3年A組 銀八先生! NEO! (カイバーマン。)
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第零訓 侍の国からはるばると

 

 

突如宇宙から異星人・天人が現れてから数十年

 

長らく支配し続けていた天人から侍の誇りを取り戻し、この国が新たなる出発を踏み切ったその頃

 

攘夷戦争時代は白夜叉と呼ばれ、散々暴れ回っていた男もまた

 

一人の友と師が消えてしまってからも、相変わらずダラダラした生活を送っていた。

 

「おいジーサン、俺のスクーターまだ修理終わんねぇのか」

 

「うるせぇなちょっと待ってろ、ったく国が平和になっても相変わらずからくりを乱暴に扱いやがって」

 

からくりばかりの研究所内で、ゴーグルを付けたいかつい老人に話しかけているのは坂田銀時。

 

腰に洞爺湖と彫られた木刀を差し、万年死んだ魚の様な目をしたこの銀髪天然パーマの男こそ、この国を救う事に貢献した侍の一人である。

 

しかし今となってはそれも過去の思い出に過ぎず、昔と変わらずてんで稼ぎの無い万事屋で働いており

 

度々やって来る家賃の催促から雲隠れしながらダラダラと暇な日々を送る毎日だ。

 

「っつうかオメェ金あんのか? 金出さねぇなら直さねぇぞ俺は」

 

「それにしてもアレだよな~、世間では時代が大きく移り変わり文明開化だのなんだの言われてっけど、ウチは相変わらず何も変わらずずっと素寒貧な毎日で生活もままならなくてよ」

 

「おい、聞いてんのか天パ、金持ってんのかって言ってんだよこっちは」

 

「これじゃあ文明開化じゃなくて文明大火だっつうの、家計がもう完全に火だるまになってんの、オーバーヒートしてんのウチ」

 

「知らねぇよ、いいから金払え」

 

突然誤魔化すように顎に手を当てブツブツと世間に対しての愚痴を呟く銀時に対し

 

からくり技師兼元テロリストの平賀源外は彼が修理を依頼して持ってきたスクーターからそっと手を放す。

 

「言っておくがウチだって家計キツイんだ、こちとら天人の脅威から自慢のからくり兵器で護ってやったというのにお上の連中は金一封さえ寄越しやしなかったモンでな」

 

「その自慢のからくりとやらで昔、将軍を殺そうとしてた奴って一体どこのジーサンだっけ?」

 

かつて自分が造り上げたからくりを用いて、数年前までこの国にいた偉大な将軍を暗殺しようと企んでいた源外

 

そんな彼に上の連中が金など出す筈ないだろうと銀時は皮肉交じりに返す。

 

「お互い金が無いってのはよくわかったからさ、ここは金無し同士として協力し合おうぜ」

 

「悪いがそいつは無理な話だな、ボランティア感覚でテメェのバイクを直すなんて余裕はウチにはねぇ、わかったならとっととこのオンボロバイク持ってとっとと失せろ、貧乏人」

 

「良いだろうがもう老い先短いんだから、それまでに善行の一つや二つ積んで置けば少しは地獄の刑期が減るかもしれねぇんだぞ」

 

「はん、この年になって今更死後の事で清算つける気なんざねぇ、やっちまったモンはしっかりと償わせてもらう事にするわ」

 

金が無ければスクーターは修理出来ないと言われ、しかめっ面で失礼な事を散々浴びせてる銀時だが、源外は屁でもない様子でへらへら笑いながら受け流す。だが

 

「ま、金がねぇなら別の形で工面してくれんなら修理してやっても構わねぇぜ」

 

「じーさん……そうかアンタ……最初から俺の体を目的に……!」

 

「んな訳ねぇだろ殺すぞ! 俺が言いてぇのはちぃとばっか手伝って欲しい事があるってこったよ!」

 

自分の両肩に手を置いて驚愕の表情を浮かべる銀時に即座にツッコミを入れると、源外はふと傍にあった、人一人は容易に入れるであろう大きな箱型のからくりを指差す。

 

「最近俺が作ったからくりなんだけどよ、上手く稼働できるかどうかはまだわからねぇんだわ、だから銀の字、お前ちょっとコイツの実験体になってくれ」

 

「いやなに普通な感じでサラッと恐ろしい事言ってんのだクソジジィ、なんだよ実験体って、一体俺に何やらせる気だ」

 

「まあそう言うな、上手くいけばお前さん、人類がずっと求めていた夢の一つを一番最初に叶えられる男になれるんだぞ」

 

「は?」

 

急にからくりの実験の生け贄になってくれと言われては流石に銀時もすぐに断ろうとする。

 

しかし源外の話はまだ終わっていない。

 

「コイツはな、いわば多くの者達が求めていた夢の未来道具って奴だ。銀の字、お前さんこんな事たまに思う事はねぇか? 長い時間をかけて移動して目的地に辿り着くのではなく、一瞬であらゆる場所に行ける事が出来たらいいなって」

 

「そんな事、社会人になれば誰だって思うだろ、特にドラえもん読んでた奴とか……ってまさかアンタ……」 

 

「その通りだ銀の字、俺はな、遂にあの猫型ロボットが持っていた、未来の秘密道具の一つを作る事に成功した」

 

「!?」

 

逸れには流石に銀時も驚きを隠せず目を大きく見開いてみせた。

 

未来の秘密道具……恐らく源外が言っているそれは、ここから遥か遠くにある場所でも、一瞬で行けるというあの……

 

「ま、まさかアンタ……! いよいよ作りやがったのか!? 誰もが欲しがるあの! どこでも……!」

 

「まずは現物を見てくれ、驚くのはそこからだ」

 

銀時の頭にあるピンクのドアがはっきりとイメージされている中で、源外はその電話ボックスみたいな形状をした銀利の箱に付いているいかにもなドアノブに手をかけて、ゆっくりと回して開けてみせた。

 

ドアを開いた先で銀時が見た光景は……

 

「とくと見やがれ、コイツは俺が長年造り上げて来たからくりの中でも屈指の最高傑作、名付けて……!」

 

 

 

 

 

 

「どこでもトイレ!!!!」

 

「ってふざけんなぁぁぁぁぁぁぁ」

 

それはキラキラに輝く銀色の……

 

まごう事無きウオシュレット機能なしの素朴な洋式の厠であった。

 

「本当は「どこでも厠」って名前にしようとしたんだがちょいと捻りが足りないと思ってな、時代が変わっている今をイメージして洋風呼びのトイレにしてみた、どうだ、捻りがきいてるだろ?」

 

「いやテメェの頭を捻り千切ってやろうか!? この野郎あんなに期待させておいて結局いつもの下らねぇ発明品かよ!」

 

「聞き捨てならねぇな、言っただろ、「どこでもトイレ」って、コイツはホントにやべぇ代物なんだぞ」

 

内装は緻密な機械仕掛けなのはわかるがそれ以外は何てことない普通のトイレ

 

てっきりドアの先には南米とか常夏のハワイとか、はたまた宇宙のどこかにある異星の光景が現れるのかと想像していた銀時は、激しく憤慨するが、源外は静かに首を横に振り

 

「この厠は便をすればその量に応じて四次元を超え、あらゆる場所に置かれた厠に一瞬で転移出来てしまうんだ、つまりクソを出せば出す程より遠くの場所に移動する事が出来るんだぜ」

 

「だぜ、じゃねぇよ! 今すぐ不二子先生に土下座して来い! 先生が造り上げた未来の秘密道具をこんな下ネタ要因に使いやがって!!」

 

彼の説明を聞いても未だ凄いと理解出来ない様子で、銀時は「どこでもトイレ」を指差す。

 

「ていうか出すウンコの量によって移動する場所が決まるって事は、自分が望んだ場所には行けねぇって事だろ! 役に立つかそんなモン!」

 

「安心しろ、それはあくまで現段階での話だ、今後改造を加え続ければ、目的地を設定し、そこまで行ける程の量に達すれば認識して時空移動できるようになる予定だ」

 

「結局ウンコする必要があんのかよ! どうして厠で造ったんだよ! ただのドアで良いだろうが!」

 

「そのまんまパクったら訴えられるだろうが、これはあくまでアレとは別物だと主張する為にどうしても厠にしなきゃならなかったんだ」

 

「いやそれでも厠にする必要はどこにもねぇだろ!」

 

どうして今後歴史に残るかもしれない様な稀代の大発明を、こんなきわどい形で再現してしまうのかと不思議で仕方ない銀時。

 

やはり発明家というのは常人とは発想が一味も二味も違うらしい。

 

「ったく誰がこんなからくりなんかの実験体になるか……変な場所に飛ばされちゃたまったもんじゃねぇしな」

 

「そう言われずに協力してくれよ、俺は上手く使えるかどうかここで見とかねぇといけねぇし、からくり供は便を出す事は出来ねぇから実験に使えねぇ、だから生身の人間であるお前さんの手を借りる必要があんだよ」

 

「手というかケツを借りてぇだけだろアンタは、付き合ってられっか……」

 

あらゆる修羅場を乗り越えて来た銀時であってもこればっかりはリスクがデカすぎてやる気になれない。

 

源外の協力依頼を断わって彼はさっさとその場に立ち去ろうとする、だがその時……

 

「うわーヤバいヤバい! 漏れるってコレ絶対!」

 

そこへカランカランと下駄の音を鳴らしながら、便意を我慢した様子で通路を走って来る中年の男性が一人

 

この国が救われて尚未だに救われない人生を送る、グラサンがトレードマークのまるでダメなおっさん・長谷川泰三だ。

 

「お! なんだよこんな所に厠があるじゃねぇか! 助かったー! おいじいさん! ちょいと貸してくれ!」

 

「っておい、長谷川さんそれは……」

 

源外の研究所に厠があるのを発見した長谷川が、銀時の声も届いてない様子で脇目も振らずに「どこでもトイレ」の中へ

 

そしてドアを閉め、非常に不快な音が中から聞こえた後……

 

 

 

突然、どこでもトイレがガタガタガタと左右に大きく揺れ始めたのだ。

 

「あ、あれぇ!? ちょっとなにコレ!? どうなってんのぉ!?」

 

ただのトイレだと思っていた長谷川が中でかなり焦っている様子だ、しかし揺れは収まらないどころかどんどん激しくなっていき

 

「うわコレ絶対ヤバいって! もしかしまた天人が地球を襲いに来たのか!? ちょ! 誰か助け……!」」

 

中からパニクった様子で長谷川が助けを求めさけぼうとした瞬間

 

突然「チン!」と音が鳴り響くと、その直後、どこでもトイレの揺れがすぐにおさまったのだ。

 

銀時と源外が固唾を飲んで見守っていると、厠のドアがキィッとゆっくり開き

 

「フゥ~~、我ながらかなりの特大サイズを産み落とせたぜ~~」

 

まるで何事も無かったかのようにドアの中からヌッと出て来たのだ

 

 

 

紅いバンダナを頭に巻いた、日焼け肌の筋骨隆々の大男が

 

「出す時思わず”ラカンフィーバー”って叫んじまったぜ! いやー快便快便! 今日も俺は絶好調!!」

 

明らかに先程中へと入った長谷川泰三とは似ても似つかない全くの別人が、真顔で固まる銀時と源外の前に現れたのだ。

 

見知らぬ男は銀時達の事をよそに機嫌良さそうに鼻歌交じりで研究所から出て行くと

 

「ってああ!? なんだここ! こんな所魔法世界にあったか!? まあいいか! ガハハハハハハ!!」

 

高らかに笑い声を上げながら見慣れぬ土地を前にしてもさほど気にしてない様子でズンズンとどこかへと去っていくのであった。

 

それをしばしの間銀時が無言で見送っていると、源外がボソッと

 

「よしじゃあ、実験やるか、銀の字」

 

「いや何事も無かったかのように流すんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

平然としながら実験に参加させようとするマッドサイエンティストに、我に返った銀時が声を荒げてツッコんだ。

 

「どういう事だおい! 長谷川さんどこ行った!?」

 

「なに言ってんだ、さっき出て来たじゃねぇか」

 

「あんなムキムキでガングロのおっさんのどこが長谷川さんだよ! 完全に別人だろうが! 真撰組のゴリラをチンパンジーと錯覚してしまう程の大ゴリラだったぞ!」

 

アレは間違いなく長谷川さんでは無かった、何より彼特有のダメ人間オーラが先程出てきた大男からは微塵も感じられなかったのが何よりの証拠。

 

しかし源外は頑なにその事実を受け止めずに

 

「まあ人間、体に溜まったモンを全部吐き出しちまえば、あっという間に別人と思えるぐらいに見た目が大きく変わる事なんざよくある事だ」

 

「変わり過ぎだろ! ウンコ出せば見た目も声も変化するとか! 全生物の進化論を真っ向から否定してんだろうが!! CV碇ゲンドウからCVジャック・バウアーになってたんだぞ!」

 

「ゲンドウだろうがバウアーだろうが大した違いはねぇだろ、両方ともおっさんだって事に変わりねぇ、そんな微々たる変化を一々気にしてちゃこの文明開化の時代に置いてかれるぞ」

 

そう言って彼は攻撃を続ける銀時をスルーして、自慢の発明品である「どこでもトイレ」をカチャカチャと弄り始めた。

 

「よし、そんじゃもう一度起動すっから、入れ銀の字、溜まったモン吐き出せ、CV変わるぐらい」

 

「おいちょっと待って! 今もう一度起動するって言わなかった!? それってつまり長谷川さんが入った時に一回起動したって事だよな! ひょっとして長谷川さん! 本当にどっか別の場所に飛ばされたんじゃ!」

 

「つべこべ言ってねぇでさっさと入れって、CV坂田銀時から、CVフリーザになれるチャンスなんだぞ」

 

「CVフリーザになれるチャンスなんざ今まで一度も掴もうとした事ねぇよ!! どんな誘い方だそれ!」

 

徐々に強引に話を進めて行ことする源外にいい加減にしろと銀時は全力で拒否、あのような現象を目の当たりにしておいて、はいわかりましたと言えるほど銀時はそこまでバカではない。

 

「俺を釣るならもっと上等な餌持って来いや! CVフリーザで釣れると思ったら大間違いなんだよ! せめてCVベジータにしろ!」

 

「仕方ねぇな、じゃあほれ、バイク直してやっから」

 

「無理だつってんだろ!」

 

「そんじゃ、今日コンビニで買って来たジャンプ、これやるから乗れ」

 

「いくら俺が純粋な少年の心を持つジャンプ愛読者でも、数百円のジャンプの為に見知らぬ場所に飛ばされてたまるか!!」

 

「強情な野郎だな、ったく仕方ねぇ」

 

ふと傍にあった最新号のジャンプをヒョイと掲げて、それを気前よく譲ってやろうとするのだがそれでも銀時は動こうとしない。

 

全く交渉に応じない彼に源外は軽く舌打ちすると、頭をポリポリと掻いて嫌そうにしながら

 

「わかった、これでどうだ、テメェがお登勢の奴に滞納している家の家賃、俺が肩代わりしてやる」

 

「え、マジで……?」

 

「お前さんの事だ、どうせまた2カ月分ぐらい溜まってんだろ? それ俺が払ってやるから手伝え」

 

「……」

 

溜まっている家賃の肩代わりとはこれまた随分と太っ腹な話だ。

 

それ程までに源外はこのからくりの開発に必死なのであろう。

 

銀時はしばらく顎に手を当て考え込むと、額から一滴の汗を流しながら

 

「……ホントに大丈夫このからくり?」

 

「問題ない問題ない、俺はいつだってお客様に安全なからくりを作る事を心がけているんだ」

 

「突然の事故とかトラブルに遭遇して大変な目に巻き込まれるとかもない?」

 

「そんな事ある訳ねぇだろうが、お前さんはただケツから出せばいいだけなんだから」

 

「いや俺さっきの長谷川さんの件を踏まえて尋ねてんだけど? アンタが言ってる事全く信用できないよねアレじゃ」

 

「ウダウダ言ってねぇでさっさと決めろって、いいか銀の字、お前さんただウンコするだけで家賃チャラになるんだぞ、それって火だるま状態の家計にとって大いに助かる事なんじゃねぇのか?」

 

「……」

 

コレは明らかに大きなリスクが伴う危険な賭け。

 

実験が何事もなく終われば大した労力も使わずに源外に家賃を負担してもらえるという経済面的にかなりのプラスに繋がるが

 

もし失敗すればどうなるか全く分からない、そもそも時空を超えるとはどういう意味なのであろう、一体どこまでの距離まで移動できるのだろうか……

 

しばらく悩みに悩んで考え込んだ後、首を捻っていた銀時の出した結論は

 

「おいジジィ」

 

「あん?」

 

迷いに迷った結果、銀時はスッと源外に向かって手を差し出す。

 

「ジャンプ寄越せ、厠で気合の一発出す時は、ジャンプ読んで熱く心を燃やしながらに限るのが俺の流儀なんだよ」

 

「そんな流儀死ぬ程どうでもいいが、そいつはつまり、受けるって事だな俺の依頼を」

 

「俺は万事屋だ、依頼があればなんだってやってるさ、例えそれがどんなに下らねぇ事でもな」

 

腹はくくったと、得意の決め顔を作りながらそう言うと、源外からジャンプを受け取り、銀時は処刑台にでも向かうかのように一歩一歩しっかりと踏みしめながら「どこでもトイレ」の中に

 

「じぃさんがもし俺に何かあった時はあのガキ共によろしく言っておいてくれ、俺がいなくなったのは他でもなく平賀源外とかいうクソジジィの発明品に巻き込まれたせいだって」

 

「そいつは無理だな、言ったら俺が責任取らなきゃいけなくなるだろ」

 

「完膚なきまでジジィをボコボコにして4分の4殺しでお願いしますって」

 

「4分の4ってもうそれ完全に殺してね?」

 

万事屋に残したメンバーに伝言を頼むと言いながら銀時が厠の上に座ると

 

源外は責任逃れの為に彼の伝言を受け止めた上で誰にも流さないと頷く。

 

そして最後に銀時はドアを閉めると同時に

 

「それじゃあじーさん、家賃の件頼んだぜ、しっかりとあのババァに払っておいてくれよ」

 

 

 

 

 

 

「2年分」

 

「っておい! 2年分ってどういう事だ!」

 

ガチャリとドアを閉めた後に思いもよらぬことを言い残した銀時に、源外は慌ててドアの前へ

 

「おい待て開けろ! 俺はせいぜい2カ月ぐらいの滞納だと思ってたんだぞ!」

 

「知らねぇよそんな事、こちとら2年近く家を空けてたんだ、戻って来たならその分の家賃もちゃんと払えってババァがうるせぇからよろしく頼む」

 

