいは休んで欲しいので……休ませているのだ。

まだ夕方にはなっていないが……ソメイヨシノの花が散って青々とした若葉をいっぱいに広げつつある桜並木を進んでいくと……

 

「……そろそろ姿見せたらどうだ?」

「……よくわかったな?なぜ分かった?」

「風を読むことには慣れてるからな……で、あんたは?」

 

桜の木の影からぬぅっと現れたのは青いジャケットを着たアッシュブロンドの髪を短髪に切り揃えた長身のイケメンが現れた。

 

「初めまして、Mr.ハヤト。僕は―――」

 

大仰に手を広げて名乗る男の名を聞いてオレは硬直した。 その名は

 

「僕の名前はリュパン(・・・・)……アルセーヌ・リュパン四世さ」

「アルセーヌ・リュパン四世だと? 今世のルパン四世は峰理子じゃないのか?」

「そうでもないさ。だって理子は俺の、双子の妹なんだからさ。 ところでハートネット卿。お茶でも如何かな?」

「いいだろう、それくらいの時間はあるからな」

 

オレはそう応えてリュパンを名乗る男についていくことにした。

 

 

青海にあるスタバ(スターバースト珈琲)の店内壁際の2人席にオレは野郎と腰掛けていた。

 

「振られたらどうしようかと思っていたけど……なかなか君も聞き分けがいいんだね、ハートネット卿は」

「世間話をしに来たわけでは無いだろう、リュパン四世……何かオレに用があったんじゃ無いのか?」

 

友好的とはかけ離れた不機嫌なオーラを出すオレに対して神父のように微笑みを絶やさないこの男はアルセーヌ・リュパン四世……理子の双子の兄だという。

 

青いジャケットを壁に備えられたハンガーに掛けたリュパンは足を組みながら持ち込みであろう高級珈琲のコピ・ルアクを楽しんでいる……オレも持ち込みのコスタリカ珈琲を飲んでいるが、今は泥水をすすっている気分になっているのは対面に座っているのが美女でなく野郎だからなのだろうか?

 

「今日は二つの動機があったのさ。うちの妹君が想い人に挨拶と魔剣(デュランダル)ちゃんからの伝言を伝えようと思ってね……どっちから話せばいいかな?」

「後者を優先してくれ。つーか……あんたに興味は無い」

「つれないねえ。まぁ俺の挨拶は後でもいいな」

 

言いながらリュパンはこげ茶のリボンを赤いロウで留められたある一族の紋章……封蝋印の巻き手紙を懐から出してテーブルに置く。

あいつ……やることがいつも古いな……

 

「彼女からの親書だよ」

「ご丁寧にどうも……」

 

封蝋印を剥がしてオレは内容を読む。

 

綺麗な飾り文字のフランス語で書かれた親書を読んだオレは冷めた珈琲を飲み一息つくと……親書に書かれていた、その一節を繰り返した。

 

「『Je ne veux pas me battre avec les anciens(私は学友と戦いたくはない)』……か」

「フランス語も読めるのかい?」

「まぁな……読めるもんは読めるんだよ」

 

手紙の内容を要約すると『明日、私は星伽白雪を拐う……これは貴方に対する敵対行為であることだが私は引けないのだ……私は恩師たる教授(プロフェシオン)からの依頼故に完遂する。妨害はしないでほしい……私は学友と戦いたくはない。貴方の英断を望む……ただそれだけだ』と、言う内容だった。

 

「なるほど……確かにオレもジャンヌとは戦いたくはないが――だが、それ以前にオレは武偵だ……オレからの伝言を頼みたいが……」

「それは無理な相談だよ、ハートネット卿。俺の二つの役目その一はその親書を君に渡すことだからね」

「……そうか、ならオレ自身でジャンヌに伝えることにするよ」

「そうしたらいい。ちなみに俺のもう一つの役目は……これ以上言わなくともわかるな」

 

ちなみに、ジャンヌとはジャンヌ・ダルク30世と言う名の銀髪碧眼の少女でオレとは同年代。

フランス人らしく綺麗な顔立ちなのだが……絵心皆無な画伯で天然である。

ちなみに超能力(ステルス)持ちで

 

「大方の推察はできる。オレが介入する際の保険……足止めだろう?」

「ご明察だ……と言うわけで、次に顔を合わせる時は――銃口を向け会うことになるぜ?」

「そんなもん、分かりきったことだ……」

 

オレが話は終わりかと目で訴えかけるようにして訊くと……

 

「あと一つだけ聞かせて欲しい……理子君が伊・Uを退学になったのでブラド公も動くぜ―――君はどうするんだ?」

「……そうか……ブラドに関してはオレが仕留める」

「え、倒せんの?」

 

疑うような視線をぶつけてくるリュパン……失礼な奴だ。

 

「奴の弱点……魔臓ってのを破壊すればいいんだよ。かなり昔にバチカンの聖騎士がその魔臓の位置に目玉模様が出るように呪いをかけたそうだ」

「それは知ってる。だけどそれを実行するのは……茨の道だと思うがなぁ」

「蛮勇とでも言うか?」

「そうとしか言いようがないな……魔臓はいくつあるんだ?」

 

協力者に引き込みたいし……もったいぶるのは止めておくか?

