新・世界樹じゃない迷宮 (激遅新世界樹1ストーリークリア兄貴)
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異世界樹の冒険者
君は冒険者である


最近新世界樹1のストーリーをクリアしたので初投稿です。


君はまどろみの中にいる。体を動かそうとするが感覚はなく、無意味に終わってしまうだろう。起きようとするが意識が覚醒する兆しはない。ふと、君に語りかけてくる声が聞こえる。

 

「君は目を覚ましてもいいし、覚まさなくてもいい。覚ませば新たな冒険が、覚まさなければ日常が君を待つだろう。言うまでもないが、新たな冒険には新たな仲間、新たな武具、新たなアイテム、新たな出会い、新たな敵、新たな街、新たなライバル、新たな戦い、そして新たな迷宮(ダンジョン)が君を待っているだろう。だが、日常には君と過ごしてきた友、君と戦った武具、君が愛する街、君が求める世界樹(ダンジョン)がある。

もう一度言うが、君は目を覚ましてもいいし、覚まさなくてもいい。

 

そうかい、やっぱり君にこの質問は野暮だったか。では、目醒めの刻だ。世界樹の加護が君を見守り続けることだろう」

 

 

 

 

 

目が覚める。君は見知らぬ場所に仰向けに倒れている。体を起こし周りを見渡すと石でできた建造物が、廃墟という形を作っている。記憶に残っている武器もなければ、防具もない、あるのはいつもつけていた冒険用の衣服のみである。素手で戦えないこともない君だが今はやけに気だるさを感じるだろう。まるで自分の中身がごっそりと無くなってしまったかのような感覚、原因不明のだるさを気にしないようにしつつ、あの場所にいるときのように思考をする。考えつつも注意を怠らず、思考を冷徹にする。とにかく拠点となる場所が必要だろう、そう結論付けた君はその場から移動を始める。約2、3分ほど歩くと代わり映えのない廃墟群の中に一つだけ整った教会を見つける。整ったと言っても他のものよりもいくらかマシなだけで廃墟であることに変わりはない。鈍い感覚のまま君は教会のドアに手をかける。開け放たれたドア、キィと開く音が教会内に響くが何者かの気配は感じられない。人がいないなら、ちょうどいいか、そう思うと君は近くにある参列者のための長椅子に体を横たわらせると、泥に沈むかのように、鉛の重りで瞼が引っ張られるように目を閉じ、意識を深い底へと、沈ませていった。

 

 

 

 

ふと君は目をさます。なぜなら物音で無意識に体が起きてしまったのだ。臨戦態勢をとりつつ、音がなった入り口を確認する。そこには、

 

「えっ、えっと…ど、どちら様でしょうか?」

 

混じり気のない白髪、人を警戒させることのない童顔、そして、血のように赤い瞳を持つ、頼りなさそうな少年が日が落ちる夕暮れの光を背に、君を見ているだろう。

 

 

 

君は油断することなく白髪の少年を観察するだろう。

確認できる得物はナイフ一本、太ももあたりに何かのホルスター、あとは防具だろう。こちらは素手だが戦えないこともない、などと考えていると白髪の少年は言葉を続ける。

 

「な、何かご用でしょうか?

ここはヘスティアファミリアのホームですけど」

 

どうやら君は知らぬうちに他所様の住居に忍び込んで睡眠をとっていたようだ。それに気づくと君は構えを解いて白髪の少年に謝罪するだろう。

 

「い、いえいえ。ここボロいですし、有名なファミリアでもないので知らなくても仕方ないですよ」

 

君はここを勝手に借りてしまった。何か返すべきだろうと、白髪の少年に何かして欲しいことはないか、勝手だが恩返しをしたい。という旨を伝えるだろう。白髪の少年は大丈夫ですよと言うが、君としては一宿の恩はどうしても返したい。白髪の少年が渋るせいでなかなか話が進まず、問答を繰り返していると白髪の少年とは違う声がかかった。

 

「ベルくん、こんなところでなにしてるんだい?それととなりの君は誰なのかな、もしかして入団希望者なのかい!?」

 

君が振り向くとそこには身長は小さく、白い肌に白の服、そしてあの街の酒場の女将よりも巨大な胸とその周りについている謎の紐、一体何者なのか思考を回すと、白髪の少年がその答えを口に出す。

 

「あ、神さま、お帰りなさい」

「うん、ただいまベルくん!

それで2人でなにを話してたんだい?というより上で話さずに下で話そうじゃないか、せっかくのお客さんなんだ、もてなしてあげないと」

 

かみさま、かみさま、かみさま、いくら頭をひねっても、君からかみさまという言葉に心当たりはない。あってもかつて君が出会った少女が言っていた不確定かつ不特定なものでしかない。君はかみさまと呼ばれた人物に手を引かれて教会の奥へと連れて行かれていった。

 

 

君は少し急な階段を下ると小部屋と呼ばれる部類の広さの一室に招かれる。どうやら彼らの居住スペースの様だ。薄暗い中見えるのはソファや机、ベッドといったもの。それが狭い部屋の中にしっかりと収まっている。

 

「さあ、話そうじゃあないか!

ところで君は誰なんだい?ベル君と楽しそうに話していたからベル君の知り合いだと思っていたんだけど、どうやら違うみたいだね」

 

ソファに座るやいなや君のことを教えてくれと言ってくる、かみさま。ベルと呼ばれた白髪の少年は少し戸惑っている様だが。

君は自分のことを話す。自分の名前、職業、自分の獲物や出来ること出来ないことを話していく。そして最後に、世界樹の迷宮を踏破したことを告げる。

 

「待ってくれ、世界樹の迷宮って何だい?君の口はからはボクやベルくんの知らない事ばかりが出てきていて戸惑っているんだ。1つずつ教えてくれると助かるんだけど」

 

かみさまは少し険しい顔をし、ベルは話の途中で頭がオーバーヒートしたのか、ただのカカシの様に突っ立っているだけになっている。かみさまにはどうやら警戒されている様だ。ここは慎重に語っていく必要があるだろう。

君はそう判断するとかみさまに1つ1つの解説をしていく。

 

「つまり君は、何十層にも至る迷宮を踏破し、数々の修羅場をくぐり抜けてきた猛者だと、そして今は無一文で何も持っておらず、たまたま見つけたこの教会で仮眠を取っていたと、そしたらたまたまベル君と僕に会ったと、そういう事だね」

 

だいたいその通りだ、と言うとかみさまは頭を抱え始める。何かをぶつぶつと言っているのはわかるのだが言葉を上手く聞き取れない。そうしているうちにベルはようやく復帰できたのだろう、ようやく気がついた様だ。

 

「神さま、えっとその人は、自分がこの教会(ホーム)で勝手に休んだ分何か恩返しをしたいみたいなんですけど…」

 

かみさまは、ベルの一言で一瞬呟きを止める。そして、ガバッと顔をベルの方へと向ける。立ち上がりながらベルの腰を掴み揺さぶると、それは本当なのかいベル君!?と少し大きな声で言う。揺さぶられながらもはいと答えるベルに、かみさまは決心したのか表情をキリッとさせ、君に、

 

「僕たちのファミリアに入ってくれないかい?」

 

と言った。



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君はダンジョンへ向かう

拙者エキスパートでhageまくり侍。片腕のあんちくしょうすら倒せない(二敗
引き継ぎでストーリーキャラは第五層まで縛るということで、新規キャラで戦ってるのですがブシドーちゃんがパラディンのヘイトすり抜けてワンパンされる悲しみ


朝焼けの橙色が世界を染め上げる頃。

君は自分の得物がないため、素手で体を動かしていく。何千何万回と放った己が技を丁寧になぞり、君にしか見えない槍で君にしか見えない過去の敵を貫いていく。体はキミの動きについて行っているように見えるが、キミは1つの違和感を感じるだろう。

 

遅い

 

ただただ今までと比べるとはるかに遅いのだ。それはまるで初めて迷宮に潜った時と同等に体の動きが遅い。思考と体の動作が追いつかない。頭の中でコレをしたらコウと決めたら動けていたのだが、今はそれが何秒も遅れて動きが完了している。

そんな感覚を君は確かに感じた。これに慣れるには時間がかかりそうだと君は少しため息をついてから、拠点(ホーム)となった廃墟と言っても過言ではない教会へと足を踏み入れていく。大体AM08ぐらいだろうか、起きてから一時間ほど体を動かした君は、まだ起きていない2人の住人へ、モーニングコールをするだろう。

 

秘密の階段を降り、居住スペースへ入るとそこにはかみさまとベルが同じベットの上で寝ている光景を目撃する。朝起きた時には気がつかなかった君は少し驚くが、口出しするのも野暮だろうと朝食の支度をする。と言ってもこの教会に食材はあまりなく、じゃが丸くんを温め直して皿に盛り付けるだけである。外で焚き火を作りじゃが丸くんを温めつつ、まだ起きない二人に声をかけていく。

 

二人はキミの声に目を覚ますとまだ眠そうにしながらも、教会の近くにある井戸から汲み上げた水が入った桶で顔を洗い始める。二人が洗顔やらをすませる頃には全員分の朝食の支度が完了していた。

 

 

 

「それじゃ、二人とも行ってらっしゃい。

怪我なんかしちゃダメだぜ?」

 

朝食を済ませたあと、ベルと君はかみさまに見送られながらオラリオと呼ばれる街の中を進んで行く。目指す先はこの町の中心地にして、圧巻の高さとその存在感を誇る、バベルの塔、と呼ばれる施設である。そこには君にとって冒険者ギルドと呼ばれていたもの、というより名前はそっくりそのままの組織があり、登録をしていないと本当の目的地であるバベルの塔の地下、ダンジョン(・・・・・)と呼ばれる迷宮へ探索しにいけないためだ。

道すがらにベルからダンジョンの基本について教えてもらう、本人はまだまだと謙遜するが詰め込まれた知識は決して無駄ではないと知っている君は、ベルはすごいよと褒めるものの照れてしまいその後の会話は続かなかった。

しかし君は一つの疑問を得てしまった。

 

冒険者(・・・)冒険してはいけない(・・・・・・・・・)だそうです」

 

なぜ、という考えが思考を埋め尽くす。ベルとの会話がなくなった後、ベルとはぐれないようにしながら街中を進みつつ、言葉の意味を理解しようとするが、理解するには至れなかった。

 

冒険者(・・・)とは冒険する者である(・・・・・・・・)

 

それをしてはいけないなどと、さも常識だろうという風に言われると君は困惑してしまう。が、それは表面に出さないようにすると決めた頃、ベルの声によって意識を外へと向ける。

 

「ここがバベルの塔、オラリオで一番大きくてたくさんの人が行き来する場所です!」

 

目の前には空を見上げても視界に入りきらないほどの塔、世界樹よりも高い塔が、君の目の前に存在した。

 

 

 

バベルの塔の内部へ入るとまず見えるものは、広間なのに広いと付けたくなってしまうほどの広間。人や人に獣の耳が生えている人が仕切っているカウンター。鉄柵で閉ざされた穴。そして目的地であるダンジョンへの入り口。元いた世界のギルドはここまで広くなかったはずと、圧巻の景色に足を止めてしまう。

 

ベルが引き連れていかなければもう少しその場で棒立ちしていたであろう。引き連れていかれた先で君は、ギルドアドバイザーであるエイナ、ハーフエルフと呼ばれる種族の女性と登録に関する話を進めて行く。そこでわかるのは、君はこの世界の文字を読むことができない。街中を歩いていた時はベルの話などで気が向かなかったが、文字が書けない読めないことにここで苦労することになるとは思わなかった。

字が書けないことを正直に伝えると、一瞬驚かれてしまいすぐに謝罪される。君の代わりにベルが名前や年齢、使う獲物や得意なこと苦手なことを用紙に書き込んでいく。

 

「はい、承りました。それでは改めましてこれからよろしくお願いします。ハイランダー(・・・・・・)さん、他の冒険者の方々と違ってダンジョンに対して油断しない姿勢はとても喜ばしいものです。

正直なところ、ベル君一人でダンジョンに向かわせるのは少し怖かったんです。ですのでハイランダーさんが一緒に潜ってくれると少し安心できます」

 

ベルは一人で行くことに心配されていたことにショックを受け、その場でへなへなとしゃがみこんでしまう。君はベルが落ち込んでいる隣で淡々と説明を受ける。まだ新人の君たちは三階層までしか探索してはいけないこと、武具の貸し出しがギルドで行われていること、絶対に冒険してはいけないことを伝えられる。

 

ベルが立ち直るまでに、武具の貸し出しサービスであまり品質が高そうでない槍と皮のプロテクターや脚当て、籠手を借り受ける。代金は4500ヴァリス、無期限で利子などが無いことを確認しながら契約をする。キミは自分の名前を先程ベルが書いたものを真似してなんとか書いた。とても読みにくく苦笑いされてしまったが。

 

 

 

 

諸々の手続きを済ませると、二人はついにダンジョンへと足を踏み入れる

 

 

さあ、冒険を始めよう

 

 

君と君の新しい仲間とともに

 

 

この新しい世界で

 

 

冒険者はダンジョン(未知)を求める者である

 

キミの心臓は、まるで初めて世界樹の迷宮へと潜り込んだときのように高鳴っていた

 

 

 

「さあ、冒険を始めよう」




冒険者とボウケンシャーは別物です
そして彼(ハイランダー)は冒険者とボウケンシャーのハイブリットです


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君はこの景色に感動を覚えた

リッキィ可愛い、可愛くない?(なお登場予定無し


前話で誤字報告してくれた方、ありがとうございます


ダンジョン上層

始まりの迷路

B1F 〜希望に満ちた冒険者が踏みしめる大地〜

 

ふと思い出すのは初めて世界樹の迷宮へと足を踏み入れたときのことだ。迷宮内の神秘的な光景に思わず生唾を飲み込んでしまったことを鮮明に覚えている。その時のショックをまた感じることができたのだ。普通とはかけ離れた景色、完全な洞穴の中に壁に植生している謎の苔が光を灯し道筋をほのかに照らしてくれている。

 

君はこの景色に感動してしまった。その場で感動に飲まれ続けるのもいいし、意識を冒険へと戻してもいい。

 

ベルが呼ぶ声がだんだんと大きくなっていくことに気がついたあたりで意識を呼び戻すことができた。1分間ほどその場で固まってしまっていたらしい。どうやらベルも初めて冒険に来た時はこの景色に圧倒されたそうだ。

 

君は感動を胸にしまい込みダンジョンの奥へと歩を進めた。

 

ダンジョンを歩く中、君は長年頼りにして来た自分の勘を頼りに敵の接近を感じ取る。だんだんと近づいてくる気配にベルへ警告をするだろう。

 

魔物が近づいて来ている。ダンジョンであれ迷宮であれ何処であっても近づいてくる敵意はわかってしまうようだ。少し口の端が釣り上がってしまう。この世界で初の戦闘、ワクワクと恐怖が入り混じるこの緊張は何物にも変えがたい。ベルは気がついてないようなので警告を飛ばし、戦闘態勢へと入りながら慎重に歩いていく。

接敵する、そう感じた瞬間、奥の見えない暗がりから人の足が見えた。それがダンジョンの明かりに照らされてゆっくりと正体をあらわにして行く。そこには人の形をした醜悪な顔の魔物が現れていた。かつて遭遇した彼女の同胞たちとは全く違う。同じ人型とは思えないほどの姿に、人型の魔物とこのように接敵することに驚きを隠せなかった。

 

醜悪な魔物たちは君たちへの敵意を隠さない。下衆な笑みを浮かべ君たちに襲いかかってくるだろう!

さあ、得物を手に戦うのだ!!

 

 

 

 

 

僕は驚きを隠すことができなかった。かつて自分が初めてダンジョンへ冒険に挑んだとき、ゴブリン一体を倒すことにも苦労したのだ。それどころか一匹倒すことができただけで大喜びで神様の元へと帰って来てしまったのだ。あの時の恥ずかしさといったら今でも顔が熱くなってしまう。

しかし、ハイランダーさんは違った。槍という閉所にはあまり向いてない武器を巧みに扱い、三匹同時に飛びかかって来たゴブリンをたった一閃で全滅させたのだ。そう、一閃(・・)だ。槍は突いて敵を倒す武器だ。その意識が強かったからだろう。てっきり一体一体相手にして倒していくのかと思っていたのだから。たった一閃で鮮血をまき散らしたゴブリンたちを目の前にして僕は圧倒的な強さを見せつけられた。それはあの時の記憶を蘇らせるもので気分のいいものでは決してなかった。強くなりたい僕には障害物がたくさんあるみたいで、それを超えられるのか、それだけがただただ悩みの種となって心の中にまとわりつき始めてしまった。

のちに聞くとシングルスラストという技で自分の体力を大きく使って一度にたくさんの敵を倒すための技だそうだった。それを聞かずしてもハイランダーさんは僕と違って強い人だった。

 

そう、強い人なんだ…

 

 

 

あまりに弱すぎる。初めて迷宮に潜った時、先輩たちをすり抜けて攻撃して来たあのクソモグラとクソネズミどもは一撃で、余裕がなくなってしまうほどに攻撃力が高く、そして一撃で倒すことができないほどタフではあった。なのに、ベルから聞いたこのゴブリンというやつらは全くもって強さを感じることができなかった。レベル1(あのとき)よりは確かに経験という形では強くなったが、能力(ステータス)としてはむしろ、あの時より弱いだろう。序盤の層といえど少しがっかりだった。

 

君は不満げな顔を隠さずに倒したゴブリンを解体しようと心臓のありそうな場所に目星をつけて解体用のナイフを入れ込む。するとピシッ、という硬い何かにヒビが入るような音とともにゴブリンが灰へと変わり霧散していった。異常事態に君はベルに問い詰めるがなんと、この世界の魔物は核としている魔石というものがあり、それを砕かれると灰になって消えてしまうのだそうだ。そして、ランダムで部位のドロップ品を落としたりするらしい。つまり、属性攻撃や状態異常によって倒したりすることで剥ぎ取れるレア素材のようなものはなく、どうあがいても確率によって全て決まるようなのだ。

君はその事を聞くと大きく落胆してしまう。

冒険者にとってドロップ品は友であり敵であるのだ。その結果に一喜一憂するのが冒険者の常であるだろうに。そう、ボソボソと呟く君を尻目にベルはゴブリンから魔石を取り出していた。核を失ったゴブリンは灰となり霧散していった。

 

君は初めての戦闘に勝利することができた!

しかし、失うものの方が多かったようだ。

 



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君は地図を描きながら探索する

地図マスタリー☆持ちアニキはすごい(RTA見ながら


気をとりなして冒険を再開した君たちだが、君の手にはいつのまにか紙とペンがあり、嬉々としてそれに何かを書いている。ベルはそれを後ろから覗き込むとそれはこのダンジョンの今まで歩いて来た道筋、それを丁寧に描いたもの、つまりは地図である。

 

「ハイランダーさん、どうして地図を描いているんですか?」

 

その言葉を聞いた瞬間、自分は我を忘れてベルを非難するような目で見てしまった。明らかな常識の違いが自分の世界とこの世界にはある事を思い出して、ベルに謝ってから説明をする。

 

「いいか、ベル。地図はな、命と同等に大事なんだ。自分たちの足跡を書き記し、それを頼りに迷宮を探索していく。これがあれば迷う事なく探索ができるし、何より描いている時のワクワクがたまらないんだ!わかるだろ?未知を解き明かしていくこの感覚、知らない事を知っていくこの探究心を満たしてくれる感覚を!」

「でも、ダンジョンの地図は上層と中層までなら先駆者の人たちが描いた地図がすでにギルドで売られていますよ?ほら、僕も持っていますし」

 

その瞬間君は初めて鹿と戦った時と同じくらいのショックに気絶(スタン)してしまった。

 

 

 

君はすぐに意識を取り戻したがショックがあまりにも強く未だ頭を抑えている。

君はあの迷宮を自分たちの手と足で踏破して来た。そこは未踏の大地であり君たち以外が踏み入れた形跡があるものはほとんどなかったのだ。つまり、君たちが先駆者であり地図を描きあげる立場だったに過ぎないのだ。ここでは自分たちは後輩、つまりここは誰もが足を踏み入れたことのある場所で決して未踏の地などではないのだ。立場が逆転しているのである。そのことに気がついた君は今までのカルチャーショックが原因のSANチェック1d6/1d10。

 

余談だが君たちが描いた地図は執政院で取り扱われ後輩の冒険者たちに無料で配布されていたそうだ。その事実を君は知らないが、世の中には知らないことが良いことも多いのである。

 

しかし君は意地でも地図を描くだろう。これは職業病であり誰にも邪魔させたくないのだから。

 

ベルはハイランダーの変な意地を見つけると苦笑いすることしかできなかった。

 

その後ベルとともにダンジョンを駆け抜けた君はコボルトやゴブリンたちを幾度となく屠り、魔石やドロップ品の牙や爪、耳などを手に入れることができた。そして、B1Fの隅々までを探索し記録する。ここのフロアには宝箱も一切採取する場所がないことに気がついて、君は書き込むことが少ないことに少々悩んでいる。そんな君たちの目の前には下り階段がある。つまりB2Fへの入り口だ。時間は隅々まで探索したことと戦闘したこと、入った時間もあってPM03くらいだろう。AM09あたりでダンジョンに入ったので六時間ほど探索したことになる。全く疲れを感じない君だが、ベルは違うようだった。

 

ベル、どうした?もう疲れたのか?と尋ねるとベルは、今までこんなに隅々まで探索したことがなく、戦って強くなることが目的なところもあったために、普段と違う体力の消耗の仕方をしたせいで少し疲れたと言っていた。隅々まで細かく探索することがあまりないのはいけない。これからそういった事をして観察力と体力、集中力を身につけないとな。そうベルに伝えると、ベルは意外と勢いよく返事をしたので少し驚いてしまった。どうやらベルの冒険者魂に火をつけてしまったのかもしれない。それはそうと、次の階層に行くか迷ってしまう。一度踏み入れてからアリアドネの糸を使って帰るのがよくあることなのだがこの世界にはアリアドネの糸は無く、帰るにも徒歩しか手段がないため時間がかかる。ダンジョンは広い。効率よく行かなければ一瞬で時間が消えてしまうと考えるとベルの探索の仕方も間違ってないと言えるのかもしれない。かみさまに心配をかけるのはまずいだろう。前なら1日2日平気で迷宮に潜り続けていたがここではそうはいかないだろう。帰る時間も考慮して二層は明日にするとベルに伝える。明日はもっとスピードアップしないとな、そう呟くとベルの顔が少し引きつっていた。

 

 

かくして、君たちは帰りながらもゴブリンたちを屠り、魔石を回収しながら無事にホームへと帰還することができた。

おめでとう、君は初めてのダンジョン探索から生還することができた!

 

 

 

ダンジョン探索結果

 

報酬

約3500ヴァリス〈ベルと配分したため〉

 

ステータス

name<ハイランダー>

レベル1

《魔法》

[なし]

《スキル》

[世界樹の加護]

世界の法則にとらわれない

自身の法則を書き換える

ステータス更新時にのみレベルアップとスキルアップができる

専用のスキルツリーの追加

 

SKILL

SKILL POINT0

槍マスタリー2

ロングスラスト1

シングルスラスト1

レギオンスラスト1

HPブースト1

 

グリモア

-NONE-



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君は拠点へ帰還する

世界樹の迷宮X(クロス)やりたい(激遅買いそびれ兄貴

感想でレベルアップの話について触れられたのでそれに関する描写があります。


君たちはダンジョンから抜け出すと、バベルの塔の中にある公共施設のシャワーを使って体についた血や匂いを落とす。君もベルも近接職だ。故に返り血を浴びてしまうのは仕方がないのである。君はあまり気にしないがどうやら君たちのアドバイザーが気にするようなので、君は素直に従うことにした。

 

君たちはシャワーを浴び終えると装備の汚れを取ってから着直して、ギルドの換金所へと向かう。道中に様々な人種の冒険者たちと様々な装備を見つける。君は一目でこの武器、この防具は逸品だと見抜いていく。だが、今の自分には実力と装備の質が合わないと諦めざるをえなかった。お金が入り自分のレベルが上がればいずれは、と想像しながら道を歩いていく。

 

時は夕暮れ、大体PM06といったところか。赤焼けた太陽の光を浴びながらダンジョンへ行き来する人々の中に、ホクホク顔の君とベルは帰路へとついていた。換金所では素材を売ってヴァリスのやりとりだけが行われる寂しい場所だった。かつての商店のような気楽さや明るさとはかけ離れていたことに、君はどんどん自分の常識が砕かれていくのを感じた。あそこでは売った素材が新たな商品になる瞬間を見せてくれる快活な店主が、いつもニコニコしながら君たちと話していた。それがここにはない。それどころか、素材は別途売るものとは別で集めて、鍛治士に報酬金とともに用意しなければ装備を作ってもらうことは無いという話だ。それ以外だと店売りの商品から選ぶか、専属契約を結ぶなどがあるらしい。素材を売れば新しい装備が販売されていたあちらとの違いに不便さを感じる君だった。

 

*おおっと*

話が逸れてしまった。

 

だがしかし、ベル曰く一層、しかもお金を等分しなきゃいけない二人(パーティー)でこれだけ稼げるなら充分だそうだ。一人で探索してた時はこれよりも少ない量だったらしい。最近はさらに下の層に赴くことで稼ぐことができるようになったが安定はしないようだ。二人でこれだけ稼げるならもっと下の層に行けばもっと稼ぐことができるだろう。ベルの顔は少しニヤけていた。君もこのペースならすぐに借金も返せると喜びをあらわにする。

 

こうして君たちは拠点(ホーム)に帰還するとかみさまから、

 

!!ああっと!!

 

いきなり奇襲を受け、君たち2人はかみさまから抱きしめられてしまった。どうやら無事に帰ってきてくれたことがとても嬉しいようだ。今夜は寝かさないぜ、と言ってバイト先からもらったジャガ丸くんでパーティーを開く。パーティーを楽しんでいるとベルはいつのまにか寝てしまっていた。普段とは別の疲労にまいってしまったようだ。その隙に君と神様はベッドへ向かい、君は上の服を脱いでベッドにうつ伏せに寝転び、かみさまは君の背中の上にまたがると針で自分の指を刺し、自分の血の一滴を君の背中に垂らす。これはステータス更新を行うための行為であった。

 

STATUS

name<ハイランダー>

レベル1

《魔法》

[なし]

《スキル》

[世界樹の加護]

世界の法則にとらわれない

自身の法則を書き換える

ステータス更新時にのみレベルアップとスキルアップができる

専用のスキルツリーの追加

 

 

SKILL

SKILL POINT0

槍マスタリー2

ロングスラスト1

シングルスラスト1

レギオンスラスト1

HPブースト1

 

グリモア

-NONE-

 

君の背中には、神聖文字(ヒエログリフ)で他の冒険者たちとは全く違う内容のステータスが記されている。これは君とかみさましか知らない2人の秘密だ。ベルはうっかり話してしまいそうだから、という理由で話さないでいる。これが世界の法則にとらわれない、そして自身の法則を書き換えるというスキルの説明文の効果だ。君はこの世界において、魂の昇華(レベルアップ)をすることがない。が、君はレベルアップをすることができ、スキルをいくつも身につけ、グリモアで追加、取り替えが可能という、他の神からすれば喉から手が出るほど珍しい珍獣(レアもの)らしい。今はまだグリモアの生成チャンスに恵まれていないがいずれはグリモアを生成して、君はもっと強くなることができる。合成も、君のギルドのハウスキーパーたちがしていたことを見様見真似でどうにかやってみればなんとかなるだろう、と思っている。

 

君はレベルが上がっていないことを確認すると、背中の文字が歪み、元に戻る。君はどうして敵を倒してもレベルアップしないのかを考えるだろう。そこで一つの答えを思いつく。ゴブリンたちを倒したときに、過去に感じた体の中に何かが入って来る感覚、それが集まると一つの塊となって一つまた強くなる。その体に入ってくる何かを感じなかったのである。つまり君はゴブリンやコボルトを倒してもレベルアップすることができないのだ。君はかみさまが写してくれた用紙を受け取って確認するだろう。

 

STATUS

name<ハイランダー>

レベル1

《魔法》

[なし]

《スキル》

[世界樹の加護]

世界の法則にとらわれない

自身の法則を書き換える

ステータス更新時にのみレベルアップとスキルアップができる

専用のスキルツリーの追加

 

 

SKILL

SKILL POINT0

槍マスタリー2

ロングスラスト1

シングルスラスト1

レギオンスラスト1

HPブースト1

グリモア

-NONE

 

 

かみさまは君の背中に不安そうな視線を向ける。事情はすでに昨日の夜ベルが寝た後に2人で話し合っていた。レベルのこと、スキルのこと、君のもっと詳しいこと。もしこの世界樹の加護(スキル)のことが、いや君の本当の事情が他の神にバレたらどうしよう、僕は君を守ってあげられるだろうか。しかしかみさまはそんな不安が入り混じった表情を笑顔で押し殺した。ベルくんだって守るって決めたんだ、今更1人増えたところで変わらないさ!と空元気を振りまいて、君の背中を叩いてから君からかみさまは降りた。

 

君はかみさまの雰囲気を感じ取ると、かみさまの頭を撫でる。相棒だった彼女にも時々こうしていたことを思い出しながら、君はかみさまへ自分なら大丈夫、いざとなったら1人でもなんとかやっていける、あなたとベルには迷惑はかけない、という旨の内容を伝えた。

かみさまは突然君に頭を撫でられてヒャイ!?と悲鳴をあげた。

 

「ななな、なんだいいきなり!?言っとくが僕のハートはベル君のもので一途な想いは撫でられただけなんかじゃ決して揺らがないぞ!」

 

しかし、君の語る内容に次第にテンションは下がっていき終いには俯いてしまう。

 

「ごめん、ごめんね。僕が弱くなければ、僕がロキのとこみたいに強ければ君を守るって言い切れるんだ…けど僕には君を守りきるための力もベル君を守りきる力も無いのかもしれない。家族(ファミリア)なのに守れないなんて守ることもできないなんて、笑えないよ…まったく…」

 

震え声が混じるかみさまの声をしっかり聞き届けると君は、

 

「俺とベルがあなたを守る。

俺とあなたでベルを守る。

あなたとベルは俺を守る。

そうすればみんなを守ることができる。

1人でみんなを守りきるのは無理なんだ。盾を持った人1人では何もできない。回復することができる人がいても、その人1人だけじゃ意味がない。術式を使って敵を倒すことができても1人だといずれ力尽きる。1人で戦い続けても隙を突かれたら倒されてしまう。たとえ銃を使って戦っていてもいつかは弾が尽き蹂躙されるだけだ。

だから、盾がみんなを守り、盾を回復して守る、盾に近づく敵を倒して守る、盾に補助をかけて守る。その逆もパーティ全員にあるんだ。

だから、俺たちもそうやって守りあえばいい。そうすれば家族(ファミリア)を守れるんじゃないか?」

 

君の言葉にかみさまはだんだんと笑顔を取り戻していった。かみさまも自信ができたようで喜んでいる。

 

「そうだ、そうすればいいんだ!すごいよハイランダーくん!君は天才だ!君を僕とベルくんで守って僕と君でベルくんを守ればいいんだ!それをどうして早く気がつけなかったんだろう!こうすれば僕たちは無敵だぜぃ!!」

 

ひゃっほーい!と喜声をあげてかみさまは拠点から飛び出していった。ベルはかみさまの騒がしさに起きることなく眠り続けている。君は苦笑いをしながら床につくとベルと同じように眠りにつくのだった。




経験値が入らない理由は世界樹を発売しているアトラスさんの別シリーズ、ペルソナシリーズやメガテンシリーズを参考にしました。

ペルソナ、メガテン共に自分より弱い敵からの経験値は少ないです。そして自分より強い敵(ボスなど)を倒したときの経験値は多いです。つまり、自分が強くなると弱い敵から経験値があまりもらえないということです。ですのでゴブリンたちを倒してもレベルが上がらないのです。全く経験値が入らないわけではないですがレベルアップに満たないほど少ないということです。



この先新世界樹1のネタバレあり。(wikiでも見れば簡単にわかることですが一応但し書きしておきます)
問題ない方はこのままお進みください。問題アリな方はブラウザバックをオススメします。




この設定に至った理由ですが、メガテンシリーズはよく東京が舞台になります。ペルソナシリーズも3は都心に近いでしょうし5に関してはモロ東京です。そしてまた、ネタバレになりますが新世界樹1の第五層は新宿、つまり東京が舞台です。つまり、新世界樹1の舞台は実質東京(の真上)で、ペルソナシリーズやメガテンシリーズに何らかの関係性、もしくはそういった成長の法則が世界を超えた際にハイランダー君の中に取り込まれてしまった、というこじつけ満載の理由です。かなりガバガバな理由なので深く考えない程度にしてお楽しみいただけると幸いです


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君たちはダンジョンに留まってもいいし、留まらなくてもいい

ロマン砲大好き人間


次の朝、君が早起きして槍を手に鍛錬に拠点(ホーム)から出る。君は過去に何度も何度も放った技、技術を反復していく。仮想敵の頭蓋を思い描き何度も突き穿つ、身体に力を込める、を何度も繰り返していく。君は疲れが浮き出てきた頃に拠点に帰ることにするだろう。

 

拠点では、すでに起きていたベルとかみさまが朝ご飯の支度を済ませていた。食事中、かみさまが、今度知り合い達の会合があってそこに出席するので何日か留守にする、という話をした。君はそこでダンジョンに何日も探索を続けたい、ということをベルに伝えた。ベルは少し悩んでから、やりますと一言。かみさまは君たちを心配するが、君は大丈夫、と強く言いきった。昨日の件でかみさまは君を信頼するようになった。だからその言葉を信じて拠点を空けることを決意した。

 

君たちはまたバベルの塔、ダンジョン入り口前にまできている。しかし二人の背中には大きめのバックパックが背負われていた。中身は寝袋や何日か分の食料といった、ダンジョン内で食事と睡眠をとるための用意である。そして、戦い続けること前提なので魔石やドロップ品を入れるためのバッグにもなっているのだ。君のバッグには他にも地図を書くための道具や、モンスターやアイテムを記すためのノートも入っている。前の世界では君ではなく、絵が得意な錬金術師がめんどくさそうに描いていたが、彼の腕はなかなかのものだった。それを褒めると彼はまんざらでもなさそうにしていた。君は彼のように描けるかが心配なのだ。しかし、やると決めたからにはやるのだ。そう決意を改めると、君とベルはダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

 

では、彼らの足跡をダイジェストでお送りしよう。

 

