ぐらんぶるろまんす (てこの原理こそ最強)
しおりを挟む



青く晴れた空。燦々と照りつける太陽。そしてその陽射しに反射してキラキラと光る海。気温は少し暑いがすごしやすい

 

ここは静岡県伊豆市。豊かな自然環境に恵まれ、南側は天城山系の山並みに囲まれ、西側では青く澄んだ駿河湾に面しており、太平洋側の気候の影響から温暖な気候に恵まれ、年間を通じた平均気温は15度前後で、山間部などの地域で降水量の多いところもあるが、全体としては穏やかで住みやすい場所だ

 

そんな伊豆市の海沿いを一台のワゴンが走って行った

 

「大きくなったなー伊織。10年ぶりか」

 

「それくらいになりますね」

 

「これからは家族だ。敬語なんてよせよ」

 

「はい、わかりました」

 

「わかってねぇよ!」

 

北原伊織(きたはらいおり)。今年から伊豆の大学に通うためこの伊豆へやって来た青年。そしてワゴンを運転しながら助手席に座っている伊織の頭を強く撫で回すのが伊織の叔父である。伊織は大学進学を機に叔父の家へ居候することになっている

 

2人が楽しげに会話をする中、ワゴンは目的地に到着した

 

「diving shop ”Grand Blue”」

 

「どうだ立派なものだろう。車置いてくるからそこら辺でも見ててくれや」

 

「あ、はい」

 

伊織は10年ぶりに見る目の前の光景に目を奪われた。その光景の中にダイビングスーツを抜いでいる最中の上半身だけ水着姿の女性が入り込んだ。その光景に違う意味で目を奪われる伊織であった。その女性も伊織に気がついたのか数秒間見つめ合う形となった

 

『伊織ー?どこだ?』

 

「あ、はい!今行きます!」

 

叔父に呼ばれ駆け足で店へ急ぐ伊織

 

(あの子、見覚えがあるような...)

 

伊織の姿が見えなくなったと同時に、少女の元にある男性が近寄った。その格好は女性と同じく上半身だけダイビングスーツを脱いでいるものだ。その体はめちゃくちゃ筋肉がついているわけでもなく、細くなよなよしているわけでもない。程良い筋肉質と程良い体のライン。彼には細マッチョという言葉がしっくりくる

 

「(。´・ω・)?」

 

「あぁごめん。なんでもない」

 

「...」

 

彼は全く言葉を発していないにも関わらず彼女は彼の言いたいことを理解しそれに答えた

 

「あっ、ありがと」

 

「(。-`ω´-)」

 

彼は一瞬彼女が見ていた先に目をやるがすぐに彼女に目を戻し自分と彼女のタンクを持ち上げ歩いて行った。彼女はその後ろ姿を見て小さく笑みを浮かべて後を追うのであった

 

 

 

 

 

(今までとは違う環境で俺はどんな出会いをするのだろう)

 

これからの生活に胸を躍らせながら伊織は店のドアを開けた

 

『ウォォォーーー!!!アウト!セーフ!よよいのーー!!!』

 

伊織はドアを開けた先の光景に表情を変えることすら忘れて時間を巻き戻すようにドアを閉めた

 

「すぅーはぁー」

 

(俺はどんな出会いを)

 

さっきのを一旦リセットするべく伊織は深呼吸をはさみもう一度ドアを開けた

 

『よよいのよい!!!』

 

だがしかしこれは現実である。先ほども見たパンツ一丁の男共による野球拳の光景は変わりはしなかった。その光景を受け止めきれず、伊織は地面に手をついた

 

(ガッ!俺の望んだ新生活...)

 

「伊織。改めてようこそ、俺の店へ」

 

「叔父さん!なんですかこのおかしなのは!」

 

「ん?おー、よく言われるんだよ。俺にこのエプロンは似合ってないって」

 

「そうじゃなくて...!」

 

「服のことじゃないのか?」

 

「服のことですよ!」

 

叔父との会話が噛み合っていない中、伊織がさっきの男連中を指差す

 

「あーあ」

 

「出したぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

「いつもの光景だが」

 

「実家に帰らせていただきます!!!」

 

男の一人が野球拳に負け、最終防壁であるパンツを脱ぎだしたところを見て拒否反応が出たのか伊織は店から走り去ってしまった

 

「ホームシックか」

 

「店長、今のは?」

 

「伊豆大に入る甥っ子だ」

 

「甥っ子が伊豆大に?」

 

「ってことは時田...」

 

「そうだな寿...」

 

「「新人ゲットのチャンスだ!!!」」

 

新入生と聞いてとても悪い顔になる時田信治(ときたしんじ)と寿竜次郎(ことぶきりゅうじろう)。どちらも伊織が通う伊豆大の3年生である

 

そして2人はものすごい顔で伊織の後を追った。その格好のままで。そう...方やパンイチ、方や全裸で、だ...

 

「はぁ...はぁ...なんで店の中にあんな変態が...」

 

「「待てー!!!新入生ー!!!」」

 

「外に出てくるのかよー!!!?」

 

ある意味ゾンビ映画よりもよっぽど恐怖名絵面に再び逃げる伊織

 

「待てー新人!なぜ逃げる!」

 

「逃げるに決まってるでしょー!」

 

「さてはお前!人見知りのシャイボーイだな!」

 

「自分の格好わかってます!?」

 

「そんなことはどうでもいい!」

 

「いいわけあるかぁーー!!」

 

「とにかく俺達の話を聞くんだ!」

 

「イヤだぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

伊織の全力疾走も虚しくあっという間に2人捕まってしまった

 

「お帰り伊織。ホームシックは治ったか?」

 

時田の脇に抱えられながらの帰還を余儀なくされた伊織は玄関前に投げ捨てられた。それにしても大学生の男1人片腕で抱える時田の筋力とはいかほどのものなのか...

 

「ま、子供はいずれ親元を離れるものだ」

 

「大丈夫、すぐに慣れるさ」

 

「なぜ俺のホームシックで話が進められてるんだ...」

 

「違うのか?」

 

「違いますよ!店に入ったら全裸祭りなんだから驚いて逃げたんです!」

 

「お前は俺達が好きでこんな格好をしてるとでも?」

 

「違うんですか?」

 

「否定はしない」

 

伊織は2人の発言に頭を抱える

 

「あれはタンク準備を決めるためにじゃんけんをしていただけだぞ」

 

「タンク準備?」

 

「ダイビングのときに使う機材だ」

 

「あぁ〜あれか」

 

「それをじゃんけんで決めてたってわけだ」

 

「あぁ...それで?」

 

「それで、とは?」

 

「それが服を脱ぐのと何の関係が?」

 

「野球拳なんだから全裸になるのが常識だろ」

 

「あなた方は野球拳以外のじゃんけんを知らないんですかぁ!?」

 

野球拳とは元々愛媛県松山市のあるお祭りが発症であり、歌い踊りながらじゃんけんをする宴会芸・郷土芸能である。じゃんけんで負けると服を1枚脱ぐというルールがよく知られているが元はそんなルールはなかったと言われている。まぁ伊織がそんなこと知る由もなく、伊織の言う通り普通のじゃんけんをすればいいのだ

 

「俺は寿竜次郎。伊豆大機械工学科の3年だ」

 

「北原伊織です。同じ学科なんですね」

 

「おー、そうか。同じサークルに同じ学科のやつが入るのは嬉しいもんだな」

 

「入るとは言ってませんが...」

 

いろいろありすぎて疲れた伊織だが寿と自己紹介を交えつつタンク運びに付き添っている。ちなみに寿はちゃんと服を着ている

 

「ふっ、そんなもの目を見ればわかるさ」

 

「そうですかぁ...」

 

その伊織の表情はなんとも形容しがたいものであった。その後幾度か寿の言うサークルの入部届けに拇印を押させる、抵抗するというじゃれあいをしながら海沿いを進む

 

「ダイビングに興味は?」

 

「ありますよ」

 

「そうか!」

 

「でもやる気はありません」

 

「なぜだ?やってみたくないのか?」

 

「...俺泳げないですし」

 

「んー?はっは!さてはお前国語が苦手だろ」

 

伊織の告白に寿は笑いながら伊織の背中を叩く

 

「なんですか急に」

 

「だってやりたいかやりたくないに、できるできないで答えるなんて」

 

「でも海に潜るのに泳げないなんて」

 

「そんなものどうにでもなる」

 

「どうにでもってそんな...」

 

「最初から自分ができるものだけ選んでいたらなにも始まらない。大事なのはお前が興味を抱いているか、だろ?」

 

伊織は驚いていた。さっきまで店では全裸、挙げ句の果てには全裸のまま店から出た男がまともなことを言っていると。そしてその言葉は悔しくも伊織の心響いていた

 

そして少し歩いたところで寿が防波堤の下を覗いた

 

「下見、お疲れ様です。タンク置いてきますね」

 

「ありがとう」

 

下からする声の元にはこれまた上のダイビングスーツの上部分を脱ぎ、水着姿をあらわにしている綺麗な女性がいた。その女性は伊織に気がつくと小走りで階段を上って伊織に近づいた

 

「いらっしゃい伊織くん!」

 

「はい!はじめまして!」

 

「はじめまして?私のこと忘れちゃった?」

 

「えっ?」

 

「いとこの顔忘れるなんて冷たいな〜」

 

古手川奈々華(こてがわななか)。”Grand Blue”の看板娘。伊織とはいとこにあたる。なんと伊織は目の前の綺麗な人といとこであるにも関わらず忘れてしまっていたようであった。これはその内罰が下るであろう...

 

 

 

 

 

店に戻り伊織は奈々華のダイビングスーツの海水落としを手伝っている

 

「すいません、気がつかなくて...」

 

「10年ぶりだもんね。千紗ちゃんにはあった?」

 

「いえ、まだです」

 

「あったらびっくりするよ〜。とびっきり可愛くなったんだから!さっきまで一緒に潜ってたんだけど」

 

「あっ!もしかして!」

 

作業が終わって店に戻る最中、伊織は奈々華の言葉で店に着いたときに見た美人のことを思い出す

 

「時田くん達のサークルに入るの?」

 

「いえ」

 

「ダイビングは嫌い?」

 

「嫌いじゃないと思いますけど...」

 

「じゃあなんで?」

 

「せっかく男子校を卒業したんだから距離を取りたいんです」

 

「距離?なにと?」

 

「それは...」

 

伊織は店のドアノブに手をかけ、そして開ける

 

『ウェェェェェェェイ!!!!!』

 

「こういう男子校のノリってやつからですよ!」

 

ドアの向こう側には再び全裸の男達が...

 

「お、戻ってきたか」

 

「片付けお疲れさん」

 

「とりあえず服を着てください...」

 

「じゃあ伊織くんのことよろしくね」

 

「ウーッス!」

 

「あぁあぁあぁ!!!」

 

すでに逃げる道なし。捕まった伊織は酒で埋め尽くされたテーブルの前に連行された

 

「さぁ!今日はお前の歓迎会だ!」

 

「待ってください!オレはサークルに入る気ないですし!そもそも...!」

 

「それ以上言うな。いいか伊織」

 

「なんですか...?」

 

「お前は食わず嫌いが多いように思える」

 

「別にそんなこと...」

 

「そうだろう。やったこともないのに文句を言っているんだから」

 

「それはよくないな。やったこともないのに全裸で公道を走るのがよくないなどと!」

 

「それはこっちが正しくないですか...?」

 

「とりあえずこれを飲んで野球拳から始めてみるべきだろう」

 

「何事も経験だ」

 

「それ絶対必要のない経験ですよね」

 

そう言って時田と寿は伊織にビール大ジョッキを勧める。

 

「世の中に無駄な経験なんてものは存在しない」

 

「騙されたと思ってやってみろ」

 

「断固拒否します」

 

「そこをなんとか!」

 

「減るもんじゃないし!」

 

「やりません!俺はそんなノリに絶対ノリませんから!!」

 

人生経験が大事。やってみないとわからないことだってたくさんある。時田達の言っていることは正しく聞こえる。裸で公道を走ったりしなければ説得力もあるのだが...

 

 

 

 

 

所変わって夜、店の前の公道では...

 

「あれって、伊織だよね」

 

「(*´-ω・)?」

 

夜も更けて暗くなった公道を2人の男女が歩いている。古手川千紗(こてがわちさ)と我那覇拓海(がなはたくみ)である。2人とも伊織と同じく今年から伊豆大に通う

 

「朝見かけたやつ。もしかしたら知り合いかも」

 

「...」

 

「一応、男...」

 

「(; ・`д・´)!」

 

千紗の口から拓海以外の男と知り合いだった事実を聞いて拓海はその細い目を見開く

 

「ただのいとこだよ」

 

「(。´-д-) =3」

 

「もしかして、嫉妬した?」

 

「( ꒪⌓꒪)!」

 

「ふふっ、拓海ってホントわかりやすいよね」

 

拓海は朝と同じく全く声を発していない。しかし無愛想というわけではない。表情はころころ変わる。それも千紗に関することならなおさらだ

 

「大丈夫。まだいとこだって決まったわけじゃないし、仮にいとこだったとしても会うの10年ぶりぐらいだから向こうが忘れてるんじゃないかな」

 

「...」

 

千紗は大丈夫と言いつつもまだ不安が抜けない拓海

 

「それに...」

 

「(・・。)?」

 

「...今の私には、拓海しか映らないから......」

 

「(*゜△゜*)!?」

 

「...」

 

千紗の告白とも取れる言葉に拓海は顔を赤くし、言った本人の千紗も顔を赤くしている。なんと初々しい2人なのか。爆発すればいいのに...おっと失礼。見ればわかるようにこの2人はカップルである。その成り行きなどは〜...また次の機会にでも

 

「着いた。ありがと、いつも送ってくれて」

 

「...また明日

 

「うん。また明日ね」

 

拓海は無事”Grand Blue”に千紗を送り届け別れを惜しみつつも手を振って自分の帰路についた。一方の千紗は拓海の姿が見えなくなるまで名残惜しそうにその背中を見届け、見えなくなると店に入った。のだが...

 

「だらっしゃーーー!!!なんぼのもんじゃーーー!!!」

 

「やるじゃねぇか伊織!」

 

「3人抜きとは恐れ入ったぜ!」

 

「早く負けて俺様のご立派様を拝ませてやりたいですよ!」

 

「よく言うぜ!」

 

「どうせ爪楊枝だろ?」

 

『あはははは!!!!!』

 

そう。千紗がドアを開けて数秒動かなかったのはこれが原因だ。さっきまで変態扱いしていた時田や寿などの裸集団の中に伊織がいたのだ。パンイチで

 

「ふん!何人かかってこようが俺のパンツは!」

 

「あれ千紗ちゃん。おかえりなさい」

 

「ただいま...」

 

そんなパンイチ姿の伊織を見る千紗の目は、まるで汚物を見るような目になっていた。そして千紗の存在を知った伊織は固まった

 

「んんっ!よぉ、久しぶりだな千紗。俺のこと覚えてるか...?」

 

こんな状況の再会でも伊織は普通通りにいるとなぜ思ったのか。伊織は千紗に声をかけ肩にポンっと手を置いた。しかしそれを千紗は即座に振り払う

 

「これもう捨てないとダメみたい」

 

「俺の手そんなに汚いのか!?」

 

「伊織がこんな頭の悪い人間になってるとは思わなかった」

 

「違うんだぁぁぁぁーーー!!!」

 

千紗は伊織に触られたカーディガンを脱ぎ、それを姉である奈々華に渡して奥へ行ってしまった

 

「なんでこんなことに...」

 

「お前、千紗ちゃんといとこなんだって?」

 

「美人のいとこと同居とは贅沢者め」

 

「たった今汚物のように扱われましたけどね...でもいいんです。同じ家に奈々華さんがいるんですから!」

 

「それは諦めろ、伊織」

 

「どういう意味ですか?」

 

「いやな、奈々華さんは隠してるつもりらしいし実際当事者にだけはバレちゃいないんだが...」

 

時田の曖昧な言葉に伊織も奈々華の方に目をやる。するとそこには先ほど妹の千紗から受け取ったカーディガンを大事そうに抱えてキョロキョロする奈々華の姿があった。そして次の瞬間...

 

「スゥ〜はぁぁぁぁん!!!」

 

「あの人、重度のシスコンなんだ」

 

「この10年で何があったんだ!」

 

目の前の光景に心やられ伊織は再び頭を垂れた

 

「終わりだ...今日会った人の中で唯一の癒しが...」

 

「気にするな。所詮バラ色の家庭なんて手に入らない方が普通なんだからな」

 

「まぁ確かにそうですね。家の中にドラマなんて求めちゃいけませんよね」

 

「そうだ!」

 

「それならその分大学生活の中で頑張ります!」

 

「おう!燃えてるな!」

 

なんと切り替えが早い。切り替えの早いのは決して悪いわけではないのだがこれはこれでいいのだろうか

 

「あ、あの...」

 

「ん?どうした伊織」

 

「奈々華さんの表情が...!」

 

「「あー」」

 

伊織の指差す方にはさっきの千紗のカーディガンの匂いを嗅ぎだらしない顔になった奈々華ではなく、眉間にシワをよせた顔で千紗のカーディガンを睨みつけている

 

「そうか。千紗ちゃん今日あいつと一緒だったか」

 

「あいつ?」

 

「伊織は千紗ちゃんと奈々華さんのいとこのくせに本当になにも知らないんだな」

 

「仕方ないじゃないですか!10年ぶりなんですから!それで?あいつって誰ですか?今の奈々華さんの表情となんの関係が?」

 

「奈々華さんが重度のシスコンってのはさっき言ったな?」

 

「えぇ...驚きましたけど」

 

「そんな愛する妹に()()がいるってなったらどうなると思う?」

 

「...え?」

 

「千紗ちゃん、彼氏持ちだぞ」

 

「......え?」

 

伊織から出る今日1番の無気力の「え?」であった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



伊織が10年ぶりに伊豆へ戻ってきた次の日、本日は伊織や千紗、それと拓海達伊豆大新入生へ初日のガイダンスが行われる。その朝、拓海は千紗と一緒に大学へ行くべくa.m.8:00に”Grand Blue”の前に千紗を迎えに来ていた

 

5分ぐらい経ったとき店のドアが開いて中から千紗とその姉の奈々華が出てきた

 

「じゃあ行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

2人はまだ拓海の存在に気づいてないらしい。千紗が店の階段を下りたところで拓海に気がついた

 

「あれ、拓海?」

 

「(。・・)ノ」

 

千紗が拓海に気づいてそそくさと近づいてくるのに対して拓海は手を少しあげて応える

 

「なんで?もしかしてずっと待ってた?」

 

「((-ω-。)(。-ω-))」

 

千紗の質問に拓海は首を振るだけで返す

 

「それならいいけど、来るなら前もって言ってよ」

 

「(´^ω^`)」

 

「まぁいいけど。さっ、行こ」

 

どうやら事前に待ち合わせをしていたわけではないらしい。だけれども両人とも朝一番にお互いに会えるのは嬉しいわけで、2人は表情に出さないだけで心はルンルン気分で学校へ向うのであった。その光景を下唇を噛み締めながらものすごい表情で見ている奈々華の存在に気づかずに...

 

 

 

 

 

桜が綺麗に咲き乱れている大学内、校門近くにカメラを片手にしたたくさんの人の群れがあった。何か気になって中を覗くとパンイチ姿の時田や寿、そして伊織がいた

 

「はぁ...」

 

伊織の姿を見た千紗からため息が一つ

 

「(-ω-;)?」

 

「うん、あれがそう」

 

「('_':)」

 

「時田先輩や寿先輩と知り合いなのかは知らない」

 

「( ˙-˙)σ?」

 

「あんなのに声かけるなんて絶対にイヤ。もう行こ」

 

千紗は眉間にシワを寄せながら呆れているようだった。そしてもう関わりたくない感じを醸し出し拓海の手を引いて講堂へ向かった。その道中千紗の寄せられていたシワは段々となくなっていった。なぜかって?拓海と手を繋げたからに決まっている

 

 

 

 

 

(希望に満ちた新たな出会いと新たな生活は...入学と同時に灰色に染め上げられていた)

 

学内でパンイチで寝ていたと噂され、それだけでは留まらず服が見当たらなかった伊織はその格好のまま今の席についている。それも相まって伊織のマイナスイメージはどんどん増える一方であった

 

「ねぇねぇ、あの人ちょっとカッコよくない?」

 

そんな伊織の耳に女子の会話が入ってきた。伊織が目を向けた先には金髪で長髪、顔立ちも整っている男が座っていた

 

(確かに美系...えっ!?)

 

伊織はその顔立ちは美系と思いつつ目を下にやるとその着ている服に驚いた。それはアニメキャラクターがプリントされているものだった

 

彼は今村耕平(いまむらこうへい)。耕平も伊織に気がつきその容姿を確認して一つ鼻で笑った

 

((こいつとだけは関わるまい))

 

2人は同時に同じことを考えていた

 

 

 

 

 

「説明は以上です」

 

ガイダンスも終わりそれぞれがサークル見学やそのまま帰路につく中、伊織は講堂冗談に座っていた千紗に気がついた

 

「千紗、お前はサークル見学に...お、おい」

 

伊織が呼びかけるも千紗は逃げるように出口へ向かった。そして千紗と伊織の間にこれ以上千紗に近づかせんとでも言いたげな雰囲気を醸し出している拓海が割って入った

 

「そんな格好で話しかけないで」

 

「言われてみれば...帰って服を着たいが帰り道がわからん...」

 

「じゃ。私は帰るから。拓海行こ」

 

「よぉし、じゃあそうしよっか」

 

「...どうしてついてくるのよ」

 

「道案内してもらおうと思って」

 

「絶対にイヤ!」

 

「どうして?」

 

「言わなきゃわからないの!?」

 

「いやなんとなくわかる...」

 

「できればはっきりわかってほしいんだけど...じゃあ私は帰るから」

 

「お前が一緒に帰りたくないのはわかった。でも俺も困っているんだ。だからお前の服をくれないか...ウガッ!」

 

伊織がとんでもない発言した直後、拓海が伊織の顔面を殴り飛ばす

 

「な、なにをす...!」

 

ガンッ!

 

「...る......」

 

殴られた衝撃で壁に激突し地面にへたりこんだ伊織。拓海に抗議しようと頭をあげるがその頭のすぐ横の壁に足をドンとして伊織を見下す伊織。壁ドンの足バージョンとでも言おうか

 

「拓海!こんなやつほっといていいから!」

 

「...」

 

未だに伊織への怒りは治らないが千紗が言うので仕方なく手を、いや足を退く拓海

 

「イテテ...千紗!俺達いとこ同士だよな!?俺の困りごとはお前の困りごと!お前の服は俺の服!そういう助け合いが必要だろ!?」

 

ジャイ◯ンみたいなことを言っても何を言っているか理解ができないがとりあえずもう一発殴ろうと腕に力を込めるが千紗によって抑えられる

 

「拓海抑えて!ちょっとそういうのやめてよ!人前でいとことかそういうの...」

 

「...なら。服をくれなきゃ人前でいとこだって言いふらす」

 

「っ!...わかった......脱ぐ...脱ぐから......それだけは...家のことだけは、言いふらさないでください......」

 

「ちょ、ちょっと待て...それ側から見ると俺がすっごい...あぶしっ!!!」

 

死ね...クズが...

 

伊織の脅迫に涙を流した千紗。これを見てもう黙っていられなくなった拓海は伊織の腹に回し蹴りを食らわし、伊織は窓から落ちっていった。そしてすぐさま千紗を抱きしめる

 

ごめん...

 

「うんん...拓海はなにも悪くない」

 

好意を持っている相手の腕の中で安心した千紗は同じように拓海の背中に腕を回す。そして2人の空間だけピンク色に染まった。今ここがどこだか忘れて

 

「あぁ、君たち。学校の廊下でそういうのはやめなさい」

 

「「っ!」」

 

教師から声をかけられて今の状況を理解しサッと離れるがお互いに蒸気が出るくらい顔を真っ赤にするカップルであった

 

 

 

 

 

「俺が一体なにをしたっていうんだ...」

 

窓から落とされた伊織は運良く植木の上に落ちたため蹴られた箇所以外の損傷はなかった。運のいいやつめ...

 

「お前こんなところで一体なにをしているんだ?」

 

「うぉっ!ってなんだお前か。いろいろと事情があるんだ」

 

「事と次第によっては助けてやらんこともないが」

 

「お前実はいいやつだったんだな!」

 

「今村耕平だ。それでなにがあったんだ?」

 

「聞いてくれ!千紗のやつ俺を家へ連れて行かないばかりか服すら脱がないんだ」

 

「警備員さーん」

 

「うぉー!ワンモアチャンスプリーズ!!!」

 

「ストーカーに公然わいせつ、話を聞く余地なんてないだろ!」

 

「これには事情が!」

 

「ならその事情とやらを留置所で話すんだな!」

 

伊織はなんとか助けを請うべく耕平の服を掴むが耕平はそれを振りほどく

 

「じゃあな」

 

「待った!話はもういい。その代わり!着ているものを脱いでくれ!」

 

「変態!」

 

ストップザ公然わいせつ。相手が男だからってやっていいものではない。どんどんと罪を重ねていく伊織は耕平にも顔面を殴られ見捨てられてた。当然である

 

「あの野郎...とりあえず服をなんとかしないとな。他に知り合いといえば...」

 

 

 

 

「ダイビングサークル、”Peek a Boo(ピーカブー)”です」

 

伊織が最終的に訪れたのは時田や寿が参加をし、今日サークル紹介に参加している”Peek a Boo”のブースだった

 

「もう大丈夫だぞ?」

 

「ふぅ〜。助かりました」

 

「で?なんだ?」

 

「服を貸してもらえませんか?」

 

「変なことを言いだすやつだな。この後飲みに行くんだから二度手間だろ」

 

「俺が飲みに行って服まで脱ぐことを前提にするのやめてくれますか?」

 

「今日は新入生歓迎コンパだぞ」

 

「それはいいですが、まずは服をなんとか...」

 

「じゃあ誰か新人を1人でも引っ張ってきたら服を貸してやる」

 

「ノった!」

 

「ところで宛はあるのか?」

 

「えぇ、任せてください!」

 

なぜか自信満々な伊織は20分もしないうちに戻ってきた。耕平を連れて

 

「「ウェ〜ルカ〜ム!!!」」

 

「謀ったな貴様ー!!!」

 

連れてこられた耕平は即座に時田と寿に拘束された。約束通り伊織は服を貸し与えられた。下はパンツだが...

 

「はぁ〜、服は人類の叡智だなぁ」

 

 

 

 

 

「さぁ新歓コンパを始めるぞ!」

 

『うぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!』

 

「伊織、なに飲む?」

 

「ウーロン茶でお願いします」

 

「よしわかった」

 

ウォッカ:9、ウイスキー:1

 

「ほい、ウーロン茶」

 

「これは俺が知ってるウーロン茶じゃなぁい!」

 

「なにを言う、ウーロン茶の()がついてるだろ」

 

「しかも色だけじゃなく」

 

ブシュー

 

「火もつくんだぞ」

 

「火がつく時点で大部分がアルコールだ!」

 

「なら水でどうだ?」

 

伊織は時田からもらったグラスに疑いを持ち、試しにライターの火を近づけてみた。すると驚いたことにグラスの中の水に火がついたではないか!

 

「どうして火がつくんですかね...?」

 

「可燃性なんだろ」

 

「色は水だから気にすんな」

 

「あなた方は色でしか飲み物を判別できないんですか!?」

 

火がつく時点でそれはもう飲んで楽しむための酒でもない気がするのは気のせいであろうか...

 

「じゃあ行くぞ。杯を乾すと書いて!」

 

「乾杯と読む!」

 

『かんぱーい!!!!』

 

杯を交わす男連中の熱のすごさに伊織は即刻その場を立ち去った

 

「千紗、来てたのか。それと...」

 

「...」

 

「ひっ!」

 

伊織が逃げた先には静かに缶チューハイに手をつけていた千紗と拓海がいた。伊織は先ほどのことと拓海の目つきの悪さに退いてしまう

 

「お父さんが行けって」

 

「...」

 

「あ、紹介まだだった。この人は我那覇拓海。んでこっちが北原伊織」

 

「よ、よろしく...」

 

「(〃..)) 」

 

「あぁ、拓海ってほとんど声発しないから早く慣れてね」

 

「そ、そうか...2人はこのサークルに入るのか?」

 

「不本意ながら。伊織は?」

 

「俺は御免被る」

 

「ふ〜ん。逃げ切れるの?」

 

「は?ひぃー!!!」

 

「「わーっしょいわーっしょい」」

 

伊織はいつの間にか背後にいた時田と寿に捕まり胴上げされながら連行されていった

 

「ほら伊織、ちゃんと乾杯しなきゃダメだろ」

 

「ちょっ!待って!」

 

「...バーカ」

 

「( ̄人 ̄)」

 

千紗は缶に口をつけながら連行されていく伊織を見ていた。その様子を横目で見ている拓海。拓海はこのとき少しばかり嫉妬していたのだ

 

「杯を干すと書いて!」

 

「干杯!」

 

「はぁ〜濃いな〜」

 

「水も飲まないと倒れるぞ?」

 

「あぁすいません」

 

伊織は寿特性ウーロン茶を飲み干すと水と言って渡されたものに口をつける。しかしがただの水ではないことが判明し試しにライターの火を近づけてみるとなんと火がついた

 

「ウォッカぁぁぁぁーーーー!!!!」

 

「いい飲みっぷりだな、北原伊織」

 

「耕平!復讐のつもりか」

 

「そんなつもりはない。ただな...1人ぐらい犠牲にして入会させないと逃げれそうになかったんでな」

 

「はぁ...わかった。お前を連れてきた責任もある。俺が酒を飲むからお前はウーロン茶でも飲んでいてくれ」

 

「ははっ、なんて美しい自己犠牲の精神なんだ」

 

耕平は伊織から受け取ったウーロン茶()の飲み物を飲む。ま、それは火がつくウーロン茶なのだけれど

 

「貴様ぁ!」

 

「なにも犠牲になるのが俺である必要はないよな!」

 

「この外道が!」

 

「こらこら、ケンカはいかんぞ!どうしてもモメるなら勝負にしろ」

 

「「勝負ー?」」

 

「あぁ。代々伝わるパブ式のにらめっこだ。ルールは簡単!口に含んだ酒を吹いたら負け。それだけだ!」

 

「わかりました」

 

最初は伊織が酒を口に含み耕平が変顔をするらしい

 

『にーらめっこしましょ、ピーカーブー!』

 

「ウィ〜」

 

「...」

 

どんな変顔をしても伊織は吹き出しそうになかった

 

「耕平。真面目な話をしてみるのも一つの手だぞ?」

 

「真面目な話?」

 

「あぁ。笑っちゃいけない状況では意外と真面目な話で笑っちまうもんだ」

 

「なるほど、なら俺の悩みでも話してみます。ここだけの話なんだが...実は俺、こう見えて昔はオタクだったんだ」

 

「プーーー!!!!」

 

「ふっふっふ、驚きを隠しきれなかったようだな」

 

「隠しきれてないのはお前のオタクの方だろ」

 

「伊織、粗相だな」

 

「ちきしょー!」

 

吹き出してしまった伊織はグラスの酒を一気に飲み干した(※危険なので良い子はマネしないように)

 

『にーらめっこしましょ、ピーカーブー!』

 

「おい伊織」

 

「おい、大丈夫か?」

 

伊織はフラフラ〜っと少し小太りな先輩の前に四つん這いになる

 

「バスケが、したいです...」

 

「プーーーー!!!!ゴホッ!ゴホッ!」

 

「よっしゃー!お前も飲んでもらうぞ!」

 

「また粗相だな、伊織」

 

吹き出してしまった耕平と先輩に粗相をした伊織は2人揃って一気に飲み干した(※お酒は節度を持って嗜む程度にしましょう)

 

「やってくれるじゃねぇか!」

 

「貴様もな!」

 

「こうなったらとことんまでやってやらー!」

 

「上等だ!白黒ハッキリさせてやる!」

 

その後もにらめっこは続き決着のつかないまま伊織と耕平は吐くまで飲み続けた(※こうなるからお酒には気を付けましょう)

 

「まったく」

 

「「水〜」」

 

「それにしても意外だった。お前らがそんなに飲みたがりだったとはな」

 

スピリタス:アルコール度数96%

 

「その酒ならお前達でも満足できるだろ」

 

「「水じゃねぇぇぇぇーーーー!!!!」」

 

「おい耕平...このままだと俺達2人揃って死んじまうぞ...」

 

「そうだな...さすがにこれ以上は...」

 

「俺にいい考えがある...」

 

「ほう...それは一体...」

 

「あいつも俺達と同じ新入生だ」

 

伊織が指差したのは千紗と楽しそうに静かに飲んでいる拓海だった

 

「なるほど...あいつを酔わせて俺達は入会を回避する作戦だな...?」

 

「その通りだ耕平...目つきは悪いがああいうやつに限って酒は弱い可能性が高い...実際にあいつはまだ缶チューハイ2本目だ...」

 

「本当か...?なら話は早い...」

 

「「あいつに酒を飲ませろ!」」

 

さっきまでケンカしていた2人が利害の一致を機に共闘するようだ

 

「よぉ。楽しくやってるか?」

 

「伊織。と...」

 

「俺は今村耕平。俺も新入生なんだ」

 

「私は古手川千紗。こっちは我那覇拓海」

 

「(〃..)) 」

 

千紗の紹介に合わせて拓海は軽く会釈をする

 

「実は新入生同士で飲みたくてな。少しつきあってくれないか?」

 

「おう!ナイスアイディアだ耕平!」

 

「「...」」

 

伊織と耕平の見え見えの演技に呆れて声も出ない千紗と拓海

 

「ま、まぁともかくこれもなにかの縁ってわけで4人で乾杯にしよう」

 

「ほらほらグラスを持って!」

 

「ねぇ2人とも。実は拓海って...」

 

「「乾杯!!」」

 

「あーあ」

 

千紗の静止も聞かずに乾杯の音頭を取ってしまった伊織と耕平。2人は一杯目は飲まないと怪しまれると踏んで一杯目はなんとか飲もうと打ち合わせていたため、吐き気をグッと我慢して一気に飲み干した

 

「グッ...ほら2人も...」

 

「一気に...オウッ...」

 

「今にも死にそうじゃん。拓海どうする?」

 

「(・ω・)」

 

拓海は少し考えてから千紗のグラスを取り、自分のと合わせて飲み干した。しかしそれでもフラついたり顔が赤くなったりと酔った症状は見られなかった。伊織と耕平は驚きつつも次の酒を注いだ。もちろんさっきと同じ4人分。拓海が千紗のも飲むのであれば拓海が飲む量は伊織と耕平の倍。有利とでも思ったのだろうが浅はかであった。3杯目を飲んだところで伊織と耕平はぶっ倒れてしまった

 

「バ、バカな...」

 

「ど、どうして...」

 

「あーあ、だから止めようとしたのに。拓海、お酒はサークル1強いんだから」

 

「( ̄^ ̄)」

 

千紗に褒められたので拓海は自然とドヤ顔になって2人を見下ろす形になってしまった

 

「なら...なぜチューハイなぞ...」

 

「...私がお酒弱いから、その...いつも私に合わせてくれる......」

 

「(*⌒▽⌒*)」

 

千紗は恥ずかしそうに拓海を見上げながら、拓海はそれに対して優しく返し見つめ合う

 

「なんだ...この甘い空間は...」

 

「爆ぜろリア充...」

 

そこで酔いつぶれた2人の意識はなくなった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 

大学入学2日目にして気分は最悪の北原伊織。童貞20歳。今日の講義は全て耕平と2人終始机に伏していた

 

「ただいま」

 

「「「おかえり」」」

 

「ウ″ーッ!」

 

「お、今日は拓海も来たのか!」

 

「(〃..)) 」

 

店に入ると店長、時田、寿が裸エプロンのように見える格好といつも通りの風景があった。伊織はその光景に吐き気がし拓海は店長に軽く会釈して挨拶した

 

「なんだ伊織、二日酔いか?」

 

「吐くならトイレだ」

 

「その格好のせいですよ!」

 

「「「ん?はっははははは!!!!」」」

 

「あー、この格好か」

 

「この後潜るのに準備しててな」

 

「下にはちゃんと水着つけてるから」

 

「なんだ、そうだったんですか」

 

伊織は水着を着ている発言に安心しているが決して全員そうだとは一言も言っていない。しかしそれもいつものこと。拓海と千紗は平然とその場から離れた

 

『3人とも〜。ちょっといい?』

 

「「はい」」

 

「ウソつきー!!」

 

奈々華に呼ばれて後ろを向いた3人の内時田と寿は案の定なにも履いていなかった

 

「今日のお客さんなんだけど、あらおかえりなさい」

 

「奈々華さんは服着てるんですね...」

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「急用ができちゃって延期してほしいみたい」

 

「そりゃ残念だな」

 

「ってことは今日は中止か」

 

「仕方がない、たまには服でも着るか」

 

「普通は常に着ているもんですけどね...」

 

 

 

 

 

「はいそれじゃ」

 

『いただきます』

 

今日も大学は午前中で終わったためみんなでお昼である

 

「さて、飲み会まで空いちまったな」

 

「あぁ、そうだな」

 

「「伊織、夜までどうする?」」

 

「なぜそこで俺にフルんですか...」

 

「他になにか用事でもあるのか?」

 

「今日は飲み会に参加しないって言ってるんです」

 

「お前はなんのサークルに入ったつもりだ!」

 

「えっ!ダイビングじゃないの!?」

 

「拓海、これ美味しい」

 

「(´ー`)」

 

伊織と時田のやりとりには目もくれず拓海と千紗は会話(千紗しか言葉は発していない)を挟みながらお昼を食べている

 

「伊織くん!」

 

「はい?」

 

「伊織くんがウチに来て3日目だけど知ってる?」

 

「えっと、なんでしょうか?」

 

「自分の部屋がどこにあるのかを」

 

「っ!言われてみれば...」

 

「でしょう?大学生になってはしゃぐ気持ちもわかるけど、3日連続で夜遊びなんてダーメ」

 

「そうですね。奈々華さんの言う通りです。というわけで今晩は不参加です!」

 

「ま、仕方がない」

 

「伊織は不参加か」

 

「いや〜、ホントすいませんね〜」

 

こんなすいませんとも思っていないすいませんは滅多に聞けるもんじゃないだろう。時田と寿はまだ昼途中というのに席を立って出口に向かっていく

 

「なぁにいいさ」

 

「どうせ人数は足りるだろう。今日の飲み会は青海女子大との交流会だしな」

 

「...」

 

「これって拓海の地元の調味料だっけ?」

 

「(。'-')(。._.)」

 

寿が最後に残した言葉に伊織は固まる

 

「女子大...だと!?」

 

そして時田と寿が今日使うはずだった機材を倉庫に置いて戻ってくると伊織が床に正座して奈々華に頭を下げていた。パンイチで

 

「ここまでしても許してもらえませんか!?」

 

「おい伊織、なにがあった?」

 

「俺思い出しました!自分がどんなサークルに入ったのかを!」

 

「ダイビングだろ?」

 

「いいえ!そんなものに入った覚えはありません!」

 

「素晴らしい手のひら返しだな」

 

「手首がねじ切れんばかりだ」

 

「お願いします!奈々華さん!」

 

「えっとね、とりあえず顔を上げて服を着よ?」

 

「だいたい、どうして服脱ぐのよ」

 

「表裏のない誠意を示すため!」

 

「遊びたいのはわかるけど...」

 

「ですが大将!」

 

「ダメです!」

 

「そこをなんとか!」

 

「ダメなものはダメ!」

 

「はぁ...」

 

女子大との飲み会と聞いて明らかに態度が変わる伊織。どれだけ女に飢えているのだろうか。その懇願の姿に呆れてため息が出る千紗。拓海はというと食器の後片付けをしている

 

そして拓海が後片付けを終えて戻ると伊織と時田、寿の3人の姿はなかった

 

「あ、拓海。おかえり」

 

「あら拓海くん。片付けしてくれてありがとう」

 

普段の奈々華は千紗と交際しているからといって拓海にひどい態度をとったりしない。逆に昔から店を手伝ってくれている拓海に対して感謝すらしているのだ。しかしその拓海への態度は拓海が千紗から1m以上離れているときに限ってだが...

