俺と友の信じる力 (カムカム@もぐもぐ)
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1話

大人気VRMMORPGユグドラシル。

人間以外の種族も選択することができ、職業も豊富。

VRということもあり、まるで現実世界のように過ごすことが出来ることもありその人気は止まることを知らない。

それは、大気汚染の進んだ現実世界から現実逃避できる場所としての人気が高かったのもあるだろう。

 

 

そんなユグドラシルに一つの噂が広まっていた。

 

『紫の鎧を着たプレイヤーが二十を探している』

 

二十とは世界級アイテムであり、その中でも使いきりである代わりにゲームバランスを明らかに無視したぶっ壊れ効果を誇るスーパーアイテムだ。

比較対象になるかは難しいが、壊れアイテムと言われる世界級アイテムの一つに魅了耐性無視の完全魅了というものがある。

これが200種類ある運営の拘りぶっ壊れアイテムの一つだ。

しかし二十はその中でも格が違い、『プレイヤーのアバター完全消滅』やら『無限の攻撃力』など小学生が適当に考えてももう少しまともな効果になるようなアイテムが二十と呼ばれる世界級アイテムである。

 

そんなぶっ壊れアイテムなのだから誰でも欲しがるのは当然であり、わざわざ噂になるほどのことでもないと考えられるが、この噂の対象者のクレイジーさが噂の肝。

 

この紫の鎧を着たプレイヤーというのは、正体不明でありながらとんでもない強さを持ち、なおかつスキルによって名前すら不明、フレンド0人のソロプレイヤーかつ判明している情報は『異形種のワールドチャンピオン』ということである。

 

だが、噂の当人はPKするわけでもなく強くて、フレンドが0人で、特徴的な鎧を着てて、二十を欲しがっているだけというまさに噂に尾ひれどころか背鰭と胸鰭が付いただけなのだからネットの怖さは歴史が物語る通りのものだ。

 

その当人は今日も元気に金稼ぎに精を出していると、大きな大会が開かれることを知る。

 

この大会は『二十を手に入れたけど噂通りの奴だと困るし、まぁ大会して盛り上げた結果アイテム売り捌こう』という商業ギルドの気紛れ大会であり、その優勝商品が二十の一つ『永劫の蛇の指輪(ウロボロス)』である。

 

そんな今話題の二十関連のイベントに食いついたのは欲しがってた本人以外にも当然いて、ユグドラシルの悪の華『アインズ・ウール・ゴウン』などが最たる例だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、たっちさん。大会頑張って下さい」

「……はい?」

 

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーであり、バードマンの『ペロロンチーノ』である。

そして疑問の声を上げたのはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーにしてユグドラシルプレイヤー上位三本の指に入るほどの強さをもつ『たっち・みー』

 

「ばかペロロンチーノ。ちゃんと説明しないとたっちさんだってわからないだろうが」

「いやいや、これはある意味アインズ・ウール・ゴウンを更なる強靭な組織にするために必要なフラグなのですよ!ウルベルトさん」

 

山羊の頭をもつ悪魔、『ウルベルト・アレイン・オードル』は呆れながらもペロロンチーノに突っ込みをいれそのまま首をぐるりと回し困惑マークを出すたっち・みーの横にいる骸骨の魔法使い『モモンガ』に視線を移す。

 

「モモンガさんは大会の話は知ってましたか?」

「えぇ。あの噂の人を誘き寄せる罠なんじゃないかって言われている大会ですよね?」

「そうそう、それですよ」

「それで、その大会になぜ私が?」

 

それはですね、とごそごそアイテムボックスを探り中から一枚の紙を差し出す。

たっち・みー側の画面にはその広告が広がっていることだろう。いくらVRとはいえ精密さにも限度があり、差し出したもの、広告などは画面に広がり見えるように展開される。

 

「トーナメント……ですか」

「あー、なるほど」

「モモンガさん?」

「いや、ね。たしかにこの形式だとたっちさんしか無理だなーって」

 

その理由とは、大会に参加できるのは各ギルドから一人という条件のせいである。

戦闘特化のギルドは多いが、ギルド戦や個人戦では違ってくる。

その点ユグドラシルプレイヤー上位三本の指に入るたっち・みーならばそうそう負けることもないだろう。

二十が目的にしろ、そのプレイヤーが目的にしろ、そもそも勝ち上がらなければ仕方がない。

 

「それに、その紫の鎧のプレイヤー、異形種なんでしょ?どうしてかわからないですけど、可哀想じゃないですか!?」

「……ペロロンチーノ」

「だってですよ?国民ほぼ全員がやってると言われてもたしかに、ってなるようなこのゲームでフレンド0って!」

「仮に誘ったとして、入ってもらえると思うか?見たってやつすら会話も特になくバトルになったらしいし」

 

うーんと声を出すモモンガ。

 

「聞いた話ってのは大体誇張されたものですし、たっちさんが参加できるのであればしてもらってその後話をしてみるのがいいと思うんですがどうですか?」

「私はそれでいいですよ。異形種に厳しい世の中なのは相変わらずですし、それだけの力があるなら仲間になってほしいです」

 

それに……と言葉を濁すたっち・みーに視線が集中する。

実直、というか自分の考えをしっかり言葉にするたっち・みーには珍しいからだ。

 

「それだけ力のあるワールドチャンピオン。戦ってみたくないと言えば嘘になります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

付き従えた戦闘メイド『プレアデス』とそのリーダーである『セバス・チャン』そしてアインズ・ウール・ゴウンの拠点である『ナザリック地下大墳墓』の各階層を守護する『階層守護者』その統括である『アルベド』

そしてアインズ・ウール・ゴウンのギルド長であるモモンガがいる玉座の間は異様な静けさを保っていた。

 

「あぁ、楽しかった。本当に、楽しかったんだ」

 

モモンガの心の底からの声が、静寂を切り裂くかのように木霊する。

その場に人数こそいるが、モモンガ以外はNPC(ノンプレイヤーキャラクター)、つまりはプレイヤーの指示に従うだけの存在である。

モモンガは最後だからと寂しさを紛らわせるために、役割として連れてきたが自分の大切な、本当に大切な仲間の子供のように感じる彼らの存在は寂しさを助長している。

 

「……あと10分か」

 

オンラインゲームの定めとでも言うべきだろうか。ユグドラシルにもサービス終了の時が来たのだ。

人気の低下も原因の一つだろうが、プレイヤーにはリアルでの生活だってある。

それに皆が皆裕福ではなく、むしろ人間が生活しているとは思えないほどリアルは廃れている。

専用のマスクを装着しなければ外を歩くことができない、学校は金持ちの行くところ、生魚や新鮮な肉などその辺のサラリーマンの年収数回分だ。

中には金持ちもいたし、裕福な生まれで、エリート街道を真っ直ぐ生き、幸せな生活を送っている人もいるだろう。

たっち・みーなどはそうだ。だが、彼にも家庭があり、仕事がある。

お金があるからといってゲームばかりしていられないのだ。

……そうして一人、また一人とユーザーが離れていった。それはアインズ・ウール・ゴウンも同じで、今ではアクティブユーザーはユグドラシル全体でも数百人。アインズ・ウール・ゴウンに至っては二人だ。

 

「モモンガさん」

「っ!」

 

モモンガははっとなって顔を上げる。

そこには、アインズ・ウール・ゴウンの二人しかいないアクティブユーザーの一人『ガエリオ・ボードウィン』が立っていた。

紫の髪に顔に大きな傷痕が残っているが、その傷があっても隠しきれない端正な顔立ちをしている。

彼は自分の作り上げたものを見に行くと言って離れていたのだが、いつの間にか戻ってきていたらしい。

 

「驚きましたよー」

「いや、チャットログを飛ばしたぞ?」

 

え?と疑問に思い左下を見ると確かに何回かチャットログが飛んできている。

伝言(メッセージ)』でお願いしますよー何て言おうと思うが、彼は今私服の軍服であることに気付く。

彼は種族と職業の都合でその能力のほとんどが、装備に依存しているため、軍服の装備で伝言が使えるか定かではない。

 

「あれ、ガエリオさんその装備で<伝言(メッセージ)>は使えましたっけ」

「さすがに使えますよ。装備してるときはオートで色々な魔法だったりとかが発動してるから忘れがちですが、覚えられる魔法だったりの選択肢自体は多いですからね」

 

ならなおのこと<伝言(メッセージ)>で良かったのでは?とモモンガは思うが、ガエリオの

 

「あれ、ヘロヘロさんは?」

 

という言葉で理解する。

『ヘロヘロ』はアインズ・ウール・ゴウンのメンバーでスライム系の最上位種『古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)』だ。

リアルではブラック企業勤めであり、眠気が限界なのでログアウトしてしまったのだ。彼に最終日だから最後まで残っていきませんか?たったこれだけの一言が言えなかったモモンガの心には、小さく棘が残っていた。

その棘がチクリと胸を刺すが、それと同時にガエリオの配慮に胸が熱くなる。

久し振りのメンバー同士の会話に<伝言(メッセージ)>で水を指さないよう配慮したのだ。

チャットログなら小さくピロン♪なんて音が鳴るだけで、そこから折を見て合流すれば皆で最後を迎えられるだろう。

 

「ヘロヘロさんは、明日も朝が早いそうですので……」

「そっか。じゃあ、モモンガさん。最後は魔王ロールお願いします!」

「えー!?なぜ!?」

「かっこつけて終わりましょう!さっ!早く!」

 

もー仕方ないですねー。何て言って咳払いをしてスタンバイするモモンガ。ヘロヘロや今日来てくれたメンバーに言えなかった言葉の棘の痛みはすっかり引き、照れが前に出てきている。

それにしてもこの骸骨、中身はいい年した大人だが女性メンバーから萌え骸骨やら骸骨の皮を被った萌えキャラやら言われていただけはある。それにしても骸骨なのに皮とはこれ如何に。

 

「それじゃあ行きますよ。……我が友ガエリオ、よく今までナザリックに仕えてくれた」

「何を言う、モモンガ。ナザリックは俺にとっても大切な場所。それはリアルに発ってしまった、他のメンバーにとっても同じこと」

「そう……だな。ユグドラシルでの活動はここまでになるが、ガエリオや他のギルメンが仲間であることに変わりはない。少なくとも私はそう思っている」

「……あぁ」

「時間もない、話したいことは山ほど有るが……ガエリオ、私は……」

「また、どこかで共に戦おう」

「……ガエリオ」

 

モモンガの魔王ロールに素の感情が混じり出す。

ガエリオは他のメンバーの話を交えたロールは失敗だったかと思いつつも、本音を話す。

ガエリオにとってもユグドラシルで仲間と過ごした日々は、間違いなく楽しいものだった。

 

「今は一時の別れとなるかもしれないが、世界は広い。どこかで再び相見(あいまみ)えることもあるだろう。……その時はまた、友として、仲間として戦ってくれるか?」

「もちろん、ですよ…ガエリオさん」

 

泣きマークのアイコンがモモンガの上に表示される。

恐らく本当に泣いているのだろう。

しんみりしたくなくて魔王ロールを勧めたガエリオだが、気持ちがわかるだけに止めない。

 

「また、遊びましょう!ユグドラシルⅡとか出るかもしれませんし、その時はペロロンチーノさんとか、ウルベルトさんとかも誘って!」

「あぁ、そうしよう」

 

そんな話をしていると、時間が迫ってきた。

残り30秒。

強制ログアウトまでは、プレイ出来るので最後の瞬間までロールを続ける。

 

「もう時間だな」

「……あぁ」

「また、メールします」

「あぁ」

「DMもします」

「あぁ」

「アプリでも連絡します」

「(笑)」

「なんで笑うんですか!?」

「いや、過剰だなと思って」

 

ついにその時は、訪れる。

 

「ガエリオさん、本当にありがとうございました。また、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく」

 

古き世界は終わりを告げ、新しい世界の扉が開く。

その時ユグドラシル、リアルでの時は

 

00:00:00

 

を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなったんだ」

 

モモンガは頭を抱えていた。

ゲームが現実になったのだ。アバターが実体の肉体となり、いい年のサラリーマンから骸骨の魔法使いになったわけだ。

肉体とは言っても骨なのだが。

しかもNPCが感情を持って動き出したのには本気で驚いて、変な声が出そうになったが種族特性の精神作用無効で気持ちが強制的に落ち着かされ事なきを得た。

ゲームが現実になったのは、いい。

リアルには家族も、恋人もいない。つまり、モモンガには戻ろうという気はないのだ。

だが、ガエリオはどうだろうか。

ガエリオのリアルでの生活は本人の口から遂には語られないが、大方の予想では富裕層ではないかと思われている。

モモンガもそうだろうなと思っているので、ガエリオがリアルに戻りたい等と言い出すのではないかとビクついているのだ。

ガエリオはというと今は、ゲームが現実になったことに一定の驚きを見せたあと再び自分の作り上げたものを見に行くと去っていった。

<伝言(メッセージ)>は使えるので、あとで連絡すると言っていたが……このわからないことだらけの現状であれだけ冷静なのは、やはりリアルでは相応の修羅場を潜った猛者……それなりの重役に就く富裕層のエリートなのだろう。

 

「くっ!俺のこの気分の落ち着きは種族特性の精神作用無効だけどガエリオさんの種族にそんなのあったかな……?」

 

とりあえず守護者を集めるようにアルベドに伝えたので、その時には居て貰わなければ困る。

ガエリオには伝えたが、反逆の可能性がある場合モモンガでは世界級と言われても遜色ないナザリックの至宝『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の強化が入っても守護者総掛かりではまるで歯が立たないだろう。

だが、ガエリオは専用の装備さえしていればその強さはアインズ・ウール・ゴウン最強にしてユグドラシル全体でも三本の指に入るたっち・みーとすら互角に戦い何度か勝利をもぎ取っている実績もある、現ナザリック内最強の戦士だ。

ルベドという例外もいるが、彼女が出てきたら大人しく逃げるのが得策だろう。

ルベドを起動できるのはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーだけなので、ゲームが現実になった際に感情を持って動き出したNPCにはどうすることもできないだろうが。

 

「……考えても仕方がない、先に向かうとしよう」

 

スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取り『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使う。

リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンはナザリック内なら回数制限のない転移が可能なアイテムで、100個ほどしか存在しない貴重なアイテムだ。

移動先はナザリックの『第六階層 大森林』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガエリオはナザリックの『第九階層 ロイヤルスイート』にある自室に隣接された専用の書斎のような場所にいた。

書斎とは言うが、リアルのガエリオの自室に似て作られた場所というだけである。

本来ならガエリオの作ったNPCが居るのだが、モモンガがアルベドに集合の指示を出したため向かっている。

ガエリオの作ったNPCはモモンガの指示で集まるよう言われた階層守護者ではなく、その階層の特定のエリアを守る『領域守護者』に近い存在だ。

レベルは100であり、ガエリオの友として生み出されたNPCである。

本来ならばレベル100のNPCじゃなくても良いと伝えたが、アインズ・ウール・ゴウンはキャラクター性や、ロールプレイを重視した人が多いことからそれだけのキャラならNPCにも力を入れるべきだと言われ、最終的にはガエリオからお願いしてNPC制作を行ったのだ。

 

ガエリオはリアルではたっち・みーと並んで富裕層の生まれである。

ガエリオ・ボードウィンというキャラクターに費やした課金額は軽く見積もっても貧困層のサラリーマンの生涯賃金にすら匹敵するだろう。

ガエリオは机を一撫でして、感触を確める。

リアルでは所謂貴族の家系のガエリオは、その感触が一流品に勝るとも劣らないことを理解し椅子に腰掛ける。

背もたれに背を預け、天井に視線を移しこれからの事を考える。

富裕層であり、金持ちのガエリオはゲームが現実になったところで良いことなどほぼないのだ。

結婚もしていないが、お見合いの話など腐るほど来る。順当にいけばそのうちどこかの社長令嬢とでもくっつくことになるだろう。

そしたらその娘との間に子供を作り、引退まで働き、老後は何不自由なく生きて、家族に看取られながら死ぬ。

そう言った貧困層では物語でしか有り得ないことを、実現できる立場にガエリオはいたのだ。

 

「……で?」

 

狂っているのだろう。

ガエリオ・ボードウィンというキャラクターに成ったからではない。

客観的に見れば、幸せを掴んでいる人間がそれを捨てるわけだ。

モモンガはこの世界に残るというだろうし、それは当然のことだと誰もが思う。

貧困層であり、いつ過労で倒れても不思議ではなく、娯楽であり心の支えでもあったユグドラシルが終わる。

未来に希望などない彼には、ナザリックと共に生きることが幸せなのだ。

だが、ガエリオの意思は固い。

ガエリオ・ボードウィンというキャラクターをメイキングし、ガエリオ・ボードウィンというキャラクターを完成させたのは『このため』なのだから。




色々言われてますがガエリオとキマリスヴィダールが好きです。
今回は三人称ですが、次話から一人称で進みます。


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2話

切りどころを探っていたら長くなりました。


今流行りの異世界転生を無事果たした俺は、一つ選択を迫られていた。

転生先の作品は『オーバーロード』ほとんど内容は覚えてないが、異世界転生したらその先で異世界転移するというなんとも不可解な事柄に巻き込まれているわけだ。

 

しかし別にオーバーロードの世界のリアルなんて酷いもんだし実質異世界に転移安定だと思っていたんだが、貧困層に生まれたならまだしも残念富裕層でした。

ということで、異世界転移が安定じゃなくなりなんとリアルで過ごすという選択肢が生まれてしまったわけです。

さらにはその辺の会社の御曹司とかそんなもんじゃない、貴族だ。

貴族ってなんだよ。貧困層の会社員とかに頭下げさせて喜んじゃってる富裕層のボンボンが、俺の顔を見ただけで少し俯きながら媚びへつらえようなそんな立場の人間に生まれたのだ。

つまりは人生の勝利者、強いキャラクターをメイキングして異世界ひゃっほう!今までの辛い人生とはお別れをした!しなくて済むわけである。

そもそも貴族の仕事ってなんだ、恨まれたりはしたくないぞ。金があっても不幸なら異世界行くわ。

そう思っていた時もありました。

貴族の仕事とは、簡単に言えば経済を回すことだ。

貴族は貴族が仕事とでも言うべきか。

回す経済が縮小しようとも、富裕層貧困層別れていようとも世の中から金がなくなったわけではない。

何世代も築いてきた人脈と蓄えてきた金で、会社のスポンサーなどをする。すると売上の一部がこっちに回ってくるわけだ。

会社を興すにしろなんにしろ金が必要だから、求められる。貸す、そして成功すればこちらに金が回るの繰り返し。

特に俺の家などは国内外問わず、多くの企業に携わっているのでまさに生きているだけで生活できる。

さらには国内の紙幣の発行権まで所有しているのだ。

そんなもの成り立つのか?と思ったりもしたが、見てればわかる。

信用とは金で買えないのだ。金では買えないが、積み重ねてきた信用は金になる。

会社を興したときにうちから金を借りたとなれば、うちが信用して金を貸した、だから信用できる会社だ、となる。

あとは顔を見せて回ることだったり、企業の視察が仕事だ。

悪いことしてたりすれば家の信用に関わるからな。

 

こんなんで年収が数えるのも馬鹿らしいほどなんだから異世界転移いる?という状況だ。

そもそも異世界転移する前提だが、ユグドラシル本当に面白いのか?大体異世界転移できるの?

……というわけで買ってきましたダイブマシン。

ちょっとやってみてつまらなきゃやめればいいや。

息抜き位にはなるでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

ユグドラシルは神ゲー。

いやー見事にハマりました。リアルでは富裕層だし、金はあるけど知名度がありすぎて自由がない。

毎日が日曜日だってやることなければ毎日が月曜日だぞ。

やることがない訳じゃないし、仕事……というか与えられた役割に不満もない。だが!だが!

人は慣れる生き物だ。貧困層の民が貧困の中生きていけるように、この裕福で幸福な生活はあまりに退屈なのだ。

贅沢?はっ!専用のマスクがなければ外を歩けず娯楽がほぼほぼ壊滅したこの世界で、生活に必要以上の異常な金銭がなんの役に立つと?