1日目

B1Fを地図を頼りに最速で抜けるとB2F 〜挫折と進歩の別れる場所〜(命名ハイランダー)に足を踏み入れた。

モンスターの種類は1Fと変わらず、採取ポイントも宝箱もなく、ただ地形が1Fと違うだけに終わる。

B3F〜進歩を得た者たちの壁〜に足を踏み入れる。

新種のモンスターフロッグシューターと遭遇。カエル型のモンスターで中距離攻撃をしてくる。が舌を避けてから掴みそのまま近距離戦に持ち込むとあっさりと頭蓋を槍で穿たれ死亡。

ベルからの一言、そんな戦い方は初めて見ました…

君の一言、久しぶりにカエルを見た、氷属性で倒せないのが悔やまれる。

3Fはダンジョンリザードとフロッグシューター以外に2Fの探索と変わることは特になく探索終了。

ここでハイランダーの体内時計がPM09であることを知らせたのでキャンプを作り、交代交代に見張り番をすることで朝を待つ。

 

本日の接敵回数37回

撃破数103体

夜間襲撃回数14回

撃破数38体

累計撃破数141体

 

2日目

元気のあるハイランダーとは別にベルは寝不足か疲れが抜けきらないのか疲労があるようだ。

朝食後B4F〜変わり映えしない洞穴の中〜に到達。

しかし、3Fと代わり映えしないためマップを描き上げ次第B5Fに向かう。

B5F〜命を付け狙う怪しい影〜に到達。

B5Fからはコボルトやゴブリンが現れなくなった。その代わりに新種のモンスター、ウォーシャドウが確認された。影としか形容できないモンスターで、一応腕の部分がありそれが刃となって君たちを襲った。ベルは少し苦戦しながら、ハイランダーは久々の歯ごたえのある敵に笑みを浮かべていた。撃破成功。

フロッグシューターとウォーシャドウのコンビに出くわすこともしばしばあり、ベルが時々ダメージを受けることもあったが凌ぎきることができた。

ハイランダー初のポーション使用(ミアハファミリア製)感想:メディカより美味しかった。

 

B6F〜驚愕の事実を知った前階〜に到達

新種なし

モンスターの同時出現が増える。

流石に出現間隔と数が多いと対処しきれないだろうと地図を書き終え次第撤退。

 

ベルからの情報より次の階層には物理攻撃に耐性があり、かつ仲間をおびき寄せる習性を持つキラーアントが出没するため今の状況を鑑みて突入を断念。

ベルが戦いに慣れるため、5Fに留まりウォーシャドウと戦い続けることに決定。

就寝

 

本日の接敵回数25回

撃破数63体

夜間襲撃回数19回

撃破数49体

累計撃破数253体

 

 

3日目

ひたすらに戦い続けた。

途中ハイランダーの槍が壊れる。

しかし、ハイランダーはウォーシャドウ以外を素手で撲殺。

ベルは傷つきながらもナイフを懸命に振り続けた。そして、被弾率をだんだんと減らしていった。

ハイランダーの槍が壊れた段階で撤退開始。

帰りはガッツと気合、素手のハイランダーを戦わせまいとベル奮闘。

 

ベル、ハイランダー

3日間のダンジョントライを生還

 

累計撃破数384体

約80000ヴァリス(魔石+素材込み込み)

一人当たり40000ヴァリスの成果

 

疲れとバックパックの重さにヘロヘロになりながらも、バベルになんとか帰ってきた君たちは、笑顔で出迎えてくれるハーフエルフの少女を見つけた。

そして、君たち二人はギルドアドバイザーのエイナに涙目で説教されるのだった。

 

「まだ冒険者になりたてなんだから無茶しないでください!というか冒険者は冒険しちゃダメってあれほど言ったでしょ!?それなのに三日間もダンジョンの中で過ごすってバカなんですか!?しかも一気に6階層まで進んだそうじゃないですか!ハイランダーさんは私の説明にしっかり頷いていましたよね!なんであなたが発案者なんですか!?常識的な人だと思っていた私の気持ちを返してください!!」

 

そんなこんなでエイナにプンスコ怒られる君たち。冒険者用応接室の中から飛び出してくる声はギルド内の視線を大きく集めたのだった。

 

 

結論

「二度とこんな無茶しないでください!」

 

 

 

 

エイナにしこたま怒られた君たちは、手に入れたお金の使い道を考える。君は手に入ったヴァリスを使って借金の返済と新しい槍を買う予定だ。が、明日はとにかく休みたいと思っている。ベルはとにかく美味しいものが食べたいと思っていた。何を買おうというより味気の無いダンジョン飯、帰って来てから鼻腔をくすぐる美味しい匂いにお腹が鳴り続けて仕方がないのだ。

ベルは君にオススメの店があると君に提案する。君はこの提案に乗ってもいいし、乗らなくてもいい。

 

君は今、ベルの案内で豊穣の女主人という店に来ている。中に入ると冒険者たちの自慢話や笑い声が騒がしい。美味しそうな匂いの中に酒の匂いが混じっている。君は直感的にここが酒場であることを理解した。すると君はふと思い出すだろう。君の仲間には酒癖の悪い騎士がいた。彼女のように酒に弱いわけでは無いが強いわけでも無い君だが今日だけは無性に酒を飲みたい気分になった。

 

「いらっしゃいませ!あっ、ベルさんまた来てくれたんですね、しかも新しいお客さんも連れて来てくれるなんて、嬉しいです!

ささ、今日もたくさん食べていってくださいね!」

 

君たちは元気なウェイトレスに誘われカウンター席に腰を下ろす。ベルは君にここの料理は量も味も凄いんです!と笑顔で言う。

しかし君はメニューは見ずに店主を呼んだ。それはそうだろう、君は文字が読めないのだからメニューを渡されてもどうしようもない。

カウンター越しに店主は君の目の前に現れるだろう。店の名前通り店主は女性のようだ。雰囲気はまさにオカンというやつを彷彿とさせる。

 

「何の用だい?注文ならウェイトレスどもに言って欲しいんだけど?」

「俺が食えるだけの料理と酒を頼む、絶対に残さないし料金も払う。全部あんたの裁量に任せたい」

 

瞬間、君の目の前にいた店主の雰囲気がガラリと変わった。君の言葉に怒ったのだろうか?店主は額に手を置いて表情が見えなくなる。隣にいるベルは、ウェイトレスの名前を呼んで注文をしている。どうやら、君たちを案内してくれた銀髪の少女はシル、と言う名前だそうだ。しかし、シルは店主の雰囲気に怯えているのか少し震えている。

すると、表情の見えなかった店主からクックックと、笑い声が聞こえたかと思うと大声で笑い始めた。君はしたり顔で店主に、お願いするよ、と言った。店主は

 

「あっはっはっは!いいねぇ私に任せるとはなかなかに面白い客が来たもんだ!いいよ、あんたを満足させたげようじゃない!

シル、何ぼさっとしてんだい、さっさと注文取りな!」

「は、はい!」

 

快活に笑うと、固まっていたシルに喝を飛ばしてと厨房へと入って行った。

 

 

料理と酒(ベルはジュース)が出されると君とベルは乾杯をして料理に手を出した。

 

君とベルは満足するまで料理に舌鼓をうった!

 

君とベルは拠点に帰ると、かみさまはまだ帰って来てないことを確認する。そして君たちはすぐに眠りにつくのだった。




三日間ダンジョンにこもりっぱなしで二人分のバックパック限界まで素材と魔石を詰め込めば多分このくらいだよね…(遠い目



一方その頃
とある神のホームにて

?「だまれドチビィ!」
?「うるさい無い乳!」
?「うふふ、あの子の魂、とても綺麗だわ…奪ってしまおうかしら」

醜いキャットファイト(神の戦い)が行われてたとか行われてないとか。


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閑話 君は戦いに笑みをこぼした

ダイジェストでカットした戦闘シーンです。

需要は…


君はベルと共にB5F〜命を付け狙う怪しい影〜(命名ハイランダー)に到達する。

 

これまで通り変わらないままの景色。しかし君にとって5の倍数の層は節目のようなものだ。ここを抜ければ次の階層へと進むことができるという思いが君の中で燃え始める。君はベルにその話をしてもいいし、しなくてもいい。

 

「ハイランダーさんのところではそうだったんですね。ここのダンジョンでは上層と呼ばれる場所が今僕たちのいる場所なんですけど、上層は12階までありまして、まだ上層の半分にも至ってないんですよ。それにここと次の層には新しいモンスターも出てくるので気を引き締めないと死んじゃう冒険者もいるんです、ってエイナさんが教えてくれました!」

 

君はベルの話を聞いて出鼻をくじかれてしまった。

精神力(TP)が10減少した。

 

しかし、新しいモンスターが出るという情報は有り難かった。君はベルに新しいモンスターについて尋ねた。ベル曰くそのモンスターは影をモンスターにしたというあやふやなものだった。その影は幽霊のように脚がなく、腕と胴体、頭の部位で構成されており、腕を刃物のように扱い攻撃してくるそうだ。君はその情報を記憶すると現れたフロッグシューターが舌を伸ばして攻撃して来たので、舌を掴み取り鮮やかな手つきで口の中に槍を突っ込み、穿ち貫いた。

 

 

5Fを練り歩きながら地図を埋めていると、まだ感じたことのない気配を感じた。ベルの言っていた新種のモンスターの可能性が高いだろう。ベルもだんだんと勘が冴えわたってきたのか、警告せずとも接近を感知して戦闘姿勢に構えていた。感じる、具体的にいうとオレンジから鮮やかな赤色に警鐘が塗り替えられていく。

 

接敵する!

 

そう感じたときに目の前にあるおぼろげな明かりは、通路の先の闇を照らしきれずにいる光景しか視界にはなかった。つまり、

 

後ろ

 

考えるよりも先に、近くにいたベルを抱えて前に向かって飛び転がる。切られた感触が背中に伝わる。転がり終えてすぐに切られた方向に振り向くと、影がそこに居た。ベルが言って居た通りの特徴だった。それはまさしく影であったのだ。

 

ウォーシャドウ、それがこのモンスターの名前だ。まさに名前通り戦う影なのだ!

君は背後を取られ奇襲を受けたが無事に生きていた。

さあ、得物を手にこの恐ろしい影に戦いを挑むのだ!

 

影と自分の間に今までつけていた皮のプロテクターが転がっている。切られたのは固定するための紐だけだったようで、それ以外に被害はなかった。君はこの影に少なからず脅威を感じた。鋭い刃物形をした腕、ぱっと見でなんとなくわかる身軽さ、そしてこのダンジョンの暗さにカモフラージュできる影としての特徴。

ベルに呼びかけ、他のモンスターに奇襲を受けないように周囲を警戒してもらう。奴とは一対一でやりあってみたいと、闘争本能が、血が暴れ出す。

 

君は影に向かってシッと槍を突き出す。影はのらりと避けると反撃に右腕を振るう。君はすぐさま槍を引き戻すと槍の柄で流すようにして右腕を弾く。木製の柄は滑るように刃を通し表面を薄くスライスされる、が君はそこから槍をなぎ払い影に牽制をする。影は今度もくらりと槍を回避して君から距離を置いた。君はもしできるならやつの腕を封じてしまいたいと思う。そう思いながら槍の穂先との間隔を狭くするように槍を持ち、影にロングスラストを放つ。影は下がるようにして避ける、しかし君はそこからさらに踏み込んだ。重心を片足に置き、ロングスラストを放った勢いを利用する。突きの向きを僅かに斜めにしてフックを放つようにして放ったことにより、そのままの勢いで槍を持ち直しながら1回転、足捌きで影が避けれないほどの距離を保ち君はシングルスラストを影へ放った。影は胸の中心を穿たれると、灰となって弾けた。

 

危なかった、正直あれが成功するとは思ってなかった。結構危ない綱渡りになったが勝つことができたのは良かった。しかし、あれの不意打ちを避けれなかったらもしかしたら致命傷を受けていたかもしれない。やはり不意打ちは心臓に悪い。しかもここではFOEのようにモンスターたちが乱入してくることも多々ある。ベルの方にもフロッグシューターが現れていたようだ。

だが、あの影との戦いは良かった。体の奥がまだ興奮の熱を伴っている。口角も上がっている。奴との戦いは感覚を取り戻し慣らしていくのにちょうどいいかもしれない。

 

君は戦いの中で確かな実感を得た。それは君が失っていた感覚の一部を呼び戻すものだった。君はベルに露払いの礼を言うと、今度はベルがウォーシャドウと戦ってみてはどうかと提案した。ベルはあんな風に倒すなんて無理です!なんて言う。君は自分のように倒す必要はない、ベルにはベルのやり方があってベルの武器で倒す方法がある、と言った。ベル曰く一応ここまでは来たことがあるらしい。その時はがむしゃらに戦っていたそうだが、今それと同じ動きができるかわからないということらしい。君はベルに敵を観察する方法を教えることを思いつく。ウォーシャドウの腕を振るう速度、距離の詰め方、避けるときにどこまで距離を置くか、それを次の戦いで観察して、観察眼を養ってみるといい。こうかな、そんなおぼろげな感覚だけでもいいから掴めるようにしたらどうだろうか。そう君はベルにアドバイスをする。ここまで地図を描くときにベルにはダンジョンの様子を細かく観察してもらっていた。ベルにならできる。君はそう確信していた。

 

ベルは君の言葉を信じて戦う。距離をとっては詰める、攻撃されれば避けてリーチと速さを感覚で掴み取る。相手に攻撃をすればどう反応するかを慎重に見極める。まさにスポンジだ。君の言った言葉を信じて戦うベルは技術を感覚で掴み取り我が物にしていく。その速さはまさにスポンジだ。大事なことなので二回言うがそれほどまでにベルのセンスは光るものがあった。

 

ベルは強くなれる。数回の戦闘でここまでモノにできるのは彼の才能なのかもしれない。君はそう確信すると戦いを終えたベルを褒めながら5Fの探索に戻るのだった。




これ君はダンジョンに留まってもいいし留まらなくてもいい、を予約投稿してからすぐ書いたんですけど、戦闘描写としてはどうなんだろうか、ささっと描けたけどその分適当そうだし、わかりづらくないか心配


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君は商店に立ち寄った

あらかじめ
オリキャラが出ます

あと、評価が赤くなってました。ありがとうございます


朝、君は声によって目を覚ます。ソファーの上に寝ていた君は身体を起こすと軽く伸びをする。近くでゆさゆさと衣擦れの音と眼を覚ます原因となった声が聞こえる。君は声の主方向へ目を向ける。そこには我らがかみさまがいた。ゆさゆさとベッドの上にいるベルを起こそうとしているが、器用にもその顔をベルの顔に近づけて今にもキスをしそうな雰囲気を漂わせていた。かみさまは一瞬だけ君の方を見る。君とかみさまの目と目が合うと、かみさまはすぐに目をそらして顔を赤くしながらアハハハ、と誤魔化すように笑いながらベルから離れていった。しかし、かみさまが耳まで真っ赤にしているのを見て君は察するだろう。君はそれを見なかったことにして槍を持とうとして昨日壊してしまったことを思い出すだろう。仕方ない、と君は素手で技術の修練をしに外に出た。途中井戸で水分補給と顔を洗うといつもの場所、君がこの世界で目を覚ました平原で槍を振るった。

 

君が拠点(ホーム)に帰ってくると既に朝食の支度がしてあった。ベルがまだ眠っているところを見ると用意をしてくれたのは神様のようだ。かみさまは君に気がつくとさっきのことを思い出したのか、顔を赤くして言い訳をあーでも無いこーでも無いと勝手に喋り始めた。君はそんな神様に何かあったか?と惚けた。そしてベルを起こすと、君はかみさまに挨拶をするだろう。

 

 

「ベル君、新しい武器って欲しいかい?ハイランダー君も」

「どうしたんですか神様?いきなり新しい武器が欲しいか、なんて」

「まあまあ、気にしないで気にしないで。で、どうなんだいベル君?」

「たしかに今使ってるナイフも昨日まででかなりボロボロになっちゃいましたし…新しいナイフが欲しいです」

「ふむふむ、ならハイランダー君は?」

 

朝食後、昨日までのことを話した君たちはかみさまに心配されながら怒られるという、エイナより器用な怒り方をするかみさまを宥めた。まさか、本当にやるとは思ってなかったようだ。そして、ベルが今度新しい武器に買い換えたいという話からかみさまが食いついてきたのだった。

ベルはかみさまから新しい武器を貰うようだ。君はベルのように武器をもらってもいいし、もらわなくてもいい。

 

「そうか、ハイランダー君はいいんだね…

本当に?」

 

かみさまは君に後悔しないかと暗に聞いてくるが君は意見を曲げないだろう。君は自分の武器は自分で見繕うことにしているのだ。その様子にかみさまは、ならベル君のだけだね、と言うとまたホームを空ける旨を君たちに伝える。ベルはまたですかとかみさまを心配しているようだ。危ないことをしてないか心配なのだろう。連日の外出が珍しいそうだ。君もかみさまを心配するがかみさまは君たちに笑顔で大丈夫と告げて、地上に出るための階段を登りきる途中で振り返る。

 

「ハイランダー君もベル君も何日もダンジョンにはこもるんじゃ無いぞ!まったく、僕を心配するのもいいけど僕に心配をかけさせないでおくれよ」

 

そう言うとかみさまは拠点から出て行った。

 

 

 

君は今、ベルと共にバベルに向かっている。ベルはエイナに教えてもらっているダンジョンの講習を受けにいくそうだ。きっと昨日のことを何度も言われるだろうがベルはそれを気にしている様子はない。いや、昨日で終わったと思っているかもしれない。そして君もバベルに用があるのだ。借金の返済に新しい装備はどこで見繕えばいいのかを相談するためだ。一応君もエイナに呼ばれてベルと一緒に講習を受けなさいと言われている。

 

しかし、君は授業を受けなくてもいいし、受けてもいい。

 

君は借金を返済し、エイナから新しい武器の調達の仕方を聞くことができた。そして、ベルと一緒にエイナの授業を受けた。

内容は12層まで、つまり上層と呼ばれるダンジョンの区域についての情報だった。7層から出現するようになり、大量発生することがよく見られる蟻型のモンスター、10層からはダンジョンの地形が変わり霧が発生する広い草原のようになり、出現するモンスターたちも一変する、そんな情報を君はエイナから聞かされた。時々説教も入ったが。蟻型のモンスターと聞いて君は巣はあるのかを聞くが、無いと聞いて安心した。君が過去に戦った蟻の魔物は巣を作り、そこからは強力な魔物が生まれ続けるというものだったのだ。それゆえの疑問だったのだが杞憂に終わったようだ。

 

授業が終わり解放された君はベルにバベルに新しい武器探しに行くと伝えた。ベルは君が何を選ぶか気になるようでついていくことにしたのだった。

 

バベルの一階にある鉄柵で閉じられた穴は、どうやら君の知る施設の一つだったようだ。エレベーター、かつて君が探索した迷宮の中にこの施設は存在していた。人を上や下の層に運ぶ機械であったが、君が知るエレベーターとは見た目が違うようだ。ここのエレベーターは鉄柵で閉じられており密室ではなく階層を指し示すものも数字が点灯するものではなく、針で指し示すものだった。君はエイナから教えられた階層のボタンを押すとエレベーターの鉄柵はガラガラと音を立てて閉まり、君たちの乗る足場は静かに上昇を始めた。ベルは感じたことのない感覚に驚いていたが君は余裕の表情を見せていた。

 

目的の階層にたどり着くと、チーンと特徴的な合図を鳴らして鉄柵が開いた。瞬間、君はここの独特な雰囲気に包まれた。そこにはたくさんの冒険者が各々の目的で歩き回り、並べられている商品を鑑別している。談笑する者もいれば店主に値切り交渉をする者もいた。しかし、皆その眼にはここには自分と戦う武器を選びに来ているという真剣さが垣間見える。君は雰囲気に飲まれる前にエレベーターから降りて歩き始めた。

 

ベルが後ろから感想やあれなんてどうですか?うわっ、あの武器あんな値段するの!?あんな値段の武器買えるようになれるかな?といろいろ言いながらがついてくる。この場の雰囲気や、見たこともない武器や防具に興奮しているのだろう。確かに見たこともない武器や防具は見ていて面白いが今回は目的を持って探しているので見向きはしない。槍と軽鎧、手甲とブーツが今回の目的だ。金は借金と食事で消えた分を除き、さらに生活費に充てるものを除いて30000ヴァリス、これが今回の予算である。これで何とか用意できるといいのだが…

 

君はふと懐かしい姿を数ある商店の中から見つけ出す。そして君は迷わずそこへ進むと店主に声をかけた。

 

 

「え?私の名前?シャルネルって名前だけど、どうしたのおにいさん?」

 

どうやら人違いだったようだ。君が知るあの街で世話になった少女にほとんどそっくりだったので声をかけたが、見た目や雰囲氣はそっくりでも声が少し違ったようだ。君はシャルネルに、君に似た人が知り合いにいて声をかけたんだ、すまない。と言って謝った。シャルネルは、アマゾネスの私に似てるってことはその人もアマゾネスなの?と君に聞くが君は多分違うと答えた。君はシャルネルの商店の中身を見る。君の視線が商店の中に向いたことでシャルネルはぼそりと呟く。

 

「アマゾネスが武器を売ってるなんて珍しいでしょ。私たちは本来なら戦って使い潰す側で作る側じゃないって。でも、最初にここに来た時に武器を作る先輩たちの姿や作られた武器を見て思ったの、私も作ってみたい!ってね。それからヘファイストス様のところで修行して、こうして店を構えさせてもらったんだ」

 

そこには目的の槍の他、剣や盾様々な防具が所狭しと並べられている。スペースに対して置いてある品の数が多いのだ。君はシャルネルの話を聞きながら中に入って物色し始める。

 

「けど、最初はみんなアマゾネスが作った武具だ、って見ていってくれたんだけど誰も買ってくれなくて、しかも知らない冒険者からアマゾネスが作った武器なんて雑な仕事ですぐに折れちまうだろうな、なんて勝手に言われてね…それからだんだん見ていってくれる冒険者がいなくなって、自信無くしちゃってね。そろそろ店じまいしようかなってヘファイストス様に相談しようと思ってたんだ」

 

君は数ある武具の中から、光るものを見つけるとニヤリと笑った。シャルネルの独白に一緒にいたベルは涙目になっている。俯きながら呟くシャルネルの呟きは段々と大きくなり、声には震えが混じっている。きっと顔を上げるとそこには涙が流れているかもしれない。

 

「だけどさ、最後に君が来てくれて、私の作品たちを見ていってくれて嬉しかったんだ。ありがとね。だから…」ドンッ

 

無理に買わなくてもいいから、シャルネルはそう告げようとした。君はシャルネルの言葉を遮るようにしてカウンターの上に槍を置いた(・・・・・)。そして、いきなり目の前に自分の作品を置かれて驚くシャルネルを置いて、君はすぐに店の奥に戻っていくと軽鎧、手甲、ブーツとそれぞれを一つづつ取って来てはカウンターの上にドサリとと置いていく。

 

「えっ、何、何なの!?」

 

シャルネルは次々置かれていく自分の作品を見て涙が吹き飛んだ。驚くことしかできないシャルネルは、君がカウンターの前に立ち止まるまで動くことも声を出すこともできなくなってしまった。ようやく君が立ち止まると、君とシャルネルの目と目があった。

震える声でシャルネルは君に尋ねる。

 

「もしかして、買っていってくれるの?」

 

君はコクリと頷いた。

 

「ど、どうして?アマゾネスが作った武器と防具だよ?それを…何で…」

 

シャルネルの言葉は最初は大きかったが、だんだんと項垂れ萎んでいき、それ以降が聞こえなくなる。しかし君は、

 

「最初は君が知り合いに似てたからこの店を見つけた」

 

シャルネルはその言葉に項垂れた頭がさらに角度を落とす。90度ほどまで曲がってるだろう。

 

「でも、君の作った武具を見て光るものがあった。この武具たちなら買っても安心して使えるって思った」

 

その言葉にシャルネルは思いっきり顔を上げる。

 

「武器や防具は嘘をつかない。君が丹精を込めて作ったものを買いたいと思った。だから買うんだ」

「本当に私の作品(こども)たちでいいの?」

 

シャルネルは一度上げた顔を君に尋ねながらまた項垂れさせる。君は、そうだと言って目を逸らさない。

 

「……がとう」

「ありがどぉぉぉぉぉぉ!」

 

シャルネルは泣きながら君の手を掴むと、感謝の言葉を何度も繰り返しながら思いっきり君の手を上下に振りまわす。ウワァァァァァと泣き声がフロア中に拡がると、周りの視線が彼女と君に釘付けになる。

 

「今までぇ、そんなごとぉ!言ってくれる、人、ひとりも、うぇ…いながったがらぁ!」

 

君は疲れを感じながらも彼女のなすがままにされている。よほど嬉しかったんだろう。落ち着くまで君は待つことにした。蚊帳の外にいるベルはつられて泣いていた。

 

君の肩の感覚がだんだんなくなってきた頃、目元を赤く腫らしながらようやく落ち着いたシャルネルは君に謝罪をした。

 

「ぐすっ、ごめんね。君が買ってくれるって言ってくれて本当に嬉しくて、ちょっと振り回しちゃった」

 

君は構わないと肩のことはおくびも出さず、平然とした顔で言うとそのまま幾らなんだと聞く。

 

「そうだね、この子とこの子、それとこの子とこの子だから、占めて31000ヴァリスってとこかな」

 

君は唇が少し引きつると、冷や汗を一つ、たらりと流した。君の所持金は30000ヴァリス。合計の金額にはあと少し及ばない。流石にベルに借りるわけにもいかない。そう思って店主に素直に話して、お金を持って買いに来ると伝えようとする。

 

「ねぇ、 もしまた私のお店に来たら私の作品たちを買っててくれる?」

 

先にシャルネルの口が開き君の言葉は言えず仕舞いに終わる。君はシャルネルの問いに答えた。

 

「今回は君の店で買いたいと思えるモノが有ったから買った。だけど、次は別の店に行くとかもしれない。でも、君の作品がまた買いたいと思えるモノだったらまた、ここに来たいと思う。そして、君の作品を買いたいと思う」

 

君の言葉にシャルネルは一度瞬きをすると、表情を綻ばせて笑顔を作る。

 

「ありがと!君の言葉のおかげでまた頑張ろうって思えた!君にまた買いたいって思わせられるように、もっと上手く作って待ってるから。

だから、その子たちを君に使って欲しいな。流石にタダであげるのは無理だから…うーん…よし、6000ヴァリス抜きの25000ヴァリスでどう?」

 

君はその言葉に大きく頷くと袋から5000ヴァリスを別の袋に入れ、25000ヴァリス入った袋をシャルネルに手渡した。シャルネルは中身を確認すると、よしと頷いて、君の方を向く。

 

「25000ヴァリス確かに受け取ったよ!その子たち、大事に使ってあげてね。メンテナンスとかなら格安で請け負うからさ!」

 

君は購入した武具をその場と取り付ける。流石に武器を振るうスペースはないものの、見立てた通り槍も防具もしっくりと来る感じがした。君はこの武器に出会えたことに感謝しながら、シャルネルに礼を言って店から立ち去るだろう。

 

「まいど、ありがとうございました!

また来てね〜!」

 

君はシャルネルの声に懐かしさを感じながらバベルを後にした。

 

 

 

 

一方その頃ベルはまだ泣いて…まだ泣いてたのか!

 

「うう、いい話だなぁ」

 

この後君の手で連れて帰られたとか帰らなかったとか。



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幕間 とある少女の事情

需要…


今日もバベルの私の店で誰かが私の作品買ってくれないかと待っていた。レベル2になり鍛治のアビリティを解放して、ようやくヘファイストス様からも、出店してみなさいと言われて、持ったこの店。最初は冒険者のお客さんが見ていってくれた。手に取って見てくれるだけでも嬉しかったんだ。

 

でも、誰も買ってくれなかった。新しい作品()たちを置いても見向きもされなかった。見てくれるお客さんもだんだん減っていって、どうしてなのかわからなかった。自分の中で最高の素材を最高の出来栄えで出来た作品たちが見向きもされない。すごく悔しくて、すごく辛かった。せめて、見てほしい。一瞬だけでも意識してほしい。そう願っても、叶うことはなかった。

 

ある時、私の商店の前に一人の男性冒険者が現れた。その人は私を指差して嗤った。

 

「アマゾネスなんかが武器作ってやんの。まじ笑えるんだけど〜」

 

男はそうのたまったのだ。私はいきなり言われたこともあって突然の事態に何も言い返せなかった。男は調子づいたのか、さらに嗤って言葉を続ける。

 

「壊すことしか能が無いアマゾネスちゃんがこんなところで何をしてるのかなぁ?壊すことが大好きなんだし、それしか出来ないんだから武器なんか作れるわけないのにねぇ。どうせ雑な仕事しかできないんだろ?こんなむさ苦しいところにいるより、俺と一緒に歓楽街で遊ばない?もちろん楽しませてあげるよ?アッヒャッヒャッヒャッヒャ!」

 

下衆な言葉を吐きながら汚い言葉で私を(なぶ)る。あたかもそれが真実だと言わんばかりに虚言を撒き散らす。私は許せなくて言い返してやろうとして立ち上がった。しかし、男はその反応を見た瞬間今度は非難するように言葉を放つ。

 

「おいおい、本当のことだからってすぐに怒るなよ。そうやってすぐに手を出そうとしちゃダメでしょ〜。これだからアマゾネスはすぐに暴力で解決しようとする。そんな奴にまともなモノが打てるとは思えねぇなぁ?」

「別に手を出そうとなんかしてないわ、あんたが嘘ばっかり言うから反論しようとしただけ」

「反論?どこに反論の余地があるんだ?みんなわかってんだろ?アマゾネスごときが武器を作れるわけがない。ここにある武具は全部雑な出来の武具しかないって、だから誰もお前の武具を(・・・・・・)買わないんだよぉ!」

「なっ!」

 

男の言葉に私は狼狽(うろた)えてしまった。そんなはずはない、私はいつも真剣に素材と向き合って武具を作って来た。その自信があったし、誇りもあった。しかし、誰も買っていってくれない。その言葉はひどく私を動揺させた。

 

「なあ、ここから出てくるの待ってるゼェ?歓楽街で待ってるからサァ!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

男はそう言って私の店から離れていった。私は何も言い返せないまま男の戯言の真実性を助長させることしかできなかった。

 

私の目には誰の視線も入らなかった。

 

 

 

 

それから三ヶ月ほどだろう。あの男は暇なのかあの日以降何日かに一回店に来ては、早く諦めろ、俺のところに来いと、囁いてくる。二週間ほどで飽きたのか来なくなったが、店の信用は底辺に落ちた。職人仲間からはなぜか無視され、ヘファイストス様には会わせてくれなかった。唯一仲良くしていた後輩の男の子も自分の工房から出るところを見かけず、話すことができなかった。それでも、槌を振るうことは辞めず、槍や斧などまだ打ったこともない武器にも手を出してみたりもした。

今日もまた誰も来ないのかな、そんなふうに思ってた時にあの人は来てくれた。

 

突然話しかけられて名前を聞かれたのにはびっくりした。どうやら故郷に私と似ている人がいたようで見間違えてしまったらしい。わざわざ謝罪してくれたから、丁寧な人なんだなって思った。

私に話しかけるなんて珍しいからよく覚えてる。ここを歩く冒険者たちをよく見てる私にはわかった。この人は新人さんで私のことなんて知らないんだろうなぁって。あの人は明るい茶色の髪に見たこともない、きっとどこかの民族の戦闘装束を着ていた。目は少しキリってしてて睨みつけているように見えるかもしれない。イケメンかそうでないかでいったらイケメンだろう。それともう一人、あの人の後ろについてくる小動物(ウサギ)のように真っ白な髪と真っ赤な瞳をした子がいた。

あの人はそのまま店内に入ってくれた。まさか入ってくれるとは思わなかったのでついつい自分語りをしてしまった。自分がどうしてこうして武具を売っているのか、でもとある事件があったこと。それで自信を無くして店を畳もうと思っていたこと。話しているうちに涙が出てきてしまって声も震えていた。聞いてくれてたにしろ聞かれてなかったにしろ恥ずかしくて顔をあげれなかったんだ。それで、ここに来てくれてありがとうって、こんな店の商品なんか無理に買わなくていいよ。って言おうとしたんだ。そしたらね、顔を上げた瞬間に私の目の前、つまりカウンターに私が作った槍が置かれてたんだ。ビックリして何が起こったのかわからなくなっちゃったんだ。初めてここに私の作品が置かれたんだから。そしたらあの人、何も言わずに店の奥に行ったと思ったらすぐに軽鎧や手甲、ブーツ、全部私の作品を一つづつカウンターに置きに来てね、つい聞いちゃった。

 

買ってくれるの?って

 

そしたら頷いてくれて、どうしてかわからなくてつい聞いちゃった。そしたら、私が知人に似てたからって。最初はそう言ったんだ。酷いって思った。私だからじゃなくて似てる知人がいるからってすごく落ち込んだ。でもね、その後

 

君の武具を買いたいと思ったから、買う。そう言ってくれた。

 

 

なんでって思って、本当にいいのって?私が聞いちゃいけないのに、私が聞くなんて私の作品()たちに一番失礼なのに、聞いてしまった。

 

あの人はそうだって、私の作品たちでいいって言ってくれた。私の作品たちがいいって言ってくれた。

 

嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、泣いちゃった。すごく大きな声で。今思い返せばフロア中に聞こえてたはずだからすごく恥ずかしくて、でもそれ以上に本当に嬉しかった。

 

その後落ち着いて、会計を済ませようとしたんだけど、見苦しいけどまた不安になって、あの人にまた買いに来てくれるか聞いてしまった。あの人は私の作品をまた買いたいと思ったら来てくれると言った。私は挑戦状を叩きつけられたのだ。また、買いに来たくなるような作品を作ってくれと。でもその言葉は私の職人魂に火をつけてくれた。

流石にタダで作品をあげるとまずいし、私も生活とか色々あるから少し安くしちゃったけど大丈夫なはず!多分…

 

あの人の名前とファミリアを聞きそびれちゃったけどきっとまた来てくれる、いや来させて見せる!そして、私の作った作品たちで驚かしてあげるんだ!