「ふざけんなそんなの払えるか! 無し無し! やっぱさっきの依頼は無しで!」

 

「あ~そいつは無理だわ、残念ながら俺は既にアンタに頼まれた仕事をやっている最中だからな、この座り心地最悪の便器に座りながら、腹に溜まったモンをブリブリ吐き出す作業を……」

 

バンバン!とドアを強く叩いて出て来いと叫ぶ源外が時すでに遅し

 

銀時はもう中で既に作業に入っているのか、長谷川の時と同じようにガタガタと「どこでもトイレ」が大きく揺れ始める。

 

「ってあれ? こうして体験するとホントに揺れるんだな……てかちょっと揺れすぎじゃね?」

 

なんだか思ってたのよりも揺れが激しい、中でそう感じて心配そうに呟く銀時をよそに、どこでもトイレは倒れんばかりの勢いで更に激しく揺れ始め

 

「あれ!? やっぱこれマズイよね! なんか周りが光り出したし明らかヤバい事になってるよね! おいじーさん実験は一旦中止だ! このままだと俺……!」

 

徐々に天パり始めた銀時だが、激しい揺れはやがてまた「チン」という心地い良い音がなった瞬間ピタリと止んだ。

 

するとさっきまで騒がしかった銀時の叫び声もまた聞こえなくなり、しばらく源外は見つめた後、ゆっくりとどこでもトイレのドアを開けてみる、すると

 

 

そこにいた筈の銀時が、跡形もなくその場からいなくなってしまっていたのだ。

 

たった一つだけ、彼がそこにいた形跡を残しているのは便器の中にある……

 

「くっさ! あの野郎、こんなデカいモン残すんなら流しとけっつうの……」

 

坂田銀時という男がいたという唯一の証明になるそのモザイクまみれの”それ”を、源外が躊躇なく水で流して跡形もなく消し去ってしまう。

 

そして流し終えた後、源外はドアをパタリと閉め

 

「さて、俺もちょっくら出してくるか、普通の厠で」

 

あたかも何事も無かったかのように、最初から銀時との約束など無かったかのように振る舞いながら、一人研究所内にあるちゃんとした厠へと向かうのであった。

 

果たしてかつてこの国で自慢の木刀を振り回し、数々の激戦を戦い抜いて来た一人の侍、坂田銀時は何処へ行ったのだろうか……

 

 

 

 

次回、本編開始。

 

 



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第一訓 最悪なファーストコンタクト

魔法使い

 

それはおとぎ話だけの架空の存在ではない、ハッキリと確かに実在する。

 

魔法を知らぬ人間と、魔法を知る人間の二つの世界が混合している世界があり

 

普通の人間は魔法そのものがある事も認知されていない世界(人間世界)

 

一方で魔法使いは裏の世界(魔法世界)に住み、互いに干渉せず暮らし

 

中には表の一般世界で普通の人間を装って魔法使いだとバレないように暮らしている人もいる。

 

そして大昔の混沌と化した時代の中、かつては闇の福音と称され、散々魔法世界で暴れ回っていた吸血鬼もまた

 

英傑と呼ばれし一人の伝説の魔法使いによって退治され

 

そのまま人間世界に連れてかれ、ここで長きに渡る学園生活に身を置きながら退屈な日々を送り続けていたのであった。

 

「全くあのジジィめ、いきなり人の事を呼び出したかと思ったら長々と下らん話を」

 

日が落ちかけ夕方になった頃

 

森の中を歩いてブツブツと文句を垂れる金髪の小さな少女がいた

 

彼女こそ吸血鬼・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 

小柄で可愛らしい見た目ではあるが、数百年以上の時を過ごしてきた真祖の吸血鬼であり、かつてとある魔法使いに敗れ去ってからはその力の大半を失ってしまった。

 

更に「登校地獄」という忌々しい呪いまでかけられ、結果、人間の世界で何十年も中学生としての生活を送り続ける事を義務付けられ、つまらない授業を受けながら、自分より遥かに年下の娘達と一緒に学園生活をしなければならないという、正に闇の魔法使いと恐れられていた彼女にとってこの上ない屈辱的な地獄だった。

 

「マスター、学園長とどんな話をなされたのですか?」

 

「ああいつもの戯言だ、ついさっき魔法世界で突如あの英傑の一人「ジャック・ラカン」の魔力が探知できなくなり行方不明になったから見つける方法は無いかだと……」

 

「それはマスターが関わるほどに重要な事なのですか?」

 

不機嫌そうに歩くエヴァの後を従順について行きながら機械的に話しかけるのは絡繰茶々丸

 

魔法使いである彼女の従者として常に傍でサポートする役目を担う、機械人形だ。

 

そんな彼女にエヴァは振り返りもせずに吐き捨てる様に答える、

 

「いや、重要もへったくれもないただの下らん話だよ、全く私のいない魔法世界がどうなろうが知った事か、あのゴリラの事などますますどうでもいい、その辺にバナナでも置いとけばすぐ出てくるだろうと答えてやったわ」

 

「それで本当に出てくるのですか?」

 

「出て来るらしいぞあのゴリラ、私の旧友から聞いた事がある、たまにナギが釣れる事もあったらしいが」

 

茶々丸とそんな他愛もない談笑を交えながら、エヴァは森の奥深くに建てられているこじんまりとした小屋に辿り着いた。

 

ここは彼女が通う事を義務付けられている「麻帆良学園」の敷地内であり、そこに置かれているこの小屋は長らく彼女が住んでいる家でもある。

 

「アイツは空腹状態の時ヤバかったからな、腐りかけのカニを躊躇なく食ってえらい事になったのを今でも覚えている」

 

「なるほど、そんなお人にマスターは敗北為されて現在に至ると」

 

「あの敗北は腐りかけのカニよりも忘れられん味だった……あの時奴に負けなければ、こんなせまっ苦しい場所に閉じ込められ、子娘供と毎日学校行く事など無かっただろうに……」

 

ドアを開けて小屋の中へと入りながら、エヴァがブツブツと己の現状に不満を漏らしつつトイレの方へと向かう。

 

「いかんな、あの耐えがたい敗北を思い出すとつい愚痴を垂れ流してしまう、長くこの屈辱の日々を送ったせいか我ながら人間臭くなってしまったみたいだ……ここは一人トイレに籠って物思いにふけり、しばし己自身を見つめ直す事にするか」

 

「マスター、トイレをご使用するならなるべくお短めに、後がつかえていますので」

 

「いやお前は使わんだろ」

 

「いえ、今日はなんだか出そうな気がしますので」

 

「なにが!? 機械仕掛けの人形が出せる訳ないだろうがたわけ!」

 

真顔で何言ってんだコイツと、自分の背後に立って並ぼうとする茶々丸にツッコミを入れると、エヴァはガチャリとトイレのドアを開けた。

 

するとそこには

 

 

 

 

 

 

「あちゃー、やっぱコレ打ち切りかー、俺好きだったんだけどなー、あん?」

 

「……」

 

目の前に広がる光景にエヴァは口を開けたまま固まる。

 

着物を着た銀髪天然パーマの死んだ魚のような目をした男が

 

人のトイレを勝手に使用してるばかりかジャンプを読んでいたからだ。

 

すると男はドアを開けたまま微動だにしないエヴァの方へ視線を上げ

 

「なんだテメー、今こっちがトイレ使ってんだから開けんな、しばらくしたら出るからドア閉めろ」

 

「……」

 

ぶっきらぼうにそういう銀時に彼女は黙り込んだまま言われた通りゆっくりとそのドアを閉めた。

 

そしてしばしの間を置くと自分の顔を手で押さえながら

 

「あーしまった、私としたことがつい使用中のトイレをノックもせずに開けてしまうとは」

 

「マスターでもうっかりする事あるんですね、トイレに入る前はまず中に誰かいないか確認せねばいけません」

 

「そうだな、コレは全面的に私が悪いな、仕方ない、しばらくここで待つ事に……」

 

 

 

 

 

「ってなるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「どわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

茶々丸に言われながら素直に反省するのかと思いきや、衝動的にトイレのドアを蹴破って中にお邪魔するエヴァ。

 

「一体誰だ貴様ぁ! なにノコノコと私の家に上がって勝手にトイレ使ってんだ! しかもよりにもよって大きい方だと! ふざけるのはその恰好だけにしろ!」

 

「あーーー待て待て待て! あれ!? ひょっとしてあのジジィのからくり成功しちゃった!? てことはまさかどこぞの家のトイレと繋がっちまったって事!? 待て小娘! コレには海よりも深い訳が!」

 

「不法侵入者の言い訳なんか聞く耳持たんわぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ぶげらッ!」 

 

人の家に勝手に入り込んで勝手にトイレを使用している不届き者に、闇の福音の制裁が下される。

 

 

 

 

数分後、彼女に一発頭を殴られた銀時は、ようやくここに来た経緯を説明する機会を貰った。

 

自分はかぶき町に住むごくごく平凡な侍である事

 

人々を笑顔にする為に日夜万事屋として汗水たらして働く立派な社会人である事

 

しかし、とあるマッドサイエンティスト、平賀源外の悪しき陰謀によって、まんまと奴の策略に乗せられ「どこでもトイレ」という恐ろしいからくり兵器の実験体にされてしまった事

 

「そしてなんやかんやで気が付いたらここにいました」

 

「うむ、私が頭を強く殴り過ぎたせいなのか、それとも元々頭がおかしい奴なのか、言ってる事がさっぱりわからん」

 

 

リビングで正座して事の経緯を語り終えた銀時だが、ソファに座りながら彼を見下ろしながら聞いていたエヴァはジト目でただ首を傾げるだけだ。

 

「そもそも侍ってのはアレだろ、詠春から聞いた事あるが、日本の昔にいたとかいう刃物振り回す人斬りの類であろう、そんなのとっくに絶滅してるんじゃなかったのか?」

 

「いやいや確かにちっとは世の中が平和になったからといって侍はまだ死に絶えてねぇよ、100歩譲って絶滅危惧種ぐらいだろ、だがら貴重な侍である俺を優しく保護して無事に家に帰らせて下さい」

 

「フン、生憎私は相手が絶滅危惧種だろうが勝手に家に入って来た輩をそうやすやすと逃がしはせん、100歩譲ってパンダなら逃がしてやってもいいが」

 

体よくこの場を去ろうとする銀時を逃す訳にはいかぬと、まずは正体を探らせる為にエヴァは彼の背後にいる茶々丸に目配せし

 

「茶々丸、コイツの身元がわかる奴は出て来たか」

 

「少年ジャンプと小汚い木刀が一本、ほとんど空の財布しか持っていませんでした、しかし中には免許証があったので本人確認には十分かと」

 

「っておい! いつの間になに人のモンを調べてんだこのからくり! 免許証返せ!」

 

いつの間にか自分の懐から大事な木刀を財布を取られていた事にやっと気付く銀時であったが、茶々丸は既に財布から抜き取った免許証をエヴァに渡してしまっていた。

 

「どうぞマスター」

 

「本名、坂田銀時、平凡な名前だ、確かに住所はかぶき町……ん? なんだ随分と表記がおかしいぞ……かぶき町ってこう書くんだったか?」

 

エヴァは日本育ちではないが長く暮らしているのもあって多少のこの国の知識はある。

 

確かに現代社会の日本で使用されている免許証と同じではあるが、どこか違和感ある。

 

確かに本物ではあるのかもしれないが、これは一体……

 

「怪しいな貴様……それにどうも昔、私が戦った連中と似通っている気がする……侵略戦争に魔法世界を破壊し尽くした”夜兎”や”荼吉尼”に近い何かが……」

 

「はぁ? 夜兎? なんで俺が天人と同じにされんだよ」

 

「夜兎を知ってるのか貴様……てことはもしや」

 

ボソリと自分が呟いた単語に素早く反応する銀時を見て、エヴァはすぐに何かを悟った。

 

「さっきから胡散臭いとは思っていたが、まさか”第三世界”の来訪者か?」

 

「は? 第三世界?」

 

「こことは違う全く別の世界という事だよ、めんどくさいが説明してやろう」

 

その言葉には聞き慣れてない様子で口をへの字に曲げる銀時に、エヴァはソファに背もたれながら話を続ける。

 

「いいか、まずここは侍も宇宙人もいない、なおかつ魔法の存在さえも知られていない平凡な世界だ、一般的には表の世界、または第一世界とも呼ばれている」

 

「……」

 

「次に魔法が日常的に使われそれが軸として成り立っており、過去に宇宙人からの侵略によって大戦争が勃発した世界は魔法世界、または第二世界と呼ばれる」

 

「いやあのすみません……言ってる事全然わからないんですけど……」

 

ざっくり短くまとめながらわかりやすく説明しているつもりのエヴァだが、銀時はてんで分かってない様子で困惑するばかり、第一世界だの第二世界だの、はたまた魔法だのなんだのさっぱり理解出来ない……

 

「そして最後に、他二つとは完全に遮断され、こちらからの干渉を一切受け付けず、独自に文明を作り続けている第三世界だ、詳しい事は私でさえ知らん、ただ一つわかっている事は、何らかの方法で世界線を越え、魔法世界へ赴いて侵略しようとした宇宙人共の故郷だという事ぐらいだ」

 

「待て待て待て勝手に話進めんな、ちょっとこっちで整理させろ……んじゃなにか? ここは俺が元々いた世界じゃなくて、第一世界っていう全く別の世界って訳か?」

 

「そういう事になる、もっとも向こうの世界からただの人間がやって来たというのは初めて聞いたケースだがな」

 

「は~なるほどなるほどそうかそうか、てことは俺はあのジーさんの発明品で次元を乗り越え、はるばる別の世界へとやって来たという訳か、へ~」

 

ようやく三つの世界の仕組みを理解出来た風に何度も頷く銀時、だが正座した状態から勢いよく立ち上がり

 

「って理解出来る訳ねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ここは別世界!? 信じれるかそんな事! こことは別に魔法が存在する世界がありますだぁ!? ある訳ねぇだろそんな所!」

 

「貴様が否定しようがこれこそが世界の真理だ、貴様がいた世界とこの世界、そして魔法世界と三つの世界は確かに存在する」

 

「知らねぇよそんな真理! そもそもテメェはなにモンだ! ガキのクセにさっきから偉そうにふんぞり返りやがって!!」

 

未だ己の現状を飲み込めずに、更にはガキ呼ばわりして来る失礼な態度にカチンと来ながらも

 

軽く舌打ちをした後、エヴァは初めて彼に名を名乗った。

 

「私の名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、どうせ知らんだろうから覚えて置け」

 

「なんだその長ったるい名前! ふざけてんのかコラ!」

 

「ふざけてるのは貴様であろう、言っておくが私は数百年以上生きた真祖の吸血鬼であり、棒っきれしか持たぬ貴様程度など一瞬で塵芥に帰す力を持った闇の魔法使いだぞ、今は訳合って力を封印されている状態ではあるがな」

 

「ああダメだ! やっぱりこの娘おかしいわ! 聞いた俺がバカだった! 絶対厨二病だよコレ! 宇宙一バカな種族である中学二年生と同じ思考にハマってしまうとかいう関わっちゃいけないタイプだ!」

 

「お、お前なぁ……! こっちは勝手に家に迷い込んで来た貴様に、柄にも無くわざわざ丁寧に一から説明してやったんだぞ! 土下座をして礼を言われる筋合いはあれどバカにされる覚えは無いわ!!」

 

突然訳の分からない場所に放り込まれてパニックになっているのか、いつも以上に取り乱している銀時にエヴァが遂に声を荒げてキレだす。

 

「その無礼な態度と物言いといい、やはり貴様は間違いなく第三世界の住人だな! あそこの連中はどいつもこいつも血の気が立ちやすくて何かあればすぐ暴力で片付けようとする野蛮な輩ばかり! おかげで魔法世界は滅茶苦茶になったんだからな! ナギやその仲間が追い出さなければ滅ぶ所だったんだぞ!!」 

 

「そんなの知るか! 俺はもう帰る! こんな電波娘の話なんて聞いてたらこっちまでおかしくなっちまう!」

 

彼女の話を頑なに信じようとはせず、銀時は逃げるかの様に速足で駆け込むかのようにトイレに直行する。

 

もう一度源外の発明品を使って元の場所に帰る為だ、しかし

 

「ってあれ……?」

 

トイレのドアをガチャリと開けると、思わず間抜けな声を漏らしてしまう銀時。

 

そこにはなんの変哲もない、極々一般家庭で使われている普通の洋式トイレがあるだけだったのだ。

 

「おいちょっと待て……俺がここに飛んだ時に使ったジジィの発明品……どこでもトイレはどこ行った!?」

 

「は? どこでもトイレ? なんだその偉大な漫画家が生み出した産物を、下らん下ネタで汚した冒涜的なネーミングは?」

 

「俺は確かにここに飛ばされたはずだぞ! なのになんで普通のトイレになってんだ! あの銀色でメカメカしい、座ってるとケツが痛くなるトイレがある筈だろ!」

 

「そんなセンスの悪いトイレを使うわけないだろバカ者、ウチは使い勝手のいい日本製のウォシュレット付きトイレだ」

 

背後から聞こえるエヴァのツッコミを無視して、銀時は愕然とした様子でトイレの前で両膝を突く。

 

もしやあのどこでもトイレは……片道のみであり帰る方法は……

 

「嘘だろオイ、洒落にならねぇよ……まさかあのクソジジィ、こんな訳の分からない場所に飛ばしておいて後は自力で帰れって事か……? いやいやいや! ちょっと待ってよ!」

 

「なに人のトイレに向かって叫んでるんだ気色悪い……さては新手の変態か?」

 

我が家のトイレの前で崩れ落ちる彼をドン引きした様子で観察するエヴァに、銀時はクルリと振り返ると必死な様子で

 

「おい小娘! ここからかぶき町に帰るのに何日かかんだ!」

 

「貴様の世界にあるかぶき町の方にか? そんなの私が知るか、少なくとももう一度次元を超えるでもせんと無理だろうよ」

 

「マジかよ、ヤベェ……なんかそこまでしつこく言われると、本当にここが別の世界なんじゃないかと思えて来た……」

 

「だからさっきから何度も言っているだろうが……」

 

腕を組みながら冷たく突き放すと、一人で勝手に途方に暮れる銀時を見下ろしながら、エヴァは顔をしかめたまま傍で待機している茶々丸の方へ振り返り

 

「仕方ない、これ以上ウチでギャーギャー騒がれても耳障りなだけだ。おい茶々丸、ジジィの奴に連絡しろ、第三世界から自称侍と名乗るふざけた輩が来たとな」

 

「了解しました、この方をどうなさるおつもりですか?」

 

「邪魔だからここから追い出す、見た感じ大した力も持ってなさそうだしほっといても害はなかろう、これ以上こんな無礼な奴の面倒なんてみれるか」

 