 

マスクがなければ外を歩けないのを逆手にとり、こんな裕福な俺ですら目玉が飛び出るほどの金を使いドームに擬似的な自然を用意しオープンカフェなんてものを作った馬鹿がいたが、マスクをせずに外に似通った空間でカフェを楽しめるということで富裕層では大ヒットし目玉が飛び出るほどの金を取り戻し元の何倍かも分からないような利益をとったやつが知り合いにいる。

この話からもわかるだろうが、富裕層、つまりは金があるやつらですらやることがないのだ。

だから目新しいものや、好奇心を擽るものに集まる。

だから俺がユグドラシルにハマったのだって仕方がないのだ。

仕事が終わればすぐユグドラシル。そして飯を食いユグドラシル。そして寝る。

自営業に近く、そして自由業。

所謂廃人と呼ばれるまでやり込むのには、そう時間は掛からなかった。

 

しかし、俺はオーバーロードという作品についての知識があまりにもない。

この世界に生まれ落ちる前の世界はまさに異世界転生全盛期。今期のアニメは8割異世界転生物!が冗談ではない。

たしかユグドラシルというゲームで主人公が最終日に異世界転移をするという話のはずだ。

あと最強物。

わからんからいいや。無理なら無理で人生イージーモードさせてもらうぜ。

またユグドラシルの話に戻るが、自由度の高さが半端じゃない。環境汚染により荒廃した世界だからその辺の技術も衰退したかと思ったがそんなことはない。

キャラクターのビジュアルから装備まで、法律やモラル、運営が定めたルールに触れなければ基本なんでもありだ。

ビジュアルなどを弄るには課金要素があるが、アルティメット金持ちの俺にとってはその程度の課金など自販機でジュースを買う感覚だ。

余談だが外に自販機はない。あるのは店内や会社内だけだ。

まぁそんなわけで好きな容姿に変えれるのだが、どうしたのかというとどうやらこの世界にもあったらしいのだ。

ガンダムが。

俺はガノタは言い過ぎだが、かなり好きだ。

アニメ化されているので好きなのはZ逆シャアOO鉄血だろうか。細かく言えば好きな作品は多いがその辺は省略させてもらう。

 

中でも鉄血は色々言われたりしているが、俺はガエリオVSマクギリスの最終戦。

ガンダム・キマリスヴィダールVSガンダム・バエルの戦いはガンダム史上屈指の名勝負だと思っている。

作画や鉄の塊で殴り合ったりガエリオの想いをぶつけるかのような、太刀でのラッシュのシーンなどは堪らない。

……鉄血の話はともかく、どうやらこの世界の著作権はとっくに切れているようなので、ガエリオ・ボードウィンを選択した。

初登場時の坊っちゃん的な容姿より、マクギリスに殺されかけたあとの顔に傷がある方が好きだ。

次は種族だ。人間種か異形種に別れている。

人気なのは圧倒的に人間種だろう。

しかも今でこそほとんどないが異形種狩りなんて低俗な遊びが流行ったこともあるらしい。クズが。

ガエリオは人間なので人間種にしようと思ったが、キマリスとは悪魔である。

とりあえずユグドラシルのwikiを見ていると『鎧の悪魔(アーマーデビル)』という種族があるではないか。

悪魔で鎧。うーむ実に鉄血のモビルスーツ的ではないか。

異形種を最初から選ぶという手もあったが、ガエリオも最初は阿頼耶識システムを嫌悪していたが最後は阿頼耶識システムTypeEを使っていることからロールプレイの一環として人間種を選び悪魔に転生し、異形種となった。

 

そして莫大な課金と廃人プレイによって、『ガエリオ・ボードウィン』というキャラクターが完成した。

はっきり言って、めちゃくちゃ強い。

装備の相性もあるが1対1なら最強だという自負がある。

ただ、残念なことに鎧の悪魔の名の通りこの種族鎧に大きく依存しているのだ。

レベル100ではあるが鎧無しではレベル70程度の能力しか発揮できない。

ガチガチの戦闘ビルド構成のおかげで鎧なしでもかなりマシではあるがそれでも弱い。

ユグドラシルではレベル10差が付いたら勝負にならないなんて言葉があるくらいレベル差というのは大きい。

専用装備も見た目を完全にキマリスヴィダールにすることができた俺には、一つの懸念があった。

それは、世界級アイテムの存在である。

キマリスヴィダールは全身で一つの存在なので、まず全身が神器級(ゴッズ)そして武器のドリルランス、刀、シールドが伝説級(レジェンド)である。

ここまでの装備を揃えるのには苦労したが、世界級アイテムは世界級アイテムでしか対抗できない。

ならば、キマリスヴィダールの代表的なシステム阿頼耶識システムTypeEを世界級アイテムクラスの装備にしようと思う。

 

ユグドラシルは課金で大抵なんでも出来るが、こればかりは課金でもどうにもならない。

だが、ユグドラシルに不可能はあまりないのだ。世界級アイテムに運営に直接お願いできるアイテムがあるのだ。

めちゃくちゃだろう。俺もそう思う。

名前は『永劫の蛇の指輪(ウロボロス)

二十と言われるぶっ壊れ世界級アイテムのひとつだ。

そいつを手に入れて、運営に直接お願いすれば……!

とりあえず今までソロプレイだったからフレンドは居ないが、聞き込みを始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

いやー参ったなこりゃあ。

まさかあの悪名高きアインズ・ウール・ゴウンに目をつけられるとは。

商業ギルドの大会の景品に永劫の蛇の指輪(ウロボロス)があるからって意気揚々と参加したら決勝でアインズ・ウール・ゴウンのメンバーと戦うことになるとは。

しかもワールドチャンピオンってことは鬼強いじゃないか。

最後にして最大の壁か……。

いや、ここまで来て何を恐れることがあるのだ。

俺だって一応ワールドチャンピオンのクラスを修めているのだよ。

……負けたら頭下げてでも永劫の蛇の指輪(ウロボロス)を貰うぜ。

 

 

 

 

 

商業ギルドが行った大会だけあって、その盛り上がりは月毎の大会の非ではない大盛り上がりとなっていた。

現在行われているのは準決勝。

しかし、その様子を見守る観客の盛り上がりはもはや決勝戦を凌駕する勢いだろう。

それもそのはず、ユグドラシルに小さいながらも噂になった紫の鎧の戦士ガエリオ・ボードウィンが相対するはユグドラシルの悪の華、アインズ・ウール・ゴウン最強の戦士にしてユグドラシルトッププレイヤー三本指に入るの一人、たっち・みー。

どちらもワールドチャンピオンのクラスを修めているのは閲覧魔法で確認済みであり、珍しいワールドチャンピオン同士の戦いに観客は視線を釘付けにされていた。

戦いは攻めのガエリオVS守りのたっち・みーと言った様相を呈している。

 

ガエリオのキマリスヴィダールは守りも堅牢ながらドリルランスや刀など近接戦闘では無類の強さを誇るが、たっちの純白の鎧であるコンプライアンス・ウィズ・ローと純白の盾、アースリカバーにたっちの戦闘技能が加わり、ガエリオはその守りを崩せずにいた。

しかし、拮抗とはいつも得てして崩れるのは一瞬である。

 

「戦場を切り裂け、アイン!!」

「!?」

 

ガエリオの怒濤のラッシュにたっちはたまらず、ワールドチャンピオンのスキルである<次元断層>を使ってしまった。

もちろんワールドチャンピオンのスキルに相応しく絶対防御のスキルだが、同格相手では明確な隙でしかなかったのだ。

キマリスヴィダールの左目が赤く光ると一時的に敏捷値が上昇する。

そのままたっちの真後ろに回り込むとドリルランスに背面のシールドが連結される。

見ている側からすれば謎の行動だ。背後からのダメージはダメージこそ増さないが、吹き飛ばしなど戦士には優位に働くデバフを相手に与える。

それにキマリスヴィダールの一撃ならば一撃ですら致命傷に近いダメージを与えるだろう。

それなのに今さらなぜそんな隙を?

たっちもすぐさま振り返りドリルランスの射線にアースリカバーを構え防御の姿勢をとる。

次元断層には及ばないが鎧と盾によるほぼ絶対防御、過信するのもわかるが、たっちはもう一度次元断層による防御を行うべきだったのだ。

 

「貫けぇ!」

 

ドリルランスから発射された弾丸はアースリカバーを粉々に吹き飛ばし、なお余りある威力そのままにコンプライアンス・ウィズ・ローへと迫る。

たっちはその異常な威力を理解したのか体を逸らすが脇腹を弾丸は掠めた。

……掠めたというには威力が高すぎたのだろう。掠めた純白の鎧はその一部分が粉々に砕け鎧内部の異形種特有の肉体が露見している。

だが、決着には程遠い。

たっちはすぐに気持ちを切り替えると剣を構え直しドリルランスと打ち合う。

本来ならば不利な打ち合いだが、とっさの判断でドリルランスを弾いたたっちはさらにラッシュをかける。

 

「う、うおおおおおお!」

「ぐっ!」

 

すぐさま刀に切り替えラッシュに対して防御を行う。

が、後手に回ってしまったのが、勝敗を分けた要因だろう。

ほぼ満タンの体力すら一撃で削りきる攻撃が、ワールドチャンピオンには存在する。

 

次元断切(ワールドブレイク)!!」

「……っ!アイン!」

 

先ほどの逆である。一撃必殺に対してガエリオは防御ではなく回避を選択。

だが、遅かった。いや、防御ではなく回避を選択したのは間違いではない。ワールドブレイクの前では通常防御など意味を成さず、同じくワールドブレイクで相殺を狙うのも後出しでは分が悪い。

次元断層は諸事情で使えない。

となれば、回避を選択したことにミスはない。

 

結果回避しきれず、ガエリオの上の電光掲示板にLoseが出たとしても仕方がないことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

大会はたっちさんが優勝した。

言い訳するわけではないが、ワールドブレイク並の一撃必殺を避けるとかある?

しかも背後とってほぼゼロ距離だし、勝ったと思いましたよそりゃ。

そのまま殴っても十分なダメージだせるしなんならそっちの方が結果的に良かったのかもしれんけど……。

悔しいなぁ。

 

「あの、少しいいですか?」

 

ピコン♪と、チャット申請が飛んできたので名前を確認すると『モモンガ』『たっち・みー』『ウルベルト・アレイン・オードル』『ペロロンチーノ』となっていてさすがに驚く。

どうみてもアインズ・ウール・ゴウンのグループチャットじゃないか。

ま、まさか、PK(プレイヤーキル)されるのか……?

も、もちろん抵抗するぜ!(ドリルランス)で!

震えながら俺はグループチャットに了承し、参加するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

色々あったが、俺はアインズ・ウール・ゴウンに入り仲間たちと楽しい日々を過ごしていた。

ソロプレイでやっていたのは純粋にオーバーロードという作品の中で俺という異物が余計なことをしないようにという配慮と、冷静にほとんどのプレイヤーが貧困層の中キャラ愛があるとはいえじゃぶじゃぶ課金している俺は爪弾きにされるのではないかと思っていた。

確かにアインズ・ウール・ゴウンに入る入らないの時、リアルのことは明かさないという条件で入ったが、まぁたぶん金持ちなのは察されているだろう。

でも、そんなことは気にせずに接してくれて本当に嬉しかった。

リアルじゃどこ行ってもペコペコされることに、慣れすぎて当たり前になっていたが、人と人の関わりってそんなもんじゃねぇだろ。

……エリート街道を爆走してきた。優秀な部下とかは居たけど、友達は居なかった俺にはリアルより居心地のいい場所だった。

そんなユグドラシルも遂に終わりを迎えようとしていた。

単純に企業が利益を取れなくなってきたのだろう。

俺が企業に出資してもいいけど、そんなもので続けてもゲームの寿命が僅かに延びるばかりでなんの解決にもなっていない。

運営のイベントのマンネリ化とかに俺が口を出して、それを俺は楽しめない。そもそもそれなら俺が運営に回ったようなものじゃないか。

 

だがらこそ、ユグドラシル最後の日にモモンガさんには引退してた人との会話を楽しんでもらって俺は自室の書斎に来ていた。

入り口のすぐ横に立っている俺が作ったNPCに話しかける。

NPCに話しかけるなんて馬鹿らしいかなとも思うが、最後だと思うと言葉が止まらなかった。

 

「……マクギリス。これで最後になるわけだが、最後までよく守護してくれた」

 

マクギリス・ファリドは鉄血のオルフェンズに登場した人物であり、俺の作ったNPCはそのマクギリスの姿そのままだった。

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは各々想いを込めて制作している。

例えばペロロンチーノの作ったNPC『シャルティア・ブラッドフォールン』には自分の趣味のエロゲの設定などを反映している。

俺がマクギリスに組み込んだ設定の大きな部分は、『友である』こと。

ガエリオだからマクギリス。という安直な部分も確かにあったが、それ以上に俺が真に求めていたものはガエリオにとってのマクギリスのような存在であり、マクギリスにとってのガエリオのような存在だったのだ。

だから、俺はメンバーの力と課金力を駆使しマクギリスを産み出した。

 

「長々と話すと別れが辛くなるな。俺はモモンガさんのところに行く。……また、機会があれば必ず戻ってくる。それまでの、別れだマクギリス」

 

俺は『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使い、モモンガさんのいるであろう玉座へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

「……で?」

 

と、かっこつけたは良いものの俺はどうやら異世界に転移したらしい。

そういうこともあるだろうとは思っていたが、精神状態はかなり落ち着いている。

むしろ種族特性で精神作用が無効化しているモモンガさんの方がこちらをチラチラと見てきて落ち着きがないように感じたくらいだ。

わかるよ、モモンガさん。俺がリアルに帰りたいんじゃないかと不安になってるんだよね。

モモンガさんは貧困層代表かのような典型的な貧困層の民……いや、失礼なのは承知だが、他に表す言葉が見つからない。

なので、愛するナザリックと生きていくことになんの不満もないのかもしれない。

……俺は、今は戻りたいという気持ちはない。

俺もそれだけ、ナザリックを、アインズ・ウール・ゴウンというギルドを愛しているから。

スッと机をなぞるとその手触りはリアルでは触ったことの無いほど上質な素材を使っているとわかる。

これに、なんか贅沢が付いてきたら二度とリアルに戻りたくなくなるかもな。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ!ガエリオ様!ペロロンチーノ様が認めた我が伴侶!」

「……え?」

 

第六階層に到達し、『第六階層 大森林』の守護者であり、ダークエルフの双子。金髪のショートカットであり男装をしているのが姉の『アウラ・ベラ・フィオーラ』女装をしているのが弟の『マーレ・ベロ・フィオーレ』だ。両者とも緑と青のオッドアイであり、双子で逆になっている。

仲良し姉弟の服装が男女逆なのは制作者『ぶくぶく茶釜』さんの趣味なのだろうか。キャラは立っているがリアルでは弟がいる茶釜さんの闇を感じる。

アウラやマーレと談笑していると<異界門>(ゲート)の靄の中から現れた銀髪赤眼ボールガウンの見目麗しい吸血鬼であり制作者はバードマンの『ペロロンチーノ』。

『シャルティア・ブラッドフォールン』が姿を現した。

やっぱりペロロンチーノの趣味嗜好というかエロゲ設定を盛り込まれたとはいえ、見た目は最高だな!

白蝋のような白い肌を仄かに赤く染めてすり寄るその姿……可愛すぎる。ドストライクです。

とか考えていたら抱き付かれて……え?伴侶?

 

「シャルティア?何を……?」

「あぁぁ~ガエリオ様の尊き香り……うへへへ」

 

可愛い。

いやいやいや、そうじゃない。

ペロロンチーノ……!一体何をしたんだ……!

 

「ちょっとシャルティア!ガエリオ様に失礼だよ!は、な、れ、な、さ、いー!!」

「うへへ、うへへへへ」

 

アウラがグリグリと俺の腹部に顔を擦り付けるシャルティアの肩を掴み引き剥がそうとするが、さすが総合値では守護者最強。

ステータスのごり押しでアウラに一歩も引かないか。

 

「モモンガさん」

「え?あ、ああ」

 

モモンガさんもあまりのことにフリーズしていたが、俺の言葉で我に変える。

どうやら精神作用無効が働くほどの衝撃はなかったようだ。

 

「シャルティア、落ち着け」

「……はっ!モモンガ様……大変失礼を」

 

急に体を離したものだからシャルティアの頭突きがアウラの鼻に直撃して苦しんでいる。

 

「大丈夫か?アウラ。見せてみろ」

「う、うぅ……ガエリオしゃま、そんなおふぃになしゃらずに」

 

アウラの手を退かし、頬に手をかけ鼻を指で触る。

頬も柔らかく、鼻も柔らかい。

が、どうやら鼻が折れていたりはしないようだ。

さすがはレベル100のNPC。

痛そうだったがそこまでのダメージはないみたいでよかった。

 

「が、ガエリオ様……」

「あっ!チビ助!ガエリオ様に何を色目を使ってるでありんすか!?」

「う、うぇぇ!?な、何を言ってるのさシャルティア!い、色目なんて……」

 

跳び跳ねるかのように俺から離れると、シャルティアに詰め寄られ、ゴニョゴニョと言い訳をするアウラ。

残念だがシャルティア。元はと言えばお前の頭突きのせいだぞ。

 

「ガエリオさん、まさかシャルティアに手を……?」

 

ジト目で見てきているのはわかるが、やめてくれ。

さすがに短時間にそういう行為に及んだとしたらとんだ凶行だ。

それにユグドラシルでは18禁行為は禁止されているので行ったことがない。

しかもクソ運営だがその辺の取り締まりはめちゃくちゃ厳しく、18禁行為は即アカウントBANというのが実態だ。

だからこそエロゲーイズマイライフなんてアホなことを掲げていたペロロンチーノは何度か危なかったが、なんとか引退までそのようなことは起こさなかったので円満に去っていったのが懐かしい。

 

「いや、たしかにペロロンチーノの作ったNPCだからよく見に行ったりはしていたが……というかそんな設定シャルティアにあったか?」

「たしかに、そうですね。あとで確認しようと思いますが、ペロロンチーノさんが設定を書き換えたんでしょうか」

 

伴侶と言われて嬉しくない訳じゃない。

ペロロンチーノがシャルティアを作ったときあまりにもドストライクすぎて、天才かと誉めちぎったことも記憶に新しい。

まぁ、シャルティアは置いておいて……マクギリスはどこへ行ったんだ。

階層守護者ではないが、俺の作ったNPCだから一応ここに呼ばれているはず。

しかも先に来ていたはずなんだが。

 

「騒ガシイナ。至高ノ御方ノ前ダゾ」

 

視線を声の方に移すとそこには蟻とカマキリを融合させたような姿に背中からは氷柱が何本か生えているのが見える。

制作者は武人建御雷『第五階層 氷河』の守護者『コキュートス』だ。

 

「コキュートス!シャルティアが!」

「コキュートス!チビ助が悪いでありんす!」

「……すまん、コキュートス。俺の責任だ」

「イエ!ガエリオ様ガ謝ルコトナド!」

 

コキュートスに合わせてシャルティアとアウラも謝り出すので収拾がつかない。

この空気は楽しいけどやりづらいな。

 

「おや、遅れてしまいましたか」

「申し訳ありません、モモンガ様」

 

現れたのは、階層守護者のまとめ役、守護者統括の『アルベド』。制作者は『タブラ・スマラグディナ』。その姿は黒髪を腰の辺りまで伸ばし、豊満な胸と女性にしては長身の身長はまるで一流の女優やモデルのようである。そして美貌は傾国の美女という言葉では足りないほどの容貌であり、頭部からは羊のような角、腰からは漆黒の天使の羽が非人間だと言うことを強く主張している。

もう一人は日焼けのような肌に丸眼鏡、黒髪オールバック赤のスーツと言った出で立ちは周囲にそぐわないが、銀色の尻尾と眼鏡の奥の瞳がダイヤモンドであることが非人間だと主張する。

彼は『第七階層 溶岩』の守護者であり、制作者はウルベルト・アレイン・オードルの最上位悪魔(アーチデヴィル)『デミウルゴス』。

 

「マクギリスはどうしたんだろう。モモンガさんは知ってますか?」

「たしかに居ませんね。ガエリオさんは知らないんですか?」

 

先に来ていると思っていたが、どこへ行ったんだ。

 

「アルベド、守護者と共にマクギリスを呼ぶように伝えたはずだが」

「はっ!申し訳ありません、モモンガ様。確かにマクギリスにはこちらに来るように伝えたのですが、実際に来ていないのであれば私の失態。なんなりと罰をお与えください」

 