 

 

 

 

あの人の言葉が今でも心の中にある、私の炉心に火をつけてくれている。




あの外道の会話文を書くのが辛かったです


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君は祭という存在(モノ)を知る

今回は繋ぎ回

短いです。

そして、誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。
最終的に得物(武器)なりました。
無知な作者の責任です。申し訳ございません。
とりあえず現在投稿した全話で軽い見直しをして違和感やおかしな点をチェック訂正してきました。

これからもどうかこの作品をよろしくお願いします。


君は新調した武具を手に、バベルから離れると空はすでに茜色であった。時間はPM06くらいだろう。君は他の階層で買った槍の穂先を包む布を槍につけ、防具は手に持つのも面倒なのでそのまま装着し、槍を背中に括り付けて帰路へとつく。

メインストリートを通っていると、君はふと目に付いた張り紙に近寄った。文字は読むことはできない君だが、張り紙には上半分にモンスターを鞭でしばいている絵、下半分にモンスターが人に服従しているような雰囲気の絵が描かれていた。モンスターをしばいてる絵は、かつて君がいた世界に鞭を使う職業の女性がいたことを思い出す。モンスターを服従させる、君の世界ではとても考えられない発想だが興味深いものではある。君は立ち止まって張り紙を見続けていると、後ろから声をかけられるのだった。

 

「あのー、ハイランダーさんですよね?何を見ていらっしゃるんですか?」

 

君が声に振り返ると、そこには見覚えのある銀髪と金髪の少女たちがいた。たしか酒場のウェイトレスだったか、そういうと銀髪のウェイトレス、シルは笑顔で頷いた。隣にいる金髪のウェイトレスは酒場では見かけたが名前は知らない。

 

「もう、リューったら無愛想にしてないで挨拶しなきゃ」

「シル…すみません。私の名前はリュー、シルと同じで豊穣の女主人で働いています。ところで、そちらの張り紙を見ていたようですが…」

「あー!そういえばもうすぐ怪物祭(モンスターフィリア)の時期ですね!」

 

モンスターフィリア?君はそれが一体なんなのか尋ねるだろう。

 

「ああ、ハイランダーさんは最近オラリオに来たばかりでしたね。怪物祭(モンスターフィリア)はガネーシャファミリア主催のお祭りで、調教師(テイマー)と呼ばれる冒険者がモンスターを調教する過程を見るお祭りなんです。ですが、出店もかなり多くてそれが目的の人も多いんですよ。かくいう私もそれが目的でして、貯めたお小遣いで色々と…えへへ」

「シル、顔がにやけていますよ。怪物祭は明後日開催予定です。バベルでモンスターが檻に入れられて運ばれているのを見かけませんでしたか?」

 

どうやら怪物祭はお祭りらしい。リューが言うには明後日開催のようだ。君はバベルでそのようなものは見なかったので、単純に間の問題だったのだろう。君は2人に礼を言う。

 

「いえいえ、お礼はお店に来ていただければ結構です!ミア母さんもハイランダーさんの食べっぷりを気に入っていました。見かけたら、また来るように言っておけと言われたので…って、あ〜!忘れてました、買い物帰りだったから早く帰らないと怒られちゃいます!

それではハイランダーさん!またうちに食べに来てくださいね!」

「そういえば、今日はベルさんはどうしたんですか?」

 

シルは、君にまた来てくださいと言って颯爽と去っていった。君はリューの質問に疑問を覚えた。君は周囲を見渡すと気がつく。そう、ベルがいないのである!妙に静かだなと思っていた君にとって驚愕の事実だった。

 

「リュー!早く行かないとミア母さんに怒られちゃいますよ!」

「はい、今行きます。

ではハイランダーさん、また」

 

リューはシルに呼ばれてその場から離れていった。ベルはきっとバベルにまだいるに違いない。君は今来た道をまた歩み始め、またバベルを目指すのだった。




ご報告させていただきます

なんとこの作品が日刊ランキングに載ってました。
わーいワーイwhy?/(^o^)\

急に読んでくれる人が増えた原因を知ったと共に、みなさんのおかげでランキングに入ることができました。ありがとうございます。

嬉しくなったので今日明日で連続で投稿します


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君は祭という催し(モノ)を知った

予約投稿失敗しまくるのほんとやめちくりー(累計3敗)

ダンまちアニメの二期が始まるなぁと、この小説割とタイムリーなタイミングで投稿されたんだなぁと気がつきました。

ダンまち×世界樹はやりやすいからもっと流行れ(懇願


かみさまが帰って来ることはなかった。君は新品の槍を振るいに、ベルは祭用のお金を稼ぐためにダンジョンへと1日だけ潜ってきたのだった。

 

そして、翌日。

つまり、怪物祭(モンスターフィリア)当日である。

 

君はいつも通りの朝を迎えていた。ベルは一昨日に怪物祭のことを聞かされていたので、ワクワクしているようだ。食事を済ませると一目散に拠点(ホーム)を抜け出して街へと繰り出した。君はかみさまが帰ってこないか昼まで待つことにした。その間に掃除を済ませたり、新品の槍を振ったりと、暇をつぶす。

が、PM00。昼になっても帰ってこないかみさま、君はこのまま待っていてもいいし、待たなくてもいい。

 

君はかみさまを待つことを諦めて拠点を後にする。なんだかんだ言っても君もお祭りが楽しみだったのだ。一族の村から旅立つときに(ささ)やかながら、宴を開いてくれたのを思い出す。この街は広い、きっと村の宴よりも派手で珍しいものがあるかもしれない。君は期待を胸に、職業病で背中に槍を括り付けると、街へと向かうのだった。

 

 

 

人が多い、あの街ではこんな景色を見たことがない。あそこでは祭なんてものはなかったのだ。普段ならこの混み合い、邪魔だと思ってしまう。しかし雰囲気に飲まれるとなんだか歩いているだけでも楽しく感じてしまうものだ。ベルやかみさまが居ないか探しながら歩くが、この人混みでは見つけられそうにない。これは諦めた方が身のためか…仕方ない、一人で回るとしよう。

 

街中を歩いていると、突然気色悪い視線を感じた。視線の方向に振り返ると、そこにはカフェのテラスで談笑している赤い髪の女性と、艶やかな銀色の髪の女性、そして腰に細剣(レイピア)を装備している金髪の少女がいるだけ。そこには先ほど感じた気色悪い気配は微塵もない。気のせいだろうか、しかし、祭りを楽しむ気分ではなくなってしまった。とりあえず人の波に流されるように歩くことにしよう。

 

君は流れ着いた人通りの少ない広場で一息つく。ここには祭の出店といったものはないが、八百屋の屋台があり新鮮な野菜や果実が売られていた。君の目に付いたのは、赤く丸い果実と、オレンジ色の楕円形の果実、そして青紫の大きな粒がいくつもついている果実?であった。君はどれかを選んで買ってもいいし、買わなくてもいい。

 

君は赤い果実とオレンジ色の果実を買うと、屋台の近くに座り込み食べることにした。赤い果実はマルカジリにして食べる。すると君の口の中に、しつこくない甘さと、シャキシャキとした皮と実のコラボレーションに舌鼓をうった。これはうまい!

君は人ごみの中を歩いた疲れを癒すことができた。

 

オレンジ色の果実に手をつけようと思った時、君は気がつくだろう。周囲から祭の歓声が聞こえなくなったことに。メインストリートから流れて来る人々の声、それが先ほどまでは聞こえていたのに今は聞こえない。君の周りには八百屋の親父、メインストリートに向けて君の目の前を歩く少女、他露店を出しているものが数名といったところだ。誰もこの異常に気がついていない様子である。

 

ピシリ

 

ふと、そんな音が広場に響いた。瞬間、広場の石畳が小さく、そしてすぐに大きく隆起した。

 

そこから現れたのは

 

見るからに人を取って食いそうな、植物型のモンスター。しかもこの広場ーー世界樹の迷宮一階のすぐにある広間ほど広いーーの3分の1を占めるほど、巨大なモノが君の目の前に現れた。

 

八百屋の店主は悲鳴をあげながら逃げ出し、近くの露天商も我先にと商品を置いて逃げ出した。君の目の前を歩いていた少女は、突然現れた脅威(モンスター)に腰を抜かしているようだ。震えて動けなくなっている。植物型のモンスターは、震えて動けない少女を認識すると、その巨大なしなる鞭を少女へと向けて振り下ろした。

 

植物の鞭が影を叩く。少女はいつのまにか抱えられて宙を飛ぶ。君は少女を屋台の影へと隠すと、植物型のモンスター(醜悪なる食人花)と対面する。君はすぐさま屋台から離れると、襲いかかる触手を足場にして避ける、素手で逸らして切り抜け、一度距離を取った。

 

あれは、今の君にとって強敵だろう。君は今一人きりである。この騒ぎを聞きつけて助けに来る冒険者がいるかもわからない。レベルも上がっていない。触手に攻撃は効いても本体を倒せるわけではないだろう。

 

それでも君はこの戦いに挑む。

 

武器は手に取った

 

覚悟は決めた

 

逃げられない理由もある

 

ならば、戦うしかないだろう?

 

さあ、襲いかかる強敵に君の刃を突き立てるのだ!

 

 




誤字報告をしてくださった方々、ありがとうございます。


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血よ、目覚めよ

金曜ロードショーでサマーウォーズを見て泣いたので、投稿です

サマーウォーズは俺の青春


君は醜悪なる食人花と名付けたモンスターにロングスラストを放つ。槍を扱うにおいて基礎であるこの技は、一撃に重きをおいた刺突を放つ。目にも留まらぬ速さで目標(ターゲット)に近づき、敵を穿つのだ。しかし君の一撃は本体に突き刺されど、それは穂先のみでありダメージとは程遠いものだった。

 

槍をすぐに引き抜くと、食人花は触手を鞭のようにしならせて君に叩きつけようとする。君はシングルスラストでそれらを千切り飛ばそうとするが、弾力があるのか衝撃に小さく弾かれるだけで、触手はすぐに君を追いかける。

 

触手を足場に立体機動を混ぜながら回避を続ける。食人花は君が足場にした瞬間を狙って触手をうねらせ、姿勢を崩そうと狙ってくる。君はそれをロングスラストで触手にあえて楔のように打ち込むことで、触手に槍を支柱にしてしがみつく。食人花は触手を振り払って、君は投げるようにして吹き飛ばされる。

 

君は近くの建物に向かって飛んでいくが、なんとか姿勢を整えて建物の壁に着地。衝撃で壁が陥没するが、脚のバネを全力で利用して衝撃を吸収し、飛ぶようにして先ほどよりも勢いよくロングスラストを放つ。しかし、君の一撃は触手の鞭を横薙ぎに払われることで、あっさりと防がれ、君は地面に叩きつけられた。大小多々ある擦り傷と打撲、内出血。直接殴られた脇腹は痣どころか骨まで逝っているようだ。あばらが何本か折れている。血が君の腕や頭からたらりと流れる。

 

あまりに自分のレベルが低すぎる。そのせいで切れる手札も少ない。

 

ロングスラストは効かない、シングルスラストも範囲攻撃で薙ぎ払うための技であり有効打にはならず、しかもそれは君の体力を削って放つものだ。体力の低下はリスクを伴う。集中力の低下は死を招く。

こちらの攻撃が通らない敵ということは、こちらが攻撃を受ければそれは致命傷につながる。それ程にこの食人花は君と力の差があるということだ。君はその感覚を久々に感じ取る。FOEや階層主(フロアボス)と呼ばれるものどもと同等の脅威、しかも今の君には頼れる仲間がいない。メディカ(ポーション)も無ければ、状況を変えることのできるアイテムもない。絶体絶命とはこのことだろう。

 

来るかもわからない援軍を待つか

 

力を振り絞り一縷(いちる)の望みにかけるか

 

いっそ諦めてしまうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めるなどもってのほか、これまでの経験を思い出せ。キミは幾たびの危機を乗り越え、世界樹の迷宮を踏破した猛者なのだろう?故郷の危機を、世界の危機を救い出した英雄なのだろう?

ならば君に諦めるという選択肢を選ばせることはできない。キミの闘志が消えぬ限りは立ち上がるのだ!

さあ、キミのチカラ、今こそ解放(・・)する時だ!!

 

 

 

解放(ブースト)

 

 

 

 

君の瞳が赤い()を灯す

 

傷ついた体に力を張り巡らせ立ち上がる

 

頭から流れる血を拭い、振り払う

 

 

振り払われた血は君から離れた瞬間、勢いを止め、球となり君の周りを浮遊する。

 

 

ブラッドウェポン

 

本来ならばまだ使うことができない技(・・・・・・・・・・・・)を、君は行使する。君の槍に浮遊していた血が螺旋状に渦巻いて纏わりつく。

 

リミットレス

 

ブラッドウェポン、リミットレスは共に攻撃力を強化する技術。しかし、その代償に己の血を流さねばならない諸刃の剣なのだ。

 

 

ディレイチャージ

 

 

君の傷から血が溢れ出し、それは頭上で形を成し、その矛先を食人花へと向ける。

それは己の血を槍の形へと変え、収束、形成し、血の槍が完成した瞬間、まるで意思を持つかのように放たれる。一族秘伝の技術。

リミットレスとブラッドウェポンの効力は、ディレイチャージの槍へ付与される。血の塊は全長2Mほど巨大な槍の形へと姿を変えていく。

 

 

流石に巨大な槍を見て危機感を覚えたのか、食人花は触手を大きくうならせて君へ差しむけるが、君は先ほどは通用しなかった槍を触手へと放つ。先ほどとは打って変わって穂先は触手を貫き、千切り飛ばす。しかし、君が槍を振るうたび、小さかった擦り傷からも血が滲み出す。ブラッドウェポンの代償である。

 

しかし君はそれを気にせず脱兎の如く駆け出し、食人花へと距離を詰める。まるで別人にでもなったかのようなスピードに、食人花は追いつくことができず触手は空を切ることしかできない。

 

血の槍は完全に成形を終えると、2.5Mもの大きさとなった。そして、それは動き出す。

 

血の槍に触手を殺到させ、少しでも威力を削ろうとするが触手は全て消し飛び、その勢いは衰えることを知らぬまま、食人花の中心部に深く突き刺さる。

 

それでもまだ動きを止めない食人花の真上から、青年は血まみれの衣装を風にはためかせ、呟いた。

 

 

 

逝ね

 

 

 

 

空気を蹴り飛ばし、君は風を切り裂いて直下へと突撃する。血の螺旋を纏った槍は、まるで血の槍と重なることで十字(クロス)を作るようにして食人花を刺し貫き、

 

 

食人花の全てを塵へと還した

 

 

 

 

 

 

おめでとう、見事君は強大な敵を打ち倒し、少女を守りきることができたのだ!

 

 

 

 

 




戦闘描写が苦手すぎて長く書くことができない悲しみ。

技の名前がたくさん出てきましたがいずれ詳しい解説を入れる予定です。

ハイランダーの目が光ってますが、イメージ的には怒り状態のナルガクルガが動くたびに眼光(物理)が尾を引いてる感じを想像してます。


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幕間 とある(少年)の願望

一方そのころベル君は…

少年の感情は如何に変わっていくのか、たとえ歩む道は少し違えど少年は英雄であることを望む


こんなの聞いてない、どうして、誰が、何のために…

 

楽しいお祭りだった。神様と会ってクレープを食べたり、ジャガ丸くんのオススメの味を教えてもらったり。そんな中だ。あのモンスターが現れたのは…

 

「神様!逃げますよ!」

「なんなんだいあいつ!ボクとベル君の邪魔をするんじゃなーい!」

「神様、そんなこと言ってる場合ですか!?」

 

とにかく逃げることしかできなかった、神様をお姫様抱っこで持ち上げて僕は走り出す。まるで何かに取り憑かれたかのように僕たちを追いかけてくる大猿、確かシルバーバックというモンスターだ。純粋な身体能力や破壊力で叩き潰してくるタイプだが、誰かを集中的に、いや妄執するようにして追いかけてくるというモンスターではなかったはず。神様がいる以上下手に戦うこともできない。それに怖いのだ。強者からの純粋な殺意はとにかく怖いのだ。

路地裏へと入り込む。しかし、路地を形成する家々を破壊しながらシルバーバックは僕たちの後をまるで猟犬のように追いかけてくる。走って逃げた先は、ダイダロス通り(地上の人工迷路)!?くっ、でもここに入るしか道はない。

このまま逃げていても何もできない。しかし、今日は武器を持ってきていない。たとえ何かするにしたって得物が無いのは心許ない。僕に奴を倒すことができるだろうか。答えのない自問を路地を曲がりながら繰り返す。

 

逃げた先に広場がある一本道に出る。走り続けた身体は休息を求めてやまない。体を隠せるかわからないが、遮蔽物となる石の板がある。そこの裏に隠れると大きく息をついて深呼吸をする。一時的に撒くことができたが、見つかるのも時間の問題だろう。

 

もう逃げられない、残る道はやるかやられるか。いや、僕が囮になってその間に神様に逃げてもらえばいい。そうすれば神様は助かる。

 

本当にそれでいいのだろうか

 

良いわけがない…僕は何をするためにこの(オラリオ)に来たんだ?強くなるため?女の子と出会うため?爺ちゃんの遺言に従って来ただけ?

 

違う…強くなりたい、けど根本的なことではない。

違う…女の子と素敵な出会いをしたい、素敵な出会い方ではなかったが果たすことはできたし、もっといろんな人に会ってみたい。

違う…遺言に従っただけ?でも爺ちゃんの夢は受け継いであげたい。

 

ならば何を為すためにここへ来た?

 

それは、

 

 

英雄になりたいから

 

小さい頃から変わらない、御伽話の英雄たちに憧れたから

その物語たちに憧れてしまったから!

 

だから逃げない

 

臆病にならないって決めたんだ、あの人(憧れ)に追いつきたい。隣で一緒に戦いたい。あの人(英雄)の片鱗を見せつけられた。でも諦められない。

 

 

覚悟は決まったかい?

 

 

「神様、ステータスの更新をお願いします」

「ベル君、何を、するつもりなんだい?」

「僕があいつを倒します。ですから少しでも勝つための可能性が欲しいんです」

「でも、ベルくんが戦う必要なんて無い。逃げ回って他の冒険者に助けてもらえば…」

「ダメなんです神様、それじゃダメなんです。僕は英雄になりたいんです、ここで逃げてしまったらもう追いつけなくなってしまう気がするんです、あの人(憧れ)に!」

 

神様は少し悲しそうな表情をしていた。でもそれはうつむいて影に隠れてしまう。ただ一言、頼んだよ、と。

背中が熱くなる感覚、ステータスを更新した時の感覚。強くなったのだろうか?いや、そんなことはどうでも良いんだ。あいつを倒して僕は神様と生きて拠点(ホーム)に帰る。それだけを考えろ。

あいつを倒すために全力で観察しろ、力を振り絞れ、神様に傷一つ付けさせるな、何があっても倒す、それだけを考えろ。

 

「ベルくん、最後にこれを渡しておくよ」

「神様これって!」

「うん、君が求めていた新しい武器、その名も《ヘスティア・ナイフ》!」

「ヘスティア・ナイフ……ふふっ」

「あー、笑ったなベル君!まったくもう…

 

ねぇ、ベル君」

 

神様はヘスティア・ナイフを渡してくれた。ついつい、神様の名前がそのまま武器の名前になっていて笑ってしまった。神様は僕にプンプンと怒って、そして覚悟を決めた表情を見せた。

 

「僕たちは一蓮托生だ。ここで死んじゃったらハイランダー君は1人になってしまう。この戦い、絶対に負けられない。わかってるね」

「はい、神様」

「絶対に死なないでくれよ、僕はベル君が死ぬ姿なんて見たくないし、死んでほしくない。家族(ファミリア)に悲しい思いはしてほしくない。だから…」

 

「絶対に勝ってくるんだぞ、ベル君!ボクは信じてるから、絶対にベル君なら勝てるって!!」

 

「はい、神様!」

 

 

大猿(シルバーバック)の咆哮がダイダロス通りに響き渡った

 

 

ズシン、ズシンと石畳を踏み歩き、ダイダロス通りが文字通り揺れる。神様を追いかけて来たシルバーバックは、僕の目の前に現れた。大きく咆哮を上げる。瞬間、僕のトラウマ(ミノタウロス)が幻覚を作る。だけど、負けないって決めた。だから僕は吼えた。

 

「ウオオォォォ!」

 

幻覚をはらい飛ばして、シルバーバックに向かって走り出す。ヘスティア・ナイフはよく手に馴染んでいた。まるで僕の手に収まることが役目だと言わんばかりに、それがさらに背中を押してくれた。振り下ろされる拳をサイドステップで回避する。一撃でも食らったら防具をつけていない僕なら、きっと動けなくなる。だから、慎重に、でも攻めるときは攻める。

地面に叩きつけられた拳にヘスティア・ナイフを一振り通す。硬いけど切り裂けないわけじゃない!切りつけた腕を振り払ってくる。あえて、シルバーバックの懐に突っ込む。それによって振り払いを避けてシルバーバックの腹を切りつける。先ほどより手応えの鈍い感触に表情が歪むが、気にせずに股下を通り抜け背後を取る。当然シルバーバックも振り返ってくる。今度は鷲掴みしようと両腕を交互に振り回す。一回一回をバックステップで躱す。避けられていることにイラついたのか両手を組んでこちらへと飛びかかり、地面へと腕を叩きつけた。腕を叩きつけられた石畳はバラバラに砕け、それをギリギリで回避するが叩きつけた衝撃波で吹き飛ばされる。

態勢を維持したままなんとか着地するが、目の前にはイノシシのように突撃してくるシルバーバックがいた。

怖くない!怖くない!

見えた、四肢の隙間を通り抜ける!

全力で地面を蹴り飛ばしスライディング、シルバーバックの中心線をなぞるようにヘスティア・ナイフを突き立てながら石畳の上を滑る。

熱い熱い!

摩擦熱でお尻が焼けそうになるけど我慢する。ヘスティア・ナイフはシルバーバックと僕の勢いが交差して胸から股の間に一筋の傷を刻みつけた。傷からは少なからず血が吹き出し、地面を濡らす。しかし、シルバーバックはまるで何事もなかったかのように立ち上がると、さっきよりも大きな声で吼えた。耳が痛い。

 

このままじゃジリ貧だ、こっちが大ダメージを与えれないと体力切れや不意打ちで倒される。腕?いや、ナイフの刃では切り裂けない。足?腕と同じだ、脚の腱を切るにしても効果が現れる頃にはこっちがヘトヘトだ。なら頭?無理だ、頭は頭蓋骨に守られてる。ヘスティア・ナイフでも脳まで到達させれる可能性は低い。なら、胸…一番リスキーだけど希望は見えてる。シルバーバックについた傷から更に胸にあるはずの魔石にナイフをねじ込んで、仕留める。なんとか勢いをつけられればきっと突き立てられるはず。この狭い空間の中でどうやって…

 

思考を遮るようにシルバーバックの攻撃が始まる。さっきよりも力が入ってるのか振るわれる腕は速度を上げていた。それを何度も何度も薙ぎ払うように振り回す。その分一回一回の攻撃には隙ができる。でも致命的な一撃を入れるための隙はまだ生まれない。

探せ、探せ、探せ!どこかにあるはず、この状況を一変させる何かが、あいつを倒すためのヒントが!

 

あった、ひとつだけ。人型である以上欠かせない弱点、そこさえ突ければ!

 

一度シルバーバックに背を向けて走りだす。突然の逃走にシルバーバックは、大きく飛び掛ることで逃さないように距離を一気に詰める。あと少しで潰される、そんなギリギリのところでベルは大きく前転をして、それを何とか回避する。シルバーバックは砂埃を立てて地面に衝突するがそんなものじゃ死にはしない。すぐさま姿勢を起こし砂埃を払うために一度大きく腕を振るう。砂埃が風に煽られ搔き消えるとシルバーバックの目の前にはベルの姿はなく、自分が叩きつけたことで陥没した地面があるのみ。ベルがどこにいるか首を回して探すとあっさりと見つかった。シルバーバックは、見つかった瞬間にこちらへと飛び込んでくるかのように方向転換したベルを嗤った。迎撃と今までのお返しと言わんばかりに大きく腕を引きしぼり、矮小な人間へ向けて叩きつようとした。しかし、叩きつける直前シルバーバックの目の中に異物が入り込む。砂だ、叩き砕いた石から細かくなった砂や石の粒を目に叩きつけられたのだ。シルバーバックは遮二無二構わず拳を振り下ろすと、拳には石を砕く感触しかなく、シルバーバックにとって矮小で自分の邪魔をする人間の叫び声が聞こえたとき、ときすでに遅くーー

 

 

拳を外した!いける!

ベルは叩きつけられる拳の軌道を見て石と砂の粒を投げながら大きく飛んだ。そして、ベルを殴り飛ばすことが叶わなかった右腕を、ベルは大きく踏み抜いて胸へと直線上に飛び出した。

 

ーー「イッケェェェェェェ!!!」

 

ヘスティア・ナイフはシルバーバックに刻んだ傷へ一直線に突き刺さる。筋肉はまるで頑丈な木材に突き立てたかのような硬い感触、だが切っ先が筋肉の壁を貫通したとき、ピシリと、ナニカがひび割れた感覚を経てーーベルにだけナイフを伝わってきたパリンと砕ける音ーー大猿(シルバーバック)は弾けるようにして塵へと変わり、空の彼方へ舞い上がっていった。

 

 

 

 

 

その後のことは記憶がおぼろげだった。近づいてくる神様、泣きながら僕のことを抱きしめると僕は糸が切れた人形のように倒れてしまう。ただ、

 

「頑張ったね、ベル君!君はボクにとっての英雄さ!!」

 

そんな神様の泣きじゃくった声だけを聞いて僕の意識は深く深く沈んでいった。




固有名詞が多すぎて一文が長くなってしまう。

さて、英雄の片鱗、いったい彼は誰の背中を追いかけているのだろう。


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君は懐かしい夢を見る

 

君は、目を開く。

辺りは闇に包まれており一筋の光さえ見えない。だんだんと君の体は下へ下へと沈んでいく。手を伸ばしている先さえもわからない。ただただ、無間に落ちていく中で、ゆっくりと瞼が落ちていく。伸ばす手さえも重くなっていき、動かなせなくなって落ちていく。君の意識が飲み込まれていく。

 

ふと、君を呼ぶ声がする。

 

うっすらと開かれている瞳は、血に染まった君を映し出す。どこからか泣き声がする。小さく揺さぶられる感覚が、君の意識を呼び戻す。

 

 

気がつくと君は何も無い場所に立っていた。目の前には変わらず血まみれの君が存在する。おい、と声をかけられる。振り向くとそこには顔のない白衣の男が立っていた。

 

「お前は相変わらず無茶をする。守ろうとするのはいいが守られた側の気持ちも少しは考えるんだな」

 

そう皮肉げに言うと、白衣の男はまるで煙のように消え去った。よっ!と後ろから肩を叩かれる。赤い派手な外套を纏う顔のない少年が、君に向けて手を上げている。

 

「こんなところで寝んなよ〜?まだやることはたくさんあんだからさ!」

 

少年は変な機械をつけた左手を君の拳と打ち付けあうと、蜃気楼のように霧散した。ガチャリと、金属同士がぶつかり合う音に君は目を向けた。

 

「あなたのこと、皆心配なんてしてないわ。

大丈夫だからって。だから、どんなとこでもどんなときでもガツンと頑張ってきなさい!」

 

盾を掲げている顔の無い少女は、君を鼓舞すると陽炎のように、揺らめいていつのまにか見えなくなった。

 

パァン、と聞きなれた乾いた音がする。咄嗟に振り返ると、背を向けた金色の髪の少女が弾丸で闇を切り裂き、一筋の光を受けてその髪をきらめかせている。そして、振り返ることなく少女は言葉を紡ぐ。

 

「信じてる…貴方は絶対に負けないわ

 

だって…」

 

少女は振り返りながら君の瞳に視線を合わせた。

 

「私のパートナーだから」

 

懐かしい声を耳が感じ取る。君の瞳が少女の顔を映す、その前に…

 

君の瞳に強烈な光が射した

 

 

 

君が目を覚ますと、視界には青空が広がっている。身体が揺さぶられているのを感じ取ると、君は揺さぶられる原因へと目を向ける。大泣きしながら頼りない手で君を揺さぶるのは、君が助け出した少女だった。金色の髪に左右に纏められた髪型(ツインテール)は、懐かしさを君の心の中に生み出した。

 

「おにいちゃん!おにぃちゃぁん!!」

 

名前も知らない君が、自分を助けて目を覚まさない。どうすればいいのかもわからない幼子の必死の呼び掛けは、君を現世へと呼び戻したのだった。

 

呻き声を上げで立ち上がろうとする君に、目を覚ましたと喜ぶ少女は君に抱きついた。血まみれの君はくらりと脳が揺れるとまた、瞼が落ちそうになる。貧血による頭痛と、眩暈、折れた骨の痛みが君を現世と常世の狭間で綱引きをする。君はなんとか少女をなだめると、なぜか奇跡的に潰れなかったオレンジの果実をマルカジリした。

うまい!君は皮ごと食べることで果実の美味みを最大限に引き出した。

体力が少しばかり戻ってくる。

 

やつと戦ってからほとんど時間は経ってない。だが、あの戦いの記憶はあれどあの時の感覚は不鮮明だ。まるで、自分でない誰かが自分を勝手に動かしていたかのような、そんな感じであの戦いの行動に自分の意思は全く反映されてなかった。そして、強制的な力の解放。本来なら使えない技術を、技として行使する。強くなったというより、リミッターを解放したかのような力の使い方。君の知る戦闘技法に一つだけ覚えがある。

 

 

解放(ブースト)

 

 

しかし、これは本来ならば一瞬だけ己の潜在能力を引き出すことができる。それだけなのだ。戦いの最中、本来扱えない技を使うことは決してできず、それどころか何十秒も力を解放し続けることなど不可能なのだ。

君の知る街特有の戦闘技法は、この世界において大きくその形を変えた。まるでレベルが上がったかのように能力があがり、使えないはずの技を放つ。これがなんなのか君は解明しなければならない。

 

 

だが、今そんな余裕はない。なぜか戦いの傷は塞がっておりこれ以上の出血は無いが、骨が逝かれている。なんとか拠点まで帰りたいが体力が持つかもわからない。それどころかこの姿でストリートを歩いていたら、即刻捕まって事情聴取ルート待ったなしだろう。

少女に気をつけて帰るようにいうと、少女は本当に大丈夫?と心配してくれたが、意外と素直に従ってくれた。あとは、この血まみれの姿(ザマ)を誰かに見られないように帰還するだけだ。

 

「あー!そこの君!血まみれだけど大丈夫?」

 

すぐに見つかってしまうとは予想外だ。

 



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君はお米様抱っこの夢を見る?

出したいものがようやく出せた感

でもこれを出すよりヴァレン何某さんを早く出したい


シャルネルに似た姿、つまり声をかけてきたのはアマゾネスの少女なのだろう。ぱっと見傷だらけにしか見えない君の姿に、心配して近づいてくる。君は槍を杖にして立ち上がると、問題ないと告げて歩こうとする。しかし、一歩目で踏み出した足は踏ん張るということを知らないのか、膝が折れ顔から石畳に直撃する。後ろから見ていたアマゾネスの少女はその姿に驚くと、君に近寄り、ほんとに大丈夫?怪我もひどいみたいだし、近くの休める場所まで運んであげるよ?と提案した。君は仕方がないのでそれに甘えることしかできなかった。

 

君は米俵のように担がれて運ばれていく。少女は見た目とは裏腹にヒョイっと、君を軽々しく持ち上げた。装備もつけてないし、大量出血により抜けた血の分体重は軽いだろうが、それでもこうも軽々しく持ち上げられると、君はこの世界での恩恵による能力の上昇を甘く見ていたようだ。

 

「そういえばさ、あなたなんて名前なの?

私はティオナって言うんだ〜」

 

君はティオナと名乗った少女に自分のことを教える。自分の名前、最近この街に来たこと、どうしてこのザマになったのか…

 

「ええっ!それじゃあ、あの気持ち悪いのを君は倒したの?」

 

君はここで少し嘘をつくことにした。あのモンスターから一撃貰って気を失ってしまい、次に目が覚めた時にはいつのまにかモンスターはいなくなっていた。だが、戦闘の跡があるので自分以外の冒険者が倒してくれたのかもしれない。

 

「ヘェ〜、運が良かったんだね!私たちも多分、君が戦ったモンスターに出会ったけどすごいブヨブヨしてて殴ってもあんまり効いてなさそうだったしーー」

 

 

 

君が目を覚ますと、まず視界に入ったのは知らない天井だった。君は運ばれてる間に気絶した。いつの間にかここに居るのも運んでくれた少女のおかげだろう。どうやらベッドの上に寝かされていたようで、衣服もいつもの衣装ではなくバスローブのようなものを着せられている。財布などを入れた腰ポーチもなくなっている。盗まれたか?いや、物を盗んだにしては君へのこの対応は矛盾しているだろう。体力もある程度回復している。君は助けてくれたアマゾネスの少女にお礼を言うために、探しに出ようと寝かされて居た部屋を出る。

 

「あっ、目を覚ましたんっすね。体調に悪いところとかはないっすか??」

 

部屋を出た直後に、ここで起きるのを待って居たのか男が話しかけてくる。君は問題ないことを告げると、男は頷いてから、団長からあなたが目を覚ましたら連れてくるように言われてるっす、問題ないっすか?と尋ねるので君は素直に従うことにした。移動する途中、君は少年に助けてくれたティオナという子にお礼を言いたいことを伝えると、どうやらこれから向かう部屋で待っているようだ。

 

それから2分ほど歩いた後、ようやくたどり着いたようだ。案内をしてくれた少年は扉の前で立ち止まり、ノックをする。

 

「ラウルっす、ティオナさんが運んで来た方をお連しました」

「あぁ、ご苦労。中に入れてくれ」

 

ラウルと名乗った少年は君に部屋の中に入るよう促す。君はノックをしてから、ドアノブに手をかけた。扉を開け中に入るとそこには、長椅子(ソファ)に腰をかけた少しくすんだ金髪の少年、その後ろにはティオナが立ち、そして昼間に見た赤い髪の女性?が、君から見て金髪少年の右側にある1人用のソファに姿勢を崩して座って居た。

 

「やあ、君がハイランダーくんだね。話はティオネから聞いている、座ってくれて構わないよ」

 

君は会釈をしてから金髪の少年の前にある長椅子に腰掛ける。

 

「さて、まず先に自己紹介をさせてもらうよ。僕の名前はフィン、フィン・ディムナだ。ここ、ロキファミリアの団長だ。ああ、団長だとかロキファミリアだとかで変に畏まらないでくれると助かる。その方が話しやすいだろうしね。僕の後ろにいるのは君もわかっているとは思うがティオナだ。君を連れて来たから今回の話し合いに参加してもらっている。そして、君から見て右隣にいる神物(じんぶつ)が僕たちの主神、ロキだ。今回君が出会ったモンスターは特殊なものでね、僕たちも情報が欲しいんだ。協力してくれると助かるが…」

 

フィンからの紹介を終えて、君はこの話し合いに協力することを承諾した。というより、助けてもらった礼を返さねばならない以上必然的なものだったと言えるが。

 

君はフィンからの質問に受け答えていく。

 

なぜ遭遇したか

 

なぜ戦ったのか

 

敵の攻撃パターン

 

敵の特徴

 

どんな攻撃で君があのような状態になったのか

 

君が気絶した後で何か覚えていること

 

そして、君のサイドポーチに入っていた五つの謎の石について

 

質問されたことに一つ一つ答えていく。どうにか質問攻めを切り抜けると、どうやら勘違いだったようで君と戦ったモンスターとは別の種類だったことがわかる。君は今回の話し合いについて他言無用を頼まれる。どうやら知られたくない情報が何かあったのかもしれない。君としてはなんら問題ないのでそれを了承。君は、ロキファミリアの方で洗ってくれたらしいいつもの衣装を着ると、槍を背中に括り付け、サイドポーチを腰につけて帰路へとついた。折れた骨が歩く衝撃で痛みを訴えるも、君はやせ我慢をして拠点(ホーム)のベッドで眠りにつくのだった。

 

 

 

五つの謎の石、君のサイドポーチにいつの間にか入っていたものに、君は見覚えしかなかった。それはそうだろう。これは君が肌身離さず常に持ち歩いていたものだ。何度も合成を繰り返して最高品質のそれを作ろうとしていたのは今や懐かしいものだろう。

 

グリモアと君の世界で呼ばれるモノ

 

それがこの世界でも生成されたのだ




君はこの力をどのように使う?


