外伝・異世界転生で世界を救った神の異世界リライフ (Möbius Klein)
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外伝1:永遠なる希望の宝

異世界転生したホープとグランドトレジャーの馴れ初め話と本編に入りきらない親子の日常話を書いてみました。




僕の名前は久神アヤト、僕は地球出身の昭和生まれの日本人だった。異世界転生というファンタジー経験をしてしまい現在剣と魔法のファンタジーの世界で破壊と欲望の神という神様をやっている。

 

ファンタジー世界を満喫中の僕だがこれからそこに至るまでに関わった話をしようと思う。

 

 

 

世界には幾重にも異次元や異世界というものが存在する、それこそ無限と言ってもいい程に。そしてこれらの世界は突然生まれ、世界を存続させる為に神の魂を持った存在を必ず1人召喚するのだ。

 

神は生物と受肉すれば生身の肉体になるし生きて死ぬ事も出来るが、死ねば元の精神体に戻るだけで生死によって消滅する事はない不滅の存在だ。基本時間干渉を受け入れず老化もせず、無限に成長して膨張し続ける小宇宙と言ってもいいだろう。

 

同じ能力を持った神は1柱も存在せず、万能の力を持つ者もいれば唯一の力しか持たない神もいる、この辺は千差万別だ。

 

神々は自らを不老不死の絶対的な存在として扱い神殺しを最大の禁忌、罪とした。世界の秩序として存在する次元の壁により互いの世界への干渉、行き来は基本的に不可能だが時折空間に裂け目が出来る。異世界転移と異世界転生、世界誕生時の神召喚、これらも自然現象の1つにあたる。この世界全体で起こる自然現象を利用する神もいれば、悪用する神もいるのだ。

 

基本1世界1神なのだが性別はその魂の記憶に依存しているだけで単独で子が作れる個体も存在する。そういった神が子を作ると神の能力が一部引き継がれ神の能力がその分失われる。これが元で各世界は八百万の神もいれば、単独の神もいる様相になってしまう訳である。中には召喚された世界に同化して眠りに落ちた状態の神も存在している。

 

 

 

僕の父様は創造という絶対の力を持つ唯一神だ。数十億年前にこの世界に神として召喚された。現在の名は創造神ユニコーン=グランドトレジャー、3000年前に最も精神体と相性が良かった一角獣ユニコーンに受肉して生身の肉体を得たが純潔が失われると生身の肉体が死んでしまう両性体となった。

 

僕は3000年前、まだ父様が受肉する前の半身とこの世界で失われた9割の命と引き換えに父様が神の魂を持つ僕を偶然召喚し、神の器を創造して僕は生まれた。正確には親子ではなく半身であり、父様に創られた神にあたるが半身と引き換えにして僕を生んだ親には違いない。だから僕にとって父様は父親でも母親でもあるのだ。

 

父様は自分の世界が次元の裂け目を利用して訪れた異世界の神によって滅ぼされる直前、絶望の中血の涙を流し絶叫した時に無意識のまま創造の力を発動させた。自らの意思を超え暴走した創造の力から僕を生み出したのだ。僕がこの世界に出現した時は、混乱と畏れが父様の感情を支配していた。

 

不思議なものである。元世界で突然死んで気付けば異世界。その異世界は既に滅びかけていて目の前にいる存在は血の涙を流しパニック中。それなのに僕の心は冷静だった。自分という存在を生まれながらにその全てを瞬時に理解する、それが神なのだ。

 

望まれない子供、絶望する生みの親…僕はここにいるべきじゃない。だが、異世界の神、それはオマエも同様だ。この世界にオマエはいらない。

 

僕は破壊と欲望の神の力を発動させ、異世界の神を殺した。死なない不老不死の不滅の存在を破壊して消滅させたのだ。

 

ここに神々の中で唯一神殺しの力を持った神、そして『神殺し』という神々が最大の禁忌とした罪を背負った神が誕生した。理不尽なる暴虐と神々に言わしめた神を超越せし者、破壊と欲望の神フェンリル…それが僕にあたる。

 

 

 

もう泣かないで欲しい…貴方は何も悪くない。僕が勝手に生まれただけだ。貴方の中の罪悪は僕が背負うべき物。僕は貴方を傷つけないし貴方を守る…貴方の中で永遠に。

 

そして僕は父様の中で眠りについた。僕は既に一度死んだ存在なのだ、転生してこんな存在になってしまったが神が不滅の存在ならば僕は消える事も出来ない。僕の新しい人生はまだ始まってはいない、このままずっと眠り続ければいいのだ。

 

ああ…貴方の中はとても心地がいい。優しく降り注ぐ暖かい神の恵みに包まれて僕は父様の中で幸せそうな笑みを浮かべ意識を閉ざし深い眠りに落ちたのだった。

 

 

 

「うああああああ…っ!!!!」

俺の中でフェンリルが深い眠りに落ちた時、漸くフェンリルと繋がり俺は全てを理解した。絶望の中で創造したあの子供は神名である破壊と欲望の神に相応しい恐るべき力を持っていた…それは俺が畏れに足が竦む程の物だった。創造の力しか持たない俺が創り出し半身を捥いで産み落とした最初で最後の子供、戦闘特化の破壊と欲望の化身。

 

だが…その中身は普通の子供のモノだった。神に生死はないが感情はある。数十億年も生きてきて忘れかけていた人間の時の感情がどんどんと俺の中に甦ってくる。

 

「あっあああ…っ俺は、なんという事を!フェンリルっ、フェンリル…すまないっ俺が悪かった。許してくれ、この愚かな父をっ」

突然この世界に訪れたフェンリルにはこの世界の事などどうでもよかった。ただ泣いている俺の為に神を殺したのだ、そして怯える俺の為に姿を消した。俺の中に閉じ籠り存在を潜めるように気配を殺し、今もなお俺の心の奥の片隅で幸福な夢を見続けている。

 

長い時の中で失った筈の涙が俺の頰を濡らす。それは絶望による血の涙ではなく我が子が愛おしくて堪らない熱い涙だった。今の俺は既に半身を失い存在出来るのがやっとの状態にある。

 

そして心の中にポッカリと空いた暗い穴から感じるのは恐ろしい程の寂寥感だ。今の自分を孤独に感じ、ただ寂しい。寒い、哀しい、切ない…ああ、色々な感情が湧き上がってくる。これは数十億年も存在し続ける間に忘れ失われた感情だ。フェンリルは俺の中でこんな俺を責める事もせず俺を守る為にただ眠り続けている。

 

「フェンリル…還ってきてくれ。この世界は余りに寂し過ぎる…もうオマエ無しではこの孤独に耐えていけない…生きていけないっオマエのいない世界などオレは要らない、もう要らないんだ…あああああっ!!」

取り残された荒廃する世界の中、どうやって自分は数十億年もの間生き続けてこられたのか今の俺には分からなかった。何という孤独、半身を失うとはこうも孤独を得るという事なのか。

 

「…オマエがせっかくオレの血の涙を止めてくれたのに涙が止まらないっフェンリル…フェンリルううう…っううっ」

俺は自分の身を抱きしめていつまでも泣き続けた。そしてその後に襲いくるのは無力感だ、創造の力しか持たない無力の己自身を嘆く。もしこの俺に力があったなら我が子に神殺しなどさせはしなかっただろう。俺の為だけに生まれ世界最大の禁忌を犯した罪深く優しい子…ただただ愛おしい、そして恋しい。

 

これ程までの思いはかつて人間だった時にも抱いた事のない感情だ。何故俺は畏れてしまったんだ、あの時抱きしめてやればそれだけで俺の世界は至福の中で完結出来たのに。そしてこの無力感の後に来るのは底知れぬ後悔の念だ。ああ…時が戻せるものならば俺はこの世界を終わらせてでもやるだろう。フェンリル…愛しい子、どうすればオマエを俺のこの腕の中に抱えられるのだろう。

 

それからどれ程の時が流れたのかは分からない。春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て…何度も繰り返しのテープのように時が流れても俺の時間はフェンリルを失ったあの時から止まったままだ。やがて思考の果てに子を失った孤独と哀しみに耐え切れなくなった俺はついに発狂した。

 

 

 

