六等分の花嫁 (先導)
しおりを挟む

第1章
六等分の花嫁


どうも初めまして。先導です。

五等分の花嫁にはまり、書きたい衝動がうずうずしたので、思い切って書いてみました!

この物語は五つ子にもう1人の妹(オリキャラ)がいたら?という想像の下で出来上がった作品です。

まだまだ力量不足なので文章もうまくいってるかどうかもわかりません。ですが、ぜひとも読んでいただけるのなら幸いです。

8月11日:悠魔さんから六海ちゃんのイラストをいただきました。
後書きの六海紹介に乗せました。許可をいただき感謝です!


夢見てる・・・

 

六海は今、とっても、とーってもきれいなウェディングドレスを着て・・・

 

六海の目の前には、素敵なお婿さんがいる・・・顔はよく見えない・・・

 

ああ・・・六海は、この人と・・・

 

 

 

 

 

ー六等分の花嫁ー

 

 

 

 

 

・・・

 

・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・

 

「・・・んあ?」

 

六海が目を覚ますと、ぼやけた視界でいつもと変わらない、六海好みのぬいぐるみさんや見慣れた漫画本、そして、使い慣れた机やインクが視界に映る。

 

・・・な~んだ、今の夢か。なんかがっかり。

でも、夢に出てきた花婿さんって、誰だろう・・・?

 

「・・・考えるのやめやめ!さー、お腹すいた!今日の朝ごはんは何かな~♪」

 

六海は気持ちを切り替えて・・・あんまり着たくない前の学校、黒薔薇の制服を着替える。正直、これ着るとブラックな気持ちになるんだよね~。でもそれも今日まで!今日帰ってきたら新しい制服が届くはずだもんね!制服を着替え終えた後は、六海の髪のセット、メガネをかけて視界を良好にして準備万端♪

 

「今日も張り切っていこー!おー!」

 

これが、私こと、中野六海の朝の始まりだよ♪

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海の部屋から出ると、キッチンからおいしそうなにおいがする。は~、これこれ♪これがないと朝が始まらないって感じだよね~♪

 

と、いけないけない。早く牛乳を飲まなきゃ!カルシウム大事!だよね。

 

六海が牛乳をとろうとキッチンに入って、すぐに視界に映ったのは、六海にとって大好きなお姉ちゃんの2番目が朝食を作っている。ああ、いつ見ても朝食、おいしそう・・・。

 

「二乃ちゃん、おっはよー!」

 

「おはよ、六海」

 

この人の名前は中野二乃。六海は親しみを込めて二乃ちゃんって、呼んでる。というより、他のお姉ちゃんたちにもちゃん付けで呼んでるんだけどね。

 

私たちはどうも一卵性?の中で生まれた六つ子なんだって。ちなみに六海は六つ子の中で1番下、つまり六女の末っ子だよ♪つまり六海には二乃ちゃん以外にも、後4人お姉ちゃんがいるんだよー。

 

「ね!ね!朝ごはんできた?ね!ね!ね!」

 

「あーもう!朝っぱらからうるさい!もうすぐできるから、他の姉妹呼んできて!」

 

「はーい♪」

 

えへへ、怒られちゃった♪でも六海は知ってるよ。こういうの、照れ隠しっていうんだよね?さて、と。牛乳を飲んで、さっそくお姉ちゃんたちを呼びにいこーっと。この時間帯なら・・・5番目のお姉ちゃんはまだ寝てるはず・・・そうだ♪今日もいつものように驚かせちゃおーっと。

 

さっそく実行に移すために、六海は5番目のお姉ちゃんの部屋まで来て、そーっと、そーっと扉を開ける。しめしめ♪まだ寝てるまだ寝てる♪寝ている5番目のお姉ちゃんのベッドまでそーっと、そーっと近づいて・・・

 

「五月ちゃーん!!朝だよー!早く起きろー!」

 

勢いよくベッドダーイブ・・・て、あれ⁉いない⁉いつもなら・・・

 

『きゃあ!む、六海⁉またですか⁉』

 

てなるはずだったのに・・・どこに・・・

 

「かかりましたね、六海!」

 

「きゃああああ⁉」

 

六海が辺りを探っていると、背後からいきなり六海を押し倒してきた。その人物とは、今六海が探していた5番目のお姉ちゃんだ。

 

「い、五月ちゃん⁉起きてたの⁉」

 

「六海にはいつもやられてきましたからね、パターンは覚えました。それよりもいつも私を驚かそうとした六海には・・・こうです!」

 

「ぴゃっ⁉あ、あはははは!い、五月ちゃん!や、やめ・・・あははは!」

 

「ダメです!仕返しです!」

 

今六海をお仕置きという題目でくすぐってきているのは5番目のお姉ちゃんである中野五月。六海はいつも五月ちゃんって呼んでる。

 

「ほ、本当にダメ!あははは!お、お腹痛い・・・!」

 

「ここですか?ここが弱いですか~?」

 

「も、もう限界!許して・・・あはははは!」

 

六海の腹筋が崩壊しそうになった時、五月ちゃんの扉が開かれた。

 

「・・・呼びに来いって言ってるのに、何やってるのよ」

 

「わお!いつもの楽しい声が聞こえてきたから様子を見に来てみれば!六海と五月の立場が逆転してる!」

 

「珍しい光景」

 

そこに立っていたのは、朝食を作ってたはずの二乃ちゃんと、3番目と4番目のお姉ちゃんが立っていた。3番目のお姉ちゃんが中野三久、4番目のお姉ちゃんが中野四葉。六海は三玖ちゃん、四葉ちゃんって呼んでる。

 

「に、二乃⁉三久に四葉まで・・・」

 

「わーん!三玖ちゃーん!助けてー!五月ちゃんがいじめてくるー!」

 

「なっ!六海⁉」

 

六海はわざとらしい態度をとって三玖ちゃんを抱きしめる。三玖ちゃんは優しくて六海の頭をなでてくれてる。当の五月ちゃんは・・・予想通りの反応をしてる♪にしし・・・

 

「よしよし・・・六海はいいこいいこ」

 

「五月!ひどいよ!いくら六海がいたずらっ子だからってこんなこと!」

 

「私ですか⁉私が悪いんですか⁉」

 

やっぱり2人ともノリがいいにゃー。予定とは違ったけど、狙い通りの反応をしてる五月ちゃんかわいいなぁ。大好きなお姉ちゃんたちだけど、その中で1番大好きなお姉ちゃんほどついからかいたくなっちゃう。

 

「はいはい、茶番はもう終わって、そろそろ一花呼んできて」

 

「「えー!!」」

 

「二乃、ノリ悪い」

 

「悪かったわね、ノリが悪くて。そんなことより、朝食出来上がったから、五月、食卓並べるの手伝って」

 

「そ、そうですね!じゃあ六海!一花をお願いしますね!」

 

「はーい」

 

二乃ちゃんがキッチンに戻っていくのを、五月ちゃんが逃げるように後をついていった。ちょっとからかいすぎたかな?若干涙目だった。反省・・・。

 

「でも一花ちゃんの部屋かぁ・・・」

 

朝で1番難題なのがこの騒動でもまだ眠ってるであろう1番上のお姉ちゃん。正直、六海はあの部屋に入りたくないんだよね・・・。でも入らなくちゃいけないんだよね。

 

「・・・四葉ちゃん、今日もお願いできる?」

 

「う、うん・・・わかったよ・・・」

 

四葉ちゃんも部屋の中を見たくないのか返事がぎこちなかった。

 

「じゃあ私、先降りてるね」

 

三玖ちゃんは先にリビングの方へ降りていった。・・・あーあ、こういう時、末っ子って損な役割だよねー。あの部屋を見る羽目になるなんて。

 

「だ、大丈夫だよ六海!私がいるから!」

 

六海の憂鬱を感じ取ったのか四葉ちゃんがフォローを入れてる。あー、それだけで気持ちが楽になったよ。・・・よし!覚悟を決めて、1番上のお姉ちゃんの部屋まで来て、、元気よくノックする。

 

「一花ちゃーん!朝だよー!起きてー!」

 

「一花ー!入るよー?」

 

ノックをしても返事がないということは寝てるのだろう。四葉ちゃんが部屋の扉を開ける。中には・・・うっ、今日もまた一段と・・・いや、それ以上に汚くなってる⁉

 

「あーあ、また服をそこら中に散らかしてー・・・一花ちゃーん?」

 

六海と四葉ちゃんはそこら中に落ちてる服やら何やらを避けながら1番上のお姉ちゃんのベッドまで行く。ベッドには案の定、1番上のお姉ちゃん、中野一花が眠ってる。六海は一花ちゃんって呼んでる。

 

「一花ー、朝だよー。起きてー」

 

「一花ちゃーん、朝ごはんできるよー」

 

「・・・う~ん・・・後5分・・・」

 

それ絶対に5分以上寝ることになっちゃう!無理やりにでも起こさないと・・・!

 

「だ、ダメだって一花ー!」

 

「一花ちゃーん!起きてー!」

 

「・・・う~ん、仕方ないなぁ・・・ふわぁ・・・」

 

強く揺さぶったおかげか一花ちゃんは起きてくれた。

 

「おはよ、四葉、六海」

 

「一花ちゃん、また服脱いで寝てるー。その癖直そうよー」

 

「あはは、ごめんごめん。四葉ー、私の制服どこー?」

 

「えーと、確かこの辺に・・・」

 

一花ちゃんはどういうわけか寝る時、いつも服を脱ぐ癖があるみたいなんだよねー。ショーツはつけてるみたいだけど・・・妹としてはその癖はどうにかしてほしいなぁ・・・。四葉ちゃんは一花ちゃんの制服を汚い部屋の中から探している。さすが我が家の清掃隊長だね。

 

「じゃあ、六海、先に降りてるね?」

 

「うん、わかったー」

 

「また後でねー」

 

自慢じゃないんだけど六海は探し物をするとき、いっつも部屋を散らかしちゃうんだよね。前に一花ちゃんの探し物を探してたら、今の部屋がもっと大惨事になっちゃったんだよね。

わかりやすく例えると姉妹の中で1番部屋がきれいな四葉ちゃんの部屋で六海が探し物すると一花ちゃんみたいな部屋になるという感じ。お姉ちゃんたちはそれをきちんとわかってるから六海に極力物を探させないようにしてる。この癖、いい加減直したいんだけどね・・・。

 

さてと、一花ちゃんの制服は四葉ちゃんに任せて、六海は先にリビングに向かいますか。六海がリビングに到着すると、食卓にはすでに二乃ちゃん、三玖ちゃん、五月ちゃんが待機してて、机にはおいしそうな朝食が並んである。

 

「六海、一花と四葉は?」

 

「一花ちゃんなら起きたよー。四葉ちゃんは一花ちゃんの制服を捜索中ー」

 

「はぁ、またですか・・・」

 

「仕方ないよ。六海にやらせるとろくなことにならないし」

 

「それには同意ね」

 

「二乃ちゃんも三玖ちゃんも事実だけどひどいよー」

 

最近六海をいじめてくる相手に五月ちゃんだけじゃなく、二乃ちゃんと三玖ちゃんが増えたような気がする。

 

「お待たせー!」

 

「もう、一花遅いですよ!制服くらいたまには自分で探してください!」

 

「ははは、五月ちゃんは手厳しいなぁ」

 

「それ、五月ちゃんだけじゃなくて、みんな思ってることだよ」

 

「六海が1番厳しいことを言うねー。お姉ちゃん、なんかショック受けちゃうなー」

 

これで食卓に姉妹全員が揃ったね。朝食に姉妹が集まらない時もたまにあるんだけど、今日は特別。だって今日は新しい学校の転入日!こういう日は全員揃って朝食を食べたいもんね。六海がそう提案したらみんな快く承諾してくれたこと、うれしかったなー。

 

「「「「「「いただきまーす」」」」」」

 

全員が揃ったところでいただきますの挨拶をして、会話を弾ませながらみんな各々今日の朝食を口に運んでいく。うん、やっぱり二乃ちゃんの料理はおいしいなぁ。これで毎日ケーキやおだんごなんかといったスイーツがあればいいなぁ。

 

前に二乃ちゃんが料理は当番制って言ってきたことがあったけど、その時に六海の番が来た時、毎食デザート付きって宣言したら、速攻でクビにされた。いい案だと思うのになぁ・・・。ちなみにみんなもクビにされて、結局料理当番は二乃ちゃんだけになっちゃった。

 

「学校には午後まで到着って言ってたけど、それまでみんなどうするー?」

 

「んー、私はジョギングしてシャワー浴びた後、二度寝かなぁ」

 

「私は部屋でのんびりするわ」

 

「私も部屋にいる」

 

「はい!六海は学校探検がしたい!四葉ちゃん、一緒に回ろー!」

 

「うん、いいよー!なんか楽しそうだし!」

 

「わ、私は、食堂でランチがしたいので、先に学校に行きますね。そ、その時は六海、一緒に食べませんか?」

 

「もちろん、いいよ!六海、五月ちゃんと一緒にお昼食べるー!」

 

「六海・・・!」

 

六海が五月ちゃんの昼食の同行を許可すると、五月ちゃんはとてもうれしそうな顔をしている。そんな嬉しそうな顔をすると、こっちもうれしくなるにゃー♪

 

「でも、午後にはちゃんと職員室に来るんだよ。いい?」

 

「「はーい!」」

 

「わかっています」

 

これで学校に先に行く組は六海、四葉ちゃん、五月ちゃんと決まった。朝食を終えたらさっそく学校に行く準備しなくちゃ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

朝食を終えて、六海と四葉ちゃん、五月ちゃんは新しい学校にやってきた。ここでいったん五月ちゃんと別れて、六海と四葉ちゃんとで学校を探検して回った。

 

結論、黒薔薇と違って、この学校は活気があふれてる!あそこすごく厳しかったし、六海たちの肌に合わなかったから、六海たちのやったことは間違いじゃなかったって、無神経ながら思っちゃうね。

 

後半からそれぞれの部活のことについて話してたから、四葉ちゃんは運動系の、六海は美術関連の部室やら活動場などを見に行ったね。四葉ちゃんの運動神経は抜群だから、きっと、運動系の部活の人たちから助っ人や入部の勧誘が来るのだろうなー。

 

一方の六海はというと、運動系の才能はないけど、お姉ちゃんたちいわく、絵の才能があるといわれる。確かに絵を描くことは好きだけど、六海の才能なんてまだまだだよ。それに、六海が描きたいのは肖像画とかそういうのじゃなくて・・・おっと、ここからは秘密♪

 

見学とかしている間に、五月ちゃんから電話が来た。そういえば六海のメール画面、更新がどうたらで送受信ができなかったんだった。失敗失敗♪今食堂にいる・・・もうそんな時間かー。一緒に食べる約束してるし、早くいかなきゃ♪

四葉ちゃんにも電話をして誘ったけど、もう少し見学してから行くみたい。

 

食堂にたどり着いてみたけど・・・大盛況!ちょっとびっくりしちゃった!あ、五月ちゃん、もう並んでる!じゃあ、六海もこの列に並んでっと・・・。

 

ざっとメニューを見てきたけど・・・どれもおいしそうでどれ頼むか迷っちゃうけど・・・今日はハンバーグの気分だから、ハンバーグ定食にしよっと♪もちろん、デザートにアイスクリーム頼んじゃおっと♪

 

「焼肉定食焼肉抜きで」

 

・・・ん?今すごく気になるワードが聞こえてきた。焼肉定食焼肉抜き?何それ?そんなのこの食堂のメニューにあったっけ?・・・あ、六海が考えてるうちに六海の番が来た。五月ちゃんはもう席に座ったのかな?

 

「えっと、ハンバーグ定食お願いします!後、デザートにアイスクリームも!」

 

六海がそう言って、少し経つとおいしそうなハンバーグ定食とアイスクリームが出されてきた。お値段はハンバーグ定食が450円でアイスクリームが150円で合計で600円なんだって。さてと、これをもって、五月ちゃんのとこに行かなきゃ。どこにいるんだろー?

 

「それに妹と一緒に食べるんですから隣の席に移ってください!」

 

あ、いたいた・・・て、なんか男子生徒ともめてる・・・しかもあの人、確か焼肉定食焼肉抜きを頼んでた人だ。

 

「関係あるか。ここは俺が毎日座ってる席だ。あんたが移れ」

 

「それこそ関係ありません!早い者勝ちです!」

 

「じゃあ俺のほうが早く座りました。はい俺の席」

 

「ちょっ!」

 

言い争いながら男子生徒は椅子に座って席を確保した。六海の席・・・

 

「!六海!隣の席は空いてますよ!ほら、一緒に食べましょう!」

 

「え・・・でも・・・」

 

五月ちゃんが六海を見つけると、自分は男子生徒の手前の席に座って、隣の席をバンバンと叩いてる。でも、いいのかな?

 

「俺の席・・・」

 

「椅子が空いてるんですからいいでしょ、別に!ほら、六海早く!」

 

「・・・はぁ。勝手にすれば?」

 

男子生徒の許可を得て、六海はいち早く五月ちゃんの隣の席に座る。五月ちゃんも許可を得れてほっとしてる様子。よかったね、五月ちゃん♪六海はちらっと彼の食べてるものを確認した。焼肉定食焼肉抜きって・・・ごはんとお味噌汁とお新香だけ・・・焼肉抜きってそういうことなの⁉・・・気にしない方がいいね。

 

「いっただっきまーす!」

 

「いただきます」

 

六海と五月ちゃんがご飯を食べようとした時、彼の姿が目に映る。なんか、勉強しながら食べてる・・・。

 

「行儀が悪いですよ」

 

「テストの復習をしてるんだ。ほっといてくれ」

 

「それって、かなり追い込まれてるってこと?見せて見せて!」

 

「あ!おい!見るな!」

 

六海は机に置いてあるテスト用紙を取り上げて五月ちゃんに見えるように確認する。勉強するほどだからどうせ20点か10点くらいだよね。えーと、上杉風太郎・・・これが彼の名前か。点数は・・・えっ⁉

 

「「ひゃ、100点⁉」」

 

六海と五月ちゃんの予想とは裏腹に、この人、上杉風太郎君の点数は100点だった。し、信じられない・・・100点の人が復習をするなんて・・・

 

「あーめっちゃ恥ずかしい!」

 

こ、この人・・・!

 

「嘘だ!恥ずかしがってない!わざとやったでしょ⁉」

 

「知らん。お前が勝手に見ただけだ。俺は被害者だ」

 

「うぅ~!!」

 

「ま、まぁまぁ六海、落ち着いて」

 

く、悔しい・・・!でも、それ以上に羨ましい・・・!六海たちは姉妹揃って勉強がダメダメだから、勉強ができる人を尊敬しちゃう。

 

「そうだ!こうしてせっかく相席になったんですから、勉強教えてくださいよ」

 

おお!五月ちゃん、それナイスアイディア!さあ、対する上杉君の反応は・・・

 

「ごちそうさまでした」

 

リアクション薄!ていうか、えっ⁉早!て、そりゃそうか!だってごはんとお味噌汁とお新香だけだもん!そりゃ早いよ!というより待って!この人五月ちゃんの頼みを無下にしたよ⁉

 

「え、ええっと、ごはんそれだけで足りるの?よかったら、六海のハンバーグ、少し分けてあげるよ?」

 

「満腹だね。むしろ、そいつが頼みすぎなんだよ。太るぞ」

 

「「ふと・・・!!?」」

 

こ、この人!女子にたいして言ってはいけないことを言った!失礼なことを言った上杉君は空の食器を持って、返却口まで向かっていった。

 

「むきぃー!何なのあの人!失礼にもほどがあるよ!むかつくー!!」

 

「全くです!あんな無神経な人初めて見ました!」

 

やっぱり五月ちゃんも怒ってる。そりゃそうだよ。女子にあんなこと言われて怒らないなんてことないよ。・・・決めた。今後あの人のこと、見かけても絶っっっ対に名前で呼んであげない!声をかけられても無視する!

 

「はぁ・・・ごめんなさい、六海。せっかくの昼食だというのに・・・」

 

「いいよ全然!五月ちゃんは悪くないよ!むしろ悪いのはあの意地悪な人(風太郎)だもん!」

 

六海と五月ちゃんは不機嫌を隠さず、昼食を食べる。せっかくの楽しい昼食が台無しだよ。それもこれも、あの意地悪な人(風太郎)のせいだ!この恨み、どうしてくれようかな・・・。

 

その後は、六海たちと合流してきた四葉ちゃんと一緒に昼食を食べて、その後は職員室に向かってお姉ちゃんたちと合流して、午後からの授業をしっかりと受けた。ちなみに六海のクラスは3組だった!

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、新しい制服を見にまとって学校に登校!やっぱり新しい制服は気分が上がるにゃー♪

 

そして今は午前中の授業を終わらせて、六海は食堂でスパゲッティとプリンを頼んで、待っているであろうお姉ちゃんたちの下へ向かっている。姉妹全員が互いに違うクラスに属してるから、学校で集まれる時間と言ったら、せいぜい登下校と、この食事の時くらいかなー?

 

「ごめーん!待ったー?」

 

「ううん、今来たところだから問題ないよ」

 

「私はずっと待ってたんですけどー」

 

「後残るは五月」

 

五月ちゃんは確か1組だったっけ?ちょっと授業が長引いてるのかな?・・・あ、噂をすれば・・・

 

「お待たせしました」

 

「もー、遅いよー」

 

ここで五月ちゃんが来たから全員集合♪さて、それじゃあ・・・

 

「友達と食べてるだと!!?」

 

あ、あの人は・・・意地悪な人(風太郎)だ。大方席を探してたところなんだろうとは思うけど・・・席埋まっててよかった。あの人とは絶対一緒に食べたくないもん。

 

「!すみません、席は埋まっていますよ」

 

根に持っているであろう五月ちゃんは昨日の仕返しにこう言ったんだろう。そりゃそうだよ。あんなこと言われて根に持たない方が頭おかしいよ。意地悪な人(風太郎)はどっかへ行っていく。ほら、早くいったいったー。

 

「あ、ちょっと君ー」

 

あれ?一花ちゃん?なんで意地悪な人(風太郎)のところに?

 

「席探してたんでしょ?私たちと一緒に食べていけばいいよー」

 

えっ⁉一花ちゃん⁉何言ってんの⁉六海、絶対嫌だよ⁉ほら、六海の前の席の五月ちゃんも嫌そうな顔してる!

 

「食えるか!」

 

「なんでー?美少女に囲まれてごはん食べたくないの?彼女いないのに?」

 

「き、決めつけんな!」

 

あー、それわかる。いかにも女の子いない歴=同じ年って感じがするもん。と、だいぶ遠くに行っちゃったからここから先の会話が聞こえない。何の話してるんだろう?

 

「きっも。何あの陰キャラ」

 

「あの人、昨日六海と五月ちゃんに意地悪言った人だよ」

 

「え、それ本当?」

 

「本当です。全く、思い出しただけでもむかむかします」

 

「だって去る時に言った言葉が、太るぞ、だよ?信じられる?」

 

「サイテー」

 

「今度あいつが近づいてきたら、どうしてやろうかしら・・・」

 

「で、でも、話してみたら、意外にいい人かなー、なんて・・・」

 

「「ないないない」」

 

この話だけで二乃ちゃんと三玖ちゃんのあの人の印象は最悪なものとなっただろうなー。四葉ちゃんは相変わらず優しいなー。でも意地悪な人(風太郎)の味方になることないのに。あ、一花ちゃんが戻ってきた。

 

「お待たせー」

 

「一花、あいつに変なこと言われなかった?」

 

「んー?がり勉君なのに、男らしいこと言ったなーって感じはしたなぁ」

 

「うそー!どこがー⁉」

 

一花ちゃんの言葉に六海は信じられない気持ちでいっぱいになってるよ。

 

「あれ?これ・・・」

 

四葉ちゃんが何を見つけて拾いあげたみたい。これ・・・あの人の100点満点のテスト用紙じゃん!

 

「うそ!何これ!100点⁉」

 

「すごい・・・」

 

「へぇー、彼、やるじゃん」

 

みんな100点を見て驚いてるけど、六海と五月ちゃんはちっとも驚かない。だって100点取れても中身があれじゃあ・・・ねぇ・・・。

 

「てことは今の人、今困ってるかな?」

 

「ほっとけばいいですよ、あんな人」

 

「でもでも!困ってる人は放っておけないし・・・届けてくるね!」

 

四葉ちゃんはやっぱり優しいなぁ。いつか悪い人に騙されないか心配になってくるよー。て、六海もこのこと四葉ちゃん以外の姉妹全員に言われてるんだった。失礼しちゃうなぁ。

 

と、話しているとなんかスマホが鳴ってる。誰からだろう。ディスプレイを見てみると、発信者は・・・パパだった。

 

「ごめん、ちょっと電話に出るね」

 

六海は席を少し離れて、パパと電話をする。

 

「もしもし、パパ?そっちから電話してくるなんて珍しいね」

 

≪ああ、六海君か。君たちに伝えたいことがあってメールを送ったんだが・・・君だけが何度も送信エラーを起こしてね、こうして直接連絡を入れたんだが・・・≫

 

「あ・・・ああー!ご、ごめんパパ!まだメールの更新ができてなくて・・・」

 

≪構わないが・・・今後このようなことがないようにね≫

 

「はーい」

 

うう、少し怒られたかも・・・

 

「それでパパ、伝えたい事って?」

 

≪ああ、実はね、今日から正式に君たちに勉強を教える家庭教師を雇ったんだ≫

 

「家庭教師?」

 

≪ああ。給料は相場の6倍、アットホームで楽しい職場と伝えてある≫

 

パパがわざわざ家庭教師を雇ったのは、六海たちが全然勉強できていないことから、進級できないことを危惧してなんだろうけど・・・

 

「それって、六海たちのためにやってること?」

 

≪そうでなければ、君たちを赤の他人に預けたりしないさ≫

 

やっぱりパパは六海たちのためにやってくれてるんだ。パパは優しいんだけれども・・・六海はやっぱりパパが怖い・・・。パパは、正しさしか見てないから・・・。

 

「・・・そっか。わかったよ。家庭教師さんとうまくやっていくね」

 

≪私も期待しているよ≫

 

パパはそれだけを言って通話を切っちゃった。家庭教師さんかぁ・・・どんな人だろう?・・・あ、パパにどんな人か聞くの忘れちゃった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

学校の授業を全部終えて今から六海たちは帰宅中。一花ちゃんと四葉ちゃんは後から合流する予定だよ♪今現在は六海と二乃ちゃん、三玖ちゃん、五月ちゃんとで帰宅。その途中でコンビニで各々好きなものを買って食べている途中。五月ちゃんは肉まんを買ったみたいだけど・・・あれ、1個の量じゃないよね?

 

「五月、あんた食べすぎじゃない?」

 

「そうですか?まだ2個目です」

 

いや、2個目以前に昼食だっていろんなもの頼んでたじゃん。六海がそう思ってると二乃ちゃんが五月ちゃんのお腹をぷにぷにと触りだした。

 

「この肉まんおばけ!男にモテねーぞー」

 

「やっ・・・やめてください!」

 

「二乃ちゃん!それだと五月ちゃんの肉まんが2つじゃなくて3つになったってことだよね!」

 

「お、六海、あんたうまいこと言うじゃない!」

 

「六海!それは私が太ってるって言いたいんですか⁉太ってませんから!」

 

もちろん六海が言ってるのは冗談だ。五月ちゃんは太ってない、むしろスレンダーの方だ。体重はどうかは知らないけど。まぁ、失礼なことには変わりないけど、ド直球で太るぞって言ってる人よりはましだよ。

 

「それにわ、私だってき、昨日男子生徒とランチしたんですからね!」

 

「マジ⁉六海それ本当⁉一緒だったんでしょ⁉」

 

「あー、うん、一応・・・ね」

 

あんまりいい思い出じゃなかったけど。

 

「キャーッだれだれ~?1年?先輩?頭文字だけでいいから教えて~!」

 

二乃ちゃんはこういうところ、結構ミーハーなところがあるからな~・・・答えづらくて仕方ないよ。・・・て、あれ?そういえば三玖ちゃんはどこ行ったんだろう?・・・あ、いた。顔出し看板の前で何やってるんだろう?あっと、そろそろ移動だ。

 

「三玖ちゃん~、そろそろ行くよ~?」

 

三玖ちゃんに声をかけると、三玖ちゃんはこっちに戻ってきた。何がしたかったんだろう。六海たちが帰り道を歩いているとふと、本屋に視線を向ける六海。そういえば今日は、あれの発売日だった。

 

「あ、ねぇねぇ、六海、本屋に寄っていっちゃダメ?」

 

「1人で大丈夫?」

 

「私もついていきましょうか?」

 

「大丈夫大丈夫!家は近くだし!それに、家庭教師さん待たせちゃ申し訳ないでしょ?だから、先行ってて」

 

六海が家庭教師さんのことを言ったら、なんか二乃ちゃんが一瞬怖い顔をしたような・・・。

 

「・・・そう。じゃあ先帰るけど、あんまり遅くならないでよ?」

 

「わかってるー!」

 

六海はいったん二乃ちゃんたちといったん別れて、本屋へとレッツゴー♪売ってるといいなぁ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「はぁ~・・・幸せ・・・♡最後の1個って、なんか特別感ある・・・♡」

 

六海は目的の本を買って本屋から出る。危ない危ない、これが最後の1個とは・・・もう少し遅かったら今日の分、危うく売り切れてたかも。でもその分幸せがたっぷり・・・♡

 

「あー!六海!本屋寄ってたんだ!」

 

六海が幸せに浸っていると、四葉ちゃんと一花ちゃんと合流できた。

 

「二乃たちは?」

 

「先に帰ってるよー」

 

「ねぇねぇ、何買ったの?」

 

「えっとねー、これはねー」

 

「あ、わかった。魔法少女マジカルナナカでしょ?」

 

「ピンポーン!一花ちゃん正解ー!」

 

魔法少女マジカルナナカ。六海がとっても気に入ってる作品であり、世間でも5年以上続いてる大人気の作品でもある。そのため、アニメやグッズ、映画なんかも流行している。

 

「六海は本当にナナカが大好きなんだね」

 

「うん。大好き。だってこれは・・・」

 

だって・・・これは、六海たち6姉妹全員と・・・死んじゃったママと一緒に見た、大切な思い出だから・・・。お姉ちゃんたちは覚えてないだろうけど・・・。六海が感傷に浸っていると、四葉ちゃんがにししとこっちを見て笑ってる。

 

「未だにナナカちゃんが大好きだなんてー、六海もまだまだお子様だね♪」

 

「なっ!いい年してお子様パンツ履いてる四葉ちゃんに言われたくないよーだ!」

 

「何を~!」

 

「あはは、お姉ちゃんから見れば、どっちもお子様かなー」

 

「「そんなっ⁉」」

 

む、六海が四葉ちゃん同様のお子様⁉そんなバカな・・・⁉

 

「六海・・・現実って残酷だね・・・」

 

「そうだね・・・お互いがお子様だなんて・・・」

 

「ほらほら、落ち込んでないで早く帰るよー」

 

一花ちゃんは落ち込んでいる六海と四葉ちゃんを連れて我が家への道のりを歩いていく。・・・お子様じゃないもん。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「もー!マジあのストーカー気持ち悪い!!」

 

六海たちが住んでる高級マンションの入り口で二乃ちゃんがそんなことを叫んでいた。

 

「三玖、二乃どうしたの?」

 

「・・・私たちの後をつけてた男子生徒がいた」

 

「えっ⁉それって本当にストーカーじゃん!」

 

本当にストーカーっていたんだ!あの時六海は本屋に寄ってたから狙いは二乃ちゃんか三玖ちゃん、五月ちゃんってことだよね⁉こ、これは大変だ!六海はそう思いながら扉の鍵を開けてエレベーターに入り、六海たちの部屋がある30階まで向かう。

 

「三玖、五月は?」

 

「先に戻ってる」

 

「二乃ちゃん、本当に大丈夫だった?」

 

「二乃たちも災難だったねー」

 

「笑い事じゃないわよ!あのストーカー、マジで気持ち悪かったんだから!」

 

六海が話している間に30階まで到着し、六海たちの部屋まで向かっていると、部屋の前にいる五月ちゃんと誰かがいる。誰・・・って・・・!

 

「あれ?優等生君!五月ちゃんと2人で何してるの?」

 

「いたー!!こいつがストーカーよ!!」

 

「ええっ、上杉さん、ストーカーだったんですか⁉」

 

「二乃、早とちりしすぎ」

 

「この人だ!この人が意地悪言った人だー!」

 

ど、どうしてこの意地悪な人(風太郎)がここに⁉

 

「は・・・?なんでここにこいつらがいるんだ・・・?」

 

「なんでって・・・住んでるからに決まってるじゃないですか」

 

「・・・へ、へぇー・・・同級生の友達6人でシェアハウスか・・・仲がいいんだな」

 

はい?この人はいったい何を言ってるの?同級生の友達?この人にはそう見えたの?

 

「違います。私たちは・・・六つ子の姉妹です」

 

「・・・なん・・・だと・・・⁉」

 

この人はいったい何を思って驚いてるんだろう?そんなの、六海たちを見ればわかるのに。

 

「ねぇ!何であなたがここにいるの⁉早く帰ってよ!家庭教師さんに見られたらどうするの⁉」

 

「・・・それ、俺・・・」

 

・・・・・・・・・はい?今、この人なんて・・・?

 

「家庭教師・・・俺・・・」

 

ガーーーンッ!!!

 

「う・・・嘘だ・・・こんなの・・・夢に決まってるよ・・・」

 

六海は夢だと思って頬をつねった。・・・痛い・・・。ゆ、夢じゃない・・・そ、そんな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『2000日の未来・・・』

 

夢のような日って・・・ふふふ・・・

 

風太郎が私たちにあった日でしょ?

 

一花、二乃、三玖、四葉、五月、六海。

 

六つ子だったとそこで知ったんだよね

 

夢のようだなんて見えなかったけど

 

♡♡♡♡♡♡

 

パパ・・・六海はね、家庭教師さんに勉強を見てもらうっていうの、反対ってわけじゃないよ。むしろ賛成。でもね、今はこんなに反対の気持ちになったことなんて、今までになかったよ。

 

だって・・・だって・・・

 

「こんな人が・・・六海たちの家庭教師だなんて・・・!」

 

最悪だ・・・最悪の・・・悪夢だよ・・・!

 

01「六等分の花嫁」

 

つづく




六つ子豆知識

中野六海

外見はショートヘアで黒縁メガネをかけている。

原点↓

【挿絵表示】


アニメ風↓

【挿絵表示】


イメージCV:BanG Dream!の戸山香澄

好きな食べ物:ショートケーキ
嫌いな食べ物:ゴーヤ
好きな動物:猫
よく見るテレビ:お笑い番組
好きな飲み物:牛乳
日課:絵描き
好きな映画:アニメーション系
お気に入りスポット:図書室
よく読む本:魔法少女マジカルナナカ
水着の仕入れ:ネットオークション
朝食は何派?:麺派

中野家六つ子の姉妹の六女の末っ子。視力が悪く、六つ子の姉妹の中で唯一常時メガネをかけている。変装をするとき以外は滅多にコンタクトをつけたがらない。本人曰くメガネはアイデンティティ。
天真爛漫な性格で気持ちの全てが顔や表現に現れている。四葉いわく、六つ子の中で最も甘えん坊。しかしそれは表の顔。裏の顔は禁断の愛・・・特に姉妹同士の恋愛シチュエーションを好むそっち系のオタク女子。本人も自覚してるゆえに自分の趣味は秘密にしている。
風太郎とは最初はただ昼食を相席する人という認識だったが、彼の態度によって意地悪な人と呼ぶようになり、名前を呼びたがらない。そして風太郎と会って3週間近くの時、風太郎に自分の趣味ノートを見られさらに険悪な関係になった。が、その後に風太郎自身と話をしあい、風太郎への価値観を改め、風太郎君と名前で呼ぶようになった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合計100点

「あーもう!せっかくの気分が台無しだよー!」

 

六海たち姉妹は家に戻るなり、各各々の部屋に入り込んでいった。六海も部屋に戻るなり、自分の持ってたかばんを雑に放り投げて、今日買った本、魔法少女マジカルナナカちゃんのキャラクターブックを抱えながらベッドにだいぶする。今の六海はとっても気分最悪だった。と、いうのも・・・

 

「まさかあの人が家庭教師だなんて・・・信じたくもない・・・」

 

昨日食堂で一緒に昼食を食べた彼、上杉風太郎君だっけ?名前呼びたくないから忘れがちになっちゃう。その人がパパが雇った家庭教師だというのだから、気分が最悪になるよ。だって、女の子に向かって太るぞっていう失礼な人だよ?そんな人から絶対に勉強教わりたくないよ。

 

「・・・もうやめやめ!考えるのもうやめ!気分を変えなくちゃ!」

 

うん、こういうのは考えない方が1番!それがいいに決まってる!さーて、今日買ったナナカちゃんの公式キャラクターブック。どんなかわいらしいナナカちゃんが出てくるんだろうなー?

 

「・・・て!!どうして誰もいないんだああああああああ!!??」

 

ビクゥ!!

 

び、びっくりしたぁ・・・!

 

そういえばあの後意地悪な人(風太郎)を置いてけぼりにしたんだっけ。あの人、まだ帰ってなかったの?・・・て、そういえば今日が家庭教師配属初日目なんだっけ?・・・はぁ、せっかく気分を変えようと思ってたのに・・・。そもそもな話、パパが雇う人って言ったら、パパが結構信頼できる人なんだよ?例えば・・・江端おじちゃんとか。それがどうしてあんな信頼性のかけらもないあの人なの?おかしくない?

 

・・・そういえば思い出したけどクラスのみんなが言ってたっけ?あの意地悪な人(風太郎)、学校での成績は全部100点らしく、成績ランキングで毎回1位をとってるって。多分パパはそこに目をつけたのかな?人間関係性でいったら毎回最下位になりそうだけど。

 

とにかく六海は今日はナナカちゃんのキャラクターブックを読んだら家庭教師さんに勉強教えてもらおうと思ってたけど、その家庭教師が意地悪な人(風太郎)なら勉強をする気がすごく抜けちゃったよ。決めた。六海は今日は勉強しない。今日はナナカちゃんの本を読み漁るもん。その後は日課として絵を描かなくちゃ。

 

「さて・・・と。ではでは、改めまして・・・ナナカちゃん、オープン!」

 

六海がキャラクターブックを開くとナナカちゃんやそのお友達の関係図や活躍した場面なんかがたくさん出てきた。そうそう、こんな展開があったねー♪さて、次は・・・

 

コンコンッ

 

六海が次のページをめくろうとした時、ドアのノックの音が聞こえてきた。誰だろう?

 

「六海ー!四葉だけどー!開けてもらえるー?」

 

「四葉ちゃん?ちょっと待っててー」

 

四葉ちゃんが六海が用がある時はだいたい本を貸してほしいときか遊びに誘うときくらいだったよね?何の用だろう?

 

「四葉ちゃん、何のよ・・・う・・・」

 

六海がドアを開けるとそこにいたのは四葉ちゃんじゃなくて、あの意地悪な人(風太郎)だった。四葉ちゃんはこの意地悪な人(風太郎)の後ろにいた。

 

「あー・・・えっと・・・き、昨日ぶり・・・で、いいのか?」

 

「・・・何か用?」

 

「そのめちゃくちゃ敵意むき出しの顔、どうにかしろ」

 

六海はどうも気持ちの全てが顔や表現なんかに現れるらしく、六海が何か隠しごとをするときはいつもお姉ちゃんたちにばれちゃうらしい。そんなにわかりやすいかな?でも今は自分でも敵意むき出しなのは自覚してる。

 

「・・・て、そうじゃねぇ・・・。こほん、あー、改めまして、上杉風太郎だ。今日からお前たち六つ子の家庭教師となった・・・」

 

「うん。それは知ってるよ。自分で言ってたじゃん」

 

「そ、そう、だよな。えーと・・・」

 

この人を見てたら本当にむかむかする。言いたいことがあるならはっきりと言ってほしいものだね。ただし、女子の禁止ワードとかは聞きたくないよ。

 

「今日からさっそく、お前たちの勉強を見たいと思う。そういうわけで、リビングに集まってくれ」

 

「六海-!上杉さんと一緒に勉強しましょうー!」

 

なんだ・・・そんなことか。だったら六海の答えはもうすでに決まってある。

 

「やだ!!」

 

「ええー・・・」

 

「あれぇ⁉」

 

六海の答えに意地悪な人(風太郎)はがっくりし、四葉ちゃんは予想外の展開といったような顔をしている。というか・・・

 

「そもそもどうして同級生のあなたなの?この町にはまともな家庭教師はいないの?」

 

「それはわかった!それ2回も聞いたから!」

 

どうやら先にお姉ちゃんたちにも声をかけたみたい。まぁ、結局は断られちゃったみたいだけど。

 

「はぁ・・・昨日のことまだ根に持っているのか?確かに俺が悪かったが、あれは五月に言ったのであってお前には言ってない」

 

「それでも失礼なことには変わらないじゃん」

 

「ぐっ・・・」

 

それに悪かったって言ってるけど、どうだか。そう言っている人ほど自分は悪くないって思ってる人はいるんだし・・・て、この人何さっきからじろじろこっち見てるの?

 

「・・・何?六海の顔に何かついてる?」

 

「・・・お前・・・本当にこいつらの妹か?実はこいつらの友達とかじゃないだろうな?」

 

なっ!この人、いくら六つ子だということが珍しいからって、六海をお姉ちゃんたちの友達と思い始めてる!

 

「上杉さん!ひどいです!六海は正真正銘、私たちの妹です!」

 

「・・・お前、ちょっとメガネをはずして眉間にしわを寄せてみてくれ」

 

この人の言うことを聞く義理はこっちにはないんだけど・・・疑われたままなのはなんか癪すぎる。・・・しょうがない、やってあげるか。一度メガネをはずして眉間にしわを寄せるって・・・こう、かな?

 

「・・・マジで本当に六つ子なんだな・・・」

 

「もうー、さっきから言ってるじゃないですか上杉さん!私たちは六つ子、嘘なんてついてないです!」

 

ふぅ・・・ようやく納得してくれた・・・。

 

「疑問は解けたよね?じゃあさような・・・」

 

「待て待て待て!!」

 

六海がドアを閉めようとしたら意地悪な人(風太郎)がストップをかけてきた。

 

「お前そんなに俺のことが嫌いなのか⁉昨日飯食ってちょっとしたことを言っただけだろ⁉本当に悪かったって・・・」

 

「・・・嫌いな理由、まだあるよ」

 

「・・・なんだよ」

 

「あの時、五月ちゃんは勉強を教えてって頼んだ。そして六海はハンバーグ定食を恵んであげようとしたよ。それも、親しみを込めてだよ?」

 

「あ、ああ・・・そんなことあったな」

 

「それを無下にしたのはあなただよ!!」

 

バタンッ!!

 

六海はあの人の嫌いな理由を言いたいだけ言ってドアを力強く閉めた。ふぅ・・・ちょっと言いすぎちゃったかな?でも、悪いのはあっちの方だし、六海別に悪くないよね?

 

それにしてもわからないことがある。四葉ちゃんが意地悪な人(風太郎)と一緒にいるってことは、あの人の授業を受けるってことだよね?別にそんなことする義理ないのに。というより、四葉ちゃんと意地悪な人(風太郎)は今日初めて会ったわけなんだよね?どうして初めて会ったはずのあの人の授業を四葉ちゃんが積極的に受けるんだろう?まぁ、四葉ちゃんのことだから、特に深い意味なんてないんだろうけど・・・なんか妙に引っかかる・・・。

 

「・・・ま、気にしたってしょうがないか」

 

いろいろ腑に落ちないことがあるけど、こればっかりは考えたところで答えが出るわけじゃないしね。さあ続きでも読もう・・・と思ったけど、またいつあの人がドアをノックされるかわからないし、ナナカちゃんの方は後回しにしよっと。さて・・・どうしようか・・・。

 

・・・そうだ。まだメールの更新がどうたらって奴、今のうちにやっとこ。メールの送受信ができないんじゃ今後に響くし。

 

「ここをこうしてピッポッパ・・・と」

 

これでよし。後は時間がたてば元のメール画面の状態に戻るでしょ。さてと、やることやったし、今日も日課である絵でも描こう。

 

「今日は・・・ナナカちゃんの舞台となっている背景でも描こっと」

 

そうと決まればさっそくナナカちゃんの本を取り出そうと本棚に向かう。えーっと、何巻からが具体的な街の背景が見られるんだったっけ?

 

「・・・ん、思い出した!確か・・・2巻だ!」

 

六海はナナカちゃんの2巻を取り出し、背景が映し出された場面を探し出す。・・・お、あったあった。いつも使用しているペンとインクの用意をして、それじゃあさっそく・・・。

 

コンコンッ

 

これから描こうとした時、またノックの音が来たよ。いいところなのに・・・誰?

 

「六海。ちょっといい?」

 

今度は三玖ちゃんだ。・・・あの人じゃないよね?六海は警戒しながらそーっと、そーっとドアを開ける。そこにいたのは、三玖ちゃんだけだった。

 

「よかったー・・・三玖ちゃんだけだー」

 

「どうしたの?」

 

「いやー、なんでもないよ。こっちの話。それで三玖ちゃん、何か用?」

 

六海の部屋に三玖ちゃんが来るのはちょっと珍しいからうれしかったりもする。でも何の用だろう?

 

「私のジャージがなくなったの。赤いジャージ。六海、見てない?」

 

「ジャージ?いや、部屋に戻った時には見てないけど?」

 

ジャージねぇ。多分三玖ちゃん、着替えようとしたらそのジャージがなくなっていたから困ってる状況なんだと思う。できる限り手を貸してあげたいな。

 

「・・・やっぱり・・・もしかしたら・・・」

 

「えーと、そのジャージがなくなったのはいつなの?」

 

「さっきまではあったの・・・フータローが来る前はね」

 

フータロー?・・・ああ、意地悪な人(風太郎)か。・・・てっ、ちょっと待って。あの人が・・・来る前は・・・?ま、まさか・・・あの人が・・・?

 

「今すぐ確認しに行こう!あの人はどこにいるの?」

 

「私が部屋を出る時には・・・一花の部屋にいたよ」

 

よ、よりにもよって一花ちゃんの部屋かぁ・・・。でも、背に腹は代えられない!意を決して一花ちゃんの部屋に行くと・・・あ、いた。ちょうど部屋から出た瞬間か。

 

「!三玖、六海、何の用だ?・・・そうか!勉強会に参加する気に・・・」

 

「「それはない」」

 

おお、今日は六海、三玖ちゃんと意気ぴったり!て、それどころじゃない。今がっくりしてるこの人に聞かないと・・・。

 

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「?」

 

「三玖ちゃんのジャージがなくなったらしいの。赤いジャージらしいんだけど・・・」

 

「そうか。見てないな」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

疑わしい・・・。男の子ってそういうのごまかしたりすることあるらしいから。

 

「さっきまではあったんだって。・・・あなたが来るまでは」

 

「・・・・・・」

 

「まさかとは思うけど・・・」

 

「盗・・・」

 

「ってない!!!」

 

三玖ちゃんの言葉を言い終える前に言葉をかぶせてきた・・・ますます怪しい・・・。

 

「服なんてなんでもいいって言ってたのに・・・」

 

「濡れ衣だ!お前ずっと一緒だったろ!」

 

一花ちゃんの部屋の奥で一花ちゃんの着替えを見繕っている四葉ちゃんが意地悪な人(風太郎)にかなり引いてる。

 

「もっとよく探してみろよ」

 

「ありそうなとこは一通り調べた。残るは・・・」

 

三玖ちゃんの視線の先には、ごちゃごちゃした一花ちゃんの部屋・・・。じょ、冗談じゃないよ!もしここにジャージがあるとしたら探すだけで日が暮れちゃうよ!しかも六海の探し物をすると部屋を散らかす癖があるから日が暮れるどころの話じゃなくなっちゃう!

 

「前の高校のジャージでよくない?」

 

「それだ!」

 

前の高校のジャージっていうと・・・黒薔薇のあれか。

 

「あんな学校の体操服なんて捨てた」

 

え、三玖ちゃん、あのジャージ捨てたんだ。まあ、かくいう六海もあの制服を含めて黒薔薇関連のものは全部捨てたけど。

 

「もったいな!転校前の学校になんの恨みがあるんだよ?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・え?」

 

「「・・・・・・」」

 

「あんなことがあったらね・・・」

 

この人の無神経な発言で六海たちは沈黙した。恨み・・・なんてちゃちなものじゃないよ。そう考えればこの人の方が何倍かマシだけど。

 

六海たち姉妹が前に通っていた高校、黒薔薇女子高校はいわゆる名門って言われるほどのお嬢様高校で、六海たちみたいな成績の者は落第して当たり前みたいな場所。だけどそこで六海たち全員に追試のチャンスが与えられて、六海たちは必死に勉強した。姉妹全員で一緒にいられるために。なのに・・・そこで待っていた結果が・・・。もちろん、あれは誰が悪いというわけでもない。転校の話だって、姉妹みんなで選んだ道だもん、悔いはないよ。あれがあったからこそ、以来六海はあの学校が嫌い。大嫌い。

 

「・・・知らない方がいい。特にフータローは」

 

「・・・俺関係ないだろ・・・つーか興味もないし・・・」

 

この人は失礼ではあるけど、こうやって六海たちを詮索しないあたり、非常に助かる。そこだけは評価してあげてもいいよ。て、それよりジャージ・・・

 

「おーい、そこで何やってんの?」

 

この無駄に暗い空気を破ったのは、リビングにいる二乃ちゃんだった。

 

「クッキー作りすぎちゃったけど、食べる?」

 

二乃ちゃんの手に持っているのは、ちょうど作り立てのクッキーだった。お、おいしそう・・・。

 

「二乃、今はそれどころじゃ・・・」

 

「あ!あのジャージ・・・」

 

ジャージ?二乃ちゃんが着てるジャージがどうか・・・って、あれ?赤いジャージ・・・しかも胸には、三玖ちゃんの名前が・・・。てことはジャージを盗ったのはこの人じゃなくて二乃ちゃんってこと?

 

「どうすんの?食べるの?食べないの?」

 

「た、食べる食べる!六海、クッキー大好きだもん!」

 

「あ!私も行く!」

 

「ちょうど小腹すいてたんだよねー」

 

「二乃、それ私のジャージ・・・」

 

「お、おいお前ら待て!」

 

六海たちはクッキーを食べにいくために一斉にリビングへと向かっていく。六海が階段を降りようとするとふと六海の隣の部屋、五月ちゃんの部屋が目に留まる。五月ちゃん、クッキー食べたいんじゃないかな?

 

「?六海?どうした?」

 

「別に。ただ五月ちゃんを呼ぼうとしただけだよ」

 

「!!ほ、本当か⁉お前が呼んでくれるのか⁉」

 

五月ちゃんを呼ぼうと考えていた六海の肩を意地悪な人(風太郎)が掴んで揺さぶってきた。

 

「べ、別にあなたのためじゃないよ。五月ちゃんと一緒にクッキーを食べたいって思っただけ」

 

「ああ!ああ!それでもかまわん!五月を呼んでくれるのならそれで!六海最高!!」

 

こ、この人、喜びの感情起伏が激しいなぁ・・・。

 

「ただあなたは下に行ってよ。話がややこしくなっちゃう」

 

「あ、ああ・・・先に待ってるぞ」

 

いっそそのまま帰ってくれたらいいのに。でも言ったところで引かないだろうな、あれ。・・・下に行ったか。よし、五月ちゃんを呼ぼう。まずはノック・・・

 

コンコンッ

 

「五月ちゃーん。いるんでしょー?開けてー」

 

「・・・六海ですか?ちょっと待ってくださいね」

 

ちょっとだけ待っていると、五月ちゃんが部屋から出てきた。

 

「六海、何か用ですか?」

 

「五月ちゃん、二乃ちゃんがクッキー焼いてくれたの。一緒に食べよー♪」

 

「!く、クッキーですか!」

 

クッキーって聞いた瞬間、五月ちゃんの目がキラキラし始めた・・・けどすぐに怪訝な顔をした。

 

「・・・それって、あの人もいるってことですか?」

 

「・・・うん。残念ながらあの人もセットだよ」

 

「く、くうぅ・・・そうですか・・・」

 

五月ちゃんは物欲しそうにリビングに視線を向けた。

 

「六海、申し訳ありませんが私は行きません。みんなでクッキーを食べてください」

 

「えー!そんなこと言わないで、一緒に・・・」

 

「できれば私もそうしたいです・・・でも・・・あの人がいる限り・・・絶対に無理ぃ・・・」

 

「うー・・・五月ちゃん・・・本当にダメ・・・?」

 

「うっ・・・た、例え六海の頼みであっても、ダメなものはダメなんです!本当に、すみませんが!」

 

「うー・・・わかったよぅ・・・」

 

本当にダメだった。五月ちゃんは六海の泣き寝入りにはすごく弱いからすぐ了承してくれると思ったんだけど・・・それだけ意地悪な人(風太郎)が嫌いなんだね。なんか悲しい・・・。

 

「・・・あ、できれば私の分はラッピングしておいてくださいね」

 

五月ちゃんはそれだけを言い残して部屋に戻っていった。こういうところ、ちゃっかりしてるなぁ。あれを見てたら、思わず笑っちゃって、悲しかった気分が一気に晴れるよ。よーし、そんな五月ちゃんのためにいっぱい、いーっぱいクッキーをとっておかないとね。六海がリビングまで降りると、そこにはもうみんな集まってる・・・ついでに意地悪な人(風太郎)もいるけど。

 

「おお、六海!五月は・・・いないみたいだな・・・」

 

六海はこの人を無視して四葉ちゃんの隣に座る。六海が座ったのを確認すると、意地悪な人(風太郎)は急に仕切りだした。

 

「よし。これで5人だ。五月はいないが始めてしまおう。まずは実力を測るために小テストをしよう!」

 

そう言ってこの人は持ってきたであろう小テストの用紙を机に置くけど・・・

 

「「「「「いただきまーす!」」」」」

 

六海たちはそれには眼中になし。まさにティータイムだよ~♪

 

「おいし~。これ何味?」

 

「一花ちゃん!このくまさんクッキーもおいしいよ!ほら!」

 

「どれどれ・・・ん~、本当だ。おいしい~」

 

「ね~♪」

 

六海と一花ちゃんはクッキーを食べるのに夢中になっている。おっと、五月ちゃんの分もとっておかなきゃ。

 

「なんで私のジャージ着てたの?」

 

「えー?だって料理で汚れたら嫌じゃん」

 

「今すぐ脱いで」

 

「ちょ!やめて!後で返すから!」

 

三玖ちゃんと二乃ちゃんはジャージの件でけんかになりかけてる。ジャージでなくともこのやり取りはあるから慣れてるけど、仲良くしてほしいなぁ。意地悪な人(風太郎)はこの様子を見てげんなりしてる。

 

「上杉さん、ご心配なく!私はもうすでに始めています!」

 

「よし!名前しか書けてないがいいぞ!」

 

というより名前しか書けないの間違いじゃないのかなぁ?

 

「あ~、食べたら眠たくなってきた」

 

「さっきまで寝てただろ⁉六海、さっきからクッキーとってないで小テストを・・・」

 

「やだよ。今五月ちゃんのクッキーをラッピングするのに忙しいんだから」

 

「三玖!体操服も見つかったんだからやってくれよ!」

 

「勉強するとは言ってない」

 

「ねーねー、せっかくだし、今からどっか遊びにいかない?」

 

「絶対ダメーー!!」

 

六海たちのマイペースぶりにこの人もほとほと参っている様子だ。だからって同情はしないけど。

 

「・・・クッキー、嫌い?」

 

「!いや・・・そういう気分じゃ・・・」

 

「警戒しなくてもクッキーに薬なんて盛ってないから。食べてくれたら勉強してもいいよ」

 

二乃ちゃんはそう言いながらこの人に優しく話しかけている。でも六海は知ってるよ。こういう時の二乃ちゃんは何か裏がある。六海もこれまでにそれで何回やられてきたか・・・。意地悪な人(風太郎)はまんまと二乃ちゃんの策に乗り、クッキーを食べてる。

 

「うわっ、モリモリ減ってる!そんなにおいしい?」

 

「あ、ああ・・・うまいな・・・」

 

「本当?うれしいなぁ~」

 

こんなに心のこもってないうれしいを聞いたのは生まれて初めてだよ。

 

「・・・ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよね~」

 

「・・・っ!」

 

どうやらこれが二乃ちゃんの本心みたいだ。家庭教師には六海は賛成だけど、この人の場合だと二乃ちゃんの意見に賛成だ。

 

「・・・なんてね♪はい、お水♪」

 

「お、おう・・・サンキュー・・・」

 

この人は二乃ちゃんが持ってたお水を受け取って、そのまま飲み干した。すると二乃ちゃんはすっと立ち上がって、妖艶な笑みを浮かべている。

 

「ばいばーい♪」

 

「んあ?」

 

きょとんとしていた意地悪な人(風太郎)はそのまま眠ってしまった。て、あれ・・・?あの眠りよう・・・もしかして・・・。

 

「あーらら、ここまでやるか」

 

「・・・ね、ねぇ、二乃ちゃん。あのお水・・・」

 

「そうよ。あんたの睡眠薬を使ったわ」

 

や、やっぱり!あの素早い眠りよう見たことあると思ったもん!

 

六海は別に不眠症というわけじゃない。ただ絵を描いてると妙なテンションになる時があって、その後は必ず眠くならないからそういう時用のために睡眠薬を常備しているだけ。

 

こういう状況になれば四葉ちゃんはなんか騒ぐはずだけど・・・

 

「zzz」

 

あ、寝てた。そりゃ気付かないわけだ。

 

「・・・どうするの?」

 

「どうって・・・何がよ?」

 

「フータロー、このまま放置するの?」

 

「んー、それよりも、フータロー君の住所って、どこ?」

 

「・・・あ」

 

考えてみればそうだ!六海たちはこの人の住所を全く知らない!だからといってこの人をこのまま放置ってのはさすがにやばいし・・・どうしよう・・・!

 

「な、何ですか、これは⁉」

 

六海たちがどうしようと焦っていると五月ちゃんが下りてきた。

 

「買い物に出ようと思って部屋を出てみれば・・・これはどういう状況ですか⁉」

 

「二乃ちゃんがこの人に六海の睡眠薬を使って眠らせたー」

 

「ちょっ⁉六海⁉」

 

「事実でしょ」

 

ことの全てを聞いた五月ちゃんはため息をして意地悪な人(風太郎)を担いでいく。

 

「はぁ・・・仕方ありませんね。私が彼を送っていきます。二乃、タクシーまで運ぶのに手伝ってください」

 

「はぁ⁉なんでアタシが⁉」

 

「事の発端は二乃でしょ」

 

「六海もこういうことは本来実行犯がやるべきだと思うなー」

 

「ぐっ・・・わかったわよ・・・!」

 

二乃ちゃんはいやいやながら意地悪な人(風太郎)のもう片方の肩を担ぐ。

 

「五月ちゃん、フータロー君の住所わかる?」

 

「生徒手帳に住所がのってるはずです。それを確認します」

 

五月ちゃんと二乃ちゃんは意地悪な人(風太郎)を担いで部屋から出ていった。これで懲りてくれるかなぁ?

 

「フータロー君があんな状態だし、もう部屋に戻ろっかな。ふわぁ~・・・眠い・・・」

 

「六海、四葉を部屋まで運ぶの手伝って」

 

「はーい」

 

一花ちゃんは眠そうにあくびをしながら自分の部屋に戻ってった。もうすっかりとぐっすり眠ってる四葉ちゃんを三玖ちゃんと六海で部屋まで運んでいく。本当にぐっすり眠ってる・・・。四葉ちゃんを部屋に戻した後、三玖ちゃんと六海は部屋に戻っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

部屋に戻った後、六海は深夜テンションと同じ勢いでナナカちゃんの舞台の背景を描いている。色なんかはDVDレコーダーでアニメを確認しながら塗ってる。

 

六海にとって絵は色を塗るまでが絵描きだと思ってる。肖像画にしろ、イラストの絵にしろ、絵に色を塗り合わせることで、そこに命が吹き込むと考えてるの。絵に命があるかどうかは実際にわからない。何しろ非現実的なことだしね。そもそも六海は芸術家じゃないから、そこまで偉そうなことは言えないけどね。

 

「よし・・・できたー!」

 

ようやく色を塗り終えて、完成した絵を壁に貼り付ける。で、その後に昨日完成させた絵を取り外して、六海の絵描きファイルに挟んでいく。これが六海の日課、自分が描いた絵を本家の絵と見比べて、その違いを研究だよ。こういう毎日の積み重ねが、六海の夢に繋がる!・・・気がする・・・。

 

コンコンッ

 

「六海ー、入るよー」

 

ノックをした後、六海の許可も取らずに入ってきたのは一花ちゃんだった。せめて六海がしゃべるのを待ってほしいなぁ・・・。

 

「お、また新しい絵ができてる。しかもすごくうまくできてるじゃん。こりゃあ将来有望だねぇ」

 

「えへへ、そうかなぁ?」

 

やっぱり誰かに自分の絵をほめられると、胸の内がスカッとするなぁ。

 

「で、一花ちゃん、何か用?」

 

「んー?そろそろ六海が一肌恋しい頃かなーって思ってね。ほら、おいで」

 

一花ちゃんはその場で正座で座り込み、太ももをぱんぱんと叩いている。いうなれば、膝枕だね。

 

「もう、一花ちゃん!いつまでも子ども扱いしないでよ!」

 

「え?もしかして、大人扱いしてほしいの?」

 

何とまぁ白々しい驚き方なんだろう。

 

「そりゃそうだよ。一花ちゃんと同じ六つ子なのに、おかしいでしょ?」

 

「それじゃあ・・・あそこに置いてあるぬいぐるみ、それから、ハートのカーペットに星の壁紙、ついでに動物のベッドシーツはそろそろ卒業しないとね♪」

 

ええっ⁉そんなの、絶対にダメ!こんなにかわいいのを卒業なんてできないよ!

 

「もう!一花ちゃんはいじわるだ!」

 

「あはは、必死になってる必死になってる♪」

 

本当にもう・・・一花ちゃんすぐ六海をからかうんだから。まぁ、それでも一花ちゃんは優しいから大好きだけど。だから膝枕もお言葉に甘えて受ける。あー、やっぱり気持ちいい・・・。

 

「・・・ねぇ一花ちゃん。あの人、知ってるのかな?」

 

「フータロー君のこと?んー・・・多分知らないんじゃないかな?私たちが落第しかけて転校してきたこと」

 

やっぱり、そうだよね。それに、あの人自身も言ってた、興味もないって。・・・明日は家庭教師の日だっけ?明日も来るのかな?嫌だなぁ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の土曜日、学校はお休みだったから家でのんびりとナナカちゃんのアニメを見ようと思った時、五月ちゃんから呼び出しがあった。全員集合ということらしい。五月ちゃんの頼みならしょうがない。六海はピンクのシャツを着て、オーバーオールを履いた後にリビングに向かった。そこにはお姉ちゃんたちが揃っている。一花ちゃんは寝てるけど。そしてその前には、あの意地悪な人(風太郎)がいた。

 

「昨日の悪行は心優しい俺がぎりぎり許すとしよう!」

 

心、優しい?どこが?

 

「今日はよく集まってくれた!」

 

「まぁ、私たちの家ですし」

 

「zzz」

 

「まだ諦めてなかったんだ」

 

「せっかくの休日なのにー。ブーブー」

 

「・・・・・・」

 

「友達と遊ぶ予定だったんだけどー?」

 

寝てる一花ちゃんと四葉ちゃん以外は、六海を含めて全員いい気分ではない。

 

「てか、家庭教師はいらないっていわなかったっけ?」

 

「だったら、それを証明してくれ」

 

証明?何を?六海がそんな疑問を抱いていると、この人は何かの用紙を六海たちに突きつけた。これ・・・昨日の小テストの用紙じゃん。

 

「昨日できなかった小テストだ。合格ラインを超えた奴には金輪際近づかないと約束しよう。勝手に卒業していってくれ」

 

本当に⁉合格ライン超えるだけでこの人から勉強を教わることはしなくてもいいの⁉この人もたまにはいいこと言うじゃん!

 

「・・・なんでアタシがそんなメンドーなことしなきゃ・・・」

 

「わかりました。受けましょう」

 

この人の案に真っ先に肯定したのは、五月ちゃんだった。

 

「は?五月、あんた本気?」

 

「合格すればいいんです。これで、あなたの顔を見なくて済みます」

 

五月ちゃんはいつも以上のやる気を出している。その証拠に、いつもはかけない自分のメガネをかけている。

 

「そういうことなら、やりますかぁ」

 

「よーし、その条件ならやる気が上がってきたよ!」

 

「みんな、がんばろう!」

 

他のお姉ちゃんたちもこの人の出した条件にやる気を出し始めている。

 

「合格ラインは?」

 

「60・・・いや、50点あればそれでいい」

 

ご、50点か・・・ちょっと厳しいなぁ・・・。で、でも!きっと六海たちならやれるはず!

 

「・・・はぁ。別に受ける義理はないんだけど・・・あんまりアタシたちを侮らないでよ」

 

二乃ちゃんもやる気になってくれたところで六海たちは小テストを始める。

 

えーとまず1問目は歴史・・・厳島の戦いで毛利元就が破った武将を答えよ・・・げ、初っ端からわからない・・・。うーん・・・わかんないよー。思いつく武将でも書こう。徳川家康っと・・・。・・・多分間違ってると思う・・・!でも書いとけば当たりになるかもだよね!次々・・・。

 

2問目は・・・六海の得意な地理の問題だ!この問題は・・・簡単簡単。さ、次の3問目・・・お、これも地理の問題だ。これは・・・ちょっと難しいけど、解けない問題じゃないね。

 

中々いい調子だ。次の4問目・・・うげっ、次は六海の嫌いな理科だ・・・!・・・えーん!わかんないよー!もうここはテキトーに書いちゃお。そうすれば当たりが出ると思うし。

 

それから時間がたって、地理以外は大体苦戦したけど、六海の学力にしてはなかなかできた方だと思う。50点ぎりぎりでもいいから合格してるといいなぁ。おっと、他のみんなも完成したみたい。完成したテスト用紙を意地悪な人(風太郎)が採点していく。少し時間がたち、採点が終わったみたい。

 

「採点終わったぞ!すげぇ!100点だ!!・・・全員合わせてな!!!」

 

意地悪な人(風太郎)はげんなりした顔をしながら六海たちにテストの点数を見せつける。

 

一花ちゃんが10点、二乃ちゃんが18点、三玖ちゃんが28点。

四葉ちゃんが6点、五月ちゃんが24点、そして六海が14点。

 

10+18+28+で56で・・・6+24+14で44・・・この2つを合わせるとぴったり合計100点・・・。あまりに悲惨な点数に六海たちはどっと疲れが出てる。

 

「・・・お前ら・・・まさか・・・」

 

ま、まずい・・・これはお叱りが来る・・・!

 

「逃げろ!」

 

「あ!お前ら待て!てかなんで四葉まで逃げるんだ⁉」

 

お叱りを恐れた六海たちはいろいろ言われる前に意地悪な人(風太郎)から逃げていく。

 

「あはは!なんか前の学校思い出すねー」

 

「厳しいとこだったもんねー」

 

「怒られた記憶しかなかったよー」

 

「思い出したくもない」

 

「おかしい・・・勉強したはずなのに・・・」

 

「ほら、感傷に浸ってないでとっとと逃げるわよ!」

 

六海たちは前の学校の嫌な思い出を思い出しながら意地悪な人(風太郎)から逃げていく。そりゃもう姿が見えなくなるほどに。

 

「こ、こいつら・・・6人揃って赤点候補かよ!!?」

 

何をいまさら。そうじゃなきゃ、パパが相場6倍のお給料なんて出すわけないでしょうに。これがきっかけで六海たち六つ子と意地悪な人(風太郎)との追いかけっこが始めたそうな。

 

・・・でもこの時の六海は、まさかちょっと先の日程で意地悪な人(風太郎)・・・風太郎君(・・・・)の授業を嬉々として受けることになるなんて微塵も思わなかったよ。

 

02「合計100点」

 

つづく




六つ子豆知識

『六つ子の平均体重』

六海「はいはいはーい!六海知ってるよ!6人合わせて300キロだよね!」

五月「なんと6できれいに割り切れますね!1人50キロはほぼ女子の平均体重で健康的です!それでいいですよね?」

二乃「・・・いや、でも・・・」

五月「それでいいですよね?」

六つ子豆知識、今話分おわり

次回三玖視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

屋上の告白

「・・・ん・・・眠い・・・」

 

私こと、中野三玖はいつもより早い時間に起きてしまった。私の寝ぼけた視線にはいつも使ってるパソコン、本棚にきれいに整理された歴史書や戦国武将が出てくる漫画や本が映っている。ゲーム機は埃が立たないようにタオルを敷いている。

 

・・・本当に眠い。一花というわけではないが、二度寝をしたい気分になっている。

 

「・・・そういえば今日は江端さんが学校送ってくれるんだっけ・・・」

 

江端さん。医者として働いているお父さんの秘書として働いてくれる人だ。あの人はお父さんと同じく、あまりうちには来ない人だけど、今日に限って私たちを学校に送ってくれるらしい。

 

「・・・そんなことしなくてもいいのに・・・」

 

新しい学校は黒薔薇とは違ってここから歩いて十数分で着く程度で着く道のりだからそこまでしなくてもいいのに。まぁ多分新しい学校でまだ慣れてないこともあるだろうと思ってお父さんが手配してくれたんだろうと思うけど、正直言っていらない。でもまぁ、ここまで来て無下にはできないし、今日だけはお言葉に甘えるけど・・・お父さんにはちゃんとメールで伝えておかないと・・・。

 

「・・・着替えよ」

 

私はとりあえずじっとしてるわけにもいかないから学校の制服に着替えておく。それから・・・ヘッドホン。これは絶対に外せない。

 

『六海!またですか!そう何度もやられる私ではありませんよ!』

 

『むむむ・・・パターン覚えたって本当なんだ・・・なら強行突破だー!!』

 

『きゃあああ!!む、六海!あ、あははは!や、やめてくだ・・・あははは!』

 

ああ、まただ。またあの微笑ましい声が聞こえてきた。これが毎朝うちに聞こえてくる五月と六海のやりとり。もうくすぐりの心配はないって五月は言っていたけど、実際はそうはならず、いつも六海の勢いに負けてる。

 

五月は六海になんだかんだと弱いところがあって、六海が泣き寝入りして頼みごとをした際にはほぼ確実に頼みごとを聞いている。毎朝のこれだって多分六海がウソ泣きをしたら絶対に五月が負けて今のような声を微笑ましい声が聞こえる、というのが容易に想像できる。正直、このやり取りを聞くのが毎朝の密かの楽しみでもある。

 

「・・・様子見に行こう」

 

さて、じゃあ今日もいつものようにあの2人の様子を見て笑いにいきますか。

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海と五月のやり取りを見て、その後に朝食を食べ終えたら外で待っていた江端さんのリムジンに乗って学校へと向かっていく。自分はお嬢様って柄じゃないからこういった登校はあまり好きじゃない。でもそれ以上に好きじゃないことは・・・

 

「それでねそれでね!次の展開がもーっと面白いの!江端おじちゃん、もっと聞いてー!」

 

「ほほほほ」

 

・・・う、うるさい・・・。リムジンに乗ってから六海がずっとテンション高く江端さんと話をしている。一花と四葉はこの様子を微笑ましい様子で見てるけど、私と二乃、五月はあまりいい表情をしていない。

 

六海は江端さんをやたらと気に入ってるらしく、呼び方もおじちゃんなんて呼んでる。江端さんとは会う機会も話す機会も少ないからそれを埋めるかのように六海は江端さんにマシンガントークを繰り返してる。正直このテンションの六海にはあまりついていけてない。そんな六海にたいして江端さんは嫌な顔1つせず1つ1つ丁寧に六海の話し相手になってる。すごいなぁ・・・私たちじゃとてもマネできない。

 

「お嬢様方、そろそろ学校になられます。降りる準備を」

 

「お忙しい中わざわざありがとうございます」

 

「そっかー。江端おじちゃんともっとお話ししたかったんだけど、残念」

 

「ほほほ、光栄でございます」

 

や、やっと六海のマシンガントークから解放される・・・短い道のりが案外長く感じるようになった車登校だった・・・。

 

リムジンが止まって、降りる準備をしようとしたらふと外から物珍しそうな視線を感じる。リムジンのドアを開けてみるとそこにいたのは先日、不本意ながら私たちの家庭教師となり、一昨日テストの結果に怒って私たちを追いかけまわした張本人、上杉風太郎ことフータローだった。

 

「あ、フータロー君。おはよう」

 

「おはようございます!」

 

「な、何ですか?じろじろと不躾な」

 

まぁ、物珍しそうに見ていた気持ちはわからないでもない。私たちも初めはそうだったし。

 

「・・・お前ら!一昨日はよくも逃げて・・・」

 

またいろいろといわれることを危惧した私たちはすぐさまフータローから逃げていく。

 

「ああ!またっ!・・・よく見ろ!俺は手ぶらだ!害はない!」

 

そう言ってフータローは私たちに害を与えないアピールを露骨にさらしてるけど私はとても警戒深い。だからフータローの言うことなんてとても信じられない。

 

「騙されねーぞ」

 

「参考書とか隠してない?」

 

「油断させて勉強教えてくるかも」

 

「それにさっき落としたの、絶対参考書でしょ!」

 

それは二乃と一花、六海も同じ気持ちらしく、真っ向からフータローを警戒してる。

 

「・・・私たちの力不足は認めましょう。ですが、自分の問題は自分で解決します」

 

「勉強は1人でもできる」

 

「あなたはお呼びじゃないんだよー!ベー!」

 

「そうそう。要するに余計なお世話ってこと」

 

「・・・そ、そうか・・・じゃあ一昨日のテストの復習は当然したよな?」

 

・・・・・・。全員答えようとしない。というより、テストの復習なんてこれっぽっちもしてない。

 

「問1。厳島の戦いで毛利元就が破った武将を答えよ」

 

こ、この問題は・・・!私の得意な歴史!しかも、武将関連!実をいうと、一昨日の小テスト、私はこの問題を正解してる。とても簡単だった。

 

い、今すぐにでもこの問題の答えを言いたい・・・!けど・・・。

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

みんなは知らない・・・というより隠してるんだから知らなくて当然だ。私が、戦国武将好きだということを。今まで隠してきた努力を、こんなところで崩すわけにはいかない。だから私も無言で通す。

 

だって私は・・・6人の中で落ちこぼれだもん。

 

♡♡♡♡♡♡

 

も・・・もやもやする・・・!

 

フータローが出した問題を答えられなかったもどかしさと、答えたくてうずうずする気持ちがごっちゃになって私の中を駆け巡る。ああ・・・まさかこんな気持ちになるなんて思わなかった。答えたくて答えたくてしょうがない。表情こそいつもと変わらないようにしてるけど、心の中ではきっといろいろと歪んでるはず。

 

こんな気持ちのままで午前の授業が全部終わった。正直、今朝のことでほとんど内容が頭に入らなかった。こんな気持ちにさせるなんて・・・六海の言うとおり、フータローはいじわるだ。

 

・・・少し気持ちを切り替えよう。購買部で買ったサンドウィッチと自販機で買った私の好きな飲み物、抹茶ソーダで気分を落ち着けよう。そう考えていると・・・

 

「よ、よう・・・三玖」

 

朝の問題を出してきたフータローが出てきた。気分変えようと思ったのに・・・。

 

「350円のサンドウィッチに・・・なんだ?その飲み物は?」

 

「抹茶ソーダ」

 

「抹茶?ぎゃ、逆に味が気になる・・・!」

 

「いじわるをするフータローには飲ませてあげない」

 

「いじわる・・・六海と同じことを・・・!い、いらないけど・・・」

 

いらない?それはそれでなんかむかつく。

 

「・・・1つ聞いてもいいか?今朝の問題の件だが」

 

来た!い、今ならみんなはいない・・・。周りは誰も私たちを気にしてはいない。答えるなら・・・い、今しかないか・・・?よ、よし・・・答えよう・・・。

 

「三玖ちゃーん!一緒にご飯食べようー!」

 

答えようと思ったらタイミング悪く六海がやってきた。ま、また答えそびれた・・・!

 

「む、六海・・・!」

 

「・・・むっ!」

 

六海はフータローの姿を確認すると敵意をむき出しにさせる。よっぽどなんだね。

 

「そ、それで・・・」

 

「あ!ねえねえ三玖ちゃん!この前貸した戦国黙示録5巻読んだ?あれ面白かったでしょ?」

 

い・・・今はその話はやめて・・・!武将好きだってことがボロに出しちゃう・・・!

 

「み・・・」

 

「また何か借りたいものがあったら言ってね!貸してあげるから!」

 

フータローのしゃべる言葉に合わせてしゃべってる六海。よほどフータローが嫌なんだ・・・。

 

「おい六海!話の邪魔だ!」

 

「・・・べー!」

 

「こ、こいつ・・・!」

 

ああ、いったいいつになったら朝の問題を答えられるんだろう・・・。

 

「こら!上杉さんの邪魔しちゃダメでしょ、六海!」

 

「やーん!」

 

「あはは、ごめんねー、邪魔しちゃってー」

 

いつの間にか来た四葉と一花が六海をフータローから引きはがす。

 

「いや・・・別にいい。話す気も失せてきた」

 

「いやぁ、ごめんねー。六海、ごめんなさいは?」

 

「や!」

 

「うーん、困ったなぁ・・・」

 

こういう時の六海は意地でも謝らないから本当に困る。

 

「あ!そうだ!見てください上杉さん!」

 

「ん?どうした?」

 

「英語の宿題、全部間違えてましたー!あはははは!」

 

「・・・・・・」

 

四葉ぁ・・・。

 

「本当にごめんねー。2人の時間を邪魔しちゃって」

 

「はぁ・・・もういい」

 

「あ、そうだ!六海も上杉さんに勉強見てもらおうよー」

 

「やだよ!こんないかにも冴えなくて不細工なのと!」

 

「こいつついに不細工って言いやがったぞ。本人の目の前で」

 

確かに冴えないように見えるけど、別に不細工というほどでもない。ていうか本人の前で言うことじゃない。

 

「えー!じゃ、じゃあ・・・一花!」

 

「うーん・・・私もパス、かな?私たちほら、バカだし」

 

一花も一花で勉強を拒んでる。ただ六海と違って単純に勉強したくないからだと思うけど。

 

「・・・だからって勉強しない理由にはならないだろ?」

 

「さっきから勉強勉強って・・・こんなことあなたに言いたくないけどそれでいいの?もっと青春を謳歌してもいいんじゃない?」

 

「六海のいう通りだと思うよ。高校生活勉強だけじゃないよー?もっといろんな楽しみをしなきゃ。例えば・・・恋とか!」

 

「・・・恋?

 

一花の恋の発言にフータローからなんかどす黒いオーラが感じる。

 

あれは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ。したい奴はすればいい。だがそいつの人生のピークは学生時代となるだろう

 

「この拗らせ方、手遅れだわ・・・!」

 

「六海、不覚ながら同情しちゃったよ・・・」

 

あの拗らせ方を見る限り、ここに来るまでいろいろなものを犠牲にしてきたんだね。

 

「あはは・・・恋愛したくても相手がいないんですけどね。一花と六海はいる?」

 

「んー、私もいないかなぁ」

 

「六海もいないなー。存在を抹消したい人はいるけど」

 

「おい、なぜ俺を見る」

 

なんかいつの間にか話が恋愛話になってきたんだけど・・・。

 

「三玖はどう?好きな人はできた?」

 

「えっ・・・」

 

な、なんでここで私に振るの?そんなのいるわけないのに・・・。

 

「い・・・いないよ・・・!」

 

話についていけなくて、私はついそのままみんなと離れていく。・・・これ、私が好きな人がいるって少し誤解されたかな?

 

♡♡♡♡♡♡

 

ん・・・やっぱりこれしかない。

 

四葉たちから離れた後、私はサンドウィッチを頬張りながらあるものを書いている。それはフータローを屋上に呼び出すための手紙だ。

 

やっぱり食堂とか教室にいたのでは、朝の答えをみんなに聞かれてしまう。そうしたら私が戦国武将好きだってばれちゃう。六海には何度も戦国黙示録を借りてるけど、バカなんじゃないかって思うくらいに未だに私の好みがばれてない。まぁ、こっちにとっては好都合。

 

・・・うん。内容はこんな感じでいいだろう。仕上がりはいい。後の問題は・・・どうやってこれをフータローに渡すかどうかだ。

 

姉妹たちにこれを届けてもらう?・・・それはダメ。四葉と一花はさっき色恋沙汰の関係で変に盛り上がるし、二乃と五月、六海はそもそもフータローが嫌い。それでは逆効果だ。

直接フータローに渡す?・・・これもダメ。もしその様子を誰かに見られたら変に噂されてしまう。

 

ならやることは決まった。この時間帯だとほとんどの生徒は外か食堂でご飯を食べるのが多い。今なら教室には誰もいないはず。組は五月から聞いてるからわかってる。フータローがいる教室に行ってフータローの席にこれを入れる。正直気づくかどうかはわからないけど、何もやらないよりかはマシ。

 

サンドウィッチを食べ終え、抹茶ソーダでのどを潤して、さっそく実行に移す。私は食堂から出てそのままフータローがいるである1組の教室へ向かっていく。うん、ここまではみんなにはばれてない。

 

1組にたどり着いた私はすぐに教室に入ることはせず、中に誰もいないことを確認する。

 

「・・・よし」

 

五月もフータローも、みんなもいない今がチャンス。私はフータローの席を探し、その場所まで向かう。

 

「気づきますように」

 

フータローの席までたどり着いた私はすぐにこの手紙を机の中に入れ、そのまますぐに教室から出て、自分の教室に戻っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

5限目の授業を終えた後、私はすぐに教材をしまって屋上へと向かう。例の答えをフータローに伝えるために。・・・気づいてくれたかな?なんか、それを含めて私の気持ちはドキドキしている。やめようかな・・・。

 

・・・ううん、しっかりと伝えよう。それでこの気持ちを終わらせるんだ。そう考えてるうちに屋上にたどり着いた。ちゃんといるかな・・・。

 

「すぅー・・・はぁー・・・」

 

とりあえず落ち着くように深呼吸をして、意を決してドアを開ける。その先には・・・

 

「み・・・三玖・・・!!イタズラじゃないのか・・・?」

 

私が呼び出した本人であるフータローがいる。

 

「よかった。手紙見てくれたんだ。食堂で言えたらいいんだけど・・・誰にも聞かれたくなかったから」

 

なんかフータローから汗が出てるような気がするけど、それどころじゃない。

 

「フータロー、あのね・・・ずっと言いたかったの・・・」

 

もうこの気持ちは誰にも止められない。

 

「す・・・す・・・」

 

今ここで言うんだ!

 

「陶晴賢!」

 

「陶・・・晴賢・・・?」

 

・・・・・・・・・。

 

「よし。言えた。すっきり」

 

ようやく言えた。気分すっきり。ああ、ようやく気持ちが楽になった。

 

「ちょ、ちょっと待って!!ひねった告白・・・じゃないよな⁉何の話だ⁉」

 

せっかく気分が晴れたっていうのに、フータローが呼び止めてきた。

 

「うるさいなぁ・・・問題の答えだけど」

 

「!!」

 

フータローが出した問題なのに、忘れたの?

 

「待てって!なぜそれを今このタイミングで⁉」

 

なんかフータローが納得いってないのか私の肩をつかんで止めてきた。その際に持っていたスマホを落としてしまう。

 

「あっ」

 

「わー!す、すまん!」

 

それは別にいい。私がスマホを拾うとすると・・・。

 

「武田菱・・・武田信玄の・・・」

 

え・・・もしかして・・・フータロー・・・私のホーム画面・・・

 

「見た?」

 

「え・・・?あ、ああ・・・」

 

・・・み、見られた!!姉妹たちにも見せたことないのに・・・は、恥ずかしい!!今の私の顔はゆでだこ状態になってると思う。

 

「・・・だ、誰にも言わないで・・・戦国武将・・・好きなの・・・」

 

「・・・あ、あー・・・なるほどねー。なんで好きなの?」

 

理由まで聞くの⁉まぁ・・・ここまでばれたら仕方ない・・・。

 

「きっかけは六海から借りた漫画。野心溢れる武将たちに惹かれて本をもっと読んだ。ゲームも戦国系をいっぱい集めた。でもクラスのみんなが好きなのはイケメン俳優や美人なモデル。それに比べて私は・・・髭のおじさん・・・。変だよ・・・」

 

本当に変だよ。周りのみんなと違って私だけがそんな趣味を持ってるなんて・・・。こんなの聞かれたら笑われるに決まってる。現にフータローだって・・・。

 

「変じゃない!」

 

・・・え?今、フータローはなんて・・・?

 

「好きなものを好きというのに理由がいるのか?いや、むしろ好きだからこそ追求すべきだ!自分が好きになったものを信じろよ!」

 

そ、そんなこと言われたの・・・初めて・・・。

 

「俺は武将にも造詣が深い方だ。そういえば、前回の歴史は満点だったな」

 

「本当⁉」

 

私ですら歴史は満点取ったことがないからすごい・・・!

 

「これが学年1位の力だ!俺の授業を受ければ三玖の知らない武将の話もしてやれるぜ!」

 

え・・・それって・・・

 

「・・・私より詳しいってこと?」

 

「え?」

 

私より武将のことが詳しいなんて聞き捨てならない。武将のことなら私の方が1番詳しい。

 

「問題ね。信長が秀吉を猿って呼んでたのは有名な話だよね。でもこの逸話は間違いだって知ってた?本当はなんてあだ名で呼ばれていたか知ってる?」

 

これは知る人ぞ知る逸話。本当に武将に詳しいっていうならこれくらい簡単なはず。さあ、どうなの?フータロー。

 

「・・・ハゲ・・・ネズミ・・・」

 

「・・・正解」

 

なんかちょっと間があったのが気になったけど・・・本当に知ってたんだ。なんか悔しい・・・。

 

「それにしてもハゲネズミはひどいな」

 

「うん。かわいそう。知ってるとは思うけど私の知ってる逸話は・・・」

 

少し悔しいけど、フータローならこの話とかついていけるはず。あ、あとこれも・・・ついでにこれも・・・それと裏目をかいてこれも・・・。

 

あの後の私はもうどのくらいの逸話を話したかわかんない。とにかく語りところまで延々と語っていく。

 

キーンコーンカーンコーン

 

・・・あ、もう予鈴・・・そろそろ教室に戻らないと。

 

「な、なんか話足りないな。うーん、この話、三玖は聞きたいだろうなー」

 

なんかフータローがそんなことを言っている。私が聞きたい話?何それ?

 

「そうだ。次の家庭教師の内容は歴史を中心にしよう。三玖、受けてくれるか?」

 

次の内容が歴史中心?それは、武将好きの私にとって願ったり叶ったりのものだけど・・・なんか裏がありそう・・・。・・・そうだ。せっかくだからあれを試してみよう。

 

「・・・そういうことなら・・・いいよ・・・」

 

ひとまずここはフータローの話に合わせておこう。とりあえずいったんフータローから離れて近くの自販機に向かう。選ぶのは当然抹茶ソーダ。これを買って・・・後はフータローに渡す。

 

「フータロー」

 

「ん?なんだ?」

 

「これ、友好の証。あげるから飲んでみて」

 

「えぇ~・・・」

 

なんかあからさまに嫌そうな顔してる。むかつくけど我慢・・・。

 

「気になるって言ってたじゃん。大丈夫だって」

 

フータロー、武将のことについて詳しいならこの逸話はわかるでしょ?

 

「鼻水なんて入ってないよ。なんちゃって」

 

「!!?・・・???」

 

私のこの話題にフータローはなんだか思考停止に似たような状況になってる。ああ、やっぱり・・・。

 

「あれ?もしかして、この逸話知らないの?」

 

フータローはこの逸話を知らない。でないと、この反応はどう考えてもおかしい。

 

「そっか。頭いいって言ってたけど、こんなもんなんだ。やっぱり教わることはなさそう・・・バイバイ」

 

私はフータローに渡す抹茶ソーダを引っ込めて、そのまま自分の教室に戻る。この時私の中にある感情はきっと、一瞬でもフータローに期待した自分への怒りも含まれてると思う。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あれから数日後のある日、私が机に着席した時、中に手紙が入っていた。差出人には名前が書いてある。えっと、上杉風太郎・・・フータロー?少し内容が気になったから手紙の内容を開けて確認してみる。内容は・・・

 

放課後、校門の前にて待つ。

 

たったそれだけだった。校門って校舎を出てすぐじゃん。付き合ってあげる義理はこっちにはないんだけど・・・校門を出ないと家に帰れないし、どっちみちフータローと鉢合わせになる、か。仕方ない、放課後、フータローの用を済ませて早く帰ろうか。

 

そして時間がたち放課後、校門まで行くとそこにはやっぱりフータローがいた。

 

「三玖!お前が来るのを待っていたぞ!」

 

「何か用?フータロー」

 

「俺と勝負だ。お前の得意な戦国クイズ、今度こそ全て答えてやる」

 

なんだ・・・何を言い出すかと思えば・・・。私の答えはすでに決まっている。

 

「・・・やだよ。懲りないんだね」

 

こんなわかりやすいフータローの嘘になんか付き合ってられない。私の言葉にフータローは不敵に笑う。

 

「くくく、この前の俺と一緒にしてもらっては困る。それとも、唯一の特技で負けるのが怖いか?」

 

む・・・なんか自信満々・・・でも・・・

 

「武田信玄の風林火山。その風の意味することとは?」

 

「そんな簡単な・・・」

 

「正解は疾きこと風の如く」

 

私は問題の答えを言いながら階段の手すりを使って下に降りる。私が下に降りるとフータローは私を追いかけてきた。なんでついてくるの?と、とにかく今は逃げてるけど、このままじゃまずい。私はクラスの中でも1番足が遅い。すぐに追いつかれるかも。

 

・・・よし。とりあえずここの曲がり角を曲がって・・・少し髪を整えて・・・リボンをウサギのようにぴょこッと見せれば・・・

 

「これで・・・」

 

中野四葉の出来上がりだ。これでフータローをあえて待ち構えて・・・

 

ぽふっ

 

「わお!上杉さん!」

 

「よ、四葉⁉」

 

なんかフータローの顔が私の胸に直撃したみたいだけど、今それは目をつむっておこう。

 

「ちゃんと前向いてなきゃダメですよー」

 

「ここに三玖が通らなかったか?」

 

「さっきすれ違いましたよ!あっちに走っていきました!」

 

「サンキュー!」

 

フータローは私が指した方向、学校へ戻る道のりを走っていった。私がいるはずもない学校に。だって私は今ここにいるのだもの。

 

「・・・知りがたく陰の如く・・・」

 

フータローの姿が見えなくなって私は髪をもとに戻し、リボンをはずす。さてこのまま家に・・・

 

「・・・あ、かばん忘れた・・・」

 

フータローの用件が気になって、うっかりしてしまった。・・・仕方ない。さっきのフータローとは別の道を使って学校に戻ってかばんをとりに行こう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

い、今の状況はまずい・・・!

 

私がフータローにばれず教室に戻ってかばんをとったところまではいい。だけど・・・

 

「三玖!どこにいきやがった!」

 

まだフータローが私を探してる。しかもフータローは今私がいる教室の近くまでいる。今ここでうかつに出たらフータローに見つかってしまう。それは避けたい。・・・ならもう1度四葉に変身して・・・

 

「わお!上杉さん!」

 

「四葉!」

 

だ、ダメだ!ここで本人が登場するなんて・・・!今ここで変装して出てきても、すぐにばれてしまう・・・!

 

「こんなところで会うなんて奇遇ですね!」

 

「いやさっき校門で会っただろ?」

 

「え?私、先生のお手伝いでずっと学校にいましたよ?」

 

「は?てことはさっきの四葉は・・・?」

 

ま、まずい・・・なんか感づき始めてる・・・!あの四葉が私だったとわかれば、後でなんて言われるか・・・!どうしよう・・・他の姉妹に変装しようとしても、今日に限って鬘がないし・・・あるといえば昔視力がよかったころの六海が使ってた伊達メガネだけだし・・・。

 

・・・伊達メガネ?

 

もしかしたらこれは使えるかも。髪もちょっと工夫すればなんとか・・・。まずは六海の髪のようにセットして、この伊達メガネをかければ、中野六海の完成。・・・なんかちょっとだけ度が入ってる・・・。でも・・・そうも言ってられない。

 

「あ!四葉ちゃん!」

 

「わー!六海-!」

 

「げっ・・・む、六海!」

 

「・・・む!」

 

よしよし、フータローにも四葉にもばれてない。このままいけば・・・。

 

「もしかして先生の手伝い?偉いねー」

 

「そんなことないよ。人として当然のことだよ」

 

「こ、この際六海でもいい。三玖がどこに・・・」

 

「あ、意地悪な人(風太郎)、まだいたんだ」

 

「くっ、やっぱこいつ苦手だ・・・!」

 

確か六海は極端までにフータローを嫌っていたからこんな感じだと思う。後はちょっと強引さを出せば・・・。

 

「ほら!今日は家庭教師の日じゃないでしょ!さっさと帰った帰った!」

 

「ちょ!待て!俺は三玖に用が・・・!」

 

「六海、いくら上杉さんが嫌でもそんな強引に・・・」

 

よし・・・このまま通せば・・・フータローを追い出せる・・・。

 

「ふー、危ない危ない。秘密のノートを忘れちゃうなんてー」

 

「あれ⁉六海⁉」

 

「は?」

 

「あ!四葉ちゃん!・・・と、意地悪な人(風太郎)・・・」

 

こ、ここで本物の登場⁉なんで⁉今日は先に家に帰ったんじゃ・・・

 

「え?え?どういうこと?なんで・・・?」

 

「四葉ちゃん、どうしたの・・・てっ、あれ⁉六海がもう1人いる⁉なんで⁉」

 

や、やばい・・・こっちに気付いた・・・。

 

「・・・六海。あれはドッペルゲンガーといって、こうして会っちまったら・・・お前死ぬぞ」

 

「「ええええええ!!?」」

 

「む、六海が死ぬ⁉」

 

「やだー!!死にたくないよー!四葉ちゃーん!うえ~~ん!!」

 

フータローの説明に泣き出し始めた六海は四葉に抱き着いてきた。

 

「・・・ん?なんかあの六海、おかしくないか?どこかはわからんが・・・」

 

「ぐすん、おかしい・・・?あ、そういえばあのメガネ、昔使ってたメガネのような・・・」

 

「・・・あ!本当だ!六海が昔使ってたメガネだ!」

 

「・・・なぁ。そのメガネ、誰かにあげたりはしてなかったか?」

 

あ、これは確実にばれる・・・。逃げないと・・・。

 

「えーと、確か・・・三玖ちゃんにあげたような・・・」

 

「お前三玖だろ!!」

 

ばれた!!私はすぐさま元の姿に戻しながら走る。やっぱりフータローも追いかけてきた。

 

「・・・は!ちょ、ちょっとー!!三玖ちゃんになんのようなわけ⁉それに、どうして三玖ちゃんは六海に化けてたわけ⁉2人とも許さないんだからー!!」

 

なんかすごい遠くから六海から追いかけられてるような気がする!て、今はフータローから逃げないと・・・!

 

「三玖!この間は騙して悪かった!俺はこの二日間で図書室にある戦国関連の本全てに目を通した!今ならお前とも対等に会話できる自信がある!」

 

「・・・嘘ばっかり!」

 

もうフータローの嘘はもうこりごり!

 

「嘘だと思うなら問題を出してくれ!1つでも答えられなかったら金輪際近づかない!だから頼む!俺にもう1度チャンスをくれ!」

 

・・・・・・。

 

「武将しりとり。龍造寺隆信」

 

「!・・・ぶ・・・ふもあり・・・だよな?福島正則!賤ヶ岳の七本槍の1番槍として名高い武将だ!」

 

・・・フータローが答えたからしりとりを走りながら続けなきゃ・・・。

 

「龍造寺正家」

 

「え・・・ええ・・・江戸重道!」

 

「長曾我部元親・・・」

 

「か・・・金森長近・・・」

 

「か・・・はぁ・・・川尻秀隆・・・!」

 

「ま、また、か・・・か・・・片倉小十郎・・・!」

 

「はぁ・・・上杉け・・・はぁ・・・上杉・・・景勝・・・はぁ・・・!」

 

「はぁ、はぁ・・・くそっ・・・津田信澄・・・!」

 

「三好・・・はぁ・・・長慶・・・はぁ、もうダメ・・・!」

 

「はぁ・・・し、しま・・・はぁ・・・島津・・・豊久・・・」

 

「・・・・・・真田幸村・・・」

 

も、もう体力が限界・・・!というより・・・。

 

「なんでそんなに必死なの・・・?」

 

体力の限界がきて私は芝生に倒れた。それはフータローも同じだった。

 

「・・・はぁ、俺の、スピードと、張り合えるなんて・・・やるじゃん・・・はぁ・・・」

 

「私・・・クラスで1番足が遅かったんだけど・・・はぁ・・・」

 

というかフータローも体力なかったんだね。ふぅ・・・それにしても暑い・・・スパッツでも脱ご・・・。

 

「・・・喉乾いたな。飲み物買ってくるぜ」

 

フータローは飲み物を買いに自販機まで向かっていった。ふぅ・・・ベンチに座ろ。

 

「・・・そういえば六海、私たちを追いかけてたみたいだけど・・・どこ行ったんだろ・・・?」

 

多分帰ったらこってり問い詰められそう・・・。

 

ぴとっ

 

「ひゃっ⁉」

 

つ、冷た!何⁉

 

「わ!すまん!」

 

さっきのはフータローがやったんだ。手には買ってきたであろう抹茶ソーダがある。

 

「これ好きなんだろ?110円は手痛い出費だが・・・」

 

それで手痛いって・・・どれだけお小遣いピンチなんだろう・・・。

 

「もちろん、鼻水は入ってない」

 

あ!これは・・・前に私がやった・・・。

 

「石田三成が大谷吉継の鼻水の入った茶を飲んだエピソードから取ったんだろ?」

 

「・・・ふーん、ちゃんと調べてはいるんだね」

 

それなのに私はフータローを疑ってばっかりで・・・ちょっと悪いことしちゃった。

 

「最後は偶然居合わせた四葉にスマホで調べてもらったんだがな」

 

ふーん、四葉に・・・四葉?

 

「私が武将好きって四葉に話したの?」

 

これだけははっきりさせておきたい。

 

「いや、話してはないが・・・」

 

ならよかった・・・。

 

「姉妹にも秘密にすることなのか?むしろ誇るべき特技だ」

 

「姉妹だから言えないんだよ・・・6人の中で私が1番落ちこぼれだから」

 

これは紛れもない事実・・・どうせ私なんか・・・。

 

「あいつらの中じゃお前は優秀だ。ほら、この前のテストだって1番上だったろ?」

 

ああ、あの28点のテストのこと?

 

「フータローは優しいね。・・・でも、なんとなくわかるんだよ。私程度にできることは、他の5人もできるに決まってる・・・六つ子だもん」

 

能力が一緒でも私には他の姉妹と比べて何の個性もない・・・ただ武将が好きなちょっと変わった子と言うだけ・・・だから私は6人の中で落ちこぼれ・・・。

 

「だからフータローも私なんか諦めて・・・」

 

「それはできない」

 

だからなんで?

 

「俺は6人の家庭教師だ。あいつらも、そしてお前も勉強させる。それが俺の仕事だ。お前たちには6人揃って卒業してもらう!」

 

・・・フータローってものすごい勝手だよね。

 

「・・・無理だよ。この前のテストでわかったでしょ?6人合わせて100点だよ?できっこない・・・」

 

「そうだな。あの時はビビったぜ。まさか6人とも問題児とは思わなかったぜ。こんな奴らに教えなきゃいけなのかって思ってたぜ。絶対無理だって思ってた・・・今日までは」

 

今日までは?

 

「三玖の言葉を聞いて自信がついたぜ。六つ子だから三玖にできることは他の5人でもできる。言い換えれば、他の5人ができることは三玖にもできるということだ」

 

!そんな考え方、今まで1度もしたことなかったけど・・・

 

「見てくれ」

 

フータローは1枚の用紙を取り出し私に見せた。何これ?バツばっかあるけど・・・

 

「この前のテスト結果だ。何か気づくことはないか?」

 

気づく・・・?・・・あ、もしかして・・・

 

「正解した問題が1問も被ってない・・・」

 

「そう、確かに全員この学校の合格ライン30点以下の問題児。だが俺はここに可能性を見た!1人ができることは、全員できる!一花も、二乃も、四葉も、五月も、六海も・・・そして三玖、お前も。全員が100点の潜在能力を持っていると俺は信じている!」

 

・・・・・・!!

 

「・・・何それ、屁理屈。・・・本当に、六つ子過信しすぎ」

 

私の中で1番抱いている気持ちはまさにそれだと思う。でも・・・フータローのおかげで・・・胸のつっかえが軽くなったような気がした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『一方その頃の六海。そして初めまして』

 

「はぁ・・・はぁ・・・も、もうダメ・・・!」

 

風太郎と三玖を追いかけていた六海は体力の限界が来て、公園の入り口前で倒れてしまう。六海の体力は元気がある割に三玖と同レベルなのである。

 

「はぁ・・・はぁ・・・よく考えたら帰って三玖ちゃんに問い詰めた方がよかったかも・・・はぁ~・・・六海のバカぁ~・・・」

 

もう立つ気力もない六海は息を整えるので精いっぱいだ。

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

 

そんな時、長髪でポニーテールをした小学生の女の子が声をかけてきた。

 

「だ、大丈夫じゃない・・・水・・・」

 

「あの良ければお茶・・・」

 

「!!」

 

六海は女の子が差し出したお茶を素早く受け取り、すごいスピードで飲んでいく。

 

「ぷはー!!生き返ったー!ありがとう!」

 

「・・・・・・」

 

お礼を言う六海とは対照的に、女の子は疑問を浮かべた表情をしている。

 

「・・・どこかでお会いしましたか?」

 

「?いや?今日が初めましてだけど?」

 

「・・・ちょっとメガネをはずしてみてください」

 

「?こ、こう?」

 

六海は言われた通りメガネをはずし、素顔を見せると、女の子はぱーっと笑顔になる。

 

「わあ!やっぱり!もしかして、五月さんのご親族の方ですか?」

 

「五月ちゃん?確かに五月ちゃんは六海のお姉ちゃんだけど・・・君は・・・?」

 

五月の名を知っている女の子に戸惑いを見せる六海。女の子は元気いっぱいで挨拶をする。

 

「初めまして!上杉らいはです!」

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ただいま」

 

フータローとの武将しりとりを終えて家に帰宅した。リビングにいたのは先に帰ってきていた五月と二乃だった。

 

「ああ、三玖。今日は遅かったですね」

 

「三玖、あんたあいつに追いかけまわされてたみたいだけど・・・何があったの?」

 

「何でもないよ」

 

私は二乃や五月に目もくれず、姉妹たちの部屋の階段を上がっていく。

 

「・・・なにあれ?」

 

「・・・さあ?」

 

二乃や五月が何やら怪訝そうにしてるけど、気にしてられない。一応確認だが・・・六海はいるだろうか。とりあえずノック。

 

コンコンッ

 

・・・返事がない。ノックをしたら必ず声が聞こえるはずなんだけど・・・まだ帰ってないようだ。

 

「ああ!!いた!三玖ちゃん!!」

 

何というグッドタイミングで帰ってきてくれたのだろうか。

 

「放課後のあれどういうこと⁉なんで六海に・・・」

 

「六海、お願いがあるんだけど・・・」

 

「な、何急に・・・?」

 

「六海の戦国黙示録全巻貸してほしいの。最新刊を含めて全部」

 

「ええ⁉まだ六海、最新刊読んでないのにー!・・・て、それより・・・」

 

「全部読んだら返すし事情も話すから」

 

「うぅ・・・わかったよぅ・・・」

 

六海は渋々ながら部屋に戻っていって戦国黙示録を探しに向かっている。あれは漫画だけど、大事な場面を中心に読めば、いい教材代わりになる。私にも・・・やれるかな・・・フータロー・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の学校の放課後、私は今図書室に向かってる。確か家庭教師のない日はそこで勉強を教えてるって四葉から聞いた。図書室にいるのは・・・やっぱりフータローがいた。今いる生徒は・・・四葉だけか・・・。

 

「あ、でも。残り5人じゃなくて残り4人です」

 

「え?」

 

「ね?三玖」

 

四葉は私の存在に気付いたのか私に視線を向けてくる。フータローもそれに合わせてこっちに気付いた。

 

「!来てくれたのか!」

 

うれしそうな顔をしているフータローをよそに私は少し気になったことがあるから戦国関連の本を片っ端から取っていく。本の中に挟んである貸し出し履歴にはしっかりとフータローの名前がある・・・。やっぱり、本当のことだったんだ・・・。

 

「・・・フータローのせいで考えちゃった。ほんのちょっとだけ・・・私にもできるんじゃないかって・・・」

 

昨日六海に戦国黙示録を全巻借りたのもその気持ちが強かったせい。こんな気持ちにさせたフータローにはこう言ってやらないと・・・。

 

「責任、取ってよね」

 

「!・・・任せろ」

 

フータローは心強い笑みを浮かべて答えてくれた。すると四葉が耳打ちで私に話しかけてきた。

 

(み、三玖・・・もしかして・・・この前隠してた三玖の好きな人って、上杉さんじゃ・・・」

 

え・・・?私が・・・フータローのことを・・・?・・・・・・

 

「・・・ないない」

 

これだけはきっとありえない。そう・・・この気持ちはきっと気のせいに決まってる。

 

03「屋上の告白」

 

つづく




六つ子豆知識

『六つ子で1番頭がいいのは?』

六海「ねぇねぇ、六海たちの中で1番成績がいいのは誰だっけ?」

一花「三玖!」

三玖「六つ子の知力担当、いわば軍師」

四葉「軍師って何?」

三玖「軍師というのは戦国時代に戦場で知力を廻らし作戦を考えていた人たちで・・・」

一、四、六「めっちゃしゃべるー!!」

六つ子豆知識、今話分おわり

次回、二乃視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

問題は山積み

「え?バスケ部の臨時メンバー?」

 

アタシ、中野二乃はスマホでバスケ部の知り合いから連絡を取っているわ。内容は5人しかいない部員の1人が骨折で出られないから臨時メンバーを探してくれないかっていうことだけど。

 

「んー・・・まぁ、一応は心当たりはあるし、相談はしてみるけど・・・」

 

とはいっても、その心当たりのある人っていえば、四葉だけなんだけどね。まだ転校して1週間しかたってないし、友人関係もそれなりに限られてきてるのよねー。

 

「ん。わかった。そっちは任せて。じゃあね」

 

連絡を終えてスマホを切る。

 

「・・・はぁ・・・」

 

その直後にアタシは少しため息が出る。なんでかって?これから四葉にこのことを相談するのが気が引けるから?それはない。あの子は頼まれたら断れない性格なのはよく知ってるし。じゃあなんでかって?

 

・・・・決まってるじゃない。先週突然アタシ達の家庭教師とかになったあいつ(風太郎)のことよ。あいつパパに雇われたからって人様の家に土足で上がり込んできて・・・いったい何様のつもりなのよ。アタシはあんな奴が家庭教師どころか、アタシ達6人のこの家にいること自体認められないわ。

 

・・・そして今日がその家庭教師の日であいつ(風太郎)が家にまた来るのよ。せっかくの土曜日の休みだってのに勉強付けだなんて・・・そんなのお断りよ。何が悲しくて休日の日に、それもあいつなんかに勉強を教わらなくちゃいけないのよ。

 

・・・このまま部屋にいたって埒が明かないわね。とりあえず様子を見てみましょう。アタシは部屋を出てすぐにリビングを確認する。・・・いた。やっぱりいたわ。初日の日に睡眠薬を盛ってやったってのに、全然懲りた様子がないわね。そしてリビングには他の姉妹5人が揃っている状態ね。あいつ(風太郎)本当に邪魔ね。

 

「あ。なーに?また懲りずに来たの?先週みたいに途中で寝ちゃわなきゃいいけど♪」

 

とりあえずアタシはあいつ(風太郎)に向かって挑発的な言動を放ってやったわ。

 

「二乃・・・あれはてめぇが薬を・・・!」

 

あいつ(風太郎)はアタシの発言にこめかみをひくひくさせてるわね。こめかみをひくひくしたいのはこっちよ。おかげでアタシはあんたをタクシーまで運ぶはめになったんだから。だいたい、薬を盛ったのは確かにアタシだけど、それを所有してるのは六海よ。アタシだけを睨むのは筋違いだわ。むかむかする気持ちでいっぱいになってると、途端にあいつ(風太郎)は冷静になったのか、気持ちの悪い笑みを浮かべてきたわ。

 

「は、ははは。ど、どうだい?二乃も一緒に勉強を・・・」

 

「死んでもお断りよ」

 

誰がこんな奴から勉強を教わるもんですか。

 

「き、今日は俺らだけでやるかー」

 

「はーい!準備万端です!」

 

あいつアタシのことを構わず、このまま勉強会をする気ね。早いとこあいつ(風太郎)追い出さないとね・・・けど、だからといって前みたいにあいつ(風太郎)をタクシーまで担ぐような真似はもうしたくないし、2度目はたぶん通用しない。さて、どうしたものかしらね・・・。・・・ふふ、いいこと思いついたわ♪

 

「そうだ四葉。バスケ部の知り合いが大会の臨時メンバーを探してるんだけど、あんた運動できるし今から行ってあげたら?」

 

あいつ(風太郎)がダメなら、姉妹たちの方をここから出せばいいんだわ。ちょうど全員分のいいネタを持ってるしね。

 

「いっ⁉」

 

「今から⁉でも・・・」

 

むぅ・・・なんか渋ってるわね。まぁ、それならそれでいいけど。どうせ一芝居打てばコロッといけるもの。

 

「なんでも5人しかいない部員の1人が骨折しちゃったみたいでこのままだと大会に出られないらしいのよ。頑張って練習してきただろうになー。あー、かわいそうに・・・」

 

「そんなのやるわけないだろ」

 

ふん、あんたはアタシ達のことを何も知らなすぎるわ。四葉はこういった誰かが困った状況になればそっちを優先するのよ。

 

「上杉さん!すみません!困ってる人をほっといてはおけません!!」

 

ほら、アタシの狙い通り♪四葉はすぐに準備を済ませて部屋を出ていった。

 

「嘘だろ・・・」

 

「あの子断れない性格だから」

 

こういう時、単純な子は助かるわ♪さて次は・・・一花ね。

 

「一花も2時からバイトって言ってなかったっけ?」

 

「・・・あー!忘れてたー!・・・てなわけだから、ごめんね、フータロー君」

 

「何ぃ⁉」

 

よし・・・一花もリビングから出すことに成功したわ。それにしても一花がバイトねぇ・・・。いったい何のバイトをしてるのかしら?アタシ達姉妹は一花がどんなバイトをしてるのか全く知らない。聞いても簡単な仕事といってごまかしてるから詳しいことは聞けないのよね。ま、一花のことだし、心配ないでしょ。次は、六海ね。

 

「六海、今日も約束あるって言ってなかったけ?早いとこ行った方がいいんじゃない?」

 

「そうだね!早いに越したことはないし、この人からも解放できるしね!」

 

「ぬ・・・ぬぐぐ・・・!」

 

六海は本当に馬鹿正直ね。もしかしたらアタシ以上にこいつ(風太郎)のこと嫌いなのかもしれないわね。でも六海が約束事ねぇ。昨日もそうだったけど、約束って何かしら?ここ最近六海は妙に約束があるとか言って外に出ていくことが多くなったわね。始まりは確か・・・三玖がこいつ(風太郎)に追いかけまわされた日の次の日からだったわね。ま、それは置いといて、これで3人外に出たわね。次は五月。

 

「五月、こんなうるさいとこより図書館とかに行った方がいいよ」

 

「それもそうですね。わざわざここで自習する必要なんてありませんし」

 

「・・・・・・」

 

ふふん、ざっとこんなものね。これで残ったのは三玖だけね。どうにかして三玖を追い出したらここにはアタシ以外誰もいなくなる。そうしたらこいつも今日は帰らざるを得ない。我ながら完璧ね♪

 

「・・・ヨーシ、オマエラアツマレー。ジュギョウヲハジメルゾー」

 

「フータロー、現実を見て。もうみんないない」

 

現実逃避をし始めているこいつ(風太郎)を見てアタシは少し勝ち誇った笑みを浮かべた。ざまあみなさい。さて、それじゃあさっさと三玖も追い出さないとね。

 

「あれー?三玖まだいたの?あんたが間違えて飲んだアタシのジュース買ってきなさいよ」

 

ま、実際には嘘だけど、三玖を追い出すには十分なネタよ。さあ、乗ってきなさい。

 

「それならもう買った」

 

「えっ⁉」

 

う、うそでしょ?アタシの考えを読まれてる?い、一応買ってきたものを確認・・・。

 

「てっ、なにこれ⁉抹茶ソーダ⁉すげーまずそう!!」

 

アタシがよく飲んでるジュースと全く違うし、何よりも何なの⁉このいかにも味は気になるけど飲みたくなくなるような飲み物は⁉

 

「そんなことより授業始めよう」

 

「ああ・・・仕方ない。気持ちを切り替えていこう」

 

てゆーか、は?ちょっと待って・・・

 

「あんたらいつの間にそんなに仲良くなったわけ?」

 

前までの三玖だったら絶対にこいつから逃げてたはずなのにどうして今更・・・なんかむかつくからからかってやろう。

 

「え?え?こういう冴えない顔の男が好みだったの?」

 

「こいつ今ひどいこと言った。六海の不細工発言よりかはマシだが・・・」

 

うるさいわね。あんたの気持ちなんか知らないわよ。ていうか不細工って・・・六海、そんなことまで言ったのね・・・。

 

「二乃はメンクイだから」

 

「お前も地味にひどいな・・・」

 

三玖の発言にアタシは今結構むかっとなったわ。

 

「はあ?メンクイが悪いんですか?イケメンに越したことはないでしょ?」

 

どうせ付き合うなら誰だってイケメンの方がいいに決まってるじゃない。こんな冴えない男じゃなくて。異論なんか認めないわ。

 

「なーるほど。外見を気にしないからそんなダサい服で出かけられるんだー」

 

「この尖った爪がオシャレなの?」

 

今度はアタシの付け爪にいちゃもんつけてきたわね。

 

「あんたにはわかんないかなー?」

 

「わかりたくもない」

 

毎回思うんだけど、なんで三玖と話すとこうなっちゃうのよ。何かあるたんびに口げんかに発展してしまう。アタシはこんなこと望んでるわけじゃないのに・・・。

 

「おい、お前ら、姉妹なんだから仲良くしろよ。外見とか中身とか、今はどうだっていいことだろ?」

 

「・・・それもそうだね。二乃、もう邪魔してこないで」

 

・・・何なのよいったい。人を悪者扱いみたいに・・・面白くない。本当にむかつく。・・・あ、そうだ。

 

「・・・そういえば君、お昼は食べてきた?」

 

「ん?そういえば・・・」

 

ぐうううぅぅぅ・・・

 

「・・・腹減ったな」

 

よし、これはチャンスだわ。合法的にあいつを追い返す方法を思いついたわ。追い返すのが無理でも、時間稼ぎくらいにはちょうどいいでしょ。

 

「じゃあ三玖の言うとおり、中身で勝負しようじゃない。どちらがより家庭的か、料理対決よ!アタシが勝ったら今日は勉強なし!!」

 

正直、こいつ(風太郎)なんかに手料理を振るうのはものすごい癪ではあるけど、こうなったら利用できるものは何でも利用してやるわ。

 

「そ・・・そんなの・・・やるわけないよな・・・?」

 

「フータロー、すぐに終わらせるから座って待ってて」

 

「お前が座ってろ!!」

 

ふふ、思ってた通り、三玖はこの手の話題に乗ってきたわね。この子料理に関してはなぜかものすごい関心があるみたいでそれを覚えててよかったわ。

 

もうこれは勝ったも同然、ていうかわかりきってるような勝負ね。アタシは六つ子の料理当番なのよ?料理でアタシが負けるはずなんかないわ。まして三玖は以前料理当番制の時に見せた料理はめちゃくちゃ不格好なのをよく覚えてるわ。力の差は歴然、完勝で終わらせてやるわ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

調理開始から結構時間がたってアタシたちの料理が完成して、それをお披露目する。

 

「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー!」

 

うん、我ながら上手にできてるわ。味だって申し分なし!対する三玖の料理は・・・

 

「お・・・オムライス・・・」

 

アタシの料理とは全く正反対で不格好、焦げている個所が目立ってていかにもおいしくなさそうな見た目だわ。これはもう勝ちは確定ね♪

 

「・・・や、やっぱりいい。自分で食べるからフータローは別に・・・」

 

「なんで~?せっかく作ったんだから食べてもらいなよ~」

 

ここまで来たんですもの。逃がすつもりなんて毛頭ないわよ。こんなことしてる間にこいつ(風太郎)はアタシと三玖の料理を見比べ、まずはアタシの料理を一口食べる。その次に三玖の料理を一口食べる。ま、味は当然予想がつくけどね♪

 

「・・・うん。どっちも普通にうまいな」

 

「・・・・・・は?」

 

今、こいつはなんて?アタシの料理はともかく、三玖の料理もうまいって言った?

 

「本当だ。どっちも普通にうまいぞ」

 

そ、そんなアホな・・・

 

「そ、そんなわけ・・・!!でたらめなことを・・・!!」

 

アタシが動揺しているのとは裏腹に、三玖は自分の料理をほめられてうれしそうな顔をしてる。

 

・・・何なのよその顔は・・・。いったい何だっていうのよ・・・。アタシの気持ちがむしゃくしゃしていると・・・。

 

「ただいま~」

 

約束とやらに行っていたはずの六海が帰ってきた。それと同時にアタシの気持ちは少し落ち着いた。

 

「六海、おかえり」

 

「・・・六海、今日は少し早かったじゃない」

 

「それがねー、本来約束は家庭教師の授業が終わってからなんだよねー。だから早めに呼び出したら、約束は果たせたんだけど、授業さぼっちゃダメだって怒られちゃったー」

 

六海はえへへと微笑んでいるとこいつ(風太郎)とアタシたちを交互に見まわしてる。

 

「・・・何してたの?」

 

「二乃が今日は勉強するかしないかでりょ・・・料理対決・・・することになったの・・・」

 

三玖は自分が作ったオムライスを六海に見られて少し赤面してる。

 

「で、その判定を俺がすることになった。どっちも普通にうまかったぞ」

 

「え・・・二乃ちゃんのはともかく・・・このぐちゃぐちゃの卵の乗ったごはんが・・・?」

 

「それ・・・オムライス・・・」

 

六海は三玖の作ったオムライスを見て血の気の引いた顔になっている。そりゃそうよ。アタシだって信じられないもの。

 

「・・・そうだ。六海、こいつじゃ頼りにならないから、あんたが判定してよ」

 

「え・・・それ・・・これ(オムライス)も食べろって・・・?」

 

そりゃそうよ。このままじゃアタシの料理は三玖と同レベルってことになる。そんな結果じゃアタシは納得できない。

 

「なんだ。俺は正直なことを言ったのに、納得いかないのか?」

 

「当たり前よ!あんな判定納得いくわけないでしょ!」

 

「う~ん・・・まぁ、いいよ。お腹もすいてたし。じゃあ・・・これからもらうね」

 

六海はスプーンを手にもってアタシのダッチベイビーを口に運んだ。口に入れた瞬間六海は幸せそうな顔をした。

 

「ん~~♪おいひぃ~~♪」

 

「俺の分・・・」

 

「こんなおいしいの、あなたにはもったいないよ。六海がぜーんぶ食べるもん」

 

六海はあまりにもおいしいのかダッチベイビーをばくばくと食べ進めてあっという間に完食する。そ、そうよね。普通はこの反応よね。で、問題は三玖のあれ・・・

 

「・・・ほ、本当にこれも食べなきゃダメ・・・?」

 

六海は見た目が悪いオムライスを見て気が引ける顔になってる。

 

「む、六海は食べなくていい・・・。残りは、私とフータローが・・・」

 

「六海、一口でいいから食べなさい。じゃないとアタシの気が済まないわ」

 

「う、うん・・・じゃあ食べるよ?」

 

六海は恐る恐るとスプーンで三玖のオムライスをすくう。なんか若干手が震えてるわね・・・少し罪悪感が芽生えるわ。

 

「い・・・いただきます!」

 

六海は意を決してオムライスを口に入れる。さあ、どう・・・?六海は長いこと沈黙してる・・・あ、すっと立ち上がってリビングの隅に移動してるわ。

 

「・・・うえぇー・・・」

 

六海は気持ち悪そうな声を上げながらへなへなと座り込んだ。こういう時の六海は確か苦手なものを食べた時だから・・・見た目通り味はよくなかったのね。

 

「・・・しゅん・・・」

 

六海の反応を見て三玖は少し悲しそうな顔をしてる。

 

「ごめん・・・ちょっとトイレ・・・」

 

「なんだ。いらないのか?だったら俺が全部もらうぞ。・・・うん、普通にうまい」

 

六海がふらふらとトイレに行ってる間にこいつ(風太郎)はオムライスを食べて相変わらずそんなことを言ってる・・・なのに六海はあんな様子だった・・・てことは・・・

 

「それただの貧乏舌なだけじゃん!!」

 

間違いない。こいつは貧乏舌の持ち主でどんな料理を口にしても平気でうまいって言うわ。だとしたらこいつの言葉に納得だわ。

 

「あーもう本当に馬鹿らしい!やってらんないわ!!」

 

バカバカしくなってきたアタシはリビングから出ようとするとあいつ(風太郎)に呼び止められる。

 

「お、おい待て、二乃」

 

「これだけは言ってやるわ。アタシは、あんたを絶っっっ対に認めないから!!」

 

アタシはこいつ(風太郎)に1番言いたいことを言ってからリビングを後にした。今のアタシの気持ちはものすごくむしゃくしゃしている。

 

♡♡♡♡♡♡

 

リビングを出た後、アタシは気持ちを落ち着かせるためにお風呂に入る準備を始める。洗濯場から普通のタオルとバスタオルを用意して、お風呂場がある洗面所まで向かう。洗面所にはトイレに行ってた六海が歯を磨いている。

 

「あら六海、歯を磨いてたのね。体調はもういいの?」

 

「うん。これからお昼寝タイムだから~。お昼寝すれば体調万全かも~」

 

六海は週に2回は必ず昼寝をするんだけど、その際には歯磨きは欠かせないんだと。ちなみに、六海がいつも使ってる昼寝スポットはリビングよ。

 

「じゃあ六海、歯磨き終わったからお昼寝するね~」

 

「ちょっと待ちなさい」

 

六海がうがいを終えて出ようとするとアタシはすぐに止める。どうしても気になることがあるから。

 

「ん~?何~?」

 

「いいから」

 

「んー・・・あー・・・」

 

アタシの言うとおりに六海は口を大きく開けた。アタシはその中を見る。あー、やっぱり・・・

 

「ほら、テキトーに磨いてるから残りかすが残ってるじゃない」

 

「えー?」

 

「たく、いつもいつも・・・ほら、磨きなおしてあげるから歯ブラシ貸して」

 

「えー、1人でも磨けるからいいよー。毎日磨いてもらわなくてもー」

 

「磨けてないから言ってるんじゃない。ほらいいから早く」

 

「んー・・・」

 

アタシはもどっかしくて六海から歯ブラシを奪い取って六海の歯を磨いてあげる。まったく、身体だけは大きくなっても、中身はまだ子供なんだから。

 

「ほら、中心的に磨くべきとこはここ!ちゃんと覚えなさいって言ってるでしょ?」

 

「ふぁ・・・ふぁーい」

 

「・・・こんなもんでいいか。ほら、うがい!」

 

六海の歯を徹底的に磨いて、すぐうがいを始める六海。

 

「はい、歯磨き終了。ちゃんと1人でもきれいに磨けるようになっときなさいよ?」

 

「はーい」

 

歯磨きを終えた六海は軽い返事をして洗面所から出る。本当にわかってるのかしら?まぁいいわ。さて、アタシはさっさとお風呂でも・・・

 

「二乃ちゃん!いつもありがとう!大好き!」

 

急に六海が洗面所に戻ってアタシにそんなことを言って今度こそリビングに向かっていった。ありがとう、か。姉妹から言われるのは照れるけど、悪い気はしないわね。そう思いながらアタシは服を脱いでお風呂の湯舟へと浸かっていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ふぅ、さっぱりした。お風呂から上がったアタシは身体をバスタオルで拭いてからきちんと身体に巻く。えーと、ドライヤーはどこにしまったっけ。

 

「あ、二乃。お風呂入ってたんだ」

 

アタシがドライヤーを探してると、誰かの声が聞こえた。この声の質からして・・・三玖ね。やっぱコンタクト外すと視界がぼやけて見えないわ。

 

「お風呂入るけど、いい?」

 

「あ、ちょっと待って。その前にドライヤー取ってもらえない?」

 

「わかった」

 

三玖は洗面所にあるドライヤーを手にもってアタシにドライヤーを渡してくれた。

 

「はい」

 

「ありがと」

 

そんな近いとこにあったのね。ていうか最後に使ってそこ置いたの誰よ。とりあえずコンタクトとリボンつけたいし、リビングで髪を乾かそうかしら。アタシはリビングに向かってドライヤーのコンセントを突き刺して使えるようにしてドライヤーの常温で髪を乾かしていく。

 

・・・ん?なんだか物音が聞こえる。誰?今三玖はお風呂に入ったとこだし、あいつ(風太郎)も家に帰っただろうし、今家に残ってる人物となると必然的に・・・。

 

「六海?起きたの?」

 

そう、六海しかいない。というか、リビングで昼寝をするって言ってたし間違いないわ。

 

「今日は早めに起きたのね。お風呂は今・・・三玖が使ってるわ。起きたついでで悪いんだけど、いつもの棚にコンタクトが入ってるから、取ってくんない?」

 

視界がぼやけてよく見えないけど、六海は何も言わずに棚まで向かっていってる。なんか動きがぎこちないわね。

 

「何その動き?もしかしてまだ気分が悪い?昼のあれはちょっとかっと勢いで・・・無理に食べさせようとしたのは、悪かったと思ってるわ」

 

六海はなんか棚のあたりでしどろもどろしてるわね。ああ、もう何やってんのよ。

 

「何してんの?そこじゃないわよ。本当にどんくさいわね。場所変えてないわよ?」

 

もどかっしくてアタシはいつもの棚に近づいてコンタクトをとろうとする。ここに仕舞ってるはず・・・あれ?ないわね。もっと奥かしら。コンタクトを探してると突然六海はアタシをどかしてアタシから離れていく。

 

「きゃっ!ちょっと!何怒ってんのよ?」

 

リビングに来てから六海、なんか変よ?・・・そもそもの話、昼間のいざこざがあったのだって、今六海が変になってるのだって全部・・・

 

あいつ(風太郎)のせいだ」

 

パパに命令されてるからって土足でうちに上がり込んで・・・勝手に好き放題して・・・本当にむかつく。

 

「アタシたち6人の家に、あいつの入る余地なんてないんだから」

 

あいつがうちに来ることなんてなければ、こんなことにならなかったのに・・・。

 

「決めた!あいつは今後一切出入り禁止!!」

 

アタシが子供っぽく両手を振り回してると、空いている棚に手をぶつけてしまった。

 

「い・・・つぁ・・・」

 

痛たた・・・棚開けっ放しだったぁ・・・

 

「あぶねぇ!!」

 

・・・え?

 

バサササァ!!

 

今本が棚から落ちてきた音が聞こえてきたけど、そんなことはどうでもいい。近くで見てようやく気付いた。今アタシを押し倒してきたのは六海じゃなくて・・・アタシたちの家庭教師だった。

 

な、なんでまだこいつがここに⁉というか・・・今はアタシは・・・バスタオル1枚巻いてる姿・・・

 

「ふ・・・不法侵入ーーー!!!」

 

こいつついに己の欲情に従ってアタシを襲いに・・・なんてことなの⁉

 

「ち、違う!俺は(忘れ物を)取りにきただけだ!」

 

「と、撮るぅ⁉撮るって何をよ⁉」

 

こいつ襲うだけじゃ飽き足らず、アタシの裸を撮りに・・・!

 

カシャッ!

 

「「・・・あ」」

 

カメラのした音の方向を見てみると、そこには昼寝から起きて、メガネをかけなおしてる六海の姿がある。スマホをこっちに向けて。

 

「・・・サイッテー」

 

今の六海はまるでゴミを見るかのような表情をこいつ(風太郎)に向けている。

 

「ち・・・違う!!これは誤解だ!」

 

「じゃあこの写真はいったい何?襲ったようにしか見えないけど?」

 

「そ・・・それは・・・とにかく誤解だ!」

 

「ていうか、早く離れなさいよ!!」

 

ゲシィ!

 

チーンッ

 

「はう⁉」

 

アタシは勢いよくこいつに向かって男の急所?的なものに蹴りを放った。こいつは大事そうなところを抑えながら苦しそうにうずくまってる。

 

「・・・何?この状況?」

 

この騒動に駆け付けてきた三玖が不思議そうに首をかしげる。

 

「み・・・三玖・・・!」

 

「上杉君・・・あなたまさか・・・二乃を・・・」

 

「い、五月・・・!」

 

三玖の隣にはいつの間に帰ってきた五月は六海と同じようにゴミを見るかのような表情でこいつ(風太郎)を見つめている。

 

「ふんふん、これは・・・事件のにおいがするね」

 

「い、一花まで・・・!」

 

バイトから帰ってきた一花はこの状況を見て面白いものを見つけたかのような表情をしている。

 

「これはもう、あれを開くしかないねぇ」

 

「あ・・・あれって・・・なんだ・・・?」

 

六つ子事情を何も知らないこいつは苦し気になりながら、そう尋ねてきた。そして、一花は高らかに宣言した。

 

「六つ子裁判!!開廷ーーー!!!」

 

♡♡♡♡♡♡

 

六つ子裁判

 

それはアタシ達六つ子の間に何かしらの問題が発生した時に起こる裁判で議論を行って判決を下す。今回の議論は当然、こいつ(風太郎)のわいせつ行為疑惑だ。ちなみに裁判長は長女の一花。

 

「裁判長、見てください。六海の撮ったこの証拠写真を。被告は家庭教師という立場にありながらピチピチの女子高生を目の前に欲望を爆発させてしまった・・・この写真は上杉被告で間違いありませんね?」

 

「・・・え、冤罪だ・・・」

 

何が冤罪なのよ。アタシの裸を見て、襲っておいて・・・。

 

ーちなみに、私はバスケ部のお手伝いのため欠席でーす。イェーイ。ーby四葉

 

「裁判長」

 

「はい、原告の二乃君」

 

「この男は一度マンションから出たと見せかけてアタシのお風呂上りを待ってました。悪質極まりない犯行に我々はこいつの今後の出入り禁止を要求します」

 

それだけのことをしたのですもの。アタシの要求は通るはず。

 

「お、おい!それはいくら何でも横暴だ!」

 

「大変けしからんですなぁ~」

 

「一花!俺はただ単語帳を忘れて・・・」

 

「つーん」

 

裁判長と呼ばれなかったから一花は拗ねてる。

 

「・・・さ、裁判長・・・」

 

「よろしい♪」

 

裁判長と呼ばれて笑顔になる一花。そんなに楽しいもんなのかしらねぇ?そんなことをしてる間に三玖を申し立てた。

 

「異議あり。フータローは悪人顔をしてるけど、これは無罪」

 

「悪人顔は否定してくれ・・・」

 

「私がインターホンで通した。録音もある。これは不運な事故」

 

「三玖・・・!」

 

三玖・・・!何でよ・・・なんでそいつをかばうのよ・・・!

 

「あんたまだそいつの味方でいる気?こいつはハッキリ撮りに来たって言ったの!盗撮よ!」

 

「忘れ物を取りに来た、でしょ?」

 

くっ・・・そういう解釈で来る気ね・・・ならいいわ。それならそれで。

 

「裁判長。三玖は被告への個人的感情で庇ってまーす」

 

「!!?ち・・・ちが・・・///」

 

「三玖・・・信じてくれると信じてたぜ・・・」

 

「・・・それ以上私に近づかないで」

 

「あれぇーー!!?」

 

アタシの言葉に頬を赤くする三玖はこいつ(風太郎)に掌返しをする。

 

「え~?その態度は警戒してるってことかな~?」

 

「してない。二乃の気のせい」

 

「言っとくけどアタシは裸を見られたんだからね!」

 

「見られて減るようなものじゃない」

 

「はあ?あんたはそうでもアタシは違うの!」

 

「みんな同じような身体じゃん」

 

アタシと三玖はいつものようにけんかに発展してしまう。

 

「ね、ねぇねぇ、けんかはよくないよ?ほら、スマイルすま・・・」

 

六海は黙ってて

 

てかあんたもその写真消しなさいよ

 

六海が止めてきたけど今はそれどころじゃない。

 

「い・・・五月ちゃーん!!裁判長ー!!うえーーん!!」

 

「わわわ!六海、泣かないでください!」

 

「よしよーし、六海はよく頑張ったねー」

 

六海は泣き出して五月と一花に飛びついてきた。しまった・・・泣かせるつもりはなかったのに・・・。

 

「うーん、三玖の言うとおりだったとしてもこんな体勢になるかなー?」

 

い、一花!アタシに救いの手を・・・!

 

「一花!やっぱあんたは話がわかるわ!そう!こいつは突然アタシに覆いかぶさってきたのよ!」

 

「・・・フータロー、それ本当?」

 

「そ・・・そうだが・・・それは・・・」

 

「やっぱ有罪。切腹」

 

「三玖さん!!?」

 

もう辺りはこいつに味方をする者なんていないわ。もう否定できる材料なんてどこにも・・・

 

「棚から落ちた本から二乃を守った?」

 

・・・・・・は?五月、今なんて?

 

「よく見ればそうとも取れますが・・・違いますか?」

 

そ、そういえばあの時、本が落ちた音も聞こえたような・・・。

 

「そ・・・その通りだ!ありがとうな!五月!」

 

「・・・お礼を言われる筋合いはありません。あくまで可能性の1つを提示しただけです」

 

「・・・あ、本当だ。よく見たらあたりに本がいっぱい落ちてるー」

 

「確かに」

 

「やっぱりフータロー君にそんな度胸はないよねー」

 

な、なんで急にこいつ(風太郎)が無罪って風になってるのよ!アタシは納得してない!

 

「ちょ、ちょっと!何解決した感じだしてんの⁉適当なこと言わないでよ!!」

 

「二乃、しつこい」

 

「・・・っ!三玖、あんたねぇ・・・!」

 

何なのよいったい・・・!何で・・・!

 

「二乃ちゃん、気持ちはわかるけどそう怒らないで?ほら、笑顔笑顔♪」

 

「そうそう、笑って笑って。私たち、昔は仲良し6姉妹だったじゃん」

 

・・・っ!一花・・・

 

「昔はって・・・私は・・・」」

 

アタシは自分の気持ちに耐え切られず、家を飛び出していく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・ぐすん・・・」

 

マンションで少し泣いて、アタシは少し気持ちが落ち着いてきた。アタシはあんなことしたいわけじゃなかったのに・・・何もかもがうまくいかない・・・。しかもマンションの扉を開ける鍵も忘れてきてしまう始末・・・。一応このマンションはオートロックがあってアタシたちの部屋に番号を入れれば、姉妹たちに繋がって中に入れるんだけど・・・あんなことがあった手前で、そんなことできるわけがない。

 

「・・・はぁ・・・」

 

アタシが落ち込んでいると、マンションの扉が開いて出てきたのは・・・事の発端である家庭教師が出てきた。

 

「あ・・・」

 

こいつが出てきたってことは、マンションの扉も開いたってことよね!せめて中に入る・・・前に扉は閉まって中に入れずじまい。

 

「ちっ・・・本当に使えないわね」

 

「えー・・・」

 

マジ使えない。アタシはさっきの場所に戻ってちょこんと座る。・・・こいつ、まだここにいたのね。こっち見てんのバレバレなのよ。

 

「何見てんのよ。あんたの顔なんてもう見たくないわよ」

 

そもそもこいつさえいなければこんなことにはならかったのに・・・。そうよ・・・こいつさえいなければ・・・。

 

・・・ん?あいつ、家に帰る道から引き返して、うちに戻ってきて・・・あたしの隣に座った?

 

「な・・・何してんの?」

 

「どうしても解けない問題があってな。解いて帰らないとすっきりしないんだ」

 

「あっそ」

 

こんな時にも勉強してがり勉アピール?マジ笑えない。

 

「勉強勉強って、バッカみたい」

 

「勉強がバカとは矛盾してるな。いや、バカだから勉強してるともいえるか」

 

「うるさい」

 

こんな時までうんちくとか本当うんざりよ。

 

「本当、みんなバカばっかりで嫌いよ」

 

「・・・百歩譲ってお前の言うとおりだとする。だがそれは、姉妹のこともそうか?それは嘘だろ?」

 

「・・・!!嘘じゃないわ!」

 

違う。そうじゃない。それはアタシの気持ちじゃない。

 

「あんたみたいな得体のしれない男を招き入れるなんてどうかしてるわ」

 

アタシは・・・あの子たちが誰よりも・・・

 

「・・・アタシ達の・・・」

 

「6人の家にあいつの入る余地なんてない。そうお前は言ったよな」

 

「!」

 

!!こいつ、なんで・・・て、そうか。あの時こいつはいたんだったわよね。

 

「俺が嫌いってだけじゃ説明がつかなんだよ。だがお前の言葉を聞いて、理解した」

 

「もういい黙って」

 

これ以上のことなんて聞きたくない。

 

「姉妹のことが嫌い?違うな。むしろ逆じゃないのか?お前は・・・誰よりも6人の姉妹が大好きなんじゃないか?」

 

「・・・!!」

 

「だから異分子である俺が気に入らない。追い出したくて追い出したくてたまらないんだ。そうだろ?」

 

・・・最悪。こいつなんかにアタシが1番思ってることを見抜かれるなんて。アタシが・・・六つ子の姉妹が大好きであることが。

 

「・・・何よ。悪い?」

 

「いや、気持ちはわかるぞ。俺にも・・・」

 

「そうよ!アタシ、悪くないわよね!バカみたい!なんでアタシが落ち込まなきゃいけないの?」

 

こいつなんか言い始めたみたいだけど、そんなの聞いてられない。やっぱりアタシの気持ちはこれっぽっちも変わらない。

 

「・・・やっぱ決めた!アタシは何が何でも絶対にあんたを認めない。アタシの思うがまま・・・あんたを否定してやるわ!たとえそれであの子たちに嫌われようとも!!」

 

アタシはやっぱりこいつを認めれない。あの子たちに嫌われたっていい。それであの子たちを守ることができるならアタシは・・・喜んで憎まれ役になってやるわ!

 

「・・・二乃。いつまでそこにいるの?早くおいで」

 

アタシが決意を抱いていると、三玖がアタシを迎えに来た。

 

「あ、フータローもいたんだ。ちょうどよかった。来週なんだけど・・・」

 

「三玖!帰るわよ!」

 

「え・・・でもまだ話が・・・」

 

「いいから!」

 

上杉・・・あんたの思い通りになんてさせないわ。どんなことをしたって、アタシが姉妹たちをあんたから守って見せる。だってアタシは、6姉妹が大好きなんだから。

 

04「問題は山積み」

 

つづく




六つ子豆知識

『中野家の家事担当は?そして当時の光景』

四葉「家事担当は二乃!」

二乃「でもこれからご飯は当番制ね」

四葉「はーい!水の分量はフィーリング!」

二乃「基礎がなってない!クビ!」

五月「ご飯は1人三合で!」

二乃「あんたの胃袋と一緒にするな!クビ!」

六海「毎食ケーキとかのデザート付きはいいよね?もちろん全部特盛で!」

二乃「栄養バランスが偏るわ!クビ!」

一花「ピザの出前を取りました!」

二乃「調理すらしてない!クビ!」

三玖「私は・・・」

二乃「論外!!クビィィ!!」

六つ子豆知識、今話分おわり

次回、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お宅訪問

日曜日の休日・・・この日に学生のやるべきことといえばなんだと思う?

 

日頃の英気を養うためにどこかに出かける?バカめ。そんなことをするくらいならもっと有意義な時間を過ごす。

 

日曜日の休日に有意義な時間を過ごすといえば・・・家で1日中勉強付けに決まっているだろう。そう、この俺、上杉風太郎は今日という日曜日を待っていたのだ!日曜日は家庭教師という立ち場を忘れられ、あの六つ子たちの目を気にすることなく安心して勉強できるぜ!

 

・・・ん?この公式教科書には載ってないがあいつらに教えておいた方がいいな。・・・お、この問題、よくできてるじゃないか。これなら四葉でも理解できるかもしれん。それにこの問題も三玖も喜びそうだ・・・てっ!!

 

「何やってんだ俺はーー!!立派な家庭教師か!!」

 

いや実際に家庭教師のわけだが!くっ・・・おのれ六つ子の姉妹め!あいつらのせいで勉強がちっとも進まねぇ!あいつらがいなくても俺の邪魔をしようってのか!おのれ・・・

 

「どうしたの、お兄ちゃん?そんな大声出して」

 

「!あ、ああ、らいは。何でもないんだ」

 

「?ならいいんだけど・・・」

 

俺の大声で不思議そうに俺を見つめているのは俺の最愛の妹、上杉らいはだ。ああ、今日もらいははかわいいな。

 

「あ、そうだお兄ちゃん。私、これからお出かけするんだけど、何か欲しいものとかある?買ってきてあげる!」

 

「また約束とやらか?ほぼ毎日じゃないか。相手は誰なんだ?」

 

「んー・・・秘密!」

 

まただ。あの日、三玖の武将しりとりをやった次の日かららいはは毎日のように外に出る回数が増えていった。大方友達が増えて遊びに行ったんだろうとは思う。だが肝心の約束とやらは何もわからない。らいはが秘密といって教えてもくれない。らいはに友達が増えることは兄としてはうれしい限りだが、らいはの優しさが相手に付け込まれないかと逆に心配になってくることがある。

 

それに、もう1つ気になることがある。約束のある日にらいはが帰ってきたときには必ず大学ノートを持って返ってくる。そのノートが何なのかはこれもらいはが秘密にして教えてはくれない。何もかもが謎だらけだ。

 

「そうか。欲しいものは今はないな。俺のことは気にせず行ってこい」

 

「わかったー!じゃあ、行ってくるね、お兄ちゃん!」

 

らいはは俺に満面な笑顔を見せて外に出かけていった。ああ、この笑顔でお兄ちゃんもっと頑張れそうだ。さて、と。俺も勉強を再開するか。きっちりと予習しておかなくてはな。

 

だがらいはの約束が気になったり、勉強をやるがあの六つ子の姉妹にやらせる勉強法を思いついたりでほとんど自分の勉強がはかどらなかったのは言うまでもない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「どうしてこんな結果になる・・・」

 

日曜日から2日後の水曜日、俺は手元にある1つの用紙を見て非常に憂鬱な気分になる。原因は明白、あの六つ子の姉妹のバカさ加減だ。

 

先日、授業で地理の小テストが行われた。俺が今見ているのはその小テストの六つ子の結果だ。あいつらはとことんにまで俺のことが嫌いゆえに教えてはくれなかったが、四葉と三玖のおかげで全員分の結果を見ることができたが本当にひどいものだ。

 

テストの合格ラインは30点。地理の授業をよく覚えていれば誰でも簡単にそれくらいは取れるほどのものだ。ところが、例の如くあの六つ子の姉妹、30点を取るだけでいいのに誰1人として合格ラインを達していない。しかも驚くことにその結果が・・・

 

一花が16点、二乃12点、三玖が24点

四葉が2点、五月が18点、六海が28点

 

100点なんだよ。全員合わせてな。あの時俺が出した小テストと同じ点数結果とはいったいどういうことなのか説明してほしいものだ。・・・いや、これだけならいくつかマシだったのかもしれん。

 

実はこれだけではないのだ。合計100点の小テストは。他の全科目でも同じ点を取っているのだ。全教科までくると、ある意味才能かもしれん。しかし、今回の件で少しわかったこともある。あの六つ子は得意科目はバラバラで1つの教科に関しては赤点回避できる可能性を見いだせているのだ。例えば、三玖の場合だったら歴史、そして六海の場合はこの小テストの地理。だからあいつらがやる気を出してさえくれれば、1つくらいは赤点回避できるだろう。

 

だがそれがわかったところで所詮は1つ。卒業するには合格突破が全然足りていない。だからといって俺が何か言えば四葉と三玖以外は逃げ出してしまう始末・・・頭が痛くなる。

 

「くそ・・・どうしたものか・・・」

 

俺がこの先どうすればいいのか悩んでいるとふと中庭に誰かがいることに気付いた。わざわざ中庭に行くような変わりもんがよくいたものだ。と思っていたらその中庭にいる奴が誰なのかわかった。あの六つ子の姉妹の末っ子の六海だ。なんか書いてる様子だが・・・。声をかけてみるか。

 

「おい。何やってるんだ?」

 

「うわっほぃ⁉」

 

「うおっ⁉」

 

六海の奴、急に驚くから俺も驚いてしまったではないか。

 

「・・・な、なんだあなただったんだ・・・脅かせないで・・・て、意地悪な人(風太郎)⁉」

 

こいつ、声をかけたのが俺だと分かったとたんにまた驚きだしたぞ。しかも俺からだいぶ離れていったぞ。そんなに俺のことが嫌いなのかそうかそうか。ふと見てみると、こいつの周りにはこの学校のいたるところの風景を描いた紙が散らばっているではないか。

 

「絵を描いていたのか?」

 

「えっ⁉あー、う、うん!絵はとっても好きなんだー!あは、あははは!」

 

?こいつは俺を見ているとかなり挙動不審が目立つな。いつもなら無視するか攻撃的な発言をするかどっちかなのに。

 

「どうしたそんなにきょどってて。何か気になることでもあるか?」

 

「い、いやー?べ、別にー?」

 

「本当か?」

 

「本当だよ!ていうか、何六海となれなれしく話してるの?もうあっち行ってよ!」

 

くっ・・・こいつ・・・挙動不審の状況でも俺を拒む態勢は変わらん!

 

この六つ子の姉妹の末っ子、中野六海は俺が五月に言った太るぞ発言や、俺がこいつの好意を断ってからというもの、やたらと俺にたいして嫌悪感を出しまくっている。根に持ちすぎだろ。こいつが何やろうとそんな怖くはないのだが、その敵対心丸出しの表情や行為にはほとほと参っている。正直、姉妹の中でこいつが1番苦手だ。

 

「はぁ・・・邪魔ならもう行くが・・・前に出した宿題、週末までにはやっとけよ」

 

別にこいつ自身の絵なんて興味もないし、話を聞ける状況でもないなら、今日はもう放っておこう。そう思って立ち去ろうとした時・・・

 

「ま、ままま、待って!やっぱまだ行かないで!」

 

俺が去ろうとした時、突然慌てた様子で六海は俺の手を掴んで止めてきた。なんだよ、あっち行けって言ったのはお前だろ。そう言おうと思ったが、ここはこらえておこう。

 

「・・・なんだよ」

 

「え、えーと・・・」

 

何を言おうか悩んでる姿勢をしていると、今度はとても嫌さを隠しきれてない笑顔で俺を見てきた。おい、その顔はもう少し工夫しろ。

 

「ほ、本当はあなたの絵を描くなんて嫌だったんだけどー?六海、今日はすっごく気分がいいしー?特別に、絵を描いてあげてもいいよ?」

 

本題はそれか。どうやら何故か知らんが俺の絵を描きたいらしく、こいつなりに勇気を出して答えたのだろう。初めから素直に言えっての。だが俺は・・・そんなことに付き合ってやる義理はない!

 

「絵を描きたいなら他の連中に頼め。俺は勉強で忙しいんだ」

 

全く、絵心なんてくだらん。そんなことをしてる暇があるなら勉強しろ。ただでさえ赤点候補の1人なんだから。俺が断ってここから去ろうとした時、六海は俺の手をまた掴んで、ある写真を見せつけた。

 

「い、言うことを聞かないとこの写真、学校のみんなにバラすよ?社会的に抹殺されるよ?それでもいいの?」

 

こ、こいつ・・・!最終手段を使いやがった!今六海が見せてきたのは、この前の俺が二乃を覆いかぶさった写真だ。実際は落ちた本から二乃を守っただけだが、これを初見の奴が見たら、確実に誤解される・・・!そうなれば、家庭教師の話がなくなるかもしれん・・・!

 

「き・・・汚ねぇ・・・」

 

「ど、どうするの?受けるの?受けないの?どっち?」

 

よく見るとこいつの手、若干震えてるじゃねぇか。いくら俺が嫌いでもさすがに良心が痛んでるんだろう。無理してんじゃねぇよ・・・。とはいっても、断ったら多分送るだろうからそれは避けたい。仕方ない・・・。

 

「わかった、わかったからその写真は送るんじゃねぇぞ」

 

「ほっ・・・」

 

俺の了承を得ると六海はほっと胸をなでおろした。やっぱ無理してんじゃねぇか。

 

「で、俺は何をすればいい?」

 

「シンプルでいくから・・・そのままじーっとしてればいいよ」

 

要するに絵を描きやすくするために動くなって言ってるんだろう。それだけでいいとはな。

 

「本当はすごく嫌なんだけど・・・描くからには、本気だよ」

 

そう口にした瞬間の六海の表情は、いつもの能天気さはなく、今までに見たことがないくらいの真剣な表情がでている。あいつ、こんな顔ができたんだな・・・。

 

六海は俺の立ち位置を鉛筆で見定めている。数分が立ち、狙いを定まったたら一斉に描き始める。その姿勢はまるで、本物のプロの絵描きが見せる表情そのものなのかもしれん。こいつ・・・絵に関してはあんなに熱意を持っているのか。・・・その熱意を勉強に回せばいいのに。てかじっとしてると足がしびれてきたな。

 

「お、おい・・・」

 

「まだ動かないで!!後10分そのままの姿勢で!!後それから、できれば手は拳を握って!さっきからちょこちょこ動いてるのが目立つ!」

 

こ、細かい指示を出して来やがった・・・。こいつ、一変わりしすぎだろ。仕方ない・・・足がしびれるが、じっとしてるか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

じっとしてから10数分後・・・。

 

「できたぁー!」

 

ようやくできたのか六海はうれしそうな声を上げた。

 

「か、完成したのか?」

 

「うん。どこからどう見てもよく再現できてると思う。やっぱりどんなものでも絵を描くのは楽しいな♪」

 

やれやれ、やっと完成したか。これでようやく身動きが取れるぜ。

 

「ほら」

 

六海は俺に向かって俺の好きな飲み物、麦茶が入ったペットボトルを渡してきた。六海が俺に何かをくれるだと⁉

 

「脅しで不本意とはいえ、絵描きの手伝いをしてくれたわけだし・・・一応、そのお礼」

 

「あ、ああ」

 

ちょうど喉乾いてたし、ペットボトルのお茶を一口飲む。うん、うまい。薬を入れてる気配もないな。

 

「いつもこんなことをやってるのか?」

 

「うん。六海は絵を描くとは大好きだしね。そもそも絵というのはね、美学という名の、ロマンスなんだよ。額縁に秘められた作者の心情や思い・・・その集大成ともいえる美の塊が絵なんだよ。時代が進むにつれて、絵の歴史というのは様々な形に・・・」

 

め、めっちゃしゃべる・・・!絵の話になったとたん評論家みたいなことを言って、何が何だか、俺には理解できん。てか、あれ?六海の奴、俺が相手でも嫌な顔せずに話してるじゃないか。まぁ、ほぼ語りで俺の話なんてほとんど聞いちゃいないと思うが・・・。でもそうだよな。こいつだって人の子。こいつの興味をもっと引き上げ、俺がもっと優しく接してやれば、理解しあい、今のように楽しそうに話せるはずだ。よし・・・ならばとことんまで付き合ってやろうじゃねぇか。さあ、どんな話でもかかってこい。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結局六海の語りは始めてから閉門の時間まで延々と続いた。正直、耳に胼胝ができるかと思ったぜ。まぁ、そんなわけで今はこいつと帰宅してるわけだ。案の定俺と六海の位置は結構離れてるが。

 

「・・・ねぇ」

 

「ん?」

 

俺が単語帳を使ってながら勉強をしていると、急に六海がしおらしい声で話しかけてきた。

 

「その・・・最初から最後まで六海の話を聞いてくれて・・・ありがとう・・・。ちょっとだけ・・・うれしかった・・・。六海の美学論聞いた人って・・・結構ドン引きする人いるから・・・」

 

「そうか。それは何よりだ」

 

そりゃ引いて当たり前だろ。正直、もうお前の美学の話なんて聞きたくないがな。多分今の俺の顔はげっそりしてるだろうし。

 

「それから・・・これまで変にいじわるして・・・ごめん。ちょっと、根に持ちすぎたよ」

 

「俺は気にしてはない」

 

「これからは・・・その・・・あなたへの考え方を、改めてみるよ・・・家庭教師だって・・・前向きに・・・検討してみる・・・」

 

「!!ほ、本当か⁉」

 

「あ、あくまで検討ってだけだよ。一応・・・前向きに・・・」

 

こ、これは何という幸運だ!こいつの美術美学の話は非常に長く、ゴールまでは険しい道だったが・・・前向きに検討というお墨付きをもらった!やはり真摯に向き合えばわかってもらえるものだな!まだ参加の意思はないようだが、この信頼度が今は重要だ!

 

「なぁ、よければでいいんだが・・・」

 

「やべー!母ちゃんに怒られる!」

 

どんっ!

 

「うおっ⁉」

 

俺が六海に話を振ろうとしたら悪ガキに牽かれてバランスが崩れる。

 

「えっ・・・⁉」

 

バランスが崩れ、倒れようとした時、六海も巻き込んでしまう。いてて・・・あ、あの悪ガキ・・・!なんつータイミングで・・・門限ぐらい守れよ!てゆーかちゃんと前見て歩け!

 

もにゅっ

 

・・・もにゅ?なんだ?自分でもわかるくらいのこの手に伝わる柔らかい感触は。俺は悪ガキに牽かれて倒れた。しかもその際には六海を巻き込んだ。・・・ま、まさか・・・この感触は・・・

 

「あ・・・ああ・・・!」

 

「!?!?!?!?」

 

俺の手に伝わっている感触は、女の特徴ともいえるもの、六海のかなり育っている果実だった。や、やばい・・・この不誠実・・・!幸いにも周りにはまだ人はいないが・・・かなりやばい!

 

「ち・・・違う!これは事故で・・・」

 

俺は危機感を覚えてとっさに六海から離れたが、当の六海は顔を赤くして、手を大きく掲げて・・・

 

バチーンッ!!

 

「バカーー!!やっぱりサイテー!!信じられない!!最悪!!ド変態!!」

 

・・・いてぇ・・・。やっちまった俺も悪いが、全面的に悪いのはクソガキだろ・・・。平手打ちをした六海は怒りながら俺を置いてせっせと帰っちまった。くっそ・・・せっかく信頼度が上がってきたのに、一気にそれをぶち壊されるとは・・・。おのれクソガキめ!

 

ふと下を見てみると、なにやらファイルみたいなものが落ちている。中身はさっきの騒動で少し出ているために、何のファイルかはすぐにわかった。これは六海が今まで描いた絵なのだろう。どうやらかばんは空いてたらしく、さっきの衝撃で落としてしまったんだろう。仕方ねぇ・・・明日あいつに返して・・・

 

バサッ

 

「ん?なんだ?このノート」

 

俺がファイルを持ち上げた時、ファイルの中に入ってたノートが落ちてきた。これもあいつが描いた絵があるのか?気になった俺はそのノートの中身を見た。中にあったのは案の定やっぱりこいつの描いた絵だ。・・・なかなかにうまいじゃないか。ただ・・・なんだ?ファイルに挟んであった絵とは全く違う雰囲気があるな。何というか・・・二次元っぽい?それにこの吹き出しに何か文字があるな。えっとなになに・・・

 

「え・・・何してんの・・・」

 

文字を読もうとした時、震えたような声が聞こえてきた。声をした方へ顔を向けるとそこには六海がいた。だが・・・何か様子が変だな。

 

「そ・・・そのノート・・・見たの・・・?」

 

え?このノート?ちょっと待て・・・六海の今の顔、なんだかこの世の終わりみたいな絶望したかのような顔をしているな。

 

「え?あ、ああ・・・でもこのノートがどうし・・・」

 

俺がノートについて尋ねようとした時、六海はひったくるかのように俺からノートを取り上げてきた。

 

「え・・・?」

 

六海はノートを取り上げるとファイルも取り上げて自分のかばんの中へと入れていき、何も言わずにそのまま走って去っていく。その時の六海の目元には・・・涙があふれていた。

 

・・・え、これ・・・俺やっちゃった系?

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、俺の気分は今最悪の状態だ。嫌に昨日の六海の泣き顔が脳裏から離れない。まさかあのノートが見られちゃまずいノートだったとは思わなかった。いや、本当に見ちゃいけないノートかどうかはわからんが・・・あの時の六海の絶望的な顔や泣き顔をしだしたのは、俺があのノートを見たのを見た時だった。とにかく、ことの真意を知るにしても謝るにしても六海に会いに行かなくてはならない。

 

とはいっても、俺はあいつがどこのクラスにいるか知らない。やはり狙い目は食堂あたりか・・・。そう考えていると、奥の曲がり角から六海が出てきた。ちょうどいい。早いとこ謝って真意を聞き出そう。そう思った時・・・

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

「げっ・・・二乃!五月!」

 

何やらご立腹の様子の二乃と五月に遮られてしまう。ああ、そんなことしているうちに六海が遠くに・・・!

 

「な、なんだよ。何か用か?」

 

「何か用か、ですって?よくもまぁおめおめと」

 

「あんた、六海に何したのよ」

 

「はぁ?」

 

何をしたか、だと?言っている意味がよくわからんのだが・・・。

 

「とぼけないでよ!あんた昨日六海を泣かせたでしょ!」

 

「ちょ!待て!どういうことだ!」

 

「・・・詳しいことは知りませんが、昨日六海が家に帰ってきたとき、部屋に閉じこもって1人ですすり泣いてたんですよ。まるで・・・嫌なことでも思い出したかのように」

 

「で、みんなに聞いた話によれば、あんた六海と一緒に学校にいたらしいじゃない。それも、学校が閉門する時間まで」

 

あー・・・なるほど・・・それで六海を泣かせた1番の疑いがあると思われる人物が俺に上がったっというわけか・・・。うん、あの時にいたのは俺と六海しかいなかったから、疑われて当然だな。

 

「ここまで来たら、あんたを疑わない理由なんてないわよ」

 

「あなた、六海にいったい何をしたんですか?ことの場合によっては・・・」

 

残念だが泣き出した理由を知りたいのは俺自身なんだが!だが正直に言ったところでこいつらは納得しないだろう。何しろ未だに真実が曖昧過ぎるんだ。ひとまずここは・・・逃げさせてもらう!

 

「悪いが俺は何も知らん!!」

 

「あ!逃げました!」

 

「ちょ・・・こら!待ちなさいよ!」

 

待たん!俺だって何も知らないんだ!許せ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

勘弁してくれ・・・。今までこんな気持ちをこれほど強く抱いただろうか。

 

というのも授業期間中、後ろの席にいる五月から四六時中ものすごい視線で睨まれるんだ。圧のかかった視線が気になりまくって、授業の内容がほとんど頭に入らなかった。これでテスト満点を取れなくなったらどうしてくれる!

 

結局ほとんど授業の内容が頭に入らないどころか、解決策すら見つけられないまま昼休みに入った。五月にまたいろいろと言われることを危惧した俺はとりあえず早々に教室を出て食堂に向かう。いったん気分を落ち着かせよう。今日も焼肉定食焼肉抜きを頼み、いつもの席でどうすればいいか考えねば・・・。

 

「うーえすーぎさーん!!一緒にご飯でも食べませんかー!!」

 

「うおっ⁉」

 

この元気すぎる声は・・・四葉か。

 

「よ、四葉、お前はいつも突然なんだよ」

 

「あはは!先週は英語の宿題見てくれて、ありがとうございました!」

 

「そうか。それはなによ・・・」

 

「その成果もあって!見てください上杉さん!英語の小テスト・・・0点から3点に上がりましたー!あはははは!」

 

ほう・・・あれだけ英語の宿題や勉強を見てやったというのにたった3点しか上がってないとは・・・どうやらスパルタ授業がお望みのようだな・・・!

 

「フータロー」

 

俺が静かな怒りを浮かべていると、今度は三玖が話しかけてきた。

 

「三玖か。どうした?」

 

「昨日、六海と何かあったの?すっごく泣いてたけど」

 

う・・・やっぱり三玖もご存じだったか。ということは必然的に考えて四葉も・・・。

 

「あ!そうでした!上杉さん!いくら六海が意地悪してきたからって、何も泣くまで仕返ししなくてもいいじゃないですか!」

 

「違うわ!!どうやったらそんな発想がでてくるんだ!!」

 

全く、一度こいつの脳内を見てみたいわ。

 

「正直、俺にもよくわからん。あいつの持ってたノートを俺が見たらそうなったんだ」

 

「ノート?」

 

「ああ。かなり秘密にしてたみたいだが・・・何か知らないか?」

 

「・・・そういえば・・・前部屋をのぞいた時、鍵のついた引き出しに六海がノートを入れてたのを見た。あれ多分、秘密のノートだと思う」

 

やっぱあれ見ちゃいけない奴だったのか・・・。

 

「それなら、六海に俺がノート見てしまったの謝ってたって伝えておいてくれよ」

 

「事情はよくわかりませんが、それはダメです。こういうのは、本人が謝らないと」

 

くっ、四葉。五月の時と同じことを言いやがって・・・。

 

「大丈夫。六海は素直な子だから、ちゃんと誠実に謝ったらフータローを許してくれるよ」

 

「誠実っていったってどうすれば・・・」

 

「それを考えるのも、フータローのお仕事でしょ」

 

三玖よ・・・俺を信頼してくれるのはうれしいんだが・・・

 

「そうは言ってもあいつ自身が逃げるんだ。どうしようもないだろ」

 

「大丈夫ですよー。六海は体力が全くありませんから!」

 

「うん。フータローでも追いつけると思う」

 

却下だ却下!何で話を聞くためにまた汗だくにならなければならんのだ。あんなのはあれ1回で十分だ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

結局何の解決策も得られぬまま放課後を迎えてしまった。六海の奴も俺を見かけるたびに逃げ出してしまう始末。こんな調子であいつと和解できるだろうか・・・。そう思ってると、奥から六海が出てきた。六海が俺を確認すると、すぐに逃げようとする。

 

「ま、待てって・・・」

 

「ついてこないでよ!!」

 

俺が昨日のことを謝ろうと追いかけた時、怒鳴り返されてしまう。

 

「・・・六海のこと、幻滅したでしょ。当然だよね、あのノート見てしまったらさ。あなたも、他のみんなと同じだよ」

 

「いや、あのな・・・」

 

「まぁ、六海は元からあなたのこと別に何とも思ってないけどね。あなたに何思われようが、別に何ともないし?」

 

こいつが無理を言ってるのは明らかだ。その証拠に、組んでいる腕がかすかに震えてるじゃないか。

 

「六海、話を・・・」

 

「何度でも言ってあげるよ・・・六海はあなたが嫌い。大っ嫌い!!」

 

六海は空のペットボトルを投げつけて怒鳴った後、そのまま去っていった。いてぇ・・・空のペットボトルって結構痛いのな。

 

「あーらら、フラれちゃったね」

 

「!一花」

 

「やっほー、フータロー君。お悩みのようだね?」

 

一部始終を見ていた一花はくすくすと笑みを浮かべて近づいてきた。

 

「別に悩みってわけじゃ・・・」

 

「ふふん、お姉さんがフータロー君の悩み、当ててあげよっか。フータロー君が六海の何らかの秘密を知ってしまった。で、謝ろうにも六海がそれを拒む。そんなとこかなー?」

 

「・・・見てたのか?」

 

「んーん。ただあの様子を見てたら、何となくそうなんじゃないかなーって思っただけ」

 

反論でもしてやろうかと思ったが、全部当たってるから何も言えん。六つ子だから関係ないって思ってたが、さすがは長女だ。よく妹のことを見てるじゃないか。

 

「・・・実際の話、六海はフータロー君のこと、気になってると思うよー?逃げるのは素直になれないだけ」

 

「はぁ?あいつが俺のことを?」

 

「まぁ、最初は六海も何とも思ってないんだろうけどさ、気になり始めたきっかけはあるよ」

 

「きっかけ?」

 

「ほら、最初はフータロー君の授業から逃げてた三玖が、最近になって積極的になったこと」

 

ああ、確かに。汗だくになった甲斐があったというものだ。

 

「二乃も二乃で何かしらの変化はあるんだよ。本人は認めないけどね」

 

本当に変わってるかどうかはわからんがな・・・。

 

「六海もそれに気づいてるから、フータロー君にだんだんと興味を惹かれていってるんだよ。フータロー君の存在は、私たち六つ子の何かを変え始めてるんだよ」

 

そういうものかねぇ。

 

「ねぇ、どうしても六海に謝りたいんでしょ?」

 

「あ、ああ・・・」

 

でなきゃ気まずいし、今後の家庭教師に影響が出始める。

 

「だったら公園に行くよといいよ」

 

「え?」

 

「最近あの子、公園にいるところをよく見かけるんだ。もしもお姉さんの予想が外れてなければ、きっと六海は公園にいるはずだよ」

 

居場所を教えてくれるのはありがたいが・・・なぜ俺にそんなことを?

 

「これは一花お姉さんの個人的な意見なんだけどね・・・今回のことでフータロー君も六海も悩んで、苦しんでる。だから2人には元気なままでいてほしいから・・・何となく、ね」

 

「何となくって・・・それで手助けするか、普通」

 

だが・・・おかげで助かった。

 

「・・・行ってくる」

 

「しっかりお勤め果たすんだよ」

 

余計なお世話だと思ったが、場所を教えてくれた手前もある。ひとまずそこは触れず、そのまま俺は公園へと向かう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

公園と言ってもこの町には公園がある場所が限られてくる。あそこ以外の公園だと、それなりに遠出になるから、必然的に考えれば、居場所は近くの公園・・・。そう思ってよく見る公園を覗いてみると・・・いた。六海が1人でブランコをこいでいる。近くに姉妹の姿はない。出るなら今しかない。

 

「六海」

 

「!あっ・・・」

 

六海は俺の姿を見た瞬間、すぐに顔を俯かせた。そしてすぐにブランコから降り、かばんを取り出そうとする。逃がしてたまるか!

 

「六海!!」

 

大声を上げた瞬間六海は一瞬ビクッとなるが気にしてられない。俺はこいつに頭を下げて謝罪する。

 

「昨日は悪かった!まさかあれが見られちゃいけないものと思わなくて・・・つい好奇心で見てしまった!だがこれだけは言わせてくれ!俺が見たのは最初のページの絵だけであって、中身そのものは見ていない!」

 

吹き出しの文字は気になったが、まぎれもない事実だ。

 

「だから幻滅と言われても、俺には何のことかわからない!お前が何にたいしてそう思っているのかさえ!」

 

「・・・本当に・・・内容、見てないの・・・?」

 

「・・・ああ。だが、ノートを見てお前を傷つけちまったのは事実だ。だから謝りたい。本当に・・・」

 

俺が必死になって六海に謝ろうとした時・・・

 

「あれ?お兄ちゃん?こんなところで何してるの?」

 

「ら、らいは⁉」

 

我が最愛の妹、らいはが買い物袋を抱えて公園にやってきたではないか。な、なぜらいはがここに・・・?

 

「ら、らいはちゃん⁉」

 

「あ!六海さん!」

 

「・・・ん?お前ら・・・知り合いだったのか?」

 

「「・・・はっ!」」

 

らいはが六海と知り合いなのも驚きだが、この2人は俺を見るとやっちゃったみたいな顔をしている。

 

・・・ん?ちょっと待てよ。確からいはは今日も約束があるから帰りが遅くなるといっていたな。で、俺も先日二乃が言った気になる単語を覚えている。約束があると。え・・・まさか・・・

 

「約束の相手って・・・お前?」

 

六海の反応を見る限り、間違いない。らいはの約束の相手とは、六海のことだったのだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

なるほどな、だいたい把握したぞ。六海は先日、三玖が六海に変装して驚かせたことに怒って俺たちを追いかけてたらしい。で、探しているうちにいつの間にか外に出て、疲れ切ったところに偶然らいはと出くわし、そこから約束するほどまでに仲良くなったと。こんな偶然があるものなのか?

 

「らいはちゃん!昨日はごめんね!約束を先延ばしにしちゃって!」

 

「大丈夫です。急な用事じゃ仕方ないですし・・・それに、今日はちゃんと来てくれましたから!」

 

「らいはちゃん・・・!」

 

うむ、やはりらいははかわいいな。六海や五月がメロメロになるのも無理はないな。

 

「そうだ・・・昨日渡すことができなかったあれ・・・はい!」

 

「わあ!お兄ちゃんだぁ!ありがとう、六海さん!大事にするね!」

 

なるほど・・・昨日のあれはらいはを喜ばせるためにか。健気な奴だ。

 

「それから、はい、今日の分!楽しんでもらえるといいな」

 

「わあ!いつもありがとう!」

 

六海は絵を渡した後に昨日俺に見られたノートをらいはに・・・て、おい。

 

「おい、あれ誰かに見られたくないものだろ?いいのか、らいはに渡して」

 

「・・・らいはちゃんは特別なの。だって・・・らいはちゃんだけだもん、六海のことバカにしないでくれたの・・・」

 

・・・ん?らいはが特別?六海をバカにしない?それに、俺やみんなが幻滅って言葉・・・。こいつもしかして・・・

 

「あ!そうだ六海さん、お兄ちゃん。もう仲直りした?」

 

「「!」」

 

う、らいはよ・・・そこに触れるか。実際に俺とこいつは仲がいいというわけでないしな・・・

 

「も、もちろん仲直りしたよ!今は仲良し!ね?」

 

「あ、ああ!もちろんさ!」

 

六海の奴、らいはに合わせてくれたのか。この気遣いは感謝しなければな・・・。

 

「そうなんだ!よかったー。この前早めに呼び出されたから、けんかでもしたと思っちゃったから心配したんだよ」

 

ああ、料理対決してた時に早めに六海が帰ってきたのはそういうことだったのか。

 

「そうだ!せっかく仲直りできたんですから・・・うちでご飯食べていきませんか?」

 

なん・・・だと・・・?先日五月に我が家の事情を知られた上に・・・今度はこいつにもそれを知れって言うのか・・・?

 

「え・・・でも・・・」

 

「ら、らいは!六海にもいろいろ事情が・・・!」

 

「・・・ダメ・・・ですか・・・?」ウルル・・・

 

ズキューン!

 

ああ・・・その泣き顔は反則だろ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結局、らいはのあの泣き顔に逆らえず、六海は今日うちで飯を食うことになった。くそ、五月だけじゃなく、こいつまで家庭事情を知られることになるとは・・・。

 

我が上杉家は中野家と違い、非常に貧乏でその上借金まで抱えている。とてもお嬢様には見せられない光景だから黙っときたかったんだが・・・。

 

「がはははは!!まさか五月ちゃんの妹ちゃんまでうちにくるとは!やるなぁ、風太郎!」

 

そう言って豪快に笑っているのは、我が家の大小柱であり、俺とらいはの父である上杉勇也だ。

 

「お?この牛乳、消費期限が一週間前じゃねぇか。危うく飲めなくなるとこだったぜ」

 

じゅううううう・・・

 

親父・・・はしたないから音出しながら飲むのやめてくれ・・・ほら、六海の奴、ドン引きしてるじゃねぇか・・・。

 

「下準備は済ませてあるから、後はルーを入れて煮込むだけだらもうちょっと待ってねー。いやー、お兄ちゃんと六海さんが仲直りして安心したー。これで、家庭教師にも身が入るねー」

 

「「!!」」

 

実際のところは全然うまくいってないが・・・今らいはにそれを言うのはまずい!

 

「もちろんうまくやってるよ!いやー、お兄さんの教えはわかりやすいなー!」

 

「あ、ああ!またわからないところがあれば言えよ!丁寧に教えてやるからな!」

 

「ははは、お兄ちゃんと六海さん、仲良しだね!」

 

らいはを騙すのは心苦しいが・・・こういう時だけ六海の気遣いには助かる。

 

「はーい、お待たせー!上杉家特性のカレーライスです!」

 

「わあ!おいしそう!ありがとうね、らいはちゃん!」

 

「ふん、お嬢様に庶民の味がわかるかね」

 

「こら」

 

俺が六海に嫌味を言ったららいはがお盆で頭をたたいてきた。地味に痛いからやめてほしいんだが・・・。それをよそに六海はカレーを本当にうまそうに食べているな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

カレーを食い終わったところで六海はそろそろ家に帰ろうとする。ちゃんと親父たちにお礼を言ったうえでな。

 

「今日はごちそう様でしたー!」

 

「おう。風太郎、通りまで送って行ってやんな」

 

「えー・・・」

 

俺は心底嫌そうな声を出した。この後勉強に専念したいんだが・・・まぁいい。こいつには聞かなくてはいけないこともあるしな。

 

「六海さん!」

 

「ん?どうしたの、らいはちゃん?」

 

「知っての通りお兄ちゃんはクズで自己中な最低人間だけど・・・」

 

ええ・・・らいは・・・五月の時も思ったが、お兄ちゃんのことそんな風に思ってたのか・・・深く傷つく。

 

「いいところもいっぱいあるんだよ!」

 

ら、らいは・・・!

 

「だからね・・・今度はうちにも遊びに来てくれる?」

 

らいはの頼みに六海はにっこりと微笑んでいる。

 

「もちろん!その時は、飛びっきり面白いの用意しておくからね!」

 

「本当⁉」

 

「うん♪指切りしようか♪」

 

「うん!」

 

「「ゆーびきーりげんまん、ウソついたらハリセンボンのーます!」」

 

らいはと六海の様子を見ていたら、仲のいい友達というより、姉妹のようにみえるのは気のせいだろうか?

 

♡♡♡♡♡♡

 

とりあえず俺はらいはとの指切りを終えた六海はバスの駐輪場まで送って行っている。

 

「・・・事情は一応察したよ。どうしてそんなに六海たちに拘るのか。らいはちゃんや勇也さんには同情するけど、あなたにはしないよ」

 

「そうかよ。気にしちゃいねぇがな」

 

明らかにえこひいきしているようにも見えるが、今はそれはどうでもいい。

 

「・・・なぁ。もしかしてだが・・・お前の絵、誰かに拒絶されたのか?」

 

ビクッ!

 

「・・・まぁね。でも絵じゃなくて漫画って言ってほしいな」

 

やはりそうか・・・。でなきゃあの時の絶望した顔やらいはを特別扱いするのはおかしいと思ったんだ。てかあれ漫画だったのか。教科書や参考書ばかり読んでるから全く気が付かなかったぜ。

 

「素人の俺が見てもお前の絵はかなり再現度が高かったぞ。なぜ拒絶されるんだ」

 

俺の問いに六海は片腕をぎゅっと握りしめる。沈黙の末、六海は不安げな顔をしながらかばんをあさって、らいはに渡したやつとは別のノートを俺に渡してきた。

 

「これ見ればすぐにわかるよ」

 

このノートを見れば?何があるってんだ。ノートを開いてみると、そこにはやっぱり絵が描かれてる。吹き出しもあるってことは漫画だろう。でも何だ?この登場人物・・・いちゃついてるように見えるが・・・て、待て。よく見たらこの2人のキャラ・・・二乃と三玖じゃないか?

 

「覚悟を決めて言うけど・・・六海はね・・・禁断の愛をテーマにした漫画を描くのが大好きなの!!」

 

・・・は?こいつ、何言ってんだ?禁断の愛?

 

「お嬢様や貧乏人の恋物語・・・BLもの・・・百合展開・・・そういうのを想像しただけで・・・フヒヒ・・・」

 

な、なんかこいつの、かなり嬉々としながらくねくねしだしたぞ・・・!・・・ああ、そういうこと。わかっちゃった。

 

「そして何よりのごちそうなのは・・・兄妹、姉妹同士の禁断の、恋!身内だからいけない壁が存在する・・・でもこの恋が抑えられない・・・ああ!自分のものにしたい!その展開が・・・もう・・・」

 

そりゃ幻滅されて当然だ。なぜならこいつは・・・そっち系のむっつり型妄想オタク女子だ。

 

「・・・と、そう言うわけで、六海の趣味を知った人はみんな幻滅するんだよ」

 

途端に冷静になりやがった。なるほど、本人もそれを自覚してるから誰にもノートを見られたくないわけだな。

 

「ならなぜ鍵のついた引き出しに入れない。姉にも秘密なんだろ?」

 

「だって・・・考えた奴を今すぐに描きたいじゃん。抑えるなんて無理だよ・・・」

 

何という馬鹿正直な奴・・・。

 

「ひょんなことでらいはちゃんに見られて、嫌われるってすぐに思ったよ。でもらいはちゃんは・・・"漫画は漫画、六海さんは六海さんだ"って言って、六海を拒絶しなかったんだ。初めてなんだよ・・・あんなこと言われたのも、受け入れてくれたのも」

 

らいは・・・やはりいい子だ・・・!

 

「それからというもの、六海は書いた漫画をいっぱい見せていった。さすがにハードルが高い奴じゃなくて、前者の方をね」

 

そりゃそうだ。そんなハードル高すぎなのを見せやがったら俺が許さん。

 

「とにかくそういうわけだから・・・真実を知って嫌気がしたでしょ?だから六海のことは諦めて・・・」

 

「それはできん」

 

確かにこいつの趣味にはかなり引いた・・・切り捨てるのは簡単。だが、それでも家庭教師として、それは許されん。

 

「俺の使命はお前たち全員の卒業だ。1人でも欠けたら意味がない。だから俺はお前たちを見捨てたりはしない!」

 

だから真摯に向き合っていくしかないのだ。たとえこいつが、隠れオタク女子でも!

 

「多分お金のためだろうけどさ・・・やっぱり兄妹だね。拒絶しなかったの、これで2人目だよ」

 

「ひ、引いたことには変わらんがな!」

 

「でも・・・卒業したって、その先のことは?」

 

その先、だと?

 

「六海はね、漫画家になるのが夢なんだよ。でもその内容が・・・いけない恋物語だよ?通るはずない。絵描きだって夢に繋がるって・・・そう思ってるだけ。夢物語で終わるんだ・・・」

 

その先のことを心配してるのか。なおさら心配ないんじゃないか?

 

「・・・素人の俺から見ても、お前の絵は完璧だ。内容の方はらいはの方がよく詳しい。毎日お前に漫画をもらうくらいに、だ」

 

「・・・?」

 

「お前には他の姉妹にはない才能を持ってるんだ。いつか、世間にも認められるさ」

 

「・・・!!」

 

これが俺の抱いている気持ち全てだ。素人に言ったって、響かんだろうがな。

 

「・・・本当にムカつく。わかったような気になっちゃってさ・・・。本当に・・・勉強できるけどバカなんだから」

 

バカはお前たちにだけは言われたくはないが・・・少しこいつ・・・笑ってるのか?

 

♡♡♡♡♡♡

 

2日後の土曜日、今日は家庭教師の日なので、あいつらのマンションに向かった。三玖に扉を開けてもらって、30階のこいつらの部屋にたどり着くと、集まっているのは・・・やっぱ三玖と四葉だけか・・・。

 

「上杉さーん!待ってましたよー!今日もよろしくお願いします!」

 

「今日は歴史教えてね、フータロー」

 

まぁいい。やる気があるだけましか。始めようと思った時・・・

 

「ねぇ」

 

途端に声をかけられた。声をかけたのは・・・六海だった。

 

「あれから六海なりに考えたよ。六海、やっぱりあなたのこと受け入れられない」

 

「ええ~・・・」

 

「でも・・・卒業はしたいし、将来に役立つことを学べるかもしれないしね。だからこれからは・・・あなたを利用することにしたよ」

 

俺を・・・利用だと・・・?どういう・・・

 

「これからのご指導ご鞭撻、よろしくしてもいいよね?ね、風太郎君?」

 

!こいつ・・・初めて俺のことを名前で・・・それにこれは・・・俺の授業を受ける・・・てことか・・・?

 

「・・・おう。存分に利用してくれ」

 

なら俺はこいつの期待に応えなければならん義務がある。なんだ・・・不安だと思っていたことが少し和らいできたじゃないか。そうだ、少しずつでいい。卒業期間はまだまだ先なんだ。焦らずにやっていけば道は繋がる!

 

05「お宅訪問」

 

つづく




六つ子豆知識

『六つ子の唯一の芸術家』

五月「私たちの芸術家といえば六海で決まりですね!」

六海「絵のことならなんでもお任せ!なんでもすらすらと描けちゃうよ~?」

三玖「じゃあ・・・家族風景を描いてみて」

六海「家族風景!やっぱりそれはいいよねー。和気あいあいとした雰囲気!のほほんとした日常!そしてそこから始まる・・・バミューダトライアングル!」

三玖「え?む、六海?」

六海「いけないとわかっていても、この感情を抑えられない気持ち・・・駆け巡る愛の苦しみ!さらにそこに手を差し伸べるのが愛すべき姉!そして・・・フヒヒ・・・」

五月「む、六海が拗らせちゃいけないものを拗らせちゃいましたー!!?」

六つ子豆知識、今話分終わり

次回、一花視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今日はお休み

1話目の後書きの六海ちゃんの紹介、少し更新しました。


「ねぇねぇみんな。お昼ごはんの後、お昼の予定とかってある?」

 

姉妹全員で昼食をとっている中、六海がそんなことを尋ねてきた。私、中野一花としてはご飯を食べ終えたらお昼寝したいんだけど、こういう時の六海は何かある。

 

「んー・・・私は、ないかな?」

 

「アタシもないわね」

 

「右に同じく」

 

「私も今日暇でーす!」

 

私たちはみんな揃って暇だけど、何やら五月ちゃんは少し申し訳なさそうな顔をしてる。

 

「すみません。私はお父さんの頼まれごとで出かける用事があって・・・」

 

「用事?」

 

「ええ。上杉君にこれまでの家庭教師のお給与を渡すようにと・・・」

 

「あ、そっか。五月ちゃんは風太郎君の家知ってるんだったね」

 

「「風太郎君⁉」」

 

六海とフータロー君の事情を知らない二乃と五月ちゃんはめちゃくちゃ驚いてる。そっか・・・六海、フータロー君と仲直りできたんだ。しかもあれほどフータロー君の名前を呼ばなかったのにね。私も事情は知らないけど、仲直りできたというのだけは伝わってくる。

 

「ちょっと待ちなさい六海・・・あんたいつからあいつを名前で・・・?」

 

「いつって・・・昨日からだけど」

 

「なぜです⁉」

 

「か、勘違いしないでね⁉六海はまだ風太郎君を認めてないから!」

 

「とか何とか言ってー、ご指導ご鞭撻よろしくって言ってたくせにー」

 

「言ってないよ!」

 

「嘘はよくない。確かに言った」

 

妹たちが六海のフータロー君の名前呼びで話が脱線しかけてるなー。話を戻さなきゃ。

 

「こほん・・・それで、五月ちゃん。給与ってどれくらいなの?」

 

自分で話を戻しておいてなんだけど、結構がめついなー。

 

「え、えっと・・・1日5000円を6人分、計3回で合計90000円だそうです」

 

「へー、結構な額だね!」

 

「そんだけもらえるようなことしてないじゃないの」

 

「そうかな。私はしてると思うなー」

 

少なくとも、三玖の授業参加や六海の多大なる変化、それでも多いけど、給与をもらうには十分だと思うけどなー。

 

「そういうわけで今日のお昼は予定が埋まってますが・・・それがどうかしましたか?」

 

五月ちゃんの問いに六海は本題に入った。

 

「うん。あのね・・・今日は9月30日の日曜日、東町での花火大会じゃん?」

 

「あ、なるほど」

 

「あ!そういうことか!」

 

「うん。その準備として買い物に行こって思ったんだけど・・・」

 

なるほど、花火大会か。うん、六海が張り切るわけだ。

 

私たち六つ子にとって花火はお母さんとの思い出が詰まった大切な行事だ。お母さんは花火が好きで幼い頃みんな揃ってよく花火を見たっけ。お母さんが亡くなってからも、六つ子全員で揃って花火を見上げる。それは毎年の恒例行事で、今年もやることになる行事なんだ。

 

「そういうことはもっと早く言いなさい!早く支度するわよ!」

 

おっと、二乃が急に張り切りだしたねー。て、まぁそれもそうか。だって姉妹の中で花火を1番楽しみにしているのは二乃だしね。

 

「他のみんなはどうかなー?」

 

「もちろん行くー!お財布取ってこなくちゃ!」

 

「新しい浴衣新調したいし、いいよ」

 

「まぁ、それなら付き合おっかなー」

 

「それなら私は上杉君にお給与を渡したら、すぐに合流します。それでいいですか、六海?」

 

「うん!全然オッケー!終わったら連絡入れてねー♪」

 

六海の提案は満場一致で行くことに決定。今年の花火大会も盛り上がるんだろうなー。

 

♡♡♡♡♡♡

 

と、いうわけで!私たちは今ショッピングモールで買い物にやってきましたー!今回買うものと言えばお祭りに着ていく浴衣、浴衣の帯、それから今日着ていく下着だね。今私たちは今日着ていく浴衣の柄を選んでる。女の子同士が買い物する姿ってドキドキしない?

 

「うーん、どの柄がいいか迷っちゃうねー」

 

「とりあえずサイズが合えば何でもいい」

 

「絶対そう言うと思ったわ。あー、ヤダヤダ。これだからオシャレ下級者は」

 

「誰が見るわけでもないし、二乃は意識高すぎ」

 

「はあ?そんなダサい恰好で来てるあんたに言われたくないわよ!」

 

「もー、また二乃ちゃんと三玖ちゃんけんかしてるー。ダメだよー、せっかくの楽しいお買い物なんだからー」

 

こんな時でもけんかをしている二乃と三玖を仲裁している六海。

 

「でも、誰も見ないってことはないんじゃないかな?ね、一花?」

 

「そうだねー。少なくても、この人には私の浴衣を絶対に見てほしいって人、心当たりあるんじゃない?」

 

「い、いないよ・・・」

 

「本当にそうかなー?」

 

「本当だって・・・」

 

「にしし、照れてる照れてる♪」

 

「照れてない」

 

私と四葉で少しだけ三玖をからかってみたけど、ほんのり顔色が赤いからいるってことなんだろうね。ま、相手は大体想像つくけどねー。彼が祭りに来るかどうかは別の話だけどね。

 

「あ、五月ちゃんからだ。・・・あらぁ・・・」

 

六海は今さっき届いたであろう五月ちゃんからのメールを見てそんな声を上げている。え、なになに?

 

「五月、なんだって?」

 

「なんか五月ちゃんねー、風太郎君関係の野暮用で来れなくなったってー」

 

「フータロー?」

 

「はあ?なんで急にあいつの名前が出てきて、五月が来れないのよ?」

 

「んー、これ言っちゃっていいのかなぁ・・・?」

 

六海は五月ちゃんが来れなくなった理由を言っていいものかどうか悩んでる。そこまで悩まれると、気になってくるなー。

 

「言っちゃって大丈夫だよ!私、口は堅いから!」

 

「四葉ちゃんだと逆に心配・・・」

 

「ひどい!」

 

あー、それは確かに。四葉って、ウソつくのが下手だもんね。

 

「私たちがフォローすればフータロー君にばれることないんじゃない?」

 

「んー・・・じゃあ、もし風太郎君に詰め寄られてもこれ六海が言ったってこと、内緒ね?」

 

六海は念のためにそう言って同意を求めてくる。私たちは首を縦に頷く。

 

「実は風太郎君に妹がいてねー、名前はらいはちゃんっていうの」

 

「妹?」

 

「え!上杉さん、妹さんがいたの⁉」

 

「そういえば・・・あいつそんなこと言ってたっけ・・・」

 

フータロー君に妹ちゃんがいることにみんなはそれぞれの反応を示している。少なくとも私も驚いている。フータロー君に妹かぁ・・・。

 

「へー、フータロー君に妹ねぇ」

 

「そうなの!もー本当にかわいくてかわいくて・・・風太郎君とは大違いだよ!六海の妹にしちゃいたいくらい!」

 

「六海、もしかしてそのらいはちゃんって子と会ったの?」

 

「何を隠そう、六海の約束相手というのがね、らいはちゃんなの!だからほぼ毎日会ってるのー!」

 

「いいなーいいなー!私も会ってみたいよー!」

 

六海は頬を赤くしながらうっとりとしている。よほどかわいらしいんだろうなぁ。なんかちょっと五月ちゃんと六海が羨ましいよ。

 

「・・・それでね、そのらいはちゃんのお願いということもあって、五月ちゃんがそれを叶えてるってわけなの」

 

「ふーん、そういうわけね。で、肝心の花火大会には来られるの?」

 

「そこは大丈夫だよ。ちゃんと行くって書いてあるし」

 

「そ。ならいいわ」

 

五月ちゃんが花火大会には行くことを聞いた二乃はほっとしている。もー、二乃は心配性だなぁ。

 

「でも五月の浴衣どうしよっか?」

 

「六海、五月ちゃんの好み知ってるから六海に任せてー!」

 

「サイズはどうすんのよ?」

 

「私たちの誰かが試着してサイズを測ればいいんじゃない?ほら、私たち、みんな揃って同じ身体だし?」

 

「これで問題解決」

 

話がまとまったところでみんな各々浴衣選びを再開する。さて、私もどれにするか決めないとね。

 

「六海はどんな浴衣にするの?」

 

「んー・・・六海はねー、ナナカちゃんをモチーフにした浴衣が・・・」

 

「それは勘弁してほしいかなー」

 

「えー!ナナカちゃんかわいいのになんでー⁉」

 

いや、だって、ねぇ・・・?いい歳した女の子が魔法少女物のコスプレを祭りに着ていくのは・・・さすがに、ねぇ?痛い子のお連れだと思われたくないし・・・。

 

「ん、とりあえずこれにする。試着してみるから、二乃、帯を結ぶの手伝って」

 

「はあ?あんたまだ帯結べないの?・・・たく、しょうがないわねー」

 

最初に浴衣を決めた三玖が二乃と一緒に試着室へと入っていった。と、それと同時に試着室からいがみ合いの声が聞こえてきた。

 

「いった!三玖!今足踏んだでしょ!」

 

「踏んでない。二乃の気のせい」

 

「そんなわけないでしょ!痛みがジンジンきてるのよ!」

 

「ははは、どこに行ってもああなるんだね・・・」

 

試着室から聞こえてくるいがみ合いに四葉は苦笑いを浮かべる。

 

「試着室の大喧嘩・・・そこから始まる・・・ゴクリ・・・」

 

おっと、六海は自分の欲望を必死になって抑え込んでるねー。本当に六海はわかりやすいなー。

 

実を言うと、私は六海がそっち系の隠れオタク女子だということは知ってる。他の妹たちは知らない、私だけが知ってる事実。

 

ある日私が珍しく寝付けなくてお腹がすいた時に好物である塩辛を探そうとしてた時に六海の部屋から何かぶつぶつ聞こえてきたから興味本位で覗いてみたんだ。その時に知ったんだよね。最初は驚いたよ。だって六海が私たちを使ってあーんなことや、こーんなことを妄想しながら絵を描いてたんだもの。でも、六海がそっち系でも私たちが六海を嫌いになる理由なんてないよ。だって大切な妹だもの。

 

「六海-、なんかにやにやしてるけど、どうしたの?」

 

「えっ⁉はい⁉何⁉に、にやにやなんかしてないけど⁉」

 

「わー、すっごくわかりやすーい。何かいいことでもあったの?」

 

「べ、別に⁉」

 

四葉の問いかけに必死になって隠す六海。ちょっとからかってやろうかなぁ。

 

「いいんだよー?自分の欲望に正直になってもー。素直になっちゃいなよー」

 

「はい⁉欲望って何⁉何のこと⁉六海わかんなーい!」

 

「わかってるくせに~」

 

「な、何のことやら」

 

六海は必死になって隠してる。みんなにばれても六海を嫌いになることなんてないから私たちの前でくらい堂々とすればいいのにー。でも六海の必死な努力を水の泡にするの気の毒だし、これくらいにしとこうかな。

 

「そ、そんなことより一花ちゃん!この後の下着選別、お願いね!」

 

「はいはい、いつものね♪」

 

この後私たちは浴衣選びを再開し、その後に下着を選んだりして充実した買い物を満喫していく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

必要なものを買い物を済ませた後、せっかくだから今日買った浴衣を着て家への道のりを歩いていく。私は青、黄色、橙色の3色がメインの浴衣、二乃はウサギの刺繡がある浴衣、三玖は水色に染まった浴衣、四葉は黄緑色で花柄がある浴衣、六海は白黒が結構目立つ浴衣をチョイスした。六海が選んだ五月ちゃんへの浴衣は赤をベースにした浴衣にしたらしい。

 

「いやー!楽しいショッピングだったねー!」

 

「これで疲れるんじゃないわよ?この後が本番なんだから」

 

「早く五月と合流しよう」

 

「そうだね!じゃあ五月ちゃんに連絡入れるよ」

 

六海はスマホを取り出して五月ちゃんに連絡を入れようとする。うーん・・・

 

「?どうしたの、一花ちゃん」

 

「なーにか、パンチが足りないなぁ。なんだろうなー?」

 

いや、六海は普通に浴衣は似合ってるよ?似合ってるんだけど・・・何かが足りないんだよねー。

 

「メガネが余計なんじゃない?」

 

「それだ!」

 

そっか!ずーっと引っかかってたんだよねー。浴衣は似合うのに、どうしてか何か足りないんだろうって。そっかそっか、メガネが邪魔してるんだ!三玖ナイス!

 

「メガネが余計なんてひどいよー。六海のアイデンティティなのにー」

 

「あ、アイデンティティなんだ、それ」

 

「でもあんたの場合、浴衣にメガネは邪魔なのよね」

 

「そうだ!せっかくなんだし!今日はメガネ外して参加してみてよ!」

 

お、四葉ナイスアイディア!四葉のアイディアに六海は心底嫌そうな顔をしてる。

 

「え!やだよそんなの!六海はメガネ気に入ってるのに!それにみんなだって知ってるでしょ⁉六海はメガネがないと視力が悪いの!」

 

「そんなのコンタクトすれば解決」

 

「私も素顔の六海見たいしねー。悪く思わないでねー。二乃、予備のコンタクトってある?」

 

「ええ。あるわよ。はい」

 

「な、何するつもり・・・?」

 

二乃からコンタクトを受け取った私は不安そうな六海に近づいていく。そんな六海を四葉がメガネをはずしてから暴れないようにしっかりと抑える。

 

「ほらほら六海!私たちは六海をかわいくしたいだけ!これくらい我慢しなきゃ!」

 

「あ!六海のメガネ!」

 

「ちょーっと、失礼するよー?」

 

「にゃーー!!やめてーーー!!」

 

私が六海にコンタクトをつけようとすると六海は暴れだす。でも身動きが封じられてるからびくりともしない。両目にコンタクトをつけてっと・・・はいできあがり!

 

「「「「おおお・・・」」」」

 

私たちは今の六海の姿を見て感心した声を上げる。今の六海は普段見せることがない素顔がはっきりとしている。やっぱり私たちの顔と瓜二つだなぁ。

 

「ううぅ・・・ひどいよひどいよ・・・コンタクトは苦手なのに・・・」

 

「いいじゃない。今のあんた、輝いてるわよ~?」

 

「一種の感動を覚えた。ぐすん・・・」

 

「ごめんね、六海。でも今の六海、すっごくかわいいよ!」

 

「こんなにきれいになって・・・お姉ちゃんはうれしいよ」

 

「ちっともうれしくない!!」

 

せっかく浴衣が似合う美少女になったっていうのに、六海はかなりご立腹だ。似合うのになぁ~。

 

「うぅ・・・レンズも緩いし・・・若干見えにくい~・・・」

 

「悪かったわね、緩くて」

 

「六海ってどれだけ視力悪いんだろう・・・?」

 

「と・に・か・く、今日はそのままでいなさい。わがまま言うならメガネは返さないわよ」

 

「うぅ~・・・二乃ちゃんの鬼ぃ~・・・」

 

涙目するほどなんだからよっぽどメガネがいいんだね。

 

「さて、六海問題は解決したし、そろそろ五月ちゃんを・・・と、おやおやぁ~?」

 

そろそろ五月ちゃんを呼び出そうと思ったけど、その必要もなくなったかな?それに、なんだかおもしろい光景も広がってるなぁ~。

 

「どうしたの?」

 

「いやはや、お熱い展開がだなーって思ってね。ほら」

 

「はぁ?いったい何が・・・て、はあああ!!?」

 

今私の視界に映っているのは、確かに五月ちゃんだ。で、さらにそこにフータロー君もいる。

 

「み、みんな⁉」

 

「お、お前ら⁉」

 

「あ!上杉さん!」

 

「なんでそいつと一緒にいるのよ、五月!」

 

「もしかして・・・デート中?ごめんね?」

 

「違います!!」

 

いやはや、まさかフータロー君も一緒だとは思わなかったよ。てことは五月ちゃんとフータロー君もいるってことは今私たちを指さしてるこの子は・・・

 

「わーい、らいはちゃんー!会えてうれしいよー!」

 

「!六海さんですか!ということは・・・」

 

「そ!六海のお姉ちゃんでーす!すごいでしょ、姉が5人だよ!5人!」

 

ああ、やっぱりこの子がフータロー君の妹ちゃんなんだ。なるほど、確かにかわいらしいね。

 

「ああ!あなたが噂に聞く上杉さんの妹ちゃんですか!か、かわいー!」

 

「でしょでしょ!」

 

四葉もらいはちゃんにメロメロだね~。

 

「そうだらいはちゃん!六海たち、これから花火大会に行くんだー!一緒にどう?」

 

「花火!行きたい!」

 

「行きましょう行きましょうらいはちゃん!きっと楽しいですよー!」

 

六海と四葉がらいはちゃんを花火大会に誘ってあげるとらいはちゃんはとてもキラキラした目をし始めた。でもフータロー君はそれに異を唱える。

 

「ちょっと待て!俺には勉強する予定もあるし、お前らも宿題が!」

 

うっ・・・宿題・・・それがあったねー。すっかり存在を忘れてた。私たち全員宿題をやってないからなー。

 

「お兄ちゃん・・・ダメ・・・?」ウルウル・・・

 

ズキューン!

 

「もちろんいいさ」

 

らいはちゃんのあの涙顔にさすがのフータロー君も拒否できないかー。ま、そうだよね。私たちもそうだもん。

 

「だが念のために聞くが、お前ら、宿題は終わらせたのか?」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

「沈黙はやってないとみなすぞ」

 

うっ・・・ばれてる・・・。

 

「はぁ・・・らいはの頼みだ。花火大会には行っていい」

 

お、やった♪

 

ただし!!お前らは!!宿題を!!終わらせて!!からだ!!!

 

悲報、宿題終わるまでお祭りに行けそうにないや。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「もー!!花火大会始まっちゃうわよー!!何で私たち家で宿題やらされてんのよー!!」

 

二乃は文句たっぷりにそう叫んでいる。

 

「週末なのに宿題を終わらせてないからだ!!」

 

うぅ・・・せっかくの花火大会のお祭りだっていうのに、ここに来て宿題をやらされるなんてねー・・・お姉さん、頭がパンクしそうだよー。

 

「へあ・・・もうダメ・・・」

 

すでに頭をパンクしてる六海は顔を頭に突っ伏した。気持ちはわかるよ。

 

「宿題片付けるまで絶対祭りには行かせねー!!」

 

そ、それは困る!フータロー君の一声がきいた六海はすぐに復活して宿題を進める。もう正解率とか無視でいいよね。早く祭りいきたいし。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ふー!やっと終わったー!」

 

何とか花火大会が始まる前に全部の宿題を終わらせて私たちはらいはちゃんを連れて東町の花火大会までやってきましたー!いぇーい!

 

「みんなお疲れさまー」

 

「あれれ?花火って何時からだっけ?」

 

「19時から20時まで」

 

「じゃあまだ1時間あるし、屋台見に行こー!」

 

「あ!あそこにアメリカンドッグが売ってます!」

 

「あ!金魚すくいしませんか?」

 

「うん!やるー!」

 

私たちはこのお祭りの雰囲気をエンジョイしてる。うーん、祭りはやっぱりこうでなくっちゃ♪と、そんな祭りに相応しくない顔が1名・・・。

 

「はぁ・・・」

 

そう、らいはちゃんと一緒に来ているフータロー君だ。

 

「どうしたの、風太郎君。そんなお祭りに相応しくない顔して・・・楽しみが逃げるよー?」

 

そんなフータロー君にメガネを取られて素顔のままの六海がジュースを飲みながら声をかける。

 

「・・・・・・」

 

「え・・・何・・・?」

 

おっと、フータロー君。昼間は五月ちゃんと一緒にいたのに、今度は六海に・・・

 

「誰だ?」

 

ずこっ!見分けがつけられないだけかー。

 

「ええ⁉六海だよー!」

 

「なんだ六海か。ただでさえ同じ顔でややこしいんだ。メガネを外してくるんじゃない」

 

「六海だって好きでメガネを外してるわけじゃないもん!」

 

フータロー君の一言で六海は結構ご立腹だ。さらに二乃にメガネを預けられたままだからさらにイライラがたまってるんだろうなー。

 

「こら!上杉君、六海をいじめるんじゃありません!こんなにかわいいのに!」

 

浴衣を着て髪を結んでいる五月ちゃんはそう言って六海に抱き着いてきている。

 

「で、お前は誰だ?」

 

「ええ⁉私もですか⁉」

 

「いちいち髪型変えやがって。見分けられねーだろうが」

 

「五月です!どんなヘアスタイルにしようと、私の勝手でしょう!」

 

あーらら、六海だけじゃなくて、五月ちゃんまで怒らせるとはねー。

 

「あーあ。ダメだなー。女の子の変化があったり、髪型変えたりしたら、とりあえず褒めなきゃー」

 

私は女子への扱いが全くなってないフータロー君の隣に座る。

 

「ほら、浴衣は本当に下着を着ないのか、興味ない?」

 

「それは昔の話な。知ってる」

 

「本当にそうかなー?」

 

私はとりあえずフータロー君の反応を見るために少し浴衣をめくってぎりぎりって感じに一肌を見せる。

 

「!一花ちゃん!」

 

「一花!」

 

そんな私を見て六海と五月ちゃんが慌てる。

 

「なーんて冗談でーす!どう?少しはドキドキした?」

 

「・・・ウザ」

 

うわー、結構ドライな反応。ちょっとやりすぎたかなー?そう思ってると、私のスマホから着信の反応がある。この震えからして電話か。着信者は・・・芸能事務所関係だった。

 

実は私、中野一花はみんなには秘密にしていることがあります。それは私が、芸能事務所に所属している女優だということだ。半年前にスカウトされて、まぁ、今は名前のない役を何回かやらせてもらってる。電話が来たということは、お仕事の話かなー?

 

「あんたたち、こんなとこで何してんのよ?一花、行くよ?」

 

「ごめん、ちょっと電話」

 

私はみんなと少し離れて電話に出る。

 

「はい・・・。・・・え?今夜・・・ですか?」

 

え?今夜は花火大会・・・でも私情を持ち込むわけにもいかない。話は聞いておこう。

 

話を聞くには、結構大きな映画に出るはずのヒロイン役の女優さんが体調を崩したとかで映画の撮影に参加できなくなったんだと。それで急遽代役となる女優を探すためのオーディションが開かれるんだって。私が掴みたいと思っていた主役級の役・・・ぜひとも参加したい。

 

でも今日は姉妹と一緒に花火大会・・・どんな事情があっても外せない大切な行事・・・できれば花火大会の会場から離れたくない。

 

でも・・・もしこのチャンスを逃したら?このチャンスを棒にふって、二度とそんな話が来なくなってしまったら?この仕事を始めて、ようやく長女として胸を張れるようになったんだ。ここで評判が落ちたら、前のだらしない自分と逆戻り・・・それは、できない。

 

「・・・受けます。受けさせてください」

 

ごめんね、みんな・・・私は・・・みんなと一緒に花火は見られないよ。話がまとまって、社長が迎えに来る形で話は終わり、私はみんなの下に戻る。・・・なんて説明しよう・・・。

 

「お兄ちゃーん!見てみてー!四葉さんが取ってくれたの!」

 

私がどう戻ろうと思った時、四葉とらいはちゃんが戻ってきた。らいはちゃんの手には・・・うわ!大量の金魚!

 

「よ、四葉ちゃん・・・もう少し加減できなかったの・・・?」

 

「あはは、らいはちゃんを見てると、不思議とプレゼントしたくなっちゃって・・・」

 

「わかる!わかるよ四葉ちゃん!」

 

「あ!お兄ちゃんお兄ちゃん!これも買ってもらったんだー!」

 

そう言ってらいはちゃんは自分たちでもできる花火セットを見せてきた。

 

「それ今日1番いらないやつ!」

 

「だって待ちきれなかったんだもんー」

 

「いつやるんだよ・・・。四葉のお姉さんにちゃんとお礼言ったか?」

 

「あ!四葉さん、ありがとう!大好き!!」

 

らいはちゃんはお礼を言いながら四葉に抱き着いてきた。こ、これは・・・破壊力あるねぇ・・・。四葉が何でもプレゼントしたくなるわけだ。

 

「あーん♡らいはちゃんかわいすぎるよー♡お持ち帰りー♡」

 

「こら!お持ち帰りするな!俺の妹だぞ!」

 

「六海の言うとおり、らいはちゃんかわいすぎますー!私の妹にしたいですー!」

 

もうすでにらいはちゃんにメロメロな四葉と六海はらいはちゃんを頬ずりしている。

 

「・・・待ってくださいよ?私が上杉さんと結婚すれば、合法的に姉と妹に・・・」

 

「自分で何言ってるかわかってるー?」

 

四葉の発言に二乃は若干引いた様子だね。

 

「あんたも四葉に変な気起こさないでよ!」

 

「ねぇよ!」

 

フータロー君は二乃の気迫に押されて後ろに下がっていくと・・・三玖にぶつかって・・・おっとひじが三玖の胸に当たった⁉

 

「ああ!す、すまん!」

 

「い、いい・・・」

 

あはは・・・説明する雰囲気じゃないね。とりあえず合流しよっと。

 

「お待たせー!さ、行こー?」

 

「ん?どこか行くのか?」

 

「二乃がお店の屋上借り切ってるから」

 

「借り切るだと!!?ブルジョワか!!?」

 

あはは・・・そういう言い方もあるのかなー?とりあえず私たちが移動を始めると、二乃が止めてきた。

 

「ちょっと待ちなさい。せっかくお祭りに来たのに、あれも買わずにいくわけ?」

 

あれ・・・?

 

「「「「「・・・ああ!!」」」」」

 

ああ、あれかぁ!まだ買ってないね!

 

「そういえばあれ買ってない」

 

「もしかして、あれの話?」

 

「あれやってる屋台ありましたっけ?」

 

「お祭りだもん!絶対あれがあるよー!」

 

「早くあれ食べたいなー!」

 

「・・・なんだよ、あれって・・・?」

 

あ、そっか。フータロー君とらいはちゃんは知らないんだったね。じゃあ、教えてあげなきゃね。

 

「「「「「「せーの!」」」」」」

 

「かき氷!」

「りんご飴!」

「人形焼き」

「チョコバナナ!」

「焼きそば!」

「たこ焼き!」

 

あれ?全員バラバラだ。みんな一緒だと思ってたのに。まぁいいや。

 

「「「「「「全部買いに行こー!!」」」」」」

 

「お前らが本当に六つ子か、疑わしくなってきたぞ・・・」

 

こーら、思っててもそんなこと口にしない!

 

♡♡♡♡♡♡

 

あれからもうすぐで20時になろうとしているところだ。屋台でみんなのあれの屋台巡りで結構時間がたったんだね。

 

「らいは、あんまり離れると迷子になるぞ。ここ掴んどけ」

 

「はーい」

 

らいはちゃんはフータロー君の言葉に従って半そでの裾を掴みながら歩いていく。こうしてみると、やっぱり仲がいい兄妹なんだなー。それはそうと、さっきの人形焼きの屋台で五月ちゃん、まだ怒ってるねー。

 

「機嫌直しなよー」

 

「思い出しても納得がいきません!あの店主!一花にはおまけと言って私には何もなしだなんて!どういうつもりですか!同じ顔なのに!」

 

「そうだよ!六海だって今日メガネ外したのに・・・一花ちゃんばっかりずるーい!」

 

「そう言われてもねー・・・」

 

「・・・複雑な六つ子心」

 

三玖、それうまいこといってるつもり?

 

「らいはちゃーん!次は輪投げしよっか!」

 

「うん!やるー!」

 

「迷子になるなよー」

 

四葉はらいはちゃんを連れて輪投げの屋台へと向かっていった。

 

「あ!焼きそば焼きそば♪」

 

「あ、あっちにたこ焼きがあるー!行ってくるねー!」

 

「あんまりはぐれちゃダメだよー?」

 

私は五月ちゃんの付き添いで焼きそばの屋台に向かっていく。六海はその反対側のたこ焼きの屋台に向かっていった。

 

・・・どうしよう・・・もうすぐオーディションが始まっちゃう・・・。なんて言ってこの会場から離れよう・・・。私がそう悩んでいた時・・・

 

『大変長らくお待たせいたしました。まもなく花火大会が始まります』

 

花火大会開始のアナウンスが流れてきた。それを聞いた来客は花火を見ようと一斉に移動を始めた。

 

・・・あんまりやりたくない手段だけど、仕方ない。みんなには今回のオーディションがあることは伏せておいて、人ごみに紛れて移動しよう。そうすれば、みんなと離れられて、私は1人になることができる。本当はみんなに一言言っておいた方がよかったんだけ・・・そうも言ってられない状況になっちゃったしねー。

 

「よっと・・・すいません、ちょっと通りますよー」

 

私は人ごみに紛れながら奥へと進んでいって、ようやくあの込み具合の状況から脱出できた。ふぅ・・・きつかったぁ。私が安堵したと同時に・・・

 

パーンッ!バーンッ!ババーンッ!

 

夜空にきれいな花火が上がった。できることなら・・・姉妹みんなでこの花火を見たかったな・・・。みんな・・・こんなお姉ちゃんでごめんね・・・。そう思っていた時、スマホから電話の着信が出ている。着信者は・・・今回の芸能関係の人たちからだ。

 

「もしもし・・・はい。・・・少し、移動でトラブルが発生して・・・はい。そちらへ向かうのが遅れている状況でして・・・はい。撮影の際は大丈夫ですので・・・」

 

幸いまだオーディション開始時刻にはなってない。でも本当に急がねばならない時間帯であるのは確かなので、開始時刻になったらすぐオーディションを開始するみたい。なら早く社長と合流して、会場に向かわないと・・・

 

「一花!」

 

ふ、フータロー君⁉何で・・・て、理由はわかってる。みんなの誰かに頼まれて私を連れ戻しに来たんだろう。こんな時に限って・・・

 

「後でかけ直します」

 

私はいったんそう言って通話を切っておく。フータロー君に話を聞かれるのはまずいから・・・

 

「よかった・・・二乃が待ってる。早く店に戻るぞ」

 

そう言ってフータロー君は私の手をつかもうとした時、別の誰かが私の手と間違えてフータロー君の手をつかんできた。その相手は・・・

 

「君・・・誰?」

 

しゃ、社長ーー!!何でこんな最悪のタイミングでーー!!?

 

「あんたこそ誰だ!!?」

 

事情を何も知らないフータロー君は困惑の顔をしてる。

 

「一花ちゃんとどういう関係?」

 

フータロー君が・・・私をどう思ってるか・・・?それは・・・少し聞いてみたい気もするけど・・・。

 

「て、こんなこと聞いてる場合じゃなかった。さあ、行くよ、一花ちゃん!」

 

「え・・・あ、はい」

 

考えこんでるフータロー君をよそに社長は彼に構わず私を連れてこの場から離れる。

 

「知人ですけどーー!!?」

 

遠くからフータロー君のそんな声が聞こえてきた。

 

さ・・・最悪だ・・・よりにもよって姉妹とは無関係のフータロー君に社長の存在を知られてしまった!このままだともしかしたら私が女優の仕事をしてるって気づいて、みんなに言ってしまう可能性もあるかもしれない・・・!

 

「せっかくの花火大会だっていうのに、急な話で申し訳ないね、一花ちゃん」

 

「え・・・い、いえ・・・」

 

「でも一花ちゃんが受ける決心を持っていて僕はうれしいよ。これが成功すれば・・・本格的にデビューが決まるかもしれないよ!」

 

本格的のデビュー・・・それは私が求めているもので、目指すべき道。私の・・・やりたいこと。

 

でもそのためにも警戒すべきものができてしまった・・・そう、フータロー君だ。そんな口が軽い人ではないと思うから心配ないと思うけど・・・それでも心配はぬぐえない。それに、うまくいけば妹たちに私は花火は見られないことを伝えられるかもしれない。

 

「社長・・・もう少し時間をください!やるべきことができましたので!」

 

「え⁉ちょっと⁉一花ちゃん⁉」

 

自分が勝手なことをしてるのはわかってる。それでも・・・それでもちゃんとしておかないと私の気が済まない!私はすぐにフータロー君を探して花火大会会場に戻っていく。

 

花火大会終了まで、後40分

 

♡♡♡♡♡♡

 

『風太郎の六つ子捜索、六海発見!』

 

一花と意味不明な別れ方をした風太郎は困惑の中で三玖に見つけられた。その際に一花を捜索しようとしたが、三玖の足が痛めてしまってることに気付き、三玖を気遣って近場で三玖を休ませている。早いところ姉妹と合流したい風太郎にここであることに悩まされる。

 

あの社長が言っていた一花との関係・・・

 

先ほど話しかけてきた係員のよる質問、三玖とはどういった関係・・・

 

それらの問いにあまりの曖昧な答えで三玖は少し怒りつつも、悲し気な顔をしていた。それがどうにも風太郎には腑に落ちないのだ。

 

「あ・・・フータロー、あれ見て」

 

「ん?あれは・・・」

 

三玖が指をさした方向には六海が空を見上げながら絵を描いている姿だった。

 

「あいつこんな時まで・・・。ちょっと待ってろ。すぐに呼んでくる」

 

「うん・・・」

 

風太郎はここで三玖に待機を命じてすぐに六海の下へと向かう。

 

「六海」

 

「あ、風太郎君」

 

「お前こんな時に何やってんだ?絵なんて描いてる場合じゃないだろ」

 

「だって・・・今すぐに花火を描きたかったんだもん・・・」

 

風太郎は六海の持っているお絵描きノートを見てみる。そこには鮮明な花火の絵が描かれている。

 

「そんなもん後でいくらでも描けるだろ・・・。そんなことより、向こうで三玖が待ってる。いくぞ」

 

「三玖ちゃんが?うん、わかった」

 

三玖がいるとなれば六海は素直に顔を頷き、風太郎についていく。その際に風太郎はここで悩まされていることを六海に聞いてみる。

 

「なぁ・・・俺たちって、どういう関係?」

 

「え・・・何その質問・・・気持ち悪い・・・」

 

風太郎の質問に六海は本気で風太郎を引いていた。

 

「うーん・・・そうだなぁ・・・友達・・・というのは絶対違うと思うし・・・」

 

「おい」

 

友達関係までを否定され、風太郎は少しこめかみをひくひくさせる。

 

「あ・・・前に五月ちゃんが言ってた言葉が妙にしっくりくる。えーっと、なんだっけ・・・バーナー?それともパージー?」

 

「こんな時に忘れるなよ・・・」

 

六海がしっくりくる言葉を忘れて首をかしげてる様子に風太郎は呆れる。

 

「はぁ・・・もう少し自分で考えてみるわ」

 

「うん。六海もその方がいいと思うよ。答えはいつか出るんだしさー」

 

「それをお前に言われたらおしまいだ」

 

「それどういうこと⁉」

 

風太郎の何気ない言葉に六海は驚愕する。すると六海は遠くにある人物を見かける。

 

「あ、風太郎君、あれ・・・」

 

六海が発見した人物は五月だった。

 

「これで迷子なのは一花だけか・・・。六海、とりあえず五月連れていくからお前は・・・」

 

「わかってる。三玖ちゃんとこに行ってるね」

 

六海は三玖がいる近場へと向かい、風太郎は迷子状態になってる五月の下へと向かっていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「フータロー君・・・いったいどこに・・・?」

 

私はフータロー君を探して祭り会場を回りに回った。その甲斐もあって、ようやくフータロー君を見つけた。近くには・・・五月ちゃんもいた。

 

「今はそれより一花です。どこに行ったのでしょう?」

 

あー、五月ちゃんも私を探してるんだー。五月ちゃんまでいると面倒だなぁ。とりあえず一声。

 

「よかった。五月ちゃんと合流できたんだね」

 

「!一・・・」

 

フータロー君が何かを言う前に私は人差し指で少し黙らせてフータロー君の手を引く。なるべく五月ちゃんから離れて。

 

「こっち来て」

 

「なっ・・・」

 

「花火見た?すごいよね?」

 

「おい!どこに行くんだ!6人で見るんだろ⁉」

 

「ははは、いいからいいから」

 

私はとりあえず笑ってフータロー君を誰もいない路地裏に連れていく。

 

「・・・それでね、さっきのことは秘密にしておいて」

 

私はフータロー君に向かって逆壁ドンをしてこう言う。

 

「私は・・・みんなと一緒に花火を見られない」

 

06「今日はお休み」

 

つづく




六つ子豆知識

『六つ子の合計バストサイズ』

上杉ロボ「今回ハ6人ノバストサイズノ合計ヲ発表シマス」

五月「なんですか、このロボは⁉」

三玖「こんなの測らなくてもわかる」

二乃「88×6で528センチでしょ?」

ブブーッ!

六海「えっ⁉違うの⁉」

上杉ロボ「529センチデス」

二、三、四、五、六「9・・・1センチ・・・」

一花「はい!この話やめやめ!」

六つ子豆知識、今話分終わり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全員で六等分

「私は・・・みんなと一緒に花火を見られない」

 

9月30日の東町の花火大会の日に代役オーディションを行われることになったからここを離れたかったんだけど・・・その前に社長の存在をフータロー君に知られちゃったからね。ちゃんと黙ってもらうようにに念には念を入れておかないとね。

 

「・・・なんで・・・なんだ・・・?」

 

うーん・・・なんて説明したらいいんだろう・・・。・・・うん、幸いにも私が女優であるということを知らないわけだし、オーディションの件は伏せておいて、仕事が入ったって説明。これでいこう。

 

「急なお仕事頼まれちゃって・・・これから仕事場に向かわなくちゃいけなくなったの。だから、花火は見に行けない」

 

「・・・・・・」

 

フータロー君自身思うところがあるのか、神妙な顔つきになってるな。少し和ませてあげるか。

 

「それに、ほら、同じ顔が6人もいるんだし、1人ぐらいいなくても・・・」

 

「それは無理があるな。六つ子なんだし」

 

ですよねー。

 

「そういうわけだから、ごめんね?人、待たせてるから」

 

とりあえずはくぎは指しておいたから、このまま社長と合流しなくちゃ。

 

「お、おい!ちょっと待てって!ちゃんと説明しろよ!あいつらが・・・どんだけこの花火大会を楽しみにしてると思ってんだ!」

 

うん・・・それは私も知ってる。私自身もそうなんだから。だから・・・フータロー君がそこまでやってくれることは素直にうれしいよ?でも・・・わからない。

 

「なんで?」

 

「え?」

 

「なんでお節介、焼いてくれるの?」

 

「・・・!」

 

「私たちの家庭教師だから?」

 

そこだけがわからない。なんでただの家庭教師が私たちのことを思って、こんなお節介を焼いてくれるのか。家庭教師の立場がなかったら、私たち、赤の他人なのにさ。

 

「・・・確かに・・・」

 

「どうして?」

 

「確かに!客観的から見て、なんで余計な面倒見てんのって感じだよな⁉なんで今まで気が付かなかったんだ俺⁉」

 

あら、ようやく気が付いたんだ。ちょっと遅いって感じはするけど、まあいいや。

 

「うん。じゃあ、まぁ、そういうことだから」

 

変に考えこんでいるフータロー君を置いてこの場を去ろうと思った時・・・

 

「あ!やば!」

 

私を探している社長を見つけちゃった。や、オーディションに行くんだから別に苦ってわけじゃないんだけど・・・今はちょっとまずい状況だ。

 

「どうしよう!仕事仲間がこっちに・・・」

 

「はぁ?」

 

「事情を話さず黙って抜けてきたから・・・怒られちゃう・・・」

 

「知らねぇよ」

 

怒られるのが嫌というわけじゃない。私が一方的に去っていったそれは当たり前だしね。ただ・・・抜け出した原因がフータロー君にあるということがばれると、いろいろと面倒なことになる。それは何としても避けたい。

 

「んん?あれ・・・あのおっさん・・・今日お前といた・・・」

 

「大変!こっちに来る!」

 

社長がこっちに近づいてくる!奥に逃げようとしても、間に合わないし・・・そうだ!

 

「ちょっとそのままで・・・」

 

「お・・・おい⁉」

 

私はフータロー君に近づいて、社長に顔が見られないようにフータロー君でカバーするように抱きしめた。やば・・・この状況・・・恥ずかしくなってきた・・・///でも表は見られない・・・社長に見つかるリスクが大きい・・・!

 

「・・・おい、あのおっさん、近くに座りやがったぞ。ばれてはいないが・・・」

 

「そ、そう?よかった・・・」

 

ばれなかったのはいいけど、近くにいるのかー。しばらく出られないね。

 

「・・・お、おい・・・いつまでこうしてればいいんだ・・・」

 

「ごめん・・・もう少し・・・」

 

うーん、それにしてもこの体勢、考えれば考えるほど・・・

 

「私たち傍から見たら、恋人に見えるのかな?」

 

「まぁ・・・欧米じゃあるまいし、この状態は恋人に限られるだろうな」

 

やっぱりそう見えちゃうかー。

 

「あはは・・・本当は友達なのに、悪いことしてるみたい」

 

「・・・俺らって、友達なのか?」

 

「えっ?」

 

え、私は家庭教師関係なく、普通に友達同士だと思ってるけど・・・

 

「あはは・・・えっと、ハグだけで友達を超えちゃうのはさすがに早いかなー?」

 

「そ・・・そうじゃなくて!俺はただの雇われ教師だ!それさえなければ、お前たちと接することもなかっただろ?そんな関係を友達というには違和感が・・・」

 

うっわ・・・なんていうか・・・

 

「何それ、めんどくさっ!」

 

「えっ?」

 

「私は友達だと思ってたのに、やっぱりフータロー君は違ったんだ。傷つくな~」

 

「いや、俺は・・・」

 

私も私でめんどくさいことを考えてることもあるけど、さすがにフータロー君のような考えは持ち合わせてないから非常にめんどくさいなー。

 

「もしもし・・・」

 

そんなことを考えてると路地裏の入り口近くに座ってる社長が電話してる声が聞こえてきた。相手はたぶんオーディションの関係者だろうな。

 

「申し訳ございません!少し、トラブルがあって・・・撮影の際は大丈夫ですので・・・」

 

「・・・撮影?」

 

き、聞かれちゃった。でも・・・フータロー君はまだ本当のことに気付いてないはず・・・

 

「お前の仕事って・・・」

 

「実はあの人、カメラマンなの。私はそこで働かせてもらってる」

 

嘘は言ってない。カメラを扱っているのは事実だしね。

 

「カメラ・・・アシスタント・・・」

 

まぁ、実際は違うけど・・・似たようなものかな?こういう時、何て言えばいいのかな・・・?・・・ああ、そうだ。前に六海が言ってたことがあったな・・・。

 

『ねぇ、なんで六海は絵を描くの?』

 

『楽しいから!』

 

『楽しい?』

 

『うん・・・この風景を美しく、いい絵が描けるように試行錯誤する・・・その頭の回転が何よりも楽しくって・・・』

 

私も女優の仕事をやって、今なら六海の気持ちが、すごく理解できる。

 

「・・・うん。いい画が取れるように、試行錯誤する・・・今はそれが何より楽しいんだ」

 

ははは・・・私今、六海と同じこと言ってる。案外似た者同士なのかな、私と六海は。

 

「そんなことしてて大丈夫なのかよ?お前たちは勉強に集中しなきゃ、進学すら怪しいんだぞ?」

 

まぁ、フータロー君の言いたいことはわかってるつもりだよ。私はやりたいことをやってるからいいんだけどさ・・・フータロー君は?

 

「フータロー君は、何のために勉強してるの?」

 

何かやりたいことでもあるのかな?でもそれは、勉強と関係があるのかな?

 

「・・・それは・・・」

 

フータロー君が口を開いた時・・・

 

「一花ちゃん!」

 

「!しま・・・っ!」

 

や、やば・・・社長に見つかった⁉

 

「見つけた!」

 

そう言って社長は・・・私たちがいる路地裏とは別の方向へ・・・て、え?

 

「こんなところで何やってるの⁉」

 

「えっ・・・おじさん、誰・・・?」

 

「言い訳は後で聞くから!早く来て!」

 

「えっ・・・ちょっと待って・・・え・・・?」

 

社長が引っ張り出してきた子は・・・え⁉

 

「六海⁉」

 

「何っ⁉」

 

「もしかして、私と間違えて・・・⁉」

 

あの顔は見間違いようがない・・・確かに六海だ!そういえば・・・社長に私たちが六つ子だっていうの忘れてたかも・・・。しかも六海は今メガネを外してるから普通の人からは見わけがつけられないんじゃあ・・・!

 

「待って・・・その子は・・・違うんです・・・」

 

「!三玖!」

 

「ふ、フータロー・・・一花・・・」

 

社長と六海の次に出てきたのは・・・少し痛そうな顔をしながら走ってきた三玖だった。なんか若干髪型を変えてるけど、今はそれどころじゃない!

 

「いったい何があった?なんであいつがあのおっさんに・・・」

 

「わかんない・・・私が目を離したすきに、あのおじさんが来て・・・」

 

「私と間違えて連れていったと・・・?」

 

「うん・・・」

 

なんてことだ・・・メガネを外して参加っていう提案が裏目に出ちゃうとは・・・。

 

「とにかくあいつらを追うぞ!三玖、お前は足怪我してんだから無理すんな」

 

「そういうわけにはいかない・・・私は・・・六海のお姉ちゃんだから・・・。そう思えば・・・こんな痛みなんて・・・」

 

三玖・・・そんなにたくましく・・・

 

「言っても聞かねぇか・・・仕方ねぇ。見失う前にさっさと追いかけるぞ!」

 

「うん」

 

「う、うん!」

 

三玖の足の方も心配だけど、今は六海!きっと今のあの子は心細い思いをしてるはず・・・。私たちはすぐに社長を追いかけて人ごみの中を走っていく。

 

「いた、あそこだ!今なら追いつける!」

 

とにかく私は社長に気付いてもらうように電話を入れてるけど・・・電波が悪いせいか繋がらない・・・!

 

「電話は?」

 

「ダメ。繋がらない」

 

「お前、なんで仕事抜け出してきたんだよ?」

 

フータロー君は三玖に聞こえないようにそう尋ねてきた。そんなの決まってる。フータロー君に仕事の秘密にくぎをさすこと、妹たちに会場を離れることを伝えるためだ。でも・・・

 

「・・・言いたくない!どうやらフータロー君とは友達じゃないらしいし!」

 

「そうは言ったが・・・」

 

これでも傷ついてるんだよ?乙女の心を傷つけた罰だよ。

 

「あ・・・あの・・・おじさん・・・六海は・・・一花ちゃんじゃなくて・・・」

 

て、こんなことしてる間にも六海が連れていかれちゃう!早く何とかしないと・・・。そう思った時・・・少し立ち止まってたフータロー君が急に走り出して・・・社長から六海の手を引いてこっちに引き戻した。

 

「ふ、風太郎君・・・!」

 

「き、君はさっきの・・・!なんだ君は!君はこの子のなんなんだ⁉」

 

「・・・俺は・・・」

 

!フータロー君が・・・私をどう思ってるか・・・

 

「俺は・・・こいつの・・・こいつらの・・・

 

パートナーだ。返してもらいたい」

 

!!パートナー・・・それが・・・フータロー君が導き出した答え・・・。

 

「何をわけのわからないことを・・・!」

 

「よく見てくれ!こいつは一花じゃない!」

 

「あ、あの・・・」

 

「その顔は見間違いようがない!さあ早く・・・

 

うちの大切な若手女優から手を放しなさい!!」

 

しゃ、社長・・・どうしてこのタイミングでそれを言うんですかぁ・・・。

 

「「「「・・・えっ⁉」」」」

 

ほらぁ・・・フータロー君も三玖も六海も驚いてるじゃないですか・・・って、社長も驚いてる・・・。

 

「えええ⁉一花ちゃんが3人⁉」

 

「・・・若手女優って・・・カメラで撮る仕事って・・・そっち!!?」

 

ば、バレた・・・フータロー君だけじゃなくて・・・よりにもよって三玖と六海に・・・!

 

「ど、どどど、ど、どういうことこれ⁉」

 

「え、ええっと・・・一花は・・・私たちの長女で・・・あなたが連れだしたのが・・・末っ子で・・・私が・・・三女です・・・」

 

「つ・・・つまり・・・六つ子の姉妹なんです・・・私たち・・・」

 

今でも驚きを隠しきれてない社長に戸惑いながらも説明する三玖。私がそれを補助をつける。

 

「い、一花が・・・」

 

「「一花ちゃんが・・・」」

 

「「若手女優って・・・」」

 

「六つ子って・・・」

 

「「「マジ⁉」」」

 

案外フータロー君と六海と社長って意気があったりする?

 

「・・・そ、そうだ!こうしてる場合じゃない!行こう、一花ちゃん」

 

本当の目的を思い出した社長は私の手をつかんで花火大会会場から離れようとする。

 

「お、おい待てって!」

 

「止めないでくれ。人違いをしてしまったのは、本当にすまなかったね。でも一花ちゃんはこれから、大事なオーディションがあるんだ!」

 

「そんな・・・」

 

社長の言い分に納得がいかない六海は異を唱える。

 

「そんなの関係ないもん!こっちの花火の約束の方が最優先だもん!」

 

「・・・確か、六海ちゃんっていったかな?君の言いたいことはわかるよ。でもこれは、一花ちゃんの意志なんだ。尊重してくれるね?」

 

「・・・そんなの知らないもん・・・そんな急な話・・・ないもん・・・聞いて・・・うぐ・・・ないもん・・・ひっく・・・」ウルウル・・・

 

「六海・・・」

 

今にも泣き出しそうな表情に三玖が優しく抱きしめる。ダメだな・・・私・・・大切な妹を泣かせちゃうなんて・・・長女失格だよ・・・。

 

「おい、一花!お前はそれでいいのかよ!妹まで泣かせておいて!」

 

よくないに決まってる。私だってみんなと一緒に花火を見たかったよ。でも・・・これは私が選んだ道なんだ。後戻りはできない。だから・・・

 

「みんなによろしくね」

 

私は自分の本心を隠す。みんなに悟られないように、作り笑いを浮かべて。

 

「一花ちゃん急ごう。会場は近い。車でなら間に合う」

 

私はみんなをこの場において、社長と一緒に花火大会会場を後にした。ごめんね・・・みんな・・・本当にごめん・・・必ず謝りにいくから・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

会場に出た後、私は道路沿いの道のりで車を取りに向かっている社長を1人待ってる。もう進むしかない・・・戻ることは許されないんだ。

 

「一花!」

 

「!フータロー君・・・」

 

ついてきたんだ・・・もう来ないと思ってたからびっくりしちゃったよ。

 

「髭のおっさんは?」

 

「車取りに行ってるとこ」

 

「・・・本当に戻るつもりはないんだな」

 

うん。これが私の選んだ道だから。そして・・・私はもう1度君に聞かないといけないことがある。こんなところまで追いかけてきてさ・・・

 

「フータロー君、もう1度聞くね。なんでただの家庭教師の君が、そこまでお節介焼いてくれるの?」

 

「俺とお前たちが、協力関係にあるパートナーだからだ。ただ家庭教師だからというわけじゃない」

 

パートナー・・・そう、パートナーか。それなら私でも納得がいく。なら、協力関係にあるなら・・・ちょっとくらい、話しても問題ないか。私はちゃんと説明するためにパッドを操作して台本のページをフータロー君に見せる。

 

「台本・・・?」

 

「半年前、社長にスカウトされて・・・それからちょくちょく名前のない役をやらせてもらってた。結構大きな代役オーディションがあるって教えてもらったのがついさっき。これが成功したら、いよいよ本格デビューってとこ」

 

「それがお前のやりたいことか・・・」

 

そういうことになるね。あ、そうだ。いいこと思いついちゃった♪

 

「せっかくだから、練習相手になってよ。相手役がフータロー君ね♪」

 

私の出した提案にフータロー君は嫌そうにしながら照れてる。

 

「い、嫌だよ・・・なんで俺が・・・」

 

「協力関係でしょ?」

 

「・・・棒読みしかできないからな」

 

「やったー♪全然オッケー♪」

 

よしよし、これなら少しはオーディションの合格率が上がるかも♪言ってみるもんだね。

 

「じゃあ・・・いくぞ」

 

「・・・うん。お願い」

 

私がこれから受けるオーディションの映画は、よくある学園もの。出すお題はそのクライマックスの感動シーン・・・仕事と同じ要領で・・・。

 

「そ、卒業おめでとう」

 

「先生・・・今までありがとう。あの教室で先生に出会って・・・初めて私は・・・」

 

「・・・っ」

 

「先生・・・あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」

 

・・・ふぅ・・・こんなものかな?・・・て、あれ?なんだかフータロー君、感激してる?

 

「あれ?もしかして・・・私の演技力にジーンと来ちゃった?」

 

「あなたが先生でよかったなんて・・・お前の口から聞けるとは!」

 

「そっちか!」

 

なんだかショック受けちゃうなー。私の演技で感動しないなんてー。私が少しふくれっ面になっていると、社長の車が到着した。

 

「あ、社長の車だ。じゃあ、行くね。とりあえず役、勝ち取ってくるよ♪」

 

私はフータロー君にそう言って、そのまま社長の車に乗ろうとした時・・・

 

「おい、待て」

 

突然フータロー君に止められて・・・

 

パンッ!

 

え・・・?ふ、フータロー君が・・・私の頬を触って・・・

 

ふに・・・

 

「ほぇ・・・?」

 

今度は私の頬を軽くつねってきた・・・え、本当に何?

 

「その作り笑いをやめろ」

 

・・・・・・えっ?

 

「あ・・・あははは・・・え?」

 

「お前はいつだってそうだ。学校で四葉の授業の提案を断った時も・・・路地裏にいた時も・・・そのまま行こうとした時も・・・大事なところで笑って本心を隠す・・・正直、ムカッとくるぜ」

 

そ、そんな細かいところまで見抜くなんて・・・

 

「お前たちをパートナーって言ったよな?なぜ本心を隠す?」

 

「えーっと、何のことやら・・・」

 

「なら、俺が六海の件で悩んでいた時に話したこと・・・そしてあの時の笑顔・・・あれは作り笑いか?違うだろ」

 

「そ、それは・・・」

 

あの件は違う・・・本当にフータロー君と六海が仲良くなってほしいから・・・

 

「・・・あくまで本心で話さないなら、こっちの本心を一方的に話すぜ」

 

フータロー君の・・・本心?

 

「俺の家には借金がある」

 

「!」

 

「その借金を返すために家庭教師をやってる。だが、お前たち6人には手を焼かされっぱなしだ。俺は確かにお前たちの家に3回も行った。だが勉強したのはその3回目の1回だけ、しかも集まったのは3人だけという体たらく。おかげで結局、90000円という給与を中途半端な結果でもらっちまった。せめてもらった分の義理は果たしたい・・・これくらいじゃ足りないくらいだが・・・これが俺の本心だ。以上」

 

フータロー君・・・そこまでのことを考えて・・・

 

「お前はどうなんだ?余裕あるふりして・・・なんであの時、震えてたんだよ?」

 

「・・・っ!」

 

「俺の本心は話した。今度はお前の本心を話せ」

 

私の・・・本心・・・

 

「・・・この仕事を始めて・・・やっと、長女として胸を張れると思ったの。一人前になるまでは、あの子たちには言わないって決めてたから・・・急にオーディションの話が来たこと、言えなくて・・・花火の約束あるのに、黙ってきちゃった。でも結果として・・・六海を泣かせちゃった・・・これでオーディション落ちたら・・・みんなにあわす顔がないよ・・・」

 

私は・・・六海のあの泣き顔が忘れられない・・・ずっと後悔してる・・・私、最悪だよ・・・。

 

「・・・もう花火大会終わっちゃうね・・・」

 

せっかく楽しみにしてたのに・・・こんな結果になっちゃうなんてね・・・。

 

「それにしても、君が私の細かな違いに気が付くなんて思わなかったよ。お姉さん、びっくりだ」

 

「俺が、そんな敏感な男に見えるか?」

 

「自覚はあるんだ」

 

それはそれでお姉さん驚きだ。

 

「・・・お前の些細な違いなんて気づくはずもない。ただ・・・あいつらとは違う笑顔だと思っただけだ」

 

「!」

 

それで、私の作り笑いを見抜くなんて・・・これまたびっくりだ。

 

「まいったなぁ・・・フータロー君1人騙せないなんて・・・自信なくなってきたよ」

 

「演技の才能ないんじゃね?」

 

「わお!ド直球だね!」

 

そんなド直球でそんなこと言うとは思わなかったよ。

 

「言っておくが、その方が俺にとっては好都合だ!寄り道せずに勉強に専念してくれるからな!」

 

むっ!今フータロー君聞き捨てならないこと言った!

 

「寄り道なんかじゃない!これが私の目指してる道だよ!」

 

誰が何と言おうとも、私はこの道を進む。たとえ妹たちに反対されても。これだけは絶対に曲げたくない!

 

プップー!

 

「一花ちゃん何やってんの!早く乗って!」

 

「は、はーい!」

 

社長を待たせすぎちゃったかな。早くいかなくちゃ・・・

 

「・・・まぁ、あいつらに謝る時くらい、付き合ってやるよ。パートナーだからな」

 

「!」

 

フータロー君・・・ありがとう・・・。少し、気持ちが楽になったよ。私、この役を絶対に勝ち取って見せる。私はすぐに車に乗り、オーディション会場へと急いでいく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

オーディション会場にたどり着いた私は急いで更衣室に向かってレッスン着を着用して、オーディションのやっている部屋へと急いで駆け付ける。お願い・・・間に合って・・・!

 

「遅れてすみません!!中野一花です!」

 

私が部屋に入った瞬間、面接の担当者さんはどうするべきか話し合っている。その際に私も怒られてしまった。何でもさっき最後の子の演技が終わったところでオーディションが終わりかけてたらしく、そこで私が駆け付けてきたから当初の予定と狂ってしまったらしい。でも、事前に遅れることを伝えたこと、社長の機転と私のやる気に免じて特別にオーディション参加を認めてくれた。よかった・・・何とかなった・・・。

 

「じゃあ、準備はよろしいですか?」

 

「よろしくお願いします」

 

私の方はいつでも準備万端。後は自分を信じるだけ・・・。撮影の際は緊張はするけど・・・今は不思議と緊張はしなかった。今、自信に満ち溢れてる。

 

「卒業おめでとう」

 

先生・・・今までありがとう。あの教室で先生に出会って・・・初めて私は・・・」

 

私、今うまく笑えてるかな・・・?こんな時・・・みんなならどうやって笑うんだろう・・・?

 

四葉なら・・・三玖なら・・・六海なら・・・五月なら・・・二乃なら・・・

 

みんな、どんな風に笑うのかというのが・・・頭に浮かび上がる。そして・・・私たちの先生となっているフータロー君なら・・・。そう考えると私は・・・

 

「先生・・・あなたが先生でよかった・・・あなたの生徒でよかった!」

 

今、思いっきり笑えてるような気がする。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『第14回秋の花火大会は終了しました。ご来場いただき誠にありがとうございました』

 

無事オーディションが終わったと同時に、花火大会が終わっちゃった。社長と一緒に会場を出るとそこにはフータロー君がいた。待っててくれてたんだ・・・て、え?

 

「・・・完全に目を開けたまま寝てる・・・怖・・・」

 

目を開けたまま寝るって・・・ある意味すごいけどね・・・

 

「・・・は!え?何?寝てないけど?目を閉じてただけだけど?」

 

「どこから指摘したらいいのか・・・」

 

ていうか、自分じゃ気付いてないんだね・・・。

 

「オーディションは終わったのか?」

 

「うん。おかげさまで」

 

「で、結果はどうだったんだ?」

 

「うーん、どうだろうね・・・」

 

今回のオーディションの結果は後日連絡で発表されるからわからない。こればっかりはあっちが決めることだしね。

 

「どうも何も最高の演技だった。私は問題なく受かったとみているね」

 

「そ、そうか・・・」

 

うーん、まぁ、あれは演技というより、自然体を出したって感じだけどね。

 

「いやぁ・・・一花ちゃんの前でこういってはなんだけど、一花ちゃんがあんな表情を出せるなんて思わなかったよ」

 

社長がそうまでいうとは・・・結構自信がわいてきたよ。

 

「それを最大限まで引き出したのは、おそらく君だ」

 

「そう、なのか・・・?」

 

うん、それは間違いない。フータロー君のおかげだよ。

 

「私も、個人的に君に興味が湧いてきたよ♪」ちゅっ・・・♡

 

「えっ・・・」ぞわぁ・・・

 

ありゃりゃ・・・フータロー君、社長に目をつけられたね。こりゃ大変だ。

 

「と・・・とにかく用事が終わったなら一花を借りていくぞ!」

 

「へ?」

 

「ま、待ちたまえ!どこへ行くんだね⁉」

 

フータロー君は社長の制止を気に留めず私を連れだしてどこかへ向かっていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「フータロー君、どこへ向かってるの?」

 

どこへ向かっているのかわからない私はフータロー君に尋ねてみた。

 

「近くの公園だ。あいつらが待ってる」

 

あいつらって・・・言うまでもなく妹たち・・・だよね・・・。

 

「・・・みんな怒ってるよね・・・花火大会見られなかったこと・・・」

 

花火大会は終わってしまった・・・結局みんなで揃うことはなかった・・・。いくらオーディションが受かっても、きっとみんなは・・・

 

「そうだな。だが・・・花火を諦めるにはまだ早いんじゃないか?」

 

「え・・・?」

 

私が公園を見てみるとそこには・・・花火セットを使って花火を楽しんでいる妹たちの姿があった。

 

「あ!一花に上杉さん!おかえりなさーい!」

 

四葉が私たちに気付いたと同時にみんなが私たちに顔を見合わせる。

 

「打ち上げ花火と比べれば、ずいぶん見劣りするがな」

 

「上杉さん準備万端です!我慢できずに先におっ始めちゃいましたー!」

 

みんな・・・花火大会が終わっても・・・私を待っててくれて・・・。

 

「一花ちゃーん!!」

 

「わっ!」

 

六海は私を見るなりうれしそうな顔しながら抱きしめてきた。

 

「一花ちゃん、一花ちゃん、一花ちゃんだー!わーい、わーい!」

 

「六海・・・苦しいよ・・・」

 

六海は私を抱きしめながらうれし気にぴょんぴょん飛び跳ねてる。

 

「風太郎君、ありがとう!一花ちゃんを連れてきてくれて!」

 

「礼には及ばん。四葉も、お前が花火を買ってたおかげだ。助かったよ。それに・・・らいはの面倒も」

 

らいはちゃんは遊び疲れたのは近くのベンチでぐっすりと眠ってる。

 

「あ、いえ。どちらかというと、私が面倒みられてたような・・・にしし・・・」

 

「君、五月を置いてどっか行っちゃったらしいじゃない。この子、半べそだったわよ?」

 

あ・・・ああー、私がフータロー君を路地裏に連れていった時のことか・・・なんか罪悪感が・・・。

 

「え!二乃ちゃん、それ本当⁉」

 

「に、二乃!そのことは内緒だって・・・」

 

「わ、悪い・・・」

 

「あんたに一言言わなきゃ気が済まないわ!」

 

そう言って二乃はフータロー君にづかづかと近づいていって・・・

 

「お!つ!か!れ!」

 

「・・・紛らわしい・・・」

 

一応は労いの言葉ってことでいいのかな?て、そんなことより・・・

 

「五月・・・」

 

「さ、一花も花火しましょうよ。三玖、そこにある花火、取ってください」

 

「うん・・・」

 

三玖は五月に言われて近くにある花火を取ってかなり遠くから手渡していく。

 

「はい・・・」

 

「遠くありません?」

 

「はい、四葉ちゃんの花火」

 

「ありがとう!」

 

「みんな集まったし、本格的に始めましょっか」

 

みんなそれぞれ花火を持ち始めて、花火を再開しようとする。でもその前に・・・みんなに謝らないと・・・。

 

「みんな・・・ごめん!私の勝手で、こんなことになっちゃって・・・本当にごめんね・・・」

 

私はみんなに頭を下げて誠心誠意に謝る。

 

「そんなに謝らなくても・・・」

 

「まぁ・・・一花も反省してるんだし・・・」

 

「全くよ!何で連絡入れなかったのよ?今回の原因の一端はあんたにあるわ」

 

返す言葉もないよ・・・二乃に怒られて当然だよ・・・。

 

「・・・後、目的地を伝え忘れたアタシも悪い」

 

え・・・二乃・・・?

 

「私は、自分の方向音痴に嫌気がさしました」

 

五月ちゃん・・・

 

「私も・・・六海から目を離したばっかりに・・・ごめん・・・」

 

三玖・・・

 

「六海も・・・わがまま言って・・・ごめんなさい・・・」

 

六海・・・

 

「よくわかりませんが・・・私も悪かったということで・・・屋台ばっかり見てしまったので・・・」

 

四葉・・・みんな・・・

 

「はい、あんたの分」

 

私はみんなのぬくもりを感じ取りながら、二乃から渡された花火を受け取る。

 

「ねぇねぇ、ママがよく言ってたこと、覚えてる?」

 

「忘れるわけないじゃないですか。誰かの失敗は6人で乗り越えること。誰かの幸せは6人で分かち合うこと」

 

「喜びも」

 

「悲しみも」

 

「怒りも」

 

「慈しみも」

 

「六海たちで・・・」

 

「全員で六等分ですから!」

 

私たちは気持ちを分かち合いながら一斉に花火に火をつける。その時についた花火の火花は、本当にきれいだった。私たちは今の時間を忘れて、めいいっぱい花火を楽しんだ。今日あった散々な出来事を、今は忘れて、今という瞬間を精いっぱいに。

 

「本日のメイン、打ち上げ花火やるよー!」

 

「待ってましたー!」

 

六海が取り出したのは私たちでもできる小さな打ち上げ花火だった。そして六海は私にライターを渡してきた。

 

「1、の合図で一花ちゃん、点火よろしくー!」

 

「ふふ、はいはい」

 

私は六海からライターを受け取る。

 

「カウントダウンいくよー!6!」

 

「5!」

 

「4!」

 

「3!」

 

「2!」

 

「1!」

 

1の合図で私は打ち上げ花火に火をつける。そして・・・

 

「「「「「「0!」」」」」」

 

パーンッ

 

0の瞬間で花火は打ちあがり、小さな火花が夜空を舞う。今年の花火は、今までの中で1番しょぼくて、1番小さく・・・1番楽しくて・・・1番思い出に残る美しさだった。

 

「残り6本」

 

「じゃあ、好きなのを選びましょう」

 

「「「「「「せーの!」」」」」」

 

みんな各々で好きな花火を手に取っていく。

 

「あ、やったー!」

 

「ふふ」

 

「これです!」

 

「へへ、ねずみ花火ー!」

 

みんな好きな花火が取れていく中、私が手に取った花火は三玖と被ってる。

 

「あ・・・」

 

「あ、珍しいね、同じの選ぶなんて」

 

今日はみんなに迷惑をかけちゃったし・・・三玖の好きなものを尊重したいし、私は残った花火をやるか。

 

「私はこっちでいいよ。それは譲れないんでしょ?」

 

「!」

 

私の心情を知ってか三玖は少し目を見開かせた後、線香花火に火をつける。

 

「三玖ー!線香花火より、こっちの派手な方が面白いよー!」

 

「私はこれでいい」

 

「三玖ちゃんって線香花火好きだったんだー」

 

「うん・・・好き・・・」

 

ふふ、あっちはあっちで楽しそうだな。さて、と。じゃあ私はそろそろお礼を言いに行きますか。今回の貢献者である、フータロー君に。

 

「まだお礼言ってなかったね。応援してもらった分、君に協力しなきゃ。パートナーだもんね。私は一筋縄じゃいかないから、覚悟しててよね♪」

 

・・・て、さっきからフータロー君無反応だな・・・いったいどうした・・・て・・・

 

「・・・zzz・・・」

 

ま、また目を開いて寝てる・・・。もう・・・しょうがないなぁ・・・。

 

「・・・頑張ったね。ありがとう」

 

私はベンチに座って眠っているフータロー君の瞼を閉じさせて、膝枕をさせてあげる。

 

「今日は・・・おやすみ」

 

07「全員で六等分」

 

つづく




六つ子豆知識

『六つ子で1番モテるのは?』

三玖「6人の中で1番モテるのは一花」

六海「六海、前に男子生徒に告白されてると見たー!」

四葉「クールビューティーな感じがいいのかなー?」

一花「そんなことないよ!四葉だってモテると思うよー?私が思うに四葉のモテ度は姉妹の中で五本の指に入ると思うね!」

四葉「やったーーー!!」

六つ子豆知識、今話分終わり

次回、五月視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

積み上げたもの

「来週から中間試験が始まります。念のために言っておきますが、今回も30点未満は赤点とします。各自、復習を怠らないように」

 

ついに来ました・・・中間試験。この学校に転校して初めての試験・・・。前に行った転校時の試験の結果も悪かったのにもなお私たち6人を入学させてくれたんです、赤点を取るわけにもいきません。ホームルームが終わって私、中野五月は放課後の時間を使い、今回の試験の自習を行います。

 

「五月!」

 

私が自習していると、不本意ながら同じクラスにいる上杉君が話しかけてきました。

 

「・・・何ですか?」

 

「いやー、休み時間なのに予習してるなんて・・・えらい!!」

 

いきなり話しかけてきたと思ったらいったい何なんですか⁉

 

「家でも自習してると聞くぞ?同じクラスだからわかる!お前は六つ子の姉妹の中でも真面目だ!」

 

「そ・・・そうでしょうか・・・///」

 

「ああ!」

 

普段あんまりほめなれてないのでそんな風に言われると・・・照れてしまいます・・・。褒められるというのは例え上杉君であってもうれしいものですね。

 

「ただ、バカなだけなんだ!!」

 

なっ!1番傷つく言葉を言いましたよこの男!なんなんですか!人をほめておいてそれとは!

 

「だから意地張ってないで、勉強会に参加してみろよ。きっと、お前でも成績アップできる」

 

狙いはやはりそれでしたか。確かに、今の現状では1人で復習するより、多人数で集まり、勉強を行った方が効率がいいです。ですが・・・

 

「・・・そうですね。私1人では限界があると感じていました」

 

私は今行っている英語の問題をもって、教えを乞うことにしました・・・担任の先生に。

 

「この問題教えてもらっていいですか?」

 

「わかりました。後で職員室まで来なさい」

 

「ありがとうございます」

 

上杉君・・・私はあの日のことは忘れませんよ。あなたからは・・・絶対に勉強を教わりません!私は上杉君にあっかんべーをした後に、少しお手洗いに向かいます。

 

「あ、五月ちゃん、奇遇だねー」

 

私がお手洗いに向かう途中、私のたった1人の妹、六海と出会いました。

 

「六海。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

 

「うん。普段は食堂くらいだからねー、学校で会うのは」

 

「そうだ六海、これから先生に授業のわからないところを教えてもらうんですが、一緒にどうですか?」

 

「あ、ごめーん!放課後は風太郎君の勉強会に参加するから無理ー!」

 

えっ・・・六海が・・・上杉君の授業に・・・?

 

「ま、待ってください。六海は上杉君のことを・・・」

 

「う~ん、どうなんだろう?最初は嫌いだったけど、今はよくわかんないや」

 

「そうですか・・・」

 

「あ、でも、価値観が変わったのは確かだね」

 

六海の・・・上杉君に対する価値観・・・?

 

「風太郎君は六海がいくら拒絶しても絶対に見捨てようとはしないし、六海の秘密を拒絶しないでくれたんだ」

 

「六海の秘密?」

 

「あ、それは内緒!いくら五月ちゃんでも教えられないから!」

 

六海の秘密というのが気になりますが・・・あの必死さからして絶対に教えてはくれないでしょう。ただその秘密がばれるのは性格からして時間の問題でしょうが・・・。上杉君はいったいどんな秘密を知ったのでしょう・・・。

 

「それに・・・花火大会の時、一花ちゃんをちゃんと連れてきてもらったし・・・」

 

それは確かに評価に値します。しかし一花が若手女優とは・・・一緒に過ごしていながら知らなかったので驚きました。

 

「だから中間試験でいい点とって、せめてそのお礼がしたいんだ」

 

「お礼、ですか・・・」

 

「あ!もうこんな時間!風太郎君待たせちゃいけないから!じゃあね!」

 

六海は慌てて図書室へ向かう方角へと走っていきました。六海がやる気を出してくれたことは正直姉としてうれしい限りです。うれしいのですが・・・教え人が上杉君と考えると、素直に喜べない自分がいます。はぁ・・・とにかく早く用を足してわからない点を先生に教えていただなくては。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『図書室の勉強会、その光景』

 

五月に勉強会の誘いを断られた風太郎は次は二乃にも誘ってみた。だが結果は言うまでもなく拒否。さらに追い打ちをかけるかのように、風太郎の誤解を招く言い方によって、二乃の怒りを買い、ビンタを食らってしまい、現在に至る。

 

「あっははは!派手にやられたねー」

 

「変態さん発言するからだよー」

 

「大丈夫?」

 

勉強会に参加するようになった一花はその様子に笑い、六海は引き顔、三玖は普通に心配してくれている。

 

「上杉さん!問題です!今日の私はいつもとどこが違うでしょうか!」

 

ここで四葉が突然クイズを出してきたが・・・

 

「お前らもうすぐ何があるか知ってるな?」

 

「無視!!」

 

当然ながら風太郎に相手されていない。

 

「あ、そっか。林間学校だ」

 

「どんな絵が描けるのかなー?ワクワクするよ!」

 

「うん、楽しみ」

 

「ヒントは首から上でーす!」

 

一花たちが林間学校の話でわくわくしてる中、四葉はめげずにクイズの続きを風太郎に説いている。

 

「試験は眼中にないってか?頼もしいな」

 

「あはは、わかってるってー」

 

「本当かよ・・・」

 

「上杉さんには難しすぎたかなー?」

 

試験より林間学校を優先する一花たちに風太郎は呆れている。

 

「とにかくだ、このままではとてもじゃないが、試験は乗り切れない。その先の林間学校だって夢のまた夢だ」

 

「じゃーん!正解は"リボンの柄がいつもと違う"でしたー!今チェックがトレンドだと教えてもらいましたー!」

 

正解を言い放った四葉に風太郎は四葉のウサギのようなリボンを掴み上げ、四葉の答案用紙を見せつける。

 

「お前の答案用紙もチェックが流行中だ。よかったな」

 

「わ~!最先端~!」

 

「「あはははは!」」

 

どこまでも冷たい反応の風太郎だが、風太郎と四葉のやり取りに思わず笑いだす一花と六海。

 

「一花、六海。笑ってる場合じゃないぞ。四葉はやる気があるだけましな方だ」

 

「えっへん!」

 

「中間試験は国数英理歴地の六科目!これから一週間徹底的に対策していくぞ!」

 

「「ええ~~!!」」

 

風太郎の言葉に一花と六海は嫌そうな声を上げる。

 

「当然だ!だから三玖も歴史以外を・・・」

 

そう言いかけた風太郎だが三玖が取り組んでいる科目を見て驚愕する。

 

「何っ⁉三玖が自ら苦手な英語を勉強している・・・⁉」

 

そう、三玖が今取り組んでいるのは苦手としている英語だ。

 

「み、三玖ちゃん・・・?熱でもあるの・・・?勉強はいいから、家で休んで・・・?」

 

六海もこの光景を見て驚き、三玖を心配する。

 

「平気・・・少し頑張ろうと思っただけ・・・」

 

「三玖・・・」

 

何がどうなって三玖がやる気を出したのか知らないが風太郎にとっては非常に良いことなのであまり追求しないようにする。

 

「よーし!みんな頑張ろうーーー!!」

 

「「おーー!!」」

 

「お静かに!」

 

「「「はい」」」

 

三玖のやる気に火が付いた一花、四葉、六海は勉強を再開した。

 

♡♡♡♡♡♡

 

け、結局先生の教えがあっても、問題が解けませんでした。おかしい・・・ちゃんと予習も復習もしているのに、なぜこうも問題がわからないのでしょう。やはり私のやり方では限界があるのでしょうか?ですが、だからと言って上杉君に頼るわけにはいきません!そうです・・・彼にだけは・・・。そう思った時、私のスマホから電話がかかってきました。えっと、発信者は・・・お父さん?いったい何の用でしょう?とにかく出ないことには始まりませんね。

 

「もしもし。そちらからかけてくるなんて、珍しいですね」

 

≪やあ、五月君。用があるのは上杉君の方なんだが、あいにく彼の連絡先を持っていないのでね≫

 

え?上杉君に用・・・ですか?

 

「上杉君にですか?」

 

≪今彼は近くにいるかね?≫

 

「い、いえ・・・これから会いに行く予定です」

 

実際には彼に会う予定はないのですが・・・お父さんのことですからきっと・・・

 

≪そうか。では上杉君に会ったら、電話を取り次ぐよう伝えておいてほしい≫

 

「?わかりました・・・」

 

≪手間を取らせてすまないね≫

 

お父さんは必要最低限のことだけを伝えて電話を切ってしまいました。上杉君に用とは、いったい何事なのでしょう?とにかく考えるのは後回しですね。今は上杉君を探さねば・・・

 

「根詰めすぎだよ、風太郎君。中間試験で退学になるわけじゃないんだしさ」

 

と、思っていたら探し人の上杉君が学校の門の前にいますね。六海たちもいるということは、勉強会はおわったんですか。

 

「そーそ、私たちも頑張るからさ、じっくり付き合ってよ」

 

!一花⁉一花まで勉強会に参加しているとは驚きました・・・。

 

「ま、ご褒美くれるんだったらもっと頑張れるんだけどねー」

 

「あ!私、駅前のフルーツパフェがいいです!」

 

「私は抹茶パフェ」

 

「六海はチョコレートパフェチョコ増し増しで!」

 

「なんか言ってたら食べたくなってきた!」

 

くぅー・・・

 

ああ、お腹の音が鳴ってしまいました。私も聞いていたらパフェが食べたくなってきました・・・。甘くておいしいパフェを特盛で味わいたいです・・・。

 

「みんな誘って今から行こうか」

 

「一刻も早く帰りたかったんじゃなかったのか?」

 

三玖、非常に魅力的な提案なのですが・・・私はお父さんのお使いがあるために行くことができません・・・。仕方ありません・・・帰ったら六海が買い溜めして本人が食べ飽きてしまったカプセルチョコで手を打ちましょう・・・泣く泣くです・・・。

 

「上杉さーん!早くしないと置いてっちゃいますよー!」

 

えっ⁉四葉、上杉君まで連れていく気ですか⁉私は今誘いを断ろうとしたばかりですのに!

 

「いや、行かないけど?」

 

・・・え?

 

「「「えええええ!!」」」

 

上杉君が行かない発言で一花と四葉と六海が声を出して驚いています。三玖も口には出してないですが驚いてます。そりゃそうですよ、この流れでよく断れたものです。

 

「上杉さん、行かないんですかー⁉」

 

「なんでー⁉パフェおいしいのにー!」

 

「そんなもんより勉強だ。そんなもん食いたいならお前らだけで行け」

 

「はー、こんな時でも勉強って・・・」

 

・・・言うだろうなとは思ってはいましたが、本当に言ってしまうので呆れました。

 

「はー、付き合い悪いなー。わかったよ。私たちでいくから」

 

「フータローのバカ。もう知らない」

 

「いいもんいいもん、六海たちだけで楽しんでくるしー」

 

「後でほしいって言ってもあげませんからねー!」

 

一花たちはぶつぶつ文句を言いながら学校を出ていきましたね。

 

「ふぅー、やれやれ・・・。さて、帰って勉強しないと」

 

上杉君は少し頭をかいた後単語帳を手に取って勉強しながら帰っていきました・・・て!本当に帰っていきましたよ!信じられません!と、とにかくお父さんの用事もあるので急いで追いかけなければ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ま、待ちなさーーい!!」

 

私は急いで走って上杉君を追いかけてようやく追いつきました・・・。本当に疲れますよ・・・。

 

「あ、あなた・・・あの状況からよく1人で帰れましたね!」

 

「え?」

 

「あそこは一緒に行くところでしょ⁉」

 

「だって勉強しなきゃと思って・・・」

 

それはさっき遠くで聞きましたよ!

 

「・・・なんだよ。それを言いに追いかけてきたのかよ?」

 

「違います!あなたに電話を取り次げとのことです」

 

「俺に・・・?」

 

私はスマホでお父さんの連絡先を探して電話を繋げます・・・あ、出ました。

 

「五月です。今、変わります」

 

私はお父さんにそう言って、上杉君に電話を渡します。

 

「・・・もしもし?・・・!!お、お父さん!!初めまして!!お世話になっております!!」

 

「あなたにお父さんと呼ぶ筋合いはありません」

 

まったく、いくらお父さんが雇い主だからってそこまで親しい中じゃないでしょうに。

 

「・・・ええ!まさに今行っている最中です!あー、おいおい五月、その答えは後でだ。みんないい子でこの調子なら問題ありません」

 

「・・・・・・」

 

ずいぶんと取り繕うのに必死ですね。まぁ、上杉君のお家が貧乏で借金を抱えているのは知ってますから、無理もありませんが。・・・て、あれ?なんだか急に上杉君が黙り込み、身体が固まったように見えますが・・・どうしたんでしょう?

 

「か、考え直してください!!卒業まで後1年半あります!尚早では⁉ただでさえ6人なんです!手に負えませんよ!」

 

な、なんですか急に⁉突然そんな大きな声を上げて・・・いったいお父さんと何が・・・?

 

プーッ、プーッ、プーッ

 

あ、スマホの反応からして、電話終わったみたいですね。

 

「・・・っ!くそっ!」

 

「てっ、それ私のスマホですけど!!」

 

上杉君が急に私のスマホを地面に叩きつけようとしたところを私が必死になって止めました。

 

「!・・・ああ・・・悪い・・・」

 

私の声で冷静になった上杉君はスマホを私に返してきました。ほっ・・・叩きつけられなくてよかったです・・・。それにしても・・・上杉君があれほど取り乱すとは・・・。

 

「・・・父から何か言われましたか?」

 

「・・・せ、世間話をしてただけだ」ダラダラダラ

 

「それだけでその汗の量ですか・・・?」

 

今の上杉君は誰が見ても分かるように顔を青ざめ、大量に汗をかいている状況です。

 

「とてもそうは見えませんが・・・」

 

「人のことより自分の心配をしたらどうだ?中間試験の対策はしてるんだろうな?」

 

うっ・・・それを言われると厳しいですが・・・何とかなるでしょう。

 

「問題ありません」

 

「問題ないわけあるか。今日やった小テストの点数、悪かっただろ?」

 

「!!?み、見たのですか⁉」

 

うぅ・・・誰にも見せたくなかったのに・・・上杉君に知られてしまうとは・・・!

 

「ど、どうだ五月?わからない箇所があったら教えてやるぞ?」

 

「な、何ですか!私が信用できないのですか!あなたに教えは乞わないと言ったはずです!」

 

「お、お前は真面目な割に容量が悪い!俺を頼ってくれたら、わかりやすく教えてやる!」

 

全くこの男は・・・人の気にしていることをずけずけと!そんなに私のことが信用できないのですか!

 

「・・・!少しは一花や三玖、妹の六海を見習えよ!あいつらはちゃんと俺を頼ってるんだぞ!」

 

確かに一花たちは上杉君に教えを乞うていますが・・・私はどうしても彼を受け入れられません。だって、私はあの時のことをしっかりと覚えていますから。

 

「・・・あなたは忘れているでしょうが、私は最初にあなたを頼りました。それを拒否したのはあなたです。嫌々相手にされるなんて御免です」

 

「!!だったらお前1人で赤点回避できるっていうのかよ!」

 

「できます!たとえ今度の中間試験に間に合わなくても!」

 

「それじゃダメだ!!今回が赤点なら次はない!!」

 

「え・・・?」

 

中間試験がダメなら・・・次はない・・・?それは一体どういうことなのでしょう・・・?

 

「これも仕事なんだ!わがまま言ってないで受け入れろよ!」

 

・・・っ!さっきから聞いていればなんなんですかこの人は!

 

「わがままを言っているのはあなたでしょう⁉」

 

「お前だって成績上げたいだろ!!だったら、黙って俺の言うことを聞いてればいいんだよ!!!」

 

「!!!」

 

この言葉・・・!"あの人"と同じことを・・・!・・・所詮は上杉君も同じということですか。

 

「・・・あっ・・・いや・・・今のは・・・」

 

「・・・あなたのことは、少しは見直していたんですが・・・私の見込み違いだったようですね。所詮、お金のためですか?」

 

「・・・!!・・・金のために働いて何が悪い・・・何不自由なく暮らしているからそんなこと言えるんだ!俺の苦労も知らないで言いやがって!」

 

「知りたくもないし知る必要性もありません!」

 

「俺だってなぁ、仕事じゃなきゃ、誰がお前みたいなきかん坊の世話を焼くか!」

 

なっ!ついに言い切りましたねこの男!

 

「無理して教えてもらわなくて結構!私はあなたの金儲けの道具じゃありません!!」

 

「そうかよ!!後悔しても知らねぇからな!!」

 

「ええ!たとえ退学になっても・・・」

 

「後で後悔したって・・・」

 

「あなたからは絶っっ対に教わりません!!」

 

「お前にだけは絶っっ対に教えねぇ!!!」

 

私はあの大喧嘩の後、上杉君とは別の道を使って家まで帰宅します。・・・かなりの遠回りでした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの大喧嘩の後家に戻ってもイライラが収まりません。もう上杉君なんて知りません!あの人のお好きにどうぞって気分になっています。

 

・・・みんなはまだ帰ってきていないみたいですね。二乃は友達を遊びに、一花たちはパフェを食べているところなんでしょうね。

 

くうぅぅ~・・・

 

パフェのことを考えてたらお腹がすいてきました。パフェとは遠く及びませんが・・・六海のカプセルチョコを食べると致しましょうか。張り紙にも自由に取っていいよって書いてありましたし。私はひとまず冷蔵庫の近くにあるカプセルチョコが大量に入った段ボールをもって自分の部屋に持っていきます。

 

「ふぅ・・・さて・・・いただきます」

 

私はそう一言言って段ボールから箱を取り出し、中に入ってるカプセルチョコを一口ぱくりと口にしました。ん~・・・このほど良い甘さ加減・・・市販のチョコですが最高です!

 

と、六海はこのチョコの中に入ってあるフィギュアが欲しいんでしたね。あの子がカプセルチョコを買い溜めしてるのは、この魔法少女ナナカフィギュアが目的なんですよね。全部集めるまで食べるつもりだったのでしょうが・・・さすがに飽きが来たようでフィギュアだけをもらってチョコは私たちに食べさせるつもりであの張り紙を書いたのでしょう。

 

さて、出てきたフィギュアは・・・魔法でイタチに変身している男の子ではないですか。名前が出てきませんね・・・。まぁ、とにかく、こうやってフィギュアを集めながら食べるっていうのも面白いですね。こうしているとお母さんと姉妹一緒にナナカを見た時のことを鮮明に思い浮かびますね。

 

・・・だいぶ落ち着いてきました。今にして思えば私も言いすぎてしまいました。上杉君の事情を知っているのは私だけですのに・・・いや、確か六海も家に行っていたから知っていたはずですね。それを差し引いても、落ち着いて考えてみればあれが上杉君の本心だったとは思えません。

 

・・・それに、1番気になっているのは上杉君の言葉・・・。今回が赤点なら次はない、とはいったいどういうことなのでしょう?関係しているのは・・・やはりお父さんですか・・・。お父さんもお忙しい身なのでこんなこと自分から聞く、というのはあまり気が引けますが・・・そうも言ってられません。私は真意を確かめるためにお父さんに電話をかけます。

 

「五月です。聞きたいことがあって電話を入れたのですが・・・」

 

≪五月君かね。私は今仕事で忙しいのでね、手短に頼むよ≫

 

「では、単刀直入に聞きます。彼にいったい何とおっしゃったのですか?」

 

≪おや、上杉君から聞いてないのかね?≫

 

「残念ながら彼からは何も・・・」

 

そうでなければわざわざ忙しい中かけることはありませんし、こんなことも聞きませんよ。それに今は聞けるような状況ではないですし・・・。

 

≪なに、少々彼を試させてもらおうと思ってね、条件を付けさせてもらった≫

 

「・・・どういうことなのでしょうか?」

 

私の疑問にお父さんは包み隠さず答えてくれました。

 

≪今度の中間試験で君たち6人のうち1人でも赤点を取れば、家庭教師を辞めてもらうと、先ほど彼に伝えたんだ≫

 

!!私たちで1人でも赤点を取ればって・・・。上杉君が言っていた次はないとはこのことだったのですね!ですが・・・

 

「い、いくら何でも尚早すぎなのでは⁉私たちは6人なのですよ⁉それに対して家庭教師は彼1人・・・限界がありますよ!」

 

≪この程度の課題もクリアできないのであれば話にならない。君たちを安心して預けることもできない≫

 

この程度って・・・ハードルが高すぎですよ。成績は私たち全員揃って100点という体たらくの点数なのに、赤点回避なんて・・・。しかし、私が言ったところでお父さんが考えを変えるとは思えません。

 

「・・・わかりました。お手数をおかけしてすみません・・・」

 

≪ああ。健闘を祈るよ≫

 

そう言ってお父さんは電話を切ってしまいました。・・・事は私が思っている以上に深刻だったのですね・・・。それなのに私はあれほどのことを・・・。べ、別に私は彼に勉強を教えてほしいわけではありません!ただ・・・そうなってくると二乃はともかく、今上杉君に勉強を教えてもらっている三玖たちはどう考えるのでしょう・・・それに・・・きっとらいはちゃんだって悲しみます・・・。私は・・・どうすればいいのでしょう・・・?深く考えながら私はまた1個カプセルチョコを一口食べます。・・・口に広がっているこの甘いチョコが、心なしかしょっぱく感じてしまいました。中に出てきたフィギュアは・・・悪役である魔女でした。この考えの中で魔女が出てくるのはまるで、私の心を見透かしているようで、腹立たしく感じました

 

♡♡♡♡♡♡

 

何の解決策も浮かばないまま翌日が経ちました。今日は土曜日なので上杉君が家庭教師としてやってきている日です。昨日の今日のことなので私はリビングへは向かわず、部屋で自習をしています。私はなぜにここまで意地になっているのでしょう・・・?上杉君の解雇がかかっているんです。もし上杉君が家庭教師を辞めさせられたとらいはちゃんが知れば悲しむに決まってます。なら仲違いしている場合ではないですのに・・・。

 

・・・謝りたい。ふとそんなことが脳裏によぎりました。事情を知らなかったとはいえ、むきになって不躾なことを言ってしまったのは事実です。私は彼に協力はできませんが・・・一言謝ることならできるはずです。そこまで思い立った私は一言だけでも謝ろうと部屋から出ようとすると・・・

 

「風太郎君!風太郎君のせいで六海は大怪我しました!」

 

・・・えっ⁉六海が大怪我⁉・・・て、よく耳をすませばやたらと元気な声じゃないですか。何事かと思って部屋を少し開けてリビングを覗いてみると・・・

 

「慰謝料ください!」

 

「六海、大丈夫ー?1回分休めば元気になるからね!」

 

「もー、フータロー君、人生ゲームとはいえ相手を怪我させるなんてひどいじゃん」

 

「理不尽すぎる・・・止まったマスが原因だろうが・・・」

 

「慰謝料、どうもありがとー!」

 

「じゃあ、次は私」

 

人生ゲームの話ですか!なんなんですかもう!大怪我と聞いて焦っちゃいましたよ!というより、上杉君も何で人生ゲームをエンジョイしてるんですか!せっかくの私の気遣いの心を返してくださいよ!

 

「・・・てっ!!エンジョイしてる場合かーー!!自分の人生をどうにかしろよ!!」

 

あ、自分の置かれた立場に気付きましたね。

 

「休憩終わり!さあ、勉強の続きを始めるぞ!」

 

「ええ~?今日はもうたくさん勉強したし・・・」

 

「もう頭がパンクしそうです・・・」

 

「無理はよくないよ。だから人生ゲーム持ってきたのにー。ぶー」

 

「それはそうだが・・・」

 

人生ゲームを持ってきたのは六海だったのですね。勉強再開の声で一花たちは不満の声を上げていますね。上杉君の顔色も焦りが見え始めています。

 

「フータロー。なんかいつもより焦ってる。私たち、そんなに危ない?」

 

「いや・・・その・・・実は・・・」

 

上杉君の様子を見て三玖が心配そうな声でそう尋ねてきました。上杉君も真実を伝えるべきかどうか途中で悩んでますね。もし・・・もし私が彼と同じ立場だったらどうするべきなのでしょう・・・?正直に一花たちに話す?いえ、それがかえってプレッシャーになるんじゃないでしょうか・・・?・・・てっ!!何を考えているのですか私は!!これは彼自身の問題、私たちには関係ないはずです!!関係ない・・・はずなのですが・・・。

 

「それなら私から提案があるんだけど・・・」

 

すると一花が何か提案をしようとします。

 

「あー!なんだー、勉強サボって遊んでるじゃない」

 

!に、二乃・・・!

 

「アタシもやる。あんた変わりなさいよ。・・・て、お金少な!」

 

「フータロー。実は・・・何?」

 

「!いや・・・な、なんでもない・・・」

 

上杉君は二乃に事情を悟られぬよう言葉を濁しました。二乃は上杉君にたいして快く思っていません。もしここで二乃に全てを知られれば何をしだすかなんて明白です!

 

「・・・あんたも交ざる?」

 

「!」

 

私のことに気付いた二乃が私に声をかけてきました。上杉君も私に気付いて気まずそうにしています。

 

「五月・・・昨日は・・・」

 

「私はこれから自習があるので、失礼します」

 

私はそう言って自分の部屋に戻っていきます。ああ・・・こんな時にまで意地を張る自分が憎らしいです。こんなこと言うために降りてきたわけじゃないですのに・・・。これじゃあ何の解決にもなっていません・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今は自習に専念して少しでも知識を蓄える。それが今の私にできること。素直に謝ることができないのならこれが1番手っ取り早い方法だと私は思います。これで少しは足手まといにならなくて済みます。・・・ですが、やはりわからない問題が多くてなかなかペンが進みません。この問題は確か参考書に説き方が乗ってあったはず・・・。

 

コンコンッ

 

「五月ちゃーん、お風呂空いたよー。入ってきなよー」

 

部屋の外から六海の声が聞こえてきました。お風呂ですか・・・休憩がてら入ると致しましょうか。私が部屋に出るともうすでにキツネのパジャマを着た六海がバスタオルを持っていました。

 

「はい、バスタオル」

 

「ありがとうございます」

 

「あ、お風呂入る前に聞いてもいい?」

 

「なんですか?」

 

「六海のカプセルチョコどこ行ったか知らない?今日のお夜食にと思ったんだけど、いつの間にか段ボールごとなくなってて・・・」

 

あ・・・あのカプセルチョコですか・・・。

 

「い、いえ・・・知りません・・・」

 

私はなぜか苦し紛れの嘘をつきました。すると六海は怒ったように頬を膨らませています。

 

「・・・嘘だ!五月ちゃん、嘘つくとき目を逸らしてるんだもん!全部食べたでしょ!」

 

「う・・・すみません・・・」

 

「張り紙に自由に取っていいとは書いたけど全部食べていいなんて一個も書いてないよ!五月ちゃんのバカ!」

 

こんなすぐにばれるとは・・・。六海は私をぽかぽかと叩いてきます。地味に痛いです。

 

「もういいもん。今日はソーセージで我慢するし」

 

「本当にすみません・・・フィギュアは全部あげますので許してください・・・」

 

「あげるもなにもあれ全部六海のものだよ!もう・・・」

 

六海は私にたいしてあきれ果ててしまい、そのままリビングに戻っていこうとしてますね。うぅ・・・妹に怒られる日が来るなんて・・・。

 

「あ、そうだ。風太郎君のことだけど・・・」

 

「上杉君?」

 

「風太郎君、今日うちに泊まることになったから、騒がしくしたらごめんね?」

 

六海は悪びれた様子で舌を出して謝ってきました。というか・・・え?上杉君が・・・うちに・・・?

 

「ええええええええ!!!??」

 

私の絶叫はこのマンション中に響きました。ご近所の皆様すみません、騒がしくして!

 

♡♡♡♡♡♡

 

お風呂から上がっても自習する意欲がどうしてもつけられません。まさか上杉君がうちに泊まることになるとは・・・。泊りの提案をしたのは一花だと聞きましたが・・・もしかして一花は今回の件を知ったうえで・・・?いや、おそらくその可能性は薄いでしょう。だとすれば一花の気まぐれでしょうか・・・?

 

「風太郎君、この数式はどうやって解くの?」

 

「ああ、それはな、まず・・・」

 

ドアの奥から上杉君がみんなに勉強を教えている声が聞こえてきました。気になって私はドアを少しだけ開けて外の様子を見ていると、ちゃんと上杉君がみんなに勉強を見ていますね。勉強しているテーブルとは別の席には二乃がいるのが気になるところですが・・・うまくやれているようですね・・・。

 

「上杉さん!討論って英語でなんて言うんですか?」

 

「いい質問ですねぇ。debate。でばてと覚えるんだ!debate、でばてだ!これは確実に試験に出るぞ!」

 

なるほど、四葉の問いをさりげなく二乃にも聞こえるように仕向けていますね。聞いてくれてるかどうかは別ですが。ここまで行けば光明が見えてくるはずですね。後は・・・私の気持ちですか・・・。

 

「教えてほしいこと・・・好きな女子のタイプは?」

 

・・・えっ?

 

「「「「・・・えっ?」」」」

 

三玖の問いかけにみんな反応しています。かくいう私も反応してます。まさか三玖がそんなこと聞くとは思ってもいませんでしたもの、当然ですよ。

 

「それ、今関係ある?」

 

「はいはーい!私は俄然興味ありまーす!」

 

三玖の問いかけに結構乗り気なのは四葉と六海でした。

 

「六海も聞きたい!恋愛マスターとして見過ごせないから!」

 

「・・・妄想マスターの間違いじゃないのか?」

 

「んなっ⁉」

 

「は?」

 

「「妄想・・・?」」

 

「風太郎君の意地悪男!」

 

「ふふ・・・」クスクス

 

上杉君の妄想という六海とは無縁そうな単語に全員首をかしげています。いや、全員ではありませんね。一花だけおかしそうに笑っています。いったい何を言っているのでしょうか・・・?

 

「まぁ、そんなに知りたければ教えてやる。俺の好きな女の子の要素トップ3だ!」

 

てっ、上杉君⁉そんな簡単に教えてもいいものなのでしょうか⁉

 

「ただし!ノート1ページ埋めるごとに発表します!」

 

上杉君の一言でみんなノートに課題の答えや解き方を書き込んでいます。興味を引きそうなもので勉強をやらせる、ですか・・・なんかせこいやり方だと思います・・・。って、別に私は上杉君の好みの女性なんて、これっぽっちも興味もありませんが、念のため・・・。

 

「はい!できましたー!」

 

「では、第3位!じゃらららら・・・じゃん!"いつも元気"!」

 

「わあ!四葉ちゃんと六海が当てはまってる!」

 

「あ、本当だ!偶然だね!」

 

まぁ、確かにいつも元気といえば四葉と六海が当てはまりますね。

 

「はい、できた」

 

「第2位は・・・じゃらららら・・・じゃん!"料理上手"!」

 

料理上手・・・私たち姉妹の中では二乃が当てはまります・・て、ちょっと待ってください。元気で料理上手って・・・まさかとは思いますが・・・。

 

「終わったよー」

 

「六海もできたー!」

 

「よし!第1位は・・・じゃらららら・・・」

 

第1位の発表・・・まさかとは思いますが第1位の答えは・・・

 

「"お兄ちゃん想い"だ!」

 

やっぱりですか!!元気で料理上手、兄想いってまるっきりらいはちゃんのことを指してるじゃないですか!

 

「それあんたの妹じゃん!!」

 

二乃もばっちり聞いていたのかこの答えに思わずツッコミを入れています。

 

「あ・・・」

 

「なんだよ二乃。盗み聞きするくらいだったらお前も一緒に・・・」

 

「き、聞きたくなくても耳に入るわよ!もういいわよ!」

 

二乃はなぜか怒ってそのまま自分の部屋へと戻っていきました。全く、私も時間を無駄にしてしまいました!一刻も早くこの時間の遅れを取り戻さなくては!私は机に戻って自習を再開させます。さて、この問題は・・・確か学校で習ったはずなのですが・・・なんでしたっけ・・・。

 

「四葉ちゃんチェーーック!!」

 

「わーっ!!」

 

「なっ!わっ・・・や、やめろ四葉!!」

 

この問題は・・・

 

「逃げないでくださいー!」

 

「やめろ!近づくな!」

 

「いいじゃないですかー!」

 

う、うるさいです・・・騒々しくて自習に集中できません・・・!

 

「上杉さん!ドキドキしてます!!」

 

「あれだけ走ればな!!」

 

もう我慢できません!一つ注意しなくては!

 

「騒がしいですよ。勉強会とは、もう少し静かなものだと思ってましたが・・・」

 

「あはは、ごめんね?」

 

私のいら立ちを少し感じ取ったのか一花は苦笑して謝ってきました。すぐ近くでは・・・上杉君が気まずそうな顔をしています。できればこのまま昨日のことを謝ることができるのならいいのですが・・・直接顔を合わせると謝りづらいです・・・。

 

「三玖、ヘッドフォンを貸してもらってもいいですか?」

 

「?いいけど・・・なんで?」

 

「1人で集中したいので」

 

私が三玖のヘッドフォンを首につけて部屋に戻ろうとした時でした・・・。

 

「五月!お前のこと信頼してもいいんだな?」

 

・・・・・・・・・。

 

「・・・足手まといにはなりたくありません」

 

「・・・・・・」

 

みんなが上杉君を頼って頑張っているんです。私も昨日のことを謝れないのなら・・・1人で自習をして知識を蓄えるしかない。私には、それしかないんです・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私は部屋に戻って自習を再開させます。三玖から借りたヘッドフォンをつけて好きな音楽でもかけながら勉強を進めていくとしましょう。ヘッドフォンから聞こえてきたピアノの音が、なんだか悲し気に奏でているように感じてしまいます。

 

ポタッポタッ・・・

 

あれ・・・おかしいですね・・・急に涙が・・・こんなはずでは・・・。

 

「五月ちゃん、泣いてるの?」

 

「ひゃあ⁉」

 

いつの間にか六海が部屋に入ってきて私の顔をのぞかせてきました。びっくりしました・・・。

 

「む、六海!ノックくらいしてください!」

 

「したよー。でも五月ちゃん、全然返事しないんだもん」

 

私がただノックの音を聞き取れなかったからですか・・・て、ヘッドフォンをしてるからそうですよね・・・。て、六海が持ってるのは夜食のソーセージ?

 

「一緒に、食べよ?」

 

「・・・い、いただきます」

 

六海なりに私を気を使ってくれてるのでしょう。妹の気遣いに私は暗かった心が少し晴れたような気がします。まずソーセージを一口・・・おいしいです。

 

「・・・風太郎君と喧嘩でもした?」

 

!やっぱり私と上杉君の今の状況に違和感を覚えてたようですね。

 

「・・・けんかなんていつものことです」

 

「そうだね。そうまでけんかしちゃうのは、2人が似た者同士だからかなー?」

 

「や、やめてくださいよ・・・」

 

「でも今日の五月ちゃん、なんかいつもと様子が違ってたよ。そんなに泣いちゃうくらい、嫌なことだった?」

 

六海が何気なく私のことを心配してくれていることが伝わってきます。でも・・・私は・・・妹に心配されるわけには・・・。

 

「べ、別に、そんなことは・・・」

 

私が何かしらの言葉を言おうとすると、六海が私の頭を体ごと優しく倒して太ももの上にのせてきました。膝枕をしてくれてるのでしょうか?

 

「・・・辛かったね。気づいてあげられなくて、ごめんね」

 

「わ、私は、辛くなんて・・・」

 

「いいんだよ、我慢しなくても。辛いときは、思いっきり泣いてもいいんだよ。六海なんて辛いときしょっちゅう泣いてるし」

 

「な、泣いてなんて・・・」

 

「五月ちゃんはいつも不器用で何にたいしても素直になれないような子だけど・・・そこにはいつも優しさがあった。ちょっと空回りしちゃうけど・・・相手のことをちゃんと思ってくれる優しいお姉ちゃん。だから六海は、お姉ちゃんたちの中で五月ちゃんが、1番大好きだよ」

 

・・・む、六海・・・。

 

「・・・辛かったです・・・悲しかったです・・・こんなことになるなんて、思わなくて・・・」

 

「うん。わかってるよ。全部わかってる」

 

「こんなとじゃ・・・いけないって・・・わかってるのに・・・意地にを張って・・・謝ることも・・・できなくて・・・ぐす・・・」

 

「うんうん、辛かったね。また明日がんばろう?六海もできる限り協力するからさ・・・今は泣いてもいいんだよ」

 

「う・・・ううぅぅ・・・」

 

私の気持ちを1人でもわかっている人が・・・それがたった1人の妹であること、その妹の気遣いがとてもうれしくて・・・私の辛さをぶつけて泣きました。それはもう、疲れ果てるまで泣きました。その疲れで眠ってしまうほどにまで。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・あれ?寝ちゃった?・・・しょうがないお姉ちゃんだねー。

・・・五月ちゃん、今日は、お疲れ様。辛かったね。今はおやすみなさい。明日風太郎君と仲直りできるように、がんばろうね」

 

08「積み上げたもの」

 

つづく




六つ子豆知識

『五月は食いしん坊?』

六海「五月ちゃんは6人の中で1番食いしん坊だよねー?」

五月「!何を言うのですか!心外です!今日なんてかつ丼一杯しか食べてないんですから!」

四葉「そっかー!・・・まだ朝の8時だけど・・・」

六海「重い・・・朝から重たすぎるよ・・・」

六つ子豆知識、今話分終わり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

噓つき嘘たろう

「・・・ん・・・んん・・・」

 

私が目を覚ますといつも見慣れた私の部屋が視界に映り込んできました。今時間は・・・7時30分を回っていました。昨日泣き疲れて眠ってしまったようですね・・・。

 

「・・・あれ?」

 

私はふと自分がいる場所に違和感を覚えます。昨日私が眠ったのは六海の膝の上だったはず・・・それがなぜベッドで眠っていたのでしょう?そんな疑問を抱きながらベッドから起き上がり、私の机を見てみますと、置手紙がありました。この字からして六海が書いたものですね。なになに・・・。

 

『おはよう、五月ちゃん。ぐっすりとよく眠ってたね。今日は六海が朝ごはん作るから楽しみに待っててね』

 

なるほど・・・私をベッドまで運んだのは六海でしたか。私の心配をしてくれて・・・あの子には少し申し訳ないことをしましたね。しかし・・・やっぱり心の中の靄は一向に晴れません。いざ上杉君に顔を合わせると、なかなか自分から話を切り出せないのですから・・・。

 

くぅぅ~・・・

 

・・・こんな時にまでお腹は正直ですね。今は考えても埒があきません。とりあえず今着ているパジャマから私服に着替えます。今日は日曜日ですので学校をお休みです。着替えを終えてから部屋を出てリビングへ向かうと、すでに朝食をとっている六海と二乃、一花がいました。

 

「あ、五月ちゃんおはよー!牛乳飲む?」

 

「おはようございます。ありがたくいただきますね」

 

「おはよう」

 

「おはよ、五月ちゃん。見てよこの朝食!六海が作ったんだって!」

 

食卓には今日の朝食がきれいに並べてありました。おいしそう・・・これを・・・六海が・・・?

 

「あははー、まぁ全部二乃ちゃんの手を借りてなんだけどねー」

 

「当たり前よ。あんな危なっかしい手つき、とても見てられなかったわ。下手したら三玖以上の不格好な料理が出来上がるかもしれなかったんだから」

 

「いやー、1人でもいけると思ったんだけど・・・料理って難しいね」

 

六海は照れながら頭をかいています。六海はこれまで1度も料理を作ろうとした経験はありません。あったとすれば調理実習の時だけ、それ以外では手を付けようともしませんでした。慣れない料理を挑戦したのは全部私のためだということは置手紙でわかっていますから本当にうれしい限りです。それにしても・・・

 

「一花が休日のこんな時間に起きてるなんて、珍しいですね」

 

「六海たち6人の中じゃ1番遅いからなおさらびっくりだよね。本当、どうしたの?」

 

「いやー、それがね、昨日三玖は私の部屋で寝ることになったでしょ?それが朝になったらいつの間にかベッドからいなくなってたから慌てちゃって・・・」

 

「三玖を探しに行ったっきり、四葉も帰ってこなかったわね」

 

なるほど・・・今この場に三玖と四葉がいないのはそういうことだったのですね。まぁ、あまり遠くには行ってないとは思いますけど・・・。

 

「彼は?」

 

「さあ・・・まだ寝てるんじゃないの?男の子って起きるの遅いねー」

 

私が言っている彼とは言うまでもなく、昨日私たちの家に泊まった上杉君のことです。

 

「あいつ本当に泊まったのね。まぁ、それも後少しの辛抱だわ」

 

「・・・・・・」

 

「二乃も勉強参加すればいいのにー。案外楽しいよ?」

 

「お断りー。五月、あんたは絆されるじゃないわよ?」

 

絆されるなんて・・・そんな人を悪者みたいに・・・。それに・・・今の私と彼は、それとは程遠い立ち位置にいます。

 

「まだ意地張ってるのー?素直になればいいのにねー」

 

六海、あなたはそう簡単にいいますけどね・・・私と彼とはまず相性が悪いんですよ。

 

「・・・どうも彼とは馬が合いません。この間も諍いを起こしてしまいました。些細なことでむきになってしまう自分がいます。私は、一花や三玖、六海のようにはなれません」

 

そもそもそんなことができるのならこんな事態にはならなかったはずです。今は一花たちのような気持ちの切り替えができるのが羨ましい限りです。

 

「・・・にゃは♪なれるよ、五月ちゃんだって!」

 

「え?今、何と・・・?」

 

「協力してあげるって言ったでしょ?大丈夫、六海に任せてー♪」

 

六海は楽し気に笑いながら私の髪を触ってきました。え、本当に何をする気なのですか⁉

 

「六海、何してるの?」

 

「ほら、ここをこうしてここの髪を持ってきて・・・じゃーん!三玖ちゃんの出来上がりー!」

 

六海が私の髪をいじり終える頃には確かに私の髪は三玖と近いものになりました・・・けどこれ、おふざけしてますよね?

 

「おお、そっくりそっくりー!」

 

「でしょー?」

 

「・・・私は真剣に言ってるんですが?」

 

「にゃはは、ごめんごめん、六つ子ジョーク六つ子ジョーク♪」

 

ジョークじゃありませんよ全く・・・真剣に悩んでいるのに私の髪で遊ぶなんてどうかしてます。

 

「・・・六海!」

 

二乃もこの行為に癪に障ったようですね。

 

「・・・髪の分け目が逆!」

 

て、そっちですか!別に髪の分け目なんて今どうでもいいじゃないですか!私は真剣に悩んで・・・

 

「あ、後五月、もっと寝ぼけた目をして!」

 

「この毛が邪魔だなー」

 

「もういっそちょん切っちゃう?このアホ毛」

 

「わ、私の髪で遊ばないでください!!」

 

六海の他に二乃や一花も参加して私の髪をいじり始めました!いったい何がしたいんですかこの3人は⁉というか六海、私の髪を切ろうとしないでください!そうこうしていくうちにパジャマまで着替えさせられて私の姿は髪の長さを除けば三玖とそっくりになっていました。

 

「そうだ、ちょうど三玖もいないし、これでフータロー君騙せるか試してみようよ」

 

「おー!それおもしろそう!やろうやろう!」

 

「え?マジで?だったら服も変えなきゃ!」

 

3人とも私をよそに勝手に話を進められています⁉

 

「あ、あの・・・」

 

「大丈夫。あいつにアタシたちの区別なんてできるわけないでしょ?」

 

そういう問題ではないと思うんですけど・・・。

 

「ほーら、細かいこと気にしないでいったいったー!」

 

「ええ⁉ちょ、ちょっと・・・」

 

「大丈夫。お姉ちゃんがしっかり見守ってあげるからね♪」

 

一花と六海に無理やり背中を押されていき、今上杉君が眠っているであろう三玖の部屋の前にと連れていかれました。あ、朝食はもうすでに全部いただきました。おいしかったです。

 

「じゃ、がんばってねー♪」

 

「五月ちゃん、ファイト、おー、だよ!」

 

部屋の前まで連れだした一花と六海は特に悪びれた様子もなくリビングへ戻っていきました。もう・・・本当に・・・。・・・この部屋の中に上杉君がいるんですよね?今は三玖となっておりますが、今更彼に何というべきなのでしょう?この間のことを謝る?それとも、別の話題で話をごまかす?私はいったいどうすれあいいのでしょう・・・?

 

ガチャッ

 

「⁉み、三玖⁉あ、いや・・・」

 

私がいろいろ考えているうちに上杉君が出てきました。ま、まだ心の準備ができていないというのに!い、いえ・・・今の私は三玖なんですから、慌てる必要はありませんね。でも・・・何とお話すればいいのかわからないです。

 

「・・・ど、どうした、五月?」

 

「!・・・・・・わかるんですね・・・」

 

髪型を三玖に似せているというのに、まさか上杉君に見破られるとは思ってはいませんでした。

 

「「・・・・・・」」

 

お、お互いに気まずいです・・・何と話をすればいいのでしょう?謝る・・・なんてことは絶対に無理です・・・。・・・この間お父さんが言っていた私たち6人の中で1人でも赤点を取れば解雇について、上杉君はどう受け止めているのでしょう?少しだけ・・・

 

「あの・・・今度の中間・・・」

 

ゴソ・・・

 

「⁉」

 

「え?」

 

え?話をしようと思ったら、部屋の奥で何か音が聞こえたような・・・?

 

「よ・・・用がないならもういいかな?」

 

「え?ちょっと・・・」

 

「ほら!着替えるから!」

 

「え?ええ?」

 

バタンッ!!

 

「えええええ!!?」

 

上杉君は何か慌てた様子で私を部屋から離され、勢いよくドアを閉められました。な、何なんですかいったい!人がせっかく話をしようと思ったのに!

 

「・・・もう結構です!!」

 

私は上杉君の態度に怒ってそのまま部屋へと戻っていきます。・・・やってしまいまた。部屋越しでも話はできたはずですのに・・・自分の感情が上回って碌に会話もできませんでした。

 

「あーあ、やっぱり怒らせちゃった」

 

「もー、ダメじゃーん、風太郎くーん」

 

「フータロー君、大丈夫?」

 

「あ、ああ・・・」

 

ドア越しから上杉君と一花たちの会話が聞こえてきました。

 

「そういえば三玖どこ行ったか知らない?」

 

「え?あ・・・ああ!えーっと・・・と、図書館かな!」

 

「図書館!いいね!六海、図書室や図書館が1番お気に入りなんだよねー」

 

「そうだ!それならさ、私たちも気分を変えて図書館で勉強しよっか!」

 

「そ、そうするか!」

 

「じゃあ四葉ちゃんに連絡入れるねー」

 

今日は図書館で勉強会、ですか・・・。普段なら私もあそこで1人で勉強するのですが・・・状況が状況ですからね・・・行くことはかないません。いつまでも意地を張り続けている自分に嫌気がさしてきます・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

上杉君と一花たちが図書館へ向かっているのを確認し、二乃は自分の部屋に戻っていきましたが、私はリビングでただ1人自習を執り行いたいと思い部屋に戻って着替えてから教材を取りに行ってます。少しでも試験内容を頭に入れませんと、赤点は回避できません。足を引っ張るのは御免ですから。

 

でも・・・これで本当に良かったのでしょうか・・・?もしかしたら、上杉君から勉強を教えてもらっているのならば、状況は少しは変われたのでしょうか・・・?

 

『後で後悔したってお前にだけは絶っっ対に教えねぇ!!!』

 

あ、なんだか思い出しただけで腹が立ってきました。もう知りませんよ、上杉君なんて・・・

 

『また明日がんばろう?六海もできる限り協力するからさ』

 

昨日の六海を思い出したらやっぱり深く考えさせられてしまいます。今じゃ何が正しくて何が間違っているかなんてわからなくなってしまいました。私が思考の迷宮から抜け出せないまま教材を持ってリビングへ向くと、一花の部屋からいなくなっていたはずの三玖がいました。

 

「み、三玖⁉」

 

「!五月・・・」

 

「上杉君が図書館に行っていたって言ってましたけど・・・」

 

「え・・・?あ、ああ・・・えっと、その・・・う、うん。図書館に行ってたんだけど、その・・・筆箱を忘れちゃって・・・」

 

「そうでしたか・・・」

 

何やら若干三玖が挙動不審になっているのが気になりましたが・・・やっぱり図書館に行っていたんですね。

 

「そ、それで、フータローも一花たちも図書館に?」

 

「ええ、確かに図書館に行くって言ってましたよ。入れ違いになったようですね」

 

「そ、そうみたい、だね。早く筆箱取りに戻らなきゃ」

 

「あ、あの、三玖、ちょっと聞きたいことが・・・」

 

「⁉な、何・・・?」

 

筆箱を取りに行こうとすると三玖を呼び止めた時、一瞬ビクッとなったのは気のせいでしょうか?

 

「もし・・・もしもですよ?私たちの中で1人、成績不良で進級できなかった場合・・・三玖は・・・どうするのですか?」

 

こんなことを聞くなんてらしくない気がします。それでも・・・ここは何としてでもはっきりしておきたいです。

 

「な・・・何だそっちか・・・よかった・・・」

 

「え?」

 

「な、何でもない」

 

何やら気になることを言っていたような気がしますが・・・。

 

「・・・でも、それは五月も同じ答えなんじゃないの?」

 

「え?」

 

「・・・私も留年して2年生をやり直す」

 

「!!」

 

「と言っても、みんなその可能性が高い。特に四葉」

 

やはり・・・三玖も同じ答えなんですね・・・。実を言うと、私も同じような答えを考えていました。やはり考えていることは一緒なんですね。でもやっぱり・・・6人みんなで進級はしたいです。

 

「でも、フータローがいたらきっと、そんな心配はない」

 

三玖は上杉君をよほど信頼しているようですね。それは四葉も一花も、六海も同じことでしょうか・・・。

 

「ね、ねぇ、もういい?」

 

「!あ、は、はい。変なこと聞いてすみません」

 

質問を答え終えた三玖はそそくさと自分の部屋へと向かっていき、かばんを持って部屋から出てそのまま慌てて図書館へと向かっていきました。三玖や一花たちも頑張ってるんです。私も頑張らなければ・・・。さて、自習に戻らなくては。えっと、次のここの答えは・・・なんでしたっけ・・・。

 

「・・・ふわぁ・・・」

 

と、いけませんいけません。ここで眠るわけにはいきませんね。でも・・・リビングの窓から放ってる日差しが気持ちよくて・・・て、ダメですってば!寝ちゃダメです・・・絶対に寝ちゃダメです!絶対に・・・ね・・・ちゃ・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・い。おい、起きろ」

 

「ん・・・んん・・・」

 

誰かに揺さぶられる感覚がして、私は意識を取り戻しました。結局うたた寝してしまったようです。まだ若干眠気が残っているのが何よりの証拠です。

 

「あ・・・ああ・・・すみま・・・せん・・・」

 

私を揺さぶって起こしてくれた相手は、図書館に行ったはずの上杉君でした。なぜ彼がここに・・・?思いがけないことに私は戸惑いでいっぱいになっております。

 

「あ・・・あの・・・」

 

「やっと見つけたぞ・・・三玖!」

 

え⁉いったい何を言っているんですか上杉君は⁉私は三玖じゃなくて・・・て、そう言えば三玖からヘッドフォンを借りてつけたままでした。このヘッドフォンを見て三玖だと勘違いしているのですね。

 

「勉強サボって俺から逃げてただろ!許さねぇぞ!」

 

「ええっと・・・」

 

「ほら!ペン持て!」

 

「あの・・・」

 

「教科書広げろ!」

 

「私は・・・」

 

「罰としてスパルタ授業だ!!お前には絶対、赤点を回避してもらうぞ!!」

 

私が言葉を話すごとに彼は言葉をかぶせてきます。なんでこんな時に限って話を聞かないんですか⁉

 

「だから私は三玖じゃ・・・」

 

「そういや、五月の姿が見えねぇなー。今も部屋で勉強頑張ってんだろうなー。間違ってもうたた寝なんてことはないだろうなー」

 

!上杉君のこの反応・・・それに、私がうたた寝をしていたことを見ないふりをしている・・・?そういうことですか・・・彼は私が五月だということは初めからわかっています。正面から話すことができないからこんな嘘を・・・。

 

「・・・どうした?三玖」

 

私は・・・こんな時、どんな風にふるまえばいいのでしょう・・・?