 

「四つあるらしい。そのうちの三つは場所がわかるんだがな……あと一つは何処か不明だ」

「ふぅん……」

「あんたはブラドをどう思ってんだ?」

「……日本で言えば宗家に当たるルパン家の威光を地に貶めてくれた仇敵だよ……」

 

そう応えるリュパンの瞳には先ほどの飄々とした雰囲気がガラリと変わって深い憎悪の色が見えた……よっぽど憎いのだろうな。

その辺に興味が湧いたので……

 

「よかったらルパン家の話を聞かせてくれないか?なぜ2人のルパンが必要なのかを……」

「いいぜ。長い、面白みのない話だが……聞いてくれるか?」

 

冷めたコーヒーを飲み干して……リュパン四世はその過去を話し始めた。

 

 

 

◯回想……リュパン

 

フランスのある館にて双子の兄妹が生まれた。

 

ルパン家の伝統で兄妹となる場合、先に生まれた第一子にはリュパンの名を贈られる。

そしてその下に当たる第二子からは当主の証たるルパンの名を与えられるのだ。

その理由は初代アルセーヌ・ルパンに……彼の歴史上で語られていない事実があるからだ。

 

初代ルパンは……彼らは姉弟で1人のルパンだったのだ。

 

かの初代シャーロック・ホームズと初代ルパンが渡り合えた理由でもあるのだが、初代ルパンは頭を使う参謀に秀でた撤退戦で力を発揮する者が多い。

現に理子は撤退戦……逃走においてその力を存分に発揮するのだから間違いはない。

 

ならリュパンである俺はどうか?

 

俺は理子と違い、情報戦に滅法弱いがその代わりとして狡猾な……(トラップ)戦において力を発揮する。

故に俺の才能と理子の才能を足せば……どんな奴からも逃げ切れる。

まぁ……リュパンの存在意義は日向に光を浴びるルパンを影から支えるのが仕事なのだ。

 

先代のルパン三世……親父様は1人で二役こなせる天才だったのだが、そこは親と子の差だろう。

総括すると、ルパンとは仲間の力を存分に引き出すのが上手かつ逃走においても才能を発揮する指揮官タイプのなのだ。

 

断じて直接の戦闘能力は高くない。

とは言え……俺は理子と離れて分家のリュパン四世として育てられた。

だから暗器の使い方、トラップの効率の良い使い方を徹底的に仕込まれた……理子の影と成るべくな。

 

そして、数年前……親父様が亡くなったと俺の元に訃報が届いた時には遅かった……

ルパン三世として親父様は一族を纏めていたのだが、要を失ったルパン一族は分散してしまい、理子は1人となってしまった。

そして理子は……親父様と親しくしていたと偽り接触してきたブラドに引き取られたのだ。

 

まだその頃俺は鍛錬に励まねばならなかったのでために、理子を救うことができなかった。

だからこそもっと強くなろうと、鍛錬、修練を貪欲に積んで……ルーン魔術も使えるようになったのだ。

左腕に神聖ルーンを刻んで俺の生命力を糧に魔術の行使を可能にした物で、こいつは独学で生み出した物だが。

そして……晴れてリュパン四世として分家をまとめることになり、理子を助け出そうとしたが……彼女は俺の予想以上の強さを伊・Uにて手にしていたのだ。

 

そしてその隣には赤毛の少年が立っていた……天道ハヤトと言う名の英国貴族の貴公子が。

そして、伊・Uのリーダーたる教授(プロフェシオン)と呼ばれる指導者に話を聞いたところ……ブラドを退けたと言うではないか。

 

そこでブラドは理子にこう言ったと言う。

『初代ルパンを超えて見せろ』……超えたと証明したら解放してやると言ったらしいが……俺は嘘だと言い切れる。

奴は人じゃないのでな……人間との約束なんざチンパンジーとの戯れ程度に捉えてるはずだろう。

だから俺は興味を持った……天道ハヤトと言う男に。

そして、今日……俺は天道ハヤトと初のコンタクトを取ることが叶ったのだ。

この辺についてはジャンヌ嬢に感謝しなければいけないな……そして、ブラドを斃すのを持ちかけてくるであろうとも予測できる。

英国貴族はプライドが高いからな……好意を寄せている相手を馬鹿にされると怒るに違いないからな。

 