「はっははっはははははは…っもう一度だ、もう一度世界を創り出してやる。俺に出来る事はそれしかない…オレの望みが叶うのならば何度だって世界を創り上げてやる、そしてっ必ずオマエをこの手にしてみせる、その時はもう二度とオマエを離さない…っ永遠に!!オレの傍らがオマエの居場所だ、オマエが何度世界を壊しても、神を殺しても、罪を犯しても…今度はオレが守ってやる、オマエの心をっ…そしてまた世界を創ってやる、何度でも何を引き換えにしたとしてもだ!」

 

こうして狂った神が統治する世界が始まりを告げた。

生身の身体を得る為に一角獣ユニコーンに受肉したこの世界の神が、創造神ユニコーン=グランドトレジャーとして世界の表舞台に姿を現わす事となったのである。

 

それから世界再生の為にその力を世界に注ぎ続けて3000年もの月日が流れた。力を注ぎ続けてこのまま枯れ果てようとしていたそんな創造神の前に奇跡が起こる。

 

破壊と欲望の神フェンリルが再び創造神の中で意識を覚醒させたのだ、創造神を守るただその為だけに…。

 

「ああ…フェンリル、待っていたよ愛しい子。この3000年、毎日オマエに話しかけていた。さあ、おいで…もう二度と離さない、永遠に一緒だ。オマエの幸せだけを考えて生きてきた、ここはオマエの為だけに創った世界…オマエはその為だけに生まれてくるんだ」

 

フェンリルの名に見合う狼獣…3000年かけて創造神が創り上げた破壊と欲望の神の器に受肉しフェンリルは生身の肉体を得てこの世界で産声を上げた。

 

こうして創造神の祝福を一身に受けて破壊と欲望の神フェンリルはこの世に再び舞い戻ったのだ。狂った神の思考の果てに生まれたその子供は創造神の希望の宝、ホープトレジャーというミドルネームを付けられる事になる。

 

この世界は破壊と欲望の神によって救われ、破壊と欲望の神の為に存在を許された世界…創造神が我が子の為に心血を注ぎ込んで創り上げた世界なのだ。

 

 

 

「お、来たか…ホープ!さあ、こっちに来い」

「父様あー…っ!」

月日は流れ、ホープはグランドトレジャーの寵愛を受け今も健やかに成長している。最早世界公認の親馬鹿とファザコンとなっている有様だ。ホープがこの世界に生きていく為にグランドトレジャーはホープの世界へのお披露目の場に世界御前会議を選んだ。グランドトレジャーが世界御前会議の開催を宣言するとホープを傍らに優しく話しかける。

 

「さあ…愛しい子、全世界に存在する全ての者達に我が半身たるオマエからも声をかけてやってくれ」

「こんにちは…ボクは破壊と欲望の神フェンリル=ホープトレジャー、でも僕は皆さんがこれまでの世界中継でご存知のように破壊と欲望よりも、3時のおやつと父様が大好きな神です。御前会議の開催と成功を祈り、愛しい父様と共に僕からも全世界に生きる、生きとし生けるもの達全てに祝福を贈ります」

 

そう言ってホープが右手を天に翳すと、全世界に今もなお降り注ぎ続けている創造神の神の恵みを一時的に視覚化させた。天上から舞い降りてくる星の煌めきに全世界の人々が同時に神の奇跡を目の当たりにした事で物凄い歓声が上がりこの後破壊と欲望の神フェンリル=ホープトレジャーへの最拝礼が執り行われた。

 

『エターナルホープトレジャー…っ!!!!』

永遠なる希望の宝…そうここには全世界の生きとし生けるものとは別に創造神の願いも込められている。

 

マインホープ、マイントレジャー…我が宝、我が希望。そうオレだけの希望の宝。心の中で繰り返しては何度も創造神はその言葉を胸に刻み込む。

 

オマエの居場所はオレの傍らのみ、それ以外は認めない。

 

グランドトレジャーとホープは元は一心同体の身。互いの意識や感覚、記憶までも共有して言葉を必要としない心の中での会話、テレパスも可能である。その為お互いに考えている事が丸分かりなのだ。

 

「ボクの居場所は父様の側だけ…ボクは父様だけの希望。この世界を破壊しても、神を殺しても、罪を犯しても…もう父様を孤独にしたりはしない、ボクは永遠に父様と一緒にいる」

「いい子だ、ホープ…そうともオレ達は2人で1人、決して忘れるな。いつでもオマエを想っているよ…愛しい子」

「父様、大好き…っ」

それはまるで呪いのように2柱の神を繋ぎ留めている。破壊と欲望の神は創造神以外に決して愛を語らない、貪るだけだ。愛された者の心は破壊され狂気に侵される、そう…今のグランドトレジャーのように。そして破壊と欲望の神を愛する者には呪いがかけられる、グランドトレジャーがホープに与えた召使いであるケルベロス三姉妹のように身も心も壊されて虜になり破壊と欲望の神無くして生きてはいけなくなるのだ。

 

2人は1つの身体を2つに分けて生まれた、故に互いの持たないモノで出来ている。グランドトレジャーの持つ慈愛の心はグランドトレジャーを想うホープが贈ったもの、ホープが持つ希望は絶望から生まれたホープの為にグランドトレジャーがホープに贈ったものだ。

 

この世界はこの神々の慈愛によって生かされ、希望によって滅ぶ。創造と破壊の力を持った双璧の神による世界なのだ。

 

 

 

「…ホープ、もうやめないかソレ見るの」

「ええー…っやだよお、父様とボクの大事な馴れ初めじゃない!見るよ、何回でも何億回でもっああ…素敵、父様大好きだあ!」

神は体内に意識空間を持っている、それこそ無限に。この空間は時間の干渉を受けない為時が流れない。ここは2人が共有している意識空間にあたる。

 

神は基本時間干渉を受けない為、時間は無限にあるのだ。生身の身体を成長させる為だけに肉体への時間干渉をあえて一時的に有効化している。グランドトレジャーの今の身体はその成長最盛期で時を止めた姿である。

 

「恥ずかしいんだよ…オレだけ、羞恥プレイか。ホラ…ホープ、また新しいゲーム作ってやるから見るならオレのいない時に見ろよ」

「父様より背が高くなってから考えまーす…っ!」

ホープが笑ってそう言うとグランドトレジャーはこのヤロウ、とホープを羽交い締めにする。

 

「きゃははは…ギブギブ、父様あ。今日はもうこの辺にしとくからさあ…許して?」

「…ホントだな、絶対だぞ?ホープ、明日は覚えてろ。タップリ模擬戦でお返ししてやるからな!」

2人揃って見ていたのは『グランドトレジャー狂気の親馬鹿記録』と呼ばれるグランドトレジャーの回想記憶である。ホープがこの世界に戻ってから意識空間の隅に保管しておいたものだが、ホープが受肉したばかりの赤子の頃ずっと眠り続けている間にここ3000年の記憶を探していたら偶然見つけてしまったのである。

 

「マジやめてくれ…あの頃のオレ、恥ずかしさで死ねる。熱血バカだった」

「そんな事ないよお…ボク、幸せだよ?それもみーんな父様のおかげ。毎日数えきれない位大好きって言っても全然足りない…父様の3000年には敵わない、頑張らないと追いつかないよ!!」

ホープが顔を俯かせたグランドトレジャーの顔を下から見上げている。これは頭撫でての姿である。

 

可愛いかったら何でも許されると思うなよ…許してしまうけどな。内心そんな事を考えながらグランドトレジャーはホープの頭を撫でる。だがそんな気持ちさえホープには筒抜けなのだ。

 

この日はホープが10才の誕生日を迎えた。ホープの誕生日はこの世界では公式に祝日とされているがグランドトレジャーの誕生日は存在しない。世界歴にあたるユグドラシル歴元年、1月1日。グランドトレジャーが世界再生の為に創り上げた存在がひと通りの完成を見た時を世界の生年月日とした。その日はグランドトレジャー降臨の年として扱われ、グランドトレジャーの誕生日の代わりに降臨の日としてこの世界では1月1日を祝日にしている。

 

だからホープだけは自分の誕生日をグランドトレジャーの誕生日の代わりにしている。グランドトレジャーはもう1人の自分だからだ。

 

 

 

「父様あ…誕生日おめでとう!これからも永遠によろしくね」

「おめでとう、愛しい子…取り敢えずこれからも頑張って育てよ。いくらでも創ってやる、この世界を喰らい尽くしても…だ」

相思相愛の2柱なのだが交わる事は出来ない。純潔の身体にしか受肉出来ない両性体になるグランドトレジャーは純潔を失えば肉体を失い、精神で交われば分かたれた2人は一体化してしまう。それはもうお互いに許容出来ない。この先1人で永遠を生きて行く等と考えるだけでも気が触れてしまう。