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閑話 とある神の懐疑

このペース、いつまで保つ(もつ)か、わからない。

作者心の一句

注意書き
ロキファミリアファンの方々、申し訳ございません。口調の真似がうまくできませんでした。団長やロキはこんなこと言わない!ってなるかもしれないので気をつけてください。


「どうやら彼の遭遇した敵は、アイズたちが出会ったモンスターとは別の存在だったようだね。ホッとすべきか、無駄骨だったと思うべきか、いやそんなことより…ロキ、どうしたんだい?彼と話している時も黙っていたが、何か引っかかることでもあったのかい?」

「ん、ああ、すまへんな。そうなんよ、ティオネが連れてきたハイランダーとかいうやつ…ほんまに人間(・・・・・・)なんか?」

「ロキ、それはいったい…」

 

2人だけの空間にお互いの声は響きあう。ロキ・ファミリア団長、ファン・ディムナ、そして主神であるロキ。ティオナが他の脱走モンスターやイレギュラーがいないか、パトロール中に見つけたのが先ほど帰った槍使いの冒険者ハイランダー。彼からの情報を統合して、彼が自分たちの仲間(ファミリア)たちとは別のモンスターを相手していたことがわかる。つまり、彼は我々の事情とは無関係の人間であったことがうかがえる。彼が持っていた魔石のような5つの石、彼は自分たち一族にとってのお守りと言った。だが、彼は明らかに自分たちの知る民族部族の中にいない人間だった。追求してもいいが下手なことをして機嫌を悪くされても困る。それ故にあえてなにも追求しなかった。50層で出てきた芋虫型のモンスターや今日アイズたちが出会ったモンスターとは関係の無いモノだったが、なにやら不思議な力を感じた。それも気になったが今追求すべきことではなかったために、あえて無視することにした。

そして、彼のことを気にしているロキ。その口から出た言葉は彼が人間なのかという懐疑だった。

 

「彼は人間のはずだ。触診や失礼だが勝手に見せてもらった背中の神聖文字(ヒエログリフ)が、その証拠だ」

「ああ、人間(フィンたち)にはわからんようになっとんねん。(うち)らだからこそわかる部分やからなぁ」

「まさか、ロキ…彼が嘘をついているかわからなかったのかい?」

 

 

「あぁ、そのまさかやで。まるでわからんかった。嘘もホントもぜーんぶわからへんのや」

「まさか、神を欺くことができる…スキルか何か知らないがそれは面倒なことになった。彼が言っていたことが本当だったかどうか、全部怪しくなるね。一応、僕から見て嘘をついているところは無かった。もしかしたら隠していることはあるかもしれない、それが何かはわからないけど。それが僕らの害になるならその時はどうにかするしかない」

「せやな、アイツが何もせなウチらも何もせんでええんやけど…せや、フィン。自分アイツが持っとった石のこと覚えとるか?」

「ああ、彼がお守りだと言っていたモノだね。確かに不思議な力を感じたけどあれに何かあるのかい?まさかあれでロキが嘘をついてるかわからなくなったって言うのかい?」

「いんや、それとはまた別の話。アイツが持っとった石、不思議な力が宿ってるて自分言うたな。当たりや。あの石、どえらいもん秘めてるでぇ。それが何かはわからんやけどな」

「彼は少々わからないことが多い、警戒するに越したことはない…か」

 

フィンはロキの言葉に驚いていた。まさか神が人間の言葉の嘘と真実を分けることができないとは思っていなかったのだ。しかも、目星をつけていたあの石、あれにも秘密がある。彼は少々、神たちの興味を引きすぎてしまうようだ。これから面倒ごとが多くなりそうな気配を感じながら、フィンは談話室から出ていくのだった。

 

「にしても、あのマークどっか見覚えがあったんやけどなぁ。こう、懐かしいというか憎たらしいというか…まっ、ええか!

そんなことより、ソーマからぶんどっといたやつ、そろそろ飲んでみっかー。失敗作言うてたけど美味いことには変わらへんやろ!」

 

神は独り言ちると、気を紛らわすために酒へと手を伸ばして言った。



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君は探し人を見つける

そろそろ、ようやく一巻部分が終わりそうです


 

君は目を覚ました。見慣れた石造りの天井に少しだけ埃っぽい空気、君の拠点(ホーム)は君の目覚めを歓迎した。まだ血が足りないらしく頭痛とふらつきが取れない中、ジャガ丸君を焚き火で温め、井戸水を汲み取り食事を用意する。だが君は無性に肉が食いたい。昨日の怪物祭(モンスターフィリア)ではほとんどお金を使わなかったのでサイドポーチには4000ヴァリスほど入った財布がある。

それで何か食べにいくのもいい、しかし君は自分の得物を見る。そこには無茶な使い方と力の入れ方で、穂先がもうボロくなっている新品だったはずの槍があった。君はこれのメンテナンスを早速頼みにいくのもいいだろう。

 

腹が減っては戦はできぬ、誰の言葉かは全く知らないが良いことを言う。アレの鑑定をしていたら昼になっていたので、この前ベルが案内してくれた豊穣の女主人へと行くことにした。この時間にやっていれば良いのだが…

しかし、ベルとかみさまはどこにいるのだろうか。昼になっても帰って来ないが2人して昨日の自分のように襲われた?いや、ベルならきっと大丈夫だ。だとすると、誘拐?いやそれも違うだろう。こんな貧乏な組織にわざわざ金を毟ろうとする輩はいないか。なら、どこかの宿に泊まっているか?うーん、わからん。とりあえず街の中を聞き込みしながら探すか。聞き込みで思い出したが、あの探偵は元気にしているだろうか。また、厄介ごとに首を突っ込んでなければ良いが。

 

そう思いながら君はメインストリートを移動する。いつもの衣装に背中に括り付けられた槍、穂先にはいつも通り布を付け、そして君の腕には見たこともないブレスレットが付けられている。ブレスレットには何かをはめ込むための部分がある。本来ならそこには宝石の類をつけるのだろうが、君のブレスレットには光沢の無い紫色の石がはめ込まれていた。

 

グリモア

 

君の世界でそう呼ばれる不思議な力を持つ石だ。それは所持者にグリモアが持つ力を与える、スキルの付与、強化、能力の底上げ、様々な効能を所持者に与える不思議な石。君はこの石に仲間の力を感じ取ったのだ。今君は仲間だった医師(メディック)の力が込められているグリモアを付けている。ここまで来れたのも、それの力のおかげなのだ。

 

回復のグリモア[11]

リジェネレート5

リフレッシュ5

簡易蘇生1

 

このグリモアに含まれている力、リジェネレート。対象を癒し続ける魔法。これのおかげで君はそれなりに動く体力を回復できた。君は仲間の医師に感謝の念を送りつつ、ベルたちを探しながら豊穣の女主人を目指すのだった。

 

普段より時間を浪したが、君は豊穣の女主人にたどり着くことができた。残念ながら君は、道中ベルたちを見つけることはできなかった。しかし、どうやらまだ開店していないようで、中では清掃をしている従業員(ウェイトレス)たちが談笑をしている。あっ、店主に怒られた。

そんな、中の様子を見ていた君に後ろから声がかけられる。

 

「ハイランダーさん、でしたか。ここで何をしているのです?」

 

後ろを振り返ると先日出会った、リューが食材の入ったバケットを腕に下げていた。君は腹が減ったから、そしてベルと神様を探しながらここに来たことを伝える。すると、リューは一度店内の方へ目をやると、君についてくるように指示をする。君は開店前の店内へ入ると、奥の方へ連れていかれ階段を上る。二階には従業員たちの自室や、空き部屋があるようでその中の一つに、リューはノックをしてから入る。君はそれに続いて部屋の中に入る。するとそこには、ベルがベッドの上で安らかに眠っており、かみさまはベルに寄り添うように、椅子に座りながらベッドに身体を預けて眠っていた。なるほど、2人がいないわけだと君は納得した。

君はどうしてベルとかみさまが居るのか事情を訪ねる。なんでも、怪物祭でモンスターたちが檻から脱走し、そのうちの一体をベルは倒したらしい。そして、モンスターたちが脱走したことを聞きつけたリューが、シルを探しに来たところ、かみさまがベルをどうにかこうにか運ぼうとしているところを偶然見つけたらしい。

1人で自分よりも格上へ挑み、見事打ち勝ったベル。君はベルの頭を撫でると、よく頑張ったなと言って部屋から出て行く。下では仕事しろと、店主の雷が落ちているようだ。君は店主たちにベルとかみさまを助けてくれてありがとう、と伝える。

 

「別にただ助けてやったわけじゃないさ、起きたらたんまりうちの店の料理を食っていつてもらうからねぇ!

別に気にしなくていいさ、あんたもまた来な。大食漢はいつでも歓迎するよ!」

 

店主はそういうと快活に笑っていた。君は、夜にまた来ることを伝えると店を出て行き、君はバベルを目指して歩き始めるのだった。

 

 

 

バベルに辿り着くと、君はエレベーターで彼女が居る階まで昇り、一週間も経たないうちに彼女との再会を果たした。

 

「あれ?一週間もたってないけどもう来たの?まだ新しい子は作ってないからまだ待っててほしいんだけど」

 

君は、シャルネルがもう新しいモノを買いに来たと勘違いしているらしいので、槍の布を外してシャルネルにメンテナンスを頼んだ。

 

「えっ、嘘。もうメンテナンスするの?そんなに柔な作りをしてないはずだけ…ど…

 

ああぁぁぁ!?

 

なんでもうこんなにボロボロになってるの?穂先は少し刃こぼれしてるし、柄の部分にヒビが入ってる…いったいどんな無茶したのさ!?」

 

君は、ちょっと強敵が現れたから全力で戦って倒すことはできたが、その全力の結果槍に無理をさせてしまったことを伝える。シャルネルはもっと大事に扱ってよね!と文句を言いながらポカポカと叩かれる。レベル2の彼女のパンチは思いの外、君の体に響いたようで骨の痛みを我慢するのだった。しかしながらシャルネルは君からのメンテナンスの依頼を受け入れた。2日後に取りにくるように言われると、君はシャルネルに謝りながら代金を支払って、店から立ち去ろうとする。しかし君はシャルネルに呼び止められた。

 

「ねえ!君の名前、この前聞けなかったからさ、教えてほしいんだ。その、これからお世話になってもらう予定だから聞いておきたくて」

 

君はシャルネルに、ハイランダーだ、そう一言だけ伝えると軽く会釈をしてから、シャルネルの店を後にした。

 

 

 

「へぇ、ハイランダーって言うんだ…

 

早速ボロボロにしてくるなんて思ってなかったけど、乱暴に扱ったわけじゃなくて本当に一回だけ無理させたみたい。その一回でこの子がここまでボロボロになるなんていったい何させたんだか…さて、しっかり直してあげないとね。今度はハイランダーが全力を出してもいいようにしてあげなきゃ」

 

鍛治士は槌を振るう。魂の炎を炉にくべて、己が想いを武器へと吹き込む。

 

鉄はゆっくりとその形を変え、創造主の思いのままに形を成す。

 

幼子は涙を撒き散らし、甲高い産声をあげてその()を持って生まれ変わる。

 

その目に一切の陰りは無く、その手に一振りの狂いもなく、真剣のように鋭い眼差しを己が作品()へと向けるのだった。



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君はこの世界にて成長を遂げる

一巻終了までステータスをほとんど更新しない冒険者がいるらしい

みなさん、戦闘終了時のBGM(鉄華 至宝を得よ)を用意してくだせぇ


 

夜、PM08。君とかみさまとベルは豊穣の女主人で、舌鼓を打っていた。パン、パスタ、ステーキ、ハンバーグ、シチュー、ピザ、スープにジュースに酒、各々が思い思いに料理に手を出していく。

 

パンは外が少し硬めだが、千切ってみると中身はとても柔らかくそして、温かい。そのまま食べても甘く、シチューにつけて食べるとシチューの濃厚な甘みを、柔らかなパンの甘みで包まれた絶品となる。

 

パスタはナポリタン、ミートソース、ペペロンチーノの三種類。どれも丁寧な味付けとタネの味がパスタにしっかりと絡まり、匂いだけで食欲を増進させる。フォークで啜る度にものすごい速さで消えていった。

 

ステーキ、ハンバーグ。どちらも肉の王道と言えるがステーキには胡椒だけの簡素な味付けだが、ほとばしる肉汁と噛み応えのある肉の食感、そして何よりも大きさだろう。300gはかたくない。ハンバーグにはデミグラスのソースをかけ、ナイフで外皮を切り裂く度に肉汁が溢れ出す。ステーキとはまた違う肉の甘みと旨みを一つの塊に閉じ込めた一品はまさに芸術といっても過言でないだろう。

 

シチューはただ濃厚で甘いだけでなく、具材の野菜の柔らかさ、濃厚だがくどくない甘み、そして何よりこのトロリとした食感がたまらない。

 

ピザを覆うチーズと下地のトマトソースは、チーズの激しい主張を酸味で穏やかなものにしている。具材のサラミやベーコンは、口の中に入れる度に程よい塩気と肉の甘みでスープや飲み物へと伸ばす手を加速させる。

 

スープは胃に優しい野菜スープで人参、玉ねぎ、溶き玉子、ジャガイモやネギが入っており、主張のない心と、舌を温めてくれる味だった。

 

 

 

代金は、ベルが怪物祭(モンスターフィリア)で使わなかったお金と君の所持金の残りで支払うことができた。

 

「しかし、ベル君もハイランダー君も無事でよかったよぉ〜!ベル君はモンスターを倒したら倒れちゃうし、ハイランダー君も別の場所で傷だらけになって血まみれになったそうじゃないかぁ!君たちはどうしてボクに心配ばかりかけるんだいまったく!ホントにまったくぅ!」

「かみさま、一応僕もハイランダーさんも無事でしたしこれぐらいにして、これ以上お酒は飲まない方が…」

「何が無事でしたしだぁい!ベル君にもハイランダー君にも言ったじゃないかい、ボクを一人にしないでおくれって、なのに二人とも無茶ばっかりしてぇ!ボクの気持ちも考えたらどうなんだい、えぇ!?」

「か、かみさま、落ち着いてください!ハイランダーさんも食べてないで助けてくださいよ!」

「あ〜ん?ベル君はボクの話が聞けない悪い子なのか〜い?ボクは悲しいよ、オヨヨヨヨ」

「かみさまの話が聞けないとかじゃなくて、あーもう誰か助けてぇ!」

 

酔っ払いの泣き上戸が、いや胸に抱いている本音がベルの心に突き刺さる。君は聞きながらも料理に手を伸ばすことをやめない。ベルは君に助けを求めているが、ベルが抱きしめてやって一言、かみさまを一人には絶対させません(キリッ)ってやればイチコロなのに、そう思いながら君は麺をすする。かみさまの気持ち(乙女心)を真に理解していないベルはこの後も泣き上戸に付き合わされたとか。君は疲れたベルに変わってかみさまを背負うと、ベルとともに拠点(ホーム)へと歩み始めた。

 

 

 

翌朝、二日酔いに頭を痛ませるかみさまを横に、少しボロボロになったベルとともに朝食の支度を終える。

何やらベルが朝早くから起きて、自分と稽古をしたいと言うのだ。何でももっと戦い方を勉強して技術の強さを得たいらしい。急所を狙う、弱点を読む、そして、戦いの技術。ナイフを無くしても素手で戦うことができるようになりたいと、あの一件(怪物祭)のときに思ったらしい。素手で戦うことができるようになることは間違っていないが、前提が違うのだ。あくまでも得物持ちが素手で戦うのはその場しのぎのためであり、決して素手で自ずから戦いに行くための技術ではないのである。故にリーチ的にベルが覚えるべきは足技と呼ばれるものだ。

ベルのようにナイフを使い、ほぼ超至近距離(インファイト)のレンジにおいて取るべきは、いかに勢いを落とさず連撃を叩き込み、相手に隙を与えず、ダメージを与え続けるかが重要だ。ナイフだけではどうあがいても隙が生まれてしまう。だからそこをカバーするためにナイフの勢いを蹴りなどに転化し、持続的な攻撃をすることが効果的だと教えた。槍のように引いてタメを作るような武器には特に有効だ。タメの隙をついて連撃をかけ、相手に攻撃の隙を与えない戦い方もある。他にも魔法しか使わない、近接慣れしてない魔法職、回復職(ヒーラー)再装填(リロード)に時間のかかる弓や銃などの遠距離職、そんな奴らにも有効だ。ダンジョンにもそんな奴らがいるかもしれない。だから覚えておいて損はないと思う。他にもーー

 

 

君の授業は自分の知識を垂れ流し、ベルへと叩き込むために座学と実践を何度も繰り返す。今回は槍がないため、ベルと格闘戦をしてみたがベルはなかなか踏み込む勇気と、間合い、空気(タイミング)を掴むことができなかった。初日はこんなもんだろう。すぐに掴めたらそいつは一種の化け物だと、君の冗談にも笑うほどの体力が残ってないベルは激しい呼吸で返すのみだった。稽古を終えて井戸水で身体を流して今に至ると言うことだ。君はかみさまに水を渡すと、礼を言ってからゴクゴクと飲み干す。いくばくか楽になったようで食事を三人ですませると、ベルと自分のステータスを確認しようとのことだった。お互い強敵を倒したことで上質な経験値(エクセリア)を手に入れることができたに違いない、とのことだった。まずはベルからやってみたが、魂の昇華(レベルアップ)自体はなかったが経験は形を数字へと変え、ベルを祝福するのだった。

 

 

ベルの更新を終えて、ハイランダーの更新を行う。君は神様の報告に少しばかり驚いてしまった。なんと、自分のレベルがこんなにも上がっていたのだから。確かにレベルアップはすると思っていたが、ここまで大きく出るとは思っていなかった。だが、当たり前ではあるのだ。君はオラリオに来てからまともな経験値を得始めて一度もステータス更新をしていないのだから。経験値が溜まりに溜まって君の力となり、君を祝福する。

 

そんな風に、本当の物語(ファミリア・ミィス)とは違う、別の物語(ファミリア・ミィス)が、君を待ち受けている。君はこの物語を進めていく主人公なのだから!

 

 

 

 

さあ、キミはもっと強くなるのだ。世界樹というこの世の理を逸脱し、キミを歪に守る祝福を受けて、キミはこの世界に流れて来た理由を知るのだ。

 

 

 

【ベル・クラネル】

種族:ヒューマン

ホーム:教会の隠し部屋

職業(ジョブ):冒険者

到達階層:6階層

所持金:37200ヴァリス

武器:短刀(ナイフ)

 

Lv.1

力 :D. 539

耐久:G. 258

器用:D. 583

敏捷:C. 635

魔力:I. 0

 

《魔法》

【】

 

《スキル》

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

懸想(おもい)が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上。

 

 

 

 

 

ステータス

name<ハイランダー>

ホーム:教会の隠し部屋

職業(ジョブ):冒険者

到達階層:6階層

所持金:100ヴァリス

武器:素手

レベル23

《魔法》

[なし]

《スキル》

[世界樹の加護]

世界の法則にとらわれない

自身の法則を書き換える

他者(ヘスティア以外)からの加護・呪いを受け付けない

 

[グリモアの継承者]

グリモアを鑑定・合成ができる

グリモアの装備・生成ができる

 

覚醒(ブースト)

強敵との戦いで危機(ピンチ)に陥った時、レベルアップ補正・スキル補正

 

[世界樹の踏破者(英雄)

地図を書く時、正確さ補正

迷宮探索時、スタミナ補正

迷宮探索時、正確な時刻の把握ができる

 

SKILL

SKILL POINT0

 

槍マスタリー10{+8}

ロングスラスト1

シングルスラスト1

レギオンスラスト1

ブレインレンド1{new}

スピアインボルブ1{new}

ディレイチャージ3{+2new}

→クロスチャージ2{+2new}

 

ATKブースト3{+3}

ハーベスト1{+1new}

ブラッドウェポン3{+3new}

 

DEFブースト1{+1}

防衛本能1{+1new}

 

HPブースト1

リミットレス1{+1new}

 

グリモア

-守護のグリモア-〈9〉

挑発5

決死の覚悟1

安息の祈り3




というわけで、ようやく一巻が終わりました。そして、書き溜めが尽きました。2話から書き溜めを始めて、投稿、書き溜め、投稿、書き溜めを繰り返しなんとかここまで続けれましたが、ステータスについてとかレベルについてあーでもないこーでもないやってたら余裕がほとんどなくなりました。

二巻はベル君には原作通りに、彼にはオリジナルの冒険をしてもらいます。

ただ予定ですし、すぐに投稿できるかわかりません、そして、スキルなどに関しての説明を一度挟んでから二巻に入る予定です。

なんだかんだでここまで続けられたのは皆様のおかげです。
ありがとうございます。



君たちがこの先にも興味を持つというなら、この物語を読み続けてもいい


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設定資料 ハイランダーの巻

だれかスマホでctrl+z(1つ戻す)のやり方知ってる人はいませんか?(コピペでガバって一度資料を全消しにした敗北者


レベル

先駆者様(他の作者の方)はレベル10刻みでダンまちレベルに変換(LV30=lv3)していました。この作品でも同じようになりそうです。

 

スノードリフト(第一階層ボス)→ダンまちレベル2

ケルヌンノス(第二階層ボス)→ダンまちレベル3

コロトラングル(第三階層ボス)→ダンまちレベル4

イワオロペネレブ(第四階層ボス)→ダンまちレベル5

世界樹の王(第五階層ボス)→ダンまちレベル6

弱体化フォレストセル(ラスボス)→ダンまちレベル7

 

戦闘メンバーは五人(世界樹の法則に則り)で挑戦すれば戦えるんじゃない?くらいを想定しています。

 

逆算すると大体階層х3レベルになってしまうことに気がついた。

 

これからも容赦なくハイランダーにはレベルを上げてもらって強くなっていってもらいます。

 

 

探索ペース

一層ごとに大体30分から三時間くらい。原作でベル君が初めて18階層に着いた時に、ヘスティアたちがハイペースで探索して18階層まで1日掛かっているからこのくらい?

 

 

グリモア

グリモアの利用ができるのはハイランダーのみ、グリモアチャンスは彼に影響を受けた人に訪れる。

グリモアの生成は強敵との戦いや窮地を乗り越えた時にチャンスが訪れる。絶対に生成されるわけではない。

グリモアの合成はハイランダーが時間をかけて行う。成功するかしないかは見よう見まねなので五分五分。

世界樹のスキルやモンスターのスキル、本人の気質から生まれるスキルや、ダンまちのスキルや魔法が記録される可能性もある。

バグ技は使えません(きっぱり)

 

 

武器や防具

もちろん壊れます。磨耗するから整備は必須だし、酸だったり、つなぎの部分を切られたりで壊れます。

着てるだけで効果がある訳でなく、防具が対応してない部位にダメージを受ければそれ相応のダメージを受けます。

明確な攻撃力防御力の数値がないので選ぶときは鑑別と武器から発せられる雰囲気を感じ取って選びます。

武器と防具に装備上限はありませんが、意識的に武器と鎧、アクセサリーやその他で計4つの武具で構成するように意識してはいます。

 

 

戦闘

もちろんターン制なんかではなく能動的(アクティブ)に行かないと戦いになりません。殴っては殴られ、バフっては殴られではないのです。殴って避けて、殴りながらバフって、避けながら殴る。刻一刻と時間が進みながら戦ってるわけです。あと、世界樹の世界での戦闘は1ターン10秒くらいを想定しています(捏造)。ですのでバフは30秒くらいで切れますし、デバフもそのくらいで消えます。ただ、世界樹の毒は二ターンで死に至るくらい強いですが、流石にそれだとハイランダーの致死率があまりに高くなってしまうので、そこは緩和させてください。

そして、戦ってる間の行動を全部文に変えようとするとただでさえ描写が下手なのにさらにひどいことになります(体験談)

 

 

経験値とレベルアップ

経験値はATLUSさんよりメガテン、ペルソナシリーズから、弱い敵からは経験値の量が減少し、強い敵からは経験値が上昇する。レベルの差で経験値の量が上下する仕様です。

最初に出てくるゴブリンやコボルトではハイランダーの糧にはならなかったわけです。

今回の一件で一気にレベルが上がってしまったため、ここからレベルアップが少し遠ざかりました。低層にいる間はほとんど経験値がないものと思われます。

 

レベルアップはしますが魂の昇華(レベルアップ)はしません。ダンまちのレベルは上がりませんがボウケンシャーとしてのレベルは上がるわけです。そして、レベルの欄にも書いた通り大体世界樹レベル÷10=ダンまちレベル(端数切り捨て)くらいを指標にする予定です

 

状態異常と縛り

自然回復は一部あります

眠り:ダメージ受けるか味方に起こしてもらわないと起きない。何時間も寝ればさすがに起きるが、迷宮内でそんな余裕はないだろう。

 

毒:解毒薬無いと詰みます。ベル君たちは毒に強弱がありますが(弱い毒や強い毒、即効性遅効性の毒)ハイランダー君はどれを受けても共通して2分でhageます。全ての毒が世界樹仕様の毒に変換されてしまいます。ですので、ペロッ、これは青酸カリ!?なんてやったら2分後には死にます。

 

麻痺:痺れに対抗できれば動けますが、著しい速度の低下と攻撃力の低下、若しくは動くことができなくなります。これも全ての麻痺が世界樹仕様の麻痺になります。(攻撃力の低下は痺れてる手足でまともに武器なんか振るえないだろう、という感じでお願いします)

 

混乱:見境なく暴れまわります。基本的には目の前にいる敵に殴りかかりに行きます。正気に戻るまで殴るか、数分で自然回復します。

 

恐怖:逃げ出そうとするかその場から動けなくなります。まるで生まれたての子鹿みたいに足が震えます。喝を入れるか落ち着かせる、恐怖の対象を倒す、応援などで克服させるなどで治ります。ただし、ほとんどの行動ができなくなるので治せないと毒と同等に危険な状態になります。

 

縛り状態は一部自然回復があります。

ゲームでは縛られるとイバラに絡みつかれるマークが現れます。が、現実的にカースメイカーとかの呪いでもない限りイバラ出すのも不自然なのでこの世界ではでません。なので、ここでは目に見えない目に見える縛り状態があります。

頭縛りは脳への衝撃や頭部への目立った傷などがあると縛り状態になります。ナイフで頭を切られたり、頭を槍で突かれて大怪我をした時など。集中ができなくなる、集中をできなくすることでも発生します(音波攻撃や、脳を揺らす攻撃など)。魔法系統や、冷静な指示ができなくなる、一時的若しくは恒久的頭痛などを発生させます。

 

腕縛りは腕を失くす、手に怪我をさせる、指を失くす、腕の骨を折るなどで縛り状態になります。器用さが落ちて命中率が下がります。

 

足縛りは足に怪我をさせる、足を失くす、脚を失くす、骨を折る、などで縛り状態になります。逃走ができなくなります。著しく速さが落ちます。

 

共通して呪いなど(カースメイカーのスキルやダンまちにおける呪いなどが該当)は縛りを発生させる原因にもなります。

 

手足の欠損や、脳への著しいダメージを受けると永久的な縛り状態になります。自然回復があるのは、脳が衝撃を受けた状態から治る、怪我が治る、怪我の痛みに慣れて耐えれるようになる、骨折などが治る、呪いの効果が切れるなどがあります。

また、手足の欠損による縛りはダンまちのアイテム、エリクサーなどで回復すると手足が治るので縛りが治ります。

 

結論 治る縛り状態と治らない縛り状態があります

 

 

スキル解説

今までに出てきたハイランダーの技をご紹介

 

ロングスラスト

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて一番初めに覚える技。

全身に力を込めて腰と肩を引き絞り、一回の移動で大きく間合いを詰めて相手に鋭い突きを叩き込む技。通常攻撃よりも威力が高い。基本的に短い溜め、動作、基本の技ということで意外と利用する可能性が高い。

 

シングルスラスト

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて二番目に覚える技。

自身の体力を消費、又は出血して流れ出る血を利用して放つ範囲攻撃。基本は衝撃波として放たれるが、血が流れ出ていると血液によって槍を作り上げ敵の前列に叩きつける技。世界樹の時と同じ感覚で使えるため、範囲攻撃としてメインに使う技。

 

レギオンスラスト

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて二番目に覚える技。

味方の体力を消費、又は出血して流れ出る血を利用して放つ範囲攻撃。基本は衝撃波として放たれるが、血が流れ出ていると血液によって槍を作り上げ敵の前列に叩きつける技。世界樹の時と同じ感覚で使っていいものかわからないため封印中。範囲攻撃として使う技。

 

ブレインレンド

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて三番目に覚える技。

相手の脳天を穿ち頭の痛みで相手の集中を逸らす技。成功すると頭封じの状態になる。もちろん脳天を穿つため頭蓋骨を穿ち貫けば、即死させることもできるが大概硬くて抜けないので成功率は低い。が、頭が弱点のモンスターなら実力差次第でバンバン貫ける。

 

スピアインボルブ

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて四番目に覚える技。

味方の攻撃に合わせて相手を攻撃する技。大気に零れた属性因子を己の技術で増幅し、武器に纏って叩きつける槍の技術(マスタリー)唯一の属性攻撃が放てる技。

味方の属性攻撃(炎、氷、雷など)と組み合わさることで真価を発揮する技。味方の放った属性攻撃と同じ属性を何種類でも纏い、攻撃することができる。物理攻撃の効かない相手や弱点を突く際に用いられる技。

 

ディレイチャージ

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて五番目に覚える技。

ハイランダーの一族に伝わる奥義(捏造)

己の血を用いて血の槍を作り出し、血の槍を完成させると放たれる大技。自分の攻撃と同時に槍は意思を持つかの如く敵を穿たんと全力で突貫してくる。

血液を用いるため、自傷して血を流すか、戦いの中苦戦して傷を負わないと基本的に使えない。体力も大きく消費するためゲーム版とは違いボス戦中とかに何回も打てる代物ではない。

ハイリスクハイリターンの典型。ハイランダーが意識を失うと技が解除される。

 

クロスチャージ

槍の技術(マスタリー)を体得するにおいて五番目に習得できる技。その派生技。

血液を槍に纏わせて、ディレイチャージと合わせて放つ大技。こちらも体力と血液を消費する。また、この技を使うと、形成が完了してなくても血の槍が強制的に放たれる。

ディレイチャージと同時に放つため別角度から攻撃すれば二点同時攻撃が可能な技。ディレイチャージに合わせて放つ前提の技で高火力なのだが、誤って単体で使うと威力がほとんど出ない技となる。食人花にとどめを刺した技。

 

ハーベスト

ATKブースト(威力を増加させる技術)を覚えていく上で初めに習得できる技。

相手にとどめを刺した時に相手の生命力を奪い取り、味方全体の体力を回復させる技。レベルが高くなればなるほど相手から奪える生命力の密度が上昇し、回復する体力も増える。回復力は敵の強さによって変動する。

 

ブラッドウェポン

ATKブースト(威力を増加させる技術)を覚えていく上で二番目に習得できる技。

自身の血液を武器に纏わせることで、それを触媒に物理威力と属性威力を上昇させる技。範囲にかけることができるバフ技だが、この効果を拒否する味方には付与できない。受け入れることができるものにだけ効果が付与される。対象の周りを渦を巻くようにして血液がまとわりついていることが、付与されている目印。

わかりにくいイメージ図

↓←↑

血人血

↓→↑

なんとなく思いついたのは、床屋さんとか美容室の前にある、青と赤のアレがクルクル回ってるやつ。あれの中身が体の周りを回ってる感じ。

 

防衛本能

DEFブースト(防御、受け流す技術)を覚えていくことで初めに習得できる技。

感覚的に相手が何をしようとしてくるかを察知して避ける、こちらの弱点を相手が突こうとしてきたときに本能的に躱すなどを行う、勘と技術を鍛える技。状態異常は防げない。というか、全体に一回だけデバフ無効を付けられるのはずるいし、説明がつけれないので効果を捏造しました。

 

リミットレス

HPブースト(体力を向上させる鍛錬法)を進めていくことで初めに習得できる技。

体力を普段より多く消費することで威力を増加させる技術。そして、自身の血液を利用して様々な武器の形に変形させることで、10秒程だが別の武器の技を使うことができるようにもなる。

 

以上が技の解説

 

基本的に体力消費=血液、又はスタミナの消費をイメージしています。ですので強敵と戦うたびにハイランダーくんは血まみれになります。

 

ただ、これらの技の動作や演出などはあくまで作者の妄想です(特にブラットウェポンとかリミットレスとか)。

 

 

余談ですが、覚える技と書かれているものには習得する際にスキルポイントを使用しない、習得できる技と書かれているものには習得する際にスキルポイントを使用する、技のレベルアップにスキルポイントを使用するという設定があります。ゲーム版の新世界樹の迷宮ミレニアムの少女をプレイしたことがある人はわかる仕様です。

未プレイでこの小説を読んでくれている方々に簡潔にまとめますと、ハーベスト、ブラッドウェポン、防衛本能、リミットレスはスキルポイントを使用しないと覚えることができず、使用することもできないということです。

(説明がド下手クソで、すみません)

 

 

 

 

ハイランダーの固有スキルについて

[世界樹の加護]

世界の法則にとらわれない

神が贈る恩恵の法則に当てはまらない(レベルは世界樹式だし、スキルは覚えるし魔法だって何種類も使える)

神に嘘がつける(神は人の言葉の真偽がわかるがそれがわからなくなる)

何者にも傷をつけることができる。たとえレベル差があろうが能力差があろうがダメージを与えられる。ただし、勝てるわけではない。(ゲーム内で攻撃さえ当たれば相手にダメージを入れられることを再現。ただし倒せるとは言っていない)

 

自身の法則を書き換える

レベルアップやスキルが世界樹式になる。

属性の概念が三属性と三物理に置き換わる。

(特定の攻撃に属性付与、属性転換がなされる。例、ダンまち原作外伝より魔法アルクス・レイ、光の光線で敵を追尾する→光の光線で敵を追尾する炎属性の攻撃)

状態異常が世界樹式になる。

縛り状態を受ける、または相手に付与できる(例ブレインロンドによる頭縛り)

 

他者(ヘスティア以外)からの加護・呪いを受け付けない

他の神から恩恵を受けることができない(ヘスティアファミリアから移籍できない)

呪いなどを全て無効化する(ダンまちの魔法による呪い、世界樹のカースメイカーの呪いなど)

 

[グリモアの継承者]

グリモアを鑑定・合成ができる

グリモアの装備・生成ができる

 

覚醒(ブースト)

強敵との戦いで危機(ピンチ)に陥った時、レベルアップ補正・スキル補正

強敵(階層主(ボス)、高レベル冒険者など)との戦いで死にかけると、一時的にレベルが上がり、全スキルのレベルが5上がる(習得、未習得関わらず)

 

[世界樹の踏破者(英雄)

地図を書く時、正確さ補正

迷宮探索時、スタミナ補正

探索するだけなら実質無限。(ずっと歩いていられるし水と食料さえあれば迷宮内で生活することもできる)戦闘中は補正が切れる。

迷宮探索時、正確な時刻の把握ができる

 




間違いやここが足りてない、これはどうなの?
そういった疑問質問意見をお待ちしております。なにぶん作者も思いついたことを殴り書きで書いたので、足りない箇所が多少なりともあるはずです。どうかご協力お願いします。


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鉄は延炎と叩かれる
君はデートをする?


