憑き学園 (Schnee4696)
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プロローグ

 はじめまして、Schnee(しゅにー)という者です。良い作品や面白いと思っていただける作品ができるよう頑張っていきます。


 真夜中の都内、歓楽街こと歌舞伎町の路地から聞こえる銃声・悲鳴・命乞いの言葉、漂う異臭・鉄が錆びたかのような臭い。

 一人の男が、路地から駆けてきた。そして通行人に必死に路地裏での出来事を伝えようとする。しかし、それを聞いた者はだれ一人通らず、大勢の人々が行きかう中・・・・・男の首が自然と落ちた。

 

チリーン チリーン チリーン

 

 鈴、正確には風鈴の音色と共に、一人の少女も路地からフッと瞬時に現れる。

 

「・・・・・君たち【白】に命乞いをされてもどうしようもないんだ。以後気を付けてくれたまえ。」

「おいおい、死んだ奴に言っても意味ねえだろ?」

 

少女の後ろから聞こえる声。しかし振り返ってもだれもいない。少女はため息を零し、不快感をあらわにする。

 

「消えてくれないか。」

「ん?現在進行形で消えてるさ!中々面白いジョークだな。」

「チッ」

 

 そう舌打ちしてから、少女は黒い風を展開し……現れた時と同じように一瞬にして消えた。少女がさっきまでいた場所には黒い羽根がいくつも散らばっていた。

 

「釣れないねぇ・・・そうそう、聞こえてるかは知らねぇけど、次の襲撃先はてめぇの兄貴の場所だ。久々に会うだろうが、【紫】を忘れるなよ。」

 

 そんな男の声のみが聞こえてくるため、道行く人は不気味に思い、その場からだんだんと消えていった、足元で首以外が奇妙に動く死体に気づかずに。

 

 

 

 

 

 少女は病院に戻ると、ため息を吐いた。自分の兄を襲撃するのは心苦しいが、この行動自体が兄のためなのだ。フードを脱ぎ、少女の真っ白な素肌が、月光に照らされる。その姿はまさしく妖艶。この姿に魅了されたものは誰しも獣と化しそうなものだが、その前にすべての首が彼女の【霊】により下から順に切断されることになるだろう。

 見回りの警備員が来る前に病衣へと着替え、(まぁ、彼女ならばその容姿でどうにもできるかもしれない、血が付いていなければだが。)いつものように写真立ての前で独り言を呟く。

 

「兄さん、私が兄さんのために尽くすよ。だから、どうか、」

 

見守っていてくれないかな?

「ふふふ、ふ、あは、あはははははははは!」

 少女は写真立てを手に取って不敵に笑う。写真には、少女とその隣に、似た顔立ちの、何処かぎこちなさそうに笑う青年がいた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

と、こんな感じに人の記録を盗み見るのが趣味な私だが、果たして、これからどんな物語が始まるのだろうか。私は生憎ながら預言者ではないからな、さて……夜食でもしようかね。

 何もない真っ白な一室、この少女も不敵に笑う。

 

 

 

 

 

 【憑き者】、日本の古事記や神道などから伝わっている妖怪や神が憑いた人間のことである。この人間は不思議な力を持ち、普通の人間を超えた、いわば超人というものだ。超能力者などでもいいかもしれない。

 ここ国立【 憑き島学園】は、東京湾の無人島を利用し、憑き者を集めた場所で、約十年前に設立された。ここでは通常の勉学のほかに【憑き】についての学習や制御、犯罪集団の憑き者への対策が行われている。

 

 俺は今年からこの学園に入学することになったのだが、多くの生徒は中等部からの進学だろう。この学園の生徒は三つに分類でき、一つ目は他とは珍しい初等部、二つ目は一般的な中等部、三つめが俺が入学する高等部だ。初等部と高等部の年齢で憑きが確認できるのは稀で、初等部は特に貴重だ。大体の憑き者は中等部あたりの年齢から現れ始めるのだ。

 しかし、かと言って、今年から高等部の者が遅れて憑き者となったというわけではないのだ。多くの保護者は自分の子を隔離されたような場所へ送り出すのにも抵抗感があるだろう。そのため、憑きが現れても入学させないケースもよくある。しかし、一方で憑きの発覚によるいじめで入学するものも少なからず存在する。俺の場合はまた別になるが……

 