 

グランドトレジャーは再び創造の力が暴走しホープを創り替えてしまう事を恐れ、ホープはグランドトレジャーを破壊してしまうのを何よりも恐れている。破壊と欲望の神の力はそれ程までに神々をも恐れさせる力であった。

 

だから2人は相思相愛の親子ごっこを続ける…そう永遠に。

 

 

 

昔、父様に創ってもらった転生前のゲームをしてたらこんな事があった。かの有名なドラコーンクエストだ。2人交代でゲームのコントローラーを握って3日がかりでラスボスの前に辿り着いた所で父様がポチっと世界の半分を貰ってしまった。レベル1まで戻ってレベルはいくらやっても上がらなくなっていた。

 

なんでふっかつの呪文をメモしなかったかと言うと、父様が超天才なら一発クリアで問題ないとか豪語したからだ…ううっ

 

「なんだあ…このクソゲーは!?頭がクラゲになりそうだっ」

「ちょ…ちょっとお、父様あ。落ち着いて、だからさあ…なんでそこで世界の半分貰っちゃうかなあ、もう。罠でしょ…普通にい」

 

エンディングを見ずに絶望に打ちひしがれた父様がゲームのコントローラーを投げ捨てながら叫んだのが今のセリフだ。結局、ボクがラスボス手前まで徹夜でもう一度やり直して明後日の父様の誕生日にセーブデータを渡した事がある。

 

 

 

今年はその時の反省を踏まえ僕がゲームを作り、父様と2人で僕のオリジナル人生ゲームをして過ごす事にした。創造の力を持つ父様に比べて僕にはコンピュータゲームなんて複雑な物は作れないから錬金で頑張って作ったアナログのゲームだ。

 

結果、父様の惨敗…ああ、コレなら大丈夫だと思ったのにい。なんでそんな借金に塗れて子沢山になっちゃうの、そして誕生日に凹ませてどうするんだ僕。これでもゲームの途中に何となく僕もアドバイスや助言を出したりもしたんだ。

 

「父様あ、子育て大変なら養子縁組して出しちゃいなよー…」

「馬鹿野郎っオレが子育てが出来ないダメ親とか言うな…っ!」

…な、会話でアドバイスを開始した。そして…

 

「土地売って借金は返したらどうかなあ…僕、今なら倍額で買うけど?」

「倍額かあ…だが倍額でも借金は残るぞ。子供が来年大学に入るなら入学資金がいるからな、利子だけ払っておく事にする。生活費を稼ぐのにマグロ漁に出るぞ」

…な、やり取りもした。

 

なんか父様はゲームの勝ち負けより子育てに走ってしまったのだ。嬉しいけど僕はこのゲームでは親に借金したお金で石油プラントゲットしました。コレ、リアルにすると生々し過ぎる…勝ったけど何かを失って負けた気分になった。

 

子供の学費の為にマグロ漁に出る創造神に泣けた。もう僕の負けでいい、と僕が言ってゲームは終わりになった。

 

 

 

日常生活ではお互いに忙しい身だけれど2人共に寝ている時が同じならふいにこんな風に過ごせる日もあったりする。父様とはゲームをしたり、色々な話をしたりして気づくとそのまま2人でゴロ寝をしたり。この意識空間に時の流れがないから気づくとこの中で何年も過ごしてしまう事もある。元の世界で言う精神と時のルームという奴で、長い夢を見ているような感じだ。

 

毎朝僕はケルベロス三姉妹のベルに同じ時間に起こして貰っているが、身体を横にして肉体の疲れをとっているだけなのだ。だからこそ毎日がとても新鮮で余計に楽しいのかも知れない。僕と父様にはこの世界の現実はまるで夢のように感じられてしまう。

 

 

 

されど全て愛しき日々。

僕は父様と2人この世界でこれからも生きていく。父様の創ったこの小さな箱庭で僕達は幸せに暮らしていくんだ、ずっと…一緒に。

 

 

 




1つの物語を書いていても話がドンドン膨らんで枝葉が伸びて収集がつかない感じになっています。登場人物も増えたらその分また増えるしでかなりパニック状態です。

やはり勢い任せの一発書きだとこの辺辛いトコですね。見直しがシンドイDeath。修正中々手が回ってませんがもう少し話優先で進めさせて下さい、現在消化不良で頭の中で話がモヤモヤしているのです泣


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外伝2:神宮の番人

※破壊と欲望の神フェンリルの番いとして創造神ユニコーン=グランドトレジャーによって作られたケルベロスの身の上話。虐待ぽいシーンは拷問ではなく実験です。

独立して見返し無しで読めるように話の前後を本編からケルベロス三姉妹の一部のシーンをコピペで挟んでます。その部分は読み飛ばしOKです笑

本編はR18作品『破壊と欲望の神の為の楽園』になります。18才以上でマニアック設定なんでもバッチ来いの方はよろしくです。


世界御前会議初日の夜、ケルベロス三姉妹であるベル、ローザ、リズが僕と眠る為に部屋へ訪れた時僕は父様に言われた仕事をしていた。父様に言われた事、それはこの世界の中央に位置する神都、そのさらに真ん中にある神宮ユグドラシルと言われる僕と父様の神2柱が住まうこの城に関する事だった。

 

明日の世界御前会議の前に僕は略式だがこれからこの3人の任命式をしなくてはならない。各国からやってくる代表者達にその立場を明確に定めておかないといけないそうだ。面倒だが僕の召使い、ケルベロス三姉妹を侮られるのも嫌なので僕は寝る前にこの仕事をキッチリ終わらせるつもりだ。

 

 

 

「ケルベロス三姉妹の一、仁獣ケルベロス=ベルレシア…汝を神宮第一位の女性として神宮侍従長と双璧をなす神宮女官長に命じる。謹んでその命を受けよ」

僕に仕える獣だから仁獣、父様に仕える聖獣と同格の立場だ。え?流石に淫獣じゃマズイしね。そしてケルベロス三姉妹の正式名を改めて考えた。ベルと転生前の世界にあった花の名前ラフレシアを混ぜて付けた名前だ。ベルと言えば花弁、とは人には言えないので表向き花の名前という事で。ベルは頭を下げて任命書を受け取ってくれた。立場はこれまでこの神宮を取り纏めていた神宮侍従長と同格。ベルが神宮で頭を下げるのも命令を受けるのも父様と僕のみ。神宮の女性第一位の立場になった。

 

「ケルベロス三姉妹の二、仁獣ケルベロス=ローザウィッチ…汝を破壊と欲望の神フェンリルの第1位の側近とし、女官長補佐に命じる。そして女官長不在時は女官長と同等の権限を有するものとする。謹んでその命を受けよ」

ローザは正確には神宮の女性第二位だが、不在時は第一位の女性としての扱いを受ける。そして僕の一番の側近として公式に認められた形になる。ローザの名は魔女のウィッチと僕を翻弄するビッチを掛けたものだ。ローザもまたベル同様に頭を下げて任命書を受け取った。

 

「ケルベロス三姉妹の三、仁獣ケルベロス=リズテイル…汝を破壊と欲望の神フェンリルに仕える女性達の代表として第1位の仁獣、神の僕として神に愛でられし獣とする。何人たりとも我が前に侍る汝を咎める事は叶わず、神命以外を受ける事も禁ずるものとする。謹んでその命を受けよ」

リズのテイルは尻尾から付けた、まあ理由はアレだよ。まあいつも尻尾を振って僕に懐いてる感じだから、と言う事に表向きはしておく。リズは神宮における第三位の女性として扱われるが、その権限はない。だがその代わりに神宮にいながら僕と父様以外の命令を受ける必要がないという立場になり、いつでも僕の側にいる事が出来る権利を持つ。リズは身体を震わせながら任命書を姉達の見様見真似で受け取った。

 

「ふう…略式でその場の任命になってごめん。基本僕と父様以外に頭を下げる必要は無いって言うのを公式にした物と思って欲しい。これで君達は世界公認で永遠に僕だけのもの、そして僕の家族になったという事だ。これからもよろしくねベル、ローザ、リズ」

それを聞いてケルベロス三姉妹が身を寄せ合って泣いていた。3人纏めて抱きしめて僕は1人ずつ額に口付ける。

 