まぁ……うまく手を取り合えるように尽力しようと思う。

 

 

 

「なるほどな……あんたの言い分もわかった」

「そうかい……まぁ、ブラド公打倒は俺たちにとってもメリットが一致、合理的ってわけだ」

「そうだな……」

 

リュパンの話を聞いてオレは利害の一致を内心で確かめた……手を組んでも損がない。

 

「なら、こうしよう。オレは利害の一致を確認したからブラドを倒す時は協力してほしい」

「了解した……その時はすぐだろうけどな……」

 

そう言うと話すべきことは話したと言う感じでリュパンは立ち上がるとジャケットを羽織り、オレに背を向ける。

 

「じゃあ、次に会うその時は……銃口を向け会いたくないな」

 

そう言い残してリュパンは去って行ったのだった。

 

これは余談だが、あいつの珈琲代はなぜかオレ持ちになっていたのだった……解せぬ

 

(続く)

 



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17弾 激突、ハヤトVSリュパン四世

アドシアードが始まった今日、 拳銃射撃競技代表(ガンシューティング)の予選が行われたりしてそこそこと言うか結構忙しかった。

オレはもちろん予選通過で、ベスト8で成績を競い合う時のインターバルの時にケータイが鳴った。

緊急メールとあり、そこにはとある一報がメールに書き記されていた。

 

『ケースD7 対象生徒 星伽白雪』

 

この字面を見た時に、ジャンヌが行動を起こしたと推理した。 出し抜かれた感はない。

犯行予告として律儀に「関わるな」、と親書を出して来たところを見るに今日行動を起こすのは決定事項だったのかもしれない。 オレはこのことに首を突っ込むかどうかを推し量る。

ジャンヌの親書を無碍にしてキンジの助太刀に行くのか、それともこのまま関わらず無視するのかを。

いや、無視はできないか。 オレは武偵だ。

そう考えたら行動は早い。 競技の審判に辞退の旨を伝えると相手が二の次を、口を開く前にコートから閃光手榴弾(スタングレネード)を引き出して審判の手に置きながらピンを抜いた。

 

「な、何を!?」

「グレネードだ!」

 

オレはわざと大声でそう言う。 強襲科(アサルト)の生徒は嫌という程、その言葉に敏感に反応する。

そりゃそうだ。 自分たちがよく使う武器の危険性を知らずにどう戦うと言うのか。

瞬間に拳銃射撃競技の会場は閃光に包まれた。 その閃光に紛れて俺は会場を抜け出した。

 

競技会場から電柱を伝い、街に出た時キンジを見つけた。

あちこちを見て走り回っていたのか肩で息をするほどに、息が上がっていた。

まぁ、頼れる奴がいないせいでってこともないか。

アテもなく、走り回るのは得策じゃない。 と、オレはキンジが電話に出てオロオロとその場で落ち着きなくしているのを見て冷静さを欠いているのを見抜いた。

どうするかと思っていたら、 ヒュッ とオレの近くを銃弾が疾り抜けてキンジの近くにあった街灯のランプを撃ち抜いた。

振り返り式力で視力を強化して目を凝らすと、狙撃科(スナイプ)の棟から不思議な色合いの、新緑色に近い髪色のショートカットの同い年くらいの女の子がこちらを狙っていた。 あっちはスコープ越し、オレは遠視の中で目と目が合った。

そして、弾の飛んで来た軌道を見たキンジとも目が合い、オレは電柱から飛び降りて電話を終えた彼と合流した。

 

「ハヤト! お前、競技はどうしたんだ?」

「つまらなかったから辞退して来た。 優勝しても嬉しくないしな、あんなレベルの低いのに出たら出来レースが霞むかわいそうな結果になるだろうし。 それに、ケースD7の案件だ。 無視できまい」

「そ、そうか」

「で、今からどこに向かうんだ?」

「手伝ってくれるのか?」

「一応な。 お前だけを行かすのは正直嫌な予感がする」

 

オレはキンジにどこに向かうかを聞き、共に武偵高第9排水溝へ向かった。 向かう道中で、オレはキンジにグローブを渡し嵌めさせた。

 

「あとキンジ。 これも持っていけ」

 

並走しながらオレはルーン護符を3枚、キンジに渡した。

 

「これは?」

「そのグローブは炎熱のルーンを刻んでおいた。 ちょっと程度の魔術じゃ凍りつくことはないだろう。 で、そっちの護符は解呪の効果を持つ護符。 相手の魔術を一方的に破壊できる解毒の作用もあるから持って行け」