そういうと恭しく頭を垂れ、まるで首を差し出すかのような姿勢になる。

モモンガさんもその忠誠心に動揺しているようだ。

しかしマクギリスは俺の作ったNPC、その罰をアルベドに与えるのは可哀想すぎる。

俺が罰を受けてもいいくらいの話だ。

 

「アルベド、頭を上げろ。マクギリスには追って罰を与えるので構わん。伝えてくれたならそれでいい」

「ガエリオ様……申し訳ありません」

「いや、いい。モモンガさんもそれで大丈夫か?」

「えぇ、構いません」

「……ご慈悲に感謝いたします」

 

すでにわかっていたが、忠誠心が凄い。

ちょっと怒ったら、本気で自害してしまうのではないかと心配になるほどだ。

マクギリスにはきつめの罰が必要だな。

 

「…それでは、我ら守護者の忠誠を至高の御方に」

 

改めて行われた忠誠の儀は正直言って過剰な物だった。

俺はまぁ、リアルでの事情もあり慣れたものだがモモンガさんは動揺しているのかスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握り締め<絶望のオーラⅤ>を垂れ流している。

ここにいるのは全員大きな影響を受けないレベル100なので大丈夫だが、<絶望のオーラⅤ>は即死の効果がありスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの強化を受けた今の状態ならかなりのレベルまで即死させられるだろう。

 

「では、最後にガエリオさん。一言お願いします」

「うむ。俺は、アインズ・ウール・ゴウンを愛している。そして、ナザリックを、お前たちを愛している。だからお前たちの忠誠しかと受け取った。これからも励んでくれ」

 

そういうとリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで俺とモモンガさんは転移する。

簡潔になるが、自分よりも上の立場からの言葉というのは長々と聞くとプレッシャーになりかねない。

ないとは思うが、パワハラで自殺とかになったら去っていったメンバーに顔向けで気ないではないか。

一旦玉座へと向かい、今後のことを相談しようと忠誠の儀の最中にモモンガさんから<伝言(メッセージ)>が来ていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごかったねお姉ちゃん」

「うん、凄い迫力だった」

「モモンガ様も凄かったが、その隣で平然としていたガエリオ様も凄まじかったね」

 

マーレとアウラの言葉にデミウルゴスが同調する。

忠誠の儀が終わったあと、守護者同士の会話が始まったのだ。

 

「確カニ、アレダケノ力ヲオ見セニナッタアインズ様ノ隣デ平常ヲ保ツノハ大変ナコト。流石ハガエリオ様」

「それにしてもマクギリスはどこへ行ったのかしら……?私に恥をかかせるなんて、許せないわ」

「確かにガエリオ様の作られた者というのには会って見たかったでありんすが、それよりも……」

 

うへへと笑うシャルティアに視線が集中する。

 

「が、ガエリオ様が、わ、私をあ、愛しているって……うへへへへ」

 

涎を垂らし笑うシャルティアに周囲は呆れの色を隠せない。

ガエリオの言葉は確かに守護者の心に響いたが、『シャルティアを』とは言っていないのだ。

 

「こら!偽乳!シャルティアを、なんて一言も言ってなかったでしょ!?」

「むふふ。いいでありんすよ、チビ助。婚儀には呼んであげるでありんすえ。式の後には初夜……おっと、下着が大変なことに」

「アルベドー!この偽乳話を聞かないー!……アルベド?」

「あぁ……よくよく思い出すとモモンガ様……なんて素晴らしき力の波動……あらやだ、私も下着が……」

「えぇ……!?もー!やだこの二人ー!」

 

ナザリックの貴重な常識人アウラには、ロリ美少女吸血鬼ビッチと黒髪清楚系腹黒元ビッチのトリップを相手するのは中々荷が重いのかもしれない。

頑張れアウラ。

ナザリック守護者界隈の平和は君のその小さな肩に掛かっているだろう。




転生者というか転移者というか、まぁこの設定はあってもなくてもいい設定ですがガエリオとキマリスヴィダールをぽんっと出すよりはスムーズにことが運ぶので盛り込みました。
今後この設定が活きることはないと思うので、物語の導入部分の潤滑油くらいに思っておいてください。

それでは。


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3話

玉座の間でのモモンガさんとの話し合いはすぐに終わった。

守護者の忠誠心が見れたので、ナザリックのNPCが牙を剥くと言うことが無いことが証明されたようなものだ。

もちろん演技の可能性もあるし、どこまで信用していいのか、ということもあるが俺とモモンガさんが愛して止まないアインズ・ウール・ゴウン、そしてナザリックのNPC達が裏切るのであれば俺たちの力不足であり、想いは伝わらなかったと言うことだろう。

 

「まぁでも、ガエリオさんがいれば最悪あの場で全員に襲い掛かられても逃げるくらいは簡単だったかもしれませんね」

「あまり過信されても困るけど」

 

しかしナザリックは広すぎて不安になる。ゲーム時代はそうは思わなかったが、この大墳墓が自宅になるのわけでこれからここで生活していくのだ。

現にこの玉座の間の天井もあり得ないほど高い。

墓とは到底思えない広々とした空間に居心地の悪さを覚える。

いくらなんでもこの広さはそうそう経験したことがない。

 

「いやいや、たっちさんとほとんど互角の強さなんですから守護者全員相手でも行けるんじゃないですか?」

 

まぁたしかに負け越してはいるがたっちさんとほぼ互角だと言う自負がある。

それだけの経験をユグドラシルの間に積んだのだ。

だがモモンガさんよ、忘れてないか?

 

「この軍服はいい装備ですけど、本来の力が出せるほどじゃないですよ」

「……あー、たしかに」

「そもそも俺は、出来るなら守護者やナザリックの者とは戦いたくない。……去っていった彼らのことを考えると、ね」

 

モモンガさんは考えるように顎に手を当て、俯く。

きっと、最後のあの瞬間まで残った彼は俺と同じ気持ちのはずなのだ。

 

「その通りです、ガエリオさん。ナザリックの者達は皆去っていったメンバーの子供たちも同然。それを傷付けるなんて、できませんよ」

「……あぁ」

 

もし彼らが俺達を殺そうとしていたら、どうしたのだろうか。

たらればにはなるが、きっと俺はモモンガさんの首根っこ捕まえて逃げていただろう。

傷付けることはできない。でも、殺されてやるなんてごめん被る。

モモンガさんも、友なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玉座の間には再び守護者が集められていた。

守護者は膝を着き、主であるモモンガさんの言葉を待っている。

俺はモモンガさんが座る玉座の横に立ち、守護者同様モモンガさんの言葉を待っている。

アインズ・ウール・ゴウンのギルド長はモモンガさんだ。

最古参であり、彼らが真に忠義を捧げるべきは俺ではなくモモンガさんであるべきだと俺は思う。

 

今回は本来であれば玉座の横に立つであろうアルベドは、他の守護者同様に下にいる。

アルベドは統括の立場にあるが、今回は忠誠の儀と同様のスタンスで行こうとモモンガさんと話したのだ。

まぁ、もっと気楽でもいいがナザリックは一つの塊となって行かねばならない。

主であるモモンガさんを頭に据えたピラミッドのようなものと言うと分かりやすいだろうか。

 

「面を上げよ」

「はっ!」

 

モモンガさんの言葉に守護者達は顔を上げ、こちらに視線を向ける。

モモンガさんはスイッチが入ったのか支配者としての姿が堂に入っている。

 

「今回お前たちを集めたのには理由がある。だが、前回の忠誠の儀から1日として経たずに集めてしまったのは私の失態だ。許せ」

「いえ、そんな!モモンガ様が謝ることなどございません!」

「そうか。ならば早速本題に入ろう。……入ってこい」

 

モモンガさんが声を掛けると扉が開き、そこから一人の男がこちらへ歩いてくる。

そいつは玉座の段差の前に立ち、モモンガさんの言葉を待っている。

 

「モモンガ様、その男は……?」

「あぁ、前回の忠誠の儀の時に居なかったマクギリスだ」

「……っ!」

 

名前を聞くとアルベドを除く守護者が殺気が溢れだし、波のような殺意が玉座の間に充満する。

そうか、アルベドは一度会っているんだったな。

……守護者からすれば、至高の存在の言葉を無視したわけだからこうなることは事前の話し合いで予想していた。

 

「やめなさい!至高の御方の前ですよ!……失礼致しました、モモンガ様、ガエリオ様」

「構わん。私たちのことを思って怒ってくれたのであろう。マクギリス、自己紹介をしろ」

「はい。私の名前はマクギリス・ファリド。創造主はガエリオ・ボードウィン様だ。よろしく頼む」

 

マクギリスに役職を与えるとすれば、『第九階層 ロイヤルスイート』の領域守護者だろうか。

短めの金髪に長身、鋭くも優しげな風貌は美男子を体現した出で立ちである。

そして俺の着ている軍服と同様の物を着用させている。

正確な役職は無いが、あえて言うならば俺の友であり、一級品の戦力だ。

 

「モモンガ様、発言をよろしいでしょうか」

「ほう、申してみよアルベド」

「ありがとうございます。先の忠誠の儀の際マクギリスは至高の御方に呼ばれ、第六階層に来る予定だったはず。それを無視し、来なかったことは明確なナザリック、牽いてはアインズ・ウール・ゴウンへの反逆行為かと思います」

「ふむ」

「しかもマクギリス不在はモモンガ様とガエリオ様すらその理由を知らなかったご様子。これは許されざる行為。是非ともマクギリスに罰をお与えください」

 

確かにアルベドの言うとおりだ。

彼女は何一つ間違ってはいない。俺も人の上に立っていた人間だった。信賞必罰は世の常。

マクギリスは理由も告げずにすっぽかしたのだ。

守護者達の忠誠心を考えれば死罪すら生温いほど怒りが渦巻いているはず。

 

「その事に付いてだが、俺からいいか?」

「ガエリオ様……」

「マクギリスが来なかったのは俺のミスだ。……お前たちが創造主によって在り方を与えられているようにマクギリスにも俺から在り方を与えていた。しかしその事をすっかり失念し、あのような事態になってしまった。済まない」

「……それはどのような在り方なのか、お聞きしてもよろしいでしょうか。」

 

マクギリスが第六階層に来なかったのは完全に俺のミスだ。

マクギリスは俺の作った設定を遵守していたから第六階層には来れなかった。

だから設定を遵守して来なかったことに対し、彼が怒られ罰せられるのは道理が通らない。

俺のミスを子供とも言えるNPCに押し付けるなど親として、上司としてクズだ。

しかも部下である守護者が俺達をこれだけ立ててくれているのだから、半端な覚悟ではこの先どれだけミスを繰り返すかわからない。

だからそこ、これはケジメとでも言うべき罰を俺に与える。

それにアルベドの質問ももっともだ。創造主である俺がマクギリスを庇っているように見えても何ら不思議ではない。

 

「マクギリスは俺と同じ種族である鎧の悪魔(アーマーデビル)だ。そして、マクギリスには俺の鎧と同等の鎧を与えている。……その鎧は、替えの効かない真の一点物であり、その守護を最優先に据えていた。当然、俺の指示よりも優先度は上だ」

「……しかし失礼ながらガエリオ様。あの場はそれよりも優先順位を上げ、至高の御方の言葉通りに行動すべきだったのではないでしょうか」

「アルベド。この事に関しては私とガエリオさんで話をし、ガエリオさん、そしてマクギリスに罰を与えることで落ち着いている。……それともアルベド、お前は私が下した判断に口を挟み、なおかつガエリオさんに罰を与えられるほどの立場に居ると思っているのか?」

「!申し訳ございません!至高の御方に罰を強要するかのような発言、更にはモモンガ様が既にこの事柄に対し判断を行っていることを察することのできない無能な私をどうかお許し下さい」

 

モモンガさんの威圧感が増し、アルベドの言葉を遮る。

しかしながら悪いのはどう考えても俺。

モモンガさんが俺を庇って言ってくれたのは分かるが、俺も申し訳なさが増すばかりだ。

 

「アルベド、それから守護者の皆。今回の件は完全に俺のミスだ。小さなミスだが、今後こういった小さなミスがナザリックを危険に巻き込まないとも限らない。だから、俺はモモンガさんからの罰を遂行し、反省し、二度と同じミスを繰り返さないことを誓う。だから、どうか許してもらえないだろうか」

 

俺の本心を口にし、頭を下げる。

俺が頭を下げたことによる動揺だろうか。

困惑したような空気が漂う。

 

「モモンガ様」

「構わん。ガエリオさんは、お前たちに判断を委ねた。許さないと言うのであればそう言って構わない。許すのであれば、言葉を掛けてやってくれ」

「……わ、私は許すでありんす!」

「シャルティア」

「そもそも至高の御方に、罰を与えること自体に反対でありんす。私は至高の御方が私たちの上に、支配者として居てくれればそれだけで幸せでありんす」

「私も同じ意見です!間違ってしまったことを謝ってくださった事が、それだけで嬉しいです!」

「ぼ、僕もシャルティアさんと、えっと、お姉ちゃんと同じ意見です」

「私ハ、至高ノ御方ノ一振リノ刃。元ヨリ御方ノ存在自体ガ嬉シクアリマス」

「私も彼らと同意見です。至高の御方に対しどうこうしようなどと言うシモベはおりません。当然先程のアルベドの発言は、信賞必罰を口にしただけのことでしょう。本心ではないはずです」

「……先程は申し訳ありませんでした、ガエリオ様。本来であれば首を差し出してなお罰としては生温いと理解しておりますが、今はガエリオ様に対するお気持ちを伝えさせていただきます。私はガエリオ様はモモンガ様同様、最後までナザリックに残ってくださった至高の御方として忠義を捧げさせていただきたく思っております」

 

……あまりの感動で涙が出そうだ。

モモンガさんと話した罰とは、守護者にその判断を委ねると言うものだった。

さすがに死罪を言い出した場合は止めると言っていたが、命を差し出す覚悟をしている部下の上司なのだから多少の無理は聞き入れるつもりだった。

そもそもミスが小さすぎる。

たった一度、どこかでマクギリスの設定を確認すればそれだけでよかったのだ。

それを怠った俺には、十分な罰が必要だろう。

今回は守護者が言ってるように許してもらえたが、これがナザリックに危機を招き入れたりしたら命で償うしかないだろう。

 

「ありがとう。同じミスを繰り返さないことがこの恩に報いることになるだろう」

「……では、今回の件はこれで終わりだ。是非ともガエリオさんのようなミスをしないようにしないとな」

 

はっはっはっ!と笑う骸骨。

俺も守護者も笑えないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモンガとガエリオが去ったあと守護者達は話し合いをしていた。

議題は先程のガエリオの謝罪についてだ。

 

「しかし、至高の御方でもミスをするなんて思わなかったなぁ」

「お、お姉ちゃん。し、失礼だよ」

 

守護者にとって至高の41人は絶対の存在。まさか小さいとはいえミスを犯すとは思わなかったのだろう。

 

「いや、それは違うよ。アウラ、マーレ」

「デミウルゴス?」

「ふむ。やはり理解していたのは私とアルベド位ですか」

「ドウイウコトカ詳シク話シテクレ、デミウルゴス」

 

ふむ……それでは、と眼鏡を直すと守護者を見回し言葉を紡ぐ。

 

「簡単な話さ。ガエリオ様の話は徹頭徹尾ミスを犯さないこと、それの危険性についてだったね。あとはそうだ」

「マクギリスの紹介ね」

「おっとアルベド。ここの説明は私に譲ってもらうよ。まず第一におかしいと思わないかい?」

「ナニガダ?」

「マクギリスをお作りなられたのはガエリオ様自身だ。そしてガエリオ様自身もマクギリスと同じ種族。鎧の重要性を理解していないわけがないだろう?」

鎧の悪魔(アーマーデビル)でありんすか?」

「そう。洗礼された特別な鎧を纏うことで力を発揮する種族だね。同様の種族であるガエリオ様が本当に鎧の守護をしていたというマクギリスの在り方を忘れていたと思うかい?」

 

あっ!とアルベドとデミウルゴス以外の守護者は驚きの声を上げる。

どうやらここまでの話は理解できたようだ。

 

「で、でも、でもですよ。なんでガエリオ様が謝るんですか?」

「マーレ、我々にミスを犯させないためさ」

「え?」

「……私も至高の御方の智謀には遠く及ばないので全てを理解することは叶わないが、好意的な考え方をするのであればこれから行う何か、それは重要なコトだからどれだけミスだろうが致命的になる。だからこそ、モモンガ様とガエリオ様は一芝居打たれたのではないかな」

「そうなってくると、繋がってくるでしょう?マクギリスが第六階層に来なかったのと、その理由をモモンガ様とガエリオ様が知らなかったことが」

 

うーん。とシャルティア、アウラ、マーレは首を捻るがどうやらコキュートスは理解したようだ。

シュコーと冷気を噴き出しながら興奮したように話し出す。

 

「マクギリスハ初メカラ、モモンガ様トガエリオ様ノ命令デ来ナイ手筈ダッタト言ウコトカ」

「その通りさコキュートス。順番に整理しようか。まず第一にマクギリスが第六階層に来なかったのは、モモンガ様とガエリオ様の命令。これは先程のガエリオ様の謝罪が我々にミスを犯さないことの重要性を理解させるための布石。至高の御方であるガエリオ様が謝罪をしたとなれば、ミスをしないことの重要度とただ口頭で伝えられるよりもはっきりと伝わる」

「そして謝罪自体もそのあとのモモンガ様の発言からするに、私たち守護者が至高の御方に何を求めるかの確認。つまりは真の忠誠心を見ようとしたわけね」

「そうするとまっすぐ繋がっただろう?」

「ほ、本当だ!す、凄いです!」

 

マーレは大はしゃぎだが、アウラは釈然のしない様子だ。未だに首を傾げている。

 

「でもさ、至高の御方の考えが……うーん、私たちより頭が良いとはいえデミウルゴスとかアルベドに見抜ける程度のことなのかな」

「確かにそう思ったよ。でもね、アウラ。これだけのヒントが散らばっていれば流石に間違いないよ。そしてそのヒントの数々はモモンガ様とガエリオ様の優しさだろうね。至らない私たちの守護者の程度に合わせたヒントを的確に、分かりやすく散りばめてくださったのだから。それにだ、もしもこのヒントで真の忠誠心を計った際に忠誠心が見れなければ……」

「ど、どうなってたでありんすか!?」

「我々は至高の御方から全ての信用を失っていただろうね。ヒントから何も導き出せず、優しさから泥を被り頭まで下げられた至高の御方に罰を与えるような発言をしたのだから当然の報いさ」

 

その情景を想像したのか守護者は全員顔を青くしている。アルベドとデミウルゴスは途中で意図に気づいていたが、至高の存在であり、その智謀は計ることのできない御方の考えにヒントがなければ、辿り着けずミスを犯していたかもしれない。

もしもそうなってしまい、信用を失えば、もう生きている価値を失ったも同然だ。

特に先程勢いで真っ先に喋ってしまったシャルティアと気が弱いマーレは顔が真っ青だ。

 

「とにかく、今回のことは至高の御方の優しさのおかげで色々なことが学べた。さすがはモモンガ様とガエリオ様だ」

「本当にその通りだわ。マクギリスが登場して少し頭に血が上ってしまったけれど、途中で冷静になれてよかったわ」

「……全くでありんす」

「トニカク、コレカラハ至高ノ御方ノ言葉ヲ待ツダケデハナク理解シナケレバナラナイ」

「そうだね、コキュートス。至高の御方の信頼を築かなければ、我々守護者に価値などないのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マクギリス、お前に与えた在り方について確認しようと思う。いいか?」

「あぁ、ガエリオ」

 

マクギリスに与えた設定は幾つかあるが、この中でも特に重要なのが友だというのとだ。

色んな考え方があるだろうが、俺の考える友には敬語など不要だろう。

守護者の在り方とは少し違うがその辺の分別を付けられるだけの能力をマクギリスには与えているので、先程の集会では敬語を使ってくれた。

要らないトラブルは避けるべきだろう。

もちろん今後どこかで公表する必要があるが、今じゃなくていい。

 