「もう離さない…ずっとずっと僕達は一緒だよ」

『ご主人様あああ…っ!!!』

そして3人共僕の胸に縋ってまた泣いた。僕は3人が泣き止むまでずっと3人の頭を順番に撫で続けたのだった。

 

 

 

ここで話は遡るが破壊と欲望の神フェンリル=ホープトレジャーが再びこの世界に舞い戻る3000年の間に起こった出来事の1つをここで紹介しようと思う。

 

狂った創造神ユニコーン=グランドトレジャーによって世界再生が果たされ2000年、ここに来てグランドトレジャーはふと思ったのだ。

 

フェンリルの番いが必要だ…この世界にいる存在ではフェンリルの母体になれる雌は存在しない。肉体を得ればその名の通り欲望を貪る事だろう。哀しいかな、オレは何故か純潔の身体を持った両性体にしか受肉出来ずこの身を差し出す事も出来ない。フェンリルの餌、贄はこの世界に山程ある。

 

いくらでもオレが創ってやればいい…だが、フェンリルにはオレを愛したように他人を愛する感情がある。オレの失くしたものでフェンリルが出来ているのならば、これはオレから失われた感情なのだろう…オレがこれ程までにフェンリルに焦がれるのは愛という名の執着に近い。この孤独はフェンリルがオレに与えたモノ。フェンリルはオレの中で今も尚オレと共にある夢を見ながら至福の笑みを浮かべて眠っている。

 

「オレで駄目なら創ってやればいい…オマエを愛する為に生まれ、オマエに愛されないといけない身体を持つ雌を。フェンリル、雁字搦めにしてでもこの世界に繋ぎ止めてみせるぞオマエを…オレは必ずオマエを手に入れる」

 

こうしてグランドトレジャーは神宮の地下に篭り再び創造をし始める。

 

時折オレを求める雑音が聞こえるが、知った事か。勝手にすればいい、オレはオマエ達の為に世界を創った訳ではない。ああ…フェンリル、他に何が必要だ?どうすればオレの下に再び現れる、オマエを繋ぎ止められる。オレはもうオマエを失えない…どんな望みも叶えてやるぞ。

 

 

 

「創造神ユニコーン=グランドトレジャーの名に於いて命ずる。破壊と欲望の神フェンリルの番いとなれし獣、ここに来たれ…」

グランドトレジャーはこの言葉を何度唱えた事だろう。神宮の地下にグランドトレジャーが力を注ぎ込み続ける度にこの世界で消えゆく命達…だがグランドトレジャーは見向きもしない。

 

オマエ達は贄だ、我が半身フェンリル復活の礎となれ。

 

 

 

そしてついにフェンリルの番いとなれし獣ケルベロスがここに誕生する。グランドトレジャーはやっと創り上げる事が出来たのだ…フェンリルの最大の鎖とする番いを。

 

「ケルベロスよ…我が半身フェンリルの番いとなれし獣よ。創造神ユニコーン=グランドトレジャーの祝福を受け、神を…フェンリルを受け止める母体をこれより作るのだ。幾らでも喰らうがいい、幾らでも創ってやるぞ…この世界の魔力を吸い付くす事になろうとも必ず成し遂げろ、その為にオレはオマエを創ったのだ、役立たずはいらぬ」

ボンヤリと意識が覚醒している中、ケルベロスにその命令だけが頭に残り続けていた。そしてケルベロスは自覚する。

 

私は神を愛する為に生まれ、愛されなければいけない身体を持つ獣。生まれた時から私の心を統べる愛しい御方の名は破壊と欲望の神フェンリル。ああ…やっとこの世界に私は生まれて来る事が出来たのだ。魂にまでその名を刻まれたあの御方、フェンリル様にお会い出来るその時までにお出迎えが出来る身体を作らねばならぬ。

 

待っていて下さい…必ず私は貴方のお側へ参ります。貴方が目覚めその目を閉ざす時まで私は貴方の傍らにいる者。

 

ケルベロスは再び意識を閉ざしただひたすらにフェンリルを想い、愛される為に身体を作り続けた。何年も、何十年も、何百年も…

 

 

 

一体どれ程の時が流れたのだろう。ケルベロスの意識が再び覚醒した時、身体の中で魔力が溢れんばかりに膨張と収縮を繰り返していた。このままでは身体が壊れてしまう。ケルベロスは神宮の地下でその大きな身体を丸めてソレを抑え込む。

 

もう身体が壊れそうです、愛しい方。いつまで私はここで貴方を待てばいいのでしょう。身体の震えが止まりません、ここは寒いのです。全身をギシギシと軋ませながらケルベロスは嗚咽する。

 

貴方が恋しい…そして切ない、哀しい。貴方に会いたい、でも会えない。真っ暗闇のこの神宮の地下でいつまで待てば貴方はこの世界に戻ってくるのでしょう。グランドトレジャーは言うのです、私のせいだと。私の想いが足りないと、かつての自分は血の涙を流しながら壮絶な痛みの中でフェンリルを乞うたと…まだまだ足りないのだそうです。

 

こんなに想っているのに、身体は悲鳴を上げていると言うのに…ああ、駄目っお願いだから壊れないで私の身体。フェンリル様に愛されて子供を産むまで私は死ぬ訳にはいかない、だから壊さないで私の身体を…

 

 

 

「よくやった…ケルベロスっはははははは…っ成る程、魔力の膨張を抑える為に魔力を2つに分離させるとは。ククク…ッフェンリルを待ちきれずに孕んだのか自ら。しょうがない奴だ…そおら、もっとだ。もっと魔力を取り込んでフェンリルを受け止められる母体を作るのだ」

グランドトレジャーから初めて頂いたお褒めの言葉でした。そしてこれ以後これまでの二倍の魔力を私に供給するようになりました。

 

 

 

「うぎぃぎゃあああ…っ!!」

「ひいいいい…っ!!」

神宮の地下には私に供給する魔力を貯めてあり、その魔力はフェンリル様の擬似魔力だそうです。私達は口から胃に管が通され腹が膨れあがり魔力を注ぎ続けられます。先に失神したのは後から生まれた子、失神してはいけないの。失神すればグランドトレジャーからお仕置きの電撃が全身に喰らわされる。

 

「うがっうがががが…っ」

「ほう…そうか、子の分も電撃を受け止めるか。これならまだイケそうだ」

 

私はまるで実験場にいるモルモットか家畜のような扱いでした。グランドトレジャーは咽び泣く私に笑いながらドンドン身体に拘束具をつけて行きます。ついに身体中に管を通してしまいました。

 

「コラ、暴れるな…この先に愛しいフェンリルが待っているのだぞ」

「うー…っううっううう」

 

痛みと苦しみに耐えきれず失禁した私の下肢にも拘束具がつけられました。私のお腹に入れた魔力が供給の限界で漏れ始めたのをグランドトレジャーが堰き止めたのです。私は身体を震わせ耐え抜きました、ようやく下肢の拘束具が外された時には私の頭は3つになっていました。

 

「これで2匹目か…子沢山なのだな、ケルベロスよ。ああ…早く育て、そして番いとなりフェンリルと子を作るのだ…」

そして今度は魔力の供給が3倍になりました。もう私は正気を保っていられそうにありません。ああフェンリル様、まだ足りないのですか…

 

 

 

私の根源である魂がついに限界に達し、グランドトレジャーがクソ、これまでか!?と舌打ちをしながら、私の身体に繋げていた管と拘束具を全て取り外しました。どうやら私の頭は3つという事になったようです。

 

それからグランドトレジャーが全くここに来なくなってしまいました。私はこのままどうなってしまうのでしょう。涙が溢れて止まりませんでした…私はもう見限られたのでしょうか、もうフェンリル様には会えないのでしょうか。

 

『泣かないで…私も哀しくなってしまう。グランドトレジャーはまた必ずここへ来る、待ちましょう。何年でも、何十年でも…何百っ』

『…もしもの時は3匹で魂となってもフェンリル様の元へ行きましょう』

 

「うあああああ…っ!!!」

 

この2人には本当の事は言えない、私は3つの頭を付き合わせて泣きました。いいえ、もうグランドトレジャーはここへは来ない。私には分かる、何百年とあの方と2人でここで向かい合って来たのだから…ああ、私は失敗作になったのだ。このまま私の魔力が尽きるまで神宮の地下で魔力を排出して枯れ果てるまでここにいるのだ。

 

神宮の番人として…

 

 

 