 

「奈々華さん!荷解き終わりました!」

 

「えっホント!?」

 

「えぇ!」

 

「じゃあ確認しに行くわね」

 

そのまま奈々華は伊織と共に部屋を確認しに行った

 

「拓海」

 

「(・・。)?」

 

「ん」

 

「(*゚・゚)?」

 

「ん!」

 

奈々華が去ったことによりその空間には千紗と拓海の2人きりになったところで千紗が周りを見渡して本当に他に誰もいないことを確認して自分が座っているソファの隣をトントンと叩いて拓海に隣に座るように伝える。拓海は一度は何をしているのか理解できなかったが2度目にして理解し腰を下ろす。一回でわかれよ!それでも彼氏か!おっと失礼...

 

「えっと、うんと...」

 

「...」

 

いざ隣に座ってもらってもその後のことを考えていなかった千紗はテンパって早話す内容を考えるのに焦ってしまっている。それを見過ごす拓海ではなかった(そこは察するんかい!)。カバンから履修用の授業一覧を取り出してテーブルに置いた

 

「...どれ取る?

 

「えっ?あ、そうだね。拓海はなにか取りたいのあるの?」

 

「...千紗に合わせる

 

「っ!そ、そっか...」

 

拓海の声を聞けたのと拓海の声から自分の名前を聞けたの、また拓海が自分のことを気遣ってくれたのといろんなことからの嬉しさに今にも爆発しそうなぐらい心臓がドキドキしていることがわかる千紗だった

 

それから数分して奈々華が帰ってきた。なぜか顔を赤くして何度も頭をブンブン振っていた

 

「お姉ちゃん?」

 

「な、なんでもないのよ!?うん!」

 

「そっか。あ、伊織に渡そうと思ってたものがあったんだ。ちょっと行ってくるね」

 

「(-_-)/」

 

そう言って席を立った千紗にいってらっしゃいの意味を込めて手を少しだけ上げる拓海。手持ち無沙汰になった拓海は千紗がいなくなってから奥からモップを持ってきて床の清掃をしだした

 

少しして千紗が怒りをあらわにして戻ってきた

 

「ホント最低!」

 

「( ゚д゚)」

 

千紗の言葉に今にもカチコミに行きそうな雰囲気で拓海が首や肩を鳴らしている

 

「拓海。ちょっと散歩行かない?」

 

「( ・∀・)b」

 

千紗の誘いに脳よりも早く体が動いた拓海は既に玄関の前にいた

 

「あ、拓海くんちょっと」

 

「...(・・。)?」

 

「友達が拓海くんに変わりたいって」

 

「???」

 

全くもって意味がわからないまま奈々華から携帯を渡された拓海はそっと耳にやる

 

『あ、拓海ー?』

 

「( ̄Д ̄)」

 

その相手は浜岡梓(はまおかあずさ)、青海女子大学の3年で”Peek a Boo”のメンバーでもある

 

『ちょっとー、愛しの梓お姉さんを無視ー?』

 

「( ' -' )」

 

『はぁ、まぁ拓海と電話で会話なんてムリなのは知ってたんだけどさー。これでも悲しいのよ?んじゃ要件だけ伝えちゃうわ。今日の飲み会悪いんだけどこっちの都合で延期になったから。とっきーとぶっきーにも連絡はしてるけど、2人が携帯見てなかったら伝えてくれる?じゃあまたねー。愛してるぞ?”たっくん”』

 

「!Σ( ̄□ ̄;)」

 

『つーつー』

 

最後にとんでもない呼び方をされた拓海は驚きを隠せないまま電話を切って奈々華さんに返した

 

「今の誰?」

 

「ん?梓だよ」

 

「梓さん...」

 

千紗はジト目で拓海を見ている。千紗は梓が拓海のことを相当気に入っているのは知っている。でもそれは千紗にとってあまりよろしくないわけで、拓海はというと直立のまま汗をダラダラかいている

 

「拓海」

 

「( ゚д゚)!」

 

千紗が名前を呼んだだけで拓海を体をビクンとさせる

 

「もう!」

 

「っ!」

 

千紗が拓海の腕に抱きつく。それほど大きくもないが小さくもない。言うなればちょうどいいサイズに成長した千紗の胸に腕が囚われる。千紗は拓海を落ち着かせようと行動に移したのだろうが拓海の汗は止むどころか更に出てきていた。いつもなら地球一周できるくらい嬉しいことのはずが、今は千紗には見えていないだろうが奈々華が目の光を失い持っている携帯を握りつぶすほどに力が入っているため喜ぶことができない

 

「千紗ちゃん...ちょっと拓海くんと話したいことがあるから、ちょっとだけ貸してもらえないかしら...」

 

「え...うん、わかった」

 

「ごめんね。あ、さっき耕平くんが来たみたいだから伊織くんのお部屋にお茶持っていってもらってもいいかな?」

 

「ん」

 

いくら姉とはいえど拓海を渡したくはない千紗であるが話があるというなら仕方ないと思って奈々華の言う通りにお茶を持っていった

 

「拓海くん...」

 

「(;:´°;Д;°`:;)」

 

千紗がいなくなった途端、奈々華の威圧が強くなった

 

「拓海くん。別に千紗ちゃんと付き合うことに文句はないわ。だってそれは千紗ちゃんが決めたことですもん」

 

「...」

 

「でも節操は守ってね?まだあなた達は学生。前にも話したと思うけど学生のウチにそういうことがあったら...ワタシ、ナニスルカワカラナイカラ...」

 

「Σ(っ゚Д゚;)っ」

 

その日の夜、拓海の夢にはずっと包丁を持った奈々華が出てきたとかなんとか...南無...

 

 

 

 

 

次の日、なぜか拓海には昨日の記憶がなかった。思い出そうとすると鳥肌がたったため思い出そうとする行為そのものをやめた。そして携帯を確認すると新入生は”Grand Blue”に集合というメッセージを時田から受けた拓海はせっせと支度をすませ千紗に会いに...店に向かった

 

「お、来たな」

 

「おはよ、拓海」

 

「( ´ ▽ ` )ノ」

 

「っ!もう...」

 

拓海が店に着くと千紗が小走りで出迎えてくれた。それに挨拶と感謝を込めて頭を撫でる。千紗はいつも子供扱いみたいで恥ずかしくはあるがイヤではないので抵抗はしない

 

「拓海も来たってことはサークル活動か」

 

「はい」

 

「新入生を交えて何かやろうかと」

 

「新入生って何人入ったの?」

 

「今のところ4人っす」

 

「新入生諸君。今日はよく集まってくれた」

 

「4人てこのメンツかよ。てか耕平はなんで真面目に参加してるんだ?」

 

「先輩から緊急招集がかかったからな!」

 

携帯の画面を見せる耕平。そこには『”Grand Blue”に声優の水樹カヤさんが来る』と書かれていた

 

「んなのウソに決まってるだろ」

 

「りありー!?」

 

「うむウソだ」

 

「おいおい、いくらなんでもこんなウソに騙されるなよ」

 

「うぅぅぅ......」

 

「えっ、マジ泣き!その年で!?」

 

「カヤちゃん、最近忙しいみたいだから当分来れないだろ」

 

「その言い方だと前はよく来てたみたいですね」

 

「うん、来てたわよ」

 

「りありー!?」

 

「うん、リアリィ」

 

「芸能人もよく来るぞ?」

 

「そう言ってまた騙すに違いない」

 

「うふふ、ウソなんて言わないわよ〜」

 

「証拠がなければ信じられません」

 

声優の水樹カヤが来ていたことを信じようとしない耕平は証拠を求めてきた。すると拓海は耕平の肩を叩き自分の携帯の画面を見せた。そこにはメッセージが写っておりこう書かれていた

 

Peek a Booに新メンバーが入ってカヤさんに会いたがってるやつがいますよ?

 

ホントに!?嬉しいなぁ!また時間が空いたら行くからその時まで待っててって伝えておいてー!☆

 

「うぉぉぉ!我那覇!お前ホントはいいやつだったんだな!ん?」

 

本物の水樹カヤとのやりとりを見せられてようやく信用した耕平は拓海の手を取って喜んだが、ふとメッセージの続きに目が行った

 

『あ、もし今度潜るときは拓海くんにインストラクター頼もうかなぁ?

 

時間があれば喜んで

 

ホントー!?絶対に時間作って行くね!

 

えぇ、お待ちしてます。みんなで待ってますね』

 

「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

耕平はそのメッセージに我を忘れた。しかしその理由がまったくわからない拓海は1人ポカンとしている

 

「なんなら彼女のウェットスーツも向こうにあるぞ?」

 

「ふむ、ウェットスーツですか。ではテイスティングよろしいか?」

 

「すげぇ...躊躇のない変態宣言...」

 

その宣言に拓海と千紗はちょっと引いている

 

「俺やる気が出てきました!ダイビングのこと教えてください!」

 

「任せとけ!」

 

「私達も参加しないといけませんか?」

 

『んぁ?』

 

「経験者の千紗ちゃんと拓海は必要ないか」

 

「それなら私達は不参加で」

 

「千紗も参加しなさい。もちろん拓海もな。初心者の挙動を勉強するのも大事だぞ?」

 

「えぇ〜...」

 

明らかにイヤそうな顔をする千紗。そんな顔も可愛いと思ってしまっている拓海はアホである

 

「あの、俺は見学でもいいですか?」

 

「なんだ、体調不調か?」

 

「いえ...」

 

「あぁ、あのことか」

 

「ん?」

 

「俺泳げないんですよ。だから...」

 

「そんなこと気にするな!」

 

「気にしますって!」

 

「泳げないダイバーだっているんだぞ?」

 

「でも...」

 

「やって見る前からそんな否定するな」

 

「もったいないぞ」

 

「そこまで言うなら...」

 

拓海はそこでわかったことが一つあった。千紗がほんの少し伊織の注意を向けていたことが

 

そして新入生4人と時田、寿の先輩コンビは近くの屋内プールに移動した

 

「今日は水泳の練習を行う」

 

「え、さっきは泳げなくてもいいって言ったのに」

 

「泳ぎの技術はさして重要じゃない。見ずに慣れておくことが重要なんだ」

 

「「はぁ...」」

 

「それじゃあ、さっさと水着に着替えんぞ!」

 

「私も着替えるんですか?」

 

「そりゃあそうだろ」

 

更衣室に移動した伊織達は着くなり服を全て脱ぎ捨てた先輩2人の前に座らされていた

 

「要するだ。泳げないやつは水に恐怖心を抱いている」

 

「ダイビングではそれはマズいことなんだ」

 

「話が頭に入らないので下を履いてもらえませんか!」

 

「水に恐怖心があるとトラブルに対してパニックになりやすい」

 

「すると効率のいい呼吸が保てずエアーの消費が早くなるんだ」

 

「これは安全にも関わることからちゃんと練習してもらうぞ!」

 

「驚いた...ダイビングには真面目なんですね」

 

「わかったならさっさと着替えろ」

 

「あぁ」

 

話が終わってまだ着替えていないのは伊織だけっだった。そして伊織が着替え終わると伊織&寿、耕平&時田のペアで練習することとなった。拓海はというと自分のジャージの上着を持って女子更衣室に向かった

 

「たたたた拓海!?」

 

「ヾ(・ω・`;))ノ三ヾ((;´・ω・)ノ」

 

拓海が女子更衣室に着いたと同時に更衣室のドアが開き水着姿の千紗が出てきた。しかし水着姿の千紗のどこを見ていいかわからない拓海といきなり目の前に拓海がいて自分は水着姿で恥ずかしく思う千紗はお互いに後ろを向いた。そして拓海はそのままジャージを後ろに差し出した

 

「あ、ありがと...」

 

ジーっとジャージのチャックが上がる音が終わってから千紗が声をかけた

 

「もう、いいよ」

 

「...」

 

「ごめんね、変なもの見せちゃって」

 

「っ!」

 

千紗は昔から自分の体に自信がなかった。なんせ姉がボンキュッボンの美人であるからしてその妹の千紗にはたまったもじゃない

 

「そんなことない」

 

「っ!た、拓海...?」

 

...カワイかった......

 

「〜っ!」

 

千紗は俯く。拓海が褒めてくれたこと。拓海のまっすぐな目。ちょっと照れて赤くなってる顔。千紗は改めて感じた。拓海のことが好きだと

 

千紗が俯いてなにも話さないことに拓海はアワアワと最善の解を導き出そうと模索しているがなにも思いつかなかった。しかしそれは杞憂に終わった。なぜなら千紗が拓海の手を取って歩き出したからだ。その顔は少し頰が赤いが笑顔だった

 

そのままプールに出るとプールサイドに海パンが落ちていた。海パンが落ちている?

 

「ふぅ〜」

 

「どうだ伊織?」

 

「ん〜、これならなんとか...はっ!」

 

「「...」」

 

頭にタオルを置いてまるで風呂に浸かっているような体勢を取っている伊織。しかしその姿は裸であった

 

「違うんだ!これは訓練で!そうですよね先輩!?」

 

「しかしなんだな。伊織は脱ぐのが好きだな」

 

「先輩!?」

 

「変態...」

 

「うっ!」

 

そしてその変態はそのままの姿でプールからあがりやがった

 

「違うんだ!俺は露出の趣味はない!」

 

「で?なにやってたんですか?」

 

「伊織を水に慣れさせる特訓だ」

 

「俺の話は聞いてくれないのか...」

 

「じゃあ私達は向こうで見学してます」

 

「俺は変態じゃないのに...」

 

そのまま膝から崩れ落ちる伊織

 

「さ、伊織。続きを始めるぞ」

 

「水の中を楽しむために頑張ろう」

 

「いえ、もう水の中なんてどうでもよくなったといいますか...」

 

その言葉に千紗が反応したことに拓海は気づかないはずがなかった

 

訓練が終わって店に戻ると伊織と菜々華が一緒に水族館へ遊びに行った。しかしそれを提案したのは千紗であった。どうやら水の中の良さを少しでも知ってほしいとのことらしい

 

「千紗!」

 

「なに?」

 

「ほい、これお土産」

 

「私がどれだけあの水族館に通ってきたと思ってるの?」

 

「まぁ、感謝の気持ちだよ」

 

「感謝?」

 

「俺をあそこに連れて行くよう奈々華さんに頼んでくれたんだろ?」

 

「...ダイビングバカにされたままなのは癪だから」

 

「そっか、とにかくやるよ」

 

「ん」

 

なんやかんや伊織が買ってきたお土産を受け取る千紗

 

「じゃ」

 

「...ちょっと待って」

 

「ん?」

 

「それで、どうだったの?」

 

「なにが?」

 

「水の中」

 

「う〜ん...どうだな、苦手意識は変わらないけど次はもっと近くで見てみたいかな」

 

「あっそ...」

 

「だからそれプレゼント。ありがとうな、千紗」

 

「あ、ちょっと...」

 

千紗が声をかけるが既に伊織の姿はなかった

 

「それならもう少しカワイイものよこしなさいよ。バカ...」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 

『新人の伊織ちゃんでーす』

 

『いらっしゃいませー。本日はご指名ありがとう...っ!』

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

ピンク色の世界。女子高生の制服に身を包んだ伊織がベッドで女の子座りをしている。そんな伊織の前に時田と寿。そんな悪夢から目覚めた伊織はすごい汗をかいていた

 

「まったくヒドい夢だ。俺が女子高生の服を着るなんて...おはようございます。っ!」

 

朝からヒドい夢を見てしまったことに頭を抱えつつ廊下を進み目的地のドアを開けた。中には女子高生の制服を持った時田と寿がいた。まさか正夢か

 

「「おはよう」」

 

「い”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”や”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!!!!」

 

夢のこともあり伊織は恐怖と驚愕で尻餅をついた

 

「まさか、先輩達にこんな趣味があったなんて...」

 

「は?何を言ってるんだ伊織」

 

「だってその制服!」

 

「制服は好きですがなんで男子高校生ようなんですか!?」

 

「今日は真面目にサークル活動をしようと思ってな」

 

「「?」」

 

いつの間にかいる耕平。そしていつもは真面目じゃないのかと言いたくなるようなセリフ。どこからツッコんでいいのかわからない

 

「おはよう...」

 

そこへ千紗が登場し女子高生の制服を持ってブツブツ言っている伊織と耕平に一言

 

「変態...」

 

「違うんぞ千紗!」

 

「これをダイビングに使うと渡されて!」

 

「ダイビング?あぁ、もうそんな時期ですか」

 

「そういうことだ」

 

「なっ!千紗が平然と受入れているだと...!」

 

「本当に制服が必要だとは...」

 

「しかし、これをどうやって使うんだ...?」

 

「こうするとサメよけになるとか...」

 

「あの2人なんの話をしてるんです?」

 

「「さぁ〜」」

 

その後、2人はダイビングにはたくさんの機材があるためそれらを揃えるためには金がかかることを教えられ、金を稼ぐために制服を使うと聞かされた

 

「2人共、伊豆春祭は知ってるか?」

 

「「?」」

 

「5月にやるウチの大学で開催される祭のことだ」

 

「サークル対抗ミスターコンテストってイベントがあってだな」

 

「優勝サークルには賞金が出るんだよ」

 

「「ふ〜ん、そうですか。まさか俺達に出ろと?」」

 

「「正解」」

 

「「イヤじゃぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

「これは男子コンテストとも言ってな。男コンと略している」

 

「「最悪だ!」」

 

「はっ!千紗は知ってたのか!?」

 

「一応...去年とかも見てたから」

 

「俺はごめんです。そんなものを着て笑い者になるなんて冗談じゃない」

 

アニメキャラのティーシャツ着て大学行ってるお前がなにを言うか、的なことを伊織と千紗は言いたそうだ

 

「なぁ耕平。お前は美系だ」

 

「なにを...」

 

「お前が出ればきっと勝てる。サークルのためにお前の魅力を貸してくれないか」

 

「そう言われても...」

 

「じゃあ俺は必要ないですよね」

 

「なぜだ?」

 

「だって耕平がいるじゃないですか」

 

「なぁ、伊織」

 

「なんですか...?」

 

時田は耕平のときと同様伊織の肩をガッチリ掴む

 

「お前はネタ枠だ」

 

「ブチ殺しますよ」

 

「ちょっと待ってください。なら我那覇はどうなるんですか?」

 

「あぁ、一応拓海にも聞いてみるつもりだ」

 

「だがあいつはな~...」

 

「なにか問題でもあるんですか?」

 

「「正直圧勝過ぎてつまらん」」

 

「「なんだそれはぁぁ!!」」

 

「拓海のことは帰ってきてから決めるとして、二人はそいつを着てくれ」

 

「え?」

 

「今日は実際に海に出る」

 

伊織と耕平用にウェットスーツが用意されており二人はそれに着替える

 

「サイズはどうだ?」

 

「ちょっと苦しい程度ですね」

 

「隙間ができてなければOKだ」

 

「じゃあ行くぞ」

 

「うーっす」

 

「はぁ、海か...千紗は行かないのか?」

 

「店番」

 

「そっか。じゃ」

 

「あのさ、伊織」

 

「ん?」

 

「大学生活が始まるとき、ワクワクした?」

 

「え?」

 

「どう?」

 

「う~ん...そういえばワクワク...してたな...」

 

伊織はここに来たときのことを思い出す

 

「それならきっと、楽しめると思う」

 

「ん~?」

 

伊織には千紗の言っていることがイマイチ理解できなかった

 

 

 

 

 

伊織と耕平が実際の海で練習していると店から急いで車に乗り込むスーツ姿の男性が2人見えた

 

『ありがとうございました』

 

「あの人達は?」

 

「あぁ、出張前に潜りに来たらしい」

 

「なんか大変そうですね。忙しそうなのにスーツまで持ってきて」

 

「頼もしいだろ?」

 

「頼もしい?」

 

「だってそうだろ?あの人達は貴重な金や時間を使って来ている。それってつまり、ここにはそれだけの魅力がつまってる証拠じゃないか」

 

伊織はそこで奈々華と行った水族館の神秘的な光景を思い出す

 

「さっき水の中が怖いと言ったな」

 

「すいません」

 

「謝ることはないさ。水中で空気がなくなったらと思ったら俺だって怖い。これなんだかわかるか?」

 

「えっと...」

 

「こいつはオクトパスといって予備のレギュレーターだ。水中で仲間が空気切れを起こしたときに渡してやるんだ」

 

「ウェイトのつける向きは決まっているが、これにも理由がある。なにかあったとき手早くはずしてやるためだ。自分の安全だけじゃなく、一緒に潜っている仲間を助けられるように」

 

寿がダイビングに大切なもののほんの一部分を伊織に伝える

 

「安全確認はやった。ここにはお前だけじゃなく俺もいる。だから根性入れて潜ってこい。なにがあろうと助けてやる!」

 

「...よし!行ってきます!」

 

「おう!」

 

伊織は再びマスクをつけレギュをくわえる。そして潜った。岩の上に正座をするように静止する。体をリラックスさせゆっくりとレギュから肺に空気を送り込む

 

(あれ?できた!苦しくない全然!やった!)

 

息ができ目を開けられた伊織の目の前には今まで体感したことのない幻想的な世界が広がっていた。水族館のときはただ見るだけだったが今はそれを直に体験している

 

(これが、水の中...!俺の、知らなかった世界...!)

 

「ぷはっ!」

 

「どうだ?海の中の感想は?」

 

「最高です!」

 

「そうだろ!」

 

「もう一回!」

 

「おう!でもちょっと待て。一旦エアーの残量を確認する」

 

「あ、はい」

 

伊織はすぐさまもう一度先ほどの世界に飛び込もうとまるでこどものようにはしゃいでいる。すると店から再びお客さんと思われる人達が出てきた。今度は女性3人組みだ。それと拓海の姿もあった

 

『拓海くん、今回もありがとう!』

 

『すっごく楽しかったよ!』

 

『でも今回も拓海くんの声は聞けずじまいなのはちょっと残念...』

 

『( ̄▽ ̄;)』

 

「...先輩。あれは?」

 

「ん?あぁ、あの人達も店の常連さんだ」

 

「お客さんなのはわかってます。俺が聞きたいのはお姉さん達にチヤホヤされてる拓海についてです」

 

「あいつはインストラクターの手伝いをやっていてな。いつもではないがお客さんからの指名だったり奈々華さん達の手が空いてないときに手伝っている」

 

「それがあのチヤホヤとなんの関係が?あいつあんましゃべらないですよね?」

 

「あいつの女性人気はすごいぞ?確かにあまり言葉を発しないがそれがまたクールでいいっていう人や逆にいつか拓海の声を聞くために何回も来る人だっているくらいだ」

 

「なん...だと...もしや、ダイビングはモテる!?」

 

「そいつはわからん。だがインストラクターはお客さんをしっかりリードしなければならない。危険がないようにな。その点でいうと頼りになるって認識されるかもな」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!!先輩!俺、絶対にダイビングできるようになりたいです!!!」

 

「そ、そうか。ならひたすら特訓あるのみだな!」

 

「はい!」

 

それからの伊織の特訓に対する熱はすごかった。しかし一朝一夕でダイビングができるわけもなく今回は新しい世界が見れたってことで打ち切りになった

 

「千紗!」

 

「伊織!?」

 

「わかったよお前が言ってたこと!海の中で息ができるってすごいな!俺全然泳げないのに!」

 

「そ、そう...」

 

「これが新しい世界に触れるってことなんだな!これってあれか!?宇宙に行って無重力を体験するよなものなのか!?」

 

特訓を終えた伊織はウェットスーツを着たまま店に駆け込み千紗の手を取り興奮のありのままを伝えた。その興奮具合にダイビングに対しての思いが少しは変わったことに千紗は笑顔を向けるのであった

 

「伊織。わかったからとりあえず着替えて」

 

「浮遊感とかすごかった!」

 

その光景を奈々華は微笑みながら、そして拓海は伊織のせいで濡れた床をモップがけしている。それはもう明らかにイラついている表情で。ムリもない、自分の彼女が他の男子に手を握られているのだから。無意識のうちにモップがけに入れる力が強くなっていく

 

拓海がこんな気持ちになっているのは伊織が千紗の手を握っているだけではなかった。それは千紗が伊織に向けた笑顔だ。これまで千紗が拓海以外であの笑顔を異性に向けるところを拓海自身知らなかったのだ。まぁ伊織と千紗が幼馴染である時点で拓海の知らない千紗を伊織は知ってるかもしれないわけで...それを考えると拓海は悔しくてしかたなかった

 

拓海は掃除を終えるといい時間になっていたのでそろそろ帰ろうと店長や奈々華に挨拶をした

 

「ちょっとそこまで送ってくる」

 

千紗が見送りをしてくれるようだ。しかし今の拓海には複雑である。今のだらしない姿を見てほしくないという気持ちが嬉しさを上回っていたのだ

 

店を出てから数秒無言が続いた。拓海はその時間がすっごく悲しく感じていた。すると唐突に右手が温かいなにかに握られた。見ずともわかる、千紗の手だ

 

「はい、これで上書き」

 

「(゜_゜)」

 

「...伊織に手を握られたときに、その嫉妬してたって...お姉ちゃんが...」

 

拓海は顔を空に向けその顔を手で覆った

 

「違っ、た...?」

 

「...」

 

恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくる千紗に拓海は首を振る

 

「そっか。でも!私の方がいつもそうなんだからね!」

 

「...?」

 

「今日だって女の人達と一緒に潜って、いつも拓海を指名する人は若い女の人ばっかりで...梓さんだっているのに...」

 

千紗の発言に目を見開いて驚いている拓海

 

「みんな拓海との距離近いんだよ。その度に私不安で...でも次の日の朝には迎えに来てくれるからそんな不安吹っ飛ぶんだけどね」

 

いつもと違ってコロコロと表情を変える千紗。怒った顔から不安な顔、そして最後には嬉しそうに笑顔になる

 

「だから!今日のはいつも私を不安にさせてる拓海への罰。じゃあね」

 

千紗は最後に下をベーっと出してきた道を戻っていく。拓海は再び顔を誰にも見られないように片手で覆い千紗のかわいさに悶えるのだった

 

 

 

 

 

次の日、伊織は昨晩時田や寿、耕平と飲み明かしたため懲りもせず二日酔いとともに目を覚ました

 

「またしても飲みすぎた...水...ウプッ!」

 

水を欲し起き上がろうとするも誰かに頭を押さえつけられた

 

「なにすんですか!え...?」

 

「...もうちょい寝ようよ」

 

驚きうべきことに伊織の隣で綺麗なお姉さんが半裸状態で寝ていた

 

(いやいやありえないだろ...酔って起きたら隣で半裸の人が寝てるなんて...いつものことだな)

 

そっちは半裸ではなく全裸だけどな

 

「というか、この人は一体!?」

 

「おぉ、お前らは初対面か」

 

「おぉ!」

 

「ウチがインカレサークルなのは知ってるよなぁ?」

 

一緒に寝ていた時田達も起き始めた。ちなみにインカレサークルとは複数の大学の学生が所属するサークルのことである

 

「ってことは他の学校の人なんですか?」

 

「こいつは青海女子大の浜岡梓って女でな」

 

「で、なんでそんな人がここで寝てるんですか?」

 

「布団があったからじゃないか?」

 

「その布団、先に俺が寝ていたんですが...」

 

「そういうことを気にする女じゃない」

 

時田が指差す方には乱雑に脱がれた服が転がっていた

 

「わっ...」

 

「普通裸で寝ている男がいる部屋で服脱いで寝るか!?」

 

「そういうこった」

 

「こいつを女扱いしてるとバカを見るぞ。それに裸になってないだけまだマシだ」

 

「どう意味です...?」

 

「まるでこの人が裸で寝ることを知ってるかのようですが...?」

 

「知ってるもなにも事実だからな」

 

「まぁ本人曰くある男以外にはしないらしいが」

 

「ある男?」

 

「そいつは一体?」

 

「「拓海だ」」

 

「「あんのクソ野郎がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」

 

「...!」

 

伊織と耕平が妬みとそこからくる怒りで発狂したところへ拓海がやってきた

 

「お、早いな」

 

「俺達もすぐ行く。悪いがこのぐーたら女を頼んだ」

 

「( ・᷄ὢ・᷅)」

 

「その顔やめろ」

 

時田の提案に明らかにイヤそうな顔をする拓海。しかし今にも拓海に襲いかかっていきそうな伊織と耕平を脇に抱えながら時田と寿は去っていった

 

「(o´Д`)=з」

 

仕方ないとため息をついて梓を起こそうと体を揺らす

 

「Zzz...」

 

「...」

 

「...うへへ、たっくん......」

 

「...!」

 

「...お姉さんは〜、たっくんの目覚めのキッスをご所望する......」

 

「(゜Д゜)」

 

拓海はそこで梓がもう既に起きていることを確信する。その上でからかってきたダメなお姉さんにはお仕置きが必要と思い、一旦その場を離れコップに水を入れて戻ってきた。しかし梓はまだ起きてはいない。拓海はコップを梓の顔の上まで持っていきゆっくりと傾ける。地球には重力というものがあり、物体は地球の引力に引かれ落ちる。よって水もそのまま真っ直ぐと落ち梓の顔を濡らすのであった

 

「ぷはっ!もう〜、起こすにしたってもう少し優しくしてよ」

 

「∥Д・)」

 

「あーあ、濡れちゃった」

 

「Σ( ゜Д゜)!」

 

「しかたない。着替え...あぶっ!」

 

水にびっくりして勢いよく上体を起こした梓は水で濡れた下着に手をかけ、拓海がいるにも関わらずに脱ごうとしたので拓海がそこに落ちていた梓の着替えを投げつけて部屋を去った

 

 

 

 

 

「はいお待ち」

 

「「おぉ!」」

 

「相変わらず上手ですね」

 

「それほどでも」

 

「伊豆春祭でお好み焼きを売るんですか」

 

「普通に上手い」

 

「上手くなきゃ困る」

 

「売り上げをサークル予算にするからな」

 

所変わって店の裏。海に面した磯上に作られたデッキでちゃんと服を着た梓が新入生の前でお好み焼き作りを披露した

 

「というわけで、今日は1年生にこれを作れるようになってもらう」

 

「とっきーとぶっきーは?」

 

「あぁ、俺達は...」

 

『時田!寿!行くぞー!』

 

「おう!ってなわけで機材の準備に行ってくる」

 

「終わったらみんなでくるから、たくさん焼いといてくれ」

 

「わかった。じゃあ始めようか」

 

「はい」

 

「と言っても、拓海いるんなら私そこまで必要ない気もするんだけど」

 

「...」

 

拓海は料理ができる。なんならそこら辺の女子よりも。そんな中ある2人はアイコンタクトで何やら企んでいた

 

(やるぞ!耕平!)

 

(任せろ!北原!)

 

伊織と耕平はここに集まる前に時田と寿から伊豆春祭のことについて聞かされていた。なんでも千紗をミスコンに出るよう説得するのが今回の2人の役目らしい。最初は2人ともムリだと言っていたが千紗がミスコンに出て賞金をもらえば2人が男コンに出なくて済むということでやる気が出たらしい。浅はかなり...

 

そして梓(+拓海補助)の指導のもとお好み焼き作りが開始された。それとともに伊織&耕平の作戦も開始される

 

(普通なら千紗は絶対にミスコン出場なんて承諾しないだろう...)

 

(ならば普通じゃない状態にしてしまえばいいだけのこと...)

 

(千紗を酔わせて判断力をなくす!)

 

(そしてミスコン参加の現地を取る!)

 

「いやぁー暑いなー耕平!」

 

「そうだなー北原!こう暑いと熱中症が怖いなー!」

 

「きちんと水分補給をしないとな!」

 

「なら俺が飲み物を取ってきてやるよ!」

 

そして耕平は片方は普通のウーロン茶、もう片方はウォッカ+ウィスキーのウーロン茶色の飲み物を持ってきた

 

「はいウーロン茶!」

 

「おう!サンキュー!」

 

(北原、わかってるな?右手が酒だ!)

 

(右手が千紗、左手が俺だな!)

 

「ほら千紗!飲み物ー!」

 

「今手が離せないから後で!拓海、こんな感じ?」

 

「(o´・ω-)b」

 

「じゃあ私がもらっちゃうね〜」

 

「えっ...」

 

梓が耕平が持っている本物のウーロン茶を取ったため、2人の元には酒が残った

 

「ん、飲まないの?」

 

「いや...えっと...その...」

 

「なに〜?なにか変なものでも入ってるの?」

 

「ひゃっ!」

 

「あ、あはは〜まさかそんな。ほら飲めよ北原!」

 

「...おう!そうだな!」

 

伊織はコップの中身を飲み干しその強烈さに口を押さえてうずくまる

 

「ん?どうしたの伊織」

 

「な、なんでも...」

 

(てめぇ!なにしやがる!)

 

(今のは不可抗力だ!)

 

(交代だ)

 

さっきからこいつらアイコンタクトだけで会話してやがる。はっ!まさかニュータイ...

 

「今度は俺がやろう」

 

「なら俺が飲み物持ってきてやるよ!」

 

選手交代し今度は伊織が最低な飲み物を作りにいく

 

「ふふふ...」

 

「なに作ってるの?」

 

「ひっ!」

 

なんとも詰めの甘い。酒を作っているところを千紗に見られてしまった

 

「ふ〜ん」

 

「ちちちち千紗!これは...!」

 

「まったく2人ともよくやるわ」

 

「へっ?」

 

「それ、今村くんに飲ませようとしてるんでしょ?」

 

「...」

 

「ん?それとも拓海?もし拓海にだったら...ユルサナイヨ...?」

 

「...耕平、お茶だ」

 

「おぉ悪いな。ブゥゥーーー!!!!」

 

千紗の威圧に負けた伊織は作った酒を耕平にお茶と言って渡す。耕平はそれを信じ飲んでしまうがすぐに吹き出す

 

(すまん。不可抗力なんだ...)

 

(どうなったらこれが不可抗力になるんだ!)

 

それからお好み焼き作りは続き、伊織と耕平による工作も進んだ

 

「ん〜、上出来上出来」

 

「梓さんや拓海みたいに上手く作れませんけど」

 

「いいのいいの。大学祭の出店なんだから。それに拓海は例外だしね」

 

「...」

 

その後一旦休憩に入り味見も兼ねてお好み焼きでお昼となった

 

「いや〜こういうロケーションだとあれだな千紗」

 

「なに?」

 

「ビールが欲しくなるよな」

 

「そういうと思って用意しておいたぜ!」

 

「私はいらないけど」

 

「あ、私もらってもいいかな?」

 

千紗に飲ませようと企んだビールは梓に飲まれてしまった

 

「かぁ〜!君達気がきくね!」

 

「それはそれは...」

 

「お褒めに預かり恐悦至極です...」

 

「うんうん。奈々華から聞いてた通りいい子達じゃない」

 

「奈々華さんから?」

 

「仲いいんですか?」

 

「ちょくちょく電話するくらいにはね。だから君のことよーく知ってるよ?伊織くん」

 

「はぁ...」

 

「聞かせてもらったから、いろいろと...」

 

(奈々華さんから...)

 

梓が奈々華に伊織のことをいろいろ聞いていると聞いて伊織はなにかを思い出したのか含んだビールを垂れ流した

 

「伊織汚い」

 

「あーもうなにしてるのさ」

 

伊織がズボンに垂らしたビールを梓はそっとふく

 

(あの!AVとか男同士のとかは誤解で!)

 

(あはっ、大丈夫大丈夫)

 

(いや全然大丈夫じゃ...)

 

(実は私も、どっちもイケる口なんだ)

 

「いやー同じ趣味の人がいるっていいよね!今度いろいろ語り明かそう!」

 

「同じ趣味?」

 

「ダイビングのことでしょ?」

 

「...」

 

梓と伊織がこそこそなにか話したと思いきや伊織が突然慌てふためく。そして梓の口から出た同じ趣味という言葉に疑問を抱く耕平と千紗、そしてそんなやりとり全く気にせず黙々とお好み焼きを食べる拓海であった

 

(おい北原!どうでもいい話をしている場合じゃないだろ!)