「モモンガさんの好意もあって、お前には階層守護者と同等の立場が与えられた。セバスやパンドラズ・アクター同様にな」

「なるほど。確かに今後鎧の守護以外の任務が与えられたなら必要なことだろう。だが、守護者の中での地位は今のところ低いと見たがどうだろうか」

 

うん。設定が性格などに反映されているからか頭がいい。

馬鹿なマクギリスなんて見たくはないしこれでいいんだけど。

 

「あぁ、あくまでも同等の地位とは言ったが実際は領域守護者より上階層守護者よりは下くらいだな。有事の際は基本的に階層守護者の命令にしたがってくれ。だが、その判断が間違っているならば正せる位置にお前はいる。その意味が分からないお前ではないだろう」

「もちろんだとも」

 

マクギリスには『宝物殿』の領域守護者にしてアインズ・ウール・ゴウンのギルド長モモンガさんの作ったNPC『パンドラズ・アクター』同様に階層守護者と同等の地位を与えた。

階層守護者はもちろん優れたNPCであり、俺やモモンガさんを第一に考えている。

 

それは良いことなのだが、この先何がどうなるか分からない未知の世界なのであれば予防線を張るための立場にマクギリスとパンドラズ・アクターを配置した。

パンドラズ・アクターの話をした時モモンガさんはめちゃくちゃ嫌がっていたが、NPCが動き出した以上避けては通れないことを薄々分かっていたのか最後は納得してくれた。

軍服はかっこいいのに。

 

そしてこれは何かあった際、当然俺やモモンガさんの命令が最重要だがその次にアルベド、そして次が階層守護者。

しかし例えばアルベドに意見できるのは階層守護者、及び俺かモモンガさんしかいない。

俺やモモンガさんを遥かに上回る知能を持つアルベドとデミウルゴスに意見するのは非常に難しい。

だが、パンドラズ・アクターとマクギリスにはアルベドとデミウルゴスに及ぶ聡明さを持っているとされている。という設定があるのだ。

設定とはもう人格や能力そのものだから、アルベドとデミウルゴスにミスがあった際それに切り込むのがマクギリスとパンドラズ・アクターの役目だ。

 

「とりあえずは何かあるまでこのまま鎧の守護を頼むぞ」

「もちろんだとも。(バエル)は何よりも優先しなければならないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜も更けたナザリック内、デミウルゴスは自身の守護階層を見回りつつ内心での喜びを隠しきれずにいた。

 

「なるほど、さすがはモモンガ様とガエリオ様。確かに先程のモモンガ様のお言葉通りであれば些細なミスすら許されないだろう」

 

軽やかな足回りですたすたと見渡しながら歩き回る。

溶岩地帯を一切の苦もなく歩き回る姿は一見すると人間に見えるその姿からは想像もできないギャップを醸し出している。

 

「世界征服……ふふふ、たしかに至高の御方に相応しい所業にして当然の行い。そしてその難易度をすでに予感し、御身自らシモベに謝罪をするという辱しめを持ってしてその重要性を伝えるという寛大さ!その叡智!」

 

笑みを深め、気がついたらぐるりと一周し自身の居住である『赤熱神殿』に戻ってきていた。

 

「このことは一旦アルベドに伝え、その後に至高の御方二人の考えを広めるべきですね。万が一にも私やアルベドの話に納得せず、ガエリオ様が本当にミスを犯したなどという考えを持つなどという愚行を犯す愚か者がいるともしれません。……その様な不出来なシモベはすぐさま処刑しなければなりませんしね」

 

忙しくなります。と一人を口にし、両手を大きく広げながら神殿に入っていく後ろ姿は異形の要素が少ないその姿で悪魔であることをありありと感じさせる。

彼にとっては何に変えても至高の御方こそが至上の存在であり、これからの仕事に夢想しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セバス」

「なんでございましょう、ガエリオ様」

「モモンガさんは何を遊んでいるんだ?」

「失礼ながらガエリオ様。モモンガ様は遊んでいるのではなく、実験をしているのでございましょう」

「ん。……あぁどこかで見たことがあるような気がしたら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)か」

「はい。どうやらユグドラシルとは勝手が違うようで大変困難を極めております」

「……なるほど」

「聞こえてますよ、ガエリオさん」

 

骸骨が空中に浮かぶ鏡に向かって両手をバタつかせているのは大変ユニークな姿だ。

しかしよくそんなもの持ってた、モモンガさん。

 

「にしてもモモンガさん。よくそんなゴミアイテム持ってましたね」

「ゴミ……いや、たしかにゴミか……。せっかくですから大抵のアイテムは一つ以上は保管してあるんですよ」

 

遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)はまぁ、残念アイテムだ。

そもそも探知系のアイテムならもっと良いのがあるし、遠見のアイテムなら逆探知や、相手に気付かれずに見るアイテムや魔法もある。

探知に対してのカウンターにも弱いというユグドラシルではよくある下級アイテムだ。

しかしさすがのアイテムコレクターモモンガと言ったところか。

魔法も数百種類覚えているし普通に凄い。

 

「ん?お、おぉ!」

「おぉ!映った!」

「おめでとうございます。モモンガ様、ガエリオ様」

 

腕を動かし、画面を移動させると村が映りこむ。

元貴族としては民は無くてはならない存在だからな。

ナザリックのことを考えると戦闘民族みたいなのは嫌だが、のどかな風景を想像し顔が緩む。

 

「ガエリオ様。どうかなさいましたか?」

「ん?あぁ、俺は人を導く立場に居たからな。そして、民とは俺を支えてくれた存在だ。ならば、統治者は違えど平穏な暮らしを嬉しく思うのは当然のことだろう?」

「……大変お優しいのでございますね」

「馬鹿。俺やモモンガさんにとってのお前たちシモベみたいなものだよ。当然セバス、お前もな」

「ありがとうございます。他のシモベが聞いても大変喜びますでしょう」

「これは……祭か?」

 

どれ、と鏡を覗くと鎧に身を包んだ騎士のような姿の者達に無抵抗の村人が殺されていた。

 

「……ちっ!気分が悪い。……!?」

 

俺は手を振り払い、鏡から映像を消そうとするモモンガさんの腕を反射的に掴んでいた。

俺の心を支配したのは、怒り。

 

「ガエリオさん?って、痛い!痛いです!」

「……ふざけるな」

「え?」

 

ギリギリと怒りで腕に力が入るのを止められない。

あの格好からするとそれなりの地位にある者からの指示だろう。

あの虐殺にどんな意味があるのか、考えもつかない。

もしかしたら国同士のいざこざかもしれないし、見せしめの意味があるのかもしれない。

だが、それがなんだ。

国は、人だろうが。

人が居なければ、上に立つものは成り立たないんだぞ。

 

「モモンガさん。俺があそこに行く。……ふざけやがって、皆殺しだ」

「いや、駄目ですよ!ガエリオさん!相手の強さも分からないのに」

「俺は!死にゆく民を見殺しにするような男には成りたくない!」

「いや、しかしですね……!」

 

モモンガさんの言ってることも理解はできるが、怒りで頭が真っ白な俺には届いてこない。

腕にさらに力が入る。

 

「ガエリオ様。失礼ながら腕をお離しください」

「……悪い、モモンガさん」

「いえ、それはいいですが、やはり出るのは認められません」

「なら、俺のヴィダールを出す」

「え!?」

「それにアルベドを完全武装で寄越してくれ。この戦力でどうにもならない相手ならどのみちいつかナザリックは滅ぶだけだろ」

「……わかりました。俺も行きます。たっちさんと同レベルの戦士に防御特化の守護者、それに一応レベル100の魔法詠唱者(マジックキャスター)のパーティーです。ナザリック内ではこれ以上の戦力を捻出するとなると戦争になります。それにもしもナザリックに攻められることまで考えるとナザリックにも戦力を残す必要があります」

「……!俺は先に行く」

 

画面の中では少女二人が騎士に追われている。

見るからに普通の少女だ。

俺はアイテムボックスに手を突っ込み<転移門(ゲート)>が込められたスクロールを引っ張りだし使用する。

 

「ガエリオさん!えぇい、仕方がないセバス!アルベドに完全武装しすぐここに来るように伝えろ。ガエリオさん!無茶だけはしないでください!すぐ行きますから!」

 

俺はその言葉とセバスの了解の言葉を聞くと、<転移門(ゲート)>の効果である転移の扉に飛び込む。

困っていたら、助けるのは当たり前ですよね。

たっちさん。




次回 カルネ村

あと今回の投稿から通常投稿に移しました。
チラシの裏でやっていたことに特に意味はありませんが、ある程度の話数と文字数を書いたので通常投稿に移しました。

オーバーロードは好きな作品ですので、妄想が中々止まらないです。


それではまた次回。


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4話

<転移門(ゲート)>から飛び出した俺の目の前には、背中を剣で斬り付けられ、今まさに止めを刺されそうな少女の姿がある。

 

「死ね」

 

俺は右手にドリルランスを取り出すと、全力で騎士の体目掛けて突き出す。

俺のマックスでの突きならたっちさんくらいしか対応出来ないが、まともなレベルなら反応してくるだろうと思ったが騎士はぐがっ?何て言う理由を持たない言葉を口から吐き出しながら胴体を爆散させた。

 

「……え?」

「な、なんだ貴様!」

 

その言葉に俺は反応を返さず力一杯拳を突き出すと、当たった頭部は跡形もなく消し飛んでしまった。

怒りに染まる脳内に冷静な部分が生まれ思考する余裕ができると、一つ言葉が浮かぶ。

弱すぎる。

 

「あ、あ、あ」

「だ、大丈夫!ネムは私が守るから!」

 

少女達の声に視線を向けると少女達の前に<転移門>(ゲート)が開き、中から濃厚な死の気配が溢れだしてくる。

再び警戒して見つめると中から出てきた見慣れた骸骨に警戒心が自然と溶ける。

 

「ガエリオさん!大丈夫ですか?」

「あぁ、見ての通りだ」

 

ドリルランスで騎士の死体を指すとなるほどとモモンガさんも納得したようだ。

 

「どうやらこの騎士達はガエリオさんなら十分対処できるレベルのようですね」

「ドリルランスはともかく、拳にすら全く反応してなかったからな」

「いや、レベル100の近接職の拳は十分凶器ですよ」

 

たしかにそうか。

だが、それにしてもだ。

 

「恐らくレベルは50未満下手したら30にも満たないだろうな」

「……警戒するには越したことないですね。その程度なら大丈夫だとは思いますが気を付けてくださいよ」

「あぁ」

 

ふと視線を少女達に向けるとびくりと体を震わせ、先程ネムと呼ばれた少女を姉だろうか年上の少女が強く抱き締める。

どことなく似ているので恐らく姉妹だろう。

俺はドリルランスを消し、座り込んでいる二人に目線を会わせる。

 

「大丈夫か?」

「た、助けてくださりありがとうございます」

「ありがとうございます!」

 

姉の方は怪我をしているが、妹の方は元気そうで何よりだ。

俺はそっと姉の頭に手を置くとわしわしと撫でる。

驚いたように目を見開くが、先程の光景を見ていたので抵抗はしてこない。

もちろん何かするつもりもないが。

 

「妹を守るために立ち向かったのを見てたぞ。……よくやった」

「え?」

「姉妹か?」

「はい」

「……そうか。俺はお前の行動を高く評価する。よくやったな」

「っ!?」

 

もう一度強く撫でると、姉の方は泣いてしまう。

緊張の糸が途切れたのだろう。

妹の方も姉に釣られて泣き出してしまった。

困ったようにモモンガさんを見ると、いつの間にかフルフェイスの全身漆黒の鎧を纏った騎士が一緒に立っていた。

 

「アルベドか」

「はい、アルベドでございます。準備に時間がかかり申し訳ございません」

「いや、構わない。俺がモモンガさんに無理言ったんだ」

「それで、そこの下等生物は如何なさいますか?ガエリオ様のペットになさるのであればこちらで調教も辞さないですが」

 

ジロリと殺気に近い視線を向けられた姉妹は泣くのを辞め、また震えてしまう。

下等生物、ねぇ。

 

「アルベド」

「はっ!モモンガ様!」

「ガエリオさんは村人を助けに来たのだ、脅してどうする」

「その通りだ。むやみやたらと威圧するな」

「……申し訳ありません」

 

シュンっと落ち込み肩を落とすアルベドをよそにモモンガさんはアイテムボックスに手を突っ込み下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を姉妹に手渡す。

 

「怪我をしているのか。これを飲むといい」

「……」

 

完全に怯えている。

まぁ見た目は凶悪なアンデッドが、血の色をした謎の薬を飲ませようとしているようにも見えるから仕方ないか。

俺の仲間というのは分かっているだろうが、アルベドが殺気をぶつけたことで少しややこしいことになっている。

 

「大丈夫。見たこと無いのかもしれないが、治癒のポーションだ。傷、痛むだろ。少しは楽になるはずだ」

「は、はい」

 

モモンガさんからポーションを受けとると一息に飲み干してしまう。

見た目は薬に見えないからな。

だが、効果がユグドラシルのままならば治癒の効果があるはずだ。

 

「……え?傷が、治った?」

「ふむ。効果があってなによりだ」

「……俺は村に向かう。この程度の相手なら物の数じゃない」

「それは構いませんが、顔は隠した方がいいですよ。どこで何があるか分かりませんから」

 

顔か。ふむ。

俺もアイテムボックスから一つの仮面を取り出す。

後頭部から顎までを覆う黒に、顔全面を隠す銀。

前を見えるように目元に二本の穴が開いている。

 

「これでいいか」

「……嫉妬マスクは無いんですか?」

「嫉妬マスク?いや、持ってないな」

「……ふーん」

 

あれの取得条件ってなんだろう。

まぁいいか。

俺はマスクを被り、モモンガさんたちに背を向ける。

 

「先に行く。その姉妹のことは任せた」

「わかりました。くれぐれも気を付けてくださいね」

「あ、あの!私の両親が居たら助けてください!お願いします!」

「お願いします!」

 

頭だけ向けると姉妹は俺に土下座の姿勢をとり、頭を下げている。

いい子たちだ。

 

「わかった。生きていれば必ず助ける。いいな?」

「はい、ありがとうございます!」

 

俺は全力で踏み締め、駆け出す。

レベル100の近接職の速度は、比喩ではなく音を置き去りにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだあいつは!」

 

村の真ん中に集められた人を取り囲むようにいる騎士に走って近寄り、ドリルランスを振り回す。

やはり俺の攻撃に対応できるレベルは無いようで、端から粉々になっていく。

 

「誰か止めろ!相手は一人だぞ!?何をモタモタしている!」

 

一際声がデカいだけのゴミが居るようだが、うるさいだけだ。

俺の攻撃力ならランスが当たりさえすれば、こいつらは一撃。右から来るやつに当て、そのまま回転するかのように同時に攻めてきた騎士を巻き込み殺す。

そしてさらに一薙ぎすれば時間差で攻撃してきた騎士を両断する。

 

「あ、あぁ!わかった、金だな!?あいつを止めた者に金貨300枚だ!」

「……」

 

あいつ、ただの騎士じゃないのか?

 

「俺はこんなところで死んでいい人間じゃないんだぞ!?俺は、選ばれた人間なんだ!こんな、村民ごときゴミとは違うんだ!わかったら早くやつを殺せ!殺したやつには金貨500枚だぁ!!」

 

俺は、怒りで頭がどうにかなりそうだ。

すぅっと空気を胸一杯に吸い込み、怒りに任せて大声を出す。

 

「黙れ!!!」

 

俺の大声にびくりと体を硬直させる騎士達。

 

「このぉ……ゴミがぁぁぁぁぁ!!選ばれた人間だと?村人ごときゴミだと?お前がゴミだと言った人間達に選ばれてこそ、選ばれた人間なんだろうがァ!!」

 

ギリギリとランスの柄を握り締める。

こんな非道が、許されるわけないんだ!

 

「は、ははは!偉そうに!なんだ、金がほしくて説教か?どうだ?俺に付け。その力、俺が買ってやる!金貨1000枚、っだ!?」

 

俺はランスを持っていない左手でそいつの頭を握っていた。

一言一言が相容れない。

何を言っても無駄なのだ。

だから……いや、最初からこいつらは皆殺しにする予定だったな。

少しずつ力を込めていくと苦しみの声をあげる。

 

「や、やめ、止めてくれ!金なら」

「いくらだ」

「1000!いや2000だ!」

 

助かると思ったのか嬉々として枚数をつり上げる。

好きなだけ喜べ。

それが、最後の言葉だ。

 

「2000だな?」

「あぁ!2000だ!」

 

2000というのがどれだけの金額なのか検討も付かないが、ただ一つだけわかることがある。

 

「お前程度が差し出せる金額なら、大したことはないんだろうな」

「へ?」

「お前の命の金額だよ」

 

左手に力を込め、頭を握り潰す。

筋力が上がったからだろう。卵よりもさらに柔らかい殻を割り、そのまま中身まで潰したような感覚だ。

温かな液体を振り払う。

俺と貴族らしき男のやり取りを見ていた騎士達は動揺しているようで動きがない。

 

「っ!撤退だ!馬をこちらへ連れてこい!一部は足止めだ!」

「……一人も逃がさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後はモモンガさんとアルベドが現れ村長とモモンガさんが話をしている。

モモンガさんは辺境の地で研究していた魔法詠唱者(マジックキャスター)であり、アルベドは友人の娘、俺はモモンガさんの友人。

うん、まぁ間違ってないな。

亡くなった村人の葬儀も終わり、そろそろ帰ろうかみたいな雰囲気になったころだ。

 

「騎士風の人達が向かってくる?」

「えぇ。それで私たちはどうしたらいいか……」

「モモンガさん」

「……わかりました」

 

さすがモモンガさん。

そうでなくとも態々守ったものを破壊されるのを良しとするバカなどいないだろうけど。

 

しかし駆け付けたのは王国戦士長なる役職の人物だ。

名前はガゼフ・ストロノーフ。

部下らしき戦士とは一線を画す雰囲気に部下と同じ鎧を纏っているが、腕などの太さなど戦士としては明らかに鎧と釣り合いがとれていない。

恐らく本来の装備ではないのだろう。

村人を救ったという事実を教えた際の雰囲気、そして目からも見てとれる優しさなど、人の上に立つべき人間の器だ。

目を見れば人としての本質がわかる。

優秀な人材は何にも変えられないものなのだ。

 

「随分と恨まれているのですね、戦士長殿は」

「次から次へと、この村にとっては厄日だな」

「えぇ、ですから私に雇われませんか?望むだけの報酬を約束しよう」

 

俺はいいけど。

正直死なせるには惜しすぎる。

 

「いえ、お断りします」

「……そうか。では、厚かましいが、もう一つのお願いだ。この村を、守っては頂けないだろうか。この通りだ」

 

そして膝を折り、土下座の姿勢をとろうとする戦士長の肩をモモンガさんが押し留める。

 

「その願い、確かに聞き届けました」

「あぁ。任せてくれ」

「それと戦士長、これを」

「……これは?いや、貴方ほどの御仁からの贈り物だ。大事にさせてもらおう」

 

あれはたしか、500円ガチャのハズレアイテムのはず。

人と人の場所を入れ換えるアイテムだったか。

言わずもがな普通にゴミアイテムだ。代わりを探せばいくらでも出てくる程度の代物だ。

 

「……モモンガさんあの人の事結構気に入ってるでしょ」

「なんのことかわかりません」

「またまたー。もしなんなら俺が出てっても良かったけど」

「ガエリオさん。たしかにたっちさんと同じくらい強いガエリオさんなら大抵の敵は大丈夫でしょう。それにヴィダールも出せるようになってるんですよね?……ですが、我々はこの世界に関して余りにも無知です。知識は力。ぷにっと萌えさんも戦いとは始まる前に終わっているという言葉を残してくれてます。……ユグドラシルと同じモンスターが出てきた以上、これからはさらに油断なくいきましょう」

 

モモンガさんのぐうの音も出ない正論にさすがに黙るしかない。

たしかに怒っていたとはいえ、短絡的すぎたのは否めない。

 

「それは、あの男を捨て駒に使ったということでしょうか」

「それは違うぞアルベド。先程渡したアイテムは両者の位置を入れ換えるものだ。殺すには些か惜しい人材ゆえ、慈悲をくれてやったのだ。様子見をしたあと此方から出向こうではないか」

「なるほど、現地にて使える駒として運用するために恩を売るわけですね!さすがモモンガ様!私の愛しい御方!」

 

くふーっ!と興奮を押さえられない様子のアルベドをモモンガさんは無視し、俺へと視線を向ける。

 

「とにかく、少しばかり俺も怒ってます。……まぁ、たしかに最良かはともかく周辺事情を知るにはいい機会でした。しかし、次からは感情に流されないようにお願いしますね!」

「……了解」

「……はぁ。ガエリオさんは一旦ナザリックに戻っていてください。こちらは俺とアルベドで対処しますから」

 

え?