「なんでこんなのを俺に?」

「対策は練っておいたほうがいい。 魔剣(デュランダル)はオレ程度ではないが、超能力(ステルス)だからな」

「……お前はどこまで知ってるんだ?」

「さぁな。 それは魔剣を逮捕した時にでも教えてやるよ……ん?」

 

オレの外套からにゅっと何かが出て来た。 これは……

 

「そうか、そうか。 久々に親友に会いたいのか、お前は」

「何、1人で言ってんだよ?」

「キンジ、こいつを連れて行ってやってくれ」

 

オレは黒鞘に収められた剣を、《聖宝剣 オートクレール》をキンジに託す。

 

「ナイフだけだと頼りにならんだろう? オートクレールもデュランダルに会いたがっている(・・・・・・・・)からな」

「……わかったよ。 借りてくぞ」

 

キンジはベルトに黒鞘を刺して固定して走る。

そして、第9排水溝に着いた時、オレは彼の気配を感じた。

 

「すまん、キンジ。 少々用事ができた」

「え、どう言う」

「あとでそっちを追いかける。 時間が惜しいなら先に行け」

「わかった! またあとで」

 

キンジを先に行かせてオレは振り返る。 そこには男が1人。 青いコートに黒のカッターシャツ、灰色のスラックス姿に映えるショートカットの金髪の男。 リュパン四世がいた。

 

「魔剣ちゃんの親書を無碍にしたのか、君は?」

「そうだな。 目の前で事件が起きているのを無視できるほどオレは図太くないからな。 まぁ、建造物侵入の罪で現行犯逮捕させてもらうぞ、リュパン四世」

「やれやれ、ドロボーをして銭形幸一(とっつぁん)に追っかけられていた親父様が聞いたらどんな顔するだろうな。 リュパンが盗み以外で職種は違えど、探偵に追いかけられる羽目になるなんて」

 

青いコートの裏から、リュパン四世は脇のホルスターから ワルサーP38 を抜いて構えた。 対してオレは外套の内側、繋がる絶界から 装飾銃(ハーディス) を抜く。

 

「知るかよ、そんなこと」

 

オレの返事、交錯する射線。 刹那、発砲音が辺りに響いた。

 

 

互いに向けて飛来する弾丸、9mm弾(ルガー)をハヤトは射線を上から被せるようにして、叩き落としながら放たれたマグナム弾は相手を狙う。 が、今の開幕一発はお互いに避けられる前提で撃ち出した。

 

「銃弾撃ちができて当たり前というのも華がない」

「何が言いたい?」

「銃で語り合うのは無駄ってことさ。 これはどうかな?」

 

そう言うとリュパンは青いコートを脱ぎ傍に放り投げると銃をホルスターにしまい、ホルスターベルトを外してそれをコートの上にポフッと投げ置いた。

ハヤトが眉をひそめると。 リュパンは右腕、シャツの袖をまくるとそこにはルーン文字の刺青が彫られていた。

手首の付け根から肘までにかけて発光したルーンが浮かび上がり、輝いていた。

 

「近代ルーン魔術か?」

「話が早いね。 卿のそれは古代ルーン、原初のルーン(オルタナティブ)だよねー。 羨ましいよ」

「夢の中で朱槍振り回して追いかけてくる、死ねない女に追いかけ回されたら身についた技能だよ。 夢も中で何度死にかけたことか」

「……」

 

リュパンはギョッとして目を見開いていた。 その追いかけ回している相手がわかったと言う納得した視線にハヤトは思わず抗議する。

 

「何だその哀れむような瞳は!?」

「スカサハに追いかけられたのか?」

「……まぁな」

 

誇れるようなことではないことを知っているハヤトはもはや諦めたかのように銃を構えなおした。

 

「続きと行こうか。 まだなんかあるんだろう?」

 

ハヤトは取り出したルーン護符を燃焼させて術式を構築。氷の剣を作り出してそれを投擲した。 対してリュパンは右手を突き出すように構え、呪文を唱えた。

 

「此れなるは見えざる毒牙 我が手に宿れ 手向けの刃(ステルス・ダガー)

 

見えざる刃を生成したリュパンはそれを用いて氷の剣を迎撃した。 しかし、弾けた氷は辺りに散らばると、地面を凍りつかせた。

絶界より装飾剣(クライスト)を抜くハヤトにリュパンは問いかけるようと、その意味を知ろうと考える。

 

「何のつもりだい、ハートネット卿?」

「簡単なことさ、こっちのやり易いようにさせてもらったまでさ!」

「ッ!」

 

距離を詰めたハヤトが突き出した装飾剣(クライスト)、それをリュパンは抜いたナイフで応戦した。急所を避けて剣を突き出すハヤトの剣捌きは神速と言われるほどのもの。しかし、リュパンは焦らず、フェイントを交えて繰り出されるハヤトの剣戟をそらして、弾き、避け、ていた。