 

『素直になればいいのにねー』

 

ふと六海から今朝にそんなことを言われたのを思い出しました。私は・・・みんなと違って、素直に頷くことなんて、できません。だから私は・・・

 

「・・・・・・な・・・何でもありま・・・何でも・・・ないよ・・・///」

 

上杉君の嘘に乗っかることにします。うぅ・・・三玖のふりをするなんて・・・自分でやってて恥ずかしいし、緊張します・・・。

 

「・・・じゃあ始めよう。今はどこやってんだ?」

 

「せ、生物・・・だよ・・・」

 

「そのまま続けるか。わからなかったところはあるか?」

 

「えぇっと・・・」

 

「あ、そうだ・・・。・・・一昨日は・・・悪かった」

 

!上杉君・・・。これが彼の本音・・・。今回の件、彼も彼なりに思い悩み、この決断を下したのですね・・・。

 

「・・・何のこと?」

 

「そ、そうだな!ははは・・・三玖に何言ってんだか・・・」

 

今の彼は私を中野五月ではなく、中野三玖としてみています。自分自身では謝ることができません・・・ですが、三玖としてなら?三玖としてなら・・・。

 

「・・・私こそ・・・ごめんね」

 

「!・・・み、三玖こそ、何言ってるんだ?」

 

「そ、そうだね!ははは・・・」

 

ああ・・・こんな嘘の中で謝罪の言葉をかけることになるなんて微塵も思っていませんでした・・・。けど、嘘の中でもちゃんと素直に謝ることができました。

 

「ええっと・・・ここがわからないんだけど・・・」

 

「なんだ。ここまで進んでいるのか。そこは・・・」

 

私が1番苦戦している問題を上杉君はこれでもかとわかりやすく、丁寧に教えてくれました。今まで教えてもらった人物の中で、1番わかりやすかった気がします。

 

「・・・1人でよく頑張ったな」

 

素直になるって、本当に難しいことです。しかし不思議なことに、嘘の中でなら、本音が自分でも驚くぐらいに打ち明けられます。噓つきは泥棒の始まりとも言いますけど・・・たまに嘘をつくというのも悪いものではないのかもしれません。その証拠に、私と上杉君の関係に、修復の兆しが見え始めているのですから。私はその事実に、思わず頬を緩んでいます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

日曜日から四日が過ぎ、明日がいよいよ中間試験本番です。そういうこともあって今私たちの家のリビングでは二乃以外の姉妹たちが全員集まり、上杉君と共に勉強を執り行っています。というのも今日の学校の出来事です・・・。

 

『はぁ⁉今日も泊まり込みで勉強するの⁉この間したばっかりよ⁉』

 

『明日が試験なんだ。効率度外視で一夜漬けだ』

 

『五月、あんたも何か言いなさい!!』

 

『・・・今日ぐらい、いいんじゃないですか』

 

『『『『『『え?』』』』』

 

あの時私が言った言葉にみんな驚いていましたね。明日が中間試験なんです。それくらいの覚悟がなければ、赤点回避は免れませんし、不思議ではないと思いますがね。でも、私がこういうことができたのは、先日の上杉君の噓つき行為のおかげかもしれません。

 

「よし!二乃は相変わらず来ていないが、中間試験はいよいよ明日だ!徹底的に対策をして、悔いのないようにするぞ!」

 

「「「おー!!」」」

 

上杉君の言葉にやる気を出したみんなは勉強を開始していきます。

 

「私はここで自習するだけですので、勘違いしないでくださいね」

 

「あ、ああ・・・」

 

当の私はというと相変わらず本音を言うことなく、みんなとは離れたテーブルで自習を始めます。すると六海が自分の教材を持って私のところまでやってきました。

 

「今日は五月ちゃんと勉強する!ね、いいよね、五月ちゃん?」

 

「え、ええ、構いませんよ」

 

「あ、でもでも、わからないところがあったら教えてね、風太郎君」

 

「あ、ああ。それはもちろんだ」

 

「じゃさっそくわからないところがありまーす!」

 

「早いな・・・どこがわからないんだ?」

 

六海は私の隣の席に座り込み、上杉君にわからないところを教えてもらってます。すると今度は私に声をかけてきました。

 

「五月ちゃん五月ちゃん、ここの問題ちゃんと解けた?」

 

「え?い、いえ・・・」

 

「えっと、ここはね・・・」

 

上杉君に教えてもらった個所を六海は私に教え始めます。なるほど、素直になることができない私に上杉君から習ったことを六海が教えてくれているのですね。でも・・・なんか間違ってるような気がするのですけど・・・。

 

「というわけなの!わかった?」

 

「わかった?じゃねぇよ!さっき教えたことと全然違うじゃねぇか!」

 

あ、やっぱり間違っていたのですね。

 

「あ、あれー?おっかしいなー」

 

「おかしいのはお前の頭だ。たく・・・もう1回教えてやるから、次は間違えるなよ」

 

なんだかまだまだ前途多難な気がしますが・・・一夜漬けならおそらくは少なくとも30点ぎりぎり、赤点は回避できるでしょう。ただ1つの問題を除けば。

 

今回勉強の参加意思がない二乃・・・大丈夫なんでしょうか?赤点回避、できますよね・・・?・・・い、いえ。心配しても仕方ないですね。ちゃんとやってることを祈りましょう。今は全力で勉強して明日に備える・・・それだけです。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ん・・・んん・・・ふわぁ・・・」

 

いつの間にか眠っていた私が目を覚ますと、リビングの窓は朝日の心地いい光が差し込んできました。もう朝になったのですね。そしてすぐに私の視界に映ったのは上杉君でした。

 

「・・・ああ、上杉君、おはようございます。早いですね」

 

「ああ。・・・!!?・・・なぁ、五月、確認だが、うちの学校は8時半登校だったよな?」

 

「?そうですね・・・それから、15分後に試験開始です」

 

でもなぜそんなことを聞くのでしょう?

 

「・・・あの時計、壊れてたりしない?」

 

青ざめた様子の上杉君が指をさしたのは・・・すでに8時5分を指した時計・・・ハチジゴフン?

 

「・・・ひぃあああああああああ!!??」

 

「ひあっ⁉何⁉」

 

時刻を見て大絶叫を上げた私の声に六海、みんなが起きてきました。六海が時計を確認し、そしてスマホを確認すると、みるみると顔を青ざめていきます。

 

「だ、大寝坊だあああああああああ!!!」

 

私たちはいつも学校の準備をする際の時間を合わせているので起きるのは大体7時くらいです。でも現実はその1時間5分後、大寝坊です!

 

「なんでみんな起きれなかったんだろ~?」

 

「後25分・・・結構やばいかも・・・」

 

「朝食どうしましょう?」

 

「アタシのメイク道具知らない?」

 

「あー、眠いよぅ・・・」

 

「二乃ちゃんそれどころじゃないよ!後一花ちゃんまた寝ようとしないで!」

 

寝坊で全員大慌てです!上杉君と姉妹全員揃って寝坊なんてシャレになりませんよ!朝食はどうなるのですか⁉

 

「て!六海たち全員パジャマだった!」

 

「わー!そうだったー!」

 

「制服持ってきて!」

 

「わ、私は部屋で着替える・・・」

 

「メイク道具はー?」

 

「朝食どうしましょう?」

 

「お前ら急いでくれ!!朝食取る時間なんてねぇ!!」

 

そ、そんな殺生な⁉と、言いたいところですが遅刻で試験を受けられなかったらどうしましょう!それだけは何としてでも避けなければ!とにかく制服に着替えて急いで学校へと向かわなければ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちはとにかく遅刻しないように走りながら学校へと向かっています。ちょ、朝食抜きでこんな走らされるなんて・・・きついですよ・・・!

 

「みんな遅いよー!!上杉さーん!先行っちゃいますよー!」

 

私たちの中で特にずば抜けた体力を持つ四葉はせっせと先へと向かっていました。一方の私たちは四葉からだんだんと離されていきます。その中でも上杉君、三玖、六海がもうすでに疲れ切っている様子です。

 

「はぁ・・・はぁ・・・お、お前ら・・・車で通学してたんじゃなかったのか・・・?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・江端さんは・・・お父さんの秘書だから・・・」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・だから・・・うちには滅多に・・・はぁ・・・来ることがないの・・・」

 

「お父さんたちがうちにいてくれたらいいのにねー」

 

「そ・・・そうだな・・・」

 

今はいない人のことを考えても仕方ないでしょう!このまま走り切れば、きっと間に合います!

 

「はぁ、はぁ・・・やっぱスッピン見せたくないなぁ。ここでメイクしてもいい?」

 

「他の5人がバンバン見せてるだろ⁉そういうのは登校してからにしろ!!」

 

二乃がメイクで立ち止まろうとした時、上杉君の一声でなんとか走ってくれました。あれ?そういえば三玖は・・・おばあさんの荷物を持って交通移動まで付き添っていました。

 

「うーん、えらい!けど今じゃない!」

 

何とか移動を終えた後、三玖は急いで私たちの下に合流しました。・・・あれ?今度は一花がいません!

 

「zzz」

 

「寝るなーー!!」

 

お店の近くで眠っていました。上杉君の一声で起きたようです。

 

「四葉いねーし!!どこまで行ったんだ⁉」

 

そう言えばさっきから四葉の姿が一向に見当たりませんね。先に行ったのでしょうか?

 

「ねぇねぇ、六海帰ってもいい?」

 

「お前にいたっては論外だ!!何でだよ⁉」

 

六海の堂々とした帰宅宣言に上杉君は驚愕交じりの怒りを示しています。

 

「だって最近学校の入り口に生徒指導の先生がいるんだもんーー!!六海、こんなことで怒られたくないよー!!」

 

「ああ、確かに。結構怖そうな先生だから遅刻したらテストどころじゃないかも」

 

た、確かに生徒指導の先生が立っていましたね。遅刻したら何と言われるか・・・。

 

「ぐっ・・・!だ、大丈夫だ!このまま走れば絶対に間に合う!ほらがんばれ!」

 

上杉君の応援で六海は何とか走ってくれるようになりました。というか・・・私ももう限界です・・・。

 

「もうダメです・・・」

 

「諦めんな!」

 

「いいえ・・・限界です・・・」

 

「五月!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・お腹がすいて力が出ません・・・」

 

くううぅぅ~・・・

 

ああ、またお腹が鳴ってしまいました・・・。朝食を抜いてしまったことが響いています・・・。

 

「くっ・・・!仕方ねぇ!ここのコンビニで適当におにぎりでも買え!」

 

上杉君は私を連れて近くにあったコンビニに入っていきました。たどり着いた先にはいろんな種類のおにぎりが・・・!

 

「ど、どれも・・・おいしそう・・・!」

 

「悩んでる余裕なんてないからな!」

 

わ、わかっていますよそれくらい!でもこれくらい選ばせてくれたっていいじゃないですか!・・・あ、そうです。

 

「あなたはどれにしますか?」

 

「!いや、俺は・・・」

 

「これくらい奢りますよ。何とは言いませんが、ご迷惑をおかけしたので・・・」

 

あの噓つき行為がなければ関係はこじれたままだったんです。迷惑をかけたのは事実ですから、お詫びでも入れないと気がすみません。

 

「・・・どれにしよう?」

 

「悩ましいですね」

 

「あんたたち急いでたんじゃなかったの⁉」

 

わ、わかってますってば!わかってますけど、いろんなおにぎり食べたいじゃないですか!と、とにかく私は鮭のおにぎり、上杉君は梅のおにぎりを選んで会計を済ませます。食べながらでも走れば間に合います。とにかく急いで・・・

 

「何そのガキンチョ?」

 

急ごうと思ってたら一花、三玖、六海が何やら泣いている子供に寄り添っている姿が。

 

「迷子みたい・・・」

 

「ママとはぐれちゃったのかなー?」

 

「泣かないでー。お姉ちゃんたちが側にいてあげるからー」

 

どうやらお母さんとはぐれてしまったようで心細い思いをしているようですね。

 

「急いでるんだ。他の人に任せていくぞ」

 

「自分だっておにぎり買ってるじゃん!」

 

「道に迷ってる。かわいそう・・・」

 

「血も涙もない!風太郎君の鬼!鬼畜!おたんこなす!」

 

「誰が鬼だ!誰が鬼畜だ!おたんこなすはお前にだけは言われたくないわ!」

 

心にもないことを言っていた風太郎君ですが一花たちの正論、六海の罵倒で多少は待ってくれるようです。

 

「僕~、お姉さんたちにお話し聞かせて?」

 

「・・・I wanna meet my mommy・・・」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

え、英語で話してる・・・てことはこの子外国人なんですか⁉ど、どうしましょう・・・。

 

「「「「・・・は、ハロー・・・」」」」

 

「自分が路頭に迷うかって時に何やってんだ・・・」

 

「あんたもね」

 

まさかここに来て外国人の子供と会い、しゃべっている言語を解読しなければならない日が来るなんて思いませんでした!とにかくこの子の次々としゃべる言語を解読していくのですが・・・何をしゃべっているのか全く分かりません!

 

「ほ、ほら、大丈夫だから、ね!」

 

「えーん!なんて言ってるか、わかんないよー!」

 

「六海、落ち着いて。とにかく1つずつ単語を思い出していこう」

 

「そ、そうですね。それが1番の最善かもしれません」

 

私たちはこの子が何と伝えようとしているのか解読しないと・・・と言っても、その単語自体も覚えてるのか怪しんですが、思い出すしかありません!

 

「おい、その子は俺が・・・」

 

「Where is the hospital?」

 

「!今・・・ホスピタルって言わなかった?」

 

「え?」

 

ホスピタルと言えば・・・病院のことですよね?

 

「いやっ・・・気のせいかも・・・」

 

「気のせいじゃないよ!きっとお母さんは病院にいるんだよ!そうに違いないよ!」

 

「確か中央病院なら近くにありますけど・・・」

 

「ん~・・・じゃあ・・・コホンッ」

 

この子が何を伝えようとしているのか少しは理解した私たちの言葉を一花が代表して英語で答えますね。

 

「did you go to the hospital with your mother?」

 

一花の英語の問いに外国人の言葉はコクリと頷きました。と、言うことは・・・

 

「「「「通じた!」」」」

 

やりました!言葉が通じました!やはりこの子のお母さんは病院にいるのですね!私たちはここまでたどり着いたことの喜びでお互い抱き合いました。と、こうしてはいられません。中央病院かわかりませんが、早くこの子をお母さんの下へ送り届けなくては!

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちの考えは当たっていたようで子供のお母さんは中央病院にいました。私たちは子供をお母さんの下へ届けさせました。その時の子供の顔は笑顔でなんだか安心感と達成感で満ち溢れています。

 

「無事お母さんの元に送り届けられてよかったねー」

 

「うんうんよかったね。ところで君たち、何か忘れてないかね?」

 

上杉君の問いに私たちは一瞬だけ首を傾げました。・・・あ、そういえば・・・中間試験の時間・・・。

 

「タイムオーバーだ。試験もじき始まる」

 

上杉君が見せたスマホの時刻は8時33分、登校時刻はとっくに過ぎていました。

 

「ど、どうしましょう・・・!」

 

「でも学校はすぐそこだよ?」

 

「でも~・・・生徒指導の先生が~・・・」ウルウル

 

「そうなんだよねー。あの先生、今回のこと許してくれるかなー?」

 

問題はやはりそこなんですよね。いくら学校にたどり着いても生徒指導の先生が通してくれるかどうかなんですよね。困り果てました・・・。

 

「・・・そうだ!四葉だ!」

 

私たちが困り果てていますと上杉君が何やら閃いたようです。でもなぜそこで四葉が?

 

「五月、四葉に電話してくれ。繋がれば俺が話す」

 

「え?え、ええ・・・」

 

私は上杉君に従って四葉に電話をかけました。・・・あ、繋がりました。

 

「四葉ですか?今上杉君に替わります」

 

四葉に繋がったことを確認した後、上杉君に電話を替わります。

 

「四葉か?もう学校についてるのか?・・・いやいい。そのまま学校にいてくれ」

 

「ちょっと!どうするつもりなの?」

 

「大丈夫、俺に言い案がある。名付けて・・・ドッペルゲンガー作戦だ!」

 

ど、ドッペルゲンガー作戦⁉それって一体どういうことなのでしょう・・・?

 

「四葉が学校にいるのは確認した。一度登校した生徒なら生徒指導も厳しく言えないだろう」

 

!!う、上杉君・・・それってまさか・・・。

 

「お前たち全員・・・四葉のドッペルゲンガーになれ」

 

や、やっぱりですか!!そう言うと思いましたよ!やりたくないといっても、今の現状を切り抜けるにはこれしかない・・・ですか・・・。これは試験のため・・・試験のために・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

学校の前までたどり着いた私たちはとりあえず物陰に隠れ、四葉がよくつけているリボンを頭につけて(六海はメガネを外した状態)近くの物陰に隠れます。入り口には・・・やっぱり生徒指導の先生がいます。うぅ・・・怖いです・・・。六海も心なしかがたがたいってますし・・・。

 

「じゃあ・・・行ってくる」

 

まずトップバッターを務めるのは私たちの中で1番変装が得意な三玖です。さて・・・どうでるのでしょうか・・・。

 

「おはよーございまーす!」

 

「お前!遅刻だぞ!」

 

「おおっと、先生、この顔とこのリボンに見覚えありませんか?」

 

「?・・・確かに少し前に見たような・・・」

 

「先生の手伝いでまた外に出たんです」

 

「そ、そうか。始業チャイムはもう鳴ってる。試験までに着席するんだぞ」

 

「はーい」

 

う、うまくいきました⁉三玖は何食わぬ顔で四葉になりすまし、学校の中へと入っていきましたよ⁉

 

「よーし、次は六海の番だ!早くメガネかけたいし、ちゃちゃっと行くね」

 

三玖の姿を見た六海はやる気に溢れた顔で学校に向かっていきました。でも胸にかけたメガネでばれるんじゃ・・・。

 

「おっはよーございまーす!!」

 

「お、おはよう・・・」

 

これもうまくいきました⁉どれだけ有効なんですかこのドッペルゲンガー作戦⁉

 

「おっはよーございまーす!」

 

「おっはよーございまーす」

 

その後に続いた一花、二乃もうまくいきましたよ⁉2人にいたってはほとんど何もいじっていませんのに⁉さ、最後は私ですか・・・先生を騙すなんて行為、したくないんですが・・・ええい、ままよ!

 

「お・・・おっはよーございます!」

 

「お・・・おはよう・・・。

(あの生徒・・・何周も何してるんだ・・・?)」

 

わ、私もうまくいきました・・・心臓がバクバクいっている私にみんなが出迎えてくれました。そ、そんなことより・・・!

 

「先生を騙すなんて・・・私はなんて無礼を・・・!」

 

「あんた真面目すぎ」

 

「あ!よかったー!みんなはいれたんだー!」

 

「本物だ」

 

私が後悔の念を抱いていると本物の四葉が出てきました。

 

「ほら、気持ち切り替えないと足元すくわれるよ。ここからが本番だから」

 

「いよいよだね!頑張らなくちゃ!」

 

そ、そうですよね。ここで気持ちを切り替えなければ・・・平常心・・・平常心・・・。

 

「あれ?上杉さんは?」

 

あー、上杉君・・・上杉君は・・・。

 

「オッハヨーゴザイマース」

 

「・・・・・・」

 

私たちと同じやり方をやってます⁉頭にリボンつければOKって思ってません⁉目が死んでますし、いくら何でもそれは無茶ですよ!

 

「遅刻した上にふざけてんのか?」

 

「デスヨネ」

 

「生徒指導室に来い!!」

 

ああ、やっぱりですか・・・。どこまでも無茶なことを・・・。

 

「フータロー・・・」

 

「早くいけ!!俺がいなくても大丈夫だ!!努力した自分の力を信じろ!!」

 

「1人で何言ってんだ!!」

 

上杉君は私たちにエールを送りながら生徒指導の先生に連れていかれました。上杉君の言葉にみんなやる気が上がりました。

 

「うん・・・!」

 

「いい点とって、フータロー君を驚かせちゃお!」

 

「ほら、二乃も!」

 

「な、なんでアタシまで・・・」

 

「努力はきっと裏切らない!六海たちならやれるよ!」

 

「死力を尽くしましょう!」

 

私たちは円になってお互いの親指小指を繋ぎ合わせ、互いに気合を入れ、中間試験に挑みます。

 

「「「「「がんばるぞー!!おーー!!」」」」」

 

「お、おー・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『中間試験開始!』

 

歴史 三玖視点

 

(難しい問題ばっか・・・でも、歴史ならわかる・・・。フータローよりいい点とったら、どんな顔するかな?)

 

国語 四葉視点

 

(う~ん・・・はっ!思い出した!5択の問題は4番目の確率が高いっと・・・)

 

英語 二乃視点

 

(討論・・・討論・・・わかんないや、次・・・)

 

『でばてと覚えるんだ!』

 

(・・・勝手に教えてくるんじゃないわよ・・・)

 

地理 六海視点

 

(う~ん、この問題なんだっけ・・・?思いつく答えにしよ。・・・やっぱりもうちょっとだけ考えてみよ)

 

数学 一花視点

 

(終わった~。こんなもんかな?おやすみ~・・・。・・・式の見直しくらいしてもいいかな?)

 

理科 五月視点

 

(あなたをやめさせたりしません!・・・らいはちゃんのためです!念のため・・・!)

 

風太郎視点

 

(みんな・・・頼むぞ!)

 

♡♡♡♡♡♡

 

中間試験終了から数日後、今回のテストが全て返却された後、私たち六つ子は上杉君に図書室に呼び出されました。用件はわかっています。テストの点数の発表です。けど・・・

 

「・・・よう。集まってもらって、悪いな」

 

「どうしたの?改まっちゃって」

 

「水臭いよー」

 

「中間試験の報告。間違った場所、また教えてね」

 

「ああ。とにかくまずは、答案用紙を見せてくれ」

 

結論から言いましょう。私は・・・1教科だけ赤点を回避できました。ですがそれだけです。残りは全て赤点でした・・・。これがお父さんにしれれば・・・上杉君は・・・解雇・・・。

 

「はーい、私は・・・」

 

「見せたくありません!テストの点数なんて他人に教えるものではありません!個人情報です!断固拒否します!」

 

「五月ちゃん、どうしたの、急にー?」

 

これが悪あがきだということくらいわかっています・・・それでも・・・それでも・・・。

 

「・・・ありがとうな。だが覚悟はしてる。教えてくれ」

 

上杉君・・・あなたはずるいです。そんな風に言われたら、教えざるを得ないじゃないですか・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『中間試験結果発表!』

 

四葉の点数

 

国語30点

数学8点

理科16点

歴史24点

地理15点

英語18点

総合点111点

 

「じゃーん!国語は山勘が当たって30点でした!こんな点数初めてです!」

 

三玖の点数

 

国語27点

数学29点

理科28点

歴史68点

地理25点

英語11点

総合点186点

 

「歴史は68点。その他はギリギリ赤点。悔しい」

 

六海の点数

 

国語20点

数学15点

理科12点

歴史19点

地理59点

英語26点

総合点151点

 

「六海は59点の地理だけだった!こんな点数、夢みたいでうれしいよ!」

 

一花の点数

 

国語18点

数学40点

理科26点

歴史13点

地理14点

英語29点

総合点140点

 

「私は40点の数学だけ。今の実力じゃこんなもんかな?」

 

二乃の点数

 

国語13点

数学21点

理科28点

歴史12点

地理17点

英語45点

総合点136点

 

「国数理歴地が赤点よ。言っておくけど、手は抜いてないからね」

 

五月の点数

 

国語25点

数学23点

理科56点

歴史20点

地理19点

英語25点

総合点168点

 

「・・・残念ですが、合格ラインを超えたのは、理科の56点でした」

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・たく・・・短期間とはいえあれだけ勉強したのに30点も取ってくれないとは・・・。改めてお前らの頭の悪さを実感知って落ち込むぞ・・・」

 

「「「わーーっ♪」」」

 

「うるさいわね」

 

うぅ・・・面目ございません・・・。

 

「・・・まぁ、合格した科目が全員違うなんて、アタシ達らしいけどね」

 

「そうかも!」

 

「それに、これまでの6人で100点と比べたら・・・」

 

「ああ。確実に成長してる」

 

みんなが自分たちの成長を実感すると、上杉君は真剣みな顔を向けます。

 

「三玖。今回の難易度で68点はたいしたもんだ。偏りはあるがな。今後は姉妹に教えられる箇所は、自身を持って教えてやってくれ」

 

「・・・え?」

 

おそらくこれは上杉君の家庭教師としての最後の言葉なのでしょう・・・。

 

「四葉。イージーミスが目立つぞ、もったいない。焦らず慎重にな」

 

「了解です!」

 

「六海。書けば当たるという着眼点はいいが適当すぎだ。もう少しじっくり考えてみろ」

 

「思考力アップということだね!」

 

「一花。お前は1つの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ」

 

「はーい」

 

「二乃。結局最後まで言うことを聞かなかったな。俺が来ないからって油断すんなよ」

 

「ふん」

 

最後は私ですか・・・でも・・・本当に・・・

 

「フータロー・・・もう来ないって、どういうこと・・・?」

 

「・・・・・・」

 

三玖の疑問は最もです。事情を知ってる私でも納得できません。

 

「私・・・」

 

「三玖。今は聞きましょう」

 

納得はいきませんが・・・今は彼の言葉が聞きたいです。

 

「五月・・・お前は本当に・・・バカ不器用だな!」

 

「なあぁ⁉」

 

さ、最後の最後でそれですかぁ⁉

 

「1問に時間かけすぎて、最後まで解けてねぇじゃねぇか!」

 

う・・・それは・・・自覚してます・・・。

 

「・・・反省点ではあります」

 

「自分で理解してるならいい。次からは気をつけろよ?」

 

それはわかっています。でも、上杉君には家庭教師としての次は・・・

 

プルルルルッ

 

そう考えていた時、私のスマホに電話がかかってきました。相手は当然、お父さんです。

 

「父です」

 

私は上杉君にスマホを渡し、上杉君は父に電話を入れます。

 

「はい。上杉です」

 

≪ああ、五月君と一緒にいたのか。ここに聞いていこうと思ったが、君の口から聞こうか≫

 

「はい」

 

≪嘘はわかるからね≫

 

「つきませんよ。ただ・・・次からこいつらには、もっといい家庭教師をつけてやってください」

 

≪ということは・・・試験の結果は・・・≫

 

上杉君が私たちの結果を口にしようとした時、二乃が上杉君からスマホを取り上げ電話を替わりました。二乃・・・?いったい何を・・・

 

「え?」

 

「パパ、二乃だけど1つ聞いていい?なんでこんな条件出したの?」

 

≪僕にも娘を預ける親としての責任がある。彼が君たちに相応しいのか図らせてもらっただけだよ≫

 

「アタシ達ためってわけね。ありがとう、パパ。でも・・・ふさわしいかどうかなんて、数字だけじゃわからないわ」

 

≪それが1番の判断基準だ≫

 

「・・・あっそ。じゃあ教えてあげる」

 

二乃は私たち5人に視線を向け、驚くべきことを口にしました。

 

「アタシ達6人で6科目の赤点を回避したわ!」

 

え⁉私たちが6科目の赤点を回避・・・⁉

 

「なっ⁉」

 

≪本当かい?≫

 

「嘘じゃないわ」

 

≪・・・二乃君が言うのなら、間違いはないんだろうね。これからも上杉君と励むといい≫

 

話が終わったようで二乃は通話を切りました。

 

「二乃、今のは・・・⁉」

 

「私は英語、一花は数学、三玖は歴史、四葉は国語、五月は理科、六海は地理。6人で6科目クリア。嘘はついてないわ」

 

て、そういうことですか・・・。焦っちゃいましたよ・・・。

 

「そんなのありかよ・・・」

 

「・・・結果的にパパを騙すことになった。多分二度と通用しない。・・・次は実現させなさい」

 

二乃・・・。二乃も少しだけ、ほんの少しだけですが、上杉君を認めてくれたみたいですね。

 

「・・・やってやるよ」

 

二乃からチャンスを与えられた上杉君はやる気を見せています。

 

「ちょっとー、今の何の話?」

 

「私、いつの間に6科目合格してたんですか⁉なんでー⁉」

 

「赤点回避の意味、気づいてないの四葉ちゃんだけだと思うよ・・・」

 

事情を何も知らないみんなは疑問形を抱いてます。四葉は違う意味で戸惑っていますが・・・。

 

「三玖、安心してください。彼とはもう少し長い付き合いになりそうです」

 

二乃の機転のおかげで解雇にならずに済み、三玖はほっとしています。かくいう、私も、ほんのちょっとだけ、ほっとしてます。

 

「はいはーい!じゃあこのまま復習しちゃいましょー!」

 

「え!普通に嫌だけど・・・」

 

「二乃ちゃーん、逃げないのー」

 

「・・・そうだな。試験が返却された後の勉強が1番大切だ。だが、直後じゃなくてもいいな」

 

え?今からやる気を出していたのに、どうしたんですか?

 

「・・・ご褒美、だっけか?パフェ、とか言ってただろ?」

 

・・・・・・ふえ?上杉君が自分からご褒美・・・パフェ・・・?

 

「「「「「「・・・ぷっ!あははははは!!」」」」」」

 

「なぜ笑う!!」

 

「だって・・・勉強魔人の風太郎君が・・・パフェって・・・あははは、お腹痛い!」

 

「超絶似合わないわ!あははは!」

 

まさか上杉君がそんなこと言うなんて思いもしませんでした。あー、笑ったぁ・・・。

 

「じゃあ私は・・・特盛で!」

 

「え・・・そんなのあるの・・・?」

 

常識を知らなさすぎるんですよ、上杉君は。

 

「駅前のファミレスでいいよね」

 

「よし!6人で6科目だから・・・1人前だけだな!」

 

「うわー・・・せこー・・・」

 

上杉君の解雇問題もなくなり、ひとまずは安心ですね。明日からまた・・・変わらない日常に心地いいひと風が吹くのですね。

 

「そういえば上杉さんは何点だったんですかー?」

 

「あ!やめろ!見るな!」

 

「え⁉ぜ、全部100点!!?」

 

「あーー!!めっちゃ恥ずかしい!!」

 

「また意地悪風太郎君が出たー」

 

「その流れ、気に入ってるのですか?」

 

その流れだけは変わっていてほしいとこの時強く思ってしまいました。

 

09「噓つき嘘たろう」

 

つづく




六つ子豆知識

『六つ子の得意科目は?』

一花「私は数学!」

二乃「英語よ」

三玖「歴史」

四葉「国語!」

五月「理科です」

六海「地理ー!六海たち6人揃えば・・・」

六つ子「赤点回避シスターズ!!」

風太郎「おい、何現実から目を逸らして・・・」

六つ子「赤点回避シスターズ!!」

六つ子豆知識、今話分終わり

次回、四葉視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人好きのお人好し

「六海ー!ほら、早く早くー!これさえ走ればもう終わりだからねー!」

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・よ、四葉ちゃん・・・は、早すぎ・・・もうちょっとスピード落として・・・ぜぇ・・・」

 

私、中野四葉は2番目の妹の六海と一緒に渡しおすすめのランニングスポットでジョギングを行っています!え?なんでこんなことやってるのかですって?よくぞ聞いてくれました!体力づくりは、もちろんのこと、六海に頼まれたからです!回想はこちら!

 

『ねぇ、四葉ちゃん、ちょっといい?』

 

『六海?うん、いいよ。どうしたの?』

 

『六海ねー、体力をつけたいんだけど・・・どうすればいいの?』

 

『ふんふんなるほど・・・大丈夫!私に任せて!』

 

本当にうれしかった。あの体力が絶望的な六海が体力をつけようとしてること、それで私に頼ってくれていることが。そういう経緯もあって私は六海の体力を底上げしようとジョギング中です!

 

「もー!そんなところで立ち止まってると、上杉さんの授業に遅れちゃうよー!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・そんなこと言ったって、今日の参加者は六海たちと三玖ちゃんでしょ?一花ちゃんはお仕事、二乃ちゃんと五月ちゃんは参加の意思なし・・・遅れてもいいんじゃないの?」

 

「ダメー!そもそも体力づくりを頼んだのは六海なんだからしっかりしてよー!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・もう無理・・・きつい・・・」

 

う~ん、今の六海じゃ体力はもう持たないだろうし・・・しょうがないなぁ・・・。私は体力の限界が近い六海を背負って家まで走っていきます。

 

「今日の分はここまで!さ、お家に帰ろう!」

 

「え・・・待って・・・今、今日の分って言った・・・?」

 

「当然だよ!今日やっただけじゃ体力はつかないよ!明日もこのコースをやるからね!」

 

「ひ・・・ひぃ~・・・」

 

六海を担いだ時の六海の問いかけに私が答えた時、六海はかわいらしい悲鳴を上げました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ジョギングを終え、私たちはシャワーを浴びた後、私服に着替えて疲れをいやすためにリビングでのんびりしています。やっぱり体を動かすのは楽しいな。

 

「んーー!楽しかったー!ね、六海!」

 

「ちっとも楽しくないよ!六海にとっては地獄の時間だったよ!これなら絵を描いてた方が何倍も有意義だったよ!」

 

あれれー?六海はあまり楽しくなかったみたい。でも地獄は言いすぎじゃないかなー?

 

「あははー、ごめんごめん。次からは休憩多めに取らせてあげるからね」

 

「・・・六海、もう四葉ちゃんとジョギングしない。自分のペースで体力つけるもん」

 

「ええー!!」

 

それはなんかショック!せっかくお姉ちゃんとして頼ってもらえてるのにー!

 

ピンポーンッ

 

私が悲しい気持ちを抱いているとピンポンの音が聞こえてきました。きっと上杉さんが来た合図だ。今六海は立つこともままならないから私が代わりにインターホンに出ます。

 

「あ!上杉さん、いらっしゃーい!こっちは準備万端です!いつでもどうぞー!」

 

オートロックを解除させて、後は上杉さんを待つだけ。さあ、今日もがんばろー!

 

「あ、そうだ四葉ちゃん。前からずっと疑問だったこと聞いていい?」

 

「どうしたの?私に答えられることならなんでも聞いて!」

 

「四葉ちゃんはさ、なんで最初っから風太郎君の授業を受けたり、味方になったりしているの?六海たち、初めて風太郎君と会ったのは転校したての時だったんだし、そんな義理ないと思うんだけど・・・」

 

「!!!」

 

六海が何気ない質問に私は驚愕交じりに目を見開かせます。今でこそ上杉さんをそれなりに信用してる六海だけど、ずっとそのことが引っかかってたんだ・・・。私が・・・上杉さんを味方している理由・・・。その時私の脳裏に浮かび上がったのは、5年前に出会った金髪の男の子・・・。

 

「・・・それは・・・」

 

どうしよう・・・なんて答えよう・・・もういっそのこと全部話す?それとも・・・

 

「あ、四葉、六海、ちょうどいいところに」

 

私がなんて答えようか悩んでいると、キッチンの奥から三玖が出てきました。

 

「み、三玖!どうしたの?」

 

「ちょっとまた料理に挑戦してみた。味見してみて」

 

三玖の作った料理かー。そういえば三玖は料理を作るのが好きなんだったね。出来栄えはちょっといまいちだけど・・・。

 

「え・・・やだよ。六海、もうあれ食べたくないよ」

 

どうやら六海は前に三玖の料理を食べたことがあるらしく、苦い顔をして拒否してます。そんなにあれだったのかな?

 

「大丈夫。今回は自信ある。六海にリベンジする」

 

「えー・・・」

 

三玖の言葉にたいして六海はまだ顔を歪ませてますね。

 

「私は全然大丈夫だよ!作った料理をここに持ってきて!」

 

「うん。わかった」

 

私の言葉に三玖は少しうれしそうにしながらキッチンに向かっていった。一方の六海はというと私にジト目を向けてきている。

 

「・・・四葉ちゃん、さっきのしつ・・・」

 

「み、三玖が作った料理ってなんだろう!楽しみだねー!」

 

「・・・逃げた」

 

逃げてないよ。心の整理が追い付かないだけだよ。少しだけ待っていると、キッチンから三玖が料理を持って出てきました。私たちの前に置かれた料理は・・・黒い塊のようなものでした。

 

「「・・・何これ?」」

 

「コロッケ」

 

コロッケ?コロッケってあれだよね?茶色くて食べるとじゃがいもの味が広がってサクサクした食感のする食べ物のことだよね?

 

「石じゃなくて?」

 

「炭じゃなくて?」

 

「味は自信ある。食べてみて」

 

このコロッケ?を見て私と六海はお互いに顔を見合わせます。うーん、せっかく三玖が作ってくれたんだし、食べないと失礼だよね。

 

「・・・じゃあ食べるよ?」

 

「い、いただきます・・・」

 

「おはぎ作ったのか?いただき」

 

「あっ・・・!!」

 

私と六海、いつの間にかリビングにやってきた上杉さんは三玖の作ったコロッケ?を一口食べます。・・・うーん、確かにコロッケって言われればそうとも取れるけど・・・なんか、炭の味が強くて口に合わない・・・。

 

「コロッケか!普通にうまい!」

 

「炭の味がきつすぎるよー!」

 

「あんまりおいしくない!」

 

六海は正直な感想を言っているけど、上杉さんは私たちとは反対の感想を言ってますね。そういえば二乃が言ってたっけ。上杉さんは貧乏舌だって。

 

「なんだ、四葉と六海はグルメなんだな。わがままな奴らめ」

 

「上杉さんが味音痴なだけですよ!アンチ!アンチ!」

 

「そうだよ!おかしいのは風太郎君の味覚だよ!アンチ!アンチ!」

 

「どっち・・・?」

 

まったく、こんなに炭の味が強いものをおいしいだなんて・・・上杉さんにはちょっと同情しますよ。

 

「じゃあそれでいいよ。そしたら試験の復習を・・・」

 

「待って」

 

上杉さんが試験の復習を始めようとした時、三玖がストップをかけました。

 

「・・・完璧においしくなるまで作るから・・・食べて」

 

「「「え?」」」

 

この後私たちはお腹いっぱいになるまで三玖に無理やりコロッケ?を食べさせられました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖の作ったコロッケ?で1番の被害にあっているのは上杉さんでした。私も六海はお腹いっぱいの状態になっているだけマシといえましょう。上杉さんにいたってはお腹を壊してしまっていますから被害が大きいです。

 

「風太郎君、お腹大丈夫ー?」

 

「三玖がすぐにお薬買ってきますか安静にしててくださいねー」

 

「・・・くっ・・・せっかくの家庭教師の日だってのに不覚・・・」

 

私たちの脳裏に浮かび上がったのは三玖にコロッケ?を食べさせられる光景だった。

 

『次、これ食べて』

 

『い、いや、三玖・・・これもうまいんだし、もういいだろ?』

 

『ダメ。せめて四葉と六海がおいしいっていうまで・・・』

 

『『ひぃ~・・・』』

 

「倒れるまで食べさせられるとは思わなかったぞ」

 

「六海お腹いっぱーい・・・」

 

「私もお腹ぱんぱんです・・・」

 

まさか私たちがおいしいって言うまで食べさせらるなんて思わなかったです・・・。まぁ、その前に上杉さんがお腹を壊してコロッケ?地獄からは解放されましたけど。

 

「お前らが文句言い続けたせいだ!俺は本当にうまいと思ったが、嘘も方便だろ!」

 

「六海たちが嘘ついたって意味ないもん!」

 

「そうですよ!だって私たちの嘘は三玖に気付かれますから!」

 

六海は嘘をつくとき必ず表現や顔に現れることがあるからわかりやすいんですけど、私の嘘もなぜか三玖に気付かれてしまうので嘘をつくより本当のことを言った方が事なきを得ると思ったんですけど・・・現実はそうはなりませんでした。

 

「はぁ・・・好きな味とでも言っておけば誤魔化せるだろ?」

 

「好きな味・・・!確かにそれなら少しは誤魔化せるかも!」

 

「なるほど、勉強になります!上杉さん、ありがとうございます!」

 

いつも嘘がばれる私にとっては朗報です!次に三玖の料理の味見を頼まれたらそう言おう!

 

「はぁ・・・そんなこと教えるために来たんじゃないんだけどな・・・」

 

上杉さんがそんなことを言って嘆いています。あはは、すみません。

 

「あれー?人ん家でのんきにお昼寝ですかー?薬でも盛られたのかしらー?」

 

するとそこに偶然二乃と五月がやってきました。二乃は上杉さんに挑発的な言動を放っています。

 

「二乃・・・五月・・・。皮肉なもんで今日は逆に薬が欲しいくらいだ・・・」

 

「ふーん。どうでもいいけど。行くわよ、五月。ランチに遅れちゃう」

 

「え、ええ・・・」

 

「あ、二乃ちゃん五月ちゃん、外で食事するなら帰りにおみやげ買って来てー!」

 

「はあ?おみやげー?外でっていっても近場なんだけど・・・」

 

「まぁいいじゃないですかそれくらい。カプセルチョコのお詫びもしたいので」

 

二乃と五月は六海と話しながら外へ出ようとします。そういえばもう昼食の時間だっけ・・・私たちはコロッケ?でお腹いっぱいなったからいらないけど・・・。

 

「四葉、四葉!」

 

「はい、何でしょう、上杉さん?」

 

私が2人を見ていると、上杉さんに声をかけられました。

 

「そろそろ二乃や五月にも勉強させてやりたい!次の試験まで1日も無駄にしたくない!だが、六海は見ての通りで止める気配がない!だから四葉、とりあえずお前が何とかして引き留めてくれ!」

 

「えぇっ⁉ど、どうしましょう・・・。正直、自信ないですよー」

 

「嘘でもなんでもつけばいいんだよ!」

 

!嘘をついて2人を引き留める・・・!

 

「わかりました!やってみます!」

 

正直三玖に嘘を見抜かれてるから私にできるか自信ないですが・・・上杉さんのために頑張らないと!

 

「わかったわかった、なんかよさそうなものを・・・」

 

「二乃、五月、待って!」

 

「「?」」

 

私はとりあえず2人を呼び止めてここで渾身の嘘をつきます!

 

「見ての通り、上杉さんが重い病に侵されたんだよ!!看病してあげて!!」

 

「「え?」」

 

「重い・・・病・・・?」

 

(四葉・・・お前・・・嘘下手すぎんだろ!!)

 

どうですか、上杉さん!私の渾身の嘘は!なかなかの出来栄えでしょう!でも正直言って、バレるかどうかで汗がいっぱい出てきちゃってます・・・。

 

「本当ですか?それなら病院に行った方が・・・」

 

「そ・・・!それはできないかな!」

 

「はぁ?なんでよ?」

 

「動くと死んじゃう病気らしいよ!!」

 

この嘘は自分でも何を言ってるかわかりません。それほどまでにてんぱっちゃってます。

 

「えー?そんな奇病聞いたことないけど・・・て、ちょっと待って。病気っていうのおかしくない?」

 

「え⁉な、何が⁉」

 

「だってお腹壊す前までは風太郎君、ばっちり動いてたじゃん」

 

「ええ?」

 

し、しまったーーー!!六海は今日ずっと私と一緒にいるんだからさっきのが私の嘘だっていうのがわかってしまう!!

 

「ちょっと四葉、どういうこと?」

 

「えーっと、えーーっと・・・」

 

何か、何か他に何か嘘は・・・あ!そうだ!!

 

「も、もしかしたら、中っちゃったのかな⁉」

 

「中る?」

 

「ほら!あそこにあるコロッケできっとやられちゃったんだよ!」

 

「あれのどこがコロッケよ!!」

 

その反応は当然だと思う。だって私も最初は石だと思っちゃったし。

 

「え・・・何それ・・・怖すぎるよ・・・」

 

「わ、私たちはきっと運がよかったんだね!いやー、中らなくてよかったー!」

 

「・・・ますます怪しいですね・・・」

 

や、やばい・・・この嘘は無理ありすぎたかも・・・3人の疑いの目が強くなってる・・・ここで一芝居打たないとばれちゃう・・・けど・・・どうすれば・・・

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

私がどうすべきか悩んでいると、上杉さんが急に咳ごみました。

 

「あぁ・・・やべっ・・・少し動いて死にかけたぜ・・・」

 

上杉さんを見てみますと口元に血らしき液体がありました。

 

「うわわっ!ふ、風太郎君!大丈夫⁉」

 

「な、何をしてるんですか⁉安静にしててください!」

 

五月と六海は上杉さんを心配そうに駆け寄ってきました。そして私は見逃しませんでした。上杉さんが3人に見つからないように何かを投げたのを。これは、ケチャップですね。なるほど!これで血に見せかけたんですね!上杉さん、ナイス演技です!

 

「・・・ま、弱ってるってのは本当みたいね。でも五月と六海がいれば十分でしょ。後は薬飲んで寝れば治るわよ」

 

な、何とか病気にかかってるって嘘を信じてくれたけど・・・二乃が外に出たらこの嘘は意味なくなっちゃう!引き留めないと・・・!

 

「ほ、ほら二乃!お昼ならコロッケがあるよ⁉」

 

「それで病気になったってさっき言わなかった⁉」

 

う・・・そうだった・・・!ええっと・・・二乃を引き留める方法・・・引き留める方法・・・お昼・・・そうだ!

 

「二乃は料理上手でしょ⁉お粥作ってあげなよ!」

 

上杉さん、お腹いっぱいで困ってるところすみません!!でも二乃を止めるにはこれしか・・・!・・・て、二乃がこっちをじっと見てる・・・。

 

「・・・そのくらいわけないわ。卵入ってるやつでいいわね?」

 

「あ・・・ああ・・・頼む・・・」

 

よし!何とか二乃を引き留めることに成功!二乃はお粥を作りにキッチンへ入っていき、その様子を上杉さんは若干困ったような表情をしてみています。本当、ごめんなさい、上杉さん!

 

「あなたがそんな重い病を患ってしまったなんて知りませんでした・・・」

 

「下手したら六海もこうなってたってこと?うわぁ・・・今度試食する時気をつけないと・・・」

 

うまく騙すことに成功した五月と六海は上杉さんを心配そうに見つめてます。なんか、心が痛む・・・。

 

「四葉、私たちにできることはありますか?」

 

えっ⁉この状況で五月と六海にできること⁉えーっと、えーーっと・・・何があるんだろう・・・⁉あ!そうだ!!思い出した!!

 

「手でも握ってあげたらどうかな!!?」

 

「「「!!??」」」

 

「ほら、小さい頃寝込んだ時にお母さんがよくしてくれたでしょ?よくなるおまじないだって!」

 

私の出した名案に五月は拒否を示しています。

 

「嫌です!それとこれとは話が違います!!」

 

「四葉、お前もうしゃべんな・・・あ・・・いててて・・・!」

 

「だ、大丈夫ですか⁉」

 

上杉さんが少し起き上がろうとした時、腹痛で少し痛がっています。やっぱり心配になってきますよ。

 

「わかった!それで風太郎君が元気なるなら喜んでやるよ!」

 

「六海⁉」

 

「は?」

 

上杉さんの様子を見て六海は上杉さんに手を握ろうとしますが途中で戸惑っています。しかも心なしかプルプル震えているような・・・。

 

「・・・やっぱり無理だよー!!五月ちゃん、代わってーー!!」

 

「ええ⁉私ですか⁉」

 

「お前まだ俺を嫌っていたのか・・・」

 

やっぱり上杉さんを心の奥底までは信用しきってない六海は限界が来て五月に交代を申し出ました。ここでもっと仲良くなってほしいのに・・・。

 

「し、仕方ありませんね・・・あくまで病気を治すため・・・治すためです・・・」

 

「え?」

 

今度は五月が上杉さんに触れようとしますが・・・さっきの六海と同じ反応で触れようともしません。

 

「・・・くっ・・・!やっぱ無理ぃ・・・!」

 

「よほど俺のことが嫌いのようだな」

 

まだ上杉さんに思うところがあるのか五月は上杉さんの手を触れずにいました。何というか・・・うまく言葉にできませんが・・・このままじゃダメだと思う!

 

「やっぱり仲良しの方がいいよ!五月も一緒に勉強しよ!」

 

「えぇ?」

 

「これからは一緒に上杉さんの授業を受けようよ!6人一緒の方が絶対楽しいよ!」

 

不思議なことに私が今抱いている気持ちは嘘をつくときよりもすらすらと言えました。やっぱり私は下手に嘘をつくより、思うがまま、素直に言葉にした方が1番あってます!

 

「・・・考えてみます」

 

五月の言葉に六海はパーッと顔が笑顔に満ち溢れています。五月の授業参加を誰よりも望んでいるのは六海だから誰よりもうれしいんだろうね。

 

「はーい、お粥できたわよー。ごはんが残ってて助かったわ」

 

と思っている間に二乃が出来上がったお粥を持ってこちらにやってきました。さて二乃にも説得・・・

 

ぐしっ

 

「あ」

 

と思っていたら二乃は足元にあったケチャップの容器を踏んづけてしまい、転んでしまいました。そしてそのまま手に持っていたお粥のお盆が飛んでいき・・・お米が上杉さんの頬に直撃しました。

 

「あっっっっっっっ!!!???熱いだろ!!!!!」

 

上杉さんはお粥のあまりの熱さで勢いよく立ち上がり、地団太を踏んでいます。

 

「ご・・・ごめん・・・大丈・・・」

 

「て、あれ?普通に動いてる?」

 

「・・・あ」

 

・・・あ。私は今までなんて言ったっけ。上杉さんは動くと死んじゃう病気にかかってるといった。そして今、上杉さんは動いています・・・それは当然・・・。

 

「・・・は、ははは・・・直ったみたい・・・」

 

嘘がばれてしまいました。今の二乃と五月と六海の顔は怒りで染め上がっています。

 

「私たちを騙したんですね!!最低です!!」

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

「バカー!!最悪!!信じらんない!!噓つき嘘太郎!!」

 

二乃と五月は怒ってそのまま外へ出ていき、六海は部屋に戻っていきました。扉を閉める際の音がめちゃくちゃ大きかったです。

 

「・・・結局、2人だけになっちまったな・・・」

 

「あはは・・・すみません」

 

「はぁ・・・これじゃあ試験前と同じだ」

 

2人だけになってしまったリビングで上杉さんがそんなことを言ってました。同じ、ではないと思いますが・・・。

 

「そうでしょうか?」

 

「え?」

 

「気づきませんでした?上杉さんがうちにいるのに、二乃が追い出そうとしなかったんです」

 

「ああ、それか。・・・たまたまだろ」

 

いいえ、たまたまなんかじゃありませんよ。それは確信をもって言えます。

 

「二乃や五月だけでなく、一花も三玖、六海も変わっているのがわかります。成長してないのは私くらいですよー。テストの点数も悪いままですし、えへへ・・・」

 

「・・・そんなことないだろ?」

 

・・・え?

 

「お前が最初に変わってくれたんだ。まっすぐ素直な奴が1人でもいて助かったんだぜ」

 

上杉さん・・・私のことをそう思ってくれていたなんて・・・。

 

「・・・て、少し褒めすぎか。嘘もつけないほどまっすぐすぎて、今日は痛い目に、もとい熱い目にあったしな」

 

そんな上杉さんの言葉をよそに思い浮かべたのは、六海が言った言葉・・・

 

『四葉ちゃんはさ、なんで最初っから風太郎君の授業を受けたり、味方になったりしているの?』

 

そしてもう1つ・・・5年前、あなた(・・・)にお会いした日のこと・・・。

 

「・・・何で上杉さんの味方をしてるかわかりますか?」

 

「?なんだそれ?成績を上げたいからだろ?」

 

「・・・違いますよ」

 

上杉さん・・・

 

・・・・・・風太郎君(・・・・)・・・

 

私は・・・あなたのことが・・・

 

「・・・好きだから」

 

学校の食堂で、あなたに出会えたこと・・・本当にうれしかった・・・胸が張り裂けそうなくらいに・・・。

 

「・・・え?は?ちょ・・・?」

 

願うなら、今この時間がずっと続けばいい・・・そう、このまま2人の時間を・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・

 

ダメ。やっぱりこんなこと許されない・・・こんな気持ちは抱いちゃダメだ。だから私は・・・。

 

「嘘♪」

 

嘘をついて、自分の気持ちに蓋をする。

 

「やーい!引っかかりましたねー!私だってやればできるんでーす!」

 

私は上杉さんから離れて自分の部屋へ戻っていきます。

 

姉妹みんなのおかげで今の私が成り立ってるんだ。何も変われてない私が、上杉さん(・・・・・)にたいしてあんなことを思っていいはずがない・・・。だからこれでいいんだ・・・これで・・・。

 

「・・・もう誰も信用しない・・・」

 

何か上杉さんがそんなことを言ったのが聞こえてきたような・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「林間学校♪林間学校♪」

 

翌日の学校、私の気持ちはとてもうきうきしています!というのも、楽しみにしていた林間学校がもうすぐで始まるからです!楽しみだなー♪帰ったらしおりをちゃんと読まなきゃ!そんな気持ちを隠さずに図書室に入ります。あ、いたいた、上杉さんに三玖♪

 

「上杉さーん!もうすぐ林間学校ですよー♪」

 

「四葉か」

 

鬘を被った上杉さんがこちらを振り向くと・・・怖そうなピエロの顔が⁉

 

「うわああああ!!??」

 

「俺だ」

 

怖そうな顔になったと思いきや・・・あれはお面だったみたい・・・よかった・・・。

 

「上杉さん!」

 

「・・・」お面装着

 

「誰えええええ!!??」

 

「俺だ」お面外し

 

「よかったー・・・」

 

「・・・」装着

 

「誰ええええええ!!?」

 

「俺だ」外し

 

「うわあああああ!!?」

 

「・・・」装着

 

「助けてええええ!!!」

 

「図書室ではお静かに!」

 

「「すみません・・・」」

 

あのショートコントを大声でやったせいで図書委員に怒られちゃいました。反省・・・。ふと見てみると上杉さんの近くには怖そうなお面がいくつも入った段ボールがありました。

 

「その金髪の鬘、絶妙に似合ってますよ!こんなに仮装道具持ってきてどうしたんですか?」

 

「肝試しの実行委員になったんだって」

 

肝試しの実行委員といえば・・・林間学校の実行委員を決めるあれですか。ちなみに私はキャンプファイヤー係です!

 

「へぇ~、上杉さんが珍しく社交的ですね・・・」

 

「やりたくてやってるわけじゃない。うちのクラスは肝試しを担当してたらしいんだが・・・クラスの奴ら、俺が自習してる隙に面倒な役を押し付けらえたんだ」

 

あらら、ということはやりたくもない役をやらされたというわけですか・・・

 

「お気の毒に・・・」

 

「自業自得」

 

とびっきり怖がらせて、この恨み晴らしてやる・・・忘れられない夜にしてやるぜ・・・

 

「ノリノリだね」

 

無理に押し付けられたとはいえ、今の上杉さん、すごく生き生きしてます!

 

「同じクラスなのに五月は手伝ってくれなかったんだ」

 

「そうです!1人にやらせるのはひどいです!ちょっと1組に抗議してきます!」

 

「やめとけ。三玖の言うとおり、俺の自業自得だ」

 

私が1組に抗議しようとしたところに上杉さんがストップをかけました。でも・・・やっぱり納得がいかないです・・・。

 

「それに、林間学校自体がどうでもいいしな」

 

うーむ、それはそれでなんだか寂しい感じがします。

 

「では、林間学校が楽しみになる話をしましょう!クラスの友達に聞いたんですけど、この学校の林間学校には伝説があるのを知ってますか?」

 

「伝説?」

 

「最終日に行われるキャンプファイヤーのダンス。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは生涯添い遂げる縁で結ばれるというのです!」

 

ああ・・・聞いただけでもロマンが広がります!憧れちゃうな~・・・。

 

「非現実的だ。くだらないな」

 

「うん」

 

「冷めてる現代っ子!!キャンプファイヤーですよ⁉結びの縁ですよ⁉ロマンチックだと思いませんか⁉」

 

「・・・」

 

「ちっとも思わんな」

 

こんなにもロマンあふれる話なのに、三玖も上杉さんも無関心!高校生としてそれはダメだと思うのにー!

 

「さあ、もう勉強を始め・・・」

 

「やっほー♪」

 

上杉さんが勉強会開始の合図すると同時に一花がやってきました。

 

「一花、遅いぞ」

 

「何その恰好?」

 

「いいから。今日は数学だ」

 

「ごめーん。これから撮影が入ってるんだー」

 

どうやら一花はこの後お仕事みたいでそれを伝えるために来たみたいですね。

 

「それでね、そういうのを事前に伝えた方がいいと思って・・・はい」

 

そう言って一花はかばんの中からスマホを取り出し、上杉さんに見せます。

 

「え?何?くれるの?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

上杉さん・・・それはさすがにないですよ・・・。

 

「メアド交換しよってこと!」

 

「・・・メアドねぇ・・・。そういうの必要あるのか?」

 

上杉さんは必要ないだろといわんばかりの声でスマホを取り出し、一花とメアドを交換します!私はとってもいいアイディアだと思います!

 

「アドレス交換大賛成です!上杉さん!私もぜひ参加させてください!・・・あ、その前にこれ、終わらせちゃいますねー」

 

私は上杉さんにそう言って自分のかばんからいろんな色の折り紙を取り出し、鶴を折っていきます。

 

「はーい、登録完了♪」

 

「・・・四葉、一応聞くが、何やってんだ?」

 

「千羽鶴です!友達の友達が入院したので!」

 

「それほぼ赤の他人じゃねぇか!!勉強しろ!!」

 

私にとっては赤の他人じゃありません!それに頼まれたものでもありますし、断れませんよ!

 

「ちっ・・・半分よこせ!これ終わったら勉強するんだぞ!」

 

「はい!」

 

「あ、やってあげるんだ・・・」

 

「ふふ」

 

文句言いながらも手伝ってくれる上杉さん、本当に好きです!友達として!

 

「おお、中野・・・の四女」

 

「!先生」

 

私がちょうど何個目かの鶴を折り終えた時に、歴史の先生がやってきました。

 

「いいところにいた。このノート、みんなの机に配っておいてくれないか?」

 

「はーい!」

 

先生に頼まれ、私は大量あるノートを受け取ります。何度もお手数をおかけしてすみません、上杉さん。私、頼まれたら断れませんから!

 

「それじゃあ、行くね?」

 

「がんばって」

 

「一花、ファイトー!」

 

一花はそう言って図書室を後にしました。

 

「・・・ん?メール?・・・一花?・・・広められたくなければ、残り5人のアドレスをゲットすべし?・・・!!!??」

 

ちょうど上杉さんのスマホの着信が届いて、それを見た上杉さんはみるみる顔を青ざめています。え?何が書いてあったんでしょう?

 

「・・・いやー、やっぱ家庭教師としては⁉6人のメアド知っておかないとなー!!みんなのメアド知りたいなー!!」

 

よくわかりませんが、メアド交換に積極的になったのはうれしいです!ただ、なんかやけくそ気味になってません?

 

「協力してあげる」

 

上杉さんの言葉に三玖は自分のメアドを上杉さんに見せます。上杉さんはすぐに三玖のメアドを登録します。

 

「わーい、やったぜー(棒)。五月と二乃は今度でいいとして・・・六海の奴はまだ来ない・・・どこにいやがるんだ、あいつ・・・?」

 

「六海なら二乃と五月と一緒にお腹を満たしてから行くと言ってましたから、食堂にいます!さー、行きましょうー!」

 

「お、おい!お前のアドレスは・・・」

 

私は先に先生の頼まれごとを済ませてから二乃たちがいる食堂へ向かいます。上杉さんも後からついてきました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「お断りよ。お・こ・と・わ・り」

 

食堂には案の定に二乃と五月、六海がいましたが、メアドを聞こうにもやっぱり断れてしまいました。それにしても五月のパンもおいしそう。六海もおいしそうにちゅるちゅるとラーメンを啜ってます。

 

「教えるのはいいけど六海たちのメアドを聞いて得するの風太郎君だけじゃん。全然フェアじゃないよー」

 

「確かに、私たちにはあなたのアドレスを聞くメリットがありません」

 

「・・・想定してた通りの反応だな・・・」

 

あははー、3人の反応を見て上杉さんは少し渋い顔をしてます。

 

「だが!これならどうだ!今なら俺のアドレスに加えて、らいはのアドレスもセット!お値段も据え置きお買い得だ!」

 

ら、らいはちゃんのアドレスですってー⁉それを交渉材料に使うなんてそれこそフェアじゃないです!私だってほしいです!

 

「・・・背に腹は代えられません」

 

「よし」

 

「身内を売るなんて卑怯よ!」

 

らいはちゃんのアドレスが欲しい五月は上杉さんにメアドを教えます。五月、後で私にもらいはちゃんのアドレス教えてね。

 

「忘れたの、風太郎君?六海はらいはちゃんと約束できるほどの仲なんだよ?当然らいはちゃんのメアドは持ってるんだよー♪」

 

う、羨ましい・・・!

 

「あー、そう。お前はメアドを教える気がないと」

 

「教えないとは言ってないよ?六海のメアドが欲しいなら高級スイーツはもらわないとねー♪」

 

「そうか、交渉決裂だな」

 

六海の要求を上杉さんは即答で答えた瞬間、六海は勝ち誇った顔をしています。

 

「なら仕方ない・・・周りが幻滅してしまうお前の恥ずかしい秘密をここで大暴露するしかないな。それも、とびっきり大声でな」

 

「んなあああ!!?」

 

う、上杉さん!それ単なる脅しですよ⁉秘密は確かに気になりますけど・・・そうまでして知りたくありません!

 

おーい!!中野六海は禁・・・

 

「わーー!!わーー!!教える!!メアド教えるからそれだけはやめてー!!」

 

「よし」

 

よし、じゃないですよ!有言実行しかけてるじゃないですか!見損ないましたよ上杉さん!

 

「うっわ、サイテー」

 

「卑怯者です!」

 

「見損ないました!」

 

「六海は汚されてしまいました・・・」

 

「何とでもいえ。後六海、誤解を招く言い方はやめろ」

 

私たちの軽蔑に上杉さんはどこ吹く風といった様子で六海のメールアドレスを登録してます。

 

「二乃は教えてくれないのか?」

 

「当たり前よ」

 

「そうか。なら仕方ない。では、お前抜きで話すとしよう。俺と5人で内緒の話をな」

 

「・・・・・・か、書くものをよこしなさい」

 

「よし。なら俺の生徒手帳を使え」

 

どこまでもゲスい発言をしている上杉さんは二乃に生徒手帳を渡し、二乃は手帳に自分のメアドを書きます。まぁ、何はともあれ・・・

 

「これで全員分揃いましたね!」

 

「何言ってんだ?後1人いるだろ?」

 

え?後1人?他に誰かいましたっけ?えっと、一花、五月、三玖、六海、二乃・・・。

 

「ああああ!!四葉!!私です!!」

 

「やっぱこいつただのアホだ」

 

あ、アホとは心外な!ちょっとド忘れしただけですのに!

 

「こちらが私のアドレスです!」

 

「・・・電話来てるぞ」

 

「え?・・・あ・・・」

 

私が自分のメアドを見せたと同時に着信が鳴りました。相手は・・・バスケ部の部長さんからでした。

 

「バスケ部からって・・・まさかお前、まだ連中と・・・」

 

「あ・・・ああ・・・私、まだ1つ頼まれごとがあったんでしたー。それじゃー、上杉さーん、失礼しますねー」

 

上杉さんに変に質問される前に私は変に嘘をついてこの場を後にしました。ごめんなさい、上杉さん。でもこの問題は、私が解決しないといけないことなんです。

 

♡♡♡♡♡♡

 

バスケ部の部長さんの電話の後、私はすぐさま部室棟にあるバスケ部の部室に向かっています。電話の内容はバスケ部の入部の件でした。

 

実は先日・・・バスケ部の臨時メンバーとしてバスケの試合に参加していた時、そのバスケ部の部長さんから正式に入部しないかと勧められてきました。当初は断ることもできず、とりあえず保留という形にしましたが・・・今日はきちんと答えを持ってきました。と、部室につきましたね。とりあえず扉を開けてご挨拶。

 

「皆さーん、お疲れ様です!」

 

「中野さん!この間はありがとね!」

 

「いえいえ!お役に立てて何よりです!」

 

骨折で抜けてしまっていたメンバーもすっかり回復したようで何よりです!

 

「それで、中野さん。入部の件、考えてくれた?」

 

来た!私の答えは、もう決まっています。

 

「はい!誘ってもらえてうれしいです!」

 

「よかったー!それじゃあ・・・」

 

「でも・・・ごめんなさい。お断りさせてください」

 

私は誠意をもってバスケ部の皆さんに頭を下げて謝罪します。バスケ部の皆さんに残念な気持ちにさせてしまうのは心苦しいですけど・・・これが私の気持ちです。

 

「バスケ部の皆さんが大変なのは重々承知の上ですが・・・放課後は大切な約束があるんです」

 

『・・・・・・』

 

「も、もちろん、試合の助っ人なら、いつでもOKですので!」

 

バスケ部の皆さんは私の気持ちを聞いた後、少し残念そうな笑みを浮かべます。

 

「そっか・・・なら、仕方ないね。せっかくの才能がもったいない気もするけど・・・」

 

いいえ、私には何の才能もありません。それは私の中間試験の点数が物語っています。ただ・・・

 

「才能がない私を・・・応援してくれる人がいるんです」

 

いつも文句を言いながらも、私たちのことをしっかりと見てくださっている上杉さんの期待に応えたい・・・だから私だけつまずくわけにもいかない・・・それが私の気持ちなんです。

 

「では、失礼します」

 

私はバスケ部の皆さんに笑顔で見送られながら、部室のドアを閉めます。ふぅ・・・これで少し荷が軽くなりました。私が図書室に向かおうとしますと、なんと上杉さんがいました!

 

「ぬわっ⁉う、上杉さん⁉なぜここに⁉」

 

「・・・図書室に行くところだ」

 

図書室にですか?図書室は部室棟の全く真逆のはずだったんですが・・・おっかしーなぁ・・・構内図があってないのかな?

 

「用事は終わったか?これからもしごいてやるから覚悟しろ」

 

そう言って上杉さんは部室棟から去っていきました。あはは・・・やっぱり嘘がばれてましたか・・・。敵わないなぁ・・・。

 

「はい!覚悟しました!」

 

上杉さんもああいってるんです!私も頑張らないと!そんな気持ちを抱きながら家まで帰宅します。なんでって?閉門の時間が迫っているからです。

 

♡♡♡♡♡♡

 

家に戻った後、私は今日の晩御飯を取りながら今日起こった出来事をみんなに話します。

 

「って、ことが今日あってねー」

 

「だから遅かったんだね」

 

「図書室に行ってみたら三玖ちゃん、心配してたんだよ。ね♪」

 

「べ、別に・・・」

 

あはは、心配かけてごめんね、三玖。ちょっと申し訳なくしていると私のスマホから上杉さんのメールが届きました。

 

「フータローからだ」

 

「私も!」

 

「六海もきてる!」

 

「一斉送信でしょうか?」

 

「あはは、上杉さんったら、メアド交換したからって浮かれちゃって・・・」

 

そんなことを思いながらメールを確認してみたら私の想像とは裏腹に、参考書とかに乗ってる問題集がいっぱいありました。

 

『これ全部宿題な』

 

・・・やっぱり断った方がよかったね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「信じられない!!こんな朝から乙女の部屋に無断に入るなんて!!」

 

「私が許可した」

 

「あんたに何の権利があるのよ!」

 

「朝からすごい悲鳴だったねー」

 

翌日の朝、私が目覚めてリビングに向かっていると、すでに二乃と三玖、六海が起きていました。

 

「また問題を起こしたのですか、この男は」

 

「朝ごはん食べていきますかー?」

 

二乃、三玖、六海の視線にはなぜか正座をさせられている上杉さんがいました。

 

「俺が悪かった。一刻も早く生徒手帳を返してほしかっただけなんだ」

 

生徒手帳?あ、そういえばあの時自分の生徒手帳を二乃に渡してましたね。ということは返してもらうのを忘れてしまったんですね!意外と上杉さんってドジですね!

 

「やけに素直ね。何かこれに隠してるんじゃないの?」

 

二乃が上杉さんに問い詰めていると、一花が下りてきました。

 

「おはよ、フータロー君。二乃、これ。昨日言ってたもの」

 

一花が机に置いたのは、耳に穴をあけるための道具、ピアッサーでした。

 

「1人でできる?」

 

「で、できるって言ってるでしょ!バカにしないで!」

 

二乃はそう言ってるけど私は知ってるよ。二乃は痛いのが来るのが怖いんだって。そう思ってると上杉さんはこっそりと二乃から生徒手帳を取り戻そうとしますけど、二乃の視線に気づいて元の姿勢に戻りました。

 

「・・・返してほしかったらついてきなさい」

 

「・・・え?」

 

二乃は上杉さんの生徒手帳を持って自分の部屋に持っていきます。上杉さんはわけもわからずに二乃についていきます。

 

「・・・ねぇねぇ、あの道具何?」

 

「あれはピアッサーって言ってね、ほら、私の耳についてるピアス、あるでしょ?これをつけるために耳に穴をあける道具だよ」

 

ピアッサーの存在を知らない六海は一花が説明する。すると六海は少し難しい顔になる。

 

「・・・ピアスって不良さんのアイテムじゃないの?」

 

「六海の不良の印象って何なんですか・・・?」

 

ちょっとずれた認識を持っている六海に五月は苦笑してます。

 

「そんなことないよ。それに、ほら。花嫁さんだってこういうピアス、つけるんだしさ」

 

「!!!花嫁さん!」

 

花嫁さんの単語に六海の目はきらきらとさせます。

 

「六海、耳に穴開けてピアスつけたい!」

 

「え⁉六海、本気⁉」

 

六海の発言に私は非常に驚いています。

 

「六海もきれいになりたーい!」

 

「でも、あれ痛いんじゃないの?」

 

「うん。痛いよ。でも最初だけだし、大丈夫なんじゃない?」

 

「え・・・痛いの・・・?」

 

ピアッサーを使えば耳が痛くなると聞いた瞬間、六海は顔を青ざめていきます。

 

「や・・・やっぱり、六海にピアスはない、かなー?」

 

「六海にはまだ早すぎたかー。まだまだ、お子様ってわけだ」

 

一花と六海のやり取りに私たちは笑いながらテーブルの席に座り、朝食にありつきます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

朝食を食べ終えた後はいったん部屋に戻って制服に着替えて後は二乃と上杉さんを待つだけです。みんなもすでに準備を終え、各各々で暇をつぶしています。そうしていると、二乃が降りてきました。

 

「二乃、終わった?」

 

「・・・よく考えたら、焦る必要なかったわ。少なくとも、花嫁衣裳を着るまでに開けられればね」

 

あ、結局耳に穴開けなかったんだ。そして二乃の言葉に六海はビクッとなってます。

 

「あ、それより!この写真見てみて!」

 

二乃が取り出したのは・・・わあ!私たちが小学生の頃のアルバムだぁ!!懐かしいなぁ~・・・。

 

「あ!これ!6人の写真だぁ!みんなかわいいね!」

 

「これいつのころの写真だっけ?」

 

「6年生」

 

「5年前っていったら、京都の修学旅行の時だったね!」

 

「懐かしー!この時はまだ六海はメガネかけてなかったわね!」

 

「私たちもずいぶん雰囲気が変わりましたね」

 

アルバムの中の写真には5年前の修学旅行で撮った私たち6姉妹の写真がありました。この時はみんな、何もかもがそっくりで・・・本当に、懐かしいなぁ~・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『始まりの写真』

 

六つ子が思い出アルバムで華を咲かせている中、風太郎は何とか二乃から生徒手帳を返してもらい、この中に入ってある写真を取り出す。その写真には金髪の少年、かつての風太郎が写っていた。風太郎がどうしても生徒手帳を返してほしかったのはこの写真を見られたくなかったからだ。

 

(・・・二乃には俺の写真を見られちまったが・・・半分だけでよかった・・・)

 

風太郎が取り出した写真には折り目がついてあり、もう半分が隠れていた。

 

(5年前か・・・少し色あせてきたな・・・)

 

写真の半分には・・・今六つ子が見ている写真に写っている幼き六つ子の1人が写っていた。それはつまり、風太郎は幼き頃、六つ子のうちだれか1人に会ったことがあるということだ。

 

(また会えるといいな・・・)

 

だがそれは、風太郎自身は全く気が付いていないのだ。

 

10『人好きのお人好し』

 

つづく




六つ子豆知識

『四葉はスポーツ万能』

三玖「四葉はスポーツ万能」

二乃「ルールとか覚えられるの?」

四葉「む!当然だよ!」

六海「じゃあバスケのルールは?」

四葉「ボールを籠にいれたら3点入る!」

六海「あってるといえばあってるけど・・・」

三玖「てきとう・・・」

四葉「後、練習帰りは買い食いしがち!」

二乃「それただの部活あるあるー!!」

六つ子豆知識、今話分終わり

次回、三玖、六海、五月視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結びの伝説1日目

三玖SIDE

 

私は最近フータローにたいして妙な気持ちを抱いてる。何というか・・・フータローと一緒にいると、妙に胸がぽかぽかしたりして・・・この前なんかはフータローのメアドをもらってうれしくなった気持ちがあった。その前なんかはフータローの好きな女子のタイプを自分らしくもないことを聞いたり、フータローがもう家に来れないとか言いかけた時はショックを受けたりもした。

 

この気持ちの正体に心当たりがないわけじゃない。でも・・・私だけがこんな気持ちを抱くなんて、絶対に変だよ。だって私たちはいつだって6等分で平等なんだから。

 

「いよいよ明日だね、林間学校!うーん、今から楽しみだなー!」

 

「六海も楽しみー!今からでも新しいスケッチブック買わないとね!」

 

そんな私の気持ちをしり目に四葉と六海は明日の林間学校の話を楽し気ながら一緒に廊下を歩いてる。廊下の曲がり角を曲がると勉強しながら歩いているフータローがいた。

 

「あ、風太郎君だ」

 

「うーえすーぎー、さん!!」

 

「ぐわっ⁉」

 

フータローを発見するや否や四葉は元気のあまり体当たりのあいさつをする。

 

「よ、四葉!いてぇだろ!」

 

「えへへ、すみません!それより、いよいよ明日ですね!」

 

「何が?」

 

「もー、風太郎君ったらとぼけちゃって!これだよ!林間学校だよ!しおり、ちゃんと読んだ?」

 

「読んでねぇよ。興味もねぇし」

 

林間学校を楽しみにしてる四葉と六海とは真逆にフータローはドライな反応をしてる。

 

「楽しいイベント満載です!飯盒炊爨に、スキーでしょ!釣りや、ハイキング!そして・・・キャンプファイヤー!ダンスの伝説!」

 

「・・・・・・」

 

キャンプファイヤーの踊りの伝説・・・確かフィナーレの瞬間に踊っていたペアは生涯添い遂げる縁で結ばれるって言ってたっけ・・・。信憑性のかけらもないただの噂だと私は思ってる。でも・・・でももし、その伝説が本当のことだったら・・・私は・・・。

 

「六海、その伝説知ってる!それがきっかけで付き合い始めるカップルがたくさんいるみたいなんだって!ああ・・・憧れるよねぇ・・・」

 

「うんうん、ロマンチックだよー・・・」

 

「「ねー♪」」

 

四葉と六海はこの伝説を本気で信じてるみたいで本当に浮かれてる状態。でもやっぱりフータローはそれとは真逆の反応。

 

「言ったろ?学生同士の恋愛など時間の無駄だ」

 

「もー、またそんなこと言ってー。青春が逃げるよー?」

 

「どうでもいい。それに、学生カップルなんてほとんどが別れるんだ。やるだけ無意味だ」

 

「で、でもー。好きな人とはお付き合いしたいじゃないですかー!」

 

好きな人・・・もし私のこの気持ちがそれに近いのだとしたら・・・意味がわからないことがある。

 

「・・・なんで好きな人と付き合うんだろう?」

 

「「「え?」」」

 

好きなら好きでそれでいいはずなのに、なんでわざわざ付き合ったりするんだろう?

 

「うーん、何でだろう?」

 

「どうしてかな?」

 

「それはね、その人のことが好きで好きでたまらないからだよ」

 

四葉と六海が考えてる中、私の疑問に答えたのは一花だった。

 

「三玖にも心当たりがあるんじゃない?」

 

「!な、ないよ・・・」

 

一花が的をついたようなことを言ってきた。こういったけど、心当たりは確かにあるっていえばあるけど・・・それはこれとは関係ないことだから・・・。

 

「よし!みんな揃ったし、勉強を始めるぞ!」

 

「え⁉今日もですか⁉」

 

明日が林間学校でも勉強を欠かそうとしないところ、フータローらしい。

 

「私は撮影あるからパス。・・・て、メール送ったんだけどなー」

 

「ん?・・・あ」

 

一花は今日もお仕事で参加できないみたい。フータローも忘れてたみたい。

 

「今は何よりもお仕事優先!寂しい思いさせてごめんね?」

 

「別に寂しくねぇよ」

 

「私も明日の準備を・・・えへへへー!」

 

一花の茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべてる中、四葉は今日は勉強したくないのかフータローから逃げ出す。これは珍しい。

 

「あ!おいこら待て!」

 

「もう!風太郎君がそんな風だと、らいはちゃんが悲しむよ?」

 

「なんでそこでらいはが出てくるんだよ?」

 

「いい?風太郎君。今らいはちゃんが望んでいるものは何?それはお兄ちゃんの林間学校の思い出話!そーんなやる気のなさをらいはちゃんに見せてみなよ?絶対いい気分じゃないよ?」

 

「お前はらいはの何を知ってるんだよ・・・」

 

「六海も末っ子の妹だからね。らいはちゃんの気持ちはよーーっく知ってるつもりだよ。同じ妹としてね」

 

「そういうもんなのか・・・?」

 

「そういうもんなの」

 

正直六海が何を言っているのかよくわからないけど・・・妙に説得力がある。

 

「と、いうわけで今日は勉強会はなーし!!さっそくお買い物の準備しなくちゃ!」

 

「ちょ!おま!」

 

六海はうきうきした様子でフータローから離れて自分の教室へと走っていく。

 

「まったく・・・」

 

「・・・あー、やば・・・」

 

フータローが呆れていると、一花はスマホを見て少し焦ったような顔をしてる。

 

「三玖、うちのクラスで林間学校の打ち合わせがあるんだけど・・・いつものお願い」

 

一花はそう言ってかばんから何かを取り出して私に渡してきた。これは、一花の髪と酷似した鬘だ。いつものってことは、あれか・・・。

 

「わかった」

 

別に断る理由もないし、とりあえずやっておくか。

 

「じゃあ、行くね」

 

「がんばって」

 

一花は今日の撮影のためにせっせと帰っていく。そしてここに残っているのは私とフータローだけ。

 

「なぁ、三玖。いつものって・・・」

 

「フータロー。私、用事ができたから今日は参加できない」

 

「そ、そうか・・・」

 

といってもその用事はたった今できたものだけど。私はとりあえず曲がり角のところにあった女子トイレに入る。

 

さて、と。まずは今私が着てるベストを脱いでそれを腰に巻き付けて・・・それから、鬘をかぶりやすいように髪を整えて・・・そして鬘をかぶる。これで中野一花の出来上がり。入れ替わりも完璧。いつものことっていうのはこの入れ替わりを指している。

 

とりあえず準備は整えて、トイレから出る。そしてここで一花スマイル。うん、これで完璧。一花のクラスは確か5組だったね。この一花スマイルを維持した状態で5組の教室に向かう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

5組の教室までたどり着いた私はとりあえず教室の中へと入る。

 

「!な、中野さん・・・来てくれて・・・ありがとう」

 

教室にいたのはなんかちょっと柄が悪そうな男子生徒だった。・・・あれ?クラスのみんながいない・・・。それと、確か一花が言ってたっけ・・・この男の子の名前・・・確か・・・

 

「えーっと・・・前田君、だっけ?クラスのみんなは?」

 

「悪い・・・君に来てもらうため、嘘ついた」

 

「え?」

 

林間学校の打ち合わせが嘘ってことは・・・この前田君は一花に用があるんだ。でも、なんでわざわざクラスのみんながいない時に?

 

「一・・・私に用って・・・?」

 

少し一花って言いかけたけど、前田君はほんのりと頬を赤らめてる。え?本当に何?

 

「・・・お・・・俺と、キャンプファイヤーで一緒に踊ってください!」

 

「え?」

 

キャンプファイヤーって、林間学校の最終日の夜のあれ、だよね?

 

「私と?なんで?」

 

「あ・・・いや・・・それは・・・好き・・・だからです」

 

好き?好きってことはこれは・・・告白、ってことなのか。そうなんだ・・・前田君は一花のこと好きなんだ・・・。一花、かわいいからよくあるのかな・・・?でも私は一花であって一花じゃない。こういう時、一花はなんて言うんだろう・・・?

 

「あ、ありがとう・・・返事はまた今度・・・」

 

とりあえずはその場しのぎで返事は保留ということにして、帰ったら一花に相談しよう・・・。

 

「今答えが聞きたい!!中野さん!お願いします!!」

 

「え・・・」

 

と思ってたけど前田君はそれを許してくれない。なんていうか・・・せっかち・・・。

 

「ま、まだ悩んでるから・・・」

 

「ということは可能性はあるんですね!!」

 

「いやぁ・・・」

 

うぅ・・・ぐいぐい来る・・・そもそも、なんで好きな人ができたらこうやって告白しようとするんだろう・・・?

 

「お?中野さん、雰囲気変わりました?」

 

「!!!」

 

「髪・・・?ん・・・?なんだろう・・・?」

 

「あの・・・」

 

「中野さんって、確か六つ子でしたよね?もしかして・・・他の誰かと・・・入れ替わったり・・・なんてことは・・・?」

 

ま、前田君、鋭い・・・。ど、どうしよう・・・下手にぼろを出すと入れ替わっていたことがばれちゃう・・・。どうしよう・・・この場を切り抜ける方法は・・・

 

「一花。こんなところにいたのか?」

 

「「!!」」

 

私がどうするべきか悩んでいたらいつの間にかここに来てたフータローに声をかけられた。

 

「お前の姉妹5人が待ってたぞ。早く行ってやれ」

 

「フータロー・・・」

 

もしかして、私を助けてくれているの・・・?

 

「おい、何勝手に登場してきてんだコラ」

 

でも案の定前田君はフータローに突っかかってきた。

 

「お前誰だよ?気安く中野さんの下の名前で呼ぶんじゃねぇよコラ。お・・・俺も下の名前で呼んでいいのかなコラ」

 

なんか一部自分の願望みたいなの交じってるような気がする・・・。

 

「返事くらい待ってやれよ。少しは人の気持ちを考えろ」

 

「な・・・」

 

「フータローが言うと説得力ない」

 

「言うな」

 

私は六海からフータローが五月に向かって太るぞ発言をしたって聞いたことがある。だからこそ思いっきりブーメランになって返ってきてる。

 

「いくぞ、一花」

 

「おい待てコラ。何人の話勝手に聞いてんだ。俺はただい・・・中野さんと踊りたいだけだ。お前関係ないだろ」

 

「一応関係者だ」

 

「なんだとてめぇ・・・!」

 

前田君はフータローの言い分に腹が立ったのかフータローの胸倉をつかんでくる。こ、これはさすがにやばいんじゃあ・・・

 

「あ、あの・・・」

 

「一・・・中野さん、すぐに邪魔者を片付けるんでしばしお待ちください」

 

「お、落ち着いて・・・!」

 

「オラ!早く出てけ!!」

 

前田君はフータローを無理やり追い返そうとしてる。ろくに話も聞かないでこのままフータローを追い返そうとするの・・・なんか理不尽。

 

「私、この人と踊る約束してるから!!」

 

「へ?」

 

「・・・あ」

 

わ、私が変なことを考えてたらいつの間にかフータローの腕を組んで・・・勝手にキャンプファイヤーで踊る約束をしてしまってる。な、何言ってるんだろ私⁉今の私は一花だというのに!

 

「え、えっと・・・これは・・・違くて・・・」

 

「嘘だ!!こんな奴中野さんと釣り合わねぇ!!」

 

「そ、そんなことないよ!!フータローは・・・・・・フータローは・・・・・・かっこいいよ・・・///」

 

え?今自分で何言ってるんだろう?確かにそう思ったけども・・・て、何考えてるんだろう私・・・。・・・と、いけないいけない、私は一花・・・一花なんだ・・・。

 

「つ、付き合ってるんですか・・・?」

 

「ら、ラブラブだよねー!仲良く一緒に帰ろっか!」

 

「ああ・・・もうそれでいいよ・・・」

 

大丈夫・・・一花ならこうする・・・私はフータローの腕を組みながらその場を離れようとする。

 

「ちょっと待てーー!!」

 

そしたらまた前田君に止められた。ま、まだ何か疑いを・・・?

 

「恋人同士なら手を繋いで帰れるだろ!!」

 

「「!!」」

 

え?恋人同士って手をつなぐものなの?そんなの知らないし・・・ていうか、聞いたこともないんだけど・・・。まぁ、疎いっていうのあると思うけど・・・。

 

「なんだ?できないのか?やっぱり怪しいな」

 

「あのな・・・恋人だからって、そうとは限らないだろ?」

 

でも・・・それくらいで疑いが晴れるなら・・・。それに・・・今の私は一花だから・・・こういう状況なら平気でやると思う。そう考えた私はフータローの手をつなぐ。

 

「⁉み・・・一花・・・⁉」

 

い、一花ならやると思って手をつないでみたけど・・・思っていた以上に・・・ドキドキする・・・。なんか顔も熱くなってきた・・・。

 

「え・・・えっと・・・ま、また手をつなぎたかったとかじゃなくて・・・その・・・初めてじゃないから・・・///」

 

「・・・くそーっ!!林間学校までに彼女作りたかったってのに、結局このまま独り身かーー!!」

 

私を一花だと思っている前田君は私の行動で完全に付き合ってるって思い込んでいる。うまくいったのはいいけど・・・やっぱり申し訳ない・・・。でも・・・どうしてそこまでして好きな人に告白しようって思ったのかな?それでうまくいくとは限らないと思うのに・・・。

 

「あの・・・私が今聞くことじゃないと思うんだけど・・・なんで好きな人に告白しようと思ったの?」

 

「・・・中野さんがそれを言うか?」

 

「・・・ごめん・・・」

 

「・・・そりゃ・・・そうだな・・・とどのつまり・・・相手を独り占めしたい。これにつきる」

 

!!相手を・・・独り占めしたい・・・。

 

「はーあ、何言ってんだか・・・。おい!中野さんを困らせるじゃねーぞ?」

 

「俺が今絶賛困ってる最中なんだが・・・」

 

私のとっさの好意行為で本当に困り果てているフータロー少し頭を抱えてる。ごめん、フータロー・・・。

 

「何言ってるの?さあ行くよ、フータロー」

 

とりあえず一応は疑いは晴れた?ということで私はフータローの腕を組んだまま教室を後にする。

 

「お、おい・・・そんなにくっつかなくても・・・」

 

「・・・・・・今は一花だもん・・・。これくらいするよ・・・」

 

私が今抱いてるこの気持ちの正体・・・少しだけわかったような気がする・・・。でも・・・相手を独り占めしたいなんて・・・そんなことしない・・・。だって、私たちは6等分だから・・・。だから、私は大丈夫・・・。

 

「いやしかし・・・いいのかよ?勝手に断っちゃって」

 

「一花、仕事優先って言ってたし・・・」

 

とりあえず元の姿に戻った私はフータローの疑問に答える。

 

「にしても・・・勝手に約束して・・・キャンプファイヤーどうすんだよ・・・」

 

一花はたぶん、例のキャンプファイヤーの伝説の噂は知らない。噂さえ教えなければ大丈夫。それに・・・一花なら・・・心配ない・・・。大丈夫・・・問題ない・・・。

 

「あ!いたいたー!」

 

私がそう思ってると二乃、四葉、五月、六海が揃ってやってきた。私たちを探してた?

 

「さ、行くわよ」

 

「え?」

 

行くって・・・どこに?

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

三玖ちゃんと風太郎君と合流した六海たちは明日の林間学校のための準備としてショッピングに来ているよ。やっぱり準備は万全にしておかないとねー♪

 

「上杉さんが林間学校で着る服をチョイスしまーす!」

 

まず最初に買うものは風太郎君のお洋服だよ。風太郎君との先生と生徒の関係が1か月ぐらいたってようやく気付いたんだけど、風太郎君は基本制服しかお洋服がないみたいなの。というか、六海、風太郎君がお洋服着てる姿なんて1回も見たことがない。でも服を買う余裕がない家庭育ちだしね。だからみんなで風太郎君のお洋服探しをしてるんだよ♪優しいでしょ?

 

「まずは私から!地味目なお顔なので派手な服を選んでみました!」

 

「多分だけどお前ふざけてるな?」

 

四葉ちゃんがチョイスした服は子供がかぶりそうなキャップ帽になんか子供向けの動物さんのイラストがいっぱい載った服だった。うん、風太郎君がそう思うのも無理もないね。というか四葉ちゃんの派手さっていったい・・・。

 

「フータローは和服が似合うと思ってたから、和のテイストを入れてみた」

 

「和そのものですけど!」

 

三玖ちゃんのチョイスした服は時代劇に出てくる町の住人さんが着そうな着物だった。あ、でも意外に似合ってるかも・・・。でもこれは林間学校に着る服じゃないから没だね。

 

「風太郎君はお兄さんスタイルが似合ってると思うから、シンプルにいきました!」

 

「これコスプレだよな?」

 

あ、バレた?六海がチョイスした服はナナカちゃんのお兄さんが着ている普通の上着に黒ズボンだよ。これだけだったら普通の服とたいして変わらないからばれないと思ったんだけど・・・やっぱり取り入れた鬘が余計だったみたい。でもせっかくのショッピングなんだし、こういう遊びも入れないとね♪

 

「私は男の人の服がよくわからないので、男らしい服装を選ばせていただきました」

 

「お前の男らしいはどんなだ⁉」

 

五月ちゃんのチョイスした服はズボンにも、ベストにもいたるところに傷があって、それでいて服はドクロがついていて、それでいてちゃらちゃらしたアクセサリーがいっぱいあった。これ完全に不良さんが着るタイプの服だ!五月ちゃんの男らしさっていったい・・・。

 

「・・・・・・」

 

二乃ちゃんがチョイスした服は長ズボンに黒シャツ、パーカー付きのジャケットといった今までの中で1番まともな服だった。なんていうか・・・面白味が全くない。

 

「二乃が本気で選んでる・・・」

 

「ガチだね・・・」

 

「なんかつまんないね」

 

「あんたたち真面目にやりなさいよ!!」

 

だってー、こういうのって、面白いもの選んだ方が盛り上がるじゃん?それを二乃ちゃんってば手早く済ませてつまんなーい!・・・まぁでも、これで風太郎君の服はこれで決まりっと。さてと、次はどんな服を買おっかなーっと。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから六海たちは林間学校できていく服を3日分買っていった。ちなみにこれらの値段は大体1万か2万くらいの値段はついてるね。ふー、満足満足♪あと必要なものは下着とスケッチブックだねー。

 

「ふー、買ったねー」

 

「3日分となると大量ですね」

 

「お前ら洋服に1万2万って・・・俺の服40着は買えるぞ」

 

「えー?これでもまだ安い方だよ?」

 

「マジか・・・」

 

まぁ、風太郎君の家計じゃあそう思っちゃうのも無理ないね。六海たちも昔はだいたいそうだったし。

 

「はい。フータロー」

 

三玖ちゃんが風太郎君に渡したのは二乃ちゃんが選んだ風太郎君の服だった。

 

「お金はいいから・・・」

 

「お、おい・・・いいのかよ?」

 

「あんたのためじゃないわ。ダサい服して近寄られたら迷惑だからよ」

 

二乃ちゃんは相変わらず風太郎君にきつい言葉を使ってる。もー、素直じゃないんだからー、このツンデレさんめ♪

 

「林間学校もいよいよ明日ですね」

 

「まだ買うものがあるわよ」

 

「うーん、男の人と服を選んだり買い物するのって・・・デートって感じですね!!」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「・・・へ?」

 

四葉ちゃんの発言で六海たちは思わず黙ってしまう。四葉ちゃんはこの意味が理解できてないみたい。はははー、四葉ちゃんってば何を言ってるのかな?風太郎君とはそんな関係じゃないのにね。あ、あれ?ちょっと顔が熱くなってきたよ?気のせい?

 

「・・・これはただの買い物です。学生の間に交際なんて、不純です」

 

この沈黙を最初に破ったのは五月ちゃんだった。

 

「あ、風太郎君と似たようなこと言ってるー」

 

「い、一緒にしないでください!あくまで上杉君とは教師と生徒!一線引いてしかるべきです!」

 

「言われなくても引いてるわ!!」

 

あー、またけんか始めてるよこの2人。けんかがするほど仲がいいっていうのは本当かもしれないね。あれ?だとすると二乃ちゃんと三玖ちゃんのけんかもそれに含まれる?

 

「ほら、そんな奴ほっといて残りの買い物を済ませるわよ」

 

「・・・そうですね。あなたはここで待っていてください」

 

「は?」

 

残りの買い物っていえば下着のことだね。ここから先は女子だけの領域だから風太郎君を入れるわけにはいかないんだよね。

 

「なんでだよ?」

 

「いいから待ってなさい!」

 

それを理解していない風太郎君はついていこうとしてる。ちょっと本当にやめてほしいんだけど・・・。

 

「そうはいくか。俺の服を勝手に選ばれたんだ。お前らの服も選ばせてもら・・・」

 

「下着!!」

 

「買うんです!!」

 

「・・・外で待ってまーす」

 

「デリカシーのない男ってサイテー!!」

 

さすがにそういうところはわきまえてるらしく、下着を買うとわかったとたん歩みを止めた。そこまでの変態さんじゃなくてよかったー・・・。二乃ちゃんと五月ちゃんは風太郎君のノーデリカシーに怒ってせっせと下着屋さんに向かっていってる。これで今場にいるのは六海と三玖ちゃん、四葉ちゃん、風太郎君だけになっちゃった。

 

「はぁ・・・そういうことなら俺帰る」

 

風太郎君はもう用済みだと言わんばかりに帰ろうとしてる。もうちょっとゆっくりしていけばいいのにー。

 

「上杉さん!明日が楽しみでもしっかり寝るんですよ!」

 

「言われなくても寝るよ」

 

「しおり一通り読んでくださいね!」

 

「読まねーって」

 

「さぼらずに来てくださいよ!」

 

「あー、わかったわかった」

 

「うん、えらい!最高の思い出を作りましょうね!」

 

風太郎君は生返事気味だけど四葉ちゃんは言いたいことを言ってにっこりと笑顔になっている。やっぱり純粋にかわいいなぁ、四葉ちゃんは。

 

「じゃ、あいつらに俺は帰ったって言っておけよ」

 

「うん。わかった」

 

「また明日ねー」

 

「林間学校、絶対に楽しみましょうねー!」

 

風太郎君は言いたいことを言ってそのまま家に帰宅する。やっぱり素っ気ないなー。

 

「さて、と。ここからは女子の時間♪六海が2人の下着をチョイスしてあげるよ♪」

 

「「え・・・」」

 

六海が三玖ちゃんと四葉ちゃんの下着を選ぶのを提案したら嫌そうな顔された。悲しいよぅ・・・。

 

「・・・なんでそんな嫌そうにするの・・・?」

 

「だって、六海の下着って一花に選んでもらってるでしょ?」

 

「そしたら絶対選ぶ下着だって・・・」

 

2人の言いたいことはよくわかったよ。確かに六海の下着はいつも一花ちゃんに選んでもらってる。そして選ばれる下着はちょっとエッチぃ感じの下着ばっかりなんだよね。一花ちゃんいわく、これが大人の下着らしいんだ。六海も最初こそ抵抗はあったけど、長く履き続けてるとそんな抵抗はどっか行っちゃった。というかむしろ・・・解放感があって気持ちいい・・・。それに誰かに見られるなんてことはないしね。

 

「大丈夫。恥ずかしいのは最初だけ・・・慣れれば心地いいよ♪」

 

「そんな心地よさ、いらない・・・!」

 

「四葉ちゃんも、そろそろお子様パンツ卒業しよーよー。そして2人で大人の階段上ろ?」

 

「い、いやー・・・私は・・・まだ子供でいいかなー、なんて・・・」

 

むぅ・・・2人は抵抗を続けてる。なんか悲しい・・・無理に連れていって嫌われたくないし、ここで打ち止めにしよう。あーあ、絶対に損はさせないのにねー。結局三玖ちゃんと四葉ちゃんは自分好みの下着を買って六海も一花ちゃんと同じ下着を買った。あの時の三玖ちゃんと四葉ちゃん顔は真っ赤っかだったなー。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「できた・・・ついにできた!」

 

ショッピングの後に家に帰って晩御飯を食べ終えたら六海は部屋に戻って漫画を描いてるよ。でもいつも書いてるそっち系のやつじゃない。六海がいつも読んでる魔法少女物だよ。六海が何で魔法少女物を書いてるのは、らいはちゃんに頼まれたからだよ。

 

明日から林間学校だからその間らいはちゃんは寂しい思いをするだろうと思って先日何が欲しいかって聞いてみたら、六海の描いた魔法少女漫画が見たいって言いだしたんだよね。

 

正直、六海は魔法少女物は読む専門で書くなんてこれが初めてなんだよね。だからその分書くのは大変だったよ。物語の構成、友達との友情、そしてかわいくもかっこいい戦い。それらを一から考えて思いついたネタをただそこに書く。妄想で書いてた時は全然違うから結構新鮮だったよ。

 

「さて、と。らいはちゃんに連絡しよっと」

 

六海は明日らいはちゃんにあげようと思ってすぐに電話を入れた。らいはちゃん、喜んでくれるかなー?そんな考えを抱いてると、電話が繋がった。

 

≪六海か?風太郎だが・・・≫

 

「・・・なんで風太郎君が出てるの?」

 

でも電話の相手は風太郎君だった。なんでらいはちゃんの電話に風太郎君が出るのさ?用があるのはらいはちゃんであって風太郎君じゃないんだよ。というより、人のスマホで勝手に出ないでよ。

 

≪今らいはは電話に出られる状態じゃないんだ。だから代わりに俺が出た≫

 

「電話に出られない?料理でも・・・」

 

≪らいはが熱を出して倒れた≫

 

・・・・・・え?らいはちゃんが熱?らいはちゃんが・・・倒れた!!?

 

「ちょっと!それどういうこと⁉らいはちゃんは・・・らいはちゃんは大丈夫なの⁉」

 

≪落ち着け。らいはなら大丈夫だ。たった今ぐっすり眠ったところだ≫

 

「大丈夫・・・なんだよね・・・?」

 

≪ああ。俺が保証する≫

 

風太郎君が言うなら・・・元気だよね。そう信じるしか・・・ないよね・・・。

 

「・・・ねぇ、風太郎君。明日の林間学校・・・」

 

≪・・・大丈夫だって。ちゃんと行くから・・・。つーか、らいはになんか用があったんじゃないか?≫

 

「う、ううん、また別の日にするね」

 

≪そうか。じゃあ、そろそろ切るぞ≫

 

六海の用が済んだと思った風太郎君は通話を切っちゃった。らいはちゃんが熱・・・衝撃な事実に六海は少してんぱってる。本当に大丈夫なんだよね?それに、風太郎君・・・本当に林間学校に来るんだよね・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の林間学校当日、しおりによればまず学校に全員集合ということで六海たちは全員学校に来ていて、それぞれのクラスに分けられてる。そんな中六海は風太郎君がいるかどうか確認のために1組のクラスの方に向かってる。

 

らいはちゃんが熱を出してる。風太郎君はそんならいはちゃんの面倒をみてる。それを知ってるのは六海だけ。だからこそ不安なんだ。風太郎君がちゃんと林間学校に来ているのかどうか。

 

「中野、肝試しの実行委員だが、代役としてやってくれないか?」

 

「え?」

 

!!!今、1組の先生は五月ちゃんになんて・・・?実行委員の代役?肝試しの実行委員は風太郎君だって四葉ちゃんから聞いてる。その風太郎君の代わりってことは・・・

 

「来て・・・ないの・・・?」

 

そうとでしか考えられない。あの妹思いの風太郎君はきっとらいはちゃんの方を優先して、林間学校に来ないつもりなんだ。

 

「3組の生徒のバスはこちらになりまーす!」

 

そんな答えに行き着いてると六海たちのクラスの皆は3組のバスに乗っていってる。ど、どうしよう・・・。六海は別に風太郎君が来なくても困ることは何もない。ほぼ無関係なんだ。構う必要はない。

 

・・・でもらいはちゃんの気持ちはどうなんだろう。風太郎君が今回の件で林間学校に行かないとわかったらきっと・・・きっと悲しんでしまうに決まってる。

 

「六海-。早くバスに乗りましょうよー」

 

六海がいろいろ考えていると、同じクラスの友達の真鍋さんがこっちに向かって手を振って六海を呼んでる。

 

・・・ダメ。やっぱり風太郎君を置いていくなんてできない。

 

「あー・・・真鍋さん、ごめん!ちょっと忘れ物をしちゃって・・・すぐ戻るから先にバスに乗ってて!」

 

「え⁉ちょっと!今行ったらバスが・・・」

 

わかってる。今学校を離れたらバスは行ってしまうのは。でも一応は追いつく方法はあるから問題はないけどそれは相手には言わない。真鍋さんの声が響いてるけど、それどころじゃない。

 

「・・・六海?」

 

六海が走ってる途中で三玖ちゃんと目が合ったような気がするけど気にしてる暇はない!六海は走っていって学校の門の外へ出ていく。そしてそのまま風太郎君の家に走っていく。らいはちゃんは風太郎君に林間学校に行ってもらいたいんだ。風太郎君の思い出話をたくさん聞きたがってるに違いない。それを風太郎君の都合で潰させるわけにはいかない!

 

それに・・・さっき無関係と考えたけどそれは間違いだ。ほぼ赤点とはいえ、地理のテストで赤点を回避できたのは他ならない風太郎君のおかげだ。風太郎君がいなかったら、一生赤点のままだったと思う。だったら・・・せめてものお礼ってわけじゃないけど・・・林間学校で楽しい思い出を作らせてあげたいよ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

ただでさえ六海は体力がないからこうやって走り続けてるのは非常に疲れるなんてものじゃない。地獄のようなものだ。でも・・・それでも急がないと・・・!疲れたなんて言ってられない!

 

「あっ!」

 

走り続けていると足元がつまずいてこけてしまう。痛い・・・足から痛みがジンジンと響いてくる・・・。でも・・・止まるわけにはいかない!痛みに耐えながら六海は疲れた身体に無理をかけて走っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

疲れで息切れを起こしてるけど、ようやく・・・風太郎君の家までたどり着いた・・・。六海は息を整えながら風太郎君の家の扉を勢い良く開ける。

 

「風太郎君!!」

 

「⁉む、六海ちゃん⁉」

 

「!!??六海⁉お前、なんで・・・⁉」

 

「あれ?六海さん?来てくれたの?」

 

風太郎君が非常に驚いている中、六海の視線に映ったのは、すっかり元気になった様子のらいはちゃんだった。熱、治ったんだ・・・。そうとわかったとたん、六海は風太郎君と勇也さんに目をくれず、らいはちゃんに抱き着いた。六海の目元にはうれし涙を浮かべてるのが自分でもわかっちゃう。

 

「よかった・・・本当に・・・よかったよぅ・・・」

 

「六海さん・・心配かけてごめんね。でも、ありがとう!私はもう大丈夫だよ!だからお兄ちゃんと一緒に林間学校に行って来て!」

 

らいはちゃんの笑顔を見れただけでも、しんどくても汗まみれになった甲斐があったよ。

 

「そうだ。林間学校に行く前に・・・はい!頼まれてた六海の魔法少女漫画!」

 

「わあ!わざわざ私のために?」

 

「初めての挑戦だったから、うまく書けてるかわからないけどね・・・」

 

「それでもうれしいよ!ありがとう、六海さん!大好き!!」

 

六海の持ってきた漫画を受け取ったらいはちゃんはうれしかったのか満面の笑顔で六海に抱き着いてきた。喜んでもらえて、よかった・・・。

 

「わざわざそれを渡すために来たのか?てかバスは・・・」

 

「らいはちゃん、勇也さん、風太郎君借りていきますね」

 

「あ!おい!どこに・・・!」

 

「はーい!」

 

「おう!しっかり、楽しんで来いよ!」

 

らいはちゃんと勇也さんに見送られながら六海は風太郎君を連れて家の外に出た。

 

「さて、風太郎君。六海は怒ってるんだよ」

 

「だから・・・」

 

風太郎君が何かを言う前に六海は逆壁ドンをする。

 

「昨日林間学校に行くっていったよね?なんであんな嘘ついたの?」

 

「・・・らいはのためだ」

 

やっぱり・・・そういうと思った。

 

「それに、林間学校には興味ないからな」

 

「嘘だ」

 

「⁉」

 

林間学校に興味がない発言に六海はすぐに否定した。

 

「だってそのしおり、いっぱい付箋がついてるんだもん。本当は行きたかったんでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

風太郎君が持ってるしおりにはたくさんの付箋がつけてあった。風太郎君は何も言わずに顔を俯いてる。

 

「それに、さっきらいはちゃんのためだって言ったよね?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「六海、昨日言ったよね?らいはちゃんが望んでるのはお兄ちゃんの林間学校の思い出話だって!らいはちゃんの回復具合はずっとらいはちゃんの側にいた風太郎君が1番知ってるでしょ⁉どうせ勇也さんが帰ってきても残るつもりだったんでしょ⁉なんで頼ろうとしないの⁉」

 

「それは・・・」

 

「本気でらいはちゃんのためっていうなら、らいはちゃんのわがままを聞いてあげてよ!林間学校に来てよ!自分の都合で残ろうとしないで!!」

 

六海の説教に風太郎君はさらに顔を俯かせてる。

 

「・・・だがもうバスは・・・」

 

「まったく、2人して何してるんですか?」

 

風太郎君が口を開こうとした時、ここにいるはずのない声が聞こえてきた。後ろを振り向くと、五月ちゃんの姿があった。

 

「い、五月⁉」

 

「ど、どうして・・・?」

 

「どうしてって・・・迎えに来たに決まってるじゃないですか。六海を除いて、私しかここへ案内できませんからね」

 

五月ちゃんは六海の手を取って、風太郎君のかばんをとって六海たちを無理に引きずっていく。そこに待っていたのは・・・

 

「フータロー」

 

「おそよー」

 

「こっちこっちー!」

 

「たく、何してんのよ」

 

他のお姉ちゃんたち全員が揃っていた。その後ろには、江端おじちゃんの車があった。みんな・・・六海たちを待ってて・・・?

 

「事情は察しました。でも六海、知ってたならちゃんと声をかけてください。そうすれば、もう少し段取りが早かったのですよ?」

 

五月ちゃんは六海に優しい笑顔を向けてくれた。みんなが何も言わずに六海たちを待っててくれた・・・そのことがうれしくて、また涙を流してるのがわかっちゃった。

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

「はい、許します。それから、上杉君。肝試しの実行委員ですが、暗い場所に1人で待機するなんてこと、私にはできません。あなたがやってください。お化け、苦手ですので」

 

「・・・仕方ない。行くとするか」

 

風太郎君はやれやれといった感じで頭をかいてるけど、その顔はなんだかうれしさが含まれてるような気がする。それでいいんだよ、風太郎君。

 

ふと足元を見ると、生徒手帳が落ちてた。中身を確認するとすぐに風太郎君の名前が出てきたから風太郎君の持ち物だとすぐにわかった。返そうと思った瞬間、六海はこの生徒手帳の中身が気になり始めた。

 

そもそも風太郎君に六海の秘密がばれた原因は風太郎君が勝手に六海のノートを見たからだし、仕返しはしたい。風太郎君の秘密を暴いてやる!

 

「あれ?生徒手帳・・・あ!お前!!」

 

風太郎君はすぐに気づいたけどもう遅いもんね。さーて、どんな恥ずかしい秘密が・・・ん?何これ?金髪の男の子の写真?

 

「誰これ?もしかして風太郎君って、あっち系?」

 

「(あっち系じゃないしそれは俺なんだが!!)

あ、ああ・・・親戚の写真だ。恥ずかしいから、あんま見られたくなかったんだが・・・」

 

「ふーん」

 

風太郎君って親戚がいたんだ。知らなかったよ。でも見るからに不良少年って感じがする。六海、不良さんあんまり好きじゃないんだよねー。

 

「それにしてもすっごい悪そうな顔。六海、間違ってもこの人とは付き合いたくないなー。これいつ撮ったの?」

 

「(二乃とは正反対だな・・・)

ああ、5年前にな」

 

5年前って言ったら・・・京都の修学旅行の時かー。

 

「・・・どこかで見たような・・・」

 

この男の子、どこかで見たような感じはするんだけど・・・何だろう?それに最近この顔を見たような・・・?

 

「六海ー!上杉さーん!早く早くー!」

 

「はーい!はい、風太郎君」

 

「あ、ああ」

 

四葉ちゃんに呼ばれたから六海は風太郎君に生徒手帳を返してすぐに車に乗り込んだ。

 

「みんな乗った?」

 

「もうちょっと詰めて」

 

「風太郎君、もうちょっと奥いってー」

 

「ようこそ上杉さん!どうですか、乗り心地は?」

 

「ああ!ふわっふわだ!」

 

「それでは・・・しゅっぱーーっつ!!」

 

四葉ちゃんの合図で車は出発して、六海たちの林間学校がスタートした。楽しみだな♪

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月SIDE

 

「六つ子ゲーム!!」

 

車が発車してから時間がたち、六海が元気よく六つ子ゲームの開始を宣言しました。どうやら林間学校の楽しみが勝ってるようで江端さんとお話ししてませんね。よかった・・・あのテンションの六海の長話は苦痛でしたから・・・。

 

「六海が描いたみんなの絵の顔のパーツをよく見て、六海たち姉妹の誰かを当ててもらいます!よく見ればわかるから頑張ってね!」

 

うーん、そうは言いますけどやっぱり絵は絵ですからね。私たちでも難しいと思うのですが・・・。

 

「まず第1問!私は誰でしょうかー?」

 

六海が最初に見せた絵は4つの短い線・・・ていきなり難易度が高すぎですよ⁉これは・・・パーツから察するに目と眉毛ですかね?瞼を閉じてるあたり、寝てるかにっこり笑ってるかどちらかですね。

 

「これ・・・笑ってる?なら、一花、かな?」

 

「二乃かな?」

 

「六海でしょ?」

 

「四葉!」

 

「六海でしょうか・・・?」

 

私が真っ先に思いついたのは六海がでした。言っておきますが、いつも笑顔で微笑むからという理由ではないですよ?

 

「・・・・・・」

 

「あ!こら!六海のスケッチブック取るの禁止ー!ルール違反ー!」

 

「くっ!ダメか!」

 

上杉君はスケッチブックを取ろうとしましたが禁止されて非常に悔しそうに拳を握っています。なんだかテンションが高いような・・・。

 

「・・・わかったぞ!この微笑は・・・四葉だ!!」

 

全員の答えが提示して、正解発表です。

 

「一花ちゃん以外ざんねーん♪正解は二乃ちゃんでしたー♪」

 

「やったー♪」

 

「え⁉アタシ⁉」

 

「なんでその二乃は中指を立てて裏返ってるんだ」

 

や、やられました!普段あんまりにっこりしない二乃をあえて選びましたか!完全にフェイントですよ!

 

「くっそー!次は当ててやる!」

 

それより車に乗ってから上杉君のテンションが高いんですが・・・。

 

「やけにハイテンションですね」

 

「ふっ、お前たちの家を除けば外泊なんて小学生以来だからな。もう誰も俺を止められないぜ!!」

 

「まぁ・・・もう1時間以上足止めくらってるんですけどね・・・」

 

ハイテンションな上杉君とは裏腹に、外は例年より早い猛吹雪が吹いています。そして今、大渋滞の中にいます。今日中に合流するのは無理ですね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日中に合流できないとわかり、私たちは今日は宿屋で一晩を過ごすことになりました。しかし、何やら団体さんが急に泊りに来られたということで私たちに与えられた部屋は1部屋だけ。つまり必然的に・・・

 

「おおっ!いい部屋だな!」

 

「でも4人部屋だからきついよね」

 

そう、上杉君も同じ部屋にいるということです。しかもこの部屋は4人部屋なので寝る時部屋が狭くなるのは必須です。

 

「こいつ同じ部屋だなんて絶対嫌!!」

 

「団体のお客さんが急に入ったとかでこの部屋しか空いてなかったんだよー」

 

二乃は上杉君が同じ部屋で泊まることにたいしてものすごい不満を抱いていました。

 

「車があるでしょ?」

 

「午後から仕事があるって帰っちゃった」

 

「あ!ほら、旅館の前にもう一部屋あったでしょ?」

 

旅館の前の部屋・・・ていうよりあれは部屋ではなく犬小屋です。

 

「あ、明日死んでるよ~!」

 

「二乃ちゃん~、往生際が悪いよ。諦めて受け入れようよ~」

 

「ぐぬぬぬ・・・」

 

他に選択肢がなく、六海の言葉に二乃はかなり苦い顔をしています。私は六海が言うなら、仕方なく受け入れます。

 

「うん!いい旅館だ!文句言ってないで楽しもうぜ!!」

 

なんか上杉君、この旅館についてからさらにテンション上がってません?

 

「・・・はーい、女子集合ー」

 

二乃に呼ばれて私たち姉妹全員は部屋の隅に集まり、二乃の話を聞きます。

 

「不本意だけどご覧の通りよ。いいこと?各自気をつけなさいよ?」

 

「気を付けるって・・・何を?」

 

「それは・・・ほら・・・一晩同じ部屋で過ごすわけだから・・・あいつも男だってことよ!」

 

「「「「「!!!」」」」」

 

二乃の言葉で言いたいことは察しました。今私たちの脳裏に浮かび上がったのは飢えた狼と化した上杉君の姿でした。

 

「・・・二乃ちゃんの考えすぎじゃない?」

 

「そうです。そんなことありえません」

 

「やろうぜ!!」

 

「「「「「「!!!???」」」」」」

 

ひいぃぃぃ!!?わ、私たちが話し合ってる隙に上杉君が私の背後にいぃぃぃ!!?

 

「な、何を⁉」

 

「トランプ持ってきた!やろうぜ!」

 

「と、トランプ・・・」

 

う、上杉君の手には・・・確かに、トランプがありますね。

 

「き、気が利くねー。懐かしいなぁ」

 

「何やります?」

 

「七並べっしょ!」

 

・・・だ、大丈夫ですよね・・・?私たちは、生徒と教師ですから・・・。・・・大丈夫ですよね?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「んー、七並べ楽しかったねー」

 

「アタシはあいつと同じ部屋で疲れてるわ」

 

「意外に盛り上がりましたね」

 

七並べを終えた後、私は宿のエントランスホールのテーブルに置いてあったチェスをやっている六海と二乃の対戦を見学しています。少し休憩がてらに3人で宿を見て回っているときにチェスを発見したので六海がやろうと言い出したのがきっかけになっております。

 

「六海、足は大丈夫ですか?転んだって聞きましたが・・・」

 

「うん。大丈夫だよ。血は出てないからね」

 

「それはよかったです。でも、今回のことはこれっきりにしてくださいよ?」

 

「うん。今日はごめんね?あ、キングはこっちに移動っと」

 

私が六海が1人で上杉君の家に向かったとわかった時、少し怒りはありました。なんで私たちに相談しなかったのかって。でも、本人も反省してるようですし、その怒りもなくなりましたが。

 

「正直、アタシはあいつが来なくてもよかったんだけどねー。うーん、この場合はどうしよう・・・」

 

「それじゃあらいはちゃんが悲しむよー」

 

「ええ。わかってます。らいはちゃんのためにやったことなんですよね?」

 

「うん。らいはちゃんが元気になってよかったよー」

 

「ま、それは確かに喜ばしいわね。これを・・・ここに移動・・・」

 

らいはちゃんが風邪と聞きましたが、元気になって私もほっとしています。本当に良かったです。

 

「はーい、チェックメイトー!」

 

「え!ちょ、待って!」

 

「待たないよー、勝負は非情なのだー」

 

チェスの盤面を見る限り、この勝負は六海の完全勝利ですね。六海は外の遊びが苦手な分、こういう部屋でできる遊びは大得意なのです。それはおそらく、三玖といい勝負ができるほどだと思います。

 

「いぇーい!六海の勝ちー!」

 

「ちょ、ちょっと待って!もう1回!もう1回勝負よ!」

 

「ず、ずるいです!負けた方が交代っていうルールでしょ⁉」

 

「いいじゃない別に!このまま負けっぱなしは嫌よ!」

 

「次は私ですー!」

 

私たちは夕食の時間までチェスで楽しみました。七並べに負けないくらい白熱しました。でも結局勝ったのは全部六海ですが。

 

♡♡♡♡♡♡

 

そろそろ夕食の時間となり、私たちは部屋に戻ってごはんの到着を待っています。しばらく待っていますと、宿の人たちがご飯を持ってきてくれました。天ぷらに塩焼きに活け造り・・・ど、どれも・・・おいしそう・・・!

 

「すっげぇ!タッパーに入れて持ち帰りたい」

 

「わかるー!そしたら家でも食べられるし!」

 

「2人とも、やめてください」

 

上杉君と六海の気持ちはわかりますが、非常識ですよ。

 

「でも、こんなの食べちゃっていいのかなー?明日のカレーが見劣りしそうだよー」

 

確かに・・・なんだか申し訳ない気分になってきました。

 

「三玖、あんたの班のカレー、楽しみにしてるわ」

 

「うるさい。この前練習したから」

 

「そういえば、林間学校のスケジュール見てなかったかも」

 

私は一応確認しましたがまだうろ覚えで・・・えっと・・・

 

「2日目の主なイベントはオリエンテーリング、飯盒炊飯、夜は肝試し。3日目は自由参加の登山、スキー、釣り、そしてキャンプファイヤー」

 

「なんでフータロー君暗記してるの・・・?」

 

「歩くメモ帳みたいー」

 

私たちでもうろ覚えなのになんで上杉君はそんなテキパキに言えるんですか?しかも確認してみれば、全部当たってますし・・・。

 

「あ!後新しい情報では、キャンプファイヤーの伝説はフィナーレの瞬間手を・・・」

 

「またその話か」

 

「伝説?」

 

「関係ないわよ。そんな話したってしょうがないでしょ?どうせこの子たちに相手なんていないでしょ?」

 

「「「!!!」」」

 

まぁ、それもそうですね。そもそもそんな伝説自体も興味ありませんし。

 

「ま、伝説なんてそんなくだらないことどうでもいいけど」

 

「多分二乃、誰からも誘われなかったんだと思う」

 

「そっか!拗ねてるんだー!」

 

「二乃ちゃん、嘘はいけないな~?」

 

「あ、あんたたちねぇ!!」

 

・・・二乃、結局伝説信じてるじゃないですか・・・。

 

「あははは・・・あー、ほら!ここ露天風呂があるみたい!・・・え?混浴?」

 

!!!!????

 

「はあ!!?こいつと部屋のみならずお風呂も同じってこと!!?」

 

「や、やだよ!!恥ずかしいよ!!」

 

「言語道断です!!」

 

「なんで一緒に入る前提?」

 

混浴だなんて信じられません!!そんな・・・は、は、破廉恥な!!

 

「二乃・・・一緒に入るのが嫌だなんて心外だぜ。俺とお前はすでに経験済みだろぉ~?」

 

「なっ!!?」

 

「二乃?それどういうこと?」

 

「ば・・・ちが・・・!わざと誤解を招く言い方すんな!!」

 

「ははは!いつもの仕返しだ!」

 

今日の夕食はあまりに騒々しかったですが、ちょっと楽しかったかもしれませんね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「んんー、気持ちいい!」

 

「んー、混浴じゃなくて温浴だったね♪」

 

「みんなと一緒にお風呂に入るなんて、何年ぶりでしょう」

 

「あ、三玖のおっぱい大きくなったんじゃない?」

 

「みんな同じだから」

 

「六海、こんなにおっぱいいらないのに・・・」

 

夕食を食べ終えたら私たちは姉妹揃って外の景色を楽しみながら温泉に浸かっています。混浴じゃなくて本当によかったです・・・。今初めて知りましたが六海はさすがにお風呂の時はメガネ外すんですね。

 

「それにしても、今日のあいつ絶対おかしいわ」

 

「上杉さん普段旅行とか行かないのかな?」

 

「まるで徹夜明けのテンションだったね」

 

それはわかります。車の時からずっとあのテンションでしたし。

 

「とにかく、あのトラベラーズハイのあいつは危険よ。問題は・・・あの狭い部屋にギリギリお布団が7枚・・・誰があいつの隣で寝るか」

 

やっぱり問題はそこになってきますよね。今私たちはまた飢えた狼と化した上杉君を思い浮かべてます。

 

「ああ・・・二乃、考えすぎじゃない?私たち、ただの友達なんだし」

 

「そうだよ!上杉さんはそんな人じゃないよ!」

 

四葉、前を隠してください。見えています。

 

「じゃああんたが隣でいいってこと?」

 

「うぇ?」

 

「上杉はそんな奴じゃないから心配ないんでしょ?」

 

「そ、それは・・・ちょっと・・・どうなんだろう・・・?」

 

二乃の言葉に四葉は頬を赤らめています。ついでにウサギリボンも垂れてしまっています。どういう原理でしょう?

 

「やっぱり二乃ちゃんの考えすぎじゃない?風太郎君にそんな度胸あるとは思えないし」

 

六海は四葉の垂れてしまったリボンをもとに戻してそう言ってますね。まぁ、それは一理ありますね。

 

「じゃああんたが隣でいいんじゃない?」

 

「それとこれとは話が別だよー。だって、恥ずかしいし・・・」

 

六海も六海で上杉君の隣で寝るのは嫌みたいですね。私も嫌ですが。

 

「それでは、二乃ならどうでしょうか?」

 

「は⁉なんでアタシ⁉」

 

「いえ。二乃なら殴ってでも抵抗してくれそうなので」

 

「・・・一花!あんたなら気にしないでしょ⁉」

 

「おっと、私に来たか・・・」

 

二乃も嫌なのか一花に話を振り出しましたね。

 

「ただの友達なんでしょ?」

 

「・・・うん。フータロー君は、いい友達だよ」

 

「ならいいじゃない」

 

「待って!」

 

話がまとまりかけてるところに三玖がストップをかけてきました。

 

「平等・・・みんな平等にしよう・・・」

 

みんなで、平等?いったい三玖は何を考えたのでしょう・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「なるほど、考えたわね」

 

「誰も隣に・・・」

 

「行きたくないなら・・・」

 

「全員が隣に行けばいい・・・」

 

「まぁ、誰かもわからない相手に・・・」

 

「手も出さないだろうし」

 

「少なくともフータローから見たら」

 

お風呂から上がり、浴衣に着替えた私たちが出した結論は、全員前髪を両サイドに分けて誰が誰かを見分けられないようにする作戦ですね。多分大丈夫だと思いますが・・・不安が残ります。

 

「さあ、行くわよ!」

 

二乃の一声で意を決して部屋の中へと入ります。そうして視線に映ったのは・・・

 

「zzz」

 

7枚のお布団のうち、上真ん中に位置している場所で上杉君がただ1人眠っている姿でした。誰が隣とかいう以前に、寝ているのであっては、私たちが危惧していたことはなくなったということですね。

 

「・・・えーっと・・・アタシたちも寝よっか」

 

なんだかバカバカしくなってきた私たちはすぐにそれぞれ布団に入り、寝ることにしました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、姉妹の中で誰よりも早く起きた私は係の人に今日の朝食について聞きに行っています。どうやら食堂で用意しているらしいですね。

 

・・・それにしても朝起きた時、みんなの寝相がひどかったのは驚きましたね。全員が布団からはみ出してしまっていましたし、寝ている場所もみんなめちゃくちゃでしたから。と、そう考えてるうちに部屋までたどり着きましたね。

 

「もう朝ですよ。朝食は食堂で・・・」

 

部屋を見た瞬間、私の視界に映ったのは・・・まだ寝ている上杉君に、姉妹の誰かが・・・⁉

 

バタンッ!

 

何が何だかわからず私は部屋のドアを閉めました。・・・え⁉嘘・・・あれって・・・

 

「中野?中野じゃないか!ここで何やってるんだ?」

 

「え?」

 

何やら聞き覚えのある声が聞こえたので振り返ってみますと・・・先生方がそこにいました。え?まさか・・・団体で泊まってたお客さんって・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「まさか、こいつらも雪のせいで同じ旅館に泊まっていたとはな・・・。よく会わなかったものだ」

 

あの旅館で思わぬ合流を果たせた私たちはそれぞれのクラスのバスに乗って目的地に向かっています。私と上杉君は1組なので1組のバスに乗ってます。

 

「?どうした?」

 

「!い、いえ!」

 

それよりも私が今考えているのはあの旅館で見たあの光景でした。よく見てないから判断つかないけれど・・・あれは・・・私の姉妹の誰かが、上杉君を・・・。

 

・・・先の試験で指導してくれる人の必要性は感じていました。ですが彼は私の理想とする家庭教師像からかけ離れすぎています。私たちは生徒と教師。もし生徒が好意を抱いたとしても、それを正しく導いてやるのが教師の役目。上杉君、あなたが家庭教師に相応しいかどうか、この林間学校で、確かめさせていただきます。

 

11「結びの伝説1日目」

 

つづく




六つ子豆知識?

『五月のものまね』

五月「三玖は姉妹の変装がうまいですよね」

三玖「でも五月の場合だと六海に負ける」

一花「そうなんだ!六海、試しに五月ちゃんの真似してみて?」

五月「オチが読めました!どうせ大食いキャラになるんでしょう!」

六海「風太郎君が家庭教師と知った時の五月ちゃんの真似を。ガーン!!」

五月「ガーン!!まさかのチョイスでしたー!」

六つ子豆知識? 今話分終わり

次回、四葉、二乃、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結びの伝説2日目

1話目の六海ちゃんの紹介に本を読むならを追加しました。

五月「まぁ、よく読む本なんて、目に浮かびますがね」

そうですね。それから、本日からこの小説のイラストを募集したいと思います。

三玖「かなり唐突・・・」

具体的には六海ちゃんの制服(ブレザーver)、私服、花嫁衣裳、そして印象に残ったシーンなど、何でもOKです。ただし、入浴シーンはNGでお願いします。

四葉「も、もちろん皆さんがよろしければのお話です!皆さん、忙しいでしょうし!」

場面シーンは気に入ったものがあれば載せる予定です。まぁ、MB使用量の確保とかで全部とまではいきませんが、よろしければぜひにと。

二乃「本当なら作者が書きたいって思ってるみたいなんだけど・・・」

六海「六海と違って絵の才能がないーって、みんなが言ってたよ?」

ぐはっ・・・

一花「六海、それは言わないの。ほら、作者さん、傷ついちゃったじゃん」

風太郎「イラストなんてどうせ1枚もこねーだろーさ」

ショック・・・

一花「六つ子裁判開廷ーー!!」


四葉SIDE

 

いよいよ始まりました!林間学校の2日目イベント!オリエンテーリング後の飯盒炊飯!班の皆さんと協力してのカレー作り!ちなみに私は料理作りはてんてダメなので少しでも役に立てるように、火つけるために必要な薪を割っている最中です!

 

「あはは!これ楽しいですねー!」

 

「も、もう薪割らなくていいから!」

 

私の班の男子からストップがかかりました。あれ?いつの間に私、こんなに薪を割ってたんだろう?不思議なものですねー。

 

うーん、これをやり終えると一気に暇を持て余してしまいました。他にやるべきことはないかな・・・。そうだ!今日の夜には肝試しがあるんでした!きっと上杉さん1人だけではいろいろ限界があるでしょう。よーし、ここは私が一肌脱ぎましょう!これで上杉さんや他の姉妹の様子を見ることもできるだろうし!そうと決まれば肝試しの道具を取りに行かなきゃ!

 

「これ、もう使った?片付けておくね」

 

「は、はい♡」

 

あっちの方では一花が片づけをしている⁉ほぇ~・・・珍しいものを見ちゃった・・・。それにしてもやっぱり一花はモテるんだね。男子のほっぺが赤くなってるのがわかります。

 

「そろそろ煮込めてきたかな?」

 

「待ってください!後3秒で15分です!」

 

「細かすぎない?」

 

こっちの方では五月が細かく時間を調整してます。普段もそうだけど、食事のことになると本当にさらに細かすぎですよね。

 

「三玖ちゃん何入れようとしてるの⁉」

 

「お味噌。隠し味」

 

「自分のだけにして!」

 

向こうの方では三玖がカレーにお味噌を入れようとしてます。なんで料理が上達しないのか、少しわかったような気がする。

 

「真鍋さん、ご飯炊けたかな?」

 

「さっき火つけたばっかでしょ?全然まだよ」

 

「そっかー。お焦げ、できてるといいなー」

 

「そうね。できてるといいわね」

 

釜戸の方では六海とソフトボール部員の真鍋さんがご飯の炊き具合を見ています。他より遅れてるってことはちょっと手こずっちゃったのかな?と、それより肝試しの道具って確かこの先にあったような・・・。・・・あ、あったあった!とりあえずこれを持って向こうに運んで行かなきゃ!と、その前に上杉さんに一声かけなければ・・・えっと、上杉さんは・・・

 

「なんでごはん焦がしてんのよ!どーせほったらかしにして遊んでたんでしょ!」

 

「ち、ちげーよ!少し焦げたけど食えるだろ!」

 

「こっちは最高のカレー作ったのに!」

 

「やったことねーんだから誰だってこうなるんだよ!」

 

上杉さんを探していたら別の釜戸の方で女子グループと男子グループとでけんかしてます。あの人たちって、確か二乃のグループの・・・

 

「二乃、どうする?」

 

「じゃあアタシたちだけでやってみるから・・・カレーの様子、見てて?

 

あっちゃー、あれ完全に怒ってますね・・・。男子の方々、ご愁傷様です・・・。まぁ、あっちは二乃がいれば問題なさそうですね・・・。上杉さんは・・・あ、いました!他の班の男子と話しながらご飯を炊いていますね。

 

「上杉さん、肝試しの道具運んじゃいますねー」

 

「四葉?お前確か、キャンプファイヤーの係だろ?」

 

「はい!でも上杉さん1人じゃ大変だと思ってクラスの友達にも声をかけました!」

 

それに私、とっても嬉しいんです!勉強以外無関心の上杉さんが林間学校に来てくれたのが!私はそんな上杉さんのお手伝いがしたいんです!

 

「勉強星人の上杉さんがせっかく林間学校に来てくれたんです!私も全力でサポートします!」

 

「・・・そうか」

 

上杉さんはすっと立ち上がって私の持っている肝試しの道具の1番大きい方を持ってくれました。

 

「よし前田。俺の班の飯も見ててくれ」

 

「あ?命令してんじゃねーよ!つーか、俺の話は・・・」

 

「肝試しは自由参加だ。クラスの女子でも誘って来てみろ。ただし、こっちも本気でいくからビビんじゃねーぞ?」

 

♡♡♡♡♡♡

 

そして待ちに待った肝試しのお時間・・・

 

このように!!!!

 

うおおおおおおお!!!

 

「うわあああああああああああ!!?」

 

「いやあああああああああああ!!?」

 

私と上杉さんはゾンビ役となって昼間の男子、前田さんとそのクラスメイトの女子をビビらせてやりました!いやー、これで何人驚いてくれたか!数えきれないですよー。

 

「絶好調ですね!」

 

「ふははは・・・」

 

「私うれしいです!いつも死んだ目をした上杉さんの目に生気を感じます!」

 

「そうか・・・甦れて何よりだ・・・むははは・・・」

 

上杉さんもまんざらじゃないって感じにピエロの仮面越しに楽しそうに笑っています。本当に・・・よかったです・・・。

 

「・・・もしかしたら・・・来てくれないと・・・思っちゃったから・・・」

 

「・・・・・・」

 

「後悔のない林間学校にしましょうね!ししし!」

 

そのためにも私が全力で上杉さんをサポートしないと!そのためにこの役を買って出たんですし!

 

「・・・あ!次の人来ましたよー」

 

「よ、よし・・・」

 

次のペアの方々がやってきましたので私たちはスタンバイして、近くまでやってきたところを・・・

 

やってやらああ!!!

 

食べちゃうぞおおお!!

 

全身全霊を込めてゾンビになり切って怖がらせちゃいますよ!

 

「!フータロー」

 

「四葉もいるじゃん!」

 

「!一花に三玖!」

 

と、驚かせたと思ったら相手はすでにネタがばれてる一花と三玖でした。

 

「なんだ、ネタがばれてるお前らか。驚かして損したぜ」

 

「あ、ごめん・・・」

 

「わぁ、びっくりー!予想外だー」

 

一花はわざとらしく驚いたふりをしていますね。

 

「嘘つけ」

 

「本当だよー。あ、その金髪どうしたの?染めたの?」

 

「鬘だ。それより、この先は崖で危ないから、看板通りに・・・?三玖、聞いてるか?」

 

「・・・えっ?何?」

 

「だから、この先は崖で危ない。看板通り進めよ」

 

「・・・わかってる。一花、行こう」

 

「え?う、うん・・・」

 

何やら素っ気ない態度の三玖は一花を連れて看板通りの道のりを歩いていきました。

 

「なんだ?やけに素っ気ないな」

 

「そうですか?三玖はいつもあんな感じですよ?」

 

上杉さんは三玖の態度に少し違和感があったみたいですけど・・・きっと気のせいですよね。

 

「それより上杉さん!脅かし方にまだ迷いがあります!もっと凝った登場をしないと!」

 

「はあ?凝った登場?そいつは具体的に・・・」

 

「私に任せてください!確かかばんにロープがあったはず・・・」

 

私は近くにある自分のかばんの中からロープを探します。確かこのあたりに・・・あ、あったあった!

 

「上杉さーん!ロープありましたー!」

 

「・・・四葉、一応聞くが、そのロープを何に使う気だ?」

 

「まずこのロープで上杉さんの足を結びます!その次にあの木の枝に地面にぶつからない程度に結びます!そして、次のペアが近づいたところに・・・バァッ!!・・・という感じです」

 

「・・・ふははは・・・面白い・・・やってやろうじゃねぇか・・・」

 

上杉さんはピエロの仮面越しに乗り気な笑いを浮かべています。

 

「じゃあロープ結んじゃないますねー」

 

「ああ。きっちり頼む」

 

次の脅かしのための準備のために上杉さんの足にロープを巻き付けて、さらに上杉さんが木の枝に上ったところで枝にもロープを巻き付けて準備完了!

 

「ロープは元から短かったので頭を打つ心配はありませんのでご安心を!」

 

「じゃないと痛いどころの話じゃねぇからな」

 

それは確かにそうですね。下手をすれば大怪我ものですから。・・・と、準備をしていましたら次のペアがやってきましたね。今木の上にいますから誰が来たのかがすぐにわかりました。あれは・・・

 

「二乃と五月ですね」

 

「ほぅ・・・ちょうどいい・・・あいつら・・・特に二乃には手ひどくやられたからな・・・日頃の鬱憤を晴らしてやるぜ・・・」

 

か、仮面越しでも伝わってきました!上杉さんのものすごい黒いオーラを纏った笑みを!私はとりあえず木から降りて、その木の後ろに隠れて様子を伺います。そして、二乃と五月が近づいたところで・・・

 

勉強しろ~~~!!!

 

上杉さんが渾身の脅かしを二乃と五月に披露しました。お、二乃も五月も顔を青ざめていますね。ししし・・・

 

ひゃああああああ!!!!もう嫌ですーーーーー!!!!

 

「ちょ、ちょっと五月!待ちなさい!」

 

青ざめた直後、五月はものすごいスピードでゾンビ上杉さんから逃げていきました。二乃も五月を追いかけていってしまいました。

 

「・・・あいつ、本当に怖いの苦手だったのか・・・」

 

「あちゃー、やりすぎちゃいましたねー」

 

これは派手すぎましたか・・・五月の過剰な反応が何よりの証拠です。

 

「・・・あれ?あいつら・・・どっち行った?」

 

え?五月たちがどっちに行ったか?私は木に隠れていたので前が見えませんでしたのでわからないです。

 

「き、きっと大丈夫ですよ!看板通りに行ったはずです!」

 

「うーむ、俺の目には別ルートに行ってしまったように見えたが・・・」

 

うっ・・・そういわれると自信がなくなってきました・・・。でも、2人を探すためにここを離れるわけには・・・かといって2人を放っておくわけにもいかない・・・どうしましょう・・・。

 

「・・・四葉、すまんがこの場は任せた。少し様子を見てくる」

 

「え⁉上杉さん⁉」

 

木から降ろされた上杉さんは看板の印とは違うルートへ向かっていきました。い、行ってしまいました・・・。ど、どうしましょう・・・。・・・て!そんなこと考えてるうちに別のペアの方々が!と、とにかく今は私1人だけでもここを切り抜けなくては!

 

♡♡♡♡♡♡

 

あれから少し時間がたち、もうすぐで肝試しの時間が終わるころでしょう。終わった後は肝試しの道具の片づけがありますからおそらく次に来るペアがラスト・・・気が抜けませんね。

 

「・・・上杉さん・・・どこ行っちゃったんだろ・・・」

 

あれからまだ上杉さんは帰ってきていません・・・。本当に大丈夫ですよね・・・?心配になってきました。

 

ザッザッザッ

 

あっと、いけないいけない・・・今はラストのペアを驚かせることに専念しなくては。念には念を入れて・・・もう少し包帯を巻きつけて・・・近づいてきたペアを・・・

 

ぎゃおおおおおお!!!

 

精いっぱい驚かせます!

 

「「ひぃ・・・っ!!」」

 

あれ?この2人・・・六海と真鍋さんだ。

 

「「わあああああああああ!!!!」」

 

私の姿に青ざめた六海と真鍋さんは一目散にと逃げていきました。いやー、私のお化け役も捨てたものじゃないですねー。

 

「・・・て!あれ⁉あの2人、看板と違うルートを⁉」

 

こ、今回は私はバッチリと見てしまいました・・・あの2人が看板と違うルートに行ってしまったのを・・・。ど、どうしましょう・・・。スマホの時計を見てみますと・・・肝試し終了の時間となっていました。この後は追片づけをやらなければいけないのですが・・・。・・・ううん、お片づけは後回し!今は2人を連れ戻す方が先です!

 

私はすぐに看板とは別ルートを通り、真鍋さんと六海の捜索を開始します。まだ近くにいるといいんだけど・・・。

 

ガサッガサッ

 

森の奥まで進んでいくと、草の茂みからガサガサ音が聞こえてきました。私が恐る恐るとそのを見てみますと・・・

 

「むつ・・・じゃない!中野さん⁉」

 

茂みから出てきたのは私の探し人の真鍋さんがいました。よかったー・・・いましたー・・・。それにしても中野さんって・・・うーん、ややこしい!

 

「六海見なかった⁉」

 

「え?一緒じゃないんですか?」

 

「お化けから逃げてる途中ではぐれちゃった!どうしよう・・・私のせいだわ・・・」

 

責任感が強い真鍋さんは六海とはぐれたことに自責の念を抱いています。この反応から察するに、六海を誘ったのは真鍋さんだというのがわかります。

 

「お、落ち着いてください!六海は大丈夫ですから!とにかく、一緒に探しに行きましょう!ね?」

 

「そ、そうよね・・・こんなことしてる場合じゃないわよね・・・うん・・・」

 

私たちははぐれてしまった六海の捜索のために森の奥へとさらに進んでいきました。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

「五月ー。どこ行ったのよー?」

 

アタシはあのピエロゾンビから逃げてはぐれてしまった五月を探して森の中を歩いている。もう辺りは暗いからこの中で頼りなのはスマホのライトだけだわ。

 

「こっちで合ってんのかな・・・?一旦戻ろうかしら・・・」

 

アタシが一回道のりを引き返そうと思った瞬間・・・スマホのライトが・・・消えた⁉

 

「え⁉嘘⁉もう⁉・・・充電するの忘れたかも・・・」

 

あーもう!何でこんな時にスマホの充電を忘れんのよー!アタシのバカ!

 

「・・・何なのよもう・・・せっかくの林間学校なのに・・・あんな奴と同じ部屋に泊まらされるし、班の男子はいうこと聞かないし、しまいにはこんな所に1人で・・・」

 

ザアアアァァ・・・

 

草木がざわついた音を聞いて、アタシは五月が言っていたことを思い出した。確かあの子・・・

 

ーこの森には出るらしいのです・・・森に入った切り行方知れずになった人が何人もいるのだとか・・・ーby五月

 

・・・う、嘘よね?あんな話デマに決まってるじゃない・・・どうせ・・・

 

ザッ

 

「!!?いやああああ!!」

 

もう本当に怖い!!なんなのこの森⁉五月、本当にどこ行ったのよ!早く出てきてちょうだい!

 

「・・・もう最悪・・・」

 

もう最初っから躓きっぱなしじゃない・・・こんなことなら肝試しに参加しなければよかった・・・。

 

「大丈夫か?」

 

「!」

 

1人で心細い思いをしていると、誰かの声が聞こえてきた。アタシが前を向いて・・・え?

 

「見つけたぞ、二・・・」

 

「嘘・・・君・・・写真の・・・」

 

「え?」

 

アタシの目の前に現れた人は黒いコートを羽織って金髪の髪をした男の子・・・そして何より印象に残っているのが・・・

 

「やっぱり・・・写真・・・あの写真の顔だ・・・!」

 

前にピアッサーで上杉に耳に穴を開けさせてやろうとした時に偶然あいつの生徒手帳に入ってあった写真の子とそっくりだった。

 

「何のことだ?さあ、とにかくこっちに来るんだ」

 

「え?そんな強引な・・・」

 

彼はアタシの手を強引に手を引いたその時・・・

 

ビリィ

 

「!!」

 

アタシのスカートの裾が木の枝に引っかかって引っ張られた衝撃で少しだけ破れてしまった。

 

「わ、悪い!」

 

これ、お気に入りのスカートだったんだけど・・・この程度の破れ具合なら大丈夫・・・なんだけど・・・今アタシは彼の顔をまとも見れない。

 

「ほ、本当にすまない・・・」

 

やばい、本当にマジで好みのタイプなんだけど。こんなかっこいい人があいつの親戚だなんて未だに信じられない。・・・そうだ・・・アタシ、この人の名前知らない・・・。

 

「・・・ねぇ、君の名前教えて!」

 

「え?」

 

「あ、ごめんね。前に君の写真見たことがあって・・・かっこいいなぁって、思ってたんだ」

 

「写真・・・?」

 

「ここのコテージ、他の学校の生徒も来てるのは知ってたけど・・・まさかあいつの親戚に会うなんて・・・」

 

「・・・あっ」

 

改めてみてみると、やっぱりというか、何となく上杉と雰囲気は似てるわね。どうしてこうもあいつと全然違うのかしら?あ、彼がこっち見た!やばい!すごいドキドキする!

 

「・・・あ、ここをまっすぐ行けば広い道に出られるから。じゃ」

 

え⁉もう行っちゃうの⁉も、もう少し彼と一緒にいたい・・・だってもろタイプの男の子は目の前にいるのよ!一緒にいたいに決まってるじゃない!

 

「ま、待って!」

 

「!」

 

「妹とはぐれちゃったの・・・一緒に探してくれないかな?」

 

嘘は言ってない。これなら少しは怖さを紛らわせるし、それに・・・もうちょっと一緒にいられるし・・・///

 

「そ・・・そうか・・・わかった・・・手伝うぜ・・・」

 

「本当に⁉ありがとう!」

 

やばい!彼めっちゃ優しいんですけど!

 

「あ・・・それで・・・君の名前は・・・?」

 

「お、俺の・・・名前は・・・き、金太郎だ」

 

「そっか。金太郎君っていうんだ・・・」

 

金太郎君・・・それが、彼の名前・・・。なんだかありふれた名前だけど、合ってると思うわ。あ、今キンタロー君がこっち見た!本当にやばい・・・緊張する・・・!

 

「・・・あ・・・あー!お酒飲みてー!」

 

「え?」

 

「未成年だけど、お酒飲みてぇ!法律犯してぇ!」

 

そ、そんな・・・なんて・・・なんて・・・

 

「ワイルドで素敵♡」

 

(ええ!!?逆効果!!?)

 

もう本当に男らしくてかっこいい!もういっそこのままキンタロー君と付き合いたい!!

 

「いつ・・・お前の妹、宿に向かったのかもな」

 

アタシがうきうきしている間にキンタロー君は空を見上げて六海がよくやる姿勢を見せている。

 

「何してるの?」

 

「星から方角を割り出してる。あの北斗七星の星間を5倍にした先が北極星。つまり北だ。これで方角を割り出せるんだ」

 

「へぇ~、物知り~」

 

もう男らしいだけじゃなくて頭もいいだなんて・・・本当に素敵すぎる・・・♡

 

「頭のいい人って憧れちゃうなー。それも自分の成績をこれ見よがしにひけらかす奴とは違うわー」

 

「そ・・・そんなひどい野郎がいるのか・・・」

 

「知ってるでしょ?君の親戚の・・・あれ?」

 

アタシがふと金太郎君の顔を見てみると彼の顔に少し違和感を覚えた。

 

「君・・・顔見せて」

 

「えっ・・・なっ・・・まさか・・・」

 

アタシは違和感の正体を探るために顔を近づてみる。・・・あー、やっぱり。

 

「ほら!おでこ、傷ついてる!」

 

「え?あ・・・ああ、かすり傷だろ?ほっとけば治る」

 

「そんなわけにはいかないわ。うちにもすぐ怪我して帰ってくる子がいてさー」

 

アタシは自分のポケットの中から絆創膏を探す。えっと確か、このあたりに・・・。あったあった。ちょっとかわいらしい絆創膏をキンタロー君のおでこの怪我に貼ってっと・・・。

 

「・・・うん!これでよし!」

 

これでキンタロー君の怪我も治るはず・・・?

 

「・・・ねぇ、何か声みたいなの聞こえない?」

 

ま、まさか・・・五月の言っていてお化けが・・・?

 

「そ、そいうのやめろよ・・・。そ、そうだ!俺にはこのお守りがある!」

 

そう言って彼はアタシに腕につけてあるミサンガを見せてきた。

 

「どんな魔も払いのけるお守りだ!」

 

へぇ~、そんなお守りが・・・

 

ぁぁぁぁ・・・

 

「「!!??」」

 

き、聞こえちゃった!本物の・・・お化けの声・・・!!声を聞いた途端キンタロー君は一目散に逃げだそうとして・・・て・・・

 

「ええええ⁉ちょ、ちょっと置いてかないで!1人は怖いわ!」

 

「は?お、お、俺は怖がってないけど?」

 

いや思いっきり怖がってるじゃない。なーんだ・・・怖いの苦手って・・・男らしくないなぁ・・・。かっこいいけど・・・ちょっと幻滅。

 

「・・・あ!こっちにも道が!」

 

「え?」

 

「こっちから行こうよ!ほら、森もすぐ抜ける!」

 

アタシは近道になりそうな場所を発見してその場所へと走っていく。やっと暗い森から解放される・・・。

 

「おいバカ!!そっちは確か・・・!!」

 

キンタロー君が荒げた声が聞こえてきたけど・・・何かしら・・・?それよりやっと森から出られ・・・

 

「え・・・?」

 

確かに森から出られた・・・けど・・・その先は崖・・・。アタシがそれに気づくころには足はすでに崖に・・・お、落ちる・・・!

 

「くっ・・・!」

 

崖に落ちそうになった時、キンタロー君はアタシの袖を引っ張って崖から引き戻してくれた。でも、その反動で金太郎君はバランスを崩し、落ちかけていく。

 

「やべ・・・!」

 

た、大変!すぐに引き戻さないと!!

 

「手!」

 

アタシは急いで手を伸ばした。あまりに急だったゆえに、アタシの手は彼には届かなかった。でも・・・掴み上げたのは彼の魔よけのお守りミサンガ。これなら引き戻せる・・・!アタシはすぐに力を込めて彼を引き戻した。その際にバランスを崩して倒れこんでしまう。落ちなくてよかった・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

キンタロー君は落ちそうになった緊張感からか息が乱れ・・・て!え、ちょ・・・今アタシのこの状況・・・彼に覆い被さるような体勢になってる⁉

 

「た、助かった・・・」

 

「こ、こちらこそ・・・ありがとう・・・」

 

ドクンッ

 

今、アタシの胸の内が高鳴ってる・・・。さっきまでの緊張感からじゃない・・・彼を見ているとそうなってる。アタシは・・・彼、キンタロー君が・・・

 

「しかし、見つからないな。やっぱりもう帰ったんじゃないか?」

 

「・・・・・・」

 

「?どうした?」

 

「ごめん・・・ちょっと動けないかも・・・」

 

さっき崖に落ちそうになったからかちょっと腰を抜かしてしまった・・・お、思うように起きれない・・・。

 

「・・・怖いから・・・手、握って・・・?」

 

「・・・は?」

 

「ほ、ほら!こんな所じゃまた怖い目に合うかも・・・」

 

「あ、あぁ・・・」

 

「・・・て!初対面の男の子に何言ってんだろ!今のなし!」

 

や、やっぱり、図々しいわよね。初対面の男の子に・・・手、握ってもらうのって・・・。

 

「・・・わかった」

 

「え?」

 

キンタロー君はアタシの手に自分が身に着けていたミサンガを渡して・・・え?

 

「それは徳の高ーいお守りだ。持ってるだけで旅行安全、身体健康、厄除開運安産間違いなし!願いだって叶うともっぱらの噂だぞ。貸してやる。特別だぞ?」

 

キンタロー君・・・アタシを思ってくれて・・・。うれしい・・・!手の震えもどこかへ飛んでいったわ。

 

「キンタロー君、君は明日もここにいるのかな?」

 

「え?あ、ああ・・・」

 

「私たちの学校、明日キャンプファイヤーがあるんだ。その時にやるフォークダンスに伝説があって・・・フィナーレの瞬間に手を繋いでいたペアは結ばれるらしいの」

 

「へ、へぇー・・・そうなのか・・・初めて知ったぜ・・・」

 

「手を繋いでいるだけで叶うって話もあって、人目を気にする生徒たちは脇でこっそりやってるみたい」

 

「それでいいのか・・・」

 

「ほんと大げさで子供じみてるわ」

 

子供じみたくだらない噂だけど・・・もし、もし彼と生涯を結ばれるのなら・・・

 

「キンタロー君。アタシと、踊ってくれませんか?」

 

どんな噂だって信じてやるわ。

 

「えっと・・・」

 

「待ってるから」

 

ガサッ!

 

ぁぁぁぁ・・・

 

ひぃ!!こ、この声、さっきの・・・お化け・・・!

 

「さ、さっきの・・・」

 

「来るぞ・・・」

 

だんだんと声はこっちに近づいてきて・・・出てきたのは・・・

 

「わあぁぁぁん・・・二乃ぉ~・・・どこ行ったんですかぁ~・・・」

 

「い、五月⁉」

 

お化けじゃなくて、めそめそと泣いている五月だった。ま、紛らわしいったらありゃしない!

 

「うえぇぇん・・・」

 

「ちょっと五月!」

 

「ふぇ・・・?」

 

五月がアタシに気付くと勢いよく抱き着いてきた。

 

「二乃~!よかったぁ~~!!すごく心細かったですぅ~!!」

 

「あんた紛らわしいのよ!ほら、帰るわよ!」

 

「は、はい・・・。でも、二乃はよく1人で平気でしたね・・・」

 

「違うわ。アタシは・・・あれ?」

 

アタシが後ろを振り向くとすでにキンタロー君の姿はなかった。普通なら夢とでも疑うかもしれないけど、これは紛れもない現実。だって、アタシの手にはお守りのミサンガがあるから。

 

・・・キャンプファイヤー、待ってるから。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎SIDE

 

ど、どうしよう・・・。俺は今かつてないほどの危機感を抱いている。それはさっきまでの俺と二乃のやり取りだ。

 

俺は今の俺を過去の俺、金太郎だと思い込んでいる二乃からフォークダンスの誘いを受けたまではいい。だがその前に元の俺、風太郎としてですでに一花から約束がある。いや正確には三玖が勝手に一花としてそう約束したんだが。両方は無理だ・・・。この場合はどうすればいい?

 

あいつらはコテージに戻ったか。なら俺も早くコテージに戻って二乃に真実を・・・

 

ぁぁぁぁ・・・

 

げっ!こ、この声・・・嘘だろ⁉二乃から聞いたお化けの噂、デマじゃなかったのか⁉こ、こっちに近づいてくる・・・!この茂みから俺の目の前に出てきたのは・・・

 

「ふえぇぇぇん・・・真鍋さ~ん・・・どこぉ~・・・」

 

てっ!六海かよ!驚いて損しちまったぜ・・・。六海はめそめそした状態で俺が目の前にいることに気が付いた。

 

「・・・ふぇ・・・?・・・あ、あなた・・・昨日の写真の・・・」

 

・・・え?・・・あ!そういえば六海の奴、昨日勝手に俺の生徒手帳の中にある写真を見たんだった!・・・てことは・・・まさか・・・

 

「う~ん・・・確かに風太郎君と面影がある・・・でも不良さんかもしれないし・・・」

 

やっぱりか・・・。間違いない・・・二乃と同じく、あの頃の俺だと思ってない六海は俺をあの頃の俺だと思ってやがる・・・。わかりづれぇ・・・。仕方ねぇよな・・・今金髪の鬘かぶってるし。でもこいつは確か二乃と違って・・・

 

「あ、あのー・・・」

 

「!・・・」ムスッ

 

俺が声をかけた瞬間六海はムスッとした表情に変わった。なんか3か月前の俺を嫌っていた頃のこいつを思い出す顔だな。だが今は何かと都合がいい。変に好意を抱かれても面倒だしな。

 

「ま、迷子かな?それならここからあそこへまっすぐ行けばコテージにつくよ?俺がいても嫌だろうし、俺はこの辺で・・・」

 

「!!!ま、待ってよー!」

 

コテージの場所を教えてその場に去ろうとするお六海が止めてきた。な、なんだぁ⁉

 

「友達とはぐれちゃったの!あなたが今離れると・・・六海、1人になっちゃう・・・。だから、お願いだよぅ・・・友達が見つかるまで・・・1人にしないで・・・」ウルウル・・・

 

嘘だろおい。さっき二乃と一緒に五月を探したのに、今度はこいつの友達を探さなきゃいけねぇのかよ。でもほっとくわけにもいかねぇし・・・つーか泣きかけてるじゃねぇか。

 

「はぁ・・・わかったわかった。探してやるから、もう泣くな」

 

「・・・本当?」

 

「嘘なんかついてどうすんだよ」

 

俺の言葉でようやく六海は泣くのをやめて涙を拭いてる。

 

「それで?その友達の特徴は?」

 

「えっと・・・髪の毛は茶髪のポニーテールで、左目の下にほくろがついてたよ」

 

ふむ、ポニーテールにほくろか。そいつの顔は知らねぇからそれ頼りか・・・。

 

「とりあえず、看板のところに行こうぜ。もしかしたらそこにいるかもしれねぇ」

 

「う、うん」

 

とりあえずまずは看板があった場所まで行って確認してみるか。もしかしたら、四葉と合流できるかもしれねぇし。まずはそこを目指して移動を始める俺と六海。・・・それにしても・・・。

 

「・・・」ムスッ

 

さっきから俺を見るこいつの目が少し鋭いんだが・・・。そんなに不良が嫌なら1人で行動・・・は無理か。泣きつくレベルだったもんな。てか俺、もとい金太郎は不良じゃねぇし。こいつの鋭い視線を浴びながらようやく看板の前までたどり着いた。

 

「・・・誰もいないな」

 

「・・・うぅ・・・」

 

「だから泣くな」

 

だがたどり着いてもそこには友達どころか四葉の姿も見当たらねぇ。

 

「もう帰ったんじゃないか?」

 

「真鍋さんはそんなことしないもん!!だって、六海が先生の用事で遅くなっても、真鍋さん、ずっと待っててくれたんだよ・・・ありえないよ・・・」

 

「わ、わかったから、怒るなって・・・」

 

うーむ、こいつが言うには自分を置いて帰るような性格じゃないってのはよくわかった。てことは、まだあの森の中にいる可能性があるってわけか。本当勘弁してくれ・・・いつになったら帰れるんだよ・・・。

 

ぐうぅ~・・・

 

むっ・・・俺の腹の音がなってしまった。腹減ったな・・・。

 

「?お腹すいてるの?」

 

「あ、ああ・・・」

 

やべ、今の聞かれたか。テストの点数を見られるくらい恥ずかしんだが。

 

「じゃあ・・・友達捜索を手伝ってくれてるお礼に・・・はい」

 

六海は持ってきた子袋から何かを取り出して俺に渡してきた。これは・・・チョコバーか?

 

「いいのか?」

 

俺の問いに六海はコクリと首を縦に頷かせた。

 

「じゃあ・・・いただきます」

 

六海の厚意に甘えて俺は受け取ったチョコバーの袋を開けて、一口かじる。おぉ・・・この味は・・・

 

「普通にうまい・・・」

 

「でしょ?それ、六海のお気に入りのお菓子なんだー。口に入れた瞬間、サクサクとした食感に口に広がるチョコの甘さ・・・そしてそれ食べてると、程よい満腹感が得られんだー」

 

ふむ、確かに六海の言うとおりだな。一口食った瞬間に満腹感を得られてる。まぁ、一種の錯覚だろうが、これなら腹は持つだろう。俺はチョコバーのうまさに感服しながら全部平らげた。

 

「ふぅ、ごちそうさん。ありがとな」

 

「・・・どういたしまして」ムスッ

 

あれー?おっかしいなぁ?さっきまで普通に話してたのに、食い終わったら不愛想が元通りになっちまったぞー?まぁいい。それもこいつの友人を見つけるまでの辛抱だ。

 

ポタッポタッ

 

ん?何やら鼻に冷たい感覚が伝わってきた。空を見上げてみると雨が降ってきていた。

 

「わぁ!雨だ!なんでー?今日は1日中晴れだって言ってたのにー!」

 

「とにかくどっかで雨宿りするぞ」

 

俺は六海を連れて看板外のルートを進み、雨がかからない木の葉の下で雨宿りをする。全く災難だぜ。

 

「幸い雨は小ぶりだ。ここなら雨に濡れる心配はないぞ」

 

「うん・・・」

 

六海の顔を見てみると、不安に満ちている顔をしてる。そりゃそうだよな・・・こんな森の中で友人とはぐれて1人になるわ、俺、もとい金太郎と出くわしてしまうわ、挙句の果てにこの雨だもんな。今の俺で和らげるかどうかはわからんが、少し励ましてやるか。

 

「心配すんな。お前の友達はちゃんと見つけてやるから」

 

「・・・・・・」

 

俺が六海の頭を優しく撫でてやってると、六海は本当に意外そうな顔でこっちに視線を向けてる。

 

「なんか・・・意外・・・。不良さんなのに六海のわがままに付き合ってくれたり、こんな優しくしてくれるなんて・・・」

 

マジで意外に思ってたのかよ。

 

「あのな、不良全員が悪い奴らとは限らねぇだろ?つーか、俺は不良じゃねぇ」

 

「え?そんな金髪なのに?」

 

「これは地毛だ」

 

まぁ、地毛ってのは嘘だけどな。

 

「金髪が地毛って・・・はっ!確か勇也さんも金髪だった・・・てことは・・・。・・・ごめんね、勝手に誤解しちゃって・・・地元じゃ辛かったんだね・・・」

 

「おい、何か勘違いしてないか?」

 

こいつが何を想像したか知らんが、壮大な勘違いをありがとう。俺はそんな皮肉が心の中で思い浮かんだ。だがそのおかげで、やっと笑うようになった。

 

「そうだ。・・・えっと、名前は?」

 

「え?あ・・・お、俺は・・・金太郎だ」

 

「金太郎君かぁ・・・キンちゃんって呼んでもいい?」

 

おい、なんだそのニックネームは。

 

「まぁ、別にいいが・・・」

 

「じゃあ、キンちゃん!さっきまでの態度のお詫びとしてキンちゃんの絵を描いてあげる!」

 

「お、おい、お前の友達・・・」

 

「ちょっとだけ。すぐ済むから大丈夫だよー」

 

六海は小袋の中からペンとお絵描きノートを取り出した。そしてすぐ真剣みな顔になって以前に見せた絵描きモードになった。やっぱり絵のことになると人が変わるな。まぁ、どっちみちまだ雨降ってるし、少しくらいならいいか。

 

4分か5分くらい経ち・・・

 

「キンちゃん、できたよー!はい!」

 

六海は出来上がった絵のページを破り、絵を俺に渡してくれた。今回は色は塗られてないが・・・やっぱりうまいな。

 

「すげぇな・・・これはプロレベルじゃないか?」

 

「ありがと♪でもまだまだだよー。これよりうまい人はたくさんいるんだし」

 

「まぁ、そうかもしれんが・・・」

 

「わぁ、雨あがってるー」

 

話をしている間に雨はすっかり止んでいる。というか、絵を描き始めて1分後に止んだんだけどな。ただの通り雨でよかったぜ。

 

「さて、じゃあ雨が上がったことだし・・・」

 

「・・・⁉ま、待って!今、何か聞こえなかった?」

 

「ちょ、や、やめろよ・・・」

 

こ、こんな時にお化けとかシャレになってねぇぞ・・・。らいはからもらったミサンガだって二乃に貸しちまったのに・・・。

 

ぅぅぅぅ・・・

 

ひぃ⁉ま、マジかよ!今度こそお化け⁉

 

「ぴゃああああああ!!!」

 

だが俺以上に怖がっているのは隣にいる六海だ。まるでこの世の終わりみたいな感じだ。

 

「お、お、お、おい!そんなとこで縮こまるな!」

 

「見えない聞こえない見えない聞こえない見えない聞こえない・・・」ガクガクガク

 

やめろー!その言葉を出すなー!マジで出てきたらどうする気だ⁉

 

「うっく・・・ひっく・・・もうやだぁ・・・お姉ちゃあ~ん・・・」

 

ここまで我慢してた不安が爆発してついに泣き出してしまった。もう本当に勘弁してくれよ・・・。マジもんのお化けが出たかもって時に・・・。

 

「ああ!くそ!」

 

「わっ・・・」

 

俺は縮こまる六海の手を引いて無理やり起こし、そのまま六海をおんぶする。

 

「キンちゃん・・・?」

 

「とっととお前の友達見つけ出して帰るぞ。もうこんなとこうんざりだ」

 

「・・・うん・・・」

 

六海は安心して俺に身をゆだねている。・・・なんつーか・・・重てぇ・・・。でもそれ言ったら怒られるだろうなぁ・・・。

 

「キンちゃんの背中、暖かい・・・」

 

むにゅっ

 

う、うおおぉ・・・この背中に伝わってくる感触・・・六海のあれが、当たってやがる・・・。身をゆだねすぎだ・・・マジで気がどうにかなっちまいそうだ・・・。

 

「・・・ねぇ、キンちゃん。明日もここにいるの?そっちも林間学校なんでしょ?」

 

「え?あ、ああ・・・」

 

「うちの学校、明日キャンプファイヤーするんだ。それでそのフォークダンスには伝説があるんだよ。そのフィナーレの瞬間に踊っていたペアは、生涯結ばれるって」

 

「そ、そうなのか・・・初めて知ったぜ・・・」

 

あれ?これデジャヴじゃね?いやいや・・・そんなまさかな・・・。

 

「実際本当に結ばれたかどうかは六海にはわかんない。だって遊び半分でデマを流したのか、はたまた真実となったかは、誰にもわかんないし」

 

「そりゃ、そうだな・・・」

 

頼む、俺の思い過ごしで合ってくれ!じゃないと・・・。

 

「・・・ねぇ?本当かどうか・・・試してみない?」

 

六海は俺の耳元でそんなことを囁いている。試す?試すって何をだ・・・⁉六海は俺の背中から降りて左手を自分の胸に当て、右手を俺に差し出してきた。

 

「キンちゃん・・・明日のフォークダンス、六海と踊ってくれませんか?」

 

な・・・なにいぃぃぃぃ!!?

 

「キンちゃんになら・・・添い遂げられても・・・いいよ・・・///」

 

六海は頬を赤くしてそんなことを言ってきた。や、やばい・・・これは非常に・・・。

 

ぅぅぅぅ・・・

 

「「!!?」」

 

す、すっかり忘れてた!そういやまだお化けが近くにいるんだった!

 

「こ、こっちに来てる・・・」

 

茂みの中からガサガサと音が聞こえてきた。身構えている俺たちの前に現れたのは・・・

 

「うぅ・・・六海ぃ・・・ぐすっ・・・」

 

「だ、大丈夫ですから!気をしっかり持ってください、真鍋さん!」

 

「四葉ちゃん!真鍋さん!」

 

四葉と・・・ポニーテールに左目下のほくろ・・・てことはこいつが六海の友達か。

 

「四葉ちゃーん!真鍋さーん!」

 

「「!六海-!」」

 

四葉たちを確認した六海はすぐに2人に駆け付けた。この隙に金太郎である俺はおさらばするぜ・・・。俺はあいつらに気付かれないように茂みの中に入っていく。

 

「六海!無事でよかった・・本当にごめん!私が・・・」

 

「いいんだよ真鍋さん。ありがとうね。四葉ちゃんも」

 

「本当によかったよ・・・ししし。でも、1人でよく平気だったね」

 

「ううん、実は・・・あれ?いない・・・」

 

茂みの奥からそんな会話が聞こえてきた。覗いてみると、コテージに向かって帰っていく姿が見える。ふと六海がボソッと口にした言葉が聞こえてきた。

 

待ってるから。

 

・・・やばい。どうしよう・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

鬘を外して私服に着替え、コテージに戻った俺は二乃と六海を探している。金太郎の正体を明かしたら弱みを握られそうで嫌だが、もう四の五の言ってられん。

 

「あーん♡林間学校がいつまでも続けばいいのにー♡」

 

お、いたいた・・・て、めっちゃ浮かれてんじゃねぇか・・・。

 

「ご、ご機嫌だな、二乃。何かいいことでもあったか?」

 

「教えなーい。明日驚かせてやるわ」

 

いやもう十分に今日は驚いたから。

 

「気になるなー。教えてくれよー」

 

「・・・」

 

無視を決め込みやがった!くっ・・・ただでさえ一花との約束があるのに、そこに二乃と六海にまで加わるとは!と、いうより、今の二乃を六海と鉢合わせるわけにはいかん!早いとこ真実を明かさないと・・・!

 

「・・・あれ?二乃は?」

 

俺が考え事してる間に二乃を見失っちまった。リビングの方に向かったはずだからそこにいると思うが・・・。リビングへ向かうと、他の奴らもここに集まってやがる。もう二乃でも六海でもいい。どっちか片方を・・・。

 

「ふざけんじゃないわよ!!」

 

!今の怒鳴り声、二乃か⁉気になって俺は奥の方へ見てみるとそこにはやっぱり二乃がいた。・・・ついでに六海まで・・・。1番恐れていた事態が起こってしまった。早すぎだろ・・・。

 

「なんであんたがキンタロー君と踊ることになってるわけ⁉」

 

「いや・・・だって・・・キャンプファイヤーの噂、半信半疑だったし・・・確かめたくて、つい・・・」

 

「つい、じゃないわよ!それでキンタロー君とあんたが結ばれたりしたらどうする気⁉」

 

「き、キンちゃんになら別にいいし・・・。ていうか、二乃ちゃん噂信じてないでしょ?なんでそんなこと言われなくちゃいけないの⁉」

 

ふ、普段姉妹と喧嘩するはずのない六海がよりによって二乃と喧嘩してるだと⁉珍しいもんだ・・・て違う!!

 

「馴れ馴れしくキンちゃんって呼ばないでくれる?噂なんて関係ないわよ!キンタロー君はアタシが先に踊る約束したのよ!横取りするんじゃないわよ泥棒猫!!」

 

プッチーン!!!

 

あ、何かキレる音が聞こえてきた。

 

「だ、誰が泥棒猫だって!!?泥棒猫なのは二乃ちゃんの方でしょ!!」

 

「なんですってー⁉言っておくけどね、アタシはキンタロー君の怪我を治療してあげたんだからね!」

 

「六海はお腹すいてるキンちゃんにお気に入りのお菓子あげたし!」

 

「アタシは危ないところをキンタロー君に助けてもらったのよ!」

 

「怖がってた六海にキンちゃんはずっと寄り添ってくれたもん!」

 

「何よ⁉」

 

「何⁉」

 

け、喧嘩がどんどんエスカレートしていく・・・止めなくては・・・。

 

「お、おい・・・もうその辺で・・・」

 

風太郎君は黙ってて

 

てかあんたには関係ないでしょ

 

怖!こいつら迫力ありすぎだろ!!

 

「こーなったら明日ハッキリさせましょう!キンタロー君はアタシかあんた、どっちを選ぶのか!」

 

「いいよ?どうせ六海の方に来るのわかってるし!」

 

「アタシよ!」

 

「六海だよ!」

 

け、喧嘩したままリビングを出ていった・・・。やばい、これは確実にやばい。早いとこあいつらに真実を明かさなければ・・・。俺は二乃と六海を追ってリビングから出るが・・・もうあいつらを見失っちまった。くそ、どこいった?

 

「今のって二乃と六海?あの2人が喧嘩なんて珍しいね」

 

「!一花!三玖!」

 

俺があの2人を探していると、ちょうどそこに一花と三玖が通りかかった。

 

「ちょ、ちょうどよかった。ちょうどお前らに・・・」

 

「あー!思い出した!私、仕事あるんだった!後は若いお2人でごゆっくり~♪」

 

一花は何かわざとらしくそんなことを言ってこの場を俺と三玖の2人だけにさせてどっかいった。

 

「なんだあいつ・・・まぁ、お前が残ってくれてよかった」

 

「え?」

 

「二乃と六海がどっち行ったか知らない?」

 

「・・・知らない」

 

俺が三玖に二乃たちのことを聞いたらそっぽを向いてどっか行っちまった。ふむ・・・これは・・・

 

「もしかして、俺って思ったより好感度低い?」

 

「今更気が付いたんですか」

 

俺の疑問に答えたのはなぜか俺から隠れてる五月だった。

 

「忠告します。今より下げたくなければ、これ以上不審なことはしないことです」

 

「・・・心当たりがないんだが・・・」

 

本当に身に覚えがないんだが・・・。と思っていたら五月はせっせと俺から離れていった。・・・これはまずい・・・!早急に手を打つ必要がありそうだ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「上杉さんが手伝ってくれて助かります!」

 

事の深刻さを感じた俺は信頼回復のために四葉の係であるキャンプファイヤーの準備を手伝うことにした。

 

「これを運べばいいんだな?」

 

「はい!昨日の雪と今日の通り雨で一時的によけていたらしいです!明日のキャンプファイヤーのために係の人たち総出で頑張ってます!」

 

「よし・・・ふん・・・!」

 

俺はキャンプファイヤーで使うでかい丸太を持ち上げようとする。お、重てぇ・・・!俺の力が弱いからか、それともこれが重いのか全然持ち上がらねぇ!

 

「・・・上杉さん、本当に男の子ですか?」

 

「・・・・・・」

 

その一言がめっちゃへこむんだけど・・・。

 

「で、でも!人手が多いに越したことはないですからね!」

 

「そ、そうか・・・肝試しの時のお礼だと思ってくれ」

 

「あ!そうですよ!上杉さんがいない間1人で脅かし役やったんですからねー!」

 

それは悪いことをしちまった。ていうか、どうやら俺は知らぬ間に顰蹙を買ってしまったようだ。早急に信頼回復しなければ、二乃たちに真実を明かすどころか、今後の家庭教師に影響が出かねない・・・。と、そうしてるうちに持っていく場所にたどり着いて丸太を設置する。やっと1本目か・・・。

 

「次行きまーす!運動にもなって一石二鳥ですねー!」

 

「ああ・・・い、いい汗・・・かけるぜ・・・」

 

し、しんどい・・・俺ってこんなに体力なかったっけ・・・?まぁ、それはともかくとして、2本目・・・重いが、やるしかねぇ!

 

「せぇー・・・の!ふん!」

 

俺が持ち上げようとしても全く持ち上がらねぇ。どうなってんだ?

 

「わっ!重!」

 

 

俺が持ち上げようとした丸太はもう片方に持ち上がった。もちろんこれは俺じゃない。もう片方の方を見てみると、一花が持ってくれたようだ。

 

「おや!よく見たらフータロー君じゃん!この係じゃなかったよね?」

 

ちょっと待て、四葉は・・・いや、待てよ?四葉のみならず、一花までいるとは!これは好感度を上げるチャンス!

 

「うぅ・・・寒・・・上着持って来ればよかった・・・」

 

持ってくれ俺の体!コミュニケーション能力MAXだ!!

 

「四葉を手伝ってたんだ!さあ、運ぼうぜ!はは☆」

 

どうだ俺のコミュ能力は!なかなかのものだろう!

 

「肝試しは楽しんでもらえたかな?」

 

「え⁉う、うん、ドキドキしたよ?」

 

「それは上々!実行委員として、うれしい限りです!」

 

「フータロー君が実行委員をしっかりこなせるかは、別の意味でドキドキしたけどね」

 

「ははは☆これは1本取られましたな!はははは☆」

 

よしよし、うまく話せてるじゃないか!上々だぜ!

 

「・・・いや、やっぱり待って。何そのしゃべり方?変」

 

「ええ!!?」

 

なん・・・だと・・・うまくやれてたはずなのに・・・あれ?普段俺、どんな風にしゃべってたっけ?

 

「フータロー君、勉強以外じゃ積極的に交流しないもんね。何を気にしてるのか教えてごらん?」

 

く・・・やっぱり1人で信頼回復は難しいか・・・。仕方ない、一花には話しておくか。

 

「・・・つまり、みんなに嫌われたくないってわけだね」

 

「いや、そういうわけでは・・・」

 

事情を説明し、理解した一花は当たり前のようなことを言ってきた。別に仲良くなりたいってわけではないのだが・・・。

 

「ふふふ、あのフータロー君がねぇ~」

 

「だから違うって!」

 

「じゃあお姉さんが練習相手になってあげる」

 

は?練習相手?

 

「練習って、どうやって・・・」

 

「私は三玖ほどうまくないんだけど・・・こほんっ」

 

一花はいったん咳払いして・・・何する気だ?

 

「君!しっかり持つ気ある?アタシが重いじゃない!」

 

「二乃!」

 

「何ぼーっとしてるんですか?与えられた仕事をこなしてください!」

 

「五月!」

 

「意地悪な人!何力緩めてるの?重いんだからしっかり持ってよ!」

 

「六海!」

 

練習相手になるって、自分の妹になりきることかよ!マジで似てるからびっくりだぜ!てか最後の六海ってまだ俺の名前を呼ばなかった頃のあれじゃねぇか!それを選ぶあたり一花も腹黒いと思ってしまったぜ。

 

「ほら、ちゃんと返事して?」

 

「お、おう・・・」

 

返事って言うと・・・こうか?

 

「六海に見惚れて、集中できなかったぜ☆」

 

「え~・・・なんかやだ・・・」

 

くっ!これもダメかよ!自信がなくなってきたぜ・・・。と、そう言ってる間に到着っと。この丸太を設置してっと。もう完成したんじゃないか、これ?

 

「もっと自然に言えばいいんだよ。それでもコツはいるんだけどね。二乃には負けないくらい強く、六海には楽しく、五月ちゃんには優しさを。自分の言葉でね。あ、私にも優しくしてくれてオッケーだよ?」

 

「や・・・優しく・・・ね。覚えてはおく」

 

まぁしかし・・・先に一花に話せてよかった。やはり長女だけあって、俺や六つ子にたいしても分け隔てなく冷静な目を持っている。

 

「じゃあ、次は三・・・・・・」

 

?急に黙り込んだ?

 

「どうした?」

 

「ううん、なんでもない。それより見て、もうなくなりそうだよ」

 

俺たちが丸太の倉庫へ行ってみると、残ってる丸太はこれ1本だけだった。

 

「最後の1本だな」

 

「これで明日キャンプファイヤーができるね」

 

「・・・明日か・・・」

 

明日っていえば・・・俺はキャンプファイヤーで一花と踊ることになってるんだったな。

 

「三玖から話し、聞いてるよな?」

 

「うん・・・なんか踊るみたいだね、私たち」

 

「なんでこんなことになったんだか・・・」

 

ただでさえ金太郎として二乃と六海から誘いを受けたってのに、頭が痛くなる話だぜ。

 

「あはは・・・恥ずかしいよね。どうする?練習でもしとく?」

 

明日のキャンプファイヤーで一花か二乃、六海からどちらか選ばなければならないのなら・・・1つの可能性は少なくとも消した方がいいのなら・・・

 

「やめるか?」

 

この方が1番の最善なのかもしれん。それに、一花自身も俺相手じゃ困るだろうしな。

 

「言った通り、その場の成り行きで決まった約束だ。伝説だなんだってのも、乗り切れないしな。前田には疑われるだろうが、俺がいなければ誤魔化せるだろうしな。それに、俺と踊ってるとこなんて、他の奴らに見られたら、お前も・・・」

 

ふと俺が一花の方に視線を向けると・・・な、泣いてる・・・?

 

「い、一花・・・?」

 

「・・・あれ・・・なんでだろ・・・違うの・・・ごめん、一旦おいていいかな?」

 

な、ななな、何で泣いてるんだよ?も、もしかして俺、またやらかした系?気付かないでやらかしたのか?

 

「さー、早く終わらせて帰ろー」

 

なっ!他の連中がこっちに来る⁉どう考えたってこの状況、俺が泣かしたみたいな感じだ!こんなの見られるわけには!

 

「い、一花!こっちに!」

 

「え?フータロー君?」

 

俺はすぐに一花と共に入れ口近くの隅に移動して、持っていた丸太で俺たちの姿を隠す。

 

「あれ?もう残ってないじゃん」

 

「本当だ。意外と早かったね」

 

「すみませーん!上杉さん見ませんでしたか?」

 

「上杉って、あいつ?」

 

「見てないけど・・・」

 

・・・ば、バレてない・・・よかった・・・何とか隠れられたぜ。

 

「ははは、前にもこういうことあったね」

 

ああ、花火大会のあの日か。前とは立場が逆だな・・・。

 

「というか、隠れる必要ある?」

 

こういう時、どうすればいいんだ?・・・一花の言ったことを思い出せ・・・優しく・・・だったな。俺はすぐに着ているジャケットを一花に羽織らせる。

 

「!」

 

「・・・誰も見てないから」

 

「・・・っ」

 

「・・・あ!また俺、変な感じに・・・」

 

ちくしょう・・・俺って本当にコミュニケーション能力ねーな・・・。

 

ガシャンッ!

 

ガチャッ

 

「・・・ガシャン?」

 

「ガチャ?」

 

えっと、今の音は入り口で聞こえたような・・・って、ドアが閉まってる・・・。

 

「ま、待て・・・もしかして・・・まさか・・・」

 

「え?ここにかけてあった鍵は?」

 

いやな予感がして俺はドアを開けようと力を入れてみたがびくともしない。ドアをたたいても反応なし・・・。

 

「「・・・あはははは・・・」」

 

「・・・1本取られたね」

 

俺と一花はこの倉庫の中に閉じ込められてしまった。係の奴ら、閉めやがったな・・・あはは、覚えてろよこの野郎め。

 

12「結びの伝説2日目」

 

つづく




六つ子豆知識

『金髪』

四葉「二乃はあの金髪の人がタイプなんだー」

五月「金髪は校則違反です!」

六海「キンちゃん以外不良の象徴だよー!」

三玖「なんかチャラそう」

一花「働かずに遊びまわりそうだよねー」

二乃「そうなの!アタシが支えてあげないといけないわよね・・・」

一、三、四、五、六「ああ・・・」

六つ子豆知識 終わり

次回一花、三玖視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結びの伝説3日目

一花SIDE

 

「・・・参ったね・・・」

 

「・・・ああ・・・」

 

「閉じ込められちゃったね・・・」

 

「ああ・・・」

 

林間学校の3日目に行われるキャンプファイヤーの準備をフータロー君と一緒に行ったまではいいよ?でも問題はその後、私がなぜか泣いちゃってたせいでフータロー君を困らせちゃって、それを見られないように他の係の子たちから隠れてたら、係の子たちが私たちがいることに気付かないまま倉庫の扉に鍵かけて閉めちゃった。内側に鍵はないから、簡単に言うと閉じ込められちゃった。

 

「・・・よし。ドアを壊して外に出る。少し離れてろ」

 

フータロー君がドアを壊そうとドアから離れて構えようとしてる。そして私はドアの間近にあるものがあるのに気が付いた。

 

「あ、待って。あれ防犯センサーじゃない?ドアを壊したら警備員が飛んでくるやつ」

 

そう、あれは防犯センサーである。ドアを壊したら真っ先に警備員が駆けつけてくるもの。そんなのが起動したら林間学校どころじゃなくなっちゃう・・・。

 

「見つけてもらえるなら願ったり叶ったりだ!」

 

フータロー君は構わずにドアを壊そうと試みてる。

 

「ちょっとちょっとダメだって!そんなことしたら林間学校が台無しだよー」

 

「ぐっ・・・」

 

私がそんな説明をして止めたらフータロー君は思いとどまってくれた。よかった。林間学校が台無しになるのは本意じゃないし・・・それに・・・こんなこと、三玖に知られたら・・・きっとあの子はまた悲しむ・・・。だって三玖はフータロー君のことが・・・

 

「・・・わかった。解除できるかどうか見てくれ」

 

「え?」

 

防犯センサーを解除って言われても・・・あれは結構高い位置にあって私たちの身長じゃ全く届かないだけど・・・。

 

「あはは・・・身長が2メートルあったらなー」

 

「なんだそれ?肩車だ。早く俺の肩に乗れ」

 

へ?肩車・・・あ、あー、そういうことか、なるほどね。それでフータロー君はしゃがみこんでたわけだ。

 

トクンッ トクンッ

 

大丈夫・・・平常心・・・平常心でいかなきゃ・・・。防犯センサーもだけど、私の胸のセンサーも反応させちゃダメだから・・・。

 

・・・たとえフータロー君が、"あの時の彼"だと気づいた後だとしても。

 

「お・・・重いとか言わないでよー?」

 

「なめるなよ。俺は六海をおんぶしてそれを耐えた男だぜ」

 

え?フータロー君、六海をおんぶしたんだ。いつの間に・・・。・・・て、耐えたって、重いって感じたのは事実じゃん・・・何か不安だなぁ・・・。まぁ、やらないと始まらないし、フータロー君の肩に遠慮なく乗っかろっと。

 

「大丈夫?」

 

「ああ。いくぞ」

 

フータロー君は肩車で私を持ち上げようとする・・・。

 

「・・・ん?」

 

「どうしたの?」

 

「この感触・・・なぜだか懐かしい・・・」

 

!!??た、確かに私の太ももはフータロー君の頬に当たってるけど・・・懐かしいっていうのは・・・いったい・・・。て、そんなことより・・・

 

「こ、こら!太もも堪能するの禁止!!」

 

「後重くて持ち上がらない・・・!」

 

「あああ!!やっぱ言ったーー!!」

 

いや、言うと思ったけどね!おんぶを耐えたって時点でダメだって思ってたけどね!わかってたけどね!直で言われるとすっごいショック受けるんだけどーー!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六海ご立腹or一花と風太郎はいずこへ?』

 

「む~・・・」

 

「えっと・・・大丈夫?」

 

四葉たちがキャンプファイヤーの準備に勤しんでる中、三玖はご立腹な様子の六海を自分なりに慰めている。

 

「・・・抹茶ソーダ、飲んでみる?」

 

「え⁉️いいの⁉️わーい、ありがとう!ずっと味は気になってたんだけど、買う気になれなくて・・・」

 

三玖が抹茶ソーダを渡すと六海はさっきとはうって変わって元気になった。

 

「じゃ、いっただっきまーす!」

 

六海はもらった抹茶ソーダをぐびっと飲んだ。

 

「・・・て、まずーーーー!!!」

 

だが口に合わなかったのか六海は飲んだ抹茶ソーダをすぐに吹き出す。

 

「そう?おいしいけど」

 

「ゴホッ、ゴホッ!こう言っちゃなんだけど三玖ちゃん、味のセンスないよ?」

 

「むぅ・・・」

 

六海の率直な感想に三玖は頬を膨らませ、しかめ顔になる。

 

「・・・二乃と何かあったの?六海が姉妹と喧嘩なんて珍しい・・・」

 

三玖の問いかけに六海は頬を膨らませ、怒りをあらわにする。

 

「・・・言いたくない!先に言いがかりをつけてきたのは二乃ちゃんだもん!六海、何にも悪くないもん!」

 

事情を聞こうにも六海がご覧のありさまで一向に話そうとしないので三玖も困り果てている。下手に話題を出すと逆ギレしそうな雰囲気でたじたじである。

 

「三玖、六海」

 

そんな状況の中、五月が2人に声をかけてきた。

 

「五月?どうしたの?」

 

「・・・何か用?」

 

「なんで六海は怒ってるんですか・・・?」

 

「さあ・・・教えてくれなくて・・・」

 

怒ってる様子の六海を見て五月は少し困惑しているが、すぐに本題へと入る。

 

「・・・まぁ、今は置いといて・・・一花見かけませんでした?」

 

「?一花?」

 

「部屋にいるんじゃないの?ちょうど終わったころでしょ?キャンプファイヤー係」

 

「それが、まだ帰ってきていないみたいなんです。キャンプファイヤー係の仕事があると外に出た切り・・・」

 

一花がまだ帰ってきていないと聞いて三玖も、怒っていたはずの六海も不安そうに心配になり始めた。

 

「六海ー!三玖ー!五月ー!」

 

そんな不安を漂わせていると、今度は四葉が慌てて駆け付けてこんなことを尋ねてきた。

 

「3人とも!上杉さん見なかった⁉」

 

「え?」

 

「風太郎君?見てないけど・・・」

 

「上杉さんったら、キャンプファイヤー係の手伝いでどこかにいなくなっちゃったんだよー!食堂にもいないし!部屋にも戻ってないしー!」

 

一花のみならず、風太郎までいないことに対し、五月と六海は互いに顔を見合わせる。三玖は少し不安そうな顔で昨日の旅館での一花との会話を思い出していた。

 

『三玖。昨日言ってたキャンプファイヤーの話、本当に私でいいの?』

 

『うん。その場しのぎで私が決めちゃったことだから』

 

『・・・そっか。じゃあ、ボッチのフータロー君の相手をお姉さんがしてあげよっか』

 

そんなことを思い浮かべていたら、三玖の不安がだんだんと強くなっていった。

 

「私・・・探してくる!」

 

「「え?」」

 

「三玖⁉」

 

不安がたまった三玖は一花たちを探しに外へ向かっていった。その様子に戸惑う四葉たち。すると、五月は四葉が持っていた鍵の存在に気付く。

 

「四葉、その鍵は?」

 

「え?これ?キャンプファイヤーで使う道具の倉庫の鍵だけど・・・」

 

「・・・まさかとは思うけど・・・それで風太郎君たちを閉じ込めたり・・・?」

 

「え⁉」

 

「ふぁっ!!?」

 

六海の言葉に五月は驚き、四葉は過剰な反応をしている。四葉自身、まさかそんなことはと思っていたのでこの発言で四葉は最悪のケースを考え、冷や汗が大量に出始める。

 

「・・・なーんてね!そんなことあるはずないよねー、ははは!」

 

「そ、そうだよね!もしそうだったら大変だもんね!あははは!」

 

どうやら六海は冗談で言っていたようだが、五月はそれがだんだんと冗談ではないのではないかと思い始めている。それもそのはず、五月は昨日の宿で彼女の姉妹の誰かが寝ている風太郎に寄り添っているのを見ていたからだ。もしかしたらと考えだしたら、五月は居ても立ってもいられなかった。

 

「・・・私も探してきます!四葉、鍵をお借りします!」

 

「え⁉五月⁉」

 

「ちょ・・・五月ちゃーん⁉」

 

五月は四葉から無理やり鍵を奪い取り、外へ出ていってしまった。残された四葉と六海を何事かという顔をしてぽつんと立っていた。

 

「・・・えっと・・・どうしよう・・・?」

 

「・・・四葉ちゃん、オセロでもする?」

 

どうすればいいのかわからず、四葉と六海はそんな問答をしあっている。

 

♡♡♡♡♡♡

 

とりあえず肩車の案は却下して、フータロー君が台となって私が彼の背中に乗って防犯センサーを見るという形で納得した。そのおかげで防犯センサーの解除の仕方も分かった・・・ついでに、現時点で防犯センサーは解除不可能だということもね。というのも・・・

 

「センサーの解除には鍵が必要・・・やはり誰かを待つしかないか・・・」

 

センサーの解除にも倉庫の鍵が必要らしく、当然ながら私たちはそれを持っていない。結局は誰かが探しに来るのを待つしか選択権がない。それより・・・

 

「あのー、フータロー君先生?それは何をしているんですかー?」

 

今フータロー君は原始的な方法で火をつけようと弓式の棒で板を削っている最中だ。いや本当にこんな時に何してるわけ?

 

「見ての通り火を熾す。風邪でも引いたら最終日がパーだ」

 

「フータロー君は頭がいいけどおバカだよね」

 

いや、本当に彼の気遣いはありがたいんだけど・・・今この場で火を熾す必要ってあるのかなー?

 

「それより暇だし、楽しい話でもしない?」

 

「集中してるから後にしてくれ。気が散る」

 

むっ・・・そんな反応されると・・・なんかムカッてなるなー。なんか意地でもフータロー君とお話がしたくなってきちゃった。

 

「・・・あー、この前六海が絵の解説をしてくれたんだけどー・・・」

 

とにかく反応してもらえるようありとあらゆる話題をフータロー君に吹っ掛けていくとしますか。1個くらいは乗っかってくれるでしょ。

 

「・・・というわけ。それで・・・」

 

「・・・・・・」

 

「この前五月ちゃんがさー・・・」

 

「・・・・・・」

 

「で、二乃が大変で・・・」

 

「・・・・・・」

 

「そのコロッケ見てなんて言ったと・・・思う・・・?」

 

「・・・・・・」

 

これだけ話題を彫り上げていっているのにも関わらずフータロー君は話を全部スルーしてきた。

 

「全部無視・・・お姉さんまた泣いちゃいそうだよー・・・」

 

私がそんなことを言っても、フータロー君はお構いなしに火を熾そうと奮闘してる。・・・何で泣いたか聞かないでくれるんだ・・・。興味ないだけかなー?・・・本当、何で泣いちゃったかなー、私。自分でも見当つかないよ・・・。・・・・・・。

 

「・・・私、学校辞めるかも」

 

「・・・え?」

 

ぽつりと言った私の言葉にようやくフータロー君は反応してくれた。

 

「はは・・・やっと興味持ってくれた・・・」

 

「それより、やめるって、どういうことだ?」

 

「まぁ、休学って形だけど・・・」

 

そもそも私がどうして学校を休学しないといけないのかっていう理由は、今朝に送られてきた事務所からメールと、先日、社長から言われた一言だ。

 

『一花ちゃん、女優を続けていくなら、休学って形も視野に入れておいた方がいいよ』

 

女優の仕事は楽しいし、続けていきたいから即答で学校辞めるってのも考えたけど・・・やっぱり妹たちのことを考えると、すぐには、ね。

 

「ほら、前に花火大会の時のオーディション、合格したって言ったじゃん?」

 

「あ、ああ・・・」

 

「おかげさまで映画の撮影してるんだけど、新しい仕事の話も少しずつもらえるようになってきたの。そういうこともあって、もう何度か学校を休んで仕事に行ってるんだ。他の生徒役の子たちも留年覚悟で休んでたり、融通の利く学校に転校したりしてるみたい。私は知っての通り学業は絶望的だからさ・・・高校に未練はないかなーって・・・」

 

高校は義務教育ってわけじゃないし、だったらそこまでこだわる必要なんてないわけだからね・・・。それに・・・私がいなければ、三玖は・・・変に悩まずに済むだろうしね。

 

「・・・・・・」

 

「・・・あっ・・・とか思ったり・・・思わなかったり・・・」

 

やば・・・しゃべりすぎたかな・・・?怒られる・・・

 

「・・・お前といい六海といい・・・いいな。夢があったり、やりたいことが見つかって」

 

「・・・あれ?」

 

フータロー君、怒らない?それどころか、私のやることに口出ししてない?

 

「・・・待てよ?お前がいなくなったら給料はどうなる⁉まさか2割減⁉」

 

わー・・・いつものフータロー君だ・・・。

 

「な、何か、意外だね。人間失格!!!って、これくらい怒られると思ってたよ」

 

「俺のことそんな目で見てたのか?」

 

あ・・・あはは・・・言葉のあやだよー。

 

「・・・選択肢のあるお前が羨ましいよ」

 

「え?」

 

「ま、9割9分失敗するだろうがな」

 

「もー、またそんなこと言うー!」

 

「それも糧になるさ。うまくいけば儲けもの。何事も・・・挑戦だ!」

 

!!フータロー君・・・私の進む道を応援してくれている・・・?

 

「木屑!」

 

「え⁉どこ⁉」

 

「ほらここだ!息を吹け!消えるぞ!」

 

「う、うん!ふーっ、ふーっ」

 

木の板にできた木屑に息を吹きかけることで板に火がついた。さらに燃えやすい木を火に出して簡易的な暖炉の出来上がり。いやー、やるもんだなぁ。

 

「暖かいね・・・」

 

「ああ・・・」

 

これのおかげでちょっと冷えてきた体が温まった気がするよ。

 

「・・・いいよ」

 

「・・・え?」

 

「キャンプファイヤーのダンス、私たちの約束はなかったってことで・・・」

 

きっとこの方がよかったんだよ・・・これでフータロー君にも迷惑は掛からないし、三玖もきっと、元気を取り戻すはず・・・。

 

「ああ・・・」

 

「その代わり!今踊ろう?今夜は2人だけのキャンプファイヤーだよ」

 

こうやって倉庫に閉じ込められちゃったけど・・・これでいい。これで、三玖の望む平等になる。

 

「・・・ま、誰も見てないしな」

 

「やったぁ♪ふふふ、やっぱ恥ずかしかったんだぁ♪」

 

「あ、当たり前だろ・・・」

 

「かわいいとこあるじゃーん♪」

 

フータロー君が少し照れてる間に、私は胸に手を当て、センサーの反応を確認する。

 

・・・センサーに反応なし・・・これなら大丈夫・・・。

 

「ただでさえ伝説なんてものが流布されてるんだ。その気がなくてもそう見られちまう」

 

え?伝説?何それ?そういえば昨日旅館で四葉が伝説がどうとかって言ってたみたいだけど・・・

 

「・・・その伝説って・・・何・・・?」

 

「知らないのか?四葉から聞いたくだらない話だ。キャンプファイヤーで踊っていた2人は生涯結ばれるって・・・」

 

!!!!生涯が・・・結ばれるって・・・それって・・・

 

「・・・そ・・・それ・・・三玖は知ってるの・・・?」

 

「ああ。その場にいたな」

 

そ・・・そんな・・・これじゃあ私は・・・

 

「・・・そ・・・そんなつもりじゃ・・・」

 

「一花・・・?」

 

「三玖にとって・・・キャンプファイヤーは・・・それなのに私は・・・」

 

私は誰よりも三玖の気持ちを知っていたはずなのに・・・なのにこんなことって・・・。私って・・・最低だよ・・・。

 

「・・・フータロー君!さっきの話・・・!」

 

ゴッ

 

「!!一花!!」

 

「え?」

 

フータロー君が慌てたように声を荒げように私は何事かと思って後ろを振り返ると・・・立てておいた丸太が私に向かって倒れて・・・そういえば足に何かぶつかったような・・・

 

あ・・・ダメ・・・ぶつか・・・

 

「あぶねぇ!!!」

 

グイっ!

 

ドシイイイィィィン!!!

 

いったい何が起きたのか今の私の脳では整理が追い付かなかった。私は今、フータロー君に抱かれそうになる態勢で身を引き寄せられて・・・倒れた丸太から・・・守った・・・?

 

「・・・はぁ~~~・・・セーフ・・・お前さぁ・・・意外とドジだな」

 

!!!私を助けた後でその優しい笑み・・・ダメ・・・そんなことされたら、私のセンサーは・・・

 

ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!

 

もうダメ!!限界!!こんなの、私の理性が持たない!センサーが反応しまくってる!

 

「ちょ!は、放してぇ!!」

 

「お、おま!暴れんな!!」

 

照れと恥ずかしさのあまり、フータロー君を引きはがそうとしたけど、その勢いで2人揃って倒れてしまった。うぅ・・・いったぁ・・・フータロー君の顔も近いし、ハズイ・・・///

 

ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!

 

「というか、なんだこの音・・・」

 

!この音、防犯センサーからなってる・・・まさか・・・

 

『衝撃を感知しました。直ちにアンロックしてください。解除しない場合、直ちに警備員が駆け付けます』

 

やっぱり!さっきの扉に当たった丸太の衝撃で防犯センサーが起動しちゃったんだ!

 

「まずい!!誰か来る前に逃げるぞ!!」

 

「う、うん!」

 

て、逃げるって言っても扉は閉まってるし、逃げられないんじゃあ・・・本当にヤバイ・・・!

 

シュワアアアアア!!

 

危機感を感じていると天井のスプリンクラーが反応して水が出てる!そ、そうか、焚火の火に反応して・・・!

 

「うわっ!なんだこれ!」

 

「スプリンクラー⁉火を消さないと・・・」

 

「ひとまずセンサーを何とかしよう!」

 

「なんとかって・・・だから、鍵がないと・・・」

 

「鍵・・・?くそ、どうすりゃ・・・」

 

私もフータロー君も絶体絶命と思い始めたその時・・・

 

ガチャッ

 

「「・・・え?」」

 

扉の鍵が開く音と同時に、防犯センサーもスプリンクラーも止まった・・・。わ、私たち・・・助かったの・・・?

 

「鍵ならここにありますよ」

 

そんな声が聞こえたと同時に、倉庫の扉が開き、出てきたのは・・・

 

「一花・・・2人してこんなところで、何をしていたんですか?」

 

明らかに冷めたような眼をした三玖と、怒っている様子の五月ちゃんだった。一難去ってまた一難とはまさにこのことを指すんだね・・・。

 

あの後私たちは三玖と五月ちゃんだけでなく、先生に事情を説明するわで怒られるわで、もう本当にえらい目にあったよ。

 

そしてその翌日、私は風邪を引いてしまいました。とほほ・・・

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖SIDE

 

林間学校最終日の3日目、目が覚めた私は眠気交じりのあくびをした後、外をぼんやりと見つめる。・・・昨日のフータローと一花の件・・・2人から事情を聞いたけど、今も半信半疑の状態。でもそれ以上に・・・頭の中がもうごちゃごちゃでわけわかんない。

 

私たちは平等・・・でも昨日の一花とフータローの件は明らかに度が過ぎていた・・・。私たちは平等・・・だとしたら、私はどうすれば・・・。もうわけがわからない。私は何がしたいのかもわからなくなってきた・・・。

 

「ほーら!一緒にスキーに行くよー!」

 

「やだやだ!絶対に行きたくない!」

 

ぼんやりと考え事をしていたら四葉の元気な声と何か拒み続けてる六海の声が聞こえてきた。そして数秒も立たないうちに私の部屋に四葉が嫌がる六海を引っ張って入ってきた。

 

「三玖ー!まだ寝てるのー?早く起きて準備してー!」

 

「三玖ちゃん!助けて!このままじゃスキーに連れてかれる!」

 

何が何だかわからないでいると四葉は私の手をつかんできて部屋の外に連れ出される。

 

「え?え?よ、四葉・・・?」

 

「自由参加だからって寝るのはもったいない!いい思い出とするためにも、滑り倒しちゃおー!」

 

「やだー!!スポーツは嫌だーーー!!!」

 

私はわけもわからずに、六海は悲痛の叫びを上げながら四葉にスキー会場へと向かうゴンドラに強制連行された。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結局四葉に成す術もなく半場強制的にスキー会場へ向かうゴンドラに乗せられた私と六海。四葉はフータローを呼んでくると言ってコテージへと戻っていった。・・・今だけはフータローとはあまり顔を合わせたくなかったんだけど・・・。て、それは六海と二乃も同じか。今喧嘩中みたいだから顔を合わせたくないと言ってたし。

 

「あーあ、やだやだ・・・スキーだってスポーツの一種なのにさー・・・四葉ちゃんに無理やりここに乗せられるし・・・」

 

「六海、諦めて。こうなったらスキーを楽しむしかない」

 

「でもー、六海のスポーツ嫌いは三玖ちゃんも知ってるでしょ?絶対恥をさらすだけになっちゃうじゃん」

 

「それでよくソフトボール部員と仲良くなれたね」

 

確か苗字は・・・真鍋さんっていったっけ・・・。

 

「いやー、真鍋さんって意外に気さくな子でさー、転校のしたての時、最初に声をかけてきたのだって真鍋さんだったりするんだよねー。それに優しいし」

 

なるほど、納得だ。気軽に声をかけて、なおかつ優しい子なら六海は基本的に誰でも仲良くできる。ただし、印象最悪の場合だとそれなりに時間がかかるかもだけど。と、話してる間にもうスキー会場についた。

 

「ほら六海、ここまで来たんだから、いい加減腹をくくって」

 

「はーい・・・あーあ、二乃ちゃんもいるだろうし、鉢合わせしたくないなー・・・はぁ~・・・」

 

どうやら二乃は先に来ているみたいでそれと合わせて六海は深くため息を吐いてる。よっぽどなんだ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

スキー会場について、私たちはスキー用の服に着替えてスキーを楽しむ・・・どころの問題じゃなかった。いかんせんスキーなんてやらなかったからまともに滑ることができなくてころんでばっかり。特に六海はひどかった。滑ったかと思いきやすぐにバランスを崩して転んでしまったり、ブレーキができず木にぶつかったり、しまいには雪の中に埋もれてしまうとかなんてシュールすぎる光景も見られる。

 

「大丈夫?」

 

「もう!だからスキーは嫌だって言ったんだよ!」

 

「私もここまでひどいとは思ってなかった」

 

「雪でメガネまで曇るし最悪~・・・」

 

明らかに不機嫌な状態になった六海はハンカチでメガネを拭いてかけ直した。

 

「・・・あーー!!風太郎君に四葉ちゃん!!」

 

!!四葉、もうフータローを連れてきたんだ・・・。昨日の一花の件もあるし、顔を合わせづらいな・・・。

 

「ちょっと四葉ちゃんに文句言ってくる!三久ちゃんもき・・・」

 

ツルッ

 

「て、あらーーー!!?」

 

六海は文句を言おうと四葉のところまで滑ろうとした時、四葉のところめがけて派手に転がっていった。大丈夫かなぁ・・・。仕方ない、私も行こう。まだちょっと滑るのに慣れないけど、これくらいの距離ならいけるはずだから。

 

「四葉、ちゃんと確認してから鍵かけろよ」

 

「え?もしかして、本当に閉じ込められてたの?」

 

「ふぇっ!!?」

 

「ああ、ものの見事にな」

 

「四葉ちゃーん?」

 

「ご、ごめんなさいー!でも鍵をかけたのは私じゃないんですってばー!」

 

・・・昨日のこと話してる・・・気まずい・・・。

 

「あ、やっと来たー」

 

「・・・どーも」

 

「誰だ!!?」

 

あ、そういえばゴーグルつけっぱなしだった。

 

「三玖」

 

「なんだ、三玖か・・・顔だけだと本当にわからないな・・・」

 

!!フータロー・・・顔が近い・・・

 

ヅルッ

 

「あっ・・・!」

 

なんか後ろに移動されたと思ったら足元のバランスが崩れて転んでしまった。

 

「「あはははは!」」

 

「派手に転んだな。平気か、三玖?」

 

フータローは私に手を差し伸べてきた。気遣いはうれしいけど・・・私の今の心境は複雑で素直に手に取ることができない。

 

「うん・・・大丈夫・・・」

 

「・・・・・・」

 

「よーし!普段教わってばかりの私ですが、今日は3人に教えまくりますよー!」

 

「・・・よろしくお願いします・・・」

 

私たちは四葉にスキーの基礎を教わりながらスキーを満喫する。・・・今は余計なこと考えるのはやめよう。私情は持ち込まず、スキーを楽しむ。それでいいはずだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

数分が立ち、私は四葉に教わった甲斐もあって人並みには滑れるようになった。六海もフータローもまだまだぎこちないところが目立つけど、何とか滑られるようになった。それでも覚えきれてないものがたくさんあるけど。

 

「わー、ぎこちなー」

 

ぎこちなく滑ってるフータローにゴーグルとマスクをつけた女性が話しかけてきた。

 

「ハロー。やっぱ寒いねー」

 

「てか本当に誰だ!!?」

 

「あはは・・・ほら、一花だよ」

 

!マスクとゴーグルを外してようやく一花だとわかった。でも、風邪ひいてるのによくスキーに来れたものだ。

 

「お前か・・・」

 

「一花ちゃーん!来てたんだー!」

 

「お前大丈夫なのかよ?」

 

「ゴホッ、ゴホッ・・・まだ万全じゃないけど心配しないで」

 

「無理しないでねー。あ、そうだ。五月ちゃんは?一花ちゃんの看病してたんだよね?」

 

「五月ちゃんは顔を合わせづらいから1人で滑ってるってさ」

 

「そっかー。五月ちゃんに成長した六海を見てもらいたかったんだけどなー・・・」

 

五月の言い分はよくわかる。フータローと会ってるけど、こうして顔を合わせるのは気まずい。

 

「一花ー!この3人言ったこと全然覚えてくれなーい!」

 

「それは俺がお前に1番思ってることだよ!」

 

「あはははは!1本取られましたー!」

 

四葉、それは笑い事じゃないと思う。

 

「じゃあ楽しく覚えようよ」

 

「え?」

 

「追いかけっこ!上手な四葉が鬼ねー!」

 

そう言って一花はいち早く滑っていく。これって体で覚えろってこと?

 

「わー!一花ちゃん待ってー!スパルタレッスン反対ー!」

 

六海は一花を追いかけてぎこちない動きで滑っていく。あ、そういえばおいかけっこで気になったことがあるけど・・・。

 

「二乃と五月はどうするの?おいかけっこのこと知らないでしょ?」

 

「当然捕まえるよー!」

 

何とまぁ容赦のないことで。

 

「いーち!にーぃ!」

 

四葉が数え始めた。数字を数え終えたらおいかけっこスタートだからその前に四葉から逃げないと。私はすぐに四葉から引き離しながら滑っていく。

 

「三玖、一緒に・・・て、おい!待ってくれ三玖!」

 

さっきフータローとすれ違ったけど・・・気にしてる間に四葉に捕まったら元の子もない。それに・・・今フータローと話す気になれないからフータローとも離れていく。・・・意外と進むのが早くなってる・・・なんかうれしい。あ、そうしてる間に六海に追い付いた。まだぎこちないけどよく滑れてる。

 

「よかった。ちゃんと滑れてる」

 

「これも四葉ちゃんのおかげだね!強引だったけど意外。でも意外にスキーは楽しいよ」

 

六海、スキーを楽しく感じてくれたんだ。少しはスポーツ嫌いは解消されたのかな?・・・そうだ、六海に聞きたいことがあった。

 

「・・・二乃と仲直りできそう?」

 

「・・・無理!六海、何にも悪くないのになんで謝らなくちゃいけないの?」

 

そうとう怒ってるみたい・・・何も悪くないの一点張りだし・・・。事情はよく知らないけど。

 

「話したくないならこれ以上聞かないけど・・・なるべく早く仲直りして」

 

「その言葉、そっくりそのまま三玖ちゃんに返すよ」

 

ごもっとも・・・。私と二乃は何にたいしてもすぐ喧嘩するから説得力のかけらもない。

 

「それはそうと三玖ちゃん・・・これ、どうやって止めるの・・・?」

 

え?どうやって・・・止める?疑問を抱いている間に六海は勢いが止められず、さらに滑るスピードが上がった。

 

「む、六海-⁉」

 

「わ、わ、わ・・・」

 

ツルッ

 

「あ!あーーれーーー!!!」

 

今度は足元のバランスが崩れて下りながら転んでいった。

 

「ぷぎゃっ!」ゴチーンッ

 

て、今度はその先にあった木にぶつかった。あれは痛そう・・・

 

ボフッ

 

「わーーーー!!?」

 

さらに追い打ちをかけるように木に積もってた雪が落ちてきて全部六海に覆いかぶさった。これはひどい・・・痛いどころの話じゃない。

 

「だ、大丈夫・・・?」

 

「大丈夫じゃない・・・体中痛い~・・・あ、でも雪はひんやり気持ちぃ~・・・」

 

六海は雪に埋もれている状態で唯一出てる足をパタパタ動かしながらしゃべってる。シュールすぎる・・・。

 

「出してあげようか・・・?」

 

「んーん、しばらくこれでいるー。四葉ちゃんに隠れられるかもだし」

 

確かに隠れられるかもだけど・・・他の人もいるし目立つんじゃあ・・・。

 

「あー!三玖みーっけ!」

 

や、やばい・・・もう四葉に見つかった・・・。私は埋まってる六海を置いて四葉から逃げる。

 

「あははは!逃がさないよー!」

 

六海の存在は雪で気づいてない・・・こっちに来る・・・!ていうか早すぎ・・・このままじゃ捕まる・・・どうしよう・・・。そう考えてキョロキョロしてると、かまくらを見つけた。これ・・・誰が作ったんだろう・・・?

 

「もう逃げられないぞ~?」

 

よ、四葉が近づいてくる!ええい、この際誰が作ったかなんて気にしてられない。私はすぐにかまくらの中に入り、スキー道具で入り口をふさいで見えなくさせる。こ、これでどうかな・・・?

 

「あれー?どこ行ったんだろー?」

 

た、助かった・・・おいかけっことはいえ・・・やっぱりしんどい・・・。まだうろついてるだろうし・・・しばらくこのかまくらに身を寄せとこ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『風太郎、危機一髪』

 

「四葉・・・教える時はもっとしっかり教えてくれ・・・」

 

一花の提案した追いかけっこで四葉から逃げることになったわけだが、風太郎は滑るには滑ることはできるが、スピードを止める方法がわからず、近くで話していた一花と離れ、木にぶつかって倒れている。

 

「あのー、大丈夫ですかー?」

 

「生きてるかー?」

 

「だ、大丈夫です。お構いなく」

 

この騒動で周りにいた他の人たちに注目を集めてしまい、いたたまれない風太郎。

 

(注目集めちまった・・・早く三玖を探そう・・・。らいはのお守り、返してもらいそびれたせいか、昨日から不運続きだ)

 

風太郎は昨日からの不運続きで少し憂鬱でおでこに冷や汗が出ている。その汗を拭いた際、金太郎として二乃に貼ってもらった絆創膏がはがれてしまった。そしてその絆創膏を1人の女性が見つけ出した。

 

「!この絆創膏・・・もしかしてキンタロー君?」

 

「!!」

 

そしてその女性がよりによって張った張本人である二乃だから風太郎にとっては都合が悪かった。

 

「キンタロー君でしょ!」

 

「・・・エ?違イマスヨ?ナンデスカソノ変ナ名前?」

 

「嘘!だってこれ君にしかあげてないもん!」

 

幸いフードをかぶっているおかげで二乃には自分が金太郎であるということはばれてないが非常に危機感を感じた風太郎はすぐさま逃げ出した。

 

「ちょ!何で逃げるの⁉待ってよキンタロー君!」

 

「え⁉キンちゃんいるの!!?」

 

(む、六海---!!!)

 

風太郎が逃げた先には雪で埋もれていた六海がいた。二乃の言葉に反応した六海は雪から起き上がった。それにたいして風太郎はさらに危機に陥った。すぐさま六海とは別の方向に逃げる風太郎。

 

「キンちゃんー!六海だよー!おーい!」

 

顔が見えてなかったのか六海は二乃の追いかけてる姿を見て風太郎のことを金太郎と思い込んでる。

 

「ちょっと六海!こんな時に邪魔しないでよ!!」

 

「邪魔してるのは二乃ちゃんのほうでしょ!!」

 

金太郎と思い込んでる2人はいがみ合いが発生しながら風太郎を追いかけている。

 

(まずい・・・どうする・・・?ここで打ち明けるか・・・?肝試しの時、騙していたと・・・。なんとか穏便に済ませる方法は・・・)

 

風太郎はそれに構わず対処法を考えながら逃げていく。が、その先には四葉がいた。

 

(まずい、四葉!!!)

 

「あー、上杉さんみーっけ!」

 

「げっ!」

 

風太郎はすぐに来た方向を引き返そうとするが、その先には二乃と六海がいるから立ち往生だ。

 

「キンタローくーん!」

 

「キンちゃーん!」

 

「うーえすーぎさーん!」

 

風太郎はもうどうしたらいいかわからず、頭が混乱し、くらくらし始める。もはや万事休と思われた時・・・

 

「フータロー!こっち!」

 

「えっ?うわっ⁉」

 

近くにあったかまくらから三玖が出てきて風太郎をかまくらにいれる。かまくらに入れた後はすぐにスキー道具で入り口をふさぐ。

 

「キンタロー君!」

 

「キンちゃん!」

 

「上杉さん!」

 

小屋の曲がり角から二乃と六海、四葉が出てきた。

 

「え?四葉じゃない」

 

「二乃、六海、見っけ」

 

「ねぇ四葉ちゃん。そっちに金髪の男の子見なかった?」

 

「2人こそ上杉さん見なかった?」

 

「見てないけど・・・」

 

かまくらの存在に気付いてない四葉は風太郎、二乃と六海は金太郎を見失ってしまい、落胆する。

 

「もう!二乃ちゃんが邪魔するからキンちゃん見失ったじゃん!!」

 

「はあ~?アタシのせいにしないでくれます~?途中割り込みのくせに」

 

「ちょ、ちょっと2人とも・・・」

 

いがみ合いがエスカレートする六海と二乃を四葉が止めようとするが止まらない。

 

「そんなんだからキンちゃんに見向きもされないんじゃないの~?かわいそ~」

 

「見向きされてないのはあんたでしょ!!猫被ってんじゃないわよ!!」

 

「かぶってませんし~、かぶってるのはそっちでしょ~?」

 

「・・・あー、なーるほど。そーんなぶりっ子だから嫌われちゃったんだ~」

 

「何さ!!」

 

「何よ!!」

 

「上杉さーん!!三玖ー!!早く出てきてー!!この空気が辛いよー!!」

 

止まらない喧嘩のパレードに四葉は頭を抱え、そう叫ぶ四葉であった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「三玖・・・」

 

「危ない・・・捕まるところだった」

 

かまくらの入り口にフータローが立ち往生してたからこのかまくらにいれたのはいいけど・・・フータローと顔合わせづらい・・・

 

「ここ、かまくらか?まさか、お前が作ったのか?」

 

「ううん、元からあった」

 

「そうか・・・はは、中は暖かいな」

 

中が暖かいからかフータローは感心しながら少し動いてる。でも・・・動いてる際、ひじが胸に当たってる・・・。

 

「フータロー・・・狭いから・・・あんまり動いちゃダメ・・・」

 

「!あ、ああ・・・悪い。じゃ、じゃあ・・・俺は出るから・・・」

 

!出る・・・?せっかくフータローがここに入ってきてるのに?

 

「い、行かないで・・・」

 

「!三玖?」

 

「で、出るのも・・・ダメ・・・」

 

・・・て、何やってるんだろう、私・・・私たちは平等なはずなのに・・・これじゃあまるで・・・。でも・・・こうしていたい・・・でも・・・

 

「・・・もう、よく・・・わかんない・・・」

 

「お、おい?」

 

「ほ、ほら・・・まだ四葉がいるかも・・・」

 

「確かに・・・また追いかけられるのはごめんだな。もう少しだけ邪魔させてくれ」

 

「う、うん・・・それがいいよ・・・」

 

フータローはもう少しいてくれるようになったけど・・・本当にこれでいいのかな・・・?

 

「そもそもあの無尽蔵なスタミナはなんだ?お前たちと同じ六つ子とは思えん」

 

「私も、ここがなかったら捕まってた・・・」

 

「途中からスキー関係なくなったしな」

 

そもそも私・・・なんでこんなことやってるんだろう・・・?

 

「さてと・・・どうやって逃げ切ろうか・・・」

 

「・・・それなら・・・」

 

本当にどうやって逃げ切ろう・・・。あ、いいこと思いついた。

 

「そうだ。四葉にはハンデをもらおうよ」

 

「ハンデ?」

 

「うん。何か荷物を持ってもらって、足の速さを平等に!」

 

これなら私たち姉妹一緒だし、誰も傷つかない。いいアイデア。

 

「ま、その方が盛り上がるな」

 

「うん。じゃあ・・・」

 

「だが、俺はあまり好きじゃないな」

 

「・・・え?」

 

ど、どうしてそんなこと言うの?何が不満なの・・・?

 

「お前たち6人はおそらく元は同じ身体能力だったろ?六つ子だし」

 

「う、うん・・・」

 

「だったらあの運動能力は、四葉が後天的に身に着けたものだ」

 

「そうだけど・・・」

 

「・・・遊びで何言ってんだって話だけど・・・俺はその努力を否定したくない」

 

!!努力を否定させないため・・・じゃあ、私の言っていた平等って言っていたのは・・・本当は、その人の努力を否定してるってこと・・・?私はフータローの言葉で今まで平等だって思っていた時の自分の言葉やいろんな人の言葉が振り返ってきた。

 

「全員平等もいいが、そこに至るまでを否定しちゃいけない。

 

 

 

平等じゃなく、公平にいこうぜ」

 

!!!平等じゃなくて・・・公平に・・・。フータローの言葉に、私の凍ってしまった複雑な感情が氷解し、衝撃が走った。そう思った瞬間、私は立ち上がった。

 

ゴチンッ!!

 

「お、お前・・・」

 

「・・・ううぅ・・・痛い・・・」

 

「ははは、何やってんだよ」

 

うぅ・・・そういえばここ、かまくらだったの・・・すっかり忘れてた・・・。

 

「・・・公平にいこうぜ」

 

でもこれのおかげで・・・私の気持ちは明るくなった気がする。

 

「・・・はは、俺も本格的に何言ってんだ・・・。熱くて変なこと言っちまった・・・。外の空気を吸ってくる」

 

フータロー・・・ありがとう・・・。これで、私のやることは決まった。そうと決まれば有言実行。私は自分のスマホを取り出して通話をかける。電話する相手は一花。

 

≪何、三玖?どうしたの?≫

 

「一花・・・あのね・・・話したいことがある」

 

まずは自分の気持ちを、一花にちゃんと伝えないと。

 

13「結びの伝説3日目」

 

つづく




一花「フータロー君」

二乃「上杉!起きなさいよ!」

三玖「フータロー」

四葉「うーえすーぎさーん!」

五月「上杉君、起きて」

六海「風太郎君、目を開けて」

風太郎「はっ・・・!そうか!六つ子と会ったのは全部夢!」

六つ子「それはない(です)!!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

結びの伝説2000日目

第1章、完結!


三玖SIDE

 

≪三玖、話って何かな?≫

 

フータローが言っていた平等じゃなくて公平でいこう・・・この言葉に衝撃を受けた私はすぐに一花に電話をして話を聞いてもらおうとしたけど・・・いざ話そうとなるとなかなか切り出せそうにない。それに、平等じゃなくて公平でいい・・・なら、私はどうしたらいいんだろう?

 

≪もしかして、キャンプファイヤーのこと?≫

 

「う、うん・・・」

 

一花の方から話を振ってくれた。これなら少しは話しやすくなったかも・・・。

 

「クラスのみんなが話てた・・・伝説は、フィナーレの瞬間・・・手を結ばなきゃいけないって・・・」

 

私がこのことを知ったのは昨日、これにはちょっとだけ驚いていたりする。ずっとフィナーレで踊るとそうなるって思ってたから。

 

「・・・そうだ。フータローの手は2本ある。両手に花でいこう」

 

うん・・・我ながらいいアイデアだと・・・

 

≪ごほっ!ごほっ!・・・え?どうするって?≫

 

「な、何でもない・・・」

 

・・・考えてみれば本当、何言ってるんだろう私。さっき平等じゃなく公平でいこうって決めたのに・・・。

 

≪ごほっ・・・ごめんねー。朝より咳がひどくなってきたかも・・・≫

 

言われてみれば・・・今朝の時よりちょっと咳がひどくなってる気がする。

 

「それならスキーしてないで安静にしてて」

 

≪えー!せっかくウェアに着替えたのにー!私もスキーしたいよー!≫

 

「ダメ、病人はベッド」

 

≪はいはい、戻りますよー≫

 

「お大事に」

 

電話越しで一花がすごく文句を言っているように聞こえたが、安静にしてないと治るものも治らない。それでよくスキーに来れたものだって今でも思う。

 

「おお、なんだ、一花か。やっぱりお前も悪化したか。お互いついてないな」

 

!!?私が電話している間に・・・フータローが戻ってきて・・・て、ていうより・・・顔が近い・・・///

 

≪あれ?フータロー君に体調悪いって言ったっけ?≫

 

「いや、さっきお前が・・・」

 

「す、スピーカー!」

 

こ、これ以上フータローと顔をくっつけられたら私、どうにかなっちゃいそう・・・///だからそうなる前にスマホの通話をスピーカーモードに切り替えてフータローにも一花の声が聞こえるようにさせる。

 

≪まぁ、いいや。三玖とフータロー君、一緒なんだね。ちょっと安心・・・かな・・・≫

 

一花・・・まだ思いつめてる・・・。もう気にしないでっていおうと思ったんだけど・・・フータローがいるんじゃあ・・・

 

≪じゃあ私は戻るから、2人にお願い。1人でいる五月ちゃんを見つけてあげて。本当は寂しいはずだから≫

 

五月を・・・?そういえば・・・ここに来ているって聞いたけど・・・1回も姿を見てないかも・・・。

 

「ああ。わかった」

 

「一花、ちゃんと部屋に戻ってて」

 

≪わかってるって。じゃあ、よろしくね≫

 

一花の話が終わって私は通話を切った。私の話はまだだったんだけど・・・それはフータローがいない時でいい。近くで聞かれるのは、よくない。

 

「よし、とりあえず五月を探すぞ」

 

「でも、どこにいるんだろう」

 

「ま、あいつがいそうなところに行けばいいだろう。俺に心当たりがある」

 

フータローの心当たりって・・・なんだろう。ものすごく嫌な予感がする。とにかく私とフータローは五月を探しに向かった。

 

 

私の感じた嫌な予感は的中した。フータローの心当たりのある場所っていうのは・・・スキー会場のお食事エリアだった。絶対そうだろうと思った。でも、五月の姿はどこにもいなかった。

 

「おかしい。ここに五月がいないとは・・・雨でも降るんじゃないか?」

 

「五月に失礼・・・」

 

確かに五月は食いしん坊だけど・・・そこまで食い意地を張ってるわけじゃない。・・・自信ないけど・・・。

 

「そもそもスキーを始めてから1回も見てないな」

 

「携帯も繋がらないし・・・もしかしたら、上級者コースに行っちゃったのかな・・・?」

 

あそこは電波の様子が悪いから、着信に気付いてないのかも・・・。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「!フータロー?汗すごいけど・・・大丈夫・・・?」

 

私が推察している間にフータローは調子が悪そうにしている。そういえばさっきから息遣いが荒いし・・・寒いにも関わらず汗がいっぱい出てるし、今にも倒れこみそう・・・。

 

「具合悪そう・・・部屋に戻って休んだ方がいい」

 

今にして思えば、林間学校初日からおかしかったような・・・

 

「三玖と上杉さんみーっけ!!」

 

「わっ・・・⁉」

 

私がフータローの心配していると、後ろから四葉が抱き着かれて、私たちはその勢いで転んでしまった。・・・そういえば追いかけっこしてたんだっけ・・・。

 

「へへー、こんなところで油断してちゃダメですよー」

 

「・・・忘れてた・・・」

 

「四葉・・・」

 

「一花も二乃も六海も捕まえたし、残るは五月を見つけるだけですね!」

 

「お前も五月を見つけてないのか?」

 

「はい!残念ながら!」

 

四葉もまだ五月を見つけられてないのか・・・四葉なら見つけられると思ってたんだけど・・・。

 

「おーい、こっちこっちー!」

 

声のした方向を見てみると、二乃と六海・・・一花までいる・・・。二乃と六海はともかく、一花はまだ残ってたんだ・・・忠告したのに・・・。

 

「まったく・・・アタシも人探してるんだけど?」

 

「見つけてどうするつもりなの?どうせフラれるくせに!」

 

「なんですってこの泥棒猫!!」

 

「なんなの!二乃ちゃんの猫かぶり!!」

 

「ま、まぁまぁ、2人とも落ち着いて落ち着いて・・・」

 

「「ふん!!」」

 

今もなお一触即発の空気を漂わせてる二乃と六海。一花のストップもあって場はあれずに済んだけど・・・いつ爆発するかわかったものじゃない。

 

「お前らまだ喧嘩してたのか?いい加減仲直りしたらどうだ?」

 

「「無理!!」」

 

「即答かよ・・・」

 

わかってたこととはいえ、仲直りにはまだ時間がかかりそう・・・て、そんなことより・・・。

 

「一花・・・休んでてって言ったのに・・・」

 

「ご、ごめーん!四葉に捕まっちゃって・・・」

 

四葉も四葉だよ。一花は具合悪いのに・・・そういうのは考慮すべきだと思う。いや、事前に伝えなかった私たちのミスか。

 

「さあ、一花もフータローも、コテージに戻るよ」

 

「ま、待ってくれ・・・」

 

私が一花とフータローをコテージに戻させようとすると、フータローがストップをかけた。

 

「四葉、五月には逃げられたのか?」

 

「?いえ、探しましたが見かけもしませんでした」

 

「それがどうかしたの?風太郎君」

 

四葉の答えを聞いてフータローは重々しい表情になったような気がした。

 

「事態は思ったより深刻かもしれない」

 

「え・・・?」

 

「何よ?話、詳しく聞かせなさいよ」

 

フータロー・・・そんなに重々しい顔して・・・どうしたんだろう・・・?

 

「五月は・・・遭難したかもしれない」

 

「!!!」

 

「「「「・・・え?」」」」

 

五月が・・・遭難・・・?

 

「いくら広いゲレンデはいえ、6人がこれだけ動き回って誰も会わないのは不自然だ」

 

「だからって⁉」

 

言われてみれば・・・確かに私たちの誰もが五月と会えてないのは不自然すぎる・・・。私は気になってもう1度五月に電話をかけてみる。

 

「・・・ダメ。やっぱり繋がらない。一花、五月は本当にスキーに行くって言ってたんだよね?」

 

「え・・・?う、うん・・・」

 

「じゃあ、上級者コースは?そこに行ったんじゃないかな?」

 

「そこはアタシも行ったけどいなかったわ」

 

上級者コースにもいなかった・・・?五月、本当にどこ行ったの・・・?

 

「・・・ちょうど入れ違ったのかも。私、ちょっと見に行ってくるよ」

 

「!待って!ここ、まだ行ってないかも!」

 

「え?どこ?」

 

「ここ!」

 

ゲレンデの地図に四葉が指さしたのはプロフェショナル・コースだった。・・・え、でもそこって・・・

 

「このあたりって・・・最初に先生が言ってたよね?まだ整備されてない危険なルートだから、立ち入り禁止って・・・」

 

私も聞いた。近づいちゃダメだって・・・。・・・まさか・・・五月はこのコースに・・・?そこまでの考えに至ると六海はどんどんと顔を青ざめていってる。

 

「む・・・六海、このコースに行ってくる!」

 

「待ちなさい!今行ってどうなるの⁉あんたまで遭難するかもしれないのよ⁉」

 

「でも・・・でも二乃ちゃん・・・五月ちゃんが・・・」

 

「わかってる!まずは本当にコテージにいないか見に行ってみましょう!」

 

「わ、私は先生に行ってくるよ!」

 

「ちょ・・・ちょっと待って・・・もう少し探してみようよ」

 

思っていた以上に深刻な状況にみんな大慌ての中、一花がそんなこと言ってきた。

 

「なんでよ!場合によってレスキューが必要になるかもしれないのよ⁉」

 

「えっと・・・五月ちゃんもあまり大事にしたくないんじゃないかなーって・・・」

 

もう十分に大事なんだよ!!!!!

 

「!!?」ビクッ

 

一花の言い分に六海は今までにないくらいの大声を叫んだ。

 

五月ちゃんの命がかかってるんだよ!!?そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!!?

 

「・・・っ」

 

「・・・六海・・・嫌だよ・・・大好きなお姉ちゃんが・・・1人でもいなくなっちゃうのは・・・うぐ・・・ひっく・・・」

 

六海は不安が強まって、思わず泣き出してしまう。すると、さっきまで喧嘩していたはずの二乃が六海の頭を優しく撫でている。

 

「・・・ごめんね・・・」

 

一花もさっきの言葉に非があると認め、弱弱しく謝ってる。

 

「ぐっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

!五月の方も心配だけど・・・それと同じようにフータローも具合がどんどん悪くなっていってる・・・。

 

「フータロー・・・もう休んだ方がいいよ・・・」

 

「上杉さん・・・?」

 

私と四葉が声をかけても何も反応を示してくれない・・・本当に心配になってきた・・・。

 

「とにかく、六海はみんなといなさい。アタシが先生を呼んでくるから」

 

「・・・待ってくれ。俺に心当たりがある」

 

「フータロー・・・?」

 

二乃が先生を呼びに行こうとした時、フータローが止めた。心当たりっていったいどういうこと・・・?

 

「心当たりって・・・」

 

「大丈夫だ。おそらく見つかる。お前たちはここで待っていてくれ」

 

「・・・信じていいのよね?」

 

「ああ。一花、ついてきてくれ」

 

「え?う、うん・・・」

 

フータローは一花を連れて五月を探しに向かっていっちゃった・・・。2人とも体調悪いのに・・・。大丈夫だよね・・・?・・・お願い・・・五月を連れて無事に帰ってきて・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『五月発見!』

 

五月を探しに向かった風太郎と一花はゲレンデがよく見えるゴンドラに乗り、五月を探している。

 

「もしかして心当たりって・・・ここから探すこと・・・?」

 

「まぁ、そんなところだ。しかし・・・意外と高いな・・・」

 

「確かによく見えそうだけど・・・」

 

一花はそう言って何故か風太郎の顔を見つめ、悲しそうな顔をしている。ふとしていると、一花は目の前のゴンドラに乗っているカップルが寄り添っている姿を見て、顔を赤らめる。

 

「や・・・やっぱやめない・・・?」

 

一花は捜索を切り上げようとすると、風太郎は何か発見する。

 

「あ、あれ、五月じゃないか?」

 

「え?どれ?」

 

「あれだよあれ」

 

「あれじゃわかんないよ」

 

「今真下にいる女子だ」

 

一花は風太郎が発見した人物を見て煮え切らないような顔をしている。

 

「あー、あの人・・・」

 

「あれ絶対五月だろ」

 

「そうかなぁ・・・」

 

「よく見ろって!似てるって」

 

「う~ん・・・違うような・・・」

 

「・・・だよな」

 

「え?」

 

「だってあれ、どう見てもおっさん、男だぜ」

 

先ほど風太郎が発見した人物は全く知らない男だった。一花の煮え切らない反応に確信をもって一花の被っていたフードを下ろさせる。フードが下りた瞬間、一花にはないであろう長髪が風になびかせていた。

 

「見つけた」

 

風太郎の隣にいたのは一花ではなく、探し人である五月だった。そう、これまで自分たちとずっと一緒にいた一花の正体は、五月だったのだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月SIDE

 

スキー会場に行く前、私は昨日の倉庫の一件で風邪をひいてしまった一花の看病をしております。一花も上杉君も濡れた様子でしたし、当然と言えば当然です。

 

「いやー・・・悪いねー・・・。こんな時に体調を崩すなんて、ついてないなー・・・」

 

「事故とはいえ、不注意が招いた結果です。安静して、日中は大人しくしていてください」

 

「え~・・・」

 

一花もスキーに行きたいのか、不満の声を漏らしています。えー、じゃないですよ全く・・・。

 

「あー・・・五月ちゃんは私に付き合わなくていいから、スキーしてきな」

 

「ですが・・・」

 

「大丈夫。私も回復したら、合流するから」

 

それでも、今の一花を置いていくわけには・・・それに・・・上杉君のこともありますし・・・。

 

「・・・それとも、フータロー君と顔合わせづらい?」

 

「!・・・・・」

 

「あの旅館から、ずっと警戒してたもんね」

 

「やはりあれは一花でしたか・・・」

 

林間学校初日で泊まったあの旅館で朝上杉君の近くにいたのは予想通り一花でした。四葉も六海も髪は短いですが・・・あの短さは一花と一致していましたから・・・。

 

「まだ3か月です・・・。あの日、食堂で六海と一緒に勉強を教えてもらおうとした時には考えもしませんでした。まさかこんなことになるなんて・・・」

 

「ははは・・・そんなにフータロー君は悪い奴に見えるかな?」

 

「そ、そういうわけでは・・・」

 

いくら3か月の付き合いでも、デリカシーがないこと以外は悪い人ではないのはわかります。

 

「ただ・・・男女の関係となれば話は別です。私は彼のことを何も知らなさすぎる。男の人は、もっと見極めて選ばないといけません」

 

私は・・・姉妹たちにお母さんのように苦しい思いをさせたくありません。そのためにも私が、しっかりしないといけません。そのためにも・・・

 

「・・・五月ちゃんは、まだ追ってるんだね・・・」

 

「・・・・・・」

 

「大丈夫。フータロー君はお父さんとは違うよ」

 

・・・それでも、それでも私は彼を、上杉君を見極めなければいけません。もう二度と、あの日のことを繰り返さないように・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後は私は一花に成り代わり、上杉君と合流しました。何としてでも・・・彼のことを見極めるために。

 

聞けば上杉君は三玖と六海と一緒に四葉にスキーを習っていたようです。なら、これを利用しない手はありません。

 

「追いかけっこ!上手な四葉が鬼ねー!」

 

これならみんなバラバラに行動するはずですし、うまく上杉君に話を聞くことができます。

 

滑っていくさい、三玖が上杉君から離れたり、六海に大惨事が起こったりといろいろありましたが・・・ようやく上杉君と話をすることができます。

 

「確認したいことがあるんだけど・・・」

 

「!一花・・・」

 

「昨日のこと、誰にも言ってないよね?」

 

私が聞いているのは当然ながら、泊まった旅館での一花の出来事です。一花と一緒にいたのは見間違えるはずもなく、上杉君なのですから。

 

「・・・言えないだろ、あんなこと」

 

「・・・それって・・・」

 

昨日の今朝の出来事を知っているって・・・ことですよね・・・?

 

「・・・一花。・・・・・・これ、どうやって止めんの?」

 

・・・・・・え?

 

「え・・・えええ⁉上杉くーん⁉」

 

上杉君はスピードが止める方法がわからず、そのまままっすぐと滑っていきました。・・・聞きそびれてしまいました・・・。

 

その後は四葉に捕まり、さらに二乃と六海に合流しました。あの2人、昨日から喧嘩したままですが・・・いったい何があったのでしょう?

 

しかしその後・・・まさかあんな大事になるとは思いもよりませんでした。

 

「五月は・・・遭難したかもしれない」

 

事の発端は上杉君の言葉でした。話を聞けば、みんなが動き回ってる中で誰も私こと五月を見たものがいないとのこと。改めて考え直してみれば確かに不自然であると今になって気づきました。こんなことなら一旦変装を外して私として出てくればよかったです・・・。

 

それからというもの、もうみんな大騒ぎでした。私は場を鎮めようとしましたが・・・

 

もう十分に大事なんだよ!!!!!

 

「!!?」ビクッ

 

五月ちゃんの命がかかってるんだよ!!?そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!!?

 

「・・・っ」

 

「・・・六海・・・嫌だよ・・・大好きなお姉ちゃんが・・・1人でもいなくなっちゃうのは・・・うぐ・・・ひっく・・・」

 

違う・・・違うんです・・・こんな・・・こんな事態になるとは思わなかったんです。もう私じゃ止められない・・・。自分は五月だって言い出すには・・・場があまりにもそんな雰囲気ではなくなってしまいました。

 

「俺に心当たりがある。

大丈夫だ。おそらく見つかる。

一花、ついてきてくれ」

 

え・・・?上杉君・・・いったい何を・・・?

 

その後に私は上杉君に言われるがまま、ゴンドラに乗り込んでいました。事の大きさでもうどうすればいいのかわからなくなってしまいました。

 

「あ、あれ、五月じゃないか?」

 

上杉君がそんなことを言っていたのがとても信じられませんでした。だって、五月は私であって、いくら探してもいないはずなのに。上杉君は指をさしますが、私はあまり視力がよくないのではっきりと見えませんでした。

 

「だってあれ、どう見てもおっさん、男だぜ」

 

私の態度で何やら確信ついた様子で上杉君は私のフードを下ろしてきました。

 

「見つけた」

 

そして、現在に至ります。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「お前は六海と同じく目が悪いから、メガネかコンタクトがないと見えにくいだろ?」

 

上杉君は私が一花ではなく、五月であると気づいていたから、姉妹から離れてわざわざこんなところまで・・・。

 

「・・・悪いな、大事にしちまって。言い出しづらかっただろ?」

 

「・・・いつから・・・気づいたんですか・・・?」

 

私はそこだけが気になって仕方なかった。だって、未だに私たちの顔を見分けることもできなかったのですから、余計に・・・。

 

「気づいたのはさっきだが・・・きっかけはあの時、お前が俺を"上杉君"と呼んだからだ」

 

!!あの時といえば・・・上杉君が滑るのを止めることができずにいた時に思わず言ったあれを・・・。

 

「はー・・・一花は俺を名前で呼ぶ。いくら俺だってな・・・それくらいはお前たちのことを知ってる」

 

上杉君・・・私たちの細かいところまで、知っていて・・・。

 

「・・・すみま・・・せんでした・・・。私・・・確かめたくって・・・」

 

私は上杉君に対し、姉妹たちにたいして申し訳ない気持ちでいっぱいになりました・・・。私が、余計なことをしなければ、こんなことには・・・。

 

「バカ不器用め・・・。つめが・・・甘いんだよ・・・」

 

!!上杉君がそう口にした時、彼は私の肩に顔を引っ付けてきました。こ、これじゃあまるで、前のゴンドラに乗っている人たちと同じ・・・///

 

「あ・・・あの・・・///上杉君・・・それは、ちょっと・・・///」

 

私が声をかけても、上杉君は何も反応しませんでした。

 

がくんっ!

 

「えっ⁉」

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・上杉・・・君・・・?」

 

このくらみ具合に嫌な予感がして私は彼のおでこに触れてみました。

 

!!!ひどい熱・・・!まさか・・・上杉君はこんな状態の中で、ここまで・・・⁉

 

「上杉君!!しっかりしてください!!上杉君!!上杉君!!」

 

私はすぐに上杉君を抱えて急いで姉妹たちの元へと戻っていきます。上杉君・・・持っていてください・・・絶対にコテージまで連れていきますからね!

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

アタシ達が上杉と五月の帰りを待っていると、五月が上杉を抱えて戻ってきた。五月が戻ってきたのはよかったけど・・・問題はそこじゃない。上杉は明らかに体調がやばそうな状況にある。そんな状況であるため、当然三玖をはじめとする姉妹たちは上杉を心配している。アタシも、一応は心配している。

 

話を聞く限り、五月は一花に成り代わっていたという。一花はもうすでにコテージに戻っていたらしい。つまり事の原因は五月の行動の問題ということになる。全く人騒がせなことしてくれちゃって・・・。

 

アタシ達はすぐに上杉をコテージにいる先生のところまで連れていき、事情を説明した。

 

「よくここまで連れてきてくれたな。上杉はこの部屋で安静させて様子を見る。これ以上悪化するようなら私が病院に送ろう。誰か、こいつの荷物を持ってきてくれ」

 

「はい・・・私が行きます」

 

「私も・・・行きます。事の原因は私にあります」

 

上杉の荷物をまとめる役は四葉と五月が名乗りを上げた。

 

「ごめん・・・私のせいだ・・・」

 

昨日、何があったか知らないけど、一花も今回の件で責任を抱いてるみたいね。

 

「お前たちは着替えて広場に集合だ。じきキャンプファイヤーが始まる」

 

「あの・・・私・・・付き添います」

 

「一花・・・」

 

「むつ・・・いえ、私も付き添います!残らせてください!」

 

一花も六海も上杉のために残ろうとしてる。

 

「ごほっ・・・お前たちがいても仕方ないだろ・・・1人にしてくれ・・・」

 

・・・何なのその態度。みんなあんたを心配して言ってくれてるのに。アタシは上杉のその態度が気に入らなかった。

 

「ちょっと、冷たいんじゃない?みんなあんたを心配して・・・」

 

「ということだ。早く行きなさい」

 

アタシの言い分を止めるように先生がキャンプファイヤーに行くように指示してきた。

 

「でも、先生・・・」

 

「安静といっただろ。これよりこの部屋は、立ち入り禁止とする」

 

「「「「「「えっ⁉」」」」」」

 

「見つけたら罰則を与えるからな」

 

罰則を与えられるんじゃどうしようもなくなってみんなキャンプファイヤー会場に向かっていく。

 

「・・・二乃ちゃん。いこ」

 

「・・・わかってるわよ」

 

アタシと六海もこの場を先生に任せてアタシ達もキャンプファイヤーに向かおうとすると・・・

 

「・・・二乃、六海。ちょっといいか?」

 

「「!」」

 

上杉に呼ばれたわ。いったい何の用かしら?上杉はアタシと六海を部屋の近くまで連れてこられた。

 

「金太郎についてなんだが・・・」

 

「「!!」」

 

ここでキンタロー君の話が出てくるなんて・・・やっぱりスキー場で見かけた彼はキンタロー君だったのね。

 

「外せない用事ができたらしい。スキー場でたまたま会って頼まれたんだ」

 

それって・・・キャンプファイヤーには来られない・・・て、ことよね・・・。

 

「やっぱり彼だったんだ・・・」

 

「そっか・・・それなら、仕方ないよね・・・」

 

「・・・てことは、嫌われちゃったのかな?少し重たかったのかしら・・・」

 

「ん・・・いや・・・」

 

「でも、一応待つだけ待ってみるね」

 

「・・・なぁ二乃、六海。あれは・・・」

 

「上杉!何をしている!早く休みなさい!」

 

上杉が何か言いかけた時、先生が部屋に入るように上杉に言ってきた。

 

「・・・悪い。元気出せよ」

 

上杉はアタシ達にそう言って部屋に向かっていった。それを見届けた後、六海はアタシを連れてキャンプファイヤー会場に向かっていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

キャンプファイヤーが始まって、周りはフォークダンスどうするかで話し合ったり、今日踊りに誘っている人たちが何人もいるわ。アタシと六海はそんな中でキンタロー君が来ないか待ってる。・・・本当、くっだらないわ。来るはずがないって言われたばかりなのにね。

 

「真鍋さん、僕と踊ってくれませんか⁉」

 

「悪いけど私、噂とか信じないタイプなのよね。それに、君好みじゃないし」

 

「そ、そんなぁ・・・」ガーンッ

 

目の前で失恋現場を見るのは初めてだわ。

 

「すごいなぁ、真鍋さん。あんなハッキリと・・・」

 

「いったい何を見せられてんのかしらね、アタシ達」

 

六海は六海であの真鍋って子に関心を抱いてるわね。

 

「・・・やっぱり来ないね、キンちゃん」

 

「・・・そうね。お互い、フラれちゃったわね」

 

「・・・・・・」

 

「その・・・元気出しなさいよ」

 

お互い喧嘩をしておいて虫がいい話なのはわかってるけど・・・落ち込んでるかもしれない六海をアタシは励ます。すると六海はアタシに抱き着いてきた。

 

「ちょ・・・ちょっと六海⁉」

 

「・・・ごめんね、二乃ちゃん。さんざんひどいこと言っちゃって・・・」

 

「え・・・?」

 

六海はアタシに向かって謝罪の言葉を言ってきた。先に言いがかりをつけたのはアタシなのに・・・なんで・・・?

 

「六海、あんな気持ち初めてで・・・どうすればいいのかわかんなくて・・・。キンちゃんを横取りするつもりはないのに・・・本当に・・・ごめんね・・・」

 

六海・・・。

 

「ううん、悪いのはアタシ。あんたがキンタロー君に会ったどころか、踊る約束までしたって聞いて、ついカッとなって・・・。アタシが間違ってたわ」

 

「えへへ・・・これで仲直り、だね♪」

 

仲直り、か・・・。上杉があんなことになった後だから全然実感わかないわね。

 

「じゃあ六海、そろそろ行くね」

 

「え?どこ行くのよ?」

 

「風太郎君とこ。キンちゃんがここに残ってたなら、絶対寄り添うと思うから」

 

六海は話したいことを話し終えたら上杉のいる部屋へと向かっていったわ。

 

『悪い。元気出せよ』

 

・・・1番元気のないあんたが言うなっての。恩着せがましく心配なんてして・・・少しは自分の心配しなさいよ。

 

『信じていいのよね?』

 

『・・・ああ』

 

・・・本当、ムカつく・・・。

 

「・・・仕方ないわね」

 

アタシはキャンプファイヤー会場を後にして、とある場所目指して歩いていく。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

キャンプファイヤー、盛り上がってるなぁ・・・。きっと本当なら、フータロー君もここに来ていたんだろうなぁ・・・。それを私が昨日のことで・・・本当、申し訳ないよ・・・。

 

「・・・あ、相手がいないなら、踊ってあげてもいいけど///」

 

「え?・・・お、おう///」

 

話には聞いていたけど、前田君、踊る相手が見つかってよかったじゃん。お姉さん、安心しちゃった。・・・三玖のその場しのぎの約束は、彼から始まったんだよね。本当、三玖には本当に悪いことしたな・・・。

 

ピトッ

 

「おぉっ⁉」

 

今頬に暖かい感触が!

 

「あげる。風邪には水分補給が大事」

 

「あ、ありがとう・・・三玖・・・」

 

さっきのは三玖がやったんだ・・・。手に持ってるのは・・・抹茶ソーダかぁ・・・。受け取ってみると、本当に暖かさが伝わってきた。

 

「へぇー、ホットもあるんだ・・・抹茶ソーダ・・・」

 

ちょっと驚いたけど・・・できれば別の飲み物がよかったなーって、わがままがある。

 

「・・・」

 

三玖は私のおでこと自分のおでこを引っ付けあってる。・・・熱を測ってくれてるのかな?

 

「・・・よかった。治ってる」

 

「・・・やっぱり、私が移しちゃったのかな・・・?」

 

「フータローは最初からおかしかった」

 

「え?」

 

最初からおかしかったって・・・この林間学校が始まってからのこと?確かにあの時からテンション高かったけど・・・

 

「今にして思えば、ずっと具合が悪かったんだと思う。もっと、よく見てあげてたら・・・私も、自分のことで必死だったから・・・」

 

三玖・・・。三玖のその気持ちをちゃんと理解してあげられてたら、こんなことにはならなかったのかな・・・。

 

「・・・ごめんね」

 

「え?」

 

「ダンス、断るべきだった。もっと早く気づいてあげてたらよかったのにね・・・。伝説のことも・・・三玖の想いにも・・・」

 

そして・・・私の抱いてる、この気持ちにも・・・。もう何もかもダメだなぁ、私。長女失格だよ・・・。そんな自責の念を抱いてると三玖は私を抱いてきた。

 

「え?三玖?」

 

「ずっと気にしてた。一花や二乃、みんながどうフータローと接しているのか。私だけ特別なんて、平等じゃないって思ってたから・・・」

 

「そんなこと・・・」

 

「でも、もうやめた」

 

え・・・?三玖、いったい何を・・・?

 

「私は・・・フータローが好き。パートナーじゃなくて、1人の異性として好き」

 

!!三玖が・・・自分の素直な気持ちを・・・自分から・・・。

 

「だから、好き勝手にするよ。その代わり、一花もみんなも、お好きにどうぞ。負けないから」

 

三玖・・・そこまでのことを言えるようになったなんて・・・お姉さん、ちょっと安心した。これもフータロー君のおかげ、かな?私は抹茶ソーダをぐびっと一口飲む。

 

・・・うっ、これは・・・抹茶独特な苦みにソーダのしゅわしゅわとした刺激がのどにきて・・・これ、控えめにしても豪快にしても・・・

 

「うーん・・・絶妙にまずい・・・」

 

「そうかな・・・?」

 

「でも、効力バツグンだよ。ありがとうね、三玖」

 

三玖のおかげでちょっとは元気になった、かな?

 

「じゃあ、いこっか」

 

「うん」

 

私と三玖はとある場所に向かってキャンプファイヤー会場を後にする。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉SIDE

 

私は先生に頼まれていた通り、上杉さんの荷物を持ってくるように言われて、上杉さんが持ってきた荷物をかばんに詰めています。

 

「ふぅ・・・これで後は、しおりを入れるだけっと・・・」

 

私がそこまで至ると、ふと罪悪感が芽生えてきた。上杉さん、私が今日部屋に来た時からだるそうにしていたのは気づいていましたが、まさか風邪にかかっていたなんて思いもよりませんでした・・・。だから私、後悔してるんです。上杉さんを無理にスキーに連れていったことを・・・。私が思いとどまっていれば・・・。

 

今にして思えば私、"あの時"から何も変わってない・・・。そんな自分が嫌になります。そんな自己嫌悪を抱きながら上杉さんのしおりに手を触れようとした時・・・

 

「!これ・・・」

 

しおりには付箋がいっぱいついて、ボロボロの状態になっているのに気づきました。

 

「四葉、上杉君の荷物はまだ・・・」

 

私がしおりを見てしんみりしていると、五月がやってきたのに気づきました。

 

「四葉?」

 

「・・・これ・・・上杉さんのしおり・・・付箋やメモがいっぱい・・・こんなに楽しみにしてたのに・・・」

 

「・・・・・・」

 

「具合の悪い上杉さんを連れまわして・・・台無しにしちゃった・・・。私が余計なことしたから・・・」

 

私、バカみたい・・・後悔のない林間学校にしようって、上杉さんに言ったのに・・・大きな後悔を残しちゃった・・・。

 

「・・・結局のところ、上杉君がどう感じたのか、何を考えているのか、本人に聞かないとわかりません」

 

そうは言うけど・・・

 

「!・・・ただ、無駄ではなかったと思いますよ」

 

そう言って五月は私が渡したしおりを私に見せてきました。そこには、1枚のメモがありました。

 

『らいはへの土産話

 

楽しかった話

・車内で六つ子ゲーム

・四葉が手伝ってくれた肝試し

 

候補

3日目のスキー

(四葉が教えてくれるらしい)

 

驚いた話

・5年ぶりの旅館

・五月を二乃と探す

・六海の友人を本人と探す』

 

!!このメモ・・・内容からして、昨日書いたものだというのがすぐにわかった。最後は悲しい終わり方だったけど・・・もしかして・・・上杉さん、林間学校を楽しんでくれてた・・・?

 

「これ、本当かな⁉三玖は寂しい終わり方って言ってたけど、楽しかったのかな⁉」

 

「・・・ふふ、さあ」

 

うん、いつまでもくよくよしてるのは私らしくない!このメモを見たら、黙ってこのまま終わり、なんてもってのほか!というわけで・・・

 

「上杉さんに聞いてみる!」

 

「え⁉今からですか⁉」

 

「こっそり行けば大丈夫だって!」

 

そうと決まれば善は急げ!私は上杉さんの部屋に向かって急いで向かっていく。もちろん、こっそりとね、にしし♪

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

・・・・・・・・・。

 

「ごほっ!げほっ!」

 

「⁉おっと・・・寝てしまった。すっかり暗くなったな・・・。電気電気・・・」

 

ガチャッ

 

「主任、キャンプファイヤーも終盤です。手伝ってもらえますか?」

 

「ああ、わかった。手伝おう」

 

「寝てたでしょ?」

 

「え⁉あ、いや・・・」

 

バタンッ

 

・・・あわわわ・・・ば、バレずに済んでよかった~・・・。六海が来てた時には先生が寝てたからこっそり入ってみたけど・・・電気をつけてたらばれてたよ・・・。・・・お姉ちゃんたち以外でこんなことするなんて初めてだから、自分でも戸惑っちゃってるよ・・・。ただ1つわかってるのは・・・風太郎君を1人にさせちゃいけないってこと。

 

と、とにかく電気つけなきゃ・・・。こう暗いときは・・・壁伝いに歩けって言ってたっけ・・・。

 

コツンッ

 

いた・・・足が何かにぶつかっていたい・・・。でも、手の感触からしてこれは・・・壁だ。よし・・・こうやって壁伝いにたどって・・・あ、暗いけど、電気見っけ。これで辺りが見えるはず・・・

 

パチンッ

 

「「「「「「・・・えっ⁉」」」」」」

 

電気をつけた瞬間、六海の視界に映ったのは・・・六海のお姉ちゃんたち、全員だった。

 

「ええーーー!!?みんな来てたのー!!?」

 

「よ、四葉、静かに!」

 

「な、なんであんたたちがいるのよ⁉」

 

「二乃こそ意外」

 

「あ、アタシはよく効くお守りを貸そうと思っただけ・・・」

 

「私たちもフータロー君が心配で来たんだよね」

 

「うん」

 

「私は、四葉に見習おうと思って・・・気づいたら、ここまで・・・」

 

「えへへへ、なんかうれしーなー!全員同じこと考えてたんだね♪」

 

「あ、アタシは違うって言ってるでしょ⁉」

 

「素直じゃない」

 

六つ子ってここまで似てるんだなぁって考えると、妙に感心したりして、それがうれしくって六海は思わず笑みを浮かべちゃった。六海は風太郎君の側まで近づく。

 

「ねぇ、風太郎君。みんな風太郎君に元気になってもらいたくて、ここまで来たんだよ。はっきり言って、風太郎君がいったいどういった人なのか、まだよくわからないんだ。だから・・・元気になったら、風太郎君のこと、もっとたくさん聞かせてね。約束、だよ♪」

 

最初はあれだけ嫌だったのに・・・手を触れたいとすらも思わなかったのに・・・でも、今なら・・・この手を、触れられるような気がするよ。

 

そして、外では・・・フィナーレの花火が、鳴り響いた。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『?????』

 

「パパパパーン、パパパパーン・・・」

 

とある家で、1人の女子高生が結婚式でよく聞くメロディを口ずさんでいる。そんな時、女子高生のスマホから着信が来た。女子高生はすぐに電話に出る。

 

「はーい。もう会場についた?・・・え?えーー!!?なんでそんな大事なものを忘れるの⁉・・・もー、持っていくけどさー・・・」

 

≪・・・すまん。頼んだ・・・らいは≫

 

「もう大人なんだからしっかりしてよ、お兄ちゃん・・・」

 

女子高生、上杉らいはは兄の上杉風太郎に呆れながら通話を切った。

 

「なんだ?風太郎からか?」

 

「結婚指輪を家に忘れたって。こんな新郎他にいないよー」

 

「ふっ・・・血は争えんな・・・」

 

「もう1人いるんかーい!」

 

結婚指輪を忘れるという風太郎の行為を父、上杉勇也は笑みを浮かべている。それにツッコミをいれるらいは。

 

「がはははは!」

 

「決めた!私、お兄ちゃんやお父さんよりいい人と結婚する!」

 

「ゆるさーん!!!俺を1人にしないでくれーー!!!」

 

らいはの宣言に勇也は悲痛な叫びをあげる。

 

「彼氏は⁉彼氏はまだいないんだよな⁉」

 

「はぁ・・・お兄ちゃんも仕事以外無頓着なのは相変わらずなんだから・・・」

 

「ああ・・・そうだな。それでも学生の頃より、マシになった方だろ」

 

「そうだけど・・・あんなんでいい旦那さんになれるか心配だよー・・・」

 

らいは兄風太郎に呆れながら、朝食を並べていく。その朝食はサラダと目玉焼きだけ。

 

「おいおい、朝食がこれだけって・・・そんなに家計がやばいのか?」

 

「やばいけど違うよ。今たくさん食べたらもったいないじゃん」

 

らいははそう言ってにかっと笑みを浮かべる。

 

「今日のお昼ご飯はすっごい豪華なんだから!」

 

らいはや勇也が笑うのも無理はない。なぜなら今日は・・・風太郎とその妻との結婚式なのだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結婚式会場到着し、上杉家と中野家の親族とあいさつを済ませたらいは風太郎に結婚を指輪を届けようと新郎の部屋へと向かっていく。

 

「うわぁ~・・・なんだかお城みたい・・・」

 

らいははあまり豪華な建物に感服しながら新郎の部屋を探していく。

 

「なんでこんなことになってるの?」

 

「本当ですね・・・手配ミスでしょうか・・・?」

 

スタッフがそんなことをぼやいている間に、らいはは次の部屋へと入っていく。

 

「わぁ~・・・1日でこんなに着替えるんだ~。いつか私も着る日が来るのかなー」

 

らいはは何着もあるウェディングドレスを見て、夢を膨らませている。

 

「髪を上げますね」

 

「お願いします」

 

その先の部屋は新婦の部屋となっており、その扉の先にいる新婦、六つ子の姉妹の1人、中野○○が髪の毛をスタッフがあげている。

 

「わー・・・」

 

○○の美しさにらいはは見惚れている。そんな時にふと隣の部屋を見てみると、新郎である風太郎が居眠りしている。

 

「あー!いたいたぁ・・・今日が特別な日だってわかってるのかなー?」

 

眠りこけている風太郎を見て呆れている。

 

「今から結婚するんだよ?でも超現実主義者だからなぁ・・・そういうの気にしてな・・・」

 

らいはがそこまで言うと、風太郎の腕にもうボロボロになっているミサンガをつけていることに気付く。

 

「懐かし・・・これいつ作ったんだっけ・・・?まだ持ってたんだ」

 

自分が作ったお守りを見てらいははにっこりと微笑んでいる。

 

「結婚おめでとう、お兄ちゃん」

 

らいはは風太郎に祝福の言葉をかけて、結婚指輪を置いて、新婦の部屋を去っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

そして、ついに始まった結婚式・・・

 

「新郎、入場」

 

新婦の言葉と共に会場の扉が開かれ、新郎、上杉風太郎が入場する。

 

「おーい、上杉ー」

 

「上杉ー、こっちやー」

 

風太郎が前に進んでいくと、男女のカップルが声をかけてきた。

 

「や。久しぶりー」

 

女性は茶髪の短髪で左目下にほくろがついているのが特徴だ。

 

「結婚おめっとさん。めでたいわー」

 

男性は黒髪できれいに整えられていて、関西弁が特徴となっている。

 

「・・・あ!あんたまた中学の同級生の顔忘れたでしょ!いい?私は・・・」

 

「今度はちゃんと覚えてるさ。真鍋だろ?・・・いや、もうじき坂本になるんだったな」

 

「おう!俺らの結婚式には招待したる!」

 

風太郎は友人である真鍋と坂本に笑みを浮かべて、また前に進んでいく。

 

「相変わらずね、あいつ」

 

「しっかし、上杉がとうとう結婚かー。くうぅ・・・キャンプファイヤーのあの日が心残りや。そしたら、結婚も早かったやろし・・・」

 

「またその話?私はそういうくっだらない噂は信じてないっていつも言ってるでしょ?」

 

「いやいや、あれガチな噂みたいやぞ⁉前田夫婦だって、そのおかげで結ばれたってもっぱらの・・・」

 

真鍋と坂本が話している間に、風太郎は前の席にいる前田夫婦ともあいさつをしている。

 

「仮に噂が本当だとしても、他所は他所、うちはうち。それでいいじゃない。現に私たち、こうして結ばれたんだし・・・ね?」

 

「・・・はは、そうやなぁ」

 

真鍋と坂本は学生時代のキャンプファイヤーの噂でそんな会話を広げていた。

 

「キャンプファイヤーといえば、知っとるか?」

 

「もう、言ってる側から・・・」

 

「まぁ聞けって。あん時のフィナーレの瞬間、上杉たちも・・・」

 

「新婦、入場」

 

話をしている間に、風太郎の運命の相手、新婦、中野○○が入場してきた。結婚式に参列している参加者は皆、○○の美しさに見惚れていた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結びの伝説・・・キャンプファイヤーの結びの瞬間、手を結んだ2人は生涯結ばれるという。

 

林間学校のフィナーレの瞬間、六つ子の姉妹はこの瞬間、確かに風太郎の手を触れていた。しかし・・・それは1人、というわけでなく、6人同時にである。

 

「あの時もずっと耐えてたんだねー。私も周りが見えてなかったなー」

 

「らしくないこと言ってないで、いつもの調子に戻りなさい」

 

「私たち6人がついてるよ」

 

「私のパワーで元気になってください!」

 

「この林間学校で、あなたは何を感じましたか?」

 

「元気になったら、その気持ち、聞かせて。おもしろおかしく、ね♪」

 

六つ子の姉妹は風太郎が元気なることを、心から祈った。その瞬間・・・

 

「・・・・・・」むくっ

 

なんと、言ってる側から風太郎が起き上がった。

 

「わっ!起きた!」

 

「元気になったんですね!」

 

「おまじないすごーい!」

 

「わー!すごい!奇跡だよ!」

 

「安心した」

 

「紛らわしいのよ!」

 

六つ子の姉妹は風太郎が起きたことに喜び合っているが・・・

 

「・・・うるさい・・・」

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

「・・・・・・うるせえええええええ!!!寝られないだろおおおおおお!!!」

 

「「「「「「わーー!!」」」」」」

 

風太郎はあまりにもうるさく感じて、六つ子の姉妹に向けて怒鳴り声を上げる。

 

「さっさと・・・出ていけええええええ!!!!」

 

風太郎に怒鳴られ、六つ子の姉妹は部屋を出ていく。逃げていくよう時の六つ子の姉妹の顔は、みんな笑顔だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの時のことは正直、よく覚えていない。

 

だが、災難続きだった林間学校には、不思議と嫌な覚えもなかった。

 

ほろ苦い思い出さえ幸福に感じるのも、多分みんながいたからだ。

 

今なら言えるかもしれない。あの時言えなかった一言・・・

 

傍にいてくれて、ありがとう

 

♡♡♡♡♡♡

 

林間学校が終わってから数日後、風太郎は今日も勉強をしながら学校への道のりを歩いている。

 

「フータロー君!」

「上杉!」

「フータロー」

「上杉さん!」

「上杉君」

「風太郎君!」

 

そんな時、六つ子の姉妹は風太郎に出会い、朝の挨拶をする。

 

「お前ら・・・」

 

「「「「「「おはよう((ございます))!」」」」」」

 

「おう」

 

「体はもう大丈夫?」

 

「ああ。入院して休んだ分を取り戻さないとな」

 

風太郎がやる気に満ちている中、二乃は風太郎が身につけているミサンガを見つめている。

 

「・・・もうちょっと貸しといてあげるわよ」

 

「何か言ったか?」

 

「別に。てか五月食べすぎ!」

 

「なっ!あ、朝はお腹がすくんです!」

 

「あー!六海、歩きながらお絵描きはダメだよ!危ないよ!」

 

「えへへ・・・風太郎君のながらが移ったのかな?」

 

「そうだ!フータロー君復活祝いに、放課後は駅前のクレープ・・・」

 

「もちろん勉強だよな!!!」

 

「あ、あははは・・・」

 

復活しても勉強一筋の風太郎に一花は苦笑いする。

 

「フータロー。また勉強、たくさん教えてね」

 

「みんなで勉強かー。がんばろうね!!」

 

「ちょっと!アタシはそんなの・・・」

 

「だったら二乃ちゃん以外のみんなでやる?」

 

「!参加しないとは言ってないでしょ!」

 

「上杉君。よろしくお願いしますね」

 

六つ子の姉妹全員の参加の意思に風太郎は少し戸惑ったが、すぐにやる気になる。

 

「ああ。期末試験に向けてビシビシいくからな!」

 

「「「「「「え・・・」」」」」」

 

期末試験と聞いて六つ子の姉妹は顔を青ざめている。

 

「覚悟はいいかお前ら!!」

 

「逃げろーーー!!」

 

「「「「「わーーー!!」」」」」

 

さっきまでのやる気はどこへやらと言わんばかりに六つ子の姉妹は風太郎から逃げていく。初日と似たような光景が、今ここに広がっているのだった。

 

14「結びの伝説2000日目」

 

つづく




予告

六等分の花嫁 第2章開幕!

過去に風太郎と出会った女の子との記憶

「買ったのか・・・もらったのか・・・よく覚えていませんが、確か・・・京都で5年前」

「この中で昔俺と会ったことあるよって人ー?

勤労感謝の日で四葉とデート?

「欲しいものはもうもらいました」

揺れ動く六海の風太郎と金太郎に対する思い

「六海さん!俺と付き合ってください!」

「嘘・・・キンちゃんが・・・風太郎君・・・?」

「上杉にとってあんたら六つ子はね、特別な存在になりつつあるのよ」

二乃と五月の家出⁉

「この家はアタシを腐らせる」

「今回ばかりは二乃が折れるまでは帰れません」

風太郎とあの子の再会

「久しぶり。上杉風太郎君」

部活の件で苦しむ四葉

「私、部活やめちゃダメかな・・・?」

覚悟を決める二乃

「いい加減覚悟を決めるべきなのかもね」

風太郎の家庭教師退任⁉

「今日を持って、家庭教師を退任します」

六つ子の新たな生活

「ここが私たちの新しい家」

六つ子の転校の危機⁉

「もし次の試験で落ちたらその学校に転校する」

六海が漫画家を目指すわけ

「あの頃は結構荒れてたじゃーん♪」

「もう嫌なんだよ!5人の姉も、私をバカにする連中も!」

自覚した二乃の気持ち

「あんたを好きって言ったのよ」

上杉家と中野家の家族旅行の出来事

「私たちはもうパートナーではありません」

「五月の森・・・!」

「当ててほしい。フータローに」

「だから好きになったって・・・そんなの都合よすぎない?」

「お前は誰だ?」

「誰にも取られたくなかったんだ」

「私たちは教師と生徒。それでいいと思ってた」

六等分の花嫁 第2章 制作開始

あの日・・・きっとあの日からだ。

彼女を特別だと感じたのは・・・あの瞬間から


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章
探偵風太郎と6人の容疑者


今回はちょっとしたアンケートを行いますので、後書き欄は最後まで見てくださいね


『今日の最下位はごめんなさ~い、牡羊座のあなた。友達と会うと運気アップ!風邪が流行っています。人と会う際はしっかり対策を!』

 

「・・・確かに・・・最下位で異論はないな」

 

林間学校の3日目で高熱を出して倒れてしまった俺、上杉風太郎は林間学校終了後、町で1番でかい総合病院で入院することになった。総合病院ゆえか、病室が妙に広い。おまけに1人でいるもんだから全然落ち着かん・・・。入院するにしても普通の病院でもいいだろうに・・・これはやりすぎだ。1日でも早く学校へ行って勉強がしたいぜ・・・。

 

診察の際に先生の1人が彼女にお見舞いだとか言っていたが・・・俺に彼女なんていないし、そもそも恋愛なんてくだらん。そういえば・・・林間学校の3日目、俺が風邪で寝てた時、ぼんやりとだが・・・あの時、あの六つ子の姉妹がいたような・・・。あれは夢だったのだろうか・・・?だとしたら、俺のために来たってか?・・・そんなことあるわけないか。

 

「・・・お見舞いか・・・」

 

だが、それとは裏腹に、ふとあの六つ子の姉妹のことを思い浮かべてしまう。こう考えちまうのは、あいつらに毒れたのかねぇ。

 

ガララッ!

 

俺がそう考えてると、病室のドアが開かれた。なんだ?午後の診察はまだじゃあ・・・って・・・

 

「に、二乃・・・?」

 

「はぁ、はぁ・・・誰もいないわね?」

 

俺の病室に入ってきたのは結構長い髪を蝶みたいなリボンでツインテをしてる女だ。こいつが俺が噂にしていた六つ子の姉妹の次女の中野二乃だ。こいつが・・・俺の病室に来ただと?

 

「な、なんだ⁉俺の部屋だぞ⁉」

 

「いいでしょ。誰がお金払ってると思ってるの?」

 

「だからって、これは大げさだろ・・・看護師の間では医院長の隠し子じゃないかとの噂で持ち切りだ」

 

「仕方ないでしょ?あの子たち、あんたが死ぬんじゃないかってくらい心配してたんだから。アタシはそうでもないけど」

 

え、マジか。あいつらが俺のことをそこまで心配していたとは。まぁ、あいつらがいようがいまいが俺には関係ないが。

 

「入院費を払ってくれたのもどうせお前たちの親父だろ?」

 

「そうよ!つまりアタシ達が払ったも同然よ!」

 

「うわー・・・お嬢様っているんだ・・・」

 

つーか、そんなこと威張って言うことじゃねぇだろ、このブルジョワ娘め。

 

「・・・いや、しかし、よりにもよって俺の言うことを聞かないお前が見舞いに来てくれるとは思わなかったぜ」

 

「え・・・え、ええ、そうね・・・。アタシもそう思うわ・・・」

 

?なんだ?二乃の奴、歯切れが悪いな。

 

「・・・て、こんなことしてる場合じゃなかった!」

 

?本当になんなんだ?今度は窓際のカーテンまで向かって、自分の身を隠し始めたぞ?

 

「・・・いい?アタシのことは黙ってなさい」

 

???一体全体なんだっていうんだ?それになんで二乃だけなんだ?他の姉妹は一緒じゃないのか?

 

ガララッ!!

 

「上杉さん!ここに二乃が来ませんでしたか⁉」

 

うおっ⁉びっくりした・・・。勢いよく俺の病室に入ってきたのは短めの髪でデカリボンが目立つ六つ子の姉妹の四女の四葉だ。しかし、入ってきたのは四葉だけじゃなかった。入ってきたのは四葉の姉2人と妹1人だった。

 

「やっほー、林間学校ぶりだね」

 

他の姉妹より髪が短く、左耳にピアスをつけてるやつが長女の一花だ。

 

「体調はどう?」

 

髪は中間くらいの長さで首元にヘッドフォンをつけてるやつが三女の三玖だ。

 

「見た感じ元気そうだねー」

 

髪は四葉とよく似た感じで黒縁メガネをかけてるやつが六女の末っ子の六海だ。こいつらにはもう1人姉妹がいるんだが、来てないみたいだな。

 

と、ここまで髪の長さや身に着けているものでなんとか特定しているが、いかんせん顔が同じだから髪の長さで見ても誰が誰だか見当もつかん。それぞれ見分けがつけられてるアクセサリーに感謝だな。

 

「よかった!生きてて一安心です!」

 

「お前らまで・・・。たく・・・誰が来いって言ったよ・・・」

 

だが、こいつらのこの気遣いには言葉とは裏腹に結構ありがたかった。絶対に口に出して言わんが。

 

「・・・ん?やはり二乃のにおいがします」

 

いや、四葉よ。二乃のにおいがするって、お前は犬か。・・・と、いいたいところだが、確かに二乃が来てから、妙なにおいがするな。

 

「あいつそんなに体臭ひどいのか・・・かわいそうにな・・・」

 

「香水って道具知ってるー?後風太郎君、女の子に体臭って失礼すぎるよ」

 

そんなもん知らん。俺は思ったことを言っただけだ。つーか六海よ、俺を軽蔑するような顔はやめろ。

 

「このにおいからして・・・近くにいますね。くんくん、くんくん・・・」

 

「四葉ちゃん、本当にワンちゃんみたいだからやめて。見てる方が恥ずかしいよ」

 

四葉はにおいを頼りに二乃を探し始めた。こいつもし転生したら犬にでもなるんじゃねーか?

 

「ほんと、一時はどうなるかと思ったんだよ?体温が真夏の最高気温くらいになってたからね」

 

マジか。どうりで林間学校の日、記憶がぼんやりとしてると思ったぜ。

 

「回復してよかった。寂しくなったら呼んで。いつでも看病するから」

 

三玖は俺に向かって優しく微笑んでいる。

 

「サンキュー。でも1人の方が楽だから見舞いはいらね・・・」

 

バシンッ!!

 

いって!俺が見舞いはいらないって言い終える前に六海に頭を叩かれた。こいつ、体力ないくせに意外と力、強いな・・・思わずくらっとなっちまったぞ。

 

「いってぇ・・・ねぇ六海?知ってる?俺一応病人なんだけど・・・」

 

「今のは風太郎君が悪い!反省しなさい!」

 

理不尽すぎる・・・本当のことを言おうとしただけなのにこの仕打ちとは・・・。

 

「まぁ、今回はお姉さんも同意かなー」

 

一花まで・・・俺に味方はいねぇのか・・・。

 

「あ、そうだこれ・・・フータロー君が休んでる間のプリントね。五月ちゃんから預かっちゃったけど・・・渡せてよかったよ」

 

「ふーん・・・」

 

一花が俺に渡してきたのは俺が学校を休んでる間の宿題やらなにやらのプリントだ。そういえば・・・一花の奴がプリントを持ってきてなお、制服姿のまま、ということは・・・。

 

「学校、行ってるんだな」

 

「・・・・・・うん」

 

やはりか。林間学校の2日目で学校を休学すると言っていたが、まだ通っていたとはな。女優業を優先するとばかり思ってたぜ。

 

「ふっ、所詮その程度の覚悟か」

 

「もー、また意地悪言うんだからー」

 

「?」

 

「一花ちゃんも風太郎君も、何の話してるの?」

 

「なーんでもないよ。ね、フータロー君?」

 

「ああ。お前らじゃ理解できねぇ話だ」

 

「「なんかバカにされたような気がする・・・」」

 

と、近くにこいつらもいるんだった。一応はこいつらには伏せておいた方がいいよな。休学については一花が決めることだから俺からは何も言うことはない。うまくいけば儲けもの、何事も挑戦だからな。ただ、その場合一花がいなくなることで給料が2割減になることは恐ろしいがな。ま、学校に行ってるからその心配もなくなったが。

 

「・・・なんで、君なんだろうね・・・

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「あ、ううん、何でもないよ?」

 

?なんだ?一花の奴、急にしおらしいな。

 

「あー!風太郎君、今日のご飯いっぱい残してるー!ダメだよー、好き嫌いしちゃあ」

 

「あ、本当だ。ごはん・・・嫌いなものあった?」

 

「いや、好き嫌いとかじゃなくてだな・・・単純にちょっと食欲がないだけだ」

 

まだだるけが残っているのか今日は何かと食欲がねぇ。唯一口にしたのはサラダとヨーグルトだけだ。パン2個と牛乳はまるまる残ってる。

 

「そっか・・・言ってくれたら私がご飯作ってあげたのに・・・」

 

「「・・・・・・っ!!」」ぐぎゅるるるる・・・

 

み、三玖の料理かぁ・・・いや、三玖の作ったあのオムライスやコロッケは普通にうまかったんだが・・・コロッケは腹壊すまで食わされたからなぁ・・・。思い出し腹痛しちまってるぜ・・・て、六海も思い出し腹痛してやがる・・・気持ちはわからんでもない。

 

「2人とも大丈夫?」

 

「あー、大丈夫・・・ノープロブレムだよ・・・ね、風太郎君・・・」

 

「あ、ああ・・・ちょっと思い出し腹痛をしただけだ・・・ちゃんと食べるから・・・」

 

「そっか・・・なら安心」

 

俺たちの思い出し腹痛で顔色が変わったことに気付いた三玖は俺たちを心配してくれている。いや、こうなったのは三玖のコロッケが原因があるんだがな・・・。

 

「そ・・・それより風太郎君。牛乳一口も飲んでないけど、いらないなら六海にちょーだい!」

 

六海は牛乳が好きなのか俺に向かって牛乳を求めてきた。

 

「こーら、六海。フータロー君のものでしょ?」

 

「いや、構わん。水分を取るなら水でいいしな。欲しければやるよ」

 

「わーい、ありがとー!」

 

六海は俺の許可をもらったら牛乳を取り上げ、ストローを取り出して音を立てずにちゅーちゅーと牛乳を飲んでいく。どっかの小動物かっての。

 

「ねぇ・・・フータロー」

 

今度は三玖に声をかけられたと思ったら今日の飯のパンを持って俺の口にいれようとしてる。

 

「はい、あーん」

 

「・・・いや、自分で食えるから・・・」

 

俺は三玖からの気遣いを丁重に断ろうとすると今度は反対側から一花がもう1個のパンをもって俺に食わそうとしてる。

 

「ほーら、ちゃんと食べないとダメだぞ?」

 

右に三玖、左に一花といったように俺は2人からパンを口に入れられそうになってる。そんなまるまる1個を2個も一気に口に入るわけねぇだろ。

 

「あのー・・・俺の口は1つなんだけど・・・」

 

俺の言い分は無視するかのように三玖と一花は俺の口にパンを食べさせた。1個ずつではなく、今の俺はパンの先っちょを2個とも銜えてる感じになってる。

 

「・・・・・・なんだこれ・・・」

 

「「・・・ぷっ、クスクス・・・」」

 

一花と三玖はそんな俺の様子をみて笑い出した。こうなったのはお前らが俺にパンを口に入れたからだからな?

 

「はー・・・おいしかった!どうもありがとね、風太郎君!」

 

「お、おう・・・それは何よりだ」

 

六海は牛乳を飲み終えて俺に礼を言ってきた。そんなことよりパン取ってくれねぇかなぁ・・・あ、自分でも取れるか。

 

「あ!二乃みーっけ!こんなところに隠れてたんだー!」

 

「犬かあんたは!」

 

四葉はカーテンに隠れてた二乃を発見したようだ。

 

「ほらほら、早く行くよー」

 

「や、やめなさいってば・・・!」

 

「じゃあ、二乃も見つかったし、私たちは行くね?」

 

「フータローも早く治るといいね」

 

「じゃあ、体調に気を付けてねー。お大事にー」

 

二乃を見つけ出したら姉妹たちは二乃を連れて病室から去っていった。まったく、どこまで行っても騒がしい奴らめ。・・・あれ?なんだ・・・?あいつらが来る前まであっただるさがいつの間にかなくなってる・・・。少し楽になった・・・?なんでだ・・・?

 

「上杉君、午後の診察の時間です。診察室までどうぞ」

 

「あ、はい」

 

考えてるうちに午後の診察の時間か。ま、考えるのはいつでもできるしな。今は体を治す方が最優先、だな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

午後の診察の時間、俺は診察室で診察を受けている。それよりもいつになったら学校に行けるのかっていうのが気になるところだ。

 

「・・・うん。朝よりよくなってるね。これなら明日にでも退院できそうだ」

 

「学校も明日には行けるな!」

 

「そうですか・・・よかった」

 

ようやく明日には退院か。この時俺の頭に浮かび上がったのは、病室のテレビで見た星座占いの運勢だ。12星座中最下位だったが、悪いことばかりもなかったな。友達に会えば運勢アップ、か・・・。俺たちはあくまでパートナー同士であり、友達かどうかは微妙なところだが、悪い気分ではないな。

 

「勉強が遅れて不安かな?聞けば君は学年1位の秀才らしいじゃないか。遅れなんてすぐに取り戻せるさ。少しなんてわけないだろう?」

 

「・・・そうですね・・・俺はいいんですが・・・俺が教えてやらないといけないバカたちがいるんです。俺が、手本になってやらないと」

 

少しくらい・・・か。その少しでも俺は1分1秒でも無駄にしたくない。なにせ、容量の悪いバカ6人を抱えてるしな。

 

「・・・そうかい。じゃあ診察はこれで・・・」

 

「お、押さないでよ!!」

 

ん?なんだ?この声・・・二乃か?いったいなにやってんだ?

 

「二乃、病院では静かに。他の患者さんに迷惑」

 

「し、仕方ないでしょ!怖いものは怖いわ!」

 

気になって廊下を覗いてみたら、案の定あいつらが何か言い合いをしてる。つーかあいつらまでいたんだな・・・。ま、見舞いは来てくれたし、一応礼は言っとくか。

 

「二乃ちゃん、いい加減覚悟決めてよー。六海は覚悟できたしさー」

 

「ぐぬぬ・・・あんたはこっち側だったのに・・・この"凶鳥"六海め」

 

「む、昔の黒歴史を掘り起こさないでよー!」

 

「もう、注射で怖がってたらいつまでたってもピアス開けられないよ?」

 

「うっ・・・」

 

・・・うん?注射?今こいつら注射って言ったか?

 

「あ、上杉さん!診察お疲れ様ですー!」

 

「なぁ・・・お前ら・・・ここに何しに来たんだ?」

 

「何って・・・予防接種だけど?」

 

は?

 

「ほら、この時期ってインフルエンザとか流行ってるじゃん?」

 

「だからそうならないように毎年この時期には受けてるんだよねー」

 

「それなのに五月と二乃が逃げちゃって。今年は六海が逃げなかったのは奇跡」

 

「痛いのは嫌よ!六海!あんたはこっち側でしょ!戻ってきなさい!」

 

「確かに嫌だけど、ついでに上杉さんのお見舞いもできてよかったね!」

 

・・・ほー、なるほどなるほど・・・お前らの本来の目的は予防注射で俺はそのついでだったと・・・。ははは、それならしょうがないなー、ははは・・・。

 

「・・・お前ら!!!ふっざけんなあ!!!」

 

「「「「「!!!???」」」」」

 

なんて言うと思ったら大間違いだ!!くそ!せっかく礼を言ってやろうと思ったのに台無しじゃねぇか!!あまりの裏切りに俺ははらわたが煮えくり返ってるぜ!!

 

「せっっっかく礼を言ってやろうと思ったのに、お前らの目的は予防注射かよ!!!」

 

「いいじゃん。来たんだから」

 

「ついでだったんだろーが!!!」

 

「も、もちろんフータロー君のことも心配だったよね」

 

「そうです!病院に来てから思い出した、なーんてことは絶対ないです!!」

 

「四葉、バレバレ」

 

「だ、大丈夫だよ!六海はちゃんと覚えてたから!」

 

「嘘つけ!!くっそ!お前ら俺をバカにしやがって!!この裏切り者があ!!!」

 

「君の方が裏切り者だああああああ!!!」

 

「「「「「「!!!???」」」」」」

 

びっくりしたぁ・・・!俺がこいつらに文句を言おうとしたらもう1人の先生からそんな叫び声が上がった。なんだ?先生の俺を見る顔・・・妬んでるのか?なんでだ・・・?

 

「ほら!!病人は大人しく寝るんだ!!」

 

「え?はぁ・・・」

 

俺は先生に促されるまま、病室へと戻されていく。あいつらに文句言おうとしたが、その気も冷めちまったよ。

 

「・・・上杉君。これからも励みたまえよ」

 

「・・・?」

 

病室に戻されていく際、診察の先生が俺に向かってそう言ったのが聞こえた。あの人・・・どこかで見たことがあるような・・・。・・・まぁ、考えてたって仕方ねぇな。早いとこ病室に戻って寝よ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

夢を見ていた・・・

 

君と初めて出会ったあの日の夢を・・・

 

遠い昔の出来事・・・だけど強く記憶に刻まれている景色・・・。

 

『私がみんなのお手本になるんだ』

 

そう、あれは・・・

 

『上杉風太郎君・・・バイバイ』

 

♡♡♡♡♡♡

 

「!!!」

 

病室で寝てた時、あの日の出来事の夢を見ていた。俺が初めて"あの子"と出会った頃の夢を・・・。

 

「・・・なんであの時のことを・・・」

 

なぜに今になってあの時の夢を見たのかわからないまま、俺はふと周りを見回す。すると俺の視線には・・・あの時の女の子、長い髪で、白いワンピースを着こんだ子がいた。

 

「あっ・・・」

 

なぜ彼女がここにいるんだ?俺はまだ夢を・・・?

 

「な、なんですか、上杉君⁉」

 

・・・どうやら俺は少し寝ぼけていたらしいな。今俺の目の前にいるのはあの時の女の子ではなく、六つ子の姉妹の五女だった。そう、この二乃に負けないくらいの髪の長さで両サイドに星のヘアアクセをつけている奴が六つ子の姉妹の五女の五月だ。

 

「・・・なんだ五月か。驚かすなよ・・・」

 

「そ、それはこちらのセリフです。急に起き上がるからびっくりしましたよ」

 

ふぅ、やれやれ・・・どうせこいつも予防注射ついでの見舞いだろ?あ、予防注射といえば・・・。

 

「四葉たちが探してたぞ」

 

「あ・・・アハハ・・・何ノコトデショウ?」

 

こいつしらを切りやがった。おい、五月。ちゃんとこっちを見ろ。

 

「・・・ここには・・・あなたにお尋ねするために来ました。どうしても聞きたいことがあったので」

 

?五月が俺に聞きたいこと?いったいなんだ・・・?

 

「教えてください・・・あなたが勉強する理由を」

 

!!!俺が・・・勉強する理由・・・。なんでこいつがそんなことを知りたがるんだ?まったくもって意味がわからん。

 

「嫌だね。話す気はない」

 

「なっ!!」

 

「ほら、予防注射があるだろ?とっとと出てった出てった」

 

こう言っとけば自分から出ていくだろ。

 

「むむむ・・・」

 

・・・と思っていたら五月の奴はここから出ていこうとはせず、ずっと俺を睨み続けていた。

 

「・・・何してんの?」

 

「ですから、あなたが勉強する理由を教えてくださいよ。教えてくれるまで睨み続けますよ」

 

「・・・あっそ。なら俺はお前が諦めるまで睨み続けようか」

 

「!!・・・い、いいでしょう。どちらが先に音を上げるか勝負です」

 

マジかよおい。なんでこういう時に限って意地になるんだよこいつ。

 

「お熱いね~♡」

 

「か~わい~♡」

 

「「!!」」

 

病室のドアが半開きになってたせいか今の光景を看護師に見られてしまった。気まずくて俺たちは思わず目を逸らしてしまう。は、ハズイ・・・!ていうか五月、ドアくらいちゃんと最後まで閉めろよ。

 

「お・・・教えてくださるまで離れませんから」

 

「勘弁してくれ・・・」

 

こう意地になった五月はおそらく絶対に離れようとしないだろう。てゆーかここに居続けたら他の姉妹たちも来るんじゃねーか?だが五月の話を聞いて他の姉妹も食いつくのだけは避けたい。・・・仕方ねぇ。ちょっとだけなら話してやるか・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

俺は五月に過去の俺について話してやった。かつて俺は今のように勉強ができるような奴でなく、お嬢様の言うところの品性に欠けるような非行少年だった。そんな俺でも昔は友人もそれなりにいた。

 

そんな俺が今のようになったのは全て、5年前の京都の修学旅行から始まったんだ。あの時は確か・・・友人と一緒に七並べをしてた時だな。車内でうるさくして同じく友人である竹林に注意されたっけか。で、俺が七並べを誘ってやったら竹林の幼馴染の真田を誘ってあげてって言われたっけ。当時は勉強をバカにしていた俺は真田の持ってた算数のプリントを不要なものだと言って車内にバラまいたんだったな。竹林と真田が幼馴染と知ったのがこん時だな。あの2人がバラまいた算数のプリントを拾っている様子を見て、友人が幼馴染だって言ったのをよく覚えてる。

 

それで、気づいちまったんだよな。5人のメンバーの中で不要なのは俺だってさ。当時はショックを受けたものだ。

 

京都に到着して、あいつらに腹痛って言って嘘ついて1人になって落ち込んでた時に、変なばあさんにからまれたのも覚えてる。変にいちゃもんつけられて挙句の果てに近くにいた警察にも変なばあさんのせいで絡まれてしまって、危機感を覚えていた時、出会ったんだ。今の俺の始まりとする・・・長い髪で、白いワンピースを着こんだ女の子と。

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・・・・その直後だった。京都の建物の巨大モニターで緊急ニュースが報道されたんだ。未確認飛行物体、将棋星人のUFOが現れて国会が占拠されちまったんだ。将棋星人のせいで地球にいるみんなは毎日覚えた生活を強いられるようになったのだ。

 

「・・・こうして俺の修学旅行は終わったんだ」

 

・・・・・・・・・。

 

「なんですかそれ!!?そこから聞きたいのにすごい雑に終わりましたよ!!?地球はどうなったのですか!!?」

 

俺の話を聞いた五月は続きが気になっているようだな。ま、最後の方は俺の作り話であり、嘘なわけなんだがな。だって、最後まで話してやるなんて一言も言ってねーし。

 

「・・・別に話すとは言ってねー。というか話したくない。少しだけお前の言うことを聞いてやったのは・・・この間の礼だ」

 

林間学校で五月が高熱でぶっ倒れた俺を運んでなかったら死んでたかもしれねぇからな。五月には本当に、感謝してる。

 

「・・・いまいち伝わりませんでしたが・・・昔のあなたと今のあなたが大きく違うことがわかります。そのことの出会いが、あなたを変えたんですね」

 

まぁ、な。きっと、あの子と出会えてなければ、俺は思い悩んだまま、無駄な人生を浪費していたかもしれんしな。

 

「・・・私も、変われるでしょうか。もし・・・もしもできるなら・・・上杉君。あなたに変われる手伝いをしてほしい。あなたは・・・

 

 

私たちに必要です」

 

 

 

!!!この言葉・・・覚えがあるぞ・・・。そうだ・・・。これも、5年前の修学旅行の時に・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

『わーっ!お守りだって!ねぇねぇ、買っていこうよ!』

 

『なんでついてくるんだよ!さっさとどっか行け!』

 

『人を探してるんでしょ?私もなんだー』

 

『1人でできる!他を当たってくれ!』

 

『他じゃダメだよ』

 

『は?』

 

『お互い1人で寂しい者同士、仲良くしようよ。私には・・・

 

 

 

君が必要だもん!』

 

 

 

『・・・・・・』

 

『ねぇ、写真、撮ってもらおうよ』

 

『おい!勝手にさわんな!』

 

♡♡♡♡♡♡

 

似てる・・・あの時のあの子と五月の言葉が似ている・・・。もしやと思って俺は五月に顔を見合わせる。

 

「・・・あ、あの・・・こっち見ないでください・・・」

 

・・・うん、やっぱねーわ。絶対あの子じゃねぇな。

 

「・・・俺に教わってどうにかなるのか?平均28.9点」

 

「どうにかします!!」

 

いや、どうにかって・・・どうする気だよ・・・。

 

「やれることは何でもしますよ!ほら、見てください!昔持ってたお守りを引っ張り出してきました!」

 

「神頼みかよ・・・」

 

五月が取り出したのはめちゃくちゃちっせぇ巻物みたいな学業お守りだった。そういえばあの子も似たようなものを買ってたな。アホみたいにたくさん・・・それも・・・6つも。

 

・・・・・・うん?6つ?ちょっと待て・・・そういやあの子って兄妹とかいるのか?つーかあのお守り・・・まさかあの時のものじゃねーだろーな?

 

「なぁ、五月。それ・・・どこで買ったんだ?」

 

「?これですか?買ったのか・・・もらったのか・・・よく覚えていませんが、確か・・・京都で5年前」

 

何だと?こいつらも・・・5年前に京都に?さっきは否定してしまったがまさか・・・本当に・・・?いや、しかし・・・。

 

「・・・それって・・・」

 

五月も何か感づいたように口を開こうとした時・・・

 

「あ!五月!」

 

「ひぇっ⁉」

 

五月を探しに来ていた姉4人と妹1人が俺の病室に入ってきた。

 

「なんだー、ここにいたんだー」

 

「余計なところ探しちゃったね」

 

「6人揃ったから、今度こそ行くよ」

 

「うぅ・・・わかったわよ・・・」

 

「お休みのとこごめんねー。ほら五月ちゃん!行くよ!」

 

六海は五月の服の首根っこを掴んでずるずると引きずっていった。

 

「ま、待ってくださーい!」

 

「嫌です!待ちません!」

 

「五月!アタシは覚悟したわ!あんたも道連れよ!」

 

六つ子の姉妹たちは五月を引きずりながら今度こそ俺の病室から去っていった。

 

しかし・・・5年前・・・京都・・・学業のお守り・・・六つ子・・・条件がぴったり合いすぎている。もしかしてまさか・・・。

 

・・・いや、偶然・・・だよな?

 

♡♡♡♡♡♡

 

病院から退院してからの土曜日。俺は今日も家庭教師として六つ子の姉妹が住んでいるマンションへと向かっている。先日はあいつらに逃げられて、結局勉強できなかったが・・・あいつらの部屋なら逃げ場はない。初日みたいにはならないだろう。しっかし、俺もオートロックには使いこなせてきたぜ。そう考えると俺も成長したなって、思わず笑みを浮かべてしまうぜ。そうしてる間に目的のマンションの30階までつき、あいつらの部屋までやってきた。そして、リビングに入った瞬間・・・

 

「あ・・・ああ・・・///」

 

バスローブ姿の六つ子の姉妹の誰かがいた。おい・・・またこのパターンかよ・・・。

 

「変態!!」

 

「ピンポン押しただろ!!」

 

六つ子の姉妹の誰かは持ってた紙袋を俺に向けて投げつけてきた。着替えならリビングじゃなくて浴場近くでしろよ!

 

バサッ

 

ん?なんだこれ?紙袋から出てきた紙を見てみると、それはとんでもないようなものだった。俺はすぐに六つ子の姉妹の誰かを見るが、すでに奴の姿はなかった。まさか・・・これを捨てようとしてやがったのか?いい度胸してるじゃねぇか・・・!

 

ちょうどいい・・・全員部屋にいるはずだからここに集めるとするか。ついでに・・・確かめておきたいこともあるし・・・ちょっとした注文もつけるか。

 

♡♡♡♡♡♡

 

10分後、俺の呼びかけに応じてくれた六つ子の姉妹は全員揃っている。俺が出した注文も聞き入れている。俺が出した注文は・・・全員同じ髪型、わかりやすいようにポニーテールにしろっていう内容だ。全員違う形のポニーテールだが、顔が見やすくなったからこれはこれで別にいい。

 

「・・・急にどうしたの?」

 

「同じ髪型にしろって・・・」

 

「六海にいたってはメガネ外せって言われたー。外したけど」

 

「今日は家庭教師の日じゃなかったの?」

 

ふむ・・・改めてみてみると・・・本当にそっくりだな。六つ子ってここまで顔が似るものなのか?

 

「なんだ二乃。らしくもなく前のめりじゃないか」

 

「私、二乃違う」

 

「その子は三玖ですよー!」

 

「二乃はアタシよ」

 

あれ?違うのか?てっきりこいつが二乃だと思ったんだが・・・。

 

「あのー・・・」

 

「待て!今、俺がお前たちが誰なのか、左から順に当ててやる」

 

落ち着け・・・こいつらの顔をよく見て・・・よしわかったぞ!!

 

「左から三玖!五月!一花!六海!二乃!四葉!どうだ!正解だろ!」

 

「左から六海、四葉、二乃、五月、一花、三玖よ!髪でわかるでしょ!」

 

「全部不正解」

 

「四葉ちゃんにいたっては服でわかるでしょ⁉ほら、428(よつば)って!」

 

おう・・・なんてこった。1人なら絶対当たると思ってたのに、全滅とは・・・。

 

「・・・と、このようになんのヒントもなければ誰が誰かもわからない。最近のアイドル、○○48のようにな」

 

「あ、風太郎君○○48は知ってるんだ・・・」

 

「いやいや、それはフータロー君が無関心なだけでしょ・・・」

 

「・・・まぁ、それはいい。まずはこれを見てくれ」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

俺が六つ子の姉妹に見せた紙は・・・6教科それぞれの0点の答案用紙だ。

 

「全教科0点・・・」

 

「奇跡だ。ご丁寧に名前は破られてる」

 

俺が休んでる間にこんな風になるなんてな・・・。先生として、俺はこいつらが情けなくて涙が出てくるぞ。

 

「バスタオル姿でわからなかったが、犯人はこの中にいる!私が犯人だよっていう人ー?今ならデコピンだけで許してやる」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

誰も名乗ろうとしない・・・そうかそうか。穏便に済ませてやろうというのに、スパルタレッスンがお望みのようだな。と、いうわけで・・・

 

「四葉、白状しろ」

 

「当然のように疑われてる!!私じゃないですよー!」

 

「いや、真っ先に疑われて当然だと思うよ。ちなみに六海も違うよ」

 

くっ・・・こいつら、白を切る気か。まぁ、いい。それなら俺自身が見つけてやるまでだ。

 

「それでこの髪だったんだ」

 

「顔さえ見分けられるようになれば今回のこともスキーでの五月遭難事件も起きないだろうからな」

 

「うっ・・・反省してます・・・ごめんなさい・・・」

 

五月遭難事件の1件に五月は本当に申し訳なさそうな顔をしてる。反省してるならいい。

 

「あの五月はマスクさえなければアタシ達でもわかったんだけど・・・」

 

「うん。それに、フードも被ってたし、余計に」

 

ん?ちょっと待てよ?こいつら、顔を見ただけで誰が誰だか判別できてる?

 

「なぁ、お前らはなんで顔を見ただけで判別がつくんだ?」

 

「は?」

 

「なんでって・・・」

 

俺の問いかけに二乃と三玖は顔を見合わせる。

 

「こんな薄い顔、三玖しかいないわ」

「こんなうるさい顔、二乃しかいない」

 

いや、わからんわ。

 

「・・・薄いって何?」

 

「うるさいこそ何よ!」

 

言い方が気に入らなかったのか二乃と三玖はいつもの喧嘩を始めやがった。

 

「上杉さん、いいこと教えてあげます。私たちの見分け方はお母さんが昔言ってました。さえあれば自然とわかるって」

 

なんだそのトンデモ理論は。

 

「・・・道理でわからないはずだ・・・」

 

・・・ん?ちょっと待てよ・・・?やっぱその理屈はおかしいわ。

 

「四葉、だったら何であの時の六海が三玖だって気づかなかったんだ?」

 

「え⁉あれ⁉お、おかしいなぁ・・・」

 

前に三玖が六海に変装してたからなぁ。その時は四葉もいたし。俺の発言に戸惑ってる四葉に六海が手助けを入れる。

 

「風太郎君だって知ってるでしょ?六海たちは六つ子だから変装ができる。特に三玖ちゃんは六つ子の中で1番変装が得意だから、六海たちのがあっても見分けられないの」

 

「そ・・・そうです!そうなんですよ!」

 

いや愛は強調しなくてよくね?というか四葉、妹に助けられてそれでいいのか?

 

「・・・やはり同じ顔だ・・・」

 

「ねぇ、もう髪戻していいかなー?」

 

「それよりメガネもうかけていい?」

 

「ん?ああ、もういいぞ。無駄だったことなのはわかった」

 

くそぅ・・・誰が誰だかわからない以上、あの子かどうかもわからねぇじゃねぇか。

 

「なんで今日はそんなに真剣になってるんだろう?」

 

「!」

 

一花がなんか言ったような気がするが気にしてられるか。ん?ていうか・・・今思ったんだがこのにおい・・・。

 

「シャンプーのにおい・・・」

 

「え・・・?え・・・?」

 

「え、やだやだ。におい嗅がないで」

 

「なんかキモ・・・」

 

そういえば・・・俺が来た時こいつらのうち誰かはふろ上がりだったな。・・・そうだこれだ!!

 

「お前たちに頼みがある!!」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

「俺を、変態と罵ってくれ!!」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

こいつらの声の口調やイントネーションとかを聞けばすぐに見分けられるはずだ!

 

まずは一花・・・

 

「もう、フータロー君ってば、そんなこと言ってほしいだなんて・・・この変態さんめ♪」

 

「違う。そういう小悪魔的な言い方じゃなくて」

 

次、二乃・・・

 

「あんた・・・手の施しようがない変態だわ・・・」

 

「違う。そういう心にくる言い方じゃなくて」

 

次、三玖・・・

 

「急にどうしたの、フータロー。変態なの?」

 

「違う。そういう初めて出会った時の言い方じゃなくて」

 

次、四葉・・・

 

「上杉さん!変態です!」

 

「違う。そういう愛らしい言い方じゃなくて」

 

次、五月・・・

 

「まったく・・・そんなこと言われたいだなんて・・・あなたは間違いなく変態です」

 

「違う。そういうあきれるような言い方じゃなくて」

 

最後、六海・・・

 

「前から変態さんだとは思ってたけど・・・やっぱり風太郎君は変態さんなんだね」

 

「違う。そういう2回連続で使う言い方じゃなくて」

 

もういいわかった・・・。口調やイントネーションだけじゃわからねぇわ・・・つーか、俺の心がもう悲鳴を上げてるんだが・・・。

 

「・・・ぐすん・・・」

 

「泣かないでよー。私たちもちょっと・・・ね?」

 

「あ、ちょっと待って・・・おトイレ行ってくるー!」

 

いいんだ一花よ。言い出した俺が悪い・・・つか六海よ、授業の前にちゃんと済ませとけよ・・・。

 

「ほくろで見分けることもできるけど・・・」

 

「お手軽ぅ!三玖ナイスだ!」

 

その手があったか!確かにほくろでなら俺でも見分けられる!」

 

「どこにあるんだ?見せてくれ!」

 

「え・・・?」

 

ん?急にどうしたんだ三玖?そんな倒れるような動作をして・・・。

 

「え・・・えっと・・・フータローになら・・・見せても・・・いいよ・・・///」

 

ダメです!!!!

 

????いったい何だっていうんだ、五月のやつ?俺はただほくろがどこにあるのか見たいだけだ。

 

「そもそも犯人のほくろを見てないと意味がないでしょう!」

 

「む・・・それもそうか・・・」

 

「・・・五月のバカ」

 

盲点だった・・・確かに俺は犯人のほくろを見ていない。これじゃあ見分けがつけられない。てか三玖よ。ほくろを見られたいのか?