二巻、始まります(なお原作主人公とヒロインの出番はほとんどないオリジナルパートな模様


「はい、前より耐久力を上げたから早々刃こぼれとかしないはずだ、け、ど!

大切に扱ってよね、君は予備の武器も持ってないんだし、ダンジョンの中でこの作品()が戦えなくなったら君は素手で戦うことになるんだからね」

 

少々日が経って武器の修理完了予定日になった君は、バベルへと足を運びシャルネルから新品同然となった得物(相棒)を受け取る。説教を受けつつも感謝の言葉を伝えながら目的の物を貰い受ける。そして、君は早速ダンジョンへと向かうために踵を返したが、すぐさま首根っこを掴まれてしまった。もちろん掴んでいるのはシャルネルである。

 

「決めた、(あたし)君の探索についてくから。決定ね」

 

君はシャルネルのゴリ押し気味な発言に疑問を唱える。シャルネルは眉を八の字に曲げて不服そうな顔をしながら答えた。

 

「君の今の態度、そうやって死に急ぐみたいにダンジョンに潜りに行こうとするのを見るとね、はっきり言って心配なの。それに君が私の作品()をいったいどんな使い方で振るってるのか興味があるんだ。また今回みたいな使い方されると(あたし)も悲しいし、それに君の戦い方を見てどんな調整をすれば君が使いやすくなるかも知っておきたいし。

とにかく、絶対ついていくからね!今から潜るっていうならすぐに準備するから」

 

やる気に満ち溢れている彼女を見て、迷宮探索について来たかつての店主を思い出す。鍛治士はダンジョン探索にくるものなのだろうか?君は疑問を抱えたまま彼女の言われるがままに、迷宮探索へと共に挑むことになったのだ。

 

 

 

 

「一応、私はレベル2の冒険者なんだけど、君は私とならどこまで潜れると思う?」

 

まさかのカミングアウト(自分より強い発言)に、君は呆気にとられてしまった。まさか鍛治士の少女が自分より強く、1つ先のステージにいることを知った君は、意外だという顔を隠せなかった。

 

「むー、言っておくけど私の方が君より先輩なんだからね。ダンジョンだって仲間(ファミリア)のメンバーと18階層までなら行ったことがあるんだから。あそこにお店を構える前の話だけど」

 

さらに君は驚いた。彼女は自分の到達階層より3倍も深く潜っているのだという。彼女の悪気のない発言は、君の心に1つ楔を打ち込んだのだった。彼は最前線を走る冒険者だった。故にこの3倍という大きな差をどうすれば覆せるのか、大いに頭を悩ませていた。

 

「あっ、それとダンジョンに行く前に荷物チェックするね。必要なものが入ってるか、不要なものが入ってないか確認して無駄を省かないと。私も久しぶりの冒険だから忘れ物とかないか確認しておきたいんだ」

 

ようやく言葉の刃を切り抜けた君だったが、荷物チェックで思わぬ指摘を受けた。

 

「ポーションよし、灯り(ランタン)よし、食料に水、寝袋はいいとして…ねえ、これって何?」

 

シャルネルが取り出した物、それは紙とペン。冒険者にとって生命線の1つでもある地図の作成に必要な道具である。

 

「地図は自分たちの手で書くものって…ダンジョンにいる間そんな余裕ないでしょ?いつ襲われるかもわからないんだから」

 

まあ、紙とペンならさしたる重さでもないしいいかな。シャルネルは紙とペンは見逃してくれたが、まだ気になるものがあるらしい。

 

「ねえ、このちっちゃな袋は何?表面に糸玉みたいなのが描かれてるけど」

 

それは、君にとって一番大事なお守りである。この世界に来てアリアドネの糸がないことを知った君は、本当にないのか探し回ったあげくに見つからず、ついには自分で布袋を買い、アリアドネの糸の絵を描いて中に100ヴァリスを入れることでお守りがわりにしているのだ。ここ最近ようやく出来たばかりの自作の帰還祈願のお守りである。

 

「大切なものなんだ、そのお守り。見たことないけど何を願ってるものなの?帰還祈願?アハハハハ、初めて聞いた!でも冒険者たちには縁起がいいかもしれないね。

さてとっ、準備も出来てるみたいだし…

 

いこっか」

 

 

 

君たちはダンジョンの中に足を踏み入れる。あいも変わらず薄暗いダンジョン内だが、仄かに道筋を照らす明かりは、同行者である少女の姿を照らし出していた。

 

「ん? どうしたの、私のこと見つめて」

 

普段は薄い布を胸と腰に巻きつけ、首飾りなどしかしていないシャルネル。アマゾネスの服装は特徴的で、とにかく動きやすさを重視している。故に露出度が高く、胸と腰回りしか隠していない衣装がほとんどである。

冒険に出るときもそれは同じなようだ。普段から主張性のある胸は、胸当てのせいでいつもより強調されている。腰回りも普段とつけている物が違うようで、スカートなのだがスリットが入っていて生地も薄く脚が透けて見えてるのだ。ヘソ出し、生足、魅惑の褐色地肌。しかし本人には恥じらう様子はなく、これが普段通りの衣装なのだろう。背中には大弓を、腰には矢筒と短剣が取り付けてあり、彼女が後衛職なのが見て取れる。あの弓ならばモンスターたちを撃ち抜くなど容易いだろう。

 

君は彼女の装備を確認すると、それで大丈夫なのか尋ねる。しかし、彼女はいつもこれで戦って来たようで、余裕の表情を浮かべている。なら大丈夫だろう、君はシャルネルのことを信じて迷宮の奥へ歩を進める前に、シャルネルに呼び止められる。

 

「そういえばさ、君、その子の名前って知ってたっけ?」

 

そういえば相棒ともなろう武器の名前を聞いていなかったことを忘れていた。君は改めてシャルネルにこの武器の名前を訪ねた。

 

「この子の名前は、アルケス。

 

君のために生まれ変わった、君のための槍」




武器の名前に特に意味は)ないです。思いつきでつけました

それと、突然のアンケートにご協力いただきありがとうございます。意外にもベーシックの票が多くてびっくりしました。ヒロイックでダンまち勢にもハイランダーにもトラトラウマウマして欲しいという声が上がるものかと思っていたので。


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君はアリと対峙する

一章を書いてから約1ヶ月、もともとプロットもない作者のノリと自分の中で流行ってる言葉とかで作られてるこの作品で、二章をどうしようかと悩んだ結果。

ノリで作った方が早いということになりましたので投稿再開します。

しかし前のように2日に1話みたいな定期的な投稿ペースではなく日数も話数も不定な感じで進めていきます。勝手ながら申し訳ないですが、どうぞよろしくお願いします。


 

君はシャルネルと共にB7F〜死を女王に捧げる者〜まで歩を進めていた。新しくなった君の武器は以前よりも鋭さを増し、ここに至るまでの敵を容易く貫いていた。それどころか一気にレベルが上がった分、力の調整がうまくいかず槍がすっぽ抜けて壁に突き刺さりシャルネルの頬を引きつらせていた。シャルネルも君の後ろで見ているだけではなく、引き絞られた弦から放たれる矢で浅はかなゴブリンを3枚同時に貫き、腰にくくりつけられているナイフは近寄るウォーシャドウを一閃した。ベルよりも鋭く早い動きはベルとは格段に違う。動きは本職のそれとはまた違う動きだが十分に通用するものだ。

 

「ふふーん、どう?私だって一応冒険者として戦えるんだからね。普段は槌を振ってるばっかりだけど」

 

シャルネルは君に胸を張って自慢げに言う。君はバックパックに魔石やドロップ品を回収しつつ、素直に感想を告げていく。

レベルによる差は大きい。あのサムライとカースメーカーの少女を思い出して少し身震いがする。あの時は苦戦したものだ。斬撃は一撃が鋭く、呪いは手足を蝕む。迷宮のモンスターよりも人間の方がとても強敵だ。

君は対人戦の恐ろしさをふと思い出してここの世界の人間とは戦いたくないなと思うのだった。

 

 

 

アリだ

 

君の目の前にはアリがいる。それも数体ではなく数十体ほど。ギチギチとハサミを鳴らし、赤く光る瞳は君たちを見据えている。薄暗い中で何十と光る赤い光は壮観だが、敵意がなければの話だ。君たちが武器を構えると同時にアリたちは襲いかかってくる。

アリは大きいのだが小さいと言う矛盾がある。全長は大きいのだが全高は小さい。体全体が低い位置にいるため槍で刺すのが少し厳しい。飛びかかってくるアリは簡単に貫けるのだが、一撃のミスはできない。数が多いので隙を見せるのは愚の骨頂だろう。後退しながらシャルネルの矢で数を削ってもらっているからなんとかなるが面倒だ。隙をつければ一掃できるがそうできないように詰め寄ってくる。近寄られすぎると逆に槍で刺せない。こういう時にナイフがあると便利なのだが…無い物ねだりはしても無駄だ。ならばやることは決まっている。シャルネルに一度大きく下がることを告げ、背を向けて一気に加速する。アリたちも加速してくるがそれより早く距離を離し、強引に隙を作る。振り返ってアリたちへ体を向けると、大きく息を吐いて構えを取る。あの時は勢いがあったから放てたが流石にあの状況ではできなかった。しかし今ならできる。

 

シングルスラスト

 

アリたちはまるで無警戒のまま君へと近づくと、次の瞬間には前方にいたアリが胴体に穴を開けて灰になっていた。君は灰を振り払うようにして突っ込んでいき、またもシングルスラストを放つ。それだけでアリたちは一掃され、欠けている魔石と素材だけが通路に転がっていた。シャルネルは君に近づいていくと、驚いた声音で話しかけてくる。

 

「すっご〜い!どうやってあれだけのキラーアントを倒したの?まるで魔法みたいに一気に倒しちゃったけど」

 

君は一族から教えてもらった技術、としか答えなかった。

 

「それでもあれだけの数のキラーアントを一度に倒しきっちゃうなんてすごいね。あいつらは倒し切らないと匂いで仲間を呼ぶから初心者殺しなんて呼ばれてるんだよ?」

 

そういえば、エイナの授業の中にその情報もあった。アリと聞いただけであの時の思い出が蘇ってほとんど聞き損ねてしまったが。

 

「あっそれと、槍の方見せて。その技でどんな感じに負担かかってるか見てみるから」

 

君を驚いた表情で見つめていたシャルネルは一転して、職人の顔つきになると槍を手に穂先や柄に異常はないかを確認する。その間に君はアリのドロップ品を回収することにした。

 

 

それから君は何度かアリや他のモンスターと遭遇しては槍で穿ち、時々倒しきれずに増援を呼ばれて少しピンチになったり、他の冒険者たちがアリに対処しきれなくなっていたところを助けに行ったりと、新品の槍(アルケス)を思う存分振り回していた。前回の槍をボロボロにした(くだん)の技は一度も放つ機会がないまま、B7Fの地図を書き上げてそのまま後にするのだった。

 



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君は慢心を忌避する

相変わらず戦闘描写が短い。もっと上手くかけたらわかりやすくてそれなりに厚みのある文章にできるんだろうけどなぁ


 

君は順調にダンジョンを攻略していった。B8F〜差し向けられるウサギのツノ〜、B9F〜蘇る猛毒の恐怖〜の地図を書き上げ、新種の敵であるニードルラビットとパープル・モスと相対した。ニードルラビットはウサギにツノが生えただけのモンスターですばしっこいがそれ以外に主な特徴が無く、あっさりと槍の餌食になった。パープル・モスを見た瞬間、君はどうしようもない殺意に満たされた。全体的に紫色の体色に紫色の鱗粉を撒き散らしながら羽根を羽ばたかせる、その様はまさに君のトラウマ(猛毒)を刺激した。見つけた瞬間、君はシャルネルの制止の声を無視してパープル・モスに襲いかかると一撃で魔石を砕いた。ただただ無表情に無感情のままに振り回される槍。君は的確に魔石を砕いては次の獲物を求めるバーサーカーのようになり、そしてシャルネルに後ろからドロップキックをかまされて正気に戻った。

どうやら君は混乱状態だったようだ。トラウマを刺激され無我夢中で狩り続けていたが、どうにか正気に戻ることができた。君はシャルネルに謝ると、シャルネルも謝る君を見て怒るに怒れなくなったようだ。その後に君から事情を聞いたシャルネルは呆れてしまう。

 

「毒がトラウマなのに自ら毒をまく奴の元に行って毒を食らったらどうするのよ。解毒薬はあるけど、今みたいに突っ込んでいって毒もらって帰って来ました〜、なんてのを何回もやられたらすぐになくなっちゃうわよ。

とにかく、次からは気をつけてね?」

 

君はシャルネルの言葉に頷くことしかできないでいた。

 

 

 

そんなこんながあって君たちはB10F〜殺意を覆い隠す霧の住処〜に足を踏み入れた。

 

君の視界には先程までとは打って変わって広い平原が広がっていた。霧がかかって視認できる範囲は狭く、所々に枯れ木が生えている。地面は草が生えており、霧が出ているだけあって湿気ている。勢い余って滑って転ばないように気をつけたほうがいいだろうと君はマップの片隅にメモを書く。天井には延々に続くような暗闇が広がっている。が、何故か光源はないのに視界が確保されている。この謎を心の中にしまい込み、君は探索に乗り出した。

 

B10Fで初めて遭遇したモンスターは今までとは毛色の違う、大型で明らかに耐久力や力がありそうなモンスター。体躯は3mほどあり、豚を人型にして肥やし、目つきを限りなく悪くした姿形をしている。人型になったことで二足歩行するソレの名はオーク。素手で襲いかかってくると思いきや、オークは近くにあった枯れ木を引き抜いた。すると木はまるで意思を持つかのように、みるみる原始的な武器へと姿を変えた。皮が剥がれ人が作ったと言っても過言ではない程に綺麗に削られた棍棒がその手に握られている。天然武器(ネイチャーウェポン)。名前の通りダンジョンに自然にあるものをモンスターたちは武器へと変える。君はエイナの授業で学んでいたが、目の前でこうも直接的に武器へと変わる瞬間を見ると驚かずにはいられなかった。

シャルネルは後方で他の敵が乱入して来ないか、そしていざという時のために待機している。君は一対一でオークとの戦いに臨まなければならない。

 

オークは息を荒げながらこちらへと近寄って棍棒を横薙ぎに振るった。それをバックステップで大きく避けて一度オークの動きを伺う。オークは振るった棍棒が当たらないことに腹を立てたのか低い音で唸り、今度は叩き潰すように棍棒を振り下ろした。明らかな隙、逃すわけにはいかない。振り下ろされた棍棒を横に避けると地面に叩きつけたことによる風圧が巻きあがるが、それに意を介さずオークの頭部を見据えて槍を突き刺す(ブレインレンド)。頭蓋骨を貫いた感触が槍を通して右腕に伝わってくる。槍を引き抜き、オークの体を蹴って離れると、その巨体は頭部の空いた穴から血を吹き出しながら仰向けに倒れる。意外なほどあっさりと戦いの幕は降りてしまった。

 

君はオークを解体して魔石を取り出すシャルネルを見ながら思う。あまりに手応えが無い。それほどにあっさりと終わってしまった。もう何手か攻撃をする予定だったし、ブレインレンドもただの試し打ちであったのだ。しかし、脳を貫く技術(ブレインレンド)とは別、ただ自分の力だけで頭蓋を貫いた感触だった。それはつまり技を使うまでもなく力のみでこの階層のモンスターを屠ったわけだ。この後にも何度かオークやインプと呼ばれる人型の小さくて羽の生えている飛行系のモンスターとも戦ったが、どちらも簡単に倒せてしまった。オークの肉は穂先が綺麗に裂いていき、魔石まで難なく辿り着いてしまう。インプは飛行型で捉えるのに苦労するかと思ったが逆に君の早さについてこれず、すぐに体を灰へと変えてしまった。まるで自分が強くなりすぎて相手が弱くなった、そんな感じの違和感を君は感じ取る。慢心は絶対にしてはいけない。君はそれを慢心と判断するとすぐにその思考を振り払って意識を切り替える。大型のモンスターなのにいとも容易く倒せてしまうこの感じ。まだ下層ではあるがモンスターの質はかなり変わったはずだ。前の階層のアリやウサギとは格が違うはずなのに…どうか疑問のままでいてほしい、そんな風に変な願いを抱えた君は、この広い平原の地図を書き上げて次の階層へと意識を向けるのだった。



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君は既視感を覚える

二週間ぶりです。

今回は軽い思い出話


B11F〜霧に包まれた殺意の弾丸〜に君たちは到達した。景色は前回層とさほど変化がなく、霧に満たされ草は水滴をこぼす。新緑の影もなく大きな岩が散漫に落ちているばかり。ただ、君はオークやインプの群れを屠る中、とある既視感を覚えた。それは目の前に現れたモンスターにあった。丸みを帯びた背中に短い手足と尻尾、四足歩行で歩き二足で立ち無足で転がる。それの名前はハードアーマード。君はこのモンスターに名前と見た目が類似しているモンスターを思い出すだろう。君とパーティを組んでいた騎士は、そのモンスターの攻撃力がさほどでもないという情報を同僚(他の冒険者)から聞きつけたらしく、もし戦うことになったら私が引きつけておくからその間に他のやつを倒しちゃって☆、と豪語した結果一撃でダウン寸前まで追い込まれていたのを君は見ていた。ハードアーマードがそれほどの火力を持っている、という情報はエイナから聞くことはなかったが、丸まって転がってくる攻撃は威力も速度も侮れないと言っていた。油断は死を招くことを熟知している君は警戒を怠ることなく、ハードアーマードに戦いを挑むだろう。

 

ハードアーマードはこちらを視認するとすぐに体を丸め込み、こちらへとまっすぐ転がってくる。名前と見た目通りならそれなりの硬さの持ち主だろう。無理に槍で攻撃するといらない傷を槍につけてしまうかもしれない。ならばーー速度を増しながら転がってくる弾丸をギリギリで横にステップで回避しーー横っ腹を蹴り上げる!蹴りこんだ足はブーツ越しに柔らかい肉の感触を感じ取り、そのまま蹴り上げた。ハードアーマードは唐突な横からの蹴り上げをまともに食らい、空中へと体が投げ出される。力の矛先をずらされたことでバランスを崩して横転し、丸まった姿勢が解除される。その隙だらけの土手っ腹に容赦なく槍で風穴をあける。魔石を貫いたらしく灰へと姿を変えて、霧散した。ドロップ品の皮だけを残して。

 

「まさかハードアーマードを蹴り上げてから槍で刺すなんて、予想外…

アルケスのことを考えて、硬い皮膚を持つハードアーマードに直接突き刺そうとしなかったことは嬉しいんだけど、正直ダンジョンの壁に突き刺さったことがある時点でもう今更な気がしちゃうんだけどなぁ…」

 

独り言をぼやきながらハードアーマードの素材を回収するシャルネル。君はその独り言を普通に耳で捉えたのでシャルネルに、すまない、と謝る。シャルネルはぼやきが聞かれているとは思わなかったらしく、少し上の空を見て、ダイジョーブダイジョーブ気にしなくていいから、と君をなだめるような言葉を言うだけだった。君はエイナの授業でダンジョンの壁がバカみたいに硬く、人力で破壊するのはかなり厳しいと教わっている。その壁に相棒(アルケス)をすっぽ抜けたとはいえ突き刺してしまったのだから、相棒の耐久性と切れ味は折り紙つきなのはわかっていた。ならば、次からは遠慮せずにどんどん槍を振るっていこう。今更気にしても仕方ないとシャルネルも言っていたし、どんどん敵を倒していこうと君は決意するのだった。

 

B12F〜五里(ゴリ)霧中は死の腕〜

 

君はまた一つ下の階層へと足を踏み入れる。またもや代わり映えのしない景色に君は感じるものはなく、地図を片手に探索へと乗り出す。採取や伐採、発掘のポイントはダンジョンの中にはない。そのことに対してシャルネルに尋ねてみるとシャルネル曰く、上層、君が探索をしている場所には上質な素材になる物がなく、あるとしたら18階層以降の中層や下層などのもっと深い位置に利用価値があるものがある、とのことだった。君はそのことを聞くと少し残念そうにため息をついてから感謝を伝える。そして転がりながら近づいて来ていたハードアーマードを、団子のように串刺しにして灰へと還す。少し欠けた魔石がポトリと地面に落ちると君はそれを拾ってから、また地図を取り出した。

 

そして探索を続けていると、君は2度目の既視感に襲われることとなる。それはシルバーバックと呼ばれる大型種のモンスター。2.5m〜3mほどの大きさに白い体毛、太い手足はまさに筋肉と言う名の丸太である。君が知っているのは体毛に黒と白のストライプ入っている魔物だ。その魔物には君がルーキーの頃、前衛の隙を突かれて殴られたパーティメンバーの医師が、一撃で気絶させられてしまったという苦い思い出がある。それに類似したモンスターということはもしかしたら強力なパワーを、秘めているかもしれない。君は警戒を怠ることなくアルケスを手に立ち向かった!

 

シルバーバックは拳を振り上げて殴りかかってくる。下がって回避すると空気の揺れるブオォンという音を肌で感じ取る。並の力ではないことがわかるとともに、追撃のストレートを突き出してくる。それを上半身を反らすことで回避し、そのまま地面に手をついて勢いで足を振り上げて突き出された腕を蹴り上げつつバク転にて距離を取る。腕を蹴られたシルバーバックはこちらを睨みつけると、走り出してタックルの構えを取る。今度は回避ではなくあえて迎撃の姿勢へと構える。息を吐くことで身体を弛緩させ、息を吸い込むことで身体に力を張り巡らせる(リミットレス)。約2秒、この間に加速したシルバーバックはこちらへと迫って来ている。シルバーバックをしっかり捉え、肩や腰を引き絞る。

 

瞬間、互いが交差して放たれた一撃(ロングスラスト)は、一方は無傷のまま、もう一方は音を立てて膝から崩れ落ちるようにしてうつぶせに倒れた。そして倒れなかった者は倒れた者へとトドメの一撃を刺し、その姿を灰へと変えるのだった。君はシルバーバックを倒すことができた。

しかし、その表情は明るいものではなく、不満気なことを隠さないでいたのだった。

 

あぁ、足りないなぁ(・・・・・・)




2日ごとに一話更新で今週いっぱいまで、今話含め四話分更新します


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君は感謝を伝える

 

君たちはB12Fの下り階段、つまりB13Fへの入り口の目の前にいる。ここから下は中層と呼ばれる領域になり、モンスターの強さやダンジョンがトラップを仕掛けてくるなど大幅に様変わりするとのことだ。とくに準備などをしないと、ヘルハウンドというモンスターの炎の息吹(ブレス)に焼かれて致命傷を受けるか、ミノタウロスの圧倒的強さに蹂躙されるなどで、数々の冒険者たちが命を落としてきたらしい。君は経験しているだろう。物理攻撃ではなく属性攻撃によりダメージを大きく受けてしまうこと、対策をしないと全滅の一助になってしまうことを。君はシャルネルの話を聞いた後、撤退をすることに決めた。自分の中でどこか物足りないと思いつつも、君はヘルハウンドの対策をしてから挑むことを判断する。備えあれば憂いなしとは、冒険者のための言葉とあって違いないだろう。

 

君はシャルネルに帰還する旨を伝える。シャルネルも君の意見には賛成のようで、二人は一度帰還することになる。今まで通ってきた道を地図を頼りに戻って行くと、既にオラリオは街灯の灯る時間帯にまでなっていた。

 

バベルでシャワーを浴びて装備などの点検をしてからギルドへと向かう。ギルドでは夜にもかかわらず人だかりができている。自慢話不幸話雑談、換金後のヴァリス袋を持って酒場へと行くだろう人々や、ヘトヘトで今にも倒れそうな足取りでホームへと帰るものもいるだろう。忙しなくギルドの職員も働いている。が、どうやら我らがアドバイザーのエイナは既に退勤後のようで換金終了後も見かけることはなかった。本日の収穫は38400ヴァリス。素材諸々はシャルネルへ今回の付き添いのお礼として渡すことにした。シャルネルは流石に貰えないと言うが、モンスターとの接敵中の援護や一対一になるように場作りしてくれたこと、試運転に付き合ってくれた(勝手についてきた)ことや最後には相棒(アルケス)を生み出してくれたことへの感謝などを伝えて、報酬の半分である19200ヴァリスと一緒に押し付けた。

 

君は少し頰を掻きながら、くすぐったい気持ちを心の中に押しとどめてシャルネルにまた頼む、そう一言だけ伝えてギルドから去っていった。頼むことに慣れてない君はシャルネルに何かを頼むのがこっぱずかしかったのだある。一方シャルネルは、君が恥ずかしそうに(シャルネル視点)「また頼む」と言ったことにちょっとだけドキッとしていた。こう、無口な感じの人が恥ずかしいけどなんとか人にものを頼む姿は、心にくるものがあったようだ。ーー()それクーデレと言う(なお違う模様)ーー。シャルネルは頰を朱くして、先ほどの情景を噛みしめるようにニッコニコな笑顔でホームへと帰って行くのであった。

 

 

 

君がホームに帰るとベッドの上で寝ているかみさまと、机に体を預けて眠っているベルの姿があった。君はあまり音を立てないように装備を外して纏めておくと、ベルに毛布を掛けてから自分もソファーの上で横になり、まどろみの中へと意識を落としていった。

 

次の朝、起きて槍だけを手に取り、ルーチンワーク(朝の鍛錬)をする。少し時間が経てばベルがヘスティアナイフを手にやってきた。先日同様ベルを素手で相手する。しかし、先日よりもベルの動きは確かに良くなっている。一手一手に余計な力を込めず牽制と本命を混ぜ合わせて繰り出してくる。ナイフ以外にも時々蹴りを混ぜている。しかし似たか寄ったかな攻撃パターンのせいで、パターンが読みやすくあっさりと払える。めげずに振るわれた足は容易く捕まえることができ、背を向けるようにしてその足を払うと背中を蹴り込む。ベルの体はうつ伏せに草っ原の上に投げ出されると、荒い息をあげながら仰向けに体を向けなおした。

やはりベルには才能がある。先日の動きから進歩が見える。手数は増えているし、前より隙は減ってきている、それでいて力の緩急を意識し始めている。甘いところはあるが 時間が経てばそれもだんだん洗練されていく。

 

ベルは強くなれる。

 

君は起き上がり始めたベルを見て、口角が上がるのを止めることはなかった。



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君は新たな得物を手に取る

ベルくん初めてのデート


 

鍛錬を終えた君たちは、諸々の支度を済ませるとかみさまに挨拶をしてから拠点(ホーム)から出て行く。ベルはどうやらアドバイザーのエイナとデートのようだ。噴水のある広場でエイナと合流する。

 

「おはよう、ベルくん。女の子を待たせるのは男の子としてどうなのかな?」

「あっ、エイナさんその…」

「うふふ、ごめんなさい。少しからかっただけよ。でも、女の子を待たせるのはあまり良くないから気をつけてね。

それと、ハイランダーくんはダンジョン?」

 

笑顔でこちらへと話しかけてくるエイナは、ベルをからかうと君へと顔を向ける。君はダンジョンに行くのか聞かれたときに首を横に振ると、エイナには大きく驚かれてしまった。ジト目で君がエイナを見つめると謝ってくる。流石に四六時中ダンジョンにこもっているわけではないのだ。だが、君はエイナに気にしてないことを伝えると、エイナはホッと一息つくのだった。

 

この後君は二人にデートなのか聞くと、ベルは顔を赤くしてフリーズし、エイナは顔は赤くするも少し慌てて否定した。ベルはちょっぴり落ち込んだ。

 

その後エイナに色々と文句を言われながらバベルにたどり着くと、二人とは違う階に用があるため、君は二人と別れてシャルネルのいる階に赴く。シャルネルの店にたどり着くとそこにはまばらながら店の中に客がおり、各々が真剣に武器や防具を手に取り観察している。カウンターへと行きシャルネルに声をかけると、シャルネルも君に気がついて挨拶を返す。

 

「あっ、おはよう!