しかし、なぜ、地面を凍らせたのか。 それは簡単な理由だった。

 

「シッ!」

「ハッ――ってうわ!?」

 

足場を悪くされたリュパンはナイフを受け止めたが、氷結した場所に足を置いてしまい、踏ん張りきれず後ろにひっくり返りかける。

しかしハヤトは凍った地面の上を滑るように摺り足で滑るように移動してさらに距離を詰めていた。

 

「ええい、やってくれるな!」

 

やられっぱなしは趣味じゃないと言わんばかりにリュパンは風のルーンを用いて旋風を起こしてハヤトを後退させた。

 

「やはり、風のルーンだったか」

「目星はついてたんだな……ならば」

 

リュパンは腰を落として右手を貫手に、腕を引き、脇を締めて左手は前に突き出すように構えた。 その右手は風を纏い、少しづつ形を成して行く。

 

「唸れ風、砕け嵐、旋れ颯 屠れ、喰い千切れ、撒き散らせ 黒鉄を引き裂く槍を成せ…!」

 

突撃槍のような、はたまたは一角獣の棚のようにねじれたその槍。

 

「受けきれるかな? 怒り穿つ一角獣(トルネードユニコーン)!! 」

 

右手を突き出して術式を解放したリュパンの腕から放たれるはユニコーンの突撃そのものだった。 それは幻影召喚と呼ばれる自らのイメージを形にして放出する魔術の一種。

ハヤトはというと、魔力の塊たるこの槍を装飾剣(クライスト)で受けるのは愚と判断したのか、剣を絶界にしまい、左手の銃を構えた。

瞬間的に電圧を上昇させて、装飾銃(ハーディス)は帯電する。

近付いてくる槍に照準を合わせたハヤトは引き金を引き、撃鉄を解放する。 撃針が雷管(プライマー)を穿ち、火花が咲く。

火花は敷き詰められた火薬を一瞬で燃焼させてガスを発生させる。 薬莢の中でガス圧が高まり、膨張。 弾頭がその圧力で押し出されてライフリングに食い込み、ガスに押されて突き進む。

バレルを通る時に、魔術的な雷が弾頭を覆い、それには魔力が籠められる。 そして、擬似的に起こされたローレンツ力に押し出させるようにして弾頭は超加速した。

 

「迸れ、苛烈なる電撃……ブチ抜け、『擬・超電磁砲(レールガン)』!」

 

ビッシャアァァァァンッッッッ!!

 

閃光と紫電、耳を裂くような鋭い轟音が響き、放たれた魔弾は魔力の突撃槍と衝突する。

しかし、その威力は互角だったのか、衝突した瞬間に閃光とともに爆音が辺りに響いた。

 

「なはは、やるねえ」

「解せないな」

「ん? 何がさ、ハートネット卿?」

「何故、罠を使わない? 罠を使えばもっと立ち回れるだろう?」

 

ハヤトは疑問を口にした。 何故本気で戦わない? と。

魔術は付け焼き刃、練度はハヤトの方が上だと彼は判断した。 そもそもの近代ルーン魔術は発達してまだ間もないのがこの世界での常識。 最新の魔術は必然的に新たに生まれた魔術故に、練度の高い使い手はいない。

 

「なーに、無粋だからさ。 俺はあくまでも君の足止めであって、何よりこのフィールドでは罠という罠を作れないだろう? あくまでも楽しむために闘ってるに過ぎないのさ」

「確かに、お前からは殺気を感じない……そうか、だからオレは違和感を覚えていたのか」

「それに、ブラドを倒すっていうような面白い人を殺したくないしね」

「……」

 

黙るハヤト、その時。 ズズン… と、少しばかり学園島が揺れた。

 

「ン? ――そらそろ俺はお暇しようかな……ってわけでもう1つだけ付き合ってくれないか?」

「まて、誰が逃すと言った。 いろいろ取り調べを受けてもらわないとこっちの面子が立たん」

「やだよ。 めんどくさいから逃げるに決まってるじゃないか」

 

そう言うとリュパンがカッターシャツの左腕をまくるとそこにもルーンが刻まれていた。

 

「いやぁ、さっきの超電磁砲(レールガン)だっけ? 面白い物を使うんだなぁ。 てなわけで俺もお礼ってわけじゃないけど、未完成の魔術を披露するよ」

 

リュパンは先とは違い、右手の掌を天に掲げるように左手はそれに添えるように。

ハヤトは魔術を撃たれる前に逮捕しようと動こうとした時、違和感を覚えて足元を見た。

 