 

(いや、結構大事なんだが...)

 

「2人ともどうかした?」

 

「いやいや!」

 

「ちょっと飲み物取ってくる!」

 

そしてまた伊織と耕平は千紗を酔わせるべく行動に移した

 

(この手だけは使いたくなかったが!)

 

(全員の飲み物をこれにするしか!)

 

2人は5つ用意された紙コップ全部ににウイスキーを入れる

 

「はい!ウーロン茶!」

 

「どうぞ!」

 

「まだあるからいいよ」

 

「私も」

 

「...」

 

拓海も中身の入っている自分のコップを持ち上げていらないアピール。最終的に作った酒は伊織と耕平2人で飲むことになった

 

((まだまだ!!!))

 

「夏といえばかき氷!」

 

「シロップは特製だぜ!」

 

「もうお腹いっぱいだから」

 

「2人で食べなよ?あ、拓海は?」

 

「((-ω-。)(。-ω-))」

 

梓の提案に拓海は首を振る。2人の作ったかき氷(酒シロップ)はまたも2人で消費することになった

 

「2人ともさっきからなにしてるの」

 

「あのさ、ちょっといい?ちーちゃん酔わせてなにしようとしてるの?」

 

「なななななんのことだかさっぱり!」

 

「誤解にも甚だしいよな!」

 

梓の言葉に2人は慌て、千紗は梓の背後に隠れ、拓海はイスが倒れるほど勢いよく立ち上がる

 

「潰してなにかしようってんなら拓海が黙ってないよ?」

 

「(^_^ꐦ)」

 

伊織の目には手をポキポキならして迫ってくる拓海の姿が入る

 

「そ、そういうんじゃないです!」

 

「なら、なにしようとしてたの?」

 

(こうなったら仕方がない!)

 

(もう小細工はなしだ!)

 

「「ミスコンに出てくれ!!!」」

 

「イヤ」

 

2人は覚悟を決めて千紗の前で腰から90度、いや90度以上曲げて頼み込んだ。即答で断られたが

 

「全裸で土下座するから頼む!」

 

「上から踏めばいいの?」

 

「せめて出る出ないで返事を!とにかく頼む!」

 

「この通りだ!」

 

「イヤったらイヤ!」

 

「ダメだよ、頼みごとするのにそんなんじゃ。頼む理由もちゃんと言わないとね」

 

「「...」」

 

「理由、ないの...?」

 

「いやーまぁ、千紗が出れば優勝商品ゲットできるじゃないですか...」

 

「そうすると俺らが男コンに出なくてすむんですよ..」

 

「ふ〜んそっか。なるほどね。どう?ちーちゃん」

 

「絶対にイヤです!」

 

「予想はしていたが...」

 

「じゃあ最初から聞かないで!」

 

こうして伊織と耕平の作戦は失敗に終わった

 

 

 

 

 

「なんだ、ダメだったのか」

 

「取りつく島もないって感じで...」

 

「これで俺らは男コン出場確定か」

 

「ま、仕方ないな」

 

時田達が戻ってきて結果を伝える伊織と耕平

 

「そういえば、先輩達のときは誰が出たんですか?」

 

「ミスコンなら梓が出たな」

 

「確かに美人ですもんね」

 

「予選落ちだったけどな」

 

「え?」

 

「なんで?」

 

「水着を忘れて下着で出て失格になった」

 

「いろいろとすごいですね」

 

「羞恥心はないのか」

 

「あいつはそういう女だ」

 

「いやいやそんな」

 

「ま、いつも通りにしていればわかるさ」

 

寿の言う通りその後はいつも通り服を脱ぎ始めた

 

「よし!ちょっと混ぜてもらってくる」

 

「いってらっしゃい」

 

「ホント梓はあぁいうの好きよね」

 

女性3人で飲んでいた中で半裸の男どもの中に梓が混ざりに行くという普通なら考えられないことが起きていた

 

「拓海くんは行かなくていいの?」

 

「(ヾノ・ω・`)」

 

「たまには参加してみたら?」

 

「(´Д` )」

 

「そういえば拓海ってあぁいうの参加しないよね」

 

「( ̄^ ̄)」

 

「拓海!あんたもくる!」

 

「(´・Д・`)?」

 

拓海は生まれてこの方酔ったことがない。ということは酔っているやつのノリについていけないのだ。だからいつも時田や寿達がやっているゲームには参加しない。自分が入って冷めさせないために。しかし梓は積極的に拓海を参加させようとする。いつもは断っているが今回は...

 

「こないならちーちゃんの初めて、私がもらっちゃうよ?」

 

「...」

 

梓の挑発とも取れるそれを聞いて拓海自身黙ってはおれず驚いている千紗の横を通って戦場へ赴いた

 

「そうこなくっちゃ」

 

「拓海が参加するなんて珍しいな」

 

「まぁあんなこと言われちゃな」

 

「ゲームはそうだな〜。ポッチーゲームにしよっか」

 

「ちょっ!梓さん!?」

 

ゲーム内容を聞いて身を乗り出す千紗。しかし時すでに遅し。梓と拓海は既にポッチーの両端を咥えていた。いつもの拓海なら絶対やらないことなのだが、今の拓海の頭の中は“千紗を守る”の言葉しかないため正常な判断ができていなかった

 

「では、スタートだ!」

 

時田の合図で両者ゆっくりと食べていく。そしてあと数センチで唇同士がくっつくところで千紗が飛び入りで参加。拓海の体を思いっきり引いた

 

「ありゃ〜。もう少しだったのに」

 

「いくら梓さんでも怒りますよ!?拓海もどうして素直にやるかな!」

 

「...( ゚д゚)!」

 

千紗の声を聞いて正気に戻った拓海は自分のやったことを思い出した

 

「ま、拓海とキスできなかったことは残念として。一応拓海の方が先に離したから拓海の負けだよね」

 

「...」

 

「1枚、脱いでもらおうか!」

 

手を腰に置いて勝ち誇る梓を前に拓海は仕方ないとため息を一つついてシャツを脱ぐ

 

「〜っ!」

 

程よく割れた腹筋。細いが筋肉質な腕。引き締まった腰。千紗が顔を赤くするには十分であった。いつもダイビングで見ているときとは違う状況。千紗の目はとろ〜んとなってすうふんかん拓海から目が離せなかった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 

『伊豆春祭じゃ!イェーイ!!!』

 

ついに来た伊豆春祭。天気は最高。まさに祭り日和となった。梓のお好み焼き作り特訓(&伊織と耕平による千紗酔わせる大作戦)の後、伊織と耕平が男コンに出るという条件の下千紗がミスコンに出るのが決定した

 

そして今は新入生4人で店番をしている

 

「喜んだはいいものの」

 

「俺達は店番か」

 

「お待たせしました」

 

まだ売り上げはそこそこではあるがまだ伊豆春祭は始まったばかり、これからお昼時になればお好み焼きなんだから売れるだろう

 

「お疲れさん」

 

店の様子を見にきた寿が伊織と耕平にビールを渡す。当然寿の上半身は裸だ。ズボンを脱いでないだけまだマシだが

 

「調子はどうだ?」

 

「ぼちぼちですね」

 

「商売敵がいるみたいで」

 

全員の視線の先には女性で埋め尽くされた店があった

 

「あぁ、”ティンカーベル“か」

 

「ティンカーベルって?」

 

「美男揃いで女性集約率ナンバーワンのテニサーだ」

 

「へぇ〜」

 

「生ゴミがいいか?」

 

「ブタの血だろ」

 

「真顔でなに投げ込むか話し合うのやめて」

 

「おーっす!いやー暑いね!」

 

「「ブゥー!!!」」

 

そこへ梓がやってきた。着ていたと思われるシャツを片手に上が下着姿で

 

「歩きで来たのか?」

 

「いんや?途中まではバス」

 

「いや、普通に会話始められても...!」

 

「とりあえず着てください」

 

「別にいいよ」

 

「ダメです!」

 

「その格好どうしたんです?」

 

「さっきそこで引っかけられちゃってね」

 

千紗に替えを着させられながらシミのついたシャツを見せる梓

 

「洗った方がいいんじゃないですか?」

 

「どうせ夜には君らが吐いたもので汚れるし」

 

「夜にどんなことが待ってるんだ...」

 

「まさに悪魔の祭典だな」

 

そうこう話している最中千紗はずっとパーカーを着せようと試みたがどうもサイズが合っていない。主に胸が。入ったはいいもののチャックは上まで上がらず梓のその豊満な胸の谷間が露わになったままだった

 

「Tシャツでも探してきたらどうだ?」

 

「私はこのままでもいいんだけど」

 

「さすがにこれはちょっと...」

 

そう言う伊織の目は梓の胸に釘付けである。このスケベボーイが

 

「仕方ないな。拓海ーシャツ貸してー」

 

「(´・ω・)つ」

 

名指しされた拓海はため息をついて自分のバックから替え用に持ってきていたTシャツを梓に投げ渡す

 

「ありがと。はぁ〜拓海の匂い...ごめんねちーちゃん」

 

「な、なにを言ってるのかわからないです...」

 

「ふふっ、そうやって嫉妬してるのを必死に隠そうとしてるちーちゃんカワイイ!」

 

「なっ!もう!早く違う服借りてきてください!」

 

「えー、もうこれでいいよー」

 

「ダメです!絶対にダメです!」

 

「ちぇーわかったよぅ。んじゃ伊織も一緒に行くよー」

 

「えっ!なんで俺も!」

 

なんやかんやで伊織を連れて服を探しに行く梓であった

 

 

 

 

 

「んー!学園祭は賑やかでいいねー!」

 

「梓さん、祭り好きっぽいですからね」

 

「まぁね。あ、好きと言えばさ」

 

「はい?」

 

「伊織はどんな男がタイプなの?」

 

「ぶふっ!なにをいきなり!」

 

「いやぁ、ほらさ同じ趣味を持つ人間としてね」

 

(そういえば...)

 

そこで伊織は伊織自身男も女もどっちもイケると誤解されたままだったのに気づく

 

「私は男なら拓海、女なら奈々華がいいなぁ〜」

 

「な、奈々華さんですか」

 

「それで伊織は?」

 

「へっ!なにがです!?」

 

「好きなタイプ!」

 

目をキラキラさせながら伊織の返答を待つ梓。そんな梓の姿を見て伊織は今葛藤している

 

(誤解を解け!バイじゃないと言うのはここしかない!)

 

「じ、実はですね...」

 

「はぁ、でもよかった。仲間がいて」

 

「え?」

 

「いくら私でも他の人に絶対こんなこと話せないもの」

 

(助けて神様!)

 

「それで伊織の好みは!?」

 

それに対して伊織がどう答えたのかは皆様のご想像にお任せしよう

 

 

 

 

 

「なぁ北原」

 

「なんだ...?」

 

「なぜ梓さんは急に俺と店番を変わると言い出したんだ?」

 

「なんでだろうな...」

 

耕平と一緒にスーパーボールすくいをしている伊織の顔は彫刻のように彫りが深くなっていた

 

「ただあれだ、お前にはすまないことをしたと思ってる」

 

「貴様!俺をなにに巻き込みやがった!」

 

耕平がお目当てのスーパーボール(アニメキャラデザイン入り)を取ったのでその店を出た2人。歩いている最中伊織は器用にスーパーボールをお手玉のようにして遊んでいる

 

「いや〜、しかし平和だな」

 

「先輩達がいないからな」

 

「たまにはこんな平和もいいもんだな」

 

あ、知ってる。これフラグってやつだ...

 

「伊織に耕平じゃないか」

 

「いいところに来たな」

 

案の定時田と寿に見つかり捕まる2人

 

「なんですか!」

 

「交流のあるサークルと今晩飲もうって話になってな」

 

「へぇ〜、まさに合同コンパってやつですね」

 

「ならカワイイ女子も!」

 

「ははっ、それはあいつらに確認してみてくれ」

 

時田の指差す先にはラグビー部と書かれた出店があった

 

(絶対女子いねぇ...)

 

伊織は現実に血の涙を流す

 

 

 

 

 

「あ、お帰り〜」

 

「戻りました。千紗、どうした...?」

 

「あ〜」

 

伊織と耕平がなんでかしらんがパンイチ状態で戻ってきた。そんなことより気になるのが千紗の機嫌がすっごく悪くなっているのが顔からしてわかってしまうことだ

 

「さっきティンカーベルのやつらがナンパにきてさ〜」

 

「えっ!」

 

「大丈夫だったんですか!?」

 

「拓海いたから大丈夫。でもそのときに拓海のことを目つき悪いとか後輩のくせに態度がなってないとかいろいろ悪口言われちゃって。それでちーちゃんが不機嫌にね」

 

「だって...」

 

「...」

 

「拓海もさっきから気にするなって言ってるんだけどね」

 

「そんな!」

 

「我那覇が声を出したんですか!?」

 

「驚くとこそこなんだ。いや、声は出してないよ?」

 

「なんと!まさか梓さんもエスパーか...」

 

「まぁこれはもう慣れだけどね。直にわかるようになるよ」

 

伊織と耕平が茶番劇を見せてチラッと千紗の顔を伺うがまだ千紗の眉間にはシワがよったままだった

 

「...」

 

「なに、たくm...っ!」

 

「「なっ!」」

 

「わぉ」

 

拓海は千紗の方をトントンと叩いて千紗が顔を向けると千紗の額にキスをした

 

「ななななな!!!!!」

 

いきなりのことに気が動転している千紗。そしてリア充の光景を見させられた伊織と耕平は牙を剥き出しにしている

 

「もう!いきなりなにを!それもみんなの前なんて!!!」

 

「ひゅーひゅー!見せつけてくれるね、このこの!」

 

「梓さんもからかうのやめてください!」

 

千紗にさっきまでの怖い顔はなくなり拓海はホッとする

 

それからは店番の交代になるも梓と2人きりになるのを避けたい伊織が開始からずっと店番をし続けた千紗に頼み込み、しかし千紗と伊織を2人きりにさせたくない拓海も合わさって3人で店番をすることとなった

 

そして夕方

 

「そろそろ準備した方がいいんじゃ?」

 

「私はこのまま出るつもりだけど」

 

「ダメよ、ちーちゃん」

 

「カワイイ千紗ちゃんをたくさんの人に見てもらわなきゃね」

 

「えっ!」

 

「せっかくのチャンスだものね、それに...」

 

『カワイイ格好すれば拓海くんにアピールできるかもよ?』

 

「っ!」

 

「じゃ、そういうことで〜」

 

「頑張ってな〜」

 

千紗は2人の悪魔に捕らえられ連行されていった

 

「古手川はどこへ?」

 

「ミスコンのための化粧だとさ」

 

「その次はお前もやってもらうのか」

 

「お前はどこまで俺を辱める気なんだ!髪長いんだからお前が女装しろよ!」

 

「イヤだ!|おふぁこひょねひゃわひゅがふしゃわしぃ(お前こそネタ枠がふさわしい)!」

 

「( ¯ω¯ )」

 

いつものように頬を引っ張りあって仲良くじゃれあい出す2人。本当に仲が良い。そう思いながら手を組んで頷いている拓海

 

「おーい、一旦店閉めて応援行くぞー」

 

 

 

 

 

寿に連れられてミスコン会場へと赴いた一行。そこには結構な数の人が集まっていた

 

「結構人いますね」

 

「そりゃこれと男コンがステージの目玉だからな」

 

「こんな大勢の前に出るのか」

 

「お前はいいだろ、男の格好なんだから」

 

「ネタ枠が不満なのか?」

 

「というか出る必要が感じないというか...」

 

「なにを言う。見てみろ伊織」

 

ステージには顔を化粧で塗りたくった上、テニスウェアに翼をはやした女子が観客に向かって手を振っていた

 

((け、ケバい...))

 

「他のサークルだってネタ枠を用意してあるだろ?」

 

そしてその女子はこっちを見て投げキッスを送ってきた。それは伊織達にとって違う意味で効果は抜群だった

 

『おー!』

 

次に出てきたのが千紗だった。ロングドレスに身を包み腕部分にはレースをあしらっている。スタイルのいい千紗だからこそ似合う服装だとも言える。ミスコンとしては完璧なできだろう。表情以外は...

 

「なんか刺々しい感じだな」

 

「あれは怒ってるのか?我那覇」

 

「((-ω-。)(。-ω-))」

 

耕平の質問に対して拓海は首を振る

 

『所属サークルとお名前をどうぞ』

 

『Peek a Booの古手川千紗です』

 

「あれ緊張してるだけか?」

 

「(´-ω-)」

 

伊織の言葉に拓海は頷く

 

「不器用だな、古手川」

 

「しかしまずいな...」

 

「このままだと負ける可能性もあるぞ」

 

『ご趣味は?』

 

『ダイビングです』

 

「耕平、何か手はないか?その手のゲームに詳しいだろ」

 

「まぁ確かにその手のゲームには詳しいですが、あぁいう無口な彼女が輝くとしたら滅多には見せない笑顔ですかね」

 

「笑顔か〜」

 

「千紗を笑わすのは至難の技だぞ」

 

「こっちも笑って見せたらつられて笑うんじゃないか?」

 

「それでいこう!」

 

『千紗ー!』

 

「...」

 

拓海以外の4人で千紗に向かって笑顔(到底笑顔には思えない顔)を向けるが千紗は激しく顔を歪める

 

「いかん!逆効果だった」

 

「あれは客前ではやっちゃダメな顔ですね」

 

作戦その1ーこっちも笑ってつられて笑顔にさせるー失敗

 

「他にはなにかないか?」

 

「あとはまぁ、恥じらいですかね」

 

「恥じらいか〜」

 

「そんなんどうやればいいんだ」

 

「俺の知ってる展開では...」

 

耕平の次の作戦を聞いた男達は一斉に服を脱ぎ各々ポージングを決める

 

『ではサークル紹介を...』

 

「千紗ー!!!」

 

「...」

 

「...恥じらわないな」

 

「おかしいですね」

 

千紗にとって時田達の裸姿は不本意ながら見慣れているということを耕平は念頭から外してしまっている

 

「あれはゴミを見る目だ」

 

「失敗だな」

 

作戦2ー裸見せて恥ずかしがらせるー失敗

 

「...」

 

拓海はなにバカなことをやっているんだと思いながらも千紗のカワイイ姿から目が離せなかった。誰にも知られていないが千紗が出てきた瞬間あまりのかわいさに数秒意識がなくなったほどだ。親バカならぬ彼バカとは彼のことだろう

 

千紗が男どもをゴミの見る目で見渡していると拓海と目が合い見る目が変わる。拓海もそれに気づいて小さく手を振ってみる

 

「っ!〜...」

 

千紗は目線をそらし右手で髪をクルクルと弄りだした。これは古手川姉妹に共通する癖である。困ったり照れたりするとこのクセがよく出る。実際に手を振る拓海の姿を見た千紗の口角は少し上がり、頬も少し赤くなっていた

 

『おー!』

 

千紗のちょっとした照れ顔に気づいた観客は大きな歓声を上げた

 

「お、なんかよくわからんが効いたらしいぞ」

 

「しかしこれだとまだ足りんな」

 

「となるとあとは、今日の服装」

 

「わかった、スカートめくりだな」

 

「言うまでもなかったな」

 

「なぜ伝わるんだ...」

 

「お前らの発想はおかしい...」

 

伊織はそこではっと気づいた。今の会話、拓海に聞かれていたらヤバいと。恐る恐る拓海の方に頭を向けると拓海の意識は完全にステージ上の千紗に向いているため聞かれた素振りはなかった

 

「ふぅ...問題はどうやって拓海に気付かれずにいかに千紗のスカートをめくるかだが...」

 

「これを見ろ」

 

「スーパーボール?」

 

「千紗の足元に投げるのか」

 

「なるほど、小学生のいたずらであるやつだな」

 

「だがこれは相当千紗の怒りを買うんじゃ。拓海にだって絶対バレる」

 

「そうだな。実行犯の伊織が殺されかねん」

 

「なんで俺がやることが確定してるんですかね」

 

「そりゃそうだろ」

 

「せめてじゃんけんで決めましょうよ」

 

「もっといい方法がある」

 

「というと?」

 

「全員で投げて実行犯を特定させないというのはどうだろ」

 

「お前にしてはいい考えじゃないか!」

 

「じゃあそれでいくか!」

 

「いくぞ!いっせーの!せっ!」

 

「うぉーりゃー!」

 

伊織の投げたスーパーボールは千紗の足元でバウンドしその勢いのまま千紗のスカート内へ侵入、スカートをめくる

 

「よし、いい感じだ!」

 

「たたみかけろ!」

 

「うらっしゃー!」

 

伊織の投げた次弾は系3つ。どれも初弾と同じように千紗のスカートをめくった

 

「よし!いいコントロールだ伊織!」

 

「やはりこんなことできるのはお前しかいない!」

 

「任せてくださ、へぶっ!!!」

 

拓海の回し蹴りを腹にくらった伊織は後方へ吹き飛んで泡を吹きながら気絶した。その後拓海は階段を駆け下りステージに上がって千紗をお姫様抱っこして裏へ駆けて行った

 

「うぅぅ...」

 

「(´・ω・)ノ?」

 

「見られたかな...」

 

「...」

 

「拓海は、見た...?」

 

「...すまん

 

「っ!ちょっと伊織殺してくる...」

 

千紗はどこからともなく金属バットを取り出して伊織を探しに行った

 

 

 

 

 

『かんぱーい!』

 

伊豆春祭1日目が終了してPeek a Booメンバーはとある教室で酒盛りを始めていた。そんな中千紗が伊織の肩に手を置いた

 

「...人違いです」

 

「まだなにも言ってないんだけど」

 

「違うんだ千紗!あれはお前の魅力を引き出すためで!つまりカワイイ千紗を見せたいという...」

 

「はぁ〜、もういいわ」

 

「えっ...許して、くれるのか...」

 

「貸しにしとく」

 

「マジか!ありがとう千紗!お詫びに今度もうちょい色気のある下着買ってやるからな!んぁ?いたたたたた!!!!」

 

千紗がせっかく貸しを作るという慈悲を与えたにも関わらずまた粗相な発言をした伊織の頭を拓海は力強く握る

 

「せっかく許してもらえるところだったのに」

 

「というかあの状況で見るところはしっかり見てたんだなこの助平め!」

 

千紗が拓海をトントンとしたので拓海は伊織を離した。しかしその伊織の目の前に千紗はバカでかい焼酎のボトルを置いた。そこには“現役 徳用!焼酎 4L”と書かれていた

 

「千紗...もしかしてすげぇ怒ってます...?」

 

千紗は無言のまま伊織を見る

 

「...いただきます」

 

千紗による無言の圧に負け伊織は目の前のボトルに手を出した

 

「ごちそうさまでした...」

 

「2Lぐらいいきやがった!」

 

「根性見せたな」

 

「さすが伊織だ」

 

「ただいま〜」

 

そこへ梓が帰ってきた。伊織はそんな梓の背後に隠れる

 

「遅かったな」

 

「なにかあったのか?」

 

「しつこいナンパに会っちゃってね」

 

「大丈夫だったんですか?」

 

「あぁ、まぁね」

 

梓曰く、昼間にナンパにあったティンカーベルのやつにまたナンパされ、しつこかったから男コンに参加を勧めその受付の間に逃げてきたらしい

 

「応援すんのか?」

 

「するわけないじゃん」

 

「ひで〜」

 

「ま、無事でなによりだ」

 

「集合にも間に合ったしな」

 

「そだね〜」

 

「え、集合?」

 

「よっ!約束通り遊びにきたぞ!」

 

「「ヒャァァァァァ!!!!」」

 

ドアを壊して入ってきたのは時田達と交流のある他のサークルの仲間だった

 

伊織と耕平が捕らえられた中、千紗は拓海の三角座りしている足の間に座ってチョビチョビ飲んでいた

 

「拓海の飲んでるのって何味?」

 

「(・ω・)つ」

 

千紗の問いに自分の飲んでいる缶を見せる拓海

 

「ライムか。拓海って酸っぱいとか苦い系好きだよね」

 

「(。-`ω´-)」

 

「逆に甘い系あんまり飲まないよね」

 

「(*・・)σ?」

 

「私?私はラムネ。一口飲む?」

 

拓海は千紗の飲みかけの、もう一回言おう、千紗の飲みかけの缶チューハイに口をつけた

 

「どう?」

 

「...うまい

 

「ふふっ、だよね〜」

 

少し酔ってるのか拓海の胸で頬をスリスリする千紗。羨ましいぞこんチクショーが!ん“ん“っ!失礼...

 

「ねぇ拓海〜」

 

「(・・。)?」

 

「拓海はさ?もっと色気のある下着の方がいい〜?」

 

「Σ( * ゜Д゜*)!」

 

「その方が拓海は好き〜?」

 

「...オレは、千紗自身が好きだ。下着は関係ない

 

「っ!えへへ〜。嬉しい〜」

 

大分酔ってしまっている千紗の介抱をしつつ酔った千紗もカワイイと思っている拓海であった

 

 

 

 

 

さて始まりました”伊豆大学春祭ミスターコンテスト“。夕方になり暗くなってきた屋外でミスコンをした会場がド派手にライトアップされている

 

今は時田達と親交の深いラグビー部の人が自慢の筋肉をまるでボディービルダーのようにアピールしている。そして次に出てきたのがティンカーベルの会長だった

 

『テニスサークル”ティンカーベル“の部長、工藤です。よろしく』

 

『キャァァァ!!!!』

 

ただの挨拶だけなのに女子からの黄色い声。人気の高さが現れている

 

『では勝手にPRをどうぞ』

 

『適当だな』

 

『男相手っすから』

 

女子からの熱い声援。同じサークルの仲間から今年も確実などの声をもらいイキがるテニサー部長...けっ!

 

『さて次の方どうぞ』

 

次に登場したのが”Peek a Boo“のイケメン担当の耕平だった。一部の女子からは美系などと言われている...けっ!

 

『”Peek a Boo”の今村耕平です。よろしくお願いします』

 

『じゃあPRをーお?』

 

司会の進行も聞かずに耕平は観客席の最前列に向かって歩き出した

 

「浜岡梓さん!ティンベルの工藤会長じゃなく、俺と付き合ってください!」

 

『おーっと!これは今村さん!突然の告白です!』

 

「いや、俺の方にお願いします」

 

『なーんと!工藤会長も続けて告白だ!』

 

お目当の女性に向けて手を差し伸ばした耕平と同じように工藤も手を差し出す。その顔は勝ちを確信しているかの如く笑っていた

 

『さぁどちらの手を取るのか!』

 

2人から同時に告白を受けた女性はそっと工藤の手を取った

 

『おーっと!工藤会長だー!!』

 

「悪いねこんなことになっちゃって。でもさ人にはそれぞれレベルがあるわけだし、君には君なりにお似合いの人がいるんじゃないかな?」

 

「...お似合いの人、ねぇ...」

 

「えっ?」

 

「ふふふふふ...」

 

手を取ってもらえなかった耕平は、いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()耕平はそのままの体勢のまま体を震わせていた。同じように工藤の手を取った梓()の人も体を震わせる

 

「「だははははは!!!!」」

 

「残念でしたー!男ですぅー!!!」

 

「え“っ!」

 

「いやーそうですか!まさかこんな僕が天下のティンベル会長さんとお似合いだなんて!」

 

「よかったな北原!お前の女装はこの人の魅力と同格らしいぞ!」

 

「というわけで”Peek a Boo“北原伊織!男コン飛び入り参加します!」

 

なんたる笑い劇。そこら辺のコンビ漫才、いやトリオ漫才よりもウケが高い。会場が一気に笑いの渦に巻き込まれた

 

「おいちょっと待て!」

 

「いやーんどうしよー。わたしかいちょうさんにこくはくされちゃったー」

 

「悔しいけど俺は身を退くさ。会長さん、末永くお付き合いしてくださいね」

 

茶番劇は続き工藤は女性陣からブーイングをくらう

 

「ちょっと工藤さんどういうこと!?」

 

「ち、違うんだこれは!」

 

「あーそうそう会長。もう十分笑ったんで」

 

「「帰っていいですよ」」

 

最後までコケにされた工藤はイケメンとは程遠い表情で舞台袖へ消えて行った

 

『いやー最高ですね!みなさんもそう思いませんか!?』

 

『イェーイ!!!』

 

『しかしながらまだあとお一人エントリー者がおりますのでもう少しお付き合いを...』

 

『えー!!!』

 

『で、では次の方どうぞ〜』

 

伊織と耕平が作り出した笑いの旋風。完全にこれで閉幕と誰もが思ったところでまだ残りがあると言い渡されちょっと気が落ちる観衆。しかしそんな観衆は度肝を抜かれる。なぜなら次に出てきたのはタキシードに身を包んだ1人の好青年だったからだ。髪はワックスで整えられ目つきの悪いのは逆にキリッとした凛々しさを醸し出している。よく見るとそれは拓海だった

 

「なに、あの人」

 

「めっちゃイケメ〜ン」

 

「ヤバッ...」

 

『お〜...』

 

男女共々語彙力をなくし視線は全て会場に釘付けとなっていた

 

『え、え〜では自己紹介を...』

 

「...」

 

拓海は観客席の最上段を見上げ梓達と一緒にいた千紗を見つけて降りてくるようにジェスチャーした

 

「わ、私!?」

 

「ほらちーちゃん。行ってきな」

 

「は、はい...」

 

なにがなんだかわからない千紗は梓にも声をかけられて階段を降りていき恐る恐る舞台に上がった。そして拓海の前に向かい合うように立った。拓海はおもむろにポケットから小さな箱を出してそれを千紗に渡した

 

『おぉぉーーー!!!』

 

『なんとサプライズプレゼントだぁー!』

 

『キャァァァーーー!!!!』

 

「え、えっと...」

 

「今日でちょうど4年だけど、これからもよろしくな」

 

「っ!」

 

このところ伊織がやってきたりお店の手伝いだったり伊豆春祭のことだったり忙しくて千紗はそのことが頭からすっかりなくなっていた。拓海と千紗の交際4年の記念日。千紗は拓海が覚えててくれたこととプレゼントをくれたことへの嬉しさ反面そんな大事なことを忘れていた自分に嫌気がさした。しかしそれを察したのか拓海はそっと千紗を抱きしめる

 

「...」

 

「拓海...拓海!」

 

拓海の腕の中から拓海の顔を見上げた千紗の目にはにっこりと笑う拓海の笑顔が入った。それを見て嬉しさ100%で泣き出してしまった。そしていつの間にか設置されていた巨大クラッカーが爆発し、“Peek a Boo”メンバーもそれぞれ持っていたクラッカーを鳴らし2人の記念日を祝った

 

「え、あいつらってもう4年も付き合ってんの...?」

 

「それであの初々しさ。というかこんな催し...」

 

「「聞いてねぇー!!!」」

 

おっと。同じサークルでも知らされていなかった者がここに若干2名いるみたいだ

 

祝して”Peek a Boo”はミスコン、男コン二冠という最高の結果に終わった。2日目に表彰式となり千紗、拓海の2人は特に嬉しくもない大きな肩掛けをもらった。こうして伊豆春祭は終了...

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



遅くなってしまって申し訳ありません。お盆に突入して仕事がめちゃくちゃ大変で帰宅後すぐ寝てました

みなさまもお体には十分お気をつけください

今回クロス回です


いつも通りの朝。しかし今日は一通のメッセージから始まった

 

今度はいつ来る予定かなん?

 

特に予定は決まってないですよ

 

えぇ〜

 

早く来てくれないとお姉さん死んじゃう〜

 

ん〜

 

そしたら次の土曜はバイトもないですから

 

行けると思いますよ?

 

ホント!?

 

えぇ

 

千紗も一緒でいいですよね?

 

(千紗ちゃんか〜。本当は拓海だけで来てほしいけど、そんなことになったら千紗ちゃん怒るしな〜)

 

もちろん!

 

ならお邪魔しますね

 

うん!みんなにも声かけとくね♪

 

いやいいですよ...

 

なんでさ!みんなに会いたくないの!?

 

決してそういう意味では...

 

とにかく!みんなも呼んどくからね!

 

は、はい!

 

じゃあ土曜にね♪

 

はい

 

メッセを終えて少女はスマホをベッドに投げ捨て枕を両手で抱えその豊満な胸で枕を押し潰す。もし枕が生きていたならばここで窒息死していただろう

 

そっか...拓海、来るんだ...

 

部屋に誰もいないし、仮に誰かいたとしてもよほど近くでなければ聞き逃すほどの声量でしか発していないので聞かれる心配はないだろう。そんな声量で言葉を発し嬉しさから枕に頭を埋める少女、松浦果南(まつうらかなん)。現21歳。千紗や拓海よりも1つ上で伊豆大とは違う沼津の方の大学に通っている現役大学生

 

果南の家は淡路でダイビングショップを経営しており、果南の父と千紗の父が昔馴染みだったため自然と拓海と千紗、そして奈々華と一緒に果南もダイビングが共通の趣味として遊ぶようになった。しかしそれは伊織が引っ越したあとだったため伊織はこんな美人と出会う機会を逃していた

 

「はっ!みんなに連絡しないと!」

 

急いで連絡すべく再びスマホを手にとって電源をつけようとしたが、その手は止まった

 

(少なくとも千歌と曜には連絡すべきだよね。でもあの2人も少なからず拓海のこと好きなんだよね...ただでさえ千紗ちゃんがいるのに...)

 

「はぁ...」

 

恋する乙女は辛いのである。これ以上他の女の子の恋心に水をやりたくない。でも2人は幼馴染で自分だけ抜け駆けしたことになる。どうするか悩む果南

 

(たまには抜け駆けしても、いいよね...)

 

友よりも恋を取った果南。さてこの選択が吉と出るか凶と出るか。お楽しみはもう少し後!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぁ、あいつだろ?

 

あぁ、間違いねぇ

 

伊豆春祭が終わった次の日、そこら中でひそひそ話しが飛び交っていた。そしてその目線はすべて伊織と耕平に集まっていた

 

「なぁ耕平...気のせいかもしれんが...」

 

「なんだ、北原」

 

「みんなの視線がいつもと違くないか...?」

 

「俺もそう思っていた」

 

「なぜだろうな?」

 

「わからん。俺達はいつも通りなのに」

 

「だよな。いつも通りだよな」

 

伊織と耕平は至っていつも通り。いつも通りパンイチである。しかしそんないつも通りの2人を見る周りの目は異常であった

 

「なにがあったか聞いてみろよ」

 

「俺が?お前が聞いてこいよ」

 

「イヤだ。知らないやつに話しかけて拒絶されたら辛いだろ!」

 

「やれやれ...な、ちょっといいか?」

 

「気安く話かけんな!」

 

「殺すぞブタ野郎!」

 

人見知りを発揮する耕平に代わって伊織が後ろの席のやつに話しかけるが、返ってきたのは酷い罵倒であった

 

「うぅぅぅぅぅ...」

 

「俺の言った通りじゃないか」

 

「明らかにおかしいだろ!」

 

「初対面の人間なんてそんなもんだ」

 

「お前はどんだけ壮絶な初対面を経験してきたんだよ...しかしこれは確実になにかあったな」

 

「なにかとは?」

 

「それを確認したいんだが、話を聞けそうな相手がいねぇ」

 

「古手川に聞けばいいんじゃないか?」

 

「ムリだろ。この格好じゃ例の目で見られるのがオチだ」

 

「あぁ、あのゴミを見る目な」

 

「あいつ伊豆春祭以降やたら機嫌が悪くて...」

 

どうせムリだろうと思いつつも千紗の方に顔を向ける。すると千紗は目が合わないようにサッと視線をズラした

 

「えっ、なに?めっちゃ心当たりありそうなんなだけど...」

 

「明らかに目線を逸らしたな。これは確実になにか知ってるな」

 

「なぁ千紗」

 

「な、なに...?」

 

「少し聞きたいことがあるんだが...」

 

「や、やめて...」

 

千紗に今の状況を聞くべく迫る伊織。しかし側からは千紗がそれを迷惑がっているように見える。だからなのか周りのやつらが持っているペンを机にぶっ刺した

 

((なにこれホントに怖い!!!))