 

「しかし・・・どうしたことか・・・」

 

「フータロー君・・・もしかしたらこの中にいるかもしれないよ?」

 

ん?急にどうした一花の奴?この中にいるって・・・

 

「どういうことだ?」

 

「あのね、落ち着いて聞いてね。私たちには隠された7人目の姉妹・・・

七恵(ななえ)がいるんだよ!」

 

「!!」

 

「な、なんだってー!!?」

 

今一花の奴なんて言った?7人目の・・・姉妹?七恵だと?

 

「な・・・七恵は今どこに・・・?」

 

「ふふふ・・・あの子がいるのはこの家の誰も知らない秘密の部屋・・・」

 

「勝手にやってろ」

 

こんな時に一花の嘘なんかに付き合ってられるか。四葉も騙されるなよな。

 

「もう、ノリ悪いなぁ、フータロー君。七恵だよ?7人目の姉妹だよ?」

 

「うっせ。お前の嘘に付き合ってられっか」

 

「え⁉今の嘘だったんですか⁉」

 

四葉、本気で信じてたのかよ。

 

「嘘じゃないって。ほら、証拠の写真だってあるんだから」

 

「何?証拠だと?」

 

「あ!一花!その写真はダメです!」

 

一花は証拠という名の写真を俺に渡してきた。五月がなんか止めてきたが・・・何が写って・・・

 

「!!??!!??」

 

渡された写真に写っていたのは・・・いかにもザ・不良と言っても過言でもない姿の女だった。この制服からして中学くらいだな。見た目は制服を着崩しており、竹刀を持ち、長い髪をなびかせて凶と書かれたマスクを外してガムを食ってる様子だ。ちょっと待て・・・この女の顔・・・間違いない。六つ子の姉妹と同じ顔だ。

 

「な・・・なんだこいつは・・・⁉まさか本当に七恵が存在してるのか?六つ子ではなく七つ子ってことなのか・・・?だがこいつは中学だし・・・」

 

「あー、フータロー君。そろそろその写真を返して・・・」

 

「ふー、スッキリしたぁ~」

 

「!!」ビクッ!

 

俺が戸惑っていると、六海がトイレから戻ってきた。ちょうどいい。六女のこいつに聞いてみるか。

 

「おお、六海。ちょうどいいところに。六女のお前に聞きたいことがある」

 

「んー?なにー?」

 

「ちょー!!フータロー君!!?」

 

「一花が七恵とかいう妹がいるって聞いたんだが本当か?これが証拠の写真らしいんだが・・・」

 

「・・・・・・」じーっ

 

俺は一花から渡された写真を六海に見せた。一花はなんか慌ててるがどうした?て、よく見たら他の姉妹も怯えてるじゃねぇか。

 

「・・・・・・」フッ(目のハイライトが消える音)

 

!!?なんだ⁉写真を見た瞬間六海の瞳から光が消えた⁉

 

へぇ~・・・おもしろ~い写真を見つけたんだねぇ~・・・。ねぇ、風太郎君・・・O☆HA☆NA☆SI、しようか?

 

ひいぃ⁉なんだ!なんか今日のこいつめちゃくちゃ怖いぞ⁉何をやっても怖くないと思ってたのに⁉なんだか知らんが、このままだと俺の命が危ない⁉

 

「お、俺が見つけたんじゃねぇ!一花だ!一花がこの写真を持ってたんだ!」

 

ふぅ~ん・・・?」ギョロリッ

 

「!!」ビクッ!

 

俺の説明に六海はすぐに一花に視線を向ける。あ!一花のやつ!こっそりと逃げようとしてやがった!

 

いけないんだぁ~。一花ちゃ~ん。こ~んなおいたしちゃあ・・・。ちょっと六海の部屋で、O☆HA☆NA☆SI、しよっか♡

 

「い、嫌だ!私、死にたくなーい!!」

 

なんで怖がるの?O☆HA☆NA☆SIするだけなのに♡

 

六海は抵抗する一花を引きずって六海の部屋に入り込んだ。

 

ねぇ、なんでこの写真がここにあるの?さては一花ちゃん、嘘ついたね?まったく、ひどいなぁ~もう。そんなおいたをする困ったちゃんは・・・こうします♡

 

「あ、あははー、目が笑ってないよ・・・いつもの笑顔は・・・あ、ダメ・・・その関節はそんなに曲がらなあああああああああ!!!」

 

ひ、ひえええぇぇ・・・!中で何が起きてるんだ?想像するだけで恐ろしい・・・!他の姉妹たちが怯えてた理由もわかる・・・!一花の断末魔の後、六海が伸びてる一花を引きずって部屋から出てきた・・・。

 

・・・風太郎君。さっきの女の子、見なかったことにしてね♡

 

「あ・・・あぁ・・・ていうかもう記憶からなくなったわ・・・」

 

普段キレても怖くない奴だが・・・あれはガチギレレベルだったぞ・・・。六海は本気でガチギレさせてはいけないということはよくわかった・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・七恵の可能性が消えたとなると・・・残された手掛かりはこの答案用紙だけか・・・」

 

一花が気絶から回復した後、俺はこの6教科0点の答案用紙を見て、犯人を特定することにする。ふむ・・・とりあえず1枚ずつ見ていったい誰のものなのかを見極めなければ・・・。

 

五月の場合しっかりと消しゴムを使うはず・・・。

 

三玖よりは字がうまくもなく・・・。

 

悲しいことに四葉より漢字が書けてる・・・。

 

六海はファイルやノートにプリントを挟むから2つ折りはない・・・。

 

二乃はより丁寧にファイリングするから四つ折りは不自然で・・・。

 

雑な一花ならもっと紙がよれているはず・・・。

 

・・・うーん・・・一貫性が全くねぇ・・・。しかし、こうよく見てみれば・・・六つ子って意外と違うもんだな・・・。外見ばかり気にしてたから気が付かなかったぜ。

 

「・・・ええい!!お前らややこしい顔しやがって!!もうわからん!!」

 

「「「「「「わっ!」」」」」」

 

しかたねぇ・・・もうこうなったら・・・とっておきの手段を使うか。俺はこいつらに1枚ずつ、今日配る用紙を机に置いた。

 

「最終手段だ。これはそのテストの問題を集めた問題集。これが解けなかった奴が犯人だ」

 

「そんな無茶な⁉」

 

「私もわからない自信があります!」

 

「1番最後の奴を犯人と認定しまーす。はーい、スタートー」

 

「「「「「「わー!!」」」」」」

 

俺の言葉と合図でこいつらは俺が作った問題集を解き始めた。よし・・・ここまでは想定内。後は完成を待つだけだ。

 

「なんでこんなことになるのよ・・・」

 

「あう~・・・目が回る~・・・」

 

「うぅ・・・まだ体の節々が痛いよ~・・・」

 

「一花の自業自得です」

 

「今日のフータロー、なんか強引」

 

「だよねー。急にどうしたんだろうね?」

 

各各々ぶつぶつとなんか言ってるようだが気にしてられるか。ちなみに言っとくが、最後までできなかった奴が犯人だとは俺は思ってない。犯人特定の唯一の手掛かりは、達筆だ。文字に関しては誰よりも見分けられる自信がある。さあ、最初は誰が完成するか・・・。

 

「はーい、出来上がったよー」

 

1番最初に用紙が出来上がったのは六海だった。なんか一花が驚いたような顔をしたが後回しだ。さて、六海の答案用紙は・・・。・・・ふむ、なるほどな・・・。よくわかった。

 

「お前が犯人だな」

 

「!!?」

 

もう間違いねぇ。6教科0点を取りやがった犯人は六海だ。

 

「な、なんで六海なの⁉違うって言ったじゃん!何を証拠にそんな・・・」

 

「証拠ならある」

 

悪いな。俺はお前が犯人だという証拠はもうすでに全部持ってるんだ。お前が書いた答案のおかげでな。

 

「証拠は・・・お前の答案用紙にある」

 

「ふぇ?」

 

「お前の答案用紙には消しゴムを使った形跡が極端に少ない。それがお前が1番乗りだった理由であり、証拠にもなるんだ」

 

「何を・・・」

 

「お前はわからない問題を前にすると何かしらの答えを書く。それが正解だと信じての行為。だからこそ、この答案用紙にも、テストの方でも消しゴムを使う形跡が異常に少ない。そして・・・決定的となった証拠がまだ残っている」

 

「そ、それは・・・」

 

「それが、部首の『肉月』だ。六海、お前は無意識かもしれんが、肉月の跳ねを長くしている。このテスト用紙にも同じものが発見された。どうだ?反論する材料はあるか?」

 

「う・・・ううぅぅ・・・!」

 

「俺はお前たちの顔を見分けられるほど知らないが、お前たちの文字は嫌というほど見てるからな」

 

と、ここまでが俺が述べた証拠だ。六海は俺が突きつけた証拠に目に涙をにじませる。

 

「わーーん!!ごめんなさーい!!六海が犯人ですーーー!!」

 

「フハハハハハ!!」

 

やったぜ!犯人の六海に一泡吹かせてやったぜ!これほど気持ちがいい気分になったのはいつ以来だろうか。

 

「あのー・・・一応私たちも終わったよー」

 

「ご苦労」

 

俺が犯人を当てている間にこいつらも終わったようだな。ひとまず採点を・・・ん?ちょっと待て・・・こいつらが書いた文字・・・なんかテスト用紙にもあったな・・・。

 

一花の筆記体・・・『b』の書き方・・・犯人の書き方と同じだ・・・。

 

いや、よく見たら五月の『そ』・・・

 

二乃の『門構え』・・・

 

三玖の『4』・・・

 

四葉の・・・『著しい』の送り仮名・・・

 

全部・・・全部犯人と同じ書き方・・・。どうやら俺は大きな勘違いをしたようだ・・・。

 

「お前ら・・・1人ずつ0点の犯人じゃねぇか!!!

 

「・・・バレた・・・」

 

よくよく考えてみりゃ、こいつらは得意科目に関しては0点を取ったことなんてこれまでの結果を見て1度もなかったんだった・・・。盲点だったぜ・・・。

 

「何してんのよ一花。こいつが来る前に隠す約束だったでしょ?」

 

「ごめーん。まさかフータロー君がお風呂上りに来るとは思わなくって・・・」

 

俺がここに来た時に見たバスタオルの奴は一花だったのか・・・。

 

「俺が入院した途端これか・・・。やっぱりお前ら・・・」

 

「上杉君」

 

俺がこいつらの成績にひどく落胆していると、五月が真剣みな様子で声をかけてきた。

 

「今日あなたが顔の判別にこだわったのは・・・先日話してくれた女の子と関係あるのでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

「その女の子が私たちの誰かだと思ったんですね?」

 

ふむ・・・五月はやはり感づいていたか・・・。

 

「・・・そうだ」

 

5年前の修学旅行先の京都、六つ子の姉妹、そしてあの子が買った学業のお守りの数・・・条件がぴったり合いすぎていて、気にはなっていたんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『お前・・・6つとも全部学業守りって・・・そんなに買っても意味ねーだろ』

 

『うん?これはね・・・うーんとね・・・

 

6倍頑張ろうってこと!私はみんなのお手本になるんだ!』

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・と・・・思ったんだが・・・」

 

もうこの際回りくどいやり方はめんどうだ。真実を知るために、真っ向勝負だ!

 

「この中で昔俺と会ったことあるよって人ー?」

 

「「!」」

 

「「「?」」」

 

・・・誰も手を上げようとしねぇ・・・。・・・そうだよな。こいつらのわけないよな。ただたまたまあの子と重なっただけだ。

 

「何よ急に?」

 

「どういうこと?」

 

「・・・そりゃそうだ。そんなに都合よく近くにいるわけがねぇ。それに・・・お前らみたいなバカがあの子のはずねーわ」

 

俺の想像だと今のあの子はもっとより清楚な雰囲気を出した感じになってるはずだ。それがこいつらには全く感じられねぇしな。

 

「ば・・・バカとはなんですか!!」

 

俺の言葉に異を唱えてきた。お前そんなこと言えるような成績かよ。

 

「間違ってねーだろ、五月。よくも0点のテストを隠してたな。今日はみっちり復習だ」

 

「・・・・・・」

 

・・・うん?この五月、なんの反応もしねぇな。いったいどういうことだ?

 

「あの・・・上杉君。私は・・・ここですよ?」

 

・・・ん?俺の視線の先には五月がいる?じゃあ俺が肩を掴んだこの五月は・・・?

 

「その子は五月じゃないわよー」

 

「フータロー君。よーく見て?その子は六海だよ?」

 

・・・・・・え?

 

「風太郎君・・・もしかして、わざと間違えてる?」

 

俺がもう1度肩を掴んでる奴を確認してみると・・・六海が怒ったように頬を膨らませ、こちらを睨んでる姿があった。あれれー?おっかしーなぁ・・・?

 

「す・・・すまん!!メガネをかけてる時の五月と間違えた!!」

 

「風太郎君のバカ!!罰として今日は勉強会なし!!」

 

な、なにーーー!!?これから復習やろうとした矢先にこれかーーー!!?

 

「フータロー、まだまだ勉強不足」

 

「あはは・・・まずは上杉さんが勉強しないといけませんね」

 

返す言葉もねぇ・・・。・・・こいつらの顔を見分けるのは、今は諦めよう・・・。

 

15「探偵風太郎と6人の容疑者たち」

 

つづく




おまけ

風太郎の気になったワード

風太郎「上杉風太郎だ。今回は俺が今気になったワードを六つ子の姉妹のうちの誰かと解説しようと思う。今回のゲストは・・・」

一花「長女の一花お姉さんだぞ♪」

風太郎「・・・じゃあさっそくやるか」

一花「あれ?無視?」

風太郎「今回気になったワードは2つだ。最初はこれ」

凶鳥

風太郎「俺が病院に入院してた時、予防注射に来ていた二乃が六海にたいして言った言葉だ。これできょうちょうと読むらしい。
実を言うとこの凶鳥、俺が中学の時にもクラスの連中が噂してたみたいなんだが・・・。姉の一花よ、何かわかることはないか?」

一花「んー・・・私の口からいうのは、ちょっと・・・ね?というかみんな話したくないと思うよ?」

風太郎「むぅ・・・そうなのか・・・」

一花「ただ1つだけ言えるのは・・・六海が不良が好きじゃない理由はこれに関係してるんだよね」

風太郎「そういえばそんなこと言ってたな。まぁ、まだそれを知るには早いってことか・・・。まぁいい。じゃあ2つ目だ」

七恵?の写真

風太郎「結局あの写真はなんだったんだ?七恵がいるっていうのはやっぱ嘘だったわけだし・・・そして何より六海のあの恐ろしい形相・・・」

一花「ははは・・・あれは本当にトラウマものだよ・・・。うぅ・・・思い出したら体中痛くなってきた・・・」

風太郎「お前が冗談半分であの写真を出したのが原因だろ。つーかあの女の写真、あれってお前らの・・・」

一花「はーいストップー!これ以上のこと言ったら本気で六海に痛い目を合わされかねないよ?だからこの話は終わり」

風太郎「お、おう。俺もあれを見てしまったらなぁ・・・。つーか肝心のあの写真はどうなった?」

一花「六海が回収して・・・ほら、あそこに・・・」

六海「・・・・・・」

風太郎「うおっ、あんなところで写真を燃やしてるのか⁉どうりで妙に焦げ臭いと思ったぜ・・・」

六海「・・・あ、まだ灰が残ってる・・・。これが2度と現れないように・・・念入りを込めて・・・燃やし尽くさなきゃ・・・」

風・一「ひ・・・ひえぇぇぇ・・・」

風太郎の気になったワード  終わり

次回、四葉視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勤労感謝ツアー

六海ちゃんのイラストをまたいただきました。これはお宅訪問に載せてますので、ぜひ見てくださいな。

それから、アンケートの結果は下にあります。この結果が1番多かった方を番外編で載せますよ。今は本編を進めますから・・・そうですね・・・来年の正月には載せようかなって思ってます。

ちなみに番外編では、一花の場合や二乃の場合などといった感じに進めようと思っています。


「お願います!!私に、絵を教えてください!!」

 

「・・・はえ?」

 

私は今六海の部屋で六海に向けて精いっぱいの土下座をして絵を教えてもらうように頼み込んでいます。土下座で顔はよく見えませんが、今絵を描いてる最中の六海の顔は目が点になっているでしょう。

 

「私に!!絵を!!教えて!!ください!!」

 

「いや、もうわかったから!何でそんな1つ1つ区切り区切りに言うの、四葉ちゃん⁉」

 

六海の声からして困惑が入り混じっていることでしょう。実の姉が妹に向けて急に土下座をしたんだからそうなるのは無理もないと思います。そ、それくらいの常識は私にもあります!

 

「と、とりあえずいったん顔を上げて!これじゃ六海が四葉ちゃんに怒ってるように見えるじゃん!」

 

六海に言われた通り、私はすぐに顔を上げて六海の顔を見ます。ああ、やっぱり困惑してるような顔をしてる・・・。

 

「え、絵を教えることに関してはいいよ?ただなんで六海なの?六海よりうまい人って絵の教室に行けばいくらでもいるじゃん」

 

「いやぁ・・・そうなんだけど・・・そんな毎日絵を描くようなことはしないし・・・」

 

私は六海にそもそもどうして絵を教わりたいのかっていう理由を語ります。

 

「・・・私のクラス、今日美術の授業があって・・・何を描くのかっていうテーマを決めないといけないんだけど・・・私だけそのテーマがなかなか決まらなくて・・・」

 

「あー・・・そういえば・・・昨日六海たちのクラスも似たような授業やったっけ。・・・あ、そっか。だからこの前一花ちゃんも絵を教えてって言ってたんだ・・・」

 

私の理由を聞くと、六海の顔は思い出したかのような察した顔になりました。あ、というか一花も絵を教えにもらいに行ってたんだ・・・。

 

「なるほどねー・・・そのテーマを探すために・・・」

 

「うん。私たちの中で1番絵に詳しい六海から絵を教われば、何かわかるかなーって・・・」

 

「うーん・・・そんなこと言われてもねー・・・テーマでしょ?」

 

事情を全て理解した六海は何か渋ったような顔になってます。ちょ・・・ここで断られたら一生この課題が終わらない気がする!何とか説得しないと!

 

「お願いします!!もう六海だけが頼りなんだよー!!」

 

「だから土下座やめてってばー!」

 

「お、教えてくれたら前に欲しがってたマジカルナナカの等身大フィギュア買ってあげるからー!!」

 

「え⁉それ本当⁉教える教える!!喜んで教えちゃうよ!!」

 

「やったー!!ありがとう、六海!!」

 

私の土下座と欲しいものを提供が功を制して六海は絵を教えてくれることになりました!やった、これで先生に怒られずに済むかも♪

 

「それじゃあさっそく今の四葉ちゃんの絵がどんな出来なのか見せてもらおっかな。紙は・・・1枚渡すから・・・とりあえずトラさんを描いてみて」

 

「わかった!」

 

六海はスケッチブックの紙を1枚破って私に渡してきました。こうやって授業以外で描くのって小学生以来かも。トラはどう描くんだっけ・・・?私の思うように描けばいいのかな?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・ねぇ四葉ちゃん。これ何?」

 

「えっと・・・トラです・・・」

 

「トラ⁉これが⁉もうトラっていうより化け猫じゃないこれ⁉」

 

だいぶ時間がたってようやく完成した・・・んですけど・・・なんていうか、これはトラじゃないような気がしてましたが・・・六海は私の絵を見て非常にドン引きをした顔になってます。やっぱりこうじゃなかったかぁ・・・。

 

「もうまずね、線がぐにゃぐにゃになってて顔が怖いよ!それから両手両足も短すぎるし、首も長いし・・・もう、さっき化け猫って言ったけど、完全に化け物だよこれは!!」

 

六海は私の描いた絵のダメなところを1つ1つ容赦なく口にしていきました。なんか上杉さんと錯覚してしまいそうな指摘だよぉ・・・。

 

「はぁ・・・なんか六海たちの勉強を見てくれてる風太郎君の気持ちがわかったような気分だよ・・・」

 

「ごめーん・・・」

 

「これ・・・もうテーマを探すどころの問題じゃないよ・・・下手すると補修行きだよ・・・」

 

「ええええ!!?」

 

「いや、これ本当の話だから」

 

た、確かに自分で見ても下手だなーって思ったけど・・・そ、そんなに私の絵って絶望的なの⁉もしこれで補修行きになったら・・・上杉さんにいろいろと言われてしまう!!

 

「こうなったら・・・徹底的に絵の心得を叩きこむしかないね・・・四葉ちゃんの補修回避のために!!」

 

六海は筆やらペンやらを手に握って目をギラリとしてます・・・。な、なんか・・・怖い・・・!

 

バタッ×2

 

「?」

 

「⁉ビックリしたぁ・・・今の一花ちゃんと三玖ちゃんの部屋から・・・だよね・・・?」

 

六海が私に迫ってきたと同時に一花と三玖の部屋から何か音が聞こえてきました。2人とも、いったいどうしたんだろう・・・?

 

「そ・ん・な・こ・と・よ・り・・・覚悟はいいね・・・四葉ちゃん・・・」

 

「ひぃぃやあああああ!!」

 

さっきの音で忘れてくれるかと思ったら、そんなことなく、結局私は私の限界が来るまで絵の勉強をさせられました。・・・もっと違う人に頼めばよかったかな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、六海のレッスンで私は疲労に近い状態でリビングの机に突っ伏してます。そのおかげで絵は少しはうまくなったって言ってたけど・・・もう疲れた・・・。こんなんでテーマを見つけられるのかなぁ・・・?

 

「だ、大丈夫ですか、四葉・・・」

 

「五月~・・・」

 

私の様子を見ておでかけの準備をしていた五月が心配そうに見つめてます。

 

「だ、大丈夫~・・・。ちょっと六海の絵の授業を受けてただけ・・・」

 

「ははは・・・あれは辛かったですね・・・」

 

て、五月も六海の地獄のレッスンを受けたことあったんだ・・・なんか死んだような目をしてるし・・・。

 

「で、その肝心の六海はどこです?」

 

「部屋でまだ寝てるよー。私も昨日遅くまでやらされたから・・・ふわぁ・・・眠いよ・・・」

 

「お、お疲れ様です・・・」

 

五月は私に向けてかなりの同情を込めた労いの言葉をかけてくれました。六海のレッスンももう少し優しくしてくれたらなぁ・・・。

 

「そういえば五月、どこか遊びに行くの?」

 

「はい。今日はちょっと約束がありまして・・・あ!かばんにまだ財布を入れてません!と、とにかく!外へ出る際は鍵を忘れないようにしてくださいよ!」

 

五月はあわただしくした様子で自分の部屋に戻っていきました。よっぽど楽しみなんだなぁ・・・。・・・今日は夜に本格的に絵のテーマを探ることになったんだけど・・・それまで何してよう・・・?

 

プルルルルッ

 

私が何しようかと悩んでた時、私のスマホに電話がかかってきました。相手は・・・え?上杉さん?自分からかけてくるなんて珍しい・・・。私はすぐに電話に出ます。

 

「もしもし上杉さん?どうしましたか?」

 

≪あー、四葉か?今お前らのマンションの入り口にいるんだが・・・ちょっと下に降りてきてくれないか?なるべく早くだ≫

 

上杉さんは伝えたいことを伝えたらすぐに電話を切りました。いったい何の用でしょう?と、とにかく待たせるわけにもいかないので、私はすぐに部屋を出てマンションの入り口まで行きます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

エレベーターを使ってマンションの1階まで降りて、入り口まで向かうと、やっぱり上杉さんがいました。

 

「お待たせしました、上杉さん」

 

「ああ。すまんな、わざわざ呼び出して・・・」

 

「いえいえ。それで・・・私に何か御用ですか?」

 

私の話の切り出しに上杉さんは少し照れ臭そうな顔をしました。え?本当に何なのでしょう・・・?

 

「あー・・・その・・・だな・・・。四葉、何か欲しいものはないか?」

 

・・・え?私の、欲しいもの?

 

「えっと・・・それは・・・どういうことですか?」

 

「まぁ・・・贈り物ってやつだな」

 

「贈り物って・・・誰に渡すんですか?」

 

「お前」

 

・・・え?え?上杉さんが・・・私に贈り物?勉強星人のあの上杉さんが・・・?

 

「・・・あのー・・・やっぱり風邪が治ってないんじゃあ・・・今日はもう帰った方が・・・」

 

「風邪はちゃんと治ってるからぴんぴんしてる。つーかそんなことはいいから欲しいものは何だ?」

 

「そ、そんなこと言われましても・・・」

 

「何でも言ってくれ。今から買ってくる。ただし、予算は千え・・・いや千六百円までだ」

 

うーん・・・そんなこといわれましても・・・家庭教師の日でもないのに突然やってきたと思ったら・・・。

 

「でもそれを聞いちゃうあたり上杉さんですよね。サプライズとかあるでしょー?」

 

「残念ながらサプライズなどない。どうも俺はいらないものを贈る才能があるらしくてな・・・もうこれ以上いらないものを贈って拒まれるのは嫌だしな」

 

上杉さんのこの反応からして・・・本当にサプライズはないようですね。

 

「それに・・・ほら、今日は勤労感謝の日だろ?国民が互いに感謝しあう日。一応お前には・・・ほら、林間学校でいろいろ世話になったしな・・・」

 

あ・・・そういうことですか。そういえば今日でしたね、勤労感謝の日。そうは言っても・・・欲しいもの・・・ですか・・・。

 

「とりあえず少し考えますのでどうぞ上がっていってください」

 

「いや、家は困る。今日は上がれない事情があってな」

 

「?」

 

私は上杉さんを家にあげようとした時、拒まれてしまいました。家に上がれない事情・・・とは、なんでしょう・・・?

 

「ほら、何でもいいからお前の望みを言ってくれ・・・俺も早く帰りたいんだよ・・・」

 

「そうですねぇ・・・勤労感謝の日・・・なるほど・・・」

 

うーん、急に言われましても中々思いつかないんですよね・・・。あ、そうだ・・・。

 

「それならいいお出かけスポットなら知ってますよ!」

 

「え?」

 

うん!せっかくの上杉さんからうちまで来てくれたんです。上杉さんも楽しんでもらわないと!それに、お出かけすれば絵のテーマや私の欲しいものが見つかるかもしれないし!

 

「そうと決まれば、さっそく行きましょー!おー!」

 

「ちょ、ちょっと待て!どういうことだ⁉」

 

上杉さんは戸惑った様子ですが、私はすでにうきうきした気持ちでいっぱいです。いつの間にか眠気も吹き飛びましたし、今日は素敵な1日になるだろうなー♪

 

♡♡♡♡♡♡

 

と、そういうわけで私は家から財布を取った後、上杉さんと一緒にお出かけしております。うーん、いいお天気♪お日様の光が心地いいです♪

 

「あはは。楽しい1日になりそうですね♪」

 

「そうか?今のところただ歩いてるだけだが・・・」

 

「それがいいんですよ。だって・・・私と上杉さんの、デートですよ?デート」

 

「は?」

 

私のデート発言に上杉さんは何言ってんだこいつ?みたいな顔をされました。それはさすがに傷つくんですけど・・・。

 

「冗談はさておき、こんないいお天気の日に外に出ないなんて損です!めいいっぱい楽しみましょー!」

 

「んなことはいいから早くほしいものを言ってくれ。こんないい天気の日に勉強しないなんてもったいない。早く済ませて帰ろうぜ・・・」

 

うーん、いかにも私がアウトドアで上杉さんがインドアっていうのがわかりやすい会話ですね。でもそんな上杉さんの考え方を変えて見せますよ!

 

「まぁまぁ。お腹もすきましたし、とりあえずランチにしましょう!」

 

「おお、昼飯か。何が食いたいんだ?どこでもいいぞ?おごってやる」

 

「ここです!」

 

数分が立ってまず最初の目的地にたどり着きました。まず最初はここ、五月お気に入りのレストランです。うーん、いかにも高級感があふれてますね。

 

「・・・・・・おい・・・」

 

「さ、入りましょう!」

 

私は上杉さんを連れてレストランの中へと入っていきます。出迎えてくれたのはウェイターの皆さんです。

 

「中野様、ようこそいらっしゃいました」

 

「おひさでーす」

 

ウェイターさんに席をご案内され、私と上杉さんはその席すに座ります。

 

「ここは五月の御用達なんですよ。どれもおいしいですから、上杉さんも気に入ると思いますよ」

 

「・・・落ち着かねぇ・・・」

 

?何が落ち着かないのでしょう?ピアノの音楽も雰囲気にぴったりなのに。

 

「好きなものを頼んでくださいねー」

 

「ま、待ってくれ・・・俺が・・・!!?た、たけぇ・・・しかも一泊付きなのか?これ・・・?」

 

上杉さんはメニューの値段を見て目が点になってますね。あ、もしかしてお金の心配をしてるのでしょうか?

 

「お金なら大丈夫ですよー。私が全部払いますからー。あ、私、鴨肉のローストのメニューでお願いしますー」

 

「・・・じゃあ、同じ奴で・・・。ここでお前のおごりはありがたいが・・・これじゃ意味ねぇし、なんか素直に喜べねぇ・・・」

 

料理の注文をしてから数分が立ち、頼んだ料理が運ばれてきました。

 

「・・・小っさ。これじゃあ腹膨れねぇだろ」

 

「上杉さん、料理は量じゃなくて質ですよ!」

 

まぁ、といっても五月ならもっとおかわりしそうですけどね。

 

「まぁまぁ、とにかく食べましょう!」

 

「・・・」

 

言われるがまま上杉さんは料理を一口食べます。これは・・・あまりにおいしくて戸惑ってるようですね。無理もありませんね。どれ私も一口パクリッと・・・。

 

「・・・ん~・・・おいしいですね、上杉さん!ローストされた鴨肉と柑橘類を混ぜ込んだソースの相性が絶妙です!」

 

「・・・ソウデスネ、四葉サン・・・」

 

なんだか微妙そうな顔だったのが気になりますが・・・まぁおいしいから問題ありませんね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

レストランでお食事を楽しみ、次に向かったのは、三玖が会員となっているスパです。私と上杉さんはここでそれぞれ別々のベッドの上でマッサージを行ってもらっている最中です。

 

「ここは三玖が会員になってるスパです。招待制なのでなかなか来られませんよ。ラッキーですね♪あ、上杉さん、今裸なのでこっち見ちゃダメですからね?」

 

「誰もお前の裸なんか見ねぇよ。というかその前にまずなんでスパなのか説明してくれ」

 

そう素っ気なく言ってますけど私にはわかりますよ、上杉さん。マッサージ、気持ちいいんでしょう?

 

「それにしてもお昼のコースはどれも最高でしたね。四葉チェック星3つ・・・いや、それを通り越して星6つですかね」

 

「六つ子だけにってか?笑えねぇジョークだな」

 

う、上杉さん、うまいですけど・・・そこは笑ってくださいよー・・・。

 

「うーん、今日の料理食べたら、クリスマスの料理が楽しみになってきました!今年のクリスマスにみんなでまた行こっかなー」

 

「お前ら・・・いつもあんなところで食ってるのか?」

 

「あはは・・・さすがに特別な日だけですよ。中でもクリスマスは特別です。例えば・・・去年は南に弾丸冬忘れツアー。南の島でバカンスですね」

 

「クリスマス感0だな。お前らそれでいいのか・・・?」

 

あはは、言われた通り確かにクリスマス感ないですけど・・・でも楽しかったなー。

 

「一昨日は北で超ホワイトクリスマス。猛吹雪の中でとっても寒かったです」

 

「修行かよ。お前らはいったい何を鍛えようとしてるんだよ」

 

今にして思えば・・・なんであの時ここにしよってなったんだろう・・・?永遠の謎だ・・・。

 

「・・・といっても場所なんてどこでもいいんですけどね。昔、お母さんが言ってました。大切なのはどこにいるかではじゃなく・・・6人でいることなんだって」

 

「お前たちのお母さんは本当に昔よく言っている」

 

お母さんが言った言葉の中で私はこの言葉が1番印象に残っています。この言葉があったから、今の私が・・・。

 

「つーか、そういうリッチな話はいいからもっとリーズナブルななにかないか?」

 

うーん、もっとリーズナブルですかぁ・・・高級なのは気に入らないのかな?あ、そうだ。

 

「なら美術館とかどうですか?あそこならいろんな人が来ますし、リーズナブルですよ。チケット1枚千五百円です」

 

「!!千五百円!ありがてぇ!美術館にしようぜ!」

 

上杉さんはありがたそうな声を上げて歓喜を上げています。じゃあ次のお出かけスポットは美術館に決定ー!

 

♡♡♡♡♡♡

 

上杉さんの要望通り、私たちは美術館にやってきて、展示されてある美術品を鑑賞しています。ただし、ここはただの美術館ではありませんよ。ここは六海がとっても気に入ってる美術館なんですよ。

 

「どれもいい作品ですねー。きれいです・・・。あ、ここは六海のお気に入りの美術館なんですよ」

 

「・・・・・・」

 

「いやー、ちょうどチケットがあってよかったです!」

 

「いつもなら喜べるんだが・・・もらい物のチケット使ったら結局贈り物もできずじまいじゃないか・・・」

 

まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない♪それにまだ欲しいものは決まりませんからねー。

 

「あ、知ってますか上杉さん。ここ、テレビで特集された美術館なんですよ」

 

「あっそ。うちにテレビないから知らんけど」

 

「その際に最優秀金賞を取って六海も1度だけテレビに出てたんですよ」

 

「え?マジか?あいつテレビに出たのか?」

 

「はい。と言っても、顔出しはNGだったんですけどね」

 

あの時は大変に驚きましたよ。名前も伏せて、顔もモザイクで隠してましたが、身近にいる家族がテレビに映っていたんですから。

 

「聞いた話だと最優秀金賞で賞金までもらったそうですよ。確か・・・五十万くらいでしたかね?」

 

「ご・・・五十万・・・だと・・・?」

 

「まぁそのお金は全部絵の画材や六海の趣味で全部なくなったんですけどね」

 

「・・・なんて計画性のない奴だ・・・」

 

最優秀賞の賞金を聞いて上杉さんは驚きましたが、お金の使い道を聞いた途端に非常にあきれ返ってしまった顔になっていました。

 

「・・・あ、この絵がそうです。タイトルは不協和音からの覚醒です」

 

「・・・やっぱりうまいな・・・」

 

通路を歩いていって最優秀金賞の絵の前まで辿り着きました。絵には不吉を呼ぶ鳥が神々しい神話の鳥へと成長図のような絵です。

 

「込められた意味は、どんなに災いを呼ぶ鳥でもきっかけさえあれば、美しい神話の鳥になることができるというものらしいですよ」

 

「ふーん、そんなことあるもんかねぇ・・・」

 

それにしても・・・よくこんな絵が描けるようになったもんだねぇ・・・昔の六海の絵のレベルは私たちと変わらなかったのになぁ。そう考えると感慨深いなぁ・・・。

 

「つーかそれはいいよ。もっと他にないか?もうちょいこう・・・なんつーんだろうなぁ・・・」

 

えー?これでも満足できませんかぁ?うーん・・・他にかぁ・・・。あ、そうだ。

 

「そういえば、一花が出てる映画が今日公開だっけなー」

 

「!!映画館での学生料金は・・・千円!!よし!そこにするぞ!」

 

私も一花の映画は気になっていましたし、ちょうどよかったです。私と上杉さんはある程度絵を鑑賞し終え、映画館へと向かっていきます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私と上杉さんは早速映画館に行って一花が出演している映画を見てきましたよー。映画の内容は突如として現れたゾンビが人々を襲っていき、徐々に増えていったゾンビから生き残る術を模索していく内容でした。最後まではらはらしっぱなしで面白かったです。

 

「いやー、特にラスト15分の手に汗握るあの展開!感動しました!一花は序盤ですぐに死んでしまいましたが」

 

「・・・・・・」

 

どうも一花はこういう系の映画やドラマでは序盤で死んでしまう役が多いようで・・・内心ではちょっと複雑な気分でもありますけど。

 

「一花からチケットもらっててよかったです!」

 

「また貰い物のチケットかよ・・・いい加減にしてくれ・・・」

 

上杉さんは何が面白くないのかさっきからイライラしっぱなしのようです。何か気に障るようなことしましたかね?

 

「あ、そうそう、その一花についてですが、林間学校からなぜか前よりやる気になってて、順調に仕事が増えてるみたいですよ。喜ばしいですね!」

 

「ふーん。どうせさっきの映画みたいなモブ役だろ?」

 

「一説では相当な額の貯金をため込んでるとか・・・」

 

「!金持ちの家の金持ち・・・何という格差社会だ・・・」

 

あくまで一説なので本当かどうかはわからないんですけどね。て、一説を聞いて上杉さんは手を膝につけて落ち込んでる⁉私、何かいけないことでもいいましたか⁉

 

♡♡♡♡♡♡

 

映画を見終えた後は流行りの服屋さんにやってきて、楽しくショッピングです。やっぱりお出かけにこれはかかせません。

 

「やっぱりデートといえば、ショッピングですよね!」

 

「当然のように一桁多い・・・千六百円までって言ったのに・・・」

 

上杉さんは少しぼやいてますが、私はいろんな服を見ながらお目当ての服を探しています。

 

「お客様~、そちらの服お気に召されたでしょうかぁ~?」

 

服を選んでいると、店員さんに声をかけられました。

 

「あはは、買っちゃおーかなー」

 

「メンズでも同じ柄の服をご用意しておりますよぉ~。彼氏様とペアルックなんていかがでしょう?」

 

!!?わ、私と上杉さんとで・・・ペアルック⁉いえ、それよりも・・・カップルと勘違いされてる⁉あ、あわわ・・・どう反応すれば・・・。

 

「・・・彼氏ですって!上杉さんも隅に置けないですね!このこの~!」

 

とりあえず私は何ともないようにこんな風に対応します。

 

「こいつはこういう奴ですので」

 

「た・・・大変失礼いたしました!」

 

店員さんは私たちの反応を見て慌てて別の人の対応に向かいました。ふぅ~・・・ドキドキしました。

 

「ははは、びっくりしましたね・・・。それで・・・どうします?いっそのことペアルック、やっちゃいます?」

 

「冗談じゃねぇ。同じ柄なのはお前たちの顔だけで十分だ」

 

「う、うまい!・・・じゃなくて・・・上杉さんのケチー!」

 

どこまでもドライな反応の上杉さんに舌を出してそう口にします。スパでも思いましたが、上杉さんってなかなかにうまいですよね。それはそうと・・・うーん、どこにあるんだろう?確かこのあたりに・・・。

 

「あ!やっと見つけました~。これ、欲しかったんです~」

 

いろいろと探していると、お目当ての寝巻の服を発見しました。やっと見つかったよ~。売れきれてなくてよかった~。

 

「寝巻か。じゃあそれ買ってやるよ。万ほどの値段だが、この際高くてもいい」

 

「やったー!」

 

しかも上杉さんが珍しく買ってくれるので本当にツイてますね!

 

「よかったー。これ、二乃が欲しがってたから、喜ぶだろうなぁ~」

 

「・・・ん?二乃・・・?」

 

これ渡したら二乃はどんな顔するんだろう?楽しみだなー。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。やっぱさっきの買う発言はなしだ」

 

「え・・・」

 

えー・・・なんですかその手のひら返しは。

 

「四葉・・・もう1度聞くぞ。お前が本当に欲しいものはなんだ?」

 

「え?」

 

私が、欲しいもの?

 

「レストランとスパと美術館と映画館とお買い物・・・」

 

「違う。五月の気に入ってるレストランと三玖が会員のスパ。六海の絵が展示してる美術館に一花の出ている映画。そしてとどめに二乃のための買い物だ。どれも接点なし。お前じゃない」

 

「わーーっ!!本当だ!!」

 

これはうっかりしてました!そういえば私に贈り物でしたね!あまりに楽しくて忘れてました!

 

「ちょっと待ってくださいね。今考えますからね・・・」

 

私は今はない頭をフル回転させてほしいものを考えます。うーん、うーーん・・・

 

「・・・上杉さん。私の欲しいのはなんでしょうか・・・まったく思い浮かべません」

 

お恥ずかしながら何も浮かび上がりませんでした。私って、こんなに欲のない人間でしたっけ?

 

「四葉・・・お前・・・」

 

上杉さんが何かをしゃべろうとした時・・・

 

「ここらへんにあるって二乃言ってたよね」

 

何やらものすごく聞き覚えのある声が聞こえてきました。

 

「!!四葉!か、隠れろ!!」

 

「え?え?」

 

すると上杉さんはなぜか慌てた様子で私を連れて試着室まで連れてきました。すると上杉さんは隠れる事情を話し始めました。

 

「実は、昨日一花と三玖が俺にメールをしてきたんだ。今日一緒に出掛けないかってな。で、俺はそれを断っちまったんだよ。だから・・・な?今俺はお前と一緒にいる。そんな状態であの2人に会ったらなんて言われるか・・・」

 

「なるほど・・・」

 

一応事情は理解しましたが・・・

 

「これは・・・修羅場の予感です!」

 

試着室のカーテンから覗いてみれば、視線の奥にはさっき私が見つけたものと同じ寝巻を持った一花と三玖がいました。

 

「上杉さん!ここはお任せを!2人を巧みに誘導して遠ざけて見せます!」

 

「お、おい!余計なことするんじゃねぇって!」

 

「心配しないでください!上杉さんに迷惑はかけません!」

 

とりあえず私は顔だけ出して一花たちの様子を見ましたら、すでに一花と三玖は試着室の前まで来ていました。

 

「あ・・・あらあら、一花と三玖じゃありませんかー」

 

「あ、なんだ四葉も来てたんだー」

 

「ご飯食べに行くとか言ってなかった?」

 

「え、えーっと・・・もう食べ終わって暇してたから・・・ここに・・・」

 

「あ、そうなんだ」

 

うーむ・・・とりあえず一花と三玖をこの試着室から離さないと・・・

 

「あ、向こうに超面白い服があるからよかったら・・・」

 

「あ、そうだ。四葉にも聞いてみようよ」

 

「ん・・・そうだね」

 

「え」

 

な、なんか話の流れがあっち側に回ってるような・・・!

 

「ねぇ四葉・・・ハットとキャップ・・・フータローならどっちが似合うかな?」

 

ハットとキャップの帽子のどっちが・・・上杉さんに似合うか・・・?

 

「ちょっと待ってね」

 

私はすぐにカーテンを閉めて上杉さんに聞いてみることにします。

 

「あの、ハットとキャップ、どっちをかぶりますか?」

 

「俺に聞くなよ・・・。・・・基本帽子は被らん」

 

とりあえず答えはわかりましたからすぐに顔だけを出して三玖に教えてあげます。

 

「帽子は基本被らないみたい」

 

「何今の間」

 

「そっか・・・残念・・・」

 

三玖は少ししょんぼりしてましたけど、一花は間があったことに怪訝な顔をしてます。しまった・・・やってしまった・・・何とか誤魔化さないと・・・。

 

「そ、それより向こうに抱腹絶倒間違いなしの服があって・・・」

 

「うん。後で言ってみるね。それよりそこに用があるんだけど」

 

!!!???

 

「試着室、次使わせてね」

 

えーー!!?今試着室には上杉さんがいるんですけど⁉

 

「し、試着室で何するの?この中なんもないよー?」

 

「たいていの人が試着だと思うよ」

 

そ、そりゃそうですよね!試着室ですもの!何言ってるんだろ私!

 

「これ、二乃が欲しがってたルームウェア。代わりにサイズ測ってみようと思って」

 

「そ、そっか・・・でも二乃本人じゃないと・・・」

 

「もー、何言ってんの~?」

 

「私たち、みんな同じ身体」

 

「そ・・・そうだけど・・・」

 

やばいやばいやばい・・・!このままじゃ中に上杉さんがいることがばれちゃう・・・!どうしたら・・・!

 

「同じ身体なら私が着るよ」

 

!!??う、上杉さん⁉いったい何を⁉

 

「え?今の声・・・」

 

「わ、私私!私でーす!」

 

「でも今のフータローの・・・」

 

「い、今の腹話術の練習!うまかったでしょ⁉と、とにかく私が着るから!」

 

「・・・そう?ならいいけど・・・じゃあ、四葉、お願いね」

 

何とか納得した一花は私に寝巻を渡してきましたけど・・・

 

「ど・・・どどど、どうするんですか⁉」

 

「そりゃ着替えればいいだけだろ。目は瞑っててやるから安心しろ」

 

「もう!簡単に言いますけどね、上杉さん・・・忘れてませんか?私だって女の子ですよ?」

 

「あー、わかったから・・・さっさと着替えろ。前が見えないのは不便だ」

 

上杉さんは目をつぶってさっさと着替えろといってきましたが・・・うぅ・・・恥ずかしい・・・///男の子の目の前で着替えるなんて・・・///とにかく私はすぐに着替えを始めます。・・・本当に目を開けないでくださいよ、上杉さん。

 

着替え終えて数分後・・・

 

「き・・・着替えたよ・・・」

 

「うん。やっぱピッタリだ」

 

「・・・四葉、顔赤いけどどうしたの?もしかして熱?」

 

い・・・言えない・・・!上杉さんの目の前で着替えをしてたなんて絶対に!

 

「そ、そんなことないよ!私1人だったもん!」

 

「そう?まぁいいや。じゃあ次。私と六海の分のこれ、着てみてよ」

 

!!!!!?????わ、私の目の前に出されたのは・・・1つは黒、1つはピンク色でスケスケな下着みたいな服でした!!こ、これを私が着ろと!!??

 

「もう、また一花は六海にそんな・・・」

 

「いいじゃん。六海も喜んでたよ?」

 

「それは下着の時だけ。六海に変な影響与えないで。私たちにまで被害が及ぶ」

 

私は現在進行形で被害にあってるんですが!!?

 

♡♡♡♡♡♡

 

それからもう何回も試着の実験台にされて・・・一花と三玖はようやく納得がいって服の会計に向かっています。い、今がチャンス・・・!

 

「ずいぶん長いこと実験台になってたな・・・」

 

「こ、細かいことは気にせず早く行ってください!2人が会計に行ってる今がチャンスです!」

 

「だな・・・悪い」

 

長いこと目をつぶっていた上杉さんを急かして私は服屋を後にします。ふぅ・・・やっと実験台から解放された・・・。

 

「!!四葉、こっちこい」

 

「わ・・・」

 

上杉さんは私を急に引っ張り出していきました。そして店を出ると・・・

 

「あ、お兄ちゃん。ちゃんと四葉さんにお礼してたんだね。感心感心」

 

「あ・・・当たり前だろ?」

 

「わー!らいはちゃーん!!」

 

私のマイスイートエンジェルのらいはちゃんがいました!こんなところで会うなんて・・・私、感激です!!

 

「じゃあ俺たち行くから・・・もし誰かに会っても今のことは言うなよ」

 

「あーー離れたくないですーー!」

 

こんなに早くに行くなんてもったいない!もうちょっと一緒にいましょうよー!

 

「何やってんだよ!!早く行くぞ!」

 

「えー?もう行っちゃうのー?」

 

「わー!上杉サンド!」

 

痛い痛い痛い!上杉さんにらいはちゃん!私の両腕を引っ張らないでー!

 

「もうすぐ五月さんも来るんだよ?」

 

「「!!?」」

 

え・・・五月がここに来るの?てことは・・・五月が言ってた約束の相手ってらいはちゃんのこと⁉も、もし五月が私たちに会ってこのことを一花と三玖に知れたら・・・上杉さんは何されるか・・・!

 

「ら・・・らいはちゃん・・・急いでるから・・・寂しいけど・・・今日はここで・・・」

 

「た、頼むらいは・・・!マジで急いでるんだ・・・!」

 

「むー・・・わかったよぅ・・・。じゃあ四葉さん、またね。それからお兄ちゃん、最後まで四葉さんに付き合ってあげてよ?」

 

「わ、わかってる・・・!」

 

すんなりと納得してくれたらいはちゃん。あー・・・もっと触れ合いたいのに・・・泣く泣くです・・・。私たちは急いでこの場を後にして、曲がり角を曲がっていきます。

 

「らいはちゃん、お待たせしてすみません」

 

「五月さん!お久しぶりー!」

 

ああ・・・遠くから五月とらいはちゃんの会話が聞こえる・・・羨ましい・・・!

 

「四葉、行くぞ!」

 

「は、はい!」

 

私はこの場を逃げるように後にしました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一応は五月から振り切る?ことができた私と上杉さんは噴水広場で息を整えています。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ようやく落ち着いたか・・・?」

 

「な、何とか・・・」

 

疲れを何とか癒そうと何かないかと考えていますと、近くにクレープを売ってる車がありました。

 

「あ!あそこにクレープが売ってますよ!息抜きに買っていきましょう!」

 

「ああ・・・そうする・・・!!?」

 

クレープを買おうとしようとすると、上杉さんは急に驚いた顔になっています。

 

「四葉!行くぞ!」

 

「え?え?」

 

上杉さんは私を引き連れて人ごみが多い方へと入っていきました。ひ・・・人の重圧でつぶれる~・・・。クレープがぁ~・・・。

 

「あ!ここだよここ!真鍋さんが言ってた場所!」

 

「ふぅーん、ここが、ねぇ」

 

!!これまた聞き覚えのある声が聞こえてきました。人ごみを分けながらそっちに視線を向けますと・・・

 

「ここのクレープ屋さんのクレープが絶品なんだって!二乃ちゃん、食べていこうよ!」

 

「わかったからそう急かさないでよ」

 

む、六海⁉それに二乃まで⁉2人もお出かけしてたなんて・・・⁉

 

「あの2人、今思ったんだが、いつの間に仲直りしたんだ⁉」

 

「よくわかりません!ただ、林間学校が終わってからなんだか一緒にいる回数が増えたような気がします!」

 

「気がするってお前・・・!って、それはいい!もう今日はなるべく誰にも会わないほうがよさそうだな!」

 

「は、はい!人ごみに紛れて逃げましょう!」

 

私たちは人ごみに紛れて二乃と六海に見えないように移動します。けど・・・ぜ、全然進まない~・・・。

 

「?」

 

「どうしたのよ?」

 

「いやさっきね、四葉ちゃんのリボンが見えたような気がするの」

 

ドキィ!!ま、まさかこれは・・・体隠してリボン隠さずって奴ですか⁉

 

「はぁ?そりゃこんな人ごみならそんな人1人や2人くらいいるでしょ?」

 

「えー?あれは確かに四葉ちゃんのリボンだってー」

 

「お待たせしましたー」

 

「ほら、クレープ来たわよ」

 

「わわ!待って待って!」

 

私たちの存在がばれそうになりましたが、クレープ屋さんのおかげで見つからずにすみました!ナイスです!

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後はいろいろと大変でした。逃げた先で服屋さんで会計を済ませた一花と三玖が遭遇しそうになったり、さらに逃げた先でらいはちゃんと五月に遭遇しそうになったり、さらにはたまた、二乃と六海に遭遇しそうになったりともう走り回って私と上杉さんはくたくたです。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「やっと落ち着きましたね」

 

「もう・・・疲れたぜ・・・」

 

私は体力があるのでまだまだいけますが、上杉さんはもう限界が来てますね。

 

「はぁ・・・しかし・・・よくこんなところ知ってたな」

 

「あはは・・・」

 

今私と上杉さんがいるのは子供たちがよく遊ぶ場所、公園です。そして、私のお気に入りの場所でもあるん・・・ですが・・・

 

「ここは私がよく来る公園なんです。六海と遊びたい時や、落ち込んだ時はそのブランコに乗ってみたり・・・」

 

確かにこの場所は本当にいい場所・・・何ですけど・・・

 

「で、でも、デートの締めには全然ふさわしくないというか・・・もっと素敵な場所に行きましょう!テレビでやってたプラネタリウムとか・・・」

 

「いや、ここでいい」

 

「え?」

 

「一推しの公園なんだろ?じゃあここで十分だ」

 

上杉さんは私のお気に入りということでここにしてくれましたが・・・なんだか上杉さんに申し訳ないです。だって今までが結構オシャレなデートって感じなのに最後がここって・・・。

 

「でも・・・全然オシャレじゃないし・・・デートなのに・・・いいんでしょうか・・・」

 

「俺がいいって言ってんだ。ここでいいんだよ。それに・・・はぁ・・・いい庶民感だ・・・♪」

 

上杉さんはそう言ってブランコに乗ってこぎ始めました。

 

「お、久々だがうまくこげてるな。どうだ四葉?すごいだろ?」

 

「もー・・・子供みたいに自慢しちゃって・・・それにかなり緩めで全然すごくないですよ」

 

上杉さんを見てたらなんだか私もこぎたくなってきました。それじゃあ、お手本として・・・

 

「私がお手本を見せるんでよく見ててくださいね?」

 

「は?こんにゃろう、負けるか」

 

私はブランコに乗って上杉さんより勢いよくブランコをこぎます。そうそうこれこれ・・・これがたまらなくいいんですよね。

 

「ほーら!どうです!」

 

「くっ・・・負けてたまるかぁ!うおおおおお!!」

 

上杉さんも勢いよくブランコをこぎだします。あ、上杉さんもこの景色を見えたようでこの光景に見入ってますね。今見てる光景は、いろんな人の家の明りが町を明るくしてる光景です。

 

「全力でこいだ時に見えるこの景色が好きなんです。百万ドルの夜景とはちょっと違いますが、光の1つ1つに家庭が、家族があるんだと想像しますと、ほっこりします。そして・・・とう!」

 

勢いでこいだ後にジャンプ!こうやってとんだ記録を更新できるかどうかっていうのも、楽しみでもあるんです。

 

「よっと!着地成功!そして・・・あ!この位置は最高記録更新ですね!上杉さん、ここまで来れますか?」

 

「・・・なめんな・・・よ!!」

 

上杉さんもブランコの勢いに乗ってジャンプ・・・したかと思いましたら飛んできたのは上杉さんの靴だけでした。

 

「・・・え?」

 

何が何だかわからない私はブランコを見ました・・・て、え⁉ブランコが・・・上杉さんを乗せて1回転⁉こ、こんな光景見たことないです・・・!て、それより危ないんじゃないんですかあれ⁉

 

「う・・・上杉さん・・・?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・。・・・はっ、ははははは!」

 

何が起きたのかわからなかった上杉さんは今まさに楽しそうに笑っていました。今まで心の奥底から楽しそうに笑ったことがなかった上杉さんが・・・楽しそうに・・・。

 

「見たかよ!これが俺の実力だ!実際何が起きたかわからなかったが!」

 

・・・あぁ・・・そういうことなんだ。私が本当に欲しかったものは・・・彼が心の奥から笑えるような姿なんだ・・・。そして・・・私が絵に残してみたいと思った、光景。

 

「もう、何やってるんですか。いい時間ですし帰りましょう」

 

「え・・・ああ・・・。しかし、結局何も上げられないまま・・・何かないか・・・」

 

靴を履き終えた上杉さんはポケットを探っていますと、私に何か渡してきました。

 

「こ・・・こんなものでよければ・・・」

 

「あはは・・・上杉さんらしいプレゼントですね」

 

私に渡してきたのはテスト問題集の単語帳でした。相変わらずの上杉さんに私は思わず笑みを浮かべます。

 

「ありがたくいただきます。でも・・・欲しいものはもうもらいました」

 

「???そ、そうなのか・・・?これ以外何か上げた記憶はないが・・・」

 

「はい!もらいました!」

 

「そうか?なら・・・いいんだが・・・。・・・本当に?」

 

今日はとってもいい日になりました。今度はみんなも一緒でこういう日にできたらいいなぁ。

 

「また来ましょうね。今度はみんなで」

 

上杉さん。今日はデートに誘っていただき、ありがとうございました!

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、私は昨日出来上がったテーマの下絵を先生に見せて、課題合格をいただきました。こうして合格できたのは、六海の指導と上杉さんのおかげですよ。さーってっと、早く六海に報告しないと。どこにいるかなー?

 

「えっと・・・坂本君だっけ?六海に何か御用?」

 

「用ってわけやないんやけど・・・えっと・・・」

 

あ、噂をすれば・・・って・・・他の男子生徒と話してる。

 

「用がないなら行ってもいい?四葉ちゃん探さなきゃいけないし・・・」

 

うーん・・・なんか出づらい雰囲気・・・しかたない・・・ここは離れて・・・。

 

「林間学校で一目見た時から・・・あなたのことが好きになりました!!」

 

「・・・え?」

 

!!!!????こ、これはまさか・・・まさかまさかの・・・。

 

「六海さん!俺と付き合ってください!」

 

これは・・・やっぱり・・・愛の告白・・・!!と、とんでもないことを聞いちゃった・・・!!

 

16「勤労感謝ツアー」

 

つづく




おまけ

とある六つ子のお食事光景

六つ子「・・・」もぐもぐ

テレビ『ここ△△美術館は・・・』

四葉「あ、ここ六海が気に入ってる美術館だ」

三玖「本当だ」

テレビ『えー・・・この最優秀金賞を取った黒薔薇女子学園中等部の生徒さん、いかがですか?』

五月「え?ちょっと待ってください・・・このモザイクがかかってる子、六海じゃないですか・・・?」

二乃「え⁉嘘⁉あんたテレビに出てたの⁉」

六海「あ・・・あー・・・あの時のインタビューってこれかぁ・・・」

一花「へぇー、すごいなぁ。お姉ちゃん、鼻高々だよ」

NM『こんな若輩者の私がこんな賞をいただけるなんて・・・恐れ多いですが・・・とても・・・うれしいです。この美術館に・・・』

四葉「なんだか声高いなぁ・・・」

三玖「まぁ、身分をばれないためだと思う。それにしても・・・あざとい」

二乃「あざといわね」

一花「あざといね」

五月「あざといですね」

六海「みんなしてひどくない⁉あざとくなんかないよ!!」

この後六海は姉たちにいくつか質問されたような・・・

とある六つ子のお食事光景  終わり

次回一花視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋人のふり作戦

ちょっと力を入れて試行錯誤してたら予定より遅くなっちゃいました。面白くできてるかわかりませんが、ぜひとも読んでください。

今回もちょっとアンケートを取ります。まぁ、前回の続きというわけですけどね。


「えー・・・全員集まったところで・・・六海主催、六つ子緊急会議を開きたいと思います」

 

お昼休みになって、食堂でご飯を食べようと思った時、急に六海から全員集合のメールが私に届いた。お昼は屋上でとるから各自購買部で何か買うようにとも内容にあったなー。で、今現在私たちは六海の呼びかけに応じて屋上に集まってるよ。

 

「急に呼び出したと思ったら・・・」

 

「六海から六つ子会議を開くなんて珍しいね」

 

「アタシたちを呼び出したからには、相当なことなのでしょうね?」

 

六つ子会議っていうのはね、何かしらの議題を出してみんなで話し合いながら議題の問題解決策を探そうというもの。六つ子裁判とは似て非なるものだね。

 

「四葉、顔が赤いですが、どうしましたか?」

 

「・・・///」

 

この中で四葉だけ顔を赤くしてるけど、いったいどうしたんだろうね?

 

「えー・・・今回の六つ子会議の議題は・・・」

 

「・・・今朝男の子に告白されたこと・・・だよね・・・?」

 

四葉が口にしたと思ったら・・・はい?告白?

 

「なぜそれを!!?」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「うん?」

 

「え?」

 

え?ちょっと待って・・・告白って・・・男の子が・・・六海に・・・?

 

「「「「えええええええ!!??」」」」

 

こ、これは驚いた・・・!まさか・・・ついに六海にも春がやってきたとは・・・!今まで絵が六海の恋人みたいなものだからなおさら、ね。

 

「あううぅぅ・・・まさか見られてたなんてぇ~・・・///」

 

六海は恥ずかしさのあまり、両手で顔を隠してる。いやぁ、隠してても首元までトマトみたいに真っ赤っかだからわかりやすいなぁ。

 

「四葉!本当ですか⁉男の子が・・・六海に・・・こ、こ、こ・・・」

 

「この目で見たもん!間違いないよぉ!」

 

「あ、あの六海が・・・ねぇ・・・。お姉ちゃん、びっくりだよ」

 

「二乃、六海に先越されて悔しいでしょ?辛かったら泣いてもいいんだよ?」

 

「ちっがうわよ!!別に悔しくなんかないし!!それにアタシは・・・」

 

「アタシは、何?」

 

「何でもないわよ」

 

みんなもまさかの衝撃発表に混乱してる様子だね。うん、無理もない。

 

「・・・ち、ちなみにお相手は誰ですか・・・?」

 

「・・・サッカー部の・・・坂本君・・・///」

 

「ん?今坂本君って言った?」

 

男の子の名前、というより苗字を聞いた瞬間、三玖は少しだけ目を見開かせた。

 

「何?三玖知ってるの?」

 

「知ってるも何もクラスメイト」

 

「へぇ。そうなんだ」

 

三玖から見た・・・坂本君の印象はこうみたい。見た目は黒毛のくせ毛が特徴で顔はそれなりのイケメンなサッカー少年。それから、どうも関西出身らしく、しゃべる時はいつも関西弁らしい。実際会ったことないからよくわからないんだけどね。

 

「ていうかそっか。だから私に六海の名前を教えてほしいって聞いてきたんだ。ついでに私たちの見分け方を」

 

「六海の場合はメガネかけてるからそれで見分けられるんじゃないかな?」

 

「いえ、私もメガネはかけますので・・・いざという時になると・・・」

 

「確かに!上杉さんは六海をメガネをかけてる五月と間違えてたから!」

 

「あの時は本当に頭にきたものだよ・・・て、それはどうでもいいとして・・・」

 

私たちの見分け方の話になっちゃったけど、話を戻して六海はようやく本題に入る。

 

「それでね・・・みんなに教えてほしいことがあるんだ・・・」

 

「ん?何かな?お姉ちゃんたちに聞かせてごらん」

 

まぁ・・・聞きたいことはある程度想像できるんだけどね。

 

「好きって・・・いったいなんですか・・・?///」

 

あらら、やっぱり聞いてきたのはそれかー。と、いうのも・・・

 

「中野六海、17歳・・・この17年間生きてきて男の子に好きと言われたことなんて1度もなく・・・///」

 

そう、六海はここまで生きてきて男の子に愛の告白をされたことがなくて人生初の告白に戸惑いを隠せないでいるんだ。

 

「そ、そんなこと言われても・・・」

 

「私にもわかりませんよそんなこと!」

 

「・・・///」

 

「こ・・・答えられない・・・///」

 

「お姉ちゃんも、ちょっと・・・ね・・・」

 

五月ちゃんは本当にわからないでいるんだろうけど、三玖は好きっていう気持ちは知ってる。でも・・・答えられるわけないよね。たとえ姉妹であっても好きな人がいるから気持ちはわかる、なんて。でも二乃まで顔を少し赤くしてたけど・・・まさかね。四葉と私は・・・どうなんだろう・・・ね。自分でもよくわからないや。

 

「ま・・・まぁでもよかったんじゃないかな?ようやく六海にも春が来て・・・」

 

「ちっともよくないよ!!むしろ大迷惑なんだよ!!」

 

あれ?六海のこの反応からして・・・

 

「もしかしてだけど・・・返事を断りたいの?」

 

「・・・うん・・・」

 

わあ・・・もしかしてと思ったら、本当に当たってたよ。なんかもったいない気がするなー。

 

「はあ?なんでよ?」

 

「何でも何も・・・そもそもな話、どうして好きでもない人とお付き合いしなくちゃいけないの⁉️」

 

「え・・・ええええ!!?話の流れ的にその坂本さんと付き合うんじゃないの!!?」

 

「ちっっっがーーう!!何でそんなことになるの⁉好きでもない相手と!!」

 

「で・・・では・・・付き合う気はないと・・・?」

 

「さっきからそう言ってるじゃん!好きでもないんだから!」

 

六海・・・そんなに好きじゃない好きじゃないって言わないであげて。もう坂本君がかわいそうになってきたよ。

 

「だったら早く断るべきだと思うけど・・・」

 

「それはわかってるよ。わかってるけど・・・」

 

六海は断るべきなのは理解してるみたいだけど・・・んー?なんか反応がよろしくないなぁ・・・。

 

「煮え切らないわね。一言ごめんなさいって言えばいいだけの話でしょ?」

 

「それができないからこうしてみんなに相談してるんじゃん」

 

「どうして?」

 

「だって・・・断ったら・・・いろいろ追及されそうだし・・・。例えば、彼氏いるの・・・とか・・・そんな感じの・・・」

 

「あー・・・わかる。私も似たようなことあった」

 

そっかぁ・・・なるほど・・・六海は断った後の質問を恐れて中々返事を返せないでいるのかぁ・・・。三玖のそれはあの時私と入れ替わってた時のことを言ってるんだね?前田君といろいろあったって聞いたし。

 

「でもね、六海。こういうことは返事を遅らせれば遅らせるほど、相手にも自分にもお互いに辛いんだよ。そこはわかってくれるよね?」

 

「それは・・・わかるけど・・・でも・・・」

 

「これは・・・思っていた以上に難しい問題ですね・・・」

 

「うーん・・・六海のためにどうにかしてあげたいけど・・・」

 

「その坂本って奴が他の女に目移りしてくれれば多少はあれだと思うけどねえ・・・」

 

「坂本君は決めたら一直線なところがあるから、その可能性は低い」

 

六海の告白問題にはみんなどう答えを導きだしたらいいかわからなく、難儀をしているねぇ。六海も私の言ってる意味を理解してるけど・・・うーん、どうしたらいいんだろう・・・?

 

「・・・およ?目移り・・・?他の・・・?・・・・・・・・・思いついたぁ!!!」

 

「「「「「わっ⁉」」」」」

 

私たちが悩んでいると六海が何か閃いたような大声を上げた。び、ビックリしたよぉ・・・。

 

「その手があったかぁ!いやぁ、なんで今までそんなことを思いつかなかったんだろう?これも二乃ちゃんのおかげだよ!ほんっとうにありがとう!!」

 

「え、ええ・・・よかったわね・・・。アタシ・・・なんか言ったっけ・・・?」

 

よほどいい案が浮かんだのか六海はその発端?となった二乃の手を握ってぶんぶんと振って感謝してる・・・本当、なんか言ったっけ・・・?

 

「こうしちゃいられない!すぐにでも行かなきゃ!」

 

「えっ⁉む、六海ー⁉どこいくのですかー⁉」

 

六海は非常に浮かれた様子で私たちを置いていったままどこかへと行っちゃった・・・。あのー・・・六つ子会議はどうなるの?これ・・・

 

「・・・これ、もう解散でいいのかな・・・?」

 

「・・・そだね・・・」

 

もう何が何だかわからなく、ものすごく締まりがないけど、六つ子会議はこれにて終了ということになっちゃったけど・・・うーん、なんか嫌な予感がするなぁ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『キンちゃんを呼んで!or坂本登場』

 

「キンちゃんを!呼んでほしいの!」

 

「・・・は?」

 

教室で自習をしていた風太郎の元にやってきた六海は突然そんなことを言ってきた。突然ということもあるが、その前に今呼ばれたキンちゃんという名に風太郎は呆気にとられる。

 

「・・・あれ?聞こえなかった?だからキンちゃんを呼んでほしいんだけど・・・」

 

「いや、聞こえてはいる。2回も同じ言葉は言わなくていい」

 

突然のこと過ぎて話に全くついていけない風太郎はかなり困惑している。

 

「・・・あ、ごめんね。突然のこと過ぎて戸惑ってるんだよね?」

 

「・・・もういいから・・・。それより今なんつった?キンちゃんを呼べって言ったような気がするが・・・」

 

「うん。呼んできてほしいの」

 

「・・・はああ~・・・何を言い出すかと思えば・・・勘弁してくれ・・・」

 

六海の何気なく言った言葉に風太郎は頭を抱えさせている。というのもキンちゃんこと、金太郎を呼ぼうということは風太郎にとって都合が悪すぎるからだ。なぜならその金太郎が・・・風太郎自身なのだから。

 

「そもそもなんで金太郎に会いたいんだよ?それが意味わからん」

 

「うん・・・実はね・・・かくかくしかじかでうまうまで・・・」

 

六海はどうして金太郎に会いたいのかという理由をこれまでの事情を踏まえて風太郎に説明する。

 

「ふーん、色恋にかまけてるアホの返事を断るために・・・ねぇ・・・」

 

「うん。だからね・・・」

 

「・・・普通に断ればいいだろ」

 

「もう!簡単に言わないでよ!それに話はちゃんと最後まで聞いてよ!」

 

あまりに素っ気なく、1番シンプルな解決策を述べる風太郎に六海は頬を膨らませ、ほんの少しだけ怒りが現れる。

 

「ほら、風太郎君だっていやでしょ?あーだこうだっていう変な質問をされ続けるのは・・・ね?」

 

「あー・・・まぁ、そりゃ嫌だが・・・」

 

「でしょ?だったら・・・六海はあなたと付き合えないっていう証拠を突き付けてやればいいんだよ!私はこの人と付き合ってますって感じの雰囲気の嘘証拠をさ!」

 

「そりゃまためんどくせぇな・・・」

 

「でも・・・だからといって風太郎君と付き合うっていうのは・・・ちょっと・・・ね。だって・・・」

 

「おい。不細工って言おうとしてるだろ?あれはさすがに傷つくんだぞ?」

 

「あ、あの時は風太郎君が嫌いすぎて・・・だからあれは冗談なんだってば!」

 

六海の説明にいろいろと納得していく風太郎。9月ごろのことでほんの少しディスられかけて少しこめかみをひくひくさせる風太郎。

 

「・・・まぁ、だいたいの事情はよくわかった」

 

「じゃあ・・・!」

 

「だが、呼び出すことはできない」

 

「え・・・ええええええ!!?」

 

風太郎自身、そういうことで金太郎になるということ自体があまりよくないと考えているので風太郎は提案を拒否する。当然ながら六海は驚愕する。

 

「なんでなんでー⁉いいじゃんそれぐらい!電話番号持ってるんでしょ?」

 

「いや、登録してるのはお前らのと家族のアドレスだけだ。あいつにはしてない」

 

「じゃ、じゃあ・・・住所・・・」

 

「俺はあいつの住所を知らない」

 

「風太郎君の役立たず!!」

 

半分本当、半分嘘の回答で風太郎はこの場をやり過ごす。が、六海の役立たず発言には少しイラっと来た風太郎。

 

「はぁ・・・もういいよ。・・・もうちょっと考えてみる・・・じゃあ・・・」

 

金太郎を呼べないことがわかった六海は気力を無くしたような歩き方で教室を出ていった。その姿を見て風太郎はちょっと悪いことをしたなと考え始める。

 

「はぁ・・・たく・・・」

 

もう一気にどっと疲れが出て風太郎は肩を落胆させる。

 

「おい、そこのがり勉男。お前やお前」

 

「はあ?」

 

教室に戻ろうとした時、誰かに呼び止められた風太郎。そこに視線を向けてみると、黒のくせ毛をしたそこそこ顔がイケてる男がいた。

 

「お前・・・さっきの、見とったぞ。お前六海さんとどういった関係や?」

 

「は?」

 

いきなりの質問に怪訝な顔をしたが、すぐに男の特徴に気づいた。黒のくせ毛に関西弁。六海が話していたのと一致している。この男こそが、六海に告白した坂本なのだ。それに気づき、風太郎はめんどくさいのに絡まれたなぁと思った。

 

「どうなんや?漢ならはっきりせんかい」

 

「別に。ただあいつとは勉強を見てやってるだけだ」

 

「・・・ホンマか?」

 

「嘘を言ってどうする?」

 

嘘は言ってはいない・・・が、坂本はどうも風太郎が信用できず、怪訝な顔をしている。

 

「・・・怪しいのう、お前」

 

「は?」

 

「俺は知っとるぞ。お前、あの六つ子以外の奴らと関わっとらへんやろ。それはなんでかはというと、あの六つ子の誰かに気があるとしか考えられへんわ」

 

「何言ってんだお前?」

 

本当のことを言っているのにも関わらず、信じてもらえてないどころか、変な疑惑まで持たれてしまっており、風太郎はもうほとほと参っている。

 

「俺は嘘は好かん。正直に話しぃや」

 

「ちょ・・・待て!俺にはあいつらに恋愛感情なんてないぞ!そもそも恋愛なんて・・・!」

 

キーンコーンカーンコーン

 

風太郎が坂本の言い分に反論しようとした時、予冷のチャイムが鳴り響いた。

 

「ちっ・・・おい。俺は放課後は部活で忙しいから今日はこれくらいにしたるけどなぁ・・・お前が本当のこと話すまで何度でも付きまとったるからな!覚悟しぃやぁ!」

 

「ストーカーかよ。本当に勘弁してくれ・・・。俺に人権はないのか・・・」

 

風太郎は坂本の宣言に頭が痛くなってくる。この当時は風太郎はどうせすぐ忘れるだろうとのんきに考えていた。

 

だが翌日、その次の翌日、さらに翌日、坂本は宣言通りお昼休みくらいに毎回毎回風太郎に付きまとい、同じような質問を繰り返された。それはもう、耳に胼胝ができるくらいに。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ある日の学校の食堂でたまたまフータロー君と出会って、三玖と一緒にご飯を食べようとして・・・るんだけど、今の風太郎君の顔、ものすごく不機嫌そうにしてる。心なしか疲労も交じってるような顔つきだよ。

 

「ふ、フータロー君?大丈夫?」

 

「これが大丈夫に見えるならお前の目は節穴とみなすぞ」

 

そんないい方しなくともいいじゃん。これでも心配してるんだよ?あ、ちなみに二乃は友達とどこかでご飯を食べに、四葉と五月ちゃんは先生の手伝いみたい。六海は・・・今どこに行ったか分からない・・・。

 

「ちくしょう・・・あの坂本って奴・・・毎日毎日同じような質問してきやがって・・・俺は嘘なんか1個も言ってねぇだろ・・・。名前まで覚えられてるし・・・」

 

「ごめん、フータロー・・・」

 

「いや、三玖が悪いわけじゃねぇから気にするな」

 

三玖と坂本君は同じクラスらしいから三玖なりに思うところがあるんだろう。フータロー君にたいして申し訳なくなってる雰囲気が出てるね。

 

「いやぁ・・・これはあれだね。完全にフータロー君に嫉妬の目を燃やしてるねぇ、それは」

 

「らしいな・・・くっそ・・・おかげで勉強に身が入らねぇ・・・なんでこんなことになるんだ・・・」

 

「フータロー、今日も追いかけまわされてたもんね・・・」

 

どうやら一度決めたら曲げないのは本当のことらしいね。フータロー君の疲れが何よりの証拠だからね。

 

「つーか、今回の件は俺だけの問題じゃねぇぞ。そもそも坂本に告白されたのは六海だろ?そのあいつが最近勉強会に参加しねぇとはどういうことだ?」

 

ここ最近女優の仕事であまり勉強会に参加できてないから、詳しいことはよくわからないけど、どうも六海は勉強会に参加することがなくなったみたい。原因は・・・やっぱり今回の件だよね・・・。

 

「・・・それだけならまだいい方かも」

 

「・・・どういうことだ?」

 

「実はね、ここ最近六海、家でもどこでもぼーーっとすることが多くなってね・・・ご飯食べてる時もおかずはボロボロこぼすし、授業中でもぼーっとしてたらしいし・・・挙句の果てには大好きな絵にもなんか無気力って感じでさ・・・」

 

「ふむ・・・思ってた以上の重症だな・・・」

 

もうとてもじゃないけど見ててこっちが痛々しくなってきたよ・・・あんなのいつもの六海じゃない。坂本君に何とか説得できればいいんだけど・・・。

 

「・・・やはり・・・あの手しか・・・ないのか・・・」

 

「?何かいいアイディアがあるの?」

 

フータロー君は何か策を持ってるようだけど、あまり乗り気じゃないみたい。え?本当に何を思いついたんだろう・・・?

 

「・・・一応作戦はある。が・・・それを口にすることはできん」

 

「「??」」

 

フータロー君はそう言ってその作戦を説明することを拒んだ。むぅ・・・ちょっと教えてくれたっていいのに。お姉さん、ちょっといじけちゃうなー。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから日が立って日曜日のお休み・・・今日は私は仕事はないから完全にオフ。今日は三玖と2人で六海のために何かプレゼントを買いに向かおうとしてる。というのも、先日作戦会議の後フータロー君と別れて家に帰ってみると六海が肌が潤ったような表情になっていたんだ。何があったかは知らないけど、元気になってよかったよ。その翌日の家庭教師の日にも参加するようになったりしたけど、その時も表情が幸せそうだったのを覚えてる。あまりの浮かれっぷりに二乃たちは怪訝な顔になってたけど。まぁとにかく、元気なったお祝いにと思ってプレゼントを買いに行ってるよ。

 

「それにしても・・・フータローの作戦って何だったのかな?」

 

「うーん・・・あんなに浮かれてる様子だったからたぶん成功なんだと思うけど・・・」

 

結局フータロー君の作戦はわからずじまいだったなぁ・・・。いったい何をやったんだろう?謎が多いよ。

 

「あ、一花・・・あれ・・・」

 

三玖が何かを見つけたように本屋に指をさした。遠くから本屋を見つめていると・・・オシャレな服装をしている六海がいた。着ている服もミニスカートもどれもかわいらしい服装。なんだかそわそわしてる感じが伝わってきてるよ。

 

「あれ?六海じゃん。そこで何やってるんだろう?」

 

「なんかそわそわしてる・・・」

 

「あ、せっかくだし、声をかけてみよっか。おーい!むつ・・・⁉」

 

「・・・え?」

 

私は六海に声をかけようとした時、誰かが六海に近づいてきた人がいた。その人物を私は知ってる・・・。

 

「ふ・・・フータロー・・・?」

 

「フータロー君・・・だよね?金髪の鬘かぶってるけど・・・」

 

そう、その人物とはフータロー君だった。しかも何故か林間学校で見せた金髪の鬘をかぶってる。え?どうしてフータロー君が六海と?

 

「あ!キンちゃん!!」

 

「よ・・・よぉ・・・待ったか・・・?」

 

「ううん!六海も今来たところだから!」

 

キンちゃん⁉いったい誰のことを言ってるの⁉

 

「な・・・何あれ!!?」

 

「ど、どういうことこれ・・・?夢でも見てるの・・・?」

 

三玖は三玖でかなり混乱してる。そりゃそうだよ。どうしてこんなことになってるわけ⁉

 

「まさかキンちゃんが六海のために来てくれるなんて思わなかったよ!本当にありがとう!」

 

「い、いや・・・そ、それにしても風太郎もしょうがない奴だなー、あははは・・・」

 

?六海のために?それに、なんか六海、あの人がフータロー君だってことに気が付いてないの?まるで別人と話してるような雰囲気が出てるけど・・・。

 

「じゃあさっそく・・・行こうか?」

 

「あ!待って待って!その前に・・・写真撮ろうよ!」

 

「いきなりか・・・まぁ、それで誤魔化せるなら・・・」

 

六海はスマホを取り出して写真を撮る体制になる。え?嘘・・・本当に何なの?いったい六海は何をやろうとしてるの・・・?

 

「えへへ・・・えい♪」

 

「なっ⁉」

 

六海は不意を突いたようにフータロー君の腕を自分の腕に絡ませた。そ、そんな積極的に・・・!ま、まさか六海は・・・いやいや・・・そんなはずは・・・

 

「・・・・・・」ゴゴゴ・・・

 

ちょっ⁉三玖⁉六海にたいして怒ってるの⁉それともフータロー君にたいして⁉さっきから殺気が感じるんだけど⁉

 

「お、おい!」

 

「ご、ごめんね!こうした方が恋人のふりらしくなると思ったんだけど・・・迷惑だった・・・?」

 

「・・・い、いや・・・何でもねぇ・・・悪かったな・・・

(い、言えん・・・さっきので胸が少し当たったなんて言えん・・・)」

 

うわ・・・うわ、うわぁ・・・なんだかこの雰囲気・・・まるで恋人同士じゃんか・・・もう頭が混乱しすぎてどうにかなっちゃいそうだよ・・・。・・・て、ん?今恋人のふりって言わなかった?

 

「で、さっきの写真で終わりなのか?」

 

「何言ってるのー。まだまだ、こんなものじゃ坂本君はきっと納得しないよー。もっと多く写真を撮らないと」

 

「そ・・・そうか・・・」

 

え?坂本君?

 

「・・・なんでそこで坂本君の名前が出てくるの?」

 

「・・・あ、そういうこと?」

 

ここまでの流れでようやく理解してきた。どうやら六海は本気で今のフータロー君を別人だととらえていることを。そしてこれはたぶんフータロー君が言っていた作戦なんだ。これはたぶんあれだね・・・恋人のふり作戦!何ともまぁフータロー君らしからぬ作戦を思いついたものだよ。

 

「ま・・・まぁ疑問も晴れてよかったよかった!六海も本気で付き合ってるわけじゃなさそうだし!」

 

「それはそうだけど・・・でも・・・ずるい・・・」

 

三玖は六海を恨めしそうな顔で見つめてる。うむぅ・・・そう言われると反論しにくいなぁ・・・。それに・・・あれを見てると、何で胸のあたりがもやもやするんだろう・・・?

 

「それじゃあ!さっそく行こうよ!六海、見たいものがたくさんあるんだ!」

 

「お、おい!引っ張るな!」

 

す・・・すごいな・・・六海ってばあんなに積極的に・・・いや、これは純粋で無邪気にはしゃいでるだけなのかな?どっちなんだろう・・・?まぁ、あくまで恋人のふりなんだけどね。・・・ふりなんだよね?

 

「六海・・・有罪・・・帰ったら切腹・・・」

 

あのー?三玖さーん?これはあくまで恋人のふりですよー?わかってますかー?明らかに私怨が混じってますよー?

 

「・・・六海を追いかけよう」

 

「え?三玖?」

 

「いけない1線を超えさせはしない・・・」

 

三玖は明らかに六海にたいしていい感情を示してない。というかいけない1線って六海はそういうことをやる子じゃないよ?こうしてわけもわからず六海とフータロー君を追いかけることにした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『もうおしまいよ!四国の人間は全員ゾンビになってしまったわ!』

 

『やむおえん!!瀬戸大橋を落とせぇ!!』

 

『瀬戸大橋、封鎖できませぇん!!』

 

(・・・まさか2度もこれを見るはめになるとは思わなかった・・・)

 

六海たちが最初に来たのは映画館。これ本人が言ってたことなんだけど、この映画は私が出てる映画だから六海はずっと気にはなってたらしいんだ。でもなにせゾンビが出てくるから見る気にはなれなかったみたい。六海、五月ちゃんなみに怖いのダメだからなぁ・・・。今はフータロー君がいるから見れているのかな?まぁ、別人として見てるみたいだけど。

 

「すごい・・・一花が映画の中にいる・・・」ボソッ

 

あはは・・・ほめてくれてうれしいけど・・・自分が出てる映画を見るのは、やっぱり恥ずかしいっていうか、未だに抵抗があるなぁ・・・。ちなみに私たちの席はフータロー君たちとかなり離れた場所にいるよ。でもちゃんと2人も見れてるよ。さらに言えば私と三玖は変装用にメガネをかけているよ。

 

「・・・あ、あのー・・・六海さん?」

 

「・・・・・・!」がくがくブルブル

 

「そろそろ離れてくれるとありがたいんですけど・・・」

 

「・・・・・・!!」ぶんぶんぶん!

 

ちょ、ちょっと六海・・・そんなにフータロー君に抱き着かないで。怖いのはわかるけどそんな全力で首を横に振りながら抱き着く力を強めないで。

 

「六海・・・猿轡で切腹の刑・・・」

 

あれ?三玖?前は切腹だけって言わなかったっけ?なんか猿轡まで追加してるような気がするんだけど・・・。

 

『いやああああ!!助けてええ!!』

 

『貴美子ーーー!!』

 

「あ、一花が死んだ」

 

「ぎゃあああああ!!?一花ちゃんが死んじゃったーーーー!!!」

 

「ああ。一花が死んだな」

 

ちょっと!それは私が演じている貴美子の話であって私じゃないから!私死んだわけじゃないから!勝手に私を殺さないで!というか本人がいるのに死んだって言わないで!心が傷つく!後六海、映画館では静かに!

 

♡♡♡♡♡♡

 

映画が終わった後は近くのレストランでお食事をするみたい。

 

「いやー・・・最後まで本当に怖かったけど・・・それでもおもしろかったよ!さすが一花ちゃんが出てる映画!あ、その一花ちゃんはさっそく死んじゃってたけど。いや、この場合は貴美子ちゃん?」

 

「どっちでもいいわ、そんなこと・・・」

 

六海とフータロー君は今日見た映画の話で盛り上がってた。まぁ、フータロー君は微妙な反応だったけど。ちなみに私と三玖はフータロー君たちにばれない程度の場所の席に座ってるよ。

 

「本当なら私がフータローと一緒に見てたのに・・・悔しい・・・」

 

三玖は本当に悔しそうに頬を膨らませている。まぁまぁ・・・後で私が埋め合わせしてあげるから、ね?

 

「あ、そうだキンちゃん。この映画雑誌で気になる映画とかってあった?」

 

「別に。そんなのねぇよ。興味もねぇし」

 

「風太郎君と似たようなこと言うんだね。もったいないよそれ」

 

似たようなっていうか・・・本人なんですけど・・・。て、いうかそのキンちゃんってネーミングは髪が金髪だから?まぁ、鬘なんだけど。

 

「六海が気になってるのはねー・・・これ!魔法少女マジカルナナカちゃんTHE1stMOVE!まぁ、見ての通りちゃん付けはいらないんだけどね。この作品、六海のお気に入りなんだー!早く公開しないかなー?あ、その次に気になってるのがこれ!それから・・・」

 

「全部アニメーション系かよ」

 

フータロー君は六海のテンションにほとほと参ってるご様子。まぁ、この作戦自体乗り気じゃなさそうだったしね・・・。

 

「お待たせしました。カレーライスとスパゲッティでございます」

 

「わぁ!おいしそう!いっただっきまーす!」

 

六海は届いたスパゲッティをさっそく口に運んでいる。フータロー君もこの様子を見ながらカレーを食べてるね。ちなみに私はコーヒー、三玖は抹茶だけを頼んでこの2人を監視してるよ。

 

「ねぇねぇキンちゃん」

 

「ん?」

 

「ほら、あーん♪」

 

!!?まさか六海、フータロー君にあーんして食べさせる気⁉

 

「え?」

 

「ほら。口開けてよ。あーん♪」

 

「い、いや・・・自分で食えるから・・・」

 

「あーん♪」

 

「や、だから・・・」

 

「あーん♪」

 

「・・・あーん・・・」

 

あまりに六海がしつこかったからフータロー君は観念して口を開けてスパゲッティを食べた。いいなぁ・・・て違う!!何を考えてるの私⁉

 

「なんで六海ばっかり・・・」

 

三玖は羨ましそうにこの光景を見てる。これ、帰ったら六海無事でいられるのかな・・・?

 

「どう?おいしかった?」

 

「お、おう・・・」

 

「よかった♪じゃあ今度は・・・あーん♪」

 

「え?」

 

フータロー君が食べたのを確認すると、六海は今度は口を大きく開けてる・・・てまさか!!?

 

「え?どゆこと?」

 

「ほら、キンちゃんのカレー。あーんして食べさせて♪」

 

や、やっぱり!!六海、本当に今か今かとカレーが口に入るのを待ってる!

 

「いや・・・さすがにこれは・・・」

 

「キンちゃん。六海、スパゲッティ食べさせてあげたよね?だったら今度は六海の番♪だから・・・あーん♪」

 

「だ、だが・・・」

 

「六海を坂本君から助けると思って・・・ほら♪あーん♪」

 

よく見たら六海、スマホを構えて撮影をスタンバってるじゃん。よっぽど坂本君とは付き合いたくないの?フータロー君とは付き合えてるのに?別人として見てるけども。

 

「ぐっ・・・仕方ねぇ・・・ほら」

 

「あーむ♪」

 

フータロー君はやむを得ない表情のままカレーをよそって六海の口まで運んで、六海はそれをぱくり。うーん、胸のもやもやが強くなっていく・・・!

 

「うん、おいひ♪」

 

カレーがおいしかったのかあーんしてもらえたのがうれしいのか六海はご満悦な様子。私たちはあんまりいい気分じゃないけど。

 

「六海・・・猿轡で石抱の刑・・・」

 

三玖は三玖で六海への罰がエスカレートしていってるし!これやられたら六海絶対泣くからやめてあげて!

 

♡♡♡♡♡♡

 

食事の後はゆったりと雑貨屋さんでお買い物を満喫している六海とフータロー君。こっちはもういろいろありすぎて疲れちゃってるんだから・・・もう本当に許してよ・・・。

 

「いろいろ楽しんだ後は、やっぱりショッピングだよね♪」

 

「当たり前のように千円を超える品ばっか」

 

フータロー君の家庭事情はピンチなのは知ってるから、ここの雑貨屋はフータロー君にとってはあまりよろしくないご様子だね。

 

「うーん・・・ここまでついてきたけど・・・六海がやたらと積極的なの以外は普通にデートって感じだね」

 

「デート・・・私の誘いの時は断ったのに・・・」

 

これ、一応は作戦・・・なんだよね?もうだんだん何が目的でこうなってるのかわからなくなってくるよ・・・。

 

「何か欲しいものがあったら言ってねー。六海が買ってあげるから♪」

 

「い、いや・・・別に俺は・・・」

 

「お小遣いピンチなんでしょ?でなきゃ、お昼の時お金出してくれ、なーんて普通言わないよ?」

 

「ぐっ・・・」

 

そうだよね。ただでさえフータロー君はお金のことに関してケチなとこあるからなー。そう言われちゃぐうの音も出ないよね。

 

「・・・ん?この教材・・・なかなか使えそうじゃないか。今後のために参考にしておきたいところだな。ふっふっふっふ・・・」

 

ふ、フータロー君?なんか悪そうな顔してるけど、まさかそれで私たちに課題を増やそうっていう魂胆じゃないよね?・・・て、あれ?六海、フータロー君を見つめてどうしたの?

 

「?どうした?」

 

「キンちゃんって、風太郎君と同じことを言ったり趣味が同じだったりするよね?」

 

「え?あ・・・」

 

六海は何か感づいたのかそんなことを口にしていた。フータロー君自身も自分の素を明かしすぎてやってしまったって顔をしてるよ。

 

「フータロー・・・今ここで正体を明かしてデートを終わらせて」

 

三玖、それはちょっと極端すぎない?

 

「もしかしてだと思うけど・・・キンちゃんって・・・ふう・・・」

 

「い、いや?違うけど?こ、こんなもん興味ねぇし?」

 

「の、割には目が教材にいってるけど・・・」

 

うわ!六海、こういうところでぐいぐい来てるなぁ。めちゃくちゃ勘ぐってるし。

 

「ちょ、ちょっとあいつとは趣味が合うんだ!たまに会ってこういう話をしたり・・・」

 

「ふーん。じゃもう1個質問ね。親戚ならどうして風太郎君に電話登録しなかったの?」

 

「き、昨日スマホデビューしたんだ!今日は忘れてきちまったけど!後、家は最近引っ越してな!」

 

フータロー君・・・いろいろ必死すぎ。余計なこと言ってるような気がするよ。

 

「フータロー、必死すぎ・・・」

 

うん、それは私もそう思うよ。こんなんで六海を騙せるわけ・・・

 

「そうなんだ!やっぱり風太郎君とは別人なんだね!」

 

「あ、ああ・・・」

 

信じちゃったよ!もうちょっと疑いの目を持っていいんじゃない?例えば、フータロー君のことを敵視していた時みたいにさ。

 

「あ!このペンケース!六海が前から欲しかった奴だ!やっと見つけたー!」

 

六海が発見したのは・・・あれは・・・マジカルナナカのペンケース?あはは・・・相変わらずぶれないなぁ・・・そのマジカルナナカ好きは。

 

「欲しいのか?」

 

「うん!これは即買い決定だね!」

 

「・・・じゃあそれ、買ってやるよ」

 

・・・え?今フータロー君は何て言った?買ってやる?あのお金にうるさくケチなフータロー君が?

 

「ほえ?でも・・・お金ないんじゃないの?」

 

「どっかの誰かさんのおかげで使う予定だった金が使えなかったんだ。これくらいの値段なら苦じゃねぇよ」

 

「どっかの・・・?」

 

「・・・それに、一応お前には感謝してるんだ。だから、その礼だ」

 

フータロー君・・・六海にもそんな風に思ってたんだね。なんだかんだ言ってちゃんと六海もみてる辺り、評価が上がっちゃうね。

 

「・・・六海、キンちゃんにそんなお礼を言われるようなことしたっけ?」

 

「!い、いや!風太郎の世話になったって意味だ!」

 

て、そういえあそうだった。今の六海は今のフータロー君を別人として見てるんだった!

 

「と、とにかくこれは俺が買ってやるから!ちょっと待ってろ!」

 

「う・・・うん。キンちゃん・・・ありがとう・・・すごく・・・うれしいよ」

 

フータロー君は逃げるようにペンケースをもってレジの方へと向かっていっちゃった。

 

「・・・えへへ・・・キンちゃんのプレゼント・・・♪」

 

六海は本当にうれしそうな顔をしてる。本当に・・・恋する乙女の顔だなぁ・・・。

 

「もう我慢できない。今すぐ・・・」

 

「ちょ、ちょっと待って三玖!出てきちゃダメだって!」

 

「離して。卑しい末っ子におしおきできない」

 

三玖はもう我慢の限界が来たのか六海に向かっていこうとしてる。ちょ!ダメだって!今の三玖、なんか怖いよ⁉

 

「?・・・!!!」

 

あ、六海がこっちの存在に気が付いた。私たちを見た瞬間顔を赤くしながら驚愕してる。

 

「おーい、買ってきてやったぞ・・・て、何して・・・」

 

ガシッ!

 

「え?」

 

え?フータロー君が来た瞬間、六海はフータロー君の手を掴んで・・・

 

「キンちゃん!!こっち!!」

 

「は?え?え?」

 

あ!逃げた!六海は私たちから逃げるようにフータロー君を引っ張って走りながら店を出ていっちゃったよ!

 

「六海・・・逃がさない・・・絶対に猿轡で石抱して切腹させる」

 

「三玖⁉それはやめてあげて!」

 

私たちも急いで六海を追いかけたけど・・・こういう時に限って機転を回しながら逃げていってるから全然追いつけない!もう見失っちゃったよ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『さようなら』

 

六海は一花と三玖の存在を気づいてから風太郎を連れて逃げていく。逃げていく最中に部活の助っ人で走り込みをしてる四葉に見つかりそうになったり、同じくショッピングに出ていた二乃と五月に出くわしそうになったりで逃げる道順を変えながら走っていく。そうしていくうちに・・・河原の方までたどり着いた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・お、お前なぁ・・・いきなり・・・」

 

いきなり自分を連れて走り出した六海に文句を言おうとしたが・・・

 

「はぁ・・・は、あはははははは!」

 

六海の本当に楽しそうにしている顔を見たらその気も失せた風太郎。

 

「あー、しんどかったけど面白かったー!ねぇ、キンちゃん。気づいてた?あの雑貨屋でね、一花ちゃんと三玖ちゃん、六海のお姉ちゃんがいたんだよ?」

 

「え?マジか・・・」

 

それを聞いて風太郎はなぜ走り出したのかが納得いった。

 

(・・・こりゃ明日なんか言われそうだな・・・)

 

「逃げてる先でもお姉ちゃんたちがいて・・・もう本当に楽しかったよ!はははは!」

 

笑いごとで済ませてるようにみえるが、もし姉妹に、特に二乃見つかったら、何と言われるかわからないゆえ、大事になるのではと考える風太郎。

 

(・・・まぁ、あいつが楽しそうならいいか)

 

そう考えていると、六海の姿が5年前に出会った少女と重なって見える風太郎。

 

(未練がましいぞ俺。こいつらじゃなかったんだ。いい加減、折り合い付けないとな・・・)

 

5年前の少女は彼女たちじゃないと決めながら、そう念じて前を見ると、六海の姿がなかった。

 

「あ、あれ?あいつは・・・」

 

「キーンちゃん!はい!」

 

辺りを見回していると、六海が近くにある雑貨屋から出てきてメガネの形をしたキーホルダーを風太郎に渡した。

 

「何?くれるの?」

 

「うん!キンちゃんのおかげで嘘の証拠写真がいっぱい撮れたからね!そのお礼!」

 

「・・・まぁ、デザインはともかく、もらえるもんはありがたくもらう」

 

風太郎は六海からキーホルダーを受け取り、あ、そうだと思いだし、1つの紙袋を取り出した。

 

「これ、さっきのペンケースだ。ありがたく受け取れ」

 

「わぁ・・・ナナカちゃんのペンケース!ありがとう!大切にするね!」

 

六海は受け取った紙袋からペンケースを取り出し、大事そうにしている。

 

「へへ・・・贈り物をもらっちゃった・・・これでもう、思い残すことはないかな」

 

「・・・ん?どういうことだ?」

 

六海の言った思い残すことはない発言が引っかかる風太郎。

 

「実はね、キンちゃんのことで二乃ちゃん・・・お姉ちゃんと大喧嘩しちゃってね・・・」

 

「あ、あー・・・」

 

風太郎自身が思い当たることがありすぎて若干困った顔をしていた。

 

「六海は・・・もう2度とあんな喧嘩したくない。それなら・・・六海がキンちゃんから手を引けば解決するんだよ」

 

そう言っている六海の笑顔は悲しそうにも見えた。

 

「だから・・・このデートが終わったら、もうキンちゃんとは会わない。六海は・・・今回の件で満足だから」

 

その哀愁ただよう雰囲気に風太郎はどう答えればいいのかわからなかった。ましてや金太郎は自分だというのに、このままでいいのかという考えまで至る。

 

「バイバイ、キンちゃん。さようなら」

 

六海は風太郎の顔を一切見ず、一方的な別れを告げ、帰り道へと歩いていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『まさか、バレた?』

 

あの六海の悲し気な笑顔を見て、風太郎は鬘を外していろいろと考えている。さようならといっても、風太郎としていつでも会えるのだから別にいい、むしろ金太郎になることがなくなって好都合ともいえる。だが、それでも・・・

 

「・・・本当に、これでいいのか・・・?」

 

そんな思考のパズルから抜け出せないままでいると、もう風太郎の家までたどり着いた。考えても仕方ないと思い、家の中に入る。

 

「らいは、ただいま」

 

「あ!おかえりー!お出かけは楽しかった?いやー、お兄ちゃんが外に出かけるって聞いた時は驚いちゃった。明日雨でも降るのかなー?」

 

いろいろ失礼なことを言われた気がするが、らいはを見ていると、そんなことがどうでもよくなってくる風太郎。

 

「あ、そうだ。お兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「金太郎さんって誰?」

 

「!!??」

 

らいはの口から金太郎の名前が出てきて、風太郎は目を見開く。どうしてらいはがそれを知ってるんだといわんばかりに。

 

「な、なぜその名を・・・?」

 

「さっき六海さんから電話がかかってきてねー。金太郎さんにありがとうって伝えてって。でも・・・うちの親戚にそんな名前の人いなかったよね?」

 

「・・・!!ま、まさか・・・そのことを・・・?」

 

「?うん。そんな人はいないって言ったけど?」

 

「なんてことだ・・・なんてことだ・・・!」

 

まさからいはに電話してくるとは思わなかったために、今まで以上に焦りが生じる風太郎。どうして自分のスマホに電話をかけないんだと思ってスマホを確認する。

 

「・・・!しまった、充電切れ・・・!」

 

ついつい自分のスマホの充電を忘れてしまう風太郎。それがかえって裏目に出ることに風太郎は苦虫を噛みしめるような顔をする。もしかして、バレたのではないのかと、気が気でない気持ちでいっぱいになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、私は昨日の一件をどうしても聞きたかったからこのカフェの入り口でフータロー君を待ち伏せているよ。ちなみに六海は三玖のお仕置きを受けさせられた。内容は三玖の料理をとことんまで味見するということ。でも・・・帰ってきたときの六海、元気なさそうだったけどどうしたんだろう?と、そう考えていると、待ち人であるフータロー君がやってきた。

 

「あ、フータロー君。おっはー♪」

 

「!い、一花か・・・」

 

なんか一瞬ビクッとなっていたけど、どうしたんだろう?

 

「あ、朝から何の用だ?」

 

「学校すぐだけど、今日は一緒に登校しようかなって思って」

 

「お前は妙に目立つから嫌なんだが・・・」

 

「そう?ふふふ」

 

私は別にそんなこと言われても気にしない方だからあんまし傷つかないよ。

 

「それより、昨日はずいぶんお楽しみだったねー?六海のデート、楽しかった?」

 

「やっぱ見てやがったか・・・」

 

多分六海から聞いて気づいたからだと思うけど、顔が赤いなー。ふふふ、おもしろ。

 

「で?実際のとこどうなの?六海とは?いい雰囲気だったじゃん?」

 

「別に何とも思ってねーよ。あの作戦だって俺が考えたんじゃなくて六海の案だからな」

 

え?そうなの?まぁ、確かにフータロー君が考えるような作戦じゃないしね。あ、あの時六つ子会議から突然抜け出したのはそういうことだったんだ。

 

「じゃあ、六海とは何とも思ってないの?」

 

「そう言ってるだろ?だいたい恋愛なんてくだらねーし」

 

へー、そっかそっか。六海のことはそういう目で見てないんだ。よかったよかった。・・・何がよかったんだろう・・・?

 

「ふん、そんなことを考えるなんて、暇人だな。そんなお前のために新しい勉強法を教えてやる」

 

「もー、またそんなこと言うー」

 

本当に・・・フータロー君はいじわるだよ・・・。不愛想で、気が利かなくって・・・いじわる・・・。

 

・・・・・・なんで私、フータロー君のこと、好きになっちゃったんだろう・・・?

 

「と、学校についたね」

 

「ああ、そうだ・・・!!」

 

学校にたどり着くと、フータロー君はなんだか目を見開いた顔をしていた。その先にいたのは、六海だった。

 

「なーんだ、六海じゃん」

 

「・・・む、むつ・・・」

 

「風太郎君。放課後、話があるから」

 

声をかけようとすると六海はこっちを見ることなく、一方的にそう言って学校へと入っていっちゃった。え?何あの冷めきった態度?

 

「な、何あれー?」

 

「・・・一花。放課後付き添ってくれ。いやな予感がする」

 

???いきなり付き添ってくれだなんて・・・急にどうしたの?それに・・・フータロー君、なんか冷や汗すごくない?

 

♡♡♡♡♡♡

 

放課後、フータロー君は六海に言われた通り、指定された場所で六海の話を聞こうとする。私はフータロー君の付き添いだよ。

 

「は・・・話って・・・なんだ?」

 

「もうわかってるんじゃないの?キンちゃんのことだよ」

 

ああ、そう言えば、変装してたフータロー君のことを別人だととらえてたよね・・・て、フータロー君、なんか冷や汗がすごくなってる・・・。

 

「昨日、らいはちゃんに言われたよ。金太郎さんはうちの親戚にはいないって。でも六海は昨日キンちゃんに会った。おかしいよね?話が全然食い違ってるんだもん」

 

うわ、フータロー君、冷や汗どころか顔色まで悪くなってるけど大丈夫⁉

 

「ねぇ風太郎君・・・昨日、どこにいたの?」

 

「ど、どこって・・・」

 

「・・・質問を変えよっか」

 

六海はフータロー君に問いかけながら顔をフータロー君に合わせる。

 

「風太郎君・・・六海になんか隠してる?」

 

フータロー君を見ている今の六海の顔は・・・誰が見ても怒ってるようにしか見えなかった。

 

17「恋人のふり作戦」

 

つづく




次回、六海、三玖視点

おまけ

学園の生徒紹介

坂本

外見は黒毛のくせ毛、そこそこイケメン

イメージCV:GOD EATER 2のギルバート・マクレイン

2年生。三玖と同じクラスでサッカー部に所属している期待のエースともいえる。関西出身で常に関西弁でしゃべる。一度決めたことにたいしては絶対に音を上げることもなければ、曲げることもしない熱血漢。情にも熱く仲間思い。
林間学校で六海を見かけ、一目惚れをして告白をしたが、今はその返事を待っている。その際に六海と風太郎の姿を見て、話してる姿を見て嫉妬をしてたりもする。一応は風太郎のことを成績トップの噂程度で知っている様子。その噂のせいで疑いの目も強い。
2000日の未来では真鍋と結婚を約束している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リビングルームの告白

初っ端から結構試行錯誤を繰り返しているので、結構時間がかかってしまいました。やっぱりこういうのは面白くできてるかどうか不安になっちゃいます。

それから、六海ちゃんの水着の仕入れ先を紹介に追加しました。

アンケートの結果は1番下になります。次が番外編アンケート最後になります。


六海SIDE

 

「ねぇ・・・答えてよ。六海になんか隠してるでしょ?」

 

キンちゃんとのデートを終えた次の日の学校の放課後、六海は風太郎君に何か隠しごとがないかと尋ねてる。一花ちゃんは風太郎君の付き添いで来てるみたいだけど。

 

というのも、昨日キンちゃんにお礼言うの忘れてたから風太郎君に電話しようとしたよ。でも、全然出る気配がなかったから、それなららいはちゃんに頼もうと考えたよ。親戚ならキンちゃんの名前くらい知ってるしね。・・・でも帰ってきた返事が・・・

 

『あの・・・うちの親戚にそのような名前の人はいませんよ?』

 

信じられなかった。いくららいはちゃんの言葉でも六海にはどうしてもキンちゃんがいないなんて思えない。いや、信じたくなかった。だから今こうしてキンちゃんと会ったという風太郎君に詰め寄ってる。どうしてもキンちゃんは存在してると確かめたかったから。

 

「いや・・・あの・・・だな・・・」

 

何か言おうとしてもたじたじな様子の風太郎君を見ていると無性にイライラしてたまらない。これじゃあまるで・・・本当にキンちゃんがいないんじゃないかってそんな気がしてたまらなかった。だから今の六海の顔は怒ってるようにも見えると思う。

 

「あ、あのね、六海?フータロー君にもふか~~い事情があって・・・」

 

「一花ちゃんは黙ってて」

 

「はい・・・」

 

一花ちゃんは風太郎君に弁明しようとしたみたいだけど、今の六海はそんなの聞いてる余裕はなかった。ふとしたら、風太郎君のしょってるかばんに目を向けた。そういえばあの雑貨屋さんでのキンちゃん、妙に風太郎君と似ていたところがあったけど・・・

 

「・・・ちょっとそのかばん見せて」

 

「え?あ!おい!」

 

六海は風太郎君のかばんを無理やりぶんどってぶんどってその中身を確認する。いろいろがさごそとあさっていると、あるものを見つけた。それは、昨日六海がキンちゃんにあげたもの。

 

「ねぇ・・・なんでこのキーホルダーを風太郎君が持ってるの?」

 

「そ・・・それは・・・」

 

どんどん顔色が青ざめてるような気がしたけどそんなことよりこれが重要。このメガネのキーホルダーはキンちゃんにあげたのであって風太郎君にはあげてない。どんどん六海の疑惑が浮かび上がっていく。まさか・・・いや・・・絶対にそんなことあるはずがない・・・。

 

「・・・ふぅ・・・わかった。いつかはこうなるだろうと思った。だから正直に話そう」

 

「フータロー君、本当に言う気?」

 

「もう・・・ここまで来たら逃げ道などない」

 

何の話をしているのかわからない六海をよそに覚悟を決めた顔をして全てを話しをしようとする風太郎君。この時の六海の気持ちはだんだんと嫌な予感がこみ上げてくる。

 

「六海・・・よく聞いてくれ。」

 

お願い・・・六海の気のせいであって・・・。キンちゃんはちゃんといるんだって言って・・・お願い・・・!

 

「金太郎の正体は俺だ。金太郎という奴は、初めから存在しない」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

 

「嘘・・・キンちゃんが・・・風太郎君・・・?」

 

風太郎君の言っていることが何を示しているのか全く分からなかった。キンちゃんが・・・風太郎君?そんなバカなことが・・・。今六海の気持ちは疑心暗鬼でいっぱいだった。

 

「混乱してるだろう。当然だ。あれほど尊敬していた奴の正体が、よりにもよって俺なんだからな」

 

六海の気持ちをよそに風太郎君は自分の気持ちをしゃべってる。

 

「どうせもう金太郎になることはないなら、多くを語らず、このまま墓場まで持っていけばいいと俺は思っていた。そこに今回の件だ。だから考えちまうんだ。正体を明かすべきかどうかをな」

 

やめて・・・これ以上のことは聞きたくなんかない。六海は今、黒い感情がどろどろとこみあがってきてるからやめて・・・。

 

「せめてお前にはちゃんと話しておくべきだった。そうすれば、こんな混乱を招かずに済んだかもしれない。だから・・・すまなかった」

 

風太郎君は誠心誠意を込めて謝ってくれてる。それで済めばどれほどよかったことか。でも・・・それとは対照的に六海の気持ちは黒く染まっていってる。

 

「・・・一花ちゃんは知ってたんだ。このこと・・・」

 

「そ、それは・・・」

 

「みんなよってたかって六海を騙してたんだ・・・」

 

違う・・・こんなこと言いたいわけじゃない・・・言いたいわけじゃないのに・・・気持ちがどうしても最悪な方に向かっていってる。

 

「違う!一花は関係ない!悪いのは俺・・・」

 

ダメ・・・もう気持ちが限界・・・!

 

バチンッ!!

 

「む・・・六海・・・?」

 

「・・・サイッテー!!バカにしないでよ!!」

 

「・・・すまなかった」

 

「・・・あ・・・」

 

やってしまった・・・頭じゃやりたくなくても、言いたくもない言葉でも、黒い気持ちが強すぎて表に出してしまった。六海は・・・風太郎君に引っ叩いちゃった・・・。

 

「ち、ちが・・・これは・・・違うから!!」

 

もう頭がごちゃごちゃしててわからなくなっちゃったよ。六海は抑えきれなかった感情を否定するかのようにその場から逃げ出した。

 

「六海⁉」

 

後ろから一花ちゃんの声が聞こえてきたけど、気にすることができない。無我夢中で気が付いていなかったけど、今の六海の目には涙が溢れちゃってたんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六海を信じる』

 

「行っちゃった・・・大丈夫?フータロー君」

 

「ああ・・・大丈夫だ」

 

六海が走っていった後、一花はビンタされた風太郎に心配そうに声をかける。大丈夫と言っているが、風太郎の頬にはビンタされた跡がくっきりと残っている。

 

「ごめんね・・・あの子のメンタルが弱いばっかりに・・・」

 

「いや・・・もっと早く真実を明かさなかった俺が悪い。気にするな」

 

一花は風太郎に申し訳なく思うが、風太郎はこれは自分に否があると言い張る。

 

「私・・・六海を追いかけてくる!」

 

「いや、やめとけ。今行ったって逆に突っぱねられるだけだ。お前もわかってるだろ?」

 

「でも・・・」

 

「余計あいつを拗らせて関係が壊れるのはお前も嫌だろ?」

 

「・・・うん・・・」

 

一花は六海を追いかけようとしたが、これ以上悪化するのはよくないと思い、風太郎がそれを止めた。

 

「はぁ・・・もうじき期末試験があるって時にこれか・・・世話が焼ける・・・まぁ、俺が悪いんだが・・・」

 

「・・・六海、どうするんだろう・・・?」

 

「・・・あいつがあんなだから今は無理だが・・・俺はもう1度あいつと話をつけようと思う。またあいつは混乱するだろうが・・・あいつならきっと乗り越えるだろうと信じてる。いや・・・信じるしかないんだ」

 

これからの方針、そして、自身が抱いている風太郎の気持ちを聞いた一花は少しだけ頬を朱に染める。

 

「・・・へぇ、フータロー君がそんな風に言う日が来るとはねぇ・・・やっぱり六海に気があったりして?」

 

「からかうな。別にそんな目で見てねぇ。ただ・・・このまま隠したままじゃダメだって思っただけだ。ちゃんと向き合わねぇと。そして、いつか二乃にも・・・」

 

「え?二乃?」

 

「何でもねぇよ」

 

なぜ二乃の名前が出てきたのかわからない一花は首を傾げ、風太郎はそっぽを向いてはぐらかす。

 

とんとんっ

 

「ん?なんだよ・・・」

 

自身の肩を叩かれ、どうせ一花だと思い風太郎は後ろを向く。

 

「よぉ、上杉・・・大事な話のとこすまんの。今日こそは、ハッキリしとこー思うてな」

 

しかしそこにいたのは一花ではなく、自分に突っかかってくる坂本だった。風太郎は坂本のことをすっかり忘れ、顔を青ざめる。

 

「い、いち・・・」

 

「ごめんねー・・・これからおしご・・・バイトなんだ。じゃ、後はごゆっくり~」

 

「あ!てめ、一花!逃げんな!」

 

面倒ごとに関わるのはごめんだといわんばかりに一花はその場から逃げるように去っていった。

 

「さあ上杉。今日は部活は休みなんでとことんまで話せるで。向こう行って語り合おうや」

 

「・・・もう、勘弁してくれ・・・」

 

坂本は風太郎が逃げられないように風太郎の肩に腕を組ませる。どなどなと連れてかれる風太郎は非常にげんなりとした顔になる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ぐすん・・・ぐすん・・・」

 

風太郎君から逃げた後、六海は河原の前までやってきて、ただ1人で泣いていた。風太郎君から告げられた真実に黒く込みあがってきた感情は・・・怒り、そして悲しみが入り混じったものだった。この感情が出た原因はきっと、六海を騙していたこと、そしてキンちゃんは本当にいないんだということだと思う。

 

どうしてこんな感情が流れたのか・・・六海なりに考えたよ。たどり着いた考えは、とっても簡単なことだと思う。

 

「・・・諦めきれなかったんだと思う・・・」

 

実際、六海はキンちゃんに優しさに触れて、キンちゃんに恋心を抱いちゃったんだ。でも、そのキンちゃんに二乃ちゃんも惚れてる。それが原因で林間学校で大喧嘩になったわけだし。もう喧嘩しないためにもキンちゃんから手を引こうと考えたよ。でも・・・それでも心の奥底ではやっぱり諦めたくない気持ちはあったんだ。

 

だからこそ許せなかったんだと思う。六海と二乃ちゃんの想いを踏みにじった風太郎君が、そして、抱いていた恋が全部幻だったんだということに。行き場のない怒りをぶつけないと気が済まなかったんだと思う。でもだからといって風太郎君を叩きたかったわけじゃない。変に勘違いした六海も悪いんだから・・・。

 

「はぁ・・・」

 

どうも一花ちゃんも知ってる様子だったから、今一花ちゃんと顔を合わせたらまたやり場のない怒りをぶつけてしまいそうでどうにも帰る気分ではない。どうしよう・・・。

 

「あら?六海じゃない」

 

六海が悩んでいると、バットを持っている六海の友達の真鍋さんが通りがかった来た。

 

「こんなとこで何やってんのよ?」

 

「真鍋さんこそ・・・」

 

「私はまぁ、練習よ。ちょっとは腕磨いとかないとさ」

 

あ、そっか。真鍋さんソフトボール部に入ってるんだった。それで・・・。

 

「で?あんたは?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ま、言いたくないならいいけど」

 

六海の暗さを察したのか深く聞かないでくれた。やっぱり真鍋さんは優しい・・・。

 

「家どこよ?ここで別れんのもなんだし、送ってってあげるわ」

 

「・・・帰りたくない」

 

「はい?」

 

六海が家に帰りたくないことを言ったら、怪訝な顔をされた。だって今帰ったらまたやり場のない怒りが・・・。

 

「・・・訳アリってわけね」

 

六海の顔を見て、いろいろと察した真鍋さんはため息をこぼして頭をかく。

 

「・・・泊まるとこないなら、うちくる?」

 

「・・・え?」

 

今、真鍋さんはなんて言ったの?泊まる?真鍋さん家に?

 

「ちょうど人手が欲しかったところなのよ。あんたでよければ、うちに泊めてあげるけど、どう?」

 

正直、この申し出にはありがたかった。今どうしても家に帰る気にはならなかったから。

 

「うん・・・」

 

「よし。じゃあほら、立って。案内するわ」

 

真鍋さんの優しく差し出された手を握って六海は真鍋さんが住んでる家まで向かっていった。どんな家だろう?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「わあ・・・すごい・・・」

 

案内された真鍋さんの家はすごかった。六海たちのマンションほどの大きさじゃないにしろ、建物はものすごく大きかった。それに庭にはブランコみたいなたくさんの遊具もあったりするし。

 

「全然すごくないわよ。ただでさえお金のやりくりにまいるんだから・・・理由はすぐにわかるわ」

 

真鍋さんは六海の関心を一蹴するかのように入り口のドアを開けた。

 

「今帰ったわよー、子供たちー」

 

・・・うん?子供たち?なんか奥からどたどた音が聞こえてくるし・・・。

 

『恵理子姉ちゃんおかえりー!!』

 

うぇ⁉奥から子供たちが出てきた!それも1人や2人じゃない!いっぱいいる!

 

「いい子にしてた?」

 

「うん!してた!」

 

「院長先生がお歌褒めてくれたー!」

 

「そう。よかったわね」

 

「恵理子姉ちゃん!あそぼーぜー!」

 

「はいはい、後でね」

 

真鍋さんは子供たちに向かって優しい笑顔を浮かべてる。え・・・どゆこと?

 

「まぁ見ての通りよ。ここ、孤児院だから」

 

孤児院⁉どうりで建物が大きかったし、子供が多いわけだ。すごくないって言ってるけど、めっちゃすごいじゃん!

 

「恵理子姉ちゃん。その人だーれー?」

 

「友達よ。今日はこの子が世話になるけど、仲良くね」

 

『はーい!!』

 

真鍋さんが六海を紹介したら、子供たちが六海に近寄ってきた!か、かわいい・・・♡あの子も、この子も・・・なんて幸せなんだろう・・・♡

 

「おねーちゃん、あそぼー♪」

 

「おねーちゃん何が得意?」

 

「好きな食べ物はー?」

 

「お歌は好きー?」

 

あぁ・・・すごい質問攻めにあってる・・・♡子供たちにこうされるのたまらない・・・♡

 

「・・・姉ちゃん、おっぱいでけー」

 

「!!!??」

 

「たしかにー。すごい大きいよねー」

 

む、六海が気にしてる部分をずけずけと・・・!これだけは触れられたくなかった・・・!

 

「このエロガキ共!!」

 

「わー、恵理子姉ちゃんが怒ったー♪」

 

「恵理子姉ちゃんの貧乳ー♪」

 

「ぺったんこー♪」

 

「うっさい!!向こう行きなさい!!」

 

子供たちは楽しそうにしてるけど、お、怒ってる真鍋さんは初めて見た・・・。た、確かに真鍋さんのスタイルは抜群だし、運動神経もいい・・・そして何より、おっぱいがまな板みたいに小さい。まさに六海の理想の体つきだよ。

 

「たく・・・気にしてることを・・・」

 

「だ、大丈夫だよー。真鍋さん、スタイルいいから」

 

「そう思うならその無駄にでかいものを私にちょうだいよ」

 

「お、おっぱいあってもいいことないよー?絵を描くときたまにキャンパスに当たるし、すごい肩までこっちゃうんだから」

 

「それは持つものの贅沢というものよ。私だってそういうことで悩みたいわよ・・・」

 

怒ったと思ったら今度はしくしくと泣き出しちゃった。悪いことしてないのになんか罪悪感が・・・。

 

「ま、まぁ・・・それはいいわ。それより六海、子供たちの相手をお願いできない?あんたの姉に連絡入れとくから」

 

「あれ?真鍋さん、お姉ちゃんの連絡先知ってるの?」

 

「ええ。たった1人だけだけど。悪いようにはしないから、ほら、子供たちの相手をお願いね」

 

真鍋さんは片手だけだしてよろしくしてそのまま2階に上がってっちゃった。六海は子供たちにせがまれて子供たちの遊び相手になってあげた。こういうのをなんていうのかな?幸せの独り占めかな?とにかくもうかわいい子供たちに囲まれて六海、幸せ・・・♡

 

♡♡♡♡♡♡

 

『帰りを待つ姉5人』

 

「・・・帰ってこないわね、六海」

 

「こんなに遅いの、初めて・・・」

 

「どうしよう・・・事故にあったりしてないよね・・・?」

 

「お腹がすきましたぁ~・・・」

 

中野家では姉5人が六海の帰りを待っているのだが、一向に帰ってくる気配がないので心配をしている。五月はお腹がすいていて机に突っ伏しているが。

 

「・・・・・・」

 

姉妹の中で唯一事情を知っている一花は浮かない顔をしている。

 

「・・・一花?どうしたの?」

 

浮かない様子の一花に気付いた三玖は声をかけた。

 

「・・・みんな、あのね・・・六海は・・・」

 

一花が今日のことを話そうとした時・・・

 

ヴゥー、ヴゥー

 

「あ、ごめん!私からだ!」

 

四葉のスマホから着信が来て、四葉はすぐに電話に出る。

 

「・・・どうしたのよ?」

 

「・・・ううん、何でもない」

 

本当に話すべきなのかと戸惑った一花は言葉を濁した。

 

「お疲れ様です、真鍋さん!助っ人が欲しいときはまたいつでも声をかけてくださいね!」

 

四葉の電話にかかってきたのは真鍋だったようで四葉は笑みを浮かべながら電話に対応している。

 

「・・・え?はい・・・はい・・・。わかりました。よろしくお願いしますね」

 

電話の対応を終えた四葉は姉妹たちに電話内容を伝えた。

 

「今日は六海、友達の家に泊まるんだって」

 

「なんだ、そういうこと。通りで帰ってこないわけだわ」

 

「心配して損した」

 

「ということは今日は六海は食卓にいないわけですか。なんだか寂しいです・・・」

 

内容を聞いて姉妹たちはほっと一安心。五月は少し寂しさを感じ取っていた。

 

「それならさっさとご飯の支度でもしましょうか」

 

「待ちくたびれましたぁ~・・・」

 

二乃はせっせとご飯の支度をしにキッチンの方へと向かっていった。他の姉妹もご飯ができるまで自分の部屋へと戻っていった。

 

「やっぱり六海・・・今回のこと気にして・・・」

 

残った一花は六海のことが気がかりで心配そうに玄関への道をじっと見つめていた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

孤児院で子供たちと遊んだり、ご飯食べたり、お風呂に入ったりしてたらもうすっかり就寝の時間になっちゃって、六海は客室でただ1人ベッドに寝転がっていた。

 

「・・・眠れない・・・」

 

1人でいると妙に風太郎君とキンちゃんのことを思い浮かべちゃって中々眠れなかった。あんな真実を聞かされた後じゃ、風太郎君とどう接すればいいのかって考えこんじゃうんだ。また行き場のない怒りをぶつけてしまいそうで、怖いよ・・・。

 

睡眠薬を持ってきてないから眠れない。だから非常に困る。六海は少しでも寝る工夫をするために水を飲みに行こうと客室から出た。そうしてリビングルームにたどり着くと、人がいるのが見えた。あれは・・・真鍋さん?ただ1人で写真を見つめて何してるんだろう・・・?

 

「・・・あら、六海。眠れないの?」

 

「うん・・・。その写真・・・」

 

六海は気になって真鍋さんの持ってた写真を尋ねてみた。写真に写ってたのは、仲のよさそうな夫婦が赤ん坊を抱えてる姿だった。

 

「ああ、これ?両親の写真らしいのよ」

 

「らしい?」

 

「私の両親ね、私が2つの時に事故で亡くなったみたいなのよ」

 

・・・え・・・真鍋さんの両親が・・・?

 

「身寄りのない私を院長が引き取られて孤児院生になって今に至る、のかしらね」

 

「ご、ごめん・・・聞いちゃまずかった・・・?」

 

「別にいいわよ。あんま覚えてないし」

 

悪いことを言っちゃったと思ったけど、真鍋さんは特に気にした様子はなかった。

 

「・・・寂しくないの?」

 

「別に。生んでくれたことには感謝してるけど、私にとって家族は、孤児院のみんなだからね」

 

真鍋さん・・・本当は両親に二度と会えなくて寂しいはずなのに、それ以上に子供たちの未来を思ってくれてるような笑みを浮かべてる。責任感強い性格は、きっと子供たちをまとめてきたからだろうなぁ。

 

「・・・孤児院ってのは言ってみれば行き場をなくした子供たちの集まりだからね。みんないろんな辛い事情を持ってる。私だって例外じゃない。それでも・・・子供たちはみんなそれを共有しあって今を生きてる。まぁ・・・だから、さ、あんたもあんま辛いこと抱え込みすぎないでよ?私は、あんたの味方だからさ」

 

真鍋さん・・・六海を気を使ってくれて・・・

 

「ま、言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ。私は、いつでも待ってるよ」

 

真鍋さんがここまで言ってくれてるんだ・・・真鍋さんなら、話してもいい、かな?

 

「待って・・・ちゃんと、話すよ」

 

六海はこれまでの経緯を真鍋さんに話したよ。真鍋さんは真剣に話を聞いてくれた。

 

「ふーん、なるほど・・・」

 

いろいろ納得すると、真鍋さんはぷっと笑いをこみ上げてる。

 

「ぷっ・・・くくく・・・」

 

「ちょっと!」

 

「ああ、ごめんごめん。これはあんたじゃなくて、上杉に笑ってんのよ。ぷぷぷ・・・あの上杉がねぇ・・・」

 

・・・あれ?その口ぶり、まるで風太郎君を知ってるような・・・。

 

「風太郎君を知ってるの?」

 

「知ってるも何も、中学の同級生よ」

 

!!驚いた・・・まさか風太郎君が女の子と仲良くやってたなんて・・・

 

「ま、今も昔も、私の名前を覚えてないんだけどね」

 

前言撤回。やっぱり風太郎君は風太郎君だよ。

 

「あいつとの出会いは最悪だったわ。私が食堂で弁当を食べようと席に座ろとした時、あいつも同じ席でね。互いに席を譲れって言い合いをしたもんだわ。結局最後までいがみ合いながらご飯食べてたけど」

 

あれ?これなんかデジャヴじゃない?六海たちと最初に出会った時の。

 

「そんな出会い方だけどさ、あいつと普通にしゃべれるようになったきっかけはあったよ?あれは確か・・・中1の時弁当を忘れた時だっけか」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『この教室に真鍋って奴いるか?』

 

『・・・真鍋は私だけど?』

 

『なんだお前かよ、性悪女』

 

『なんか用?クズ野郎』

 

『これ、お前の弟が届けにきたようでな。預かってきた』

 

『!あんた・・・わざわざこれを届けるために?』

 

『別にお前のためじゃねぇ。ただ・・・迷子になって、学校でうろうろされるのは迷惑だった。それだけだ』

 

『だからって預かってわざわざ届ける必要ある?』

 

『うるせぇな。ちゃんと届けたからな。それと、弟、大事にしろよ』

 

『・・・私、一人っ子なんだけど』

 

♡♡♡♡♡♡

 

「意外だったわ。子供たちが上杉を信じて弁当を預けたってのがね」

 

本当に意外過ぎる展開だったよ。理由は風太郎君らしいけど、わざわざその人のために動いてくれてたなんて想像すらしてなかったよ。

 

「ま、いい奴だってわかって以来、月に何回か話すようになったわね。ま、たいてい無視を決め込んでんだけど」

 

やっぱりこの辺は変わってないなぁ。他人には無関心なところは。それから真鍋さんは六海たちの知らない風太郎君をいっぱい話してくれた。聞けば聞くほど、風太郎君にたいして意外性を感じるよ。

 

「・・・まぁ、ここまで話してきたけどさ、本当に意外なのよ。あんたら六つ子と上杉の関係がさ」

 

「え?そうかな?」

 

「そうよ。あいつが自分から勉強を進んで教えようなんてこと、中学じゃ一切考えられなかったし」

 

あ、真鍋さんは知らないんだった。風太郎君が六海たちの家庭教師だってことを。

 

「それに何回かあんたらを見かけたけど、上杉の奴、最近いい顔するようにもなった。中学とは比べ物にならない変化よ、あれは」

 

「えーっと・・・そんなに?」

 

「まぁ、つまり、何が言いたいかって言うとさ・・・」

 

真鍋さんは六海に指をさして、堂々と言葉を言い放った。

 

「上杉にとってあんたら六つ子はね、特別な存在になりつつあるのよ」

 

・・・うん?特別?特別って何?

 

「えっと、その特別って友達として?それとも・・・」

 

「さあ?どっちだと思う?」

 

「もう、そうやってはぐらかす・・・」

 

その特別の意味が知りたいのに、真鍋さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべてる。いじわる・・・。

 

「ま、少なくともあいつが変わったのは、あんたらが影響してるのは間違いないけどね」

 

「!」

 

「あいつはね、自分の過去を話したがるような奴じゃない。ましてや過去の自分になるなんてなおさらよ」

 

過去の自分って・・・明らかにキンちゃんのことを言ってるん・・・だよね・・・?

 

「林間学校では十中八九トラブルがあってだけど、今回は自分からだもの。これは、元気がないあんたを元気づかせるためだと私は思ってるわ」

 

「そ、それは・・・違うよ・・・ただ、自分のためにやってるんだよ、きっと・・・」

 

「だからってやらないわよ、あいつは。絶対に」

 

六海が反論しようとすると真鍋さんは確信をもって言い返される・・・。風太郎君が・・・六海のために・・・?ありえないよ・・・。

 

「六海」

 

真鍋さんは六海の両肩を掴んできた。

 

「1回上杉と話し合ってきなさい。あいつの想いを聞けば、あんたの世界は、きっと変わると思うわ」

 

六海の中の・・・世界・・・

 

「ふわぁ・・・さすがに眠くなってきたわ。六海も早く寝なさいよ。おやすみ」

 

真鍋さんはあくびをしながら自分の部屋へと戻っていっちゃった。六海たちが、特別・・・風太郎君が六海たちをどう思ってるか・・・。・・・もう、真鍋さんのせいで余計に頭がぐるぐるしちゃうじゃん。当然ながら、そんなことばかり考えているから、余計に眠れなくなっちゃった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、今日は学校がある日だったから真鍋さんと一緒に登校することになった。学校につくや否や、お姉ちゃんたちが駆け付けてきた。本当に心配していたみたいで、罪悪感が芽生えてくる。一花ちゃんとも会ったけど、あんなに心配されてる姿を見たら、昨日ほどの怒りの感情は芽生えてこなかった。そして、今現在お昼休み・・・

 

「ねぇ・・・もうちょっと離れてほしいんだけど・・・」

 

「嫌です。昨日六海がいなくて寂しかったですから、これくらいさせてください」

 

六海は今五月ちゃんに抱き着かれた状態で廊下を歩いているよ。この光景だと、もうどっちが姉かわからなくなるような感じだから非常に困るよ。五月ちゃんはお姉ちゃんとしてもうちょっと堂々としてほしかったよ。

 

「それで、結局どうしたんですか、昨日は?わざわざ真鍋さんに連絡してもらって、家に泊まるとは・・・」

 

「ははは・・・ごめん。そこは言いたくないや・・・」

 

だってこれは六海の問題だから、そのことでこれ以上の心配はかけたくないから。五月ちゃんはその様子に首を傾げてた。

 

「お前の言い分はようわかった。せやからこれで最後にしよか」

 

!奥の方から六海に告白した人、坂本君の声が聞こえてきた。どうやら誰かと話してるみたい。

 

「五月ちゃん!こっち!」

 

「え?六海?」

 

六海は五月ちゃんと一緒に坂本君にばれないように曲がり角に隠れた。こっそりと坂本君を覗いてみる。坂本君の話し相手になってたのは、風太郎君だった。

 

(!!風太郎君・・・!)

 

「あれは、上杉君?何を話してるんでしょう?」

 

本当に坂本君はなんで風太郎君と話をしてるんだろう・・・?

 

「上杉、お前六海さんをどう思ってるんや?これだけはハッキリさせときたいわ」

 

!!風太郎君が・・・六海をどう思ってるか・・・

 

『上杉にとってあんたら六つ子はね、特別な存在になりつつあるのよ』

 

六海の脳裏には嫌でも真鍋さんの言葉が出てくる。いったい何を期待してるんだろう、六海は・・・?そんなんじゃないのに・・・。

 

「別に何とも思ってねぇよ。だが・・・強いてあげるなら・・・」

 

強いてあげるなら・・・?

 

「あいつは姉たちを含めめちゃくちゃバカだってことだ」

 

「は?」

 

なっ!!いうに事欠いて結局それ⁉ものすごいムカつく!事実だけどそう言われるのすごいムカつく!

 

「な・・・私まで⁉バカとは何ですかバカとは!」

 

五月ちゃんも五月ちゃんでものすごく怒ってるし・・・。

 

「どういうこっちゃ?」

 

「どうも何も言葉通りの意味だ!言ったことは覚えねぇし、教えた部分はすぐ間違える!挙句の果てには俺を別人だと思い込む始末で本当、手のかかりすぎる奴だよ!」

 

そ、そこまでのこと言わなくてもいいじゃん!だいたい、別人だと思い込んだのは風太郎君のせい・・・

 

「だが・・・努力家だ」

 

!急にトーンを変えた・・・?

 

「夢に向かってまっすぐ突き進む姿勢、ひたむきな努力・・・そこは俺も見習わないといけないものがある」

 

「・・・・・・」

 

「だがいかんせんメンタルが弱い。せっかく十分な技術があるのにこのままじゃもったいない。誇れる才能だからな、あれは。あいつに限った話じゃないが・・・」

 

風太郎君・・・

 

「今まで姉妹全員卒業、としか考えてこなかったが・・・最近じゃ、あいつの夢を支えてやりたいと考えている。まぁこれもあいつだけの話じゃないが」

 

「!」

 

「そのために俺にできることは協力する。他に何て言われようが、あいつに拒まれたとしても、俺の意思は変わらねぇ。全力でサポートしてやるつもりだ。

 

・・・最高の、パートナー、だからな」

 

!!!最高の・・・パートナー・・・

 

「それが、俺があいつに思ってることだ。我ながららしくねぇがな///」

 

トクンッ、トクンッ、トクンッ、トクンッ

 

「上杉・・・お前・・・意外にええ根性してるやないか。気に入ったわ!」

 

「は?」

 

「六海さんのためにそこまで言えるとは・・・お前こそ六海さんに相応しい!疑って悪かったの!」

 

「いや・・・別にあいつだけのためじゃねぇって・・・つか俺とあいつはそんな関係じゃな・・・」

 

「俺にできることは遠慮なく言いや!俺は全力で応援するで!」

 

「人の話を聞けよ!!」

 

・・・・・・・・・。

 

「あ・・・あんな小恥ずかしいことをよく言えましたね・・・意外過ぎて言葉も出ませんよ・・・ねぇ、六海。・・・六海?」

 

「・・・む・・・六海、おトイレ行ってくる!」

 

六海は今の顔を五月ちゃんに見られたくなくて、逃げるようにこの場を去っていく。おトイレに行くのは嘘。

 

トクンッ、トクンッ、トクンッ

 

嘘・・・こんなことってあるの・・・⁉風太郎君の言葉が頭から離れない・・・!さっきから、胸のあたりがトクン、トクンっていい続けてる・・・!六海の脳裏にはこれまでの風太郎君の優しい言葉が振りかえされていく。

 

『お前には他の姉妹にはない才能を持ってるんだ。いつか、世間にも認められるさ』

 

『俺は・・・こいつの・・・こいつらの・・・パートナーだ』

 

『心配すんな。お前の友達はちゃんと見つけてやるから』

 

『一応お前には感謝してるんだ』

 

『最近じゃ、あいつの夢を支えてやりたいと考えている』

 

風太郎君がキンちゃんだろうとそうじゃなくても、関係なくなってきてる・・・。キンちゃんの時はこんな音、そんなに大きくなかったのに・・・。自分でも驚いてる・・・。この気持ち・・・絶対にあれだよ・・・。

 

『最高の、パートナー、だからな』

 

六海は・・・風太郎君に・・・恋しちゃってるよ・・・。さっきの言葉が頭から離れない・・・胸に響いちゃってる・・・。

 

「こんなの・・・ありえないよ・・・」

 

「何が・・・ぜぇ・・・ありえないって?」

 

六海が混乱してると、息が絶え絶えな風太郎君がやってきた。・・・え⁉風太郎君⁉

 

「ふ、風太郎君⁉」

 

「くそ・・・坂本め・・・変な勘違いしやがって・・・げほ・・・」

 

あ、坂本君から逃げてきたんだ・・・ご愁傷様・・・。

 

「「・・・・・・」」

 

き、気まずい・・・昨日の件もあるし・・・そして何より・・・

 

ドキッドキッドキ

 

さ、さっきから胸のドキドキが止まらない~!顔もほんのり熱くなってるのがわかるし・・・何て言えば・・・。

 

「六海」

 

「は、はい!」

 

「金太郎のこと、騙して悪かった」

 

風太郎君は六海に向かって誠心誠意を込めて頭を下げて謝罪してきた。

 

「本当はずっと前から言おうとは思っていたんだ。だが、ちょっと・・・話を逸らされてしまって、なかなか言い出せなかったんだ。これが言い訳だってことはわかってるつもりだ。だが・・・せめてこれだけでも、けじめはつけたかったんだ」

 

!けじめ・・・

 

「悪いことをしたのは百も承知だ。だがそれでも俺は・・・」

 

「待って!それ以上は言わないで!」

 

「だが・・・」

 

大丈夫だよ。風太郎君の気持ちは、もうわかってるから。

 

「キンちゃんのことはもういいの。それより・・・まともに風太郎君の話も聞かないで勘違いしたり、ビンタしたりもしたから、悪いのは六海の方だよ。だから・・・ごめん!!」

 

六海も風太郎君に向けて精いっぱい謝罪した。

 

「・・・お前が悪いわけじゃねぇんだから謝んなっての」

 

風太郎君は素っ気なくそう言って、六海を通り過ぎていっちゃ・・・

 

「・・・勉強会、今日は参加するんだろ?待ってるからな」

 

そう言って風太郎君はどっか行っちゃった・・・。やっぱり風太郎君は素っ気ないな・・・。でも・・・そんな風に見えてるだけで、温かい優しさがあったよ。六海は・・・その優しさに心を打たれたんだ・・・。

 

ダメ・・・この気持ちに嘘はつけない・・・。六海は、本当に風太郎君に恋しちゃったんだ・・・。

 

「・・・けじめをつけなきゃ、か・・・」

 

六海も、ちゃんとけじめ、つけておかないとね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ごめんね、急に呼び出したりして」

 

「い、いえ!問題ないっす!」

 

六海は、自分のけじめをちゃんとつけるために、坂本君を屋上に呼び出した。もうあの写真は使わない。誰かにも頼らない。そうでもしないときっと、前に進めないから。

 

「それで・・・呼び出したのは、告白のことっすよね・・・?」

 

「うん。坂本君の告白、うれしかったよ。人生で初めてだったから」

 

「そ、そっすか・・・」

 

「でも・・・ごめんなさい!!他に気になる男の子がいるの!!」

 

言った・・・言っちゃったよ・・・六海は坂本君に申し訳なさでいっぱいになりそうだった。でも、それでも・・・この気持ちに区切りはつけたい。

 

「・・・そっすか」

 

坂本君は少し寂しさを感じさせるような声を上げた。

 

「いや、何となくそんな気はしたんす。昼休みに上杉と話してたんすけど、あいつの想いを聞いたら、思い知らされたんす。俺じゃあんたに相応しくないって」

 

「ごめんね・・・」

 

「いや、いいんす。これで・・・気持ちの区切りがつけられそうなんで」

 

坂本君は清々しい笑みを浮かべて屋上を去っていった。これでよかったんだ・・・これで・・・。でも・・・まだだよ。まだけじめはつけれてない。六海はスマホを取り出して、これまで撮ったキンちゃんの写真を映し出す。

 

「・・・さようなら、六海の初恋・・・」

 

そして、キンちゃんの写真をまとめて消して、空っぽの状態にさせる。これでやっと・・・前に進められるような気がするよ。陽気な気分になってる六海は勉強会に参加するために図書館へと向かっていく。今の六海の頭の中では、六海を出迎えてくれる風太郎君の姿が思い浮かんでくる。

 

六海の初恋はここで終わって、ここから、六海の新しい恋が始まった・・・そんな気持ちが、六海をより頬を緩ませた。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖SIDE

 

六海が完全復活してから数日後、期末試験もあと1週間で始まる。私たちはフータローと一緒にその期末試験の対策のために図書室へ集まってる・・・んだけど・・・。

 

「だ、大丈夫?風太郎君?」

 

「なぜだ・・・なぜこうも集まらない・・・」

 

今ここにいるのは勉強会主催者のフータロー、それから私と一花と六海だけ。四葉は外せない用事で、二乃と五月は映画を見に行って出席すらしてない。

 

「ま、まぁ明日からが本番だからさ。まだノーカン、まだ何事もないって」

 

「元気出して、フータロー。明日は大丈夫だよ」

 

「だといいがな・・・」

 

私と一花でフータローを励ましてるけど、フータローは不安が残ってるみたい・・・。

 

「えっと・・・どうしよう?六海たちだけで始める?」

 

「うーん・・・確かに本番は明日だしな・・・今日ぐらいはいいか・・・。けど、自習は怠るなよ?」

 

「・・・そっか・・・」

 

なんか少し残念。もうちょっとフータローと一緒にいたかったのにな。

 

「・・・わあ!こんなところに2人分の美術館のチケットが!しかも六海の絵が展示されてるとこ!2人で行ってきなよ!」

 

「な、なんだよ、急に・・・」

 

急に一花がチケットを取り出して私とフータローに美術館を勧めてきた。突然何・・・?

 

「えー!2人だけなんてずるいよー!六海も美術館行きたーい!!」

 

「ごめんねー、チケットは2枚だけなんだー。六海は今度、お姉ちゃんと一緒に行こうか」

 

!六海もいるのに誘っていかないなんて・・・もしかして、一花はまだ気を使ってる?

 

「一花、ちょっと・・・」

 

「?」

 

私は少し一花を連れてフータローと六海に会話が聞こえないように一花と話す。

 

「無理して気を使わないで。言った通り、私の好きにするから」

 

「そ・・・そういうわけじゃないよー」

 

「・・・一花は・・・私とフータローが付き合ってもいいの?」

 

「!・・・・・・・・・も・・・もちろん。お祝いするよ」

 

・・・なんか間があった。やっぱり私に気を使ってる・・・。

 

「・・・後悔しないでね。私は・・・」

 

「一花」

 

私が言いたいこと言おうとした時、フータローが一花に声をかけてきた。

 

「すまん。ここもう行ったわ」

 

「・・・え?」

 

え?フータロー、美術館に行ってきたんだ・・・なんかすごい意外・・・

 

「なになにー?フータロー君って実は芸術に興味津々?」

 

「あれは四・・・人に誘われたからだ」

 

まぁ動機はフータローらしい理由。でも誘われたって誰から?やっぱり妹のらいはちゃんかな?

 

「て・・・てことは六海の描いた絵・・・見てくれたの・・・?」

 

「ああ・・・確か、不協和音からの覚醒だったか?絵に熱心なお前らしい作品だったぞ」

 

「そっか・・・そっか・・・!」

 

フータローが六海の絵を見てくれたことに六海は頬を緩ませてる。・・・なんか最近フータローといい雰囲気出してる。面白くない。

 

「ははは、そうなんだ。じゃあ私はこれで失礼するよー?」

 

「おい、ちょっと待て」

 

「え?」

 

一花がいち早く図書室から出ようとするとフータローが急に一花を止めてきた。

 

「本当に自習するのか?怪しすぎるな。やっぱり俺が勉強を教える。3人まとめてな」

 

「あ、ありがたいんだけど・・・今日はちょーーっと、用事があって・・・」

 

「嘘をつくんじゃない。俺は騙されないぞ」

 

?一花、今日って何か用事あったっけ?聞いてないけど・・・。

 

「本当だよ。事務所の社長の娘さんを面倒みる約束なんだ。だから・・・ね?」

 

「社長さんって・・・あ、もしかして、花火大会の時に六海と一花ちゃんを間違えた髭のおじさんのこと?」

 

「そう、その人が社長だよ」

 

え、あの人、娘さんとかいたんだ・・・ていうか、結婚、してたんだね・・・

 

「はあ?あのおっさんに娘だと?適当に誤魔化して勉強から逃げようたってそうはいくか」

 

「嘘じゃないってー」

 

「信じられん」

 

でもフータローは全く信じてもらえてない。

 

「よーし!そんな娘が本当にいるんなら俺の前に連れて来てみやがれ!」

 

♡♡♡♡♡♡

 

結論から言ってしまうと、本当にいた。今私たちの家には小さな女の子が熱心に絵を描いてる。なるほど、確かに雰囲気的にあの社長さんに似てる。名前は菊ちゃん。

 

「菊ちゃん、大人しくしててえらい」

 

「菊ちゃーん、何描いてるのー?」

 

「本当にいたんだ・・・」

 

「だから言ったじゃん」

 

まさか本当に娘さんがいたとは思わなかったフータローは呆然としてる。気持ちはわかる。

 

「なんか急な出張が入ったらしくてね、社長の代わりに私が面倒みることになったんだよね」

 

「あのおっさん結婚してたのかよ・・・」

 

それも気持ちはわかる。既婚者だとは想像してなかったし。

 

「て、そんなことはどうでもいいとして・・・とりあえず子供は静かにさせて今は勉強に集中・・・」

 

「おい、お前」

 

「!」

 

フータローが私たちに勉強を催促させようとすると、菊ちゃんが声をかけてきた。

 

「お前、アタシの遊び相手になれ」

 

「・・・・・・」

 

え、この子態度でかくない?別にいいけど・・・。

 

「・・・菊ちゃん遊ぼ・・・」

 

「子ども扱いすんな!」

 

フータローは人形遊びを進めてきたけど却下された。ていうかどっから持ってきたの?二乃のぬいぐるみ・・・

 

「人形遊びなんて時代遅れなんだよ。今の遊びのトレンドはおままごとだから」

 

うーん、いかにも子供らしい遊び。でもおままごとかぁ・・・懐かしいな・・・幼稚園の頃、よくおままごとしたっけ。確か、一花が理想の父親、五月が母親、私、二乃、六海はその娘役がよく当たったっけ。四葉はなぜか犬役に当たることが多かったっけ。ちなみに役決めはくじで決まってたのを覚えてる。

 

「お前、アタシのパパ役。アタシはアタシ役」

 

「え?何?その設定?どゆこと?」

 

どういう基準の設定かわからなかったけど・・・フータローがパパ役・・・

 

「あ、パパ役がフータローなら、ママ役は私がやる」

 

「うちにママはいない。ママは浮気相手と家を出ていった」

 

「あ、そこはリアルなんだ・・・」

 

「社長さん、かわいそうだよ・・・」

 

「あのおっさんのシリアスな過去なんて知りたくなかったぞ・・・」

 

そっか・・・あの人、奥さんに逃げられたんだ・・・通りで結婚してないって雰囲気が出てたんだ・・・。六海の言うとおり、ちょっとかわいそう・・・。

 

「ま、所詮は子供の戯れだ。俺が適当に相手してるからお前らは手を動かせ」

 

「むぅ・・・」

 

「あはは・・・フータロー君に相手が務まるかなぁ?」

 

「なんか不安だよねー」

 

「なんでだよ。バカにしやがって」

 

フータローの奥さん役、やりたかったのに・・・。菊ちゃんの設定にそれがないなんて・・・。

 

「えー・・・こほん・・・。菊、幼稚園で友達できたか?パパに聞かせてごらん」

 

「あいつらガキばっかだ」

 

「こらこら、お前もクソガキだろ?」

 

さっそく素が出てる気がする・・・本当に大丈夫?

 

「お勉強の方はどうなんだ?パパが教えてあげてもいいぞ?」

 

「断る。やっても意味がない。どうせすぐ忘れる」

 

うっ・・・否定できない・・・現に私たち、6科目中5科目赤点だし・・・。

 

「いけないぞ、菊。失敗を恐れてはいけない。何事もまずは挑戦だ。諦めずに続けることで報われる日が必ずくる。成功は、失敗の先にあるんだ」

 

フータロー・・・かっこいい・・・!

 

「きれいごとを」

 

あ、菊ちゃんには不評みたい。

 

「このクソガキめ」

 

「まぁまぁ」

 

「子供相手に大人げないよー、風太郎君」

 

「大丈夫。フータローはいいこと言ってたと思う」

 

フータローは菊ちゃんの言葉にこめかみをひくひくさせてる。大丈夫、今のはいいこと言ったと思うから。

 

「ガラガラガラ」

 

「「「?」」」

 

「へー、ここがパパの会社かー」

 

「あ、会社に来たんだ」

 

「子供が会社に来ていいの?」

 

「娘なんだし、いいんじゃない?」

 

ていうかもうおままごとの続き始めてるんだ。

 

「3人はここの事務員さん」

 

「え?」

 

「六海たちもやるの?」

 

「事務員さん?」

 

「そう。3人ともパパに惚れてる」

 

「「「!!」」」

 

事務員だけど・・・パパ役・・・フータローに惚れてる設定・・・そ、そういうことなら・・・。

 

「なんだそのわけわからん設定は?いいか菊、こいつらはそういう・・・」

 

「社長、いつになったらご飯連れてってくれるの?」

 

「お、おい・・・三玖・・・?」

 

「もう我慢できない。今夜行こう、今夜」

 

ママ役ではないけれど・・・案外この事務員役、悪くないかもしれない。

 

「ひどいです社長!む・・・私とご飯食べようって約束しましたのに!私と一緒に行きましょうよ!」

 

「六海までやるのか・・・」

 

「あ、六海、割り込み禁止」

 

六海もけっこうぐいぐい来てる・・・。でも、前にフータローとデートしてたし、六海には負けられない。

 

「菊ちゃん、新しいママ、欲しくない?」

 

「あー!菊ちゃんに迫ってるー!」

 

「あ、一花ずるい」

 

その手で来るとは・・・一花、侮れない・・・。

 

「菊ちゃんのママは六海がやるのー!」

 

「六海じゃ務まらない。私が適任」

 

「三玖こそちゃんとできるかなー?」

 

私たちはおままごとで小さな争いごとに発展してる。まぁ、遊びだしね。

 

「じゃあ3人とも、パパのどこが好きか言え」

 

「「「え・・・す・・・好きなところ・・・」」」

 

フータローの・・・好きなところ・・・言ってもいいのかな・・・?フータローは興味なさげだし・・・いい、かな・・・?

 

「えーっと・・・なんだろ・・・よくわかんないけど・・・ああ見えて男らしい一面があったり・・・て、何言ってるんだろ、私・・・」

 

「普段はいじわるな男の子なんだけど・・・ここぞって時に優しい言葉をかけてくれる。そんなところ、かな?」

 

「頭がいい。頼りになる。背も高い。かっこいい。他にもまだまだいっぱいある」

 

「・・・パパ、そんなに背が高い方じゃないんだけど。誰かと勘違いしてないか?」

 

・・・あ、そういえばこれ、おままごとの設定だった。私たち揃って勘違いしちゃった。

 

「そ、そうだった・・・社長のことだったね・・・」

 

「え?六海、社長さんはそんなに好きじゃ・・・」

 

「六海、それ以上いけない」

 

「んむっ!!?」

 

六海がなんか口走ろうとしたから両手で六海の口を封じる。

 

「もう、それで菊ちゃんが傷ついたらどうするの?」

 

「んー!んーー!!」

 

「菊ちゃんは3人のうちどっちがいいと思った?」

 

「アタシは・・・ママなんていらない」

 

「え?どうして?」

 

「だって寂しくないから。ママのせいでパパは大変だった。パパがいれば寂しくない」

 

そっか・・・そうだよね・・・奥さんが浮気相手と家を出ていってしまったらそうなっちゃうよね。トラウマなんだ・・・。でも、本当に寂しくないの?

 

「たく・・・十もいってねぇガキが無理すんな」

 

「わ!な、何をする!やめろ!」

 

フータローは菊ちゃんを励ますような手つきで頭をなでてる。

 

「お前みたいな年の女の子が母親がいなくなって寂しくないわけがない。かわいげもなく大人ぶってないで、ガキらしくわがまま言ってりゃいいんだよ。その方がかわいげがあるぞ」

 

菊ちゃんにかけるフータローの声は、優しさに溢れてた。ああ・・・きっとこういうところだ。自分ではわかってないだろうけど、人の気持ちに寄り添える温かさ・・・その優しさをフータローは持ってる・・・。私は・・・その温かい心に溶かされたんだ・・・。

 

「フータロー・・・

 

 

 

 

私と付き合おうよ」

 

 

 

 

「!」

 

「「!!!!」」

 

「・・・三玖、お前・・・」

 

・・・あ・・・。やっちゃった・・・つい勢い余ってフータローに告白しちゃった。

 

わー!バカバカ!もっと他にいい雰囲気で告白したかったのに!

 

「い、一花ちゃん!まさかとは思うけど三玖ちゃん・・・!」

 

「そ・・・それは・・・」

 

一花と六海がなんか話してるけどそれどころじゃない!

 

「付き合おうって、何言ってんだ?」

 

「えっと・・・これは・・・その・・・」

 

「そうじゃないだろ?」

 

・・・え?

 

 

 

 

「結婚しよう!」

 

 

 

 

「「!?!?!?!?!?」」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

 

「・・・けっ・・・こん・・・て・・・えええっ!!??」

 

わ、私とフータローが・・・け、け、け、結婚って・・・そんな・・・まだお付き合いしてないのに・・・!いや、うれしいけど・・・反応に困るっていうか・・・

 

「急に・・・そんな・・・突然すぎて・・・どうしたら・・・」

 

「・・・よし!よかったな、菊!これでママができたぞ!めでたいだろ?といってもままごとの中だけどな!」

 

・・・・・・え?おままごと・・・?

 

「ただいまー!・・・てっ、あれ⁉かわいい女の子だ!」

 

「あんたまでなんでうちにいるのよ?てかその子誰よ?」

 

私が呆けてる間に四葉、二乃、五月が帰ってきた。

 

「おう、こいつは一花の事務所の社長の娘の菊だ」

 

「わあ、かわいいですね。何してたんですか?」

 

「ままごとだ。今ちょうど三玖と再婚したところだ」

 

「本当に何してたんですか・・・」

 

「へー・・・いいなー・・・私も混ぜてください!ね?ね?」

 

「おう。いいだろ、菊?」

 

「・・・ん」

 

あ、四葉も参加させてあげるんだ・・・。

 

「わーい!やったー!で、何の役余ってます?」

 

「・・・よし。お前、うちの犬!」

 

「ワンちゃん⁉わんわんわん!」

 

四葉・・・ここでも犬役を強いられるのか・・・。

 

「そこの2人はおばあちゃん!」

 

「おば・・・⁉」

 

「あらー、アタシ達も入れてくれるのー?うれしいわー。・・・で?何の役だって?」

 

「お・・・おば・・・」

 

「聞こえなーい。聞きたくもなーい」

 

二乃と五月はおばあちゃん役・・・なんか新鮮な感じがする・・て、そんなことより・・・

 

「告白・・・不発・・・」

 

「焦ったー・・・」

 

「ほっ・・・」

 

でもまぁ・・・さっきの勢いで言っちゃったし・・・ノーカン、かな?

 

「あ、そうだ一花」

 

「?」

 

「今回は不発に終わったけど・・・私は本気だから」

 

「・・・みたいだね」

 

私の宣言に一花は苦笑いを浮かべてる。私にはわかる。一花はフータローに恋してる。それに多分・・・六海も。六海は私が言わなくても積極的だからあの子にはあえて言わないけど、一花にはこう言っとかないと。

 

「よろしくな、お袋」

 

「あんたの母親なんていやー!チェンジよチェンジ!」

 

「こっちにおいでよ、五月おばさん!」

 

「六海!その設定はおかしいですよ!というか誰がおばさんですか!」

 

「あははは!たーのしー!」

 

あっちはあっちでおままごとの続きをやってる。

 

「・・・なんでだろう?フータローを独り占めしたいはずなのに・・・こんな風に7人で一緒にいるのも・・・嫌いじゃないんだ」

 

「三玖・・・」

 

「変・・・かな・・・?」

 

「・・・うん。私もそう思う。このままみんなで楽しくいられたらいいね」

 

私たちは菊ちゃんが満足するまでめいいっぱい遊んでいった。やっぱり、この7人で一緒にいるのは楽しい・・・。今はまだ・・・この関係のままでいい、かな。この7人で楽しくいられたらって気持ちは同感できる。

 

・・・でも、その次の日・・・まさかあんなことになるなんて、この時の私はちっとも思わなかった・・・。

 

18「リビングルームの告白」

 

つづく




次回、五月視点

おまけ

学園の生徒紹介

真鍋恵理子

外見は茶髪のポニーテール。左目にほくろがついてる

イメージCV:ラブライブの園田海未

2年生。六海とは同じクラスメイトであり、友達であり、よき理解者。ソフトボール部に所属しており、よく練習してるが、深い愛情はない。サバサバしたような雰囲気だが、責任感は強い性格。
風太郎とは中学校の時の同級生であり、腐れ縁。ただし、風太郎は彼女をあまり覚えていない。
孤児院に住んでおり、子供たちの面倒をよく見ている。孤児院ではリーダー的存在。彼女の責任感が強い性格は子供たちと一緒に過ごしていくうちに自然とそうなっている。
ちなみに胸がAカップでかなり小さく、本人はとても気にしている。身体測定で自分と六海の胸の大きさを比べられ、静かに涙を流したそうな。
2000日の未来では坂本と結婚を約束している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

壮絶なる姉妹喧嘩

今週のマガジンでついに風太郎の特別な人が判明しましたね。バレバレだと思いますが、一応は名は伏せておきます。この六等分の花嫁ではどうなるのでしょうかね。あ、ちなみに私は一花ちゃん推しです。

さて、前回言った通り、番外編アンケートは今回で最後です。このアンケートの結果次第で、トップバッターが決まります。


「ちょっと五月!離しなさいってば!」

 

「だーめーでーすー!二乃もちゃんと来てくださいよー!」

 

期末試験が残り1週間を迎えた土曜日、今日から上杉君と1週間みっちりと期末対策に向けて勉強をしなくてはいけない・・・のですが、二乃だけが参加する気がなく、こうして逃げようとしてるところを私が引き留めています。変に暴れるので非常に苦労しています。そういえば・・・他のみんなは・・・

 

「わ・・・わ・・・来るよ・・・次キスシーン来るよ・・・!」

 

「はわわ・・・」

 

「ドキドキ・・・」

 

「ははは・・・みんなテレビで緊張しすぎだってー」

 

仲良くテレビを見ているじゃないですか!何やってるんですか!こっちは苦労しているというのにのんびりと!

 

「・・・あー!いいところで次回予告だー!」

 

「うぅ・・・こう区切られると続きが気になる・・・!」

 

「一花、女優のコネで続きとか・・・」

 

「こらこら、ネタバレ厳禁だよー。来週まで待とうねー」

 

「みんなテレビ見てないで二乃を止めるの手伝ってくださいよー!」

 

「は・な・し・な・さ・い~!」

 

私の一声でみんながこっちを向いてくれました。早く手伝ってください!1人では止めるのが限界があります!

 

「六海、ちょっと五月ちゃんを手伝ってあげて?勉強道具取らなきゃいけないから」

 

「えー!六海だって勉強道具取らなきゃだよ!三玖ちゃんが行ってきてよー!」

 

「なんで私?四葉、二乃止めてきて」

 

「うええ⁉私ぃ⁉」

 

「全員で来てくださいー!!」

 

こんなところで変なショートコントなんてしなくていいですから!私の説得でみんなしぶしぶといった様子で二乃を止めるのを手伝ってくれました。そんなに暴れる二乃と関わりたくないのですか?

 

「わかった!わかったわよ!逃げも隠れもしないから!」

 

みんなで止めた甲斐もあってようやく踏みとどまってくれました。ふぅ・・・やっとですか・・・。

 

「さて、と。全員揃ったし、そろそろ勉強の準備始めよっか」

 

一花の仕切りに合わせてみんな筆記用具と教科書を用意しました。一花と六海は勉強道具を取りに一旦部屋に戻っていきました。二乃だけがしぶしぶといった感じですが・・・私も教科書と筆記用具を出さなければ。

 

「それにしても・・・フータロー、遅い・・・」

 

いわれてみれば確かに・・・今の時刻はもうすでに上杉君が来てもおかしくない時間です。先ほどの二乃を引き留める場に居合わせなかったのが不幸中の幸いというべきなんでしょうが・・・10分以上もオーバーしているとは・・・。

 

「上杉君に何かあったのでしょうか?」

 

「でも上杉さん、今日ちゃんとピンポン押してたから来てるはずだよ」

 

「はっ、近くまで来てるのに来ないだなんて、家庭教師の身でいい度胸ね」

 

二乃だけ上杉君の当たりがきついですが、三玖と四葉は素直に上杉君を心配してくれていますね。

 

「私、もう少し上杉君を待ってみますね」

 

「わかった。じゃあ私たち、先に始めてるね」

 

上杉君は近くに来ているのだとわかっているのなら、もう少しだけ待ってみることにします。みんなは先に勉強を始めるようです。

 

それから5分か10分・・・未だに上杉君が来る気配はありませんでした。

 

「・・・遅いですね。今日は家庭教師の日である土曜日・・・なのに近くまで来ているのに未だに来ない・・・せっかくみんな集まっているのに何をしているんでしょう?」

 

あまりにも遅いので私はしびれを切らして玄関のドアを開けて、どこまで来ているか様子を・・・てっ!!

 

「う、上杉君!!?」

 

ドアを開けた瞬間、扉の前で上杉君が倒れていました!!な、なんですかこれ⁉いったいどういうことですか⁉

 

「ど、どうし・・・」

 

私は上杉君の安否を確かめるべく、彼の顔を見た瞬間、私は上杉君の異変に気が付きました。

 

「死・・・死んだように寝てる・・・」

 

上杉君は死んだ魚のような目をしながらぐっすりと眠っていました。というか目を開けて寝ている上杉君、怖いですよ⁉と、とにかく上杉君を起こさなければ・・・。

 

「上杉君!起きてください、上杉君!」

 

「・・・はっ!!こ、ここは・・・」

 

私が上杉君を揺さぶると、起きてくれました。目を開けて寝てたので目が覚めたといっていいのかわかりませんが。

 

「私たちの部屋の前ですよ。上杉君、ここで寝てたんですよ?」

 

「・・・あ・・・そうだった・・・かなりの睡魔が襲って、眠ってしまったんだった・・・」

 

私の説明で上杉君は全てを理解し、やってしまったといった顔つきになっています。

 

「またやってしまった・・・勉強に集中しすぎて気づいたら朝になってた・・・。もう少し時間に気を付けないと・・・いや・・・しかし朝勉は効果的と聞くし、一概に悪いとは言えないか・・・」

 

「悪いに決まってますよ。朝まで勉強することを朝勉とは言いませんから」

 

「そ、そうだよな・・・すまん・・・」

 

まったく、上杉君らしいといえばらしいですが・・・心配して損しましたよ。

 

「あなたがあまりにも遅いので、みんなで先に勉強、始めてますよ」

 

「お、おう・・・そうか・・・。そいつは頼もしいな。試験まで後1週間だ。テスト範囲を詰め込めるだけ詰め込めておきたい。そこで・・・これを用意してきたぜ!!」

 

上杉君が私に見せてきたものは・・・軽く20枚以上はある問題集でした。

 

「あの・・・上杉君・・・これは・・・」

 

「今回の範囲を全てカバーした想定問題集だ。人数分用意してきたので今日の課題が終わり次第始めてもらう。かなり多いが、こいつを一通りこなせば勝機は見えるはずだ」

 

え・・・ただでさえ課題もあるというに・・・さらにそこにこの問題集をやれというのですか・・・。な、なんて拷問に近い仕打ち・・・

 

「や、やっぱり今日の家庭教師の約束はなしでお願いします!お引き取りください!」

 

「こら!逃げようとすんじゃねぇ!予定通り勉強するぞ!お前がこれを引き取るんだよ!」

 

私は上杉君から逃げようとしましたが、すぐに捕まり、問題集の束を押し付けられてしまいました。

 

「・・・こんなにたくさん・・・」

 

大量にある問題集を見て、私はため息が出そうになりましたが、私はこの問題集をじっと見ると、とあることに気づいてしまいました。まさか・・・

 

「・・・呆れました。これが原因で徹夜してたんですか?」

 

「そ・・・そんなことどうでもいいだろ?ただ、お前たちだけにやらせてもフェアじゃないからな。家庭教師として、俺がお手本になんなきゃと思ってな・・・」

 

!お手本になるって・・・またずいぶんと懐かしい言葉が出てきましたね・・・。それが上杉君の口から出てくるとは思いもよりませんでしたが・・・

 

「つーか、誰か逃げ出さないうちに早く行こうぜ」

 

「は、はい。そうですね。また二乃を引き留めるのは骨が折れそうですから」

 

「あいつもう逃げようとしてたんだ・・・」

 

二乃が逃げようとしていた事実に上杉君は頭を抱えている様子がうかがえます。

 

「あいつ・・・ただでさえ姉妹たちより遅れてるってのに・・・一言お灸をすえてやらねばならんな」

 

「あ、あの・・・揉め事は勘弁してくださいね。時間は限られているんです。みんなで協力し合いましょう!」

 

「むむ・・・それもそうか・・・変に拗らせるのは俺も本意じゃない」

 

そんな話をしながら私と上杉君は皆が集まっているリビングへ向かいま・・・

 

「二乃、その手を放して」

 

「それはこっちのセリフよ!」

 

「・・・仲良く・・・ねぇ・・・」

 

リビングへ入るなり、ニ乃と三玖がいつものようにケンカをしている光景が広がっていました。その様子に一花、四葉、六海は参っている様子です。これじゃあ上杉君に偉そうなこと、何も言えませんね・・・。

 

「いい加減その手をどけなさい、三玖!」

 

「ニ乃の方こそ諦めて」

 

「はあ?あんたが諦めなさいよ!」

 

「諦めない」

 

喧嘩の様子から見て、ニ乃と三玖は何かを取り合っているようですが・・・何が原因でけんかを・・・?

 

「あ・・・あのー、お2人さん?何やってんの?」

 

2人の様子を見かねた上杉君が喧嘩の原因を尋ねてきました。

 

「三玖がテレビのリモコンを渡さないのよ。今やってるバラエティにお気にの俳優が出てるっていうのに」

 

「だって、この時間はドキュメンタリー。今回の特集は見逃せないから」

 

さ、さっきまでテレビを見ていたのに、またテレビですか・・・。そんな細かいことでけんかなんて、2人らしいですが・・・今はやめてほしいです。

 

「ねぇ、フータロー。どっちの番組・・・」

 

「はーい、勉強中は消しまーす」

 

上杉君はリモコンを取り上げてテレビの電源を消しました。

 

「あ・・・特集・・・」しゅんっ・・・

 

「ちょっと!何すんのよ!」

 

三玖はちょっと悲し気な反応、二乃は上杉君に抗議をしようとしてきました。

 

「お前らなぁ・・・そんなに見たいなら録画でもしとけよ。ビデオくらいあんだろ?」

 

「フータローがそう言うなら・・・そうする・・・」

 

「ちっ・・・!」

 

正論を言われ、三玖と二乃は喧嘩をやめてくれました。ほっ・・・ひとまずは安心ですね。

 

「上杉さん~、助かりました~。ありがとうございます!」

 

「・・・なぁ、お前ら。前から思っていたんだが、二乃と三玖、仲が悪いのか?」

 

「う~ん・・・どうなんだろうね?一言で言うと、犬猿の仲?っていうのかな?」

 

「うん。そうだね。特に二乃。あんな風に見えてあの子が1番繊細だから、衝突も多いんだよね」

 

言われてみれば確かに・・・三玖の細かいことにも突っかかりますし、林間学校では六海と喧嘩していましたからね・・・。

 

「はーい、フータロー君も来たし、勉強再開するよー」

 

一花の合図でみんな勉強再開の準備を進めていますね。おっと、私も早く準備しなくては。

 

「それじゃあ、フータロー君。これから1週間、私たちのことをお願い致します」

 

「ああ。リベンジマッチだ!」

 

中間試験のようにはいきません。汚名返上できるように、がんばらないといけませんね。私も、姉妹みんなも。

 

♡♡♡♡♡♡

 

こうして家庭教師の日で姉妹全員が揃うのはこれが初めてかもしれませんね。私たちは上杉君に苦手な個所を見てもらいながら勉強を進めて・・・いるのですが・・・。

 

「「・・・・・・」」

 

二乃と三玖との間がすごく険悪なムードが出ています・・・。あんな些細なことですぐに喧嘩するのですから・・・何が起こるのか想像もつきませんよ・・・。

 

「・・・二乃と三玖以外、全員よく聞いてくれ」

 

その様子を見かねた上杉君が2人に聞こえないように声をかけてきました。

 

「こうして全員集まったのはいい。だが新たな問題発生だ」

 

「・・・二乃と三玖、ですね?」

 

「ああ。もしあいつらが仲違いでもしてみろ。目標達成が一気に遠のいてしまう・・・中間試験のリベンジも夢のまた夢になってしまう」

 

確かに・・・ただでさえあの2人は・・・

 

「ちょっと、それ私の消しゴムよ。返しなさいよ」

 

「借りただけ。すぐ返す」

 

「・・・ふん」

 

「あ、私のジュース飲まないで」

 

「借りただけよ・・・てまずーー!!」

 

あの様子ですからね・・・。そして二乃、ジュースを飲む=借りるというのはないですよ。

 

「・・・そういうわけだ。アイディア募集中だ。何とかならないか?」

 

「はい!六海と四葉ちゃんにいい考えがあるよ!ね?」

 

「うん!きっとうまくいくこと間違いなしです!」

 

2人が仲違いしないようなアイディアを六海と四葉が1つ上杉君に提供しました。そのアイディアが・・・

 

みんな仲良し作戦 by四葉&六海

 

「2人とも慣れない勉強できっとむかむかしてるだけなんだよ」

 

「ですから上杉さんがいい気分に乗せてあげたら喧嘩も収まるはずですよ」

 

いかにも四葉と六海らしいアイディアですが・・・うまくいくのでしょうか・・・。

 

「うーむ・・・三玖はともかく・・・二乃にこの作戦は効くのだろうか・・・。まぁ、やってみるが・・・」

 

上杉君も不安が残っているようですが、作戦決行のために二乃と三玖に近づいていきますね。

 

「はっはっは。いやー、いいねぇ。2人とも素晴らしい!」

 

「え?フータロー?」

 

「何よ、急に・・・」

 

いきなり褒められているので三玖は戸惑い、二乃は怪訝な顔をしてますね。

 

「二乃も三玖もいい感じに進んでるね。何というかすごくいい」

 

・・・んん?なんだかほめ方が怪しくなってきましたね・・・

 

「しっかりしてて・・・健康的で・・・いいね・・・うーん・・・とにかくえらい!!」

 

「「褒めるの下手くそーーー!!!」」

 

何となく予想はできていましたが・・・ここまで褒めるのが下手な人は初めてですよ。

 

「急にどうしたの?フータロー・・・」

 

「本当、気持ち悪いわね」

 

「むっ・・・そんなことない。気持ち悪くはないから」

 

「本当のこと言っただけでしょ?」

 

「それは言いすぎ。取り消して」

 

「あっれー?てことはあんたも少しはそう思ったんじゃない?」

 

「思ってない。フータローはかっこいい」

 

「はあ?どこがよ?」

 

「・・・・・・」

 

仲良くさせるどころか二乃の一言でまたけんかが始まってしまいましたね・・・。

 

「・・・作戦失敗。次の提案挙手」

 

「じゃあ次はお姉さんが。こんなのはどうかな?」

 

一花が出したアイディアは・・・

 

第3勢力作戦 by一花

 

「あえて厳しく当たることでヘイトがフータロー君へ向くはずだよ。共通の敵が現れたら2人の結束力が高まるはずだよ」

 

なるほど・・・あえてアンチ・ヘイトを作り上げてその矛先をそれに向け、協力して倒す、みたいな展開というわけですね。そしてその役が言わずとも上杉君ですね。こういうのは得意分野でしょうし。

 

「う~ん・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

でも上杉君は何か渋ったような声を出してますね。何か不満でもあるのでしょうか?

 

「一応それなりに頑張ってるあいつらに強く言うのは心が痛む・・・」

 

「あなたに人の心、それも良心があったのですね・・・」

 

まさか上杉君に良心があったなんて誰が想像できたでしょうか?少なくとも私は想像できませんでした。

 

「まぁ・・・とりあえずはやるだけやってみるが・・・」

 

上杉君は作戦決行のために再び二乃と三玖に近づきます。

 

「おいおいおい!まだそれだけしか課題終わってねーのかよ!」

 

「「!!」」

 

「といっても半人前のお前らは課題を終わらせるだけじゃ足りないけどなぁ!!あ!違ったか!半人前じゃなくて6分の1人前かぁ!!ふははははははは!!」

 

「あれ⁉フータロー君、なんか生き生きしてない⁉」

 

良心があるとは到底思えないほどに生き生きしてますね。やっぱりこの人に良心なんてあるわけないです。

 

「あんたに言われずとももうすぐ課題が終わるところよ。ほら」

 

「ほう・・・・・・ん?そこ、今回のテスト範囲じゃないぞ」

 

「え⁉あれぇ⁉やっば・・・」

 

二乃は今回のテスト範囲とは別のところをやっていたところに動揺していますね。

 

「二乃。やるなら真面目にやって」

 

「・・・っ!こんな退屈なこと、真面目にやってられないわ!自分の部屋でやってるからほっといて!」

 

「お、おい二乃!」

 

三玖に言われて気が障ったのか二乃は自分の部屋へ戻ろうと移動を始めました。

 

「はあ・・・せっかく作ったのに・・・問題集がワンセット無駄になっちまった・・・」

 

「「!!??」」

 

「弱気にならないでください。お手本になるのでしょう?頼りにしてますよ」

 

「・・・だな。もうちっと粘るか」

 

私の励ましが効いたのか上杉君は二乃を呼び止めようと動きます。

 

「待てよ二乃。始めてまだ5分も経ってねぇ。もう少しだけでも残れよ」

 

「・・・・・・」

 

「お前だってあいつらと喧嘩するのは本意じゃないだろ?ただでさえお前は出遅れてるんだ。他の5人にしっかり追いつこうぜ」

 

「・・・さい」

 

「ん?」

 

「うるさいわね!!アタシ達のこと、何も知らないくせに!!」

 

「に、二乃ちゃん・・・?」

 

「あんたにとやかく言われる筋合いはこれっぽっちもないわ!!あんたなんかただの雇われ教師!!部外者よ!!!」

 

上杉君に言われて癪に障ったのか、今までの我慢が限界が来たのか二乃は大きな声を上げました。すると三玖は上杉君が作った問題集を持って、二乃に渡してきました。

 

「これ、フータローが私たちのために作ってくれた。受け取って」

 

「・・・問題集作ったくらいでなんだっていうのよ。そんなもの・・・いらないわよ!」

 

バシィッ!

 

バサッバサッバサッ・・・

 

二乃は三玖の手を払い、持っていた問題集が三玖たちの周りに散らばりました。

 

「ね、ねぇ・・・一旦落ち着こうよ。ね?」

 

「そうだ・・・お前ら・・・」

 

「・・・二乃。問題集、拾って」

 

「こんな紙切れに騙されてんじゃないわよ・・・今日だって遅刻してたじゃない。こんなもんなんか渡して・・・いい加減すぎるのよ!!こんなので教えてるつもりなら大間違いだわ!!!」

 

ビリリリィッ!!

 

「!・・・二乃!いい加減に・・・!」

 

「三玖!俺のことはいいから・・・」

 

パチンッ!!

 

「「「「「!!!???」」」」」

 

「・・・二乃・・・上杉君に謝ってください」

 

もう我慢の限界です。今まで通り突っぱねるくらいならまだ我慢はできました。ですが・・・上杉君の頑張りを踏みにじるように用紙を破った行為にはさすがに見過ごすことはできません。私は・・・二乃を叱るように頬に1発平手打ちをしました。

 

パチンッ!!

 

ですが二乃もやり返しと言わんばかりに私に平手打ちをしてきました。

 

「五月・・・!急に何を・・・!」

 

「・・・この問題集は上杉君が私たちのために作ってくれたものです。決して粗末に扱っていいものではありません」

 

「五月・・・」

 

「二乃・・・上杉君に謝罪を」

 

「あんた・・・!いつの間にこいつの味方になったのよ・・・!」

 

私が上杉君に味方しているのが面白くないのか、二乃は歯ぎしりしています。

 

「・・・はっ!まんまとこいつの口車に乗せられたわけね。そんなただの紙切れで熱くなっちゃってさ・・・バッカみたい!!」

 

・・・私は今の二乃にたいして本当にあきれています。これがただの紙切れ?そうでないことくらい、この用紙を見ればわかるというのに。

 

「ただの紙切れじゃない。ちゃんとよく見て」

 

「はあ?」

 

「待て!二乃の言うとおりだ!俺が甘かっただけで・・・」

 

「あなたは黙っててください」

 

私は上杉君の言い分を黙らせて話を戻させます。

 

「彼はプリンターもコピー機も持っていません。かといってコンビニでコピーを使うほどお金も持ち合わせてません」

 

「何が言いたいのよ・・・」

 

「まだ気が付かないのですか?本当にあきれました。これは・・・全部手書きなんです」

 

上杉君が今日遅刻した理由・・・それはこの問題集を人数分手書きで作っていたから。私たちのためにここまで頑張ってくれているんです。だからこそ、二乃のあの行為は許せなかったのです。

 

「!!・・・だ・・・だから何だっていうのよ・・・!」

 

「上杉君がここまで頑張ってるんです!私たちも真剣に取り組むべきです!!上杉君に負けないように!!」

 

私は今の気持ちを二乃に本気でぶつけていきます。

 

「・・・アタシだって・・・」

 

「二乃・・・」

 

「ま、まぁまぁ・・・」

 

「お、落ち着こうよ・・・」

 

一花たちはこの様子を見かねて仲裁に入ろうとしていますね。

 

「二乃。いい加減受け入れて」

 

「・・・わかったわよ。あんたたちはアタシよりこいつを選ぶってわけね・・・」

 

二乃は顔を俯かせ、手を強く握りしめ・・・

 

「いいわ・・・出ていってやるわよ!!こんな家!!」

 

「なっ・・・!」

 

「「「「「えっ・・・!」」」」」

 

今、二乃は何と・・・?この家から出ていく⁉

 

「ま、待て二乃!早まるんじゃない!冷静になれ!」

 

「そうです!そんなことしたって、誰も得なんてしません!」

 

「得かどうかなんて関係ないわ。それに、前々から考えていたことよ。この家はアタシを腐らせる」

 

二乃は決意が固いのか何を言っても聞き入れてくれません。ですが・・・諦めません!何としてでも止めないと・・・

 

「に、二乃!こんなのお母さんが喜びません!悲しんでしまいます!やめましょうよ!」

 

「お母さんって・・・あんたのそういうとこ、うざったいのよ!未練がましく母親の代わりを演じちゃってさ!いい加減にやめなさいよ!」

 

!!未練がましく・・・母親を・・・。わ、私はそんなつもりでやっているわけでは・・・。ただ・・・みんなをまとめたいだけで・・・

 

「い、五月ちゃん!二乃ちゃんは本気で言ってるわけじゃないから!」

 

「そ、そうだよ!二乃、早まらないで!」

 

「いったん話し合おうよ。ね?」

 

「話し合いですって?先に手を上げてきたのはあっちよ。あんなドメスティックバイオレンス肉まんおばけとは一緒にいられないわ!!」

 

「!!!???ド・・・ドメ・・・肉・・・!!」

 

だ、誰がドメ肉ですか!!体重だって私たちで六等分!平等なはずです!もうカチンときました!二乃が反省しないのなら、こっちにだって考えがあります!

 

「そんなにお邪魔なようなら私が出ていきます!!」

 

「あっそ!!勝手にすれば!!」

 

「もー!何でそうなるのー⁉」

 

「三玖ちゃーん!風太郎くーん!ヘルプー!!」

 

「お、俺はどうすれば・・・」

 

その後は私と二乃は家を出ていこうとしましたが、一花たちに説得されて、今はこの場を治めることができましたが・・・もう勉強会どころではないかもしれません。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・じゃあ、まぁ・・・今日はもう・・・帰るが・・・その・・・仲良くな?」

 

「ははは・・・今日はごめんねー」

 

「本当にすみませんでした・・・」

 

今日の家庭教師の時間が終了となり、私たちは上杉君を玄関まで見送りをしています。当然といいますか・・・二乃はこの場にはいません。

 

「えーっと・・・じゃあ、戻ろっか?」

 

「う、うん・・・」

 

上杉君がエレベーターに乗ったのを確認した後、私たちはリビングルームへ戻っていきます。リビングルームには二乃がつまらなさそうな様子でいました。

 

「・・・みんなで見送りなんて・・・よっぽどあいつに毒されたってわけね」

 

「!二乃・・・いい加減にしてください!」

 

まだ反省していない様子・・・もう私は怒りで頭がパンクしてしまいそうですよ。

 

「言っておくけど、家を出ていくっての、マジだから。後はそっちで勝手にやりなさいよ。アタシには関係ないから」

 

またそんなことを言って・・・!

 

「だ、だからダメだってばー!」

 

「ですから!お邪魔でしたら私が出ていくって言ってるじゃないですか!二乃だってそう望んでるんでしょ!」

 

「それで思いとどまるとでも?大きな間違いなのよ!」

 

「に、二乃も五月ちゃんも落ち着いて・・・」

 

「そ、そうだよ!2人とも、考え直して!」

 

「こんなの誰も望んでない」

 

「さっきも言ったけど前から決めてたことよ。止めたって無駄だから」

 

六海たちが私たちを止めているようですが、だんだんとエスカレートしていきます。

 

「大体あんたのことは前からムカつくと思ってたのよ!お母さんの代わりになる?寝言は寝て言いなさいよ!!」

 

「・・・っ!だったら二乃はみんなをまとめることができたんですか!!」

 

「その質問、そっくりそのまま返してやるわよ!あんたに何ができるってのよ!」

 

「何が言いたいんですか!」

 

「本当に母親代わりができたなら、六海をどうにかできたんじゃないかってことよ!」

 

なっ・・・!二乃、中学校のことを引き合いに・・・!六海の顔をもそれを聞いて顔を俯かせてます。

 

「この子が変わったのは中学入学後のすぐ後よ!今でこそ柔らかくなったけど、どうにかできたのはあんたじゃなくて赤の他人!これをどう説明するつもりかしら!」

 

「す、少しやんちゃをしただけじゃないですか!それに、中学校のことは関係ないじゃないですか!!」

 

「六海だけの話じゃないわよ!!四葉の様子がおかしかったの、あんた気付いてたでしょ!!」

 

「だからあの頃は関係ないって言ってるじゃないですか!!」

 

ああ言えばこう言う!ニ乃が今日ほど面倒だと感じたのは初めてですよ!

 

「「・・・・・・」」

 

「気にしない方がいいよ」

 

「ニ乃だって本気で言ってるわけじゃないし、もう済んだことだから・・・ね?」

 

「「うん・・・」」

 

あの頃に迷惑をかけたと感じているのか四葉と六海の顔色が暗いです。誰も迷惑とは思ってませんのに。

 

「ふん!話にならないわね!ていうか、こんなドメ肉と話しすら時間の無駄ね!」

 

「だ、誰がドメ肉ですか!!よっぽど私のことがお邪魔のようですね!いいですよ!出ていってやりますよ!ええ、出てってやりますとも!!」

 

「あっ!ちょっと!五月ちゃん⁉」

 

あまりに反省の素振りがない二乃にたいして私は我慢できず、この家を飛び出してしまいました。一花たちが止めるような声が聞こえてきましたが、それよりも感情の方が勝ってしまい、気にすることなく家を飛び出しました。これが私にとって人生初の家出というべきなんでしょうね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

家を飛び出した後、私は公園の遊具であるトンネルの中で1人でしんみりとしています。

 

今にして考えれば、なぜ家を飛び出してしまったのでしょう。私はただ、二乃に反省してもらいたかっただけですのに。これじゃあ逆に私がみんなの心配をかけてしまっていますよね・・・。・・・やはりこんなことはダメですよね。早くみんなに連絡しなければ。そう思って私はスマホのラインを立ち上げてみますと、すでにみんなからメッセージが届いていますね。

 

〈二乃も五月ちゃんもどこにいるの?〉

 

〈心配だから早く帰ってきて!!!〉

 

〈今喧嘩してる場合じゃないでしょ⁉〉

 

〈仲直りして〉

 

うぅ・・・やっぱりみんなに心配かけられてますね・・・早いところみんなに連絡を・・・と思っていたら先に二乃から連絡が来ましたね。

 

〈嫌よ。二度と連絡してこないで〉

 

二乃・・・結局家を出たのですか・・・。少しは反省するかと思えば、全然そんな気配ないじゃないです。・・・気が変わりました。二乃が反省するまで私は一切帰りません。時間が立てば自分が悪いと自覚するはずです。ただ、それまでみんなには迷惑をかけてるので申し訳ない気分になります。一応は連絡しないとですね。

 

〈私も断固帰るつもりはありません。4人には心配かけて申し訳ありませんが、二乃がこの件を反省しない限り、戻るつもりはないです〉

 

ふぅ・・・さて、これでいいとして・・・今日の寝泊まりする場所はどうしましょう・・・。誰かの家に突然押し掛けるのも申し訳ないですし・・・無難にどこかのホテルに泊まるほかないですね。そう思ってトンネルから出ようとした時、ふと思い出してしまいました。

 

「あ・・・財布が・・・」

 

そう、財布を家に忘れてきてしまいました。ど、どうしましょう・・・ホテルに泊まるにしたってお金は入ります。どこかでご飯を食べる時だって、家で食べるわけではないのでお金が必要・・・かといって今家に戻るわけには・・・

 

くぅー・・・・

 

「お、お腹がすきましたぁ・・・」

 

空腹でお腹が鳴ってしまいました・・・何か食べたいですぅ・・・でもお金もないし・・・どうすれば・・・

 

「ぐすんっ・・・ぐすんっ・・・」

 

私が困り果てながらトンネルを出ますと、ベンチに座って1人で泣いている女の子がいました。この子、迷子でしょうか?とにかくこれは放っておくわけにはいきませんね。

 

「どうかしましたか?どうして泣いているのですか?」

 

「・・・純君と喧嘩したぁ。お前なんか・・・大嫌いって・・・」

 

あらら・・・この子は迷子ではなくお友達と喧嘩をして泣いていたようですね。

 

「もうやだぁ・・・純君が一緒にいるくらいなら家出するぅ・・・」

 

一緒にいる、ということは姉弟かなにかでしょうか?その子によほど嫌なことを言われたのか家出をすると言い出しました。家出をした私が言うことではないと思いますが・・・嫌なことを言われたから家を出るのは違うと思います。

 

「そんなこと言わないでください。お家の人たちが心配しますよ?」

 

「お父さん・・・お母さんと離婚してどっか行っちゃった・・・お母さんも重い病気にかかって死んじゃった・・・」

 

「す、すみません・・・無神経なことを・・・」

 

こ、この子・・・思っていたより相当つらい出来事を経験したのですね・・・。

 

「だから純君たちと一緒に住んでるの。お姉ちゃんたちが言ってた。痛みも辛さもみんなと一緒に分かち合って、協力し合えば、何でも乗り越えられるって。でもお姉ちゃんは噓つき!」

 

「どうしてそう思うのですか?」

 

「だって喧嘩したから!こんな辛さなんて分かり合えなかったから!もうなにも信じられない!皆大嫌い!」

 

どうやらこの子はお姉さんの言っていたことと純君という子とのケンカでいろいろ矛盾を感じてしまって拗ねているようですね。

 

「そうですか・・・。でも、私はあなたの気持ち、わかりますよ。私も、同じですから」

 

「お姉ちゃん・・・も・・・?」

 

「ええ。私には姉がいるのですが、今その姉と喧嘩してしまいまして・・・姉が反省するまで家出中なんですよ。まぁ、その姉も家出中なんですが」

 

「お姉ちゃんも・・・家出・・・?」

 

「私の気に障るようなこと言ってきましたよ。ええ、言ってきましたとも!ドメ肉なんて言われて辛かったですとも!」

 

「ドメ・・・?」

 

「ですが・・・家出した私が言うのもなんですが・・・いつか仲直りできる信じたいです。ただの綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが・・・」

 

「・・・どうして信じたいって思えるの?あたちはそんなこと考えたこともないのに・・・」

 

私の言葉に疑問を抱くこの子はそう言いながら大きく首をかしげます。

 

「生きていくうえで、誰もが通る道だからです。今回のことと限らず、私たち姉妹はたくさんケンカしました。そしてその度に、何回も仲直りしてきました。その時に、いつも思うんです。私たちの繋がりは決して切れないと」

 

「!!」

 

「だから何が起きようともいつかわかりあえる、私たち姉妹の絆は決して折れないと」

 

それがこれまで生きてきて私が感じてきている全ての思いです。

 

「・・・と、思っているんですが・・・今回は事が事ですので今はそう言いきれる自信がなくなっています・・・。というか、家出してる時点で説得力ありませんよね・・・」

 

この子を励ますつもりが、逆に私が落ち込んでしまいそうです・・・。昔はいろいろありましたからつい・・・。こんなことではこの子を励ますなんて・・・

 

「・・・たい」

 

「え?何です?」

 

「お姉ちゃんの話、もっと聞きたい!聞かせて!」

 

これは・・・好感を持ってくれたのでしょうか?それとも同情したのでしょうか?よくわかりませんが・・・この子がせめて家出をしないでくれるなら話をしましょう。私はこれまでの経験談をこの子に話してあげました。

 

「そっか・・・お姉ちゃんのお姉ちゃんと妹ちゃんでいろいろ苦労してたんだ」

 

「ええ、まぁ、一応は・・・」

 

今思い返せば、あの頃は本当に大変なことばかりでした。

 

「それなのにあたち・・・たった1回のケンカくらいで・・・ムキになっちゃって・・・」

 

この子は私の話で思うところがあったのか顔を俯かせています。

 

「・・・あたち、やっぱり家出したくない。純君と仲直りしたい。でも・・・あたちにできるかなぁ・・・」

 

「・・・大丈夫ですよ。その思いがあれば、純君だってわかってくれます」

 

「本当?本当に本当?」

 

「ええ。と言っても、私が言っても信じられないですよね・・・」

 

「ううん、信じる!お姉ちゃんも、お姉ちゃんと仲直りできるといいね!」

 

家出した身で元気付けられるか不安でしたが、元気になってよかったです。家出も思い直してもくれて本当によかった・・・。

 

「あ!そういえば、お姉ちゃんどこかで見たことある顔だと思ったら、この間うちに来たお姉ちゃんと同じ顔だー!」

 

「え?」

 

この間、うちに来た人と同じ顔?それってまさか・・・

 

「「千尋ー!千尋ー!」」

 

「千尋ちゃ~ん、どこにいるの~?」

 

「くそ!見つからねぇ!」

 

「あ!お姉ちゃんたちだ!」

 

何やら名前を呼ぶ声が聞こえてきたのでそこを振り向いてみますと、私たちの同学年の男女がいました。この子がお姉ちゃんと呼んだということは、あの人たちはこの子を心配して探しに来たようですね。名前は千尋ちゃんですか。かわいらしい名前です。

 

「さ、行って来てください」

 

「うん!」

 

千尋ちゃんはすぐに探しに来た人たちの元へと走っていきます。

 

「お姉ちゃーん!お兄ちゃーん!」

 

「!千尋ー!!」

 

千尋ちゃんとあの人たちは走ってきてお互い抱き着いてきました。

 

「よかった~。本当によかったよ~」

 

「たく!心配かけやがって!」

 

「ごめんなさーい!」

 

「謝る相手が違うでしょ?ほら、純君。行きなよ」

 

「う、うん・・・」

 

お兄さんの方を見てみますと、小さな男の子が隠れていましたね。どうやらこの子が純君のようですね。

 

「純君、ごめんなさい!ひどいこと言って!」

 

「お、俺こそ・・・ごめん。な・・・仲直り・・・してもいいか?」

 

「うん・・・うん・・・!もちろん!仲直りしよう!」

 

千尋ちゃんと純君は仲直りの印にお互いに抱き合っています。よかった・・・ちゃんと仲直りできて・・・。私も・・・できるといいんですが・・・。

 

「中野さん?」

 

「あ・・・えっと・・・あなたは確か六海の・・・」

 

「真鍋よ。真鍋恵理子」

 

男女の中には六海の友達の真鍋さんまでいました。え・・・千尋ちゃんが言っていたお姉さんって・・・

 

「もしかして、一緒に住んでるお姉さんって・・・」

 

「そう!この人達が私が住んでる孤児院のお姉ちゃんとお兄ちゃん!」

 

孤児院ですって⁉そ、そういえば六海はそんなこと言ってましたっけ・・・。純君と一緒に住んでるってそういうことでしたか!

 

「中野さんが千尋を見つけてくれたの?」

 

「え?あ、はい」

 

「・・・どうやら千尋が世話になったみたいね。孤児院生代表として、感謝するわ。ありがとう」

 

「「「ありがとうございます!」」」

 

「い、いえそんな・・・」

 

真鍋さんは同学年の男女と一緒に私に向かって感謝の言葉とお辞儀をしてきました。

 

「何かお礼がしたいわね・・・。春、バイトで余ったケーキもらってたでしょ?中野さんに渡してあげて」

 

「相変わらずだね、恵理子ちゃんのそういうとこ」

 

「え~?でもこれ、子供たちのためのデザートなんだけど・・・」

 

「いや、ここで渋るんじゃねぇよ・・・」

 

「あ、あの・・・お気遣いなく・・・」

 

くぅー・・・

 

ううぅ・・・この人たちの気遣いを丁重に断ろうとしたらお腹が鳴ってしまいましたぁ・・・。ほ、本当はそのケーキ、喉から手が出るほどに欲しいです・・・。

 

「姉ちゃんたちがもめてるぞ!どうする?」

 

「あ!だったらお姉ちゃん!このお姉ちゃん、家出中なの!お礼ならうちに泊めてあげて!」

 

「え?」

 

「「は?」」

 

「あら~」

 

「・・・じ、実はですね・・・」

 

千尋ちゃんの言葉で怪訝な顔をしている真鍋さんたちにこれまでの事情を説明しますと、真鍋さんははぁとため息をつかれました。

 

「あんたら六つ子はなんでこう・・・家出癖があるのかしら・・・」

 

「恵理子が疲れ顔になってやがる⁉」

 

「ま、まぁいいんじゃないかな?泊めてあげても?」

 

「中野さん、辛かったね~。今日はうちに泊まっていいからね~」

 

「あ、ありがとう・・・ございます・・・?」

 

のんびりとした女性が私をあやすように声をかけてきました。同い年・・・ですよね・・・?

 

「・・・まぁ、中野さんは千尋の恩人だし・・・泊めてあげてもいいけど・・・六海に連絡は入れさせてもらうわよ?」

 

「うぅ・・・わかりましたぁ・・・」

 

まぁ、そうなりますよね・・・。六海がここに来ると絶対に家に連れ戻しに来ますから連絡は入れてほしくないのですが・・・もう遅い時間ですし、来るといっても明日になるでしょう。なら、渋々ながら了承するしかありません・・・。

 

「よし。じゃあ帰りましょうか。中野さん、案内するからついてきて」

 

「は、はい」

 

「千尋ちゃん、純君、一緒に帰りましょうね~」

 

「「はーい!」」

 

これからのことを考えると不安ですが・・・とにかく今日の分の寝泊まりは確保できました。でも、明日六海が迎えに来るのなら・・・この先の寝泊まりについても考えないといけませんね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日の寝泊まり先の孤児院に入るなり、中にいた子供たちはみんな千尋ちゃんと純君の仲直りをお祝いしていました。私はここの院長さんにご挨拶しましたが、とてもいい人で安心しました。その後は子供たちと一緒に過ごしたりもしましたね。その間、真鍋さんは本当に六海に連絡を入れてしまったようです。明日には迎えに行く、と言っていましたが・・・私は二乃が反省するまで絶対に家に帰りませんよ!

 

とまぁ、今現在はみんな揃ってのごはんの時間ですが・・・

 

「おかわり!」

 

「おかわりください!」

 

「中野さん、あんたは自重して!今何杯目だと思ってんの⁉」

 

やはりご飯を食べられるというのは最高です!確かに人様の家でご飯を何杯も食べるのは気が引けますが・・・この食欲には逆らえないんです!ごめんなさい!

 

「は~い。中野さん、い~っぱい食べてね~」

 

「春!あんたもちょっとは止めなさいよ!はぁ・・・孤児の経済費が食費に潰えていく・・・」

 

春、さん?苗字はわかりませんが、この人は真鍋さんのように食費のことは気にせず、私にご飯を山盛りに盛ってくれました。

 

「皆食べ盛りだもん。食べれるうちはし~っかり、食べないとね~」

 

・・・真鍋さんは同い年って言ってましたけど、本当にこの人同い年でしょうか?実は年上、なんてことはないですよね?

 

・・・それにしても・・・

 

「慌てないで。ゆっくり飲んでね」

 

「だぅ~」

 

「あ!それ俺の肉!」

 

「いーや、僕のお肉だ!」

 

「だー!俺のくれてやるからケンカすんな!」

 

「はい、千尋ちゃんも、どーぞ♪」

 

「ありがとー!」

 

「院長、経済費なんだけど・・・」

 

「それは後で聞きます。今は食事を楽しみましょう」

 

生まれもここに来るまでの経緯は全員違いますけれど・・・それでも皆、本当の家族のような暖かさが感じられます。その姿は、私たち姉妹との絆と似たようなものも感じられます。これほどの暖かさ・・・本当に居心地がいいです。このままこうしていたい気分です。

 

・・・ですが、この暖かさは孤児院生たちのものであって、私個人のわがままでそれを消してしまってはいけません。千尋ちゃんたちにはこの場所で末永く、幸福の日々を送ってもらいたいです。なので・・・明日の朝一にはここを発ちましょう。私のわがままで、迷惑をかけてしまわないように。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の早朝、みんなが起きないように私は忍び足をしながら孤児院の外まで歩いていきます。扉の前までたどり着き、外へ出ようと扉に手を・・・

 

「お姉ちゃん、もう行っちゃうの?」

 

扉を開けようとした時、早起きした千尋ちゃんが私の後ろにいました。

 

「起こしてしまいましたか?」

 

「平気だよ。それより・・・」

 

「・・・はい」

 

「・・・そっか」

 

私の返答を聞くと、千尋ちゃんは顔を俯かせましたが、すぐに笑顔を見せてくれました。

 

「また、会いに来てくれるよね?」

 

「・・・ええ。もちろんです」

 

「約束!」

 

私と千尋ちゃんは、またいつか会おうという約束の指切りをしました。私は、千尋ちゃんに見送られながら、この孤児院から去っていきます。さて・・・今後の寝泊まり、どうしましょう・・・。家には戻りたくありませんし・・・

 

くぅー・・・

 

お、お腹がすきましたぁ・・・。せめて朝食はいただいてから出てった方がよかったと、今更ながら後悔を抱き始めてしまいました。

 

19「壮絶なる姉妹喧嘩」

 

つづく




おまけ

六つ子はゲームを六等分できない

三玖「・・・暇だね・・・」

一花「本当だねぇ・・・」

風太郎「そういう時こそ勉強だろ!さあ、さっそく・・・」

四葉「おーい!ゲーム買ってきたよー!」

風太郎「おい・・・」

六海「わー!これ1番流行りのゲームだー!」

三玖「さっそく対戦しよう」

五月「しかし・・・私はこういうのは苦手で・・・」

一花「て、あれ?これよく見たら4人用じゃない?」

四葉「あ!本当だ!」

風太郎「あー!残念!これじゃあゲームできないな!仲間外れはよくないなぁ!」

二乃「まったくよ」

風太郎「だろ?だから・・・」

二乃「これじゃあ後ゲーム機とテレビ合わせて5台買わないといけないじゃない」

五月「え?それでいいんですか?」

六海「だってこれ、インターネット繋げればみんなでできるしね」

風太郎(・・・いい時代になったものだね・・・ははは・・・ちくしょう・・・)

六つ子はゲームを六等分できない 終わり

次回、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5年ぶりの再会

番外編アンケートの結果は後書きのしたになります。トップバッターの子、おめでとう!

さて、その番外編の達筆も始めなきゃなので、多分ですけど、次が六嫁の今年最後の投稿となるかもしれませんのでご了承下さい。


日曜日・・・本来この日は家庭教師の立場関係なく、1日勉強したかったが、昨日の出来事もあってそういうわけにはいかなくなっている。俺は今、三玖と六海に呼び出され、あいつらの家まで走ってきている。疲れたなんて言ってられん。あいつらの今の状況を俺は知りたいんだ。

 

「あ、風太郎君が来たよ!」

 

俺があいつらのマンションまでたどり着くとそこには三玖と六海が待っていた。

 

「三玖、六海・・・」

 

「フータロー・・・日曜日なのに呼び出してごめん・・・」

 

「そんなことはどうでもいい。他の4人はどうした?あのケンカの後、何がどうなったんだ?」

 

「ここじゃなんだし、とりあえず上がってよ」

 

三玖と六海に言われた通り、俺はマンションの中に入り、こいつらの住む30階まで上がっていく。あいつらの部屋までたどり着き、俺はあの後の事情を聞くことにする。

 

「風太郎君も知っての通り、あのけんかの後、一度は収まったんだけど・・・」

 

「フータローが帰った後、また大喧嘩して・・・2人とも家を出ていっちゃった」

 

「ふ、2人ともだと・・・?」

 

てことはあれか?あのけんかの後で何かの事情で大喧嘩して、最終的に二乃も五月も家を出てったってのか?確かに五月も家を出るといっていたが、そこまでするか⁉

 

「一花と四葉も説得しようとしたんだけど・・・二乃が昔のことを掘り起こして・・・」

 

「2人とも意地なんか張っちゃって最終的に先に家に帰ったら負けみたいになっちゃってるの」

 

くそ・・・期末試験期間中だっての・・・どうしてこんなことになるんだ・・・!

 

「バカ野郎が・・・!で?その一花と四葉はどこ行った?」

 

今この部屋にいるのは俺と三玖と六海だけだ。二乃たちを説得しようとした一花と四葉もいないのが気になるんだが。

 

「外せない用事があるって・・・」

 

「まぁ、一花ちゃんはお仕事なんだけど・・・四葉ちゃんからは、何も聞いてないよ」

 

一花の方はある程度予想はできたことだからいいが・・・四葉の用事というのが少し気になるな・・・。そういえば最近あいつ、用事で勉強会を欠席することが多くなったな・・・。

 

「こんな時に限って・・・試験勉強はどうする気なんだよ・・・。昨日まで一緒だったのに・・・」

 

「うん・・・こんなに部屋が広いと感じたのは久しぶり・・・」

 

「六海、この広さが逆に寂しいよぅ・・・」

 

三玖と六海の表情は少し暗かった。そうだよな。昨日まで一緒だった姉妹が急に2人も出ていっちまったからな・・・。

 

「なぁ、こういう喧嘩ってのはよく起こることなのか?」

 

「だって姉妹だもん。全然珍しいことじゃないよ」

 

「でも・・・今回のは今までと少し違う気がする・・・」

 

ふーむ・・・そういうものなのか・・・。俺とらいははあいつらのような大喧嘩になったことはないからよくわからんなぁ・・・。

 

「・・・考えても仕方ない。ともかく今は二乃と五月を探そう」

 

「あ、ああ・・・そうだな」

 

「じゃあそういうことなら・・・まず五月ちゃんを迎えに行こうよ」

 

「あ、そっか。五月の場所はもうわかってるもんね」

 

ん?五月の居場所はもうわかってるのか?いつの間に・・・。そんな疑問を抱いている俺に六海は説明する。

 

「実はね、六海の友達の真鍋さんの家に五月ちゃんが泊まりに来たらしいの。昨日は夜遅かったし、明日にっていうことで、今日迎えに行くことになってるの」

 

「そ、そうか。なら早いとこ五月を迎えに行こうぜ」

 

「うん。六海、道案内よろしく」

 

「うん!任されたよー!」

 

俺たちはまずは五月を迎えに行くために家を出て、六海の案内を頼りに六海の友達の家へと向かっていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月を迎えに六海の友達の家までたどり着いたんだが・・・こりゃ驚いたぜ。まさか家が孤児院なんて誰が想像できただろうか。孤児院の外ではらいはと同じ年代、あるいはそれ以下の子供たちが外で遊んでる。そのために・・・

 

「姉ちゃん、また会ったなー!」

 

「ねーねー、遊ぼー」

 

「あ、あのね、みんな・・・今はちょっと・・・」

 

「やっぱみんなでかいよなー」

 

「ねー。なんでそんなに成長するんだろう?」

 

「あ、でも春姉ちゃんのほうがでかいか」

 

「だねー」

 

「ふ、フータロー・・・助けて・・・」

 

遊びに飢えてる子供たちに三玖と六海が捕まってる。2人とも困ったような表情をしてこっちに助けを求めてやがる。で、俺の目の前にはいかにも強気そうな女がいる。

 

「連絡はもらってたけど・・・まさか上杉までくるとは思わなかったわ」

 

・・・えーっと、こいつは俺を知ってるようだが・・・俺はこいつのことを全く知らないんだが・・・。

 

「あー・・・すまん・・・お前、誰だっけ?」

 

「やっぱり忘れてるし・・・中学で会ったでしょうが、このクズ野郎」

 

「!・・・その呼び方する女・・・お前かよ、この性悪女」

 

「真鍋よ。いい加減に覚えなさいよ」

 

思い出したぞ・・・出会いは本当に最悪でその際にクズ野郎と罵られた女は俺の記憶ではたった1人、こいつしかいなかったからその際の印象がまだ残っていたようだ。つーかよく見たら・・・そうだな。確かに中学で会った顔だ。それから、林間学校でも一目だけ見てが、六海の友達は確かにこいつだったな。

 

「ていうか、中学で何回か話しかけたでしょうが。それさえ忘れるってどういうことよ?」

 

「あー悪かった悪かった。今お前に構ってる余裕はねぇんだ。五月いるだろ?さっさと出してくれ。時間がもったいねぇ」

 

「いちいち人をイラつかせるわねあんた・・・そういうとこ、本当変わってないわ・・・」

 

俺が真鍋を軽くあしらってやると、真鍋は呆れたような顔つきでため息をついた。

 

「・・・残念だけど、中野さん・・・の五女はいないわよ」

 

「は?」

 

今こいつなんて言った?五月がいない?ここで寝泊まりしたんじゃなかったのか?

 

「確かに中野さんの五女は昨日うちに来たわよ。でも今日朝起きたらいつの間にかいなくなってたのよ。こんな置手紙を置いてね」

 

「置手紙だと?」

 

真鍋は懐に入っていた五月の置手紙を取り出して、俺に渡してきた。いったい何が書いてあるってんだ?

 

『孤児院の皆様へ

 

私のわがままでこの孤児院に泊めていただいたこと、大きな感謝を心より申し上げます。非常に勝手で申し訳ございませんが、私は二乃が反省するまで絶対に帰るわけにはいきません。かといって、これ以上孤児院の皆様に迷惑をかけるようなことは致しません。なのでこうしてこの孤児院を発たせていただきました。ここで過ごした時間は楽しかったです。またいつかお会いしましょう。真鍋さんはまた、学校でお会いしましょう。

 

追伸:千尋ちゃんによろしく伝えておいてください。後、ケーキおいしかったです。

 

中野五月より』

 

「・・・あの真面目バカ野郎め・・・!」

 

今日迎えに行くって真鍋を通して知ってんだろうが。なんでわざわざこんなのおいて出ていくんだよ。迷惑と感じているならせめて俺らが来るまで孤児院にいろって話だっつーの。そこまで二乃との溝が深いのかよ。

 

「・・・なぁ、あいつどこへ行くとかなんか、聞いてないのか?」

 

「いいえ、聞いてないわね。私はてっきり姉妹と一緒に帰るものだと思ってたし・・・」

 

はぁ・・・どこまでも面倒な奴め。これじゃあ振り出しに戻っちまってるじゃねぇか・・・。

 

「手間とらせて悪かったな。俺らはもう行く・・・」

 

くいくいっ

 

「ん?」

 

もう用はなくなったからこの場を去ろうとした時、ふいに俺の服の裾を引っ張るような感覚がした。そこを見てみると・・・

 

「兄ちゃん、姉ちゃんたちの連れだろー?」

 

「遊んで遊んでー!」

 

「でー!」

 

子供たちが物欲しそうな面で俺に遊びをせがんでる姿が写った。え・・・マジかよ・・・。三玖と六海は・・・

 

「「・・・・・・」」ぐったり・・・

 

うおっ・・・もうすっかり疲れ切ってるじゃねぇか・・・かなりこのガキ共に振り回されたんだな・・・。

 

「あ、言ってなかったけど、日曜日のこの子たちは遊びに飢えててね、自分たちが満足するまで振り回すのをやめないから」

 

嘘だろおい・・・ここでこのガキ共に付き合ってみろ。どんだけの時間ロスになると思ってんだ。

 

「真鍋、助け・・・」

 

「さーって、私はこの子たちのために買い出しに出かけないとね。ま、精々怪我しない程度に、付き合ってやりなよ」

 

「あ!こらてめ・・・逃げんなこの性悪女!」

 

真鍋よ、俺になんか恨みでもあんのか?ただでさえ体力のない俺にこいつらの遊びに付き合えだと?そうなったら俺も三玖と六海の二の舞になるわ。

 

「ねーねー、遊んでよー」

 

「あ!なんだったらお姉ちゃんたちと一緒でもいいよ!」

 

「「!!??」」

 

「あ!あーし、かくれんぼがいい!」

 

「おー!いいね!じゃ、兄ちゃんが鬼ね!」

 

「だー!!お前ら!少しは俺たちを休ませてくれよーー!!」

 

結局俺たちは子供たちのわがままに付き合わされ、遊びに遊びまくった。それでも満足しないってんだから困ったもんだぜ。ま、帰ってきた同年代の男どものおかげで興味はあいつらの方へ向いたから助かったぜ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・もう・・・疲れた・・・」

 

「五月ちゃんを迎えに来ただけでなんでこんな目に・・・」

 

「しかも、よりにもよって体力なしトリオだしな・・・」

 

あの子供たちを孤児院の男たちに任せて、孤児院から離れたのはいいが・・・あのガキどもどんだけ俺たちを振り回せば気が済むんだ。もう二乃と五月の居場所を尋ねる元気もねぇよ・・・。

 

「はぁ・・・今から探し回る元気もない・・・」

 

「まぁ、どうしてもっていうなら2人の友達に何か聞くっていうのも手だよ・・・」

 

ほう・・・それは実用的な案だな。やみくもに探し回るより手間が省ける。

 

「幸い、二乃と仲がいい友達2人なら知ってる」

 

「風太郎君はどう?五月ちゃんと同じクラスなんでしょ?」

 

「あ、ああ・・・。五月は・・・そういえばあいつ、普段誰とつるんでるんだろう?」

 

「「役立たず」」

 

俺の発言でいきなり戦力外通告された。仕方ねぇだろ!普段教室で話したりしないんだからよ!

 

「もう・・・こうなったら最終手段を使うしかないよ!」

 

「それしかないなら・・・仕方ない・・・あまり使いたくない手だけど・・・」

 

?最終手段?何かいい手でもあるのか?俺がそう考えると、三玖と六海は人が多く集まってる場所へ向かった。何をする気だ?

 

「あの・・・こんな顔の子見ませんでしたか?」

 

「それかこんな顔の子、誰か知りませんか?」

 

多くの人に三玖は五月の顔を、六海は二乃の顔をして目撃者を絞り上げてやがる・・・。なるほど・・・友達がダメなら広場の人間の目撃証言を頼るってことか・・・。それにしても、六つ子ってなんて便利なんでしょう・・・。

 

「・・・あら?メガネの子の顔・・・私の泊まってるホテルで見た顔だわ」

 

「そいつが二乃だーー!!」

 

思っていた以上に二乃の居所が判明したぞ!六つ子の顔マネってすげぇ!こんなすぐに情報を引き出せるとは!

 

「あの・・・そのホテルの場所、教えてくれませんか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

ホテルの住所を教えてくれたおばちゃんにお礼を言った後、俺たちはさっそく二乃が泊っているホテルへ急いで向かった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あいつが泊ってるホテルにたどり着いた俺たちのやることはまずあいつの部屋の特定だ。まぁ、三玖が二乃の真似をして、部屋に鍵を忘れたって言ったおかげで普通に案内してくれたぜ。それどころか鍵まで開けてくれて本当、一石二鳥とはこのことをいうのかもな。

 

「この部屋に二乃が・・・」

 

「こういうのは勢いが大事だと思うよ。六海に開けさせて」

 

「本当に勢いは必要なのか?まぁ、頼む」

 

「オッケー!はーい、ドーーンッ!」

 

バァンッ!!

 

六海が勢いよく部屋を開けて、その先にいたのは・・・

 

「え・・・えええ!!?」

 

白い化粧パックを顔に貼ってある二乃だった。何ゆったりとくつろいでんだよこいつ・・・。

 

「ぎゃあああああああ!!?おばけええええええ!!?」

 

「失礼ね!!アタシよ!!」

 

化粧パック姿の二乃に六海は本気で怖がって三玖に抱き着いてきた。六海、二乃の化粧パックは怒った反動ですぐにはがれたからもう大丈夫だぞー。

 

「な・・・なんであんたたちがここに・・・!てか、鍵はどうしたのよ⁉」

 

「部屋に鍵を忘れたって私が言ったら開けてくれた」

 

「なっ・・・!ガバガバセキュリティ!!」

 

「六海たちにセキュリティも何もないと思うけど・・・」

 

確かにな・・・こいつらが二乃の真似をしたら普通に通してくれたし・・・。

 

「・・・二乃、昨日のことは・・・」

 

「出てって!!アタシ達はもう赤の他人よ!!」

 

あ!こいつ!扉を閉める気だな!そうはさせるか!

 

ガッ!

 

「あっ!この・・・!」

 

扉が閉まる直前に俺が手を出したから何とか閉めるのを阻止することは成功したぜ。

 

「ずいぶんなご挨拶だな。せっかく来たんだ。お茶の一杯くらい出してくれよ」

 

「お断りよ!!てか、入ってこようとすんな!!」

 

「なんか入り方がホラーで怖いんだけど・・・」

 

確かに・・・今の俺の入り方はどこぞのホラー映画にありそうな展開だ。だが二乃が意地でも扉を閉めようとするから入れねぇ。てか、痛いんだけど・・・。

 

「二乃・・・お前、本当にどうしたんだ?お前は誰よりもこいつら姉妹が大好きで・・・あの家が大好きだったはずだ」

 

「・・・っ!だから・・・知ったような口きかないでって言ったでしょ・・・よりにもよってあんたなんかに・・・!

 

「二乃、頼む、ここを・・・」

 

「そもそもこんなことになったのは、全部あんたのせいよ!!」

 

「!!」

 

「あんたなんて・・・来なければよかったのに!」

 

・・・・・・俺のせい・・・か・・・。二乃から見れば・・・そうなるのか・・・。否定する材料も見つからねぇ・・・。

 

「!ちょっと!そのミサンガはアタシのよ!返しなさい!」

 

「あっ・・・」

 

二乃は俺のつけているミサンガを見た瞬間、無理やりミサンガを奪い取った。確かに金太郎の時一時的に渡してやったが・・・それはらいはが俺のために作ってもらったものだ。

 

「そのミサンガは・・・」

 

「そうよ・・・あんたじゃなくてキンタロー君が家庭教師だったらよかったのに・・・!彼はどこにいるのよ?会わせなさいよ!」

 

「「!!」」

 

こ・・・ここで二乃が金太郎を指名するのか・・・!六海は俺が金太郎であることはもう知ってるからいいが・・・二乃はそのことをまだ知らない。だが・・・今ここで正体を明かすわけにはいかねぇ!

 

「それは・・・できない」

 

今俺がここを離れたら逆に怪しまれる。だからと言って今ここで正体を明かせばさらに機嫌が損ねて一生家に戻らないかもしれない。なら今はこれが1番ベストな選択のはずだ。

 

「あっそ。じゃあ用済みだわ。さっさと帰って」

 

「ほ、他にできることならなんでもするぞ!」

 

だが二乃は俺たちを拒絶してる反応を示している。

 

「すみませーん。部屋の中になんかやばい奴がいるんですけど」

 

「なっ・・・!!」

 

こ、こいつ!ルームサービスまで使うのかよ!そうまでして俺らを拒むのか!

 

「フータロー、ここは一時撤退を!」

 

「くっ・・・やむを得ねぇ!」

 

「二乃ちゃん、明日も来るからね!」

 

ホテルの係員が来る前に俺たちはせっせと二乃の部屋から離れ、ホテルから出ていくのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ホテルから出た俺たちはもう・・・どっと疲れが出ているぜ。もう日も暮れてるし・・・こりゃ五月探しは無理そうだな。

 

「結局、五月の手掛かりはなし・・・状況は厳しいね・・・」

 

「ま、まぁでも、二乃ちゃんの居場所が分かっただけでも、収穫だと思おうよ!」

 

「・・・そうだな。ポジティブに考えるか」

 

五月の居場所がわからなくて少しまいった気持ちになったが、こういう時の六海のポジティブ思考は助かるな。

 

「今日はもう諦めて、また明日に回すか。どうせ今頃あいつも高級ホテルに泊まってるだろうしな」

 

「・・・えぇーっと・・・そのぅ・・・」

 

な・・・なんだよ・・・俺の言葉に三玖と六海は煮え切らない反応をしてるぞ。なんだっていうんだ?

 

「・・・それが・・・実は・・・あの子、家に財布忘れてる」

 

「・・・マジかよ・・・」

 

「マジです・・・」

 

ってことはあいつ昨日から無一文ってことかよ・・・。どうりで昨日真鍋のところで世話になったわけだ。・・・ちょっと待てよ?今日あいつ、真鍋のところから出ていったわけだろ?もし友達の家に泊まりに行ってなかったら・・・

 

『・・・ぐすん・・・寒い・・・寒いですぅ・・・』

 

一瞬俺の脳裏に浮かび上がったのは公園のベンチで段ボールを布団代わりにして寝てる五月の姿だった。いや、それ以前に・・・

 

「腹すかせてるだろうなぁ・・・」

 

あの腹ぺっこのことだ。飯が食えない状況に涙を流すだろうなぁ・・・。・・・あいつに会ったら飯を恵んでやるか。

 

「お腹すいたといえば・・・晩御飯、今日も私が作ろうか?」

 

「え・・・い、いやいいよ・・・今日は出前頼もうよ・・・。そうだ!ピザがいい!ピザ頼もうよ!」

 

「・・・わかった」

 

そういえばそうか。あいつらの家の料理担当は二乃だって言ってたな。その二乃が家出状態だから作る奴が必然的に三玖しかいねぇのか。つーか、三玖の料理、極端に嫌がってるな、六海・・・。

 

「・・・あ、そうだ。風太郎君、ちょっと六海に付き合ってよ。今日のことで、話したいことができたんだ」

 

「?なんだよ・・・俺もう早く帰りたいんだが・・・」

 

「すぐに済むから。そういうわけだから三玖ちゃん、ちょっと先帰ってて」

 

「?わかった。じゃあフータロー、また明日」

 

六海に言われて、三玖は先に家への道のりを歩いていった。

 

「・・・で?話ってなんだ?」

 

「ここじゃなんだし、カフェで話そうよ。奢ってあげるからさ」

 

「まぁ、構わんが・・・」

 

断る理由もないし、カフェで話を聞くとするか。べ、別に奢りに魅かれたわけじゃねぇからな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海に連れられたカフェって・・・一花と鉢合わせになったりするこの場所かよ。今一花はいねぇよな・・・?

 

「な、なんか2人っきりって緊張するね・・・///」

 

「そうか?」

 

なんだ?六海の奴?自分から誘っといてもじもじして・・・。

 

「で?話ってなんだよ?」

 

「・・・六海、隠し事って苦手だから、単刀直入に聞くね」

 

六海は頼んだミルクティーを一口飲んで、本題に入った。

 

「・・・キンちゃんのこと、いつ二乃ちゃんに話すの?」

 

「!!?」

 

これだけで六海の言いたいことがすぐにわかった。俺が金太郎であることを知り、俺と六海の関係は一時的にギクシャクしたことがある。六海との件は解決したのはいいが、ニ乃に関してはまだ解決していない。六海の時みたいにならないためにこうして俺に聞いてきたんだろう。

 

「そ・・・それは・・・だな・・・」

 

「・・・あ、ごめん。答えづらかった?じゃあ、別の質問するね」

 

六海はまたミルクティーを飲んでほっと一息ついてる。

 

「風太郎君はキンちゃんのこと、話す気あるの?ないの?どっち?」

 

金太郎のことを話すか話さないかのどっちと言われたら、ある・・・んだが・・・あの強気な二乃のことを考えると、全然勇気が湧いてこない・・・というか、何されるかわかったもんじゃないっていうのが正しい。

 

「どっちって聞かれたら・・・一応、ある・・・」

 

「本当に?」

 

「本当だ。ただ・・・弱みを握られそうでなかなか自分から言い出せない・・・」

 

「あー・・・確かに・・・」

 

俺の解釈に六海は苦い表情をしている。お前もなんかやられたことあるのか?

 

「まぁでも、安心したよ。話す気があるようだから。風太郎君はどうだったかは知らないけど、キンちゃんが風太郎君だと知って、六海、本当にショックだったんだよ?泣いちゃうレベルだったんだよ?」

 

「す、すまん・・・」

 

「騙し続けてたらばれた時どうなるか、六海のことで思い知らされたでしょ?だから早めにしゃべった方がいいって六海は思ってるよ。一応タイミングは任せるけど・・・これは二乃ちゃんためにも、風太郎君のためにも言ってるんだよ」

 

「し、しかし・・・今は・・・」

 

「もちろん家出中で傷心状態なのはわかってるよ?でも今も騙し続けるのはダメだと思ってるんでしょ?だったらちゃんと言うべきだよ。キンちゃんは自分だって。大丈夫、もしなんかあったら六海が何とかしてあげるから、がんばろう。ね?」

 

「・・・確かに、その通りだな」

 

金太郎のことはいろいろマイナスな思考ばかりが頭に行っちまうが・・・六海のおかげで少しは気が楽になったぜ。

 

「さ!この話はもう終わり!早くサンドイッチ食べて帰ろ?」

 

話が終わって俺と六海は頼んだサンドイッチを食べてから会計を済ませる。金を払ったのはもちろん六海。奢りって言ってたし。

 

会計を済ませて外に出ると、偶然一花と鉢合わせる。

 

「おや、フータロー君じゃん。ハロー♪」

 

「げっ・・・」

 

おい、本当どうなってんだ?不自然なほどにここでよく会うんだが・・・

 

「あ、一花ちゃん。お仕事お疲れ様~♪」

 

「て、あららー?よくみると六海と一緒とは・・・もしかして、デート?お熱いねぇ~」

 

は?何言ってんだこいつ?

 

「ふぇ⁉ち・・・ちちち、違うよ!あ、でも客観的に見たらそうかも・・・それはそれで・・・えへへ・・・」

 

「全く違うぞ。話をしてただけだ。こんな時に不謹慎なこと言うな」

 

「んふふ、だよね。ちょっとからかいたかっただけ。あ、カフェラテ買ってくるから六海、ちょっと待っててね」

 

そう言って一花はカフェのカフェラテのテイクアウトを買いに行った。全くこんな時にのんきな・・・。いや、こういう時こそいつも通りにしてるのか?よくわからん。

 

「むぅ~・・・」

 

て、何か知らんけど六海が頬を膨らませて睨んでるんだが・・・。

 

「な、なんだよ・・・俺悪いこと言ったか?」

 

「べっつにぃ~?」

 

復元な様子で六海はそっぽを向いた。本当になんなんだよいったい・・・。と、一花が戻ってきた。

 

「お待たせー。三玖はもう先に帰ってるの?」

 

「うん。もう家にいるんじゃないかな?」

 

「そっか。それならいいんだ。あ、それからフータロー君、今日はごめんね?せっかくの休みなのにうちにきて・・・しかも私も四葉も不在で」

 

「外せない仕事なんだろ?だったらとやかく言わねぇよ。幸い、二乃の居場所はわかったからな」

 

「本当にごめんねー。必ず埋め合わせするからさ♪じゃあ、フータロー君、また明日ね。それじゃあ六海、帰ろっか」

 

「うん!」

 

一花は六海を連れて自分の家へ向かって去っていった。ああしてみると、本当に仲がいい姉妹だな。今回の問題、一刻も早く解決しないとな。・・・俺も家に帰るか。

 

♡♡♡♡♡♡

 

俺が家に戻ってきた頃にはもうすっかり飯の時間だな。その証拠に俺んちからはカレーの匂いが立ち込めてきたからな。俺の帰宅にらいはが出迎えてくれた。

 

「お兄ちゃん、おかえりー!」

 

「ただいま。このにおい、カレーだな」

 

「正解!先に食べてるよ!後ね・・・」

 

「らいは、1人分タッパーに移せるか?」

 

「え?うん。たくさん作ったからできるけど・・・なんで?」

 

「まぁ・・・ちょっと懸念があってな・・・」

 

まぁ、その懸念の原因が今どこにいるかわからん状況だが・・・

 

「らいはちゃん、おかわりしてもいいですか?」

 

・・・・・・・・・は?

 

「・・・・・・・・・お・・・お邪魔してます・・・」

 

俺の懸念を作った原因である五月は・・・今、俺のうちに・・・?

 

「わっ⁉お兄ちゃん、どうしたの⁉」

 

「・・・らいは・・・懸念、なくなったわ・・・」

 

いったいどうしてこうなった?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「すみません・・・お先にお風呂、いただきました・・・」

 

飯を食い終わった後、五月はうちの風呂に入って、今ちょうど上がってきたところ・・・か・・・。

 

「おう。どうだい、五月ちゃん。うちの大浴場は」

 

「は、はい。狭・・・い、いえ、落ち着ける空間でリラックスできました」

 

「がははは!そうだろう、そうだろう!」

 

いや、あのさぁ・・・親父もらいはも何でそんなフレンドリーな感じなんだよ。

 

「よーし、らいは!次は俺らが入るぞ!」

 

「はーい」

 

親父とらいはが風呂に向かっていった時、五月は俺とは少し離れた場所にちょこんと座りこんだ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

「・・・あ・・・」

 

「なんで・・・」

 

俺が言葉を発しようとした時、五月も言葉をかぶせてしまった。

 

「・・・お先にどうぞ・・・」

 

とりあえず、俺が言いたいのは・・・何でお前がここにいんだよ?あれか?真鍋のとこから出てった後、今度はうちに来たってのか?もう・・・こいつがいるだけで居心地が悪い・・・!今なら二乃の気持ちがものすごく理解できるぜ・・・。

 

「お兄ちゃん、お布団敷いといてー」

 

「あ、私がやりますよ。お世話になってる身ですから」

 

やっぱこいつここで泊まる気なのかよ・・・。

 

「へっ、果たしてお嬢様が固い布団で寝られるかな?」

 

「ね、寝られます!」

 

「もー、お兄ちゃん、仲良くしてよー。今夜はお父さんが仕事だから・・・3人で川の字で寝ようね♪」

 

・・・嘘だろ・・・今夜は寝る時までこいつと一緒ってのかよ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

就寝時間、らいはの宣言通り、川の字で寝ることになった・・・のだが・・・この間には五月もいるもんだから・・・普通に寝ることもままならねぇ・・・。つーかまだ寝るわけにもいかねぇし・・・。このままじゃいけないのはわかってるが・・・何といえばいいか・・・

 

「・・・上杉君、起きていますか?」

 

「!あ、ああ、起きてるぞ」

 

何か言おうと思ったら、あいつから声をかけてくるとは・・・。

 

「今日は突然すみませんでした・・・そして昨日のことも・・・」

 

「い、いや・・・別に・・・」

 

「実は私はあなたに・・・話したいことが・・・」

 

「う・・・うーん・・・」

 

おっとまずいな・・・近くにはらいはもいるから、ここじゃ起こしちまうな・・・。

 

「ふぅ・・・今日は月がきれいに見えます。少し、外で歩きませんか?」

 

「・・・わかった」

 

俺は五月と一緒にらいはが起きないようそっと布団から出て家から出た。

 

♡♡♡♡♡♡

 

家を出た後、俺と五月は月が見えるような場所へ向かっているのだが・・・少し歩いてると月が雲に隠れちまってるな。

 

「少し曇ってしまいましたね。せっかく今日は月がきれいだったのに・・・」

 

「ああ・・・まぁ・・・そうか?」

 

「まったく、風情がないですね」

 

「あんなにカレーを爆食いしてた奴に風情がどうとか説かれたくないね」

 

「なっ・・・!し、仕方ないじゃないですか・・・今日は朝から何も食べてないんですから・・・」

 

いや、朝飯は真鍋のとこで出してもらえたはずだろう。朝飯を食わなかった五月のそれは真面目っていうより、バカでしかねぇ。

 

「・・・他の姉妹で俺の家に来れるのは六海だけ。そしてその六海はお前がうちにいることを知らない。俺らが黙っとけば、隠れ家としてはお誂え向きだな」

 

「・・・他に行く当てがなかったので・・・」

 

俺が言えたことではないが、こいつ友達少ないんじゃね?

 

「明日には自分の家に帰れよ。三玖も六海、一花も心配してたぞ」

 

「・・・それはできません・・・。今回ばかりは二乃が先に折れるまで帰れません」

 

なんて意地っ張りで強情な奴だ・・・。

 

「もちろん、あなたやあなたの家族には迷惑はかけられません。明日には・・・」

 

「出ていってどうするつもりだ?財布も行く当てもないだろ、無一文」

 

「うっ・・・それは・・・。・・・お、お願いです!もう少しだけいさせてください!なんでもお手伝いいたしますから!」

 

「真鍋のとこはダメでうちならいいってのかよ⁉理不尽すぎるだろ!」

 

「あそこは規模が全く違います!!」

 

まぁ・・・確かに真鍋の家は孤児院だったし、規模の違いはわかるが・・・。

 

「ダメだダメだ!自分ちに帰れ!つーか、お前みたいなお嬢様が庶民の生活に耐えられるとは思えん!」

 

「・・・・・・私たちはお嬢様ではありません」

 

何言ってんだよ。あんな高級マンションに住んどいて・・・

 

「だって私たちも数年前まではあなたと負けず劣らずの生活を送っていましたから。いうなれば・・・貧乏人です」

 

「え?そうなのか?」

 

俺の疑問に五月は首を縦に頷いた。こいつは驚いたな・・・てっきり昔ながらのお嬢様だと思ってたし・・・

 

「私たちの本当の父親は、私たちが六つ子だとわかったとたんに逃げ出したみたいで・・・数年前まで母と姉妹たちで暮らしていました。そのため、今の父と再婚するまで、極貧生活を送っていました。当然です。6人の子供を同時に育てていたのですから」

 

「ほう・・・」

 

「その頃の私たちはまさに六つ子でした。見た目も性格もほとんど同じだったんですよ。けれども・・・女手一つで育ててくれた母は体調を崩し、入院してしまって・・・」

 

その先のことは何となくわかった。言葉に発さなくても伝わってくる。うちのお袋も、こいつらの母親と似たようなものだったし・・・

 

「だから私は母の代わりとなって・・・みんなを導くと決めたんです。・・・決めたはずなのに・・・今も昔も、うまくいかないのが現状です・・・」

 

なるほどな・・・母親の代わりに自分が、か・・・。つまり五月が二乃をぶったのも、母親をまねてのことだったのだろうな・・・。

 

「母親代わりか・・・。だったら、俺は父親の代わりになろう」

 

「・・・・・・え?どう言う意味・・・ですか・・・?」

 

「こんな時にお前らの今の父親は何してんだって話だ!こういう時こそ父親の出番だろう!」

 

昨日からぎもんに思っていることがある。二乃と五月が家で状態だというのになんでこいつらの父親は何もしてないんだ?まだこのことを知らないのか?それとも今回のことを俺に任す気か?どんな考えを持ってるのかわからんが、父親が動かないなら俺がやるしかねぇ。

 

「ま、これも家庭教師の仕事だと割り切るさ。5年前のあの日、京都であの子と出会い、いつか誰かに必要とされる人間になると決めた」

 

俺の脳裏には、いつしか一花に言われたことが浮かぶ。

 

『フータロー君は、何のために勉強してるの?』

 

「俺はそのために勉強してきたんだ」

 

あの時の俺なら、そんなこと微塵も考えなかっただろう。だからそのきっかけを作ってくれたあの子には、とても感謝している。

 

「・・・でもあなたが父親だというのはちょっと抵抗があります・・・」

 

「うるせー!我慢しろ!つーか俺だって抵抗あるわ!」

 

まったく、せっかく気遣っていってやってんのにこの五女は・・・

 

ガサッ

 

「!!」

 

なんだ?今茂みから音が・・・。俺はそこを振り返ってみたが・・・誰もいねぇ・・・。

 

「ど、どうかしたんですか・・・?」

 

「今誰かがいたような気がした」

 

「こ、怖いこと言わないでください!」

 

ああ、そういえば五月、怖いのダメなんだっけ。

 

「あ、見てください。雲が晴れましたよ」

 

「あー、はいはい。そうだな」

 

「もう、ちゃんと見てくださいよ。・・・今日は本当に満月がきれいですよ」

 

曇っていた景色が晴れ、夜に映し出された月を見て、俺はつくづくこいつにたいしてこう思う。

 

「・・・やはりお前はまだまだ勉強不足だな」

 

「なっ!何をおっしゃるんですか⁉」

 

やっぱこいつ、バカだなぁって。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「五月さん、卵入れてー」

 

「わかりました。集中しますので少々お待ちください」

 

翌朝、らいはと五月の会話で目を覚ました。今この2人は朝食の準備をしている。

 

「あ、お兄ちゃんおはよー!」

 

「お、おはようございます・・・。早く身支度を整えないと学校に遅刻しますよ」

 

・・・ああ、マジで居心地悪い・・・しかも今日は学校・・・こいつと一緒に登校しなければいけないとか・・・憂鬱だ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

朝飯を食い終わった後、俺と五月は学校へ向かう道のりを歩いて・・・いるんだが・・・

 

「・・・五月、うちに・・・」

 

「大っぴらに話しかけないでください!!一緒に登校してると思われてしまいます!!」

 

そりゃ俺だってそう思われたくないが・・・隠れながら移動するとかする必要あるのか?本当、めんどくせぇ奴。

 

「うちから登校するのはいいが教科書どうすんだ?持ってないはずだろ?」

 

「その点については抜かりなく。昨日偶然会った四葉に教材を持ってきてもらいました」

 

「なぜその時に財布を受け取らない」

 

本当に昨日からわからんことだらけだぜ。

 

「私も後から気づいたのですが・・・四葉も忙しそうだったので・・・」

 

「そういえば昨日あいつに会ってなかったな。全く何してんだか・・・」

 

「え・・・?何も聞かされてないのですか?」

 

「何が?」

 

「近いうちに陸上部の大会があるらしく、助っ人として練習してるらしいです」

 

「・・・は?」

 

ちょっと待て・・・助っ人だと?期末試験中に・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「四葉ぁ!!!試験週間に入ったら助っ人やめるんじゃなかったのか!!?」

 

「ひえぇぇぇ!!すみません~!!」

 

「ふ、風太郎君、そんな乱暴に・・・」

 

事の事情を知るために俺はすぐに四葉にこのことをデカリボンを掴みながら問い詰めた。ジャージ着てるってことはマジなんだろうけど。ちなみ六海は休憩中の四葉に呼ばれてマッサージしてただけで事情は今知ったようだ。

 

「ていうか試験中に助っ人はまずくない?ただでさえ勉強不足なのに・・・」

 

「そうだ!バスケ部の時みたいに断れよ!」

 

「一度はお断りしました・・・。でもこのままじゃ駅伝に出られないと・・・。それで・・・」

 

くっ・・・ここでいつものお人好しが出るとは・・・。

 

「ああ・・・四葉ちゃん、優しいもんね」

 

「お人好しは大いに結構だ。だが試験期間中は迷惑だ。頼むから今すぐやめろ。これ以上問題を増やさないでくれ」

 

「内緒にしててすみません・・・。でも家では上杉さんの問題集を進めてます・・・」

 

「えっ・・・六海、全然あれ進めてないのに、すごいね・・・」

 

なんと・・・四葉は陸上の練習してるのにあれを進めていたのか・・・。確かにあれを覚えてくれればいいが・・・四葉にそんな器用なことができるとは思えん・・・。後六海、課題2倍にしてやるからな?これで安心して覚えられるぞ。

 

「中野さーん、練習再開するよー」

 

「はーい!あの!私、がんばりますから!」

 

「あ!四葉ちゃん!マッサージ終わってないよー!」

 

「マッサージはいいんだよ!!待て四葉!!話は終わってねぇぞ!!」

 

くそ!四葉の奴、陸上の練習に戻っていきやがった!逃がしてたまるかよ!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

逃がしたーーー!!!

 

「ぜっ・・・はぁ・・・ぜっ・・・はぁ・・・!!」

 

くそ!こんな時に自分の体力のなさと運動能力のなさに嫌気がさす!くぅ・・・このままじゃいけねぇ・・・息を整えねぇと・・・。て、ん?あそこにいるのは・・・二乃じゃねぇか。

 

「おーい、二乃!」

 

俺は早速二乃に近づいて、家に変えるように説得する。

 

「なんだ、学校には来てたのか。この前のことはみんな気にしてないから帰ろうぜ!な?また姉妹揃って仲良くできるって!また昔みたいにさ・・・」

 

「・・・わかったわ。帰るわよ」

 

「お、おお!そうか!」

 

案外物分かりがよくて助かる・・・のだがなんだろう?嫌な予感がする。ちょっとついていってみようか・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・って!!昨日のホテルじゃねぇか!!」

 

嫌な予感的中。二乃が帰っていったのは家じゃなくて寝泊まりしているホテルだった。くそ!こんなんじゃ意味ねぇってのに!

 

「お客様以外の立ち入りはご遠慮お願いします」

 

「俺はあいつの関係者、家庭教師だ!話だけでもさせてくれ!」

 

ホテルの警備員は俺を中に入らせようとはしない。くそ!二乃がどんどん離れていく。

 

「二乃!試験はどうするんだ!このままじゃまた赤点だぞ!」

 

「・・・・・・」

 

「俺が合格させてやる!だから中に入れてくれ!!」

 

俺は必死で二乃を説得する。が、帰ってきた答えは・・・

 

「・・・試験なんて、合格したからなんだっていうの?どうだっていいわよ」

 

完全なる拒絶。完全なる疎外。だが・・・今日がダメでも、俺は諦めねぇぞ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

俺は試験に向けて、問題解決に向けて、俺はできることを徹底的にやる。

 

「フータロー君、本当に大丈夫なの・・・?」

 

「いいから。あいつらは俺に任せてお前らは試験勉強に集中してくれ」

 

「・・・わかった。無理しないでね」

 

まぁ、一花と三玖の気遣いはありがたいが、こいつらの学力向上のため、こうするしかない。

 

「お兄ちゃん、もう少し五月さんをいさせてあげようよ。ダメ・・・?」

 

「はぁ・・・勝手にしろ・・・」

 

「すみません・・・」

 

ちなみに五月は結局家にしばらく滞在することになった。

 

「やあ、奇遇だね」

 

学校で二乃に声をかけても無視される。だが、諦めねぇ。

 

「私、がんばりますのでー!」

 

「四葉ちゃん、マッサージーー!!」

 

「だからマッサージはいいって言ってんだろ!待て四葉!」

 

陸上の練習を続けてる四葉を止めようとしたが、あえなく失敗。絶対に諦めねぇ。

 

「二乃!話を聞いてくれ!!」

 

ホテルで二乃に話を聞こうとしてもやっぱり無視される。絶対に、諦めてたまるか・・・!!

 

「また来るぞ!俺は絶対に諦めねぇからな!!」

 

これまでのことを行っていると、時間は早くも過ぎ去ってしまう。それでも・・・問題の解決には至らなかった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

こんなことをやっているうちに試験開始までもう4日に迫ってきている。全然進展がないことに、俺は悩まされる。

 

「・・・どうしたら、あいつらがまとまってくれるんだ?」

 

そんなことを考えながら川を眺めていると、変なことを思い浮かぶ。

 

「・・・ここで俺がおぼれたら全員心配して集まってきたりして・・・。あ、今俺、やばい考え方してるぞ。・・・でも・・・もしかしたら・・・」

 

そう思って俺は・・・自分の身を川に飛び込もうと足を一歩・・・

 

・・・いや、やっぱありえねぇわ。あいつらがわざわざ俺のことでここまで来るはずがない。

 

・・・そうとも・・・俺のやり方が間違っていたんだ。少しはあいつらに頼られて、信頼されて、内心舞い上がって勘違いをしていたのかもしれねぇ。そもそもこれはあいつらの問題・・・赤の他人である俺が入り込む余地なんてなかった。だから他人の家の姉妹の仲を取り持とうなんて、俺には過ぎた役割だったんだ。

 

・・・いや、そうじゃねぇな。むしろ・・・

 

『あんたなんて・・・来なければよかったのに!』

 

・・・そうだ。最初っから間違えていたんだ。勉強だけをやってきた俺は・・・何の役にも立たない。役に立ちたいって必死になってただけだ・・・。

 

「・・・あいつらに、俺は不要だ・・・」

 

これじゃ昔の俺となんも変わってねぇ・・・ただ変わった気になってただけだ。はは・・・何やってんだろうな・・・俺・・・。

 

「また落ち込んでる」

 

・・・?誰だ・・・?

 

「やっぱり君は変わらないね」

 

俺の目の前に現れたのは・・・白い服を着て、顔を長いハット帽子で隠し、腰まである長い髪をなびかせた女だった。

 

「久しぶり。上杉風太郎君」

 

・・・ん?今こいつなんて言った?久しぶり?俺、こいつに会ったことあったっけ?

 

「・・・・・・・・・あー、はいはい。久し・・・ぶり・・・だな。ああ!俺、今から用事があるから・・・じゃあな」

 

「全然思い出せてないでしょ」

 

うっ・・・バレた・・・。真鍋の時と言い、なんで俺はこうも相手のことを忘れるんだろうな。

 

「うーん、おっかしいなー。私なりに頑張ってあの頃を再現してみたんだけど・・・」

 

「そう言われてもな・・・。つーか、そうやって顔を隠されたら思い出せるもんも思い出せんのだが」

 

「あ、これは許してほしいな。こっちにもふかーい事情があってね・・・」

 

どんな事情だよ・・・

 

「あ、そうだ。これなら思い出せるかな?」

 

そう言ってこいつが取り出したのは・・・ずいぶんと見覚えのあるものだった。あれは・・・5年前の修学旅行で会ったあの子が買ったお守り・・・。

 

「・・・!!まさか・・・」

 

思い当たる節があって俺は生徒手帳を出して中の俺の写真を取り出し、確認する。俺の隣に映ってる写真の子と・・・今目の前のこいつ・・・顔は見えないが・・・あの時と酷似していた。

 

「もしかしなくても・・・京都の・・・?」

 

俺の問いかけに彼女は首を縦に頷いた。マジ・・・かよ・・・。こんなことが・・・あるのか・・・?

 

「・・・・・・え、えーっと・・・元気そうで何より・・・」

 

俺はそんな言葉を発した後、その場から逃げようとする。

 

「え⁉ちょ、ちょっと待って!」

 

だが無情にも彼女は俺の服を引っ張って引き留めてきた。

 

「どうして逃げようとするの⁉」

 

「俺はまだお前に会うことはできないからだ!!」

 

「なんで!!」

 

何でも何もねぇよ。何も変わってない俺が彼女と会うのは間違ってる。会う資格もないのに。

 

「むぅ~・・・なら・・・」

 

「あっ!」

 

彼女は俺の手に持っていた生徒手帳を無理やりひったくっていった。しかも生徒手帳にはこの子の写真も入っている!

 

「これを返してほしかったら私の言うことを聞いてね!」

 

「き、汚ねぇ・・・」

 

そんなことされたら、いうことを聞かざるおえねぇじゃねぇか・・・。

 

「でも、これだけじゃ足りないなぁ・・・もう逃げられないように・・・あ、いいの発見!」

 

彼女が指をさしたのは複数あるボートだった。どうやらここはボートに乗って景色を楽しむ場所らしい。

 

「ね、あれに乗ろうよ」

 

「・・・どっちにしろそれ返してほしいし・・・仕方ねぇ・・・」

 

「やった♪」

 

俺と彼女はボートに乗り込む。で、オールをこぐ役目は必然的に男である俺なんだが・・・少しこいだだけでも・・・し、しんどい・・・!

 

「ほらほらがんばって。あそこまでついたら生徒手帳、返してあげるよ」

 

「はぁ・・・はぁ・・・げ、限界・・・」

 

「もー、体力ないなー」

 

・・・つーか未だに信じられん・・・本当に目の前に5年前のあの子がいるなんて・・・。・・・いや、彼女やあの子呼びじゃダメだな。名前で・・・。あ、名前知らねぇや・・・。

 

「・・・ん?どうしたの?」

 

「いや、名前・・・」

 

「え?」

 

「俺はお前の名前を知らない・・・」

 

「私の名前?」

 

いつまでも名前で呼ばないのは失礼だからな・・・ちゃんと知っておかねば・・・

 

「・・・・・・そうだなぁ・・・。本名は言えないけど・・・じゃあ、零奈。私は零奈だよ。5年ぶりだね、風太郎君」

 

「零奈・・・」

 

それが、彼女の名・・・。本名じゃないようだが・・・それも深い事情とか言うんだろうな・・・。

 

「風太郎君も元気そうで安心したよ。髪も金髪じゃないから驚いちゃった。あ、もしかしてイメチェン?その黒髪、似合ってるよ。で、今高校生デビューしてる?何年生?」

 

零奈は俺に質問をぐいぐいしてるが・・・そんなことを気にしてる場合じゃない。

 

「・・・なんでここに来たんだ?」

 

「君に会うために、だよ」

 

わざわざ俺に会うためにここに来たのか?というか、なんで俺がここにいるとわかってるんだ?謎な女だな・・・。

 

「それより聞いたよ。あれから頑張って勉強して、学年1位になって・・・今は家庭教師をやってるんだってね。すごいよ」

 

この子にそう言われるのはうれしいが・・・それよりも零奈の言葉に引っかかりがある。

 

「・・・聞いたって、誰から聞いたんだ?」

 

「えっ⁉そ、そういう細かいことは気にしないの!」

 

いやまぁ確かに細かいと思うが・・・俺が家庭教師をやってるなんて、誰にも言ってないぞ俺は。

 

「そ、それより生徒さん!どんな子なの?聞かせて」

 

「む・・・」

 

はぐらかされたように思うが・・・そう言われたら答えないといけないか・・・

 

「・・・信じられないと思うが・・・教えてる生徒は同級生の六つ子で・・・」

 

「うんうん」

 

「・・・意外と驚かないんだな」

 

「え⁉あ!む、六つ子って本当にいるんだね!いやぁ、ドラマやアニメでしか見たことがないよ!うんうん!」

 

なんか今更感があるが・・・まぁいい。続けるか。

 

「そいつらが困ったことに、全員揃ってバカばっかりなんだよ。

 

まず、長女は夢追いバカ。あの長女の夢は今やってる女優業を極めることなんだ。俺はどうせ叶いっこないといっているんだがな。まぁ、根気はあるみたいで評価はしてる。だがバカだ。

 

次、次女は身内バカ。あいつは姉妹の誰よりも姉妹が大好きでな。だから姉妹贔屓ですぐ俺にかみついてくるんだ。・・・が、それだけと思っていたが、今はよくわからん。だがバカだ。

 

次、三女は卑屈バカ。初めて出会った頃は暗くて覇気がない顔をしてたんだが、近ごろは見るたびに生き生きしていて安心している。これからもそうして欲しいと願っている。だがバカだ。

 

次、四女は能筋バカ。姉妹の中で1番やる気があって頼りになるが同時に悩みの種でもある。なんせ伸びしろが1番悪いから。それに・・・いや、これは俺の思い過ごしか・・・。だがバカだ。

 

次、五女は真面目バカ。あいつとはまず俺と相性が悪い。不器用でもあるから会うたびにすぐ喧嘩腰になってしまう。だが本当はやれる奴だ。このままじゃもったいない。だがバカだ。

 

最後、六女は芸術バカ。四六時中絵のことばっかり考えてる。本人は芸術家じゃないって言ってるが、誰が見ても芸術家気質なんだ。だがそれもあって、仕上がる絵はプロ級だ。だがバカだ」

 

あいつらを語るたび、俺の脳裏にはあいつらと過ごした日々が蘇ってくる。

 

「・・・まぁ、こんなところだが・・・?どうした?」

 

よく見たら零奈の奴、顔を俯かせてるじゃねぇか。今どんな表情をしてるのか、帽子のせいでわからんが。

 

「・・・ううん、何でもないよ。でも・・・そうだなぁ・・・びっくりしたけど・・・真剣に向き合ってるんだね!きっと君は、もう必要とされてる人になれてるよ。すごいなぁ・・・」

 

「!!・・・五月にも同じことを言われたことがある」

 

零奈の言葉で俺はどれだけ報われたことか・・・俺はほっとし・・・

 

『あんたなんて・・・来なければよかったのに!』

 

・・・いや・・・ダメだ。もし本当に必要とされているなら、こんなことにはならなかった。必要のある人間には・・・程遠い・・・。

 

「・・・いや・・・俺はあの日から何も変わってない・・・」

 

そう・・・俺は何も変わってない・・・あの頃のまま・・・変わろうとしてただ勉強していただけだ・・・。

 

「・・・そっか。じゃあ・・・君を縛る私は、消えなくちゃね

 

「?なんて・・・?」

 

よく聞き取れなかったのでもう1度聞こうとした時・・・

 

ブシャアアアア!

 

川の中から噴水が湧きだしてきた。

 

「わあ!噴水だー!あはは!」

 

「めっちゃ近かったし、普通にあぶねぇな」

 

まったく、誰だよ、こんなとこに噴水を仕掛けた奴は。頭おかしいんじゃねぇか?

 

「わー!つめたーい!にっげろー♪」

 

「俺任せでだろうが!!」

 

「風太郎君おっそーい!」

 

「お前も少しは手伝え!」

 

俺は噴水から逃げるようにボートをこぎまくった。ひ、非常に疲れる・・・。だが・・・5年ぶりに会ったこの子と、こうして過ごすのは・・・悪くない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

こぎ続けて、ようやく目的地の桟橋にたどり着いた。ぼ、ボートをこぐのってこんなにしんどいんだな・・・。

 

「はい、お疲れ様」

 

「つ、疲れた・・・」

 

零奈は桟橋につくなり、ボートを降りていった。

 

「じゃあ約束通り、これは返すよ。・・・でも、これは返してあげない」

 

!!生徒手帳を返してもらったのはいい。だが零奈の持っているのは、その手帳に挟んであった写真だ。

 

「は?なんで・・・」

 

「私は・・・もう君に会えないから」

 

!!!もう・・・会えない・・・だと・・・?

 

「お、俺を呼び止めておいて・・・どういうことだ!説明してくれ!」

 

零奈は説明を求めても何も言わず、その場に去ろうとする。

 

「ま、待ってくれ!頼む!」

 

俺の声を聞いた零奈は服から何かを取り出し、俺に渡してきた。これは・・・修学旅行の時のお守り・・・。

 

「自分を認められるようになったら、それを開けて」

 

「なっ・・・それはどういう・・・」

 

がこっ

 

俺が零奈に何かを問い詰めようとした時、ボートが傾き、足元をつまずかせ・・・

 

「さようなら」

 

どぼんっ!

 

零奈の言葉と一緒に、俺は川の中へと落ちていった。桟橋だったということもあり、俺はおぼれることはなく、すぐに川から浮き上がる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・お前は何をしに・・・」

 

問いかけても零奈の姿はもう、どこにも見当たらなかった・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

なぜだ・・・なぜなんだ・・・零奈・・・。零奈の真意がわからず、俺に残っているのは無気力感だけ・・・。

 

「わ!上杉さん⁉」

 

ぼーっとしていると、四葉が来たが・・・そっちを向く気力がない・・・。

 

「こんなところで何して・・・」

 

「中野さーん、止まってないで走るよー」

 

「は、はい。すみません。あのー・・・少し休憩・・・というか・・・帰って勉強をしたいのですが・・・」

 

「何言ってんの?3年生の先輩も大学受験がある中来てくれてるんだよ?」

 

「そ、そう・・・ですよね。すみません・・・」

 

四葉と陸上部員がなんか話しているようだが・・・もう何を言ってるのかわからなかった。

 

「で、では私は行きますので!勉強、がんばりますので、二乃と五月をお願いします!」

 

四葉は・・・行ってしまったか・・・。ぼーっとしすぎて本題を忘れてしまった・・・。・・・そうだ・・・二乃・・・二乃のところにも・・・行かないと・・・。正直、そんな気力はないが・・・せめて・・・せめて家に帰さないと・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃が泊っているホテルに来たが・・・警備員に止められてしまう。・・・そりゃそうだよな・・・。もう・・・話を聞く気分ではないな・・・。

 

「何度言ったらわかるんですか。お客様の迷惑ですよ」

 

「・・・すみません。帰ります・・・」

 

零奈・・・お前は俺に何を求めていたんだ・・・こんな何もできない俺を・・・。

 

バサッ

 

「警備員さんの言うとおり、あんたみたいなみすぼらしい奴がこんなとこにいたら他の人の目汚しになるわ」

 

無気力な俺にタオルを投げつけてきたのは・・・

 

「邪魔よ。アタシの部屋まで来なさい」

 

今まで俺を拒絶してきたはずの二乃だった。

 

20「5年ぶりの再会」

 

つづく




おまけ

先日の食卓事情

三玖「今日の晩御飯は私が作った。食べて」

四葉「・・・えーっと、これ何?」

三玖「シチュー」

六海「・・・シチューってこんなに茶色だったっけ?」

一花「あ!わかった!ビーフシチューでしょ?そうなんでしょ?」

三玖「普通のシチュー」

一花「あ、はい・・・」

六海「ど、どうしよう・・・四葉ちゃん・・・」

三玖「・・・食べないの?」

四葉「い、いただきます・・・」

3人は三玖の作ったシチューを渋々ながら食べた。三玖の頑張りを無駄にしないために嘘をついて三玖をその場から離れさせ、三玖の分も食べた。

三玖は自分の分はたべれなかったが、おいしいといってくれたので満足。これを機に3人は二乃が帰ってくるまで今後のご飯は出前か弁当にすると決めた。ちなみに三玖の今晩のご飯はサンドイッチになった。

先日の食卓事情  終わり

次回、二乃視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6人で全員1人前

今回が六嫁今年最後の投稿となります。この作品を読んでくださってる方、本当にありがとうございます!来年も頑張って達筆がんばります!

それから1つ謝罪を。リアルの関係上、番外編は予定よりだいぶ遅くなりそうです。そうですね・・・原作でいう7つのさようなら編が終わったくらいになるでしょうか。誠に申し訳ございません。

それから、アカウントを持っていない方のためにアンケートの答えを発表します。今回番外編のトップバッターに選ばれたのは、六海ちゃんでした!

来年も感想、挿入絵の募集の制限はないので、気軽にお待ちしております。

それでは、よいお年を。


性懲りもなく、アタシが泊まってるホテルにまた上杉が来てたから文句を言おうとしたけど気が変わった。だって、いつもの自分勝手な様子は微塵もなく、落ち込んでいる様子だったから。あんな様子は初めてだったし、見ていられなかったから、アタシの部屋に入れた・・・けど・・・

 

「「・・・・・・」」どんより・・・

 

正直、今のこいつを見てると、気分が滅入るわ。いつもの身勝手ぶりはどこへやらって感じよ。本当に、調子が狂うんだから・・・。

 

「はあ~あ、やだやだ・・・辛気臭いわね」

 

「はぁ・・・人のこと言えた義理かよ。どういう風の吹きまわしだ?5人から解放されて、自由の身になったんじゃないのかよ?」

 

本当はこんなこと、望んでやったわけじゃないんだけど・・・こういう時自分が嫌になってくるわ。自身の意地がそれを邪魔するもの。

 

「そうよ。テレビは見放題、エアコンの温度は自由自在、誰も部屋を散らかさない。1人ってちょー最高よ。べ、別に1人が寂しいからってあんたを入れたわけじゃないんだからね!」

 

言わなくてもいい一言をつい言ってしまう・・・自分で言っておいてなんだけど、寂しいってことがまるわかりな答え方ね。まぁ別に寂しくないけど。

 

「・・・・・・」

 

「って、聞いてすらないわね・・・」

 

全く人の気も知らないでぼーっとして・・・何がしたいのかしら・・・。て、ちょっと待って。・・・やっぱり匂うわね。匂いの元は・・・やっぱ上杉か・・・。

 

「ていうか、辛気臭いだけじゃなくて本当に臭いわね。今日雨じゃなかったでしょ?なんで濡れてんのよ?」

 

「ああ、これか・・・。諸々とあってな・・・そのトラブルで川に落ちた」

 

「どんな諸々よ・・・」

 

つーかそんなべっちょりとした体で平気でいるとか・・・どうかしてるんじゃないかしら?それに、そんな体だと今上杉が座ってるソファーが濡れるでしょうが。

 

「何でもいいから、シャワー浴びてきなさいよ」

 

「え?俺は濡れた程度、気にしないが・・・」

 

「アタシが気にすんのよ!!」

 

本当マジで神経イカレてんじゃないの⁉べっちょりした服に・・・べたついた髪・・・ううぅぅ・・・!見てるだけで鳥肌が立ってきたわ・・・!

 

「もう我慢の限界!!ちょっとこっち来なさい!!」

 

「な、なんだよ⁉」

 

アタシは濡れないように手にタオルを持って上杉を洗面所の隣にあるお風呂場まで連れていかせる。

 

「もうね、あんたの今の姿見てて鳥肌が立ってくるのよ!!着替えは乾かしとくから、あんたはさっさと洗ってきなさいよ!!」

 

「いや、俺は別にそんなの気にしな・・・」

 

「い・い・か・ら・は・い・れ!!!」

 

「・・・わかったっての・・・」

 

ようやく納得したのか上杉はシャワーを浴びることになった。アタシはせっせと洗面所を出て、エアコンの温度を調節して、上杉の服を乾かす。・・・ちゃんとシャワーしてるんでしょうね?

 

ちょっと気になってアタシは洗面所まで戻ってきた。・・・あ、シャワーの音が聞こえる。どうやらちゃんとやってるみたいね。あのままだったらもう蕁麻疹が出そうな勢いだったから、安心したわ。

 

「いい?ちゃんとシャンプーだけじゃなくてトリートメントもするのよ?」

 

「へーい。たくっ、面倒だな・・・お前はよくそんな長い髪でいられるな。ケアとか大変だろ?」

 

!!アタシ達六つ子にとって、幼い頃の特徴である、長い髪・・・。上杉の言うことは最もね。正直邪魔くさいわ。でも、アタシにとってこの髪は、大切なもの。でも・・・それと同時に、枷でもある。

 

「そ、そうね・・・毎日きれいに洗ってるわ。その分整えるのも一苦労だわ。あんたにこの量の髪がケアできるかしら?」

 

「まずそんなに伸ばさねぇよ。邪魔くせぇ」

 

「ていうかロン毛のあんたを想像したら気持ち悪くなってきたわ」

 

「あ?似合ってるかもしれねぇだろ?俺のポテンシャルを甘く見ると痛い目見るぜ?」

 

「何言ってんのよあんた・・・。おえー、気持ちわる・・・」

 

「吐き気催してんじゃねぇよ、泣くぞ?」

 

・・・あれ?いつもは険悪なのに・・・アタシ、なんで上杉とこんなに話せるのかしら・・・。

 

「つーか髪型なんてなんでもいいしな。邪魔さえならなければ何でも」

 

「じゃあその変な髪型やめなさいよ。イケてないわよ?」

 

「らいははこの髪型にしかカットできない」

 

「なんで妹に髪切ってもらってるのよ?美容院に行きなさいよ」

 

「うちにそんな金があると思うか?なんだったらお前も妹に髪切ってもらえよ。四葉あたりなら器用じゃねぇか?」

 

「絶・対・嫌!」

 

アタシって、1対1とでなら、こいつともすんなり話せるのね・・・今気づいたわ。そういうことなら・・・1番気になってることでも聞こうかしら・・・。

 

「・・・ねぇ、何かあったの?」

 

「・・・は?何が?」

 

「だから、ここに来るまでに何があったのって聞いてるの。あんなずぶ濡れになってさ」

 

「・・・・・・別に、何もねぇさ」

 

「嘘!あんたが落ち込んでるとこなんて初めて見たわよ」

 

「お、落ち込んでねぇよ!」

 

「いいから聞かせなさいよ。1人は楽で快適だけど、話し相手がいなくて暇すぎるのよ」

 

「・・・・・・」

 

上杉は長い間をあけて、ようやくここに来るまでの経緯を話してくれたわ。

 

「・・・5年前・・・1人の女の子に出会ったんだ。その子と一緒に、ちょっとした誓いを立てたこともあった」

 

え・・・ちょっと・・・何よそれ・・・上杉のくせに・・・めっちゃロマンチックじゃないその展開。

 

「・・・その子がな、今になって俺の前に姿を現して・・・意味の分からないことを言い残して・・・で、そいつは俺の前から姿を消した。はい、終わりだ」

 

・・・ちょっと・・・本当に何なのよそれ・・・5年ぶりの再会と思ったらいきなりのお別れだなんて・・・そんなの・・・

 

「・・・二乃?・・・反応なし。寝てるのか?悪いな、こんなつまらん話をしちまって・・・って・・・」

 

ものすごく切ないじゃない・・・気づけば涙があふれて本当に止まらないわ・・・。

 

「・・・えっ・・・えぇ~~・・・何で泣いてんの?」

 

「だ・・・だって・・・あんた5年もその子のこと好きだったんでしょ?いきなりさよならなんて・・・切なすぎるわよ・・・」

 

「い・・・いや・・・好きとかじゃねぇよ・・・感謝と憧れがあっただけだって・・・」

 

「それ好きだってことじゃない!明らかにほの字じゃない!」

 

「だからそういうのじゃねぇって・・・。しかし、意外だぜ。たかが俺のためにそこまで泣い・・・」

 

「あーちょうどいい泣ける話だったわ!!めっちゃちょうどいい!!もう感涙よ!!感涙!!」

 

「最低。半分面白がってるだろ」

 

別に面白がってないわよ!ただ最近本当に潤いが足りてなかったからこの手の話題にちょうどいいって本気で思っただけよ。

 

「でもさ、元気出して。あんたみたいなノーデリカシー男でも好きになってくれる人が1人でもいるわよ」

 

「お前・・・」

 

アタシは上杉に聞こえるように洗面所に顔を向けて言っ・・・た・・・

 

「って!!!何出てきてんのよ!!!露出魔!!!」

 

視線を向けた先には裸の上杉が立っているじゃないの!!ちゃんとバスタオルで下半身は隠しているけど!!

 

「露出魔とは心外だな。ちゃんと隠してるだろ?それに、俺とお前は裸の付き合いだろ?忘れたとは言わせんぞ」

 

「いつの話してんのよ!!!ていうかそれは忘れろーー!!!」

 

アタシは上杉から離れた。上がるなら上がるって言いなさいよ!あんたの裸なんか見たくなかったわよ!

 

バサァッ

 

「ん?なんだこれ?」

 

「あ!それは・・・!」

 

離れる際にアタシは近くに置いといた紙袋を蹴飛ばしてたみたい。それで中に入ってたものが散らばってしまってる。

 

「!これ・・・」

 

紙袋に入っていたのは、上杉が作った問題集よ。自分で破ったものも、テープで補強してるものもあるわ。

 

「・・・やっていたのか・・・わざわざテープで止めてまで・・・」

 

「・・・これ、個別で問題を分けてたんでしょ?実を言うと・・・あの時、これを払いのけたけど・・・それでこれが手書きだっていうのに気付いた」

 

本当に偶然気が付いたんだけど・・・その時はイライラしてたし、アタシ自身も意地を張ってたから、上杉の頑張りを認められなかった。だから・・・一応は反省してるわ。

 

「本当は・・・い、一応は・・・悪かったと思ってるわ。だから・・・ごめん」

 

・・・なんだか柄にもなくしおらしくなった気分だわ。でも、一応は謝ることはできてよかったわ。

 

「ああ、いいぞ。許してやる。だからその調子で五月にも謝るんだ」

 

「それは嫌よ!!」

 

「えぇ~・・・なぜ?」

 

でもそれとこれとは話が別!五月には意地でも謝りたくないわ。

 

「はぁ・・・まだ五月に叩かれたこと根に持ってんのか?許してやれよ」

 

「・・・昔はあんなことをする子じゃなかったのよ。なんだか・・・五月が知らない人になったみたい」

 

もし五月に謝ってしまったら、そのことを認めてしまいそうで・・・それが嫌だから・・・謝ることがどうしてもできないのよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『居心地が悪い!!』

 

二乃が泊ってるホテルから出た後、風太郎は家に戻り、ホテルで起こったことを全て五月に話した。仲直りして、また仲のいい姉妹に戻ってもらうために。だが・・・

 

「二乃が謝罪したって・・・そんなにすんなりいくものなんですか?申し訳ないですが・・・にわかには信じられないのです」

 

このように五月は半信半疑の状態で、信じてもらえてない。

 

「お前に謝ることは拒否ってたが・・・俺に謝ったのは本当だ!反省してるんだからお前も許してやれ。いつまでも意地はってんじゃねぇよ」

 

「お兄ちゃんいつもより髪サラサラだー」

 

「そう言われましても信じられないものは信じられないのですが・・・」

 

あまりに煮え切らない様子の五月だが、風太郎は諦めず説得する。

 

「ほら、前に一緒に映画見に行ったことがあったろ?またその時みたいに・・・」

 

「・・・そうは言いますがあの時だって・・・」

 

五月は前に映画を見に行った時のことを話した。映画が始まる前に映る他の映画の広告があったのだが、二乃と五月の好みは見事に違っていた。

 

二乃が愛のサマーバケーション。

 

五月が生命の起源~知られざる神秘~

 

ちょっとした好みが違い、お互いにかなり小さな喧嘩を起こしたことがあったようで、五月はそれが根に持っているようだ。ちなみに風太郎はどちらも不評のようだ。

 

「あ!今日まだゴミだしてないや。まだ間に合うかなー?」

 

「大丈夫ですよ。今日は不燃ごみの日だったのでまだ間に合います。私が代わりに出しておきますね」

 

「わーい!五月さんありがとー!」

 

「・・・ん?」

 

五月が上杉家に馴染んでいる姿に若干もやもやが生じる風太郎。

 

「あれ?俺の腕時計どこだったっけか・・・」

 

「それならこちらに置いてありましたよ。どうぞ」

 

「おお!助かったぜ!ありがとな、五月ちゃん!」

 

「五月さーん!この輪ゴムって分別どっちだっけー?」

 

「それは可燃ですね」

 

「いやー、五月ちゃんがいると助かるなー!がはははは!」

 

「・・・居心地がわりぃ・・・」

 

もう上杉家の住人のようにふるまっている五月を見て、風太郎はかなりイライラした気持ちになり、二乃の気持ちがものすごく理解した気分になった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の放課後、今日も上杉がアタシの泊まってるホテルに来た。で、今はアタシの部屋のソファーに座っている。

 

「なんか五月がうちに信じられんくらいに馴染んでな・・・正直居心地が悪くてたまらんかった。なんだか俺がお前たちの家に居座った時、お前のイライラしてた気持ちがものすごくわかってきたぜ」

 

「ふーん。どうでもいいけど。それより、ルームサービス呼ぶけどあんたなんかいる?」

 

「うーん・・・じゃあ喉乾いたし、飲み物頼むわ」

 

「はーい。こっちで適当になんか頼むわね」

 

アタシはルームサービスを頼むために電話の取っ手を掴み・・・

 

「・・・って!!なんで当たり前のようにあんたいるのよ!!」

 

あっぶな!軽く流すところだったわ!なんでアタシ、こいつを当たり前のように部屋に入れたのよ!アタシのバカ!

 

「なんだ?頼まねぇのか?飲み物くらい出してくれよ」

 

「めっちゃ図々しいわね!!昨日のしおらしさはどこに消えたのよ!!」

 

「うるせーな。誰かさんがぎゃーぎゃー騒ぐからそんな気分じゃなくなったんだよ」

 

その誰かさんってアタシのことじゃないでしょうね⁉もしそうだったらはっ倒すわよ!!

 

「それに、とりあえず今は、今目の前の問題を解決しないといけねぇしな」

 

「目の前って・・・ああ、期末試験ね」

 

「・・・期末試験・・・。そっか・・・期末試験のために動いてたんだったっけか。すっかり忘れてたぜ」

 

え、ちょっと本当に意外過ぎるんだけど。期末試験のために動いてたのを忘れるだなんて。

 

「昨日のことは正直、確かにショックだった。この時期に、このタイミングに、なぜあの子が俺の前に現れたのかはわからない。だが、あいつのおかげで1つ教えられたことがある」

 

「?」

 

「人が変わっていくのは避けられない。前に進むために、過去は忘れて今を受け入れなければいけないとな」

 

!過去を・・・忘れて・・・今を受け入れる・・・

 

「だからお前も仲直りして帰ろうぜ。みんな待ってる」

 

それは・・・アタシ自身もよくわかってる。自分だって、このままじゃいけないってことは重々承知。でも・・・どうしても割り切ることができないのよ。

 

「忘れたらいいって・・・そんな簡単に割り切れるなら苦労しないわよ」

 

アタシ達六つ子のことを例えるならこの羽ペン・・・羽で連想するもの・・・ひな鳥、その子供だわ。

 

「ここはアタシの部屋だから、これは単なる独り言」

 

「?二乃?」

 

「アタシ達が同じ外見、同じ性格だった頃、まるで全員の思考が共有されているような気がして、とっても居心地がよかったわ。でも・・・5年前から変わった」

 

アタシ達が変わり始めたのは・・・アタシ達のお母さんが・・・病気で亡くなった後・・・

 

「みんな少しずつ変わっていった。中にはガラッと変わってた子もいたし、一花が女優をしていたなんてしらなかったわ。日がたつにつれて、みんな当たり前のように変わっていく。まるで六つ子から巣立っていくように、アタシだけを残してね」

 

六つ子の中で1番変わってないのも、いつまでも過去を引きずってるのも・・・たった1人・・・アタシだけ。

 

「アタシだけがあの頃を忘れられない。だからこの髪の長さだって変えられないまま。だから無理にでも巣立たなきゃいけない。ただ1人だけ、取り残されないように」

 

これが解決法になるとは思ってはない。でもそれでもアタシは・・・

 

「・・・お前は本当に、それでいいのか?」

 

「いいのよ。あんたの言うとおり、過去は忘れて前へ向いていかなきゃ。後は・・・そうね・・・心残りがあるとすれば・・・林間学校・・・というか、キンタロー君」

 

「!!!!」

 

あの林間学校で出会い、アタシに付き添ってくれたり、助けたりしてくれたあのキンタロー君。あいまいな別れ方をしたから、どうしても気がかりなのよ。

 

「ふふ・・・しっかりお別れできてなかったからかしら・・・もう1度会えばケリ付けられるかもって、思ったんだけど・・・どうしてもキンタロー君のことが気がかりで・・・忘れさせてくれないわ・・・」

 

キンタロー君・・・今どこにいるのかしら・・・。できることなら・・・もう1度だけでもいいから・・・あなたに会いたいわ・・・。

 

「・・・もしかしたら・・・今日がその時なのかもな・・・」

 

「え?」

 

上杉は今なんて言ったのかしら?声が小さすぎて聞こえなかったわ。

 

「なぁ・・・もし会えるっていったら・・・お前はどうする?」

 

「えっ!!?」

 

会えるって・・・まさか・・・キンタロー君に⁉

 

「どうなんだ?」

 

「そ、そりゃ・・・会いたいけど・・・呼べるの⁉」

 

「あ、ああ・・・ひとっ走りで呼んできてやるが・・・どうする?」

 

こ、これは・・・願ったり叶ったりの展開だわ・・・!あのキンタロー君に会えるなんて・・・!

 

「じゃ・・・じゃあ・・・お願い・・・できるかしら・・・」

 

「ああ。わかった。ひとっ走りして呼んできてやるから、部屋で待ってろよ」

 

アタシの望みを聞いた上杉はソファーから立ち上がってキンタロー君を呼びに部屋から出ていったわ。・・・やばい・・・どうしよう・・・なんだか緊張してきたわ・・・!はっ!そうだわ!キンタロー君が来るんだし、部屋の片づけをしないと!ああ・・・こんなに胸が高鳴るのは久しぶりだわ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『四葉が心配』

 

中野家で一花たちはリビングで集まって風太郎が用意した問題集を進めている。いや、正確には一花と三玖はもう終わらせ、六海もたった今終わらせ、残るは四葉だけだ。

 

「終わったー!!ノルマ達成ー!!」

 

「お疲れさまー。よくがんばったね、六海」

 

「ほら、後は四葉だけ。頑張って」

 

「うぅ・・・六海が終わったなら、私だって!!」

 

四葉は自身の脳をフル回転させ、問題を進めていく。数十分の時間がたち、ようやく終わりの時が来た。

 

「よーし!!終わったーーー!!!」

 

「「「よっ、天才!!」」」

 

「えへへ・・・もう一生分勉強したかも・・・」

 

ここまで頑張った四葉に3人は労いの言葉をかける。四葉もやり切った風ないい笑顔をしている。

 

「・・・五月と二乃も、今頃これをやってるのかな・・・?」

 

「どうなんだろ?二乃ちゃんはこれ、破っちゃってるし・・・」

 

「一応は2人の居場所はわかってるんだよね?詳しくは知らないけど・・・」

 

「・・・きっとすぐ戻ってくる」

 

五月と二乃の様子が気になる4人がそんな話をしていると、四葉のスマホからメッセージが届く。

 

「あ・・・もしかして・・・ついに2人から連絡が・・・!」

 

四葉はすぐに届いたメッセージを確認すると、一気にしゅんとした顔つきになる。

 

「・・・って、ごめん・・・陸上部の部長さんからだった・・・」

 

「・・・四葉・・・その陸じょ・・・」

 

「あ!大変!もうお風呂入って寝ないと!」

 

「あ・・・」

 

四葉が陸上部の練習を続けていることに三玖は少し話をしようとした時、四葉はすぐに浴室へ続く洗面所へと入っていった。

 

「・・・一花・・・」

 

「うん・・・当事者同士で解決するのが1番だと思ってたんだけど・・・」

 

「でももうすぐ試験だよ?そうも言ってられないんじゃない?」

 

「そうなんだよねぇ・・・う~ん・・・」

 

少し無理をしている傾向のある四葉を心配する3人は自分たちに何ができるかというのを考える。

 

「・・・あ、全然関係ない話なんだけど・・・誰か六海の睡眠薬知らない?後1つしかなかったんだけど・・・」

 

「え?うぅ~ん・・・ごめん、何も知らないや」

 

「私も。不眠症じゃないし」

 

「えぇ~?おっかしぃなぁ・・・容量は守ってるのに・・・」

 

二乃と五月が家出中のため、最近寝付けない六海は睡眠薬を今現在使っている。それがいつの間にか1つしかなくなっており、一花たちが盗ったのではと考えていたようだが、どうも一花と三玖は本当に知らないようだ。

 

「四葉ちゃんと五月ちゃん・・・は絶対ないだろうし・・・そうなると・・・」

 

「二乃しかいないね・・・」

 

「それ以外考えられない」

 

「やっぱりか!!」

 

優しい四葉と真面目な五月は人のものを取ることはないので、なくなった原因は二乃であることが判明した。

 

「困ったなぁ・・・返してもらおうにも話す前に無視されるし・・・」

 

「もう全部使われてたりして・・・」

 

「それはない・・・と思ったけど、睡眠薬使って風太郎君を追い出したこともあったから否定できない・・・」

 

「あー、家庭教師初日のあれかー。懐かしいね」

 

二乃が拒絶すること、薬はもう使いきってしまった可能性があると考えて、返してもらうことは諦める六海。

 

「しょうがないなー。もう1回ドラッグストアで買いに行こ。ついでになんか欲しいものってある?」

 

「んー、じゃあ、コーヒーお願いできるかな?」

 

「私は抹茶ソーダ」

 

「オッケー。じゃあすぐに行ってくるね」

 

「気を付けて行って来てね」

 

六海は自分の財布とスマホをもって、睡眠薬が売ってるドラッグストアへ向かっていくのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

アタシは部屋を片付けた後、キンタロー君のために甘ーいお菓子を作っている最中だわ。今日のメニューはシュークリーム。きっとキンタロー君も気に入るはず・・・♪

 

「ふーんふーふふーん♪」

 

キンタロー君がこのホテルに来る・・・そう思うだけでアタシの心は六海流で言うならポカポカ状態だわ!でも上杉が走って呼びに行く意味でもあったかしら?電話で呼べばいいと思うけど・・・。・・・もしかして、キンタロー君とわざわざ2人っきりにさせてくれるってことかしら?だとしたらたまにはいいことするじゃない、あいつも。

 

コンコンッ

 

あ、このノックの音・・・もしかして、もう来たのかしら?

 

「はーい!」

 

アタシが入り口のドアを開くと、そこには見間違えるはずもない・・・林間学校で出会った・・・あの写真の男の子・・・キンタロー君がいた。

 

「いらっしゃい、キンタロー君♪」

 

「ど、どうも・・・」

 

「さっ、遠慮せずに入って♪」

 

「お、お邪魔します・・・」

 

アタシはキンタロー君を部屋に入れてあげたけど・・・今さらながら緊張してきたわ・・・て、ちらっと見たらキンタロー君は少しそわそわしているわね・・・ちょっといじわる言ってみようかしら・・・。

 

「ねぇ、アタシになんか言うことあるでしょ?」

 

「・・・っ。そうだ・・・言わなくちゃいけない。悪かった」

 

あら・・・思ってたより誠実に謝ってきたわね。まぁ・・・いじわるといってもあれはただアタシが一方的に約束したものだし、そこまで怒ってないわ。

 

「実は・・・俺は・・・」

 

「いいよ。キャンプファイヤーをすっぽかされた件は水に流します」

 

「!いや・・・そうじゃなくて・・・」

 

「ま、流すも何もアタシがただ一方的に言っただけなんだけどね」

 

「や・・・だから・・・」

 

「はい、この話はおしまい。それから、これ、返すね。今日はずっと付き合ってくれる約束でしょ?破ったら今度こそ許さないんだから」

 

アタシはキンタロー君からずっと借りていたもの、腕につけていたミサンガをキンタロー君に着けてあげた。これも心残りだったから、返すことができて内心ほっとした。

 

「じゃあそこらへんに座ってね。今お菓子作ってる途中なの。本当はキンタロー君が来るまでに作っておきたかったんだけど・・・思ったより早かったわね」

 

アタシはキンタロー君のためにお菓子作りを再開する。生地もクリームももうできてるから・・・

 

「・・・あの・・・実は俺・・・」

 

「待って!集中してるから!」

 

キンタロー君がいるのだもの。失敗できないわ。えーっと、次に焼く作業に入るわけだけど・・・

 

「よし。手伝おう。その方がすぐ終わるだろう。で、何作ってんだ?」

 

えっ・・・ちょっと待って・・・手伝ってくれるって・・・キンタロー君が・・・?

 

「えっと・・・ごめん、ちょ、ちょっと待ってね・・・電話してくるから」

 

「お、おう・・・」

 

アタシはいったんベランダに出て、キンタロー君のヒントをもらおうと上杉に電話を入れる。・・・あ、出たわ。

 

≪も・・・もしもし?≫

 

「あ、もしもし?上杉?キンタロー君、ちょー優しすぎるんだけど。ていうか、緊張しすぎて顔がまともに見れないわ!」

 

≪そんなこと言いたかったのかお前は・・・。で、何の用だ?≫

 

「あ、ごめんごめん。今シュークリーム作ってんだけどキンタロー君ってシュークリーム嫌いじゃないわよね・・・?」

 

≪え?あ、ああ・・・大好きだと思うぞ・・・多分・・・≫

 

「ん。オッケー。教えてくれてありがと」

 

聞きたいことを聞き終えてアタシは通話を切ってキンタロー君に顔を向ける。

 

「シュークリーム作ってるんだけど・・・どう?」

 

「い、いいね・・・シュークリーム・・・大好物だ・・・」

 

よし!もし嫌いだったらどうしようって思ったけど・・・大正解だったみたいね!一応上杉に聞いてよかったわ!

 

「で?何すればいいんだ?」

 

「そうねぇ・・・生地とクリームはできてるし、後は焼くだけなんだけど・・・」

 

「え?そうなのか?」

 

うぅ~ん・・・でも、せっかくキンタロー君が手伝ってくれるんだし、なんか申し訳ないなぁ・・・

 

「そうだ!冷蔵庫にフルーツがあるから、よかったら取ってもらえる?」

 

「え?フルーツいるの?」

 

「だ、ダメだった・・・?」

 

「い、いや・・・大丈夫だ」

 

やっぱキンタロー君優しいわ・・・。は!いけないいけない・・・見惚れてないで早く焼かないと後はこの出来上がった生地をオーブンに入れて・・・15分にセットして後は待つだけ。

 

「フルーツってこれでいいのか?」

 

「あ、ありがとう」

 

いちご、みかん、ぶどうに桃・・・いろいろ持ってきたわね。でもこれだけあればいろいろデコレーションできるかも。

 

「「・・・・・・」」

 

あ、後は待つだけなんだけど・・・キンタロー君とおしゃべりしたいんだけど・・・会話が続かないわ・・・。

 

「ごめん、ちょっと電話」

 

「またか」

 

アタシはまたベランダに出てまた上杉に電話をかける。

 

≪・・・何の用だ?≫

 

「ぜ、全然会話が進まないんだけど、キンタロー君の趣味って何?」

 

≪そこかよ!本人に聞けよ!≫

 

「それができないからあんたに聞いてんでしょうが!」

 

≪面倒くさい奴。べんきょ・・・読書かなんかだろ?・・・多分」

 

「ん。ありがと」

 

もう1回通話を切って、アタシはキンタロー君の顔をちらちらと伺う。

 

「コノ前見タ映画面白カッタナー。アノ映画ノ原作ッテ小説ダッタッカナ~。詳シイ人イナイカナ~?」

 

「棒読み間半端ねぇな。下手くそか」

 

そんな風なやりとりをしている間に15分がたった。しっかり出来上がってるかしら・・・。アタシはオーブンを開けて生地を確認・・・え・・・嘘・・・

 

「き・・・生地が・・・」

 

「膨らんでないな・・・」

 

こ、ここに来て失敗するだなんて・・・。こうも膨らまないことに、アタシは思い当たる節がある。

 

「霧吹き忘れたかも・・・いつもはそんなことしないのに・・・」

 

そう、霧吹きを忘れてしまったのよ。それをやっとかないとシュークリームの生地は焼いても膨らまないし、ただ焦げるだけだわ・・・。こんなこと・・・キンタロー君の前で・・・失態だわ・・・

 

「まさか二乃が料理に失敗するとはな・・・」

 

・・・え?今キンタロー君が口にしたことをアタシは見逃さなかった。

 

「き、キンタロー君、今なんて・・・?」

 

「あ・・・いや、料理が得意って風太郎から聞いたから・・・」

 

「そうじゃなくて・・・ちょっと電話!」

 

料理が得意とか、失敗とかなんて些細なこととだわ。アタシはすぐにリビングに出て3度目の上杉の電話をかける。

 

「ど・・・どうしよう、上杉・・・!彼、私のこと、名前で呼んだわ!」

 

そう、キンタロー君はアタシのこと、二乃って・・・

 

≪んなどうでもいいことで電話してくんな!!!≫

 

ブチッ!

 

あ!切られたわ・・・少しくらい聞いてくれたっていいのに・・・と、上杉よりもキンタロー君だわ。お菓子作り・・・失敗したわ・・・どうしよう・・・

 

「ご、ごめんね、キンタロー君・・・いつもならちゃんとしてたのに・・・」

 

「き・・・気にするな・・・料理の失敗は成功の元っていうだろ?また作り直せばいいさ」

 

き、キンタロー君・・・なんて優しいの・・・!キンタロー君に励まされて、俄然やる気が出てきたわ!

 

「よーし!もう1回作るわよー!」

 

アタシはすぐに生地の作り直した。今度は霧吹きを忘れずに・・・そしてこの生地をもう1度15分間焼いと・・・。

 

そして15分・・・今度はしっかりシュークリームの生地が完成したわ。後はこの生地にクリームを包み込んで、仕上げにフルーツを取り入れて、完成!

 

「出来上がり!さ、食べて!」

 

「・・・俺の知らないシュークリームだ・・・。普通のはないのか?」

 

え・・・キンタロー君、こういうのじゃなくて普通のがよかったんだ・・・せっかく作ったのに・・・。でも、できる限りキンタロー君のリクエストには応えたいし・・・

 

「ご、ごめんね!すぐに作り直すから!」

 

「い、いや・・・それじゃあ負担がかかるだろ?ちゃんと食うよ」

 

キンタロー君はアタシの作ったシュークリームを手に取って一口パクリ・・・。ど、どんな反応かしら・・・

 

「・・・ん、うまいな。こういうのも悪くない」

 

おいしいって言ってくれた・・・!もう・・・本当に・・・うれしい・・・!1回失敗しちゃったけど・・・一生懸命作った甲斐があるわ・・・!

 

「よかった!さ、どんどん食べて!たくさん作ったから!」

 

「本当にたくさんだ・・・」

 

アタシが作ったシュークリームはなにも1個だけじゃない。もう数えきれないくらいにあるわね。

 

「・・・こんなにたくさんあるんだ。独り占めはよくねぇ。姉妹を呼んで食べてもらおうぜ」

 

!!・・・姉妹たちを・・・呼んで・・・。確かにあの子たちを呼べば、これくらいの数は一瞬でなくなる・・・。でも・・・でも・・・アタシは、そんなことしたくない。

 

「・・・そんなこと言わないでよ。せっかく2人っきりだもん。誰にも邪魔されたくないわ」

 

「邪魔だなんて・・・そんな・・・」

 

「特に六海・・・1番下の妹・・・キンタロー君、会ったことあるでしょ?」

 

「あ、ああ・・・二乃と別れて、すぐに、な」

 

「あの子・・・あの子にだけは・・・邪魔されたくないわ。だって、あの子は君に特別な感情を持ってるんだもん・・・」

 

(もうそれ解決したけどな・・・)

 

林間学校で妙に浮かれてたから問いただしてみたら案の定だったし・・・。あの時は仲直りはしたけど・・・それでもこの気持ちだけは譲りたくない・・・。

 

「それにアタシは・・・姉妹でいるより・・・キンタロー君さえいれば、それでいい・・・」

 

「二乃・・・」

 

・・・それにしても、キンタロー君がこんなことを言い出すなんて・・・。

 

「やっぱ従兄弟だね。上杉も同じこと言ってたわ。アタシも中間試験であんなこと言っちゃったし・・・。絶対、迷惑かけてると思うけど・・・」

 

「そうじゃない」

 

「そうに決まってるわ!!だってあいつ、勉強ばっかで・・・」

 

「そうじゃないんだ!!」

 

「!!?」

 

「試験なんてどうでもいい!!俺はお前たち姉妹6人で一緒にいてもらいたいんだ!!」

 

・・・・・・あれ・・・キンタロー君の言葉に・・・何か違和感が・・・。まるで・・・そこに上杉がいるような・・・。

 

・・・もしかして・・・

 

「二乃・・・大切な話がある」

 

!大切な話って・・・しかも・・・あんな真剣な顔・・・

 

「俺は・・・金太郎は・・・」

 

「ちょっと待って!!」

 

「!!」

 

「なんか長くなりそうな予感がするわ。ちょっとトイレ行って来てもいい?」

 

「え?あ、ああ・・・」

 

と・・・いけないいけない・・・。まだ確信がないのに決めつけはよくないわね。ちゃんと確かめないと・・・。そのためにも・・・ちゃんと上杉に話をしないとね。アタシはすぐに上杉に電話をかける。

 

≪・・・今度はなんだ?≫

 

「上杉、あんた今ホテルの近くにいる?」

 

≪え・・・?まぁ・・・近いといえば、近いな・・・≫

 

「そう。ならちょうどいいわ。今すぐ1階のカフェまで来て」

 

≪・・・え?≫

 

さっきキンタロー君にトイレに行くっていうのは嘘。本当はカフェに直行しているわ。確かめたいことがあるから。

 

「言っとくけど拒否権はないわすぐに来なさいよ」

 

≪ちょ・・・まっ・・・≫

 

ブチッ

 

上杉に有無を言わさず、一方的にそう言って通話を切った。・・・思い違いならいいけど・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

1階のカフェで待つこと数分後・・・やっと上杉が来たわ。何故か汗だくになりながら。

 

「遅いわよ」

 

「はぁ・・・はぁ・・・!急に呼び出して・・・どうしたんだ・・・?」

 

「なんでそんな汗だくなのよ?すみません、こいつにアイスコーヒーを」

 

アタシは従業員さんにアイスコーヒーを頼んだ。ちなみにアタシは紅茶を頼んだわ。

 

「・・・俺、コーヒー無理なんだけど・・・」

 

「そんなの、砂糖かシロップで誤魔化せばいいじゃない」

 

そう言ってる間にアイスコーヒーが来たわ。

 

「こうして砂糖とシロップを入れたら、苦みが少しは中和するでしょ?」

 

「・・・で?何の用だ?」

 

上杉のアイスコーヒーにシロップと砂糖を入れてる間に、上杉が話を振ってきた。

 

「・・・アタシ、キンタロー君に・・・彼にコクられるかも」

 

「・・・はあ・・・どうしてそう思う?」

 

「だってあんな真剣な顔して大切な話って何よ?そんなの1つに決まってるわ」

 

「うぅ~ん・・・そうかなぁ・・・?」

 

「きっとそうに違いないわ。・・・で?あんたはどう思う?」

 

「え?俺は・・・」

 

「あ!キンタロー君!!」

 

「!!?」

 

アタシはそんなことを言って何もないところに指をさした。それと同時に、上杉まで同じ方向を向いた。

 

「・・・いるわけないでしょ」

 

「・・・だよね」

 

ますます怪しさが残るけど・・・まだよ。ちゃんと明確な確証が欲しいもの。今はまだ・・・

 

「ていうか、あんたの意見なんてどうでもいいわ。ただ人に聞いてもらって自分の状況を整理したかっただけ。これから彼の話を聞くことにするわ」

 

アタシはそう言って、上杉に握手の手を差し出す。

 

「今日は彼に会わせてくれて感謝してるわ。ありがとう」

 

「なんだよ・・・礼なんて・・・らしくねぇな・・・」

 

「この先どういう結果になっても・・・彼との今の関係に区切りをつけるわ」

 

「二乃・・・何もできなくて悪い。頑張れよ」

 

上杉はアタシが差し出した手を握って、握手を交わした。

 

・・・その瞬間、アタシは上杉の腕を引っ張りこんで、こいつの服の袖をめくりあげた。

 

「!!?」

 

「!・・・やっぱり・・・あんただったのね」

 

握手を交わした上杉の腕には、アタシがキンタロー君に返してあげたミサンガがあった。それを意味するところ・・・それは、キンタロー君の正体は上杉だということ。

 

「ま、待て!これは・・・順を追って・・・」

 

上杉が言葉を紡ごうとした時、上杉は急にふらつき始めた。それもそのはず・・・アイスコーヒーにはシロップと砂糖だけを入れたわけじゃない。眠れない時用のために六海からこっそり盗った睡眠薬も入れたのよ。変なことを言わせないためにね。

 

「約束を破ったら許さないと言ったはずよ」

 

「・・・っ・・・ま、まさか・・・また・・・」

 

「あんなところで会うなんて詰めが甘いわね。前回と違って、顔がよーく見えるわ」

 

「に・・・のぉ・・・」

 

上杉はアタシを呼ぶや否や、睡眠薬の効果でぐっすりと眠っていったわ。

 

「・・・変装なんてすぐばれるのよ。六つ子じゃないんだから」

 

眠ってしまった上杉を見て、アタシはキンタロー君・・・上杉が言ったが頭に浮かぶ。

 

『お前たち姉妹6人で一緒にいてもらいたいんだ!!』

 

「・・・バイバイ」

 

今更そんなことできるわけがない。アタシの事情を聞いたうえでそんな・・・。ほんと、自分勝手なんだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

キンタロー君が上杉とわかった後、アタシはあのホテルからすぐにチェックアウトして、別のホテルに泊まりこんだわ。ここはあそこと同じく快適だし、誰にも邪魔されることはない。そして、誰も入ってこれない。本当、いい場所を見つけたもんだわ。

 

・・・本当、何やってんだろ、アタシ・・・。こんなこと、何の意味があるのかしら・・・。そんなことを考えてたら、学校に行く気分じゃなくなったから、昨日は学校を休んだ。姉妹はいいとして、友達に心配をかけることは、心苦しいわ・・・。で、今日は学校は休みだから、部屋でゆったりとしてる。・・・本当、1人は暇ね・・・。

 

ガチャッ

 

・・・・・・ガチャッ?ていうか・・・え?ドアが開いて・・・

 

「・・・お邪魔します」

 

「み、三玖・・・?」

 

アタシがぼーっと肌のメンテをしてる時、部屋に入ってきたのは、アタシの変装をした三玖だった。な、なんで三玖がこのホテルにいるのよ・・・⁉

 

「なんで・・・ていうか、鍵は?」

 

「前と同じ手段を使ったら開けてくれた」

 

「もうほんと何なの!!?」

 

どこもかしこも、ガバガバセキュリティでまいるわね!!

 

「はぁ~・・・もう・・・」

 

「あ、ここに来てるの、私だけじゃない」

 

「は?」

 

嘘でしょ?三玖だけじゃなくて・・・他にもいるの・・・?いったい誰よ・・・?

 

コンコンッ

 

・・・本当にいるわね・・・誰かしら・・・?

 

「二乃。私です。五月です」

 

!!!???い、五月⁉よ、よりにもよってあの子が・・・⁉というか、なんで・・・⁉

 

「二乃、私、どうしても二乃に直接謝りたくて・・・ここを開けてください」

 

・・・っ!なんだっていうのよ・・・!今更・・・そんな謝罪なんて・・・!

 

「・・・今更・・・」

 

「入っていいよ」

 

「ちょっ、ちょっと三玖!!」

 

三玖はアタシの許可なしでドアを開けて五月の入室を許可した。・・・て・・・

 

「・・・やった♪大成功♪どう?五月ちゃんの真似。似てたでしょ?」

 

「うん。参考になる」

 

部屋に入ってきたのは五月じゃなくて五月の髪の鬘をかぶった六海だった。やっぱ声だけじゃわかんないわ・・・。

 

「六海まで・・・アタシにプライバシーはないのかしら」

 

プライバシー侵害もいいところだわ・・・勘弁してほしいってのに・・・。

 

「二乃・・・」

 

「2人揃ったり、何を言ったところで、アタシは帰る気はないから!」

 

「ねぇねぇ2人とも、お茶入れるけど飲むよね?」

 

「うん」

 

「ここアタシの部屋なんだけど!!?」

 

六海は部屋にあったポットを使ってお茶を入れようとしてる。この子本当に自由気ままね!

 

「・・・一昨日は上杉、今日はあんたら2人・・・少しは1人にさせなさいよ・・・」

 

「・・・フータロー、来てたんだ・・・2人で何してたの?」

 

「・・・えー?なにー?気になっちゃう?どうしよっかなー?教えよっかなー?」

 

「・・・そう。話したくないならいいけど・・・」

 

・・・っ、少しからかってやろうと思ったのに・・・予想斜めで無反応ね・・・。

 

「・・・つまんないわね。大した話はしてないわよ」

 

「ふーん」

 

ガチャガチャ

 

「あれ?こうだっけ・・・?えい!うわ熱⁉」

 

て、六海はポット操作に苦労してるわね・・・

 

「・・・何やってんの?貸して」

 

ガチャガチャガチャ

 

「・・・?」

 

ガチャガチャガチャガチャ

 

「あっ・・・熱・・・」

 

「三玖ちゃんもダメダメじゃん!!」

 

「う、うるさい・・・///」

 

ガチャガチャガチャガチャガチャ

 

・・・ああ、もう!!ガチャガチャガチャガチャうるさいわね!!2人揃って全然だめじゃない!!

 

「あーもう!鬱陶しいわね!アタシがやる!紅茶でいいわね!」

 

「・・・六海、ミルクティーがいい!」

 

「私は緑茶で」

 

「図々しいわね!!」

 

勝手に上がっといて飲むものまでこだわるとか、おこがましいにもほどがあるわよ!!

 

「はぁ・・・何やってんかしら・・・アタシ・・・」

 

「あ、冷蔵庫にシュークリームがあるー。これ食べようよ」

 

「あんたは自由すぎよ!!」

 

六海は勝手に冷蔵庫を開けて一昨日作ったシュークリームを見つけてるし・・・アタシのプライバシー、壊されまくりよ!!・・・まぁ結局、要望通りのものは全部出したけど・・・。

 

「はーむ・・・。甘~い!おいひぃ~!」

 

「それ、飲んだり食べたりしたら帰ってよね」

 

「久しぶりの二乃ちゃんの味~・・・しあわへ~・・・」

 

「て、全然聞いてないわね・・・」

 

六海はシュークリームに夢中なのか全然話を聞いてない。そんなに夢中になるほどなのかしら・・・。て、それよりアタシも紅茶飲も。砂糖を入れてっと・・・。

 

「そんなに入れると病気になる」

 

「アタシの勝手でしょ?その日の気分によって甘さをカスタマイズできるのが紅茶の強みよ」

 

「よくわかんない。甘そうだし」

 

「そんなおばあちゃんみたいなお茶飲んでるあんたにはわからないわよ」

 

「この渋みがわからないなんて、二乃はお子様」

 

「誰がお子様よ・・・て、バカらし・・・こんな時まであんたと喧嘩してられないわ」

 

「おぉ・・・二乃ちゃん、大人の対応だ・・・」

 

うるさいわね・・・喧嘩する余裕がないだけよ。ていうか、ちゃっかり聞いてんじゃないわよ。

 

「ていうかそもそも、なんでこの場所がわかったのよ?」

 

「前のホテルに一昨日行ったんだ。でもそこでホテルから飛び出す二乃を見た」

 

「つけてたってわけね・・・ガチのストーカーじゃない」

 

「六海は違うよ?ドラッグストアで睡眠薬を買った帰りに二乃ちゃんがここに入っていくのをみたよ」

 

「・・・全然気づかなかったわ」

 

本当、うかつだったわ・・・。周りはちゃんと見てみるものね・・・。

 

「・・・それで、もう1度聞きたいんだけど・・・フータローと何してたの?」

 

一昨日の出来事・・・できることなら思い出したくないのだけれどね・・・

 

「一昨日を一言で顕すと・・・最悪ね。あいつ・・・絶対に許さないわ・・・!」

 

「二乃ちゃんが怒ってる・・・!ふ、風太郎君はどんなひどいことを・・・?」

 

「聞いて驚きなさい!!あいつ変装してアタシを騙していたのよ!!」

 

アタシが惚れたキンタロー君に変装して・・・そもそもキンタロー君が上杉だったなんて・・・重罪だわ・・・!

 

「・・・なんだ」

 

「うん。心配して損したね」

 

・・・・・・・・・

 

「反応薄ーーー!!!」

 

何なのこの2人⁉のんきにお茶なんか啜って・・・全然アタシの気持ちわかってない!!

 

「ちょっと!本当にひどいんだから!なんか反応しなさいよ!」

 

「だって・・・ねぇ?」

 

「うん。私たちがいつもやってることだし」

 

い、言われてみれば確かに・・・って!そうじゃない!!

 

「そ、そうだけど・・・六海!あんたはどうなのよ⁉️」

 

「え?」

 

「キンタロー君の正体が、あいつなのよ⁉️なんとも思わないの⁉️」

 

「いや・・・だって・・・六海、キンちゃんが風太郎君って、知ってるし・・・」

 

妙に落ち着いてると思ったらそういうことだったのね・・・って!そうじゃなくて!!

 

「あ、あんたは悔しくないの⁉️だってキンタロー君が、あいつだったのよ⁉️林間学校でのケンカの原因もあ・い・つ!!あの時も・・・あの時も・・・あいつだったなんて・・・!許さない・・・許さないわ・・・!!」

 

(ああ・・・バレちゃったんだね・・・ご愁傷様・・・)

 

本当にバカみたい・・・!今まであいつだと気づかずに、あそこまで思い続けてきただなんて・・・!あいつ・・・次に会ったらただじゃおかないわ・・・!

 

「他に何もなかった?」

 

「それだけよ!本当に・・・それだけよ・・・」

 

「本当に・・・?」

 

・・・いや、たった1つだけ思い当たるものがあったわ・・・。一昨日、あいつが言った一言・・・

 

「姉妹6人でいてほしいって言われたわ。試験とか関係なしに」

 

「え・・・?本当に・・・?」

 

「フータローが・・・そんなことを・・・」

 

「アタシの都合を聞いたうえでね。自分勝手だわ」

 

今回の家でだって前から考えてたことなのに、人の気持ちとか関係なしに・・・勝手すぎるわよ。

 

「・・・二乃はうちに戻りたくないの?」

 

「はあ?なんで戻らなくちゃいけないのよ?一緒にいるだけでストレスがたまるわよ!昔と違ってすれ違いも増えたわ!性格も個性もバラバラのアタシたちがそこまで一緒にいなきゃいけない理由がわからないわ!一緒にいる意味ってあるの?」

 

「・・・六海、おバカだから二乃ちゃんの納得いく答えかわからないけど・・・姉妹だから・・・家族だから、じゃダメかな?」

 

!!家族だから・・・

 

「二乃は私たちが変わったと思ってるんだろうけど・・・私たちから見たら、二乃も変わってる」

 

え?アタシも・・・変わってる・・・?