イライラしながら茶々丸にそう言葉を返すと、早急にある人物に連絡を着けるよう指示する。

 

するとエヴァはいよいよその場で泣き崩れそうな銀時の頭に足を置いて

 

「おい天然パーマ、無礼極まりない貴様の面倒を見てくれるという懐の広い奴を紹介してやるぞ、有難く思え」

 

「人の頭に足乗せんなクソチビ」

 

振り返り様に銀時は彼女の足を頭から乱暴にどかすと、胡散臭そうに彼女を見つめながら舌打ち

 

「なに面倒見てくれる奴って、もしかしてそいつが俺をかぶき町、元の世界にまで送ってくれんの?」

 

「それは無理だろうが、助けにはなるやもしれんぞ、色々と話を聞いてもらえばいい」

 

「ふーん、どんな奴?」

 

「会えばわかる、ほらさっさと行くぞ、立て」

 

命令口調を使いながらエヴァが銀時を立ちあがらせていると、そこへちょうど電話越しに連絡を終えた茶々丸が戻って来た。

 

「マスター、先程連絡したのですがどうやら学園長は慌てているようです、暴れない内に早くこちらに連れてこいと」

 

「フン、奴が慌てるのは予想済みだ、第三世界の連中には散々好き勝手もやられたからな、その世界からまた何者かがこちらに侵入して来たと聞けば、今度はこっちの世界まで破壊されるかもと思っているんだろう」

 

茶々丸からの伝言を聞き終えると、エヴァは早速銀時の着物の袖を掴んでズルズルと引っ張って家から出ようとする。

 

「なら現物を見せて更に驚かせてやるとするか、ほら歩け貴様、私の手をこれ以上煩わせるな」

 

「テメェさっきからなんだその生意気な……歩けってどこに行く気なんだよコラ」

 

「『麻帆良学園』だ、そこに貴様を歓迎してくれる奴が待っている」

 

「麻帆良学園? なんだそりゃ、もしかして教え所か?」

 

最初からずっと偉そうな態度のエヴァに、そろそろ銀時の方もキレそうになっていると、彼女家のドアを開け、彼を連れたまま外へ

 

「全くどうして闇の福音と恐れられていた私がこんな真似をしなきゃならんのだ……それにしても」

 

ため息交じりにそう呟くと、銀時の裾を引っ張りながらエヴァはチラリと彼の方へ目を向けて

 

 

 

 

「ていうかどことなく”アイツ”と似ていないかコイツ……ツラはアイツの方が大分マシだが、この人をナメ腐った態度とふざけた言動は……」

 

「なぁオイ、腹減ってるから目的地に向かう途中でどっか寄らせてくれよ、定期的に甘いモン摂らないとダメなんだよ俺」

 

「その辺に生えてる雑草でも食ってろたわけ、本当にアイツと話してるみたいで気分が悪い……」

 

どことなくこの男からは昔の因縁相手と似通った部分があると感じながら

 

我ながら柄にもならない真似をする程この平和な世界に馴染んでしまったのかと内心嘆きつつエヴァは連絡先の相手の所へと向かうのであった。

 

かつて多くの人々から恐れられ世界中からその首を狙われた恐ろしい吸血鬼

 

かつて多くの天人から恐れられ世界中を敵に回して戦った侍

 

物語はそんな二人の出会いから始まり、ゆっくりと幕は開いた

 

 

 



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第二訓 くるしい時、そんな時に助けてくれるジジィ

地球が救われ、平和になったのも束の間

 

坂田銀時は平賀源外のとんでも発明品のおかげでなんとも不思議な世界へ迷い込んでしまった。

 

そしてそこで出会ったエヴァという自称吸血鬼に無理矢理連れられ、彼が辿り着いた先にいたのは

 

「ほれジジィ、連れて来てやったぞ、感謝しろ」

 

「ほーん、お主が第三世界の所の住人か、ワシはこの学校の学園長じゃ、よろしく」

 

「……」

 

生徒達も帰った後である麻帆良学園に来た銀時がまず向かった場所は、この学園で最も偉い地位にいる学園理事長の部屋であった。

 

そしてそこにいたのはなんとも胡散臭い雰囲気漂うかなり年の言っている御老人。

 

「……なにコレ? 天人? 腐りかけの洋ナシが擬人化した姿?」

 

「関口一番にひでぇ事言う奴じゃな、久々に見たわこんな無礼な男」

 

初めて顔合わせたばかりでいきなり失礼な暴言を繰り出す銀時に

 

腐りかけの洋ナシこと学園長は、高そうな椅子に座りながら眉一つ動かさず平然と返した。

 

「とりあえず気に食わない奴だというのはわかったが、それだけじゃ情報不足じゃな、まずは名前を名乗ってくれんか?」

 

「小〇旬です」

 

「すぐにわかる嘘つくでない! お前のどこが小栗〇じゃ! せいぜい大〇洋じゃろ!」

 

真顔でふざけてくる銀時に学園長が勢いよくツッコむと、傍らで腕を組んで眺めていたエヴァは、フンと鼻を鳴らし

 

「コイツの名前は所持していた免許証で確認した、本名は坂田銀時というらしい」

 

「おい、人の名前を勝手にこんな得体の知れないエイリアンに教えんじゃねーよ、タマゴ植え付けられちまうだろうが」

 

「誰がエイリアンじゃ! なんじゃコイツ! ホントなんなの!? 喧嘩売ってんの!?」

 

さっきから明らかに自分の事を人間として見ていない銀時、このふざけた態度に一度鉄拳制裁を加えてやろうかと思いながらも、相手があの悪名高い第三世界の住人だと思い出し、学園長は渋々と言った感じで座り直した。

 

「ふぅ、やはりというかなんというべきか……第三世界の連中は本当にガラの悪い連中ばかりでなっとらんわい……」

 

「その点に関しては私も同意だ、コイツ等は基本的に前屈みになって常に攻撃態勢を取ってくるからな、種族関係なく世界全般が主に争い事に特化しているのだろう」

 

「いやはや物騒な世界じゃて、世紀末かっつーの……して坂田銀時やら」

 

「あん?」

 

エヴァと話しながら改めて銀時の世界が野蛮に満ち溢れている事を再認識すると、学園長は小指で耳をほじっている銀時に神妙な面持ちで話しかけた。

 

「単刀直入にズバッと聞くぞ、おぬしがこの世界に来た目的はなんじゃ? まさかとは思うがこの世界を侵略しに来たとかではあるまいな?」

 

「はん、んな訳ねぇだろ天人じゃあるめぇし、俺はただジジィが発明したトイレでウ〇コしてたら、いつの間にかコイツの家にウン〇事流れ着いただけだ、侵略どころかこの世界の存在さえも今知ったばかりだよ」

 

「ちょっと待て! 今サラッとおかしな事言わんかったか!? なんでトイレで大を出してたらこっちの世界に来れたの!?」

 

「知らねぇよ、そういう原理なんだろ、大した事じゃねぇんだから気にすんな、笑って流せ、トイレだけに」

 

「いやうまくないわい! 全然大した事あるじゃろ! トイレだけに!」

 

「お前もうまくねぇんだよ」

 

銀時の口から放たれたなんとも不可解な証言に思わず声を荒げてしまう学園長

 

それもその筈、向こうの世界からまさかトイレを用いて侵入する輩など前代未聞だ。

 

「ううむなんとも怪しい男じゃ……これではどう扱えばいいのやら、このまま放りだしては危険じゃし……」

 

「なら始末するか? 手っ取り早く殺した方がすぐに問題解決だろ」

 

「いやそれは許可できんわい……殺すとか物騒だし、こ奴を殺めた事がキッカケで向こうの世界とまた戦争でも始まらるやもしれんし……」

 

「フン、冗談で言っただけなのに真に受けるな、私とてこの学園内では無駄な殺生が起こる事はあまり快くない」

 

こうなっては銀時の今後の扱いをどうすればいいのやら非常に難しい

 

エヴァの冗談もつい真に受けてしまう程に悩みながら、学園長は机に頬杖を突きながら彼を一瞥

 

「あの……来た目的がないならなんとかして元の世界に帰ってくんない? マジで」

 

「いや、それが出来ねぇからこっちはわざわざここに出向いてんだけど、なんとかすんのはテメェ等の方だから」

 

「勝手に自分から来ておいて偉そうだなおぬし……なんとかすると言っても、こちら側からおぬしのいる世界に行けた前例は一つも無いんじゃぞ」

 

第三世界は謎が多く、あちらからこちらに来る者はいても、こちらから向こうに行けた事は今まで一度たりとも起こっていない。

 

故に偶然にもこちらに飛ばされてしまった銀時を、おいそれと簡単に送り返す事もさえ、いかに学園長と言えども無理な話であった。

 

すると見かねたエヴァが助け舟を出すかのように

 

「なら”葉加瀬”の奴にでも頼んでみるか? 元はと言えばコイツがここに来た原因は、とある発明家が作った代物らしい、そいつと全く同じのを奴に作って貰えれば同じ方法でなんとかなるやもしれんぞ」

 

「おお、そういやウチにはあの娘がおったな、麻帆良学園随一の発明娘」

 

彼女の助言を聞いて思い出したかのようにポンと手を叩く学園長。

 

「しかし流石に彼女でも世界線を移動する発明品など造れるのか?」

 

「ダメ元で頼んでみるしかあるまい、今度私から聞いといてやる、いざとなったら第三世界の科学文明を超えてみせろだのなんだの言って焚き付ければ奴も熱心に挑むだろうよ」

 

造れるかどうかはわからないが、彼女であればきっと対抗意識を燃やして挑戦はするであろうとエヴァは予測する。

 

発明家としてのプライドを賭けて、彼女が今以上に積極的に発明に取り組めば、もしかしたら不可能ではないのかもしれないと

 

しかしそんなエヴァの予測に対し、銀時の方はしかめっ面で口をへの字に曲げ、明らかに信用していない態度で

 

「おいおいなんだそりゃ、その葉加瀬って奴がどこの発明家なのか音楽家なのは知らねぇけど、言っておくけど俺を飛ばした「どこでもトイレ」っつう代物はな、ウチの国で最もからくりに関しては右に出るモノがいないと評されるほどの平賀源外が造り上げたモンだぞ」

 

助けてくれるのは結構だが、あの「どこでもトイレ」と同じモノをこちら側の技術のみで造り上げる事に関しては流石に難しいと彼は異議を唱えた。

 

「確かにあのジジィは薄情だし金にうるせぇし元テロリストだし息は臭いけどよ、そんじゃそこらのペーペーが野郎の作ったモンと全く同じのを造りあげるなんざ無理だろ」

 

「けなしてるのか高く評価してるのかどっちなんだお前……フン、貴様こそこちら側の事をわかっていないみたいだな、そちらが高い科学技術を誇ろうとこちらには魔法という貴様等の世界には無い武器がある、補う術はいくらでもあるさ」

 

「だったら手っ取り早くその魔法とやらで俺を下の世界に送ってくれよ」

 

「それが出来ぬから今こうして私は我慢して貴様の面倒を見てやっているんだろう、たわけめ」

 

魔法と言ってもそうなんでも都合よく解決できるモノではない、確かに別の世界へ赴く為に魔法が使われる事はよくあるが、銀時の住む世界ではそう簡単にはそれが出来ないのだ。元々彼の居る世界は他二つから完全に隔離、いわば”鎖国”状態の世界だ、侵入経路は未だ発見されておらず、魔法を用いて抜け穴を探す事はほぼ無理と言ってもいい。

 

「”召喚魔法”というのはあるが、それはこちらに呼び寄せる為に用いる魔法だしな、貴様を向こうの世界からこちらに召喚する事は出来ても、その逆の事は出来ない、残念だったな」

 

「召喚魔法? おいお前まさか、俺がここに来たのはどこでもトイレが原因じゃなくて、お前が俺をここに召喚したんじゃ……」

 

「いやそれだけは無い、どれだけ孤独感に苛まれて極限状態になろうとも、わざわざお前みたいなちゃらんぽらんを好き好んで召喚する程私はバカではない」

 

ひょっとして原因は彼女にあるのではと変に疑って来る銀時にエヴァはハッキリとそれは無いと断言

 

「そんな真似したらこのまま私が責任を負う羽目になるじゃないか、私は貴様の面倒などこれ以上見たくはない、さっさと帰ってドラマの再放送観たいんだ、さっさとジジィと話付けて終わらせろ」

 

「んだとこの厨二小娘、俺だってテメェみたいなガキの話聞くのウンザリしてんだ、という事でおいジジィ、さっさと俺を元の世界に帰る方法を見つけ出してくれ、もしくは行く当てのない俺を手厚く保護しろ、そしてこのチビを退学にしろ」

 

初めて出会った瞬間があまりにも最悪過ぎて、互いに悪い印象しかないエヴァと銀時

 

彼女に言われて銀時はケッと吐き捨てると、言われるままに学園長に向き直って自分の処遇をどうするのかと結論を尋ねだす。

 

すると学園長はしばしの間「ん~~~~」と勿体ぶりながら首を傾げて長考すると

 

「そんじゃまあ……おぬしの事は解決策が見つかるまではワシ等、「麻帆良学園」に属する者の監視下に置かれるという事で、手荒な真似はせんから安心せい、おぬしが暴れ出したら別じゃが」

 

「そうか、話がわかるジジィで助かったよ、やっぱ困った時は長年の経験を糧として進み続ける年季の入ったジジィに頼るのが一番だな、”く”るしい時、”そ”んな時に助けてくれる”ジジィ”、略して……」

 

「”クソジジィ”じゃねぇか!」

 

 

ようやく自分の偉大さがわかってくれたのかと思いきや、遠回しな暴言を繰り出して来た銀時に思わず学園長は自分で叫んでしまう

 

「ったく……そんじゃま、おぬしをわし等の監視下に置くのは良いとして、問題はおぬしをどう扱うかについてじゃが、今日はもうおぬしと話してるだけでドッと疲れたから考えるのも面倒じゃ、明日にでも決めておくからそれでしくよろ」

 

「しくよろってなんだよ、もうとっくに死語じゃねぇかそれ、ジジィのクセに今風の若者の言葉を取り入れようと頑張ってんじゃねぇよ」

 

「そんでおぬしがこの世界に滞在している間は」

 

いきなりやってきた来訪者を以外にもあっさりと受け入れてかつ、どんな形で保護するかについても考えてくれているらしい学園長

 

所々適当な言動が目立つが、それでも一応銀時の処遇については検討するみたいだ、まあこの感じだとその処遇についても適当に決めそうだが……

 

「それと、そこの小娘が心優しく受け入れてくれるみたいなので、しばらく彼女の下で生活してくれ」

 

「はぁ!? おいどうしてそこで私が出てくるんだ! どういう事だジジィ!」

 

「どういう事も何も、この男が現れたのはお前の所のトイレだったんじゃろ?」

 

そそくさと一人で帰ろうとしていたエヴァであったが、学園長が銀時に言った言葉に即座に振り返る。

 

ここに来て一番の面倒事を押し付けられるとは思ってもいなかったからだ。

 

「おぬしのトイレから出て来たモンは、おぬし自身で最後まで始末つけるのが普通じゃろが、出したモンはキチンと自分で流さんか」

 

「生々しい表現を使うな! コイツが私のトイレに出て来たのはただの偶然だろうが! 私はこれ以上コイツの面倒なんぞ見たくないわ! ただでさえ自分で一杯一杯なのに!」

 

「まあこっち来てちゃんとわしの話を聞け」

 

まさかの銀時の面倒をこれからも見なきゃらならないなんて、彼女としては絶対に嫌だった。

 

そもそもこの男とは色々とウマが合わないのである、ちょっと会話をするだけですぐ喧嘩に発展しそうになるのに

 

その上、もし同じ屋根の下で住むことになったら、それこそ毎日がどったんばったん大騒ぎになるのが目に見えている。

 

しかし学園長の狙いは別にあるらしく、こちらに身を乗り出して来たエヴァに、銀時に聞こえないよう小声でコッソリと彼女に耳打ちする。

 

「考えてみろ、あ奴は野蛮人供の吹き溜まり、あの第三世界の住人じゃぞ、目を離せばすぐに問題起こすであろう事は、こ奴の無礼な態度から見るに明白じゃろ? ここはおぬしがお目付け役としてしっかり見張っておくのじゃ、坂田銀時がこちらの世界にまで厄災を振り撒かん様にな」

 

「なんで私がそんな事をしなきゃならんのだ……そんな事はタカミチにでもやらせておけば良いだろう、オッサン同士で仲良くなるかもしれんぞ」

 

「彼は彼でやってもらう仕事があるんじゃ、それにアレじゃぞ? もしおぬしがこの男を引き取ってくれたら、特例としておぬしの家を見張る者達を立ち退かせてやるわい」

 

学園長が取引に用いた条件を聞いてエヴァの耳がピクリと反応した。

 

彼女の家の周囲には魔法によって一般人には認識できない警戒包囲網が敷かれており、迂闊な行動が出来ないようになっている

 

自分の家だというのにいつも誰かに見張られている事に対して常々不満を持っていたエヴァにとっては、悪くない話だ。

 

「……そんな事出来るのか? この私はこの男の存在など霞んでしまうぐらいに危険人物だぞ」

 

「わしを誰だとおもうとる、この麻帆良学園で最も偉くて偉大な権力者じゃぞ、それに最近のおぬしはまあ授業態度は相変わらず最悪じゃが、特に悪さをする様な真似はしとらんからな、最近じゃおぬしを警戒しているのも一部の教師達だけじゃし」

 

「馬鹿め、その一部の警戒している教師達とやらの方がずっとまともだ、私は数百年の中で一体どれ程の人間を殺したのか忘れる程にボケたのかジジィ」

 

「忘れとらんからこうしてこの学園内におぬしを封じ込めているんじゃろ、無論見張りを退かしてもわし等はキチンとおぬしの事を見ておるぞ、安心せい、何か悪さしたらすぐ学園中にいる魔法使いがおぬしにお仕置きしてやろう」

 

「……」

 

多少は警戒心を緩和するものの、自分が良からぬ事を企めばすぐに動く事が出来るぞと念を押して彼女に呟く学園長。

 

そんな食えない爺さんの取引にエヴァは顔をしかめて考え込むと、しばらくしてスッと顔を上げて

 

「茶々丸に連絡するから一旦外れるぞ、ジジィにいらんモンを押し付けられたから嫌々飼う事になったとな」

 

「なるほど、交渉成立という訳じゃな、まあおぬしなら第三世界の住人ぐらい余裕で転がせるじゃろ」

 

「他人事に言うな、もし我慢の限界が来たらすぐにでも野に放ってやるからな」

 