「いやー、すまないね。 君がそこに行くように仕向けて置いて正解だったよ。 無粋とわかっていても、保険はかけておくべきだろう?」

 

ハヤトの足元にはコンクリートブロックにベッタリとついた大量のアロンアルファ含有とりもちに靴を取られて動けなくなっていたのだ。

視線、逃げる場所、行動パターンを読んだリュパン四世に一杯喰らわされたハヤトは己の失点を認めて、彼の技を迎え撃つ事にした。

 

「チッ、わかったよ。 だが、俺も1つだけ見せてやる」

 

相手のやろうとしている魔術の規模を察するに、普段の自分では受け切れないと判断したハヤトは封じ布をほどき S&W M29 を絶界から取り出す。 そして、封じ布ハヤトの髪が紅く染まり、真紅となる。 バチバチと迸る赤雷、ごうごうと燃える炎のように紅く輝く真紅の髪。

式力の熱により、とりもちはたちまち蒸発して行く。

 

「我、紅蓮なる者。災禍を災禍を持つて祓う者!祖は災禍討つ紅蓮姫(カラミティ・モード)!」

「それが君の真の姿なのか?」

「そうさ、燃費悪過ぎて使い物にならない[真の姿(笑)]さ」

 

言いながらハヤトは マグナムのシリンダーを抜くと、絶界から撃鉄が6つ並べられたシリンダーと同型の撃針が6つついた物を絶界から呼び出してハヤトは構えた。

構えながらに、マグナム弾にありったけの魔力を注ぎ込み、魔導暴発ギリギリのラインでその供給を止めた。

 

「なるほどな。 じゃあ手早く終わらせようか!」

 

リュパンはそう言うと、詠唱を始めた。

 

「祖は天穿つ颶風の牙、祖は天貫く剛雷の爪、されど祖はそれらを束ね、調律せし者…」

 

右手には風の塊が、左手には明滅する雷が。 収縮を繰り返し、少しずつ膨張をして行く。

 

「祖は天穿ち貫く天克の角、祖の角を研磨し生み出された其れは…神の槍!」

 

颶と雷は混ざり合い、お互いを喰い合おうと、滅ぼそうとしているかのように閃光と稲妻を迸らせる。

 

「我が御名の下に顕現せよ……幻影召喚! 総て穿ち貫く神羅の槍(グングニール)ッ!!」

 

それはありとあらゆる事象を貫きかねない槍。 魔術を極め、魔術神の高みに登った主神の携えし槍と同じ名を持つ幻影召喚。 禁忌の一撃だった。

 

「これを打ち砕いてみろよ、ハートネット卿ぉぉォォォ!!」

「んなもん、贋作なんて真正面から叩き潰すまでだぁぁぁ!」

 

ハヤトが駆け出し、リュパンが槍を放つのは同じタイミングだった。

ハヤトは真壁のルーンでグングニールを一時的に受け止めるが、耐久力の問題で3秒も持たないだろう。そして、ハヤトは迅速にことを終わらせる事にした。 M29 のシリンダーを魔力コーティングして、槍の穂先に激突させる。

そして、その衝撃をカラミティ・モードのゴリ押しで捩じ伏せる。 ここまでで1.5秒。

 

「ゼロ距離射程閃術ッ! 六魂星撃(フル・インパクト)ォォォッ!!」

 

ハヤトは6つの弾丸の、雷管を同時に6つの撃針で打ち付ける。これは天道家に伝わる奥義の1つ、ゼロ距離射程閃術 六魂星撃(フル・インパクト)と言う。

同時に、至近距離で放たれた弾丸の内部の魔力が先に放たれて穂先を崩壊させる。

続いて魔力コーティングされたマグナム弾が術式を砕き、その運動エネルギーが破壊して行く。

最後に至近距離での発砲によって発生する高圧ガスによって残りの術式が吹き散らされた。

弾丸は風雷に削られて消滅したので流れ弾はなかった。

 

「ふぅ……」

「さすがだな。 本当に真正面から叩き潰されるなんて考えてなかったよ」

「へっ、オレを誰だと思ってやがる」

 

ハヤトはそう言うと髪を括り直しながらリュパンの隣を抜けて行く。

 

「逃げるなら今のうちだぜ? リュパン四世」

「ハハハっ、そうさせてもらおうか。 君とやりあえたのはいい経験になりそうだよ」

 

ハヤトの背中を見ながらリュパンは呟いた。

 

「試合に負けて、勝負にも負けた……俺の完全敗北、か」

 

そのリュパン四世のつぶやきは風に流れて消えた。

 

 

やれやれ、リュパンとのやり合いで少し魔力を消費しすぎたか。 オレはキンジたちとの合流を急ぐ事にした。

通信科機器のルームで剣戟の音がしたオレは無線でけが人が出るであろうことをリサに連絡を取り、キンジたちとの合流を急いだ。

 

(続く)




なんとか更新できました!