 

「変わってるって・・・何がよ?」

 

「「昔は紅茶は飲まなかった」」

 

「それだけ!!?」

 

「六海たちは16点2人、17点4人で6分の1人前だからね。えーっと・・・例えるなら・・・」

 

「ん・・・」

 

六海が例えを悩んでいると、三玖は問題集が入った紙袋に指をさす。

 

「その問題」

 

「あ!勝手に見ないでよ!」

 

「問3の問いが違う。正解は長篠の戦い」

 

「え?そうなの?六海、関ヶ原の戦いって答えたよ」

 

「全然違う」

 

三玖はアタシの解いた問題に指摘をしてきた。

 

「何?自分は勉強しましたって言いたいの?」

 

「元々好きだから。戦国武将」

 

・・・はい?戦国武将好き?

 

「戦国武将って・・・あの髭のおじさんが?」

 

「うん」

 

「あ、だから戦国黙示録借りてたんだ・・・」

 

「今気づいたの?」

 

三玖と六海のやり取りも今知ったけど・・・三玖が歴女なんて初耳よ・・・

 

「これが私の17点」

 

「あ、それなら六海も1つ。この地理の問題の問9、二乃ちゃん間違ってるよ。正解は中部地方だよ」

 

「え?そうなの?私、九州って書いた」

 

「違うよー」

 

ほ、本当に得意不得意がバラバラね・・・アタシ達・・・。で、結局何が言いたいのよこの子たち。

 

「聞いての通り、これが六海の16点だよ。そして・・・」

 

六海がそう言うと三玖はアタシが飲んでる紅茶を一口飲んだ。

 

「え、ちょっと・・・」

 

「・・・うっ・・・やっぱ甘すぎる・・・」

 

「何やってるのよ?」

 

「でも・・・二乃がいなければこの味は知らなかった」

 

「!」

 

「それから、このミルクティーの存在を知ったのだって、六海が紅茶に牛乳を入れてたのがきっかけ」

 

そういえば・・・アタシ達が細かいことを知ることができたのは・・・みんなの性格がバラバラだったおかげ・・・だったっけ・・・。

 

「六海たちは確かに昔は6人そっくりで諍いもなく、平和だったよ。でもそれじゃあ点数は伸びないよ。笑ったり、怒ったり、悲しんだり、そして喜んだりして・・・1人1人違う経験をして、足りない部分を補い合って・・・それでようやく、1人前になれるんだ。だから・・・同じじゃなくていい・・・違ってていいんだよ」

 

「それに・・・みんな違ってる方が、新しい発見もできる、でしょ?」

 

「うん!」

 

「!!!」

 

「だからね・・・二乃ちゃん。お家に帰ろう?二乃ちゃんが見つけたこと、共有しあおうよ。それで、六海たち6人全員で、1人前になろうよ」

 

1人だけじゃ6分の1人前・・・それぞれ違うことで新しい発見・・・それの共有・・・不足部分は、みんなで補い合い・・・それで・・・ようやく1人前・・・。

 

・・・そうよね・・・。衝突もあったけど・・・アタシ達は今までそうやって協力し合いながら過ごしてきた。なんでアタシ、今までこんなことに気付かなかったのかしら・・・。

 

「あ、ちなみに二乃ちゃんがいない間六海たちの食生活は滅茶苦茶だよ。出前ばっかりで栄養バランスボロボロー」

 

「そこは自分たちで何とかしなさいよ!!」

 

「六海たちにそんな器用なことができると思う?」

 

「・・・ごめん、無茶ぶりだったわ」

 

「私はできるのに・・・」

 

「どの口が言ってんのよ下手くそ」

 

「下手くそじゃない」

 

ふふふ・・・この姉妹とのやり取り・・・久しぶりな気分ね・・・。

 

「・・・ふん、そのお茶よこしなさい」

 

アタシは三玖の有無を言わさず三玖の緑茶を一口飲む。・・・うわ、何このお茶。ただ苦いだけじゃない。

 

「苦っ。こんなの飲もうとは思わなかったわ。でもこれではっきりしたわね。やっぱり紅茶の方が勝ってるって」

 

「紅茶だって元は苦い」

 

「何よ!こっちは気品ある苦みなのよ!きっと高級な葉から抽出されてるに違いないわ!」

 

「緑茶は深みのある苦み。こっちの方がいい葉を使ってる」

 

アタシと三玖はお茶の葉とかで言い争いを起こした。これも久しぶりな気がするわ。

 

「・・・あ」

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと紅茶と緑茶の葉の違いを調べてたんだけど・・・」

 

「「どうだって⁉」」

 

「・・・2つとも同じ葉だって。発酵度の違いなんだって」

 

・・・え?てことは何?アタシ達のこの言い争いは結局のところ意味なし?

 

「・・・ふふっ」

 

「はははは!何それ!面白いわ!今度みんなに教えてあげ・・・」

 

!!みんなに・・・教えてあげる・・・か・・・。これが・・・新しい発見・・・その共有しあい・・・。

 

「・・・過去は忘れて今を受け入れる・・・か。いい加減覚悟を決めるべきなのかもね」

 

「「?」」

 

アタシは机の引き出しに向かって、あるものを探す。確かここに・・・あ、あった。

 

「「!!??」」

 

アタシが取り出したのは、ハサミよ。

 

「あんたたちも・・・覚悟しなさい」

 

ハサミを見た瞬間、三玖と六海は互いに抱き合ってがくがく震えてる・・・って思ったら三玖は六海を盾にしたわ。

 

「六海、助けて。姉に殺される」

 

「ちょーー!!?妹を盾にするってお姉ちゃんとしてどうなの⁉」

 

「妹は姉を守る存在。だから守って」

 

「普通逆でしょ⁉こんなの横暴だーー!!」

 

「あんたら何勘違いしてんのよ・・・」

 

全く、アタシを何だと思ってるのよ。勘違いもいいところだわ。

 

「髪切るのよ。さっぱりとね。やってちょうだい」

 

「「・・・え?」」

 

アタシの発言に三玖と六海はきょとんとしてるわ。

 

「・・・何?変なこと言った?」

 

「いや・・・だって・・・」

 

「あんなに髪切るの嫌がってたのに・・・?」

 

「うるさいわね・・・髪切ろうが切るまいがアタシの勝手でしょ?」

 

それに・・・そろそろちゃんと前に進まないといけないでしょ。過去を決別して、ね。そう・・・この子がやったように、アタシだって・・・。

 

「・・・私、無理・・・絶対失敗する・・・お願い、六海がやって」

 

「うええぇ⁉六海ぃ⁉」

 

「誰でもいいからやりなさいよ」

 

アタシの言葉に六海は変な顔をしてたけど、長い沈黙の後、ハサミを受け取って、アタシの後ろに回る。

 

「い、言っておくけど、バッサリいくからね!後で文句言ったって受け付けないよ!」

 

「ど・・・どんと来いよ・・・!」

 

「六海、がんばって」

 

アタシが決めたこととはいえ・・・や、やっぱり結構緊張するわね・・・。

 

「い、いくよ・・・?」

 

ちょきんっ

 

い、いった・・・本当にいったわ・・・。アタシの長い髪がパサリと落ちるのがよくわかるわね・・・。

 

ちょきちょきちょき・・・

 

け、結構スムーズにいくわね・・・。案外六海、髪を調節するのうまかったり・・・?

 

ちょきちょきちょき・・・

 

「ちょ、ちょっと待って!これ、髪切りすぎじゃない⁉」

 

「髪切れって言ったの二乃じゃん」

 

「そうだけど・・・こんなの初めてだし・・・」

 

「大丈夫大丈夫ー♪二乃ちゃん、かわいくなったよ♪」

 

「ほ、本当でしょうね!」

 

「うん♪そう思うでしょ?」

 

「うん。かわいい」

 

そういうことならいいけど・・・大丈夫かしら・・・本当に・・・。

 

髪を切ってから数分後・・・

 

「後はリボンをつけて・・・完成ー♪」

 

「出来上がったよ、二乃。ほら」

 

三玖が差し出した鏡を見てみると、アタシの長かった髪はすっかり短くなって、ショートボブのツインテールが目立つような髪型になってる。

 

「キャーー!!かわいいーー!!見てよほら!」

 

「うん。やっぱりかわいい」

 

「そ、そう?あ、ありがと・・・」

 

この子は・・・こういう気分を味わったのかしら・・・。なんだか新しい自分になったようで新鮮な気分だわ・・・。

 

≪お姉ちゃん電話だよ♪お姉ちゃん電話だよ♪≫

 

「・・・六海、電話」

 

「あ、うん。今出るね」

 

「またその着メロつけてるのね・・・」

 

六海はスマホを操作して、電話する。ちなみにさっきの着メロはマジカルナナカのナナカボイスよ。電話が鳴ったら今みたいにナナカがしゃべるって感じの奴。

 

「もしもし?風太郎君?どうしたの?・・・え?うん・・・うん・・・」

 

話が進むにつれて六海の顔が真剣なものに変わっていった。・・・何かあったのかしら・・・?

 

「・・・わかった!すぐに連れて来るよ!絶対に何とか間に合わせるから!」

 

話が終わった後、六海は私たちに顔を向けた。悪ふざけなしのマジの表情で。

 

「ど、どうしたの・・・?何か・・・」

 

「・・・実はね・・・」

 

六海はさっきの電話の内容を包み隠さず私たちに話した。それなら、六海が・・・いえ、姉妹全員が真剣になるのも納得だわ。

 

「そ・・・それで・・・それで、何とかなるの?私がそれをやれば・・・」

 

「何とかなるじゃなくてやるんだよ!四葉ちゃんのためだもん!どうこう言ってられないよ!」

 

「そ・・・そうだよね・・・うん。だったら、やろう」

 

「よし!さっそく急いで準備・・・」

 

「待ちなさい」

 

「二乃?」

 

「二乃ちゃん・・・?」

 

「その役目・・・アタシにやらせなさい」

 

これはアタシのけじめみたいなもの。それをやっとかないと、本当に前に進んだとは言えないわ。それにこれは、姉妹のためよ。だったら、行かないわけにはいかない。アタシはもう逃げたりなんかしない。

 

21「6人で全員一人前」

 

つづく




おまけ

六つ子はウサちゃんを六等分できる

六海「風太郎君ー!見てみてー!ほらー!かわいいウサギちゃん!どう?かわいいでしょー?」

風太郎「ほー・・・どこで手に入れたんだ?」

六海「ゲーセンのUFOキャッチャーでみんなで協力してゲットしたのー!」

風太郎「なんつーか、お前らしいな」

六海「でしょー?」

風太郎「でもそういうの、二乃とか四葉とか欲しがるだろ?」

六海「もちろん。みーんな欲しがってたよ。でも六海たちは6等分・・・そういうの分かち合うべきなんだと思うんだー」

風太郎「ふむ・・・」

六海「だから、分け合ったの♪一花ちゃんが体、二乃ちゃんが右手、三玖ちゃんが左手、四葉ちゃんが左足、五月ちゃんが右足、六海が頭って感じに♪」

風太郎「ひっ・・・ひぃぇぇぁぁ・・・・ぬいぐるみのバラバラとかいらねぇよぉ・・・」

六つ子はウサちゃんを六等分できる  終わり

次回、五月、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8つのさようなら

あけましておめでとうございます。

こうして六嫁の制作ができるのは、これを読んでくださっている皆様のおかげだと思う次第です。

今年も感想やら挿入絵などを募集しております。気に入ってるシーンがあればぜひとも。もちろん、皆様の都合がよろしければで構いません。

それと、この話の次の話が終われば、番外編を投稿しようと思います。

それでは、今年もよろしくお願いいたします。


五月SIDE

 

「おい。朝だぞ。起きろ、五月」

 

うぅ・・・まだ眠いですぅ・・・

 

「むぅ・・・もう少しだけ・・・」

 

「今日は早めに出るぞ」

 

「後5分だけぇ・・・」

 

「ダメだ。起きろ」

 

「いいじゃないですかぁ・・・二乃ぉ・・・」

 

「寝ぼけてんのか?いいから、起きろ」

 

!!声のトーンを聞いて、私の眠気は一気に覚めました。顔を見上げてみますと、そこには上杉君がいました。あぁ・・・そういえば私、家出中で、今は彼のお宅に居候中した・・・。

 

「あ、あの・・・おはようございます・・・」

 

私が彼の顔色をうかがってみると・・・

 

「ああ。おはよう」

 

なんだか清々しさを感じさせるような晴れ晴れとした表情をしていました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

軽めの朝食を食べ終えた後、私と上杉君は昨日よりも早く学校への道のりを歩いていました。ただし、変な噂を流されるのは嫌だったので、私は隠れながらですが。

 

「安心しました。・・・私たちのせいで気が沈んでるようでしたから・・・」

 

「全くだ。たく・・・手を焼かせやがって・・・」

 

「もう、大丈夫なのですか?」

 

土曜日の出来事から、もう1週間近くたちますから、上杉君にもいろいろと思うところがあるのです。それに、朝の様子も、少し変でしたから。

 

「俺のことを心配する暇なんてあるのか?お前らは自分たちの心配をしてればいいんだよ」

 

「そうはいいますけど・・・」

 

「俺のことはいい。それより、試験勉強は順調か?」

 

「は、はい。あの問題集も終わらせてます」

 

あれほどたくさんの問題集をこなすのは骨が折れましたが、なんとか全部達成することができました。

 

「結構だ。一花と三玖、四葉も六海も全部終えたと聞いている。残るは・・・二乃だけか・・・」

 

「に・・・二乃もやってるんですよね?なら、安心です」

 

「・・・・・・だといいがな・・・」

 

二乃の話になると、上杉君は急に考え込むような表情になりました。そういえば昨日も二乃のホテルに行って様子を見に行っていたような・・・。

 

「だ、大丈夫ですか・・・?」

 

「・・・何でもねぇよ。さっさ行くぞ」

 

上杉君の様子が気になるところですが・・・学校につきましたし、今は教室に向かうとしましょう。・・・上杉君が先に入ったのを見計らって。

 

♡♡♡♡♡♡

 

放課後になった後、私と上杉君は二乃の様子を見に行こうと二乃がいる教室に来ました。正直、二乃と顔を合わせづらいのですが・・・このままというわけにはいきませんからね。ですが・・・肝心の二乃が見当たりません。気になって二乃の友達である山田さんと大鳥さんに二乃が来てないか尋ねてみました。でも、帰ってきた答えが・・・

 

「二乃?今日は休むらしいよ」

 

「え・・・?」

 

「やはりな・・・」

 

二乃は今日は来ていないようで私は少し驚いています。上杉君はやっぱりと言った顔をしています。

 

「あのさ、余計なお世話かもしんないけど・・・」

 

「二乃と仲直りできるといいね」

 

山田さんと大鳥さんは私にそう言って教室を出ていきました。・・・気を使ってくれてるのでしょうか?

 

「直接二乃のところへ行きましょう。場所は知ってるんですよね?」

 

「いや、残念ながらそれは叶わない。その居場所から出ていっちまったからな」

 

出ていった・・・ていうことは、二乃が今どこにいるのかわからなくなってしまったということですか⁉

 

「信じて待つ・・・俺にできることはそれだけだ・・・」

 

二乃がどこにいるのかも気になりますが、朝から上杉君の様子が変なのが気になるところです。

 

「・・・朝から少し変ですよ?昨日、何かあったんですか?」

 

「・・・何でもねぇよ。それより行くぞ。もう1人の問題児のところに」

 

もう1人の問題児って・・・四葉のことですね。上杉君はそのまま四葉のいる陸上部の練習場へと向かっていきました。私も上杉君についていき、陸上部の練習場へと向かいます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「中野さんやっぱ速いよ~」

 

「ペース配分もできてたよね。こんな短期間で天才だよ」

 

私たちが陸上部の練習場までたどり着くと、四葉は陸上部員の人たちにもてはやされています。確かに四葉は私たちの中で体力も運動能力も高いですしね。

 

「あいつが天才だと?何言ってんだか・・・」

 

「四葉は運動が得意ですから、そのことを指してるんですよ」

 

「そんなことはわかってる。だが四葉だぞ?お前らの中で1番アホなんだぞ?」

 

たびたび失礼なことを言ってますよね、上杉君。でもあまり否定できないのが悔しいです・・・。

 

「あはは・・・最近よく天才って言われるんですよね・・・」

 

「中野さん」

 

四葉の様子を見ていると、褐色肌のポニーテールの人が四葉に話しかけてきました。あの人がおそらく陸上部の部長さんなんでしょうね・・・。

 

「来週はいよいよ高校生駅伝本番だ!あなたがいなければ参加できなかった!走りの天才を頼りにしてるよ」

 

「え、えーっと・・・」

 

「お前が天才とは世も末だな」

 

話を聞いていた上杉君は話に割って出てきました。

 

「う、上杉さん⁉それに、五月⁉」

 

「君は?」

 

「あんたが陸上部の部長か?期末試験があるのに大会の練習だなんて立派だな」

 

「うん。大切な大会なの。試験なんて気にしてられないよ」

 

「あ?試験なんて・・・?」

 

陸上部の部長さんの発言で上杉君から一触即発の雰囲気が漂ってきました。

 

「部長ってことはあんた3年だろ?そいつが・・・」

 

「わー!!わー!!大丈夫です!!勉強はちゃんとやってますので!!」

 

よくない雰囲気を察知した四葉は大声を上げてそれを止めてきました。

 

「四葉、無理してませんか?」

 

「うん!問題なし!」

 

私の気遣いに四葉は何ともないように答えてますが・・・私にはそれが無理してるようにしか見えません・・・。

 

「もういいかな?まだ走っておきたいんだ」

 

「・・・まぁ、四葉がそういうなら止めねぇよ」

 

「ちょ、ちょっと!いいんですか⁉」

 

「四葉が無理しないか俺も走る。それなら邪魔じゃねぇだろ?」

 

え・・・?体力が三玖や六海なみにない上杉君が・・・一緒に走る?大丈夫なんでしょうか?

 

「上杉さん・・・どうして・・・」

 

「・・・まぁ、別にいいけど・・・倒れても責任取らないよ?」

 

陸上部の部長さんの了承も得て、上杉君も走ることになったのですが・・・なんだか不安です・・・。

 

「よーしみんな、練習再開するよー」

 

「ほ、本当に大丈夫なんですよね⁉」

 

「体力がないのは俺自身がわかってる。だから四葉の様子を見たらすぐに帰るから大丈夫だ」

 

「で、ですが・・・」

 

「と、行ったな。俺も行ってくる。五月、お前は先に帰ってろ」

 

「ちょ、ちょっと⁉」

 

上杉君は陸上部のみんなが走り出したと同時についていくように走り出しました。・・・なんだか・・・すぐにばててしまう上杉君の姿が容易に想像ができます・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

上杉君の家に戻り、私は期末試験対策をしながら上杉君の帰りを待っています。ちなみにらいはちゃんは今日も六海と漫画を受け取る約束をしているらしく、買い物ついでに出かけてるようです。らいはちゃんは私のことは六海に話してないようでいまだに六海が迎えに来る様子はありません。

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・」

 

勉強をしていると、汗だく状態の上杉君が帰ってきました。ああ、やっぱりそうなりましたか・・・。

 

「だ、大丈夫ですか・・・?」

 

「大丈夫なわけないだろ・・・見ろこの汗を・・・一生分の体力を使った気分だぜ・・・」

 

「無茶しすぎですよ・・・」

 

上杉君の汗の量を見て、かなり走ってきたようですね・・・。四葉の様子を見るのはいいですが、少しは自分を労わってください。

 

「それで、四葉はどうだったんですか?」

 

「どうもこうもねぇよ。あいつは勉強も部活も両立させるつもりだ」

 

「両立って・・・部活終わりの疲れの中、さらに勉強をしてるってことですか?」

 

四葉らしいといえばらしいですが・・・。通りで最近六海が四葉をマッサージしてる姿をよく見かけるわけです。

 

「でも練習はほぼ毎日行ってるみたいですよ?そんなこと可能なのですか?」

 

「・・・フランスのルイ14世が造営した宮殿はベルリンの宮殿」

 

「え?」

 

「走れメロスの著者は太宰龍之介。周期表4番目の元素はすいへーりーべーべリウム」

 

「な、なんですかそれ?」

 

「これ、全部俺が出した問題の四葉の答えだ」

 

・・・私もその範囲はやったので覚えてはいます。ただ・・・何と言いますか・・・正しいといえば正しいといいますか・・・答えが全部微妙に間違ってます。

 

「これは・・・何というか・・・」

 

「言いたいことはわかる。だが、予想以上に覚えてはいる。だからどうするべきか悩んでるんだ・・・四葉の努力を否定をするマネはしたくないし・・・」

 

「せめて四葉の本音がわかればいいのですが・・・」

 

四葉の本音さえわかれば私たちも行動がしやすいのですが・・・優しさの塊である四葉が素直に自分の本音をしゃべるとは思えませんし・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結局何の解決策も見つからず、外はもうすっかり夜になり、らいはちゃんももう眠ってしまいました。どうすれば、四葉の本音を聞くことができるのでしょうか・・・?

 

「どうしたものか・・・」

 

ヴゥー、ヴゥー

 

上杉君も悩んでいますと、突然上杉君のスマホが鳴り響きました。

 

「ん?・・・一花?」

 

どうやら着信の相手は一花らしく、上杉君は電話に出ます。

 

「どうした、一花。こんな夜遅くに」

 

≪フータロー君、電話はそのまま通話状態にしておいて≫

 

「?向こうで何があるんだ?」

 

≪いいからいいから≫

 

若干ながら一花の声が聞こえますが、何があったんでしょう・・・?私は気になって聞き耳を立てます。

 

≪送らないの?≫

 

≪うわぁっ⁉い、一花~、心臓に悪いよ~≫

 

!この声・・・四葉の声?一花はいったい何をしようというのでしょう・・・?

 

≪私も歯磨きだよー≫

 

≪そ、そうなんだ。じゃあうがいしよーっと≫

 

≪待って。四葉、歯をよく見せて≫

 

≪え?なんで?≫

 

≪いいから、あーんして≫

 

≪あ、あー・・・≫

 

声からして、四葉は歯磨きの途中のようですね。

 

≪もう、また歯ブラシ加えてただけで全然磨けてないじゃん。ほら、貸して。磨いてあげる≫

 

≪うっ・・・≫

 

≪前はよくしてあげたじゃん≫

 

≪で、でも・・・も、もう子供じゃ・・・≫

 

≪はい、あーん≫

 

≪もごご・・・≫

 

おそらく向こうでは一花が四葉の歯を磨いている最中なんでしょうね。私も六海も昔はよく一花たちに磨いてもらっていましたっけ。でも、一花は何を伝えたいんでしょう?

 

≪に、苦~・・・≫

 

≪私の歯磨き粉。これが大人の味なのだ!四葉には早すぎたかなぁ~?≫

 

≪よ、余裕のよっちゃんだよ!六海には負けない!≫

 

≪じゃあ続けるよ≫

 

≪う、うん≫

 

≪ふふ、体だけ大きくなっても変わらないんだから・・・。ほら、無理してるから口内炎ができてるよ≫

 

!一花はもしかして・・・私たちに四葉の現状を伝えようとしているのでは・・・?

 

≪私、無理なんてしてないよ・・・≫

 

≪ほーら、しゃべらないの。どれだけ大きくなっても四葉は妹なんだから・・・お姉ちゃんを頼ってくれないかな?≫

 

≪・・・・・・・・・私、部活やめちゃダメかな・・・?≫

 

!!これが・・・四葉の本音・・・。四葉も、そうとう苦しんでたんですね・・・。ようやく聞くことができました。一花は、これを聞かせるために・・・。

 

≪やめてもいいんだよ≫

 

≪!や・・・やっぱダメだよ!みんなに迷惑かけちゃう!≫

 

やっぱり四葉は私たちに迷惑をかけまいとふるまおうとしてますね。誰も迷惑だなんて思わないのに。

 

≪勉強とも両立できてるんだから大丈夫だよ。一花がお姉さんぶるから変なこと言っちゃった。姉妹といっても同い年なのに≫

 

≪あははは。こーんなお子様パンツ履いているうちはまだまだお子様だよ≫

 

≪わーー!!それは出さないでーー!!≫

 

い、一花・・・忘れてないでしょうね・・・今電話に出ているのは上杉君なのですよ・・・?

 

≪もう!しまっといてよ!上杉さんが来た時には見せないでよ!≫

 

≪はーい≫

 

電話の音からして・・・四葉は洗面所から出たようですね。

 

≪・・・ちゃんと聞いてた?≫

 

「お子様パンツ」

 

≪よかった。聞こえてるみたいだね≫

 

一花は確認のためにそう聞いて、上杉君が答えます。もっと他の回答はなかったのですか?

 

≪明日陸上部のところへ行こうと思う。フータロー君はどうする?≫

 

「行くに決まってる!!四葉を解放するんだ!!」

 

一花の問いに上杉君は心強い返答をしました。

 

≪よし。じゃあ明日の早朝に会おう。そこで全部話すから≫

 

「ああ。明日落ち合おう」

 

そこまで話し終えると上杉君は通話を切り、私に顔を向けます。

 

「聞いての通りだ。明日陸上部のとこに行く。五月、お前はどうする?」

 

私の答えなんて、当然決まってます。

 

「行くに決まってます!」

 

「よし。なら明日は早朝に出る。さっさと寝ようぜ」

 

「はい」

 

私たちは明日に備えて早めに寝ることにしました。四葉・・・絶対に解放してあげますからね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の早朝、私たちはすぐに家を出て△△△で一花と合流します。そこで全てを知りました。昨日の練習の後、この土日を使って合宿に向かおうとしていることを。こんな期末試験の最中に合宿を行うなんて・・・考えられません!今現在私たちはこれから合宿に向かうであろう四葉と陸上部の様子を見ています。ちなみに三玖と六海は別行動中です。

 

「四葉も背負い込みすぎだよ・・・」

 

「四葉もだが、陸上部も陸上部だ。こんな時期に合宿なんて考えられん。たく、試験前だってのにとことんまで勉強をおろそかにしやがって・・・」

 

それには同意ですが・・・なんていうか、上杉君が様子を見ているなんて意外です。

 

「あなたのことなのでまた突入するものかと思ってました・・・」

 

「・・・・・・」

 

「それで、どうするの?直接お願いしに行く?」

 

「いや・・・いい方法を思いついた」

 

上杉君はそう言ってスマホを取り出し、誰かに電話をかけました。いい方法とはいったい?

 

「六海か。今△△△ホテルにいるんだな?」

 

どうやら上杉君が電話をしている相手は六海のようです。

 

「ああ。今三玖と一緒なんだな?・・・ああ。ならそのまま三玖を△△△まで連れてきてくれ。俺たちはそこにいる。それに、四葉と陸上部もな。・・・ああ、急いでくれ。これは四葉のためなんだ」

 

六海の通話を終えた上杉君は私たちに向き直ります。

 

「ど、どうするんですか⁉」

 

「四葉が断れないならお前たちがやればいい」

 

「!ま、まさか・・・」

 

一花はいち早く何かを察したようですが・・・え?なんですか?

 

「入れ替わり、得意だろ?」

 

!!そ、そういうことですか!!私たちのうち誰かが四葉になって合宿を断ってこい・・・そういうことなんですね!!

 

「わ・・・私は少し苦手です・・・。前に一花の真似をした時も心臓バクバクで・・・」

 

「だから三玖を呼んだんだよ。三玖が到着したら五月ちゃんの着てるジャージを着てもらおう」

 

「さすが一花だ。呑み込みが早い。だとすると、俺が四葉を連れだして・・・」

 

作戦は理解しましたが・・・本当に成功するのでしょうか・・・?

 

「!!まずい!あいつら出発しやがった!!」

 

「「ええ⁉」」

 

陸上部のみんなを見てみますと、本当に移動を始めてるじゃないですか!

 

「お、追いかけよう!」

 

「駅に着く前にどうにかしなければ!やりたくもない部活で貴重な土日を潰されてたまるか!」

 

「しかし、どうするんですか?」

 

「・・・・・・」

 

私の問いに上杉君は私と一花を交互に見つめています。

 

「「・・・え?」」

 

え?本当に何なのですか?

 

♡♡♡♡♡♡

 

私と上杉君は陸上部のみんなの後をつけています。幸い信号で止まったようです。まぁそれはいいのです。今一花はいったん別行動をしている・・・んですが・・・

 

「ほ、本当にうまくいくのでしょうか⁉大丈夫なんでしょうか⁉」

 

「ああ。問題ない。うまくいくはずだ」

 

彼のこの根拠はいったいどこからやってくるのでしょうか?

 

「お・・・お待たせー・・・」

 

そう話していると、一花が戻ってきました。・・・ジャージに着替え、四葉のリボンを付けた状態で。

 

「あ、あはははー・・・」

 

な、なんというか・・・不安でしかないです・・・。

 

「ど、どうして一花が四葉の役なのでしょうか?」

 

「・・・お前、うまく四葉に演じることができんのかよ?」

 

うっ・・・そう言われてしまうと・・・全く自信がありません・・・。

 

「・・・不安でしかないです」

 

「正直でよろしい。その点一花は申し分ない。三玖ほどではないにしろ、うまく姉妹を演じ分けられていた」

 

「あー・・・林間学校でのことかー・・・」

 

「そのうえ一花は女優だ。四葉を演じることくらい造作もねぇだろ?」

 

た、確かに・・・一花はみんなの真似くらい簡単にやってのけます。さらに女優なので、さらに演技に磨きがかかってることでしょう。

 

「一花、今のお前は四葉なんだ。少なくとも見た目は完璧だ」

 

「完璧・・・かなぁ・・・?」

 

一花は何か不安があるのか心配そうな顔をしています。私も気持ちはわかります。私も不安でいっぱいなのですから。

 

「うまくいくでしょうか・・・?」

 

「よし、作戦を説明するぞ。ひとまず俺と五月が陸上部から引き剥がす。その後一花が何食わぬ顔で集団に戻り退部しろ」

 

「引き剥がすって簡単に言うけど、どうするの?」

 

「・・・五月、ちょっと耳を貸せ」

 

上杉君は私の耳元で四葉を陸上部から引きはがす方法を伝えました。

 

「え・・・それ、本気ですか・・・?」

 

「ああ。これなら四葉は必ず食いつくはずだ。なにせ、超が付くお人好しだからな。困ってる奴をほっとかない」

 

「で、ですが・・・これ・・・捨て身すぎですよ・・・」

 

「ちょっとー、どんな作戦?」

 

「つべこべ言わずやれ。あいつらが行っちまうぞ」

 

くぅ・・・ですが、四葉を引きはがすならこれも効果的なのは事実・・・。ええい!どうとでもなってください!

 

「・・・すぅー・・・・・・痴漢ですーーー!!!痴漢が出ましたぁーーー!!!

 

「!!?」

 

「よし!いいぞ!そのまま続けろ!」

 

私は一花を連れて物陰に隠れて、陸上部のみんなに聞こえるように大声を上げました。

 

上杉君が考えた作戦とは、上杉君自身が加害者側となり、私が被害者となり、大声を上げる。四葉がそれを聞きつけさせて、上杉君が逃げる姿を映し出させて、そのうえで四葉を引き付ける。その間に一花が陸上部に合流して、退部してくるという捨て身な作戦です。被害者がいた方が、より効果的だそうなので、私を被害者に選んだのでしょう。

 

「ま、まさか・・・」

 

一花も作戦の内容を理解して、驚いています。そうですよね、こんな捨て身な作戦があっていいのでしょうか?

 

誰かぁーーーー!!!

 

「え?痴漢?」

 

「まさかあの人が・・・」

 

陸上部のみんなも食いついてきました。それを確認した上杉君は真っ先に逃げていきました。

 

「そこの人!止まりなさーい!!」

 

『中野さん!!?』

 

「こらーっ!待てー!!」

 

かかりました!四葉はまだ上杉君と認識していません!四葉は逃げているのが上杉君と知らずに、そのまま追いかけていきました。

 

「今です一花!行ってください!」

 

「もう・・・無茶するんだから・・・」

 

一花と四葉の姿が見えなくなったのを見計らって一花は陸上部のみんなの元へと向かっていきました。頼みましたよ・・・この作戦が成功することを、信じていますからね。私はすぐに上杉君の元へと合流していきます。四葉が陸上部に戻らないように。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『作戦失敗?』

 

風太郎が四葉を切り離した後、一花は四葉になりすまし、陸上部の皆の元へと何食わぬ顔で合流する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あはは・・・すみません・・・逃げられちゃいましたー」

 

「もー、いきなり走り出すからびっくりしたよー」

 

「早くしないと予定の電車行っちゃうよー」

 

部員が安堵する中、一花は本題へと入る。

 

「すみません・・・私は、合宿には行けません」

 

「え?」

 

一花を四葉と思い込んでいる部員は戸惑いを隠せそうにない。

 

「あなた・・・何やってるの?」

 

そんな中、陸上部の部長である江場はいたって冷静だった。

 

「迷惑は重々承知ですが・・・私、部活をやめます」

 

本題の言葉を言うことができた一花。

 

「・・・なんで?」

 

それにたいして江場はそんな返しをしてきた。

 

「だって、もうすぐ期末試験ですし・・・」

 

「あー、違う違う。私が言いたいのは・・・」

 

一花が説明をする前に、江場は確信を持った様子で・・・

 

「なんで別人が中野さんのフリしてるの?」

 

そう一花に問いかけた。江場は四葉と一花が入れ替わっている状況に気付いていたのだ。

 

(あぁ・・・やっぱそうなっちゃうかぁ・・・)

 

一花はすぐにばれてしまった要因に心当たりがあり、困ったような顔つきになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの場は一花に任せるとして・・・確か、上杉君はここを通ったはず・・・。私が曲がり角を曲がると、そこには四葉が上杉君を捕まえた姿でした。

 

「う・・・上杉さん・・・?どうして・・・?」

 

さて・・・作戦とはいえ、上杉君を痴漢と思い込んでいる四葉に誤魔化せばよいか・・・。

 

「どうして痴漢なんて・・・」

 

「なーんて嘘!!お前をおびき寄せるための嘘でした~~!!」

 

う、上杉君・・・もうちょっと粘ってくださいよ・・・身の安全に必死ですよ・・・。まぁ・・・話してしまったなら仕方ありません・・・。私も四葉の前に姿を現します。

 

「すみません四葉!騙すような真似をして!」

 

「五月まで・・・なんでそこまで?というか、なんで私を?」

 

「はぁ・・・お前のためだよ」

 

「私の?」

 

「今一花が四葉の代わりに退部を申し込んでる最中です」

 

「!」

 

事の全てを知った四葉はすぐに上杉君から離れ、陸上部の元へ向かおうとします。そうはさせません!

 

「今戻ったらダメです!」

 

「お願い五月!そこを通して!」

 

「ダメです!通しません!」

 

「私はへっちゃらだから大丈夫だよ!」

 

「四葉!これが本当にあなたのやりたいことですか!!?」

 

「そ、それは・・・」

 

私の一言が効いたのか思いとどまってくれました。

 

「四葉!!お前のそのお人好しもいい加減にしろ!!どっちも大事なのはわかるが、優先順位があるだろ!!お前が1番大切にしたいものはなんだ!!」

 

「・・・っ。で、でも・・・」

 

「・・・!ちょ、ちょっと待ってください!隠れてください!」

 

窓を見てると、一花と陸上部のみんなを見かけましたが・・・何か様子がおかしく思い、上杉君と四葉を窓の下に隠れさせます。

 

「どうも様子がおかしいです・・・」

 

様子を確認するため、私たちは窓をこっそりと覗きます。

 

「な、何を言ってるのですかー?私は四葉ですよー?ほら、見てくださいこのリボン」

 

「うん。似てるけど違う」

 

!!?ま、まさか・・・バレたのですか・・・?ですがなぜ・・・どうしてバレたのでしょう・・・?

 

「だって・・・髪型が全然違うもん」

 

・・・・・・・・・た、確かに!!

 

「くっ・・・なんて鋭い観察眼だ・・・!」

 

「前にもこんなことありましたって!もっと他人に興味持ってください!」

 

「すみません四葉・・・私も完全にノーガードでした・・・」

 

「五月まで!!?」

 

普通に考えればわかることだったのに、全く気が付かなかったとは・・・・私も上杉君に強く言えませんね・・・。

 

「あんなにやる気のある中野さんがそんなこと言うはずないもん。中野さんは六つ子だって聞いたよ。あなたは姉妹の中の誰なのかな?なんでこんなことするの?」

 

ま、まずいです・・・形成が一気に逆転されてます・・・

 

「私のためにありがとうございます!でも、すみません!行ってきます!」

 

「お、おい待て!」

 

「ダメですってば!」

 

「離して五月!」

 

や、やばいです・・・何とか食い止めていますがそれも時間の問題・・・どうすればよいのでしょう・・・?

 

「・・・部長さん、確かに四葉はやる気はあるけど・・・」

 

一花が口を開こうとした時でした・・・

 

「お待たせしましたー。皆さん、ご迷惑をおかけしましたー」

 

「「「!!???」」」

 

「中野さん」

 

「今度は本物だよね・・・?」

 

え?四葉?でも四葉は間違いなくここにいますし・・・

 

「あはは、ちょっとしたジョークですよー。六つ子ジョークですー。なんちゃってー」

 

「四葉・・・」

 

え?え?本当にどういうことなんですかこれ?

 

「なんだ冗談だったんだね。でも笑えないからやめてよ。中野さんの才能を放っておくなんてできない。私と一緒に高校陸上の頂点を目指そう」

 

「・・・まぁ・・・私が辞めたいのは本当のことですけど」

 

「「「「「!!!???」」」」」

 

今、窓の外にいる四葉はなんと?部活を、やめたいと・・・?

 

「な・・・中野さん・・・?なんで・・・?」

 

「なんでって、調子いいこと言って私のこと、ちっとも考えてないじゃないですか」

 

「うぐっ・・・」

 

「そもそも、昨日の前日に合宿を決めるなんてありえません。わかってますよね?」

 

「うぅ・・・」

 

「本当・・・マジありえないから

 

窓の外の四葉は恐ろしい表情をして部長さんを見下ろしています。

 

「は、はい・・・ごめんなさい・・・」

 

窓の外の四葉の恐ろしさに部長さんは膝をつきます・・・て、今そんなことはどうでもいいです・・・こ、これは・・・

 

「ど・・・どういうことだ・・・?」

 

「わ、わかりません・・・」

 

私も上杉君も戸惑いを隠せないでいます。それに四葉も。

 

「つ・・・ついに出た・・・ドッペルゲンガーだーーー!!!私、死にたくありませーーん!!!」

 

「ドッペルゲンガー・・・ということは・・・」

 

「ああ!あいつだ!」

 

ドッペルゲンガーでようやくわかりました。今窓の外にいる四葉の正体が。

 

「五月ちゃん!風太郎君!」

 

確信に近づいた私たちに声をかけたのは、別行動をしていた六海でした。これで本当に確信に変わりました。窓の外の四葉は三玖なのですね!

 

「六海!」

 

「ふぅ・・・どうにか、間に合ったようだね・・・」

 

「間一髪で助かったぜ。お前が三玖を連れてきたおかげで・・・」

 

「私が・・・何?」

 

「「!!?」」

 

????????今六海の後ろに現れたのは、三玖でした。え?え?どういうことなのですか?四葉が・・・2人?そ、そんなはずは・・・

 

「よかったー・・・間に合ったんだね・・・」

 

あ、上がってきた一花の隣には・・・四葉が・・・

 

「私、何もしてない」

 

「髪型的に六海が1番近かったんだけどねー」

 

「!!!???」

 

一花もこの場に変装していない三玖を見て驚いています。そりゃそうですよ。

 

「六・・・五・・・四・・・一・・・三・・・」

 

「!ま・・・まさか・・・」

 

ようやく理解しました。今一花の隣にいる四葉がいったい誰なのか・・・。でも・・・そうなると・・・あれ?

 

「最初は六海がやろうって思ってたんだけどねー・・・本人がどうしてもって言っててさー」

 

「ど、どうしても・・・?」

 

「でも六海、うれしかったんだー。気持ちの変化があったことにさ。ね?・・・二乃ちゃん」

 

リボンを外し蝶のようなリボンをつけたその姿は・・・髪はかなり短くなってますが、間違いなく私たちが知ってる二乃でした。

 

「ほ、本当に・・・二乃・・・なのですか・・・?」

 

「・・・えぇ。そうよ。正真正銘、アタシが二乃よ」

 

「ま、まさか・・・そんなにさっぱりと髪を切るなんて・・・もしかして、失恋?」

 

「ま、そんなとこよ」

 

「キャーー!誰と~?三玖、六海は知ってる?」

 

「知らない」

 

「六海の口からはちょっとねー」

 

「内緒よ」

 

私と上杉君が戸惑っている中、二乃は上杉君に視線を向けました。

 

「・・・何?」

 

「え・・・あ・・・えーっと・・・」

 

「言っておくけど、あんたじゃないから!!いいわね?」

 

「お、おう・・・」

 

??いったい二乃は上杉君に何のことを言っているのでしょう・・・?

 

(さようなら、キンタロー君・・・。そして、さようなら、幼き六つ子のアタシたち)

 

二乃が上杉君に言いたいことを言った後、今度は本物の四葉の方に向き直りました。

 

「四葉」

 

「!」

 

「アタシは言われた通りにしたけど、本当にこれでいいの?こんな手段を取らなくても本音で話し合えば彼女たちもわかってくれるはずよ。あんたも変わりなさい。辛いけど、きっといいこともあるわ」

 

二乃・・・

 

「・・・うん。行ってくる」

 

「六海もついていこうか?」

 

「ありがとう、六海。でも・・・1人で大丈夫だよ」

 

二乃の話に四葉は決意を持って陸上部のみんなと話をつけに行きました。そして私はというと・・・今二乃と向き合っています。・・・き、気まずいです・・・。でも、何か声をかけなければ・・・

 

「あの・・・」

 

「二乃!こいつは・・・」

 

上杉君が何か言おうとした時、一花、三玖、六海が上杉君を私たちから離れさせていきます。

 

「ほーら、フータロー君、私たちはこっちだよー」

 

「え?」

 

「風太郎君、ここは2人に任せよーよ。ね?」

 

「私たちは期末対策を練ろう」

 

「・・・だな。だが試験のことは心配しなくていい。俺にとっておきの秘策がある」

 

一花、三玖、六海・・・ありがとうございます。私たちのことを、気を使ってくれて

 

「二乃・・・先日は・・・」

 

「待って。何も言わないで」

 

私が二乃に謝ろうとした時、二乃がストップをかけました。

 

「あんたは間違ってないわ。悪いのはアタシの方だわ。ごめん。ただ・・・あんたが間違ってるすれば・・・頬を叩く力加減だわ。すごく痛かった」

 

「二乃ぉ・・・」

 

叩いた私も悪いのですが・・・二乃の謝罪と、私の想いが伝わってくれたのがうれしくて、思わず涙が溢れそうになっています。

 

「そ、そうです。お詫びを兼ねてこれを渡そうと思ってたんです」

 

「何それ?」

 

「この前二乃が見たがってた映画の前売り券です。一緒に行きましょう」

 

実は以前から仲直りと思っていたので、この期末試験の合間をとって買っておいたのです。

 

「・・・全く・・・何なのよ。本当に・・・思い通りにならないんだから・・・」

 

こうして私と二乃は仲直りを果たして、四葉の方もちゃんと話をつけて、2つの問題を解決しました。これで後は・・・期末試験だけですね。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎SIDE

 

四葉の陸上部問題、姉妹喧嘩問題を解決した俺は、中野家にお邪魔している。期末試験対策をするために。で、四葉はというと、俺たちに向けて土下座をしている。

 

「この度はご迷惑をおかけしまして・・・」

 

「朝から大変だったねー」

 

「早朝だったのでご飯を食べ損ねてしまいました・・・」

 

「全ては私の不徳に致すところでして・・・」

 

「帰りに買って帰ればよかったかなー?」

 

「でも今日はシェフがいる」

 

「誰がシェフよ」

 

「大変申し訳なく・・・」

 

「じゃあコックさん?」

 

「言い方の問題じゃないわよ」

 

だがこいつらは四葉の謝罪を全く聞いていない。たく、こいつらはそんなこと気にしたりしねーよ。ちなみに俺も気にしない。

 

「その前に・・・」

 

「「「おかえり!!」」」

 

「「ただいま」」

 

入り口の前には、仲直りし、すっかり元通りの仲になった二乃と五月がいる。

 

「・・・早く入りなさいよ」

 

「お先にどうぞ」

 

「じゃあ同時ね」

 

「せーの・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

二乃と五月は互いに遠慮してんのかなかなか入ろうとしない。早く入れよ。

 

「なんで動かないのよ!」

 

「二乃こそ!」

 

「久々に賑やか」

 

「うんうん!これこそが、だね!」

 

「よーし!このまま・・・」

 

「試験勉強だな」

 

「「「!」」」

 

姉妹の和気あいあいとした雰囲気をぶち壊すかのように俺はこいつらに現実を突きつけた。

 

「よもや忘れたわけじゃないだろうな?明後日から期末試験本番だ。文句がある奴いるか?」

 

「も、もちろんそう言おうとしたよね?」

 

「あ!一花ちゃん自分だけ正当化しようとしてる!」

 

「ずるい」

 

全くこいつらは油断も隙もない。自分の立ち場わかってんのか?

 

「もー、みんなちゃんと聞いてよー」

 

たく、四葉はいつまで土下座してるつもりだよ

 

「いつまでそんなこと気にしてんだ?時間がもったいない。早く入れ」

 

「そんなことよりお腹すいたよー」

 

「私のセリフ⁉」

 

「シュークリームばくばく食べといてよく言うわ」

 

「じゃあ、四葉が今日の朝食当番」

 

「さっ、行こ!」

 

「・・・うん!」

 

♡♡♡♡♡♡

 

全員部屋に入ったところでさっそく試験勉強・・・というわけではなく、まずは腹を満たすために朝食を食べてる。まぁ、腹が減っては戦はできぬっていうしな。ちなみに俺も朝食をもらっている。

 

「わ、このおにぎりおいしー」

 

「塩加減抜群」

 

「確かにね。よくできてるじゃない」

 

「えへへー」

 

「もぐもぐ・・・これもいただきます!」

 

「止まらない・・・食べることが止まらないよー」

 

みんな四葉のおにぎりに夢中でバクバク食ってる。確かに、うまいな。

 

「そういえば、陸上部とはどうなったの?」

 

「あの後ちゃんとお話しして、大会だけ協力してお別れすることになりました」

 

合宿に行くことはなくなったのはいいが・・・やっぱり大会は参加するつもりなのか。

 

「そのまま大会も断っちまえばよかったのに」

 

「1度お受けした以上、それはできませんよー」

 

「あの部長さん、諦め悪そうですしね・・・」

 

「六海は今でも部長さんを許したわけじゃないよ!」

 

「まぁまぁそう言わずに」

 

「言いたいことは一応わかる」

 

ちょっとだけちらって見えたが、あの部長、四葉が退部を申し込んだ時、かなり渋ってたしな・・・。

 

「また何か言われたら教えなさい。今度こそ教育してやるわ」

 

「ありがと、二乃!でも、今度は1人で頑張ってみる!」

 

「あっそ。がんばりなさいよ」

 

今回の件を経て、四葉も成長できるなら、今回の作戦も無駄じゃなかったといえるな。

 

「あ!それから五月ちゃん?ちゃんとらいはちゃんと勇也さんにお礼と一緒に謝るんだよ?」

 

「うん。フータローのとこにお世話になったんでしょ?」

 

「わ、わかってますよ!」

 

ここまで来る際、俺は六海に五月がどこにいるかを尋ねてきた。仲直りしたから、もうあいつが俺ん家にいる理由もないから教えてやった。

 

「・・・さて、腹も膨れたし、そろそろ本題に入るか」

 

朝食を食べ終えた俺はようやく本題に入る。それに合わせて一花は俺が渡した問題集を出してきた。答案は全て解き終えてる。

 

「とりあえず問題集は全員終わらせてるみたいだけど・・・」

 

「私たち、ちゃんとレベルアップしてるのかな?」

 

「なーんか実感わかないよね」

 

一応は終わらせてはいるが・・・一花たちは不安が残ってるようだ。後四葉、ドヤ顔するな。回答が微妙に間違ってるくせに。

 

「ゲームで例えるなら、元が村人レベルだからな。6人合わせてようやく雑魚モンスターを倒せるくらいだ」

 

「それで期末試験を倒せるのでしょうか?」

 

「正直に言えば、難しいといわざるを得ん」

 

「やっぱり、そうよね・・・」

 

こいつらも今の状態では合格は難しいと思ってるようだな。

 

「土日でレベルを底上げするしかない。それに・・・どうにかなる方法はある」

 

「秘策はあるって言ってたよね」

 

「ああ。とっておきのをな・・・」

 

俺は自分の筆記用具からあるものを取り出した。

 

「これは村人のお前らでもボスモンスターを倒すことができるチートアイテム・・・カンニングペーパーだ!!!」

 

「「「「「「!!!」」」」」」

 

カンニングペーパーを取り出し、それを見せたことで六つ子は信じられないといった表情になった。

 

「あ・・・あなたそんなことしないと信じていましたのに・・・」

 

「風太郎君、六海は今がっかりしてます!!」

 

「そんなことして点数をとっても意味ないですよぉ・・・」

 

ま、この反応は予想通りだな。

 

「じゃあもっと勉強するんだな!こんなものを使わなくてもいいようにこの土日の2日間でみっちり叩き込む!!俺も全力で教えてやるから、覚悟をしろ!!」

 

俺の言いたいことを言い終えた後、問題の二乃に視線を向ける。

 

「・・・というように勧めさせていただきますが・・・いかがでしょうか・・・」

 

「・・・何それ。今までさんざん好き勝手やってきたくせに・・・気持ちわる」

 

そ・・・そういわれてもだなぁ・・・。

 

「・・・やるわよ。よろしく」

 

案外すんなりと勉強にやる気になっているようで、ちょっと唖然となってる。

 

「さ、始めるわよ。机、片付けておいて」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

六つ子は机を片付けて自分たちの教材を持って勉強の準備を行ってる。

 

・・・ここまで長かった。最初の時は四葉以外は誰も参加しようとしなかった。今でも鮮明に思い出すぜ。今までの苦難、そして困難の数々を。始めは四葉以外は俺を信用していなかった。

 

『全部間違えてましたー!あはははは!』

 

『頭いいって言ってたけど、こんなもんなんだ』

 

『六海はあなたが嫌い。大っ嫌い!!』

 

『なんでお節介、焼いてくれるの?』

 

『あなたからは絶っっ対に教わりません!!』

 

『あんたなんて・・・来なければよかったのに!』

 

あいつらと1人1人と向き合うのは本当に骨が折れたもんだ。本当にバカだわ、睡眠薬は盛られるわ、むきになるわ、姉妹喧嘩は起こすわで大変だったぜ。だが、俺の目の前に広がっている光景は・・・姉妹たちで協力し合いながら、勉強と向き合ってる。俺が・・・求めていた光景だ。これでいい・・・これでいいんだ・・・。

 

「よかったね、フータロー」

 

俺の様子を見た三玖が優しい顔でそう一言言った。

 

「・・・いや・・・まだここからだ」

 

そう、俺のやるべきことはまだ残っている。まだ・・・終わりじゃない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

土日を含めた2日間で六つ子に勉強を教えた次の日、いよいよ迎えた期末試験当日・・・俺は眠気に襲われながらも学校へ行く準備をしている。

 

「風太郎!起きやがれ!」

 

「うるせー!こっちは寝てねーんだよ!」

 

俺は親父に無理やり引っ張り出されてる。外にはすでに五月が待機している。ついでに親父たちに謝ろうと六海もセットだ。

 

「待たせてごめんなー」

 

「えー!!五月さん、もう行っちゃうのー?」

 

「ごめんね、らいはちゃん」

 

らいはは五月を気に入ってたからな・・・いざお別れとなるとやっぱ寂しいんだろうな。

 

「勇也さんもうちの姉がご迷惑をおかけしました。ほら、五月ちゃんも!」

 

「がははは!いいっていいって!気にすんな!」

 

「長い間お世話になりました。あの・・・これ、諸々のお礼なので、受け取ってください」

 

「気持ちだけで十分だ。ありがとうな、五月ちゃん」

 

あぁ・・・眠い・・・早く済ませてくんねぇかなぁ・・・

 

「ほら!シャキッとしろ!!」

 

バシィ!

 

「いて!」

 

お、親父め・・・気合注入とはいえ、背中叩くことねぇだろ・・・。

 

「五月ちゃん、この1週間、楽しかったぜ。今度は六海ちゃんも一緒に、遊びに来いよ!」

 

「試験、がんばってね!」

 

「「はい!」」

 

俺たちは親父とらいはに見送られながら、学校へと向かっていく。いよいよだな・・・ここからが本番だな・・・こいつらにとっても・・・俺にとっても。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『期末試験当日、直前の時間』

 

「ついに当日だねー」

 

「うまくやれるかなー?」

 

「やれることはやったよ」

 

「うぅ・・・緊張します」

 

「大丈夫!きっとできるよ!」

 

学校に到着し、六つ子は各々の思いを抱き、緊張した雰囲気を出している。そんな中で二乃は前もって、風太郎と話していた時のことを思い返していた。

 

『え⁉赤点でクビの条件って今回ないの⁉』

 

『言われてもないし聞いてもないな。ま、安心して気楽にいこうぜ』

 

(早く言いなさいよ・・・深刻な顔してたから勘違いしたじゃない)

 

前回の中間試験で赤点ならば風太郎はクビということを気にしていた二乃は先日の風太郎を見て、気にかけていたようだ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「10分前だ」

 

「じゃあみんな、健闘を祈るわよ」

 

予冷が鳴り、各々が自分の教室に向かおうとした時、ここに風太郎がいないことに気が付く四葉。

 

「あれ?また上杉さんがいないよ?」

 

「らいはちゃんに電話ですって」

 

「え?こんな時に?」

 

「こんな時だからじゃない?自分のスマホは充電切れだから、五月ちゃんのスマホを借りるくらいだからね」

 

そんな話をしている間に教室錬までたどり着いた。

 

「よし・・・じゃあお互い頑張ろう!」

 

「「「「「おーー!!」」」」」

 

六つ子は中間試験と同じようにお互いの親指小指を繋ぎ合わせ、互いに気合を入れ、試験に挑むためにそれぞれの教室へと入っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月からスマホを借りた後、俺はすぐに電話を入れていく。らいはに電話、といったがあれは嘘だ。だいたい、俺のスマホにはあの人の連絡先がない。だから五月からスマホを借りた。その相手というのが・・・

 

「・・・以上が、これまでの成果です」

 

≪そうかい。わざわざ報告ありがとう≫

 

俺を家庭教師の仕事をくれた俺の雇い主・・・あいつら六つ子たちの父親だ。

 

「ええ。6人とも頑張っていますよ。これは本当のことです」

 

≪わかっているよ。では、期末試験、がんばってくれたまえ≫

 

まだだ・・・俺はまだこの人に言わなければいけないことがある。

 

「そこで、勝手ながら、お願いがあります」

 

≪なんだい?言ってみなさい≫

 

俺はいったん深呼吸をして落ち着かせ、本題に入る。

 

「今日を持って、家庭教師を退任します」

 

俺が家庭教師を退任すること・・・それを意味するのは、もうあいつらの家に行くことも、あいつらに勉強を教えることはないということだ。

 

≪・・・理由を聞こうか≫

 

「さっきも言ったように、あいつらは本当に頑張りました。この土日なんてほとんど机の前にいたと思います。しかしまだ赤点は避けられないでしょう。苦し紛れの策を用意しましたが、あんなものに頼らない奴らだとはよく知ってます」

 

≪・・・今回はノルマを設けなかったと記憶しているが?≫

 

「本来は回避できるペースだったんです。それをこんな結果になってしまったのは、自分の力不足に他なりません」

 

≪・・・・・・≫

 

「ただ勉強を教えるだけじゃダメだったんです。あいつらの気持ちを考えられる家庭教師の方がいい。俺にはそれができませんでした」

 

あいつらに俺は不要・・・二乃と五月が喧嘩の最中で思っていたことだ。俺がいたからあんなことが起きた。なら、それを取り除くためにも、俺は家庭教師をやめた方がいい。

 

≪・・・そうかい。引き留める理由はこちらにはない。君には苦労を掛けたね。今月分の給料は後ほど渡そう≫

 

「ありがとうございます」

 

≪では、そろそろ失礼するよ≫

 

まだダメだ・・・この人に言わなければいけないことは、まだある。

 

「あの・・・失礼ですが、1度ご自身で教えてあげたらどうでしょう?」

 

≪!≫

 

「家庭教師では限度があります。父親にしかできないこともあるはずです」

 

≪・・・いや、そうしてやりたいが、私も忙しい身なのでね。それに、赤の他人に家庭のどうこうを言われたくはないな≫

 

赤の他人、ね・・・確かに、俺とこの人とは赤の他人だ。だがこのまま黙ってるわけにはいかない。

 

「最近家に帰ったりとかはしてますか?」

 

≪・・・いいや≫

 

「そうそう、知ってますか?二乃と五月が喧嘩をして家を出ていったことを」

 

≪何?それは初耳だね。もう解決はしたのかい?≫

 

「はい。もう大丈夫です」

 

≪そうかい。それならいい。教えてくれてありがとう≫

 

・・・なんでだ・・・あんたはなんでそこまで・・・自分の娘と向き合おうとしない。

 

≪では、今度こそ・・・≫

 

「それだけですか?」

 

≪?≫

 

「なぜ喧嘩したのか気にならないのですか?あいつらが何を考え、何に悩んでるのか知ろうとしないんですか?」

 

≪・・・言っている意味がわからないな。君は何が言いたいんだい?≫

 

「ああ、すみません。雇い主相手に生意気なことばかり・・・。あ、もう辞めるんだった。なら、遠慮なく言わせてもらう」

 

俺は自分の想いをこのわからず屋の父親にぶつけてやる。

 

少しは父親らしいことしろよ!!!大馬鹿野郎が!!!

 

俺のありったけの想いをぶち明け、通話を強引に切った。

 

「・・・やべ。今月の給料、ちゃんともらえるかな」

 

今月の給料がもらえなくなりそうな気はするが・・・それ以上に俺は、達成感に満ちた気分だ。そう、これでいいんだ。これで・・・。

 

「・・・一花、二乃、三玖、四葉、五月、六海。お前ら6人が揃えば無敵だ。頑張れ」

 

俺はお前たちの可能性を、信じているぞ。みんな・・・この2日間、よく頑張ったな。そして・・・さようならだ。

 

22「8つのさようなら」

 

つづく




おまけ

六つ子ちゃんはマラソンを六等分できない

四葉「私たちも駅伝に参加しよう!」

一・二・三・五・六「ええぇ~・・・」

四葉「陸上部の皆さんと一緒に練習してきて、チームで成し遂げる素晴らしさを知ったんだよ!今こそ6人の絆を発揮する時だよ!」

三玖「そう言われても・・・」

一・二・五・六「やりたくな~い・・・」

その後、四葉に強引に連れてかれ、マラソンをすることに

四葉「大丈夫!隣でサポートするから!」

一花「はぁ・・・はぁ・・・」

四葉「二乃、いい調子だよ!がんばれがんばれ!」

二乃「あ、あんたねぇ・・・」

四葉「三玖!負けないで!」

三玖「し・・・死ぬ・・・」

四葉「五月、ナイスガッツ!」

五月「お、お腹すきましたぁ~・・・」

四葉「六海、あと少しだよ!頑張って!」

六海「おぇ~・・・しんどい~・・・」

四葉「みんなの想い受け取ったよ!後は任せて!」

六海「ぜぇ・・・はぁ・・・もうこれ、四葉ちゃんの1人芝居じゃない・・・?」

一・二・三・五「言えてる」

六つ子ちゃんはマラソンを六等分できない  終わり

次回、三玖視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

さようならのさようなら

『期末試験結果』

 

中野一花

 

国語22点

数学49点

理科39点

歴史26点

地理22点

英語38点

総合点196点

 

中野二乃

 

国語19点

数学24点

理科38点

歴史25点

地理18点

英語49点

総合点173点

 

中野三久

 

国語37点

数学43点

理科40点

歴史72点

地理28点

英語18点

総合点238点

 

中野四葉

 

国語37点

数学13点

理科20点

歴史30点

地理18点

英語28点

総合点146点

 

中野五月

 

国語45点

数学26点

理科70点

歴史24点

地理22点

英語36点

総合点223点

 

中野六海

 

国語29点

数学27点

理科24点

歴史36点

地理68点

英語40点

総合点201点

 

♡♡♡♡♡♡

 

期末試験が終わって私たちは返却されたテストの点数を見て、結構落胆している。あんなに勉強したのにこのざまだもん。当然だと思う。

 

「ほ・・・ほとんど赤点・・・」

 

「これはひどい・・・」

 

「あんなに勉強したのにこの結果かー・・・」

 

「改めて私たちってバカなんだね・・・」

 

「二乃、元気出して」

 

「四葉、あんたは自分の心配しなさいよ」

 

フータローが用意した問題集を全部解いて、土日は勉強づけしだったのに・・・。私たちがどれくらいのバカなのかっていうのを改めてわからされる瞬間だと思う。

 

「ちょうど家庭教師の日だし、今日は期末試験の反省がメインだろうね」

 

私たちが今日の勉強内容を予想していると・・・

 

ピンポーンッ

 

「お、噂をすれば来たかなー?」

 

「私が出ますね」

 

ちょうどインターホンが鳴って、五月が出迎えに向かった。

 

「あーあ、このテスト結果見たらなんていわれるんだろうねー・・・」

 

「フータローにしこたま怒られそう」

 

「だねー」

 

怒られるのはちょっと嫌だけど、それ以上にフータローが来ることが待ち遠しいっていう気持ちが上回っていた。

 

「なんでうれしそうなのよ」

 

「あはは・・・結果は残念だったけど・・・またみんなと一緒に頑張れるのが楽しみなんだ」

 

四葉の想いには大きく賛同できる。二乃も少なくとも、同じ気持ちみたい。本当、変わったなぁ・・・。

 

「あれっ」

 

「?どうしたのー?」

 

「すみません、上杉君じゃありませんでした」

 

?フータローじゃない?じゃあいったい誰が来たんだろう?私たちがそう考えていると、インターホンを押した来訪者がリビングに入ってきた。

 

「失礼いたします、お嬢様方」

 

リビングにやってきたのは、お父さんの秘書で運転手でもある江端さんだった。

 

「なんだー、江端さんかー」

 

「今日はお父さんの運転手はお休み?」

 

「小さい頃から江端さんにはお世話になってるけど、家に上がってくるとか初だよね?」

 

「ほほほ、何を仰る。私から見たらまだまだ皆様小さなお子様ですよ」

 

「むぅー・・・江端おじちゃんまで子ども扱いするー・・・」

 

江端さんは昔からお世話にはなってるけど、家に上がってきたことは今までなく、これが初めて。だから私たちは少し驚いてる。

 

「それにしてもフータロー君、遅いねー」

 

「また遅刻って、あいつも懲りないわね」

 

確かにフータローが来るのは遅いけど、それよりも今は江端さんがここに来た理由が気になる。

 

「江端さん、本日はどうしていらしたのですか?」

 

「本日は臨時の家庭教師として参りました」

 

臨時・・・ということは、今日はフータロー、来ないんだ・・・。連絡くらい入れてくれればよかったのに・・・。

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

「江端さん、元は学校の先生だもんね」

 

「あいつサボりか」

 

「体調でも崩したのかな?」

 

「だったら今からでもお見舞いに行く?」

 

「・・・・・・」

 

「江端さん?」

 

私たちが各々で話し合っていると、江端さんは真剣みな表情を浮かべてた。

 

「・・・お嬢様方にはお伝えせねばなりません」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

私たちに伝えたいこと?それっていったい何だろう?

 

「上杉風太郎様は先日、家庭教師をお辞めになられました」

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・え?」」」」」」

 

江端さんの言ったことに私たちは理解が追い付けない。フータローが・・・家庭教師を・・・やめた・・・?

 

「そこで、新しい家庭教師が見つかるまで私が務めさせていただきます」

 

「ちょ、ちょっと江端おじちゃん。ストップストップ。え?何言ってるの?」

 

「そ、そうだよ・・・何かの間違い・・・だよね?」

 

「も・・・もー、ずれた冗談辞めてよ」

 

これは江端さんの質の悪い冗談に決まってる。いや、そうであってほしい。フータローが家庭教師を辞めるなんて、信じられない。

 

「事実でございます。旦那様から連絡がありまして、上杉様は先日の期末試験で契約が解除なされました」

 

でも、現実は非情だった。お父さんは冗談を言う人じゃないというのはここにいる誰もが知ってる。そのお父さんから江端さんに連絡したってことは・・・

 

「え・・・つまり・・・フータロー君・・・もう本当に来ないの・・・?」

 

「・・・嘘・・・・・・」

 

江端さんから突きつけられた現実に、私は目の前が真っ暗になりそうだった。

 

「なんで・・・?どうして風太郎君がやめなくちゃいけないの・・・?」

 

六海の言うとおりだ。フータローが家庭教師を辞める理由がわからない。どうして・・・?

 

「・・・やっぱり・・・赤点の条件は生きてたんだ」

 

頭がごちゃごちゃになりそうになってると、二乃がそう言った。赤点の条件?

 

「どういうこと?」

 

「試験の結果よ。パパに言われたんだわ」

 

「ちょっと待って!そもそも赤点の条件って何?どういうこと?」

 

私たちの疑問に、事情を知っているのか五月が答えた。

 

「実は中間試験にもあったんです。もし私たちが赤点を取るようなことがあれば、上杉君はクビ、と」

 

「お、お父さんがそんなことを⁉」

 

そんなの初耳だ。・・・そうか。だからあの時フータローは最後の言葉みたいなこと言ってたんだ。じゃあ・・・今回フータローが辞めたことになったのは・・・私たちのせい・・・?

 

「そうよ!だからきっと今回も・・・」

 

「それは違うと思われます」

 

フータローが辞めることになったのは赤点のせいだということを、江端さんは否定した。

 

「今回旦那様は上杉様にノルマは設けていませんでした」

 

「!それって・・・」

 

「上杉様は自分からお辞めになったと伺っております」

 

「自分からって・・・」

 

「フータロー・・・どうして・・・」

 

赤点のせいじゃなく、自分から辞めただなんて、なおさら意味がわからない。なんで自分からなんて・・・。

 

「だからって、はいそうですかって納得できるわけないじゃん!!」

 

「六海の言うとおりです。彼を呼び出して、直接話を伺います」

 

「申し訳ありませんが、それは叶いません」

 

五月がスマホでフータローに電話しようとしたら、江端さんに止められた。

 

「上杉様のこの家への侵入を一切禁ずる。旦那様よりそう承っております」

 

「パパが⁉」

 

お父さんがそんなことを言うってことは・・・本気でフータローを家に入らせない気なんだ。

 

「なぜそこまで・・・」

 

「・・・わかった。私が行く」

 

お父さんが言ったのはこの家の出入り禁止。外で会うなとは言われてない。だったら自分から行って話を聞くしかない。そう思って家を出ようとしたら、江端さんに止められた。

 

「江端さん。そこどいて」

 

「なりません。臨時とはいえ、家庭教師の任を受けております。お嬢様方が最低限の教育を受けていただかなければここを通すわけにはいきません」

 

江端さんはやるべき仕事はしっかりやる人だから、ちゃんと勉強をやらないと私たちが何を言ったところで、絶対通さないのはわかってる。だから今この時だけは憎らしく思う。

 

「ぐぐぐ・・・江端さんの頭でっかち!」

 

「江端おじちゃんの石頭ー!」

 

「ほほほ、何とでも言いなされ」

 

私と六海の文句にも江端さんはどこ吹く風という感じに軽く流してる。悔しい・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちは仕方なく江端さんが出した課題を黙々と解くことになった。どうあがいたって無駄なことはわかってるから、大人しく課題を受けた方が賢明。

 

「江端おじちゃん!これ終わったら本当に外に出てもいいんだよね?」

 

「ええ。お嬢様方のご自由になさってください」

 

本人もこう言ってるし、さっさと終わらせてフータローに会いに行かないと・・・。

 

「全く・・・自分から辞めるって、あいつどういうつもりよ・・・」

 

「私はまだ信じられないよ・・・」

 

「そんなの六海も同じだよぅ」

 

「みんな同じ気持ちだよ。だから本人の口からちゃんと聞かないとね。誰か終わった?」

 

「私はもうすぐです」

 

「私も」

 

江端さんが出された問題は比較的に簡単だからすらすらと解くことができる。理由は2つほどある。

 

「この問題、比較的に簡単だよ。きっと江端さんも手心を加えてくれてるんだよ」

 

「そうね。前のアタシ達なら危うかった。でも今は、自分でも不思議なほどに問題が解ける」

 

1つ目の理由は、江端さんの手心をが加わった問題の解説。もう1つは・・・フータローの存在。主にこれが1番大きい。フータローがいなかったら、とっくにこの問題は挫折してた。

 

「悔しいけど、全部あいつのおかげだわ」

 

フータローが私たちにとってどれほどかけがえのない人だというのが、改めて認識できる。だからこそ、私も、みんなも納得できない。自分から家庭教師を辞めるだなんて今も信じられない。だからこそフータローの気持ちを聞きたい。そのためにも早く課題を終わらせないと・・・いけないのに・・・

 

「後1問・・・後1問なのに・・・」

 

「私も後は最後だけです」

 

「アタシもこの1問で最後よ」

 

最後の問題がどうしてもわからない・・・1度やったというのは覚えているのに・・・その解き方が思い出せない。みんなも最後の1問で戸惑ってるみたい。

 

「ほほほ、その程度も解けないようであれば特別授業に変更いたしますよ」

 

「「「「「「わーーっ!!」」」」」」

 

じょ、冗談じゃない。今ここで特別授業なんてされたら日が暮れてしまう。早く何とかして最後の問題を解かないと・・・

 

「これ、前にやったよね」

 

「うーん・・・」

 

「なんだっけー・・・」

 

「えーん、思い出せないよー・・・」

 

「・・・あの・・・」

 

私たちが最後の問題でつまずいて困った状態になっていると、五月が口を開いた。

 

「カンニングペーパー、見ませんか?」ボソッ

 

え?カンニングペーパー?

 

「!」

 

「それって、期末の・・・?」

 

「はい。全員筆入れに隠しておいたはずです」

 

た、確かに私たちに筆記用具入れにフータローからもらったカンニングペーパーはあるけど・・・まさか五月がそんなこと言うなんて思わなかった。

 

「で、でも・・・い・・・いいのかなぁ・・・?」

 

「有事です。なりふり構ってられません」

 

五月、なんかフータローみたいな悪い顔してる・・・

 

「五月が上杉さんみたい!」

 

「あんた変わったわね・・・」

 

ちょっと驚いたけど・・・確かにこんなところで躓くわけにはいかないし・・・これを頼りにするしかない。みんなも渋々ながら決断してくれたみたい。後は・・・江端さんが席を外してるところを狙わないと・・・。

 

「あ、江端おじちゃん行ったよ」ボソッ

 

「よし、今だよ。カンニングペーパーを」ボソッ

 

「はい」ボソッ

 

江端さんが席を外したところを見計らって五月は自分の持ってるカンニングペーパーを広げた。

 

「・・・・・・」

 

「?五月ちゃん?どうしたの?」

 

「いえ・・・これは・・・どういうことでしょう・・・?」

 

五月はカンニングペーパーを見ても答えがわからないのか疑問を浮かべた表情をしてる。

 

「何というか・・・私のはミスがあったみたいです・・・」

 

「あはは・・・じゃあ私のを使お」

 

今度は一花が筆記用具からカンニングペーパーを取り出しそれを広げる。

 

「えーっと・・・安?」

 

内容が気になって私たちは一花のカンニングペーパーを確認する。そこに書かれていたのは・・・

 

『安易に答えを得ようとは愚か者め』

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

私たちがカンニングをすることを見透かしたような言葉が書かれてた。これ、カンニングペーパーじゃなかったって事だよね。

 

「なーんだ」

 

「何よ。最初からカンニングさせるつもりなかったんじゃない」

 

「でも、フータローらしいよ」

 

「だね。ちょっと安心したよー」

 

この手紙の内容がフータローらしさがあって、思わず笑みを浮かべてる私たち。

 

「・・・って!感心してる場合じゃないよ⁉️答えわからなくなっちゃったよ⁉️」

 

「・・・はっ!そうでした!どうしましょう・・・」

 

これがカンニングペーパーじゃないとわかって私たちは少し焦りが出始める。どうしよう・・・このままじゃ特別授業・・・

 

「・・・あれ?ちょっと待って。まだ何か・・・」

 

手紙の文章に続きがあるのを気づいた一花はさらに紙を広げてみると・・・右矢印の②って書かれてる。

 

「②って・・・これ・・・」

 

「アタシのを指してるのかしら」

 

この文章の続きは二乃の持ってるものに続いてるとわかって、二乃はこれと同じ紙を取り出して広げてみる。そこに書かれていたのは・・・

 

『カンニングする生徒になんて教えられるか。➡③』

 

「自分でカンニングって言ったんじゃない・・・」

 

「繋がってる・・・てことはこれ!上杉さんの最後の手紙だよ!」

 

これがフータローが私たちにあてた最後の手紙だと知って、私たちはすぐに自分の持ってる手紙を取り出す。③だから次は私・・・

 

『これからは自分たちの手で掴み取れ。➡④』

 

これ、私たちを応援してくれてるのかな?次は④だから四葉・・・

 

『やっと地獄の激痛から解放されてせいせいするぜ。➡⑤』

 

「・・・あははは・・・やっぱりやめたかったんだ・・・。私たちが相手だもん。当然だよね・・・」

 

確かに・・・フータローには迷惑をかけてばっかりだったけど・・・何もそんなにハッキリ書かなくても・・・

 

「次、五月だったわよね」

 

「・・・・・・」

 

「?五月ちゃん?なんて書いてあるの?」

 

五月は自分の持ってるカンニングペーパーを見て、黙ってる様子を見て、私たちはその内容を確認する。そこに書かれていたのは・・・

 

『だが、そこそこ楽しい地獄だった➡⑥』

 

!これが・・・フータローの気持ち・・・辛いことがあっても・・・それも含めて・・・

 

「・・・ずるいですよ・・・こんなの・・・」

 

「・・・最後、六海だったよね」

 

「う、うん」

 

最後に六海の番が回って、六海は手紙を広げる。すると・・・手紙を読んだ六海の目からは涙があふれてた。

 

「む、六海・・・?どうしたの・・・?」

 

「こ・・・これ・・・」

 

今にも涙がこぼれそうな六海は手紙の内容を私たちに見せた。内容は・・・

 

『少しだけ、充実した時間をくれて、ありがとよ。じゃあな』

 

私たちと過ごした時間へのお礼と、最後のお別れの言葉が添えられてた。

 

「違うよ・・・お礼が言いたいのはこっちの方だよ・・・」

 

その通りだ。フータローのおかげで、私たちは大切なことをいっぱい学んだ。落ちこぼれだった私が、がんばってみようと思えたのも、全部、フータローのおかげ・・・。

 

「・・・やだぁ・・・これでお別れだなんて・・・やだよぉ・・・わあああああああん!!」

 

六海はフータローの想いを知って、自分の想いが抑えきれなくなって大声で泣きだした。そして、四葉は泣いてる六海をなだめるように抱きしめて、自分の想いを口にした。

 

「・・・私だって・・・まだ上杉さんに勉強、教えてもらいたいよ・・・」

 

そんなの・・・私だって・・・同じ思い・・・

 

「・・・私だって・・・フータローなしじゃ・・・もう・・・」

 

私、フータローにもっと勉強、見てもらいたい・・・。習ったところも、これからの問題も・・・。このままお別れだなんて嫌だ・・・!

 

「そうは言ってもあいつはここには来られない。もうどうしようもないわ」

 

「で、ですが・・・何か方法はないのでしょうか・・・?」

 

五月の言うとおり、何か別の方法があるはず・・・それさえあればきっとまたフータローと一緒にいられる。でも、何があるんだろう・・・?

 

「・・・ねぇみんな。私から1つ提案があるんだけど、いいかな?」

 

どうするか悩んでいると、一花が1つの提案を出してきた。その提案の詳細を聞いて、私たちは目を見開かせる。

 

「え・・・」

 

「それ、本気?」

 

「うん。前々から考えてたことなんだ。後はみんなの意見次第。どう?」

 

一花の出した提案なら・・・フータローの出禁指示を気にする必要はなくなる。そうなると・・・私の答えはもう決まってる。

 

「私はいいと思う。それでまた、フータローと一緒に頑張れるなら・・・」

 

私の答えは賛成にした。他のみんなの意見は・・・

 

「どこにいるかは重要じゃない!私も賛成だよ!」

 

「六海も!このまま何もしないのは嫌だもん!」

 

「上杉君の説得が難しいですが・・・私たちなら、何とかなりますよね!」

 

「・・・仕方ないわね。ま、乗り掛かった舟よ」

 

「決まりだね」

 

みんなも同じ意見で満場一致。一花の提案は採用するされた。でもこれを実行するには、私たちの力だけじゃ実現できない。大人の手も借りないと。そして、協力してくれそうな大人の人は、すぐ近くにいる。

 

「おや、どうなされましたかな?」

 

「江端さんもお願い。協力して」

 

「!」

 

私たちは江端さんに向けて、協力のお願いをする。

 

(あれほど小さかったお嬢様方が・・・こんなにも立派になられて・・・)

 

私たちが小さかったころからずっとお世話になってきた江端さんなら・・・きっと・・・協力してくれるはず・・・。

 

「・・・大きくなられましたな」

 

私たちのお願いに江端さんはにっこりと微笑んでる。ああいう微笑み方をするってことは・・・協力をしてくれることを意味してる。これで後は実行に移すだけ。待っててね、フータロー。

 

♡♡♡♡♡♡

 

学校の行き来をしながら、一花の計画の準備やら何やらをしていたら、いつの間にか日付は12月の24日のクリスマス・イヴ。学校の終業式が終わって、一通りのことを終わらせてから私たちはある場所の中にいる。

 

「ケーキ屋、Revival・・・」

 

「あいつがこんなしゃれたところでバイトしてたなんて想像してなかったわ・・・」

 

「でも、ここにいるってわかったのは、六海のおかげだよー」

 

「ううん、真鍋さんから聞いただけだから六海は何もしてないよー」

 

六海の友達の真鍋さんの話によると、真鍋さんの孤児院の同僚の子がこのケーキ屋、Revivalでアルバイトで働いてる。そしてその同僚の子が言ったんだって。ここに最近フータローがアルバイトとして入ってきたって。

 

「あはは。春ちゃんもありがとね。五月ちゃんのお世話になっただけじゃなくて、フータロー君のこと教えてくれて」

 

「ううん、気にしないで~。みんなの役にたてれば私はそれでいいから~」

 

今私たちと話しているこの人が春さん。真鍋さんの同僚の子。三つ編み髪と瞼を閉じたような目が特徴になってる。

 

「でも、いいの?こんな簡単に教えちゃって・・・」

 

「いいの~。これ、店長のお気遣いでもあるから~。ね~♪」

 

「うん。春ちゃんのお友達の頼みなら断るわけにはいかないからね」

 

私の問いかけに春さんはにこにこして、両目に隈ができてる店長さんに向けてグッドサインを送ってる。店長さんもグッドサインしてる。事情は今日ここに来た時に話したら2人とも快く承諾してくれて、フータローが今どこにいるかを教えてくれた。だから今フータローのいるところに五月が迎えに行ってる。ちなみに春さんと友達なのは以前孤児院にお世話になった六海と五月であって、私たちは今日が初めまして。

 

「みんな、上杉君を連れていきましたよ」

 

「・・・・・・」

 

春さんと話していると、五月がお客さんの呼び込みをしていたフータローを連れて戻ってきた。フータローはあまりに無表情な顔をしてるけど、私たちはまたフータローと会えてうれしい。

 

「やっほー、フータロー君。久しぶりー♪」

 

「会いたかった」

 

「たく、勝手にいなくなってんじゃないわよ」

 

「上杉さん、サンタさんの恰好、似合ってますよー♪」

 

「風太郎君、クリスマスイヴなのに働いててえらいよー」

 

フータローは私たちを無言で見つめると、今度は恨めしそうに春さんを見つめてきた。

 

「・・・おい、春・・・おま・・・」

 

「さーって、私はお仕事に戻りま~す♪フータロー君、こちらのお客様のご注文、聞いておいてね~♪じゃ、がんばってね~♪」

 

「お、おい待て!!」

 

フータローは春さんに文句を言おうとしたけど、その前に春さんは仕事に戻っていった。これで私たちの席に残ったのは、私たちとフータローだけになった。

 

「・・・・・・はぁ・・・ご注文はケーキ1ホールでしたね」

 

「あ、はい。そうです。お願いしますね」

 

「上杉さん、お仕事頑張ってくださいね!」

 

「あ、でもでも、なるべく早く戻ってきてね!」

 

「うんうん、女の子を待たせるのはよくないからね」

 

「何よりももっとフータローと話したい」

 

「・・・仕事中なんだから無理言うなっての」

 

フータローは仕事という理由を使って私たちから逃げるように他のお客さんの対応しに向かった。

 

「・・・やっぱり私たちを避けてますね・・・」

 

「もう、つれないんだから」

 

「お仕事、時間かかるかなー?」

 

「まぁ、いいわ。とりあえず待ちましょう」

 

フータローに避けられて、ちょっと悲しいけど問題ない。少なくとも店長と春さんは私たちの味方をしてくれてる。話す機会は作ってくれるって約束してくれたし。それで待つこと数分後・・・。

 

「フータロー君、このケーキをあそこのお客様に届けてあげて~」

 

「げっ・・・なんで俺なんだよ・・・」

 

向こうの方でフータローが春さんに文句を言ってる声が聞こえてきた。

 

「それはほら~、フータロー君のお友達だし~」

 

「お前が持ってんだからお前がいけよ」

 

「え~?いやだよ~。フータロー君が行って来て~」

 

「だからなんで⁉」

 

「フータロー君。年齢は同じでも、立場は私が先輩なんだよ~?先輩の言うことを聞かなかったら、お給料上がらないよ~?」

 

「き・・・汚ねぇ・・・!」

 

「じゃ、よろしくね~♪」

 

「お、おい!!」

 

春さんはフータローに無理やりケーキを押し付けた後、自分の仕事に戻っていった。そして一瞬、私たちに向けてにっこりと微笑んだ。ありがとう、春さん。観念したフータローはケーキを持って私たちのいる席までやってきた。

 

「・・・ケーキ1ホールご注文のお客様」

 

「フータロー君、待ってたよー」

 

「お仕事、お疲れ様です!」

 

「いや~、真面目に働いて感心感心♪」

 

「そんなことより、寂しい」

 

「ケーキも遅いわ」

 

私たちの言葉でフータローは眉をひくひくさせてる。

 

「・・・仕方ないだろ。今日は店は繁盛・・・」

 

「ちょっと、アタシ達お客。あんたは店員。わかるわよね?」

 

「・・・さっさと持ってお帰り下さいませ~・・・」

 

「あーら、できるじゃない」

 

二乃の指摘にフータローは目が笑ってないスマイルを見せてる。そんなフータローに二乃は皮肉で返す。

 

「すみません、ケーキの配達ってできますか?やっぱり家に届けてほしいのですが・・・」

 

「はあ?」

 

五月の言葉にフータローは何言ってんだこいつって顔をしてきた。

 

「配達なんてやってないけど」

 

「えー、それくらいいいでしょ?」

 

「雪降ってるし、落としちゃうかも」

 

「大丈夫です!すぐそこなので!」

 

「お願いだよー、三百円あげるからー」

 

「私からもお願いします」

 

「こんなにもか弱い乙女に持たせる気?」

 

「店長ーーー!!やばい客がいまーーす!!」

 

私たちからのクレームにフータローは店長に助けを呼んでる。

 

「もう店も閉める。こっちはもういいから最後に行ってあげなよ」

 

「はあ!!?店長、そんなこと・・・」

 

「まあまあ、これもお仕事だと思って、ね♪」

 

「またお前そんな・・・」

 

「上杉君」

 

「フータロー君」

 

「「メリークリスマス♪」」

 

(・・・このバイトもやめよっかな・・・)

 

店長さんと春さんの協力もあってフータローは私たちの家までケーキを配達することになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お店に出た後、私たちはフータローにケーキを配達してもらいながら、私たちの家へと続く道のりを歩いてる。

 

「~♪」

 

「四葉ちゃん、雪の上は危ないよー。滑っても知らないよー」

 

「と、経験者は語るんだよねー」

 

「そそそ、そんなことないよ⁉」

 

「全く、2人ともお子様なんだから」

 

「お子様じゃないよ!」

 

「・・・・・・」

 

穏やかな会話をしているなか、フータローはかなり黙り込んでいる。距離も私たちより結構遠いし・・・。あ、この道を曲がってっと・・・

 

「!おい、お前らの家はこっちじゃないだろ」

 

「違うよー」

 

「こっちこっちー」

 

今私たちが歩いている道はあのマンションへの道のりではない。理由はすぐにわかる。

 

「・・・あのさ・・・黙って辞めたことは悪かった。だが俺はもう家庭教師には戻れねぇ」

 

フータローは重苦しい雰囲気で私たちにそう言ってきた。

 

「・・・これを見てください」

 

五月はかばんからある用紙を取り出して、それをフータローに見せる。これは新しい家庭教師の面接書。証明写真には褐色の肌にメガネをかけたかなりラフな大人。名前は阿多辺丸男さん。

 

「この人が私たちの新しい家庭教師です」

 

「!」

 

「上杉君にも見せておきたくてこうして赴いた次第です」

 

「・・・・・・そ、そうか・・・意外と早く決まったな・・・」

 

新しい家庭教師が決まったことを聞いた瞬間、フータローは一瞬複雑そうな表情をしたのを私たちは見逃さなかった。

 

「・・・東京の大学出身で元教師・・・へぇ~・・・。優秀そうな人で良かったじゃないか。見た目は結構怪しいがな。この人なら赤点回避まで導いてくれるだろう」

 

多分フータローは私たちのことを思っているんだけど・・・私たちはどうしても納得できない。

 

「・・・ねぇ、なんで?」

 

「なんでって・・・何が?」

 

「なんで他の人に任せて、六海たちを見捨てようとするの?」

 

「・・・っ」

 

私たちの想いを六海が代表してフータローに尋ねている。

 

「あの時言ったよね?自分の使命は六海たち全員卒業、1人でも欠けたら意味ない、だから見捨てないって。六海、その言葉を信じてたんだよ?なのに、なんで?あれは嘘だったの?」

 

「・・・っ!・・・嘘じゃない。だが、今更俺に何ができるって言うんだ。俺は2度のチャンスで結果を残すことができなかった。次の試験だってうまくいくとは限らない。だったら、プロに任せるのが正解だ。これ以上、俺の身勝手にお前らを巻き込めないんだ・・・」

 

フータローは、自身に重い責任を感じていたんだ・・・。それで、私たちのことを考えたうえで、家庭教師を・・・。でも・・・その身勝手さのおかげで、私たちが変わることができたのは、事実。

 

「そうね。あんたはこれまでもずっと身勝手だったわ。そのせいでしたくもない勉強をさせられて、必死に暗記して公式を覚えて・・・でも、問題を解けたら嬉しくなっちゃって・・・。悔しいけど、ここまでこれたのは、全部、あんたのせいよ」

 

「・・・っ」

 

「中途半端で終わらせてないで、最後の最後まで身勝手なままでいなさいよ!!今更謙虚なあんたなんて、気持ち悪いだけよ!!」

 

一言余計だと思うけど、二乃、珍しくいいこと言った。それでもフータローの表情は晴れない。

 

「・・・悪い。でももう戻れないんだよ」

 

「・・・どうしてかな?」

 

「俺は家庭教師を辞めた。お前らの家に入ることさえ禁止されてる。どうしようもないんだ」

 

「それが理由?」

 

「ああ。早く行こうぜ」

 

「もういいよ、ここで」

 

「・・・え?」

 

一花の言ってる意味がわからず、フータローはきょとんとしてる。ふふ、驚いてる驚いてる。

 

「はい、ケーキ配達ご苦労様♪お疲れだったでしょ」

 

「いや、まだ家についてな・・・」

 

「ここだよ」

 

「は?」

 

「あれを見てごらん」

 

一花の視線の先には、あのマンションとは比べ物にならないくらいに小さくて、少し古い雰囲気を出しているアパートだった。

 

「ここが私たちの新しい家」

 

事情を全く知らないフータローは目を見開かせてる。

 

「・・・え?どういう意味だ・・・?」

 

「このアパートの一室を借りたの。あ、お金なら心配しないで。私だってそれなりに稼いでるんだよ?」

 

「いや・・・そうじゃなく・・・」

 

「といっても私たち、未成年だから契約をしたのは別の人だけどね。あ、あと事後報告だけど、お父さんにももう言ったから大丈夫」

 

「ま、まさか・・・」

 

「うん。今日から私たち六つ子は、ここで暮らす。これであそこに入らずに済むから問題解決」

 

「なっ・・・」

 

これが一花の言っていた計画の一部。私たちの居住拠点をあのマンションからここに移し、フータローを驚かせる。私たちの狙い通り、フータローは驚いてくれてる。

 

「これで障害はなくなったね」

 

私たちがここで暮らすとわかったとたん、フータローは信じられないといった顔をしている。

 

「な・・・なんのために引っ越しなんて・・・」

 

「決まってるじゃないですか」

 

「上杉さんに、また勉強を教えてもらうためですよ!」

 

フータローの疑問に四葉があっさりと答えた。

 

「嘘だろ・・・そんなバカな・・・たったそれだけのために・・・あの家を手放したのか・・・?それも・・・6人全員で・・・?」

 

「はい!そうです!」

 

「ば・・・バカかお前ら!!いや、バカだろ!!今すぐ前の家に戻れ!!こんなの間違ってる!!このままあの家で新しい家庭教師を雇えば、うまくいくはずだ!!」

 

フータローはあのマンションに戻るように言っているけど、そんなことじゃ私たちの決意は揺らいだりはしない。

 

「上杉さん。私、以前言いましたよね。私たちにとって、大切なのはどこにいるかではなく、6人で一緒にいることなんです」

 

私たちの決意表明として、四葉はあのマンションのカードキー6人分を川に投げ捨てた。

 

「・・・っ!!マンションのカードキー・・・!本当にやりやがった・・・!!」

 

私たちの決意に驚いているフータローは足を一歩下がって・・・

 

ツルッ

 

「あ・・・」

 

「「「「「「!!!???」」」」」」

 

フータローが足を滑らせ、倒れる先には・・・冬の季節で冷えきってる川。

 

どぼんっ!!

 

フータローが川に・・・落ちちゃった⁉️

 

「フータロー!!」

 

川へと落ちていったフータローを見て私はすぐにかわに飛び込んでいく。

 

「フータロー君!!」

「上杉!!」

「上杉さん!!」

「上杉君!!」

「風太郎君!!」

 

ドボーン!!×6

 

みんなも私と同じタイミングで川へ飛び込み、フータローを引き上げていく。

 

「ぷはっ!フータロー!大丈夫⁉」

 

「ぜ、全員で飛び込んでどうするんですか⁉」

 

「「「って、冷たーーーーーー!!!」」」

 

「「寒------!!!」」

 

川はかなり冷え切って冷たいし、冬の気温でめちゃくちゃ寒いけど、そんなことより今はフータロー!

 

「お前ら・・・なんで・・・」

 

「たった2回で諦めないでほしい・・・今度こそ私たちはできる・・・フータローと一緒ならできるよ」

 

「三玖・・・」

 

「成功は失敗の先にある・・・でしょ?」

 

「!」

 

と、とにかく寒いし冷たい・・・早くフータローを引き上げないと・・・

 

「二乃ちゃん⁉どうしたの⁉」

 

「つ・・・冷たくて・・・体が・・・」バシャバシャ

 

陸に上がろうとした時、二乃が川の冷たさで体が思うように動けずにおぼれかけてる。こんな時に・・・!

 

「二乃!!」

 

フータローはおぼれかけてる二乃の腕を掴み上げて、その腕を自分の肩に乗せた。ほっ・・・よかった・・・安心した・・・。

 

「・・・はぁ、はぁ・・・上がれるか?掴んでろ」

 

「え、ええ・・・」

 

フータローと二乃と一緒に私たちが陸に上がると冬の寒い風が吹きすさぶ。うぅ・・・寒い・・・濡れた体にはかなり堪える・・・。

 

「はぁ・・・全く・・・こんなアパートに引っ越したり、川に飛び込んだり・・・あまりにも無茶苦茶だ・・・。お前ら・・・後先考えて行動しやがれ・・・」

 

・・・おっしゃる通りです・・・。

 

「これだからバカは困る。なんだか・・・お前らに配慮するのもバカバカしくなってきたぜ」

 

「!それって・・・もしかして・・・」

 

「ああ。完全に吹っ切れた。もうこうなったらお前らに遠慮なんてしねぇ。向こうの事情なんて知るか。俺もやりたいようにやらせてもらう!ここまで俺を引き留めたんだ。お前らも俺の身勝手に付き合えよな。最後の最後までな!」

 

よかった・・・いつものフータローに戻った・・・。そして、私たちの関係もいつも通りに戻った・・・。そう思ってるのは、みんなも同じだった。

 

「そうと決まれば早く家に入ろ!」

 

「このままじゃ風邪ひいちゃうよー」

 

「あ!ケーキは無事ですか?」

 

「大丈夫だけど、六海のメガネが流されたー。よく見えないよー」

 

「スペアのメガネがあるでしょ?それか、新しいメガネを買えばいい」

 

私たちはせっせと階段を上って、とっさに置いてきたケーキを手に持つ。

 

(・・・さようならだ。零奈)

 

「フータロー、早く行こ」

 

「一緒にケーキ食べようよー」

 

「おう。でも・・・いいのか?俺が入ったら・・・ケーキを6等分できないぜ?」

 

フータローのうまい発言に私たち六つ子はおかしくなって、クスリとお互いに笑いあった。やっぱりこの7人でいると、気持ちが温まる・・・。だからいつも通りに戻ってよかった。

 

「・・・つーか新しい家庭教師の人に謝んないとな・・・」

 

「ええっと・・・それはお気になさらずに・・・」

 

「ん?なんでだ?」

 

「だって謝る必要なんてないんだもーん♪」

 

「???どういうことだ・・・?」

 

フータローは新しい家庭教師に謝る必要がないことに疑問を抱いてるけど、私たちは普段通りにしてる。だってこの新しい家庭教師だって、一花の計画の一部だもん。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六つ子の父親』

 

一方その頃、黒いリムジン車は長い道路を走っている。リムジンには運転手の男とその主である男が乗っている。

 

「江端、今日は遅かったね」

 

「申し訳ございません、旦那様」

 

「構わないさ。・・・しかし、その恰好はいったい・・・」

 

「ほほほ、イメチェンでございます」

 

「そうか・・・まぁいい」

 

運転手、江端の姿は、六つ子が風太郎に見せた面接写真に写っていた男とそのまんまであった。つまり、阿多辺丸男の正体は、中野家の執事、江端だったのだ。

 

「やってくれたね・・・上杉君。しかし・・・君のような男に娘はやれないよ」

 

江端の主にして、総合病院の院長・・・そして、六つ子たちの父親である男、中野マルオは鉄仮面のような表情でこの場にはいない風太郎に向けてそう言い放った。

 

23「さようならのさようなら」

 

つづく




おまけ①

六つ子ちゃんはケーキを7等分できない

三玖「・・・とりあえず、ケーキは丸々無事なのはいいけど・・・」

二乃「ケーキを7個平等にって絶対無理じゃん・・・」

一花「もういっそスプーンで直で食べちゃおうよ」

二乃「行儀が悪い!」

六海「いっそのことガブリつく?」

二乃「もっと行儀が悪いわ!」

四葉「横に切れば簡単だよ!」

二乃「格差がむごいわよ!」

五月「私は1番大きいのがいいです・・・」

二乃「協調性0か!!」

三玖「イチゴはどうするの?」

一・二・四・五・六「あ・・・」

風太郎「なんだよ、まだやってんのか?」

一花「いやー、だって7等分って難しいんだもん」

風太郎「・・・たく、しょうがねぇな。いいか?とりあえず7角形があると想定して、7角形の角を真ん中までたどって切っていけば・・・」

六海「おお!きれいに7等分できた!」

五月「こ、これをいただきます!」

四葉「さすがは上杉さんです!」

風太郎「ふっ・・・」ドヤァ・・・

二乃(・・・やっぱこいつなのは間違ってるわ)

六つ子ちゃんはケーキを7等分できない  終わり

♡♡♡♡♡♡

おまけ②

四女ちゃんと末っ子ちゃんはサンタさんを信じてる

一花「ふぅ・・・ケーキおいしかったね」

五月「私としてはもっと食べたかったです・・・」

二乃「あんたはもう少し協調性を持ちなさいよ」

六海「ふぅ・・・さて、ケーキも食べたし、六海はもう寝るね」

風太郎「ん?もう寝るのか?」

六海「うん。だって、早く眠ったいい子には、サンタさんが来てくれるんだもん♪」

風太郎「・・・は?」

六海「そういうわけだから、もう寝るね!今年のプレゼントは何かなー?」

風太郎「・・・行っちまった・・・。なぁ、まさかあいつ・・・いい年してサンタなんて信じてんのか?」

四葉「は!そうだった!私も早く寝ないと!そういうわけなので上杉さん、おやすみなさい!」

風太郎「お前もか」

三玖「高校生になっても2人とも、未だにサンタがいるって信じてるみたい」

五月「毎年プレゼントをもらったーって私たちに見せてくるんですけど・・・」

二乃「実際にプレゼントを渡してるのは江端さんよ」

風太郎「そいつはまぁ・・・」

一花「まぁそういうわけだからフータロー君、協力してくれないかな?ほら、プレゼントも用意してあるよ」

風太郎「は?」

二乃「そうね。服装もちょうどサンタだし、つけ髭もつければ完璧ね」

風太郎「いや、あの・・・」

五月「・・・すみません。こればっかりはちょっと・・・」

三玖「お願い。四葉と六海の夢を壊さないであげて」

風太郎「・・・・・・」

結局風太郎は今年のサンタとなって、寝てる四葉と六海にプレゼントを置いてあげたとさ。

四女ちゃんと末っ子ちゃんはサンタさんを信じてる  終わり

次回、六つ子視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初の春

申し訳ございません。番外編を描いていたのですが・・・最新話を読んでいると、書いてるものとえらく設定がかみ合わないので・・・全部練り直さないといけない段階になってしまいました・・・。なので番外編は心苦しいですが、もうしばらくお待ちください。必ず投稿はすることは決まっているので。

それから、今後の物語ですが・・・六海ちゃんがどんなアルバイトをするかちょっと悩んでいるので、アンケートを取りたいと思います。ご協力よろしくお願いします。

余談:次回が五等分の花嫁最終回だと考えると・・・寂しい感じがありますね。ですが、私は五等分の花嫁に出会えて、とても幸福です。




四葉SIDE

 

「ここらへん・・・でいいかな?」

 

「いい?いっせーので置くわよ。いっせーの・・・」

 

前に住んでたマンションからこのアパートに引っ越してから一周間、私たちはとっても大忙しです!というのも、まずこの部屋には家具が極端に少ないんです。テレビはない、机は小さいのしかなく、暖房もないと、数を数えきれないほどにないものが多いんですよ。びっくりですね!

 

とにかくこんな部屋ではとてもではないですが生活できません。なので先日この部屋の家具を揃えるためにみんなのお金を合わせて家具を買いに行きました!もちろん、お父さんの力は借りず、私たちの手で!

 

その甲斐もあって必要な家具だけは揃える事ができました!まだまだやるべき事がありますが、これでも一歩前進です!そして今は段ボールを運んで、後は中にあるものを整理するだけでこの部屋の整理は完了です!

 

「よーし!これで半分くらいだね!」

 

「はぁ・・・もう・・・今日は大晦日だってのに、何でこんなことしなくちゃいけないのよ・・・」

 

二乃は段ボールを運ぶのが辛かったのかしんどそうに息を整えています。まぁ、確かにこれは重かったよねー。何せ中身は本とか、その他の段ボールには服がぎっしり入ってるからね。

 

「仕方ないでしょー?昨日でやっと普通の部屋らしくなったばかりなんだから」

 

「いつまでも文句言わない」

 

「一花もいれば早めに終われるんですが・・・今日も撮影ですからね・・・」

 

文句を言ってる二乃にそう言ってきたのは、反対側の部屋の整理を担当していた三玖、五月、六海(スペアメガネ状態)でした。一花はと言いますと、今日はお仕事です。大晦日でもお仕事なんて、やっぱり芸能人ともなると引っ張りだこになるんでしょうね。まぁ、今日は早めに帰ってこれるみたいですけど。

 

「さすがに猫の手でも借りたい気分ですね。こうも本が多いと」

 

「じゃあ、フータロー、呼んで手伝ってもらう?」

 

「一応メッセージ送ったんだけど・・・勉強で忙しいって断られちゃった・・・」

 

「はあ⁉️何それ⁉信じられない!」

 

あはは・・・大晦日でも勉強を優先する辺り上杉さんらしいですね。

 

「それに風太郎君は多分戦力外だと思うよ?だって、もやしっ子だし」

 

「確かに・・・上杉さん、林間学校でもキャンプファイヤーの丸太を持ち上げられなかったし」

 

「うわ、ダサッ」

 

「本当に男の子なんですかね?」

 

あの時は本当にびっくりしちゃいました。1人ではびくりともしませんでしたし。

 

「それで?そっちは終わったの?」

 

「あ、はい。こっちは人数が1人多い分早めに終わりました。ですのでそっちを手伝おうかと」

 

「助かったわ。じゃあ、残りの段ボールも持ってきてちょうだい」

 

「これ終わったらさ、デモハンやろうよ、デモハン!」

 

「一狩り行こうぜ」

 

六海が言ってるデモハンはデーモンハンターっていうゲームの略でして、これは超がつくほどに爆発的な人気を誇ってる狩りをテーマにしたゲームなんです。実際に私もプレイしてますけど、もう絶賛ドハマり中です!

 

「アタシは嫌よ!あんな生々しいゲームは!」

 

二乃の反応でわかるとおり、姉妹でもデモハンをやる人とやらない人はハッキリと別れてるんですよね。二乃はデモハンの演出が嫌でやらないし、五月もゲームは苦手だし、一花はそもそも機械音痴だからできないんです。だからプレイしてるのは私と三玖、六海の3人なんですよね。

 

「まぁ、わかってた。そもそも二乃と五月には期待してない」

 

「でも2人ともノリ悪いよ、やっぱり」

 

「はいはい悪かったわね、ノリが悪くて」

 

「何で私にまで⁉️」

 

五月を誘ってるわけじゃないのに三玖と六海から風評被害にあって涙目になってますね、五月。

 

「わ、私はやるよ?デモハンおもしろいし!」

 

「さすが四葉ちゃん!同じチームである以上やっぱりそうでなくちゃね!」

 

チームと言ってもただ単純にこの3人でローカルプレイしてるだけなんですけどね。

 

「話が脱線しすぎよ!いいから早く手伝いなさい!」

 

「そうですよ!ゲームは大掃除が終わった後にやってください!」

 

「じゃあ早く終わらせよう」

 

「「はーい」」

 

私たちは早く大掃除を終わらせるためにみんなで協力して段ボール処理を始めます。ちなみに本担当は五月と六海で、服担当は私、二乃、三玖となりました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

みんなで協力した甲斐もあってあんなにあった服はタンスに、本は本棚に全部しまうことができました!これによって、部屋の整理が終わって大掃除完了です!

 

「ふぅ・・・何とか全部片付いたわね」

 

「終わった~・・・疲れたよ~」

 

「もうすっかり日が暮れてしまったね~」

 

「あれからずいぶん経ったんだね」

 

「みんな、お疲れ様でした」

 

大掃除が終わってみんなは安堵した表情になっています。

 

「ただいま~」

 

あ、掃除を終えたタイミングでちょうど一花が帰ってきましたね!

 

「一花おかえりー!」

 

「お~、だいぶきれいになってるね~。なんだか悪いねー、私がいたらもっと早く終われたかもしれなかったはずなのに」

 

「仕方ありませんよ。今の私たちのお金の事情を考えたら・・・」

 

私たちがあのマンションからこのアパートに引っ越してからというもの、私たちはほとんどお金がありません。いえ、正確には今後に払うための家賃が足りないんです。一応は一花がお仕事で溜めたお金で次の家賃は払えますが・・・その次はちょっと怪し気な雰囲気がぷんぷんです・・・。なのでそれを解消するために一花は仕事の量を増やしていってるというわけです。

 

「それに、一花ばかりに負担はかけられないし、これくらいはね?」

 

「うんうん!それに、一花ちゃんがいたらもっと遅くなってたかもしれないし!」

 

「むっ・・・六海ぃ~、それはどういうことかなぁ~?」

 

「どうもなにも、一花ちゃん、すーぐ自分の部屋を汚部屋にしちゃうんだもん。頼りにならないよ」

 

「いやいや、それを言ったら六海だってそうでしょ?お姉ちゃん、知ってるんだからね~?」

 

「む、六海の場合は探し物限定だもん!」

 

一花と六海の間に小さな火花が散って、言い合いになりそうになったとき・・・

 

ぐううぅぅ・・・

 

お腹が鳴った音が聞こえてきました。・・・ちなみに私じゃないですよ?

 

「・・・今の誰の音よ?」

 

「五月」

 

「ごめん、今の五月だよね?」

 

「五月ちゃんだね」

 

「うん、五月ちゃんしかいないね」

 

「ちょっと!何で私だと決めつ・・・」

 

ぐうううぅぅぅ・・・

 

・・・五月、今このタイミングで反論しても説得力がないよ・・・。

 

「ほら」

 

「うううぅぅぅ・・・皆がいじめてきますー!」

 

反論の余地もない五月は顔を赤くしながら涙目になってます。本当ごめん!

 

「ま、ちょうどいい時間だし、ご飯の支度でもしましょうか。今日は大晦日だから、年越しそばよ」

 

「やったぁ!!おそば♪おそば♪」

 

「お、おかわりとかはありますか?」

 

「五月ちゃん・・・わんこそばじゃないんだから・・・」

 

年越しそばかぁ・・・うん!大晦日をかざるにふさわしいメニューだね!お腹を空かせてる五月はもちろん、自称朝は麺派の六海はきらきらと目を輝かせてます!

 

♡♡♡♡♡♡

 

大掃除の後、二乃は台所で夕食の準備、私たちは今日設置したこたつで身体をぬくぬくと温まりながらご飯が出来上がるのを待っています!はぁ~・・・このこたつ・・・暖かーい・・・。リビングも担当してた三玖たちに感謝だね!

 

「ご飯できたわよー」

 

お!ゆったりとしている間にご飯が出来上がりましたか!

 

「待ってましたー!おそばー!」

 

「うーん、いい匂いが漂ってきますね!」

 

食卓のテーブルに年越しそばとその添えのおかずが並べられていきます。

 

「おお、今年最後の相応しい食卓だねー」

 

「二乃、お疲れさまー。疲れてるのにごめんね」

 

「別にいいわよ。この中でまともに料理できるのはアタシだけだもの」

 

うっ・・・確かに・・・。細かい調理とかはあまりやったことがないし・・・。

 

「私だってちゃんとできる。・・・まだ不格好なだけ」

 

あの・・・一応三玖も料理はできるけど、出来上ってたのはある時は黒焦げコロッケだったり、またある時は茶色いシチューだったんだけど・・・。

 

「思い返してみるとさ・・・今年はいろいろあったよね」

 

料理が出そろうと、一花の口からふとそんな言葉が出てきました。

 

「確かに今年はいろいろあった」

 

「特に季節終盤、二乃ちゃんと五月ちゃんの家出、四葉ちゃんの陸上部問題もあったしね・・・」

 

う・・・あの時は本当にみんなに迷惑をかけたと今も思ってる・・・ちゃんと反省しなきゃ・・・。

 

「あの時は本当にすみませんでした!」

 

「わ、悪かったわよ・・・」

 

「私も・・・すみませんでした・・・」

 

「でも、何も悪いことばかりでもなかったよね」

 

「うん・・・フータローに出会えた」

 

「六海にとって出会いは最悪だったけど・・・少しずつ風太郎君と接してことで・・・六海に・・・ううん、みんなにとって、かけがえのない存在になったよね」

 

「うん。そのために、めちゃくちゃ冷たかった川に飛び込んだわけだしね」

 

「うまく言えないんだけど・・・これって、幸福っていうべきなんじゃないかな?六海はそう思うんだ」

 

幸福・・・幸福かぁ・・・確かに上杉さんと出会えたことで、みんなは変わってくれた。最初は躓きはしたけど・・・みんな上杉さんの良さを触れて、前向き勉強する意欲を見せてくれた。そして・・・私も・・・。そう考えると、やっぱり幸福だよ。

 

「うん。私もそう思うよ」

 

「同感」

 

「私も!」

 

「あ、アタシは・・・別に・・・」

 

「来年も、幸福な1年でありたいですね」

 

みんな同じ思いであったのか、幸福を噛みしめるかのようにお互いに笑いあいました。

 

「さて、と。じゃあ来年も幸福な1年を6等分できることを願って・・・」

 

「「「「「「よいお年を!いただきます!」」」」」」

 

来年の幸福を願いながら私たちは今年最後の食事を楽しみました。来年もいいことあるといいなぁ・・・。

 

食事を終えた後は12時まで起きて、新年を迎えた後に寝ました。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

新年を迎えた元旦の朝、アタシは姉妹の誰よりも起きて、今日の朝食の準備をする。今日のメニューはお正月らしくおせちね。まぁ・・・去年のようなメニューは出せないけど。なにせ、環境ががらりと変わっちゃったし、簡単なものしか出せなくなっちゃったからね。

 

さて、と、おせちにいれるのは市販の黒豆とかまぼこ・・・生ハム・・・は今の経済じゃ少し高いから普通のハムを使って・・・それから・・・

 

「二乃、あけましておめでとう」

 

アタシがおせちを作ってる間に三玖が起きてきたわね。他の姉妹はまだ寝てるのかしら。あ、ちなみにここの台所ならリビングにいるみんなと話せるくらい近い場所にあるわ。

 

「ええ。あけましておめでとう。今年もよろしく」

 

「うん。今年もよろしく」

 

アタシ達が新年の挨拶を終えた後、三玖はアタシのいる台所に入ってきたわ。

 

「ところで二乃、おせちに使う材料・・・いくつか残しておいてくれる?後、後で台所を使ってもいい?」

 

「別にいいけど・・・あんたまたなんか作る気?」

 

「うん・・・私もおせち作る・・・私の作ったおせち・・・フータローにも食べてもらいたいから」

 

ドキンッ

 

浮かれた表情の三玖を見ていると、なぜか上杉の姿と・・・キンタロー君の姿が思い浮かんだ。これ・・・あの時も同じだわ・・・。川でおぼれかけた時に上杉が肩を貸してくれた時と・・・。

 

・・・いや、そんなはずはないわ。だから、この気持ちは違う・・・。これはキンタロー君のことがまだ、忘れられないだけよ・・・。だってアタシは上杉とキンタロー君は別人だって割り切ったんですもの・・・。じゃないとどう考えたっておかしいわよ・・・。

 

アタシが・・・上杉のことが好きだなんて、絶対にありえないわ。あんな・・・足を滑らせて川に落ちた男なんて・・・!

 

「そ・・・そう・・・まぁ、適当に頑張りなさい」

 

「うん。・・・あ、言っておくけど、先にフータローに食べてもらうんだから、食べちゃダメだよ」

 

「はいはい、食べないから安心なさい」

 

というより、見た目の悪い、味も微妙な三玖の料理なんて貧乏舌である上杉以外誰も食べようなんてしないでしょうに。

 

「ふわぁ~・・・あ、二乃、三玖、あけおめ~・・・」

 

「明けましておめでとう!今年もよろしくね!」

 

「あけおめー!今年もよろしくにゃー♪」

 

「あけましておめでとうございます。今年もどうかよろしくお願いしますね」

 

三玖と話している間に他の姉妹たちが起きてリビングに入ってきた。やっば、まだおせちできてないじゃない。それにもう少ししたらアタシのお気にの俳優が出てるドラマが始まっちゃうわ。早いとこちゃちゃっと作っちゃいましょっと。

 

♡♡♡♡♡♡

 

おせちができた後、アタシは食卓におせちとそれを取り分けるための皿を並べていく。そして、料理が出そろったところでアタシ達はテレビのドラマを見ながらおせちを食べているわ。うん、我ながらこのおせち、なかなかいい味してるんじゃないかしら。

 

「ねぇねぇ、今年の初詣はどうする?」

 

すると、六海が今年の初詣について訪ねてきたわ。

 

「どうするって・・・行くんじゃないの?」

 

「うん。行くのは行くよ?ただ、着ていく服はどうしようかなーって」

 

「要は振袖ってことでしょ?」

 

「あー、なるほどねぇ・・・」

 

実はこのアパートに引っ越しをする際、本とか服とかを持ってきているのは当たり前なんだけど・・・全部っていうわけにはいかなかったからほとんどの本や服はあのアパートに残してきてしまったの。振袖もその1つよ。だから今の私たちは初詣に着ていく振袖が持ち合わせてないのよ。

 

「どうするって言われても・・・晴れ着はあのマンションに置いたままだし・・・」

 

「でもだからと言ってあそこに行くわけにもいきませんし・・・」

 

「というか、私がカードキー全部捨てちゃったよー!」

 

ああ、そういえばそうだったわね・・・マンションに入るために必要なカードキーは・・・1度家庭教師をやめようとした上杉に勉強を見てもらうためのアタシ達の決意表明として四葉が川に捨てたんだったわ・・・。つまり再発行しない限り、あのマンションはアタシ達でも入ることができなくなったというわけ。

 

「大家さんに借りてもらおうよ。そうすれば、この件も解決するでしょ?」

 

アタシ達が悩んでいると、一花がそんな提案をしてきたわ。

 

「え?でも・・・いいんでしょうか?」

 

「大丈夫だってー。大家さん、結構気さくな人だったから、頼んだら借りてもらえるって」

 

「六海、ちょっと大家さんに電話してみるね」

 

六海は大家さんに振袖を貸してもらえるか確認するために電話を入れたわね。さあ、どんな答えがでるのやら・・・

 

待つこと1分ぐらい・・・

 

「振袖、借りてもいいって!」

 

「ほらね」

 

「やったね!」

 

「これで問題解決」

 

「なんだか、大家さんに申し訳ないですね・・・」

 

「あんた真面目すぎ」

 

まぁとにもかくにも、振袖を確保することができてよかったわね。

 

「出発はご飯食べた後でいいかな?」

 

「え、でもドラマがまだ・・・」

 

「大丈夫!そうだと思ってちゃんと録画してるから!」

 

「おー!手際がいいね!」

 

「まぁ、二乃と三玖の前例がありましたし・・・」

 

「そういえばあったね、そんなこと」

 

ああ・・・あの時は確か・・・アタシがバラエティ番組で三玖がドキュメンタリー番組めぐっていたっけ。ちなみうやむやになってはいたけど、あの2つの番組はとりあえず録画できたわ。

 

「じゃあそれでいいわ」

 

「うん。じゃあご飯の後に大家さんの部屋に行こうか」

 

振袖を借りるという方針が決まったところでアタシ達は食事を再開させる。

 

「・・・あ、そうそう、六海はそのスペアメガネ外してきてねー」

 

「コンタクトはつけてあげるから」

 

「そ、そんな⁉また六海のアイデンティティを奪う気⁉」

 

そういえば秋の花火大会でもそんなこと言ってたわね。でもアタシ達にはそんなアイデンティティを問われても困るんだけどね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ご飯を食べ終えた後、アタシ達は大家さんから借りた振袖を着て、神社までやってきた。一時は晴れ着どうしようかと思ったけど・・・何とかなってよかったわ。

 

「やっぱり新年を迎えたからには、お参りはしとかないとね」

 

「ううぅぅ・・・落ち着かないぃ~・・・」

 

ちなみに六海は他の姉妹の全会一致によってメガネは外した素顔の状態になっているわ。本当に落ち着かなくてそわそわしているのがわかるわね。

 

「だ、大丈夫ですよ六海。例えメガネがなくとも、六海はかわいいです!」

 

「そういうことじゃない!メガネなしで言われてもちっとも嬉しくないし!!」

 

「えええー⁉どうしろっていうんですかー⁉」

 

若干ながら論点がずれてる五月にたいして六海が怒ってる。普段からメガネをかけてないとイライラしやすいところ、本当どうにかならないかしら?

 

「まぁまぁ、お参り済むまでの辛抱だよ」

 

「うぅ・・・早く帰ってメガネかけたい・・・」

 

四葉がなだめてくれたおかげで六海がこれ以上荒れることは抑えられたわね。ナイスよ四葉。

 

「じゃあ、六海のために早いところ済ませよう」

 

アタシ達は早いところお賽銭箱に小銭を入れて、6人全員で手を合わせ、今年に向けての願い事を祈った。

 

「これでよし」

 

「ねぇねぇ、何の願い事をした?」

 

「秘密よ」

 

「えー・・・ケチだなー・・・」

 

四葉が何を願ったのか聞いてきたけど、それを言ってしまったら大したことじゃないとはいえ、叶わなくなる可能性があるわ。だから何があっても絶対に言わないわ。

 

「もう済んだよね?じゃあ早く帰ろうよ。メガネないとおちつ・・・」

 

「あ、そうだ。おみくじ引いていこうよ」

 

一刻も早く帰りたい六海を遮って一花がおみくじを引こうと提案してきたわ。それによって六海が一花を睨んできたわ。

 

「・・・一花ちゃん・・・」

 

「いいじゃん。今年の運勢って気になるでしょ?」

 

まぁ・・・確かに・・・。一花の言い分に六海は渋々ながら了承したわね。全員が納得したと同時にアタシ達はおみくじを引いて今年の運勢を見てみた。出てきたのは・・・大吉だったわ。

 

「あ!大吉だ!」

 

「四葉も?実は、私も」

 

「おー、奇遇だね。私も大吉だよ」

 

「わ、私も大吉でした」

 

「・・・アタシもよ」

 

「全員が大吉だなんて・・・珍しいね!」

 

大吉・・・ね・・・。確かに全員大吉なのは珍しいけど・・・アタシにはこの運勢は逆なんじゃないかって思っているわ。大吉の逆といえば・・・大凶よ。そう思うのは・・・こんな時にまであいつを思い浮かべてしまうからよ。そうに決まってるわ・・・あいつと出会った時から・・・

 

「げっ・・・お前ら・・・」

 

「わー!きれいー!」

 

声をした方向を見てみると、そこにいたのはらいはちゃん・・・と、アタシが思い浮かべた相手である・・・上杉だった。

 

・・・ほら、やっぱり大凶じゃない・・・。

 

「なんでいっつもがいんのよ!」

 

「おー、フータロー君、あけおめー」

 

「お前らまで来てたのかよ・・・」

 

「ああ・・・風太郎君・・・アイデンティティを失った六海の顔を見ないで・・・」

 

「花火大会の時バリバリ素顔見せてただろうが」

 

上杉と出会ったことでみんなは各々の反応を見せているわ。

 

「上杉さんにらいはちゃん!あけましておめでとうございます!よかったらうちに寄っていきませんか?」

 

ちょ、ちょっと!四葉!新年1発目でそれは・・・!

 

「いや・・・悪いが・・・」

 

「行くーーー!!お兄ちゃんも行くでしょ?」

 

「・・・・・・」

 

ああ、らいはちゃん・・・そんな純粋無垢な笑顔で言われたら、招き入れたくなるじゃない。上杉は嫌そうな顔はしていたけど。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

フータロー君とらいはちゃんを我が家に招き入れた後、私たちは振袖から普段着に着替えてからリビングでのんびりと過ごしている。二乃、四葉、五月ちゃんは録画したドラマをじっくりと見ているね。

 

『私、あなたが好きなの!』

 

『僕も君が好きだ!』

 

『『チュッ』』

 

「き・・・キスしました・・・///」

 

「ロマンチックだわ~・・・」

 

「録画しておいてよかったね!」

 

3人ともドラマのキスシーンでかなり盛り上がってるね~。やっぱり、先輩役者の演技はすごいなぁ~・・・。

 

「・・・何のために俺を呼んだんだよ・・・。らいは、帰るぞ」

 

フータロー君が帰ろうとしたところを六海がストップをかけてきた。

 

「ダメダメ!せっかく来たんだからゆっくりしていってよ~・・・」

 

「関係あるか。俺は早く帰って初勉強したいんだ」

 

うーん、大晦日でも勉強、そして元旦でも勉強をしようとする姿勢は相変わらずだねー。

 

「まぁまぁ、六海の言うとおり、お正月ぐらいゆっくり過ごそうよ」

 

「そうは言うがな・・・」

 

「フータロー、あけましておめでとう」

 

「お、おう・・・」

 

「今年もよろしく。おせち作ったんだけど、食べる?というか、食べて」

 

「「・・・っ!」」

 

三玖は冷蔵庫から三玖自身が作ったおせちを取り出してきたね。いつの間に作ったんだ、それ・・・て、あれ?三玖のおせちを見た瞬間フータロー君と六海は顔色悪くしてお腹抑えてるね。お腹でも痛いのかな?

 

「2人ともどうしたの?」

 

「や・・・大丈夫大丈夫・・・あははは・・・」

 

「お、おう・・・何でもねぇよ・・・」

 

うーん・・・何でもないことないと思うんだけどなー・・・て、そういえばらいはちゃん、何か言いたそうな顔になってる。

 

「あれ?どうしたの?らいはちゃん」

 

「え・・・えーっと・・・私、勘違いしてたみたい。中野さんのお宅はお金持ちって聞いてたから・・・私、てっきり・・・」

 

あー、そういえばらいはちゃんは私たちの住んでた住所を知らなかったっけ。それから、最近このアパートに引っ越したことも。

 

「あはは・・・いろいろありまして・・・」

 

「ごめんねー、らいはちゃん。何にもない部屋で」

 

「あ、いえいえ!そんな・・・」

 

「振袖も後で大家さんに返しに行かなくちゃ」

 

「ひとまずは必要なものから揃えてる段階です」

 

一応はある程度の家具は揃えたけど、まだまだ足りない家具はあるからねー。

 

「じゃあテレビは後回しでもいいだろ」

 

「それじゃあ暇をつぶすことできないじゃない。わかってないわねー」

 

「うちテレビないし」

 

「まぁまぁ、とにかく自分の家だと思ってくつろいでよ」

 

「お前ら・・・本当に大丈夫か?無理してないだろうな?」

 

「大丈夫大丈夫♪無理なんてしてないよ♪」

 

「・・・ならいいが・・・」

 

フータロー君は私たちに気遣った後、こたつとは離れた場所に座ろうとした。

 

「ちょっと。なんでそこに座んのよ?」

 

「?何か問題があるのか?」

 

いやいや、フータロー君がそこに座ることが問題なんだよ。

 

「寒いでしょ。こたつ入んなさい」

 

せーっかくフータロー君とらいはちゃんが来てるんだもん。お客さんにそこに座らせるなんて私たちにはできないよ。肝心のフータロー君はというと自分は入らず、らいはちゃんを優先してる。

 

「・・・じゃあらいは、こたつで暖まってこい」

 

「ほーら!遠慮しないで!」

 

「いや、遠慮してないが・・・」

 

こたつに入ってない時点で遠慮してるって・・・あ、いいこと思いついた♪

 

「そうだ、マッサージしてあげるよ。お疲れでしょ?」

 

「え・・・いや、別に疲れてないが・・・」

 

「いーや、これは疲れが溜まってるねー」

 

私がフータロー君に首筋をマッサージしてると、妹たちがフータロー君に駆け付けてきた。

 

「一花だけずるい。そこ代わって」

 

「嫌でーす。早い者勝ちだよー」

 

「じゃあ私、腕取ったー!」

 

「じゃあ六海も腕をマッサージ!」

 

「仕方ないわね・・・肩くらい揉んであげるわよ」

 

「私は足を揉ませていただきます」

 

「わ、私も足を・・・」

 

「・・・なんだこれ・・・」

 

どういうわけか姉妹全員でフータロー君をマッサージすることになっちゃった。ふふふ、こんな美少女に囲まれてマッサージだなんて・・・幸せ者め♪でもまだまだ・・・私たちのおもてなしはこんなもんじゃないよー♪

 

「お兄ちゃんが急にモテだした・・・!・・・お母さん、お兄ちゃんに一足早い春が来ました」

 

「ら、らいは・・・違うからな?」

 

そう照れない照れない♪この喜びを噛みしめなよー。

 

「・・・つーかお前ら・・・何のつもりだ・・・。やけに親切に接してるが・・・」

 

ギクッ・・・いけないいけない・・・ちょっと感づかれちゃったかなー?

 

「な、何でもないですよー!」

 

「日頃の感謝だけなんだよ?」

 

「嘘つけ!」

 

ふ、フータロー君・・・妙に鋭いなぁ・・・。

 

「いつもお疲れ様♪」

 

二乃はにっこりと笑顔で労いの言葉をかけ・・・

 

「わ、私のでよければ・・・どうぞ・・・食べてください・・・」

 

五月ちゃんは自分のお菓子をあげたり・・・実はここは私も驚いたりしてるけど・・・

 

「お正月らしく福笑いでもどうですか?六つ子バージョンを作りましたー!」

 

「ちなみに、福笑いの絵は六海が描いたんだよー!」

 

四葉と六海は福笑いをフータロー君に勧めたりしてるねー。

 

「・・・お前ら・・・本当に怪しすぎるぞ・・・後福笑いは難しすぎる・・・」

 

あら・・・逆に怪しまれちゃってるね。

 

「えっと・・・あの・・・フータローに渡したいものが・・・」

 

「!三玖!それはまだ早いよ!」

 

「みんな、隣の部屋に行こっか」

 

「すみません、上杉君。少々お待ちください」

 

私たちはフータロー君とらいはちゃんをリビングに残して、隣の部屋で六つ子会議を開始させた。

 

SIDEOUT

 

六海SIDE

 

隣の部屋の隅っこに移動した後、六海たちは緊急六つ子会議開催させたよ。議題は、風太郎君へのお礼という内容だよ。

 

「それで・・・どうする?」

 

「どうするって言っても・・・風太郎君、気にしてなさそうだったよ?」

 

「でも、このままじゃ悪いよ・・・。クビになった上杉さんに仕事でもないのに家庭教師を続けてもらうんだもん」

 

確かに・・・。家庭教師を続けてるといっても、実際にはパパからクビを言い渡されたんだもん。お給料がない状況で風太郎君に勉強を教えてもらうのは・・・ちょっと、抵抗があるよ。

 

「何かしてあげたい・・・」

 

「お父さんにはできるだけ頼りたくないしね・・・」

 

それも言えてる・・・パパの反対を押し切ってまでこのアパートに引っ越したんだもん。あんまり頼りたくはない。

 

「とはいえ、アタシ達が彼にしてあげられることって・・・」

 

「何があるでしょう・・・」

 

じっくりと考えているとふと思いついたのは・・・男女同士のキス・・・それも・・・唇と唇で・・・///

 

「不純です!!!」

 

「あんたも同じこと考えたでしょ!!」

 

どうやらみんな同じことを考えてたみたいで顔が赤くなってるのがよくわかるよ。だって六海も顔が赤くなってるのわかるもん。

 

「あはは・・・それでフータロー君が喜ぶとは思えないけど・・・」

 

「あいつも男だからわかんないわよ?女優ならほっぺにくらいできるんじゃない?」

 

「じょ、女優を何だと思ってるの!」

 

いくら女優さんでもそういう恥じらいの気持ちはあると六海も思うなー。

 

「む、六海はいいと思うよ、キスでお礼っていうのも。だって・・・だって・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『風太郎君・・・んー・・・チュッ♡』

 

『!六海!!』

 

『ふぇっ⁉な、何・・・?』

 

『俺を・・・本気にさせたな?お前がそう来るなら・・・俺も遠慮なんてしない。もう、止められないぜ・・・』

 

『ふえええ!!?ふ、風太郎君・・・そんな・・・大胆な・・・///』

 

『お前が・・・いけないだぜ?』

 

『そ、そんな・・・でも・・・いいよ・・・風太郎君なら・・・///』

 

『六海・・・』

 

『風太郎君・・・思いっきり来てぇ・・・♡』

 

注意:これは六海の妄想です

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・んん・・・♡んふぅ・・・♡風太郎君のキスの味・・・とっても・・・甘酸っぱいよぅ・・・♡」

 

「む、六海がエロい妄想してるーー!!」

 

「不純すぎます!!」

 

「六海、起きて。それ以上は許さない」

 

バチンッ!バチンッ!

 

「いったぁ!!?」

 

「ちょ、三玖!叩きすぎよ!」

 

三玖ちゃんのビンタで六海は正気に戻った。いけないいけない・・・つい妄想にトリップしちゃったよ。・・・それより頬が痛いよぅ・・・三玖ちゃん・・・強く叩きすぎぃ・・・しかも連続で・・・(´;ω;`)

 

「や・・・やっぱり、キスはなしの方向で・・・いい、かな。うん・・・」

 

「賢明な判断」

 

よくよく考えたら風太郎君は絶対にそんなキャラじゃないし、自分からとか、ありえないよね・・・。そして何より六海の身が危ない気がする・・・!

 

「・・・ねぇみんな?何の話をしてるの?」

 

あ、なんか四葉ちゃんだけ話題についていけてないみたい。

 

「無難に料理でいいのではないのでしょうか?二乃も得意ですし、お菓子でも作ってあげましょうよ」

 

とかいいつつ五月ちゃん・・・本当は自分が食べたいだけなんじゃない?・・・と思ったけど、さっき自分のお菓子あげてたし・・・これ言ったら怒られちゃうかな?

 

「・・・お菓子・・・。料理は・・・ダメ。今忘れようとしてるのに、無駄に思い出しちゃうから・・・」

 

「???」

 

あー、なんか六海わかっちゃった、二乃ちゃんの心境・・・。詳しいことはわかんないけどキンちゃんの関係でなんかあったんだ。今は風太郎君が好きだけど、六海もキンちゃんに惚れてたことがあったから二乃ちゃんの気持ちはすっごくわかる。

 

「じゃあ私が・・・」

 

「い、いやー、料理は気持ちだけで十分じゃないかな?うん・・・」

 

「むぅ・・・」

 

三玖ちゃんが料理しようと提案したら一花ちゃんがストップをかけた。一花ちゃんマジグッジョブ!

 

「・・・と、なると・・・やっぱりお年玉しかないんじゃないかな?」

 

風太郎君が1番喜びそうなものといえばやっぱりお金。これまでのお給料と比べたら小さい額だけど、これでも十分に喜ぶよね。それに、今はお正月だからちょうどいいよね。

 

「うん・・・そうだね。じゃあ、予定通りあげちゃおっか」

 

「ですね。上杉君も1番喜ぶと思います」

 

「決まりだね。じゃあ、これ、フータローに渡してくるね」

 

話の方針が決まって三玖ちゃんがお年玉を持って風太郎君とらいはちゃんのいる部屋に向かっていく。

 

「ねぇ、フータ・・・」

 

「三玖」

 

三玖ちゃんが扉を開けた瞬間・・・風太郎君が三玖ちゃんにすぐそばまで近づいてきた。え・・・何?この流れ・・・?まさか・・・き、き、キスを・・・⁉

 

SIDEOUT

 

三玖SIDE

 

え・・・?何?この流れ・・・?私が扉を開けたらすぐそこにフータローがいて・・・その距離は・・・き、き、キスが・・・できそうなほど・・・

 

「え・・・え・・・?」

 

「そこを動くんじゃないぞ」

 

え・・・?まさか・・・この流れって・・・もしかして・・・フータローが・・・私に・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

『ふ・・・フータロー・・・いったい何を・・・?』

 

『三玖・・・俺はもう我慢できない・・・キス、してもいいか?』

 

『ええええ!!?』

 

『いいよな・・・もう、止められそうにないんだ・・・』

 

『え・・・え・・・止められないって・・・』

 

注意:これは三玖の妄想です

 

♡♡♡♡♡♡

 

「だ・・・ダメだよ・・・フータロー・・・やめて・・・///。・・・いや、やっぱりやめないで・・・///」

 

「・・・お前は何を言ってるんだ?」

 

「三玖ちゃんがエッチな妄想してるよー!!?」

 

「三玖、あんたが止まりなさい」

 

・・・はっ・・・まだキスしてないのにあんな妄想をしてしまった・・・。ああ、みんなかなり引いてる・・・。でも・・・あれ?それでもフータローはまだ私から離れようとしてない?しかも視線は口に向けてる・・・。ま、まさか・・・本当に・・・?

 

「いいから。動くな」

 

「えっ・・・ちょ・・・ま、ま・・・」

 

もしかして・・・もしかしなくとも・・・本当に、さっきの妄想が現実に・・・?でも・・・いいよ・・・フータローになら・・・キスされても・・・。

 

「んん・・・」

 

「ちょ、ちょっとストップ!!それはダメだってばぁ!!」

 

六海がなんか止めるような声が聞こえてきたけどこの距離だし、もう遅い。さぁ・・・フータロー・・・きて・・・♡

 

「やはり!!予想通りだ!!」

 

・・・・・・・・・え?

 

「これが三玖の口だ!間違いないぞ!!」

 

「えー?こっちだと思うなー」

 

呆気に取られながらも視線の先には・・・四葉と六海が作った福笑いがあった。フータローもそっちに行っちゃったし・・・さっきフータローが私に近づいたのは・・・それを確認するために・・・?

 

「わー!遊んでくれてるんですね!」

 

「ルール、ちょっと変わっちゃったけど・・・」

 

・・・・・・どうやら本当にさっきのは私の口を確認するために近づいただけだったんだ・・・。

 

「・・・・・・なんだ・・・」ずーん・・・

 

「今度は落ち込んだよ⁉」

 

「ど、どうしたんですか、三玖⁉」

 

「ど、どんまい、三玖!」

 

「き、気にする必要ないわよ」

 

本当・・・無理・・・。変な妄想したり勘違いしたり・・・恥ずかしい・・・穴があったら入りたい・・・。

 

「四葉、これはどうだ?そっくりだろ?」

 

「えー・・・どれどれ・・・?・・・あ、上杉さん。ほっぺにクリームがついていますよ」

 

チュッ

 

「「「「「!!!!!?????」」」」」

 

い、今・・・四葉が・・・フータローの頬に・・・キスを・・・?

 

「んー、このクリーム、甘いですねー」

 

「な・・・なっ・・・?」

 

「お、お兄ちゃん⁉四葉さん⁉」

 

四葉がキスしたことで私たちはもちろん、フータローもらいはちゃんも驚いてる。

 

「・・・あ・・・。・・・・・・え、えーっと・・・今のほっぺにチューが家庭教師のお礼、ということで・・・///」

 

「?????どういうことだ?」

 

・・・・・・まさかの四葉・・・完全に油断してた・・・。

 

(話にすらついていけてなかったのに・・・ノーガードだったよ・・・!)

 

ゴゴゴゴゴゴゴ・・・×2

 

「はっ!!殺気!!?」

 

「・・・なぁ、どういうことだ?さっきお礼だとか言っていたが・・・俺、なんかしたか?」

 

・・・だいたい四葉のせいでお礼の件がバレちゃった・・・。

 

「あの・・・その件ですが・・・今の私たちでは十分な報酬を差し上げられない状況でして・・・。ですが、さすがに何もないのは申し訳ないので、せめてもと思いまして・・・」

 

五月の説明で私たちの今日のこれまでの行動に納得したフータローは頭をかいてる。

 

「・・・なんだよ。そういうことはもっと早く言え。ずっとそのことを気にしてたのかよ?」

 

「は、はい・・・」

 

「俺がやりたくてやってるんだ。給料のことなら気にすんな」

 

「上杉君・・・」

 

フータロー・・・やっぱりやさ・・・

 

「出世払いで結構だ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「「「「「「・・・え?」」」」」」

 

「その代わりちゃんと書いとけよな!!一人1日五千円ぽっきり!!1円たりともまけねぇからな!!わかったか!!」

 

「・・・こいつはこういう奴だったわね・・・」

 

・・・相変わらずの平常運転というか、お金にがめついというか・・・なんだかこれまでお礼について悩まされていた私たちがバカみたいに思えてきた・・・。

 

「・・・あ、そういや俺に俺に渡すものがあるって言ってた気がするが・・・なんだ?」

 

あ・・・私が言いかけてたこと覚えてたんだ・・・。

 

「え、えーっと・・・今日渡さなくてもいっか・・・」

 

「うん・・・出世したら・・・てことで・・・」

 

結局私たちはフータローにお年玉を渡すのは、フータローが出世したらということに決めたのだった。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月SIDE

 

問題解決・・・といっていいのかわかりませんが・・・まぁ、本人が出世払いでというので・・・私たちもあまり深く考えないようにしましょうか。

 

「・・・あ、あー・・・それよりお雑煮食べる?まだアタシたちも食べてないし・・・」

 

!そ、そうです!それよりお雑煮です!いろいろバタバタしてたので、まだお雑煮に食べれてないじゃないですか!

 

「いや、俺は別に・・・」

 

「食べたい!」

 

上杉君は遠慮しようとしてましたが、らいはちゃんは正直ですね。・・・私も同じく、お雑煮食べたいですから。

 

「上杉さんはどうします?」

 

「いや、だから俺は・・・」

 

ぐううぅぅ・・・

 

「・・・じゃあ・・・頼むわ」

 

口では否定していたとしても、上杉君のお腹も正直なんですね。

 

「そう。じゃあちょっと待ってなさい。用意してくるから」

 

二乃はお雑煮の準備のために台所の方へと向かっていきました。お雑煮・・・考えただけでもよだれが出てきそうです・・・。

 

「五月、よだれ・・・」

 

「じゃあ、その間、何しよっか?」

 

「福笑いでもしますー?四葉&六海のお手製ですよー!」

 

「もしくは、四葉ちゃん&六海のお手製人生ゲームはどうかな?」

 

「・・・六海も四葉も、どうしてその意欲を勉強に回せないんだ・・・」

 

「あはは・・・すみません」

 

「だが・・・人生ゲームか・・・。あの時は散々な結果だったしな・・・」

 

「そういえばそうだったわね。お金めっちゃ少なかったし・・・」

 

ああ・・・中間試験中にやってたあれですか・・・。ちらっと見た程度ですが、確かにあの時の上杉君のお金は少なかったですね。

 

「あのままやられっぱなしは癪だ。六海!人生ゲームを持って来い!次こそ俺が億万長者に・・・!」

 

「お、お兄ちゃんがいつにもまして燃えてる・・・!」

 

相当悔しかったんですね・・・お金が少なかったのが・・・。

 

「オッケー!じゃあさっそく持ってくるね!その間福笑いでもしてて!」

 

そう言って六海は隣の部屋に移動していきました。

 

「福笑いか・・・さっきは三玖だったし、今度は誰にするか・・・」

 

「次は一花さんはどうかな?」

 

「ええ?わ、私より・・・六海の方がいいんじゃない?」

 

「あ、じゃあ二乃はどうでしょう?」

 

「アタシは嫌!言い出しっぺの四葉にしなさいよ」

 

みんなそれぞれ福笑いで誰の顔を作るか話していますね。それにしても・・・ああやって福笑いを楽しんでいるところを見ると、上杉君にも心境変化があったんだなぁ、としみじみと感じています。

 

「お待たせー!持ってきたよ、人生ゲーム!」

 

福笑いを楽しんでいると、六海が人生ゲームを持って戻ってきました。

 

「・・・あ、そうだ。みんなにちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・」

 

「何?改まって・・・」

 

「ちらっとだけど・・・うちじゃ見たことない白い服があったんだけど・・・あれ誰の?」

 

?見たことない白い服?そんなのありましたっけ・・・?

 

「白い服?知らないけど・・・」

 

「私も知らない」

 

「言っとくけどアタシも知らないわよ」

 

「なんだ?またなんかあったのか?」

 

「そうではないと思いたいです」

 

「六海、他に特徴はないのですか?」

 

「他に?うーん・・・あれが入ってたのは確か・・・白い箱だったっけ。それから・・・ハイヒールや帽子も入ってたっけ・・・。色はそれも白」

 

・・・・・・んんん?なんだか・・・思い当たる節があるのですが・・・。確かにあれは白い箱に・・・って!!?ま、まさか・・・

 

「それから・・・なんか鬘もあったなぁ。まぁ、姉妹の変装道具だと思うけど・・・」

 

か、確信してしまいました・・・。ま、ま、ま・・・まずいです・・・よりにもよって"あれ"の存在が好奇心旺盛の六海に見られてしまうなんて・・・!あれがなんなのかは今ここで・・・特に上杉君に知られるわけには・・・!!

 

「うーん、知らないな~」

 

「あれー?おっかしいなあ。あれは絶対姉妹の・・・」

 

「む、六海!ちょっと確認しましょうか!ほら!行きますよ!」

 

「え⁉️五月ちゃん⁉️何⁉️」

 

これ以上余計なことを言われる前に私は六海を連れて隣の部屋に強引に入って行きます。

 

「・・・いったい何なんだあれ?」

 

♡♡♡♡♡♡

 

「えーっと・・・何かな?五月ちゃん・・・」

 

私はあれの存在が出回らないようにするので必死なのでしょう。今私は六海に向かって両手で壁ドン状態です。

 

「・・・六海・・・まさかとは思いますけど・・・あれのことを言ってるのですか?」

 

私の視線の先には、私が箱で隠したはずの白い箱がそこに置いてあるではないですか。

 

「うん、そうだよー。お手製おもちゃが入った箱を取ったらその下にあれがあったんだー。まるで隠れてるみたいにさー」

 

な、なんということでしょう・・・誰にも見つからないようと思って箱で隠したのに・・・!よりにもよってあれらがおもちゃ箱だったなんて・・・!あれで隠そうとした私のミスでした・・・!それよりもあれを広めないようにしなければ・・・!

 

「もしかして、あれ五月ちゃんの?あのマッシロシロスケみたいな服どこで手に入れたの?」

 

「・・・六海、お願いです。あれはみんなに・・・特に上杉君には秘密にしてください・・・!」

 

「え?なんで?別にいいじゃん。ただの変装道具でしょ?あれ」

 

確かにそうなんですが・・・その中身が問題なんですよ・・・。

 

「いいですから・・・お願いしますよ・・・」

 

「うーん?・・・まぁ・・・そこまで言うなら・・・黙っておいてあげるけど・・・」

 

「本当にお願いします。・・・もししゃべったりしたらゴーヤ丸かじりの刑に処しますよ」

 

「ええええ!?ゴーヤやだぁ!!わかった!わかりました!何があっても絶対にしゃべりませんから!ゴーヤだけは勘弁してください!!」

 

ふうぅ・・・これでなんとか手を打つことができました。例えバレそうになっても私がフォローをすればよいのですからこれで問題解決です。

 

「じゃあ、私はこれを処理しますので、先に戻って結構ですよ」

 

「うぅ・・・わかりました・・・」

 

六海はとぼとぼとした様子でみんなのところへ戻っていきました。・・・少しやりすぎましたかね・・・。でも、こうでもしないとバラされる可能性がある以上、こうでもしなければ・・・。・・・とにかくこれは今は使い終えた段ボールに入れて、後でより見つからない場所に隠さなければ・・・。

 

箱の処理を終えた後はみんなのいる部屋に戻り、人生ゲームを楽しんだり、お雑煮を食べました。おいしかったです。ちなみに人生ゲームの結果は上杉君はボロ負けでしたね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

もうちょうどいい時間帯になったころ合いになり、上杉君とらいはちゃんはそろそろお帰りになります。ちなみにらいはちゃんは疲れたのか眠っており、上杉君におぶられています。

 

「なんか・・・悪かったな。いろいろと。雑煮までもらって・・・」

 

「いえ・・・私たちも、いろいろ振り回して、すみません。お雑煮はそのお詫び・・・ということで・・・」

 

「そうか・・・。まぁ・・・なんだかんだ言って、楽しめた」

 

上杉君はらいはちゃんをおぶったまま帰り道を歩いていきます。

 

「上杉君。今年1年、よろしくお願いしますね」

 

上杉君は歩いたままこちらを見て、少し笑った顔を見せてくれました。・・・私たちも、上杉君の頑張りに負けないように、しっかりと勉強しないと・・・。

 

これから始まるのです。私たち六つ子と上杉君の新しい1年が。

 

24「初の春」

 

つづく




おまけ

デーモンハンタープレイ様子

三玖「四葉、六海、でかい攻撃が来る。注意して」

六海「あれくらうと痛いし、体力回復しとかなくちゃ」

四葉「あれ⁉アイテム間違えたー!」

三玖「・・・なんで大型を前にしてお肉を焼いてるの?」

四葉「ま、間違えたんだってばー!」

ゲーム内『上手に焼けましたー』

六海「いや上手に焼けたはいいからっ・・・てああ!攻撃来ちゃうーー!!」

四葉「わあああ!間に合わないーー!」

ゲーム内『グワアア!』

四葉「あああ!死んだー!!」

六海「バカー!!」

三玖「・・・クエスト失敗・・・」

一・二・五(・・・ちょっとうるさい・・・)

デーモンハンタープレイ様子  終わり

次回、二乃、一花視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今日はお疲れ

私が五等分の花嫁を知ったのはやっぱりこの小説サイトです。この小説サイトから始まり、そこから原作に触れていき、そしてアニメも全て見ていきました。原作を知り、この小説サイトでいろいろ五等分の花嫁の作品を見てきました。そしてついに私もこの六等分の花嫁という小説を書くことになったというわけです。

私がこんなに奥深くまで愛せる作品は中々にありませんでした。なので、五等分の花嫁の作者である春場ねぎ先生を大変深く尊敬しております。

春場ねぎ先生、五等分の花嫁の完結、おめでとうございます!お疲れ様でした!


『就寝時間』

 

新年を迎えて1、2日後くらいの深夜、中野家六つ子の姉妹はぐっすりと眠っている。1つの寝室で6人でぐっすりと。

 

「う~ん・・・」

 

そんな時だった。五月は二乃が被っている布団に入り込んだ。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

二乃は五月の長い髪のこそばゆさを感じ取った。それによって、思うように寝れなかった。しかし、異変が起こったのはこれだけではなかった。

 

「ぐう・・・」

 

ゲシッ

 

「ぐふぅ・・・」

 

四葉はごろんと寝返りを打つ際、布団を蹴り飛ばし、その蹴りが六海の腹部に直撃した。

 

「むにゃむにゃ・・・」

 

さらに四葉は寝転がっていくさい、六海の覆い被っている布団を片手で奪い取った。

 

「・・・うぅぅ・・・寒いぃ・・・」

 

布団を取られたため、六海は冬の寒さによってがくがくと震え、身体を温めるかのように丸まって眠る。

 

「すぅ・・・」

 

ドゴッ

 

「ぐえ・・・」

 

寝相が悪い四葉はこれでもかと言わんばかりにまた寝がえり、その際に拳が三玖の頬に直撃した。

 

「zzz・・・」

 

この中で唯一被害にあってない一花はただ1人だけぐっすりと眠り、英気を養っているのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

「こんな生活もううんざり!!!!」

 

朝一番でアタシは今この生活の不平不満を爆発させる。本当にもう何なのよ⁉寝室がここ1つしかないからみんなで一緒に寝るのはいい。いいんだけども!一昨日は四葉に殴れたりするわ、昨日は布団を取られるわ、挙句の果てに今日は五月が布団に入り込んでくるし!もう・・・ゆっくり寝られないじゃないのよ!!

 

「なんであんたアタシの布団に潜り込んでくるのよ!!」

 

「さ、寒くて・・・」

 

「あんたの髪くすぐったいのよ!!さっぱり切っちゃいなさい!!」

 

「あー!!自分が切ったからってずるいです!!」

 

ずるいも何もないわよ。この子の髪本当にくすぐったいし、むずむずするし・・・おかげで、何回くしゃみが出そうになったことか・・・。

 

「・・・お前ら・・・一部屋で寝てたのか・・・」

 

「あ、上杉さん、おはようございます!」

 

いつの間にかうちにやってきた上杉は呆気にとられたような表情をしているわね。

 

「二乃ちゃんの方がまだマシな方だよ・・・六海なんか四葉ちゃんに蹴られただけじゃなく、お布団まで取られたんだから・・・」

 

「ごめーん・・・。お布団で寝るのは久々だから、まだ寝付けなくて・・・」

 

「四葉はもう少し寝付けない方がいいと思う・・・。私なんか四葉に殴られたし、なぜか簀巻き状態になってるし・・・」

 

三玖も六海も四葉の被害にあったらしく、不平不満が募っているわね。不思議といえば、なぜか三玖が布団で簀巻き状態になってることね。

 

「ふわ・・・眠・・・ふかふかのベッドが恋しいわー・・・」

 

「そうですね・・・私もお布団は久々・・・」

 

「・・・おい・・・」

 

「・・・というわけではありませんが・・・慣れるまで我慢しましょう」

 

ああ、そういえば五月はアタシ達の家出問題で上杉の家にお世話になったんだったっけ?

 

「でも、私のお布団が消えたのは不思議です・・・」

 

「・・・本当に不思議・・・」

 

「このままじゃ風邪ひいちゃいそうだよー・・・」

 

「でも、ベッドから落ちなくなったのはいいよね」

 

「四葉、あんただけよ」

 

「はぁ・・・新生活始まって早々これか・・・先が思いやられる・・・」

 

アタシ達の就寝問題を見て上杉はため息を吐いたわね・・・。ため息を吐きたいのはこっちよ・・・。

 

「一花を見てみろ!これだけの騒ぎの中ぐっすり寝てるあいつを少しは見習え!」

 

「見習えって・・・」

 

「すでに汚部屋の片鱗が見えてますが・・・」

 

「あんなのを見習えって言われても無理だよ・・・」

 

この騒ぎの中で寝てる一花の周りだけ物を置いてあって、あの汚部屋を思い出す光景ね・・・。

 

「おい一花!!朝だぞ!!早く起きて勉強をするぞ!!」

 

「あ!上杉君!」

 

「う・・・う~ん・・・」

 

上杉は一花を起こそうとして・・・て、ちょっと待ちなさい・・・一花の癖を考えると、今の一花の姿は・・・

 

「・・・あ、フータロー君。おっはー」

 

や、やっぱりね!布団をかぶってるけど、今の一花の姿は裸・・・!

 

「一花!!」

 

「フータローは見ちゃダメ!!」

 

「・・・ていうか・・・仮にも乙女の寝室に勝手に入ってくんな!!」

 

「わー・・・」

 

アタシは勝手に寝室に入ってきてる上杉を無理やり寝室から出して。まったく・・・本当に無神経な男よね・・・。はぁ・・・なんでアタシ、こんな男を意識してんのかしら・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

就寝問題を我慢するということで話がまとまって、アタシ達はパジャマから私服に着替えてから勉強道具をもってリビングに向かっていく。リビングには上杉が相変わらず勉強をしながら待っててくれてたわ。

 

「よし、揃ったな。これでやっと始められ・・・!」

 

アタシ達がこたつに入って勉強道具を机に置くや否や、一花はまだ眠いのか座った瞬間、うとうととし始めたわ。

 

「・・・おい・・・」

 

「一花」

 

「・・・あっ、ごめん・・・。フータロー君も先ほどをお見苦しいものを見せて申し訳ないね。あ、そ・れ・と・も~・・・ご褒美だったかなー?」

 

「お前なぁ・・・冬くらいは服着て寝てくれ」

 

まぁ、それには激しく同意するけど、一花のことを考えると、それも無駄になるわね。

 

「あははは・・・習慣とは恐ろしいものでさー・・・なぜか寝てる間に着ている服を脱いじゃってるんだよー」

 

そういうこと。だから言ったところで、無意味だということよ。

 

「え!授業中とか大丈夫⁉」

 

「あはは、家限定だから大丈夫だよ」

 

「それはそれですごい気がする」

 

「授業中になる前提で話を進めてる・・・⁉」

 

「だ、ダメだよー。そんな話したら風太郎君が・・・」

 

上杉の方を見てみると・・・うわっ⁉なんか鬼のような形相みたいな顔つきになってる!そうとう怒ってるわね・・・。

 

なんだと・・・?ふざけてるのか・・・?

 

「あ・・・あはは・・・大丈夫だって。寝ないから安心して。これからは勉強に集中できるように仕事をセーブもらってるんだ」

 

まぁ、それができてるなら普通は勉強に手中できるわね。できてるなら、ね。

 

「次こそ赤点回避して、お父さんをギャフンと言わせたいもんね」

 

前までのアタシなら、そんなことは鼻で笑っていたところだけど・・・今なら一花の言葉に少なくとも同意できるわね。

 

「うん」

 

「私も今度こそ・・・」

 

「そうですね」

 

「うん!全員で試験に合格して、パパに風太郎君を認めさせよう!」

 

他の姉妹たちもこれまで以上にやる気を見せているわね。

 

「・・・ふん。30点以下で赤点という低いハードルに苦しめられるなんて思わなかった。しかし・・・3学期末こそ正真正銘ラストチャンスだ。これまで以上に気を引き締めてかかれよ」

 

アタシ達のやる気に上杉自身にもやる気を見せてくれたわ。

 

「1秒でも時間が惜しい!さっそく始めるぞ!まずは俺と一緒に冬休みの課題を終わらせるぞ!!」

 

「「え?」」

 

「え?」

 

上杉はアタシ達がまだ冬休みの課題を終わらせてないと思っているんでしょうね。だけど・・・

 

「・・・ふふ」

 

「あはは」

 

「フータロー・・・」

 

「あんた、舐めすぎよ。課題なんて、もうとっくに終わってるわよ」

 

アタシ達は冬休みの課題を少しずつ、てこずりはしたけど、家庭教師の日までに全部終わらせたのよ。その証拠としてアタシ達は上杉にその冬休みの課題を見せた。

 

「え・・・ほ、本当だ・・・」

 

ふふん、呆気に取られてるわね。今までのアタシ達は違うってことよ。

 

「・・・じゃ、じゃあ・・・通常通りで・・・」

 

「あなたは今まで何をやってたのですか?」

 

「・・・・・・」

 

「六海たちが手伝ってあげよーか?ねぇ?全教科100点さん?」

 

「う、うっせーよ!ほ、ほら!始めるぞ!!」

 

五月と六海が上杉をからかうっていう逆の立場の光景は中々に珍しいわね。2人が上杉をからかった後、勉強を開始させる。

 

「ねぇ、フータロー。さっそくわからないところがあるんだけど・・・」

 

「ん?どれだ?」

 

「ここ・・・」

 

「どれ・・・」

 

「!///」

 

上杉は三玖がわからない場所を教えに傍まで近寄った。

 

「目の和が奇数になる場合は何通りか・・・。これはな、サイコロは3つだから奇数になるのは二パターンある。偶数偶数奇数となる。後は奇数奇数奇数・・・」

 

「///」

 

・・・・・・・・・・・・・・・。

 

じぃ~~~・・・

 

「?どうしたの二乃ちゃん?さっきから三玖ちゃんを見つめて・・・」

 

「!べ、別に何でもないわよ・・・」

 

と、いけないいけない・・・三玖・・・というより上杉をじっと見つめるなんてね・・・。こんな奴より、勉強に集中しないと・・・・。

 

「・・・すぅ・・・」こっくり、こっくり・・・

 

て、一花ってば本当に眠そうにしてるわね。勉強も身が入らないって感じに。

 

「!おい一花。寝るな。起きろ」

 

「あ・・・。い、いやー・・・ごめんごめん・・・。寝て・・・ない・・・よ・・・zzz」

 

「寝たーーー!!?」

 

やっぱり限界が来て寝てしまったわね・・・。まだ30分も経ってないし・・・。まぁ、今の一花の現状を考えればそうでしょうね。

 

「この野郎・・・何がぎゃふんと言わせる、だ。おい一花、起き・・・」

 

「少しは寝かせてあげなさいよ」

 

「は?」

 

「一花、さっきは仕事をセーブしてるって言ってたけど・・・本当は前より仕事を増やしてるみたいなの」

 

そう、さっき一花と言ってたこととは全く逆。そうでなきゃ、こんなに早くに眠るなんてありえないもの。

 

「生活費を払ってくれてますもんね」

 

「貯金があるから気にしなくていいって本人は言ってたけど・・・」

 

「こうやってフータローに教えてもらえてるのも全て、一花のおかげ」

 

「うん。だから一花ちゃんには感謝してもしきれないんだよ」

 

「・・・だからって、無理して勉強に身が入らなきゃ本末転倒だろう」

 

私たちの説明をしても上杉はあまり納得した様子はなかった。まぁ、いってる意味はわかるんだけどね。そりゃ、一花に負担はかけさせてるって自覚はあるし・・・。

 

「おい一花、起きろ。勉強を・・・」

 

「あの・・・私たちも働きませんか?」

 

「「「「え?」」」」

 

働くって・・・それって、アルバイトをする・・・ていうことよね、やっぱり。

 

「も、もちろん勉強の邪魔にならないようにします」

 

「・・・なんでだ?」

 

「す・・・少しでも一花の負担を減らせたらと思いまして・・・」

 

それには同意するわね。さすがに今回ばかりは一花に負担をかけすぎているもの。

 

「ふむ・・・。では聞くが、今まで働いた経験は?」

 

「あ・・・ありません・・・」

 

「勉強と両立できるのか?赤点回避で必死なお前らが」

 

これは・・・何も言い返せないわね・・・。

 

「うっ・・・そ、それなら・・・私もあなたのように家庭教師をします!!」

 

「「「「!!??」」」」

 

「は?」

 

五月が・・・家庭教師?

 

「教えながら学ぶ!これなら自分の学力も向上し、一石二鳥ですよ!」

 

・・・それって逆に言い換えると、教えるはずの生徒に勉強を教えられるってことになっちゃうわよ?

 

「いや本当にやめてくれ・・・お前に教えられる生徒がかわいそうだ・・・」

 

「だいたい、家庭教師ってそれなりの学力がないと無理でしょ絶対」

 

「うっ・・・そうですよね・・・すみません・・・今のは忘れてください・・・」

 

全く何を言ってるのやら・・・。教師っていうのは似合うんだけど・・・今の段階じゃ無理でしょ絶対・・・。

 

「それならスーパーの店員ならどうでしょう?近所にあるのですぐに出勤できますよ!」

 

「・・・なんだかレジだけで手間取っていそうな気がするなー・・・」

 

「うん。即クビだな」

 

「あれー⁉」

 

確かに四葉ならありえそうでクビになる未来しか見えないわね・・・。

 

「じゃあ、本屋さんはどう?大好きな本に囲まれて働くのって幸せじゃない?」

 

「・・・とかいってお前、商品の本を読み漁るんじゃないだろうな?」

 

「・・・・・・てへ♪」

 

「てへじゃない。その時点でもうアウト」

 

六海らしいものが出てきたけど、考えてること丸わかりで全く話にならないわね。

 

「むぅ・・・そういう三玖ちゃんはどんなアルバイトするの?」

 

「私?私は・・・メイド喫茶をやってみたい・・・」

 

メイド喫茶・・・ねぇ・・・。三玖がメイド・・・。・・・い、意外にメイド姿が似合いそうね・・・。

 

「え、えーっと・・・あの、萌え萌えきゅーん♡みたいなあれ?」

 

「い、意外と人気が出そう・・・」

 

「却下だ却下!!断固として認めん!!」

 

「・・・しゅん・・・(´・ω・`)」

 

メイド喫茶でアルバイトすることを認められなくて、悲しそうな顔になったわね、三玖。

 

「・・・二乃はやっぱり女王様?」

 

「やっぱって何よ!!やらないわよそんなの!!」

 

アタシのことをいったい何だと思ってるのよ・・・。アタシにそんな趣味なんかないわよ。

 

「二乃はお料理関係だよね!」

 

「ふん。まぁやるとしたらね」

 

普段から料理はするし、作ることは嫌いってわけでもないから、アタシがアルバイトするとしたら、やっぱりそれ関連ね。

 

「だよねー♪だって二乃ちゃんの夢は自分のお店を出すことだもんね♪」

 

「!」

 

「へぇ・・・初めて聞いたな・・・」

 

「こ・・・子供のころの戯言よ。本気にしないで・・・」

 

子供のころに夢見ていたことを出すなんて・・・恥ずかしいじゃない・・・。もう・・・。

 

「・・・まぁ、それはともかく・・・だ。居酒屋、ファミレス、喫茶店・・・和食に中華にイタリアン・・・ラーメン、そば、ピザの配達・・・俺は様々なバイトを経験してきたが、どれも生半可な気持ちじゃこなせなかった・・・」

 

「食べ物系ばっかりですね」

 

「まかないが出るからでしょう」

 

「意地汚いよー」

 

「意地汚くねぇ」

 

いい意味で言えば、少しでも食費を浮かせられるということね。でも逆に言いかえてみると、食い意地があるという意味でもあるから、確かに意地汚いわね。まぁ、なんとも言えないんだけど・・・。

 

「・・・つまり、俺が何を言いたいかって言うと・・・仕事舐めんなってことだ!!!!」くわっ!

 

「「「「「わっ⁉️」」」」」

 

び、ビックリするわね・・・急に顔を強ばらないでよ・・・!

 

「試験を突破し、あの家に帰ることができたら全て解決する。そのためにも今はまず勉強だ。一花が女優を目指したい気持ちもわからんでもないが、今回ばかりは無理のない仕事を選んでほしいものだ」

 

まぁその言い分には大きく賛同できるけど・・・一花はそんなこと言ったところで聞かないのは目に見えてるし・・・やっぱりアルバイトしようかしら・・・。

 

「・・・んん・・・」

 

ぬぎっ・・・

 

!!!!????ちょ、ちょっと!!一花ってばまた自分の服を脱ごうとしてるじゃない!!

 

「⁉一花ダメだってば!」

 

「時と場所を考えて!」

 

一花が服を脱ごうとしているところを四葉と六海が必死に止めて・・・って・・・今この場には上杉が・・・!

 

「フータロー!!見ちゃダメ!!」

 

「うおっ⁉」

 

「一度ならず二度までも・・・!!」

 

「俺⁉俺なんもしてないだろ⁉」

 

「問答無用よ!!この・・・変態!!!」

 

結局この日は一花だけ寝室に送って、残ったアタシ達5人だけで勉強を進めることになったわ。

 

(・・・この仕事・・・舐めてたぜ・・・)

 

SIDEout

 

♡♡♡♡♡♡

 

『知ってる女優いましたわ』

 

翌日。今日の風太郎の予定はケーキ屋Revivalでアルバイト・・・そしてアルバイト後は今日も六つ子たちの勉強会となっている。そして今風太郎は自分が作ったパイをRevivalの店長に見せて給料アップを交渉している。

 

「どうですか俺の作ったパイは!店長のにそっくりだ!ランクアップして給料上げてくださいよ」

 

六つ子の要望によって家庭教師を続けているが、六つ子の父、マルオからクビを言い渡されているため、実質給料は無収入なのだ。だからこそここで少しでも稼いでいかないといけないため、風太郎なりに頑張っているのだ。

 

「・・・・・・」

 

店長は風太郎のパイを見ても口にしようとはしなかった。そこにフロントを担当していた春が入ってきた。

 

「店長~、こっちのお仕事終わりました~」

 

「うん。ご苦労様、春ちゃん」

 

「あ、これフータロー君が作ったの~?1つもらっちゃお~」

 

「あ!おい!!」

 

パイを見つけた春は1切を口の中へと運んでいった。そして反応は・・・

 

「・・・おええぇ~・・・なんか生っぽい・・・」

 

あまりにもひどい味わいらしく、春は口にしていたパイを思わず吐いてしまった。

 

「何っ⁉そんなはずは・・・!」

 

ありえないといわんばかりに風太郎はパイを一口食べる。

 

「・・・おええぇ~・・・マジだ・・・。これは三玖のことバカにできねぇな・・・」

 

そして先ほどの春と同じく、風太郎は食べたパイを吐いてしまう。

 

「ま、つまりそういうことさ。厨房に入れるのはまだまだ先だね。その失敗作、早いとこ片付けちゃって」

 

「「はい・・・」」

 

「・・・あ、そうそう、上杉君、春ちゃん。もう帰っていいから。お疲れ」

 

「「⁉」」

 

店長からもう帰っていいということに反応してしまう風太郎と春。

 

「え・・・なぜ・・・?」

 

「も、もしかして・・・クビ・・・ですか・・・?」

 

「あー、ごめん。言葉足らずだったね。クビにはしないから安心して」

 

先ほどの発言は店長の言葉足らずのようで少し勘違いをした風太郎と春は一安心する。

 

「今日は午後から休みなんだ。映画の撮影に店を貸すことになってるからね」

 

「あ、そういえば今日でしたね~」

 

「それは早く行ってくださいよ・・・」

 

どうやら映画の撮影をこのお店でするらしく、そのために仕事は午前だけになっているらしい。

 

「主演は今を時めくみぃちゃん。りなりなやこんタンも出るらしい。生で見れちゃうかもよ・・・」

 

「詳しいですね・・・」

 

主演俳優を聞いても全然ぴんと来ない風太郎。世間に疎い男ともいう。

 

「私、見学しちゃおっかな~♪素敵な女優さんのサイン、みんなのお土産にしよ~っと♪」

 

「そういえばお前真鍋と一緒に住んでんだったな」

 

「フータロー君もけんが・・・」

 

「では帰ります。1人たりとも知らないんで。お疲れっした~」

 

「そうかい。まぁ、僕もあんまり詳しくないんだけどね」

 

女優を知らない以前にそういうことには全く興味がない風太郎は即答で見学を断った。

 

「失礼します。今日はよろしくお願いします」

 

そう話しているうちに映画スタッフと主演女優たちが入店してきた。

 

「わー!おいしそー!」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「わ、来た~。子どもたちのお土産、確保しなくっちゃ~」

 

「ぼ、僕もサインもらっちゃおうかな・・・」

 

「ミーハーかよ・・・」

 

春と店長は女優のサインをもらおうと考えているが風太郎は違う。早く六つ子のアパートに行って昨日の一花の遅れを取り戻そうとばかり考えている。だがその考えは、入店してきた女優を見て気が変わった。

 

「よろしくお願いしまー・・・すぅ・・・」

 

「・・・は?」

 

何故なら先ほど入店してきた女優は一花だったからだ。

 

「え!!?あ!!しま・・・!このお店は・・・!」

 

「店長・・・春・・・やっぱ俺も見学します・・・。よ~く知ってる女優がいましたわ

 

風太郎は圧が強い目線で一花を見つめながら見学を申し出たのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

うわぁ・・・忘れてたぁ・・・Revivalってフータロー君がアルバイトしてるお店じゃん・・・。さらには春ちゃんまでいるし・・・。しかも最悪なことに、さっきフータロー君、見学するって言ってるし・・・。できれば今日やる役だけは見てほしくないんだけどなぁ・・・。

 

「カメラチェックしまーす」

 

「ケーキ用意してもらってる?」

 

「台本確認しよっと」

 

「照明どこに置きましょう?」

 

スタッフの人たちももうすでに準備してるし・・・そもそも仕事を降りるなんてことはしたくないしなぁ・・・。

 

「・・・ふぅ・・・。よろしくお願いしまーす!」

 

うん。見なかったことにしよう。フータロー君は今日はシフトじゃなかったと思い込もう、そうしよう。私は奥の席に向かって、先輩女優と一緒に髪のセットを整えたり、台本のチェックを行うよ。ふとしたところに、春ちゃんと目線があった。

 

ぐっ♪

 

春ちゃん?それ何のグッドサインかな?もしかしてあれかな?私のこと褒めてる感じ?だとしたらちっとも嬉しくないんだけど・・・逆に恥ずかしすぎるんだけど・・・。

 

「リハーサル開始しまーす!」

 

と・・・いけないいけない・・・今は撮影に集中集中・・・。今は役に演じ切ることに集中しなくちゃ・・・。

 

「それでは、シーン37の4・・・3、2、1・・・アクション!!」

 

監督の合図と同時に、私は・・・自分の役を演じる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『撮影の見学』

 

一花が出演するということもあって風太郎は予定を変更して撮影現場を少し見学することにした。

 

「あ、何だ~、フータロー君も少し興味あったんだ~」

 

「まぁ・・・少しだけな。それにしても・・・冬休みの書き入れ時に撮影なんてよく許可したよな」

 

「本当だね~」

 

風太郎のこの疑問に答えたのは、なぜか得意げな顔をしている店長だった。

 

「ふふふ、この頃は向かいにある糞パン屋にお客を取られてる厳しい状況でね。もしこの映画がヒットしたら聖地としてファンが押し寄せるに違いないよ・・・!」

 

つまり向かいにあるパン屋、こむぎ屋に対する対抗意識が1つの理由。もう1つの理由は映画に紛れて自分の店をさりげない宣伝だ。

 

「とりあえず撮影に使うこのパイに店名の入ったピックを差し込むんだよ。上杉君、春ちゃん、手伝ってくれ。積極的にさりげなくアピールするぞ」

 

「店長がやる気に満ち溢れてる・・・!」

 

「見習いたいハングリー精神だな・・・」

 

やる気・・・というより、悪巧みしてそうな顔つきになっている店長。

 

「リハーサルを開始しまーす!こちらのパイでよろしいですね?」

 

「ええ!できればこっちの向きでお願いします!」

 

店長が用意したパイをスタッフがリハーサル撮影の準備をしている際、春がふと一花と視線が合う。

 

ぐっ♪

 

春は一花に応援に意味、かわいいという意味を込めてグッドサインを送った。

 

「・・・何してんだお前?」

 

「何でもないよ~♪」

 

「・・・別にいいけど・・・。にしても・・・さすがに雰囲気があるな・・・」

 

店の雰囲気が一気に映画の雰囲気に変わっていき、さすがの風太郎も息をのむ。そして、スタッフの合図で撮影が開始される。

 

「それでは、シーン37の4・・・3、2、1・・・アクション!!」

 

「ここのケーキ屋さん、一度来てみたかったのです~(・∀・)」

 

「・・・へ?」

 

「・・・は?」

 

明らかに一花らしからぬ言動、そして表情に春と風太郎は素っ頓狂な顔つきになる。

 

「タマコ!そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 

「え~?何の話です~?(・∀・)」

 

「それ呪いのリプライだよ!」

 

「送られると死んじゃうっていう・・・」

 

「う~ん・・・タマコには難しくてよくわからないのです~(・∀・)それよりケーキを食べるのです~(^▽^)/」

 

「・・・まぁ、私たちも本気にしちゃいないけど・・・」

 

風太郎が固まっている間にも一花は役を淡々と演じている。ちなみに今一花が演じてる役名はタマコちゃん。

 

「・・・何の映画だよ、これ・・・」

 

「さ、さあ・・・」

 

「一応ホラーって聞いてるけど・・・」

 

風太郎たちは撮影の邪魔にならない程度の場所で話している。

 

「・・・私の中野さんの印象が一気に崩れちゃうよ~・・・」

 

「・・・雰囲気が違うどころの話じゃねぇな・・・。配役、絶対間違えてるだろ・・・」

 

風太郎が一花が演じている役に対して呆れていると・・・

 

「間違ってないよ。一花ちゃんは幅広い役を演じられる女優だと私は信じている」

 

「!」

 

一花が所属している事務所の社長、織田が風太郎に話しかけてきた。

 

「やあ、上杉君。久しぶり」

 

「・・・ど、どうも・・・。菊は元気?」

 

「ああ。おかげさまでね。君にたいしてかなりの憎まれ口をたたいていたよ」

 

「あのクソガキ・・・!」

 

織田社長の娘の菊が自分に憎まれ口をたたいたと聞いた途端、風太郎はこめかみをひくひくしている。

 

「けど・・・その時の顔は本当にいい笑顔だったよ。妙に大人ぶって笑わなかったあの菊がね。本当にいい影響を与えてくれたみたいだね。父親として、感謝するよ。ありがとう」

 

「・・・ふん、やっぱ素直じゃねぇな・・・」

 

なんだかんだ言っても菊は自分を認めてくれていることが伝わっているのか風太郎は頬を少しかく。

 

「君は本当に興味深いね。花火大会の一花ちゃんの件といい・・・菊の件といい・・・君には人の心を動かしている何かを持っているね。一種の才能と言ってもいいよ」

 

「ん?何の話だ?」

 

「そんな君だからこそ、このまま手放すのは、実に惜しい」

 

織田社長が何の話をしているのかわからないが、風太郎にはなぜか嫌な予感がひしひしと感じ取っている。

 

「どうだろうか、上杉君。我が織田プロダクションに入社し、マネージャーをやってみないかい?」

 

「は?」

 

風太郎は織田社長の言っていることが理解できなかった。スカウト、というのはわかっているが、何故自分を雇おうとするのかが風太郎には理解できない。

 

「君のように人にいい影響を与える人材はなかなかいないよ。君が我が社に入社すれば、今後の芸能界にいい影響を与えてくれることは間違いない」

 

「ちょ・・・待て!何言ってんだ!俺は特別な能力なんてねぇぞ!せいぜい勉強ができるだけで・・・」

 

「謙遜を。君のおかげで一花ちゃんは代役オーディションに合格できたんだ。私はこれでも人を見る目には自身があるよ」

 

「そうは言っても・・・」

 

「もちろん、我が社に入社すれば、働き次第で大きな給与も与えることも約束するよ」

 

給与を与える・・・というのは風太郎にとっては魅力的な話だが、そもそもな話風太郎はコミュニケーションは皆無といってもいいほどに下手だ。最悪、五月と初めて会った時みたいなことになりかねない。そして、そんな面倒事は風太郎は何が何でも避けたいのだ。

 

「・・・勘弁してくれ。そんなとこに入ったら嫌でも面倒事が起こる。面倒事なんてあの六つ子だけで十分だ」

 

風太郎が誘いを断ると同時に織田社長は非常に残念そうな顔になる。

 

「そうか・・・それは残念だよ。君のような逸材はなかなかいないんだけど・・・君の意思を尊重しよう」

 

「ふぅ・・・」

 

「けど・・・もし我が社に入りたくなったら、私に連絡をしてくれるかい?私はいつでも君を歓迎するよ」

 

(いらねぇ・・・)

 

織田社長はそう言って風太郎に自分の連絡先が入った名刺を渡した。

 

「君はまだまだ若いからね。考える時間はいくらでもある。よく考えた上で君のベストな選択をしてもらいたいね」

 

「・・・・・・」

 

「じゃ、私は失礼するよ。また後でね♪」ちゅっ・・・♡

 

「・・・っ」ぞぞぞ・・・

 

織田社長の謎の雰囲気に風太郎は一気に寒気が走った。織田社長が去った後に店長と春が話しかけてきた。

 

「今のって・・・事務所の社長さんかい?」

 

「すごいね~、フータロー君。そんな人と知り合いだったなんて~」

 

「・・・まぁ、たまたまな・・・」

 

少し驚いている店長と春にそういって風太郎ははぐらかすように目線を一花に向き直る。

 

「・・・・・・」

 

リハーサル撮影を行っている一花は風太郎が気になって演技に集中できていない。

 

「?どうした?」

 

「次、一花だよ?」

 

「え?あ・・・すみません・・・ちょっといいですか?」

 

「カーット!」

 

一旦撮影を中断し、一花は席から離れ、風太郎の下に向かっていく。

 

「店員さん、ちょーーっとだけ、いいですか?いいですよね?行きましょうか」

 

「お、おい!どこ行くんだタマコちゃん!」

 

「しゃ、シャラップ!」

 

一花は風太郎を強引に店の物置部屋まで引っ張って連れていった。

 

「・・・青春だね~♪」

 

その様子を見て春はいつも以上にニコニコしている。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ドンッ!

 

撮影を一旦中断させて、私はフータロー君を物置部屋まで連れて来て壁ドンをフータロー君にかました。

 

「・・・なんだよ、タマコちゃん」

 

「・・・あのね、フータロー君・・・。その呼び方やめてくれない?後、恥ずかしいからあんま見ないでくれるかな?///」

 

フータロー君を気にしないで撮影に集中しようと思ったけど・・・やっぱ無理!!フータロー君の視線がっめちゃくちゃ気になるし・・・何より、私がタマコちゃんを演じてるのを他の姉妹たちにだけは見られたくない!!

 

「恥ずかしがるような役やんじゃねぇよ・・・顔真っ赤だぞ」

 

私だってこんな恥ずかしい役なんてやりたくなかったよ!けど、今の現状じゃ仕方ないじゃん。

 

「みんなには誤魔化してるけど貯金が心許なくてね・・・」

 

「まぁ、事情は一応はあいつらから聞いてるが・・・」

 

「いやー、食費やら光熱費やらって、思ったよりお金がかかるもんだからまいるよ。だからどんな小さな仕事でも引き受けるって決めたんだ。あの子たちのためにも、私が頑張らなきゃ・・・」

 

今姉妹の中で働いているのは私だけ・・・だったら、長女として、みんなが勉強に集中できたり、安心して暮らせるためにも、私がやらなくちゃいけないんだ・・・!

 

「だから止められたって、私は・・・」

 

「・・・別に働くのをやめろといってるわけじゃねぇ」

 

・・・え?

 

「お前のその努力を否定するつもりもない。それにな、家庭教師を続けるチャンスを作ってくれたお前には感謝している」

 

い・・・意外だなぁ・・・フータロー君なら勉強のために止めろって言いそうなのに・・・。いや、そうでもないのかな・・・。

 

「だがそれとこれとは話が別だ。お前ならもっと器用にできるだろう。この仕事、まだ拘束の割に実入りは少ないんじゃないか?まだ売れたわけじゃねぇんだからな。だから今だけは女優に拘らなくてもいいんじゃねぇか?」

 

むっ・・・そんな風に言われると、何が何でも女優の仕事を拘りたくなってくるんだけど・・・。ていうか別の仕事を選ぶ気もないけど。とにかく・・・今はフータロー君を黙らせないと・・・。あ、そうだ・・・あれがあった・・・。

 

「一時的に別のしご・・・」

 

「い・・・いいから!言うことを聞いて!でないと・・・この写真をばら撒くよ?」

 

私がスマホから取り出してフータロー君に見せた写真は、秋の花火大会で撮ったフータロー君の寝顔姿。しかも、私の膝枕付きの、ね♪

 

「・・・そういえばあったな、そんな写真・・・」

 

フータロー君がこの写真を知っているのは、以前姉妹のメアドの件で私がこの写真をフータロー君にメールと一緒に送ったからね~。効果は絶大でしょ。

 

「ふん・・・送りたきゃ好きにしろよ。今更寝顔なんて見られても何とも思わねぇよ」

 

「あらそう。じゃあみんなに一斉送信しちゃおーっと。フータロー君が・・・私のふとももの上ですやすや眠っているところです」

 

「ちょっと待ってくれ。それはやめてくれ。俺が悪かった」

 

私があの時のフータロー君の状況を口にしたらフータロー君が止めてきた。

 

「あまりにぐっすりだったから起こすのも悪いと思ってね♪」

 

「あの感触・・・そういうことか・・・。やっべ、恥ずい・・・」

 

あの時のことを知ったフータロー君は顔を赤くしてる。ふふふ、かわいいとこもあるじゃん♪

 

「でも・・・これで言うこと聞いてくれるよね?」

 

「ああ、わかったわかった・・・。で?どうすりゃいいんだ?」

 

「もうこの際見学は別にいいけど、撮影中は私の視界の映らないところにいて。それから、姉妹のみんなにも内緒ね。お姉さんとの約束だぞ♪」

 

「・・・ちっ、わかったよ。大人しくしといてやる」

 

ふぅ・・・これで姉妹たちが私がこの映画に出てるってことを知られる危機は回避できた。これで安心して撮影に挑めるよー。

 

♡♡♡♡♡♡

 

フータロー君との打ち合わせを終わらせた後、さっきのシーンの撮影を再開させた。とりあえずはなんとかさっきのシーンは2回目でOKをもらって、今はその次のシーン。次は私がパイを食べて笑顔になる瞬間をシーンを撮る。これ、意外にむずいんだよねー。

 

「う~ん、おいしいのです~(^ω^)」

 

これでOKをもらえるといいんだけどなー。

 

「はいカットー!」

 

「一花ちゃん、今のいいねー!今のもいいけど、もう一パターンいってみようか!」

 

「はい!」

 

もう一パターンかぁ・・・次のパターンはさっきよりもいい笑顔にできるようにしっかりしなくちゃね。でないと、おいしいパイを作ってくれた人に失礼だもんね。

 

「2テイク目のパイを用意しますので少々お待ちください」

 

スタッフさんは1テイク目に使ったパイを下げて、2テイクに使うのパイの用意しに行った。私はその間に先輩女優に演技のノウハウを教えてもらった。

 

「お待たせしました。2テイク目のパイです」

 

「ありがとうございます!」

 

いろいろ教わっている間に2テイク目のパイが私の元に運ばれてきた。うーん、これもおいしそうだなあ・・・。

 

「スタンバイできました!」

 

「本番!3、2、1・・・アクション!!」

 

撮影と開始と同時に、私は出されたパイを一口・・・。

 

ぱくっ

 

・・・んんん?なんだろうこのパイ・・・何というか・・・めちゃくちゃ生っぽい・・・。ハッキリ言ってまずいとしか言いようがない味が口に広がってきた・・・。でも今は撮影中・・・間違っても口や顔に出しちゃいけない・・・!何とか演技で誤魔化さないと・・・!

 

「う~ん、おいしいのです~(^ω^)」

 

パアアアアッ

 

何とか笑顔を引き出したけど・・・どうかな・・・?

 

「はいオッケー!!いいねぇ!!最高だよ!!」

 

「ありがとうございます!」

 

ふぅ・・・何とか私の本心が漏れずに済んだ・・・。実は結構危なかったから・・・というより誰?こんな生っぽい生地のパイ作った人?なんだか運営が心配になってくるんだけど・・・。

 

「それでは、休憩を挟んで次の撮影に移りまーす」

 

ふぅ・・・やっと休憩だ・・・。でも、だからといってのんびりできない。むしろ私にとって本番はこの休憩時間といっても過言でもないよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

休憩時間を利用して、私は出入口にあるベンチでただ1人で必死に勉強に集中している。ただでさえ昨日は寝てしまってフータロー君に迷惑かけてしまったからね。昨日の分の遅れは取り戻さないと・・・。

 

ぽんっ

 

「数学の問5の問題、間違えてるぞ」

 

私が勉強に集中していると、もう制服からいつも着ている服に着替えて帰る気満々のフータロー君がいた。

 

「あ・・・あははは・・・見られちゃった・・・結構恥ずかしいなぁ・・・」

 

「ここで勉強してたのか。わざわざ隠す必要ないだろ」

 

「こういうのは陰でやってる方がかっこいいんだよ。六海の言うところの・・・ロマンスってやつかな?」

 

「勉強にロマンスも何もあるかよ」

 

まぁ実際にはそうなんだけど・・・少しはかっこつけさせてくれたっていいじゃん。

 

「ほら、これ。お前の台本だろ?」

 

フータロー君の手には、私の名前が書かれた台本があった。店のどっかに落としたかなぁって思ってたら、フータロー君が拾っていたんだ。なんだか申し訳ないなぁ・・・。

 

「ありがとうね。でも、もう使わないからそこに置いてくれていいよ」

 

「使わないって・・・台本見なくてもいいのかよ?」

 

「うん。そっちは最後まで覚えたからね。だから使わない」

 

「なぜそれを勉強に活かせないのか・・・謎で仕方ないんだが・・・」

 

いやぁ、もちろん普通なら覚えるのにものすごく時間がかかるんだけど、タマコちゃんの役は非常に覚えやすかったよ。というのも・・・

 

「あはは・・・私の役、タマコちゃんは序盤で呪い殺されるから、出番が極端に少ないんだよねー」

 

タマコちゃんはすぐに死ぬことになってるから、セリフも登場シーンもものすごく少ないんだよねー。

 

「貴美子といい、タマコちゃんといい、お前はよく死ぬな」

 

確かに・・・どういうわけか結構序盤で死ぬ役が私に回ってくるんだよねー。なんでだろう?

 

「あ、そうそう・・・っていうか・・・ここのケーキ大丈夫?何というか・・・よく言えば個性的な味・・・悪く言えば三玖の手料理だったんだけど・・・」

 

「あー・・・うん・・・それはすまん。あれ、俺が作った失敗作だ」

 

えっ⁉あれフータロー君が作ったの⁉てことは私、フータロー君の作ったケーキを・・・って、何を考えてるんだろう私⁉・・・うん。気にしないことにしよう。考えてたらいろいろと頭がおかしくなっちゃいそうだし・・・。

 

「まぁ、そんなわけでだ。口直しと思ってよ・・・春に頼んで、クッキーを譲ってもらった。パイの件は俺に非があるからな。受け取れ」

 

「え・・・?あ・・・ありが・・・とう?」

 

フータロー君はラッピングされてるクッキーを私に渡してきた。な、なんというか・・・意外すぎる展開が続くんだけど・・・。驚くべきなのか、喜ぶべきなのかよくわかんないや・・・。

 

「それにあの場面では俺も助かったわけだからな。その礼でもある。あれはたいした嘘だったぜ。驚かされた」

 

「もう!演技だと言ってよ!」

 

「・・・だが、驚かされたのは本当だ」

 

え・・・?

 

「何というか・・・そうだな・・・。・・・じょ・・・女優らしくなったんじゃねぇか?」

 

!!

 

「あーなんからしくねぇこと・・・って!!寝てるし!!」

 

トクンッ

 

「あ、あぶねー。今の完全に俺らしくなかったから、聞かれなくてよかったぜ・・・」

 

トクンッ、トクンッ

 

「しかし、あんな大勢の前でよく恥ずかしげもなくできるもんだ。本当にあいつらに見せてやりたいぜ。お前の頑張りをな」

 

トクンッ、トクンッ、トクンッ

 

「・・・チケットが余ったら観に行ってやるか。・・・今日はお疲れ、一花」

 

トクンッ、トクンッ、トクンッ、トクンッ

 

・・・さっきから胸のセンサーが高まりっぱなしだよ・・・。こんな時にまで寝た演技だなんて・・・。これじゃあ本当に噓つきだよ・・・。でも・・・

 

こんな顔・・・フータロー君には見せられないよ・・・。

 

今の私の顔は、今真っ赤な状態になっていると思う・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

昨日の映画撮影から次の日、今日は一応は仕事休みだから今日の勉強会には参加できてるよ。できてるんだけど・・・ここでちょっと問題が発生。

 

「・・・・・・」ぶつぶつ・・・

 

六海が洗面所から戻ってきてから勉強の時間までずーっとぶつぶつぶつぶつとなんか呟いてる。なんかいやーな予感がするなー・・・。

 

「・・・ぶつぶつうるさくて集中できないんだけど・・・」

 

「そうよ。ちょっとは口を閉じられないの?」

 

「・・・・・・」ぶつぶつ・・・

 

三玖と二乃が注意しても上の空なのか呟きが止まらない。

 

「・・・おい、聞いてんのか?」

 

「・・・り・・・」

 

「あ?何だって?」

 

フータロー君が六海の呟きを聞き取ろうとした時・・・

 

もうスペアメガネにはうんざりだよ!!!!

 

「うおっ⁉️」

 

近所迷惑にもなりかねない大声で六海の不平不満が爆発した。あー・・・そういえばまだスペアのメガネだったっけ・・・。これを何て言うのかな?確か・・・一難去ってまた一難っていうのかな?

 

25「今日はお疲れ」

 

つづく




おまけ

タマコちゃん

呪いのリプライ、公開初日目

真鍋「ふふふ、結構楽しみにしてたのよね、この映画。ホラー映画好きの私を、唸らせられるかしら?」

六海「ね、ねぇ、真鍋さん・・・やっぱり帰らない・・・?怖い映画見たって、何にも面白くないよ・・・?」ガクガク・・・

真鍋「今更何言ってんのよ?ここまで来ておいて今更帰るとかなしに決まってるでしょ?それに、あんたの苦手克服のためでもあるのよ?」

六海「ううぅぅぅ・・・でもぉ・・・」ブルブル・・・

真鍋「あ、始まるわよ」

六海「うぅ・・・やだよぅ・・・」ガクガク・・・

タマコちゃん『ここのケーキ屋さん、一度来てみたかったのです~(・∀・)』

真・六「( ゚Д゚)」

映画が終わった後、六海は真鍋と別れてアパートのリビングでのんびりする。

六海「びっくりしたなぁ~・・・。一花ちゃんがまさかあんな役を・・・。
・・・・・・タマコちゃん、かぁ・・・。かわいかったなぁ・・・。・・・・・」

一花「ただいまぁ~・・・。今帰ったよ~」

六海「・・・タマコ、難しくてよくわからないのです~(・∀・)」

一花「!!?ぎゃああああああああ!!??」

六海「へ?・・・きゃああああああああ!!??」

一花は自分の黒歴史を妹が演じていたのを見て、六海は姉の演じてた役をやってるのを姉に見られて、恥ずかしさのあまりお互いに絶叫したとさ。

ちなみに映画、呪いのリプライは爆発的ヒットなんて都合のいいようにならなかったが、とあるシーンで男の霊が映っていると噂になり、風太郎のバイト先で心霊スポットとして一部のファンの聖地となったようだ。

タマコちゃん

終わり

次回、六海、四葉視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愚者の戦い

伝え忘れたことを1つ、六海ちゃんのアルバイトアンケートの期限はスクランブルエッグ編突入までとさせていただきます。投票がまだの方はぜひともご協力の方をお願いします。

ちなみに現状の結果は漫画家アシスタントとメイド喫茶がいい勝負をしているところです。


六海SIDE

 

「・・・で?スペアメガネがどうしたって?」

 

今日の風太郎君の勉強会は六海のアイデンティティーであるメガネの不満によって、六海のお悩み相談に変わっちゃってるんだけど・・・今六海は怒ってる風太郎君の圧を受けながら正座してます・・・。こ、こうしてると風太郎君、怖いよぅ・・・。

 

「えーっと、クリスマスイブの時に風太郎君、川に落ちて六海たちも川に飛び込んだでしょ?」

 

「あ、ああ・・・それは覚えてるが・・・」

 

「風太郎君も知っての通り、あの時に六海のメインのメガネが流されちゃって・・・それ以降六海はずっとスペアのメガネをかけてるんだ」

 

六海がメインに使っていたあの黒縁メガネが風太郎君を助ける際に川に流されちゃって・・・拾いあげようにも川が冷たすぎて潜ることもできないから断念しちゃったんだよね。それでメインのメガネがなくなったから今はスペアのメガネをかけてるってわけなんだよ。

 

「・・・それと今回のことで何の関係があるんだ?」

 

みんなにとっては些細なことなんだろうけど、六海にとってはとっても重要なことなんだよね、これが。

 

「・・・ないの・・・」

 

「あん?なんだって?」

 

全然しっくりこないんだよ!!!!

 

「どおお⁉」

 

六海は自分の思っていることをさっきと同じ大声で叫んだ。みんなは耳をふさいでいるけど、風太郎君はもろに耳に響いちゃってる。

 

「毎日毎日毎日!!今日はこれはダメ!次の日これはダメ!さらに次の日これはダメ!!来る日も来る日も、しっくりきたと思えば次の日にはそうでなくなってる!メガネの度も合わないことが多いし!!さらに言えば強度もゆるゆる!!いつ壊れるのかという不安感!!ていうか2週間の間ですでに壊れちゃったものがあるし!!もう・・・不満が数えきれなくて、頭がどうにかなっちゃいそうだよ・・・」

 

今あげた不満だけじゃなく、他にも不満がいっぱいあるから・・・スペアメガネってほんっとろくでもないって感じる瞬間でもあるよ・・・。

 

「お、おい・・・急にどうした?」

 

「六海はメガネにたいして深いこだわりがあるらしくて・・・自分の要求を満たしていないと、日常生活に支障が出るんだって」

 

「まぁ、言ってみれば禁断症状みたいなものかな?」

 

三玖ちゃんと一花ちゃんの言い方、なんか六海が病気を患ってるな感じでむっとくるけど、言い返せないのが悔しい・・・。

 

「その証拠にあの子のメガネ、今日も変わってるでしょ?」

 

「ん?言われてみりゃあ確かに・・・昨日のメガネとは違うな・・・」

 

二乃ちゃんや風太郎君の言うとおり、六海は毎日のようにその日によってかけるスペアメガネを変えてるよ。ぶっちゃけて言うと、これもめんどくさくて不満の1つになってるよ。

 

「・・・まぁ、なんとなくわかった。要するにお前は自分の持ってるスペアメガネに大きな不満があるわけだな」

 

「ざっくりしちゃうとそうなるのかな?」

 

「五月、しばらくの間メガネ貸してあげたらどうかな?」

 

「1度だけメガネを貸したことがあったんですが・・・ものの2秒でポイ捨てされそうになりました・・・」

 

「早。てかメガネを捨てようとすんなよ」

 

だって五月ちゃんのメガネ、六海の使ってるのと比べて強度がゆるすぎるんだもん。かけた時点で六海には使えないってすぐにわかったんだもん。

 

「しっかし、聞けば聞くほどわかんねぇな。お前のメガネに対するそのこだわりよう。たかがメガネだろ?」

 

むっ・・・風太郎君のその言い分、聞き捨てならないなぁ・・・。

 

「風太郎君、風太郎君はメガネをただの視力安定の道具としか考えてないでしょ?」

 

「何も間違ってないだろ」

 

いや、それは当たってるんだけど・・・そんな回答じゃ合格点は上げられないなぁ・・・。

 

「はぁ・・・いい?メガネっていうのはね、確かに視力安定に役立ってるよ?でもそれはファッションの疎いオシャレ下級者の答案なんだよ」

 

「はあ?」

 

「わからないの?要はアクセサリーの一種だって言いたいの。メガネには様々な形やデザインが催されていて、その人の選んだメガネ1つで、かわいい女の子がより一層にかわいく大変身できるってわけ」

 

「・・・何言ってるのかさっぱりわからん」

 

オシャレ下級者の風太郎君には理解できないかなぁ・・・。じゃあ物は試しっていうことでその証拠を見せてあげようかな。そうだなぁ・・・じゃあ・・・六海のスペアメガネが入ったケースを開けてっと・・・。

 

「うわ、相変わらずすごい数のメガネだなぁ・・・」

 

「口で説明するより実際に見た方がいいかな?じゃあ・・・はい、一花ちゃんはこのメガネ、二乃ちゃんはこのメガネ、三玖ちゃんはこのメガネ、四葉ちゃんはこのメガネ、五月ちゃんはこのメガネをかけてみて」

 

「え?」

 

「あ、アタシ達がかけるの⁉」

 

「なんで?」

 

いや、なんでって・・・。

 

「オシャレに疎い風太郎君に証明できないからだよ」

 

「だからって、私たちに振るかなー?」

 

「私は大丈夫だよ!なんか面白そうだし!」

 

「私も問題ありません。六海の集めたメガネに興味はありましたから」

 

「集めたって、メガネ何個持ってるんだよ・・・」

 

集めたメガネ?そうだなぁ・・・ざっと50・・・いや60種類は集めたかな?

 

「じゃあ、ちょっとかけてみるね?」

 

覚悟が決まったみんなは六海が渡したメガネをかけていった。

 

「うわ!度、キツ!あんたどんだけ視力悪いのよ!」

 

二乃ちゃんがかけたのは紫の縁のフォックス型のメガネだね。やっぱり思った通り、気の強い二乃ちゃんにはピッタリ!

 

「フータロー・・・どう?似合ってる?」

 

三玖ちゃんがかけたのは青の縁のスクエア型のメガネだね。知的な雰囲気がある三玖ちゃんにはうってつけだね!

 

「おお!なんか一気に頭がよくなったように見える!」

 

四葉ちゃんがかけたのは緑の縁のオーバル型のメガネだね。いつも明るくて元気いっぱいな四葉ちゃんには似合ってると思ってたよ!

 

「あはは・・・なんだかお披露目会みたいになっちゃったね」

 

一花ちゃんがかけたのは黄色の縁のブロウ型のメガネだね。一花ちゃんは女優さんをやってるだけあって、絶対に似合うと思ったけど、これは想像以上の出来の良さだよ!

 

「悔しいですが・・・やっぱり六海のメガネは質がいいですね・・・」

 

五月ちゃんがかけたのは六海のメインだったボストン型のメガネ、それの赤縁バージョンだね。五月ちゃんもかけてるだけあってやっぱり様になってるね。それに加えて六海が選んだものだからさらに美しさが際立ってるよ!

 

「ふっふーん!どう?これでメガネはアクセサリーの1つだってわかってくれたよね?」

 

「・・・どんなメガネつけてようが、お前ら全員同じ顔なんだからたいして変わらねぇだろ」

 

「この男はどうしてこうも簡単にデリカシーがない発言ができるのでしょう・・・」

 

本当にそうだよ・・・同じ顔だからどれでも一緒って・・・多少の変化を褒めるってことを風太郎君は知らないのかなぁ?少し褒められるのを期待してた三玖ちゃんは悲しそうな顔してるし・・・。

 

「で?結局どうするの?このままだとアタシ達が勉強に集中できないんだけど」

 

「そうですね・・・放置すれば、また呟きを聞くはめになるかもしれません」

 

「そんなことはない・・・と・・・思う・・・よ・・・」

 

「六海、全然説得力がない」

 

ただでさえ今でもこのスペアメガネは落ち着かないし、先日別のメガネを壊したばっかだから不安感が拭えないんだよね・・・。だから正直言って、このまま勉強を続けるのはちょっと自信がない・・・。

 

「勉強終わった後に買いに行けばいいだろ?」

 

「あのね、風太郎君。そんな簡単に言わないでくれる?前までの生活ならともかくとして、今の現状を考えてそんなお金あるわけないでしょ?それに、六海のお小遣いも、ちょっとピンチで・・・」

 

普通なら自分のお金でメガネを買いに行きたいんだけど・・・この2週間、結構バタバタしてたし、それに先日メガネより貴重なナナカちゃんグッズを買っちゃったから手持ちのお金が全然足りないんだよね・・・。

 

「・・・ちなみに今いくらあるの?」

 

「千五百円」

 

「少な!だから無駄遣いはやめなさいって言ったじゃない!」

 

「俺にとっちゃそれも結構な大金なんだが」

 

無駄遣いになるとはわかってはいたんだけど・・・やっぱりナナカちゃんファンとして、見過ごすことができなかったし・・・。とはいえ、反省はしてるけど・・・。

 

「私、それくらいの値段で買えるいいメガネ屋知ってるよ」

 

えっ⁉千円程度で買うことができるメガネ屋さん⁉

 

「ほ、本当⁉一花ちゃん!」

 

「うん。今後のためにと思って立ち寄ったからさ。今、住所教えるね」

 

む、六海はなんて幸運なんだろう・・・。そんなに安い値段で買えるメガネ屋があったなんて知らなかったよ。いつも行ってる店じゃ三、五千円は当たり前だったもん。

 

「それからさ、お金のことなら気にしなくていいよ。メガネ代くらい出してあげるからさ」

 

「え・・・でも・・・」

 

「困っている妹を放っておくお姉ちゃんなんていません!それに、困ってるならお互い様なんだから・・・遠慮せずに、素直にお姉ちゃんに甘えてもいいんだぞ?」

 

「一花ちゃん・・・」

 

六海は一花ちゃんの長女としての寛大さに少し、感動しちゃった。みんなの方を見てみると、同意したように頷いてる。

 

「じゃ、じゃあ・・・勉強が終わったら・・・買いに行こう・・・かな・・・」

 

六海はとりあえず今日中に新しいメガネを買うことに決めた。お金は・・・一花ちゃんのお言葉に甘えよう・・・かな。ちょっと申し訳ないけど。

 

「仕方ないわね。アタシも付き合ってあげるわよ」

 

「本当⁉️二乃ちゃん!」

 

「今日はスーパーで特売やってるし、あくまでもついでよ」

 

「はい!私も行くよ!荷物持ちは必要だし、何より六海のメガネを選んであげたい!」

 

「二乃ちゃん、四葉ちゃん・・・ありがとう」

 

六海は本当に恵まれてるな。こんなにも優しいお姉ちゃんの妹でよかったと思う瞬間だよ。

 

「一花はどうする?」

 

「私?私は・・・」

 

ヴゥー、ヴゥー・・・

 

「と、ごめん、ちょっと電話」

 

一花ちゃんのスマホから着信が来てすぐに通話してる。あの様子だと多分芸能関係からかな?

 

「三玖ちゃんと五月ちゃんはどうする?」

 

「私は・・・今日は、行かない。ちょっと、やらないといけないことがあって・・・」

 

「すみません・・・私も今日は行けそうにありません・・・この後、少し用事があるので・・・」

 

そっかー・・・、用事があるなら仕方ないかぁ。でも三玖ちゃんのやらなきゃいけないことや五月ちゃんの用事ってなんだろう?・・・と、一花ちゃんが電話から戻ってきた。

 

「ごめん!急な撮影が入っちゃってさ・・・悪いんだけど、今日はパス」

 

「そっかぁ。それなら仕方ないよ」

 

「本当、ごめんね」

 

一花ちゃんは女優なんだから、急なお仕事が入るのは仕方ないよね。

 

「おい、話はまとまったか?そろそろ勉強を・・・」

 

「何他人事みたいに言ってんのよ。あんたも買い物に付き合いなさいよ」

 

「は?」

 

風太郎君までお買い物に連れて行かせようとする二乃ちゃんの発言に風太郎君は唖然となってる。風太郎君とお買い物・・・考えたこともなかった・・・!い、一緒に行きたい・・・!前にキンちゃんとして買い物したことがあったけど・・・あれはノーカンでいいよね・・・!

 

「ちょ、ちょっと待て!何で俺まで⁉️」

 

「荷物持ちに決まってるでしょ?それぐらい察しなさいよ。それとも何?こんなにもか弱い乙女に重い荷物持たせる気?」

 

「む、六海も風太郎君に来て欲しいなぁ・・・。風太郎君にも、メガネ選んでもらいたいし・・・」

 

「俺の意見は聞いてくれないの?」

 

「まぁまぁいいじゃん。行けない私たちの代わりに行ってきなって」

 

「そうですよ!お買い物は、大勢で行った方が、きっと楽しいですよ!」

 

(・・・こいつら・・・無茶苦茶だ・・・)

 

この説得をしていくうちに、風太郎君は観念して、六海たちのお買い物に付き合ってくれることになった。まぁ・・・その分宿題を倍にされたけど・・・風太郎君とお買い物できるなんて・・・!はぁ・・・この胸が幸せでいっぱいになりそうだよ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『三玖のお留守番様子』

 

「じゃあ、行ってくるね!」

 

「お留守番、お願いしますね」

 

「帰ってきたら新しい六海に期待してね!」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

今日の勉強(一花は仕事で先に抜けている)を終わらせ、六海たちは買い物、五月は用事とやらで外に出かけ、家に残るのは三玖だけ。しかしこの1人という状況・・・特に風太郎がいない空間というのは今の三玖にとって都合がいい。

 

「・・・よし。さっそく始めよう」

 

そう言って三玖は台所へ向かい、冷蔵庫の隣にある段ボールを開ける。中に入ってるのは六海がまた買いだめした魔法少女マジカルナナカミニフィギュアカプセルチョコだ。張り紙には自由に取っていいよ(ただし、全部食べないで!!)と書かれていた。三玖はカプセルチョコをある程度取り出し、台所へと持っていく。

 

「・・・フータローに喜んでくれるように、頑張ろう」

 

三玖はカプセルチョコを取り出し、中に入ってるフィギュアを全て取り除いていく。そして取り出し作業を終え、チョコを全てボールに入れていき、それを砕いていく。

 

三玖が今作っているのは自分の手作りチョコだ。というのも、2月14日はバレンタインデー。しかし、料理の腕はあまりうまくないことは本人も気づいている。故にこうやって試作品を作っているのだ。全ては、風太郎に最高のチョコを渡すために。

 

「・・・こんな感じでいいかな」

 

チョコを砕いた後は小鍋に砕いたチョコを入れ、火を着けてチョコを溶かす。ある程度チョコを溶かし終えたら、後はかき混ぜ、後はチョコの形を整え、冷やして固めるだけ・・・なのだが・・・

 

ぶしゅわぁ・・・

 

「・・・・・・」

 

チョコにあってはならないドクロの煙がたっている。チョコ自体もなぜかドクロが浮かび上がっている。

 

「・・・こ、これは・・・大丈夫なドクロ・・・うん・・・そうに違いない・・・」

 

三玖はできたチョコのドクロにたいしてそう言い聞かせ、チョコを型に入れ、冷蔵庫の冷凍室に入れる。

 

「・・・つ、次はきっとうまくいく・・・」

 

三玖は次の試作品を作る作業に取り掛かったが、次に出来上がったチョコもドクロが浮かび上がっていたそうな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ほわわぁ~!」

 

勉強が終わった後に二乃ちゃんと四葉ちゃん、風太郎君と一緒に一花ちゃんに教えてもらったメガネ屋さんにやってきたわけだけど・・・これは品揃え抜群ですよ店主さん!六海は今きっとすごい興奮状態になってると思う。それだけいいメガネが揃ってるってことなんだよね。

 

「これも・・・このメガネも・・・はたまたあのメガネもとっっっっても品質がよさそう!!しかもこれで千円ほどの値段だなんて・・・最高だよ!!エクスタシーだよ!!」

 

前に通っていたメガネ屋さんでは六海がしっくりくるメガネを見つけるのにすごーっく時間がかかったうえにここより高いんだけど・・・この品質ならすぐにしっくりくるメガネが見つかりそうだよ。

 

「・・・やたらとテンションがたけぇ・・・」

 

「あはは・・・よほどの鬱憤が溜まってたんですね・・・。メガネであんなにテンションが高いのは久しぶりです」

 

「本当、この2週間、よく我慢できた方だわ」

 

遠くで3人とも何か話してるみたいだけど、ここからじゃ聞こえないなぁ。

 

「ほらみんな!そんなとこにいないで選んで選んで!」

 

「もう・・・わかってるわよ。本当、子供なんだから・・・」

 

みんなもそれぞれで六海の合うメガネを探し始めた。六海も早く自分に合うメガネを見つけなきゃ!じゃあ・・・まずはこのオーバル型を・・・装着っと・・・。

 

「・・・う~ん、見た目で騙されやすいけど、強度がゆるいなぁ・・・。なんというかこれは、見た目にこだわって作り上げてる感じが強くあるなぁ・・・。これは没だね」

 

「・・・なんか、専門家みたいな事言ってるが・・・あれは何だ?」

 

「いろんなメガネをかけてるうちに自然とメガネの良し悪しの違いを見分けられるようになったんだってさ」

 

「なんだそりゃ。超能力かよ」

 

「アタシもそう思ったんだけど・・・愛があれば見分けられるんだって。アタシたちと同じように」

 

「メガネにも適応すんのかそのトンデモ理論」

 

六海が自分に合ったメガネを探してると、もうメガネを見つけてきたのか二乃ちゃんと風太郎君がそんな話をしながら近づいてきた。

 

「お、もう見つけてきたのかな?」

 

「あー、まぁ、一応ね。あんたの好きなボストン型?じゃないけど・・・似たような形のメガネをチョイスしてみたわ」

 

「・・・やっぱどれも同じに見えてしまう・・・」

 

風太郎君のオシャレ下級者発言は置いといて・・・二乃ちゃんが選んだメガネはウェリントン型かぁ。ボストン型よりちょっと大きいけど・・・型にはこだわりはないよ。六海が選ぶ基準はメガネの質、強度、しっくりくるかどうかで決めるわけだからね。どれどれ装着っと・・・。

 

「・・・これは強度はあるし品質も高いんだけど・・・どうにもしっくりこないんだよね・・・なんていうかこう・・・これじゃない感?みたいなのが出ちゃってさ・・・。二乃ちゃんには悪いけどこれ没」

 

「判定が厳しいわね・・・少しは納得基準を下げられないのかしら?」

 

「そう言われてもこればっかりはどうしようもないよ。誰がなんと言おうと、メガネの方針だけは変えないよ」

 

「はぁ・・・わがままねぇ・・・」

 

仕方ないじゃん。だっていつの間にかそういう性分になっちゃったんだもん。

 

「おい、それより四葉はどこ行った?」

 

あれ?そういえば、メガネ探しに行ったっきり帰ってこないね。どこまで・・・

 

「六海ー!これなんかはどうかな?」

 

あ、噂をすればなんとやら・・・四葉ちゃんが戻って・・・て、カゴには大量のメガネがある・・・。

 

「な、何よこの大量のメガネ⁉」

 

「お前ずっとこれを集めてきたのか?」

 

「いやー、六海の基準がよくわかんなくて・・・手当たり次第に持ってきました!」

 

「よ、よくこれだけ集めてきたね・・・」

 

「ししし、それほどでもー」

 

「褒められてないわよ」

 

ま、まぁそれはいいよ。これだけあったら1つくらいは・・・て、ちょっと待って。

 

「・・・何?このふざけたメガネは?」

 

多くのメガネの中に紛れて、お笑いなんかで使うパーティメガネや鼻メガネもあったんだけど・・・。

 

「それは場の空気を盛り上げるために私が使おうと思って持ってきたものです!」

 

「「戻してきなさい!!!」」

 

「えー!!?」

 

「いや、大体これいつ使うんだよ」

 

本当だよ。場を盛り上げるって・・・別に今日ってわけでもないでしょ?ていうか今は六海のメガネを買うのが目的だからやめてほしいんだけど・・・。

 

「ま、まぁまぁとにかく、六海、1つずつかけてみてよ!せっかく選んだんだし!」

 

「・・・まぁ、まともなやつもあるからいいけどさ・・・」

 

いろいろ腑に落ちないけど、六海は四葉ちゃんが選んでくれた数多くのメガネを1つずつかけていく。もちろん、おふざけメガネは戻しましたけどね。そんな感じで数分後、数多くのメガネをいろいろ試してみたけど、いい代物が複数個見つけたんだけど・・・どれにしようか迷っちゃうんだよね・・・。

 

「どう?いいのは見つかった?」

 

「うん・・・とりあえずは最有力候補は絞り出したけど・・・未だに決めかねてるんだよね・・・本当、どうしよう・・・」

 

「早く決めちゃいなさいよ」

 

そうは言うけど二乃ちゃん、どれもこれもとっても素敵なメガネだからすっごく悩んじゃって選びきれないよ。・・・あ、そういえば・・・

 

「ねぇ、風太郎君ってメガネ選んでないよね?せっかくだから、風太郎君も選んでよ、六海のメガネ」

 

「はあ?」

 

ずっと見てばっかりの風太郎君にそう言うと、俺は関係ないだろみたいな顔をしてきた。

 

「いや、何その顔・・・ひどくない?」

 

「だって俺関係ないだろ。買い物だって嫌々付き合わされてるだけで・・・」

 

「つべこべ言ってないであんたも探してみなさいよ。アタシ達に探させておいて、不公平でしょうが」

 

「私も見てみたいです!上杉さんの選ぶメガネを!」

 

風太郎君は六海たちの言い分に呆れて頭をかいてる。だって、ここまで来たら、風太郎君がどんなメガネを選ぶか、気になるじゃん?

 

「たく・・・なんで俺が・・・。メガネくらいなんでも・・・」

 

風太郎君が文句を言っていると、1つのメガネに目が留まったみたいだね。

 

「・・・あー・・・じゃあ・・・これなんかどうだ?」

 

「!これって・・・」

 

風太郎君が選んだメガネは六海が前に身に着けていたボストン型の黒縁メガネそのまんまだった。ここにもあったんだ・・・このメガネ・・・。

 

「それって、前に六海がつけてたものと同じですね」

 

「本当ね」

 

「まぁ・・・見慣れているやつの方が俺もしっくりくるし・・・お前だって、慣れたメガネの方がいいだろ?」

 

それはすごく言えてる・・・。あのメガネ、今までの中で1番しっくりきてたし。

 

「ねぇ・・・これ、かけてみてもいい?」

 

「おう」

 

六海は風太郎君が選んでくれたメガネを試してみる。・・・不思議だな・・・。このメガネ自体は前と同じ質で六海にすごく馴染んでる。でも・・・前のメガネとは決定的に違う・・・。だって・・・風太郎君が同じものを選んでくれたということだけで・・・六海の胸がどきどきして・・・温かくなるんだ・・・。

 

「どうだ?」

 

「・・・いい・・・。すっごくいい・・・。前にかけたメガネよりも・・・ずっと・・・」

 

同じメガネであったとしても、こんなにもいいメガネを選んでくれた風太郎君にたいして、六海には感謝の気持ちでいっぱいになってるよ。

 

「ありがとう!風太郎君!こんなにも素敵なメガネを選んでくれて!」

 

六海が笑顔で風太郎君に感謝の言葉を言った後、風太郎君は別にと言わんばかりに頭をまたかいてる。どこまでも素直じゃないんだから。すると、四葉ちゃんがこっちを唖然と見ているの気付いた。でもすぐににっこりと微笑ましい顔つきになった。

 

「よかったね、六海!上杉さんにメガネを選んでもらって!」

 

四葉ちゃんは六海にそう言いながら自分のことのように喜んでくれた。このメガネだけは、何があっても大切に使わなきゃ。もう二度と手放したりもしない。だって、これは・・・好きな人が選んでくれた、とっても大切なメガネだから。

 

ふと気になったことといえば・・・二乃ちゃんが面白くないものを見るような目でこっちを見ていたこと、かな?もしかして・・・いや、まさか・・・ね。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『五月の用事』

 

時間をさかのぼって、家を出た五月は目的の場所へと向かって歩いていく。家から目的地まで歩いて十数分後、目的地にたどり着いた五月はある人物と出会う。

 

「・・・あの・・・お久しぶりです・・・お父さん・・・」

 

五月と出会ったと人物とは、五月たち六つ子の父親であるマルオだった。そう、五月の用事とはマルオとの話だったのだ。

 

「ご無沙汰だね、五月君。今日は君たちに通告があってきたんだ」

 

娘と出会っても、マルオは無表情で、感情が読み取れない。

 

「あの・・・通告・・・というのは・・・?」

 

「ふむ・・・立ち話もあれだ。カフェで話をしようか」

 

♡♡♡♡♡♡

 

スーパーの中にあるカフェで五月とマルオはお互いに対面している。五月の目の前にはアイスティーがあるが、五月は申し訳なさで中々飲めないでいた。

 

「・・・飲まないのかい?それとも食べたばかり・・・」

 

くぅー・・・

 

「!!?」

 

「・・・ではないようだね」

 

マルオはお腹を空かせている五月のためにサンドウィッチを注文しようとする。

 

「すみません。サンドウィッチを全種ください」

 

「あ、ああっ!そんな!お気遣いなく!」

 

「いらないのかい?」

 

「・・・い・・・いただきます・・・」

 

五月は断ろうとしたが、お腹がすいているのと、せっかくの好意を無下にするわけにもいかず、マルオに甘えることにする。

 

「いい子だ。五月君は素直で物分かりがいい。賢さというのはそのような所を指すのだと僕は思うよ。だから君をここに呼んだんだ」

 

「・・・お父さん。私をここに呼んだ理由とは何でしょうか?」

 

五月は自分が呼ばれた理由を問いかけると・・・

 

「父親が娘と食事をするのに理由が必要かい?」

 

さも当然のようにそう言ってのけた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉SIDE

 

六海のメガネを買い終えた後、私たちは近場のスーパーで今日の夕飯に使う食材を買いに来ました。二乃が言っていた通り、今日は、特売日なので、いつもよりお値段が安いです!

 

「~♪」

 

上杉さんが選んだメガネをかけてる六海は嬉しそうに鼻歌を奏でています。見た目は前と同じなんだけど・・・そんなに違いがあるのかな?

 

「とってもご機嫌だね!そんなに嬉しかった?」

 

「もちろん!だって・・・これは・・・///」

 

六海は荷物持ちとしてついてきてる上杉さんを見て、頬を赤くしてます。やっぱりこの顔はあれだね・・・ほの字だよね。・・・うん、間違いないよね・・・。

 

「何だよ?俺の顔になんかついてるか?」

 

「う、ううん!なんでもないよ!」

 

上杉さんはそんな六海の好意に全く気づいていません。これが噂に聞く天然たらし、というのでしょうか?

 

「ほらそこの荷物持ち!そんなとこでくっちゃべってないでさっさとお米持ってちょうだい!」

 

「はいはい・・・。たく・・・さっさと済ませて帰ろうぜ」

 

二乃に急かせれて上杉さんはお米が入った袋を持ち上げようとします。

 

「くお・・・っ!!重・・・!お、落ち着け・・・!ここは力学的に・・・1番効率的なのは・・・っ!」

 

「だ、大丈夫?手伝ってあげようか?」

 

「こ、これくらいなんてこと・・・やっぱダメだぁー!」

 

ああ、やっぱり上杉さんの力じゃ持つことができませんでしたか。

 

「無理しないでください、上杉さん。私が持ちますよ」

 

「し、しかし四葉・・・これ、重い・・・」

 

「え?何か言いました?」

 

私は上杉さんに変わってお米をひょいっと持ち上げました。うん、軽い軽い♪

 

「・・・なんか・・・俺が情けなくなってくるな・・・」

 

「そ、そんなことないよ?六海だって1人じゃあのお米、持てないもん」

 

「無理にフォローするな・・・」

 

地味に落ち込んだ上杉さんは六海に励まされていますが、逆に落ち込んでるような・・・。

 

「はぁ・・・情けないわね。男ならそれくらい持ちなさいよね」

 

「じゃあお前が持ってみろよ・・・結構重いぞ・・・」

 

「嫌よ。進んで重いものなんて持ちたくないわ」

 

「まぁまぁ、お米は四葉ちゃんが持ってるから今はいいじゃん、それは。それより、買うものはこれで全部かな?」

 

「そうね・・・これで買うものは全部かしら」

 

籠に入ってるのは・・・えーっと・・・ニンジン、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉・・・牛乳に納豆に・・・お醤油・・・。今日は肉じゃがかなぁ?だってカレーやシチューにはルーが入りますからね!

 

「・・・あ、そうだ。忘れてた。三玖に頼まれてるんだったわ」

 

あ・・・そういえばそうだった!買い物の準備をしていた時に三玖が買ってきてほしいものがあるって言ってたんだった!それを思い出した二乃はお菓子コーナーへと向かっていきます。

 

「何を買うんだ?」

 

「チョコレートよ。三玖が今欲しがってるんだって」

 

「それも1つや2つじゃないよ。だって三玖ちゃん、六海のカプセルチョコを譲ってほしいって言ってたし・・・」

 

「おいおい、そんなに食うのか・・・。鼻血が出ても知らねぇぞ」

 

「違いますよ、上杉さん。三玖が食べるわけじゃありません」

 

だって三玖は甘いものが苦手ですから、自分から食べようとはしません。チョコレートは三玖が使うから買うんです。

 

「食うわけじゃないなら・・・他に何があるってんだ?」

 

「あんた頭いいのに察し悪すぎ」

 

「まだ1月なのに気が早いんだからー」

 

「でも三玖ちゃんの気持ちはわかるよ。うんうん」

 

「????」

 

本当に察しが悪いですねー、上杉さんは。そんなの、バから始まってンで終わるあれに決まってるじゃないですかー。

 

「えっとチョコレートは・・・あ、あった。何個入れる?」

 

「そうね・・・3・・・いや5個でいいんじゃない?」

 

六海がチョコレートを発見して手に取っていきますね。これでお買い物終了・・・あ、私の好きなお菓子、ねりねりねりね発見!あ・・・でも・・・迷惑じゃないかな・・・?ダメ元で頼んでみよ。

 

「チョコも入れたし、これで・・・」

 

「ね、ねぇ、二乃?これ、買っちゃダメ・・・かな?」

 

「え?でも四葉ちゃん、これ買うとお金が余計になくなっちゃうんじゃない?それに、六海のメガネ買ったばっかで財布の中身、結構怪しいかも・・・」

 

「だよねぇ・・・」

 

六海の言葉で撃沈し、私は渋々とねりねりねりねを戻します・・・。うぅ・・・欲しい・・・食べたい・・・。

 

「ふぅ・・・仕方ないわね。いいわよ、これくらい」

 

「本当⁉やったーー!!」

 

「それと、六海も1個だけなら好きなお菓子買っていいわよ。いい?1個だけよ」

 

「え⁉いいの⁉じゃあ・・・どれにしよっかなぁ・・・」

 

いやー、ダメもとで頼んでみるものですね!早く食べたいなぁ・・・ねりねりねりね、おいしいんだよねー。

 

「本当に・・・困ったものね。やっぱり少しくらいのバイトは検討すべきかしらね」

 

「つーかこれ、よく見たらお子様向けの菓子じゃねぇか」

 

「あら、女はいつまでも少女の気持ちを忘れないものよ。お城で舞踏会とか、白馬に乗った王子様とか、未だに憧れてるんだから」

 

「へー、そーなのかー」

 

(そうよ・・・!こいつが私の王子様だなんて・・・絶対にありえないわ!!でないと・・・おかしいわ・・・。こいつとキンタロー君は別人だと割り切ったんだから・・・)

 

「二乃ちゃーん、お菓子入れたよー」

 

「え?あ、あらそう・・・。じゃあ、ちゃっちゃと会計しちゃいましょ」

 

六海が自分のお菓子を入れたところで会計に行こうとしてるけど・・・うぅ・・・ちょっと・・・限界かも・・・。

 

「えっと・・・二乃・・・ちょっと持ってて!」

 

「え⁉」

 

「ごめん!おトイレ!」

 

「あ!待って!六海も行く!」

 

「あっ!また我慢してたでしょ・・・って、重!!」

 

実は前からきてたんだけど・・・も、漏れちゃいそう~!私はお米を二乃に持たせてから六海と一緒におトイレへと向かっていきます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ふぅ・・・スッキリしました!気分も爽快な気分になってきました。私がスーパーの中にあるカフェのおトイレから出ると、先におトイレを済ませていた六海が待っていました。

 

「お待たせ!」

 

「長いおトイレだったね。よっぽど我慢してたんだ」

 

「あはは・・・ごめんね」

 

ちょっと待たせちゃったかな・・・いやはや、本当に申し訳ない・・・。

 

「じゃあ、早く戻ろっか」

 

「ええっと・・・来た道ってどっちだったっけ?」

 

「ええ?もう、しょうがないなぁ。六海もついてきて正解だったよ・・・」

 

何から何まで六海には苦労かけちゃうなぁ・・・。後で私のお小遣いで何か買ってあげようかなぁ・・・。

 

「・・・あれ?あれって五月ちゃんじゃない?」

 

「え?五月?」

 

六海が指さした方向を見てみると、確かに五月がいました。

 

「本当だ。なんでここにいるんだろう?用事は済んだのかな?」

 

「・・・ていうか・・・え⁉ちょっと待って!五月ちゃんの向かいにいる人って・・・パパじゃない⁉」

 

「え!!?」

 

お、お父さん⁉お父さんがここにいるの⁉気になってじーっと目を細めてみると・・・ほ、本当に私たちのお父さんがいました。でも・・・なんでお父さんが五月と・・・?

 

「ど、どういうこと・・・?私、何が何だか・・・」

 

「四葉ちゃん、落ち着いて!」

 

六海が混乱している私を落ち着かせてくれました。

 

「な、何か話してるね・・・」

 

「ちょ、ちょっと聞いてみようよ・・・」

 

私たちは五月とお父さんの話が聞こえそうで、気づかれにくそうな席に座・・・

 

「お客様、当店では着席前にご注文をお願いしております」

 

「あ、じゃあ・・・ミルクティーのショートを2つお願いします」

 

その前にご注文をしてから着席します。・・・あ、この席なら会話が聞こえる。

 

「君たちのしでかしたことは、この際目をつむろう」

 

「す、すみません・・・」

 

「しかし、どうやら満足のいく食事もできていないようだね」

 

「・・・っ」

 

ちらっと見ましたが、五月側には空になったお皿がありましたね。お父さんに何か食べ物をもらったみたいですね。確かに・・・最近五月、ご飯の量が満足いってないのかお腹すいたってぼやいてましたし・・・。

 

「すぐさま全員で帰りなさい。姉妹全員にそう伝えておきなさい」

 

帰りなさいってことは・・・前に住んでたあのマンションに戻って来いってことですよね・・・。頭の悪い私でもそれくらいはわかります。でも・・・その場合、上杉さんはどうなるのでしょう?

 

「あの・・・お父さん・・・それは、彼も含まれるのでしょうか?」

 

「彼・・・?・・・上杉君のことかい?これは僕たち家族の話だ。彼はあくまで外部の人間だということを忘れないように。それに・・・ハッキリ言って・・・」

 

ハッキリ言って・・・?

 

「僕は彼が嫌いだ」

 

・・・・・・・・・・・・お・・・大人げない!!!え⁉何ですか⁉お父さんからこんな子供じみた発言を聞くの初めてなんですけど⁉

 

「風太郎君、パパにいったい何を言ったんだろうね?よっぽどだよ、あれ・・・」

 

「さ、さあ・・・見当もつかないよ・・・」

 

上杉さん・・・いったいお父さんに何を言ったんですかぁ・・・。

 

「まだ・・・帰れません」

 

と、そんなこと考えてるうちに話が進んでる。

 

「・・・なぜだい?」

 

「彼を部外者と呼ぶにはもう深く関わりすぎています。迷惑をおかけするのは重々承知ですが・・・せめて次の試験までの間、私たちだけで暮らして・・・」

 

「では聞くが、君たちの力とはいったい何だろうか」

 

「・・・っ」

 

「家賃や生活費を払ってその気になっているようだが、明日から始まる学校の学費はどうするんだい?携帯の契約や保険はどう考えているのかな?僕の扶養に入っているうちは何をやっても自立しているとは言えないだろう」

 

うぅ・・・超ド正論すぎてこっそり聞いているこっちも言葉が出なくなってしまいます・・・。六海も・・・話をしている五月も渋い顔になってますし・・・。

 

「それは・・・正論・・・ですが・・・」

 

「・・・ふむ・・・ではこうしよう。上杉君の立ち入り禁止を解除し、家庭教師を続けてもらう」

 

「え?」

 

「「!」」

 

それって・・・お父さんの公認の下でってことなのでしょうか・・・?

 

「ただし、僕の友人のプロ家庭教師との2人態勢でだ。上杉君は彼女のサポートに回ってもらう」

 

しかし、そんな私たちの淡い期待はすぐに薄れていきました。要するに勉強を教えてもらうのはあくまでそのプロ家庭教師さんということですよね・・・。

 

「君たちにとってもメリットしかない話だ。1対6ではカバーできない範囲もあるだろう」

 

確かに私たちにはメリットしかありません。1人で勉強を教えるにしても、上杉さんの負担が大きいですし。でも・・・お父さんの案を受け入れてしまうと・・・上杉さんを家庭教師を続けてもらうために、家を出ていった意味がなくなってしまいます。私はやっぱり・・・この案は受け入れたくない・・・。

 

「しかしみんな・・・この状況の中で一生懸命頑張って・・・」

 

「四葉君は赤点を回避できると思うかい?」

 

!私が・・・赤点回避できるかどうか・・・。

 

「2学期の試験の結果を見させてもらったがどうだろうか?」

 

「それは・・・」

 

「四葉君には悪いが・・・とてもじゃないが僕にはできるとは思えないね」

 

お父さんの言葉を聞いて、私の抑えていた気持ちが溢れてきました。

 

「六海・・・ちょっとごめん!!」

 

「あっ!四葉ちゃん⁉」

 

確かに私は他のみんなよりおバカです。ですがそれでも・・・

 

「・・・そう・・・ですね・・・。2人体制の方が確実ですが・・・」

 

「やれます」

 

上杉さんのおかげで、姉妹のみんなも、1番おバカな私でも、成長を実感できたんです。だから・・・

 

「私たちと上杉さんならやれます」

 

「四葉・・・六海・・・」

 

「私は、7人で成し遂げたいんです。だから・・・私たちを信じてください。同じ失敗は二度と繰り返しません」

 

次の試験で姉妹全員で合格して、上杉さんを本当の意味で、お父さんに認めさせてやりたい!!それが私の、大きく溢れた気持ちです!

 

「では失敗したらどうするんだい?」

 

お父さんは表情を1つも変えずに口を開きました。

 

「東京に僕の知人が理事を務める高校がある」

 

「「「?」」」

 

「あまり大きな声で言えないのだがね・・・無条件で3年からの転入ができるように話をつけているんだ」

 

「え・・・」

 

「もし次の試験で落ちたらその学校に転校する」

 

転校・・・ということは・・・もし次の試験で赤点を取ったら・・・その東京の高校に転校・・・この地を離れて・・・。そんなの・・・

 

「プロの家庭教師と2人体制ならそのリスクは限りなく小さくなると保証しよう。それでもやりたいようにやるなら、後は自己責任だ。わかってくれるね?」

 

嫌だ・・・といっても・・・私の一存で決めるわけには・・・

 

「・・・わかりました」

 

・・・え?五月?

 

「ではこちらで話を進めておこう。五月君ならわかってくれると思っていたよ」

 

「いいえ。プロの家庭教師は結構です」

 

「・・・何だって?」

 

「もしダメなら転校という形で構いません。少なくとも、私も四葉と同じ気持ちです」

 

五月・・・私と同じ気持ちで・・・。

 

「素直で物分かりがよくて、賢い子じゃなくてすみません」

 

五月はお父さんに思うところもあるのか、優しい笑顔を浮かべています。

 

「パパ・・・ごめん!六海も・・・2人と同じ気持ちだよ!」

 

「六海・・・?」

 

「確かにパパの言ってることは何も間違ってないよ。何度も何度も・・・パパにはお世話になったもん・・・それくらい、おバカな六海にだってわかるよ」

 

「・・・・・・」

 

「でも・・・でもね!このわがままだけは譲れない!ううん、譲る気はない!少しの可能性があるなら、そこに突き進みたい!そうでないと・・・多分、一生後悔することになると思うから!」

 

六海も私と五月と同じ気持ちらしくて、堂々とお父さんに向けてそう宣言しました。

 

「・・・ふぅ・・・そうかい。どうやら僕は忘れていたようだ。子供のわがままを聞くのが親の仕事・・・そして子供のわがままを叱るのもまた、親の仕事」

 

お父さんは六海を見て一息吐いて、そっと立ち上がってその場を去ろうとしました。

 

「・・・次はないよ」

 

多分これが、お父さんからの最後の警告なんだと思います・・・。五月と六海・・・姉妹のみんながいるんだ。望むところだよ。

 

「前の学校の時とは違うから!!」

 

「・・・僕も期待しているよ」

 

お父さんはそれだけを言い残して、カフェから去っていきました。

 

「・・・行ったか」

 

「みたいね」

 

「うわっ!!?」

 

「風太郎君に二乃ちゃん⁉」

 

「見てたのですか?」

 

「ああ。バッチリな」

 

お父さんがお店から出ていったと同時に一部始終を見ていた上杉さんと二乃が出てきました。

 

「想像通りの手強そうな親父だったな・・・」

 

上杉さんが見ていた・・・ということは、今の会話も聞いて・・・?ううぅ・・・なんか一気に罪悪感が出てきた・・・。

 

「そうね。六海の言うとおり、あの人が言ってることは正しい。だってあんた1人じゃ不安に決まってるもの。あーあ、プロの家庭教師がいてくれたらな~」

 

「・・・・・・」

 

「す、すみません」

 

「「ごめーん・・・」」

 

「・・・私たちがここまで成長できたのもパパのおかげだわ。当然、感謝してるわ。・・・けど・・・あの人は正しさしか見てないんだわ」

 

確かに・・・お父さんは成功する効率しか見ていない感じはあるような気はします。上杉さんを認めていない感じでしたし・・・。もちろん、私たちのためにというのはわかってはいるんですけど・・・。

 

「・・・しかし、転校なんて話まで出てくるとはな・・・。責任重大じゃねぇか」

 

「我が家の事情で振り回してしまって、申し訳ないです・・・」

 

「転校、したくないね・・・」

 

「うん・・・せっかくここまで来たのに・・・」

 

旭学園で仲良くなった友達だっているし・・・そして何より、上杉さんと離れ離れになるのは・・・やっぱり、嫌だな・・・。

 

「・・・だが、どうでもいい」

 

「「「「え?」」」」

 

「お前らの事情も、家の事情も、前の学校も転校の条件も、全部どうでもいいね」

 

う、上杉さん・・・?

 

「俺は俺のやりたいようにやるだけだ!俺は絶対にお前たちを進級させる!そしてこの手で、全員揃って笑顔で卒業!!俺には、それしか眼中にねぇな!!」

 

上杉さんは私たちに向けて力強くそう宣言しました。私たちにはその力強さが、非常に心強く感じます。

 

「ふふ・・・頼もしいですね」

 

うん・・・そうだよね・・・。私たち姉妹と上杉さんと一緒なら、きっと試験だって乗り越えられるよね!

 

そうして私たちは注文したものを飲んでお会計を済ませて、家へと戻っていきます。帰ったら必死に勉強しなくちゃ!

 

26「愚者の戦い」

 

つづく




おまけ

三女ちゃんと末っ子ちゃんの会話

六海「三玖ちゃん見てみてー!六海の新しいメガネ!」

三玖「・・・前と同じだね」

六海「ただ同じメガネってわけじゃないよ?だって、風太郎君に選んでもらったんだから!いいでしょー?」

三玖「・・・ふぅん、フータローに・・・」

六海「六海、もうこのメガネは絶対に手放さないよ!今までで1番大事なものだもん!」

三玖「そうなんだ。・・・ところで六海、チョコレートの試作品ができたんだけど、味見して。・・・嫌とは言わせない」

六海「( ゚Д゚)」

三女ちゃんと末っ子ちゃんの会話  終わり

次回、六海視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の試験が六海の場合

もうすぐで第2章も終わりを迎えますが、2章の方針は最期の試験後にスクランブルエッグ編、その後に六海ちゃんの過去の話で進めようと思っています。早くスクランブルエッグ編を書きたいわけですから。


「それでは、試験を開始します」

 

今回の試験・・・絶対に合格しなくちゃ・・・!決めたんだ・・・六海は、いつかちゃんと過去を向き合えるような自分になるって!そのためにもまずは・・・頭の悪い自分から脱却しなくちゃ・・・!

 

♡♡♡♡♡♡

 

パパから転校の話から数日・・・1月8日。冬休みが終わって、今日は学校。今日の分の授業を終わらせて六海たちは直行で自分たちの家に戻ってすぐに勉強の準備を進めるよ。

 

「冬休みも終わっちゃったね」

 

「あんたたちのクラスも進路希望調査もらった?」

 

「進路と言われても、何を書けばいいかわからない」

 

風太郎君が授業の準備をしている間、六海たちは今日渡された進路希望調査書の話をしている。ちなみに六海の進みたい道は漫画家一択だよ。

 

「一花と六海はすぐ書けるね」

 

「ですね。六海は漫画家希望、一花はすでに女優ですからね」

 

「うーん・・・私はまだ学校に女優のこと言ってないんだよねー・・・」

 

「まぁ、それなりに勇気いるもんね、自分は女優ですって言うの」

 

まぁでも、一花ちゃんが女優やってるっていうのが知れ渡るのも、時間の問題だと思うけどね。

 

「よーし、お前ら、今日も授業を始めるぞ」

 

お、やっと風太郎君が来た。待ちくたびれたよー。早く勉強したい気分だよ。今回の試験ばかりは絶対に赤点全部回避したいしね。

 

「やりましょう・・・いえ!ぜひやってください!!そして確かめてください!!試験突破に何が必要なのかを!!」

 

おおっ⁉五月ちゃん、今日はいつになくやる気だなぁ・・・。びっくりしちゃった・・・。

 

「お、おう・・・。乗り気なのは助かる・・・だからいったん座れ・・・」

 

「はっ・・・!す、すみません・・・つい取り乱して・・・」

 

食い気味に顔まで近づいたのに気づいた五月ちゃんは顔を赤くしてこたつの座席に座り込んだよ。

 

「まぁ、今はとにかく授業だ。目指せ、30点越え・・・」

 

ツゥー・・・

 

「わっ⁉」

 

うぇい⁉風太郎君の鼻から突然鼻血が⁉

 

「だ、大丈夫ですか⁉上杉さん⁉」

 

「どうしたのよ?」

 

「お姉さんが思うに、エッチな本でも見たんじゃない?」

 

「エッチ⁉風太郎君、エッチなことはダメだよ!!」

 

「ちげぇよバカ。てか六海、お前が言っても説得力がねぇ」

 

?違うの?じゃあ何で突然鼻血なんか・・・。

 

「ふぅ・・・この鼻血はな、三玖のせいだ。何故か最近ずっと市販のチョコを無理やり食わせてきやがる」

 

三玖ちゃんの両手には市販のチョコレートがたくさんあった。・・・あー、なるほど・・・チョコレートの食べ過ぎってわけかぁ・・・。六海もカプセルチョコでよく鼻血だしてたのを思い出したよ。

 

「今日も持ってきた。フータロー、食べて」

 

「あら、ちょうど甘いものが食べたかったのよ。アタシにも1つちょうだいよ」

 

「二乃にはあげない」

 

「はぁ?なんでよ?1つくらいいでしょ?独り占めしないでよ」

 

「・・・しないよ。まだ・・・ね」

 

文句を言っている二乃ちゃんに三玖ちゃんは静かに微笑んでそう言った。・・・しないって・・・いったいどう言う意味で言ってるのか、六海にはよくわからないよ。

 

「・・・ていうことで、今日も全部食べて感想、聞かせてね」

 

「・・・なぁ、何の罰ゲームだ・・・これ・・・」

 

「わ・・・私も1つくらい・・・」

 

「ダメ。これはフータローのもの」

 

「そんないっぱいあるのにー。ケチー」

 

「ケチで結構」

 

六海や五月ちゃんもチョコを要求しようとしても三玖ちゃんは拒んでる。まぁ、来月はバレンタインだから気持ちはわかるけどさー。だからってこんなの不公平だよー。

 

「もー、みんな、そろそろ勉強するよー?試験まで後2か月なんだからー」

 

「そうだ!お前ら、四葉を見習え!」

 

三玖ちゃんの・・・というか風太郎君のチョコ独占にはいろいろ納得がいかないけど・・・そうだよね。そろそろ勉強をしなくちゃ。少しでもテスト範囲を頭に詰め込まないと・・・。六海たちはその後は風太郎君の教えの下で勉強に励んだよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

1月14日、3学期が入って1週間くらいの日にちがたった。今日は日曜日・・・普段なら遊びに出かけるんだけど、その時間も惜しいから今日も風太郎君と一緒に勉強。・・・その予定だったんだけど・・・

 

「今日が三学期が始まって1週間・・・せっかくの日曜日・・・これからだって時に限って・・・なぜ五月がいない!!!」

 

今日は五月ちゃんが1人で外に出かけちゃってるから、すぐに勉強を始められないんだよね・・・。

 

「ぜひやってください!!そして確かめてください!!って言ってたじゃねぇか!!」

 

五月ちゃんがいない状況に風太郎君はかなり嘆いてる。それより五月ちゃんのものまねうまかったなー。すごく似てたよ。

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

「静まって」

 

「カルシウムが足りないんじゃないの?」

 

「うっせぇ!余計なお世話じゃ!」

 

一花ちゃんと三玖ちゃん、六海が落ち着かせても全然苛立ちが収まってないね・・・。カルシウムがないなら毎日牛乳を飲むことをお勧めするよー?

 

「でも本当にどこ行ったんだろう・・・」

 

「ほら、五月はあれよ。今日は・・・"あの日"なのよ」

 

「?あの日・・・?」

 

あ・・・そういえば・・・。だから五月ちゃんは1人で・・・。

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「・・・あ⁉なんだよそのあの日っていうのは⁉ハッキリ言えよ!!」

 

「直球に聞いてきた・・・」

 

「今の空気で堂々と聞いてくる?普通」

 

「ノーデリカシーの名を欲しいがままにしてるね・・・」

 

今の空気明らかにしんみりしてたよね?その空気をぶち壊すように聞いてくるとか・・・風太郎君はなんでそこまでノーデリカシーなんだろう?

 

「あの・・・なんというか・・・非常に言いづらいのですが・・・」

 

なんだよ?あの日とやらは試験をすっぽかすほどに大切なことなんだろうな?もしそうじゃねぇなら許さねぇぞ・・・

 

「ううっ・・・それ・・・は・・・」

 

風太郎君からものすごい圧をかけられて四葉ちゃんはさらに言いよどんでる・・・。怖い・・・怖すぎるんだけど・・・。

 

「お・・・女の子に・・・」

 

「いや、普通に母親の命日」

 

四葉ちゃんが言いかける前に二乃ちゃんが今日が何の日かを風太郎君に教えた。四葉ちゃん、いったい何を言おうとしたの?というより、そんなに隠すようなことかな?言いづらいのはわかるけども・・・。

 

「・・・そうなんだ・・・。じゃあみんな、席について。授業を始めましょうね」

 

事情を聞いた風太郎君はさっきのをなかったことにするかのように六海たちの勉強を・・・

 

「・・・って!!そんなわけあるかぁ!!」

 

なんてことはなく、話を戻してきたよ。

 

「俺は騙されねーぞ!だいたいお前らだって母親は同じ・・・はっ!!」

 

風太郎君は最後まで言い切る前に、何か考える動作をした。

 

「・・・すまん・・・。お前らも事情があったんだな・・・。俺が悪かった・・・。とりあえず、先に勉強を始めるか・・・」

 

あれ?なんで六海たちを哀れむような顔になってるの?

 

「なんかいらぬ深読みしてない?」

 

何を考えたのかは知らないけど、風太郎君の思ってることとは全然違うからね。

 

「ていうか今日、ママの命日じゃないよ?」

 

「え?どういうことだ?」

 

「あはは・・・正確には8月14日が命日なんですよ」

 

「あー、何だ。月命日ってやつか・・・。俺はてっきり、別々の母親がいるのかと・・・」

 

「フータロー君は私たちを何だと思ってるの?」

 

風太郎君の変な解釈は置いといて・・・つまりはそういうことなんだよね。

 

「とにかく、あの子は律儀に毎月14日に墓参りに行ってるのよ」

 

「近くだから、フータローも今度お線香をあげてよ。お母さん、喜ぶと思う」

 

「律儀ねぇ・・・」

 

五月ちゃんがママが大好きなのはわかるけど・・・本当に律儀ってだけなのかな?五月ちゃんは・・・今でもママの代わりになろうとしてるんじゃないの?五月ちゃんは姉妹で1番好きだけど・・・六海は五月ちゃんのそういうところだけは本当に嫌いだな。五月ちゃんには悪いけど・・・五月ちゃんがママの代わりになれるわけないのに・・・。六海は・・・ありのままの五月ちゃんでいてほしいと思ってるんだけどなぁ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから2週間くらいたって、1月29日。今日は六海1人で本屋さんでお買い物。といってもいつもみたいに漫画とかを買うためじゃないよ。今日の目的は試験範囲をカバーするために必要な教材を買うこと!今は漫画のことは考えないようにしてる。あくまでそれは、試験が終わってから!それくらいの区別はできるようになったんだよ?・・・そういえば三玖ちゃん、うまくやってるかなぁ?と、それより資料っと・・・。

 

「えーっと、必要な教材はこれで全部かな?」

 

六海はテスト範囲のプリントと、本の中身を少し確認してみる。・・・うん。テストに出そうな範囲が全部載ってる。これで全部だね。じゃあ早く会計して学校に戻らなくちゃ・・・と思った時・・・。

 

「!!?こ、これは!!?今では幻と言われている伝説の恋愛漫画、同じ屋根の下で君は、だ!!まさかこんなところでお目にかかれるなんて!!」

 

この漫画は六海も欲しいと思ってる漫画なんだけど、かなり古い漫画だから今じゃどこを探しても見つからないどころか、その姿さえ見ることも叶わなかった代物・・・!ほ、欲しい・・・!けど・・・今は試験期間中!漫画に手を出してる暇はない!!ああ・・・でも・・・このチャンスを逃したら二度と巡り合えないかも・・・!

 

「・・・か、買うだけなら・・・いいよね?」

 

これは試験が終わったご褒美・・・今は買うだけでいい!せめてこの漫画を・・・六海のものに!!そう思って幻の漫画に手を触れようとした時、他の人と手が重なってしまった。

 

「ふぇっ⁉」

 

「おっとっとー、君もこれを狙ってるのかなー?」

 

う、うかつだったよ・・・!これを欲しがる人は六海だけじゃないということを忘れてたよ・・・!六海は警戒してさっき手を重ねた人の姿を・・・て、へっ!!?こ、この人は・・・⁉

 

「み・・・MIHO先生⁉」

 

「おー、誰かと思えば、六海ちゃんじゃない」

 

この人はMIHO先生。これはペンネームであって、本名は別にあるらしいんだけど・・・ペンネームが気に入ってるのかそう呼んでほしいって言われてるよ。

 

「お、お久しぶりです!!こ、こんなところでお会いできるなんて・・・!!」

 

「あっはははー、まぁ落ちつきたまえ」

 

六海はこのMIHO先生にとっても頭が上がらない。なにせこの人はとっても偉大な漫画家であり、六海の大好きな漫画、魔法少女マジカルナナカちゃんの原作者であり、六海の恩人であり、そして・・・六海が漫画家を目指すきっかけをくれた人でもあるから。

 

「てかマジで久しぶりだねー。君が中二の時以来だったから・・・4年ぶりかぁ。元気にしてたかなー?髪型とか口調とか変わってるけど、もしかしてイメチェン?いやー、似合ってるよー、本当」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

この人の饒舌っぷりは変わってないなぁ。少し安心したよ。

 

「と、ところで先生はなぜここに?お仕事の方は・・・?」

 

先生の主な活動場所は東京だからここにいること事態がとっても珍しいんだ。

 

「今日はお休みだよ。せっかくの休日なんで地元でぶーらぶらしてから、姉さんに顔を見せに行こうと思ってね。だから帰ってきたってわけ」

 

なるほど・・・里帰りってやつなのか・・・。納得したよ・・・。

 

「それはそうと、それ、六海ちゃんもほしいわけ?」

 

「あ・・・い、いえ、これは・・・」

 

ど、どうしよう・・・ぶっちゃけていえば欲しい・・・!でも先生もこれを狙っていたわけだし・・・しかもこれ、最後の1冊だし・・・。

 

「じゃあ、いいよ。六海ちゃんにプレゼントしよう!」

 

え・・・!そ、そんな・・・先生からこれをいただくなんて・・・。

 

「い、いえいえ!悪いですよ!やはりここは、先生が・・・」

 

「いいのいいの。アタシがそうしたいんだからさ。再会記念にってことで」

 

「ですが・・・これは貴重な・・・」

 

「だからこそだよ。見つけるのは難しいけどさ、たった1冊の本で君の悲しむ顔は見たくないしさ」

 

先生・・・六海のことを気を使って・・・しかも、迷いのない笑顔で・・・。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

六海は本当にこの人に感謝してもしきれない・・・。何か恩を返す事ってできないのかな?

 

「その代わりといっちゃなんだけど・・・この後ご飯でも食べに行かない?いろいろ話、聞きたいしさ」

 

「ご飯・・・ですか?そういうことなら喜んで!」

 

幻の漫画1冊の交換条件が六海と一緒にご飯なんて安いものだし、先生のお誘いは断れないからね。それに、ちょうどお腹減ってたしね。

 

「よーし、決まりだね。じゃあちゃちゃっと会計しちゃおっか」

 

六海と先生は本の会計を済ませてから本屋さんを後にしようする。この会計の際、ちゃっかり教材まで買ってもらって・・・なんだか申し訳ない気分だよ・・・。

 

「ま、まさか本当にエッチな本とか⁉️」

 

「お、おい!」

 

んんん?今なんか一花ちゃんと風太郎君の声が聞こえてきたんだけど・・・エッチな本って・・・まさか・・・

 

「ん?エッチ?今エッチな本って誰か言ったかな?」

 

「な、何でもないですよ!さあさ、行きましょう!!」

 

て・・・危ない危ない・・・近くに先生がいるんだった・・・。先生はエッチなことに敏感なんだよね。軽蔑的な意味じゃなくて、好奇心的な意味で・・・。おかげで話題をそらすのが大変だよ・・・。・・・後で一花ちゃんと風太郎君に確認してみよう・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

本屋さんから出た後は先生がオススメのラーメン屋さんで食事をすることになったよ。懐かしいなぁ・・・このラーメン屋さん・・・。中学の時、よく食べてたっけ。

 

「ん~・・・この匂い・・・相変わらずだなぁ・・・。六海ちゃんもよくここで食べてたでしょ?」

 

「は、はい。と言っても・・・もうここに来ることはないって、思ってたんですけどね・・・」

 

「そうなんだ。だったら久しぶりの味を心行くまで堪能しなさいな。あ、おっちゃん!ラーメンを2つね」

 

先生はおじちゃんに注文を入れた後、コップの水を一口飲んだ。

 

「いやー、しっかし、本当に変わったよねー。散髪に、口調に、おまけにそのメガネと来た。前とは比べ物にならないくらいの変化だよね」

 

「そ、そうですか・・・?」

 

「だって君、あの頃は結構荒れてたじゃーん♪」

 

先生の発言はかなり飄々としているものの、どこか的を射ぬいたようなものを感じる。

 

「そうでしょ?黒薔薇史上初の不良にして、誰からも恐れられていた・・・凶鳥六海ちゃん?」

 

凶鳥・・・そのあだ名は六海が中一から中二まで呼ばれていたもので・・・六海にとって最も忌むべき存在であり、六海の過去から1番消し去りたい黒歴史・・・。

 

「あはは・・・お恥ずかしい限りです・・・。あの時はお見苦しいものをお見せして、すみません・・・」

 

「いやいや、あの頃の君も、やんちゃでかわいかったよ~?あの時の罵声も、癖になりそうだったしね。あっち行けーとか、しゃべんなーとか、殺すぞーみたいなあれ・・・快感みたいなのに目覚めそうだったよ」

 

「や、やめてください!!!」

 

いやーー!!本っ当に恥ずかしいから!!こんなところで六海の黒歴史暴露しないでぇ!!

 

「いやー、ごめんごめん。つい、ね?」

 

「つい、じゃないですよぅ・・・」

 

「でもここでなら別にいいでしょ?ここって、君の過去を気にしない人たちが集まってるしね」

 

「それは・・・どうですけど・・・」

 

六海にとってはそういう問題じゃないんだよね・・・。さっき先生が言った六海の発言でわかるとおり、凶鳥時代の六海は今みたいな性格じゃなくて、もっと荒っぽい感じで・・・年上相手に反抗は当たり前、敬語は使わずため口、気に入らなければすぐ舌打ちしたりともうダメダメ揃いの性格だったんだよ・・・。

 

姿の方はというと、髪はストレートロングで当時はメガネはかけてなかった代わりに黒のカチューシャをしてたんだよ。それはいいんだけど制服は正しく着てないし、不良さんみたいなマスクをつけてたりしてたからこれもあんまり思い出したくないんだよね・・・。

 

・・・前に一花ちゃんが風太郎君に見せた写真に写っていたのは、その時の六海の姿だよ。

 

「・・・ま、まぁそれはいいです!先生が元気そうにしてて安心しました!」

 

六海はこれ以上凶鳥の話をされたくなかったから無理やりにでも話を切り替える。

 

「お?何々~?アタシのこと、心配しててくれた?」

 

「そりゃ・・・しますよ。だって、ナナカちゃんと先生のファンですし・・・先生は、六海に絵を教えてくれた人でもありますから」

 

「あの時の君のド下手くそな絵にはびっくりさせられたよ・・・」

 

実を言うと、昔の六海は絵がそんなにうまいってわけじゃなかったんだよ。今で言うと、四葉ちゃんのあの化け物トラレベルくらいだったと思う。そんな六海の絵の腕を磨かせてくれたのは、他でもない、このMIHO先生なんだよ。でも本人を前にド下手くそって・・・。

 

「で?どうなわけ?あれから絵の腕は上がった?あのド下手な絵よりマシになったかな?」

 

「もう!さっきから下手下手って言わないでください!六海の絵はあの日より、確実に、格段に!!成長していますよ!!今なら先生を超えられるほどに!」

 

さすがに下手下手言われるのはあまりにも許せなかったので六海は思わず対抗心を見せている。しかも、尊敬する漫画家相手に。

 

「お~、言うねぇ~。なら、その成果を、見せてもらおうじゃない?」

 

「いいですよ!見せてあげますよ!六海の努力の結晶を!今!この場で!!描いてみせますよ!!」

 

「どんな絵ができるか楽しみだねぇ」

 

六海は成長ぶりを見せつけるためにかばんからキャンパスと鉛筆を取り出して・・・

 

「へいお待ち!!」

 

「・・・と、その前にラーメン、いただいちゃおっか」

 

「ですね」

 

絵を描こうとしたらおじちゃんの作ったラーメンが届いたから。六海と先生は先にご飯を食べる事にしたよ。う~ん、この匂い・・・懐かしいなぁ・・・。この懐かしさを噛みしめながらまずは麺を一すすり・・・。

 

「ふふ、おいひぃ・・・」

 

久しぶりに食べるこのラーメンの味・・・本当においしい。この一杯のために生きてるっていうこと大袈裟に言ってたのを思い出すよ・・・。変わらないなぁ・・・この味・・・。六海と先生は昔を懐かしみながら、他愛ない話すで盛り上がったよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ラーメンを食べた後はお店の絵を描いたよ。六海の描いた絵を見せた時の先生のビックリした顔はしてやったぜみたいな気分で気持ちよかったよ。そして、先生とお別れの時はやってきたよ。

 

「今日はありがとうございました!ラーメン、ごちそうさまでした!」

 

「いやいや、こっちも久しぶりに六海ちゃんに会えて嬉しかったよー」

 

先生は本当にうれしそうな顔で六海の頭をなでてくれた。この人まで六海のことを子ども扱いする・・・。先生は一応大人だけどね・・・。

 

「しっかし、あの六海ちゃんの絵が、ねぇ・・・?あまりの上達っぷり・・・しかも独学と来たもんだから驚きだよ」

 

「まぁ、その辺もいろいろありまして・・・」

 

絵に関心を持つようになってから、いろいろなことがあって・・・最終的には自分で腕を磨くことになったんだよね。これもあんまり思い出したくはないけどね・・・。

 

「そのいろいろってさ、凶鳥と関係あり?」

 

!!先生・・・どうしてそこまで六海の黒歴史に触れてくるんですか・・・。もう話しすらしたくない内容なのに・・・。

 

「・・・関係ありませんけど・・・同様にいい思い出じゃないので話せません」

 

「・・・そんなに凶鳥は嫌い?」

 

先生は確信をついたようにそんなことを言ってきた。

 

「嫌いですよ。あだ名でも触れられたくありません・・・」

 

「・・・・・・」

 

「あの時の六海は本当に大バカ者でした。ケンカばっかりしてたから・・・みんなからも嫌われて・・・お姉ちゃんたちやパパにも叱られて・・・挙句にはお姉ちゃんを危険に巻き込んでしまって・・・。凶鳥時代は本当に後悔しかなくて・・・無駄な2年間になってしまいました」

 

今になって思えば、六海はなんであんなに荒れてしまったんだろうと常々思えてくるよ・・・。何が六海をあんな風に・・・。

 

「なるほど・・・どうやら・・・君は前を向いてる歩いてるように見えて、そうではないみたいだね・・・」

 

「・・・・・・」

 

前を向いて歩いてはいない・・・か・・・ある意味そうなのかもしれないね・・・。

 

「と、ごめんね?ただ君が心配だったから、どうしても確かめてみたかったんだ」

 

「いえ・・・そんな・・・」

 

「・・・1ついいことを教えてあげるよ」

 

?いいこと?それは、いったい・・・?

 

「アタシ達創作者にとって1番必要となるのはね、イマジネーション。別の言い方をすれば着想・・・つまりは想像力。その想像力が何を糧にしているか知っているかな?」

 

「???」

 

「それはね、自身が蓄えてきた記憶や自身が経験してきた実体験だよ。その記憶や体験を元によって、その先の未来を想像したり、現実とは違う、新たな物語を作り上げることができるんだよ。アタシの言ってることの意味、わかる?」

 

「い、いえ・・・」

 

「つまりはね・・・人生において、無駄なことなんて何1つとしてないってこと。辛いことも、嫌なことも全部、ね」

 

人生で・・・無駄なことなんて・・・ない・・・。

 

「そりゃ凶鳥は君にとって嫌な思い出だってのは知っているよ?けどね、アタシは誰よりも君の才能を見出したんだ。君が漫画家を目指すと言った時から、ね?」

 

「先生・・・」

 

「だからアタシは君を誰よりも応援するし、自分のトラウマに負けないでほしいんだ。いつかトラウマを克服し、それを糧にして、最高の漫画を描いてほしいんだ」

 

トラウマ・・・本当の意味で六海の黒歴史を乗り越えた・・・最高の漫画・・・。そんなの・・・今でも凶鳥であった自分を捨てたい六海には無理だよ・・・。

 

「ま、とはいえ、こればっかりは本人の気持ちの問題だしね。これ以上アタシがとやかく言うのは、筋違いよね。でもさ、これだけは覚えておいてよ。凶鳥の本当の姿を知っている人は必ずいるってね」

 

凶鳥の本当の・・・姿・・・。そんなの・・・

 

「これがどう言う意味かは自分で考えなよ?じゃないと君のためになんないんだからさ」

 

「・・・はい」

 

「じゃあこれは、次に会うまでの宿題にしようか。ちゃんと考えるんだぞ?」

 

次に会うまでの宿題、かぁ・・・。難易度が高すぎるよ・・・。でも、他ならない先生の課題だし・・・触れたくはなかったけど・・・ちゃんと考えないとね・・・。

 

「じゃ、アタシは姉さんに会いに行くよ。六海ちゃん、マルオパイセンにもよろしく伝えといてねー」

 

「は、はい!ありがとうございました!」

 

先生は笑いながら手を振って六海と別れた。・・・凶鳥の本当の姿、かぁ・・・。本人でもわかってないのに、どうやってそれを理解できるかなぁ・・・。

 

・・・と、それは今はいい!今は試験勉強の方に集中しなくちゃ!先生の課題は後回し!そんな思いで六海は風太郎君主催の勉強会へと戻っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

先生の再会から5日後・・・日つけは2月3日の土曜日。試験開始まで後1か月になったよ。今日も風太郎君の授業を受けてはいるん・・・だけども・・・

 

「試験まで残り1か月を切った。いいかよく聞け」

 

風太郎君がこうして六海たちの赤点回避のために勉強を教えてくれるって言うのはもちろんプラスになるんだけども・・・

 

「・・・ということでここで重要となってくるのは作者の気持ちを答えるというより、読者のお前らが感じたことを書くわけでって・・・。・・・・・・あー・・・お前ら、大丈夫か?」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」どよ~ん・・・

 

なんていうかね・・・完っ全に行き詰まっちゃった!!実を言うと、いつかこうなるんじゃないかと常々思っているわけなんだけど・・・いくら家庭教師といっても風太郎君も六海たちと同じ学生の身分。教師としてのノウハウは当然ながらにないわけで・・・わからない部分を補うことができないんだよね。というよりかは・・・

 

「えーっと、私が感じたことってなんだろう・・・」

 

自分たちでも、何がわからないのかわからない!そのせいで風太郎君が六海たちにどう教えてほしいのかもわからない!これじゃあちっとも勉強が進まないよー・・・。

 

「くっ・・・これぞ、万事休すって奴か・・・!」

 

「よくわからないけど失礼なこと言われてる気がするわ」

 

「どうせ六海たちと自分の頭の良さのどうこうとか考えてるんじゃない?」

 

「なぜわかった⁉」

 

「張っ倒すわよ!!」

 

やっぱり失礼なこと考えてた!!こういう時って風太郎君顔に表れるんだもん!!いや、事実なんだけども!!ものすっごい腹立つー!!

 

「うーん・・・というか、問題を解く以前に・・・」

 

「みんな・・・集中力の限界・・・」

 

「連日勉強漬けですからね・・・」

 

「わ、私はまだやれるよ!」

 

「そうは言っても、これは個人じゃなくて全員の問題だよ・・・」

 

「で、でも・・・」

 

四葉ちゃんがやる気なのはいいけど・・・六海を含めてみんなやっぱり集中力が切れちゃってるね・・・。

 

「むむむ・・・成果は出ているがあと一押しは欲しいところだ・・・。何かいい打開策は・・・」

 

風太郎君は何か策を講じようと何かの本を読みだした。

 

「・・・時には飴も必要か・・・」

 

何か案を閃いたのか風太郎君は本を閉じて人差し指を指した。え?何々?

 

「「「「「「?」」」」」」

 

「決して余裕があるわけではないが・・・明日は1日だけオフにしよう」

 

風太郎君から持ち出された提案は・・・1日だけ勉強を忘れて、どこかに遊びに行こうっていう提案だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の2月4日、今日は1日休みということで、六海たちは風太郎君に連れられてある場所に電車で向かってるよ。なんかもう・・・六海の胸はさっきからドキドキしてるよ・・・!だって・・・これって・・・

 

「ふふ、休日デートにここを選ぶなんて、フータロー君も下手だねえ」

 

「デート・・・!」

 

完璧にデートだよね・・・!今回は風太郎君として、デートができるだなんて・・・!まぁ、お姉ちゃんたちも一緒って言うのは納得できないけど・・・それでも十分にうれしい!

 

「他に行きたいところがあったら言えよ?それくらいの希望は叶えてやる」

 

「いえ、私たちも久方ぶりなので、楽しみです」

 

「ふふ、ママに連れてってもらった以来かしらね」

 

六海は風太郎君が選んだ場所ならどこでも楽しいと思うけど・・・それ以上の楽しみが沸き上がってくる場所だよ!でも・・・こうもあれだと、後からが怖いな・・・。

 

「・・・・・・」

 

「ね、本当にいいの⁉楽しんできてもいいの⁉」

 

「ああ。今日だけは勉強を忘れることを許そう。思う存分羽を伸ばせ」

 

風太郎君に連れていってもらった場所は夢の国といいても過言じゃない・・・遊園地!六海たちは風太郎君と一緒に遊園地を満喫するために、その入口へと入っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

遊園地の中へと入って、六海たちは思う存分アトラクションを楽しんだよ。一花ちゃんと五月ちゃんがジェットコースターに乗ったりしたり、風太郎君と二乃ちゃんがお化け屋敷に入ったり、六海と三玖ちゃんと四葉ちゃんでメリーゴーランドに乗ったりして、日ごろの勉強の息抜きを満喫しているよ。

 

「次はあれに乗りましょう!絶対に楽しいですよ!」

 

「五月ちゃん・・・ちょっと待ってぇ・・・絶叫系連続はきついってぇ・・・」

 

ははは、五月ちゃんってばすっかり絶叫マシーンの虜になっちゃってるねぇ。最近で1番いい笑顔を見せてくれて、六海もうれしいよ。そして連れられてる一花ちゃん、ご愁傷様・・・。

 

「1番真面目なあいつがはしゃいでやがる・・・」

 

「というよりこっちが素だと思うわ」

 

「言えてる」

 

「そんなことより六海たちも早く行こうよー」

 

「あー、わかったわかった」

 

六海たちも五月ちゃんに負けないくらいに楽しみたいからせっせと次に乗るアトラクションに向かおうとみんなを急かしたよ。

 

「・・・あれ?四葉はどこ行ったのかしら?」

 

え?四葉ちゃん?そういえば四葉ちゃんの姿が見えないなぁ・・・。

 

「今度こそ迷子だったりしてな」

 

「あながち否定できないから困るなぁ・・・」

 

「どうせまたトイレでしょ?そう思うのも仕方ないけど」

 

おトイレ行くのはいいけど、こっちに戻る時に迷子にならないといいけど・・・大丈夫だよね?

 

「四葉ならお腹痛いからトイレだって。メールが来てる」

 

「なぜ直接言わない」

 

本当におトイレだったんだ・・・。・・・ちゃんと戻ってこれるよね?

 

「・・・!・・・じゃあ、俺も便所に行ってくる」

 

「あっそ。先行ってるわよ」

 

「おう」

 

あらら、今度は風太郎君がおトイレに行っちゃった。まぁ、それなら四葉ちゃんと合流できるかもしれないから迷子にならずに済むのかな?・・・て、なんか二乃ちゃんが風太郎君をじっと見つめてる・・・。まさか・・・本当に・・・?いやいや、そんなはずは・・・でも・・・

 

・・・じと~・・・

 

「・・・!な、何よあんたたち・・・」

 

「別に」

 

「な~んでもな~い」

 

と、いけないいけない・・・つい二乃ちゃんを凝視しちゃった・・・。今はそういうことを忘れて、今は遊園地を楽しもうっと。

 

その後はおトイレに行っていた四葉ちゃんと風太郎君が戻ってきて、最後に7人で楽しめるアトラクションで休日の幕を閉じたよ。楽しかったなぁ・・・。また7人でどこかに遊びに行きたいなぁ・・・。そのためにも、明日から試験勉強頑張らないと・・・!

 

♡♡♡♡♡♡

 

次の日の2月4日、今日は風太郎君が六海たちに大事な話あるということで、六海たちはすぐに自分たちの家に戻って待機してるよ。風太郎君からの話っていったい何だろう・・・?まぁ、十中八九試験勉強のことだろうけど。

 

「よーし、集まってるな」

 

ようやく風太郎君がうちにやってきて、自信満々な顔を六海たちに向けてきた。何かいい打開策でも思いついたのかな?

 

「いいか?これからは・・・全員が家庭教師だ!!」

 

・・・・・・うん?全員が家庭教師?どういうこと?家庭教師は風太郎君でしょ?全員ってどういう意味?

 

「・・・どういうこと?」

 

「前々からお前たち姉妹には自分の得意科目が各々あるというのは気づいている。そしてその自分の得意科目を他の姉妹たちに教えてやってくれ」

 

自分の得意科目を教える・・・?それってつまり・・・六海の場合は得意科目である地理の問題をお姉ちゃんたちに教えるってこと?

 

「これなら十分な効果は望めるだろう。当然俺もできる限りサポートするが、俺がいない時もお互いに高めあってくれ!そうして全員の学力を1科目ずつ上げてくれ!」

 

なるほど・・・六海の苦手なところは他のお姉ちゃんが教えてくれて、お姉ちゃんが苦手な科目は六海がってことか。これが・・・全員家庭教師作戦・・・。

 

「じゃあ!さっそく始めるぞ!」

 

風太郎君の合図で今日の授業が始まった。さっそく六海も問題に取り組もう。早いところ苦手なところ克服したいし・・・。

 

「六海ー、地理でちょっとわからないところが・・・」

 

「あ、うん。今行くー」

 

ちょうど一花ちゃんが地理でわからないところがあったみたいでさっそく六海を頼ってくれてる。

 

「どこがわからないの?」

 

「えーっと、ここ、なんだけど・・・」

 

「ああ、そこか。難しそうに見えるけど実際は簡単だよ。まず、その地域の・・・」

 

一花ちゃんが苦戦している問題を六海は自分が感じたことをわかりやすく一花ちゃんに説明をしてあげてるよ。

 

「・・・で、そこから導き出せること答えは・・・」

 

「!そっか。そういうことか。いやぁ、助かったよ六海。すごくわかりやすかった。ありがとうね」

 

!ありがとう・・・ありがとうか・・・。心にこもったその言葉を聞くだけで、六海の胸は、ぽかぽかしてる・・・。そうだ・・・六海は・・・最初は、その言葉が聞きたくて・・・。

 

・・・って!今はそんなことはどうでもいいよ・・・。今はそんなことより勉強!この調子で他のお姉ちゃんのわからない箇所を教えてあげるぞー!・・・あ、もちろん、六海のわからないところは風太郎君か他のお姉ちゃんたちに教えてもらうけどね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

全員家庭教師案から6日が経って2月11日。今日はクラスの日直だったから少し帰りが遅くなってるよ。後はこの次の日直の人の名前を書いて・・・日直の仕事完了!さ、早く家に戻らなくちゃ!そう思って外に出ると、風太郎君と出くわしちゃった。

 

「あ、風太郎君」

 

「よう。お前も日直だったか」

 

どうやら風太郎君も日直だったらしくて帰りが遅くなったみたい。

 

「今日もうちに来るでしょ?一緒に帰ろうよ」

 

「ああ。今日もみっちりと勉強を教えてやるぜ」

 

試験も後3周間まで迫ってきたからね。1問でも多く解けるようにならないと。・・・そういえば・・・こうして風太郎君と2人で一緒に帰るの、初めてかも・・・。

 

「で?あれからどうなんだ?」

 

「どうって?」

 

「とぼけんな。全員家庭教師案についてだ。俺がいなくてもちゃんとできてんだろうな?」

 

「ああ、それか・・・」

 

風太郎君が持ち出した全員家庭教師案は結論から言わせてもらうと、もう絶好調って感じだよ。

 

「うまくできてるよ。正直に言うと、風太郎君に教えてもらうより、わかりやすいところも多くあったよ。もしかしたら、風太郎君の案は大成功するかもしれないよ」

 

「最後まで油断すんなよ。赤点回避できるどうかは、お前ら次第なんだからな?」

 

「わかってるってー」

 

風太郎君ってば、心配しちゃって・・・。でも、風太郎君が心配する気持ちはわかるかも。まだ始まったばかりだし、まだなんとも言え・・・

 

「助けてーーー!!!」

 

「「⁉️」」

 

な、何?今の声?今、助けを求めていたような・・・。何だか嫌な予感がする・・・。

 

「何だ?今のは・・・」

 

「風太郎君、ちょっと待ってて!様子見てくる!」

 

「お、おい六海!!」

 

嫌な予感がして六海はすぐに声が聞こえてきた路地裏に向かって、隠れてその奥を確認する。そこで六海が見たのは、他校の男の子が複数人の不良さんに絡まれてる。嫌な予感的中・・・当たってほしくなかった・・・。

 

「大声あげんじゃねぇ・・・よ!!」

 

ドゴッ!

 

「ぐあ!」

 

ああ!男の子が蹴られた・・・て、あいつら・・・よく見たら凶鳥の時代に六海がボコボコにしてやった不良さんじゃん。まだあんなことしてたなんて・・・!

 

「俺らに迷惑かけられる立ち場か?あぁん?」

 

「お前みたいな無能はな、黙って言うことを聞いてりゃいいんだよ」

 

「う・・・うぅ・・・」

 

どうしよう・・・このままじゃあの男の子がやられちゃう・・・でも・・・あの時と比べて体力はガタ落ち、それ以前に六海は暴力沙汰なんかやらないって心から深く誓ったんだ・・・。今更・・・

 

「なんだその目は?まだお仕置きが足りねぇってか?」

 

・・・だからって、こんなのを見て、黙って見過ごすわけにはいかない!幸い、あいつらが苦手としてることを思い出した。これなら、喧嘩しなくても・・・!六海はすぐにそれを実践する。

 

「おまわりさーーん!!!あいつらです!!あいつらがあの子にひどいことをーーー!!」

 

六海は大声を上げて、おまわりさんを呼ぶふりをする。

 

「げっ!!誰かに見られやがった!」

 

「くそっ!察の世話になってたまるか!」

 

「どけおら!!」

 

「うあ・・・」

 

おまわりさんに見つかるのを恐れたあいつらは一目散に逃げていった。たいていの不良さんはおまわりさんは苦手だからね。と、それより男の子・・・。

 

「大丈夫?もう安心だからね」

 

「あ・・・ありがとうございます」

 

怪我は軽く済んでるようでよかったよ・・・。

 

「またあいつらに絡まれたら、さっきみたいに助けを呼んで。誰かがきっと、助けに来てくれるよ」

 

「は、はい」

 

よし・・・。あいつらもどっか行ったし、六海も早く風太郎君と合流・・・

 

「なんだか、あなたを見ていると、凶鳥さんを思い出します」

 

!!凶鳥・・・ここでもその名前が出てくるなんて・・・

 

「ああ!すみません!で、でも・・・その・・・きょ、凶鳥さんは、悪い人ではないですよ・・・?」

 

凶鳥が・・・悪い人じゃない・・・?

 

「どうして?」

 

「実は・・・僕は以前、あの人に助けてもらったことがあったんです」

 

え・・・?六海が・・・この子を・・・?って、よーくじっくり見てみたら、確かに1度だけ見たことのある顔だ・・・。気が付かなかったよ・・・。

 

「あの人は、さっきみたいな人に絡まれた時、突然現れて、僕を守ってくれたんです。巻き込まれたくなかったら逃げろって・・・」

 

そういえば、そんなことを言ったような気が・・・。

 

「噂じゃけんかばかりやってたみたいですし、世間から嫌われていたみたいですが・・・僕は知ってます。あの人の優しさ・・・人の思いやる心を持っていることを。だから僕は、あの人を尊敬してます」

 

六海が・・・凶鳥が・・・優しかった・・・?人を思いやる心・・・?・・・ああ、そうだ・・・。六海は最初は、この人みたいな人の助けになりたくて・・・さっきみたいなのから守りたくて・・・そんな思いから、あいつらからこの子たちを守りたくて、喧嘩を始めたんだ・・・。でもそれとは逆に怖がられっぱなしで・・・いつかその思いすら忘れてしまっていたんだ・・・。

 

「あ・・・べらべらとすみません・・・。このご恩は忘れません。機会があればまたお会いしましょう。では、僕はこれで・・・」

 

あの人はペコペコと頭を下げながら六海と別れていった。そっか・・・あの人、六海の顔は覚えてないけど、凶鳥に憧れてたんだ・・・。

 

「凶鳥、なぁ・・・」

 

「おわっ⁉️風太郎君⁉️」

 

び、ビックリしたぁ・・・。六海の後ろにはいつの間にか風太郎君がいた・・・心臓に悪いよ・・・。

 

「い、今の、聞いてた?」

 

「お前が警察を呼ぶフリをしてた辺りからな」

 

それってほぼ最初っからじゃん!だったら手伝ってくれてもいいのに・・・。て、それよりも・・・

 

「凶鳥って・・・風太郎君は知ってるの?」

 

「噂程度だがな」

 

噂って・・・そっか。噂なんて今はばったりと消えてるけど、昔はかなり広まってたし、知ってて当たり前か・・・。

 

「さっきの連中とやり合って、なおかつ後始末も悪いから悪い印象ばかりがついたんだってな。中には病院送りにされた奴もいたか・・・。正直言って迷惑極まりないな」

 

・・・実際間違ってないから困る・・・。そうだよね・・・世間一般じゃ悪い印象しかないよね・・・。風太郎君だって凶鳥のことをよく思ってないし・・・。

 

「・・・だが、俺は凶鳥が悪い奴とは思わない」

 

「え・・・?」

 

今、なんて・・・?風太郎君は凶鳥は悪い奴じゃないって言ってるの?

 

「真鍋から聞いたのを思い出したが、実際に被害にあってるのはあいつらみたいな問題行為をしている奴だけだったらしいな。もし凶鳥があいつらと同類なら、今頃お前が守った奴は・・・最悪自殺、なんてこともあり得る。凶鳥は、そんな奴らに勇気を与えようとしてたんじゃねぇか?」

 

「あ・・・」

 

「まぁ、やり方は確かにアウトだが・・・凶鳥は、案外お人好しなんじゃねぇかって、俺は思うぜ」

 

さっきの男の子や、風太路君は、凶鳥のこと、そう思っていたんだ・・・。凶鳥が優しいやお人好し、か・・・。そんな風に言われたの、初めてかも・・・。もしかして先生は、中にはこんな人もいるってことや、凶鳥は優しかったって思い出してほしかったのかな・・・?

 

「・・・ねぇ、もし・・・もしもだよ?」

 

「ん?」

 

「もしもその凶鳥が・・・六海だって言ったら・・・風太郎君はどう考える?」

 

「は?」

 

・・・・・・え?今六海、何言いだしてるんだろう⁉全然思ってもいないことを口にしたよ⁉わー!!六海のバカバカ!!

 

「お前・・・」

 

ほら・・・絶対風太郎君は嫌な・・・って、なんか今にも笑いをこらえてそうな顔してるんだけど・・・。

 

「くくく・・・お前が・・・凶鳥?・・・ぷはっ・・・ダメだ、やっぱ笑うわ・・・w」

 

「も・・・もー!!こっちは真剣に言ってるのにーー!!」

 

知らないとはいえ、凶鳥本人を目の前にして笑うってどういうこと⁉すごい失礼なんだけど!!

 

「だが、お前が凶鳥だった場合か?・・・別になんも変わんねぇよ」

 

え・・・?

 

「過去に何をやっただとか、自分が凶鳥だとかなんて、俺にはどうだっていい。大事なのは、過去じゃなくて、今をどうするか、だろ?」

 

「今を・・・どうするか・・・」

 

「それに、覚えてる奴も少なからずいるが、凶鳥の噂は今じゃすっかりなくなってる。お前が凶鳥だっていうなら、つまりは・・・そういうことなんだろ?」

 

「!」

 

「間違っちまって後悔することはそりゃあるだろう。だがそれで終わりってわけじゃねぇ。過去を反省して、今を進めりゃいい。お前が、さっきの奴を助けたことのようにな」

 

風太郎君・・・。風太郎君は・・・本当にずるい・・・。ここぞってばかりに、六海のかけてほしいことを言ってくれる・・・。確かに後悔は終わりじゃない・・・間違ったことを正し、今に活かすことだってできる・・・。さっきの警察を呼ぶふりだって、過去の経験がなかったら、絶対思いつかなかった。

 

六海は・・・弱い自分を変えたい・・・。いつまでもこの後悔を抱えたままにするのは、終わりにしたい。

 

「まぁ、あくまでもお前が凶鳥だったら、の話だ。それより早く行こうぜ。あいつらが家庭教師サボってないか見てやらねぇと・・・」

 

「風太郎君!」

 

六海はせっせと元いた道のりに戻ろうとした風太郎君を止める。

 

「六海・・・頑張るよ!詳しくは言えないけど・・・頑張って、弱い六海を克服してみせるよ!だから・・・今の六海を見てて、風太郎君!」

 

六海は風太郎君に向けて、笑顔で決意表明を明かした。

 

「?お、おう・・・?なんだ?なんかいいことでもあったか?」

 

「ふふふ、なんでもなーいよ♪」

 

六海と風太郎君はこの後は寄り道は一切せずにそのまままっすぐアパートに向けて、試験勉強を真剣に取り組んだよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

学期末試験終了後の3月9日。今日はテストが返却される日。

 

六海は、今でも凶鳥のことを引きずったままでいるよ。でも、先生の課題や、風太郎君のおかげで、何となく見えてきたよ。過去は変えられないけど、間違いを正し、未来を変えることはできる。全部は自分の気持ち次第なんだ。凶鳥の全部を否定したら、変えられるものも、変えられないのかもしれない。

 

六海は・・・弱かった自分と克服するんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海の試験結果

 

国語42点

数学38点

理科32点

歴史48点

地理71点

英語42点

 

総合点271点

 

結果:合格

   たいへんよくできました!

 

27「最後の試験が六海の場合」

 

つづく




次回、三玖、四葉、五月、一花視点

おまけ

MIHO先生の紹介

MIHO

外見は金髪のセミロング、たれ目。

イメージCVは戦姫絶唱シンフォギアの立花響

東京を活動拠点にしている有名漫画家。六海のお気に入りの漫画、魔法少女マジカルナナカの原作者でもある。六海が凶鳥であると知っている数少ない人物。性格はちょっぴりお調子者であるが、それは高校時代からの名残かもしれない。派手さやかわいいものに目がなく、漫画においても取り入れたりしたり、そうでなかったり。MIHOとはペンネームであり、本名は別にあるが、結構気に入ってるらしい。
六海が凶鳥時代から立ち直らせた人物でもあり、漫画家を志すきっかけを作った人物ということもあって、六海からは尊敬な目で見られている。本人はまんざらでもない様子。
また、教師である六つ子たちの母親の元教え子でもあり、1つ年上の姉と共に、よく鉄拳交じりの説教を何度も味わったが、今となってはそれもいい思い出である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の試験が姉たちの場合

1話目の六海ちゃんの紹介に朝食は何派?を追加しました。本当、それだけですけどね。

後アンケートの現段階では漫画アシスタントとメイド喫茶が同点という状況が続いています。スクランブルエッグ編突入したら、確認してみてどちらかが1票でも多く入っていればその時点でアンケート終了とします。

つまり同点だった場合は、皆様の1票によって、本編での六海ちゃんのアルバイトが決まるというわけです。


『最後の試験が三玖の場合』

 

「それでは、試験を開始します」

 

この試験で目指すのは赤点回避だけじゃない。他の姉妹にも負けない・・・バレンタインのあの日・・・そう決めたんだ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

1月8日。冬休みが明けて、試験に向けて本格的に勉強を始めた後でも、私はバレンタインに向けて、フータローに渡すチョコの試作品を作ってる。私は甘いものは苦手だから、フータローの好みもよくわからない。だからこうやって夜に試作品を作ったり、フータローに市販のチョコを食べさせてフータローの好みを理解しようとしてる。けど・・・まだまだ前途多難。

 

「ふわぁ・・・まだ起きてたの・・・?」

 

試作品を作ってると、眠そうにしてる六海がキッチンに入ってきた。

 

「六海・・・ごめん、起こした?」

 

「大丈夫ー。それよりどう?そろそろ風太郎君の好みわかってきたかな?」

 

「!・・・やっぱり気づいてたんだ・・・私が、フータローのことが好きだってこと」

 

「六海たちの目の前で告白したり、試作品チョコを無理やり食べさせればそりゃ、ね・・・」

 

・・・それもそうか。菊ちゃんのおままごととはいえ、告白したり、こうやってチョコを作ってたりしたらすぐわかるか・・・。

 

「うわぁ・・・このチョコにもドクロマークが出てるよ・・・」

 

「これは大丈夫な方のドクロマーク・・・」

 

「大丈夫なドクロとはいったい・・・」

 

これまでに何度か試作品チョコを作ってるけど・・・どれもこれもドクロマークが浮かび上がってる・・・。見栄を張ってるけど、これをフータローが食べてくれるかどうかも不安になってくる・・・。

 

「う~ん、困ったなぁ・・・。できれば力になってあげたいけど、六海もお料理下手っぴだからなぁ・・・」

 

私が不安な気持ちになっていると、六海は何かうんうんと頭をひねらせてる。

 

「・・・あ!そうだ!六海の知り合いにお料理が上手な人がいるんだった!」

 

「え?」

 

六海の知り合いに料理上手な人がいる・・・?

 

「その人に教えてもらったらどうかな?」

 

!それって、私の料理の腕が上がる可能性がある?それは私にとって願ったり叶ったりの提案だ。六海がこんな提案をしたのは、料理がよくなるかもしれないとのことかららしい。一言余計だけど、六海の提案には感謝しなくちゃ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

1月29日。今日はフータローの勉強会があったけど、今日は料理が得意な人と会う約束の日・・・。だから私は家に戻ってチョコの試作品作りをやってる。ついさっき新しいチョコができたけど・・・これもドクロマークが出てる・・・。でも・・・これならフータローも食べてくれるかな・・・?

 

それにしても六海の顔が広かったのは少し意外だった。友達はそこそこの数だったし。料理上手な人って誰なんだろう・・・?

 

ガチャッ

 

?誰か帰ってきた?一花かな?

 

「あれ?三玖じゃない。1人で何やってんの?」

 

私の予想が外れた。帰ってきたのは二乃だった。

 

「二乃・・・どうしたの?今日は学校で勉強会のはずじゃあ・・・」

 

「六海に呼ばれて戻ってきたのよ」

 

・・・え・・・、六海に・・・呼ばれて・・・?

 

「てことは・・・六海の言ってた人って・・・二乃・・・?」

 

「いったい何のはな・・・」

 

カツーンッ!

 

「「!!?」」

 

び、ビックリした・・・。今の、何の音?玄関あたりから聞こえた気がするんだけど・・・。

 

「何よ、今の音?ビックリしたわね・・・て、こっちにもビックリね」

 

あ・・・二乃、私が作った試作品チョコに気が付いた・・・。

 

「なんなのよこのドクロチョコは?おいしくなさそうだし、見た目もめちゃくちゃじゃない。こんなのあげて、誰が喜ぶのよ?」

 

う・・・あまり言ってほしくなかった言葉だ・・・それ・・・。

 

「あんたは味音痴と不器用のダブルパンチなんだから、変な意地張ってないで大人しく市販のチョコを買ってればいいのよ」

 

「・・・うるさい・・・」

 

私が不器用なのは事実なんだけど・・・そんなことを言われたら、今までやってきたのは無駄だったんじゃないかって不安になる・・・。今にも泣きそうな気分になってきた・・・。

 

「ひっ・・・。で、でも、料理は真心っていうし、手作りに意味があるのよね。私だってたまに失敗することはあるわ。それに少し下手っぴの方が愛嬌があるし、これなんてよく見たら虫みたいでかわいいわよね!」

 

「・・・無理にフォロー入れなくていい・・・」

 

「・・・ごめん・・・」

 

二乃の言ってることは間違ってないから、フォロー入れられる方が悲しくなる。それに、今回の件は手作り云々に問題がある。

 

「・・・最近・・・フータローが私の料理を食べてくれない・・・。心当たりはあるし・・・私が不器用なのは、私自身が知ってる」

 

以前私が作ったコロッケ、あれをフータローに多く食べさせて、フータローの腹痛を起こさせた原因。あの一件以来、フータローは私の作る料理をほぼ全部断り続けられてる。自分に落ち度はあるけど、それでも本当にショックだった。

 

「私に落ち度があるのはわかってる。だけど・・・それでも作りたい・・・思わず食べたくなるようなチョコを」

 

それでも諦めたくない。初めてだったんだ・・・私の料理を、おいしいって言ってくれたのは。決めたんだ・・・私は、私の好きなようにやるって。だから・・・今のままじゃダメ。

 

「お願いします・・・おいしいチョコの作り方を、教えてください」

 

私は二乃に誠心誠意を込めて頭を下げて、チョコづくりの教えを乞う。こんな時にまで見栄なんて、張ってる場合じゃない。絶対に、フータローにおいしいチョコを食べてほしいから。

 

「・・・油分と分離してるわね。湯煎の温度が高いせいね。それに、生クリームを冷たいまま使ったでしょ。舌触りが本当最悪。ていうか、それ以前の問題がありすぎだわ」

 

二乃は私のチョコのダメな部分を1つ1つ的確に指摘してきた。

 

「まったく・・・面倒くさいわね・・・。ほら、やるわよ。準備しなさい」

 

「・・・!うん・・・」

 

二乃にチョコ作りを教えてもらうことになって、私は思わず頬が緩んだ。それほどまでに嬉しかったんだ。

 

「まったく・・・本当、面倒な性格ね」

 

二乃はそんな事を言ってるけど、料理を教える時の顔は、微笑んでいたように見えた。私は、二乃に教えてもらいながら、納得のいくチョコを作っていく。フータロー・・・喜んでくれるかな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ピピピピ、ピピピピ

 

「・・・ん・・・ふわぁ・・・」

 

2月14日、バレンタインデー当日。スマホに設定したアラームで私は目を覚ます。チョコ作り、朝までかかっちゃった・・・。おかげで私も二乃も寝不足・・・眠い・・・。でもその甲斐あって、チョコは今までで最高のものになった気がする。早くフータローに渡したいな・・・。そう考えながらは私はリビングに向かう。

 

「!」

 

「あ、おはようございます、三玖」

 

「三玖ちゃんおはよー」

 

「お前も二乃も、何時まで寝てるつもりだよ」

 

リビングに入ってみると、五月と六海、そしてフータローがそこにいた。

 

「ふ、フータロー・・・来てたんだ・・・」

 

「ああ・・・まぁ、ついでな」

 

今日も家庭教師の日。だけど、まだ朝だからフータローはまだ来ないと思っていた。けど、私にとっては好都合。早めにチョコを渡すことができるから。

 

「来るなら来るって言ってほしかった。でもちょうどよかった。実はフータローに渡したいものが・・・」

 

私はフータローにチョコを渡そうと思って冷蔵庫からチョコを取り出そうと・・・え?

 

「あれっ!!?」

 

ない・・・どこにもない・・・私がフータローに渡そうと・・・一生懸命作ったチョコが・・・!

 

「こ・・・ここに置いてあったチョコは・・・?」

 

「え?チョコ?・・・五月ちゃん・・・」

 

「ちょっと!何で真っ先に私を疑うんですか⁉️私じゃないですよ!」

 

六海は真っ先に五月が食べたのではないかと疑ってる。日頃の行いがあれだし・・・六海のカプセルチョコだって全部食べたことあったし・・・。

 

「ああ、あれ三玖が用意したものだったのか」

 

フータローは気がついたような反応をしている。・・・あれ?そういえば、フータロー、今日はチョコ渡してないのに鼻血が・・・

 

「あれなら今日も俺が食っといた」

 

私がフータローに渡そうとしたチョコが・・・フータロー自身が・・・?

 

「あれ手作りだったろ?うまかったぞ」

 

!今、フータローに・・・私のチョコをおいしいって言ってくれた・・・私の作った手作りチョコで・・・。おいしいって言ってもらえたのは、いつ以来だろう・・・。すごく・・・うれしい・・・。

 

「あ、ありがとう・・・。そうなんだ・・・そのチョコは・・・」

 

「三玖。お前にはやはり伝えておくべきだったな」

 

?フータロー・・・?

 

「三玖・・・やはりお前が1番だ」

 

「え・・・?」

 

私が・・・1番・・・?

 

「い・・・一番って・・・それは・・・どう言う意味で・・・?」

 

やばい・・・今すごくドキドキしてる・・・。も、もしかして・・・私のことを・・・

 

「それはな・・・」

 

「それは・・・?」

 

ドキドキドキ・・・

 

「先日行った模擬試験の結果に決まっているさ!見ろ!これがお前の点数、65点だ!お前が1番の成績だぜ!!」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

「・・・あ・・・そう・・・」

 

期待してたのと全然違う・・・。フータローって、やっぱりフータローだね・・・。はぁ・・・期待して損した気分・・・。

 

「いける・・・いけるぞこの全員家庭教師案!これは希望が見えてきたぜーー!!」

 

・・・そうだよね・・・。私たちとフータローの関係は・・・生徒と教師・・・ただそれだけ・・・。・・・決めた。

 

「私、頑張るから・・・見ててね、フータロー」

 

学期末試験でも、私が他の姉妹より1番の成績を収める。そして、私の気持ちを伝えて・・・その関係を終わらせる・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

模擬試験の結果を聞いた後、気持ちを整理するためにリビングで空気を吸う。たまにはこういうのも、悪くないかも。

 

「うー、さむさむ・・・」

 

私が外の景色を眺めていると、一花が帰ってきた。

 

「おかえり、お仕事お疲れ様」

 

「三玖、ここで何してるの?」

 

「・・・一花は・・・フータローにチョコあげないの?」

 

「!」

 

私は一花にたいして気になっていることを聞いてみた。

 

「ど・・・どうしたの?急に・・・」

 

「いいから」

 

「チョコって言うと、バレンタイン、だよね?」

 

「うん」

 

「・・・そりゃ、誰もあげなかったらかわいそうだし、お姉さんが買ってあげようと思ったけど・・・三玖があげたんなら、安心だね」

 

・・・安心?

 

「安心って・・・何が?」

 

「え・・・」

 

やっぱり・・・未だに一花は私のことを気を使ってる・・・。そういうの、いらないのに・・・。

 

「そもそも誰もあげてないって考えが間違ってる。今日、六海もフータローにチョコ渡してた。いつものあのチョコだけど」

 

「えっと・・・それは・・・」

 

「それに、フータローは私たちのことを全然女子として見てない。フータローにとって私たちは、ただの生徒」

 

「三玖・・・」

 

「だから決めた。この期末試験で赤点回避する。しかも6人の中で1番で。そうやって自信をもってフータローの生徒を卒業できたら・・・今度こそ、フータローに好きって伝えるんだ」

 

これが私の決めたこと・・・。今のままでは・・・フータローに、1人の異性として、見てもらえないから・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

学期末試験終了後の3月9日。今日、テストが返されてきた。

 

私は・・・一花や六海を待ってあげない。全員・・・平等じゃなくて、公平に・・・。早い者勝ち、だから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖の試験結果

 

国語45点

数学46点

理科43点

歴史74点

地理49点

英語32点

 

総合点289点

 

結果:合格

   たいへんよくできました!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『最後の試験が四葉の場合』

 

「それでは、試験を開始します」

 

今まで失敗続きの私だけど・・・勉強の神様、どうか今だけは私に力を貸してください!!だって・・・あんなにみんなで頑張ったんだから・・・絶対に成果を上げないと、みんなに顔向けができない!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

試験勉強が本格的に始まって1ヵ月が経った2月4日。先日、みんなの集中力が途切れて、問題に集中できなかったことを危惧した上杉さんは時には飴を、ということで今日みんなで遊園地に連れてきてもらいました。上杉さんのそのお心遣いはありがたいのですが・・・今の私に、そんな遊んでる余裕なんか、これっぽっちもないので内心焦りが生じてます。だって私、おバカですから!

 

「次はあれに乗りましょう!あれに!」

 

「また絶叫形かぁ・・・まぁ、五月ちゃんがいいならいいけどね」

 

そんな私の気持ちとは逆に姉妹たちは遊園地を心行くまで楽しんでます。

 

「みんなも乗りましょうよ」

 

「アタシは嫌よ。怖いじゃない」

 

「私も嫌」

 

「六海もやだよ。せっかく新調したメガネが飛ばされたらたまんないもん」

 

「つーか、好き好んで絶叫形に乗るのはお前らくらいだろ」

 

「うー・・・」

 

「みんなノリ悪いなー」

 

五月が乗ろうとしている絶叫マシーンにみんなを誘ってましたが、一花以外全員乗ろうとしません。そんな事より私は早く勉強したいです・・・。・・・て、五月がこちらをじっと見つめています。

 

「四葉はどうですか?こういうのは割と得意ですよね?行きましょうよぉ・・・」

 

ああ・・・やめて・・・そんな風に見つめられたら断るに断れないからやめて・・・。

 

「ダメ・・・ですか・・・」

 

「うぅ・・・わかったよ・・・1回だけだからね?」

 

結局私は五月の甘えたような瞳に負けてしまい、絶叫マシーンに乗ることにしました。その時の五月の顔はパァっと笑顔になっていました。・・・早く勉強したいなぁ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

絶叫マシーンから降りた後でも、メリーゴーランドに乗ったりなどしましたが、これでいいのかなという気持ちが出ていました。今日1日だけお休みとはいいますが、私は不安です。私は、姉妹の中でも1番おバカですし・・・また試験に落ちたら、なんて思うといても立ってもいられなせん。

 

そんな思いもあって、私は『お腹が痛いからおトイレに行く』という内容のメールを三玖に送り、みんなから離れて、1人で観覧車に乗って、勉強をすることにしました。もうこれ以上私のことでみんなに迷惑をかけたくなかったし・・・もう二度と同じ失敗はしないって決めたから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「ええ⁉️もう一周ですか⁉️」

 

観覧車は1周を回ってしまい、普通なら降りなければいけません。ですが、1周回った程度ではとても勉強したとは言えません。私はスタッフさんに頼んでもう1周するように頼み込みます。

 

「お願いします!」

 

「並んでるお客さんもいないのでいいですけど・・・一体何周するつもりなんですか⁉️」

 

スタッフは仕方ないと言わんばかりに承諾・・・

 

「すみません、俺乗りまーす」

 

「え⁉️」

 

うぇ⁉️こ・・・この声は・・・

 

「すみません!今別のお客様が・・・」

 

「大丈夫です。俺の連れなんで」

 

お構い無しと言わんばかりに私の乗ってる観覧車に入ってきたには・・・

 

「相乗り。別にいいだろ?」

 

「ど、どうぞ・・・」

 

みんなと一緒に行動してたはずの上杉さんでした。な、何でここにいるってわかったの⁉️

 

♡♡♡♡♡♡

 

上杉さんが乗り込んできたところで、観覧車はゆっくりと回っていきます。しかし・・・今とっても気になることがあります。

 

「うーん、どうして見つかったのでしょう?バッチリ隠れてたはずなんですが・・・」

 

ここの観覧車なら、隠れられると思ったんですが・・・何ででしょう?

 

「だって見えてたからな、そのウサリボン」

 

「ああ!!体隠してリボン隠さずですね!!」

 

なるほど!私のこのデカリボンがあったらそりゃ見えますね!失敗失敗・・・にしし・・・

 

「!なんだ、ここで勉強してたのか」

 

あ・・・ついでに私がここで勉強してたのもバレちゃいました。

 

「はい・・・六海には個人じゃなくて全員の問題って言われましたけど・・・私はみんなより体力があるのでまだやれると思ったんです」

 

「お前らしいな」

 

「それに、ここだけの話、実は、私は姉妹の中で1番おバカなんです!」

 

「それはみんな知ってる。だがな、せっかく与えた休日なんだ。今日くらいは休め。貯金をはたいてまで来た遊園地なんだ。羽を伸ばさなきゃ損だろ」

 

「そういうわけにもいかないんです。私が1番頑張らないと・・・。それに上杉さんは知りませんよ・・・私が・・・どれだけのおバカなのか」

 

「・・・訳アリみたいだな」

 

私の顔を見て、上杉さんはいろいろと事情を察しましたね。

 

「私たちが旭学園に転校してきた理由をご存知ですか?」

 

「ああ・・・。この前一花から聞いたぞ・・・。落第寸前だったんだな・・・」

 

「あはは・・・まぁ、その通りですが」

 

私たちが旭学園に転校してきた経緯を上杉さんに話します。

 

「私たちが前にいた高校・・・黒薔薇女子学院というんですが・・・そこはいわゆる名門というところでして・・・試験に落ちれば落第なんて珍しい話ではありませんでした」

 

「そういや・・・春も確かそこだったな・・・」

 

「成績の悪い私たちは当然落ちるのですが・・・」

 

「当然落ちるな」

 

「追試のチャンスが与えられたのです。もちろん、みんなで勉強して再起を図りましたが・・・」

 

実際私の場合は再起したのかどうか、ものすごく怪しいところではありますが・・・みんなは真剣でした。だからこそ申し訳ないんです。

 

「・・・!四葉、まさか・・・お前だけ・・・落ちたのか?」

 

「・・・・・・さすが、上杉さんは何でも正解しちゃいますね」

 

やっぱり直接言われるときついですね・・・。そう、あの試験に落ちて落第してしまったのは私だけ。他の姉妹はみんな合格しました。本当ならみんな、あの黒薔薇女子に残るはずだったんです。

 

「・・・お前1人だけ落ちたのに姉妹全員が転校してきたってことは・・・」

 

「はい。みんな私についてきてくれたんです。いやな顔1つせずに」

 

「例の、6人でいることが重要とかいう教えか・・・。なるほどな・・・お前の行動にも納得だ」

 

その教えが私の支えであり・・・あれがあったからこそ、今の私が成立しているんです。だからこそ、私がまた試験に落ちてしまったら、その意味がなくなってしまうんです。だからこそ誰よりも勉強しなくちゃいけなかったんです。

 

「だからお願いです・・・今は少しでも勉強させてください。もう足は引っ張りたくないんです」

 

私は少しでも勉強ができるように上杉さんに頭を下げます。

 

「・・・ダメだ。今日は休日だって言ったろ。休める時には休んだ方が効率がいいに決まってる」

 

ああ・・・やっぱり・・・そうですよね・・・そう言われる気がしたから、隠れて勉強してたのに・・・。

 

「・・・と、言いたいところだが、残り半周。今は手持ち無沙汰だしな・・・。やることもないし暇だから・・・やるか。マンツーマン授業」

 

!!それってつまり・・・私の勉強に付き合ってくれる・・・ということですか!

 

「い・・・いんですか⁉」

 

「特別だ。ただし、他の姉妹には秘密な」

 

「は・・・はい!!」

 

上杉さん・・・ありがとうございます。マンツーマン授業かぁ・・・なんだか学校で2人きりの勉強会を思い出します。

 

「くくく・・・いい機会だ!昨日教えきれなかった国語の文章問題!今度こそ理解させてやるぜ!!」

 

「あ、それは結構です。大丈夫です」

 

「えぇー・・・」

 

「昨日ちゃんとできるようになりましたから!」

 

上杉さんはみんなができなかった国語の文章問題を私が先に解いた事にぽかんとしています。

 

「・・・マジで?」

 

「マジです!」

 

「・・・ちょっと見せてみろ」

 

「はい!どうぞ!」

 

疑っている上杉さんに私は昨日出来上がった国語の文章問題の答えを上杉さんに見せます。

 

「・・・本当だ・・・。他の姉妹に教えるのにはあんなに苦労したのに・・・」

 

ししし、意外そうな顔をしていますね、上杉さん。私だってやればできるんです!えっへん!

 

「・・・ん?待てよ・・・?・・・!そうか・・・これなら・・・」

 

「上杉さん?」

 

「四葉!!」

 

「んなぁ!!?」

 

ひぇっ!!?う、上杉さんが急に私の肩を掴んで、近づいてきたぁ!!?

 

「な、何をするつもりなんですか!!?確かに頂上で絶好のタイミングですが・・・まさかマンツーマンじゃなくてマウストゥーマウスをしようだなんて!!?お、お正月のあのキスは事故でして・・・!!そのせいで三玖や六海に殺すような目で睨まれたんですからね!!」

 

「何言ってんだお前・・・そういうあれじゃねーよ」

 

え・・・?違うのですか・・・?じゃあ何をするつもりなのですか・・・。

 

「試験突破の光明が見えてきたぜ」

 

・・・?光明・・・?