私はそのまま身体を丸めて眠りにつきました。フェンリル様とせめて夢の中でだけでも一緒にいたい、この命が尽き果てるまで。フェンリル様が来るまで私はここで眠ります、そうしてケルベロスは永遠に貴方を想い続ける事でしょう。

 

 

 

『グランドトレジャー無念の失敗作の巻』抜粋。

 

「うをーい…っ!父様、ケルベロスをアレから数百年も放置してたの!?なんでこう、やりっ放しなのかな、自由過ぎるよ…創造神様」

破壊と欲望の神フェンリル=ホープトレジャーことホープです。ただ今ここ3000年の父様の記憶を探索中にまたえげつな…いえエライ物を発見してしまった。父様の中で3000年も眠っていたので、この世界がアレからどうなったのかを知りたくて整理整頓が出来てない神様の図書館、つまり父様グランドトレジャーの記憶領域を僕は閲覧していたのだ。

 

 

 

「ベル…ボクの為に頑張ったんだなあ」

見た目も大人で立派な成人女性のベルだが、本当は凄く寂しがりの恥ずかしがり屋。ボクが何してもいつも嬉しそうにしてるんだ、本当お母さんみたいだ。今は3つに分かれてケルベロス三姉妹のベル、ローザ、リズだけれどベルがケルベロスの本体なのだ。

 

魔力膨張で壊れそうになる身体を守ろうとしてローザ、リズを生んだ。その後父様に放置されている間にローザとリズは人格を持ち2人はベルを姉と呼んでいたが本当はベルが生みの親。ベルが僕の為に生きようとして生んだ子供達、僕にとってもあの2人は子供同然だ。

 

結局、最終的にケルベロス三姉妹は父様がある日突然ピコンと閃いて人型を与えて分離させたそうだ。1人では無理でも3人になればあるいはもしかして3倍!?などと思ったらしい。そして3人になった時父様は一言こう言ったのだ。

 

「ああー…やらかした、ヤッてもうた」

…と。ケルベロスに台無しにした1000年を返してやってくれ、父様。ケルベロス三姉妹は3人に分離した事で子宮も三分割にされてしまったのである。超天才のヒラメキって怖い…やめたげて、マジで。

 

多分僕にケルベロス三姉妹を引き合わせたのがせめてもの詫び、もしくはとりあえず僕に持ってけ!…な感じではなかっただろうか、父様は。

 

 

 

父様も言っていたが人間やめて数十億年、もう人間らしい感情は殆ど残っていなかったとの事。僕を生んだ事がキッカケで色々感情が蘇ったらしいがソレでも自分と僕の事がやっとだったらしい。

 

「好きになった訳じゃないものね…神様なんて。ボクもイキナリこの世界に来て世界末救世主伝説みたいな状態にビックリしたもの…なんかもうワンクッション欲しいよね、異世界転生」

 

ラノベでいう神様転生とか、チート授けるとかさ。そんな感じで一応本人に確認してから行き先とか決めて転生とかやって欲しい。しかも僕なんか選択の余地無しで破壊と欲望の神!…なんでだよ、ラスボス臭満載のボッチ確定キャラじゃないかっ

 

父様なんて数十億年前に何もないこの世界に強制召喚されて、誰もいなくね!?ぼっちで神様?ピン芸人かオレは…と思ったらしい。その点ではつくづく父様に会えて良かったなあ、と僕は思うのだ。

 

でもこういう過去の記憶を見てると父様はカナリぶっ飛んでいる。僕の記憶を見た父様曰くオマエよりは余程普通との事でした。破壊と欲望の神ロクでもねえ、ってのが父様の感想。息ぴったりな親子だね、僕等。

 

 

 

さてソロソロ戻って身体を休ませるか。僕は父様の記憶領域を抜けて眠りについた。この精神と時のルームは本当時間を忘れてしまうよ。一体何年位かけて『グランドトレジャー無念の失敗作の巻』を見ていたのだろう、僕。

 

 

 

そして話は戻り世界御前会議の最終日へと移る。

 

その日の夜に開かれた打ち上げ舞踏会では父様の挨拶に続いて僕がケルベロス三姉妹のお披露目をした。この世界にいる神2柱の住む世界の中心にある神宮ユグドラシルを代表する女性としてケルベロス三姉妹を紹介した。

 

「神宮女官長、仁獣ケルベロス=ベルレシア…エターナルホープトレジャーの指名を受けてこれからは神宮第1位の女性として神宮ユグドラシルを神宮侍従長と共に取り仕切る事になります。2柱の神以外に対し神宮内で私が頭を下げる事はなく、神宮に仕える権威の象徴である我々に対し異を唱える者はこの神宮への立ち入りを永遠に許しません。…皆様どうかお忘れなきように」

各国の代表者達に臆する事無くベルが胸を張って言い切りグランドトレジャーとホープに頭を下げ、神宮侍従長に会釈をして厳かに元いた位置へと下がる。

 

「ボクの第1位の側近にケルベロス三姉妹の二、仁獣ケルベロス=ローザウィッチ…神宮第2位の女性になるが女官長補佐を兼任し女官長不在時は第1位の女性となる。ボクと神宮女官長を補佐する立場になるケルベロス一の才媛だ…我が自慢の第1位の側近よ、前に」

 

「エターナルホープトレジャーの第1位の側近、仁獣ケルベロス=ローザウィッチ…神宮第2位の女性としてホープトレジャーの側に身を置きますが、いかなる時もホープトレジャーの命を最優先に動く事となります。我が主は怒らせるととても恐ろしいお方です…皆様どうかお忘れなきように」

 

代表者達を相手に堂々とニッコリ笑顔を浮かべるとローザは上位者達に軽く会釈をして余裕を持って元の位置へと戻る。代表者達は新たなる神宮の上位者に目を見開かせたが、他の王宮と違い神宮はこの世界の最上位である神に続く権威の位置にあるのでこういう形になる。

 

「そして最後になるがボクの第1位の仁獣としてケルベロス三姉妹の三、仁獣ケルベロス=リズテイル…神宮第3位となる女性だ。彼女に贈った首輪の文言は"仁獣ケルベロス=リズテイル。これなる者破壊と欲望の神フェンリルの僕、神に愛でられし獣也。何人たりとも触れる事なかれ、これを犯す者全て天より下る神罰によって滅ぶべし。"…と明記してある。何人たりともボクの側に侍る彼女を咎める事は許されないし、父様とボク以外の命令は聞く事も彼女には許されない。…ってもうこれ以上の説明は、要らないかな?リズ、コッチおいで。この話が終わったら席に着くから約束の膝枕をしてあげるよ」

 

「はーい…っご主人様あ」

リズが僕の傍にやって来ると僕に寄り添うようにしてリズが腕を組む。これでケルベロス三姉妹のお披露目が終わりとなった。

 

ケルベロス三姉妹はこの世界での僕の大切な家族だ。これからも僕達は永遠に共にある。それにもうケルベロス三姉妹は僕無しでは生きて行けないからね…大事にするよ、僕の家族として。

 

 

 




ケルベロス三姉妹ベルの身の上話になりました。まだまだ話に収集がつかないのでこぼれ話や本編には入らなかったシーンとかも上げていけたらと思います。


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外伝3:ケルベロス三姉妹一の才媛

※ケルベロス三姉妹の次女、ローザの身の上話です。ローザベースに原作ストーリーを辿った形になっているので本編を知らない人にはネタバレになるかもしれません。本編読んでる人にはなるほどーな感じだと思いますが、ローザはケルベロス三姉妹一のド変態、破壊と欲望の神フェンリルの狂信者でもあります。一応R15に収まるよう言葉を選んだ形にしましたが、処女喪失のシーンがありますので閲覧にはご注意下さい。



ケルベロス三姉妹の二、仁獣ケルベロス=ローザウィッチ。仁獣御前会議第2席として、第1席である神宮女官長の姉様ケルベロス=ベルレシア不在時は女官長補佐ではなく女官長代理として神宮第1の女性として第1席の扱いを受ける。私はそれと同時にご主人様である破壊と欲望の神フェンリル=ホープトレジャーの第1位の側近に命じられた。何という身不相応…これは私が一番理解しているつもりだ。

 