こちらの話を受け入れてくれたという事で安心したように呟く学園長に一瞥すると、エヴァはやや不機嫌そうに学園長の部屋から一旦退出した。

 

そして残された銀時はというと、自分の今後が彼女に任されたと気付いて

 

「……チェンジとかって出来ねぇの?」

 

「すまんのお客さん、ウチはチェンジ無理なんで」

 

彼も彼であのいけ好かない小娘と一緒に生活を送るのは嫌らしく、学園長に別の人に変わって欲しい頼むも無下に却下されるのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくして、学園長の部屋、麻帆良学園を後にした銀時は、再びエヴァに連れられ

 

この世界に初めてやって来た場所である彼女の家の方へ移動していた。

 

しかしエヴァの足が突然家の前でピタリと止まると

 

「ほれ、そこが今日から貴様の新しい寝床だ、心優しい私に感謝しろ、なに不自由なく暮らせるマイホームだぞ」

 

「……おいテメェ、まさかお前、”アレ”が俺の寝床だってほざいてんのか? ありゃどう見ても……」

 

彼女が顎でクイッと指した先にある、家の前にポツンと佇んでいるモノを見て銀時は怪訝な表情を浮かべると、すぐにそのこめかみにブチッと青筋を浮かばせて

 

「犬小屋じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ふざけんなコラ! なんで俺が犬小屋に住まなきゃならねぇんだよ!!」

 

「犬小屋とは失礼な奴だ、これはついさっき私が帰る前に茶々丸に頼んで作らせたモノだぞ、時間が無かったせいで少々小さくなってしまったがな」

 

エヴァの家の前には出掛ける時には見当たらなかった、質素ではあるモノの結構頑丈に作り上げられた犬小屋が建てられていた。

 

どう見ても大人一人が丸まってようやく中に入れるスペースしかない、しかも雑に屋根の上に掛けられている表札には銀時ではなく「きんとき」と書かれている。

 

「銀時だから! きんときってなんだよ! 辰馬みてぇなしょうもねぇ間違いしやがって!」

 

「辰馬? 名前の間違いなどどうでもいいだろ、いいか貴様、私が嫌々ながらも面倒を見てやるんだ、これからはそれ相応に私に従順になってもらうぞ」

 

名前の間違いにもキレる銀時を軽くスルーすると、エヴァは自分の立派な家の方へ歩きながら、その場に残された銀時に嘲笑を浮かべながら指を差す。

 

「手始めにまずは己が私の下で飼われている「犬」だと認識しろ、飼い主に噛みつく真似でもしたらすぐに飯抜きにしてやるからな、覚悟しろ駄犬」

 

「……このガキ、よもやこの俺を調教しようってか? あっさり俺を預かる事を引き受けたのもその為か」

 

「まあそれもあるな、私は自分に反発する者に対してはとことん容赦ない制裁を与えるのが昔からの趣味なんでね」

 

ここに来て自分を飼い慣らそうという魂胆を隠しもせずに曝け出したエヴァに、それが彼女からの自分への挑戦だと断定して銀時の死んだ目が一瞬だけ鋭く光った。

 

だがエヴァは彼女の目が変化した事に気付かず、自分の家に中へと入って行き

 

「私の許可なくこの家に入ったら許さんからな、なぁに、これから仲良くしようじゃないか”きんとき”」

 

「……」

 

ニヤニヤしながらそう言い残すと、彼女は暖かい我が家へと帰って行った。

 

そしてドアが目の前でバタンと閉められた後、取り残された銀時はというと一人フッとそのドアに向かって笑い

 

「はん、上等じゃねぇかクソチビ……この俺を調教するだと、やれるモンならやってみやがれ」

 

異世界にやって来て早々この理不尽な扱い、しかし彼はヘコ垂れる様子は微塵も見せず

 

むしろ負けてたまるかと、改めて彼女に対しての強い反抗心を一層燃やす。

 

「とくと味あわせてやるよ、”侍”ってモンが魔法使いだの吸血鬼だの、そんなモンよりもずっとヤベェモンだって事をよ……」

 

そう呟くと銀時は堂々とエヴァのいる家の前にツカツカと歩み寄る。

 

そしてドアの前に立つとスッと手を伸ばして……

 

 

 

 

 

 

「ご主人様ァァァァァァ!!! 晩飯恵んで下さぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

「ええいうるさい! 今茶々丸が作ってるから待ってろ駄犬!!!」

 

侍のプライドなど速攻かなぐり捨ててドンドンドンと全力で叩いて晩飯を催促するのであった。

 

果たして、突然見知らぬ世界にほおり出された坂田銀時は、無事にこの世界で暮らせるのであろうか……

 

 

 

次回に続く。 

 

 

 

 

 

 



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第三訓 ジャンプを読む奴に悪い奴はいない

「朝か……」

 

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの朝は早い、学校があるからだ。

 

昨日は色々と散々な事に巻き込まれ余計なモンまで預かる身となってしまった彼女だが

 

それもほんの短い間の筈だと決めつけ、さほど気にする様子も無くいつも通りに熟睡していつも通りの朝を迎えるのであった。

 

 

 

 

 

犬小屋の中で

 

「ん? あれ? あれぇぇ!?」

 

周りの空間が妙に狭いと寝ぼけながら見渡そうとすると、すぐにゴツンと頭を打って我に返ったエヴァ。

 

即座にここが自分が寝ていた私室ではないと気付くと、すぐにバッとその狭い小屋から飛び出す。

 

「あ、あの野郎……!」

 

小屋に書かれていた表札が「きんとき」ではなく「くそちび」に改名されていたのであった。

 

 

 

 

 

一方その頃、本来その犬小屋に住む筈であった銀時はというと

 

「起きて下さい、朝食の時間です」

 

「ん~もうちょっと寝かせてくれよ……俺基本的に昼まで寝るタイプだからさぁ……」

 

「……」

 

勝手にエヴァの私室に入り込み、更には彼女のベッドの上でゆっくりと起床するのであった。

 

エヴァ専属のからくりメイド・絡繰茶々丸は、彼女が寝ていると思ったらいつの間にか髪の毛ボサボサの天パのおっさんと入れ替わっていたことに「?」と首を傾げて見せた。

 

「失礼ですがマスターはどこに?」

 

「マスター? マスターってなに? 酒場の?」

 

「マスターはマスターです」

 

「いや知らねぇよ、なんでもマスターで通じると思うなよ、世の中全部マスターで渡りきれると思ったら大間違いだ」

 

彼女の言うマスター=エヴァという事に関してはまだピンと来ていない様子で、銀時はベッドの上で上体を起こしながら瞼をこすりながら文句を垂れると、再びゴロンと横になり

 

「とりあえず俺はジェダイの騎士でもポケモントレーナーでもねぇからさ、マスターなんてモンに興味ねぇんだ、だからこのまま寝かせてくれ、夕方まで」

 

そう言って再び寝入ろうとする銀時だが、するとそこへ下からドタドタと勢いよく階段を上って来る足音が

 

「なに人のベッドで寝てんだ貴様ァァァァァァ!!!」

 

「あら、おはとうございますマスター、いつお出かけになられてたんですか?」

 

「茶々丸! お前なんで主が外で寝ていた事に気付かなかったんだ!」

 

2階であるここまで全力ダッシュで駆け上がって来たのは案の定エヴァであった。

 

銀時に寝床を奪われた事に怒り心頭の様子で、同じく自分の存在にずっと気付いていなかった茶々丸にも怒鳴りちらす。

 

「ええいもういい! お前はさっさと下で朝食の用意しろ! ちゃんとハムエッグとコーヒーだろうな!」

 

「残念ですが今日は卵かけご飯です」

 

「またか! ここ一ヶ月ずっと卵かけご飯だぞ! 新手の嫌がらせか!? 主に対する遠回しの謀反か!?」

 

「いえ、ただ私が卵かけご飯を作る練習をしてるだけです」

 

「その練習に強制的に付き合わされてるのか私は! ていうか卵かけご飯作るのに必要なのか練習!」

 

朝から茶々丸と不毛な言い争いを続けるのエヴァに、流石に銀時もうるさかったのか再び上体を起こして不機嫌そうに

 

「うるせぇぞクソチビ、俺の眠りを妨げるたぁいい度胸じゃねぇかコラ」

 

「貴様こそ人のベッドを勝手に横取りして二度寝しようとするとはいい度胸だな!」

 

勝手に人のベッドにお邪魔して悪いと微塵も思っていない態度の銀時に、エヴァはズンズンと彼の方へ詰め寄る。

 

「というか貴様、いつの間に私をあの犬小屋にほおり出したんだ……」

 

「ああ? 夜中にコッソリ屋根伝いに2階の窓から忍び込んで、バカ面晒して寝てるお前をベッドから引きずり降ろして、そのまま1階にいた小せぇからくりロボと数十分喋り込んだ後、お前を犬小屋にポイして俺はここに戻って寝た、そんだけだ」

 

「普通に屋根上って忍び込んでくるな! 侍と自称してたクセにやってる事忍者じゃないか! というかチャチャゼロなにしてんだアイツ!」

 

ペラペラとやたらと詳しく語り出した銀時に、エヴァが腕を組みながらワナワナと怒りに震えていると

 

「マスター、学園長から電話です」

 

「ああ!?」

 

そこへ1階に戻っていた筈の茶々丸が再びひょっこりと顔を覗かせ出て来た。

 

「今忙しい! 後にしろ! 今から私は吸血鬼のプライドに賭けてこの人をナメ腐った天パをボコボコにする!!」

 

「いえ、用事があるのがどうやらマスターではなくそちらの坂田様の様です、なんでも至急学園長室に来いと」

 

「なに? まさかもうコイツの処遇について結論が出たのか? ジジィのクセに早いな……」

 

どうやら学園長から電話が来ていたらしく、それもエヴァではなく銀時に対してのメッセージだったみたいだ。

 

それを聞いてエヴァは顔をしかめながら銀時の方へ振り返る。

 

「おい、ジジィが貴様を今後どう扱うか決めたみたいだぞ、さっさと行って来い、お仕置きは一旦後にしてやる」

 

「くかー……」

 

「だから人のベッドで寝るなぁぁ!!!」

 

「ぐぼッ!!」

 

一瞬目を離した隙にまたもや自分のベッドで眠りに入ろうとする銀時に

 

エヴァはベッドの上に飛び乗って彼の腹に勢いよく両膝を落とすのであった。

 

 

 

 

 

それは一枚の手紙

 

ネカネお姉ちゃんへ

 

拝啓、新春を過ぎた頃。

 

僕、ネギ・スプリングフィールドが受け持つA組の皆さんが晴れて中学三年生になって数週間がたちました。

 

みんなとても元気で、むしろ元気過ぎる生徒ばかりで、というか元気過ぎて過激な行動に出てばかりで

 

担任として如何なモノかと、少しは空気読んで欲しいと思っているんですが、それ言うと火に油を注ぐ結末になるのが目に見えてますので、今は心密かに願うのみです。

 

おかげで毎日がハードワークです、教師はブラックだと聞いてましたがブラックというよりもはや漆黒です。同僚の先生方の中にも目が死んだ人達がいます、社会は怖いです、というか年頃の中学生が怖いです

 

でも僕は元気にここで生活を送っています、生徒達ともちゃんと接し(例外もありますが)

 

僕も一人前の先生になる為に彼女達から勉強させてももらってます。

 

特に一緒に住んでいる、木乃香さんと明日菜さんにはとってもお世話になっています。

 

木乃香さんは優しいし料理も美味しいし、凄く良い人です。

 

明日菜さんはすぐ人を張り倒す乱暴者で性格もガサツでおまけに勉学も怠っていてテストは毎回赤点です。

 

けどそんなダメ人間の明日菜さんでも良い所はあります、例えば……あ~……あ、日本で有名な週刊少年ジャンプという漫画雑誌をたまに貸してくれます、面白かったです。

 

「努力・友情・勝利」、これはジャンプ作品におけるという三大原則らしいです、僕も初めて知りました。

 

でも僕はジャンプの中で一番好きな作品は「ギンタマン」という作品であり

 

先程行った三大原則を見事に完膚なきまでに破壊していました、跡形も無く残ってませんでした。もはやジャンプ作品でありながらジャンプに真っ向から喧嘩を売ってるんじゃないかと思うぐらい。

 

でも明日菜さんは言います

 

「そこがいいのよ、人気が無いのが残念だけど革命的で私は好きだわ、わかる奴にはわかるの」

 

と、さも自分はギンタマンのよき理解者なのだとアピールしながら熱く語っていました。

 

少々に鼻につく言い方だなとも思いましたが、僕もそういう所が「ギンタマン」の好きな所なので認めざるを得ませんでした。

 

しかしそんな「ギンタマン」も遂に最終回を迎えてしまいました。

 

完結後、僕もショックでしたが、明日菜さんに至っては奇声を上げながら学校の窓を突き破って2階から飛び降りました。

 

無傷でした、何事もなくそのまますぐに立ち上がりました。

 

あの人多分トラックに轢かれても死なないんだろうなと思います。異世界転生は無理そうです

 

彼女は学校の校庭を泣きながら走り回り、ギンタマンについての思いを延々と叫び出し始め

 

最後には数十人の生徒と先生方によって怒り狂い暴れ出した彼女を無事に捕まえました

 

何名か軽傷を負いました、僕もその一人です

 

作品はモノによっては時に人を狂気に駆り立てる事がある、実にそれがよくわかる事件でした……

 

だから僕はこの事件をきっかけに明日菜さんを反面教師とし、例え好きな作品が終わってもそれを笑って見送る覚悟を持とうと決めました。

 

P・S

 

ところで僕は今、ギンタマンの作者さんに「ギンタマン2はまだですか?」と書いて手紙を送っています。

 

もしネカネお姉ちゃんも暇な時間が空いているのであれば手伝ってくれれば幸いです。

 

P・SのP・S

 

もし書いてくれなかった場合ネカネお姉ちゃんの家にギンタマンの呪いが振り撒かれます。

 

 

 

 

 

「……」

 

自分の家に届いたその手紙を金髪の女性、ネカネ・スプリングフィールドは読み終えると

 

 

「これ……私に対して脅迫してるのかしら……?」

 

思った疑問をポツリと呟きつつ、コレを書いてくれたあの純粋無垢であった筈の少年が

 

社会に毒され、みるみる自分の知る頃からかけ離れているのだと感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな事も露知れず、今年教師になったばかりの10才の少年

 

ネギ・スプリングフィールドはあわてて走りながら目的地 麻帆良学園へと向って行た。

 

「はぁはぁ……! 大変だ寝過ごしちゃった……!」

 

昨日の夜に突然、学園長から電話があり話しと会わせたい人がいるということで明日は早めにくるようにすること、と言われていたのにうっかり忘れていた

 

「社会人であるのに遅刻するなんて僕としたことが……けど学園長もあんな時間に電話する事無いのに……」

 

一人で愚痴りながら走って行くと、そういえばと、ふと自分が住んでいる女子寮にいる二人の生徒を思い出す。

 

「今頃は明日菜さんと木乃香さんも学園に向う準備かな……明日菜さんはまだギンタマンショック引きずってるから遅刻しそうだな……」

 

校門を潜り抜けながらふと我がクラス一番の問題児の事を思い出し、ふと不安になるネギ。

 

「そういえば今日はジャンプの発売日だっけ? いつもは僕が購買部で買っておいて、朝のH・Rが始まる前に読んで終わったらそのままアスナさんに奪われるっていつものパターンだけど、ギンタマン終わってもまだジャンプ読むのかなぁ、明日菜さん」

 

大のお気に入りの作品が終わってもなお彼女がまだジャンプに固執するのであろうか

 

いや多分読むだろう、ギンタマン以外にもジャンプには夢と希望と冒険が詰まった作品達が揃い踏みなのだ。

 

「どうしよう、買いに行きたいけど、学園長の話しがあるし、今日は諦めるしかないか……」

 

今から購買部に寄る時間など無いと察し、ネギは深いため息をついて改めて目的地に向かうのであった。

 

 

 

他の教師陣達と何度かすれ違って挨拶しながら、ネギは学園長の部屋の前にようやく辿り着いた。

 

少々遅刻してしまったが、学園長の事だ、案外約束自体忘れてるかもしれない……そう思いながらドアをノックすると、ネギは学園長の部屋のドアを恐る恐る開けた。

 

「し、失礼しまーす……すみません遅刻しました」

 

申し訳なさそうにしながらゆっくりと部屋に入って行くネギ、しかしそこにいたのは学園長ではなく……

 

「遅刻だぁ? テメェ社会ナメてんのかコラ、次やったら『マッスルスパーク』だからな、もしくは『マッスルグラビティ』」

 

「……へ?」

 

見知らぬ銀髪の男の人が、ジャンプ読んで学園長の椅子に勝手に腰掛けて優雅に読書していたのだ。

 

銀髪の天然パーマで、服はスーツの上に白衣を着て、足元はサンダル

 

眼鏡を付けて、口にタバコを咥え、そして目は死んだ魚の目をしている……

 

そして一番気になるのは腰に差す「洞爺湖」と彫られた木刀だ。

 

一体誰なのかとネギがしばらくジロジロ見ていると、その視線に気付いたのか銀髪の男はジャンプから顔を上げて

 

「何見てんだコノヤロー、俺が持ってるジャンプそんなに気になんのか?」

 

不機嫌そうに銀髪の男が呟いた、怒ってるのかどうかよくわからない表情だ。いまいち掴み所が無い。

 

ネギはしばらく躊躇いを見せつつも、後頭部を掻きながら思い切って彼の方へ自ら歩み寄って行き

 

「えっと……どなかか知りませんがとりあえず遅刻してすいませんでした、それとジャンプ読みたいです」

 

謝りながらも己の自分の欲求に逆らう事は出来ないと、今週号のジャンプを読みたいと素直に告白するネギ

 

すると銀髪の男はけだるそうに顎をさすりながら

 

「俺が読み終わったら貸してやるよ、あとそんなに何回も謝るな、まるで俺が悪モンみたいじゃねぇか」

 

「ああいえ、別にそんなつもりじゃ……」

 

「いいか、ジャンプ読む奴に悪い奴なんざいねぇんだ、俺は他人に金は絶対に貸さねぇが、同じジャンプを愛する男ならいつでも貸してやらぁ」

 

「えぇ!? あ、ありがとうございます!」

 

「感謝しろよ、特に今の俺は機嫌がすこぶる良いしな」

 

銀髪の男はまた同じテンションで答えた所から見て、どうやらこれが彼にとっていつもの状態なのであろう。

 

別に不機嫌ではなく元々こういう性格なのだ。

 

そう思うとこちらもそんな警戒する必要無いんじゃないかと、ネギは同じジャンプ好きだし友好的に接してみようと試みようとする、だが……

 