 

「・・・?どういうことでしょう?」

 

「俺には教師のノウハウがねぇ。1対6じゃ限界がある・・・お前らの親父は正しい。だがその正しさがポイントだ」

 

「???」

 

「俺1人ではなく、二人体制ならなんとかなるかもしれねぇぞ」

 

「・・・えーっと・・・おバカな私でも分かりやすく説明を・・・」

 

「四葉、国語はお前も教えるんだ。俺と一緒にな」

 

「え・・・」

 

私が・・・国語を・・・教える・・・おバカな・・・私が!!?

 

「無理無理無理無理!!!」

 

「無理じゃねぇ!よく聞け!」

 

いやだって!だってですよ⁉️おバカな私にいったい国語の何を教えればいいんですか⁉️

 

「今までのテスト結果から姉妹でも各々得意科目があるのは気づいてた。一花なら数学、二乃なら英語・・・三玖は歴史、五月は理科、六海は地理・・・そして四葉、お前は国語が得意なんだ」

 

「私の・・・得意科目・・・」

 

「難しく考える必要はない。何も特別なことはしなくていい。お前が感じたままに言えば伝わるはずだ。お前ができるなら、他の5人もできるはずだ。六つ子だからな」

 

私が・・・感じたままに・・・

 

「・・・おバカな私がみんなの役に立てるのですか?」

 

「至らぬ教師ですまないな。これからは全員生徒で全員家庭教師だ」

 

「おバカな私にできることがあるんですか?」

 

「そうだ。お前にしかできない仕事だ」

 

「もう足を引っ張るだけの私じゃないんですか?」

 

「ああ。今度は・・・お前がみんなの手を引いていくんだ」

 

上杉さんは自信をもってそう言いました。私が・・・みんなの手を・・・。こんなおバカな私でも・・・みんなの役に立てられる・・・。

 

上杉さん・・・ありがとうございます。私・・・自信が湧いてきました。私にも、できることがあるってわかりましたから。

 

「任せてください!!私が必ずや、5人を合格に導いてみせます!!」

 

「おいおい、お前が最優先だっていうのを忘れるなよ・・・」

 

学力的に致命的ですが、上杉さんの提案によって、私の中の不安は不思議と和らいでいきました。

 

残り半周の中で上杉の授業を受けた後は7人で楽しめるアトラクションで休日の幕を閉じました。

 

そしてその後日に、さっそく全員家庭教師案が実施されました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

期末試験終了後の3月9日、今日は答案用紙が返却されました。テストの結果には、私自身も驚いています。

 

「四葉!結果は・・・どうだった?」

 

試験結果が気になってた上杉さんがわざわざ私のところに来ました。

 

「上杉さん・・・すみません」

 

私は上杉さんに向けて頭を下げてしゃざいしました。

 

「実をいうと・・・姉妹に教えてもらった方がわかりやすい時もありました。不出来な生徒ですみません・・・。そして、ありがとうございます」

 

「と、いうことは・・・」

 

「私・・・初めて報われた気がします」

 

私の人生は失敗ばかりでした。そんな私が今・・・成功を成し遂げたと思うと・・・涙が止まりません・・・。

 

これも上杉さんのおかげです・・・。本当に・・・ありがとうございました・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉の試験結果

 

国語53点

数学33点

理科32点

歴史34点

地理32点

英語32点

 

総合点216点

 

結果:合格

   たいへんよくできました!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『最後の試験が五月の場合』

 

「それでは、試験を開始します」

 

お父さんとの約束のこともありますが・・・私が見つけた私自身の夢のため、まずはこの試験を通って進級しないことには話になりません。この試験・・・何が何でも合格してみせます!

 

♡♡♡♡♡♡

 

試験勉強が始まって1週間が経った1月14日。今日は私はただ1人で墓地に来て、お母さんのお墓参りをしております。お母さんの本来の命日は8月14日ですが・・・私は毎月14日には、こうしてお母さんのお墓参りに来ております。けれど・・・時々不安になることがあります。

 

「お母さん・・・。私は・・・お母さんのようになれるのでしょうか・・・」

 

お母さんが亡くなって以来、私は姉妹を纏めると決めました。ですが・・・結果はいつも空回り・・・。中学生の時も・・・二乃との喧嘩の時も・・・。こんなことではいけないとは、わかってはいるのですが・・・。

 

「お?珍しいな。先客がいるなんて」

 

私が思い更けていると、物珍しそうな声が聞こえてきました。私がそちらに視線を移すと、そこにはスーツ姿でメガネをかけた黒髪の短髪の女性が立っていました。この人もお墓参りでしょうか。

 

「え、えっと・・・初めまして・・・」

 

「うげっ!!?」

 

女性の方は私の方を見ると苦手な人に出会ったみたいな反応をしました。

 

「せ・・・先生・・・?」

 

・・・え?先生って・・・私のことを指しているのですか・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「わっはっは!いやぁ、悪ぃ悪ぃ!お嬢ちゃんがあまりに先生にクリソツだったから間違えちまった!よく考えたら先生はとっくの昔にくたばってたわ!」

 

私は墓地で出会ったこの人・・・塾の講師をしている下田さんに連れられてケーキ屋さんRevivalまでやってきていますが・・・驚くことばかりで私は少しぽかんとしています。

 

「おっと娘さんの前で言うことじゃねぇな!許してくれ!昔から口が悪くて先生によく叱られたもんだ!」

 

唖然としている私とは別に、下田さんは愉快そうに笑っています。

 

「ここで会ったのも何かの縁だ!先生への恩返しってことで好きなだけケーキを奢ってやるよ!」

 

「す・・・好きなだけ・・・」

 

な、なんという魅力的な提案なのでしょう・・・。ですが・・・なんだか申し訳ないです・・・。

 

「遠慮すんな!ここのケーキはうめぇぞ!店長はちょっと感じ悪いがな!」

 

「言われてますよ~、店長~」

 

「言わないでくれ・・・」

 

「で・・・では・・・お言葉に甘えて・・・」

 

私は下田さんのお言葉に甘えて好きなケーキを注文します。ここのケーキ、以前春さんと真鍋さんの孤児院でお世話になった時、クリスマスイヴの時に食べましたが本当においしかったです。だからどれにしようか悩んじゃいますね。

 

・・・それにしてもこの下田さんという方・・・どこかで会ったでしょうか?初めて会ったはずなのに・・・不思議とそんな感じはしないのですが・・・。うんうんと首を捻っていますとふと、六海がお世話になった方、MIHOさんの面影が重なりました。よく見てみれば・・・やはり似ていますね・・・。・・・ここに来るまでに話した下田さんの話が本当なら・・・もしかして・・・

 

「あの・・・下田さんが話してた妹とは・・・MIHOさん、ですか・・・?」

 

「お、よくわかったな!あいつが私の妹だ!」

 

やはりそうでしたか・・・どうにも少し雰囲気が似ていましたからもしかしてと思いましたが・・・MIHOさんのお姉さんでしたか・・・。

 

「なんだお嬢ちゃん、あいつの知り合いだったのか!」

 

「い、いえ・・・私ではなく、私の妹がお世話に・・・。その際に少し」

 

「・・・てことはあいつが言ってた妹ちゃんの姉貴がお嬢ちゃんってことか!こいつはまぁ不思議な縁があるもんだなぁ!」

 

確かに・・・。六海がお世話になった人のお姉さんとこうやって知り合うとは・・・世の中何があるかわかりませんね・・・。・・・ということはです・・・。

 

「あの・・・ということは・・・お2人はお母さんの・・・」

 

「ああ!元教え子だな!お母ちゃんには何度ゲンコツをもらったか覚えてないね!」

 

「そ・・・それです!」

 

「ん?」

 

「お母さんがどんな人だったのか教えていただけませんか?」

 

下田さんがお母さんが所属してた学校の教え子だったのなら・・・きっと・・・私の知らないお母さんのことを聞けるかもしれません。

 

「あいつからなんも聞いてねぇのか?てかそれ以前に覚えてないのか?5年前だから・・・結構大きかっただろ?」

 

「ええ・・・そうですが・・・私は家庭でのお母さんしか知りません。MIHOさんに聞こうにも・・・少しバタバタしていましたし、あの人がお母さんの生徒ということも知りませんでした」

 

私たちはお母さんが教師であることは知ってはいましたが、その当時はまだ小学生でしたし、お仕事云々のお話をすることはありませんでしたので、教師としてのお母さんを知る機会は1度もありませんでした。

 

「お母さんが先生としてどんなお仕事をしていたのか、知りたいのです」

 

「ふーん・・・。まぁ、聞きてぇならいくらでも話してやれるが・・・何分先生とは高2の1年間しか思い出がねぇ。それでもいいか?」

 

下田さんの問いかけに私は了承の意味を込め、首を縦に頷きます。それを見た下田さんは当時高校2年生の下田さんから見たお母さんを話してくれました。

 

「先生は・・・そうだなぁ・・・私やMIHOが少々・・・おてんばだったからかもしんねぇが、とにかく怖ぇ-先生だったな」

 

お母さんが怖い、ですか・・・。確かにお母さんは怒る時は怖かったですね・・・。

 

「愛想も悪く生徒にも媚びない。学校であの人が笑ったところを1度も見たことがねぇ」

 

「はは・・・さぞ生徒さんには怖がられたのでしょうね・・・」

 

「いーや・・・それが違うんだよなぁ・・・」

 

私が苦笑しながらそう言うと、下田さんは少し困ったような表情になりました。

 

「どんなに恐ろしくても、鉄仮面でも許されてしまう。愛されてしまう。慕われてしまう。先生はそれほどまでに・・・めちゃ美人だった

 

「・・・!めちゃ美人・・・!」

 

「ただでさえ新卒で私たちと歳が近い女教師でしかも超絶美人。それだけで同学年のみならず学校の全ての男子はメロメロよ」

 

「め・・・メロメロですか・・・」

 

聞けば聞くほどお母さんがすごい人だというのがひしひし伝わってきます・・・。お母さんは確かにきれいな人でしたが・・・まさかそこまでの域を行くとは思いませんでした・・・。

 

「・・・ま、それは言わずもがなだな!お嬢ちゃんも先生似だし、案外いけるんじゃねーか?」

 

「わっ・・・⁉そ、そんなことありません!私なんてそんな・・・」

 

私がそんな・・・お母さんには遠く及びませんし、何より恐れ多いです・・・。

 

「あの人の美しさは学生のみならず教師にまで轟いたものさ。ファンクラブもあったくらいだしな。とにかく女である私やMIHOまで惚れちまうほどの美人だった」

 

「下田さんやMIHOさんまで・・・」

 

「あの無表情から繰り出される鉄拳に私ら不良は恐れおののいたもんだ。こっちの言い分もまるで聞く耳なし。まさに鬼教師だ。だがその中にも先生の信念みたいなもんを感じて・・・いつの間にか見た目以上に惚れちまってた」

 

下田さんの話を聞けば聞くほど、私は教師という職にとても魅入っていました。

 

「結局1年間怒られた記憶しかねぇ。いい思い出も1個もねぇな。ただ、あの1年間がなかったら・・・MIHOは漫画家にはならなかったし・・・私も・・・教師に憧れて、塾講師なんてなってねーだろうな」

 

六海を救ってくれた恩人であるMIHOさん。そのMIHOさんを導いてくれたのはお母さん。そして、お母さんに憧れて塾の講師となった下田さん・・・。それが・・・現在までに至る・・・お母さんが歩んできた道のり・・・。

 

「下田さん、ありがとうございます。下田さんの話を聞けて、踏ん切りがつきました」

 

話を聞き終えて私は、かばんから進路希望調査書を取り出します。

 

「学校で進路希望調査が配られたのです。下田さんのようにお母さんみたいになれるなら・・・やはり私にはこれしかありません!」

 

下田さんがお母さんに憧れて塾講師になれたのです。だったら、私にだって、お母さんのようになれる。そう思って進路希望調査書に第1志望を書きます。

 

ガッ

 

「・・・え?」

 

私が第1志望を書こうとしたら、下田さんがフォークで私のペンを突き刺して止めてきました。

 

「ちょいと待ちな。母親に憧れるのは大いに結構だ。憧れの人のようになろうとするのも決して悪いことじゃない。実際私もそうだしな。だがお嬢ちゃんは教師になりたいんじゃなくて・・・お母ちゃんになりたいだけなんじゃないか?」

 

「!!!」

 

「そいつはやりたいこととは到底言えないんじゃないか?なりたいだけなら、教師に拘らなくても、他にも手はあるさ」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ま、とはいえ、人の夢に口出しする権利は誰にもねえさ。生徒に勉強を教えるのも楽しいし、やりがいがあっていい仕事だよ。お嬢ちゃんが教師になるっていうなら目指すといいさ。・・・『先生』になりたい理由があるなら、な」

 

「・・・私は・・・」

 

下田さんの的をついたような発言に、私は何も言い返せませんでした。お母さんとしてではなく・・・本当に先生になりたい理由・・・。教師という職は確かに素晴らしいお仕事ですが・・・心の奥底からなりたいのか、と言われると・・・正直、よくわかりません・・・。なろうと思ったのは、お母さんみたいになれると思っただけで・・・先生としてと言われても・・・教えの経験がないので、実感がわきません。

 

「おっと、こんな時まで説教だなんて・・・先生としての悪いところが出ちまったな。悪かったな、えらそうなこと言って」

 

「い、いえ・・・貴重なお話、ありがとうございました」

 

「これも何かの縁だ。連絡先交換しようぜ」

 

お話の後、私と下田さんはお互いの連絡先を交換し合いました。

 

「お母ちゃんの話が聞きたくなったらいつでも話してやる。またどこかで会おうぜ」

 

下田さんはかばんと伝票を持って、会計を済ませてお店から去っていきました。お母さんとしてではなく、先生として・・・。私が、本当に目指したいものとは、なんなのでしょう・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

下田さんと出会ってから3週間後の2月4日。上杉君から今日から全員家庭教師案が発表され、さっそくそれを実施しているところです。実際のところ、いい傾向に進んでいると思います。問題の解説が苦手な六海も地理に関しては誰よりも群を抜いていましたし、何よりわかりやすかったですし。

 

時間が経ち、次は理科の授業・・・理科担当は私です。私は現在、わからないところは上杉君に教えてもらいながら、姉妹が苦戦している問題の解き方を四葉に教えている最中です。それはそうと・・・

 

「わっ!すごいわかりやすいよ!五月、ありがと!」

 

この気持ちはいったいなんでしょう・・・私が教えたことを理解してくれた喜びでしょうか?私が教えている相手から感謝をされた喜びでしょうか?それとも、誰かに勉強を教えていくことへの楽しさなんでしょうか?・・・いいえ、おそらくその全てなのでしょう。私は今までこれほどまでの気持ちを味わったことは、1度もありませんでした。お母さんも・・・このような気持ちを、経験したのでしょうか。

 

・・・見つけた・・・私が、本当に目指したいものを・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

10日が経って2月14日。私は今月もお母さんのお墓参りに来ています。今日は不思議と今までの不安はありません。お母さんに私の見つけた夢を教えたい気分でした。

 

「本当に毎月いるんだな。墓なんて全部同じで見つからないと思ってたが・・・いい目印があったな」

 

私がお線香をあげていると、上杉君がやってきました。

 

「上杉君・・・なぜここに・・・?」

 

「いや・・・お前らのお袋に挨拶をと思っただけだ」

 

どうやら上杉君は私たちのお母さんに挨拶をしにお参りに来たようですね。上杉君も律儀ですね・・・。初めて会った時には考えられなかったことですね。

 

「俺なんて、必要ないと思うが、一応な」

 

「いいえ、きっとお母さんも喜んでくれますよ。どうぞ」

 

「お、おう」

 

上杉君はお母さんのお墓の前に立ち、手を合わせて会釈をします。

 

「・・・全員家庭教師案ですが、いい傾向にあります。教わる以上に教えることで租借できることもあると実感しました。もっと早くにすべきでしたね、全員家庭教師案」

 

「そうだな・・・って、俺なんて必要ないと言いたいのか?初めて会った時みたいに」

 

「ふふふ、違いますよあなたに教わったことを噛んでいるんですよ。感謝してます」

 

「・・・そうか」

 

少なくとも上杉君と出会っていなければ、誰にかに勉強を教えることはなかったですし、何より、私の目指したいものも、見つからなかったかもしれません。

 

「教えた相手にお礼を言われるのはどんな気持ちですか?」

 

「なんだよ、恩着せがましいな」

 

「私は・・・あの時の気持ちを大切にしたいです」

 

私は・・・あの時四葉に言ってもらった感謝・・・そして、誰かに勉強を教えることの楽しさを、決して忘れたりはしません。今も・・・そして、これからも・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

期末試験終了後の3月9日、今日は私の答案用紙が返却されました。

 

お母さん・・・私・・・進みたい道がわかりました。私は・・・その道に向かって、前に進みます。お母さん・・・私は・・・教師を目指します。

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月の試験結果

 

国語45点

数学35点

理科72点

歴史34点

地理45点

英語40点

 

総合点271点

 

結果:合格

   たいへんよくできました!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『最後の試験が一花の場合』

 

「それでは、試験を開始します」

 

余計なことを考えちゃダメ・・・。今は赤点を回避することだけに集中しよう・・・。余計なことを考えちゃダメ・・・考えちゃ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

試験勉強が本格的に始まった1月8日の夜。私は少し妙に寝付けなくて少し困っていた。少し小腹もすいてくるし・・・。このまま黙ってても眠れないから私はみんなを起こさないようにキッチンの方へ向かう。

 

「六海の知り合いにお料理が上手な人がいるんだった!」

 

おっと、先客がいたか・・・。キッチンにいるのは・・・三玖と六海?何の話をしてるんだろう?

 

「その人に教えてもらったらどうかな?」

 

教える?教えるって料理かな?そういえばなんか甘い香りが漂ってくるような・・・。・・・ああ、そっか。来月はバレンタインだっけ?そんなこと、今まで意識したことなかったよ・・・。どうしよう、私もフータロー君にチョコ渡そうかなぁ・・・。でも・・・そうしたら三玖、悲しむかなぁ・・・。

 

・・・うん、やっぱ邪魔しちゃダメだよね。三玖は三玖のやりたいようにやりたいようにやればいい。私がつけ入る余地なんて、どこにもない。そう思って私は寝室に戻って、六海の睡眠薬を使って今日は無理やりにでも眠ることにした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

1月29日。六海の話が正しければ、今日は三玖が二乃からチョコ作りを教わる日。私は窓からこっそりとその様子を見つめている。・・・お、やってるやってる・・・。ふふふ、六海も粋な計らいをするじゃん。お菓子作りなら二乃の十八番だからね。これなら三玖はバレンタインチョコを渡せるわけだ。

 

「ふふ、いくら鈍感で鈍ちんなフータロー君でもビックリするだろうなぁ・・・」

 

チクッ

 

私が三玖のことを思うのとは別で、フータロー君のことになると、なぜか胸が刺されたように痛む・・・。本当、どうしてフータロー君のこと、意識しちゃうんだろう?

 

「・・・はぁ・・・なんで好きになっちゃったんだろう・・・」

 

林間学校の時からだよ、私がフータロー君を意識しちゃったのは・・・。しかも、先日の映画の撮影以来、余計にフータロー君を意識しちゃうし・・・

 

「・・・なんだ一花・・・蹲ってどうした?大丈夫か?」

 

「~~~~!!?」

 

ふ、フータロー君⁉な、なんでここに⁉今日は学校で勉強会のはずじゃあ・・・⁉

 

「フータロー君⁉ど、どうして・・・」

 

ドンッ、カツーンッ!

 

「痛っ!」

 

「何してんだ、お前・・・」

 

「やば・・・」

 

驚きすぎて鉄柵に聞き手を当てちゃった・・・。それより、三玖や二乃に気付かれてないよね?

 

「そ、それよりどうしてここに?」

 

「四葉が参考書を家に忘れたっていうから俺が取りに・・・」

 

「あ・・・あー!それこの前私が捨てちゃったかも!」

 

「はあ!!?お前何してくれ・・・」

 

「い、今から買いに行くからついてきて!ほら、行こ!」

 

「お、おい!」

 

私は三玖や二乃にバレないうちにフータロー君を無理やり連れて本屋へと向かっていく。もー・・・どうしてこうなるのかなぁ・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

本屋にたどり着いた私は現在の貯金を確認する。実際参考書、捨ててなかったのになぁ・・・変な言い訳しなきゃよかった。ただでさえ家賃でお金がやばいのに・・・トホホ・・・。

 

「お、あったぞ。これだ。一花、結構いい値段だが金は大丈夫か?」

 

!!ふ、フータロー君・・・もう見つけてきたんだ・・・というより・・・近づきすぎ・・・///

 

「え、えっと・・・心配しなくて大丈夫!じゃあ、これ、買ってくるよ!」

 

「おう」

 

あまりにいたたまれなくて私は参考書をもって会計に・・・?おや?フータロー君の手には別の本が?

 

「おや?そっちの本は?」

 

「いや、これは・・・別にいい・・・」

 

む・・・そう言われると逆に気にな・・・はっ!ま、まさか・・・

 

「ま、まさか本当にエッチな本とか⁉️」

 

「お、おい!」

 

男の子ならそういうの買うだろうなって思ってたけど・・・本当に・・・?

 

「ん?エッチ?今エッチな本って誰か言ったかな?」

 

「な、何でもないですよ!さあさ、行きましょう!!」

 

あれ?今六海の声が聞こえたような・・・誰かと一緒なのかな?あれ?そもそも六海、勉強会に参加してたんじゃ・・・やっぱり人違いかなぁ?

 

「ん?今六海の声が・・・」

 

「き、気のせいなんじゃないかな⁉そ、それよりその本は何かな⁉」

 

そんなことより今はフータロー君が持ってる本!それが気になる・・・!エッチな本だったら黙ってるわけには・・・

 

「いや・・・これは・・・まだ買うと決めたわけではないが・・・」

 

よく見てみるとフータロー君の持ってる本はいい教師になるためのいろはって書いてある。なんだ・・・教師になるための参考書か・・・。

 

「へ~、いい先生になりたいんだ~?」

 

「う、うっせ!別にいいだろ!」

 

少しからかってみると、フータロー君は照れてる。結構かわいいところあるじゃん。よし、そんなフータロー君のために買ってあげようかな。

 

「照れないの。どうせだし、参考書と一緒に買ってあげるよ」

 

「これくらいなんとかなる。自分で買えるって」

 

「遠慮しないで。もしかしたら、今度こそ落第するかもしれないし」

 

「落第なんてさせねぇ・・・って・・・ん?今度こそ?」

 

「あれっ?言ってなかったっけ?」

 

「聞いてないっていうか・・・話すらしてなかったな」

 

んー?そうだったっけ?まぁでも、フータロー君になら、少しは話してもいいか。

 

「私たちの前の学校の期末試験に落ちちゃって・・・落第寸前に立たされちゃってね」

 

「お前らならあり得る話だな」

 

「で、その追試のことでちょっと問題が発生しちゃってさ・・・そのことをみんなで話し合った結果、転校しようってことになったんだ。三玖と六海が前の学校を嫌う理由がそれ」

 

「そうだったか・・・。なら、前の問題のことは、深くは尋ねないでおこう」

 

私たちの転校事情を聞いたフータロー君は納得した表情になっている。問題のことについて訪ねないのは、フータロー君の優しさ、かな?

 

「まぁだからね、これはあくまで赤点回避のための出費だからってことで、納得してくれないかな?」

 

「む・・・まぁ・・・それなら・・・仕方ねぇな・・・。じゃあ、これよろしく」

 

「うん。オッケー。じゃあ支払いしとくから、その辺ぶらぶらしといて」

 

「一花」

 

「?」

 

フータロー君から本を受け取って参考書と一緒に会計しようとしたら呼び止められた。なんだろう?

 

「この際だから言うが、実はお前が姉妹の中で1番器用で飲み込みも早い」

 

「え?そうかな?」

 

「ああ。仕事と両立を保てているのが何よりの証拠だ。今まで試験落ちっ放しだったが・・・今度こそ、合格するぞ!お前たちならできる!」

 

「!・・・うん。やるだけやってみるよ」

 

フータロー君に期待されてる・・・。なら、その分私も頑張らないとね。何より、転校がかかってるもんね。前の学校はダメだったけど、今の私たちなら、きっと・・・合格できるよね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

とりあえず参考書と教師のいろはを買ったけど・・・本当に高かったよ・・・。貯金もギリギリなのに、お姉さんぶって見栄を張っちゃったかも・・・。・・・でも、これならフータロー君も喜んでくれるよね・・・?

 

・・・・・・って!ダメダメ!私がこんな気持ちを抱いたらダメ!こんな関係絶対間違ってる!だって・・・もし私たちが付き合っちゃったらこんな風に私が貢いじゃって、フータロー君がダメ男になっちゃうのが容易に想像できるもん・・・。

 

だから・・・私のこの恋は諦めよう。うん、これが正解。そうすれば、誰も傷つかないしね。さて、早くフータロー君のところに・・・

 

「な、中野さん!」

 

「あ、水澤君に谷田部君」

 

「ぷ・・・プライベート中野さんだ・・・!」

 

フータロー君のところに戻ろうとしたら私のクラスの同級生の水澤君と谷田部君とばったり会っちゃった。

 

「こんな所でお会いできるなんて・・・!」

 

「しかも名前まで覚えてくださってるなんて・・・感激です!」

 

「まぁ、同じクラスだしね・・・あ、でも私って、クラスのみんなのお誘いをほとんど断っちゃってるし、そう思われても仕方ないかな?ごめんね?」

 

とんでもない!!!むしろありです!!!

 

中野さんは俺らみたいな下界の人間とは別次元のお方ですから!!!

 

おわっ⁉この2人、ぐいぐいと来てるなぁ・・・。なんていうか・・狂信的、みたいな・・・。それだけ慕われていたなんて思わなかったなぁ・・・。

 

「今日は何をしに・・・」

 

「バカ、本を買いにきたに決まってんだろ?」

 

そんな私が映画で何度も殺されてるなんて、誰も思わないだろうなぁ・・・。私が女優業をしてるってことをまだ学校でバレてないのは小さな映画しか出演してないからなんだろうけどね。うーん・・・こうやって慕ってくれるのはうれしいんだけど・・・女優として見られてないのは・・・うれしいような悲しいような・・・複雑な気分・・・。

 

ズキッ

 

ん?なんか利き手に痛みが出たような・・・。気になって利き手を見てみたら、手に甲が腫れてた。なんで・・・て、しまった・・・あの時アパートでできたやつかぁ・・・。しくったなぁ・・・。

 

「「( ゚Д゚)」」

 

て、あれ?水澤君と谷田部君、なんかムンクみたいな顔になってるような・・・。

 

「な・・・ななな、中野さんのお美しい手が!!」

 

「だ、だだだ、大丈夫ですか⁉」

 

「え・・・あ・・・」

 

水澤君と谷田部君は私の腫れた手を見て、大袈裟な反応をしてる。

 

「いやぁ・・・このくらい大したこと・・・」

 

「少々お待ちください!!!今救急車をお呼びします!!!」

 

「すみません!!!このお店にどなたかお医者さんはいませんかー!!!」

 

「もー!大袈裟!」

 

いや、大袈裟にもほどがあるってこれ!私を心配しての行動なんだろうけど、これはやりすぎ!他の人に迷惑だし、何より恥ずかしすぎるって!

 

「わ、私急いでるからもう行くね。2人とも、また学校で」

 

「「ああ!中野さん!どこへ!!?」」

 

大事にならないように私は速足で水澤君と谷田部君から離れる。なんていうかもう・・・どっと疲れちゃった・・・。心配してくれるのはうれしいけど・・・あれだけはどうにかならないのかなぁ・・・。・・・まぁ、考えても仕方ない。フータロー君は・・・あ、いたいた。

 

「おーい、フータロー君」

 

「お、買ってきたか。サンキュー」

 

「フータロー君はもういいの?買うもの買ったなら戻ろっか」

 

「そうだな。あいつらも待ってるだろうし、六海も戻ってきただろ」

 

「あれ?学校までは一緒じゃなかったの?」

 

「ああ、参考書買いに行くって言っててな」

 

「ふーん」

 

買うべき本を買い終えて、私とフータロー君は本屋を後にする。

 

「もしかしたら、六海もここで参考書買ったり・・・」

 

「!一花、その手はどうした?腫れてるじゃないか」

 

あ・・・フータロー君もこの手に気が付いたんだ・・・。

 

「これはさっきのアパートで鉄柵に当たっちゃって・・・あ、でもそんなに痛くないから心配しなくても・・・」

 

「ふーん。林間学校でも思ったが、お前って、やっぱドジだな」

 

ドキンッ

 

「ま、気をつけろよ」

 

・・・きっと、こういうところなんだろうなぁ。私のことを大きく持ち上げないで、ただ1人の女の子として、普通に接してくれるところ。

 

・・・これ以上好きになっちゃいけないのに・・・その思いとは裏腹に、私の気持ちは、フータロー君のことで、大きく揺れ動いていた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「この期末試験で赤点回避する。しかも6人の中で1番で。そうやって自信をもってフータローの生徒を卒業できたら・・・今度こそ、フータローに好きって伝えるんだ」

 

2月14日のバレンタイン。7人で今の関係を望んでいる私の気持ちに三玖が追い打ちをかけるよう発言をした。

 

「・・・・・・い、いいんじゃないかな?それが三玖のけじめのつけ方ならさ」

 

三玖に私の気持ちが悟られないように、私はそう発言した。

 

「三玖ならできるよ」

 

「・・・私は・・・一花や六海を待ってあげない。全員・・・平等じゃなくて、公平に・・・。早い者勝ち、だから・・・」

 

三玖の決意はまったく揺るぎなかった。三玖は本気なんだ・・・。本気で姉妹の中で1番をとって、フータロー君に・・・。私は・・・

 

「・・・うん。そうだね・・・。でも私も、手を抜いてられる余裕なんてないから・・・」

 

「わかってる」

 

「頑張ってね、三玖」

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・・・・頑張ってね、なんて・・・何様のつもりなんだろう・・・私・・・。三玖のことは応援はしている。けど・・・それとは逆に、応援できない自分もいるだんて・・・ダメだな・・・私・・・。

 

三玖はどんどん変わっていく・・・。内気な三玖が素直に前を向いてくれるのは非常に嬉しい。それなのに・・・それを素直に受け止められない自分がいる。

 

『後悔がないようにしなよ?今がいつまでも続くとは限らないんだから』

 

林間学校で私が三玖に言ったことなのに・・・。今が続くとは限らないとわかってる・・・わかっているんだけど・・・。せめてもう少し・・・もう少しだけ・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

『点数が1番大きいのは』

 

「四葉、やりましたね!」

 

「姉妹で1番危なかったけど、何とかなったね!」

 

「おめでとう」

 

「えへへ」

 

テストが返ってきた3月9日、ケーキ屋Revivalで中野家六つ子の姉妹はお互いのテスト結果を発表していく。現段階で全員合格、特に1番危なかった四葉も赤点回避できたことで三玖、五月、六海は喜び合っている。四葉もうれしそうにしており、風太郎も微笑んでいる。

 

「私史上1番の得点です!合計216点とギリギリでしたけど・・・次はそれを超えたいです!」

 

「私は計271点でした。少し危ない科目があったのが今後の課題です」

 

「六海も五月ちゃんと同じ271点だったよ。今度は300点越えを目標にしたいね」

 

総合得点を見て、四葉、五月、六海は今後の目標を立てていく。

 

「ね、三玖ちゃんは何点だった?」

 

「私は・・・289点」

 

「えー!すごい!」

 

「さすがは三玖ですね!」

 

「さすが姉妹1の頭脳派だね!」

 

現段階で三玖が1番の成績を収めたことに四葉、五月、六海は三玖を称賛している。そう話しているうちに一花も入店してきた。

 

「あ、一花も来たよ!二乃はまだかな?」

 

「試験結果が返ってきたらここに集まると伝えたはずなのですが・・・もしかして・・・」

 

「もう少し待ってみようよ。きっと来るはずだって」

 

3人が話している間に風太郎は三玖に声をかける。

 

「三玖、見違えたな!やはりお前が1番の成長株だな!嬉しく思うぞ!」

 

「フータロー・・・」

 

風太郎に褒められて、うれしい気持ちがいっぱいになる。

 

「フータロー・・・あのね・・・私・・・」

 

現在自分が1番の成績を収めた。三玖は勇気を振り絞って一花に宣言したとおり、風太郎に告白を試みる。

 

「よかったー、一花も赤点なかったんだ」

 

「それで、一花ちゃんは合計何点だったの?」

 

「えーっとねぇ・・・290点」

 

「!」

 

だが一花の総合得点を聞いて、三玖の告白は思いとどまった。290点・・・無情にも三玖の289点より1点多かった。たかが1点、されど1点・・・三玖は一花の点数に届かなかったのだ。留まる理由は、それで十分だった。

 

「ってことは・・・」

 

「一花が1番じゃないですか!」

 

「すごいよ一花ちゃん!急成長したね!」

 

三玖の心情を知らない四葉、五月、六海は一花の急成長ぶりに驚いていた。

 

「・・・・・・あ、そうなんだ」

 

その時に浮かべた一花の表情は笑みを浮かべていた。

 

「やった」

 

ただその笑みは、魔女のように、どことなく冷たく感じた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花の試験結果

 

国語40点

数学65点

理科52点

歴史42点

地理44点

英語47点

 

総合点290点

 

結果:合格

   たいへんよくできました!

 

28「最後の試験が姉たちの場合」

 

つづく




おまけ

末っ子ちゃんのバレンタインデー

風太郎「さて、と、ちょっと早いが、先に勉強をやっておこうか」

六海「あ!ちょっと待って!その前に・・・はい!風太郎君にチョコあげる!」

風太郎「・・・お前も俺にチョコ食わすのかよ・・・」

六海「嫌?(´;ω;`)」

風太郎「・・・まぁ、食うけど・・・」

六海「(^▽^)」

五月「あ、あの・・・私にも1つカプセルチョコを・・・」

六海「つーん、五月ちゃんには1つもあげないよーヽ(`Д´)ノプンプン」

五月「そ、そんなー( ノД`)シクシク…」

風太郎「ん・・・?なんだこれ?」

六海「あああああ!!それ、六海が狙ってたマジカルナナカちゃんだ!1発で出せるなんてすごいよ風太郎君!いいなぁ・・・°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°」

風太郎「ふーん。・・・これ、らいはのお返しにちょうどよさ・・・」

六海「しゅん・・・(´・ω・`)」

風太郎(・・・なんか、良心が痛む・・・)

六海の物寂しそうな表情に負け、フィギュアは六海に渡し、らいはへのお返しは別に考える風太郎であった。

末っ子ちゃんのバレンタインデー  おわり

次回、二乃視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

攻略開始

『最後の試験が二乃の場合』

 

ありえない・・・ありえないわ・・・!アタシがあいつのことを好きだなんて・・・絶対に認めないわ!

 

変化が起こったのはあのクリスマスイブの時からだったわ。あの1件以来、アタシは上杉を変に意識してしまっているわ。初めはただ、キンタロー君のことを忘れられないだけと思っていたわ。

 

だけれど・・・1月や2月、3月まで経っても、アタシは上杉とキンタロー君と重なってしまう。思い出さないようにしているのに・・・上杉と会うたびに、度々思い出してしまう。

 

それでふと思ってしまったことがある。アタシが好きな人・・・アタシの白馬の王子様は上杉なんじゃないかって。

 

・・・いいえ・・・いいえ!絶っっ対にありえないわ!出会いも最悪だし、上杉に反抗してきたアタシが今頃・・・しかもよりにもよって上杉に恋しただなんて・・・認めてたまるものですか!このままでは頭がパンクしてしまいそうになるわ・・・。

 

アタシはあいつのことをなんとも思ってない。そしてあいつも、アタシのことを、なんとも思ってないわ。

 

だから・・・もうあいつには会わないわ。これ以上、どうにかなってしなわないように。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『伝言』

 

ケーキ屋Revivalで六つ子の姉妹5人と風太郎は返ってきた試験結果を発表しあいながら二乃の到着を待っている。

 

「今のところ一花が1番だね!」

 

「いや~、お姉さん、頑張っちゃったよ」」

 

「本当に・・・お仕事もあるのにすごいです」

 

「だね!六海はてっきり今回も三玖ちゃんが1番だと思ってたからびっくりだよ!」

 

「!」

 

六海の発言で自分が1番を取ってしまい、三玖を蹴落としてしまった結果に一花は罪悪感がふつふつとこみ上げてくる。1番を取ると三玖が決意していたことを唯一知っていたのだから無理もない話だ。

 

「三玖・・・私・・・そんなつもりじゃなくて・・・」

 

1点差で1番を逃してしまった三玖は寂しそうな笑みを一花に向けた。

 

「一花、おめでとう。私もまだまだだね・・・」

 

そんな三玖の顔を見て、一花は何とも言えない気持ちでいっぱいになってしまう。

 

「私たちばかりでなく、あなたは何点だったのですか?教えてくださいよ」

 

「あ!やめろ!見るんじゃない!」

 

五月はテーブルに置いてあった風太郎の成績表を見ようと手を伸ばしたが、一歩手前で踏みとどまった。

 

「はっ!あ、危ないところでした・・・。危うくまた罠にかかって100点満点の自慢にされるところでした・・・」

 

「ちっ・・・無駄に賢くなりやがって・・・」

 

「やっぱ気に入ってたんだね・・・」

 

試験結果の定番ネタを見抜かれたことに風太郎は舌打ちをする。その様子を六海はジト目で見つめている。だがどことなく風太郎は結果を見られなくて安堵しているようにも見える。

 

「みんな、試験突破おめでとう。今日はお祝いだ。上杉君の給料から引いておくから好きなだけ食べるといいよ」

 

「もー、店長ってばご冗談ばっかり。なぁ、春」

 

「え~っと・・・それはどうだろう・・・?」

 

「・・・なんで否定しないんだ?まさか・・・嘘だろ?嘘だよな?嘘だと言ってくれ」

 

「あう~・・・」

 

店長は六つ子の姉妹の試験突破を祝い、風太郎の給料から引いてケーキをごちそうすると宣言する。風太郎は冗談だと思っているようだが、春は何とも言えないような表情をしている。本気でやりかねないのではと思った風太郎は春の肩を揺さぶりながら動揺している。

 

「ありがとうございます!」

 

「ゴチになりまーす!」

 

お店からの奢りと聞いて四葉と六海は笑みを浮かべて礼を述べる。

 

「でも、もう少し待ってください。もう1人来るはずなんです」

 

五月の二乃を待つ発言に春は思い出したかのように口を開く。

 

「あ~・・・その子だったら店長が席を外してた時に先に来て、この紙を置いてまた出ていっちゃった」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「どうしてもっと早く言わなかったんだい春ちゃん」

 

「すみません~、忘れてました~」

 

5人は二乃が置いていった紙を確認をしてみる。その内容は学期末試験の結果だった。

 

「!これ、試験結果だ!」

 

5人は二乃の試験結果をいち早く確認してみる。その間春は風太郎に声をかける。

 

「フータロー君、これ後で伝えておこうと思ったんだけどね、中野さんから伝言を預かったよ」

 

「二乃からか?なんて言ってたんだ?」

 

「えっと~・・・」

 

春は二乃から預かった伝言を風太郎に伝えていく。伝言の内容は・・・

 

『おめでとう。もうあんたは用済みよ』

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃の試験結果

 

国語34点

数学35点

理科40点

歴史46点

地理38点

英語58点

 

総合点290点

 

結果:合格

   たいへんよくできました!

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・・・・や・・・やったーーー!!!」

 

「見事全員赤点回避を成し遂げましたね!」

 

「これで転校の話もなしだね!!」

 

姉妹全員が赤点を回避したことにより、5人は大いに喜んだ。風太郎は二乃の伝言に頭をかいているが、すぐに5人に視線を向き直す。

 

「これも、お前らの頑張りの成果だ。よくやったな。特に三玖、お前は他の姉妹の誰よりも安全圏に入り、教える側に立ってくれた。俺だけじゃどうにもならなかった。助かったぜ」

 

「・・・うん・・・」

 

「・・・・・・」

 

風太郎は三玖の頑張りに礼を述べる。三玖はうれしいのやら悲しいのやら複雑そうな表情をしている。風太郎に褒めてもらえるのはいいが、結局関係は変わらなかったのだから無理もない。その原因を作ってしまった一花は何とも言えない表情になっている。5人に向ける労いの言葉の後、風太郎は店を出ようとする。

 

「あれ?風太郎君、どこ行くの?」

 

「祝賀会は全員強制参加だ。無理にでも二乃を連れて来る」

 

「もうすぐバイトの時間だ。行くなら、これを使って行きなよ」

 

店長は風太郎に鍵を渡し、風太郎はその鍵を受けとる。

 

「!どうも」

 

「少し遅れても大丈夫~。なんとか繋げてみるから~」

 

「悪いな。すぐに戻ってくる」

 

店長と春の気遣いを受け取り、風太郎は二乃を探しに今度こそ店から出ていった。

 

 

夜ごろ、アタシはただ1人、前に住んでいたマンションの前に立っていた。まさかここに1人で戻ってきたなんて思わなかったわ。みんなは今頃、ケーキ屋にいるでしょうね。そんな考えにふけっていると、1台のリムジンが止まった。リムジンから出てきたのは、アタシの待ち人、パパだった。

 

「帰ってきていたか、二乃君」

 

「その君づけ、ムズムズするからやめてって何度も言ってるでしょ」

 

パパはアタシだけじゃなく、姉妹全員に君づけで呼んでる。正直言って、他人行事みたいでむず痒いからやめてほしいと本気で思っているわ。

 

「それはすまなかったね、二乃。できる限り善処しよう」

 

「それは今はいいわ。それより、聞いてるんでしょ?」

 

「ああ。先ほど姉妹全員の試験合格の報告を聞いたところだ。君たちは見事7人で成し遂げてみせたね。おめでとう」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

パパは無表情のままで労いの言葉をかけた。相変わらず感情が読み取りづらいわね・・・。

 

「どうやら、上杉君を認めざるを得ないようだね。明日から上杉君の立ち入り禁止を解除しよう。だから早く家に帰って来るんだ」

 

アタシがここに来たのはこのマンションに帰るためじゃない。パパに今のアタシの気持ちを伝えるために来たのよ。

 

「いいえ、あいつとはもう会わないわ。それと・・・もう少し新しい家にいることにしたわ」

 

「・・・なんだって?」

 

あのアパートで過ごすと聞いたパパは無表情だけど、確かに反応した。パパのことだもの、絶対快よく思ってないわよね。

 

「6人で話し合って決めたことよ。当然、一花だけに負担はかけさせない。アタシも働くわ」

 

「・・・・・・」

 

「自立なんて立派なことしたつもりはない。正しくないのも承知の上よ。でも、あの生活が、アタシたちを変えてくれそうな気がする・・・。少しだけ、前に進めた気がする。今日は、それを伝えたくてきたの」

 

アタシの言いたいことを伝えると、パパはやっぱり無表情のままで口を開いた。

 

「・・・理解できないね。前に進むなんて抽象的な言葉になんの説得力もない。君たちの新しい家とやらも見させてもらったがどうだろうか?僕には逆戻りしてるようにしか見えないね」

 

・・・っ、パパってば、言ってくれるじゃない・・・。確かに昔は結構な貧乏だったのを覚えてるけど・・・

 

「5年前までの生活を忘れたわけではないだろう。もうあんな暮らしは嫌だろう?いい加減わがままを言うのはやめて・・・」

 

キイィィィッ!

 

「⁉️何・・・?」

 

突然アタシたちの目の前に光が発した。

 

「・・・え?」

 

光の出所を見てみると、思わぬ人物がバイクに乗ってやってきた。その人物はアタシが用済みと言ったはずの上杉だった。

 

この時アタシは、目の前にいる上杉が白馬の王子様のようにも錯覚して見えた。

 

「ここにいたか、二乃。帰るぞ」

 

「はあ!!?」

 

上杉は突拍子もないことを言いだした。

 

「な、何よそれ⁉️」

 

「いいから早く言乗れ。もうすぐバイトが始まっちまう。春はいいが、遅れたら店長に何言われるかわかったもんじゃねぇ」

 

「ええ!!?」

 

もうあまりに驚きっぱなしで何が何だか・・・

 

「二乃」

 

「!パパ・・・」

 

「君が行こうとしているのは茨の道のりだ。うまくいくはずがない。今はよくても、後悔する日は必ず訪れるだろう。そうならないように、こっちに来るんだ」

 

・・・っ、アタシはもう上杉に会わないって決めてたのに・・・。だけど・・・アタシは茨の道だろうと険しい道だろうと、自分で決めた道に進むって決めたんだ。例え抽象的であろうと、アタシの意見は変えるつもりはない。

 

「・・・パパ、これからのアタシ達を見てて!」

 

アタシは上杉の乗っているバイクの後ろ座席へ乗り込む。

 

「上杉、行って!」

 

「・・・え、えーっと・・・お父さん・・・」

 

「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないよ」

 

「えと・・・あの・・・娘さんをいただいていきます・・・」

 

上杉はパパに何か言った後にアタシを乗せたバイクを運転して、その場を去っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『喜び?怒り?』

 

風太郎と二乃がバイクで去っていく姿をマルオはじっと見つめている。

 

「・・・江端」

 

「はい」

 

「喜ばしいことに娘たちが全員試験を突破したらしい。僕は・・・笑えているだろうか・・・」

 

「もちろんでございます、旦那様」

 

「・・・そうか・・・父親だからね・・・当然だよ・・・

 

マルオのこの時の表情は、笑みは浮かべているが、目は笑っていなかった。いや、むしろ怒気を含んでいるといった方が正しいだろう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

パパと別れた後、上杉はアタシを連れて多分ケーキ屋を向かっていってると思う。それよりも気になることがある・・・

 

「あんたはもう用済みって伝えたはずなんだけど」

 

そう言ったはずなのにこいつはアタシの前に現れた。本当、どうしてきたのかしら・・・

 

「ああ。ちゃんと聞いたぞ。だが、面倒くさいことに人間関係ってのは、片側の意見だけじゃ話は進まないということだ」

 

「はあ?何それ?」

 

それってアタシの意見は通らないってことじゃない。本当に面倒くさいわね・・・。

 

「っていうかこのバイク・・・」

 

「ああ、店長に借りた」

 

「はあ?あんた免許は?」

 

「言っただろ?前に出前のバイトをしてたって。その時に無理して免許を取ったんだよ」

 

「ふーん・・・ビックリするほどに似合わないわね」

 

本当、ビックリするほどに・・・。

 

「もう知ってるかもしれないが他の5人も試験合格だ」

 

「え?試験が何⁉風で聞こえないわ!」

 

試験って単語は聞こえたけど、その後は風でよく聞き取れなかった。それでふと、上杉のポケットに何かの紙があった。あれが試験の紙かしら?

 

「これのこと?」

 

「あ!やめろ!見るんじゃねぇ!」

 

アタシは上杉の成績表を開いて、試験結果を見る。

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎の試験結果

 

国語91点

数学97点

理科96点

歴史91点

地理95点

英語93点

 

総合得点563点

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・っ。あんた・・・」

 

アタシは上杉の成績表を見て驚いた。いつもいつも100点満点を取っていたはずの上杉が全教科の成績を落とすなんて・・・。

 

「一生の不覚だ。マジで恥ずい」

 

上杉が成績を落とした原因って言わずとも・・・

 

「アタシ達のせい・・・?」

 

「ちげぇよ。お前らが気にすることじゃねぇよ。そんなことより、飛ばすぞ。しっかり掴まってろ」

 

・・・本当、強がっちゃって・・・。でも・・・なんだか上杉の背中が、やけに温かく感じるわね。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

これ以上の会話が続かないわね。アタシはこいつを用済みって言ったけど・・・なんだかんだ言って、これまでの関係が終わるのはやっぱり、寂しいものね・・・。

 

「・・・寂しくなるな」

 

「・・・!」

 

この男は・・・本当に・・・ここぞって時に・・・

 

「・・・ていうか、なんで私だけノーヘルなのよ!おかしいでしょ!」

 

「だってお前が行けっていうから・・・」

 

「危ないでしょ!バイクの死亡率を知らないの⁉」

 

「つーかヘルメットはこれ1つしかねーわ」

 

「はあ⁉何で1つしかないのよ⁉あんたのをよこしなさいよ!」

 

「わかった!わかったっての!とりあえず止めるとこを探すからそれまで暴れんな!!我慢しろ!!」

 

「・・・全く・・・嫌になるわ・・・あんたはいつだってそうだわ・・・」

 

「・・・・・・」

 

本当、こいつはいつだってそう。アタシの気も知らないで・・・。自分勝手で・・・身勝手で・・・ノーデリカシー男・・・

 

「ほんと、最低。最悪。後は・・・そうね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きよ」

 

 

 

 

 

 

 

アタシの・・・愛しい人・・・白馬の、王子様。

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・や、やっと・・・みんながいるケーキ屋についたみたいね・・・。け、けど・・・

 

「上杉さーん、二乃を連れてきてくれたんですねー。ありがとうございますー。さ、こっちですよこっちー」

 

「おう。今行くぞー」

 

・・・言っちゃった・・・言っちゃった・・・!こいつが好きだなんて・・・いったいどうしちゃったのよアタシ⁉初めての告白なのに・・・!何で突然言っちゃったのかしら・・・!あー!どうしようかしら・・・!・・・っと、いうより・・・

 

「なんだ、まだ注文してなかったのか」

 

アタシが告白したっていうのに、なんでこいつこんな無反応なのよ!!?あー、もどっかしい・・・もどかしいにもほどがある!このアタシの告白になんの反応もしないなんて・・・!声をかけてみようかしら・・・。

 

「ね・・・ねぇ・・・さっきの話だけど・・・」

 

「ん?」

 

「上杉君!間に合ってよかった!」

 

「あ、店長」

 

アタシが声をかけようとしたらこの店の店長が出てきたわ。

 

「早いところキッチンに入ってくれないか?春ちゃんだけじゃとてもじゃないけど対処できそうにない」

 

「わかりました。あ、後、バイクありがとうございました」

 

「あ・・・」

 

上杉は店長に呼ばれてキッチンの方へ入っていった・・・。話があったのに・・・。

 

「おーい、二乃ちゃーん、早く早くー」

 

他の姉妹はアタシをずっと待っている様子だわ・・・。

 

「・・・ふん、まあいいわ。後で話すことにするわ」

 

とりあえず今は姉妹たちと一緒に祝賀会を楽しみましょうか。話はその後でも構わないわ。アタシは姉妹が待っている席に座ってケーキとドリンクの注文をするわ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

姉妹が頼んだケーキとドリンクがアタシ達の席に届いたところで、試験突破記念の祝賀会が始まったわ。

 

「「「「「「期末試験突破!お疲れ様!かんぱーい!!」」」」」」

 

アタシ達は乾杯をして各々が頼んだドリンクを飲んだ。それにしても、やっぱりケーキもドリンクも、頼んだものはみんなバラバラね・・・。

 

「まさか本当に赤点回避できるとは思わなかった」

 

「うんうん!この答案用紙を額縁に入れてうちに飾りたいね!」

 

「それは・・・もうちょっといい点を取ってからにしようか・・・」

 

「ちょっと・・・お祝いだからって、これだけ贅沢しても大丈夫かしら・・・」

 

ただでさえ家の貯金はギリギリなんだから・・・ちょっと怖いところではあるわね・・・。

 

「それなら大丈夫です。店長さんがご祝儀としてご馳走してくれるみたいですから」

 

「まぁ、その代わりレビュワーとかで星5を入れてって言われちゃったけど」

 

それは何ともまぁ・・・すごいハングリー精神ね・・・。まぁでもそういうことなら、店長のお言葉に甘えちゃおうかしら。

 

「それにしても、私たちの注文するケーキはやはりバラバラですね・・・」

 

「まぁこれは平常運転だよね」

 

「そうだね。何を今さらって感じだよねー」

 

まぁ、それは言えてるわね。そんなの今に始まったことじゃないし。

 

「ねぇ、四葉」

 

「ん?なにー?」

 

「はい」

 

三玖は自分の注文したケーキの一切れを四葉に向けているわね。

 

「?え、なにこれ?」

 

「現代文の問題、四葉の予想とドンピシャだった。そのお礼」

 

ああ・・・確かに。あの試験に出てくる問題、四葉が予想していた範囲が多くて、おかげで点数も多く取ることができたわ。

 

「あー、確かに」

 

「そうでしたね」

 

「あれは助かったわね」

 

「おかげで赤点回避できたもんね!」

 

確かに。四葉の予想がなかったら、また赤点を取ってたかもしれないしね。

 

「じゃあ私もお礼として、はい」

 

「アタシも」

 

「私もです」

 

「六海のもあげるー!」

 

「えええ⁉」

 

みんな考えてることは同じみたいでアタシを含めてみんな自分のケーキの一切れを四葉に与えるわ。

 

「・・・あーん」パクッ

 

四葉はアタシ達のケーキの一切れを一口食べたわね。

 

「ししし・・・おいしいね!」

 

ふふふ、四葉ってば、いい笑顔をするじゃない。

 

「あ、でも、私もみんなに助けてもらったからお返ししないと・・・」

 

「それを言ったら私たちも・・・」

 

そうね。助けてもらったのは何も四葉だけじゃないわ。一花、三玖、五月、六海にもいろいろと助けてもらったわけだしね。

 

「では、少しずつシェアしましょう」

 

シェア・・・というと、アタシ達のケーキの一切れを他のみんなにも、与えるってわけね。いいアイディアじゃない五月。

 

「きっとこの試験も、そうやって突破できたですから」

 

「うん・・・私もそう思う」

 

「それに、いろんな味が楽しめてお得です!」

 

「五月ちゃん、本当はそれが狙いなんじゃないの・・・?」

 

「ち、ちちち、違いますよ⁉」

 

五月・・・なんだかんだ言ってもあんたもぶれないわね・・・。声も裏返ってるし・・・。

 

「あはは・・・まぁいいじゃん。それじゃあみんなシェアに・・・」

 

「はい、一花」

 

「!」

 

みんなでシェアにと決めた時、三玖が自分のケーキの一切れを一花に向けてるわね。

 

「数学、教えてくれてありがとう。そして1番、おめでとう」

 

ああ・・・そういえば、今回の試験結果、一花が1番だったわね。

 

「まさか一花が1番とはね・・・。意外・・・といったら失礼かもだけど、どこにそんな力を隠してたのよ」

 

「あ・・・あはは・・・運がよかっただけだよー」

 

「・・・今回は一花が1番だったけど・・・次は負けない」

 

「・・・うん・・・」

 

一花は三玖のケーキの一切れを口に入れたわね。

 

「わっ!五月のケーキすごくおいしい!」

 

「本当だー。とってもおいしいよ五月ちゃん!」

 

四葉と六海は五月のケーキを一口ずつ食べているわ。

 

「ええ。私のオススメです。もう1度食べてみたかったんですよ」

 

あら?もう1度?

 

「もう1度って・・・」

 

「あんたいつの間に1人で来たのよ」

 

試験勉強中はケーキ屋なんて行く暇なんてなかったはずなんだけど・・・いつの間に・・・。

 

「えっと・・・その時もご馳走してもらいまして・・・」

 

「ご馳走って・・・誰に?」

 

「えっと・・・MIHOさんのお姉さんです」

 

「えっ⁉先生のお姉さん⁉いつの間にそんな人に会ってたの⁉」

 

MIHO?・・・ああ、そういえば中学生の時に六海がお世話になった有名漫画だったわね。アタシ自身はあんま関わってなかったから聞いた程度だけど・・・。

 

「ええ。その時に少し・・・」

 

「へぇ・・・いいなぁ・・・六海も会ってみたいなぁ・・・」

 

「ええ。今度会わせてあげますよ」

 

「本当に⁉やったぁ!で、先生のお姉さんってどんな人?」

 

「その方は塾の講師をやっていまして・・・」

 

?急に黙り込んでどうしたのかしら?

 

「・・・みんなに話しておきたいのですが・・・」

 

「「「「「?」」」」」

 

話?いったい何かしら?

 

「私・・・学校の先生になりたいんです・・・」

 

・・・・・・え?五月が・・・学校の先生・・・?

 

「え・・・」

 

「それって・・・」

 

「も・・・もちろんすぎた夢ではありますが・・・」

 

「いいと思う!」

 

五月の夢に真っ先に賛同をしていたのは四葉だったわ。

 

「五月の授業、わかりやすかったもん!ピッタリだよ!」

 

「四葉・・・」

 

ま、確かに似合わなくはないわね。アタシ達の中で多分五月が1番似合ってるんじゃないかしら。

 

「五月ちゃんが先生かぁ・・・。それが五月ちゃんが選んだ道なら、六海は応援するよ!頑張ってね!」

 

「六海・・・ありがとうございます」

 

「当然、私たちも応援するよ」

 

他の姉妹も五月の夢を賛同しているわ。当然、アタシだって五月の夢を応援するわ。

 

「・・・ということは五月は大学受けるんだ」

 

「いよいよ3年生になるって感じね」

 

大学の話はまだ早いって思ってたけど、こうして話してみると、いよいよ3年になるんだなぁって実感がひしひしと感じるわね。

 

「・・・あ、進級といえばお父さんに連絡しないと」

 

「それなら私がしといたけどまだ返事が・・・」

 

「あー、それなら大丈夫よ。さっきアタシが直接話してきたから。今の家に住むことを含めてね」

 

姉妹たちがパパへの連絡の話をした時、アタシはパパにあってきたことを包み隠さず話すわ。

 

「やっぱりマンションに行ってきたんだね」

 

「それで・・・お父さんはどのような反応を・・・?」

 

「当たり前だけど、いい反応はもらえなかったわ」

 

「やっぱり・・・パパならその反応だよね・・・」

 

あの頭の固いパパのことだもの、当然といえば当然の反応よね。

 

「今はまだ甘えさせてもらってるけど・・・いつかけじめをつけないといけない日が来るはずだわ」

 

「でもマンションに行ったにしては帰ってくるのが早かった。それなりに遠かったはずだし・・・」

 

「それが聞いてよ。笑っちゃったんだから」

 

アタシはあのマンションまで上杉がアタシを迎えに来てくれたことを話したわ。バイクに乗っていたことももちろん、ね。

 

「「「「「ええっ!!?バイク!!??」」」」」

 

ふふ、やっぱり普段の上杉とは想像がつかないからみんな驚いているわね。

 

「なんだか想像つかないね・・・」

 

「イメージと違いすぎるね・・・」

 

「でも普段と違う風太郎君・・・素敵だなぁ・・・」

 

「うん。かっこいい」

 

「え・・・」

 

みんなそれぞれの反応を示しているわね。三玖は予想通りの反応だけど・・・六海もうっとりしてるのは予想外の反応ね。

 

「ほんと、似合わなかったのよ。調子狂うわ」

 

あいつってば本当、似合わないくせに柄にもないことしちゃって・・・。それでも・・・かっこよくみえたわね・・・。アタシの調子が狂うほどに。

 

「・・・だから・・・あんなこと言っちゃったのよ・・・」

 

「?あんなこと?」

 

「な・・・何でもないわ!」

 

と、いけないいけない・・・!アタシってばつい思ってもないことを口に・・・!

 

「そ、それより、お皿片付けよっかな!」

 

「二乃、なんで焦ってるの?」

 

「あ、焦ってないわよ!つ、ついでに店長さんにお礼言ってこないと」

 

「あ、私もお手洗いのついでに手伝うよ」

 

「六海もおトイレ行くー。ついでに六海も手伝うよー」

 

アタシは空になったお皿を持って、上杉や春、店長さんがいるキッチンへと向かっていく。一花と六海はお手洗いの方へと向かっていったわ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『バレンタインのお返し』

 

六つ子の姉妹が祝賀会をやっている間、風太郎は春と共にキッチン側の仕事をこなしていた。少し時間が経ってようやくひと段落したところまできている。

 

「よし、一段落。僕は少し休憩に入るけど、春ちゃんもやること済ませたら休憩とってね」

 

「はーい」

 

仕事が一段落して店長が休憩しようとした時、風太郎が呼び止める。

 

「あ、店長。プリンを1つ取り置きしてもいいですか?」

 

「え?プリンかい?いいけど・・・君ってそんなに好きだったかい?」

 

「いえ、バレンタインのお返しと思って・・・」

 

「!!!???」

 

バレンタインのお返しと聞いて店長はまるでムンクみたいな表情になっている。

 

「君は仲間だと思っていたのに・・・裏切り者・・・!」

 

「いや、妹にあげるやつですけど・・・」

 

バレンタインのお返しは妹のらいはのためだと聞いた店長はほっと一安心する。

 

「な、なんだそういうことか・・・。僕はてっきりあの6人のお友達の誰かからだと思ったよ・・・」

 

「なんですかそれ。ありえませんよ」

 

店長が休憩室に入っていくと、春がくすくすと笑みを浮かべながら声をかけてくる。

 

「本当にそうかな~?乙女心っていうのはね~、フータロー君が思ってる以上に複雑なんだよ~?」

 

「なんだよ・・・お前までんなこと言ってんのか?」

 

「1人くらいいるんじゃないの~?ほら、心当たりとかあるんじゃない?」

 

「・・・まぁ、もらった奴はいるっていえばいる」

 

風太郎の答えを聞いて、春は歓声を上げている。

 

「キャー!本当に⁉相手は誰なの⁉ちゃんとお返しは考えてある⁉」

 

「いう必要はねぇし、返しはバレンタインにもう渡したわ。チョコのおまけだったけどな」

 

風太郎の回答を聞いた春はあんまり面白くなさそうな顔になり、ため息をこぼす。

 

「はぁ~・・・フータロー君は乙女心をわかってないな~・・・。じゃあ私も休憩に入るけど、後はよろしくね~」

 

「おう」

 

春も休憩に入り、風太郎は1人でお皿の洗い物をする。

 

(・・・もらったといえばもう1人・・・1月からもらってたか・・・)

 

風太郎が考える1月からチョコをもらっている相手といえば三玖しか思い浮かばなかった。

 

(・・・て、そんなわけないか)

 

だがありえないと考えて風太郎は皿洗いを再開させる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『一花のモヤモヤ』

 

「・・・はぁ・・・うまく隠せてたかな・・・」

 

お手洗い場で一花は自分の手を洗いながらトイレに行っている六海を待っている。そんな中で、一花は三玖のことでいろいろとモヤモヤを感じている。

 

(三玖を応援してた気持ちに偽りはない・・・はずなのに・・・あの時、私が成績が1番になった時、一瞬だけ・・・)

 

一花は三玖の恋路を応援はしていた。はずなのだがどういうわけか一花が成績1番になったことにたいして、少なからずほっとしていた。自分が言っていることとかなり矛盾していることに一花は少なからず戸惑っていた。

 

(三玖は1番になったら告白するって言ってたけど・・・今回は私が1番だった・・・。なら・・・)

 

『早い者勝ちだから・・・』

 

「・・・私が告白・・・しても・・・いいのかな・・・」

 

少なからず一花は風太郎に好意を寄せている。そしてさらに三玖が早い者勝ちと言っていた。それならば、自分が告白してもよいのではという考えが一花によぎった。そこでトイレに行っていた六海が戻ってきた。

 

「一花ちゃーん、お待たせー・・・どうしたの?」

 

「な、何でもないよ?さ、二乃と合流しよっか」

 

「?うん」

 

六海は一花の様子が気にはなったが、本人が何でもないと言っているので気にしないことにした。一花と六海は二乃と合流しようとキッチンの方へと向かっていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ふぅ・・・危ない危ない・・・うまく誤魔化せたかしら・・・。アタシのこの気持ちを他の姉妹には知られたくないもの・・・。さて、と・・・上杉のいるキッチンはここかしら・・・あ、いたいた。

 

「ご苦労様・・・って、あら?春と店長さんは?」

 

キッチンに入ってみるとそこにいるのは上杉1人だけだった。春と店長はどこ行ったのかしら?

 

「2人とも休憩に行ったぞ」

 

あら、タイミングが悪かったかしら・・・お礼を言いそびれたわ・・・。

 

「あら、そう・・・少し待とうかしら・・・」

 

「そうか・・・」

 

・・・・・・。

 

「「・・・・・・」」

 

か、会話が全然続かないわ・・・。バイクでいきなり告白したからだと思うけど・・・こういう時、上杉となんて話をしたらいいかわからないわ・・・。ふと上杉が洗い物をしているのに目が入った。

 

「そ、そうだわ、待つついでだから洗い物、手伝ってあげるわよ」

 

「え?いや、そんなのいいから・・・」

 

「アタシがやるって言ってるんだから素直に甘えときなさいよ」

 

「お、おう・・・」

 

ふぅ・・・なんとか場を繋げられたわね・・・。アタシは上杉と一緒にお皿を洗っていくわ。

 

「・・・悪いな、二乃。洗い物を手伝ってくれて」

 

「ご馳走になったお礼よ。これくらい当然だわ」

 

「そうか・・・」

 

・・・あら?今思ったのだけれど・・・これって共同作業になるのかしら・・・。・・・や、やば・・・今になって顔が赤くなってくるわ・・・ていうより、何でこいつはこんな無反応なのよ!

 

「おい、ここまででいいぞ。後は俺がやっとく。店長には言っとくからお前は席に戻っとけ」

 

「そ、そうね!そうするわ!」

 

少し居たたまれなくなってアタシはキッチンから出ていこうとした・・・けど、思い止まった。

 

「?二乃?どうした?」

 

「・・・バイクで言ったこと、やっぱり忘れてちょうだい」

 

「!」

 

あの時は上杉はなんの反応を示さなかったけど、やっぱり気にしてるわよね・・・。だったら、これ以上黙ってるわけにはいかないわ。

 

「あんたが困ってしまうのは仕方ないわ。突然すぎたものね。少しアクセルを踏みすぎたみたい。本当、何やってんだろ、アタシ・・・」

 

「・・・・・・」

 

沈黙が長いように感じるけど、それも仕方ないと思ってるわ。よりにもよってアタシからの告白ですもの。何て言いかわからな・・・

 

「二乃」

 

「!」

 

「・・・すまん、なんのことだ?」

 

・・・・・・・・・え?

 

「・・・ええ!!?」

 

今、こいつ何て言ったの?なんのことかわからない?

 

「いや、本当に心当たりがないんだが・・・。ていうか、あの時は結構風強かったし・・・もしかしたら、聞き逃してたのかもしれん。すまん」

 

「な・・・な・・・何よそれーーー!!!」

 

アタシはあまりのことで思わず絶叫してしまったわ。

 

「なぁ二乃、いったいなんのことを・・・」

 

「何でもないわよー!」

 

アタシはなりふり構わずキッチンから出ていった。

 

・・・なんだ・・・聞こえてなかったんだ・・・そりゃそうよね・・・そもそもあいつにとってアタシ達は恋愛対象外・・・三玖のバレンタインチョコだって気づかないくらいだし・・・。

 

・・・聞かれなくてむしろよかったわ・・・好都合だわ。アタシは歩んだ道を引き返して、上杉のいるキッチンに引き返す。ちょうど皿洗いが終わったところね。

 

「店長、皿洗い、全部片付きましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたのこと、好きって言ったのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこの気持ちを隠したりしないっての。アタシは、アタシの好きなようにさせてもらうわ。

 

「・・・・・・・・・は・・・?え・・・?なんだって・・・?」

 

「返事なんて求めてないわ。本当、ムカつくったらありゃしないわ」

 

上杉は戸惑っている様子だけど、アタシには知ったことじゃないわ。恋愛対象外だっていうのならなおさらの話よ。

 

「恋愛対象外なら・・・無理やりにでも意識させてやるわ!」

 

この恋を自覚したからには、アタシを振り向いてもらえるように、攻めて、攻めて、攻めまくってやるわ!

 

「アタシ、前に行ったわよね?あんたみたいな男でも好きになる女子が地球上に1人くらいいるってね」

 

「お、おう・・・」

 

「その女子というのがアタシよ!残念だったわね!」

 

「・・・っ」

 

上杉・・・いいえ、フータロー、アタシはこれからはバンバンと猛アピールしてあんたを振り向かせたやるわ。覚悟してなさい、アタシの素敵な王子様♡

 

♡♡♡♡♡♡

 

こうして二乃は自分の気持ちに正直になり、風太郎に再度告白するに至った。だが二乃は気づいてはいない。この告白の場面を目撃していた人物がいたことを。

 

「・・・・・・っ!」

 

1人は、同じく風太郎に好意を持ちつつ、関係の現状維持を望んでいる一花。そして・・・

 

「・・・嘘・・・」

 

同じく風太郎に好意を寄せて、なおかつ二乃とのケンカを望んでいない六海。2人にとってこの二乃の告白は、絶対に見たくはなかったものである。

 

29「攻略開始」

 

つづく




次回、三玖、風太郎視点

Revivalの店員紹介



見た目は三つ編み髪、瞼を閉じたような目をしている。

イメージCVは幼女戦記のヴィーシャ

黒薔薇女子学院高等部の2年生。ケーキ屋Revivalで働いているアルバイト店員。ゆったりとした性格でいつもおっとりしている。風太郎のアルバイトとしての先輩。
孤児院に住んでいるため、真鍋と同僚なのだ。学校やアルバイトがない日は子供たちに歌やお絵描きを教えている。孤児院組の中で母性本能が高く、ついつい子供たちを甘やかす。
孤児院内で春は特に発育がよく、胸の大きさは子供たち曰く六つ子の姉妹より大きいらしい。そのため真鍋からは憎らしい目で見つめられることがしばしば。
ちなみに六つ子の姉妹が黒薔薇に在学中でも、全く知らなかったのは、単純に会ったことがなかったからである。(朝遅刻したりもするので朝礼にも参加できてないから顔も見たことがなかった)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクランブルエッグ 一玉目

スクランブルエッグ編に入ったところで、アルバイトのアンケート終了!結果は・・・漫画アシスタントに決定いたしました!多くの投票、ありがとうございました!

それから、よければですがこの六等分の花嫁で1番印象に残った、面白かった話があれば教えてください。やっぱり作者として、気になりますので。もちろん、よろしければで構いません。


『2000日の結婚式』

 

ふふっ、風太郎、緊張してるの?

 

5年前のあの日を思い出して。

 

忘れたわけじゃないでしょ?

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖SIDE

 

試験が終わって春休みになってからというもの、ほとんどの姉妹の様子がなんだか変。一花はなんだか妙にため息をつくようになった。二乃は少し、物思いにふけることが多くなった。四葉と五月は・・・まあ、普段通りにしている。六海はというと、どういうわけかぼーっとすることが多くなった。お風呂の時間がいつもより長くなってしまうほどに。とにかくいつも通りの日常に戻った・・・なんてことはなく、みんな普段通りの生活ができていないほどに重傷だった。

 

・・・かくいう私も、実はちょっと悩みがある。あの祝賀会の日、私は今回の試験結果で自分が1番だと確認していた。だから自信が湧いてきた。だから思いきってフータローに告白しようとした。

 

でも・・・覆された。今回1番になったのは一花だった。たった1点差で、私の勇気は地の底まで落ちていった。自信がなくなってしまった・・・というのが正しいのかな。

 

・・・ううん、それだけならまだいいかもしれない。もし・・・もしも私がフータローに告白したら、今までの関係が崩れていくのかもしれない。そう考えると胸が張り裂けそうになる。怖くて怖くて仕方がない。どうしようもなく、臆病な私・・・。

 

そんな思いを胸に秘めながら私はただ1人、個室で戦国武将関連の本を呼んでる。フータローも春休みになってから最近来なくなったし、今頃何してるんだろう・・・。

 

「三玖ちゃん・・・ちょっといい?」

 

「?六海?どうしたの?」

 

ドアの奥から六海の声が聞こえてきた。私はすぐにドアを開けて六海と対面する。

 

「今日は・・・六海が買い物当番なんだけど・・・今は・・・ちょっと・・・1人じゃ・・・」

 

六海にしてはかなり歯切れが悪い。六海自身も何か悩んでるのかな。できれば私が相談に乗ってあげたいけど・・・私には、そんな勇気が湧いてこない・・・。だって、六海もフータローのことを・・・。

 

「・・・私にも来てほしい?」

 

私の問いに六海はコクりと頷いた。

 

「・・・四葉と五月には頼まないの?」

 

「・・・三玖ちゃんしか無理だよ・・・。こんなこと・・・お姉ちゃんたちの中じゃ三玖ちゃん以外相談できないよ・・・」

 

私に何か相談事?それで私に・・・。・・・もしかしたら、フータローに会えるチャンスかも・・・。それに、少しは気分転換にはなるかも・・・。

 

「・・・わかった。一緒に行こっか」

 

「ありがとう・・・」

 

私はひとまず六海のお買い物についていくための準備をしてから、六海と一緒にお買い物しに出かけに行った。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちは今日の晩御飯の材料を買いにスーパーに向かって・・・いるんだけど・・・

 

「「・・・・・・」」

 

なんか・・・非常に気まずい・・・。六海もなんか悩んでるから相談してって言ったのに・・・全く話を触れようとしてない・・・。私が・・・話を振った方がいいの・・・かな・・・。

 

「「・・・ねぇ・・・」」

 

私が少し勇気を出して声をかけようとしたら六海も声をかけてきた。・・・なんだか・・・思いとどまっちゃった・・・。

 

「・・・先に言っていいよ」

 

「・・・ううん、何でもない・・・」

 

話が全く進展しない・・・。どうしたらいいんだろう、この状況・・・。だ、誰かもう1人でもいれば場は変わってたかもしれないけど・・・。こんなんじゃ全然気分転換にならない・・・。

 

「好きだ♡」

 

「私もよ♡」

 

うわぁ・・・人が悩んでる状況の中、イチャイチャしてるカップルがいた・・・。のんきなものだなぁ・・・私たちはこんなに悩んでるのに・・・。それにしてもこうも好きだなんだって近くで聞かされると・・・

 

「・・・なんか、聞いてたらムカムカしてきた」

 

「三玖ちゃんも?六海もイライラしてきたよ・・・」

 

六海も同じ気持ちらしく、近くにいるカップルにたいして今にも怒りそうな顔をしてる・・・。本当に・・・

 

「全く・・・浮かれちゃってまぁ・・・」

 

近くのカップルにたいして私たちと同じくイライラした様子の人が・・・って、この人・・・

 

「あら?中野さん・・・に、六海?」

 

「ま、真鍋さん⁉」

 

そうそう、この人は六海の友達の真鍋さんだったね。1度だけ孤児院に行ってその姿を見たことがあるからなんとなく覚えていたよ。

 

「真鍋さんもお買い物?」

 

「ええ。子供たちのために日用品やらないやらを、ね」

 

「すごい・・・」

 

あのやんちゃな子供たちのリーダーっていうだけでも大変なのに・・・私だったら絶対に投げ出しそうになるよ・・・。そう考えると真鍋さんを尊敬できるよ。

 

「そういうあんたたちも買い物?」

 

「そう。今日は六海が当番」

 

「そうなんだよー。最近は毎日が大変でねー」

 

六海はさっきまで元気なさそうだったけど、真鍋さんと会ったら元気になってる。思わぬところで友達と会ったことで少しは気分が晴れたみたいだね。

 

「そういう六海と・・・えーっと・・・名前・・・」

 

「三玖」

 

「そうそう。中野さんじゃわかりにくいし、これからは名前で呼んでいいかしら?」

 

「うん。その方が気が楽」

 

ただでさえ六つ子だから結構間違えられるから、せめて名前だけで呼んでもらった方がこっちとしても都合がいい。

 

「ん、オッケー。それで話は戻すけど、あんたたちっていつもここで買い物してるのかしら?」

 

「違う。いつもは近くのスーパーでお買い物してる」

 

ちなみに今私たちはいつも行ってるスーパーとは違うスーパーでお買い物をしてる。いつも通ってるスーパーでもよかったけど、六海がなぜかここのスーパーまで移動していたんだよね。深くは尋ねなかったけど。

 

「つまりわざわざ遠くまで来たってわけね?それはなんで?」

 

「!べ、別にね?風太郎君の家と近くだったからというわけじゃなくて?その、たまたま歩いていたら偶然このスーパーまで来たわけなんだよ。け、決して風太郎君に会いたいってわけじゃなくて・・・」

 

「長文」

 

「あー、はいはい。上杉関連ね。よくわかったわ」

 

「ち、違うって!!」

 

真鍋さんの質問に六海は長文かつ早口で答えた。やっぱり六海もフータローに会いたがってたんだ。考えてること、ほとんど一緒なんだ。そして六海、否定してるけど真鍋さんまでここに来た理由を察してるよ。

 

「え、ええっと・・・風太郎君じゃなくて・・・その・・・」

 

「無理しなくていいわよ」

 

「そうじゃなくて・・・あ!こ、これ!これ目当てで来たの!!」

 

六海は何かを見つけてそこを指をさした。お買い物レシートで豪華賞品を応募するっていう知らせのチラシだった。・・・あ、そういえば、このスーパーではこんなのがあったんだった。

 

「へぇ・・・こんなのがあったのね」

 

「う、うん!この応募、このスーパーしかやってないんだよね」

 

あんまり詳しく読んでなかったからよくわかんなかったけどね。えっと何々・・・賞品は・・・参加賞のポケットっティッシュ、E賞の商品券、D賞がお米、C賞がギフトカタログ、B賞がペアリング・・・本当にいろいろあるんだ。A賞は・・・温泉ペアチケットか・・・。・・・あ、よく見たらこのA賞の温泉ペアチケット・・・。

 

「このA賞の行き先がおじいちゃんの家の行き先なんだ」

 

「あ!本当だ!見覚えがあると思ったら!」

 

「あら、そうなのね」

 

そう、この温泉ペアチケットの行き先は私たちのおじいちゃんと同じ家の場所だったんだ。写真に見覚えがあったからすぐにわかった。

 

「懐かしいなぁ・・・狙うならやっぱりA賞かな?久しぶりにおじいちゃんに会いたいし!」

 

「でも6名様までだし、難しいんじゃない?」

 

「いいじゃない。やるだけやって、当たれば儲けものよ」

 

まぁ、確かに・・・ちょっと狙ってみようかな・・・。

 

「真鍋さんはどれがいい?」

 

「私?そうねぇ・・・院長がここに行きたいってぼやいてたし、狙ってみようかしら・・・」

 

真鍋さんもA賞を狙うんだ・・・。その院長さんのために・・・。やっぱりえらい・・・。

 

「いや、ちょっと待ちなさいよ?このE賞なら子供たちの欲しいものが・・・!いやいや、このB賞、売ったらいくらくらいになるかしら・・・!孤児院の経済費の足しになるわ・・・!」

 

「なんか、フータローと似たようなこと言ってる・・・」

 

「真鍋さんじゃ絶対当たらない気がするよ・・・」

 

「やってみないとわからないじゃない。確か3000円以上だったわね。早いところ買い物を済ませちゃいましょ」

 

こういうのって、欲が深い人ほど当たりにくいと思うんだけど・・・まぁ、やる気があるのはいいことだと思う。

 

「えーっと、今日の晩御飯の材料ってこれで全部だっけ?」

 

「うん。あ、そうだ。私、二乃に頼まれたものがあるんだった」

 

幸いにも二乃に頼まれたものは近くにあったからそれを篭の中に入れる。

 

「・・・ねぇ、三玖ちゃん」

 

「何?」

 

「・・・二乃ちゃん、なんか言ってた?」

 

???六海の質問の意図がよくわからない・・・。何でそこで二乃が出てくるの?

 

「なんかって何?」

 

「う、ううん!何でもない!やっぱ忘れて!」

 

???ますますわからない。何が聞きたかったんだろう?・・・もしかして、さっきのって相談事?

 

「・・・ねぇ、あんたたち」

 

六海と話してるとわざわざ待っててくれてる真鍋さんが声をかけてきた。

 

「あんたたちって、好きな人いんの?」

 

・・・・・・・・・・・・え?

 

「「えええ!!?」」

 

きゅ、急に何を言い出してるの真鍋さん⁉️

 

「きゅ、急にどうしたの真鍋さん⁉️」

 

「いや、その反応で確信したわ。あんたら好きな人いるでしょ絶対」

 

「いや、その・・・それは・・・」

 

確かに好きな人はいる・・・けど、わざわざフータローが好きなんて事、とても言えそうにない。それが女子ならなおさらだよ。

 

「まさかとは思うけど・・・上杉だったりして・・・ねぇ?」

 

「ち、ちち、違うから!!断じて違うから!!ねぇ、三玖ちゃん!!」

 

「う、うん・・・うん・・・!ありえないよ・・・!」

 

「あら、そう」

 

ああ・・・とっさに嘘ついちゃったよ・・・。告白したわけじゃないけど、ごめん、フータロー。

 

(ま、上杉が好きっての、反応でバレバレだけどね)

 

「そ、そういう真鍋さ・・・」

 

「あ、私好きな人なんていないから。以上」

 

「ずるい・・・」

 

実質私たちだけ恥ずかしい目にあってる気がす・・・。なんか好きな人がいない真鍋さんが身軽そうでずるい・・・。

 

「恋愛とかでなんか悩んでるなら、聞くだけ聞いてあげる。少しは気分が和らぐでしょ?」

 

・・・真鍋さんって今私たちが悩んでるのに気づいてるのかな?それともただの偶然?どちらにしても、私たちを気遣ってるのがわかる。

 

「・・・これ、あくまでも六海の知り合いの話なんだけど・・・」

 

少しの沈黙の後、六海が口を開いた。

 

「その人、1人の女の子に告白されてね・・・それでその女の子、返事はいらないって返しちゃったみたいなんだ」

 

「ふーん・・・」

 

「だから、その・・・それをみ・・・じゃなくて、聞いた時、六海は、ちょっと戸惑ってるの・・・。六海は、どうすればいいんだろうって・・・」

 

それが六海の悩みなんだ・・・。知り合いの話を聞いて、自分はどう接したらいいんだろうって・・・。知り合いの話だから六海ならそういうの、気にしないと思ってた。なんだか、妹が成長してるって考えると、ちょっと嬉しいな。

 

「ふふ・・・」

 

「あ・・・もー!三玖ちゃん!こっち真剣なんだから笑わないでよ!」

 

「あ、ごめん、つい・・・」

 

ちょっと気持ちが顔に出てたみたい。少し反省・・・。

 

「・・・で?三玖、あんたはどうなの?」

 

「え?私?」

 

まさか私にまで話を振ってくるとは思わなかったから面をくらってる。

 

「そ、そうだよ!六海が話したんだから三玖ちゃんも1つくらいなんか話してよ!」

 

六海まで・・・。話っていうと私の悩みのことだよね・・・。真鍋さんがいるから、自分の事はあんまり話したくないなぁ・・・。でも、さっきみたいに知り合いって感じに話せば、私も気分が楽になるかも。

 

「・・・私も知り合いの話なんだけど・・・。その子、告白しようとしたらしいんだけど・・・」

 

「え・・・」

 

「うん。それで?」

 

「できなかったらしいの。告白したら最後・・・元の関係に戻れないような気がして・・・。それくらい勇気がいるみたいなんだ、告白って」

 

もちろんあの時、告白ができなかったのは一花が試験で1番をとったっていうのもある。でもそれ以上に告白してしまったら・・・これまで通りの関係が一気に崩れてしまうのではという恐れが出て来て・・・言えなかった。

 

「なるほどねぇ・・・恋心って、いろいろ複雑ねぇ」

 

「うん。すごく複雑」

 

「知り合いの事情なんだけど、ね・・・」

 

私は知り合いの事情ってわけじゃないけど。・・・でも六海の話を聞いて、いろいろと感心する。

 

(やっぱり・・・告白って勇気がいるんだね・・・。だったら二乃ちゃんのあれも・・・)

 

・・・すごいなぁ・・・世の中にはそんな勇気がある人もいるんだ・・・。それに比べて、私は・・・

 

(六海は・・・どうしたらいいんだろう・・・)

 

私は・・・なんて臆病なんだろう・・・。

 

「ああ、そんな難しそうな顔しないでよ。今は春休みなのよ?考える時間はいくらでもあるわ。いざとなったら、私も一緒に考えてあげるわよ」

 

「そう、だね。うん・・・ありがとう、真鍋さん」

 

「さ、さっさと会計してあれ、応募しましょう」

 

「・・・うん」

 

・・・そうだよね。今はまだ春休み。考える時間はいくらでもある。答えが出るまで、ゆっくりと考えよう。私たちは3000円分のお買い物を済ませて、豪華賞品の応募用紙を書き上げる。・・・温泉ペアチケットかぁ・・・。もしかしたら、それが当たって、旅行に行ったり・・・なんてね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

数日後。春休みが続く中、私たち六つ子の姉妹は・・・

 

「ほらみんな!もうすぐ頂上ですよ!早く行きましょう!」

 

「ちょっと待ってよ、五月ちゃん・・・」

 

「あんたはしゃぎすぎよ!少しは三玖や六海を支えるの手伝いなさいよ!」

 

「大丈夫?三玖、六海」

 

「はぁ・・・はぁ・・・しんどい・・・」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・この山道って、こんなにしんどかったっけ・・・」

 

温泉旅行の一環として、観光スポットがある山を登っていた。

 

・・・あの豪華賞品の応募・・・それもA賞の温泉チケット・・・。まさか、本当に当たるなんて誰が想像できたんだろう・・・。あの時は冗談でそう思っただけなのに・・・。

 

「いやー、本当に懐かしいねぇ。ここに来るのは小学6年生以来だっけ?」

 

「こうやってみんなで旅行ができるのも、三玖と六海のおかげだね!本当にありがとう!」

 

「たまたま運がよかっただけだよ・・・ぜぇ・・・ねぇ、三玖ちゃん・・・はぁ・・・」

 

「うん・・・偶然・・・ふぅ・・・」

 

・・・まぁでも、こうやって旅行してれば、みんなにとっていい気分転換にはなるかな。春休みに入ってからみんな、ちょっと考えることが多くなったから。ただ1つ気になったのは・・・この旅行が決まってから、四葉が少し不安そうな顔つきになっていたこと、かな。

 

「まぁ・・・あの人までついてくることはなかったと思うけど」

 

二乃は1つの不満点を口にしている。二乃の言っているあの人っていうのは・・・言うまでもなく・・・

 

「山道は滑りやすい。みんな、足元に注意しながら登ってくれ」

 

私たちのお父さんである。お父さんは私たちより少し後ろ側に歩いている。お父さんの後ろには江端さんが控えている。

 

「に、二乃、そう言わずに・・・」

 

「それに、あれがなかったらこうしてみんなで旅行してないでしょ?」

 

「はぁ・・・わかってるわよ」

 

旅行に行くきっかけを知っている二乃はこれ以上のことは何も言わなかった。というよりきっかけはこの場にいる全員が知っている。

 

あのペアチケット、本来ならうちに1枚だけ届くはずだった。でも、私と六海はついうっかり届け先の住所を間違えて前に住んでいたマンションにしちゃったんだ。そのおかげでお父さんにペアチケットの存在を知られちゃったわけなんだ。

 

で、話はここからなんだけど、お父さんは学期末試験で私たち全員赤点を回避したご褒美という名目で私たちに家族旅行を提案したってわけ。ペアチケットも家族全員分として私たちが当てたのと合わせて4枚。用意周到って感じだった。まぁとにかく、断る理由もないし、たまに息抜きはということで家族旅行を了承して、今に至るって感じ。

 

「ぜぇ・・・もう・・・その話はいいから・・・早く頂上に行こうよ・・・すごい疲れちゃった・・・」

 

「そうだね。お姉さんも足を痛くなってきたよー」

 

体力がない六海はすごく疲れ切ってて上に行くように急かしてきた。一花も早く頂上で一息付けたいって気持ちでいっぱいみたい。・・・まぁ、私ももう疲れきってるから休憩したい・・・というか早く山登りを終わらせたい・・・。

 

「私が1番乗りですー!」

 

「あ、五月ってば、もう頂上まで辿り着いてるわね」

 

あ、本当だ。頂上のところで五月の声が聞こえてきた。

 

「「やっほーーー!!」」

 

やまびこまでしちゃって・・・はしゃぎすぎ・・・って、先客がいるのかな?他の人のやまびこまで聞こえてきたんだけど。でも、なんか聞き覚えがあるような・・・。

 

「五月ー、ちょっと早いよー」

 

ようやく頂上まで辿り着いて、五月と合流・・・て、え・・・?五月の隣にいるのって・・・フータロー・・・?

 

「あれぇ?上杉さんじゃないですか!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・フータローも・・・来てたんだ・・・」

 

「ぜぇ・・・もしかして・・・はぁ・・・風太郎君も・・・あれ、応募したの・・・?」

 

「・・・嘘・・・でしょ・・・」

 

「・・・ふふふ、ラッキー♪

 

みんなもまさかフータローが来てたなんて思わなくてそれぞれの反応をしてる。五月なんてさっきから驚きの顔をしてるし。

 

「嘘だろ・・・そんなバカな・・・まさかのお前らも家族旅行かよ・・・ありえねぇだろ・・・」

 

フータロー自身も私たちがここにいるとは思わなかったらしく、非常に驚いた顔をしてる。

 

「まさに家族旅行だ。しかし、気をつけねばいけないよ」

 

「!」

 

「旅にトラブルはつきもの、だからね」

 

「・・・っ」ガタガタガタッ

 

フータローはお父さんを見た瞬間、今までに見たことがないくらいに振るえていた。

 

「・・・え・・・何よこの状況・・・」

 

「ほっほっほ」

 

あ・・・真鍋さんもここに来てたんだ・・・。てことは真鍋さんも当たったんだ・・・。別の道からおじいさんを乗せた車いすを押してやってきた真鍋さんはこの状況に目が点になってる。・・・本当、なんだろう、この状況。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎SIDE

 

「この島の随一の観光スポット、『誓いの鐘』です。この鐘を2人で鳴らすとその男女は永遠に結ばれるという伝説が残されているのです」

 

「は・・・はは・・・どこかで聞いたことのある伝説だな。そういうの、どこにでもあるもんなのかってくらいに多いな・・・コンビニか!」

 

『・・・・・・』

 

・・・・・・・・・。

 

「・・・さて、ここで昼食をとろうか。全員準備を始めてくれ。ただし、何度も言うが足元には気を付けよう。このあたりは滑りやすいからね」

 

・・・くっ!この場を和ませようと思ったが失敗・・・!まさかあいつらがここに来ていたとは・・・いや、それよかあいつらの父親がいる分、余計に気まずい・・・。

 

待て、いったん整理をしよう。俺は先日らいはに頼まれてスーパーで買い物をした。その際に俺はあそこでしかやってない豪華賞品の応募で少しでも取り分を戻そうと思って、B賞のペアリングかE賞の商品券を狙ったわけだ。だが結果は予想していなかったA賞の温泉旅行のペアチケット。親父たちは旅行の計画を立てたからそれを使ってこうして上杉家で家族旅行に来ているというわけだ。ちなみに1人分は自腹で来ている。

 

・・・まぁそれはいい。問題は・・・なぜあいつらがここに来ているかということだ!休み明けに家庭教師を再開するまでいったん距離を置こうと思っていたのに・・・なぜよりにもよって全員揃ってこの島にいるんだ!せっかくあいつらのことは忘れて、家族旅行を楽しもうと思っていたのに・・・!

 

つーかそれよりもだ・・・なんで父親まで一緒に来ているんだ?和解でもしたのか?それとも進級を果たしたから受け入れたのか?・・・いや、まぁ・・・それならそれで全然かまわないんだが・・・その場合、俺の立場はどうなるんだ?家庭教師はクビになっちまうのか?いや、まぁもうすでにクビにされてるわけだが・・・。だがあいつらに限ってそんな・・・。ダメだ、考えれば考えるほどわけわかんねぇ・・・。ちゃんとどういうことか説明してもらわねぇと・・・。

 

「一花・・・この状況どうなってるんだ?説明してほし・・・」

 

「!あ・・・あはは・・・ごめん、忙しいから後でね」

 

一花に説明を要求しようとしたら一花がよそよそしく俺から離れていった。・・・?なんだ・・・?

 

「なら、四葉でもいい。よつ・・・」

 

「ううぅぅ・・・緊張してきたぁ・・・うまくできるかなぁ・・・?」

 

四葉に説明をと思ったら四葉はなんか上の空だな。なんなんだ?あいつらさっきから俺にたいしてよそよそしいな・・・。

 

「ねぇ、ちょっと」

 

少し考え事をしていたらあいつらと一緒にいた真鍋が話しかけてきた。

 

「あんたあの子たちに何したのよ?明らかに様子がおかしいじゃない」

 

あ、お前もそう思うか。俺もおかしいと思ってたところだ。だがその疑問を俺にぶつけるのは解せん。

 

「知るか。こっちが聞きたいわ」

 

「本当に何も知らないわけ?」

 

「知らねぇって言ってるだろ」

 

「ふーん。そういうことにしてあげるわ」

 

まったく、何でもかんでも俺のせいにしないでもらいたいものだ。

 

「・・・つーかお前なんでいるの?あいつらの付き添いか?」

 

「そんなわけないでしょ。でも付き添いってのは間違ってないわ。院長の旅行に同行してるから」

 

「院長?孤児院のトップのか?それって、あの爺さんのことか?」

 

俺が指をさした人物は車いすに乗ってて、誰が見ても結構年がいってる爺さんだ。

 

「そうよ。前に六海たちと買い物の際に豪華賞品の応募でA賞が当たってね、それで院長の面倒もかねて、代表として私が旅行に同行してるわけ」

 

「同行って・・・あのガキ共はどうすんだよ?」

 

「春たちに面倒を見てもらってるから問題ないわ」

 

そういえば春も孤児院に住んでんだったか?それなら問題ない・・・のか?

 

「ねぇ、2人で何の話をしてるのよ?」

 

「!!!!」

 

に・・・二乃・・・!やべぇ・・・まさか二乃に話しかけられるとは思わなかった・・・。正直、あの告白以来、二乃とはどう接すればいいかわからん・・・!

 

「い、いや・・・」

 

「2人で楽しそうにしちゃって・・・」

 

「あー、悪いことしたわね・・・」

 

「本当よ・・・。アタシの方を構いなさいよ・・・フータロー」

 

「!!!!????」

 

二乃が俺の名前で呼んだ時、六海が非常に驚いた顔をして近づいてきた。

 

「ちょ・・・に、二乃ちゃん・・・?そ・・・その呼び方・・・どうしたの・・・?」

 

「え?どうしたのって・・・アタシ達も出会って半年が過ぎたじゃない?そろそろ距離を詰めた方がいいと思ったのよ」

 

「それは・・・前々からずっと考えてはいるんだけど・・・」

 

「あ、そうだわ。フータローにあだ名とかつけるってのはどうかしら?」

 

「お、おい・・・話を・・・」

 

「てことで六海、こういうの得意でしょ?なんか考えてよ」

 

「ええ!!?」

 

な、なんか俺抜きで話がどんどん進んでいく・・・。いや、本当どうなってるんだ?

 

「え・・・ええぇっと・・・上・・・じゃダメだし・・・それなら風・・・フウ・・・フー・・・ふ、"フー君"・・・なんちゃって・・・」

 

おい、なんだそのあだ名は。デジャヴか?

 

「フー君・・・へぇ・・・いいじゃない。気に入ったわ」

 

気に入ったのかよ。

 

「そ・・・そんなこといいから!早くお昼食べようよ!ほら、手伝って!」

 

「はいはい、そんな押さなくてもいいでしょ」

 

「お、おい!!」

 

六海は二乃を連れて他の姉妹のとこに行っちまった・・・。なんだ?二乃はともかく、全員会わないうちによそよそしくなっちまったな・・・。

 

「・・・本当になんも知らないの?」

 

「・・・ああ」

 

本当、あいつらどうしちまったんだ・・・?・・・ん?なんか視線が・・・。振り返ってみると、三玖がじーっとこっちを見てる・・・。

 

「・・・ね、ねぇ、フー・・・」

 

「三玖君。何をしているんだい?」

 

お・・・お父さん・・・!!

 

「そんなところにいないで、早く江端から弁当を受け取ってくれ」

 

「う、うん・・・」

 

「・・・あ、あの・・・先日は・・・」

 

「さあ、準備を始めよう。久々に全員揃ったからね。・・・家族水入らずの時間だ」

 

や・・・やべぇ・・・あれ絶対俺を警戒してるよ・・・。こ、こえぇ・・・。

 

「・・・あんたやっぱなんかしたでしょ?」

 

「・・・否定できんかもしれん」

 

ああ・・・なんでこんなことになっちまってるんだ・・・

 

「おーーい、お兄ちゃーーん」

 

俺が少し頭が痛くなってると、先に行っていた親父とらいはが戻ってきた。

 

「たく、遅ぇぞ。何してんだ風太郎。心配で戻ってきちまったよ」

 

「あれー?なんでみんないるのー?」

 

らいはがあいつらの顔を見ると嬉しそうな顔をしている。

 

「らいはちゃん!」

 

「やはり上杉君も家族でいらしていたのですね」

 

「じゃああの人がお父さん?」

 

「そうだよー。勇也さんっていうんだー」

 

「む・・・確かに似ているわね・・・」

 

「そうかな?」

 

あいつらも親父とらいはの顔を見てそれぞれの反応を示しているな。

 

「・・・ん?ありゃ誰かと思えば・・・やっぱマル・・・」

 

「・・・おや、雨が降ってきたね」

 

は?雨?

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

「山の天気は変わりやすくて困ったものだ。仕方ない、下山して宿に向かおう。江端、片づけを頼んだよ」

 

「かしこまりました」

 

・・・どうなってんだ?雨なんて降ってねぇのに・・・。あいつらの父親はせっせと下山していったぞ・・・。

 

「・・・えーっと・・・」

 

「あはは・・・仕方ありませんね・・・。降りよっか」

 

「ええ⁉せっかくここまで登り切ったのに~・・・」

 

「じゃあね、フータロー」

 

「多分同じ旅館よね。また会いましょう」

 

「・・・・・・」

 

あいつらも父親に合わせて、山から下山していったな。

 

「・・・上杉君、後でお話があります」

 

「!あ、ああ・・・」

 

五月だけ俺に耳打ちをしていって、あいつらと一緒に降りていった。

 

「な、何よあれ・・・」

 

「雨なんて降ってないけど・・・」

 

「ふぅ・・・やれやれ・・・。ところでお嬢ちゃん・・・」

 

「あ、どうも・・・」

 

おっとここで親父は俺が真鍋と一緒にいることについて触れたな。

 

「・・・もしかして、風太郎の・・・」

 

「「いや(いえ)、こいつとはただの腐れ縁だ(です)」」

 

「そ、そうか・・・」

 

全く、俺がこんな性悪女の?ありえねぇっての。

 

「恵理子、十分満喫しました。私たちも降りましょう」

 

「え、ええ。じゃあ、上杉、あんたも多分同じ宿よね?また会いましょう」

 

真鍋は親父とらいはに一礼して、爺さんを支えながら山から下山していった。・・・あの車いす、折り畳み式なんだな・・・。

 

その後、俺はらいはと親父に真鍋との関係を話しながら観光してから、下宿先の宿へと向かっていくのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

宿にたどり着いたころにはすでに夕方ぐらいになった。うーむ・・・この宿、ずいぶんとぼろ・・・じゃなくて古いな・・・。まぁ、結構昔からやってるみたいだからなぁ・・・。

 

「わぁ・・・お化け屋敷みたい」

 

確かに・・・見方によってはそう見えてしまうな・・・。・・・やってるよな?この宿・・・。まぁいい。さっさとチェックインを済ませよう。・・・そういえば、五月の奴・・・後で話があるって言ってたが・・・後でっていつだよ・・・。まぁいい・・・電話してみるか。そう思ってスマホをてにす・・・あ、そういえば、充電が切れてたのを忘れてた・・・くそ。・・・ん?

 

「・・・・・・」

 

・・・あのチェックインカウンターにいる爺さんが受付をやってるのか?さっきの院長の爺さんより歳くってるみたいだが・・・。・・・まぁいい、ちょっとあいつらの部屋がどこか聞いてみるか。

 

「あのー・・・中野さんって何号室ですか?」

 

「・・・・・・」

 

・・・・・・反応なし・・・。寝てんのか?まいったなぁ・・・これじゃあどうやって五月と話せば・・・。・・・ん?中庭にいるのは・・・五月か?ちょうどいい・・・話はとっとと済ませた方がいいな。

 

「親父、らいは、先に部屋に行っててくれ」

 

「なんだ?便所か?早く戻って来いよ」

 

「おう」

 

俺は急いでその場を後にして、中庭へと向かっていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

俺は五月の話を済ませるために中庭へと向かっていく。確か・・・この辺にいたはずだ・・・。いったいどこに・・・。

 

「・・・えっ⁉」

 

五月を探してあたりを見回していると、五月を発見した。だがその場所は中庭ではなく、宿の2階にいやがった・・・!あ、あいつ・・・いつの間に移動しやがったんだ・・・?・・・て、そうじゃねぇ・・・早いとこ五月と会わねぇと・・・。

 

「・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

くそ・・・宿に戻ったはいいが・・・五月の奴・・・どこに行きやがったんだ・・・?確かこのあたりにいたはずなのに・・・。俺はどこにいるかあたりを見回す。・・・お、いた。どこかに入っていった。じゃあさっさと・・・。

 

「・・・嘘だろ」

 

話を済ませようと思ったら、あいつが入っていったのは女子トイレ・・・。男が入れるような場所じゃない。なんなんだよ本当に・・・。仕方ねぇ・・・少し待つか。

 

「・・・お客様」

 

トイレで待っていたら、この宿の女将に怪訝な顔で説教をされた。何でも女子トイレの前に不審者いるんだと。・・・うん、まさにそれ、俺のことだな。よく考えたら女子トイレの前で待ってたらそりゃそう思われちまうよな。何をトチ狂ったんだろうな、俺・・・。

 

「・・・ん?ええ!!?」

 

説教が終わった後に窓を見てみると、外に五月がいるじゃねぇか!まったく気が付かなかった・・・。いつの間に外に出やがったんだ・・・⁉と、とにかく、早く中庭に行かねぇと・・・!

 

「本当に・・・行ったり来たり・・・しやがって・・・」

 

しんどい・・・早く部屋に戻りたい・・・。そんな風に思いながら下へ行ってみると・・・また五月の奴がいやがった。また中に戻ってきたのかよ。だが・・・今度こそ逃がさねぇぞ!俺はすぐに五月の奴を追いかけ・・・

 

「・・・なん・・・だと・・・」

 

五月の奴が入っていったのは風呂場だった。当然・・・あいつが入っていったのは・・・女湯。さっきの女子トイレと同じく、男が入れない場所。くそ・・・本当になんなんだ・・・。待ってたらまた女将に怒られちまうしなぁ・・・。・・・仕方ない、一旦部屋に戻るか・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

部屋に戻った後、俺はさっそく温泉に入っている。せっかくの温泉旅行だ。これに入らないと損だろ。・・・だが、今の俺にはゆったりできる気分ではなかった。

 

「・・・上杉、こっち見ないでよ?」

 

「誰も見ねぇって」

 

なぜなら俺の入っている湯舟に真鍋もいやがるんだ。いや、正確には、この場には親父とらいは、真鍋のとこの爺さんが入っている。なんでって言われたらここは混浴だとしか言いようがない。・・・なんで混浴なんてあんだよ?まぁ、そのおかげで家族で入れるのはいいんだが・・・。

 

「つーかなんでお前までこの混浴に入ってくんだよ。おかげで落ち着かねぇよ」

 

俺たちが入っていた時、真鍋の奴は爺さんを連れて入ってきやがった。ちゃんとタオルでいろいろ隠してるからいいんだけどよ・・・。

 

「仕方ないでしょ。院長は身体が弱いから1人で身体を洗うことができないのよ。まぁ、あんたのお父さんもいて、助かったけど」

 

今親父とらいはは爺さんを気遣って、洗い物を手伝っている。物好きだな・・・。・・・しっかし五月の奴、どういうつもりだ?自分から話があると言っておきながら・・・。

 

「・・・向こうが女子風呂か・・・」

 

「ちょっと、変なこと考えてないでしょうね?てかこっち見るな」

 

「考えてねぇし、見てねぇって言ってんだろ」

 

たく・・・真鍋の奴も心配性だな。だいたい見るなっつってもこいつの見どころなんてどこもないだろ。あいつらと違ってひんそ・・・

 

バシンッ

 

「いってぇ!何しやがる!」

 

この性悪女!急に殴りやがったっぞ⁉

 

「今いらないこと考えたでしょこのクズ野郎」

 

こいつ、何俺の心を感じ取ってやがる・・・。無茶苦茶だ・・・。

 

「失礼しますよ」

 

身体を洗い終わった爺さんが俺たちの入っている湯舟に入ってきた。

 

「いやはやすみませんね。こんなジジイが混浴などと・・・」

 

「いや、別に・・・」

 

この爺さん、礼儀正しいな。この混浴に入ること自体も抵抗があったみたいだし・・・。

 

「お兄ちゃーん。のぼせる前にそろそろ出なよー」

 

「おう」

 

「さっさと出なさいよ」

 

「ほっほっほ」

 

らいはに呼ばれて、俺はさっさと風呂を上がる。ふぅ・・・やっとこの場から解放されたぜ。混浴なんて、あんま居合わせたくねぇよ。とりあえず身体を拭かねぇとな・・・。

 

「・・・ん?」

 

脱衣所に入ってバスタオルを取ろうとした時、1枚の紙がタオルに挟んであった。なんだ、これ?気になって俺はの紙を広げてみた。そこに書いてあったのは・・・

 

『0時、中庭』

 

♡♡♡♡♡♡

 

時は過ぎて0時になった時、俺は部屋を出て手紙に指定された通り、俺は中庭へと向かって。こんなもんを俺に置くってことは、五月・・・だよな?なぜこんな回りくどいことを・・・。まぁ考えても仕方ねぇ・・・。こんな暗いところ長くいたくねぇし、さっさと・・・

 

「・・・・・・」

 

「うおっ!!?」

 

び、ビックリしたぜ・・・。スタッフの爺さんだったか・・・。てかこの爺さん、ずっとこの場所にいるな。

 

「な、中庭って、こっち・・・ですよね?」

 

「・・・・・・」

 

・・・・・・またも反応なし。・・・死んでんのか?・・・まぁ、真鍋のとこの爺さんよりよぼよぼだからなぁ。無理もないか。ここはそっとしておくか。

 

「・・・あ・・・」

 

あ、ついに現れやがったな五月・・・。行ったり来たりしやがって・・・。

 

「五月。ちょうどよかった。俺も中庭に行くところだった。話ってなんだ?よほど重要なことか?」

 

「あ、あの・・・とりあえず中庭へ・・・」

 

いや、もうこの際今言え。これ以上逃げ回られてたまるか

 

「逃げ・・・?・・・あ」

 

こいつ・・・自分で言ったことを忘れやがったのか?なんだよ今のあ、は。

 

「ええっと・・・その・・・」

 

五月は言い出しにくそうだが、一息ついて、その口を開いた。

 

「・・・上杉君は・・・私たちの関係をどう思っていますか?」

 

「え?」

 

俺と、こいつら六つ子の姉妹の関係だと?・・・そんなの、パートナー以外何があるっていうんだ?

 

「それは・・・まぁ・・・ぱ・・・パートナーって言っただろう?初めて家庭教師と宣言した時だって・・・」

 

「いいえ・・・。私たちはパートナーではありません」

 

うっ・・・そんなバッサリと否定するか?初めて会った時のことを気にしてんのか?それとも最近あいつらに会えてなかったことか?・・・間違いなく後者だな。

 

「確かに最近は碌に授業もしてないから否定できんが・・・俺が教えられることはまだあるはずだろ?そんなこと言ってると、また成績落ちるぞ?」

 

「・・・・・・」

 

「それに進級できたとはいえ、俺の受けた依頼はそれで終わりじゃない。あくまでもお前たち六つ子の卒業だ。それまでは・・・一応・・・形として、家庭教師を・・・」

 

「もう結構です」

 

・・・ん?

 

「後は私たちだけでできそうです」

 

え?

 

「私たちの・・・この関係に・・・終止符を打ちましょう」

 

「・・・は?」

 

今、五月はなんて言った?結構?自分たちだけで?終止符?・・・終わり!!?

 

「何言ってんだ!!?ちゃんと説明をしてくれ!!」

 

「きゃっ⁉」

 

ガッ

 

「痛っ・・・」

 

わけわかんなくなり、俺は五月の肩を掴み、揺さぶった。その際に五月足が角にぶつかったがそんなことはどうでもいい!それよりもどういうことかちゃんと説明してほしい!!

 

「父親に言われたのか?それともお前らの意思で?なぜ今になってそんなことを・・・」

 

ガシッ!

 

「言ゅん・・・!!?」

 

ダァンッ!!

 

いってぇ・・・!・・・え?え?い、いったい何が起こった?俺は誰かに掴まれて・・・床に叩きつけられた?誰が・・・?こいつらの父親か・・・?

 

「・・・・・・」

 

!!?スタッフの爺さん!!?死んでたはずじゃあ・・・いや、こうして動いてるってことは、生きてるってこと・・・だよな・・・?ま、紛らわ・・・

 

「・・・~~~

 

?なんだ・・・?

 

~~~

 

なんかしゃべってる!!?けど・・・声が小さすぎて聞こえねぇ・・・!

 

~~~

 

「え!!?何ですか!!?」

 

孫に手を出すな

 

「はあ!!?」

 

こうも小さすぎると全然聞こえ・・・

 

「・・・ワシの孫に手を出すな・・・ぶち殺すぞ」

 

・・・・・・なんか、無茶苦茶物騒なことを言いだしたぞこの爺さん。ていうより・・・は?この爺さんが・・・六つ子の祖父?・・・もう・・・わけわかんねぇ・・・。早く家に帰りたい・・・。

 

30「スクランブルエッグ 一玉目」

 

つづく




おまけ

『2000日後の結婚式、別の部屋にて。その1』

中野??「そろそろ始まったかな?結婚式」

中野??「あの2人、うまくできるかなぁ?」

中野??「案外進行がグダグダだったりして」

中野??「うわっ、ありえそう」

中野??「あはは・・・なんだか心配になってくるね」

中野??「それより、いいことを思いついたんだけど・・・」

中野??「?どうしたの?」

中野??「うん。この披露宴が終わったらね・・・」

結婚式会場で中野家六つ子の姉妹の5人はこれからのことを話しあっているのだった。

『2000日後の結婚式、別の部屋にて。その1』  終わり

次回、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクランブルエッグ 二玉目

アンケートでおしくも外されてしまったメイド喫茶ですが、せっかく多く集まったので、他の話で実用性がないか試行錯誤をしているのですが・・・どうでしょうかね?このまま捨て置くには、少し勿体ない気がするので。

後、最近六海ちゃんのウェディングドレス(原作で言うところの表紙)姿を想像する今日この頃です。きっと似合うんでしょうね。


フロントにいた爺さんに気を取られていたら五月を見失っちまった。俺は五月を探しにこの温泉宿の廊下を走っている。くそっ・・・それにしてもなんだったんだあの爺さん・・・。あの爺さんが六つ子の姉妹の祖父だと?こんな偶然があるもんなのか?いや、今はあの爺さんのことはいい!それよりも今は五月の奴だ!あいつ・・・いったいどういうつもりなんだ・・・?

 

『私たちはパートナーではありません』

 

『私たちの・・・この関係に・・・終止符を打ちましょう』

 

俺を家庭教師を続けることになったのはお前たちのおかげでもある。それが何で今になって終わりと言い出すんだ?俺はどうしても納得ができない。ちゃんと説明してもらうぞ!くそ・・・あいつはどこに・・・。

 

・・・見つけた!2階の奥の部屋だな。早いとこ追いついてどういうことか問い詰めないと・・・!俺はすぐに2階に上がって、五月が走っていった方へむか・・・

 

「上杉君、待ちたまえ」

 

げっ・・・!

 

「お・・・お父さん!!?」

 

「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないよ」

 

な、なんてこった・・・こんなとこで六つ子の父親と出くわしちまうなんて・・・!正直、今の状況は絶対によろしくないはずだ・・・!

 

「この先は僕の部屋と娘たちの部屋しかないが、何か用かな?」

 

「えーっと・・・五月さんにご用があるというか・・・ないというか・・・」

 

ここで変な嘘をついたら逆に警戒を強めてしまう可能性がある・・・。だったら少し正直に・・・

 

「・・・上杉君。君には先の学期末試験で娘たち全員を赤点回避してくれた功績がある。依頼者としては、その願いはぜひとも叶えてやりたいね」

 

「!あ、ありがとうございます。で、では・・・」

 

「しかし・・・それとこれとは話は別、父親としては眉をひそめるざるを得ないな。こんな深夜夜中に娘たちの部屋に男を入れてやる父親がいると思うかい?」

 

でっすよねー・・・。くそ・・・わかってたさ・・・二乃の一件もある・・・警戒なんて、最初からしてるに決まってるじゃねぇか・・・。まぁ、俺の発言にも問題があったんだけど・・・。

 

「い・・・嫌だなぁ・・・トイレですよ、トイレ。少し急いでまして・・・」

 

「トイレは向こうにある」

 

「そうでしたね!」

 

くっ・・・!あの父親がいる限り、あいつらの部屋に近づくことすらできねぇ・・・。これじゃあ五月に会うことができやしねぇ・・・。どうすりゃ・・・って、そうだ・・・真鍋がいるじゃねぇか。あいつは六海の友達だからな。あいつに頼れば、少しは警戒を薄めるかもしれねぇ・・・。あいつの部屋は確か俺たちの部屋の近くだったな。俺は真鍋に頼ろうとあいつの部屋に向かっていく。

 

コンコンッ

 

「おーい、真鍋。いるんだろ?ここを開けてくれ。話がある」

 

あいつのいる部屋にたどり着いた俺はとりあえず・・・真鍋の爺さんがいる手前、勝手に開けるわけにもいかないんでノックをして開けてくれるのを待っている。・・・・・・返事がねぇ。留守か?

 

コンコンコンコンコン!

 

「おい、開けてくれ。頼みたいことがあんだ」

 

俺はもう1度ノック・・・それも強めにしてノックをする。

 

ガララッ

 

お、開けてくれたか。じゃあさっそく話・・・

 

安眠妨害よ!!!

 

ボフッ!

 

バンッ!

 

うおっぷ・・・。あいつ・・・開けた瞬間に枕を投げつけやがった・・・。しかもまた閉めやがって・・・これじゃあ話が・・・

 

パサッ

 

ん?なんだこりゃ?手紙?この枕と一緒についてたものか?なんて書いてあんだ?何々・・・

 

『上杉へ

 

院長共々就寝中。絶対に起こさないで。起こしたら・・・

 

ぶっ殺す

 

・・・怖っ!!殺すってとこマジで協調してるんだけど!いや、多分脅しで言ってるんだけど痛い目に合わされるのは間違いねぇな・・・。・・・ともかく、あの様子じゃ話も聞いてくれそうにねぇな・・・。それに爺さんの世話でかかりっきりで明日以降手伝ってくれるかわかんねぇ・・・。それプラス会うこともできない、連絡手段もなし・・・これは・・・詰んだわ。結局話を聞けずじまいになり、部屋に戻って寝ることに決めた俺だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

家族旅行2日目、昨日のことで少し頭が混乱していたので、俺はこのまま寝ることに決めた。

 

「お兄ちゃんー。朝だよー。起きてー」

 

このまま寝続けようとしたららいはがゆさゆさと揺さぶって俺を起こしてくる。やめてくれ・・・昨日からめっちゃ混乱してんだ。このまま寝かせてくれー・・・。

 

「ねぇ、お兄ちゃーん」

 

「んだよ・・・ずっと寝かせてくれよ・・・このまま寝続けて未来へ飛ぶんだ・・・」

 

そもそもこんな風になっているのは五月に原因があるってものだ。くそ・・・五月め・・・言いたいことだけ言いやがって・・・。もう知らん・・・勝手にしろだ・・・。

 

「もう!お兄ちゃんのバカ!・・・もしもし・・・お兄ちゃん、未来へ飛ぶとかわけわかんないことを言っちゃって・・・。せっかく電話をくれたのにごめんね・・・五月さん」

 

おはよう!!今起きた!!

 

そういやそうだった・・・らいはも五月と連絡先の交換をしてるんだった。連絡先の交換のために交渉材料に使ってたのを忘れてたぜ・・・。俺はらいはのスマホを借りて五月と電話する。さっさと昨日のことを聞いておかないとな・・・

 

「五月!!昨日のあれはどういうことだ!!?ちゃんと説明してくれ!!」

 

≪・・・それはこちらの台詞です。どうして昨日、中庭に来て下さらなかったんですか?≫

 

「・・・え・・・?」

 

ど、どういうことだ?五月はちゃんと中庭に行こうとしていたはずだよな?それは本人の口から聞いた。・・・まぁ、結局宿の中で話したけど。それなのにそれを・・・待てよ?1つだけ思い当たることがある。

 

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ。1度会って話をしよう。部屋まで来てくれないか?」

 

≪・・・そうしたいのは山々ですが、できそうにありません≫

 

「・・・父親か」

 

≪はい・・・。お父さんの監視の目もあって、中々抜け出せそうにありません・・・≫

 

俺のところに近づけないのはあいつらも同じか・・・。まいったな・・・。これじゃあ・・・。・・・いや、あるな。監視の目も気にしないで話せる場所。あまり気乗りはせんが仕方がない。

 

「それなら・・・いい場所があるぞ」

 

≪?それは・・・どこですか?≫

 

「それは・・・」

 

俺は五月と話せる場所を指定してから通話を切り、急いでその場所へと向かっていく。もちろん、らいはにスマホ返してからな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

俺が五月に指定した場所は・・・風呂場だ。だがその風呂場だが男湯と女湯はまったく近くない。当然ながら柵越しで会話をするのは不可能だ。ならどうするか。簡単だ。男湯と女湯の間には昨日俺たちが入った混浴がある。この混浴で男湯と女湯の会話は聞こえていたのを俺は覚えている。

 

つまり、誰か1人が混浴に入ればあの父親の監視を気にする必要はなくなるのだ。だがだからといって五月がそこに入る訳にはいかん。だから俺が混浴に入り、五月が女湯に入ることで柵越しで会話が可能になるというわけだ。・・・正直、こんなことで混浴に入ることになるとは思わなかったぜ・・・。まぁいい。さっさと五月話を済ませるとするか。つっても、後から来る感じだから待つ必要があるか。とりあえず湯舟に・・・

 

ザバアァ!

 

ん?先客か?わざわざ混浴に入ろうとするなんて物好きな奴。・・・まぁ、俺も人のことは言えねぇが・・・。しかしいったい誰が・・・

 

「・・・ふぅ・・・」

 

・・・な・ん・で・だ・よ!!!

 

今湯舟に潜っていたのは六つ子の姉妹の中の誰かだ。は?なんで?なんであいつがこの混浴に入ってんだよ?五月の奴はちゃんと女湯に入るって言ってたし、五月以外の誰かってことなんだろうけど・・・今のあいつの姿は・・・裸・・・!まずい・・・これはまずい・・・早くこの場を・・・だが五月はどうす・・・

 

「・・・すん・・・」

 

?なんだ?あいつ・・・泣いてんのか?いったいどうしたっていうんだ・・・?そういや、昨日も全員、俺にたいしてよそよそしかったし・・・。なんか悩みでもあるのか?

 

「・・・え?」

 

「・・・あ・・・」

 

俺が考えてるうちに湯舟からあいつは上がってきた。そして今こいつは・・・俺の目の前に・・・。

 

「・・・い・・・い・・・!!」

 

これは・・・やばい・・・確実・・・

 

いやああああああああああああああああああ!!!!!

 

バチイイイイイン!

 

「ぶべらっ!!」

 

・・・わかってたさ・・・ああわかっていたとも、こんな展開になることくらい。・・・いってぇ・・・昨日から踏んだり蹴ったりだ・・・。・・・て!そんなことより早く誤解を解かねぇと・・・。多分あいつ、ここを女湯だと勘違いしてやがる!

 

「な、なななな、なんで・・・女湯にいるの⁉やっぱり風太郎君は変態さんなの⁉」

 

「ちょ・・・待て!話を聞いてくれ!」

 

「うるさいうるさいうるさーーい!!早く出てけーー!!」

 

「待てって!誤解だ!ここは女湯じゃなくて混浴だって!ノレンを見ればわかるだろ!」

 

「・・・うぇ・・・?こん・・・よく・・・?」

 

やっと収まってくれたか・・・。つーか、やっぱここを女湯だと勘違いしてたか・・・。

 

「・・・えええ!!?」

 

ここが混浴とわかったとたん、こいつはさっきよりも顔が真っ赤になった。

 

「・・・まさかとは思うがお前・・・かなり寝ぼけてた?」

 

「あ・・・あわ・・・あわわわわわ・・・」

 

ガッ

 

「あ・・・わあ!!?」

 

ザッパーーン!!

 

慌てふためいてるそいつは足が引っ掛かって転んでそのまま湯船に入ってしまった。・・・何やってんだよ・・・。

 

「うぅ・・・いった~い・・・」

 

「おい、だい・・・じょ・・・」

 

俺がこいつを起こそうと思った時、俺は一瞬だが見ちまって、すぐに視線を反らした。俺が見たのは・・・あいつが身体に纏っていたバスタオル・・・。それはつまり・・・

 

「・・・っ!!!///」

 

そいつは多分自分の今の姿を見たんだろう。恥らいの声が上がっている。

 

「vんきぇgじgvbこrfbこrd!!!!」

 

そいつは悲鳴に近い声を上げながらバスタオルを持って上がっていっちまった。・・・なんか・・・罪悪感が・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・見られた・・・風太郎君に・・・六海の裸・・・見られた・・・もう・・・お嫁にいけない・・・///」

 

その時の六海の顔はそれはもう、トマトより真っ赤だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・結局、あれは誰だったんだ・・・?

 

「あのー・・・上杉君ー?いるんですよね?何やら六海の悲鳴が聞こえてきたのですが・・・向こうで何があったのですかー?」

 

あ、五月の奴、女湯に入ってきたな。てかあれ、六海だったのか・・・。少し悪いことしたか・・・。後であいつに謝っとくか・・・。

 

「いや・・・何でもねぇ。少し厄介事に巻き込まれただけだ」

 

「はぁ・・・そうですか・・・」

 

「つーかそれよりもだ・・・一応の確認はしておくぞ?」

 

「は、はい」

 

いや、俺の事を上杉君と呼んでいる時点で五月だとわかるんだが・・・一応、念のために確認はとっておくか。事前の打ち合わせ通りの合言葉を。

 

「んー・・・こほん・・・。・・・デミグラス」

 

「・・・は・・・ハンバーグ・・・」

 

よし。答えが帰ってきたということは間違いない。本物の五月だな。

 

「オッケー。・・・ふぅ・・・ようやく本物の五月と話せたぜ」

 

「あ・・・あの・・・電話でも言いましたが、温泉で仕切り越しというのはいくらなんでも・・・」

 

「いや、さすがに同じ湯はまずいだろ」

 

真鍋と一緒に入ったのはまぁ仕方ないとして・・・現にさっき六海のおかげでまずい状況になったからなぁ・・・。

 

「そう言う意味ではありません!!」

 

「だがここなら、あの父親の目も届かない。別にいいだろ」

 

「そうですけど・・・はぁ・・・無茶苦茶です・・・」

 

仕方ないだろ、こうでもしないとあの警戒度が高すぎる父親の目をかいくぐることができねぇんだから。

 

「・・・とりあえず俺から話を進めるぞ」

 

「・・・どうぞ」

 

とりあえず話をつけることができたから、俺は五月に昨日のことを話す。

 

「昨夜、俺はフロントで五月に会い、家庭教師を辞めるよう促された」

 

「え・・・?なんですかそれ?私、知りませんよ?」

 

ふぅ・・・やはり・・・予感的中か。あんま当たってほしくはなかったがな・・・。

 

「そうだな。現にお前自身は知らないと来た。つまりあれはお前じゃなかったってことだ。そして、そんなことができるのは・・・」

 

「ええ・・・私の姉妹しかありえません」

 

決まりだな・・・これではっきりした。五月以外の5人・・・あいつらの中の誰かが俺を拒絶しているというわけか・・・。いったいなぜなんだ・・・?

 

「誰か怪しい奴はいなかったか?つーかわざわざ五月に変装した理由がわからん・・・」

 

「あ、それはですね・・・」

 

ガララッ

 

「!!」

 

「あら、こんなところで偶然ね。あんたとは風呂場でよく会うわね」

 

げっ・・・うっそだろ・・・。また姉妹の誰かが混浴に入ってきやがった・・・。まだ五月との話があるってのに・・・。この状況を誰かに見られたらまずいだろ・・・。

 

「てか、あんたなんで混浴になんて入ってるのよ」

 

「そ・・・それは・・・仕方なく・・・」

 

「ふーん。ま、いいわ。それはともかく・・・せっかく一緒になったんだし・・・体でも洗ってあげるけど・・・どう?」

 

はあ?体を洗うこいつが?俺の体を?何で?絵面的にも誰かに見られたらまずいんだが・・・てかその前に・・・

 

「あー・・・ちょっと待て・・・言いたいことがあるがその前に・・・1ついいか?」

 

「な、何よ?」

 

「・・・お前、誰だ?」

 

「・・・はあ!!?」

 

「五月・・・ではないな。あいつはもっと髪が長いし・・・。と、なるともしかて・・・。いや、それだけで判断は・・・。いや、しかし・・・」

 

さっきの奴は六海だったみたいだが・・・何分全員同じ顔だからなぁ・・・。身わけをつけるためのアクセもないからどうやって区別すればいいか・・・。

 

「~~~~っ!!この・・・バカ!!!」

 

パコーンッ!

 

いて!あいつ・・・近くにあった桶を投げつけやがった・・・。桶を投げるだけ投げてさっさと出ていきやがった・・・。・・・いったい何だったんだ、あいつ?てか本当に誰だ?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・はあ・・・はあ・・・」

 

先ほど風太郎に桶を投げつけ、恥ずかしさで顔を赤くしている者正体は二乃であった。

 

「・・・勇気出したのに・・・昨日真鍋とは入ったのに・・・許さないわ・・・///」

 

二乃の脳裏に浮かび上がったのは先日、上杉家が混浴に入った後、真鍋と院長が混浴に入った光景、そして今日、風太郎がたった1人で混浴に入っていく光景だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海といいさっきの奴といい・・・なんでこうも混浴に入ってくることが多いんだろうな?

 

「・・・さっきの会話、一部始終まで聞かせてもらいましたが、今のは上杉君が悪いです」

 

「んな無茶な。全員同じ顔なんだぞ?全部同じ柄の神経衰弱をしている気分だ」

 

「それは逆に簡単なのでは?」

 

あ、本当だ。ていうか同じ柄の神経衰弱なんて、簡単にクリアしてしまうから面白味はないな。て、そんなことはいい・・・とにかく五月を含め、あいつらを見分けるなんて・・・簡単にできるとは思えん。小テスト0点事件の時だって全然見分けられんかったし。

 

「しかし全てが同じというわけではないと思いますよ。現に私たちは見分けられています。きっとあなたもできるはずです」

 

「そうかぁ・・・?」

 

「そうです!できるはずです!があれば!!」

 

「出たよトンデモ理論」

 

いつ聞いても意味不明な理論だ。だいたい愛があればって・・・そんなのどうやって育めばいいっていうんだよ・・・。

 

「しかし疑問ですね・・・あれほど上杉君を毛嫌いをしていた二乃がどういう風の吹き回しでしょう・・・」

 

あ、あれ二乃だったか・・・。全然気が付かなかった・・・。

 

「二乃だけではありません。一花も、三玖も、四葉も、そして六海も・・・春休みに入ってからどこか変なのです」

 

「あいつらが変?」

 

「はい・・・。昨夜はそれを尋ねるためにあなたを呼び出しました。何かご存じありませんか?」

 

俺が感じていた違和感・・・そしてあいつらのよそよそしさ・・・やはり気のせいじゃなかったみたいだな・・・。だがそれ違和感が何なのかは、こっちが聞きたいくらいだ。まぁ、二乃はともかくだがな。

 

「ご存じないな。お前が姉妹に直で聞いてみたらいいだろ?」

 

「身内の私より、上杉君の方が適任かと思うのですが・・・」

 

俺の方が適任だと?それはどういうことだ?また姉妹同士で喧嘩でもしたのか?まさか、六海のさっきの涙はそれ関係か?ふむ・・・だとしたら、あいつらの成績が及ばんように何とかせねば・・・てっ!!

 

「何俺が前向き解決する流れになってんだ!!?」

 

「わっ⁉️」

 

「今の俺が最優先すべきなのは偽五月だ!偽五月の真意が理解できないとこのままじゃ本当に家庭教師に影響しかねん!五月には悪いが、あいつらの悩み相談は後だ!」

 

「そ、そうですよね・・・すみません」

 

もちろん、あいつらの悩みも何とかせねばいかんが、まずは偽五月の方が先だ。あいつら5人の中の誰かだと思うのだが、いったい誰が俺を・・・

 

「しかし、実は私も1つだけ・・・偽五月に共感できるものがあります」

 

ん?五月が偽五月に共感できるもの?

 

「なんだそりゃ?」

 

「はい、私たちはもうパートナーではありません」

 

「えぇー・・・お前までそんなこと・・・」

 

「もちろん、偽五月がどういった心境でそう言ったのかはわかりませんが・・・すでに利害一致しているというだけのパートナーではないはずです」

 

・・・ん?利害一致?どういうことだ?

 

「だってそうでしょう?数々の試験勉強の日々、花火大会、林間学校、年末年始・・・他にも様々な出来事・・・。これだけの多くの時間を共に共有してきたのですよ。

 

それはもはやパートナーではなく、友達、でしょう?」

 

・・・友達、か。百歩譲って赤の他人と言い張りやがったあの五月が・・・なぁ・・・。あれからまだ半年しかたってないのに、ずいぶん変わったな。

 

「・・・恥ずかしいことを堂々と言いやがって・・・せっかくの旅行が台無しだぜ・・・」

 

だが・・・不思議と悪い気分ではなかったな。偽五月の問題が最優先・・・それは今も変わってはないが・・・あいつらも放っておくわけにもいかんか・・・。

 

「・・・やるか。お悩み相談」

 

それに少なくとも、あいつらの悩みさえ解決すれば、偽五月の真意を知ることもでき、それを解消することができるかもしれん。一石二鳥というのだろうな、この場合だと。

 

「・・・・・・」

 

「・・・五月?」

 

なんだ?声が聞こえなくなったぞ?聞こえてないのか?どうなってんだ?

 

ガラララッ!

 

「ありがとうございます!!!」

 

「!!?」

 

はああ!!?ちょ・・・待て!待て待て待て!な、な、なんで五月が混浴に入ってきてんだよ!!

 

「お、お前!何でこっちに入ってくんだ!!」

 

「混浴なので問題ありません!!」

 

そういう問題じゃねぇ!!

 

「俺がいるんだけど!!絵的にもやばいだろ!!」

 

「何を言っているんですか!友達ならこれくらい・・・当然・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ではないですね・・・///」

 

急に冷静になった。まぁ、ひっきりなしに暴れたり、人目を気にしないでいるよりかはマシだな・・・。た、助かった・・・。

 

「すみません・・・忘れていただけると幸いです・・・」

 

「ふぅ・・・お前にはやってもらわなきゃいけないことがあるんだ。しっかり頼むぞ」

 

「え?何をですか?」

 

まぁ・・・とりあえず俺は五月にやってもらうことを説明してから、混浴から上がって、それを実行に移すことにする。

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月にやってもらうこと・・・それは、俺が六つ子の部屋に入れるようにするためにあいつらの父親を監視場所から引き離すことだ。今現在、五月がそれを実践する。

 

「お父さん・・・少し、お話があるのですが・・・」

 

「なんだい?」

 

「ここではなんですし・・・部屋にお邪魔してもいいですか・・・?」

 

「・・・いいだろう」

 

よし!五月が父親を引き離してくれた!ここさえ突破できれば、後はちょろいもんだぜ!五月が父と一緒に部屋に入るのを見計らって俺は一気に六つ子の部屋へと向かっていく。とりあえず部屋にたどり着いたらあいつら1人1人に話を聞いてやればいい!そうすれば、偽五月の特定に繋がる大きな手掛かりに成りうる!どうせ大したことない悩みだ。バッチリ解決してやる!一花、二乃、三玖、四葉、六海、待ってろよ!六つ子の部屋にたどり着き、俺は堂々と部屋を開け・・・

 

「・・・は?」

 

扉を開けた瞬間、俺は目の前の光景に目を疑った。俺は夢でも見ているのか?見ているのなら、どうか早く目を覚ましてくれ。そして現実ならば・・・どういうことかちゃんと説明してくれ。この光景は・・・あまりにも非現実的すぎる・・・!この光景は、一言で例えるのならば・・・

 

「五月の森・・・!」

 

俺の目の前に広がっていたのは、姉妹全員が、五月の姿をしているのだった。これを五月の森と呼ばずしてなんと呼べばいいというんだ・・・!

 

「な、な、な・・・なんで全員五月になってんだ・・・?」

 

「フータロー君、ノックくらいしてよ」

 

「ビックリさせちゃったね」

 

「・・・・・・///」

 

「えーっと、これはですね・・・」

 

「ちょっと待ちさなさい」

 

俺が混乱しているのをよそに、五月1号?は説明をしようとしたが、五月2号?がストップをかけてきた。

 

「ちょうどいいところに来てくれたわね。あんたにはもう1度試してみたかったのよ」

 

確かめる?確かめるって・・・何を?

 

「覚えているかしら?六つ子ゲーム」

 

「え?」

 

「前は絵の誰かをだったけど、あんたが次に特定するのは、アタシたち自身」

 

え?え?え?は、話が勝手に進んでいく・・・。

 

「アタシ達が誰が誰だか、当ててみなさいよ」

 

♡♡♡♡♡♡

 

何故か急に始まった六つ子ゲーム。どういうことか説明してほしいのにどうしてこうなった?ただあいつらの悩みを解決すればいいと思っていた俺が浅はかだったぜ・・・。まぁいい。確か今回の六つ子ゲームのルールはこうだったな。

 

1つ、今から偽五月が1人ずつ部屋に入ってきて、その姿を確認する。

2つ、俺が何かしらの質問をし、偽五月がそれに答える。

3つ、5人全員の偽五月に質問を終えれば、誰が誰かを当てていく。

 

ざっとこんなところか。正直、当てられる自信はないが・・・もしかしたら、昨日会った偽五月の特定ができるかもしれねぇ。なら、やれるだけやってみるか。

 

まずは1人目・・・まずは無難に自己紹介だな。

 

「自己紹介ですね。私は中野五月、17歳、5月5日生まれのA型です」

 

ふむ・・・じゃあ次、2人目・・・質問は、好きなことだな。

 

「好きなこと・・・ですか・・・。やはりおいしいものを食べているときが幸せですね」

 

う・・・ん・・・?まぁ・・・次、3人目・・・質問は、将来の夢について話してもらうか。

 

「将来の夢、ですね。私の将来の夢は学校の先生になることです。これも、あなたのおかげで見つけた夢です。感謝していますよ」

 

う・・・うーん・・・?じゃあ次・・・4人目・・・質問は・・・ちょっといじわる系なものにするか。

 

「なぁっ!!?そんなこと答えられるわけないじゃないですか!!上杉君!女の子にそのような質問をするのはいけません!どうかしていますよ!!」

 

・・・・・・次、5人目・・・。

 

「お待たせしました」

 

「ぬああああああ!!!くそおお!!!全然!!全く!!違いがわからねぇ!!」

 

こうして5人の偽五月を確認したわけだが・・・どこがどう違うのかが全くわからねぇ!改めて思うが、六つ子ってこんなに似るものなのか?五月のクローンがいるんじゃないかって疑うレベルだぞ・・・。それも六姉妹ときたもんだから気絶じゃすまんかもしれん。

 

「あのー・・・質問がないなら、もう行ってもいいですか?」

 

おっと、考えすぎて質問を忘れていた。

 

「あー、すまん。とりあえずこれだけは聞いておきたいんだが・・・何で全員五月の変装なんてしてんだ?」

 

「・・・それは・・・その、少し事情がありまして・・・」

 

事情?事情ってどんな事情なんだ?

 

「私たちは昔からそっくりな六つ子で自他共に認める仲良し姉妹だったのです。おじいちゃんもそれを見て喜んでいました」

 

「あの爺さんが、なぁ・・・」

 

「しかしある日、姉妹の1人がみんなと違う恰好をしていたんです」

 

「ふーん・・・そいつはどんな格好なんだ?」

 

「格好ですか?それは今と変わらないウサギリボンでした」

 

「ウサギリボン?それって四葉か?」

 

「はい、四葉です」

 

なるほどな・・・六つ子の中で最初に変わったのは・・・悪い言い方をすれば輪を乱したのは四葉というわけか・・・。だがそれと五月の変装とどう関係しているんだ?・・・それにしても、ボロを出さねぇなぁ・・・四葉ならすぐに暴けると思ったのに・・・。

 

「それでですね、6人同じじゃない私たちを見ておじいちゃんはものすごく心配していました。仲が悪くなったんじゃないかと・・・。しまいには倒れてしまったんですよ」

 

「そいつはまぁ・・・」

 

「それ以来おじいちゃんの前では全員そっくりな姿でいると決めました。話し合いの結果、変装は私に決まったというわけです」

 

だいたいの事情はわかった・・・こいつらが何で五月の変装をしているのかというのを。なんつーか、改めて面倒くさいな・・・。

 

「だから、本当に四葉が心配になってくるのです」

 

「え?なんで四葉が出てくるんだ?」

 

「知っての通り、四葉は変装が得意ではないので・・・ボロを出さないか心配で・・・。本人も不安がっていましたし・・・」

 

!四葉が変そうにたいして・・・不安がっていた?

 

「まさかとは思うが・・・四葉の悩みって、変装のことだったのか?」

 

「?間違いないと思いますよ?私の前で何度も腹痛にあってるようですし・・・」

 

ふむ・・・多少は進歩したな・・・。結局誰が四葉なのかはわからなかったが・・・悩み自体は聞くことができた。これで四葉が偽五月という線はかなり薄くなったな。四葉がよそよそしかったのはこれが原因だったとは・・・案の定しょうもない悩みだな。

 

「あんな怖い爺さんのために、お前らは偉いな」

 

「いえ、とても優しい人ですよ。私、おじいちゃんが大好きですよ」

 

今回の五月の変装は、こいつらなりにあの爺さんを慮ってのことだろうな。俺からすればしょうもない悩みだろうが、こいつらにとっては真剣な問題だ。五月が父親の目を逸らしてるうちに他の奴らの話も聞ければいいんだがな・・・。

 

「どうやら質問は全て終わったみたいですね」

 

俺が考え事をしていると、残りの偽五月が全員入ってきた。

 

「さて、一通り話し終えましたが、どうですか?見分けられましたか?」

 

・・・あ、そういえばまだ六つ子ゲームの最中だった。どうしよう・・・まだ誰1人として見分けられてないんだが・・・。

 

「あー・・・いや・・・その・・・だな・・・」

 

「・・・わからなかったのですね」

 

「はぁ・・・ガッカリ・・・やっぱ全然だめね」

 

俺がこいつらを見分けられなくて、偽五月はがっかりした気持ちが出ているのがわかる。

 

「ちょ・・・待ってくれ・・・もう1度チャンスを・・・」

 

コンコンッ

 

や、やば!誰か来やがった!まずい・・・俺がこの場にいることをこいつらの父親に見られたら・・・うぅ・・・想像したくねぇ・・・。

 

「フータロー君、早くこの中に!」

 

「!お、おう」

 

偽五月の1人が機転を利かせてこたつの布団を開けた。少し抵抗はあったが、しのごの言ってられん!今はこの状況を切り抜けることが優先だ!俺はすぐさまこたつの中に入り、身を潜ませた。

 

ガララッ

 

「・・・・・・」

 

「あ、おじいちゃん」

 

「おはよー」

 

~~~

 

「え?何々?何て言ってるの?」

 

「なんか心配してるみたいだよ」

 

「安心して、おじいちゃん!今でもずっとそっくり仲良し姉妹だから!」

 

「(^ー^)」ニコッ

 

・・・・・・あ、あっぶねぇ・・・こいつらの爺さんだったか・・・父親だったらマジでやばかったぜ・・・。結果オーライってやつか・・・。

 

「朝ごはん教えに来てくれたんだ」

 

「確か大広間だったよね?」

 

・・・それにしても、あの爺さんが優しいだと?冗談じゃねぇぞ・・・いきなりぶん投げられるわ、ものすごく物騒なこと言いだしたんだぞ。怖すぎるわ・・・。

 

「痛っ!」

 

「?」

 

「あ、あはは・・・何でもないよ」

 

「ちょっと、踏んでるわよ」

 

「お、おお・・・悪い・・・」

 

少し動いちまったせいか偽五月の誰かの足を踏んじまったみたいだな・・・って、待てよ?そういや昨日の偽五月、足を角にぶつけてたような・・・もしかしたら・・・

 

もぞもぞ・・・

 

「!!?」

 

「ちょ・・・ちょっと・・・」

 

「や・・・やぁ・・・ん・・・」

 

「だ・・・ダメ・・・」

 

「ちょっと!何してんのよ⁉️」

 

すまん、俺がもぞもぞ動いててくすぐったいのはわかるが、我慢してくれ。確かめないといかんのだ。この中に昨日の偽五月がいるのだとしたら、もしかしたら昨日の偽五月に足のケガが残ってるかもしれん。

 

「・・・!」

 

見つけた・・・こいつの足には昨日角にぶつかった痣が残ってる。間違いない・・・こいつが昨日の偽五月だ。俺はすぐに昨日の真相を確かめるためにこの偽五月・・・

 

「じゃあ大広間に行こっか」

 

「今日は海に行こう」

 

「え?まだ寒くない?」

 

あ!くそ!離れていきやがった!確認したいことがあるのに行くんじゃないっての!・・・ああ、くそ!行っちまいやがった・・・。・・・まぁ一応、成果はあったな。再確認することができただけでも進歩だな。しかしいったいなぜなんだ?期末試験も無事合格して、順調だったはずなのに・・・。・・・考えても仕方ねぇ。いつまでもここにいるわけにはいかねぇし、さっさと部屋を出るか。

 

「ちょっといいですか?」

 

俺が部屋から出ると、偽五月が待っていた。・・・えーっと・・・こいつは誰だ?マジでそっくりだからわからねぇ・・・。

 

「・・・えーっと・・・一花か?」

 

「ブー。ではここでヒントです」

 

ヒントと言ってこの偽五月は長い髪を首元まで持ち上げた。

 

「六海か?」

 

「ブー」

 

「えー・・・じゃあ・・・四葉」

 

「・・・・・・」

 

「そうか!まさかの五月本人だな!」

 

「・・・フータロー・・・わざと間違えてるでしょ?」

 

すまん・・・ガチでわからん・・・。

 

「はぁ・・・私、三玖だよ」

 

「み、三玖だったか・・・」

 

何度も言うが、本当に全員そっくりだからこいつが三玖だってことも全く分からなかったんだ。本当にすまん、三玖。

 

「突然お父さんがいて驚いたでしょ?実は前に六海と真鍋さんと一緒にスーパーに行って、応募懸賞をやったんだ。それでA賞が当たった」

 

「そうか、それでここに・・・」

 

「でもその懸賞で間違えて前の住所を書いちゃったんだ」

 

「あー・・・なるほど・・・ドジったわけだな」

 

「まぁ、おかげで全員で旅行に行れたわけなんだけどね」

 

とりあえずこいつらが何で家族旅行に来ている理由はわかった。まぁそれはいい・・・しっかし、やっぱり外見だけでは三玖が昨日の偽五月かどうかはわかんねぇな・・・。

 

『できるはずです!があれば!!』

 

いや、五月のアドバイスがあればきっと何とか・・・!諦めんなよ俺!しっかり観察すればきっとわかるはずだ!今こそ、愛100%だ!!

 

「・・・・・・」じーっ・・・

 

五月が言うには、どうやら三玖にも悩みがあるそうだな。しかし俺には先月あたりから1つだけ心当たりがあるんだ。まさかとは思うが、三玖の悩みとはもしかして・・・。全く、我ながら呆れちまうぜ。俺はいつからそんなことを考えるようになったんだろうな・・・。

 

(なんかいやらしい視線を感じる・・・)

 

・・・ダメだ・・・考えれば考えるほどわけわかんねぇ・・・。

 

「・・・はぁ、降参だ。俺の負けでいいから意地悪せずに誰が誰だか教えてくれよ」

 

「それはダメ。ルール違反」

 

「しかしだなぁ・・・」

 

「もう少し頑張ってみてよ・・・。私も・・・当ててほしい。フータローに」

 

・・・そう言われてしまっては・・・もう少し頑張ってはみるが・・・一応俺には昨日の偽五月を見つけないといかんから悠長はしてられん。

 

「じゃあせめて足を見せてくれ」

 

「え⁉なんで⁉」

 

「いや、本当に頼む」

 

「ほ、本当にどうしたの、フータロー⁉」

 

俺は足のケガを確認するために三玖に迫っている。いや、見せてくれるだけでいいから。

 

~~~

 

「あ、おじいちゃん・・・」

 