何故なら私はケルベロス三姉妹とは名ばかりの力しか持ってはいないのだ。Sランクの魔物であるケルベロスが三体に分離した時その力の7割以上が姉様にいってしまい、私と末妹で残り3割を分けているような状態になった。元々ケルベロス三姉妹は創造神ユニコーン=グランドトレジャーがSランクの魔物ケルベロスから創った半身フェンリル様の番いになる存在だった。私達は人型が与えられ分離した事で失敗作となってしまったのだ。そう、子宮だけが分離の際に綺麗に三等分…数百年生きた結末がこんな無情で終わる事になったのは絶望と言うしかない。

 

 

 

一体何百年もの間、神宮の地下で魂に刻まれたフェンリル様の名を唱え続けた事だろう。実験に次ぐ実験の果てに失神を繰り返す私を励まし続けていたのは姉様の声だけ…フェンリル様の事だけを考えてひたすら耐えて過ごした日々。私が私という自我を持った時には、末妹も生まれていたが末妹が自我を持った頃にはもうグランドトレジャーが私達の下へ足を運ぶということは無くなっていた。

 

泣き続ける姉様、早く死んでフェンリル様の下へ行こうという末妹…何百年もの間私はその2人に挟まれて生きてきた。ああ…フェンリル様、何故私は生まれて来たのでしょうか。お役に立つ事も出来ず、生きてお会いする事も無く、神宮の地下でこのまま朽ちてしまうだなんて…。私達は何の為に生まれて来たの、私は貴方に必要とされないのですか?泣き続ける姉妹に気休めを言う事しか出来ない私は考えます。

 

この無力な私がどうすれば貴方のお側に在る事が許されるのか…フェンリル様、私達は貴方を愛する為に生まれ貴方に愛されなくては生きていけないのです。私はこの魂が朽ちる瞬間まで諦めたりはしない…貴方は必ず私達の前に現れて下さる。そして神宮の地下に繋がれた虜囚の私達を救って下さると、そう信じる事でしか私はもう今を生きてはいけない。泣き続ける姉を宥め、死に急ぐ妹を宥めもうどれ程の時が流れたのかは考えたくもない。

 

だが1人でも欠ければ私達は死ぬ…それだけは分かる。この身を3人で支える為の三頭なのだ、私達は…だから2人を死なせるのは駄目だ。私は一時でも最期を引き延ばそうと必死だった。口から溢れ出す私の妄想に、姉様は辟易していたと思う。力を失いかけた妹は夢見がちで幸せそうに私の話しを聞き入っていた。

 

 

フェンリル様が神獣フェンリルに受肉してこの世に生まれた時、神宮の地下にいた私達にもそれが分かった。私達は皆喜びの声を上げ咆哮した。フェンリル様、フェンリル様…私達は貴方をずっと待っていたのです。

 

再びグランドトレジャーは私達の下へ現れ私達に人型を与えた。結果は失敗に終わりグランドトレジャーを落胆させてしまったが、フェンリル様の身の回り役を務められたのならば処分は考えるとのお言葉を頂いたので、私達3人は必死に務めに励んだ。魔力供給の際、魔力が取り込みきれずお漏らしをしてしまう末妹は早々に厩に放り込まれてしまい、私達には後がなくなった。

 

グランドトレジャー自身が時間を惜しまず、フェンリル様の世話をしていたが手の届かない部分は私達の担当だった。どうしても執務に追われてしまうグランドトレジャーに代わり姉様はフェンリル様の食事の世話を、私は身の回りの掃除と洗濯を担当した。私達は特にそう言った教育を受けていなかったので必死に努力した、フェンリル様がお目覚めになる前に何としてもこなさなくてはならない課題となったのだ。

 

フェンリル様は生まれてからまだ一度も意識を覚醒しておらず、微睡んでいるご様子だった。腹が空けば姉様に差し出された哺乳瓶からミルクを大量に飲むし、オシメを濡らし排泄をする。人型になった際グランドトレジャーは人間としての殆どの機能が失われていたそうだがその原因はフェンリル様との分離のせいだという。

 

グランドトレジャーはその身を削るようにしてフェンリル様を慈しんでいる事なのは見ていて直ぐに分かる。私達には足りない、そう言ったのも当然だろう。グランドトレジャーはその身の半身だけでなく魂を削るように魔力をフェンリル様に惜しみなく注ぎ続けているのだ。

 

フェンリル様はお腹が空くとよく姉様の指に吸い付いていた。姉様が愛おしそうにフェンリル様を撫でるとフェンリル様が姉様の胸に顔を寄せて眠っていた。その光景を眺めていると、私の嗅覚がフェンリル様のお漏らしを感じ取る。これは私の仕事だ…今すぐ綺麗にして差し上げなければいけない。姉様も気がついてフェンリル様をベッドに寝かせると私はフェンリル様のオシメを取り替える。

 

「ああ…今日もお健やかで何よりです、フェンリル様。直ぐに綺麗に致しましょう」

フェンリル様のオシメを変えるのは私の仕事だ。だがフェンリル様の下の世話をしていて私はいつも不思議に思うのだ。フェンリル様はどうして何処もかしこもこのような香りに包まれているのだろう、と。姉様が次のミルクの用意をする為に丁度席を外したので私はフェンリル様の身体に顔を埋め思い切り息を吸い上げた。その香りは一気に脳内を駆け抜け私は例えようもない恍惚感に包まれ、クンクンと何度も鼻を擦り付ける。ジュワッとした感覚で我に返り、私は慌ててフェンリル様からその身を離した。

 

(やだ…っ私ったら、どうしてこんな)

私は慌ててフェンリル様の身支度を整えると姉様と入れ替わりに部屋を出た。最初私は失禁してしまったのかと思ったのだがそうではなかった。私の下着を濡らしていたのは発達し始めた女性器官から溢れ出た蜜液だったのだ。私は自分の事が恥ずかしくて仕方がなかった。

 

フェンリル様にこんな自分を知られてしまったらショックで死んでしまう。姉様も末妹もフェンリル様からいい匂いがするとは言っていたが、ケルベロス三姉妹の中で最も五感が鋭いと言われている私の嗅覚は一体何を捉えてしまったのだろう。咄嗟に持ち出したフェンリル様の服に吸い付き、舌を伸ばすと私はフェンリル様の服を顔へ引き寄せる。駄目だ…もう何も考えられない。

 

 

 

我に返り私は泣きながらフェンリル様の服を洗濯しシャワーを浴びた。どうして私はこんなになってしまったのだろう。もうフェンリル様の事しか考えられない。その内フェンリル様のお側にいるだけで私は絶頂死してしまうのではないだろうか。最初は罪悪感の方が多かった行為だったが、日に日にそれは背徳感が増していた。私は気づけば毎日のようにフェンリル様への懺悔を繰り返しながら洗濯前のフェンリル様の下着を使って濡れる下肢を慰めるようになっていた。

 

 

 

フェンリル様が遂に意識を覚醒され、私達ケルベロス三姉妹を召使いとして受け入れてくれると言って下さり、私達の処分は取りやめになった。

 

(君は美しい…まるで薔薇のようだ。君の名はローザ、僕の部屋の掃除や洗濯、身支度は君に任せる。君のようにいつでも綺麗にしていたい…君は三姉妹の次女、ベルの手助けも頼むよ)

 

私はこの時からケルベロスの三分の一ではなくローザという個となったのだ。ご主人様は綺麗だと私の容姿を気に入って下さった。有難い事だ…私にも生まれ持ったもので褒められる事があったとは。私はケルベロスの出来損ないなのだ…姉の半分でも力を持って生まれたならばお役に立てたとこの身が不等分に三分割された事を呪った。

 

そうだ…私は綺麗にならなくては。そしてフェンリル様の身を常に綺麗にしなくてはいけない。私は無力な分、決してフェンリル様のお側に在る為の努力を怠ってはいけない。役立たずと評されればグランドトレジャーによって問答無用に処分されてしまうのだ。私は寝る間も惜しんで日夜勉強に励んだ。合間にこの身を綺麗に整える事も忘れてはいけない。フェンリル様を綺麗に包み込むのが私の仕事。毎日フェンリル様の頭の先から足の先まで綺麗にして差し上げなければならない。

 

だからもうアレをしてはいけないのだ…綺麗にあらねばならない私がフェンリル様の匂いと味に塗れ汚れたいなどという昏い欲望に浸かってはならない。フェンリル様に知られれば私は間違いなくグランドトレジャーに引き渡されて処分の対象だろう。

 