このように憑き者を集めて良き集団へとするのが国の方針…なのだが、中には憑きの力を利用してよからぬことを企む者も存在するのだ。

 窃盗、強盗、脅迫、傷害、密輸……挙句の果てには殺人を犯すものもいるそうだ。それもこれも憑き者の存在を十年前にようやく政府が認めたからだ。実際、それよりも、もっと前に出現しており、犯罪は頻繁起きていた。

警察関係者曰く、昔は都内で一日、三千件を超える犯罪を出したそうだ。それらすべてが憑き者による犯行との事。

 俺の親族も被害に遭った。幸い、命に別状はなかったのだが、今も当分、車椅子生活が強いられている。このことがきっかけで、しばらくの間、俺は消息を絶つことにした。理由は二つ、一つ目は被害に遭った妹に不快感を与えないため、二つ目は強くなるためだ。その為に自分の憑きの所縁の地まで足を運んだのだ。

 

あの日から、俺は変わっていない。変わっているとしたら、力……その一つだけだ。

 呼吸を落ち着け、新たな生活の門をくぐる。十年たったとはいえ、未だに校舎は新設さながらの輝きだ。事前に聞いていた通り、素行の悪い生徒は少ないらしい。いたら他の施設で犯罪予防の授業を受けさせられていると聞いた。

 俺は新しい門出に少し緊張しながらも講堂へと足を運ぶ。そういえば、知り合いと待ち合わせをしているのを忘れていた。しかしまぁ、放っておいても問題ないだろう。

 気にせずに講堂へと歩みを進めていると……ある少女と目が合った。

 

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主要キャラ紹介

 

主人公「鞍馬 翼」1ーB

・七月七日生まれ 男性 十五歳

・好きなもの お茶

・趣味 読書、寺巡り

・憑き[烏天狗]+[シナトベ]

・異名「無慈悲」

 烏天狗とシナトベ(神)を憑きとしている珍しい青年。生まれは京都だが、しばらくの消息不明で地元の名残などはない。一時期、山籠もりを行っていたがためにそうなっていたらしい。静道とはその際に友人となった。

※シナトベとは、簡単に言えば日本の風神、級長戸辺命(しなとべのみこと)である。

 

「七条 瞳」1-B

・九月八日生まれ 女性十五歳

・好きなもの 本

・趣味 読書、勉強

・憑き「手の目」

・異名「読み姫」

 手の目を憑きとしている少女、主人公と似たような理由である人物に復讐を果たさんとする。その為に、大人しそうだが、誰よりも力を欲している。ボクっ子である。

 

「摂津 茨」1―A

・二月九日生まれ 女性 十五歳

・好きなもの 植物

・趣味 外出、ランニング

・憑き「茨木童子」

・異名「豪隻腕」

 茨木童子を憑きとする少女。翼と同じく生まれは京都。しかし、小学生で間もない頃に鬼を憑きとしたがために、引っ越すことになる。翼のことがあまり気に入らない。

 

「伏見 静道」1―B

・十月二十日生まれ 男性 十五歳

・好きなもの うどん

・趣味 登山、筋トレ

・憑き「野狐」

・異名「伏見の当主」

 野狐を憑きとした青年。こちらは生まれも育ちも京都で、茨とは幼馴染。茨とは逆に翼と仲良くしている。それもこれも静道の強引さが起こしてしまっているわけだが。

 

「与謝 海」1―A

・八月十一日生まれ 女性 十五歳

・好きなもの 海鮮

・趣味 水泳、釣り

・憑き「衣蛸」

・異名「水中の女王」

  衣蛸を憑きとしている少女。常に活発なため、翼との相性が悪い。それ故に茨と共に行動。本人自体、翼のことはそこまで嫌悪しておらず、たまに茨を抑えるために手を貸す。

 

 

 

 

「大江 旭日」1―A

・四月二十日生まれ 男性 十五歳

・好きなもの 星

・趣味 天体観測、旅行

・憑き「酒呑童子」

・異名「学園最強」

 最強の鬼、酒呑童子を憑きとした青年。成績も身体能力も優秀で、人望もあるが少々冷徹な面と基本無口。しかし、その面に惹かれる者は多い。本人曰く、迷惑極まりないとのこと。

 