君が私の作品を買ってくれてからお客さんが少しずつくるようになってね、真剣に見ていってくれるんだ。中には気に入って買っていってくれるお客さんもいてね、だんだんとだけと口コミで来てくれる人も増えてるーー」

 

君は嬉しそうな顔をするシャルネルを見て微笑んだ。シャルネルはお父さんみたいに笑いかけてくるハイランダーを見て、語る口を閉じて恥ずかしそうに顔をカウンターに隠した。しかし、カウンターに客が商品を持ってくると、シャルネルは表情を一転させて鍛治士として対応をする。武器の重心や持ち柄などの細かい部分の話し合いをすると、裏方に武器を伴って入ると何度かの甲高い音や擦れる音の後にシャルネルが戻ってくる。武器にはあまり変化がないように見えるが、その武器を持ってきた冒険者は、それを手に持つと驚きの表情を見せた後に嬉しそうに笑っていた。その冒険者は剣の代金を払うと、仲間にも勧めてみると言って店から出ていった。

君はシャルネルの技術は高いものであると改めて感じた。前の事件の誤解のせいで人が寄り付かなくなっていたが、これが本来の姿ともいえよう。

 

さて、君はシャルネルに武器が欲しいと話をする。

 

「新しい武器?えっと昨日も言ったけどまだ君を満足させられそうな槍は作れてないかな」

 

すると君は槍ではなく取り回しやすい短剣が欲しいことを伝える。君は昨日の探索で、シャルネルが弓と短剣を切り替えて使っていたことに関心を受けた。槍だけも悪くないが、今の相棒(アルケス)は点の攻撃はできても、技を使わなければ面に対して対応できない問題点もある。さらに、近寄られると攻撃するのが難しくなることも実感していた。故に線で攻撃でき、なおかつ取り回し易くて嵩張らない短剣を欲したのだ。それと、今日の鍛錬でベルが使っている武器の感覚を経験してみるのも悪くない、と考えたからでもあった。

その話とは別に槍の中には槍を剣のように振るうこともできるパルチザンという武器がある。それを君はストリートで見かけた。柄が4~50cmほどあり、刀身も同じような長さの武器だ。柄を短く両手で持てば剣となり、長く持てば槍となる。こんな武器を作れないかをシャルネルに相談した。

 

「短剣に関してはそこに私が使ってるのと同じ型の作品()があるから、その子を使ってあげて。お代は昨日の素材と報酬で足りてるから気にしないでいいから。

それと、君が言うのってこんな感じ?」

 

すると、シャルネルは紙とペンを取り出して簡単に武器の設計図を書き上げていく。少し待てばそこには君の想像していたものと、ほとんど変わらないものが書き上げられていた。君はそこに自分の要望をいくつか言うとシャルネルもそれを図面に追加して書いていく。数分後には君の理想の武器の図面が目の前に存在していた。

 

「こんな感じでいいかな?どういう感じにすればいいか迷ってたところだったから、こうやって要望を言ってくれたのは嬉しいな。できれば君から何も言われなくても、満足のできるものが作れたらベストなんだけど…悔しいけどまだ(あたし)にはそんなことできないから、でもヘファイストス様に誓っていずれは君から使いたい、って言わせるモノを作ってみせるからね!」

 

 

 

 

 

君はシャルネルから短剣を受け取る。それは片刃で27cmほどの長さをしたものだ。それを手にダンジョンではなくいつもの場所で短剣を逆手に持ち、素振りをする。回数を重ねていき、そしてだんだんと振る速度や角度を変え、持ち方を変え、蹴りや掌底打ち、肘を混ぜて感覚を馴染ませる。最後には槍と短剣を混ぜて武器を切り替えながら戦う。気がつけば君はPM06まで集中して武器を振るっていたようだ。さすがに汗を流したい。全身汗まみれになった君は、右手で(ひたい)の汗をぬぐうと、帰るかと呟いて帰路へと着くのだった。



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君は挨拶回りをする

 

君の新たな得物は、次の朝にはベルとの打ち合いに利用されていた。

お互いほぼゼロ距離での戦闘。鉄と鉄、肉体と肉体のぶつかる音が何度も何度も二人の耳を通り抜ける。まるで演舞のように振るわれる一撃一撃は、ベルの攻撃を相殺するように合わせられている。君は自分のステータスを存分に利用して、ベルの攻撃を捌いては反撃の一発を的確に打ち込むことに集中している。ベルも無闇矢鱈に殴りかかっているわけではなく、前日より複雑なパターンの攻撃を織り込んでいる。ナイフを袈裟切りに振るい返しの刃で突き刺すように踏み込む。後ろ足で蹴り上げるとその足を踏み込みに使い空いてる手で掌底を放つ。体を下に落とし足払いをする。その回転の勢いで横一文字にナイフを全力で振るう。至近距離から相手を離れさせないように詰めていく戦い方をするベルを、君は一手一手を払い、流し、躱し、打ち合い、防ぐ。だが、ベルのスピードは上がっていっておりそろそろ防ぐのも厳しいところだ。それほどベルの成長は著しいものであるともいる。かみさまが隠したがるわけだと、秘密の理由を何となく理解した君だった。

 

 

かみさまが今日は君に付き合って欲しいことがあるらしく、ベル一人でバベルへと向かっていった。君はかみさまにステータスを更新してもらったがレベルに変化はなく、それ以外にも変わったところはなかった。

 

「さて、ハイランダーくんに残ってもらったのは他でもない。君にボクの神友(しんゆう)たちと会ってきてもらいたいんだ。いわゆる挨拶回りってやつさ。ハイランダーくんやベルくんが使っているポーションを作っているミアハのところやタケのところに行ってもらいたい。あとヘファイストスのところにもかな。ヘファイストスのところはボクも用事があるから一番最後にして、とりあえずミアハのところに行こう!」

 

 

 

君とかみさまの二人がやってきたのは少し古びた一軒家。ドアを開けるとチャランチャランと来客の知らせを告げる音がなる。

 

「いらっしゃいませ、ってヘスティア様でしたか。ミアハ様なら奥で調合をしていますのでお呼びしましょうか?」

「おお、ナァーザくんこんにちわ。今日はミアハに用があるからね、お願いするよ」

「わかりました、それとそちらの方は?」

「ふっふーん、聞いて驚け!ボクのファミリアに新しく入ってくれたハイランダーくんだ!!」

「それは良かったですねヘスティア様、では私はミアハ様をお呼びしますのd、ムギュ」

 

ナァーザと呼ばれた犬耳の少女はヘスティアの自慢話を軽く流すと、店の奥に行こうとしてちょうど誰かとぶつかったようだ。顔を胸に突っ込むようにしてぶつかったため小さなうめき声が口から漏れた。

 

「おぉ、すまないナァーザ。なにやら表が騒がしいからきてみればヘスティアではないか。それと君が先ほどヘスティアが言っていたハイランダーくんだね。私はミアハ。ヘスティアと同じく零細ファミリアの主神をしている。ヘスティアとは零細ファミリア同士の繋がりで良くさせてもらっているよ」

「ほら、ハイランダーくんも挨拶するんだ」

 

君はかみさまに促されて軽くお辞儀をして、名前、歳、使う得物を話していく。淡々と必用なことだけを言う。君はあまり話すことが得意ではない。それ以上話すことなく自己紹介が終了した。

 

「そうだ、お近づきの印にこれをあげよう。遠慮はしなくていい。この零細ファミリアを今後も利用してくれればそれでいいのだ」

「ミアハ様また勝手にポーションを無料で配布しないでください。ただでさえ数少ない売り物の一つなんですから、また赤字で食い詰めるのは嫌ですよ、私」

「しかしだなナァーザ、隣人に良くせよと言う言葉もある。いつか私たちに帰ってくるはずさ」

「それがいつになるかもわからないし帰ってくるかもわからないんですから言ってるんです。

すみません、変なところをお見せして」

 

君は金欠で装備もアイテムも買えなかった時のことを思い出す。あの時はどうやってやりくりしていたのだったか?ただ、金欠の辛さを知っている君は、こちらが金欠にならない程度になら利用することを約束した。

 

「ほら、ナァーザ。彼もそう言っていることだしそんはなかっただろう」

「いや、明らかに同情の類ですよこれは。ですが、そう言ってくれるならじゃんじゃん買っていってもらって、黒字に貢献してもらいましょう」

 

少し腹黒いセリフが聞こえてきたが、そんなこんなで一つ目の挨拶回りは終わりを迎えたのだった。

 

 

 

「やあ、タケ!久しぶりだね!」

「む?おう、ヘスティアか、久しいな!」

 

続いてはタケミカヅチ・ファミリアへやってきた。どうやら、冒険に出かけているようで団員たちはいないようだ。今は中に入れてもらっていて、君たちは東国のお茶をご馳走になっている。君は昔同業者からこういったものがある国があると、聞いたことがある。趣のある拠点(ホーム)だ。イグサ?と言うやつの匂いだが、慣れないうちは少し顔をしかめてしまうが慣れると気にならなくなってしまった。

 

「それで、そなたがヘスティアの新しい家族か」

「そうなんだよ、ハイランダーくんって言ってね。ちょっと抜けてるところもあるけれど優しくて、強いんだぜ!」

「そうか、ならいずれはうちのファミリアと合同でダンジョンに挑むことがあるかもしれないな。その時はよろしく頼むよ」

 

君は差し出された右手を握り返すと、タケミカヅチとしっかり視線を合わせた。

 

「いい目をしている、良き戦士なのは間違いないようだ。これなら俺の家族も安心して預けられるよ」

 

どうやらお墨付きを貰えたようだ。その後はかみさまとタケミカヅチがいくつか世間話をして、二つ目の挨拶回りは終わったのだった。

 

 

 

君たちは昼時を回ってお腹が空いたことを感じると、軽いものを腹に詰めてからヘファイストス・ファミリアの拠点(ホーム)にお邪魔するのだった。

 

「ヘファイストス〜、居るかーい?」

「居るかーい、じゃないわよ。あんたこんなところでなにやってんのよ?」

「バイトのシフトにはまだ余裕があるからね、サボってるわけじゃないよ!

ウォッホン、今日はボクの新しい家族を紹介しにきたんだ。ベルくんの時は余裕がなかったから行けなかったけど、最近ファミリアの懐事情も良くなってきたからね!」

「へぇ、なら借金は早く返せそ「シッ、シー!」…ヘスティア?…まさかあんた自分たちの眷属(かぞく)に隠してるわけじゃないわよね?」

「え、えぇ〜、いや〜、そそんなことはないよ、うん!」

「はぁ…で、早く紹介してくれないかしら。一応私だって暇じゃないのよ」

「うっ、うんそうだね。この子がボクの新しい家族、ハイランダーくんだ!」

 

君はかみさまとヘファイストスの問答を後ろで見て居ると、矛先がこちらへ変わったことを察してミアハのところでやった時と同じように挨拶をする。しかし、返事は返ってこず、視界にいるヘファイストスは君の名前を繰り返し呟き、何かを思い出そうとしていた。

 

「ハイランダー…あぁ、あなたがシャルネルが言ってた子だったのね。へぇ、ヘスティアのところの眷属とは驚いたものね。

 

あなたには感謝しているわ。あの子の自信を取り戻すきっかけになってくれたんだってね?あの子、アマゾネスにしては珍しく鍛治をしたいって言ってくれた子でね。才能はあったんだけど根も葉もない噂話に尾ひれがついてね。最初は大丈夫そうだったんだけど、だんだん元気をなくしていって、前は困ってたら相談しにきてくれてたんだけど、急に来なくなっちゃって。それで心配だったんだけど少し前にすごい嬉しそうな顔で私に、(あたし)作品()を使ってくれる人が来たんです!って言ってね。それがあなただったわけ。本当にありがとう。私の家族を一人、失わずにすんだ。あなたさえ良ければこれからもあの子のことをお願いしたいわ」

 

君はヘファイストスからの感謝と提案を受け取った。しかし、答えは変わらないのだ。自分が使いたいと思うようなモノを作ってくれれば、そうすればまた彼女の店にに来たいと思う。そして、彼女の作品を買いたいと思う。だから確約はできない。そう伝えるとヘファイストスはクスクスと笑って嬉しそうに微笑む。

 

「鍛治士にケンカを売るようなことを言ってくれるわね。でも、嬉しい言葉だよ。

 

あの子も厄介な相手を魅入っちゃったものね」

 

最後の言葉は聞き取れなかったが、慈母のような雰囲気を醸し出すヘファイストスに声をかけることはできなかった。

 

「いい話だな〜」

 

かみさまは空気となって君とヘファイストスの会話に涙を流していた。そして、ヘファイストスとの会話でシフトの時間が過ぎていたことに気がつかず、ヘファイストスに追い出されるようにして拠点を出ると、顔を青くしてバベルへと走っていくのだった。



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君は狂った


恥ずかしながら帰って来ました




暗い暗い夜の森

 

月明かりも無い中で

 

影がひとつ

 

陽炎のようにゆらりゆらりと揺れ動く

 

それはゆっくりとこちらへ近づき

 

目の前で大きく(いなな)いた

 

 

 

君は目を覚ます。それとともに体を起こすと周囲に目を運ぶ。何もいない、それがわかった上で警戒を解くことなく1分、2分と全力で気配を探り、ようやく緊張を解いて身体を横に倒し大きく息をつく。

汗が全身にまとわりつき、未だ呼吸は乱れを直せぬまま、君は夢に突然現れたそれを思い出そうとする。奴はなんだ、あの影はなんだった、見覚えはあるか。しかし、思い出そうと努力しても乱れた呼吸と激しい頭痛がそれを拒むように邪魔をする。

終ぞそれを思い出すことはできず、君はまとわりついた汗を排除するべく、月明かりすら灯らない宵闇の中、装備だけを担いでバベルへと移動を開始した。

 

頭の中から離れない影に悩まされながらも、シャワーを浴びてさっぱりした君だが、ちらついてしょうがない影を振り払うため、ダンジョンへと足向ける。

 

獣のように暴れようが、頭の中を他の思考で埋め尽くそうとしても、まるで呪いのように君の思考に絡みついて離れない。何度も何度もモンスターを屠ろうと影は振り払えない。それどころか虐殺を繰り返すたびに影は鼓動し、その影を大きく肥大させ形を変えた。

 

妖しく光る赤い瞳、人の脚よりも一回り太い太さを持つ4本脚

 

下へ下へと駆け抜けていく。冷や汗ばかりが額を、背中を、尻を伝って流れ落ちる。走る体に切り裂かれた風が凍りつくように寒い。

 

影は色を付ける。青い体毛に巻きつくように色付く白い線。首回りに金色のたてがみを蓄え、ツボミのように金色の毛でまとまった穂先を持つ尾。

 

広い草原に出た。頭痛が激しい。眩暈がする。うまく立つことができない。相棒(アルケス)を投げ捨て、頭を抑えてその場にうずくまる。耐え難い痛みが思考を蝕む。

 

 

枝分かれをしている茶色のツノ、人ではないことを示す長い顔

 

ああそうだ、ヤツをお前は知っている

 

 

 

おまえはーー

 

 

しかし、その名は告げられることはなく

 

ハイランダーの影から突き破るようにして生まれたそれはーー

 

「「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」」

 

ーーまるで殺意を具現化したような存在で

 

叫び声(産声)が迷宮を静寂に変えた

 

 

君は眼が覚めるとB10Fと思われる草原の中に居た。何故ここにいるのか、どうして装備をつけているのか、巡る自問自答に答えはないだろう。君には挨拶回りを終えた後、ダンジョンに潜ることなく一人で拠点に帰り素振りなどの鍛錬をして、ベルたちと食事を取り眠りについた記憶しかないのだから。しかし悪い夢を見ていたような覚えがあるのだ。内容は思い出せないのだが。

とにかく帰ろうと、何故か近くに落ちている相棒《アルケス》を手に取って立ち上がった。

 

 

 

そして次の瞬間、君の『防衛本能』が無意識に大きく回避行動をとらせた。すぐ横を駆け抜ける足音は存在を認識してからようやく鼓膜を揺らす。草つゆが軽く髪や衣服を濡らし地面を転がる。すぐに頭を起こして視界を取る。濃い霧が襲撃者を包むように隠すが、それを拒むように襲撃者は霧を振り払った。瞬時に辺り一帯の霧が晴れる。するとそこには、あの影(・・・)が殺意をみなぎらせて君の目の前に立ちふさがるのだった。

 

青い体毛に、大地を踏みしめる4本脚や胴体には巻きつくように白いラインが入っている。まるで金色の穂を持つ筆のように細長い尾。ダンジョンの光無き中でも輝きを放つ黄金のたてがみ。血のように赤い瞳はこちらをギラリと睨みつけ、敵意も殺意も隠さない、まるで今すぐ殺してやるとでも言っているかのようだ。長い顔の先端についている鼻から大きく息を上げている。頭には1Mくらいはあるほど長く、幾重にも枝分かれしている太い角。

 

それは鹿()

 

全高2〜3M、全長4Mほどの巨大な鹿ーー

 

かつて君が仲間たちと一緒に迷宮で討ち倒した、大きさも特徴も何もかもが寸分違わず変わっていない。いや、抱いている殺意と敵意はあの時以上に濃く鋭い。

 

ーーその名は「狂える角鹿」

 

又の名を

 

《狂乱の角鹿》

 

迷宮を彷徨う強者(FOE)共、その一頭である

 

 



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鉄華 死線王道

※このタイトルのBGMはございません


君は逃げ出してもいいし、かの強敵に挑んでもいい。

 

逃走は決して恥ずかしいものでは無い。仲間がいない君は無謀に戦う必要はないのだ。君は知っているだろう。迷宮を闊歩する彼らは君たちと同じように歩むことを。今ならまだ逃げ出すことも可能だろう。

しかし、この魔物を残した場合、見知らぬ誰かが犠牲になる可能性もある。冒険者は死と隣り合わせだ。確かに今の君より強い冒険者は何百といるだろう。果たしてその者たちが犠牲を生む前にこの魔物を討伐する可能性は絶対とは言えるか。答えは否だろう。

故に君は覚悟と無謀を手に戦いへ挑んでも良いのだ。

 

 

さあ

 

選択の時間だ

 

 

逃走か

闘争か

 

 

 

君は相棒(アルケス)を握りしめ

 

その足を一歩

 

 

 

 

 

前へ(・・)と踏み出した

 

 

 

戦闘する意思があるとみた角鹿は、大きく前足を振り上げて嘶くと、君へと突進してくる。

 

勢いのついた突撃を君は最小限のステップで回避する。走り抜けた角鹿はそのまま距離を取り、槍の攻撃範囲から離れる。追撃を許さない立ち回りは、ジリ貧の戦いになることを君に叩きつける。ならばと君はもう一度突撃してきた角鹿に向けて槍を構える。接触まであと数秒というところで、君は居合のごとくすれ違いざまに力を込めた一撃(ロングスラスト)を放つ。堅いものに突き刺した感触が手に残るが、角鹿の胴体にはわずかながら血が滲んでいた。しかし、角鹿の方は気にも留めないようだ。ダメージを受けたという感覚はないのかもしれない。

 

3度目の突撃、しかし突撃の途中で鹿は足に力を込めて君の目の前で静止、そしてその凶器(大角)を君に向けて掬い上げるように振り上げた。うまく仰け反ることで君はその凶悪な一撃を回避するが、角鹿は追撃に振り上げた体をそのまま振り下ろした。君は仰け反った体の勢いを使い地面を足蹴にするとバク転でなんとか回避をし、着地と同時に曲げた足をバネにして鹿へと一気に距離を詰めた。勢いの乗った一撃が鹿の眼前に迫るが、鹿は自慢の大角で槍の穂先と鍔迫り合う。勢いの止まった槍、頰を流れる汗を自覚した君の目には、ニヤリと目を細めた赤い瞳が映っていた。

 

怪物の力を余すことなく使い角鹿は君を一歩ずつ確実に押し込んでいく。力負けを理解し、君は力の方向を後ろへと変え槍を引き抜きながら一歩引いた。そして、今度は威力を重視するのではなく速さで隙をつくために何度も槍を突き出した。角鹿は力の抵抗がなくなり一瞬前のめりになるが、すぐに迫った槍の穂先をまたも大角でいなす。二撃三撃四撃と何度槍を放とうともその状態は揺るがず、果たして隙を晒したのは君であった。

 

放った一撃を大きく弾くことで体を仰け反らされた君は、大角の振り払いに対応することができずまともにその一撃を受けてしまった。突き上げるようにして繰り出された大角の一撃は君を大きく大きく跳ね飛ばし、君は強かに地面に打ち付けられた。二度の大きな衝撃、三半規管は揺れに揺れ内臓は悲鳴をあげて君の脳に警告をする。口からは血を吐き出し、意識が薄れる。しかし、何とか意識を取り戻すと無理やりに体を動かして無様ながら転がるようにして、角鹿は君の居た場所を踏み抜いていった。

 

角鹿は離れた位置で君のことを観察する。強烈な一撃を受け、無様に地面を転がってもなお生き残ろうとする。

角鹿には余裕があった。

這々の体の君を見て、慢心した。

力比べに押し勝った時、愉悦し顔を歪ませた。

だから角鹿は遊ぶことにしたのだ。

 

相棒(アルケス)を杖にして君は揺れる頭を抑えて立ち上がる。何度も息をこぼし口の端を流れる血には気にも留めない。まだ立てる、まだ生きてる、ならまだ戦える。君はなんとか戦闘姿勢に体を直すと、何故かその場に留まり続けている角鹿へと視線を向ける。君が立ち上がったことで鹿も行動に出る、しかしそれは奇怪のものだった。

 

角鹿は踊り出した(・・・・・)

 

全身を使い君を煽るように、君など敵ではないと、踊る余裕すらあると言わんばかりに踊っている。君はそれがなんなのかを知っていた。しかし、それを回避するための気力が残っていなかったのだ。

 

意識が希薄になる。

視界がブレる。

本能が叫ぶ。

敵を倒せ、敵を殺せ、理性など意味がない。

 

視界が赤く染まり、体の痛みを脳が弾き出す。

 

この鹿が、狂乱の角鹿と呼ばれる所以はこの奇妙なステップだ。四本足によって繰り出される舞は、冒険者たちの意識や理性への直接的な働きによって相手を混乱させ同士討ちさせたり、力任せな戦い方を強制させ技を使わせないようにするのだ。それ故に何十何百の初心者冒険者たちがこの角鹿によって叩き潰されたことは、記録に残されているほどだ。

つまり、仲間がいない今の君にとってこの状態は危険でしかないのだ。いや、絶体絶命といっても過言ではない。状態異常を治す医者(メディック)もいなければ、相手の攻撃をかばってくれる頼もしい騎士(パラディン)もいない。

 

ダメージや三半規管の揺れによって体をうまく動かすことができない。角鹿は君を挑発するために君の周囲で踊っている。君はむき出しにされた殺意に従い鹿に襲いかかろうとするが、しかして叶うことなくうずくまることしかできない。

絶望的な状況。

動くことができない体。

剥ぎ取られた理性。

 

 

残念だが、君の冒険はここで…

 

 

 



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友縁 騎士乃力

追記

前半に書き足しと展開を少し変更しました。


息を吐き、吸って、飛び出した。

角鹿に只々槍を振るい続ける。

目を口を鼻を顎を首を脳天を、

奴の命を屠らんと先ほどよりも更に速く早く穿たんとする。目にはその忌まわしき存在しかあらず、耳は奴の息遣いと足音だけを捉える。

 

お前を殺す

 

狂った脳の命令系統はその全てを目の前の存在への殺意へ実行せんと指揮し、体は痛みを本来の人間の可動域を筋肉の限界を忘れて躍動する。

だが、力任せの攻撃は功を奏した。少しずつだが、角鹿には出血量を増やし切傷や刺傷が増えている。しかし、その分こちらもダメージを多く受けざるを得ないのは明らかだった。足蹴にされ、体当たりをもろに喰らい、回避の判断が鈍りから腕や上半身に角が掠ったことによる擦り傷がいくつもできている。

 

それでも、攻撃の手は緩めない

 

あと何撃入れればいい?

 

あと何回奴の急所を狙えばいい?

 

あと何回奴の攻撃を受ければやつを殺すことができる?

 

そんな疑問は無意識が考えても表層に至ることはなく、戦いは、いや角鹿による遊びという名の蹂躙は続いた。

 

 

 

角鹿は致命傷を負ってない。しかし、君はすでに満身創痍だ。このままでは先に動けなくなるのはキミだろう。

 

槍を片手持ちにし、左手にナイフを構える。

 

 

 

 

 

『まだ死んでもらうには早い。この程度の試練、乗り越えてもらわねば困る。何せお前は私の世界(世界樹)を救った英雄なのだからな』

 

 

 

 

 

ふと、君の脳髄の奥、狂った意識に呼びかける声が聞こえてくる。

 

『ハイランダー君!こんなところで寝てどうしたんだい?僕たちの(ホーム)はここじゃないだろう?さあ、早く帰ってきてくれよ、死んだりしてボクとベル君を悲しませたりしないでくれ』

 

誓いを立てた女性の声が聞こえる

 

アタマガ、イタイ

 

 

 

『ハイランダーさん、まだ一緒に冒険したりないです。僕にとってあなたはーーだから…だから僕にその背中を追いかけさせてください!』

 

共に歩むようになった仲間の声が聞こえる

 

ソウダ、オレニハ、なかま(・・・)ガイる

 

 

 

『キミのためにキミだけの装備を作る。君に会ったのは偶然だけど、それでもアタシを認めてくれたのはキミだから…だから!』

 

偶然(運命)に導かれ出会った鍛治士の悲鳴のような声が聞こえる

 

マダ、まだ、新しいものを見たい

 

 

 

微かな理性がナイフを持った左手を天に突き上げ、振り下ろした。

 

 

 

 

 

そうだ、俺はこんなところでくたばりそうになってる場合じゃない。帰る拠点…いや、(ホーム)ができた。新しい出会いと新しい仲間、新しい武器や魔物がこの世界にはある。目を覚ませよ、まだ倒れるわけにはいかねぇ、こんなところで死んじまったらアイツらにまた会うことができなくなってしまう。

 

ベルの特訓もまだまだ終わってない

かみさまには死なないといった

この冒険を語る仲間に会わなければいけない

 

 

 

 

 

 

失われた感覚を急激に取り戻していき、理性は取り戻した皮を纏っていく。左の太腿(・・・・)に突き刺さったナイフを強引に抜き取り、相棒(アルケス)を杖に立ち上がる。正面で立ち止まった鹿へ向けて理性の光るひとみをむけた。

 

 

君は 自傷することで 理性を 取り戻した!

 

 

しかし、その代償は深い。全身は先程までの戦いの反動で痛みを感じないところが無い。もろに食らった体当たりで肋骨が何本も折れてる。肺に到達してないのは幸運だろう。

太腿にナイフを刺した所の痛みを根性で我慢し、踏ん張りを効かす。が、まるで生まれたての子鹿のように震えている。それでも、君は帰るために最善を尽くす。

 

鹿はつまらなさそうに頭を一度振ると、今度こそと言わんばかり君を睨みつけ突進の準備をする。君は覚悟(・・)を決めると杖にしていた相棒(アルケス)を背中に収め、左手の短剣を構え、鹿へ突撃した。

それと同時に鹿も君へと走り出す。一歩も緩まることのない足は、ついに互いの体を交差させた。

 

角鹿の眼には血が流れていた、交差の直前で跳び上がった君の短剣が左眼へと深い傷をつけた。瞼を閉じ、息を荒くする。鹿は痛みとプライドに傷をつけられたことに大きく嘶き、激怒した。確実に次の一撃で殺してやると、君へと振り返った。

 

君の脇腹は大きくえぐれていた。跳び上がったことによって眼孔にクロスカウンター気味に放った短剣の一撃、代償は脇腹へのクリティカルヒット。勢いのついた角鹿の角は君の血と肉、鎧の破片でドロリと飾られている。鎧に守られていたはずの箇所だが、その鎧はその部分だけが物の見事に砕かれ、血みどろの脇腹は臓器がこぼれ落ちるギリギリを保っていた。しかし、君は立っている。あれだけ大きな傷を負っても、君は今、決死の覚悟(・・・・・)でこの場に立っている。

 

そして、君の周りには君の脇腹から流れ出ている血が、螺旋を描いて君の周囲を走る。ブラッドウェポンが発動している証拠だ。君はナイフをしまうと相棒(アルケス)を抜きはなち、

 

大きく力を溜めた。

 

鹿は君へと瞬時に駆け出す。殺意を角に、脚に込めて全力の一撃を叩き込むために、君へと一直線に駆け出した。なんの対応もなく、君と鹿の距離はどんどん近づいていく。あと接触まで5,4,3,2…

 

鹿は動けない(・・・・)君を見て勝利を確信した。

 

だが、

 

解放(ブースト)!」

 

 

その言葉と共に、鹿の巨体は大きく真上へと弾かれた。

 

 

ーー君は力を溜めていた、次で最後になる。足はもう限界だ。だからこそ負けないための一撃を放つために大きな隙を作らなければならない。だからこそ、限界の解放(リミットレス)をする事で最大限の力を出すための用意をした。

ふと、胸が熱くなる感覚がした。グリモアが君にだけ光を放っていた。だから、君は勝利を確信したーー

 

 

君の仲間の力、受け流し・弾く技術(パリング)によって、鹿の突撃を大きく弾いた君は、構え直した相棒(アルケス)に血の力を全て纏わせて、まるでドリルのように螺旋する血の穂先を、狂乱の角鹿(強敵)の喉元へと貫かせた。皮と肉の層を貫き、骨を砕いてまた肉と皮の層を貫く。抵抗がなくなり槍が重くなった感触に、溢れ出る自分の血液ではない匂いに、横倒れになっていく影に、君は勝利を手に入れたことを実感した。

 

角鹿は横倒れになると、その巨大な角の一部を残して、光の粒子となって君の中に消える。君は横腹に違和感を感じるとそこには、えぐられていたはずの脇腹が怪我のない状態に戻っており、太腿の傷も無く、折れていた骨は元通りに、痛みも全身から消えていた。君は角鹿を喰らった(ハーベスト)のだと直感的に理解すると、そのまま仰向けに倒れた。痛みはなくても疲れてはいた。だから、不思議な心地よさに身を任せ少しだけ休むことにした。

 

 

霧の晴れた周囲はモンスターを寄せ付けることはなく、静かなダンジョンの中で君は軽い休息をして、ダンジョンから抜け出すために立ち上がり、階段へと向かっていった。その時、なぜかモンスターたちに出会うことが無かったのは偶然なのだろうか。しかし、君は一つの偉業を成し遂げた。

 

大物喰らいは英雄の花だ。

 

英雄好きのベルに土産話ができたと、君はバベルの出入り口から見える朝陽を見てふと思うのだった。




小説とかアニメって肋骨を折りがちですよね(実際心臓マッサージとかで折れるくらいには脆い)

人間には肋骨が24本あんのよ、5,6本ぐらい何よ!


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君は正座する

前話に加筆修正をしました。展開は変わりましたが結果は変わっていません。気になる方だけどうぞ。


 

 

君は(ホーム)たどり着くと、泥のように眠った。

 

揺さぶられている、君は目を覚ますとベルが君の名前を必死に叫んで起こそうとしていた。かみさまは後ろの方で何故かオロオロしていた。君はベルに向かって何故ここまで騒いでるのかを聞くと、ベルは一瞬表情が引きつり、だが君がふざけていると思ったのか怒るように君に問いただす。

 

「どうして血まみれの姿なんですか、ハイランダーさん!」

 

ベルに言われて気がつく。あぁ、そういえばシャワーも浴びず帰って来たのだった。どうしよう、とりあえず血みどろではあるが怪我はないことだけはまず二人に伝えることにしよう。返り血で髪の毛や戦闘装束(バトルクロス)相棒(アルケス)に血が被ったままだった。早く流さないと取り除くのが大変になってしまう。二人を早く説得しよう。

 

 

 

結局のところ、2人への弁明には長い時間を要した。

まず経緯を話すことにした。「目が覚めたらダンジョンに居た」、そう言葉にした君をベルは困惑し、かみさまは訝しげに君を見つめる。話を続けた君は、目を覚ましてすぐ故郷(世界樹の迷宮)で見たことがある魔物と出会い、その魔物は強敵かつ自分はどのように戦えばよいかを知ってるため、他の冒険者に被害が出る前に倒すべきと思い戦った、と話す。一部が砕け散った鎧や血まみれの武器や全身を見て、想像に容易くかみさまは君に怪我はないか尋ねるが、心配をかけないため嘘をついた。

 

その後、もっと表情が険しくなるかみさまを横に、君は話し続けた。困惑していたベルは話を聞くごとに段々と表情に明るさがもどり、次第に目をキラキラとさせ話に夢中になっていった。かみさまはハラハラドキドキと言ったところだが、魔物にトドメをさして帰ってきたことを話すと安堵し、表情を和らげた。

 

そんなこんなで話し終えると、ベルは居ても立っても居られないのか、装備を着けてダンジョンへと走り出した。かみさまはそれを止めることができず逃してしまう。君もシャワーを浴びようとバベルへ向かおうとするが、ガシリと手を掴まれ、笑顔の神様にその場で座らせられーー元の世界でもサムライの冒険者がしていた正座というものーーると、

 

「で、本当はどうしてダンジョンにいたんだい?」

 

怒っていた。

 

 

 

君は、ダンジョンに居た理由が本当にわからないこと、実は脇腹を抉られたこと、自分のスキルとグリモアのスキルによって傷が治り、帰ってこれたことを話した。

かみさまは表情を何回も変えながら話を聞き、最後には大きくため息をついて、

 

「ハイランダー君はホントのほんっとうに無茶ばかりして!ボクをいくら心配させれば気が済むんだい!?キミがいくら強かったからって、1人でそんなモンスターに立ち向かうなんて…」

 

 

 

「でも本当によかったよ、君が無事に帰ってきてくれて。

再三言わせてもらうけど、ボクにとっても、ベル君にとっても、君は大切な家族(ファミリア)なんだ。ボクは、大切な家族を失うなんて絶対にイヤだ」

 

表情は真剣味を帯びていく。

また、かみさまを心配させてしまった。

 

かみさまは最後に、

 

「お願いだからしばらくは一人でダンジョンに挑むのはやめてほしい。たとえキミが英雄と呼ばれた人物だったとしても、一人でダンジョンに潜り続けるのは危険すぎる」

 

そういうと、バイトの支度をする。

キミはそれに対して強く心に決めて、返事をする。かみさまはにっこり笑うと(ホーム)から出て行った。自分もシャワーを浴びなければ、そうしてキミもバベルへと向かうのであった。

 

 

長い時間放置したせいで、固まった血を洗い流すのに何時間もかかったのは言うまでもない。



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鉄は延炎と打たれる

感想欄があったけぇ…

遅くなりましたが、ご感想ありがとうございます。




 

 

夜 PM09

 

キミはようやく自分の血液や返り血を洗い流すことに成功し、(ホーム)に帰るとかみさまからしばらくダンジョン探索は禁止と言われた。

 

怪我が治ってるとはいえスキルの後遺症がないか、そしてまたダンジョン内でその魔物と遭遇するような事態が起こらないか経過観察するためである。

キミはそれに対して少し残念そうにするが、仕方ないと割り切ることにした。

 

そして、ベルがダンジョンから笑みを浮かべながら帰ってくる。どうやら大量に魔物を倒し、かなりのヴァリス(お金)を手に入れられたらしい。なんでもサポーターというものを雇いダンジョンに潜っているらしい。

そこでキミは、ベルがいつの間にかパーティを組み、ソロでの冒険をしていないことに驚いた。何でも今回で2回目らしく、前回はお試しだったが本格的にパーティを組んでダンジョンに挑んでいるようだ。

 

ベルは明日は休みにするらしく、このお金で二人と一緒にあの店に行こうと考えていたようだ。

 

キミはベルと一緒に食事をしに行ってもいいし行かなくてもいい。

 

 

 

キミはベルとは食事には行かず、またバベルへ行きシャルネルに素材を渡すことにした。ベルには残念がられたがその後ろでかみさまはすごく嬉しそうな顔とともにサムズアップをしていた。二人きりにしてあげた方がいいかというキミなりの老婆心である。

開店は夜だが朝に一度ベルだけで行き、シル(銀髪の店員)から頂いたバスケットを返しにいくそうだ。そう言うと今度はかみさまがムッと膨れっ面になるが、ベルに今日のステータス更新を催促して胸を押し付ける形で腕を引っ張るのであった。

 

 

 

「いらっしゃーい、今日も来てくれたの?

もしかしてキミって暇なの?」

 

シャルネルの店へ行くといきなり暇人扱いされた。別に暇なのではない。かみさまに迷宮(ダンジョン)に潜るなと言われてしまっただけだ。

 

「それはそうと、珍しいね。会う時はいつも戦闘装束(バトルクロス)を着てたのに今日はラフな格好なんだね。…武器は背負ってるみたいだけど」

 

何故か苦笑されてしまったが、先日の戦闘でいつも着ている物が壊れてしまったのだ。アレを渡すついでに修復ができないか相談をしに来たのだが。

そう思い、破損したバトルクロスを見せるとシャルネルは「はぁ!?」と、驚きの声をあげた。店の中の客や出入り口の近くにいた冒険者たちの視線集めると、ハッと口を噤んですぐさま店のカウンターと繋がってる作業スペースに連れ込まれた。

 

「ちょっとちょっと、コレ!一体何があったの!?この前に会った時は傷はついてても、壊れるような原因になる程じゃなかったよ!しかも、左の脇腹部分だけが抉り取られたみたいに無くなってるし…

何日か合わない間に何があったのさ!」

 

昨日会ったことを話すと、シャルネルの目には涙が浮かんでいた。

 

「バカ!何でそんな危ないヤツに挑むのさ!しかも脇腹を抉られたって今動いて大丈夫なの!?なにもキミが無理に戦う必要ないじゃないかぁ!」

 

胸のあたりをポカポカと叩かれる。前より少し痛くなくなったが、痛いものは痛いのでとりあえず落ち着いて欲しい。

 

「落ち着けって…あぁもう!