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18弾 ジャンヌ…青き炎と氷の魔女

◯sideキンジ(三人称視点)

 

情報科(インフォルマ)の地下コンピュータ室にて、キンジは苦戦していた。

地下倉庫(ジャンクション)とある一件(白雪とのキス)でHSSを発動したキンジとアリア、白雪は各々1人で動いていたが、白雪に変装し2人を欺いた魔剣(デュランダル)によって、アリアを一時戦闘不能にされて人質とされてしまうも白雪の活躍で魔剣を引き剝がし、ハヤトの託したルーン護符による解呪の札を彼女に使ってもらい、一枚用いてアリアを回復させた――まではよかった。

 

「“ほう、貴様。 面白いものを持っているな”」

「私の声を真似しないで!」

「まて、白雪! 挑発に乗るな!」

 

キンジはあくまでも冷静にその冴え渡った頭で考える。

現在、白雪の格好をした魔剣の手には《聖宝剣 オートクレール》が握られている。 先刻に、通常状態の時足元を凍らされて銃剣を投げられた時、とっさの判断で強襲科(アサルト)で覚えた対投げナイフにオートクレールを投げてしまったのだ。

オートクレールはどういう理屈かはわからないが火を纏い、魔剣の投げた銃剣を真正面から切り裂いて真っ二つに唐竹割。 その奥にいたであろう魔剣に襲いかかったが

弾かれたのだ。

 

「フッ。 そうカッカするな、星伽白雪。 やはり動きにくい格好はするものではないな」

 

言いながら魔剣は変装を解く。 出て来たのは照明を浴びて銀光に光る軽鎧にすらりと長い体躯に三つ編みを結い上げた銀髪に切れ長の目。 その双眸は青く、光を浴びたサファイアのように輝いていた。

 

「どのみちお前は確保するのに変わりはない。 そしてホームズ。 私をここまで追い詰めた報酬として貴様の母親に濡れ衣を着せた憎き相手の顔を冥土の土産にしかと見ておけ」

「それがアンタの素顔ってわけ?」

「自分で言うのもおかしな気がするが、そうなるな。 聖剣デュランダルの今世の担い手にして《青炎の魔女》。 ジャンヌ・ダルク30世とは私のことだ」

「ジャンヌ・ダルク!? 子孫がいるはずがないわ! 彼女は火刑で…」

 

アリアはその名前を聞き驚いた。 無理もない、正式な歴史では彼女は、ジャンヌ・ダルクはヴィエ・マルシェ広場にて火刑となり、処刑されていたのだから。

 

「火刑で亡くなったのは、この日本で言うところの影武者だよ、ホームズ。 私は、いや私たちはその名前を、ジャンヌ・ダルクを守り、今まで生きてきた。 光の中に我らはなく。 闇より出でる者として、策士として生きてきたのだからな。 そして私たちを殺そうとした火を憎み、この力を手に入れた」

 

ジャンヌはオートクレールに魔力を込める。 オートクレールの刀身からはゆらり、ゆらりと青白い炎が湧き上がる。

 

「うそ!? その剣に収められていたのは火の魔力だよ!? どうやってそれを!?」

 

白雪は驚き戸惑う。 オートクレールの持つ魔力はハヤトの焔である。 それを儀式もなしに凍結させたのだ。

 

「さぁ私に歯向かうか、星伽白雪? 歯向かうならば、そこにいる武偵二人を殺し、お前を攫う。 逆にお前が身を呈して私にはついてくるならば、そこの武偵は見逃してやるが?」

 

あくまでも、余裕の姿勢を崩さないジャンヌ。 己が苦手とする火の魔術…鬼道術を操る白雪と正面から戦ったとしても勝てる自信があるからだ。

 

「…ほんとにキンちゃんとアリアを見逃してくれるの?」

「白雪! 相手の甘言に騙されるな! あいつは俺たちを見逃すつもりもない!」

「はぁ、とんだ言われようだな私も。 遠山キンジ。 私はこう見えても義理深い性格でな。 約束は守るさ、このジャンヌ・ダルクの名前に誓ってもいい。」

「だからと言って、護衛対象をやすやすと引き渡すこともできないのよ!」

 

勇みながらアリアは小太刀二刀を抜くと白雪の前に出て構える。 先ほど、ガバメント二丁を氷付けにされたため、使用できないのだ。

そして、彼女に呼応するようにキンジもバタフライナイフを開き、M93Rをヒップホルスターから抜いた。

 