 

「教えてくれ!一体なにが起きているんだ!!!?」

 

「わ、私はなにも知らない...」

 

「そんなわけないだろ!」

 

「私は、無関係...」

 

さらに詰め寄ると伊織の顔の横をなにかが通り過ぎ後ろの壁に刺さった。そこには一枚の紙と共にナイフが刺さっていた

 

古手川千紗二近づけバ

貴様をコロす

 

「本当にそうか?」

 

「近づいたら殺すとあるが大丈夫なのか?」

 

「全くもって意味がわからん」

 

「...」

 

「ん?どうした耕平」

 

「いや、ちょっとな。なぁ、もしかして俺は関係ないのか?」

 

「おう」

 

「狙いはあの変態クソ野郎だけだ」

 

「そうかそうか。んじゃ俺急用を思い出したから」

 

周りの連中の狙いが伊織だけだとわかった耕平はそそくさとその場から退散しようとする

 

「待ちたまえよ耕平くん!」

 

が、そうはさせんと伊織に肩を掴まれる

 

「話しかけるな!知り合いと思われる!」

 

「知り合いどころか大親友だもんな俺達!」

 

「離せ!俺は無関係だ!」

 

「ほほぅ!そんなことぬかすか!」

 

それから大の仲良し2人は互いに切磋琢磨(罪のなすり付け合い)を繰り返し、どんどんと周りの(怒りの)目を惹いていった

 

 

 

 

 

事の発端はミスコン男コン優勝者授賞式まで遡る

 

『ではみなさん、盛大な拍手をお願いします!』

 

暖かい拍手で迎えられた千紗と拓海。ここまでは普通の授賞式に感じるだろう。そんなはずがなかった

 

『優勝おめでとうございます。なんでもお二人のパフォーマンスがよかったとのことですがいかがでしょうか?』

 

おもむろにマイクを向けられる千紗。しかしなんと答えていいのかわからない質問であった。なぜなら千紗のパフォーマンスといえば伊織にセクハラ紛いのスカートめくりをされ拓海にお姫様抱っこされただけで千紗自身はなにもしていないのだ

 

『えっと...』

 

千紗はミスコンのことを思い出し恥ずかしさと怒りが再びフツフツと湧き上がってきたのである。そして一つ、ある仕返しを思いついた

 

『優勝は嬉しいです。けどもうあんな辱めは懲り懲りです...』

 

『辱め...』

 

『はい。私は勇気を出してこの舞台に立ったのに、あんな...うぅぅ...』

 

最後に手で顔を隠し悲しい演技をするがすごい棒読みである。やはり千紗に演技は向いていない、と隣で笑いを堪える拓海だった

 

『うぉー!!!』

 

しかし効果は絶大であった。ミスコン優勝者を一目見ようと会場に訪れていた男どもは千紗の軽い芝居にまんまとはまってしまい雄叫びをあげた

 

『彼女を汚した野郎を絶対許すなー!!!』

 

『うぉー!!!』

 

『彼女を辱めたヤツに鉄槌をー!!!』

 

『うぉー!!!』

 

会場中が一つとなって音頭を取っていた。当人の千紗はやりすぎた感満載で目を見開き、隣の拓海はもはや空気である

 

これが事の発端である。伊織は本人の知らないところで怒りを買っていたわけだ

 

 

 

 

 

『合コン組んでやるよー!!!』

 

『今日から俺達親友だー!!!』

 

「「というわけで、梓さんのお友達を紹介していただきたく!」」

 

学校が終わって店に着くやいなや梓の前に土下座をする伊織と耕平。なんでも学校の同じ学部のやつらに殺されかけ、生きるために合コンを組むと口から出してしまったらしい

 

「なにがというわけなんだ?」

 

「お前らは毎日楽しそうだな」

 

梓と一緒にいた時田と寿は既に呆れた様子

 

「あぁ、そうだね〜」

 

「お願いします!」

 

「俺達を助けると思って!」

 

「ちーちゃんに頼めば?」

 

「千紗!頼む!」

 

「2万回死ね」

 

「聞いての通りです!」

 

「あいつこのごろやたら機嫌が悪いんですぅ!」

 

「ん〜。あ、じゃあ拓海に...あ、ダメか」

 

「え、拓海って女友達いるんですか?」

 

「うん。これが結構いたりするよ」

 

「古手川というものがありながらなんと羨ましい」

 

「なら拓海に頼めば!」

 

「あぁ私もそう思ったけどムリっぽいね」

 

「どうしてです?」

 

「ん〜」

 

梓は店番をしている千紗に聞こえないように小さな声で教える

 

拓海の知り合いって、みんな拓海のこと好きだからね

 

「「チッ!!!」」

 

「仕方ない。ここはお姉さんが一肌脱ぎますか」

 

「「本当ですか!?」」

 

「うん。2人にぴったりの子連れてくるからね」

 

さすが梓。伊達にいつも一肌も二肌も脱いでるわけじゃないということか

 

 

 

 

 

「たっだいま〜」

 

「う、うっす...」

 

「おかえりなさい」

 

梓がどんな女の子を連れてくるか緊張気味の伊織と耕平。いつも人前気にせず服脱いでるくせになぜ緊張するのか

 

「それで梓さん...」

 

「お友達は...」

 

「うん、連れてきたよ。はい、それじゃ入って」

 

梓に連れて入ってきたのは青髪ショートのカワイらしい女の子だった

 

「「おぉぉぉぉぉ!!!」」

 

「えっちょっ!なに!?なに!?」

 

「普通の人だ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「助かりましたー!」

 

「いやいや、なんのなんの」

 

普通の女の子が来たことに歓喜をあげる2人とその2人に感謝されちょっとドヤ顔をする梓であった

 

新しく来た女の子に大はしゃぎの一向に対して千紗の携帯に一通のメッセージが届いた

 

千紗、今大丈夫?

 

うん。どうしたの?

 

今度の土曜沼津に行くけど、一緒に行く?

 

沼津?ってことは果南さんのとこ?

 

そうそう

 

急だね。なんかあったの?

 

いや、果南さんから来いって(-。-;

 

そっか

 

まぁ果南さんのことは建前で本音は...

 

(ん?)

 

久しぶりにダイビングデート行かないか?

 

この瞬間、千紗のハートにトキメキという矢が突き刺さった。千紗はスマホを握りしめ緩くなる顔を必死に堪えようと眉間に力を入れる。ここには今みんないる。絶対にニヤけてはいけないという心情がひしひしと伝わってくる。震える手をなんとか動かして画面に『行く』と打って送信する。その短時間が千紗には何時間もかかったような気がした

 

了解

 

車で迎えに行くぜ(o´・ω-)b

 

うん。待ってる

 

このやり取り、双方KOで終了した。千紗は顔を見られないようにテーブルに伏し、拓海は嬉しさのあまりベッドの足に足の小指をぶつけて蹲った

 

 

 

 

 

そして来たる土曜日。一つのグループはデートへ。一つのグループは新たに”Peek a Boo”に加わった吉原愛菜(よしわらあいな)が組んでくれた合コンへ。まったく加入したばかりの女の子に合コンのセッティングを頼むとはなんたるや...

 

さて、拓海は軽く朝ごはんを食べて昨晩のうちに準備を整えておいた荷物を車に乗せて彼女のいる“Grand Blue”へ向かった

 

「あら拓海くん。おはよう」

 

「(*_ _)」

 

「千紗ちゃんならまだ寝てるわよ」

 

「(`・ω・´)ゞ」

 

店の前に車を停めて店に入るとカウンターのところに奈々華が雑誌を広げながら座っていた。軽く頭を下げて千紗の部屋へ向かう拓海。いつもならここですごい顔で睨まれるのだが今日は違った。なにか罠があるのかと違う意味で冷や汗が止まらない拓海であった

 

千紗に部屋の前に来た拓海はドアを軽く2回ノックした...返事はない。もう1回...返事はまだない。もう1回...No reply。仕方なく拓海はゆっくりとドアを開ける。中はタンスに机、小さめの丸テーブルなど極々普通の部屋だ。逆にちょっと女子大生っぽくはない部屋とも言えるかもしれない

 

壁には海がキレイにプリントされているカレンダーと1枚の写真がかけられ、それらを窓から入る日差しが水色のカーテンを通って照らしている

 

「...」

 

拓海はベッドに座り未だに起きない千紗の寝顔を堪能しながら頭を撫でる。この時間がたまらなく心地よいと思う拓海。起こさなければいけないのにいつまでも千紗の頭を撫で続ける。そして時たま寝返りを打って手をギュッと握ってくるのが可愛すぎて萌え死にしそうになっていた

 

「んっ...」

 

それから10分くらい経ったころだろうか、ようやく千紗の起き始めた。しかしまだ意識ははっきりしておらず拓海がいることには気づいていないようす。その拓海は寝起きの千紗が可愛すぎてまた萌え死にしそうになっていた

 

「...ん?拓海!?」

 

やがて意識がはっきりしてきて拓海の存在にようやく気付いた千紗。そして千紗の目線は下に移りその手は無意識のうちに繋いで手を見ながらはっきりしてきた頭が今度はこんがらがってくる

 

「え、なんで私!...っ!?」

 

「...」

 

「ごめん!すぐ用意するから!」

 

千紗は時計に目をやって慌ててベッドから立ち上がった。それを見て拓海はそっと部屋から出た

 

 

 

 

 

5分くらい待ったところで千紗は身支度を済ませて少し大きめのボストンバッグを肩にかけて出てきた

 

「お待たせ」

 

「(´∀`)」

 

拓海は首を振り千紗の持っているバッグを取り自分の肩にかけた

 

「あ...ありがと」

 

「(´ー` )」

 

千紗の感謝の言葉に拓海はニコッと笑顔だけ返す。彼女に些細な気遣いを見せるただのイケメンであった

 

 

 

 

 

「あら千紗ちゃん。おはよう」

 

「おはよう」

 

「ダメよー、ちゃんと起きなきゃー」

 

「うっ...!」

 

「昨日夜遅くまで何着るか悩んでたものねー」

 

「ちょっ!お姉ちゃん!」

 

「✧(✪д✪)✧」

 

奈々華からの大暴露に千紗は顔を真っ赤にして飛びかかり、拓海は嬉しさのあまり光沢の表情である

 

「もう知らない!行こっ!」

 

「...っ!」

 

意識をなくしてコンマ何秒した拓海。朝から千紗に怒られてむしろご褒美の奈々華。プンスカ状態の千紗。千紗がお店から出て行ったので拓海もハッとして奈々華に軽く頭を下げて急いで千紗の後を追った

 

「カナちゃんによろしくね」

 

奈々華の声を後ろに二人は店から出て拓海の車に乗った

 

「もぅ~お姉ちゃんは...」

 

オレ的には嬉しいけどな

 

「拓海までそういうこと言う...」

 

「...」

 

「はぁ...」

 

千紗はまだ恥ずかしそうにいつものクセを出しながら頬は赤いままだが拓海はレバーをPからDに入れてゆっくりとアクセルを踏んだ

 

夏にぴったりの歌をかけて海を横に優雅なドライブを楽しむ拓海。左手でハンドルを操作し右肘を窓際にかけている姿はイケメンそのものだ。ケッ!

 

(そういえば拓海の車に乗るのも久しぶり...)

 

運転姿の拓海を横目でチラ見する千紗はチラ見のはずが目を離せなくなっている

 

「...?」

 

「っ!」

 

その視線に気がついたのか一瞬千紗の方に目線をやった拓海と目が合ってしまった。すかさず目をそむける千紗。それを見てフッと笑顔を見せて前に目線を戻す拓海。その拓海の笑顔を見て千紗も顔をほころばせる。なんだこの甘い雰囲気はー!!!

 

 

 

 

 

 

千紗...

 

「ん...」

 

出発してから下道と高速を走って小一時間くらい経ったところでいつの間にか眠っていた千紗に拓海は声をかけた

 

「着いた...?」

 

寝起きの千紗に拓海は軽く頷いた。そして目の前には見慣れた木造のペンション風なお店が見えてきたそのデッキには拓海の車に気づいたのか身を乗り出して手を振っている女性がいた

 

「あっ、果南さん」

 

「...」

 

その女性とは拓海と連絡を取った松浦果南その人だ

 

「拓海~!千紗ちゃ~ん!」

 

「久しぶり果南さん」

 

「うん!ホント久しぶりだね~!」

 

店の前に一旦車を停めて荷物を降ろした

 

「千紗ちゃんまた可愛くなった~?」

 

「えっ!?そんなことないですよ!」

 

「またまた~。そこんとこどうなの?彼氏さん?」

 

「Σd( ・`ω・´)」

 

果南の問いかけに親指をおったてた

 

「ちょっ!拓海!」

 

千紗は慌てて拓海の手を抑える

 

「相変わらずラブラブでなんか安心したよ」

 

「果南さん!?」

 

果南の言葉に拓海は千紗に抑えられている手と逆の方の手の親指を突っ立てた

 

 

 

 

 

 

果南指定の場所に車を移動させ、果南が用意してくれたそれぞれの部屋に荷物を置いて再度デッキのところに集合した

 

「お待たせ~」

 

「あ、おかまいなく」

 

「そんな訳にはいかないよ。せっかく来てくれたんだからおもてなししないと」

 

「なら、お言葉に甘えて...」

 

「どうぞ♪さて拓海」

 

「(。´・ω・)?」

 

「さっそくハグしよっ♪」

 

「Σ( ゜Д゜)!」

 

「んぐっ!ゴホッ!か、果南さん!?」

 

「ん?どうしたの?あ、千紗ちゃんもする?♪」

 

果南は手を広げて千紗を迎え入れようとする

 

「しません!もちろん拓海もしません!」

 

「え~昔はいつもしてたじゃん」

 

「小さいころの話ですよね!?」

 

「それでも中学生くらいまではしてたじゃん!」

 

「私達もう大学生ですよね!?」

 

「ぶぅ~千紗ちゃんのイケず~」

 

「まったくもう...」

 

果南はハグを拒否されて残念そうにテーブルに伏す

 

「じゃあこの後どうする?」

 

「ん~。拓海はどうする?」

 

「...」

 

いきなりダイビングに行くもよし。久しぶりの沼津観光をするもよし。拓海はちょっと考える

 

「そういえば今日は他のメンバーは来てないの?」

 

「え?」

 

「いや、千歌とか飛んできそうなのに」

 

「えっと~...」

 

果南の目線は千紗から外れ少し汗をかいている。明らかに何かを隠しているだろう

 

「...まぁ来ないなら別にいいよ」

 

「い、一応連絡はしたんだけどね。みんな予定があったらしくて...」

 

「( '-' )」

 

「っ!」

 

拓海は疑いの目で見ながら果南からもらった麦茶をすする

 

「...果南さんも策士だったんだね」

 

「...」

 

「まぁ気持ちはわからないわけじゃないけど」

 

「千紗ちゃん...」

 

「???」

 

千紗の言う気持ちにまったく気づいてない拓海の頭にはクエスチョンマークがたくさん

 

この後結局沼津観光になった。ダイビングは明日の午前と午後に一本ずつとなった。果南はなぜかあんまり気乗りしてなかったが拓海が行くというので何かを気にしているようすでついて行った

 

あらかた沼津観光を楽しんだ拓海と千紗、そして地元のはずなのに二人よりも疲れたようすの果南が帰宅した。本当ならば果南がおもてなしとして夕飯を作る予定であったのだが予定外に疲れてしまったので代わりに拓海が夕飯を作ることになった

 

~我那覇拓海の『うちなークッキング~』~

 

今日は『たらのムニエル』、女子には嬉しい『豆腐ハンバーグ』、『シーザーサラダ』、具沢山『ミネストローネ』の4品を作って生きたいと思います!

 

 

 

 

ry)

 

 

 

 

 

~完成~

 

「おいし~」

 

「さすが拓海」

 

拓海の料理に大満足の女性2人

 

「会うたびに料理の腕上げてない?」

 

「毎日のように作ってるからね」

 

「(。・ω´・。)」

 

「うわ~。そのドヤ顔なんか腹立つ~」

 

拓海の料理の腕を再確認できたところで楽しい夕飯を堪能した

 

 

 

 

 

夕飯を終えてみんなで後片付けをし先に千紗が風呂に入ったので拓海は一人夜風をあたりに外へ出て浜辺に腰掛けた

 

「拓海」

 

「(*・ω・)ノ」

 

浜辺に座って夜風にあたっていたら背後から果南に声をかけられた

 

「隣いい?」

 

「(。'-')(。._.)」

 

果南は拓海の返事を待たずに拓海の隣に腰を降ろした

 

「来てくれてありがとね」

 

「( ̄∇ ̄)」

 

「私とも話してくれない...?」

 

...ごめん

 

「別に大丈夫。事情は知ってるしね」

 

「...」

 

二人の間に周りと同じく少し暗い雰囲気が漂う

 

「でも、拓海大きくなったよね~」

 

「( ̄^ ̄)」

 

「昔は私よりも小さかったのに」

 

「( ̄▽ ̄;)」

 

「ふふっ♪」

 

「っ!」

 

さっきの暗い雰囲気はなくなり傍から見るとカップルのような雰囲気になっている。しかも果南は拓海の肩に頭を置いてもたれかかっている

 

「拓海って無口なくせにわかりやすいよね~」

 

「...」

 

「あれ、怒っちゃった?」

 

「...」

 

「ごめん~。怒んないで~」

 

「...」

 

ちょっぴり機嫌を損ねた拓海のほっぺをツンツンする果南。謝る気はなさそうだ

 

「それじゃあ先に戻るね。千紗ちゃんに見つかったらあれだろうしね」

 

「(・。・)ノ 」

 

「最後に...よっ!」

 

「っ!」

 

「えへへ♪じゃぁねぇ~♪」

 

別れる前に不意打ち気味に後ろからハグされた拓海は反射で声を上げそうになった。そんな千紗に見られてたら冷や汗もんのことをさらっとやってさらっと帰って行った果南

 

「拓海...」

 

「っ!」

 

さぁ、天罰の時間だ。彼女がいるにもかかわらず別の美女といい雰囲気になっただけには飽き足らずあんな美女に後ろからハグだとぉぉぉぉぉ!!!!許さん!!!

 

拓海の首が錆付いたロボットのようにギギギギギ...となりそうなほどそれはぎこちなく声のする方を向いた。まぁそこには千紗がいた

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

無言は続く...

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

続く...

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

無言と共に拓海の冷や汗も続く...

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

続く...

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

「...」

 

...長くね?

 

「はぁ...」

 

長かった沈黙は千紗のため息に区切られ、千紗は拓海に歩み寄る

 

千、紗...?

 

「...」

 

千紗は拓海の目の前で止まり特になにもすることはなかったが拓海の顔を見ることもなかった。拓海は寂しさを覚え無意識に千紗の背中に手を回していた

 

「...これで上書き」

 

「っ!」

 

みんなは思っている(みんなって誰だ?)。拓海はそんな気はまったくなかった、と。運も見方につけるイケメンか...ケッ!ケッ!!

 

最終的には千紗の機嫌も直り、拓海も千紗トシアニン(※)を摂取できたので満足というハッピーエンドで終わってしまった...

 

※千紗トシアニン・・・拓海にとって三大栄養素と並びえる、生命維持に欠かせない成分




ダイビング繋がりで”ラブライブサンシャイン”から松浦果南さんとの絡みでした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 

拓海と千紗が沼津の果南のところに来て2日目。2人は果南の用意してくれた畳の敷かれた和室で2人くっついて眠っていた

 

・・・

 

そこ代われやゴルァァァァァ!!!

 

「!!!( ゚д゚)!!!!(゚ロ゚;三;゚ロ゚)」

 

おっと起こしてしまったか。まぁいい思いして寝てたんだからこれぐらいいいだろう。うん。そういうことにしよう

 

拓海は誰かに怒鳴られた気配を感じ取って勢いよく起き上がった。しかしその部屋を見渡しても誰もいない。ちょっと気のせいかと思ったが自身の体には大量の冷や汗と鳥肌がたっていた。少し、そうほんのすこーし怖くなった

 

しかし隣で拓海と手を繋いだ状態でスヤスヤと眠っている千紗の寝顔でそんな拓海の気分はスッパーンと虚数の彼方へ飛んで行った

 

「(◦ˉ ˘ ˉ◦)」

 

「拓海〜、千紗ちゃ〜ん、朝ごはんできて...なにそのニヤケ顔。ちょっとキモいよ?」

 

「(; ・`д・´)」

 

拓海が千紗のカワイイ寝顔を堪能しているところを起こしに来た果南に見られ若干引かれてしまった

 

 

 

 

しばらくして千紗が起きて果南特製の朝ごはんを食べダイビングの準備に入った

 

「覗いちゃダメだかんね〜」

 

「(;゚Д゚)!」

 

「ちょっ!果南さん!」

 

水着に着替えるために千紗と奥へ行く前に自分のTシャツを少しめくり肌をチラつかせて拓海を誘惑する果南。普段から女性の肌など見慣れているはずの拓海は未だにウブな反応を見せる拓海。しかしこういう反応をするところも彼の人気の一つだったりする

 

「た〜く〜み〜」

 

「(;¬3¬)」

 

「鼻の下、伸びてるよ」

 

「(⊃-⊂)!」

 

「冗談」

 

「...」

 

「い、いひゃいよ」

 

千紗に指摘されすぐさま口元を隠す拓海。しかし千紗に弄られてただけだと知り千紗の頰を優しく引っ張る。側から見たらただ単にイチャコラしてるカップルだ。末永く爆発しろ♪

 

 

 

 

 

 

天気もよく波も穏やかで最高のダイビング日和。午前は普段から潜り慣れている果南に2人がついていく形で楽しんだ。海中の自然は変わるもので何度も来てるのにも関わらず2人は初めて来た感覚になっていた

 

お昼を食べて午後。今度は午前よりも深いところに行くことになった。なんでも果南が少し気になっている洞窟のような場所があるらしい。拓海と千紗も興味を示しその提案に賛同。実際に潜ってみるとそこには果南の言う通り洞窟のような形状をしたでっかい岩があった。これを本当に岩と言っていものかと疑うぐらい大きいものだった

 

そこはいい具合に陽の光に照らされその中を沢山の種類の魚が悠々と泳いでいる。それは浅場や水族館では絶対に見れない光景だった

 

「いや〜いいもの見れたね」

 

「うん。写真撮りたかった」

 

「あ〜水中用のカメラあるもんね。けど結構な値段しなかった?」

 

「綺麗な写真撮りたいなら7、8000円する。いいものだと10000円以上...」

 

「...」

 

学生にとってすぐには手が出ない程の金額にこうべを垂れる千紗。それを見た拓海は何やら考え事をしているようだ

 

そして時刻は16:00。そろそろ拓海と千紗は帰らなければいけない時間となってしまった

 

「そっか...また会えなくなっちゃうね」

 

「そこまで遠くないし、また遊びに来ます。今度はサークルみんなで来ますね」

 

「うん!待ってるね!」

 

「拓海もまた来てね。それとたまにでいいから連絡ちょうだいよ?」

 

「( ・ω・)ゞ」

 

「それじゃあ果南さん、また」

 

「またね千紗ちゃん。拓海も」

 

「(・・)/」

 

別れの挨拶を終えると拓海はアクセルをゆっくり踏んで車を出した。そんな車を果南は名残惜しそうに見えなくなるまで見送っていた。そして拓海の運転する車はとある女性交通人3人の横を通過する

 

「あれって...」

 

「そう、だよね...」

 

「多分...でもどうして?」

 

「あれ、果南ちゃんだ」

 

女性3人は拓海の車を拓海のものと認識したのかお互い確かめあう。すると目の前にはその車を見つめる果南の姿。それを見た瞬間3人の推測は確信に変わり一斉に走り出す

 

「「「果南ちゃん(さん)!!!」」」

 

「あれ3人ともどうしたの?」

 

「どうしたのじゃないよ!」

 

「今走って行った車って拓海くんのですよね!?」

 

「果南ちゃんがそれを見送ってたってことは拓海と果南ちゃん一緒だったんでしょ!?」

 

「そ、それは...」

 

隠そうとしても隠しきれていない果南の表情に3人はジト目で見ている

 

「ねぇ曜ちゃん、梨子ちゃん。これって...」

 

「絶対そうだよね、千歌ちゃん」

 

「確信犯ね」

 

3人は高校生のときに果南と共にスクールアイドルをやっていた高海千歌、渡辺曜、桜内梨子であった。3人とも拓海とは面識があり助けてもらったこともたくさんあった。それもあり3人とも拓海に対して恋心を抱いており拓海が来たならば絶対に会いたかったであろう

 

「抜け駆けはズルいよ、果南ちゃん」

 

「抜け駆けって、そんなつもりは...」

 

「じゃあなんで連絡くれなかったの!」

 

「それは急な話だったから...」

 

「これは会議ものですね...」

 

「そうだね。とりあえずみんなに伝えよう」

 

「何があったのか全部教えてもらうから覚悟してね、果南ちゃん」

 

その後集まったかつての仲間たちに1から9まで全部話した果南は16の嫉妬の目に見られていた。しかし最後の1、拓海とあった夜の浜辺での出来事は絶対に話さなかった果南は拓海との秘密ができて内心喜んでいた

 

 

 

 

 

 

果南のところから帰ってきた次の日、拓海は学内の食堂で千紗が伊織に言い寄られているところに鉢合わせてしまった

 

「頼む千紗!他に何もしなくていいから!ただ側にいてくれるだけでいいんだ!」

 

「絶対に嫌。諦めて」

 

千紗が否定してくれたことに涙が出そうになった拓海はそれをぐっと堪え伊織の前に割って入った

 

「拓海」

 

「...」

 

「大丈夫。そんなんじゃないから。行こっ」

 

千紗は拓海の手を取って受付まで引いていった

 

「そんな...ただ隣で解答を見させてくれるだけでいいんだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「...ε-(´∀`;)」

 

伊織が千紗に詰め寄っていたのは告白ではなくテストの解答を写させてほしいと懇願していたことを知って拓海は安堵した

 

「すまん、カンニング交渉は失敗だ」

 

「そっか」

 

「どうすっか。このままだと不可だな」

 

「ドイツ語の単位を落とすのは痛いぞ」

 

ここに集いしバカ集団は伊織、耕平、野島、山本だ。以前は千紗を泣かせた伊織と顔だけはイケメンの耕平を恨んでいたが、このメンツで合コンに行ったときに大敗を経験し仲良くなった

 

「仕方がない。自力でなんとかしよう」

 

「まさか!今から勉強すんのか!」

 

「試験まで時間がないぞ」

 

「ノートの縮小コピーの限界に挑戦する」

 

「自力のカンニングか」

 

まったくもってバカである。そんなんに勤しむなら頑張って一部だけでも勉強すればいいだろうに

 

「俺達が読める限界サイズだな」

 

「大分小さくなったが...」

 

「隠す場所を考える必要があるな」

 

「おーい北原ー。カンニングか?俺も混ぜてくれ」

 

「俺も俺も」

 

「なんで俺の周りにはこんなクズばかり集まるんだ」

 

「類友ってやるだろ」

 

その通りである

 

「それで、これをどう持ち込む」

 

「そうだな...」

 

「例えば筆箱の中」

 

パターン①:筆箱の中

 

「飲み物のラベル」

 

パターン②:飲み物のラベル

 

「タオルの内側」

 

パターン③:タオルの内側

 

「野島はどうするんだ?」

 

「俺は“わんない”で行く」

 

「“ワンナイ“?一夜漬けか?」

 

「いや、”腕内“だ!」

 

「北原はどうするんだ?」

 

「団扇の裏かな」

 

「なら俺は服の裏に仕込むか」

 

「お前ら、ドイツ語の単位が重要なのを知っているな」

 

「あぁ!」

 

「もちろんだとも!」

 

「絶対に最後まで諦めず、みんなで単位を取るぞー!!!」

 

『おー!!!』

 

なら最初からちゃんと勉強をしておけ、というツッコミは今回は控えよう

 

「拓海はテスト大丈夫?」

 

「(o´・ω-)b」

 

「そりゃそっか」

 

「(•ω•)?」

 

「私?一応拓海に教えてもらってたし、頑張る」

 

「(*´∀`*)」

 

こっちサイドを見習ってほしいとあのバカどもに言いたい

 

そしてテスト当日。隣の人と1席分開けるようにして座りテスト開始を待っている

 

「はい、それでは...まず筆箱はしまいなさい」

 

(げっ!)

 

パターン①ー崩壊

 

(バカめ。予想できたこと)

 

(おい!助けてくれ!)

 

(ん〜どうしようかな〜)

 

「それと飲食は禁止です」

 

「ぶふっ!」

 

パターン②ー崩壊

 

(そんな目でこっちを見んな)

 

(てめーでなんとかしろ)

 

(しかし、なんで他の連中は涼しい顔をしていられるんだ?)

 

(まさか!自信があるとか...)

 

「1時開始です。終わったら退席して構いません」

 

1時になったよ

 

「では始め」

 

「「退席します」」

 

(覚悟を決めた笑みだったか...)

 

「ぐっ!」

 

(汗で滲んで文字が読めねぇ!)

 

(バカが...)

 

(ふっ、この暑さで腕内に頼るからだ)

 

(そういえば下川がいないな)

 

(あーやつならさっき...)

 

(さっきなんだ?)

 

(気にするな、死人が増えただけだ)

 

(しかし、カンペを見てもほとんどできん!)

 

(これはみんなで協力する必要があるな)

 

(チームプレーだな)

 

(任しとけ!)

 

というか何。お前ら全員新しいタイプのやつらなの?全員一瞬のアイコンタクトだけで会話しやがって。羨ましいからその能力くれ!と変な嫉妬は置いといて藤原がカンニングしようとシャツの中を確認しようとした瞬間、中から1枚の紙がひらひらと教師に向かっていった。教師はそれを素早く掴み書かれているものを確認した

 

「これは、なにかね...?」

 

「え、あ...」

 

藤原が答えに困っているのを裏腹に他の連中はこいつのですと指を指す

 

「みんなで協力は!!!?」

 

助けは来ず、教師より不可の紙を貼られてしまった

 

「みんなできが悪いな〜」

 

「問題がむずかしすぎるんだよ!」

 

「仕方がない、サービス問題を出そう」

 

『おー!』

 

「講義中の話から出題します。今から言う単語をドイツ語に訳して裏面に書きなさい。第1問、心臓リウマチ」

 

(わかるかそんなもん!)

 

(サービスの意味を誰か教えてやれ!)

 

「第2問、裸でバナナを持つ男」

 

(講義中になんの話をしていた!)

 

(本当にドイツ語の講義なのか!?)

 

「最後の1問、ジェームス・トーマス」

 

「人名じゃねぇか!」

 

「しかも明らかに英語だろ!」

 

「やってられっか!」

 

そしてテスト返却

 

「これは酷いな...」

 

「これで不可確定か」

 

「どこかで挽回しないと」

 

「えーみなさん。大変できが悪かったです。なので10点以上なら可、20点以上なら良とします」

 

『マジで!?』

 

「やったな」

 

「まさかイケるとは!」

 

「だな!助かった!」

 

「あーまったくだ!...あ?」

 

喜んだのもつかの間、3人の用紙の下にこう書かれていた。『※裏面を読むこと』。そしてその裏面には『カンニングの疑いがあるので再試。あとで私の所に来ること』

 

「「「再試?チクショーーーーー!!!!」」」

 

「またバカやってる...」

 

「( ´△`)」

 

紙を破り捨てその場に倒れこんだ3人を後ろから見ていた千紗と拓海は揃って呆れるのであった。ちなみに2人の答案には『83』『85』とどちらも優秀な成績を残していた

 

 

 

 

 

「で?合コンはどうだったんだ?」

 

「散々でしたよ...見てくださいこの写真。こいつら仮装してきやがって」

 

「気合い入れてあげたんだから感謝しなさいよ」

 

「君らは期待を裏切らないね〜」

 

「ところでお前、ウチに入るって言うけどさ」

 

「どんなサークルか知ってるのか?」

 

「ダイビングでしょ?ちょっと憧れてたのよね。大人の趣味って感じで。海の中も色とりどりの魚がいっぱいで興味があるし」

 

「それはそれは」

 

「南の島の綺麗な海で大学の仲間とダイビング!まるでドラマみたいじゃない?」

 

「「ならこのサークルはやめておけ」」

 

「ここダイビングサークルじゃないの?」

 

「ははっ、冗談だ冗談」

 

「ダイビングをすることもないわけじゃないが、ない気がしないこともなくもないぞ」

 

「おーい新入り!歓迎会を始めるぞ!」

 

「あ、はーい!」

 

本日は新しく“Peek a Boo”に入った愛菜の歓迎会でサークルのメンバーが全員“Groud Blue”に集まっていた

 

「とりあえず軽く自己紹介だ」

 

「青海女子大一年の吉原愛菜です」

 

『お〜』

 

「ダイビングに興味はあったのですがやったことはないです」

 

『お〜』

 

「なのでこれからいろいろ勉強して...」

 

ここで愛奈の言葉が途絶えた。なんとびっくり!時田達の服が消えていき最終的には全裸になっているではないか!

 

「ねぇ!このサークルおかしくない!?」

 

「ん?」

 

「いつの間に脱いだの!?」

 

言うまでもないが伊織と耕平もすでにパン一の状態だ

 

「そう驚かれてもなぁ〜」

 

「伊豆春祭で呑んでるとき散々見ただろ」

 

「あれは学祭でテンション上がりきってたからじゃないんだ...」

 

「どうしたの愛菜?」

 

「どうしたもなにも...」

 

「ん?」

 

「なんでもないです...」

 

同じ大学の先輩である梓もTシャツを脱いで下着姿になっている

 

(で、でも。古手川さんだけは普通の人のはず...!)

 

「頼む古手川!」

 

「やっぱりお前が合コンを!」

 

外から戻ってきた千紗に土下座で合コンのセッティングを頼む伊織と耕平。そして当人の千紗はというと土下座している伊織の背中に座って足を組んでいる

 

「違うぞ千紗。そう言う意味じゃない」

 

「踏めばよかった...?」

 

(...もないな)

 

「2人とも何をしてるの?」

 

「別に」

 

「奈々華さん」

 

「ほら千紗ちゃん、伊織くんから降りて」

 

「( ・ω・)っ」

 

「あ...ありがと拓海...」

 

伊織の上に座っていた千紗を奈々華が注意し、その千紗が立つために手を差し伸べる拓海。その手を取る千紗はどこか嬉しそうだ

 

「よかった!普通の人がいてくれた!」

 

「えっ?」

 

「お疲れ様です」

 

「奈々華さんも一杯どうですか?」

 

「ありがと、それじゃ...これもらうね!」

 

「え、それは古手川さんの飲みかけ...」

 

「...」

 

千紗の飲みかけのジュースを姉としてはしてはいけない顔をしながら飲もうとする奈々華を拓海が止めた

 

「...あら拓海くん。何かしら」

 

「( ˙࿁˙ )」

 

「別に姉妹なんだからこれくらいいいのよ...?だからその手を離してくれないかしら...」

 

「(`・д・)」

 

「あらあら...こんなことで嫉妬してるの...?でもこのグラスは渡せないわ...」

 

ここから始まる奈々華vs拓海の攻防。ここは関ヶ原であるか...

 

「ねぇ...」

 

「何も聞くな...」

 

「お前は何も見ていない。いいな」

 

「こらお前ら」

 

「きちんと乾杯をしなきゃダメじゃないか」

 

「え、あちょっ」

 

奈々華と拓海の攻防劇を見て見ぬ振りをする伊織と耕平は背後から忍び寄ってきた時田と寿に捕まり連行されていった

 

「あの、吉原さん」

 

「あ、はい」

 

「ダイビングに興味あるの?」

 

「うん一応。それが何か?」

 

「いや、別になんでもないんだけど。嬉しいな、って...」

 

「そうよねぇ」

 

「ダイビングに興味を持って入会したの愛菜だけだもんね」

 

「は、はぁ...」

 

その通りである。伊織や耕平はどちらもダイビングに興味があってこのサークルに入ったわけではないのだ。拓海はそもそも千紗についてきただけだし千紗としても拓海がいなければ入っていたかどうかわからない。よって始めてサークル入会の動機が単純にダイビングに興味があるというのが愛菜が初めてであった

 

「どころでダイビングって何を用意しておいたらいいんですか?」

 

「ん〜そうね」

 

「いろいろあるんだけど」

 

「最初はレンタルでいいんじゃないかな」

 

「とりあえずはタオルとか水着かしら」

 

「み、水着ですか!?」

 

「水着は嫌?」

 

「嫌というか恥ずかしくって...」

 

「うふふ、大丈夫よ」

 

「恥ずかしいことなんて何もないって!」

 

「それはダイビングに慣れてるからで、普通の人は...」

 

「ん?」

 

愛菜は一旦、一旦周りを見渡す

 

『わーっしょい!わーっしょい!』

 

(普通の人がどこにもいない!)

 

「大丈夫?」

 

「とにかく!今日は私の歓迎会なんだから!みんな服を着てくださーい!!!」

 

いや、誰かの歓迎会ってときだけじゃなく常時着ているのが普通である

 

「( ・ω・)っ」

 

「あ、どうも」

 

「拓海。どこ行ってたかと思ったらこれ作ってたの?」

 

「( ゚ー゚)( 。_。)」

 

愛菜が心の叫びを露わにしたのと同時に拓海が片手にケーキを持ってやってきた

 

「これ、私に?」

 

「( ゚ー゚)( 。_。)」

 

「ちょっと〜、私達のは〜」

 

「(*`・ω・)」

 

「お、さっすが〜。わかってるね」

 

拓海は一旦キッチンの方に戻っていった

 

「え、今のでわかるんですか?」

 

「拓海くん、滅多に声出さないから。表情や仕種でなんとなく理解するのよ」

 

「サークルのほとんどはもう慣れてる」

 

「伊織と耕平はまだ完全じゃないみたいだけどね〜」

 

「なるほど」

 

「でもこれはいい練習になるのよ?」

 

「練習?」

 

「ダイビングって水の中で声を出せないでしょ?だから水の中でのコミュニケーションは声以外のものを使う必要があるの」

 

「ハンドシグナルっていうのがあるんだけど、目元も結構注意して見なくちゃダメなんだ」

 

「この人疲れてるってすぐわかっちゃうからね〜」

 

「確かに。意外なところで勉強になっちゃったな〜」

 

「( ˙-˙ )?」

 

戻ってきた拓海には何の話か全く見当がついていなかった

 

「ん?」

 

「どうしました?」

 

「酒がきれた」

 

「え!?」

 

「一本もないの!?」

 

「数を見誤ったな」

 

「そんな先輩ともあろう人が...」

 

歓迎会は夜まで続いた。終電なり明日朝からバイトというメンバーは先に帰ったので、まぁいつものメンバー+愛菜が残っている。ちなみに全員服を着ている。明日は槍でも降るのか!?

 

「あ、じゃあ私買ってきます」

 

「重いだろう。俺達が行くぞ」

 

「いいですよコンビニ近いですし」

 

「じゃあ私も」

 

「( ・ω・)ノ」

 

「拓海は先輩達の監視してて」

 

「( ´ · _ · ` )」

 

「じゃあ行ってきま〜す」

 

「はいは〜い」

 

「ちゃんと服着ててくださいね」

 

「...はいは〜い」

 

拓海を監視として残し千紗と愛菜は買い出しに出かけた

 

「あいつも早く慣れないとな〜」

 

「まったくだ」

 

「2人は慣れるの早すぎなんだけどね」

 

「おいおい誰だよ。“きのこ”と間違えて“たけのこ”を買ったのは」

 

「あ?何言ってるんだ?普通は”きのこ“より”たけのこ“だろ」

 

「冗談はよせよ。“たけのこ”なんて味覚音痴の食べ物だろうが!」

 

「いやいや?“きのこ”の方がバカ舌の食べ物だろ!」

 

「おいコラなんて言った!クラッカーとクッキーの味の差の違いもわからない味音痴が!」

 

「あ“ぁ“ん”?売り上げ比較したことねぇのか!?」

 

「てんめ、それを言ったらもう戦争だろうがぁぁ!!!」

 

「やんのかゴラァァァ!!!」

 

※決して”きのこ“と”たけのこ“のことを侮辱しているわけではありませんのでご注意ください

 

「待て待て」

 

「ケンカはいかんぞケンカは」

 

「「ですが!!!」」

 

「こういうときはゲームでとあれほど言っただろうが」

 

「いいでしょう」

 

「でもなんのゲームで勝負したらいいんですか?」

 

「( ゚д゚)!」

 

ここで拓海の危険信号に反応があった。『ゲームを決めるにもどうやって決めるか』→『それぞれが案を出す』→『どれをやるのか』→『じゃんけんで決める』→『野球拳だから必然的に服を脱ぐ』。この流れが画一されてしまう

 

「そうだなぁ」

 

「あみだで決めるか」

 

なんだと...じゃんけんじゃないだと...天変地異でも起こるのか!?