なら約束して!もうこんな無茶はしないって!アタシは死にたがりにアタシの子を使って欲しくない!」

 

「死にたがりじゃない。ただ戦わないといけないと思った、だから戦った」

 

「キミがどうしてそのモンスターを倒したかったのか何てわからない。でもね、アタシはキミに死んで欲しくない。初めてアタシの作品()を認めてくれた、キミに」

 

彼女の圧に気圧される。鍛治士としてのプライド、ただ本気で心配してくれている両方の感情が伝わってくる。今回一人で無茶したことは謝ろう。そして、かみさまにも無茶はするなとしばらくソロでの迷宮探索の禁止と、何日か探索を休むよう言われたことを伝える。

 

「パーティの当てはあるの?」

 

この前一緒に来たベル(仲間)が居る。

 

「ああ、あの銀髪の子だっけ。ちょっと頼りなそうだったけど…

それより、約束してくれる?無茶しないって」

 

「無理だ」

 

「えぇ!?」

 

「俺は無理なことはしない。だが、無茶はする。そうしないと逆に死んでしまう。そうやって生き延びたし、これからもそうするつもりだ」

 

「……」

 

「すまない…だが、変われないんだ」

 

「…バカ」

 

俯いていた顔を上げ、睨むようにこちらを見る。

 

「ねぇ、なら絶対に死なないで。

この子たちを使う主として、絶対に生きて帰ってきて。その為に、キミが無茶しても守ってあげられる子をアタシが作るから」

 

表情は覚悟を表していた。

 

「ハイランダー、アタシと契約(・・)して」

 

「契約?」

 

「そう、専属鍛治士として、アタシと契約して欲しい。

最初は色んな人にアタシの子を使って欲しかった。でも、アタシを地の底から掬い上げてくれたのはキミだった。そんなキミがこれから何度も無茶をするって言うなら、その度にアタシがキミのためだけの装備を作る。

キミを守る鎧を、キミが敵を貫く槍を、アタシが打つ。竈の炎を燃やし続けて、キミをダンジョンの外で待つ」

 

「それが契約?」

 

「約束してくれないなら、契約して。

恩を返せないままなんて絶対イヤ」

 

「わかった、契約する」

 

「本当!?」

 

「そのかわり…」

 

背中にくくりつけられているモノに手を伸ばす。

 

「任せられるモノを作ってくれ、相棒(コイツ)の様に」

 

「っ…いいよ、絶対に安心してダンジョンに行ける子を作ってあげる。アタシの意地とプライドに賭けて」

 

とても獰猛な笑みだった。だが、何故だか安心できた。握り拳を作るシャルネルに手を差し出す。

 

「改めて、今後ともよろしく、シャルネル」

 

「!…うん、よろしく、ハイランダー!」

 

 

 

 

 

過去とは違う、新たな形の武具

 

店売り(量産品)ではない、

キミのために一から作られる武具(オーダーメイド)

 

キミのために、鉄は延炎と打たれるだろう

 

この世界にある(キミの過去にない)、新たな体験が

 

 

 

始まりを告げた





これにてオリジナルパートは終了し、ようやくダンまち本来の流れへと物語の視点が移っていきます。

ですがその前に閑話を1つ、幕間を1つ挟ませていただきます。
よろしくお願いします


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閑話 名も知らぬ冒険者のモノ語り

 

 

君とシャルネルが作業スペースから出ると、一部の客は下世話な笑みを浮かべていた。何だこいつと思い、しかし周囲を見渡すとニコニコと微笑む客や出入り口で野次馬の壁を作る冒険者たちが君たちをみていたのだ。

 

すると瞬間、シャルネルの顔は姫リンゴの様に紅く染め上がり、カウンターにしゃがみ込んでしまう。ぷるぷると震えながら耳を真っ赤にして、小動物の様に縮こまってしまった。

君は何食わぬ顔でカウンターから出ると、下世話な笑みを浮かべていた客の冒険者に声をかけられる。

 

「ヒュー、お熱いねぇ〜。店の外まで聴こえる痴話喧嘩をするたぁな〜。しかも何食わぬ顔で出てくるとはなかなかに肝も座ってるじゃねえか」

 

君は何が痴話喧嘩だったのか分からず、聞き返した。

 

「おいおい、あれだけ騒いでおいて『何だ』はねぇだろうよぉ〜。どうやってあの(・・)シャルネルを落としたか是非おじさんに教えてくれよっ」

 

君は落とした、と言われてもよく分からなかった。ただ、シャルネルの武具を買い、そして先ほど契約とやらをしてきた、と答える。

 

「マジか!?ってーと、お前が噂の物好きか!前に見た時と服が変わってたからすぐに気づかなかったぜ。

まっ、俺もその物好きの一人なんだけどな!」

 

「物好き?」

 

「あぁ?ここ最近はテメェの噂で持ちきりだったぜ?アマゾネスが打った武具を買った物好きが居るってな。しかも、安く(・・)売られてたとはいえ、迷いもせずにだ」

 

安く売られていた?君はそれがどう言うことか問いただすだろう。

 

「おいおい、そんな事も知らねぇのかよ…お前もしかしてルーキーか?そんな雰囲気の癖して。まあ良い、軽く教えてやるよ」

 

 

 

四ヶ月くらい前か、ここにあの嬢ちゃんが店を出したんだ。ヘファイストスファミリアの一部のヤツしかテナントが出せねぇこのバベルでだ。ーー新人の作品は店に置かせてもらえるかも分からん場所にだぞ?ーー最初は物好きなアマゾネスが店を出したって見物しにきたヤツが多かった。ヘファイストスの気が狂ったなんて、冗談言う奴もいたな。なんせ、戦うことだけが脳のアマゾネスが武具を打つんだ。しかも、テナントを出すくらいだ。そりゃ初めは気が狂ったと思うだろうよ。俺だって鉄の打ちすぎで頭の中まで竈の熱にやられちまったか?って思ったさ。

 

だが、どの作品も一級品だ。しかもアマゾネスはだいたい喧嘩っ早い脳筋なやつばかりだが、あの子は違ったんだ。丁寧な対応で接客するし、置いてあるヤツについて聞くとこれまた饒舌に喋るんだ。珍しいヤツがいたもんだと思ったぜ。しかし、いかんせんヘファイストス製の武具ってのは高いんだ。剣一本で百何万ヴァリスも値がするモンばっかだ。ここも、最初は数十万で売ってたんだがな、アマゾネスが打ったって評判もあって中々買うやつは出なかった。ーー俺か?俺は良いと思うもんがあったがそん時に金がなくてなーー

 

開店から1ヶ月くらいか、作品を買う奴は現れなかったが懸命に商売をしてる嬢ちゃんのファンになった奴は少なからずいた。しかし、そんな物好きどもは生憎金がなくて手をこまねいてたところにだ、あのクソ野郎が来やがった。

 

 

 

あのクソ野郎、あの嬢ちゃんに何度も汚ねぇ言葉をかけやがって、終いにゃ歓楽街で待ってるだのほざきやがった!!しかも、何回もここに来ては俺の女になれだの、アマゾネスなんかが武具を打てるわけがねぇだの言いやがる。流石の俺もたまたま通りがかって目の前で聞いた時は、頭の血管がぶち切れるかと思ったぜ。だが、ここはバベル。ギルドの庭だ。ここで騒ぎを起こすと、嬢ちゃんの店の印象も悪くなるし、俺もここを使えなくなっちまう。だから、その場は引いたさ。だけど、日に日に元気が無くなってく嬢ちゃんを見て、俺を含め何人かの男どもが立ち上がったのよ。ダンジョン内では何があっても見過ごされる、それが暗黙の了解だ。まあ、あからさまなのは流石に報告されるが…

 

あいつが付き纏い始めて二週間が経たねぇくらいの時に決行した。あいつはレベル2冒険者だったらしいが、こちとらレベル3冒険者よ。ダンジョンに潜って何階層か進んだところを、拉致って18階まで連れてって口が聞けねぇくらいにボコボコにしてやって、二度とこの店に近づくんじゃねぇ、って脅してやったら尻尾巻いてリヴィラの街まで逃げちまったよ。ま、それ以降この店に顔をださねぇってこたぁ律儀に聞いてるみたいだがな。

 

 

 

しかし、あのクソ野郎が貶めた評判はそうそう取り戻せやしなかった。店の中には誰も入りやしねぇし、遠目からコソコソと広がっちまった噂話をしてやがる。しかも間が悪いことに、嬢ちゃんが商品の値段を落としちまったんだ。自分の打った商品に自信がないって言ったのも同然なんだよ。そのせいであらぬ噂に尾鰭が付いて、それがどんどん人を遠ざけた。最初は俺が商品を買って宣伝でもしようかと思ったが、あのクソ野郎をボコるのに使ったアイテムや顔を隠す装備で金がまた無くなってな…ーーおい、バカを見る様な目でみんじゃねぇ!真面目に話してんだよこっちは!ーー商品も買えず、何ヶ月かがすぎた。その間に値段は更に安くなったが、そんな状態の商品を買っちまって良いのか、それが嬢ちゃんのためになるのかって考えちまってな。手を出し兼ねてたところに、お前さんが来たってわけだ。

 

 

 

最初はちょっとやれそうなヤツと、明らかに新入りって感じのガキが店に入ってくもんだから、何かやったらボコしてやるって思ったさ。そしたら、嬢ちゃんが身の上話をしてるのを無視して、店の商品をひょいひょい選んでカウンターに持ってくじゃねえか。コイツ嬢ちゃんがどれだけ辛い思いをして何があったか話してる最中にと思ったら、買うって言うじゃねぇか。テメェさては安くなったところを狙いに来たハイエナ野郎だな、って思ったんだがよ、真剣に嬢ちゃんとカウンターに置かれた武具をみやがるんだ。コイツはマジで嬢ちゃんの店を選んで買いに来やがったんだ、って一瞬でわかった。

 

そっからはお前さんが見たまま聞いたままよ。嬢ちゃんの店の評判はゆっくりとだが回復していったし、値段も…ホレそこの剣は30万ヴァリスだ。自信を取り戻した嬢ちゃんは値段を適正なものに戻してった。

 

お前さんが一番最初に買った槍は、嬢ちゃんが初めて店に並べた槍だ。嬢ちゃんもそれがあって安く売ったんだろうな。

 

 

 

「と、まあこんな感じよ。

お前さんのおかげで俺はこの店で堂々と買い物ができるし、嬢ちゃんの笑顔も見れた。

感謝してんだぜ、勝手だけどな」

 

語り終えた山賊の様な少し悪人面なおっさんは、キミへ感謝告げると商品を手に取る。カウンターに向かう前にキミは話してくれたことに対して礼を言う。そして名前を聞こうとするが、

 

「俺はお前さんの名前を知らねぇし、お前さんも俺の名前を知らねぇ。そんなんで良いんだよ、冒険者なんてのはよ」

 

そう言って彼はカウンターへと向かった。カウンターにはしゃがみ込んでいたシャルネルがまだ頬に赤みを残し、恥ずかしげな表情で立っていた。

 

「ぁ…ぁのぉ…」

「?…あっ!買っていってくれるんですか?」

「(コクン)」

「ありがとうございます!こちら、30万ヴァリスになります。もし、振った際に違和感を感じたら当店まで来てください。無料で調整など行いますので!」

「ぁ…あり…が…とぅ」

「ハイ!またいらしてくださいね!」

 

 

 

おっさんは、シャイボーイだった。

 

 

 





おっさん

老け顔でちょいと年上に見られがちな28歳
レベル3冒険者

シャルネル商店のファン一号

どっかの中堅ファミリア所属の冒険者

同性や、同年代以上か親しい間柄の女性などと話す時は気兼ねなく話すのだが、年下の可愛い女の子と話すとなると途端にコミュ力が落ちる。

メイン武器は両手持ちの両刃剣(バスターソード)
普段は仲間と迷宮に潜ってるが最近はバベルのシャルネルの店に入り浸ってる。
適正な値段で武器を買えて満足だが、買う時の姿を仲間に見られてファミリアで一時それをネタに揶揄われていた。


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幕間 とある神の邂逅

 

 

ある日、アマゾネスが鉄を打ちたいと言った

 

私は、それを受け入れた

 

 

 

 

 

あの子、シャルネルはとても良い才能を持っていた。アマゾネスとは思えない優しさと、鉄と槌に対する集中力、そして自分の作った作品を愛する子だった。それと、よく私の部屋に顔を出しては何を打ったか、これを作る時にこんな苦労があったなどと嬉しそうに話しにくるのだ。助言はしなかったが、ただ純粋に鉄と向き合う彼女と話す時間は楽しいものだった。ーーただ作品作りに集中しすぎて、自分の名前を作ったモノに刻印し忘れていることには何度も注意をしたが、その度に苦笑して誤魔化すところには呆れていたが。

 

彼女がファミリアに入ってから2年と半年。レベルが上がった彼女は遂に鍛治のアビリティを手に入れ、鍛治士としての実力をメキメキと伸ばしていった。最初は直剣やナイフだけだったが、いつの間にか盾や鎧の防具に、弓やハンマーなどのさまざま種類の武具に手も出していった。彼女の装備はバベルの新人が作った装備を販売するテナントに置かれたが、多くの人が手に取っていった。

 

そして、先日。遂に彼女専用のテナントをバベルに確保した。それを呼び出して伝えると、とても喜んでいたことを今でも覚えている。私もアマゾネス初の鍛治士がアビリティを手に入れられたことに喜んだし、それ以上に彼女の成長を自分のことの様に喜んだ。

 

 

 

しかし、開店から一月経ったある日

 

彼女の店の不穏な噂を耳にした

 

 

 

ーー曰く、アマゾネスが打った武具だからすぐに壊れるんじゃないか、他の男鍛治士と寝てそいつから譲ってもらったものを店に置いているーー

 

激怒のあまりに仕事机を叩き壊しそうになった。そんなわけがない、彼女の店に置かれたものは彼女自身が努力を重ねて作り上げたものなのだ。それをふざけた憶測で汚すなど断じて許されることではない。今すぐにでもそんな噂を根絶してやりたいと思った。

 

だが、私は個神である前にファミリアの長だった。一人の鍛治士に贔屓することはできない。たとえそれがたった一人だけのアマゾネス鍛治士だとしても。

 

悪い噂を私の権力で打ち消してもそれが引き金になって新たな噂が上がってしまう。だから私には見守ることしかできなかった。

 

開店してすぐは、今日も店に人が来てくれたと嬉しそうに話に来る彼女だったが、噂が出回って以降顔を見せにくることは無かった。

 

ーー後になって知ったことだが、彼女に先を越されて嫉妬した鍛治士の何人かが、私の部屋に来るのを止めていたそうだ。その鍛治士たちはファミリアから脱退させることにした。鍛治士のプライドを捨てた子に眷属を名乗られることを私が拒絶したーー

 

 

 

私は無力だった。

たった一人の眷属すら下らない噂から守ってあげることができない。

何が神だと自虐した。

 

しかし、数ヶ月経ったある日、彼女の店で武具を購入した人が現れたという。

次の日、勢いよく開け離れた執務室のドアからシャルネルが矢の様に飛び込んできた。

 

「ヘファイストス様!ヘファイストス様!

アタシのっ!アタシの子を買ってくれた人が!

初めてアタシの店(・・・・・)で買ってくれる人に会えたんだ!」

 

私は名も知らないその人間に感謝した。私の眷属を救ってくれた。

 

誰なのか聞いてみたかった。奇しくも噂に踊らされることなく、シャルネルの元にたどり着いた子の名を。

最初は分からなかった。名前を聞く前に去ってしまったからだ。その後同行者を連れに戻ってきたがすぐさま踵を返していったそうだ。

 

しかし、怪物祭(モンスターフィリア)を終えて数日。もう一度、その子がシャルネルの店に来たという。何でも一族秘伝の技を使わざるを得なくなり、その反動で槍をボロボロにしてしまったという。あまりに武器使いが荒い人だとシャルネルは怒ろうとしたが、点検をしてその考えが覆ったのだ。なんでもその槍はたった一度の大技に耐えきれず、その様になったらしい。修理のために預かった槍を見ると、確かに頻繁に使われている印象は無かった。

シャルネルは今度は名前を教えてもらったらしく、ウキウキと槍を打ち直しに工房へと帰って行った。

 

ハイランダー

 

聞いたことのない名前だ。

だが、もし会うことができたのなら頭を下げて感謝しないといけないね。

 

 

 

まさかあの子(神友)が連れて来て、

すぐに会うことができるなんで思ってもいなかったんだけど。



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未熟者と英雄
君は鑑定をする


世界樹の迷宮HDリマスター発売おめでとうございます。


 

シャルネルとの契りを交わし、装備を預けた君はオラリオの街を歩いている。オラリオを生きる人々の喧騒やすれ違う冒険者(同僚)たちのくだらない話、店の呼び込みや馬車の駆けるカラカラとした音が。装備を外し戦いから離れた騒音の中に一つの懐かしさを覚えた君は、あえてのんびりと(ホーム)へ帰ることにした。

相変わらず文字を読むことができない君だが、わからないものでも見て、感じることはできる。あの街とは人の量も大きさも全てが違うこのオラリオは、やはり違う世界なのだと実感をさせてくれた。

 

かの角鹿との戦いのせいか前の拠点を思い出す君の視界に、ふと見知った顔が映った。

 

アマゾネスの少女だ。名前は、ティオナ、だっただろうか。他にも似たような見た目をしているアマゾネスの少女、明るい金色(プラチナブロンド)の髪を背中の半ばまで伸ばした少し露出の高い白い服の少女や、同じく金色の髪をポニーテールで結った耳の長い少女の四人が、楽しそうに服飾店で買い物をしている姿を見かけたのだ。あれ以来関わりが無く、またプライベートを邪魔するのも悪いと思った君はそのまま人混みに流されようとしたのだが、ちょうど店の前を通ったところで声をかけられることとなる。

 

「あれ、もしかしてハイランダー?

偶然だねー!こんなところで何してるの?あ、あたし達はねアイズに似合う服ないかなって探しにきたんだ〜。あっ、アイズのことわかる?剣姫って言われてるんだけどーー」

「ちょっとティオナ、いきなり話しかけられて困惑してるじゃない。というか、この人は誰なのよ?」

「あっ、ごめんごめん。この子はハイランダーって言って、この前の怪物祭(モンスターフィリア)であの魔物に襲われて怪我してたところを保護したんだ」

「あぁ、この前話してた人ね。災難だったみたいだけど、生きてるだけ儲け物だわ。

自己紹介するわね、私はティオネ。この子の双子の姉よ。それでさっき言ったアイズって子が今アクセサリーを見てる子ね。その隣にいるのはエルフのレフィーヤ、ちょっと男性不信な所があるけど根はいい子なのよ」

 

まさか声をかけられるとは思わず狼狽していた君だが、自己紹介をしてくれた間に冷静さを取り戻し、自分のことを話す。今日はオフでのんびりしようと思っていた所なのだ。

 

「ねねっ!せっかくなら一緒にお店見て回らない?実は聞きたいことがあってね、前は言わなかったけど君ってなんだか不思議な感じがするんだよね。なんて言うかこう、強そうなのにあんまり強くなさそうなのはなんでなのーーって、いったーい!」

「アンタ何失礼なこと言ってるのよ!」

「だってそんな感じするんだもん。すごく戦い慣れてる感じがするのに強そうな雰囲気がしなくってぇ!!

もう!二回も叩くことないじゃん!!」

「バカティオナ!人には事情ってもんがあるでしょう。そう言ったところにズカズカと踏み込むのはダメに決まってるでしょ!

ごめんなさいね、うちの妹がいきなりバカなこと言って」

 

君は核心をつかれる言葉を言われ、話しかけられた時以上に驚いた。謝るティオネの後ろで、も〜、またバカって言った!と騒ぐティオナを尻目に気にしていない事を伝える。少し吃ってしまったが相手は気がついてないようで、安心した君だった。少々騒ぎすぎたのか注目を集めてしまった君は、二人に断りを入れるとそそくさと人混みの中に紛れ、群衆の流れに身を任せたまま家を目指すのだった。

 

「ほら、失礼なこと言うから帰っちゃったじゃない。また今度会ったら謝りなさいよ」

「む〜、ほんとにそう思ったからどうしてなのか聞きたかったのに…強さを隠してる理由を」

「あのね、人には秘密や言えない事情があるってさっきも言ったでしょ!しかも一回会っただけの人、ましてや他のファミリアの人にそんなこと聞くのは不味いってわかるでしょ!」

「この前助けたお礼に聞けないかなぁ、って思ったけどダメかなぁ」

「ダメに決まってるじゃない。バカなこと言ってないで次の店に行くわよ」

「あっ、またバカって言った!今日だけで三回も言うのひどくない!?

少しは妹に優しくしたってーーー」

 

 

 

大衆に紛れ、何とか(ホーム)までたどり着いた君。せっかくのオフでまさかの心労を負うことになった君は、のんびりすることはやめて家に帰ることにしたのだ。ふぅ、と一息ついて教会の扉を開ける。

君が秘密の入り口の目の前にたどり着いたと同時に、扉の向こうから二人の驚愕の声が響いてきた。君は何事かと、急いで二人のもとへと走り出した。秘密の入り口を開け生活スペースに入るとそこには、半裸で嬉々とした表情をして立っているベルと、ベルの近くで尻餅をつき少し痛そうにお尻をさすっているかみさまがいた。君はこの状況に困惑しながらも二人に何があったのかを聞き出すことにした。

 

 

 

なんとベルが魔法、というものを覚えたそうだ。何でも魔法は君の世界の術式やメディックの使う回復の技術と似たようなもので、精神力(マインド)を使って魔法を放つそうだ。

君は魔法の説明を受けるとそう納得することにした。しかし問題はその次の事情で、何でもベルが読んだ本は魔道書(グリモア)というらしい。君の持つグリモアとはまったく別物だが、効果は絶大だ。魔法を扱う才能がなくても魔法を覚え使えるようになる。これ一冊で、君の使っている武器の何百倍の値段で取引されているというらしいのだ。流石にそう言われると君もこの本の価値を理解することができた。

しかもこれが酒場の落し物を店員さんが何の本か知らずに、落とし主が取りに来ないのでベルさんにあげちゃいます!と言ってもらったものらしい。つまり本来の持ち主がいるということだ。魔道書は一回きりしか使えない。ベルが使った魔道書はもうすでにただの紙束としての価値しかないのである。それをもし落とした本人が知ったらと考えると、とベルとかみさまは怯えているのだ。

君は落とした人物が悪いのでは?と思いながらもそれは口にせず、ベルをダンジョンに誘おうとした。新しく覚えた魔法を使ってどこまで潜れるか挑戦しようじゃないかと、君はベルに伝えようとしたが、今の君は謹慎中の身。故に誘うことはせず、戦々恐々としているベルを憐れみながら、あるものを手にすると秘密の部屋からは出て教会内のベンチでとある作業に着手するのだった。

 

 

 

グリモアの合成・鑑定

 

 

君にとっては慣れ親しんだものであり、だが己の手で行ったことは一度もない作業だ。先日の戦いで新たにグリモアを獲得した君は、グリモアの合成に挑戦することにしたのだ。

まだ鑑定していないグリモアの中身を確認する。二度目の作業で、過去にハウスキーパーを任せていたメイドの作業を見様見真似で思い出しながら、しかし前よりは慣れた手つきで手順を進めていく。集中して行うこと、二時間ほど。前回のものと違う感触に戸惑いながら何とか成功することができた。

先程まだ傾いていた太陽の光は真っ直ぐ伸びており、PM00になっていることに気がついた。ようやく鑑定を終えた君は、グリモアの内容に何とも言えない表情をしていた。

 

 

-敵技のグリモア-3

困惑のステップ 2

かちあげ 1

 

 

以上だった。

 

うーん、と唸った後、

 

「ゴミ」

 

そう言わざるを得なかった。

 

君にとってグリモアとは、一喜一憂するものだ。中身が悪かれどスロット数が多ければそれだけで使い道があるし、スロット数が少なくても強力スキルが組み込まれていればそれを他のグリモアへと合成させ移すことができるのだから。

しかし、生成される内容、タイミング、種類全てランダム。故に楽しみにしながら鑑定結果を聞くのだが、死闘の果てに生まれたのが、スロット数が少なく、内容も悪く、レベルも低いこのグリモアともなると…流石の君でも落ち込んでしまうのであった。普段なら廃棄するところだが、異世界でグリモアというものがない場所でそこらへんに捨てるのもは憚れるため、仕方なくポーチの肥やしとなるのであった。

 

 

君は落胆を隠せなかった



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君は語る(騙る)

 

グリモアの鑑定を終え、次はどのグリモアを装備していこうか悩む君。次は是非ともベルとまた冒険をしたいと考えていた君は、次はサポートができるものにしていこうと考えている。最近はベルの特訓に付き合うことはあれどなぜか別行動を取っていた君だったが、たまにはサポートする側に回ってみるのも悪くないのでは、と考えたのだ。装備するグリモアを決めると、二人のところへと戻る。

 

時間も経って落ち着いた二人だったが、まだ挙動がおかしな部分が見受けられる。いつまで狼狽えてるのか、やってしまったものはしょうがない、そうベルに伝えるが、うじうじと請求されてしまった時のことを考えていた。その時には一緒に返済を手伝うさ、そんなことより新しい魔法がどんなものなのか気になると君が伝えると、潤んだ瞳で君を救世主か何かのように見つめるベル。

大袈裟だと思いながら、しかし実践は何が起こるかわからないためダンジョンで行うことになった。ベルの新しい力に興味津々な君だが、謹慎中のためお預けを喰らうことになった。

 

ベルは覚悟を決めたのか、この本をもらったあの酒場に事情を説明しにいくことを決意したようだ。ついでに今日の夕飯の材料も買ってくることを頼んでおく。

出て行ったベルを確認して、さあ何をしようかと考える前に神様に呼び止められた。

 

「ハイランダー君、君に相談があるんだ。聞いてもらってもいいかい」

 

真剣な表情をするかみさまの顔を見て近くの椅子に腰を下ろす。君は無言で続きを促した。

 

「実は、今ベル君はパーティを組んでいるんだ、他のファミリアの子と。

少し心配なんだ。ベル君はいい子だ。だから変ないざこざに巻き込まれないか、他所のファミリアの事情に首を突っ込んでしまわないか気になってしまうんだ。

ベル君がバイト先に来た時に、ベル君とパーティを組んでいる子と少し話してみた。嘘はついていないけど、少し怪しい所があってね。しかも女の子でベル君を見る目が変なんだよぉ…!明らかにあれはベル君を意識してるように見えたんだ!だからダンジョンで変なことをしてないか君に見張ってて欲しいんだ!その時だけ謹慎は解除するから、ベル君があの女子(おなご)といかがわしいことをしてないか調査してくれ!!」

 

最初のシリアスはどこへ行ったのか、後半からはただの嫉妬からくる妄想を聞かされた君。その後もあーだこーだ言うかみさまに、呆れながらも了承することを伝える。かみさまは、頼んだぜ!ボクはバイトに行ってくると言って、(ホーム)から足早に出て行った。

一つため息を吐くと、軽い頭痛が走り君はベッドの上で横になり仮眠を取ることにした。

 

 

 

 

夕飯を済まし、腹ごなしの運動をこなして就寝。いつもの夕時の一コマだったが、深夜。

ふと人が動く気配を感じた君は目を覚ますと、装備をつけてこっそりと出て行こうとしているベルの背中を見つけた。夕飯の時に実践は明日のダンジョンで行うと言っていたが、今から行く気なのだろうか。ついて行ったほうがいいのだろうか、しかし謹慎中だから出ようか迷っているとすでにベルの姿はなかった。仕方ないので君は一度かみさまを起こすことにする。

寝ぼけ眼で君に要件を尋ねるかみさまだが、君の説明を受けて目が覚めたのか。君にすぐにベル君を追いかけてくれと頼む。君は魔法についての説明をろくに受けてないので、なぜかみさまが焦っているのかがわからず、事情の説明を求めた。

 

「いいかいハイランダー君。魔法は精神力(マインド)を使って撃つって説明はしたね。だけど魔法を撃てば精神力は減る。精神力を全部使い切っちゃうと人は気絶しちゃうんだ。これをマインドダウンって言うんだけど、夕ご飯の時にベル君はすごくウキウキして楽しみにしてたみたいだから。もしかしたらこのことを忘れて撃ちまくって、ダンジョン内で気絶しちゃうかもしれない…ベル君ちょっと抜けてるし…

とにかく、そんなわけでベル君の身が危ないかもしれないから、探しに行ってきてくれ!!」

 

成程、迷宮内で気絶したらいつ死んでもおかしくない。戦闘中に幾度も状態異常(バッドステータス)を受けてパーティ壊滅の危機を経験したことがある君は、ことの重大さを理解する。すぐに相棒《アルケス》を担いで、全力で人通りの少ない深夜のオラリオのメインストリートを駆け抜けた。防具はまだ預けたばかりなので無い。しかし上層の敵に今更遅れをとるほどの実力ではない、何とでもなるはずだ!そう意気込んで君は迷宮(ダンジョン)へと潜り込んでいった。

 

 

 

君はモンスターを狩りながら、しらみ潰しに迷宮を捜索する。五層の半ば程でベルを見つけることはできた。膝枕されているベルを。

見覚えのある少女の膝枕を幸せそうな表情で受けているベルを見つけた時、ホッとため息が出てしまった。すると、こちらの存在がバレてしまったようだった。

 

誰だ、と言われたが特に何かをやらかしたわけでも無いので堂々と出ていく。もう一人女性がいたことに今気がつく。しかし、その女性に少し警戒されているようだった。整えられたエメラルドグリーンの髪を思うままに流し、白いローブを纏い落ち着きのある緑色の服を着ている。先端に銀の意匠が施された杖を持つ女性は高貴な存在の気配を漂わせる。あと耳が長い。

君は、自分がそこで横になっているベルと同じファミリアの団員だと伝える。しかし、まだ信用されていないようで名前とファミリア名を伝えた。すると何か気がついたのか、気配は警戒から別のものへと変わった。続けて、事情を話すと信じてくれたようだった。

 

「すまない、同じファミリアの者だったか。いきなり現れたから怪しんでしまった。

それにしても、君がハイランダーか。私はリヴェリア、彼女はアイズだ」

「あなた、この前ティオナと話してた人?」

 

見覚えのある少女は、この前ティオナと話した時に一緒にいた少女だった。まさかこんなところで出会うとは思っていなかった。君はアイズの問いにそうだと答える。

ベルを保護してくれたことは感謝するが、なぜ膝枕をしているのか不思議に思った君は尋ねることにした。

 

「この子、ベルって言うんだね。

どうしてかな、なぜかわからないんだけどしてあげたくなったから、かな?」

 

したくなったから、なら仕方ない。

 

「私からも聞きたいことがある。あなた、本当は強いのにどうして隠してるの?ダンジョンに挑むなら実力を隠す必要なんてない。強いのにそれを隠すのはなぜ?」

 

今朝と同じ質問、いや踏み込んだ質問にどう返すか悩む君。

 

君は過去に世界を救った。

君は偉業(世界樹の迷宮の踏破)を成し遂げている。

君は英雄と呼ばれる人間だ。

故にその気配は隠し通せるものでは無い。たとえこの世界で改めて強くなっていったとしても。その、功績からもたらされるオーラを消すことはできない。たとえ、今の身に不相応だとしても。

 

そして、語れない事情もある。君はこの世界において異物なのだ。それは君のかみさまからも何度も言われている。だから、君はこう語る。

 

「かみさまに頼らず強くなった。

それは、この世界じゃできないことだ」

「っ!」

「かみさまの力は凄いらしい。けど、それだけに頼るのは本当の強さなのか?」

「……そう、なんだ。

だから、あなたは強いんだ」

 

君は嘘は言ってない。事実だけを話し、なおかつその成分を3割程しか使ってないだけで。あと、質問の答えになってもいない。が、相手が納得したのでよしとすることにした。

君は会心の答えを出すことができたと内心ホッとした。これで何とか質問を切り抜けれたと安心をよそに、今まで身じろぎ一つ起こさなかった少年が目を覚まそうとしていた。

 

「ハイランダーさん…?どうしたんですか、そんな顔して。あれ、確か僕一人でダンジョンに来て、魔法の実戦をしてたは…ず……!?」

 

目を覚ましたベルは、君を見つけると寝起きの頭で周囲の状況確認する。頭の柔らかい感触への違和感から、視線を(そら)へ向けるとそこには、ベルが憧れている少女の顔があった。そこから始まるのは急速な情報把握、そしてそれによって導き出された答え。

 

ベル()は今、ヴァレンシュタインさんから膝枕を受けている!?

 

そこからは早かった。ベルは顔を朱く染め上げると、謎に謝罪の言葉を叫びながら、君を置いてダンジョンの出口へと最速で駆け出してしまった。君はいきなりの行動にベルを止めることができず、その背を見送ることしかできなかった。

 

「ふふっ、若いな」

「…少し、悲しい」

 

撫でていたウサギがいきなり飛び出て行ったかのような反応に、完全に小動物扱いされていることを不憫に感じる君だった。その後、君は2人に礼を告げ迷宮を後にする。一瞬引き止められそうな気配がしたがそんなことはされず、君が迷宮から出た頃には時刻はAM05を指しており、既に日が上り始めようとしていた。

 

なんともまぁ、愉快な一日だ。

 

そう締めくくって、君は(ホーム)へと帰るのであった。

 

 

 

 

 

「世界…か。彼は一体何者なのだろうか?」

「どうしたの、リヴェリア?」

「いや、何でもない。私たちも帰ろうか、アイズ」

 

君の残した謎を訝しむ者の呟きがオラリオの空気に混じって消えた。



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走れ未熟者(ルーキー)

 

君が防具を受け取るまでの数日、ベルは迷宮(ダンジョン)へと潜りそれなりの成果と魔法の実感を掴んできたようだ。報酬は折半しているとのことで君と2人で迷宮に潜るときよりは少ない金額ではあるが、着実に実力を伸ばしている。次は魔法を織り交ぜた戦い方を学びたいと言っていたが、まぁ出来なくは無いので君は頷くのだった。

 

さて、そんなこんなでシャルネルから防具を受け取り、神様の言いつけ通りベルを少し遠巻きに見守りながら迷宮へと潜るのだが、その前に。

 

何やら他の冒険者と小競り合いがあったようだ。大男の冒険者はベルに密談を持ちかけたようだが、キッパリと断るベル。そのまま迷宮へと、かみさまが言っていた少女と共に潜ってしまう。大男の憤怒の形相が三日月へと歪むのを見て、嫌な予感がするものの君は2人を追いかけることにした。

 

 

 

事が起こったのはB10F〜殺意を覆い隠す霧の住処〜の半ば。君は襲いかかるオークの脳天をブチ抜き、インプの群れを薙ぎ払いながらベルの後をつけていた。

しかし、途中いきなり血生臭い匂いが鼻腔を刺した。気づくとその方向に魔物(モンスター)の群れが殺到しているではないか。君はその匂いの原点へと向かうと、何とベルが魔物の群れに囲まれている。しかもなぜかあの少女の姿が見受けられない。明らかなピンチにベルの救助を行う。

君が手を出すのと同時に、同じような考えをした者が近くの他の魔物を斬り伏せた。見覚えのある顔と髪色、この前世話になったアイズだ。君はベルに己の安否を聞く。

しかし彼はそれよりもヘスティアナイフがパーティの少女、リリに盗まれたと言う。まさか装備を盗まれるという事態、君は初めて装備は盗まれてしまう事があることへの衝撃を受けた。

彼女に話を聞かなくちゃならないと、ベルは今にも飛び出しそうな勢いである。君はベルに、走れ!すぐに追いつく、とベルの背中を押した。

 

 

 

「すまない、身内の事故に巻き込んでしまって」

「いいよ、あの子優しいんだね」

「ありがとう、少し抜けてるが良いヤツなのは違いない。

…とっととベルのところに行かせてもらおうか」

 

(キミの強さ、少しだけ見せてもらうね)

 

 

 

リリ!どこに居るんだ!?早く見つけないと……この音は、キラーアントの足音?それもこんなにたくさん。もしリリが襲われてたとしたら…急げ!急げ!音の方向を聞け、脚を止めるな、風を切れ!