「なにせあの醜悪なる『ギンタマン』がようやく消えてくれたんだからよ」

 

「……?」

 

「だが俺としては早く抹殺して欲しかったがな、まあジャンプの唯一の汚点が綺麗さっぱり消えてくれて万々歳だ、オメェも嬉しいだろ?」

 

「待って下さい……」

 

「あ?」

 

彼のその失言をキッカケに

 

「ちょっとお話よろしいですか……」

 

基本的に温厚で通っている筈のネギは怒りの限界点を軽々と超えるのであった。

 

 

 

 

 

 

それから数分後、ようやく部屋に学園長本人が戻って来た。

 

「いや~わしが遅刻してしまったスマンのネギ君、実はちょっと便の切れが悪くての、いや~若い頃はキレッキレな作品を生み出せたんじゃが……ん?」

 

聞いても無い事を言いながらドアから入って来た学園長だが、すぐに目の前で行われている出来事に小首を傾げ

 

「お前等何やってんの?」

 

「いいですか! 『ギンタマン』の凄さというのはあの常人には真似できないセンスなんですよ! ああいう素人じゃ真似できないブラックユーモアや、勢いのある叫び声やツッコミのキレが笑いを取れるんです!」

 

「はぁ!? あんなもんただの下ネタ満載のオンパレードだろうが! つうかもはや存在自体が下ネタだよ! ガキのくせにあんなもん見てんじゃねぇ! コロコロコミック読んでろ!」

 

「あの作品が終わった事でジャンプが今、深刻な作品不足に陥っているのにまだ気づいていないんですか!? それでもジャンプ愛読者ですか!?」

 

「お前こそバカ言ってんじゃねぇよ! ジャンプはあんなの終わったぐらいで屁でもねぇ! いくらでも替えがきくんだよ! それがジャンプの強みだ!」

 

学園長の存在に気付かずに、延々と銀髪の男とジャンプの方針について論争するネギがそこにいたのだ。

 

 

 

 

「すいません思わずヒートアップしてしまいました……」

 

それからしばらくして、ようやく学園長の存在に気付いたネギは深々と彼に謝るのであった。

 

「いやいいんじゃが……君でもあんなに異常なほどテンション上がるんじゃね」

 

「僕だってたまには周りの目を気にせず叫んでしまいたい事があるんです、そういう年頃なんです」

 

「ああそうなの……ていうか銀時、その年でジャンプの行方について子どもと討論するな、情けないと思わんのか?」

 

この人は銀時というのか……ネギは改めて喧嘩していた彼の名前を知ると、次にこの人なにをやっている人なのだろうかと疑問が頭によぎる。

 

すると銀時は自分を叱る学園長に向かって「チッ」と堂々と舌打ちをすると

 

「黙れエイリアン、大気圏で消し炭にすんぞ、ジャンプを愛する者に年なんざ関係ねぇ、みんな少年なんだよ、少年の心を持った純粋な者のみがジャンプを愛せるんだよ」

 

「訳わからん事言うでないわい! ていうかお前今普通に舌打ちじゃろ! わし学園長じゃぞ! この学校で一番偉い存在なんじゃぞ!」

 

「知るかよそんな事、どうせ元々いた学園長を殺して乗っ取っただけだろ、早く地球防衛軍に抹殺されろ」

 

「お前どんだけわしをエイリアンにしたい訳!?」

 

怒鳴り出す学園長に対してもこの態度、どうやら銀時という男はどんな相手であろうと基本ケンカ腰になれるらしい。

 

ネギは珍しいタイプの人だなと銀時を見上げながらそう思っていると、学園長はそんな彼を睨みつけつつ、先程銀時が座っていた自分の椅子に座ると、深呼吸してしばらくの沈黙の後やっと口を開けた

 

「ネギ君、改めて言っておくがこの男は坂田銀時という男じゃ、既に察していると思うが品性の欠片もない最悪の男じゃ、年上に対して敬いもせんこの救いようのない人間性、平気で人に罵声を浴びせるなどホントに酷い奴なんじゃ」

 

「そこまで言いますか!? 一体僕が見てない間にこの人と学園長の間でなにがあったんですか!?」

 

「いやまあそれはそれとして、こっからが本題なのじゃが……」

 

とりあえず銀時に対する学園長の評価がこの上ない最悪だというのがハッキリとわかると

 

学園長は少々言い辛そうに早速ネギに本題を話し始める。

 

「まあコイツ、この坂田銀時なんじゃが……当分の間ここで国語の先生になってもらう事にした」

 

「……へ?」

 

「そんで君が担任しておる3年A組、そこで”坂田銀八”という名で副担任になるから、ネギ君、君は今日からこの男が悪さしないようバッチリ監視しておくれ」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

まさかの急展開にネギは素っ頓狂な声を上げて思わず銀時の方へ顔を上げる。

 

一体どういう事だ、この男が教師? それも自分のクラスの副担任になる? 坂田銀八という偽名で?

 

そして何より、なんで自分が監視しなければならないのか……?

 

数々の疑問が膨大に浮かび上がるネギであるが

 

次回、その疑問が次々と解明されていくのであった。



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第四訓 おっさんの子守りを任せられた少年

「教師になれ?」

 

「そうじゃ」

 

学園長に呼び出され再び学園長室にやってきた坂田銀時。

 

そんな彼に学園長は開口一番に放った言葉は、まさかのこの学校で教師として振舞えというかなりの無茶振りであった。

 

「あのさ、俺はさっさと元の世界に返せって言ったよね? なのになんでそっから俺が先公にさせる必要があんの? やっぱボケてんのか、ボケてんだなクソジジィ、ボケてますって素直に白状しろ」

 

「ボケてねぇし! いいか銀髪、おぬしは今からこの麻帆良学園の一教師を装って、己の本当の素性を隠し通す必要があるのじゃ」

 

執拗に呆気てしまっているのだろうと尋ねて来る銀時に一喝すると、学園長は何故こんな無茶振りを彼に要求したのかその理由を語り始める。

 

「第三世界の住人というのはなにかと昔からわし等魔法使いと強い因縁がある、中にはおぬし等に恨みを持つ者も星の数ほどおるじゃろう、故にうっかり正体がバレてしまってはならん、もしバレたら第一世界に住む魔法使い達がすぐにでもここにゾロゾロとやって来ておぬしを捕まえに来るやもしれん」

 

「どんだけ過去の事引きずってんだよそいつ等、攘夷志士かっての」

 

「もしそうなったらこっちも面倒なんじゃ、だからおぬしの正体は出来るだけ拡散を防ぐ為に、この学園にいる他の魔法使いの教師達にも話しておらん、おぬしの素性を知るのはわしとエヴァ達、それとこの後紹介する一人だけじゃ」

 

彼の素性を知る人が増えてしまうと何かと厄介だ、ここは出来るだけ穏便に済ませ、コソコソと隠し通して何事もなく元の世界に返そうというのが学園長の判断だった。

 

出来るだけこの麻帆良学園に面倒事を起こして欲しくない、故に彼は銀時が第三世界の住人だというのを隠蔽し、ただの教師として周りに溶け込ませようと狙っているらしい。

 

「木を隠すなら森の中、とかいうじゃろ? ここはまずおぬしには普通の教師を演じてもらい、元の世界に帰れるその日まで己の素性を隠してもらいたいんじゃ」

 

「別に正体を隠すなら家にずっと引きこもってても良いんじゃね? 俺そっちの方が良いんだけど、楽だし」

 

「そんな事あのエヴァが許す訳ないじゃろうが、それにアレじゃぞ、最近じゃその年で引きこもりになると逆に目立つ時代なんじゃぞ、「いい年して幼女に養ってもらっている引きこもり」とか題されてテレビに映されるぞ?」

 

しかしボリボリと髪を掻き毟りながら銀時はあまりやりたくない様子、だが学園長はここで彼がやってもらわないとこっちも面倒事になるので引かない。

 

「とにかくこれは決定事項だから、おぬしにはもう3年A組の副担任としてしばらくここで働いてもらうからな、他の教師達にもおぬしの事は「いい年してずっと引きこもりの息子を持つ親に頼まれて、こちらで教師として預かる事になった」とわしが上手く説明しておいたから」

 

「全然上手い説明になってねぇんだよ! なんだその設定! 結局引きこもりじゃねぇか俺!」

 

学園長のいらん設定付けに銀時はツッコミを入れつつ、渋々といった感じで彼の提案を受け入れるしか無かった。

 

こうなったらヤケだ、自分にとって教師というモノがはっきりイメージできるのは幼い頃に出会った「彼」だけだが

 

要するに教科書に書かれている事を適当に言ってればなんとなく教師っぽく見えるであろう。

 

「ったく、じゃあとりあえず教師としてまず何すればいいんだよ」

 

「そりゃまずはその服装じゃろ、言っておくがわし等の世界ではそんな恰好するモンはほとんどおらんぞ」

 

「マジでか、もしかしてこの世界では俺の格好って時代遅れって奴?」

 

「数百年分時代遅れじゃの」

 

「そんなに!?」

 

ようやくやる気になった様子の銀時に最初に学園長が持ち出した問題の解決は彼の服装であった。

 

今時着物を普段着にしている者などこの時代ではほとんどいない、それに腰に差してる木刀も普通に危ない……

 

「この世界で教師になるならやはりスーツじゃの、あとその木刀は物騒じゃから見に付けんでくれ」

 

「いやコレは侍としてのアイデンティティなんで、俺にとってはもうおしゃぶりみたいなモンだからこの木刀だけは譲れねぇ」

 

「そうか、まあウチの生徒達の中にも、真剣所持してたり手裏剣隠し持ってたり、終いには重火器沢山持ち歩いてる物騒な子もおるから上手く誤魔化せるか」

 

「ちょっと待て! 今サラッとヤべぇ事言わなかったかジジィ!?」

 

この木刀だけは手放せないと拒否して見せる銀時に意外にもあっさりとそれを了承する学園長。

 

どうやらこの学校には自分以上に危ないモノを持っている生徒達も沢山いるようだ、銀時は本当にここは学校なのかと疑問に思いつつ、踵を返して学園長に背中を向ける。

 

「んじゃまあ、スーツの方はこっちで適当に調達して来るわ、それとなんか教師っぽく見えるアイテムとか」

 

「やる気になってくれたようで安心したわい、どうせわしの話など聞く耳持たんと思うておったが」

 

「郷に入っては郷に従えって奴だ、俺だってこんなめんどくせぇ事したくねぇけどよ、今更ここで駄々こねてても仕方ねぇしな」

 

「ほーん、ただのチンピラみたいな奴かと思うておったが意外と素直な所あるんじゃな、それなら今の内にこちらからもう一つ提案があるんじゃが」

 

「あん?」

 

こうも上手く段取りが進んでくれるとは思ってもいなかった学園長は、スーツを調達しようと部屋を出て行こうとする銀時にまた一つ新たな提案を下す。

 

「おぬしの名前は坂田銀時じゃったな、だがそれは第三世界での名前じゃ、この世界では別の名前を使ってもらう、いわゆるより身分を隠す為の偽名じゃな」

 

「やれやれ今度は偽名かよ……とことん行き辛ぇ世界だなここは、で? どんな名前」

 

「そうじゃのぉ、3年A組の坂田……あ」

 

素性だけでなく名前まで周りにバラすなと釘を刺されてしかめっ面を浮かべる銀時に、学園長はしばし長い髭を撫でながら考え込むと……

 

 

 

 

「ラグナ=ザ=ブラッドエッジはどうじゃ?」

 

「坂田要素どこいった!」

 

学園長の意外なな厨二のネーミングセンスをすぐにダメだと評し

 

最終的に銀時自ら考える事になり、結局某ドラマに出て来る教師にちなんだ偽名を使う事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

「そして生まれたのがこの坂田銀時改め」

 

「坂田銀八です」

 

「その偽名も偽名ですんごいパクリなんですけど……」

 

要約まとめた銀時の説明を聞き終えたネギの第一声は

 

銀時自身の胡散臭さとその偽名は訴えられないかという二つの不安感が混じっていた。

 

「この人が先生やるんですか……? 目が死んでますよ? しかも3年A組の副担任って……僕の生徒とケンカする確率が高い、というか間違いなくやらかすと思うんですが……」

 

「大丈夫大丈夫、俺結構腕は立つから、中坊なんざ余裕で半殺しよ」

 

「いや生徒相手に半殺しはダメですよ!」

 

スーツの上に白衣を着飾りさも教師っぽく演出しているのだろうが、そのどこかで見た眼鏡の奥にある濁った眼からして完全に教師としてのやる気は皆無

 

こんな見るからに化学反応起こしそうな劇薬を一癖も二癖もある三年A組に投入したら、何かしら危険な兆候が起きて、最悪核爆発でもしそうだ……

 

「つうかお前こそ大丈夫なのよかよ、見た目完全にガキじゃねぇか、いくつだ」

 

「えーと10才ですけど……」

 

「10!? 労働基準法とかそれ以前の問題だろうが! どうなってんだこの学校!」

 

「あーそれはですね、一応理由があるんですよ」

 

自分の年齢を聞いて驚いた反応を見せるのも当然だと察し、ネギはすぐに自分の素性も語り出した。

 

名前は「ネギ・スプリングフィールド」、出身国はイギリス

 

この麻帆良学園に教師として赴任したのは見習い魔法使いにとっての修行の一環であり

 

早く立派な一人前の魔法使い「マギステル・マギ」になる為に、日々自分より年上の生徒達相手に悪戦苦闘しながら心身共に鍛えている所だと

 

「だから僕も一応魔法使いなんです、まだ見習いですけど」

 

「ほーん、魔法使いってのはガキの事から随分とハードな教育させんだなぁ、俺がお前等ぐらいの頃は一人前に認められたいとかそんな事考えず、ただ漠然とした夢も抱かずに日々戦場に捨てられた屍を漁ってただけだってのに」

 

「しょうがないですよ、魔法使いが一人前になるなら誰もが通る道……ってあなたの方がハード過ぎません!? 一体第三世界でどんな人生歩んでたんですか!?」

 

サラッと言ったのでつい流しそうになってしまったが、この銀時、見た目はちゃらんぽらんではあるが色々とヤバい事情を抱えている様だ。

 

過去について詳しくと慌てて追求するネギだが「まあ面白くねぇ話だから今言う必要ねぇだろ」と銀時が軽く受け流す、すると学園長がおもむろに

 

「というかネギ君、君はあまり驚かないんじゃな、この男があの第三世界の住人じゃと聞いても」

 

「え?」

 

「魔法学校でも教科書に載っておったじゃろ? あそこの世界の者達がこちら側に戦争吹っ掛けて多大な被害が生まれた事を」

 

「ええまあ、正直ちょっとビックリはしましたが、別に第三世界にいる人達みんなが悪い人だとは思っていないんで、昔あの世界にいる人に助けて貰った事もありますし」

 

「え、そうなの? それはわしも初耳なんじゃけど?」

 

ネギが過去に第三世界の住人に助けて貰った恩があるなど聞いてもいなかった学園長はちょっと驚いたような反応を見せた。

 

「ちなみにそいつどんな奴じゃった? やっぱアレか? 相当ヤバい奴じゃったか?」

 

「まあ頭の方は大分”ヤバかった”ですけど、普通に良い人でしたよ、僕のお父さんとは腐れ縁の中だとも言ってましたし」

 

「君のお父さんという事はあの英傑、ナギ・スプリングフィールドの知り合いなのか……うーむもう少しその辺の話を聞きたい所ではあるが、今はそれよりもこっちの男の処理をせんとな」

 

ネギ曰く、悪人では無いらしいがどうもその人物が引っかかる……

 

しかしここで今話すべき事は過去の話よりも今の話だと、学園長はすぐに切り替えた。

 

「とりあえず話は戻るがのネギ君、さっきも言ったが君にある事を改めて頼みたい。無論それはこの男がなにか問題事を起こさないか監視役になってもらいたいんじゃ」

 

「うーんやっぱりそういう事ですか……確かに野放しにしてると何かやらかしそうで怖いですもんね……」

 

学園長からいよいよ自分をここに呼びつけた理由を聞いて、ネギは不安そうにチラリと銀時を一瞥する。

 

いつの間にか彼は学園長室のソファの上で寝転がり、眠そうに欠伸を掻いていた。

 

「ったく、なんで俺がガキのお守りを付けられなきゃいけねぇんだよ。逆ならともかく俺がガキに面倒見られるって」

 

「ハハハ、仕方ないですよ……あなたの世界って色々と大変な事やらかしてますから、魔法側の人達にとっては、その世界にいたって時点で十分危険人物と認定されちゃう所あるんで……」

 

「そういう思想はどこの世界でも一緒だな、とにかく俺は監視されようが危険人物だと思われようがどうでもいいわ、俺は俺がやりたい事をやらせてもらう」

 

苦笑するネギにそう言うと、銀時は「よっこらしょ」とソファから起き上がってゆっくりと立ち上がった。

 

「教師になろうがそこん所だけは変えるつもりはねぇ、だからお前も覚悟して俺を見張っておくんだな、”ネギ先生”」

 

「心配しなくても僕はあなたが第三世界の住人だからって強い偏見とかは持ちませんよ、確かに学園長に監視役を任命されましたがそんな警戒するつもりはないですしね」

 

「そうかい、ならお言葉に甘えて自由にさせてもらうわ」

 

別に生まれた場所がちょっと違うだけで銀時もまた自分達と同じ血の通っている人間だ

 

それに魔力も持たない普通の人間、さほど強く見張る必要は無いだろうとネギが安易に考えて答えると

 

銀時は以前態度を変えずにボリボリと髪を掻き毟りながら、少年ジャンプを脇に挟んで突然学園長室を出て行こうとする。

 

「ジジィから既に聞いたんだけどよ、俺は今からガキ共のいる教室に行くんだろ? 副担任として赴任したという事でそいつ等と顔合わせしなきゃならねぇとかなんとか」

 

「そうですね、僕もこれから朝のHRの為に教室行きますから一緒に行きましょうか」

 

段取りをキチンとわかってくれているようでホッと一安心するネギ。

 

最初は学園長の言う通り人の言う事を聞きそうにない相手だと思っていたが、思ったよりもこちらの事情を把握してくれている様なので、これならこの先も円滑に彼とコミュニケーションが取れそうだ。

 

しかしネギがそう思ったのも束の間

 

「ってアレ?」

 

銀時がスタスタと歩いた後に

 

ポタポタと何か赤い水滴が学園長室の床に滴り落ちているのをハッキリと彼は見た。

 

これはもしや……とネギがふと不安に駆られながら視線を少し上に上げて銀時をよく観察してみると……

 

 

 

 

 