 

「んじゃとっきーとぶっきーはゲームの案出して」

 

出されたゲームの案も一応確認する拓海。”PaB式びらめっこ“、”腕相撲“、“ポッチーゲーム”。今のところ裸になる要素はなさそうである

 

「よし決めたな」

 

「「はい」」

 

「それじゃあ結果はっと」

 

「ポッチーゲームだな」

 

「「なんてものを!!!」」

 

確かにこれは...オエェェェェ!!!

 

「ちょっと待ってくださいよ!誰の案ですかこんな...梓さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「チャンスチャンス!」

 

「んじゃポッチーゲームで決着をつけてもらうぞ」

 

「いやいや!」

 

「おかしいですって!」

 

「おかしくない!おかしくない!」

 

「神聖なあみだの結果だ。諦めろ」

 

「でもポッチーがないですし...」

 

「やりたくてもできないですし...」

 

「ふむ」

 

「確かにないね」

 

「ならこれを使うか」

 

そう言って寿が取り出したのはなんと特大黒糖麩菓子だった

 

「ちょっと大きいが問題ないだろ」

 

「先に口を離した方が負けな」

 

「じょよーい、スタート!」

 

梓のスタートの合図で2人は勢いよく食べ進めていく

 

「想像以上にひどい絵面だな」

 

「ちーちゃん達には見せられないね」

 

「(´―ω―`)」

 

そして2人は少し食べ進めたあたりで同時に口を離した

 

「決着つかずか」

 

「引き分けとはだらしがない」

 

「これはムリですよ」

 

「口の中大変なことになってですからね」

 

「仕方ないな〜」

 

「梓さんなにを?」

 

「ポッチーを用意しようと思ってね」

 

梓は今買い出し中の千紗にポッチーを買ってきてとお願いのメッセージを送った

 

「というか先輩達楽しんでますよね!?拓海だってポーカーフェイスの下で笑ってるんだろ!」

 

「それなら先輩達と我那覇にも参加してもらいます!」

 

「まぁな」

 

「別にいいけど」

 

「俺も構わんがゲームをする2人をどう決める」

 

「それは...」

 

「( ゚д゚)!」

 

ここでまた拓海の頭の中で“じゃんけん”という単語が思い浮かんだ。伊織達の発言を止めようとするが...

 

「まぁ“じゃんけん”か何かで...」

 

「そうか!!!」

 

「じゃんけんとなると!!!」

 

「はいはい!了解!!!」

 

時すでに遅し...拓海無念...

 

 

 

「「ただいま〜」」

 

『アウトー!!セーフ!!よよいのー!!!あ、おかえりー』

 

「どうしてそうなるんですか!」

 

「待てケバ子。これには訳がある」

 

「俺達はポッチーゲームをする人を決めるためにまずじゃんけんをしていただけなんだ」

 

「じゃんけんするだけなら脱ぐ必要ないでしょ!!!?」

 

「野球拳なんだから脱ぐ必要があるだろ」

 

「まったくだ」

 

「野球拳以外のじゃんけんも覚えなさいよー!!!」

 

なんとなくデジャブ。初めは伊織もそんなことを言う側だったのに。慣れとは怖いものだ

 

「梓さん...」

 

「な〜に〜?ちーちゃん」

 

「今すぐ拓海を返してください...」

 

「どうして〜?」

 

ただいまソファに座って魂の抜けている拓海の背中に覆いかぶさるように抱きついている梓が目のハイライトがなくなっている千紗の前の光景だ。ちなみに拓海はなぜ魂が抜けているのかというのは千紗との先輩達の監視という約束を守れなかったからである

 

「( ° 。°)」

 

「拓海〜、ちーちゃん帰ってきたよ〜」

 

「( ゚д゚)!」

 

「...ただいま」

 

「...」

 

「拓海はまだこれを堪能したいのかな?」

 

「Σ( ゜Д゜)!!」

 

梓は拓海の後頭部に胸を押し付ける

 

「拓海...」

 

「(((;゚д゚;)))」

 

「あん....もう、暴れないの」

 

今の状況と目の前の千紗に汗が止まらない拓海。千紗は一歩一歩拓海に近づいていきテーブルに置いてあった缶チューハイを一気飲みする

 

「わぉ」

 

「=͟͟͞͞(¯−︎¯)」

 

そして千紗は空になった缶を投げ捨て拓海の目の前から抱きついた

 

「((?・・)」

 

「おぉ!ちーちゃんも大胆だね〜」

 

「...」

 

千紗は言葉を発しなかった。拓海は無意識に千紗の頭を撫でる。梓は拓海に胸を押し当てながらその光景を嬉しそうに見ているのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普通に羨ましいんじゃボケがぁぁぁぁぁ!!!!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 

「しかしなんだなぁ。新入生も増えたしいよいよライセンス講習の準備を始めるか」

 

「そうだな」

 

「はぁ」

 

「ライセンスですか」

 

「それって早飲みの?」

 

「早飲みに決まってんだろ」

 

「どうしてそうなる」

 

「ダイビングに決まってるだろ」

 

「「ダイビング」」

 

あまりの驚きに伊織と耕平は雷に打たれたかのような衝撃に打たれ酒の入ったグラスも落としてしまった

 

「そんなバカなぁぁ!」

 

そして2人はテーブルに手をついて下を向いたまま泣いている

 

「この反応は俺達が悪いのか?」

 

「俺は半々だと思うが」

 

「一応聞くが、お前ら教本に目を通してはいるんだろうな」

 

「そりゃあもちろん...」

 

「聞くまでもなく...」

 

「こいつら絶対目を通してないな」

 

「1つテストしてみるか」

 

「うむ。2人ともハンドシグナルは知っているか」

 

「は、はい...」

 

「要はジェスチャーですよねぇ...」

 

「水中での意思疎通に使う重要なサインだ」

 

「今から俺が実際にやってみせる。それを見て何を訴えたか考えてみろ」

 

ハンドシグナルは寿の言ったように意思疎通や互いの安全確認のために最も重要なことである。これをできなくしてライセンスなど取れはしない

 

1ー“止まってください”のハンドシグナル

 

2ー”こちらを見てください“のハンドシグナル

 

3ー”潜行します“のハンドシグナル

 

これを見た伊織の答えがこちら

 

(つまり...1ーA:そこまでだ。2ーA:この俺が。3ーA:ここでお前を殺す)

 

「さて伊織。お前はどうしたらいい」

 

「う〜ん。相手より先に水中銃で撃ちます」

 

「どういう状況なんだ」

 

「迂闊に伊織の前でハンドシグナルは使えんな。次、耕平の番だ」

 

「俺と北原の違いを見せてやりますよ」

 

「ほざくなボケなす」

 

1ー“問題発生“のハンドシグナル

 

(1ーA:やっほー...)

 

2ー”空気がありません“のハンドシグナル

 

(2ーA:アイーン...)

 

3ー”浮上します“のハンドシグナル

 

(イェイイェイ...)

 

「どうだ耕平?」

 

「ふっ、俺は温かい目で見守るぞ」

 

「独特な発想だな」

 

「やっぱり勉強していなかったか」

 

「「すいません...」」

 

「ま、わかっていたことだけどな」

 

「というわけで、少しは勉強してみろ」

 

「今からですか?」

 

「覚えたら意外といいことがあるかもしれんぞ〜?」

 

「「はぁ...」」

 

「ちなみに拓海は全部正解だ」

 

「「なぬ!?」」

 

「(* -∀-)」

 

伊織と耕平が後ろを振り向くといつの間にか用意したホワイトボードに先ほどの答えを書いて出している拓海がドヤ顔をしていた

 

「拓海は既にプロとしてのライセンスも持っている。何かわからないことがあれば頼るといい」

 

「(`・ω・´)b」

 

そして伊織と耕平はそれぞれ教本を開いて目を通し始めた

 

「伊織くん、ライセンスのお勉強?」

 

「はい。ハンドシグナルだけですが」

 

「へぇ〜どれどれ」

 

(はっ!この感触は...!)

 

テーブルで教本を読んでいる伊織に奈々華が近づき伊織の背後へと回る。そして無自覚に伊織の背中にその豊満な胸を押し当てる

 

「まずはここから覚えるといいよ?」

 

(まさか本当にいいことが起こるとは!なんて素晴らしいんだハンドシグナル!)

 

「あ、そういえば伊織くん」

 

「は、はいっ!」

 

「さっきこんな話を聞いたんだけど、知ってる?」

 

「何の話ですか?」

 

「”千紗ちゃんが伊織くんに汚された“って話...」

 

「...」

 

おそらく文化祭でのことであろう。奈々華の胸の感触で昂ぶっていた伊織が気分は急激に下がる。そして伊織は1つのハンドシグナルを実践しだした

 

「おっ、早速役にたっているな」

 

「あのサインは“問題発生”ですね」

 

「あぁ。重要なサインの1つだ」

 

「い・おり・く〜ん」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

奈々華は伊織を奥に連れて行こうとする。こと時もまた伊織は違うハンドシグナルを実践した

 

「あれは”こっちに来てください”のサインですね」

 

「助けてと言いたいんだろう」

 

そして時田達は揃ってグッジョブと返し伊織の助けは届かなかった

 

 

 

 

 

そして翌日。本日は実際にペアを組んで海に出てみることとなった。ちなみに時田・耕平。千紗・伊織。愛菜・梓の3組となった

 

「今日はそれぞれのペアで潜ってもらいます」

 

奈々華は昨晩伊織から事情を聞いて、一応は納得をした。そんでもって千紗の姉として幼馴染でもある伊織と千紗が仲直りできるようにこのペアを考えた

 

「それじゃあまず水着に着替えましょうか」

 

「えぇ!」

 

「んじゃ着替えますか」

 

「ここで脱ぐの!?」

 

「今更気にすることもないだろ」

 

「そういう問題じゃな...うわぁぁぁ!!!2人とも何してるんです!?」

 

「え?」

 

「着替えてるんだけど?」

 

「男子の前なのに!?」

 

伊織達だけではなく奈々華と梓もこの場で服を脱ぎ出したことに驚愕する愛菜

 

「古手川さんも何かってえぇ!」

 

「下に水着着てるなら別に」

 

「そうだよ」

 

「梓のは下着みたいだけどね」

 

「水着で照れるとは、初々しいな」

 

「まったくだな」

 

「先輩方はもう少し初々しくてもいいんですけどね」

 

(この人達もう嫌...!)

 

千紗の言う通りこの場合は下に水着を着ていればである。しかし時田と寿が下に水着を着ているわけがないのである

 

「(・ △ ・)」

 

「ちょっ、拓海見過ぎだって」

 

「( ゚д゚)!」

 

「っ!もぅ...拓海のエッチ...」

 

最後の千紗の照れ顔に拓海は危うく天に召されるところであった。羨ましいんじゃボケが♪

 

そしてタンクを乗せた台車を奈々華と伊織が押しながら目的地へ移動

 

「あの、奈々華さん」

 

「ん?な〜に伊織くん」

 

「どうして俺と千紗がペアなんですか...?」

 

「2人に仲直りしてもらおうと思って」

 

「むしろ逆効果のような...」

 

「大丈夫よ。ちーちゃんて海に入ればすごくチョロい子だから」

 

「そうね〜」

 

「それ、本人が聞いたらすんごい怒りますよ」

 

目的地到着、ボンベ装着・・・・・すいません。調子乗りました。ラップ風にできるかなと思ったら全く思いつきませんでした・・・

 

「それじゃあ伊織。私から離れないようにね」

 

「お、おう...」

 

「どうしたの伊織?不安?」

 

「え?あぁいや...」

 

「今日はすごく浅いところで泳ぐだけだから。怖かったら無理しないで。何かあったらすぐ教えて」

 

「お、おう。わかった」

 

マスクをつけレギュを咥えいざ!海へ!

 

(よし大丈夫。シャレが通じる空気じゃないな)

 

千紗の真剣な顔を見てふざけなしで身を引き締めながら海に入る伊織

 

その後設置されているロープを手で掴みながら少しずつ進んでいく。その最中千紗は何度も後ろを振り返り伊織の安否を確認した

 

(あれ、千紗のやつ怒っているっていうより何か...あぁそうか。あいつはただ真剣なだけなんだ)

 

千紗は魚を指差して伊織に知らせたり岩に張り付いていたナマコを手で持って伊織に見せたりしている

 

(万が一にも俺に事故がないように。できる限り水の中を楽しめるように。水が苦手な俺のために)

 

まだ見ずに慣れていない伊織を精一杯楽しませようといろんなことを試みる千紗。その光景を拓海は頭ではわかってはいても少し寂しそうな表情で見つめていた

 

そしてそこまで長くない時間が経ち全員海から上がった

 

「すっごい楽しかった!」

 

「気に入ってくれたようだね」

 

「はい!」

 

「よかった〜」

 

愛菜は今回のプチダイビングでテンションが上がっていた。それを喜ばしく思う梓と奈々華。少し離れたところでは伊織と千紗が海を見ながら何やら話していた。それを見つめる拓海の元に奈々華が近づく

 

「拓海くん」

 

「(´-﹏-`)」

 

「そんな顔しないで。別に千紗ちゃんが伊織くんに取られたわけじゃないでしょ?」

 

「...伊織は」

 

「ん?」

 

「伊織はオレの知らない千紗を知ってるんですよね」

 

「そうね。短い時間ではあったかけど毎日のように一緒だった」

 

「千紗は、伊織にもあの笑顔を向けるんですね」

 

「拓海くんて結構女々しい?」

 

「...」

 

『二万回死ねーーー!!!』

 

「あらら〜」

 

「( ˙-˙ )」

 

拓海の気も知らずに伊織はまた何か千紗の気に触るようなことを言ったのか千紗に蹴飛ばされた

 

「もう本当最悪!」

 

「...」

 

「拓海!もう一回潜りに行こっ!」

 

「...」

 

さっきまでの気分がウソのように心が温かくなる拓海。こうやって何かに誘われるだけで気分がよくなる拓海は案外チョロいのかもしれない

 

「千紗」

 

「ど、どうしたの?」

 

「好きだ。ずっと、これからも」

 

「えっ!ちょっ!拓海!?」

 

いきなりの宣言に千紗は慌てふためくが拓海は気にせず千紗の手を引いて海に向かった

 

「あらあら。結局最後はこうなるのよね〜」

 

取り残された奈々華は少しだけ、ほんの少しだけさっきまでの心配した気持ちを返してほしいと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここいい!』

 

『宮古島かー』

 

いつだか愛菜と千紗が一緒にダイビングの雑誌を読んでいるときそんな声を拓海は聞いていた。そんなとき拓海はふと思った。もうすぐ夏。そして新入生も入ったし近々サークル合宿があるのではないかと予想した。まぁ合宿すること自体は既に時田と寿から梓経由で情報が入っていたが

 

そして拓海にはそれまでに1つやっておきたいことがあった。それにはお金が必要であるためこれまで以上にバイトのシフトを増やしていた。そのためGland Blueに顔を出すことも少なくなっていた

 

拓海がバイトに勤しんでる間になにやら伊織が野島達に酷い仕打ちをされたり例のテニサー、ティンカーベルとテニスのダブルスで勝負をしたりとイベントがあったようだが拓海はほとんど知らなかった。ティンベルとの勝負の中で千紗が辱められたようだが全員それを拓海に伝えることはしなかった。もし伝えていれば今頃ティンベルは壊滅していたかもしれない...

 

さて話を戻すが予定通りサークル合宿は行われるようだ。問題は場所とその費用だ。そこで先ほどの愛菜と千紗のやりとりである。前々から千紗は拓海の故郷である沖縄に行きたいと言っていた。拓海はこの機会に千紗に沖縄の魅力を伝えるために時田達に意見を具申した。しかもただの具申ではない。時田達が食いつきそうな情報もちゃんと付け加えていた。策士め

 

費用はというとティンベルとの試合で交通費はゲットしたとのこと。あとは泊まるところと個人の資金だが個人の資金に関してはそれぞれが考えるだろう。泊まる場所だがそれは拓海が責任を持って用意するとのことで時田達は拓海に任せている

 

「照りつける太陽」

 

「青い空。青い海」

 

「行くぜリゾラバ!」

 

「待ってろマーメイド」

 

「「沖縄にまっしぐらだー!!!」」

 

既に身も心も沖縄気分の伊織と耕平が海パンサングラス、浮き輪もつけていた。Ground Blueで。マーメイド...?

 

「お、いたいた」

 

「先輩」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いいバイトが見つかってな。お前達もどうかと思ってな」

 

「バイト?」

 

「なんでですか?」

 

「もちろん、合宿費用のためだ」

 

「あれ?テニスの賞金で」

 

「旅費はな。あとはみんな個人持ちだから」

 

「えっ!」

 

「そうなんですか!」

 

「で、バイトやるのか?やらないのか?」

 

今初めて金が必要なことを聞いた伊織と耕平はもちろん首を縦に振った

 

 

 

 

 

 

「今日は一体どうしたのよあんたら」

 

「おぉ、ちょっと金が必要でな」

 

「稼ごうと思うと難しいもんだな」

 

「合宿費用?」

 

「あれ?2人ともとっきーにバイト紹介されてなかった?」

 

「引越しのバイト、ですね...」

 

「昨日、やってきたんですけど...」

 

時田に誘われたのは引越しのバイトだった。しかし2人はバイト後に時田と飲みに言ってしまいその日のバイト代をほとんど使ってしまったのだ

 

「そりゃお店で飲んだらそうなるよ。それで今日とっきーは?」

 

「昨日使った分をまた稼いでくるそうで」

 

「2人もそうしたら?」

 

「あんなキツいの連続は無理だ」

 

絶賛筋肉痛の2人であった

 

「ところで今日寿先輩がいませんね」

 

「ぶっきーもバイトだってさ」

 

「バイト?」

 

「あの人が?」

 

「風俗の客引きか」

 

「蝶ダンサーという線もあるぞ」

 

「あんたらの寿先輩のイメージって...」

 

「あはは、そういうんじゃないよ。じゃあぶっきーのバイト先、行ってみる?」

 

梓の誘いに伊織と耕平は即了承。千紗と愛菜も興味が湧いて一緒について行くことに

 

そして時は過ぎ夜。とあるバーの店の前

 

「ここって...」

 

「ちーちゃんはよく知ってるんじゃない?」

 

「「「???」」」

 

千紗はその店構えをよく知っており、伊織と耕平、愛菜の3人は梓の言ってる意味がよくわからないでいる

 

「いらっしゃい、お?」

 

「やっほー。遊びにきたよ」

 

「おぉ!」

 

「先輩()ここでバイトを」

 

「すっごーい!ん?も?」

 

「バイトでたまに入ってるだけだがな。あいつはこのところ毎日入ってるみたいだが」

 

「みたいですね」

 

「ん?どういうこと?」

 

「どうした?お前ら」

 

「...」

 

『20万円になります』

 

「...」

 

『ハーイ!カモーン!ハーイ!カモーン!』

 

伊織は悪い顔をして高額請求を押し付ける寿を、耕平は仮面を被りお札をパンツに挟んで女性の前でクネクネ踊る寿をそれぞれ想像した

 

「どんな店想像してんの」

 

「普通のお店なんだけどね。ここ、ぼったくりどころか安い店だよ」

 

「ワンコインなんですね」

 

「マスターが学生でも楽しめる店をモットーにしてるからな。お、いらっしゃい」

 

「確かに若いお客さんが多いですね」

 

今入ってきたお客さんも若い女性が2人だ

 

「いらっしゃい、梓ちゃん」

 

「あーどうも、マスター」

 

「(^^)」

 

「あ、拓海」

 

「「「え?」」」

 

奥から出てきたのはこの店のマスターと寿と同じタキシード姿の拓海であった

 

「竜くんの後輩かい?」

 

「「「はい」」」

 

「ぶっきーのバイト先を見たいんだって。拓海が今日いるとは知らなかったけど」

 

「それで?見てみてどうだい?」

 

「寿先輩に関しては違和感しかないです」

 

「いつクビになるんですか?」

 

「ちょっと歯に衣着せなさいよ...」

 

「彼、お客さんから人気あるんだけどね」

 

マスターの目線の先には妖艶な女性を前に接客している寿の姿があった

 

「好きな人がいるんだけど、うまくいきそうもなくて...」

 

「ははっ、そう悩まずに勇気出して頑張れ」

 

「でも...」

 

「うまくいかなかったときは、俺が朝まで愚痴に付き合うからさ」

 

「えっ...」

 

酒と共に口説き文句を口にする寿。その寿をみる女性の頰はまだ酒も入っていないのに赤くなっている

 

「私、彼より竜くんの方が好きかも...」

 

「ん?」

 

「マスター。彼の頭にナイフを」

 

「俺からもフォークを」

 

「やめなさい」

 

「なにかおかしくなか!」

 

「どうしてあれだけで告られる!」

 

「もしかしたらバーテンという仕事はモテるんじゃないか?」

 

「あぁ。ジョブの補正としか思えん」

 

「そうかな〜」

 

「ぶっきーは天然でいいこと言うからね」

 

「ん?なら普段しゃべらない拓海はこの仕事ムリなんじゃ」

 

「確かに。あんな風に女性を口説けないじゃないか」

 

「拓海くんの場合は千紗ちゃんというれっきとした彼女がいるから口説く必要がないわけで。それを抜きにしても拓海くんの作るお酒は評判高いよ?」

 

「ちょっ、マスター...」

 

「「なるほど」」

 

マスターの暴露に千紗は照れを隠しきれない。一方拓海は照れ顔の千紗を目の保養にカウンターに入った

 

「それなら君らもやってみたらどうだい?」

 

マスターの提案により寿と拓海と同じ服に着替えた伊織と耕平。ドアを開けた瞬間のイケ顔はなんか腹たつ...

 

「へ、へぇ〜...」

 

「2人とも、似合ってるよ」

 

「どしたの?」

 

「いや、まぁ...」

 

「なんか、まぁ...」

 

「「はぁ...」」

 

「酒の席で服を着てるって」

 

「すごい違和感でさ」

 

「あーわかるわかる」

 

「全然わからないんですけど!?」

 

外で服を脱がないことがまだ頭に残っていてよかった

 

「さて、2人には梓ちゃん達の接客を頼むよ」

 

「「あ、はぁ...」」

 

「ま、気楽に気楽に」

 

「私達なら失敗しても大丈夫でしょ」

 

サークル内ならともかくこの2人にバーでの酒事情が理解できてるのか心配でままならない

 

「お、お前らもやるのか」

 

「「はい」」

 

「で、注文はどうする?」

 

「え!?ちょっと待ってください!」

 

よく来ている梓や千紗はともかく愛菜はまだバーは慣れていないのだろう。メニューを上から見ていく

 

「拓海〜、私に“キスミークイック”」

 

「(_ _)」

 

拓海は梓のオーダーを受け承った合図として少し頭を下げて作り出す

 

<キスミークイック>シェーカーにペルノ、キュラソー、アンゴスチュラ・ビターズを入れシェイク。それをコリンズ・グラスに注ぎソーダを注ぐ。ステアして完成。

※ステア:軽くかき混ぜることである

 

そして出来上がったものをカウンターをゆっくりスライドさせるように梓の目に置く

 

「( _ _)っ」

 

「確かに頼んだのはこれだけど〜。ちゃんと()()でもやってほしいな〜」

 

「(。´-д-)」

 

まぁいつものことである。“キスミークイック“。直訳すると”すぐにキスして“となる。拓海がいるときは必ずこの会話をしていると覚えがあるマスター。そしていつも梓は立って身を乗り出しあたかも今からキスするかのように目を瞑るのだった。それを見た拓海はため息を1つ。そして差し出された口にそっとカットしたライムをくっつける

 

「んもぅ〜いつまでじらすのよ〜。拓海も好きだね〜」

 

「( ´⌒`) =3」

 

「梓さん...さすがに怒りますよ...?」

 

「いや〜ごめんごめん。冗談だよ冗談」

 

「まったく。拓海、私はオススメで」

 

「(_ _)」

 

次は千紗のオーダー。梓の時と同じ行動をとった拓海は本日の千紗専用オススメを作り出す

 

<ベリーニ>フルート型シャンパングラスにピーチジュースをグラスの1/4入れてスパークリングワインを注ぐ。その後ステアで完成

 

そしてまた完成したものを梓のときと同じように千紗の前に差し出す

 

「( _ _)っ」

 

「ありがと」

 

千紗はできたカクテルをまず匂いを楽しみそっと口に注いだ

 

「美味しい...」

 

「よかったねちーちゃん」

 

「はい...」

 

「なるほど」

 

「我那覇やるな」

 

「今寿先輩が出しているのは“ジンライム”と言ったか?」

 

「あぁ!ジンとライムで“ジンライム”か。名前の通りだな」

 

<ジンライム>ロックグラスに氷を入れ、ジンとライムジュースを注ぎスネア。あとはカットしたライムを入れてもよし添えるだけでもよし

 

「よっし!私は“スクリュードライバー”で!」

 

「スクリュードライバーか」

 

「了解」

 

<スクリュー・ドライバー(伊織&耕平作)>ロックグラスに氷を入れ、ウォッカとプラスのドライバーを入れて完成

 

「ちょっと待て...」

 

「なにか?」

 

「明らかに違うじゃない!」

 

「だから言ったじゃないか!」

 

「スクリュードライバーって言ったらこれしかないだろ」

 

<スクリュー・ドライバー>グラスにウォッカとオレンジジュースを入れてスネアして完成

 

「2人とも私だからって遊んでない!?」

 

愛菜今にもドライバーを2人に投げつける寸前だ

 

「い、いや...」

 

「そんなことはないぞ...失礼しました。先ほどのは軽いジョークです。こちら、スクリュードライバーです」

 

「ありがと...」

 

<スクリュードライバー2(伊織&耕平作)>最初のとほぼ同じ。変わったのはプラスドライバーからマイナスドライバーになったとこのみ

 

それを見た愛菜はカウンターに乗り上げ出されたマイナスドライバーで2人を刺そうとする

 

「おい!違ったっぽいぞ!」

 

「だから精密ドライバーにしろとあれほど!」

 

そういう問題ではないと思う...

 

「やっぱり注文変える!この“モスコミュール”ってやつで!」

 

「モス...」

 

「コミュ...」

 

伊織と耕平の脳内では“モスコミュール”はMOSS(苔)+COMMUNITY(集団)らしい

 

「マリモ!」

 

「それだ!」

 

「なんの話!?」

 

<モスコミュール>グラスに氷を入れ、ウォッカ、ライムジュース、ジンジャエールを注ぐステア。最後にカットしたライムを添えて完成

 

「まじめにやりなさいよ!」

 

「まぁまぁ」

 

「何事も練習だ」

 

「おもしろい子達だね」

 

「でしょ〜?」

 

「知らないならこれで調べるといい」

 

「おぉ!」

 

「これがあれば怖いものなしだな!」

 

「できれば最初から渡しておいてほしかったです...」

 

マスターがカクテル作りの参考資料を2人に渡す。愛菜の言う通り普通は最初に見せるべきものである

 

「しかしカクテルの名前ってわかりにくいのが多いな」

 

「それはお前に想像力が足りないからだ」

 

「そうか?」

 

「俺なら名前だけで簡単にイメージできるぞ」

 

「じゃあこれは?“セックスオンザビーチ”」

 

<セックス・オン・ザ・ビーチ>氷を入れたコリンズ・グラスにウォッカ、メロン・リキュール、レモンジュース、クレーム・ド・フランボアーズ、パイナップルジュースを注いでステア。完成

 

「ムフフ...ンフフフフフフ...」

 

耕平が想像したのはムフフンな光景

 

「“チェリーブロッサム”」

 

<チェリーブロッサム>チェリーブランデー、ブランデー、レモンジュース、グラナデンシロップ、オレンジキュラソーをシェイカーに注いでシェイク。それをカクテルグラスに注いで完成

 

「...」

 

『童貞捨てるぜ』

 

耕平が想像したのは裸で口にバラを咥えた山本だった

 

「てんめ!なんてモンを想像させやがる!」

 

「お前が勝手に想像したんだろうが!」

 

「やめなさいよみっともない!こういうオシャレなところにもっとふさわしいやり取りがあるでしょ」

 

「おぉ?」

 

「例えば?」

 

「ほら、映画やドラマでよくあるじゃない」

 

愛菜が想像したオシャレな店でのワンシーン集・・・・・・・・・・無言でシェイカーをシェイクするシーン/『俺のおごりだ』のシーン/綺麗な夜景を外に『君の瞳に乾杯』のシーン

 

「ほぉ」

 

「なるほど」

 

「ま、あんたらには無理だろうけど」

 

「何を言う!」

 

「やってやろうじゃないか」

 

まずシェイカーをシェイクするシーンの耕平ver・・・・・・・・・結果、蓋を閉め忘れ中身全て伊織にかかる

 

次に『俺のおごりだ』のシーンの耕平&伊織ver・・・・・・・・・結果、途中でグラスが倒れ伊織の服にこぼす

 

最後に『君の瞳に乾杯』のシーンの耕平&伊織ver・・・・・・・・結果、伊織が耕平の目に酒を入れて耕平の目がすごいことに

 

「君の瞳()乾杯」

 

「私の綺麗なイメージ台無し!」

 

「人の目に酒を流し込むやつがあるか!」

 

「うるせぇ!人にボカボカ酒をぶちまけやがって!」

 

「あの2人、中がいいねぇ」

 

「あいつらいつも一緒にいますからね」

 

「へぇ〜どんな関係なんだい?」

 

「あの2人の関係?」

 

「そうですねぇ」

 

寿と梓は伊織と耕平のいつもの光景を思い浮かべる

 

「「裸の関係です」」

 

「はははは...またまた冗談だよね...?」

 

「いえ、本当です」

 

「本人に確認してみては?」

 

2人の発言に誤解(100%間違ってはいないが)をしてしまうマスター

 

「ウーロン茶でもどうだ?Peek a Boo特製だが」

 

「そのウーロン茶はいらない」

 

「じゃ、じゃあ僕がもらおうかな」

 

「「「あ...」」」

 

耕平が愛菜に出そうとしたPeek a Boo特製ウーロン茶(ウォッカ:9、ウィスキー:1分量の完全アルコール)をマスターが飲んでしまい、たちまち倒れた

 

「ありゃりゃ〜」

 

「マスター酒弱いんだな」

 

「あんなの飲んだらこうなるのが普通でしょ」

 

「参ったなぁ。マスターがこうなると起きないんだ」

 

「俺達バイトだけじゃ...」

 

「僕は酔っれらいぞ〜」

 

「どうっすかなぁ」

 

「(  '-' )ノ」

 

「ん?お前に任せてもいいのか?」

 

「( -_- )」

 

「わかった。なら頼む」

 

「(。 ー`ωー´) ☆」

 

「拓海、大丈夫なの?」

 

「(o´・ω-)b」

 

「ならいいけど」

 

酔って眠りこけたマスターに変わり閉店までは拓海が仕切ることになった

 

「いらっしゃい」

 

「「い、いらっしゃいませ」」

 

「(_ _)」

 

伊織と寿がマスターを奥の部屋で横にして戻ってきたのとほぼ同時に新しいお客さんが来店した。今回も若い女性が6名

 

「あ!今日は拓海くんいるんですね!」

 

「寿さんもいる!ラッキー!」

 

「おい耕平。あれって」

 

「あぁ間違いない。御手洗の元カノだ」

 

6名の中に1人伊織と耕平が見知った顔がいた。その女性は先日御手洗を殴り飛ばした(伊織達が原因)元彼女さんであった。もちろん拓海は一切知らない

 

「寿さーん。私ってなんで彼氏できないんですかね〜」

 

「ははは、焦る必要はないんじゃないか?」

 

寿は先程と同様酒を出しつつ女性を慰める

 

「拓海さん聞いてくださいよ〜」

 

「(・・。)?」

 

「私、彼氏と別れたんです」

 

「( ´ . _ . ` )」

 

「もう最低男でした...私というものがありながらAV200本も購入してて...それに私の体見られたのに浮気してて...しかも別れ際に言い訳と思って聞いてみたらなんて言ったと思います!?」

 

「( -_- )」

 

「”最後に友達紹介して“ですよ!?本当最悪!」

 

「(´-﹏-`;)」

 

「実は幼馴染だったんです...でもあんな男になってるとは思いませんでした...なんで私はあんな男と...」

 

「( ¯−¯ )」

 

実際は全て伊織や耕平達による陰謀であるのだが拓海がそれを知る由もない

 

『いちいち思い出してたらキリがないですよ?』

 

「拓海さん...」

 

拓海は作ったお酒と一緒に慰めの言葉を記したメモと共にそっと差し出した

 

『愚痴にも付き合いますけど折角のお酒の席なんです。楽しくいきましょ』

 

「...」

 

拓海の言葉(実際は字なのだが)に心がトキメクその女性は目をウルウルさせながら拓海の顔を見上げる

 

(なんだろ...顔が熱い...お酒のせい...?いやでも...)

 

私、拓海さんに惚れちゃいそう...

 

「?」

 

ボソッと呟いた彼女の言葉。それは1番近くにいる拓海の耳には届かなかったにも関わらず少し離れた千紗の耳には届いていた。その後のことは...ご想像にお任せします...

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 

本日も既に夕方。Ground Blueにはいつものメンバーが揃いテーブルにはさまざまな酒と料理が並んでいる。そんな中伊織が刺身と割り箸を持って千紗と愛菜に近づく

 

「2人とも、これどうだ?」

 

「お刺身?」

 

「伊織が捌いたの?」

 

「いや、捌いたのは拓海だが。味見してくれないか?」

 

「わかった」

 

「別に拓海が作ったものに疑うことないんだけど」

 

愛菜はともかく千紗は拓海のどうして作ったものを味見?と少し疑問を感じたが2人揃って伊織の持っている割り箸を受け取る。しかしそれが事の始まりとも知らずに...

 

「「ん?」」

 

「王様ゲーム!!!!」

 

『イェーーーーーーーーイ!!!!!!!!』

 

そう、王様ゲーム。飲み会などで定番のレクリエーションゲームの一種。 ランダムに決まった「王様」が出した命令(罰ゲーム)を、ランダムに決まった参加者が行うレクリエーションである。愛菜と千紗が取った割り箸は王様ゲーム用の番号が書かれたものであった

 

「せーの!」

 

『王様だーれだ!』

 

「はいストーップ!」

 

「どうしたケバ子」

 

「なぜ止めるケバ子」

 

「ケバ子言うな!」

 

「ダメだよ愛菜」

 

「クジを引いた者は参加しないとな」

 

「これは刺身に使えって渡されただけで」

 

「何を言うか」

 

「さっき北原が言ったことを思い出せ」

 

それを聞いて千紗と愛菜はさっきの伊織の言葉を思い出す

 

『これ、どうだ?』

 

確かに刺身に使えとは言っていない

 

「「刺身とは一度も言ってないよなぁ〜」」

 

「卑劣...」

 

「ということは、もしかして拓海もグル...?」

 

「いや、拓海はなんも知らない」

 

「ふぅ...」

 

拓海が絡んでいなくて少しホッとする千紗。しかしこいつらホントにゲス野郎共である

 

「まぁそんな嫌がらないで、ね?」

 

「一度やってみて嫌だったら辞めてもいいからさ」

 

「どうする?」

 

「はぁ...一度だけなら」

 

「あ、拓海は余りのこれな?」

 

「( ˙-˙ )?」

 

伊織は丁度キッチンから戻ってきた拓海に残ったクジを渡す。急なことで拓海はなにがなんだかわからない様子だ

 

「よっしゃ!そんじゃあ改めて!」

 

『王様だーれだ!』

 

「うふふ...私だね」

 

「では命令を」

 

「オッケー」

 

王様クジを引いた梓の前に耕平が命令を待つ騎士のように片膝をつく。しかし耕平がパンイチなのでどちらかといえば奴隷にしか見えない

 

「じゃあ私以外の全員は...」

 

「「...」」

 

どんな命令がくるのか固唾を飲んで待つ千紗と愛菜

 

「このゲームに最後まで付き合うこと」

 

((やられた...))

 

「どうしてそこまで参加させたがるんですか!?」

 

「どうしてだろうね〜」

 

「王様の命令は絶対なんですって、千紗ちゃん」

 

「お姉ちゃんまで」

 

(バカめ。その2人は既に買収済みよ)

 

あの奈々華が参加することに困惑する千紗と単純に参加を嫌がる愛菜を伊織が計画通りといったゲスい顔で眺めている。まぁ奈々華は千紗に、梓は奈々華と拓海にそれぞれイタズラできるから参加するのだが...