「フェンリル様…っフェンリル様、どうかローザをお許し下さい!」

もうしません、これが最後です。これで最後にしますからどうか許して下さい。ローザはフェンリル様が好き過ぎておかしくなってしまったのです。フェンリル様の匂いを嗅ぐだけで脳が蕩けて、フェンリル様の汗の混じった下着を味わうだけで私の下着はビショビショになってしまうのです。ローザは嬉しくて涙が止まらなくて幸せで仕方がないのです…だってコレは貴方が生きている証そのものではないですか。貴方が綺麗だと言われる私の身体が貴方の匂いと味に包まれる事に身体が感激してしまうのです。

 

私は泣きながら人生最後の自慰を済ませ身支度を整えた。フェンリル様が私をお呼びになっているのだ。その後審判を受ける事になる等その時の私には思いもよらぬ事だった。

 

 

 

「申し訳ありません…二度と、二度としません。どうかお許しをっ」

フェンリル様は遠隔視が使えるらしく、私の様子を伺っていたそうだ。このまま泡になって消えてしまいたい。フェンリル様の誘導で私の自我は完全に支配下に置かれ忽ちその醜態をフェンリル様の目の前で晒す事になった。ああ…何故私は我慢が出来なかったのだろう。目の前に差し出されたフェンリル様の汗の匂いに我を忘れてしまった。

 

(…とりあえずコッソリ、ボクの…使って自慰するの禁止。約束破ったら父様にローザを返す。ボク遠隔視使えるからすぐ分かるよ、いいね?)

「も、申し訳ありませんでした…っ誓います、2度と致しません!ですから、そのっ…あの」

約束を守るなら内緒にしてあげる、2人だけの秘密だよ。そうフェンリル様が言って下さり、私は首を何度も縦に振って何度も何度もお礼の言葉を繰り返した。

 

(明日からも僕の世話を頼むね、いい子にしてたらまたご褒美あげるからさ)

「は、はい…ご主人様、ローザはずっといい子でいます」

フェンリル様との約束だ。これは死んでも果たさなくてはならない。私はフェンリル様の慈悲だけでまだ生きていられるのだ。このご恩に何としても報いなくてはならない。今の私はご褒美欲しさでいい子に縋り付く駄犬に過ぎない。いい子になるんだ、もっといい子にならないと…私は取り憑かれたように一心不乱になって仕事に勤しんだ。

 

 

 

ケルベロス三姉妹一の才媛、と神宮内で私の事を囁かれていたのは知っている。だが私にはその言葉が皮肉にしか聞こえない。私が出来る事は当然姉様にも出来るのだ。それは表立って動く事を好まない姉様の代わりに動いているのが私であり、私が人目につく派手な容姿をしているからだと思う。私は姉様が当然の様に熟す事を血を滲む努力で補って今がある。

 

役立たずとして早々にグランドトレジャーによって厩へ追いやられた末妹にもフェンリル様は仕事を与えて下さった。失敗作としてグランドトレジャーからの処分を免れたのも全てフェンリル様のおかげ。ただひたすら従順に働き続ければケルベロス三姉妹は番いになる事が叶わなくとも永遠に下僕としてフェンリル様と共に在る事が出来る。

 

 

 

「ケルベロス三姉妹はボクの大事な家族だよ…ベルはボクを甘やかして可愛がってくれるママだし、ローザはボクのワガママを何でも聞いてくれる綺麗で優しいお姉ちゃん。リズはボクの事が大好きで堪らない可愛い妹だ…ずっとずっとボク達は一緒だよ」

 

双子宮として世界の中央にある神宮ユグドラシルはグランド宮とホープ宮がその中心に存在している。この世界に存在する神2柱の居住区であり破壊と欲望の神フェンリル=ホープトレジャーはホープ宮の主である。ホープ宮に住む事が許されているのはケルベロス三姉妹である私達だけ。ここはボクの家族だけしか住まわせない、フェンリル様はそう明言された。

 

ここは内宮と呼ばれる場所に辺り他の女官は外宮と呼ばれる神宮ユグドラシルの内宮を囲む外周に住んでいる。だがどれだけ女官が増えようと、後宮に女性達が溢れようとこの内宮には立ち入る事は出来ない。ここはフェンリル様の家族だけに許された場所なのだ。

 

フェンリル様は私達ケルベロス三姉妹にそれぞれにフェンリル様の1番を与えてくれた。姉様には神宮第1位の女性としての位を、私には第1位の側近を、末妹には第1位の仁獣の座を…フェンリル様は私達を個として各々を重んじて下さりそれぞれを違う想いで1番の寵愛を下さるのだ。いつかフェンリル様の望むケルベロスの一体化を果たしてフェンリル様の全てを受け入れられる存在になれればと思う。

 

ああ…こんなに毎日頑張っているのに一体何が私達に足りないと言うのだろう。そもそも神の器というものが大き過ぎるのだとフェンリル様はボヤいていた。フェンリル様ご自身も持て余しているご様子で、そんな時はよくミズガルズへ引き篭もってやり過ごしているようだ。

 

そしてケルベロス三姉妹の中で私だけに教えてくれたニヴルヘイムの柩という存在。血の匂いがこびりついた拷問器具が溢れた歪な異空間の場所、罪悪を裁き浄化する為に作られたその場所にフェンリル様は時々訪れている。

 

この世界を浄化する為、グランドトレジャーの御為にその身を血で汚すその行為をフェンリル様は続けていた。私はフェンリル様の告白に『死の沈黙』という神の秘密を語ろうとするだけで死に至る呪いをその身に受ける事でそれに答えた。フェンリル様は私の返事に殊の外お喜びになり、そのままニヴルヘイムの柩の処刑台に寝かされた私はフェンリル様に処女を捧げた。

 

フェンリル様の改良した『苦悩の梨』という拷問器具は、『ハクダの梨』というフェンリル様が錬金した特別製のものでフェンリル様が体内で飼われている白蛇ハクダの蛇身で作られた弾力性のある代物だ。小さなバナナの形をしたソレを私の濡れた下肢へと忍ばせるとその蛇身からは媚薬成分が分泌され、私の狭い入口をゆっくりと押し開いていった。

 

それでもフェンリル様の雄芯は常人のソレとは比べ物にならない大きさらしく私は痛みに泣いて踠いたが、処刑台の上に拘束された私には身動きもままならない。フェンリル様に腰を掴まれ固定されたままフェンリル様の全てを受け入れた。文字通り串刺しというものだったと思う。私の痛みが消えるまでフェンリル様は私の身体を宥めるように優しく愛撫を繰り返してくれていた。気づけば痛みは消え、それからは夢中に声を上げて腰を振り続けて失神してしまった記憶しかない。

 

「よく頑張ったね…綺麗に開いたよ、ローザ。君はとてもいい子だ、凄く可愛いかった…大好きだよ。もう離さない、ローザはこれでボクだけのもの、いいね?」

「はい…ご主人様、ローザの全てはご主人様だけのものです」

フェンリル様は私の全てを受け入れて、それでも私を望んでくれた。フェンリル様に頭を撫でられていい子いい子されているだけで、本当に自分がいい子になれる気がする。それは強い痛みを伴う物だったけれどそこで得た幸せで堪らなかったあの出来事を私は一生忘れない。

 

 

 

一週間の間に行われた各国の代表者が集まる世界御前会議の最終日。その夜開かれた打ち上げ舞踏会でフェンリル様が私達ケルベロス三姉妹のお披露目をしてくれた。

 

我が自慢の第1位の側近よ…

 

そう言って私を呼んだフェンリル様のお言葉に感激しその身を震わせて仕舞ったが失態を見せずにお披露目を終わらせる事が出来てホッとしている。常にフェンリル様の側でお仕えするのが仕事…最早これだけで私には至福の務めだ。

 

 

 

内宮にあるホープ宮の至る所で私はフェンリル様のお相手を務めている。姉様がお相手をするのはフェンリル様の部屋が殆どで末妹に至っては厩の中だ。私はホープ宮にいる間は常にフェンリル様と共にある。このホープ宮全てが私の寝所、フェンリル様に甘く囁かれるだけで私の腰は砕け、可愛いお強請りをされて喜んで全身を使って奉仕する。もう私の事が離せないから離さない、フェンリル様はいつもそう言って私の頭を撫でて可愛がってくれる。

 