 

「大丈夫なのか?」

「見ている限り大した相手ではないです。俺とアルベドなら余裕でしょう」

「はい。私とアインズ様の二人の愛の力でどんな困難も立ち向かって見せます!」

「アインズ様?」

 

あー、うー、と突然歯切れが悪くなるモモンガさん。

そういえばさっきも名乗ったときアインズ・ウール・ゴウンって言ってたな。

 

「……すいません、ガエリオさん。他にもメンバーがいるなら分かりやすいように名前にギルド名を使わせて貰いました。ほら、モモンガってのは、ねぇ」

「なるほど。俺は今まで通りモモンガって呼ぶけどいいですか?」

「はい、大丈夫です。外では出来るだけアインズでお願いします」

 

モモンガって小動物だし、格好付けたいのはわからなくはない。

名前一つとっても噂になれば上等だ。

 

「名前はさておき、<転移門>を開きますのでナザリックで待機しておいてくださいね!わかりましたか?」

「……了解。アルベド、モモンガさんのこと頼むぞ」

「はい!アインズ様のことは命に替えても御守り致します!」

 

全員に同じこと言うのは疲れるから、統括であるアルベドを通して全員に伝えてもらうか。

 

「アルベド」

「はい、なんでしょうか。ガエリオ様」

「他のシモベにも伝えてほしいが、命に替えるのは本当に最後の手段にしろ。モモンガさんは当然一番大事だが、俺もモモンガさんもお前たちのことだって大切なんだ。……わかったな?これは、命令だ」

「……はい。慈悲深きお心遣いに感謝致します」

「その通りだ、アルベド。決して忘れるでないぞ。それではガエリオさん。<転移門>!」

 

現れた転移門に俺は踏み込むと、一瞬で玉座の間へと移動していた。

さて、何をするかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユリ」

「はい」

 

ユリ・アルファ。戦闘メイド『プレアデス』の一人でその副リーダー。プレアデスの長女であり種族は『首なし騎士(デュラハン)』、創造主は『やまいこ』さんだったか。

キッチリと決められたメイド服の上からでもわかる豊満な胸、例に漏れず美人という言葉の枠では収まりきらない美しさ。

メガネを掛けていて、髪の毛は夜会巻きにしてある。

 

「ルプスレギナ」

「はい」

 

ルプスレギナ・ベータ。プレアデスの次女で、種族は『人狼(ワーウルフ)』。創造主は『獣王メコン川』さん。

褐色の肌に赤の髪の毛は三つ編みにしてある。

前にメコン川さんに聞いたときにはたしかイタズラ好きで、人を驚かせたりするのが好きだったはずだ。

 

「ソリュシャン」

「はい」

 

ソリュシャン・イプシロン。プレアデスの三女。種族は『不定形の粘液(ショゴス)』で創造主は最終日にも来ていた『ヘロヘロ』さんだ。擬態した姿ではあるが、金髪の縦ロールが似合うこれまた大変な美人だ。

 

「ナーベラル」

「はい」

 

ナーベラル・ガンマ。プレアデスの三女でソリュシャンとは双子になるのか。種族は『二重の影(ドッペルゲンガー)』で創造主は『弐式炎雷』さん。色白の肌によく映える黒髪をポニーテールにしている。髪と同じ黒の瞳に切れ長の眼、お淑やか雰囲気を持っている。

 

「シズ」

「はい」

 

シズ・デルタ。正式名称は『CZ2Ⅰ28・Δ(シーゼットニーイチニーハチ・デルタ)』。種族は『自動人形(オートマトン)』のメカ少女だ。創造主は『ガーネット』さん。迷彩柄のメイド服に一円のシールが貼られてあり、髪の毛は赤金(ストロベリーブロンド)のストレート。冷たい輝きを宿した翠玉(エメラルド)の瞳は片側だけ見えており、片側はアイパッチで覆われている。

 

「エントマ」

「はい」

 

エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。他のプレアデスと違い見た目は人だがよく見ると人感が薄い。それもそのはず、種族は『蜘蛛人(アラクノイド)』であり、真の姿は昆虫そのもののような見た目だったはずだ。今の姿は顔や髪の毛など至るところが虫が擬態しているのだ。

能面のような顔は美しく、髪の毛はシニョンと呼ばれる髪型で触覚が生えている。

 

うーむ。プレアデスのリーダーであるセバスはいないが、こうやって並んでいるのを見ると壮観だ。

大きな用事がないため彼女等はお茶会をしていたらしい。

俺、モモンガさんとアルベドが出撃した段階でナザリックは厳戒警戒態勢になったのだが俺が解除した。

贔屓目に見たとしてナザリック最強の戦力は俺なのだ。

一応シャルティアに連絡を取り、上層部は未だに強めの警戒態勢だが下層部のシモベには簡易的な休みを与えている。

モモンガさんとも話したが、休みを与えないと永遠に働き続けるのだ。

労働力としては最高だが、友人の娘や息子が自分のために休まず働いているなどこっちが悲鳴を上げたくなる。

 

そんなわけで顔合わせを兼ねてプレアデスたちのところへやってきたのだ。

 

「さっきまでと同じように座ってくれ」

「いえ、至高の御方で在らせられるガエリオ様を差し置いて座るなど我々には出来ません。更には我々はメイド、ガエリオ様に尽くすことこそ幸せでございます。こうして出向いて戴いたことが既に至高の幸せ。是非ともガエリオ様に尽くすことを御許しください」

「私たちも同じ意見でございます」

 

うんうんと頷くメイド姉妹。固い。

意識改革は必要だろうな、これは。

モモンガさんも困ってたことだし、後々に残すより少しずつ改善していく方がいいな。

 

「お前たちの気持ちはありがたく受け取ろう」

「はっ!ありがとうございます」

「待て」

 

跪こうとするプレアデスを止める。

 

「立ったままでいい」

「いえ、そのような失礼を働くわけにはいきません!」

「その心意気はさすがはナザリックの戦闘メイド、プレアデスだ」

 

嬉しそうに頬が緩むプレアデス一同。

ユリのクールな普段とのギャップなどこっちが墜ちそうだ。

 

「だが、タイミングを見極めなければならない。わかるか?」

「申し訳ありません。無知な我々プレアデスにご教授戴けないでしょうか」

「構わん。いいか、ユリ」

 

そう言うと俺はユリの手を引き抱き寄せ、腰に手を回し片手を頬に添える。

困惑したような瞳に驚愕の表情。白い頬に朱が差す。

俺もユリの美貌に多少の動揺はありつつも噛み殺し、続ける。息が掛かるような至近距離で眼を見つめ、次の言葉を紡ぐ。

 

「な、ななな、ななな!?ぼ、僕はシモベで」

「例えばこの場でお前を好き放題すると俺が言うとしよう。どうだ?」

「し、至高の御方のお言葉であれば」

「いや、そうじゃないな。妹達の前で好きにされるって、どうだ?ユリの言葉を聞かせてくれ」

 

ぷるぷると震えながら目を白黒させ、困ったようにプレアデスに目配せをする。

助けて欲しいのだろうが、このセクシャルなハラスメントには理由があるのだ。許せ。

 

「こ、困ります」

 

180点。目を反らし、俯きながらのその弱々しい言葉は100点を越え、120点すら超越し、180点となった。

満点は100点でだ。

スッと腰から手をはずし離れる。

 

「だろう。俺も同じさ。……いや、ユリがどうこうではなくてな」

 

ゴホンと一つ咳払い。

 

「つまり、俺やモモンガさんは休めと命令を出した。そして休んでいるところに俺が現れたからといって無理に仕事しなくていいんだ。何が言いたいかわかるか?ルプスレギナ」

「え?あ、はい!失礼しました!休めるときに休んでおけ、ということでしょうか」

「そうだな、それもある。ソリュシャン」

「はい。休めと言っているのに仕事を優先されてしまうと至高の御方がお困りになられるということでしょうか」

「さすがだな、ソリュシャン」

「ありがとうございます」

 

まぁ、セクハラする必要はなかったんだけどね。

その前のユリの所作が可愛すぎた。

……いや、それにしてもこんなに欲望に忠実だったか?

少なくとも可愛い女の子が居るからといってあんなに軽率に抱き締めたりはしない人間だったはずだが。

今は悪魔だけど。

 

「ユリ」

「ふぇ?あ、え、いや、はい。申し訳ありません!ガエリオ様!」

「……いや、不快にさせたのは俺のミスだ。構わん。とにかくだ。モモンガさんも同じ事を言うと思うが配下の必要以上の無欲は支配者を不快にさせると知れ」

「失礼ながらガエリオ様。発言をよろしいでしょうか」

 

ナーベラルか。自発的に質問するのは非常に良いことだ。

 

「いいぞ」

「ありがとうございます。私たちプレアデス及びシモベは至高の御方に仕えることこそこの上ない喜び。私たちにとって今回のような事例は無欲とは成り得ません。ですので、無知な私どもに今回のような事例を無欲と判断された要因をお教え願えればこれ以上ない喜びにございます」

 

ワーカーホリックすぎる。いや、ブラック企業に心まで汚染されているというべきか。

……違うな。純粋なんだ。本当にナザリックのために働くことが幸せだと、それだけが幸せだということしか知らないんだ。

設定を与えられ、その通りに命が与えられ動き出した彼女等にはこれからは多くのことを教えなければならない。

モモンガさんとも話をしなきゃな。

俺は、無知な娘に言葉を授けるように、親戚の子を慈しむように、自然とナーベラルの頭を撫でていた。

 

「が、ガエリオ様?」

「いや、いいんだナーベラル。素晴らしい質問だ。ナーベラル、姉妹でいるのは楽しいか?」

「はい。姉妹で過ごす時間は心地よく感じております」

「そうか。ならば、それが俺に休みを与えられたお前たちが享受し、楽しまなくてはならない欲だ。そして俺とモモンガさんはそれを望んでいる」

「!?なるほど、申し訳ありませんでした」

 

頭から手を離し、席に目を向ける。

 

「さて、長々と話して悪かったな。せっかくの休みなんだ。楽しく過ごしてくれ」

「はい。では、お茶会を再開したいと思います」

 

俺は苦笑いを隠しきれずに笑ってしまう。

そんな事務的なお茶会ある?

まぁいいけどさ。

 

「俺も混ぜてもらって良いか?色々お前たちと話もしてみたいし」

「!?……では、おもてなしさせていただきます!」

 

席順は時計回りにユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラル、エントマ、シズの並びだ。

俺はユリとシズの間に入れて貰う。

順番的にも最後尾に着く形だな。

 

「……」

 

全員分の無言が続き、俺もどうしたらいいかわからない。

静寂を破ったのはソリュシャンだ。

いいぞ!いいタイミングだ。

 

「が、ガエリオ様!」

「どうした?」

「どうぞ、お茶を注がせていただきます!!」

「あぁ、気にするな。自分でやるさ」

 

位置的に少し離れているのでと遠慮したのだが、落ち込んでしまった。

くっ!上位者としては間違ったか?

アットホームなナザリックを目指しているんだがなぁ。

 

「ガエリオ様は距離を気にしていると思う。私が入れます」

「シズの言うとおりだ。ソリュシャン、気にするな。シズ、頼めるか?」

「わかりました」

 

シズはメイドらしく丁寧な入れ方で紅茶を入れてくれる。

高級な紅茶のいい香りだ。

 

「ありがとう、シズ」

「いえ、当然のことですので」

「あぁ、あと、今は俺が無理を言って話す時間をとって貰ったんだ。無礼講だから多少普段と違う失礼な態度をとっても構わないぞ」

 

別にタメ口でも俺は構わないが、ナザリックを統べる上位者の二人のうちの片方が俺である以上嘗められる訳にはいかない。

だが、今はナザリックアットホーム化計画(仮)の準備中なのだ。

休みのときであり、俺がお邪魔しているのだから今は無礼講で構わないだろう。

 

「そ、そんなことは我々には……」

「ユリ姉、それじゃまたガエリオ様にお説教されるっすよ?」

「ルプスレギナ!ガエリオ様の前でそんな……!」

「いや、限度さえ弁えればそれでいいぞ」

「ではガエリオ様!質問があるっす!」

 

いいぞルプスレギナ。

そのフランクな感じ、高評価だ。

 

「もしも妃にするなら、プレアデスの中ならだれがいいっすか?」

 

時が、止まった。




前話
???「ヴィダールを出す」
敵が弱すぎてヴィダールは出ませんでした。
別のヴィダールは出ましたが(笑)

そしてプレアデス。
プレアデス可愛いのでもっと絡みを増やしたいです。
最後のルプーの爆弾投下。
ガエリオの明日はどっちだ。

次かその次か、その次くらいに主人公の設定投下。
ガエリオ・ボードウィンというキャラメイクしたキャラになった別人だということを念頭においてこの作品はご覧下さい。


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キャラ設定 ここまでの主人公の評価とか

キャラ設定です。


『ガエリオ・ボードウィン』

 

本作の主人公。ユグドラシルのアバターとしての見た目は『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に登場する、ガエリオ・ボードウィンそのもの。

一期で同作品内に登場するマクギリスに裏切られ殺されかけたあとの顔に傷を負った姿である。

最近の二次創作よろしく転生者、もしくは転移者と呼べる生い立ちだがこの設定が活かされることはほぼないので忘れてもらっても構わない。

リアルでは超がたくさん付くほどのアルティメット金持ち。

総資産が国家予算を遥かに凌駕するリアルに残っていれば最強の勝ち組。

リアル貴族。

本名は出す意味がないので伏せるが、そのままリアルに残っていればどこかの美少女器量よしのお嬢様と婚約していただろう。

性格は温厚でよほどのことがない限り怒ったりはしない。

これは、本人の気質、というよりは人の上に立ち貴族として家を存続させるために金持ちながら時に厳しく、時に優しく育てられた環境から来るものである。

 

つまり、流されやすかったのだ。

 

そして育ち相応の立場に付随する責任感、一握りの選ばれた人間であるという自覚から来る社会的上位者としての優しさを兼ね備えており、社会的強者が、守るべき社会的弱者を蹂躙することを基本的に良しとしない。

本編でカルネ村にて金持ちの貴族らしき隊長(実際は資産家のボンボン)の村民はゴミ発言に怒りを爆発させたのはこのため。

 

自分がオーバーロードという作品に転生、または転移したことを理解しているが、ゲームのアバターとして最強転移者が無双する話程度の知識しかなくオーバーロードという作品というのに気付いたのも荒廃したリアルとマスクをしなければ外を歩けないというリアルの設定を知っていたためである。

つまり似た設定の別の作品だったら開幕から詰んでいた。

 

ユグドラシルではその無限に等しい金銭と、この世界に存在し、すでに著作権の切れた鉄血のオルフェンズを発掘したことにより課金と時間の暴力により『ガエリオ・ボードウィン』というキャラクターを完成させる。

基本的には課金じゃぶじゃぶプレイなので無意味に主人公(誰かわかってない)に敵対しないようにソロプレイをしていたが、世界級アイテムの一つにしてさらに壊れアイテム二十の一つ『永劫の蛇の指輪(ウロボロス)』を求めて目立ってしまった結果噂が広がりアインズ・ウール・ゴウンとの縁が生まれる。

最終的には本編通り惜しくもたっち・みーに敗れ、ウロボロスの使用目的及び譲渡を条件にアインズ・ウール・ゴウンへと参加する。

 

強さはというと近接戦闘ではほぼ敵なし。

ユグドラシル上位三本の指に入り、たっち・みーとはほぼ互角であり、戦えば戦うだけ勝ち負けが変わるほど。

当然転移後の世界では最強。

ナザリック最強も彼であり、たっちさんより強いルベドには当然勝てない。

 

モモンガ曰く「上位層のトッププレイヤーでなければ、彼の間合いから10秒耐えられれば誉められるべき。俺は死ぬ。三秒で死ぬ」

 

種族は鎧の悪魔(アーマーデビル)。この作品のオリジナル種族であり、詳しくは後述する。

 

特に好きな女性のタイプは無いが、自分を好きでいてくれる人が好き。

 

転移後の悩みは、周りの女の子が可愛いこと、自分のことをみんながみんな好きで、好意を寄せられていること。

あと悪魔として欲望に忠実なこと。

ニューロニストは勘弁してくれ。

シャルティアの夫としての設定が静かにペロロンチーノによってシャルティアに組み込まれている。

 

 

 

『マクギリス・ファリド』

ガエリオ作のNPC。レベルは100。種族は鎧の悪魔。

細かい活躍などは今はないので特に書くことは無いが、守護者と戦うことに為った場合の強さはというとモモンガ曰く「装備が最強。ガエリオさんが与えた彼の専用装備がフル装備ならシャルティアよりも強く、プレイヤー相手でもちゃんと戦えばトッププレイヤーにすら比肩する。ただし装備がなければ形態変化なしのデミウルゴスにすら余裕で負ける」

以下ガエリオに与えられた設定。

 

マクギリス・ファリドは彼が歩けば男女ともに目を奪われる長身の美男子である。

一見人間ではあるが、彼は悪魔であり欲望、野望に忠実な一面を持つ歴とした異形種。

その種族は鎧の悪魔であり、創造主であるガエリオ・ボードウィンと同じだ。

彼とガエリオは創造主とNPCという関係ではあるが、明確な友であり二人の間に大きな上下関係は存在しない。

だが、自身がガエリオに創造された存在であることを理解しており、自身の在り方が他のシモベとは違うことはきちんと意識して立ち回っている。

だからこそ必要な場面ではガエリオに対し、敬語を使い、様と敬う姿勢をとることを忘れない。

彼は戦闘力も高く、その知性は守護者統括であるアルベドやその上をいくデミウルゴスにすら引けを取らない。

なので彼らの知略、策謀には事前に察知し自分の行動や立ち回りを計算して動いている。

 

そんな彼はいつも他者に気を使い、不快にさせないよう心掛け、ガエリオのことを大切な友として友愛を持っているが彼の中の最上位に存在しているのは一つの鎧である。

 

バエルと呼ばれる鎧は彼にとって最上位の憧れであり、それを手に入れた際には増長し、道を間違え、ガエリオとぶつかりもした。

だが、後に和解し、自身が与えられた在り方とは別に彼が己にとって真に必要だった友だと理解した。

 

バエルはガエリオの部屋に保管されており、ガエリオの部屋の横に住居が与えられている。

バエルの守護者とでも呼ぶべきバエルオタクだ。

日課、趣味、好きなものは全てバエル。

好きな食べ物はチョコ。

 

そしてガエリオに自身の功績を与え七星勲章を与えたいと思っている。

 

 

 

 

『シャルティア・ブラッドフォールン』

ヒロイン枠。

本編では健気系残念ヒドインではあるが、今作はアルベドと嫁争いをしないのでアルベドとの関係は良好。

逆に主人公が優しさ振り撒くイケメンと化してアウラのほっぺに手を添えて優しく鼻をぷにぷにしてみたりユリの腰に手を回して抱き寄せて頬に手を添えてみたりと中々やりたい放題なので今後も勝手にライバルが増えてく予感。

具体的には中二病貴族冒険者だったり、ナザリック内のメイドが体を差し出したりと悪魔的魅力満載の主人公をシャルティアは落とせるのか……!

ペロロンチーノに与えられた追加の設定は「俺の可愛い可愛いシャルティアを花嫁に出すならガエリオさん!彼ならきっとシャルティアを幸せにしてくれる!」

 

 

 

『アルベド』

シャルティアを応援している。自身もモモンガに一直線。

だが、ガエリオと違いガードが固いモモンガの牙城を崩せるのか否か!