 

「じゃあ2回戦いくぞー!」

 

『王様だーれだ!』

 

「ありゃ、また私だ」

 

「連続ですか」

 

「引きが強いな」

 

「じゃあ命令はね...”1から8番の人が1枚脱ぐ“で」

 

『ふん!』

 

「脱ぐの早すぎるんですけど!」

 

伊織達の脱ぐ早さは既にギネス級である

 

「さぁさぁ、奈々華も脱いで脱いで♪」

 

「えっと...それじゃあ...」

 

「「おぉー!」」

 

奈々華が服をはだけさせ胸を揺らせながら下着が少し見えると伊織と耕平が興奮して息を荒げる

 

「ストーップ!」

 

「どうしたの?愛菜ちゃん」

 

「脱ぐにしても靴下で十分ですから!」

 

「「くっ!」」

 

「今回は見逃すけど」

 

「そっかそっか」

 

「今後そういうイヤらしい命令はNGですから」

 

「えー」

 

「「えー」」

 

「ま、仕方ないか。でも拓海は命令通り1枚脱いでもらうからね♪」

 

「っ!拓海も靴下で...あっ...」

 

隣に座っている拓海が脱ぐと聞いて慌てる千紗。拓海も靴下で済ますよう拓海の足元を見るが不幸なことに今日の拓海はサンダルであった

 

「ほら脱いだ脱いだ♪」

 

「(。´-д-)」

 

「〜っ!!!」

 

拓海は仕方なくTシャツを脱ぎその引き締まった体を露わにした。千紗はできるだけ見ないように試みるがいかんせん体は正直なもので、チラチラと横を見ては逸らしの繰り返しである

 

「んじゃ次!」

 

『王様だーれだ!』

 

「私です」

 

「「ん“〜」」

 

「命令はなんだ?」

 

「一応常識の範疇でな」

 

「わかりました。1から8番までの全員は...」

 

「「おう!」」

 

「次の飲み会で服を脱がないこと」

 

「オウサマノメイレイハ...」

 

「ゼッタイ...」

 

飲み会で服を脱がないなど時田達にとっては死活問題。案の定時田と寿は白目を向いて顔を歪めた

 

「服の着脱に関する命令は常識はずれだろ!」

 

「恥を知れ恥を!」

 

「常識のために脱ぐなって言ってんの!」

 

「まぁ仕方ない」

 

「前向きに善処する方向で見当しよう」

 

「約束ですからね」

 

「んじゃ次いくよ」

 

『王様だーれだ!』

 

「今度は私ね。じゃあね、3番の人が左隣の人に“お姉ちゃん大好き”って愛の告白をしてください」

 

「ほら、照れずに告白してこい」

 

「え?」

 

「3番てお前なんだろ?」

 

「違うけど」

 

3番が千紗だと勘違いした伊織。千紗が見せたのは2番のクジ。では3番は一体誰...

 

「ワタシデス...」

 

寿だった。伊織の右隣の...

 

「これはダメです!絶対トラウマになるやつです!」

 

「えっと...」

 

「伊織うるさい」

 

「王様の命令は絶対なんでしょ」

 

「いや...いや...」

 

「お姉ちゃん大好き!!!」

 

「い”や”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!!」

 

伊織、ご愁傷様です...安らかに眠れ...

 

「じゃあ次!」

 

『王様だーれだ!』

 

「あ、私だ」

 

「ちーちゃん命令は?」

 

「えっと...」

 

千紗はこのとき隣にいる拓海のクジの番号が見えていた。そして自分が王様を引いた瞬間頭の中で”天使の千紗“と”悪魔の千紗“の戦いが勃発した

 

『これはチャンスだ。拓海といくとこまでいっちまえ!』

 

『ダメです。考え直すのです。拓海もこんな大勢の前でなんて望んでいないはずです』

 

『この猫かぶりが!こういうときじゃなきゃいつするってんだ!』

 

『チャンスなどこれからいくらでもあります。初めてのものこそTPOを弁えるのです』

 

千紗の脳内戦争、所要時間わずか0.5秒

 

「...5番の人は、王様と手を繋ぐ...で...」

 

「そうか。5番は誰だ?」

 

「(・ω・)ノ」

 

「なーんだ拓海か。つまんなーい」

 

千紗と拓海が手を繋ぐなんて普通すぎて梓にはお気に召さなかったようだ。もしかしたら少し羨ましがっていてその裏返しの言葉かもしれない

 

「...」

 

「...」

 

別に手を繋ぐ時間が定められていたわけでもないのに手を繋いだままの2人。隣同士で座っていることもあるだろう。普通の繋ぎから恋人繋ぎに変わったとき驚いた千紗は拓海を見る。そんな千紗に拓海は優しく微笑みかけ、千紗は顔を真っ赤にして俯いてしまった。この狭い空間でそんな甘い空気を漂わせる2人を見て伊織と耕平は悔しさから持っている割り箸を折りかけそうになったとか

 

「それじゃあ次だ!」

 

『王様だーれだ!』

 

「ふふん、俺ですね」

 

「はっ!」

 

(やったぞ北原!)

 

(でかした耕平!あとは千紗が何番を引いたかだが、あの割り箸には細工をしてある。先端の長さが違うものが奇数でそうでないものが偶数。先端が丸まっているものが前半の数字で四角いのが後半の数字)

 

そこまでして...まぁイカサマもバレなければなんとやらというが...

 

(あの形状なら1番か3番。あとは2択だ!任せたぞ耕平!)

 

(オッケー)

 

「じゃあ耕平くん。命令をどうぞ」

 

「はい。俺の命令は今度王様に飲み会で友達を紹介するです」

 

『え?』

 

「何番の人が?」

 

「それは無論...4番です!」

 

「なんで4番なんだよこのバカ!」

 

「お前が4本指を立てたんだろ!」

 

「あれが1番と3番だ!」

 

「やっぱりまた何か企んでる...」

 

「はいはい、ケンカはそこまでね」

 

「はぁ...はぁ...やれやれ」

 

「作戦は失敗か」

 

「ちょっとは悪びれなさいよ」

 

「で?なにが目的だったの?」

 

「目的っていうと」

 

「話せば長くなるんだが」

 

「端的にまとめて」

 

「「金と女」」

 

「「最低」」

 

「それは誤解だ。俺達は合コンを組んだら金を受けとる約束で」

 

「これはいわば合宿費用を稼ぎサークル活動の一端で」

 

「はいはいそうですか」

 

「まったく、バイトでもして稼いだら?」

 

「取り付く島もねぇ。仕方ない。違う対策を考えるか」

 

「時間もないから急がないとな」

 

「「というわけで...拓海(我那覇)!女友達紹介してくれ!!!」」

 

「全然反省してないでしょ!」

 

その後、最後の命令を守るべく4番を引いていた時田の友達と一緒に飲み会に連行された伊織と耕平であった

 

「それにしてもちーちゃんと拓海はいつまで繋いでるの?」

 

「あっ...」

 

「忘れてたんだ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、伊織達5人はなんの偶然かGrand Blueへの道でばったり出会って共に歩いていた

 

「結局合宿のお金はなんとかなったの?」

 

「まだ足りなくてな」

 

「明日稼いでくるんだ」

 

「まともなバイトでしょうね...」

 

「梓さんの紹介でイベントスタッフをな」

 

「うわ、キツそう」

 

「俺もそう思ったがそれしかなかったんだ」

 

「金がなかったら一緒にどうだ?」

 

「飛び込み参加OKらしいぞ?」

 

「遠慮しとく」

 

「私も」

 

「((-ω-。)(。-ω-))」

 

「こんちわーっす」

 

「よう」

 

「5人一緒か」

 

「そこで偶然出会いまして」

 

Grand Blueには既に時田達がおり奈々華と梓はなにやら雑誌を広げて話していた

 

「”ダイコン“が安いんだよね〜」

 

「”大根“がいるんですか?」

 

「どうしようかと思ってね」

 

「もう1本欲しいんだけど予算オーバーで」

 

「じゃあ俺が買ってきますよ」

 

「え?」

 

「あー、それはちょっと...」

 

「そんな遠慮しなくても」

 

「そりゃあね...」

 

「そうね...」

 

「「結構高いし...」」

 

(俺どんだけ金がないと思われてるんだろう...)

 

「いやいや、いくら俺でも大根1本ぐらい買えますって」

 

「ん?」

 

「あー!あのね伊織くん...」

 

奈々華が何かを言いかけたところで梓が奈々華の口を手で抑えた

 

「ねぇちーちゃん。伊織がダイコン買ってくれたらどうする?」

 

「...じゅ、15分だけ.......15分だけ人間扱いしてあげてもいいです」

 

「だってさ伊織」

 

「(o´・ω-)b」

 

「むしろ今までなに扱いされてたか気になるところです。でも大根が欲しいなんてどうしたんです?」

 

「あはは」

 

「違うよ伊織くん。”大根“じゃなくて”ダイコン“の話をしてたの」

 

「ダイコン?」

 

「そ。ダイブコンピューターのこと。ちなみに値段はこれくら」

 

ダイブコンピューター:水深や潜水時間、水温など、安全にダイビングを行うために必要なデータをリアルタイムで表示してくれる、ダイバーにとって必要不可欠なアイテム

値段は30,000〜100,000ほど

 

「お前、これだけのものを買わせておいて...」

 

「最大限譲歩したつもりだけど」

 

「( ̄▽ ̄;)」

 

「んじゃ、全員揃ったし行くか!」

 

「そうだね」

 

「え?どこへです?」

 

「今日はダイビングの機材を見に行こうと思う」

 

ダイビングショップ到着

 

「「「おぉ!」」」

 

「随分いろいろな機材があるんだな〜」

 

「正直なにを見ていいのかわからん」

 

「なにか買っておくべきものはあるんだろうか」

 

「最初はレンタルで十分って言われたが」

 

「うん、私もそう言われた」

 

「おう」

 

「その通りだ」

 

「「最初はタオルだけあればいい」」

 

「「なるほど」」

 

「水着は...?」

 

「自分のものを買うなら最初はマスクがオススメだ」

 

「どうしてです?」

 

「まぁ比較的購入しやすい値段というのもあるが」

 

「なによりダイビングの目的は海の中を見ることだからな」

 

「自分に合わないマスクで見ずらかったら嫌だろう?」

 

「確かに」

 

「他にはダイコンから揃えるべきという考え方もある」

 

「自分用の安全機材を持って減圧症などのリスクを減らそうという考えだな」

 

「俺達これまでダイコンなんてつけてないんですが...」

 

「大丈夫だったんですか...?」

 

「それは心配無用だ」

 

「危険な深さまで潜らせていないからな」

 

「それにそういったことがないようにインストラクターが目を光らせている」

 

「ある程度の深さまで潜ったりインストラクターから離れて動き回るダイバーのために必要な機材ってわけだ」

 

「あ、これはなんですか?」

 

「“カレントフック”だ。文字通り引っ掛けて使う」

 

「これは?」

 

「“フロート”だ。中にエアーを入れて膨らませて使う」

 

「「なるほど」」

 

さて、ここで2人はそのアイテムの使い方をどう想像したのでしょう

 

「海の中って怖いな」

 

「まったくだ」

 

(あの顔、絶対バカなこと考えてる)

 

愛菜の考えは的を得ていた

 

「それじゃあゆっくり見て回っていいぞ」

 

「わからないことがあったら声をかけてくれ」

 

「「うーっす」」

 

「はーい」

 

伊織、耕平、愛菜の3人は初めてのダイビングショップを楽しんでいた。ほとんどのものが初めて目にするものばかりで興味を全てに興味をそそられていた

 

「なにを見てるんです?」

 

「ちょっと珍しいカメラだよ」

 

「こういう形で撮影できるんだって」

 

千紗と梓が目を惹かれていたのは海中の底に置いて360度全方向を撮影出来るカメラだ

 

「確かにこれは珍しいな!」

 

「おもしろいよね!」

 

「はっ!伊織伊織」

 

「ん?」

 

「早く!」

 

「他にはこんなのも」

 

「これは?」

 

「水中で会話ができる機会みたいよ?」

 

「マジですか!?」

 

「骨伝導で音を拾うんだって」

 

「現代科学ってすげぇ!」

 

「ただ会話には少しコツがいるみたい」

 

「本当だ。事前に使う単語を打ち合わせて置くとGOODか」

 

「レギュを咥えてると発音しにくいもんね」

 

「すみません、ちょっと質問が」

 

「どうしたの?」

 

「レギュレーターはどうやって選べばいいですか?」

 

「え?レギュ?」

 

「まだレンタルでいいと思うけど」

 

「い、いやぁでも...か...」

 

「「か?」」

 

「関節キスになっちゃうし...」

 

「このサークルにいてまだそんなことを考えてるのか」

 

「考えたこともなかった」

 

「大丈夫だよ。関節キスとは違うから」

 

「そうですか?」

 

「ほら、マウスピースを咥えるときを思い出してみてよ」

 

「確かに関節キスとは違いますね」

 

「そうそう。だからどっちかっていうと歯ブラシを共有してる感じだよ」

 

「もっと嫌!」

 

「で、実際はどうなんだ?」

 

「ウチでは毎日消毒してるかな」

 

「もし気になるなら1度直接しちゃうのが手だけど」

 

「実は俺、関節キス気になってたんです」

 

「最低...」

 

「クズ...」

 

「あんなのほっといて向こう行ってみよ」

 

「確かに水着、新調してもいいかな」

 

「俺、そんなに酷い発言しましたかね」

 

「どうだろうね」

 

伊織にとっては大したことなくとも千紗と愛菜にとっては大したことある発言だったのであろう

 

「そういえば古手川さん」

 

「千紗でいいよ」

 

「じゃあ私も愛菜で。それでちょっと聞きたいんだけど...」

 

「なに?」

 

「...伊織って彼女いるのかな......?」

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

少しの間

 

からの千紗の言葉では表しずらい歪んだ顔

 

「うん、その顔だけで十分わかった」

 

「そもそも...」

 

「お客様!?」

 

「ん?」

 

「着替えは試着室でお願いします!」

 

「しまった。いつものクセで」

 

「こら、通路で着替えるな伊織」

 

「脱いだ服が邪魔になるだろう」

 

「そういう問題ではありませんが!?」

 

「あんなのに彼女できると思う?」

 

「確かに...」

 

本人の知らない間に酷い言われよう...いやそうでもないか

 

「ところで耕平はどうした?」

 

「そういえば見ないな」

 

「ちょっと探してきます」

 

おいっ!その格好でか!?はっ、よかった。ちゃんと服は着たようだ

 

伊織が耕平を探すべく店内を捜索しているとその耕平はSALE品売り場の前で地面に膝をついていた。耕平の前にあったのはなんとかの有名なアニメで巨大な汎用人型決戦兵器に乗って謎の生命体と戦い人類を守る少女達が着ていたスーツのそれではないか!

 

「なにやってんだお前」

 

「北原!お前もここへ導かれたのか!?」

 

「いやお前を探してただけだが。ウェットスーツが欲しいのか?」

 

「買う気はなかったがこれは気になっている!」

 

「確かに珍しいデザインだが」

 

「うぉーーーーん????」

 

「なんだよその目は」

 

「北原...まさかお前はこのアニメを知らないのか...?」

 

「これしかサイズないんじゃ試着はムリだな」

 

「いやこれは俺が着なくていいんだ!」

 

「ん?あぁなるほど。着られるやつに感想を頼めばいいのか」

 

「いやそういう意味じゃ...」

 

「おーい」

 

耕平の説明を聞かず千紗と愛菜にそれぞれ赤と白のスーツの着用をお願いする伊織

 

「うん、着心地いいと思う」

 

「ただジッパーがないものだから好みが別れるかも」

 

「だとさ耕平」

 

「は”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!!!!!!!!!!!」

 

スーツを着終わって出てきた2人を見た耕平は大声量で奇声を発し倒れた

 

「今日だけはお前を心の友と呼んでもいい!」

 

「突然なんだ気色悪い...」

 

「「?」」

 

なにがなにやらわからない千紗と愛菜は揃って疑問の表情を浮かべる

 

「それであれはどうするんだ?」

 

「今はムリだがいずれ必ず!」

 

「そもそもあれレディースだったんだけど」

 

「どうだ?お前ら」

 

「なにか欲しいものはあったか?」

 

「いろいろあって目移りするんですが」

 

「とりあえずオススメ通りマスクにしようかと」

 

「愛菜は?」

 

「私もマスクにします」

 

3人は揃ってマスクを購入するようだ。水中マスクと言ってもいろんな種類がある。視界が広く空間が広いためダイバーの表情が認識しやすいという特徴がある一眼レンズタイプ。マスククリアがしやすい二眼レンズタイプ。

 

※マスククリア・・・ダイビング中にマスクの中に入った海水を水中でマスクの外に出すダイビングスキル

 

マスクを装着したときに実際に顔に当たる部分で柔らかさやフィット感を左右するスカートという部分にも種類がありそれぞれ用途が違ってくる。よってマスクはダイビングするにあたって視力の悪い人にとってのメガネぐらい重要なものである

 

「なぁ千紗、マスクの選び方って...」

 

寿や時田に意見を求める耕平や愛菜と同じように伊織もマスクの選び方について千紗に助言を求めようとしたが千紗は手になにかを持って真剣な表情で考え詰めていた

 

「千紗?」

 

「ちーちゃんてばカワイイよねー♪青春!青春よ!」

 

「なんの話です?」

 

「いや〜一生懸命カメラを選んでるのがかわいくってね」

 

「記念に写真を撮りたいってだけでは?」

 

「だからよ。きっと、同年代で一緒に潜れるの仲間ができて嬉しいんだろうね」

 

「あいつ、よっぽどダイビングが好きなんですね」

 

「そうだね」

 

手に持ったカメラを見ながら微笑んでいる千紗を見た伊織は声をかけるのをやめ、寿に教わっている耕平と合流した

 

一方千紗は悩んで悩んで悩み抜いて買うと決断したカメラを持ってレジへ向かおうとする。が、肩を掴まれて止められた

 

「拓海?」

 

「(*´-ω・)」

 

「これ?思い切って買おうかと思って」

 

「((-ω-。)(。-ω-))」

 

「なんで?」

 

旅費

 

「あ...」

 

千紗はもの選びに夢中で旅費が自身持ちだってことをすっかり忘れていた。このカメラを買ってしまうと所持金が大幅に減ってしまう。誰かに借りる。拓海なら喜んで貸しそうだが千紗の性格上それは絶対ありえない。千紗は悔しさと悲しさをグッと堪えてカメラを元の場所に戻した

 

「そうだ、みんなにも伝えないと」

 

「( ´-ω-)σ」

 

拓海が指差す方では既に会計を済ませている面々が目に入った

 

「みんな大丈夫かな」

 

「(;´Д`)」

 

「そだね。ありがと拓海。教えてくれて」

 

「(。・`ω・´)☆」

 

そういう千紗の顔は悲しみに溢れていた。ムリもない。さっきまで考えていたことが全て水の泡になったのだから。拓海はそんな千紗の悲しそうな背中を見送ってから何か買うのかレジに向かった

 

すっかり日も落ちた時間に全員揃ってGrand Blueに戻ってきた

 

『ただいま〜』

 

「おかえりなさい。いっぱい買ってきたのね」

 

「はい。俺達はマスクを」

 

出迎えてくれた奈々華に買ってきたマスクを見せる初心者3人

 

「あらあら頑張ったのね」

 

「ん?」

 

「頑張った?」

 

「ただ買い物をしてきただけですが」

 

「ううんそうじゃなくて、沖縄に行くお金もかかるのにさらに機材まで買っちゃうなんて」

 

「「「あ...」」」

 

奈々華の爆弾発言により自分の過ちを認識してしまった3人は床を転げ回ってさっきまでの自分を恨んだ。そんな3人の横ではソファに座って天井を見上げる千紗。お金は使わなくてすんだがそれ以上にカメラのことを考えている様子

 

そんな空間を拓海は先程買ったものの袋を片手に1人抜け出して千紗の部屋へ向かった。しかし千紗の部屋に入ることはせずに手に持っていた袋をドアノブにかけて戻っていった

 

「あら、拓海くんおかえり?」

 

「m(*_ _)m」

 

奈々華の問いに頷くだけして拓海は千紗に近づいて顔の前で手を振った

 

「ヾ(・ω・`)」

 

「あ、うん。またね拓海」

 

本来なら見送るはずの千紗がこの状態。仕方なしに拓海は踵を返して店を出た

 

「はぁ...お姉ちゃん、私部屋に行くね」

 

「はーい」

 

こんな日はすぐに寝てしまおう。そう思って自室に戻ろうとする千紗。しかしみなさんおわかりのように千紗の部屋のドアには拓海の置き土産があるのでした

 

「なにこれ」

 

千紗は躊躇なく袋の中に手を入れて中のものを取り出した。それはキレイにラッピングされており丁度千紗の両手に収まるほどの箱であった。千紗はラッピングを丁寧に取って中の箱を開けてみた

 

「これっ...拓海!」

 

千紗は中を確認し入っていた1枚のメモを読んだ。そこには・・・

 

『遅くなってごめん

 

誕生日おめでとう

 

これでたくさん思い出撮ってこ』

 

と記されていた。それを見た瞬間千紗は店を飛び出して拓海を追いかけた

 

「拓海!」

 

「?」

 

そしてまだ遠くまで行っていなかった拓海に勢いよく抱きついた

 

「ありがとう!ありがとう!」

 

「(´ー`)」

 

千紗は涙を流し拓海に感謝の言葉を言い続ける。拓海は千紗が贈ったものを持っていることを確認して喜んでくれていることに嬉しさを感じた。そして優しく千紗の頭を撫でる(実は千紗の頭がいいとこに当たって少し痛いのを我慢してるのは秘密)

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

 

「(。-`ω´-)」

 

「でもこれ、拓海、お金は...」

 

「...」

 

千紗の嬉しさはやがて心配になるも拓海は首を横に振る。そして千紗の持っているものからさっき千紗が見たメモを取って笑顔でそれを千紗に見せる

 

「うん...私も拓海とたくさん思い出の”写真“撮りたい...」

 

ウルウルとした瞳で拓海を見上げる千紗。それを優しい眼差しで見つめる拓海。2人はお互いの唇を重ねた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10

 

各々様々な期待を胸にいよいよ沖縄合宿へ

 

「さぁーてお前ら!沖縄に到着だ!」

 

『イェーーーーイ!!!!!』

 

「暑ーい!沖縄って感じ!」

 

「愛菜、注目されてる」

 

「あ、ごめん。でも多分...あっちよりはマシなんじゃないかな...」

 

「あっちはもう他人だから」

 

沖縄に来たと実感する愛菜は大はしゃぎ。しかしそれ以上に伊織達は既に酒を片手にパンイチで騒いでいる。そのためなのか周りには人の目が集まっていた

 

「にぃに!」

 

伊織達とは他人のフリをしていた千紗達と一緒にいた拓海の元へ1人の少女が飛び込んできた。拓海はその子を受けとめる

 

「久しぶりだゾ!にぃに!」

 

「ただいま、響」

 

『っ!』

 

「どうしたのみんな?」

 

はしゃいでたはずの愛菜とバカ騒ぎしていた連中が突然黙り出した。梓や奈々華までもが驚いた表情をしている。いきなりどんちゃん騒ぎがなくなったことに驚いた千紗

 

『拓海(拓海くん)(我那覇)が喋ったーーーー!!!!』

 

「うぉっ!びっくりしたゾ!」

 

「( ̄▽ ̄;)」

 

なんの予兆もなしに拓海が喋ったことに目を見開くほど驚いた伊織達。そんな伊織達を前にしても拓海は平常に響という少女の頭をポンポンと軽く叩く

 

「ハイサイ!にぃにの妹の我那覇響(がなは ひびき)です!」

 

「妹?」

 

「我那覇が...リア充のくせにリアル妹だとー!?しかもにぃにと呼ばれているー!?」

 

「へぇ〜。拓海にこんなカワイイ妹ちゃんがいたなんてね」

 

「我那覇...響ちゃん...あー!!!!」

 

「ど、どうしたの愛菜...?」

 

響の顔をよく見て何かを思い出したのか大声を上げる愛菜

 

「千紗知らないの!?我那覇響ちゃんといえば今ノリに乗ってる超有名アイドルだよ!!!」

 

「そ、そうなんだ」

 

「ほぅ」

 

「拓海の妹がアイドルか。沖縄に来て早々驚くことばかりだな」

 

興奮気味の愛菜はスマホで写真を見せながら響について説明する。それを聞いている千紗はちょっと引き気味だ

 

「おとんとおかんは?」

 

「車で待ってるゾ!」

 

響はそう言って拓海の手を引っ張って連れていこうとする。一同は慌ててそれを追っかける

 

「お、来たか」

 

「おかえり拓海」

 

「ただいま、おとんおかん」

 

響の後をついていった一行はマイクロバスが停まっているところに辿り着いた。バスの横では拓海の両親が待っていた

 

「みなさんようこそ」

 

「息子がいつもお世話になってます。ささ、荷物を載せて出発しましょ」

 

『よろしくお願いします!』

 

沖縄合宿にて拓海が用意した宿泊場所は拓海の実家の民宿であった。民宿と言っても実際は拓海の家に泊まらせてもらえるわけなので実質タダで宿泊できるのだ。しかも目の前はすぐ海になっているため絶景である

 

全員荷物をバスに積み込み出発!

 

寿時

梓奈 耕

千愛 伊 ←バス内

響拓 母

 

 

「遠かったでしょ」

 

「いえ。飛行機の中では寝てましたから」

 

「2時間ほどが一瞬んで着きましたね」

 

「それならよかった」

 

拓海の母は全員が見えるように体を後ろに向かせて話しかける

 

「響はよく休めたな」

 

「プロデューサーにお願いしたら時間調整してくれたんだゾ!」

 

「そっか。よかったな」

 

拓海はというと隣に座った(実際は響に強制的に隣に座らされたが正解)響と兄妹睦まじく会話を楽しんでいる

 

「拓海が喋っとる...」

 

「明日は天変地異でも起こるのか...」

 

「2人とも失礼すぎでしょ...」

 

「でも確かに驚きよね」

 

「そうね。たまに話してくれるけど会話ではなかったから」

 

バスが出発したと同時に腕を組んだまま即眠りに就いた時田と寿以外は拓海が普通に会話していることに驚きを隠せなかった。千紗だけはちょっと違う思いだったが

 

空港から1時間もしないうちに目的地に到着し、各々荷物を案内された部屋に運んだ

 

「さてお前ら。ここが今日から3泊させてもらうところだ」

 

「沖縄って感じ!」

 

「それさっきも聞いたよ愛菜」

 

「食事も拓海のお母さんが作ってくれると言ってくれたんだが、さすがにそこまでしてもらうわけにはいかないので自炊だ」

 

「目の前が海だぞ北原!」

 

「本当か!」

 

「はっはっは!そう慌てるな」

 

目にする全部に興奮を抑えられない伊織達。千紗でさえ既に海を見に外に出て行った

 

拓海が用意してくれた部屋は3人部屋を3部屋とみんあが集まれる大きめの和室部屋だ。梓と奈々華、千紗と愛菜がそれぞれ同じ部屋で寝ることは決まったのだが男ども4人が1つの部屋で寝ることは困難であった。ただでさえ時田と寿の体格は常人離れしているため狭い

 

『う〜ん』

 

「ちょっと窮屈ですね」

 

「3人部屋に4人だからな」

 

「狭いのは仕方ないな」

 

「先輩達が体格良すぎるのもあるんですけどね」

 

「こうなったら俺か北原のどちらかが床で外で寝るしかないな」

 

「いいのか?」

 

「物理的に仕方ないでしょう」

 

「すまんな〜。とりあえず決めるのは後にして...」

 

『なにはなくともまずは海だー!!!』

 

もう彼らの脱ぐスピードギネスに載ってもおかしくないレベル...

 

「ムフ...ムフフフ...」

 

「すごく楽しそうだね」

 

「そりゃもちろん!」

 

「確かにいいよね」

 

千紗と愛菜も部屋で海に出る準備をしていた。愛菜はこの日のために買ったハットをかぶって鏡の前でそれチェックしながら楽しそうな笑顔を見せていた

 

『おーい!先に海に行ってるぞ!』

 

「「はーい」」

 

時田の呼びかけに2人は返事して水着の上にラッシュガードを羽織って海へ出た

 

「お待たせしました!」

 

「おう!」

 

「早く来いよ!」

 

(はぁ、幸せ。これが私の青春の1ページ。心のアルバムを飾る大切な思い出)

 

愛菜よ。これがお主のアルバムに飾られてよいのか...?周りの男子、全員全裸だぞ...

 

「私のアルバムモザイクだらけ...!」

 

「いや〜、貸切は気兼ねしなくていいな」

 

「まったくですね〜」

 

「移動しましょう」

 

「なぜだ?」

 

「ここなら人がいなくて自由な格好でいられるだろ」

 

「その格好がおかしいからです!」

 

「一応ここは貸切ではないそうよ。今はたまたま人がいないだけであって公共らしいから節操は守ってね」

 

『は〜い』

 

奈々華からの注意でようやく水着を装着した面々。そこへ海の方からボートを引っ張る水上スキーが近づいてきた。操縦していつのは拓海、そしてその後ろで妹の響が拓海にしがみついている

 

「拓海、そんなのも運転できたんだ」

 

「(o´・ω-)b」

 

「しかもなんだ?バナナボートじゃないのか」

 

「3人で乗ってきたらどうだ」

 

「あぁいや俺は...」

 

「せっかくだ乗ろうぜ北原!」

 

「だから俺は...」

 

「で、そいつで今夜の寝床を決める、なんてどうだ。先に振り落とされた方が負けだ」

 

「はぁ?」

 

「無論、お前が怖いというなら仕方ないがな」

 

「言ってくれるじゃねぇか...上等!その勝負ノってやる!」

 

「いいの伊織?下手したすると水の中だけど」

 

「大丈夫だ。救命胴衣も用意してくれるみたいだし、作戦もある」

 

「作戦?」

 

「それに、いつまでも水を怖がってなんかいられないからな」

 

こんな具合に楽しんでもらえるように拓海が持ってきたものはいつの間にやら伊織と耕平の勝負事の題材となってしまった。そしてそれに付き合わされる千紗。拓海としても水上スキーを運転できるのが自分だけとわかってはいつつもなぜ千紗が伊織達と一緒にという気持ちはあるわけで。拓海も密かにいかに千紗だけを残して2人を落とせるか思考を巡らせていたとかなんとか

 

「ところでこれって実際に振り落とされることってあるの?」

 

「((-д-三-д-))」

 

「それなら勝負はつかないかもな〜」

 

「だな〜」

 

「ま、それならそれで」

 

「気持ちよーくマリンスポーツを楽しもうぜ」

 

「取手にしっかり掴まっとけ」

 

「「あ、また喋った」」

 

さすがに注意事項は伝えるでしょ。まぁ注意したところで伊織と耕平の目的はお互い相手を落とすことだからあまり意味はないのだけど

 

「「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「なんて卑劣な野郎なんだお前は!」

 

「てめぇこそよくこんなゲスなこと思いつくな!」

 

「2人とも同じことやってんだけど...」

 

2人が用意したのは相手の手元にサンオイルを垂らして滑りをよくして落とさせる作戦らしい。しかし2人共同じ作戦を実行したにも関わらず自分のことは棚に上げて相手を非難。千紗の言うこともごもっともである。そして2人が言い合いをしてるうちに拓海はエンジンをかけ急発進する

 

「「うわぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

思いのほかスピードが出ている。それに加えて伊織と耕平はお互いにサンオイルを垂らされて滑りやすくなっている。よって支えられるのは足のみ。せっかくの娯楽が過酷な訓練のようになってしまった

 

「どうした耕平!顔が引きつってるぜ!」

 

「お前こそ水が怖くてビビってるんじゃないのか!?なんなら片手で勝負してやるか!」

 

「上等じゃねぇか!」

 

2人が取手にから手を話したと同時にさらに加速

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「ばーか」

 

そんなおバカ2人を乗せて水上を走るボートを砂浜から愛菜が羨ましそうに見ていた

 

「いーなー、青春っぽい」

 

愛菜からの視点では送風に見えているのか。しかし現実はその真逆だぞ

 

(イケる!足で踏ん張ればなんとか!しかしそれはヤツとて同じこと。あの足をなんとかしなければ!)

 

「向こうに声優の水樹カヤが!」

 

「向こうにAV女優が!」

 

「「なにぃぃぃぃぃ!!!!」」

 

「「あっ」」

 

お互いがお互いに注意を逸らさせて足元にサンオイルを垂らした。まぁ結果は分かる通り唯一踏ん張りの利いていた足元が滑りやすくなったため2人同時にボートから落ちた

 

「落ちたな」

 

「ありゃまぁ」

 

「だらしないヤツらだ」

 

その光景を見ていた時田達は心配ではなく呆れているのもちょっと違う気がする

 

「この卑怯者!」

 

「お前がな!」

 

「2人ともね」

 

海から上がった伊織と耕平は案の定ケンカを始め、そのやりとりを見た千紗は呆れかえっている

 

「ねぇねぇ楽しかった?」

 

「私は楽しかったけど」

 

「いーなー、私も青春したい」

 

「それならお前も乗るか?」

 

「えっ!いいの?」

 

愛菜はこのときよやく青春を送れると思ったのだろうがその希望はすぐに崩れ去った

 

「「「......」」」

 

「次、右に曲がるぞ」

 

「おう」

 

(すっごい安定感...!)

 

「どうした愛菜?」

 

「海水が目に入ったか?」

 

そう。愛菜と一緒にボートに乗ったのは時田と寿で2人は取手にも捕まらず腕を組んであぐらをかきながら乗っていたのだ。そして2人は次にどっちに方向転換するか瞬時に判断しその方向に体を預けることでボートの揺れを最小限まで抑えていた。そのためボートはほとんど揺れることはなく愛菜が思っていたシチュエーションとは違っていた

 

その後各々自由に遊んだり拓海の運転する水上スキー後ろを千紗と梓が取り合ったりと楽しい時間を過ごしてから昼休憩をとった。拓海と響が持ってきたパラソルの下にブルーシートを引き、拓海のお母さん手製の沖縄料理を全員美味しくいただいた

 

「なぁ拓海」

 

「?」

 

「あれって俺達も使っていいのか?」

 

ふいに伊織が指差した先には砂浜に設置されているバレーボールのコートとネットだった

 

「懐かしいな」

 

「え?」

 

「一応使っても大丈夫だゾ!」

 

「そっか。耕平、あれでリベンジマッチといかないか?」

 

「ふん、負け惜しみが」

 

「いいんだぜ、負けるのが怖いって言うなら仕方ない」

 

「...いいだろう!その勝負受けて立つ!審判を頼むケバ子!」

 

「えっ!私!?」

 

さっきも思ったがそんな安い挑発に乗るなよ

 

「それじゃあ俺らが相手してやるか」

 

「お、いいな」

 

伊織と耕平に続いて時田と寿もコートの方に向かって歩き出した

 

「伊織達、大丈夫かな...」

 

「まぁとっきーもぶっきーもさすがに手加減するんじゃない?」

 

「それならいいんんですが...」

 

時田と寿は以前ティンベルとのテニスの試合で打った球がワイヤーネットを凹ませたとか。そんなパワーを持ってる人が素手で打った球をまともに受けられるわけなかろうに

 

「うわー珍しい!しかもなにあの筋肉。ボディビルダー?」

 

「ちょっクレア!失礼でしょ!」

 

「あの人達コート使うのかな?」

 

「えー!ってことは今日の練習なし!?」

 

「なら早く室内に行きましょう!焼けちゃいます!」

 

今にも試合が始まりそうな雰囲気の中、石垣の上から女の子の声が複数する。こっちからはパラソルのせいで見えないが練習と言っていたので学生だろうか

 

「あ、かなただゾ!それにクレアとエミリ!」

 

ひょいっと顔だけパラソルから出してその声の主を確認すると響の知り合いだったのか飛び出して階段を駆け上がった

 

「おっ響じゃん!」

 

「響ちゃん!」

 

「あら帰ってたのね」

 

「久しぶりだゾ!」

 

「なんだよ帰ってんなら連絡くらいしろよな」

 

「えへへ、それはごめんだゾ」

 

「え、えっと...みんなのお知り合い?」

 

「あ、そっか。遥は初対面か」

 

「あ、ああああああなたは!!!!」

 

「あかり?あー、あかりは知っててもおかしくないか」

 

なにやら楽しそうな会話を続けるメンツ

 

「拓海?」

 

「オレもちょっと行ってくる」

 

そしてそのメンツの響が呼んだ何人かの名前に心当たりがある拓海もその場に近づいていった

 

「あれ、兄さんも帰ってきてたのか!」

 

「え、うそっ!兄さん!?」

 

「拓海くん、久しぶり」

 

「(・ω・)ノ」

 

「兄さん?クレア達ってお兄さんもいたの?」

 

「あー違う違う。本当の兄さんってわけじゃないんだ。ただ昔からお世話になってて、そのときから兄さんって呼ばせてもらってるだけ」

 

「へー、そうなんだ」

 

拓海と響の顔見知りの3人。比嘉(ひが)かなた、トーマス・紅愛(くれあ)、トーマス・恵美理(えみり)は響との再会も嬉しがっていたが拓海との再会にはもっと嬉しがっているようだ。しかしエミリだけは一瞬バツが悪そうな表情をしたようにも見える

 

「初めまして!東京からこっちに引っ越してきました大空遥(おおぞらはるか)です!」

 

「お、大城(おおしろ)あかりと言います!大先輩で憧れの人でもある響さんとよもや出会えるなんて感激です!」

 

「それはよかったゾ!自分は我那覇響。それで自分のにぃにの拓海にぃにだゾ!」

 

「な〜に拓海。またカワイイ子侍らせてるの〜?」

 

「そんなこと言ったらダメよ梓」

 

「拓海と響ちゃんの知り合いだったんだ」

 

後から来た千紗達も自己紹介をした。しかし9人もの美人な人達に囲まれるなんて......なんて羨ましい!!!