彼の腰に差す木刀の先から、先程の赤い水滴が落ちてるのを確認したのであった。

 

「ちょ! どうしたんですかその木刀!?」

 

「ああコレ? 別に気にすんな、ちょっとスーツを調達する時にまあある男に……抵抗されてつい」

 

「ついじゃないですよ! もしかしてその木刀でやったんですか! 殺ったんですか!?」

 

「人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ、少し眠ってもらっただけだ、まあ発見が遅れればそのまま永遠の眠りにつくかもしれねぇけど」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

平然と闇が深い事を話す銀時に、もう彼は既になにかしらの事件を起こしたのではないかと推測するネギ

 

しかしそんな事などどうでもいいと言うかの様に、銀時は学園長室のドアを開けて彼の方へ振り返り

 

「ほれ、行くぞネギ先生、可愛い教え子たちが待っているんだろ。早く銀さんに紹介してくれよ」

 

「……」

 

呆然と見つめ返しながらネギはハッキリと前言撤回して警戒心を強めた。

 

この男はしっかり自分が見張っておかねばと……

 

次回、銀さんと生徒達の楽しい顔合わせ

 



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第五訓 中学生なんて大抵思考があっち寄り

学園長室を後にした後、新米教師・坂田銀時は、同じく新米教師兼魔法使いのネギ・スプリングフィールドと共に

 

これから職場であり戦場となる3年A組の教室に向かう事となった。

 

「ところでネギ君、具体的に俺は教室でなにすりゃいいのかよくわかんねぇんだけど」

 

「そうですね、今日は初日ですしまずは顔合わせと軽く自己紹介を済ますだけで良いと思いますよ」

 

教室に向かいながら銀時は前を歩くネギからこれから何をするべきかを聞いてみた。

 

教師歴が彼よりもちょっとだけ先輩なだけあって、ネギは頼られてる事にちょっと嬉しそうな反応しながら振り返る。

 

「授業はやらなくて大丈夫です、ていうかいきなり初日からじゃまず無理でしょうし……僕の生徒達とコミュニケーションを上手く取って彼女達の質問に何個か答えればOKです」

 

「ガキ共とコミュニケーション? あーそれはいいやパスで、俺、「常に周りから一歩引いて静かに見守る無口な先生」って設定でいこうと思ってるから」

 

「なんですかその設定……絶対無理ですよ、だってあなた、隙あらば口が物凄い速さで動くじゃないですか……」

 

銀時は正直、生徒と喋るというのはあまり気が進まない、面倒だからだ。

 

ネギは少しは会話をした方が良いと薦めてくるが、彼としてはさっさと元の世界に帰りたい事しか考えておらず、こんな所で生徒達との交流を育み、新しい絆を生もうだのと微塵も思っちゃいない。

 

「お願いですから教師としての最低限度の仕事はやって下さいね、じゃないと監督責任で僕が学園長に怒られちゃいますから……」

 

「安心しろ、そん時は俺があのジジィを一発昇天させてやっから、お前は安心して俺がサボるのを黙認していれば全て丸く収まるから」

 

「収まらないし安心できませんよ! あんなのでもウチの学校のトップなんですからね! 襲撃なんてしたらすぐに他の教師の方達があなたの所に押し寄せてきますよ!」

 

「ジジィが始末された事を皆で祝う為に?」

 

「祝いませんよ! 多分!」

 

ちょっと自信なさそうにネギが最後叫んでいると、彼等の目的地であるA組の教室が見えて来た。

 

「ほら、あそこが僕の生徒達がいる教室です、お願いですからちゃんとして下さいよ」

 

「は~中学生のガキ共と触れ合ってもなんも得にならねえよ……綺麗なネェちゃんとかいないのここ?」

 

「あの、学校をキャバクラかなんかと勘違いしてませんか……?」

 

「ガキのクセにキャバクラとかよく知ってるなお前」

 

「前に同僚の新田先生が教えてくれたんで……」

 

10歳にして既にキャバクラという単語を覚えているネギにも驚きだが

 

それよりもやはり全く教師としてのやる気を見せない銀時が心配だ……

 

『3年A組』という表札が書かれた教室の前まで辿り着くと、ネギは戸の前でピタリと足を止めて

 

「それじゃあ銀八先生、これからいよいよ教師生活のスタートです、なるべく騒ぎを起こさないよう大人しくしていて下さい」

 

「お前どんだけ俺の事が心配なんだよ、ひょっとして侍は猛獣かなんかだと思ってるのか?」 

 

「正直猛獣よりタチが悪いんじゃないかと思ってます」

 

銀時の腰に差された血まみれの木刀を見つめながらネギは素直な感想を述べると、教室の戸をガラララっと開けて彼と共に中へと入るのであった。

 

 

 

 

 

教室に入るとそこには沢山の生徒達がぺちゃくちゃお喋りしながら集まっていた。そして銀時はすぐに気付く

この教室には女子生徒しかいない事を

 

「おいネギ君、なんかここ小娘しかいねぇんだけどどういう事? 年中発情してる世界一バカな種族である中学男子はどこいった?」

 

「いやこの学校女子生徒しかいませんよ、え? もしかして今まで気付かなかったんですか?」

 

「マジかよ、ますますやりにくいなこりゃあ……」

 

麻帆良学園は全学年女子しかいない学校だ、男子生徒など当然いない。そんな話すら聞いていなかった銀時は、ますますめんどくさそうな表情を浮かべて苦々しく舌打ちする。

 

するとネギが教室に銀時を連れて中へと入って来ると、さっきまで騒いでいた生徒達が一斉に彼等の方へ振り返る。

 

「あ、おはようネギ先生! その天パの人誰!?」

 

「朝のHR遅刻ですよ先生! え!? 誰その死んだ魚のような目をした人!」

 

「ネギ先生ー今日また朝から明日菜が漫画の事で騒いでたから注意してよー、げ!? 誰ですその人生ナメ腐ってる様なけだるそうな男性!」

 

ネギが教壇に辿り着く間に、生徒達の中から次から次へと銀時の事について尋ねだす者が出て来る。

 

なんか怪しいと疑う者

 

なんか怖そうなので恐怖の対象で見る者

 

なんか面白そうだと好奇の者

 

全く興味が無いと完全に目を背けそっぽを向いてる者

 

様々な生徒がそれぞれ反応する様を見せられながら、銀時は見せ物にされてる気分になった。

 

「変な奴ばっかだなここ、学校というより動物園にやって来た気分だ」

 

「そう言わないで下さいよ、みんな可愛い僕の生徒なんですから……」

 

「しかもなんか半透明な奴があそこにいんだけど? 足無いし浮いているし……」

 

精一杯のネギがフォローをしてる中、ふと銀時は教室の隅の席に座る一人の女子生徒に違和感を覚える。

 

何故であろう異質な生徒達の中では珍しくかなり目立たない見た目をしている筈なのに……

 

「まあそういう人間もいるよね、生まれつき体が半透明な奴なんてよくいるモンだよ、うん。足が無いのも、半透明で浮いているのもこれといって何もおかしい事じゃないよ、うん」

 

そうやって自分に何度も言い聞かせながら、やや、必死に頭を何度も下げて納得しているのをよそに

 

ネギはまずコホンと咳を立ててみせ、生徒達の視線を自分に向ける為に声を上げた。

 

「えー皆さんおはようございます、遅刻してすみません、実はこの度、僕達のクラスに新しい教師が副担任として赴任しました」

 

「ええ!? その人先生だったの!?」

 

「人にモノ教えれるような見た目じゃないけどな……大丈夫なのか先生?」

 

「なんか怖い……」

 

皆、銀時の見た目がちんぷんかんぷん過ぎて、あまり好意的に見てくれる者はいなかった。

 

彼自身もこういう反応になるのは当たり前だと後ろ髪をポリポリと掻きながら、銀時はネギと一緒に教壇に立って小指で耳をほじりながら

 

 

「え~この度この学校で不運にも教師としてこのクラスの副担任になってしまいました坂田銀八でーす」

 

「今サラッと不運って言った!?」

 

「なってしまいましたとも言ってましたよ! 全くやる気ナッシングじゃないですか!」

 

「黙れガキ共、教師というのに求められるのはやる気じゃねぇんだよ、どんなに生徒に暴れても、保護者に理不尽なクレームが来ようと決して折れない鋼のメンタルだけあればやっていけんだ」

 

「そしていきなり早口で反論して来た! なんなの本当に、これが先生!?」

 

銀時の持論に眼鏡を付けて二本のアホ毛が触角のように生えている女子生徒、早乙女ハルナが立ちあがり早速ツッコミを入れると、銀時は眉一つ動かさずに仏頂面で

 

「だから先生だっつてんだろ、なんだその頭に二本生えてる奴、抜いていいのそれ?」

 

「ネギ先生! 初対面の人にいきなり「抜いていい?」と言われました! セクハラです! 教育委員会に訴えて良いですか!?」

 

「バカお前、そっちの意味じゃねぇよ、なんだお前、やっぱり女子でも中学生の頭の中ってのはそっち方面しか考えられねぇのか」

 

自分の言葉を悪い方向に転換させてネギに助けを求めるハルナに今度は銀時の方がツッコミを入れる。

 

そんな掛け合いを続けていると、他の生徒達の中にふと見知った人物がいる事に彼は気付いた。

 

「クックック……精々そうやってコイツ等に翻弄され続けるが良いわ……私を犬小屋に寝かせた報いを受けろ」

 

「あ、アイツ」

 

一番後ろの席で一人だけでほくそ笑む痛い少女、銀時の一応保護者であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

がそこにいたのだ。

 

彼女を見つけてすぐに銀時が反応すると、それを見てまたハルナがバッと後ろに振り返り、彼の視線の先にエヴァがいる事に気付いて

 

「ネギ先生大変だよ! この人もうウチのクラス生粋のロリっ娘エヴァちゃんをガン見し出したよ! 完全にロックオンしてるよ! 完全にロリコンだよ!」

 

「うるっせぇんだよさっきからテメェ!! あんな見た目小学生で残念頭なクソガキに銀さんが夢中になる訳ねぇだろ! 銀さんのハートを射止められるのは結野アナだけだ!」

 

「おい貴様、誰が残念頭だ! 家に居候してやっている主に対して失礼だろ!」

 

「居候!? うっそマジ!? まさかのエヴァちゃん、ロリコン公認の上に同棲までしてんの!? 引くわ~! 流石にそれは私ドン引きだわ~!!」

 

「「お前(貴様)はいい加減黙れ!!」」

 

銀時とエヴァが口論を始めるとそれを見てハルナがまたもギャーギャーと喚き立てる。

 

すると今度はまた別の生徒が席から立ちあがり、銀時に向かって友好的に笑いかけながらまた話しかけて来た。

 

「なるへそなるへそ~、どうも銀八先生、初めまして朝倉和美です!」

 

「初めまして、座れ」

 

「いやいや~あのいつもムッツリ不機嫌面のエヴァちゃんが珍しく朝からハイテンションになると驚いたよ~、そしてそれを一瞬で引き出した銀八先生、あなた結構やるね~」

 

「いや座れつってんだろがボケ」

 

ノリノリのテンションでグイグイ言い寄って来るのはこのクラスの報道担当、パパラッチの異名を持つ朝倉和美だ

 

銀時がジロリと睨みつけているのに対し全くビビる様子も見せず、むしろその普通の教師とは思えない彼の態度が彼女の取材魂に火を付けたみたいだ。

 

 

「はいはい銀八先生! それじゃあ1つ2つ質問していいよね!?」

 

「お前を今からどうやって永久に黙らせてやろうかって質問には答えてやってもいいけど?」

 

「いやそういう物騒な話じゃなくてさ~」

 

質問をしたいと望む和美に銀時はますます不機嫌そうに睨みつけるが、すっかりマスコミ気分になっている彼女には何の効果も無かった。

 

何処からともなく取り出したマイクを彼の方に向け、勝手にインタビューを開始する。

 

「じゃあ超速攻で本題なんだけど! 銀八先生! さっきエヴァちゃんはあなたを家に住まわせてると言っていましたが! ぶっちゃけエヴァちゃんとはどういう関係で!?」

 

「兄妹です、似てるだろほら」

 

「すぐにわかる嘘は止めて下さい!」

 

髪の色や人相もまるで違う二人のどこが兄妹に見えるのだと、銀時の適当なでっち上げをすぐに見抜く和美。

 

「もしかしてハルナが言ってた通り同棲的なアレですか!?」

 

「どうしてそんな話に飛躍すんだよ、もうちょっと普通に考えてみろ」

 

どストレートにとんでもない事を尋ねて来る彼女に本当に中学生かコイツ?と思いつつ、銀時は腕を組んでキッパリと否定する。

 

「こちとら三十路のおっさんで、向こうは中学生のガキだぞ? 俺はただアイツの家に住んでるだけで、アイツはその家の前にある犬小屋に住んでるだけだ、同棲以前に同じ場所に住んですらいねぇよ」

 

「すみません! 同棲よりもヤバい情報が新たに発掘されたんですけど!? 犬小屋!? エヴァちゃん犬小屋に住んでんの!?」

 

「住んでるっつうかアレだね、俺が無理矢理そうさせたっていうか」

 

「無理矢理!?」

 

「うおい! なにデタラメこいてんだ貴様ァァァァ!!!」

 

余計な事言うなよ、銀時を睨みつけていたエヴァであったが、案の定とんでもない事を言い出してしまう。

 

するとすぐに周りの生徒達がどよめき始め、和美の方はますます興味津々になった様子で彼女に詰め寄り

 

 

「つまりエヴァちゃんは銀八先生とそういったコアなプレイに目覚めてしまい! そのまま堕落した関係を進める事を決心させたということですか!?」

 

「勝手に決心させるな! コイツの言ってる事は全て戯言だ! 私がコイツを犬小屋に押し込んで住まわせているんだ!」

 

「いやそれはそれで結局二人の関係はヤバい事には変わりないんだけどね!」

 

汗を掻きながら慌てて弁明するエヴァだが、それもまた逆効果であり、むしろ彼女の方もそういったプレイを主張するので信憑性が増して来た。

 

他の生徒達もますます銀時の事を怪しく見るようになってしまうが、そこへネギがフォローに入るかのように

 

「朝倉さん、とりあえずお話はその辺にしておいて下さい、銀八先生もエヴァさんはただの教師と生徒であって、そういった深い関係では無い筈ですから……」

 

流石にこれでは銀時が生徒達に白い目で見られ孤立してしまうと察したのか、彼よりずっと子供である筈のネギがやんわりと事態の収束に入ったのだ。

 

「今後は銀八先生を困らせるような質問は勘弁してあげて下さいね、この人遠い所から来たばかりで土地勘に慣れてない上に教師をやるのも初めてなんで」

 

「そうだよ、銀八先生はまだこの学校の事をよくわかってない新参者なんだよ、傷付けずに優しく丁寧に扱うべきなんだよお前等は、教師だって一人の人間なんだよ」

 

「う~ん、でも傷付くようなタイプには見えないけどなぁ」

 

「はい今の言葉で先生の心は傷付きました、退学」

 

「ええ!?」

 

教師らしく上手く纏めてくれたネギの隣で賛同するかのように頷きながら、まだ納得いかない様子の和美にサラッと退学だと宣言する銀時。

 

ネギのおかげで事態はすぐに丸く収まると思われた、ところが……

 

「フッフッフ……流石はネギ先生ですわ、その様な素性の知れぬ怪しい人を庇い立てしてあげるなんて……」

 

そこへネギに対して賛辞を送りながら一人の生徒が立ちあがった。

 

日本人には珍しいロングの金髪の、出る所が出てる少女、本当に中学校かどうか怪しいぐらいに綺麗なスタイルだ。

 

「しかしネギ先生、わたくし達には彼についてもっと知る権利があります、なにせ彼はさっきから言ってる事も態度もふざけてばかり……これではわたくし達A組の副担任になるにはとても相応しくありませんわ」

 

「おお! いいんちょが動いた!」

 

「よーし言ったれいいんちょ!」

 

キリッとした表情で正論を並べ、銀時がこの学校の教師になる資格は無しと断言すると、他の生徒達が面白くなりそうだとやんややんやと彼女に声を上げる。

 

すると銀時は隣にいるネギに耳元にコソコソと

 

「おい、なんだあのいかにもなコテコテのお嬢様キャラ……なんか他の奴等にいいんちょとか呼ばれてっけど」

 

「ウチのクラスの纏め役、学級委員長の雪広あやかさんです、僕も他の生徒も基本はいいんちょって呼んでます、家柄がお金持ちな事を鼻にかけず本当に頑張り屋さんで、クラスのみんなは彼女の事を強く信頼しています」

 

「要するにここの仕切屋って訳か……めんどくせぇ奴に目ぇ付けられちまったな」

 

学級委員長の雪広あやか、通称「いいんちょ」家柄も教養も高く本物のお嬢様である彼女の事をネギから聞いて、ますます苦手なタイプだと銀時が嫌そうな表情を浮かべると、そんな彼にあやかがビシッと指を突き指し

 

「よってわたくしはあなたを教師となど一切認めませんわ! もし認められたくばここで私が出す門答に模範的な回答をなさい! その結果によってはあなたを教師と呼んでも構いませんの事よ!」

 

「いいんちょVS胡散臭い天然パーマ男の対決だ!」

 

「いいね面白くなってきたじゃないの!」

 

「いや別に教師と認められなくても構わないんだけど俺」

 

何故かクラスの学級委員長と門答対決する羽目になった銀時。

 

他の生徒達が騒いでる中で彼は一人やる気無さそうに彼女から目を背けるのであった。

 

そして騒いでる生徒達の中にも彼と同じくやる気無さそうに机に頬杖を突いて欠伸をする者が一人。

 

(どーでもいいからさっさとHR終わらせろよ……)

 

オレンジ髪で眼鏡をを掛けた、少々地味な感じの印象である生徒、長谷川千雨だけは全くこの対決に興味を示さない。

 

そんな彼女をよそに、あやかによる銀時がA組の教師として認められる為の試練が間もなく始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「ところでいいんちょさん、明日菜さんと木乃香さんが見当たらないんですけど……」

 

「ご心配ならずネギ先生、あのおバカさんならどうせいつもの好きな漫画が終わったとかで落ち込んでるに決まってますわ、木乃香さんもきっと付き合ってあげてるだけです、しばらくすればどうせケロッと来る筈でしょう」

 

「やっぱりですか……落ち込むのは構わないんですけど遅刻だけは勘弁して欲しいんだけどなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 




いいんちょが銀さんに好戦的です、これは元祖の時は無かった展開ですね。


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第六訓 全ての謎の答えは一つとは限らない

その怪しい見た目と言動のおかげで、早速クラスから不審がられる坂田銀時。

 