リリはッ!あんなことを自分がしたくてやったんじゃない!確証なんかない、絶対なんて言えない、だけど!僕なんかと一緒に何度も冒険して笑って、怒って、常識知らずな僕に驚いて呆れたりしてもパーティを解消しなかった。今日、あの言葉が、本心だったとしても嘘だったとしても!僕はッ!リリとまだ一緒に冒険したい!!

 

だから!

 

 

 

「ファイアボルトォ!」

 

 

 

「ベル…様?」

「ごめんリリっ!遅くなっちゃった、怪我はない?」

 

今、ここでリリを絶対に助ける!

 

 

 

思い出せ、ハイランダーさんとの特訓を。

ファイアボルト(魔法)だけを頼るな、己の磨いた力と技を全力で駆使しろ。全身を武器に、視界は広く、守るべき者を常に背中におけ。(前衛)が崩れたら(後衛)は必ず危険な目に遭う。確実に素早く敵を裂き、対処できないのは一度足で蹴り戻す。隙ができたらファイアボルトで確実に始末する。

 

プランはできた、行けベル!

今、リリを救えるのは(ベル)しかいない!

 

 

 

「意外と長引いてしまった、急いでベルに追い付かなければ。ありがとう、また助けられた」

「いいよ、私も見たいものが見れたから」

「?…そうか、なら俺はベルの後を追う。

直接の礼はまた今度、そちらまで伺おう」

「別に良いよ、力になってあげたいと思った…だけじゃ無いけど、そう思ったから」

「では、またな」

「うん、また」

 

君は共闘することで蔓延る魔物を一体残らず滅し、アイズと別れベルを追いかけた。しかし、君が着く頃には全てが終わっていたようで。

 

君の目の前には、ベルの腕の中で涙に体を震わす少女の姿があった。

魔石の数はかなりの数あったはずだが、その全てをベルが仕留めたのだろう。君は野暮なことはせず、 ベルの成長に一つ感嘆の息を漏らすと邪魔が入らぬように、門番を勝手に引き受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「で!ハイランダー君っ!君と言うものがいながら、ベルくぅんとあの少女がイチャコラしてたのを黙って見届けるどころが邪魔をされない様に手伝ったのはなんでなのかなぁ!」

「あれを邪魔するのは野暮だろう。

邪魔者は鹿に蹴られて迷宮で惑い死ね、と言う諺があるほどだ」

「それを言うなら、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ね、だろう!?

僕は言ったじゃないかぁ!もしそうなりそうなら止めてくれって!」

「今回は、かみさまの負けだな。これ以上はベルとリリとか言う少女と三人で話し合ってくれ」

 

君はまだ文句を垂れているかみさまを放って教会へと続く階段を登る。どうやら、ベルとリリという少女は和解し、今後もパーティを組んでいくそうだ。それに文句を言う権利は自分に無いと考える君は、後のことは神様に任せてスタコラサッサと出かけることにした。

 

オラリオのメインストリートを散策する。先日の礼を早速返しに行こうとしているのだが、土産物がなかなか決まらない。過去に君が拠点にしていた家のハウスキーパーの少女は、他所にお礼の品を持っていくのなら慎重に選ぶように、と言っていた。しかし、こうも見つからないとなるとなかなかに骨が折れる。ロキファミリアは巨大なファミリアだ。そこに持っていくものともなればそれなりのものを用意しなくてはならないと、街を練り歩く。しかし目当てのものが見つからず、少し休んでいたところ…

 

「あっ、キミ…」

 

思わぬところで、目的の人物に出くわすとは。というか、意外と街中でよく遭うな。有名人だと、この前エイナから聞いたのだが。

君はちょうどよく会えた幸運に感謝しつつ、この前の礼がしたいとアイズに話す。アイズは最初は断ろうとしたものの、ふと鼻が捉えたじゃが丸くんの匂いに抗えず、君からの奢りということで決着をつけるのだった。しかし君はこれだけで二度も助けられた礼を返し切れたと思えずにいた。故に他に何かないかと尋ねたのだった。

 

「なら、今度私と戦って欲しい」

 

黄金の少女は、君にまさかの挑戦状を叩きつけるのだった。



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君は贈り物を考える

 

「なら今度、私と戦って欲しい」

 

君はアイズからの提案に疑問を浮かべた。彼女はベル曰く、強い、綺麗、レベル5の冒険者、あとベルの憧れであり惚れているであろう女性、ということがわかっている。

レベル5、つまりはレベル1のベルでは到底太刀打ちできない相手であり、それは自分にも通ずるものがあるだろう。レベルが1つ上がるだけで、別人のように強くなる。君はこの世界のレベルによる強さの幅をきちんとは理解していないが、そう言ったものがあることは頭には入っている。例えるなら今のレベルで「シンジュク」に挑むのと同じような無謀さがある。

そのレベル差をしってか知らずなのか、目の前にいる少女の挑戦状への返答に困る君。真剣な瞳でこちらを見る姿はなんとも断り難い。しかし、強者に挑む機会を得るのも悪くない。そう考えた君は、投げられた手袋を拾うことにした。

 

日時、ルール、その他諸々は追々考えようとなり、じゃが丸くんを片手にその場は解散することとなった。どうしたもんかと悩みながら(ホーム)に帰ると、そこには

 

「ベル様は!私とふたり(・・・)で!

ダンジョンに潜るんです!」

「いーや、ベル君は!ボクとふたり(・・・)で!

デートに行くんだい!」

「リリ!神様ぁ!痛いです、痛いですってぇ!!」

 

問題は解決した様だが新たな問題に苛まれたようで、綱引きの中心点(ベル)を助けるべく3人に静止を呼びかけるのだった。

 

 

 

「へ〜。それじゃ、あの子とそのリリって小人族(パルゥム)の子は正式にコンビを組んだんだね」

 

あぁ、と君は頷いて、カウンターで対面するシャルネルに先日の出来事の簡略的な概要を話している。装備の点検の用もない。そんな君が何故ここにいるかと言うと、件のリリとベルとの正式なパーティ結成を記念して何か贈ってあげられないか相談に来たわけだ。

こと迷宮(ダンジョン)の事ばかりな君の脳内だが、記念に物を贈ると言う概念は流石にある。実際、すでに今日は豊穣の女主人(酒場)に予約を入れて、正式パーティ結成記念パーティーを開くことが決まっている(代金は君持ちだ)。その上で、先立つものを何か贈ってあげたいと思いはしたが、何も思いつかないので君はシャルネルに相談しに来たわけだ。

 

「んー、そうだねぇ…パーティを組むならお揃いのアクセサリーとかどう?腕輪でも耳飾りでもなんでも良いけど、お揃いの物を持ってると結束感があって良いんじゃないかな!」

 

なるほど、と思い君が2人に手渡すのを想像した瞬間…

 

「ハイランダーくんはボクだけを除け者にするんだね…ふたり(・・・)だけのお揃いのアクセサリーを贈るなんて…」

「これからベルくんがパーティを大きくする度に、仲間の輪が広がる…うん!さいっこうのプレゼントだぜ、ハイランダーくん!」

 

2つの可能性に少し悩むが、アクセサリーにしようと決意した。

 

「ならデザインはどうする?当たり前だけど冒険の邪魔になったら本末転倒だよ?

アタシならブローチが良いと思うよ。服に付けるだけでいいし、指輪と違って勘違いとかもされにくいと思うから」

 

採用、君はシャルネルの提案をすぐさま肯定すると次は何処で買うかを悩むのだった。流石に高すぎるものは用意できない。予算の都合があるのだ。

 

「ふふ〜ん、キミキミ。ここに居るのが誰か忘れてな〜い〜?専属鍛治士のシャルネルさんが居るでしょ?」

 

鍛治士ってブローチとか作るのか?

 

「作る人は少ないけどアクセサリーとか防具の装飾とかの装飾品に手を出してる人もいるんだ。アタシ、小物を作るのも好きだから趣味でアクセサリーを何度か作った事があるから、作ってあげられるよ?」

 

そうなのか、なら頼みたい。君はシャルネルに予算などの話を詰めようとするが、

 

「この程度ならお金なんて取らないよ。それに、いずれお客さんになってくれるかもしれないしね!たった2人の家族(ファミリア)なんでしょ?キミの家族の祝い事ならアタシも一肌脱いであげる!

代 わ り に、また面白い武器の案が思いついたら教えてね!キミの発想ってどこかアタシたち鍛治士とは違って面白いんだもん」

 

シャルネルからの善意に君は感謝の言葉を伝える。デザインはあやふやながらイメージを伝えると、ニッコリとサムズアップして、4時間後にまたここにきて欲しいと伝えると彼女はカウンターの奥の工房に姿を消した。

 

 

 

「家族、か…姉さん、今どこにいるんだろう?」

 

 

 

「よお!」

 

あっ、おっさん。

 

「この間ぶりだな。なんだなんだぁ?アクセサリーとか聞こえてきたが、贈るのか?」

 

あぁ、贈る。

 

「お、おう、もうアクセサリーを贈るなんてなかなかやるじゃねぇか…

コソッ)因みに、何を贈るんだ…?」

 

ブローチだ。

 

「ほ、ほぉ。ブローチね、なるほどなるほど…参考にするか…」

 

なんの参考にするかは知らんが、贈るのはファミリアのパーティ結成記念だぞ?

 

「なっ!?んっだよ、あの子に贈るんじゃねぇのかよ!」

 

何が言いたいかは知らんが、それだけなら俺はもう行くぞ。

 

「あっ、待っ!クッソォ、進展したのかと思ったらちげぇのかよ、焦らしやがって」

 

 



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君と秘密の特訓

 

では、ベルの正式なパーティ結成を祝して

 

「「「「かんぱ〜い!」」」」

 

早速だが、2人に贈り物だ。

包装された小さな箱を取り出すと、君は2人の前に置く。中を開ける様に促すと、ベルはワクワクした様子で、リリは少し緊張した様子で箱を開けた。

 

「パーティの証、みたいなものだ。かなり小さめのブローチだが、ベルには白の、リリにはなんとなく思い浮かんだ灰色の、鐘の形をしたブローチを作ってもらった。特に特殊な効果も何もない、がパーティの結束を強めるアイテムとして使ってくれると嬉しい」

 

「わぁ…!素敵なブローチです、ハイランダーさん!ありがとうございます!」

「その、ありがとうございます…出会ったばかりのリリにも、こんな素敵なものをいただいて。それもベル様とお揃い(・・・)のアクセサリーなんて、とても嬉しいです!」

 

かみさまは泣いた。かみさまは睨んだ。

 

「ベルがパーティを大きくするたび、その人にも贈る予定だ」

 

かみさまは喜んだ。かみさまは君の肩を笑顔で叩いた。

リリは、少し不満そうだった。

 

 

 

さて、パーティ結成記念パーティーは盛況の後に終わりを告げた。しかし、君の財布も同時に終わりを告げた。

防具の修理、武器の整備、日々の食費、今日の宴会代、消費アイテムの補充…etc。諸々が積み重なって、君は金欠となっていた。で、あらば?

 

久しぶりに泊まり込みでダンジョンに潜るぞ。

 

君は、かみさまとベルに2、3日戻らないことを伝えて迷宮(ダンジョン)の中に消えて行った。

 

 

 

君がダンジョンぐらしっ!を終えて地上に戻ると、ベルの様子が少し変わっていた。小動物や大人しめの印象を与える少年の顔から、少しだけ垢抜けた印象が見受けられる。そのことについて尋ねると、ベルは頬を掻いて、ハイランダーさんにはバレちゃいますよね、と隠し事を話してくれた。

かみさまやリリには秘密にして欲しいと前置きされ、内容を話す。なんでも、あのアイズと修行をしてるらしい。きっかけはこの前のB10Fで、リリにナイフを盗まれた時の戦闘時に落としたプロテクターを、アイズがベルに届けてくれた事が発端のようだ。レベル5のアイズに一撃入れられそうになったが惜しくも届かなかったそうだ。明日もあるそうなので、よければ自分にも来て欲しいと言われ、この前の約束の件もあって君はついて行くことにした。

 

因みに、成果換金の際にエイナからまた叱られた。

 

 

 

 

 

「ベル、頼む」

「お願い」

 

僕はこの時、初めてハイランダーさんとアイズさんの本気(実力の差)を見たのかもしれない。

僕の時とは明らかに雰囲気の違うアイズさんの眼。ハイランダーさんはまるで決死の覚悟をしたかの様な面持ちで、あまりのプレッシャーに呑まれそうになる。手が、震えるんだ。あの時(ミノタウロスとの出会い)よりも重く、濃厚なナニかの気配。僕はこの戦いを一瞬たりとも見逃してはならないと直感した。

 

それは、

 

「い、いきます…」

 

綺麗で、力強くて、

 

「始め!」

 

とても格好良かった(憧れは遠かった)

 

 

 

翌日の早朝、ベルに連れられて君はオラリオの外壁を登っている。壁の内部に階段があり、胸壁へ出るようになっているのだ。登り切った先、待っていたのは地平線から顔を出す朝日と、まだ日の光が届いていないオラリオの街並み、そして朝日によって煌めく黄金色の髪を風にたなびかせ君たちを待つ少女の姿だった。

 

「ベル…とハイランダー?」

「はい、ハイランダーさんに修行の成果を見てもらおうと思って…ハイランダーさんもアイズさんとの約束があるからちょうどいい、って」

 

悪いな、2人きりでの修行だっ…

 

「はははハイランダーさん!?し、しーっ!」

 

慌てたベルに首を傾げるアイズ。頑張れベル。道は長く険しいぞ(ヘタれるなベル)

 

 

 

君はベルとアイズの修行の風景を見ていた。

なるほど。踏み込みが前より大胆かつ的確になってきている。蹴りの鋭さや、ステップの速さなど足技に磨きがかかっている様だ。手加減はされているのだろう、それでもアイズの動きは目に見えて強者のそれとわかる。それでもと食らいつくベルの目には、次の一手を見出すためにこれでもかとアイズの一挙手一投足を見ていた。一瞬、ベルの一撃がアイズを捉えかけた。しかし、無常にもその一撃は受け止められ反撃の一撃によってベルは宙を舞い、強かな音を立てて着地した。

 

「今のは惜しかったね」

「ぐっ、うぅぅ…はい、ありがとうございますっ…!」

 

痛みにうめきながらもベルはアイズからのお褒めの言葉に反応する。君もベルの健闘を讃えるが、疑問に思ったことをベルに質問をする。

魔法は使わないのか?

ベルには先日の一件で使えるようになった魔法がある。ベルの魔法の内容は詳しく聞いてなかったので、まだわからないが概要だけは聞いていた君は、ベルからの返事を待った。

 

「あ、えっと…魔法に頼りすぎるのは良くないかなって。使える回数は限られてますし、いざと言うときに頼りになるのは自分の身体ですから。それに、魔法を使わなくても強い人を知っていますので」

 

確かに、使える回数の限られているものはいざという時に取っておきたいものだろう。君はどちらかと言うと、容赦なく使わないといけない環境ゆえに取っておくと言う考えはあまり馴染まないが。

 

さて、

 

「ベル少し休憩だ」

「はい、アイズさんもいいですか?」

「いや、約束をここで果たす」

「っ!」

「え?」

 

アイズとの約束を果たすちょうど良い機会に恵まれた。逃す手はない。向こうも乗り気のようだし、人と戦うのは久方ぶりだ。

 

「ベル、よく見てろよ?

全てを出し切って相手を倒す。

魔法も技も血も肉も骨も、全てを使う戦い方を見せてやる。

 

全力でいくぞ」

 

「うん、それでいいーー

 

見せて、あなたの本当の実力を」



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挑戦 閃々舞闘

 

 

来てーー

 

紡がれる言葉とともに飛び出す躰。

放たれる一撃は重く、だがそれを繰り出すハイランダーはそれを軽々と逸らすアイズに舌を打つ。弾き、打ち合わせては速度を上げていく。その光景はあまりにも異様だった。端からみればレベル1のルーキーの攻撃に合わせている様に見える。が、違う。レベル5の冒険者が、剣姫が、あのアイズ・ヴァレンシュタインが、君に攻撃を合わさせられている。突きは弾かれ、振り下ろせば反撃が飛び、払えば逸らす。切っ先が掠るように身を捩り、致命傷にならないように確実に受け流される。加速する応酬は一度の競り合いを経て、その閃きを止めるに至る。

次に動いたのは、果たして剣姫かルーキー(英雄)か。

 

それは戦いの勘から生まれた咄嗟の反応。間合いは届いていないはずなのに、防御に構えた武器からびしりと衝撃が手を走り、体を駆け抜ける。

 

それは戦いの勘から生まれた経験の反応。槍を引き絞り、初動を潰すべく相手よりも早く踏み出された攻撃の一歩。伸ばした腕から手応えが返ってくる。

 

きつい、な。

 

すごい、ね。

 

この打ち合いでわかることは一つ、決着をつけるなら早くだ。

 

「キミ、だよね。あの時あのモンスターを倒したのは」

「あの時?」

怪物祭(モンスターフィリア)のとき、街に出た植物型のモンスター」

「…」

 

「多分キミならあのモンスターを倒せたと思う。それにこの前ダンジョンで言っていた、あの言葉…だから、知りたい。あなたの強さは何?(レベルとは違う強さを)

 

君は答えることなく、構えを取る。同時にアイズも口を結び、(武器)を構える。

息を吸い、吐く。左手を槍で貫く。血しぶきは螺旋を描き、相棒《アルケス》に纏わりつく。己が使える手を全て引き出す。

制限を解放(リミットレス)し、

生命力を力に変え(ブラッドウェポン)

血の槍を創り出す(ディレイチャージ)

 

雰囲気が瞬間の内に変わる。

君の鼓膜は誰かの息を呑む音では震えない。アイズの摺り足が石畳をジャリッと削る。その音と同時に、踏み込んだ。

飛び出した体は、勢いを余すことなく槍に力を伝える。君とアイズとの間合いが詰まる瞬間、アイズの目の前に一本の氷柱(氷の術式)が生えた。突然の出来事、しかしアイズは冷静にその氷柱を粉々に破砕する。日の光に煌めく砕かれた氷、その隙間から、氷の刃の一閃(スピアインボルブ)が瞬いた。

 

砕かれた氷の隙間を縫い、冷気を纏わせた槍はアイズに届くことはなかった。鞘によって逸らされた一撃。逸らされた力の流れ、それに抗うことはできず。トドメの一撃が君を強かにーー

 

 

 

まだだッ!

 

突如としてアイズの眼は閃光に焼かれる。ハイランダーの不意打ちは防いだはず。しかし、まだ何かしらの手段が残っていたのか一瞬だけハイランダーの手が光った時には視界が白く焼き付いていた。まるで目の前に雷が落ちてきたかのように。

空気の流れが二つ、変わる気配がした。鋭く裂ける様に、こちらへと飛来する。勘が告げる。止めなければと。

視界が無くても、彼女はそこに自身の魔法(エアリアル)を込めた全力の一撃を持って、応えた。

 

ーー獲るッ!!

テンペストッ!!ーー

 

二重の衝撃を受けたアイズの全身に重い衝撃が走る。

 

しかし、それだけだった。

 

力任せの強引な振り抜きで、振り払う。風が吹き荒れ、ドサリと地面に打ち付けられる音を聞く。苦しいながらも眼を開き視界を広げた。明滅繰り返しながらも、レベルによる肉体の強度が数秒のうちに視界をクリアにする。

 

「ハイランダー…さん?」

 

そこには、血溜まりの中仰向けになるハイランダーと、慌てた様子でポーションを片手にハイランダーへと近づくベルがいた。

 



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(英雄)は語る

 

「負けだ」

 

血溜まりの主人から声が出る。明らかに重症のはずの出血量、しかしケロッとした様子で体を起こすと、自身の惨状を理解してないのか血まみれのままでアイズに近づく。久々の全力の対人戦、いい経験になった、と。

 

ベルが慌てた様子で君を心配する。君は自分の背中が妙にじっとりとしていることに気がつくと、後頭部をさする。手にべっとりとついていたのは血液だった。君にとってはいつもの通りである。あの時(FOEとの決戦)あの時(コロちゃんとの死闘)あの時(毒で死にそう)あの時(最近の戦い)も、思い出せばキリがないくらい君は全力の戦いを制した時、血まみれのボロボロな姿が正装と言っても過言でないほどこの姿に慣れていた。今回はボロボロではないが、全力をこの世界で他者に見せたことはない君はそれを知る人がいないことに合点がいかず、いつも通りの振る舞いをする。

ベルは、死ぬんじゃ無いか、早くポーションをと焦っている。アイズの方は、驚愕の面が貼り付いていたがキミと目が合うと申し訳なさそうに逸らした。

 

 

 

キミは二人にわかりやすく説明をした。

自分の技術のこと、それによるリスク、死にはしないこと。

あと、ポーションはありがたくいただいた。後で2倍にして返す予定だ。

 

納得はいかないようだし、ベルは今も涙目のままキミを心配そうに見つめている。全力を出す度にこうなってしまうが出血程度で死にはしない。毒の方がもっと恐ろしいと、見当違いなことを言いながらキミはアイズに話しかける。

 

「強さの理由は解かったか?」

 

しかし、俯き口を開かぬ様子を見る限り、解らない、いや言葉にするのが憚られているのかもしれない。

キミは確かに強い。冒険者(英雄)である。

だが、それは自身の命を代償に得た力では無い。もともと備わっていた力を行使しているだけである。

 

しかし、それを代償ありきの力と見るには、状況が肯定をしてしまっている。烈火のような連撃と、破壊力や多彩さを持った一撃。まさに命を削る戦い方。

これが本人の経験と技術の賜物だと気がつくには、足りないものが多すぎた。

 

「どうしてそこまでして、力を求めたの?」

「冒険者だから」

 

質問への返答に質問が返るも、キミの返事は槍のように一点を貫く一言だけ。すれ違う常識と思惑は、二人の冒険者(・・・)を凍りつかせた。

 

 

 

ダンジョン(世界樹)に潜り、強敵(魔物全般)を倒し、階層主(フロアボス)と戦う。そして、制覇(マッピング)する。それが冒険者(・・・)だろ?」

 

 

 

同じ(・・)じゃないのか?」

 

「いや、違うんだったな」

 

「俺はこの世界じゃ異端なんだ」

 

自問自答の言葉には、諦めを含ませた納得とこの後のことへの決意を込める。

 

かみさま、すまないーー

 

異端者の話す事実を受け入れてもらえるかはわからない。しかし、話さないと何故か思い詰めている二人の納得は得られないだろう。そのままだとベルにも戦ったアイズにも悪いからな。誤魔化すのは無しだ。省いたことも全部、言葉にしよう。

 

「ベル、実はお前には秘密にしてたことがある。強さと、今見せた力の秘密。アイズも聞いてくれ、前に語らなかった諸々を全部教えよう。これで、今までの借りを全部チャラにさせてもらうが、いいか?」

 

 

「話をしよう。(英雄)の話を」

 

 

異世界の人間 世界樹の迷宮

 

自身の生い立ち 共に戦った仲間

 

戦い方 スキル

 

 

 

そして君にとっての冒険者(・・・)

世界を救った冒険の日々について

 

 



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世界樹の英雄

今までもそうですが世界樹側の人物名などはあえて出さないようにしてます。

あと、ネタバレとオリジナル設定注意報


 

始まりはあの日

 

君は戦いが生業の部族に生まれた。技や戦いの術を知り、君以外の部族の人のように傭兵や冒険者を目指す1人でしかなかった。

 

「ほぼ1人で迷宮に潜れと?」

 

依頼を受けてエトリアに赴き、執政院からミッションを受けダンジョンに潜る。先輩2人に見守られながらといえど、初の実戦。辛くも勝利を収めた。地図を描き、ミッションを終え、また次のミッションを受ける。

 

そのミッションが転機であった。

 

君は遺跡調査で3人の仲間と出会い、遺跡の中で記憶喪失の少女と運命の出会いを果たした。

 

「俺は冒険者だ、あんたらとは目的もやり方も違う。それでも協力はできる。それでいいなら、よろしく頼む」

 

それからは、常に進み続けた。

クエストを受け迷宮を探索し、素材を売って武器や防具を整え、時々宿で休んではまた迷宮を探索する。常に戦い、死線を潜らねばならない迷宮の魔物たち。油断が死につながる、世界は変われどそれは変わらず、しかして殺意はオラリオのダンジョンとは比べ物にならないものだった。

 

「必ず記憶を取り戻させてみせる」

 

遺跡を探索し少女の記憶の手がかりを探す。その為に色々無茶な戦いもした。大型のFOEやフロアボスの魔物よりも巨大な機械の敵や、巨大な弾丸を放つ戦車と呼ばれる機械など魔物とは質の違う戦い。

 

「我らを殺すのだろう?ニンゲン?」

 

モリビトと呼ばれる亜人の少女。巫女の力を持つ彼女とは、何度も対立した。

そして熱病によって葬らなければならなくなった少女の同族を、君は何度も殺めた。和解の道も、探した。

それが水を掴むような行いであることに気がつくのに時間はかからなかった。だから、捕虜になった少女に、生きてほしいと言うわがままを無理矢理形にするのに、躊躇いはなかった。何を思って受け入れてくれたのか、本人に聞くことはもうできないのだろうが。

 

「ハイランダー!一緒に行きたい場所があるの」

「ニンゲン、我と話せ」

 

休む日がなかったわけではない。宴に舌を濡らす日もあれば、二日酔いのせいで探索を諦める日もあった。モリビトの少女とコミュニケーションをとったり、時に仲間と2人で出かけたり、商店で武器を見繕うだけの日もありはした。

 

そして、状況が一変した。

 

君はとある戦いを経て、執政院の長が暴走し世界を滅ぼそうとしていることを知った。

それを止める為に一度は戦いに勝利した。しかし、深層に逃れた男を追撃するべく古代の機械を使って追いかける。

 

「お願い、止まって!私たちが絶対に何とかするから!」

 

追いかける為にたどり着いた遺跡。そこで、暴走した古代の機械によって、滅びの原因を断つためにエトリアの街が滅びかねない事態が起こった。記憶喪失だった少女の友であったその古代の機械を倒し、阻止することができた。

 

 

 

そこは悪意と魔物の巣窟だった。辿り着いた深層は、一体一体の強さが段違いで、もしこの魔物たちが地上に解き放たれてしまったら、世界は滅亡の道を大きく進むだろう。そう感じざるを得ないほど、力の差を感じた。しかし、魔物たちはこちらを襲うことなく、ただ見ていた。まるで、見届け人を買うかのように。

 

「辿り着いたか…貴様らに殺されてなどたまるものか。私は生きる。ここ(世界樹)で生きて、私を産んだ世界を滅ぼす!

 

生きる残るのは、私だァ!!」

 

「トドメを刺してあげる、それが私の役目…千年の時を超えた意味!!

 

眠りなさい、千年の遺物!」

 

最終決戦

 

君は持ちうる全てを絞り尽くして、滅びの運命を止めるため戦った。

戦いは壮絶なもので、何度も死の言葉が鎌を振り上げる姿を幻視するほどだった。こちらを弱体化し、必殺の一撃を何度も叩き込んでくる。その度に仲間とともに防ぎ、攻撃の機会を隙間を縫うように見つけては全力で叩き込む。されど、弱る気配を見せない千年の遺物。

そこに本来ならここにはいないはずの少女の声が、木霊した。

 

ーー我を使え、ニンゲン

我の信じる「神」を、救ってくれーー

 

止める間もなく、モリビトの少女が魂を賭けた。巫女としての運命(さだめ)、彼女はそれを遂行した。

暖かい光を纏う槍はーー瞬間君は歪んだ視界を拭いーー敵を狙い定める。君は、吠えた。

 

叩き込まれた一撃によって、ついに揺らぎを見せた。その隙を見逃さず、騎士が、術式使いが、医師が、記憶喪失だった銃使いが己の最大限の火力を叩き込む。君はトドメの一撃を放つべく、全てを込める。傷ついた身体から溢れる血液を、痛みを、全てを力に変えて、秘伝の技を放つ。

 

トドメだァァァァァ!

 

背中を預けた仲間たちに、最期に和解の未来を捨て命を賭した少女に押され、最後の一撃を撃ち放った。

 

ーーニンゲン、お前たちと過ごした日々

 

悪くなかったーー

 

 

 

君は

 

いや、君たちは世界を救った。

 

 

 

3人の仲間は各々自分が帰るべき場所に帰っていった。

君と記憶喪失だった少女の2人はエトリアの街から離れ旅をした。だが、旅をしていた途中、エトリアの迷宮で最深部への入り口が見つかったらしい。そう風の噂を聞きつけた君たちは、最深部を目指した。

 

新たに仲間を集い、冒険者の生活を続けることを選んだのだ。

 

 

 

短いようだが、一年にも満たないならこんなものだろう。端的な言葉だけにすると短いが君は戦いや探索の時は饒舌に喋り、出会いや別れ、仲間との思い出やその時に感じたことを語った。

 

そして突然、この世界に来てベルたちに出会った。何故か、身体だけが過去の弱い姿(冒険者になった時)で。

 

そう言って君は語りを締め括る。

 

どうだった?

 

君は語り終え、聞き手の2人にそう問う。

 

 

それは本来なら語られることのない英雄譚。

 

 

自身の生き様、強さの理由、違う世界の生き証人であり、世界を救った英雄の物語。

 

ーー自らを英雄と名乗ったことは一度もない。対外的に英雄と呼ばれることはあれど

 

記憶を無くした少女を救い、世界のために命を散らした少女の見届け人。

 

ーー手を取り合おうとして、その手を救世の力へと変えてしまった力なき者。

 

 

 

 

 

それが、ハイランダー(世界樹の英雄)だ。



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天と地からの悪意(試練)

この小説は作者のノリとライブ感によって書かれた文書によって構成されています。


 

ベルの目から涙が溢れた。

 

ベルは嗚咽を漏らしながら、君の名前を呼ぶ。

 

凄かった。それでいて、悲しかった。

 

 

救うことができた者がいて、救えなかった者もいた。ありきたりといえばありきたりな悲劇。摘まれる花、英雄譚にはつきものといえど、感受性の高いベルには劇薬のようだった。それがたとえ、逃れることができなかった事と知っても。

強い人だとは思っていた。近くにいる憧れの人(・・・・・・・・・)は、とても遠い存在に変わった。

 

君はベルの頭をそっと撫でる。泣く必要などない。全てを掴めなかった自身の責任だと。それでいて、過去の話だ。君はそうベルを慰める。止めどなく溢れる涙を、君は止める術がない。

 

固まったままのアイズ。

 

だが、飲み込んだ。

言葉を、理由を、違いを、全てを飲み込んで自分の中に落とし込む。咀嚼したそれらは薪となって、強くなった(レベル6)身体に熱を灯す。

英雄の素質を持った人間。壁を乗り越えて強くなって、だけどまだ足りないことを知った。

強いのに弱い、そんな目の前の矛盾に、ひとつだけ苛立った。守れない力は、意味がない。何故かそう頭の中に表れた感情を、言葉にはせず、さらに薪へと変える。

 

一つ息を吐いて、アイズは言葉を口にした。

 

「ありがとう…話してくれて。

わかった気がする。強さの理由と、私が強くなりたい理由が」

 

君はアイズの言葉に少しだけ驚くが、そうかと一言呟いて頷いた。ようやく借りを返すことができたと、君も息をつく。

 

 

 

君はここいらで解散を提案した。

ベルも泣き止み何か覚悟を決めたかのように、目つきがまた一段と頼もしくなった気がする。赤く腫れた目元を見なければだが。

 

ここで話したことは秘密にしてほしい。そうしないとかみさまに何を言われるかわかったものではない。そう2人に口止めを願うと、2人は了承をしてくれた。

 

ベルは目元の腫れなんとかするため、一度ホームに戻ってからリリと迷宮(ダンジョン)に潜るようだ。

 

アイズからはまた強くなったら戦いたいと願い出られるも、君は断ることにする。なぜならあの戦いはお互い初見であり、自身の手を出し尽くしてしまった君は、戦ったところで慣れで往なされてしまうのが目に見えているからだ。

ついでに言えば、君は知らない(まだ公表をしていない為知る人も少ない)が、アイズ・ヴァレンシュタインはレベル6(・・・・)である。まだレベルアップ後の体に慣れてない故に、君に迫り合いを許してしまったが、時が経てば掴んだ身体の感覚をもって君をあっさりと倒せるようになってしまうだろう。

 

そう言った知る知らぬ事情の元、君はアイズからの提案を断った。悲しそうな表情を表に出す彼女に申し訳がない気持ちもあるが、断腸の思いである。

 

そうして君たちは、オラリオの日常に戻っていく。

 

 

 

 

(そら)の聴衆と

 

 

地の底(ダンジョン)で育てられた悪意に気が付かぬまま

 

 

 

「ねえ、オッタル。あの子のための試練(贈り物)の調子はどう?」

「順調です、もう間も無く完成する予定です」

「そう、ありがとう、私のオッタル…ねぇ、一つお願いしてもいいかしら?」

「貴方様の望みでありましたら、どのような事でも」

「あの子の隣にいる、不純物、潰してきてちょうだい」

 

 

 

「御意」

 

 



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