 

「そうなんですか〜。相変わらず兄さんは話さないんですね」

 

「そうなのよ〜」

 

「でももう慣れちゃったけどね」

 

話は拓海が全然声を発しないという話題になり梓とクレアが頻りにそのことについて話している。それを傍らで聞いていたエミリは拓海の前で拓海の顔を見上げて

 

「兄さん...ごめんなさい。私のせいで...」

 

「( ¯ω¯ )」

 

暗い表情で見上げるエミリの頭を優しく撫でる拓海

 

「どういうことです?」

 

「ん〜。ここではちょっと。そうだ兄さん!」

 

「?」

 

「はるかとあかりが新しくビーチバレー始めたんだよね!ちょっとエミリと一緒に見てやってくれない?」

 

「( ・∀・)」

 

「え!?待ってください!私はまだ響さんからもっとお話を!」

 

「それなら自分も手伝うゾ!」

 

「よろしく〜」

 

クレアのお願いではるか、あかり、エミリ、拓海、響は砂浜へ降りていった。そして残ったクレア、かなた、千紗、梓、奈々華のも階段を降りてパラソルの下に腰を下ろした

 

 

 

 

 

 

『うぉーりゃぁぁぁぁ!!!!!!』

 

『ちょっと先輩!シャレにならないですって!!!』

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあお話しますね」

 

「ちょっと待って」

 

「はい?」

 

「確かにさっきエミリさんが謝ったのか理由は知りたいけど、それは拓海のいないところで話してもいいことなの?」

 

「大丈夫だそうです。さっき確認とりましたから」

 

「そうなの?それにどうやって」

 

「まぁアイコンタクトでですかね?」

 

「あ〜、なんか納得したわ」

 

「...」

 

「千紗ちゃん」

 

「わかった。聞かせて」

 

千紗の了承も得たとこでクレアが話し始める

 

「みなさんはなんで兄さんが滅多に話さなくなったかご存知ですか?」

 

「えぇ」

 

「一応」

 

「なんでも昔にある子を泣かせちゃったとか」

 

「はい。それがエミリなんです」

 

「「「......」」」

 

「私達が小学生のときにクレアとエミリがこっちにきてビーチバレーを通して仲良くなったんです」

 

「それでかなたと家が隣同士だった兄さんとも知り合ったんです」

 

「そのとき拓海くんはもう中学生で声変わりもしちゃってて。それともう顔立ちも今の感じになっちゃってて」

 

「なるほどね〜。それで拓海の顔と声でエミリちゃんが泣いちゃったと」

 

「はい...昔からビビりなとこがあったので」

 

「でもそれだけなら拓海もここまでなることないんじゃ?」

 

「噂が立っちゃったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おらぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「当時クレアとエミリは人気者でした。元気で活発なクレアと真面目で優しいエミリ。それにハーフで金髪。学校で知らない人がいないくらい」

 

「まぁ小学生の噂だったんですぐになくなったんですけど、それから兄さんは話さなくなって、話すときも小声になりました」

 

「そうだったの」

 

「でも兄さんは私達を拒絶しないでくれました。遊んでくれてお菓子くれて勉強も見れくれた」

 

「クレアは特に拓海くんに懐いてたよね」

 

「ま、拓海ならそうなるのは当然よね〜」

 

「本当に優しい兄さんで。大会はいつも応援に来てくれて、勝ったら褒めてくれて負けたら慰めてくれて」

 

「小学校のとき、私とクレア達の試合の後どっちに先に行くべきか頭抱えて悩んでたよね拓海くん」

 

「あーあったあった!そのことでからかったら顔真っ赤にして海に飛び込んでったっけ」

 

「あらあら、拓海くんは昔から優しかったのね」

 

「へ〜。彼女としては鼻が高いんじゃないの?ねぇちーちゃん」

 

「ちょ、ちょっと梓さん!」

 

「千紗さんが羨ましいです」

 

「え?」

 

「だって自分が好きな人に選ばれた人ですよ?嫉妬もしますよ」

 

「私はいいお兄さんって感じかな。昔から一緒だったし」

 

「私とエミリは今でも兄さんのことがちゃんと好きですよ。LikeではなくLoveの意味で」

 

「あら」

 

「ほほ〜ん。ちーちゃん、新たなライバル現るだね」

 

「...」

 

ぐすん。えぇ話やなぁ〜...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『寿!』

 

『おっしゃ任せろ!!!』

 

『耕平お前が受けろ!』

 

『いいや北原が受けろ!』

 

『おーらぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

『やぁぁぁぁめぇぇぇぇてぇぇぇぇ!!!!』

 

 

うっさいわ!今いいとこなんじゃボケェ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も拓海のことが好き。だから拓海の側を離れない」

 

「そうですよね〜」

 

「意外と引き下がるのが早いのね」

 

「だってあの兄さんが選んだ人ですよ?」

 

「別れるなんてありえないよね」

 

「かなたもそう思う?私も。そういうわけなんで千紗さん、兄さんのことこれからもよろしくお願いします」

 

「え...あぁはい」

 

クレアは達上がって千紗に軽く頭を下げる。しかしすぐに頭を上げて胸の前で拳をぎゅっと握りしめる

 

「ってなわけで湿っぽい話は終了です!私はこれから兄さんに好き好きアピールしてくるんで!それでは!」

 

「えっ?ちょっ!」

 

「さっき言ってたことは?」

 

「あぁ。クレアがすいません。でもさっき言ってたことは本当だと思います」

 

「そ、そう」

 

「それにしてはすごい変わりようね」

 

「それがクレアのいいとこですから」

 

拓海の元へ駆けつけるべく勢いよく飛び出したクレア

 

「兄さん!私も混ーぜーて...ってうぉっ!」

 

クレア、勢いをつけすぎて砂に足を引っ掛ける

 

「‪(((゜Д゜;)))」

 

「ちょっとクレア!?」

 

拓海とエミリ、倒れそうになるクレアを助けるため駆け寄る

 

「んぎゃっ!」

 

「きゃっ!」

 

しかし間に合わず。3人共に倒れてしまう

 

「エミリ!クレア!」

 

「にぃに大丈夫か!」

 

3人が倒れた拍子に砂埃が上がったため3人はまだ見えず。安否を確認するためはるかと響が声をかける

 

「んにゃっ!」

 

「ひゃん!」

 

「んにゃっ?」

 

「ひゃん?」

 

砂埃が消え3人の体勢はというと、エミリの胸に顔を埋めクレアのお尻を鷲掴みしている状態で倒れている拓海。ここでラッキースケベだと...

 

「兄さん!ごめんなさい!」

 

「きゃ〜兄さんのエッチ♪」

 

「クレア!離れなさい!」

 

「え〜。もぅ、エミリだって嬉しかったくせに〜♪」

 

「なっ!何を言っているのあなたは!」

 

「わーエミリが怒ったー♪」

 

「待ちなさいこの!」

 

この光景を伊織や耕平が見ていなくて本当によかったと思う

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11

 

「ふぃ〜遊んだ遊んだ」

 

「疲れた〜」

 

「ふふっ、まだ初日だよ」

 

あの後、拓海のラッキースケベの後、拓海は千紗からの説教を数分受けた。別に拓海に非があるわけではないのだが

 

そして拓海の説教が終わると今度はなぜか砂浜に頭から突き刺さっていた伊織と耕平を総出で引っ張り出した。2人はこの数十分の記憶がないとのこと。一体何でだろう(棒読み)

 

さて、一通り遊び終わって夕方にもなったので家に戻ってきたわけであるが、伊織と耕平は床に寝そべり愛菜もソファでぐったりしている。よほど遊び疲れたのだろう

 

「2人とも。明日からはライセンス講習だからね」

 

「寝る前に教本の復習もしておいてね」

 

「「ウーッス」」

 

「そういえばお前らの寝床なんだが」

 

「そうでした!」

 

「どっちが勝っていましたか!?」

 

「波の差で耕平だったな」

 

「しゃぁぁぁ!」

 

「そんなぁぁぁ!波の差なんて誤差だろ!」

 

「どしたの?」

 

「あぁ実はな」

 

時田は梓に事情を話した

 

「あ〜部屋に人数分の布団が敷けないのか」

 

「それは困ったわね」

 

「そんなんじゃちゃんと寝れないんじゃない?」

 

「寝不足でライセンス講習は危ないし」

 

「じゃあこうしましょっか!」

 

「「ん?」」

 

奈々華が打開策を思いつきそれを梓にも伝える。それを聞いた千紗は猛反対したが奈々華と梓が気にしないと言うのでその場は退いた。どうせなにかしてたら明日伊織を海に沈めればいいだけのことだし

 

そして夜

 

「こっちの部屋なら手足も伸ばせるでしょ」

 

「ライセンス講習のためにもきっちり寝ないとね」

 

「じゃあおやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

奈々華の打開策とはつまり!奈々華と梓の部屋で一緒に伊織も寝ることだ。なんだここに来て伊織までそういうムフフンな展開になるのか?

 

しかし伊織に寝ている2人に手を出すだけの度胸はなかった。にもかかわらず奈々華も梓も寝返りをうつ度に肌やその豊満な胸の谷間が目に入る。そのため伊織は一向に寝れないでいた

 

一方拓海はというと...

 

「えへへ...にぃに...」

 

拓海の隣には響が気持ちよさそうに眠っていた。ま、まぁここまでならまだセーフだろう。久々に再開した妹が兄に甘えたいのはあることだ。しかし問題は...

 

『エミリズルい!そこ代わってよ!』

 

『うるさいわよクレア!第一ジャンケンで決めるって言ったのはあなたでしょ!』

 

『さっきは私のこと注意してたくせに!』

 

『それとこれとは別よ!』

 

静かにケンカしてるね、偉い!...ってちがーう!そういう問題じゃないでしょ!ダメだよ!年頃の女の子が男の布団で一緒に寝ようとしちゃ!

 

『うるさい!!!』

 

アッ...スイマセン...

 

『もういいもん。兄さんの上で寝るもん!』

 

『ちょっ!それは兄さんに迷惑でしょ!』

 

『昔はこれで寝てたんだから大丈夫。ね、兄さん♪』

 

『(´Д`)』

 

『ねぇ兄さん。やっぱり私...』

 

『...』

 

昼間同様声を発しようとしない拓海に対して泣きそうになるエミリ。しかし今回もそんなエミリの頭を優しく撫でる拓海

 

『泣き虫は治ったのか?』

 

『っ!わ、私は泣き虫なんかじゃありません!』

 

『( ˙-˙ )』

 

『ふふっ♪おやすみなさい兄さん♪』

 

(あぁやっぱり私って、兄さん好きなんだ)

 

エミリは自分の頭から兄さんの手を取りその手を握ったまま眠りに就いた

 

『む〜、エミリのことばっかり』

 

『( ̄▽ ̄;)』

 

『はぁ〜。ねぇ兄さん。もういいんじゃないかな』

 

『(´・_・`)』

 

『兄さんがエミリのことを考えてそうしてくれてるのはわかるけど。でもこのままだとエミリもずっとそのこと抱えちゃうよ』

 

『...そうか』

 

『うん。だからさ、もう普通に喋ってよ』

 

『...クレアもお姉さんなんだな』

 

『当然じゃん!』

 

『普段はエミリの方がお姉さんっぽいのにな』

 

『あー兄さんもそんなこと言う。私の方がお姉さんなんですぅ!』

 

『わかったわかった。ありがとな、クレア』

 

『うん。私の方こそ今までありがとね、兄さん』

 

『あぁ。これから普通に話していくよ。エミリとも、みんなとも』

 

『うん!今日のことちゃんと覚えててよ?この可憐で凛々しい兄さん思いのクレアちゃんが兄さんを変えてあげたんだから!』

 

『まったく。お前はすぐに調子乗るのな。でも...』

 

拓海は自分の額とクレアの額を合わせる

 

『覚えておくよ。カワイイ妹に変えてもらった今日のことをな。いつまでも』

 

『当然っしょ♪忘れたりしたら兄さんの昔の恥ずかしいエピソード千紗さん達に話すからね♪』

 

『それは勘弁してほしいな...』

 

『ははっ♪じゃあおやすみ兄さん♪』

 

『あぁおやすみ』

 

(好きだよ、兄さん)

 

クレアは拓海の胸を枕がわりに眠りに就いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、拓海は伊織達のライセンス講習のため一足早く起床した。とりあえず上で寝ているクレアを下ろし、3人を起こさないようにそっと部屋を出てみんなの元へ向かった

 

「よう」

 

「早いな拓海」

 

時田と寿、それに耕平は既に起床していた。そして数秒しないうちに千紗と愛菜も部屋から出てきた

 

「おはようございます」

 

「おう」

 

「おはよ」

 

「どうしたの?」

 

「昨夜寝ているうちにメッセージが」

 

起きたての愛菜に耕平が携帯の画面を見せた。そこには伊織からの助けを求めるようなメッセージが連なっていた

 

「っ!」

 

「何やってんだか...」

 

「ま、あの2人に伊織が何かできるとは思わんがな」

 

「寝不足になってる可能性はあるな」

 

「それで試験も散々な結果になるとか」

 

「ありそう」

 

「いやいや大丈夫ですよ。あいつは寝不足関係なく頭が悪いですから」

 

「「「「あ〜」」」」

 

「誰か少しは反論しろよ...」

 

「おう伊織」

 

「おはようございます」

 

耕平が言っていることにダメも反論しないばかりか納得さえしている面々の場に本人の伊織が教本片手に登場した

 

「言っておくが、俺はお前より高得点を取る自信があるぞ」

 

「ふん!バカがよく言うぜ」

 

「あ“ん”?ドイツ語17点がよく言うぜ!」

 

「たまたまの20点が偉そうにしてんじゃねぇよ!」

 

「20点満点...?」

 

「100点満点...」

 

なんとも低レベルな争いである

 

「これは確かに心配になってきたな」

 

「少し試してみるか」

 

「おーい2人とも。問題だ」

 

「「ん?」」

 

「長距離の水面移動派どっちが疲れない?A.顔を見ずにつけてうつ伏せ。B.仰向け」

 

「「B」」

 

ピンポーン

 

「正解。オープンウォーターダイバーが潜れる最大深度は?」

 

「「18m」」

 

ピンポーン

 

「常識問題だな」

 

「あ、じゃあ私からも常識問題を。着替えるときは更衣室を...」

 

「「「「使わない!」」」」

 

「...まだ問題言い切ってないんですけど!」

 

「なら難しい問題もいってみるか」

 

「保温しないと手が動かなくなる水温は?」

 

「え、それは...」

 

「18度ですね」

 

ピンポーン

 

「なっ!」

 

「やるじゃないか伊織」

 

「よく勉強しているな」

 

「バカな...!」

 

「ふっ。耕平、お前は知るまい。昨夜あの部屋で俺がどれだけ教本を読み込んでいたのかを!」

 

「なるほどな」

 

「怪我の功名ってやつか」

 

「脇目も振らずに勉強した成果ですよ!」

 

「くっ...おのれ!」

 

自分よりもバカだと思っていた伊織の正解に悔しさを隠せない耕平は教本を取ってパラパラとページをめくる

 

「安全停止する深度は!」

 

「3〜6m」

 

ピンポーン

 

「おぉ」

 

「正解だ」

 

「じゃあ釣り糸や網を切る専用の刃がついたフックは!」

 

「ゼットナイフ」

 

ピンポーン

 

「うんうん」

 

「大したもんだ」

 

「このハンドシグナルは!」

 

「おっぱい」

 

「おい待て」

 

「突然何を言ってる」

 

「あ、違った...こちらを見てくださいだ」

 

「ふむ。ならこれは」

 

「うなじを見てください...いやそうじゃない!そっちを見ちゃダメだ...集中しないと...教本に...」

 

「「...」」

 

「そのときの状況が眼に浮かぶな」

 

「脇目振りまくりじゃないか」

 

「やれやれ、その程度で集中を乱すなど情けない」

 

伊織が一緒に寝ていた奈々華と梓の寝姿をバッチリ見ていたことが露見したところでその2人もようやく起きてきた

 

「なっ!」

 

「っ!」

 

寝起きの2人の格好は乱れており、いろいろ危ない

 

「おはよ〜...」

 

「おはようございます...」

 

「どう思う?」

 

「見てないよナナコたん...」

 

その姿を見た耕平は興奮からか鼻血が出ている

 

「拓海も見ちゃダメ!」

 

千紗の指摘で拓海も即座に目をそらす

 

「んじゃ結局一晩寝なかったのか?」

 

「その割には顔色はいいが」

 

「いえ無理矢理寝ました」

 

「どうやって?」

 

「自分で自分を絞め落として」

 

「力技だな」

 

「それは寝たって言えるのか...?」

 

確かに伊織の首には圧迫痕が残っている(※彼は特別な訓練を受けています。絶対に真似しないでください。危険です)

 

「まぁなんにせよ問題なさそうで何よりだ」

 

「朝飯は俺達が作るから復習してるといい」

 

「「うぃ〜す」」

 

時田と寿が作った朝食を食べた一行はライセンス取得のための筆記試験会場に移動した

 

「ここで筆記をやるんですか?てっきりもっとお堅い場所でやるのかと」

 

「試験自体はかなり緩い感じだぞ」

 

「問題は大体4択だしな」

 

「え、そうなんですか?」

 

「なら俺達の努力は一体...」

 

「何を言う。いいか?安全に関する知識だぞ」

 

「いくら勉強しても損などあるものか」

 

「......」

 

「「気持ちはわかる」」

 

いつになく真剣な時田と寿にいつもとのギャップに声を失う愛菜。それほんの数ヶ月前伊織と耕平も経験済み

 

「試験始めるよ〜」

 

午前8時。伊織達のライセンス取得:筆記試験開始

 

「大丈夫かな」

 

「ん?伊織が心配?」

 

「まぁ大丈夫だろ」

 

「でもさっき...」

 

「選択問題だぞ?」

 

「余計なこと書く欄などない」

 

「心配なら見てきたらどうだ?」

 

「え、あぁいや...」

 

口ごもりはしたもののやはり心配なのか伊織の側に近づいていく千紗

 

「ちーちゃんってば本当カワイイよね〜」

 

「( ・᷄ὢ・᷅ )」

 

「どうしたの?」

 

「...なんでもないです」

 

「その顔なんでもない訳ないでしょ」

 

・・・

 

「ん?ちょっと待って」

 

「どうしました?」

 

「これって夢とかじゃないよね」

 

「梓さんがそんなメルヘンみたいなこと考えるとは驚きです。しかし残念ながら現実ですね。必要ならほっぺでも抓りましょうか?」

 

・・・

 

「い、いやいやいや!拓海だよね!?」

 

「?はい。我那覇拓海ですが?」

 

「拓海ってこんな普通に会話するやつだったっけ!?」

 

「あぁ。それに関してはあいつらが終わってから説明しますね」

 

「え、あ、うん...」

 

いきなりのことに驚愕する梓。側にいる時田と寿も瞬きを忘れるほど固まっている

 

試験は無事に終了。奈々華と拓海の採点の元全員が合格した

 

「ふ〜」

 

「なんでお前は顔が腫れてるんだ?」

 

「一夜漬けの弊害だ」

 

いや、1人だけ無事じゃなかったみたい

 

場所を移動して今度は実技試験。全員ダイビングスーツを着用して潜る準備に取り掛かっている

 

「みんな初期残圧はいくつ?」

 

「200です」

 

「200です」

 

「えっと、200です」

 

「残圧が60になったら教えてね」

 

「「はい」」

 

「60になると何かあるんですか?」

 

「浮上するタイミングなの」

 

今回は奈々華が3人の試験官となった。他はサポートに回っている

 

STEP1:BCDの浮力調整

 

BCDにあるパワーインフレーターのボタンを押すとベストにエアが入って浮かぶ。上に向けてボタンを押すとエアが抜けて沈む。このときエアが抜け切らなかったりタンクの重さに負けてバランスを崩してしまうことがあるので注意

 

STEP2:レギュの再装填

 

全員が沈み切ったところで次はレギュを一度話して再装着する行為。その際にレギュに入った水を出す方法は基本的に息を吹きかける方法とパージボタンを押す2つがある。このときに注意なのがレギュを見失わないこと。レギュを見失うことは息ができなくなることと同義。特に初心者はこれだけでパニックになる可能性が高い

 

(一度レギュを離して...っ!)

 

(ゆっくり落ち着いて)

 

案の定伊織がレギュを見失いパニクって助けられていた

 

ーカワイイ千紗ちゃんからのワンポイントアドバイスー

 

レギュを見失った場合は右肩を腕を下から回すように持ってくると、ホースが引っかかります

 

(よし!私はパージボタンで!)

 

と愛菜はパージボタンを押すと思ったより勢いがよかったのか普通に息を吹きかける方に切り替えた

 

STEP3:マスククリア

 

一度マスク内に水を入れる。マスク上部を抑えながら鼻から息を吐くと水が押し出されて下から抜ける。これが結構難しい。上部を十分に抑えられないと水が出る分だけ侵入するのでループし続ける。また抜け切らないうちに目を開けてしまいパニックになることも多々ある。今の伊織みたいに...

 

(残圧は?)

 

(80です)

 

(60です)

 

(60です)

 

(浮上します)

 

((OK)))

 

伊織と愛菜の残圧が60になったところで一旦切り上げとなった

 

「やっぱり沖縄の海は違うな!」

 

「ずーっと潜っていたくなるよね!」

 

「天候にも恵まれたしな」

 

「ふん、残圧60共が」

 

「あ”ぁ”ん”!俺は最初が180だったんだよ!」

 

「潜る前思いっきり200って言ってたよね!」

 

「なんの話?」

 

「最終的な残圧の話みたい」

 

「浮上時の数値か」

 

「なんでも争いの種にするなあいつら」

 

「はぁ...」

 

「ちなみに先輩達はいくつぐらいだったんですか?」

 

「ん?110だな」

 

「同じく」

 

「120だね」

 

「130」

 

「奈々華さんは?」

 

「私も千紗ちゃんと一緒」

 

「我那覇は?」

 

「( ˙-˙ )つ140」

 

「そんなに」

 

「桁が違う」

 

「ならまだ潜れたんですよね?」

 

「まぁな」

 

「俺達だけ先に上げて潜ってたらよかったんじゃないですか?」

 

「あはは、そうはいかないよ」

 

「ダイビングは団体行動だからな」

 

「1人が上がるとみんなで上がるんだ」

 

「インストラクターが何人もいるなら話は別だけどね」

 

「なるほど。ってことだ。足を引っ張るなよ?劣等生」

 

「だからなんで上から目線なんだゴラ!」

 

「団体行動って言った直後からもう輪を乱してるし」

 

耕平と伊織のケンカがなくならないことには団体行動などムリなのでは?

 

「愛菜?」

 

「え、なに?」

 

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

 

「なんだもう疲れたのか?」

 

「気合いが足らんぞケバ子」

 

「だからケバ子って呼ぶな!大丈夫!気合いも全然問題ないから!」

 

「それならいいけど」

 

「少しでも不調を感じたらすぐに言ってね」

 

「せっかくだから、なんて思っちゃダメだよ?」

 

「海の中の嘘は危険だからね」

 

「わかりました!」

 

そしてタンクにエアを再充填してから試験再開

 

STEP4:オクトパスのやり取り

 

バディがエア切れになってしまった場合に自分のオクトパス(予備のレギュ)を渡す。自分と相手、しっかりエアが行き届いているか確認し相手の腕をホールドして浮上する。非常事態のときこそ冷静に対処しなければならない

 

伊織と耕平が胸ぐらを掴み合ってる横で愛菜は海中の景色に目を奪われていた

 

(きれい...みんなずっと潜っていたいって思うよね)

 

きれいな景色と共にまるで宙に寝そべるかのような体勢で浮遊している時田と寿。魚にカメラを向ける千紗とそれに付き添う拓海と梓。そんな光景を見て愛菜は思いふける

 

(残圧は?)

 

(あ...)

 

(90です)

 

(80です)

 

(2人ともまだ余裕が。ということは私のせいで終わり...さっきも残圧60で余裕あったし少しくらいなら...)

 

愛菜は他の人を思ってのことなのだろう。しかしとっさに伊織と目があってしまう

 

(60です...)

 

(OK)

 

海から上がった愛菜はため息を1つついた

 

「なぁケバ子」

 

「なに...」

 

「なにじゃないだろ。お前さっき残圧誤魔化そうとしたろ」

 

「うっ...」

 

「海の中で嘘はよくないって言われたばっかりじゃないか。いくら自分が残圧ビリだって言ってもなー」

 

「だって!」

 

「え?」

 

「だって、私のせいでみんなが早く上がることになっちゃうって思って...」

 

「え、残圧勝負で負けたくないから嘘つこうとしたんじゃないのか!?」

 

「そんなことしないわよ!その...先輩達の迷惑にならないように...」

 

「う〜ん」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんていうかさ。お前人を見る目ないって思ってさ」

 

「はぁ?わけわかんないんだけど」

 

「わけわかんないのはお前だろ?あの人達がそんなこと気にすると思うか?」

 

伊織は愛菜の手を引いてその先輩達の方へ向かった

 

「すいませーん!」

 

「え、ちょっと!?」

 

そして状況を説明した

 

「...ってことらしくて」

 

「なるほどな」

 

「んなこと気にしてたのか」

 

「あのね愛菜」

 

「あ、はい...」

 

「愛菜達が私らに敬語を使ってるのはどうして?」

 

「それは先輩だから当然のことで...」

 

「うんうん。愛菜にとって先輩に敬意を示すのは当然のことなんだね」

 

「それがなにか...」

 

「だったらさ。尊敬される先輩が寛大なのは当然だとは思わない?いいじゃない!初心者のエアの消費が早いくらい」

 

「まったくだ!」

 

「そんなもん当たり前じゃないか!」

 

「コツくらい俺達がいくらでも教えてやるぞ」

 

「で、次から改善したらいい」

 

「そうそう!」

 

「ただし!こういった嘘は2度とつくなよ?」

 

「安全に関することは絶対にな」

 

「人間正直が1番だからね」

 

「ってこった」

 

「あ...」

 

「ここの先輩は一味違うだろ!」

 

「...うん!」

 

ここの先輩達は一味違う。それはいろんな意味で一味も二味も違うだろうさ

 

「それにしてもここに拓海いなくてよかったね」

 

「まったくだ」

 

「なんでですか?」

 

「あいつはこの手のことにすごく厳しいからな」

 

「もし聞かれてたりしたら長い説教もんだったぞ」

 

「そ、それほどですか...」

 

「あれはね、凄まじいよ...」

 

「その口ぶりからすると梓さんは受けたことあるんですか?」

 

「あぁ。というかこいつが原因とも言えるな」

 

「原因?」

 

「あははは〜。あのころは私も若かったからね〜」

 

「「はぁ...」」

 

先輩達の話が全くわからない伊織と愛菜は?を何個も浮かべる

 

「話は聞かせてもらいました」

 

『っ!』

 

全員が、あの時田と寿でさえもその声を聞いた瞬間怯えた表情で声のする方を向く。そこには今の話の内容に出ていた拓海が腕を組んで立っていた

 

「拓海!これは違うんだ!」

 

「ごめんなさい!反省してます!」

 

「...」

 

拓海の無言の圧力が伊織と愛菜にのしかかる

 

「拓海、愛菜も反省してると思うからさ。ね?」

 

「....はぁ。まぁ初心者にはよくあることですし、先輩方が話を聞いたならもう大丈夫でしょ。でも次やったらガチで説教だからな。安全という概念を1〜億まで脳髄に叩き込んでやるからそのつもりで」

 

「「ひっ!!!」」

 

このとき、伊織も愛菜も絶対に拓海を怒らせてはならないと脳髄に叩き込まれた

 

「それで、拓海はこっちになにか用だったのか?」

 

「はいまぁ。みなさん不審に思ってると思うのでお話ししようと思いまして。千紗達ももうすぐ来ます」

 

程なくしてメンバーが全員揃った

 

「一応皆さんにお伝えします。昨晩、ちょっとした機会でこれまでの習慣を捨てることにしました」

 

「習慣?」

 

「あぁ。まぁ今も絶賛崩壊中なんだけどな」

 

「ということは?」

 

「つまり?」

 

「「「どういうこと?」」」

 

梓や千紗はなんとなく思いついているが伊織や耕平、愛菜といった事情を知らない者は状況を把握できていないようだ

 

「これからは普通に会話してくれるってことだよね?」

 

「はい。これまでご迷惑をおかけしました」

 

「別に迷惑じゃないかったけど、ちょっと寂しくはあったかな」

 

「すまなかった」

 

「あ、ごめん。責めてるわけじゃないんだ。事情は昨日大体聞いたし」

 

「やっぱり聞いてたか」

 

「うん。ごめん」

 

「謝らなくていい。いつかは話さないといけないことだったし」

 

「拓海...」

 

「千紗...」

 

話の途中で急に見つめ合う拓海と千紗

 

「は〜い、2人の世界に入らないでね〜」

 

梓に注意されてハッとする2人。慌てて顔を背ける

 

「まぁなんにせよ、これからは普通に接してくれるんだろ?」

 

「あぁ」

 

「なら問題ないんじゃね?」

 

「伊織...」

 

「ふん。こいつと同じってところに腹が立つが、まぁそういうことだ」

 

「んだとゴラァ!どういう意味だ!」

 

「そういう意味に決まってんだろぉがやんのかテメェ!」

 

いいことを言ったように思ったのにまたケンカを始めてしまった伊織と耕平。そんな2人にため息をつく面々

 

「なんでこんなすぐケンカに発展するんだ?」

 

「さぁな」

 

「そんなことよりも、拓海も愛菜もこれまでより親密になるってことで」

 

「はい!」

 

「はい」

 

「でもあれだねぇ。拓海はともかく愛菜がまだ気を使っちゃうのってさぁ?私らにまだ身も心もさらけ出せてないからじゃない?」

 

「えっ...」

 

「ふむ!」

 

「一理あるな!」

 

「水着くらいなら大丈夫!」

 

「どれ!手本を見せてやろう!」

 

「これも先輩の務めだー!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

身も心もさらけ出せる方法を教えるべく時田先輩と寿先輩がウェットスーツを脱ぎ捨てる。なんか意味合いが違う気がする

 

「これでよしっと」

 

「伊織くん。それがよくもないの...」

 

「他に何か問題が?」

 

「あ、言い忘れていたがこのままだと伊織だけ不合格だぞ?」

 

「.............マジで?」

 

「マジだ」

 

次回!伊織の運命やいかに!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12


先週忙しくて投稿できなかったので2話連続出しです


 

(マズい...まさかの俺だけ不合格...この事実を奴らに知られたら...死に勝る屈辱!)

 

拓海と奈々華から伊織1人だけ不合格の可能性があることを伝えられてからずっと思いつめている伊織。奈々華からマスククリアがまだ十分にできないことを指摘されてどうにか打開策を模索し続けている

 

(幸いマスクは持ってる。海もすぐそこ。問題はいかにあいつらに見つからずにするかだ!)

 

「伊織?」

 

「........はっ!毒殺すればいいのか!」

 

「いい笑顔で何言ってるの...」

 

「千紗!盗み聞きとは趣味が悪いぞ!」

 

「毒殺ほどじゃないと思うけど」

 

「おーい!車借りに行くぞ!」

 

「市場まで買い出しだ!」

 

「あ、ほら千紗!呼ばれてるぞ!」

 

「怪しい...」

 

呼びかけに対しその場を逃げるように去る伊織に不信感を持つ千紗

 

「じゃあこれ使ってくれや」

 

レンタカー屋で伊織達が借りた車は普通の乗用車1台。しかも5人乗り。運転席には千紗が座り、助手席には奈々華が、そして他の者は後部座席でぎゅうぎゅう詰めになっている。時田と寿に関してはもう車にさえ入らないので車の屋根の上に鎮座している

 

「どうしたばにいちゃん達」

 

「どうしたもこうしたも!」

 

「どうやってこれに全員乗れって言うんだ!」

 

「とっきー予約間違えた...?」

 

「いや、ちゃんと予約してあるが?」

 

時田が見せた書類のコピーにはしっかり9人と書かれていた

 

「ありゃ、4人と9人を間違えてしまったさ」

 

「普通そこ間違えるか!?」

 

「わりぃわりぃ」

 

と、そこへ入り口から借りる車よりも大きな一台の乗用車が入ってきてみんなの目の前で停止した。そして降りてきたのは拓海と響だった

 

「お久しぶりですおじさん」

 

「ぬ?お、もしかしてたっくんか!」

 

「ハイサイ!おじさん!」

 

「おー響ちゃんまで。2人ともしばらく見ない間に大きくなったね〜」

 

「もう大学生なんで。ところでこの状況は一体...」

 

「あ〜、実は予約の人数を間違えてしまったでね」

 

「あらま。まぁ家からこれ借りれたんでその車で大丈夫だと思いますよ」

 

救世主来たる!拓海が乗ってきた車はおそらく7人乗り。これで問題は全部解決だ

 

「ってなわけで何人かこっち乗っていっスよ?」

 

「あ、じゃあ私乗る!」

 

「わ、私も!」

 

「千紗もか?でもそしたら借りる車運転するやつが...」

 

「すまん、免許置いてきちまった...」

 

「俺も...」

 

免許を持っている時田と寿はその免許を忘れてきたという。やっぱり千紗が運転しないとダメか、と誰もが考えたとき愛菜がキメ顔で免許を取り出していた。その結果、拓海の運転する車に千紗と梓、奈々華と響が乗ることになり、愛菜が運転する車に他の男どもが乗る形となった

 

『...』

 

「ふっ、短い人生だった...」

 

「空が、あんなにも青い...」

 

「あんたら本当に失礼ね!」

 

「よかったなぁ。無事に全員で行けて」

 

「それじゃあ行きますよ〜」

 

漸く市場へ出発!と車を走らせた瞬間、借りた車がガタン!と大きな音を上げエンジン部から煙が上がった

 

「ありゃ〜こいつはもうダメだね」

 

「なぜこんなオンボロ車を普通に貸し出しているんだ!」

 

「すまんね〜、今別の車用意するから」

 

「別の車?」

 

「お詫びに後ろが広いオープンカーをただで貸してあげるさ〜」

 

「マジで!」

 

「オープンカー!」

 

オープンカー。そんなものがこんな島のレンタカー屋で貸し出しているわけがなかろうに。案の定持ってきた換えの車は確かに後ろが広い軽トラ(オープンカー)だった

 

「どうね?」

 

「確かに広いな...」

 

「開放感もこの上ないな...」

 

「問題なしと」

 

「いやいやいや!」

 

「普通の車持ってこいよ!」

 

「あれ以外もう全部貸し出し中さ」

 

「なんなんだよこの店は!」

 

「それじゃあ良い旅を〜」

 

「あ!」

 

「おいおっさん!」

 

伊織と耕平の制止を止める間もなくおじさんは店の中へ入ってしまった。そしてまた作戦会議が始まった。しかし千紗達は拓海の車内で寛いでいるため拓海が代表して降りてきた

 

「どうすんだよこれ...」

 

「この車マニュアルだぞ」

 

「千紗か拓海は運転できないのか?」

 

「オレは一応マニュアルだけど、千紗はオートマ限定だったな」

 

「なら我那覇に頼むしかなさそうだな」

 

「ちょっと待ったー!」

 

「なんだケバ子」

 

「どうしたケバ子」

 

「ケバ子言うな!ふっ」

 

ケバ子と言われ一度は怒鳴ったもののまたもやキメ顔で再び自分の免許を見せる愛菜。そこには”ATに限る”と言う文字は存在しなかった

 

『...』

 

軽トラの運転は愛菜が担当し、助手席に時田、他の3人は荷台に腰かけた

 

「今日が人生最期の日か...」

 

「海があんなに青い...」

 

「さっきも言ったけど、あんたら本当に失礼ね!」

 

「おー!これはこれで乗り心地いいな!」

 

「あーにいちゃん達!言い忘れてたけど」

 

「「「ん?」」」

 

「ここから走る道路は全部、市有地だからね」

 

「さらっとすんげぇこと言ってんぞこのおっさん!」

 

「じゃあ」

 

軽トラを含めたトラックは基本荷台に人を乗せてはいけないという法律がある。例外として荷物が大きく強い風などにより荷物が落ちる危険がある場合のみ最低限の人数を乗ることは許されているが、今は適応されないだろう

 

「出発しますよ〜」

 

「っ!みんな何かに掴まれ!」

 

そんな法律よりも伊織と耕平は愛菜の運転で自分の命が失われないかの心配をしていた。しかしそんな心配など必要なく、軽トラはスムーズに発進した

 

「え?」

 

「ケバ子が普通にマニュアル車を走らせてるだと?」

 

「随分慣れてる感じだな」

 

「なぜそんなに慣れている?」

 

「えっ!慣れてなんか...」

 

「いや見事だぞ」

 

「ま、まさか!都会の似合うウチが田舎で畑ん仕事ば手伝ってたとでも!?」

 

愛菜。方言出てるぞ

 

「なるほど、そういうことか」

 

「それなら安心だな」

 

バレちまってやんの

 

そのころ後方の車では...