そしてそんな彼を、A組を厳しく取り締まる生徒「いいんちょ」こと雪広あやかが厳しく聴取する事になったのだ。

 

「改めまして、わたくしがこのクラスの学級委員長を務める雪広あやかですわ、よろしくお願いいたします」

 

「よろしくも何も俺はとっとと帰りたいんだけど?」

 

「今からこのわたくしがクラスを代表し、あなたが本当にこのクラスの教師としての資格があるのかテストさせて頂きますわ、覚悟なさいませ」

 

「なんなのこのクラス? 人の言い分を聞かずに自分勝手に物事を進めろという悪しき教育でも受けてんの?」

 

教壇に立ってめんどくさそうにしかめっ面を浮かべる銀時だが、あやかを除く他の生徒達の中からも「やれやれー!」とこの状況を愉しんでいる者がチラホラと

 

彼の隣に立っているネギも「頑張ってください!」とエールを送られ、ますます帰れない状況に

 

「しゃあねぇな、テストだかなんだか知らねぇがなんでも答えてやるから手短にな、俺この後見たいドラマあるんだよ」

 

「ご心配なく、あなたの回答が合格に足るならばすぐにそのドラマを見せて差し上げますわ」

 

仕方なく彼女のテストとやらを受けて立とうとする銀時に、不敵な笑みを浮かべながら真っ向から対峙するあやか、どうやら負かす自信は十分あるらしい。

 

「しかしもしそうでなかった場合……最悪、今日一日の授業が潰れます」

 

「いや待って下さいいいんちょ! それ先生である僕としては許容出来ないんですけど!? 授業はちゃんとやって下さいちゃんと!」

 

「あらヤダ冗談ですわネギ先生、優等生であるわたくしが授業を疎かにしようとするなんてあり得ませんオホホホホホ、どこぞのバカレッドさんと違って」

 

銀時に対する態度とは打って変わってネギに対して変に口調が甘くなるあやか。そして再度銀時に話しかける時はすぐにジロリと睨みつけ

 

「ちなみにわたくしの前では嘘やハッタリは通じません、もし虚言を吐いたと判断したら、雪広家代々伝わる拳法が炸裂する事をお忘れなく……」

 

「はいはいわかったわかった、良いからさっさと始めろ、坂田家代々伝わっても無い鉄拳かますぞコラ」

 

「わ、わかりました……それでは第一問」

 

腕を組んで得意げに彼に脅しを吹っ掛けてみるあやかであったが、銀時は全く動じずにさっさとやれとけだるそうに催促するので

 

少々調子が狂いそうになりながらも彼女はすぐに態勢を整え直すと早速テストを始めるのであった。

 

「もしクラスの中で一人だけどうしても成績が上がらない生徒さんがいたら、一体あなたはどのような教育をして対処しますか?」

 

「縄なり鎖なり使って拘束して、泣こうが喚こうが血反吐ぶちまけようがわかるまで脳みそに勉学を叩きこむ」

 

「思っていた以上に即答ですわね……しかし」

 

早速いかにも教師向けの問題を提示するあやかだが、銀時はまさかの仏頂面でとんでもない答えを即答。

 

すると彼女は彼の答えを聞いた後、額から汗を垂らしながらごくりと生唾を飲み込むと

 

「正解ですわ……」

 

「え、ウソ!? 今ので正解なの!? いや答えた俺が言うのもなんだけど! ちょっと教師としてはマズくない!? そこはこうツッコむ所じゃない!?」

 

「確かに普通の学校では即刻問題行為と判断されますが、この麻帆良学園、ましてやこのA組であれば話は別」

 

思ってたの違う反応に銀時の方が驚いていると、あやかは平然とした様子で他の生徒を見渡し

 

「全国トップクラスのおバカさんが混入されているこのクラスでは、時にスパルタ教育もまたありですわ」

 

「スパルタというのはよくわからないけど! 勝負なら受けて立つアル!」

 

「ハハハ、血反吐撒き散らす程の教育とはいささか興味があるでござるな~、是非とも拙者にご教授を」

 

このクラスではまた武力行使を交えた教育もまた必要と述べるあやかに、いかにもアホっぽい二人の生徒が望む所だという反応。

 

これには銀時も絶句の表情

 

「な、なんてことだ……新八なら即ツッコミを入れる俺のボケをあっさりと潰しにかかるなんて……! コイツ等ただもんじゃねぇ……!」

 

「銀さん、あなた一体なにと戦ってるんですか?」

 

どうやらこの学校のクラスはかなりの曲者の集いの様だ。

 

元の世界ではぶいぶい言わせてい自分がここまで狼狽えるなんて……銀時が一人戦慄を覚える中、隣からネギが冷静に口を挟む。

 

「まあ確かに明日菜さん相手だとそれぐらいしないと効果が無いかもしれませんね、彼女はこのクラス随一のおバカさんですし、僕がやっても間違いなく返り討ちにあうんで、今後機会があればよろしくお願いしますね、銀さん」

 

「なにをよろしくされたの!? いいの銀さんやっちゃうよ! ウチの世界のノリで思いきりドロップキックかましたりするよ!?」

 

「ああ全然大丈夫です、明日奈さん相手ならいつでもやっちゃってください」

 

「ねぇネギ君、薄々気づいてたけど……お前って結構酷い所あるよな」

 

 

生徒の一人を教育の為なら遠慮なくボコってくれてもいいと笑顔で言ってのけるネギに、銀時は唖然としながらすっかり彼等にペースを握られてしまっていると

 

不意にあやかが「第二問!」と叫んで再びテストを始めるのであった。

 

「なかなかやりますわね坂田さん、しかしこっからが本番ですわ!」

 

「まだ続くのかよ、もういいんじゃね? お前等がどうしようもなくまともじゃないってのはよくわかったから」

 

「失敬ですねわたくしはまともです! それではいきますわよ!」

 

元々いた世界と同じくこちらの世界もまた「まともではない」と立証された時点で、銀時はますます帰りたそうに目を細めるが、それをあやかが許さない。

 

「想像してください、今このクラスに性格最悪で救いようのないおバカさんのツインテールがいたとします」

 

「なんかえらく限定的な例えになってね? おい、明らか特定の人物を挙げてるだろ」

 

「その明日菜さ……その生徒が授業中、それもわたくし達が敬愛する天使の様な御方であられるネギ先生が教壇に立っている時にも関わらず突然暴れ回りました」

 

「名前言いかけてんじゃねぇか、ていうかどうせアレだろ、そいつをどう対処するかって事だろ? そんなの簡単だろ、さっきみてぇに問題児なんざはっ倒せば……」

 

もはや問題の内容じゃ自分がいる状況ですら無くなってるが、それでも要はさっきみたいに殴って解決で済むんだろと銀時が回答しようとしたその時

 

「そのおかげでネギ先生との幸せの一時を邪魔された”わたくし”をフォローする為にどう対処しますか?」

 

「お前が対処される側なんかいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「さあいいんちょをどうやって慰めるんだ天パ教師!」

 

「全ての力を振り絞っていいんちょの心の呪縛を解き明かすんだ!!」

 

「知らねぇよそんな事! なんで暴れるガキを放置してお前のフォローに回らなきゃいけねぇんだよ!!」

 

まさかの問題の続きがあった事に銀時はツッコミを叫びながら、またもや騒ぎ出す生徒達を一喝するかのように教壇を勢いよく手で叩く。

 

「やってられっかこんなの! そもそも教師の仕事でもなんでもねぇじゃねぇか! 勝手に一人で落ち込んでろ! 勝手に一人で立ち直ってろ! 勝手に一人で幸せに生きろ!」

 

「まあ、お見事です、またしても正解ですわ」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「だってそもそもあなたみたいな品の無い人が、このわたくしを励まそうとするなんておこがましいにも程がある事、自分の悩みは自分で解決できる年頃ですし、ここはわたくしに「何もしない」が答えなんですの」

 

「うぜぇぇぇぇぇぇぇ!!! 結局なんの意味も為さない問題だからよりうぜぇんだけどコイツ!!」

 

問題も訳わからないが答えもまた理解不能、銀時が次第に彼女を相手する事に苛立ちすら覚え始めていると、そんな事も知らずにあやかは得意げに

 

「オホホホホ、勝ち誇るのも今の内ですわよ坂田さん、さて、ここまではほんの余興、三問目からはいよいよ本番とさせて頂きますわ」

 

「それさっきも言ってただろうが!」

 

「三問目はそうですわね……少し趣向を変えまして」

 

最初は高飛車なお嬢様だという印象であったが、今となってはウチの世界にいる住人と同じ変人、と雪広あやかの評価が銀時の頭の中で確定されていると、彼女は少し考え込むとゆっくりとした口調で

 

「そういえばあなた、エヴァさんと同じ家にお住まいになられてるんですわよね?」

 

「あ? まあ一時的に住んでるだけだがな」

 

「ならばそれを踏まえて問題を出させて頂きますわ」

 

自分がエヴァと住んでいる事がなんの問題になるのかと、銀時だけでなく生徒達の中にいるエヴァも怪訝な様子で首を傾げていると、あやかはコホンと一つ咳をすると

 

「……その前にエヴァさんが家ではどんな感じなのか出来るだけ詳細に答えてくれませんか?」

 

「はぁ?」

 

急な質問に銀時はどういう事だと顔をしかめる。

 

つい先日にエヴァと出会ったばかりの彼が、彼女がどんな風に生活してるかなんてわかる訳がない。

 

「いやそれは答えられねぇわ、一個人のプライベートだし、そもそも俺、アイツと会ったばかりでロクに知らねぇし」

 

「そうですか……いや実は彼女、学校でも茶々丸さん以外の生徒さん達と関わろうとしてませんし、委員長として少々心配なんですわよね……授業中でも寝てばかりであまり成績もよろしくないですし……」

 

そう呟くとあやかはチラリと後ろの席で腕を組んでワナワナと震えているエヴァの方へ目をやる。

 

「あのまま同年代に対しての積極性や協調性が欠けていると、ぶっちゃけ将来まともな社会人になれそうにないので、どうか今の内に、あなたが彼女を更生させて対処してくれませんか?」

 

「もはや問題すらですらねぇ! ただのお願いじゃねぇか!」

 

「ふざけるな! なんでこの私がそんな下らん事に付き合わされなきゃならんのだ!」

 

学級委員長として真面目に彼女の将来を不安に感じていたあやかが、思い切って銀時にエヴァの今後の人生をフォローして欲しいと頼むと、当人である自分を置いて勝手に話を進めるなとすぐにエヴァが席から立ち上がる。

 

「私の人生は私が決める! 平和ボケした貴様等のような小娘供に口出しされるほど! この私が行く覇道は温くは無いわぁ!!」

 

「ほら聞きました今の? 他人を見下すのはともかくあの厨二満載の台詞を堂々と言えるなんて、見た目がまんまお子様サイズだから余計に恥ずかしくて見ていられませんわ」

 

「本当だね、ありゃあ友達出来ないしロクな大人になれないだろうね、負け組まっしらだね」

 

「貴様等今日はまっすぐ帰れると思うなよ!!」

 

二人で顔を合わせてヒソヒソと明らかに自分の事を乏しめている事を感じ取ったエヴァは、苛立ちを通り越して殺意が芽生えて来た。

 

「おい茶々丸! 早く私の事をフォローしろフォロー!」

 

「安心してくださいマスター、私は例えマスターがジャージ姿で部屋に引き篭もって、毎日パソコンの前に座ってネットに悪口を書く事が何よりの楽しみだと思うようになっても、私は決してマスターを見捨てたりはしません」

 

「そういうフォローは求めておらんわぁ!!」

 

これではクラスで変に噂されてしまうと急いで茶々丸に助力を求むエヴァだったが、彼女が真顔で呟く何のフォローにもなってないフォローのおかげで、ますます周りの空気がおかしくなっていく。

 

「そういえば私達ってエヴァちゃんとお話した事ないね……一人で笑ってる事あるし普段なにやってるんだろう、ちょっと怖い……」

 

「大丈夫ですよのどか、ああいうのは触れないでおくのが一番の策なんです、それが誰も傷つかない最善の優しさなんです」

 

「それは優しさって呼べるの夕映……」

 

「あぁぁぁぁもう! いつの間にか私が周りから「可哀想な子」という設定になりかけてるではないかぁ!」

 

前の方の二人組の生徒が話してるのを耳にして、悪化していく状況に髪の毛をクシャクシャに掻き毟りながら悶えるエヴァ。

 

そして教壇に立つ銀時の隣にいたネギさえも首を傾げて

 

「そういえば僕もエヴァさんの事あまり知らないんですよね……なんかいつもクラス行事に関わろうとしないですから心配だとは思ってたんですけど……」

 

同じ魔法使い同士ではあるが、ネギは現在彼女が魔法使いだの闇の福音と恐れられた吸血鬼だというのは知られておらず、ただの一生徒として扱っている。

 

故に彼にとってエヴァは、問題事は起こさないが人との関わりを避ける傾向があり、ちょっとした心配のタネとしか思っておらず

 

「よし、ではここは坂田先生が彼女が個別指導する形でいきましょう、これからは彼女の面倒を見て立派に自立できるよう優しく導いてあげてください」

 

「うおいコラ坊主! なにがよしだ! 勝手にその男を私の指導役にするとかなに考えてんだぁ!!」

 

「しょうがねぇな、ならせめて将来はフリーターとしてちゃんと自分で稼げるようになるぐらいには成長させてやるか」

 

「結局私の未来はフリーターではないか! 全然私の人生明るくなってないぞ! フリーターだと老後が心配なんだぞ! 私に老後無いけど!!」

 

勝手にエヴァの更生の手伝いをして欲しいと頼むネギ、そしてそれを適当に安請け合いして親指を立てる銀時

 

これには遂に、エヴァはバンと自分の机を叩くと

 

「もう勘弁ならん!!」

 

怒り心頭の様子でツカツカと歩き出して教室のドアの方へと向かい始めたのだ。

 

「お前等なんぞと付き合ってられるか! 私はもう早退する!!」

 

「えぇ! 何言ってるんですかエヴァさん! まだ一時間目も始まってないんですよ!」

 

「うるさい! 授業など私には不要だ! そんなモノを受けなくても私は既に!! 誰からもそ恐れられる存在として世に君臨して……」

 

ドアの前に立つエヴァにネギが慌てて叫ぶと、彼女は振り返ってムキになった様子で反論する。

 

だがその台詞を言い終える前に……

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ギンタさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

「はんぶらびッ!!!」

 

彼女がドアを開ける前に勝手に勢いよく開かれ

 

その瞬間、ドアの向こうから奇声を上げながら教室に飛び込んでくる一人の生徒

 

突然の出来事にエヴァが一瞬ギョッとして面食らったのも束の間、彼女は為す総べなくその生徒によって派手に吹っ飛ばされてしまう。

 

そしてエヴァが銀時の足元まで転がって来て頭をぶつけて白目剥いて気絶すると

 

彼女を倒した張本人である遅刻してきた生徒は突然教室の床に泣き崩れて

 

「どうして終わってしまったのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「……おい、あのいかにもバカっぽいツインテールってもしかして……」

 

「はい、察しの通り……」

 

「明日菜さんですわ、我がクラス、いえ、我が校一の問題児です」

 

現れた彼女の特徴が、先程ネギとあやかが言っていたのと酷く似ていると銀時は静かに察した。

 

彼女こそが神楽坂明日菜

 

万年成績順位ビリっけつをキープするが、そんな事などどうでもいいと豪語し、常に己の思うがままに生きる少女……

 

台風の様に突如として目の前に現れた彼女に銀時がドン引きしていると、そんな彼の所へおもむろにあやかが近づき、ポンと優しく肩に手で叩くと……

 

「それでは最終問題ですわ坂田さん」

 

 

 

 

 

 

「あのおバカさんを授業の妨げにならないよう大人しくさせなさい」

 

「……」

 

「ギンタマァァァァァァァァン!!! カムバァァァァァァァァァク!!!!」

 

最終問題はまさかの実技試験

 

教師として認められる為に、嵐を呼ぶ問題児・明日菜との対決が幕を開けるのであった

 

次回へ続く。

 

 

 



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第七訓 真実はいつも一つ!