うげっ・・・爺さん・・・。

 

~~~

 

相変わらず声が小さくて聞こえやしねぇ・・・。とりあえず、耳を傾けて、爺さんの言葉を聞いてみるか・・・。

 

「見てたぞ。また孫に手を出そうとしていたな?場合によっては・・・ぶち殺す」

 

あ、圧がめっちゃすげぇ・・・。しかもまた物騒なことを言ってるし・・・。怖い、怖すぎる・・・。

 

「い・・・いやだなぁ・・・あっはっは・・・俺は何もしていませんよ・・・」

 

「・・・三玖よ、何もされとらんかったか?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「ならいい。~~~

 

三玖の安全がわかったら爺さんは立ち去っていった。ふぅ・・・今日は投げられずにすんだぜ・・・。本当に怖いんだよなぁ・・・あの爺さん・・・って、待てよ?今あの爺さん・・・っは!!閃いたぜ!!

 

「三玖、すまん!先に大広間に行っててくれ!」

 

「えっ⁉フータロー⁉」

 

俺はすぐさまあの爺さんの元へと駆け付けていく。あの爺さん・・・顔を見ただけであいつを三玖だと判別してやがった!怖い爺さんだが・・・あの人、やはり只者じゃねぇ!なら俺のやることは決まったも同然だ!

 

「爺さん!!・・・いや、師匠!!」

 

「?」

 

「お願いがあります!!」

 

今の俺にやるべきことはただ1つ・・・この爺さんの弟子になって、あいつらの見分け方を教えてもらうことだ!この六つ子ゲーム・・・思ったより早く終わりの糸口が見えてきたかもしれん。待ってろよ・・・絶対にあいつらを見分けるようになってやる!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『1人で待つ四葉』

 

祖父から朝食の知らせを受け取った六つ子の姉妹の5人は全員大広間に向かった・・・というわけではなく、途中で一花、二乃、六海はどこかへ行ってしまい、三玖と離れてしまい、今大広間にいるのは四葉だけだった。

 

「みんな遅いなー・・・。一花と二乃、六海もどこかに行っちゃうし・・・五月はどこにいるんだろう・・・。お腹すいたなー・・・」

 

四葉はお腹を空かせながら待っていた時、自分の言った発言に少し違和感を感じる。というのも、今の四葉の姿は五月なのだ。ならば五月そっくりにしなければいけないのだ。それも全て、祖父のために。

 

「・・・うーん・・・。こうじゃないなぁ・・・。・・・お腹がすきました!・・・ちょっと違うなぁ・・・」

 

四葉はいろいろと試行錯誤をし、五月にまねていく。

 

「お腹がすきましたぁ~!・・・うんうん、五月はこんな感じ!」

 

四葉が納得している。そしてその様子をついさっきこの大広間に来た真鍋と孤児院の院長に見られていた。

 

「・・・あ・・・」

 

「・・・五月、あんた何してんの?」

 

「え・・・え~っと・・・これは・・・」

 

今の場面を見られて四葉は少し恥ずかしさがこみあげてくる。

 

「ほっほっほ。暇を持て余していたのですかな?」

 

「えと・・・そ、そう!そうなんです!」

 

「そうですか。暇つぶしとして、よければこのジジイの話し相手になってもらえませんか?」

 

「も、もちろん!構いませんとも!」

 

四葉は恥ずかしさをごまかすために院長の話し相手になってあげた。その様子に真鍋は四葉(五月として見ている)に呆れている。

 

「はぁ・・・。にしても上杉の奴、何の用だったのかしら?昨日あんなにドンドンと」

 

真鍋は何用で昨日風太郎がやってきたのかというのを考えながら朝食がくるのを待っていた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『二乃の恋愛相談』

 

一方その頃、一花、二乃、六海は大広間に向かわず、先に女湯で朝風呂に入っていた。

 

『一花、六海。一緒に朝風呂に入らない?』

 

この二乃の一言でこうなっているわけで、現在は六海は一花の背中を、二乃は六海の背中を流しあいをしている。

 

「一花ちゃん、背中かゆくない?大丈夫?」

 

「うん。大丈夫だよ。快適快適♪」

 

「それはよかった。でも・・・わざわざ二乃ちゃんが六海の背中を洗わなくても・・・」

 

「あら、アタシがこうしたいのだから気にしないでいいわよ」

 

背中の流しあいをしていると二乃は一花と六海の足にケガができていることに気づいた。

 

「あら?あんたたち、足どうしたのよ?」

 

「え?あー・・・ちょっとトラブルがあってさ・・・」

 

「大丈夫なの?平気?」

 

「うん。大丈夫。痛くはないかな」

 

本人たちは痛くないと言っているので二乃は気にしないことにした。

 

「この温泉も変わらないね」

 

「昔は6人で入ってたっけ」

 

「うんうん。懐かしいな~」

 

3人はこの温泉での昔の思い出を振り返り、懐かしがっていた。

 

「・・・それで・・・今日は何で私たちだけなんだろう?」

 

ここで一花は本題に入り、二乃は一花と六海を呼んだ理由を話す。

 

「一花と六海の話が聞きたくなったのよ。ほら・・・あんたって、告白とかたくさんされているじゃない?」

 

「!」

 

「六海だって・・・坂本って奴に告白されたわけだし」

 

「・・・っ」

 

「こんなこと、他の子には言えないわ」

 

二乃の会話からして、一花と六海は嫌な予感がひしひしと混み上がってくる。当の二乃はまるで恋する乙女のように、頬を赤く染め上げていた。

 

「アタシ・・・好きな人ができたの」

 

一花と六海の予感が見事に的中した。二乃に好きな人ができた・・・それは2人にとって1番聞きたくなかった言葉だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『オチ』

 

「そ・・・それでですね、カーテンを買いに行った時の話なのですが何色にしようかと姉妹で話し合いましたのですが好みは6人6色全員が違うものを選び一時は険悪な雰囲気に・・・」

 

「・・・・・・」

 

(上杉君・・・私はいつまでここでお父さんと話せばよいのでしょう・・・?まだ朝ごはんも食べていませんのに・・・)

 

くぅー・・・

 

(そ・・・そろそろお腹がすきました~!)

 

31「スクランブルエッグ 二玉目」

 

つづく




おまけ 六つ子ちゃんは身長を6等分できない

四葉「私たちの身長は6人で合わせると、954cmです!」

三玖「これらを6等分すると・・・」

二乃「1人159cmってとこね」

一花「う~ん・・・もう止まっちゃったのかなぁ?」

四葉「とにかく、全員同じってことで・・・」

五月「待ってください。これを見てください、これ」

ゆらゆらと揺れ動く五月のアホ毛

五月「私が1番身長が高い、それでいいですよね?」

六海「い・・・いやぁ・・・でもそれ、アホ毛・・・」

五月「それでいいですよね?」

六海「あ、はい」

六つ子ちゃんは身長を6等分できない  終わり

次回、一花、六海視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクランブルエッグ 三玉目

くそう・・・本当なら5月5日・・・つまり六つ子ちゃんの誕生日。その日に投稿したかったのに投稿できなかったとは・・・不覚です・・・。この日に投稿して、お祝いしたかったです。まぁ、当日でもお祝いしてたのですが・・・。やはりこれだけが心残りです・・・。

皆さんも皆さんも良ければ、遅らせながらでも、六つ子ちゃんをお祝いしてあげてください。

後ちょっと早いですが、後書きに大人になった六海ちゃんを紹介します。なにせ次回に写真でですが、ちょこっと登場しますので。


一花SIDE

 

「恋愛相談なんだけど・・・あいつとの出会いは最悪だったわ。何度あいつを追い出そうと思ったかなんて数えきれなかったわね」

 

二乃・・・お願い・・・それ以上は言わないで。

 

「でもね、何度もあいつと向き合っていたら、気づいちゃったのよ。あいつが好きなんだって」

 

私と六海は今、温泉の女湯で二乃から恋愛相談をされている。・・・何で、今になって二乃が・・・。長女という立場が、今では嫌気が指す。

 

「ね・・・ねぇねぇ、それって二乃ちゃんの友達の話だよね?そうだよね?」

 

六海自身も認めたくないのかそんなことを口にした。だって六海だって、フータロー君のこと・・・。

 

「違うわ、アタシの話よ」

 

でも二乃は容赦なく私たちに現実を突きつけた。

 

「相手は・・・ああ!!やっぱダメ!!こればっかりは言えないわ!!ごめん、これだけは内緒よ!!」

 

いや、まぁ知ってるんだけども・・・。だってあの時、私と六海はその光景を見ちゃったんだもん。見たくはなかったけど・・・。

 

「・・・それで、話は戻すけど先日・・・まぁ、テスト返却の日にそいつに思いきって告白したわ。でもそれが正解かどうかは自分でもわからないわ」

 

「「・・・・・・」」

 

「そこで、告白を受けてるあんたたちに聞きたいわ。告白されたら多少ながらも意識したりするのかしら?」

 

この恋する乙女である二乃をどうにかして止めないと・・・じゃないと、六海はきっと悲しんでしまう・・・それに、このことを三玖が気が付いたら、あの子も・・・。それに・・・

 

「・・・私の経験では・・・だけど・・・ごめん。そういうことはなかったかな」

 

私だって・・・フータロー君のことを・・・。だから居心地のいい空間を壊さないで・・・今のままでいさせて・・・!

 

「・・・ふーん。で、六海はどうなのよ?坂本の告白は」

 

「・・・最初は本当に驚いたけど・・・うん。六海も・・・特別な感情は湧かなかったな」

 

六海は嘘をつく理由がないのか、正直なことを話してる。

 

「・・・そう。告白だけじゃ足りない、と・・・」

 

「え⁉いや、そうじゃなくて・・・」

 

どうしてそんな解釈になるの⁉

 

「ね、ねぇ、二乃ちゃん。二乃ちゃんとその人の出会いは最悪だったんでしょ?本当にその人のこと好きなの?勘違いとかじゃないの?」

 

六海は少し焦ったような気持ちになってるのか二乃にそう聞いてきた。そ、そうだよ・・・フータロー君のことあんなに嫌っていたのに・・・

 

「勘違い、ね。ある意味では間違ってはないわ」

 

二乃は特に慌てた様子はなく、さらに言葉を紡いでいく。

 

「あいつは・・・アタシの大切なものを壊す存在として現れたわ。だけど林間学校のあの夜、王子様みたいなあいつを別人と思い込んだまま好きになっちゃったのよ」

 

「・・・っ、それって・・・」

 

「同一人物とわかってから、別人のとしてのあいつを忘れようとしたわ。だけど、やっぱりできなかったわ。そして気づいちゃったのよ。アタシが拒絶していたのは彼の役割でだって彼個人ではなかったってね」

 

「・・・そんな・・・」

 

「王子様があいつだとわかってから、もう歯止めが利かなくなったわ。寝ても覚めても、あいつのことばかり考えるようになったわね」

 

・・・何それ・・・。あんなにフータロー君のことを否定していたくせに・・・。

 

「そ、そんなの・・・」

 

「だから好きになったって・・・そんなの都合よすぎない?」

 

「⁉一花・・・ちゃん・・・?」

 

二乃のあまりに虫のよさすぎる話に私は心の奥底から苛立ちが沸き上がってきている。多分、今私は全然笑えてないと思う。

 

「・・・そうね。こればっかりは自分でも引いてるわ」

 

「だったら・・・」

 

「でも、だからって引くつもりも諦めるつもりもないけどね」

 

「「え?」」

 

「だってこれはアタシの恋だもの。アタシが幸せにならなくちゃ意味がないわ」

 

二乃の意思は変わらないのかそんなことを言ってきた。確かにそういう考え方はあるかもしれないけど・・・ダメなものはダメ!何とかして止めないと・・・

 

「も・・・もし!同じ人を好きな人がいたらどうするつもり?」

 

「同じ人を?」

 

「そう!その子の方が二乃よりずっと、彼のことを想ってくる人がいたら?」

 

今の私は二乃を止めるので必死なんだと思う。六海の目も気にしてられないほどに思ってもないことを口にした。

 

「それは・・・そうね。その人には悪いけど・・・蹴落としてでも叶えたいって、思っちゃうわ。だって、アタシの方があいつのこと、大好きなんだもの」

 

・・・と・・・止まらない!いくら言っても二乃の意思が揺らぐ気配が全然ない!今の二乃を一言で例えるのなら、愛の暴走機関車だ!!話も聞いてくれない!恋愛相談だって言ったのに・・・噓つき!!

 

「あんたたちに話せてよかったわ。やっぱり告白だけじゃ足りないのね」

 

「告白だけじゃって・・・な、何するつもりなの・・・?」

 

六海は恐る恐るとどうするのか二乃に聞いてきた。こんな暴走機関車の行動予測なんて、想像もつかないよ・・・嫌な予感がするのは変わらないけども。

 

「手を繋いで・・・いいえ、インパクトが弱いわ。なら・・・抱き締めて・・・それでもわからないようなら・・・」

 

うわぁ・・・なんか胸の中で危険信号が鳴っているよ・・・いったい何を・・・

 

「キスするわ」

 

「「えええ!!?」」

 

ちょっと・・・ちょっとちょっと!さすがのお姉さんも予想を越える発言だよ!それはいくらなんでも飛躍しすぎだよ!

 

「そ、それはいくらなんでもまずいよ!いきなりキスするだなんて・・・」

 

「そ、そうだよ!そんな・・・突然キスだなんて・・・」

 

「そ、そうよね・・・冷静に考えて、飛ばしすぎよね・・・」

 

わ、わかってもらえて・・・

 

「下手くそだったら、嫌われちゃうかもしれないし・・・」

 

「「論点はそこじゃない!!」」

 

もうほんと嫌!なんなのこの暴走機関車は⁉️人って好きな人が出来たらこんなに変わるものなの⁉️我が妹ながら本当に怖すぎるよ!

 

「・・・ふふ」ギラリッ

 

え・・・何・・・二乃がこっちを見つめてきたんだけど・・・

 

「一花!あんたもうキスシーンとかもうしたのかしら?教えなさいよ!!」

 

「キスシー・・・てっ、ええ!!?一花ちゃん、キスしたのぉ!!?」

 

「ほ、本当に何するつもり⁉というより六海、そこは反応しないで!!」

 

に、二乃がものすごい勢いでキスシーンについてぐいぐいしてきた!そんなの事務所側からNGだし・・・だいたいそんなの二乃に教える義理はないって!

 

「何よ!姉妹なんだからいいじゃない!ケチね!」

 

「姉妹なんだからダメなの!」

 

「い、い、一花ちゃん!キスはもっと節度を持って・・・」

 

「キスシーンを妄想してた六海にだけは言われたくないよ⁉」

 

二乃は何度もキスシーンをしたのかどうかっていうのを聞いてきたけど、私は何度もそれを拒否していった。結局恋愛相談っていったい何だったんだろう・・・。なんか決意表明してるだけに思えるんだけど・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お風呂から上がった後は大広間でみんな集まって朝ごはんをとったよ。朝ごはんの後はみんなが言っていたように、今日は海に行くことになったよ。私と二乃と六海は少しだけ話し合ったおかげで少し遅れちゃったけど・・・。

 

「ししし、ほーら!」

 

「ひゃっ!やめてくださいよー」

 

「まだ冷たい」

 

三玖、四葉、五月ちゃんはすでに海に来ていて、楽しく遊んでる。

 

「あ、一花と二乃と六海も来たよ」

 

「あれ?おじいちゃんはどこにいるの?」

 

「あそこでフータローと釣りしてる」

 

「いつの間に仲良く・・・」

 

三玖が指を指した方向には、おじいちゃんとフータロー君が一緒に釣りをしてる。

 

「ふーん、あいつも来てるんだ・・・チャンスかもね」

 

「「・・・・・・」」

 

二乃はフータロー君を見てくすりと笑みを浮かべてる。・・・二乃は本当に・・・キスをつもりなの・・・?言っていることはめちゃくちゃだけど、フータロー君にインパクトを与えるには本当に充分・・・いや、それを超えるくらいに意識するはず・・・。そうなると私たちの中で二乃が・・・二乃だけが見分けられるようになるかもしれない・・・。私は・・・それでいいのかな・・・?

 

「せっかくだし、様子見に行こうよ」

 

「そうですね。そうしましょうか」

 

「うん。行こう」

 

「・・・ふふ」

 

「「・・・・・・」」

 

みんなはおじいちゃんとフータロー君の様子を見に沖へと上がっていく。二乃は別の思惑があるみたいで私と六海は気が気でない様子でみんなについていく。

 

「お疲れ様です!調子はどうですか?」

 

「まぁ・・・ぼちぼちだな」

 

四葉は気兼ねなくフータロー君に挨拶をしていく。私も・・・あんな風に周りを気にせずに行動できたらなぁ・・・。

 

「・・・1番前にいるのが四葉、隣にいるのが五月と三玖。そして後からついてきているのが、一花、二乃、六海」

 

(・・・だ、誰が誰だか全然わからん・・・!)

 

おじいちゃんはフータロー君に何かを教えているように見えるけど・・・何を教えてるんだろう・・・?

 

「わあ!たくさん釣れてますね!」

 

「ああ。・・・ほとんど全部爺さんの手柄だがな」

 

わぁ、本当だ。クーラーボックスの中にはたくさんの魚が入ってる。きっとこれが今日の晩御飯になるんだろうなぁ・・・。

 

「これはなんて魚なんですか?」

 

「クロダイ」

 

「これは?」

 

「アイナメ」

 

「これは?」

 

「メバル」

 

う~ん・・・どれも同じに見えてしまうなぁ・・・。いや、でも目を凝らしてみれば・・・いや、やっぱり同じかもしれない・・・。

 

「じゃあ、これは?」

 

「ああ、こいつは・・・キスだな」

 

キスって・・・お魚のことだよね。そうだよね・・・何深く考えてるんだろ・・・って、えっ⁉二乃⁉ど、どうしてフータロー君にそんなずんずんと・・・⁉ま、まさか・・・ここで・・・き、き、キスを・・・⁉

 

「・・・いや、タイミング的に今じゃないわね」

 

だよね!だよね!よかった、二乃もそれくらいはわかって・・・

 

「五月の姿じゃ効果が見込めないかもしれないし、期待薄ね」

 

いや、だからさぁ・・・論点はそこじゃないんだってば!!どうしてこう・・・着眼点がずれてるのかなぁ⁉

 

「見て!おじいちゃんが大物引いてるよ!」

 

「えっ!凄!」

 

みんなはおじいちゃんが大物を釣り上げようとしているところに注目してる。二乃もそれにつられてる。

 

「・・・はぁ・・・」

 

本当にもう、疲れるよ・・・。来るんじゃなかったかも・・・。でも、もし放っておいたら二乃は・・・。

 

ズキッ

 

「うわっ・・・と・・・」

 

私が一歩踏み出すとふいに足に痛みが出て来て、バランスを崩し・・・

 

ガシッ

 

「と・・・大丈夫か?」

 

「!フータロー君・・・」

 

転びそうになったところにフータロー君が腕を掴んで支えてくれた。よりにもよってこんな時に・・・!

 

「ご、ごめん、ちょっとよろけちゃって・・・今、足を痛めちゃってね・・・」

 

「足を?おい、ちょっとこっち来い」

 

「え?」

 

何故か急に手を引っ張られて、バスの裏側まで連れてこられた。な、何?フータロー君、いったいどうしたの・・・?

 

「単刀直入に聞く。お前は誰だ?」

 

フータロー君はすごい形相で私に顔を近づけている。ち、近い!怖い!こんなとこ他の誰かに・・・特に二乃に見られたら・・・

 

「あれ・・・おかしいわね・・・」

 

!!に、二乃・・・やばい!

 

「隠れて!」

 

「うおっ⁉」

 

私はとっさにフータロー君を抱き寄せて、バスの裏側に身を潜ませる。

 

「あいつ、どこ行ったのかしら・・・?」

 

わ・・・わわわ・・・一応は隠れることができたけど、近づいてきたらすぐにばれそう・・・。

 

「おい・・・な、何の真似だ・・・」

 

「ご、ごめん・・・」

 

こうでもしないと二乃に見つかりそうだったから・・・。二乃はまだフータロー君を探している。ああ・・・なんで私はいっつも・・・。悪いことだってわかってるのに・・・それとは真逆に、私は人の・・・妹の恋路を邪魔してしまう・・・。つくづく嫌になってくる・・・。

 

「うぐっ・・・せ、せめて・・・お前が誰か教えてくれよ・・・」

 

私が誰か・・・?・・・そっか・・・五月ちゃんの姿をしているとはいえ・・・フータロー君はまだ、私が誰だかわからないんだ・・・。

 

「・・・それなら・・・」

 

それならいっそ・・・私がフータロー君にキスをして、私を意識させてしまえばいい・・・。そうすれば・・・こんな面倒なこと、考えなくて済むかも・・・。

 

「お、おい・・・何やって・・・」

 

フータロー君・・・私・・・私だって・・・君のことが・・・

 

「そこに誰かいるの?」

 

「「!」」

 

二乃・・・!こっちに近づいてくる・・・!まずい・・・この現場を恋の暴走機関車の二乃に見られたら・・・何をしですか予想できない!きっと場が荒れるのは間違いない・・・そしたらきっと・・・フータロー君にさらにキスを迫るかもしれない・・・!そんなことになる前に・・・

 

「えい!」

 

「なっ⁉」

 

ドボーンッ!

 

最悪の事態を免れるために私はフータロー君を海に突き落とした。フータロー君、本当にごめん!この場はこうするしかなかったんだよ・・・。

 

「一花、何してるのよ?」

 

「あ、あはははは・・・何でもないよ」

 

いや、何でもよくはないんだけど・・・とりあえずは誤魔化そう。最悪の事態は避けた・・・それでよしと追っておこう・・・。

 

「おーい、そろそろ帰るよー」

 

おじいちゃんの釣りが終わったのか向こうでは四葉たちは帰る準備をしている。

 

「はぁ・・・あいつ、どこ行ったのよ・・・」

 

二乃はフータロー君がいないからか、もしくはキスできなかったからか、残念そうにため息をこぼした。私たちも帰り支度を済ませてバスに乗り込んだ。フータロー君も海で濡れた状態でバスに乗り込んでいった。本当・・・ごめんなさい・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

バスは私たちが泊まっている宿に向かって、走っている。運転しているのはおじいちゃん。

 

「はっくしょん!・・・うぅ・・・くそ・・・あと少しで腿の傷を確認できたのに・・・」

 

「上杉君、なんでそんなずぶ濡れなんですか?」

 

「ああ、いや・・・何でもない」

 

ごめん、それ私のせいなんです・・・。

 

「むぅ・・・やっぱおじいちゃんの前だと何かと制限されるわね・・・。これじゃあ意味がないわ・・・」

 

二乃は二乃で諦めきれてないのかいまだにフータロー君にキスをする算段を立ててるし・・・。

 

「やるならやっぱ普段通りのアタシじゃないとダメね・・・」

 

「ね、ねぇ二乃・・・何も別に今じゃなくても・・・」

 

「この旅行もお互い明日まで・・・2人きりで会えるチャンスがあるとしたら・・・」

 

ダメだぁ・・・話すら聞いてもらえない・・・というより、聞こえてないのかも・・・。どうしてこんなことに・・・。

 

「一花」

 

「え?な、何?」

 

急に二乃が私に声をかけてきた。いやな予感が・・・

 

「夜になったらここを抜け出して彼に会いに行くわ。手助けしてちょうだい」

 

予感的中。二乃は言い出したら止まらないのはこれまでの行動でわかってる。だったら・・・私にできることなんて・・・もう・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

宿に戻って時間が経って夜、私はお父さんがいる部屋がよく見える場所で、お父さんがどう行動するかを見張っている。二乃が言うにはこうみたい。

 

『その時ネックになるのはパパね。だから一花は邪魔されないように、パパを見張っていてほしいのよ。できるわよね?』

 

お父さんは今おじいちゃんと話してる。もし私たちの部屋に来ようとしても、私が足止めすれば二乃に気付かれない。きっと・・・その時こそ、二乃はフータロー君と密会することになる。そして・・・もしかしたら・・・キスを・・・迫るかも・・・。

 

・・・もう、二乃は止められない・・・。二乃は私みたいにずるくない。誰の目も気にせず、誰に何と言われようとも、全力で・・・本気でフータロー君に恋してるんだ。

 

「・・・私には入る余地も・・・資格もない・・・」

 

それに引き換え私はいったい何なんだろう・・・。不都合があれば人の恋路を邪魔しようとする、三玖や六海のためと思っておきながら、いざとなったら抜け駆けしようとする、どうしようもない・・・ダメなお姉ちゃん・・・。

 

「あら?六海・・・じゃないわね・・・。あなたは誰かしら?」

 

こんなずるい私じゃ・・・間に入る資格なんて、最初からなかったんだ・・・。

 

「ちょっと、聞いてん・・・あんた・・・泣いてるの?」

 

自分のずるさ、ふがいなさを思うと、私は涙があふれて仕方がない。こんな姿、妹たちには見せられないよ・・・。

 

「・・・大丈夫?」

 

ふと考え事をしていると、顔に布のような感触が伝わってきた。視線を前に向けてみると、私の前にはハンカチで私の涙を拭いてる真鍋さんがいた。

 

「真鍋さん?」

 

「・・・少し、場所を変えましょうか」

 

♡♡♡♡♡♡

 

私は真鍋さんに連れられて中庭までやってきていた。私は中庭のベンチに座り込み、真鍋さんは自動販売機で飲み物を買ってきている。ご丁寧に、私の分まで用意してくれている。

 

「毛布を掛けてるとはいえ、まだ寒いしね。暖かい飲み物でも飲んで、身体を温めましょう。コーヒーでもよかったかしら?」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

私は真鍋さんから缶コーヒーを受け取って、冷えた手を温める。暖かい・・・。

 

「あ、さっきあんたたちのお父さんと鉢合わせたわよ」

 

「!お父さんと・・・?」

 

「ええ。女同士、あんたと積もる話があるからって言っておいたわ。ただの石頭かと思ってたけど、意外に寛容的じゃない、あの人。私、少し勘違いしてたわ」

 

真鍋さんは女の子だから多少なら私たちと話しても問題ないって思ったのかな?フータロー君だったら話は全く違ってくるんだけどね。でも・・・どうしよう・・・二乃に頼まれた通り、お父さんを足止めをしなくちゃいけないのに・・・私の方が足止めをくらっちゃったよ・・・。

 

「・・・飲まないの?それともやっぱりコーヒーは苦手だったかしら?」

 

「あ!ううん!何でもない!いただきます!」

 

と、いけないいけない・・・せっかくご厚意でいただいたんだし、少しコーヒーを飲もうかな。お父さんに追い付くのはそれからでもいいか。まずは一口・・・

 

「!に、苦~・・・今まで飲んだコーヒーで1番苦いんだけど・・・」

 

「あら、苦ければ苦いほど、コーヒーはおいしいのよ。基本私、ブラックしか飲まないし」

 

いや、私もブラックは飲むんだけど・・・このコーヒーは私が飲んできたものの中で断トツで苦かったよ。まぁ、こういうのを好んで飲む人はいるかもだけど・・・。

 

「でも、少し元気出たよ。ありがとね、真鍋さん。私を元気づけようとしてたんでしょ?おかげで少し、気分が楽になったよ」

 

この苦いコーヒーのおかげで、少しは気分が落ち着いてきた。そう言う意味では、あそこで真鍋さんと出会えてよかったな。

 

「じゃあ私、お父さんを追いかけないと・・・」

 

「まぁ待ちなさい」

 

私がお父さんを追いかけようとした時、真鍋さんがストップをかけてきた。え?まだ何かあるの?

 

「せっかくなんだし、もう少し私と話しましょうよ」

 

真鍋さんとお話、かぁ・・・。でも、話してる間にもお父さんは・・・

 

「実際あんたと2人きりで話したかったのよ。リーダーとして・・・というより、似た者同士としてね」

 

え?私と真鍋さんが・・・似た者同士?

 

「えーっと・・・どう言う意味かな?」

 

「あんたのことは六海からいろいろと聞いてるのよ。あんたがしっかり者に見えて、実は怠け者だとか、あんたが女優をやってて忙しくしてるとか、いろいろね」

 

む、六海ぃ・・・いらないことまで話したっていうの?女優業は・・・まあいつかバレると思うからいいけど・・・怠け者って・・・私の外でのイメージが崩れちゃうでしょ・・・。

 

「で、あんたの話の中に1つだけ、共通してるものがあるのよね」

 

「共通?」

 

「あんたたち昔は見た目も性格もそっくりな仲良し姉妹だったんでしょ?あんたその中で人のものを欲しがりたくなるようなガキ大将らしいじゃない」

 

・・・はい?私が・・・ガキ大将?

 

「そ、そうだったっけ?」

 

「エピソードもいくつか聞いたことがあったわ。1つ、妹の楽しみにしてたおやつを勝手に横取りした。それも数えきれないほどに」

 

「うっ・・・」

 

お、思い出した・・・みんなが楽しみにとっていたおやつがあまりにおいしそうだったから、つい・・・。

 

「2つ、妹が集めてたシールを勝手に取って自分のかばんに張り付けた」

 

「ぬぁ・・・」

 

それも思い出した・・・四葉の集めてたシールがすごくよかったから、私も欲しいなって・・・。

 

「3つ、妹が仲良くしたいって言った子も、次の日には先に仲良くなってたとかも・・・」

 

「も、もうやめてください・・・」

 

いやぁ・・・聞けば聞くほど自分がどれだけ身勝手にやってきたのかっていうのが恥ずかしいくらいに思い知らされるよ。というか最後、私そんなことまでしてたんだ・・・。

 

「ま・・・まぁそんな私も、大人になったってことで・・・」

 

「私が聞きたいのはそれよ」

 

え?私、何か言ったっけ?真鍋さんが聞きたがるようなこと・・・

 

「私から言わせてもらえれば、あんたたち全員子供みたいで手がかかる子たちって認識なのよ。それで六海からあんたは大人って聞いてたら疑問が浮かぶのよ。どうして急にそんな風に大人ぶるのかが不思議で仕方ないのよ。年も私と同年代なのにね」

 

「それは・・・まぁ・・・子供のころにいろいろあって・・・ね」

 

きっかけはいろいろとあった。まず1つ、私たちのお母さんが死んじゃった後の五月ちゃんのあの痛々しさを見ていたら、ね。さらに凶鳥時代の六海の1人で追いつめられている姿を見ていたらいつまでも子供でいちゃダメって気がしたんだ。

 

「それに、お姉ちゃんらしくしないといけないしさ。当然でしょ」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ、といっても、ただお腹から出てきた順なんだけどね」

 

「あんたも大変ね」

 

真鍋さんは私の気持ちがわかったのかどうかはわからないけど、苦笑いを浮かべているね。

 

「でもだからって我慢する必要なんかないわよ?それこそ、身が持たないわよ」

 

「え?」

 

「あんただけに教えるけど・・・私も昔、孤児院の子供たちの中で1番の問題児だったのよ」

 

真鍋さんが問題児?そんな風には見えないけれど・・・

 

「春たちのおやつを独り占めしたり、あいつらの好きな本に落書きしたり、落とし穴掘って罠に嵌めたりして、もう手が付けられないくらいだったのよ、昔の私は」

 

「へ、へぇ・・・」

 

なんていうか・・・意外過ぎる。私以上に大人びている真鍋さんだけど、実はかなりの問題児だったなんて・・・。共通してるって意味が少しだけわかった気がする。

 

「でも、両親と一緒に過ごせなくなって孤児院に来る子供たちが徐々に増えてきてね・・・中には中々心を開いてくれなかった子も少なからずいたわ。それを見ていたらね・・・今までみたいなバカはできないな・・・て、思ったわけなのよね」

 

なるほど・・・新しくやってきた子供たちの見本になるために、将来をなくしかけた子たちの道しるべになるために、真鍋さんは今の性格になったんだ・・・。

 

「でもだからってやりたいことを我慢するつもりはないわよ、私」

 

「え?」

 

「前にね、子供たちに言われたのよ。自分たちのために無理はしないで、私は私のやりたいことをやってってね。それを聞いてね、吹っ切れたわ。だから私は、もう我慢はしないって決めたのよ。あの子たちの笑顔をのために・・・いいえ、リーダーだからこそ、やりたいことはやるわ」

 

「リーダー、だからこそ・・・」

 

「だからね・・・あんたが何に悩んでるか知らないけど・・・あの子たちの姉なら、あんたもやりたいことは、我慢せずにやりなさい」

 

「私の・・・やりたいこと・・・」

 

私のやりたいこと・・・私の望みは・・・姉妹とフータロー君の、今の関係がずっと続いてほしかった・・・。この1番心地のいい空間が変わってほしくなかった。でも・・・本当は・・・私の本音は・・・フータロー君を・・・

 

「誰にも取られたくなかったんだ」

 

「?」

 

・・・なんだか吹っ切れてきちゃった。真鍋さんの意外過ぎる話を聞いてたら、大人ぶってたのが、なんだかアホらしくなってきたよ。考えすぎてたのかな、私。私はもう一口、苦すぎコーヒーを飲む。

 

「・・・うぅ~、まずい!苦すぎて飲めないよこれ!なんていうか、私の嫌いなしいたけ食べてる気分!」

 

「ぼろくそに言うわね、あんた・・・」

 

だってこれ本当にまずすぎるんだもん。これ作った人に苦情を言いたい気分だよ。

 

「でも、そっちの方が、親近感が湧くわね」

 

真鍋さんは私は見て、笑みを浮かべている。

 

「ねぇ、メアド交換しない?ちょうど愚痴友達が欲しかったんだよねー」

 

「・・・まぁいいわ。断る理由もないし」

 

「ありがとね・・・恵理子ちゃん」

 

「・・・メアドくらいで大袈裟な。ええっと・・・」

 

「一花。私は一花だよ」

 

私と恵理子ちゃんはお互いにメアドを交換していく。これから仲良くやっていく証として。

 

「あ、そういえば一花・・・あんた自分のお父さんになんか用があったんじゃなかったっけ?」

 

「あー・・・それね・・・もういいや」

 

私だって我慢はしないってさっき決めたもん。だったらこれくらい、別にいいよね。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『密会失敗』

 

二乃は風太郎の部屋に赴き、手紙を置いた後、島の唯一の観光スポット、誓いの鐘の前で風太郎が来るのを待っていた。

 

(遅いわね・・・部屋に置いた手紙、ちゃんと見てくれたかしら・・・)

 

到着が遅れている風太郎にもどかしさはあるものの、来ることを信じてずっと待っている。

 

ザッ・・・

 

「!もう・・・何して・・・」

 

ようやく待ち人が来たと思って、二乃は後ろを振り返る。

 

「二乃、こんな時間に外出とは、感心しないね」

 

だがこの場にやってきたのは、風太郎ではなく、六つ子たちの父、マルオだった。

 

「あれ・・・?一花・・・?」

 

二乃はどういうことかわけがわからないまま、マルオによってそのまま宿に戻されていくのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

わからない・・・本当にわからない・・・。六海は何をやってるんだろう・・・。こんな何もない場所で・・・ただ1人ぼーっと座り込むなんて・・・。自分らしくないのはわかってる。他のみんなにも心配をかけられるのも無理はない。

 

でも・・・六海はどうしても考えてしまう・・・。二乃ちゃんの告白を・・・。それに・・・今日言っていた、二乃ちゃんの話・・・。しかも・・・聞いちゃった・・・一花ちゃんと二乃ちゃんの話を・・・。二乃ちゃんは本気なんだ・・・。本気で風太郎君に恋をしていて・・・2人きりなって・・・キスを・・・。

 

それは・・・嫌だ。六海だって・・・本気で風太郎君が大好きなんだ。いくら姉妹であろうと・・・フータロー君が他の女の子に取られるなんて嫌だ。できることなら、二乃ちゃんの行動を、力ずくでも止めたい。でもそれと同じくらいに、六海は姉妹が大好きなんだ。六海の行動のせいで、二乃ちゃんが悲しむ顔は、見たくない。それに・・・林間学校ではキンちゃんをめぐって大きな喧嘩をしちゃったんだ。意識しないわけにはいかない。もしまた喧嘩でもしたら、今度こそ・・・

 

「もう・・・どうしたらいいの・・・?」

 

六海ではもう・・・答えを導き出せそうにない・・・。

 

「うぅ~・・・トイレトイレ・・・」

 

六海はいったい何がしたいの・・・?

 

「!六海?こんな所で何して・・・」

 

六海はいったいいつまでこの苦しみを抱えればいいの・・・?

 

「あ・・・あーっと、漏れちゃう!あははは・・・は・・・はは・・・」

 

もうこんな苦しみ嫌だよ・・・。

 

「・・・六海?どうしたの?」

 

誰か・・・助けてよぅ・・・。

 

「泣かないで」

 

自然と涙があふれてた六海の頭に優しく撫でられる感覚が伝わってきた。前を見てみると、六海の顔色を窺ってる四葉ちゃんがいた。

 

「四葉ちゃん・・・」

 

四葉ちゃんは六海の顔を見て、にっこりと微笑んできた。

 

「久しぶりにあそこ行こっ」

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海は四葉ちゃんに連れられて、窓から出てこの宿の屋根の上まで登ってきた。懐かしいなぁ・・・。昔はよくみんなと一緒に並んで、この景色を眺めたものだよ・・・。

 

「あ、お父さん、私たちがいなくなってたの、気づいたんだ。これは後で怒られるかもねー」

 

外の景色を眺めてたら、お父さんが外に出ていく姿を見つけた。きっと六海たちがいなくなったことで、六海たちを心配してるんだ。

 

「ししし、でもまさかこんな所にいるだなんて、お父さんは思わないだろうねー」

 

「そう・・・だね・・・」

 

六海はなんて極端なんだろう・・・。お父さんが二乃ちゃんのところへ向かえば、間違いなく密会はその場で終わり・・・二乃ちゃんを部屋に連れ戻すだろうね・・・。六海の内心では、そのこと自体に深い安心を抱いてる・・・。これじゃあ本当に悪い子だよ・・・。

 

「・・・えっと・・・六海・・・よくわからないけど・・・ふぇ・・・ふぇ・・・ふぇっきし!!!」

 

「うわっ⁉」

 

び、びっくりしたぁ・・・。急に四葉ちゃんがくしゃみするから驚いたよ・・・。

 

「はは・・・夜はまだ寒いね・・・」

 

「えっと・・・六海、身体はぽかぽかだから、四葉ちゃんが毛布使っていいよ」

 

「あはは・・・なんだか悪いね・・・」

 

六海は寒そうにしてる四葉ちゃんに六海が使ってる毛布をかぶせてあげる。ありゃ、四葉ちゃんってば、鼻水まで垂れてるよ・・・。

 

「あ・・・鼻水出てるや・・・はは・・・」

 

「えっと・・・ポケットティッシュ持ってるけど・・・使う?」

 

「ありがとう」

 

四葉ちゃんは六海のティッシュを取り出して鼻をチーンッとかんでる。

 

「はは・・・ありがとうね、四葉ちゃん。六海を慰めてくれてたんでしょ?」

 

悩みは消えたわけじゃないけど・・・四葉ちゃんのおかげで少しだけでも、気分が楽になってきたよ。

 

「四葉ちゃんのおかげで六海、元気になってきたよ!ほら、元気元気!」

 

四葉ちゃんに心配をかけないように、六海は明るくふるまう。そうしたら四葉ちゃんは六海の手を握ってきた。

 

「六海・・・無理してない?心配だよ・・・」

 

「・・・え?」

 

やっぱり六海、無理してたのかなぁ?元気にふるまってるのに、無理してるのを見抜かれるし・・・いや、直感で聞いてるのかな?」

 

「・・・気のせいだったら、ごめん。この旅館に来てから、昔のことを思い出したんだ」

 

昔のこと?それって、六海たちがそっくり仲良し姉妹だった時のこと・・・だよね?

 

「昔はおじいちゃん怖かったな~、とか、イタズラばかりしてお母さんによく怒られてたな~、とか」

 

「あー、あったあった!はは、あの時の一花ちゃんのいたずらでママすごい怒ってたよね!」

 

「何言ってるの。よく怒ってたのは・・・六海でしょ?」

 

あ・・・あれれれ?そ、そうだったっけ・・・?六海ってそんな怒りっぽかったっけ?

 

「そ・・・そうだったっけ・・・?六海・・・」

 

「忘れたとは言わせないよ。似た者同士の中でも六海は怒りん坊だったんだから」

 

うーん・・・そう言われても・・・思い出せないんだけど・・・。

 

「ほら、一花におやつを取られた時、すごい駄々こねてたし・・・」

 

「あ、あー・・・あれね・・・」

 

そういえばそうだった・・・。でもあれは一花ちゃんが悪いんだよ?食べ物の恨みって恐ろしいんだよ?それこそ、五月ちゃんだったら・・・ブルブル・・・。

 

「借り物をしてたら、怒りながら無理やり取り返そうとするし・・・」

 

「そ、そうだったけ・・・?」

 

思い出したよ・・・。あれは一花ちゃんが勝手に六海のものを使ったから、つい・・・。でも、許可を取らずに勝手に使った一花ちゃんが悪い!

 

「たまに喧嘩した時だって、1番に怒ってたのは六海だったからね」

 

「うわぁ・・・なんていうか・・・ごめんなさい・・・」

 

聞けば聞くほど、昔の六海って、本当に怒りん坊だったんだ・・・。でも、それは相手が悪いことした時だけだから・・・普通の状態なら昔のみんなと変わらなかったと思う。

 

「そんな怒りん坊だったから、きっと凶鳥にも受け継・・・」

 

「ぬあっはああああああ!!黒歴史やめてほんとお願い!!」

 

「ご、ごめん・・・」

 

いや、本当に凶鳥のことは克服したいって思ってるよ?思ってるんだけど・・・そんなすぐに克服なんてできないって!しかも昔の六海を暴露された後だから余計に罪悪感が芽生えるって!

 

「で、でも本当に不思議だったんだー。怒りん坊でケンカもよくしてたのに、どうして急にそれがぱったりとなくなっちゃったんだろうって。昔より怒らなくもなったし」

 

「・・・それは、先生のおかげなのはもちろんだけど・・・自分がどれだけ迷惑をかけてきたのかっていうのを、思い知らされたから・・・」

 

六海のせいでみんなには大きな迷惑をかけた・・・その事実は一切変わらない。だったらせめて、大事は起こさないようにしよう。そう思って、些細なことは気にしないことにしたんだ。

 

「六海はお姉ちゃんが大好きだから・・・怒ってばかりじゃダメだって、思ったからなんだよ」

 

「そうだったんだ・・・」

 

「あの時は本当、ダメな妹でごめんね」

 

「はは、と言っても、生まれた順番が最後だってだけなんだけどね」

 

六海は今までのことを改めて謝罪したら四葉ちゃんは少し苦笑いを浮かべている。

 

「でも、私は六海のことを、迷惑だなんて思ってないよ」

 

「?」

 

「これだけは言いたかったんだ。六海は確かに昔は怒りん坊で、喧嘩なんて飽きてしまうくらいやってきた困ったちゃんだけど・・・私たち姉妹を思ってくれる、優しい女の子」

 

「四葉ちゃん・・・」

 

「私は六海のこと、今でも自慢の妹だって思ってるんだよ」

 

六海を見ている四葉ちゃんの顔は、本当に優しいお姉ちゃんっていうような微笑みしているよ。

 

「だからね・・・う~ん・・・なんて言うのかな・・・」

 

四葉ちゃんは自分の言いたかったことを思い出そうと少し考えてる。少し間が空いて、四葉ちゃんはにっこりと六海に微笑みを見せてくれた。

 

「何か悩んでるんだったら、我慢せずに・・・遠慮せずに、私に相談してほしいな。六海がしたいことを思いっきりできるように」

 

「六海の・・・やりたいこと・・・」

 

そんなこと、できることなら本当に思い切りやりたいよ。でも怖いんだよ・・・林間学校みたいな、あのいがみ合いが・・・。

 

「・・・もし、もしもだよ?」

 

「?」

 

「六海のやりたいことで、他の人とわだかまりができたら?もう二度と・・・口をきいてもらえなくなってしまったら・・・四葉ちゃんはどうするの?」

 

「え?う~~ん・・・そうだなぁ・・・」

 

六海の悩みであり、六海の1番気にしていることを四葉ちゃんに問いかけてみると、四葉ちゃんは本当に悩んだ様子になってる。

 

「仲直りできるように、何度も、何度も話してみる!かな?」

 

「うわぁ・・・シンプルだね」

 

でもそれが四葉ちゃんらしい答えなんじゃないかな。

 

「・・・正面からぶつかっていけば、思いはきっと伝わる」

 

「!」

 

「六海がよく口にしていた言葉だよ」

 

そういえばそうだった。時々姉妹と喧嘩した時、どうすれば仲直りできるんだろうと考えた時、六海はいつもこう口にしていたんだった。

 

「私、この言葉がとても好きなんだ。確かにわだかまりができるのは私も怖いよ。でも、なってしまったのなら・・・正面から謝って・・・ちゃんと自分の思いを伝えるようにしてるんだ。仲直りできると信じて」

 

「!信じて・・・」

 

「だからもし、六海がそれで悩んでるだったら・・・六海もその人としっかり話し合えばいいなって思うよ!自分の思いを伝えれば、きっと伝わるよ!」

 

「六海の・・・思いで・・・」

 

六海の思いは・・・今の関係をずっと続いてほしいんだ。六海の行動のせいで、林間学校のような同じ喧嘩を繰り返したくはなかったんだ。同じことを繰り返して、関係を崩したくはなかったんだ。でも・・・四葉ちゃんの話を聞いていたら・・・

 

「もう、これ以上後悔はしたくないな」

 

「?」

 

うん・・・そうだよね・・・。正面からぶつかれば、きっとわかってくれるよね。それに二乃ちゃんだってもうすっかり変わってる。風太郎君を諦めないと思うけど・・・きっと許してくれるよね・・・。何度も、何度も向き合えば、きっと・・・。

 

「ありがとう。六海がこれからやるべきこと、わかったかも」

 

「?よくわかんないけど、それはよかったよ」

 

ほんの偶然だったけど・・・四葉ちゃんとこうして話せてよかったって思えてくるよ。・・・うぅ・・・でもなんか寒いなぁ・・・。そろそろ四葉ちゃんに毛布を返してもらおっと。六海は四葉ちゃんのかぶってる毛布を引っぺがした。

 

「あれっ?えっ?」

 

「ごめんね、四葉ちゃん。六海、急に寒くなってきちゃった」

 

六海は今、とても気分が晴々してるから悪びれた様子は一切ないよ。

 

「えー!さっきは貸してくれたのに⁉」

 

「ごめんごめん。じゃあそろそろ戻ろうか」

 

これ以上体が冷えないように、六海と四葉ちゃんはそろそろ自分の部屋へと戻ろうと立ち上がる。

 

「・・・あ、そういえば、四葉ちゃん、おトイレはもういいの?」

 

「あ・・・も、漏れちゃう~・・・」

 

「はは・・・その前にトイレに行こっか」

 

でもその前に、おトイレに行っちゃわないとね。だって寒さのせいか、六海もずっとおトイレに行きたかったんだもの。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『三玖の悟り』

 

時間はさかのぼって六つ子たちの部屋・・・

 

「三玖君、五月君。1つ聞こう。僕の娘は双子だっただろうか?」

 

「「違います・・・」」

 

他の姉妹4人がいない中、三玖と五月は正座をしながら、マルオからの問答を弱弱しく答える。

 

「少し目を離した間に6人中4人が部屋から抜け出すとは・・・家出癖がついてしまったのだろうか・・・。ふぅ・・・困ったものだ」

 

マルオは表情こそ無表情だが、本当に困ったと思っているのか少しため息をつく。

 

「誰か行方は聞いていないのかい?」

 

「四葉はトイレに行ったっきり・・・」

 

「二乃は着替えてたから旅館の外かも・・・」

 

三玖と五月は四葉と二乃の行方には心当たりがあったが、一花と六海はわかっていないようだ。

 

「・・・捜してこよう。君たちは部屋で大人しくしていなさい」

 

マルオは4人を捜しに向かいに六つ子の部屋から出ていった。

 

「みんな、どこに行ったんでしょう・・・」

 

「・・・もしかして、フータローのとこだったりして・・・」

 

三玖は今日の二乃の予定は知らないが、推察はかなり鋭かった。

 

「あはは・・・こんな夜中に会いに行く理由なんて・・・」

 

五月は口ではそう言ってはいるがないとは言い切れなかった。

 

「・・・三玖」

 

「?」

 

「ただ待ってるだけなのも暇なので、温泉に入りに行きませんか?」

 

五月の誘いを断る理由がない三玖は了承する。三玖と五月はさっそく温泉に入るために部屋を抜け出し、1階へと降りていく。

 

「あ」

 

「ここで何してるの?」

 

「・・・・・・えーっと・・・」

 

偶然にも風太郎と六つ子の祖父と出くわした。風太郎は未だに姉妹を見分けられないでいたので、言葉が詰まる。

 

「三玖、五月」

 

「あ・・・あー!!今言おうと思ったのに!!先に言われちまったぜ!!先に言おうと思ったのに!!」

 

祖父は見分けられてはいる。見分けられてない風太郎はわざとらしく声を上げる。

 

「上杉君、ちょっと・・・」

 

「ん?」

 

今日の風太郎の意味深な行動に五月は風太郎に耳打ちをして尋ねている。

 

「あなたは1日中何をして・・・」

 

「もう少しだ・・・もう少し待ってくれ・・・お前たちの爺さんがもう少しで教えてくれそうなんだ」

 

風太郎の言葉を聞いて、五月は少し風太郎が無理してないか心配になってくる。

 

「~~~」

 

「あ・・・悪い、もう行くわ」

 

「あ、はい・・・」

 

「待ってくださいよ・・・」

 

六つ子の祖父はその場を去っていき、風太郎は急いで追いかける。三玖と五月はそんな風太郎の背中を見つめていた。

 

「フータローも大変そうだね・・・」

 

「でも、三玖たちも何もこんなタイミングで上杉君を試さなくても・・・」

 

「事の発端は二乃」

 

「確かにそう聞きましたけども・・・」

 

そう話し込んでいる間に女湯の脱衣所までたどり着き、着ている浴衣を脱ぎ始める。

 

「それにしても彼にも呆れました。上杉君は自分で何とかしようとは思わないのですか?」

 

五月は自分力ではなく、祖父の力を借りて見分けようとする風太郎に少なからずあきれている。

 

「・・・仕方がないよ。たった半年の付き合いで見分けようなんて、無理な話だったんだよ」

 

そう口にした三玖の表情にはどこか諦めたような寂しさが入り交じっていた。

 

「・・・そうですね。このまま彼に任せていては・・・」

 

三玖に少し同意した五月は三玖の足を見て、目を見開き、三玖の手を掴んだ。

 

「?どうしたの?」

 

「その足・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『昨夜の偽五月の正体』

 

昨夜の偽五月にある腿についている痣・・・それこそが昨夜風太郎と出会っていた偽五月なのだ。

 

真鍋と一緒に中庭にいた一花・・・

 

「おっと」

 

部屋に戻ろうとした時、一花の足が少し痛んだ。

 

「?どうしたのよ?」

 

「いやね・・・昨日山登りしてたら、足首を捻っちゃって・・・」

 

一花の足首には、捻ったような痣ができていた。これによって、一花は昨夜の偽五月ではない。

 

四葉に連れられ、旅館の屋根にいた六海・・・

 

「いたた・・・」

 

「?六海?怪我したの?」

 

「ははは・・・今日の朝に、ちょっとお風呂でトラブルがあって・・・」

 

六海の足には躓いてできたような傷跡が残っていた。そもそも今日できた傷なので、六海も昨夜の偽五月ではない。

 

そして・・・五月に誘われ、今現在女湯の脱衣所にいる三玖。

 

「上杉君から聞かされていました。昨日の偽五月には、腿に痣がある、と・・・」

 

五月の視線に目がついていたのは、三玖の腿。その腿には、角にぶつかった痣がくっきりと残っていた。これが意味するところは・・・

 

「昨夜上杉君が会った偽五月は・・・三玖だったのですね」

 

昨夜風太郎と会い、家庭教師をやめるよう促した偽五月の正体は、三玖だったのだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六つ子と向き合う覚悟』

 

三玖と五月と別れた風太郎は、六つ子の祖父に彼女たちの見分け方を教授してもらおうと懇願している。

 

「爺さん、いい加減教えてください。あいつらを見分けるコツとかないんですか?もうお手上げで・・・」

 

「・・・・・・」

 

六つ子を見分けようと努力する風太郎に向けて、六つ子の祖父はこう口を開いた。

 

「愛」

 

「!!??」

 

「愛があれば見分けられる」

 

(この人が発端か!!)

 

愛があれば見分けられるという理論がまさか祖父から始まったとは思わず、風太郎は絶句する。

 

「・・・長い月日を経て・・・」

 

「!」

 

「相手のしぐさ、声、ふとした癖を知ること・・・それはもはや、愛と言える」

 

六つ子の祖父は表情は髪で見えないが、声から察して真剣に語っているとみえる。

 

「・・・孫を見分けたい。お主はそう言ったな?」

 

「は、はい・・・」

 

「ハッキリ言おう。それは一朝一夕の努力ではできん」

 

それは見分けようと努力したができなかったために、風太郎は何も言えなかった。いや、それ以上に六つ子の祖父の真剣みな話で口出しもできなかった。

 

「問おう。お主は何のために孫を見分けたいんだ?孫を見分けられるようになって、お主がしたいことはなんだ?」

 

六つ子の祖父は風太郎の顔を見つめ、こう問いた。

 

「お主に・・・孫と向き合う覚悟があるのか?」

 

31「スクランブルエッグ 三玉目」

 

つづく




次回、六つ子&風太郎視点

六つ子豆知識

六海(23歳)

外見はストレートロングヘアで、黒カチューシャをつけ、変わらず黒縁メガネをかけている。

高校時代の思い出:???

六海が大人になった姿。元々髪は自慢であるがゆえに、自慢であるなら伸ばすという持論で再び髪を伸ばし、今に至るという。
凶鳥の思い出を克服したのか、当時付けていたカチューシャをつけるようにもなっている。メガネがアイデンティティというのは変わっていない。だが、風太郎が選んだものゆえに、メガネは一切壊してないし付け替えてない。
性格は以前と変わらず、子供っぽい印象が抜けておらず、オタク趣味も相変わらずのままだ。だが夢である漫画家になり、作品が人気になり、自身は天才漫画家だと豪語するように自慢することから、メンタルが強くなっていて、大きな成長を示している。
ちなみに六海が描いた漫画のタイトルは悪魔の滅殺天使アズエルちゃん。当初は知名度も人気も極端に低かった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スクランブルエッグ 完成

スクランブルエッグ編、完結!

6人のうち、花嫁に選ばれるのはいったい誰なのか・・・ぜひとも考えてみてください。この作品は、そこを考えるのも楽しみだと思っていますので。

それにしても・・・やっぱり写真といっても、文字だけですので誰が誰をしゃべっているのかわかりませんね・・・w


五月SIDE

 

「そっか・・・この傷、まだ残ってたんだ・・・。それでフータローは足を気にして・・・」

 

私は三玖の真意が理解できませんでした。三玖は最初こそ私と同様、上杉君を拒んでいましたが、今ではすっかり上杉君の味方であり続けていました。それが・・・突然上杉君に家庭教師をやめさせようとしてたとは、信じられませんでした。

 

「三玖・・・なぜ・・・なぜあなたが上杉君の関係を絶とうとしているのですか?私から見て、三玖は上杉君に1番味方であり続けたはずなのに・・・」

 

「ごめん。その前に五月に謝らなきゃ。あの時はおじいちゃんがいたからとっさに・・・いや・・・今となってはそれも言い訳」

 

三玖は表情を1つも変えずに口を開いていきました。

 

「私として・・・三玖として言えなかった・・・。フータローのこと大好きなのに・・・あんなことを・・・」

 

「えっ?」

 

「?」

 

待ってください・・・今三玖は何と言いましたか?大好き?誰を?・・・上杉君って言いましたか・・・て!!

 

「えええ!!?三玖って上杉君のことが好きなんですか!!?」

 

「!!?」

 

私は三玖の衝撃発表に私は驚きを隠せませんでした。

 

「そ、そうだけど・・・」

 

「ああ!!そんな!!なんてことでしょう!!こんなことみんなが知ったら驚きますよ!!」

 

(もうみんな知ってると思う・・・。というか、私がフータローのこと好きなの気づいてなかったの?)

 

なんてことでしょう・・・まさか三玖が上杉君のことを1人の異性として見ていただなんて・・・今年1番の衝撃ですよ!こんなこと他のみんなが知ったら何と思うか・・・。というより・・・

 

「い・・・いいのでしょうか・・・?仮にも、上杉君と私たちは、教師と生徒という関係なのですから・・・」

 

恋愛については私から口出しするつもりはありませんが、仮にも私たちは上杉君の生徒・・・そのような関係で恋をするというのはいかがなものかと・・・

 

「だからこそ、だよ」

 

「?」

 

「私たちは教師と生徒。それでいいと思ってた」

 

「・・・どういうことでしょうか?」

 

いまいち三玖の真意が理解できません。上杉君に家庭教師を辞めさせることとどう関係があるというのでしょうか?

 

「・・・私、学期末テストで、1番の成績を納めたら、フータローに告白するつもりでいた」

 

「告白⁉」

 

えっ⁉もういきなり告白ですか⁉予想外の発言でびっくりしますよ・・・って、1番?1番の成績を収めたのは・・・

 

「1番さえとることができたら、フータローは私を認めてくれると思った。だから、私が1番の生徒になればいいって思ってた。こんな私でも自分を認められる・・・チャンスは誰にでも公平にあるって・・・」

 

「三玖・・・」

 

「でも・・・覆された。1番になったのは一花だった。それも・・・たった1点差で・・・。望みがつぶれて自信がなくなってしまった・・・このままじゃいけないって思った」

 

三玖は・・・学期末試験が終わってから、ずっとそのことで悩んでいたんですね。三玖は自信をもって上杉君に告白するために試験で1番を狙っていたんですね。でもそれを一花が1番を取ってしまったばかりに、また自信をなくしてしまった・・・そういうわけですか。

 

「だから決めたんだ・・・一縷の望みが潰えたなら、今の関係を、終わらせようって。生徒と教師の関係じゃ・・・私とフータローの関係はずっと変わらないから・・・。そのためにも、こうする他に方法がなかったんだ・・・」

 

三玖は三玖なり考えたうえで、今回のような行動に出たのですね・・・。三玖は、生徒と教師という関係から脱したくて・・・それで・・・。ですが・・・

 

「・・・三玖の気持ちはわかりました。そのうえでお願いです」

 

「お願い?」

 

「はい。明日の旅行の最後の日に・・・上杉君に会ってください」

 

「フータローに?・・・わかった」

 

三玖・・・確かに私たちは生徒と教師という立場です。ですが、私は三玖に知ってもらいたいのです。私たちの関係は、決してそれだけではないということを。この話の後は温泉に入り、明日に備えて部屋に戻って早めに就寝しました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、今日は家族旅行最終日・・・今日のお昼にはおじいちゃんとお別れしなければいけない日です。私たちはそのための帰り支度をしている最中です。

 

「さあ、昼の船を取ってある。帰り支度を済ませておくようにね」

 

「三玖、トイレから帰ってこない・・・。最後にみんなで温泉行きたいのに・・・」

 

「・・・・・・」

 

三玖・・・今頃は上杉君と会っている頃でしょう・・・。私は、こんな形でしか手助けはできませんが・・・頑張ってください・・・。

 

「いないっていえば・・・二乃と六海もいないね。五月ちゃん、何か知らない?」

 

「え?二乃と六海ですか?私は何も聞いていませんが・・・」

 

言われてみれば・・・先ほどから二乃と六海の姿が見当たりませんね・・・。いったいどうしたというのでしょうか・・・?そういえば・・・六海も何かしら悩みを抱えていたのはわかってはいましたが、今日はそんな雰囲気は出ていませんでした。何かあったのでしょうか・・・?

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

みんなが帰り支度をしている間、六海は今二乃ちゃんを連れてみんなに配るための飲み物を買いに行ってるよ。

 

「一花ちゃんはカフェオレ、三玖ちゃんは抹茶ソーダ、四葉ちゃんはメロンソーダ・・・五月ちゃんは何にしよう・・・?」

 

みんな飲みたいものはバラバラ・・・特に五月ちゃんにいたってはカレーは飲み物とかいうわけわからないことを言ってるもんだから、飲み物を選ぶにしても大変なんだよねー・・・。

 

「無難にコーヒーでいいじゃない」

 

「そうだね。そうしよっか。じゃあ真鍋さんオススメにしよっと」

 

二乃ちゃんの助言で五月ちゃんに渡す飲み物は真鍋さんオススメのコーヒーに決めたよ。こういう時、誰かの意見は助かるよねー。じゃあ後は二乃ちゃんには紅茶、六海は牛乳を買ってっと・・・。

 

「・・・で?話って何よ?」

 

残りの飲み物を買おうとしたら二乃ちゃんが本題に入ってきた。実は六海が二乃ちゃんを呼び出したのは飲み物とは別の本題があったからだよ。

 

「・・・昨日の好きな人の話の続きなんだけど・・・」

 

「!」

 

六海の話のお題目で二乃ちゃんは面をくらった顔になってる。

 

「二乃ちゃんの好きな人って・・・」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!秘密だって・・・」

 

「風太郎君でしょ?あの時、風太郎君に告白してたもんね」

 

「!・・・見てたのね・・・!」

 

ついでに言えば、あの告白を見る前から、何となく気づいてた。ただあの時は確証がなかったからあまり深くは言えなかったけどね。

 

「六海はね・・・ずっと怖かったの」

 

「??」

 

「凶鳥でなくなって以来、六海はもう喧嘩しないって誓っておきながら林間学校で、1人の男の子を巡って喧嘩をしちゃった・・・。その時でも実は怖かったんだ・・・。六海の行動のせいで、姉妹の関係が崩れちゃうんじゃないかって・・・」

 

六海は、何においても姉妹の関係が崩れることは耐えられない・・・。姉妹との交流を断ち切ろうとしたことの辛さを、六海がよく知っているから・・・。それでも林間学校では不思議と、自分の気持ちを優先にしてしまっていたんだ。

 

「それでも六海はキンちゃんに対する気持ちがすごく強かった。それだけ本気だったんだよ・・・六海の気持ちは」

 

「何よ?今更林間学校の話?それはもう終わっ・・・」

 

「だから二乃ちゃんが風太郎君のこと、好きだって知った時、六海は怖くなったんだ。また林間学校の二の舞になっちゃうんじゃないかって・・・もしかしたら、二乃ちゃんとの関係が壊れちゃうんじゃないかって・・・ずっと思ってた」

 

「・・・!あんた・・・まさか・・・」

 

「でも、もういいの。この気持ちに嘘はつけない・・・だから、六海は六海の好きにやるって決めたから」

 

六海は今でも関係が崩れることは怖いよ。でも、それでも・・・六海はこの恋に従うことにしたよ。二乃ちゃんや三玖ちゃんがライバルとなるなら、正面からぶつかるし、喧嘩になっちゃっても、わかってもらえるまで何度も、何度も話し合うつもりだよ。これが六海なりの解決策。これも全部、昔の六海を思い出したから・・・そのきっかけをくれた四葉ちゃんのおかげだから。

 

「二乃ちゃん・・・今でも風太郎君のこと、好き?」

 

「・・・好きじゃなかったら、告白なんてしないわよ」

 

「・・・だよね。そう言うと思ったよ。六海も、風太郎君のこと好きだからわかるよ」

 

「・・・っ!やっぱり・・・」

 

六海の告白に、二乃ちゃんは面をくらって、少し苦虫を嚙み潰したような顔になってる。そうだよね・・・いきなり恋のライバルが現れるんだもん。でもその気持ちは六海も味わったもん。お相子だよ。だから二乃ちゃんの気持ちは気にしてなんかいられない。

 

「本当、なんでこういう時、好きな人が被っちゃうんだろうね?」

 

「本当よ・・・できれば聞きたくなんてなかったわ・・・」

 

「ごめんね。でも六海は、そんな二乃ちゃんを構ってなんかあげない」

 

六海は少しイタズラ心、少し仕返しを込めて、少しだけ笑顔を見せてこういうよ。

 

「だってこれは六海の恋なんだもん。六海が幸せにならなきゃ意味がない・・・でしょ?」

 

「・・・っ!仕返しのつもり?言ってくれるじゃない・・・」

 

そんな六海の発言に二乃ちゃんは意外にも挑戦的な笑みを浮かべてる。少しは六海のことをライバルとして、見てくれてるのかな?

 

「まあいいわ。あんたがその気なら受けてたってやるわ。こっちだって、遠慮なんかしないっての。じゃないとフータローをとられるかもしれないし・・・」

 

二乃ちゃんは六海に向けてそんな事を言ってきた。一応はよかった・・・のかな?林間学校みたいにならな・・・

 

「まあ、最終的にはアタシの方に振り向くはずだし、それはないか。アタシはどこぞのヘタレで引っ込み思案の泥棒猫とは違うしねぇ?」

 

ぶちっ!

 

「こ、この・・・!言わせておけば・・・!」

 

「あーら、誰もあんたとは言ってないわよ?」ニヤニヤ

 

に・・・ニヤニヤした顔でからかってくる・・・!嘘だ・・・絶対六海のことを言ってるよ・・・!せっかく気を使ってあげたのに・・・また泥棒猫なんて・・・!

 

「そ・・・そうだよね!六海のことじゃないよね!だって二乃ちゃんは誰のことも気にしたりしないほどの猫かぶりだもんね!」

 

六海は嫌味を含めた発言をするよ。

 

「あら?嫌味のつもり?むしろ褒め言葉に聞こえるわね」

 

ひ、開き直っちゃったよ!恋に本気な二乃ちゃんには利かなくなっちゃったの⁉

 

「言っておくけどね!六海の方がリードしてるもんね!この前なんて、六海は風太郎君とデートしたもんね!」

 

「はあ!!?何よそれ⁉そんなの聞いてないわよ!!?」

 

「言ってないも~ん」

 

ふふん、どう、二乃ちゃん?六海はこーんなに進んでるだよ?まぁ、と言ってもこれキンちゃんの時の話だけど。

 

「ぐぐぐ・・・べ、別にいいわよ。フータローはアタシがお菓子を作ってる時、傍にいて手伝ってくれたのよね。それも付きっ切りでね!」

 

「何それ⁉そんなの聞いてないよ⁉」

 

「言ってないからね。

(まあ、キンタロー君の時の話だけど)」

 

に、二乃ちゃんってばいつの間にそんなことまで・・・!これはもっとインパクトが強い奴じゃないと驚かないかも・・・!ええい、恥ずかしいけど・・・!

 

「な、なら!六海はお風呂で裸を見られたんだからね!」

 

「あら奇遇ね。アタシは2回も裸を見られたわ。あんたと違ってね」

 

「そんなの屁理屈だ!」

 

「屁理屈なのはどっちよ!」

 

六海と二乃ちゃんの間にはものすごい火花がバチバチと散ってる。

 

「・・・ぷっ、ふふふ・・・」

 

「あははは・・・」

 

なんかもう、林間学校と同じようなケンカしちゃったけど・・・不思議と前みたいな嫌悪感はなかったな。これが、変化っていうのかな?

 

「大分長く話し込んじゃったわね」

 

「そうだね。そろそろ皆のところに戻ろっか」

 

早くしないとパパに怒られちゃうから、買った飲み物を持って部屋に戻らなきゃ。・・・あ、そうだ。これだけは二乃ちゃんに言っておかなきゃ。

 

「・・・六海、二乃ちゃんには負けないから」

 

「アタシだって、この恋は譲る気はないわよ」

 

六海と二乃ちゃんはお互いに笑いながら宣戦布告に似たことを言った。こうして今も仲良しでいるけれど、きっと六海たちの関係はもう今までの関係と違うと思う。1人の男の子を思う、好敵手、ライバルの関係・・・そんな感じになったと思う。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖SIDE

 

私はみんなにトイレに行くって嘘をついて、大広間までやってきた。五月に言われた通り、フータローに会いに。でも・・・これにいったいなんの意味があるんだろう・・・。気乗りしないな・・・。・・・考えても仕方がない。意を決して私は大広間へと入っていく。それと同時に、フータローもこの大広間に入ってきた。

 

「・・・お前は初日の夜、俺と話した偽五月ってことで間違いないんだな?」

 

「・・・はい。私の正体は・・・」

 

「待て」

 

こうして会っても意味がないと思って私はすぐに正体を明かそうとしたらフータローに止められた。

 

「結局俺は六つ子ゲームに勝つことができなかった。俺の負けだ。降参だ。だが、このまま負けっ放しで終わるほど癪なものはない」

 

・・・それってつまり・・・

 

「リベンジマッチだ。全員は無理でも、せめてお前だけでも俺が正体を見破ってやる」

 

フータロー・・・どうしてそこまで必死になるの?もういいのに・・・。

 

「全ての経緯は本物の五月から聞いてはいるな?」

 

「・・・はい」

 

「なら話は早い。俺は偽五月の特定のために・・・何よりお前らを放っておく訳にもいかんから頼みを引き受けた。あいつに頼まれたことを今から説明するぞ」

 

フータローは真剣な顔をして、私と面を向かって話す

 

「五月以外の全員、何かしらの悩みがあるらしいな。俺に課せられたのは、お前らの悩みを聞き出すことだ。解決すれば、お前の真意がわかると思い、引き受けた」

 

「・・・そうですか」

 

「まず最初に四葉。あいつの悩みはこの旅行自体にあった。昨日の偽五月5号が話してくれた。悩みが変装であるのなら、この悩みは家に帰れば自然に解決する」

 

旅行が決まってから、四葉の様子がおかしいのはそういうことだったんだ・・・。確かに四葉は変装は得意じゃないからね・・・。

 

「そしてお前は四葉じゃない。昨日はわからなかったが、嘘をつけないあいつのことだ。どこかでボロを出しそうだ」

 

「・・・正解です」

 

「ふぅ・・・じゃあ次に二乃だ。お前は二乃でもない。あいつは少々詰めが甘かった。顔の見分けはつかないが、ポイントはあった。あいつは足の爪に塗るマニキュア・・・」

 

「ペディキュアですね」

 

「そ・・・それを落とし損ねていたんだ。たった今、確認した」

 

「待ってください。顔の判別もつかないのに、なぜペディキュアを塗っていたのが二乃だってわかったんですか?」

 

確かにペディキュアを塗ってるのは二乃だけだけど、どうしてそれをフータローが気づいたのかがわからない。二乃だってそんなこと、言ってないはずなのに。

 

「そ・・・その話は置いといてくれ・・・ちょっとトラブルがあってな・・・」

 

トラブル?何それ?しかもなんかはぐらかされたような気がする・・・。まぁ、別に何でもいいんだけど・・・。

 

「・・・まあいいです。正解です。では、二乃の悩みというのは?」

 

「それは・・・そうだな・・・すまん・・・これだけは・・・言えない」

 

???なんか妙によそよそしく感じる・・・。逆に聞いたら、困らせちゃうかな。

 

「・・・わかりました。聞かないことにしましょう。これでは私は一花か三玖、六海に絞られたわけですが・・・」

 

「あー、待った。その前に・・・デミグラス」

 

「えっ!!?で、デミ・・・?」

 

え?え?急にどうしたの、フータロー?なんか今日はちょっと変だよ?

 

「???」

 

「いや、その反応で安心したぜ・・・。念のための確認をだな・・・」

 

?確認って何の?変なフータロー。

 

「とりあえず話を戻すぞ。これで一花、三玖、六海に絞られたが・・・お前がこの3人の中の誰かなのは間違いないが・・・俺はその誰かというのを、まだわかっていない」

 

「・・・っ!!・・・そうですか・・・」

 

・・・いったい私は何を期待しているんだろう・・・もう期待なんかしないって昨日決めてたはずなのに・・・。

 

「・・・ところでさ・・・えーっと・・・俺のこと呼んでくれない?」

 

「!」

 

きっとこれはフータローの誘導尋問なんだね。こんな簡単な引っ掻けに引っかかるのは妹3人ぐらいだけ。私はその手には乗らない。

 

「上杉君」

 

「なっ・・・!」

 

「その手には引っかかりませんよ」

 

「ぐぅ・・・。まだだ。質問を続けるぞ」

 

・・・まだ続けるの?

 

「徳川四天王って酒井、本多、榊原と・・・後誰だっけ?」

 

「わかりません」

 

「ちょっとここで絵を描いてみてくれねぇ?」

 

「用紙がないので描けません」

 

「内緒話があるから耳を貸してくれ」

 

「左耳ならどうぞ」

 

(ぜ、全然ボロを出さねぇ・・・!)

 

・・・フータロー・・・もうやめて・・・こんなことするのは意味なんかないよ。フータローじゃあ・・・私を見つけられない・・・。わかりきってるから・・・。

 

「・・・あー、もう無理だ。お手上げだ」

 

フータローは私のことを最後までわからなかった。やっぱりフータローじゃ無理だったんだ。

 

「・・・そう・・・ですよね」

 

「ああ。俺の負けだ。降参だ。だからあいつを呼んできてくれ」

 

「あいつ?」

 

「ほら、あいつだよ。この六つ子ゲームを仕掛けてきた・・・次女の・・・えーっと、名前なんだっけか・・・」

 

・・・ああ、そういうこと・・・。それが私たちを特定する最後の質問か。どうせ今の関係を終わらせるつもりだったし・・・これ以上、やる意味はない。だから・・・

 

「・・・二乃ちゃんのこと?」

 

「!!ははははは!かかったな!二乃・・・もとい姉妹全員にちゃん付けで呼ぶのは六海だけだ!そして一花は五月だけにちゃん付けで呼ぶ!よってお前の正体は六海だ!!」

 

ほら、私がちょっと六海の真似をしたら間違えてくれた。結局、フータローは私たちのことを、ただの生徒としか見ていないんだ。だからもう、終わらせよう。

 

「ちぇー、引っかかっちゃたよー。風太郎君、六海を嵌めたなー」

 

「たくっ、相変わらず手のかかる奴だ。お前と一花の悩みだけ検討がつかなかったしさ。一花は仕事の悩みか?」

 

「へぇ、すごいや。そんな事までわかっちゃうんだ」

 

「お、当たりか。それで、お前の悩みはなんだ?また二乃と喧嘩でもしたか?」

 

誰がなんの悩みを持っていても、私が知るわけがない。だって私は一花でも六海でもないから。

 

「まぁ、そんなところかな?でも解決したから大丈夫だよ」

 

「だったらなぜ・・・」

 

「じゃあ六海、帰り支度あるから、またね」

 

「え?いや・・・」

 

私は話を終わらせるためにフータローを待たずに部屋を出ようとする。これでよかったんだ。これで・・・。今の関係を終わらせないと、私たちの関係は変わらない。こうでもしないと・・・。だから今のやり取りに意味なんて・・・

 

「・・・・・・三玖か?」

 

意味・・・なんて・・・

 

「・・・何で?さっき六海だって言ったじゃん」

 

「あ・・・いや・・・気のせいだったらすまん。ただ一瞬・・・ほんの一瞬だけ・・・お前が三玖のように見えた」

 

「・・・フータロー!!

 

 

 

 

 

当たり」

 

 

 

 

 

フータローが私を見つけてくれた・・・私はそれにたいして嬉しくて、涙が溢れさせながらフータローに思い切って抱き着いた。その勢いで私とフータローは倒れこんだ。

 

「・・・ま・・・マジか・・・本当に当たった・・・」

 

「・・・1つ聞いていい?」

 

「な、なんだ?三玖」

 

「私の悩みは心当たりがありそうだったよね?私が偽五月じゃなかったら、なんだと思ったの?」

 

フータローの話を聞いている限り、そこが気になっていた。フータローの顔を見てみたら、なんだか言いにくそうな顔をしてる。

 

「・・・あー・・・さっき間違えてたとわかった今となっては恥ずかしい話なんだが・・・」

 

「フータロー・・・いいよ。話して」

 

「う・・・笑わないで聞いてくれ」

 

フータローは気恥ずかしそうに口を開いて、私の悩みを言った。

 

「ば・・・バレンタイン・・・。そのお返しを返してないことに腹立ててんのかと思ったんだ・・・」

 

全然違うけど・・・フータローはそんなことを気にしてくれてたんだ・・・。それは素直に嬉しいけど・・・それ以上におかしくて、つい思わず笑っちゃう。

 

「あはははははは!」

 

「ば・・・笑うなって言っただろ!あー、恥ずかしい!」

 

だって、あまりにも柄じゃなさそうなことをフータローが言い出しちゃうんだもん。笑っちゃうくらいに。

 

「そ、そういうお前だってなんで俺に家庭教師を辞めてほしいと思ったんだよ?」

 

「あ、やっぱそれなしで」

 

「はあ!!?なんじゃそりゃ!!?」

 

フータローは教師・・・私は生徒・・・その関係は変わらない。でも、全部が変わらないなんてことはなかったんだ。ほんの一瞬だけだったかもしれないけど・・・フータローは私を見つけてくれた・・・それが何よりの証拠になるし、それだけでも十分だった。

 

フータロー・・・私を見つけてくれて、ありがとう。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉SIDE

 

3日続いたこの旅行も今日が最終日。二乃と六海、そして三玖も戻ってきたところで、私たちは全員揃って女湯で、この旅行最後の温泉に入っています。途中で上杉さんたちと真鍋さんたちと偶然出会っちゃったので、らいはちゃんと真鍋さんも一緒です!えへへ・・・賑やかで楽しいなぁ~。

 

「・・・やっぱりこの差はあんまりだわ・・・」

 

「えええ!!?きゅ、急にどうしたんですか、真鍋さん⁉」

 

何故か私たちを見て、真鍋さんがかなりへこんでるんですけど、私、何かしました⁉

 

「あー、なんか察したわ・・・」

 

「あ、あのね、真鍋さん、おっぱいが大きくてもいいことは・・・」

 

「それ前にも聞いたわよ・・・。はぁ・・・らいはちゃんだけよ・・・私の味方でいてくれるのは・・・」

 

「???」

 

「それは・・・どうなのでしょう・・・」

 

いったい何に落ち込んでいて、なぜらいはちゃんが真鍋さんの味方なのか、まったくわかりません!そしてらいはちゃんの頭をなでて・・・羨ましいです!そ、それはそうと・・・

 

「ねぇ、らいはちゃん」

 

「なーに?四葉さん」

 

「今日で旅行もおしまいだけど、どうでしたかー?」

 

「うん、すっごく楽しかったよ。昨日はお父さんと一緒に遊びに行ったんだー。その時に、恵理子さんが遊んでくれたりもしたよー」

 

「なんか・・・四葉?が悲しそうな目で私を見つめてくるんだけど・・・」

 

「あはは・・・六海も四葉ちゃんの気持ちはわかるけどねー・・・」

 

ま、真鍋さん・・・らいはちゃんと一緒に遊べて・・・本当に羨ましいです・・・。私もそっちに行けばよかった・・・。

 

「お兄ちゃんがいなかったのは残念だけど、すごいところにブランコがあってね・・・それでね・・・恵理子さんが中学生の時のお兄ちゃんのお話をいっぱいしてくれてね・・・」

 

らいはちゃんが楽しそうに話している姿を見ていると、こっちまで嬉しくなっちゃいますね。

 

「この旅館も最初は驚いちゃったけど・・・とってもいいところだって、学校が始まったら千尋ちゃんたちに自慢するんだー」

 

きゅんっ、きゅんーー♡

 

「わーー!!らいはちゃんやっぱりいい子だよー!意地でもお持ち帰りしたいー!!」

 

「フータローに怒られるわよー」

 

「でも六海の気持ちわかる!!戸籍改ざんという犯罪ギリギリの手を使ってでも私の妹にしたいですー!!」

 

「思いっきり犯罪ですが・・・」

 

だってだって!こんなにかわいいんだよ⁉妹にしたいっていう欲求は当然だと私は思うな!

 

「こらこら、らいはちゃんが困ってるでしょ?らいはちゃん、こっちにおいで。髪、洗ってあげるわよ」

 

「わー!恵理子さん、ありがとー!」

 

「「あー、らいはちゃーん・・・」」

 

あー、らいはちゃんが離れていくー・・・もっとスキンシップしたいー・・・

 

「こほん・・・真鍋さんはこの旅行はどうでしたか?」

 

五月が咳払いをして真鍋さんに旅行の感想を聞いてきました。

 

「ええ。楽しかったわよ。院長の付き添いで来たけど、基本的には自由気ままにのんびりできたし、この島の景色もよかったし、旅館の料理もコーヒーもおいしかったし・・・今度は孤児院のみんなで一緒にまたここに行きたいわね」

 

真鍋さんもこの旅行が楽しかったのか、嬉しそうな顔をして笑っています。そこまで気に入ってもらえると、こっちまで嬉しくなっちゃいます。

 

「・・・そういえば・・・三玖さんと一花さんはどこ?」

 

「2人ならそこのサウナじゃないかなー?」

 

「へー!そんなのあったんだ!」

 

「でもあれからずいぶん経ったわよ?長くないかしら?」

 

そういえばそうですね・・・。三玖も一花も、のぼせてないといいんだけど・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

サウナに入って、三玖と我慢比べをしてからもうどれくらい経ったんだろうね・・・もうお姉さん、だいぶいい感じに汗をかいてるんだけどなぁ・・・。汗を流したらきっと温泉はさらに気持ちがいいんだろうなぁ。

 

「三玖・・・もう限界なんじゃない・・・?」

 

「ま・・・まだ平気・・・」

 

わぁ・・・三玖ってばまだいけるんだ。このサウナに入ったタイミングは一緒なはずなんだけどなぁ・・・。

 

「すごいね・・・お姉さん、そんなに無理はできないよ・・・。熱中症になっちゃうかも。私の降参でいいよ」

 

自分で我慢比べ、なんて言っておいて情けないなぁって思うけど、やっぱ無理はよくないよね、うん。さ、早いところ外に出て涼んで、温泉入ろっと。

 

「一花」

 

「!」

 

外に出ようとしたら、急に三玖が話しかけてきた。

 

「学期末試験・・・本当はすごく悔しかった。しかも1点差だから余計に・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・多分、顔に出てたから気づいてたよね」

 

いや、いつもの無表情だったけど・・・。でも、不思議と悲しさは結構伝わってたから、あの時は本当に心苦しかったよ・・・。

 

「でも・・・もういい」

 

「!」

 

「私たちは生徒と教師だけど・・・勉強だけが全てじゃないって今日わかったから・・・。勉強を諦めたつもりはない・・・だけど・・・私は私を好きになってもらえる、何かを探すって決めたんだ」

 

三玖・・・朝トイレに行くって言ってたけど・・・その間に何かいいことでもあったのかな?今の三玖の顔、すごく晴々としているよ。妹のこういう姿を見るのは、姉としては嬉しいけど・・・どうせフータロー君関連とかでしょ?そう考えると、ちょっとおもしろくないんだよね。だから・・・せめてもの抵抗。

 

「へぇー・・・そうなんだ」

 

私はサウナの外に出るのをやめて、三玖の隣に座って、我慢比べを続けることにしたよ。

 

「・・・降参、したんじゃなかったっけ?」

 

「・・・なんか、負けたくなくなっちゃったよ」

 

私だって、好きなようにふるまうんだし、これくらいいいよね。だって、私だって、フータロー君のこと、大好きなんだし、さ。・・・あ、そうだ。いいこと思いついちゃった。帰ったらさっそくみんなに提案しよっと♪

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

今日の六海のカミングアウトには本当に驚いたわね。まさか・・・フータローを巡るライバルが1人増えるなんて誰が想像できたのかしら。おかげで今日は六海と思いっきり口喧嘩しちゃったわ。ま、あの子が自分の気持ちを素直に出すのは喜ばしいけど、なんか複雑だわ。

 

・・・そしてさらに複雑って言えば・・・一花よ一花。あの長女、いったいどういうつもりなのよ。昨日アタシはパパを止めるように言ったはずなのに、来るはずのないパパがやってきて部屋に連れ戻されるし・・・。これはこう考えるべきよね。一花は意図的にパパを見逃した。例えパパが旅館から出たと言っても、ここからならすぐに追いつける距離だし、絶対そうしか考えられないわ。

 

・・・となると、残された可能性として考えられるのは・・・一花もフータローのことを狙っている。だからあえてパパを見逃す行為に走った。完っ全にやられたわ・・・。今日1日だけで恋のライバルが一気に増えるだなんて・・・もうとんだ災難だわ!

 

「あの、二乃、六海、どうしたんですか?」

 

「・・・二乃ちゃん・・・」

 

「ええ・・・わかってるわ・・・。まさか三玖やあんただけじゃなかっただなんてね・・・」

 

六海に昨日のことを話したら、六海も同じ考えに至ったらしいわね。まさか一花まで加わるなんて、思わなかったわ。こんなことなら相談なんてするんじゃなかったわ!

 

「してやられたわ・・・」

 

「抜け駆けしようとするから罰が当たったんだよー」

 

「ぐぐぐぐ・・・」

 

あんたはお風呂以外じゃ特に行動しなかったくせに偉そうなこと言ってるんじゃないわよこのバカ末っ子。でも強く言い返せないのもまた悔しいわ・・・!

 

「・・・こんなにライバルが増えるなんて・・・もうなりふり構ってられないかもしれないわね・・・」

 

「六海だって、負けるつもりないもん!!」

 

「あの・・・2人は何の話をしているのですか?」

 

あら、五月は話がついていけてないみたいね。けど・・・一花といい六海といい、これ以上ライバルが増えるのは、あまりよくないわ。不利になるかもしれないし・・・。

 

「・・・五月、あんたはアタシに隠し事してるんじゃないでしょうね?」

 

「!」

 

「五月ちゃん?どうなの?」

 

「・・・あったとしても言えないから、隠し事なんですよ」

 

「・・・そうだよね」

 

「・・・それもそうね」

 

六海みたいなカミングアウトされても困るし、五月に隠し事がないか聞いてみたけど、答えてくれないわね。まぁ、あの様子だと、可能性としては薄いでしょうけど。これからいろいろ対策を考えないといけないわね・・・。フータローに振り向いてもらうのは、アタシなんだから!

 

「六海、ちょっとサウナに付き合いなさい。嫌とは言わせないわよ」

 

「それくらいいいよ。ただ普通に入るのはつまんないし、我慢比べで勝負しようよ。負けたら勝者の言うことを何でも聞くってどう?」

 

「へぇ・・・面白そうじゃない。やってやろうじゃない」

 

「じゃあ、行こっか」

 

六海は何かしら自分の得を得ようと思って勝負を仕掛けてきたんでしょうけど好都合だわ。逆に利用して、アタシの恋に有利に使わせてもらうわよ・・・!

 

バチバチバチッ!

 

「に、二乃?六海?」

 

アタシと六海の間には、目には見えない火花が散っているのが自分でもわかる気がするわ。

 

「ふぅ・・・なんだかこの温泉、最初に入った時と比べて、熱くなった気がするわ・・・」

 

「そうですかねー・・・」

 

「絶対そうよ。らいはちゃんもそう思うわよね?」

 

「うん。お兄ちゃんたち、のぼせてないといいけど・・・」

 

ふぅ・・・フータローは今頃、男湯でのんびりしてるんでしょうね・・・。なんだか昨日のお風呂が心残りだわ・・・。怒らず、もうちょっと粘ればよかったわ・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎SIDE

 

・・・さみぃ・・・。温泉に入ってるはずなのに、こんなに寒く感じるのは初めてだ・・・。なんでって言われたら、この男湯に入っているメンツが、なぁ・・・。いや、親父や真鍋のとこの爺さんはまだいい方なんだよ。だが問題は、親父の隣にいる人・・・

 

「カーッ!たまんねぇなぁ!お前も飲めよ、マルオ!」

 

「上杉、僕を名前で呼ぶな」

 

・・・六つ子の父親もいるんだよなぁ・・・。どうにも二乃の一件以来、俺はこの人に警戒されてるらしく、結構警戒の目でこっちを見てくるんだよなぁ・・・。しかも真顔で俺が嫌いだって大人げないことを言うくらいだし・・・正直、苦手だ・・・。つか親父、あの人と知り合いだったのか?

 

「それに酒は苦手だ。特別な日にだけ飲むと決めている」

 

「ったく、お前は昔からかてぇーんだよ。長湯して、少しはふやけたらどうだ」

 

「ほっほっほ・・・」

 

ダメだ・・・いたたまれねぇ・・・。この空間、とても耐えられそうにねぇぞ・・・。爺さんは笑ってみてるだけだし・・・。

 

「じゃ、俺先に出るから・・・」

 

「おー」

 

こんなとこ、長居は無用だ。さっさと上がって、部屋で帰りの準備を進めないと・・・

 

「・・・そういや中井さんから不思議な話を聞いたんだが・・・」

 

「やめてくれ。僕とお前は世間話をする間柄でもないだろう」

 

「まぁそう言わずに聞けって。知っての通りこの旅行はうちの息子と院長さんとこのお嬢ちゃん、お前んとこのお嬢ちゃんが偶然当てたもんだ。けど、こんな偶然があると思うか?6組限定だぜ?」

 

!風呂場の方から、親父の会話が聞こえてきた。いや・・・偶然な訳がねぇ。俺は昨日、六つ子の父親と爺さんの話を聞いちまったから断言できる。

 

「そこで中井さんに質問したんだ。この旅行券が当たった客は何組来ましたかってな。それで中井さん、なんつったと思う?」

 

「・・・・・・」

 

「驚いたね。俺らより先に既に5組来てたんだってさ」

 

「・・・確かに、不思議な話だな」

 

「だろー?そう思うだろ?」

 

・・・俺は早いとこ服に着替えてその場を早足で離れていく。

 

俺たちより先に既に来ていた5組の客・・・1組は真鍋たちで間違いねぇ。そして残り4組は・・・恐らくあの六つ子と父親なんだろう。だが、三玖が同じ旅行券を何枚も当てたなんて偶然はいくらなんでもありえない。だったらどうしてか?多分だが、残りの旅行券は、あの父親が用意した偽の旅行券だろう。

 

そしてあの父親がわざわざ偽の旅行券を作り出してまでここに来た理由・・・そんなの、決まってる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『最後くらい孫たちとまともに話してはどうだろうか?あなたに残された時間は少ないのは、わかっているはずだ』

 

『思い出は残さぬ。あの子らに、二度と身内の死の悲しみは与えたくない』

 

♡♡♡♡♡♡

 

正論しか言わねぇあの人のことだ。昨日の話は本当のことだろうな・・・。その後の会話ことは、あまり聞いてないが・・・。考え事をしていたら、フロントまでたどり着いた。そこには、相変わらず爺さんが突っ立っていた。

 

「あのー・・・実は昨夜の話を聞いたんですが・・・」

 

「・・・・・・」

 

・・・やっぱ返事がないな。・・・死んだのか?つーか本当に死んでそうだから笑えねぇし・・・というか、洒落になんねぇよ。・・・つーか俺はいったい何をするつもりでここに来たんだ?だいたいこれは他所の家の事情だろ?俺にできることなんて、何もないはずだ。・・・だが・・・

 

「・・・お世話になりました」

 

俺は爺さんに頭を下げ、敬意を示した。この爺さんには、あいつらのことで世話になったからな。せめてもの礼儀は示さなきゃ、失礼ってもんだ。

 

「・・・孫はワシにとって最後の希望だ。娘の零奈を喪った今となってはな」

 

「え?」

 

今この爺さんはなんて言った?零奈だと?なんで爺さんがその名を?てか・・・ちょっと待て。娘って言ったか?だが俺が会った零奈は俺と同年代だったぞ?・・・いや、待てよ?そういえばあの時あいつ、本名は明かせないって言ったな。そしてこの爺さんは娘は亡くなったって・・・。・・・まさか・・・あの時俺が出会った零奈の正体は・・・

 

「・・・若いの。孫たちに伝えてくれ」

 

「?」

 

「己を隠さず、自分らしくあれ、と」

 

「!!爺さん・・・」

 

この爺さんは、最初から気づいていたんだ・・・爺さんのために姉妹全員が五月の変装をしていたということを・・・。そうでなきゃ、こんなことを言いだすわけがねぇ・・・。やっぱりこの爺さん・・・ただ者じゃねぇな・・・。

 

「・・・爺さん。あいつらは・・・きっと乗り越えます。あなたの死も。あいつらはとても強い。あいつらとは短い付き合いですが、それは必ず保証します」

 

「・・・・・・」

 

「またここに来ます。あなたとの思い出を作りに。その時は・・・」

 

「・・・その時は・・・6人の顔くらい見分けられるようになってるんだな」

 

超最難関な課題を出したもんだな。だが・・・上等だ。この旅館に再び来るまでに、必ず見分けられるようになってやるぜ。爺さんに言いたいことを言い終えたから、さっさと帰る準備しに俺は部屋に戻っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

旅館から出て、爺さんと別れを告げた後、この旅行に来ているメンバー全員は記念写真を撮るという名目で島1番の観光スポットである誓いの鐘だっけか?そこで集まっている。姉妹たちの姿は・・・変わらず五月の姿だった。

 

「それでは撮りますよ。はい、チーズ」

 

カシャッ!

 

江端さん、だっけか?この人。まぁいい。この人が撮った記念写真は・・・うーん・・・傍から見るとやっぱ五月が6人いるとしか見えないんだよなぁ・・・。

 

「よかったー、みんなで撮っておきたかったんだー」

 

「この姿のままでよかったのかなぁ?」

 

「これはこれで記念だね」

 

「いやぁ、じっくり見ても誰が誰だかわかんねぇなぁ」

 

「確かに。全然わかんないですね、これ」

 

「お父様も見分けられますよ。があれば!!」

 

「愛で(アイ)を補うってか?ガハハハ!」

 

「寒っ!」

 

「ほっほっほ・・・」

 

「さあ、行こうか。この辺りは滑りやすくて危険だ」

 

・・・愛があれば見分けられる・・・か・・・。

 

「・・・だとすれば・・・あの時俺が三玖だとわかったのは・・・」

 

いや、それは言い換えれば他の奴らも見分けられるってことになるよな?だとしたら、特別な何か、とか?・・・まさかな。見分けられたのは一瞬だけだったし、それはないか。う~ん・・・何だろうなぁ・・・。

 

「お兄ちゃーん、1人でブツブツと不気味に呟いてないで、早く帰るよー」

 

「おう」

 

おっと、俺が考え事をしてる間にもあいつらもう遠くまで行っちまったな。いろいろ腑に落ちないが・・・。

 

「・・・ふっ、何はともあれ、1人見分けたことには変わりねぇな。ふっふっふ・・・これであいつらに騙されずに済みそうだ」

 

これ以上考えても答えが出なさそうだし、早いところあいつらと合流しないとな。・・・ん?誰かこっちに近づいてきたな。

 

「!えーっと・・・なんだ?」

 

俺のところに近づいてきたのは六つ子の姉妹の誰か・・・って、なんだ?なんで俺の顔まで近づけてくるんだ?

 

「~~~っ!」プルプル・・・

 

「・・・いや、本当になんだよ・・・」

 

こいつ・・・いったい何なんだ?俺の顔まで近づけて、そんなプルプルと震えて・・・

 

ツルッ!

 

「うおっ!」

 

「!」

 

足元を滑らせちまって、俺は体勢を崩して、こいつまで巻き込んでしまって、倒れてしまってそのまま・・・

 

 

ゴーンッ、ゴーンッ、ゴーンッ・・・

 

 

そして・・・鐘の音は、鳴り始めた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『2000日の結婚式の別部屋で』

 

風太郎と○○の結婚式会場の式場とは別の部屋、○○の姉妹たちは過去の写真を見ながら、昔を懐かしがっている。その中の1枚が特に感慨深いものを見つけた。

 

「あ、これいつの写真だっけ?」

 

「おじいちゃんの元気なころだから・・・2年前くらい前かな?」

 

「あの頃は本当に楽しかったよね」

 

「この式も早ければ・・・なんて考えちゃうね。でも、見て」

 

「ふふふ・・・おじいちゃん、とっても楽しそう」

 

姉妹が見せた写真には大人になった六つ子の姉妹と、彼女たちの祖父が写っていた。

 

一花の姿はショートヘアーをさらにきれいに整っている。

 

二乃は髪が伸び、その髪を2つのシュシュで後ろにくくっている。

 

三玖は髪を真ん中に分けるようになり、素顔がより美しく見えるようになっている。

 

四葉はちょこっとだけ髪が伸び、髪を後ろに少しだけ括れるようになっている。

 

五月は髪自体は変わっていないが、常にメガネをかけるようになっていた。

 

六海は見違えるくらいに髪が伸び、髪をある程度カチューシャを止めるようになっている。

 

全員バラバラだが、それぞれの個性が出ている孫たちを見て、祖父は嬉しそうな顔をしている。これは、そんな写真なのだ。

 

ゴーンッ、ゴーンッ、ゴーンッ・・・

 

「あ、そろそろ誓いのキスかな?」

 

「あはは、2人とも緊張してそー」

 

「でもこっそり聞いたんだけど・・・5年前のあの日、2人は既に・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『誓いのキス』

 

結婚式会場式場には、風太郎や六つ子の姉妹と関わりのある者が集まっていた。上杉家と中野家はもちろんのこと、前田夫婦や坂本と真鍋のカップル、春やRevival店長と様々な方がこの結婚式に参列している。そんな関係者に見守られながら、風太郎と○○の結婚式はつつがなく進行されていく。

 

「あなたは新郎を病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、夫として愛し敬い、慈しむことを誓いますか?」

 

「はい・・・誓います」

 

「それでは、指輪の交換を行います」

 

「あ・・・」

 

順調に式が行われていた時、ここで問題が発生した。風太郎が指輪を新郎部屋に忘れてしまったのだ。

 

「?」

 

「「・・・・・・」」

 

「なんだ?」

 

「どないしたんや?」

 

「あ、あいつまさか・・・」

 

中々進行が進まないので、結婚式に参列している者はざわつき始めた。

 

「・・・すみません。一旦飛ばして次行きましょう」

 

「ええ!!?」

 

まさかのスケジュール飛ばしという前代未聞のアクシデントにらいはは誰よりも驚愕した。

 

「えー・・・気を取り直して・・・」

 

「はぁ~・・・せっかく指輪持ってきたのに・・・こんな結婚式、前代未聞だよ・・・」

 

指輪を届けたにも関わらず、指輪を忘れてしまう兄にたいして、らいは非常にあきれる。

 

「それでは・・・誓いのキスを」

 

ゴーンッ、ゴーンッ、ゴーンッ・・・

 

風太郎が誓いのキスを○○にした時、誓いの鐘が、鳴り響いた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの日・・・きっとあの日からだ。

 

彼女を特別だと感じたのは・・・あの瞬間から

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・き・・・な、なんで・・・」

 

「・・・・・・」

 

い、今何が起こったんだ・・・?俺は躓いてしまって・・・こいつを巻き込んでしまって・・・そして・・・その瞬間・・・き、き・・・

 

「おーい」

 

「!」

 

姉妹の誰かが呼んだと思ったら、こいつはせっせと行っちまった。

 

「ま、待て・・・待ってくれ・・・えーっと・・・」

 

俺は急いで行っちまう前にあいつの名前を呼ぼうとしたが・・・

 

「・・・・・・やっぱり・・・誰が誰だかわかんねぇ・・・」

 

全く名前が浮かんでこなかった・・・というより、あいつが誰が誰なのかが全くわからねぇ・・・。どうやら俺があいつらを見分けるのは、まだまだ先になっちまうかもしれねぇな・・・。

 

32「スクランブルエッグ 完成」

 

つづく




おまけ

『2000日後の結婚式、別の部屋にて。その2』

中野??「披露宴、お疲れさまー」

中野??「ふぅー・・・緊張したぁー」

中野??「ねぇ、それよりいいことを考えたんだけど・・・」

中野??「?どうしたの?」

中野??「実は・・・ひそひそ・・・」

中野??「へぇ・・・面白そうだね」

中野??「でしょ?」

中野??「どうする?」

中野??「うん、やってみようよ」

中野??「よーし、じゃあ準備しようか」

さて、六つ子の姉妹はいったい何を企んでいるのでしょうか・・・。

『2000日後の結婚式、別の部屋にて。その2』  終わり

次回、三玖、六海視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アルバイトを探そう

三玖SIDE

 

「六海たち、ついに来週から3年生だね!」

 

「私たちが最上級生ですか」

 

「進級できて本当に良かった」

 

家族旅行から帰宅して後日、来週になったらまた学校が始まる。そして、学校が始まったら私たちは3年生になる。私たちは3年生になっても頑張ろうっていう話をしている。

 

「みんな!これから頑張ろう!」

 

「うんうん。ところで話は変わるんだけど、いいかな?」

 

「どうしたのよ、急に」

 

一花が急に話の腰を折るなんて珍しい。いったいどうしたんだろう?

 

「うん。来週からなんだけど・・・お家賃を6人で6等分します」

 

・・・え?

 

「払えなかった人は、前のマンションに強制退去だから♡」

 

「「「「「・・・っ!」」」」」

 

「みんなで一緒にいられるように頑張ろうって、言質取ったからね♡ということで・・・よろしくね♡」

 

・・・どうやら私たちはこれからは、今までとは違う生活を送ることになりそうな予感・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花から家賃6等分と打ち上げられてから、私たち妹5人組はアルバイトを探すためにアルバイトの求人広告多く取り出し、お仕事探しをしている。ちなみに一花はもうお仕事に行っちゃった。

 

「コンビニ・・・新聞配達・・・みんな大変そう・・・」

 

「全員で同じところでできたら安心なのですが・・・」

 

「でも募集って言っても2、3人が限界じゃないかなぁ?」

 

「それに得意なこともそれぞれ違うんだし、この人数は無理よ」

 

うーん、普通に考えたらそうかも・・・。どこの企業も、それぞれの能力を求められるだろうし・・・。

 

「私に接客業なんてできるかなぁ?悪-いお客さんとか来たらどうしよう?」

 

「例えばクレーマーとか?」

 

「時にはもっと悪いお客さんも来るかも・・・」

 

「強盗さんとか?」

 

「う~ん・・・お金を稼ぐって大変だなぁ・・・」

 

私と六海が例えを言ったけど四葉、なんか物騒な展開を考えてたりしない?ない、とは言えないけど、四葉が考えてることは多分ないから。

 

「それでも家賃6等分となった今、アタシ達はお金が必要なんだもの。やるしかないわ」

 

二乃の言うとおり。こうなった以上、私たちが今必要なのはお金。お金を稼ぐためには働くしかない。なら、早いところお仕事見つけないと。

 

「それにしてもまさか一花ちゃんがあんなことを言い出すとは思わなかったね・・・」

 

あ、それは私も思った。突然すぎたし・・・

 

「ま、どのみち働くつもりだったから、求人集めててよかったわ」

 

「うん・・・でも・・・一花のあの感じ、懐かしかった・・・」

 

でもそれ以上に一花が昔みたいになったみたいで、懐かしさの方が強かった。今まで我慢してたようにも見えたから、嬉しくも感じる。

 

「あ、それ私も思った!」

 

「むしろ今まで一花ひとりに無理させすぎましたからね」

 

「そうね・・・。ああなった一花はなかなか手強いわよ・・・。それにしても強制退去って・・・」

 

「もしそうなったら・・・あのマンションで1人っきり・・・」

 

うわっ、ただでさえ1人でも広く感じるほどのあのマンションに文字通り1人はさすがに堪える・・・。でもそれ以上に・・・

 

「もしかしたら、お父さんと2人きり・・・」

 

「む・・・無駄に緊張感はあるわね・・・」

 

「あわわ・・・一刻も早くお仕事見つけようよ!」

 

お父さんと一緒って言った途端、みんなより一層にアルバイト探しに集中しだした。そうだよね、お父さんと2人きりなんて、会話も続かないし、何より落ち着かない・・・。

 

「五月は目星付けた?」

 

「いえ・・・まだ決めかねています・・・」

 

他のみんなもだいたい同じみたい。みんなの表情でまだ悩んでいるのがわかる。私も同じだしね。

 

「アルバイトをするからには自分の血肉となりえる仕事がしたいのですが・・・都合よくそんなもの見つかりませんね・・・」

 

「血肉って・・・それって賄いが出るってこと?」

 

「う、上杉君と一緒にしないでください!夢に繋げるって意味ですよ!」

 

「じゃあ休憩中でも、ご飯は食べないって断言できるかな?」

 

「ば、バカにしないでください!余裕でできますよ!」

 

・・・なんか五月と六海が変な漫才をしてるなぁ・・・。

 

「まぁでも、どうせならやりたいことをやるってのは同感だわ」

 

・・・やりたいこと、かぁ・・・。このアルバイト探しで、もしかしたら、私を好きになってもらえる何かが、見つかるかも・・・。でも五月の言うとおり、そんな都合よく・・・

 

「あ!上杉さんと言えば!こんなバイト募集を見つけました!」

 

「「!」」

 

四葉が取り出したのは1枚の求人広告。店の名前は・・・Revival・・・って・・・

 

「ここって・・・」

 

「フータローが働いてるケーキ屋・・・」

 

少しの沈黙が流れて・・・

 

バッ!

 

バシッ!

 

私は四葉の持っている求人広告を取ろうとすると、二乃にそれを取られた。

 

「・・・二乃、それ渡して」

 

「は?なんでよ?これはアタシの得意分野よ?口出ししないで」

 

「得意分野が料理なら他にもあるはず。なんでわざわざフータローのいるところなの?」

 

「うっ・・・べ、別になんだっていいじゃない!まぁ?あいつがいるのは不本意・・・ふふ、不本意だわ・・・」

 

不本意って・・・二乃、その顔は絶対に不本意って顔じゃない。

 

「ま、そういうわけだからこれはアタシがもらうわ。味音痴のあんたは大人しく諦めなさい」

 

むむむ・・・二乃の勝ち誇った顔・・・私だってそのアルバイトやりたいのに・・・。

 

「私はやっぱりみんなで一緒にお仕事したいなー・・・。あ、三玖、このお掃除のバイトなんていいんじゃない?一緒にやろうよ」

 

「むむむ・・・」

 

四葉がお掃除のアルバイトの求人広告を出してきたけど・・・私は別にお掃除がやりたいってわけじゃない。五月の言うとおり、血肉になりえるものはやりたいし・・・それに・・・ケーキ屋さんのアルバイト、どうしてもやりたい・・・。

 

「・・・ごめん四葉、そのアルバイトは私にはちょっと・・・」

 

「え~・・・そんなぁ・・・」

 

四葉は少し残念そうな顔をしている。ごめん、四葉。

 

「あ、五月と六海はどう?一緒にやらない?」

 

「すみません・・・私はもう少し探したいです・・・」

 

「六海は・・・そうだなぁ・・・簡単そうだし、まずはコンビニの面接を受けようと思うよ」

 

「う~ん、残念・・・あーあ、私1人かぁ・・・」

 

五月以外はとりあえずは問題ないみたい。・・・それより、今はケーキ屋の求人・・・。

 

「さて、と、アタシはちゃちゃっと履歴書を書かないと・・・」

 

「待って。私も書く」

 

「あんたにはこの仕事は向かないわよ。いいから諦めてアタシに譲りなさい」

 

「諦めない」

 

結局私と二乃はこの後お互いにいがみ合い、いつものようにけんかが始まったのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「はい、今日は面接ということでね~、まずは店長が作った募集を見てきてくれて、ありがとね~」

 

翌日、私はどうしても諦めなかったためにケーキ屋、Revivalにアルバイトの申し込みをして、今日は面接に来ているよ。

 

「・・・・・・」

 

「でもまさか2人同時に来るとは思わなかったな~」

 

でも諦めきれなかったのは二乃も同じだったみたいで二乃と一緒にいるはめになってるわけなんだけどね・・・。ちなみに面接官は同じくアルバイトの春とフータローの2人みたい。店長さんは団体のお客さんの対応で忙しいみたい。

 

「なぜお前らがここのバイトを受けてるんだ!!」

 

「まあまあフータロー君、それぐらいいいでしょ~?」

 

「なんでこの子がいるのか、アタシも知りたいくらいだわ」

 

私はやりたいことのために、自分の意志でここに来たんだから、文句を言われる筋合いはない。

 

「私としては2人とも採用してほしいんだけど・・・店長が言うには、向かいにあるパン屋さんが原因とかで今はギリギリみたいで・・・定員は1人だけなんだって~」

 

「「!1人だけ・・・」」

 

「誰か1人辞めてくれたらなぁ~・・・例えば~フータロー君とか~」

 

「おいこら」

 

「やだな~、冗談だってば~。本気にしないで~」

 

このアルバイトに採用できるのは1人・・・ここで自分をアピールしなくちゃ・・・。そうすればきっと、採用してくれるはず。

 

「私・・・ケーキ、作れます。ケーキ作りたいです」

 

「「!!?」」

 

私がケーキを作れると言ったらフータローと二乃は驚いた顔になっている。

 

「へぇ~・・・お菓子作り、得意なんだ~。私と同じだね~。じゃあ・・・」

 

「ちょ、ちょっと!!アタシの方が得意よ!この子の腕はいまいちよ!」

 

むっ・・・ここぞってばかりに二乃が反論してきた・・・。確かに二乃の方が料理は得意だけど、これだけは譲れない・・・。

 

「今年に入ってからチョコを何度も作りました。かなりうまくなりました」

 

「あ、あんたねぇ・・・それこそアタシの手助けあってじゃない。威張れるほどじゃないでしょ!」

 

「最後は1人で作れた。これだって大きな進歩」

 

「「・・・・・・」」

 

これが面接であるというにもかかわらず、フータローと春をよそに私と二乃はいつもの言い争いを始めてしまった。

 

「・・・フータロー君フータロー君、みんなは恵理子ちゃんと同じ旭学園の友達だよね?」

 

「え?あ、ああ・・・一応、そうだな・・・」

 

「なんだか~、難しそうだから~、フータロー君に任せていい~?」

 

「うおおおおおおい!!?」

 

私か二乃、その採用がフータローにゆだねられたと聞いて、私と二乃はフータローに向き直る。

 

「そういうわけで、どうするのよ?」

 

「フータロー、どうするの?」

 

「おい・・・おいおいおい・・・」

 

「あんたなら当然、アタシを選ぶわよね?」

 

「私にできることならなんでもするよ」

 

「「だから・・・選んで」」

 

「ちょ・・・待て・・・待てって!いったん落ち着け!」

 

あっと・・・ついつい迫りすぎちゃった・・・。この仕事に採用してもらえるためにちょっと必死になってた・・・。

 

「・・・はぁ・・・たく、店長といい、春といい、なんで責任を俺に押し付ける・・・」

 

フータローは疲れたのか、私たちに呆れてるのかわからないけど、軽いため息をついている。

 

「バイトするのは別にいいが、まずお前らやる気あるのかよ?」

 

「ある」

 

「当たり前じゃない。バカにしないでよね」

 

「まぁ、やる気なかったら、即クビだと思うからね~」

 

私、このお仕事・・・特にスイーツを作りたいから十分に、仕事に対する意欲はある。

 

「シフトとかはどうする気だ?毎日は・・・」

 

「私、24時間以上働ける」

 

「それを言ったらアタシだって年中無休でいけるわよ!」

 

「マジかよ・・・」

 

「気持ちはありがたいけど~・・・身体壊しちゃうからそれはダメ~。お休みもちゃんととってほしいなぁ~」

 

・・・なんだかこのままじゃ埒が明かない。こうなったら、あれで決めようか。すごくシンプルな方法で。

 

「・・・じゃあ、料理対決」

 

「「「え?」」」

 

「できたケーキで1番評価がよかった方が採用」

 

これなら公平で決めることができる。そして、成長した私の料理の腕をフータローに見せつけられるチャンス。言い出しっぺだから、負けるわけにはいかない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・それで、2人は料理対決することに?」

 

「・・・まぁ、はい」

 

「すみません~、面接で終わらせるつもりが~・・・」

 

「まぁ、僕としては全然構わないから気にしないでいいよ」

 

料理対決が採用されて、私と二乃はキッチンの前に立っている。キッチンの前にはケーキを作るための材料がたくさんある。ちなみにここには客足が落ち着いたのか、店長さんが戻ってきている。

 

「う~ん、やはり惜しいなぁ・・・。2人とも雇ってあげたいけど、向かいにある糞パン屋のせいでこっちもギリギリだからなぁ・・・。上杉君が辞めてくれたら別なんだけど・・・」

 

「またまた~、店長~・・・あはははは・・・」

 

なんかフータローと店長さんが変な漫才をやってる。試験合格の時にも似たようなことがあった気がするけど・・・。

 

「三玖、勝負を取りやめるなら今のうちよ?恥をかかないうちにさっさと引き下がった方がいいんじゃない?」

 

むっ・・・二乃が勝負は決まった、みたいな顔をしてる・・・。私をいつまでも料理下手な私とは思わないで。

 

「あれから私は腕を上げた。今なら二乃にも勝てる・・・ううん、勝ってみせる」

 

「へぇ、言うじゃないの」

 

バチバチバチッ!

 

私と二乃の間には目には見えない火花が散っている。絶対に負けられない。

 

「はいはいは~い、そこまで~。じゃあとりあえず、簡単なルール説明しちゃうね~」

 

そんな私たちを制するように、春がこの料理対決のルールを説明し始めた。

 

「ルールはとってもシンプル。2人には今からケーキを作ってもらいま~す。1番評価がいいケーキを作ることができた方が、アルバイト採用になりま~す。評価の基準は~・・・やっぱり見た目と味だね~。お客さんにいい印象を持ってもらうには、この2つは何よりも重要だからね~」

 

「まぁ、確かにそうだな」

 

「目の前にある材料は店長の許可もあるから自由に使っていいよ~。それでどんなケーキを作るかは、作り手次第♪おいしいケーキができるよう、いろいろ試してみてね~」

 

私たちの目の前にある材料は・・・小麦粉、砂糖、卵に牛乳、バターにバニラエッセンス・・・見た目を彩るためのクリームやフルーツが盛りだくさん・・・。どんなケーキを作るか迷う。

 

「あ、最後に1つ、作り直しは一切受け付けないから注意してね~。説明は以上で~す」

 

作り直しは受け付けないのか・・・これは慎重に作っていかなくちゃ。採用されるかどうかがかかってるからね。

 

「さて、準備はいいかな~?」

 

「大丈夫」

 

「いつでもいいわよ」

 

「それじゃあ・・・よ~い、スタート!」

 

春のスタートの合図で私と二乃はすぐに行動を開始させる。まずは生地作り・・・小麦粉は適量に測って・・・ボールに卵と牛乳、それから砂糖を入れて・・・バターやバニラエッセンスはまぁ今はいいか。

 

「ねぇ、フータロー君。実際のところどうかな~?どっちの方が料理上手かな~?」

 

「見た目だけでいえば二乃の方がうまいが、味ならどっちも負けてねぇよ。俺が保証する」

 

「う~ん、なんだか不安になってくる回答だなぁ~」

 

「え?何で?」

 

「何でって・・・自覚ないの?まぁ、いいや・・・完成まで楽しみにしとくよ~」

 

なんだかフータローと春が楽しそうに会話してる。むぅ・・・いいなぁ・・・。・・・と、いけないいけない、今は調理に集中しなくちゃ。でも、なんだかうまく混ざらない気がする・・・牛乳を足してみようかな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ケーキを作りはじめて50分くらいが経過して、ケーキが完成した。今ケーキは審査までは蓋で閉じている。でも・・・私の作ったケーキ、うまくできたかなぁ。・・・ううん、味にはかなり自信がある。きっと大丈夫・・・。

 

「じゃあ、お互いにケーキが完成したから、審査に移ろうか。春ちゃん、上杉君、頼んだよ」

 

「はぁ・・・」

 

「は~い。じゃあまずは~・・・君の作ったケーキから見よっか~」

 

わ、私からだ・・・。春が私の作ったケーキを隠してる蓋を開けたことによって、それが露になる。私が作ったケーキはチョコレートケーキにした・・・んだけど・・・

 

「・・・これは・・・」

 

「う、う~ん・・・なんて言えばいいかなぁ~・・・」

 

「相変わらず独特な形だな・・・」

 

私のケーキはなんかうまく形にできなくて・・・所々が崩れちゃってて、かなり不格好なケーキが出来上がっちゃった。

 

「ほら言わんこっちゃないわね。これはもうアタシの勝ちでしょ?」

 

「ま、まだ・・・味なら・・・味なら自信がある・・・」

 

こうなったら形は諦めて、味で勝負するしかない・・・。

 

「まぁ、見た目はこれでも、意外に味はいいかもしれないけどね・・・うーん・・・」

 

「と、とにかく、試食してみましょう~」

 

いよいよ試食タイム・・・店長さんと春、フータローは私の作ったケーキを一口パクリ・・・。き、緊張する・・・。ど、どうかな・・・?

 

「・・・まぁ・・・うん・・・」

 

「い・・・いいんじゃない、かな・・・なんというか、意外性があって・・・」

 

店長さんはなんかいつもの表情をしたままだし、春はなんか顔を青ざめてる・・・。私、失敗したかなぁ・・・

 

「うん、普通にうまいな」

 

ふ、フータロー・・・!

 

「はあ!!?毎回思うんだけど、あんたの味覚っていったいどうなってんのよ!!?」

 

「なんだよ、俺は本当のことを言ったぞ?お前も食うか?」

 

「いらないわよ!!」

 

二乃とフータローがもめてるけど、私にとっては今はどうでもいい。誰か1人でもおいしいって言ってくれる・・・それも、フータローがおいしいって・・・それだけで、私の気持ちは嬉しく感じていく。ああ・・・やっぱり私のやりたいこと、私の好きなことは・・・。

 

「さて、時間も押してるし、彼女のケーキも見てみようか」

 

「そうですね~。こっちのケーキはどうかな~?」

 

私のケーキの審査が終わって、次は二乃の番。二乃が作ったケーキは王道系ともいえるイチゴのケーキだった。やっぱり二乃のケーキは本当に完璧といえるほどの出来映えだった。

 

「おお、これはすごい!」

 

「本当だ~。これ、お店でも十分に通用できるかも~」

 

「え~?そんな事ないですよ~。ねぇ、フータロー?」

 

「なぜ俺に振る」

 

店長も春も二乃のケーキに絶賛してた。むぅ・・・私の時と反応が違う・・・。

 

「これは味の方にも期待できるかもね」

 

「じゃあ、いただきま~す」

 

「どうぞ、ご賞味あれ♪」

 

店長と春、フータローが二乃のケーキの一口を口にいれた。

 

「お・・・おお!これは!」

 

「お・・・おいしい!こんなにおいしいケーキを食べたのは初めてかも!」

 

「ふふ、ありがと」

 

うっ・・・さすが姉妹1の料理人・・・店長が絶賛してるかのような顔をしてる。春にいたっても閉じてるような目が全開に見開くほどだし・・・。二乃は勝ち誇った顔になってる。気になるフータローは・・・

 

「うん。普通にうまいな」

 

「・・・反応薄ーー!!」

 

あ、私の時と反応が全く同じだ。

 

「あ、あ、あんたねぇ!貧乏舌だと言っても、もう少しまともな反応ができないの?」

 

「そう言われても・・・別に驚くほどでもないし」

 

「驚きなさいよ!!」

 

「なんで⁉」

 

二乃、料理でそう言うのをフータローに求めるのは無理だよ。

 

「はいは~い、もう本当に時間がないから、ちゃちゃっと結果発表しちゃうよ~」

 

審査が終わって、いよいよ結果発表・・・。き、緊張してきた・・・。

 

「・・・今回、採用が決まったのは・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

「じゃあ、来週からよろしく」

 

料理対決を経て、アルバイトの採用が決まった。・・・二乃が、だけど・・・。私は文字通り、負けちゃって落ちちゃった・・・。

 

「ま、負けた・・・」

 

「そりゃそうでしょ・・・あんたが料理対決なんていうから・・・いったい何の勝算があったっていうのよ・・・」

 

店長と春が二乃のケーキをかなり絶賛していたから何となく予想はしていたけど・・・やっぱりショック・・・。フータローだけはどっちも上げることはなかったけど・・・。はぁ・・・ここで働きたかったな・・・。ふと前に視線を戻してみると、向かいの方にもお店があった。あ、そういえば向かいってパン屋さんだっけ。・・・?お店になんか張り紙が張ってある・・・。何々・・・?

 

『こむぎや

 

アルバイト募集中!

 

時給900円

 

私たちと一緒においしいパンを作ってみませんか?』

 

「まぁ、でも・・・悪いとは思って・・・」

 

「向かいのパン屋さんでもアルバイト、募集してるんだ。私、こっちにしようかな」

 

「⁉」

 

パン屋さんってことはパンを作ることに関われるってことだよね?だったら、何もケーキ屋に拘る必要はないから。フータローがいないのは残念だけどね。

 

「ず、ずいぶんと切り替えが早いわね・・・。そのパン屋にあいつはいないけどいいの?」

 

「うん。私の目的はフータローじゃないから」

 

「!」

 

私の本当の目的は自分が本当にやりたいことを見つけること。そのためにケーキ屋のアルバイトを募集した。だから今回ケーキ屋は落ちちゃったけど、収穫自体はあった。

 

「今日ケーキを作って、改めて思った」

 

思い返すのは、結果発表の時のフータローの言葉・・・

 

『悪いな三玖。三玖は努力してるし、味も全然悪くないんだが・・・』

 

「私、どうやら作るのは好きみたい」

 

私自身、誰かに私の作った料理をおいしいって言ってくれるのは嬉しいし、作り甲斐がある。無念な結果にはなったけど、逆にやる気に満ちて、何か作りたい気分にもなったりもした。私自身、やっぱり料理に関連したお仕事がやりたい。それがわかっただけでも大きな収穫だった。

 

「それに・・・」

 

私は覚えてる・・・フータローが好きな人のタイプランキングの結果を。1位は放っておいて、2位の方は、料理上手だった。それは、私にとって好都合だった。私は・・・フータローに好きになってもらえる私になるんだ・・・。

 

「・・・・・・」

 

「?どうしたの?」

 

「何でもないわよ。ほら、早く帰るわよ」

 

「うん」

 

面接が終わって、私と二乃は家へ続く道のりを歩いていく。帰ったらさっそくさっきのパン屋さんに電話入れよう。新しい履歴書買っておかなきゃ。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

・・・落ちちゃった。今日コンビニのアルバイトを申し込んでみて、さっそく面接を受けに行ったんだけど・・・見事に落ちちゃった。どうして落ちちゃうんだろう?六海に何か問題があったのかなぁ?そりゃ、今の今までアルバイトなんてしたことなかったけどさ・・・。はぁ・・・憂鬱だなぁ・・・。

 

「あ、六海」

 

「帰って来てたのね」

 

「あ、三玖ちゃん、二乃ちゃん、おかえりぃ~」

 

憂鬱な気分でアパートに戻ったらちょうど三玖ちゃんと二乃ちゃんと鉢合わせしちゃった。

 

「どうだった?コンビニの面接」

 

「・・・ダメだった・・・」

 

「そ、それは残念だったわね・・・。で、でも大丈夫よ!あんたに向いた仕事なんて、いくらでもあるわ」

 

「だといいんだけどね・・・」

 

六海がかなりネガティブになってたのを察したのか必死にフォローしてくれている。嬉しいような、悲しいような・・・。

 

「それで、そっちはどうだった?2人ともケーキ屋さんだったでしょ?」

 

「アタシは受かったわ。本格的に働くのは来週になるわ」

 

まぁ、確かに二乃ちゃんなら受かるとは思ってたよ。誰よりも料理上手だしね。あーあ、風太郎君と一緒っていうのが羨ましいよ・・・。六海も行きたかったけど、誰かの手を借りないと料理できないからなぁ・・・。

 

「私は落ちた・・・」

 

「ありゃりゃ・・・お気の毒に・・・」

 

「でも、いいんだ。他によさそうなアルバイト、見つけちゃった」

 

あ、もうやってみたいお仕事見つけちゃったんだ・・・。・・・でも何だろうな・・・あの三玖ちゃんの晴れやかな笑みは?なんか・・・その顔を見てると、胸の奥がむかむかするのはなんでだろう?

 

「ほら!こんなとこで立ってないで、中に入るわよ!」

 

「え?あ、うん・・・」

 

それとは対照的に二乃ちゃんは受かったにも関わらず、なんだか納得いってないみたい。いったいケーキ屋で何が起こったの?まぁ、いいけども・・・。

 

「ただいまぁ~」

 

「あ、みんな、おかえりー」

 

「3人とも、面接、お疲れ様でした」

 

六海たちの部屋に入って、リビングで迎えてくれたのは、もうすでに帰ってきていた四葉ちゃんと未だにアルバイトの広告を見てる五月ちゃんだった。

 

「何五月、あんたまだ踏ん切りがつかないの?」

 

「うぅ・・・お恥ずかしながら・・・。何というか・・・これだっていうお仕事が見つからないんですよ・・・」

 

五月ちゃんの夢って言ったら学校の先生になることだからそれに繋がる仕事をしたいみたいだけど、そんなアルバイトってあったかなぁ?なんていうか、五月ちゃんの求めるのって、かなりハードルが高いと思うんだけど・・・。

 

「四葉はお掃除のアルバイト、どうだった?」

 

「うん!問題なく受かったよ!」

 

「わぁ、おめでとー」

 

四葉ちゃんもお掃除のアルバイト、問題なく受かったみたいだね。これも、日ごろから一花ちゃんのお部屋を掃除してたおかげだね!さすが我が家の清掃隊長!

 

「六海は・・・て、その顔で何となく察したよ・・・」

 

「六海って、そんなにわかりやすい・・・?」

 

「二乃は問題なく受かったんですね」

 

「ええ。定員は1人だけだったから、三玖は落ちたけど」

 

「でも別のアルバイト見つけたから別にいい」

 

「へぇ~・・・そっちは受かるといいね!」

 

二乃ちゃんと四葉ちゃんが受かって、三玖ちゃんは新しいアルバイト見つけて・・・この中でまだお仕事見つかってないの六海と五月ちゃんだけになっちゃった・・・。くぅ・・・なんだか悔しいなぁ・・・。

 

「とにかく!お家賃払えなかったらあのマンションに戻されるんだから一刻も早くアルバイト見つけないと!五月ちゃん、頑張ろう!」

 

「は、はい!」

 

うじうじしてても仕方がない。気持ちを切り替えて、新しいアルバイトを探そう!ちょうど新しい求人広告を持ってきたし、探したら見つかるはず!

 

「あ、みんな帰って来てたんだー。おかえりー」

 

「一花・・・」

 

やる気を見せた途端、事の発端である一花ちゃんが部屋から出てきた。なーんか、私、余裕ありますよ?的な顔が今の六海には腹がたってくるよ・・・!

 

「いやぁ、みんなお仕事探し大変そうだねぇ。なんかみんなを困らせてるみたいで申し訳なく思うよー」

 

「あら・・・それ嫌味でも言ってるつもりかしら?」

 

「そうだよ!社長さんにスカウトされて今に至る一花ちゃんには六海たちの気持ちはわからないんだ!」

 

「あはは・・・ごめんごめん・・・ちょっと急すぎたね。せめて来月にすればよかったかな?」

 

「そういう問題じゃないと思う」

 

六海たちの文句に少し悪びれた様子で一花ちゃんは苦笑しながら謝ってきた。まぁ、元々一花ちゃんに負担をかけさせないために前から働こうとは思ってたけどさ・・・それにしたってあのマンションの強制退去はやりすぎだって・・・。

 

「でも仕方がないんだ。今まで家賃のために確実な仕事しかしてこなかったけど・・・そろそろ私も、自分のやりたいことをやってみようかなーって、思ってね」

 

???やりたいこと?

 

「そのやりたい事って何?今回のこととなんか関係あるの?」

 

「それは~・・・ひ・み・つ♡」

 

うわ!はぐらかされた!しかもハートって・・・なんかムカムカする上に嫌な予感までするんですけど!

 

「でも、遅かれ早かれ、働かなくてはいけないと思っていましたし、むしろ都合がよかったと思います」

 

「うん。それに、一花にだって、やりたいことはあるだろうし、いいと思う!」

 

「四葉、五月ちゃん・・・ありがとうね」

 

いや、まぁ、確かに・・・一花ちゃんだけ我慢するっていうのは六海としてもよくないと思うよ?思うんだけど・・・なんだか釈然としないんだよねぇ・・・。原因はわかってるつもりだよ。

 

「六海」

 

あんまりぱっとしないでいると、二乃ちゃんが一花ちゃんには聞こえないような小声で耳打ちをしてきた。

 

「一花には気をつけなさいよ?わかってるとは思うけど・・・ああなった一花は一筋も二筋も手強くなるわよ。もしかしたら・・・一花が・・・フータローを・・・」

 

「わかってるよ二乃ちゃん・・・お互い要注意、だよね」

 

どうして一花ちゃんにそんなに警戒してるのかと言うと、ある疑惑があるから。一花ちゃんが・・・風太郎君のことが好きかもしれないっていう疑惑が。一花ちゃんのことは信用してるけど・・・恋となったら話しは別。どんな手で攻めてくるかわからない以上、警戒しないわけにはいかないからね。

 

「二乃、六海、2人で何ひそひそ話してるの?」

 

「何でもないわよ」

 

「うんうん、三玖ちゃんは気にしないでねー」

 

「???」

 

ごめんねー、三玖ちゃん。この話ばかりは教えられないよー。変なことを口走って相手を有利にはさせたくないからさー。六海たちだって必死なんだから。

 

「おおっと、そろそろ行かなきゃ遅刻しちゃう。じゃあみんな、引き続きお仕事探し、頑張ってよー」

 

一花ちゃんは六海たちに手を振ってから映画の撮影に行っちゃった。

 

「あ!そうだった!こんなことしてる場合じゃなかった!」

 

それと同時に六海は現実に引き戻されちゃった。そうだよ・・・アルバイト落ちちゃったんだから今話し込んでる場合じゃないじゃん!

 

「せめて学校が始まるまでにお仕事を見つけないと!危機感を持っていこう!危機感を!」

 

「え?あ、は、はい!」

 

「ま、頑張りなさいよ?アタシは晩御飯の準備するから」

 

「私はさっそくパン屋さんに電話するから。こっちも忙しいからそっちは手伝えない」

 

うぅ・・・二乃ちゃんと三玖ちゃんの薄情者~・・・。

 

「だ、大丈夫だよ!私も一緒に探してあげるから!頑張ろう!」

 

うぅ・・・四葉ちゃんだけだよ・・・こんな哀れな妹たちを助けてくれるのは・・・。よーし、こっちには五月ちゃんもいるし、四葉ちゃんも手伝ってくれるんだ。きっとお仕事だってすぐ見つかるはず!

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・・・・はい、全滅しました・・・。あれから数日が経ちましたけど応募してたアルバイト、全部落ちてしまいました・・・。六海はもう泣くしかないんじゃないかなっていうくらいズタボロ状態だよ・・・。

 

「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ・・・」

 

まさかここまで落ち続けるなんて誰が想像できたんだろうね。というか本当にやばい・・・気が付けば学校が始まるまでもう明後日になっちゃう・・・。しかもまだアルバイトを見つけれてない状況・・・このままだと六海は前のマンションに退去して・・・1人・・・もしくはパパと2人で・・・。

 

「はぁ・・・何か六海に向いたいいお仕事ないかなぁ・・・」

 

六海は今気分を落ち着かせるためにカフェでカフェオレを飲んで考えをまとめてるよ。今まで行けそうと思った仕事を選んだけど、もういっそのこと六海の得意なお仕事で行ってみる?といっても・・・六海の得意な絵に関われるアルバイトなんてそうそうないからなぁ・・・。そっちの方を探しても、募集してる場所はなかったし・・・。はぁ・・・どうしよ・・・。

 

≪お姉ちゃん電話だよ♪お姉ちゃん電話だよ♪≫

 

あれ?電話?誰からだろう?もしかして、さっきのアルバイト先からやっぱ採用!とか?・・・なーんて、都合よくあるわけないか・・・。スマホの着信画面を見てみるとMIHO先生の名が・・・って、MIHO先生⁉️六海はすぐに電話に出た。

 

「もしもし、MIHO先生!お疲れ様です!」

 

≪おー、出た出た。六海ちゃーん、元気してたー?≫

 

「はい!おかげさまで!先生こそどうですか?東京での活動は?」

 

≪うん。ぼちぼちやらせてもらってるよー。いやー、こっちも大忙しでさー・・・人気者は辛いわ、マジで≫

 

辛いって言ってるわりには余裕ある感じはするけど・・・まぁ、先生が元気そうで何よりかな。

 

「それで、先生から六海に電話なんて珍しいですね。何かあったんですか?」

 

≪あー、そうそう。実は六海ちゃんに折り入って相談したいんだけどさ・・・≫

 

相談?先生が六海に?一体なんだろう?

 

「何でしょうか?」

 

≪いやー、実はさ、うちの後輩漫画家君がそっちに住んでんだけどさー・・・その後輩君のアシスタント君、漫画家デビューしたらしくてアシスタントやめちゃったらしいんだよねー≫

 

漫画アシスタント・・・漫画家を目指すなら誰もが通る道のりと言われてるみたい。六海も漫画家を目指してるから将来は一時はそれでやっていこうと考えてはいるけど・・・それがどうしたんだろう?

 

≪で、アタシ、後輩君にアシスタントを頼めないかって言われたんだよねー≫

 

「それでなんて答えたんですか」

 

≪うん・・・ほらアタシって東京で活動してるじゃん?そっちで本業とアシスタントをやるためにいちいち往復すんのはちょっとさ。そっちに泊まるにしてもすぐ戻んないといけねーから、パスしちった≫

 

「本当に忙しそうですね・・・」

 

≪・・・んで、こっから本題なんだけどさ・・・六海ちゃん。六海ちゃんは漫画家目指してるよね?≫

 

「え?あ、はい・・・そうですけど・・・」

 

≪六海ちゃんがその気があるなら・・・やってみない?≫

 

・・・?え?やってみないって?何をやってみないかって?

 

「あの・・・先生・・・何をやるって・・・?」

 

≪はは、またまた~、とぼけちゃって~。漫画アシスタントに決まってんじゃ~ん≫

 

・・・WHAT?漫画アシスタント?六海が・・・本物の漫画家の・・・って!

 

ええええええ!!??

 

ちょっ・・・え?本気?先生は本気で言ってるの?六海が・・・ま、ま、漫画アシスタントって・・・

 

「ちょっ・・・ちょっと待ってください先生!何で六海が⁉」

 

≪もちろん、いくら君でも友人っていう理由だけでアタシも誘わないよ?ちゃんとした理由はあるよ≫

 

わ、わざわざ六海を指名した理由?

 

≪まず1つ、アタシの知っている知人の中で六海ちゃんがダントツにレベルが高かった。それこそ、高校生とは思えないほどに、ね。漫画家は絵がうまくないとやってられないしね≫

 

ラーメン屋で描いた絵が先生にそれほど評価されていたなんて・・・

 

≪2つ、漫画家を目指そうとしている若者へ先輩からの心からの支援ってやつだよ。作家も漫画家も、一種のエンターテイナーだからね。そういった人種が増えるのはこっちとしても喜ばしいんだよ。そして最後に3つ・・・≫

 

3つ目の理由を口にした先生の口調はいつもの口調より・・・すごい重かった。

 

≪漫画家は君が思ってるほど甘い世界じゃない≫

 

「!!」

 

≪アタシから見れば六海ちゃんはまだまだ素人感が拭えてないんだよね。甘ったるい考えで漫画家になられると、身を亡ぼすことだってある。まずは漫画アシスタントになって、現実をしっかり見てきな≫

 

先生の発言はいつも以上に的確だった・・・。電話越しでも、並々ならぬ威圧感がある・・・。これが・・・プロとしての威厳・・・。

 

≪・・・ま、とはいえ、そんな気負う必要はねーよ?ただ仕事場を見て、どんだけ大変かっていうのをわかればそれでいいしさ。それに、後輩君は気さくだから、六海ちゃんも気に入ると思うよ?≫

 

いつも通りの口調に戻った・・・けど、先生の言うことは一理ある・・・。六海は、本物の仕事場を知らない・・・全部気楽な気持ちでやってた・・・。だから今までのアルバイトは不採用になったのかな・・・。

 

≪さて、どうする?後は全部六海ちゃんの気持ち次第だよ?やるの?やらないの?≫

 

ここで断るのは非常に簡単だと思う。でも断ったら、もしかしたら漫画家への道が遠のいてしまう・・・。でも・・・ちょこっと聞いてみようかな・・・。

 

「あの・・・そのお仕事って、お給料って出るんですか?」

 

≪ん?ああ、それはもちろん。頑張り次第じゃボーナスも出るかもねー≫

 

決まりだ。お金が出るなら・・・そして何より、先生がそこまで言ってくれたんだ。せっかく掴んだチャンスを・・・掴みとって見せる!

 

「やります!そこで働かせてください!」

 

≪ん。オッケー。後輩君と担当編集者にはアタシから話を通しておくよ≫

 

や・・・やった!なんだか思わぬところでお仕事ゲット!今日は六海はついてる!しかも夢に繋がるお仕事だなんて・・・ラッキー!

 

≪あー、それで、忙しかったら申し訳ないんだけど・・・できれば明日すぐにでも出てもらえるかな?何分締め切りが迫ってるんだってさ≫

 

「それは大丈夫ですよ。住所さえ教えてくれればすぐにでも行きますよ」

 

≪マジ?いやー、助かるわー。これで後輩君の愚痴を聞かずに済むわー≫

 

≪先生、次のページのペタ塗りをください≫

 

≪おっとめんごめんご。はい、これね。じゃ、今忙しいから切るよ。住所は後で教えるから六海ちゃん、明日がんばってねー≫

 

先生はお仕事に戻るために六海との通話を切っちゃった。アシスタントさんにも急かされてたし、先生も忙しそうだなー・・・。明日からだったよね・・・。・・・よし!六海も負けてらんない!しっかりと現場の勉強してこなくちゃ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

「み・・・MIHO先生のご紹介に預かりました!中野六海です!こ、これからよろしくお願いします!」

 

翌日、六海は指定された住所に赴き、MIHO先生の後輩の先生と先生のアシスタントさんに自己紹介をするよ。これが本物の漫画家の仕事場・・・き、緊張してきた・・・。

 

「さて、聞いての通り、今日から僕たちの仲間になる中野六海さんです。彼女も慣れないだろうから、みんなもサポートに回ってあげてね」

 

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

先生はどこにでもいそうな中年男性って感じがする・・・。アシスタントさんは六海と同じくらいの年の人もいれば、オジサン系の人もいる・・・。あ、きれいな女の人もいる・・・。

 

「さて中野さん、君のことは先輩からいろいろ聞いてるよ。先輩から送られた君の絵の方も申し分ない。時間がないからさっそく仕事に取り掛かってもらおうかな」

 

「は、はい!」

 

「時に中野さん、君はGペンを使った経験はあるかい?」

 

「もちろんです!毎日使用してます!」

 

「そうかい。じゃあ使い方の説明はいらないな。君にはキャラクターの活躍を彩るための背景を描いてもらうよ。まぁ、初めてのアシスタント経験だから、わからないことがあったら遠慮せず僕かみんなに言ってくれ」

 

「わかりました!」

 

「よし!じゃあみんな、さっそく作業に取り掛かってくれ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

先生の合図とともにアシスタントさんたちはいっせいに作業に取り掛かった。六海もさっそく作業に取り掛からなくちゃ!初めてのお仕事・・・頑張らなくちゃ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

わからないところを聞いたり、今まで以上の精密な背景を描いてかなり時間が経って・・・ようやく全ページが完成して、締め切りまでに間に合わせた。

 

「はい、ではこの原稿は編集部へ送らせていただきます。お疲れ様でした」

 

「「「「「お疲れ様でした」」」」」

 

先生の担当編集者が原稿をもって、部屋から出ていった。その瞬間、先生はぐだーっと椅子に背を持たれこんじゃった。

 

「ふぅ~・・・ようやく一段落ついた・・・。みんな、お疲れ様。今日はもう上がり。家に帰って、日ごろの疲れを癒してね」

 

先生は六海たちをきちんと気を配らせている。MIHO先生の言った通りの人だなぁ・・・。

 

「ふわあああぁぁ~・・・一時はどうなるかと思ったぞ・・・」

 

「下手したら間に合わないかもって思ったからね。それもこれも、中野さんが来てくれたおかげだよ」

 

「本当、助かったよ。ありがとな、嬢ちゃん」

 

オジサン系アシスタントさんと美人アシスタントさんが気さくに話しかけてきた。同い年の子は・・・絵を描いているのかな?

 

「しかし、あのMIHO先生のお知り合いなんてすごいじゃん!いったいどこで知り合ったの?あ、私、一ノ瀬ね。漫画家歴は2年目、かな」

 

「おいおい、あんまり年下を怖がらせるんじゃないぞ?」

 

「怖がらせてませんって!」

 

「大丈夫です。むしろ声をかけてくれて、ありがとうございます」

 

「そうかい?ならいいがな。あ、俺、高木な。漫画家じゃないが、アシスタント歴はもうかれこれ20年はやってるな」

 

仕事の時は結構厳しかったけど・・・みんな優しい人たちで安心したよ。六海、この仕事、うまくやっていけそう。

 

「あ、そうそう、中野さん。仕事やシフトの説明とかするからちょっとこっちに来てくれるかい?」

 

「あ、はーい!すみません、先生に呼ばれたのでこれで・・・」

 

「うん、お疲れさまー」

 

「お疲れー」

 

六海は先生に呼ばれたので、アシスタントさんたちに一礼してから先生の部屋へと入っていったよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「はあぁ~・・・めっっっっちゃ疲れた・・・」

 

初仕事を終えてアパートに戻った瞬間、どっと疲れが出てきた・・・。いやぁ・・・アシスタントさんのお仕事は頭では理解してはいるけれど・・・いざ行動するとなると、すっごく大変だった・・・。細かい指示に応えていくってこんなに大変だったんだ・・・。

 

「・・・まぁでもこれで・・・肩の荷が下りたかな・・・」

 

とりあえずお仕事とお給料の確保はできたし、これでマンションの強制退去は免れたかも・・・。ちなみにシフトは週に4回お仕事に行くって感じになったよ。

 

「・・・明日もお仕事だし、今のうちにお仕事の見直しでもしよっかな」

 

お仕事がうまくいくにはまず基礎からって言ってたし、今からでも見直しても損はないかな。確かこの本棚に漫画でわかりやすくアシスタントさんのお仕事が載ってるやつがあったはず。えっと・・・どこだっけ・・・。

 

「あ、あったあった、これこれ」

 

六海はアシスタントさんとは何かという漫画を手に取り、さっそくページを開いた。

 

パラッ・・・

 

あれ?なんか落ちてきた。この漫画に挟んであったのかな?これは・・・写真?何が写ってるんだろう・・・。

 

「・・・っ!これ・・・」

 

気になって見た写真に写っていたのは中学時代の六海・・・つまり、凶鳥と呼ばれていた頃の姿だった。またこの姿を見ることになるとは思ってなかった・・・。

 

「・・・まだこの写真、残ってたんだ・・・」

 

凶鳥時代の写真は全部処分したと思ってたんだけどなぁ・・・。この姿は六海にとっては黒歴史以外の何物でもないから、見たくはなかったな・・・。だって、この姿を見ていると・・・嫌でもあの頃のことを思い出しちゃうから・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

バキッ!バキッ!

 

「ち・・・ちくしょう・・・覚えてやがれ!」

 

「ふん!一昨日来なさいってのよ!」

 

全く・・・どいつもこいつも、懲りないったらありゃしないね。ああいう連中が私の前でウロチョロされていると、迷惑だっていうのよ。いつつ・・・このケガを見たら、また五月に怒られるだろうね・・・。あいつもいちいちうるさいっての・・・。

 

「あーあ、また髪が痛んでるし・・・。自慢だっていうのに・・・」

 

ま、嘆いていても仕方ないか。帰ったらこの長い髪の手入れをしなくちゃね。私は武器の竹刀を肩に抱えて、あのマンションへと戻っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

中野六海、14歳。黒薔薇女子学院中等部所属。あだ名・・・凶鳥。

 

彼女がなぜそう呼ばれているのか・・・なぜ凶鳥が忌み嫌われるのか・・・。全ては・・・あの日から始まったのだ・・・。

 

33「アルバイトを探そう」

 

つづく




おまけ

六つ子ちゃんは布団を六等分できない

アパートに引っ越した当日、1つの問題が・・・。

四葉「お布団探してみたけどこれ1つしかなかった・・・」

一花「ええ⁉なんでお布団1つしかないのー?残り5つはー?」

二乃「仕方ないわね・・・みんなで分け合って寝ましょう。・・・絶対狭いけど・・・」

というわけで実行。

六海「う~ん・・・狭いよぅ・・・もっとそっち詰めて~・・・」

三玖「寒い・・・もっと奥いって。入らない」

五月「お、押さないでください・・・はみ出てしまいます・・・」

そして翌日・・・

風太郎「おい、朝だぞ。お前らいつまで寝て・・・」

二乃、五月の顔が一花の右手が、六海の左足が四葉の左手、三玖の右足が布団のところどころにはみ出ている。

風太郎「うわあああああああ!!?朝からなんて光景だよ!!」

六つ子ちゃんは布団を六等分できない  終わり

次回、六海視点(幼少時代&凶鳥時代)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凶鳥となった日

やっとできた~。一応は過去編なので六海ちゃんの口調は違うので、違和感があるとは思います。ご了承ください。

後、次回でこの物語の2章が完結します。


6年前・・・

 

私たち6人は何もかもがそっくり。思ったことも、やりたいことも、好きなものも嫌いなものも、意見が違ったことなんて1度もない。まぁ、六つ子だからかもしれないけど私はそれを面白く思うし、嬉しくも思う。実は私の自慢だったりする。

 

「お母さんの誕生日プレゼント、どうする?」

 

「どうしよっか・・・私たち、お金ないから・・・」

 

「おいしいケーキも買えないしね・・・」

 

そんな私たち六つ子の姉妹にとって外すことはできないとっても大事な行事の話し合いをしているよ。その大事な行事というのはね・・・私たちの大好きなお母さんのお誕生日!そんな大事な日だからこそ、お母さんには笑ってほしいと思って、何をプレゼントしようかって話し合ってる。

 

「うーん・・・どうせなら心のこもった贈り物がしたいよね」

 

「だよね!お母さんが喜んでもらえるような、とびっきりのやつ!」

 

「じゃあ、お花で冠を作ってみる?」

 

こうして話し合っていても、なかなか決まらないものだなぁ・・・。困ったなぁ・・・お母さん、笑ってる姿なんてほとんど見たことないから、好みがわからないよ・・・。

 

「おーい、そこの六つ子たちやーい」

 

話し合いながら道を歩いていると、河原で絵を描いてるお爺さんが声をかけてきた。私たちはこの人のことを、親しみを込めてお絵描き爺さんって呼んでるよ。

 

「あ、お絵描き爺さんだー」

 

「お絵描き爺さん、こんにちわー」

 

「こんにちわ。いつ見ても君たちは仲良しだね。いい画になるよ・・・絵を描きたいくらいにね」

 

このお爺さんはお絵描き爺さんと呼ばれるくらいにまで絵が好きで毎日のように、絵の話を私たちにしてくるんだ。私たちにたまに絵のモデルにしてくれって頼まれるけどね。

 

「またここの絵を描いてるの?飽きないねー」

 

「同じ絵を描いてて楽しい?」

 

「景色というのはね、日々によって変わるものだよ?だからその質問はナンセンスというものだよ、一花、五月」

 

あ、お絵描き爺さん、一花と五月を間違えてる。

 

「私、一花じゃないよ」

 

「え?」

 

「私が五月で・・・」

 

「私が一花だよ」

 

「NOOOOOOO!!未だに!!違いが!!わからん!!」

 

あははは、お絵描き爺さん、頭を抱えてるよ。おっかしー!思わず笑っちゃいそうだよ。まぁ、私たちは同じワンピースに同じ長い髪をしているといった感じに見た目は全く同じだもん。当然だよね。

 

「おっと、すまないね・・・こんなことを言ったら君たち、傷ついたかな?」

 

「ううん、気にしないで!同じ、は私たちの褒め言葉だもん!」

 

「うんうん、私たち、六つ子だもんねー!」

 

二乃と三玖が自慢げにそう口にした。確かに、同じと言われると嬉しくなっちゃうよね。まさしく褒め言葉だよ。

 

「そ、そうなのかい?うーん、よくわからない感性だね・・・」

 

「えへへ・・・それで、私たちに何か御用?」

 

「うん?いや、たまたま通りがかった君たちに挨拶をって思って呼び止めたのさ」

 

「え?それだけ?」

 

「ああ」

 

・・・なーんだ、せっかく四葉が本題に戻してくれたと思ったのに、たいした用がないだなんて、つまんないなー。

 

「じゃあもう行ってもいい?私たち、お母さんの誕生日プレゼント買いに行かないと・・・」

 

「おお!あの美人教師の奥さんかい?そういえば今日があの人の誕生日だったか・・・。そりゃ、何か祝わないとね・・・」

 

お絵描き爺さんはおひげをいじりながら考えだして、私たちに向けて笑顔を向けた。

 

「おお、そうだ!そういう時こそ絵だよ!君たち、奥さんのプレゼントは絵にしなさい!」

 

「「「「「「え~~~?」」」」」」

 

お絵描き爺さんの提案に私たちはあまり納得のいってない声を出す。

 

「絵を描いても・・・ねぇ?」

 

「うん。お母さんが喜ぶかわかんないし・・・」

 

「君たち、相手が喜ぶ贈り物っていうのはね、品質がよければいいというわけじゃない。いかに真心がこもっているかどうかだよ」

 

「真心?」

 

「特に自分たちの手で作り出したものは、相手にとってかけがえのないものになるだろう。それが親子ともなれば尚更さ」

 

????お絵描き爺さんの言っていることがよくわからないや。私たちが子どもだから理解が遅いからかもだけど。

 

「?それってどういうこと?お絵描き爺さん」

 

「言っている意味がよくわかんないよー」

 

「やってみればすぐにわかるさ。ほら、騙されたと思って描いてごらん」

 

そう言ってお絵描き爺さんは私たちに1枚ずつ用紙と下敷きをくれた。

 

「うーん・・・仕方ない、やってあげよっか」

 

「こういうのに付き合ってあげるのも、優しさ、だからね」

 

「よーし!そうと決まればやってみよー!」

 

「もー、また一花が仕切りだしたー」

 

とりあえず私たちはお絵描き爺さんの言うとおりにしてみることにした。本当に絵でお母さん、喜んでくれるかなー。というか、それ以前に何を描けばいいのかわかんないよ。

 

「とはいえ、何を描こうか?」

 

「川とか描いてもしょうがないし・・・」

 

「動物とかは?」

 

「うーん・・・普通すぎない?」

 

「六海は何かいいアイディアない?」

 

「私?うーん、そうだなぁ・・・」

 

何がよければお母さんに喜んでもらえるんだろう?う~ん、悩むなぁ・・・。

 

「・・・あ、そうだ!」

 

みんなの顔を見た途端、私、いいアイディアが思い浮かんじゃった。

 

「どうしたの?何かアイディア見つかった?」

 

「うん!あのね・・・私たち、みんなの顔を描くっていうのはどう?」

 

「「「「「私たち?」」」」」

 

私が出した提案にみんなはきょとんとする。

 

「あのね、お母さんは今は1人で病気で入院してるでしょ?それで思ったんだ。1人できっと寂しい思いをしてるんじゃないかなって」

 

「確かに。私もそう思うよ」

 

「お母さん、かわいそう・・・」

 

「うん。だからね、そんなお母さんを元気付けたいって思ったんだ。私たちがついてるよって、お母さんは1人じゃないよって。どうかな?」

 

私が出した提案にみんなはお互いに顔を見合わせて、にっこりと頷いた。

 

「それいいと思う!」

 

「うん!きっとお母さん、喜ぶよ!」

 

「えへへ・・・実は私も同じこと考えてたんだ・・・」

 

「三玖も?私も同じ考えだよ」

 

「みんな考えてることは一緒だったんだね。実は私も」

 

「みんな・・・」

 

みんな、私と同じことを考えてくれてたんだ・・・。私は、姉妹の気持ちが1つに纏まってくれているのが嬉しくて、気持ちがぽかぽかしているよ。

 

「よーし!じゃあさっそく始めよっか!私、五月を描こうっと!」

 

「わっ!ずるい!じゃあ私三玖を描く!」

 

「えー⁉じゃ、じゃあ・・・私は六海を!」

 

「もう・・・みんな早い者勝ちみたいに・・・。私は四葉を描くけど」

 

「私は二乃を描こうかな。四葉はどうする?」

 

「うーん・・・私は余った一花を描こうかなー」

 

みんなが早い者勝ちといわんばかりに姉妹を指名して絵を描き始める。一花は五月、五月は三玖、三玖は私を、私は二乃を、二乃は四葉を、四葉は一花という感じになった。

 

「でも・・・本当にこれでお母さん喜んでくれるかなぁ?」

 

「うん・・・だって・・・ねぇ?」

 

「うん・・・こんなに下手な絵をあげてもねぇ・・・」

 

私たちはお世話にも絵があまり・・・というか、めちゃくちゃ下手なんだよね。線がところどころ曲がっていて、うまく形にできない。

 

「ほぉ~・・・なかなかうまいじゃないか。こいつは、立派な絵だ」

 

そんな中でお絵描き爺さんは私たちの絵を誉めている。でもその褒め言葉は私たちをバカにしてるようにしかみえない。

 

「ちょっとー!お絵描き爺さんは見ないでよ!」

 

「そうだよ!私たちをバカにしてるでしょ!」

 

「そうだそうだ!心にもないことを!」

 

「いや、ワシの目に狂いはないさ」

 

私たちの文句にお絵描き爺さんは確信を持っているよう雰囲気でそういいはなった。

 

「絵の価値というのは心の表れによって変わるものだ。君たちのその絵は6枚合わさって初めて完成するまさに姉妹愛溢れる素晴らしいものだ」

 

「「「「「「そうかなぁ~?」」」」」」

 

「特にこれを提案した六海。姉妹愛だけでなく、奥さんを思うその気持ちこそが、この絵の最大の価値であり、最高傑作なのだよ。君がそうでなくとも、心の奥底ではそれがわかっている。もしかしたら六海は、将来絵に携わる人間になるかもな」

 

「私が?」

 

お絵描き爺さんはこう言ってるけど・・・この提案はみんなの顔を見て思いついただけだし・・・お母さんのことも考えてはいるけど・・・やっぱりお絵描き爺さんの思い過ごしじゃない?

 

「本当にそう思ってる?」

 

「もちろんだとも。もし奥さんが喜ばなかったら君たちの好きなものをいくらでも買ってあげるよ」

 

「・・・じゃあ信じてあげるけど・・・ダメだったら何か買ってよね!」

 

お絵描き爺さんの言質をとったところで私たちはお絵描きを再開させる。喜んでくれるならいいけど・・・これでダメだったら思いきって高級品を買わせてやるんだから!

 

♡♡♡♡♡♡

 

絵を描き終わったところで私たちは今お母さんが入院している病院までやってきた。ちなみにお絵描き爺さんとはバイバイしてきた。何でもお爺さんがお祝いしても喜ばないだろうってことみたい。そんなことないと思うけどなぁ・・・。

 

「ううぅ・・・緊張してきた・・・」

 

「ね、ねぇ、やっぱりやめにしない?別のものの方が・・・」

 

「ここまで来て何言ってるの!きっと大丈夫だって!」

 

「そうそう、お絵描き爺さんも大丈夫だって言ってたし」

 

「でも・・・こんな絵だよ?信用できるかなぁ・・・」

 

「ダメだったら高級品を買ってもらおうよ。さ、行こ」

 

若干ながら不安はあるけど、私たちは意を決して病院の中に入った。病院に入ったら看護師さんにお母さんがいる病室に案内してもらっちゃった。207号室・・・この病室にお母さんが入院してるんだけど・・・今更ながら緊張してきちゃった・・・。

 

「失礼しま~す」

 

他の患者さんの迷惑にならないように、静かに入って私たちはお母さんのいるベッドへ向かっていく。奥へ進んでいくと、私たちが会いたかった人・・・私たちにとって最愛の人・・・私たちのお母さんがいた。

 

「「「「「「お母さん!!」」」」」」

 

私たちはお母さんを見つけてすぐにお母さんに抱き着いた。だって会えて嬉しいんだもん。

 

「あなたたち・・・来ていたんですね」

 

「うん!どうしても会いたかったから!」

 

「それから・・・お母さんに渡したいものがあったから!」

 

「渡したいもの・・・ですか?」

 

「「「「「「せーの・・・」」」」」」

 

私たちはせーのの合図でお母さんに私たちの描いた絵を見せつける。

 

「「「「「「お母さん、お誕生日、おめでとう!!」」」」」」

 

「!」

 

「本当は家でお祝いしたかったんだけど・・・まだ退院できないから・・・」

 

「私たち、どうしてもお祝いがしたくて・・・我慢できなかったんだ」

 

「これ、私たちが描いたんだよー」

 

「これで病院でも寂しくないね」

 

「お母さん、早く元気になってね」

 

「病気なんかに負けないでね」

 

「・・・・・・」

 

私たちはお母さんに私たちの絵を渡したけど、何も反応してくれない。

 

「あれ?反応してないよ?」

 

「嬉しくなかったのかなぁ・・・」

 

「やっぱりこれじゃあダメだったんだ・・・」

 

やっぱりダメだった・・・そう思った時、お母さんは私たち6人をぎゅっ、て抱きしめてきた。

 

「あなたたちがいつまでも元気でいてくれる・・・それが私にとってかけがえのない大切なものです」

 

「「「「「「お母さん?」」」」」」

 

「素敵な贈り物をありがとう・・・私の娘たち」

 

お母さんは私たちの頭を撫でた後、私たちが描いた絵を愛しそうに見つけてる。お母さんが喜んでくれてる・・・お絵描き爺さんの言った通りだ・・・。お母さんの喜ぶ顔が見られて、とても嬉しい・・・。私たちはお互いに喜びを分かち合うように笑いあった。

 

それから数日後、お母さんは病気が治ったみたいで退院できたみたい。私たちはその日、お母さんの退院を大いに喜びあった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お母さんが退院してから、あっという間に日にちが過ぎていった。ある日には京都へ修学旅行に行って来て楽しんできたり、家族旅行としておじいちゃんがいる旅館に行って来たりしてとても楽しい日々を送ってきた。その際に気になったのは、最近四葉が私たちとは違う姿をするようになった。どんな姿と言われたら、頭にウサギみたいなリボンをつけてたよ。そんな四葉を見て五月も星形のヘアピンをつけるようにもなってるね。今まで同じ姿でいたから変な気分だよ。それに以前と比べて私たちといる回数もだんだん減ってきているし・・・。・・・でもそれ以上に気になってるのは・・・

 

「お母さん、大丈夫?」

 

「心配をかけてすみません。私は大丈夫ですよ」

 

日が経っていくたびに、お母さんの体調が悪くなってきている。どうして?病気治ったんだよね?治ったから退院できたんだよね?

 

「六海、ここはもういいですよ。後はやっておくのでみんなと遊んできなさい」

 

「うん・・・無理しないでね」

 

私はお皿洗いのお手伝いを終わらせ、姉妹のところに戻・・・

 

「ええええええん!」

 

えっ⁉️五月が泣いてる⁉️

 

「五月、どうしたの⁉️何で泣いてるの⁉️」

 

「うぐ・・・ひぐ・・・私の・・・ううぅ・・・」

 

「ああ、泣かないで・・・ね?」

 

五月がこんなに泣くなんて・・・どうしたんだろう?

 

「みんな、何か心当たりない?」

 

「・・・それが・・・えっと・・・」

 

「実は・・・一花がまた・・・おやつを・・・」

 

三玖と二乃の説明で私はすぐに一花に視線を向ける。あ!こっそり逃げようとしてた!

 

「一花ぁ!!また人のおやつをぉ!!」

 

「げっ!」ビクッ!

 

私は怒ってすぐに一花を問い詰める。一花はすぐこっちを向いて必死の言い訳をする。

 

「こ・・・これは・・・違うんだ!その・・・お腹がすいたとかじゃなくて・・・味見!味見してただけ!」

 

「言い訳しない!!人のものを取るなっていつも言ってるでしょ!どうしていつもいつそんなことするの!」

 

「うっ・・・うるさいなぁ!別に怒んなくたっていいでしょ!」

 

ベシッ!

 

「いたっ!」

 

一花は私の言い分にイラついたのか叩いてきた。私はすぐにやり返す。

 

「何すんの!!」

 

ベシッ!

 

「たぁ!もう怒った!痛めつけてやる!」

 

「逆ギレしないでよ!」

 

私と一花はお互いに怒って取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。

 

「わわわ・・・け、喧嘩はやめて!」

 

「そうだよ!一花、六海、やめて!」

 

「う、うううぅぅ・・・」

 

三玖と二乃が止めてきたけど関係ない。今日こそは一花が反省するまでやめるつもりはない。

 

「何をやっているのですか?」

 

かなりドスのきいた声が聞こえて私と一花はピタリと喧嘩を止めた。私たちが恐る恐る振り替えってみると、そこにはいつも通りの無表情のお母さんがいた。まずい・・・これ、絶対おしおきしてくる目だ・・・。

 

「ち・・・違うの!これは・・・六海が先にやってきたんだ!」

 

あ!一花!自分だけ逃れようとしてる!そうはさせるか!

 

「ちょっと!嘘言わないでよ!先にやったのは一花でしょ!」

 

「何さ!ちょっとぐらいつまみ食いしたくらいでそんなに怒ってさ!」

 

「元はと言えば一花が五月の許可もなく勝手におやつ取るからでしょ!」

 

「あーあー!聞こえない!なーんにも聞こえないよー!」

 

私と一花はお母さんが目の前にいるにも関わらず、激しい口論をした。

 

げんこつッ!×2

 

「そんな事で喧嘩しないでください」

 

「「~~~!!」」

 

「「「あわわ・・・」」」

 

当然ながらお母さんからおしおきとして私と一花にげんこつを放ってきた。い・・・痛い・・・お母さんのげんこつ、普通の人より痛いんじゃ・・・?

 

「一花、あなたは姉妹の長女、妹たちのお手本にならなければいけないのはわかっていますね?」

 

「う、うん・・・」

 

「では、やっていいことと悪いことの区別や、今やらなければならないことは、わかりますね?」

 

お母さんのお説教を受けて、一花は少し涙目になってきている。

 

「う・・・ごめんなさい・・・」

 

「謝る相手が違いますよ」

 

一花はお母さんの指摘を受けて今度は五月に目線を向けた。

 

「・・・ごめん・・・」

 

「うん・・・もういいよ・・・許してあげる」

 

「一花、よくできました」

 

「えへへ・・・」

 

一花が五月に謝ったら、お母さんが一花を優しく頭を撫でた。いいなぁ・・・私もしてほしい・・・。

 

「六海」

 

「!」

 

「人のために行動できるあなたの優しさはとても素晴らしいものです。しかし、だからといって、一方的に怒って相手を傷つけていい理由にはなりません」

 

「うぅ・・・」

 

お母さんの指摘に私は何も言えなかった・・・。だって私は・・・すぐに怒ってしまうから・・・。

 

「人と付き合うにあたり、わだかまりは大なり小なり起きうるものです。2人の喧嘩と同じように。しかし、それらを恐れず、しっかり向き合ってあげてください」

 

お母さんは一花を抱きしめながら、もう片方の手で私の頭を撫でてきた。

 

「いいですか?怒りに身を委ねるのではく、優しく寄り添い、相手の気持ちをよく理解し、手を差しのべてあげるのですよ。六海なら、きっとできるようになります」

 

お母さんの言っていることは正直に言うと、よくわかんない。でも・・・なんだろう・・・なんだか気持ちがぽかぽかしてくるよ・・・。私はお母さんの慈愛に満ちた顔をじっと見つめる。

 

「姉妹のために、人のために役立てるようないい子になってください。それだけが、私の望みです」

 

この会話が、私とお母さんの、最後の会話になるとは、この時の私は、そんな事を考えたこともなかった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日になって、お母さんは病気で命を落として、私たちの前からいなくなってしまった。やっぱりお母さんの病気は治ってなかったんだ。そんな事を今さらながら気づいた私たちはお母さんの死に対して、深く悲しんで泣いた。お母さんはもう、私たちの前には二度と現れないから。

 

お母さんが死んでから、私たち姉妹全員はお母さんが入院していた病院のお医者さんに引き取られた。なんでも、お医者さんはお母さんの病気が治ったらお母さんに告白をするつもりだったみたい。あの人がどういう心境で私たちを引き取ったのかはよくわからない。けど、姉妹と一緒にいられる機会を与えてくれたことには、深く感謝してる。それにしてもこうなった以上は今まで通りのお医者さんとは呼べないな。お母さんと結婚を考えてたみたいだから・・・お父さんって呼ぶべきかな。うん、今後はお父さんって呼ぼう。

 

そんなわけで、お父さんに引き取られてから私たちの生活は大きく一変した。住む場所はボロアパートから高級マンションに移ったり、私たち姉妹がもらうお小遣いの量も比べ物にならないくらい高く、服も食べ物も高級なもので何1つ不自由のない生活になっていった。本来の私たちなら大きく驚いたのだけど、お母さんの死もあって、驚く気力は私たちにはなかった。

 

だけど1カ月が経って、みんなだんだんと前に向かって生活していく。私も、少しずつだけど、お母さんの死を乗り越えようと、お母さんの分まで今を精いっぱい生きているよ。私は今、そのことの報告を兼ねて、ちょっと早いけどお母さんのお墓参りに来ているよ。でも、線香を上げて手を合わせた後は、特にやることもなく、ただただお母さんのお墓を見つめるばかり。ただ思い浮かべるのは、お母さんが残した言葉だけ。

 

『姉妹のために、人のために役立てるようないい子になってください』

 

正直、人の役に立てれば何が起こるのかはわからない。でも、お母さんは私たちにそうなってもらいたいと願っていた。それなら・・・私がお母さんの願いを・・・叶えてあげたい。

 

「お母さん・・・私、なるよ。お母さんが願っていた・・・人の役に立てられるような人間に」

 

私はお母さんのお墓に一礼をして、持ってきたお花を供えて墓地から出て、あのマンションへと戻っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから1年の時が流れて・・・私たちは小学校を卒業し、中学生になった。ただ、私たちが通う学校は普通の学校とは一味違っていた。

 

黒薔薇女子学院・・・ここは中高一貫となっているほどの大きい学校で名門と言われてるみたい。頭の悪い私たちがそんなすごい学校に通えるのはお父さんの計らいであったりする。うまく学校に馴染めてるか不安だけど・・・それでも私たちはここを通わせてもらったお父さんの期待に応えるべく、頑張って勉学に勤しんでるよ。

 

そんなある日の黒薔薇のお昼休み・・・

 

「どうすれば人の役に立てるんだろう?」

 

私は二乃が作ったお弁当を食べながら突拍子もなくそう口を開いた。

 

「えぇ?」

 

「え、えーっと・・・」

 

一緒にお昼を食べている姉妹たちは当然困惑の表情をしてる。そりゃ突然こんなことを聞いたらそうなるよね。

 

「六海、それはどういう意味?」

 

「いや、これはずっと考えてたことなんだけどさ、何が人のためになって、何を頑張ればいいんだろうなって思ってさ・・・」

 

「すみません、ちょっと何言ってるのかわからないのですが・・・」

 

大丈夫、私だってわかってないから五月は気にしなくていいよ。

 

「あー、ひょっとして、前にお母さんが言ってたことを気にしてるの?」

 

「そうそう。なんだ一花、ちゃんと覚えてたんだ」

 

「ちょっとー、それくらいは覚えてるって」

 

そう言われても一花ってなんかだんだんちょっと怠け癖が出てきてる傾向があるから、一蹴するのかと思ってたから、以外に覚えててビックリした。

 

「そういえばそんな事言ってたね」

 

「ねぇ、それってなんの話?」

 

「ああ、そっか。四葉だけ聞いてなかったっけ?」

 

ああ、そういえばあの時あの場には四葉だけがいなかったんだっけ?

 

「でも、難しく考える必要はないと思いますよ?六海は六海らしく、自分の思ったように行動すればそれでよいかもしれませんよ?」

 

「・・・そうは言ってもなー・・・」

 

私は五月の言動が気になりながらも、頭をうんうん捻る。五月はお母さんがいなくなってから、お母さんと同じようなしゃべり方をするようになった。なんでも自分がお母さん代わりになると考えてるみたいだけど・・・正直に言えば、五月のその言葉遣いが、私の中では非常に腹立たしく、ムカムカとしてくる。だから気に入らなくてしょうがないんだ。

 

「六海ちゃんはちょっと気張りすぎなんだよ。あんまり頭が固いと、いつかぽっきりいっちゃうよ?」

 

「でも・・・」

 

「結果に急がないで、まずは自分のやりたいことをじっくり探してごらん?きっと六海ちゃんの求める答えが見つかるかもしれないよ?私たちも手伝ってあげるからさ」

 

「一花・・・」

 

・・・うん、そうだよね。ちょっと急かしすぎてたかも考える前にまずやりたいことを見つけないとね。話はそれからだ。・・・というかそんなことより・・・うぅ・・・

 

「そのちゃんづけやめてくれない?さっきからむず痒くて・・・」

 

「えっ⁉️今いいこと言ったのにその返し⁉️」

 

いやだって・・・友人とかはともかく・・・姉妹・・・それも六つ子からちゃんづけされるとなんかこう・・・むずむずしちゃって至るところが痒くなってくるんだよね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

やりたいこと、と言ったものの、私のやりたいことってなんだろう?正直に言えば、これが難しい。幼稚園だった頃、私はお母さんみたいな先生になりたいって言った覚えがあるけど、ぶっちゃけて言えばあの時は今以上に幼かったから本気で言ったことじゃない。第一、私は頭がよくないから先生なんてなれっこないんだけどね。まぁ、将来の夢=やりたいこととは限らないからなぁ。というより、自分が何になりたいかなんて今のところわかんないけどね。でも本当に困った・・・どうしようか・・・。

 

「ね、ねぇ・・・中野さん・・・」

 

「ん?」

 

おっと、考え事してたらクラスの子に話しかけられた。この子・・・誰だっけ?入学してまだ一カ月も経ってないからまだ名前が覚えられないなぁ。ちなみに姉妹は全員違うクラスに在籍してるよ。

 

「その筆箱についてるキーホルダーって・・・魔法少女マジカルナナカでしょ?」

 

「え?ああ・・・これ?うん。私、これ好きなんだ」

 

魔法少女マジカルナナカ・・・これは最も注目を集めてる人気作品で、私がつけてるキーホルダーはその主人公であるナナカ本人なんだ。私たちが小学5年生くらいに連載が始まって、お母さんがそれを私たちに読み聞かせてくれて以来、私はこの作品にすっかり虜になった。他の姉妹はどうかは知らないけど。読み聞かせと言っても漫画としてではなく、友達?らしい人からわざわざ紙芝居を作ってもらったものでなんだけどさ。

 

「えへへ・・・実は私も好きなんだ・・・マジカルナナカ」

 

「え?本当?じゃあ質問ね。ナナカのライバル魔法少女のウェンディが登場するわけなんだけど、現在までの話数でウェンディが使用してきた魔法の回数は?」

 

これは何度も何度も読み返さないと絶対に答えられないものだと思うけど・・・ちょっといじわるしす・・・

 

「えっと・・・72回、でしょ?」

 

え・・・マジ?この子当てちゃったよ。ぴったり正解しちゃった。それなら・・・

 

「じゃあ次、ナナカが使った魔法・・・」

 

私がこの子にファンなら絶対に知っておくべきことを質問したら全問正解してきた。この子・・・完全なるマジカルナナカラブだね!

 

「すご・・・全問正解・・・」

 

「ふふ・・・私ばっかりもなんだし、私も質問しよっかな。ナナカとウェンディの決戦編でナナカがウェンディと向き合うために新しい魔法を編み出そうとしてたけど、その魔法の名と編み出し方はなんでしょう?」

 

「う~ん・・・ちょっとばかり難しいけど・・・」

 

難しい質問だけど、私はナナカが魔法を編み出す特訓方法、そしてその魔法の名を突き付けた。

 

「どう?当たってるでしょ?」

 

「正解。じゃあ次ね。本編の20話で・・・」

 

たくさんマジカルナナカについての質問をされたけど、私は全部答えてやったよ。

 

「ふふ、すごいね。中野さんも全問正解だよ」

 

「まぁね。一応私、ナナカファンなわけだし」

 

私とこの子はナナカ談議で大いに盛り上がった。なんか、姉妹以外でこんなに話したのは、初めてかも。話もすごく馬が合うし。

 

「私たち、気が合うね」

 

「そうだね。・・・えーっと・・・名前・・・」

 

私がこの子の名前を尋ねると、おかしそうにくすくすと笑った。

 

「私は姫路。改めて、よろしくね」

 

姫路さんはすっと手を伸ばし、私はその手をぎゅっと握って握手を交わした。この黒薔薇で初めて友達ができた・・・私は、そんな気持ちになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それ以降、私は姉妹以外では、姫路さんと一緒にいることが多くなった。ある時はお昼休みで一緒にご飯食べたり、ある時はナナカ談議をしたり、またある時はナナカイベントを2人で楽しんだりと・・・とにかく姉妹より姫路さんといることが多い気がする。短い期間だけど、それこそ、親友って呼べるんじゃないかってくらいに、親しくなった。そんなある日のこと、私は今日は姫路さんと一緒に本屋に立ち寄ってマジカルナナカの最新刊を買いに行った。2人とも最新刊を買うことができて、お互いににやけ顔が止まらなかった。

 

「週刊誌で1度読んだものとはいえ・・・やっぱりこればっかりは・・・ふへへ・・・」

 

「中野さん・・・にやけてるよ・・・ふふ・・・」

 

「姫路さんだって・・・」

 

でも気持ちはわかるよ・・・あの勇姿がこの1冊に込められてると思うと・・・ぞくぞくするからね。

 

「さて、と。この後ラーメン屋でも行かない?あそこのラーメンはおいしいよぉ?私が保証するよ」

 

行きつけのラーメン屋に誘おうとすると、姫路さんは少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「ご・・・ごめん・・・この後、ちょっと用事があって・・・遅れるわけにはいかないから・・・」

 

「そっか。そういうことならしょうがないか。じゃ、また今度誘うよ」

 

「うん。ありがとうね。じゃあ、また明日」

 

「また明日ー」

 

姫路さんは私に向けて手を振って、その場を立ち去った。私も手を振って、姫路さんを見送った。・・・姫路さんの用事っていったい何だろう・・・?ま、これは人の事情だし、私が首を突っ込んでいい事情じゃないか。さーって、私はラーメン屋に行って、空いた小腹を満たそうかな。私は早速ラーメン屋に向かって足を運んでいく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ラーメン屋でラーメンを食べ終えた私は満足げに街を歩いていく。はぁ・・・麺のあののど越し・・・スープの濃くも薄くもないあの味わい・・・本当、何度食べても飽きないよ。今度は姫路さん・・・さらには姉妹たちも連れていこうかな。そう考えていると、ふとガラの悪いスケ番が路地に入っていくの見かけた。

 

「ああ、怖い奴がいるなぁ・・・ああ、やだやだ・・・関わらない方が身のため、だね」

 

この場を見てみぬふりをしようとしていると、スケ番と一緒にいる子が視界に映った。

 

「・・・姫路さん?」

 

そう、さっき視界に映ったのは姫路さんだった。なんでこんなところに?用事終わって・・・じゃなくて!なんであんな奴らと一緒に?嫌な予感がして、私は彼女らにバレないように隠れながらついていった。ついていってたどり着いた物置場の先で・・・私は見た。見てしまった。姫路さんが・・・スケ番たちに茶色い封筒を渡してる姿を。これは・・・まさか・・・やっぱり・・・。

 

「わっ・・・やば・・・こっち来た・・・」

 

バレないよう私は身を縮こんで、物置に隠れた。あいつらは姫路さんを置いて、そのままどっかに行った・・・。バレてない・・・みたい・・・。ふぅ・・・危なかった・・・じゃなくて!

 

「姫路さん!」

 

「きゃっ⁉️な、中野さん⁉️」

 

姫路さんは私が隠れてた物置から出て来て驚いてるけど、今はそんな気にしてるの場合じゃない。

 

「ごめん、今の見てたよ。それより大丈夫⁉️どこもケガしてない⁉️」

 

「だ・・・大丈夫・・・」

 

「よかった・・・」

 

とりあえず姫路さんが無事で一安心した。もし姫路さんに何かあったらと思うと・・・ぞっとするよ。

 

「・・・姫路さん、教えて・・・今のは、何?あいつらに脅されたの?」

 

「・・・・・・」

 

私の問いかけに姫路さんは答えずらそうにしている。

 

「黙ってたら何もわかんないよ」

 

黙秘を続けていた姫路さんはようやく口を開いてくれた。

 

「ごめん・・・ここでは・・・話せない・・・。明日、学校で、話すから・・・」

 

「う、うん・・・わかった」

 

「じゃ、じゃあ、また・・・」

 

姫路さんは早足で物置場から去っていった。事情は明日話してくれるみたいだけど・・・あいつら、姫路さんに何かしてみろ・・・絶対に許さないから。私は少しもやもやとした気分になりながら自分たちのアパートへと戻っていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日のお昼休み、私は誰も使われてない教室に姫路さんを連れてきた。

 

「姫路さん・・・事情を・・・話してくれるよね?昨日のあれは何?」

 

私の問いかけに姫路さんは押し黙り、数分後で事情を話し出した。

 

「・・・私・・・脅されてるの」

 

「脅された?あいつらに?」

 

姫路さんはこくりと首を頷かせた。

 

「詳しくは言えないんだけど・・・ちょっとした事情で木下さんに目を付けられちゃって・・・」

 

木下・・・それがあのスケ番たちのリーダー格の名前か・・・。

 

「お金さえ払っておけば、何もしてこないんだけど・・・もし・・・お金を払えてなかったら・・・私・・・うぅ・・・何されるか・・・」

 

「・・・っ!あいつら・・・!」

 

姫路さんはうっすらと涙を浮かべているのを見て、私の中で怒りがふつふつと湧き上がってくる。よくも姫路さんに怖い目を・・・!あいつら絶対に許せない!

 

「中野さん、どうか抑えて・・・私自身が我慢すれば・・・それで済むから・・・」

 

「姫路さん・・・」

 

姫路さんはこう言ってるけど・・・こうして目の前で泣いている友達を放っておいたら・・・私は、自分自身が許せなくなる!私は・・・姫路さんを木下から解放してあげたい・・・。本当の意味での笑顔にさせてあげたい。

 

「姫路さん・・・私を木下のところまで案内してくれない?」

 

「中野さん・・・何言ってるの・・・?」

 

「私が、姫路さんを自由にしてあげる!だから、案内して」

 

「だ・・・ダメだよ・・・危ないよ・・・最悪・・・怪我どころじゃすまないかも・・・」

 

私が出した提案に姫路さんはそれをよしとしなかった。正直に言って、本当は滅茶苦茶怖い・・・。でも・・・何より怖いのは、友達が危険な目にあって、大怪我してしまうことだ。

 

「だからって、このまま何もしないで見てる方が、もっと嫌だ」

 

「で、でも・・・暴力は・・・」

 

「安心して。こっちからは手を出さないよ。あくまでも、話し合いで解決するつもりだから」

 

「中野さん・・・」

 

きっと、お母さんが生きてたら、きっと話し合いで解決してくださいって言うはず・・・。なんでか知らないけど、そんな気がするんだ。

 

「大丈夫。私が・・・姫路さんを守ってあげるから!」

 

もしかしたら、人のためにできることって、こういうことを言うんじゃないかな?私、初めて自分が誇らしいと思えたような気がする。きっとこれが正解なんだよね・・・お母さん・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

放課後、姫路さんに木下の縄張りに案内してもらって、私は今、木下と面会をした。木下は部外者が入ってきたみたいな顔つきで私を睨んでる。

 

「姫路よぉ・・・今日は用はないっつったよなぁ・・・。それにそいつ誰だよ?」

 

「そ、そのぉ・・・」

 

「あんたが木下?あんたに話があって来たんだけど」

 

「あ?」

 

私の態度が気に入らなかったのか睨みがさらに強くなった。周りにいる不良たちもこっちを見る目つきがきつくなってるのがわかる。

 

「あんた、姫路さんからお金を取り上げてるでしょ」

 

「は?」

 

「姫路さんは迷惑してるんだよ。だから、今すぐにこんなことやめて」

 

私の出した話にここにいる不良は全員唖然として、そして・・・

 

『ぎゃははははは!!』

 

一斉に笑い出した。

 

「マジかよ!そんなことのためにわざわざ来たってーのか?」

 

「ははは!笑える!腹いてぇ!」

 

「何がおかしいの!」

 

「はは・・・悪いねぇ・・・意味がないことに対して、ずいぶん必死だなってね」

 

「意味がないですって⁉️」

 

「わかりやすく言ってやろうか?・・・無駄な行為なんだよ!!」

 

ドガッ!

 

「がっ・・・⁉️」

 

「中野さん!」

 

木下は私のお腹に蹴りを放ってきた。

 

「う・・・うぐぅ・・・」

 

「お前、こいつが迷惑してるっつったよな?ものわかり悪そうだから言ってやるよ。てめぇの意見なんざ、どうだっていいんだよ!」

 

ドガッ!ドガッ!

 

痛みで踞ってる私に追い討ちをかけるように木下は蹴りを放ち続ける。

 

「木下さん!もうやめて!もっとお金払ってあげるから、これ以上は・・・」

 

「姫路さん・・・いいから・・・」

 

「中野さん・・・」

 

姫路さんはこいつらによって十分苦しんだ。だから私が・・・終わらせる。

 

「・・・お金がほしいなら、私が望むくらいにあげるから・・・だからお願い・・・。これ以上は彼女に関わらないで」

 

私の必死の懇願に木下は私の制服の裾を引っ張って、私を近くまで引き寄せた。

 

「ほぉ~。美しい友情だねぇ・・・。そういうの、反吐が出るぜ!!」

 

木下は拳を強く握りしめた。やられる・・・!

 

パサッ

 

「おっと・・・」

 

殴られる前に木下の懐から封筒が落ちてきた。あれが、姫路さんが渡したお金・・・。お金が入った封筒を見て、私は目を疑った。

 

「ねぇ・・・姫路さん・・・どういうこと?」

 

「・・・どういうことって・・・何が・・・?」

 

「だって、姫路さんはここまで来るまで、木下のことを、さん付けで呼んでたでしょ?それなのにどうして・・・あの封筒には・・・

 

 

 

木下のことを、呼び捨てにしているの?」

 

あの封筒には木下の名前がかかれていた。恐らくは木下に送るためにつけたものだとわかる。でもそれなら呼び捨てでなく、様とかさんをつけないと、反感を買うはずだ。だけど木下にはそれが全く感じられない。そこで私は、嫌な予感が頭に浮かぶ。

 

「姫路さん・・・本当にこいつらに脅されてるの?」

 

「・・・・・・」

 

「本当はこいつらと・・・繋がってたんじゃないの?」

 

お願い・・・どうか・・・どうか気のせいであって・・・。予感を外して・・・。

 

「・・・くっ・・・くっくっく・・・あはははは!」

 

長い沈黙に木下は笑いだした。周りの奴らもニヤニヤ笑ってる。

 

「姫路、もうやっちまおうぜ。こんな三文芝居、とっとと終わらせちまおうぜ」

 

三文・・・芝居・・・?

 

「・・・好きにしな」

 

「おっしゃあ!」

 

そ・・・そんな・・・姫路さん・・・何で・・・

 

「ほら、これで無駄の意味がわかったろ?」

 

やめて・・・聞きたくない・・・。

 

「アタシらが姫路を従えさせてたわけじゃねぇ。むしろその逆さ。姫路がアタシらのボスなのさ」

 

「なっ・・・」

 

「アタシらは金で雇われた用心棒ってことなのさ。つまり、お前のそれは、姫路にとっちゃ余計なお世話ってことなのさ」

 

そんな・・・私のやってきたことは・・・姫路さんにとっては意味がない・・・?いや・・・それよりも・・・

 

「どうして・・・?どうして・・・こんな奴らと・・・?」

 

「・・・いじめられないためよ」

 

私の問いかけに姫路さんは淡々と答えた。

 

「小さい頃から私はいじめられて生きてきた。苦しくても・・・痛くても・・・私を助ける相手なんて誰もいなかった。誰も救ってはくれなかった。なら、どうすればいい?簡単。安心な場所を捜せばいい」

 

「安心な・・・場所・・・?」

 

「中野さんにはわかる?安心な場所はどういった場所なのか。それは・・・強い者の後ろよ。強い者の後ろにいれば、誰も私をいじめないでしょ?」

 

それが・・・姫路さんが木下と一緒にいる理由・・・。でも・・・そんなの・・・

 

「そんなの・・・間違って・・・」

 

「あんたに何がわかる!!!」

 

間違っていることを指摘しようとした時、姫路さんは声を荒げた。

 

「あんた、前に言ったわよね?守ってあげるってさ・・・。ふざけんな!!あんたみたいに何の苦労も知らない奴ほどみんなそう言う!!心のこもってないことを言ったってちっとも嬉しかねぇよ!!ちょっと仲良くしてやろうと思ってたのに・・・勘違いして盛り上がって、本当うざい!!!」

 

「・・・っ!姫路・・・さん・・・」

 

「あんたみたいな奴は、飽きて用が済んだら私を見放して、嘲笑って、いじめるんだろうが!!!」

 

違う・・・私は・・・そんなこと思ってない・・・。私は・・・本気で姫路さんと・・・本気で友達になろうと思っただけなのに・・・。

 

「おしゃべりタイムは終わりだよ!!」

 

バキィ!!

 

木下はこれ以上話す必要はないと言わんばかりに私を殴り飛ばした。

 

「今、楽にしてやるよ」

 

私は・・・いったいどこで間違ってしまったんだろう・・・。何が姫路さんのためになったんだろう・・・。そう考えていると、木下と部下たちはじりじりと私に近づいてくる。目の前にいる奴らを見て、私は中に、黒い何かがふつふつと湧き上がってくる。何かが限界まで達した時、私は考えるのをやめ、落ちてあった鉄パイプを拾い上げ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・あ、あれ・・・?」

 

ふと気が付くと、私の視界には白い天井が映った。ここは・・・どこ?私は、今まで何を・・・。

 

「あっ!気が付きましたよ!」

 

「六海・・・よかった・・・」

 

「もう・・・心配させないでよ・・・」

 

辺りを見回していると、私の隣に姉妹たちの姿が映りこんできた。

 

「みんな・・・どうして・・・」

 

なんで姉妹たちがいるの?それにここは・・・病院?なんで私・・・病院のベッドで寝てるんだっけ?私は確か・・・木下たちの暴力にあって・・・。

 

「・・・!!そうだ!木下は・・・姫路さんはどうなったの⁉」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

私の問いかけに姉妹たちは押し黙った。あの後姫路さんは・・・いったいどうなったの⁉

 

「・・・何で黙ってるの?何か知ってるの⁉」

 

「それは・・・」

 

「僕が説明しよう」

 

五月が口を開いた時、誰かが病室に入ってきた。入ってきたのは、私たちのお父さんだった。

 

「今日はもう遅くなる。一花君たちは早く帰りなさい。六海君のことは、僕に任せておきなさい。それに、君たちも説明しづらいだろう」

 

「う、うん・・・」

 

「六海、明日もお見舞いに行くからね」

 

お父さんに言われて、みんなは私がいる病室から出ていった。その中で五月だけが私に向けて申し訳なさそうな顔をして見つめてる。

 

「六海・・・あの・・・」

 

「五月君」

 

「は、はい・・・。六海・・・ごめんなさい」

 

お父さんの視線によって五月は今度こそ退室していった。ここに残っているのは、私とお父さんだけになった。

 

「さて・・・昨日君は大怪我を負って状態で発見され、この病院に搬送されたよ」

 

「昨日も・・・?」

 

「困惑してるようだね。無理もない。丸1日も君は気を失っていたのだからね」

 

1日も・・・?私、そんなに長い時間を眠っていたの?・・・待てよ?私がここに入院してるってことは・・・。

 

「・・・木下は?」

 

「木下君?・・・君と一緒に運ばれた子のことかい?彼女たちも大怪我をしていてね、今ここに入院しているよ」

 

木下もこの病院に入院?それに大怪我?いったいどういうこと?

 

「彼女たちとは会わない方がいい。君も会うのはあまり気乗りしないだろう。それに・・・彼女たちは君たいしてかなり怯えていたよ。みんな、口を揃えて君にこういったみたいだ。鬼・・・とね」

 

鬼?私のことを指しているの?それに怯えていたって・・・。・・・・・・まさか、木下たちが怪我をした原因って・・・。ううん、今はそいつはどうでもいい。

 

「・・・姫路さんは、どうなったの?」

 

「・・・・・・」

 

私の問いにお父さんは少し黙り込んだ。何なのいったい。何があったっていう・・・

 

「・・・君にとっては残念な知らせになるが・・・」

 

「?」

 

「彼女ならもうこの街にはいない」

 

・・・・・・・・・え?この街には・・・いない・・・?

 

「な、何それ・・・どういうこと・・・?」

 

「昨日の事件の後、姫路君はすぐ学校に転校届を出し、この街から出ていったよ。もうこの街で彼女と会うことはないだろう」

 

「なんで・・・どうして・・・?」

 

「六海君は姫路君と仲が良かったと聞く。そんな君にこんなことを言うのは辛いが・・・もう君には二度と会いたくないそうだ」

 

そ、そんな・・・姫路さんが・・・この街から出ていった?私の・・・私のせいで・・・。私が出しゃばらなければ、こんな・・・。

 

「六海君、気をしっかり持ってくれ」

 

「・・・姫路さん・・・ごめん・・・ごめんね・・・」

 

姫路さんが町を出ていったこと・・・そして、姫路さんの気持ちを理解したつもりでいた自分が悔しくて・・・私はただ1人で泣いた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの一件は私も被害者ということで、無実となった。だけど、私が病院から退院して、学校に行ったら、周りの反応は冷たかった。私が学校に来ることにたいして、快く思ってない子が多くて、怯えられたりする姿をよく見るようになった。そのため、姉妹以外の子は私から離れていく。姉妹は姉妹で私を励ますことが多くなった。

 

そんな環境の中私は今、帰り道を歩きながら考えていた事をしていた。いったい何が姫路さんをあそこまで苦しめていたのか・・・姫路さんが何で木下を雇おうとしたのか・・・それを踏まえたうえで、私はいったい、何をすればいいんだろう・・・。それに、私にできることなんて・・・あるのだろうか・・・。

 

「おら、金出せよ」

 

「あ・・・あ・・・か、かえ・・・」

 

考え事をしていたら、不良が誰かにお金を取り上げようとする声が聞こえてきた。その声を聞いたら・・・姫路さんのことを思い浮かべてしまう。・・・あいつらみたいなのがいるから姫路さんは苦しみ、木下を雇ったんじゃないか?ここであの子を放っておいたら、姫路さんみたいなことになってしまうのだろうか?

 

・・・そんなことはさせない。もう二度と、姫路さんのような人をこの目で見たくはない。姫路さんみたいな過ちは、決して生み出させない。この考えが正しくないのはわかってるつもりだ。それでも・・・それで負の連鎖が止められるなら・・・

 

私は喜んで、悪に転じよう。

 

私はマスクをつけ、お金を要求する不良に近づいて、持っていた鞄を上にかざし、そいつに向かって振り下ろした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それからというもの、私はこのような行為を繰り返すようになった。悪を見つけては粛清し、弱き者を悪から遠ざける。見返りなんていらない。蔑むのなら蔑めばいい。それで、あの連鎖から止められるのなら。

 

そのような行為を続けていくうちに、周りは私をさらに恐れ、畏怖の念を抱き、こう呼ぶようになった。

 

凶鳥・・・災いをもたらす鳥。

 

誰がそんな風に呼び出したかはわからないけど、そんな事は些細なことだ。もう私には、この道に進むことしかできないのだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『とある会話』

 

「ちくしょう!覚えてやがれー!うおおおお!」

 

「あ、上杉、ちょっとあれ見なさいよ」

 

「ん?」

 

「あれ、○○高校の奴らじゃない?まーた凶鳥ってのにやられたのかしら」

 

「知らねぇよ」

 

「凶鳥って確か春がいる学校にいたわよね。あの子、大丈夫かしら・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと、会話のドッジボールくらいしなさいよ」

 

「知らん。勉強で忙しいんだ。後にしろ」

 

「勉強勉強って・・・まるでオウムみたいね」

 

「うるせ。つーか、お前誰だよ」

 

「真鍋だって言ってるでしょ。覚えなさいよこのクズ野郎」

 

「なんだとこの性悪女」

 

♡♡♡♡♡♡

 

あれから1年の時が流れ、私は公園のベンチで学校新聞というものを読んでる。内容は、私がどれだけ恐ろしい存在かを載せたものだ。

 

「・・・デタラメもいいとこだっての」

 

だけどそのほとんどが身もふたもない単なるくだらない噂程度なもの。つまり私がやってないことを大げさに広めてるだけ。全く、くだらなさすぎる。どれだけ新聞のネタに飢えてるんだっての。

 

「おかげでいい迷惑よ」

 

私のやったことでなら別にいい。蔑まれるのはいつものことだし。でもやった覚えのないことで騒がれるのはいい気分はしない。いちいち身に覚えのないことで先生に呼ばれてたまったもんじゃない。

 

「・・・帰ろ」

 

私は新聞をくしゃくしゃに丸めて、適当に投げ捨てて、帰ろうとした時・・・

 

「ちょっと君?さっき今ゴミを捨てたよね?アタシ、見ちゃったんだけど?」

 

なーんかやたらとしゃべる女に話しかけられた。なんか派手なファッションをしているけどさ・・・

 

「ダメだよー?治安が悪くなっちゃうじゃん?きれい1番を心掛けないとー」

 

いや・・・本当・・・あんた誰よ?

 

♡♡♡♡♡♡

 

これが初めての出会い。友と思っていた者を今も思い続け、凶鳥となった六海。そして、絶対的な人気を誇る漫画家、MIHO。この出会いによって、今の六海を徐々に変えていくだろう。

 

凶鳥から、神話鳥へと変化していくのは、もう間もなくである。

 

35「凶鳥となった日」

 

つづく




六つ子豆知識

六海(中学生)

外見はストレートロングで黒カチューシャをしている。メガネはかけてない。

六海が中学生の頃の姿。母より褒めてもらった長い髪が非常に自慢。姉妹以外触ることは許さない。
性格は始めは姉たちとほとんどそっくりだが、怒りん坊で事あるごとにすぐに怒りを示すことがしばしば。だが凶鳥となった後は口調が変わり、少しずつ荒れていっている。
黒薔薇で初めてできた友達と思っていた姫路に裏切られてもなお、姫路のことを友達と思っている。彼女の過去の苦しみを理解できなかった罪と、彼女と同じ思いをする人間を生み出したくないという考えの元で、不良たちに喧嘩を吹っ掛けていった。その行為が周りから恐れられるようになり、畏怖を込めて凶鳥と呼ばれるようになった。喧嘩をする際は姉たちのことを思い、顔を隠すようにマスクをつけている。
姉たちのことは今も大切に思ってはいるが、いろいろと思うところが増えて、少し煩わしいという気持ちもあるのは姉たちには内緒だ。
凶鳥から卒業し、現在の甘えん坊になったのは、我慢していたものから解放され、タガが外れたのだと思われる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本気でやりたいこと

結構時間をかけて、ようやくできましたー。これで2章は完結ですー。よ、ようやく3章を書くことができる・・・。ここまで長かった・・・。

後今話、つまらなかったら本当に申し訳ございません。


「ほ~ん・・・なるほどなるほど・・・この新聞に載ってる子って君なんだ。道理でこの新聞を捨てるわけだ」

 

私が公園で学校新聞を捨てたのを見たって言うこの女はどういうわけか私を行き付けのラーメン屋まで連れてこられた。・・・何でこうなる?

 

「・・・新聞ではあることないこと書いてあるけどもこれマジ?君はその凶鳥なんっしょ?」

 

確かに凶鳥であることは認めるけど、誰がそんなくだらないことするかっての。そのネタだって子供じみたイタズラでしかない。

 

「デタラメに決まってるでしょ。新聞部が勝手に書いたものよ」

 

私の回答にこの女はにっこり笑ってる。

 

「ははっ、だよね。君がこーんなのするわけないもんね。だって君の目は・・・不良って呼ぶには優しすぎるからさぁ」

 

「は?」

 

こいつ何言ってるの?初対面で何でそんなことがわかるんだっての。というかそもそも・・・

 

「何言ってんの?というかあんた本当に誰よ?」

 

「おっと、自己紹介まだだっけ?めんごめんご」

 

謝罪になってないし、勝手に私を連れ出しといて、よく笑ってられるな・・・。

 

「アタシはMIHOっていうんだ。しがない漫画家でーす。本名は下田っていうんだけど、MIHOって呼んでね♪」

 

ずいぶん馴れ馴れしい奴だ。私はよろしく何てするつもりはないし、仲良くする気もない。付き合ってられない。さっさと帰ろ。

 

「あり?どこ行くわけ?」

 

「帰る」

 

「え~?帰っちゃうの?残念だなぁ・・・ラーメンおごろうかと思ってたのになぁ」

 

くうぅぅ~・・・

 

・・・小腹が空いてきた。・・・私は下田・・・いや、MIHO・・・だっけ?どっちでもいいか。この女の隣とは別の席に座り直す。

 

「あり?帰るんじゃなかったの?」

 

「・・・食べてから帰るんだよ」

 

「んふふ・・・そうこなくっちゃ♪」

 

このまま帰ってもいいけど・・・強引とはいえ、せっかくラーメン屋に来たのに何も食べないのはやっぱり作る人にたいして失礼だ。・・・決して奢りに魅かれたわけじゃない。私は食いしん坊の五月とは違うんだから。

 

「つーかそんなに離れないでよ~。一緒に食事しましょ~」

 

「鬱陶しい・・・あっち行けって、殺すぞ」

 

「やん♡いけずぅ♡」

 

女は私の隣に座るとしたから私は遠ざかる。

 

「・・・で?そんなこと聞くためにわざわざ私を呼び止めたの?そうだとしたら、マジで暇人じゃない?」

 

「暇人ねぇ・・・。キッツイことを仰るねぇ・・・」

 

私の発言にこの女は頭をかいてる。いい年した大人が公園でぶらぶらしてるってことはそういうことでしょうが。

 

「へいお待ちぃ!!」

 

「あーん、もう来ちゃったかぁ。残念」

 

ラーメンが来たからこの女は元の席に戻ってラーメンを啜る。私もさっさとラーメン食べて、さっさと帰ろう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ラーメンを食べ終えて、私は自分が今住んでるマンションまで帰ってきた。お勘定はあの女の宣言通り、奢ってはもらった。私にそんなことしててもいいのかねぇ。・・・ま、いいや。どうせもう会うことはないだろうし。

 

「ただいま」

 

「あ・・・おかえり」

 

「今日はいつもより早かったですね」

 

私たちの部屋に入ると、五月と三玖が迎えてきた。・・・そんなことしなくてもいいのに。

 

「今日は・・・ほっ・・・怪我してないですね」

 

「いつもやってるわけじゃないって、毎回言ってるんだけど?」

 

「ご、ごめん・・・」

 

苛立ちを隠しきれずにそう言った時、三玖が少しビクついた。別に三玖に向かって怒ってるわけじゃないけど、今日はいつもと比べて本当にムカつく。

 

「機嫌悪そうだけど・・・どうしたの?」

 

「別に。変な女に絡まれただけ」

 

「変なって・・・大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、悪くない奴だけど・・・正直言って・・・すげぇムカつく」

 

今言った言葉は今日会った変な女にたいしていった。嘘は言ってない。まるで人を見透かしたみたいに・・・気に入らない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

次の日、黒薔薇の授業を終えた私はすぐに帰宅の準備を進める。別に授業を受ける義理はこっちにはないんだけど・・・授業を受けないと先生がぐちぐちうるさいんだ。ちゃんと受けないと停学だのなんだのと言われて、仕方なく授業には受けざるを得ないんだ。周りからあんまり冷ややかな目で見られるのはいい気分じゃないけど。まぁ今日はもう終わり。やることもないしさっさと帰ろう。そう思って校門の出口まで向かう。

 

「おっ、やっと来たね♪待ちくたびれたよ~♪」

 

「げっ!」

 

校門まで向かうと、昨日のMIHOっていう女が私を待っていた。・・・何でこいつここにいんの?

 

「人を待たせるなんて、ノンノンだぞ♪さ、レッツゴー♪」

 

「はぁ!!?ちょ・・・待って・・・あんたどこ行くの・・・てか離せって!!」

 

私はこの女に首根っこを掴まれて、無理矢理ながらどっかに連れていかれる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「いい加減・・・離せってば!!」

 

この女に掴まれた首根っこを力ずくで振り払い、女と距離をとった。

 

「ああん、もう・・・恥ずかしがっちゃって・・・照れなくてもいいのにー」

 

「照れてないし、いきなり何すんのよ!こんなとこに無理矢理連れてきて」

 

「だって普通に言ったって逃げるでしょ?君」

 

「だからって無理矢理連れてくるか普通⁉️」

 

この女に常識っていうのがないのか⁉️私が言ったら終わりだけど!

 

「だいたい何で私があの学校にいるってわかったんだよ?」

 

「その制服よん」

 

「は?」

 

私が着込んでる制服?

 

「ところどころ気崩してるけど、それ、黒薔薇のっしょ?新聞にも黒薔薇って書いてたし。そこにいけば会えるかなって思ってさ」

 

ああ、そういうことね。とりあえず何で私が黒薔薇にいるのがわかってるのかはわかった。

 

「・・・で?いい大人がこんな不良になんかご用?」

 

「用ってわけでもないんだけどさぁ・・・」

 

この女はにこにこ笑いながら頭をかいて変なことを言ってきた。

 

「アタシと一緒にゲーセンとかで遊ぼうよ。夜まで暇なの、アタシ♪」

 

「は?」

 

こいつ何言ってんの?そんなことのために私を無理矢理連れ出したっての?

 

「どう?」

 

「・・・バーカ、誰が行くかっての。付き合ってられないっての」

 

あまりにバカバカしく、身勝手な言い分に私は憎まれ口を叩きながら自分たちの家まで帰っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それからというもの、私の人生は非常に疲れるものに変わっていった。というのも、どういうわけかあの女、毎日毎日毎日と、私のいる黒薔薇までやって来ては私にしつこく付きまとってきた。何度断っても、その次の日にもまた誘いにくるというその繰り返し。正直うんざりしてくる。唯一の救いなのは休日だけは付きまとうことはないということだ。あまりのしつこさに私は全然気が休まらなかった。そして、現在も・・・

 

「おーい、今日こそはアタシと遊びましょうよ~」

 

「はぁ・・・またか・・・」

 

ほら、やっぱり・・・。これで何回目になるんだよ・・・。うちに来た回数も数えきれないくらいなんだよな・・・。

 

「何度も言ってるけど、私はあんたとも誰ともつるまない。諦めてさっさと帰れよ」

 

「え~?またそれですか~?そ~んなに拒否っちゃって・・・君友達いないっしょ?」

 

「うるさい。早くどっか行け」

 

「冷たいなぁ。どうせやることもねぇんだから暇っしょ?なら今日くらい遊んだって罰は当たんないって」

 

「しつこいって言ってるんだっての」

 

罰当たりとかどうとかの話しじゃなくて、私の生活に干渉するなって言ってるんだ。

 

「あーあ、君の姿を見たら先生はなんて言うんだろうねぇ・・・」

 

「ふん・・・」

 

先生の言うことなんて知るかっての。私は私のやることをやる。それで十分でしょ。

 

「・・・興味ないわけ?アタシの先生に」

 

「興味ないっての。どの先生も全員同じだって。どいつもこいつも・・・頭の固いバカばっかりだ」

 

自分がどうとかを説く前に、まず周りの奴らを気にしろっての。そうしたら・・・姫路さんの事件は起きなかったのに・・・。

 

「そーんなこと言っちゃっていいのかなー?お母さん、悲しむよー?」

 

「あんたにお母さんのことは関係ないでしょ!」

 

「あるよ?」

 

「は?」

 

ますますわけわからない・・・。何でこいつなんかがお母さんと関係があるんだっての。

 

「その証拠として、当ててあげよっか?君のお母さんの名前」

 

「デタラメを言うのもいい加減にして!もうこれ以上・・・」

 

「零奈さんっしょ?君のお母さんの名前」

 

「!!!あんた・・・」

 

単なるデタラメかと思っていたら・・・本当に私たちのお母さんの名前を当ててきた。なんなのこの女?

 

「あんた・・・いったい何者なの・・・?」

 

「もー、前から言ってるじゃーん♪アタシはただのしがない漫画家。それ以上でもそれ以下でもありませーん♪」

 

そういうことを言ってるんじゃない。何でこいつがお母さんの名前を知ってるんだって話だ。

 

「お?その顔は知りたいって顔だね?わかりやすくて結構結構♪」

 

「・・・私に、何を求める気?」

 

一応念のためにこの女が私に何をさせたいのかを訪ねる。

 

「アタシは君と遊びたいだけ♪アタシに付き合ってくれたら、教えてあげるよん♪」

 

やっぱりそうくるか・・・。そりゃそうだよね。何故か私と遊びたいってだけでわざわざこんなところに来るような変人だからね。本当に付き合ってやる義理はないけども・・・このままこの女とお母さんの関係が曖昧になるのは、かなりムカつく。・・・仕方ない。付き合ってやるか

 

「・・・ほら、どこに行くのさ。さっさと案内しなよ」

 

「お?もしかして・・・アタシと遊んでくれるの?」

 

「そうじゃないとお母さんのことは話さないでしょ?・・・今回だけよ」

 

私がそう言うと女はにぱっと笑いながら抱きついてきた。

 

「キャー!ありがとー!ようやくアタシの思いが通じたんだね!」

 

「あああああ!!鬱陶しい!!離れなさいよ!!」

 

本当になんなのこの女。急に抱きついてきて・・・。どうしてそんなに私なんかに構うんだろうか。

 

「さあさあ、時間は有限!いつまでも待っててはくれないからね!さっさと行きましょー!」

 

「だーかーらー・・・首根っこを引っ張るなって!逃げたりしないってーの!」

 

こうして私は不本意ながらもこの女のお遊びというものに付き合うことになった。はぁ・・・こいつがお母さんのこと話さなければ、付き合わなかったのに・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの女に連れてこられて場所はゲームセンターだった。私は特にやりたいものなんて何1つなかったから遊ぶゲームは女のお任せにした。そうしたらこの女・・・2人でできるゲームばかりをチョイスしてきた。お陰で私までゲームをやるはめになる。プレイする気なんて微塵もなかったのに。・・・けど・・・こうやって姉妹以外で遊ぶのは、久しぶりかもしれない。姫路さんの一件以来、遊びたいって気分はなかったから・・・こういうのも・・・悪くないかも・・・。

 

「ふふ、やっと笑った♪」

 

「!!わ・・・笑ってねぇし!!」

 

「まー、そういうことにしてあげよっかな♪」

 

危ない危ない・・・気が緩みそうになってた・・・。気を許すな・・・こいつがどういった奴かなんて、未だにわからないのだから。

 

「さ、次いこうか!次は何のゲームで遊ぼうかなー?」

 

「もう勘弁してよ・・・」

 

まだ続くの・・・?もういい加減終わってお母さんのこと話しなさいってば・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ゲーセンで思いっきり遊び終えた頃にはもうすっかる夕方になってしまっている。私と女はカフェで飲み物を飲んでリラックスする。

 

「はぁー、楽しかったー!ね、君もそう思うっしょ?」

 

「・・・ぶっちゃけ・・・疲れた・・・」

 

あんなにはしゃいだのはもうずいぶんと久しぶりな気がする。いや、私以上にはしゃいだのはこの女だけど・・・。でも悪い気はしないな。さてと、それよりも・・・

 

「さあ、約束は約束よ。いい加減、お母さんのことを話しなさいよ」

 

「んー・・・?」

 

私の言ったことにこの女は首を傾げてる。まさかとは思うけど、約束をばっくれる気?

 

「とぼけんな。そういう約束だったでしょうが。忘れたとは言わせないわよ」

 

「いや、覚えてはいるよ?そういう約束だしね」

 

「だったらさっさと・・・」

 

「教えるのは教えるよ?でも君はもう薄々は気づいてるんじゃないの?」

 

は?気づく?何を?わけがわからない。女はコーヒーを一口飲んで一息つく。

 

「もう察してるだろうけど、アタシは学生の頃、零奈先生にお世話になってたのよ。つまりは、先生の、元教え子だねー」

 

「・・・!!?お母さんの・・・教え子・・・?」

 

この女がお母さんの生徒・・・?こんなのが・・・?

 

「信じられねーって顔だね。いいよ、その証拠を見せたげる」

 

女はスマホを操作して、ある写真を私に見せてきた。

 

「ほーれ、くっきり写ってるっしょ?」

 

「・・・お母さん・・・」

 

写真に写ってたのは金髪の不良女とだいぶ雰囲気が違う目の前にいる女・・・そして、もう見ることは叶わないと思っていたお母さんの姿だった。

 

「マジで綺麗だったよ・・・あの人は。女であるアタシや姉さんでさえ、見惚れるくらいの超絶美人だった」

 

「・・・・・・」

 

女がうっとりするのもよくわかる。この写真にお母さんは、私たちが今までに見たことがないくらいに美しかった。もし別の子として生まれたなら、思いきって好きですって伝えたくなるくらいに。

 

「零奈先生には、何度げんこつをもらったかは覚えちゃいないけどさ・・・あの人からいろんな事学んできた日々は、アタシの宝物だよ。あの人さえいなかったら、今のアタシはなかったと思うね」

 

この女・・・よほどお母さんを尊敬してたんだなってしみじみに思えてくる。・・・もし、お母さんが生きてたら、今の私を見たら・・・なんて思うのかな・・・。

 

「・・・それだけに」

 

「・・・?」

 

「それだけにアタシは・・・非常に悲しくて仕方ないよ。零奈先生が亡くなったのと・・・先生の娘である君が、そんな意味ねーことやっててさ」

 

「・・・あっ?」

 

今この女は何て言った?意味がない・・・?それはどういう意味なんだ?

 

「ぶっちゃけて言うとさー・・・一目見たときから君が先生の娘だってのは気づいてたよ。何せむちゃくちゃそっくりだもん。思わず間違えちまうくらいにさ。・・・だからわかんねーんだよね。君が何を思ってそういうことすんのかを。本当に痛いんだよね・・・人を傷つけるのはさ。アタシも同じことやってたからわかるんだよね。でもそれが人助けのためにっていうなら尚更、ね」

 

「・・・っ!」

 

「君が噂の凶鳥と違うんなら、今までのやつは人助けのためだったんしょ?現に今も弱いものいじめはやってねーみたいだし。人助けのためだけなら、別の方法があるのにさ」

 

・・・人助け・・・か。ある意味当たってるけど、別にそんな大層なものじゃない。私はもう二度と姫路さんのような人を産み出さないためやってきただけだから。・・・けど、今となってはどうなのかは、自分でもよくわからない。

 

「・・・人助け・・・ね。最初はまぁ、ある意味人助けのためにって思ってたけど・・・今はもう、よくわかんない」

 

「というと?」

 

「うちの周りの連中は不良とは無縁の環境で育ったからよく疎まれるんだ。それだけならまだいい。慣れてる。けど最近じゃ疎まれる目で見られるたび・・・あの子が思い浮かべてくるんだ」

 

「あの子?」

 

あの子っていうのは言うまでもなく姫路さんだ。

 

「私はただ、あの子と似たような子の救いになってあげたかっただけ。それだけなのに・・・あの子を思い浮かべるたびに・・・私が、あいつらと同類のように見られるたびに・・・罪悪感がこみ上げられて・・・気が付けば、心の安寧のために動くようになってしまったんだ」

 

姫路さんを浮かべるたびに、ほんの少しの安らぎが欲しくて・・・ただ静かな空間が欲しくて・・・周りから、姉妹から逃げて・・・騒ぐ奴らを打ちのめしたりして・・・気が付けば、今の自分がある。・・・ははは、この女の言うとおり、私のやってることなんて、意味ねーのかも・・・。もう、頭ん中ぐちゃぐちゃでわけわかんねぇ・・・。

 

「・・・よくわかんねーけど、君はその・・・あの子?のことを思ってるんだね」

 

「・・・うん」

 

「なら難しく考える必要はないよ。自分のやりたいことを見つけるべきだよ」

 

やりたいこと・・・一花と似たようなことを・・・

 

「ゲーム、バイト、編み物・・・何でもいいよ。自分が本気で熱が入れられそうな・・・本気で取り組んでみたいものを見つけたら、きっと君の価値観は変わるよ」

 

・・・言ってる意味がよく理解できない。姫路さんとは全く関係ないようにも見えるし。

 

「それ今関係なくね?」

 

「今はまだその認識でいいよ。とにかくまずは、自分のやりたいことを見つけな。話はそれからだよ」

 

とことんまで話を逸らすのが好きらしい。重要な部分は何1つとして話やしない。本当にムカつく女だよ、こいつは。

 

「ま、今日は帰ってじっくりと考えてみな。あ、せっかくだからメアド交換しよーよ」

 

「あ!おい勝手に・・・!」

 

女は私のスマホを勝手に奪い取り、私のメアドと自分のメアドを交換していく。この女無茶苦茶だ・・・!

 

「やりたいこと、行き詰まったりしたら話聞いたげるよ。またどっか遊びに行こーね」

 

そう言って女は手を振りながら会計の方へ向かっていった。あいつ・・・人のスマホにこんなメアドを勝手に入れやがって・・・。でも・・・不思議とこのメアドを消す気分にはなれなかった。・・・本気に取り組みたいこと、か・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の学校の昼休み、私は教室でただ1人でパンを食べている。いつもならこんなとこ、居心地が悪いから屋上で食べるんだけど・・・今日はここで食べたい気分なんだ。周りの連中の視線が針みたいに突き刺さる。・・・姫路さん・・・今頃、何してんだろう・・・。・・・自分の本気でやりたいこと・・・それが姫路さんとどう関係してんのだろう。

 

「あ、珍しいね。教室でご飯食べてるなんて」

 

「四葉・・・」

 

1人で考え事してたら、ちょうど四葉が教室に入ってきた。

 

「ちょっといい?聞きたいことがあるんだけど・・・」

 

「・・・聞きたいことって何?」

 

四葉が私に相談っていうのは珍しいから話くらいは聞いてみることにした。

 

「・・・六海はいつも1人でいることが多いよね」

 

「は?それがどうかしたの?」

 

「別に・・・ただ、羨ましいなって思っただけ」

 

四葉の真意がいまいちよくわからない。

 

「言ってる意味がわかんないんだけど」

 

「家族旅行の帰りの日に、お母さんが言ってたこと、覚えてる?」

 

「ああ、6人でいることが大事っていうあれでしょ?」

 

まぁ、と言っても一緒にいるだけで変な噂とか流れたら嫌だし、極力避けてるけど。

 

「私、あれの何が大事なのかがよくわかんないだ。私たちバラバラになりかけているこの状況でさ」

 

「・・・それで?」

 

「・・・6人で一緒にいることの意味って、あると思う?」

 

どうもそれが四葉の聞きたい事らしい。

 

「知らないってそんな事。ていうか、そんなつまんないこと考えるより、自分の心配でもしたら?見てみなよ、周りを。あんたの立場も危うくなるでしょ」

 

四葉が私と一緒にいることで周りはひそひそと陰口を叩いてる。・・・全部聞こえてるってーの。

 

「・・・うん。そうみたいだね。知らないなら別にいいや。じゃあね」

 

四葉は素っ気なくそういい放ち、教室から出ていった。・・・なんか最近四葉の機嫌がやたらと悪いな。最近じゃ部屋にこもって勉強ばっかやっててろくに話をしようともしない。

 

「・・・ちっ・・・」

 

変に不機嫌な四葉と、周りの陰口にせいでまともに休息もとれやしない。・・・外に出よ。少しは外の空気を吸おうと外に出ようとすると・・・。

 

「いい加減にしてよ!六海が何をしたっていうのよ!」

 

なんかの言い争いが聞こえてきた。またか・・・。大方二乃が新聞部に言いがかりをつけてるんだろう。

 

・・・やめてよ。私を庇おうとしないで。

 

「だいたい何なのこの記事!ほとんどデタラメじゃない!そんなに六海を陥れたいの⁉️」

 

やめろって・・・!

 

「六海はそんなんじゃない!!あの子は・・・あの子は・・・」

 

「うるっさい黙れぇ!!!!」

 

『!!』ビクッ

 

もう我慢の限界だった。私は今までの不満をここにいる全員にぶつける。

 

「あんたらさぁ・・・こんなデタラメを載せて恥ずかしくないわけ?私をネタにするのは別にいい。けど、こんな嘘を載せたやり方であんたらは満足か?」

 

「そ、それは・・・」

 

「あんたらもあんたらだ!噂とかなんとかを全部鵜呑みにしやがって・・・。陰口も全部聞こえてるんだよ!言いたい事があったら今!ここで!ハッキリ言ったらどうなのよ!えぇ⁉️」

 

『うぅ・・・』

 

「そして何より気に入らないには、二乃!その余計な気遣いなんだよ!そのせいで、私がどれだけ惨めになってるかわかってんの⁉️」

 

「わ・・・私はただ・・・六海のことを・・・」

 

「あーもう何もかもムカつく!ぶつけてやろうか?この溜め込んだ感情を!」

 

怒りが有頂天にまで上り詰めた私はハッキリと言った。

 

「もう嫌なんだよ!5人の姉も、私をバカにする連中も!みんな・・・私の前から消えろ!!!」

 

「・・・っ!!私は・・・そんな・・・」

 

二乃は私のぶつけた不満に顔をしてどこかへ行ってしまった。周りの連中も急にシンと静まり返ってしまう。私はイライラを隠せずにそのまま屋上へ向かった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

全部の授業を終えて私は今日は屋上までやってきて、顔をうなだれる。・・・やってしまった・・・。二乃を傷つけるつもりはなかったのに・・・。不満を抑え込むことができなかった。わかってる・・・二乃は何も悪くない。悪いのは全部・・・私だ。ダメだな・・・私・・・。お詫びを言うどころか、逆に相手を傷つけてしまう・・・。こんな私は・・・姉妹と関わる資格なんて・・・

 

もにゅっ

 

「ん・・・」

 

「今日はいつにもましてナーバスだねー。お姉ちゃん、心配になってくるよー」

 

深く落ち込んでいると、急に一花が私の頭に自分の胸を当ててきた。いや、抱いてきた?どっちでもいいけど・・・。隣には三玖もいる。

 

「別に・・・心配される覚えは・・・」

 

「二乃、悲しそうだったけど・・・六海、何かあった?」

 

ああ・・・やっぱ二乃、私の言ったこと気にしてたか・・・。本当、何やってんだろ・・・姉を泣かせておいてさ・・・。

 

「知らないし」

 

こんな時にまで意地を張る自分が恨めしくなってくる。本当は何があったのか知ってるはずなのに・・・。なぜか意地を張って答える気にはなれなかった・・・。

 

「六海、何か悩みがあるなら言って。私たち、力になるから・・・」

 

「何でもないって。それより、いい加減私から離れてくれない?いい加減煩わしいって」

 

「六海・・・」

 

一花、三玖・・・本当に離れて・・・。私・・・また嫌なことを言ってしまうから・・・。

 

「どいつもこいつも、私を見下してさ・・・。みんな、私のことをバカにしてるんでしょ」

 

ほら・・・またこうやって嫌なことを言う・・・。私はあの時から何にも変わってない・・・。黒いもやもやみたいなのが私の中で渦巻いて・・・相手を傷つけてしまう・・・。そして・・・今もずっと・・・もやもやが・・・。心中で後悔していると、一花は急に私の顔を胸に埋めかせた。

 

「むぎゅっ⁉」

 

「ほーら、そんなに強がらないで・・・もっとリラックスして」

 

「もごご・・・!!」

 

「一花、六海が苦しそうだよ」

 

み、三玖・・・!見てないで助けなさいってば!!

 

「ぷは・・・」

 

「六海はどうにも1人で抱え込むことが多いよね。そりゃ不満をぶつけたくなっちゃう気持ちもわかるけどさ・・・そういう時こそ、我慢はしちゃダメだよ」

 

「一花・・・」

 

「六海はいくつになっても、1番下のかわいい妹なんだしさ・・・もっとお姉ちゃんに、頼ってくれないかな。妹の悩みは、お姉ちゃんの悩みとも言うしさ」

 

・・・あのわがまま娘の一花が・・・姉らしいことを言ってくるなんて・・・夢にまで思わなかった・・・。一花の言葉に、私の中のもやもやが、薄れていっている気がする。

 

「・・・一花・・・三玖・・・私・・・私、は・・・」

 

パリイイィィィン!!

 

『きゃああああああ!!』

 

「「「!!?」」」

 

私が言葉を紡がせようとした時、ガラスが割れた音と、黒薔薇生徒の悲鳴が聞こえてきた。

 

「な、何・・・?」

 

気になって私は下の方を覗いてみた。そこにいたのは・・・

 

「おらあ!!凶鳥!!出てこいやゴラァ!!」

 

「ここにいることくらいわかってんだよ!!」

 

「騒いでんじゃねぇ!!ぶっ殺すぞ!!」

 

「なんだ君たちは⁉やめなさい!!」

 

「うるせぇ!!!」

 

ドゴッ!!

 

「ごはぁ!!」

 

数多くの不良たちがこの黒薔薇の校門の前まで好き放題暴れてる。な、なにこれ・・・いったい、どういうこと・・・?

 

「嘘⁉これって・・・カチコミ⁉」

 

「やだ・・・怖い・・・怖いよぅ・・・」

 

「!あいつら・・・」

 

よく目をこしらえて見てみると、あいつらは前に私が痛めつけてきた奴らばっかりだった。あいつら、全員目が血走って、私を・・・凶鳥を探してる・・・!・・・じゃあ・・・この事態を招いたのは・・・私の・・・せい・・・?

 

「ち・・・違う・・・」

 

「六海⁉どうしたの⁉」

 

「違う・・・私・・・私は・・・こんなつもりじゃ・・・」

 

私はただ・・・痛い目に合わせてやれば、更正できるって思ってたのに・・・こんなことになるなんて・・・。私は・・・なんて取り返しのつかないことを・・・!

 

「六海!!しっかりして!!」

 

「・・・はっ!い、一花・・・」

 

「大丈夫。ここにいれば、大丈夫だから・・・!」

 

一花は罪悪感で押しつぶされそうになる私と、怖がってる三玖を抱きかかえる。あいつらは・・・まだ暴れながら私を探してる。・・・今この場にはまだ帰ってない生徒もわんさかいる・・・。この事態を招いたのが私なら・・・全部の責任は、私にある・・・だったら!

 

「!六海、ダメ!行かないで!」

 

私のやろうとした事を察したのか一花は私の手を握ってそれを止める。

 

「一花・・・」

 

なんだろう・・・さっきまであんなに姉妹のことを避けてたのに・・・今は、少なくとも、ちゃんと向き合えてるような気がする。

 

「私の事をしっかりみててくれて・・・ありがとう。でも・・・自分のやったことは自分で、どうにかしないと。私が行かなくちゃいけないの。だから・・・こんな妹で、ごめん」

 

「六海・・・」

 

私は一花の手を優しく離して、まだ怖がってる三玖に視線を向ける。

 

「三玖、怖い思いをさせて・・・ごめん。大丈夫・・・これが終われば全部元通りになるから・・・。これ以上、怖がらせたりしないから・・・。だから・・・戻ってきたら笑顔を見せて」

 

「・・・うん・・・うん・・・」

 

一花と三玖に言いたいことをいい終えたら、私はすぐにあいつらのところへ向かうために階段を降りていく。

 

私は・・・どうしようもないほどのバカで、人に迷惑をかけてばかりだ。だけど今だけは・・・今だけはどうか・・・皆を・・・守らせてほしい!

 

「六海⁉️」

 

私が下へ向かっていくと、四葉と出くわした。そうだ・・・四葉にも、言いたいことを言っておかないと・・・。

 

「四葉・・・お母さんが言っていたことの意味は、正直、私にもわからないし、意味なんてないのかもしれない」

 

「こんな時に何言ってるの⁉️早く・・・」

 

「でも・・・それでいいのかもしれない。私、こんな状況の中で、やっと気付いたんだ」

 

「気付いたって何が・・・」

 

「私は・・・どんなに姉妹から逃げようとも、突き放そうとも・・・姉妹が、大好きなんだって。だから・・・そんな姉妹のために、私は行くね」

 

「!む、六海ー!」

 

私は四葉の言いたいことを言ってから、再び走り始める。そうだ・・・これは責任のためだけじゃない・・・姉妹のために・・・今度こそ姉妹を守るために・・・!

 

「む、六海・・・」

 

「!二乃・・・」

 

今度は二乃と出くわした。二乃とも謝りたいけど・・・今は時間が惜しい。せめて今は最低限のことだけでも・・・。

 

「昼休みの時は・・・ごめん。ちょっと、カッてなるすぎた・・・。最低だよね、私・・・」

 

「う・・・ううん・・・そんなこと・・・気にしないから・・・早くどこかに・・・」

 

「悪いけど、それはできないよ。これは私がやらかしたことなんだ。私が止めないと・・・意味がないんだ」

 

「そんなことどうだっていい!私は・・・六海が・・・姉妹に何かあったら・・・私・・・」

 

「二乃・・・全部終わったら、渡したいものがあるんだ。だから・・・ここで待ってて。すぐに・・・終わらせて、すぐ戻るから!」

 

「待って!行かないで!六海!」

 

私は今の言いたいことをいい終えたら、すぐに走り出す。お願い、わかって、二乃。みんなが無事でいるためには、私がいかなくちゃいけないんだ。あいつらはまだ1階にいる・・・もうすぐで到着できる・・・。

 

「いたぞー!凶鳥だー!!」

 

!もう見つかったか・・・でもちょうどいい・・・早いとこ首謀者のとこに・・・

 

「こっちだこっち!」

 

「やられた借りを倍にして返してやる!!」

 

・・・あ?あいつら・・・どっちに行ってるんだ?私がいる場所とは全く真逆じゃないか。

 

「お前凶鳥だろ?こっちに来やがれ!!」

 

「なっ・・・なんですか⁉放してください!!」

 

「うるせぇ!!いいからこっちに来やがれ!!」

 

「ちょ・・・えっ・・・えっ・・・?」

 

あいつらが連れてきた相手は・・・は⁉五月⁉まさか・・・あいつら、私と五月を間違えたのか⁉なんてことなの・・・こんな時に同じ顔が裏目に出るなんて・・・!五月はあいつらの首謀者の元まで連れてかれた。あいつが・・・こんなことを・・・。

 

「よぉ・・・また会えたなぁ、凶鳥。俺はお前に打ちのめされてから、今日という復讐の日のために地道ながらに仲間を集めてきたぜぇ。お前を・・・ボッコボコにするためになぁ!」

 

私がやった暴力がこんな悲劇が起こるなんて・・・!い、いけないいけない!早く止めないと!

 

「・・・私は凶鳥ではありません」

 

『は?』

 

「私はあなたたちなんて知りません。凶鳥もこの学校にはいません。全て、あなたたちの妄想です!」

 

あのバカ・・・!!あいつらを刺激するような真似を・・・!

 

「どうぞ、お帰り下さい」

 

「てめぇ!ふざけてんのか!!」

 

「まぁ待てよ。面白いことを言ってくれるじゃねぇか・・・なぁ、おい」

 

まずい・・完全に刺激しちゃったから・・・今にも殴り掛かりそうだ・・・。そんなことさせない!

 

「ちょっとそれ貸して!」

 

「あ!ちょっと・・・」

 

私は近くにいた生徒の持ってたボールを取り上げる。

 

「だったら・・・思い出させてやるよ・・・これでなぁ!!」

 

「・・・っ!!」

 

「ダメーーー!!!」

 

ドカッ!

 

「うおっ⁉」

 

私は五月からあいつらの視線をこっちに向けさせるためボールをあいつらに当ててやった。

 

「そいつは凶鳥じゃない!!私が本物だ!!」

 

「む・・・六海・・・ダメ、です・・・」

 

「凶鳥が・・・2人⁉」

 

「どういうことだこれ⁉」

 

「今そっちに行ってやるよ!!」

 

私はすぐにあいつらが集まってる広場に来て、首謀者の前に立つ。

 

「お前・・・マジで凶鳥なんか・・・」

 

私は首謀者に向かって首を縦に頷いた後、頭を深く下げて、こんなことをやめるように促す。

 

「お願い!!この学校の生徒や先生には手を出さないで!!私はどうなっても構わないから!!」

 

私の懇願に首謀者はわけわかんないといった顔になっている。

 

「はぁ?何言ってんだ?自分の立場をわかってんのか?いいか?ここにいる連中はお前のせいで気が立ってる。それに加えて、今のお前のボールでさらにイラついてんだよ。そんな中で・・・お前の言うのことを聞くと思うか?」

 

わかってた。ただでは絶対に言うことを聞かないことを。だから私は、今あいつらが求めていそうなことを、今ここで行う。

 

「六海⁉」

 

「お願い・・・します・・・。私ならどうなっても構いませんから・・・。どうか・・・ここにいるみんなだけは・・・」

 

私は、皆を守ろうと必死になっているのだろう。自分の中の小さなプライドをかなぐり捨てて、必死にここを守ろうと、あいつらに土下座をしている。

 

「おいおい・・・マジかよ・・・」

 

「傑作だ!あの凶鳥が俺らに土下座かよ!だっせー!」

 

あいつらは私の行為が面白いのかゲラゲラと笑ってる。これでみんなを・・・姉妹を守れるなら、小さなプライドなんて捨ててやる!

 

「こいつぁ・・・面白いもんが見れたなぁ・・・。それに免じて・・・」

 

「いや・・・やめてください!!」

 

「望み通り、お前を・・・いたぶってやるよぉ!!」

 

恐らくだけど、首謀者が何かを振るおうとしてるんだろう。五月の制止も耳を傾けない。これでいいんだ・・・これで・・・。

 

「五月・・・いっつもごちゃごちゃと言ってて・・・すっごいムカつく。本当にうるさかった・・・けれども・・・思いやりのある五月が・・・大好きだよ!!」

 

私は土下座をしてる最中で五月に対する思いをぶつける。これから来るであろう痛みを覚悟しながら・・・

 

げんこつっ!!

 

・・・・・・?痛みが・・・来ない?恐る恐る、前の方を向いてみると・・・

 

カランっ・・・

 

「お・・・おごご・・・」

 

首謀者はバットを落としてしまっている。それだけじゃない。痛みで頭を抑えてる・・・。そして・・・目の前にいるのは・・・

 

「まったくー・・・君は無茶をするね」

 

何度も何度も私を連れまわす・・・MIHOがそこにいた。あの人は今、げんこつの構えをしてる。

 

「な、なんで・・・ここに・・・」

 

「もうー、もっと自分を大事にしなよ。かわいい顔に傷がついたら大変っしょ?」

 

私の問いに全く答えになってない返答が返ってきた。

 

『なんだてめぇ!!邪魔すんじゃねぇ!!』

 

周り連中が一斉にMIHOに向かっていった。

 

「あ、危ない!!」

 

私が声を上げたら、MIHOはくすりと笑って・・・

 

げんこつっ!!

 

『う・・・ご・・・お・・・』

 

向かってきた全員にげんこつ一発で沈めた。すげぇ・・・。

 

「君たちの怒る気持ちはアタシ、すごーくわかるよ。けどさ・・・ここはアタシに免じて、許してくんない?」

 

『あ・・・あぁ・・・?いちち・・・』

 

「この子はさぁ、自分が認めてもらえるような何かを探すのに必死なんだよ。例えどんなことをしてでもさ。それは、君たちも同じじゃないの?」

 

「何言ってや・・・」

 

「でもさ、アタシはこの子や・・・君たちにそんな事をしてほしくないな。もちろん、傷つく姿を見るのもね」

 

MIHOは今までに見たことがないほどの慈愛の声で、不良たちに呼び掛けてきた。その姿はまるで・・・

 

「だってそうでしょう?人っていうのは、何者にも勝る宝物であり・・・その中でも君たち若者は・・・価値が高い美しい原石なのだから」

 

大袈裟に言えば神様にも等しく、私からすれば、お母さんと錯覚してしまいそうな美しさだった。

 

『・・・・・・』

 

不良たちはMIHOを見て顔を赤く染めあげ、お互いを見回している。

 

「・・・あ・・・あーあ、シラケちまった。なんつーか、やる気でなくなったわ・・・。行こうぜ、お前ら」

 

『お、おう・・・』

 

う、嘘・・・あんなに殺気だってたあいつらが・・・MIHOの説得に応じた?いや、美しさに魅了・・・されたのか?

 

「おい凶鳥」

 

「!」

 

「お前・・・運が良かったな」

 

首謀者はそれだけ言うと、仲間を連れて学校を去っていった。

 

「いやー・・・先生の真似事をしてみたんだけど・・・意外となんとかなったね」

 

MIHOはもうすっかり元通りになって、私に視線を向けた。

 

「大丈夫だった?」

 

「何で・・・」

 

「やー、今日も君に会いに行こうと思ったらさっきのあいつらがなんかヤバい感じでさー・・・なにやらただ事じゃない予感がして来てみたら案の定だったってわけ。無事で何よりだよー」

 

違う・・・私が聞きたいのはそんな事じゃない。何で・・・

 

「何で・・・私を助けたの?」

 

「・・・アタシはさ、あの先生には何度もお世話になったし、借りもいくつもあった。そんな先生の娘である君になんかあったら、アタシは先生に顔向けができないよ」

 

MIHOは私に視線を向けながら、にっこりと微笑んだ。

 

「それに・・・友達を助けんのに、理由なんかいらない・・・でしょ?」

 

!!友達・・・この人は・・・私のことを・・・そんな風に思っていたんだ・・・。何度拒絶して、何度も突き放したのに・・・。

 

「・・・もし・・・その後で・・・私があんたを裏切ったら・・・どうする・・・」

 

私は、自分の経験してきた事が未だに忘れられない。だから聞いたんだと思う。そしたらMIHOはさも平然とした様子で・・・

 

「いいんじゃない?それも愛敬ってことで!」

 

「愛敬って・・・」

 

「それに・・・例えそうなっても、大好きであったって事には変わらねーし、その思いが残ってるなら、またいつも通りに戻るよ」

 

「!」

 

「まあつっても、これも先生の真似事で何の根拠もないんだけどさ」

 

そうだ・・・私は・・・今でも、姫路さんが大好きだ。その思いは今でも変わってない。それなのに私は・・・簡単に仲直りしたいって思いも捨てて・・・。今の自分が恥ずかしくて・・・情けなくて・・・私はあの時以上の後悔でいっぱいになった。

 

「・・・ごめん・・・」

 

「んー・・・謝る相手がちょっち違うんじゃない?」

 

MIHOが指をさした方向を視線を向けるとそこには、いつの間にか集まっていた姉妹たちがいた。

 

「さーって、みなさーん、MIHO先生のサインが欲しい人はアタシのとこまで集合~♪」

 

『きゃああああ♡』

 

MIHOは私から離れて別の場所に行っちゃった。周りの生徒はMIHOのサインをもらいに向かっていった。あんな危険な目にあっておきながら・・・現金な奴ら。・・・私は・・・自分のやるべきことをやらないと。私は姉妹の方まで向かっていく。

 

「「「「「六海・・・」」」」」

 

「みんな・・・ごめん!!」

 

私は今までの迷惑をかけたことにたいして・・・そして今回のことの謝罪のために、頭を深く下げる。

 

「みんな私に気を使ってたのに・・・それを無下にして・・・そのうえ、こんな事態まで招いて・・・みんなに迷惑をかけてしまった・・・。本当に・・・ごめん・・・」

 

こんなことしたって許されるわけじゃないのはわかってる。だけどそれでも・・・迷惑をかけたことへの謝罪はしないと・・・。

 

「・・・六海、顔を上げてください」

 

五月の声に私はみんなに視線を向ける。

 

「大丈夫だよ、私たち、怒ってはいないよ」

 

「お姉ちゃんは六海が無事だっただけで安心したよー」

 

「うん。六海が、私たちを守ろうとしてくれただけでも嬉しかったよ」

 

「というより・・・私、ちゃんと六海気持ち、わかってあげれなかった。こっちこそ・・・ごめん・・・」

 

み、みんな・・・怒ってない・・・?なんで・・・?

 

「なんでって顔ですね。当たり前じゃないですか。だって私たち、家族でしょう?六海も大切に決まってるじゃないですか」

 

「み・・・みんな・・・」

 

迷惑をかけたにも関わらず、私のことを家族と考えてくれてる姉妹たちに私は・・・涙腺が壊れかけて、涙が溢れそうになる。

 

「そ、そうだ・・・二乃、渡したいものがあるって言ったよね。それに、皆にも・・・お詫びの印として・・・」

 

私は持ってきていたカバンから5人分のお詫びの品を渡す。昨日、ゲーセンで取ってきた奴だ。

 

「みんな欲しがってたぬいぐるみ・・・どうしても渡したくて・・・頑張って取ってきたんだ」

 

私が渡してきたぬいぐるみを見て、みんなは唖然としている。

 

「・・・ははは、まさかプレゼントをもらうなんて・・・驚いたな」

 

「うん。ありがとう」

 

今までまともに姉妹の顔色を窺ったことなんてなかったけど・・・喜んでもらえたなら・・・何より、かな。

 

(・・・渡すもの、被っちゃいましたね)

 

(また別の日にでも、渡しちゃおっか)

 

こうして、私にとっては、後悔でしかないこの事件は幕を閉じ、元の日常に戻っていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの事件の後、私はすぐに先生に呼ばれた。この度の事件が起こったのは、私が起こしたのだから、言い逃れはするつもりはない。反省もしている。ただ、姉妹たちが弁明をしてくれたときは、申し訳なくも思いつつも、嬉しかった。それもあってか、私はいつも通り学校生活を送ってもいいことになった。まぁ、次に問題を起こしたら退学っていう厳しい条件付きもあったけど。

 

その後の環境は変わっていった。学校の方では先生方はいつも以上に警戒をしていて、鋭い目つきで見られることが多くなった。けど、生徒の方はというと、私の行動を見ていたからか、1、2人程度だが、気兼ねなく話しかけてくるようになった。ほんの少しずつだけど・・・周りの生徒の心境は間違いなく変わっていっている。そう感じるようになってきた。

 

そして何より変わったのが・・・私自身だ。あれから私は学校では姉妹と一緒に過ごすことが多くなって、それから・・・不良たちのケンカはもう一切やめた。もう二度と、あんなことが起きないために。だけども・・・姫路さんのことは忘れられなくて、未だに自分がやりたいことについてずっと考え続けている。

 

「・・・本気でやりたいこと、か」

 

そんな6月の熱いある日のこと、私はアイスを食べながら自分が本気でやりたいことについてずっと考えていた。スポーツをやっても、勉強に勤しんでも、ボランティア活動をやっても、何1つとしてやりたいことが見つからなかった。いったい私は、何を目指したいんだろう。そう考え続けているとふと、本屋を発見する。そこの店のすぐにあった漫画雑誌が視界に映りこんだ。

 

「そういえば今日発売だっけ。読んでおくか」

 

私がよく読む漫画雑誌には魔法少女マジカルナナカが載ってある。だからこの漫画雑誌は毎回チェックしている。そういえば・・・マジカルナナカってMIHOさんが描いたんだっけ?私は気になってすぐマジカルナナカが載ってるページを開く。えっと原作者は・・・MIHO・・・。

 

「・・・本当にあの人が描いてたんだ・・・」

 

なんていうか、あんなナリでこんなにかわいい作品を描けるなんて。人を見かけで判断するなとはよくいったものだ。まぁそれはいいとして・・・今回の話はナナカとウェンディの最終決戦か。この話は結構気になってたから楽しみだ。そうして私はマジカルナナカを読み進んでいった。

 

勝負の行方は一方的だった。ウェンディはナナカに向かって氷の魔法を何発も打ったにも関わらず、ナナカは魔法を1回も使わなかった。あまりに一方的すぎて、もう見てられなかった。それでも私は読み続けていった。

 

『なんで・・・なんで攻撃してこないの?』

 

『だって・・・友達、だから・・・』

 

・・・ナナカは、たった数日で仲良くなったウェンディをずっと友達でい続けたんだな。そんな友達が敵として現れても、傷ついたとしても、手を差し伸べるナナカの優しさ・・・すごいなぁ。ウェンディは戸惑いはしたけど、それでも攻撃し続けたけど、やっぱりナナカと過ごしてきた時間は大切だということがわかって、和解した、かぁ。今までになかった展開だ・・・。私、なんか感動したな。それに・・・何だろうな・・・。こう・・・ナナカを詠み続けてきたら、なんかこう・・・体の奥深くから、めらめらとこみあがってくるものがある。

 

「・・・こんな話、描いてみたいな・・・」

 

ふと私はそんなことを口にした。今までこんなこと口にしたことなかったのに・・・どうしてだろう・・・。そんな時に、MIHOさんのことが頭によぎる。

 

『本気で取り組んでみたいものを見つけたら、きっと君の価値観は変わるよ』

 

・・・はは、なんだ。私の取り組みたいこと、すぐ近くにあったじゃん。もちろん、きっかけは今回の話ではあるけど。でも、今の私じゃどうにもできない。だったら・・・やることは1つだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「絵を教えてほしい?」

 

あの後、私はすぐにMIHOさんを呼び出して、絵を教えてもらおうと思って、深く頭を下げる。

 

「いきなりで急だなぁ・・・。なんかきっかけでも?」

 

きっかけか・・・。そんなのは、私の中でもうとっくに出ている。

 

「私は・・・マジカルナナカが好きなんだ」

 

「へ?」

 

「それを描いてるのがあなただとわかって・・・あなたでもこんなにすごい作品を作り出せるんだって・・・今話のような心に響く作品をこの目で見れて・・・それで、感じてしまったんだ」

 

「?」

 

「私は・・・これを超えるような漫画をこの手で描いてみたい。私が描いた漫画を、皆に読んでもらいたい。それで世間に残して・・・あの子に、今の私を見てもらいたいんだ」

 

これが私の中で芽生えた思い・・・そして、私が姫路さんにたいしてできる、唯一の謝罪方法だ。MIHOさんは私の思いを聞いて、にかっと笑った。

 

「・・・アタシの教えは厳しいよ?ついてこられる?」

 

「!う、うん!」

 

MIHOさんの了承をもらって、私は笑顔になる。よかった、これでダメだったらどうしようかと思ったよ。

 

「まずは君の実力を見せてもらおうか」

 

「うん!」

 

私はMIHOさんに渡された紙を使ってとりあえず猫を描いてみることにした。うまく描けるかな・・・。

 

絵を描き始めて数分、完成はしたんだけど・・・

 

「・・・ド下手くそにもほどがあるっしょ。なんつーか、生き物じゃねぇって感じでさ・・・」

 

ぼろくそに言われてしまった。これでも頑張って描いたのに・・・少しは褒めたっていいでしょ⁉

 

「んー・・・このままじゃ話になんねーし・・・こりゃ基礎から叩き込む必要があるねぇ」

 

MIHOさんは私の絵をまじまじと見つめた後、ぎらりとこっちを見つめてきた。え・・・なんか怖いんだけど・・・。

 

「つーわけで・・・覚悟しなよぉ?」

 

「ひぎゃああああああ⁉️」

 

私はMIHOさんから絵の基礎を端から端までたっぷりと叩き込まれた。・・・別の人にお願いすればよかった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

MIHOさんに絵を毎日教えてもらうようになってから、私は毎日のように絵を描くようになった。それは学校であろうと家であろうと、どこへでも。毎日描いていくうちに、絵を描くことの楽しさに目覚めていった。そうしたら、日常に変化が起きた。

 

今まで私を避けていた子が私を見て、一緒に絵を描かないかと言ってきた。正直戸惑いはしたけど・・・断る理由もなかったし、了承した。今までになかった出来事ではあったけど・・・正直嬉しかった。なんだか、私を認めてくれたような気がしたから。それから毎日というほど、私の周りには、絵に関する仕事につきたいという志を持った同志たちと一緒にいることが多くなった。これは・・・私が長らく、望んでいたものなのかもしれない。願わくば、姫路さんとも一緒にこうしたかったと言う思いはあったけど。

 

そんな楽しい日々を過ごしていたある日、今日もMIHOさんに絵を教えてもらうのだが、今日はいつもと雰囲気が違った。いったいどうしたんだろう?

 

「あの・・・どうしたの?今日も絵を教えてくれるんでしょ?」

 

「・・・実は君に大切な話があるんだ」

 

大切な話?またこの人は突然に・・・。慣れたからいいけどさ。

 

「話って?」

 

「実はアタシ・・・東京に行くことになったんだ」

 

「・・・え?」

 

MIHOさんが・・・東京に・・・?

 

「今まで魔法少女マジカルナナカはアタシ1人で描いてきた。人気作品をアタシ1人でさ。でも、さすがに1人で描くのも、地元で描き続けるのも、さすがに限界でさ。それを気を利かせた担当編集者がね、東京での活動拠点と人手を多く用意してくれてるみたいなんだよね」

 

「そう、なんですか・・・」

 

「アタシは・・・マジカルナナカをまだまだ描き続けたい。原作者として、誇りを持ちたいのさ。だからアタシは東京に行く。そして・・・君に絵を教えられるのは、今日が最後ってわけ」

 

MIHOさんが東京に行く理由はわかった。それが大人の世界なら・・・きちんと応じるべきだ。だけど・・・納得できていない自分がいた。

 

「そーんな顔しないでよー。何も二度と会えなくなるわけじゃないでしょ?そりゃ、もう絵は教えられないけどさ・・・君にはもう、頼れる人たちを、たくさんできたじゃん」

 

「それは・・・そうなんですが・・・」

 

「・・・こっから先は、先生としてじゃなく、友人としての話ね」

 

友人としての・・・話・・・?

 

「君の絵はまだ下手くそだけど、確実に成長していってる。それこそ、アタシを超えるかもってくらいにさ。でもアタシにだって、プロとして、負けたくないって気持ちはあるよ。そこに、年もキャリアも関係ないのさ。負けてられねぇのさ、アタシだって。頑張って成長している君には、さ」

 

「・・・MIHO・・・先生・・・」

 

「負けたくないのさ・・・友人として・・・ライバルとして、ね」

 

MIHO先生の思いを聞いて、私は・・・これ以上何も言えなかった。強い覚悟を持った瞳で・・・そしてなにより、下手くそのままな私を、そんな風に思ってくれている先生に、今更咎めることはできない。

 

「よし!その分今日はとことんまで絵を教えるよ!準備はいいかい?」

 

「・・・はい!!」

 

私は・・・先生の意思をくみ取ることを決めた。そのために・・・私自身が・・・できることは・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

『未来の漫画家』

 

「向こうでも体調には気を付けるんだぞ」

 

「姉さんこそ、病気とかにはならないでよね。じゃあ、行ってくるね」

 

「おう、しっかりな」

 

MIHOが東京へ出発する日・・・MIHOは姉の下田に見送られながら、東京行きの電車に乗り込んだ。電車は東京へ向けて出発し、MIHOは指定座席に座り、外の景色を眺める。そこでふと、六海のことが頭によぎった。

 

「・・・そういや、最後まで名前、聞けなかったな」

 

若干ながら名前を聞けなかったことを悔いていると、MIHOの視線に目を疑う光景が目に浮かんだ。それは、車が電車を追いかけるように追いかけるように走って、車の窓から六海が大声でMIHOに語り掛けてる。

 

「MIHOさーーん!!聞こえますかーーー!!」

 

「あの子・・・」

 

「私、中野六海は・・・必ず絵を上達させてみせる!!絶対にうまくなって・・・いつか・・・私は、漫画家になって見せる!!そして必ず・・・必ず、あんたを超えた作品を作り上げてやる!!それまで・・・誇り高い漫画家であり続けて!!絶対・・・追い越してやるんだからーーー!!!」

 

六海の挑戦的な発言にMIHOは目を見開き、そして、笑みを浮かべて座席に座り直す。

 

「・・・期待しているよ・・・未来の漫画家、中野六海ちゃん」

 

MIHOは六海の今後に期待をしながら、東京へと向かっていった。これで終わりというわけではない。いや、新たな始まりともいうべきであろう。凶鳥・・・不幸の鳥は死んだ。これからは・・・未来へと羽ばたいていく、希望を抱いた神話鳥の始まりでもあった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

そして時がたって現在・・・

 

これが六海が辿ってきた凶鳥としての2年間だよ。それからっていうと、六海は自分を変えようと思って自慢だった長い髪を短く切って、カチューシャを外して、メガネをかけるようになったよ。その先も結構いろいろな事があったけど・・・それでも、今の六海がいるのは、MIHO先生のおかげなんだと思うの。

 

凶鳥時代は今でも後悔しかない2年だった。でも・・・何も嫌なことばかりでもなかった。MIHOさんに会えたこと・・・そして、六海はお姉ちゃんたちが大好きであることを、思い出させてくれた。全部忘れちゃ、いけないことだってたくさんあるってことを、この写真で思い出させてくれた。

 

・・・この写真は残しておこう。いつかちゃんと・・・凶鳥としての自分を克服するために・・・。過去の過ちを、戒めを忘れられないために。自分が・・・前に進むためにも。きっと・・・彼女が同じ立場だったらそうすると思う。きっとそうだよね・・・姫路さん。

 

「・・・うん!今日もバッチリ!」

 

六海は洗面所で自分の顔を洗って、学校へ行く準備を整えたよ。

 

「六海ー、早くしないと置いていくわよー」

 

「あ、はーい!」

 

六海はメガネをかけて鞄を持ってお姉ちゃんたちのもとへと向かっていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『クラス発表』

 

今日から六つ子と風太郎は3年生となった。それにともない、学校ではクラス発表が行われている。風太郎のクラスは3年1組となった。そして・・・六つ子はというと・・・

 

中野一花

中野五月

中野二乃

中野三玖

中野六海

中野四葉

 

3年1組

 

姉妹全員が風太郎と同じクラスになっていた。

 

(マジかよ・・・こんなことあるか?六つ子だぞ?ありえねぇだろ・・・)

 

心の中ではそんな事を思いつつも、内心ではどこか、嬉しく感じている風太郎。

 

「たく・・・同じなのは顔だけにしてくれって」

 

36「本気でやりたいこと」

 

つづく




予告

六等分の花嫁 第3章開幕!

六つ子たちと風太郎も、いよいよ3年生。

風太郎にライバル登場?そして家庭教師解雇の危機再び?

真鍋のバイト先で六つ子が巻き込まれる?

「「「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」」」

「帰っていいか?」

「なんでよ!!」

六つ子たちが風太郎とデート?

「今日1日、お姉さんと付き合おっか」

「フー君、アタシとデートしなさい!!」

「フータロー、どこか出かけようよ」

「よければ、ご一緒しませんか?」

「せっかくなので、また行きませんか?」

「風太郎君、ちょっと外に出てきてよー」

ついに掴む・・・六海の夢が

「六海が臨み続けたものなんだ・・・。このチャンス、絶対に逃さないよ!」

そして修学旅行で巻き起こる・・・第1次シスターズウォーが・・・

「私と四葉、そしてフータロー君で一班・・・いいよね?」

「フータローは誰と班を組むの?」

「当然六海と組むよね?」

「アタシとフー君が2人っきりの班を組むの」

「清水寺いきましょうよ」

「後悔のない修学旅行にしましょうね!」

変わりゆく風太郎の気持ち

「あいつらもいたら・・・もっと楽しいんだろうな・・・」

六等分の花嫁 第3章 制作開始

六つ子が一緒にいられるのもあと少し・・・

卒業は・・・もうすぐそこまで迫ってきている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章
アドバンテージ


いよいよ第3章に突入!ぶっちゃけこれずっと書きたかった!


『マルオと江端の会話』

 

「旦那様、無事お嬢様方が同じクラスに配属されたとのことです」

 

「それで?」

 

「"彼"も同じクラスです」

 

「ふっ・・・ご苦労」

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海SIDE

 

六海とお姉ちゃんたち、そして風太郎君が同じクラスになれるなんて嬉しいなぁ。嬉しいんだけど・・・

 

「わぁ~・・・」

 

「中野さんが六つ子ってのは知ってたけど・・・」

 

「実際揃ってる所を見るとすげぇな・・・」

 

「やっぱりそっくりなんだねー」

 

始業式早々、同じクラスになったみんなから好奇心な目で詰め寄られてるんだよね・・・。去年転校したての頃はそれほどなのに、どうして姉妹揃ってるとこうなんだろうね?正直、今すごく疲れてるよ・・・。

 

「苗字だとわかりずらいから名前で呼んでもいい?」

 

「うん。その方が私たちもありがたいかもー」

 

「あれやってよ。同じカード当てるってやつ!」

 

「ごめんねー、テレパシーとかないから」

 

「三玖ちゃんも似てるんでしょ?もっと顔見せてよー」

 

「む・・・」

 

一花ちゃんも二乃ちゃん、三玖ちゃんもみんなの好奇心の対応にすごい困ってる・・・。それを言ったら四葉ちゃんも五月ちゃん、六海も同じなんだけど・・・。

 

「ねーもっと教えてよー」

 

「わわっ!」

 

「皆さん、落ち着いてください!」

 

「お、押さないでー!」

 

こんなにいっぱい押し寄せてくるのは初めてで対応に困っちゃうよ。誰か助けてー・・・

 

「おい、お前らどいてくれ」

 

六海たちの思いが届いたのか、風太郎君がみんなの間に割って入ってきた。

 

「フータロー・・・」

 

「上杉さん、助けてくださーい・・・」

 

六海たちはこの状況を何とかしてほしくて、風太郎君にSOSを求めるよ。みんなの視線は風太郎君に向けられた。

 

「何?上杉君も中野さんたちが気になるの?」

 

「気にならねーよ。トイレに行くだけだ。お前ら邪魔だからどいてくれ」

 

風太郎君はあまりに素っ気ない態度で教室から出ていった。そんな態度をとってたら・・・

 

「え・・・」

 

「何あれ・・・」

 

「感じわる・・・」

 

ほらー・・・みんなに悪印象を与えちゃったじゃんかー・・・。こういうところはあんまり変わってないないなぁ・・・。六海たちと初めて会った時もそうだったし・・・

 

「ふ、フータロー・・・」

 

「ちょ、ちょっと・・・」

 

「・・・・・・」

 

二乃ちゃんと六海で声をかけても風太郎君は無視してきた・・・。いけず・・・。

 

「あはは・・・私たちは無視・・・」

 

「相変わらずですね・・・」

 

「何?中野さんたち、上杉君のこと知ってるの?」

 

みんなは六海たちと風太郎君の関係に少しだけ興味を持ってる。本当にほんのちょびっとだけど・・・。

 

「上杉君は2年生の時からあんな感じです。クラスではあえて人に関わらないようにしているというか・・・」

 

「あー・・・私去年同じクラスだったんだけど、林間学校の時も係1人でやろうとしてたね」

 

「はい。上杉君はそういう人です」

 

「根は悪い子じゃないってみんなに知ってもらえたらいいんだけど・・・」

 

「あれはあんな態度をとってるフータローが悪いわよ」

 

まぁ確かにあの態度でみんな誤解しちゃってるけど・・・本当はとっても優しい男の子だっていうのは六海たちはわかってるから、少しずつ六海たちが教えていけばいいんじゃないかなって思うんだけど・・・

 

「ねぇそんなことより中野さん、あれやったことあるでしょ。幽体離脱~みたいなやつ」

 

「シンクロしたりとか・・・」

 

「どこに住んでんの?」

 

みんな興味を六海たちに戻したせいで今はそれどころじゃない・・・。二乃ちゃんだってあまりの質問攻めに笑顔だけどこめかみがかなりひくひくし始めているし・・・。

 

「・・・あんたたちいい加減に・・・」

 

「二乃、落ち着いて・・・」

 

我慢の限界が来たのか二乃ちゃんがみんなに鶴の一声を上げようとして、三玖ちゃんが落ち着かせようとした時・・・

 

「みんな、やめようよ。ね?」

 

1人の男子生徒の声でみんなの勢いが止まった・・・。え・・・誰・・・?

 

「そんなに一気に捲し立てたら中野さんたちが困っちゃうだろ?」

 

「武田君!」

 

うわ!超かっこいい男の子だ!何というか・・・爽やかイケメンって感じ!名前は確か・・・武田祐輔君だったかな・・・?

 

「ね?」

 

武田君は六海たちに向かって爽やかな笑顔を浮かべてきた。

 

「あ、ありがとう・・・」

 

う~ん・・・確かに武田君は爽やかイケメンでみんなにも人望は高いね。・・・高いん・・・だけども・・・

 

「確かに、武田の言うとおりだな・・・」

 

「はしゃぎすぎちゃった・・・ごめんね?」

 

「だけど気持ちは僕にもわかるよ。六つ子だなんて滅多に会えないからね。みんな君たちのことがもっと知りたいんだよ。・・・ね?」

 

なんというか・・・その・・・申し訳ないんだけど・・・爽やかすぎて逆に接しにくいというかなんというか・・・胡散臭さがあると思う。それもあって、六海では武田君とは向き合えない気がする・・・。

 

「は・・・ははは・・・」

 

「・・・・・・」

 

「どーもー」

 

二乃ちゃんも三玖ちゃんも同じ気持ちなのか反応に困ってるよ。一花ちゃんはそうでもなさそうだけど。

 

「おーい、席につけー。オリエンテーションを始めるぞー」

 

「あ、先生だ」

 

あ、話し込んでるうちに先生が来た。みんなそれぞれの席に向かってっちゃった。

 

「じゃあ、また休み時間にでも・・・ね?」

 

武田君も自分の席に向かっていったね。・・・うーんそれにしても本当に爽やかすぎる・・・。悪いってわけでもないんだけど、肌に合わない感じがする。

 

「武田さん!なんて親切な人なんでしょう!」

 

あ、四葉ちゃんは何にも感じなかったみたい。

 

「そう?アタシは胡散臭いと思うわよ?」

 

ちょ・・・二乃ちゃん率直すぎ・・・。

 

「こーら」

 

「思っててもそう言わない」

 

六海も一花ちゃんと三玖ちゃんに同感だよ。いくら思ってても口には・・・おっと、そろそろ席につかなきゃ。六海たちで全員着席した、かな?

 

「えー・・・今日からお前たちは3年生になったわけだ。最高学年としての自覚を持ちながら、後輩たちに示しのつくような学園生活を送るよう心掛け・・・」

 

「はい!!」

 

え・・・ちょっと四葉ちゃん何やってんの?まだオリエンテーションの途中なのに、なんで手上げてるの?

 

「・・・あー・・・それから・・・」

 

「はい!!」

 

「・・・なんだ?中野・・・四女か?」

 

四葉ちゃん、いったい何を言う・・・

 

「私!中野四葉はこのクラスの学級長に立候補します!!」

 

よ、四葉ちゃーーーん!!!???もういきなり学級長の立候補⁉早い!早すぎるよ!

 

「え、えぇー・・・まだ誰も聞いてないけど・・・」

 

ほらー・・・先生もなんか引いちゃってるし・・・。

 

「そこをなんとか!!お願いします!!」

 

「反対もしてないけど・・・」

 

もー・・・四葉ちゃんやめてよー・・・妹として恥ずかしいよ・・・。

 

「まぁ・・・他にやりたい奴がいないのなら・・・いいんじゃないか?」

 

「やった!ありがとうございます!」

 

いいの⁉先生、ちょっと投げやりになってない⁉

 

「皆さん、困ったことがあったら私に何でも言ってくださいねー!」

 

パチパチパチ

 

みんな学級長になった四葉ちゃんに拍手してるし・・・なんかもう・・・オリエンテーション、ぐだぐだになってきてない?

 

「じゃあ、ついでだ。男子の方も決めとくか・・・」

 

なんかいつの間にかオリエンテーションから係決めに変わってるような気がするんだけども・・・。

 

「立候補する奴はいるかー?」

 

「いますかー?」

 

「推薦でもいいぞー?」

 

「いいぞー!」

 

先生、そんな投げやりでいいんですか?後四葉ちゃん、先生に便乗しないでよ。

 

「お前やれよ。適任だろ?」

 

「いや、男子の学級長なんて決まったも同然だろ?」

 

「そうだなー。やっぱ武田しかいねーよな」

 

「ま、そのうち誰か推薦するだろ」

 

「全く・・・やれやれ・・・」

 

やっぱり武田君って人望が結構いいんだ。みんな武田君に推薦しているし。

 

「先生!私、学級長にぴったりな人を知っています!」

 

「ほらな」

 

「ほー?誰だ?」

 

あ・・・なんか六海わかっちゃった・・・これ絶対周りの予想を大きく外れるものだと思う・・・。

 

「それは・・・上杉風太郎さんです!!」

 

「!!!???はあ!!??」

 

うわー・・・やっぱり・・・風太郎君自身もやりたくないだろうに・・・。風太郎君、ご愁傷様・・・。

 

「え・・・上杉君で大丈夫?」

 

「武田君を差し置いてなんて・・・」

 

ざわざわざわ・・・

 

わー・・・みんな風太郎君を指名されたことに驚いてざわついてるよ・・・。どれだけ人望がないんだろうね、風太郎君って・・・。

 

「賛成」

 

え?風太郎君の推薦に賛成してる人がいるの?そんな変わった人なんて・・・

 

「これ以上の適任はそういないと思うわよ?」

 

ま、真鍋さんーーー!!?え?本当に?真鍋さんそれ本気で言ってる?というか真鍋さんも同じクラスなの?やったー!

 

「な・・・真鍋!この性悪女!!」

 

「あら、いいじゃない。これで少しは私の苦労もわかるでしょうよ。期待してるわよ?学級長さん?」

 

うーわ・・・真鍋さん、明らかに悪そうな顔をしてるよ・・・。これ絶対楽しんでるよ・・・。

 

「ま、真鍋さんも推薦するの・・・?」

 

「真鍋って去年の学級長だったよな・・・?」

 

「上杉風太郎・・・何者なんだ・・・?」

 

「・・・ふふ・・・」

 

ざわつきも強くなってるよ・・・。そりゃそうだよね。前学級長からの推薦だもん。そうなるよね・・・。

 

「よーし、ほんじゃ他の係も決めておくかー」

 

「先生!!俺はやるとはまだ一言も・・・」

 

風太郎君・・・諦めて・・・こうなったからにはもう絶対に覆らないから・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

係決めというオリエンテーションが終わってから、六海と三玖ちゃんは風太郎君を探してるよ。結局あの後、風太郎君は男子の学級長に任命されましたとさ。

 

「四葉ちゃんの行動には驚かされたよねー・・・」

 

「恥ずかしい・・・」

 

本当、四葉ちゃんのあの大胆さには驚かされてばかりだよー・・・。

 

「あ、真鍋さー・・・!!?」

 

遠くから真鍋さんを発見して声をかけようと思ったけど、六海は真鍋さんと話してる人を見てすぐに後ろに隠れたよ。

 

「・・・何してるの?」

 

「だ、だって・・・気まずいもん・・・」

 

何が気まずいって?それは真鍋さんに話しかけてる人だよ!その人見たら気まずくなるに決まってる!

 

「・・・あ、坂本君か」

 

「うん・・・」

 

そう、真鍋さんに話しかけてるのは去年六海に告白してきたサッカー部の部員である坂本君なんだよね。六海、坂本君をフッちゃったから顔を合わせると気まずくて・・・。

 

「同じクラスになったんだから慣れないと」

 

「それはわかってるけど・・・」

 

そう簡単になれたらこっちも苦労しないって・・・。

 

「何の話をしてるんだろう?」

 

「真鍋さん、何か不機嫌そう・・・」

 

「あ!坂本君がお腹パンチされた!」

 

「あ・・・行っちゃった・・・」

 

なんか・・・すごい現場を見ちゃった・・・。真鍋さんにぐいぐい来たと思ったらお腹パンチされるって・・・。それにしても坂本君、妙に真鍋さんに積極的だったな・・・。もしかして・・・真鍋さんに・・・?・・・それはないか。

 

「ふぅ・・・」

 

「あ、風太郎君みっけ!」

 

いろいろ驚いていると、男子トイレから風太郎君が出てきた。ラッキー!ちょうど聞きたかったことがあったし!

 

「風太郎くーん!」

 

「ん?六海。それに三玖か」

 

「フータロー、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・いい?」

 

「聞きたいこと?なんだ?」

 

六海は三玖ちゃんの打ち合わせ通りにスケッチブックを取り出してランプの絵を風太郎君に見せる。

 

「ここに願いを叶える魔法のランプがあります」

 

「・・・ただの絵だろ」

 

「違います。魔法のランプです」

 

もー、風太郎君・・・絵なのはわかってるけど、そんな真顔で返さなくても・・・。

 

「・・・心理テストか?」

 

「そのお願いを6つ叶えてくれるとしたら、フータローはどうする?」

 

さてと・・・この質問に風太郎君はどう返すかな?

 

「突然なんだって言うんだ?やっぱこれ心理テストだろ?」

 

「ねー、そんなことより早く答えてくれないかな?」

 

「そんなことって・・・。・・・そんなの金持ちになる以外を答える奴なんてそういないんじゃないか?」

 

「お金・・・」

 

うわっはー・・・がめつい。風太郎君、それはがめついよ。まぁ1つ目は大体予想してたけどさー・・・。

 

「おい、これでいいか?」

 

「後5つ」

 

「5つ?普通そこは3つだろ?なんで2倍になってんだよ?」

 

「そんなのどうでもいいから答えてよー」

 

「どうでもいいって・・・。う~む・・・」

 

悩む風太郎君を見るのって珍しいかも。ちょっと意地悪な質問過ぎたかな?でもすごい重要なことだから答えてほしいな。

 

「何でもいいんだよ?魔法が使えるんだし」

 

「う~ん・・・」

 

うわぁ・・・真剣に悩んでる・・・。どう返ってくるのかな・・・?

 

「・・・体力があがったらいいとは考えたことはあるが・・・。

 

おかげで疲れが溜まる一方だから疲労回復もありだな。

 

後勉強のしすぎで肩が凝るからマッサージをしてほしいかもな。

 

それから最近寝つきが悪くて眠くてたまらん。

 

ついでに運気も上げてもらうとしようか」

 

・・・お金、体力向上、疲労回復、マッサージ、睡眠欲、運・・・。ぜ、全然一貫性がない・・・。難しい問題だなぁ・・・。後、風太郎君って全然夢がないよね。

 

「・・・わかった・・・」

 

「何がわかったんだ?心理テストか?」

 

「つーん!風太郎君には教えてなんかあーげない!」

 

「なんで⁉いやだってこれ心理テストだろ⁉なんで教えねぇんだよ⁉」

 

いや・・・だってこれ、心理テストなんかじゃないし。

 

「あー!見つけた!こんな所にいたんだ!」

 

?同じクラスの子?六海になんか用・・・

 

「四葉ちゃん」

 

「先生が呼んでたよ?」

 

「む・・・」

 

四葉ちゃん・・・四葉ちゃんに用かー・・・。そりゃ確かに髪型は四葉ちゃんに似ているけども・・・六海は四葉ちゃんじゃないよ。メガネでわかってよ・・・。

 

「ほらほら」

 

「こっちだよ」

 

「ちょ、ちょっと・・・違・・・」

 

「あ、あの・・・その子は・・・」

 

な、何か勘違いされたまま先生に連れていかれそうなんだけど・・・誰か助けてー!

 

「おい、そいつは四葉じゃないぞ。末っ子の六海だ」

 

ふ、風太郎君・・・!ここで風太郎君が六海たちの違いの指摘なんて意外過ぎる展開だよ・・・!

 

「えっ⁉そうなの⁉」

 

「う、うん」

 

「ついでに言っておくと、隣にいるのは三女の三玖だ」

 

風太郎君の指摘でようやく間違いだって気づいてくれた。た、助かったー・・・。

 

「ごめんねー」

 

「まだ覚えきれなくて」

 

「大丈夫だよ。こういうこともあるある」

 

「うん。慣れてる」

 

こういうのって何回も起きるから六海たちは慣れちゃったよ。・・・ちょっとムカついたりはするけど。

 

「あ、今度こそ四葉ちゃんだー」

 

四葉ちゃんを見つけた?なんか嫌な予感が・・・

 

「おーい、先生が・・・」

 

「ニアピンで外してんじゃねぇか!!指摘したばっかだろ!!」

 

嫌な予感的中!クラスの子が見つけたのは五月ちゃんであって四葉ちゃんじゃない!

 

「もー・・・みんな同じ顔でわかんないよー・・・」

 

いやわかってよ。よく見れば違うってよくわかるから。

 

「・・・あーー!!くそ!!いいか!!面倒なら見につけてるアイテムだけ覚えろ!!俺もそうしてる!!このセンスのかけらもないのが五月だ!!」

 

「いきなり失礼な話ですね・・・」

 

「ヘッドフォンが三玖!黒メガネが六海!そして悪目立ちリボンが四葉だ!!それで覚えておけば間違いない!!」

 

かなりイラついた様子で風太郎君が六海たちの見分け方を言ってきたよ。それはいいんだけど・・・六海たち、そんな覚えられ方してるの?癖とかでわかってよ・・・。

 

「上杉君すごいね!」

 

「ありがと!」

 

「え・・・あ・・・いや・・・」

 

・・・ん?

 

「意外でびっくりしちゃった!ちゃんと中野さんたちのこと見てたんだ!」

 

「いや・・・そうじゃなくてだな・・・その・・・」

 

「さすが学級長だね!」

 

んんん~~・・・?

 

「6人のこともっと教えて!」

 

「は?俺?」

 

「ほらついてきて!向こうにもう1人いたんだー」

 

「おーい、四葉ちゃーん」

 

「いやあれ二乃だって!!」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

ぷくーっ×2

 

「・・・あの女生徒・・・フータローにべたべたと・・・」

 

「つーん・・・何さ・・・風太郎君もデレデレしちゃってさ・・・」

 

あの2人、あれどう見たってべったりくっついてるよね。もう少し離れてくんないかな?

 

「まぁいいじゃないですか」

 

全然よくないよ!もし脈ありなんてことがあったら・・・もう・・・

 

「きっと彼も、変わってきてるんですよ。四葉が推薦したのも、間違いじゃなかったんですよね」

 

んー・・・まぁ、そう言われてみれば・・・そうかも。まぁ・・・あれくらいなら大目に見ても・・・

 

「でも少し、妬けてしまうのもわかります」

 

「「!!」」

 

なんですと⁉ま、まさか・・・五月ちゃんも風太郎君を狙って・・・

 

「と、友達としてです⁉あくまで!!」

 

ほっ・・・なんだ、よかった・・・。そりゃそうだよね・・・五月ちゃんに限ってそれはないよね・・・。

 

「・・・どうかしてます。あんな人を好きになるなんて・・・」

 

・・・?五月ちゃん?何か変なこと言ったかな?少し思いつめたような顔をしてるような・・・。

 

「・・・あ、そうだ。聞けたよ、フータローのお願い6つ」

 

・・・と、そうだそうだ。今最も重要なのはこれだよね。風太郎君のお願いについて!まぁ、とりあえずこの話は家に戻ってからでもいいかな?

 

♡♡♡♡♡♡

 

家に戻って全員集合したところで六海たちは風太郎君のお願い事6つをまとめ上げていくよ。

 

「お金持ちになりたい・・・」

 

「体力向上、マッサージ・・・」

 

「寝つきをよくして疲労回復・・・」

 

「運気アップとかどうしろっていうのよ・・・」

 

うーん・・・やっぱり1番難題なのはその運気アップだよね・・・どうしよう・・・。

 

「全然的を射ないわね・・・」

 

「どうしよっか?」

 

「いずれにせよ、急いだほうがいいかもね」

 

「うん。もうすぐだもんね・・・風太郎君の誕生日!!」

 

4月15日は風太郎君の誕生日!休み時間で心理テストに見せかけて聞いたのはそのためなんだよね。風太郎君の喜ぶ顔・・・早く見てみたいなぁ・・・。

 

・・・ちなみに翌日、風太郎君は六海たち関連のことでよく頼まれごとを受けるようになった。・・・なんで誰も六海たちの顔を覚えてくれないんだろうね?

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

翌日のホームルーム、学級長になった四葉とフータローが1学期のイベントについての話し合いの進行役をやっているわ。

 

「えー・・・我々も3年生になったということで・・・」

 

「すみませーん。上杉学級長、声が小さくて何を言ってるか聞き取れません。もう少し声を大きくお願いします。・・・ね?」

 

あの胡散臭い彼・・・武田がなんだかちょくちょくフータローに突っかかってきてるような気がするのは気のせいかしら?

 

「・・・1学期のメインと言ってもいいあのイベントについて話し合いたいと思います」

 

あら、意外と進行役が様になってるじゃない。フータローにちゃんと務まるか心配だったけど・・・その心配はなかったみたいね。

 

「いよいよ始まります・・・全国実力模試が!!」

 

「修学旅行ですね!!皆さん、全力で楽しみましょーね!」

 

「えぇー・・・そっちか・・・」

 

前言撤回。いつも通りのフータローだったわ。四葉のおかげでなんとか軌道修正したみたいだけど・・・。

 

ツンツンッ

 

あら、学級長のホームルームを聞いていると、後ろの席にいる三玖が私の背中をつんつんしてきたわね。

 

「何よ三玖」

 

「二乃、今日放課後バイト?」

 

「ええ。今日が初日だわ」

 

先日、フータローが働いているケーキ屋のアルバイトの面接で合格したわけなんだけど、今日がアルバイトの初日よ。けどそれがどうしたっていうのかしら?

 

「じゃあ頼みたいことがある」

 

「!何よ。今更入れ替わりたいなんて言っても変わってあげないわよ?」

 

「いや、それは別にいい。そんなこと望んでないし」

 

入れ替わりじゃない?じゃあいったい何をアタシに頼みたいっていうのかしら?

 

「もし・・・今日フータローと一緒だったら誕生日プレゼントのこと、さりげなく探っといて」

 

「え?アタシが?いいの?」

 

「うん。私も今日からバイトだから聞けそうにないから」

 

ふーん・・・なるほどね・・・。そういえば今日の放課後、一花も仕事、四葉も六海もアルバイトだったわね。

 

「私・・・誕生日にフータローが喜んでもらえるように、頑張るんだ」

 

ふ・・・ふーん・・・。フータローに・・・ねぇ・・・。ちらっと一花と六海に視線を向けてみたけど、こっちに笑みを浮かべるだけだったわ。これまでの行動を見て、・・・三玖も一花も・・・そして六海もまだ踏み出した様子はないみたいね。それなのに私に譲るだなんて・・・ずいぶん余裕じゃない。春休みの旅行はいろいろあったけど・・・私がリードしてる・・・はずよ・・・。はずなのに・・・何なのよ・・・この焦燥感は・・・!何なの・・・この焦りは・・・!

 

『・・・私の経験では・・・だけど・・・ごめん。そういうことはなかったかな』

 

『・・・最初は本当に驚いたけど・・・うん。六海も・・・特別な感情は湧かなかったな』

 

・・・告白したのに意識されてないなんてこと・・・ないわよね・・・?もし意識されてないとしたら・・・アタシは・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

放課後のケーキ屋、Revival。アタシはさっそく用意してくれたケーキ屋の制服を着こんだ。髪は・・・そうね・・・。いつもの感じじゃあいつはきっと見向きもしないだろうから・・・ポニテにしておこうかしら。

 

「二乃ちゃ~ん?着替え終わった~?」

 

アタシが着替え終えるとアルバイト先輩の春が入ってきた。初めてのアルバイトっていうことで教育係的な役目を春が担うことになったみたい。理由は年の近い女の子同士なら気が楽だろうということみたい。・・・フータローの方がよかったわ。

 

「わあ~、よく似合ってるよ~。恵理子ちゃんと同じくらいかわいい~」

 

「そ、そう・・・?ありがと・・・」

 

そう言われると・・・ちょっと照れるわね・・・。・・・フータローがアタシの制服姿を見たら・・・どう反応するのかしら・・・。

 

「二乃ちゃん、お仕事初めてだっけ?慣れてないこともあるかもだけど~・・・大丈夫♪私たちが、し~っかりサポートしてあげるからね~」

 

「ありがと。足を引っ張らないように頑張るわ」

 

まぁ、普段から姉妹の食事は全部アタシが管理しているから、一通りはこなせると思うけど。まぁ、手助けしてくれるのは悪い気分じゃないわ。

 

「春ちゃん、ちょっと来てほしいんだけど・・・」

 

「あ、はーい。じゃ、また後でね♪」

 

春は先輩の女性に呼ばれて女子更衣室から出ていった。アタシも今日からここで働くわけだし・・・頑張らないとね。アタシが更衣室から出てキッチンに入っていくと、材料を運んでいるフータローと出くわした。

 

「お、二乃。今日からだったな」

 

「そ・・・そうよ・・・。さっそくキッチンに入れてもらえるみたい」

 

「そうか」

 

・・・・・・い、いざ一緒になると、緊張してきたわ・・・。

 

「そ、それより・・・この髪型、どう・・・かしら?」

 

「・・・ま、まぁ、いいんじゃないか?仕事しやすそうで」

 

・・・なんだか思ったような反応じゃないわ・・・。やっぱりアタシのこと、なんとも思ってないのかしら・・・。

 

「・・・足は引っ張るなよ」

 

「ふん!アタシを誰だと思ってるのよ!こんな仕事くらい朝飯前だわ!」

 

「くくく・・・」

 

アタシが見栄を張ってそう言うと、フータローは不敵な笑い声をあげたわ。

 

「いくら家事担当といえど、所詮は金持ちのお嬢様よ。仕事の・・・社会の厳しさを思い知ってくるがいい・・・」

 

な、なんかフータローが大人げないようにも見えるんだけど・・・。でも・・・仕事さえうまくいけば・・・フータローはアタシを見てくれるかしら・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後、キッチンで店長に教わった通りのケーキを習った通りの作り方でアタシの腕を店長とキッチンを担当する人たちに見せつけた。結果は・・・

 

「素晴らしい!!完璧だよ!!初日からこれほどまでのものを作れるなんて君は天才だ!!」

 

「えー?そうですかー?店長が教えるのが上手なんですよー」

 

「そんなことないよ~。私でもキッチンに入るまで1年はかかったんだから~。二乃ちゃんはすごいね~」

 

「ふふふ、ありがと」

 

店長と春を含めて全員大絶賛。ま、普段からスイーツを作ってるアタシからすれば朝飯前よ♪

 

「・・・マジか・・・」

 

フータローはこの光景を覗いてたけど、すぐに自分の仕事に向かっていっちゃった・・・。・・・なんか、前より距離が遠くなった気がする・・・。やっぱ告白しない方がよかったのかしら・・・。

 

「いやぁ、中野さんが来てくれて本当に助かったよ。今夜大切な予約が入ってるんでね」

 

「大切な予約、ですか?」

 

「そういえば今日はバイトも総動員ですね」

 

「そういえば~・・・普段は会わない先輩もいましたね~。団体のお客様が来るんですか~?」

 

「いいや、1人だ」

 

え?たった1人で従業員を総動員させたっていうの?いったいなんで・・・

 

「君たちもレビュワー名は聞いたことはあるだろう?M・A・Y(メイ)

 

M・A・Y(メイ)・・・英語でいうと5月ってことね。ずいぶんと変わったレビュワー名ね。

 

「この界隈では知る人ぞ知る有名レビュワーだ。素顔は誰にも晒さず、正体も誰も知らないんだ。しかしだ。口コミサイトに星を付けた分だけ客が倍増すると言われてるほどにその評価は的確なんだ。そのM・A・Y(メイ)さんは度々この店にも訪れてるらしくてね。その度に危機から救ってくれた救世主様なんだよ」

 

そ、そんなすごい人がバイト初日に来るなんて・・・。あまりのすごさにアタシと春、従業員全員は固唾をのんだ。

 

「今夜初めてのご予約が入ったんだ。失敗は許されない。M・A・Y(メイ)さんはこの春の新作をご所望だ!!目指せ、星5!!」

 

「「「はい!!」」」

 

「よし!みんな、すぐに作業に取り掛かってくれ!!」

 

「「「はい!!!」」」

 

店長の合図で、アタシ達は各各々の業務に取り掛かった。頑張らなきゃ・・・この店の一員に早くなって・・・フータローにもちゃんと近づいて、認めてもらうんだ!そのためにも・・・春の教えは絶対にこぼさないようにしないと・・・!

 

「すみません、この生地を作ったのは誰ですか?」

 

「あ、それ二乃ちゃんです~」

 

?アタシが作った生地がどうしたのかしら・・・?

 

「店長・・・これ・・・味に違和感が・・・」

 

「え・・・」

 

「・・・本当だ。これは店には出せないな」

 

う、嘘・・・アタシミスっちゃった・・・?失敗できないって時に限って失敗するなんて・・・

 

「すぐに作り直そう!」

 

「「は、はい!」」

 

と・・・いけないけない!失敗はすぐにでも取り戻さないと!1秒でも早くこの店の一員にならないと・・・!

 

♡♡♡♡♡♡

 

だいぶお客さんをさばけたのか、キッチンはだいぶ落ち着いてきた。アタシはと言うと、失敗を取り戻すために1つでも多く、完璧なスイーツを作り続けてる。

 

「二乃ちゃーん・・・そろそろ休憩入ったらどうなの~?少しでも身体を休めないと・・・」

 

「大丈夫・・・アタシならまだやれる。だから気にしないで」

 

春の気遣いはありがたいけど、自分の失敗は自分で取り戻さないと・・・。それに今はまだ動きたい気分なのよ。

 

「休憩入りまーす」

 

フータローは休憩時間になったから休憩室に向かっていったわ。

 

「ん、オッケー。中野さんも今のうちに休んどいて」

 

「いえ、まだやれます。やらせてください!」

 

だってもとはと言えばアタシの失敗で忙しくなったし・・・みんなにも迷惑かけたし・・・。

 

「さっきからこの調子で~・・・どうしましょう~・・・」

 

「・・・もうすぐM・A・Y(メイ)さんが来る。休める時は休んだ方がいいよ。新人の君には特に大変だったろう?ごめんね」

 

「・・・わかりました・・・」

 

店長にそう言われたら、従ざわるを得ないわね・・・。アタシも作業を止めて、休憩室に入っていく。けど、とても休憩できるような心境じゃないわ・・・。

 

「どうしよう・・・アタシのせいでみんな忙しそうだったわ・・・。やっぱり戻って・・・」

 

「店長も言ってたがお前は何も悪くない。フォローは春に任せてくれればいいし・・・つーか新人に大仕事を任せた店長が100%悪い。気にするな」

 

フータローやみんなは気にするなって言ってるけど・・・普段ならこんな失敗なんて・・・。なんで今日に限って・・・。・・・フータローの前でかっこ悪いところを見せちゃったわ・・・。最悪・・・。

 

「・・・これ見てみろよ。ただし、じっくりは見るんじゃねぇぞ」

 

「?」

 

フータローが持ってきた段ボールの中にはクリスマスで使うサンタの飾りつけだった。

 

「これは?」

 

「見ての通りこれはクリスマスの時に百個のところを俺が間違えて千個注文したサンタの飾りつけだ。向こう十年はこれでやっていけてるぜ」

 

「え?」

 

「後この机の傷な、俺が1人で転んだ時にできたものだ」

 

「な、何を言ってるの?」

 

言っていることがよくわからない・・・いったい何を伝えようと・・・

 

「他にもまだまだ、客のテーブルに別のケーキ運んだり、皿を割った枚数も春よりも全然多いし数えきれねぇ。これらに比べたら小さいミスだ」

 

!もしかして・・・それって今までフータローが経験したバイトの失敗談?

 

「・・・・・・もしかして、アタシを励ましてくれてる?」

 

「!ば・・・そうじゃねぇって。仕事がどれだけ過酷か教えてやってんだよ。春より後に入ったが・・・一応、俺も・・・先輩だしな・・・」

 

「!・・・なんで・・・」

 

それならなんでアタシを避けようとするの?なんでアタシから距離を遠のこうとするの?

 

「・・・あー・・・気を使っちゃったわね。ごめんね・・・アタシとじゃやりにくかったでしょ?だって・・・アタシは今まであんたに・・・」

 

「・・・いや・・・それとは関係ない」

 

?アタシのやってきたこと、気にしてないの?じゃあ・・・何で・・・

 

「・・・以前にも言ったが俺は様々なバイトを経験してきた。そのたびにいろいろな失敗を繰り返してきた。そして事あるごとに痛感するわけだ。・・・俺は勉強しかできない男だ」

 

「!」

 

「ただ頭がよくて・・・学年1位で・・・同級生6人の家庭教師くらいならこなせてしまう男だ」

 

「そこ一点に自信持ちすぎでしょ・・・」

 

いや、まぁすごいっていえばすごいけど・・・。

 

「・・・これまで勉強のことばかり考えてきた。誰かに話しかけられても適当に流し続けてきた。家族以外の人間関係を断ち切ったみたいにな。・・・だから・・・その・・・初めてなんだ。誰かに告白されたのは・・・」

 

!!アタシの告白が・・・初めて・・・?

 

「だから、どう話せばいいか、わからなかったんだ。距離を取って、すまん」

 

フータロー・・・アタシの告白・・・気にしてて・・・それで・・・距離を・・・

 

「だが今、ここで答えることにする。俺は・・・お前のこと・・・」

 

「待って。まだ言わないで」

 

フータローが何かを言おうとした時、アタシはそれを妨げた。

 

「だが・・・」

 

「あんたがアタシのことを好きじゃないなんてのはとっくに知ってる。ずっときつく当たってたんだもの。当然よ」

 

「いや・・・それは・・・」

 

「でも、まだ決めないで。一緒のバイトになったのに、まだ何も伝えられてないわ。だから・・・アタシのこと、もっと知ってほしいの・・・アタシがどれだけフータローのことを好きなのか、ちゃんと知ってほしい!!」

 

アタシは今の自分の気持ちをフータローにありったけに伝えたわ。

 

「・・・そうかよ」

 

・・・れ、冷静に考えてみたら・・・今かなりアタシ、小恥ずかしこと口走ったかしら・・・。や、やだ・・・顔が熱くなってきたわ・・・///胸のドキドキも止まらないし・・・。

 

「・・・そろそろ休憩終わりだ。行くぞ」

 

「え、えぇ・・・」

 

そろそろ仕事に戻ろうとしたところにちょうどニコニコと笑ってる春が休憩室に入ってきた。

 

「お~い、2人とも~、M・A・Y(メイ)さんが来たみたいだよ~。そろそろ接客に向かっちゃおうよ~」

 

「おう、今行く」

 

フータローは何ともなかったかのように休憩室から出て・・・

 

「あれあれ~?フータロー君、ど~したのかな~?な~んか、と~ても顔が赤いけど~?」ニヤニヤ

 

「う・・・うるせぇ・・・」

 

!もしかして・・・フータロー・・・照れてるの?なんだ・・・ちゃんと意識してくれてるじゃない・・・。

 

「これから、覚悟しててね・・・。ね、フー君♡」

 

アタシはフータロー・・・ううん、フー君にそう耳打ちをして休憩室から出ていったわ。思わず、鼻歌を歌いたくなるくらい、アタシは上機嫌だった。

 

「フー君、だって~♡私も呼んじゃおっかな~?フー君って~」

 

「やめてくれ・・・」

 

「冗談だよ~♪さ、急いで行こ♪」

 

フー君と春も後からついてきてフロントまで到着する。

 

「あれがM・A・Y(メイ)さん・・・」

 

「誰がオーダー取りに行く?」

 

「お前行けよ。俺は嫌だ」

 

「は?俺も嫌だよ。怖ぇーもん」

 

他の従業員の人がこそこそ隠れてM・A・Y(メイ)さんが座っているだろうテーブルを覗いてるわね・・・。そんなに怖い人が来たのかしら・・・。

 

「どこのテーブルだ?」

 

「3番テーブルにいるみたいだけど~・・・」

 

「3番テーブルって・・・あれね・・・って・・・」

 

3番テーブルにはマスクとサングラスをつけている女性がいる・・・みたいなんだけど・・・なんか見覚えのある長い髪に・・・それに、ぴょこんと出ているアホ毛であれが誰なのかわかっちゃったわ。あれ・・・どう見ても五月じゃない。五月・・・5月・・・MAY・・・そ、それでM・A・Y(メイ)ってわけなのね・・・。

 

「「・・・ふふふ・・・」」

 

「・・・くく・・・」

 

フー君と春もM・A・Y(メイ)の正体をわかったみたいでお互いに顔を見合わせて、3人でクスリと笑ったわ。あー、変に身構えて損したわ。五月相手なら、やっぱりアタシが行かないとね。

 

「あの、アタシ行ってきます!」

 

アタシは先輩たちにそう言って3番テーブルへと向かっていく。

 

「二乃ちゃん、頑張れ~♪」

 

「中野さんすげぇ・・・」

 

「新人なのに根性あるなぁ・・・」

 

「・・・・・・」

 

あ、そうだ。忘れるところだったわ。

 

「・・・チュッ♡」

 

「・・・っ・・・あのバカ・・・仕事中だぞ・・・」

 

アタシはフー君に向けて投げキッスを放ってあげたわ。フー君、これからのアタシを、しっかり見ててね♡

 

「・・・ちょっと五月、あんたバイトも探さず何やってんの?」

 

「に、二乃・・・こ、これは・・・」

 

まぁ文句を言いながらもアタシは五月が望むケーキを作ってあげたわけだけどね。あ、でも罰として1週間おかわり禁止令を発令するつもりだけど。

 

37「アドバンテージ」

 

つづく




おまけ

真鍋は何か隠してる?

春「ふふ~ん♡今日はいいものが見れちゃった♡今後の二乃ちゃんとフータロー君に期待だなぁ~♡」

真鍋「あら、春じゃない。今バイト帰り?」

春「あ、恵理子ちゃん~。そうなんだよ~。恵理子ちゃんも今帰り~?」

真鍋「え、えぇ・・・まぁ、ね・・・」

春「そういえば~・・・最近私と一緒に帰る時間が多くなったよね?何かあったの?」

真鍋「ギクッ!そ、それは・・・そう!ソフトボールの練習よ!少しでも腕を磨いとかないと!さあ、早く帰りましょうか!」

春「・・・恵理子ちゃん・・・何か隠し事をしてるのかなぁ・・・?」

真鍋は何か隠してる?  終わり

次回、四葉、風太郎、一花視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変化球勝負

次回のお話が終わったら、数話くらいデート回(?)にしようと思っています。で、そこで誰が2番目にデートするかっていうのをアンケートを取ろうと思います。あ、五月ちゃんと四葉ちゃんは除外しますね。

理由は、四葉ちゃんの方はプールに行く話の後にしようと思っているのです。
五月ちゃんの方はというと、話が真っ先に思いついたので、1番手は彼女にしようと思っているからです。

そんなわけなので、ご協力お願いします。


四葉SIDE

 

「え?誕生日のこと聞き忘れた?」

 

私たち姉妹は学校に向かってる最中、昨日上杉さんと同じバイトにいたであろう二乃に上杉さんのお誕生日プレゼントについて聞こうとしました。ところが二乃はプレゼントのことを聞き忘れてしまったようです。

 

「二乃ちゃん、風太郎君とアルバイト一緒じゃなかったの?」

 

「ええ、一緒だったわ」

 

うーむ、どうも上杉さんと一緒だったみたいだけど・・・。

 

「・・・何やってたの?」

 

「んー?何してたと思う?」

 

三玖の問いかけに二乃はなんだか幸せそうな顔をしています・・・。

 

「何かいいことでもあったのでしょうか・・・」

 

「なんだか幸せそうだね」

 

「でもプレゼント、どうしよっか?」

 

「んー・・・とはいえ、フータロー君に欲しいものを聞くのはなー・・・」

 

二乃が幸せなのはいいけど・・・う~ん・・・上杉さんが欲しがりそうなもの・・・思いつかないなー・・・。

 

「・・・あ!そうだ!クラスのみんなに聞いてみようよ!」

 

クラスの中には上杉さんと一緒のクラスの子もいたし、その子たちに聞けば、少しは上杉さんの好みがわかるかもしれない!うん!いい考えだと思う!

 

「う~ん、じゃあそうしてみる?」

 

「そうですね、何もしないよりはいいかもしれませんし」

 

みんなも了承もしたし、学校についたらさっそく上杉さんの欲しいものをクラスのみんなに聞いてみよう!

 

♡♡♡♡♡♡

 

学校について、私はさっそくクラスのみんなに上杉さんの欲しいものを聞いたんですけど・・・

 

「え?上杉って・・・誰さ?」

 

「ほら、学級長の。四葉さんが推薦してたろ?」

 

「あー・・・そんな名前だっけか?」

 

も、もう忘れられてる・・・!仕方ない・・・別の人に聞いてみよう。それじゃあ・・・あ、武田さんに聞いてみよう!

 

「上杉君にプレゼントかぁ・・・」

 

「はい」

 

「でも彼はそういうのは受け取らないタイプだと思うけど・・・ね」

 

う~んダメかぁ・・・。それじゃあ次は・・・そうだ!中学生の時一緒だったって言っていた真鍋さんなら何かわかるかも!

 

「上杉にプレゼント、ねぇ・・・」

 

「何がいいですかね?」

 

「あいつが喜びそうなものってやっぱ金じゃないの?中学の時から結構がめついし」

 

「い、いえ・・・そういうものではなくて・・・」

 

確かに上杉さんなら喜びそうですけど・・・そんなの全然真心がこもってないですよぉ・・・。

 

「もっとこう・・・真心がこもって・・・ちゃんとしたものを・・・」

 

「あー・・・ごめん。だったら知らないわ。あいつとはどっちかっていうと、腐れ縁の仲だしね」

 

「そうですか・・・」

 

真鍋さんならわかると思ったんだけどなぁ・・・。クラスが一緒だった女の子ならどうかなぁ・・・?

 

「うーん、全然わかんないやー」

 

「だよねー」

 

「そうですか・・・」

 

みんなの意見を聞けばって思ったんだけど・・・なかなかうまくいかないなぁ・・・。

 

「あ、それより四葉ちゃん、小耳に挟んだんだけど、これ本当?」

 

「え?何ですか?」

 

「ほら、あれだよー。四葉ちゃんと上杉君が付き合ってるって噂」

 

・・・え?私が・・・?上杉さんと・・・付き合って・・・?

 

「・・・・・・ふぁっ!!?」

 

わ、わわわわわ、わ、私が・・・上杉さんと・・・つ、つつつ、付き合っているって・・・!!?いったい誰がそんな噂を!!?

 

「2人とも学級長で仲良さそうだし、あんな大胆に推薦するなんて、勘ぐっちゃうよねー♪」

 

「でも火の立たないところに煙は立たないって言うしねー♪」

 

「そ・・・そそそ・・・そんな!とんでもない!わ、わわ、私が上杉さんとつ・・・つき・・・なんて・・・お、おおお、恐れ多いです!!」

 

そうとも・・・私が上杉さんと付き合ってるだなんて、ありえないし・・・それ以上に・・・恐れ多いですよぅ!

 

「いやー、それはどうかなー?」

 

「案外上杉君は、満更でもないかもよー?」

 

う・・・上杉さんが・・・?本当に・・・私を・・・?だとしたら・・・私は・・・いったい・・・どうすればよいのか・・・。ありえないはずなのに・・・どうしても考えてしまう・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

私と上杉さんが付き合ってるという話はいったん忘れましょう!今は体育!体育の時間です!今はそっちに集中しましょう!今日は50m走でしたね。よーし・・・。

 

「位置について・・・よーい・・・」

 

パァン!

 

先生の合図で50mまで走り出す。これなら新記録は期待できそうかも。

 

「中野さん、6.9」

 

「すげぇ・・・6秒台・・・」

 

「坂本と同列じゃん。鬼速ぇ・・・」

 

うーん、まずまずってところでしょうかね。もう少しタイムを上げたかったですが・・・。

 

「情けないわねぇ。もう少し粘りなさいよ、この体力なしトリオ」←8.5秒

 

「ぜはー・・・ぜはー・・・う、うるせぇ・・・」←10.3秒

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・む、無理・・・」←10.5秒

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・気持ち、悪いよぅ・・・」←10.8秒

 

体力がない上杉さんと三玖、六海は案の定にバテて休憩入ってる・・・。真鍋さんはまだ余裕はある感じですね。

 

「体育委員いるかー?これ片付けておいてくれ」

 

「あ、今日は休みです」

 

「そうか。では、学級長、頼めるか?」

 

「はい!」

 

「うげー・・・」

 

授業が終わって、生徒指導の先生(体育担当)からお休みの体育委員さんの代わりに私たち学級長に体育道具を片付けるように言われました。さて、早く片付けちゃいましょうか。

 

「くっ・・・こんなの不毛だろ・・・。50mタイムの記録なんて計ったって何の役にも立たないだろう・・・」

 

「ほらほら、文句を言わずに、一緒に運びま・・・」

 

『案外上杉君は、満更でもないかもよー?』

 

!!・・・私が上杉さんと付き合ってる・・・か。あの子たちが言ってたことが頭によぎる・・・。私と上杉さんは・・・別にそういうわけではないなんだけど・・・。

 

「え・・・えーっと・・・べ、別々の方が持ちやすいかもしれませんね!」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・え?そ、そうか・・・?」

 

と、とにかく!これ以上変な噂が流れないようにしないと・・・。とりあえずはいったん上杉さんから離れないと・・・。

 

「それじゃあ私はこの重そうな・・・」

 

「・・・いや、俺が・・・この重いやつを運ぶから・・・細かいのを・・・頼む・・・」

 

上杉さんが重たいものを?大丈夫かなぁ・・・。

 

「せーの・・・ふん!!くっ・・・ぬおおおおお・・・!!」

 

「・・・無理しないでください」

 

ああ、やっぱりだめでしたか・・・。といっても、上杉さんは引こうとはしないからなぁ・・・。仕方なく私は上杉さんと砲丸入れを運ぶことにしました。

 

「ほら、やっぱりー」

 

「絶対何かあるよねー」

 

「ん?なんか見られてるような・・・」

 

見られてる・・・というかじっと見ていますよ。あの子たちまたあんなことを言って・・・そんなんじゃないのに・・・。

 

「・・・あの・・・変なことお聞きしますが・・・上杉さんって・・・私のこと・・・」

 

「どう?学級長の仕事は?中々に大変でしょう?」

 

「2人じゃ大変・・・手伝う・・・」

 

「三玖、真鍋さん・・・」

 

砲丸入れを運んでいると、真鍋さんと三玖が手伝いを申し出てくれました。それより・・・え?私今何を聞こうとしたの?上杉さんと私の関係を聞こうとしたの?・・・三玖を差し置いて?

 

「で、四葉。何が聞きたかったんだ?」

 

「な、何でもないです!!忘れてください!!」

 

「?お、おう・・・」

 

ダメだ・・・このままじゃ絶対にダメだ・・・何とかしないと・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

パンッ!!

 

「五月!六海!お願い!!どっちでもいいから学級長の仕事、変わって!!」

 

「「えっ・・・」」

 

お昼休みでご飯が一緒になった五月と六海に私は学級長を変わってもらえないか必死に懇願しています。

 

「あのー・・・四葉ちゃん?急にどうしたの?」

 

「そうですよ。あんなにやる気だったじゃないですか。それがなぜ・・・」

 

最初は確かにやる気だったけど・・・今はダメなものはダメなの!!

 

「お願いだよー・・・焼きそばパンあげるからー」

 

「た・・・食べ物で釣ろうとしたってそうはいきませんよ!・・・焼きそばパンはいただきはしますが!」

 

「む、六海でもいいよ!ほら、前に欲しがってたナナカグッズ買ってあげるから!」

 

「ま・・・毎回毎回欲しいもので釣ろうとしてもダメだからね!!学級長なんて、六海には無理!!」

 

そ、そんなー・・・少しの間だけもいいのに・・・。

 

「四葉・・・何かあったんですか?」

 

「あのね・・・変な噂が流れてて困ってるんだよー・・・。だからしばらくの間どっちかに学級長をやってほしいんだよー・・・」

 

「噂・・・というと・・・?」

 

「そ、それは・・・わ・・・私と・・・上杉さんが・・・つ・・・つき・・・つっつき・・・」

 

「え?何?突っつきあい?」

 

「ちーがーうー!!」

 

もう!私は真剣に悩んでるのに、こんな時にボケようとしないでよ六海!

 

「・・・あー!もー!!こんなことになるなら推薦しなきゃよかったー!!もー、私のバカ!!」

 

「えーっと・・・四葉ちゃん・・・?」

 

「・・・みんなに悪いよ・・・。私はただ・・・上杉さんがすごい人だって、みんなに知ってほしかっただけなのに・・・」

 

それがまさか・・・こんなことになるなんて・・・。どうして、私の思ってることが、みんなに伝わらないんだろう・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから放課後になって先生から学級長のお仕事として、私はノートをみんなの机に配っている最中です。・・・ついでに、上杉さんも・・・。

 

「たくっ・・・学級長といっても雑用ばっかじゃねーか。面倒くせー・・・」

 

・・・本当にどうしよう・・・。このまま上杉さんと一緒にいたらまた変な噂が流れて・・・

 

「おい、こっちは終わったぞ。お前の方は終わったか?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・四葉?」

 

いや、私は上杉さんは嫌いではないんですけど・・・周りにそういう噂が流れると困るというかなんというか・・・。

 

「おい四葉、それ半分よこせ」

 

「!!」

 

か、考え事をしていたら上杉さんが私の目の前まで・・・!す、すごく・・・近いです・・・///

 

「・・・こんな面倒な仕事、さっさと終わらせるぞ」

 

「は、はぁ・・・」

 

や、やっぱりこのままじゃ変な噂が広がっていく・・・!どうにかして・・・それを阻止しないと・・・!

 

「・・・上杉さん・・・上杉さんは、私のこと、どう思ってますか?」

 

「?急にどうした?」

 

「私は上杉さんが嫌いです」

 

「は?」

 

これ以上の噂が広がらないように、私は上杉さんにそう言い放ちました。

 

「ほ、本当ですからね!だから、もう私に近づかない方が身のためですよ!」

 

「身のため?」

 

「で、ですから・・・その・・・た、大変なことになりますからね!」

 

「大変なことってなんだよ?」

 

「そ、それは・・・その・・・」

 

た、大変なことって・・・何があるんだろう・・・?どうしよう・・・うわさが広がらないように考えないと・・・考えないと・・・

 

「・・・お前、何気にしてんだ?さっきから変だぞ?」

 

「う、うぅ・・・」

 

あ、もうダメだ・・・。いくら誤魔化しても上杉さんに見破られてる・・・。これ以上は・・・隠せない・・・。

 

「・・・そのー・・・ですね・・・実は・・・」

 

私は観念して、上杉さんに噂の詳細を話しました。

 

「はあ!!?俺と四葉が付き合ってるだと!!?」

 

「そ、そうなんですよ・・・」

 

上杉さんは噂の内容にやっぱり驚いています。

 

「・・・たくっ・・・変によそよそしいのはそういうことか・・・。どうしたらそう見えるんだよ・・・。どう見たってありえないだろ・・・」

 

「ですよねー・・・」

 

・・・・・・まぁ、反応的には予想はできてはいましたが、何もそんな簡単に一蹴しなくても・・・。

 

「でも女の子ってそういう恋バナ大好きですから、仕方ないですよー・・・」

 

「・・・恋バナ、ねぇ・・・」

 

「あ!」

 

そういえばそうでした・・・上杉さんは恋バナは好きではなかったですね・・・。ものすごい拗らせ方でしたからね・・・。

 

「えっと・・・恋バナはお嫌いでしたよね。前に言っていましたよね?学業から・・・えーっと・・・なんでしたっけ?」

 

「最もかけ離れた愚かな行為。付き合うということは、そいつの人生のピークだ」

 

そうそう、そう言ってましたよね。思い出してきました。

 

「・・・そう、思っていたんだがな・・・」

 

「?」

 

「あそこまで真剣な気持ちを前ほどバカにする気が不思議と起きないな」

 

お?上杉さんが・・・恋愛話をバカにしないで・・・?ちょっと驚きはしましたけど、私はすぐにこっと笑います。

 

「どうしたんですか?まさかついに好きな人が?」

 

「え?」

 

恋愛についてバカにしないということはそういう・・・はっ!!ま、まさか・・・

 

「もしかして!!ほ、本当に私のことを!!?」

 

「ねーよ。何言ってんだ」

 

でっすよねー・・・。でもそんな簡単に否定しなくても・・・。

 

「つーか、そんなこと自分で聞くか、普通?」

 

「ししし、火のない所に煙は立たないらしいですので!」

 

「誰から聞いたんだ、そんなこと。それに特定の誰かがいるってわけではなくてだな・・・」

 

「そうなんですかー?誰も好きじゃないんですか~?ほら、三玖とかはどうですか~?」

 

三玖は上杉さんにたいして好意を抱いてますし、お似合いじゃないのかなーって思って、私はそう問いかけました。

 

「・・・なんでそこで三玖が出てくるんだ?」

 

「うーん・・・道のりは長そうですね・・・」

 

三玖の好意に気付いてないのかなぁ?今までのことを考えると、すぐにわかると思うんだけどなぁ・・・。

 

「でも、一歩前進、ですね」

 

「そうか?」

 

「・・・よかった、上杉さんが恋愛を愚かじゃないと思ってくれて」

 

上杉さんはまだ誰かを好きになったという気持ちは知らないみたいですけど、少しは恋愛をバカにしないでいてくれた。それだけでも今は十分です。

 

「この先、上杉さんにも好きな人ができるかもしれません。その時、誰を好きになって・・・どんな恋をしたとしても・・・私は上杉さんの味方です」

 

「四葉・・・」

 

上杉さんがどんな女性を選ぼうとも、誰かと付き合おうとも・・・私は全力で上杉さんを支えます。

 

「私、中野四葉は、上杉さんを全力で応援しています!!」

 

当然、上杉さんを思う女性の中に、私はいません。

 

「・・・全く、気が早すぎなんだよ・・・」

 

「あはは。では、お仕事も終わったので、みんなのところに行きましょう」

 

「お、おう。だがその前にトイレに寄っていくから先行っててくれ」

 

「え?はーい」

 

上杉さんはトイレに行ってしまいました・・・。私たちのアパートに来るんですから、待つのに・・・。大きい方かな?

 

「四葉ちゃーん」

 

あ、あの子たちがまた私に話しかけてきた。また噂の話でしょうか?

 

「また上杉君いたでしょ!」

 

「見ちゃったよー!」

 

「放課後の教室で2人っきりだなんて・・・」

 

「きゃー!!ロマンティックーー!!」

 

ああ、やっぱり私と上杉さんの関係ですか・・・。でも・・・この2人の望む答えを、私は持ち合わせていません。

 

「やっぱり上杉さんと四葉ちゃんってつきあって・・・」

 

「ないよ」

 

「「・・・え?」」

 

そうだ・・・私と上杉さんが付き合うなんてことは、あってはならないんだ。

 

「ありえませんよ」

 

「「そ・・・そうなんだ・・・」」

 

私と上杉さんは結ばれはしない。だって私は・・・そんな資格なんて、微塵もないのだから。だから私は、上杉さんの味方であり続けるんだ。上杉さんが、誰と付き合おうとも・・・

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎SIDE

 

ふう・・・四葉の奴、気が早すぎだっての。自分の気持ちなんて、自分でもわからねぇってのにな。そもそも恋愛を否定し続けてた俺だぞ?応援するって言われてもな・・・。

 

じー・・・

 

・・・なんか・・・すごい視線を感じるな・・・。つーかこんな視線、ここ最近毎日感じてるものじゃねぇか。てことは俺の隣には・・・

 

「やあ、上杉君」

 

「お前毎回毎回なんなんだよ!!?」

 

やっぱいやがったよ、この突っかかり野郎。毎回毎回爽やか笑顔で俺に付きまとってきやがって・・・いったい俺に何の用なんだよ。

 

「大変そうだね・・・中野さんの家庭教師」

 

!!こいつ・・・何で俺があいつらの家庭教師をやってるって知ってるんだ?俺はこのこと、真鍋はおろか、誰にも言ってねぇぞ。

 

「お前・・・何でそれを知ってるんだ?」

 

「ふふ・・・どうだい?僕が代わってあげても、いいけど・・・ね?」

 

また変に笑いやがって・・・。

 

「質問に答えてねーぞ。何で知ってるんだ」

 

「簡単さ。中野さんのお父さんから聞いたからね。成績不良の六つ子の皆さんを赤点回避するべく、学年一の成績を持つ君に白羽の矢が立った・・・てね」

 

ちょっと待て。なんでこいつがあいつらの父親のことを知ってるんだ。つーか・・・

 

「なぜお前があの父親と面識があるんだ?あの人とは関係ないだろ?」

 

「大アリさ。僕の父がこの学校の理事長でね、お父様とはかねてより懇意させていただいているのさ」

 

このボンボンコミュニティーめ・・・。だがこいつが父親と面識がある理由はこれでわかった・・・。それでか・・・。

 

「それは置いといて・・・君は他でもバイトをしているみたいじゃないか。Revival、だったかな?君のアルバイト先」

 

「そこまでわかってんのかよ。こえぇな」

 

こいつどこまで俺のこと知ってんだよ?ここまでくると逆に感心してくるな。別の意味で。

 

「ケーキ屋のアルバイトに家庭教師・・・ここまで掛け持ちしてて、大変だろう?少しでも負担を減らしてあげるよ」

 

「だから家庭教師をやってやるってか?」

 

「その通りだよ」

 

そいつはまぁなんとも・・・。これは俺が望んでやってることだってのにな。

 

「・・・それができるのならぜひとも代わってやりたいがな、残念ながら俺を雇ってるのは父親じゃなくてあの六つ子たちだ。俺が決められることじゃねぇよ」

 

そうだ。俺自身が決められることじゃねぇ。冬の寒い中で、急にアパートに引っ越して来たり、冷たい川の中に入ってまで俺を引き留めたんだ。決めるのはあいつらだ。・・・いや、違うな・・・それだけじゃねぇな・・・。

 

「へぇ・・・確信しているんだね。中野さんが、君を手放さないことを」

 

「うっ・・・」

 

遠回しにお前では無理だって言ってやったが・・・どうしてそういう解釈になっちまうんだよ⁉

 

「そ、そういうわけではないが・・・」

 

「しかし君は、こんなことしてる場合じゃないだろう?もっとやるべきことがあるはずだ」

 

「?何のことだ?」

 

もっとやるべきこと?いったい何だそりゃ?見当もつかねぇな。言っている意味もよくわからねぇし・・・。

 

「・・・ふぅ、君は、ずいぶんとぬるま湯に浸かりきってしまったようだね」

 

「あ?」

 

「失望したよ。腑抜けきった君にもう用はないよ。お先に失礼」

 

そう言ってあいつはトイレから出ていっちまった。・・・いったい何だったんだ、あいつ?なぜにどうこう言われないといけないんだ?・・・まぁいい。それよりも今は家庭教師だ。ずいぶん久しぶりになっちまうが・・・あいつらにはまだいろいろと教えないといけないことが山積みだからな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

トイレを済ませた後、俺はすぐに六つ子のアパートに行き、こいつらの勉強を見ている。勉強っつっても今は2年の時の復習ってことで確認テストをやらせてるが。まぁ、こいつらも結構成績が上がってるし、心配はしてないがな。ただ不満があるとすれば、今日は全員集合ってわけじゃないことだけだな。一花の奴・・・仕事とはいえサボりやがって・・・。

 

「ここで集まって勉強するの久しぶり」

 

「最近はみんなバイトだものね」

 

「一花は今日も仕事だけど、試写会私も行きたかったなー」

 

「六海たちは別にお呼ばれされてないからしょうがないよー。・・・ところで五月ちゃん、アルバイトは見つかったー?」

 

「ギクッ!」

 

あ、こいつら、手を休めていやがるな。てか五月まだバイト見つけてねーのかよ。

 

「え?五月まだ見つけてなかったの?アルバイト」

 

「も、もう少し時間をください・・・」

 

「一昨日からそんなこと言ってなかったー?」

 

「そうよ。昨日なんてバイトも探さないでアタシのバイト先に来るし・・・」

 

「ちょ、ちょっとした息抜きだから大丈夫だと思うよ!」

 

「お前ら、口より手を動かせ!月末の全国模試はもうすぐだぞ!」

 

「アタシは一通り埋めたわよ」

 

もう埋めたのかよ。たく・・・埋めたならすぐに言えって。

 

「はい、答え合わせよろしく、フー君♡」

 

ぬおっ、二乃の奴、なんかぐいぐい来たな・・・。昨日俺に向かって投げキッスしてきたり・・・覚悟しててとか言ってたし、やっぱ本気ってことか・・・

 

パシッ!

 

ぐいぐい迫る二乃に六海は問題用紙で二乃の頭をはたいた。た、助かった・・・。

 

「いた!ちょっと何すんのよ!」

 

「二乃ちゃん・・・何で風太郎君のことフー君って呼んでるの?」

 

「だいぶ気に入ってたし、使っちゃった♡わざわざありがとね♡」

 

「本来なら今頃六海がフー君って呼んでるのに・・・!ぐぐぐ・・・!泥棒猫め・・・!」

 

「てか邪魔よ、そこどきなさいよ」

 

「やだ!六海も終わったから採点してもらうもん!」

 

「は?アタシが先よ」

 

おいおい、二乃と六海の奴、また喧嘩を始めやがったな・・・。なんか最近こんな光景を見るようになったような気が・・・。仲が良かったり喧嘩したり・・・忙しい奴らだ。

 

「フータロー、私も終わった。採点よろしく」

 

「「抜け駆け禁止ーー!!」」

 

「抜け駆けしてない」

 

「「してるって!!」」

 

今度は三玖も加わって喧嘩しやがった・・・本当、どうなってやがるんだ?まぁ、前の大喧嘩よりは断然マシだが。

 

「お前ら、全員採点してやるからその辺にしとけ」

 

俺の一声で3人はすぐに喧嘩をやめた。単純だな。

 

「私も終わりましたー!」

 

「私も終わりました。上杉君、採点をお願いします」

 

「おう」

 

これで全員分か。思ってた以上に早めに終わったのは驚いたな。

 

「模擬試験結構難しかったねー」

 

「そうですね。しかしそれほど不安でもないというか・・・」

 

「あ!それ六海もそれ思った!前ほど苦戦しなかった!」

 

「うん。学年末試験を乗り越えたんだもん」

 

「一度超えた壁だもの。ここまで来たら余裕よ」

 

「こうなると、いよいよ卒業が見えてきましたね、上杉さん!」

 

・・・こいつらの言ってることも間違いではない。、こいつらの成績は前に比べてかなり高くなったし、3年になったからといっても試験の難易度なんてそう変わるものでもない。・・・と、いうことは・・・本当に見えてきたのか・・・?あの時、途方に暮れると思っていた、ゴールが・・・!

 

「よっしゃー!答え合わせするぞ!」

 

「「「「「はーい」」」」」

 

考えれば考えるほど、希望が見えてきたぞ!このままいけば、卒業なんて夢じゃないな!

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・嘘だろ・・・全員、ほとんど赤点じゃねぇか・・・」

 

希望が見えてきたと思ったんだけどなー・・・。・・・結論から言おう。テストの結果は姉妹全員ほとんどが赤点ばっかりで合格なんて程遠いほどの点数だった。

 

「お前ら・・・マジでふざけんな・・・。あれか?あれなのか?学年が上がると脳がリセットされる仕組みなのか・・・?」

 

「なるほど!どおりで赤点を取るわけです!」

 

「ものの例えだ!!納得するんじゃねぇよこのデカリボン!!」

 

「ひぇー!!」

 

俺の例えに納得する四葉に俺はリボンを引っ張り上げる。たく、そんなのあるわけねぇのに・・・。とりあえずリボン直しとくか。

 

「ごめんなさーい・・・」

 

「できたと思ったのに・・・」

 

「言い訳になるかもだけど、ここ最近仕事ばっかであんま自習できてないのよね」

 

「ん?言われてみれば確かに・・・お前らと比べると五月の点はそれほど下がってないな」

 

「す、すすす・・・すみませんすみません!!」

 

確かに仕事とかの疲れもあるからな。その辺も考慮しなかった俺のミスだったか・・・。・・・とはいえ・・・

 

「無事卒業と言ってる側からこれかよ・・・俺の模試勉強もあるっていうのに・・・」

 

・・・まあいい。今からでも何とか巻き返せるだろう。両立してやるんだ・・・家庭教師も、俺の模試勉強も・・・。

 

「じゃあ間違えた個所を順番に確認していくぞ」

 

「「「「「!お願いします!!」」」」」

 

全く・・・いつまでたっても手を焼かせやがるぜ・・・。まぁ・・・こうしていられるのも、悪くはないけどな。

 

ピンポーン

 

「!はーい、今出ます」

 

ん?客か?まぁ、そっちの方は五月に任せて・・・先にこいつらの間違えた個所を1つずつ見直していくか。

 

「・・・えっ!!?」

 

・・・ん?五月の奴・・・どうし・・・

 

「勉強中のところ、失礼するよ」

 

なっ!!!???

 

「「お・・・お父さん⁉」」

 

「「パパ⁉」」

 

六つ子の部屋にいきなり入ってきたのはこいつらの父親だった。ど、どういうことだ・・・?

 

「ど・・・どうしたのよ急に・・・。というか、この家・・・」

 

「いやなに、もうすぐ全国模試と聞いてね。彼を紹介しに来たんだ」

 

彼?誰だ・・・?まさか・・・いや、考えすぎか?

 

「入りたまえ」

 

「お邪魔します」

 

六つ子の部屋に入ってきた男は・・・

 

「申し訳ない。突然押し掛ける形になっちゃって」

 

俺の想像していた通り、ここ最近俺に付きまとってくる変な奴じゃねぇか。本当に当たるとは・・・

 

「えっ・・・君って・・・」

 

「武田君・・・だよね・・・?」

 

「・・・どういうこと?」

 

「わ、私・・・何が何だか・・・」

 

「四葉、落ち着いてください」

 

こいつが何の用だ・・・と思った瞬間、俺はトイレでのこいつの会話を思い出した。家庭教師を代わるとかどうとか言ってたが・・・まさか・・・

 

「今日からこの武田祐輔君が君たちの新しい家庭教師だ」

 

「「「!!??」」」

 

「はあ!!?」

 

やっぱりそうか・・・。こいつらの父親がここに来て、さらにこいつまで来たとなると、何となく予想はしてた。この人と面識があって、突然家庭教師を代わろうかと言っていたからな。

 

「どういうことですか?ちゃんと説明してください」

 

驚いてる六つ子の中で1番落ち着いている五月が代表して聞いてきた。

 

「・・・上杉君。先の試験での君の功績は大きい。成績不良で手を焼いていた娘たちだったが、優秀な同級生に勉強を教わるということで一定の効果を生むと君は教えてくれた。感謝はしている」

 

「そ・・・それならフータローを代える必要なんてないはず・・・」

 

「そ、そうだよぅ・・・なんで急に・・・」

 

「・・・あ・・・」

 

「確かに代える必要はない。だがそれはあくまで彼が今も優秀であれば、の話だ」

 

「「「「え・・・」」」」

 

お父さんの説明に家庭教師交代をする理由がわかった。超正論をいうこの父親のことだ。間違いなく俺の成績と関係してるんだろう。

 

「残念ながら、上杉君は全教科の点数が落ち、順位も落ちてしまっている」

 

「え・・・ではあれは・・・」

 

「満点じゃなかったってこと・・・?」

 

「・・・そうよ。アタシが見たもの、間違いないわ」

 

俺のいたずらの最初の被害者である五月と六海の問いかけに二乃が肯定する。あれがまさか、今回のことに繋がるとはな。

 

「そして新たに学年1位の座についたのが彼だ。ならば家庭教師に相応しいのは彼だろう。違うかね?」

 

言いたいことはわかる。要するに点数を落ちた俺ではもう信用ができないってことだろ。まぁ、この人に自分から辞めると宣言した俺が言うのもなんだが。

 

「・・・ふっ・・・ふっふっふ・・・ふっふっふ・・・くくく・・・」

 

「「「「「「?」」」」」」

 

なんだこいつ?急に笑い出して・・・

 

「やったーー!!勝った!!勝ったぞー!!」

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

「イェス!!オーイェス!!イェス!!イェス!!イェス!!」

 

な、なんだこいつ?急に喜びだしたぞ?わけわかんない奴だとは思ったが、ここまで以上とは・・・いったいなんなんだ?

 

「上杉君!長きにわたる僕らのライバル関係も今日で終止符が打たれたのだよ!!」

 

は?俺が?こいつの?ライバル?

 

「ついに僕は君を超えた!!この家庭教師も僕がやってあげよう!!君を超えた、この僕がね!!」

 

「・・・・・」

 

「始まりは二年前・・・僕は学年トップを目指して・・・」

 

「その前にちょっといいか?」

 

こいつの事情とかは知らんが、とりあえずこれだけは聞かせてくれ。

 

「そもそもな話、お前誰だよ?」

 

「・・・・・・えっ!!?」

 

何驚いてんだこいつ。当たり前だろ、俺はお前のことなんて、何1つとして知らねぇんだよ。武田なんて名前もこの人から聞いて初めて知ったわ。

 

「いや・・・ほら・・・学年順位でずっと君に2位で迫ってた武田・・・」

 

学年順位?2位?・・・ああ、確か2位の奴は武田って名前だったか。なるほどな、通りで俺に突っかかてくるわけだ。

 

「あれだけ俺に突っかかて来たのはそういうわけか。ずっとわからなかったんだが、納得がいった」

 

「思い出したかい⁉」

 

「まぁ、今まで満点しかとってこなかったから、ぶっちゃけ俺以下・・・2位以下の奴なんて目も止めなかったわ」

 

「2位以下!!」

 

俺の一言で武田はかなりショックを受けてる。

 

「2位・・・以下・・・!!」

 

「うわぁ・・・」

 

「憐れだわ・・・」

 

二乃と六海が武田を憐れみな目で見つめて・・・いや、三玖も四葉も一緒か。

 

「・・・事情はよくわかりました」

 

話が脱線しかけたところを五月が戻してくれた。

 

「学年で1番優秀な生徒が家庭教師に相応しいというならそれでもかまいません。恐らく、それだけが理由なのではないでしょうが・・・」

 

他に理由?そんなのあ・・・ったわ・・・うん・・・去年に心当たりがありまくりだわ・・・。

 

「しかし、それなら私にも考えがあります!」

 

五月の考え?

 

「私が3年生で、1番の成績を取ります!!」

 

は?

 

「「「「えっ・・・」」」」

 

「ふむ・・・いいだろう」

 

「「「「ちょっと待って!!」」」」

 

お父さんが了承しかけたところを他の姉妹がストップをかけた。そりゃそうだ。五月が1番の成績?現在進行形で成績が落ちたくせに何言ってんだ。

 

「ちょっと五月ちゃん!!?何勝手に決めてんの!!?ただでさえ80点以上取れないのに無理に決まってるじゃん!!!」

 

「す・・・すみません・・・つい、かっとなって・・・」

 

「ついじゃないよぉーーー!!!」

 

「む、六海、落ち着いて落ち着いて・・・」

 

六海、取り乱すのはわかるが少し落ち着け。

 

「何言われてもお父さんには関係ない。フータローは私たちが雇ってるんだもん」

 

「そうよ!大体何なのいったい⁉ずっとアタシたちをほったらかしてたくせに、今更・・・」

 

「いい加減気づいてくれないか?」

 

三玖と二乃の言い分に武田の奴が割って入ってきた。

 

「上杉君が家庭教師を辞めるということは・・・それは他ならぬ上杉君のためだ。君たちは上杉君の意思を無視している」

 

「「「「「・・・っ」」」」」

 

「君たちのせいだ・・・君たちが上杉君を凡人にしてまった」

 

・・・俺が凡人、ねぇ・・・。

 

「そ・・・そんなことないもん!!言いがかりは・・・」

 

「君たち・・・彼にも彼の人生がある。いい加減わがままはやめて、そろそろ彼を解放してやったらどうだい?」

 

「「「「・・・っ!」」」」

 

「でも・・・」

 

お父さんの言い分で5人は黙りこくってしまう。全く・・・揃いも揃って、みんな好き放題言うよな・・・。

 

「その通り、だな」

 

「!上杉さん・・・」

 

ここまでお父さんの話には口を挟まなかったが・・・そろそろ俺も言わせてもらうぜ。

 

「お前が俺を過剰に評価してんのはよくわかった。お前が言ってることも、決して間違いではない。・・・だが、去年の夏・・・あるいは、この仕事を受けていなかったら・・・俺は凡人にすら、なれていなかっただろうよ」

 

前までの俺はただ勉強ができるだけの凡人以下の存在だ。そんな俺を凡人に変えさせてくれたのは、間違いなく、こいつら、六つ子のおかげだ。

 

「俺は教科書を最初から最後まで覚えただけで、全てを知った気になってただけだ。知らなかったんだ・・・世の中にはこんなにも、想像を絶する馬鹿共がいるってことを。そして俺が・・・そんな馬鹿の1人だったことも」

 

「フータロー・・・」

 

「こいつらが望む限り、俺はとことんまで付き合いますよ。解放してもらわなくても大いに結構」

 

「そこまでする義理はないだろう」

 

「義理はありませんね。・・・ですが・・・この仕事は、俺にしかできないという自負がある!!」

 

そうだ・・・この仕事は他の連中がこなすのは無理だ。俺にしかできない仕事だ。去年のクリスマス時からそう思っている。

 

「こいつらの成績を落とすことは二度としません。俺の成績が落ちてしまったことに関してはご心配をおかけしました。俺はなってみせます。そいつに勝って学年1位・・・そして・・・全国模試1位に!!!」

 

「「「「「え・・・」」」」」

 

ふっ・・・俺にしてはなかなか決まっ・・・

 

「う、上杉さん!!?」

 

「なんだよ!」

 

「全国は無茶です!」

 

「フータロー・・・もう少し現実的に・・・」

 

「あっ⁉学校内の1位だけじゃ今までと変わんねぇだろ!だったら全国でも・・・」

 

「無理無理無理!!ぜーーーったい無理だから!!」

 

「やってみないとわかんね・・・」

 

「いいから黙ってなさいって!!」

 

俺の発言に不服があるのか5人が意を唱えて来やがった。くっそなんだよ!せっかく決まってたのに台無しじゃねぇかよ!

 

そして・・・

 

「と、いうわけで話し合いの結果・・・」

 

「全国で8位以内!」

 

「これでどうですか!」

 

「おい!離せ!!」

 

「大きく出たね・・・」

 

5人はせっかくの俺の宣言を無下にするように全国8位で手を打ってきやがった。しかも、俺の腕を抑えながら。全国8位程度じゃそんな変わんねぇだろうが!!

 

「無理に決まっている。それも、6人を教えながらなんてね」

 

武田がなんか言ってるようだがそれどころじゃねぇ。こいつらには1つ物申・・・

 

「・・・わかったよ」

 

そうと思っていたら、お父さんの一声で思いとどまった。

 

「もしこの全国模試で武田君に勝ち、全国8位以内をクリアできたのなら・・・改めて、君が娘たちに相応しいと認めよう」

 

この一声より、始まったんだ。正真正銘、六つ子たちの家庭教師の座をかけた、真の戦いが。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

朝の学校の登下校の道のり、今日は私はみんなを先に学校に行かせて、いつも通ってる私お気にのカフェでフータロー君を待ち伏せしている。と言っても別に約束してるわけじゃないよ?私がただ一方的に待ってるだけ。・・・あ、噂をすれば、フータロー君だ。

 

「・・・・・・」ぶつぶつぶつ・・・

 

うわー・・・朝からかなり・・・いやそれ以上に勉強に集中してるねー・・・。うーん・・・集中してるとこ申し訳ないけど、あれじゃ危ない人に見えちゃうからなー・・・。

 

「フータロー君、前見ないと危ないよ」

 

「・・・ん?」

 

「や、おっはー」

 

私の一声でフータロー君は私に視線を向けてくれた。

 

「なんだ六海か。今日は姉妹と一緒じゃねぇのか?」

 

むっ・・・まーた間違えてるし・・・。

 

「ブー。ふせいかーい。正解は一花お姉さんだよ。間違えないでよ」

 

「あ・・・す、すまん!いつものメガネをかけてたんでつい間違えた!!」

 

・・・あ、そういえばそうだった。私が六海に頼んで同じメガネを用意してもらったんだった。これは私にも否があるかなー?

 

「ふふ、いいよ、許したげる。お姉さんは心が広いんだぞー?」

 

「・・・にしても、一花、お前とは最近不自然なほどに登校時に会うな」

 

「えっ⁉あ、あー!わ、私はこれを買いに来ただけ!君に会えたのもただの偶然偶然!あははは!」

 

「・・・まぁいいが」

 

ふぅ・・・危ない危ない・・・。私がフータロー君を待ち伏せてたってのは何とか誤魔化せた・・・。

 

「あ、そだ。こっちはフータロー君の差し入れだよ」

 

「偶然会ったのに用意してくれてたのか・・・」

 

私がここで待っていたのはフータロー君にちょっとした貢物を渡そうと思ったんだ。これで少しは・・・

 

「だが用意して悪いが、俺はコーヒーが飲めないんだ。苦いし・・・」

 

「そ、そうなんだー・・・。じゃあ私が飲んじゃおー。おいしいのにもったいないなあー」

 

コーヒー飲めないって・・・貧乏舌のくせに・・・!変なところで味に敏感なんだから・・・

 

「遅刻する前に行くぞ」

 

「・・・・・」

 

あーあ、やっちゃったなぁ・・・、貢物作戦も失敗・・・。けど、かといって二乃みたいな直球勝負とか・・・絶対無理!だけど・・・このポジションだけは、絶対に譲りたくないんだ。

 

「あ、そういえばみんなから聞いたよ。お父さんとひと悶着あったみたいだね」

 

昨日の仕事から帰った後にみんなから一通り聞いたから昨日起こったことはある程度知ってる。

 

「まぁな。家庭教師を辞める辞めないも、これで何度目だ。やっと落ち着いてきたと思った矢先にこれだからな」

 

「しかも勝負する相手があの武田君なんでしょ?」

 

「!知ってるのか?」

 

「まぁね。2年の時同じクラスだったからね。あの時からザ・好青年って感じだったなぁ。・・・まぁ、あれはあれで大変そうだけど」

 

まぁ、私も武田君とはそこまで親しく話したわけでもないからそう感じるだけなのかもしれないけどね。

 

「・・・ふん、誰が相手だろうと、負けるつもりは毛頭ない。家庭教師のクビがかかってるわけだしな。これから月末の試験まで勉強漬けだ。今から覚悟しておけ」

 

「うへ~・・・私たちもかぁ~・・・」

 

「当然だろ」

 

まぁ、フータロー君らしいといえばフータロー君らしいけどさ。でも・・・誕生日のこと、言いそびれちゃったなぁ・・・。もうすぐなのなぁ・・・。

 

「まぁ、とはいえ、他の姉妹と違い、学年末試験の頃から働きながら勉強してきたお前のことだ。心配なんだしてないがな」

 

あ・・・フータロー君・・・ケーキ屋でのこと、覚えててくれたの・・・?

 

「むふふ、乙女の扱いがお上手になりましたねぇ。お姉さん感心・・・」

 

「つーか一花、お前なんで六海と同じメガネしてんだよ。おかげで間違えちまっただろうが」

 

「前言撤回・・・やっぱ鈍チンだよ」

 

少しは見直したのに・・・やっぱりフータロー君はフータロー君だよ・・・。

 

「どう?私も少しは知的に見えるでしょ?」

 

「六海に間違える上にバカが背伸びしてる感がある」

 

超絶失礼すぎる!!

 

「まぁ、でもこれ一応変装なんだけどね」

 

「変装・・・」

 

「ほら、昨日私が出た映画の完成試写会があって・・・」

 

「あー、そういえば四葉がそんなこと言ってたな」

 

「そうそう。あれ、そこそこテレビとかで取り上げられてるみたいでさ」

 

・・・まさか私の演じた黒歴史の映画がこうしてテレビに取りあげられてるなんて誰が想像できたんだろう。うぅ・・・思い出しただけで恥ずかしい・・・。

 

「お・・・覚えてる・・・?あの時の映画なんだけど・・・って・・・」

 

「・・・・・・」プルプル・・・

 

な、なんかフータロー君、笑いをこらえてるような表情をしてるんだけど・・・

 

「くくく・・・だから声をかけられないように変装してたのか・・・。これはたいした大女優様だぜ・・・ぷぷぷ・・・」

 

「も・・・もー!!恥ずかしいから言わないでってば!!」

 

もー・・・すぐこうやって人をからかおうとするんだから・・・フータロー君のバカ・・・。

 

「くくく・・・そういえばそうだったな。変装はお前ら六つ子の十八番だもんな」

 

「あ、それいいかも。私たち、こういう時のために常備してるんだったよ。六海なら後は鬘をつけるだけでいけるし、後は三玖や四葉ならすぐにいけるかなー。あ!二乃もでき・・・」

 

二乃にも変装できると言いかけた時、私はそこで口を動かすのをやめた。だって二乃は、フータロー君に・・・告白をしたから・・・。フータロー君もきっと・・・気にして・・・

 

「あ・・・あははは、そんなことしたらフータロー君が見分けつかないからやめよっか」

 

「ふん、見くびってもらっては困る。つい先日、あの三玖の変装を見破ったばかりだ。まぁ、正直まだ曖昧な感じだが・・・」

 

!三玖の変装を・・・見破ったって・・・。・・・それって・・・

 

「ん?あれお前の妹たちじゃないか?」

 

「え?」

 

フータロー君に言われて前を向き直るとそこには私の妹たちが見えてきた。

 

「やっと追いついたみたいだな。お前の笑える勘違いを教えてやろうぜ」

 

・・・ここで妹たちと合流したら、この2人きりの楽しい時間が終わっちゃう・・・。

 

「おいおい、五月の奴、またなんか食ってやがる。四葉の声はうるせぇし、六海は読み歩きしてるし」

 

・・・フータロー君、やめて・・・

 

「二乃がうちのバイトに入った時はさすがに驚いたが、三玖が向かいのパン屋で働きだした時は驚いたな」

 

もうやめて・・・

 

「なぜかライバル店の客向きが減ったとうちの店長が喜んでたが」

 

私の前で、他の子のことを話さないで・・・!

 

「フータロー君、待って」

 

「?なんだよ、一花」

 

私を・・・私だけを見てほしいの・・・!

 

「ねぇ、このままサボっちゃわない?」

 

私が出した提案にフータロー君は私に視線を向けてふっと笑って・・・

 

「・・・いや、ダメでしょ」

 

「( ゚Д゚)」

 

普通に否定された・・・。

 

「いいじゃん!少しだけ・・・少しだけだって!」

 

「模試があるって言ってるだろ!遊んでる場合か!」

 

「1限目は体育だし、いいじゃん!」

 

「それなら・・・って、そんなわけにいくか!!」

 

私とフータロー君の口論は遅刻寸前まで続いた。体育はフータロー君苦手なのに、真面目すぎだよ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

キーンコーンカーンコーン

 

結局2人で一緒にサボることはできず、私たちが学校についたころには学校の予冷が鳴り始めた時間だった。

 

「お前が駄々こねるから遅刻寸前じゃねぇか!」

 

「フータロー君は真面目すぎ!少しはいいじゃん!」

 

「まだ言うか・・・。ただでさえお前は昨日の勉強会はサボってんだ。しっかりしてくれよ」

 

むむぅ・・・サボってるって・・・私は私で仕事してたんだけど!そもそも私抜きで話が進んでたのも少し気にしてたんだからね!はぁ・・・うまくいかないなぁ・・・。

 

「ふぅ・・・ギリギリセーフだな」

 

私たちの教室まで辿り着き、フータロー君が教室の扉を開け・・・

 

『わああああああああああ!!』

 

「!!?」

 

え?え?何々?みんな・・・私に向かって・・・歓声なんて・・・

 

「一花さん!朝のニュース見たよ!」

 

「女優ってマジ⁉すげー!!」

 

「びっくりした!!」

 

「同じクラスにこんなスターがいるなんて思わなかったよ!」

 

「ずっとこの話題で持ちきりでだよ!」

 

あ・・・そっか・・・テレビで取り上げられてたから、皆にも私が女優であるってすぐに伝わってるんだね・・・。

 

「ずいぶん人気ね、一花は。あんたたちも鼻が高いんじゃないの?」

 

(一花ちゃん、どこまで飲み物買いに行ってたの・・・?)

 

真鍋さんや姉妹たちはいつものようにふるまっている人が一応はいるみたいだけど・・・

 

「あの映画・・・そんなにでかい映画だったのか・・・」

 

「ま、まぁね・・・」

 

それでも私の方に興味が向いている子が多いな。ははは・・・こんなに賛辞を贈られると・・・むず痒いなぁ・・・。

 

「ま、どうでもいいが・・・花火大会のオーディション、受けておいてよかったな。これでお前も、立派な噓つきだ」

 

ドクンッ・・・

 

ああ・・・こんな単純でよかったのかな・・・。君が私のことを気にかけてくれて、あの時のことを覚えていてくれた・・・。たったそれだけで・・・クラスメイトのどんな賛辞よりも・・・胸に響いてしまうんだ・・・。

 

ああ・・・やっぱりこの気持ちは偽れない・・・私は・・・

 

フータロー君のことが好きなんだ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日はクラスのみんなから引っ張りだこ状態だなぁ、私。学校の休み時間中、ずぅーっと私に質問をしてくる。まぁ、賛辞をくれるのは嬉しいんだけど・・・正直疲れちゃったなぁ。この後勉強会もあるのになぁ。

 

「おーい、一花ー。私たち、先に図書室に行ってるね」

 

「あ、私も・・・」

 

「えー!もっと話聞きたいなー!」

 

「もうちょっといいでしょ?」

 

う・・・まだ続くの・・・?ハッキリ言って、今日のところはもう勘弁してほしいんだけどなー。多分このままじゃ放課後もあっというまに終わっちゃうよ・・・。

 

「えーっと・・・ごめん!」

 

「あ!一花ちゃん待って!」

 

このままじゃ埒が明かないと思って私はクラスのみんなから逃げていく。呼び止めていくみんなの姿が見えなくなったところに、私は鬘をかぶって・・・それから三玖と同じヘッドフォンをかぶって三玖の完成。普通の人たちなら私たちを見分けることはできないからね。現に・・・

 

「あれー?どこに行ったのかなー?」

 

ほら、私を一花と見分けられず、素通りしていった。いやー・・・ごめんねー・・・。続きはまた明日にしてあげるから、今は勘弁してねー。少し安堵してると、フータロー君が教室から出てきた。

 

「お前まだここにいたのか。早く図書室に行くぞ・・・三玖」

 

三玖?・・・もしかして、フータロー君はまだ、私たちのことを完全に見分けられてないのかな・・・。

 

「あ、ごめん。私は・・・」

 

「にしても、もう公開とか、はえぇよな」

 

「え?何が?」

 

「一花の映画の話だよ。お前が昨日教えてくれたんだろうが」

 

・・・そっか・・・。三玖から映画のこと、聞いたんだ・・・。あれから、いろいろあったもんね。きっと、私とだけじゃなく・・・みんなとも・・・。やっぱり私のことだけ・・・なんて、都合のいいことはいかないか・・・。

 

『一花もみんなも、お好きにどうぞ。負けないから』

 

三玖・・・本当にいいのかな・・・私も・・・好きにやっても・・・

 

『蹴落としてでも叶えたいって、思っちゃうわ。だって、アタシの方があいつのこと、大好きなんだもの』

 

二乃・・・私だって、二乃には負けないくらい、フータロー君が好きなんだよ・・・

 

『あの子たちの姉なら、あんたもやりたいことは、我慢せずにやりなさい』

 

恵理子ちゃん・・・いいんだよね・・・私も・・・我慢せず、やりたいことをやっても・・・。だって私・・・お姉ちゃんだものね。

 

「・・・フータロー」

 

私は・・・図書室に向かおうとするフータロー君を・・・呼び止めた。

 

「?なんだ、三玖」

 

「フータロー・・・教えてあげる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一花、フータローのこと、好きだよ」

 

「!!!???」

 

すっごくお似合いだと思う

 

「な・・・」

 

私・・・全力で応援するよ

 

「嘘・・・だろ・・・?」

 

嘘じゃないよ

 

もうこの気持ちは・・・抑えられそうにない。どんな手を使ってでも・・・フータロー君のハートを私がいただいちゃうよ。例えそれで・・・妹たちを傷つけるような結果になろうとも・・・ね。

 

38「変化球勝負」

 

つづく




おまけ

六海は漫画を何でも揃えている?

風太郎「六海、お前ってよく本を読んでるよな」

六海「本は本でも漫画だけどねー。ある程度揃えてるからお姉ちゃんから貸してくれーってよく言われるんだー」

三玖「六海、戦国黙示録最新刊読んだよね?貸してほしいんだけど」

六海「いいよー」

四葉「六海ー!マスターファンタジー読みたくなっちゃった!貸してー!」

六海「どうぞどうぞ」

二乃「六海、私とあなたの恋を貸してちょうだい」

風太郎「ん?それ確か漫画じゃなくて小説・・・」

六海「もちろん」

一花「六海ー、ファッション雑誌あったよね?貸してほしいなー」

風太郎「だから漫画じゃ・・・」

六海「オッケー」

五月「六海・・・その・・・グルメ本を貸してくれませんか・・・?」

風太郎「・・・・・・」

六海「持ってっちゃってー」

風太郎「・・・地図帳貸してくれないか・・・?」

六海「やだなー、風太郎君、六海、地図帳なんて持ってないよー?漫画じゃないんだからー」

風太郎「・・・もう・・・何も言うまい・・・」

六海は漫画を何でも揃えている?  おわり

次回、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

男の戦い

「ふぅ・・・一旦休憩するか・・・」

 

「あー、疲れたー」

 

「あれ?五月ちゃんは?」

 

「用事があるって言ってた」

 

全国模試に向けて、俺はこいつらの勉強を教えるのにも、自分の勉強にも、いつも以上の気合を入れている。全国模試で8位以内に入ること、そのうえで武田に勝てば家庭教師を続けられるかもしれねぇ。そのためにも、やれることは全部やらないといけねぇ。それはわかってはいるんだが・・・

 

「上杉さん、この問題なんですが・・・」

 

「・・・・・・」ボーッ・・・

 

「上杉さん?」

 

少し・・・根を詰めすぎたか・・・昨日は徹夜で自分の勉強に集中していたからな・・・。正直言って・・・眠すぎる・・・。

 

「・・・悪い・・・少し外の空気を吸ってくる」

 

「は、はい・・・」

 

少し体調が優れねぇ・・・。気休め程度だが、外の空気さえ吸っとけば、少しは良くなるかもしれないかもしれないからな。無理をしているのはわかっているつもりだ。だがそうでもしねぇと、全国模試で上位を取ることも、あいつらの成績を元に戻すこともできねぇ。結果として今日のあいつらの学期末試験の時の成績に戻りつつある。もう少し教え込めばあいつらを元の点数に戻せるはずだ。もちろん、あいつらの自学にもかかってはいるが・・・。俺も模試勉強に集中したいところだが、そういうわけにもいかないか・・・。

 

・・・いや、弱気になるな俺!あいつらの勉強も、俺の勉強も両立させるんだ!あいつらが帰った後に勉強すれば遅れは取り戻せる!あいつらは・・・絶対に足枷なんかじゃない!!

 

「フータロー・・・」

 

「!三玖か・・・」

 

俺が考え事をしながら図書館を出ようとすると、三玖が話しかけてきた。

 

『一花、フータローのこと、好きだよ』

 

・・・一花が俺のこと好き・・・か・・・。三玖を見るとどうしてもその言葉が思い出す。・・・だが、何か妙に引っかかることがある。

 

「・・・明後日のことなんだけど・・・」

「・・・昨日のことなんだが・・・」

 

少し三玖に問いかけようとしたらそれと同時に三玖の口が開いた。

 

「え・・・何・・・?」

 

「三玖こそ、どうしたんだよ?」

 

「・・・わ、私は・・・」

 

「2人して何話してるの?」

 

三玖の話を聞こうとすると一花が話に割り込んできた。

 

「一花・・・」

 

「ん?」

 

「・・・う、ううん、何でもない・・・。ごめん、フータロー・・・やっぱり今のなしで・・・」

 

「・・・そうか。・・・俺は外の空気を吸ってくる・・・」

 

「う、うん・・・」

 

昨日の真意について聞きたかったんだが・・・一花が目の前にいるからうまいこと聞き出すことができねぇな・・・。三玖の話も少し気になったが・・・まぁ、本人がいいって言うならいいか・・・。しかし・・・一花が俺のことが好き・・・だなんて・・・気のせい・・・だよな・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

『風太郎への誕生日プレゼントについて』

 

風太郎が図書館から退室する姿を三玖と一花は見つめていた。

 

「・・・フータロー・・・大丈夫かな・・・?」

 

「大丈夫だよ」

 

三玖が心配そうにしていると、一花はそう発言した。

 

「私たちにできるのは少しでも負担を軽くするだけだからね。だから誕生日のことはいったん忘れよ?」

 

「・・・う、うん・・・」

 

「素直でよろしい♪私、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 

「うん・・・」

 

一花は三玖にそう言って自分も図書館から出ていった。風太郎の誕生日は明後日になる・・・にもかかわらずそれらを忘れようと一花が言い出したのは、先日の六つ子のラインの会話内容だ。

 

《3日後フータロー君の誕生日だよね?》

 

《うん》

 

《今日までプレゼントは何にしようかって考えてたけど》

 

《そもそも模試勉強してるフータロー君の迷惑にならないかな?》

 

《うーん・・・一理、あるかな?》

 

《でしょ?だからね・・・1度この話を白紙に戻そうよ》

 

風太郎の負担を軽くさせるためにも、誕生日から離れて、自分たちは勉強に専念しようという話になっている。・・・表向きは。この内容には裏がある。

 

(自分のしたことに罪悪感を抱いちゃダメ!私は、こう戦うと決めたんだから。全員に釘をさした今がチャンス!私1人だけがプレゼントを贈る!もう迷ってる時間はない!)

 

そう、一花は風太郎の誕生日に1人だけ抜け駆けで用意したプレゼントを渡そうとしているのだ。自分の恋を成就させるために、一花は噓つきに徹することに決めたのだ。先日の三玖になり切っての発言もまさにそのためである。妹を傷つける行為に一花は罪悪感はあれど、止まることはもう、許されない。

 

「いやー、ようやくひと段落ついたよ~」

 

「!む、六海・・・!」

 

そんな一花の企みを一蹴するかのように、妙なタイミングで六海が現れた。そして六海の手にはチケットのようなものの束があった。

 

「む、六海?その・・・紙切れの束は何・・・?」

 

「え?これ?風太郎君にあげる自作のマッサージチケットだよ。ほら、肩凝ってるって言ってたし、誕生日も近いから・・・」

 

どうやら六海が持っていたチケットの束は自分で作ったマッサージチケットらしい。六海はそれを風太郎の誕生日プレゼントとして渡すつもりらしい。

 

「はっ!いけないいけない・・・まだ秘密にするべきだった・・・」

 

「えーっと・・・六海?昨日のメッセージ見た?」

 

「ああ、あれのこと?」

 

一花の昨日のラインでのメッセージに六海は思い出したような表情になる。

 

「でもせっかくの誕生日なのに何もしないのは寂しいんじゃないかな?そういうの、我慢するのよくないと思うの」

 

「・・・っ!!」

 

六海の発言に一花は若干ながら引きつった表情を見せている。

 

「・・・あれ?ちょっと待って?ということは六海1人だけがプレゼントを渡すことに?」

 

「!!」

 

「あは♡なんてロマンチック♡効果絶大だね♡」

 

(ま・・・まさか六海が抜け駆けを企んでたなんて・・・迂闊だったよ・・・!)

 

一花はわかっていた・・・いや、わかってしまったのだ。自分のメッセージをきっかけに六海は自分より先に抜け駆けをしようとしていたことを。自分の計画が裏目に出てしまったことを一花は悔いてしまう。

 

「そういう一花ちゃんは・・・」

 

「あ~、迷っていたら遅れちゃったわ♡」

 

「!二乃・・・ちゃん・・・!」

 

六海が一花に何か問いかけようとしたらわざとらしい発言をしながら二乃がやってきた。しかも、二乃の両腕には何かを抱えていた。

 

「に・・・二乃・・・?それ、何・・・?」

 

「え?これかしら?疲労回復効果のアロマキャンドルよ」

 

二乃が抱えていたのは疲労回復効果のあるアロマキャンドルが入った包みだ。考えていることはだいたい一花と六海と同じだ。

 

「もうすぐフー君の誕生日だし・・・あ、危ないわ・・・当日まで秘密だったわね・・・」

 

「ねぇ二乃ちゃん、そのフー君呼びやめてよ」

 

「あのー?二乃さーん?私のメッセージ、呼んでくれた・・・?」

 

一花は先ほど六海にした質問を今度は二乃にも聞いてきた。

 

「ああ、あれね。でもせっかくの誕生日だもの。当日に渡したいわ。・・・どっかの誰かさんが抜け駆けするかもしれない」じっ・・・

 

「・・・・・・」ぷいっ

 

一花の質問に二乃は平然とそう答え、六海をジト目で見つめる。六海は視線から背けるように目を反らす。

 

(わ・・・忘れてた・・・!二乃はブレーキが壊れてるんだった!)

 

思い立ったらすぐ行動、そこにブレーキなどという概念は存在しない。愛の暴走機関車二乃に一花はそれを失念してしまっていたことを悔いた。

 

「それで?一花はどうなの?」

 

「え?何が?」

 

「あんたも用意してるんでしょ、プレゼント」

 

「!!!」

 

六海が今さっき一花に聞こうとしていたことはまさにそれだ。自分たちがプメッセージを無視してレゼントを用意してきたのだ。メッセージを送った張本人が用意してないはずがないと踏んだ二乃と六海。一花は観念して風太郎に渡そうとしていたプレゼントを取り出す。取り出したのは買い物で使用できるギフトカードだった。

 

「・・・この際だわ。一花、あんたに聞きたいことがある。春の旅行の最終日、アタシはあんたにパパの足止めを頼んだ。それなのにパパは待ち合わせ場所に現れた。さて、何か弁明はあるかしら?」

 

「・・・・・・」

 

二乃の問いかけに一花は押し黙っている。二乃の質問の内容は、六海もその場で聞いていたこともあって何となくだがわかっていた。沈黙が続く中、一花は口を開く。

 

「・・・私たち・・・六つ子なのに好みはバラバラだよね」

 

「!・・・そうね。そのせいでご飯を作る時毎回大変だわ」

 

妙な質問だと思ったが、一花は言葉を続ける。六海にも視線を向けて。

 

「二乃、六海・・・フータロー君は好き?」

 

「「・・・大好き」」

 

「私もだよ」

 

「「・・・っ!」」

 

「本当、なんでこんな時だけ好みが一緒なのかなぁ」

 

一花の問いに2人は包み隠さず答えた。2人の答えに一花も答えた。何となくはわかってはいたが、直で聞くとやっぱり2人にとっては結構堪える内容だった。

 

「・・・2人には悪いけど、譲るつもりはないから」

 

「・・・結構強気になったね、一花ちゃん」

 

「本当、姉ってだけで随分と上から目線ね」

 

「そもそもアロマって男の子にあげるものでもないでしょ?」

 

「はぁ!!?」

 

「マッサージチケットも、なんて言うか地味だし」

 

「う、うるさいよ!!こういうのは手作りが1番心に来るもん!!」

 

「そういうあんただってギフトカードって大概すぎるわ!!」

 

「いいじゃん、これなら本当に好きなものが買えるでしょ?」

 

バチバチバチッ!!

 

好きな男が共通とわかって、3人には目には見えない火花が大きく飛び散っている。話が終わった3人は睨みあいながら図書館へと戻っていく。

 

「わっ⁉」

 

「「「?」」」

 

3人が図書館に入ると、なぜか四葉がびっくりした。入ってきたのが一花たちとわかると、安堵した表情になる。四葉の手元には何やら折り紙があった。

 

「あはは・・・ビックリしたー。上杉さんが帰ってきたのかと思ったよー」

 

「四葉ちゃん?それ何作ってるの?」

 

「千羽鶴!休憩時間に上杉さんの試験合格を祈って作ろうかと思うんだ!」

 

「それ、病気の人にあげるやつじゃなかったっけ?」

 

「まぁ、幸運の効果はあるって聞くし・・・」

 

「ははは・・・四葉ちゃんらしいね」

 

誕生日に千羽鶴を贈るという若干ズレた認識を持つ四葉に一花たちは苦笑を浮かべる。

 

「上杉さん、あれからずっと疲れてるように見えるんだ。言わないだけで私たちに教えながらッテのがすごい負担になってるんだよ。だからせめて体を壊さないようにって・・・よしできた!」

 

1羽の鶴を完成した四葉はにこにこ笑いながら鶴を上に掲げる。

 

「でも四葉ちゃん、プレゼント中止だって・・・」

 

「・・・あ」

 

一花のメッセージを完全に忘れていた四葉はその瞬間、目元に涙を潤ませ泣き出した。

 

「ごめーん!!そんなつもりじゃなかったんだー!!」

 

「よ、四葉!ここ図書館!」

 

「そ、そんな気にしなくていいから・・・」

 

「そ、そうだよ!だから泣き止んで!ね?」

 

突然泣き出した四葉に一花たちは慌てて四葉をなだめる。

 

「自分で自分が許せないよ~!これじゃあ私だけズルしてたみたいだもん!」

 

「「「!!」」」グサッ!

 

「約束を破るなんて私はなんてことを~!!」

 

「「「っ!!」」」グサッグサッ!

 

「人として最低だ~!!」

 

「「「・・・っ!!」」」グサッグサッグサッ!

 

四葉は自責の念を抱いているが、四葉の無自覚による言葉のナイフに一花、二乃、六海は顔を酷く青ざめる。自分たちのやってることがズルだと自覚しているからなおさらである。

 

「「「・・・・・・えーっと・・・」」」

 

「一花・・・ごめん!!」

 

どう話そうかと悩んでいると、四葉と一緒にいた三玖が突然謝りだした。

 

「これ・・・スポーツジムのペア券・・・。フータローと一緒にトレーニングしようと思って・・・」

 

「「「え・・・」」」

 

「実は仕事の給料日割りでもらって買ってたんだ・・・。抜け駆けして、ごめん・・・」

 

まさか三玖までも同じ考えを持っていたことに一花、二乃、六海は少し唖然とする。

 

(やっぱり・・・私たちって六つ子だなぁ・・・)

 

みんな同じ考えを持っていたことに一花は仕方ないなといった笑みを浮かべている。

 

「じゃあ、こうしよっか。やっぱり模試前に渡すのは勉強の妨げになっちゃうから、この模試をフータロー君が乗り越えたらみんなで渡そうよ」

 