ガエリオ的にはそこまで思ってもらってるなら優良物件なのでは?と静観気味。モモンガさん次第。

 

 

 

種族『鎧の悪魔(アーマーデビル)

最上位悪魔(アーチデヴィル)の亜種であり、多くの不都合がある代わりに特定の装備にてトップクラスの強さを誇る。

ガエリオがたっちと大会で引き分けたことにより知名度、そして強さが認知されたが、この種族が流行らなかったのは偏に仕様のせいである。

ガエリオが鎧の悪魔として強かったのは本人の課金によって産み出された化け物装備の賜物であり、例えばモモンガの装備である神器級(ゴッズ)魔法詠唱者(マジックキャスター)なら誰でも一定の強さを発揮できる。

つまり別にオーバーロードという種族専用の装備ではないのだが、鎧の悪魔が装備できる鎧は全て鎧の悪魔にしか装備できない。

 

なので、大量のデータクリスタルを使用して完成した装備もいざ使ってみたら思ったほどの強さではない。ならば売るか、となっても装備できるのは鎧の悪魔のみ。

しかも鎧に合わせて修得クラスも絞らなければ強くはないなどデメリットも多い。

事実ガエリオもガンナーなどのクラスも修得している。

この事実によって自由度の高いユグドラシル的には強いがよほどのキャラ愛があり、なおかつ一つの装備に拘りがあるから強いという事実に落ち着いて数が減っていった。

 

後の掲示板やwikiでは初心者にお薦めできない種族ではtop5に入っている。

 

 

 

 

 

 

『各シモベの評価感情 ガエリオに対して』

 

モモンガ

大切な友達であり、仲間。

身分違いだけどそれを全然気にせず接してくれる。

でも嫉妬マスクを持ってなかったり、オフ会で会ったときはイケメンだったのでたまに嫉妬する。

異世界でも一緒にいたい。

でも、ガエリオさんの意思を尊重したい。

どうすればいいんだろう。

 

マクギリス

創造主であり、友。

バエルの次に大切。

バエルの力を示すためにナザリックを敵に回すのも面白いかもしれない。

だが、ナザリックは純粋な力のみが成立させる真実の世界の実現には必要かもしれない。

 

アルベド

至高の存在。

モモンガ様とは違い愛してはいないが、モモンガ様の心の支えであることは間違いないので忠誠を示す。

シモベとして大切に思ってくれているのはわかるので、命を掛ける価値はある。

シャルティアとモモンガ様を取り合うかと思ったけどガエリオ様推しなら協力したい。

 

セバス

強く、優しく、気高きお方。

創造主たるたっち・みー様から話を聞いたことがあるが、上位者として見知らぬ村民を助け、理不尽を許さないその姿勢は、正しくたっち・みー様と同じく正義のお姿。

モモンガ様と同様に忠誠を誓います。

 

シャルティア

愛するお方。ペロロンチーノ様公認の旦那様。

ガエリオ様はお認めになっていらっしゃらないけれども、いつか私の魅力でメロメロにさせてみせるでありんす。

 

アウラ

優しくて、かっこいい!

第六階層でシャルティアの頭突きをされたあと、優しくしてくれたの、かっこよかったなぁ。

ぶくぶく茶釜様も、彼はやる男だ!って言ってたし、私にも、チャンス、ある、かな?

 

マーレ

す、凄く強くて、えっと、あの、とてと優しいです!

この間も、至高の御方のお話をしてくださいました!

僕もあんな風に、優しくて、強くなりたいなぁ。

 

コキュートス

戦士トシテ理想ノ輝キヲ持ッテイルオ方。

叶ウノデアレバイツカ、手合ワセ願イタイト言ウノハ不敬ナ願イダロウカ。

モモンガ様ダケデナクガエリオ様ノ御世継ギニモ忠誠ヲ捧ゲタイ。

 

デミウルゴス

その姿は戦士として理想の塊であり、モモンガ様すら頼られるその叡知は私の憧れ。

そして強さは圧倒的な勇猛さを持ち、ありとあらゆるナザリックの敵を粉砕するお姿はナザリックのシモベ全てにとって奮起を誘発させること間違いなしです。

そして、我々を想う優しさを、私は気付いております。

これからも、変わらぬ忠義を。

 

ユリ

力強く、ぼ、僕を、だ、だ、だ、抱き締めて……

 

ルプスレギナ

強くてかっこいいっす!

 

ソリュシャン

強く、優しく、叡知まで兼ね備えた姿は理想の支配者でございます。

 

ナーベラル

また撫でてもらいたいです。

 

エントマ

私もぉ撫でてもらいたいですぅ。

 

シズ

お茶を注いだら飲んで貰えた……嬉しい……

 

 

カルネ村では現状ガエリオ>モモンガ(アインズ)

優劣はそこまでないけど村民に選ばれてこそ~の下りを生き残った村民(エンリ、ネム以外)が聞いていたので善良な貴族出身の冒険者のようなものなのだろう。という評価。




意外と多くの方に見ていただけているのはオーバーロード人気なのか鉄血人気なのか……はたまた私の人気なのか。
すいません調子に乗りました。

この設定は最新話までの評価です。
最初は随時更新予定とかタイトルに入れていましたが、随所随所で入れてった方が良いかなと思って変更しました。

当分は評価とかは書きませんが、ある程度進んだらまたキャラ目線で評価書きます。

あと、感想など気軽に書いていただいて構いませんのでそちらもよろしくお願いします。
当たり前ですが、過激な発言や他者を貶めるような発言などはお止めください。


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5話

友人にいいから横特振れと言われたので投稿します。

キリがいいところ探していたらめちゃ長くなりました。


「黙秘権を使わせてもらおう」

「えー!ずるいっす!気になるっす!」

 

――もしも妃にするなら、プレアデスの中ならだれっすか?

 

なんて爆弾を投下したルプスレギナ。

権力者がメイドにセクハラするにも程があるぞ。

これでもしも適当な事を言って更にはこの事がナザリックに広まったら終わりだ。

 

『ガエリオさん……さすがにそれは……』

『守護者統括として見過ごすわけにはいきません』

『うわぁ、さすがにないですよ……』

『ぼ、僕もないと、思います!』

『アリエナイ所業故失望シマシタ』

『ふむ。これは支配者として相応しくないですね』

『ガエリオ様との婚約、無かったことにするでありんす!ペロロンチーノ様だって間違いを犯すことくらいありんしょう』

 

終わりだわ。

 

「お前らのことは、大切な子供みたいなものだからな。もしもお前らが俺のことが本当に大好きで、大好きで、大好きで……一生を添い遂げたいと思ったら考えるさ。だから」

 

机に手を着き乗り出してこちらに顔を近付けるルプスレギナのおでこにコツンと優しく指を当てる。

そして微笑んでおく。

笑顔は無敵だ。

 

「支配者としての俺だけじゃなく、個人としての俺を好きになってどうしようもなくなったら言いに来い。いいな?」

「あ、う。……はいっす」

「ということでこの話は終わり。なんかバタバタしてしまったな」

 

俺は立ち上がると、首を一度ボキリと鳴らす。

 

「指示があるまでは休みにしておく。何かあればアルベドかセバスから連絡が来るようにしておくからゆっくり休め。お茶旨かったぞ。ありがとう」

「はっ!しっかりと休ませていただきます!」

 

固いが、今はそれでいいか。

俺は手をヒラヒラと振り、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移した。

 

 

 

 

 

 

 

睡眠から目を覚ますと心なしかナザリックの中がバタバタしているような気配がある。

俺に何も言ってこないということは敵襲ではないだろうが、どうしたというのだろうか。

 

「起きたか、ガエリオ」

「マクギリス」

「睡眠を好んでとるとは悪魔にしては珍しい習慣だな。……時折ナザリックから居なくなったのはそのためか?」

「まぁな。体力を温存するにはいい手段だろう」

 

マクギリス達シモベにはユグドラシル時代の記憶がある。

リアルのことを話すわけにはいかないが、人間だったときの習慣で飲食ができるのは悪魔で幸運だった。

モモンガさんはアンデッド、しかもオーバーロードという骸骨なので睡眠も飲食もとれないから可哀想だ。

 

「それで、バタバタしているようだがどうかしたのか?」

「あぁ、アインズ様が少しな」

「ん?」

「恐らく守護者が玉座に集まっているだろうから向かうといい。俺はこれからバエルを磨く」

「わかった」

 

俺は着替えると即座にリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを起動し、玉座に転移する。

そこには守護者達がなにやら話し合いをしているので、声をかけようとするがあちらの方が先に気づいたようだ。

 

「これはガエリオ様。おはようございます」

「おはよう。だが、もう昼だな」

 

挨拶を軽く交わし、直ぐ様本題に入る。

そういえばモモンガさんがいないな。

 

「なにやらナザリック内がバタバタしているようだが、何かあったのか?モモンガさんもいないようだし」

 

守護者は顔を見合わせると困ったように言葉を詰まらせている。

なんだなんだ。

 

「どうした?話してみろ。いや、こういう方が今はいいか?……話せ」

 

俺のリアルで培った上位者のオーラを使う。

ちなみにこれはスキルではない。

ただのそれっぽい雰囲気だ。

 

「っ!失礼致しました。では、私が代表してお話させていただきます」

「アルベド……許す。話せ」

 

守護者は跪くと、アルベドが顔を上げ話し出す。

 

「アインズ様が王国領内にあるエ・ランテルという都市で冒険者をし、情報を集めると仰ってナーベラルを連れ出掛けられました」

「冒険者、か。ナーベラルを連れて行ったのは?」

「はい。アインズ様は魔法で鎧を纏われ、戦士として活動するおつもりのようでしたので、それでは大変危険と感じたので是非とも私を、と進言したのですが……」

「なるほど。だが、守護者統括であるアルベドを連れて行ってはナザリックの運営に関わるからと断られたか」

「仰る通りでございます。なので、下等生物……失礼しました。人間に近い見た目をもつシモベで私が選ばせていただきました」

 

モモンガさんは冒険者とか好きそうだな、たしかに。

しかし、俺も出たいのにこれでは出にくいではないか。

……いや、そういう思惑か?

俺をナザリックに縛り付けておく理由があるとは思えないが。

いや、なんでもいいか。モモンガさんが冒険者をやって俺がやってはいけない道理などない。

 

「ならば、俺も冒険者というのをやってみたいのだがどう思う?」

「そんな!アインズ様に引き続きガエリオ様まで!もしもの事があったのならば我々はどうしたらいいか……!」

 

うんうんと頷く守護者一同。

心配性……ともいえないか。軍の指揮官が一人で何がいるかわからないところへうろうろするようなものだしな。

 

「モモンガさんが信頼するお前達を、俺も信用している。それに、俺が出ることにはちゃんと意味がある。……アルベド、デミウルゴスお前達ならわかるな」

「!なるほど、さすがはガエリオ様。そうしますと、お供のシモベは誰にいたしましょう」

 

まだ内容を話してないが、アルベドとデミウルゴスは理解したようだ。

俺自身が見て、聞いて、理解した方が誤差がないと思ったのだが……。

わかったならいいんだけどさ。

 

「わ、私が行きたいでありんす!愛するガエリオ様のために粉骨砕身、朝も昼も夜もお側でお相手する覚悟がありんす!」

「シャルティアか」

 

俺とシャルティアのペアはまぁ、悪くはない。

守護者最強の存在であるシャルティアなら現ナザリック最強を自称しても問題ない戦力の俺なら万が一はないだろう。

だが、問題が多すぎる。

 

「保留だな」

「えぇ、シャルティアは悪くはないですが候補としては下位でしょう」

「えっと、あの、その、ガエリオ様は、誰が相応しいと思うんですか?」

「俺か?そうだな」

 

顎に手を当て、思考する。

まず、正直なところ守護者は連れていく気はあまりない。

階層守護者の名の通り階層を守護者する仕事も少なくはない。

連れ出してしまえば、中々戻るのが大変だ。

その点<転移門(ゲート)>が使えるシャルティアは融通が利きやすい。

 

「ナザリックの運用に関して損になりにくい人物が好ましいな。損得なしで考えるのであればシャルティア、デミウルゴスなどはかなり嬉しい人材だ」

 

おぉ!と目を輝かせるシャルティアとデミウルゴス。

 

「だが、その程度のことはモモンガさんも分かっていたはず。当然アルベド、デミウルゴスもな」

「仰る通りでございます!私などを評価していただいたのは光栄の極み、しかし優しきアインズ様は……」

 

デミウルゴスに振り分けられてる仕事量を考えると連れ回すのは無理だ。

俺が気付かなかったり知恵が足りないところをサポートできるデミウルゴスはかなり嬉しい人材だからな。

 

「そしたら私!私が行くでありんす!」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、候補を出していくのが先だ。そうだな、モモンガさんと同じくプレアデスだと手が空きそうなのはユリかルプスレギナか」

 

王国戦士長というその辺では最強?の人物がレベル30越えだった。

さらにモモンガさんから武技なる技で一時的に強くなったという話もある。

つまりレベル40台くらいでは不安が残る。

シズはそもそも外に出すことを基本的に禁止しているのでユリ、ルプスレギナ、ソリュシャン、エントマだが、エントマは少なくとも人には見えないので今回は外す。

そしてソリュシャンはセバスと任務が与えられているので除外。

となるとこの二人というわけだ。

 

「アルベド、どっちが適任だと思う?」

「その二人であれば私はユリを推します。ユリは人間に対する嫌悪感は持っていないと思います。さらにはプレアデスの副リーダーとしてガエリオ様に不快な思いをさせることもないかと」

「ふむ。ならばユリにするか」

「そ、そんな……ガエリオ様ぁ」

 

くっ!愛故の視線が重い!

どうすればいい。

左手で頭を抱え、考える。

 

「シャルティア!ガエリオ様困ってるじゃんか!いい加減にしなよ!」

「そうよ!私だってアインズ様と一緒に冒険者をやりたかったのを我慢してるんだから貴女も我慢しなさい!」

「デミウルゴス!お前はどう思う」

「……シャルティアならば<転移門>を使い自由に移動ができますので、シャルティアを供にしシャルティアに割り振られた仕事の際はユリを供にするというのは如何でしょう」

「わかった。デミウルゴス、素晴らしい案だ。俺には思い付いてもお前の後押しがなければ実行には移せなかっただろう。シャルティア、それでいいな」

「!はいでありんす!性欲処理などなんでも頼ってください!」

 

二人とも、というのは無駄が多いからやりたくないがデミウルゴスの後押しがあるならいいだろう。

細かい調整も必要だろうが、今はこれがベストか。

 

「シャルティア。今回はお前の気持ちを酌んでこのような采配を取ったが、アルベドやアウラの言うとおりだ。お前の気持ちは嬉しいが、今はまだ誰かを特別視するつもりはない。デミウルゴスに感謝して与えられた仕事に励むことを忘れるな。……いいな?」

「……わかりんした」

 

支配者としては甘いとは思うが、どうも好意を向けられると弱い。

 

「アルベド。一時間後にユリにここに来るように伝えてくれ。冒険者として行動を共にする旨も忘れるな。用事があるならば遅らせるから無理せず俺に伝えることもな」

「畏まりました」

「シャルティアも用事がなければ一時間後だ。……幻術で目と肌の色、あと牙は変えておくんだぞ。そのままじゃ吸血鬼だと丸わかりだからな。わかったな」

「了解しんした」

「それでは解散だ。俺も準備をする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は特に準備もないのでマクギリスに一言声をかけると玉座に戻ってきていた。

マクギリスもソリュシャンの兄としてセバスと同行することが決まっているのでゆっくりもしていられないだろうが、時間までバエルを磨いておくと言っていたので好きにさせておいた。

俺はいつも通りの軍服で、ヴィダールの仮面を被ろうかと思っている。

顔を隠すのは有事の際、リスクを減らすためだとアルベドやデミウルゴスからも進言があったからだ。

 

玉座にはすでにシャルティアがいて、シャルティアはボーッと立ち尽くしている。

 

「シャルティア」

「あ、ガエリオ様!」

「ずいぶん早いな。まだ時間まで30分以上あるぞ」

 

シャルティアは幻術をかけたあとなのか赤茶色の瞳に人間らしく血の通った肌をしている。

服装はいつもの通りのボールガウンで、冒険者として行動するとは思えない格好だが、シャルティアが冒険者らしい服など持ってはいないだろう。

向こうでそれっぽいのがあれば買って渡すか。

今のシャルティアは吸血鬼の要素は無く普通の可愛い女の子だ。

えへへとはにかむと恥ずかしそうに口を開く。

 

「せっかくの共同作業ですので、早めに来たらガエリオ様とお話しできるかと思いんした」

「ん。……そうか。じゃあ少し話でもして時間を潰すか」

「はい!」

 

嬉しそうにするシャルティアになんだか照れ臭くなり、アイテムボックスから椅子を二つ取り出し座る。

俺とシャルティアはお互いの知らないことを教えあったり、紅茶の種類について語り合ったりして時間を潰した。

……たった30分だが、とても楽しい時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ユリ、シャルティア。これから俺たちは冒険者として人間の世界に溶け込まなくてはならない。……つまりどういうことかわかるな?」

「はい!わかっているでありんす!しっかりと護衛の任を果たし、ガエリオ様に無礼を働く人間は皆殺しにするでありんす!」

 

うん、わかってないね!

ユリはナーベラルが冒険者として着ていったものの似たやつを着てきたらしく、白シャツに茶色のズボン更には茶色のローブと地味なものだ。

 

「シャルティア。確かに時には暴力も必要だろう。しかし全てを暴力で解決したら最後はナザリックしか残らないぞ」

「それではダメでありんすか?」

 

これは難しいところだがナザリック至上主義の彼女らにはあまり実感がわかないかもしれない。

……モモンガさんも今頃苦労しているのかな。

 

「あぁ、駄目だ。真の上位者は弱者に優しくなければただの暴君だ。モモンガさんは慈悲を与えたりして優しいだろ?」

「たしかにその通りでありんす」

「今ここで全てを理解しろとは言わないから追々わかっていけばいい。ユリは大丈夫だな」

「はい」

 

俺は地図を広げると『リ・エスティーゼ王国』の首都である『王都リ・エスティーゼ』に指を当てる。

 

「エ・ランテルにはモモンガさんがいるから俺たちはこっちだ。同じ国の中だが、距離もあるしどっちかがどっちかの邪魔になることはない。シャルティア<転移門>を頼む。そうだな、見られるとさすがに厄介だから……」

 

俺は王都から少しだけ離れた場所に指を動かし指定する。

 

「この辺ならどこでもいい。……見られたらさすがに消すしかないが、行ったことのない場所に向かうからには少しはリスクを背負うしかない」

「わかりんした」

 

シャルティアが<転移門>を開くと、その中に入る。

王都の城壁が見えるので、上手いこと近くに転移したらしい。

周りに人影もいないのでいい位置だ。

続いてシャルティアとユリが出てくると<転移門>は消える。

俺はヴィダールの仮面を被りユリとシャルティアに視線を移す。

 

「これから俺のことはヴィダールと呼べ。ユリは……ユリでいいな。シャルティアもシャルティアで大丈夫か」

 

仮に敵勢力のプレイヤーが居たとしてもプレアデスであるユリはそもそも顔が割れているとは考えづらい。

シャルティアは有名だが、今は変装しているのでパッと見ではわからないだろう。

俺の仮面は趣味で作ったものなので知られていない。

俺はキマリスヴィダールが代名詞というかキマリスヴィダールのイメージでwikiに書かれている。

いや、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーとして晒されていると言うべきか。

とにかく、顔さえ隠せば大丈夫だろう。

 

「わかりんした」

「畏まりました」

「じゃあ中で冒険者登録をするとしよう。俺たちは旅の途中で立ち寄った……そうだな、俺の友人の娘二人でいいか」

「恋人!もしくは妻でありんす!」

「えぇい!この手の話は長くなるから無しだ!聞かれたら友人の娘で通すぞ!俺とペロロンチーノさんとやまいこさんは友人だった。何も間違っていない。……いいな?」

「……はい」

 

落ち込むシャルティアにさすがのユリも苦笑いしている。

可哀想な気もするがこの手の話は始まると中々収拾がつかないのでとっとと切り上げるに限る。

 

「とにかく、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

道中多くの視線を集めつつなんとか冒険者組合に着いた訳だが、登録するにも文字が読めないので一苦労だ。

現にここまでの道筋も人に聞きながら辿り着いたのだ。

シャルティアの対人能力という面での課題も見えてきた。

分かってはいたが人間を見下していることにプラスして俺のことを第一に考えていることで、検問ではとんでもないことになりかけた。

 