 

「いや〜快適快適」

 

「梓、シャツ捲れてるよ?」

 

「ん〜?ここなら見られても大丈夫だよ」

 

「オレいるんスけど」

 

「あんたも含めて大丈夫って言ってんの」

 

「まったく...」

 

「にぃに!エッチなことはダメだゾ!」

 

「わかってるよ。だがそれを言うならそっちのお姉さんに言ってくれ」

 

「そんなこと言って〜。本当は見たいくせに♪」

 

「拓海...」

 

「そういう声出すのやめてくれ千紗」

 

「でも前に果南さんのところでも...」

 

「...」

 

「な〜に〜?遂に浮気〜?」

 

「そんなんじゃないですよ」

 

「本当に〜?ならちーちゃんに聞いても大丈夫ってこと?」

 

「どうぞご勝手に」

 

「もぅ、ツレないな〜」

 

「...」

 

拓海はそこで黙ってしまった

 

「梓、その辺で」

 

「にぃにをあまりいじめないでください」

 

「別にいじめてないよ〜」

 

「でもにぃに、少し怒ってるゾ...」

 

「え...」

 

「拓海...?」

 

「...」

 

ちょっとだけ重い空気が立ち込めた

 

市場に着くとさっそく各自別れて買い出しを始めた。市場には新鮮な魚、肉、果物などいろんなものが揃っていた

 

「珍しいものがたくさんあるね」

 

「うん」

 

「これは食材選びのセンスが試されるな」

 

「先輩達は何にするんだろ」

 

「ひゃっ!」

 

「ぶっ!」

 

「大丈夫?」

 

「うん。それじゃあ私が聞いてくるよ」

 

愛菜は珍しい魚の干物を見つけたがその恐怖の頭に驚いて後ずさり振り上げた腕が耕平の顔面に直撃した。それに気づかない愛菜はそのまま先輩を探しに行ってしまった

 

「へい、なんにしやす?」

 

「あ、いた」

 

「えっと私は、”おじさん”が食べたいな〜」

 

「え”っ!」

 

見つけた梓の言葉に衝撃を受けフラフラと千紗達の元に戻る愛菜

 

「どうしたケバ子」

 

「何かあったの?」

 

「梓さんが...魚屋のおじさんを食べようとしてたの...」

 

「魚屋のおじさん?」

 

「お前は何を見てきたんだ」

 

「ううん!今のはきっと何かの聞き間違い!」

 

「そ、そうか...」

 

「それならいいけど...」

 

「あ。次は時田先輩に聞いてくる」

 

「うん」

 

「よくわからんが行ってこい」

 

聞き間違いだったの確認も含めて時田のとこへ向かう愛菜

 

「あぁそうなんだ。”浜崎の奥さん”が欲しい」

 

「ん”っ!」

 

さっきの梓のときと同じ衝撃を受けまたもフラフラと戻る愛菜

 

「愛菜?」

 

「時田先輩が...」

 

「あの人がどうした?」

 

「人妻に、手を出そうと...」

 

「ちょっと待って...」

 

「お前はさっきから何を聞いてる...」

 

「何かの聞き間違えじゃないの?」

 

「でもこの耳ではっきりと!」

 

「だとしたら幻聴だな」

 

「じゃあみんなで行って確認しようよ!」

 

「別にいいけど」

 

「やれやれ」

 

「あ」

 

愛菜の言葉は受け入れられず今度は3人同時に確認しようとしている前にはちょうど寿が買い物をしようとしていた

 

「らっしゃい!何をお探しで」

 

「普通の買い物だね」

 

「何もおかしなところはないな」

 

「そうかな...」

 

「やっぱり愛菜の聞き間違いじゃない?」

 

「そもそもこんなところで妙なことはしないと思うが」

 

「確かに...」

 

「ウチはなんでも揃ってるよ。なんでも言ってくれ」

 

「それじゃあ、”肉付きのいい高校生”を」

 

「「アウトォォォォォォ!!!!」」

 

「こんなところで何を買う気だ!」

 

「だから言ったでしょ!」

 

「ここは通報するべきか...」

 

「その前に事情を聞いた方が...」

 

「待って2人とも。それ多分勘違いだと思う」

 

「え?」

 

「それ全部魚の名前だから」

 

「そうなの!?」

 

「すごいネーミングセンスだな!」

 

「じゃあさっきの梓さんも時田先輩も」

 

「魚を買おうとしていたと」

 

「うん」

 

「真剣に考えたらそんなの買うわけないよね」

 

「まぁ俺は最初からわかっていたかがな...」

 

「思いっきり一緒に驚いてたくせに」

 

「すいません」

 

「はいらっしゃい」

 

先程寿が買い物したところを今度は伊織が立ち寄っている

 

「成人が一発で失神するような毒魚を1匹...」

 

「ねぇよんなもん」

 

あるかそんなもん!冷やかしか!って昭和のドラマみたいだな

 

「響何食べたい?」

 

「にぃにが作るやつならなんでも食べたいゾ!」

 

「そっか。ならグルクンの唐揚げとフーチャンプルーにするか?」

 

「おぉ!楽しみだゾ!」

 

各々買い出しも終了して拓海の家に戻ってきた。帰りの車の中で梓と千紗は先程の件で拓海に謝り拓海もそれを了承。しかしその後に拓海は続けて言った『俺も悪かった』の一言に言い出しっぺの千紗は責任を感じモヤモヤが残ることとなった

 

 

 

 

 

 

「人の買い物を盗み見とは趣味が悪い!」

 

「毒魚を買おうとしたやつが何を言うか!」

 

「絶対また変なこと考えてたんでしょ!」

 

(失敗か...このままだと...死ぬ程の恥辱を受けることに!)

 

毒魚で全員が失神した中でこっそり練習する伊織の作戦は失敗し、このまま進んで伊織だ不合格になったときの耕平と愛菜の顔を想像して眼に血を走らせる

 

「拓海、さっきはごめん...」

 

「ん?あぁあれか。まぁオレも完全に無実とは言えんからなぁ。お互い様ってことで今回はなしにしよ」

 

「え?拓海がそれでいいなら」

 

「いいもなにも原因はオレなわけだから」

 

「でも...」

 

「千紗ってホント変なとこ拘るよな。んじゃ千紗のとびっきりの料理期待してる」

 

「わかった」

 

「ほら2人とも。イチャコラしてないで2人も引いた引いた」

 

「ん?」

 

「なんですかこれ?」

 

「料理の順番を決めるくじだよ」

 

「キッチンに全員は入れないからな」

 

「2人ずつで順番にやろうってわけだ」

 

「そういうこと」

 

「1本引けばいいんですね」

 

(2人一緒で調理...はっ!)

 

ここで伊織が何かを閃く

 

(ということはここで耕平とケバ子をセットにすれば、奴らが調理している間は練習ができる!)

 

「私は4番」

 

「私2番」

 

千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします千紗と一緒でお願いします

 

「?.........い”っ!」

 

みなさんには聴こえるだろうか?伊織の呪文のような気色悪い詠唱が...

 

「い、伊織...?」

 

「神様!どうか!よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

伊織が気合を入れて引いたくじは2番。神様、こんなやつ見放すべきでは!?

 

「千紗やったぞ!」

 

「あ”ん”?」

 

伊織の喜びに比例して拓海の機嫌がどんどん悪くなる

 

「愛菜、気持ち悪いから変わって...」

 

「なぜそんなことを言うんだ千紗!俺とお前のペアで楽しく料理を作ろうぜ!」

 

「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ん”...?」

 

「確かに気持ち悪いな...」

 

「拓海落ち着いて!」

 

「調理中はずっと包丁握ってる...」

 

「伊織、やりすぎだよ」

 

「な、何がですか...?」

 

(まさか、梓さん気づいて...!)

 

「何って、耕平の嫉妬心を煽ろうとしてるんでしょ?♪」

 

なんとも的外れで、しかし伊織的にはその解釈で助かったのか否かわからない。ともあれくじで決まった順番はこうだ

 

1番手:時田&寿

 

2番手:千紗&伊織

 

3番手:梓&奈々華

 

4番手:愛菜&耕平

 

5番手:拓海&響(実質拓海1人の料理。響は味見担当)

 

料理中は各々酒を飲んだりテレビを見たりと寛いでいる

 

「さて俺達の料理の番だが...なぜそんなに距離を取る...?」

 

先程の発言で包丁片手に伊織から距離を取る千紗の図

 

(しかし練習するにしても独力では難しいな。こいつには事情を話して手伝ってもらうべきか)

 

「なぁ千紗」

 

「っ!なに...?」

 

突然声をかけられた千紗は瞬時に距離を取った

 

「実は...」

 

警戒する千紗に事情を話す伊織

 

「...というわけなんだ」

 

「そういうことだったんだ」

 

「だから千紗練習に付き合ってくれないか?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「付き合ってくれないか?」

 

「っ!!!」

 

「...」

 

タイミング悪く飲み物を取りにきた愛菜と拓海がまたも運悪く伊織のその言葉だけ耳にしてしまった

 

(どどどどういうこと!?なんで伊織が千紗にどうして!?)

 

「( ゚д゚)」

 

「拓海気を確かに!」

 

(拓海から正気が抜けてる...と、とにかく私だけでも落ち着こう。さっきみたいにまた誤解かもしれないし)

 

「本気なの?」

 

「あぁ本気だ。俺も好きになってるからな」

 

(誤解じゃなーい!!!!)

 

「(;ω;)」

 

(拓海が真顔で大泣きしてるー!!!)

 

「そっか。嬉しい」

 

(えーーーー!!!!!!?)

 

愛菜は未だ状況が理解できず飲み物を取る余裕などなくフラフラと耕平の元に戻っていった。そして拓海はショックのあまり家を飛び出しそのままの格好で海に飛び込みざっと1kmほど全速力で泳いでいた

 

その後愛菜同様(内容は全く別物だが)壮大な勘違いをして伊織、千紗、愛菜、耕平の4人の間には異様な雰囲気が立ち込めていた。拓海はというと料理をちょっぱやで作り終えると自室で寝込んでしまったとか

 

そしてその夜、千紗は同室の愛菜が眠ったことを確認して部屋を出た。しかし詰めが甘くドアが閉まった音で愛菜の目が覚めてしまった

 

「千紗...?」

 

愛菜は目を擦るながら千紗の後を追うように部屋を出た

 

「悪いな付き合わせちゃって」

 

(あれ、伊織の声...はっ!)

 

こんな夜更けにこっそりと部屋を出た千紗。そして聴こえる伊織の声。愛菜の脳は一気に動き出し眠気など飛んで行った

 

(まさか人目を忍んで2人で!)

 

「濡れちゃう」

 

「服は脱いだ方が...」

 

「わかった、脱ぐ」

 

「よし、じゃあ」

 

文字だけ見るとなんてムフフンな会話だろう。おそらく愛菜も同じようなことを考えたに違いない

 

「何やって...!」

 

千紗と伊織の関係。拓海のこと。野外でなんて。愛菜は注意すべく2人の前に姿を現わす。がその光景は愛菜が思ったことの斜め上を行っていた

 

「本当に何やってんのー!!!!?」

 

説明しよう!愛菜が見たものはこんなところにプール。そしてシュノーケルをつけて潜っている伊織を千紗が足で踏んづけている場面であった

 

「ケバ子!貴様ここで何を!」

 

「それはこっちのセリフ!様子が変だと思ったけど行動まで変なんて!」

 

「これはその...プールに財布を落としてだな...」

 

「嘘ばっかり!伊織、正直に言って...昨日から隠してることあるんでしょ...」

 

「...仕方ない。正直に話すか。ケバ子...」

 

「はい...」

 

「実はこれダイビングの練習なんだ」

 

「どうして正直に言ってくれないの!」

 

「正直に言ったんだが!」

 

「だって明らかに上級者向けの変なことしてたじゃない!」

 

「いや、むしろ初級者向けなんだ」

 

「愛菜。これ本当にダイビングの練習だから」

 

「え、そうなの?」

 

「なぜ千紗のことは信じる...」

 

落ち着きを取り戻りた愛菜に千紗と伊織から事の発端を説明される

 

「ってなわけでマスククリアの練習をな」

 

「そうだったんだ。それなら最初からそう言ってくれたら...」

 

「お前らに笑われるのは癪だからな」

 

「笑わないよ!むしろ言ってくれたら手伝うのに」

 

「マジか!」

 

「助かるかも」

 

「で、何をしたらいいの?」

 

してマスククリアの練習を再開した。今度は千紗と愛菜2人がかりで踏んづけられながら

 

そして何度か繰り返したところで伊織は千紗と愛菜を切り上げさせ1人の練習となった。1人での練習はまぁ途中警察が来て事情聴取されたが問題なく終了した。しかしなぜここにプールがあるのかは誰にもわからず、誰も気にしていなかった...

 

次の日、伊織は盛大に風邪をひいた

 

「拓海ー!ネギちょうだーい!」

 

「...」

 

本日耕平と愛菜はライセンス講習の続き。時田や千紗達は耕平達の付き添い兼奈々華の手伝い。そして今元気に拓海の部屋に飛び込んできた梓は伊織の看病に留守番を立候補した。いや、看病なら伊織のとこにいなさいよ

 

「ありゃま、どうしたの電気もつけないで。カーテンも閉めっきりだし。まったくほら起きなー」

 

朝だというのに拓海の部屋は暗いままだった。梓は電気をつけカーテンを開けて布団に包まっている拓海を起こすべく布団をひっぺがした

 

「...」

 

「もう本当にどうしたの」

 

「...」

 

「なにかあった?」

 

「...」

 

梓が何度声をかけても拓海は無言のまま。顔さえ梓の方に向けなかった。その背中からはほっといてくれとでも言われてる感じに見舞われた

 

「ちーちゃんと何かあった?」

 

「...」

 

「はぁ...隣お邪魔するよ?」

 

拓海がこれほどになるなんて千紗との間に何かあったとしか考えられない梓。しかし千紗の方は朝特に変わった様子はなかった。となれば千紗の知らないところで拓海がなんらかのダメージを受けたか、はたまた拓海のただの勘違いか。と考察はしてみたものの確信を得られない梓はとりあえず拓海の傍に横になった

 

「黙ってちゃわかんないよ」

 

「ほっといてくれていいです」

 

「そういうわけにいかないよ」

 

「梓さんには関係ないことです」

 

「別に関係からって聞いちゃダメってわけでもないでしょ?」

 

「...」

 

拓海は再び口を紡いでしまった。そんな拓海を梓は拓海の後頭部が胸に埋まるように後ろから優しく抱きしめる

 

「ねぇ拓海。私とエッチしよっか」

 

・・・・・は?

 

「は?」

 

「体動かせば少しは紛れるってもんでしょ?」

 

このタイミングでなんてこと言ってるんだあなたはーーーー!!!!!

 

「あなたはバカですか?」

 

「なによお姉さんに向かって」

 

「バカな人にバカと言ってるだけです。しかもそんな理由で」

 

「む、私だって誰でもいいってわけじゃないよ〜」

 

「ならなおさらなんで」

 

「そんなの好きだからに決まってるじゃん」

 

「...」

 

「ほら略奪愛ってやつ?」

 

「正気ですか...」

 

「こんなに他人を好きになったことなかったからね〜。で、どうする?」

 

「遠慮しておきます」

 

「あらそれは残念。でもちょっとだけいつも通りに戻ったかな?」

 

「まぁ...」

 

「それならよかったかな」

 

「...ありがとうございました」

 

「ふふん。たまにはお姉さんもやるってことさ」

 

「そうですね」

 

「てなわけでお礼にエッt...」

 

「しません」

 

「ならキスだけでも〜」

 

「しませんて」

 

「むぅ〜」

 

梓っぽいと言えば梓っぽいのでしょうか。地味に告白してるし

 

「まぁこれまでのは一旦保留ってことで」

 

「さっきから断ってんですが」

 

「ちーちゃんと何があったか知らないけどさ、一回話してみたらいいんじゃない?」

 

「...そうします」

 

「うんうん」

 

そうして梓はネギ日本と適当なフルーツ缶をもらって伊織の元に戻ったとさ

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13


この話で完結となります。今まで読んでいただいた方々、不定期な投稿だったにも関わらずありがとうございました!


 

伊織の風邪は無事に完治し、耕平と愛菜は見事ライセンスを取得した。そして今日は待ちに待った宮古島

 

「ん〜到着っと」

 

「ここが宮古島か〜」

 

「結構遠かったね」

 

「圏内で飛行機に乗るなんて新鮮よね」

 

「本島より台湾の方が近いらしいな」

 

「そりゃ遠いわけだ」

 

伊織と耕平にしてはまともな会話である。その手でビールの蓋を開けていなければだが

 

「すみません...」

 

「つい無意識で...」

 

案の定愛菜に平手で千紗に至ってはグーで制裁を食らわされていた

 

「これから潜るのにお酒はダメよ!」

 

「2人もすっからPaBに染まったね」

 

「おーいお前らー」

 

「無事着いたみたいだな」

 

そこへ既に宮古島入りしていたサークルメンバーが来るまで迎えに来ていた

 

「わざわざ来てもらってすいません」

 

「いいってことよ」

 

「俺達は昨日の晩に着いてたからな」

 

「随分早いんですね」

 

「朝から潜るんだ。前日入りしとかないと」

 

「ま、その後の”オトーリ”の方が楽しみだが」

 

「「オトーリ?」」

 

「宮古式の飲み方だそうだ」

 

「聞いてないのか?今回の合宿の目的の8割はオトーリなんだぞ」

 

「「あっ、あれか!」」

 

伊織と耕平は揃って合宿前に時田と寿が目にしていた宮古島の雑誌を思い出した

 

目的地に着いた一行は荷物を降ろし街の中を歩いていた

 

「そういえばネットで知ったんだがなんでも宮古人お断りの店があるんだとか」

 

「それってオトーリってやつが凄すぎてですか?」

 

「さすがにそれは都市伝説だろ」

 

「そんなひでぇ飲み方するやつがいるもんか」

 

「「ですよね〜」」

 

確かにどんな飲み方をすれば出禁になるのか。そんなやつは今の時代いないであろう。そう考えたのも束の間伊織と耕平の目の前に”PaB関係者お断り”の看板を出した店があった

 

「「あんたら昨夜なにやったんですか!」」

 

「「...」」

 

2人の問いかけに知らんぷりをする先輩達。これは何かやったな

 

「ま、それはそれとしてだ」

 

「いよいよダイバーデビューだな」

 

「あぁそれなんですが...」

 

「こいつ昨日熱出して寝込みまして」

 

「マジか」

 

「じゃあライセンス取れなかったのか?」

 

「お恥ずかしい...ちょっと楽しみにしすぎまして」

 

「なんだそりゃ」

 

「遠足前に熱出す子供か」

 

「なので俺は一緒に潜れないんですよ」

 

「そうか」

 

「それは残念だな」

 

先輩達に事情を説明する伊織を心配そうに見つめる千紗。そして伊織のことを見ている千紗を見ている拓海

 

その後荷物を置いてすぐに指定の船に乗船する一行。初めての感覚の伊織と愛菜ははしゃいでいる

 

「おー!すっげぇスピード!」

 

「風がすっごく気持ちいよね!」

 

「ん、なんだ?」

 

「っ!顔近いから!」

 

風と波の音で愛菜の声がよく聞き取れなかった伊織が顔を近づけると愛菜は照れてそれを押し返す

 

「ふん、初心者がはしゃぎおって」

 

「あ”ん”?てめぇのは聞こえてっぞ!てめぇもまだ2回目だろうが!」

 

「なんなら初心者くんに船上のマナーでも教えてやろうか」

 

「もうやめなさい!他にもお客さんいるんだから!」

 

まったく。この2人がいると船上でもケンカの戦場だな。海だけに心も洗浄しないといけないな。ふふふ...今のは座布団3枚はもらえたな

 

「それではみなさーん。ミーティング始めますよー」

 

『はーい』『うーっす』

 

今回のダイビング行程は奈々華の一任となった。計画はルートなどは拓海も手伝ったが耕平達のライセンス講習を見ていたのはほぼ奈々華だったので今回も奈々華がいいだろうという意見の元の決定であった

 

「という感じのポイントです。震度は17m、潜水時間は40分を予定しています。それではみなさん、準備をお願いします!」

 

『うぃーっす』

 

「はいはい!更衣室で着替えましょうね!」

 

奈々華からの説明が終わりその場で脱ぎ出す先輩達を更衣室へ促す愛菜。もうその位置付けが鉄板になってきな

 

「お前はどうするんだ?」

 

「何がだ?」

 

「震度17mだとライセンスがないと...」

 

「それなら大丈夫だ。1、2本目は体験ダイビングに混ぜてもらうことになった」

 

「3本目はどうするんだ?」

 

「みんな3本潜る予定みたいだけど」

 

「俺は船の上で待機だな」

 

「私もそっちに混ぜてもらおうかな...」

 

「あ?なんでだ?」

 

「だって上手く潜れるか自信ないし...」

 

「何をバカなことを先輩達もフォローしてくれるしこいつもいるだろ?」

 

そう言って拓海を千紗の腕を掴んで引き寄せる。その光景を離れた場所から拓海が悲しそうな目で見ていた

 

「こんな綺麗な海なんだから行けるところまで行ってこいよ」

 

「うん...」

 

『体験ダイビングの方!集まってください!』

 

「おっと、んじゃそっちはそっちで楽しんでこいよ!」

 

そして耕平と愛菜は奈々華先導千紗補助の元ライセンス所得後初のダイビングへ乗り出した

 

ー1本目終了ー

 

1本目を終えたPaBメンバーは各々感想を言い合っていた

 

「ウミガメが近くまで来てくれたな」

 

「すごかったですよね!」

 

「親子連れとはついてたね」

 

「二次元のような素晴らしさだった!」

 

「伊織のところからは見えなかったか?」

 

「残念ながら」

 

「写真なら撮ったぞ〜、ほれこんな感じだ」

 

「おぉ!できれば近くで見たかったですね」

 

「なーにライセンスを取ればまたチャンスはあるさ」

 

「次は頑張れよ?後輩」

 

「お前に言われると異様に腹がたつな」

 

その後一同2本目の時間になるまで円になって盛り上がっていた

 

「お茶取ってきます」

 

「...」

 

席を立った伊織の背中を心配そうに見つめる千紗。そしてまたもその光景をボンベに空気を充填させながら見つめる拓海。千紗が伊織をそのような目で見る度に拓海の不安は募るばかりであった

 

そして2本目。奈々華に連れられて千紗、耕平、愛菜の3人はとあるポイントに辿り着いた。そこから海面を見上げると光の反射で幻想的な光景が広がっていた

 

(ここ...水族館に似てる)

 

千紗がたまに手伝う水族館のこと。先程の伊織の表情。そして水族館の後に言っていた伊織の言葉。千紗は伊織も見れないかと体験ダイビングの方に目を向ける

 

(あそこからじゃ遠いよね...)

 

ー2本目終了ー

 

2本目を終え、PaBメンバーは昼食を取っていた

 

「すごい幻想的でした...」

 

「あれはカメラが欲しくなりますね」

 

「光の差し方がいい時間帯だったからな」

 

「なかなか見られるもんじゃないぞ」

 

「あれ、伊織は?」

 

「デッキで休むとか言ってたな」

 

「ふ〜んそっか。今日の伊織は随分おとなしいね」

 

「あ確かに」

 

「具合でも悪いのかもしれんな」

 

確かに今日の伊織は静かだ。風邪の振り返し?みんなと一緒に泳げないから?答えは本人にしかわからない

 

そして伊織となんと千紗も3本目は船で待機となった。なんでも2本目のとき耳をやってしまったらしい。ほとんどの人がそれを信じ3本目に向かっていったが拓海だけは千紗が伊織が心配で残ったのだと思っていた。そんな拓海は他のメンバーとは遅れて、千紗が伊織の元に向かっていくのを見てから潜っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸に戻ってきた一行は夜まで各々自由に過ごした。疲れたので一眠りする者。街へ観光に出る者。今晩の店の確認に赴く者。そして時は過ぎ夜、大広間に全メンバーが集った

 

「みんな聞いてくれ。宮古島に来た理由の8割を占めるオトーリ体験だが」

 

「予定していた店がなぜか臨時休業になったため断念することになった」

 

『あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

「オトーリってエンドレス飲みのことだよね?」

 

「あぁ」

 

「終わりのない世界戦から逃れられたか」

 

「いや〜これで平和な宮古島の夜が...」

 

「だがせっかく宮古島まで来たんだ!」

 

「せめて俺達なりのオトーリをやってみようじゃないか!」

 

『いぇーーーーーーい!!!!!!』

 

全速力でその場を逃げる耕平と伊織!しかし先輩の1人がぶち撒けた酒で足が滑りその間に違う先輩に行く手を阻まれる!

 

「おいおいそんなにはしゃぐなよ1年坊。さぁ始めようか」

 

そこは既に酒を愛する魔王達の館。かくして抗戦虚しく捕まった2人の運命やいかに!

 

 

 

 

 

 

「俺達なりのオトーリってなんですか!」

 

「まぁそう焦るな」

 

「今から説明してやる」

 

「今回は同じ甕の酒を飲もうと思う」

 

「せっかくの合宿だからな」

 

「同じ釜の飯みたいなもんですね」

 

「ところがだ...」

 

「全員の好みが一致する酒ってのは意外と難しい」

 

「それはそうですね」

 

「だがここでみんなの感想が異なるのは寂しいだろ?」

 

「それはそうかもしれませんね」

 

「合宿の思い出の酒ですし」

 

「だから俺達は考えたんだ」

 

「「ならば!公平になるよう全員きちぃ酒にすればいいと!」」

 

「「公平の取り方おかしくないですか!?」」

 

「で、今からこの甕を回して好きな酒を注いでもらうわけだが」

 

「そのとき何でもいいから一言口上を述べてくれ」

 

「口上?」

 

「オトーリは何か一言述べてやるものらしい」

 

「美しい島と海に捧げます、とかな」

 

「なるほど」

 

「まずは俺達が少し真面目に述べさせてもらおう」

 

酒が関わっている場なのに時田と寿が真面目な話とは些か違和感があるがまぁ聞いてください

 

「出身地がバラバラの俺達がこうして同じ時に同じ場所に集い」

 

「同じ船に乗り同じ甕の酒を飲めることを嬉しく思う」

 

「この場にいる全員が同好の士であり仲間だ」

 

「いずれそれぞれの道が別れようとも同じ時間を過ごしたことは変わらない」

 

「どうかみなの人生における青春の思い出として!」

 

「今日という日を忘れないでほしい!」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!』

 

いいこと言った。言った、のだが...その手にはスピリタス(アルコール度数96%)が...それをトボトボと甕の中へ

 

「アホかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「何が青春の思い出だ!」

 

「思い出以前に記憶すら残す気ないだろ!」

 

「俺!お前らと過ごしたこと一生忘れないからな!」

 

その手にはまたもスピリタス。それを甕の中へ

 

「ならなぜそれ注ぐ!」

 

「本当に覚えておく気があるのか!」

 

「ほれ、東」

 

「お、おう」

 

「どうした東?」

 

「いや俺、化学の勉強ばっかやってきたからこういうとき気の利いたことできなくってさ。だからせめて、俺のできることで...」

 

そう言ってポケットから取り出したのは消毒用エチルアルコール(アルコール度数60%)。というか酒ですらねぇ!しかもそんなでっかいものポッケからってあなたのポケットは四次元に繋がってるんですか!?

 

「「入れるなー!!!」」

 

「はっはっは、冗談だ」

 

「こんなもん混ぜたら度数下がっちまうぜ」

 

「消毒用アルコールよりキツいだと!?」

 

「これ絶対飲み物じゃねぇ!こんなもんで乾杯したら命の保証はない!」

 

「斯くなる上は!」

 

(何食わぬ顔で水でも入れて)

 

(度数を安全圏まで下げる!)

 

「ほーらお前らも」

 

「はい!」

 

「わかりました!」

 

自分達の身を守るため水を注ごうとした瞬間伊織の目を強烈な刺激が襲った

 

「目ガ!目ガァ!」

 

「グハッ!」

 

その勢いで伊織の肘が先輩の顔面に直撃してしまった

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「おいおい何やってんだ」

 

「すみません」

 

「なーに気にするな」

 

「怒らないんですか?」

 

「このくらいでキレるガキはPaBにはいねぇよ」

 

「先輩...」

 

「じゃあ、俺のも入れますね」

 

なんて理想的な先輩像なのか。伊織と耕平も感動したところで再度水を注ごうとすると先程とは打って変わって鬼の形相の先輩に止められる

 

「おいこら伊織!」

 

「ふざけた真似してんじゃねぇぞ!」

 

「肘打ちはOKなのに...」

 

「キレるポイントおかしいだろ...」

 

「それならせめて...」

 

「これでなんとか...」

 

「う〜む」

 

「まぁギリギリ認めよう」

 

「待て待てお前ら」

 

「その前に一言だろ?」

 

「あぁそういえば」

 

時田と寿に指摘されソワソワし出す耕平

 

「どうした耕平」

 

「口上が思いつかん」

 

「なんだ、こういうの苦手なのか」

 

「どうしたらいいんだ...」

 

「改めて自己紹介してみたらどうだ?」

 

「なるほど!じゃあ名前と趣味と座右の銘辺りでも言っておくか」

 

「それで十分だろ」

 

「じゃあ1年ども」

 

「口上を述べてくれ」

 

「はい」

 

「名前趣味座右の銘名前趣味座右の銘...」

 

さて、どんなおもしろ...心に響く口上が聞けるのか

 

「えぇ、俺はこのサークルのお陰でずっと嫌いだった「今村耕平!」の魅力がわかりました。最初は流されて始めた「アニメとゲーム!」をいまではいいものだと思っています。これからは一層努力して自分から「耕平お兄ちゃん結婚して!」と言えるよう頑張りたいと...ざっけんなゴラァ!」

 

「てんめ!何しやがる!」

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

「なかなかいいスピーチだったな」

 

「まさか2人の中が縮んでいく経緯を語るとは」

 

なぜそうなる。それになぜ梓は涙を流し奈々華は拍手をしているのか

 

「さて、全員酒はあるな!」

 

「ここまでたっぷり注がんでも...」

 

「見ろ北原。正しいオトーリの作法が載ってるぞ」

 

「なんだと!ってことはこれを見せれば」

 

「この飲み方から解放される」

 

※オトーリ(御通り)は

 

1、参加者で「親」となるものが立って口上を述べた後、同じ杯に酒を注ぎなおしてとなりの参加者に渡す。注がれたものはその杯を飲み干し、杯を「黙って」親に返す。

2、「親」は、返された杯に、再度酒を注ぎ、先程飲み干した人の次の人に杯を渡す。杯を渡された人は、同じように一口で杯を干し黙って親に杯を返す。

3、参加者に杯が一巡するまで上記を繰り返し「親」の一人手前までオトーリが回ると、「親」の手前の人は杯を干した後、その杯へ酒を満たし「親」へ返杯する。

4、「親」はその返杯を飲み干した後、自分のオトーリへ最後まで付き合ってくれた礼を述べ、最初の「口上」で述べ足りなかったことがあればそれにも言及し、〆の挨拶を行いって次の「親」を指名する。

5、以上が最初の「親」ひとり分のサイクルである。

 

上記の「親」から指名された人が新しい「親」となり、同じように口上を述べたあと、上記の手順を延々と繰り返す。

『Wikipediaより』

 

・・・伊織前期説明中・・・

 

「なるほど」

 

「ということは...最低12回は乾杯する必要があるな」

 

「となると酒が足らんな」

 

「この辺のも全部入れるか」

 

耕平、伊織による高速往復ビンタ炸裂

 

ほうはふほはよほうはいは(こうなるとは予想外だ)

 

「まぁいい!こっちは強い酒に飲み慣れている!」

 

「確かに!それよりも大事なのは!」

 

「酒を飲んでも飲まれないという強い精神力!」

 

2人にそんな精神力あるわけないではないか

 

「「ウェーーーーイ!!!」」

 

「いいぞお前らー!」

 

「それでこそ俺達の後輩だ!」

 

ほーらなかった

 

「あっと言う間に見慣れた光景に」

 

「はぁ」

 

「みんな楽しそうね」

 

「落ち着くね」

 

そんな男どもを見て女性陣は各々違う感想を述べるのであった

 

「ん?」

 

「どした?」

 

「酒が切れた」

 

「もうですか!」

 

「そりゃあんな飲み方してたらね」

 

足りなくなった酒の買い出しは酒を飲んでおらず車の運転ができる愛菜となった。それに加え愛菜の指名で伊織が手伝いで同行することとなった

 

買い出しは無事終わって戻ってきた。まぁ途中パン1で助手席に座っていた伊織のせいで警官に止められはしたが安全に帰還した。

 

「本当信じられない!」

 

「ついうっかりだったんだ。そう怒るなよ」

 

「どうした?」

 

「こいつこの格好で車から降りたんですよ!」

 

「あまりに暖かかったんで」

 

「道理だな」

 

「リゾート地ならではの開放感ってやつか」

 

「よくあることだ」

 

「どうして全員伊織に賛同するの!?」

 

「だがケバ子、よく考えてみてくれ」

 

「なによ?」

 

「南の島、満点の星、男と2人でドライブ。これこそお前の言う青春じゃないか」

 

「相手が半裸の変態じゃなければね!」

 

「そうか、すまん」

 

「わかってもらえた?」

 

「だがいくら俺でも、全裸というのは...」

 

「脱ぎ方が足りないって意味じゃないから!そもそも飲むときも脱ぐ必要ないでしょ!」

 

『.......』

 

「何言ってるのかわからないって顔しない!!!」

 

「まぁまぁ落ち着きなよ」

 

「ったく!」

 

男達のこの考えを改めない限り愛菜の青春は訪れないだろう。まぁ青春なんて御伽噺だけどな!

 

「ん?拓海はどうした」

 

「そういえばさっきから見かけんな」

 

「あいつ乾杯のときからいなくなかったか?」

 

「口上のときもいなかったな」

 

ようやくと言ったところか、メンバーは拓海がその場にいないことに気づいた

 

「ねぇちーちゃん」

 

「はい?」

 

「昨日、拓海となんかあった?」

 

「?いえ、特にこれと言って」

 

「そっか。昨日拓海酷く落ち込んでてさ。ちーちゃんと何かあったのかなーって思って」

 

「拓海が」

 

「うん。今日拓海とは話した?」

 

「そりゃ当然...」

 

そこで千紗は口は止まり今日1日のことを振り返る

 

(あれ、そういえば今日拓海と話したっけ...というか拓海のこと見てた時間あった...?)

 

千紗は昼間のことを思い出し目を見開く。そう、今日千紗は一言も拓海と会話をしていないのだ。千紗は今日1日ずっと拓海ではなく伊織を気にしていた

 

「千紗ちゃん?」

 

「...どうしようお姉ちゃん」

 

「どうしたの!?」

 

「今日、拓海と話してない...」

 

千紗の表情で心配する奈々華の腕を掴んで今にも泣きそうになっている千紗

 

「あー!!!」

 

「ど、どうしたの愛菜...」

 

「忘れてた!千紗!」

 

「な、なに...」

 

()()()()()()、拓海も聞いてたんだった!」

 

「え...」

 

愛菜の言葉に千紗の顔は一気に青ざめた

 

「どういうことだ?」

 

「実は...」

 

愛菜は一昨日キッチンでの伊織と千紗の聞き間違えの件について全員に話した

 

「そういうことね〜だから拓海」

 

「私はその夜に誤解だって気づいたんですけど、拓海は...」

 

「...」

 

「千紗ちゃん、今すぐ行ってあげて」

 

「でも、どこにいるかもわかんないし...それにもう拓海は...」

 

「そんなことわかんないでしょ!」

 

「っ!お姉ちゃん...」

 

「とにかく行ってちゃんと話して誤解を解いてくるの!多分浜辺にいると思うから!」

 

「なんで...」

 

「昔かなちゃんから聞いたことあるの。拓海くんは何かあると1人で海を見るって」

 

「...わかった」

 

千紗は急いで外へ出て駆け出した。家の前の浜辺にはいない。暗い中浜辺沿いを走って懸命に探す。すると400mほど言ったところにボートに乗るときに使われる快適な岸があった。そこに1人座っているのが見えた。千紗は駆け寄り声をかける

 

「拓海...?」

 

「ん?あれ千紗」

 

それは紛れも無い拓海であった。千紗はなんだか数年ぶりに会った感覚に見舞われすぐにでも泣きそうなのをぐっと堪える

 

「拓海...えっと、この前のは...あれはそうじゃなくて...」

 

「あぁ梓さんから聞いたのか。言わなくていいよ。全部わかったし」

 

「っ!」

 

「まぁ気づいたのは途中からだけどな。最初は驚いたけど」

 

「ちがっ...」

 

「いやーでもあんなに泣いたのは久しぶりだ。本当に枕が濡れるまで泣けるもんだな」

 

「話を聞いて!」

 

「おわっ!おととととと!!!!んぐっ!ふぅ...千紗、危ないでしょうが」

 

「あ、ごめん...」

 

いきなりの背後からの千紗の突撃で危うく海にダイブするところだった拓海は間一髪助かった

 

「違うの拓海!あれは誤解で!伊織のダイビングの練習に付き合ってたって意味で!だからそのえっと...!」

 

「ん?知ってるぞ?」

 

「え...」

 

え・・・?

 

「俺の千紗への愛舐めんなよ?」

 

「〜っ!」

 

「まぁでも最初は信じちゃったけどな。でも仕方ないだろ?伊織が”付き合ってくれ”って言ったのに千紗は”嬉しい”って返すんだから。あ、また泣けてきた...」

 

「...」

 

「でも今日1日千紗と伊織の行動見ててわかったよ。千紗は伊織の心配してただけなんだなって」

 

「...」

 

「めっちゃ嫉妬してたけどな。船に2人で残ったときなんか特に」

 

「...」

 

「でも千紗は優しいから。それも仕方ないって思うことにした。伊織が千紗の腕掴んだのはムカついたから後で一発殴る」

 

「ふふっ」

 

「ちくしょうめ。せっかくのオレと千紗のアバンチュールがあいつのせいでズタボロだ。こんなことなら奈々華さんに任せずオレがみっちり叩き込んどくべきだったかな〜」

 

「それは辛そう」

 

「ははっちげぇねぇ。さて、まぁざっとこんなところだ。んで千紗」

 

「ん?」

 

「ここまで来てくれたってことはそう捉えていいんかな」

 

「え?」

 

「こんな女々しいオレだけど、まだお前の1番はオレでいいのか?」

 

「...拓海じゃなきゃイヤ。それにずっとじゃないともっとイヤだよ」

 

「〜っ!こんのカワイイな千紗は!」

 

「ちょっ!拓海!」

 

拓海は千紗を抱きしめ盛大に頭を撫で回す

 

「ふぅ〜」

 

「もう、髪ぐちゃぐちゃ」

 

「後で梳いてやんよ」

 

「当然」

 

「はいよお嬢様」

 

拓海と千紗は頭上に広がる夜空を見上げる。そして千紗はそっと拓海の肩にもたれかかった

 

「ねぇ拓海」

 

「ん?」

 

「また来ようね」

 

「それはまたサークルでか?それとも2人でか?」

 

「う〜ん。どっちも」

 

「左様で」

 

「うん」

 

「そろそろ戻るか」

 

「うん。でも...」

 

「ん?」

 

「今回拓海との思い出あまり作れなかったから...その...」

 

「ん?」

 

「最後に...拓海との思い出......欲しい........」

 

「ふむ。それに関してはこっちからお願いしたいね」

 

月明かりに照らされてキラキラと光る海を前に2人は今回の仲直りと最後の思い出、その他もろもろを含めて暑い口付けを交わした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だぁー!!!最後までなんと羨ましい!ごちそうさまです!!!

 

最後に一言

 

末永くお幸せに爆発しろこの幸せもんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、サンキュー」

 

「あ、ありがと...」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。