私の腕の中にいる小さな弟になったフェンリル様は年相応でとても可愛らしい。お姉ちゃんと呼んで頰を赤らめ腰をゆっくり動かしながら私の胸に顔を埋め私の身も心も裸にしてしまう。逆らえない、何でもしてあげたい。その事だけで胸が破裂しそうだ。何でも言ってほしい、どんな無茶も喜んで叶えてあげるから…この腕の中にいる間はずっと私の、私だけの弟でいて欲しい。

 

「お姉ちゃん、大好き…っ」

「私も大好きよ…ねえ、もっとワガママ言って。沢山甘えて欲しいの…お姉ちゃん、アヤトの言う事なら何でもしてあげたい」

私のそんな姿はご褒美が欲しくて尻尾を振っているようにしかフェンリル様には見えないのかも知れない。でもそれだけじゃない、私には貴方が必要なんです。私を必要としてくれる貴方がいるからこそ今の私がある。他にはもう何もいらないの。私は貴方にずっと必要とされていたい。

 

愛なんて足りないわ…これはもっと貪欲なもので私の存在意義にも等しい。私は貴方の必要不可欠な物になりたい、常に必要とされていたいのです。

 

「クスクスクスッ本当、可愛いね…ローザは。そんな心配しなくてもボクはローザを離さないよ、もっと離れられなくしてあげる…覚悟してなよ」

「はい…ご主人様。もっといい子にしますから、どうかローザを離さないで下さいね」

フェンリル様に深く口付けられると私はいつも魂まで吸い上げられてしまいそうになる。ああ…幸せです、フェンリル様。

 

 

 

時々真夜中に目を覚ますとこれは全て神宮の地下で眠っている間に見た夢ではないかとふと思うのです。姉様の泣き声と、私の妄想と、末妹の現実逃避の絵空事…その狭間に時々見た甘い幻想にとても似ている。

 

貴方が生まれた時の産声が届いた時の歓喜を私は未だ昨日のように思い出す事が出来る。神宮の地下から私達3人はフェンリル様を呼んで必死に咆哮を上げ続けた。私達はここに居ます、どうか私達に気付いて下さいと。そして私達に一目そのお姿を見せて下さいと涙を流しながら、声が枯れ血を吐き出すまで貴方を呼び続けた日々。それは何年、何十年、何百年と待ち続けた私達にとって念願の出来事だったのだ。

 

私はあの日を思い出すだけで涙が溢れてくる。神宮の地下では涙を堪える事が出来たのにフェンリル様を見ているだけで、時々涙腺が壊れたように涙が止まらなくなる。泣き虫ローザ、なんていうのはフェンリル様だけ、私は本来泣かない存在だった。泣くのは姉様と末妹だけ…それを宥めるのが私の役割だった筈なのに。

 

 

 

「ローザは頑張り屋さんだものね…いつも我慢で乗り切ろうとするから堰き止めていた涙が出始めると止まらなくなる。身体にも精神にも悪いから少しずつ出していこうね…誰にも見せないよ、泣き虫ローザはボクの前だけでいい」

「うう…っこんな私ですみません、ご主人様どうかローザを捨てないで」

時折わんわんと泣き出す私をそう言ってフェンリル様は私が治るまで胸に抱き締めて顔中にキスを贈ってくれる。成人を迎えても未だフェンリル様の腕の中で私は子供に還ってしまう。

 

見栄っ張りで負けず嫌いな私は他人に弱い所を見せるのが死ぬ程嫌で、同情されるのは屈辱でしかない。だから私は自分が無力だと分かっていても努力は怠らない。こんなちっぽけなプライドをフェンリル様はそれすらも、それでこそローザだと言って大事にしてくれている。フェンリル様は秘密は秘密にするし、内緒は墓まで持っていくと言って私の事は全部自分がなんとかするからと言って手放しに私を甘やかしてくれるのだ。

 

だからこそ私は今の自分に満足が出来ない。フェンリル様のお役に立てるべく日々の努力はこれからも一層励むつもりだ。私がフェンリル様がいなくては生きていけないように、フェンリル様にもこのローザがお側にいる事が当たり前になってくれる事を何よりも願っている。

 

無力な私にはフェンリル様の全てにはなれない…でもその一部でいい。フェンリル様の指先一つ分でもお役に立てたらと思う。私はフェンリル様を愛する者として生まれ愛されないと生きていけない獣、ケルベロスとしてグランドトレジャーに創られた。フェンリル様が私達を庇護するのはその前提があっての事なのは承知している。私達は幸運だったと思う…だがそれに甘えてフェンリル様の足枷にだけはなりたくない。

 

 

 

グランドトレジャーは私達をフェンリル様の最大の鎖にする為に私達を創ったという。神の魂を生身の肉体に縛り付ける枷にしようと考えた。本来神というのは一世界一神であり、フェンリル様はグランドトレジャーによって創られた神でありグランドトレジャーが生んだ子供とは意味が異なる。故にフェンリル様はグランドトレジャーのようにこの世界に縛られる事がない存在なのだそうだ。

 

時空の歪みを利用して3000年前に異世界の神がこの世界に訪れたように世界の誕生と消滅の瞬間、時空に裂け目が出来る。その歪みを利用して他の神々は異世界等への移動を可能にするのだがフェンリル様にはその縛りがない、よってその気になればいつでもこの世界から離れられる。グランドトレジャーはそれを何よりも恐れフェンリル様を生身の肉体に縛り付ける事を考えた。物理的に自分の下から離れないように神の魂を生身に封じ込んだのである。

 

フェンリル様はもう二度と側を離れないという誓いを胸にグランドトレジャーの想いに応え受肉したのだ。

 

私達にはフェンリル様のような世界を一瞬に駆け抜ける足はない。フェンリル様がそれを望まれるのならば私にも枷としての役割があるのだろう。私はせめて重荷にならない足枷でありたいと思う。

 

 

 

フェンリル様はこの世界で冒険者になりたい夢がお有りだ。その為、フェンリル様が留守中、神宮内を管理するものが必要になる。それが私と姉様に与えられた役割だ。成長過程で今苦しんでいる末妹にはどうかフェンリル様を悲しませないよう無事に成人して欲しいと思う。Sランクの魔物であるケルベロスの私達では冒険のお供が叶わないので、出来る事でお役に立てればと考えている。

 

私達ケルベロス三姉妹はフェンリル様を愛する為に生まれ愛されなければ生きていけない身体を持っている。もしもの時は舌に刻まれた神の文言が私の願いを叶えてくれると思う。

 

『仁獣ケルベロス=ローザウィッチが沈黙の誓いを破らんとするその時破壊と欲望の神フェンリルの名に於いて死を賜る。その命尽きようとも神の秘密を語る事なかれ。』

 

私には『死の沈黙』という名の呪いに込められた死を選択する自由だけは許されているのだ。この命が使える時が来るまではとっておこうと思う、これは私の切り札だ。フェンリル様のお役に立つ時にこそ使おうと思っている。

 

身も心も捧げられる存在を得られた事に創造神ユニコーン=グランドトレジャーへは最早感謝の念しか今はない。貴方がいなければフェンリル様はこの世界に存在しなかった。故にこれまでの出来事全てを引き換えにしても何よりその事に感謝したい。

 

私を生んでくれた事、フェンリル様を生んでくれた事、この世界に共に生きていける事…これを幸いと言わず何と言おうか。フェンリル様は私を狂信者とよく仰るけれど正直それは私にとっては望む所であり、私以上にフェンリル様を思う者等いてなるものかと日々の祈りは欠かした事はない。

 

この世界に存在する神2柱の側に仕え、その存在が公式にも認められた立場になったのだ。声を大にして叫んでもいい。

 

私はフェンリル様の狂信者だと。私は殉職以外の死に方を決して選ばない、私の死に場所はフェンリル様の傍らだ。私は貴方の為に生まれ、貴方の為に生き、貴方の為に死ぬ…これが私の望む姿だ。番いにもなれなかった失敗作の私には身不相応な死に様かもしれないけれどそうありたいと思っているし、その為の努力は惜しまない。

 

お優しいフェンリル様は決してそのような事は私やケルベロス三姉妹には言わないだろうから、これは私だけの秘密だ。この命尽きようと魂の虜囚となろうと私は貴方の傍らにある。

 

この魂が尽き果てるその日まで…

 

 

 




まだ3人目ですね…まだまだキャラクターいるのでネタはあるのですが本編と並行だと中々外伝は進みません。こちらはネタを忘れてしまう前に書いていきたい所です。本編優先してますが、突発的にこちらに話が入ってしまうと思いますが読みにくいとは思いますがご容赦下さいませ。


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