『持ち物を検査したいのだが、魔法を掛けさせて貰っても?』

『あ?この人間風情が―』

『すまないが遠慮させてもらえないだろうか。私達はこれから冒険者として登録し、活動しようと思っている』

『……?それと魔法での検査を拒むことにどんな関係がある?』

『つまり、こういうことだ』

『私の目を見ろ!』

 

最後は魅了によるゴリ押しだ。

すぐにユリに目配せしてシャルティアを下げさせたが言動一つとっても人間社会に溶け込めるか不安だ。

検査の結果何もなかったことにしたわけだが、まさか魔法をかけるくらいでシャルティアがあそこまで激昂しそうになるとは。

後で強く言っておく必要があるな。

 

王国内は思ったより活気がなく、俺としては残念で仕方ない。

貴族の統治が悪いのか、王族が悪いのかわからないがこれだけの土地があるにしてはどこか人々から暗い印象を受ける。

むしろ冒険者のような格好の人物が数多くうろついていて、騎士や兵士があまり見られないのが国力の低さを物語っているだろう。

 

なんやかんやありつつも組合の中の壁に貼られた依頼用紙も当然読めないので眺めていると、更に視線が集まってくる。

……もしかしたら登録してすぐの<(カッパー)>のプレートでは請けられるクエストはここには無いのかもしれない。

 

「鬱陶しい視線でありんすね……殺してしまうのがはやいでありんす」

「シャルティア様。ガエ……失礼しました。ヴィダール様はその様なことは望んでいませんかと」

「……確かにそうでありんすね」

 

護衛兼相方が物騒すぎる。

ユリがまともでよかった。

これがナーベラルあたりなら間違いなく

 

『殺してしまうのがはやいでありんす』

『蛆虫共が……至高の御方とシャルティア様にその様な視線を向けるとは、虫らしく潰すのが相応しいかと』

『確かにそうでありんすね。ぷちぷち潰すでありんす』

 

想像に固くなさすぎて違和感を覚えなさすぎる。

 

「……?」

「どうしたシャルティア」

「あ、いえ、今……本当に一瞬だけ吸血鬼の気配を感じたような気がしんした」

「なに?」

 

周りを見渡すがむさっ苦しいおっさん冒険者ばかりだ。

気配も特に感じない弱者の物で異形種の気配を感じない。

同族であるシャルティアが感じたのなら間違いないと思うが、それでも一瞬だけ。

かなりしっかり隠していて、恐らくは近くを通ったくらいの物だと思う。

声を潜めてシャルティアとユリに耳打ちする。

 

「シャルティア、もし見つけても俺に知らせるだけでいい」

「わかりんした」

「ユリも何かに気が付いたらすぐ俺に知らせてくれ。もし俺に通じなければシャルティア。シャルティアにも通じないならモモンガさんだ」

「わかりました」

「後で二人には多めにスクロールを渡しておく。……警戒はしすぎなくらいが丁度いいからな」

 

しかし、これからどうするか。

いや、モモンガさんに一旦会いに行くというのも有りか。

どのみちどこかでこの話はしなければならないし、文字が読めないこの現状は向こうも同じはず。

どう対処したのか教えてもらおうか。

 

「仕事を探す前にモモンガさんのもとへ行こう」

「アインズ様に会いに行くんでありんすか?」

「あぁ。シャルティア、エ・ランテルまで<転移門>を開いてくれ」

「了解しんした」

 

冒険者組合を出て横の建物の陰で<転移門>を開く。

こういう時シャルティアは本当に色々できて優秀だ。

潜ると、今度は王都とは別の町並みに出る。

王都と比べるとむしろこちらの方が活気を感じるほどだ。

王都が悪いのかこちらの統治が上手いのか。

同じリ・エスティーゼ王国領内なのにおかしなことだ。

周りを見渡すと武装した人間が多く、恐らくはあれがエ・ランテルの冒険者なのだろう。

 

「シャルティア、ユリ。とりあえず組合に行ってみよう。そこならすぐにわかるはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

「鎧の戦士と魔法詠唱者の二人組ですか?確かに本日登録をさせていただきました」

 

大変目立っていましたので。と続ける受付嬢に共感する。

 

「えぇ、私の友人なのですがどちらに行ったかはわかりますか?」

「宿屋ではないでしょうか。この時間から依頼を受けると言うことはあまりないので」

「なるほど。宿屋の場所は聞いても?」

「わかりました。大通りを右に行っていただければ冒険者御用達の宿がありますので恐らくはそこではないかと思います」

 

受付嬢に礼を言うとシャルティア達を連れて外に出る。

 

「本当に鬱陶しい視線でありんした」

「我慢しろ。冒険者としてその格好は相応しくはないからな。そのうち服買ってやるから」

「!?プレゼントでありんすか!?」

「仕事着だけどな。プレゼントとも言えなくないか」

「おめでとうございます、シャルティア様」

 

喜ぶシャルティアを尻目に宿へと足を運ぶと、さすが冒険者御用達の宿屋と言うだけあって組合からそこまで離れておらずすぐに辿り着いた。

中へ入ると再びこちらに視線が集中する。

確かに歩けば歩くだけ視線が集まってくるのでかなり鬱陶しい。

俺の抑制が無くなればシャルティアは直ぐ様皆殺しにするだろう。

シャルティアは可愛らしい顔を嫌そうに歪めるが、俺の視線に気が付くとにっこりと笑い掛けてくる。

可愛い。

ユリは平常心を保てているようで助かる。

さすがはプレアデスの副リーダーだ。

 

「すまないが、聞きたいことがある」

「共同部屋なら大分安いぞ」

「いや、そうではなくてな。ここに鎧の戦士とローブの二人組の冒険者が来なかったか?」

「……あぁ、さっき上に行ったよ」

「そうか。用があるんだが、金は必要か?」

「馬鹿言え。用事くらいさっさと済ませてこい」

 

シャルティア、そんなに宿屋のおじさんを睨むな。

 

「わかった。すまないが失礼する」

 

すると階段前の机を使っている冒険者の男が足を出してくる。

所謂一つの冒険者としての洗礼というやつか。

銅のプレートを掲げている俺たちは向こうから見れば弱者に見えるから不自然ではないが……。

俺は特に気にせず跨ぐが男は足を上げ、俺は躓きそうになる。

 

「痛いじゃないか。何か用事があるならば口で説明してくれないか」

「痛いのはこっちだぜ!やってくれたなぁ、兄ちゃんよぉ!」

「そうだぜ!こいつにはアダマンタイト級冒険者になるって夢があるんだ!それを見ろ!」

「いてぇ!いてぇよぉ!」

「折れてやがる!これじゃあ夢は途絶えたも同然!どう責任をとるつも―」

「ふん!」

 

仲間ぐるみで慰謝料を請求しようという、バレバレかつ旧時代の遺物のような連中の言葉は後ろで話を聞いていたシャルティアが二人の襟を掴むと入り口扉へ向けてぶん投げてしまった。

二人は扉をぶち破り外へと放り出され意識を失っているようだ。

 

「シャルティア」

「殺さなかっただけ褒めて欲しいでありんす」

「いや、ナイスだ」

 

シャルティアはその見た目から侮られることもあるだろうから、今みたいに殺さない程度に力を示すのはそこそこ有効だ。

後で撫でてやろう。

 

「親父」

「構わねぇよ。そいつらの宿泊代から取っておく。全く、別のやつが投げられてたのに学ばねぇ馬鹿共だ」

 

話がわかるやつは好きだぞ。

 

「だそうだ。シャルティア、ちゃんとお礼を言っておけ」

「……むぅ」

「シャルティア」

「……感謝するでありんすえ」

 

仕方なくといった様子だがこれも人間の社会で冒険者をやるというのには必要なことだ。

宿屋の親父も仕方のない娘を見るような目でおう。と一言返してくれた。

俺はシャルティアの頭を軽くぽんぽんと撫でておく。

 

「ガエリオ様!?」

「ヴィダールだ。今撫でたのは、一つ成長を褒めたんだ」

「……ガエリオ様」

 

いや、いいけどね。

ぽわぽわしてるシャルティアの手を引き階段を上がると扉の前に立つ。

中からナーベラルの気配がするので間違いなくここだろう。

俺がノックをしようと手を出そうとすると横からユリが前に出てくる。

 

「ぜひここはメイドである私に」

「わかった」

 

確かにユリはプレアデスの副リーダーであり、護衛でもあるがメイドだ。

上位者らしくその辺のことは任せた方がいいか。

ユリは少し頬を緩めると、扉の横に立ち俺と扉の間を遮らないようにノックする。

 

「……誰だ?」

 

中からモモンガさんの声が聞こえる。

間違いなく中に居ることがわかったので、こちらも小声ながら声を出す。

 

「ガエリオだ。開けてもらえるか?」

「……!?ナーベ」

「畏まりました。モモンさーん」

 

ガチャリと扉を開け出てきたのはナーベラルだ。

俺を視認すると膝を着こうとするが手をかざし止める。

 

「そのままで構わない。誰かに見られたら厄介だ。……入っても?」

「えぇ。どうぞ、狭いですが」

 

モモンガさんに声をかけると、モモンガさんは驚きながらも中へ通してくれる。

俺はシャルティアの手を引き中へ入るとユリが続き、扉を閉めてくれる。

安宿に5人はかなり狭いが仕方ない。

 

「その娘は……シャルティア?」

「あぁ。幻術で吸血鬼の要素を排除して護衛として連れてきた」

 

シャルティアは膝をつき頭を下げるがすぐにモモンガさんが止める。

モモンガさんが普段の調子で話すにはシャルティア達が少し邪魔のようだ。

たしかにこのままだとアインズ・ウール・ゴウンとしてではなくモモンガとして込み入った話が出来そうにないな。

 

「シャルティア、ユリ、ナーベラル。悪いが少し出てくれ」

「しかし、護衛が―」

「モモンガさんは俺が守る。それにそこまで離れなくてもいい。俺達の話を聞かれたくないだけだ」

 

ユリは頭を下げるとナーベラルに視線を向け、退出しようとする。

シャルティアは困ったように俺に視線を向けるがここは心を鬼にするしかない。

ナザリックという組織においてある程度の我儘は、聞こうと思うが空気を読むようなことは必要な能力だ。

甘やかすわけにはいかない。

 

「シャルティア。俺やモモンガさんが強く言わなければわからないか?」

「っ!申し訳ありません。出すぎた真似をしました」

「構わない。シャルティアよ、何かあった際には頼りにしている」

「有り難きお言葉。では、外で待機しております」

 

モモンガさんのラスボスっぽい口調で守護者としてのシャルティアに戻って出ていく。

モモンガさんや俺がリアルでの口調で話すのは正直上位者っぽくはないので聞かれたくない。

 

「……ふぅ。それでガエリオさん。どうしてここに?」

「言わなくちゃわかりませんか?」

 

あー、えー、いやー。と口ごもる鎧の大男。

 

「朝起きてみたら冒険者になるって言って出てったって言われるし、俺だって冒険してみたいんですよ!」

「すいません!……でも、よくアルベド達が許しましたね。俺の時でも大騒ぎだったんですよ。至高の御方って呼ばれる俺達二人が同時に冒険者だなんて絶対許さないとか言い出すと思ったんですが」

 

確かに近いことは言われたが、そこまで強くは止められなかったな。

 

「止められはしましたけど、守護者を連れてくことを候補に入れたらすんなりといきましたよ」

「……やっぱり守護者達からするとプレアデスじゃ力不足ってことですか」

「そうでしょうね。ユグドラシルじゃレベル10差がつけば勝つのは不可能。守護者は全員レベル100ですからね。プレアデスで一番レベルの高いナーベラルですら40近い差がありますし守護者は不安がりますよ」

 

シャルティアがゴリゴリアピールしてきたので連れてきたが、シャルティアを連れてこなかった場合もう少しあの場で揉めた可能性は否めない。

頭の弱さ、と言うと可哀想だが賢さはともかくシャルティアのその強さは守護者全員が認めざるを得ないのだ。

だから複数の魔法が使えてなおかつ護衛を任せることにデミウルゴスも賛同したわけだ。

 

「……ガエリオさん」

「はい?」

 

モモンガさんの思い詰めたような言葉に俺の声にも緊張が走る。

言いにくそうに視線をあちこちに向けているのはなにかあるのだろうか。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、あの、ええい!ガエリオさん!」

「はい」

「ガエリオさんは、リアル、元の世界に戻りたいですか!?」




プレアデスでは不安よな

シャルティア動きます

そんな話でした。

久しぶりに連続投稿して、新規小説としては初めて低評価が付きました。
ある種慣れたものですが、やはり中々効きますね(笑)

大勢の方に見ていただけているようですが中々感想がないのでどういう評価を頂いているのか気になります。
気楽に感想頂ければ幸いです。


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6話

ご無沙汰しております。
転職やら引っ越しやら忙しかったところに某ウィルスで中々執筆時間が取れませんでしたがなんとか続きが書けたので投稿再開します。


「……質問に質問で返すことになって申し訳ないのですが、モモンガさんはどうですか?」

 

リアルに帰りたいかという質問は、俺にとっては少し難しい質問だ。

リアルが充実していなければ、この不思議な体験に身を任せてこのままの人生を享受するのがいいだろう。

だが、惜しくもというのは貧困層の人には随分な言い分だろうか。

俺は恵まれているのだ。

だから、考えが纏まっていない。

答えを先延ばしにするために、モモンガさんに聞き返す。

 

「俺は、このままナザリックの子供達と生涯を共にします。不老なので、何かしらの事情で滅ぶまでという条件付きですが」

 

ヘルムを消したモモンガさんの赤い光を灯した眼光が、その意思の強さを表すかのように強く燃え盛り俺を射ぬく。

その目の強さに圧されるが、俺は友の心の強さに負けじとヴィダールの仮面を消ししっかりと目を見る。

ここで退いては、いけない気がした。

 

「それで、モモンガさんはいいんですか?」

「えぇ。俺には家族も、恋人も居ませんから。それにブラックギリギリの会社でギリギリ生活できる金銭を稼ぐだけの人生なら、ナザリックの方が、何倍も大切です」

 

もう一度、モモンガさんの眼光が光る。

紛れもない覚悟の光だ。

誰かに強要されたわけではない、強い自我の光。

 

「ガエリオさんは、どうですか?」

「……俺は」

 

答えに困る。

だから俺は、強く歯を食い縛り、思いの丈をぶつけることにした。

 

「嘘をつきたくないから、本当のことを言います」

「……はい」

「俺は、どうしたらいいかわからないままここにいます」

 

いや、自分を肯定するわけではないがこれからのすべてがこれで決まってしまうとなったら誰が迷わず答えられる。

……これは、逃げなのか。

モモンガさんがはっきりと答えを出したことで俺の気持ちが強く揺れているのがわかる。

 

「俺は……俺は、リアルでは、経済を動かすほどの金持ちでした。……想像が出来ないかもしれませんが、貴族というやつです。だから、仮にリアルに戻っても俺は何不自由なく、何事もなかったかのように生活していくんだと思います。……だから、答えが、今ここでは出せません」

「ガエリオさんにとってナザリックは、大切ではないのですか?」

「そんなことはない!断じて違う!モモンガさんと一緒にいるのは楽しい!守護者が俺のことを心配して声を掛けてくれるのは嬉しい!プレアデスとお茶をしたのも、楽しかった!だが、それでも……今、ここで選択することは、あまりにも難しすぎる……!」

 

爪が皮膚に食い込み、出血したことの痛みでそれだけの力で拳を握りしめていたことを知る。

どちらが、一番大切かではない。

リアルに戻っても、大丈夫だという安心感が、ナザリックが全てだという思考に繋がらないのだ。

俯いている視線を上げ、モモンガさんを見る。

感情は読み取れないが、何か考えているのだろうか。

 

「なら、それで構いせんよ」

「え?」

「もし、答えが出たら必ず最初に教えて下さい!それまでは、楽しく過ごせばいいじゃないですか!」

「モモンガさん」

 

ユグドラシル時代なら笑顔マークのアイコンが出ているような優しげな言葉に俺も笑みを浮かべる。

 

「えぇ、その時は必ず」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺は、どうしたいんだ」

 

真っ暗な宿屋で独り言を言うモモンガ。

ガエリオの告白を聞いたモモンガの心は、濁っていた。

 

「一緒にいてほしい。ずっとここにいましょう。……あの時と同じだ。……また、言えないまま終わってしまうかもしれない」

 

脳裏に浮かんだのはヘロヘロに対して言えなかった『せっかくだから、最後までいませんか?』の一言。

 

「これで、俺が言えなかったからガエリオさんまで去ってしまったら……どうすればいい」

 

いや、ガエリオさんは俺を見捨てたりしない。

そもそも他のメンバーも、アインズ・ウール・ゴウンを捨てたわけではない。

分かっていても、心を満たす怒りと仲間への渇望は消えたりしないのだ。

 

「ガエリオさんは、これから考えると言ってた。……だから、失望されないように、ナザリックを、見捨てないようにしないと」

 

そう溢すモモンガの目は、強く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャルティア!少しは自重しないと解任だぞ!」

「懐妊……?ついに私は初めてを……!!」

 

貞操を賭けた深夜の抗争は人知れず終戦を迎えたので、ちゃんとシャルティアを叱っておく。

しかしなにやら勘違いしているようだが。

 

「シャルティア様」

「あぁ?ユリ!私とガエリオ様の会話に口を挟むとは――」

「こら!」

「も、申し訳ありません!ガエリオ様!」

「失礼ながらシャルティア様。懐妊、つまりご妊娠ではなく解任、つまり任を解かれるという意味かと思います」

「……え?」

 

あぁ、そういう勘違いね。

俺は頭を抱えると、小さく溜め息をつく。

 

「シャルティア。気持ちは嬉しいが、自重してくれ。俺たちは遊びでこうやって外に出ている訳じゃない。例えばアルベドやアウラが任務で外に出ていて遊んでいたらどうする?」

「殺すでありんす」

「……まぁ、怒るということだな」

「任務と偽り遊び呆けるなど至高の御方に対する冒涜でありんすから、死をもって償うのが正しい行いだと思いますえ」

「そうだ。殺すのはやりすぎだが、俺の寝込みを襲うのは任務か?」

「うっ!」

 

自分の発言の矛盾に気付いたシャルティアは顔を青くさせプルプルと震え出す。

まるで脅しているようだが、守護者の責任感はともかくとして所々欲求が前面に出てくるのはいけない。

 

「いいか。あくまでも任務は護衛兼冒険者としての相棒だ。ある程度は自由にしても構わないが……あー、いや、すまんやめておこう」

「ガエリオ、様……?」

 

ナザリックの者達に対して最近は怒りすぎか。

いや、貞操を守るためには必要な事だと分かってはいるんだがどうも感情的になってしまう。

そもそもシャルティアが俺のことを好きだということを多分に含んだ視線で見ているのは分かっていたことだ。

俺がどこかではっきりさせないからこんな事態が度々起こるわけだしな。

モモンガさんもアルベドの過剰な接触に困ってるって言ってたし、そろそろ何か対策を考えるべきかもしれないな。

 

「とにかくだ。抱くとか抱かないとかそういう感情は今は無しだ。未知の土地で俺たちは無知なのだ。今はナザリックを守るため、情報を集めることが第一。わかったな」

「……はい」

 

シュンとしてしまったがこればかりは今どうこうできる問題でもないからな。

可哀想だが、しっかりとしてもらわないと困る。

 

「あと、俺のことはヴィダールだ。昨日は感情的になったときにガエリオと呼んでいたが次からはなにかしらの罰を与える。いいな」

「わかりんした」

「ユリも、細かいフォロー頼むぞ」

「畏まりました」

 

部屋を出てモモンガさんと待ち合わせをしていた冒険者組合へ向かう。

相変わらずジロジロと鬱陶しい視線だが我慢して冒険者組合までたどり着いた。

二階にいたモモンガさんとナーベラルとは別の冒険者が一緒にいる。

ナーベラルは俺たちを見つけると頭を下げようとするので手で制しておく。

 

「モモン、ナーベ」

「ガ、ヴィダールさん」

「これは、ヴィダール様!お出迎えもせずうっ!!?」

 