「武偵は決して諦めるな。 どんな強敵が相手でも俺とアリアは諦めない!」

「そうよ、ママの冤罪を晴らすために逃すわけにはいかないわ!」

「やれやれ、その自信はどこからくるんだ…奴ならともかく、唯の武偵では私に勝てないぞ」

「――なら、勝てるようにお膳立てをすればいいのか?」

 

その場にいないはずの、第三者の声がそこに響く。

コツン、コツンと静寂に足音が響く。 それを追うようにパタパタと小走りに走る足音も聞こえてきていた。

 

「待ってください、ご主人様ぁ! リサは疲れたのです!」

「悪いがリサ、もう少し働いてくれ」

「アサルトの生徒の喧嘩仲裁とか、教務課の無茶振りに付き合わされたこっちのことも考えてくださいよぉぉぉ!」

「だぁぁ! あとでキチンと報酬は払うから! 頼むって!」

「じゃあ、今晩は寝かせませんからね!」

 

してやったりな笑顔を見せるメイドライクな武偵高の改造制服を身につけるリサがそこにいて、その前にはあの男が、天道ハヤトがそこにいた。

 

「遅いわよ、ハヤト!」

「悪いな、アリア。 重役出勤ではないだけマシだと思え。 で、ジャンヌ。 降参は?」

「ふっ、いきなり出てきて降参を要求するか、ハヤト。 無論するわけがないだろう? 私の目的が達成されない限り降参はあり得んぞ? それにな…」

「うん? なんだ?」

「お前が余計なことをしなければ、私はもっと早くに行動できていたのだからな!? なんだあの見た目でわからない陰険極まる雷のルーンは!? 痺れて死ぬかと思ったのだぞ!? それに加えて偏光フィルムをベランダの引き戸に良くも貼ってくれたな! 中が見えなくて集音スコープに噛り付いて遠山キンジ、ホームズの動向を探るハメになるし、ホームズがその残念な頭「残念な頭ってなによ!?」うるさい、今喋ってるのはわたしだ! …で考えた要塞化の邪魔をしてくれたおかげで入念な前調査が泡になって消えたのだよ! わかるか、潜入して二週間かけた計画が一瞬でパーなんだぞ!? わかっているのか!? 経費だって決まった資金しかないのに、潤沢な資金を絶界にしまい込んでるお前見たく伊・Uは裕福ではないのだからな!?」

「お、おう。 色々苦労したんだな」

「だ・か・ら……――それがお前のせいだと言っているだろぉぉぉがぁぁぁ!?」

 

ジャンヌの魂の叫びを聞いたキンジたちは思わず彼女に同情の視線を送る。 それを聞き流してハヤトはルーン呪式を組み上げながら魔法陣を展開すると対象にキンジ、アリアを選択した。 そして彼女らに魔力を与える。

 

「ちょっと地表でどんぱちやったから、お前らで頑張ってくれ。 まぁ、自動防御の焔をつけとくから、お前らを守ることはできる。 あとはお前らの好きにやれ」

「な、丸投げか!?」

「重役出勤とあんまり変わらないわよ!?」

「いや、魔力回復を図るから、頃合い見てスイッチ…交代するさ」

「人任せとは。 フフフッ…私も舐められたものだな!」

「お前がリュパン四世を雇わなけりゃこうはならなかったよ」

 

言うとハヤトはコートの裏から香草を取り出してキセルに詰め込み、火をつけて一服しだした。

 

「魔香草…マナの循環を良くしてくれる魔法の草だな。 あとは…この手に還れ、オートクレール!」

「む? …な」

 

ジャンヌの手の内にあったオートクレールは光となり弾けると、その光はハヤトの手に収まる。 すると光は収束して元の剣になった。

 

「ほぉ…腕を上げたな、ジャンヌ。 俺の焔をまるまる凍らせてるじゃねえか…」

 

オートクレールを手に取りハヤトはそれを眺める。 そして彼が焔のルーンで刀身にこびり付いた霜を解氷させると、再びオートクレールに焔が灯る。

 

「G19の焔を凍結させるとなると…20は軽く超えてきてるな?」

「なるほど、やはりお前の焔を凍てつくすにはまだまだ研磨が必要か…私もまだまだと言うことか」

「て言うか、ルーン使ったなお前。 しかもこれ…古代ルーンじゃねえか?」

「フフフ…ああ、そうだとも。 スカイ島のかの者に教えを請うたのだ。 では行くぞ、まずは目の前の障害2名を排除する!」

 

ジャンヌはその背に背負っていた壮麗な両手剣を手に取ると、キンジとアリアに戦いを挑んだのであった。




続きは書きだめ放出までおまちください

今回は導入で、次が戦闘になりますのでご容赦ください。


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