「うん!」

 

「それが1番いい」

 

一花の考えに四葉と三玖は賛成だが、二乃と六海は納得いっていないのか小声で一花に文句を言ってきた。

 

「ちょ、ちょっと、何勝手に決めてんのよ」

 

「そうだよ。というか、一花ちゃんはそれでいいの?」

 

「・・・みんな、フータロー君のことわかってないよ。・・・全員で一斉に渡しても、私のを1番喜んでくれるに決まってるもの」

 

「「・・・っ」」

 

一花の確信めいた笑みでそう断言した。その様子に二乃と六海も侮りがたいという気持ちでぎこちない笑みを浮かべている。

 

「と、いうことは当日は何もなしか・・・なんだか寂しい・・・」

 

「う~ん・・・」

 

風太郎の誕生日当日は何もなしということに三玖は寂しさを出しており、四葉は何かを考えている。

 

「!そうだ!こんなのはどうかな!」

 

四葉は何かを思いついたかのように何かを閃いた。心なしか、四葉のデカリボンもピンと立ったような気がした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

刻々と迫る模試試験に向けて、今日も俺は六つ子たちに勉強を教えている。そして、六つ子たちが家に帰った後、俺は図書館に残って自分の模試勉強に集中している・・・が・・・か、かなり眠い・・・。今もうとうとしていて、今にも眠りだしそうだ・・・。やはりここ最近の徹夜が原因か・・・。だが・・・こうでもしなければ・・・模試で8位以上など・・・夢のまた夢。だったら・・・やるしか・・・

 

「まだ帰ってなかったのですね。こんな時間まで自習だなんて、ご苦労様です」

 

「!五月」

 

俺がうとうとしていると、五月が眠気覚ましのドリンクを持ってきてくれた。まだ帰っていなかったのか。

 

「何言ってんだ。俺は苦労なんてしてねぇ。俺を誰だと思っている」

 

「言うと思っていました。これ、差し入れです。どうぞ」

 

「悪いな」

 

少し無理をしているのは自覚しているが、俺はこれを苦労だなんて思ってない。だが、ここでの眠気覚ましはすげぇありがたい。俺はすぐにその眠気覚ましを飲む。

 

「・・・先日、塾講師をされてる下田さんという方の元へ出向いてまいりました」

 

「!」

 

「バイト・・・といえるかわかりませんが、下田さんのお手伝いをしながらさらなる学力向上を目指します」

 

そういや・・・2日前に五月が勉強会を用事とか言って遅刻していたことがあったな。用事ってのはそれ関係か・・・。

 

「・・・俺じゃ力不足かよ」

 

「そう拗ねないでください。そうではありませんよ。ただ・・・模試の先の卒業の更に先の夢のために、教育の現場を見ていきたいのです」

 

・・・真面目な五月らしい答えが出てきたな。とはいえ、五月のその行動は、予想外だった。全く・・・こいつらの考えは本当に読めねぇな・・・

 

「・・・お前らのやることは本当に予測不可能だ・・・。新学年になってから・・・四葉も・・・二乃・・・一花ときて・・・・・・三玖・・・も・・・」

 

「?何かあったので・・・わっ⁉また目を開けて寝てる⁉」

 

zzzzzz・・・

 

「・・・あなたにはいずれ、話しますから・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

ブーッ、ブーッ、ブーッ・・・

 

「ん・・・いつの間に・・・」

 

どうやら俺は五月と話してる間に眠ってしまったらしい。俺のスマホの着信で目を覚ました。時間は・・・やべ、こんな時間か。それよりメールは誰が・・・らいはか。

 

『from:らいは

 

お兄ちゃん、いつ帰ってくるの?

お誕生日会の準備して待ってるよ』

 

お誕生日会?・・・ああ、そういや今日だったか・・・。勉強に集中しすぎてすっかり忘れてた・・・。もう外も暗いし、これ以上待たせるわけにもいかんな。

 

「帰るか・・・」

 

そろそろ帰ろうと思って席を立とうとすると、俺の席の前に、ある物が置かれていた。

 

「6羽・・・鶴・・・?」

 

俺の前にあったのは折り紙の千羽鶴ならぬ6羽鶴だった。いったい誰が・・・そう思っていると、鶴には何かうっすらと何かが書かれていた。これだけでこれが折り紙じゃないことがわかる。

 

「なんだこれ?何の紙を使って・・・」

 

気になって紙を広げてみたら・・・使用されていたのは英語の答案用紙だったことがわかる。そして名前の欄には三玖と書かれていた。もしやと思って他の鶴も広げてみたら・・・案の定、六つ子たちの名前が出てきた。点数は・・・学期末試験と同じ・・・いや、それ以上の点数が書かれていた。あいつら・・・ずっと頑張ってきたのか・・・。

 

「・・・1人じゃない、か・・・」

 

・・・あいつらが頑張ってるんだ。俺も、負けるわけにはいかねぇな。誕生日会が終わったら、俺もすぐに勉強を再開しないとな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから数日の時が流れて、今日がいよいよ本番の全国模試の開催日。当日ではあるのだが、せめてもの悪あがきだ。かなり眠いが・・・可能な限りは勉強を続けるぞ。

 

「お兄ちゃん!早くしないと学校遅れるよ!」

 

「後5分・・・後5分だけ復習させてくれ・・・頼む・・・」

 

「もー!しっかりしてよー!今日は大事なテストでしょ!ほら!パン食べて!」

 

らいはが学校に行くように急し、俺に食パンを食わせてきた。勉強する時間も惜しいが・・・登校する時間もあるしな・・・家でできるのはここらが限界か・・・。仕方ねぇ・・・勉強は切り上げてさっさと行くとするか。

 

「よし・・・行ってくる!」

 

「がんばってー!」

 

「気張ってきな!」

 

親父とらいはのエールを受け取りながら、俺は急いで模試会場である学校へと向かっていく。

 

「・・・お?らいは?俺の牛乳どこ行った?」

 

「え?もしかしてお兄ちゃん・・・あれ、持っていっちゃったの?」

 

♡♡♡♡♡♡

 

もうそろそろ学校につく頃合いには俺はパンを食い終わり、持ってきた牛乳で乾いた喉を潤す。とりあえずやれることはやった。後は・・・あいつらの方はどうだろうか・・・。

 

「おはようございます」

 

と、噂をすれば何とやら、か。振り向いてみたら、六つ子たちがそこにはいた。

 

「いよいよ試験当日ですね」

 

「頑張りましょー!」

 

「ってか、目の隈酷いわね」

 

「人のこと言えない・・・」

 

「はは・・・みんな同じだよー・・・」

 

「ふわー・・・どう?全国8位いけそう?」

 

よく見たら全員目の下に隈ができている。それだけこいつらも頑張ってるんだなって実感ができる。そう思うと不思議と笑みを浮かべてしまう。

 

「ああ、もちろん・・・」

 

「はははははは!!上杉君!逃げずに来たことをひとまず褒めておこう!」

 

もう学校が目の前ってところまで歩いてたら、学校の目の前で武田が立ちふさがっている。

 

「うわ・・・出た・・・」

 

「だがしかし君は後悔することになるだろう!!あの時、逃げておけばよかったと!!」

 

朝からうるさい奴だな・・・よくこんな早朝でそんな声を上げられるな。

 

「朝からうるさいわね・・・」

 

「上杉さんは負けません!」

 

「そうだそうだー!負けるもんかー!」

 

君たちには話していない!!!!!

 

・・・こいつ、こんな奴だったっけ?まぁこいつのこと、そんなに言うほど知らねぇけど。まぁいいけど。

 

「上杉君、ここが僕と君との最終決戦・・・一騎討ちで雌雄を決し・・・」

 

「お前ら急げ。まだ試験開始まで時間がある。少しでも悪あがきしておくんだな」

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

「・・・・・・」

 

これ以上こいつと話してるとなんか長くなりそうだったから早いとこ切り上げてさっさと学校へと向かっていく。・・・あ、そうだ。武田にはこれだけは言っておかないとな。

 

「悪いな。一騎討ちじゃないんだ。こっちには7人いるからな」

 

「・・・ふ、ふふふ・・・君の弱さになるよ」

 

俺は武田に言いたいことを言って六つ子を連れてさっさと学校に向かっていく。俺も、最後の仕上げとして悪あがきでもしておくか。

 

♡♡♡♡♡♡

 

時間が経って、いよいよ全国模試が始まる。周りにいる奴らはいつにもまして真剣な顔つきになっているな。それは、六つ子たちも同じか。

 

「机の中を空にして着席してください」

 

教室に入ってきた先生に言われたとおり、俺を含めて周りは机の中のものを全部かばんにしまって、そのかばんも机の下に置く。

 

「問題用紙は合図があるまで裏にしてお待ちください」

 

問題用紙と答案用紙が全員に渡った。後は合図が出れば試験開始だな。

 

「それでは、全国統一模試を開始します」

 

先生の合図で全国模試が始まった。やれることはやったんだ・・・後は俺の全力を出すだけだ。・・・それだけなんだが・・・ここで問題が発生した。

 

「・・・・・・まずいな・・・」

 

や・・・やべぇ・・・すっげぇ頭が回んねぇ・・・。襲ってくる眠気のせいでボーッとする・・・。こりゃ徹夜しすぎがまずかったか・・・。こりゃ今回ばかりはやばいかもしれねぇな・・・。

 

いや!!俺ならできる!!やってみせる!!頬でも抓りながらでも、意識を答案用紙に集中!!これくらいの問題、俺が本気を出せば、どうってことは・・・ない!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『つかの間の休息』

 

時間が経って、4科目のテストが終わり、残ったのは2科目だ。そして、4科目目が終えたころにはつかの間の休息・・・つまりはお昼休みの時間だ。六つ子たちは食堂で各々が食べたいものを頼んで、昼食にありつく。

 

「あ~っ、やっとお昼だ~!残り2科目だよ、頑張ろうね!」

 

「消費したエネルギーはしっかり補充しましょう!」

 

「フータロー・・・頭垂れてたけど、大丈夫かな・・・」

 

「後は信じるしかないわよ。じゃないと・・・せっかく用意したプレゼントが渡せないじゃない」

 

「あれー?ところでその風太郎君はどこに行ったの?」

 

「う~ん・・・それが・・・トイレに行ったっきり戻ってこないんだよね・・・。大丈夫かな?」

 

♡♡♡♡♡♡

 

ぐぎゅるるるる・・・ぐぎゅるるるる・・・

 

なんてこった・・・何でこんな日にこんな強烈な腹痛が襲ってくるんだよ・・・。まさか・・・今朝に飲んだ牛乳・・・消費期限が切れてたのか・・・?くそう・・・どっちにしろなんて不運なんだ・・・。・・・ふぅ・・・出すもん出して、ちょっとはマシになった・・・か・・・?まぁ・・・いい・・・。とりあえず出したもんは水に流して・・・便所から出るか・・・。

 

ガチャッ

 

「やぁ、上杉君。思ったより長かったね」

 

「・・・不思議といるような気がしてた」

 

便所から出ると、俺の前にいたのはやっぱりというか武田がいた。なんでか知らねぇが・・・こいつとは便所で見かけることが多いから、何となく予想はできていた。

 

「お前・・・こんなところにいていいのかよ?ここで時間を無駄にしてるくらいなら1つでも復習しておけよ。フェアじゃねぇだろ」

 

「復習?ふっふっふ・・・僕にはその必要がないのさ」

 

あ?復習する必要がない?こいつ・・・相当な自信があるのか・・・って・・・なんだ?武田の持ってるあの封筒は?

 

「・・・武田、その封筒はなんだ?」

 

「これかい?これはね・・・今回の模試の答えだ。全ての答えは、ここに書いてある」

 

「!!!???」

 

ちょ・・・ま・・・は、はあ!!??あの封筒の中身が・・・今回の模試の答え・・・だと!!?

 

「な・・・なんでそんなものが・・・つーか・・・それさえあれば・・・お前・・・」

 

「そう・・・君に確実に勝てる。君の成績がどれだけよくてもね」

 

・・・おい・・・ちょっと待て・・・。それって・・・

 

めちゃくちゃ不正じゃねぇか!!!!

 

こいつ・・・勝つためにそこまでするのか⁉いや待て・・・もしこいつの話が本当なら、武田はほぼ満点で間違いないはずだ・・・!こうなったら俺も全問正解を狙うしかないのか・・・?俺にそれができるのか・・・?

 

「ふっ・・・そう警戒しないでくれ上杉君。僕には・・・」

 

ビリィッ!!!!

 

「こんなものは必要ない」

 

武田は何を思ったのか自分で用意した模試の答えを破り捨てて・・・それを・・・便器の中に流してしまった。

 

「ふっ・・・安心してくれ。前半の科目でもあの封筒は開けていない。そもそも、あれは父さんが勝手に用意したもので僕はそんな不正を頼んだ覚えは1ミリもない」

 

「お前・・・」

 

こいつ、わざわざあの答えを処分するためにここに来たのか?それなら、なんでわざわざその用紙を俺に教えたんだ?

 

「上杉君・・・僕はね・・・宇宙飛行士になりたいんだ!」

 

「・・・ん?・・・は?」

 

こいつ、何言ってんだ?今は模試の話をしてんだろ?なんでそこで宇宙飛行士の話が出てくるんだ?

 

「・・・すまん、一から説明を・・・」

 

「地面も空気さえもないあの美しい空間に憧れてるんだ。宇宙には全てがない・・・だからそこに全てがある!!そこが・・・」

 

「わかった・・・もう説明はいい・・・」

 

なんか話が長くなりそうだったからそこで説明を切り上げる。だが・・・それとこれとで試験とどう関係があるんだ?

 

「ずっと縛られてきた僕の人生の中で唯一見つけた僕の道だ。無論、それは険しい道のりなのは承知している。宇宙に行けるのはこの地球で一握りの選ばれた者のみさ。世界中の人間が僕のライバルだ。だから僕はこんな小さな国の小さな学校で負けるわけにはいかないのさ。夢が、あるから」

 

「お前・・・」

 

「実力で君を倒す!!不正して得た結果に何の意味などない!!」

 

夢に向けてまっすぐな武田のその姿に俺は・・・

 

ぐぎゅるるるるるるる・・・

 

「うっ・・・!!?」

 

「!!?」

 

う、うおおおおお・・・ここでまた腹痛が発生するなんて・・・。だ、ダメだぁ・・・!!も、もう1回便所に入る!!

 

「・・・武田」

 

「!」

 

「お前の勝負、受けて立ってやるよ」

 

腹痛のせいで途切れてしまったが、夢に向かって進む武田の姿に俺は尊敬を覚えてくる。夢についてあまり考えたことのなかった俺にとっては憧れさえも抱いてくる。そいつがこうやって俺に向かって真剣に挑んできてるんだ。だったらそれに応えてやらねぇと武田に失礼だ。

 

「・・・はははは!何を今さら!当り前さ!僕らは永遠のライバルなのだからね!!」

 

武田は笑い声を上げながら便所から出ていった。正直に言えば・・・まだ頭がボーッとするが・・・やってやる・・・残り2科目・・・俺は絶対に、全国で8位以内に入って、武田に勝ってやるぜ!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『試験の結果』

 

「旦那様。先月行われた全国模試の結果が届きました」

 

「ご苦労」

 

街の道路の中、リムジンがどこかへと向かっていっている。リムジンの中にいるのは運転している江端と江端の報告を聞きながらアイパッドで全国模試の結果を見ているマルオだ。

 

「お嬢様方は個人差はあれど、前年より大幅に成績を伸ばしております」

 

「そうか・・・」

 

「家庭教師という選択は結果的に大成功と言えるでしょう。もちろん、お嬢様方の努力あってのことです」

 

自分の娘たちが勉学で大きく成長したことにたいして、マルオは無表情だが心なしか少しうれしそうにしている。

 

「武田様は全国4位の快挙でございます」

 

「・・・・・・」

 

「そして最後に・・・上杉様の順位は・・・

 

 

 

 

 

 

全国1位」

 

全国模試で8位以内・・・そして武田に勝つ条件は上杉の勝利で収まった。マルオはこの結果に対しても無表情だ。

 

「旦那様にとっては残念な報告になりましたが・・・彼の宣言通りになりました」

 

「・・・彼自身の口で全国1位を狙うと聞いてはいたが・・・まさか本当に1位を取るとはね。驚いたよ」

 

「先月、上杉様はなぜそこまで頑張れるのかということを、中学校の同級生である真鍋様に1度尋ねたことがあります」

 

「真鍋君・・・春の旅行先にいた彼女か・・・」

 

「真鍋様は、こうおっしゃられておりました」

 

♡♡♡♡♡♡

 

あいつが頑張る理由・・・ですか?

 

・・・さあ?私もそこまであいつのことを知ってるってわけでもないので・・・。家庭教師の件だって江端さんに聞かされるまで知りませんでしたし。

 

・・・あ、でも・・・あいつは去年から・・・六つ子たちが来てからずいぶんと変わりましたよ。面倒ごとに関わろうとしなかったあいつが自分から進んで面倒に突っ込もうとしてるのもそうだし・・・2年後半になるまで私の名前を覚えようとしませんし・・・うまく説明できませんけど・・・以前と比べれば生き生きとしていますよ。

 

あいつ自身が変わることができたのは、間違いなくあの子たち六つ子たちなんです。少なくとも・・・私にはあいつを変えることはできませんでしたから・・・影響はすごく出ていると思いますよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「お嬢様にとっても、上杉様にとっても、お互いにいい影響を受けたようですね。この家庭教師案・・・もし上杉様が引き受けていなければ・・・」

 

「・・・さてね。そんなことを考えても仕方ないよ」

 

少なくとも、娘たちがいい影響が出ているのは否定していないマルオは今回の模試の結果をじっと見つめている。

 

「・・・上杉風太郎・・・彼には悉く邪魔されてばかりだよ。彼と関わる度に、僕の考えていた予定は狂わされてしまう。全く・・・困ったものだよ・・・」

 

マルオは今回に結果に残念そうに思っているのとは裏腹に、無表情に心なしか笑みを浮かべている。

 

「・・・だが、その覚悟・・・見事だ」

 

家庭教師としての話だが、マルオは心の奥底から初めて・・・上杉風太郎という人物を認めたのであった。

 

39「男の戦い」

 

つづく




おまけ

誕生日プレゼント譲渡

六つ子「全国1位おめでとう!そして、遅くなったけど・・・お誕生日おめでとう!」

風太郎「お前ら・・・わざわざ用意してくれたのか?なんか・・・悪いな」

二乃「アタシ達がやりたいことなんだから気にしなくていいわよ。はい、フー君♡疲労回復効果のアロマキャンドル♡」

風太郎「・・・あ、あー・・・アロマな。いいよな、アロマ。ふんふんアロマね。人を選ぶが俺はうまいと思うぜ、アロマ」

二乃「・・・絶対わかってないでしょ」

三玖「フータロー・・・おめでとう。これ、スポーツジムのペア券」

風太郎「お、おう・・・」

三玖「今度、一緒に行こうね」

六海「はいはいはーい!六海のはこれ!マッサージチケットー!六海が風太郎君の肩をマッサージしてあげるよー!」

風太郎「絵だけはうまいが・・・発想が子供かよ・・・」

六海「いつでも使ってくれていいからね♪」

四葉「私と五月はこれです!千羽鶴です!上杉さん、模試勉強、お疲れ様でした!」

風太郎「これ、普通は病気の奴にあげるやつだろ。まぁいいが」

五月(私の場合、プレゼントはあの眠気覚ましのドリンクでしたし・・・あれでは味気ないので・・・いいですよね。決してうっかりしていた、というわけではありませんが・・・)

一花「最後はお姉さんだね。はい、私のプレゼントは、これね♪」

風太郎「ん?お前のだけなんか変だな。中に何が入ってんだ?」

一花「それは、開けてのお楽しみ♪」

二・六(ギフトカードって・・・大概すぎる・・・)

風太郎「・・・たく、本当にお前らは予測不可能なことをしてくるな・・・。けどまぁ・・・ありがとな」

自分のためにプレゼントを用意してくれた六つ子に風太郎は少し、嬉しさを感じるのであった。

誕生日プレゼント譲渡  おわり

次回、五月視点。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ある日の休日

皆様のおかげでお気に入り数が念願の200を越えました。感謝の気持ちでいっぱいです。

・・・だというのに、3ヶ月も投稿を遅らせてしまい、大変申し訳ございませんでした!いざ書こうとしても、書いてる途中でどうにもしっくりこなくて・・・。悩みに悩みまくりました。

気分転換にと思ってこのすばの小説にも手を付けたのも遅れてしまった原因の1つです。こっちも書いているといろいろ乗ってきちゃいまして・・・。これからも六等分の花嫁とこの微笑ましい双子に幸運を、を書くつもりですが、大変申し訳なく思っております・・・。

それから、もう1つ謝罪を。本来ならば次もデート(?)回のつもりなのですが、残りはちょっと先延ばしにしようと思っています。楽しみに待ってくださっている方のためにも、これ以上また1カ月以上も待たせるわけにもいかないと判断したためです。残りは本編が一段落し、プランを固く練ってから書こうと思います。しかしもし、もしまた1カ月以上かかりそうな場合、その時は活動報告欄に遅れることを書こうと思います。・・・遅いですよね、本当にすみません。

さて、今回は五月ちゃんとのデート(?)回なのですが、果たしてこれはデートと呼べるのでしょうか?もしかしたらそうでもないのかも・・・。いや、そもそもそう呼ぶものではないのかも・・・。読者様の判断でお願いいたします・・・。

長くなりましたが、この度は3ヶ月以上も遅れてしまい、大変申し訳ございません。こんな私の作品でも、読んでいただけると嬉しいです・・・。


時は巻き戻り、全国模試から1週間後・・・

 

「・・・で?今日は何の用で来たんだ?」

 

「いきなり扉を閉めておいてそれとは・・・」

 

本日は上杉君に用があってこうして上杉君のお宅までお邪魔してもらっ・・・ているんですが・・・相変わらず上杉君は失礼だと思います!どうしてかですか?どうもこうもありませんよ!この男は扉を開けて私を見た瞬間・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

ピンポーン

 

ガチャッ

 

「はい、どちら様で・・・」

 

「こんにちは、うえす・・・」

 

バタンッ!!

 

「ちょ・・・また・・・!何で閉めるんですか!!開けてくださいよ!!」

 

「あー・・・五月か・・・すまん、つい条件反射で・・・」

 

「去年もそんなこと言いませんでしたか?」

 

♡♡♡♡♡♡

 

というように扉を閉めてきたんですよ!人の顔を見て扉を閉めようとするなんて、失礼だと思いませんか?思いますよね?それを去年もやられたんですよ?まったく・・・この人は本当に・・・仕方のない人です。

 

「・・・今日はらいはちゃんはいないんですね」

 

「らいはなら同学年の友達と遊びに行ったぞ」

 

「そうですか・・・」

 

少し顔も合わせておこうと思ったのですが・・・いないのなら仕方ありませんね。少し、寂しい気がしますが・・・。と、いけませんいけません・・・本題に入らないと・・・。

 

「本日は上杉君にお渡ししたいものがあってやってきました」

 

「俺に?」

 

私は懐から1枚の封筒を取り出して、それを上杉君に差し出します。

 

「これは、上杉君への、家庭教師のお給料です」

 

「え?」

 

この封筒の中身がお給料だと聞いて上杉君は目を見開きました。まぁ、私たちの今の生活から見れば、驚くのも無理はないでしょう。

 

「みんなで話し合って決めたんです。全国模試から一段落したら渡そうって。まだ結果は出ておりませんが・・・私たちに勉強を教えながら、ご自分の勉強も頑張っている上杉君に、せめてもの労いをと思いまして・・・」

 

「それでわざわざ住所を知ってるお前が・・・」

 

そういうことになりますね。ただ私の予想では住所を知っている六海が行くものだと思っていましたが・・・今日は六海は二乃と四葉と一緒に買い物に出かけると言っていたので、代理として私が来たというわけです。

 

「だがいいのか?そっちも家賃のやりくりで大変だろ?」

 

「はい。ですので、今回お渡しした給与は1ヶ月分が限界なのです。これまでの分は・・・すみませんが・・・」

 

「・・・たく、出世払いでいいって言ったのに・・・本当に予測不可能だ・・・」

 

上杉君は呆れたようにして頭をかいています。ふふ、こういうところでは本当に律儀ですね。

 

「・・・・・・」

 

あれ?上杉君、頭をかいた後じっとお給与を見つめてどうしたんでしょう?嬉しい・・・という感じの顔ではなさそうですが・・・

 

「?あの・・・上杉君?どうしました?もしかして・・・何かお気に召さなかったでしょうか?」う

 

「・・・なぁ、五月・・・」

 

な、なんでしょう・・・今度は私に視線を・・・

 

「お前、なんか欲しいものでもあるか?」

 

「え?欲しいもの・・・ですか?」

 

「せっかくの給料だ。なんか買ってやるよ」

 

・・・・・・・・・え?今・・・何といいましたか?お金にうるさい上杉君が・・・私に・・・何かを・・・プレゼント?

 

「・・・上杉君。どうしましたか?勉強のしすぎで頭がおかしくなったのですか?今日は横になられた方が・・・」

 

「おい、何気に失礼だな、お前」

 

いや、しかしですね・・・上杉君が自らそんな事を言うなんて・・・天地がひっくり返すほどですよ。

 

「しかし・・・どちらにしてもそれは申し訳ないですよ。せっかくのお給料のなのに、私たちのことで・・・」

 

「いいんだよ、別に。俺の金をどう使おうと俺の勝手だろ」

 

「でも・・・」

 

「・・・それに・・・まぁ、なんだ。お前らは学期末試験でもそうだが、全国模試でも頑張ってきたからな。まだ結果は出ちゃいねぇが・・・その・・・前払いの、ご褒美・・・てやつだ」

 

ま、まさか上杉君がそんな事を言い出すなんて・・・今日は驚きの連続ですよ。・・・そうですよね。なんだかんだ言いながらも、少しずつ変わって・・・

 

「あ、言っておくが2万が制限だからな。それ以上は譲らねぇ。残りは借金返済に回すんだからな」

 

前言撤回です。やっぱり上杉君は上杉君でした。・・・まぁ、彼らしいといえばらしいですが。

 

「でも、そんな事を言われたってそんなすぐには思いつきませんよ。急な話ですし」

 

「なら先にお前の姉妹からでもいい。なんか聞いてないないのか?なんだっていいんだぞ?何でも言ってくれ」

 

「そう言われましても・・・」

 

そんな急かされたって、思いつかないものは思いつきませんよ。それに、姉妹の欲しいものなんて、何も聞いてませんし・・・。とはいえ、それで上杉君が引き下がるとは思えませんし・・・。

 

「じゃあ、こうしましょう。とりあえず雑貨店で何か良さそうなものがあれば、それをプレゼントする、という事で。どうですか?」

 

「・・・まぁ、今はそれでいいか・・・。お前もなんか欲しいものがあれば言えよ?」

 

「決まりですね」

 

一応は納得した上杉君は私と共に雑貨店に向かうために上杉家を後にするのでした。それにしても私の欲しいもの、ですか・・・。果たして見つかるでしょうか・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後、私と上杉君は私たちと姉妹のご褒美の品を探すために雑貨店へと向かっています。・・・私と上杉君の距離は結構遠いですけど。

 

「・・・おい、五月・・・」

 

「話しかけないでください!後、もう少し距離を離れてください!恋人だと思われたくありません!!」

 

「・・・・・・。

(相変わらず面倒くせぇ奴)」

 

いえ・・・上杉君のことはもちろん信用はしていますよ?してはいるんですが・・・やはりそういう系の噂はやっぱりたちたくありません。先日、どうやら四葉の方でも上杉君と付き合ってるという噂がたってたみたいですし・・・。

 

「・・・はあ。まぁいい。しかし女が喜びそうな雑貨っていったいどんなのだ?全く検討もつかんぞ」

 

「そんなに難しく考える必要はないと思いますよ。贈り物というのは、いかに相手の気持ちがこもっているかが重要なのですから」

 

「気持ちがこもっているにも関わらず、いらないと言われて突き返される場合を考えたことはあるか?」

 

「それはさすがに贈ったものが原因だと思いますけど・・・」

 

そういえばらいはちゃんの話を思い出しましたが、勤労感謝の日に単語帳を渡されたようですが、恐らく上杉君が言ってるのはそれだと思います。せっかくのプレゼントが単語帳はあんまりだと私も思います。

 

「とにかく、女の贈り物に関しては今はお前が頼りなんだ。本当に頼むぞ。あの時のようなことは二度とごめんだからな・・・」

 

「よっぽど気にしていたんですね・・・」

 

上杉君の声質から、贈り物を拒絶された事がよっぽど堪えているのか少しだけ悲しそうでした。しかしそう思うなら単語帳を贈るのはやめた方がいいと思いますよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

贈り物を決めるためにとりあえず雑貨店まで来たわけですが・・・何分小物と言っても様々な種類があるわけですから、やっぱりこれだっていうものは、姉妹の分もそうですけど、私もなかなか見つかりません。

 

「どうだ?なんかこれだっていうものは見つかったか?」

 

「いえ、これと言って特に・・・」

 

「・・・そのセンスの欠片もないそのヘアアクセを着けてるお前に聞くのは失敗だったか・・・」

 

「し、失礼ですね!!」

 

この男はどうしてこうも失礼なことばかり言うのでしょうか?そこら辺のところをもう少し考えてほしいものです。

 

「はぁ・・・もうそこらのケーキとかでよくないか?なんか面倒くさくなってきた」

 

「どうして私を見ながら言うんですか?」

 

もしかして私は食べ物をくれるなら何でもいいとか考えてないですよね?いくら私でも食べ物に釣られるなんてことはありませんからね?・・・嘘じゃありませんよ?

 

「それに自分が言ったことなのですから、そんな投げやりにならないでください。私も頑張ってアイディアを出しますので」

 

「むむむ・・・それもそうだな・・・」

 

一応自分が言ったことという事なので、しぶしぶではありますが、納得してくれたようですね。

 

「しかし、このままじゃ日がくれる・・・何かアイディアは・・・」

 

「あれ~?フータロー君?」

 

「あ、春さん」

 

上杉君が少し悩みこんでいると、偶然春さんと遭遇しました。よく見れば春さんに隠れていますが、孤児院の子供もいますね。

 

「バイト以外で会うなんて、偶然だねぇ~。ほら、お兄ちゃんとお姉ちゃんに、こんにちはは?」

 

「・・・にちわ・・・///」

 

「はい、こんにちは。春さんはお散歩ですか?」

 

「ううん~、今日はお買い物~。この子がおもちゃが欲しいって言ってて・・・」

 

「そっちも似たようなものか」

 

確かに似たような状況かもしれませんね。上杉君は姉妹のために、春さんはこの子のために・・・て・・・春さんがこちらをニヤニヤしてる表情で見てるのですが・・・

 

「いや~、それにしてもフータロー君もすみにおけないね~。二乃ちゃんともいう人がいながら他の子とデートだなんて~♪」

 

「んなっ!!?」

 

で、でででで、デートだなんてそんな・・・とんでもない!!ひどい勘違いです!!私と上杉君とはそんな関係は断じてありえません!!

 

「何バカ言ってんだ。ただの買い物の付き添いだ。それ以外あるわけねぇだろ」

 

上杉君!ナイスフォローです!

 

「ふ~ん・・・まぁ~、そういうことにしてあげよっかなぁ~♪そっちの方が面白そうだし♪」

 

「面白くありません!!!」

 

未だに春さんは私たちを見てにやにやと笑っています。私が上杉君とだなんて・・・百歩譲ってもありえませんから!!絶対です!!でも・・・なんでしょう、このモヤモヤっとした感じは?

 

「なぁ春、ちょっと参考に聞きたい事があるんだが・・・」

 

「ん~?何かな~?」

 

「お前だったら贈り物を贈られた時、何だったら喜ぶ?」

 

私だけでは贈り物を決めきれないと判断したのか、上杉君は春さんにも意見を聞いてきました。確かに他の人からの意見も参考になりますからね。

 

「・・・フータロー君」

 

「なんだ?」

 

「デート中に他の女の子にそれ聞くのはどうかと思うよ?」

 

「「だからデートじゃねぇ(ありません)!!」」

 

まだ言うんですかこの人は!!?というか、今の状況を楽しんでませんか!!?

 

「でも贈り物か~。なんだろうな~?ケーキ・・・は、アルバイトでもらえるからあんまり嬉しくないか~。う~ん・・・」

 

春さんは意外にも真剣に考えており、うんうんと首を捻っています。

 

「ん・・・ん・・・」

 

すると、春さんと一緒にいた子どもがくいくいと上杉君の服を引っ張ってきました。

 

「なんだ?俺になんか用か?」

 

「春姉ちゃん・・・お花渡されると・・・喜ぶ・・・よ・・・?」

 

「花?」

 

「お花、ですか?」

 

子どもはこくこくと頷き、同意を示しています。

 

「あ~・・・お花か~。うん、お花は大好きだよ~。香りもいい匂いで~・・・それでいて、見た目もきれいなんだよね~。女性に贈り物として渡されたら、大抵の女性は喜ぶかも~」

 

なるほど・・・お花、ですか。確かに、贈り物として渡されれば、人にもよりますが、喜ぶ人は多いですね。お母さんも、その中の1人でもありましたし。

 

「なるほど・・・確かに花ってのも悪くないかもな・・・。参考になったよ、ありがとうな」

 

なでなで

 

「・・・///」

 

上杉君は子どもにお礼を言いながら頭を撫でています。子どもは撫でられてすぐに春さんの後ろに隠れてしまいましたが、その後にその子はひょっこりと出てきて、上杉君に向かってにっこりと微笑んでいます。私はその様子に少し唖然としていました。

 

「あらあら、ごめんね~。この子、ちょっと人見知りで・・・」

 

「まぁ、そう言う奴もいるだろ。気にすんなよ」

 

「・・・春姉ちゃん・・・もう・・・行こうよ・・・」

 

「あ、ごめんね~、話し込んじゃって~。じゃあ、私たちはもう行くね~。それじゃあ、お2人に見つからないように、節度を持って楽しんでね~♪」

 

春さんは子供を連れて笑いながら手を振って私たちと別れました。節度を持ってって・・・春さん、絶対私たちの状況を楽しんでるでしょう。

 

「・・・兄ちゃん、姉ちゃん・・・その・・・バイバイ」

 

「また会いましょうね」

 

「今度はなんか土産でも持ってそっちに行くからな」

 

春さんと一緒にいた子どもは私と上杉君に向かって手を振って別れを言いながら春さんの元へと戻っていきました。

 

「なんだか・・・意外です。私、孤児院にお世話になっていた時にもあの子を見かけたんですけど、ちっとも目を合わせてくれなかったので・・・」

 

「そういや二乃との喧嘩の時に1日だけ世話になったんだったな」

 

あの子、以前孤児院にお世話になった時、何度か私のことをちらちらと見ていたのですが、話しかけることはおろか、目を合わせようともしなかったんです。だから、初対面でありながら、上杉君に話しかけていたというのが。初対面なのに失礼な発言をしたあの上杉君にです。

 

「・・・俺はなぜか小学生くらいのガキに妙に好かれてな・・・。前にらいはが同学年の友達の時もそうだ。おかげであの時はなかなか勉強がはかどらなかった」

 

「本当に意外すぎです・・・」

 

「全く、本当に俺のどこがいいのか全く分からん。俺は勉強しか取り柄のない男だというのに・・・」

 

上杉君は少し困ったような表情をしながら前髪をいじっています。・・・そういえば、六海が真鍋さんから聞いた話だと中学生の時、孤児院の子どもの1人が初対面であるはずの上杉君を信頼してお弁当を預けてたと言っていましたね。・・・もしかしたら、孤児院の子どもたちは本能的に察しているのかもしれません。本人では決して口にはしない、上杉君なりの優しさを。

 

「まぁ、それはいいとしてだ。それにしても花・・・花か。小物とはまたずいぶんとかけ離れたな・・・」

 

「いいではないですか。言ったとは思いますが、贈り物で1番大事なのは気持ちですよ、気持ち。きちんと心がこもった贈り物なら、お花でも姉妹たちは喜ぶと思います」

 

「そうは言うが・・・あいつらって、どんな花が好みなんだよ?お前らのことだから、どうせ花の好みさえもバラバラなんだろ?」

 

「うっ・・・それは・・・そうですが・・・」

 

上杉君に痛いところを突かれてしまいました・・・。昔はみんな同じ花を好んではいましたが、上杉君の言うとおり、私たちは今ではそのお花の好みさえもバラバラなんです。

 

「はぁ・・・花にだって種類があるんだぞ?小物より余計に難易度が上がってないか?」

 

「だ、大丈夫ですよ。幸いにも、姉妹の好みのお花は私がよく知っていますので」

 

「お前、自分の分のことを忘れてるだろ。ご褒美を与えるのは、あいつらだけじゃなくて、お前も含まれてるんだぞ」

 

「え?・・・あ・・・」

 

「お前、忘れてたな」

 

「・・・はい・・・」

 

はい、忘れてました。春さんの話と、姉妹の贈り物のことですっかり忘れてしまいました・・・。というか、最初に上杉君が私に何か欲しいものがないかって尋ねていたじゃないですか。しかも、未だに私の欲しいものは全く浮かび上がってこない始末・・・。

 

「すみません・・・まだ何も浮かばなくて・・・」

 

「はぁ・・・もうこうなったら本当に面倒だが、1人1人が好みそうなものを渡すしかないか?でもそれで拒まれたらすげぇ傷つくし・・・」

 

「まだ言いますかそれ」

 

プレゼント拒まれたことをどれだけ気にしているんですかこの男は⁉

 

「はぁ・・・とりあえず春の言ったことを参考に・・・」

 

「ねぇねぇ、これなんてどうかなー?」

 

「!!??」

 

上杉君がひとまずの方針を決めますと、何やら聞き覚えがありまくりの声が聞こえてきました。

 

「それ、子供っぽすぎない?絶対こっちの方がフー君にあってるわよ」

 

「えー、それより絶対こっちのほうがいいってー」

 

「私はどっちもあってると思うんだけどなー・・・」

 

それも聞き覚えのある声は1人だけでなく、3人ほどいました。

 

「ま、まさか・・・来ているのか・・・?」

 

ちょっと気になって声のした方を見てみると、案の定、彼女たちはいました。

 

「あ、それならこれはどう?風太郎君のかばんに合うと思うなー」

 

「あ、そのキーホルダーいいね!」

 

「うーん・・・まぁ、さっきのよりはずっといい方なんじゃない?」

 

この会話をしていた人物というのは、今日買い物に出かけていた二乃、四葉、そして六海の3人でした。3人とも、このお店で買い物をしていたんですね。しかし、これはちょっと都合がよいのではないのでしょうか。

 

「ちょうどいいところに二乃たちがいましたね。このまま悩んでも埒が明かないので、二乃たちも付いていった方が早いですよ」

 

私がそう提案したところ、上杉君は冷や汗をかいた状態でそれを拒みました。

 

「い・・・いや・・・それはダメだ・・・」

 

「なぜです?私よりも二乃たちに聞いた方がずっといいと思いますが・・・」

 

「四葉の場合もお前と似たような感じになるからダメだ。そして・・・あの2人がいるとなればもっとダメだ」

 

「だからなぜです?」

 

「・・・実は・・・」

 

上杉君は先日、何があったのかを語り始めました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『先日の出来事』

 

全国模試が終わってからその後日、風太郎は今日も変わらずに休日は自分の勉強をしたり、六つ子にための問題集を作ったりして過ごしている。

 

ヴゥー、ヴゥー・・・

 

そうしていると、風太郎のスマホに着信が届いた。

 

「ん?誰からだ?」

 

風太郎は気になってスマホを確認してみると、風太郎宛にメールが二件届いていた。発信者は二乃と六海だった。風太郎はすぐにそのメール内容を確認する。

 

『フー君、明日暇でしょう?アタシに付き合ってよ。いいとこに連れてってあげる』

 

『風太郎君、明日六海と遊びに行こうよ♪お昼ご飯も奢ってあげるから♪』

 

このメールの内容から、二乃と六海は遠回しにデートのお誘いをしているのだ。それに気付いてるかどうかは知らないが、風太郎はすぐにメールの返信をする。内容は・・・

 

『勉強で忙しいから断る』

 

まさかのお断りのメールであった。風太郎は迷わずに送信する。

 

「全国模試を乗り越えたからって、油断してはならないからな。あいつらのためにも、今のうちに覚えられるところは覚えて、次の試験に備えないとな」

 

メールの返信を終えた風太郎はすぐに視線をノートに移し、勉強をする。そして当然ながら翌日学校で、この件で二乃と六海から怒られたのは言うまでもない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・というわけで・・・て、なんだよ五月、その顔は・・・」

 

「上杉君・・・それはさすがにドン引きです・・・」

 

お誘いを断るにしても、もっとましな断り方はなかったのですか?よりにもよって勉強するからダメって・・・。もしかして、前に二乃と六海が怒っていたのは、この件だったのでしょうか?

 

「でも、それがなぜ3人と合流してはいけない理由になるのですか?」

 

「わからないのか?俺があいつらに誘われておきながら今現在、お前と一緒に行動している。その現場を二乃と六海たちに見られでもしてみろ・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『フー君・・・すごい偶然ね。でも、五月と一緒だなんて・・・』(威圧)

 

『・・・六海たちの誘いは断ったくせに・・・』(威圧)

 

♡♡♡♡♡♡

 

「てなるに決まっているだろ・・・」

 

「それは考えすぎなのでは?」

 

さすがに二乃と六海がそこまで深く根に持つことは・・・あれ?不思議なことに、ない、とは言い切れまないような気がしてきました。それに今日はお給料を渡したらそのまま帰る予定でしたから・・・今上杉君と一緒に外に出かけてるのを見られたら、面倒ごとになるような・・・?

 

「・・・はぁ・・・仕方ありませんね・・・。貸し1つですよ?」

 

「お、おい五月!どうするつもりだ?」

 

「私が何とかあの3人の注意を逸らします。その間に上杉君は隙を見てお店から出てください。私も、後で合流しますので」

 

「お、おい余計なことは・・・」

 

面倒事を避けるために私は1人だけで二乃たちの注意を引くために3人の元まで近づきます。

 

「あれ?おーい、五月ー」

 

「え?五月?」

 

「あれぇ?五月ちゃん?」

 

「あ・・・」

 

私のこの行為には当然、姉妹たちから真っ先に見つかります。上杉君はうまく身を隠すことは出来たでしょうか?

 

「こ・・・こんなところで偶然ですね」

 

「いや・・・こんなとこで何してんの?風太郎君にお給料を渡すんじゃなかったの?」

 

「い、いやぁ・・・それなんですが、早めに終わりまして・・・せっかくですからちょっと寄って返ろうかなぁ、と・・・」

 

「あ!そうなんだ!」

 

「・・・ふーん、そう」

 

「・・・へぇー、そうなんだ」

 

「そ、そうなんですよ、はい!」

 

四葉は簡単に納得してくれましたが、二乃と六海はこっちを疑いの目で見ています・・・。こ、これ・・・自分でやっておいてなんですが、大丈夫なんでしょうか・・・。

 

「まぁでも、ちょうどよかったよ。五月ちゃんに聞きたいことがあるんだけど」

 

「な、なんでしょうか⁉」

 

き、聞きたいことって何でしょうか?まさか、もうバレて・・・

 

「このキーホルダーとこのペンケース・・・風太郎君ならどっちが喜ぶと思う?」

 

六海が取り出したのは、いかにも六海が好みそうなキーホルダーやペンケースがありました。これのどちらが上杉君が好みかって?・・・まあ、キーホルダーの方がだいぶマシだとは思いますが・・・。

 

「き、キーホルダー、ですかね?」

 

「やっぱり、五月もそう思うわよね?」

 

「私はペンケースも十分いいとから両方でもいいと思うけど・・・」

 

「ダメよ、そんなセンスのないペンケース、フー君に合うはずがないわ」

 

「そんなことないって。前に六海のプレゼント、風太郎君もらってくれたし」

 

「何ですって!その時のこと詳しく聞かせなさいこの・・・」

 

「六海は泥棒猫じゃありませんー」

 

「ちょ、ちょっと2人とも、喧嘩はやめようよ、ね?」

 

質問している最中で六海と二乃が急に言い合いを始めましたね。なんだか最近この光景を見ることが多くなったような・・・て、それは今はいいです。もうそろそろ離れた方がよさそうですね。上杉君の姿も見えなくなりましたし。

 

「そ、それでは、私はそろそろ帰らせて・・・」

 

「あ、待って五月。よかったら私たちとお買い物しない?きっと楽しいよ!」

 

「ええ!!?」

 

こ、困りました・・・この時の対処法ってどうすればよいのでしょうか・・・?まさか買い物に誘われてくるなんて・・・。別に困るようなことでもないのですが・・・理由が理由なので、どう断れば・・・。

 

「五月?」

 

「え、ええっと・・・そのですね・・・」

 

「「・・・怪しい」」

 

「えっ!!?な、何がですか!!?」

 

私が言い淀んでいますと、二乃と六海がこちらをジト目で見つめています。

 

「だって五月ちゃん、明らかに挙動不審な態度なんだもん。怪しむなって言うのが無理だよ」

 

「五月、私たちに内緒でなんか隠してないでしょうね?」

 

な、なんと鋭いんでしょうか・・・!

 

「な、何も隠していませんよ⁉️決して!何も!!」

 

「じゃあさ、なんでそんなに慌ててるの?何もないなら堂々とすればいいのに」

 

「そ、それは・・・」

 

「やっぱり怪しい・・・。五月、さっさと白状した方が身のためよ」

 

ああ・・・私が何かを言えば言うほど、2人の疑いの目がだんだんと強くなっていきます・・・。私はいったいどうすればよいのでしょうか・・・。誰でもいいので助けてください・・・。

 

「そんなとこで何揉めてんのよ?」

 

「「「え?」」」

 

「あ!真鍋さん!お疲れ様です!」

 

私の絶体絶命といえるほどのピンチを救ってくれたのは、真鍋さんでした。なんだか今日は孤児院の人とよく合うようですがどうでもいいです!何でもいいので助けてください!

 

「何よ?これは何の揉め事よ?」

 

「あ、あのぅ・・・それはですね・・・」

 

「それが私にもよくわかりません!」

 

「はぁ・・・まぁ、だいたい検討が付くわ。どうせ上杉絡みでしょ?」

 

「え?上杉さん?」

 

「風太郎君は別に関係ないよ」

 

「そうよ。ちょっと問いただしてるだけよ」

 

すいません、だいたい上杉君が絡んでいるのは・・・大当たりです・・・。

 

「そう。・・・ああ、そういえば上杉といえば、あっちの方で上杉が1人でいるのを見たわよ?」

 

「「「「え?」」」」

 

あっちの方角って、出口とは反対側のルートですね。真鍋さんを見てみると、私に任せろと言わんばかりのアイコンタクトを私に送っています。もしかして・・・私を助けに・・・?

 

「何でもここに用があるんだと。珍しいこともあるもんね」

 

「へ、へぇ・・・そう・・・」

 

「ふーん・・・そうなんだ・・・」

 

「会いたいって思うなら会って来れば?今行けばもしかしたら、会えるかもよ?」

 

いったい何を言ってるんですか真鍋さんは。そんなことでこの3人をどかすことなんてできるわけ・・・。

 

「あ・・・あー、そういえば、あっちの方に欲しいものがあったっけー。あっちでも見ていこうかしらね。あんたたちはここで待っててもいいわよ」

 

「二乃?」

 

えぇ!!?今ので二乃がこの場から去っていこうとしてます!!?真鍋さん、いったいどんな手品を!!?

 

「わ!六海も行く!抜け駆けなんて許さないよ!!」

 

こ、今度は六海までもがあっち側へと行ってしまいました・・・。

 

「六海まで・・・」

 

「あー、四葉、私ソフトボールの用具を買いに来たんだけど、ちょっとだけ付き合ってくんないかしら?あんたの見立てが必要なのよ」

 

「え、でも2人が・・・」

 

「すぐに済むから・・・人助けだと思ってお願い!」

 

「・・・わかりました!どんと私に頼ってください!」

 

真鍋さんの買い物の付き添いのお誘いに四葉はちょっと渋ったような顔になりましたが、人助けというワードに弱い四葉は快く承諾してくれました。

 

「ごめん五月!また後で!」

 

スポーツ用具売り場へと直行していく四葉についていくように歩く真鍋さんは私の耳元でこうつぶやきました。

 

(これ、貸しにしておくわよ)

 

もしかして・・・私の今の状況をわかったうえで助けてくれたのでしょうか?でもどうして・・・?いえ、ひとまずはどうにかなったと考えるべきですかね。上杉君はお店から脱出できたでしょうか?

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの騒動を終えて、何とかお店から出ることができました・・・。あんな展開、もう二度と遭遇したくないものです・・・。

 

「思ったより早く来れたな。真鍋の奴、うまく誘導してくれたか」

 

お店を出ると、上杉君がコンビニの袋を抱えて待ってくれて・・・いえ、今何と言いましたか?真鍋さんが、誘導?

 

「上杉君、なぜ真鍋さんのことを・・・?」

 

「さすがに放っておくわけにもいかんかったから観念しようと思ったら、偶然真鍋と会ってな。事情を説明したら渋々だが協力してくれた」

 

「ああ・・・貸し1つとはそういうことだったのですね・・・」

 

「こりゃ明日、あいつにたかられるだろうな・・・。いや、あいつはそこまで高いものは要求しないし安心・・・いや、でもなぁ・・・」

 

上杉君は真鍋さんの見返りについてブツブツ言いながら頭を抱えています。真鍋さんはそこまで欲深い人ではないと・・・いや、意外に上杉君と似たところがありますから強く否定できませんね・・・。

 

「・・・まぁ、今はそんなこと考えても仕方ない。ほれ、肉まんだ。食うだろ?さっきの詫びだ」

 

「本当に悪いと思ってるなら、もう二度と変な断り方はしないでください!・・・もらえるものはもらいますが!」

 

私は申し訳なさそうにしている上杉君の持っている袋を受け取り、文句を言いながらも中にある肉まんを取り出して食べます。やはり、コンビニの肉まんはおいしいですね。

 

「お店は出たはいいですけど・・・どうします?」

 

「まだしばらく二乃たちがいるかもしれんからな・・・仕方ない。春のアドバイス通り、花屋の方へ行ってみるか」

 

「ここからだと・・・この道が1番近いですね」

 

とりあえず春さんのアドバイスに従って、私たちはスマホの案内を頼りながらお花屋さんへと続く道のりを歩いていきます。そして、歩いていくこと数分後、目的のお花屋さんが見えてきました。

 

「あ、見えてきましたね」

 

「はぁ・・・さっさと花を選んで・・・!!?」

 

「上杉君?」

 

「五月!こっちに来い!」

 

「え?」

 

お花屋さんにたどり着いたと思ったら、上杉君に連れられて近くの曲がり角に連れてこられました。こ、今度は何だというのですか⁉

 

「いやー、ごめんねー、私の買い物に付き合ってもらっちゃって・・・」

 

「別にいい。今日は暇してたし・・・」

 

うわぁ・・・またもや聞き覚えのある声が聞こえてきました。なんかこの時点で嫌な予感がしてきました・・・。

 

「上杉君・・・またですか・・・?」

 

「い、いや・・・あいつらからは何も・・・」

 

そんなことを言いながら曲がり角からこっそりとお花屋さんを覗いてみますと、やっぱり私の身内がそこにいました。

 

「んー・・・どのお花にしようかなー・・・」

 

「何でもいいと思うけど・・・」

 

お花屋さんの前にいたのは私の姉妹の一花と三玖でした。

 

「何もないのでしたら別に合流しても問題ないのではないですか?」

 

「お前、気づいてないのか?もしここであいつらと会ったら、もしかしたら二乃たちの耳に入るかもしれんだろう。そうなると、俺がお前といたことがバレるかもしれんのだぞ」

 

「あ・・・」

 

「本当に気づいてなかったのか?」

 

た、確かに私たちが一花たちと一緒にいれば遅かれ早かれ二乃たちの耳に入るのは確実ですね。もしそのことがバレて二乃たちにまたあのような追及をされたら・・・。このような事態を招いた上杉君が少し憎らしく思えてきましたよ・・・。

 

「もうこうなったら誰にも会わないようにした方がよさそうだな・・・。とにかく、今はこの場を離れよう」

 

「は、はい」

 

私たちは一花と三玖に見つからないようにしながらこっそりとその場を去り、お花屋さんを後にしました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それからは大変でした。一花たちから離れたと思ったらまたも、二乃たちと出くわしそうになってしまうわ、また離れてもまた一花と出くわしそうになるわ、人助けをしている四葉を見かけるわで走り回って散々です。

 

「はぁ・・・はぁ・・・もう、大丈夫・・・ですよね・・・?」

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・全く・・・前にもこんなことがあったな・・・」

 

体力が低い上杉君は私以上に疲労しきったように見えてきましたよ・・・。本当に男の子か疑わしくなってきます。

 

「はぁ・・・それで・・・ここはどこだ・・・?」

 

「えーっと・・・ここは・・・」

 

息を整えながら前を見てみますと、目の前には去年に行ったことのあるゲームセンターがありました。

 

「ここは・・・ゲーセンか・・・。どこまで走ったんだか・・・」

 

「・・・上杉君、覚えていますか?ここでらいはちゃんと一緒に遊んだ日のことを」

 

「急になんだ。・・・忘れるわけがない。受け取らないと言った給料で、お前とらいはと一緒に来て、柄にもなくはしゃいだものだ」

 

「ふふ、あの時が懐かしいですね」

 

あの時のことをひしひしと思いだして、心の奥底から懐かしさがこみ上げてきました。

 

「せっかくなので、また行きませんか?」

 

「はあ?急に何言ってんだ?」

 

私がふと口にした言葉に上杉君は訝し気な表情を見せました。

 

「ほんの少しの息抜きですよ」

 

「いや、さらに疲れるような気がするんだが・・・てか、買い物・・・」

 

「下手に動いたらまた見つかるかもしれませんよ?それに、上杉君がゲームセンターにいるなんて、誰も想像がつかないからちょうどよいのではないですか?」

 

「むむむ・・・確かに・・・身を隠すにはいいか・・・。まぁ・・・ちょっとだけなら・・・いい・・・のか?」

 

上杉君はとりあえずは納得してくれたようですね。贈り物を買うのが目的だったのですので、目的から脱線していますが・・・実は内心、また行ってみたいと思っていたのでちょっぴりわくわくしてます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後私と上杉君はこのゲームセンターのいくつかのゲームで遊んでいきました。らいはちゃんがいないですが、あの時と似ている場面がありました。例えば・・・

 

「・・・やはりおかしい・・・今の衝撃で落ちないのは物理的に反しているぞ!後1回・・・」

 

「上杉君、もう次に行きましょう!人が見てますよ!」

 

今みたいに射的ゲームで以前と同じことで上杉君がいちゃもんをつけているところです。こうなってくると・・・

 

「五月!まだ弾が残っている!あれを狙え!そしてこの不正を今度こそ暴くんだ!」

 

「やはり私に振るんですね・・・」

 

予感的中です。上杉君は私に弾が残っているおもちゃの銃を渡してきて、遠くにある的を撃つように指示してきました。こんなの不正でも何でもないんですが・・・弾が残ってると後味が悪いのでやりますが・・・

 

「そうは言いますが、あんな小さなものを狙うなんて・・・」

 

「何度も言うが、照星に合わせて飛距離を計算してだな・・・」

 

!!!銃を構えている私に・・・上杉君が近づいて・・・!!

 

「ひゃあ!!?」

 

パァン!

 

「またかよ!全然成長してねぇな!!」

 

「何の前触れもなく顔を近づけるからです!!」

 

全く・・・これも以前と全く同じ展開・・・。まず一声をかけてからですね・・・。

 

「くぅ・・・このままでは終われん!もう1度やって、この不正を・・・」

 

「もういいですから行きますよ!そろそろ本題に戻りませんと・・・」

 

これ以上いちゃもんをつけて大勢の人に見られる前に上杉君を連れてこの場を離れようとした時、1台のクレーンゲームが視界に映りました。

 

「?五月?どうした?」

 

「あ・・・いえ、ちょっと、懐かしいものを見つけまして・・・」

 

「懐かしい?それって、あのぬいぐるみのことか?」

 

懐かしさを感じ取っていたものは、クレーンゲームの中にある小さなぬいぐるみです。ご丁寧に、目玉といった感じで6個ありました。

 

「私たちが幼稚園に入りたての際にお母さんからプレゼントしてもらったものと同じでして、もらった際はみんな喜んでいたのをよく覚えています」

 

「ほう・・・」

 

「ただ・・・みんなに自慢しようと持っていったら、クラスのいじめっ子もそれを欲しがっていまして・・・それをめぐって喧嘩になりまして・・・その際にぬいぐるみが全部どこかになくしてしまいまして・・・」

 

ほんのちょっぴりですけど、その当時のことは覚えています。本当、あれはいったいどこにいったのでしょうね・・・。

 

「もちろん、必死になって探しましたけど、どこにもなくて・・・」

 

「・・・・・・」

 

「まぁ・・・昔のことですし、今はそこまで気にしてませんよ。ただ、そういう思い出があったってだけで、別に今とは関係・・・」

 

「じゃあ贈り物、これにするか」

 

「え?」

 

これを、贈り物に?

 

「それで、いいんですか?」

 

「大切なものだったんだろ?代わりってわけじゃない。だが、せめて同じものが手元にあった方が、少しは安心するだろ」

 

「・・・ですが・・・」

 

「まぁ見てろ。すぐに取ってやるよ」

 

上杉君は有無を言わずに6個のぬいぐるみを取ろうとクレーンゲームに挑戦します。そこまで気にしなくともよいと思うのですが・・・。

 

・・・それから、挑戦してから十数分後・・・

 

「・・・なぜだ。なぜ落とせない・・・確率的にもあれで落とせないのはおかしい!!」

 

「もういいですから!行きますよ!」

 

未だに1つも手に入れる事ができず、さっきみたいに文句を言っています。本当に恥ずかしいからやめてほしいです・・・。ああ・・・もう、本当に・・・。

 

「なー、兄ちゃん変わってくれよー」

 

「ええい、邪魔をするな・・・て、おい五月!離せ!こんな不正を許して・・・」

 

「そんな証明はしなくていいですから!みんな見てるじゃないですか!!」

 

ゲームセンターに来ている人たちの視線から外すべく、未だに興奮している上杉君を無理やり引っ張ってこの場を後にします。もう・・・本当に恥ずかしい・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

気がつけばもうすっかり夕方になっていました。時が経つのは早いですね。今私たちはひとまずは一息つけるため、公園のベンチに座っています。

 

「・・・すまなかった。取り乱した」

 

「はぁ・・・もういいですよ」

 

「・・・すまん」

 

上杉君も落ち着きを取り戻したようです。上杉君は意外にもああいったものには熱くなりがちなようですね。

 

「あー、もうすっかり日が暮れたか・・・。結局何も贈り物を買うことができなかったか・・・」

 

「もういいですよ。私は気にしてませんから」

 

「だが・・・」

 

「そうやって、私たち姉妹を気にかけてくれてるだけでも、十分です」

 

「・・・別に気にはかけていないがな・・・」

 

上杉君は素っ気なさそうに私から顔を背けました。素直ではないですね。

 

「あれ?五月お姉ちゃん?」

 

「!あれ?あなたは、千尋ちゃん?」

 

「お前・・・らいはの友達の・・・」

 

私と上杉君が話していると、孤児院の子供たちの1人であり、二乃との喧嘩騒動の際に知り合った女の子、千尋ちゃんがやってきて、声をかけてきました。

 

「お久しぶりですね、千尋ちゃん」

 

「五月お姉ちゃん、久しぶり!あたちのこと覚えてたんだ!それから、らいはちゃんのお兄さん、こんにちは!」

 

「あれ?上杉君、千尋ちゃんと会いましたか?」

 

「らいは関連で面識があるだけだ」

 

そういえば千尋ちゃんはらいはちゃんの友達でしたね。らいはちゃん本人が言っていましたし、上杉君も面識があっても不思議ではないですね。

 

「こんなところで何してたのー?」

 

「いや、ただ買い物に来ていただけだ。結局なんも買えなかったが」

 

「千尋ちゃんは何してたんですか?」

 

「あたち?あたちはねー・・・」

 

「・・・ん?待て、お前が持ってるそのぬいぐるみ・・・」

 

「え?ぬいぐるみ?」

 

千尋ちゃんの方を見てみますと、千尋ちゃんの鞄には上杉君がクレーンゲームで何度やっても取れなかったぬいぐるみがありました。それも、それぞれ6つもありました。

 

「ああ、これ?実はゲーセンのクレーンゲームでこれが取れちゃってねー。でもあたち、これとは別のものが欲しかったから、数も多いし、これをどうしようかと悩んでたんだよ」

 

千尋ちゃんの顔は本当に困ったような表情をしています。

 

「友達に譲る、とかはどうでしょう?」

 

「あたちもそう思ったんだけど、これ人気らしいからなんか取り合いになりそうだし、孤児院持って帰っても同じことが起きそうだし・・・」

 

確かに・・・私たちも昔同じことが起きましたし、孤児院の子どもたちも大人数ですから絶対数が足りませんし・・・。でも、千尋ちゃんの問題は解決したいですし・・・。

 

「・・・ならそのぬいぐるみ、俺に譲ってくれ。6つ全部だ」

 

私が悩んでいる間に、上杉君がそんなことを言いました。

 

「え?」

 

「なっ!上杉君、まだぬいぐるみを諦めてなかったのですか⁉」

 

「ここでぬいぐるみをもらえば、消費しきった金の元が戻せるんだ。なら、それを利用しない手はないだろ?」

 

またそんなことを言って・・・。そんなことで千尋ちゃんが納得するわけ・・・

 

「・・・いいよ。ぬいぐるみをあげても」

 

ほら、千尋ちゃんだって了承し・・・て、え?

 

「ち、千尋ちゃん?本当にいいんですか?」

 

「あたち、このぬいぐるみ別に欲しいわけじゃないし、喧嘩にならないなら、それでいいかなーって・・・」

 

本当にそれでいいのでしょうか?何か裏があるような・・・。

 

「なら遠慮なくもら・・・」

 

ひょい・・・

 

上杉君がぬいぐるみをもらおうと手を伸ばそうとした時、千尋ちゃんはかばんを上杉君から遠ざけました・・・て、あれ?

 

「・・・何してんだ?言ってることとやってることが全然違うぞ」

 

「・・・恵理子姉ちゃんは言ってたよ。この世でただで物をもらったり、あげたりするのはフェアじゃない、等価交換はきちんとすべきだって」

 

「あいつ・・・!」

 

「だからね、等価交換しよ?そしたらこのぬいぐるみは全部あげる」

 

何かあるとは思ってはいましたが・・・やっぱり、千尋ちゃんなりの思惑があるようです。しかし、真鍋さん、あなたは子供に何を教えてるんですか?いや、正しいとは思いますが・・・。

 

「はぁ・・・で、いくらほど欲しいんだ?」

 

「お金で解決って・・・生々しいですよ」

 

というか上杉君、子供相手にお金の交渉をしようとしないでください!

 

「お金はいらないよー。お小遣いには困ってないし」

 

「じゃあ何がいいんだよ?」

 

「んー・・・じゃあお兄さん、あたちと五月お姉ちゃんの写真を撮って!そしたらぬいぐるみはあげる!」

 

「わ、私ですか⁉」

 

千尋ちゃんはわざとらしい考えた仕草をした後に、自分のスマホを取り出し、写真を撮るように言いました。でもなぜ私をご指名するのですか⁉

 

「・・・たったそれだけでいいのか?」

 

「しかし、なぜ?」

 

「前にらいはちゃんからお兄さんと五月姉ちゃんのプリクラ写真を見せてもらったの」

 

「「あ、あれをか(ですか)・・・」」

 

以前ゲームセンターのプリクラで撮ったあの写真のことですか・・・。一応、その写真は今も持ってますが・・・。

 

「それ見てたら、なんだか五月お姉ちゃんがらいはちゃんといつも一緒にいるように思えて、ずるいなーって思ったんだー」

 

「・・・つまり?」

 

「あたち、五月お姉ちゃんと一緒にいる写真が欲しい!だから写真撮って!」

 

私ご指名ですか・・・私、カメラなどに向かって笑顔を向けるのは少々苦手なのですが・・・。

 

「五月、ご指名だぞ。行ってこい」

 

「そんな他人事みたいなことを・・・」

 

「・・・ダメ?」

 

キューーン!

 

こ、これは・・・らいはちゃんとは負け劣らずの涙目の上目遣い・・・。千尋ちゃんはずるいですよ・・・。そんな顔をされたら、断れないじゃないですか。可愛すぎます!

 

「か、構いませんよ。一緒に撮りましょうか」

 

「やったーー!!ありがとう、五月お姉ちゃん!!」

 

千尋ちゃんは満面な笑顔で私に抱き着いてきました。まさか千尋ちゃんがこれでこんなに喜んでもらえるとは思いませんでしたよ。

 

「こいつ、やたらと五月を気に入ってるな。俺や他の姉妹はそうでもないのに」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

私を慕ってくれているのは嬉しい限りですが・・・正直、千尋ちゃんがなぜ私をこんなに慕ってくれるのか理由がわからないのですが・・・。

 

「じゃあ・・・俺はお前らの写真を撮ればいいのか?」

 

「うん!お兄さん、ベストショットをお願いね!」

 

「わかったからスマホ貸してくれ。写真が撮れない」

 

「わかった!行こ、五月お姉ちゃん!」

 

「わ、千尋ちゃん!」

 

千尋ちゃんは上杉君にスマホを貸した後に私を連れて上杉君から距離を取ります。うまく写真に映り込むために。

 

「えへへ・・・五月お姉ちゃんと一緒だなんて、あたち、嬉しいな」

 

千尋ちゃんはにっこりとした笑顔で千尋のスマホに顔を向けます。

 

「おい五月、表情が固いぞ。もっと柔らかくしろ」

 

「自分は写らないからって・・・!」

 

しかも今の上杉君の顔はにたにたしたような・・・すごい腹が立ちますよ!

 

「はい、チーズ」

 

カシャッ!

 

上杉君の合図で写真が撮れたようです。

 

「あはははは!五月お姉ちゃん何これー!変な顔ー!」

 

「ぷ・・・相変わらずなんて顔をしてるんだこいつ・・・!」

 

写真を見た千尋ちゃんは笑っています。・・・千尋ちゃんはともかく、上杉君に笑われる筋合いはこっちにはありません・・・!

 

「・・・よければ上杉君もどうですか?私たちだけで写るのはフェアじゃないでしょう?」

 

「はあ!!?」

 

私の出した提案に上杉君は驚いてますが知りません。私も上杉君の変顔を撮って思いっきり笑ってやりますよ!

 

「なぜ驚くのです?当然でしょう?あなた1人だけ逃れようとしたってそうはいきませんよ」

 

「い、いや、この子が撮って欲しいのはお前だけ・・・」

 

「あたちはお兄さんも撮ってあげてもいいよ?」

 

「ほら、こう言ってますし、せっかくなので・・・」

 

「そんなせっかくはいらん!くそ!離せ!」

 

上杉君は難を逃れようと必死に抵抗しています。逃がしてなるものですか!どうせ恥をかくなら上杉君も巻き込んで・・・。

 

「あ、じゃあ3人で撮ろうっか。それならお兄さんも安心!あたち、頭いいー♪」

 

「「え?」」

 

な、なぜこんなことに?私の思っていた展開と違うんですけど・・・。千尋ちゃんはるんるんした様子でスマホをシャッターモードに設定しています。

 

「い、五月、お前・・・!」

 

「上杉君はまだいい方ですよ!私なんて2回目ですよ⁉」

 

「お前が余計なことを言うからだろ!」

 

「もとはといえば上杉君が・・・」

 

「準備できたよー」

 

私たちが言い合いをしている間に準備を終えた千尋ちゃんがとたとたとこちらに来て、私と上杉君の間に入ります。

 

「えへ、あたちと五月お姉ちゃんとお兄さんは、仲良し♪」

 

「・・・や、やっぱり俺は・・・」

 

「逃がしませんよ?」

 

上杉君が逃げようとしましたが、絶対に逃がしません。私が腕を掴んで逃げようとしたのを阻止します。

 

「はーい、スマホに向けて笑ってー!1+1はー?」

 

「「に、にぃ・・・」」

 

カシャッ!

 

予想だにしなかった2回目の写真が撮れました。が、ただ写真を撮るだけなのに、もう疲れました・・・。上杉君もちょっとお疲れの様子です。

 

「あはは!これもおもしろーい!ほら、五月お姉ちゃんたちも見て!」

 

千尋ちゃんは今さっき撮った2枚目の写真を私たちに見せてきました。その写真には笑顔の千尋ちゃんと、引きつった笑みを浮かべている私と上杉君が写っていました。

 

「お、お前やっぱりひどい顔だな!」

 

「あなただって、負けていませんよ?」

 

この写真を見て私も上杉君も若干引きつった顔をしているのがわかります。

 

「五月お姉ちゃん、お兄さん、あたちのお願いを聞いてくれて、ありがとうね。はい、これ、約束のぬいぐるみ6つ」

 

千尋ちゃんはそんな私たちに満面な笑みを浮かべながら6つのぬいぐるみが入った袋を上杉君に渡してきました。

 

「今日はあたちのわがままに付き合ってくれてありがとう!ほんの少しの間だけど、五月お姉ちゃんと会えて嬉しかったよ!今日のこの写真はあたちの宝物にするね!」

 

「むぅ・・・」

 

「ふふ」

 

まぁでも、千尋ちゃんがこんなに喜んでくれているのなら、まぁ、いいかなって思えてきました。

 

「あっと、そろそろ子供たちの面倒を見なくちゃ!恵理子姉ちゃんみたいにしっかりしないといけないから!じゃ、また会おうねー!」

 

千尋ちゃんは思い出したように手をポンと叩き、私たちに手を振って帰り道を走っていきます。

 

「なんか今日は、いろいろあったな・・・。だがようやく落ち着いた・・・すまんな、俺が言いだしたことに、振り回せてしまって」

 

「はぁ・・・もういいですよ。なんだかんだ言いましても、私も楽しめましたし」

 

まぁただし、あの修羅場はもう関わりたいとは思いませんけど。

 

「ほらよ、お前への贈り物だ」

 

上杉君は6つのぬいぐるみが入った袋を私に渡してきました。

 

「残りのぬいぐるみは俺からだと言って渡しておいてくれ」

 

「・・・いいえ、これは上杉君が姉妹に直接渡してください」

 

「え?」

 

私はそう言いながら赤いぬいぐるみを1つだけ取り、残りのぬいぐるみは上杉君に返却しました。

 

「私が渡すより、上杉君が渡された方が、姉妹も喜ぶと思いますよ」

 

「・・・理解不能だ」

 

「それだけあなたを信頼しているということですよ」

 

「・・・そうかよ」

 

私の言葉に上杉君はそっぽを向けました。無論、私もあなたを信頼していますよ。

 

「しかし、なぜ今日はこれのために・・・」

 

「・・・これまでお前らのバカさ加減には振り回されてきたが、逆にそれによって俺は何度も救われてきた。それなのに俺はまだお前らに何も返せてねぇ。だから・・・その・・・なんだ・・・。ご褒美兼、世話になった、礼だ」

 

う、上杉君・・・

 

「またとんでもなくこっぱずかしいことを・・・」

 

「う、うるせぇ・・・」

 

上杉君は恥ずかしそうにそう言い放ちました。しかし、まぁ・・・その思いは嬉しく思うところではありますね。

 

「では、これはありがたく受け取っておきますね」

 

「・・・受け取ったならさっさと帰るぞ。残りのこれは・・・面倒だから明日にするか・・・いや、らいはになんて言われるか・・・」

 

ぬいぐるみを1つ受け取った後は上杉君は帰ろうとする際に何かぶつぶつ言いだしました。

 

「上杉君」

 

「なんだよ?」

 

「今日のことは、姉妹には内緒ですよ?」

 

私は上杉君を呼び止めて、人差し指を口に添えて、内緒の意味を込めてそう言いました。今回のことは、私と上杉君の秘密、ですからね。

 

その後、帰った後は今回の件で二乃たちに疑いの目を向けられましたが、一部は伏せておいて上杉君からの贈り物がもらえるということを伝えて、しぶしぶ納得はしてくれました。そして、後日に上杉君がぬいぐるみを姉妹に渡すと、喜んでもらえたようでした。

 

40  「ある日の休日」

 

つづく




次回、風太郎、四葉視点

おまけ

孤児院の子供の名簿

千尋

外見は真鍋をまねたポニーテール。幼さが残り切っている。

イメージCV:艦隊これくしょんの吹雪

孤児院に住んでいる子供たちの1人。現在では中学1年生。真鍋を真似してか、本人はしっかり者と言ってはいるが、まだ全然幼さが残っており、一人称が今でもあたちになっている。
らいはの友達で風太郎とは一応顔見知り。
孤児院の立場では真鍋達高校生組の次に立場が上。・・・多分。
1年前の五月と二乃の姉妹喧嘩の最中で偶然五月と出会い、励ましてもらって以来、彼女は五月を慕っている。他の姉妹は見分けられないが、なぜか五月だけは見分けられている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズウォー 1回戦

1番下にある投票はまだまだ実施することになりましたから、この機会に投票してない方は、ぜひとも1票を入れてみてくださいね。


風太郎SIDE

 

「お見事、という他ないね」

 

「・・・・・・」

 

「君が10位以内に入ったとしても勝つつもりで臨んだ全国統一模試。4位というのは僕にとっても予想以上だし、願ってもいない順位だ。けどまさか、その上を・・・しかも1位を取ってしまうとはね。驚きで言葉も出ないよ」

 

「・・・・・・」

 

「1位、おめでとう。ところで、修学旅行の話になるけど・・・」

 

「おい、ちょっと待て。なぜ俺はこんな昼間からお前とブランコを漕いでいるんだ」

 

全国模試の結果が出た後の土曜日、俺はなぜか公園で武田と一緒にブランコを漕いでいる。いや、本当になんでだ?

 

「ははは、昨日の敵は今日の友ともいうだろう?これが青春というのかもしれないね」

 

「帰る」

 

つーか俺はここで遊ぶために来たわけじゃない。今日はあいつらの家に行って全国模試の反省会でもしないといけないのだから、早く帰りたいんだ。

 

「よっと」

 

俺はブランコの勢いに乗って跳び、着地する。

 

「お見事」

 

・・・四葉が跳んでいた記録にはまだ足りないか。いつかはこれを越えてみたいものだが。

 

「まぁそう焦るんじゃない。忘れたのかい?僕らは呼び出されたんだ。ほら、ご到着だ」

 

俺たちの視線の先にはいかにも金持ちが乗っていそうな高級リムジン。そのリムジンから出てきたのはやっぱりあいつら六つ子の父親だ。俺たちがこの人に呼び出されたのはもちろん忘れていない。どのみち、避けては通れない道だし、結果を受け取ったからには、呼び出されるのはわかっていた。

 

「待たせてすまなかったね」

 

お父さんが来たところで俺たちとお父さんは公園にあるベンチに座り、さっそく今回呼び出された本題に入る。

 

「まずは武田君、全国4位、おめでとう。出来のいい息子を持てて、お父さんも鼻が高いだろう」

 

「ありがとうございます」

 

「医師を目指していると聞いた。どうだろうか。君のような優秀な人材ならば、僕の病院に・・・」

 

「申し訳ございません。大変光栄なお話ではありますが、僕の進路についてはもう少し考えたいと思っております」

 

お父さんの提案に武田はそう言ってのけた。まぁ、この場を収めるためなのだろうが、俺にはこれが遠回しに断っているのだというのがわかる。こいつがこういうのはわかっていた。武田が目指しているのは医者とかじゃなくて、宇宙飛行士なのだから、当然だ。

 

「そうかい。いい返事を期待しているよ」

 

これで武田の話は終わりか。次は、俺の番か・・・。

 

「上杉君」

 

「はい」

 

「君に家庭教師の仕事を再度頼みたい」

 

「・・・え?」

 

今、お父さんはなんて?俺に、家庭教師の依頼を?俺を警戒していたあのお父さん、自ら?今までのことを考えれば、驚きでいっぱいになる。

 

「報酬は相場の6倍。アットホームで楽しい職場だ」

 

「それはよーく知っています」

 

だって以前まではそれで仕事をやっていたのだから、知っていて当然だ。

 

「・・・正直に言えば、また君に依頼するのは不本意でしかない。本来ならば、その手のプロでさえ手に余る仕事だ。・・・だが、君にしかできない仕事らしい。やるかい?」

 

・・・これ、お父さんが俺のことを家庭教師として認めてくれたって・・・ことなのか?・・・いや、この際そんなことはどうでもいい。俺の答えはとっくの昔に決まっている。

 

「もちろん、受けます!!言われなくてもやるつもりだったんだ!!給料がもらえるのならばなおさら、願ったり叶ったりです!!」

 

あいつらのバカさのおかげで、最期まで家庭教師をやり遂げようと決めたんだ。断る理由が俺にはなかった。しかも給料がもらえるのなら、さらにやる気が上がるってものだ。

 

「それはよかった。では、当初の予定通り、卒業まで・・・」

 

「あ、そのことで1つ、お伝えしたいことがあります」

 

「何だい?」

 

前までの俺だったならば、当然、卒業だけを目標にして動いていただろうが、今は違う。考え方を改めた・・・というのが正しいか。

 

「成績だけで言えば、あいつらはもうすでに卒業までいける力を見についております」

 

「ほう、頼もしいね」

 

「当初、俺もそれでいいと思ってました。だけど・・・五月の話と・・・こいつ、武田の話を聞いて、思い直しました。次の道を見つけての卒業・・・俺はあいつらの夢を見つけてやりたい」

 

まぁ、何人かはもう夢がはっきりしている奴もいるが、その夢のためにも、俺がしっかりと教えてやらないとな。たく・・・俺はいつからこんなことを考えるようになったんだか・・・。まるで自分が自分じゃないような気分だ。

 

「上杉君・・・」

 

「・・・ずいぶん大きな変わりようだね。就任直後、流されるまま嫌々こなしていた君とはまるで大違いだ」

 

「き・・・気づいてたんですか・・・?」

 

やべぇ・・・そこまで気づいてたなんて予想外だった・・・。完全にノーマークだった・・・。そう考えると俺、めっちゃ失礼だったんじゃ・・・。

 

「まぁ・・・いい。どんな方針で行こうが君の自由だ。間違っているとも思わないしね。だが・・・忘れないでほしい」ゴゴゴゴ・・・

 

「!!」ビクッ!

 

「君はあくまでも家庭教師だ。娘たちとは、紳士的に接してくれると信じているよ・・・」ゴゴゴゴ・・・

 

「も、もちろん!!一線は引いています!!俺は!!俺はね!!」

 

こ、こえぇ!!無表情の圧力がめっちゃ怖い!

 

「わかっているのならいい」

 

「は・・・はははは・・・」

 

まぁだけど・・・一応この人はこの人なりに、あいつらを心配してるんだよな。そうじゃなきゃ、あんな無表情ながらの威圧感なんか出さねぇって。そう考えると俺、ちょっと・・・いやかなり失礼なことを言ってしまったな。この人のことを何もわかってないのに父親らしいことをしろって・・・。後悔はしないが、反省はしないとな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

話が終わった後、俺はお父さんからのご厚意であいつらの家まで送ってもらった。しっかし、リムジンってあんなに広かったんだな・・・。落ち着かなかったぜ・・・。まぁいい、やっと着いたんだ。早く中に入って全国模試の反省会を・・・。

 

「「えっ!!?」」

 

俺があいつらの部屋へ向かおうとすると、出かけていたであろう五月と六海が帰って来た。

 

「う、上杉君・・・今、乗ってきたのって、お父さんの車じゃ・・・」

 

あー・・・まぁ、確かに家庭教師のうんぬんと言った後のことだからな。驚くのもの無理はないが。

 

「まさか、またパパが余計なことを言ったの?ちょっと待ってて、今度こそガツンと・・・」

 

「あー、いや・・・その必要はない」

 

「なんで?言われっぱなしじゃ・・・」

 

「そうじゃねぇって・・・。まぁ・・・家庭教師、復帰できるようになったってだけだ」

 

「「!!」」パァ

 

俺が正式に家庭教師を復帰できると聞いた途端、五月と六海の顔色が明るくなった。六海なんか取り出したスマホをしまうくらいだから、わかりやすい奴ら。て・・・そんなことはいい。早く上がろう。

 

「功績が認められたのですね!おめでとうござ・・・あれ!!?」

 

「ちょっとちょっと!何で無視するの!!?」

 

「・・・・・・」

 

「ねぇ、無視しないでよー!ちゃんと会話に参加してよー!」

 

「あー、わかったわかったから、肩を揺さぶろうとするな」

 

くそ、このまま素通りしようと思ったのだが、六海が相手だとそうもいかないか・・・。だが、あの父親にかなりの念を押されてしまったからな・・・。そうでなくても勘違いされないように、今後はこいつらとの距離感は考え直さないと・・・。まぁ、五月に限っては心配するだけ無駄なような気がするが・・・。だが、先日のようなことがあっても困るし、今後は控えることにしよう。

 

「・・・怪しいですね・・・」

 

今後のこいつらの距離感について考えながら俺はこいつらが住んでいる部屋の扉を開ける。

 

「あ!上杉さん、いらっしゃーい!」

 

「やっと来た~」

 

「遅かったじゃない。何してたのよ」

 

「・・・すまん・・・」

 

扉を開けると一花と二乃と四葉が出迎えてくれた。三玖・・・はそういえば今日はバイトだって言ってたっけ。距離感と言えばこの3人もそうだ。俺が距離を置こうとしても、あいつらがぐいぐい来るからなぁ・・・。

 

「・・・て、うおっ!!?なんだこれ!!」

 

今気が付いたらこの部屋一面段ボールだらけじゃねぇか!

 

「あはは、生活も落ち着いてきたし、大掃除してたんです」

 

「え・・・今日は反省会の予定じゃあ・・・」

 

・・・まぁ、家庭教師就任時には予定を踏み倒されてばっかだから、あれに比べたらまだ全然マシな方か・・・。

 

「ねぇ!それよりアロマ使ったかしら?」

 

「え?アロマ?」

 

アロマ?アロマって・・・なんだっけか・・・?

 

「ほら、あげたじゃない。誕生日プレゼント」

 

・・・あー、思い出した。そういえばこいつらから渡されたプレゼントの中になんかあったな。しかしアロマか・・・。

 

「あー・・・アロマな。いいよな、アロマ。ふんふんアロマね。人を選ぶが俺はうまいと思うぜ、アロマ」

 

「それ前にも聞いたわよ。絶対わからなかったでしょ」

 

あれ?そうだったか?

 

「もう!ちゃんと教えるから使いなさいよね」

 

「誕生日プレゼントで思い出した!六海のマッサージチケット、いつ使うの?」

 

ああ、あのやたらと絵だけはうまい子供の発想の塊みたいなあれか。

 

「あれか・・・。別に今は肩とか凝ってねーし、別に今はやらなくてもいい」

 

「むぅ・・・せっかく作ったのに・・・使ってくれないと意味ないよぅ・・・」

 

肩凝ってないことを伝えると頬を膨らませて不服そうな顔をしている。え、なんで?・・・なんだかよくわからんが、あれを作ったってことはそれなりにマッサージがうまいんだろうな。四葉にもマッサージやってたくらいだし、本当に肩が凝ったら使ってみるか。

 

「ねぇ、フータロー君、私のプレゼントなんだけど・・・」

 

「ん?ああ・・・お前だけなんか変だったな。あのギフトカードで買い物しろってことか?」

 

「うん。あれでらいはちゃんの好きなものを買ってあげたらくれるんじゃないかなーって思って」

 

「最高!!マジで助かる!!ありがとうな、一花!」

 

「えへへ・・・」

 

らいはに好きなものを買ってあげようにも金がいるからあのギフトカードは本当に大助かりだ。らいはのことをちゃんと考えてくれて・・・一花にはマジ感謝しかねぇわ。

 

「その手があったか・・・!」

 

「らいはちゃん使うなんてずるーい!」

 

なんでか知らんが、二乃と六海が悔しがっている。何に悔しがっているんだ、この2人は。

 

「上杉さん、私の贈り物はどうでしたかー?」

 

四葉の贈り物はまんま千羽鶴だったか。もしかして、あれ1人で全部折ったかのか?だとしたら本気ですげぇもんだぞ。

 

「ああ、あの千羽鶴か。あれ全部お前が・・・」

 

・・・はっ!いかんいかん・・・今日はお父さんに釘を刺されたばかりだった・・・。こいつらの距離感を気をつけようといった傍からこれだ・・・。あぶねぇ・・・。

 

「・・・上杉さん?」

 

「・・・あー・・・なんか今日はもう勉強できそうにないな。また日を改めるわ」

 

「え?もう帰っちゃうの?」

 

「もう少しゆっくりしていけばいいのにー」

 

「この状況でどうゆっくりすればいいんだ」

 

こんな段ボールだらけで、しかも大掃除でバタバタしてるのにゆっくりできるわけないだろうに。まぁ、いい。今日は予定が空いちまったな。今日は家に帰って勉強でも・・・

 

「・・・隠し事の匂いがします・・・」

 

俺が外に出て家に帰ろうとした瞬間、背後からうっすらと五月に声をかけられた。その登場の仕方、どうにかならんのか?ゆっくりと扉を開けて姿をうっすらと現すとか、ホラー映画のゾンビみたいだぞ。

 

「な、なんだよ、五月・・・」

 

「ピンときました。あなた、私に何か隠してませんか?」

 

ぐっ・・・意外に勘のいい奴・・・。こいつが優秀なのかポンコツなのか本当にわからんな・・・。

 

「まさか・・・やっぱりお父さんに何か言われたんじゃ・・・ちょっと抗議を・・・」

 

「だからちげぇって。別に話すようなことでもないだろ」

 

「むむむ・・・」

 

六海と同じことをやろうとしてる辺りやっぱ姉妹なんだぁと思う。まぁ、今更だが。俺が何か隠してるだろうと思っている五月は頬を膨らませている。いや、そんなんされても言うほどのことでもないだろ。

 

「・・・わかりました。ではこうしましょう。あなたが隠し事を話してくれたら、私も隠し事を1つ、話ましょう」

 

「?お前の隠し事だって?たいして興味すらないんだが・・・」

 

「なっ!いいじゃないですか!!」

 

いや、別に五月の隠し事なんて大したことでもないし、そこまで気にするほどのことでもないだろう。

 

「・・・もう、黙っているのは限界なんです・・・。こうでもしないと、言えません・・・」

 

しかし、五月の表情はどことなく真剣なものだった。うーん・・・本当に興味もないんだが・・・。まぁ、こいつには世話になってるし、相談に乗ってほしいって意味では、いい機会かもしれん。

 

「・・・じゃあ話してやるが・・・引くなよ?」

 

「ええ!ぜひ話してください!!」

 

「実はな・・・俺に、モテ期が来た」

 

「・・・うわぁ・・・」

 

おい、引くなって言ってる側から思いっきり引いてんじゃねぇか。

 

「・・・おい」

 

「あ、すいません。ですが、上杉君の口からそのような言葉が出てくるとは・・・よほど疲れているようですね。休養を取ることを強くお勧めします」

 

ぐ、こいつ・・・言いたいことを言いやがって・・・!・・・まぁ、いい。いちいち気にしててもより一層疲れるだけだ。今はこれは放っておくとして・・・

 

「・・・話を戻すが、驚くのはまだ早い。相手はあの二乃と一花だ」

 

「え?二乃と・・・一花って・・・三玖ではないのですか?」

 

「・・・いや、あいつじゃねーよ。三玖と四葉は応援するとかどうとかって言ってやがる。まった・・・俺にいったいどうしろっていうんだよ、あいつら・・・」

 

「三玖と四葉が・・・応援・・・」

 

何をすればいいのかということも、三玖のあの発言の一件もいろいろと腑に落ちないところは多々ある。そのおかげでいろいろ考えさせられる・・・。いい迷惑だ、全く。・・・だが、気にしてても仕方がない。それよりも・・・

 

「・・・おい、俺は今、めちゃくちゃ恥ずかしいことを話してやったんだ。お前も早く、それ相応の物を話せ。この場が気まずくなる」

 

「は、はい!」

 

さて、たいして興味もない五月の隠し事とやらをしっかりと聞かせてもらおうか。

 

「・・・じ・・・実は・・・私は・・・もう1つの顔があるのです」

 

「!」

 

「誰にも明かせない・・・私の、もう1つの顔・・・誰にも明かすことができませんでしたが・・・今ここで、お話ししましょう・・・」

 

「ま、まさか・・・」

 

五月の・・・誰にも言うことができないもう1つの顔・・・それは・・・もしかして・・・

 

「・・・あの・・・私が・・・」

 

「もう!何でまた外に出ていっちゃうかなー、五月ちゃんは!」

 

五月のもう1つの顔を話そうとした時、六海が扉から出てきた。

 

「あれ?風太郎君、五月ちゃんと一緒にいたんだ」

 

「ああ、ちょうど五月の恥ずかしい秘密をはな・・・」

 

「足止めありがとう、風太郎君!五月ちゃん!ちょっとこっち来て!」

 

「えっ!!?あ、いや、ちょっと・・・!!」

 

「あ、おいこら待て!!五月、俺の秘密は言ったのにフェアじゃねぇだろ!!六海、五月を連れていくなーーー!!」

 

六海は俺の制止の声も聞かず、五月を連れていって部屋の奥へと行っちまった。なんだよそれ!!俺恥ずかし損じゃねぇか!!

 

「・・・まぁ、大方の予想はついているがな・・・」

 

どうせ五月の裏の顔ってのは十中八九、あれのことだろうな。しかしこのもんもんをどこにぶつけりゃいいっていうんだよ・・・。

 

「あれ?上杉さん、まだいたんですね。また会えて嬉しいです!」

 

「四葉か・・・」

 

このもんもんをどうしようと思ってたら古い新聞紙の束を持った四葉が出てきた。大方古い新聞を捨てるつもりだったのだろう。ちょうどいい・・・このもんもんを四葉にぶつけるか。ちょうど、五月の裏の顔っていうネタもあるしな。

 

「それで、上杉さんは今ここで何を・・・」

 

「なぁ四葉、有名レビュワーのM・A・Y(メイ)って知ってるか?」

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『女の戦』

 

有名レビュワー、M・A・Y(メイ)の正体を話したところで、風太郎はこの場を離れて、自分の家へと帰宅していった。風太郎が帰って数分後、ちょうどパン屋のアルバイトを終えた三玖が帰って来た。

 

「おーい、三玖―、バイトお疲れー」

 

「四葉」

 

「最近毎日頑張ってるよねー。ねぇ、三玖は知ってた?五月って・・・」

 

「ちょうどよかった。私の作ったパン、食べて」

 

「( ゚Д゚)」

 

三玖の作ったものの試食を頼まれた四葉は表情が固まった。しかし、元が優しい四葉ゆえ、三玖の頼みを断るはずもない。

 

「モ・・・モチロンイイヨー・・・」

 

「よかった。じゃあ、これがそのパン」

 

片ことながらも試食を了承した四葉に三玖は自身が作ったパンを受け取る。見た目は普通のクロワッサンそのものではあるが問題は味である。

 

「見た目はおいしそう・・・」

 

「食べて感想、聞かせて」

 

「じゃあ・・・いただきます」

 

四葉は意を決して三玖の作ったパンを試食する。そして・・・その味は・・・

 

「!おいしい!!」

 

四葉の口をうならせるほどのおいしさだったらしい。五月の方がいろいろと的確だろうが、それでも三玖にとってこれは大きな進歩である。

 

「これ、三玖が作ったって本当⁉すっごくおいしいよ!」

 

「ずっと特訓してたから・・・よかった・・・」

 

「もう少し早ければなー。ここに上杉さんが来てたの」

 

「ううん・・・割と都合がよかった・・・。もう少し待って・・・フータローにはとっておきの舞台で1番いいのを食べてもらうんだ」

 

三玖の静かな笑みを浮かべ、四葉はそれを見てにっこりと微笑む。

 

「ところで、とっておきって・・・?」

 

「ほら、京都の・・・」

 

三玖は四葉にそのとっておきの舞台について話す。

 

一方その頃、六海は五月をリビングに無理やり連れていき、そこに段ボールに隠れるように置かれていた白い箱を指さしている。

 

「これ、五月ちゃんのやつでしょ。秘密にしてほしいって言ってた」

 

「あ、ああ!そ、そうです!すみません、ちゃんと隠しててくれたんですね・・・」

 

「まったくー・・・先に見つけたのが六海だったからよかったものの・・・隠す気がないのなら早く捨ててよねー」

 

「返す言葉もありません・・・」

 

五月に返すものを返した六海はリビングから出て、別の部屋に入っていった。五月も白い箱を処理しようと白い箱を持ってリビングを出ようとする。

 

「あれ?五月ちゃん?もしかして、今六海と話してた?」

 

そこへ偶然一花が鉢合わせる。箱の中身はちゃんと蓋で閉じているため一花に見られることはないので五月は少々戸惑ったが、冷静を装う。

 

「え、ええ。ちょうど着なくなった服を六海が見つけたので、それの確認を・・・」

 

「いらないものは捨てなよー。て、私が言えたことでもないかー」

 

「ははは、六海にも同じことを言われました・・・」

 

「おっと、余計なお世話だったかなー。ごめんね」

 

五月は白い箱を持ってせっせとリビングから出ていく。すると五月は何かを落としていった。

 

「!ねぇ、五月ちゃん、何か落として・・」

 

五月の落とし物を拾い上げた一花は落とし物を見て目を見開いた。五月が落としていったのは1枚の写真であった。

 

「これ・・・京都の・・・」

 

どうやら写真に写ってた風景は京都らしい。が、そこは重要ではない。一花が目を見開いていたのは理由はその写真に写っている人物にある。

 

「・・・そっか・・・」

 

その写真に何かに気が付いた一花は、怪しく微笑んでいる。

 

一方の五月はトイレへと入っていき、そこに白い箱を蓋が閉じた便座に白い箱を置く。

 

「・・・やっぱり・・・言えない・・・京都のことも・・・全て・・・」

 

白い箱の中に入っていたのは、白のワンピースに白のハイヒール、白いハット帽子に、ピンクの鬘だった。

 

「こんなこと・・・なんて説明したら・・・」

 

五月は何やら思いつめた様子でそれらの服を見つめていた。

 

一方六海は自分のかばんからがさごそと何かを探っている。

 

「・・・早いところ、六海も行動に移さないと、だよね。今のままじゃ、差が広がっちゃう」

 

何かを見つけたそれを六海は取り出す。取り出したそれは、修学旅行のしおりだった。

 

「このとっておきの舞台で、六海は風太郎君と距離を縮める。そして・・・風太郎君に・・・ちゃんと好きだって告白するんだ・・・」

 

六海は決意がこもったような表情と瞳で修学旅行のしおりを見つめる。

 

一方、キッチンにいた二乃は自分の修学旅行のしおりをじっと見つめている。

 

「・・・追いつかれるわけには、いかないわ」

 

二乃の表情からは、他の姉妹には負けられないという気持ちが出ている。

 

(もうすぐ来るこの高校最大のイベント、修学旅行・・・これがきっと、フー君を振り向かせる最大のチャンス)

 

修学旅行の行き先は、六つ子にとっても、風太郎にとっても記憶に深く残っている場所・・・京都。

 

「修学旅行・・・行き先は京都・・・ここで決着をつけてやるわ」

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉SIDE

 

大掃除をやった日、三玖にパンの試食を頼まれてからというもの、私はその後も試食を頼まれて、三玖のバイトの日には必ずパン屋に行くことになりました。そして現在もパン屋、こむぎ屋に来て三玖の作ったパンを試食・・・のつもりなんですが・・・

 

「・・・えーっと・・・三玖、ここってパン屋さんだよね?炭屋さんじゃなくて」

 

「・・・やっぱり、不格好、だよね・・・。これは食べなくていいよ・・・」

 

私の目の前にあるパンはパンの形をしていますが、とにかく真っ黒こげで一目で炭や石と勘違いしてしまうような出来でした。三玖には申し訳ないけど、これは食べられたものじゃありません。

 

「・・・ま、まぁ・・・中野さんはまだまだバイト始めたばかりだし・・・パン作りは難しいし誰でもこうなるよ。幸いにも、向かいのケーキ屋はそれほど脅威じゃないよ」

 

三玖のフォローに回っているのはこのパン屋さんの女性店長さんでした。ちなみに、この店長さん、上杉さんのアルバイト先である向かいのケーキ屋さんにたいしてライバル心を燃やしてるらしいです。

 

「私もできる限り教えていくから、上達していこう!」

 

「はい!」

 

おお!三玖がやる気に満ち溢れている。よーし、私も三玖を支えるために、全力で応援しよう!これからも三玖の様子を見に行こう!

 

・・・そう思って次の日も三玖のバイト先に顔を出して、パンを試食しようと・・・思ったんですけど・・・

 

「・・・なんかべちゃべちゃしてる・・・」

 

「・・・うん。これは私も失敗なのはわかる・・・」

 

目の前に出されたパンはどういうわけかパンがトロッとしてて、べっちゃりとしてて、手に甘いものが付きまくってます。

 

「おかしい・・・手順通り作らせてるのに・・・不思議な力で何故か失敗する・・・。最近向かいの店、調子よさげみたいだし・・・」

 

この出来栄えには教えている店長さん自身も落ち込んでいます。どうしてこんな風になるんだろう・・・?

 

「・・・やっぱり私、才能ないのかなぁ・・・六海に試食避けられてばっかりだし・・・」

 

ま、まずい!三玖が自信をなくしかけてる!私が何とかフォローしてあげなくちゃ!

 

「だ、大丈夫!私が食べた成功例があるじゃん!幻なんかじゃないって!それに前より食べ物に近づいてるし、この調子だよ!」

 

「・・・うん・・・ありがとう・・・」

 

ふぅ・・・なんとか持ち直してくれた・・・。少しずつつ食べ物に近づいてるのは事実だし、次には絶対によくなってるよね、きっと。

 

そしてさらに次の日、今日もパン屋に来ています。そして、目の前に出されたパンは・・・正真正銘、私があの時に見たパンと同じ形をしていた。

 

「パンだ・・・。やったね三玖!やっと形を成せたね!」

 

「えっへん」

 

ちゃんとした形のパンを褒めたら三玖ってば嬉しそうにしてる。私も嬉しい気持ちでいっぱいです!

 

「まだお店に出せるレベルじゃないけど・・・三玖ちゃんがここまで作れるようになってくれて、私も嬉しいよ・・・」

 

店長さん、やけに疲れ気味ですね。三玖のここまでご指導、ありがとうございました。そして、お疲れ様です。

 

「店長さん、ありがとうございます」

 

「ねぇ三玖、やっぱりすぐに上杉さんに食べてもらおうよ。きっと驚くよ」

 

私が三玖にそう提案すると、三玖は首を横に振って反対します。

 

「ううん。形ができただけ。これはおいしいパンじゃない。だからまだダメ」

 

「そういえば、修学旅行までにって言ってたっけ?」

 

「はい。1日目のお昼が自由昼食のはず・・・。侵掠すること火の如し・・・そこで私のとっておき・・・最高傑作をあげるんだ」

 

「そっか!絶対喜んでくれるよ!」

 

きっと三玖の頑張りは上杉さんに届くよね!こんなに頑張ってるんだもん!

 

「・・・でも、問題が1つ・・・」

 

「あ、あれのことだよね」

 

三玖が不安に思っていることといえば、やっぱり、あれだよね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

次の日の学校、私と上杉さんは皆さんの前に立ち、修学旅行の話に入ろうとしています。

 

「全国模試も無事終わった、ということで、修学旅行の話に本格的に入りたいと思います。事前に配られたパンフレットに三日間の流れは書かれていますが、皆さんは明日までに班を決めておいてください」

 

皆さんは誰と班になろうとかということでざわざわしています。わかる・・・わかりますその気持ち!誰だってこの人とペアを組みたいって思いはありますよね!

 

「当日はこの班ごとの行動となります。なお、定員は6人までです」

 

そしてこれが・・・三玖の最大の問題の1つであり・・・私がやらなければいけない重大な役目!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『同じ班じゃなきゃ、お昼を一緒にできないかもしれない』

 

『確かに!自由に行動できる日もあるけど、基本は班行動だしね』

 

『うん・・・それもあるけど・・・何より、フータローと一緒に行動したい』

 

『うんうん・・・三玖!私に任せて!』

 

『四葉?』

 

『私と上杉さんで班になろうよ!私から上杉さんに言っておくから!』

 

『え?いいの?』

 

『いいのいいの!どーんと私に頼って!』

 

『四葉・・・ありがとう』

 

♡♡♡♡♡♡

 

私が言ったことなんだから、私と三玖と上杉さんのペア・・・必ず実現させてあげなきゃ!さーってと、ホームルームも終わったし・・・上杉さんはどこに・・・あ、いたいた!何やら武田さんに坂本さん、前田さんと一緒にいますね。

 

「おーい、上杉さー・・・」

 

「四葉」

 

「!一花・・・」

 

私が上杉さんに声をかけようとしたら、一花が私に声をかけてきました。

 

「ちょっとこっちに来てくれるかな?話があるの」

 

?一花の話?なんだろう・・・?後ででもいいかな?私は一花に手招きで誘導されるがまま、誰もいない教室に向かっていった。

 

「どーしたの、一花?話って・・・」

 

「・・・修学旅行、楽しみだね。私たち、京都って、初めてだっけ?」

 

「違うよ。小学生の頃に行ったじゃん。忘れたの?」

 

「ああ、そうだったね。四葉はまた行きたいところって、あるかな?」

 

「べただけど・・・お寺かな~・・・」

 

もしかして、お寺に行こうっていう話かな?でもなんでわざわざ・・・

 

「ところで話は変わるけど、クラスのみんなは6人班で悩んでるみたい。だけど私たちにはお誂え向きだよね!」

 

「あ!あ・・・ははは・・・六つ子でよかったね・・・」

 

あれ?話的にも・・・まずいんじゃ・・・。私たちが6人班で行ったら・・・三玖の願いが・・・

 

「でも、フータロー君はどうだろうね?」

 

ギクッ!!ここで上杉さんの話!!?ますますやばくなっていくような気が・・・!な、なんとか言っておかないと・・・!

 

「もう3年生なのに、友達いなさそうだもんねー。全国1位になっても人望ないから変わんなさそうだしねー・・・。お姉さん、ちょっと心配だなー」

 

「あ、ああ・・・それなら・・・」

 

「よし!ここは1つ、私たちで一肌脱いであげようよ」

 

「え?一花?」

 

い、一花はいったい何を言って・・・

 

私と四葉とフータロー君で一班・・・いいよね?

 

「!!」

 

え・・・えええええ!!い、一花!ど、どうしてこのタイミングでそんな発言を・・・!そんなことしたら、三玖の・・・

 

「あ、ごめん、電話だ。じゃあ四葉、後はよろしくね」

 

「え!待って・・・」

 

・・・行っちゃった・・・。・・・ど、どうしよー・・・。あの様子じゃ今さら断るなんてできないし・・・何でこんなことに・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

解決策も見つからないまま、私は勉強会会場である図書室にやってきました。みんなもすでに集まっている状態です。遅れてですが、上杉さんも到着しました。

 

「お、今日は珍しく三玖が参加か」

 

「この後バイトだけど、ちょっとだけ参加する」

 

「全国模試以来の全員集合ですね」

 

「そうだね!あれから結構時がたったからね!」

 

今は勉強に集中するけど・・・修学旅行の班決めも明日までだし・・・なんとしてでも・・・なんとしてでも解決法を見出さないと・・・。

 

「・・・五月、フー君に何熱い視線を向けてんのよ」

 

「フー君呼びやめてよ二乃ちゃん」

 

「い、いえ!さ、勉強を始めましょう!そうしましょう!」

 

「・・・その前に・・・修学旅行の話がしたい」

 

「え?」

 

!!三玖!!?ここで修学旅行の話を!!?となると三玖がする話って・・・

 

「フータロー・・・誰と組むか決めた?」

 

「!!」

 

や、やっぱり・・・三玖は上杉さんと組みたがってるし、言うのは当然・・・だよね・・・。

 

「・・・俺は・・・」

 

「はいはいはーい!ここで六海の発言を許可お願いしまーす!」

 

む、六海?いったい何を言うつもりなの・・・?

 

「ねぇ、今回の班決め、風太郎君は当然六海と組むよね?」

 

「!!!」

 

「は?」

 

いやーーーー!!!これ以上ややこしくして、お姉ちゃんを困らせるようなことはやめてよ六海ーーー!!

 

「実はもう五月ちゃんと話はつけてあるんだー。六海と四葉ちゃんと五月ちゃんと風太郎君の4人ペア!」

 

「え?」

 

「うえ!!??」

 

わ、私ーーーーー!!??

 

「そうだよね、五月ちゃん?」

 

「あ、は、はい。確かに図書室に来る前に、六海とそういう話がありまして・・・四葉と一緒・・・ということなら・・・オッケーを出しました」

 

五月までなんてことを!!?私、了承なんてしてないのにーーー!!!

 

「ほらぁ!後は四葉ちゃんと風太郎君の了承を得るだけ!それで晴れて一班のかんせ・・・」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

六海の発言をストップをかけてきたのは一花でした。こ、今度は何を・・・

 

「その言い方だと、まだ班を組んでないってことだよね?」

 

「え?まぁ、そうだけど・・・」

 

「だったら今回の班決めで四葉が話したいことがあるって!!」

 

「ええ!!?」

 

こ、ここで私に話を振るのぉ!!?いったい何を考えてるの一花ぁ!!?

 

「え、ええーっと・・・私は・・・」

 

「ほら・・・ね?」

 

う、うぅ・・・

 

「・・・何?」

 

え、えぇっと・・・

 

「四葉ちゃん、ダメ?」

 

そ、そのぅ・・・

 

「どうした?早く言えよ」

 

ど・・・どうしよう・・・この場をなんて切り抜けよう・・・。三玖も一花も・・・そして五月と六海も一緒にいた方がいい・・・よね・・・?だけど・・・二乃だけが取り残されちゃう・・・。改めて考えると・・・姉妹一緒じゃないと・・・

 

「・・・あ!そうだ!!この際みんなで同じ班になろうよ!!上杉さんも一緒に!!」

 

「は?」

 

「確かにそれが1番だと思うけど・・・」

 

「でも四葉ちゃん・・・店員は6人までって・・・」

 

「うん。だから私以外のみんなでってこと!これなら万事解決、だよね!」

 

こうすれば私以外の全員は上杉さんと一緒にいられる。みんな争わない。私は真鍋さんと同じ班になればいい。それで解決。うん・・・これでいいんだ。

 

「でも四葉・・・いくらなんでもそれは・・・」

 

「そうだ四葉。それはできねぇよ」

 

「え?何か問題でもありますか?」

 

お願い、上杉さん・・・この場は同意してください・・・。この場を治めるためには、これ以外にないんです。

 

「・・・ああ、大問題だ。それがある以上、認められない」

 

「ええ、そうね。大問題ね。そんなこと、だれも望んでないってこと。少なくとも・・・私はね」

 

え・・・じゃあ・・・どうすればいいっていうの・・・?私の思いとは知らずに二乃は話を進めます。

 

「例えば・・・そうね・・・こんなのはどうかしら?アタシとフー君が2人っきりの班を組むの」

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

「四葉が何を言おうとしたか知らないけど、そんなのは通らない。アタシが通らせない。だって、アタシは最初から決めてたもの」

 

え・・・え・・・え・・・?

 

「アタシは、アタシの好きな人と2人っきりで回る。あんたに拒否権なんかないんだから」

 

ええええええええええ!!!???二乃ぉ!!?なんて大胆発言を!!?いや、それよりもまさか・・・二乃も上杉さんを・・・!!?

 

「お、おい・・・二乃・・・勝手に・・・」

 

「フー君は黙ってて。で、反論はいる?」

 

「「・・・・・・」」

 

二乃の問いかけに、一花と六海はもう、何も言えなくなってしまっています。そ、そうだ・・・三玖は・・・?

 

「・・・ふ・・・フー君・・・わ・・・わた・・・私も・・・」

 

「・・・三玖、言いたいことがあるなら・・・今、ここで、ハッキリと、言ってみなさい」

 

み、三玖・・・頑張って・・・自分の意見を・・・

 

「・・・・・・・・・ううん・・・何でも・・・ない・・・」

 

三玖・・・。

 

「・・・決まりね」

 

「おい、勝手に決めんな。まず俺の話を聞けって。人を差し置いて勝手に決めやがって」

 

「だーかーらー、今は黙ってなさいって!いい?あんたみたいなのがアタシとデートできるのよ?感謝しなさ・・・」

 

「いや、それ以前に俺・・・武田と坂本と前田とで4人班を組んだぞ」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

「いや、これマジな話だ。・・・すまんな」

 

え・・・ということは・・・これまでの討論は・・・全部無意味?

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・えっと・・・まぁ・・・とりあえずは・・・全員班が決まったわけ・・・なんですけど・・・

 

「はい、これで班分けも決まったということで、各班、班長を決めておくように」

 

・・・班長決め、かぁ・・・。その前に・・・私が一時は入ろうと考えた真鍋さんの班は・・・

 

「班長、恵理子でいいかな?」

 

「ええ、構わないわよ。その方が気が楽でしょ?」

 

松井さんと同じ班を組んで、班長が真鍋さんに決まったようですね。一方の上杉さんは・・・

 

「班長、誰がやんだコラ」

 

「俺は無理や。そういうのはむかんわ」

 

「ふっ、この僕を差し置いているまい」

 

「前田、坂本、お前らも1組だったんだな・・・」

 

あ・・・本当に前田さんと坂本さんと武田さんで班を組んでる・・・。

 

「・・・なんでこうなるのよ・・・」

 

私の隣では二乃がかなり不服そうに頬を膨らませています。そして・・・残った私たちの班というのは・・・

 

「結局いつも通り・・・」

 

「風太郎君に友達がいること自体予想外なんだけど・・・」

 

「ははは・・・フータロー君に友達ができて・・・よかったよかった・・・ふぅ・・・」

 

いつも通り姉妹揃ってで班を組みました。上杉さんと一緒に班を組めなかった一花と二乃と三玖、そして六海は非常に不服そうな顔をしています。・・・・・・なんていうか・・・その・・・気まずい!!いったい姉妹たちはどうしちゃったのぉ?

 

41  「シスターズウォー 1回戦」

 

つづく




おまけ

六つ子ちゃんはトイレを六等分できない

三玖「う~・・・トイレ・・・早く戻らなきゃ・・・」

家に戻る三玖

三玖「ただいま・・・ギリギリセーフ・・・」

一花「二乃~、まだ終わらない~?」

五月「早くしてくださいよー」

六海「後がつっかえちゃってるよ~」

四葉「漏れちゃう~」

三玖「・・・・・・」

こうなる展開をいろいろと察した三玖。長い時間をかけ、何とか耐え抜き、トイレに行くことができましたとさ。

六つ子ちゃんはトイレを六等分できない  終わり

次回、風太郎、一花視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズウォー 2回戦

六等分の花嫁の今年の分のお話はこれで最後です。

今年はいろいろと大変な年になってしまいましたが・・・こうして無事、年を迎えられそうです。
来年は良い年になれるように、がんばっていきたいですね。そのために、やるべきことはきちんとやっていきます。小説を書き続けられるためにも。

これは余談なのですが、私の作品である六等分の花嫁とこの微笑ましい双子に幸運を組み合わせたらどうなるのか、というのを想像してみたのですが・・・どちらの世界においてもこのすば側の主要人物があれなのでカオスになりそうです・・・w

まぁ、余談は置いておいて・・・よいお年を!


風太郎SIDE

 

修学旅行が始まるまで残りわずか・・・修学旅行に参加している連中はみんな準備を整えているところだろう。かくいう俺も準備をしている最中・・・なのだが・・・

 

「下着と靴下・・・歯ブラシは持っていくんだっけ?」

 

「・・・おいらいは、わざわざ新しいのを新調しなくてもいいだろ?今のままでもいい」

 

今のままでもいいといっているのになぜからいはが俺の下着やら歯ブラシやらを新しいのを新調したがって、こうして一緒に買い物に出かけている。

 

「えー?だってお兄ちゃんのパンツ、ビロビロだもん。クラスの人に笑われちゃうよ?」

 

「聞いた、今の?」くすくす

 

「おかしー」くすくす

 

「今絶賛笑われてますけど」

 

今の話を聞いていたのか、近くを通りかかった生徒に笑われた。聞いてんじゃねぇよ。

 

「せっかく家庭教師に復帰できたんだから、少しくらい自分のために使ってもバチは当たらないよ」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものなの。あ、でも、五月さんたちへの誕生日プレゼントをケチってたら嫌われちゃうよ?」

 

「へぇ・・・あいつらもうすぐ誕生日なのか」

 

「え?」

 

俺の言葉にらいはは首を傾げている。俺、何か間違ったことでも言ったか?

 

「五月さんたちの誕生日は5月5日、もうとっくに過ぎてるけど」

 

「・・・・・・」

 

もう過ぎてんのかよ。この話の意味ねぇー・・・。だがしかし・・・ふーむ・・・俺の誕生日の時、あいつらはわざわざプレゼントを贈ってくれたけど・・・。

 

「・・・ま、別にやらなくてもいいか。つーかあいつらも俺の誕生日プレゼント遅れて渡してきたし・・・。いや、そもそもあっちから言わないってことはいらないってことも・・・」

 

「うわ~・・・それさすがに引くよ・・・」

 

俺が悩んでいると、呟きが聞こえてたのからいはが本気で引いてきた。解せぬ。

 

「プレゼントを頂いたらお返しする!!小学生でも知ってる常識だよ!!」

 

「うむむ・・・」

 

そこまで言われるとは・・・。やはり俺には常識がないのだろうか?でも先日ご褒美としてぬいぐるみあげたし・・・。あ、いや、あれは誕生日とは関係ないし・・・うーん・・・。・・・お、そうだ・・・ちょうど偶然にもご本人が来たみたいだし・・・聞いてみるか。

 

「・・・なぁ、やっぱなんかあげた方がいいかな?」

 

「ひゃあっ!!?」

 

俺が声をかけるとそいつは非常に驚いた声を上げた。

 

「あっ・・・誰かと思えば・・・」

 

「上杉さん!こんにちはー!」

 

「らいはちゃん、久しぶりー!」

 

俺が声をかけた人物というのは五月だ。四葉と六海もセットでここに来ている。

 

「五月さんと昨日メールしてたんだ。一緒に買い物しようって」

 

「ふーん」

 

どうやら偶然ではなく、らいはと約束してここに来ていたようだな。ま、そんなことはどうだっていいか。

 

「それより誕生日の・・・」

 

「あー!しー!しー!」

 

「むぐっ・・・」

 

俺が誕生日プレゼントにたいして何か聞こうとしたら途端にらいはが俺の口を封じてきた。

 

「もう、お兄ちゃん、頭いいんだからそれくらい考えられるでしょ?」

 

「「「?」」」

 

考えられるって・・・それがわからんから聞いたんだが・・・聞いちゃまずかったのか?やはり女心とはよくわからんな・・・。

 

「・・・やはりあなたも一緒でしたか・・・。そういうことなら一緒に買い物はできません」

 

「まぁ、そこはさすがにねー。らいはちゃん、一緒に行こ。風太郎君はそこで待ってて」

 

なぜ俺と一緒では買い物はできないのかわからんのだが。それよりも、誕生日プレゼントに関してだ。こいつらの買い物を観察してりゃ欲しいものは見えてくるかもな。ご褒美の時のリベンジといかせてもらおう!

 

「・・・・・・」

 

「ちょ・・・待っててって言ってるでしょ⁉なんでついてくるの⁉」

 

「どうせ同じものを買うんだ。別にいいだろ」

 

全く、何を嫌がっているのか。同じものが必要なら問題ないだろ。

 

「・・・ええ、そうです。同じものです・・・しかし、同じものであってもそれは殿方とは全く別物で・・・」

 

「え?何言って・・・」

 

「・・・下着!!」

 

「買いに来たの!!」

 

下着かよ。確かに男のものとは違うから全く別物だな・・・。

 

「・・・外で待ってまーす」

 

「もう・・・ほら行こ」

 

あれ?林間学校の時にもこんなことがあったような・・・。デジャヴ?まぁ・・・そんなことはいいか・・・。五月と六海がらいはと一緒に下着売り場の方へと向かっていった。で、今この場で残っているのは、俺と四葉だけ・・・。

 

「・・・おい、お前は下着買わなくてもいいのか?」

 

「あはは、私は後からでもいいので。それに私、物持ちの方がいいので」

 

「・・・まだお子様パンツなのか」

 

「はうあ!!?なぜそれを・・・!!?」

 

おっとこの情報は電話越しで聞こえた内容だったから秘密なんだった・・・。しかし、女子高生にもなってまだお子様パンツとは・・・。やはりまだガキだな。

 

「・・・まったく・・・模試を終えたばかりとはいえ、こんなことをしている場合かよ・・・。その後は入試判定だってあるってのによ・・・」

 

「ははは、まぁまぁ、いいではないですか」

 

・・・まぁ、せっかく試験を乗り越えたんだ。修学旅行で大いに羽目を外すのもいいだろう・・・。・・・そういえば・・・四葉はどこの大学に行くつもりなんだ?一花は女優一本で行くだろうし、五月は教師になるって言った手前、教員資格認定試験を受けられそうなとこを選ぶだろうし、六海だって漫画家になるといったからには美術関連の大学か専門学校に行くはずだ。二乃と三玖はどこに行くか聞いてないが・・・だいたい行くとこくらいは決めてるだろう。だがこの四葉だけはわからん。大学に行くなら自分の夢に繋げられる大学の方がいいが・・・そもそもこいつの夢ってなんだ?

 

「・・・四葉、お前将来なりたいものとかあるか?」

 

「えっ?なんですか?突然ですね・・・」

 

「どうなんだ?」

 

まぁ・・・こいつのことだ・・・だいたいの予想はつくけどな・・・。

 

「うーん・・・考えたことなかった・・・」

 

やはりか・・・予想通り過ぎて笑えん。・・・とはいえ、だ。こいつには他の姉妹にはないずば抜けた体力がある。とりあえずはその方面で探してみるか・・・。そうすればきっと適したものが見つかるはずだ。

 

「お待たせー」

 

「ごめんねー、待たせちゃったかな?」

 

「あ、ううん、全然大丈夫だよー」

 

俺が四葉のやりたいことについて考えていると、下着を買いに行っていた六海とらいはが戻ってきた・・・て、ん?五月がいないようだが・・・。

 

「あれ?五月は?」

 

「奥で採寸と試着してるよ」

 

「試着とかは六海たちがいるのにねー。変なの」

 

それは言えている。三玖だって言ってたじゃねぇか。こいつらはみんな同じ身体だって。

 

「だいたい採寸なんて、六つ子なんだから他の姉妹と同じサイズでいいだろ」

 

「あっ!六つ子ハラスメントですよ!!ムツハラ!!」

 

なんだよ六つ子ハラスメントって・・・聞いた事ねぇわ、そんなこと・・・。

 

「でも採寸は確かに不自然ですね・・・はっ!!?もしや五月・・・1人だけ抜け駆けしてるのでは・・・」

 

「え?六海・・・こんな大きいおっぱいいらないけど、抜け駆けされるのはそれはそれで腹立つんだけど・・・」

 

なんだ?こいつらの中でサイズが違う奴がいるのか?それが五月が該当してるのか?相変わらず六つ子はよくわからんな・・・。

 

「六つ子の皆さんも大変なんだね」

 

「そうなんだよねー。最近なんて特にさー・・・」

 

「?どうしたの?」

 

「あ、ううん、何でもないよ」

 

?なんだ?六海の奴、今一瞬俺の顔を見たが・・・俺の顔になんか変なものでもついてたか?

 

「・・・とにかく!林間学校では散々な結果で終わってしまったので・・・今度こそ!後悔のない修学旅行にしましょうね!」

 

四葉が満面の笑顔でそう言ってきた。林間学校では俺は風邪を引いて散々だったな・・・。ま、過ぎたことだし、今となってはそれ自体どうだっていいがな。

 

「修学旅行自体もどうでもいいがな。ま、体調管理だけは気を付けるさ。もうあんな目はごめんだからな」

 

「もー、本当は楽しみにしてるくせにー。家で何度もしおりを確認してるんだから」

 

「ら、らいは!!」

 

「あらあらー?素直じゃないねー。ねー、四葉ちゃん」

 

「ねー。ししし」

 

ら、らいはに俺の心情をバラされた!!四葉と六海に笑われるし・・・めっちゃ恥ずかしい!穴があったら入りたい気分だ!

 

「それに・・・写真の子に会えるかもしれないしね!」

 

写真の子?零奈のことか・・・。確かに零奈とは5年前の京都の修学旅行で初めて出会ったが・・・あれは単なる偶然だろ?

 

「・・・それはさすがにねぇだろ」

 

「あれ?京都じゃなかったっけ?お父さん、そう言ってたけど・・・」

 

「だとしてもあっちも旅行者だから・・・そもそもあっちも修学旅行とは限らないだろ」

 

・・・まぁ、と言っても・・・あいつもいくんだろうな・・・今回の修学旅行に・・・。

 

「???写真の子?」

 

「???写真の子って何ですか?」

 

あ、四葉と六海が蚊帳の外になっているな。そういえば・・・六海もあの写真を見てたが・・・見たのはガキだった俺だけで、零奈のことは見てなかったな。こいつの反応も当然だ。

 

「ほら見せてあげなよー、あの写真」

 

「・・・何でもねぇよ。写真ももうなくなっちまった」

 

「えー?なくなったの?」

 

当然だ。だって本人に取られたからな、その写真。

 

「・・・なーーんか怪しいねぇ・・・」

 

「確かに怪しすぎます!!何もないなら言えるはずです!!」

 

「え・・・あ・・・いや・・・」

 

「なぜ話せないのか私にはわかります!!!それは上杉さんには未練があるからです!!!さぁ、話してスッキリしちゃいましょう!!!」

 

よ、四葉の奴・・・かなりぐいぐいときてやがる。言ったってしょうがないと思うんだが・・・。だってあいつは・・・。・・・まぁ、ここまで言われたら・・・俺が折れるしかねぇか・・・。

 

「・・・京都で偶然会った女の子だ。・・・名前は零奈」

 

「・・・えっ・・・零奈って・・・」

 

「その名前ってマ・・・」

 

「はい、おしまい」

 

「「お、おしまい~~~!!??」

 

六海が何かを言いかけたところで俺はそこで話を終了させる。零奈についてはわかってたことはあったが、四葉と六海の反応を見て、それは確信になった。やはりな・・・。

 

「か、かなり気になるんですが・・・」

 

「そうだよ。もう少し詳しいことを教えてよー・・・」

 

「話すことはない」

 

四葉と六海が気になっているようだが、俺から話すことは本当に何もない。

 

「つまりお兄ちゃんの初恋の人だよね」

 

「は?」

 

「「は、初恋!!!???」」

 

らいはの奴、何言ってんだ?

 

「誰もそんなこと言ってないが・・・」

 

ぐぅ~・・・

 

ん?これは・・・らいはの腹の音か・・・。

 

「えへへ・・・食べ物の話してたらお腹すいちゃった」

 

「一言もしてないけど」

 

「じゃ、じゃあ私が何でも買ってあげちゃいますよ!上杉さんと六海は五月を待ってる係ですよ!」

 

「・・・はぁ・・・」

 

腹をすかせたらいはに四葉が真っ先に率先して食い物が売ってる店に向かっていく。で、残って・・・

 

「ちょっと風太郎君!!!どういうこと!!??初恋の人って!!!」

 

「ぐえ!!?六海、落ち着け!何でお前が怒ってんだ!!?」

 

「うるさい!!どこの誰なのその女の子!!絶対許せない!!」

 

こ、こいつ・・・俺の胸倉を掴んで取り乱してる・・・。なんでこいつが俺の初恋の相手にたいしてこんな怒ってるんだよ?というかそもそも、わいた感情は憧れってだけで初恋でもなんでもねーよ。

 

「お、落ち着け。確かにそいつに憧れはしたが初恋じゃねーよ」

 

「だって・・・らいはちゃんが初恋って・・・」

 

「六海よ、思い出してみろ。俺と初めて会った時のことを。あの時の俺は色恋にかまけてるような奴に見えるか?」

 

「見えない!」

 

「だろ?ありえねぇだろ」

 

六海がはっきり答えたのはちょっとムカついたが、零奈の件抜きでもそれはありえなかっただろうよ。・・・まあ、今では色恋に関してはバカにする気は起きないが。

 

「・・・本当に・・・その人とは何とも思ってないの?」

 

「・・・思ってることはあっても、初恋じゃねーよ。ほら、満足か?」

 

「・・・そっか・・・」

 

俺の答えを聞いたら六海が安心したかのような笑みを浮かべている。たく・・・本当に何なんだよ・・・。わけわかんねぇ・・・。

 

「・・・あ!いけない!五月ちゃんの分探してたら自分の分探すの忘れてた!!ごめん風太郎君、もうちょっと待ってて!四葉ちゃんたちが帰ってきたら伝えといて―!!」

 

「あ、おい・・・行っちまった・・・」

 

六海は慌だたしい様子でもう1回下着屋に向かっていった。たく・・・下着なんてなんでもいいだろうが・・・。

 

「はぁ・・・疲れた・・・」

 

俺はとりあえず気分を落ち着かせるために一旦ベンチに座る。・・・・・・・・・さて、この場にはらいはも六つ子の姉妹もいないな。

 

「・・・さすがに2回目は驚かねぇぞ・・・零奈」

 

俺が座ったベンチの隣には、去年の冬に出会ったあの写真の子・・・零奈がいた。服装も久しぶりに会った時のものと同じものだ。

 

「・・・なーんだ、残念」

 

全く・・・こいつはいつも唐突に現れるな・・・。京都の時も・・・姉妹喧嘩で俺が沈んでた時も・・・。

 

「修学旅行、京都らしいね。懐かしいなー」

 

「・・・もう俺とは会わないんじゃなかったのか?なぜまた俺の前に現れた?」

 

「・・・君に会いたくなっちゃった・・・なんて言ったらどうする?」

 

・・・はぁ・・・こいつは全く何を言ってんだか・・・。

 

「・・・こんなことしなくても、いつも毎日会ってるだろ?」

 

「え?・・・えっ?」

 

驚いている様子だが、俺はこいつに構わず、確信を突き付ける。

 

「零奈・・・なぜお前たちの母親の名を名乗った」

 

「・・・ははは、そこまでバレちゃってるんだ・・・」

 

こいつ自身が偽名なのは知っていたが、これが母親の名前だと知ったのは、やっぱりこいつらの爺さんの話が大きかったな。それで頭では理解したが・・・今回の四葉と六海の反応で確信に変わったな。

 

「あの時はとっさにね・・・。でも今日伝えたいことを君が言ってくれてよかった。信じてもらえなかったらどうしようかと思ったから・・・」

 

零奈はベンチから立ち、俺の前まで来てそこに立った。

 

「君の考えている通り、私は六つ子の1人の誰かだよ。君に私がわかるかな?」

 

・・・なんだ。そんなことのためにわざわざ俺に会いに来たのかよ。そんなもの・・・俺が言うことは1つだ。

 

「わからん!早く正体を教えろ!」

 

「諦め早っ!!」

 

いや、だって、わからないものはわからないんだからしょうがないだろ。

 

「そ、そんなド直球に聞くもんじゃないんじゃない?ほら・・・成績優秀なんだから考えてみてよ・・・」

 

「・・・俺は六つ子たちに振り回されてばかりだ。誰が誰だとか・・・誰のフリをした誰かだとか・・・もうそんなのはたくさんだ。楽しい修学旅行にケチ付けようとすんな。しっしっ」

 

俺は心からの本音を零奈に言ってやった。

 

「・・・き、気にならないの・・・?・・・私のこと・・・どうでもよくなったの・・・?」

 

「・・・お前には・・・」

 

俺が何かを言おうとした時、零奈は話を聞かずにそのまま人ごみの中へと入ってしまった。・・・ちょっとストレートすぎたか・・・。あいつには少し言いたかったことがあったが・・・まぁいい・・・また会った時にでも言うか・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『零奈の正体?』

 

下着屋で自分の分の下着を買った六海は店員に五月と間違えられ、五月の荷物を受け取って、その五月を探している。

 

「自分の荷物を置いてどこ行ったんだろう・・・?」

 

六海が五月を探していると、ちょうどそこに零奈が現れる。零奈を見た時、六海はちょっと驚いた顔をしている。

 

「あれ?それあの箱に入ってた服?なんでそれ着てるの?」

 

「そ、それは・・・」

 

「しっかし見れば見るほど、昔にそっくりだなぁ・・・なんで今になって?」

 

六海の疑問に零奈は答えづらそうにしている。六海はとりあえず五月のかばんを手渡す。

 

「まぁ、答えづらいなら深くは聞かないけどさ。風太郎君待ってるから先外に出てるよ?」

 

六海はそう言って風太郎の元へと戻っていく。零奈は試着室に入る。そして・・・零奈が帽子・・・そして鬘を外すと、赤い長い髪が下ろされる。

 

(・・・思ったようにいかない・・・しかし、楔は打ちました)

 

その姿は六つ子の五女、中野五月だった。つまり先ほど零奈として風太郎と話していたのは、五月ということになるのだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

数日の時が流れて、今日はいよいよ修学旅行。私たちは京都行の駅前で新幹線が出るのを待っているよ。

 

「ふわぁ・・・いよいよ始まるね、修学旅行」

 

「おーい、五月ー。新幹線乗るよー」

 

「ひとまずフー君の班についていくわよ」

 

「二乃、そのフー君やめて」

 

「でもフータロー君は嫌がってたよ」

 

うーん・・・当初の予定とは全然違うなぁ・・・。班分けでもそうだけど・・・中々うまくいかないなぁ・・・。でも・・・この修学旅行こそが・・・フータロー君と・・・

 

「上杉君、清水寺いきましょうよ。私たちの班と一緒に!」

 

「は?」

 

「「「「「!」」」」」

 

え・・・?五月ちゃん・・・?

 

「いや・・・今回は班ごとに行動だろ?」

 

「まぁ、そう言わずに」

 

「いやルールを・・・」

 

(京都での思い出は大切なはずじゃなかったのですか?あなたなら・・・気づいてくれると信じています)

 

「えっ・・・」

 

「なんで五月が・・・?」

 

(い・・・五月までどうしちゃったのー!!?)

 

・・・まさか五月ちゃんがあんな積極的に行動するとはね・・・。でも・・・誰が来ようと関係ない・・・。これは遊びなんかじゃない・・・。これは・・・戦いなのだから・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

発車された新幹線は私たちを乗せて京都へ向かって走っている。周りはどこに行こうかっていう話をしているよ。そんな中私たちはそんな話はなく、トランプでやれる遊びであるポーカーをやっているよ。

 

「はい、フルハウス」

 

「負けた~・・・」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

「もう少しでロイヤルストレートフラッシュなのにぃ~・・・」

 

ふふん、今日の私はなんだかついてる気がするよ~。幸運の女神様が微笑んでると言ってもいいかも。

 

「今日の一花ちゃん運いいなー」

 

「もう1回!もう1回勝負よ!」

 

「いつでも受けて立つよー」

 

今の私には幸運の女神様が味方してるんだし、何度勝負を挑まれても負ける気はしないなー。

 

「!三玖、三玖。終わったよ」

 

「んあ・・・。あ、ツーペア」

 

「遅いし弱い!」

 

ちょっと蚊帳の外みたいになってきている三玖は本当に眠そうにしている。・・・ていうより、さっき思いっきり寝てたよね。

 

(眠そうだね。今朝早起きしてどこか行ってたみたいだけど・・・)

 

(うん・・・バイト先に無理言って朝から厨房貸してもらってた)

 

(えっ・・・じゃあ・・・)

 

(うん。今日食べてもらっていよいよ・・・)

 

(ずっと今日のために頑張ってきたんだもんね!最後まで応援するよ!)

 

(冷めてもおいしいんだけどね・・・)

 

んー?なーんか三玖と四葉がこそこそと話してるなぁ。何を話してるのか知らないけど・・・なーんか面白くないのはなんでだろう・・・。

 

「・・・あ、そうだ。次勝った人は何でも命令できる・・・ってルールはどうかな?」

 

「ふーん・・・なんでも、ね。いいじゃない」

 

「いいの?その条件なら六海勝っちゃうかもよ?」

 

「いいでしょう。受けて立ちましょう」

 

「・・・負けない」

 

私が思いついたルールにみんなはめらめらとやる気を出してくれた。

 

(・・・このバチバチ・・・トランプだけの盛り上がりだよね!!?)

 

自分が言い出したこの勝負・・・負けるわけにはいかなくなったね。大丈夫・・・私には幸運の女神様が付いているのだからね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

長い時間をかけて新幹線は目的地である京都に着いたよ。今は駅前で先生たちによるミーティングの時間。

 

「大きい荷物はこちらでホテルに送っておく。貴重品だけ持っていくように。諸注意は以上だ。では解散」

 

やっとミーティングは終わりかー。短いようで長いんだよねー。

 

カシャン

 

「!」

 

「?二乃、どうかしましたか?」

 

「え?ううん、多分の気のせいだわ」

 

ええっと、フータロー君は・・・と・・・あ、あそこで4人でどこ行くか話をしてる。ここからじゃ聞こえないなぁ・・・。

 

「風太郎君はどこに行くんだろうね?」

 

「みんな、行きたいところはある?」

 

「それはやっぱり旅といえば買い物よ。古~いお寺よりお洒落なお店の方が楽しいわ」

 

「それは別に最後でもいいよー。それよりも見映えがあるお寺の頂上とかいいんじゃない?」

 

「わかってないなー。せっかくの京都だよ?ならではのおいしいものを食べさせたいよ」

 

「私もその意見に賛同ですが・・・今はもう少しこの駅内であの日のことを・・・いえ、散策してもいいと思います」

 

うーん・・・みんな行きたいとこバラバラ・・・でもみんなフータロー君を中心に考えているというのは私でもわかるよ。みんな素直に合流しようとしないのが何よりの証拠だからね。

 

「五月、急にどうしちゃったの?」

 

「私はただ・・・」

 

「あ、フータロー君の班が出発したよ」

 

「ついていくわよ」

 

「どこ行くんだろ・・・」

 

フータロー君の班が移動を開始したのを見計らって、私たちはフータロー君たちにはばれないようにしながらついていく。どこに行くんだろ?

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・えーっと・・・フータロー君たちがたどり着いた場所は・・・神社だね。4人はここでお祈りしてるね。

 

「・・・・・・」

 

「・・・なんだここ・・・」

 

「なんちゅーか、地味やな」

 

「学問の神様が祀られている神社さ。前田君、坂本君、君たちの成績は見るに堪えないのだから深ーく祈りたまえ」

 

「んだとコラァ!!」

 

「よーし、お前こっちこいや。売られた喧嘩は買うたるで」

 

「お前らうるせえー!!」

 

・・・うーん・・・隠れて見てても思うんだけど・・・絵面的にもこの光景・・・

 

「・・・なんか・・・地味ね・・・」

 

「こらこら」

 

思ったことを二乃が直球に発言してきた。こういうのは思ってても口にしないのが常識だよ?

 

「あ、移動したよ。確か隣にも神社があったからそこじゃない?」

 

「行きましょう」

 

お祈りを済ませたフータロー君たちが移動したから私たちも後からついていく。

 

「・・・自由昼食は今日しかないのに・・・やっぱり班行動が最大の難関・・・」

 

「大丈夫!きっと2人きりになれるチャンスはあるはずだよ!」

 

・・・・・・さっきからあの2人・・・なーんか怪しいなぁ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

フータロー君たちが鳥居を通っていったから私たちもその鳥居を通っているけど・・・社がずーっと続いてる本当にすごい景色だね。

 

「わぁ!これずっと鳥居なの⁉」

 

「絶景だねー」

 

「すごい・・・」

 

「写真では見ていましたが・・・やはり実物は壮観ですね」

 

「映えるわー」

 

「今日はこの景色を書こうかー」

 

この光景をすごいと思ってるのは他の姉妹も同じだね。

 

「ほら、記念写真撮るわよ。並んで並んで。ほら、ピースも忘れずにね」

 

この光景を残すために二乃が写真を撮ってくれた。隣には他の妹たちが並んでカメラに向かってピースをしてる。もちろん、私もね。

 

「なんだか姉妹だけなのも貴重だねー」

 

「あれ?6人揃っての写真ってなかったっけ?」

 

「花火大会の時は写真撮ってなかった?」

 

「それこそ小学生の頃の修学旅行以来ですよ」

 

「じゃあ今度は全員で撮りましょうか」

 

「・・・フータローはもう上にいるのかな?」

 

おっと、写真撮影で華を咲かせるのもいいけど、フータロー君のことを忘れちゃいけなかったね。うーん、やっぱりいないね。

 

「なかなか見えないわね」

 

「男の子は足速いから」

 

「そうだね。体力はないけど」

 

「よーし!私たちもがんばろー!」

 

早いとこフータロー君と合流するため、私たちは記念撮影は後にしてそのまま先へと進んでいくよ。

 

・・・そして、十数分後・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・け、結構・・・長いわね・・・」

 

「うぇ・・・気持ち悪くなってきちゃった・・・」

 

「ほらほら、がんばって」

 

「足が痛くなってきました・・・」

 

「みんな遅ーい!」

 

思っていた以上に距離が長いからみんなの顔色に疲れが見え始めてきたよ。実をいうと私もちょっと疲れてきちゃったかな。その中でも元気なのがへばっている三玖を支えながら先に進んでる四葉だけ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・四葉ちゃんはへばってない・・・いったいあの無尽蔵な体力はどこから湧いてるのー・・・?」

 

「全く・・・あの子は気楽なものね・・・羨ましい限りだわ」

 

「ははは・・・あれが四葉のいいとこだよ」

 

「・・・まぁ、そうね。どこかの腹黒い自称お姉さんとは大違いだわ」

 

「!」

 

皮肉といえる発言をした二乃は警戒したような目でこっちを見ている。

 

「どうせ今日も悪巧みを企んでるんでしょ?」

 

「・・・ははは・・・しないよ・・・そんなこと」

 

「・・・どうかしらね」

 

やっぱり二乃には警戒されてる・・・か・・・。まぁ仕方ないとは思うけどね。宣戦布告した手前、行動には気を付けた方がいい・・・かな。私も、できる限りは穏便に済ませたいし。でも、万が一の時があったらその時は躊躇はしないよ。

 

(・・・二乃ちゃん、一花ちゃんはああ言ってるけど、あれ絶対何か企んでるよ)

 

(でしょうね。注意深く一花を見ておきましょう)

 

・・・まあでも、六海も怪しんでるし・・・今は大人しくした方がいいかな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

鳥居をようやく超えて、お店が並んでる四ツ辻まで辿り着いたんだけど・・・ここで問題発生。

 

「道が2つあるね」

 

そう、山頂へと続く道のりが2つある。つまり、フータロー君と合流できる確率は2分の1ということになるんだよね。ここで正解を選ばないと大幅の時間ロスになっちゃうんだよねー。

 

「んー・・・どっちも山頂に続いてるみたいだよ」

 

「風太郎君ならどっちの道に行くと思う?」

 

「私に聞かないでよ。普通に考えれば正規ルートでしょ?」

 

二乃も同じ考えか・・・。人が多いところを見れば多分右が正規ルート・・・多分フータロー君がそこに行く可能性は高いと思う。

 

「みんな、もうお昼ですし、あそこのお店でお食事をとりましょう!」

 

「さんせーい!足疲れちゃったよー」

 

ああ、そう言えばもうお昼か・・・。確かにお腹すいたね。鳥居で結構疲れてきちゃったし、ちょっとくらい休憩しても・・・

 

「!待って・・・お昼は・・・」

 

私たちが賛成しかけた時、三玖がストップをかけてきた。

 

「何よ?他に食べたいものでもあるの?」

 

「・・・・・・」

 

「三玖ちゃん?黙ってたらわからないよ?」

 

「え、ええっとね・・・」

 

・・・よく見たら三玖の手元には何かの紙袋がある・・・。大事そうに抱えてるけど・・・あれの中身は何?それに、四葉もやたらと三玖を気にしてるし・・・ますます怪し・・・

 

「あ!そうだ!!この先の道なんだけど・・・二手に分かれようよ!!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「私と三玖と五月が右のルート、一花と二乃と六海が左のルートを進むの!そうすれば、上杉さんと入違わずにすむよ!」

 

いや・・・まぁ・・・確かにその方法でいけばフータロー君と入違わずにすむけど・・・それは片方側だけでしょ?そんなのに納得できる私じゃない。納得できないのは二乃と六海も同じみたいで私と一緒に反対異議を出す。

 

「ちょっと待ちなさい。何言ってんのよ」

 

「そんな勝手に決められちゃ困るんだけど・・・」

 

「そうだよ!だいたい四葉ちゃんに何の権利があって・・・」

 

「・・・何でも命令できる権利!!私の言うことは絶対だよ!!」

 

「「「うっ・・・」」」

 

そ・・・そこでポーカーの勝者権利を使うなんて・・・!それを使われたら引き下がるしかないじゃん・・・。くぅ・・・私がポーカーに勝っていればその権利は私がもらってたはずなのに・・・。・・・ああ、そうだよ、電車でのポーカーは負けちゃったよ。幸運の女神様が私を見放したんだよ。神様は本当に残酷なことをするよね。しかしこの流れ的には・・・かなりまずいかも・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結局四葉の出した案には逆らえず、昼食にありつけないまま、私と二乃、六海は左のルートの道のりを歩いている。可能性としてはかなり低いと思うんだけどなー・・・ここも可能性0ってわけでもないし・・・。

 

「一花が余計なことを提案したせいで変なことになっちゃったじゃない」

 

「いや、二乃ちゃん思いっきり提案乗ってたじゃん。六海も乗っちゃったけど・・・」

 

「ははは・・・今はそんな話をしてる場合でもないんじゃないかな?」

 

確かにあの時私が何でも言うことを聞く、なんて提案を出さなければ、こんなことにならなかったかもだけどね。反省はしてる。でもそれよりもどうするべきかを考えるべきだと思うな。

 

「人の流れ的にも多分あっちが正規ルートだと思うわ」

 

「もしも先に合流されたらどうしよう・・・」

 

そう、1番の問題としているのはそこ・・・どうすれば・・・

 

「・・・うぅ・・・ちょっとトイレに行きたくなってきちゃった・・・」

 

「え?ちょっと・・・こんな時に・・・」

 

私が悩んでいると六海がトイレに行きたがってるね。・・・トイレ?・・・お手洗いならこの2人を足止めできるかも・・・。確かちょうど先に行けば・・・。

 

「あ、お手洗いがあったよ」

 

やっぱりあった。地図を確認しておいて正解だったよ。

 

「た、助かった~。ある意味ではこのルートで正解だったかも」

 

「この先にはないのよねー。アタシも行っておこうかしら」

 

二乃と六海はトイレへと向かっていった。・・・よし、2人がトイレに行った今がチャンス。2人の姿が見えなくなったところで、私は・・・2人を置いて先の道へと進んでいく。

 

地図を見た限りでは、この左ルートの方が山頂まで短かった。四葉だけなら負けてたかもしれないけど・・・四葉には三玖と五月ちゃんがいる。あの3人の中で特に体力が低いのは三玖・・・三玖を考慮すれば、私の方が早く辿り着く!

 

・・・でも、今フータロー君に会って、私は何をすればいいの?そこを考えてなかった。それに、フータロー君の他にも前田君に坂本君、武田君もいる・・・。・・・けど、それでも今の三玖の動きがすごく怪しい・・・。四葉の手も借りてる様子だったし・・・きっと修学旅行でアクションを起こすつもりだ。

 

・・・できることならやりたくなかった。けど、またやるしかない。一度ついた嘘はもう取り消すことは出来ない。なら私のやるべきことはただ1つ・・・三玖を止めるだけ。そのために用意したんだ・・・この三玖のなりきりセットを。

 

自分の恋の成就のために私は・・・噓つきを演じ続ける!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『あと少し』

 

一方その頃、右ルートを進んでいる三玖、四葉、五月はもうだいぶ奥まで進んでいる。それこそ、このまま進めば頂上にたどり着くまでに。

 

「もうお昼なのに・・・お腹が空きました・・・」

 

「ごめんね、五月、あと少しだから頑張って!」

 

そんな中で五月は昼食をありつけなかったために腹を空かせているし、三玖も三玖で元の体力がないため、疲れている表情をしている。

 

「三玖、大丈夫?」

 

「うん・・・大丈夫・・・あと少し・・・あと少しだから・・・」

 

それでも三玖は何とか風太郎と合流すべく、がんばっている。

 

(この日のためにずっと頑張ってきたんだもん!思いは絶対叶うよ!)

 

(・・・うん・・・ありがとう・・・四葉・・・)

 

三玖と四葉は五月には聞こえないようにそう耳打ちをしている。だが・・・三玖のそんなひたむきな思いを・・・たった1人の人物によって、それを崩されることになるとは・・・この時はまだ、知る由もなかった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『やられた!!』

 

ちょうどそのころ、用をすませた二乃と六海はお手洗いから出て、一花と合流しようとする。

 

「ふぅ・・・スッキリしたぁ。ちょっとだけすっとしたらお腹空いてきちゃったよー」

 

「ちょうどお昼時だし仕方ないわ。・・・そういえば・・・フー君たちはお昼ご飯はどうするつもりだったのかしら?」

 

「そのフー君呼びやめてって何度言ったら・・・あれ?」

 

「・・・あれ?一花は?」

 

外に出てみたら、一花がいなかった。それにたいして、二乃と六海はふつふつと嫌な予感がこみ上げてきた。

 

「・・・二乃ちゃん・・・これって・・・」

 

「・・・やっぱりそう思うわよね?あの女狐・・・!」

 

「「やられた!!」」

 

自分たちがトイレに行っている間に一花が風太郎の元に急いでいるとすぐに理解できた二乃と六海はしてやられたような気分がこみ上げた。

 

「そんな時間は経ってないから今ならまだ一花ちゃんを止められるかも!」

 

「ええ。急ぎましょう」

 

一花が何かをやらかす前に二乃と六海はすぐさま一花を止めるために急いで先へと進んでいくのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

はぁ・・・はぁ・・・着替えも走りながらだったし、ちょっとは手間取って少しだけ時間かかったかもだけど・・・やっと頂上まで辿り着いた・・・。今の私は三玖・・・変装もバッチリ・・・。後は・・・フータロー君がいるかどうか・・・。

 

「・・・誰も・・・いない・・・」

 

辺りを見回してみたけど・・・この場には他の生徒はもちろん、フータロー君もいなかった・・・。左ルートにすれ違わなかった・・・ということは・・・やっぱりフータロー君はまだ右ルートの途中・・・!

 

「急がなきゃ!これだけ走ったんだから三玖たちはまだ・・・」

 

・・・と、そう思っていた私はきっと、浅はかだったと思う・・・。

 

「・・・え・・・」

 

だって・・・急ごうと思って右ルートの方へと向かっていった先で、先に頂上へとたどり着いたのは・・・

 

「・・・い、一花・・・?」

 

右ルートを選んでいた五月ちゃんと四葉・・・四葉に背負われている三玖だったから・・・。

 

「一花・・・なんで・・・私の変装してるの・・・?」

 

なんで・・・は、こっちのセリフだよ・・・。なんで・・・三玖たちが先にこの頂上まで辿り着くの?フータロー君とすれ違わなかったの?なんで?なんでなの?

 

「・・・?一花・・・?何か・・・理由でもあるの・・・?」

 

「それに二乃と六海は一緒ではなかったのですか?」

 

この状況は・・・まずい・・・!どう足掻いても言い逃れができそうにない・・・!本当に・・・どうなって・・・

 

「・・・一花」

 

この状況をどうにか打開できないか考えていると、四葉が私に声をかけた。

 

「いったいどうしたの?どうしてこんなことを?」

 

四葉の問いかけに、私は何も答えることができない・・・。いや・・・言えるわけがない。真鍋さんが言っていたやりたいことをやれ・・・そのやりたいことが、姉妹の恋路を邪魔をすることだなんて・・・最低なことを・・・。

 

「よ、四葉・・・」

 

「今の一花は明らかに三玖の邪魔をしているよ」

 

「・・・邪魔?」

 

「邪魔って・・・何の・・・?」

 

追いつめられていると、3人の後ろから、この場に居合わせてはいけない人物が来た。

 

「それは・・・」

 

待って四葉・・・今はその口を開いちゃダメ!!

 

「四葉、待っ・・・」

 

「三玖から上杉さんへの告白だよ!!」

 

「よし!1番乗り!」

 

この場で1番居合わせてはいけない人物・・・それは当然ながらフータロー君のことだ。私はとっさに身に着けていた変装用の三玖の鬘とヘッドフォンを隠す。

 

「・・・は?今・・・何て言った・・・?」

 

最悪だ・・・。これはフータロー君には1番聞かせられない言葉だったのに・・・。本当に・・・最悪だよ・・・。

 

42「シスターズウォー 2回戦」

 

つづく




おまけ

ifシスターズウォー~仲良し姉妹!~

スマホに映ってる人物のお互いの顔が入れ替わるというアプリを入れ、さっそく試してみる六つ子。まずは三玖と一花の組み合わせ。

一花「ぷ・・・あはは!」

四葉「このアプリすごいね!」

六海「本当に顔が入れ替わってるよ!」

五月「私もやりたいです!」

・・・顔、変わってる?まったく同じ顔なんだけど・・・。まぁ、次・・・五月と二乃の組み合わせ。

二乃「うわ、この組み合わせやばい!」

三玖「これは・・・違和感ありすぎ・・・」

五月「あはは、お腹痛いです~」

・・・やっぱりどれも同じ顔なんだと思うけど・・・。・・・次、四葉と六海の組み合わせ。六海はメガネを外した状態で。

三玖「あれ・・・?」

四葉「なかなか顔認識してくれないね」

いや・・・髪型も同じ、顔も同じでどう認識すると?・・・あ、2人とも笑った顔になった。

六海「ぷっー!!突然入れ替わらないで!あはははは!」

一花「あはははは!もうやめてー!」

・・・やっぱり全部同じで本当に入れわかってるのかさえ疑わしい・・・。

ifシスターズウォー~仲良し姉妹!~  終わり

次回、六海視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズウォー 3回戦

遅れながら、明けましておめでとうございます。

筆を書くスピードがちょっと落ちてしまいましたが、ついにごとよめの二期が始まったので、これを機に書くスピードを取り戻せたらなぁと思います。

そういえば今年にごとよめのゲームが出ますね。それを見て六海ちゃんの水着はどんなんがいいかなぁってぶっちゃけ悩んでいます。何か水着でいい案がありましたら、リクエストでなければ感想、メッセージ、挿入絵などでどんどん教えてください。プール回などの回で参考にしたいと思っていますので。

長くなりましたが、この六等分の花嫁を暖かく見守っていただき、ありがとうございます。今年もよろしくお願いします。




六海と二乃ちゃんがお手洗いに行っている間に一花ちゃんがいなくなったことから、絶対に何かしらのハプニングを起こすと思って急いでお山の頂上を目指していく。まずいよ・・・今の一花ちゃんは何をしでかすかわからない・・・早く止めないと・・・!

 

「はぁ・・・やっと頂上だわ・・・」

 

結構距離が短かったからそんなに体力が減ることなく、頂上にたどり着いた・・・

 

「三玖!待ってください!どこへ行くのですか⁉」

 

え?さっき六海たちが通っていった道に入ってったのは・・・三玖ちゃん⁉そして五月ちゃんは三玖ちゃんを追いかけてったけど・・・。何事かと思って前を見てみると・・・現状を把握した。今目にしている視界の先には、四葉ちゃんと風太郎君・・・いなくなってた一花ちゃんがいた。そして・・・一花ちゃんの手には・・・三玖ちゃんの変装セットが・・・。

 

「一花ちゃん・・・まさか・・・やったの・・・?」

 

「・・・・・・」

 

何かしらのハプニングを起こすだろうとは思ってたけど・・・それがまさか・・・三玖ちゃんの頑張りを無下にするような行動だったなんて・・・想像もしたくなかったよ。前はあんなに三玖ちゃんを応援してたはずなのに・・・

 

「・・・ねぇ、こんなことまでする必要ってあったの?どうして・・・」

 

「あんた・・・いい加減にしなさいよ」

 

六海が一花ちゃんに問いかけようとした時、その前に二乃ちゃんが一花ちゃんの胸倉を掴みにかかってきた。その顔はかなり怒ってた。

 

「あの子泣かせて・・・それで満足?」

 

「に、二乃ちゃん!やめて!」

 

六海はそんな二乃ちゃんを止める。ここでもし手をあげたりしたらなんか大事になっちゃうから。

 

「二乃、今のは私が・・・」

 

「四葉、いいから・・・。結果はどうであれ・・・私がやらかしたことには違いないよ」

 

四葉ちゃんは何か弁明を言おうとした時、一花ちゃんが自分のやったことを認めたような発言をした。

 

「あんた・・・どこまで・・・」

 

「・・・二乃にだけは言われたくないなぁ」

 

「!」

 

「温泉で二乃が言ってたじゃん。他人を蹴落としてでも叶えたいって。私と二乃の何が違うの?教えてよ」

 

確かに二乃ちゃんは温泉でそんなことを言ってた。六海もその時に聞いたから知ってる。でも違う・・・違うんだよ・・・それは一花ちゃんが思ってるのとは違う。

 

「・・・ええ、確かにそう言ったわ。他の誰にも譲るつもりはない。でも、私たち姉妹6人の絆だって・・・同じくらい大切だわ」

 

そう言っている二乃ちゃんの目にはうっすらと涙がこぼれてた。

 

「たとえあんたが選ばれる日が来たとしても・・・アタシは・・・祝福したかった・・・!」

 

「・・・っ」

 

そう・・・これは二乃ちゃんだからこそ言える言葉・・・六海たち以上に姉妹を大切にしている二乃ちゃんだからこその・・・重くても・・・優しい、言葉。一花ちゃんだって、それがわからないはずがない。

 

「うぅ・・・もう一歩も歩けねぇ・・・」

 

「全く、下のお店でお昼ご飯食べすぎだよ」

 

「ん?上杉、どうしたんや?」

 

「いや・・・俺にも何が何だか・・・」

 

一花ちゃんと二乃ちゃんの成り行きを見守ってると、武田君と前田君、坂本君が来た。それだけじゃない・・・他の人も集まりだした。

 

「・・・おい、お前ら、一旦落ち着け」

 

「!うるさい!今あんたが来ると話がややこしくなる!すぐに三玖を追いかけなさい!!」

 

「え・・・」

 

「早く!!」

 

「・・・わかったよ」

 

事態を収めに来た風太郎君だけど、逆に二乃ちゃんに怒られて、三玖ちゃん探しの同意をした。

 

「お前ら、悪いな。先行ってるぞ」

 

「ああ・・・」

 

「わ、私も捜します!」

 

風太郎君と四葉ちゃんは三玖ちゃんを探しにすぐにお山から下山していく。

 

「ま、待って、六海も・・・」

 

ガサッ

 

?六海も三玖ちゃんを探そうと思ったら足元に何か引っかかった。何かと思って見てみたら、何かが入ってた紙袋だった。・・・て、これ・・・三玖ちゃんがずっと抱えてたものじゃん。・・・?なんだろう?この袋の中からほんのりといい香りがしてきた。これは・・・パンの匂い?・・・もしかして、三玖ちゃんは・・・。・・・ううん!そんなことはどうでもいい!六海も三玖ちゃんを捜さないと!六海は紙袋を六海の荷物の中に入れてすぐに三玖ちゃんを探しにお山を下りた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お山を下りて京都の街の中、六海たちはこの中で三玖ちゃんを探し回ってる。お山を下りたはずだから絶対この道を通ったはずなんだけど・・・。そ、そうだ。確か五月ちゃんが先に三玖ちゃんを追いかけてたはず!もしかしたら一緒にいるかも・・・。そう思って六海はスマホを取り出して五月ちゃんに電話をかける。・・・あ、出た!

 

「もしもし、五月ちゃん!三玖ちゃんは?三玖ちゃんは一緒⁉」

 

≪お、落ち着いてください、六海!一緒ですよ。今三玖と一緒にバスに乗ってます。ただ・・・≫

 

「・・・やっぱり、落ち込んじゃってる?」

 

≪・・・はい。何を聞いても、答えてくれなくて・・・≫

 

やっぱりそっか・・・。何があったのかは知らないけど・・・きっとショックを受ける出来事だったんに違いない・・・。三玖ちゃんの性格を考えると、そうなるのもしょうがないか・・・。

 

「・・・五月ちゃん、三玖ちゃんの傍にいてあげて。きっと三玖ちゃん、自信なくしちゃってるから。六海たちもすぐにそっちに行くから」

 

≪わかりました≫

 

とりあえず三玖ちゃんは五月ちゃんに任せて・・・このことを風太郎君と四葉ちゃんにも教えないと。

 

「四葉ちゃん、風太郎君!五月ちゃんと電話繋がったよ!今三玖ちゃんと一緒にバスに乗ってるって!」

 

「・・・そうか。じゃあ俺たちもバスに乗るぞ」

 

「うん。それから・・・四葉ちゃん。どうしてこうなったのか、一から説明お願いできる?」

 

「う、うん・・・」

 

六海たちはバスに乗って、これまでの経緯を四葉ちゃんの口から聞くことになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉ちゃんの話は大体理解できた。つまり三玖ちゃんは風太郎君に自分の作ったパンを食べてもらおうといろいろと準備してたみたい。だからいろいろ挙動がおかしかったのか・・・班決めの時も・・・今日の昼食に関しても・・・。でも、その頑張りを・・・一花ちゃんが先に頂上に来たから、それを壊した。そして、四葉ちゃんが言った言葉が、風太郎君が来たタイミングで言っちゃって、とどめをさしたってことを。

 

「・・・あの・・・上杉さん・・・頂上で私の言った事・・・聞こえてましたよね・・・?」

 

「・・・聞こえてねーよ」

 

「あ!その反応!絶対聞こえてた!!目が泳いでるもん!!」

 

風太郎君の目がなんか泳いでるから絶対四葉ちゃんの言った事聞こえてるよ!!六海が同じ立場だったら絶対そうなってるもん!

 

「うるせーな。聞こえてないもんは聞こえてない。それで納得しろ」

 

「いまいち納得できない・・・」

 

絶対聞こえてるはずなのになぁ・・・。て、気にしてたら話は進まないか・・・。

 

「・・・とはいえ、私の不用意な発言で三玖を傷つけてしまったのは事実です・・・。ずっと・・・あんなに一生懸命頑張ってたのに・・・」

 

「それは違うよ四葉ちゃん。それは六海のせいだよ。一花ちゃんをちょっと目を離した隙に・・・。何かやるって知ってたはずなのに・・・」

 

今回の件は誰のせいでもない・・・一花ちゃんが何か行動をするとわかっておきながら、おトイレを優先して一花ちゃんを見張らなかった六海が悪いの。

 

「・・・たく・・・後先考えずあんなことを言いやがって・・・もっと周りを見てから発言しろ」

 

「やっぱり聞こえてるじゃないですか・・・」

 

「・・・・・・まぁ、知ってたがな」

 

「「え?」」

 

知ってた?知ってたって・・・何を?

 

「知ってたって・・・」

 

「え?何が知ってたの?」

 

「・・・だから・・・その・・・ほら、あれだよあれ・・・」

 

「あれじゃわかんないってー」

 

「・・・その・・・ほら・・・み、三玖が・・・俺に・・・好意を抱いてくれてたことをだ・・・///」

 

・・・・・・・・・え?今、なんて?風太郎君が・・・三玖ちゃんの思いに・・・気づいてた!!??

 

「・・・え?嘘?聞き間違いじゃないよね?もう1回・・・」

 

「やめろーーー!!もう1回は言わねぇぞ!!」

 

「だって・・・鈍感上杉さんが・・・信じられません・・・」

 

「・・・まぁ、いろいろあったからな」

 

・・・本当に気づいてたんだ・・・。普段は鈍感なくせに・・・六海の思いをちっとも気づいてないくせに・・・未だに信じられない・・・。

 

「・・・だからあの三玖から応援と言われた時は頭が混乱した。あの三玖はあいつじゃなかった・・・やっぱり間違ってなかったんだな・・・」

 

「「??」」

 

「・・・いや、何でもない。気にするな」

 

???風太郎君はいったい何のことを言っていたの?気にするなって言われても気になるんだけど・・・。

 

「とにかく今回のことはお前らが気にすることじゃない。特に四葉、お前は人に気遣いすぎだ。ハッキリ言って度が過ぎている」

 

「あー・・・確かに。去年の陸上部の件もそうだけど・・・」

 

「は、ははは」

 

四葉ちゃんは誰にたいしても・・・というか、その優しさがちょっと限度を超えてるような気がするよ。変な人に騙されないか心配だよ。

 

「それはいいんです。上杉さんには、落第した私にみんながついてきた話をしましたよね?」

 

「え?そうなの?」

 

「ああ」

 

「あれは、私がみんなを不幸に巻き込んじゃったんです。簡単に取り戻せるものじゃありません」

 

「四葉ちゃん・・・」

 

四葉ちゃん・・・まだ、黒薔薇でのことを引きずって・・・そんなの・・・六海たちがみんなで話し合って決めたことだから、四葉ちゃんのせいじゃないのに・・・。それに六海は、全然不幸だとも思ってもいないのに・・・。

 

「六海だけじゃなく・・・姉妹のみんなが私より幸せになるのは当然なんです」

 

そんなことない・・・と言いたかったけど・・・四葉ちゃんの気持ちは痛いほどにわかる・・・。四葉ちゃんほどじゃないにせよ、六海だって、凶鳥だった時、いっぱい迷惑をかけた。その時の後悔は計り知れないよ・・・。六海たちにとっては不幸じゃなくても、四葉ちゃんはそうでもない・・・。だからその気持ちはわかるし・・・何か言う勇気もない・・・何も言えない・・・。

 

「そんなもんかね」

 

「この旅行も・・・みんなに楽しんでほしかったのに・・・」

 

いったい何が正しくて、何が間違っているんだろうね・・・。六海だって、自分のことで必死で・・・お姉ちゃんたちの気持ち、考えてあげられなかった・・・。お姉ちゃんたちの幸せって・・・いったい何なんだろう・・・?

 

「・・・ねぇ、風太郎君」

 

「なんだ?」

 

「誰もが平等に、幸せになる方法って、ないのかな?」

 

「あるぞ」

 

そうだよね・・・そんな都合よくなんて・・・て、え!!?

 

「あるの!!?」

 

「ああ。人と比較せず、個人ごとに幸せと感じられる・・・もしそんなことができたのならそれは、さっきのお前の質問の答えになるだろう」

 

「で、ですよね!それじゃあ・・・」

 

「・・・だが、現実的には・・・誰かの幸せによって別の誰かが不幸になるなんて珍しくもなんともない話だ。競い、奪い合い・・・そうやって争いの中で勝ち取って得る幸せってのもあるだろうよ」

 

・・・やっぱ・・・そうだよね・・・。現実的にはそんな甘いことだらけじゃない・・・。わかってたよ・・・そんな答えが返ってくることくらい・・・。

 

「・・・そんなこと言ったら、私にできることなんて・・・」

 

「何もない。お人好しは大いに結構だ。だが限度があるだ。おこがましいんじゃないか?全てを得ようなんてな」

 

「・・・・・・」

 

「何かを選ぶ時は何かを選ばない時だ。いつかは選んで、決めなきゃいけない日がくる。いつかは、な」

 

何かを選ぶ時は何かを選ばない・・・いつかは選んで決めなきゃいけない・・・か・・・。六海にも、そう言う何かを選ばないといけない時って、来るのかな・・・。

 

「・・・そろそろつく。降りて三玖を追いかけるぞ」

 

「はい」

 

「うん」

 

六海たちはバスから降りて三玖ちゃんを追いかけようと走った・・・けど・・・体力がなかったから六海も風太郎君もバテて休憩を繰り返して・・・結局日中では合流することができなかったよ・・・。・・・もうちょっと体力つければよかったかな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

夜になって、今日六海たちが泊まることになるホテルで、みんなで晩御飯をとっているよ。どれもおいしそうな料理で普通なら胸が躍る・・・んだけど、三玖ちゃんが気がかりで、とてもそんな気分にはなれなかった。一花ちゃんも三玖ちゃんも集まらなかったし・・・心配だなぁ・・・。

 

「みんな、聞いて」

 

すると二乃ちゃんが真剣みな顔で話を切り出してきた。

 

「盗撮犯に追われているわ」

 

「「え?」」

 

盗撮犯って・・・こそこそと隠れて女の子の写真を撮ったりするあの盗撮犯?

 

「京都駅にいた時からずっと感じてたの。間違いないわ。修学旅行生がターゲットにされるって前にニュースで見たもの」

 

あ、そういえば・・・スマホのウェブページでもそんなことが書いてたっけ・・・。気持ち悪いなぁ・・・そんなのがいるなんてやだやだ・・・。

 

「だとしても、なぜ二乃を撮るのです?」

 

「ど、どういう意味よ!!」

 

五月ちゃん、さすがにその発言は二乃ちゃんに失礼だと思うよ。二乃ちゃんだってかわい・・・

 

カシャンッ

 

!今、写真の音が聞こえて・・・

 

「!!やっぱり!!」

 

まさか本当に盗撮犯が・・・?怖いなぁ・・・。六海と二乃ちゃんはカメラの音の方が鳴った方を見てみると・・・

 

「ごちそうだねー」

 

「インスタあげよ」

 

「・・・・・・」

 

な、なんだ・・・クラスの子がただご飯の写真を撮ってただけかぁ・・・ビックリしたぁ・・・。

 

「それより三玖と一花は・・・」

 

「結局日中は追いつけなかったけど・・・ホテルに帰ってきているんだよね?」

 

「ええ。2人とも歩き疲れてしまったようで自室で休んでいます」

 

そうなんだ・・・。ただ・・・2人が自室に一緒にいるとは思えないんだよね・・・。あんなことがあった後だもん。2人きりは気まずいはずだし・・・。

 

「三玖ちゃん、大丈夫かな・・・。今もまだ自室にいるはずなんでしょ?」

 

「やっぱり私、見てくるよ!」

 

「待ちなさい。もうすぐ食べ終わるから、一緒に行くわよ」

 

「二乃・・・」

 

「あ、私はもう食べ終わってます!」

 

「五月ちゃん・・・」

 

こんな時でも五月ちゃんは平常運転というかなんというか・・・。とにかく、ご飯を食べ終えて、六海たちは三玖ちゃんの様子を見に自室へと戻っていくよ。

 

「・・・・・・」

 

「おう、上杉。俺酢の物苦手やねん。食ってくれ」

 

「おや上杉君、どうかしたかな?それから、トマトも苦手なんだが食べてくれるかい?」

 

「・・・いや、何でもねぇ。それよりもあいつ、前田はどうした?」

 

「あいつなら便所に行っとるけど・・・」

 

「長いトイレだね」

 

「じゃあ俺もトイレ行っとくか・・・」

 

「ということは僕もだね」

 

「なんでやねん」

 

「ついてくんな」

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖ちゃんの様子を見に六海たちの部屋まで来たんだけど・・・どうも三玖ちゃんが中の鍵をかけちゃったから六海たちは中に入れず部屋の前までいるよ。

 

「三玖ちゃーん、いるんでしょー?鍵開けてよー」

 

「・・・・・・」

 

・・・声をかけても反応なし・・・よっぽどショックだったのかな・・・。

 

「反応ありませんね・・・」

 

「電話も無視と・・・一応アタシたちの部屋でもあるんだけど・・・」

 

困ったなぁ・・・これじゃあ三玖ちゃんに近づくこともままならないよ・・・。後、このままじゃ六海たちも部屋に入れないよ・・・。

 

「三玖、ごめん!私のせいで!でも修学旅行は2日あるんだよ。これから私に取り返させてほしいんだ」

 

「・・・・・・」

 

「四葉・・・」

 

・・・四葉ちゃんでも反応なし・・・どうしよう・・・もう本当に先生呼んで部屋を開けてもらうしか・・・

 

カシャン

 

「「「「!」」」」

 

・・・え?今のって・・・カメラの音・・・?まさか・・・

 

「・・・い、いや、ま、まさかね、はは・・・」

 

「は、はは・・・二乃が変なことを言うから私まで幻聴が聞こえてきました・・・」

 

「そ、そうよね・・・幻聴よね・・・いくら何でもホテルの中にまで・・・」

 

そう・・・今のは幻聴・・・幻聴・・・疲れてカメラの音が聞こえただけ・・・!そんな後ろにすぐに盗撮犯がいるわけ・・・

 

カシャン

 

「「「「・・・きゃあああああああああああああ!!!???」」」」

 

で・・・出たああああああああああ!!!本物の盗撮犯だああああああああああああ!!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

六海たちは盗撮犯から逃げるようにホテル内をぐるぐると走り回ったと思う。その際に先生に怒られちゃった記憶があったけど、それどころじゃなかったから通り過ぎちゃったよ・・・。はぁ・・・怖かったぁ・・・。

 

「ふぅ~・・・ここまで逃げれば大丈夫・・・」

 

「今のはいったい・・・」

 

・・・あ、そういえば・・・盗撮犯はあそこに置いてきちゃったけど・・・三玖ちゃんは大丈夫かな・・・?・・・い、いや、大丈夫だよね・・・?鍵かけてたし・・・でも心配・・・もう1回電話をかけよう。お願い三玖ちゃん・・・電話に出て・・・

 

≪六海、今の声って・・・≫

 

あ、出た~・・・。よかったぁ~・・・電話に出たってことは無事だったんだ・・・。・・・は!そうだ、今なら三玖ちゃんに声をかけるチャンス・・・

 

「あのね、三玖ちゃん・・・」

 

「六海、ちょっと貸しなさい」

 

「あ、二乃ちゃん⁉」

 

六海が話をしようと思ってたら二乃ちゃんにスマホ取られた!

 

「やっと出たわね、三玖。あんた、明日どうするつもり?話したい事があるんだけど」

 

二乃ちゃん・・・三玖ちゃんに何か伝えたい事でもあるのかな・・・。普段は喧嘩とかよくする二乃ちゃんと三玖ちゃんだけど・・・こういう時だからこそ・・・話せることがあるのかな・・・。六海も、三玖ちゃんのために何かしてあげたい・・・けど・・・何をすればいいんだろう・・・?三玖ちゃんのためになるもの・・・か・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

修学旅行2日目、三玖ちゃんや一花ちゃんのことが気がかりだけど・・・今は気分転換!修学旅行を楽しまないと!それに、三玖ちゃんには多分二乃ちゃんがいるだろうしね。そういうわけだから、六海は今日は真鍋さんと一緒に京都の観光スポットを見て回っているよ。

 

「いいの?姉妹と一緒じゃなくて、私と回るって」

 

「ああ、うん、いいのいいの!あっちもあっちで楽しんでるだろうし、それに、3年生になってから真鍋さんと一緒にいる時間も減っちゃったからね!その埋め合わせ!」

 

「ふーん・・・まぁいいけど」

 

せっかくの修学旅行だもんね。たまには姉妹だけじゃなくて、2年でできた友達と一緒に回りたいもんね。

 

「で、次どこ回るのよ?やっぱお寺とか?」

 

「うん、そうだね。京都と言えば、やっぱり清水寺のてっぺん!これは外せないよ」

 

「・・・そう」

 

小学生の時の修学旅行で見た時のあの景色はそう簡単には忘れられないからね!もっとも初日は観光どころじゃなかったけどね。

 

「あ、ちょっと待ってちょうだい。孤児院のみんなのお土産を買っておかないと」

 

「お土産?それ後でもいいんじゃない?」

 

「うちに住んでる子らが何人いると思ってるのよ?お店一か所だけじゃちっとも足りないわ」

 

「あー、そっか。10人以上はいたもんね」

 

「まず子どもたちの分は全員確保しないといけないわ・・・!最悪の場合、院長や同学年の子らの分は省かないと・・・!」

 

「無難にお菓子でいいと思うけどなー・・・」

 

真鍋さんってたまにケチくさいことを言うからたまに傷なんだよねー。子どもたちのことを思う気持ちはわかるんだけどさ。

 

「あんたも買って行けば?時間は一応有限なんだから」

 

「んー・・・そうしよっかな」

 

明日の最終日でも問題ないんだけど・・・せっかくだからなんか買っていこうかな。このお店では・・・お守りが売ってるんだ・・・。あ、勉学成就のお守り、ここで売ってたんだ。せっかくだし、お姉ちゃんたちのために、別のお守りでも買ってみようかな。

 

「んー・・・どれにしよっかなー・・・」

 

「これなんかいいんじゃないかしら?健康祈願のお守り。これからも元気でいられますようにーってさ」

 

「健康祈願かー」

 

んー、確かに今後も元気でいられるにこしたことはないかな。あ、いや、でも・・・身体は健康そのものだし・・・どっちかっていうと、三玖ちゃんが立ち直ったりできそうなお守りを・・・

 

「・・・てい!」

 

「いた!」

 

い、いきなり真鍋さんにデコピンされた!なんで!!?

 

「な、何⁉」

 

「カラ元気なのバレバレなのよ、まったく・・・普段ならいいって言うのに、らしくないわね・・・」

 

あ・・・今の六海の気持ち・・・気づいてたんだ・・・さすが真鍋さん・・・人のことは良く見るなぁ・・・。さすが孤児院のリーダーさん。

 

「・・・なんかあったの?私でよければ相談に乗るわよ」

 

「・・・じゃあ・・・相談に乗ってもらっていい?」

 

「何を今さら。水くさいわよ」

 

「実は・・・」

 

お土産は一旦後にしてお寺のてっぺんに向かいながら六海は、昨日起きたことを全部真鍋さんに話した。真鍋さんは口を挟むことなく、真剣に聞いてくれた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・そう。そんな事があったのね・・・」

 

「うん・・・」

 

事情を全部話終えた頃合いには、六海たちはお寺のてっぺんまでたどり着いた。こんな時でも絶景の光景が、心が踊りつつも、逆に姉妹全員一緒じゃないから、逆に寂しさを感じるよ。

 

「・・・だったらごめんなさい。多分それ、間接的に私のせいになると思う」

 

「・・・どういうこと?」

 

真鍋さんの言っている意味が理解できない。間接的に真鍋さんのせいになるって・・・いったいどういう意味?

 

「春休みでの温泉旅行、覚えてるかしら」

 

「うん。もちろん、覚えてるよ」

 

忘れるわけがないよ。あの温泉旅行のおかげで、六海はもう我慢しないって決めたから。やりたいことはやるって決めたから。

 

「その旅行の2日目の夜、私、一花に言ったのよ・・・やりたいことは我慢せず、やりたいことはやれって・・・」

 

!旅行が終わって以来、一花ちゃんが様変わりした理由がようやく理解できた。真鍋さんの影響が出てたんだ・・・。

 

「あの子、気持ち的にだいぶ参ってたみたいだったから、ほんの少しだけ背中を押す程度だったのよ。でもそれがまさか・・・そんな事態になってたとは思わなかったわ・・・」

 

真鍋さんの言葉から申し訳なさが伝わってきた。そしてすぐに六海に向かって頭を下げてきた。

 

「本当にごめんなさい。こんなことになったのは、私の責任だわ」

 

「ちょ・・・謝らないで!真鍋さんは何も悪くないって!だから気にしないで!ね?」

 

「でも、結果的に私が言った事のせいで・・・」

 

「大丈夫だって!それに、多分一花ちゃんの気持ちに従っての行動だから、温泉旅行で誰が声をかけても同じだったと思うし。だから気にしなくてもいいんだって!だから頭をあげて」

 

「・・・なんか、逆に励まされているみたいで、さらに申し訳ないわね・・・」

 

はは、本当だ。真鍋さんからすれば、励まそうとしてるつもりが、その逆の立場になっちゃてるね。でも、とりあえずは頭をあげてくれてよかったよ。

 

「・・・はぁ・・・でもまさか・・・一花が・・・。私はそんなつもりで言ったわけじゃなかったのに・・・」

 

「本当に、どうしてこうなっちゃったんだろう・・・。せっかくの修学旅行だったのに・・・」

 

起きてしまったことのことを考えても仕方ないのはわかってるつもりなんだけど・・・どうしても考えてしまうんだ。もっと他にやり方はなかったのか。違うやり方でなら、みんな傷つかずに済んだのにって・・・。はぁ・・・頭が痛くなってきちゃう・・・。

 

「・・・ねぇ、真鍋さん」

 

「何?」

 

「真鍋さんだったら、この状況、どう動こうとする?」

 

「・・・またずいぶんと難しい質問が来たわね。私だったら・・・そうねぇ・・・」

 

は・・・ついうっかり思っていることを口に出してしまった。でも真鍋さんは六海の問いかけに真剣に悩んで答えを探しているね。

 

「・・・これは私・・・というより、孤児院基準になっちゃうけど、それでも構わないかしら?」

 

「う、うん」

 

「私だったら落ち込んでいる子・・・あんたたちで言うところの三玖のやりたいこと、叶えたいことを叶えさせてあげること、かしらね」

 

「三玖ちゃんの・・・やりたいこと・・・」

 

三玖ちゃんの望みと言えば・・・絶対に風太郎君と一緒にこの修学旅行を回ること・・・だよね・・・。でも、それは一花ちゃんも・・・二乃ちゃん・・・六海だって望んでることだよ。

 

「そりゃもちろん他の子達だってその子と同じ事を考えているかもしれない。けどね、不思議なことに落ち込んでいる子のために自ずと考えて、動いていくものなのよ。割と自然とね。私はそんな子供たちの光景を何度も見て来た。私自身もそうだったわ。その子のために、動いてきたりしたわ。自分の本分を置いておいて、ね」

 

「そういうものなのかな?」

 

「あんたもいずれ、わかるわよ」

 

自分の本分・・・というか、願い?かな?それを置いて、落ち込んでる子のために、願いを叶える?難しいことだなぁ・・・。絶対そんなことになるとは思わないんだけど・・・。その願いが同じならなおさらだと思うし。それに・・・昨日のこともあったから、今の一花ちゃん、今日は何をするかわかったものじゃないし・・・。

 

「じゃあもし、もしもだよ?その願いを他の子が邪魔して来たりしたら・・・その時はどうするの?」

 

「誰かが自分の願いを優先して、落ち込んでる子をさらに傷つけることを恐れての発言かしら?それは」

 

「うん・・・」

 

だって、絶対にないとは言い切れないもの・・・。

 

「・・・人間関係ってのは割と面倒でね、紡いできた絆ってのはそう簡単には切れることはないのよ。それが家族であるなら余計にね。その邪魔をしてきた子だって、本当はその子を傷つけたくないって内心では思っているはずよ。だったら私はそれを信じる、それだけよ」

 

「信じる・・・」

 

「ま、あくまでも孤児院基準だけどね。それ以外となると難しいけれど」

 

信じる・・・か・・・。今の六海は果たして、お姉ちゃんたちを信じられてるのかな・・・?最近では風太郎君のことを考えすぎて、お姉ちゃんたちにたいして疑心暗鬼になってるから、信じられる自信がないよ・・・。それで三玖ちゃんが元気になる保証もないし、一花ちゃんもいまいち信用できない・・・二乃ちゃんにだって負けたくない・・・唯一信じられるのが四葉ちゃんと五月ちゃんだけ・・・。そんな六海が三玖ちゃんの願いを叶えたって・・・

 

「・・・ふん!」

 

ポコッ

 

「いた!」

 

ま、また真鍋さんに叩かれた!考え事してるのに!

 

「あんたは少し考えすぎなのよ。もっと楽になりなさいな」

 

「真鍋さん・・・」

 

「それに、あんたらは六つ子でしょ?普通の家族よりも絆が固いはずよ?姉妹を信じてあげられないでどうするのよ?」

 

「!」

 

六つ子・・・そうか・・・そうだよ・・・六海たちは六つ子、普通の姉妹とは違う。そりゃ普通に喧嘩したり、いがみ合ったりもするけど・・・それでも、六海たち姉妹の絆は、何よりも固い。そして、その6人の絆は、風太郎君と同じくらいに大切。ああ、そんな単純なことを忘れかけてたなんて、自分を引っ叩いてやりたいくらいだよ。

 

「・・・なんか、吹っ切れた、みたいな顔ね」

 

「全然そんなことないけど・・・気持ち的には楽にはなったよ。ありがとうね、真鍋さん」

 

「私は相談に乗っただけ、何もしてないわ」

 

ううん、そんなことない。こんなにいい気持になったのは、他ならない真鍋さんのおかげ。感謝しかないよ。

 

「・・・うん、決めた」

 

「?」

 

「六海に何ができるのかは、まだわからないけど・・・それでも六海は、お姉ちゃんたちを信じるよ。もう疑ったりもしない。例え悪い結果になったとしても、きっと何とかなる。そう、信じることに決めたよ」

 

「そう、それでこそ私の知る六海よ」

 

六海の言葉を聞いて、真鍋さんは微笑みを見せてくれた。風太郎君はまだ諦めたわけじゃないけど・・・それでも六海は、姉妹で公平でありたい。そのためにも、三玖ちゃんが笑っていられるように何か考えないとね。

 

「・・・あら?雲行きが怪しい・・・これは一雨来そうね」

 

「え⁉️ウソ⁉️」

 

ウソでしょ⁉️今日雨降らないって天気予報で言ってなかったっけ⁉️ていうかもうこれ、どう足掻いても雨で濡れちゃうじゃん!

 

「参ったわね・・・折り畳みも持ってないし・・・」

 

「と、とりあえずなるべく濡れないように急いで戻ろうよ!」

 

「そうね、そうしましょう」

 

六海たちはできる限り濡れないように急いでお寺から出てホテルに戻る。けど、その途中でやっぱり降って来ちゃって、六海たちはびしょびしょだよー・・・。こんな時に雨が降って来るなんて・・・なんか不吉だな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『嘘をついた反動』

 

時間は少し遡り、修学旅行の1日目の夜、盗撮犯のカメラを見て、二乃たちが出した悲鳴は風太郎の耳にも聞こえていた。

 

「なんだ今の悲鳴⁉」

 

「何かあったの⁉」

 

様子を見に行こうとしたところで、同じく悲鳴を聞きつけた一花と偶然鉢合わせる。

 

「・・・あ、フータロー君・・・いいところで会ったね」

 

「!一花、お前・・・」

 

「ねぇ、明日は時間ある?話したい事があるんだけど」

 

「・・・三玖のことか?」

 

「うん。三玖がね、話したい事があるってさ。だから三玖の話を聞いてあげてよ」

 

一花にそう言われたことによって、風太郎は翌日三玖を探すために清水寺の頂上にまでやってきた。だがそこにいたのは四葉と五月だけ。他の姉妹は2年の頃の友人と見て回り、三玖は体調不良とのこと。そこでなぜか五月とツーショット写真を撮ることになったりしていた。そして現在・・・

 

「お、おい・・・どこへ連れていく気だ」

 

「いいから、こっち来て」

 

風太郎はただいま絶賛1人の女子高生に連れられている。

 

「急にどうしたっていうんだ・・・三玖」

 

風太郎を連れ出しているのは、部屋で休んでいたはずの三玖であった。ただ・・・この三玖は三玖であって三玖ではない。その正体は、昨日話を切り出してきた本人、一花である。つまりこれは、一花が三玖に変装しているのだ。

 

(三玖がフータロー君が好きだと知られたままじゃ私の嘘に矛盾ができてしまう。もうこうなったら、使える手段は何でも使う・・・私にはもう、これしか選択肢はない。この戦いに・・・勝つためにも!!)

 

昨日あんなことがあったにもかかわらず、まだ凝りていない様子の一花。それだけ一花も必死なのだ。風太郎の視線を自分に向けるために。そのためにも一花は、苦しいながらも、嘘をつき続ける。

 

「・・・!ここは・・・」

 

変装した一花が連れてきた場所は、辺りに自然が広がっている1本道の渡り道だ。この道のりは、風太郎にとって、6年前のいい思い出の1つだ。

 

「ここ、来たことあるよね?」

 

「ああ・・・小学生の頃に1回な」

 

「小学生の頃?」

 

風太郎は6年前の修学旅行の思い出・・・零奈との思い出を振り返る。

 

「あの日のことを忘れたことは1度もない。俺はあの日・・・あの子・・・零奈に振り回されるがまま、辺りを散策した。俺を必要と言ってくれた彼女との旅は、俺にとっていい思い出だ。気が付けば日が落ち、夜となっていたんだ」

 

「・・・それで、その後はどうしたの?」

 

「学校の先生に迎えに来てくれることになった。零奈が泊まっていた旅館の空き部屋で待たせてもらっていた。担任にはこっぴどく叱られたがな。だが、楽しかった」

 

風太郎の昔話を聞いて、一花は口元に笑みを浮かべていた。

 

「その子は・・・」

 

「もういいだろ」

 

「え?」

 

一花が口を開こうとした時、その前に風太郎が先に口を開いた。

 

「お前に何か意図があるんじゃないかと思って話しただけだ。だがわからん。もう面倒くさくなってきた」

 

風太郎は一花に面と向かって言い放った。

 

「お前の芝居に付き合ってやるのもここまでだ、三玖・・・いや、一花」

 

「・・・え・・・?」

 

風太郎に自身の正体を言い当てられて、かなりの焦りが生じ始める一花。

 

「えっ・・・ちょ・・・なんで急に・・・」

 

「ただの勘」

 

「えええ!!?」

 

一花が驚いている間にも、風太郎はだんだんと一花へと迫っていく。

 

「これまでの状況を考えるとな、お前の可能性が1番高い。怪しいところだらけだ」

 

「ち、違うから!!ハズレ!!私は一花じゃない!!残念でした!!」

 

「その焦りは、正解を言っているようなものだ。それに・・・これ以上、お前らのミニコーナーに付き合う義理は、俺にはない」

 

壁際まで一花を追いつめ、そして、動きづらくするように壁ドンをする風太郎。そしてそのまま、一花の変装道具を外す。

 

「ほらな、正解だ」

 

「・・・・・・」

 

風太郎が変装道具を外したその瞬間、空の雨雲はぽつぽつと飴を振り出し、次第には大雨になっていった。

 

「タイミング的に考えて、先日の学校で会った三玖もお前で間違いないな?なぜ俺にあんな嘘をついた?」

 

「あ、あれは私じゃ・・・」

 

「嘘でまた惑わすのはなしだからな」

 

どんなに一花が何かを言おうとしても、もう嘘で訂正できるような話ではなくなってきている。雨に打たれている状況中、短い沈黙の後、一花は口を開いた。

 

「・・・さっきの話さ、フータロー君はもう、気づいてるんじゃないかな?6年前のその子が、私たちの6人の中の誰かだって・・・」

 

「・・・ああ、知っている」

 

「・・・私だよ」

 

「!」

 

「私・・・私だよ・・・私たち、6年前に会ってるんだよ・・・」

 

思い切った一花の告白に風太郎はあまり動揺している様子はない。沈黙を続けるだけであった。

 

「嘘じゃないよ・・・お願い、信じて・・・」

 

「・・・・・・」

 

「おーい、そこの2人!見学は中止!ホテルに戻るぞ!!」

 

遠くから教師の声が聞こえてきた。ホテルに戻る前に風太郎は一花に確認のためにこう問いかける。

 

「・・・6年前、俺とここで買ったお守りを覚えているか?」

 

「え?お守り・・・?」

 

風太郎の問いかけに、一花は一瞬の戸惑いを見せる。それもそのはず、お守り事態に記憶はあるが、買った、というところは身に覚えがないからだ。

 

「う、うん!今でも持ってるよ。忘れるはずがないよ・・・」

 

それでもそれを察せられないように、そのように言葉を紡いだ。

 

「・・・嘘、なんだな」

 

だがそれも空しく、風太郎に見破られてしまい、思惑をバッサリと切り捨てられた。

 

「悪い・・・今はお前を信じることができない。風邪ひく前に帰るぞ」

 

風太郎は一花に目をくれる様子もなく、ホテルへの道のりを歩く。1人残った一花は大雨の中で、泣いた。

 

6年前に風太郎にあったという一花の言葉は・・・半分は嘘であり、半分は正解なのだ。つまり、話の半分は一花が関わってるのは間違いない。ただ・・・学校の廊下でついた嘘があまりにも大きすぎたのだ。その反動が、ここで返って来たのかもしれない・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ようやくホテルに戻ってこれた~・・・。あー、もー、制服も下着もメガネももうびしょしょ~・・・。今日は晴れだったはずなのに・・・ついてないなー・・・。他の生徒たちもみんなびしょびしょの状態で戻ってきた。

 

「ひとまず着替えて各班部屋で晴れるまで待機だ」

 

「え~、そんな~・・・」

 

「せっかく京都に来たのに~・・・最悪~・・・」

 

本当だよ。せっかくの京都なのに雨で観光中止だなんて・・・幸い、明日は晴れだからいいけどさー。

 

「じゃあ、私は松井たちのとこに戻るから、またね」

 

「うん、またー」

 

とりあえず六海は真鍋さんと別れて、六海たちの部屋へと戻るよ。三玖ちゃんはともかく、他のお姉ちゃんは濡れてないかな?そう考えていると、一花ちゃんと出くわした。

 

「あ、一花ちゃん・・・」

 

「あ・・・」

 

一花ちゃんは六海とは比べ物にならないくらいに雨で濡れまくっているのが見ただけでわかった。それに、目を見てみたら・・・なんかちょっとだけ目が腫れてる・・・さっきまで泣いてたっていうのがわかる。・・・何があったかは、聞かないであげよう。それよりも・・・

 

「一花ちゃん、お部屋に戻ろう。濡れたままだと、風邪ひいちゃうよ」

 

「・・・うん」

 

六海は一花ちゃんを連れて、六海たちの部屋へ向かっていく。一花ちゃんの体、雨で濡れきっていて冷たい・・・だいぶ雨に打たれてたんだ・・・。早くシャワーを浴びさせてあげないと。

 

「予報は晴れだったよなー。絶対雨男雨女がいるな?許さねぇぞコラ」

 

「上杉君、どこにいたんだい?」

 

「・・・まぁ、ちょっと、な」

 

「ははは、さては迷子だね」

 

「ええ年こいてそれはないやろ。ちゅーか、明日のコース選択、どないすんねんな」

 

「そうだな・・・。・・・やっぱEにしようぜ」

 

「・・・・・・」

 

向こうの方で風太郎君たちがなんか話してるけど、そんなこと気にしてる余裕はこっちにはない。今は姉妹の方が大事。みんな濡れてないといいんだけど・・・。

 

43「シスターズウォー 3回戦」

 

つづく




おまけ

今さらながらの紹介

魔法少女マジカルナナカ

漫画家MIHOが作者の大人気魔法少女漫画。六海のお気に入りの漫画ナンバー1に君臨している。ピース、ストライクなどの続編を用いて、7年間の連載が続いており、今でも人気が誇っている。
その人気によってグッズ化したり、映画化にまで発展するようにもなった。ちなみに、アニメのナナカ役として出演している声優も、六海の1番のお気にいりの役者であり、彼女が出演するイベントには必ずと言っていいほどに参加している。

今さらながらの紹介  おわり

次回、三玖視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズウォー 4回戦

投票の結果は六海ちゃんがかなりリードしていますが、投票次第ではまだ他の子も逆転のチャンスありです。とりあえずはこの話を除いて、後3回の投稿で締めさせていただこうと思います。ご協力の方、よろしくお願いいたします。

後六海ちゃんの水着の方も、できればで構いませんのでご協力をお願いします。なかなか思い浮かばなくて・・・。


・・・もう何もやる気が起きない。何もしたくない。自信が湧いてこない。・・・この修学旅行が始まる前から私は、フータローにおいしいパンを作って、私の気持ちを、知ってもらいたかった。私の頑張りを、もっと認めてもらいたかった。

 

・・・けど、一花が先に山の頂上にいて・・・四葉のカミングアウト・・・そしてあのタイミングでのフータローが来て・・・。私の気持ちは、フータローに知ってもらいたい・・・それは、私の望むこと。でも、いざフータローに私の気持ちを知られてしまったらと思うと・・・不安と恐怖が真っ先に込みあげてきた。だからあの時、私は逃げ出した。

 

・・・もちろんあれは四葉のせいじゃないし、一花のせいでもない。何においても、告白を先延ばしにしようとした、私の自業自得。

 

・・・今はフータローにどんな顔していいのかわからない・・・。今は、顔を合わせる勇気もわいてこない・・・。これが逃げであることはわかってる。でも・・・それでも・・・

 

「ご迷惑おかけします」

 

「いいのよ。せっかくの修学旅行なのに、体調不良だなんて、残念ね・・・」

 

「・・・もう少し部屋で休んでいきます」

 

「ええ。元気になったら教えて。・・・あ、そうだ。このホテルで盗撮があったみたいだから気を付けてね」

 

「・・・ありがとうございます」

 

・・・ホテルの自室でじっとしていたら、外で先生と誰かが話してる。どうやら相手を私と認識しているみたい。・・・そんな芸当ができるのは、私の姉妹以外ありえない。話が終わったら、部屋の扉が開いた。

 

「・・・ふぅ・・・あんたの言葉で言うなら・・・知りがたきこと影の如く・・・だっけ?」

 

部屋に入ってきたのは、私の変装をしていた二乃だった。

 

「・・・何してるの、二乃」

 

「あんたの真似事をしてみたのよ。二重の意味でね。さすがに姉妹2人も仮病なんて怪しまれるわ」

 

私が聞きたいのはそんなことじゃない。

 

「次の点呼は・・・うん、まだ全然余裕があるわね」

 

「なんでここに来たのかって聞いてるんだけど・・・」

 

「昨日電話で言ったでしょ。あんたと2人で話がしたいのよ。誰にも邪魔されずにね」

 

・・・確かに昨日そんなことを言っていた。二乃が何でここに来たのかというのもだいたい察しが付く。だからこそ・・・放っておいてほしかった。

 

「・・・慰めなら聞くつもりない」

 

「・・・はあ?」

 

私の言葉に二乃はわけがわからないと言わんばかりの顔をして、私に近づいてきた。

 

「慰める?アタシが?あんたを?そんなのするわけないでしょ」

 

じりじりと近づいてきて、気が付けば二乃は私の目の前まで迫ってきていた。

 

「恋のライバルが自分から勝手に手を引いてくれたんですもの。アタシにとってはラッキー以外の何物でもないわ。後の障害は一花と六海ね。あの泥棒猫と女狐をどうしてやろうかしらね・・・。・・・と、いうわけだから、フー君はアタシがもらうわ。それでいいわよね?」

 

フー君・・・温泉旅行の時に六海が考案して、気が付けば二乃がフータローにたいしてそう呼んでる・・・。これは二乃がフータローに心を許してる・・・ううん、それ以上の好意を持ってる・・・。それに、二乃の気持ちは班決めの時からわかっていた。だからこそ、わからない。

 

「フー君って・・・。二乃はいつからフータローのことを・・・」

 

「何よ?まさか自分の方が早かったから譲れって、あんたはそう言いたいの?」

 

「そ、そういうわけじゃ・・・」

 

「・・・そりゃあんたが1番だったのかもしれないわね。正直、愛に時間は関係ないなんて言えるほど、アタシもまだ全然、よくわかっていないわ。こんなの生まれて初めてだもの。何が正しくて何が間違ってるかなんて、誰にもわからないのよ。ただ・・・」

 

「ただ・・・?」

 

「確かにわかっているのは、誰よりもアタシが、彼が好きなの事よ」

 

話を聞くたびに、二乃のフータローへの思いが伝わってくる。それはもう、羨ましいほどに。二乃は本気で、フータローのことが、好きになっちゃったんだ・・・。

 

「・・・わ、私だって・・・諦めて・・・ない・・・」

 

今のは気落ちしてる私の・・・精いっぱいの抵抗・・・なのかもしれない・・・。でも、諦めきれないのは本当。

 

「・・・せっかくの修学旅行で自分をアピールするチャンスをこんな部屋で閉じこもってふいにしてる時点で諦めたようなものよ。あんたのターンはもう終わり。ご苦労様・・・」

 

「諦めたくない!!」

 

二乃の言葉に私は必死になってそう言い返した。

 

「・・・でも怖いの。いつかこうなるってわかってたはずなのに・・・いざ自分の気持ちがフータローに知られたら、私なんかじゃダメだって・・・そう思えてきて・・・」

 

「・・・・・・」

 

「私なんかがフータローに好かれるわけがないよ・・・公平に戦うことが、こんなに怖いなんて思わなかった・・・」

 

万が一フータローに認められなかったら・・・そう考えるだけで私は・・・怖くなってきて・・・気づいたら涙を流していた。

 

「・・・はぁ、なんで負けること前提で話をしてるのよ。もうそこからして気持ちで負けてるのよ」

 

「だって・・・相手はあの一花だもん。かわいくて社交的で男子から人気で・・・自分の夢を持つ強さもある。私が男子でも一花を選ぶ。それに、六海だって・・・。かわいくて、前向きで、女の子らしくて・・・やんちゃしてた時でも、誰かに手を差し伸べる優しさがある。私とは、全然違う」

 

一花も六海も、みんな魅力的で、もしも私が男子だったら、みんなと同じ気持ちだった。それに比べて私は、何もない。あの2人に勝てる要素なんて、何1つない。ううん・・・2人だけじゃない・・・四葉や五月だってかわいいし・・・

 

「それに・・・二乃だってかわいい」

 

「!・・・それはどうも・・・。ま、私がかわいいなんてわかりきってたことだけどね!!」

 

二乃が照れてる。やっぱりかわいい。

 

「・・・それだけに、私の告白を即オッケーしなかったあいつが頭おかしいのよ・・・どれだけ勇気を振り絞ったことか・・・って、返事を先延ばししたのはアタシだけど・・・それでも超ムカつくーーー!!」

 

「告白まで・・・やっぱりすごいよ、二乃は・・・そんな大胆に・・・」

 

「やっぱあんたはまだしてないのね。あの朴念仁は言葉で言わなきゃわからないわよ」

 

「一応・・・したことはある・・・不発だったけど・・・」

 

あの時の告白はあのマンションで菊ちゃんとおままごとをしてた時にふいに・・・。まぁ、不発で終わって、フータローには伝わらなかったけど。でも・・・あの時みたいな告白は・・・

 

「・・・でももう今は・・・告白するほどの自信なんて、湧いてこない。テストで1番になったら・・・おいしいパンが焼けたら・・・。そんなのただの言い訳。そうやって先延ばしにしたのは私だから・・・一花も・・・誰も悪くない。全部私のせい・・・自業自得・・・」

 

こんなことになるのなら、フータローに恋なんてしなければよかった・・・なんて思えてくる始末・・・。自分の不甲斐なさに嫌気がさしてくる・・・。

 

「・・・あっそ。ならそうやっていつまでも塞ぎ込んでいればいいわ。いつまでもうじうじうじうじと・・・煮え切らない。やっぱりあんたとはそりが合わないわ」

 

それは私も一緒。だから私と二乃はいつも喧嘩ばかり。

 

「・・・それでも・・・アタシはあんたをライバルだと思ってたわ」

 

「!」

 

「アタシとあんたじゃ勝負にならない?はあ?恋敵ってアタシ言ったわよね?アタシがかわいいのはあっさりと認めたくせに、自分には何もない?何それ!あんたちょっと冷静に考えてみなさいよ!アタシ達は・・・六つ子よ!あんたもかわいいに決まってるじゃん!!」

 

「・・・!」

 

二乃・・・。

 

「言いたいのはそれだけ!じゃあね!!」

 

言いたいことを言った二乃は部屋から出ていった。・・・二乃は絶対否定するだろうけど・・・今のは二乃なりの気遣いで・・・私へのエールだと思う・・・。本当に・・・慰めでもなかった・・・。けど・・・

 

「・・・二乃・・・ごめん・・・」

 

やっぱり私は・・・二乃ほど強い人間じゃない・・・。私の気持ちは・・・そう簡単には・・・。

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

それから少し時間が立って、二乃が戻ってきた。二乃だけじゃなく、他の姉妹全員戻ってきた。ただ、外は雨が降ってたみたいで、二乃以外の全員はびしょびしょに濡れてた。今は一花がシャワーを浴びている。

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

みんなが部屋に戻ってきても、空気はとても重くて、みんな沈黙を貫いていた。そんな時間が続いてると、一花がシャワーから戻ってきた。

 

「・・・シャワー、空いたよ。先にいただいてごめんね」

 

「六海、メガネ拭いてるから、先に五月ちゃんか四葉ちゃん行っていいよ」

 

「で、では、四葉、お先にどうぞ・・・」

 

「うへぇ~・・・下着までぐっしょりしてるよ~・・・」

 

(・・・行かなくて正解だったわ・・・)

 

「・・・・・・」

 

四葉はシャワールームに向かっていったか・・・。

 

「・・・わぁ、五月ちゃん、下着攻めてるね。着ないの?」

 

「こ、これは違うんです!私の身の丈に合わないので・・・捨ててしまいます!」

 

「遠慮なくつければいいと思うけどなー。なんなら六海がもらってもいいけどなー」

 

「だ、ダメです!!破廉恥すぎます!!」

 

・・・・・・。

 

「一花、あんた三玖に何か言うことがあるんじゃないの?」

 

「!!」

 

「あ・・・三玖・・・」

 

違う・・・違うんだよ二乃・・・一花は何も悪くない・・・悪くないんだよ・・・。

 

「・・・一花・・・ごめんね・・・」

 

「三玖・・・」

 

悪いのは全部私・・・誰のせいでもない・・・。だから、みんなが気にする必要なんて・・・

 

コンコンッ

 

「おい、入るぞ」

 

えっ!!?フータロー!!?

 

「6班全員いるか?連絡事項だ。30分後、二階の大広間に集合だ」

 

「なぜあなたが・・・」

 

「不本意だが・・・一応学級長だからな。雑用だ雑用」

 

ど、どうしよう・・・今フータローに合わせる顔がない・・・!というか、いざ面と向かうと・・・怖くなってきて・・・

 

「・・・おい、お前ら・・・」

 

「と、トイレ!!」

 

と、とにかく今は身を隠さなきゃ!フータローと、顔を合わせないために・・・!

 

「三玖ちゃん・・・」

 

「・・・お前ら、まだ揉めてるのか?ちょっと俺に話してみろ。気が楽になるぞ」

 

「え・・・いや、あの・・・」

 

「こ、これは・・・」

 

「そ、そうじゃなくってね・・・」

 

「ふー、スッキリしたー・・・って・・・」

 

バアアアンッ!!!

 

・・・今なんかすごい音したけど・・・フータロー・・・まだいるよね・・・?

 

「・・・・・・」

 

「・・・はっ!た、たいしたことないよね!」

 

「え、ええ!こんなの姉妹じゃ日常茶飯事よ!」

 

「じょ、じょーしき!じょーしきですよね!」

 

「う、うんうん!だから風太郎君は気にしなくていいよ!」

 

「・・・ならいいが・・・。とにかく30分後に大広間な。明日の選択コースもそこで決めるらしいから考えておけよ」

 

「う、うん。わかったよ。わざわざありがとうね・・・フータロー君」

 

「・・・ああ・・・」

 

バタンッ

 

・・・も、もう・・・フータローは・・・行ったかな・・・?

 

「・・・ごめん、勝手なこと言って」

 

「いいわよ。フー君に心配されるのは1番避けたいもの」

 

「三玖、もう上杉君はいませんよ。出てきてください」

 

警戒しながら扉から出てみる。・・・本当だ・・・もういない・・・。

 

「全く・・・あんたも逃げてるんじゃないわよ」

 

「だって・・・」

 

「三玖ちゃん・・・いつまでもそうしてても何も変わらないよ。そろそろ気分を変えないと・・・」

 

そんなことは言われなくてもわかってるつもり・・・だけど・・・気持ちの整理が・・・今もまだできてないから・・・いざとなると・・・困る・・・。

 

「・・・みんな、そろそろ白黒ハッキリさせよう」

 

「一花・・・?」

 

「私たちはずっと、フータロー君と2人きりになる機会を窺ってる」

 

「アタシは班決めの時からそう言ってるけどね」

 

「まさかとは思うけど、五月ちゃんもそうだったりする?修学旅行始まってから急に回ろうって・・・」

 

「・・・否定はしません・・・」

 

理由はどうであれ、みんながフータローと一緒に回りたかったのは、同じ考えだと思う。四葉は私に協力してもらっていたけども・・・。

 

「このままじゃ誰の目的も叶うことはない。それは全員が望むところじゃないはずだよ」

 

「それはそうだけど・・・」

 

「あんたがそれを言うのね・・・」

 

「四葉、聞こえてるよね?ちゃんと聞いて」

 

「・・・も、もう・・・いないよね・・・///」

 

シャワールームから四葉が顔を赤くしながらこっそりと出てきた。赤い顔からして、もしかして、タイミング悪く出てきたのかな?

 

「明日の修学旅行最終日、コース別体験学習ってあるよね。それはAからFの6つのメニューから1つを選んで各地に赴くカリキュラムなのは知ってるよね。私たちそれぞれ1つずつ選択するっていうのはどうかな?チャンスを得るのは偶然フータロー君と同じコースになった人だけ」

 

6つのコースのうちの1つ・・・運がよかった人だけが、フータローと一緒・・・。確率は6分の1・・・文字通りの運試し・・・。

 

「最後はもう・・・運に任せよう」

 

「私は賛成!これなら恨みっこなしだね!」

 

「アタシは反対よ!何よ、散々出し抜きあって来たくせに、今更・・・」

 

「六海も・・・それでいいよ。もう自分の都合で困らせるのは嫌だもん」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

一花の出した案に四葉と六海は賛成してるけど、二乃は未だに納得しきれてないみたい・・・。

 

「・・・三玖!あんたはそれでいいの?たった6分の1の確率よ?」

 

「・・・今は・・・どんな顔をしてフータローに会えばいいかわからない・・・。だから・・・低い確率の方がいい・・・」

 

それに・・・私が選ぶものにはフータローは選ばない・・・。だからそれでいい・・・。それに今は・・・フータローに会いたい気分には、ならないし・・・私の作ったパンはもう・・・どこにもない・・・。

 

「私は・・・これが最善の考えだと思います。最初からこうするべきだったんです」

 

「・・・はぁ・・・わかったわよ・・・。コース選択は指さしでいいわよね?どうせいつもみたいにバラけるわよ」

 

五月も一花に賛同し、二乃も最終的には渋々ながらも了承を示した。

 

「「「「「「せーの」」」」」」

 

そして、私たちは各各々が見学したいと思ったコースに指をさす。案の定、私たちが指したコースは全員バラバラだった。だけどこれでいい・・・どうせ私のところにフータローが来るわけないのだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

みんながシャワーを使い終わって、制服の乾かし作業、そしてコース選択の用紙の記入をしている間に30分間近になった。

 

「そろそろ30分ね。早く大広間に行きましょう」

 

「みんな、コース選択の紙持ったー?」

 

「大丈夫です」

 

「じゃあ、さっそく行こー!」

 

みんなコース選択の紙を持って、2階の大広間に向かっていった。私も早く、大広間に行かないと・・・。

 

「三玖、ちょっと待って」

 

「?一花・・・?」

 

部屋から出ようとしたら、急に一花から呼び止められた。何の用だろう・・・?

 

「どうしたの?」

 

「あのね、私、やっぱ三玖のDコールの方に行きたくなっちゃったよー」

 

「え?」

 

「それでさ三玖、私のと交換しようよ」

 

え?選択コースの交換?なんでそんなことを・・・?私が選んだDコースは織田信長のゆかりのある地を巡るものなんだけど・・・Eコースに比べたら何の面白味もないものなのに・・・。

 

「でも・・・面白くなんか・・・」

 

「いいのいいの。私が行きたくなっちゃったんだから。というわけで、私のと交換ね」

 

「あ・・・」

 

一花は強引に私のコース選択の用紙を取り上げて、自分の用紙を私に渡してきた。

 

「はい、これでオッケー」

 

「い、一花・・・」

 

「おっと、急がないと遅れちゃうね。みんなも待ってるし、早く行こうよ」

 

一花は私の有無を言わさずに、ずっと待っていたみんなのところへ合流していった。・・・なんで今になってコース選択の交換なんて・・・。・・・まぁ、別にいいか・・・。こっちの方が、フータローと出会う確率は、かなり少なくなるだろうし・・・。そう思いながら私は、姉妹と一緒に2階の大広間へと向かっていく。

 

♡♡♡♡♡♡

 

修学旅行3日目・・・選んだコースのバスに乗るためにみんなはそれぞれのコース別のバスに乗るために並んでる。みんなはそれぞれ別々のコースの列に並んでいってる。私も早く、Eコースの列に並ばないと・・・。Eコース・・・Eコースは・・・あ、あった。あそこに並んで・・・

 

「「・・・あ・・・」」

 

私がEコースに並んだ時、隣でフータローも並んでいたのに気づいた。え・・・もしかして・・・フータローも・・・Eコースを選んだの・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

Eコースの目的地、映画村に到着した私たちは午前まで映画村の催し物を見学する。フータローは同じ班だけど・・・一緒にはいない・・・。私から離れてるんだから当然だけど。・・・でも、本当ならここは、一花が来る場所だったのに・・・。どうして急に選択コースの入れ替えなんて言い出したんだろう・・・?考えてもわからない・・・。

 

・・・考えているうちにも見学が終わった・・・。内容は考え事をしてて、頭に入らなかった。この後はお昼過ぎまで自由行動・・・どうしよう・・・。やることもないし・・・バスに戻ろうかな・・・。

 

「この後お昼過ぎまで見て回れるね」

 

「どこ行くんだコラ」

 

「片っ端からおもろそうなところ見ようや」

 

「!」

 

私が歩いていると、同じくEコースを選んだ武田君と前田君、坂本君の会話が聞こえてきた。ちらっと見てみると・・・3人だけでなく、フータローもいた。・・・フータローの時間は邪魔しちゃいけない・・・よね。そう思って私はこの場を素通りしようとした。

 

「ん?おお、三玖さんやないか」

 

「やあ、中野さん。また会ったね」

 

「!」

 

だけど武田君と坂本君に見つかった。この2人に見つかったということは当然ながらフータローにも気づかれることになる。フータローの顔を直に見られないから私は、その場から走り去る。

 

「ははっ、また逃げられちゃったね」

 

「嫌われてんじゃね?」

 

「上杉、お前何したんや?」

 

「こっちが知りたい・・・」

 

ごめん・・・フータロー・・・今は・・・

 

「!三玖!止まれ!!」

 

ドンっ!

 

「あっ・・・!」

 

前を見てなかったせいで目の前に人がいたのに気づかず、その人とぶつかってしまった。

 

カランッ

 

「やば・・・!」

 

「おい、大丈夫か⁉すみません」

 

「い、いえ・・・」

 

私とぶつかった人は落とした何かを拾い上げて急いだ様子でその場を去っていった。・・・あの声・・・どこかで聞いたような・・・。

 

「たく・・・ちゃんと前を見ないと危ないだろ?」

 

「・・・///」

 

ふ・・・フータロー顔が・・・まともに見られないよ・・・!顔も赤くなっているのも自分でもわかる・・・。二乃・・・ごめん・・・!私には・・・やっぱり無理だよ・・・!

 

「ご、ごめん・・・」

 

「あ、ああ・・・」

 

「じゃ、じゃあ・・・もう行くね」

 

「あ、おい!」

 

早くこの場から逃げないと・・・じゃないと・・・頭がどうにかなっちゃういそう・・・。

 

「「「戦国武将の着付け体験いかがですかー?」」」

 

ピクッ

 

戦国武将の・・・着付け体験・・・?・・・ものすごく・・・興味ある・・・。そんな魅力的な体験に私は思わず立ち止まってしまう。

 

「着付け体験だってよ。コスプレとか恥じぃだろ・・・」

 

「いいじゃないか。郷に入っては郷に従えっていうだろ?」

 

「おっしゃ、いっちょやろか。上杉もやるやろ?」

 

・・・フータローの戦国武将姿・・・。

 

「いや、しないが」

 

「お前ノリ悪いやっちゃなぁ・・・」

 

「似合うと思うのに、もったいないね。中野さんもそう思うよね?」

 

そんなの、絶対に似合うに決まってる。私は正直に首を縦に頷いて肯定を示した。

 

「・・・はぁ・・・仕方ねぇ・・・1回だけだからな」

 

「よっしゃ」

 

「そうこなくっちゃ」

 

フータローは急に着付けする気になって、友達3人と一緒に着付け屋さんの中に入ろうとする。

 

「・・・三玖、お前もやるか?」

 

え?わ、私も・・・?でも・・・どうせ似合わないし・・・フータローに、好かれるはず、ない。

 

「い、いい・・・外で待ってる・・・」

 

「・・・そうか。じゃあそこで待っててくれ。勝手にどっか行こうとするなよ」

 

フータローは今度こそお店の中へ入っていった。・・・フータロー・・・どんな格好をして出てくるんだろう。ちょっと楽しみ・・・。

 

「・・・はぁ・・・」

 

・・・何を期待してるんだろう・・・私・・・。今更私にできることなんて、何もないのに・・・。やっぱり私じゃ・・・。

 

「ささ、こちらです」

 

・・・あ、今外に出てきたのは・・・お代官様みたいな恰好の武田君に・・・忍者の恰好の前田君、かな?そして、侍の恰好をした坂本君だ。空をぼーっと見てる間にも着付け終わったんだ・・・。・・・フータローはまだかな?・・・ちょっとだけ様子でも見ようかな・・・。そう思って私は着付け屋の中に入ってみる。・・・やっぱりまだ・・・かな・・・

 

「お待たせしました、お客様!」

 

「え?」

 

え?何?急に店員さんに話しかけられて・・・というか、どうして着物を持っているの?

 

「こちらの可愛い着物をご用意させていただきました!どうぞどうぞ!」

 

「え、いや・・・あの・・・」

 

「お着替えはあちらの試着室が空いておりますので、どうぞ、お着替えくださいまし!」

 

「い、いや、だから・・・私は着る気は・・・」

 

「お客様に絶対に似合いますので、ぜひともお試しください!」

 

何が何だかわからず、私は店員さんに着物を渡されて、試着室まで連れてこられた。え・・・?どうなってるの、これ?というより・・・どうすればいいの?

 

♡♡♡♡♡♡

 

何がどうなってるのか全く理解できなかった私は、結局私は着付けをすることになった。そんなつもりは全然なかったのだけど・・・店員さんのあの勢いには敵わなかったよ。うぅ・・・なんだかちょっとそわそわする・・・。

 

「ん?三玖か?」

 

店の外を出てみると、新選組のような恰好をしたフータローが待っていた。ちょ・・・ちょっと・・・恥ずかしい・・・///

 

「なんだ、結局お前も着替えたのか」

 

「そんなつもりは全然なかったんだけど・・・なぜか係の人がノリノリで・・・あれよあれよという間に着替えに・・・」

 

「?よくわからんが、大変だったな」

 

本当に大変だった・・・あの勢いには勝てる気がしなかった。

 

「・・・変・・・じゃ、ないかな・・・?」

 

「・・・ま、まぁ・・・似合っている・・・///」

 

「!!・・・///」

 

ほ、褒めてもらえた・・・フータローに・・・。心がぽかぽかしてるのと同時に、照れて顔が赤くなってるのが自分でもわかる。・・・褒めてもらえた・・・ふふ・・・。

 

「・・・は!そ、それより、お友達は?一緒じゃないの?」

 

「そ、それが来ねーんだよ。ったく、どんだけ着替えに手間をかけてんだ?仕方ねぇなぁ」

 

「え?あの3人、私が着替える前にもう出てきたけど・・・」

 

「は?待ちきれずに行っちまったのか?」

 

そういえばあの時・・・あの3人誰かと一緒にいたみたいだったけど・・・。

 

「電話してみたら?」

 

「そうさせてもらうか」

 

フータローはスマホを取り出し、電話をしようと・・・?急に動きが止まった?

 

「・・・あいつらの電話番号、知らんわ」

 

「・・・本当にお友達・・・?」

 

私が見た感じ、フータローと親しそうだったけど・・・私の勘違いだったのかなぁ・・・?

 

「そう遠くは行ってないと思うんだが・・・最悪の場合迷子センターだな・・・。三玖、探すの手伝ってくれ」

 

「え?」

 

「さすがにこの衣装で1人で歩く勇気は俺にはない。かといって、ずっと俺と2人きりってのは嫌だろ?」

 

別に・・・そんなことない。むしろ・・・一緒にいるために・・・今までずっと・・・

 

「早いとこ見つけて、みんなで修学旅行、楽しもうぜ。3日目の思い出が人探しだけなんて、空しすぎだしな」

 

「う、うん・・・」

 

フータローと2人で人探しなんて・・・また急な展開。でも・・・それでも・・・悪くないって思える自分がいる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

フータローのお友達を探すためにまずは近場から探してはいるんだけど、それらしいのは見当たらなかった。コスプレは目立つからすぐ見つかると思ったんだけど・・・。

 

「どうだ?見回してみてそれらしいのはいたか?」

 

「ううん、全然・・・」

 

「たく・・・あいつらどこに行ったんだ?とにかくコスプレを目印に探していくぞ」

 

「うん」

 

とりあえずはさっきまでと変わらずにコスプレを目印に探していく。

 

「あ・・・」

 

「見つかったか?」

 

「う、ううん・・・全く知らない人・・・」

 

「・・・ああ、戦国武将のコスプレの人か。すげぇな・・・恥じることなく1人で・・・」

 

「・・・・・・」

 

あの人が着込んでるあのコスプレは、かの有名な伊達政宗・・・。ぜひとも記念に残してみたい・・・けど、そんな勇気ないし、人探しの最中でもあるから・・・。

 

「・・・ふぅー・・・。すいませーん!記念写真を1枚、いいですか?」

 

「え?」

 

「学生さんですか?いいですよ」

 

「ほら三玖、こっちに来いよ。一緒に記念写真を撮るぞ」

 

「う、うん」

 

フータローに言われるがまま、私は伊達政宗のコスプレの人に並んで、1枚記念撮影を行った。

 

「よかったな、三玖」

 

「あ、ありがとうございました」

 

「よき旅を」

 

伊達政宗のコスプレの人は微笑んで手を振って私たちと別れた。フータロー・・・私の気を遣ってくれて・・・

 

「・・・フータロー・・・ありがとう・・・」

 

「べ、別に大したことはしてねぇよ。それより、次行くぞ」

 

私のお礼にフータローは前髪をいじりながらお友達探しを再開した。フータロー、素直じゃない。

 

「ここにもいないね」

 

「たく・・・あいつらどこに行ったんだか・・・やっぱ迷子センターか?」

 

「そっちは最後でいい」

 

別のエリアを探してみたけど、ここにいない。

 

「もしかしたら、お店の中にいるのかも」

 

「うーむ・・・そっちの方でも探してみるか」

 

フータローも同じ考えに至ったようで、お店の中も見て回るという方針で探してみる。それから数分くらい何件かのお店を見て回ったけど、ここにもいなかった。

 

「ここにもいないね・・・」

 

「くそ・・・絶対目立つ格好してるはずなのになぁ・・・」

 

今私たちがいるのは弓の射的屋さん。こういう何か遊べる場所にいそうと思ったんだけど・・・なかなか見つからないものだね。

 

「ふぅ・・・少し気分転換でもするか」

 

「気分転換」

 

「目の前に弓射的があるだろ。やって行こうぜ」

 

「え?でも、いいの?」

 

「あいつらもやってるかもしんねーだろ?俺らだけ3日目の思い出が人探しになってたまるか」

 

そう言ってフータローは店員のおじさんにお金を払って弓射的を始める。・・・新選組の恰好をして、弓を構えてるフータロー・・・かっこいいな・・・。おもちゃの弓だけど・・・。あ、フータローが狙った的が当たった。フータローも初めてやるはずなのに当てちゃうなんて、すごいな・・・。

 

「すごい・・・」

 

「ゲーセンの射的には不覚を取ったが、これくらいはな」

 

ゲーセンって・・・フータローでもそういうところ行くことはあるんだ。

 

「三玖、お前もやってみろ」

 

「え?でも私・・・こういうのやったことない・・・」

 

「そんなに難しくはない。いいか、弓の構えは・・・」

 

右も左もわからない私にフータローは弓の構え方を教えてくれた。

 

「こ、これでいいの?」

 

「ああ。その姿勢を崩さず、どれか1つ的を当ててみろ」

 

「うん・・・やってみる・・・」

 

フータローに教えてもらった構え方を元にして、私の狙った小さな的めがけて矢を放った。放った矢は小さな的に当たって、的は小さな衝撃で落ちていった。

 

「あ・・・当たった・・・当たったよ、フータロー!」

 

「ああ。見てたぞ。よくやったな、三玖。他の的も狙ってみろよ」

 

「うん!」

 

小さくはしゃいでる私にフータローは微笑んでくれた。・・・なんだか、とっても楽しくなってきちゃった。私はそんな気分に満ちながらも、弓射的を楽しんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

弓射的でいい気分転換をした私たちはお店の外に出る。

 

「ふぅ・・・楽しかった」

 

「そうだな。そんじゃ、そろそろあいつらを見つけな・・・」

 

「あ、フータロー、あれ見て」

 

「あ、おい、そんな近づいたら川に落ちるぞ」

 

川の方から面白いものを見つけて、私はそこに近づく。私が見つけたのは、川からひょっこりと出て来てる大蛇みたいなオブジェだった。・・・あ、すぐに沈んじゃった・・・。

 

「あ・・・沈んじゃった・・・」

 

「ああ、パンフレットによるとしばらくしたらまたひょっこり出るらしいぞ」

 

「へぇ・・・」

 

なんだかおもしろい仕掛けだな・・・。あ、いいこと思いついた。

 

「ねぇ、出てきたら記念写真撮ろうよ」

 

「また写真撮るのか?」

 

「1枚だけじゃ足りないよ・・・あ、また出てきた」

 

話している間にもあの大蛇のオブジェがまた出てきた。

 

「シャッターチャンスだよ。ほらフータロー、写真撮って!また引っ込んじゃう!」

 

「たくっ・・・しゃーねぇなぁ・・・」

 

私の急かしにフータローは小さく笑ってスマホを取りだ・・・

 

ドンッ

 

「うおっ!!?」

 

「あ・・・」

 

ジャポーン!

 

急にバランスを崩したフータローに押されて私はバランスを崩して川に落ちちゃった。それによって私は当然びしょびしょになって、着ている着物も濡れちゃった。

 

「す、すまん!大丈夫か⁉」

 

「・・・ふふ・・・」

 

私は怒るよりも先に、楽しい気分が上回って、思わず笑っちゃった。まぁでも、怒るのは怒るけどね。

 

「・・・もう!せっかく着替えたのに!私に注意したくせにフータローこそ周りに注意してよ」

 

「わ、悪かったって!おかしいなぁ・・・俺も誰かに押されたような気がしたんだが・・・」

 

「あーあ・・・びしょびしょ・・・」

 

「あー・・・着付け屋の人にも謝らないとなぁ・・・。とにかく、このままじゃ風邪をひく。着替えるぞ」

 

風邪をひくといけないから私たちはひとまず着替え直すためにあの着付け屋さんに向かった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

着付け屋さんにたどり着いた私たちはお店の人に謝った。その後私は試着室で制服に着替え直す。

 

「係の人にも俺から謝っておくから、お前は今のうちに着替えておけよ」

 

「うん」

 

外にいるフータローがそう言って、足音が遠くなっていくのがわかる。・・・って、いつの間にかフータローと普通に話せてる・・・。いろいろあったのに不思議だな・・・フータローといると、細かいことなんて忘れてしまいそう・・・・

 

・・・そう・・・例えば・・・下着まで濡れちゃってること・・・とか・・・。て、そうじゃない!どうしよう・・・本当にどうしよう・・・このままじゃ制服に着替えられない・・・。係の人~・・・助けてください~・・・あ、タイツがあるならまだ・・・いや無理無理無理無理!というかそういう問題でもない!誰か~・・・

 

「・・・ん?」

 

本当に困り果てていると、試着室のカーテンの下に何かの紙袋があるのに気づいた。なんだろうと思って持ってみると、一緒に手紙も付いてるのに気が付いた。何々・・・?

 

『お困りでしたらお使いください』

 

「え?これ・・・下着屋さんの紙袋・・・?」

 

これ・・・誰かが入れてくれたの?誰が・・・?・・・この下着屋さんの紙袋からして、中に入ってるのは下着だろうけど・・・。もしかして、係の人かな?困ってたし、ありがたく使わせ・・・

 

「・・・!!??」

 

紙袋に入ってたのは確かに下着・・・だけど・・・このいかにもいやらしい下着は一花と六海が好んで履くものじゃん・・・。え・・・これ、履かないといけないの・・・?普通に嫌なんだけど・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

いろいろ葛藤したけど・・・他に履くものがなかったし、下着なしも嫌だし、本当に困ってたから仕方なくあのいやらしい下着を履いて制服に着替えた・・・けど・・・うぅ・・・恥ずかしい///こんなの、フータローには見せられない・・・心なしかスース―するし・・・。

 

「あいつら見つかんねーな・・・どこまで行ってんだよ・・・ん?三玖、どうした?」

 

「!!」ビクッ!

 

い、言えるわけない・・・こんないやらしい下着を履いてて恥ずかしいなんて・・・口が滑っても絶対に・・・!

 

ひゅうううう・・・

 

「~~~~!!」

 

か、風が強い~・・・!こんな風じゃすぐにスカートがめくれる・・・!スカートを抑えないとみ、見えちゃう~!

 

「・・・もう、疲れちゃった・・・。少し座ろう・・・」

 

「ああ、そうするか・・・」

 

今回の下着云々の問題もあるけど、もう疲れちゃったから私たちは近くにあった椅子に座る。

 

「目まぐるしくて・・・あっという間の3日間だったね・・・」

 

「ああ。そうだな・・・」

 

「私は実質2日だけだったけど・・・。でもいいんだ・・・最後にフータローと過ごせた・・・それだけで十分」

 

「三玖・・・」

 

最初はいろいろ不安でそのせいで押しつぶされそうになったけど・・・最後にはこうして、フータローと一緒に修学旅行を楽しめた。私にとって、かけがえのない、大切な思い出に・・・

 

「・・・?なんだそれ?」

 

「?・・・え!!?」

 

フータローが何かを見つけて、そこを見てみると・・・そこにはあるはずがないものが置かれてた。

 

「な、なんで私のパンがこんな所に・・・」

 

「へぇ・・・これお前が作ってきたのか」

 

そう・・・だけど・・・これは初日になくしたはずなのに・・・なんでここに・・・?

 

「腹減ったし、1個もらうな」

 

「!あっ・・・それはもう・・・」

 

冷めてあると言おうとする前にフータローは私の作ったパンを一口でぱくりと・・・た、食べちゃった・・・。

 

「・・・うん・・・うまい」

 

パンを食べたフータローは何の迷いもなくそう言った。

 

「・・・つっても、春いわく、どうやら俺は味音痴らしくてな・・・正直自信はない。普通の人が食えばもしかしたら、まずいのかもしれない。だからろくな感想を言えなくて申し訳ないが・・・それでも言わせてもらう」

 

「・・・・・・」

 

「・・・お前の努力・・・それだけは味わうことができた。よく頑張ったな、三玖」

 

・・・!おいしい・・・その言葉が聞きたくて・・・一生懸命に頑張って・・・このパンを作った・・・。その努力を認められて私は・・・嬉しくて・・・安心して・・・思わず目柱が熱くなって、涙が溢れそうになった。

 

「・・・うん・・・うん・・・!私・・・頑張ったんだよ・・・!」

 

「ああ・・・よく頑張った」

 

フータロー・・・ありがとう・・・こんな私の努力を・・・認めてくれて・・・

 

「・・・お袋がな、昔パンを焼いてくれてたんだ。6歳の頃、死ぬまでパンを毎日・・・なぜかそれを今思い出した」

 

「!フータローのお母さん・・・」

 

「小さな個人喫茶でも出す人気の手作りパンでな・・・俺も親父も大好きな・・・お前らもきっと、気に入るほどのものだと思う」

 

フータローのお母さんの話・・・初めて聞いた・・・。というか、そんな話聞いたことなかったら、全然知らなかった。・・・もっとフータローのこと、知りたい・・・。

 

「・・・て、俺の話なんかはどうでもいいことか・・・」

 

「ううん!もっと教えてほしい!」

 

「三玖?」

 

「こんなに一緒にいるのに、そんなこと全然知らなかった!ずっと自分のことばかりで、知ろうともしなかった・・・。だから、もっと知りたい!フータローのこと全部!そして・・・私のことも、全部知ってほしい」

 

この発言は、私にしてはかなり思い切ったと思う。今なら・・・今なら何でもできる気がする・・・今までできなかったことを・・・今なら!

 

「・・・あれ!あれはね、お奉行所として時代劇にも使われてる名スポット。今日はあそこを見れただけでも満足。Dコースほどじゃないけど、ここにも私の好きなものがたくさんある」

 

「お前はそうだろうな。もちろん知ってる」

 

「それから、さっき渡った大きな橋も好き」

 

「それも知ってるが、またドラマか?」

 

「うん。それから・・・あれも好き。あれも好き。これも好き」

 

「いや、いくら何でも好きなもの多すぎだろ。まぁ知ってたが」

 

私は自分の好きなものをこれでもかっていうくらいにあげていった。そうして、だんだんとあげていって、最終的に私の指は・・・私の中で1番で・・・最も愛しいフータローに・・・指をさして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好き」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ああ。知ってるぞ、お前の気持ち」

 

・・・言えた・・・ついに言えた・・・。私の・・・気持ちを・・・。私を・・・拒まないでくれた・・・。私の気持ちを・・・知っていてくれた・・・。それだけで・・・私の心は・・・ぽかぽかと温かくなったのがわかる・・・。

 

ありがとう、フータロー・・・。

 

そして・・・私のためにいろいろしてくれたみんな・・・ありがとう。

 

44「シスターズウォー 4回戦」

 

つづく




おまけ

今さらながらの紹介パート2

戦国黙示録

六海が持っている漫画の1つ。三玖のお気に入りの作品。内容は過去の戦国武将の活躍を描いたものであり、話を重ねていくことに、歴史ある戦国武将が出てきて、その活躍ぶり、偉大さが漫画風でもわかるようになってるものである。
六つ子がマンションにいた頃に三玖は何度も六海に借りて読んでいる。現在は江端に預けさせ、大切に保管されている。ちなみに、この漫画は勉強の手助けにもなっているとかなっていないとか。

今さらながらの紹介パート2

次回、六つ子&風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シスターズウォー エキシビションマッチ

シスターズウォー、完結!


六海SIDE

 

ほんの少し遡ること2時間前・・・

 

三玖ちゃんが風太郎君と同じルートになったのを見つけて、六海は自分の選らんだAルートの見学をお腹が痛いって嘘をついて見送った。もちろん、落ち込んでるわけじゃないよ。こうした方がみんなや先生の目を背けられて、自由に行動できる。それを使って六海は京都のバスを使って三玖ちゃんの選んだルートである映画村までやってきた。そして次にやることは六海がここに来たってバレないように和服と頭巾を使って変装をする。

 

「これで・・・よし!後は三玖ちゃんはどこにいるかだけど・・・」

 

六海は三玖ちゃんを邪魔する気は毛頭ない。あんなことがあった後だから、風太郎君にたいしてまだ気まずい気持ちが残ってるはず。だったらせめて、その溝を埋めてあげないと。例えそれで、三玖ちゃんと風太郎君との距離が縮まることになったとしても。だって、この恋心は全員で、フェアでないと・・・。

 

「・・・あ、いた・・・けど・・・」

 

映画村を歩いていると、やっと三玖ちゃんを見つけた。しかも運がいいことに、風太郎君もいた。ちょっと3人の男子が邪魔な気がするけど・・・。・・・あ、三玖ちゃん風太郎君から逃げようとしてる!三玖ちゃん、逃げちゃダメだって!仕方ない・・・あんまり表に出るのはよくないけど・・・!

 

「!三玖!止まれ!!」

 

ドンっ!

 

「あっ・・・!」

 

六海は顔を見られないようにしながら前に出て、わざと三玖ちゃんとぶつかった。これで少しでも足止めできれば・・・

 

カランッ

 

「やば・・・!」

 

ぶつかった拍子で六海のメガネを落としちゃった。これ見られたら一発で六海だっていうのがバレちゃう!六海は素早くメガネを拾ってかけ直す。

 

「おい、大丈夫か⁉すみません」

 

「い、いえ・・・」

 

なんとかバレないように少しだけ声を低くさせて、まるで別人のような声を出して、六海を見られないように素早く草陰に隠れる。

 

・・・あっぶなーーー!!あ、危うくバレるところだった!もー、こんなの別の意味で心臓バクバクしちゃうよ・・・。バレてなくてよか・・・って、あ!三玖ちゃんまた逃げようとしてる!どうしよう・・・さっきの手段はもう通用しないし・・・何か・・・三玖ちゃんの興味を引けそうなものは・・・!そう思って辺りを見回すと、扮装の館という着付け屋さんを見つけた。こ、これだ!これを利用できれば足止めができる!よし・・・

 

「「「戦国武将の着付け体験いかがですかー?」」」

 

お店の人っぽくそう言った瞬間、両隣から六海と同じことを言った声が聞こえてきた。しかも、かなり聞き覚えのある声・・・

 

「「「・・・え!!?」」」

 

両隣を見てみると、そこには六海と同じ格好をした一花ちゃんと二乃ちゃんがいた。

 

「一花ちゃん⁉二乃ちゃん⁉」

 

「あんたたち・・・なんで・・・⁉」

 

「2人こそ、どうして・・・」

 

「む、六海はただ、せめて2人を見守ろうと仮病で・・・て、もしかして二乃ちゃんも?」

 

「あ、アタシのことは別にいいでしょ!それより一花!あんたまさかまたあの子の邪魔をしようと・・・」

 

「ち、違う!私も腹痛で抜けてきたの!」

 

どうやら2人とも六海と同じ仮病を使ってここまで来たみたい。二乃ちゃんは本当のことは言わなかったけど・・・ここにいるってことはそうだと思う。

 

「・・・て、私が今さら言っても信じてもらえないだろうけど・・・私のしたことが、許されないことだとしても、最終日が終わる前に少しでも罪滅ぼしさせてほしいんだ。きっとこれが、私たちの最後の旅行だから」

 

「!まさかあんた・・・」

 

一花ちゃん・・・あのことをずっと気にしてたんだ・・・。内心では傷つけたくない・・・真鍋さんの言った通りだ・・・。一花ちゃんを疑わずに信じる・・・六海の選択は間違ってなかったんだ・・・。

 

「あれ?一花と二乃、六海もいる!」

 

「結局みんな、Eコースに集まってしまいましたね・・・」

 

話し込んでいると、四葉ちゃんと五月ちゃんまでやってきた。

 

「四葉ちゃん⁉五月ちゃん⁉」

 

「みんなまで・・・」

 

「全く・・・誰1人としてルールを守ってないじゃない・・・」

 

全員同じ考えでここに来たんだ・・・。二乃ちゃんはちょっと呆れてるけど、どことなく笑ってるようにも見えたよ。六海も同じ考えで来てくれたお姉ちゃんたちが頼もしくて、嬉しくて、思わずくすっと笑っちゃった。

 

「あ、三玖たちが移動するみたいだよ」

 

「と、とりあえず付けて行きましょう!」

 

「はい!」

 

「よーし!みんなで三玖をサポートしよう!」

 

「おー!」

 

移動を開始した三玖ちゃんたちを見守るために六海たちは隠れながら後を追いかける。姉妹が揃ってるんだもん。きっと成功すること間違いなしだよ!

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

なんか大掛かりになってしまったかもしれないけど、それでもアタシのやることは変わらないわ。言っておくけど、手を貸してやるのは今回だけよ。勘違いしてもらったら困るわ。・・・で、三玖とフー君の行き先はやっぱりあの着付け屋よね。

 

「着付け・・・でしょうか?」

 

「フー君は何を着ても絶対似合うわよ。顔がいいもの」

 

「六海もそう思うよ!すっごいイケメンだし!」

 

「あれ?2人とも最初はタイプじゃないとか不細工とか言ってなかった?」

 

「え?何それ?そんな大昔の私なんて覚えてないわ」

 

「エ?ナンノコト?ムツミ、ソンナツゴウノワルイコトイッテナイヨ」

 

「え~・・・」

 

四葉はいったい何を言ってるのかしら。私がフー君にそんなことを言うわけ・・・ないわね。うん、前までの私はなかったのよ。うん、そうなのよ絶対。

 

「まぁ、一花がフー君と会った初日から気にかけたのは覚えてるけど」

 

「え?そ、そうなのですか?」

 

「六海も覚えてるよ!確かにあの時風太郎君に話しかけてた!」

 

「・・・ははは、気のせいだよ・・・」

 

気のせいとは思わないのだけれど・・・まぁいいわ。それよりも・・・三玖とフー君が一緒っていう条件は達成できた・・・けど・・・

 

(だって・・・あれを思い出したのは、あの日の夜だから・・・)

 

「・・・んー・・・」

 

「二乃、どうしたのです?」

 

「やっぱあの男3人が邪魔ね」

 

「あ、それは六海も思ったよ」

 

ハッキリ言って、あの男子3人はこの状況においていらないのよ。友達とはいえ、なんでフー君と一緒についてきてるのかしら?空気を読みなさいよね。

 

「・・・ちょっとアタシが何とかしてくるわ」

 

「え?」

 

「何とかって・・・」

 

「せっかくだし、一花は三玖に着付けさせるように仕向けなさい」

 

「し、仕向けるって・・・どうやって・・・」

 

この長女様は・・・わかってるくせに・・・。あるでしょ?アタシたちの十八番といえば・・・

 

「そりゃあ・・・もう・・・得意でしょ?三玖の変装」

 

「・・・いじわる・・・」

 

なんとでも言いなさいな。使える手は何でも使う・・・一花、あんたがやってきたことでしょうが。罪滅ぼしがしたいっていうのなら、これくらいはやってもらわないと困るわ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

先に着替え終えて出てきた邪魔者3人を先に出ていったご友人の元まで案内します、なんて一芝居をうって連れ出して、外で待ってる三玖の注意をこっちに向けさせながらお化け屋敷まで歩いていく。

 

「ささ、こちらです」

 

・・・よし、三玖の視線が邪魔者3人の方に向いたわね。後は三玖の注意がこっちに向いてる隙に三玖に変装した一花がどうにかするでしょう。それで三玖は仮装することができるし、フー君と2人きりになれるわ。三玖が逃げようとしても他の姉妹が何とかしてくれるでしょう。

 

「お連れの方はこの中へ入っていきましたよ」

 

「ご親切にどうもありがとうございます」

 

「では、私はこれで・・・」

 

とりあえずもう一芝居をうって、邪魔者3人をお化け屋敷に連れていかせて、中へと入らせた。これで邪魔者排除完了っと。

 

「「「・・・ひぃ~~~!!」」」

 

「はい、誘導成功」

 

これで一仕事完了っと。さてと、やることはやったし、後は姉妹たちと合流してフー君と三玖を見守ろう。そう思って歩こうとした時、遠くで偶然にも三玖とフー君を見かけた。2人ともちゃんと仮装している辺り、一花もうまくいったみたいね。

 

「・・・ふーん・・・お似合いじゃない」

 

遠くから見ても、仲睦まじく歩いちゃってまぁ・・・少し妬いちゃうわね。やればできるじゃないのよ、三玖。

 

・・・今回は三玖にひと花持たせてあげた・・・それはアタシが望んでやったこと・・・悔いてはないわ。でも・・・やっぱり傍から見れば、仲睦まじくて・・・アタシとしては面白くない。フー君と一緒に写真を撮ったり・・・一緒に射的をやったりと・・・。・・・本当なら、アタシがフー君の隣にいたかった・・・。もっとフー君との距離を縮めたかったわ・・・。

 

・・・一花も、こんな気持ちを味わっていたのね・・・。・・・それなのに・・・一花の気持ちも考えないで・・・。

 

「ほらフータロー、写真撮って!また引っ込んじゃう!」

 

「たくっ・・・しゃーねぇなぁ・・・」

 

今この光景を邪魔しちゃいけない・・・いけないのはわかってはいても・・・。アタシはいてもたってもいられず、こっちに気付いてないフー君に近づいて・・・

 

ドンッ  ぎゅっ・・・

 

「・・・譲ったわけじゃないんだから・・・」

 

そう・・・別に譲ったわけじゃない・・・まだ諦めてなんかない・・・だって・・・フー君のことが1番好きなのは・・・アタシなんだから・・・。

 

「うおっ!!?」

 

「あ・・・」

 

ジャポーン!

 

「あ・・・」

 

や、やば・・・!抱き着いた勢いでフー君を押してしまった・・・!そのせいで三玖が巻き込まれて川に落ちちゃった・・・!ひ、ひとまずフー君たちにバレないようにその場を離れないと・・・!アタシは急いでその場の建物の陰に隠れる。

 

「・・・もう!せっかく着替えたのに!私に注意したくせにフータローこそ周りに注意してよ」

 

「わ、悪かったって!おかしいなぁ・・・俺も誰かに押されたような気がしたんだが・・・」

 

ど、どうやらバレてないようね・・・。危なかったわ・・・。・・・はぁ、アタシってば、何をやってんだか・・・。邪魔はしないようにって思ってたはずなのに・・・。これじゃあ・・・一花に偉そうなことは何も言えないわ・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

四葉SIDE

 

ジャポーン!

 

三玖と上杉さんを見守っていたら、奥の先で誰かが川に落ちちゃったのが見えちゃった。この人混みだから誰が落ちたのか見えない・・・というか、どうなってるのかわかんないです。

 

「えっ?何が起きたのです?」

 

「よくわかんないけど誰かが池に落ちたみたい」

 

「え?もしかして、三玖ちゃんが落ちたの?」

 

多分そうだと思うけども・・・。・・・あ、上杉さんと三玖が出てきた。よく見てみると、三玖がずぶ濡れ状態になってる。ということはやっぱり、川に落ちたのは三玖だったんだ。

 

「やっぱり三玖見たいですね・・・」

 

「あんなに濡れちゃって・・・昨日の六海たちみたい」

 

あんなに濡れた三玖を見ていると、ふとこんな疑問が真っ先に浮かび上がってきました。

 

「・・・下着、どうするんだろう?」

 

「「!!!」」

 

・・・あれ?私の言った疑問に五月も六海も目を見開いちゃってる。私、何か変なこと言ったかなぁ?

 

「ちょ・・・どうするの!!?三玖ちゃん絶対下着持ってきてないからこのままじゃノーパンだよ!!?」

 

「・・・あ、ああああああああ!!!」

 

そうだよ!!川に落ちるとか誰も想像しないから下着なんて持ってきてるはずないよ!!も、もし・・・風が吹いて三玖のスカートが捲れたら・・・え、えらいことに!!

 

「こ、ここって、下着って売ってるのでしょうか?」

 

「ふ、ふんどしとか・・・?」

 

「もうそれでいいや!!四葉ちゃん!!マッハダッシュでお店見てきて!!」

 

「で、でもふんどしはさすがに・・・」

 

「言ってる場合じゃないでしょ!!?最悪隠せたら何でもいいよ!!」

 

た、確かに・・・ふんどしもかなり恥ずかしいけど・・・ノーパンでいるよりかは何倍か・・・

 

「・・・あ、あの・・・」

 

「「?」」

 

「その・・・変な話なのですが・・・何かあるといけないと思って・・・下着を1セット持ってきています・・・///」

 

なぜ!!??え?万が一に備えて下着持ってきてたの!!?いやいや、さすがにおかしいよそれ!いくら何でも!

 

「いろいろツッコミたいところだけど五月ちゃんナイス!さっそく三玖ちゃんに下着を!」

 

「は、はい・・・///」

 

「え~・・・いいのかな・・・このことに触れなくて・・・」

 

私が混乱してるのをよそに五月は三玖にバレないようにしながら三玖に下着を届けに行っちゃった・・・。本当にツッコミどころ満載だよ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

下着を渡し終えた五月が戻ってきて、私たちは三玖を見守り続けます。制服に着替え終えた三玖と上杉さんはベンチに座り込みます。うんうん、2人ともいい感じになってきたね!後は・・・もう一押し欲しいところだけど・・・。

 

「四葉・・・六海・・・これからどうしましょう・・・」

 

「うーん・・・どうしよっか・・・」

 

三玖のパンさえあればどうにかなるかもしれないけど・・・あのパンどこかに消えちゃって今は手元にないんだよね・・・どうしよう・・・。

 

「ふっふっふ・・・2人とも、安心しちゃって!こんなこともあろうかと、ちゃーんと・・・て、あれ?」

 

何故か得意げにしている六海は自分のかばんを漁って・・・?あれ?なんかちょっと焦ったような顔つきに・・・?

 

「ど、どうしよう2人とも!!六海、三玖ちゃんのパンを拾ったんだけど、それお部屋に置いてきちゃった!!!」

 

「ええええええ!!??」

 

「え!!?パン!!?」

 

探しても見つからないと思ったら、六海が拾ってくれてたのか・・・て、そうじゃない!!忘れてきちゃったら意味ないよ!!どうしよう・・・今から部屋まで戻る時間なんて・・・

 

「大丈夫だよ。これを三玖に渡せばいいんだよね」

 

慌てる私たちの前に戻ってきた一花と二乃。一花の手元には、あの時、三玖が落として、六海が拾った三玖のパンが入った紙袋がありましたた。よ、よかったぁ・・・これでどうにかなりそうだよぉ・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

ここに来る前にみんなの荷物を確認してて正解だったよ。六海ってば、こんなに大事なものを置いてきちゃうんだから・・・。とにかく、初日に三玖がずっと抱えていたこれを、2人に見つからないようにして、2人の間に置く。置き終わったらすぐにみんなのところへ戻る。・・・こんなことで私のしたことを許してもらえるとは思わないけど、せめて・・・せめて今回の三玖の行く末を見守らせてほしい。だからこそ私は、三玖とコースの交換をしたし、こうして仮病を使って・・・。

 

「あのパンって・・・三玖が作ったんでしょ?」

 

「うん・・・修学旅行初日から上杉さんのために作ったものだよ。私もずっと味見役をやってて・・・」

 

やっぱりそうか・・・何か重要なものだと思ってたけど・・・この修学旅行のためにずっと・・・頑張って・・・

 

「あんなことがなければ・・・」

 

「四葉ちゃん」

 

「あ・・・て、ごめん!一花を責めてるんじゃなくて・・・」

 

「あはは・・・」

 

四葉らしいね。私のことは気にしなくてもいいのに。だって・・・責められても仕方のないようなことを私はしたんだから。

 

「・・・とにかく、ごめん」

 

「四葉?」

 

「私・・・全員が幸せになってほしくて・・・いつも消極的になってる子を応援してたのかも・・・。こうなるって少し考えたらわかるはずなのに・・・。だから、一花の本当の気持ちに気付いてあげられなかった・・・だから・・・ごめん・・・」

 

・・・違う・・・違うんだよ・・・四葉が謝る必要はない・・・。悪いのは全部・・・私の方なのに・・・。なのに・・・

 

「私・・・謝られてばっかだ・・・1番謝らなきゃいけないのは、私の方なのに・・・」

 

今まで自分のやってきたことの罪悪感、そして後悔が私を覆った。やっちゃいけないことだって・・・わかってたはずなのに・・・

 

「私のことも、全部知ってほしい」

 

「「「「「!!」」」」」

 

外の方では、三玖が思い切ったことを言いだした。私も姉妹たちも、それを食い気味に見守る。ついに・・・フータロー君に思いを告げるんだね・・・。

 

・・・三玖・・・ごめんね・・・。ずっと邪魔して・・・ごめん・・・。フータロー君・・・嘘ついてばかりでごめんなさい・・・。だけど・・・あのことは・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

私が初めて彼と出会ったのは、6年前の小学校の修学旅行の旅館・・・

 

『今日ね!すっごく面白い男の子に会ったんだ!それから一緒にこのお守りを買ったんだ!その子、今も大広間にいるんだって!』

 

『・・・・・・』

 

あの子が楽しそうに話す男の子が気になって・・・私、1人の時にその子を一目見ようと、大広間に行ってみたんだよね。

 

『お』

 

『あ・・・』

 

大広間にはちゃんと彼がいた。あの子が言ってた通り、ピアスをつけていて、金髪の男の子が。

 

『よっ。来てくれたか』

 

『えっと・・・』

 

『1人で暇してたところだ。退屈だし、トランプでなんかしようぜ』

 

『じゃ、じゃあ・・・七並べ!』

 

男の子は私をあの子だと思って接してきていた。あの時の私はちょっと戸惑ったけど、男の子と一緒に七並べをしたんだよね。あの時は本当に楽しかった・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

そして・・・あの時の男の子が、フータロー君だったのだと気づいたのは、林間学校の2日目の肝試しの時だった。

 

『食べちゃうぞおおお!!』

 

『!フータロー』

 

『四葉もいるじゃん!』

 

『!一花に三玖!』

 

『なんだ、ネタがばれてるお前らか。驚かして損したぜ』

 

お化けのお面を外した時のフータロー君の面影が、6年前のあの時の子と重なって見えたんだ。金髪の鬘を被ってたからなおさらだったよ。それで気づいたんだ・・・6年前に出会ったあの男の子が・・・フータロー君だったんだってことを・・・。

 

『わぁ、びっくりー!予想外だー』

 

『嘘つけ』

 

だから内心では予想外だったし・・・何よりも・・・嬉しかったんだよ・・・また君と出会えて・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

『私・・・私だよ・・・私たち、6年前に会ってるんだよ・・・』

 

ほんの少しの・・・本当にわずかな間だけだったけども・・・6年前のあの時間があったからきっと・・・君のことが、好きになったんだよ・・・。

 

「好き」

 

外では三玖がとうとう・・・フータロー君に自分の思いを・・・告げることができた・・・。

 

「・・・言った・・・」

 

フータロー君・・・君はもう・・・信じてはくれないだろうけど・・・あれだけは・・・君とのあの思い出だけは・・・嘘じゃないんだよ・・・。

 

「・・・一花、アタシね・・・あの2人が一緒にいるのを見て・・・いてもたってもいられず、気が付いてたら飛びついてた」

 

!やっぱり・・・遠くでいたからよく見えづらかったけど、さっき三玖と一緒にいたフータロー君に飛びついてたのは二乃だったんだ・・・。

 

「あれだけあんたを責めておきながら・・・いざ止める人間がいなければアタシが三玖の邪魔をしているんだもの・・・自分が情けないわ・・・」

 

「二乃・・・」

 

「あんたの気持ち・・・少しわかったわ。もしかしたら・・・私とあんた・・・タイミングが少しでも違えば・・・立場も逆だったのかもしれない・・・」

 

立場が逆だったら・・・その言葉に頭をよぎったのは、初日に私がやらかしてしまったあの日のこと。私と二乃の立場が逆転してたら・・・私が・・・二乃を責めていたのかもしれない・・・。そう考えると、溢れていた涙も多くなってきた。

 

「一花・・・偉そうなこと言って悪かったわ・・・ごめんなさい・・・」

 

「う・・ううん・・・そんなこと・・・そんなこと・・・ない・・・」

 

二乃も何も悪くない・・・妹たちは悪くなんかない・・・悪いのは全部・・・

 

「ありがと・・・。でも同時に、自分の愚かさにも気が付いたの。あんたもそうなんじゃない?」

 

「うん・・・うん・・・」

 

「三玖は最後まで・・・一花は悪くないって言ってたわよ・・・」

 

「!・・・うん・・・」

 

三玖・・・最後まで私のことを・・・。本当に・・・ありがとう・・・そして、本当にごめんね・・・三玖・・・。今回の修学旅行を通して、私は知ったよ・・・。自分の愚かさも、そして、大切なことも・・・。

 

「抜け駆け、足の引っ張り合い・・・こんな争いには、何の意味もない・・・私たちは、敵じゃないんだね・・・」

 

「一花・・・これが最後だなんて言わないで、三玖に謝りましょう。きっと前より仲良くなれるわ。だって、アタシ達にしては珍しく、同じ好きなものを話せるんだもの」

 

二乃は涙をほんの少し溢れても、私に向かってにっこりと微笑んでくれた。二乃の言葉で、私の中に曇っていたものが、少しだけ・・・ほんの少しだけ・・・晴れたような気がしたよ・・・。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖SIDE

 

「好き」

 

「・・・ああ。知ってるぞ、お前の気持ち」

 

ようやく言うことができた・・・私の気持ち・・・。一昨日まで暗い気分になってたのに、それが嘘みたいにぽかぽかと気持ちがいい気分になっているのがわかる。例えば・・・こんなことが、言えるくらいに。

 

「うん。・・・やっぱり私は、家族のみんなが好き」

 

「えっ・・・」

 

「「えええっ!!??」」

 

私の言った事にフータローは驚いてる。そして、私の言葉に二乃と六海が驚いて出てきた。やっぱり・・・今回の件に関わってたんだ。

 

「えええっ!!??」

 

「「あ・・・」」

 

あ、フータロー、やっと気づいてたんだ。一花と二乃の声、聞こえてたのにね。

 

「お、お前ら・・・なぜここに・・・!!?」

 

「三玖、気づいてたの⁉」

 

やっぱり・・・四葉と五月もいたんだ・・・。二乃たちがここにいるんだもん。絶対にいると思った。

 

「い、いったいいつから・・・」

 

「やっぱり・・・通行人にぶつかった時、やばって六海の声が聞こえた時からおかしいとは思ってた」

 

「あ、あー・・・」

 

ううん、おかしいと思ったのはこれだけじゃないか。着付けの件もそうだし、フータローのお友達がいないこともそう、そして・・・し、下着のことも・・・。

 

「お、おい・・・ちょっと待ってくれ・・・一旦整理をしよう・・・。ということは、だ・・・今の好きって発言は・・・」

 

「そこに隠れてたみんなを指してだけど?」

 

「なっ!!?」

 

ふふ・・・フータローの反応がいちいちおもしろい。ちょっとからかってみようかな。

 

「ん?もしかして・・・期待しちゃった?」

 

「へ?い、いや・・・」

 

「ふふ・・・自意識過剰君♪」

 

「~~~~///!!ば・・・バカにしやがって!帰る!」

 

フータローは顔を真っ赤にしながらどこかへと行っちゃった。やっぱり面白い。

 

「三玖、いいの?せっかく伝えたのに、誤魔化して・・・」

 

「いいの。私は誰かさんみたいに勝ち目もないのに特攻しようとする人ほど馬鹿じゃない」

 

「誰が馬鹿よ失礼ね」

 

「それに・・・フータローも思ってるほど、鈍くはないから」

 

だからほんのちょっとだけふざけても問題ない。フータローは私の気持ち、ちゃんとわかってくれてるからね。

 

「だから四葉、ここまで協力してくれて、ありがとう」

 

「ししし、一時はどうなることかと思ったよ!」

 

私がここまで来ることができたのは、1番協力してくれた四葉のおかげでもある。それと、感謝しなきゃいけないのは他にも・・・

 

「五月・・・多分この下着、五月だよね・・・ありがと・・・」

 

「すみません・・・」

 

「六海。六海だよね?落としたパンを拾ってくれたの。ありがとう」

 

「い、いやー・・・やっぱり放っておけなかったからね・・・」

 

「二乃」

 

「いいわよ、何も言わなくても。水臭いんだから」

 

「うん。それでも、ありがとう」

 

他の姉妹の協力もなかったら、多分ここまで来れなかった。感謝の気持ちしかないよ。そして・・・1番向き合わなきゃいけないのは・・・

 

「そして・・・一花・・・」

 

ぎゅっ・・・

 

私が言葉を紡ごうとした時、一花が私に抱き着いてきた。一花の目には、涙も溢れてた。

 

「ごめん・・・!ごめんね・・・三玖・・・!」

 

一花・・・。

 

「・・・いいよ。恋って、こんなにも辛いんだね」

 

抱き着いている一花に、私も抱き着きあった。

 

「ありがとう・・・一花」

 

こんなにも私を思ってくれている姉妹がいてくれる・・・私は、なんて幸せ者なんだろう・・・。みんな・・・ありがとう。私・・・みんなの姉妹で・・・本当によかった。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎SIDE

 

全く・・・さっきの三玖には結構焦ってしまったぞ・・・。結構かっこよく決めたはずなのにあいつめ・・・。まぁ、あいつの気持ちは一応知ってるがな。

 

「おお!上杉君!こんな所にいたのかい!」

 

「はあ・・・やっと見つけたで・・・。いちいち手間取らせんなや・・・」

 

あ、やっと武田たちを見つけた。こいつらと俺を離れさせたのも、恐らくはあいつらの行動のせいだろう。まぁ、今回は別にいいが。

 

「ん?中野の六つ子全員いるじゃねぇか。これはチャンス・・・」

 

「ま、今はいいだろ。今は男4人で回ろうぜ」

 

前田よ、六つ子のあの時間は誰にも邪魔しちゃいけねぇんだから、そこはちゃんと空気を読めよ。

 

「お化け屋敷とかどうだ?」

 

「またか!!勘弁してくれや!!」

 

「つーか連絡先交換しようぜ」

 

「いろいろ急だなぁ」

 

それから集合時間になる俺たちは男4人で映画村を存分に楽しんだ。集合時間までの間、六つ子のあいつらが、何をして、何を話したのかは・・・あいつら以外誰も知らない。だが・・・それでいい。あの六つ子たちのあの雰囲気を壊す場違いな奴は、いない方がいい。積もる話もあるだろうからな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

集合時間、映画村には京都駅へと戻るバスがやってきている。武田たちも六つ子たちもこのバスに乗っているだろう。・・・この映画村も名残惜しいが、俺もそろそろバスに・・・

 

「フータロー君」

 

バスに乗ろうと思った時、まだバスに乗ってなかった一花が俺に声をかけてきた。

 

「フータロー君にも、大きな迷惑をかけちゃったね。ごめんね」

 

うむぅ・・・こうも謝られると・・・なんというか・・・その・・・気まずいな・・・。昨日のこともあるから・・・余計にそう感じてしまう・・・。というか・・・そもそもな話なのだが・・・

 

「・・・この映画村・・・Eコースはお前たちがバラバラに選ぶ可能性が高いと考えて選んだ。一花、お前なら必ず、ここに来るって思ってな。女優だからって考えだが・・・」

 

そう、元々一花と話がしたいと思ってこのコースを選んだものなんだ。・・・姉妹の思惑かどうかは知らんが、結果は外れだったが。まぁ・・・結果としては姉妹の関係が改善されたと思うから、結果オーライだがな。

 

「・・・ど、どうして・・・私なの・・・?」

 

あー・・・やっぱそこは聞いてくるよなぁ・・・。あんなことがあったのになんでって感じで・・・。まぁ、理由は昨日のことが1番大きいな。

 

「その・・・昨日は・・・悪かった・・・。俺も少し・・・いや、かなり言いすぎた。お前の言い分を全く聞こうとせず、一方的に・・・。だから・・・反省してる。すまなかった」

 

一花には一花なりの考えがあったはずなのに、それを聞こうとしなかったのはどう考えてもダメだろうと、ホテルに戻った時に頭によぎった。だからせめて、明日直接会って謝ろうと考えていた。だからこのコースを選んだんだ。

 

「・・・全く持ってその通りだよ。話も聞かないでさー」

 

「うっ・・・」

 

す、すごい耳が痛い・・・。一花の言葉が耳に突き刺さる・・・。

 

「普通女子にあんな蔑んだ目を向ける?最低なことだよ?」

 

「すまん・・・」

 

「私、すっごく悲しかったんだからね?あの後泣いたんだからね?」

 

「すまん・・・」

 

やっぱりそうだよなぁー・・・何も思わないわけがないよなぁー・・・。やべぇ・・・今更になってすごい罪悪感が俺を襲ってきてる・・・。

 

「・・・なーんてね」

 

ちゅっ

 

「全部嘘だよ」

 

「え・・・」

 

今・・・一花は何をした?俺の頬に・・・き・・・き・・・き・・・///・・・つーか全部?

 

「全部って・・・」

 

「うん・・・嘘だよ・・・全部」

 

一花は言いたいことを言い終えたのか、バスの中に乗っていった。・・・全部って・・・どこまでが嘘なんだ・・・?・・・いろいろと腑に落ちないが・・・俺も早いとバスに乗らないと、先生に怒られちまう。俺もバスに乗ろ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

映画村のバスは京都駅に向かって走っている。そんな中で俺は未だに一花の言った全部というのが腑に落ちていなかった。全部とはいったいどういうことだ・・・?本当に・・・わけがわかんねぇ・・・。

 

「あーあ、なんちゅーか、長いようで短い修学旅行やったな」

 

「そうだね。そういえば上杉君、聞いたかい?例の盗撮騒動」

 

あー・・・そういえば一昨日そんなことがあったな。六つ子たちのことで手がいっぱいいっぱいですっかり忘れてた。まぁ・・・犯人は大体想像がつくがな。

 

「悪ぃ・・・俺、ミスったわ」

 

「・・・やっぱりお前だったか・・・」

 

予想的中だ。やっぱり一昨日の盗撮騒ぎを起こしたのは前田だった。何となくそんな気はしてたぜ。

 

「お前はちょいと迂闊やねん」

 

「全く・・・場の空気を読みたまえ」

 

「つい気合を入れすぎちまったぜ・・・」

 

「・・・はぁ・・・。まぁいい。俺が頼んだんだからな」

 

前田の件に関しては俺が頼んだことでもあったんだから、こいつのせいにするつもりはない。むしろ、俺個人の頼みのために動いてもらったんだ。こいつらには感謝してる。・・・と、話し込んでいる間にも京都駅に着いたな。とりあえず、降りる前に、こいつだけは撮っておかないとな。俺はあいつらがいるであろう最後方座席に移動して、カメラを取り出す。

 

「はい、チーズ」

 

カシャッ!

 

俺が撮ったのは、とても気持ちよさそうに寝てる六つ子の姉妹全員だ。・・・全く・・・全員、いい顔して眠ってやがるぜ。・・・土砂降りの雨は止んだ。きっと雨が上がった後の土はより固くなるはずだ。そう・・・こいつら六つ子の姉妹の深く、固い絆みたいにな。

 

こうして、俺たちの修学旅行は、幕を閉じたのだった。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

五月SIDE

 

修学旅行が終わってから数日後・・・私は姉妹たちには黙って、上杉君に会いに行きました。あの日、零奈として会ったあの場所で、そして、零奈の姿として。

 

「・・・やっぱりな。そろそろ来る頃だと思ってたぞ・・・零奈」

 

「・・・あーあ、もう驚かせないかぁ」

 

「本題に入るぞ。これ、あいつらに渡しておいてくれ」

 

私を・・・いえ、零奈を待っていた様子の上杉君はかばんの中から何かを取り出し、それを渡してきました。これは・・・ノート?

 

「え?何これ?」

 

「全国模試の結果の後、俺に誕生日プレゼント、くれただろ?そのお返しだ。中を開けてみろ」

 

上杉君に言われた通り、もらったノートを開いてみました。そこにあったのは、複数枚の写真でした。それも、修学旅行の時の写真でした。つまり、このノートは上杉君が作った私たちのアルバムということでしょう。

 

「これ・・・アルバム・・・」

 

「ああ。知っての通り、俺は金がないから6人分を用意するなんてできるわけがない。だからこそ、それを作らせてもらった。武田と前田、坂本の3人にも協力してもらって完成したお前たち6人の思い出の記録だ」

 

「・・・そういえば・・・いろんなことがあって、6人で写真、撮れてなかったかも」

 

私がこのアルバムで1番印象が残った写真は・・・最終日のバスで私たち姉妹全員が眠っている写真でした。私たちのために・・・。感謝しかありません。

 

「ありがとう、風太郎君。みんなにも渡しておくね」

 

「俺はてっきりお前も京都で何か仕掛けてくると思ったんだが・・・」

 

「わ・・・私なりに仕掛けてはいたんだけどなー・・・」

 

まぁ・・・結局は不発に終わってしまったのですけどね・・・。・・・やはり・・・上杉君は・・・6年前のことを、忘れてしまったのでしょうか・・・。

 

「・・・零奈。お前には本当に感謝してる。心から」

 

「え?」

 

「あの日、京都でお前に出会わなければ、俺は今も1人だったかもしれない。お前のおかげで、今の俺がある。6年ぶりの京都・・・あっという間に終わっちまったが・・・将来的にはいい思い出になるだろうと強く信じて、このアルバムを作ったんだ」

 

「風太郎・・・君・・・」

 

「零奈・・・俺からの心からの感謝を、受け取ってくれ。ありがとうな」

 

上杉君は言いたいことを言い終えた後、この場を去っていってしまいました。上杉君・・・私が・・・何かをしなくとも・・・あなたはずっと・・・覚えていたんですね・・・。・・・上杉君・・・やはり私は・・・私はあなたに・・・

 

「五月」

 

私が思いふけっていると・・・彼女が、私の前に現れました。・・・本当に・・・あの場で・・・零奈と呼ばれるべき人物(・・・・・・・・・・・)が。

 

「・・・勝手な真似をして・・・ごめんなさい。ですが・・・打ち明けるべきです。6年前・・・本当にあった子は・・・あなただったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四葉」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ううん・・・これで・・・いいんだよ・・・これで・・・」

 

四葉は物悲しそうな顔をして、そう言い放ちました。四葉・・・あなたは・・・どうしてそこまで・・・。やはり6年前と・・・何か関係が・・・?

 

45「シスターズウォー エキシビションマッチ」

 

つづく




おまけ

お姉ちゃんたちに質問してみた!

六海「さ、このコーナーは六海がお姉ちゃんたちに質問してみて、どんな答えが来るのかという唐突に始まったものだよ!記念すべき最初のテーマは・・・旅行先でスマホ以外を持って行けるなら何を持って行く、だよ!みんな何かを持って行くようなことはないけど・・・もし持って行けるのなら、何を持って行くんだろうね?」

一花の答え
一花「うーん・・・強いてあげるなら枕、かな?いつも使ってるものが寝やすいでしょ?」

二乃の答え
二乃「化粧道具かしらね。女の子は身だしなみは大切にしないと、でしょ?」

三玖の答え
三玖「うーん・・・何か1つ・・・難しい・・・何も思い浮かばない・・・。え?ちゃんと答えて?うーん・・・じゃあ・・・本で」

四葉の答え
四葉「トランプ!電車の中でも遊べるし、旅行には持ってこいだと思うよ!」

五月の答え
五月「そうですね・・・旅行先のパンフレット、でしょうか。え?お箸とか料理本とかじゃなくて、ですって?六海は私をフードファイターだと勘違いしてませんか?」

六海「いやー、すぐに答えを出すのと曖昧な答えを出すのと、いろいろだねー。ちなみに、六海の場合だったらスケッチブック一択だね!描くものは向こうで揃えられそうだし。
さーて、次はどんなお題にしようかなっと。それでは、次の質問してみたをお楽しみにー♪」

お姉ちゃんたちに質問してみた!

旅行先でスマホ以外を持って行けるなら何を持って行く?  おわり

次回、四葉視点。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私と姉妹

6年前・・・

 

「先生が言ってたんだけど、瓜を半分に切っても同じだから瓜二つって言うらしいよ」

 

「瓜って何?」

 

「わかんなーい」

 

「先生が食べ物だって言ってたよ」

 

「それならメロンだってそうじゃないの?」

 

「うん。メロンだって半分に切ったら同じだし」

 

「メロン二つは変だと思わない?」

 

「だねー」

 

学校帰りに今日先生に習ったことをみんなが話し合っている。主に瓜二つは親子や兄弟、姉妹なんかによく使われるんだって。同じ顔が2つだから瓜二つ・・・だとしたら、私たち六つ子はどうなるのだろう?だって私たちは顔も性格も何もかも一緒だから、これは瓜二つとは言わないんじゃないかな?というか、瓜を6つに切っても同じなのかな?

 

「うーん・・・」

 

「・・・あれ?四葉、どうしたの?」

 

「瓜は6つに切っても同じなのかな?」

 

「あはは、じゃあ私たちは瓜六つだね」

 

瓜6つか・・・なんかいいね、その言葉。それなら確かに6つとも同じになるわけだし、何より私たちにとっては響きがいい。

 

「おーい!そこの六つ子!」

 

私たちが目的地に向かって道を歩いてると、ちょっと太ったサッカーユニフォームを着たもじゃもじゃ頭の髭のおじさんが声をかけてきた。

 

「いいところに通りかかった!」

 

「あ、監督だ」

 

「ヘボ監督」

 

「おいおい、とんだご挨拶だな、お前たち」

 

このおじさんは小学生サッカーチームの監督をやっている人で、私たちは監督って呼んでる人だよ。チーム自体はそんなに強いわけじゃないから、だいたいヘボ監督って呼ぶことが多いよ。

 

「大人だってな、そんなこと言われたら傷つくんだぞ、三玖よ」

 

監督ってば、また間違えてるよ。今ヘボ監督って言ったのは三玖じゃないよ。

 

「ブー。違うよ」

 

「なっ!!まさかまた!!」

 

「私は六海だよ」

 

「三玖が私だよ、監督」

 

「ぬわああああああああ!!!お前たちの身わけ方が未だにつかねぇええええええ!!!!」

 

このやり取りももう何回目なんだろうね。でも仕方がないよ。長い付き合いでない限り、私たちを見分けようなんて、そもそも無理な話なんだよ。まぁ、それで不愉快になるなんてことは、今までで一度もないから気にしてなんかないけどね。

 

「・・・って、すまんな、何度も何度も・・・。お前らも間違えられるのはいい気分じゃないもんな」

 

「別に気にならないよね。ね、みんな」

 

「そうそう、気にならない気にならない」

 

「うん。そっくりは私たちにとって褒め言葉だから」

 

「一卵性に感謝だね」

 

「むしろそこがウリって奴?」

 

「瓜だけにって?それいいね」

 

「う、瓜・・・?そう・・・なのか?よくわからんが・・・」

 

うーん、私たちのこの感性は監督にはわからないかなぁ?・・・わからないか。だって、ヘボ監督だし。

 

「じゃあ、そろそろ行こっか。四葉、お財布忘れないでね」

 

「はーい」

 

「ちょちょ・・・待ってくれ!」

 

そろそろ運動場から出ようと思った時、監督に止められた。

 

「確かにお前たちはそっくりだ。それも、分身してるのではと思うくらいに。そんなお前たちだからこそ、頼みがある」

 

「えー・・・もしかしてまたー?」

 

監督のことだ。こういう時に頼むことと言ったら1つしかないよ。

 

「その通りだ。もうすぐ練習試合が始まるんだ。お前たち、6人とも助っ人で参戦してくれ!」

 

やっぱり・・・絶対言うと思ったもん。私たちが断ると土下座してまで頼み込んでくるから困るんだよね・・・。

 

「どうする?」

 

「どうするって・・・」

 

「時間はまだあるし・・・」

 

「まぁ、いいんじゃないかな?」

 

「おおお!ありがたい!!」

 

お母さんが帰ってくる時間までには間に合うし、ちょっとぐらいなら監督のわがままに付き合ってあげてもいいかな。みんなも同じ意見だし。練習試合ももうすぐだし、私たちはすぐに運動服に着替えることにする。もちろん、監督に見られないように離れて、だけど。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちが着替え終えたと同時に、練習試合の時間になった。監督のチームの人と一緒に、相手チームに挨拶したところで、試合開始だよ。最初のボールは相手チームに渡った。けど、そんなことは私たちにとっては関係ない。

 

「ん?・・・え?ええええ!!??」

 

ボールをドリブルしてる相手の前に二乃と三玖がマークして、相手のボールを取ろうと一花と六海が相手の両隣まで迫ってきた。同じ顔の人間が目の前にいて・・・なおかつその同じ顔に人間が両隣に迫ってくるんだもん。戸惑わないわけがないよ。むしろ恐怖すら覚えるかもしれないね。

 

「それ!いただき!」

 

「あっ!」

 

相手のボールを一花が取って相手チームにボールを奪われないようにゴールまで運んでいく。私たちも一花をサポートするための位置へと向かっていく。

 

「五月!パス!」

 

相手にボールを奪われそうになった時、一花がボールを五月にパスした。目の前には二乃もいたけど、ボールをジャンプで躱して五月に渡った。

 

「六海!お願い!」

 

「ほっ、三玖、パス!」

 

またも奪われそうになったところを五月が六海にパスをして、すぐに後ろにいた三玖にボールを渡していった。

 

「四葉、決めて!」

 

「そーーっれ!」

 

ゴール手前まで来たところで三玖が私にボールをパスしてきて、私が一気にゴールにシュートを決める。ボールは見事ゴールして、監督のチームに1点取った。結構幸先のいいスタートを切ったと思うよ。私たちがチームのみんな、姉妹のみんなでハイタッチしてると、遠くでお絵描き爺さんが私たちのことを描いてるのを見つけた。私たちが手を振ると、お絵描き爺さんも手を振ってくれた。その後私たちは次の立ち位置に移動して、試合を再開させた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

制限時間の笛が鳴って練習試合は終了した。勝負の結果は監督のチームの大勝利。勝因はやっぱり私たちにあるみたい。練習試合に勝った監督は嬉しそうに笑ってるよ。

 

「ははははは!今日もお前たちのおかげで大勝利だ!!六つ子の以心伝心が如き息の合ったコンビネーションは見事!相手のマークを混乱させるおまけつきだ!」

 

「もー、これで何回目?私たちそんなに運動得意じゃないんだけど・・・」

 

監督のこの解説ももう何回も聞いたし、運動も得意じゃないから正直言って、疲れたよ・・・。

 

「いやいや、そう謙遜するな!お前たちは本当にうまくなってきているぞ!特に四葉!お前が1番の成長株だ!」

 

「え?私?」

 

私が1番の成長株?私としてはそんな実感は湧いてこないんだけどなぁ・・・。

 

「本当かなー?」

 

「監督のことだから嘘かもしれないよ?」

 

「そうそう、六つ子だからそんなはずないって」

 

「ヘボ監督、適当なこと言わないでよー」

 

「いいや!俺の目に狂いはない!これでも人を見る目には自信がある!」

 

姉妹たちは私と同じ意見だったけど、監督は確信しているみたいな顔でそう断言してる。

 

「お前らも四葉をお手本にしてしっかり練習するんだぞ!」

 

「!お手本・・・かぁ・・・」

 

私が姉妹のみんなを引っ張って、姉妹を導くようなお手本、みたいな感じかな?なんかそれ・・・いい響きかも・・・嫌いじゃないな・・・。

 

「もう!私たちはサッカーに興味ないって言ってるじゃん!試合終わったなら早く行こ!お店閉まっちゃうよ!」

 

「なんだ?今日は買い物に行く予定だったのか?」

 

「うん。お母さんにプレゼントをあげるんだ」

 

「おお!あの美人のお母様か!」

 

私たちがお母さんの話を出すと、監督はわかりやすくいい反応をしている。お母さん、みんなに人気だからね。当然の反応だよ。

 

「病気が治ったお祝いなんだー」

 

「この日のために6人でお小遣い貯めたんだよねー」

 

「本当、誕生日の時は絵をあげて正解だったね」

 

「うんうん。おかげでお金、結構たまったもんねー」

 

「そ、それはよかった・・・」

 

お母さんの病気が治った知らせを聞いて、監督は安心したかのように笑ってる。私たちもお母さんの病気が治って嬉しいよ。

 

「俺も何か差し上げたいな・・・。そうだ君たち、確かお父さんはいなかったよね?お父さんはいらないかい?」

 

監督ってば、変なこと言っちゃってるよ・・・。

 

「あはは、ダメだよ」

 

「だってお母さん、最近よく男の人と会ってるから」

 

「!!!!」ガーン!!!

 

「若い人だったよね」

 

「病院の先生だっけ?」

 

「確か、お母さんの病気を見てくれてたよね」

 

お母さんは最近病院の先生と会ってて、よく話をしてたから・・・再婚するとしたら多分、その人となるんじゃないかな?だから監督とは不釣り合いなんだよね。

 

「くっそーーー!!!!やはり知性と経済力がいいというのかちくしょう!!!!こんなことならもっと勉強しておけばよかった!!!!」

 

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 

監督はわかりやすく落ち込んでるよ。知性とかっていう問題じゃないと思うけどね・・・。

 

「・・・じゃ、そういうことで・・・」

 

「とはいえ、今回は何にする~?」

 

「うーん・・・」

 

「どうせなら6人で買えそうなものがいいよね」

 

「それならお花!花束にしようよ!お花屋さんにしゅっぱーつ!」

 

「もー、一花は強引だなー」

 

プレゼントはどうするか悩んでると、一花の強引さでお母さんにプレゼントする者はお花に決まったよ。本当、一花ってばいっつもこうなんだからなー。

 

「じゃあ100本のバラとかどう?」

 

「バラには棘があったし、やめた方がいいんじゃない?」

 

「そういえば、母親にはカーネーションがいいって聞いたことがある!」

 

「カーネーションかー・・・いいかも!」

 

「それならあの無表情のお母さんも笑ってくれるかも。四葉、いくらあったっけ」

 

「えーっと・・・」

 

お花を買うためのお金はどれくらいあったかな・・・て、あれ・・・?・・・ない。私のお財布が・・・ポケットの中にない。

 

「お財布・・・どこやったっけ・・・?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

も・・・もしかして・・・着替えてた際に落としちゃった・・・?ど、どうしよう・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お財布を落としてしまった私はユニフォームに着替えて落としたであろう草むらでくまなくお財布を探している。みんなも捜してくれてるし、監督も捜してくれているから申し訳なく感じるよ。

 

「そっち見つかったー?」

 

「こっちはないみたいだよ」

 

「サッカーの前まであったならこの辺りだけど・・・」

 

「私、もっと奥捜してくる!」

 

「五月、そっち見つかったー?」

 

「・・・え?う、ううん、見つからないー」

 

でも、どこを探してもお財布は見つからなかった。・・・ど・・・どうしよう・・・私のせいだどうしよう・・・。せっかくみんなで溜めたお金なのに・・・!

 

「・・・あ」

 

必死にお財布を探していると、草むらの奥でひっそりと咲きほこっている綺麗なお花を見つけた。

 

「・・・きれいだな・・・」

 

まだお財布をあきらめたわけじゃないけど・・・万が一のために一輪のだけでも持って行こうかな・・・。

 

「ダメー、見つかんないー。そっちはー?」

 

「こっちも全然ー」

 

そ、それよりも今はお財布!早く見つけなきゃ・・・!

 

♡♡♡♡♡♡

 

草むらをくまなく探してみたけど、結局見つからなかった・・・。監督が言うには、たまたま通りかかった人がもう持って行ってしまったのかもしれないって言ってた。うぅ・・・もしそうなら・・・私のせいだ・・・。

 

「ごめんみんな・・・私のせいで・・・」

 

申し訳なくなって、私は姉妹のみんなに謝った。

 

「四葉のせいじゃないよね」

 

「誰が持っててもなくしてたんだよ、きっと」

 

「うん。だからもう気にしなくてもいいんだよ」

 

「誰かの失敗も、私たちで6等分だからね!」

 

「み・・・皆ぁ・・・ごめーん・・・」

 

みんなの思いやりが申し訳なく思うと同時に、嬉しくも思う。

 

「くっ・・・美しき姉妹愛・・・本当、最高だぜ・・・。よし!こうなったら俺が金を出してやる!それで花でも何でも買って来い!」

 

「そ、そんな・・・いくらヘボ監督でも悪いよ・・・」

 

監督はそんな私たちの姿に感動したのかお金を払ってくれるって言ってくれた。一緒に探してくれただけでもありがたいのに、悪いよ・・・あ、そうだ。あれがあったんだった。

 

「あ、それでね・・・代わりってわけじゃないんだけど・・・そこできれいなお花を見つけたんだ。これをお母さんにって・・・どうかな・・・?」

 

私がさっきそこで見つけてきたお花をみんなに見せてそう提案する。お花を見たみんなはお互いに顔を見合わせてる。・・・やっぱり、ダメ・・・かな・・・。

 

「・・・四葉・・・」

 

「あ・・・ごめん。やっぱり、こんなのじゃダメ・・・だよね・・・」

 

「・・・四葉、これを見て」

 

「!それ・・・」

 

二乃が・・・ううん、みんなが取り出したのは今私が持っているお花と全く同じものだった。

 

「私たちも見つけてたんだ、そのお花」

 

「せっかくだし、この6つのお花で花束を作ろうよ!」

 

「やっぱり私たちって、六つ子だねー」

 

「みんな・・・うん!そうしよう!」

 

みんなが私のお花と同じものを、そして、みんなが私と同じ意見を持っていたことで、私はとっても気持ちが軽くなったし、嬉しい気持ちにもなった。監督もそんな私たちを見てうんうんと首を縦に頷いて笑っている。こうしていると、本当に常々思えてくる。

 

ああ・・・私たち、一卵性の六つ子で本当によかったって。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちはさっそく自分たちが住んでるアパートに戻って、花束を作ったよ。お母さん、喜んでくれるかな。

 

「そろそろ帰ってくるよ。みんな、準備はいい?」

 

「「「「「うん!」」」」」

 

せっかくだからサプライズにしようっていう一花のアイデアに賛同した私たちは、お母さんを驚かせようと思って部屋の電気を消して、誰もいないような雰囲気を作ったよ。お母さん、きっと驚くぞー。

 

ガチャッ

 

「帰りました」

 

あ!帰って来た!でもこれはサプライズだから誰も返事はしないよ。

 

「・・・?帰りました。いないのですか?」

 

お母さんが部屋に入ったところで、私たちは部屋の電気をつけて・・・

 

「「「お母さん!!退院おめでとう!!」」」

 

「「「元気になってよかったね!!」」」

 

「!」

 

お母さんに感謝の言葉と一緒に私たち特製の花束を贈った。

 

「見てー、これみんなで集めたんだー」

 

「今日もお仕事お疲れ様」

 

「いつもありがとう!」

 

「・・・・・・」

 

私たちがお花の贈り物を送っても、お母さんはいつも通りの無表情。何も反応してくれない。

 

「・・・あれ?止まっちゃった」

 

「お母さーん?もしもーし?」

 

「やっぱり、これじゃあダメだったんじゃ・・・」

 

ぎゅっ・・・

 

「「「「「「あ・・・」」」」」」

 

お花の贈り物はダメと思った時、お母さんはしゃがみこんで私たちをぎゅっと抱きしめてきた。

 

「私にとってはあなたたち6人が健康に過ごしてくれるのが何よりかけがえのない幸せです」

 

「「「「「「お母さん・・・」」」」」」

 

「こちらこそ、ありがとう」

 

お母さんは私たちに向かって微笑んでくれた。こうしてぎゅっと抱きしめてくれているお母さんのぬくもりは、何よりも温かかった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから時が経って6月、今日は私たちの学校の修学旅行。お母さんは私たちの見送りのために来てくれているよ。私と二乃と三玖はもうすでに改札口を通り越して、残るは一花と五月と六海だけ。

 

「ううぅぅぅ~・・・」ぎゅ~・・・

 

だけど五月だけはお母さんからぎゅーって抱き着いて放そうとしていない。そんな五月に私はかわいいって思ったよ。けどそうも言ってられないのも事実だよ。

 

「五月!いつまでくっついてるの!」

 

「早くしないと修学旅行に置いてかれちゃうよ!」

 

「だって~・・・」

 

「もう・・・六海、引っ張ってあげて」

 

「ほら五月!早くお母さんから放れて!行くよ!」

 

お母さんに引っ付きっぱなしの五月を六海が引っ張って引きはがした。

 

「うぅ~・・・六海はお母さんと離れて寂しくないの?」

 

「お母さんと離れるのが嫌なのはみんな一緒!駄々をこねない!」

 

「だって・・・だってぇ~・・・」

 

「もう!あんまりしつこいと怒るよ!」

 

「うぅ~・・・怒られるのやだ~・・・」

 

五月ってば、怒りんぼうの六海に説教されてる・・・これじゃあどっちが姉でどっちが妹なのかわかんなくなっちゃうね。

 

「ん?あれって・・・」

 

そんな様子を改札口から見ていると、男の人がお母さんに近づいてきているのを見つけた。しかもあの人・・・お母さんを見てくれていた病院の先生だ。まだ改札口にいる3人も気づいたみたい。

 

「あ、あの人、またいるよ」

 

「ああ、お医者さんの」

 

「お母さん、あの人は・・・」

 

「そうですね・・・いずれ紹介しますが・・・あえて言うなら・・・私のファン・・・らしいです」

 

あの男の人の事を話しているお母さんのその顔は・・・今までに見たことがような笑みを浮かべていた。・・・無表情のお母さんでも、あんな顔、するんだ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『ハプニング発生!』

 

修学旅行先である京都に辿り着いた六つ子たちは6人で京都の街を見て回っている。そんな中で、六つ子たちはこんな会話をしている。

 

「お母さんのあんな顔、初めて見たね」

 

「うん。やっぱり彼氏なのかな」

 

「あれを見たら可能性大だね」

 

「お父さんかー、どんな人だろう?」

 

「気が早くない?」

 

零奈と話していた男が再婚相手と踏んでいる六つ子たちは零奈と話していた男がどんな相手なのかと気になっていた。

 

「!一花前!」

 

「え?」

 

ゴチンッ!

 

「「わっ!」」

 

余所見をして歩いていた一花は黒髪の少女とぶつかってしまう。年は見たところ、六つ子と同じくらいだろう。

 

「一花、大丈夫⁉」

 

「あてて・・・ぶつかってごめんなさい」

 

「いえ、こちらこそ不注意でした。すみません」

 

お互いに謝り終えたら、一花は六つ子たちの元へと、少女は同じ学校のグループであろう男女の元へと向かっていく。

 

「他の修学旅行の子かなー?」

 

「さすがに混んでるね」

 

「迷子になっちゃいそうだね」

 

「逸れないように手を繋ご」

 

六つ子たちは1人でも迷子にならないように手を繋ぎ始めた。

 

「はい、四葉も・・・て・・・あれ?四葉は・・・?」

 

「「「「え?」」」」

 

五月が四葉に手を繋ごうと思ったら、その四葉がいつの間にかいなくなっていた。言った傍から四葉が迷子になってしまうというハプニングが起きてしまった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・えらいことになってしまった・・・。さっきまでみんなと一緒にいたんだけど・・・人混みに巻き込まれて、私だけみんなと離れちゃった・・・。つまり今は絶賛迷子中です。早くみんなのところに戻ろうと思っても、全然見覚えのないところにたどり着いちゃう・・・。みんな絶対私のことを心配しているよ・・・。早く見つけないと私だけ取り残されちゃうよ・・・。私たちは6人一緒じゃなきゃいけないのに・・・。

 

・・・・・・。でも・・・本当にそうなのかな・・・?みんなのところに戻った方が、いいんだよね・・・?でも・・・6人一緒でいなきゃって、誰かに決められたわけでもないし・・・。

 

・・・って!ダメダメ!こんなことを考えちゃ!早くみんなと合流しないと!そう思って悪いことを振り払おうと思った時、下の階段で大きいカメラを持った私と同年代くらいの金髪の男の子がいた。あの子・・・1人で旅行してるのかな?なんだか・・・いいなあ・・・自由な感じがして・・・。

 

「あーあ・・・あの男の子みたいに1人旅できる勇気があればなー・・・」

 

・・・と、いけない!またいけないことを口走ってた!早くみんなのところへ行かないと・・・。そう思ってこの場を離れようとした時、あの男の子が変なおばさんに絡まれてきた。こっからじゃ声は聞こえないけど・・・場の雰囲気からして、かなり揉めてるみたい・・・あ!近くにいた警察を呼んじゃった!ど、どうしよう・・・すごい現場を目撃しちゃった・・・。・・・早くみんなのところへ戻らないと・・・とは思うんだけど・・・なんでだろう・・・あの子の背中を見ていると・・・なんだか寂しさが伝わってくる。なんだか放ってはおけなくって、私は階段から降りて、あの男の近くまで向かった。

 

「その人は無実だよ」

 

揉め合ってた現場まで辿り着いて、私は警察の人たちにそう言った。

 

「私、見てたもん」

 

私の言葉に警察の人や変なおばさん、そして金髪の男の子は私の方に視線を向けた。

 

「・・・お前・・・誰だ?」

 

私は男の子の問いかけには答えず、彼に近づいてその手を取って、その場から逃げる。

 

「さ、早く行こうよ!」

 

「ちょ・・・おま・・・何すんだ・・・どこに行くんだよ!!おい!!」

 

「!!!??ちょっとぉ!!!逃げる気!!?」

 

「お、奥さん、落ち着いて・・・」

 

「こ、こら!待ちなさい君たち!」

 

おばさんと警察の人の声が聞こえてきたけどそんなの知らんぷりだよ。早くこの場から離れなくちゃね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「いい加減・・・その手を放せっての!!」

 

警察化の人から撒くことができた後、私が助けた男の子は私の手を振りほどいた。

 

「勝手なことしやがって・・・てかお前本当に誰だよ?」

 

「もー、せっかく助けてあげたのに、その言い方はないと思うなー」

 

「助けてくれなんて頼んでねぇよ」

 

男の子は私にお礼を言わずにどこかへと行こうとしている。近くにいるたび、彼から寂しさがだんだんと伝わってきている。なんだか・・・放っておけないな。それに・・・なんだか、彼に興味が湧いてきちゃった。

 

「どこに行くの?よかったら一緒に京都回ろうよ」

 

「嫌だね。こっちは連れを探してんだよ」

 

連れの人?もしかして、彼も修学旅行だったのかな。だったらなおさら一緒にいて探してあげた方がいいよね。

 

「じゃあ一緒に探そうよ!」

 

「は?」

 

「清水寺の天辺なら、見つかるかもしれないよ!ほら、行こ行こ!」

 

「ちょ・・・おま・・・ま、またか!」

 

私はまた男の子の手を取って、今度はすぐ近くにあった清水寺の中へと入って天辺へと登っていくよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

清水寺の天辺まで辿り着いた私たちはそこから見える京都の景色を眺めていた。絶賛迷子だからか、京都ってこんなに広いんだなぁって余計に実感しちゃうよ。

 

「わー・・・きれいだねー」

 

「あー、そーだな」

 

「あ!ほら見てみて!さっきまでいた京都駅まで見えるよ!すごーい!」

 

「うわ!マジかよ!すげー!」

 

私が絶景を眺めていると、男の子は持っていたカメラを取り出してこの風景を撮ろうとしてるのに気が付いた。

 

「えへへ、ピースピース♪」

 

「・・・・・・」

 

私がカメラのレンズに向かってピースしてると、男の子は持っていたカメラを急にしまいだした。

 

「え?撮らないの?撮ってほしいのにー」

 

「もういいだろ。ついてくるなよ」

 

「あー!待ってよー!」

 

男の子は1人になりたがってるのかそんな冷たいことを言いだしてどこかへと行こうとしている。彼を放っておけない気持ちになってる私はそんな彼についていく。それと同時に、お土産屋さんを見つけた。上にもあったんだ。あ、お守りも売ってる。

 

「わーっ!お守りだって!ねぇねぇ、買っていこうよ!」

 

「なんでついてくるんだよ!さっさとどっか行け!」

 

「人を探してるんでしょ?私もなんだー」

 

「1人でできる!他を当たってくれ!」

 

「他じゃダメだよ」

 

「は?」

 

彼を放っておくことができない私が言った言葉に男の子はきょとんした表情になってる。

 

「お互い1人で寂しい者同士、仲良くしようよ。私には・・・君が必要だもん!」

 

「・・・!」

 

1人でいる彼に対する同情心、好奇心があるから言ったわけじゃないよ。ただ・・・どうしてか知らないけど・・・私には彼が必要・・・心からそう思えてくるんだ。

 

「・・・・・・買うならさっさとしろよ。俺はいらないから」

 

「え?待っててくれるの?」

 

「どうせついてくるんだろ?だから何やったって無駄だっての」

 

「わー、ありがとー。どれにしよっかなー」

 

彼のお言葉に甘えて、私は売ってあるお守りをじっくり見てみる。んー・・・どんなお守りだったらみんな喜ぶかなぁ?どうせだったらとってもご利益がありそうなものがいいな・・・。私が悩んでいると、小さな巻物みたいなのを見つけた。

 

「巻物だー」

 

「ん?これ・・・学業のお守りって書いてあるな」

 

「学業かー」

 

私たち六つ子は勉強はからっきしでダメダメなんだよねー。もしこれのご利益があるのなら、みんなの成績もアップするかな?

 

『お前らも四葉をお手本にしてしっかり練習するんだぞ!』

 

そこまで考えると、先日監督が言った言葉を思い出した。・・・うん、そうだよね。誰かがお手本にならなきゃ、みんな成長しないよね。私が・・・みんなのお手本になるんだ。

 

「じゃあ、これにしよ!すみませーん!このお守り6つくださーい!」

 

「はいよ!」

 

「お前・・・6つとも全部学業守りって・・・そんなに買っても意味ねーだろ」

 

「うん?これはね・・・うーんとね・・・6倍頑張ろうってこと!私はみんなのお手本になるんだ!」

 

「・・・そうかよ」

 

みんな・・・喜んでくれるかな。・・・喜んでくれるよね。私たち、六つ子だからね。

 

「買ったならもう行くぞ。お互い連れを探さないと怒られちまう」

 

「あ、ねぇねぇ、本当に写真、撮って行かないの?」

 

「はあ?」

 

私の言った言葉に彼は何言ってるんだ?みたいな顔になってる。

 

「お前、何言ってんだ?」

 

「だってせっかく京都に来たんだよ?一緒に撮ろうよ!こうして君と出会えた記念としてさ!」

 

「・・・しょうがねぇなぁ・・・」

 

「やった!」

 

私のわがままに彼は頭をかきながら承諾してくれた。彼って結構優しい子だね。・・・あー、でも、いつまでも君呼ばわりじゃ気分悪いよね。

 

「そういえば、君の名前」

 

「え?」

 

「君の名前はなんて言うの?」

 

私の質問に彼はため息をこぼした。

 

「はぁ・・・。・・・風太郎。上杉風太郎。これで満足か?」

 

「風太郎君かー。いい名前だね!」

 

彼・・・上杉風太郎君の名前を私が純粋に褒めると、ちょっと照れたようなしぐさを見せてる。ふふ、かわいいなぁ。

 

「そ、そんなことはいいからほら!写真撮るぞ!そこ並べ!」

 

「はーい」

 

照れ隠しするかのように風太郎君はカメラを取り出して、撮影の準備を始める。準備を終えたら、一緒に並んで写真を撮った。迷子になっちゃって、どうしたもんかと悩んだけど・・・これはこれで、悪くないかも♪

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎君と一緒に人を探しながら京都をいろいろ見て回っているうちに、もうすっかり夜になっちゃった・・・。時間が経つのはあっという間だなぁって感じちゃったよ。

 

「暗い・・・すっかり遅くなっちゃったね」

 

「げ・・・もう夜になってるじゃねーか・・・。お前が変に連れ回すからこんな時間に・・・」

 

「えー?風太郎君も結構ノリノリだったと思うよ?」

 

「それはだな・・・て、もういいや。言いあってても仕方ねーしな。お前、携帯持ってないよな?」

 

「うん・・・先生たち、探してくれるかもしれないね」

 

というより、探してるんだろうね。修学旅行の日に迷子になっちゃってるからね。幸い、今日が初日だったから不幸中の幸いだけどね。最終日に迷子になっちゃったらどうなってたことか・・・。

 

「とりあえずバスに乗るか。早く駅に行かねぇと」

 

「うん、そうだね」

 

えーっと、バスに乗るにはいくらほどかかったかなぁ・・・ちょっとお財布の中を確認してっと・・・あ・・・しまったなぁ・・・。

 

「どうした?」

 

「え、えーっと・・・お昼に買ったお守りで全財産使っちゃったかもしれない・・・」

 

「おま・・・バカか!!アホみたいに6個も買うからそうなんだろうが!!それくらい考えて買えよ!!」

 

「あはは・・・やってしまったなぁ・・・」

 

まぁ、やってしまったものはしょうがないしょうがない。こういう時こそ、プラス思考でいかなきゃね。

 

「たく・・・言っておくが俺の手持ちは300円しかないぞ。2人分は足りないし、貸す余裕なんてないからな」

 

「うん、わかってるよ」

 

バス代にまで風太郎君に迷惑をかけるわけにはいかないからね。そこはちゃんとわかってるよ。でも・・・あーあ、もうここで風太郎君とお別れかぁ・・・寂しくなっちゃうね。でも、仕方ないよね。

 

「じゃあ、気を付けて・・・」

 

ちゃりーん

 

・・・え!!?今、風太郎君何したの!!?バス代のお金を・・・お賽銭箱に・・・

 

「あ、やべ、落としちまった」

 

「え・・・あの・・・ちょっと・・・」

 

「・・・俺んち、貧乏でさ。毎回もらえる小遣いは5円か10円くらいなんだよ。こんな金じゃ駄菓子しか買えねぇから、ケチくせぇよな」

 

「そうじゃなくて・・・」

 

「・・・あ、よく考えたら今の金で電話すればよかった・・・。人の事言えねぇな・・・」

 

な、なんなの?この男の子・・・。今のって、絶対わざとお賽銭箱に入れたよね・・・。全財産なのに・・・普通そんなことしないのに・・・本当、おかしい男の子。

 

「・・・ま、いっか。待ってれば誰か見つけてくれるだろう」

 

いいのかなぁ・・・それで・・・。・・・それより、さっき風太郎君、貧乏って言った?お小遣いも思うようにもらえない日々・・・私たちの環境と同じだ・・・。

 

「・・・ねぇ、風太郎君。風太郎君は・・・お金がなくても、辛くないの?」

 

「?急になんだ?どう言う意味だ、それ?」

 

同じ貧乏という環境の中にいるからかな。私は自分たちの生活環境を風太郎君に話した。

 

「うちもそうなんだよね。家族のためにお母さんが1人で働いてくれるの」

 

「ふーん」

 

「私は、お金がなくても辛くはない。でも、私たちのために働いてくれるお母さんを見てると辛くなってくるの」

 

「うちも似たようなもんだ。そりゃ金持ちの家だったらいいに越したことはねぇが、生まれたのは貧乏の環境だ。これは覆らないし、しょうがねーだろ」

 

「そうだね。でも・・・たまに思うんだ。自分がいなきゃ、もっとお母さんは楽になれたんじゃないかって」

 

「!お前・・・」

 

そんな環境で生まれてしまったのは変えられないし、どうにもならないし。だからかな・・・たまにこんなことを思ってしまうのは。でも・・・だからこそ、今の環境を大きく変えることはできる道を、生まれてきた意味を探さなきゃいけないと思うの。

 

「だから決めたの。これからたくさん勉強して、うーんと賢くなって、とびっきり大きいお給料をもらえる会社に入ってお母さんを楽させてあげるの!そしたらきっと、私がいることに意味ができると思うんだ」

 

きっと大変な道のりになるだろうとは思う。けど、だからこそ、賢くならなきゃいけない。姉妹のお手本となるためにも・・・そして何より、お母さんのためにも。

 

「・・・すっげぇ。お前・・・大人だな」

 

「え?」

 

私が・・・大人・・・?

 

「俺、自分が子供だからって全部に諦めてた!今の環境とか、立場とか、何もかも全部、諦めてた!」

 

「ふ、風太郎君?」

 

「でも、自分が変わって自分で今の環境を変えればいい!!お前の言ってるのって、そういうことだよな!!」

 

「ま・・・まぁ・・・そういうことだね・・・はは・・・なんか照れちゃうね・・・」

 

男の子にこんな風に褒められたことって初めてだから・・・なんだか照れちゃうよ・・・ははは・・・。

 

「俺、妹がいるんだ」

 

「妹さん?」

 

「おう。まだ小学生に入りたての年の離れた妹が。俺もこれからめっちゃ勉強して、めっちゃ頭よくなって、めっちゃ金稼げるようになったら、妹に不自由のない暮らしをさせてやれるかもしれねぇ。もしかしたら・・・必要ある人間に、なれるかもしれねぇ!」

 

必要ある人間に・・・なれる・・・。風太郎君から出てきたその言葉、何よりも輝ていて・・・眩しくて・・・私の中に希望が生まれた。もしかしたら・・・私が頑張ったら、誰からも必要となる人間に、なれるかもしれない。

 

「一緒に頑張ろう!!2人で!!」

 

「お?」

 

風太郎君の言葉に感動した私は思わず風太郎君の手を握っていた。

 

「私はお母さんのために、風太郎君は妹さんのために・・・一生懸命勉強しよう!!それで・・・今の環境を変えるんだ!!」

 

「ああ!!」

 

「約束だよ!」

 

私と風太郎君は、1つの約束をして、お互いに笑いあった。何よりもかけがえのない・・・大切なものができた気分だよ。

 

「そういや、さっきの300円分の願い事がまだだったな。ご利益が消えないうちに、俺とお前で150円ずつで神様に頼んでおこうぜ。いつか、万札を入れられる大人になれるようにな」

 

「うん!」

 

私と風太郎君はさっき風太郎君が入れた300円分のお願いを事を2人で心の中でお祈りをした。ちらっと風太郎君がお祈りしてる姿を見つめたりもしたよ。ああ・・・なんだか私・・・今とっても幸せな気持ちになってるかも・・・。

 

「ねぇねぇ、なんてお願いしたの?」

 

「こういうのは言っちゃダメなんだぞ」

 

「えー、残念」

 

神様にお祈りした後、私と風太郎君はお互いに笑いあいながら話し合った。すると・・・

 

カッ!

 

「「わっ⁉」」

 

懐中電灯の光が私たちを照らし出した。

 

「な、なんだなんだ!!?」

 

「・・・あ・・・」

 

私たちを照らしてくれた人には、私はすごく見覚えがあった。というか、今日の改札口のところで見た。だってその人は・・・

 

「四葉君。こんな所で何をしているんだい?」

 

その人はお母さんの病気を治そうと頑張ってくれた・・・毎回お母さんに会いに来た病院の先生だったから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの後私は病院の先生の車に乗せてもらって、私たちが泊まる旅館まで送ってもらった。旅館の中でようやく合流できた姉妹たちは安心した表情を浮かべていた。もちろん、学校の先生には怒られたよ。そして、私と一緒にいた風太郎君は旅館で風太郎君の学校の先生が来るまで大広間で待つことになったんだ。まだもうちょっとだけいられることができるから、先生と合流する前に会う約束をしたんだ。その約束をしてから少し時間が経って、私は二乃と六海と一緒に廊下を歩いてる。

 

「え?あの人わざわざここまで捜しに来てくれたの?」

 

「うん。学校から連絡もらったお母さんが相談したみたい」

 

「そうなんだ。おかげで四葉とその男の子・・・上杉君が見つかってよかったよ。心配したんだから」

 

「ごめんね、二乃、六海」

 

あの時は本当に驚いちゃった。まさかあの人が京都までわざわざ来てくれるなんて想像すらしてなかったんだから。

 

「まだこの旅館にいるんでしょ?その風なんとか君・・・なんだかめんどくさいし、風君でいっか!」

 

「うん!学校の先生が迎えに来るまでにもう1度会いに行くんだ!2人も一緒にどう?」

 

「えー・・・私はいいよ・・・」

 

「せっかくだけど、私も遠慮しとくよ。お邪魔だと思うし」

 

「えー、すっごく面白いのになー」

 

「そんなに面白い子なの?」

 

「うん!すっごく!あのね、聞いて聞いて」

 

私は2人にここまで来るまでの経緯、そして風太郎君がどんな人なのかって言うのを話した。多分今の私、すっごく嬉々とした顔をしてると思う。

 

「それで、300円を入れて、何て言ったと思う?落としちまったって!」

 

「はは、何それ!面白ーい!」

 

「でしょー?」

 

「四葉・・・」

 

あっと、もうすぐで大広間についちゃうね。風太郎君、私たちを見たらどんな顔をするかな?きっと驚くだろうなぁ・・・。そう思いながら大広間へ行くと・・・見たくはない光景を見てしまった。

 

「え・・・」

 

「?四葉?」

 

「どうしたの?」

 

「・・・あれ・・・」

 

私が見てしまったものは・・・私と会う約束をした風太郎君。その風太郎君が・・・一花と楽しそうに話をしている姿だった。・・・どうして?なんで一花が?なんで風太郎君が一花と話しているの?その子は・・・私じゃないんだよ?どうして・・・?

 

「あれって・・・一花?」

 

「隣は・・・あれが例の上杉君なの?・・・四葉?」

 

この時、この瞬間から、六つ子である私たち・・・何もかもがそっくりということが・・・何よりも・・・嫌いになってしまった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

修学旅行が終わってから、あれから考えた。どうすれば相手に姉妹と間違われないようになるのかと。考えに考えて、私は結論に達した。六つ子という事実を変えられないのなら、自分を変えればいい。そこまでに至った私は、姉妹の誰よりも勉強して、努力した。そう甲斐あって、この前のテストでは、私が1番になった。この私が。私はもう・・・みんなと同じなんかじゃない。それでも・・・六つ子であると、誰かが他の姉妹と間違えられるのは避けられない。だからこそ私は、家族旅行の日・・・

 

「お母さん・・・本当に病気治ったのかな・・・」

 

「修学旅行から帰ってからずっと体調崩してるよね」

 

「心配だよね・・・」

 

「四葉、髪乾かした?ドライヤー貸して」

 

みんなには内緒で手に入れた、ウサギ耳みたいにぴょこんとしたリボンをつけるようになったんだ。これなら私が四葉だって特徴にもなるし、誰も間違えたりなんかしない。このリボンを見たみんなには当然ながら驚いてる。

 

「え!何そのリボン!」

 

「へへー、かわいいでしょ」

 

これで私は・・・姉妹とは別の場所に立った。もう、同じと言われ続ける私じゃない。同じはもう嫌だ。私が・・・1番なんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

おじいちゃんが経営する旅館から出て、帰宅するための船の上、姉妹のみんなは私から離れた場所で遊んでる。私も遊びには誘われたけど・・・私はそれを断った。だから私はただ1人、船から見える景色を眺めてる。

 

「四葉、そのリボン、似合っていますね」

 

私が海を眺めていると、お母さんが声をかけに来てくれた。

 

「ありがと・・・これならもう、みんなと間違えられないよね」

 

「さぁ、それはどうでしょう?」

 

「!」

 

「何を身につけているかなんて、たいした差ではありませんからね」

 

お母さんから放たれる言葉に、私は本気で焦った。私のこれまでのことを、否定されたかのような・・・そんな気分になるから。

 

「それだけじゃないよ!私、みんなより勉強して・・・この前のテストでも1番だったんだよ!」

 

「・・・・・・」

 

「勝ってるんだよ、私は・・・。私はもう、みんなと同じ場所にはいない・・・そっくりなんかじゃない」

 

そうだ・・・私は1番なんだ・・・みんなとは違う存在になったんだ・・・私は・・・間違ってなんかない・・・。

 

「お母さーん、見てみてー」

 

お母さんに声をかけてきた五月の頭には、星形の髪飾りが両サイドつけていた。

 

「あら、かわいいですね」

 

「えへへ―四葉を真似して私もつけてみたんだー」

 

リボンとは違うけれど・・・私は五月のその真似をし、追いかけようととするその行為が、気に食わなくて仕方なかった。

 

「ねぇねぇ、お母さんお母さん」

 

「あら六海、どうしましたか?」

 

「おじいちゃんからもらったおやつ、食べてもいい?」

 

「ええ、いいですよ。みんなに分けてあげてください」

 

「はーい。えへへ、やった」

 

こっちに近づいて来た六海はお母さんの許可を得た後、饅頭の箱を開けて1個を自分の口の中に運んだ。

 

「はい、五月の分」

 

「わー、ありがとー」

 

「もちろん、四葉の分も、はい」

 

「・・・・・・」

 

六海は饅頭を五月に、そして私にも渡してきた。五月は素直に受け取ったけど・・・私は、そういう気分になれなかった。これを受け取ったら、みんなと同じになるんじゃないかって思えて。

 

「・・・?四葉?」

 

「四葉、六海が困っていますよ」

 

「・・・・・・」

 

お母さんにそう言われて、私は仕方なくその饅頭を受け取った。饅頭を受け取った際、六海はにっこりと微笑んでる。

 

「おーい!みんなも饅頭食べなよー!おいしいよー!」

 

六海は饅頭を持って他の姉妹のところへと向かっていった。五月は残ってお母さんをぎゅっと抱きしめてる。

 

「・・・四葉」

 

「!」

 

「あなたの努力は素晴らしく、間違ってるものは何もありません。ですが、1番に拘らずとも、あなたたちは1人1人、特別です」

 

「・・・・・・」

 

「親として、あなたたちは6姉妹一緒にいてほしいと願っています。たとえ、どんなことがあったとしても・・・」

 

今の私には、お母さんの言っている意味が理解できなかった。ううん・・・したくないんだと思う。

 

「1番大切なのはどこにいるかなどではなく・・・6人で一緒にいること、です」

 

この言葉が、私にとって、最後の言葉になるだなんて、この時の私は、考えもしなかっただろうね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

家族旅行から数日後・・・お母さんは・・・病気で・・・命を落として、亡くなってしまった。今夜は、お母さんのお通夜が私たちのアパートで、開かれた。

 

「「「「「うわあああぁぁぁん!!!」」」」」

 

私たちはこの日は泣いた。あんなに大好きだったお母さんが・・・突然私たちの前からいなくなってしまった。誰もが、悲しくないわけがないよ。

 

「お母さぁぁん!」

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

「やっぱり・・・体調よくなってなかったんじゃん・・・」

 

「もう・・・会うこともできないんだね・・・もういないから・・・」

 

「・・・いるよ」

 

私を含めた姉妹たちが悲しんでいると、ずっと壁の隅っこにいた五月が言葉を発した。

 

「いるんだよ・・・お母さんは・・・私たちの中に・・・。これからは私がお母さんに・・・お母さんになります・・・」

 

「五月・・・」

 

五月は私たちに顔を向けることなく、そんなことを言いだした。五月があんな風になるのも無理はない・・・私たち姉妹の中で、五月が1番お母さんのことが、大好きなのだから・・・。そんな五月を一花が心配そうに見ていた。

 

「私たち・・・これからどうなるんだろう・・・」

 

「おじいちゃんの家・・・なのかな・・・?」

 

「全員で行けると思う?」

 

「どういうこと?」

 

「おじいちゃんだって体調悪いのに・・・もしかしたら・・・バラバラに引き取られるかも・・・」

 

「で、でも・・・この街には・・・孤児院もあったはず・・・だよね・・・?」

 

「親戚の人がそれを許すと思う?」

 

「バラバラになるのは嫌だね・・・」

 

私たちはこれからどうなるんだろうと五月を除いた姉妹たちで話し合ってると・・・

 

「失礼するよ」

 

「「「「「!」」」」」

 

私たちの部屋に人が入ってきた。その人は、何度もお母さんに会いに来ていた病院の先生だった。

 

「こうやって君たちと話すのは初めてだね。何度か顔を合わせてるはず。四葉君とは修学旅行以来だね」

 

「あ・・・」

 

病院の先生はお母さんの写真をじっと見つめた後、私たちに視線を向けて、口を開いた。

 

「君たちは、全員揃って僕が責任を持って面倒を見よう」

 

この言葉がきっかけとなって、私たちは病院の先生に引き取られることとなった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの人に引き取られてから、私たちはアパートから高級マンションに引っ越し、生活環境が大きく一変した。でも・・・たとえ環境が変わっても、私は勉強を怠ることはしなかった。私が、姉妹の中で1番であると証明させるために。そんな心境を抱えながらも、私たちは、小学校を卒業して、中学校に入学して、中学生になった。今も、お母さんの言葉が頭によぎる。

 

『1番大切なのはどこにいるかなどではなく・・・6人で一緒にいること、です』

 

・・・お母さん・・・私たち、姉妹揃って中学生になったよ。でもね・・・お母さんの願いは、叶わないんだよ。だって・・・6人一緒にいるなんて、無理だもん。

 

私たちはもう・・・一緒ではいられない。

 

46「私と姉妹」

 

つづく




おまけ

六つ子ちゃんはキャラ付けを六等分できない

小学生四葉「もー!私が最初に頭にトレードマークをつけたのにー!」

小学生六海「まぁまぁ、四葉、落ち着いて落ち着いて」

小学生四葉「うぅ~・・・五月、いつの間にその星の髪飾りを買ったの?」

小学生六海「あ・・・えっと・・・これはね・・・」

小学生五月「えへへ、かわいいでしょ?これはね・・・船が出発する前に浜辺で見つけたんだよ」

小学生四葉「え・・・」

小学生六海「五月・・・ヒトデを見つけて取ろうとしたんだけど・・・取れないって言って泣いちゃって・・・あの感触は気持ち悪かったよ・・・」

小学生四葉「そ・・・そっか・・・頑張ったね、六海・・・」

小学生六海「うえぇ~ん・・・四葉ぁ~・・・」

小学生五月「????」

六つ子ちゃんはキャラ付けを六等分できない  おわり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私とある男子

今回の話で長く続いたアンケートを終了させていただきます。アンケートの結果はアカウントがない人のために発表します。見事1番に輝いたのは六海ちゃんです。

ハラハラと楽しみながら経過を見ていましたが、まさか後々から追い上げて、あれほどの差になるとはとは思いませんでしたよw

そういうわけですので、だいたい本編で夏休みの時期に1位から順番にそれぞれのシナリオを書かせていただきます。長引いたアンケートにご協力いただき、ありがとうございました!

あ、後、次回はまだ夏休みには入りませんよ。次回はとっておき・・・いえ、もしかしたらとっておきは2話構成になるかも?何せもしも長ければ2話構成にしようと思っている話だからです。どうなるかは作者の私もわかりませんし、そして、とっておきといえば・・・?


中学生になっても、私のやることは何も変わらない。お母さんがいなくなったとしても・・・いや、いなくなったからこそ、私が姉妹の1番のお手本にならないといけない。そのためにも、毎日勉強して、うんと賢くならないと。それに、風太郎君との約束もあるしね。そんなある日のこと、私の姉妹の1人がある変化が起きた。

 

「えっ!!?一花!!?」

 

「そ、その髪、どうしたの!!?」

 

そう、姉妹の長女である一花の髪がきれいさっぱりに短くなって、きれいに整った短髪になっていたんだ。みんな驚いてるようだけど、私はこれくらいでは驚かない。

 

「ああ、この髪?部活の時邪魔だから切ったんだー」

 

「わー、似合ってますね!」

 

「なんか新鮮」

 

「いつもよりきれいになってるよ、一花」

 

「わぁ、みんなありがとー」

 

「・・・・・・」

 

姉妹はみんな短髪になった一花にべた褒めしているけど、二乃だけはなんだか複雑そうにしている。

 

「私も髪、切ろうかな・・・。二乃はどうする?」

 

「・・・ま、まぁ・・・前髪くらいなら・・・」

 

「六海、私たちも切っちゃいますか?」

 

「嫌だよ。なんで自慢の髪を切らないといけないの?意味わかんない」

 

「で、ですよねー・・・」

 

もう、みんなすっかり髪の話題に入っちゃってるよ。今はそんなことより、やるべきことがあるはずなのに。

 

「ほらほら、おしゃべりはそれくらいにして・・・勉強タイムだよ!ほら、もうすぐ追試でしょ?勉強するよ!」

 

「四葉だってそうでしょ?」

 

私たちは姉妹揃って前のテストがダメな結果だったから追試を言い渡されたんだ。これ以上ダメな成果を残すわけにはいかない。だからこそ、今はこれまで以上の勉強が必要なんだ。

 

「そういえばさ、あの噂知ってる?」

 

「「「「噂?」」」」

 

「うちの学校、赤点には特に厳しいらしくて、追々試まで不合格になっちゃったら一発で退学になるって話だよ」

 

「退学って・・・」

 

「あ、あくまでも噂でしょ?」

 

「そういえば・・・先輩の人が追々試で不合格になって退学したって噂が・・・」

 

「や、やめてくださいよ・・・本当になってしまいそうで怖いです・・・」

 

そう、黒薔薇女子学院は特にそこら辺が厳しくて2回にわたる追試で不合格してしまったら問答無用で退学になってしまうんだ。今回のテストは赤点・・・追試、さらに次の追々試で赤点になってしまったら私たちは・・・。だからこそ、私たちには勉強が必要なんだ。

 

「そうならないためにも勉強するんだよ。ほら、準備して!」

 

「もうダメ・・・私、今回の英語のせいで退学になっちゃうかも・・・」

 

「三玖、弱気にならないで」

 

三玖がものすごく弱きになっている。三玖、英語の点数は私たちより絶望的だったからなぁ・・・。でも、姉妹を導くのも私の使命!しっかりとお手本になってあげないと!

 

「私が教えてあげる!このノートにわかりやすく書いてあるから、お手本にしてみて!」

 

「四葉・・・ありがとう」

 

「お手本って・・・」

 

「監督に言われたことがよほど嬉しかったんだろうね」

 

「そういえば、その頃からだっけ?四葉がお手本になろうとしているのって」

 

「言われてみれば確かに・・・あの時くらいから四葉、変わったよね」

 

他の姉妹が何か言っているようだけど気にする余裕なんてない。私が1番しっかりしないと。私が・・・1番なのだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

追試をなんとか乗り越えてからかなりの日にちが経って、私は次の試験に向けて私はもう勉強するよ。前までやっていたゲームも封印!これで集中して勉強に臨める。それにしても、みんなって本当に緩いよね。みんな友達と過ごしたりしてるし、六海なんかリビングで漫画なんて読んでるし。やれやれ、みんな子供なんだから。

 

「六海、その漫画何?」

 

すると、帰って来た三玖が六海の読んでいた漫画に興味を示してる。

 

「戦国黙示録。姫路さんに勧められたから単行本の1巻が発売されたのを買ってみたんだ」

 

「それって、面白い?」

 

「割と結構面白いよ。読み終わったら三玖も読んでみる?」

 

「そうなんだ。じゃあ、読み終わったら教えて。読んでみる」

 

「うん、わかった」

 

もう、2人とも試験が近いっていうのに。しょうがないなぁ。もしみんなの点数が悪くても、私がみんなの勉強をみてやればいいんだし、それで解決するんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

さらに日にちが経って、試験を乗り越え、今日がその返却日。私の元に試験の答案用紙が返って来た。今回の歴史点数は・・・33点。前のテストより順調に点数が上がってきてる。元が悪いせいでまだまだ点数は悪いけど・・・これからもっと頑張ればいいんだ。今日は図書室で勉強しよう。そこでなら少しは集中できそうだし。

 

「六海、借りた漫画すごいよ」

 

ん?あれは・・・六海と三玖?三玖は答案用紙を持ってなんか上機嫌だけど・・・どうしたんだろう?

 

「ああ、戦国黙示録?あれがどうしたの?」

 

「あれのおかげでね、私、歴史のテストで初めてこんな点数を取れちゃった」

 

「おお!だいぶ読み込んでるじゃん!点数46点って!」

 

・・・え?三玖の点数が・・・46点?私より・・・上・・・?勉強なんてしてなかったのに?

 

「お、四葉!三玖ってばすごいよ!46点だってさ!」

 

「えへへ・・・」

 

「・・・そ、そっか・・・よかったね・・・」

 

私に気付いた2人は呑気な顔で話しかけてるけど、今の私の反応は多分・・・ずっと家に戻ってこない無表情とお父さんと同じだと思う。

 

♡♡♡♡♡♡

 

テスト返却日からまた時が経って、私は相も変わらず勉強をしている。でも、あれからは自分の時間を結構削って勉強に集中している。三玖のあの46点・・・あれほどいい点数が取れたなら、もっと頑張れば私だっていい点数・・・いや、それ以上の点数が取ることができるはずだ。もっと・・・もっと頑張らないと・・・たくさん勉強して・・・うんと賢くなって・・・とびきりお給料のもらえるいい会社に入って・・・

 

「・・・風太郎君も、今頃勉強してるのかなぁ・・・」

 

ふと頭によぎったのは京都の修学旅行で出会った風太郎君との約束。あれから風太郎君、がんばってるんだろうか・・・。もう1度、君に会いたいなぁ・・・。うん、彼に負けないように、がんばらないと!いい点数を取って、風太郎君を驚かせてやるんだ!

 

ヴゥー、ヴゥー・・・

 

気合を入れなおしていると、私のスマホから電話が来た。着信者は・・・二乃?どうしたんだろうか。とにかく出てみるか。

 

「もしもし二乃、どうし・・・」

 

≪四葉!!今すぐ病院に来て!!≫

 

二乃の声からして何か慌てているような様子がうかがえる。いったいどうし・・・

 

≪六海が・・・六海が大怪我をして病院に運ばれたって・・・≫

 

「・・・え・・・?」

 

事の事態は、私の思っていた以上にシビアだったみたいだった。事情を知った私はすぐに通話を切って急いで病院に駆け付けに行った。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お父さんが医院長を務めている病院に急いで来た私は受付の人に聞いて六海がいるであろう病室に駆け付けた。病室に入るとすでに他の姉妹全員が揃っていて、お父さんもいる。ベッドにはたくさんの絆創膏やガーゼ、包帯が巻かれている六海が静かに眠っていた。

 

「六海・・・」

 

「なんてひどい怪我・・・」

 

誰が見てもわかる重症の怪我を見て、姉妹たちはみんな六海の心配をしている。私だってそう・・・大怪我をして心配しないのは、家族としてどうかと思うし。

 

「命に別状はないが、しばらくは目を覚まさないだろう」

 

「そんな・・・いつ目が覚めるの・・・?」

 

「それは僕にもわからない。だが、早く目を覚ましてくれることを願っているよ」

 

六海を治療してくれたお父さんはこんな状況下でも顔色1つ変えていなくて、すごく無表情だった。

 

「入院手続きは僕がしておこう。君たちは遅くなる前に早く帰りなさい」

 

お父さんは私たちにそう告げてから病室から退室していった。

 

「六海・・・なんとかわいそうに・・・」

 

「どうしてこんなことに・・・」

 

お父さんが退室してからも姉妹たちの空気は暗かった。

 

「そういえば・・・六海と同じクラスの姫路さんも同じ現場にいたらしいよ」

 

「なんでその子はここにいないの?」

 

「もしかしたら・・・六海と何かあったのかも」

 

「私、ちょっとあの子に問い詰めてくる!」

 

「待ってください!今どこにいるかわかりませんよ⁉」

 

私たちが六海と姫路さんと何かあったのではという話をしていると・・・

 

「う・・・ううぅぅ・・・」

 

「「「「「!!」」」」」

 

六海が苦しそうなうめき声をあげている。顔もかなりうなされている。

 

「六海、どうしたの⁉」

 

「すごく・・・うなされてる・・・」

 

「六海、しっかりして!」

 

悪夢でも見ているからなのかわからないけど、こんなにひどい怪我に辛そうにうなされてる姿は、もう見ていられなかった。

 

「一花・・・二乃・・・三玖・・・四葉・・・五月・・・行かないで・・・私を・・・1人にしないで・・・私は・・・6人一緒じゃなきゃ・・・何も・・・」

 

「・・・っ」

 

悪夢で放った言葉だとはいえ、六海の放った言葉に私は六海の手を握るのを躊躇った。六海も・・・お母さんと似たようなことを・・・

 

「六海・・・安心してください。あなたを置いてどこにも行きませんから」

 

五月が優しく六海の手を握って六海を落ち着かせようと試みてる。五月の言葉に姉妹たちは首を縦に頷いているけど・・・私は、とても首を縦に頷くことはできなかった。五月の言葉が効いたのか、六海の表情は少し和らいで、すぅすぅと寝息を立てている。六海が落ち着いた様子に姉妹たちはほっと一安心するけど・・・それとは別に私は・・・複雑な心境を抱いてる。どうして6人一緒でいなくちゃいけないのかがわからないし、私はみんなと同じにはならないから。私は、みんなとは別の場所に立っている。だから私はもう・・・みんなと一緒には、いられないよ。

 

その日から翌日、六海と仲が良かった姫路さんは有無を言わさずに黒薔薇から転校していき、さらに時が経ち・・・六海が凶鳥というあだ名で呼ばれ、姉妹以外のみんなから、忌み嫌われるようになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから1年の時が経ち、今年は特に苛立ちが隠せない年だ。六海が悪い噂ばかり流すような行動ばかりするから、私にまで飛び火が来ないかと気になったりして、内心穏やかじゃない。何がしたいのかもわからないし。ただ・・・1人でいようとするその姿が、羨ましかったりもする。これもイライラの原因。もう1つ六海が喧嘩を吹っ掛けた不良が怒ってやってきてあの日はもう滅茶苦茶だった。

 

もう上げれば上げるほどイライラの原因がいっぱい出てくる。・・・そして何より、私が1番イライラするのは・・・今年に入ってから私の成績が落ち続けていることだ。この前なんか1つの科目で23点と最悪の点数となっているんだ。何とか追々試は免れてはいるけど・・・成績は一向に伸びる気配がない。これじゃあ・・・勉強している意味がない。いや・・・それ以前に何のために勉強をしているのかと考える始末だ。

 

そんな成績不良で悩んでいたある日、私たちがリビングに集まっていた時・・・

 

「ただいま」

 

「「「「・・・えっ!!?」」」」

 

「む、六海・・・そ、その姿・・・」

 

たった今帰ってきた六海の姿を見て、驚いた。まず変わったところは・・・頭につけていた黒のカチューシャは外していて・・・目がいいはずなのにメガネをかけていて・・・そして何より・・・あんなに自慢していた長い髪がバッサリ散髪されていて、短髪になっていた。

 

「私、一花みたいに思い切って散髪してみたよ。視力は全然いい方だから、メガネのレンズはただの玩具だけど・・・どう、かな?私のイメチェン」

 

今までとは全く違ったイメチェンに六海は照れ臭そうに頬をかきながら私たちに感想を聞いて来た。

 

「わあ、すごくかわいいですね!ですよね、みんな!」

 

「・・・ま、まぁ・・・いいと思うよ」

 

「うんうん、かなり見違えたよー」

 

「まるで別人みたい」

 

「はは、ありがとう。照れるな・・・」

 

今までのイメージがすごく変わった六海にみんなべた褒め状態だ。二乃だけはなんか複雑そうな顔はしていたけど。

 

「・・・でも、どうして急にイメチェンなんて・・・髪だって切るの頑なに嫌がってたのに・・・」

 

私の疑問に六海は若干困ったように苦笑しながら答えた。

 

「まぁ・・・自分を変えるならまず形からって思ってさ・・・ほら、私、みんなに迷惑ばっかかけちゃったし・・・」

 

「迷惑だなんてそんな・・・」

 

「みんなが気にしてなくても、私は気にする。あのままじゃ本当に・・・私たちの関係が・・・6人一緒の関係が崩れちゃうんじゃないかって思ってさ・・・」

 

・・・また・・・6人一緒・・・。

 

「私・・・自分を変えたいんだ。もう二度と、私が間違った方向に進まないように。このイメチェンは、その意思表明みたいなものなんだ」

 

六海には六海なりの覚悟があって自分を変えようとしているのだろうとは思う。でも・・・私には、その気持ちがわからない・・・。みんなと一緒にっていう考えが・・・自分から離れていたのに、今更・・・

 

「よく言った!それでこそ私の自慢の妹だよー」

 

「わっ・・・一花⁉急に抱き着かないでって!」

 

「私は何でもがんばろうとする六海を応援するよ」

 

「一花・・・みんな・・・ありがとう。私、自分を変えれるように頑張るよ」

 

六海に抱き着いた一花は六海の考えを肯定している。他の姉妹も、その意見を肯定するように首を縦に頷いてる。わからない・・・どうしてそこまで・・・?お母さんも、六海も、他の姉妹も・・・6人でいることが何でそこまで大事なの?どうしてそこまでこだわらないといけないの?わからない・・・わからないよ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

そして、さらに時が経って・・・私たちは・・・ついに高校1年生になった。

 

「私たち・・・本当に高校生になったのでしょうか・・・?」

 

「周りの顔ぶれが変わらないから実感ないね。その代わり、私たちは大きく変わったけど・・・」

 

「えー?そうかなー?六海はそんなことないけど・・・」

 

「いやいや、六海は十分すぎるくらいに変わったよ?」

 

「そうよ!呼び方だとか一人称とか変わりすぎでしょ!」

 

みんな・・・前と印象がすごく変わっているんだ。見た目もそうだけど・・・性格面でも大きく。そして・・・私自身も。

 

「陸上部インターハイ出場したんだよね?そんなに強かったっけ?」

 

「全ては中野さんの加入のおかげですわ」

 

「へー!今度はぜひソフト部の助っ人も入ってくださいよ」

 

「あはは、いいですよ!私に任せてください!」

 

あれから私は・・・勉強をすることをやめて、スポーツを全面的に打ち込むようになった。私には勉強は向いていないけど、スポーツの才能は前々からあったらしい。小学校の時、監督が言っていたのは、まさにスポーツの才能を示していたんだ。それに気づいた私は中学生の時に体力を底上げさせて、自分の能力を限界にまで伸ばした。そのおかげで・・・ほら、私はみんなに必要とされている。もう私は、みんなとは違う存在!みんなと一緒じゃない!私は・・・特別になったんだ!

 

「四葉、すごい人気ですね」

 

「あの子、多重入部してるのよね?何個入部するつもりよ」

 

「助っ人の申し出、全部受けてるらしいよ」

 

「四葉ちゃん、大丈夫かなぁ?追試も不合格になったんでしょ?」

 

「・・・四葉」

 

部活のみんなと話してると、三玖が私に声をかけてきた。

 

「最近ずっと練習ばっかりやってるけど、大丈夫?勉強・・・できてる?」

 

大方、私の成績のことを心配してのことだろうけど・・・大きなお世話。勉強なんかやらなくたって・・・私はスポーツで大きな存在になったんだ。勉強なんかしなくたって、うまくやっていけるんだ。

 

「わからない問題があるなら・・・私が教えてあげようか?四葉が・・・教えてくれたみたいに・・・」

 

「私はもうみんなとは違う。一緒にしないで」

 

姉妹のみんなと一緒なんだと思われたくない私は、三玖の申し出を一蹴した。もういい加減煩わしいんだよ・・・みんな一緒の姉妹には。私はもう・・・姉妹と同じにはならない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の朝、学校の朝礼のために生徒全員は体育館に集まってきている。内容は学院長の長い話だろうけど、私にとってのメインはその次の表彰式。部活の大会で最も優秀な成績を収めた部員に表彰状が渡される。全部の運動部に入ってる私は当然、全部の表彰をもらっている。今回の表彰は陸上部だ。

 

≪陸上部の皆さん、壇上にお上がりください≫

 

学院長のどうでもいい話が終わって、いよいよ表彰式。私たちが壇上に上がったのと同時に、学院の全員からの大歓声が広がっている。この中には、姉妹も交ざっているんだろうな。

 

≪インターハイ出場、おめでとうございます!≫

 

お母さん・・・ちゃんと見てる?私・・・みんなに褒められてるよ。いろんな人に必要とされてるんだ。姉妹の誰でもない・・・私だからこそ、できたことなんだよ。

 

私が姉妹で1番なんだ!特別なんだ!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

高校2年生となり、今年の1学期の期末試験の追々試が終わった数日後、私1人だけが職員室に呼ばれた。いったい何の用だろう?それに・・・周りの生徒も、なぜか私を哀れむような視線を送ってたけど・・・。考えている間にも、職員室に辿り着いて、私は担任の先生に何の用か尋ねた。

 

「追々試不合格。中野四葉さん・・・あなたを、落第とします」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

 

先生の放った言葉に、私は固まった。私が・・・落第?特別な・・・私を・・・?

 

「そんな・・・嘘・・・ですよね?」

 

「こんなことで嘘など言いません」

 

「だって!!あんなに部活で結果を出してきたのに!!この前だってバスケ部で全国出場したのに・・・」

 

「関係ありません。再三警告をしたはずなのに多重入部をやめようとしませんでした。勉学を疎かにした結果がこれです」

 

そんな・・・試験で落ちただけなのに・・・どうして私がこんな・・・。

 

「荷物をまとめなさい」

 

私は・・・部活動をこれでもかってくらいに頑張ってきた。なのにこんな・・・こんなことって・・・あまりにひどい仕打ちだ・・・。

 

「中野さん・・・本当に残念ですわ・・・」

 

部活動のみんなは落第にたいして何も言わず、私を止めようとする者は誰1人としていなかった。

 

「まさかあなた、部活動だけで満足なされていたの?」

 

それどころか逆にあきれ果てた顔をして、私を哀れむような視線を送ってきた。・・・どうして?私のおかげで大会で優勝できたはずなのに・・・どうして誰も・・・私を必要としないの・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

落第という受け入れられない現実に打ちのめされかけていた私は黒薔薇の理事長に呼ばれて理事長室まで向かった。理事長室に入ってみたら、そこには理事長と、お父さんがいた。

 

「四葉君、この結果を受け、内々で話を付けさせていただいた」

 

かなり気落ちしてたから落第のことはお父さんには話していない。なら理事長から話を聞いてここに来たのか・・・。でも話を付けたって・・・いったい何を・・・?

 

「中野四葉君、特例として転校するという形で済ませることができそうだ」

 

「転校・・・」

 

「うむ、私の知り合いが理事を務める男女共学の学校だ。夏休み明けから君はそこに通うことになる」

 

「私・・・だけ・・・」

 

姉妹のみんなは・・・この学校に残って・・・私だけが・・・違う学校に・・・。そうなったら私は・・・本当に・・・ただ・・・1人に・・・。

 

「引っ越しの必要がないのが、せめてもの幸いだ。家では姉妹一緒になれる。心配しなくてもいい」

 

あまりにショックな知らせに私は・・・それ以上の言葉は頭に入らなかった。私は・・・特別なはずなのに・・・。私は・・・私がいる意味を作ろうとして、必死にやってきた。なのに・・・私、なんで1人なの?1人になったら私はどうすればいいの?どうやったら特別になれるの?わからない・・・わからないよ・・・。

 

「待ってください」

 

私が固まっていると、理事長室に入ってくる人物が5名。その人物は・・・私の、姉妹たちだった。

 

「四葉が転校するなら、私たちも付いていきます」

 

「!!!」

 

みんな・・・なんて・・・?私に・・・付いて・・・?どうして・・・?それは、みんなも転校することになるのに・・・。

 

「な、何を言っているんだ!君たちは試験を通過したはず」

 

「ええ・・・合格できたわ・・・カンニングしたおかげでね」

 

「!!!???」

 

二乃が得意げに取り出したのは・・・今回の期末試験のカンニングペーパーだった。いや・・・取り出したのは二乃だけじゃなかった。

 

「そ、それは本当かね!!?」

 

「あー、私もでーす」

 

「私も・・・」

 

「すみません・・・私もしました」

 

「六海は常に常習犯でーす」

 

もしかして・・・みんな・・・私のために・・・?

 

「みんな・・・なんで・・・なんで・・・私のために・・・」

 

このままカンニングしたことを黙っていたら、この学校に残れたはずなのに・・・それなのに・・・なんで・・・どうして私のために・・・。

 

「四葉、あんたがどう考えているのか知らないけどね、アタシは、あんただけいなくなるなんて絶対嫌よ!」

 

二乃・・・

 

「どこに行くにしても、みんな一緒だよ」

 

「それがお母さんの教えですから」

 

一花・・・五月・・・

 

「間違えちゃったのは六海も同じだよ。一緒に、一からやり直そうよ」

 

六海・・・

 

「四葉・・・どんなことでも、私たちは、みんなで6等分だから。どんな困難でも、6人でなら、乗り越えられるよ」

 

三玖・・・みんな・・・私のために・・・。私は・・・なんてバカなんだろう・・・。特別になろうと、意地を張ってみんなに頼ろうとせずに・・・。今なら六海の・・・ううん、みんなの気持ちが痛いほどにわかる。ああ・・・そうか・・・お母さんが言っていた6人一緒って言うのは・・・こういうことだったんだね・・・。

 

もう・・・誰が1番なんて考えるのはやめよう・・・。私は・・・姉妹のために生きるんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

夏休みが明けて、私たちは旭学園に転校した。髪も自分を変えようと思って散髪もした。六海があれだけ変わることができたんだから、私もできるはずって安直な考えなんだけどね。でも、私は1人じゃないし、きっとできると信じてるよ。

 

「五月の話だと、ここの食堂の味はレベルが高いって」

 

「へー、期待しちゃっていいのかな」

 

転校してから翌日、私たちは姉妹揃って学食でご飯を食べることになった。後は六海と五月が来るのも待つだけだよ。

 

「ここの学校、試験とかもなんか緩そうだし、そんなに必死に勉強しなくてもよさそうね。転校して正解だったわ」

 

二乃は私の方を見て微笑みながらそう言ってくれた。私のせいで転校になったのに・・・それでもついてきてくれて、私は嬉しくも感じるし、逆に申し訳なさもあるよ。そう思っていると、六海も来て、遅れて五月も到着でこれで姉妹が揃った。みんなといただきますしようとした時・・・

 

「友達と食べてるだと!!?」

 

黒髪の男子生徒が私たちを見て驚いて叫んでいる。姉妹の中の誰かと仲良くなったのかな?姉妹の雰囲気を見てみると、誰もそんなことなさそうだけど・・・。・・・でもあの男の子・・・どこかで見たような・・・?

 

「あれ?これ・・・」

 

一花があの男の子と話から戻ってきた時、私は何かを見つけた。これは・・・あの男の子の答案用紙?・・・100点満点だ。すごいと感心していると・・・その答案用紙の名前を欄を見て、私は目を見開いた。名前には・・・上杉風太郎・・・5年前に出会ったあの男の子の名前が書かれていた。

 

「今の人、今困ってるかな?」

 

「ほっとけばいいですよ、あんな人」

 

「でもでも!困ってる人は放っておけないし・・・届けてくるね!」

 

五月の反対を押し切って私はさっきの彼に答案用紙を返しに行った。これがないと困るのは本当だと思うけど・・・それ以上に、確かめたかった。あの男の子が本当に、5年前のあの男の子だったのかを。多分食堂から出てないと思うけど・・・あ、いた。さっきの男の子だ。1人で何か悩んでる様子だけど・・・。私は彼の席に向かって、彼の顔をじっくりと見つめる。

 

「じー・・・」

 

「・・・・・・」

 

顔をじっくりと見てみると、その顔は見間違えるはずもない。正真正銘、彼は風太郎君だ。すごい!転校先がまさか風太郎君と同じ学校だったなんて!5年前と雰囲気も見た目もまるで違うけど、嬉しいなー。何か悩んでてまだこっちには気づいてない。ちょっと驚かせちゃおうかな。

 

「風太・・・!」

 

風太郎君に声をかけようと思ったけど、彼の手元にある別の教科の答案用紙を見て、思いとどまった。その点数は・・・また100点。その他の教科も、100点・・・。それに・・・ご飯中にも勉強・・・もしかして・・・あれからもずっと頑張り続けていたの?もしそうなら・・・風太郎君はすごいよ・・・。それに比べて私は・・・約束を守るどころか忘れてしまって、変に暴走して・・・。こんなこと・・・恥ずかしくて言えないよ・・・。

 

「・・・上杉・・・さん。上杉さん。上杉さーん」

 

自分のことをバレたくなくて、私は風太郎君を・・・苗字の方で上杉さんと呼んだ。

 

「・・・ん?」

 

ドキッ

 

風太郎君が私に視線を向けてきた時、私は内心、ドキッとした。それでも私は、初対面のように振舞う。

 

「あはは!やっとこっち見た!」

 

「・・・おわぁ!!?だだ、誰だ!!?なぜ俺の名前を知っているんだ?」

 

私に気付いた風太郎君はかなり驚いている。私のことは・・・覚えている様子はなかった。・・・そうだよね・・・私のことなんか・・・覚えてるはずないよね。でもね・・・私は知っているよ。君のことを・・・ずっと前から。君のことを忘れるなんてことは、今まで1度もなかったよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、学校から私たちのマンションに帰ってみたら、そこには風太郎君がいた。話を聞いた限りだと、お父さんが話していた家庭教師の件、その先生が風太郎君だというんだ。まさか風太郎君が私たちの家庭教師になるなんて思わなかった。運命の巡りあわせとはわからないものだね。でも・・・他の姉妹たちは全員勉強に乗り気にならなくて・・・中には風太郎君を嫌って家庭教師の授業を受けようとしなかった。誰も風太郎君の味方でいる人がいなかった。・・・それなら、せめて・・・

 

「・・・て!!どうして誰もいないんだああああああああ!!??」

 

「はいはーい!!私はいますよー!」

 

せめて私だけは、風太郎君の味方であり続けよう。いつかきっと、姉妹のみんなが風太郎君のいいところに気付いてもらえるように。そりゃ私も勉強は苦手だけど・・・風太郎君が家庭教師なら、私は大歓迎だよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

風太郎君が家庭教師になってから一週間くらい経った。姉妹のみんなは相も変わらず風太郎君の授業には参加しようとしない。なので、今は授業を受けているのは私だけ。受けている科目は英語だよ。

 

「だから何度言えばわかるんだ四葉・・・ライスはLじゃなくてR!お前シラミ食うのか!!?」

 

「あわわわ!」

 

まぁ、ただいま絶賛お説教中ですが・・・あはは・・・。

 

「・・・四葉、お前なんで怒られてんのにニコニコ笑ってんだ?」

 

「えへへ・・・家庭教師の日でもないのに上杉さんが宿題を見てくれるのが嬉しくってつい・・・」

 

それに・・・このまま勉強を頑張れたら、風太郎君に私のことを言ってもいいかなって思えてくるんだ。そのためにももっと頑張らないと!

 

「物分かりがいいな。おかげで助かってる。残りの5人も物分かりがいいともっと助かるんだが・・・」

 

「一応声はかけたんですけどね・・・あ、でも。残り5人じゃなくて残り4人です」

 

「え?」

 

「ね?三玖」

 

授業を参加したがらない姉妹のうち、唯一授業に参加すると言っていた三玖がこの図書室に入ってきた。風太郎君と三玖は何か話しているみたいだけど・・・その時の三玖の顔は、いつもの笑顔とはどこか違っていた。その顔を見て、私の四葉センサーがピコーンッて来た。そういえば前に三玖に好きな人がって話はしたけどまさか・・・三玖・・・

 

(み、三玖・・・もしかして・・・この前隠してた三玖の好きな人って、上杉さんじゃ・・・)

 

「・・・ないない」

 

三玖は否定はしていたけど・・・なんだろう・・・どこか腑に落ちないっていうかなんというか・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

花火大会の日、姉妹で行く予定だったイベントに風太郎君と今日初めて会った風太郎君の妹のらいはちゃんと一緒に行くことになった。その際、まだ終わってなかった課題をやらされたけど・・・。花火大会で話し合っている風太郎と三玖・・・図書室でのこと、気にしないようにしようとしたけど・・・やっぱりどことなく雰囲気がよくなっているような気がする。気になったから一花に聞いてみることにした。

 

「三玖はないって言ってたけど・・・一花さん、どう思います?」

 

「んー、好きで間違いないでしょうね」

 

「やっぱり!!」

 

やっぱりあの時の四葉センサーは正常だった!まさかとは思っていたけど・・・当たってよかったのか悪いのか複雑な気分だよ!

 

「もー、どうしてこうなっちゃったんだろー?」

 

「はは、だよね」

 

・・・そういえば、一花も6年前、風太郎君に会ってたよね・・・。私だと勘違いされてたみたいだけど・・・。

 

「一花はどうなの?」

 

「おっと私に振るかー。そーだなー・・・フータロー君はいい奴だけど、なんか子供っぽくて私はそんなにって感じかな」

 

反応からして・・・一花も忘れてるよね・・・。そうだよね・・・それならそれでいいんだ、ははは・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから後のこと、一花のフータロー君の態度がどんどんと好意的なものに変化していっているのに私は気づいた。それこそ、本当は覚えているんじゃないかって疑うほどのものである。ううん、変わったのは一花だけじゃないか。三玖はもちろんのこと、六海も、五月も・・・そして姉妹で1番風太郎君を嫌っていた二乃でさえも変化している。なんだか寂しい気はするけど、みんなが風太郎君の素敵なところに気が付いてくれたようでよかったよ。

 

そして、林間学校を終えて、風邪で病院に入院している風太郎君のお見舞いの後、予防注射を受けようと思って、1人だけ遅れてきた五月を探している。連絡ではもう来てるって話だけど・・・もしかして、風太郎君の病室に来ているのかな。そう思って風太郎君の病室に行ってみると・・・

 

「教えてください・・・あなたが勉強する理由を」

 

「!!!」

 

風太郎君の病室から五月の声が聞こえてきて、勉強をする理由を風太郎君に問いかけていた。風太郎君は全部とはいかなかったものの、その理由を話した。その内容は・・・私と出会うまでの過程だった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その次の日、風太郎君は私たち全員をポニーテールにしろって言われて、そこから私たちの顔を見分けること兼、テストで0点を取った犯人探しをしていた。いや、それ自体はいい・・・まさか風太郎君が私のことを覚えていたなんて思わなかった。どうしよう・・・風太郎君はまだ私に気づいてないようだし・・・私も・・・言うべきなのかな・・・。

 

・・・でも・・・私だけ特別扱いなんて、よくないよ。黒薔薇から転校を言い渡されたあの日から、私は、特別になるのは、やめたからなおさらだ。

 

「この中で昔俺と会ったことあるよって人ー?」

 

「「!」」

 

「「「?」」」

 

埒が明かないと思ったのか風太郎君はド直球に聞いて来た。二乃、三玖、六海は何のことかわからず首を傾げていた。姉妹の中で一花だけが私のことをちらって視線を向けている。

 

・・・やっぱりだめ。今の私は、姉妹のおかげでここにいる。それをこんなことで崩しちゃいけないんだ・・・。

 

だから・・・あの思い出も、この気持ちも・・・全部、消してしまおう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃と五月が家出をした翌日の日曜日、五月から自分の荷物を持ってきてほしいとスマホを通じて頼まれた。場所を指定してくれたおかげで難なく見つけることができたけど・・・まさか風太郎君と一緒にいたとは思わなかった。思わず茂みの音を出しちゃったよ。驚いた後、少し話してから風太郎君は自分の家に戻っていった。その後で五月が茂みの音が気になって私のところまでやってきた。私を見た瞬間、五月は少し安心したような表情をしている。

 

「あの茂みの音は四葉だったのですね・・・ちょっと焦っちゃいましたよ・・・」

 

「頼まれた通り、学校の用意持ってきたよ。家出するならちゃんと用意してからにしなよ」

 

「す、すみません・・・」

 

五月がかばんを受け取ろうとしたところで私はそれを手を引っ込めて躱す。五月には、頼みたいことがあったから。

 

「?四葉?」

 

「今が大変なところ申し訳ないんだけど・・・かばんの代わりに五月にお願いがあるんだ」

 

「お願い・・・ですか?」

 

「これを着て、上杉さんに会ってきてほしいんだ」

 

私は五月のかばんに教材と一緒にいれた白い服を取り出して、それを五月に渡す。

 

「ど、どういうことでしょうか?それにその服は?」

 

「最近知ったんだけど私、嘘をつくのが下手くそみたいで・・・それで私のことがバレちゃったら意味ないんだよ・・・」

 

「???話が全く飲み込めません。つまりはどういう・・・?」

 

話が理解できないなら任せることはできないか・・・。なら・・・五月だけでも話しておこうか。五月は一部だけど、風太郎君の話、聞いたから何も問題はないよ。全部の事情を話すと五月は気が付いていたのかやっぱりと言った感じの顔になった。

 

「やはり上杉君の話に出てきた彼女とはあなただったんですね。何となく、心当たりはありました」

 

「それで・・・どうかな?上杉さんと会ってくれる?」

 

「それですが、私は嘘や変装は苦手ですので、四葉のご期待に添えられるかどうか微妙なところなのですが・・・」

 

「大丈夫だよ。誰かの真似をしなくたって・・・昔の五月のままでいいから」

 

これなら誰かの真似でなくても姉妹の誰かってことに気付くことはないし、私の中の思い出も、気持ちも・・・五月が消してくれるはずなんだ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

数日くらい経って、五月は私に言われた通りの服着て、風太郎君に会って来た。私は陸上部の練習ついでにその様子を陰ながら見守っていた。思った通り、風太郎君は見事に勘違いしてくれたおかげで、私のことは気づかれてない。五月は風太郎君を逃げられないようにするためにボートに乗り込ませた。何を話していたかはここからではよく聞こえなかった。

 

・・・風太郎君は・・・すごく楽しそうな顔で笑っていた。・・・本当なら・・・あそこにいるべきなのは・・・五月じゃなくて、私・・・。・・・でも・・・今更私が出てきても、この気持ちが、思い出が邪魔するんだ。だから・・・苦しいし、悲しいけど・・・これでいいんだよ・・・これで・・・。

 

その後は、何を話したのかは全く分からなかったけど・・・風太郎君はショックを受けて、ボートから落ちてずぶ濡れに・・・気持ちも・・・落ち込んでいるように見えた。なんだか悪いことをしたような気持ちになったけど・・・他の姉妹のためなら・・・こうでもしなきゃいけない。これで・・・私の中の思い出も・・・なくなったはず・・・。

 

風太郎君・・・ううん・・・上杉さん・・・ごめんなさい。私だけが特別になるなんて、あっちゃいけないことなんだ。上杉さんが、誰を好きになったとしても・・・応援できるように。私も・・・心を鬼にします。

 

これが・・・私こと中野四葉が、ここまで辿ってきた道のり。そして私の道の・・・終着点なのです。

 

♡♡♡♡♡♡

 

修学旅行が終わって日にちが経ち、季節はもう夏まっしぐら!そのために・・・外は熱いですし、この教室の中にも夏の熱がこもっています・・・。あつーい・・・。

 

「あっつー・・・」

 

「夏だねー。もうすぐで夏休みだねー」

 

「その前に大学の入試判定試験が残っていますけどね・・・」

 

「それ言わないでよ・・・」

 

姉妹たちもこの熱さにちょっとまいり気味です。みんな熱さで汗もかいていますし。あ、ちなみに一花はお仕事でいないですよ。

 

「それよりも夏ならではの楽しいことを考えようよー」

 

「そうね・・・夏といえばやっぱり、海よね」

 

「ううん、山がいい」

 

あ、二乃と三玖の意見がまた食い違ってる。

 

「は?信じられない。山なんていつの時期だっていいじゃない」

 

「夏にしかできないことがある。それに騒がしいところは苦手」

 

「もー、わかってないなー。夏といえばコミケだよー。今年は冷房の効いた場所でやるし、夏ならではの作品が盛りだくさんだから楽しめるよ」

 

「人が混む。熱くなるし、絶対無理」

 

「それを楽しいって言ってるのはあんただけよ」

 

ははは、六海との意見も食い違っているね・・・。

 

「何を言っているのですか?私たちは3年生なのですから夏休みは受験シーズンしかないでしょう?」

 

「うっ・・・考えたくもないわ・・・」

 

「五月、空気読めてない」

 

「もー、なんでそういう話を折るようなこと言うかなー。ブーブー」

 

「なぜブーイングを受けなければいけないのですか⁉」

 