主従関係をバレないように頼むように言ってあったが、素が出てモモンガさんに拳骨を落とされてしまう。

ユリに視線を向けると呆れの視線を冷たく送っている。

姉妹仲はいいのだろうが、仕事は仕事と割り切るナザリック特有の空気だ。

でもモモンガさんも間違えかけてましたよね。

 

「まぁまぁ。二人とも、おはよう」

「えぇ、おはようございます」

「おはようございます!」

「おはようでありんすえ、モモンさん」

「おはようございます。モモンさん、ナーベ」

 

挨拶を一通り終えると一緒にいる冒険者に目を向ける。

 

「モモン。そちらの方々は?」

「あぁ、我々が困っているところに声を掛けてくれた優しい冒険者の方々ですよ」

「初めまして!俺達は冒険者チーム『漆黒の剣』です。私はリーダーのペテル・モークです」

 

ペテルという青年は金髪に碧眼と街中でもよく見かけた人種だ。

強い力は感じず、雰囲気のいい好青年といった感じ。

 

「そしてこいつがチームの目と耳、レンジャーのルクルットです」

「はぁい!ナーベちゃん!あとそちらの、えっと」

「失礼。自己紹介の途中になってしまうが軽く自己紹介をしたほうが良さそうだな。俺はヴィダール。ドレスの彼女がシャルティア、そして眼鏡の彼女がユリだ」

「んー!美しい名前!ナーベちゃん!シャルティアちゃん!ユリちゃん!」

「……ハリガネ虫ごときが」

「潰すでありんす」

「お戯れを」

 

俺とモモンは視線を会わせて肩を落とす。

やはり人選ミスか?いや、ユリは大丈夫か。

 

「ルクルット!すみません、うちのメンバーが」

「いえ、構いませんよ。ただ、本人達があまりそういうのに乗り気ではないので自重してくだされば幸いです」

 

ペテルは苦労人っぽいな。

いや、メンバーからの信頼があるからメンバーが伸び伸びやれているという考え方もあるか。

 

「ありがとうございます。では、続きを。彼が森司祭(ドルイド)のダインです」

「よろしくお願いする」

 

ダインと呼ばれた男は恰幅のよく髭を蓄えた外見的には年齢を重ねていそうな雰囲気だ。

温厚そうで好感度が高い。

 

「そして、彼がうちの魔法詠唱者(マジックキャスター)ニニャ・ザ・スペルキャスターです」

「……よろしく」

 

濃い茶色の髪と碧眼であり、中性的な美しさを持つ少年……だろうか。

うっすらと目を細め、睨むような視線にこちらは目を逸らす。

なにかしてしまっただろうか。

 

「ペテル、その恥ずかしい二つ名は辞めません?」

「え?良いじゃないですか」

「こいつ、タレント持ちなんだ」

「ほう」

 

モモンガさん達はタレントの話で盛り上がっているが、ニニャと呼ばれた少年が俺を睨んでいるので、隣のシャルティアの視線がえげつないことになっている。

殺気こそ飛ばしていないのは単純にニニャから明確な敵意が見えないからだろう。

だが、一触即発とまではいかないもののタレントの話をしているペテルやルクルット含めた漆黒の剣のメンバーの顔色も良くない。

なにがなにやらわかったもんじゃない。

 

「シャルティア」

「っ!?が、ヴィダール様!?」

 

小さくシャルティアに声をかけ、頭に手を置く。

辞めろと言うと話が拗れそうなので行動に出てみたがこれは逆効果か。

ぽわぽわしているシャルティアは放っておいて会話に加わる。

 

「なにやらそちらにも事情があるようだが、もしアレなら俺達は退散するが」

「……すみません。ニニャ」

「……すみません」

「いや、構わないさ」

 

しかし、どうして敵意にも似た感情をぶつけられたのだろう。

 

「すいません!モモンさん!ご依頼が入っております!」

「え?」

 

昨日冒険者登録したのに、個人を指名しての依頼?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼者は金髪の前髪を伸ばした少年『ンフィーレア・バレアレ』。

エ・ランテルで薬師をしているらしく今回はポーション生成などに使う薬草を取りに行くのでモモンガさんたちに道中の護衛を頼みたいようだ。

新米冒険者に頼むのも、安く、さらにはいつもの冒険者が別の依頼で出てしまっていると、一応の理屈は通っている。

モモンガさんの冒険者姿であるモモンは確かに強そうだし、ここで繋がりを作っておくのも悪くはないだろう。

 

モモンガさんは漆黒の剣と協力し依頼を受けるらしく、そうなると俺たちは邪魔だろう。

 

「ヴィダールさんはどうするんですか?」

「漆黒の剣にモモンたちもいるのなら俺たちまで行くのはおかしいだろう。依頼を受けたのはモモンだし、薬草を取りに行くくらいで3チーム合同はやりすぎだ。大人しく別の依頼を探すさ」

「たしかに、この依頼で3チームは多いですね」

「ならそこのボウフラ達が辞めればいいだけの話では?」

 

またとんでもないことを言い出したな。

 

「ナーベ。モモンが漆黒の剣と協力し依頼をやると言っているんだ」

「……申し訳ありません」

 

不満がありありと顔に出ているが表面上は納得してくれたようでなによりだ。

剣呑な雰囲気を少しは隠してほしいが。

 

「……すいません。もしお邪魔なら我々が抜けましょうか?」

「いや、ナーベには私からも注意しておきます。せっかく誘っていただいたのにそれを断り、別の依頼を他の人と請けるなど許されない行為です」

「そうですか。なんか申し訳なくて」

 

ペテルいい人だな!

苦労人のような雰囲気も出てるし頑張ってほしい。

 

「じゃあヴィダールさんはこの後どうするんですか?」

「俺たちは王都に戻るとするさ」

「王都にですか?」

「あぁ。モモンはエ・ランテルで冒険者をやるようだが俺たちは王都の冒険者だ」

「なぜわざわざ別の場所で……」

 

ペテルの疑問ももっともだ。

だが、情報を集める上でそこそこの立場が必要な上戦力が固まりすぎはよくないから別れる……とは無関係な奴等には口が避けても言えないか。

 

「俺たちには目的があるからな。情報収集をするなら固まってるよりいいだろ?」

「その通りです。特にヴィダールさんは私が尊敬し、戦士として到底追い付くことのできない高みにいますからね。同じ場所で冒険者をしては仕事を取られてしまいます」

「ははは」

 

見るからに強そうなのはモモンガさんだからな。

漆黒の剣の面々の驚く顔がこちらに向けられる。

 

「……では、我々はもう行くとしよう。モモン、次会うときはお互い最上級冒険者だ」

「えぇ」

 

……ナザリックに戻れば会えるけどここはそれっぽいことを言っておくのがいいだろう。

 

「漆黒の剣の皆さんと、ンフィーレアさんもぜひ我々に依頼してください」

 

そう伝えると俺たちは組合を出て宿屋に戻る。

 

「あんなよわっちぃニンゲンではなくガエリオ様とモモンガ様で依頼を受けた方が良かったのではありんせん?」

「依頼を完遂するだけならな。でもそれだと評判が良くないだろ?」

「実力があればそのような事些事では?」

「人間ってのは評判を気にするから細かいところに気を配っておくのさ」

 

それにンフィーレアという少年は随分とこの辺りでは有名な薬師らしいし、今後彼からの依頼が来たりするなら名声にも繋がっていくだろう。

 

「とりあえず俺たちは王都に戻るか。本格的に動くのはモモンガさんの報告を待とう」

「しかし、我々の主であるモモンガ様に報告係をさせるのは……」

「元はモモンガさんがやりたいと言い出したことだ。それに報告を受けるのは俺だし、俺とモモンガさんは対等な友だと思っている。だからあんまり深く考えるなよ」

 

まぁ、守護者やシモベの考え方的には難しいのかも知れないがいつかは柔軟な考え方が出来るようになってもらいたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガエリオさん!ミスリル級冒険者に昇格しました!』

『え、はや』

『お、なんか久しぶりに素のガエリオさんが出てますね』

『いや、この前登録したばかりなのにミスリルって早すぎて素も出ますよそりゃあ』

 

あれから数日俺達は王都を拠点に小さい依頼をなんとかこなしつつ冒険者として経験を積んでいた。

戦闘力という面では圧倒的だが、近接職×3の構成でしかも戦闘特化だ。

シャルティアは魔法も得意だが攻撃魔法ばかりだし、俺の職業構成も戦闘特化で採集依頼などは出来ないのでモンスター討伐ばかりしていた。

モンスター討伐もゴブリンなど弱いモンスターばかりなので当然銅のプレートのままである。

そんな日のある日<伝言(メッセージ)>でモモンガさんから連絡が来たかと思ったらミスリル級に昇格したらしい。

詳しく話を聞くとあのあとズーラーノーンという組織がエ・ランテルを襲い、それを撃退したらしい。

なんという展開。

しかしこれはまずいぞ。

このままではモモンガさんたちに置いていかれてしまうではないか。

<伝言>を切った俺は頭をフル回転させ、考える。

朝組合で見たが、大きな依頼はなくあっても秘密裏にアダマンタイト級冒険者などに回されるのが落ちだろう。

と、すれば仕方がない。

 

「やるしかないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルベド、デミウルゴス」

「はい」

「そう畏まるな。呼んだのは俺だ、普通にしていろ」

「ありがとうございます」

 

俺はシャルティアとユリに臨時の休暇を与え、アルベドとデミウルゴスを自室へと呼んでいた。

普段ならここにはマクギリスがいるが今は任務でセバス達に同行しているのでこの部屋には三人しかいない。

 

「わざわざ済まないな。お前達にも与えられた仕事が多いだろう。しかもお前たち二人はナザリックの知恵の要、特に仕事も多いだろう」

「何を仰います!我々は至高の御方方に仕え、ナザリック、ひいてはアインズ・ウール・ゴウンのために身を費やすことこそ幸せにございます!」

「デミウルゴスの言うとおりにございます。アインズ様よりガエリオ様の言葉を時にアインズ様より優先しろと承っておりますゆえ何なりとお申し付けください」

 

相変わらず固いがそれだけ忠誠心があると思えば可愛いものだ。

それに真面目な話をするときはこれくらいの空気がちょうどいい。

 

「そうか。ではさっそく本題に入るが、俺が行っている冒険者としての活動だがどこまで理解している?」

「私どももアインズ様が冒険者に成られた際に事前に確認しましたが実に面白味のないシステムだと感じました」

「私もアルベドと同じ意見です。実力があってもそれまでの実績によって積み重ねた大した価値もない階級に縛られているのは無駄の極みかと」

「その通りだ。俺や守護者最強と言っても過言ではないシャルティア、それにプレアデスの副リーダーであるユリは現地でしか手に入らない情報を得るために冒険者として活動しようとしたが、現在行える依頼は良くて魔物退治、悪ければ薬草採集などばかりだ」

「なるほど。ガエリオ様、でしたらこちらでいくつか騒ぎを起こすのは如何でしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王国冒険者組合に張り出された一枚の依頼、それは王都を震撼させるには十分すぎる内容だった。

 

 

『王都近郊にギガント・バジリスクの巣を発見。討伐に自信のある冒険者は受付まで。最低オリハルコン級冒険者』

 

そして事態はさらに加速する。

 

『王都近郊にて発見されたギガント・バジリスクの巣の討伐は当面見送りが決定。続報を待たれたし』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、これは一体どういうことなんだ?」

「静かにしろガガーラン。お前が猛ってもなんの解決にもならん」

 

王国の宮殿、それも王国の黄金とまで呼ばれる姫である『ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ』の自室である。

そこで岩のような巨漢、いや可憐なる戦士(自称)『ガガーラン』は仮面の魔法詠唱者である『イビルアイ』に窘められる。

 

「ガガーラン。私たちが別の依頼をしている間に出てしまった犠牲に対して憤るのはわかるけど、まずは話を聞きましょう」

「ガガーランは血の色がオークと同じになった」

「だから知能レベルも……うぅ……」

 

黄金とまではいかないまでも健康的な美しさをもつ神官『ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ』と瓜二つの容姿に忍び装束の双子である『ティア』と『ティナ』に窘められ、おちょくられる。

彼女たちは王国に二組しか存在しないアダマンタイト級冒険者の一組『蒼の薔薇』だ。

 

「ガガーランさんも待ちきれないようですので、始めさせていただきますね」

 

紅茶で口を潤し、言葉を紡ぐのが部屋の主であり王国周辺国家に名を轟かせる黄金の姫ラナーその人である。

 

「まず、事の発端は王国近郊にギガント・バジリスクの巣が発見されたことです。皆様ギガント・バジリスクについての説明は必要でしょうか」

「要らねーよ。一匹で国一つ滅ぼすことができる伝説の魔獣……実際に俺達蒼の薔薇も何度か戦ったことがあるが確かに強力な魔獣だった」

「では続けさせていただきますね。その巣を何とかしようと冒険者組合は依頼掲示板に依頼を出しました。最低オリハルコン級冒険者求む、と」

「それがそもそもおかしいだろ。オリハルコン級冒険者じゃギガント・バジリスク一匹にすらまともに相手出来ねぇ!初めから俺達か『朱の雫』を待つべきだ」

「黙って話を聞け」

「……ごめんなさい、ラナー。続けて」

「大丈夫ですよ、ラキュース。オリハルコン級冒険者を雇いましたのは朱の雫も蒼の薔薇も待てないほど状況が切迫していたからです。事前に確認しただけでも巣の周りに五匹」

「ごっ……!?」

「巣の内部までは把握できていませんが少なくともあと二、三匹はいるのではないかと予想されました」

「なるほど、餌の問題か」

「餌?」

 

イビルアイは組んでいた腕を組み変えると、疑問を浮かべるガガーランに向き直る。

 

「一匹ですらどれ程の量の餌が必要か分からん巨体だ。その数なら餌を求めて王国に来るのも時間の問題だろうな」

「その通りです。ですので事態は緊急を要し、アダマンタイト級冒険者ではなくオリハルコン級冒険者に依頼を出しました」

「なら、なんでギガント・バジリスクは攻めてこない。失敗したんだろ?」

「とりあえずの餌が出向いてきたんだ」

「イビルアイ!そんな言い方!」

 

ラキュースが責めるがイビルアイはどこ吹く風。

 

「事実は事実として確認しなければならないだろう」

「そうだけど……」

「避けては通れん話だ。どのみち腹が減れば次は王国に攻めてくる。そうなれば、私たちがどれだけ頑張ろうとも百や二百では足りない犠牲者がでるぞ」

 

言い方は悪いがイビルアイの話は事実だ。

オリハルコン級冒険者が餌となったお陰で王国が無事だと言うのは間違いない。

他の依頼を放ってでも駆け付けるだろうが間違いなく数匹のギガント・バジリスクに蹂躙され尽くした王国に未来などない。

そもそも市街地にギガント・バジリスク級の魔物が入り込んだ場合その村や街は見捨てるのが定石である。

 

「朱の雫はどうなんだ、ラナー」

「……残念ですが、不参加です。朱の雫が行っている依頼の重要度はギガント・バジリスクの巣を駆除する事と同レベルだと判断されました」

「なっ……にぃ!?」

「馬鹿な考え」

「どうせ貴族」

「依頼主についての名言は避けますが想像通りだと思います」

「それだけ王派閥を貴族派閥の力が上回り出したということだろうな。まともな頭があれば王都より重要視する依頼などほとんどないはずだ。早々に『八本指』を何とかする必要性が出てきたな」

「……叔父様が居ないのは残念ですが、私たちが何とかするしかないわね。王国のアダマンタイト級冒険者として、命懸けで王国を守りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『青の薔薇』が考案した作戦は概ね順調と言えた。

複数のギカントバジリスクと真正面から馬鹿正直に戦って勝つのは不可能だという判断から大きく分けて三つの作戦を立てたのだ。

まずその一、各個撃破。

 

ギカントバジリスクは強大な魔物ではあるがアダマンタイト級冒険者であり個々の力も大きい青の薔薇にとってギカントバジリスク一匹ではそこまでの驚異ではない。

もちろん油断できるほどの余裕があるわけではないが人類ではトップクラスの戦士であるガガーランが前衛をし、かつて『国落とし』とまで言われた吸血鬼の魔法詠唱者イビルアイが援護と火力を担当する。

更には青の薔薇のリーダーであるラキュースの指示は的確であり、双子の忍者の所々での敵への妨害は間違いなく戦局を大きく動かすだけの影響があるのだ。

 

ギカントバジリスクの巣は巨大な縦穴でありそこからのそのそと這い出てくる巨大な魔獣は嫌悪感と生物の根源的恐怖を滲ませる。

 

「しかし各個撃破は確実だが穴もある」

「イビルアイにも穴はある」

「ガガーランにも……」

「おい、真面目な話だぞ!あとあるに決まってるだろ!私をなんだと……!」

「やめとけイビルアイ。それで?作戦の穴ってのはなんだ?」

 

憤慨するイビルアイは舌打ちをすると溜め息をつき視線を戻す。

 

「各個撃破するにはどうしても一匹ずつ誘い出さなければならん。一匹なら余裕があるが二匹だとどうしても片方は相当分が悪い」

「そうね。二匹だと一匹はイビルアイに見てもらわなきゃいけなくなるしイビルアイの援護が無くなると決定打を与えにくいわね」

「あぁ。それに一匹二匹ならともかく対象は巣だ。何匹もわらわらと出てきたら私たちだけではどうにもならん」

「そうなるとこの作戦は……」

「残念だが保留だな。次の作戦を考えよう」

 

その二。毒殺。

強力なギカントバジリスクといえど生物には違いない。

となれば強力な毒を用意し巣に毒を流し込めば安全に殺すことが可能なのではないか。

 

「だがこれにも穴がある」

「イビルアイにも」

「穴が」

「静かにしてろ!」

 

ぷんぷんと怒りのマークが大量に仮面に付いていると錯覚するほどの怒気に、さすがのおふざけシスターズも口を閉じる。

 

「まぁまぁ」

「ともかくだ。ギカントバジリスクなんて生態系もよくわからん魔物に効く毒を用意できない」

「ギカントバジリスク自体も毒を持ってるし毒に対する耐性も高そうだものね」

「あぁ。効くかわからん毒なんぞ流し込んでそれが巣に溜まれば今度はこちらから攻めることすら厳しくなる。自分で流した毒にやられては本末転倒だからな」

「ならこれも保留か」

 

その三。爆発物、及び魔法を巣に撃ち込む。

爆発物で巣を破壊しつつ遠距離から安全にダメージを与えるというのは非常に有効な手段であり更に爆発物よりもダメージを与えやすい魔法を使える魔法詠唱者であるイビルアイならばこの作戦が一番いいのではないか。

 

「まぁ悪くはないが下手につついて暴れられるのが一番厄介ではあるぞ」

「でも安全なことに代えられないわ。命を賭ける覚悟と命を粗末にするのは違うことだもの」

「となるとこの作戦しかないな。駄目なら駄目でやり方を変えよう」

「結局どうすんだ?あれもダメ、これもダメじゃなんにもできねーぞ」

「そんなことはわかっている」

 

そう。まともにやりあうことが一番の解決策にならないのならばどうすべきか。

戦って倒すのが一番早いのだがそうもいかない。

青の薔薇にとってこれは大きな問題だったのだ。

 

青の薔薇のメンバーが頭を抱えているとガチャりと扉が小さく開くと失礼しますといって入ってくる純白の鎧を纏った少年。

 

「……なんだ、クライムじゃねぇか。今忙しいんだ用件なら後にしな」

「いえ、大至急お伝えした方がよろしいことだと思い失礼させていただきました」

 

クライムはラナーの側近であり青の薔薇とも交流がある。しかも王女であるラナーの側近らしく礼儀正しく真面目、青の薔薇の面々も戦士としての才能はともかくその性格は認めている。

だからこそこの重要な話し合いに割り込んでまで伝えるとなると相応の内容なのだろう。

 

「今ギルドでも大問題となっているギガントバジリスクの巣ですが」

「えぇ、今まさにその話をしていたの」

「簡潔に内容だけお伝えさせていただきます。三人組の銅の冒険者が『命の保障は不要。その代わり達成した暁には実力を認めて昇級を考えてほしい』と言い残しギガントバジリスクの巣へ向かったそうです」

「はぁ!?」




言い訳っぽくなりますが書いている日時にばらつきがあるので文章がおかしな所があったらすみません。

青の薔薇結構好きなので活躍させたいですねー。
また次回よろしいお願いします。


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