前回のあらすじ

 

A組最強の暴君、神楽坂明日菜・降臨

 

「ちょっとぉ! アンタなにこんな人類史上最も大変な事件が起きてるのに他人面してんのよ! あのギンタマンが終わってしまったの! わかってんのコラ!」

 

「明日菜落ち着いて! 訳の分からない事言ってザジちゃんに絡まないで!」

 

「……」

 

雪広あやかとの問答勝負をしている最中、銀時の前に遅刻した事に一切悪びれもせずに彼女が教室に現れた。

 

そして彼がいる事など気にも留めずに、身近にいた生徒の胸倉を掴んで身勝手な理由でキレる始末。

 

現れていきなりこのインパクト、これには銀時も思わず目をパチクリさせて言葉を失ってしまう。

 

「おいネギ君……この学校は猿も一人の生徒として迎え入れてんのか?」

 

「それ猿に失礼です、猿には猿のルールがあり己を制御する事だって出来る賢い生き物なんですよ、しかし明日菜さんには己の本能を止めるタガはありません」

 

「要するに猿以下って事か……てかアイツもだけど、お前もお前で結構ひでぇな」

 

思わず傍にいたネギになんなのだアレはと尋ねると、彼は真顔で彼女の事を遠回しに乏す。

 

しかしその瞬間

 

「なに人の事を猿以下とかほざいてんのよこのバカネギィィィィィ!!!」

 

「えぇ聞こえてたんですか!? うべ!」

 

「ネ、ネギ先生ェェェェェ!!」

 

ギンタマンの事で頭が一杯で会った筈なのに、自分に対する悪口が僅かに聞こえた事に敏感に反応する明日菜。

 

尋常じゃない聴力を持った彼女はそのままネギに駆け寄ると、何のためらいもなく思いきり飛び蹴り

 

吹っ飛ばされたネギを見てあやかは血相を変える。

 

「な! 何をしてるんですかあなたは! 教師に暴力を振るうなんて! それもわたくしのネギ先生に!」

 

「フン、なにがわたくしのネギ先生よこのショタコン、朝っぱらからいちいち騒がないでくれる?」

 

「騒いでるのはアナタの方でしょ神楽坂明日菜! 好きな漫画が終わった程度で毎日ギャーギャーと叫びっぱなし! アナタがクラスにどれほどの迷惑を掛けているのかおわかりですか!?」

 

「は? 終わった程度ですって? なに私に喧嘩売ってんのいいんちょ? 3秒ですり潰すわよ?」

 

すぐに食って掛かるあやかに対し、明日菜も負けじと喧嘩腰で迎え撃つ。

 

二人の間に不穏な雰囲気が流れ始めると、あやかは怒りで顔を真っ赤にしながら

 

「今日という今日は許しませんわ! さあ坂田さん出番ですわよ! この腐ったミカンをやってしまいなさい!」

 

「は? なんで俺?」

 

「ああ? なによアンタが挑むんじゃないのいいんちょ、他人に任せるなんてシラケるわね……って」

 

いきなり面倒事を投げられて銀時が口をへの字にして嫌がるリアクションを取っていると

 

ようやく明日菜は彼の存在に気付いた様子で目を細めてジーッと見つめ

 

「……誰? このいかにもな胡散臭そうな天パのオッサン……?」

 

「ここのガキ共は初対面の相手に喧嘩を売らなきゃ気が済まない訳? そろそろキレるぞコラ」

 

失礼な物言いに銀時は苦々しい表情で舌打ちすると、彼女の方へ顔を近づけて喧嘩腰で

 

「いいかよく覚えとけ、俺は今日からこのクラスを仕切る事になった坂田銀八大先生だ、俺の支配下に収まるテメェ等が今まで通りに振舞えると思うなよ」

 

「はぁ!? ちょっとネギどういう……えぇ!? ネギの奴倒れてるじゃないの!? なにがあったの!?」

 

「あなたが吹っ飛ばしたんでしょうが! このスカポンタン!」

 

やや大げさに己を誇張しながら名乗りを上げる銀時を前に、どういう事かと明日菜はネギに声を掛けるが

 

彼は今、彼女によって壁に頭から突っ込んで気絶中だという事を、あやかがツッコミながら罵倒する。

 

「とりあえず遅刻したテメェはバツとして、これから死ぬまで俺に毎週ジャンプを献上しろ、SQの方もだ」

 

「なによそれ! 遅刻しただけでペナルティ高過ぎるでしょ! デタラメばっか言って私を騙そうたってそうはいかないわ!!」

 

「うお!」

 

無茶な要求に明日菜はすぐにスカートである事も気にせずに再び足を振るう。

 

間髪入れない行動の速さと、真っ直ぐに自分の顔面を捉えようとする蹴りに、銀時は彼女の身体能力を垣間見るも

 

条件反射ですぐに頭をサッと動かしてギリギリのタイミングでそれを避けた。

 

「テメ……! なにすんだコラァ!!」

 

「チッ、私の蹴りを避けるぐらいには出来るみたいね、天パのクセに」

 

「この野郎、どいつもこいつも人の事をナメやがって……!」

 

ここに来てから散々理不尽な目に遭わされていた銀時が、明日菜の無愛想な態度のせいで遂に我慢の限界に達してしまう。

 

ジト目で睨みつけてくる彼女に対し、負けじと顔を近づけてメンチを切って

 

「いい加減にしろよコノヤロー! ギンタマンなんて下らねぇモンに振り回されて人生棒に振ってる小娘のクセに!」

 

「ああん!? 今アンタなんて言ったのかわかってんの!? その発言はつまり、私達ギンタマンファン、A組のクラス全員を敵に回して戦争を始めようという意思表示として受け取っていいのかしら!?」

 

「私は別にファンでも無いんだが? というかなんだギンタマンって、知ってるか桜咲」

 

「知らん、そんな事私に聞かないでくれ龍宮」

 

勝手に自分のクラス全員をギンタマンファンに仕立て上げる明日菜だが、長身の褐色の生徒と剣士風の出で立ちをする生徒の二人の反応は薄い。

 

というより他の生徒達も頭に「?」を浮かべているので、明らかにギンタマンのファンではないのは明白だ。

 

「言っておくけどウチのA組の生徒は半端ない奴等ばっかりよ! 総合的に考えると頭のおかしい連中ばかりだけど! どいつもこいつも一筋縄ではいかない猛者揃いなんだから!」

 

「上等だかかってこいよ! 全員まとめてぶん殴って正気に戻してやる!! いつまでも低俗でしょうもねぇ下ネタしかない作品に未練残してねぇでとっとと現実を見ろバカヤローってな!!」

 

「なんですってぇぇ!?」

 

売り言葉に買い言葉、互いに罵り合いながらピリピリとした雰囲気を放ち始める銀時と明日菜

 

他の生徒達も「やれやれー!」と止める所か盛り上がって二人に声援を贈り

 

銀時を彼女にけしかけた本人であるあやかも「これで両者共倒れになれば全て丸くおさまりそうですわ……」と全てを裏で操る黒幕みたいなポジションで下衆な笑い声を上げている。

 

このままだと二人のぶつかり合いが目に見えている、そう思われたその時……

 

「ネギく~ん! 大変や~!」

 

銀時と明日菜が「シャーッ!」と呻きながら威嚇し合っている所に、その空気を裂くように血相変えた生徒が教室に入って来た。

 

その少女の声が教室中に木霊すると、さっきまで気絶していたネギがすぐにムクリと起き上がる。

 

「う~ん……なにかあったんですか木乃香さん……? ていうか遅刻ですよ」

 

「そんな事言うとる場合やないよ! さっきじいちゃんに聞いたんやけど学校で事件が……! ってアレ? 誰なんこの人?」

 

何やら慌てた様子でネギになにか言おうとする少女であったが、銀時に気付いてすぐに彼の方へ振り返る。

 

すると頭を押さえながらネギが彼の隣に立って

 

「この人は今日からこの学校の副担任になった坂田銀八先生です、あまり近づかないでくださいね、噛まれますから」

 

「へー新しい先生か~、初めましてウチは近衛木乃香って言います、ここに来たばかりみたいやし、わからん事あったらいつでもウチに聞いてええよ坂田先生」

 

「お、おう……」

 

ネギが軽く紹介すると木乃香と名乗る少女は友好的にニコッと銀時に笑いかけた。

 

するとさっきまで喧嘩腰であった彼は急に面食らった様子でたじろいでしまう。

 

「おいどういう事だ……このクラス、いやこの世界にこんな極々普通にまともそうなガキがいたなんて聞いてねぇぞ俺、なんだアレ、もしかして俺をハメようって企んでるのか? あんなこっちに優しく笑いかけながら、実は後ろから刺そうとか思ってるのか?」

 

「どんだけこの世界の事を悪く見てたんですか……大丈夫です、木乃香さんは優しくて親切な方です。僕もいつも助けて貰ってますし本当に良い人です」

 

「マジかよ……こんな荒みきったガキしかいないと思われていた場所に、まさかこんな清純そうな小娘がいたなんて……基本ゴリラみたいな女しかいない俺の世界でもいなかったぜ……」

 

「言っておきますけど木乃香さん以外にもまともな人はいますからねウチの生徒……2割ぐらい」

 

それはつまり8割はヤバい奴という事ではないか、と普通ならすぐにツッコむ所である銀時だが

 

ようやくこの世界で友好的に接してくれるまともな娘と出会えた事で、彼は右手で両目を抑えながらグッと熱くなる目頭を押さえながら感動を隠し切れないでいた。

 

「長かったぜホント、俺にも優しく接してくれる良い子がいたんだな……教師やってて良かった……」

 

「なんで泣くんですかそこで……ていうかあなたここに来たばかりですし教師になって初日じゃないですか」

 

なにベテランの教師っぽい事言ってるんだとネギが冷めた様子でツッコむ中、木乃香が心配そうに嗚咽を漏らす銀時を見上げていた。

 

「ネギ君、なんかこの人哀しい事でもあったん? ここに来るまでになんか酷い目に遭ったとか」

 

「いや、気にしないで下さい木乃香さん、それよりさっきなんか慌ててたみたいですけど」

 

「あ! そやった! 聞いてネギ君! 大事件や!」

 

一人で勝手に悲しむ銀時をスルーしてネギは彼女に何かあったのかと尋ねると、木乃香は思い出したかのようにハッとしてすぐに声を大きくして

 

「今日、学校内で”高畑先生”が謎の暴漢に襲われたらしいんや!」

 

「タカミチが!?」

 

「高畑先生がァァァァァァァァァァ!?」

 

「うわ! 急に出てこないで下さい明日菜さん!」

 

この学校内で一人の教師が、突然何者かに襲われた。

 

木乃香のその一言にネギと明日菜だけでなく教室中の生徒達一同もざわつき始めた。

 

さっきまで銀時が来ても全く興味を示さなかった褐色の生徒も眉間にしわを寄せて反応している。

 

「どういう事ですか木乃香さん!? あのタカミチが襲われるなんて!」

 

「ウチもじいちゃんから聞いただけで詳しくはわからんけど……なんか高畑先生、後ろから鈍器のようなモノで頭を殴られた形跡があった状態で、男性教師用のロッカーに気絶したまま押し込められていたのが見つかったらしいんや、しかもパンツしか履いてへん状態で」

 

「ええぇ!? あのタカミチがそんな!」

 

「高畑先生がパンツ一丁! その様子誰か撮ってないの!? 言い値で買うから!」

 

「黙っててください明日菜さん!」

 

高畑という教師はネギは昔からよく知っている、見た目はどこか冴えないオッサンという印象はあるモノの、その実力は非常に高く、その正体はかつて起こった大戦の激戦区にいながら生き残ったほどの魔法使いだという事

 

そしてそんな高畑を、自分の所の生徒である明日奈が、教師としてでなく異性として意識しまくりだという事も

 

「パンツ一丁って事は高畑先生はきっと犯人にあんなことやこんな事されて……く! その犯人が羨ましい!」

 

「人の友人で変な妄想膨らまさないで下さい明日菜さん!」

 

「木乃香! 犯人は誰なのかもうわかってるの!?」

 

「いやぁまだ見つかってへんらしいで? けどなんでか知らんけどじいちゃんは、まだこの学校から出ていない事だけはハッキリとわかっとるみたいやったわ」

 

「「!」」

 

ネギと明日菜は同時に凍り付く

 

高畑を襲った犯人は、立ち去るどころかまだこの学校に潜んでいる可能性が高いらしい……

 

学園全体の敷地内の事であればお見通しの学園長の言ってる事なら信憑性がある、ネギは一体その人物が誰で、どうして高畑を襲い、どうしてまだここに潜んでいるのかと顎に手を当て数々の疑問を思い浮かべていると……

 

「おい、急にガキ共が騒ぎ出してるけどなにがあった? 全然わかんねぇから銀さんに教えてくれ」

 

「ええ、実は僕の友人の教師が何者かに襲われ……て……」

 

死んだ目を向けながら何事かと尋ねてきた銀時に状況を説明する途中で、ふと彼の姿を見てその言葉を途中で途切らせるネギ。

 

気のせいだろうか……

 

 

 

白衣の下に着ているあのスーツに物凄く覚えがある様な……

 

「……すみません、あなたが着ているそのスーツ……」

 

「え? コレ? 借りモンだけど?」

 

「……誰から借りたんですか?」

 

「アゴ髭の生えた親切なおじさんだよ」

 

「……」

 

キョトンとした様子でスーツを手に入れた経緯を語る銀時、そんな彼を見てネギはまた一つ思い出す。

 

彼と出会った直後に

 

血に濡れた禍々しい木刀を所持していた事を

(タカミチ襲った犯人ここにいたァァァァァァァ!!!)

 

襲った理由はスーツを奪う為

 

逃げていないのはまだ仕事中な為

 

全ての謎が解かれたネギは目の前にいる犯人に向かって心の中で叫んでいると

 

その限りなくクロである銀時は、他人事の様子で木乃香と会話しており

 

「へぇ~てことはその高畑とかいう奴を襲った犯人はまだここにいんのか、怖ぇな~」

 

「どうもそうみたいなんや、坂田先生も気を付けなあかんよ、襲われたらパンツ一丁にされてしまうみたいやし」

 

「ふ~ん、男が襲われるたぁ世も末だなこりゃ」

 

(普通にとぼけてる! どんだけ面の皮が厚いんだこの人!)

 

木乃香に忠告されながら銀時は全く心配して無さそうな反応、それはそうであろう。

 

高畑を襲ったのは他でもない彼自身なのだから……

 

(どうしよう! この恐ろしい事実をこの場で公言するのはマズイし! というかこの人、一体どうやってあのタカミチをやったの!?)

 

「だが安心しろ、俺はもうその犯人が誰なのかわかった」

 

「ええ! 本当なん坂田先生!?」

 

(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)

 

こっちが困っているのに急になに言いだすんですかこの人と、ネギが内心慌てふためいていると

 

それをよそに犯人に目星がついたと宣言する銀時に、明日菜とあやかが驚きの表情

 

「本当なのアンタ!? ミスター渋ヒゲのナイスおじさま高畑先生を襲った野郎がわかったって!」

 

「わたくし達がまだわからぬというのに……ここに来て法螺だったら許しませんわよ」

 

「バカ野郎、俺は元々なんでも屋として働いてんだぞ、探偵稼業だってやった事ある」

 

まだ疑っている様子の二人に銀時は鼻を鳴らすと、おもむろに教室全体を見渡して

 

 

 

 

「間違いねぇ、犯人はこの中にいる」

 

「な、なんですってー!?」

 

ハッキリととんでもない事を言い出す銀時に明日菜がお約束の様な叫び声を

 

そして生徒達も更にざわつき始めた。ネギも内心気が気でない。

 

(ま、まさかの己の罪を自ら告白すると言うんですか!? この場で潔くハッキリと自分の口で!)

 

「確か、襲われた奴は頭に鈍器のようなモノで殴れたんだろ」

 

「うん、じいちゃんが言っとった」

 

大人しく自分がやったのだと自白するのかとネギが予想する中、銀時は不意に木乃香からは改めて事件の詳細を聞く。

 

「なんか細くて固いモノで殴られた箇所があったらしいんよ、しかもぎょうさん血が出るぐらいに強く叩かれたらしくて……高畑先生可哀想やわ」

 

「つまりそいつを襲ったその凶器にはきっと血が付着しているってこった、それもかなりの量がな」

 

教壇の周りをウロウロしながら探偵気取りで呟くと、銀時は顎に手を当てながら生徒達に向かって目を細め

 

「返り血が残っている”木刀”なんざそう簡単に処分する事なんざ出来ねぇ、ならばまだその凶器を犯人は今も隠し持っている可能性が高い」

 

「え、あなたなんで凶器が木刀とわかるんですか? 木乃香さんの話ではただの細くて固い凶器だとしか」

 

「細くて固い凶器なんてこの世に木刀ぐらいしかねぇだろ、常識だろそんな事」

 

「は、はぁ……」

 

つい口が滑った彼にすぐに気付いて指摘するあやかであったが、動じる様子を一切見せずに下手な言い訳で誤魔化す銀時。

 

「つまりその木刀を持っているのが犯人だ、そして俺の勘が正しければ、そいつを持っているのは間違いなくこの教室にいる、表面上では取り繕って、内心では俺達を嘲り笑いながらな」

 

(そりゃあそうでしょう、だってその木刀の所有者は紛れもなくあなた自身……ってアレ?)

 

確かに表面上では平静を取り繕っているなと銀時に呆れていたネギであったが、ふと彼の腰元を見てある事に気付いた。

 

(……腰にぶら下げていた筈のあの木刀が、無い……)

 

この教室に来るまで間違いなく腰に差していた彼の木刀が、いつの間にか忽然と姿を消していたのだ。

 

どういう事だとネギが不思議そうに眺めていると、生徒達の中で動きが

 

「ねぇまき絵、アンタの机の足元になんか落ちてるけど何それ?」

 

「え?」

 

隣の生徒に指摘されたのは木乃香と同じく比較的まともな部類に入る一般的な少女、佐々木まき絵であった。

 

いつの間にか足元に転がっていたモノに初めて気づいた彼女は、一体何なのだろうとそれを片手でヒョイと掴んで机の上に出す。

 

「……なにコレ? なんかカレー臭いんだけど」

 

「ま、まき絵……アンタそれってもしかして……!」

 

それは柄に洞爺湖と彫られた、どこかカレーの香りがする古臭い木刀、それも先っぽが真っ赤に染まった……

 

まき絵はキョトンと首を傾げてそれを眺めていると、彼女に指摘した生徒がワナワナと震え始める。

 

すると銀時はビシッと彼女の方へ指を差し……

 

 

 

 

 

「犯人はそこにいるお前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「……へ?」

 

「まき絵さん! ま、まさかあなたが高畑先生をやったんですの!?」

 

「い、いや違……!」

 

 

身の置かれた状況に理解出来ないでいるまき絵だが、他の生徒達が凶器を持つ彼女に一斉に注目を浴びせる。

 

しかし困惑する彼女達をよそに、ネギだけは口をあんぐりと開けて言葉を失い

 

(ハ、ハメたぁぁぁぁぁぁ!! なんて恐ろしい人だ! いずれバレると判断し! 咄嗟に生徒に罪を擦り付けようと既に凶器の木刀をまき絵さんの傍に投げ捨ててたんだぁ!)

 

「まさかまき絵が犯人だったなんて……」

 

「あの虫も殺せない様なまき絵がそんなバイオレンスな真似をするモンスターだったなんて……」

 

「え、待って、もしかして私が犯人だと思われてるの!? 違う違う違うから!

 

「よし! 私と勝負するアル、まき絵!」

 

「抜け駆けはダメでござるよ古菲、あの御仁を破ったのであれば拙者も是非一戦やり合ってみたい」

 

「いやだから私じゃないってばぁ! これはただ偶然机の下に落ちてただけなのぉ!」

 

銀時はこうなる事をハナっからわかっていたのであろう、いずれ高畑が襲われた事が周りに知られると

 

その為に自分が犯人であるというのを隠す為に、あろう事か守るべき生徒を事前に変わり身に出来るよう既に動いていたのだ。

 

なんと大胆かつ卑劣な手段……周りに必死に自分は無実だと主張するまき絵を、さも他人事で静観している銀時に

 

恐ろしい男だとネギは戦慄を覚えるのであった。

 

「まき絵ぇ! アンタが高畑先生を襲った犯人だったのね! ぶっ殺す!!」

 

「ち、違うよぉ明日菜! なんで私が先生を襲うのさぁ!!」

 

「言い訳言ってんじゃないわよコラ! 高畑先生の仇! ここで取ってやる!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そして犯人がまき絵だと断定した明日奈は、憤怒の形相を浮かべながら、拳を鳴らしつつゆっくりと彼女の方へ歩み寄って行く。

 

悲鳴を上げて泣き叫ぶまき絵を見ながら、銀時はうんうんと頷きながら

 

「因果応報、やっちまったモンはどう足掻いても自分に返って来るモノなのさ……」

 

「……」

 

数分後、全てを見通していたネギがあっさりと真犯人をバラしたのは言うまでもない

 

教師としての初日

 

坂田銀時に対しての生徒達の評価は

 

 

「危険人物」であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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