ははは、姉妹のみんな、楽しそうに話してるな。あ、そうだ・・・受験シーズンといえばみんな大学に行くのかな?

 

「そういえばみんなは大学どこに行くの?」

 

「まだ決めてないわね」

 

「私も決めてませんが・・・教師の資格が取れそうな大学を選ぶつもりです」

 

「六海は大学じゃなくて専門学校に行くよ。六海の知らない絵の技術、もっと学びたいから」

 

みんなどこの学校に行くとかは決めてないけど、だいたいは将来に繋がりそうな学校に行くっていうのは決めてるみたいです。両方とも決まってないのは私くらいですよ・・・ははは。

 

「・・・私は、大学には行かない」

 

「「「「え?」」」」

 

え?今、三玖はなんて?大学、行かないの?何で?

 

「今、大学に行かないって言った?」

 

「三玖、あんた本気で言ってるの?」

 

「どうして急に・・・」

 

「そうだよ、前の試験でも三玖が1番の成績なのに・・・」

 

「・・・笑わないで聞いてほしいんだけど・・・私・・・お料理の専門学校に行きたいんだ・・・」

 

私たちの疑問に三玖は少し照れ臭そうな顔をして答えました。

 

「お料理の専門学校・・・」

 

「えと、三玖ちゃん、それって本気?」

 

「うん、本気」

 

「はー、正気を疑う発言ねー・・・」

 

三玖の決意は固いようでみんな笑いはしませんけど、結構驚いている様子でした。私も驚きです!

 

「それはまた・・・このことを知って上杉さんは何ていうでしょうか・・・あ、噂をすれば・・・」

 

ちょうど窓から上杉さんを発見しました。三玖の進路について聞いてみましょう。

 

「おーーい!!上杉さーーん!!」

 

「!四葉!!そんな遠くから大声で呼ぶな!!」

 

あはは・・・聞くどころか逆に怒られちゃった・・・。それに忙しそうだったし、また後で聞いてみようかな。

 

「・・・四葉・・・本当に、このままでいいのですか?」

 

窓の外から上杉さんを見ていると、五月が声をかけてきました。私と上杉さんの関係を知ってる五月は、きっと私のことを心配してるんだと思います。その気持ちは素直に嬉しいです。でも・・・私には、資格がないんです。ですから・・・このままでいいんです。それに・・・

 

「・・・これまで上杉さんと向き合ってきたのは三玖たちだもん。今更、私が出る幕は、これっぽっちもないよ」

 

「いいえ!そんなことありません!やはりちゃんと打ち明けるべきなんです!だって、四葉だってずっと・・・ずっと彼のそばで見続けてきたじゃないですか!誰だって・・・自分の幸せを願う権利はあるはずです!」

 

ううん・・・私の幸せは・・・姉妹の幸せ・・・私だけが特別なんて、あっちゃいけないんだ。だから・・・もう十分なんだよ。

 

「五月、もうそれ以上言わないで」

 

「・・・っ」

 

「辛い役目を押し付けちゃって、ごめんね」

 

「四葉・・・」

 

「私は、大丈夫だから」

 

五月との話を無理やりにでも終わらせて、私は三玖たちの元へと戻っていきます。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日の予定を全て終わらせて、私はただ1人、お気に入りスポットの公園のブランコを漕いで、風を感じながらよく見る光景を眺めていました。・・・消したはずの思い出に・・・浸りながら・・・。

 

「・・・上杉さん・・・

 

・・・風太郎君・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きだったよ・・・ずっと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の呟きに答える人がいない中、私は、消えることがない思い出・・・消えることができない気持ちに揺れ動きながら、ただ1人寂しく、ブランコを漕ぐのでした。

 

47「私とある男子」

 

つづく




おまけ

四女ちゃんは実は姉妹と繋がっている。

自分が特別になろうと運動部の部活を頑張っている四葉。そんな運動部の大会がある日・・・

二乃「四葉、今日大会でしょ?お弁当作ったから持って行きなさい」

四葉「え、いいよ。向こうで適当に買ってくるし・・・」

二乃「いいから持って行く!はい!お弁当!」

一花「四葉、水筒にお茶入れといたよ。大会、がんばってね」

四葉「一花まで・・・」

五月「四葉、よければ私のタオルを使ってください。勝てると信じてます!」

六海「四葉、友達に頼んでハチマキ作ってもらったよ。これがあれば勝てるから使ってよ」

三玖「四葉、必勝祈願のお守り勝ってきた。持って行って」

四葉「そ、そんなにいっぺんに渡されてもー!!」

どこか姉妹を避けようとしている四葉だが、姉妹たちは何も言わずとも四葉に近づき、今回のような大会の日には必ずといっていいほど関わろうとする。避けていたとしても、案外絆は切れず、必ず繋がっているものなのだ。それを気づくことができるのは、先の未来である。

四女ちゃんは実は姉妹と繋がっている。  おわり

次回、六海視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

予期せぬ問題発生

オリジナルシナリオを2話構成でお送りしたいと思います。そう、前回から言っているとっておきの、です。今回はそのとっておきの下準備です。次回でいよいよとっておきが・・・!


「さて、もうすぐで大学入試判定試験が迫ってきている。この試験の結果次第でお前らの行く大学に受かる可能性が上がってくる。そのためにもしっかり勉強して試験に備えるぞ!」

 

「はい!よろしくお願いします、上杉さん!」

 

日に日に外がだんだんと熱くなっていっている夏の季節。そんな季節に大学入試判定試験がもうすぐ迫ってきていて、六海たちは今日は冷房が効いた図書館で判定試験に備えて勉強しているよ。ちなみに一花ちゃんは今日はお仕事でいないよ。しかも今日は撮影が長引くらしいから今日はかなり遅くなるかもだってさ。

 

「あーあ、一花ちゃんが羨ましいなぁー」

 

「一花の場合、もうすでに進路が決まっているものね」

 

「というより、もうお仕事してる」

 

「お前ら口より手を動かせ。動きが止まってるぞ」

 

「あはは、すいません、上杉さん」

 

「・・・・・」

 

一花ちゃんのことで話し込んでたら風太郎君に怒られちゃった。でもまだ3週間も余裕があるんだし、ちょっとくらいの会話くらい許容してもいいじゃん。

 

「五月、またフー君に熱い視線を向けてるわね」

 

「む、向けていませんが?それよりも勉強に集中しましょう!」

 

「はいはい」

 

???今明らかに風太郎君に視線を向けてたような気がしたんだけどなー。それに・・・たまに四葉ちゃんの様子を気にしてるのも気になるなぁ。

 

「フータロー、わからない問題があるんだけど・・・」

 

「どこだ?」

 

「ここ」

 

「どれどれ・・・ああ、その問題か。これはな・・・」

 

「・・・ふふ・・・」

 

三玖ちゃんはわからない問題を風太郎君に教えてもらっているね。・・・それにしても・・・三玖ちゃんと風太郎君の距離が近いなぁ・・・三玖ちゃんの顔も、なんか生き生きしてる感じがする。

 

「・・・じぃーーーーーー・・・」

 

「六海?どうしたの?わからない問題あった?」

 

「んーん、何でもないよー」

 

やっぱり修学旅行が終わってから、三玖ちゃんがなんか機嫌いいんだよね。理由はやっぱり、あの告白だよね。むむむ・・・あれさえなければ、今頃は六海がもっと進展してたかもしれないのに・・・。いや、別に一花ちゃんを責めるわけでもないからいいんだけどね。ただ・・・やっぱり六海との関係はまだ何1つ変わってないからちょっと焦ってくるんだよね・・・。

 

「むむ・・・このままじゃいけないような気がしてきたわ・・・。差がつけられないように何とかしないと・・・」ブツブツ・・・

 

二乃ちゃんもさっきからなんかブツブツ言っているし・・・二乃ちゃんの言うとおり、差がつけられないように早く手を打たないと・・・これ以上お姉ちゃんたちに後れを取るわけにはいかないからね。一歩でも距離を縮められるようなことと言えば、今のところやっぱり勉強しかない。でも・・・今日の課題はもうほとんど終わっちゃってる・・・後の問題も全部わかるものしかない・・・。そんなものをわからないっていったら風太郎君に怪しがられちゃう・・・。・・・よし、とりあえずもう解けた問題の1番わからなかった答えを消してっと・・・

 

「ありがとう、フータロー。わかりやすかった」

 

「お、おう・・・」

 

よし、仕掛けるなら今だ!

 

「ねぇ風太郎君、六海もわからない問題が・・・」

 

「上杉さん、ここの問題の数式の解き方はこうでしたっけ?」

 

「・・・だーかーらー・・・何べん教えれば理解するんだお前は!!!思いっきり間違えてるじゃねぇか!!!」

 

「ひぇー!ごめんなさい!リボンだけはお許しをー!」

 

六海が仕掛けようとしたら先に四葉ちゃんがわからない問題を聞きにきちゃったよ・・・。しかも数式間違えてるらしくて、いつものようにリボンを掴まれちゃってる。そ、それより・・・

 

「あ、あの・・・風太郎君・・・問題・・・」

 

「もう少し待て。このバカにもう1度数式を教えなければいかん。こんな時に限って一花がいねぇんだから・・・たく・・・」

 

「・・・むうぅ~~~~!」頬ぷくぅ~~

 

ううぅ~・・・作戦失敗・・・。もう、四葉ちゃんはなんてタイミングで・・・。本当にこの時に一花ちゃんがいないのが恨めしぃ・・・いたら2年生最後の試験の時みたいな態勢でいけたのに・・・。

 

「あ、六海。ここでしたら私は解けましたので、よければ教えてあげますよ」

 

「・・・いいよもう・・・もう解けてるし」

 

「えー⁉」

 

五月ちゃんが教えてくれるんじゃ意味がないんだよ・・・というか、もう解けてた問題だから何度も教えてもらわなくていいよ。同じことを何回も繰り返したら耳に胼胝ができちゃう・・・。はぁ・・・過ぎたことはしょうがないか・・・。じゃあ、次の作戦。六海の手元にある消しゴムを風太郎君の近くでぴーんと飛ばして、それを拾ってもらって近くまで来させる。その後は・・・まぁ、その時に考えよっかな。よし・・・じゃあ作戦実行。消しゴムをデコピンをするような要領で・・・これを風太郎君のところまで弾く。弾いた消しゴムをポーンと風太郎君のとこまで飛んで・・・

 

ビシッ!

 

「いて」

 

「あ・・・」

 

ふ、風太郎君の手に当たっちゃった・・・。ぜ、全然考えていたシナリオと違うんだけど・・・。本当はそのままストーンと地面に落ちるはずだったのに・・・。

 

「・・・おい、六海。これをやったのはお前か?課題もせずに何してんだ?」

 

「え?あ、いや・・・えーっと・・・こ、これはね・・・」

 

風太郎君⁉六海が遊んでるって捉えっちゃってるの⁉顔は笑っていても、目の奥が笑ってないよ⁉他のお姉ちゃんに助けようと求めて目を配らせてみても・・・苦笑いするか、呆れた顔をしてるだけで誰も助けてくれない!!は、薄情者~~~!!

 

「変なことやってる暇があるなら課題に集中しろ!!文房具で遊んでんじゃねえ!!」

 

「痛い痛い痛い痛い!!ご、ごめんなさい!!謝るから頭ぐりぐりしないで~~!!」

 

うううぅぅ・・・お仕置きとして頭ぐりぐりされた・・・ある意味では作戦は成功してるようなものだけど・・・こんなの六海の望んだ展開じゃないよ!そう言う意味ではもう作戦大失敗だよ!もう、もう、もう!!なんでそこでコントロールが乱れちゃうかなぁ~~~!!六海のバカ!バカ!!

 

「・・・ねぇ、ちょっと六海」

 

「ドキッ!な、何かな・・・二乃ちゃん?」

 

さ、さすがに感づかれちゃったかな・・・?二乃ちゃんがこっそりと六海に耳打ちしてきたよ・・・。

 

「さっきからフー君に変な行動ばっかりとってるけどあんた、今回はいったい何を企んでるのよ?」

 

「そのフー君呼びやめてよ。べ、別に?何も企んでないけど?」

 

自分でもわかりやすいくらいの苦し紛れの返答だよ・・・。これ、何か企んでますーみたいなのがバレバレ・・・。

 

「ふーん。ま、別にいいけど。見た感じうまくいってないのがまるわかりだし」

 

「うっ・・・」グサッ

 

「というかあんたって、未だに告白を1回もしてないから進展もないわよね?ふふ、負ける気がしないわ」

 

「うぅ・・・!」グサッ、グサッ

 

「てことで、あんたも何かしらの行動をとってみたら?じゃないと、アタシがフー君をいただいちゃうわよ?」

 

「ぐぬぬぬぬぬ・・・!」

 

く、悔しい!心に突き刺さることをよくもグサグサと!あー、そうだよ!まだ告白なんて1回もしてないよバカ!というか、それをどうにかしようと行動してる途中なの!ただ空回りしてるだけで・・・。

 

「・・・はぁ・・・」

 

やばい、考えれば考えるほど切なくなってきた・・・。もう・・・風太郎君のバカ・・・。六海の思いは、他のお姉ちゃんと同じなのに・・・なんでまだ気づいてくれないの・・・?三玖ちゃんことは、ちゃんと気づいてたのに・・・。

 

「課題、終わったから採点よろしく、フー君♡」

 

「に、二乃・・・」

 

二乃ちゃんは課題を解き終わって用紙を風太郎君のとこへ持って行った。他のお姉ちゃんには何かと進展があるのに、どうして六海には進展がないんだろう・・・?進展がないといえば・・・六海の風太郎君に対するこの呼び方・・・。初めて風太郎君のことを名前で呼んだ時とそのまんま・・・。何も変化がない・・・。でも、だからといって今変えるのはなんか変な気が・・・。はぁ・・・憂鬱だよ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「・・・むぅ・・・全然うまくいかない・・・」

 

勉強会が終わった後、六海はアルバイトを休むことなく、現場に出勤してるよ。でも放課後の勉強会のことを思うと、仕事現場でも変に気落ちしちゃうよ・・・。

 

「どうした嬢ちゃん?変なものでも食べたか?」

 

「全然違いますよ。ただ、ちょっとうまくいかないなーって・・・」

 

「何がうまくいかないんだ?ほら、相談に乗ってやるから、どーんと言ってみろ」

 

「いや、あの・・・それは、そのぅ・・・」

 

六海が気落ちしてたところに高木さんから声をかけられた。悩みを聞いてくれるのはすごくうれしいんだけど・・・これ、50歳もいくおじさんに話すようなことでもない・・・というか、この人見るからに恋愛とかにはかなり疎そうなんだけど・・・。

 

「もう、高木さんは本当にデリカシーないんですから!」

 

「え?俺なんかしたっけ?」

 

「女の子には女の子にしか話せないがあるってことですよ!いいから、高木さんは席に戻ってください!しっしっ!」

 

「えー・・・なんだよ・・・女はわけわかんねぇ・・・」

 

一ノ瀬さんが高木さんを遠ざけちゃった。そしたら一ノ瀬さんは六海に向かって微笑んでみせた。

 

「私にはわかるよ、中野さん。ずばり、中野さんは今恋愛に悩んでるね?」

 

「ぶーーーー!!?」

 

「お、正解?いやー、やっぱり中野さんも若いねー。青春だねー」

 

一ノ瀬さんの確信をついたような発言に六海は飲んでたお茶を思わず吹き出しちゃった。

 

「な、ななな、何を仰るんですか!!?」

 

「隠さない隠さない♪人間恋するのは当たり前の事なんだから、どんどん恋愛しちゃいなさいな。特に中野さんはかわいいんだから、いい男なんて大勢寄ってくるし、選び放題よ?」

 

「そんなに好かれちゃっても困るんですけど・・・」

 

「まぁ、恋愛のことで何か困ったことがあるなら、高木さんじゃなくて私に聞きなよ?私、恋愛漫画描いてる恋愛マスターだから、人より恋愛知識は豊富よ?」

 

六海の悩みとはちょっとどころかかなり論点がずれてるような気がするんだけど・・・六海のことを気にかけてくれてるのがわかるよ。

 

「一ノ瀬さん・・・ありがとうございます」

 

「うんうん。そーれーで?中野さんが好きな人ってどんな人?」

 

「ふぁっ!!?」

 

超ドストレートに聞いてきたよ!一ノ瀬さんの顔もなんかにやにやしてるし、完全に楽しんでるよね!!?

 

「恥ずかしがる必要はないよ?女の子同士、恋バナでもしましょうよ。あ、ちなみに私、今も独身を貫いてるよ。悲しいことにね・・・」

 

「恋愛マスターとはいったい・・・」

 

「それはいいとして、で?誰なの気になる男の子って?誰にも言わないから、こっそりと私に教えてよー」

 

「い・・・いや・・・だから・・・あのですね・・・」

 

やっぱり一ノ瀬さんって相談を乗るってより六海の話で楽しみたいだけだよね!!?相談に乗る気ないよね!!?ちょっと・・・こういうのって1番困るんだけど・・・誰か助けて・・・。

 

「そういえば嬢ちゃんよ、お前さんはあれには応募するのかい?」

 

「わ、は、はい!!・・・え?何がですか?」

 

「・・・高木さん・・・いいところで・・・」

 

声をかけられて助かったから思わず返事しちゃったけど・・・応募する?応募するって・・・何に応募するの?

 

「あれ?もしかして、今週号のやつ、まだ読んでないのか?」

 

「あ・・・はい・・・ちょっと、受験勉強でバタバタしてて・・・まだ・・・」

 

「あー、中野さん、土屋君と同じ受験生だって言ってたね」

 

今週号っていえば・・・いつも読んでるあの週刊誌のことかな?今週号はまだ読んでないけど・・・何かあったっけ?あ、応募すれば何か貰えるあれかな?

 

「あー・・・実は・・・今週号のここの部分だけどな」

 

高木さんは週刊誌の今週号を取り出して、あるページ部分を六海に見せた。何々・・・?新人漫画家による、第1回読み切り号最優秀賞決定戦?・・・なにこれ?

 

「えっと、なんですかこれ?」

 

「今年から始まった漫画家を目指す奴らの・・・あー、簡単に言っちまえばコンテストみたいなもんだな」

 

「コンテスト・・・ですか」

 

「確か自分の描いた漫画を応募するってやつでしたよね?」

 

「ああ、そうだ。そんで、見事賞を取ることができた作品には・・・その漫画が週刊誌に載ることができるんだよ」

 

「!!!!その話、本当ですか!!??」

 

描いた作品が週刊誌に載せることができる点に六海は目をすごく輝かせているよ。

 

「ああ。まぁ、あくまでも賞を取ることができればだけどな」

 

す・・・すごい・・・!漫画家になりたい六海にとっては願ったり叶ったりのようなコンテストだよ!これは夢に一歩近づくまたとないチャンス!絶対にものにしたい!

 

「六海、そのコンテストに応募したいです!」

 

「お、そうか!やってみるか!応援するぞ!」

 

「え?でも大丈夫?中野さんの学校で入試判定試験があるって言ってたよね?これの締切日・・・ちょうどその入試判定試験当日なんだけど・・・」

 

「え・・・」

 

一ノ瀬さんの言葉に六海は唖然となった。気になって今週号のさっきのページの応募項目にある締切日を見てみたら・・・本当に入試判定試験がちょうどある日だったよ。

 

「あ、本当だな・・・」

 

「そ・・・そんなぁ~・・・」

 

「いや、まぁ・・・応募するのはいいんだけど・・・勉強とかもあるし・・・大丈夫なのかなぁって思ったんだけど・・・」

 

正直大丈夫じゃないです・・・。今でこそ成績はアップしてきてるけど・・・今ここで勉強の手を抜いちゃったら赤点は多分避けられないよ・・・。全国模試前の風太郎君の課題テストも赤点取っちゃったし・・・。でも・・・このコンテストにはどうしても・・・どぉーーーーしても応募したい!

 

「う、うぅーーーん・・・これには絶対に参加したい・・・けど・・・試験もあるし・・・でも・・・こっちの方に集中しちゃったら怒られちゃうし・・・」

 

「そ、そんなに悩むほどに成績悪いの?」

 

「まぁ・・・先生の話だと、来年もやるらしいから、勉強で悩んでるなら無理しなくてもいいんだぞ?」

 

「そ、そうだよ!中野さん、受験生じゃ大変だろうし、次の機会に回せばいいって!」

 

「そ、そうですよね。じゃあ・・・・それでいきま・・・」

 

「・・・やっぱその程度なんっすね、あんた」

 

来年もやると聞いて、安心した六海がコンテストを来年に応募しようって思った時・・・ここでずっと無口を貫いていた土屋さんが口を開いた。

 

「つ、土屋君⁉」

 

「珍しいな、お前が口開くなんて」

 

一ノ瀬さんと高木さんが驚いているところでわかるように、この土屋さんはとにかく無口で、必要最低限の言葉しかしゃべらないんだ。特に六海とは同い年だからか六海が何かを問いかけても指をさして教えるか、首を縦に頷いたり振ったりして・・・とにかくコミュニケーション能力が乏しい人なんだ。そんな無口な彼だけど、描き上げる漫画は本当に面白くて、全てを漫画に捧げてるといっても過言じゃないんだ。

 

「・・・中野さんって、いいましたっけ?」

 

「そう・・・ですけど・・・」

 

「・・・俺、嫌いですわ。絵がちょっとうまいってだけで、MIHOさんの伝手でコネ入社したあんたのことがめちゃくちゃ」

 

「んな・・・っ!!」

 

こ、この人・・・六海に向かってはじめて口を開いたと思ったら初っ端から嫌いって・・・失礼にもほどがある!!

 

「こ、こら土屋君!失礼でしょ⁉」

 

「そ、そうだぜ!それに嬢ちゃんは実力で推薦されてるから、これはコネとは言わんだろ!」

 

「・・・あんたにはわからんでしょうね。先生のとこで一緒に仕事するために、漫画家になるために一生懸命努力した人の気持ちなんて」

 

この土屋さんの言い分には六海はカチンときた!こればっかりは六海も黙ってるわけにはいかない!

 

「何それ⁉六海が何も努力してないって言いたいの⁉六海の事何にも知らないくせに、どうしてそんなこと言われないといけないの⁉自分だけは努力してます何て言い草はやめてよ!!」

 

「・・・だったらこれに応募できますよね?俺たちは漫画家を目指すんすからこれに参加するのは当たり前っすよ?それを勉強があるからって言い訳して・・・この業界舐めてんすか?」

 

「そっちだって受験生じゃん!!そっちこそ勉強もしないで漫画ばーっかり描いて!受験生だっていう自覚はあるの!!?」

 

「ちょ・・・ちょっと中野さん、落ち着いて・・・」

 

「土屋もいちいち煽ろうとするな!お前らしくもない!」

 

一ノ瀬さんと高木さんは止めに入ってるけど・・・六海と高木さんの言い合いはそれじゃあ止められないほどに悪化していってるよ。2人には申し訳ないけど、六海もこの人がどうにも気に入らない!

 

「勉強だの受験だのって・・・なんか意味あるんすか?」

 

「何が言いたいの?」

 

「漫画家や小説家が売れるってのは結構大変なんすよ。評価が悪いと人気も出ないし、最悪作品を打ち切れられることだってあるんすよ。そうならないためにも、常に腕を磨かないといけないんすよ。勉強してるなんて、大学に行かない俺には時間の無駄っす。俺はこの道一直線に向かってるんで。受験だのなんだのとくだらないことにうつつを抜かしてるあんたとはわけが違うんすよ」

 

カッチーーン!!!もうあったまにきた!そこまで言い張るなら、六海にだって考えがある!!

 

「そこまで言うならいいよ?これに応募して、六海の実力を見せてあげるよ!でも、それだけじゃないよ!」

 

「???」

 

「今回の判定試験に向けての勉強!!これを両立させたうえで入賞する!!それなら君も六海のこと、認めてくれるよね!!」

 

「はあ!!?」

 

「ちょ、ちょっと中野さん!!?」

 

六海の言い出したことに一ノ瀬さんと高木さんは驚いてるけど、六海はもう決めたの!!

 

「・・・何を言い出すのかと思えば・・・実力もないあんたに入賞なんて無理に決まってるでしょ。それも勉強を両立させたうえでなんて・・・」

 

「できる!!!六海は女優の中野一花ちゃんの妹なんだ!!六海にだって両立くらいできる!!」

 

「中野一花って・・・ええ!!?」

 

「嘘⁉マジで⁉」

 

「あれ?君たち、何の話をしてんの?何?喧嘩?」

 

2人は六海が一花ちゃんの妹であると知ってさらに驚いてる!先生もやっと来たけど、それどころじゃない!!

 

「・・・わかったっす。勉強を両立したうえで入賞できれば、俺もあんたを素直に認めるっすよ」

 

バチバチバチバチ!!

 

六海と土屋さんの間にはお互いに火花が散ってると思うよ。

 

「え?マジで?一花ちゃんって・・・あの・・・?」

 

「あのー、先生、あの2人止めなくていいんですかい?」

 

「何が起きたか知らないけど、対立しあうっていうのはね、お互いに足りないものを知る絶好の機会だと僕は思うんだ。張り合ってるんなら、互いに競い合えばいいよ」

 

「はあ・・・」

 

「でもちゃんと仕事はしてもらうけどね」

 

今日のお仕事が終わってからスタートするんだ・・・六海と土屋さんとの負けられない勝負が。

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・や・・・やっちゃったーーー!!!

 

アルバイトが終わって、家に戻った瞬間に冷静になったよ。みんなの相談もなしに勝手に応募するって決めちゃったよ!もう!どうしてあそこで冷静になれなかったんだろう!!六海のバカ!バカ!!もしも、六海が勝手にこれに応募するなんてことを風太郎君に知られたら・・・

 

『人間失格!!!!』

 

・・・て怒られちゃう!!ただでさえ進展してない上に怒られるなんて事態は六海嫌だよ!・・・でも・・・こっちとしても・・・土屋さんの考え方は、どうしても考えられない。前までの六海だったら、確かに勉強なんかって思ったことはあったけど・・・風太郎君と出会えて、その価値観は変わった。だからこそ、あの考えは許せなかったんだ。

 

「・・・うん、やっぱり、明日みんなに相談しよう。そうしよう」

 

そりゃ風太郎君に怒られるのは嫌だけど・・・応募するって決めたからには、中途半端にはしたくないからね。ちゃんと話したうえで認めてもらわないと。よし!そうと決めたからには頑張らないと!まずはネームを書いて、原作を描く準備を整えよう!さっそくノートを取り出して、考えた漫画のネームをすらすらと描く。

 

「あ、また六海が絵を描いてますね」

 

「六海ー、完成したら読ませてねー!」

 

「うん、わかったー」

 

五月ちゃんと四葉ちゃんが今の六海を見て微笑んでくれた。楽しみにしてくれた2人の期待以上のものを仕上げるのが1番のベスト!頑張るぞ!

 

それで、描くこと結構時間が経って、漫画のネームを完成した・・・けど・・・

 

「?????」

 

妙にしっくりこない。というか・・・心に響かないし、感動も伝わらない。絵自体は平気で描けるのに・・・話だけが全くまとまらない。前の作品でも六海の納得のいくシナリオなのに・・・どうして?

 

「六海ー、ご飯できたわよー」

 

「あ、はーい!」

 

考えてる間にご飯ができたから六海はリビングに向かってご飯を食べることにしたよ。考えるのは、その後でもいっか。

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・ダメだ・・・。

 

ダメだダメだダメだダメだダメだダメだ・・・全然ダメだ!!!!!

 

ご飯を食べたから頭が回るようになったと思ったから今度こそ納得できる作品ができると思って何度もネーム漫画を描いてみたけど・・・納得がいく作品ができない・・・。前まではそんなことなかった・・・。

 

「・・・!ま・・・まさか・・・」

 

どうしてかと考えていると、六海にとって最悪のケースが思い浮かんだ。信じたくはない・・・けど・・・何度も何度も・・・描いても描いても、結果は同じ・・・信じざるを得ないよ・・・。こんなことは・・・あってはならないよ!!こんなことは・・・漫画家として死んだのと同じだよ・・・。まさか・・・六海がこんなのになっちゃうなんて・・・せっかくのチャンスが転がり込んできたと思ったのに・・・。負けられない勝負だというのに・・・。六海は・・・どうしたらいいの・・・?わからない・・・わからないよぅ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今六海に陥った事態の対処がわからないまま、次の日のお昼休みまで時間が経っちゃった・・・。いくら考えてもどうしてこうなったかの原因がわからない・・・。どうすればこの危機的状況を回避できるのかわからない・・・。

 

「ねえ・・・真鍋さん。相談があるんだけど・・・いい?」

 

このままじゃいけないと思って六海は今この状況で1番相談しやすい真鍋さんに相談をするよ。

 

「いいけど・・・何よ?急に改まって・・・」

 

「あのね・・・実は・・・」

 

六海は今の状況を真鍋さんに全部話したよ。真鍋さんは口を挟まずに真剣に聞いてくれてる。全部話した後、真鍋さんは面倒くさいと言わんばかりの顔で頭をかいてる。

 

「事情は分かったけど・・・私じゃ力にはなれないわよ?私、漫画の知識なんて素人だし。それに判定試験までに克服できる保証なんてどこにもないじゃない」

 

「難しいのはわかってる・・・わかってるんだけどぉ・・・そこをなんとか助けて!!お願い!!」

 

何とか助けてほしくて真鍋さんに手助けを懇願しているんだけど、真鍋さんは首をなかなか縦に頷いてくれない。

 

「私に頼むより他に適任がいるじゃない。あんたの姉妹とか上杉とかに・・・」

 

「それだけは絶対ダメ!!!!」

 

お姉ちゃんたちと風太郎君が出てきたところで六海は大きな声で否定する。六海の大きな声と否定には真鍋さんは驚いた顔をしてるよ。

 

「だって・・・みんなには何の相談もなく決めたうえに、見栄を張っておきながら自分のこの体たらく・・・恥ずかしくて、みんなには言えないよ・・・」

 

「だから黙った状態で克服を目指すって?それ、無茶ぶりにもほどがあるでしょ」

 

「だからこそ真鍋さんに頼んでるんだよー!ね、一生のお願い!!六海に協力してよ~~!」

 

「ああ、もう!鬱陶しい!引っ付こうとすんな!」

 

六海は必死になって真鍋さんに引っ付こうとしながら頼み込んだよ。けど真鍋さんは捕まる前にちょっと移動して六海を避けた。その反動で六海は転びかける。

 

「わ・・・わわわ!」

 

「とにかく!私だけ(・・)じゃ本当無理だから!あんたには何が必要なのかってのを考え直しなさいよね!それじゃ!」

 

「あ、待って真鍋さ・・・うわっ⁉いて!」

 

教室から出ようとする真鍋さんを止めようとしても、六海の体制が崩れてそのまま転んじゃった。ううぅ・・・真鍋さんに断られた・・・。今の状況で頼れるのは真鍋さんしかいないのに・・・真鍋さんに断られたら・・・六海、本当にこれからどうしたらいいの・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

『なぜ来ていない!!!』

 

六海が何かに思い悩んでから2日後の勉強会・・・

 

「・・・試験まで日に日に迫ってきている。そして今日は六海がバイトじゃないのは知ってる。なのに・・・当の本人はなぜ来ていない!!!」

 

六海がいない状況下に風太郎は思わずに叫んでいる。一花は仕事、三玖と四葉はバイトがあるのでカウントしないが、今日はシフトが入っていない六海が来てないとなれば叫びたくもなる。

 

「あいつマジでふざけんなよ・・・!この前も変なことやってたし・・・そんなに俺を困らせたいのか・・・!」

 

「六海に限ってそれはないと思いますが・・・」

 

風太郎の言葉に五月は冷静ながらにツッコミを入れる。

 

「でも・・・確かに最近様子がおかしいですね。何かあったんでしょうか?」

 

「・・・ちょっといじりすぎたかしら・・・」ボソッ

 

「なんか言ったか?」

 

「何でもないわよ」

 

六海の変化には五月や二乃も気づいているようで、少し心配している様子だ。おそらくは他の姉妹も気づいているとは思うが。

 

「たく・・・試験が近づいてるってのにまたこれか・・・。お前らは試験前に何かしらのトラブルを起こさんと気が済まんのか・・・」

 

「す、好きでそんなことしませんよ!!」

 

あきれ果てて頭を抱える風太郎の言葉に五月が反論する。とはいえ、喧嘩を起こしたり、転校どうこうの話、家庭教師解雇の話と、何かと問題はあったため、否定はしてないが。

 

「・・・誰かあいつからなんか聞いてないのか?」

 

「何も聞いてないわね。あの子、アタシたちの前だと普段通りの態度をとって何も話さないし」

 

「あ、でも・・・六海の様子が変わったのは・・・確か、3日前・・・アルバイトが終わった頃でした。帰ってきた時はむすっとしてましたし、その次の日は・・・なんというか、焦ったような顔をしていました」

 

「・・・てことはそのバイト先でなんかあったのか・・・」

 

「あの子のバイトって、確か漫画アシスタントだったわね」

 

「それを知ったところでどうすんだよ・・・あいつのバイト先の知り合いなんて誰1人としていないし、住所も知らんぞ」

 

六海のアルバイト先の知り合いは残念ながら六海以外誰もいないので、どうしたものかと悩んでいる風太郎。

 

ヴゥー、ヴゥー、ヴゥー・・・

 

するとそこへ風太郎のスマホに着信が鳴る。着信者を見てみると、そこには一花の名前が出ていた。

 

「一花からの電話だ。ちょっと席を外すぞ」

 

風太郎はそう言って図書室から退室し、すぐに電話に出る。

 

≪あ、フータロー君?ごめんね、急に電話をかけて≫

 

「悪いと思ってるなら勉強会に参加しろよ。サボりの回数を増やしやがって」

 

≪むっ・・・サボりって・・・一応こっちも仕事なんだけどー?しょうがないじゃん。最近忙しくってさー・・・そっちに行く時間が割れなくて・・・≫

 

「・・・それで?何の用だ?つまらん用事だったら切るぞ」

 

≪あっと、そうだったそうだった≫

 

少しだけ世間話をした後、風太郎が話を掘り出し、一花が本題に入る。

 

≪私今、六海のバイト先の仕事現場にいるんだけどね・・・≫

 

「は?なんでお前があいつのバイト先にいるんだよ?」

 

≪いやー、実は私、刑事ドラマで犯人に殺された被害者役をやることになってさー、その撮影のために来てるんだよねー。あ、心配しないで?ちゃんとマンションの大家さんと作者さんには許可はもらってるからー≫

 

「お前は本当によく死ぬな」

 

タマコちゃんといい、今回のドラマ撮影といい、よく死ぬ役をやっている一花に風太郎は直球にそう言い放った。

 

≪それで、話を戻すけどねフータロー君、今六海の様子が変なのは気づいてるよね?≫

 

「今ちょうど二乃と五月でその話をしてたところだが・・・」

 

≪私、ちょっと気になって作者さん事情を聞いてみたんだ。そしたら六海、なんかバイト仲間と揉めちゃったみたいで、週刊誌でやるコンテストみたいなのに自分の作品を応募して、賞を取って週刊誌に載せるって・・・」

 

「は?」

 

六海がコンテスト・・・もとい最優秀賞決定戦に自分の描いた漫画を応募するという事実を聞いて、風太郎は耳を疑った。

 

「なんだそれ?そんなの初耳だぞ」

 

≪うん。私も作者さんからそれ初めて聞いたんだよね。本人は何でもないって言ってたんだけどなぁ・・・≫

 

「あいつ、俺たちに黙って勝手にそんなことを・・・」

 

風太郎は六海の漫画家になりたいという夢は知っているつもりだし、参加するだけなら別に文句は言うつもりはない。ただでさえ判定試験で忙しいという時に限って自分たちに何の相談もしないことに頭を抱えっぱなしだが。

 

「・・・とりあえずあいつに問い詰めてみるわ」

 

≪うん。勉強会中なのにごめんね?来週には時間は空くから勉強会に参加するよ≫

 

「おう、了解だ」

 

≪・・・多分それが、私にとって最後の勉強会になると思うし

 

「ん?なんか言ったか?」

 

≪う、ううん!何でもない!なんでもないよ?≫

 

ぼそりと小さな声で何かを口走り、誤魔化す一花の言葉が聞き取れず、少し気になってくる風太郎。

 

「・・・あの、さ・・・修学旅行の時に最後に言った・・・」

 

≪あ、ごめん。そろそろ時間だから切るね。六海のこと頼んだよ≫

 

ブチッ!

 

「あ!おま・・・!切りやがった・・・。はあ・・・仕方ねぇ・・・」

 

修学旅行の最終日に一花が言った全部嘘の意味を風太郎は本人に聞こうとしたが、その前に切られてしまい、聞くことができなかった。仕方なく今度会った時に話そうと後回しにし、風太郎は六海の問題の解決を優先する。すぐに六海に電話をかける。少し待っていると、通話が繋がった。

 

「おい六海、今どこにいるんだ?変なもんに参加しようとしやがって。今そっちに行って説教を・・・」

 

≪・・・おかけになった電話番号は使われておりません。何度コールしても無駄なのでかけてこないでください≫

 

ブチッ!

 

「は?おいお前何言って・・・あ、てめ!もしもし!もしもーし!!・・・あいつも切りやがった!」

 

だが六海は不在通知の真似事をして一方的に通話を切った。一方的に通話を切られっぱなしで風太郎は若干苛立ちを覚える。

 

「くそ・・・なんなんだあいつ・・・俺の話は聞きたくないって言いたいのか・・・」

 

「あ、いた。ちょっと上杉」

 

話を碌に聞こうとしない六海に風太郎はさらにイライラが増してるところに真鍋が話しかけてきた。

 

「なんだよ・・・俺になんか用か?」

 

「六海のことでちょっと話があんだけど・・・」

 

六海の話題を出されて風太郎はあいつのこと知りたいのはこっちの方だと言わんばかりに頭をかいている。

 

「なんだよ?言っておくがあいつが変なもんに参加するってのはさっき一花から聞いたぞ」

 

「あらそう。じゃああの子が何に悩んでるのかってもう知ってるのかしら?」

 

「ん?なんだ?変なのに参加したことじゃないのか?」

 

「やっぱそれしか知らなかったのね。あの子が参加してしまった事事態で悩むわけないでしょう」

 

「む・・・それもそうか・・・」

 

「ふぅ・・・本当は黙っててって言われてたんだけどね・・・悔しいけど、やっぱりあんたらじゃないとさ・・・」

 

六海の悩みが出てきて、風太郎の顔つきが変わった。真鍋は呆れながらも六海が今何に悩んでいるのかを風太郎に包み隠さず話した。事情を全て知った風太郎は呆れたように頭をかく。

 

「あいつ・・・自分だけで何ができるって言うんだよ・・・1人で解決できる問題じゃねぇだろ・・・」

 

「何度かあの子にそう言ったんだけど、聞く耳持たなくてね・・・あの子意外に頑固だから・・・」

 

「たく・・・今すぐ説教してやる」

 

風太郎はもう1度六海に電話をかけ直そうとする。

 

プゥー、プゥー・・・ブチッ!

 

「あ!あいつ!通話にも出やがらねぇ!」

 

「もう通話拒否ボタンを押してもおかしくないレベルね」

 

だが六海は通話するどころか、一方的に通話拒否をしている。

 

「たく・・・あいつに直接会うしかねぇか・・・しかし・・・今どこに・・・」

 

「・・・!説教をするんなら、急いだほうがいいんじゃない?」

 

「ん?」

 

「あの子、今路頭に迷ってる最中だしさ」

 

六海がどこにいるのかと頭を抱えていると、真鍋が窓を見るように指をさしている。窓の外には、六海が立ち上がってかばんから筆記用具を落として慌ててる姿があった。

 

「あいつ・・・まさか逃げる気か!」

 

「フー君、行くのよね?」

 

「!二乃、五月。今の話、聞いてたのか?」

 

「す、すみません。盗み聞きするつもりはなかったのですが・・・」

 

風太郎が六海の姿を確認したのと同時に、真鍋の話を聞いていた二乃と五月が声をかけた。

 

「六海は意外に頑固なので、私たちが言っても聞かないかもしれません」

 

「でも、フー君なら楽勝よね。姉妹たちにはアタシ達の方で言っておくから、行ってきなさい」

 

「お前ら・・・」

 

「姉妹もああ言ってるんだし、早く行きな」

 

「・・・上杉君。六海のこと、よろしくお願いします」

 

「・・・すまん。恩に着る」

 

二乃と五月、真鍋から六海を託された風太郎は帰ろうとしている六海を追いかけに走ったのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あれから六海は今の状況をどうにか克服するために何冊か漫画をノートに描いてるんだけど・・・2日経っても一向に変わらなかったよ。はぁ・・・どうしてこうなっちゃったのかなぁ・・・?やっぱり締め切りまでに1人で克服するのは無茶かなぁ・・・?でも・・・風太郎君たちには相談できないし・・・どうしよう・・・。

 

≪お姉ちゃん電話だよ♪お姉ちゃん電話だよ♪≫

 

六海が悩んでたらスマホから着信が鳴った。確認してみたら、風太郎君の名前があった。あ、そっか。今日も勉強会だったっけ。ぼんやりしてたからすっかり忘れてた。とりあえず出よう。

 

≪おい六海、今どこにいるんだ?変なもんに参加しようとしやがって≫

 

!!!???え?え?なんで風太郎君は読み切り応募のこと知ってるの!!?詳しいことは知らない様子だったみたいだけど・・・あ!さては真鍋さんから聞いたな!もう!黙っててって言ったのに!真鍋さんのバカ!

 

≪今そっちに行って説教を・・・≫

 

「おかけになった電話番号は使われておりません。何度コールしても無駄なのでかけてこないでください」

 

説教されたくないのと申し訳さなで相談できない気持ちがいっぱいで六海は不在通知のものまねをしながら通話を切った。・・・やばい、どうしよう・・・このままじゃ風太郎君が六海を探しに来るかも・・・!そしたらきっといろいろ問われる・・・!は、早く片付けて学校から出ないと・・・!

 

≪お姉ちゃん電話だよ♪お姉ちゃん電話だよ♪≫

 

片付け終わったところでまた風太郎君からの着信が届いた。ダメ!絶対に相談できない!六海は今度は問答無用で着信を切った。やばいやばいやばい!風太郎君はまだ学校にいるから絶対に探しに来る!早く学校から出て安全を確保・・・

 

「あ、筆記用具!」

 

六海が立ったと同時にその反動で筆記用具を落としちゃった!しかも文房具まで出てきちゃったし!ああ、もう!急いでるって時に!これがないと何も描けないのに!六海は急いで落ちてしまった文房具を拾って筆記用具に入れなおして、それをもう1度かばんの中に入れる。ちゃんとチャックも閉めたし、これで落ちない!早くここから脱出しないと!六海は急いで学校の出口へと向かって走る。

 

「あ!いた!おい六海!」

 

「!!やば・・・!」

 

「あ、こら逃げんな!!」

 

うわっ!もうすぐで学校に出れるって時に風太郎君に見つかった!六海は立ち止まらずに、逃げるために走る。風太郎君は・・・やっぱり追いかけて来てるーーー!!!

 

「待てこの問題児末っ子が!!!」

 

「キャーー――!!変態!!こっちに来ないでよーーー!!」

 

「そうはいくか!!まず俺の話を聞け!!」

 

「どっか行け――――!!」

 

変な言い合いをしながら六海と風太郎君との追いかけっこは続いた。風太郎君は運動音痴だから六海との距離が縮まらないし、六海も運動音痴だから距離を突き放せなくて、無駄に体力だけが削られていっちゃう。

 

「ぜぇ・・・はぁ・・・も、もうダメ・・・」

 

「はぁ・・・はぁ・・・も、もう限界だ・・・」

 

お互いに体力の限界が来て、六海も風太郎君もいつの間にか来た公園の砂場で倒れこむ。ぜぇ・・・はぁ・・・も、もう・・・起き上がる気力も・・・残って・・・ない・・・。

 

ガシッ!

 

「キャーーーーー!!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふ・・・ふふふ・・・捕まえたぞ・・・もう逃がさねぇ・・・」

 

気力では風太郎君が勝ったようで、風太郎君は突っ伏したままで移動して、六海の足をがっちりと掴んだ。

 

「お・・・お前・・・なぜ自分が・・・スランプになったってことを話さなかった・・・?」

 

「・・・・・・」

 

スランプ・・・それは何らかで自身の能力が落ちて、自分の才能を思い切って発揮できなくなってしまった現象のことで、いろんな場面でそれは現れるんだって。そして現在六海も・・・漫画のスランプが起きちゃったの・・・。だから非常に焦ってるんだよ・・・。

 

「・・・風太郎君は、六海が読み切り応募のことは、もう知ってるよね?」

 

「ああ・・・それは作者が言ってたって一花がな」

 

ああ、そっか・・・。今日は確か部屋を貸すことになったから休みって言ってたのは、一花ちゃんの撮影の云々だったんだ・・・。

 

「・・・言えるわけなかったんだよ・・・。みんなの相談もなく勝手に応募を決めて、両立させて賞を取るって堂々と言ったくせに、スランプに陥るなんて体たらく・・・しかも今さら前言撤回なんてできないから・・・恥ずかしいし、申し訳なかったんだよ・・・だからしゃべりたくなかったんだ・・・。それなのに・・・真鍋さんの・・・バカぁ・・・」

 

「・・・はぁ・・・お前なぁ・・・」

 

言わざるを得ない状況だから、仕方なく話したら、風太郎君は六海の足から手を放して、呆れながら立ち上がった。

 

「スランプの克服なんて、どれくらいかかるかわかんねぇもんを1人でどうにかできると思ってんのかよ。原因がわかってねぇどころか、締め切り日までに克服なんて・・・無茶どころか無理な話だぞ」

 

「・・・そんなの・・・わかってるよ・・・」

 

「だったら悪いことは言わん。今年の応募はやめとけ。お前の漫画家になろうって気持ちは知ってるつもりだがあまりにも無謀すぎる。それに何も今年で最後ってわけじゃねぇんだから、次の機会に回して試験を突破し、スランプ克服に向けた方がよっぽど・・・」

 

「それだけは絶対嫌!!!!」

 

風太郎君が六海のことを気遣っての提案だっていうのはわかってる。けど・・・それでも六海は絶対、これを曲げることなんかできないよ。

 

「・・・土屋君・・・アルバイト先の同級生が言ってたんだ・・・大学行かないから受験とか、勉強とかくだらないって。それで六海が傷つくのは我慢できるよ。でも・・・でもね・・・六海が土屋君の考えを認めちゃったら・・・これまで頑張ってきた受験生や・・・今まで勉強を頑張ってきた風太郎君の頑張りを、否定するような気がして・・・」

 

「・・・お前・・・」

 

「六海は、一生懸命頑張ってきた風太郎君やみんながバカにされるのが嫌なんだ・・・。だから・・・土屋君の考えを改めさせるには、これしか方法がないんだよ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「だから・・・お願いだよ。真面目に勉強するから・・・六海のわがままを許してよ。六海のスランプ克服に集中させて。六海は・・・後悔なんかしたくないんだ」

 

六海は疲れた体を起こして、風太郎君に誠心誠意を込めて、深く頭を下げる。スランプを短期間で克服したって賞を取れるとは限らないのはわかってるつもりだけど・・・もう後悔しないようにするって、家族旅行の時に決めたんだから。

 

「・・・俺にたいして言った事でもないだろうが・・・たく・・・」

 

頭を下げているから、風太郎君が今どんな顔をしているのかわからない。見えるのは彼の足だけ。

 

「・・・とにかく、これ以上の勝手な行動は許さん。試験に支障をきたすだろうが」

 

「風太郎君!」

 

「・・・せめて相談くらいはしろ。真鍋とお前の姉妹が強力くらいはしてくれるだろうからな」

 

「え?」

 

一瞬六海のやることを否定されたかと思ったら、次の言葉に面を食らった。真鍋さんとお姉ちゃんたちが、協力してくれる?

 

「スランプ克服はいいが、あくまでも優先すべきは試験だってことを忘れんな。多少の時間くらいはくれてやる。その代わり、今まで以上にビシバシしごいてやるから今のうちに覚悟しておけ」

 

「・・・もしかして、六海のわがままを・・・許してくれるの?」

 

「・・・頑固者に何を言ったところで無駄なのはわかってるつもりだ。ならせめて万全なコンディションでいられるように手を加えるしかないだろ。・・・それに、な・・・」

 

言葉を紡いでいる風太郎君は照れ臭そうに前髪をいじってる。

 

「お前らが誰か1人でもなんかあったら・・・調子が狂うんだよ・・・」

 

「・・・っ!」

 

風太郎君・・・。ああ・・・そういうところだよ・・・。普段は素っ気なくても、最終的には六海たちのことを思って、お節介を焼いてくれる・・・。風太郎君自身は自覚はないだろうけど・・・六海は、そういう優しさに惹かれたから、君を好きになっちゃったんだ・・・。

 

「・・・でも、協力、してくれるかな?みんなには迷惑かけてばっかりだし・・・真鍋さんだって、断られちゃったのに・・・」

 

「・・・真鍋の奴は、私・・・だけ(・・)じゃって、言ったんだよな?」

 

「・・・あ!」

 

「どういう意味かは、わかるだろ?」

 

・・・はは・・・なんだ・・・そういうことだったんだ・・・。やっぱり六海は・・・いつまでたってもバカだなぁ・・・。

 

「迷惑をかけるなんて、それこそ今さらだろうが。お前は余計なことなんか考えず、俺の勉強会に参加して、やりたいことをやればいいんだよ」

 

「・・・うん!」

 

不思議だな・・・風太郎君が六海の背中を押してくれてるんだろうと考えると、六海の頬が思わず緩んじゃうよ。

 

「スランプはそう簡単に克服できるものじゃないのはわかってる。六海だけじゃどうにもできないよ。だから・・・六海に、手を貸してくれる?」

 

「ああ・・・もとより、そのつもりだ」

 

ここから、六海にとっての本当の戦いが始まったんだと思う。土屋君との勝負・・・そして・・・六海の、スランプとの戦いが。

 

48「予期せぬ問題発生」

 

つづく




おまけ

長女ちゃんはお片づけができない

四葉「とりあえず一花のところ、きれいにしておいたよ」

五月「自分の布団のところだけに汚部屋になろうとは・・・ある意味才能ですね・・・」

一花「あはは・・・いやはやお恥ずかしい・・・毎度ながらごめんね?」

二乃「そう思うのなら片付けることを心掛けなさいよね。全く・・・全員で使う寝室なんだから・・・」

一花「善処しまーす・・・」

六海「あ、やった!狙ってたおウマちゃんを出迎えれたー!」

三玖「六海、何サボってスマホゲームやってるの」

綺麗になった寝室であったが、翌日になると・・・

二乃「なんでまた汚部屋の片鱗ができてるのよ!!?」

三玖「昨日あんなに片付けたのに・・・」

一花「むにゃ・・・zzz」

四葉「また片付けないといけないねー」

六海「むにゃ・・・あれ・・・?みんななんでお馬さんの耳と尻尾が生えてるの・・・?」

五月「六海、寝ぼけてないで顔を洗ってきてください。そんなもの生えてませんから」

一花のエリアがきちんと清潔になるのは、果たしていつになるのだろうか・・・それは、誰にもわからない。

長女ちゃんはお片づけができない  おわり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝負後の告白

ちょっと遅れてしまいましたが、なんとか完成しました。今回はとっておき・・・なんですがやっぱりいざ投稿するとなるとちゃんと面白くできたかって不安がありますね。読んで楽しんでもらえるのなら幸いなんですけどね・・・こればかりはなんとも・・・

次回は一旦原作に戻ります。そして、次話には六つ子ちゃんが水着姿になります。六海ちゃんがどんな水着を着るか、想像してみてください。

余談ではありすが・・・この六等分の花嫁と今ハマってるアプリゲーム、ウマ娘のクロスオーバーネタが思いついたのですが、見たいって人います?設定としては今作品の未来の話で東京に住むようになった四葉ちゃんがトレーナーになっており、ウマ娘を育て、結成したチームでトゥインクルシリーズを目指すといったありきたりなものですが、どうですかね?やるかどうかは未定ですが。

ちなみに、載せるって決めた場合は別作品にする予定で、風太郎の嫁はまだ本編で発表してないのでその設定もどうなるかは秘密です。
そして、担当の1人はライスちゃんと決まっております。ちなみに私はまだライスちゃんを出迎えておりません。ウマ娘の中で推しなのに悲しい(泣)

長々と本編と関係ない話をして申し訳ございません。本編をお楽しみください。


「・・・と、いうわけで・・・これが今現在起こってる六海の状態です・・・」

 

昨日の出来事から次の日、今日は家庭教師の日でお部屋に集まった風太郎君とお姉ちゃんたちに、六海の口からこれまでの経緯を全部話したよ。

 

「六海がまさかスランプになるなんて・・・」

 

「今までこんなことあったっけ?」

 

「今回が初めての例だったはずよ」

 

「描きたいものを描けないというのは、辛いですよね・・・その気持ち、よくわかります」

 

「お前は描くことより食い気の方だろ」

 

「失礼ですね!!」

 

「六海も辛いのに、気づかなくってごめんね」

 

みんな六海がスランプになったことにたいして、とっても心配してくれてるのがわかるよ。その気持ちに六海の気持ちはちょっと楽になってきたよ。

 

「こほん・・・とりあえず状況を整理するぞ。まずこいつはバイト仲間の挑発にまんまと乗り、漫画雑誌にあった変なもんに自分の作品を応募しようとした。ここまでは理解したな?」

 

「変なもんって・・・」

 

「全然変じゃないよー」

 

風太郎君の言い方がちょっとムカつく。しかも本人は気にせず話を続けちゃうしさ。

 

「だがその変なもんの締め切り日は最悪なことに判定試験当日、ただでさえ勉強もしなければならんという時に原因不明のスランプだ。試験日までに何としてもスランプを克服したいというのが六海の気持ちだ。正直、頭が痛くなる話だ」

 

うぅ・・・お手数をおかけします・・・。

 

「・・・私たちに、できるのかな?そんなすごいことを・・・」

 

「できるかなと言われましても・・・」

 

「正直な話、やっぱり難しいんじゃないかな?有名な画家さんだって、自分のスランプを克服するのに、半年や1年くらいはかかるし。何とかしたいとは思ってるんだけど・・・」

 

「そもそも期限が2、3週間っていうのが厳しいわ」

 

「・・・やっぱりだめ・・・かな・・・?」

 

お姉ちゃんたちのかなり難しい顔を見て、やっぱり協力するのは無理なんじゃないかって思えてきた。六海だって他のお姉ちゃんが六海と同じ立場だったら、六海だって渋い顔をするもん。

 

「できるよ!」

 

六海が半分諦めかけた時、四葉ちゃんが何の根拠もないことを堂々と断言した。

 

「これまでの試験だって、上杉さんやみんながいたから乗り越えられたんだよ!障害物が1つ増えただけ!私たち7人が力を合わせれば、スランプっていう障害物も、試験も、乗り越えられるよ!」

 

「四葉ちゃん・・・」

 

四葉ちゃんの言ってることは何の確証もないし、絶対にそうなるとは限らないと思う。でもそれでも四葉ちゃんの言葉に、六海は心強く感じるし、何よりも、六海を思ってくれてるのが嬉しかった。

 

「うん・・・そうだよね・・・やってみる」

 

「本当に難しいことですが・・・粘れるだけ粘ってみましょう」

 

「んー、じゃあお姉ちゃんも一肌脱いじゃおっかなー」

 

「みんな・・・」

 

四葉ちゃんの言葉にお姉ちゃんたちも次々とやる気を出してくれてる。みんな、六海のために・・・。

 

「はぁ・・・全く・・・無茶ぶりにもほどがあるでしょ・・・でも・・・やってやろうじゃない」

 

「みんな・・・ありがとう・・・」

 

六海のためにここまで協力してくれるお姉ちゃんたちに六海は思わず泣きそうになったけど、ここはぐっと堪えたよ。この涙は・・・試験を乗り越えて、賞を取った時に残しておくんだ。

 

「六海、あんた今日からアタシの手伝いをしなさい。アタシが料理してる姿を見たら、少しは克服のきっかけになるかもだし」

 

「あ!じゃあ来週草野球チームの試合見に来てよ!私、助っ人として参加できないか掛け合ってみるから!」

 

「六海、後で私の部屋に来てね。スランプ克服のために、いろんな逸話を用意しておくから」

 

「私も、下田さんに塾の見学ができないか確認をとってみますね」

 

「おっとみんな行動早いねー。それなら・・・六海、今度撮影の見学してみない?社長から許可はとっておくからさ」

 

「お、おいお前ら勝手に・・・」

 

「うん、もちろんオッケーだよ!1秒でもスランプを克服できるように!」

 

みんな次々とスランプ克服のためのネタを一杯提供してくれた。それだけでも十分にありがたいよ。

 

「はぁ・・・言っておくが俺のやることはいつも通り勉強を教えてやる以外は何もできん。俺には期待するんじゃねぇぞ」

 

「それだけでも十分だよ。頼りにしてるからね、せーんせ♪」

 

それに風太郎君は期待するなと言っているけど、それは無理な話だよ。漫画の知識はなくても、風太郎君が六海の勉強を見てくれるんだもん。きっと試験ではいい結果を残せるはずだよ。

 

「・・・ふん、やる気があるのは大いに結構だ。ならば俺もその期待に応えるとしよう。そのためのものも用意してある」

 

風太郎君は若干不敵な笑みを浮かべてかばんから何かを取り出した。出てきたのは・・・以前見たことがある大量のプリントの山だった。

 

「あ、あのー、フータロー君先生や?これは何ですか?」

 

「これは俺がまとめ上げた判定試験で出てくる想定問題集だ。六海がサボった分の問題集もちゃんと用意してある。去年の問題集より多いが、勉強できなかった分の遅れはこれで取り戻せるぞ」

 

「嘘でしょ・・・これ、六海1人分だけ・・・?」

 

「勉強する時間が減るんだからこれくらい当然だ」

 

「「「「うわー・・・」」」」

 

こ、こんなの絶望しかないよ・・・。去年の問題集より多くて、さらに六海1人だけこれをやらなきゃいけないという拷問に六海はひどく顔を青ざめてるのが自分でもわかるよ・・・。

 

「や、やっぱり協力しなくていい!!六海1人で何とかするから!!」

 

「コラ!逃げるな!!これもスランプ克服の一環だと思え!!」

 

結局六海は大量の問題集を受け取ってしまい、これをやらざるを得なくなってしまいました。とほほ・・・やっぱ風太郎君に話すんじゃなかった・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

「はぁ・・・もう~・・・なんだよこの量・・・」

 

アパートでの勉強が終わった後、六海は今日もアルバイトに行ってるんだけど、時間が1秒でも欲しいからお仕事が始まる前に勉強してるよ。もちろん先生の許可はもらってるよ。それににしてもこの量は本当にないよ~・・・ただでさえ去年のやつだって多かったのに・・・。

 

「いやぁ、勉強してるってのは感心するねー。土屋君も見習えばいいのにね」

 

「・・・・・・」

 

先生は六海のことを感心してるような声をあげてる。土屋君は・・・相変わらずの姿勢だ。その姿に六海はむっとなる。

 

「さて、と。僕は一服してこようかな。中野さん、勉強頑張ってね」

 

先生は火がついてない煙草を口に加えてお外に出ていった。残ったのは六海と土屋さんだけ。そうだ・・・負けてなんかいられない!夢を逃げ道に使ってる彼にも、自分自身のスランプにも!その考えるだけで気落ちしてた気分に火がついて、大量の問題用紙と向き合って、勉強を再開するよ。

 

「お、今日はここで勉強してんのか嬢ちゃん」

 

「すごいなー。感心しちゃうよー」

 

「あ、こんばんは」

 

勉強を進めていると、高木さんと一ノ瀬さんが遅れてやってきた。

 

「・・・て、うおっ⁉なんだこのプリントの山は⁉」

 

「これ全部問題集⁉うわぁ・・・これ50くらいあんじゃない?」

 

六海がやってる問題集が多いことに2人はドン引きしちゃってる・・・そうだよ、これが普通の反応だよ・・・風太郎君にも見せてやりたいよこのドン引き具合を。

 

「こ、これ全部やるつもりだったのか・・・?」

 

「まぁ・・・毎日コツコツやってたら、多分いけると思いますので・・・」

 

「ちゃ、チャレンジャーだね・・・」

 

大変なのは十分に理解してるつもりだよ。でも去年と同じ要領でやったら多分・・・いける・・・よね・・・?

 

「!中野さん、問18問目の計算問題、間違ってるよ」

 

「えっ⁉・・・あ、本当だ・・・」

 

一ノ瀬さんの指摘されて、そこの問題を見て、計算し直してみると本当に間違ってたのに気づいた。

 

「すげーな。今のわかるのか?」

 

「まぁ私、それなりにいい学校に通ってましたからね。本気で漫画家、目指したかったんで」

 

「!本気で、ですか?」

 

「うん。そりゃ土屋君のやり方もありっちゃあありだけどね、やっぱ独学にも限界があるし、何より・・・漫画家の世界ってのを、もっと知りたかったからね」

 

一ノ瀬さんの言ったこと、わかる気がする。六海も本気で漫画家になりたいから・・・六海はまだまだ未熟だから・・・もっとたくさんのことを学びたい。そのためなら、どんな道だって進む。このアシスタントだって、専門学校に行くのだって・・・そのための道のりなんだ。

 

「・・・よし!乗り掛かった舟だ!わからない箇所があったら教えてあげるよ!」

 

「!い、いいんですか⁉」

 

「もちろん!一緒にやった方が、課題早く終わるって」

 

「・・・!じゃ、じゃあ、前のプリントで飛ばした問題があるんですけど・・・」

 

一ノ瀬さんの提案はすごくありがたかったからお言葉に甘えることにしたよ。それに、五月ちゃんだってその・・・下田さん?っていうMIHO先生のお姉さんのお手伝いをしながら学業向上に励んでるし、誰かに教わるなとは言われてないからね。なんだかちょっと希望が湧いてきちゃったよ!

 

「・・・よし!乗り掛かった船だ!俺も協力するぜ!」

 

「高木さんも・・・ありがとうございます!」

 

ここまで親身になって協力してくれるなんて、六海はなんて恵まれてるんだろう・・・。本当に、幸運を感じるよ。

 

「あ、後で一花ちゃんのサインもらえると嬉しいな。私、ファンなの」

 

「あ、俺も頼む。嫁と息子がファンなんだよ」

 

「・・・・・・」

 

・・・まぁ・・・下心も出てるみたいだけど・・・。この勉強会は、先生が戻ってくるまで続いたよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

勉強も大事だけど、六海にとってスランプ克服はもっと大事だよ。だから1分1秒の時間も無駄にはしたくはないよ。だから勉強の時間以外はスランプ克服に向けていろいろやってるよ。例えば、一花ちゃんの撮影の見学をしたり、二乃ちゃんと一緒にお料理を手伝ったり、三玖ちゃんの知ってる戦国武将の逸話を聞いたり、四葉ちゃんが助っ人として参加してるスポーツの試合を見学したり、五月ちゃんが手伝ってる塾の見学をしたり、真鍋さん所の孤児院で子供たちと遊んだりと、とにかくいろんなことに手を付けた。ネタさえ手に入れれば少しはスランプ克服に近づけると思って。

 

・・・でも、どれだけネタを手に入れても、六海のやらないことをやっても、出来上がる作品は全く変わらないし、スランプも克服できてない。何の面白味もない。感動できない。表現が下手すぎる。描けば描くほど、駄作ばっかり出来上がっちゃう。これだけやっても何も変わらないことに六海は激しく絶望したこともあった。もう、今までみたいに描くことはできないのかって。

 

それでも、絶対に諦めたくない。漫画でだって、勝負は最後の瞬間まではわからないって。だから六海は、ギリギリまで粘る。諦めたら、絶対後悔すると思うから。そんな気持ちを抱きながら試験日と締め切り日まで後4日という今日の放課後、六海はスランプ克服のために、今日はいつも通りの絵を中庭で描いてるよ。やっても変わらないかもしれないけど、少しでもやることはやっておかないと・・・。

 

パシッ

 

「たく・・・何やってんだ・・・勉強の時間はとっくに過ぎてるぞ」

 

「あ・・・風太郎君」

 

絵に夢中になってると、風太郎君が今日のプリントで六海の頭をはたいてきた。風太郎君が見せてきているスマホを見てみると、今日の勉強会の開始の時間が過ぎていた。

 

「あはは・・・熱中しすぎちゃった・・・」

 

「たく・・・なんだこの大量の絵の山は?いくら何でもやりすぎだぞ」

 

「50枚近く問題集を作る風太郎君には言われたくないよー」

 

まったく・・・何そのやれやれみたいな顔。言葉のブーメランとか、同じ穴の狢って言葉を知らないの?いや、知ってるだろうと思うけどね。

 

「・・・なあ、やはり期日までスランプ克服は無理がある。確かにお前は今まで普段やらないことまでやって頑張っているのはわかる。だがもう後4日だぞ。どうにもならん状況だ。それでもまだ続けるというのか?」

 

「・・・もちろん、続けるよ。最後の瞬間まで諦めない」

 

「はぁ・・・お前らはなんでそうも頑固なんだよ・・・」

 

それは風太郎君にも言えることだよ。もう赤点回避は無理だろうって時でも風太郎君は意思を曲げずに六海たちに勉強を教えてきた。それと同じだよ。

 

「大体何でそこまで漫画に拘るのかが全くわからん。お前の絵はうまいんだから別に漫画家でなくても食っていけるだろう」

 

そういえば風太郎君は六海が漫画家を目指す理由を知らないんだったね。でもそれ今さらすぎない?遅すぎっていうか・・・。

 

「・・・漫画を描くことは六海の人生の中で唯一見つけたやりたいことだからだよ」

 

「唯一?」

 

「実をいうとね・・・六海、中3の終わりまではそんなに絵が得意ってわけじゃなかったの」

 

「え?そうなのか?」

 

「そんな状態での六海はね、自分のやりたいことを探すので必死だったんだ。その過程でいけないことまでやっちゃった。自分は間違ってないって言い聞かせて」

 

いけないことっていうのは六海にとっての黒歴史・・・凶鳥だった頃にやってた喧嘩のことだよ。当然これは風太郎君に言うつもりはないけど。

 

「でも六海のやってたことが間違いだって気づいて、じゃあ何をすればよかったんだーって、ずーっと悩んでた時に見つけたのが、いつも読んでる漫画雑誌の最新刊の漫画だよ。その話がね、とにかく面白くって、胸がね、ぽかぽかしちゃっててね・・・気づいたら六海、泣いちゃってたくらいに感動したの」

 

MIHO先生が描いたあの漫画は今でも忘れられないし、今もずっと読んでる。それだけ心に残ったお話だったんだ。

 

「それで気づいちゃったんだ。六海のやりたいことはこれだー!って!六海はあの人を超えるようなすごい漫画を描きたいんだって!そう思ったらいてもたってもいられなくなってね、六海、先生に絵を教えてもらいに行ったの。やっと見つけた六海のやりたいこと・・・六海の、夢だから」

 

「それがお前の漫画家になりたいという原点か・・・」

 

「うん。だからね・・・乗せられた形にはなっちゃったけど・・・コンテストに応募しようって決めた時、こう思ったんだ。六海が望み続けたものなんだ・・・。このチャンス、絶対に逃さないよ!って」

 

勝負云々のことを忘れたわけじゃないけど、あのコンテストは六海の夢を叶えてくれる道のりの近道なんだ。絶対に、このチャンスを逃したくなんかなかった。・・・そう、思っているはずなんだけどなぁ・・・

 

「・・・と、思ってはいるものの・・・現実はご覧のありまさで・・・とほほ・・・」

 

「・・・それでも、意見を変えるつもりはないと?」

 

「・・・もちろん」

 

「・・・そうか」

 

若干暗い気持ちになった時、風太郎君からの質問に六海は迷いなく答えた。答えを聞いた風太郎君はもう何も言わないと言わんばかりの顔になってる。六海のわがままに付き合ってくれて、風太郎君には本当に感謝しかないよ。・・・あ、そうだ♪

 

「そうだ!風太郎君、六海の似顔絵を描いてみてよ!六海も風太郎君を描くからさ!」

 

「はあ?」

 

六海の名案に風太郎君は心底嫌そうな顔つきになってる。そんな顔されるとひどく傷つくんだけど・・・。

 

「なんで俺が?てか勉強時間すぎてるってさっき・・・」

 

「ね!お願い!風太郎君の絵がどんなのになるのか見てみたいの!描いてくれたら勉強に戻るから!スランプ克服になるかもしれないし、お願いだよ!」

 

「ぐっ・・・しかし、他の姉妹たちが待って・・・」

 

六海のお願いに風太郎君はかなり渋ってるなぁ・・・。ちょっと挑発してみようかな。

 

「風太郎君、六海のスランプ克服に協力してくれるんだよね?それともあれは嘘だったの?」

 

「お、お前なぁ・・・!」

 

「もしかしてだけど・・・自分の下手くそな絵を誰かに見られるのが怖い、とか?」

 

「あ?俺を舐めるんじゃねぇぞ。紙とペンをよこせ。その気になればエベレストだって描ける。行ったことないがな」

 

軽い挑発のつもりだったんだけど、思いのほかあっさりと絵を描く気になってくれた。・・・風太郎君って、案外チョロい?

 

「じゃあ、はい、紙とペン。下敷きも貸してあげるよ」

 

「ふっ、六海よ、俺の絵を見て腰を抜かすなよ?」

 

風太郎君のその自信はどこから湧いてくるんだろう?心底羨ましいよ。その自信があったら漫画を誰かに見てもらうのに役立ちそうだし。と、風太郎君が描き始めたんなら、六海も風太郎君を描いちゃおうっと。まずは風太郎君が絵に収まるように調整をして・・・角度も調節して・・・うん、ここがいいな。よし・・・。

 

(・・・何やってんだ俺は・・・安っぽい挑発に乗せられて・・・)

 

風太郎君を見てみると、六海の挑発に今さら乗ったことを気にしだしたみたい。でも・・・絵を描いている風太郎君なんて・・・なんかレアな光景だな。それに・・・

 

「ふふふ・・・」

 

「?どうした?」

 

「ねぇ、風太郎君はここ、覚えてないかな?」

 

「何が?」

 

「ここ、六海が風太郎君の絵を初めて描いた場所だよ」

 

そう、ここは六海が初めて風太郎君を描いた中庭なんだよ。あの時のことはハッキリと覚えてる。あれからもうすぐで1年になるのかぁ・・・時が経つのは早いなぁ。

 

「ああ、そういえば・・・。ここでお前が絵を描くことが趣味って初めて知ったんだったな」

 

「あの時はあまり気乗りしなかったんだけど、らいはちゃんのためだったしね」

 

「俺を敵対しまくってたお前が、今やこんなことになるとは・・・」

 

「人生何があるのかわからないもんだね~」

 

最初あれだけ嫌っていた風太郎君とこうして絵を描いてるどころか・・・風太郎君のことが、こんなに大好きになっちゃったなんて、今でも想像がつかなかったよ。そう考えると、あの時のことも、いい思い出だなぁってしみじみに思っちゃうよ。と、そう考えている間にも、こっちは総仕上げに入ろっと。

 

「後はここをこうすればっと・・・よーし、完成ーー!」

 

「何っ⁉もうできたのか⁉」

 

「当然!じゃーん、これが完成品でーす!」

 

六海が早めに絵が出来上がって驚いている風太郎君にたった今完成した風太郎君の絵をしっかりと見せた。六海の絵に風太郎君は手を止めて、感心してる。

 

「俺だ・・・やっぱりお前の絵はうまいな・・・」

 

「えへへ、ありがと♪」

 

六海は絵を褒められて、胸のあたりがぽかぽかする・・・。やっぱり六海は誰かに絵を褒められるの、好きだな。それが風太郎君ともなれば、もう何倍も・・・。・・・そういえば、誰かに絵を褒められるの、久しぶりかもしれない・・・。

 

「はい、今度は風太郎君の番だよ。見せて見せてー」

 

「ちょ、ちょっと待て!まだ完成してない!覗き込もうとするな!」

 

「えー!遅いよー!早く―!」

 

「みんながお前みたいに早く描けると思うな!」

 

文句を言いながら風太郎君が六海の絵を出来上がるのを今か今かと待つことにしたよ。どんな絵に仕上がるんだろう・・・なんかちょっと楽しみ♪文句と期待を入り混じりながら待つことだいたい30分くらい・・・

 

「・・・思ってたのと違うな・・・」

 

「あ、できた?見せて見せて!」

 

「あ!おいこら!取るな!見るんじゃない!」

 

「嫌です、拝見しまーす。えーと、風太郎君の絵の出来栄えは・・・んなっ!!?」

 

六海が風太郎君の絵を見て、その出来栄えにたまげてしまった。六海は別に風太郎君の絵がうまいとは思ってはいない。その思いは予想通りなんだけど・・・なんというか・・・その・・・言葉では言い表すことができないくらいの下手くそぶりだったよ。もう原型がとどめられてないし、下手をすれば四葉ちゃんより下手くそかも。

 

「う、うわあ!!めっちゃ恥ずかしい!!」

 

「下手くそぉ!!!六海はこんな顔なんかじゃないよぉ!!!」

 

「仕方ないだろ!絵なんて美術以外では描かねぇんだよ!だいたいお前が描けって・・・」

 

「うぅ~~・・・」ウルウル・・・

 

「て、悪かったから泣くのはやめてくれ・・・」

 

下手だとは思ってたけど、まさかここまで超ド下手くそだったなんて思わなかったよ・・・こんなことなら絵を描けなんて言わなければよかったよ・・・。

 

「大体何なのこの顔?どうしたらこんな顔になるわけ?ちゃんと六海を見て描いたの?」

 

「見て描いたっての・・・」

 

「嘘だ!どんな下手くそでもちゃんと見てたらこんな顔にならないよ!」

 

「だから見たって・・・つーかこんなとこで描いてたら手元が狂うんだ。しょうがないだろ」

 

「六海、よく机なしで描くけど、そんな風になったことないよ。だから風太郎君は六海をちゃんと見てなかった!」

 

「・・・ああ言えばこう言う・・・どうすればいいんだよ・・・」

 

風太郎君の絵が下手くそでもいいんだけど・・・せめて顔だけはどうにかしてほしいよ。

 

「だから・・・六海のこと、ちゃんと見て描いてよ・・・」

 

「⁉あ、あの・・・六海・・・?顔が・・・」

 

「ほら・・・よく見えるでしょ?六海の顔が」

 

「ち・・・近・・・」

 

やり直ししてほしいと思って六海は今度はよく顔が見えるように風太郎君の頬に手を伸ばしながら、ぐんぐんと顔を近づけ・・・

 

「あーーーーーー!!!!ちょっと!!何やってんのよ!!」

 

「「!!?」」

 

び、ビックリしたぁ・・・今の声・・・二乃ちゃん?あんな大きな声を出して何を・・・

 

「!!!!」

 

二乃ちゃんの声で六海と風太郎君との顔の距離がものすごく近いことに気付いた。それこそ、そのままいったら・・・き、き、キスを・・・///

 

「ち、近いよ!!!」

 

バチンッ!!

 

「ブハッ!!?お、お前から近づいたんだろうが・・・」

 

恥ずかしかったから思わず風太郎君にビンタしちゃった。ごめん、風太郎君!そうしてる間にも二乃ちゃんはこっちに近づいてきた。いや、二乃ちゃんだけじゃない・・・他のお姉ちゃんも全員来ちゃってる。

 

「いつまで経ってもあんたたちが来ないから様子を見に来てみれば・・・」

 

「あわわわわ・・・」

 

「ふ、不純です!!」

 

「い、いやー・・・ちょっとこれはさすがにいただけない、かなー・・・」

 

「・・・2人で何やってたの・・・?」

 

みんな顔を赤らめたり、六海たちを見る目が怖かったりといろいろな反応を示してる。あれは何というか・・・無意識なのに・・・。

 

「べ、別にやましいことはしてないよ!ただ風太郎君に絵の指摘をしてただけ!ほら見てよ!この下手くそな絵を!」

 

「あ!こら!お前勝手に見せんな!」

 

無実の証明のために六海はさっき風太郎君が描いた下手くそな絵をみんなに見せたよ。そしたらみんな、予想通りのドン引きな顔をしてるよ。

 

「うっわ⁉なにこれ⁉これ本当にフータロー君が描いたの⁉」

 

「うわ~・・・」

 

「ひどすぎる・・・」

 

「上杉君、割に合わないものはやるべきではないと思います」

 

「ああ・・・くっそ・・・恥ずかしい・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ上杉さん!よく見てみると意外とチャーム・・・です・・・よ・・・?」

 

「無理にフォローするな・・・悲しくなる・・・」

 

予想通りの反応に風太郎君はもうゆでだこ状態だよ。

 

「そうでしょ?だから絵の指摘を・・・」

 

「それならなんであんな顔を近づけるの?普通に教えたらいいはず」

 

「そ、それは・・・」

 

三玖ちゃんのごもっともな指摘に六海は何も言い返せなかったよ。本当、どうして六海はあんな大胆なことを・・・///

 

「・・・ねぇフー君、アタシが絵を教えてあげましょうか?その子よりも断然教えるのうまいわよ?」

 

「んな!!?」

 

「「「「二乃⁉」」」」

 

みんなに詰め寄られていると、その間に二乃ちゃんが変なことを言いだした。ちょっと・・・本当に何言っちゃってるの⁉

 

「いや・・・もう描かないから別に・・・」

 

「ダメだよ!どうせ何かしらのアピールとかするつもりなんでしょ!だいたい二乃ちゃんも絵そんなにうまくないでしょ!」

 

「あからさまに自分は絵得意ですってアピールするのをやめなさい」

 

二乃ちゃんにを放っておいたら風太郎君に絶対何か仕掛けるに決まってる!そんなことになったら風太郎君との距離がまた遠くなっちゃう!それだけは避けないと!

 

「・・・フータロー。六海ほどじゃないけど私も、絵はそれなりにいい方。よかったら教えてあげる」

 

「三玖さん⁉」

 

「あ!こら三玖!!」

 

「抜け駆け禁止ーー!!」

 

「先に抜け駆けしたのは六海の方」

 

六海たち3人は風太郎君をめぐって必死の口論を始めた。今日という今日はちゃんときつめに言っておかないと・・・!

 

「ど、どうして毎回こうなるのですか・・・」

 

「あ、あははは・・・」

 

「それで、フータロー君、本当に何やってたの?」

 

「それがな・・・」

 

かくかくしかじか・・・

 

「ふーん・・・それで六海に付き合ってあげてるんだ」

 

「本当に六海らしいね。絵に真剣すぎるっていうか・・・」

 

「確かに、ここ最近の六海はスランプ克服に勉強を両立させようと頑張っていますが・・・」

 

「うん・・・ちょっと無理してないかな・・・心配だよ・・・」

 

「あいつにも言ったんだが、聞く耳持たなくてな・・・だからといって、あいつの頑張りを否定はしたくない」

 

「・・・あ、ねぇ、こういうのはどうかな?」

 

長女説明中・・・

 

「おお!それ、いいかも!」

 

「うん。これなら六海にもプラスになるし、いい気分転換になるでしょ?」

 

「いや、あの・・・今日は勉強をする予定では・・・」

 

「もうここまで来たらそれどころではないと思いますよ」

 

「ぐっ・・・またこうなるのかよ・・・」

 

「じゃあ、決まりだね。・・・はーい、3人ともそこまで」

 

長い口論を続けていると、一花ちゃんからストップがかかった。

 

「このままじゃ埒が明かないからこうしよう。ここにいる姉妹全員で絵を描きながら教えてあげればいいんじゃないかな?それならみんな公平だし、抜け駆けもないでしょ?」

 

うむむ・・・それは確かに・・・

 

「まぁ・・・そういうことなら・・・」

 

「うん、それでいい」

 

「・・・仕方ないわね」

 

六海たちは一応一花ちゃんの提案に納得する。いや、まぁいろいろ思うところはあるけど、それなら二乃ちゃんや三玖ちゃんもちょっとは大人しくなるでしょ。

 

「よーし、とりあえず好きなものを描いてみよう!」

 

「ちょ、ちょっと!まだ紙もらってないわよ!」

 

「フータロー、見ててね」

 

「う、うまく描けるでしょうか・・・」

 

「大丈夫大丈夫。いざとなったら六海が教えてくれるよ」

 

「「スパルタレッスンはもう嫌だ(です)!!」」

 

「ひどくない⁉スパルタじゃないのに!」

 

「お、お前ら・・・はぁ・・・今日はもう本当に勉強は無理か・・・」

 

そうして六海たちはみんな集まって好きな絵を描くことになったよ。これで静かになると思ってたけど、みんな好きなものが被ってたから競い合いとかで全然静かにはならなかったよ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

みんな描き終えて見せあいっこを終えた頃にはもうすっかり下校時間になっちゃって今日は風太郎君と姉妹全員で一緒に下校しているよ。

 

「んー、今日は楽しかったねー」

 

「みんなの絵、とってもうまくてびっくりしたよ!」

 

「たまにはみんなで絵を描いてみるというのもいいものですね」

 

「・・・思ってた展開と違うわ・・・」

 

「まだ言ってる・・・」

 

絵を描いている間、みんなとっても騒がしかったけど、それでも楽しめたみたいで笑顔になっているよ。風太郎君は全然そんなことないけど・・・。

 

「たく・・・今日の分のプリント作っとくから、ちゃんとやっておけよ」

 

「「「「え~・・・」」」」

 

「当然だろ。特に一花、お前はここ最近のサボりが目立つ。成績が落ちて卒業できなくなったらどうする」

 

「あ、あー・・・あはは・・・一応仕事なんだけどなぁ・・・」

 

風太郎君に痛いところを突かれて一花ちゃんは苦笑いを浮かべている。六海がその様子をニコニコ見守ってるよ。

 

「ねぇねぇ六海、今日は楽しかった?」

 

「うん、もちろん!だって、みんな絵を描くなんてこと、結構久しぶりだったから」

 

「それならよかった。ちょっと追いつめられてる感じがしたから、心配だった」

 

「というかあんた、抱え込みすぎよ」

 

六海ってそんなに顔に出やすいかな?それとも行動でバレバレ?どっちにしても、みんなに気を遣わせすぎちゃったかな・・・反省・・・。

 

「六海、あまり1人で抱え込まないでくださいね。もちろん、期限が迫って焦る気持ちはわかりますが・・・だからこそ、私たちに相談してください」

 

「そうそう、私たち、姉妹揃ってわかちあってこそ・・・でしょ?」

 

「!・・・わかち・・・あって・・・」

 

わかちあって・・・その言葉に六海は衝撃を受けた。・・・そっか・・・何が足りなくて・・・何がダメだったのか・・・何となくそれが・・・わかったような気がした・・・

 

「?六海?」

 

「・・・六海、閃いちゃった!先に帰ってるねー!」

 

「あ、お、おい!!」

 

この閃きを忘れてしまわないように六海はすぐにアパートに向かって走り出す。

 

「たく・・・あいつときたら・・・」

 

「ふふ、何か、掴んだみたいだね」

 

♡♡♡♡♡♡

 

アパートに帰ってきて六海はすぐに漫画を描く準備をして、閃いたことを頼りに作品を描き始める。

 

六海は絵を・・・漫画を描くことが大好きだ。それは今も、この先もずっと変わらないよ。でもこの楽しさは・・・1人締めしてちゃいけない・・・1人で楽しんでしまったらそれは、自己満足になってしまう。それじゃあ感動も、面白さも感じられなくて当たり前だよ。それなのに六海は、勝負に拘ったり、土屋さんにむきになって・・・大事なことを忘れたよ・・・。本当に、恥ずかしい。

 

六海は・・・自分の考えた楽しい物語をみんなと一緒に共有したい。当然、1人1人、面白いっていう基準は違うと思う。でも・・・それでもいい。誰かに作品の存在を知って、少しずつ、また少しずつと作品の魅力に気づいてもらえること・・・それも、楽しいを共有するってことだと、六海は思うから。そう思うだけで・・・六海はがんばれる!それに六海には・・・頼もしいお姉ちゃんたちが、ついている!恐れるものなんて、何もない!それで、翌日の、すっかり夜になった頃合いに・・・

 

「できた・・・六海の・・・納得がいく作品が・・・」

 

何回も何回も試行錯誤を続けて、1日分の時間を費やしてようやく・・・ようやく1本の納得のいく作品が出来上がった。内容自体も結構充実してると思う。でも、これは自分だけで決めちゃいけない。まずは・・・お姉ちゃんたちにこの作品の面白さを、伝えなきゃ。

 

「みんなー!出来上がったよー!絶対面白いから、読んで―!」

 

六海はすぐに出来上がった作品を読んでもらおうとお姉ちゃんたちを呼びにいったよ。お姉ちゃんたちの反応は個人差はあったけど、掴みは手ごたえがあったよ。後は・・・編集者さんたちから見て、どう思うか・・・それは、結果でしかわからない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

出来上がった作品は何とか締め切りギリギリで応募ができた。一安心するもつかの間、次の日に入試判定試験がやってきたから休む暇もなかったよ。いろんな問題に苦戦はしたけど、あの大量の問題集をやり遂げた成果が実ったのか、そこそこ解くことができたよ。出来の方はまぁまぁって感じだったな。結果は夏休みが明けてからの2学期に届くみたい。

 

・・・さて、と。試験が終わって1週間後、今日は優秀賞の発表日・・・スランプを克服できたかどうかは・・・今回の結果にかかってるといっても過言じゃないよ。六海たちはアパートに集まってその結果が載ってる週刊誌に注目してるよ。ちなみに一花ちゃんはお仕事だよ。最近お仕事行くの多くなったような・・・。で、風太郎君はアルバイトがあるからって言って来なかったよ。二乃ちゃんだってアルバイトだけど、少しだけ時間もらってるんだから、来てくれてもいいのにね。

 

「つ、ついにこの時が来たのね・・・」

 

「ど、どうしよう・・・私、今すごくドキドキしちゃってるよ~・・・」

 

「あああぁ・・・緊張しますぅ~・・・食事も喉に通りそうにありません・・・」

 

「それでも食べるんだ・・・」

 

お姉ちゃんたちはまるで自分のことのように、すごく緊張していて誰もが今週号をなかなか取れないでいるよ。一応最優秀賞は金、銀、銅の3つの賞があるから、可能性はあるんだけど・・・やっぱり緊張するものは緊張するよね。でも・・・ああぁぁ・・・1番緊張してるのは六海だよ~・・・。

 

「あ、あう・・・あうあうあ~・・・」

 

「む、むむむ、六海、落ち着いて・・・だ、だだ、だいじょ・・・ダイジョウビだよ・・・」

 

「よ、四葉も・・・お、お、落ちつ・・・つ・・・」

 

「全員落ち着きなさいよ、だらしないわね」

 

「そういう二乃も緊張してる」

 

「うるさいわね!ていうか、それはあんたもでしょ三玖!」

 

このもどかしい時間はいつまで続くのか・・・もう結構長い時間が経ってるような気がするんだけど・・・。ううぅ・・・ううぅぅ~・・・いつまでもこうしてはいられないし・・・。

 

「よ・・・よし・・・覚悟を決めた・・・まずは金賞から開けてみるよ・・・」

 

「ま、待ってください!まだ心の準備が・・・」

 

「いい加減腹をくくって」

 

「神様~・・・どうか・・・どうか・・・」

 

「・・・・・・」そわそわ

 

ようやく決意を決めて、今週号を取り出して、最優秀金賞が載ってるページを開いてみる。金賞に選ばれ、載ってあるのは六海の作品でも、土屋君の作品でもなく、別の人の作品だった。

 

「うわー!六海の作品じゃないー!」

 

「うぅ・・・もう見てられません!」

 

「だ、大丈夫だよ・・・まだ・・・まだ銀賞と銅賞が残ってるから・・・」

 

「「・・・・・・」」そわそわ・・・

 

1番じゃなかったのはそりゃ残念だけど・・・まだ可能性は残ってる・・・今は・・・今はそれにかけたい・・・。緊張で手が震えた・・・けど思い切って銀賞が載ってるページを開いてみる。だけど・・・このページでも全く知らない人の作品が載ってあったよ。

 

「あーー!!また載ってないーー!!」

 

「ど、どうしましょう!もう残り1つですよ!」

 

「やば・・・余計に緊張感が・・・」

 

「あ・・・あ、あ、あ、あ・・・」

 

「六海、しっかり・・・」

 

やばい・・・最後の1つだと思うと、余計に緊張感が・・・手の震えもものすごいし・・・も、もうこれ以上ページめくれないよ~・・・どうしよう・・・。お、落ち着け―・・・落ち着くんだよ六海・・・こういう時こそ・・・スマホのホーム画面のナナカちゃんに力をもらおう・・・そう思ってスマホのスリープ状態から解除すると、メールが2件届いていたのを見つけた。中を開いてみると、差出人の1件目は一花ちゃんから。もう1件は風太郎君からだったよ。みんなが緊張してる間にメールを確認してみる。まずは一花ちゃん・・・

 

『結果の方はどうかな?まだ読めてないから気になっちゃって・・・でも六海ならきっと大丈夫だよね』

 

一花ちゃんだってオーディションで役を取れるか取れないかの緊張感を何度も味わってるかもしれない。これはそれと同じなんだね・・・。それでも六海のことを信じてくれてるから、とても嬉しかったよ。次に風太郎君の方は・・・

 

『自分の可能性を信じろ』

 

これまた何ともシンプルで・・・強くもなんともなく、ただそれだけが書かれてるだけだったよ。でも・・・なんでだろう・・・風太郎君からもらった言葉だと考えると・・・心強く感じるし・・・不思議と、さっきまでの緊張感が和らいできたよ。ありがとう、一花ちゃん・・・ありがとう・・・風太郎君。

 

「すぅー・・・はぁー・・・よし!開けるよ!」

 

「泣いても笑っても・・・」

 

「次が最後・・・」

 

「神様~・・・」

 

「ううぅぅ~・・・」

 

勇気を振り絞って六海は目を閉じながら最後の銅賞のページを恐る恐ると開けた。そして・・・開いた銅賞に選ばれた作品が・・・そこに載っていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『七等分の流れ星

応募者:中野六海』

 

・・・あった・・・この作品は紛れもなく・・・六海の描いた作品・・・。

 

「・・・・・・や・・・やった・・・」

 

絶対に載せてやると息巻いていたけど・・・未だに理解が追い付いてないから実感が湧いてこない。

 

「やったーーーーーーー!!!」

 

「やりましたね、六海!本当に載りましたよ!」

 

「もう・・・本当にひやひやさせるんじゃないわよ!」

 

「やったね、六海。おめでとう」

 

みんなが六海にお祝いの言葉を投げかけてきて、ようやく理解が追い付いてきた。

 

「・・・やったんだ・・・本当に・・・」

 

週刊誌に作品を載せることができた・・・その事実とお姉ちゃんたちが自分のことのように喜んでいる姿を見ると、嬉しくなってきて、涙が溢れだしそうになったよ。

 

「今日はお祝いだね!六海銅賞獲得記念!」

 

「みんなこれからバイトだから時間に余裕がない」

 

「えー!!じゃ、じゃあ・・・明日!明日はどう?」

 

「いいですね。明日は終業式なので、ちょうどいいです」

 

「一花やフー君にも連絡しておかなきゃ・・・」

 

六海1人だったらきっと銅賞すらとることができなかったかもしれない。だから・・・無理強いに付き合ってくれたみんなには、感謝しかないよ。

 

「みんな・・・本当に・・・ありがとう!」

 

六海は心からの感謝を、みんなに包み隠さずに伝えたよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

結果を見た後六海は今日もアルバイトに来たわけだけど、今日はいつもと光景が少しだけ違ってたよ。

 

「中野さん!結果見たよ!銅賞獲得、おめでとう!」

 

「すげぇな嬢ちゃん!大したもんだ!」

 

いつもは六海より遅く来るはずの一ノ瀬さんと高木さんが来ていて、仕事メンバー全員が集まってたよ。

 

「中野さん、入賞おめでとう。スランプだって聞かされたときは、内心はらはらしたけど・・・短期間で克服、及び勉強の両立。それで銅賞とはいえ、賞を獲得とはすごいね。誇らしく思うよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

先生は六海のことを褒めた後、土屋君に視線を向けた。

 

「土屋君・・・残念だったね。おしくも賞を逃したけど、まぁ、次は必ず取れるよ。僕が保証する」

 

「・・・・・・」

 

今回の結果なんだけど、実は3位以下の順位も載ってあったんだけど、土屋君の順位は六海のすぐ下の4位だったよ。これには相当に悔しい思いをしてるに違いないんだけど・・・土屋君は結構無表情だから感情がわからないよ。

 

「・・・中野さん」

 

六海が声をかけようと思ったら、土屋君本人から声をかけてきた。

 

「・・・ぶっちゃけ俺、あんたのこと舐めてましたわ。どうせ大したことないだろうって。それにスランプまでなってたみたいで余計に。おまけに勉強の両立で賞なんて取れるはずないって思ってましたわ」

 

まぁ、そうだと思うよ。六海だって同じ立場だったらそう思うもん。

 

「・・・けど、それは覆されたっす。今日載った中野さんの漫画、すげぇ面白かったし、あんたはマジで勉強を両立させて、しかもスランプを短期間で克服して・・・俺にはできなかったことを成し遂げた。正直すげぇっすよあんた。尊敬しますよ、心から」

 

「土屋君・・・」

 

「土屋・・・」

 

「・・・今更許してもらおうとは思ってませんが・・・先日の非礼はお詫びします。何も知らねぇくせに、嫌いとか、いろいろ生意気言って、すいませんでした!!」

 

土屋君は自分の思いを六海に伝えて、頭を深く下げて謝罪の言葉を口にした。そんな土屋君に、六海は言いたいことがあるよ。

 

「・・・六海はそんな尊敬されるような人物じゃないよ。六海が賞を取れたのは・・・ううん、ここまでこれたのは、みんなのおかげだよ」

 

六海は自分の思いを土屋君に包み隠さず伝えるよ。

 

「六海は全然頭よくないし、言われたことは何でも気にするし、つい意地を張っちゃうんだ。だから、そんな六海が1人で挑んだら、絶対賞を取れなかったし、スランプも克服できないままだと思うんだ」

 

でもね・・・と、六海はさらに続けるよ。

 

「いろんな人と出会えたから、六海は今の六海があるんだ。みんなが力を貸してくれたから六海は夢に一歩近づけたんだ。そして・・・その中には土屋君、君もいるんだよ」

 

「俺も・・・?」

 

「土屋君がいたからこそ、六海は今回の企画に参加できたし、君という競い合うライバルができたんだよ」

 

ただの勢い任せ、結果論って言われたらそれでおしまいなのかもしれないけど・・・企画に参加できたのも、追い越されたくない、負けたくないって気持ちが出てきたのも、全部彼のおかげだと思ってるよ。

 

「六海はこれまでの関係も、生まれてきた関係も、大切にしたいと思ってるよ。これで全部終わりなんて、六海は嫌だな。だから・・・土屋君には六海と同じ大学に入って、これからも競い合ってほしい・・・なんていうのは、傲慢・・・かな?」

 

六海の気持ちを最後まで伝えたら、土屋君は黙り込み自分の席に戻っていっちゃった。

 

「・・・尊敬発言撤回っす。俺、やっぱあんたのような賢いメガネとは気が合わないっすわ」

 

「んなっ!!?」

 

さっきまでのしおらしい態度はどこへ行ったのさ!!?すぐ嫌味発言をしてきたんだけどこの人!!

 

「・・・大学行ってからが勝負っす」

 

「!」

 

「えっ⁉」

 

「土屋・・・お前・・・」

 

「・・・ただ負けっぱなしなのは癪ってだけっすよ。夢のためにも、勝つためにも、使える手段は何でも使うつもりっす」

 

土屋君は顔を六海に向けた。顔自体は無表情だったけど、心なしか、その無表情が微笑んでるように見えたよ。

 

「・・・次は負けねーっす」

 

「・・・!こっちだって次も勝つから!」

 

この瞬間、六海は土屋君に初めて、自分を認めてもらえたような・・・そんな気がしたよ。

 

「どうなることかと思ったが・・・」

 

「土屋君も大学行く気になってよかったよかった♪」

 

「うん。これにて一件落着、かな」

 

この後の仕事場はいつも以上に賑やかになったような・・・そんな感じがしたよ。後仕事の後、先生からお祝いとしてファミレスでご飯を奢ってもらっちゃった。頼んだハンバーグとクリームケーキ、あれはおいしかったなぁ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

次の日の学校の終業式、朝の時も放課後の時もすっごく大変だったよ。というのも・・・

 

「六海ちゃん!昨日の週刊誌見たよ!」

 

「漫画が載るなんてすごいじゃん!おめでとう!」

 

「まさかうちのクラスに大スターが誕生するなんて思わなかったぜ!」

 

「ね、どうやったらあんなおもしろい作品ができるの?ぜひ教えて!」

 

「え、えぇーっと・・・そのぅ・・・ご、ごめんなさい!」

 

『あっ!逃げた!』

 

昨日クラスのみんなが週刊誌に載った六海の作品を読んだみたいで、偉業を成し遂げたってことでみんなからべた褒めされてたんだ。そんなわけでみんなから質問責めにあい、みんなから逃げたってわけだよ。何とか二乃ちゃんに変装をして、みんなを誤魔化せたけど・・・はぁ・・・疲れた・・・。この疲れを癒すために屋上で休憩してるよ。

 

「とんでもない浮かれ具合だったな」

 

「あ、風太郎君」

 

六海が疲れを癒してた時に屋上の扉から風太郎君が入ってきた。

 

「姉妹たちがお前を探してたぞ。祝賀会の主役はどこだってな」

 

あ、そういえば昨日そんな話してたっけ・・・すっかり忘れてたよ。

 

「あはは、それでわざわざ探しに来てくれたんだ。ごめんね、スマホの充電忘れちゃって・・・」

 

「たく、ちゃんと充電はしろよな」

 

「風太郎君、それブーメランだよー」

 

かなりの頻度でスマホの充電を忘れる風太郎君には言われたくなかった一言だなー、本当に。

 

「!なんだ・・・それ持ってきたのか」

 

そこで風太郎君は六海が休憩の際に読んでた六海の作品が載った週刊誌に気付いた。

 

「うん。だってまだ全部読み切れてなくて、気になっちゃって・・・」

 

「学校にそんなもん持ってきちゃいけないものなんだが・・・」

 

「終業式なんだから大目に見てよ~・・・」

 

全く・・・相変わらずの真面目さんなんだから・・・。

 

「・・・まぁいい。ちょっと読ませてもらうぞ」

 

・・・え?風太郎君が自分から漫画本を?

 

「・・・ど、どうしたの風太郎君?熱でもあるの?早めに帰って休んだ方が・・・」

 

「俺は正常だ。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・まぁ・・・その・・・なんだ。お前の頑張りがどれだけのもんかってのが・・・気になっただけだ」

 

風太郎君はらしくないことをしたせいか少し恥ずかしそうに頬を赤らめてる。もう・・・本当に素直じゃないんだから・・・。

 

「・・・うん。いいよ。ぜひとも読んでほしいな」

 

「ああ」

 

風太郎君は金賞や銀賞のページを無視して六海の作品が載ってるページを探して、六海の作品を静かに読み始めた。・・・そういえば・・・六海の作品・・・風太郎君がちゃんと読んでるところ見るの、これが初めてかも・・・。前に不慮の事故で六海の作品を見られた時は、内容ちゃんと理解してなかったみたいだし。風太郎君がどんなことを言うのかそわそわして待ってると、風太郎君が六海の作品を読み終えたよ。

 

「ど・・・どうだった・・・?」

 

「・・・俺は漫画なんて買う金がないから買ったことない・・・というか全く興味がないから読まなかったから・・・お前の望むような感想を伝えられないが、これだけは言えるな」

 

ごくり・・・

 

「お前の血が滲む様な努力・・・それが伝わった作品だった。入賞できたのも当然だと思う」

 

「・・・!」

 

「応募しておいてよかったな。そして、入賞おめでとう」

 

「・・・うん・・・うん・・・!六海・・・慣れないことや、無茶なこと・・・いっぱい・・・いっぱいやったよ・・・いっぱい頑張ったよ・・・」

 

「ああ。知ってるぞ。よく頑張ったな」

 

風太郎君が褒めてくれたこと、そして労いの言葉をかけてくれただけで・・・今まで我慢してたうれし涙が溢れてきた。

 

「六海は・・・夢を叶えるために・・・ただがむしゃらに1人で絵を描いてた・・・。お姉ちゃん以外の誰にも褒められることもなく・・・。でも・・・それだけじゃダメなんだって君が教えてくれた・・・本当に、ありがとう・・・」

 

「・・・俺はただ勉強を教えただけだ。むしろ俺のほうがお前たちからいろんなことを教わった。礼を言わなければいけないのはこっちの方だ」

 

「・・・風太郎君は優しいね」

 

六海たちこそ大したことをしてないのに、そんな風に言ってくれる・・・やっぱり風太郎君は優しいよ。

 

「俺は別に優しくはない」

 

「ううん、優しいよ。普段は愛想がなくて、意地悪ってだけで・・・ここぞって時に寄り添ってくれる、思いやりのある人。そんな君だからこそ・・・六海・・・ううん、私は、君の隣に、並びたいんだ」

 

「わ・・・私・・・?」

 

六海・・・ううん、私は自分の気持ちを包み隠さず、風太郎君に伝えた。風太郎君・・・君には・・・私のことを、知ってほしい・・・私が、あなたに抱いているこの気持ちを・・・ちゃんと認識してほしい。

 

「風太郎君。私は・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたのことが好きです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

私の放った言葉に、風太郎君は私が何を言ってるのかわからないのか、唖然としてるよ。・・・言った・・・言っちゃった・・・私の顔は自分でも赤くなってるのがよくわかるよ。

 

「・・・え?あ、あの・・・今なんて・・・?」

 

「す、好きって言ったの!!1回で聞き取ってよ!!」

 

「え・・・え・・・な、な・・・」

 

「というか、やっぱり気づいてなかったんだ。三玖ちゃんのは気づいてたのに・・・あんなにアプローチかけたのに、ひどいよ」

 

「ま・・・マジで・・・?」

 

今頃私の気持ちを知った風太郎君はひどく焦ってるよ。なんか、とっても新鮮だな。

 

「でも、それも許してあげる。だって・・・これで私のことも、意識せざるを得ないよね?」

 

「いや・・・あの・・・」

 

「返事の方は言わなくてもいいよ。それは・・・最後の楽しみにとっておくから、さ♪」

 

気持ちを伝え終えた私の気持ちは、とっても清々しくなった。

 

「・・・はい!超真面目モードおしまい!そんなわけだからさ・・・」

 

私・・・ううん、六海は超真面目モードから普段モードに切り替えて、彼ににっこりと微笑むよ。

 

「改めて・・・これからも六海のこと、よろしくね・・・"フーちゃん"♪」

 

「・・・っ!!」

 

ちゃっかりと彼をフーちゃん呼びした六海の世界は・・・まるで曇り空から快晴へと・・・そんな風に変わったと改めて実感できたよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『彼女は見た!』

 

ドサッ・・・

 

六海が風太郎に告白したこの瞬間を・・・2人に気付かれず、目撃した人物がいた。

 

「・・・・・・っ!」

 

その人物は、六海を探しに来ていた5番目の姉、五月だった。五月は告白の一部始終を目撃してしまい、動揺してかばんを落としてしまった。この時の五月の顔は、赤く染まっていたのであった。

 

49「勝負後の告白」

 

つづく




六つ子豆知識

中野六海(3年生)

イメージCV:BanG Dream!の戸山香澄

好きな食べ物:ショートケーキ
嫌いな食べ物:ゴーヤ
好きな動物:猫
よく見るテレビ:お笑い番組
好きな飲み物:牛乳
日課:絵描き
好きな映画:アニメーション系
お気に入りスポット:図書室
よく読む本:魔法少女マジカルナナカ
水着の仕入れ:ネットオークション
朝食は何派?:麺派

中野家六つ子の姉妹の六女の末っ子。性格は以前と全く変わらないが、極稀に大真面目モードというものが存在しており、その時の一人称は六海ではなく、昔の私となっている。今年で始めたアルバイトである漫画アシスタントの仲間たちとは現在良好な関係を築いている。
坂本との一件で風太郎に恋をしてからというもの、さりげなく自分をアピールをしていたが、気づいてもらえず、中々もどかしい感情を湧いていた。しかし、週刊誌の最優秀銅賞を獲得した翌日の終業式の日、自分の思いをありったけに風太郎にぶつけ、自身の恋心に気づかせた際にはとても晴れ晴れとした気持ちになった。その際に、風太郎のことをフーちゃんと呼ぶようになった。後さりげなく妄想対象に風太郎が追加してあるのは姉妹には内緒だ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秘密の痕

今回はお待ちかね水着回です。今話で着る六海ちゃんの水着はワンピース型のピンクを基調とした色合いのプリティな水着で胸部分にかわいらしい白いリボンがついています。胸元はバッチリと見えています。違うそうじゃないというコメントは一切受け付けませんので悪しからず。想像してみてかわいいと思ったら何よりです。

次回からのシナリオはデート回を数回、いったん原作に戻り、そして残りのデート回を一気にやり、その後は完全オリジナルシナリオ数話を載せるって考えています。デートの順番はアンケートの結果の上位からやるつもりです。


終業式から1週間ほどの時が経ち、私と四葉と六海は1枚の用紙とにらめっこをしていました。何故かというと、ここで1つの問題が発生したからです。

 

「暑~・・・ねぇ、海行きたいんだけど・・・」

 

「まだ言ってる・・・しつこい・・・」

 

「・・・ねぇ、海もいいんだけど・・・これ、どうしよう?」

 

「どうしようって・・・そりゃ新しい家を探すしかないじゃない」

 

今現在私たちが見ていた用紙というのは、このアパートの解約申入書です。実はこのアパート、諸事情で取り壊しが予定しているらしいので、賃貸借契約の解約することになったそうです。なので私たちはこの家から退去しなくてはいけなくなったのです。

 

「この家を退去しなくちゃいけないなんて・・・引っ越して半年でこれはツイてない・・・」

 

「ひとまず電話してくれてる一花を待とっか」

 

「お引越しの猶予も半年もあるから大丈夫だよね」

 

「いや・・・半年って・・・ちょうど受験シーズンなのですが・・・」

 

私の一言に二乃と六海は顔を引きつらせています。いや、だって・・・受験シーズンに入ってからでは遅いと思いますし・・・。

 

「そっかぁ・・・受験シーズンかぁ・・・はぁ・・・」

 

「考えたくもなかったわね・・・」

 

「早いかもしれないけど、夏休みの間に済ませちゃえるといいね」

 

「取り壊し・・・少し寂しいな・・・少しの間だったけど・・・この家にも思い出が詰まってるもんね」

 

三玖の気持ちには大きく同意できますね。少しの間でも、この家で姉妹と上杉君共に様々な困難を乗り越えてきた思い出は、今も、これからも忘れることはないでしょう。

 

「・・・あ、補修とかあるのかしら?」

 

「うわ、急に現実的になったよ・・・」

 

「あはは・・・」

 

「一花にこのことを伝えておきますね」

 

引っ越しの件を一花に伝えるため、私は一旦席を外し、外に出ようとします。

 

「フータローにもこのこと教えておかないと」

 

「夏休みに入ってから一度も会ってないね」

 

「家庭教師はお休みって言ってたけど・・・」

 

「早く会いたい」

 

「まぁ、長い夏休みだもの。チャンスはいくらでもあるわ」

 

・・・なんだか姉妹が気になる会話をしているのが聞こえますが・・・今は一花の方です。一花は・・・あ、下の方にいました。

 

「一・・・」

 

「ええ。私はもういなくなるので・・・これからは妹たち5人でということになります」

 

「!!」

 

え・・・一花が・・・いなくなる?これからは私たち5人?これは・・・い、いったい・・・どういうことなのでしょうか・・・?もしかしなくても・・・まさか・・・そんな・・・。私の頭の中では、1つのことで頭がよぎりました。いなくなるとはつまり・・・そういう・・・?

 

「!あれ?五月ちゃんどうしたの?」

 

「え⁉あ、いえ・・・あの・・・実はですね・・・」

 

話を聞いてしまった・・・何て言えるはずもなく、私は一花に引っ越しをしなくてはいけないことを伝えました。話を聞いた後は引っ越しの段取りをしようって言ってましたが・・・やっぱり・・・気のせい・・・なのでしょうか・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

『一方その頃・・・』

 

その頃上杉家では・・・リビングで風太郎がらいはによって正座をさせられていた。・・・らいはに、あるものを見られたことによって。

 

「今朝お兄ちゃんのお布団の下からこんな本を見つけました」

 

「いや・・・」

 

「まさかお兄ちゃんがこっそりこんな本を読んでるなんて・・・」

 

「それは・・・」

 

「びっくりだよ!!」キラキラ

 

らいはの顔は怒っているのではなく、その逆でめちゃくちゃ嬉々としており、目が輝いていた。というのもらいはが見つけたのは、高校生のための恋愛ガイドだった。これまでの二乃の告白、修学旅行での三玖の告白、そしてつい先週の六海の告白によって、恋愛とは何なのか、自分の気持ちはどうなんだとわけがわからなくなり、その疑問を解消するために買ったのがそれである。しかし、やはり家族に・・・それも最愛の妹に見られたとなると、風太郎自身、気まずさでいっぱいになる。

 

「ち・・・違うんだらいは!無理やり友達に貸されただけで・・・たまたま・・・そう!たまたま布団の下に置いていただけだ!!」

 

「お兄ちゃんに友達なんていないでしょ」

 

「うぐっ・・・!」

 

らいはに痛いところを突かれて、言い訳ができなくなる風太郎。実際に風太郎が友達といえる人物といえば、六つ子の姉妹と、前田に坂本、武田くらいだから仕方ないが。

 

「夏休みに入ってからずっと引きこもってたから心配してたんだよ。さっそく五月さんたちに会いに行こうよ」

 

「は?なんでだよ、やめてくれ。夏休み中は宿題だけ出して家庭教師は休みにしたんだから、どうしてわざわざ俺から会いに行かなきゃならん」

 

六つ子たちに会いに行こうと提案するらいはだが、家庭教師を休みにした手前、自分から会いに行くのは風太郎自身気が引けている様子である。

 

「来週の日曜日とかどう?海行こうよ、海!五月さんたち誘ってさ」

 

「日曜は無理だ。ケーキ屋のバイトがあるからな」

 

「もう!」

 

六つ子たちに会おうとしない姿勢、既に予定を組んでしまっている風太郎にらいはは若干不満気だ。

 

「・・・でもそれなら二乃さんには会えるかもね!もしかしたら、みんなも遊びに来るかもしれないね!」

 

「!・・・・・」

 

プルルルル、プルルルル・・・

 

「あ、電話だ。はーい、上杉です」

 

六つ子たちの話をしていると、家の電話が鳴りだした。らいはが電話の応対をしていると、らいはが受話器を持ってきた。

 

「お兄ちゃん、アルバイト先の店長さんから電話だよ」

 

「店長が?」

 

ケーキ屋、Revivalの店長が電話をかけてきたということは、今後のバイトについての事だろうと思い、風太郎は受話器を受け取り、電話を変わった。

 

「電話変わりました。店長、どうしましたか?」

 

≪上杉君、すまん。店を少しだけ休みにしようと思う≫

 

「え・・・」

 

店を少し休むことになったと聞き、風太郎は唖然となった。理由は、どうやら店長はバイク事故にあってしまい、足を怪我してしまったようなのだ。店長不在では店が回らないということで、入院している間は店を休むことになったらしい。バイトが休みになったと聞いたらいはは来週の日曜日に六つ子たちと一緒に海に行こうと言い出した。らいはの強い要望から断ることができなかった風太郎は仕方なくこの日に予定を入れることになったのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『偶然のない夏休み』

 

それから数日が経ち、海に行く約束をした日、六つ子たちを海に誘おうとらいはと風太郎が六つ子たちのアパートまでやってきた。

 

ピンポーン

 

が、いくらピンポンを押しても六つ子たちは出てくる気配は一切なかった。

 

「あれー?お留守だー。せっかくお兄ちゃんのバイトもなくなったのになー・・・」

 

「じゃあもういいだろう・・・つーか本当に行くのかよ・・・」

 

海に行くことにたいしてらいははノリノリだったが、風太郎はやはり気が乗らない様子。

 

「・・・もう先に行ってるのかなー?」

 

「?何の話だ?」

 

「ううん、何でもない!さ、早く行こ、お兄ちゃん!」

 

若干気になるワードが聞こえたような気がしたが、今日はやけに強引ならいはに連れられ、アパートを後にした。そして、移動して時間が経ち、2人は海に到着した。

 

「海だーっ!!」

 

「・・・じゃあ俺は休んでるから、遊んでこいよ」

 

「ダメダメ、海に来たら海に入らなきゃ」

 

風太郎はパラソルの下で休もうとしたが、らいはによってそれは阻まれた。らいはがこんなに強引なのも無理はない。なぜなら、らいは知っていたのだ。五月との事前のやり取りで6人が今日海に来ることを。

 

(偶然を狙うってのもいいかもね♪)

 

偶然を装うとしている辺り、中学生になったらいははちょっぴりマセていた。

 

「!なんだ、お前らも来てたのか」

 

「!!」

 

六つ子たちが来たと思ってらいはは顔を振り向いた。

 

「おお、上杉じゃねーかコラ」

 

「よぉ、久しぶりやな、心の友よ」

 

「やぁ、夏楽しんでるかい?」

 

だが偶然出会ったのは待ち人の六つ子たちではなく、前田、坂本、武田の男3人衆であった。

 

「違う」

 

「「「!!?」」」ガビーン!!

 

初対面するらいはの心ない発言に男3人衆は少なからずショックを受ける。

 

「嘘だろ・・・お前ら3人で来たのか?」

 

「俺たちだけじゃねぇ。クラスの奴らも来てるぞ」

 

「おうよ。真鍋や松井たち女子もおるで」

 

どうやらこの男3人だけでなく、風太郎のクラスメイトもこの海に来ているようだ。

 

「君にもメールしてたはずだけど・・・見てなかったのかい?」

 

「そういやスマホはしばらく見てなかったな」

 

「おいおい、ちゃんと確認しぃや」

 

風太郎が男3人と話している間にらいはは辺りに六つ子たちがいないか見回すが、その姿はどこにも見当たらなかった。

 

(・・・あれー・・・?おかしいなぁ・・・何で会えないんだろう・・・?)

 

六つ子たちが海に現れないことに疑問を抱くらいは。この海の上にある車線路には、ものすごく見覚えのあるリムジンが通り過ぎていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日は姉妹全員で海に行く予定・・・だったのですが、引っ越しする日が今日と被ってしまい、いけなくなってしまいました。なので今私たちはアパートにある荷物を全てまとめて、江端さんのリムジンに乗って引っ越し先に向かっています。その道中で綺麗な海の景色が視界に入りました。

 

「わー、見て!海が見えるよ!」

 

「う~・・・海行きたかったよー・・・」

 

「仕方ないよ。今日引っ越す予定を組んじゃったんだもん。今度私たちで行こっか」

 

「フータローも海に行ってるのかな?」

 

「あの人は海に行くなんて柄ではないでしょう」

 

海の話でみんなが盛り上がっている間にも、リムジンは目的地に到着しました。その場所は、私たち全員、見憶えるのある場所です。

 

「まさか、またここに戻ってくるとはねぇ・・・」

 

そう、その場所とは以前私たちが住んでいたあの高級マンションでした。またこの場所に戻ってくるとは、誰もが思わなかったでしょう。私もそうです。

 

「言っとくけど、次の家が見つかるまでの繋ぎだから!勘違いしないでよ!」

 

「パパにフーちゃんを認めてもらえて、家庭教師に戻ってきたんだから別にいいでしょー?」

 

「二乃は強情だなぁ」

 

「うるさいわね!」

 

二乃の文句を聞きながら私たちは自分たちが住んでいた部屋まで向かいます。エレベーターで30階まで辿り着き、私たちの部屋までやってきます。中を見てみると、部屋は以前と全く変わっておらず、綺麗な状態のままでした。

 

「わっ!きれいなままだ」

 

「江端さんかな?ずっと掃除してくれてたのかも」

 

「お父さんは・・・やっぱりいないか」

 

「・・・・・・」

 

部屋がきれいなのは驚きましたが・・・それ以上に私は1つのことがずっと気がかりで仕方がありません。その気がかり作ってくれた原因が・・・一花です。

 

「あの・・・一花・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いえ・・・何でもありません・・・」

 

「そっかそっか」

 

一花にあの電話のことを聞こうとしましたが・・・やっぱり私にはできませんでした。あの電話で一花がいなくなると言っていたこと・・・それはやっぱり・・・この家を出る・・・と言う意味ですよね。一花は私たちの中で1番成熟していると感じてはいましたが・・・なんで急にそんなことを・・・。

 

・・・いいえ、一花だけではありません。修学旅行が終わってから、みんなどことなく変です。特に・・・先週の六海のあの告白・・・やっぱりあれは、そう言うことですよね・・・?先週までは名前で呼んでいたのに、今ではフーちゃんと呼んでいましたし・・・。

 

い、一度状況を整理してみましょう。上杉君の話だと、一花と二乃は上杉君のことが好きだと言っていました。一花は・・・どうなのかはわかりませんが・・・今回の家を出るというのはやはり上杉君と関係が・・・。二乃は見ていてわかるほどに上杉君に惚れています。以前のきつい言動や行動していた頃と見比べれば一目瞭然です。

 

三玖は温泉旅行の時に私に明かしてくれましたから知っていますし、修学旅行で告白もしました。四葉は6年前に上杉君に会っており、彼と再会してから四葉はずっと彼を見守ってきました。四葉が上杉君のことが好きなのは明らかです。そして私の唯一の妹六海も・・・彼のことが好きだったなんて・・・。彼への態度が徐々に変わっていっていましたが・・・まさか六海も彼のことが好きだったなんて、ずっと知りませんでした・・・。

 

一花が惚れ、二乃も惚れ・・・三玖に四葉、六海までもが上杉君に好意を・・・。なぜこんなことになってしまったのでしょう・・・。どれもこれも全部上杉君のせいです。今の現状、私はいったいどうすればよいのでしょうか⁉このままでは・・・とんでもない事態が起こるような気がしてなりません!

 

「フータローも久々に呼んであげよう」

 

「あら、いいわね」

 

「賛成賛成!」

 

「!!!」

 

三玖が今とんでもないことを言いだしましたよ⁉

 

「そ、それはいけません!!」

 

「「「え?」」」

 

私は必死になって電話しようと三玖を説得します。そうです・・・!いつもトラブルの中心に彼はいました・・・!今彼が姉妹に会ってしまえば、トラブルは避けられません!私にできることといえば、この平穏を保つこと!そのためにも・・・なんとしてでも説得しなければ・・・!

 

「彼も受験を控えて1人の時間が必要でしょう!ですからあまり迷惑にならないように・・・せめて!せめて夏休みの間だけは!!彼に会うのは避けましょう!!」

 

「何それ?そんなの嫌に決まってるじゃん。電話しよ」

 

「わあああああああああ!!!!」

 

「五月、うるさい」

 

「ちょっとは静かにしなさい!」

 

私の説得は空しく、六海は上杉君に電話をかけてしまいました。そして私は二乃と三玖に怒られてしまいました。ああ、もう・・・こんなことになったのも全部上杉君のせいです・・・。

 

「・・・ダメー、繋がんないや」

 

「充電切れ・・・とかじゃないみたいね」

 

「ほっ・・・」

 

上杉君が電話に出なかったので、ほっとしました・・・。ひとまず安心です・・・。

 

「フータロー・・・早く会いたいな・・・きっと今頃、1人で寂しくしてるよ・・・」

 

いや、あの・・・一応らいはちゃんもいるのでそんなことはないと思うのですが・・・。しかし・・・うぅ・・・どうして・・・どうしてこんなことに・・・。しかし今は・・・今は上杉君を姉妹に会わせるわけには・・・

 

♡♡♡♡♡♡

 

『物足りないもの』

 

一方その頃、海に来ていた風太郎はというと・・・

 

「学級長、右だー!」

 

「違うよ左だよー!」

 

「そうそこを左―!」

 

「だから右だってば!」

 

「どっちなんだよ!!」

 

クラスメイトのみんなと一緒に楽しくスイカ割りをやっていたのだった。

 

「この子、学級長の妹さんなんだって」

 

「かわいー」

 

「久しぶり、らいはちゃん。焼きそばあるけど食う?」

 

「食うー!」

 

らいはも真鍋を含めた女子たちと一緒に海を楽しんでいた。

 

「中野さんたち元気?」

 

「なぜ俺に聞く」

 

最初はあれだけ文句を言っていた風太郎だったが、なんだかんだ言って、クラスメイトと打ち解け合って、楽しく海を満喫している。そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気が付けばすっかり夜になっていた。

 

「あー・・・なんや、前田・・・大丈夫か?」

 

「上杉・・・まだいてぇぞ・・・」

 

「だからさっきから何度も謝ってるだろ・・・」

 

前田の額には棒で叩かれた跡ができていた。この跡はスイカ割りの際、前田はなぜか砂に埋められ、スイカと一緒に並べられていたのだが、風太郎が間違った指示を聞いてしまい、前田の頭を叩いてしまってできたものである。一応プラスチック製の棒なので怪我はないが。

 

※危ないので、絶対に真似しないでください。

 

「あんたまだうだうだ言ってんの?男なのにめそめそとだらしないわね」

 

「まぁまぁ。あの時は面白かったからいいじゃん。あれは楽しかったなー」

 

叩かれた跡をさすってる前田にほんの少しあきれる真鍋とその時のことを思い出して笑っている松井。

 

「上杉君も楽しそうでよかったよ」

 

「え・・・俺、楽しそうだったか?」

 

「うん。そう見えたけど・・・違った?」

 

「ただ自覚がないってだけでしょ」

 

「・・・・・・」

 

自分が楽しんでいたことの自覚がなかった風太郎はほんの少し驚いていた。思い返してみれば、風太郎自身も楽しかったとは思えてきている。なのだが・・・

 

「この後みんなで花火をするそうだが、上杉君、君はどうする?」

 

「いや、俺は帰ることにする。らいはも疲れて寝ちまったしな」

 

遊び疲れたらいはは風太郎の膝の上で確かに眠っている。よほど楽しかったのだろう。

 

「みんなによろしく伝えといてくれ」

 

風太郎がクラスメイト達に気遣っている姿勢に武田は少なからず驚いている。

 

「意外だね。上杉君がクラスに馴染もうとするなんて」

 

「そうか?元からこうだろ?」

 

「それはない」

 

「寝言は寝て言えや」

 

風太郎の発言にバッサリと否定をする前田と坂本。

 

「ま、去年・・・というか、中学の時と比べたらあんた、本当に変わったわよ。驚くくらいにね。何が・・・いえ・・・誰がそうしたのかは、言うまでもないわね」

 

「・・・・・・」

 

クラスメイトの気遣いなど今の今までなかった風太郎。それがこうしてクラスと馴染もうとしている姿には、中学の付き合いである真鍋も少なからず驚いている。そして、そんな風太郎を変えたのも、やはり・・・

 

「・・・数年ぶりに海に来て、お前らやクラスの連中と盛り上がれて楽しかった・・・それも事実だが、どこか足りないと感じてしまったんだ」

 

「バーカ、言わなくてもわかってるっての」

 

風太郎は真鍋たちに別れを告げ、らいはを背負って帰路を歩いていく。思い返すのは今日海で遊んだ思い出・・・だが、風太郎にとって1つだけ・・・足りてないものがある。

 

「あー・・・くそ・・・あいつらもいたら・・・もっと楽しいんだろうな・・・」

 

風太郎を変えた存在・・・六つ子たちが海にいなかったことに、風太郎自身本当に残念そうに一言呟いた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

引っ越しを済ませた次の日、らいはちゃんから電話がかかってきました。どうやら昨日らいはちゃんと上杉君は海に行ってきたようなのです。な、何ともまぁ・・・。と、とにかく昨日海に来れなかったことをちゃんとらいはちゃんに伝えないと・・・

 

≪へー、お引越ししてたんだ。だから海にいなかったんだね≫

 

「ええ。まさからいはちゃんたちが来るとは思っておらず・・・お伝えしないままにしてしまい、すみません」

 

「らいはちゃん!!?私もお話したーい!」

 

「ちょ、ちょっと待っててくださいね・・・みんなに代わりますから・・・」

 

姉妹のみんながらいはちゃんと話したがっていましたので、スピーカー状態にして、みんなにもらいはちゃんと話せるようにしました。

 

「わー!らいはちゃーん!久しぶりー!」

 

「そういえば妹ちゃん、もう中学生だっけ。おめでとう」

 

≪わー、ありがとう!≫

 

「早いね」

 

みんな楽しそうにらいはちゃんとお話ししてますね。それにしても・・・間一髪・・・でした・・・。もし昨日海に行っていたら危うく上杉君と鉢合わせするところでした・・・。今の姉妹たちと上杉君が出会ってしまったら・・・どうなるか予想もできません・・・。できる限る会わせないようにしなければ・・・

 

「それでなんだけどね・・・お兄ちゃんにちょこっとだけ代わってもらえないかなー?」

 

≪え?代わってほしいの?うん、いいけど≫

 

それにしても・・・姉妹は今何の話を・・・

 

≪・・・あー、もしもし・・・俺だが≫

 

「!!??う、上杉君!!??」

 

耳を傾けてみますと、スマホの通話から聞こえてきたのは上杉君でした。な、なぜこのタイミングで代わるのですか!!?

 

「あんたなんでスマホ見ないのよ」

 

≪あー・・・すまん。家にスマホ置いてきちまってて・・・。そ、それよりも・・・お・・・お前らに・・・て、提案・・・が、あるんだが・・・≫

 

「「「「「提案?」」」」」

 

上杉君の方から・・・提案?なんでしょうか・・・すごく・・・すごく嫌な予感がするんですが・・・

 

≪えー・・・その・・・嫌なら・・・まぁ・・・断ってくれてもいいが・・・≫

 

い・・・いったい何を・・・

 

≪・・・明日・・・その・・・ぷ・・・プールでも・・・行くか≫

 

!!!???

 

「「「「「!!」」」」」パァッ(^▽^)/!

 

「あ・・・あなたから誘うんですか!!!???」

 

≪!!??うおぉ・・・耳がキーンて・・・≫

 

まさか彼の方から誘ってくるとは思わず、私は声を大きく上げてしまいました。

 

≪ま・・・まぁ・・・嫌なら断っても・・・≫

 

「「「行く!!!」」」

 

「はい!私も行きたいです!」

 

「え・・・いや・・・あ、あの・・・」

 

「んー、せっかくのお誘いだし、乗っちゃおっかなぁ」

 

みんな迷うことなく上杉君の提案に乗っちゃってしまってます・・・これはまずい・・・本当にまずいです・・・わ、私はどうすれば・・・

 

≪あー・・・それで、五月はどうする?≫

 

「え、えっと・・・い、行きます・・・」

 

と、とにかく姉妹たちを放っておけば確実に上杉君に会おうとするに違いありません!そうなれば今のこの平穏は崩れ去ってしまいます!それだけは・・・それだけは何としてでも阻止しなければ!見ていてください、お母さん・・・姉妹の秩序は、私が守ります!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

電話の後はみんなでプールに行く準備を整えました。各各々、必要なものは荷物の中に入れ、水着は・・・さすがにさすがに前のものではきつくなってしまったので新しいものを買いました。こうして準備を全て終えて翌日、私たちはプールまでやってきました。・・・はぁ・・・来てしまいました・・・。

 

「ふぅー、今日も暑いねー」

 

「早くプールに入りたいねー」

 

「フータロー君、少し遅れてくるらしいし、先に入ってよっか」

 

私の不安をよそに、姉妹のみんなは楽しそうに話しています。・・・何もなければそれにこしたことはないんですが・・・。

 

「!三玖ちゃん、何見てるのー?」

 

「・・・・・・」じーっ

 

三玖が立ち止まってじっと見ているのは、この施設の注意書きでした。その注意書きの1部にはこんなことが書かれていました。

 

『入れ墨、タトゥーの方は入場をお断りさせていただいています。

(プリントシールもお断りさせていただいています)

退場していただいた場合も返金らは一切いたしません』

 

「・・・二乃、大丈夫?」

 

「なんでアタシなのよ。やってないわよ」

 

この中でやりそうだと思ったのか三玖が二乃に向かって入れ墨を入れてないか確認してきました。さすがにやってないでしょうに・・・。

 

「あはは、二乃はオシャレだからやってそうだよね」

 

「若気の至りで彼氏の名前を入れちゃったり」

 

「ありがち」

 

「あんたらアタシをどう思ってんのよ!」

 

「愛の暴走機関車じゃないの?」

 

「なんですって!」

 

・・・姉妹たちはここに来るまで、いたって普通の会話をしていますね・・・。

 

「・・・ま、相手との絆を刻み込むってのも、ロマンチックだけどね♡」

 

「やっぱり・・・」

 

「その調子でやるとか言わないでよー?」

 

「いや、さすがにやらないわよ。なんか痛そうだし」

 

「当たり前です!そんなことしたら不良の仲間入りですよ!」

 

「相変わらず五月ちゃんは真面目だなー」

 

・・・ふぅ・・・やはり上杉君がいなければ私たちは平和なんです・・・。どうか・・・どうか今日1日は、何事も起きませんように・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

施設に入った後私たちはさっそく新しい水着に着替えて、入水前のシャワーを浴びてプールに入りました。私は念入りに準備運動をしてから入りましたが。脚とかつってしまったら大変ですからね。プールの水は程よい冷たさで気持ちよかったですが、何よりみんな楽しそうにしていて何よりです。・・・しかし、まだ安心はできません。まだ来ていない上杉君という不安要素はまだ残っています。この平穏を保つために何としてでも・・・何としてでも姉妹が彼と会うことは避けさせなければ・・・。

 

くうぅ~・・・

 

・・・お腹が空きました。どうやらもうお昼の時間のようです。腹が減っては戦はできぬといいますし、そろそろお昼ごはんにすることにします。私はこの施設にある焼きそば屋さんで人数分の焼きそばを注文します。それにしても・・・んん~、このソースの香り・・・食欲がそそります・・・早く食べたいです。

 

「ほいっ、焼きそば6人分お待ち!」

 

「ありがとうございます」

 

「・・・お前・・・ついにそこまでの域に達したか・・・」

 

「!!?」

 

今ものすごく聞き覚えのある声で私に声をかけてきたのは、会うことを避けなければいけない人物、上杉君でした。

 

「う、上杉君!来てたのですか!!?」

 

「ついさっきな。そんなことよりお前・・・」

 

「こ、これは違うんです!!これはみんなで食べる分で・・・」

 

「にしても1人1人前か・・・」

 

・・・ど・・・どうしましょう・・・彼がここに来るのはわかっていましたが・・・こんなところであっさりと・・・完全に油断してました・・・。

 

「・・・ところであいつらは・・・」

 

「う、上杉君!!この水着はどうですか?あなたが急に言うものですから慌てて買ってきたんです。前のものは少々収まりきらなかったので・・・」

 

と、とにかくここは別の話題で何とか誤魔化さなくては!!

 

「え?まぁ・・・いいと思うぞ・・・。・・・集まるなら別にプールじゃなくてもよかったんだが・・・」

 

「いえ、みんな喜んでましたよ。むしろ、今年はまだ夏らしいことをできてませんでしたから、ちょうどよかったです」

 

「そうか・・・そりゃよかった・・・。・・・それで、あいつらはどこ・・・」

 

「こ、この水着の花柄は今年の流行でして!!少し照れ臭いですが取り入れたりして・・・」

 

「・・・おい、いつまで立ち話をする気だ」

 

「ですよねー・・・」

 

や、やっぱり長く誤魔化せるほど上杉君は甘くありませんでした・・・。うぅ・・・どうしましょう・・・このままでは・・・やはり彼とみんなが会うことはもう避けられないのでしょうか・・・。せっかく・・・せっかく夏休みで元のように落ち着いてきたのに・・・。・・・いいえ!弱気になってる場合ではありません!今は私がしっかりしないと!そう息巻いていると、向こうの方で一花がいるのが見えました。ま、まずい!早く上杉君を遠ざけないと!

 

「う、上杉君!みんなはあっちです!」

 

「うおっ⁉」

 

一花の正反対の方向へ上杉君を無理やり誘導していますと、今度は四葉を発見しました!ああ・・・もう・・・なぜこんな時に・・・

 

「す、すみません!!やっぱり隠れてください!!」

 

「はあ?お前何言って・・・」

 

「もっと身をかがめてください!何でそんなに大きいんですか!!」

 

「無茶言うな!!」

 

今の私はもう必死で上杉君を茂みに隠させようとして、周りが見えていません。しかし周りを気にする余裕は私にはないわけで・・・

 

「あのー・・・」

 

「2人で何やってんの?」

 

「あ・・・」

 

「一花・・・四葉・・・」

 

・・・終わった・・・出会わせてはいけないというのに・・・出会ってしまいました・・・。

 

「あ・・・あははは・・・上杉君が到着したみたいです・・・」

 

ど・・・どうしましょう・・・このままでは・・・修学旅行の二の舞に・・・

 

「フータロー君久しぶりー。みんな会いたがってたよ」

 

「さあさ!立ってください!みんなで遊びましょー!」

 

「あ、ああ」

 

「・・・あれ?」

 

何でしょう・・・私の予想していた光景とは全然違う光景です。何というか・・・平和そのものです。

 

「上杉さん、ちょっと日焼けしました?」

 

「あー、一昨日海に行ってたからそのせいだろう」

 

「ししし、似合ってますよ!」

 

「そ、そうか」

 

「ほらほら同級生の女の子の水着はどう?これが目的だったんでしょー?」

 

「・・・やっぱプールはやめとくべきだった・・・」

 

「はは、冗談冗談。フータロー君は相変わらずだなぁ」

 

なんというか・・・あっさりしすぎているような・・・。四葉は過去のことは洗い流したように見えますし・・・一花も一花で家を出る一件は無関係だったということでしょうか・・・?・・・つまりは・・・私の勘違い?・・・なんだ・・・早とちりしていたみたいで恥ずかしいです。

 

「フータロー!」

 

「フー君!」

 

「フーちゃーん!」

 

ほんの少し安心したのもつかの間でした・・・

 

「「「会いたかった!!」」」

 

「ぐおっ⁉」

 

上杉君に気付いたのか二乃と三玖、六海がこちらにやってきて上杉君に抱き着いてきました。

 

「お、おう・・・二乃も三玖も六海も元気だったか?」

 

「うん!みんな元気だよ!」

 

「そうか・・・そりゃ何よりだ」

 

・・・・・・こ・・・これは・・・

 

「っていうか聞いて。コンタクトが流されちゃってよく見えないのよ。本当にフー君なのかしら?よく見せて。むしろアタシを見て」

 

「六海ね、メガネが流されないように工夫したんだー。ほら、このメガネストラップのおかげでこの通り落ちない!偉いでしょ?」

 

「プールに誘ってくれて嬉しかった。暑いけど、平気?日焼け止め持ってきた。使う?」

 

・・・二乃が水着を強調させるように見せびらかしたり、六海がメガネストラップを利用して意図的に自身の胸まで落としたり、三玖が日焼け止めを塗ってもらおうと迫ってきたりと・・・

 

「どう?似合ってる?」

 

「ほら、もっとよく見て」

 

「私にも、塗ってほしいな」

 

・・・こ、この3人は・・・本気だ!!!

 

「・・・・・・あー・・・その・・・」

 

上杉君は3人の積極的な行動に気まずそうに視線を逸らしているがわかりますが・・・。

 

「よーし!みんな揃ったね!ご飯食べたらさっそくあれやろう!!」

 

「え?あれって・・・」

 

「まさか・・・」

 

四葉が指をさした場所には、ここからでも高いとわかるウォータースライダーでした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ご飯を食べ終えた後は、有言実行と言わんばウォータースライダーまでやってきました。1番上の場所まで来てみたのですが・・・ううぅぅ・・・た、高いです・・・。

 

「わー・・・」

 

「い、意外と高いわね・・・」

 

「私・・・フータローにお願いしたんだけど・・・」

 

「ま、まぁ・・・そう言わずに・・・」

 

「一花ちゃん、日焼け止め塗り終わったよー」

 

「わー、ありがとー。六海にも塗ってあげるね」

 

ひ、ひとまずは三玖に日焼け止めを塗って少し誤魔化していますが・・・やはり意識してしまいます・・・。高さはもちろんですが・・・この・・・恋する姉妹の動向にも・・・。

 

「あ・・・あの・・・やっぱりやめませんか・・・?」

 

「大丈夫だってー。五月ちゃん、ジェットコースターでも楽しそうにしてたじゃん」

 

「はは、まぁ、怖くなったらお姉ちゃんが手握っててあげるから・・・ね?」

 

「や、約束ですよ!本当に、手を握っててくださいね!」

 

「・・・結構並んでるなぁ・・・」

 

「ねぇ、フー君」

 

はっ!一花たちと約束してる間にも二乃が上杉君に声をかけて・・・

 

「店長の話聞いた?今度お見舞いに行きましょうよ」

 

「そうだな。俺も行こうと思ってたところだ」

 

「春も呼んでおきましょう。あの子、アタシ達に会うのが老後の楽しみなのにって電話で嘆いてたし」

 

「俺たちと同じ年だろうが・・・」

 

・・・あ、あれ・・・?

 

「何の話かわからないけど、私も行く」

 

「六海も!」

 

「あんたたちには関係ないでしょ。バイトの話よ」

 

「あー!アルバイトを口実に逃げてる!」

 

「ずるい」

 

「うるさいわね」

 

・・・何というか・・・一花と四葉に会った時もそうでしたけど・・・

 

「え?お前ら、あのマンションに戻ったのか?」

 

「はい、上杉さん、遊びに来てくださいよ」

 

「またオートロックで入れなかったりして」

 

「え?そんなことがあったの?知らなかった・・・」

 

「エントランスで入れなかったのは俺だけじゃないけどな」

 

「ちょ、ちょっと!いつの話を・・・ていうか何言うつもり⁉」

 

・・・会話が思っていた以上に穏やかです。少なくとも、修学旅行の二の舞にはならないと断言できるほどに。・・・やはり私の早とちりだったのでしょうか。・・・そうですよね・・・私はいったい何を心配して・・・

 

「次の方、お待たせしました!こちらのボードは2人乗りです。これから先は2人一組でお並びください」

 

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

 

え・・・ちょっと・・・2人1組って・・・そんなことを言いだしたら・・・

 

「・・・フーちゃん!六海と乗ろうよ!ね?ね?」

 

「え・・・いや・・・」

 

「フータロー。私と乗ろう。大丈夫、損はさせないから」

 

「損って・・・何が⁉」

 

「ちょ、ちょっと!アタシがフー君と乗るのよ!」

 

「さ、3人とも落ち着いて!」

 

「もー!みんな見てるからー!」

 

・・・やはり・・・こうなってしまうのですね!!もう何となく予想はついてましたよ!ああ、もう・・・せっかく穏やかな空気になっていましたのに!!どうしてこうなってしまうのですか!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

言い争っていても埒が明かなかったので、公平にグー、チョキ、パーのじゃんけんで2組のペアを決めて、3組になった側はそこからグッパのじゃんけんでペアを作り、残った1人は最初に乗ったペアの誰か1人とペアを組むことで場が収まりました。納得がいったみんなはさっそくじゃんけんでペア決めを始めました。その結果・・・

 

「六海、いつもより楽しそうだね」

 

「うん!全員で一緒にこうして遊べるのが何よりも嬉しい!」

 

グーのペアが一花と六海・・・

 

「三玖、あんた変わったわね」

 

「うん。もう弱気になってらんないから。それに・・・告白してからはなんだか・・・景色が違って見えるんだ」

 

「・・・うむむ・・・このままじゃいけないわね・・・」

 

チョキのペアが二乃と三玖・・・それで残ったパーのグループが私と四葉と上杉君になったわけ・・・なんですが・・・

 

「一花と六海のところに行ってくるから、楽しんできてくださいね!」

 

「ああ!四葉、待ってください!」

 

グッパのじゃんけんであろうことか私と上杉君がペアになってしまいました・・・。早く乗りたかったであろう四葉急いで一花と六海のペアのところまで行ってしまいました・・・。やっぱり変わってって言う前に行ってしまいましたし・・・どうして・・・こんなことに・・・。

 

「・・・あー・・・どうする?やっぱりやめて四葉と乗るか?」

 

「や、やめるだなんて・・・なんてこと言うんですか!まるで私が意識してるみたいじゃないですか!」

 

「だって今も躊躇ってるし」

 

「こ、これは・・・この高さに躊躇してるだけです。ただ・・・それだけですが・・・一旦日焼け止め塗り終わるまで少々お待ちください」

 

「あっそ」

 

ひとまず私は平常心を保つために日焼け止めを塗っておきます。

 

「・・・それにしても理解できません。二乃も三玖も・・・六海まであなたと乗りたいと言い出すんですから・・・。本当に、どうかしてます・・・」

 

「・・・ああ、全くだな。3人とも、本当にどうかしてる」

 

上杉君の言葉で自分が失言してしまっている気が付きました。早く訂正しなければ・・・

 

「い、いえ、今のは言葉の綾でして・・・決して3人を否定しているというわけでは・・・」

 

「こんな俺なんかを選ぶなんてどうかしてるという意味だ」

 

「!」

 

上杉君が口にしていたのは、何もボードの件ではなく、恋愛関係の方を言っていたことを私は気が付きました。

 

「いつだったかお前に相談した時と何ら変わってない。それどころか問題が余計に増えちまって、それを先送りして思うがままこんな所に誘っちまった」

 

確かに普段の彼ならばプールなんて賑わう場所に誘うことなんてしませんが・・・

 

「・・・もっと本を読んで、早急に自分の気持ちを見つけ出さなければ・・・。じゃないと、俺を選んだあいつらに申し訳が立たん」

 

・・・上杉君は・・・姉妹たちの気持ちを真剣に受け取って・・・真剣に悩んでくれていたのですね・・・。夏休みの間、今日を除き、私たちに会おうとしなかったのは、ずっと答えを探していたんですね。真剣な彼の姿を見て、私は思わず笑みを浮かべました。

 

「・・・ふふっ」

 

「・・・なんだよ?」

 

「いえ。あなたが真面目に考えてくれてるようで安心しました。あなたは相変わらず頭でっかちですね」

 

「・・・お前にだけは言われたくないね」

 

私の一言に上杉君は素っ気なくそれだけを返しました。

 

「私も姉妹の気持ちを知ろうといろいろ調べたからわかるんです。結局この世は教科書だけではわからないことだらけでした。ですから、今日のようにあなたが思うがままに行動してみたらいいのではないでしょうか」

 

「俺の思うがまま・・・か・・・」

 

「あれこれ考えるより、やってみてわかることも、たくさんあると思いますよ」

 

「・・・そんなもんかね・・・」

 

「そんなものですよ」

 

私の言葉を聞いた上杉君は少し頭をかきました。今はまだわからなくても、上杉君、私はあなたが最善な答えを出してくれると、信じていますよ。

 

「次のお2人どうぞ」

 

あ、話している間に、私たちの番がやってきました。

 

「ではこちらに座っていただいて、後ろの人の足の間に前の人を挟む形で・・・」

 

・・・え?そういう体制で乗らなければいけないんですか・・・?この乗り方・・・もし私が前にいたら・・・ああ、想像もしたくありません!なら後ろの方にいたら・・・これ、彼の頭が私の胸に当たるのではないですか?そう考えたら・・・うわぁ・・・どっちも地獄です!!

 

「え、えっと・・・前・・・い、いえ!や、やっぱり後ろ!後ろでお願いします!」

 

「結局やるのかよ・・・」

 

「ですがもう少しお待ちください・・・心の準備と日焼け止めがまだ・・・」

 

「まだ言ってんのか・・・何回目だよそれ」

 

「ですが・・・ですが・・・」

 

「はぁ・・・手、握れば平気か?」

 

ドキンッ

 

上杉君・・・それは卑怯です・・・。思わずドキッとしてしまったではないですか・・・。

 

「ば・・・バカにしないでください!こんなのはへっちゃら・・・そう、余裕です!」

 

私は強がってボードの後ろ側に乗りました。・・・ハッキリ言ってしまえば、この高さから滑るのはやはり怖いです。

 

「そうかよ。じゃ、失礼するぞ」

 

上杉君はお構いなしにボードの前まで移動し、、私の足の間に座ってきました。

 

ドキッドキッドキッ・・・

 

ああ・・・なぜでしょうか・・・ただ彼が前に座るだけなのに・・・なぜこんなにも胸が高鳴ってしまうんです・・・?そう考えている間にも、彼の頭は私のお腹に乗っかって・・・

 

「・・・枕みてぇ」

 

「・・・・・・」

 

上杉君のこの一言によって、胸の高鳴りは一気に冷めました。そして、私は恥ずかしさで顔を赤くなっていきました。ボードが滑り台と流れる水に乗って早く滑っても、絶叫しなかったほどに。この男は本当に・・・人が気にしていることを・・・!こんな失礼極まりない人を好きになるなんて・・・やっぱり3人とも・・・どうかしてます!!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

私たちが帰るころには、もうすっかり日が暮れていました。結構長いこと日にあたっていたこともあって、日焼け止めを塗っていない四葉と上杉君は日焼けをしていました。

 

「はー、楽しかったねー!」

 

「ねー。スライダーも楽しかったし、私たくさん泳いじゃったよー」

 

「お姉ちゃんはもう疲れちゃったよー。五月ちゃんに何度連れていかれたことか・・・」

 

「遊園地の時と同じね」

 

「うん、デジャヴ」

 

あ、あれれれ・・・私、そんなにはしゃいじゃってましたか?確かにあのスライダーは面白かったので、何度も一花をついてきてもらいましたが・・・。

 

「あれ?四葉ちゃん、水着の痕がついちゃってるよ?」

 

「え?わー!本当だ!」

 

「日焼け止めのクリームを塗らないからですよ」

 

「フータローも日焼けで真っ赤だよ」

 

「おお、そうだな」

 

「まぁでも、男の子はそれぐらいの方がちょうどいいかもね」

 

「!ねぇフー君、その右手の痕何?」

 

「ん?」

 

二乃に右手を指摘されて見てみますと、上杉君の右手の一部は日焼けしていませんでした。

 

「なんだこれ?」

 

「そこだけ日焼けしてないわね」

 

「何かつけてたの?」

 

「いや・・・何もつけてなかったはずだが・・・」

 

「本当?」

 

「なんでだろー?」

 

「うむむ・・・謎ですねー・・・」

 

・・・そういえば、ウォータースライダーで上杉君とペアになったあの時、私は日焼け止めを塗って手で上杉君の手を握っていたような・・・。・・・・・・はっ!!??ま・・・まさか・・・あの上杉君の右手の痕の正体って・・・!

 

「わ、私は何も知りません!!!!」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「これ以上、火種を増やすのは御免です――――!!!!」

 

でも結局・・・みんなに問いただされて、原因を知った二乃たちに睨まれました・・・。四葉と一花は苦笑いでしたが・・・。もう・・・こうなったのは何もかも上杉君のせいですよ・・・。

 

50「秘密の痕」

 

つづく




おまけ

お姉ちゃんたちに質問してみた!パート2!

六海「ふぃ~・・・。さ、こんな暑い中、第2回のこのコーナー、言っちゃおっかな~・・・。第2回のテーマは・・・夏にちなんで夏休みに行きたい場所はどこか、だよ。夏でしかできないこと、夏じゃないと遊べないものがたくさんあるけど、みんなは夏はどこで遊びたいのかな?じゃ、さっそく聞いてみよっか。・・・ああ、暑いよ本当に・・・」

一花の答え
一花「そーだな~・・・温泉か銭湯には行きたいねー。仕事の後に入って、それから冷房の効いた部屋で寝るのが特に気持ちいいんだよねー。この夏だと特にそう思うよ」

二乃の答え
二乃「断然海よ!・・・と思ってたんだけど、プールも悪くなかったわね。それにしても・・・フー君から誘ってくれるなんて・・・♡・・・て、何よその顔は?」

三玖の答え
三玖「山。前にも言ったけど、夏にしかできないことはちゃんとある。山に行くことになったらしっかりと教えてあげるね」

四葉の答え
四葉「花火大会!やっぱりこれは私たちにとって大切な行事だし、何より去年の花火大会はいろいろあったけど楽しかった!また去年みたいに花火やりたいなー。もちろん、上杉さんとらいはちゃんと一緒に!」

五月の答え
五月「夏に行きたい場所、ですか?今年は受験シーズンもあるので、去年のように遊ぶ回数は少なくなるでしょうが・・・強いて言うなら、夏のスイーツフェスがあるお店でしょうか。今年は夏限定のスイーツが・・・て、何ですかその予想通りみたいな顔は?まるで私が大食いキャラみたい・・・え?事実でしょって?む、六海ーーーーー!!!!(怒)」

六海「うんうん、みんな行きたい場所がはっきりしてるねー。みんなの答え聞いてたら六海も行きたくなってきちゃった。ちなみにちなみに六海はねー、コミケに行きたいなー。今回はどんな作品と出会えるんだろう・・・楽しみになってきちゃった!早くコミケ当日にならないかなー♪
次はどんな質問にしようかなー。ちょっと楽しくなってきちゃった♪それでは、次の質問してみたをお楽しみにー♪」

お姉ちゃんたちに質問してみた!

夏休みに行きたい場所はどこ?  おわり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スタンプラリーツアー

皆様のおかげで、この作品のお気に入り人数がついに300に突入いたしました!私の作品を読んでいただき、お気に入りを入れてくださった皆様には感謝しております。ありがとうございます!そして毎度遅くなって申し訳ございません。とりあえずは前の3カ月以上かかるというのは避けるつもりですが・・・もしかしたら、また遅くなる可能性がありますので、あらかじめご了承ください。

今回は前回の前書き通り、アンケートの結果の上位の子からのデート回です。ぶっちゃけ今回はその子の趣味全開??だと思いますです。


「2人ともごめんねー。六海のお買い物に付き合ってもらっちゃって」

 

「大丈夫大丈夫!荷物持ちなら任せてよ!」

 

「私も、ちょうど欲しい本があったから、ちょうどよかった。だから気にしないで」

 

夏休みの真っ最中の中、六海は漫画を描くためのインクや用紙が切らしちゃったから、その2つがある本屋さんで三玖ちゃんと四葉ちゃんとでお買い物をしてるよ。必要なものはさっきあげたインクと用紙、それから新しいペン・・・もののついでに六海の欲しい漫画を買おうと思ってるよ。いやー、このお店は本当にいいところだねー。漫画家に必要な道具も揃えてるしさ。

 

「それよりも、本当にいいの?私たちの欲しいものまで買ってくれるって言ってたけど・・・」

 

「お金の方は大丈夫?」

 

「心配しないでいいよ。実は銅賞をとったおかげでお給料に大きいボーナスをもらっちゃったんだー。おかげさまでお金いっぱいだから!だからちょっと奮発しても問題ないんだよー♪」

 

前に六海が応募した漫画雑誌の最優秀賞決定戦。あれで銅賞をとったことでね、先生から労いの意味も込めてボーナスをもらったんだよ。入ってた額も結構あったからお財布の中はもうほくほく♪本当に、応募してよかったよ。おかげで夢にまた1歩近づいたし、アルバイト仲間ともより仲良くなって、お金ももらっちゃったし、そして何より・・・フーちゃんに告白することができた。もう言うことなしだよ。

 

「私はその奮発が心配。ちょっと調子に乗るとすぐ散財するし」

 

「失礼な!六海はそんな失敗はしないよ!」

 

「いや結構な頻度であるような・・・」

 

三玖ちゃんも四葉ちゃんも何を言っているのやら・・・六海はそんなに無駄遣い激しくないもん!そりゃこれまでもナナカちゃんグッズとか器材とか漫画とかでお金がなくなっちゃうけど・・・え?それは散在してるし無駄遣いも激しいって?う、うるさーい!六海が散在してないって言ったらしてないんだ!!

 

「と、とにかく!六海のことは気にしないで!ほら、スランプの時にはいろいろと協力してもらったからそのお礼ってことで!ね?ね?」

 

「逃げてる・・・」

 

「ははは・・・まぁ、そういうことなら・・・」

 

なんか三玖ちゃんからジト目で見られたけど・・・何とか納得してもらえた・・・。ちなみに、逃げてるわけじゃないよ?だってこれは無駄遣いじゃないからね。有無は言わせないよ?

 

「・・・じゃあ、気になってもの、ちょっと取ってくる」

 

「あ、私も行く!」

 

三玖ちゃんは自分が欲しいものが置いてある場所まで向かっていった。四葉ちゃんはそれについていってる。三玖ちゃん、何の本が欲しいのかなー。大体想像がつくけどね。

 

「・・・ん?何あれ?」

 

三玖ちゃんについていこうと思ったら、途中で何か設置してあるのに気が付いたよ。なんだろう・・・?あれ前に来た時はなかったはずなんだけど。なんだろうと思って六海は興味範囲で近づいてそれを見てみる。

 

「あ、これ・・・コイ・ツラのスタンプラリーか」

 

六海が見つけたのは六海が呼んでる恋愛漫画のコイ・ツラのスタンプラリーだったよ。ちなみにコイ・ツラの本当のタイトルは恋は辛いぜなんだけど、ファンの間で略でコイ・ツラって呼ぶことからこの名が定着したんだよね。決してこいつらって意味じゃないよ。

 

「そういえばコイ・ツラのイラスト展って明日からだっけ・・・だからか・・・」

 

実はコイ・ツラってアニメはやってないんだけど、ドラマ化されていて、視聴者も結構多いから意外と人気があるんだよね。その人気のおかげもあって、イラスト展を開くことができたんだって。まぁ面白いのは認めるけど、ナナカちゃんにはやっぱり敵わないんだけどね。・・・でもイラストはやっぱり六海よりも段違いでいいんだよね・・・。・・・漫画家の勉強のために行ってみようかな?うーん・・・いや、でも六海はそこまでファンってわけでもないし・・・なんか場違いな気が・・・。それにお金もかかるし・・・ここにまで行ったら先の余裕が・・・。

 

・・・それにしてもまだスタンプもない台を置くとは、何ともまぁ気が早いねー。それとも宣伝をしているのかな?まじまじとスタンプラリーの項目を見てみると、ちょっと気になる欄を見つけたよ。気になるところは内容っていうのは景品についてなんだけど・・・ここがとっても重要。気になる内容は・・・

 

『スタンプを全て集めると素敵な景品をプレゼント!カップル同士でなら、より豪華な景品になるかも!!?』

 

カップルなら景品の質が変わって来るらしいんだけど・・・重要なのは景品じゃなくてカップルってところ!とどのつまりだよ・・・豪華?な景品をもらうためには必ずしも男女のペアで回らなくちゃいけないってこと!どっちにしても景品はキーホルダーとかそんなありきたりのものなんだろうけど・・・カップル・・・カップルかぁ・・・。このカップルの単語で頭によぎるのはフーちゃんのこと。

 

・・・もし、もしもだよ?六海がフーちゃんを連れてスタンプラリーに参加とかしたら・・・周りからは六海とフーちゃんがカップルって・・・見られるのかな?しかも・・・2人っきりでどこかを回るって・・・それって・・・デートなんじゃないの?そう考えだしたら・・・思わず顔がにやけちゃうよ・・・えへへ・・・。それだったら・・・行ってみようかなぁ・・・なんて・・・ふふふ・・・。

 

「・・・そこで何ニヤニヤしてるの?」

 

「おひゃあ!!?」

 

ちょっと妄想に浸ってたらいつの間にか戻ってきた三玖ちゃんに声をかけられた。び、ビックリしたぁ~・・・。

 

「六海ー、お待たせー」

 

「さっき何見てたの?面白い本でも見つけた?」

 

「えっ!!?う、ううん!!何でもない!!なんでもないよ!!?」

 

四葉ちゃんも戻ってきた時に三玖ちゃんから質問された時、六海は慌てて後ろにあるスタンプラリーの台を2人には見えないように六海の身体で隠したよ。

 

「・・・今何隠したの?」

 

「ギクッ!な、何も隠してなんかないよ・・・?」

 

「え?何?どうしたの?」

 

や、やばい・・・四葉ちゃんはともかく、三玖ちゃんは六海を怪しがってる・・・。早く2人・・・というか三玖ちゃんをスタンプ台から遠ざけないと・・・。じゃないと三玖ちゃんは何を言い出すかわかったものじゃないもん。

 

「絶対何か隠して・・・」

 

「そ、それより欲しいもの取ってきたなら早く会計を済ませよ!コンビニでアイスも買ってあげるからさ!ほらほら!」

 

「アイス⁉わー、やったー!」

 

六海は無理やり三玖ちゃんを押してスタンプ台から離れさせるよ。危ない危ない・・・あれの存在を知られたら、たった今考えた予定が台無しになっちゃう・・・。三玖ちゃんは今も怪しがってるけど・・・店から出ちゃえば後は何とかなるよ。

 

「・・・怪しい・・・」

 

何とか会計を済ませた後は三玖ちゃんは何かと問い詰めてきたけど、六海はいくつか誤魔化したよ。これで何とかなった・・・はず・・・。それにしても・・・ふふ・・・なんか明日が楽しみになってきたなぁ。

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

次の日、六海はみんなに遊びに行ってくるとだけ伝えて、ある場所に向かってるよ。それにしても・・・ふぅ・・・暑い・・・こんな日に食べるアイスはよりおいしいんだろうなぁ・・・。おっと、そう考えてる間にも目的地到着ー。

 

「ふぅー・・・よし!」

 

六海が着いた目的地はフーちゃんの家だよ。だって、スタンプラリーを利用すれば、合法的に2人っきりになれるチャンスなんだから、これを逃す手はないよ。それに、イラスト展は今日しかやらないからスタンプラリーも今日しかできないんだよ。逃しちゃったら次はいつ2人っきりになれるかわからないもん。だからこのことはお姉ちゃんたちには話してないよ。抜け駆けと言われたってこれだけは譲れないよ。・・・ちょっと緊張するけど・・・そろそろフーちゃんを呼ぼうか。

 

ピンポーンッ

 

「フーちゃーん。六海だけどー、出てきてー」

 

・・・ピンポンを押してフーちゃんを呼び出そうとしたけど、反応なし。おかしいな・・・フーちゃんが外に出る機会なんてないはずなんだけど・・・とりあえずもう1回・・・

 

ピンポーンッ

 

・・・ムカッ!また反応なし・・・いや、絶対にいるはず!もう1回!

 

ピンポーンッ

 

「風太郎君、ちょっと外に出てきてよー。聞こえないのー?」

 

あえて呼び方を前に戻してみたけど・・・返事なし・・・むうぅ~・・・!

 

ピンポンピンポンピンポンピンポン・・・

 

「フー君!フータロー君!フータロー!上杉君!うーえすーぎさーん!!・・・ちょっといい加減に出て来てよ!!」

 

ガチャッ!

 

「うるせえええええええ!!!聞こえてるからしつこく鳴らすな!!!」

 

何度もしつこくピンポンを鳴らしていると、誰が見てもわかるように怒った様子のフーちゃんが出てきたよ。ちなみにさりげなくお姉ちゃんたちの呼び方を拝借したけど、割と楽しかったのは秘密だよ。

 

「やっと出てきた!もう!いるんならもっと早く出て来てよ!」

 

「お前な、トイレ行ってたんだからすぐ出られるわけねぇだろ!何回もピンポンを押しやがって・・・近所迷惑ってのを考えろ!留守だったらどうするつもりだ⁉」

 

「フーちゃんに外に出る予定なんかないじゃん!」

 

「うぐっ・・・こ、こいつ・・・!」

 

六海に痛いところを突かれたフーちゃんはしかめた顔をしてるよ。ほら、やっぱり当たってるじゃん。その顔が今日予定ないって物語っているよ。

 

「はぁ・・・で?今日は何の用だよ?」

 

「・・・今日はらいはちゃんはいないんだね」

 

「らいはなら友達のところに遊びに行った。だからいないぞ」

 

だかららいはちゃんも出てこなかったんだ。そりゃそうだよね。だって遊びに行ってていないんだもん。でも今らいはちゃんがいないなら好都合だね。

 

「なんだよ。らいはに用があったのか?」

 

「ううん、今日用があるのはフーちゃんの方だよ」

 

「え?俺?」

 

六海の言葉でフーちゃんは何の用だと言わんばかりの顔をしたよ。そんなことはお構いなしに六海はにっこりと微笑んで本題に入るよ。

 

「せっかくの夏休みなんだしさ、今日遊びに行こうよ♪」

 

「断る」

 

「ちょっ!!?」

 

速攻で断られたよ!!?ちょっとは考える素振りくらいは見せてよ!!?

 

「な、なんでダメなの!!?今日は予定はないはずでしょ!!?」

 

「予定ならある。今日は1日勉強に集中すると決めてるんだ。遊ぶのはまた今度な」

 

出たよお決まりのパターン。それが嫌だからメールじゃなくてこうして直接会いに来て誘ってるっていうのに・・・。というかさ・・・

 

「それ実質暇ってことじゃん!まだ夏休みは長いんだからいいじゃん1日くらい!」

 

「1日は潰れるってのは明らかなんだな・・・」

 

「それに毎日部屋に引きこもってたらカビが生えてきちゃうよカビ!」

 

「お前ってたまに毒をはくよな・・・」

 

六海が何とか説得しようとしても、フーちゃんは未だに渋った顔。そんなに外に出るのが嫌なの?そりゃ六海もインドアなんだけど、毎日家に引きこもったりなんかしないのに。

 

「てかそんなに遊びたいなら別に今日でなくてもいいだろ。どうしてもっていうなら姉妹に遊んでもらえ」

 

わかってない・・・フーちゃんは全然わかってない。どうしても今日じゃないといけないし、お姉ちゃんと一緒に回っても意味なんかないよ。

 

「フーちゃんとじゃないと絶対ダメ!今日は特に!!」

 

「だからなんで俺と・・・」

 

「そんなの・・・フーちゃんが好きだからに決まってるじゃん!!」

 

「おま・・・なんでここに来てこっぱずかしいことを・・・」

 

六海の好きっていう発言にフーちゃんは前髪をいじってる。照れてる・・・かわいいところあるじゃん♪

 

「こほん!と、とにかくダメなものはダメだ!諦めて・・・」

 

「・・・六海、あの時ショックだったんだよ?お出かけのメール送ったのに、勉強ってだけで断られたの」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

「・・・六海、知ってるよ?その日のフーちゃん、雑貨屋さんで五月ちゃんと一緒に来てたの」

 

「!!!???」

 

前に六海のお出かけのお誘いを断られて、二乃ちゃんと四葉ちゃんとでお出かけした日のことを話した途端、フーちゃんの顔色が青ざめていったよ。あの日、やっぱり五月ちゃんが怪しかったから冷蔵庫にあった五月ちゃんの苦手な梅干を食べさせようとしたんだ。そしたらすんなりと話してくれたよ。正直に話してくれたから五月ちゃんを許したけど、もし二乃ちゃんにバレたらどうなってたんだろうね?

 

「な、なんでそれを・・・」

 

「そんなことはどうでもいいよ。六海たちの誘いは断ったくせに・・・五月ちゃんだったらいいんだ・・・」

 

「い、いや、そのだな・・・」

 

「六海はまぁいいけど?これ、二乃ちゃんが知ったら怒るだろうなぁ・・・」

 

「ちょっ・・・おま・・・」

 

二乃ちゃんを引き合いに出したら焦りだしたよ。卑怯な手を使ってるのはちょっと心苦しいけど仕方ないんだ。六海だってフーちゃんと2人っきりで遊びたいもん。使えるものは使わなきゃ。それに暇なくせにいつまでも首を縦に振らないフーちゃんが悪いんだ。

 

「あーあー、なんかお姉ちゃんにポロッとしゃべっちゃいそうだなー」

 

「待て。それはダメだ」

 

「ダメって言われてもなー・・・」チラッチラッ・・・

 

「・・・はああああー・・・」

 

わざとらしく目を配らせているとフーちゃんは深いため息をして観念したかのように頭をかいた。

 

「・・・わかった、付き合ってやるよ。だからそのことを他の姉妹に話すんじゃないぞ。特に二乃には」

 

「えっ⁉本当に⁉わーい、やったー!」

 

「たくっ・・・汚ねぇ手を・・・」

 

「何のことかわかんなーい♪」

 

どうにかこうにかフーちゃんが六海に付き合ってくれると聞いて六海は大いに喜んだよ。やった、フーちゃんと2人っきりでお出かけ!とどのつまりデート!なんだかワクワクしてきちゃった!あ、ちなみになんだけどもし断られても五月ちゃんとのお出かけの件は話すことはないよ。六海はそこまで悪者じゃないもん。

 

「・・・俺の思うがまま・・・か・・・。・・・仕方ねぇ・・・付き合ってやるか」

 

「?今何か言った?」

 

「いや、何でもねぇ」

 

???何か気になるようなことを言ったような気がするんだけど・・・気のせいかな?

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

フーちゃんの一通りの準備ができて、六海たちはスタンプラリーのスタート地点であるコイ・ツラのイラスト展に向かってるよ。ちなみに、まだフーちゃんにはこのことは伝えてないよ。だって、片方が行く場所をわかってない方がサプライズ感あるでしょ?まぁ、フーちゃんは全く驚かないだろうけど。

 

「~~~♪~~♪」

 

六海はフーちゃんの隣に歩いていると思うと、思わず鼻歌を歌っちゃってるよ。えへへ、今日だけはフーちゃんを独り占め~♪

 

「・・・なぁ、俺なんかと歩いててそんなに楽しいか?」

 

「フーちゃんだからこそいいんだよ。だってこれ、デートだよ?デート」

 

「・・・お前が急遽決めたことだけどな・・・」

 

もう、いつまでも後ろを見ない!まぁ、六海が言えたことじゃないんだけどね・・・。

 

「・・・それで、電車まで乗ったが、どこに向かってるんだ?」

 

「ちょっと待って。もうすぐで着くから」

 

地下鉄から電車から降りた後はスマホの地図アプリを頼りにしながら会場を目指してるよ。今徒歩で・・・4分くらいかな?それくらい歩いたからもうちょっと・・・かな?

 

「お、あったあった!きっとあれだよ!」

 

「・・・・・・」

 

目的地であるイラスト展の会場外ではファンなら誰でもわかるようにコイ・ツラのイラスト展のポスターがびっしりと貼ってあったよ。何度も言うけどコイ・ツラは恋愛漫画。それにはかなり疎いフーちゃんは目を点にしている。

 

「・・・俺、やっぱ帰ってもいいか?」

 

「ここまで来て何言ってるの?腹を括ろうよー」

 

帰ってもいいかって聞いておきながらすでに帰ろうとしてるフーちゃんの腕をぎっしりと掴んで逃がさないようにする。

 

「お前・・・これ見るためにわざわざ俺を連れてきたのか?」

 

「うん。六海の夢のために必要なことだと思うの」

 

「夢って・・・もう漫画家になったんじゃないのか?ほら、お前の漫画、もう載ったし」

 

「六海が狙うのはあくまでも連載!読み切りはそのための通過点だから!だからまだ夢は叶ってないの!」

 

「・・・めんどくさ」

 

六海の思いにフーちゃんは非常に面倒くさそうな顔をしてるよ。そんな反応をするのは予想できてたけどさ・・・ちょっとひどくない?

 

「まぁ、勉強のためって言ったら、嘘じゃないけど、建前になるかな」

 

「ん?」

 

「これ、昨日六海の行きつけのお店で見つけたものなんだけど・・・」

 

六海がここに来たかった本当の理由をカードを添えて教えてあげることにしたよ。

 

「ん・・・スタンプラリーのカード、か?」

 

「うん。このスタンプラリーにスタンプを全部押せば景品がもらえるっていうのはフーちゃんも知ってると思うんだけどね。重要なのはここ!」

 

六海はスタンプラリーの参加を決めたきっかけの個所を指をさす。

 

「カップル同士でなら、より豪華な景品がもらえるかもなんだって。つまり1人の時や、3人の時じゃなく、必ず男女のペアじゃないと豪華な景品がもらえないんだよ」

 

「カップルって・・・」

 

「六海はね、正直景品とかはどうだっていいの。ただ六海はフーちゃんと2人で一緒に回ったっていう証が欲しいんだよ。2人だけの・・・証が」

 

六海がここに行きたい理由を包み隠さず話したら、フーちゃんは呆れながらも納得の顔をしているよ。

 

「はあ・・・そう言うことか・・・。だから今日じゃないとダメって言ったのか・・・しかも2人だけで」

 

「うん。イラスト展は今日1日限定のイベント。これを逃したら、次はいつになるかわからない。もしかしたら・・・もう開かれないかもしれないし・・・」

 

「・・・・・・」

 

「これが六海のわがままなのはわかってるつもりだよ。だけどそれでも・・・フーちゃんと一緒にいたいよ・・・ダメ・・・?」

 

六海は不安を感じながらフーちゃんの顔色を窺う。フーちゃんはまたため息をついて、頭をかき始めた。

 

「・・・もうここまで来ちまったしな。何もせずに無駄な電車賃を使って帰るのも癪だし・・・せっかくだから楽しむか、スタンプラリー」

 

「!う、うん!!」

 

フーちゃんがスタンプラリーに少しだけでも乗り気になってくれて六海は嬉しさでいっぱいになった。でも・・・フーちゃんがこうして六海に付き合ってくれるなんて・・・前のフーちゃんじゃ考えられなかったな。

 

「よし、そうと決まればまずは入場券を買って入場時間を確認だ!その後は昼食、昼食後に会場に入場するぞ!」

 

「?すぐに入場しないの?」

 

「たいていのイベントごとにはな、客がたくさん集まるものだ。そうなると必ず待ち時間で時間を無駄にするんだ。今のうちに入場時間がわかった方が効率よくスムーズに行動ができるんだ」

 

そ、そんな細かいところまで・・・さすがはフーちゃん・・・ものすごく物知りだし、段取りも完璧だよ・・・。六海、そんなの今の今まで気にしたこと全然なかった・・・。今度ナナカちゃんのイベントがある時は必ずそうしよっと。

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

ご飯を食べ終えた頃合いには、予定通りの時間帯になって会場に入れるようになった。スタッフの人に入場券を渡して、イラスト展会場の中に・・・と、その前に・・・。

 

「スタンプを押すのも忘れないようにしなくちゃね」

 

「こんな入り口の近くに・・・」

 

入り口の前にあったスタンプラリーのスタンプ押し場でスタンプカードにスタンプを押していくよ。もちろん、フーちゃんのカードにもね。だって2人分やっとかないと、カップル限定の景品はもらえないでしょ?

 

「これで残りのスタンプは4つ。残り2つはこの会場のどこかにあるから徹底的に楽しめるよ。なんだかワクワクしてくるね!」

 

「そうか?俺はもうこの瞬間から・・・いやずっと前から疲れてるんだがな」

 

「そんなこと言わずに、ほら、名いっぱい楽しもうよ!これも1つの青春だと思ってさ!」

 

「・・・原作を何1つ知らない俺がどうやって楽しめと・・・?」

 

少なくとも漫画好きの六海からすれば、結構楽しみなんだけど、フーちゃんはそうでもないみたい。まぁ、今の今まで勉強ばっかりに明け暮れて、こういうのには触れたことが全然ないから仕方ないけどさ。

 

「なら絵を見ながらこれから知っていけばいいよ。それなら作品に愛着がわくかもしれないよ?」

 

「・・・果たしてそんな都合よくいくだろうか・・・」

 

フーちゃんがブツブツ言いながらも、六海たちはコイ・ツラのイラストや、作品の詳細を鑑賞して回っていくよ。そすして鑑賞しながら進んでいくこと十数分くらい・・・

 

「あ、このイラスト、確か40話くらいに出てた最も印象が深かったシーンだ!すごいなぁ・・・」

 

進めば進むほど、コイ・ツラで特に印象が深かったシーンのイラストがたくさん出てきたよ。やっぱりすごいなぁ・・・プロはやっぱり格が違うよ・・・。いつか六海もこんなプロみたいな絵を描けるようになりたいなぁ・・・。・・・それで・・・肝心のフーちゃんは・・・。

 

「・・・ほぉ・・・これは・・・」

 

・・・内容を理解してるかどうかはともかく、なんだか感心したような顔つきでイラストをまじまじと鑑賞してる。あんな顔をしてくれてるってことは・・・ちょっとは楽しんでもらえてるってことなのかな。だとしたら・・・誘っておいてよかったな。

 

「・・・ふふ」

 

「・・・ん?どうした?」

 

「ううん。ただ、フーちゃんが思ったより楽しんでくれてよかったなぁって思っただけ」

 

「・・・・・・え?俺、楽しんでたか?」

 

「うん。少なくともそう見えたよ」

 

フーちゃん自身は自覚してるわけじゃないんだけどね。

 

「それで、この作品の魅力、少しは伝わったかな?」

 

「いや全然伝わらん。これだって絵がうまいって程度しか感じん」

 

「・・・・・・」

 

一気に冷めたこと言い出したよ!いや、フーちゃんが作品を知る気がないっていうのはわかってたよ!わかってたけどね!ていうかその発言ファンが聞いたら怒られる程度じゃすまないからね⁉聞こえてなかったからよかったけど!

 

「・・・まぁ、それでも楽しいって思えてんのは・・・お前のおかげ・・・なのかもしれんな」

 

「・・・!!」

 

フーちゃん・・・ここぞって時にそれは反則だよ・・・///。そんな風に言われちゃったら六海・・・胸がどきどきして・・・フーちゃんの顔を直視できなくなっちゃうよ、恥ずかしさで///。

 

「・・・だが、六つ子が揃ったら・・・もっと楽しくなるだろうな・・・」

 

「フーちゃん・・・」

 

顔を手で隠してる中、手を開いてほんのちょこっと顔を覗いてみたら、フーちゃんの笑みには少し物足りなさが含んであった。・・・うん・・・そうだね・・・。お姉ちゃんとフーちゃん・・・一緒に揃っていたのなら、もっと盛り上がったかもしれないね。六海にとって2人きりの時間もいいけど・・・お姉ちゃんとフーちゃん、全員でいられる時間は、同じくらいに大切だからなおさらそう感じるよ。

 

「じゃあさ、次の機会があったら皆で一緒に行こうよ。きっと楽しいよ!」

 

「・・・ああ。そうだな」

 

今度は全員で一緒にっていう話で華を咲かせながら六海たちはさらに先へと進んでいくよ。

 

「あ、2個目のスタンプがあったよー」

 

奥へ進んでいくと2個目のスタンプを見つけたよ。2個目のスタンプが見つかったってことは、イラスト展ももう中間地点まで来たってところかな?なんだかとっても早く辿り着いたなって感じるよ。まぁそれはいいや。とりあえず六海とフーちゃんは2個目のスタンプをカードに押した。

 

「これで残りは後3つ・・・ここのは後1つになったね」

 

「よし。じゃあ早く3つ目のスタンプを見つけて、次に行こうぜ」

 

「あ、フーちゃんちょっと待って!」

 

フーちゃんが先に進もうとした時、遠くの方で六海はあるものを見つけたよ。それは・・・

 

「見てみてー!名シーンを体験できる写真撮影、だって!おもしろそー!」

 

コイ・ツラの名シーンを自分たちが体験して写真撮影ができる場所だよ。簡単に言えば、コイ・ツラのキャラになりきって写真を撮ってもらう場所だよ。そっか、それでファンの中にコスプレしてる人がいたんだ。

 

「名シーンって・・・具体的に何をやるんだ?」

 

「えっと・・・この場面だと・・・壁ドンのシュチュエーションだね」

 

あのシーンは六海も何度も読み返してるからよーく覚えてるよ。あのシーンで胸をときめかない乙女はないと思うなー。

 

「ふーん」

 

・・・フーちゃん、自分で聞いておいてその反応はないと思うよ。というかさ・・・

 

「・・・もしかして、自分には関係ない―、とか思ってない?」

 

「実際その通りだろ」

 

・・・わかってない。フーちゃんは何にもわかってない。ここに、こういう撮影場があるなら、もうやることなんて1つしかないでしょ。

 

「何言ってるの?恋する乙女はね、壁ドンのシュチュエーションにときめくものなの!それに気を利かせないなんて男としてどうなの?」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

「いい機会だからここで練習しておこうよ。絶対今後の役に立つって」

 

「はあ?」

 

フーちゃんはわけわからないって顔をしてるよ。・・・やっぱり乙女心がわかってないよ・・・鈍ちん・・・。

 

「やる必要なんかないだろ・・・つか何の役に立つって言うんだよ?」

 

「女の子は好きな男の人にやってもらいたいことの1つや2つあるってこと!例え六海じゃなくても二乃ちゃんや三玖ちゃんだってこういうのを望んでるものなの!」

 

「・・・っ!そう言うことか・・・!お前練習とか建前を言って、本当は自分がやってもらいたいだけだろ⁉」

 

あ、思惑がバレちゃったよ。フーちゃん、こういうこと恥ずかしがってやらないから、何とか説得しようと思ったけど、この様子じゃ無理そう・・・。だったら・・・

 

「こうなったら力づくでもー!!」

 

「おわっ⁉ちょっ・・・まっ・・・やめろ!」

 

意気地なしのフーちゃんに壁ドンをやってもらおうと、六海は力づくで撮影場まで引っ張り出す。今はまだ六海たちだけしかいないけど、次の人が来て待たせるわけにはいかないし、やるなら今しかないんだよ。フーちゃんはフーちゃんでやりたくないのか必死に抵抗してるよ。

 

「いいじゃんちょっとくらい!!減るものでもないんだし!!」

 

「減るとか減らないとかの問題じゃないんだよ!」

 

「ちょっと写真撮って記念を残すだけじゃん!恥ずかしいことはないって!」

 

「それが嫌だって言ってるんだ!ちょっ・・・いい加減離せ!」

 

お互い力の取っ組み合いになってしまってるんだけど、六海もフーちゃんも力が全くと言ってないからどっこいどっこいになってしまっているよ。

 

ズルッ!

 

「わっ・・・ひゃあ⁉」

 

「うおあ⁉」

 

ズテーンッ!

 

い・・・たたた・・・まさか足をつまずいて転んじゃうなんて・・・。うぅ・・・ちょっとだけ背中強く打ったかも・・・背中痛いよ・・・。

 

「つつつ・・・おい、大丈夫か?」

 

「うぅ・・・背中痛いけど大丈夫だよ・・・!!?」

 

目の前にいるフーちゃんを見て、ようやく自分たちが今どんな状況か理解できたよ。今六海はフーちゃんに覆いかぶされかけている状態・・・これって・・・壁ドンならぬ床ドンってやつ!!?壁ドンとはかなり違うけど・・・こ、これはこれであり・・・かも・・・♡

 

「全く・・・変に暴れるから・・・とにかく今どけるわ」

 

フーちゃんがどけようとした時、六海はフーちゃんの手をつかみ取って、逃がさないようにさせた。

 

「・・・あ、あのー・・・六海さん・・・?手をどけてもらえませんかね?」

 

「・・・もう少し・・・」

 

「え?」

 

「もう少しだけ・・・このシュチュエーションを味合わせて・・・?」

 

偶然の産物とはいえ、こんな機会は滅多に訪れないだろうし・・・せめて・・・せめて後数分くらい・・・

 

「い、いやいやいや!この体制はまずいだろ!こんなの他の連中に見られでもしたら・・・」

 

「お、なんだなんだ?」

 

「なんかおもしろそうなことやってるの?」

 

「行ってみようぜー」

 

「え?何々ー?」

 

「・・・っ!!!」

 

ん・・・?なんかうるさくなってきたな・・・。まぁいいか。それよりも今は・・・

 

「と、とにかく!!もう十分だろ!!ほら!!とっととここの最後のスタンプ、見つけに行くぞ!!」

 

フーちゃんは六海の手を振り払って急いで六海から離れていって、そのまま先へ行っちゃった。・・・ちぇー・・・、今のシュチュエーション結構よかったのに・・・。・・・でも・・・今の、壁ドンより結構よかったかも・・・。貴重な体験をさせてもらっちゃった・・・。六海、今回の体験は一生忘れないよ。

 

「おい何してんだ!置いていくぞ!」

 

「ああ!待って待って!置いていかないでよー!」

 

六海は先先と行っちゃうフーちゃんを追いかけて、集まってきたコイ・ツラファンの人たちを避けながら先へと進んでいった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

時間をかけていっぱいイラスト展を楽しんで、ようやく出口まで辿り着いたよ。出口にはこのイラスト展の中にある最後のスタンプがあったよ。

 

「ふぅー、イラスト以外にも楽しいものがあって面白かったね!」

 

「俺はやっと出口まで来てほっとしてるよ・・・」

 

「イラスト展は終わってもまだ終わりじゃないよ。スタンプはまだ2つ残ってるんだから」

 

「わかってるっての。残り2つを済ませてとっとと帰ろうぜ・・・」

 

「もう・・・またそんなことを言う・・・」

 

まあでも、それでも最後まで付き合ってくれるのはフーちゃんの優しいところだよね。ただ素直じゃないってだけで。

 

「てか土産とか買わなくてもよかったのか?」

 

「えっ⁉ああ、うん!いいんだよ!二乃ちゃんはともかくとして、みんなコイ・ツラにはちょっと疎いところがあるっていうか、なんというか・・・」

 

フーちゃんの質問に六海はしどろもどろになってるよ。疎いっていうより、ここでお土産とか買いに行ったりなんかしたらフーちゃんと2人で出かけてたってことがバレちゃうかもしれない。そうなったら二乃ちゃんに何されるか・・・!

 

「と、とにかくいいんだよ!何も買わない方が1番いい!お金にも優しいし!」

 

「・・・また無駄遣いしたか」

 

「し、失礼な!お金はまだいっぱいあるって!」

 

何を思ったのかフーちゃんは六海がお小遣いを使い切ったと思い込んでる・・・ていうかなんだよまたって⁉六海ってそんなにお金遣いが荒いって思われてるの⁉

 

「そ、それよりもフーちゃんこそいいの?らいはちゃんにお土産買ってあげなくて・・・」

 

「あー・・・別にいいさ。お前が描いた漫画の方が喜ぶからな」

 

「そう?」

 

「知っての通りうちには娯楽と言えるものがない。らいはだってやりたいことだってあるはずだし、買いたいものも、読みたい本とかもあったはずだからな。そんな中でらいはがお前が描いた漫画を読んで楽しそうにしているきっかけを作ってくれた。だからお前が描いた漫画をらいはに読ませてもらえるだけで十分だ。それにな・・・その・・・」

 

フーちゃんは口元を手で隠して若干照れたような表情をしたよ。

 

「前に読ませてもらったあれ・・・割と面白かった。また、読みたいって思えるくらいに・・・」

 

「ふ、フーちゃん・・・!」

 

まさか読み切りのあの漫画、ここまでフーちゃんも好評だったなんて・・・!驚くよりもうれしさで頭がいっぱいだよ。

 

「だから・・・その・・・だな・・・新作、できたらまた俺たちに読ませてくれるか?」

 

照れながらそんなことを聞いてきたフーちゃんの問いかけに、六海の答えは決まっていた。

 

「もちろん!2人は六海の作品の読者第一号だよ!」

 

当然のように笑顔を向けて、しっかりと答えたよ。六海の答えを聞いて、フーちゃんは少しだけ嬉しそうな顔をしてるよ。

 

「さて、スタンプも押したし、次に行くか。4個目のスタンプはどこだ?」

 

「えーっと、次はねー、電車に乗ってここに・・・」

 

六海たちはイラスト展から出て、電車に乗って4個目のスタンプがある場所まで向かっていくよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

4個目のスタンプがあるのはアニメグッズや漫画がいっぱいある専門のお店だったよ。フーちゃんはこのお店から出たいのかグッズには目移りせずに速足でスタンプ台を探してるよ。そのおかげもあってか4つ目のスタンプはすぐに見つかったよ。けどさ・・・

 

「もう!少しはいろいろ見させてよ!欲しいグッズを見逃しちゃったらどうするの⁉」

 

「いや、だって俺がここにいるのは場違いだろ。ここにあるもの、全部興味ないし」

 

「あのねフーちゃん、そういう発言は本当に控えて?ここに来てる人に睨まれるかもしれないし・・・」

 

フーちゃんにアニメや漫画に興味がないのくらいは知ってるつもりだけどさ・・・そんな堂々と言わないでほしいよ・・・六海まで飛び火が来ちゃう・・・。現にオタクのお兄さんに睨まれちゃったし・・・。

 

「何はともあれ、ここまでいろいろあったがやっと4つ目。次の5個目で終わりだ」

 

「あ・・・」

 

そっか・・・次のお店・・・六海がスタンプラリーの存在を知った本屋さんで終わっちゃうのか・・・。フーちゃんはそれで終わり・・・なのかもしれないけど・・・六海は・・・このまま終わらせるのは・・・なんか、物足りない・・・。

 

「早いところ5個目のスタンプ、押しに行こうぜ。割と近くだし・・・」

 

「待って!」

 

このお店から出て、最後のお店に向かおうとフーちゃんが歩こうとしたところに、六海がそれを止めたよ。

 

「もう、終わらせちゃうの・・・?このまま最後のスタンプを押したら、それで終わりなんて・・・寂しいよ・・・。せっかくの2人っきりのデートなのに・・・」

 

「お、おい・・・」

 

「もう少し・・・もう少しだけ・・・このままでいさせて・・・?」

 

六海はかなり不安を抱えながら、フーちゃんにもう少し2人っきりにしてほしいと訴えたよ。六海の訴えにフーちゃんは少し困ったような顔をしているよ。

 

「いや・・・んなこと言ったって・・・お前他にやりたいことはないだろ?」

 

「それは・・・うーんと・・・うーんと・・・」

 

フーちゃんの問いかけに六海は頭を悩ませて他にしたいことを一生懸命考えたよ。それでうんうんと捻っていると、ちょうどよさげなお店が見えた。

 

「!!あ、あれ!!六海、あそこに行きたい!!」

 

六海が見つけた指をさしたのは、カラオケボックスだったよ。これならもう少し2人っきりになれるし、なんかこう・・・デートぽくなるかも。

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

「~~~~♪~~♪」

 

「・・・・・・」

 

フーちゃんに無理を言ってカラオケボックスまで来て、1時間ほど部屋をレンタルして、六海は自分の持ち歌を披露してるよ。お姉ちゃんたちとたまに程度には来るんだけど、やっぱり歌うのも楽しいな。

 

「ふぅ・・・ね、ね、どうだった?六海の歌声?きれいだった?」

 

「・・・なぜ俺はこんなことに付き合わされてるんだろうか・・・」

 

「質問に答えてない!!」

 

「あー、別にいいんじゃないか?」

 

「心がこもってない!!」

 

あまりにも関心なさすぎるでしょ⁉いや、ていうかフーちゃんはとにかく世間の遊びに疎すぎるよ!もうちょっとそっちにも関心持って!

 

「つーかお前、ここにはよく来るのかよ?」

 

「うん。て言っても、お姉ちゃんたちとたまにだけどね。その中でも特に一緒に行くのは二乃ちゃんだね。その時には二乃ちゃんの持ち歌を何度も歌ったっけ。ああ、それから、一花ちゃんとも一緒に行くけど、やっぱり綺麗だったよ、一花ちゃんの歌声は。女優にスカウトされるのも納得だよー」

 

「そうか」

 

話すたびに思い出すなー。お姉ちゃんたちと一緒にカラオケ行った時のこと。あの時も、すごく楽しかったなー。今度はお姉ちゃんたちと一緒に行きたいなー。

 

(全くこいつは本当に人を振り回すのが好きだな・・・。・・・まぁ、あんだけ楽しそうにしてるんだ。もう少し、付き合ってやるか)

 

・・・あ、なんかフーちゃん、少しだけ笑ってる。楽しんでくれてるのかな?あ、そうだ・・・。

 

「ねぇ、せっかくだからさ、フーちゃんも1曲、1曲歌ってみない?」

 

「は?」

 

フーちゃんが驚いてるけど、今は構わず機械を操作して、歌を探していくよ。

 

「ちょうどフーちゃんに合いそうな持ち歌を知ってるんだよね。今入れてあげるね」

 

「ちょっ、待て待て!なんで俺が・・・てか、俺は歌なんて・・・」

 

「いいじゃんちょっとくらい。カラオケに来たら1回歌う!これ常識!」

 

「なんだその嫌な常識・・・」

 

「はーい、曲入れたからねー。はいこれマイク♪」

 

「はっ⁉ちょ・・・おい!」

 

曲が流れ始めたところでフーちゃんにマイクを渡して、六海は少し離れたところでタンバリンをぱんぱんと叩いてリズムに乗る・・・て、歌詞流れても歌う気配なし・・・。その様子に六海は頬を膨らませていったん曲を止めるよ。

 

「ちょっと!何で歌わないの⁉」

 

「無理強いしすぎだ。俺は歌は苦手なんだよ」

 

「大丈夫!苦手でも歌えば意識代わるから!あ、なんだったら一緒に歌ってあげるよ!というか一緒に歌っちゃおうよ!」

 

「お前またそんなことを・・・!」

 

「はーい、曲入れちゃうよー」

 

「・・・はあ・・・」

 

六海はフーちゃんの苦手意識改革のためにさっきと同じ曲を入れたよ。しかも今回は六海とデュエット♡これならフーちゃんも歌うしかないでしょー。

 

「ほら曲が流れたよ!歌わなかったらなんかアイスでも奢ってもらうからねー♪」

 

「・・・ああ、たく!!こうなりゃヤケだ!!」

 

曲が流れたところで、フーちゃんは覚悟を決めて六海と一緒に歌ってくれたよ。一緒に歌ってみたけど・・・フーちゃんって・・・歌声かなり美声だった!

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

1時間ほど歌い終えたところでカラオケボックスから出て、最後のスタンプがある本屋までやってきたよ。そう、昨日六海がスタンプラリーを見つけたあのお店だ。六海とフーちゃんはカラオケでのことを話しながらスタンプ台を探していくよ。

 

「はぁー、楽しかったねー♪あの後フーちゃん、結構ノリノリだったね。同じ曲ばっか歌っちゃって~」

 

「うっせぇ・・・ああ、声がガラガラだ・・・」

 

実は1曲目の歌が終わって、結果が六海より下の結果だったのが納得いかなかったみたいで六海より上の得点をとろうと1曲目の歌を今度は1人で歌ってたんだよね。フーちゃんって案外負けず嫌いなんだよね。そのおかげで美声を独占できて役得だけどね♪

 

「もうそんなことはいいから最後のスタンプ押しに行くぞ。場所は覚えてるんだろ」

 

「もちろん!さあさ、こっちだよこっち!」

 

六海は昨日見つけたスタンプのところまでフーちゃんを連れていくよ。えーっと、最後のスタンプは確かこの先に・・・あ、あったあった。ここで最後のスタンプを押して・・・やった!これで5つのスタンプ全部揃った!

 

「よーし!これで全部だー!フーちゃんも早く最後のスタンプ・・・」

 

フーちゃんに視線を向けてみると、フーちゃんは少し離れた場所で何かの本を見つめているよ。もしかして、何か買いたいものでも見つかったのかな?

 

「何か欲しい本でも見つかった?」

 

「うおっ⁉む、六海!」

 

むむ?フーちゃんのこの慌てっぷり・・・はっ!ま、まさか・・・

 

「もしかして・・・エッチな本⁉フーちゃん!エッチなことはダメだよ!」

 

「バッ・・・違うわ!これ・・・どうしようかって悩んでただけだ」

 

フーちゃんの手元にあった本の名前は・・・高校生のための恋愛ガイドブック?これを・・・フーちゃんが・・・?

 

「フーちゃん・・・あれからずっと考えていてくれたの・・・?」

 

「・・・正直に言えば、まだ答えは見つけられてない。恋愛は学業から最もかけ離れた愚かな行為。そう言いながら恋愛を知ろうともしなかった。だから、ツケが回ってきたのかもしれん。いざ自分の立場になって、こんなに悩まされることになるなんてな」

 

「・・・・・・」

 

「五月からは俺の思うがままに動いてみろって言われたんだが・・・いろいろ複雑で、未だにわからんままだ。こりゃまだ答えは出せそうにないな・・・」

 

フーちゃん・・・あれからずっと考えててくれてたんだ・・・。ここまで真剣に六海たち姉妹の気持ちに向き合おうと悩んでくれてるフーちゃんを見て、六海は思わず笑っちゃったよ。

 

「・・・ふふ」

 

「・・・何だよ」

 

「んーん。ただ、真剣に考えてくれてたようで嬉しかっただけ―」

 

ふふ、せっかく真剣に考えてくれてるんだし、少しだけ六海なりの助言をしてあげちゃおっかな。

 

「前にも言ったけど返事は今じゃなくてもいいよ。フーちゃんのここだってタイミングでいいからね。六海だって、あの告白が正解だったのかわからないし、今回のお出かけだって、もしかしたら間違ってるのかもしれない。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「ただ1つわかってるのは、みんなフーちゃんのことが、大好きなんだってこと」

 

「・・・っ」

 

「だからみんな、フーちゃんにアドバイスをくれたり、いろいろ積極的に自分をアピールするんだよ。だからさ・・・五月ちゃんの言うとおり、フーちゃんの思うように行動するといいよ。案外それが・・・気持ちの整理とかに繋がるかもしれないよ?」

 

「・・・ふん、五月といいお前といい、簡単に言いやがって・・・」

 

フーちゃんは六海の顔を逸らすようにして顔をそっぽを向いたよ。ふふ、照れちゃってまぁ・・・。その後フーちゃんは本を元の場所に戻して、スタンプ台に向かったよ。

 

「・・・買わなくてよかったの?」

 

「・・・気が変わった。なるべく、これには頼らないようにしようと・・・そう思っただけだ」

 

別に買ってもよかったのに・・・フーちゃんって変なところで真面目なんだから・・・。でも、それもフーちゃんのいいところ、だよね♪

 

「スタンプ押したぞ。これでいいんだよな?」

 

「あ、うん。後はここの店員さんにこれを見せれば、スタンプラリー終了だよ」

 

「なら早いとこ見せて、景品をもらおうぜ」

 

全部のスタンプを押し終わった六海たちはスタンプコンプリート記念の景品をもらいにレジのところまで向かっていくよ。

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

レジでスタンプラリー達成の景品をもらった六海たちは帰り道を歩いていくよ。フーちゃんはスタンプラリーの景品をぶら下げながら見つめてるよ。

 

「しかし・・・まさかもらう景品が通常のものになっちまうとは・・・」

 

「ちょっと時間をかけすぎちゃったのかなー?失敗しちゃったね」

 

「お前がカラオケ行こうって言いだしたからだろうが」

 

「仕方ないでしょ?まさかカップル参加が多かったなんて知らなかったんだから」

 

スタンプコンプリートで貰った景品はカップル限定のものじゃなくて、誰にでももらえるキーホルダーだったよ。なんでもカップルの参加者があまりにも多くて豪華景品がなくなっちゃったんだって。きっと参加した人はドラマ勢の人が多いんだろうね。

 

「でも、割とこれでよかったんじゃない?フーちゃんのことだし、限定のものだと宝の持ち腐れになりそうだし」

 

「これでも宝の持ち腐れなんだが・・・。まぁ、らいはにでもプレゼントするか」

 

「ちょっと!そこはそれを大事にするっていうところでしょ⁉」

 

「はは、冗談だ」

 

もう・・・質の悪い冗談はやめてよね・・・。まぁ、なんだかんだ言っても、フーちゃんは物を大切にすると思うけどさぁ・・・それにしたってひやひやものだよ・・・。・・・あ、そろそろマンションが見えてきた。名残惜しいけど・・・今日はここでお別れかな。

 

「送ってくれてありがと。もうここまででいいよ。じゃあ・・・」

 

「六海」

 

バイバイって言おうとしたらフーちゃんが声をかけてきた。

 

「あー・・・その・・・何だ。今日のスタンプラリー・・・正直あの作品、わけわかんねぇんだけどよ・・・まぁ・・・楽しかった」

 

「・・・っ!」

 

「だから・・・あのだな・・・ま、またいつか・・・」

 

こっから先、フーちゃんの言おうとしたことがわかっちゃった。ただ照れてるせいで中々先に進まない。なら・・・

 

「・・・もちろん!今度は・・・みんなで一緒に遊びに行こうね!」

 

「!・・・ああ」

 

六海の言葉で、フーちゃんは笑顔になってくれた。今にして思えば、六海はフーちゃんのこの顔が見たくて、スタンプラリーに誘ったのかもしれないね。六海はフーちゃんとバイバイして、自分の家に戻っていったよ。

 

 

♡♡♡♡♡♡

 

 

「ただいまー」

 

マンションに辿り着いて、自分たちの部屋に戻ってリビングに行ってみると・・・

 

やっと帰ってきたわね・・・」ゴゴゴ・・・

 

遅い・・・」ゴゴゴ・・・

 

「ひぃ⁉」

 

鬼の形相のように立っている二乃ちゃんと三玖ちゃんが立ちふさがってる!!?と、遠くでは四葉ちゃんに五月ちゃん、一花ちゃんがいたよ。な、なんで二乃ちゃんと三玖ちゃんは怒ってるの⁉

 

「え、えーっと、2人とも・・・た、ただいまー・・・なんで怒ってるの・・・?」

 

「あんた、またアタシの見てないところで抜け駆けしたでしょ?」

 

「え?え?ぬ、抜け駆けって・・・?」

 

「白々しいのよ!フー君と2人っきりのデートに行ってたでしょ!!」

 

・・・も、もうバレちゃってる!!でも、なんで!!?

 

「・・・やっぱり昨日のあれ、怪しかったから確かめに行った。そして・・・案の定だった」

 

三玖ちゃんの手元にあったのは、今日のスタンプラリーの用紙だった。い、言い逃れができない・・・!!

 

「何か弁明があるなら聞くけど?」

 

「え、えーっと・・・その・・・だね・・・」

 

「・・・ちゃんと言っていたなら別に何も言わなかった。コイ・ツラ、興味なかったし」

 

「ううぅ・・・」

 

「でも・・・黙ってただけじゃなくて、フータローと2人きり・・・しかも1人で遊びに行くって嘘ついた・・・有罪、切腹」

 

天国から地獄に変わるとはよく言ったものだよ・・・!まさか・・・こんな展開が待っていたなんて・・・いや、薄々予想はしてたんだけども!

 

「あ、あのですね・・・二乃、三玖・・・六海には六海なりの考えが・・・」

 

五月ちゃん・・・六海に助け舟を・・・!

 

五月は黙ってて

 

てかあんたには関係ないでしょ

 

ところが玉砕!!?五月ちゃーーーーーーん!!!!

 

「い、一花ーーー!!」

 

「よしよし、怖かったねー」

 

五月ちゃんは一花ちゃんに泣きついてきた。六海も助けてもらおうと一花ちゃんに視線を向ける。

 

「い、一花ちゃん・・・」

 

「六海、ごめんね?とてもじゃないけど庇いきれないや」

 

そ、そんな・・・じゃ、じゃあ四葉ちゃん!四葉ちゃんならきっと・・・

 

「えっと・・・六海ごめん!なんか巻き込まれそうで助けにいけない!!」

 

ああ!!四葉ちゃんまで!!す、救いは・・・?どこかに救いはないの・・・?

 

「救いなんてあるわけない」

 

「ぴぇっ・・・」

 

「覚悟は・・・できてるわよね・・・?」

 

「ちょっ・・・ちょっと待って・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

・・・こうして六海は二乃ちゃんと三玖ちゃんの手によって、こちょこちょの刑にあうだけじゃなく、晩ご飯には六海だけ大量のゴーヤが出されるという拷問を受けたよ・・・。六海は・・・六海は汚されちゃったよぅ・・・。

 

51「スタンプラリーツアー」

 

つづく




おまけ

スタンプラリーの豪華景品の正体

六海「ふひぃ・・・ひどい目にあった・・・2人とも容赦なさすぎぃ・・・。
はぁ・・・気にしててもしょうがない。絵を描こうか。
・・・それにしても・・・スタンプラリーの豪華景品って結局なんだったんだろう?ホームページを見ればわかるかな?・・・ちょっと見てみよう」

ホームページ検索中・・・

六海「わぁ・・・これは・・・」

『●●先生イラストのコイ・ツラペアルックTシャツ』

六海「・・・これ、フーちゃんにとっては、恥ずかしさで死んじゃうものだね・・・。普通の景品でよかったぁ・・・」

一方の上杉家では・・・

風太郎「へっくし!」

らいは「お兄ちゃん、風邪?」

風太郎「・・・誰か俺の事なんか言ったような・・・」

スタンプラリーの豪華景品の正体  おわり

次回、三玖視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夕方の約束

・・・はい、毎度遅くなって申し訳ございません。なかなかネタが思い浮かばなかったのと、ネタが浮かんでもうまく文字にできない、並びに1回から2回までのワクチン接種で1か月間、勝手ながらお休みしておりました。誠にもうしわけございません。

さて、今回は三玖ちゃんのシナリオです。今回のテーマは夕方の一時です。夕方という短い時間、されどもほっこりするような一時を・・・できてたらいいなぁ・・・。
後今回、オリジナル回では文字数が少ないかもですが・・・まぁ、三玖ちゃんの場合、これが前哨戦ってことで・・・。

とりあえず今年最後の投稿、間に合ってよかったです。来年の目標は投稿はより早く・・・できたらいいなぁって思っております。それでは、よいお年を!


「おー、本当においしそうー。成長したね、三玖」

 

「でしょー?」

 

「えっへん」

 

「見た目は確かにおいしそうなパン・・・だね・・・」

 

まだまだ夏休みが続く中でも、アルバイトに休みはない。今日は出勤日だから私はこうしてアルバイトに勤しんでる。今は出来上がったパンをちょうどアルバイトが休みで暇を持て余してる四葉に試食を頼んでもらってる。そこにちょうど仕事で遅くなる一花とアルバイトで遅くなるかもしれない六海が間食に食べるパンを買いにやってきたからせっかくだから2人にも試食を頼んでる。

 

「あれから三玖ちゃん、どんどん成長していってね。もう少ししたらお店に出すことができるかもしれないの。いや、この調子なら他のレシピも作れるようになるかも・・・」

 

「おお!それはすごいですね!」

 

まだクロワッサン1種類しか作れないけど・・・ここまでの出来になることができたのは、店長のおかげ。本当に感謝してる。

 

「う、うぅ~ん・・・でも・・・でもなぁ・・・うぅ・・・お腹が痛くなってきた・・・」

 

これまで試食を避けていた六海は今も渋ったような顔をしてる。それどころかお腹まで痛くなってる始末。前に私が作った料理のことを思い出してるのかも。六海が試食を避けていた理由が今なら・・・いや、うすうすながら気づいていた。でも、今回は違う反応が出てくるって自信はある。

 

「大丈夫。今日のは特に自信作」

 

「余計に不安を煽るようなこと言わないでよ・・・」

 

「大丈夫だよ六海!修学旅行の時だって上杉さんはおいしいって言ってたから!」

 

「フーちゃんの味覚ほど信用できないものはないよー・・・」

 

なかなかクロワッサンに手を付けようとしない六海に四葉は説得してるけど、それでも全然手を付けようとしない。・・・しょうがないとはいえ、なんかちょっとだけ腹が立ってきた。

 

「ははは・・・六海は怖がりだなぁ。じゃあ、お姉ちゃんが先にいただいちゃおっかな」

 

そう言って一花は目の前にあるクロワッサンに手に取って、それを口に運んだ。

 

「どう?」

 

「うん。おいしいよ、とっても」

 

「うそぉ!!?」

 

「本当本当!ほら、六海も食べてごらん」

 

一花の感想はとても高評価だった。信じられないといった様子の六海は一花に勧められてようやくクロワッサンに手を付けた。まだ疑ってる様子の六海は意を決してやっとクロワッサンを食べた。

 

「・・・まず・・・くない!!なにこれすごくおいしい!!」

 

「でしょ?おいしいよね」

 

「三玖、これ作るのに一生懸命頑張ってたもんね!」

 

「本当においしい・・・食べる手が止まらないよー・・・」

 

「・・・ふふん」ドヤァ・・・

 

さっきまでの疑いはどこへやら、六海はおいしいおいしいって言って食べるスピードが速くなっていく。気が付けば完食して、もう1個クロワッサンを手に取ってそれを食べる。それを見て私は思わずにドヤ顔になった。

 

(・・・そっか・・・。三玖はここで必死に頑張って来たんだ・・・。・・・それなのに・・・私は・・・)

 

「・・・一花?」

 

「!ううん、何でもないよ。気にしないで」

 

「・・・・・・」

 

一瞬だけ一花の顔が曇っていたのに気づいた。声を掛けたらすぐに笑顔を振るまっていたけど・・・。何でもないっていうのは多分嘘。・・・もしかして、修学旅行の時のこと、まだ気にしてるのかな。

 

「じゃあ私も1ついただこーっと・・・て、あれ!!?ない!!クロワッサンが消えた!!ミステリー!!」

 

「え?」

 

クロワッサンがあったお皿を見てみると、四葉の言うとおり、確かになくなってる。おかしいな・・・ちょっと多めに作ったのに・・・。どうしてだろうと思って六海の方を見てみると・・・

 

「もぐもぐ・・・むぐっ⁉」

 

「・・・・・・」

 

クロワッサンを頬張っていて、両手にはまだ食べてないクロワッサンがあった。犯人はここにいた。・・・ちょっと食べすぎじゃない?五月じゃあるまいし・・・。

 

「むぐむぐ・・・ごくんっ。ご、ごめん・・・あまりにおいしくてつい・・・」

 

「あはは、五月みたいですごい食べっぷりだね!よっぽどおいしかったんだね!」

 

「六海は正直だなぁ~」

 

「しょ、しょうがないじゃん!おいしかったんだもん!あ、余ってるよ?四葉ちゃん、食べる?」

 

「あ、食べる食べる!よかったー・・・まだちょっと残ってて」

 

六海は四葉に謝りながら両手に持っていたクロワッサンを渡した。四葉は本当に安心した様子でクロワッサンを受け取ってそれを食べ始める。

 

「おいしい!三玖、本当においしいよ!前に試食の時よりも上達してる!」

 

「ありがとう、四葉」

 

四葉と六海が初めて私の料理を食べた時はあんまりいい顔してなかったけど・・・今じゃこうして嬉しそうに食べてくれてる。・・・やっぱり、誰かにおいしいって言ってもらえるのは、嬉しい。

 

「それにしてもこんなにおいしくパンができるなんて思わなかったよー。これならコロッケやオムライスとかのリベンジいけるんじゃない?」

 

「・・・リベンジ、か・・・」

 

「え?何の話?」

 

「あ、そっか。一花は知らないんだったね」

 

「実はねー、前にねー・・・」

 

六海は一花に私が料理を始めるきっかけを一から順に話し始めた。それにしても・・・リベンジ、かぁ・・・。いろいろと忙しかったから考えてもみなかった。前に作ったオムライスやコロッケ、フータローは普通においしいって言ってたけど、あれは誰が見ても失敗作だった。・・・どうせだったら、成功作の方も、いつかは食べてもらいたいなぁ・・・。

 

「へぇー、そうなんだ。・・・と、もうこんな時間か。急がないと撮影に遅れちゃうなぁ」

 

「え⁉もうそんな時間⁉早くパンを買って仕事場に行かないと!」

 

そろそろ仕事に行かないといけない時間が迫ってきて、一花と六海は席から立って間食に食べるパンを選びに向かってる。・・・あ、私もそろそろ休憩時間終わっちゃう。

 

「私もそろそろ家に帰るけど・・・三玖、お仕事頑張ってね!また今度味見させてね!」

 

「うん。その時はよろしくね」

 

四葉は私にエールを送って笑顔を見せて手を振ってから家に帰る・・・前に1つパンを買ってから店を出た。ちゃっかりお店に貢献してる・・・。

 

「じゃあ私たちもそろそろ行くよ」

 

「三玖ちゃん、パンごちそうさま!お仕事頑張ってね!」

 

「うん。2人も頑張ってね」

 

パンを買い終えた一花と六海も私に手を振ってそのまま自分の仕事場に向かっていった。私も休憩終わり・・・よし。今日もアルバイト、頑張ろう。

 

♡♡♡♡♡♡

 

アルバイトが終わったころにはすっかり夕方になってた。時間がたつのは結構早いな・・・。・・・それにしても・・・何度思い返しても顔がにやけてしまうな。コロッケ以降全然試食を避けていた六海があんなにおいしいおいしいって言って食べるんだもん。それが嬉しいし、おかしくって・・・

 

『コロッケやオムライスとかのリベンジいけるんじゃない?』

 

「・・・リベンジ、か・・・」

 

今にして思えば、あの時の私には料理の基礎知識とか、材料の分配とか、何もかもが知らない素人の状態だった。でも今は違う。二乃のおかげで基礎的な知識を学んだ。まだレシピを頼りにしてるけど、1人でもパンやチョコを作れるようになった。それならきっと・・・。

 

・・・いや、でも待って。これまでいくつかの料理を作って来たけど・・・レシピ通りにやってもなぜか不思議な力で見た目が不格好になってしまうことが度々・・・。というか、今でもそんなことが続いてるし・・・。・・・やっぱり、やめておこうかなぁ・・・。・・・でも・・・でももしうまくいいったら、フータローは、いつもみたいにおいしいって言ってくれるかな・・・。それとも・・・。

 

・・・少しだけスーパーに寄っていこうかな。リベンジ云々はともかくとして、練習ぐらいはしときたいし。味見役は・・・いつも通りの四葉でいいかな。そう思ってスーパーへの道へ私は歩いていく。

 

「好きだ♡」

 

「私もよ♡」

 

うわ・・・以前にも見たあのイチャイチャカップルだ・・・。まだお付き合いが続いていたんだね・・・。それだけお互いに相手のことが好きなんだろうな・・・。

 

「僕の方が好きだ♡」

 

「私の方が好きよ♡」

 

「僕には負けるさ♡」

 

「私が勝つわ♡」

 

・・・うん、やっぱりむかつく。恋愛をするなとは言わないけど・・・せめて人が見てないところでやってほしい。近くで見せられると、単なる当てつけにしか見えない。誰か・・・この2人をどうにかして・・・もしくはこの場の流れを変えて・・・。

 

「・・・やはり理解不能だ」

 

目のやり場に困っていたところに2人の水を差すような声が聞こえてきた。その声の主は私の好きな人、フータローだった。

 

「!三玖!」

 

「フータロー・・・偶然だね」

 

フータローは今アルバイトがお休みだから外に出る機会がこれといってない。だからこうして会える機会は滅多にない。だからかな。久しぶりにフータローの顔が見れて、嬉しい。

 

「珍しいね、フータローが外に出てるの。プールに行った後、ちっとも顔を合わせないから・・・久しぶりな気がする」

 

「行く用事もないからな」

 

「ただ遊びに来るだけでもよかったのに」

 

「・・・・・・」

 

「それに、やっぱり私は、フータローに勉強、教えてもらいたい」

 

「あー・・・まぁ・・・機会があったら・・・行く」

 

「うん。待ってる」

 

ちょっと言ってはみるものだね。フータローはいつうちに来てくれるのかな?今から楽しみ。

 

「・・・えーっと・・・今日はアルバイト・・・だったか?」

 

「うん。ちょうど今終わって、ついでに買い物でもしようかなって」

 

「そうか・・・」

 

「そういうフータローも買い物?」

 

「ああ。らいはに今日の晩御飯の買い出しを頼まれてな。ついで、花も買っておこうと」

 

「お花?」

 

フータローの口からまさか花なんて単語が出てくるなんて思わなかった。急にどうしたんだろう?

 

「ほら、店長バイク事故で今入院してるだろ?」

 

「うん。知ってる」

 

プールの後、二乃から直接聞いた。私たちもあの人にはお世話になったから、ちょっと心配。

 

「明日二乃と春と一緒に店長のお見舞いに行くことになったんで、花をと思ってな」

 

「ああ、だから二乃、今日はお花を買いに行ってたんだ」

 

そういえば二乃行ってたっけ。店長さんのお見舞いに行くって。それで・・・。納得がいったよ。

 

「もしかしたら、春もお花、買ってるかも」

 

「・・・やっぱり買わない方がいいか・・・」

 

「こういうのは気持ちだから、買っておいた方がいいと思うよ」

 

「むぅ・・・そうか・・・そうだな・・・」

 

ちょっと渋ってしまってるフータローは私の思ってることを聞いて、やっぱり買うことを決めたみたい。こうしてフータローと何気ない会話をするのは楽しいな。・・・あ、そうだ。

 

「・・・ねぇ、フータロー」

 

「ん?どうした?」

 

「よかったら買い物、手伝ってあげるよ」

 

せっかく買い物するんだし、どうせならフータローと一緒に買い物がしたい。これならフータローの邪魔にならないし、何よりもう少しだけ一緒にいられる。

 

「それはありがたいが・・・いいのか?」

 

「うん。買い物する場所は多分一緒だと思うし・・・それに私は・・・もう少し・・・フータローと一緒にいたい・・・」

 

「・・・そ、そうか・・・」

 

あ、フータロー、少し髪の毛をいじってる。フータローってこういう時、前髪をいじる癖があるんだ・・・。なんだかかわいいな・・・。

 

「・・・えっと・・・じゃあ・・・少し、頼めるか?見舞いにどんな花を送ればいいかわからんから・・・少し教えてくれると助かる」

 

「うん、任せて」

 

私とフータローは何気ない会話をしながらスーパーの道のりを歩いていく。・・・少しでもフータローが私を頼ってくれている。少し、嬉しい。

 

♡♡♡♡♡♡

 

スーパーにたどり着いた私たちはまず何を買うかっていうのを話し合っている。

 

「まず何を買おうか」

 

「一応何を買うかは決まってあるから花から買っておこうと思う。面倒なものは先に済ませるに限るからな」

 

面倒って・・・フータローらしいっていえばらしいけど・・・それはあんまりいうべきことじゃないと思う・・・。まぁそれは置いといて・・・とりあえずまずは花屋さんに足を運んだ。

 

「・・・それで、どんな花を贈った方がいいんだ?」

 

「他の患者さんもいるだろうから、気を使ってあまり香りの方がいい。それと、マナーは大切だから寂しげな色は避けた方がいい。選ぶとしたら明るめな色で」

 

「お、おう」

 

「あ、それから鉢物は避けた方がいいよ。フラワーアレンジメントがかなりお勧め」

 

お見舞いに贈るのに気を付けた方がいいことをフータローに伝えていく。

 

「すげぇな。そんなことまでわかるのか?」

 

「まぁ・・・私もそこまで詳しいっていうわけじゃないから、全部スマホで調べた知識だけどね」

 

「そうか・・・。いやしかし、いんたーねっとってのはすごいものなんだな。そんなことまで調べられるとは」

 

「・・・フータローもスマホなら、これくらいできると思うけど・・・」

 

「いや俺はそもそも連絡するものしか使用しない。アプリとかなんとかってのもわけわかんねぇし、そもそも基本スマホは触らない」

 

「それは知ろうともしないだけなんじゃ・・・」

 

若者で便利なアプリを知らないって言い張ってるの、世界中を探してもフータローだけなんじゃ・・・。まぁ、らしいと言えばらしいけど。

 

「・・・・・・」

 

「・・・?お花をじっと見てどうしたの?」

 

「・・・なぁ三玖。お前らの母親の命日って今月の14日・・・明後日だったよな」

 

?急に話を振ってきたと思ったら・・・お母さんの命日?

 

「うん。そうだけど・・・それがどうしたの?」

 

「・・・いや、ただちょっと確認しただけだ」

 

・・・それだけを聞きたかったの?変なフータロー。

 

「・・・よかったら一緒に来る?みんな喜ぶと思うよ」

 

「いや、遠慮しておく。せっかく家族水入らずなんだ。俺がいたらただ邪魔なだけだからな」

 

それくらい気にしなくてもいいと思うけど。でも、これもフータローなりの優しさなんだろうね。

 

「まぁ、とにかく助かった。正直俺1人のチョイスじゃ厳しかったかもしれなかった。ありがとうな、三玖」

 

「・・・うん」

 

少しでもフータローの力になれたなら、私も嬉しく思う。自分でも少し笑みを浮かべているのがわかる。

 

♡♡♡♡♡♡

 

お花屋さんでお見舞いのお花を選んで買った次は今日の晩御飯の食材。私も練習用に食材を買おうと思ってたからちょうどいい。まだ何にするかは決めてないんだけど・・・まぁ、見ればすぐに決まると思う。

 

「フータローは何を買うの?」

 

「そんなに多くは買わねぇよ。今日の晩飯はらいは特性の卵焼きに焼き魚、後は味噌汁とごはんだからな」

 

・・・晩御飯にしては本当に少ないね。・・・そういえば、学校の食堂でも焼肉定食の焼肉を抜いたものを食べてるって言ってたっけ。・・・その時くらいは贅沢してもいいと思うんだけど・・・。

 

「本当にそれで足りてるの?」

 

「足りてる・・・とはいいがたいな・・・。だが、金を多く使うわけにはいかねぇよ」

 

「よかったら、私が作ってあげるよ」

 

「・・・い、いや・・・そこまでしなくてもいい・・・それほど困ってもいないし・・・」

 

「・・・しゅん・・・」

 

そう言われると・・・なんかショック・・・。

 

「それよりも俺が出した宿題、ちゃんとやってるだろうな?」

 

「うん。ちゃんとやってるよ。他のみんなもそう。ちょっと苦戦はしてるけど」

 

「それはなによりだ。あの宿題は全部大学試験に出る問題ばかりだからな」

 

「大学試験・・・」

 

「入試判定試験は終わったが、あれで終わりってわけじゃねぇからな。本番でも躓かないようにしないと大学は受からねぇぞ」

 

ああ・・・そういえば忘れてた・・・フータローは知らないんだった。私が目指すのは、大学じゃなくて、料理の専門学校なんだっていうのを・・・。

 

「えっと・・・あのね・・・フータロー・・・」

 

チャリンチャリーン!!!

 

「あ?なんだ?てかうるさいな・・・何の音だよ」

 

「あ・・・」

 

私が進路について話そうとした時、何かのベルの音で遮られた。ベルの音のした場所をのぞいてみると、福引をやってる場所があった。どうやら今の音は福引で当選した音みたい。

 

「福引か・・・そういえばそんなチラシが張ってあったっけか」

 

「えと・・・」

 

「それで・・・三玖、なんて言おうとしたんだ?」

 

「・・・ううん、何でもない」

 

進路について話そうと思ったけど・・・やっぱりやめた。今はまだ・・・なんだか喋れる勇気が持てない・・・。はぁ・・・まだ弱いままだな・・・私・・・。・・・ううん、こんな気持ちじゃダメ。気持ちを切り替えていかないと・・・。

 

「それよりフータロー、千円以上の買い物をすれば福引券もらえるんだって。1回挑戦してみようよ」

 

「いや・・・そう言われても俺の買い物じゃ千円もいかないんだが・・・」

 

あ・・・それもそうか・・・。確かにこの量じゃ千円の値段もいかない。・・・あ、じゃあ・・・

 

「それなら私の分と合わせよう。そうすれば2千円で2回分・・・1人1回は引けるよ」

 

「む・・・まぁ・・・それなら・・・何とかなるか・・・」

 

「ふふ・・・決まり、だね」

 

福引をやると決めたところでフータローの分と私の分をかごに入れて2人分のお会計を済ませる。ちなみに、お金の方は割り勘で払ってる。だって、フータローはこういう時に限ってすごく細かいから。こうやって福引券をもらって、私たちは福引でもらえる商品を確認する。

 

「これが福引の商品か」

 

「E賞がクリアファイル、D賞が冷凍食品1週間分・・・いろいろあるね・・・」

 

これのほかにもC賞にお米の一袋分なんかもあるし・・・B賞にはネックレスもある・・・。すごいな・・・。

 

「あ、A章に温泉旅行のペアチケットがある。場所はおじいちゃんの宿とは違うけど・・・また当たるかな・・・」

 

「A賞なんてそう何回も当たってたまるか。それよりも実用的なものを狙った方がいい」

 

「実用的って・・・フータローは何が欲しいの?」

 

「そりゃF賞の商品券かD賞の冷凍食品に決まってるだろ。どちらか当たれば食費がかなり浮くぜ・・・!いや、待てよ?ネックレスは売ったらいくらほどになる・・・?」

 

「フータローじゃ当たらない気がする」

 

今のフータローの顔、結構悪人みたいになってる。そんなに欲深いと残念賞のティッシュが当たると私は思う。

 

「やってみないとわからないだろ。実際に春休みに温泉旅行ペアチケット当たっただろ?」

 

「それはまぁ・・・確かにそうだけど・・・」

 

フータローの言うことは最もだ。何が出るのかわからないから福引なんだし。

 

「これ、お願いします」

 

「はい、福引1回ですね。幸運を掴めるよう、頑張ってください」

 

店員の人にさっきもらった福引券を渡して、私はガラガラを回す。いい商品・・・当たるといいんだけど・・・結果は・・・

 

「おめでとうございます!E賞のクリアファイルです!」

 

「クリアファイルか・・・」

 

「当たったのはいいけど・・・正直微妙・・・」

 

外れよりは何倍もいいんだけど・・・あんまり使わないし、柄も好みじゃないし。だからこれをもらっても困る。でも使わないのももったいないし・・・六海にあげようかな。六海ならどんなクリアファイルでも喜んで使うだろうね。だってどんな絵でも大切に保存するから。

 

「よし、次は俺の番だ。狙うはD賞だ」

 

微妙なラインナップだと思うけど・・・そんなことはお構いなしにフータローは福引券を渡して、意気揚々とガラガラを引いていく。・・・なんとなく予想はつくんだけど・・・どうだろう・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

「残念!外れです。残念賞のティッシュをどうぞー」

 

「・・・・・・」

 

ああ・・・やっぱり・・・予想が当たったよ・・・。フータローの番でガラガラから出てきた弾は白、つまりは外れ。あんなに気合いを入れてたのに・・・運だからしょうがないけど・・・ちょっとかわいそう・・・。

 

「・・・どんまい」

 

「くっ・・・当たると思ったのに・・・冷凍食品セットが・・・」

 

「こればっかりはしょうがないよ」

 

「むむむ・・・まぁいい・・・ティッシュでも使い道はいくらでもある。むしろとれてよかったと考えよう」

 

「無理しなくてもいいよ」

 

なんか無理に前向きにとらえようとしてるけど・・・若干ながら顔に出てるんだよね・・・複雑そうな顔が。

 

「そ、それはそうと・・・今日はありがとうな。おかげで助かった」

 

「私は別に何もしてない。ただスマホで調べただけだから」

 

「あー・・・それで・・・なんだがな・・・」

 

?フータロー、ちょっと歯切れが悪くなってきてる。急にどうしたんだろう?

 

「・・・三玖、何かしてほしいことはないか?」

 

・・・?何かしてほしいこと?どういうこと?

 

「・・・何かしてほしいことって?」

 

「何がいいんだ?何でもいいぞ。もしくは食いたいものでも構わない。ただし、俺が買える範囲内でな」

 

「そうじゃなくって・・・どういう意味かを聞いてるの」

 

「・・・ほら・・・買い物を手伝ってもらったわけだし・・・。今回だけじゃねぇ。特にお前にはいろいろと世話になったからな・・・。だから・・・その・・・そ、そのお返しだ・・・」

 

「・・・ぷぷ・・・」

 

フータローの口からお返し、だなんて・・・。やっぱり何度聞いてもあまり似合わない。だから、驚くよりも、むしろおかしくって思わず笑っちゃうね。

 

「・・・なんだよ」

 

「ううん。ただ、やっぱり似合わないなぁって」

 

「・・・うるせぇ。自覚はしてる」

 

でも、やっぱり嬉しいなとは思っちゃうな。だって、最初はそういうの言葉なんて出てくることはないと思ってたから。本当、最初と比べて変わったなぁ。

 

「・・・じゃあ・・・ちょっとだけ・・・いいかな・・・?」

 

せっかくだし、ここはフータローのお言葉に甘えちゃおうかな。もう夕方だけど・・・もう少し遅くなっても・・・いいよね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

スーパーから出た後は私とフータローは少し移動して、河原沿いの道のりを歩いていく。簡単に言えばこの辺りをお散歩してるってこと。

 

「風が気持ちいいね」

 

「・・・なぁ、三玖。本当にここで散歩でよかったのか?もっと他のことでもよかったんだぞ」

 

正直に言うと・・・何かやりたいことって言われても別にやりたいことは何もない。強いているならば、フータローともっと一緒にいたい。私の望むことは、それだけだから。

 

「うん。これでいい。私は・・・フータローと一緒にいるだけで、十分だから」

 

「・・・・・・///」

 

あ、少し照れて口元を抑えてる。かわいい。

 

「・・・あ、そうだ。フータロー、のど渇いてない?抹茶ソーダ買ってあるから、1つどう?」

 

「ま、抹茶ソーダ・・・」

 

「フータローになら1本上げるよ」

 

「う、うーん・・・まぁ・・・せっかくだし・・・もらっとく」

 

なんか若干ながら渋っているような・・・まぁいいや。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ああ」

 

「・・・もちろん、鼻水は入ってないよ」

 

抹茶ソーダを渡した後に私の言った言葉にフータローは一瞬だけ目を見開かせて、その後に口元に笑みを浮かべた。

 

「またそのエピソードか・・・好きなのか?」

 

「そういうフータローは覚えてたんだ」

 

「そりゃお前に苦汁をなめさせられた出来事だからな。そう簡単に忘れてたまるかよ」

 

「それもそうだね」

 

今にして思えば・・・このエピソードがあったからこそ、こうしてフータローと向き合えているのかもしれないね。そう考えると感慨深いものがある。

 

「むかつきはしたものの・・・あれがあったからこそ・・・こうしてお前のことを知ることができた。今となっては、感謝してる」

 

「ううん、感謝してるのはこっちの方。フータローのおかげで・・・こんな私でも、できるかもって思うことができたんだ。それと比べれば大したことはしてない」

 

「・・・あれからもうすぐで1年になるか・・・」

 

「早いものだね・・・」

 

2年生の時を懐かしみながら、フータローは私が渡した抹茶ソーダを一口飲んだ。

 

「ん・・・なんだこりゃ・・・。うまいような・・・まずいような・・・よくわからん味だな」

 

「そう?私は普通においしいと思うけど・・・」

 

毎回思うんだけど・・・みんなどうして抹茶ソーダはまずいだとか、よくわからないなんて感想が出てくるんだろう?抹茶独特の苦みがあるからこそおいしいのに。そう思いながら私はもう1本の抹茶ソーダのふたを開けてそれを飲む。すると、河原の向こう側から赤い夕陽が出てきた。

 

「あ・・・きれい・・・」

 

赤い夕陽が川辺によく映り込んであるから、この景色は非常に美しかった。それに・・・懐かしさも込み上げてきた。

 

「・・・ここにはね、昔6人でよく歩いてたりしていたの」

 

「へぇ・・・そうなのか・・・」

 

「うん。それでここにはお絵描き爺さんっていうおじいさんがよく飽きもせずに絵を描いていたんだ。たまにおじいさんの絵のモデルになったり、たまに絵を一緒に描いたりして・・・それであの夕陽が出てきたんだ」

 

「そうか。お前たちにとっては、思い出の景色の1つなんだな、ここは・・・」

 

「うん。お絵描き爺さん・・・元気かな・・・」

 

お母さんが亡くなってからいろいろあってからというもの、あれからお絵描き爺さんには会ってなかったな・・・。元気にしてるかな・・・。久しぶりに会ってみたかったんだけど・・・いないなら仕方ない・・・。

 

「・・・実はな、ここでこの夕陽を見るのは、これで2度目なんだ」

 

「え?そうなの?」

 

意外・・・フータローは外に出るっていう考えは買い物以外ではないと思ってた・・・。

 

「あの時は確か・・・まだ中1の頃だったな。あの時は・・・真鍋の奴にソフトボールの練習に付き合えって了承も得てないのにあの橋の下に無理やり連れてこられてな・・・」

 

真鍋さんかぁ・・・フータロー、確か真鍋さんと同じ中学校なんだっけ・・・。なんか、納得がいった。

 

「それで、その時は何やったの?」

 

「普通にキャッチボールだったな。あの時は真鍋の奴にかなりなめられてな・・・あいつの挑発に乗ってしまってやったって感じだ。その後は散々だった。ボールはうまく取れないわ、あいつにはバカにされるわ、挙句の果てにあいつのミスったボールが溝内に当たったりして・・・それで口喧嘩して最終的には互いに罵り合ってたな」

 

うわぁ・・・どうしよう、その時の光景が簡単に想像がつく・・・。フータローと真鍋さん、似てないようで意外に似てるから・・・。

 

「そん時に見たのが、今みたいな夕陽だったな。これを見た時、喧嘩してたのがすげぇバカらしくなってな。お互いに座り込んでこの夕陽をぼーっと眺めていた。なぜかそれを思い出した」

 

「そうだったんだ」

 

「・・・と、悪かったな。こんなくだらない話をしちまって・・・」

 

「ううん、そんなことない。だって・・・こうしてまた、私の知らないフータローの意外な一面を知ることができた。私は・・・それが嬉しいし・・・楽しい」

 

「そ、そうか?」

 

「うん」

 

ここに来たのは正解だったな。だって・・・こうしてゆっくりと、フータローとお話をして、フータローのことを、知ることができるから。

 

「ねぇ、もっといろいろなことを教えて。私も・・・自分のことを、いろいろ話すから・・・私のことを・・・知ってほしい」

 

私の心からの本心にフータローは私の顔を見て、少し考える素振りをしている。

 

「じゃあ・・・こんな話とかはどうだ?これも思い出した話なんだが・・・」

 

その後私とフータローは座り込んでこの赤い夕陽を見ながらたわいない話で盛り上がった。やっぱり、この一時はたまらなく好きだな。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あれから結構長く話してたみたいで、夕陽がもうすぐで沈みそうになっている。時間が経つのって・・・結構早いね・・・。

 

「あ・・・もうこんな時間・・・」

 

「げっ・・・マジか・・・。じゃあ少し歩いたら帰るとするか」

 

私とフータローは立ち上がって河原沿いを歩いていく。

 

「・・・ねぇフータロー・・・1つ聞きたいことがあるの」

 

「どうした?言ってみろ」

 

「フータローと真鍋さんって、同じ中学校だったんだよね?」

 

「ああ、そうだな」

 

「・・・どんな関係だったの?」

 

実はずっと前からかなり気になってたこと。私たちと出会う前に一緒にいた女の人・・・その人がどんな関係だったのかっていうのはやっぱり気になる。もしかしたら・・・前に付き合っていて・・・今は別れた・・・みたいな・・・

 

「ただの腐れ縁だな。喧嘩した回数なんてもう数えきれないほどだ」

 

・・・まさかの即答で答えるなんて思わなかった・・・。

 

「・・・いや、そうじゃなくって・・・好き・・・とかは・・・」

 

「は?ありえねぇ。マジでありえねぇ。百歩譲って友人だというのはいいが、それだけは絶対ねぇよ。あんな性悪女となんて」

 

・・・最後まで言い切る前に即答するとは思わなかった。よっぽどなんだね・・・。

 

「じゃあ・・・真鍋さんとは何ともないんだね・・・」

 

「よく思い出してみろ。その時の俺は恋愛なんてくだらないって思っていたんだぞ?そんな俺があいつどころか他の女ですらそんな目で見てすらいねぇよ」

 

「それはちょっと拗らせすぎじゃあ・・・」

 

・・・でもそっか。何とも思ってなかったんだ。じゃあ恋愛を意識し始めたのは私たちからだったってことか・・・。なんか、ちょっとだけ嬉しいな。

 

「ふふ、なんか今のフータロー、普通の男の子っぽい。こういう話で一蹴しなくなったし」

 

「おい、前まで異常だった見たいな言い方はやめろ」

 

実際その通りなんだけど・・・。だって初めて恋愛の話が出た時の拗らせ具合は凄まじかったもの。

 

「でも、フータローとこういう話をするの、すごく楽しいよ」

 

「・・・まぁ・・・悪くはなかったな」

 

フータローは少しだけ楽しそうに笑みを浮かべている。フータロー、こんな顔もするんだ。

 

「私・・・今日でフータローのこと、もっとよく知ることができた。すごく楽しかった」

 

「それはなによりだ」

 

「でも私・・・もっとフータローのことが知りたい。もっと一緒にいたい・・・」

 

私はフータローの前まで歩き、顔をじっと見つめる。

 

「フータロー、どこか出かけようよ」

 

「・・・えっ?」

 

何の脈略もなく出た私の言葉にフータローはあっけにとられてる。

 

「いやあの・・・三玖さん?今はもう夕暮れ時なんですが・・・」

 

「・・・いや?」

 

「いや・・・別に嫌とかではなくてだな・・・その・・・時間が・・・」

 

・・・あ、そういえばそうだった。そろそろ帰らないと・・・二乃がうるさそう。それに・・・ちょっと急すぎた。

 

「じゃあ・・・別に今日じゃなくてもいい。フータローが行ける時間帯でいい。それなら・・・どうかな?」

 

「どっかに行くことは確定なんだな・・・」

 

私にじっと顔を見つめられてるフータローは少しため息をはいて頭をかく。

 

「はぁ・・・わかったわかった・・・そっちの都合のいい時間があったら付き合ってやるよ」

 

「!」

 

フータローの言葉を聞いて、私ははっと目を見開かせた。

 

「自分で言っといてなんだけど・・・いいの?言質取るよ?約束破ったら切腹だよ?」

 

「ああ。それでお前が満足するならそれでいい」

 

いつかはわからないけど・・・別の日にフータローと約束を取り付けられた・・・。それも嬉しいけど・・・フータローが私に付き合ってくれる・・・それが何よりも嬉しい。

 

「じゃあ、約束ね。いつか絶対、私と一緒に出掛けようね」

 

「ああ」

 

「約束、破ったら嫌だよ」

 

「心配するな。今はバイトが休みで暇なんだ。時間はいつでも空いてる」

 

この先の楽しみが1つ増えちゃったな。フータローなら割と何でも楽しそうにしそうだから・・・どこにしようか迷っちゃうな・・・。ふふ・・・なんだか笑っちゃいそう。

 

「じゃあ、そろそろ帰るか」

 

「うん」

 

フータローと約束したところで、私たちはたわいない話で盛り上がりながら帰り道を歩いて行った。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私が帰ってきた頃にはちょうど夕陽が沈んで夜になろうとしていた時だった。リビングには二乃が今日の晩御飯の支度をしているところだった。

 

「ただいま」

 

「あんた遅かったじゃない。何してたのよ?」

 

「ただちょっと買い物に行ってただけ」

 

嘘は言ってはいない。でも全部は言うつもりはない。

 

「・・・三玖、あんた何かいいことでもあったの?」

 

「え?どうして?」

 

「だってあんた、顔に出てるもの」

 

そんなにわかりやすく顔に出てたかな。確かに、いいことはあった。とってもいいことが。でも・・・

 

「・・・ないしょだよ」

 

フータローと一緒に散歩をしてきたことは誰にもないしょ。私だけの秘密・・・私だけの・・・特別な時間だったから・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日の朝・・・まだ眠気が残ってるせいで二度寝したい気分であった。そんな気分をかみ殺して、私は洗面所で顔を洗おうと思って部屋を開けてみると・・・

 

「本当に一花ちゃんがそう言ったの?」

 

「にわかには信じがたいかもしれませんが・・・しっかりと聞いてしまいましたから・・・」

 

「・・・一花が・・・」

 

「・・・や、やっぱり気のせいなんじゃないかな・・・?」

 

「・・・やはりそうなのでしょうか・・・?」

 

二乃、四葉、五月、六海の4人が集まって何かを話し合っている。何の話をしてるんだろう・・・?なんか一花の名前がちょくちょく出てるけど・・・。

 

「・・・何してるの?」

 

「あ・・・三玖・・・」

 

「ちょうどよいところに・・・三玖にも聞いてもらいたいことがあります」

 

?私に・・・聞いてもらいたいこと・・・?姉妹がほぼ全員そろっていることからして・・・よほどのことなのかな?

 

「聞いてもらいたいって・・・どうしたの?」

 

「・・・私も、最初はただの勘違いなのでは、と思っていたのですが・・・昨日一花の電話をたまたま聞いてしまって・・・それで・・・嫌な予感がして・・・」

 

「だからいったい何の話?一花の電話がどうしたって?」

 

未だに何のことがよくわかってない私の問いにみんなはかなり困ったような顔つきになってる。短い沈黙の末、五月は複雑そうな顔つきのまま、驚くことを口にした。

 

「実は・・・一花が・・・家を出ていくのかもしれません・・・」

 

「・・・え?」

 

一花がこの家から出ていくかもしれない・・・何の確証もないものの・・・私たちを困惑させるには十分すぎるほどの内容だった。

 

52「夕方の約束」

 

つづく




次回、二乃、三玖、一花視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

分枝の時

えーっと・・・他の作品のオリジナル章に悩んでいる間にも前回の投稿から半年以上もかかってしまっていたとは・・・。さらにはまたも新作を書いて遅らせることに・・・本当に申し訳ございません!映画を見ることがなかったら、さらに遅れていたかも・・・あ、映画はとっても面白かったです。おかげで創作意欲が大きく膨れ上がりました。

えらく長くなってしまいましたが、物語もそろそろ終盤・・・見せ場である学園祭の回も後数話で始まります。そこで今作品の花嫁がいよいよ・・・。といってもいつになるやら・・・。あと少しが長い・・・あ、もちろん最後の学園祭までにはオリジナル話は全部終わらせるつもりです。

長々と申し訳ございません。とにかく完結まで頑張っていきたいと思います!


二乃SIDE

 

「一花が家を出ていくって・・・」

 

「六海は何かの間違いだと思うんだけど・・・」

 

「うんうん、この前もプールで楽しそうだったし」

 

「勘違いならそれでいいんですけど・・・」

 

一花が家から出ていく。そんなことを五月の口から聞かされて、姉妹たちは混乱してるわね。まぁ、そりゃそうよね。確信がないとはいえ、そんなこと言われれば・・・

 

「おはよー・・・ふぁー・・・よく寝た。身体中カチカチだよ・・・」

 

噂をすればなんとやら、呑気な長女が起きてきたわね。

 

「お、おはようございます」

 

「ん?今みんなで何か話してた?」

 

「い、いえ!何でもありません!」

 

「そっかそっか」

 

五月は何とか誤魔化したけど・・・とてもじゃないけど一花が家を出るなんて風には見えないわね。

 

「・・・今は様子を見てみよう」

 

どうせこの場じゃ結論なんて出せないし、ひとまずは様子を見るってことで決めたわ。でも・・・ちゃんと本人には聞いておいた方がよさそうね。

 

「・・・あ、そういえば二乃ちゃん、今日って言ってなかったっけ?店長さんのお見舞い。フーちゃん待ってるんじゃない?」

 

「わかってるわよ」

 

まぁ・・・今は一花は置いておくわ。早く朝食作って病院に行かないと。・・・それに・・・ちょうど試してみたいことがあったのよね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

朝食を食べ終えてアタシは1人で店長が入院している病院に来たけど・・・さすがにフー君はもう店長の病室に行ったのかしら。そう思っていたら・・・フー君がまだ病院の外で待ってたわ。やっぱりフー君は優しいわね。・・・ちょっと緊張してきた。ちょっと深呼吸して・・・よし、行こう。

 

「お待たせ」

 

「遅ぇぞ二乃。ところでこの花なんだが・・・」

 

「は?ちょっと遅れてもいいじゃない。器の小さい男ね」

 

アタシはフー君に会うなり、いつもとは違う態度をとった。

 

「暑いなら中で待てばいいのに・・・ホント、頭が回らないわね。花束2つも持ってバカみたい。・・・え、ちょっと待って・・・汗臭いわ。最悪なんですけど・・・」

 

「・・・えーー・・・。急にどうした?」

 

「いつまでもボーっと突っ立ってないで店長の病室に行くわよ。春も待ってるかもしれないし」

 

「・・・・・・」

 

「急ぎなさい・・・上杉」

 

アタシはフー君に思いつく限りの罵倒を飛ばして、呼び方まで徹底して素っ気ない態度をとり続ける。そう、これがアタシの試してみたかったことよ。これで少しは・・・変わるものなのかしら・・・?何か不安になってきた・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

病院の中に入ってアタシ達は店長の病室まで向かった。病室には骨折した箇所にギプスを巻いた店長がいたわ。店長の他にも先に春が来てたわね。でも・・・店長の足・・・うわぁー・・・本当に痛そう・・・。

 

「やっほ~、二乃ちゃん、フータロー君、久しぶり~」

 

「やぁ、2人とも、元気にしてたかい。僕はこの通り元気だ」

 

久しぶりに春と店長の顔を見たけど、2人とも元気そうでよかったわ。

 

「お怪我の具合はどうですか?」

 

「後は術後の経過を見るだけさ」

 

「本当に見てて痛そう・・・店長、かわいそうに・・・」

 

本当にね・・・。やっぱバイクの事故率って侮れないわ・・・。

 

「あ、私、果物持ってきたんです~。よかったらどうぞ~」

 

「あ、私もこれ、つまらないものですが・・・」

 

アタシと春は持ってきたお見舞いの品物を店長に渡した。

 

「2人ともありがとう。上杉君も、よく来てくれたね」

 

「・・・いつまでそこにいるつもり?その花は何のために持ってきたのかしら?」

 

「「・・・?」」

 

アタシは店長や春がいてもお構いなしにフー君に素っ気ない態度をとるわ。どうしてアタシが大好きなフー君にこんな態度をとるのか・・・。それはちょっと試してみてるだけよ。恋愛ガイドブックにはこう書いてあったわ。

 

『押してダメなら引いてみろ』

 

いつもと違う態度をとっていれば、きっと何かしらの反応を示してくれる・・・はず!アタシはガイドブックを信じてみるわ!

 

「・・・上杉君」

 

「はい。これ、花です」

 

「花だな。どうした?喧嘩か?」

 

「いえ、違います」

 

「とても違うとは見えないけど・・・」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「隠さなくていいよ。私に相談してみて?」

 

「だから違うんだって」

 

なんか3人でこそこそと話してる・・・。・・・本当にこれって効果あるのかしら?もう少し・・・試してみようかしら・・・。

 

「あー、喉渇いたわ。上杉、あんた飲み物買ってきなさいよ」

 

「・・・一応、飲み物は買ってきてあるが・・・」

 

そう言ってフー君は事前に買ってきていた水を渡してきた。・・・これ、冷たいんだけど。

 

「はぁ?お水って言ったら常温に決まってるでしょ」

 

「・・・・・・」

 

「たく・・・こんな簡単なこともできないなんて・・・本当、役に立たないわね。この役立たず」

 

「(・・・ムカついてきた)

おい、お前いい加減に・・・」

 

「うわぁ、触んないでよ」

 

フー君がアタシに触れようとした時、アタシはそれを慌てて拒絶した。・・・やっば・・・これは・・・やらかしたかも・・・。

 

「・・・じ、自分で買ってくるわ!あんたは待ってなさい!」

 

アタシは慌ててこの場から逃げるように病室から出ていった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『心当たりは?』

 

二乃が病室から出ていき、ただ呆然とする風太郎。そんな風太郎に春が問いかける。

 

「フータロー君。本当に心当たりがないの~?フータロー君が気づいてないだけで、二乃ちゃんに何かした・・・もしくは、何もしなかったんじゃないの?」

 

「うっ・・・」

 

春の言葉に風太郎は口ごもってしまう。考えてみれば確かに、ここ最近風太郎は二乃に構ってあげていない。二乃はそれで怒ったのではと考えてしまう風太郎。

 

「やはりそうか・・・。では、僕が断言しよう。彼女は怒っているぞ」

 

「・・・・・・」

 

店長にまでそう言われてしまって、何も言い返せない風太郎。

 

(二乃が俺に興味を引かせようとしてるなんて・・・俺はなんて思い上がりを!恥ずかしすぎる!!)

 

実は風太郎はここに来るまでに、頼らないと言っておきながら恋愛ガイドブックを読んでいたのだ。その中で押してダメなら引いてみろという記事があったのだが、風太郎は二乃がそれを実践していたと考えていたのだ。実際にその通りなのだが・・・それを勘違いしてしまったと思うようになった。

 

「よく耳を澄ましてごらん。聞こえるはずさ・・・彼女の心の声が」

 

♡♡♡♡♡♡

 

・・・やりすぎたーー!!

 

うぅ・・・フー君に触んないでって言っちゃった・・・。そんなのアタシの本心じゃないのにー!でも・・・きっとフー君に触られたら素に戻っちゃうわ・・・。そんなの意味ないわ・・・。でもどうしよう・・・今のでフー君に嫌われちゃったかしら・・・。というかそもそも、アタシに振り向かないフー君が悪いんだからね!何よ!他の姉妹とデレデレしちゃって・・・!

 

・・・それにしても、やっぱり演技だとしても辛いわ・・・。フー君を好きになる前でもあんなひどいこと言わなかったもの・・・。

 

『・・・ぶっちゃけ家庭教師なんていらないんだよね~』

 

『あんた・・・手の施しようがない変態だわ・・・』

 

『あんたなんて・・・来なければよかったのに!』

 

・・・・・・うん。言ってなかったわ。アタシがそんなこと言うはずないもの。

 

「はぁ・・・難しいわ・・・」

 

やっぱり恋愛って難しいわ・・・。なかなか思うような成果が出ない・・・。

 

「二乃君」

 

!この他人行事みたいな呼び方は・・・

 

「パパ・・・」

 

どうしてパパがここに・・・て、そっか。パパはこの病院の院長だったわね。すっかり忘れてたわ。

 

「ようやくうちに帰ってきてくれたみたいだね。先日、一花君から連絡をもらっているよ。考え直してくれたみたいで嬉しいよ」

 

パパはそうでしょうね。でもアタシは、パパの言い分にはあまり納得してない。確かにアタシたちはあのマンションに戻った。でも、それなら・・・

 

「それならなんでパパは帰ってこないの?」

 

「僕も毎日帰りたいところだが、あいにく忙しくてね、帰る余裕がない」

 

「・・・・・・」

 

「だが、あそこは元々君たち用に購入した部屋だ。僕のことは気にせず、好きに使ってもらって構わないよ」

 

違う。アタシは部屋がどうとかなんて聞いてない。

 

「そんな部屋なんて・・・」

 

「おっと、すまない。もう行かなくては」

 

ほら・・・いつだってそう。パパはそうやって話を逸らして・・・アタシの言い分を聞こうとしない。

 

「・・・明日も忙しいの?」

 

「ああ」

 

アタシの問いをそれだけ返事してパパはお仕事に行った。マンションなんてこの際問題じゃない。アタシは・・・アタシはただ・・・

 

「・・・あのー・・・まだ怒ってる?」

 

ドキンッ!!

 

「フー・・・ご、ゴホンゴホン!」

 

危ない危ない・・・フー君に声をかけられて思わず素に戻っちゃいそうになったわ・・・。押してダメなら引いてみろ・・・今日はこれで行くんだから・・・!

 

「・・・あー・・・何よ?上杉」

 

「今日はもう俺は帰ることにする。だがその前に・・・これ、渡しとくわ」

 

渡されてきたのは・・・花?確かにフー君は今日花束を2つ持ってきてたけど・・・これを・・・アタシに・・・?

 

「・・・な、何よ?まさか、お花でご機嫌でも取ろうというのかしら?」

 

「お前にじゃねぇよ。お前たちの母親にだ」

 

!フー君・・・ママの命日、覚えててくれたんだ・・・。

 

「明日、お前らの母親の命日だろ。俺も行こうかと考えたが・・・身内だけの方がいいだろ、こういうのは。俺も・・・いない方がいいだろ・・・」

 

そういうフー君の顔が、少し寂しそうな感じがした。アタシは・・・

 

「・・・じゃあな」

 

「・・・待って!」

 

寂しそうに帰ろうとするフー君をアタシは手を掴んで引き留めた。なんだか・・・今手を伸ばさないと、フー君まで、いなくなってしまいそうな気がして・・・。

 

「・・・フー君は・・・いなくならないで・・・」

 

「・・・え?」

 

「お母さんも・・・一花も・・・きっといつかみんなも、離れ離れになってしまう。それはわかってるつもり・・・。それでも・・・フー君はずっとそばにいてくれる・・・?」

 

大人になっていく以上、みんなそれぞれの道に向かって、離れていくのはわかってる。真偽はわからないけど、一花が家から出ていくように。それでも・・・やっぱりアタシは・・・せめてフー君には一緒にいてもらいたい・・・。

 

「・・・二乃・・・お前・・・・・・俺の事嫌いになったんじゃなかったのか?」

 

ちょっと!そこはさりげなく気にかける言葉を出すところでしょ!いや、アタシも悪いところはあるけど・・・もう台無しじゃない!!

 

「あーもう!!面倒くさいわね!!これじゃ全部台無しだわ!!」

 

「いやだって・・・店長と春が・・・」

 

あの2人の仕業か・・・。はぁ・・・もう種明かししちゃいましょうか・・・。作戦は失敗のようだし。

 

「・・・ほらあれよ!押してダメなら引いてみなよ!あんたには難しすぎたわね!」

 

「・・・はぁー・・・たく・・・なんだそりゃ・・・」

 

「悪かったわね」

 

「・・・・・・やはりそうだったか・・・ビビらせやがって・・・少し焦ったじゃねぇか・・・」

 

「え?」

 

フー君・・・今、なんて・・・?アタシの聞き間違いじゃなければ・・・

 

「・・・本当に、ビビってくれたの・・・?」

 

「・・・・・・///」

 

アタシの問いかけにフー君は何も答えなかったけど・・・照れたような顔をしてくれた。それってつまり・・・アタシのことを意識してくれてるってことよね。その答えに行きついたアタシが自分でも表情が緩んで笑みを浮かべてるのがわかる。

 

「・・・ふ、ふん!フー君ってば、チョロいわね!」

 

「いやもうわかるわ」

 

まったく・・・こんなことで嬉しくなるなんて・・・チョロいのはアタシの方だわ・・・。やっぱりアタシの方から追いかけるしかないじゃない。

 

(・・・二乃ちゃん・・・初々しい姿・・・ご馳走様です♡)

 

(上杉君・・・君は天然のタラシだ!)

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日のママの命日、アタシ達は姉妹揃ってママの墓参りにやってきた。ママの墓までやってきたアタシ達は墓の掃除とか線香をあげたりある程度のことを済ませて手を合わせる。

 

「・・・あれ?これが私たちが持ってきた花。それでこれが上杉さんの花。じゃあこの花は?」

 

四葉のいうとおり、アタシとフー君が用意した花以外にも別の花がお供えされていたわ。少なくともアタシは知らないし、誰が置いたのかも検討もつかない。

 

「さぁ?お父さんじゃない?」

 

「まさか」

 

忙しいとか言ってる人がわざわざママのために花を供えるなんて思えないわ。・・・今までアタシたちのことをほったらかしにしてたくせに・・・。

 

「パパに確認してみようか?」

 

「やめて」

 

六海が電話でパパに聞こうとしたけどアタシはそれを止めた。聞いたところで何にもならない。

 

「よし、一通り済ませたし、帰ろっか」

 

「・・・それより一花。あんたに聞いとかなくちゃいけないわ」

 

「ん?何?」

 

「家を出るって・・・本当?」

 

帰り支度を始めてる一花に、アタシは1番気になることを訪ねた。どうしても、これだけははっきりさせとかないといけないわ。

 

「ちょ・・・二乃!」

 

「それは・・・」

 

「いくら何でも急すぎだよ!」

 

「そうだよ!」

 

どのみちいつかは知ることになるんなら今聞いた方がいいじゃない。いちいち騒ぐことのほどでも・・・

 

「・・・え?何それ?」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「私、そんなこと一言も言ってないけど・・・え?誰から聞いたの?」

 

帰ってきた答えは予想を反するものだった。家を出ていくつもりはないって・・・ちょっと・・・

 

「・・・五月?」

 

「話が全然違うんだけど?」

 

「あ、あれぇ・・・?確かに一花がいなくなると聞いたんですが・・・」

 

「ほら、やっぱり家を出ていくなんて勘違いだったんだよ」

 

「うん。一安心」

 

「あー・・・そのことね。・・・みんなには言っておかないとね」

 

アタシ達の話に納得した様子で一花は口を開いた。

 

「私、二学期から学校行かないから」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「学校、辞めるんだ」

 

学校を辞める・・・それはつまり・・・自主退学。五月が言ってた一花がいなくなるって・・・こういうことだった?

 

「・・・あーあー、聞こえない聞こえない」

 

それ以上のことは聞きたくなかったアタシはわざとらしく聞こえないふりをした。

 

「え・・・一花ちゃん、なんで?」

 

「突然ごめんね。9月から長期のロケを受けることにしたの」

 

「あーあー」

 

「少し離れた撮影地で拘束時間も長いの。できるだけ家から通うつもりだけど・・・」

 

「聞こえないわ」

 

「正直、学校は厳しいから、諦めないと・・・」

 

「なんでよ!!!」

 

どうしても一花の出した答えが納得いかないアタシは声を荒げた。そんなの・・・はいそうですかって、納得できるわけないじゃない!

 

「あと半年じゃない・・・もうちょっとで卒業なのに・・・。アタシ達が同じ学校に通えるのは、これが最後なのよ?」

 

「二乃・・・」

 

「一花、他に選択肢はなかったの?」

 

「・・・ごめんね。私、お仕事に専念したいから」

 

「・・・!なんでそんな大事なことを勝手に1人で決めて・・・アタシたちに相談しなかったのよ!」

 

一花が決めたことを止めるつもりはないけれど・・・だったらせめて、アタシたちに相談してほしかったわよ。そうすれば他の選択肢もあったかもしらないし・・・アタシたちも、力になれたかもしれないのに・・・

 

「二乃・・・寂しいのはわかりますけど、家では一緒にいてくれます。一花が学校よりも大切なものを見つけたことに喜びましょうよ」

 

「・・・まさに優等生のセリフそのまんまね。それは、本当にあんた自身の言葉なのかしら?」

 

「!」

 

五月が真面目なのは誰もが知ってることだけど、それが本心かどうかは疑わしいところだわ。ただでさえ五月はお母さんの影響を抜け切れてないようだし。

 

「・・・すごいなぁ、一花は。私も一花と学校に通いたかったよ。一緒に卒業したかった。一花だけいないなんて、寂しいよ。でも、一花の夢だもんね。私、応援してるよ」

 

四葉らしい答えね。実際に無理をしてないか心配になってくるわ。結局話は切り上げられて、早く帰ることになった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

もうすぐで夏休みが終わるある日、アタシは今日はリビングでくつろいでいる。他の姉妹は今日は用事。五月ももう少ししたら塾の手伝いに行くんですって。

 

「あ!これこれ!これですよ!一花が出てるCMです!」

 

どうもテレビで一花が出てるCMが流れてるみたいね。それで五月ってば子供っぽくはしゃいじゃって・・・。

 

「ほら、見ててください!来ますよあのセリフ!」

 

『忘れられない夏にしてあげる♡』

 

「キャーー!!」

 

・・・うるっさ。本当にはしゃぎすぎよ。

 

「うるさいわね。一花なら毎日見てるからはしゃぐほどじゃないでしょ」

 

「それとこれとは話が違いますよ。テレビや映画で見る一花は本当に輝いて見えるんです。それに一花、すっごく楽しそうで、これが一花にとって、本当にやりたいことなんだと思います」

 

「・・・ふん、ほんとどこまでも優等生ね」

 

「あはは・・・」

 

ここまでの優等生っぷりを見てると、逆に羨ましくなってくるわ。

 

「それでも・・・一花を応援する気持ちは本当です。二乃だって、そうなのでしょう?」

 

「・・・・・・」

 

「わっ!もうこんな時間!私も一花に見習ってお仕事頑張ってきます!」

 

そう言って五月は塾の手伝いに行ってしまった。 ふん・・・何よ・・・知った風に言っちゃって・・・。・・・とかなんとか言いつつ、確かにアタシも、一花のこと、少しは調べてるんだけど。これじゃ、人のこと言えないわね。アタシだって・・・一花の夢を、応援・・・してるわけだしさ。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖SIDE

 

ある日、私と六海は学校に来てアイスを食べてる。今はまだ夏休みなんだけど、学校に入っちゃダメっていう決まりはないから。ここに来た理由は、一花が自主退学の手続きを進めているらしいから、様子を見に。もう1つは、六海の気持ちをちょっと聞きたかったから。昨日何も言わなかったのは、私と六海だけだったから。

 

「・・・ねぇ。一花の退学、どう思ってる?」

 

「どうって・・・そう言われても・・・」

 

私の問いかけに六海は本当に困ったような顔をしてる。

 

「・・・一花ちゃんの夢だからね。応援したいって気持ちはあるよ。でも・・・だから学校を辞めるって言われても・・・。・・・正直、頭がごちゃごちゃしてわかんないよ・・・」

 

「・・・うん。そうだね。私も、わからない」

 

わからないからこそ聞きたい。一花の気持ちを・・・本当に学校に未練がないのか。それを確かめたい。一花のことは応援してるけど・・・今回ばかりは、返答次第では素直に応援できそうにない。

 

「あ、一花ちゃん出てきたよ」

 

六海に言われて正門を見てみると、一花が出てきた。もう手続き終わらせたのかな。

 

「あ、一花ちゃん!夏休みなのに学校来てたんだ!」

 

「すげー!本物の一花さんだ!」

 

「俺、初めて見たよ!」

 

あれって確か・・・テニス部の子だったっけ。女子のあの子は確か2年の時、一花のクラスメイトだったような気がする。

 

「こら!失礼でしょ!」

 

「「す、すみません!!」」

 

「あはは、気にしてないよ」

 

・・・やっぱり一花はすごいな。同じ同級生にも、後輩にも人気がある。さすが若手女優。

 

「みんなは部活?」

 

「うん。もう3年だけどね。私は大会が残ってるから」

 

「そうなんだ」

 

「これが最後の大会だからさ・・・悔いなく終わらせたいんだ」

 

・・・悔いなく・・・か・・・。

 

「・・・そっか。偉いね」

 

「い、いやぁ・・・一花ちゃんに比べたら私なんて屁みたいなものですよ。この前CM出てたよね。お母さんと2人でびっくりしちゃって・・・。こんな有名人と同じ学校に通えてるなんて、誇らしいよ」

 

テニス部の子たちは一花に挨拶をしてから自分たちの練習に戻っていった。

 

「・・・有名人だって」

 

「!」

 

「おかしいね」

 

テニス部の子たちが行ったところで私たちは塀から降りる。・・・高くて降りられなくなって一花と六海に手伝ってもらったけど。

 

「一花ちゃん、先生には話せた?」

 

「うん。応援してくれるって」

 

「そっか・・・」

 

「・・・もうこれで、後戻りはできない。私にはこの道しかない・・・そう実感して、覚悟が決まった気がするよ」

 

「そうかなぁ?一花ちゃんなら勉強も学校もきちんと両立できるイメージが六海にはあるんだけど・・・。実際に去年、期末試験で三玖ちゃんに勝ってたし」

 

・・・一言余計だけど、私もそれは思う。一花なら両方こなせるはずなのにね。

 

「それはたまたまだよ。そりゃー、私だってそう思ってた時期はあったよ。あったんだけどねー、仕事と学業の両立ができるほど、現実は甘くなかったよ。厳しい世の中だよねー」

 

「・・・本当にそう?」

 

なんだか一花がはぐらかしてように聞こえてきたから、私は一花に問い詰めてみる。

 

「お仕事が忙しくなったのはみんな知ってる。この先大きな仕事があるのもわかった。でも、学校を辞めなきゃいけないほどなの?」

 

「・・・・・・」

 

・・・まさかとは思うけど・・・一花・・・。

 

「・・・私と一緒にいることが、まだ辛い?」

 

前々から一花は私に気を遣ってるから、修学旅行のことで、まだ引きずっているのなら・・・

 

「・・・・・違うよ・・・辛いのは三玖といることじゃない」

 

「じゃあなんで・・・」

 

「・・・また元に戻れると思ったんだけど・・・フータロー君と一緒にいると・・・自分が自分を許せなくなる」

 

「一花ちゃん・・・」

 

「・・・私だって・・・みんなと一緒に卒業したいよ・・・」

 

それが・・・一花の本音・・・。やっぱり、一花も私たちと同じ気持ちだったんだ・・・。でも一花は・・・自分のやったことのけじめの方を選んだ。多分・・・苦渋の選択だったんだと思う。

 

「・・・だったらもう1度先生と話してきなよ!学校まで辞めることないじゃん!今の一花ちゃんのやってることは・・・」

 

「何も言わないで」

 

六海は一花に学校を残るように説得しようとしたけど、一花に止められる。

 

「ごめん・・・六海の言いたいことはわかるよ。自分でも、これが逃げだってことくらいわかってる。でも私は・・・みんなが思うほど器用じゃないから」

 

「一花・・・」

 

「一花ちゃん・・・」

 

一花の表情には哀愁を漂わせる顔をしている。

 

「・・・なんてね♪」

 

でもすぐに何ともないような笑顔を創り出した。でも・・・私でも、これが作り笑いなんだというのがわかる。

 

「ありがとね、三玖、六海。そろそろ帰ろっか」

 

「「・・・・・・」」

 

一花の答えを聞いて、私は・・・素直に背中を見送ることができない・・・。でも、これが一花の夢であり、進みたい道だっていうのもわかってるし、応援はしたい。・・・私たちじゃ・・・一花を止められない・・・。それができるとしたら・・・フータローだけ・・・。

 

「お。偶然~」

 

これから帰ろうとした時、待ってたかのようにフータローがそこにいた。偶然って・・・そうは思えないほどに汗だくなんだけど・・・。

 

「フータロー君・・・なんでここに・・・」

 

「・・・お前らの父親から聞いたぞ。学校を辞めるんだってな」

 

ああ、そっか・・・。学校を辞めるんだったら、勉強を教える必要がなくなるわけだから・・・。それならフータローに知らせが届いてもおかしくない。

 

「・・・それでだな、一花。たった今先生から聞いてきたぞ。休学について」

 

「!」

 

・・・休学?

 

「出席日数と一定の学力を示せれば、また復学し、卒業できるそうだ。一花、退学までの猶予はある。この手段を選べ。6人で卒業したいという気持ちが、少しでもあるのなら」

 

フータロー・・・まさか・・・一花の退学を止めるために・・・わざわざ・・・?

 

「・・・意外だなぁ。君は後押ししてくれるって思ってたのに。一定の学力を示すって言っても、これからずっと撮影と稽古だよ。ただでさえおバカなんだから、授業も出ないでそれは無理だよ」

 

「そうだな。普通ならそれが妥当だ。しかし・・・俺がいれば別の話だ。またお前が俺を個人的に雇うんだ。お前の都合のいい時間に合わせてオレが1対1で教えてやる。お前の学力は落とさない」

 

!フータローと1対1の勉強・・・それなら確かに遅れを取り戻すことができる・・・。というより・・・最善の手がそれしか方法がない。ただ・・・一花がどう返答するか・・・だよね・・・。

 

「・・・フータロー君は優しいなぁ」

 

「!!か、勘違いするな・・・。これはただのビジネスだ。お前がいなくなることで、生徒1人分の給料がもらえなくなった。だから・・・それを補わないといけないだろ」

 

フータローらしいことを言ってるけど、気遣ってるのがバレバレ。それよりも一花は・・・

 

「・・・ごめんね。女優1本で行くって決めたんだよ。そのビジネスには乗れないよ」

 

一花はフータローの差し伸べた策を蹴って、帰って行っちゃった。やっぱり・・・なんとなくそんな気はしてた。それにしてもフータロー・・・カッコつけすぎ・・・。

 

「・・・ふっ・・・やれやれ・・・」

 

「カッコつけたのに失敗したね」

 

「カッコつけてない」

 

「フーちゃんカッコ悪い」

 

「地味に傷つくからやめろ」

 

一花の説得にカッコつけて失敗したフータローはその後何かぶつぶつ呟いてる。

 

「・・・と、なると・・・一花の分の給料はもらえないままか・・・」

 

「フーちゃん・・・?」

 

「困ったな・・・店長もまだリハビリ中だしなぁ・・・このままじゃ金が足りねぇぞ・・・」

 

!フータロー・・・もしかして、一花の給料分のお仕事を探してるの?・・・これって案外チャンスかも・・・。

 

「・・・そ、それなら・・・バイト募集中のお店、知ってるよ」

 

「・・・!!?み、三玖ちゃん・・・まさか・・・」

 

六海は感づいたみたいだけど、全然気にならない。その後、お金を何としてでも補いたいフータローは私が紹介したお店のバイトの面接を受けることになり、合格となった。・・・やった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

翌日、フータローはさっそく私が紹介したバイト先で仕事をしてる。私が紹介したバイト先は・・・

 

「こ・・・こうか・・・?」

 

「うん。もっと力を入れて記事を伸ばす」

 

私のバイト先のパン屋。今私はパンの作り方をフータローに教えてるところ。よかった、まだバイト募集をやってて。フータローの役に立てた。それに、バイトでも一緒にいられて、嬉しい。

 

「・・・一花が退学を選んだ理由・・・お前は知ってるか?」

 

フータローがここぞとばかりに一花の退学について聞いてきた。やっぱり気にかけてるんだ。

 

「それは・・・ごめん、それは言えない。ただ・・・心から願ってる言葉じゃない・・・と、思う」

 

「・・・そうか」

 

「・・・フータローこそ・・・なんで一花を引き留めようとするの?」

 

「・・・・・・・・・これ、本人には言うなよ」

 

長い沈黙の後、フータローは一花に退学してほしくない理由を話してくれた。正直・・・そこまで思っててくれてたなんて思わなかった。それだけ・・・フータローも変わったってことかな・・・。そういうことなら、私は・・・フータローに協力してあげたいけど・・・打開策が思いつかない・・・。

 

「三玖ちゃん、今日も妹さんが来てるわよ」

 

「・・・また?」

 

「また?またってなんだ?」

 

ここ最近でこの時間帯に来る姉妹なんて1人しかいない。ひとまずレジ打ちの説明も兼ねて、フータローを連れてレジに向かうことにする。

 

「・・・あ、本当にここでバイトしてるんだ・・・」

 

お店にやってきてたのは頬を膨らんで拗ねてる六海だった。やっぱり・・・。月の中間あたりは特に忙しいらしく、遅くなるからよくうちで間食のパンを買いに来る。

 

「なんだお前かよ・・・てか、なんでそんな不機嫌そうなんだよ・・・」

 

「べっつにぃー?ただいい御身分ですねって思っただけぇー」

 

「いい御身分って・・・」

 

ぷんすかしてる六海はお店のトレーを持って、どのパンを買うか悩んでる。

 

「・・・今日も遅くなりそう?」

 

「うん。締め切りギリギリなんだ。だからみんなピリピリしてて・・・」

 

「そんなに忙しいのか?」

 

「余裕がある時はそうでもないんだけど・・・まぁそうだね。特に先生は実写映画を目指してるみたいで、何かと頑張ってるみたいなんだ」

 

六海の仕事現場も大変そう・・・今度差し入れ持って行ってあげようかな・・・。

 

「・・・それだ!!!」

 

「へあっ!!?」

 

突然大きな声を上げたフータローは六海の両肩を掴んだ。え・・・急にどうしたの?

 

「そうかその手があったか!!六海最高!!」

 

「え?え?何事・・・?」

 

「フータロー・・・突然どうしたの?」

 

「いいことを思いついた。あいつ女優一本で行くって言ってたな。ならば、お望みどおりにしてやるぜ!」

 

フータローは何か妙案を閃いたらしい。その証拠に今顔が生き生きとしてる。こういう時のフータローは、本当に頼りになる。だから・・・一花のこと、託してもいいよね。私たちも、協力するから。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

一花SIDE

 

みんなには話すことを話したし、退学の手続きも済ませておいた。これで夏休みが終われば、それで終わり、私は女優に専念できるってわけだ。これでいいよね。後やるべきことは・・・四葉に話をすること。四葉にはちゃんと謝っておかないと・・・そして何より・・・四葉自身のために。そういうわけだから私は夕方ごろに四葉を公園に呼び出して、話をするところだよ。

 

「このブランコ、ギコギコいってるけど、大丈夫?」

 

「ヒィー、ブランコなんて数年ぶりに乗ったから怖いよー」

 

「嘘っ。余裕そうな顔してるもん」

 

「あはは、バレた?」

 

ついでに、ブランコに乗って遊んだりしてるよ。こういう遊び心は大切にしないと、ね♪

 

「でも本当に久しぶりだよね。いつぶりだったっけ?」

 

「最後に乗ったのは小学校の頃、かな?校庭にあったよね」

 

「あー、あったあった!」

 

久しぶりに乗るブランコは楽しいけど、そろそろ本題に入らないとね。

 

「・・・ねぇ、四葉は覚えてるかな」

 

「え?何を?ブランコのこと?」

 

「ううん、フータロー君のこと。ほら、小学校の修学旅行の時、男の子に会ったって言ってたじゃん?」

 

「!!」

 

フータロー君の話をしたら、四葉は驚いたような顔になった。もしかして・・・とは思ったけど、やっぱり覚えてたんだね。

 

「・・・一花、あの頃を覚えてたんだね」

 

「やっぱり覚えてたんだ、フータロー君のこと」

 

「あはは・・・見た目がすごく変わってたからびっくりしたよ」

 

「はは、だよね。私も驚いた」

 

初めて気づいた時は本当に驚いたよ。あの頃から今の姿なわけだからね。全然印象が違ったし。

 

「・・・四葉には謝んなきゃいけないね。ごめん」

 

「一花?」

 

「小学校の頃、四葉に成り代わるようにフータロー君に会っちゃってさ・・・。本当はあそこにいるのは、四葉だったのに・・・」

 

もしかしたら・・・私が手を引いていたら、また違った結果になったのかもしれなかったのにね。

 

「そんな・・・それはもう昔のことだよ」

 

「それだけじゃない。今回の修学旅行の組決めでも、無理言っちゃって。あの時の私は、恵理子ちゃんがどういう気持ちで私を慰めてくれてたのか、わかってなかった。これじゃあ、お姉さん失格だよ、私」

 

やりたいようにやるっていう本当の解を、あの時の私は理解できなかった・・・ううん、多分、そこまで理解したくなかったのかもしれない。はは、恵理子ちゃんの方がよっぽどお姉さんをしてるよ・・・。

 

「明日恵理子ちゃんにも謝っとかなくちゃね。これから、会う機会は少なくなってくると思うから・・・せめて早いうちに、ね」

 

「・・・・・・一花、本当に学校、辞めちゃうの?」

 

「うん。本気だよ」

 

正直、学校を辞めるのは、ちょっと辛いけど・・・自分で決めたことだし・・・何より、これ以上迷惑をかけるくらいなら・・・これが最善だよね。

 

「私を1人にしないでくれたのは一花たちじゃん!なのに・・・。一花が学校を辞めるなら、私もや・・・」

 

「それはよしなよ。そんなことしても、誰も喜ばないよ」

 

私が言えた道理じゃないんだけどさ・・・他の姉妹は私とは違うわけだからさ。みんなには学校を辞めてほしくない。それに・・・四葉はまだ、自分のやりたいことを見つけれてないわけだし。

 

「で、でも・・・」

 

「・・・四葉。四葉は四葉の本当にやりたいことを見つけな」

 

「・・・私の・・・やりたいこと・・・」

 

そんなに時間が経ってないはずなのに、もう暗くなってきた。今の時間帯なら、まだ夕方ぐらいで、もっと明るかったのに。

 

「・・・こんな時間なのに、もう暗くなってきたね。夏ももう、終わりだね」

 

夏休みが明けたら・・・私はもう学校にはいられない。ならせめて、あと少しの時間は、楽しまなくちゃね。

 

♡♡♡♡♡♡

 

夏休みがもうすぐで終わるある日・・・私の所属しているプロダクション。なんか私にお客さんが来てるっていうから、社長と一緒に応接室に向かった。そこで待っていたのは、思いがけない人物だった。

 

「どうもお久しぶり。菊は元気?」

 

「フータロー君・・・。三玖に六海まで・・・」

 

待ってた人物というのはフータロー君、三玖、六海の3人だった。まさかこんなところまでやってくるなんて・・・。

 

「ふふふ、嬉しいよ上杉君。ようやくプロダクションに入る決意を固めてくれたんだね」

 

「いやそういう話ではなく・・・わかってるでしょ。一花のことだ。一花の退学を、どう考えなおしてくれないだろうか」

 

やっぱり・・・そんなことだろうと思ったよ。フータロー君も諦めが悪いなぁ・・・。

 

「残念ながら、それは無理な相談だ。彼女は君たちの想像をはるかに上回る大きな存在となっている。今まで通り学校に通いながらというのはとても不可能だろう。そして何より、これは彼女が決めたことだ。僕は彼女の意思を尊重する」

 

ごめんね、フータロー君・・・誰になんと言われても、私はもう・・・

 

「そうか。わかった。なら諦める」

 

・・・え?

 

「え?そんなあっさり・・・」

 

社長も予想外の反応なのか驚いてるよ。そりゃそうだよ。

 

「それじゃあ次は・・・ビジネスの話だ」

 

ビジネスって・・・先日の家庭教師の?

 

「それなら前に・・・」

 

「俺は・・・自主映画を撮ることにした」

 

??????じ、自主映画?

 

「出演は家庭教師と生徒の2人のみ。撮影は週2回。3時間カメラの前でぶっ続けで勉強を教えるという素晴らしい脚本もある」

 

「ストーリーの方はむつ・・・私が書きました。本気なので、ぜひ目を通してください」

 

六海は鞄からその・・・自主映画?のストーリーシナリオの書類を取り出し・・・て!量が半端なく多い!!?こんなものいつの間に・・・

 

「こ、こんなにびっしり・・・」

 

「監督兼、家庭教師役はもちろん俺。そして・・・生徒役にお宅の中野一花さんをお借りしたい」

 

「お金ならあります」

 

「お願いします!!」

 

「・・・き、君たち・・・まさか・・・」

 

「・・・!」

 

もしかして・・・遠回しに私に休学をするようにしてる・・・?私が学校を卒業できるようにするために・・・?しかも自分でお金を払ってまで・・・?私のために・・・?

 

「フータロー君・・・どうしてそこまでして・・・」

 

「・・・・・・一花、俺はなぁ・・・イラついてんだよ。一度俺が家庭教師を辞めた時、引き戻したのはお前らだろ。それなのに勝手に1人だけ降りようとしやがって・・・。そんな勝手が簡単に通るとでも思ったのか?甘く見るなよ」

 

「・・・それは・・・」

 

「6人そろって笑顔で卒業!それができなきゃ、俺が納得いかねぇんだよ!!」

 

確かにあの時は私たちはフータロー君を引き留めようとした。それと同じことが私に返ってくるなんて思いもよらなかったよ。

 

「こらこらー、そうじゃないでしょー?」

 

「!!!」

 

「あのね、そうじゃないの。フーちゃんは・・・むぐっ⁉」

 

「む、六海!言うな!言うんじゃない!!」

 

フータロー君に呆れた様子の六海が何かしゃべろうとした時、フータロー君は口を塞いでそれを阻止する。

 

「フータローは一花に感謝してるんだって」

 

「三玖さん!!?」

 

え?フータロー君が・・・私に感謝?

 

「あの時フータローを雇い直せたのは一花が仕事をしてくれたおかげ。その恩返しがしたいんだって」

 

「ちょっ・・・三玖!それは言うなって言ったのに・・・!」

 

フータロー君・・・。

 

「・・・フータロー君。私、卒業できるかな。このままお仕事に専念ってのも悪くないと思ってるんだ。あとたった半年、君に迷惑をかけるくらいならって・・・。それでも引き留めるの?」

 

「・・・・・・」

 

「そんなに勉強してまで学校に行く理由って、なんだろ?」

 

少なくとも私には理由が思いつかないよ。学校でいいことばかり起こるわけじゃないんだしさ。実際に、問題が起こったわけだから・・・。

 

「・・・そりゃ・・・あれだ。青春を・・・エンジョイ・・・。お前も、言ってただろ」

 

「あ・・・」

 

「・・・この前な、クラスの奴らと海に行ってきたんだ。俺が今まで不要だと切り捨ててきたものだ。柄になくはしゃいで、すげー楽しかった。だが、きっとそんな楽しいことは今しかない。今しかできないことをお前たちをしたいと思った。当然、その中にお前も含まれてる」

 

今しか・・・できない青春を・・・。私も・・・。

 

「・・・とはいえ、ここから先は全てお前次第だ。生半可な覚悟ではできないだろう。お前の言うとおり、仕事一本で行くのもいいだろう。だがもし・・・もしまだ学校に未練があるというのなら・・・どうかこの金で雇われてくれ」

 

・・・本当にフータロー君はずるいなぁ・・・。そんなこと言われちゃったら・・・私は・・・

 

「・・・ちょっと失礼」

 

話をずっと聞いていた社長はフータロー君から封筒を受け取って中に入ってあったお金を確認してる。

 

「!こ、この金額は・・・!・・・全然お金足りないけど・・・」

 

「えっ!!?うそでしょ!!?それ、六海のボーナス全額入ってるんだよ!!?」

 

「俺と三玖の給料だって入れたぞ!!?それでも多めなのに、まだ足りないと!!?」

 

「うちの看板女優を見くびらないでくれ」

 

あれ?もしかしてこれ・・・かなり手詰まりな状況?なんか3人で話し合ってるし・・・。

 

「ちょ・・・どうすんのこれ!!?予定に全然入ってないんだけど!!?」

 

「大ピンチ・・・」

 

「うむむ・・・こうなったら・・・一花!!」

 

「!!」

 

「・・・金貸してくれ・・・」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

ウソでしょ?ここまでかっこよく決めたのに、最後にそれ?しかも雇おうとしてる人にお金を借りようとするって・・・

 

「・・・ぷっ・・・あははは!カッコ悪!」

 

フータロー君のあまりのカッコ悪さに私は思わず笑っちゃったよ。

 

「途中まではよかったのに、締まらないなー、もう」

 

「本当だよー。雇おうとしてる人にお金借りる?借りないでしょ普通」

 

「・・・・・・」

 

「・・・ぐうの音もでねぇ・・・」

 

あー、本当に笑ったぁ・・・なんだか今まで深く考えてきたのがバカバカしくなってきたよ。

 

「ふー・・・うん。じゃあ、足りない分は出世払いで、ね♪」

 

「「「!」」」

 

うん。私、もう深く考えるのはやめにするよ。フータロー君がここまでやってくれたんだから、今度は私がそれに応えないとね。

 

「ちょ・・・一花君、勝手に・・・」

 

「いいじゃん社長、お仕事には迷惑かけないからさ」

 

勝手に決めちゃったけど、なんだかんだいいながら、社長は私の意思を尊重してくれるんだよね。そこが社長のいいところだよ。

 

「じゃあこれで・・・契約成立だな」

 

こうして私は、フータロー君のビジネスに了承して、契約が成立した。学校に退学の取り消しと、休学申請をしておかないといけないし・・・やれやれ、これから忙しくなりそうだよ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

9月に突入し、夏休みが終わり、今日からみんなは学校の始業式、私は長期ロケ期間に突入する。今私はロケ現場へ向かっていて、妹たちは駅まで見送ってくれてるよ。

 

「えー・・・やりたくない・・・」

 

「一度やってくれたじゃないですか」

 

どうやら三玖は私が出演したCMを再現できるようになったみたいなんだよね。私、まだ見たことないから見てみたいよ。

 

「私も見たいなー」

 

「ほら三玖!見てもらいなよ!」

 

「お願い!1回でいいから!」

 

「・・・じゃあ・・・一度だけ・・・忘れられない夏にしてあげる♡」

 

「わー!そっくり!」

 

本当にうまく再現できていて驚いたよ。これなら初見の人が見ても一花と間違えられるのも無理ないなぁ。

 

「私の出席日数が足りなくなったら、代役をお願いね♡」

 

「絶対無理!!」

 

「えー、つれないなぁ・・・」

 

うーん、まぁ、三玖は結構恥ずかしがってるし、これくらいで勘弁してあげようかな。・・・と、そろそろ改札口までつくね。

 

「じゃあ、私こっちだから」

 

「ええ。頑張ってください」

 

「帰ったらお話聞かせてね!」

 

「いってらっしゃい!」

 

私は妹たちに見送られながら、改札口を通って・・・

 

「・・・一花!」

 

「!」

 

「・・・体調・・・気を付けて・・・!」

 

二乃はほんの少しだけ涙を流して、私にエールを送ってくれた。

 

「・・・うん。行ってきます」

 

私は、妹たちの応援を受けて、改めて改札口を通って、電車に乗って長期ロケ現場へと向かっていくのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

こうして・・・一花は休学となった。

 

少しずつ、六つ子の今の生活が変わってきている。

 

六つ子が一緒にいられるのもあと少し・・・

 

卒業は・・・もうすぐそこまで迫ってきている。

 

♡♡♡♡♡♡

 

仕事が終わってからの夜、宣言通りにフータロー君がやってきて自主映画製作という名の週2回の番協会が始まったわけだけど・・・

 

「だーっ!だから違うって!おい!寝ようとするんじゃねぇ!このままじゃ授業に追いつけなくなっちまうぞ!」

 

「ひぃ~・・・もう勘弁してよぉ~・・・日中のロケでくたくたなんだよ~・・・」

 

「甘えたこと言うんじゃねぇ!」

 

正直ロケの疲れでほとんど頭が回んないよぉ~。仕事終わりにすぐに勉強ってきつすぎるよぉ~・・・。

 

「まったく・・・このままじゃあいつらと卒業なんて夢物語になるぞ」

 

あ、卒業と言えば・・・

 

「私、卒業したいのは妹たちだけじゃないけどね」

 

「!!?え?え?それって・・・」

 

あはっ、動揺してる動揺してる。

 

「隣の席のユミちゃんにテニス部の・・・」

 

「!だ、だよな!

(あ、あっぶねー!)」

 

ふふ、もちろん、フータロー君も含まれてるんだけど・・・それは・・・ナーイショ♡

 

53「分枝の時」

 

つづく




おまけ

ストーリーシナリオについて、そしてその後・・・

一花「そういえば六海、あのシナリオってかなり分厚かったよね?あれいつから作ったの?」

六海「ちょっと前にだよ。口先だけじゃないっていう証明のために三日三晩徹夜で作ったんだよ。おかげで寝不足だよ・・・ふわぁ・・・」

一花「あはは・・・ご迷惑をおかけしました・・・」

六海「迷惑料として一花ちゃんには9月まで六海の抱き枕になってもらいます。拒否権はありません」

一花「ふふ、はいはい、六海は甘えん坊だねー」

そして、翌日の朝・・・

六海「・・・なんか朝起きたらパジャマ全部脱がされたんだけど・・・脱ぎ癖って他人まで巻き込むの・・・?」

一花「ふわぁ・・・おはよー・・・」

あの後六海は一花を抱き枕にするのはやめるようになった。

ストーリーシナリオについて、そしてその後・・・  おわり


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

変わり始める日常

えーっと・・・まずはいくつか謝罪させていただきます。

1つ、更新を1年以上も待たせてしまったこと。

2つ、オリジナル話のネタがなかなか思いつかず、ひとまず話を学園祭の話を進めること。

3つ、書けなかったオリジナル話を諦めたわけではないため、∞のような形でいずれ第3・5章で投稿すること。

4つ、3・5章の投稿は未定であること。

5つ、せっかくいただいた感想を返信できなかったこと。

以上、私の力不足でこれらのご迷惑をかけてしまったことをここに謝罪させていただきます。本当に申し訳ございませんでした!!


四葉SIDE

 

「うちのクラスは何をするんだろーねー?」

 

夏休みが明けて学校が始まって早々、学校中が賑わいを見せています。というのも、なんと!10月13日から15日に旭高校の学園祭、日の出祭りが始まるのです!だからみんな、学園祭に向けて準備で大忙しです!

 

「放課後なのに賑わってるねー」

 

「まだまだ先なのに気合入ってるわね」

 

「うん。だけど去年は転入してすぐだったから準備に参加できるのも嬉しい」

 

「うんうん。特に、これが最後の学園祭だしねー」

 

「そうねー・・・」

 

三玖の言いたいことはわかります。実は去年の学園祭ではこの学校に転入してすぐだったので、楽しむどころか参加もできなかったのです。本当に悔しく思います。

 

「・・・あーあ・・・これで大学の入試判定さえなければ心から楽しめるのに・・・」

 

「うわっ、急に現実的なことを言いだしたよ・・・」

 

「あ、そっか。一学期のやつ、もうすぐ返ってくるんだったね・・・」

 

いやー、あの時は六海のスランプ問題があって結構大変だったんですよねー。うーん・・・今回いい結果だといいんですけどねー・・・。もし悪かったりしたら上杉さんにいろいろ言われちゃうかもしれません。

 

「二乃ちゃんは大学に行くことにしたんだね」

 

「そーねー。一応はそれが無難だと思うし。それに・・・もしかしたら、フー君と同じとこ行けるかもしれないし♡」

 

「「それはないね」」

 

「どういう意味よ!」

 

あはは・・・三玖も六海も結構バッサリと切り捨てちゃってる・・・。二乃、どんまい。

 

「・・・あーあ・・・学園祭が終わったらもう受験まっしぐらなのね・・・」

 

・・・受験・・・かぁ・・・。二乃と五月は大学進学、三玖はお料理の専門学校・・・六海は絵の専門学校・・・みんな進む進路が決まってる。一花にいたってはもうすでに女優だから進む道が決まってる。・・・私のやりたいことって、なんなんだろうなー・・・。

 

「はいはい!現実的な話は終わり!今は学園祭のことを考えよう!」

 

しんみりしていた私たちに空気を六海が変えてくれました。うん・・・そうだよね。受験も大事だけど、今は学園祭!そっちに集中しなくちゃ!うん!集中集中!

 

「・・・っていうか、そもそも私たちのクラス、何するんだろ?」

 

「まずはそこなんだよねー」

 

そうなんですよねー・・・。他のみんなはやることが決まって準備を始めてるんですけど、私たちのクラスはまだやることが決まってなくて準備を進めようにも進められない状況なんですよねー。早く出し物を決めないと・・・。

 

「あ!ここにいたのか中野・・・」

 

「「「「?」」」」

 

「・・・の四女!ちょっと職員室まで来てくれ!」

 

「私ですか?」

 

先生が私に用?いったい何の用なのでしょうか?とりあえずまずは用件を聞くために職員室に行かなきゃ!私は二乃たちといったん別れて先生と一緒に職員室へ向かいました。

 

♡♡♡♡♡♡

 

私が先生に呼ばれた理由はやはり学園祭のことでした。うちのクラスの出し物が決まっていないので、私たち学級長中心でいろいろ決めてほしいとのことです。高校生活最後の学園祭ですからね。悔いのないように、目一杯頑張らなきゃ!

 

「失礼しました」

 

「あ、五月」

 

「四葉」

 

私が職員室から出た同じタイミングで反対側の扉から五月が出てきました。そういえば五月、別の先生方と何か話してたなぁ。

 

「職員室で先生と何話してたの?」

 

「今日の授業でわからない箇所があったので質問に・・・」

 

「そっか」

 

なるほど・・・さすがは五月。勉強頑張ってるなぁ。私も見習わないと!

 

「四葉こそ何を?」

 

「私は学園祭のこと!学級長中心でいろいろ決めてくれってさ」

 

「そういえばうちのクラスはまだ未定でしたね。あれ?学級長といえば上杉君も・・・」

 

あ、そうそう、出し物の話し合いについては『学級長2人で』とのことでしたのできっと上杉さんにも話が回るはずです。ただ・・・

 

「あー・・・上杉さんはこういうお祭りはどうなんだろうね・・・」

 

二乃が言っていたように、学園祭が終われば受験シーズンまっしぐらです。きっと上杉さんは受験に向けて今猛勉強していることでしょう。そんな上杉さんの時間を奪うのはちょっと申し訳ないですよ。だから私の方でささっと決めちゃった方がいいかなー、なーんて思っちゃいます。・・・それに・・・・・・いや、さすがにそれはないでしょう。

 

「とにかく3年生の出し物は屋台をやるって習わしがあるんだって。ひとまずクラスのみんなに意見を聞いて回ってみるよ」

 

「そうですね。それがいいですよ」

 

「何がいいんだろ・・・。から揚げにフランクフルト・・・じゃがバターもいいよねー。それからお祭りらしくチョコバナナや焼きそばも・・・」

 

上げれば上げるほどおいしそうな屋台の名物が目に浮かんでくるようです。あぁ・・・想像したらよだれが・・・

 

「すみません。この話はまた今度にしましょう。もうすぐ塾のお手伝いの時間なので」

 

「え?もうそんな時間?」

 

「失礼します」

 

「・・・・・・」

 

五月は軽くお辞儀をしてから行っちゃった・・・。

 

「・・・うーん、おっかしいなぁ・・・五月は食いつくと思ったのに・・・」

 

言うまでもなく五月は食いしん坊なので絶対この話に乗ると思ってたのですが・・・どういうわけか関心を持ってくれませんでした。・・・今はお腹いっぱいだとか?・・・なーんてね。さ、早いところ教室に戻ってみんなの意見を聞いてこよっと。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ひとまず自分たちの教室に戻ってきたのですが・・・最初の賑わいが嘘かのように静かでした。みんな帰っちゃった?誰か1人でもいないかなと思って扉の窓を覗いてみました。そこには1人で勉強している上杉さんがいました。

 

『四葉は四葉の本当にやりたいことを見つけな』

 

・・・なんで今になって一花の言ってたことが思い浮かぶんだろう?それに・・・

 

ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ・・・

 

・・・変だなぁ。何でこんなにも胸がどきどきしちゃってるんだろう・・・?なんで・・・

 

「!なんだ、四葉か」

 

「ドキィ!!」

 

う、上杉さん!!?な、なぜ!!?私、膝を屈んでたので見えないはずなのに・・・あ!!まさか!またこのリボンが目立っちゃってる!!?

 

「は、はい・・・お取込み中すみません・・・」

 

「俺になんか用か?」

 

「え、えっと・・・」

 

確かに先生は『学級長2人で決めておくように』と言っていました。まだ話していないのならちゃんと言うべきなのですが・・・いざとなると・・・やっぱり言い出しにくいです・・・。

 

「用件があるなら早く言え。今は少しでも時間を無駄にはできない」

 

・・・やっぱり・・・予想通りの回答が出てきました。うん・・・やっぱり上杉さんの時間を邪魔しちゃ悪いよ。

 

ドクンッ、ドクンッ・・・

 

「・・・上杉さんに用なんてありませんよーだ!」

 

「はぁ⁉」

 

「お邪魔しましたー!」

 

「あ、お、おい!」

 

私はこの場から去るように教室から出ていきました。やっぱり・・・なんか変だよ・・・。

 

「・・・なんなんだ、あいつ・・・」

 

♡♡♡♡♡♡

 

教室を出て外に出た・・・のはいいのですけれど・・・

 

ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ・・・

 

「・・・変だよ・・・今まで普通に話せてたのに・・・」

 

胸の高鳴りが全然収まってくれない・・・。本当に、なんで今になって・・・。私、どうしたんだろう・・・?こんな気持ち・・・ありえない・・・。だって・・・区切りをつけて終わらせたはずなんだ。それなのに・・・

 

「おい、どうしたんだよ」

 

「ぬわあ!!!???」

 

もやもやした気持ちを抱えていると、後ろから上杉さんに声をかけられました。び、びっくりしたぁ・・・。

 

「う、上杉さん!なんですか!」

 

「お前こそ、今日様子がおかしいぞ。屋台のこと、話し合わなくてもいいのか?」

 

「え・・・?」

 

や、屋台・・・?

 

「先生から聞いてないのかよ?お前も学級長だろ。俺とお前で出し物決めるんだとよ」

 

正直に言えば・・・意外でした。勉強に集中したいであろう上杉さんが自分から学園祭の話をしてくるなんて・・・。でも・・・私的にやっぱり申し訳なさが・・・。それに・・・

 

「で、でも・・・さっき時間は無駄にはできないって・・・」

 

「ん?・・・あー・・・そういうことか・・・」

 

上杉さんは納得したといった様子で頭をかいています。

 

「だからこそだ」

 

「え?」

 

「高校生活最後の学校行事だ。無駄にする気なんかないぞ。やるからには徹底的に楽しむと決めた!」

 

徹底的に・・・楽しむ・・・。

 

「ついてこい!去年の屋台のデータを聞き込みに行くぞ!」

 

上杉さんからはこれまでにない以上にかなり張り切っています。こんなにも積極的な上杉さんは初めてかも・・・。

 

「時間は有限だ。悠長にしてたらいくらあっても足りない。だからお前が必要だ」

 

「上杉さん・・・」

 

「頼りにしてるぞ」

 

上杉さんが・・・こんな私を・・・頼って・・・。

 

「・・・はい!任せてください!」

 

そうだ・・・今はこの気持ちは関係ない。高校最後の学校行事である学園祭を悔いの残らないものにしたい!そのためにもやることは全部徹底的にやってやるぞー!おー!

 

♡♡♡♡♡♡

 

次の日の放課後、私たちは本格的な準備を始めるために教室に集まっています。私は昨日みんなに去年の屋台で何が好きなのかを聞いて回り、その中で人気だった屋台を黒板に書いています。聞き込みの結果、屋台ランキングはこんな感じになりました。

 

1位たこ焼き

2位チョコバナナ

3位焼き鳥

4位フランクフルト

5位チュロス

6位たこせんべい

 

「ということで、これが去年人気だった屋台メニューです。もちろんこれ以外にもやりたいことがある人は随時教えてください」

 

「あたしはたこ焼きに一票」

 

ランキング1位のたこ焼きに真っ先に一票を入れたのは二乃でした。

 

「こういうのは奇をてらわない方がいいのよ。それに、あんたがそのリストを調べてくれたんでしょ?」

 

「はいはーい!六海もたこ焼きに一票!やっぱりお祭りにたこ焼きは外せないでしょ!」

 

「たこ焼きならバイトで磨いた俺の腕を見せてやるぜ!」

 

「うん。楽しそうだよね」

 

「おっしゃ!大阪本場のたこ焼きっちゅうもんを食わせちゃる!」

 

二乃に次いで、六海に前田さん、武田さん、坂本さんと次々とたこ焼きに一票を入れてきました。とりあえず、上がった票は1つずつ書いてっと・・・

 

「他にやりたいものはあるかー?」

 

「たい焼きやりたい!」

 

「タピオカ!」

 

もちろんランキングに乗っていないものも上がったのでそれも書き足しておかないと・・・

 

「・・・三玖、何かやりたいものあるか?」

 

「え?う~ん・・・」

 

私が票や候補を書いていると、上杉さんが三玖に話を振ってきました。話を振られた三玖は少し驚きましたが、考える素振りを見せました。あの様子だと、何かやりたい様子ですね。三玖は何をやりたいんだろう・・・?

 

「・・・・・・ぱ・・・パンケーキ・・・」

 

パンケーキ?えーっと・・・去年のデータには載ってあったかな?そう思ってリストを広げて見てみると、パンケーキの屋台はどこにも載ってませんでした。

 

「えーっと、去年までのデータにはないものですね」

 

「だがありかもしれないな。ナイスアイディアだ、三玖」

 

「私もいいと思ってたー」

 

「絶対かわいいよ」

 

「三玖ちゃん、ありがとう!」

 

「・・・///」

 

たこ焼きをやると渋っていたみんなは三玖の提案に大絶賛しています。あ、三玖ちょっと照れてる。でもなんだかうれしそう。

 

キーンコーンカーンコーン

 

あ、ここでチャイム・・・時間切れですね。

 

「じゃあ今日はこれまで。後日また話し合おう」

 

いっぱい案がありましたけど、ある程度の候補は絞れたし、何事もなければ明日とかに決まりそうですね。

 

「とりあえず、候補は絞れたな」

 

「ですね!」

 

「中野さん!」

 

私が上杉さんと話してた時、クラスの何人かが私に話しかけてきました。

 

「俺たち、バンドやってるんだけど・・・このライブステージって、俺たちでも参加できるのかな?」

 

「もちろんです!でもそうなると練習場所も欲しいですよね。吹奏楽部の人たちにも掛け合ってみますね!」

 

「マジ⁉サンキュー」

 

「親戚に招待状を送りたいんだけど・・・」

 

「ご用意してます!足りなかったらまた言ってくださいね!」

 

「被服部でこんな出し物するんだ。お客さん来るかなぁ・・・」

 

「わー、素敵ですね!所定場所ならポスター貼れるのでぜひお手伝いさせてください!」

 

ふー、みんなの要望を応えるのは結構大変ですね。でも、やるからには全力でやらないと、楽しめないですよね!

 

♡♡♡♡♡♡

 

『三玖も作るの?』

 

様々な生徒の要望を四葉が対応している姿を遠くで見つめている二乃、三玖、六海、風太郎の4人。

 

「四葉大人気」

 

「なぜ俺のところには誰も来ない」

 

「人望」

 

「フーちゃん人望なさすぎだしね」

 

「やめて。心が痛むから」

 

誰も自分に頼ってくれず、三玖と六海の辛辣な言葉にちょっと傷ついた風太郎。

 

「それにしても屋台ね。何を作るにしても腕が鳴るわ」

 

「うん。腕が鳴る」

 

二乃に次いで発言した三玖の言葉に一瞬シンと静かになった。僅かな沈黙を破ったのは六海だ。

 

「ちょ、ちょっと待って!え?まさか・・・三玖ちゃん、調理係やる気なの!!?」

 

「そうだよ?」

 

「ちょ、シャレになってないわよそれ!外からお客さんも来るのよ⁉下手したら周辺住民同時食中毒になるわよ!!?」

 

「めちゃくちゃ失礼。私だって上達してるもん」

 

失礼な発言をする二乃に三玖は頬を膨らませてぷんすかした表情になる。

 

「それに、二乃もいる」

 

「!」

 

「なら安心」

 

三玖からの信頼に文句を言っていた二乃はちょっと照れたような表情を見せた。

 

「も、もちろんよ!私と一緒に作れば万が一にも失敗はありえないわ!」

 

「わー、頼もしいー。これなら全部任せても大丈夫そうだね」

 

「あんたはもっと頑張りなさいよ」

 

二乃に丸投げしようとする六海に二乃は呆れた表情を見せる。

 

「ふー、お待たせー」

 

姉妹の微笑ましい会話が繰り広げられていると、四葉が戻ってきた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ふー・・・みんなの要望を聞くのも結構大変だったなー。帰ったらしっかりとプランを考えなきゃ・・・。

 

「四葉、お疲れ様」

 

「あんたちょっと働きすぎじゃない?」

 

「えへへ」

 

「大丈夫?ジュース買ってこようか?」

 

「ありがとー。でも大丈夫だよ」

 

確かにやることが多くて大変だけど・・・それ以上にやりがいを感じて楽しくなっています。何せ・・・

 

「最後のイベント・・・ですもんね!一ミリも悔いの残らない学園祭にしましょう!」

 

「・・・・・・」

 

あ、上杉さん、照れを隠すために前髪をいじってる。こういう時は素直じゃないですねー。

 

「じゃあ帰りましょう!」

 

「バイトまで時間あるわね」

 

「それなら駅前のファミレスに行こう」

 

「おー、いいね!行こう行こう!せっかくだから五月ちゃんを・・・て、そういえば五月ちゃんは?」

 

「もうお仕事行ったよ」

 

「フータローは今日どっちのバイト?」

 

「残念、今日はあたしとよ」

 

「むむむ・・・」

 

「いいなぁ、2人とも。六海んとこにも来てほしいけど、フーちゃん絵下手くそすぎだしなぁ・・・」

 

「上杉さん、早く行かないと置いてっちゃいますよー!」

 

私たちは他愛ない話をしながらファミレスまで向かうのでした。学園祭、楽しみだなー。

 

SIDEOUT

 

♡♡♡♡♡♡

 

『ここが正念場』

 

その日の夜、風太郎は一花の元までやってきて、彼女の勉強を見ながら今日の出来事を話す。

 

「という感じに、学園祭に向けて絶好調だ」

 

「あー・・・フータロー君さ・・・私が心配するのも変な話だけど・・・大学入試の方は大丈夫?」

 

「・・・あー・・・実は今日志望校への判定が返ってきてな・・・」

 

風太郎は今日渡された入試判定書を取り出してわざとらしさ全開の反応を見せる。

 

「や、やめろ!見るなよ!これだけは絶対に見られたくない!」

 

「あー、はいはい、よかったのね。心配するだけ損か・・・」

 

だが風太郎の露骨な反応に一花は苦笑いを浮かべる。毎日勉強して成果を出してる風太郎には無駄な心配だからだ。

 

「・・・なんだ、面白みがないな。つまらん」

 

「言っておくけど、そんな芸当ができるのは元々勉強ができるフータロー君だけだからね」

 

ちなみに、風太郎の志望大学の判定は言うまでもなくAである。茶番は置いておいて、一花は話を戻す。

 

「みんなをちゃんとよろしくね。ここが正念場だよ」

 

「心配ないさ。勉強も学園祭も、きっとうまくいく。見てな一花。最高の学園祭にしてやるぜ」

 

風太郎は心配はいらないと言わんばかりにそう宣言した。姉妹各々で、何かしらの問題を抱えているとも知らずに。

 

♡♡♡♡♡♡

 

二乃SIDE

 

あれから数日が経って、うちのクラスでやる出し物はたこ焼きかパンケーキ、そのどっちかが最終候補に残った・・・わけなんだけど・・・ちょっと問題が発生したわ。

 

「パンケーキでいいじゃん!このままじゃ屋台のメニュー決まらないよ!」

 

「たこ焼きだって!決まんねーのはお前ら女子が頑固なせいだ!」

 

「いい加減諦めなさい男子!」

 

「去年のデータ見ただろ!」

 

まぁ・・・見ての通り男子はたこ焼き、女子はパンケーキをやるって言って揉め事を起こして騒ぎを大きくしてるのよね。まぁ・・・それだけならまだマシな方よ。質が悪いのが・・・

 

「ふわっふわなパンケーキ食べたことない?みんな大好きだよ!三玖ちゃんもなんか言ってあげて!」

 

「え・・・えっと・・・その・・・」

 

「たこ焼きが嫌いな日本人なんて存在しねーよ!ですよね!二乃さん!」

 

「ま、まぁ・・・」

 

あたしがたこ焼きを一票入れたから男子側に、三玖はパンケーキを提案した本人だから女子側の派閥に巻き込まれたことなのよね・・・。まったく・・・面倒なことになったわね・・・。

 

「あれ⁉二乃ちゃんパンケーキ好きって言ったじゃん!なんでそっちの味方するの?」

 

「えっ?噓ですよね、二乃さん?」

 

・・・あー・・・もう!これじゃあいつまでたってもらちが明かない!!イライラする!!

 

バンッ!!

 

「あーもう!!仕方がないでしょ!!たこ焼きはあたしが最初に提案したんだもの!!だったら最後まで責任持つわよ!!それと、食べるのと作るのでは話が別だから!!そのふわっふわのスフレパンケーキ、あたしだってたまに失敗するんだからね!!」

 

このままだと堂々巡りになってしまうのはわかり切ってる!だったらもう言ってやるしかないじゃない!

 

「これ以上の話し合いは時間の無駄よ!!こうなったら2つともやるしかないわ!!」

 

♡♡♡♡♡♡

 

『相談できない心情』

 

男子と女子の揉めあいは収まったはいいものの、問題が解決したわけではなかった。何せ男子と女子とで別れたおかげで入った票が半々になってしまって決めるに決められない状況となっているのだ。ちなみに、学級長は中立の立場であるために票を入れることはできない。

 

「ちっ・・・今日も平行線になっちまったか・・・。そろそろ決めないとやばいな・・・」

 

「あ、あの・・・上杉君・・・ちょっといいですか?」

 

票が平行線になってしまっている状況下に危機感を覚える風太郎に五月が声をかけてきた。

 

「ん?どうした?」

 

「えっと・・・」

 

五月は相談事がしたい様子のようだが、中々持ち込むことができず・・・

 

「・・・学園祭、頑張りましょう」

 

結局誤魔化して相談することができなかった。相談できないでいる五月の手には、1枚の用紙が握られており、五月はそれを隠すように手を後ろに組んだ。

 

「当然だ」

 

「でもまさかメニュー決めでここまで揉めるとは思いませんでしたけどね・・・」

 

「ああ。だが学級長としてできることはしていこう」

 

「ねぇねぇフーちゃん。ちょっといい?」

 

風太郎が四葉と話していると、今度は六海が話しかけてきた。

 

「ん?今度は六海か。どうした?」

 

「実は招・・・」

 

六海は風太郎に相談しようとした時、ひょっこりと顔を出す四葉、そして隣にいる五月を見て、踏みとどまる。

 

「えと・・・ううん、やっぱり何でもない。ごめんね?」

 

「なんだ?遠慮しなくてもいいんだぞ?」

 

「別に大したことじゃないんだ。だから大丈夫」

 

「そうか?」

 

六海は招待状の用紙を持っていたが、それを握りしめて3人には見えないようにくしゃくしゃにしたのだった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

今日の屋台の話し合いが終わった後、あたしと三玖は外に出て、今回起こったことについての話をしているわ。

 

「お互い面倒くさいことになったわね・・・。あんたも後悔してるでしょ?」

 

「うん・・・まさかあんなことでクラスが二分するなんて思わなかった・・・。言わなきゃよかった・・・」

 

「そうよ。なんでパンケーキなんて言い出したのよ」

 

確かにパンケーキはかわいいし女子ウケも抜群なんでしょうけど、パンケーキを作るのってなかなか難しいし、あの子たちにも言ったけどあたしだってたまに失敗するスイーツよ。そんな難しいものに挑戦するより、まだ簡単なたこ焼きをやってた方が失敗することもほぼないわ。

 

「・・・フータローのお母さんがよくパンを作ってくれたんだって。それでうちのこと思い出してみたら・・・」

 

「それでパンケーキね」

 

三玖がパンケーキをやってみたいって理由は何となくわかったわ。確かに昔食べたものの中で真っ先に思いつくのがパンケーキだし、やってみたいって気持ちはわからなくはないわ。

 

「・・・まぁ、そうよね。あれこそふわっふわだったわ。でもあれは一朝一夕で作れるものじゃないわ。あたしが言うんだから間違いないわ」

 

「作ったことあるんだ。パンケーキ」

 

「あたしの初めて挑戦した料理だわ」

 

「そうなの?」

 

初めてパンケーキを作った日のことは今でも覚えてるわ。うまく作ることができなくて、苦い思いをしたことも含めて。だからわかるのよ。パンケーキを作るのがどれほど難しいのかが。

 

「どうしてもあの味が恋しくて昔パパにお願いしたことがあるのよ。パンケーキのお店に連れてってほしいってね。頑なに聞き入れてもらえなかったけどね」

 

「それでよく自分で作ろうって思ったね」

 

「・・・・・・・・・まぁ・・・ね」

 

もちろん、パンケーキを作ろうって思ったきっかけはあったけど・・・そんな話すようなことでもないからそれは置いておくわ。

 

「とにかくそういうことだからパンケーキはお勧めできないわ。まだたこ焼きの方がイージーよ。屋台ならなおさらね」

 

「だからってあんな直球に言わなくてもいいんじゃ・・・」

 

まぁそれが普通の反応よね。でも、それはあたしの性に合わなすぎるし、何より・・・

 

「嫌なのよ。陰でコソコソすんのは」

 

陰でコソコソと何かするのは卑怯だと思ってるし、そんなことすればパパと同じになると思う。そんなのは嫌よ。

 

「まぁでももしかしたら恨まれちゃったかもしれないわねー。嫌味の1つや2つ、言われるかも」

 

あたしの頭に浮かんでくるのは、たこ焼きをやるのをかなり渋っていたあの女子3人組だわ。やっぱ言い過ぎたかしらねー。

 

「そしたら二乃は・・・」

 

「もちろんその時は遠慮なんてしないわ!受けて立ってやる!むしろあっちから来てくれた方がスッキリするわ!」

 

コソコソするよりは断然マシだし、あっちがその気なら全力で打ち負かしてやるわ!

 

「!噂をすれば・・・ね」

 

あの子たちの話をしていると、ちょうど向こうからあの女子3人組がやって来たわ。ふん、何を考えてるのかは知らないけど・・・来るなら来なさい。論破して返り討ちに・・・

 

「二乃、三玖」

 

「!」

 

リーダーの女子が何か言おうとした時、フー君が間に入って話しかけてきたわ。

 

「なんだ、一緒だったか」

 

あ、あの子たち、フー君が話に入ってきた途端にどっか行っちゃったわ。・・・なんだが拍子抜けって感じ。

 

「フータロー、どうしたの?」

 

「いや、それならいいんだ。まぁ・・・今は忙しくて大変だが、せっかくの学園祭だ。準備も本番も楽しんでいこうぜ」

 

フー君はそれだけを言い残してどっか行ってしまったわ。フー君ってば、いったい何の用だったのかしら・・・?

 

「・・・・・・なんなのよ・・・もう・・・」

 

「・・・あ、私、フータローに用があるんだった。先に帰ってて」

 

「え?」

 

三玖はフー君を追いかけて行っちゃったわ・・・。・・・一緒に帰る子がいなくなっちゃったわ・・・。なんか1人で帰るのも嫌だし、誰か一緒に帰ってくれそうな人いないかしら・・・?

 

♡♡♡♡♡♡

 

一緒に帰ってくれそうな人が誰かいないかなと思ってあたしは1回教室に戻ろうと思った時、偶然五月と六海と会ったわ。

 

「あれ?二乃ちゃんだ」

 

「二乃も今帰りですか?」

 

「そうね。一緒に帰る人を探してるところよ」

 

「そうでしたか。それならすみません。私はこれから塾に直接向かいますので」

 

「六海も今日はバイトなんだ。今日中に仕上げておきたい箇所があってね」

 

「あっそ」

 

五月が真面目なのは今に始まったことでもないえど、六海も結構真面目なところはあるのよね。ま、それが2人のいいところではあるけれど。

 

「・・・あの・・・二乃、六海・・・」

 

「んー?」

 

「何?」

 

「・・・2人は・・・入試判定どうでしたか・・・?」

 

入試判定?なんでそんなのを知りたがるのかしら・・・?

 

「えっとー、六海はー、Cだったー。スランプがあった割には、かなり上々な方だと自負してるよ」

 

「あたしも思ったほど悪くなかったわ。確か・・・Bだったかしらね。受けるとこ選んでるか・・・」

 

うううう・・・

 

!!?え、な、何⁉五月ってばどうしたのよそんな恨めしそうな声を出して・・・。

 

うううううううううううううう・・・

 

「えっ、何⁉どうしたっていうのよ⁉」

 

「い、五月ちゃん・・・?」

 

「どうしましょう・・・二乃・・・六海・・・。全力で取り組んでいるはずなのに・・・見てください!!この結果です!!もうお先真っ暗です!!」

 

五月が取り出したのは返ってきた入試判定の結果用紙だったわ。そこに書かれた五月の結果は・・・D・・・六海より下の結果だったわ。

 

「所詮私のやってることはお母さんの真似事!!学校の先生なんて夢のまた夢だったんですーーー!!」

 

「お、落ち着きなさい!!」

 

「そ、そうだよ!ここじゃめっちゃ目立つし!」

 

とにかくあたしたちはすごく取り乱してる五月を落ち着かせるためにどこかのベンチへと移動することにしたわ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

ベンチに座ってからもいろいろと喚いてたけど、ようやく落ち付いてきたようね。

 

「取り乱してすみません・・・」

 

「とりあえずジュース買ってきたけど・・・」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「二乃ちゃんも」

 

「気が利くわね。ありがと」

 

飲み物を買いに行ってた六海から飲み物を受け取って、ようやく本題に入れる。入試判定がDって・・・確かに教師を目指す人としては絶望的な結果よね・・・。

 

「で、このこと、フー君には相談したの?」

 

「・・・いえ・・・。お忙しそうでしたし・・・何より・・・申し訳なくて・・・」

 

「あ、教室でフーちゃんと話してたのそれだったんだ」

 

「はい・・・結局話せませんでしたけど・・・」

 

「そうなんだ・・・。それで、先生はなんて言ってたの?」

 

「一度親と相談した方がいいと・・・。でも、そんなこと・・・」

 

パパに相談・・・ねぇ・・・。

 

「してくれる親でもないか」

 

「い、いえ!そういう意味ではなく・・・お父さんに心配をかけたくないんです・・・」

 

は?心配?あの人が?

 

「は?心配?あの人いつ・・・」

 

「私たちがここまで成長できたのはお父さんのおかげ・・・私もそう思えるようになってきました・・・」

 

「五月ちゃん・・・」

 

「お母さんのお墓参りの時、花が添えられていたの、覚えてるでしょ?あれは間違いなくお父さんが備えたものです。確かに直接何かをしてもらったことは少ないですが・・・きっと私たちのこと、ずっとに気かけてくれてたんだと思います」

 

あの人が・・・あたしたちを・・・?今まで邪魔してきたくせに?

 

「そんなわけ・・・」

 

「フーちゃんもダメ、パパもダメって・・・どうすんの?八方塞がりじゃん」

 

「相談できる人がいないわけでもありません。ひとまず下田さん・・・熟でお世話になってる先生に相談してみるつもりです」

 

「そっか。ならいいんだ」

 

「それに、近日『有名な講師』の方による特別教室が開かれるらしいのです」

 

「何それ、怪しいわ」

 

「ふふ、二乃と六海も来ますか?」

 

「結構よ」

 

「六海も遠慮しとくよ」

 

相談したおかげか、五月はちょっとだけ元気になったみたいね。これ以上残る理由もないし、あたしたちは途中まで一緒に帰ることにしたわ。・・・あの人が・・・ね・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

それから数日が経って、学園祭の準備は滞えりなく順調って感じよ。・・・うちのクラスを除いて。

 

「むむむ・・・今回も進展なし・・・って、あれ?二乃ー、上杉さんどこ?」

 

「さっき教室を出たわよ。こっち」

 

準備するにしても屋台を決めないことには特にやることもないから、とりあえず四葉をフー君のところに案内することにしたわ。

 

「・・・あ、そうだ。この前言われた招待状用意してるけど・・・」

 

あー・・・あれね・・・。

 

「・・・やっぱやめとくわ」

 

「え?いいの?どうして?」

 

「パパを呼ぼうなんて・・・一時の気の迷いだわ」

 

学園祭に誰かを招待することができるって聞いた時に・・・まぁ・・・一応パパも呼んでみようかなーなんて考えて招待状を用意してもらうよう頼んだけど・・・冷静に考えてみれば、時間の無駄でしかないって気づいたわ。

 

「私はいいと思うけどなー・・・」

 

「どうせ来るわけがないわ。家にだってほとんど姿を見せずに・・・いっつも陰でコソコソしてるに違いないわ」

 

「ははは・・・手厳しいね、二乃は・・・」

 

あたし程度で手厳しいなら、この世の中全部が手厳しいわよ。むしろ全然言い足りないくらいよ。

 

「でもね・・・」

 

「あ、ちょっと待って」

 

階段を降りようとした時、見知った顔がそこにいたわ。それはあたしに文句があるであろう女子3人組だわ。

 

「あたしを睨んでた女子だわ。面倒ごとになる前にここは避けていきましょう」

 

「え?でも・・・」

 

ここであたしがあの子たちと顔を合わせたら何かといちゃもんをつけに来るに決まってるわ。ならほとぼりが冷めるまで距離を置いた方が安全だわ。

 

「お前らの言いたいことはよくわかった」

 

!この声は・・・フー君⁉気になって少し覗いてみると、やっぱりフー君がいた。何でフー君があの子たちと?もしかして・・・あたしたちが揉めてたとこを見たとか?

 

「えーっと・・・要約するとこうか?女子なのに男子側に肩を持つのはおかしい。あんなの媚びを売って男子の誰かを狙ってるに違いないと」

 

「そ・・・そうだよ・・・。もしその相手が祐輔だったら・・・二乃ちゃんが相手なんて・・・私に勝ち目なんてないよ・・・」

 

あーあ、やっぱそうかー・・・。どうせそんなことだろうとは思ってたけど。まったく・・・勘違いするにもほどがあるでしょ。祐輔・・・が誰かは知らないけど、あたしはそんな奴眼中にないっての。

 

「・・・ハッキリ言おう。それはお前の勘違いだ」

 

あたしを睨んでた女子の意見にフー君はハッキリと言い切ったわ。

 

「え・・・?ど、どうして・・・?」

 

「二乃の意中の相手はたこ焼き派にいない。それだけはわかってる。心配するようなことは何もないから安心してくれ」

 

フー君の言ってることは全部当たってる。けどそれであの子が納得するとは到底思えないわ。

 

「信じられないよ!なんで上杉君にそんなことわかるの⁉」

 

「・・・学級長は中立の立場のためどちらにも投票をしてないんだ」

 

「はぁ?何それ!意味わかんない!この話と関係ないじゃん!」

 

「それが関係あるんだよ・・・」

 

・・・て・・・ちょっと待って・・・フー君・・・いったい何を言うつもり⁉

 

「二乃は俺をすっ・・・好きだからな」

 

「「「!!????」」」

 

は・・・はああああああああああああああ!!!???

 

「だから二乃とは喧嘩せず、仲良くやってくれ」

 

ちょ・・・ちょっと・・・いくら何でもドストレートすぎでしょ!!思わず身を乗り出しそうになったわよ・・・。・・・まぁ・・・フー君にそう言ってもらえるのは嬉しいけれどね。

 

「う・・・上杉君・・・」

 

「なんだ?」

 

「・・・そういう妄想はやめよう?」

 

「・・・・・・」

 

そりゃそうよ・・・あたしはフー君のことをよく知ってるからいいけれど、他のクラスの子に言ったって今みたいに一蹴されるのがオチよ。

 

「その設定は二乃ちゃんがあまりにもかわいそうだよ・・・」

 

「ち、違う!二乃は本当に・・・」

 

「うんうん、いい子紹介してあげるからさ・・・」

 

「だからー!!」

 

何やってるんだか本当に・・・。

 

「二乃」

 

「・・・・・・」

 

「陰でコソコソも悪くないと思うよ。きっと何か理由があるんだよ」

 

理由・・・か・・・。そういえば・・・あたしが料理を始めたきっかけは・・・あの出来事がきっかけだったわね。あのパンケーキの味が忘れられなくて・・・パパに専門のお店に連れて行ってほしいって頼んだ。でも何度頼んでも、連れて行ってはくれなかった。けど・・・諦めて家に帰ってきてみれば、テーブルにはスフレパンケーキのレシピ本にその材料が置かれていた。それで思った・・・連れて行ってもらえないのなら自分で作ってしまえばいいって。もちろん最初は失敗続きだったけれど・・・やっていくうちに、料理するのが楽しくて・・・。・・・今にして思えば・・・あの時のパンケーキの材料は・・・パパが用意してくれたものだったのかもしれないわね。全部・・・あたしのために・・・。

 

「・・・四葉。招待状の文面は一緒に考えて」

 

招待状を出したところで来てくれないのかもしれない・・・。けど・・・ほんの少しでも可能性があるのなら・・・あたしはそれに賭けてみたい。それがあたしたちをここまで育ててくれたパパへの・・・恩返しだから。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『その後』

 

一応は女子3人組の二乃に対する誤解を解くことができた。もちろん、風太郎の発言は妄想の類であると思われたままであるが。

 

「生が出るわね、妄想男子」

 

「・・・嫌味を言いに来たのか性悪女・・・」

 

ちょっと疲れ気味の風太郎ににやにやした表情を浮かべる真鍋が声をかけてきた。

 

「あれは後先考えないで発言するあんたが悪い。自業自得よ」

 

「・・・つーか見てたんなら誤解を解くの手伝ってくれよ・・・」

 

「手伝うって何を?私には何のことかわかんないわね」

 

風太郎の反応を面白がってる真鍋はわざとらしくすっとぼける。

 

「こいつ・・・!」

 

「そんな顔しないでちょうだい。せっかく朗報を持ってきたのに」

 

「朗報?」

 

「今から私とデートよ。ほら、泣いて喜びなさい」

 

「・・・・・・は?」

 

真鍋のデート発言に風太郎は本当に意味がわからんと呆けた表情になる。当然ながら真鍋には風太郎に対して恋愛感情は抱いていない。そんな彼女からの誘い。果たして、真鍋の真意とは・・・?

 

一方その頃、六海はバイト先への道のりを歩きながら、スマホを操作して電話をかけている。電話の相手は一花である

 

「あ、もしもし一花ちゃん?今休憩入ったところ?忙しいところごめんねー?・・・うん。ちょっと相談したいことがあってさ・・・。うん・・・バイトが終わったら直でそっち行くから・・・」

 

電話をしている六海の左手には、くしゃくしゃにしたものとは別の、まったく新しい招待状があった。




次回、風太郎視点


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

終わり掛ける日常

今年の六等分の花嫁の投稿は2本だけですが、大きく決断を出してようやく達筆できてよかったと思っております。本当に、お待たせするのが申し訳なく思っていたので。

さて、今回の話で今年の六等分の花嫁の投稿は終わりです。来年は2本ではなく、もっと多く投稿できるように頑張りたいと思います。

それでは、よいお年を!


『六海のお願い』

 

ドラマの撮影が終わると、一花は勉強会の日以外はたいていは自分の家か宿泊先で寝ることが多い。今だってゆっくり眠りたい気持ちはある。だが今はそうも言ってられない。なぜなら今日は自分の宿泊先に、六海が来ているのだから。

 

「おー、面白いよこれ。なかなかよくできたシナリオじゃん」

 

「でっしょー?スランプを克服してからはもうネタが出るわ出るわで・・・。おかげで毎日ぶっ通しで・・・しまいには寝なかった日もあるんだからー!」

 

「あはは・・・熱中するのはいいけど、ほどほどにねー」

 

六海のやる気に一花はちょっぴり苦笑いを浮かべている。

 

「そうも言ってられないんだよねー。学祭ではこれ以外の作品を売りに出すつもりだから・・・時間がいくつあっても足りないんだよー。一花ちゃんもぜひ学祭で漫画買っていってよ」

 

「はいはい。時間があったら買いに行くよ」

 

「本当⁉言質取ったからね!絶対だよ⁉絶対に来てね⁉」

 

「絶対・・・はちょっとあれだけど・・・まぁ善処するよ」

 

今読んでいる漫画以外のものを買いに来るという約束を交わしたところで、一花はそろそろ本題に入る。

 

「それで・・・六海。話っていうのは・・・この漫画のことじゃないんだよね?」

 

「あー・・・うん・・・。こんなこと一花ちゃんにしか相談できないから・・・」

 

本題に入った瞬間、六海は少し申し訳なさそうな表情をした後、鞄からあるものを取り出した。それは、学祭の招待状である。

 

「お願い、一花ちゃん。招待文の文章を一緒に考えて」

 

「招待って・・・いったい誰を招待するの?」

 

「・・・・・・・・・それは・・・」

 

一花の質問に六海は長く沈黙した後に、招待したい人物の名を口にした。

 

♡♡♡♡♡♡

 

トスッ!

 

「お!ドンピシャ!さすが私、いいコントロール♡」

 

「・・・・・・」

 

真鍋がデートとか変なことを言って連れられた場所ってのは・・・アラウンド2っていうスポーツ施設にあるダーツコーナーだった。真鍋はダーツを楽しんでいて、俺は注文したドリンクを飲んでいる。・・・こんなことしてていいのか?学祭の準備で忙しいってのに。

 

「・・・なーに白けた顔してんのよ。せっかくのデートよ?もうちょっと楽しそうな顔しなさいよ」

 

「・・・俺らはそんな関係じゃねぇだろ。他の奴誘えよ他の奴」

 

「しょうがないでしょ?孤児院の同学年の奴は全員予定があって無理だし、子供たちじゃどうしたって気遣うでしょ?気負わずに誘えるのがあんただけだったのよ。おまけに無料チケット、今日までなのよ。使わないと損でしょうが」

 

坂本よ、お前の恋路、まだまだ遠い道のりらしいぞ。お前を誘うって選択肢すらなかったんだからな。

 

「てかこんなことしてていいのかよ・・・屋台だって何するかまだ決まらねぇし・・・」

 

「ああゆうのはたいてい自然と何とかなるもんなのよ。いいじゃないたまには身を流れに任せても。だいたいあんたも四葉も頭が固いのよ。もっと柔軟に行きましょう」

 

「俺学級長。暇じゃないのわかってる?」

 

「人望のない学級長が何言ってんだか」

 

それ地味に傷つくからやめてほしいんだが・・・。

 

「途中で帰るとか言い出さないでよ?あんたにはボーリングやらバッティングセンター、ビリヤードとかにも付き合ってもらうんだから」

 

「体力が持たん・・・勘弁してくれ・・・」

 

「いいのよ別にやらなくても。あんたはただドリンク飲んで私のプレイを見てばそれでいいの」

 

「じゃあ俺を連れてこなくてもよくね?」

 

1人でやりたいなら別に俺を誘う理由もないだろうよ。マジでこいつの真意がわからん。中学の時だってそうだ。こいつはたまに来たかと思えば俺を外に連れまわし、練習から何まで付き合わされる変な奴。正直、こいつと仲良くできる気が全くしねぇ。だからこいつとは腐れ縁のままだ。俺の言葉を聞いて真鍋は心底呆れたような表情を見せた。

 

「・・・はぁ・・・。そんなんで本番大丈夫なのかしらね?日曜、デートなんでしょ?」

 

「ブッ!!!」

 

真鍋のいきなりの発言で思わずドリンクを吹いてしまった。も、もったいねぇ・・・じゃなくて!問題はそこじゃねぇ!

 

「汚いわねぇ」

 

「ゴホッ!ゴホッ!お前・・・聞いてやがったな・・・!」

 

こいつはデートっていうが、どっかに出かけるってのは間違ってねぇ。というのも、先日、三玖から誘いがあってな・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの時は・・・そう、あの女子3人組が二乃に絡んで来ようとした時に声をかけた時だった。あれを見た瞬間、何か文句があって二乃に絡んできたのだろうと思って、問題解決のためにどうすればいいかと考えてた時だったな。二乃と一緒にいた三玖が声をかけてきたのは。

 

『フータロー』

 

『ん?なんだ三玖?』

 

『あのさ・・・ちょっと・・・・・・付き合ってよ』

 

『えっ⁉』

 

今思い返しても、あの言葉を聞いた時は一瞬ドキッとなってしまったぞ。

 

『あ・・・ごめん・・・。今のは変な意味じゃなくて・・・。ほら・・・前に一緒に出掛けようって約束したでしょ?』

 

『あ、ああ・・・そういえばしたな』

 

『・・・今度の日曜日、どこかお出かけしようよ』

 

♡♡♡♡♡♡

 

そういうわけで俺は今度の日曜日には三玖との約束が控えてる。でもそれをまさかこいつに聞かれるなんて思わなかった・・・。

 

「まぁだからって私がどうこう言える立場じゃないんだけどさ・・・。何をやるにしても、ビシッと決めなさいよビシッと。あの子たちに言いたいこと、あるんでしょ?」

 

言いたいこと・・・か・・・。多分こいつは気づいてるんだろうな・・・。俺が六つ子たちにたいして思ってることを・・・。

 

・・・この胸の内にある感情を。

 

「・・・言っている意味が全く理解できんな」

 

「またまた。すっとぼけんじゃないわよ、この幸せ者め」

 

真鍋はにやにやした表情を浮かべながらひじをぐりぐりとして来やがった。この女うぜぇ・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『六海が六海でいられるように』

 

一方その頃、一花の宿泊先で六海は今回学祭に招待したい人物の名と、どうして学祭に呼びたいのか・・・その理由を明確に話し終えた。その時の六海の表情は真剣だった。

 

「・・・なるほどね。うん。よくわかったよ。六海の気持ちは」

 

六海の気持ちを理解できた一花。ただ理由を聞いても、一花はその人物を呼ぶことにたいして消極的な様子だ。

 

「でも・・・ハッキリ言って私はおススメできないなぁ。昔六海にやらかした仕打ち・・・忘れたわけじゃないでしょ?」

 

「・・・わかってるよ・・・そんなこと・・・。・・・お姉ちゃんたちがあの子のことが嫌いなことも・・・」

 

一花の言葉に六海はスカートをぎゅっと握りしめながら顔を俯かせる。一花が心配する気持ちは理解できないわけではない。なぜならあの出来事は・・・六海の黒歴史の始まりでもあるのだから。

 

「・・・それでも誘うの?来るはずがないって思ってても・・・また辛い目に合うかもしれないってわかってても・・・」

 

「当然!!」

 

一花の質問に対し、六海は顔を見上げて、ハッキリと答えてみた。

 

「正直あの時のことは何があったのか全然わかってない・・・。何で六海のことが嫌いなのかも・・・。何もかもがわからないことだらけだけど・・・これだけはハッキリわかる。このままじゃ六海は絶対に後悔するってこと!!」

 

六海は座り方を正座に変えて一花の顔を真正面から見て、言葉を紡ぐ。

 

「一花ちゃんの言うとおり、来ないかもしれない・・・もっと辛い目に合うかもしれない・・・でも・・・だからといってこのままにはしておけない!六海は・・・六海にできることを精いっぱいやりたい!後悔しないように!何より・・・六海が六海でいられるように!!だから・・・お願いします。あの子へ送る招待文を・・・一緒に考えてください」

 

六海は自分が本気であると誠意を見せつけるかのように、一花に土下座をして頼み込んだ。2人の間に長い沈黙が流れる。

 

「・・・本気なんだね・・・」

 

ポツリと一言呟いた後、一花は口元に笑みを浮かべ、六海の頭をポンと乗せ、撫で始める。

 

「えらい!よく言えました!」

 

「一花ちゃん・・・?」

 

「まぁ正直?私もあの子に対して文句の1つは言っておきたいからね」

 

あまり要領が吞み込めていない六海頭に?マークを作っている。

 

「今から書こっか?あの子が絶対に行きたいって思わせるような招待文を」

 

「・・・!うん!!」

 

一花の言葉を聞いて六海はパーッと明るい表情を見せた。こうして一花と六海はある人物へ向けた招待文を頭を悩ませながら書くのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

とりあえず、真鍋の奴がダーツ1ゲームを終えて、次に向かったのはバッティングセンターだった。話を聞く限りだと、学祭が終わった後にはソフトボールの試合が控えているんだと。真鍋にとってこれがソフトボール最後の試合だから練習したいという理由でこれを選んだらしい。俺は相変わらずドリンクを飲んで真鍋のプレイを見ているだけだ。スポーツはともかく、ドリンクも無料なんだ。なら頼まないと損だろ?

 

「・・・んで?実際のところどうなのよ?」

 

ピッチングマシーンから飛んできたボールを真鍋が打ち返すと同時に、何か質問してきた。どうって・・・何の話だ?

 

「どうってなんだ?」

 

「とぼけんじゃないわよ。六つ子の関係に決まってるでしょ」

 

「ブーーーッ!!!」

 

真鍋の質問で、俺はまたもドリンクを吹いてしまった。も、もったいねぇ・・・本日二度目・・・て、違う!!そうじゃねぇ!!

 

「何回ジュース吹くつもりよ」

 

「ゴホッ!お前が変なこと聞くからだろ・・・」

 

「だって気になるじゃない。色恋沙汰なんて・・・中学じゃありえなかったんだもの」

 

だからって不意に聞くことじゃないだろうが。まぁ・・・中学の時にはありえなかったってのは認めるが・・・。しかし俺があいつらのことをどう思ってるか・・・か・・・。

 

「・・・どうもこうもねぇよ。お前だって知ってるだろ?俺はあいつらの家庭教師で・・・あいつらは俺の生徒。それ以上でも以下でもねぇよ」

 

「・・・本当にそれだけ?」

 

真鍋はバッティングに集中して顔を見せないが、言いたいことはわかるつもりだ。おそらくは本心だけを話せと言っているのだろう。これは紛れもない本心なのだが・・・。・・・いや、これだけじゃないってこともあいつには見抜かれてるんだろうな。

 

「・・・まぁ・・・数少ない大事な友人だと思ってるよ」

 

「へー」

 

これも紛れもない本心ではある。だが、これもこいつが聞きたい言葉ではないと思う。なんだかんだでわかってしまう。こいつとは中学からの腐れ縁だからな。ある程度のことはわかっちまう。

 

カキーンッ!!

 

「私、学校卒業したら東京に行く」

 

「・・・え?」

 

今こいつは何て言った?卒業したら・・・東京?

 

「東京にはそれなりにいい経済学を教えてる大学があってね。私そこ受けることにしたから」

 

「ちょっと待て。話が見えてこないんだが・・・お前・・・この街を出る気か?」

 

「そうよ?」

 

まだ要領を得ていない俺の質問に真鍋はあっさりと肯定しやがった。いや、こいつが決めたことだからとやかく言う気はないが・・・予想外だった。俺はてっきりスポーツ専門の学校に行くかと思ってたから・・・。

 

「・・・孤児院は私にとって思い出深い大事な家よ。でもいつまでも続くわけじゃない。院長だってもう歳だし、長くは持たない」

 

確かに・・・あの爺さんって相当歳くってたからなぁ・・・。あれだと多分・・・10年かそこら辺りが限界かもしれん。

 

「だからこそ、院長の後は・・・私が引き継ぐ」

 

「!」

 

あの爺さんの後を・・・引き継ぐだって?

 

「今は無理でも、東京でいい大学に入って・・・経済を勉強して資格を手に入れて・・・千尋たちのような身寄りのない子供たちに、生きる未来を与えたい。それが私の・・・長く考えて見つけた・・・私の夢だから」

 

・・・そうか・・・。真鍋も自分の夢のために悩みに悩んで・・・この答えを出したんだな・・・。まったく・・・どいつもこいつも・・・すげぇな・・・夢に向かって進めるってのは・・・。

 

「ちなみに、これは子供たちや他の誰にも言ってない。話したのはあんたが初めて」

 

「え・・・?」

 

真鍋が・・・他を差し置いて俺にそんな大事なことを話しただと?1ゲームが終わった真鍋はヘルメットを置いて俺に顔を向けた。

 

「私は六つ子とは違って、あんたに特別な感情はない。だけど私はあんたを対等だと思ってるわ。・・・腐れ縁・・・だからね」

 

真鍋は屈託のない笑顔でにっと笑ってみせた。対等・・・対等か・・・。こいつは俺のことを・・・そこまで評価してくれていたのか・・・。だから俺に大学のことを話してくれたのか・・・。こんな勉強でしか取り柄のない俺を・・・。

 

「どう?これがビシッと決めるってことよ。私のことは話したんだから、次はあんたの番よ」

 

「は・・・?」

 

次は・・・俺の番?

 

「もうわかってんでしょ?自分の気持ちくらい」

 

「・・・・・・・」

 

・・・俺の気持ち・・・か・・・。

 

「今は別にいいけどね・・・本番くらい、自分の口でちゃんとしゃべりなさいよ?私に、じゃなくて、あの子たちに、よ?」

 

・・・もしかして真鍋は俺の背中を押すためにわざわざ自分のことを話したのか?デートなんて建前をつけてまでして・・・いつまでも踏ん切りがつかねぇ俺に、一歩でも前に進ませるために。・・・まったく・・・六つ子といいこいつといい・・・俺の周りの奴らは本当にめんどくせぇ奴らばっかりだな。

 

「・・・おい、まだボーリングに行くなよ。次は俺の番だろ。これ終わったらまたダーツやるぞ。お前の得点を越えてやる」

 

「!・・・へぇ。ずいぶんとやる気じゃない。スポーツ経験が浅いあんたが私に勝つつもり?」

 

「そんなもんやってみないとわからないだろ。何事も挑戦・・・勝てば儲けものだ。負けても前に進むための糧になる」

 

真鍋の挑発に対して、俺はこう返答し、ピッチングマシーンが放つ球を・・・

 

スカッ!

 

・・・・・・見事に外しました。

 

「ダサ。カッコつけ」

 

「うるせー!」

 

くっそ性悪女め!見てろよ、絶対に・・・にやにや笑ってんじゃねぇーー!!!

 

♡♡♡♡♡♡

 

あの後俺は真鍋にもう1度ダーツをやって、ボーリング、ビリヤードなど、真鍋の興味がある種目をやったのだが・・・全部敗北という結果に終わってしまった・・・。ちくしょう!何から何まであいつうますぎだろ!点数とかの差もありまくりだし・・・。

 

「単純にあんたが下手くそってだけじゃない。それでよくカッコつけてられるわね?もしかして上杉って、自分のことをかっこいいって思ってる痛い系?うわぁ・・・」

 

「てめ・・・好き放題言いやがって・・・!」

 

この性格が破綻しまくってるいけすかねぇ女め・・・!上等だ・・・!喧嘩売ってるんだったらいくらでも買ってやるよ・・・!

 

「運動神経がいいからっていい気になってんじゃねぇぞ!言っておくがな、運動神経なんて孤児院経営に何の役にも立たねぇんだよ!運動してる暇があったら勉強しろ勉強!」

 

「年がら年中勉強漬けの毎日を送ってるあんたにゃ言われたかないわよ!もやしっ子みたいになるくらいならバカやってる方がまだマシな方だわ!」

 

「あ?なんだと?俺のことをもやしっ子って言いやがったかこの野郎」

 

「実際そうでしょうが。部屋に引きこもって勉強の毎日なんて何が楽しいんだか」

 

「常識知識を知らないっていう奴の方がよっぽど恥ずかしいね。お前みたいな脳筋とかな」

 

「はあ?だーれが脳筋ですって?私はちゃんと考える頭くらいあるっつーの」

 

売り言葉に買い言葉と言ったように、俺たちは互いの悪口を言いあって口喧嘩を繰り広げていく。まったく・・・中学の時からそうだ・・・。俺が文句を言ったらまんまと乗っかるように言い返して挑発し、口喧嘩に勃発。今の光景はそれと全く同じだ。真鍋と関わるといつもこうだ・・・。けど・・・俺たちの関係はこれくらいがちょうどいいんだ。何せ俺たちは・・・腐れ縁だからな。

 

「『この性悪女め!!』」

 

「『私が性悪ならあんたはクズよ!!』」

 

今の俺たちが繰り広げてる口喧嘩は・・・多分中学の時の光景と瓜二つだと思う。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『その日の夜、そして日曜日にて』

 

風太郎とこれでもかと口喧嘩をした真鍋はたまたま用事が早く終わった孤児院の同期の青年と出くわし、せっかくだからと近くのカフェで今回の出来事の愚痴をこぼしている。青年は苦笑を浮かべながら愚痴を聞いてくれている。

 

「あはは・・・それでその上杉君と口喧嘩しちゃったんだ」

 

「本当、ムカつくったらありゃしない!ちょっとしたことですぐ突っかかってきて・・・ガキかっつーの!」

 

(恵理子ちゃんも大概子供だと思うけどなー・・・)

 

「たくっ・・・」

 

真鍋はぶすっと表情を浮かべながら注文したコーヒーを一口すすった。一通り落ち着いた真鍋は窓の外を見つめ、笑みを浮かべている。

 

(・・・こっからが正念場だからね。下手したら承知しないわよ・・・上杉)

 

なんだかんだ文句を言いつつも、真鍋は風太郎を心から応援するのであった。

 

♡♡♡♡♡♡

 

時が経って日曜日の中野総合病院の院長室。日曜日だというのに今日も仕事に専念しているマルオは束の間の休憩時間を院長室で過ごしていた。そんな時、院長室に招かねざる客人が訪れた。

 

「おーおー、結構いい部屋だなー、院長先生よぉ。こんな部屋が用意されてたんじゃあ家に帰りたくなくなる気持ちもわかるぜぇ」

 

「・・・・・・お前の入室を許可した覚えはない。すぐさま出ていけ・・・上杉」

 

その招かねざる客というのは、彼の友人・・・いや、腐れ縁ともいえる関係である上杉勇也であった。

 

「おいおい、ずいぶん水臭ぇじゃねーか。せっかくいい情報を知らせに来てやったってのによぉ」

 

「?いい情報?」

 

いい情報に疑問符を浮かべるマルオに対し、先ほどまで呑気であった勇也は真面目な表情に変わる。

 

「・・・来てるぜ。十数年ぶりだ。同窓会しようぜ」

 

勇也の言っていることには少なからず心当たりがある。無表情のマルオの眉が若干ながらしわ寄せているのが何よりの証拠だ。

 

「・・・・・・意味がわからないな。つまみ出してくれ」

 

「あ!てめこの野郎!」

 

マルオは話にならないと言わんばかりに秘書に頼んで勇也を院長室からつまみ出した。そんな彼のデスクには日の出祭りの招待状が置かれていた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

一方その頃、三玖はマンションの入り口で、風太郎が来る時を今か今かと待っている。

 

「よし!頑張るぞ・・・!

(フータローと・・・デート・・・)」

 

それもそのはずだ。今日がお出かけする当日・・・すなわちデートであるため、三玖もオシャレな服を着込んで、今日という日を張り切っている。しばらく待っていると待ちに待った風太郎がやってきて、いよいよデート開始である。

 

♡♡♡♡♡♡

 

三玖との約束の日。どこへ向かうのだろうと思って辿り着いたのは水族館だった。正直に言えば今日は家で学祭の疲れを癒したいところだが・・・約束を無下にするわけにもいかないからな。それに、三玖と出かけるのは、そんなに嫌ってわけでもない。むしろそれなりに楽しみにはしてた。

 

「来週はもう学祭。3日間、楽しみだね」

 

学祭も来週にスタートか・・・。まぁ・・・楽しみっていえば楽しみなんだが・・・

 

「素直に喜べなくなってきてるがな・・・」

 

楽しみよりも不安の感情の方が上回ってるんだよな。その原因を作っているのが、たこ焼き派とパンケーキ派の派閥なんだよなぁ・・・。

 

「まさかたこ焼きとパンケーキ・・・2つともやることになるとは思わなかったぞ」

 

いくら話し合っても全く決まらなかったために、男子がたこ焼きを、女子パンケーキを両方やることになっちまったんだ。面倒くせぇことこの上ない・・・他のクラスでも屋台は1つだけなのに・・・。

 

「つーか正直どっちやったっていいだろ・・・」

 

「それだけみんな真剣なんだよ。中途半端にはしたくないから」

 

・・・まぁ気持ちはわからんでもない。俺だって全力でやると決めたわけだからな。

 

「忙しいだろうけど、フータローも食べに来てね、パンケーキ」

 

「・・・・・・」

 

時間があったらぜひとも立ち寄りたいところなんだが・・・そんな時間を作れるだろうか・・・。

 

「学級長の負担が想像以上に重くてな・・・ここ最近は四葉と東奔西走してる」

 

「とーほんせーそー・・・あー・・・そういえば四葉も言ってたね。とにかく忙しいって。演劇部の舞台にも参加するからって・・・」

 

「は?あいつが演技だと・・・?どんな舞台になっても知らねぇぞ俺・・・」

 

あの嘘が下手くそな四葉が演技ができるとは到底思えん・・・。それどころか演劇失敗するんじゃないかと心配しているところだ。

 

「そうかな?まぁ・・・でも一花がいたら・・・」

 

まぁ・・・一花がいれば確かにちょっとはマシにはなるだろうが・・・あいつ自身もドラマの撮影で忙しい身だしな。ないものねだりしてもしょうがない。

 

「・・・とまぁ・・・クラスまで気を回しきれなかったのもそれが原因だ。もしかしたら当日も顔を出せないかもしれん。その時は三玖・・・お前に任せたぞ」

 

「・・・っ、う、うん・・・頑張ってみる・・・」

 

もしかしたら三玖には少しプレッシャーを与えさせているかもしれない。けど何となく三玖なら・・・あいつらのわだかまりを何とかできるかもしれん。もちろんそんな保障はないが・・・三玖ならきっと・・・。

 

♡♡♡♡♡♡

 

その後俺たちは水族館をいろいろ見て回った。砂からチンアナゴが出てくる瞬間、イルカのショー・・・水槽の中を自由に泳ぎ回る魚・・・。いろいろ見て回って楽しかったが・・・正直、ものすっごい疲れた!!おそらく今俺はぐったりと座り込んで顔を項垂れてることだろう・・・。

 

「お疲れだったでしょ?そんな中で呼び出してごめん・・・」

 

「気にすんな・・・」

 

「でも私・・・学祭前にフータローに言っておきたいことがあって・・・」

 

どうやら三玖はその言いたいこととやらで俺を呼び出したんだろう。この話は俺にとってもちょうどいい機会だ。

 

「そうか。俺もお前に言いたいことがあるんだ」

 

「え・・・?それ、先に聞いてもいい?」

 

「ああ」

 

学祭の準備でなかなか時間が作れないからな。こういう時でないと、話すことはできないだろう。

 

「聞いたぞ、三玖。大学の入試判定の結果『A』だったらしいじゃないか。頑張ったじゃねーか」

 

「・・・あー・・・えーっと・・・」

 

「初テスト28点のお前が、ついにここまで来たんだな」

 

初めてこいつらに小テストを出してやったあの日が今でも鮮明に浮かび上がるぜ・・・。問題児を外すためだけにやったテストで、まさか全員が問題児だったなんて予想できなかったぜ・・・。そんなあいつらがここまで・・・。しかも三玖は大学入試でAだ。感慨深いものが込み上げてくるぜ・・・。

 

「・・・そ、そのことなんだけど・・・私・・・・大学は・・・」

 

「思えば、長い道のりだったな・・・。家庭教師として力不足だったのではと不安にもなったりしたものだ・・・。しかし全てはお前らが大学に入学してくれたら報われる。俺も授業した甲斐があったってもんだな!」

 

「・・・そう・・・だね・・・。フータローのおかげ・・・」

 

三玖自身・・・いや一花を除いた六つ子たちは大学入試本番で不安なところは多々あるだろう。だけどあいつらならきっと大丈夫だ。どこの大学に行く気は知らんが、きっと受かってくれる。そのためにも俺も、これまで以上に頑張らないとな。家庭教師も・・・学祭も。

 

「よし、次は三玖の番だ。それでお前は何の話を・・・」

 

「あ、見て。ペンギンがいるよ」

 

自分で話を振っといてそれかよ・・・。まぁいい・・・こういうのは無理強いはいかん。本人が話したい時を待ってやるとするか。・・・お、今ペンギンの紹介をやってるのか。

 

『そしてこっちがアンちゃん。その後ろにいるのがサンちゃんです。さて皆さんに問題です。この子の名前はなんだったでしょーか?』

 

「みんな同じ顔じゃん」

 

「違いわかんないよねー」

 

こいつらの言ってること・・・なんか既視感を感じる・・・。きっと六つ子たちに囲まれてたせいだなそうに違いない。

 

「当ててあげたい」

 

三玖は三玖でなんか変な使命感を出してるし・・・。

 

『あー!正解!似てるのも当然でこの6羽は姉妹のペンギンちゃんなんです』

 

ほう、あのペンギン、姉妹だったのか。しかも6羽。

 

「まさにお前らだな」

 

「言われてみると、あれ二乃っぽい」

 

確かにあのペンギン気が強そうだな。そう考えると確かに二乃に似てるともいえるな。他のペンギンたちもよく観察してみればこいつらとの共通点が多くみられる。こりゃ面白れぇ。・・・おっ・・・

 

「じゃあ、あのペンギンが三玖か?」

 

「わー、転んだ!」

 

「あいつ運動音痴だね」

 

「・・・フータロー・・・」

 

ははは、いつもこいつらには六つ子ゲームとか何やらでやられてるからな。ほんのちょっぴりの仕返しだ。お、あのペンギン姉妹、跳んだぞ。

 

(・・・調理学校に行きたいってこと・・・言いづらくなっちゃった・・・。ガッカリさせちゃうだろうな・・・)

 

「あはは、あの1羽だけ跳べないよ」

 

回りの奴らの言うとおり、さっき転んだペンギンが氷の上で立ち止まるだけで水に飛び込もうとしない。周りの奴らは笑っているが、俺はバカになどはしない。勇気を振りだせば、きっと跳べるはずだ。そう思えるのは、三玖の成長を隣で見てきたからだろうな。

 

(・・・ひとまず大学行ってからでも遅くないかもしれない)

 

『もしかしたら、フー君と同じとこ行けるかもしれないし♡』

 

(あの時否定はしたけど、二乃の言ってたことに少し憧れてた・・・。私ももしかしたら・・・フータローと同じ大学に行けるかも・・・。・・・でも・・・)

 

しばらく見守ってると、あのペンギン姉妹の1羽、ようやく勇気を振り絞って、跳んで・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、料理の勉強がしたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくペンギンを見守っていたら、三玖が自分の進路を打ち明けた。

 

「私、学校を卒業したら料理の専門学校に行きたい。だから大学にはいけない。ごめんね、フータロー」

 

専門学校・・・それが三玖が考えて出した決断・・・。

 

「・・・そうか。お前が決めたのなら何も言わない。応援するぞ」

 

「あ・・・。

(すごい複雑そうな顔してる!)」

 

・・・専門学校の選択・・・失念してたーーーーー!!!

 

「そうだよな・・・専門学校・・・それもありだよな・・・」

 

そうだよ、進路を進むのなら何も大学に拘る必要ないじゃねぇか・・・就職なり専門学校に行くなりと・・・つーか六海を見てたら専門学校に行く可能性あるってすぐにわかるじゃねぇか!なんでそんなことも思いつかなかったんだ!俺のバカ野郎!

 

「・・・大学に行くのも間違いじゃないと思う。何が正解かなんて誰にも・・・自分でもわからない。でもね・・・もう自分の夢に進みたくって仕方ないの。それを伝えたかった。フータローは私にとって特別な人だから」

 

「!三玖・・・それって・・・」

 

「・・・もちろん、変な意味で」

 

・・・俺が・・・特別・・・。

 

「私は伝えたよ。じゃあ次、フータローの番ね」

 

次は俺の番・・・真鍋の時にも言われたこの言葉が・・・今の俺の胸に響いた。

 

♡♡♡♡♡♡

 

水族館を充分に満喫した俺は三玖と別れて帰路の道を歩いていく。今日は楽しい1日ではあったが・・・心残りはあった。俺の番か・・・。

 

「風太郎」

 

「!親父」

 

「お前も今帰りか?」

 

少し考え事をしていると、偶然にも親父と出くわした。休日に外で親父と会うのは珍しいな。休みの日はだいたい家にいるのに。

 

「今日は仕事休みだったんだろ?どこほっつき歩いてたんだよ?」

 

「ま、昔のダチとな。らいはが待ってる。早く帰ろうぜ」

 

それには大いに賛成だ。早く帰って飯が食いてぇ。・・・にしても・・・このタイミングで三玖がなぜあんな話をしたのだろうか・・・?進路について話すのはもちろんだが・・・決してそれだけではないはずだ。真鍋や三玖が言っていた俺の番・・・。真鍋の言う通りかもしれないな・・・。俺の気持ち・・・俺が伝えなければいけないこと・・・。だがそれは、三玖だけに言うことじゃない。六つ子・・・あいつらが揃ってないと、意味がない。

 

♡♡♡♡♡♡

 

我が家に帰宅して早々、俺は思わぬ来客者にものが言えない気分になっていることだろう。

 

「・・・五月、なぜお前がうちにいる」

 

「あっ・・・」

 

五月め・・・何食わぬ顔で我が家でのんびりしやがって・・・。ここはお前の家じゃねぇんだぞ。

 

「お兄ちゃんお父さんおかえりー」

 

「よー、五月ちゃん。来てたのか」

 

「お父様、お邪魔しております」

 

「お邪魔すんな。帰れ」

 

ゴンッ!

 

「もー!失礼なこと言わないの!」

 

い、いてぇ・・・。俺、らいはにおたまで叩かれるのこれで何回目だ・・・?つーかお父様じゃねぇんだよお父様じゃ。お前が我が家にいると居心地が悪くなるんだよ。早く帰ってくれよ。っていうか・・・

 

「本当、何しに来たんだよお前」

 

「こちらです。四葉が上杉君に渡した覚えがないというので・・・」

 

・・・あ・・・完全に忘れてた・・・。

 

「学園祭の招待状です。中に出し物の無料券や割引券が入ってて便利ですよ」

 

「お、こりゃ助かるぜ。サンキューな、五月ちゃん」

 

「お兄ちゃん、なんでこんな大切なもの忘れてたの?五月さんにお礼言って・・・」

 

「・・・あ・・・あり・・・」

 

・・・だー!くそ!ダメだ!それ以上の言葉が続かねぇ!恥ずかしすぎる!

 

「学祭、俺たちも楽しみにしてるからよ。・・・ところで五月ちゃん。何もなかったか?」

 

?何もなかった?親父は何を言ってるんだ?

 

「?えっと・・・心当たりはありませんが・・・」

 

「何のことだ親父?」

 

「外はもう暗ぇから女の子1人じゃ心配なんだよ。おい風太郎、帰りはちゃんと送ってけよ」

 

「はーい、カレーできましたよー」

 

「い、いただきます!」

 

いただくないただくな。うちの食費を破綻させる気かお前は。

 

♡♡♡♡♡♡

 

こいつ結局カレーをドカ食いしやがった・・・。しかも俺がこうして帰りを送っていくはめになるわけで・・・はぁ・・・割に合わねぇ・・・。あ、つーか俺こいつに言わないといけないことがあるんだったわ。

 

「・・・お前・・・こんなことしてていいのか?二乃と六海から聞いたぞ、お前の判定・・・Dだったらしいじゃねぇか」

 

「うっ・・・」

 

このまま放っておいたら結果が聞けずじまいだったから、二乃と六海の情報提供には感謝だな。

 

「だ・・・だからと言って希望校を諦めたりはしません!学園祭返上の覚悟で勉強頑張りますよ!」

 

「マジで頼むぞ本当・・・。希望校には入ってもらわないと困る。これで落ちたりしたら俺のやってきたことが無意味になっちまうからな」

 

「・・・それは違いますよ」

 

「?」

 

「女優を目指した一花、漫画家を目指した六海、調理師を目指した三玖との時間は無意味だったのでしょうか?」

 

「!・・・そうは・・・思いたくはないな」

 

あいつらがいたからこそ、俺は勉強では知りえなかったことを知ることができた。あいつらがいたからこそ、人と関わる大切さを知った。その時間を、無駄だったなんてことはない。これは断言できる。

 

「私たちの関係はすでに家庭教師と生徒という枠だけでは語ることはできません。そう思ってるのは一花と三玖・・・六海や二乃、四葉だって同じはずです」

 

「・・・・・・」

 

「上杉君。たとえこの先、失敗が待ち受けたとしても・・・この学校に来なかったら・・・あなたと出会わなければなんて後悔することはないでしょう」

 

・・・そうだな・・・。確かにこいつらがうちの学校に来なければ・・・家庭教師なんてやらなければよかったなんて後悔も、一緒にいて楽しかったな、なんて気持ちも抱くことはなかっただろう。辛い思い出も、楽しい思い出も・・・全部こいつらが来てくれたから生まれた感情だ。・・・この関係は・・・決して無駄ではなかった・・・。

 

『本番くらい、自分の口でちゃんとしゃべりなさいよ?』

 

・・・わかってるさ、真鍋・・・。俺があいつらに伝えられる機会は・・・これ以外に考えられねぇ。・・・やってやる・・・今度は・・・俺の番だ。

 

♡♡♡♡♡♡

 

『ご来場の皆さまは体育館にお集まりください。第29回、旭高校「日の出祭り」開会式を執り行います』

 

ついに始まる・・・待ちに待った旭高校の学園祭・・・日の出祭りが。




おまけ

中学であった出来事

真鍋「上杉、あんた占いって信じる方?」

風太郎「なんだ突然?」

真鍋「よかったらあんたの未来を占ってあげる。感謝なさい」

風太郎「いや、別にいい。そんなことより勉強・・・」

真鍋「あんたつまんない人生送ってそうだから女運について占ってあげるわ」

風太郎「話聞いて?」

真鍋「ふむ・・・ほうほう・・・ほぉ~・・・。よかったじゃない上杉。あんたの女運はかなり恵まれてるわよ」

風太郎「・・・・・・」

真鍋「そう遠くない未来・・・高校生くらいにはあんたモッテモテよ~?しかも六つ子に愛されると出てる。いや~、すごいわね~。六つ子よ六つ子。その子たちにモテるのよ~?」にやにや

風太郎「・・・バカバカしい。この世に六つ子なんているわけねぇだろ。だいたいモテるとか興味ねぇし」

真鍋「ま、そうよねぇ。実際そんなの見たことないし。この占いは外れかしらね~」

しかし真鍋のこの占いが実際に当たっていたと知ることになるのは・・・まだまだ先の未来のお話である。

中学であった出来事 終わり


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。