「筑後 凛」1―D

・三月一日生まれ 女性 十五歳

・好きなもの 野菜

・趣味 水泳、キャンプ

・憑き「河童」

・異名「水中の賢者」 姉妹で「双水姫」

 河童を憑きとしている少女。三年生の姉がおり、姉は水虎を憑きとしている。その実力は水中に限らず、海に匹敵する。姉と揃えば学園で勝てる者は旭日のみ。

 

 

 




 こんな感じの物語を書いていくのですが、他の作品と似ているなどの指摘があった場合、少し変更点を加えるかもしれません。(ていうか、似た作品が合ってパクったと思われたらどうしよう。)
 ともあれ、これから、どうぞよろしくお願いいたします。
批評・アドバイスコメ、メンタルは弱いですが頑張っていきますよ。


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登場人物紹介(プロフィール)

 プロローグでも大体したのですが、他のキャラが出るたび更新するのは色々と手間がかかります。それなら出てないキャラもすべて公開してしまおうかという結論に達したのです。
(出すのが決まったキャラだけですが)

 あと、京都出身が多いのは偶然です。

 そんな感じです、では登場人物紹介(プロフィール)をどうぞ…




「鞍馬(左京) 翼」クラス1-B

男性 15才 出身地 京都 育ち 鞍馬山

七月七日生まれ

 

・好きなもの お茶

・趣味 読書、寺巡り(幼少期)

憑き「烏天狗」、「シナトベ」

異名「無慈悲」

 

 烏天狗を憑きとし、後にシナトベを憑きとする珍しい少年。生まれは京都だが、とある事件がきっかけで消息不明に。その期間は山籠もりをしていたらしく、京都の訛りは全く無い。普段は路傍の石のように大人しくしている彼だが、強制参加やある事件が関わってくると、動き出す。無慈悲と言うのは基本的に手段を択ばないから。

 

 

 

「摂津 茨」1-A

女性 15才 出身地 京都 育ち 憑き島

二月九日生まれ

 

・好きなもの 植物(食虫を除く)

・趣味 外出、ランニング

憑き「茨木童子」

異名「豪隻腕」

 

 茨木童子を憑きとする少女。翼と同じく生まれは京都。しかし、小学生で間もない頃に鬼を憑きとしたがために、引っ越すことになる。翼のことがあまり気に入らない様子を見せているが……?性格は……ツンデレになっていく。

 

 

 

「七条 瞳」1-B

女性 15才 出身地 新潟 育ち 川崎市

九月八日生まれ

 

・好きなもの 本

・趣味 読書、勉強

憑き「手の目」

異名「読み姫」

 

 手の目を憑きとしている少女。生まれは新潟なのだが、両親の結婚の際、今日出身の母の姓が選ばれたため七条。主人公と似たような理由である人物に復讐を果たさんとする。その為に、大人しそうだが、誰よりも力を欲している。ボクっ子である。

 

 

 

「伏見 道静」1-B

男性 15才 出身地 京都 育ち 伏見区

十月二十日生まれ

 

・好きなもの うどん

・趣味 登山、筋トレ

憑き「野狐」

異名「伏見の当主」

 

 野狐を憑きとした少年。生まれも育ちも京都で、茨とは幼馴染。茨とは逆に翼と仲良くしている。それもこれも道静の強引さが起こしてしまっているわけだが。ちなみに、幼少期は伏見稲荷大社で過ごしていた。

 

 

 

与謝 海」1―A

女性 15才 出身地 京都 育ち 舞鶴

八月十一日生まれ

 

・好きなもの 海鮮

・趣味 水泳、釣り

憑き「衣蛸」

異名「水中の女王」

 

 衣蛸を憑きとしている少女。常に活発なため、翼との相性が悪い。それ故に茨と共に行動。本人自体、翼のことはそこまで嫌悪しておらず、たまに茨を抑えるために手を貸す。

 

 

 

「大江 旭日」1―A

男性 十五歳 出身地 京都 育ち 大江山

四月二十日生まれ

 

・好きなもの 星

・趣味 天体観測、旅行

憑き「酒呑童子」」

異名「学園最強」

 

 最強の鬼、酒呑童子を憑きとした青年。成績も身体能力も優秀で、人望もあるが少々冷徹な面と基本無口。しかし、その面に惹かれる者は多い。本人曰く、迷惑極まりないとのこと。実は翼と似て山籠もり育ち。

 

「筑後 凛」1―D

女性 15才 出身地 福岡 育ち 転々

三月一日生まれ

 

・好きなもの 野菜

・趣味 水泳、キャンプ

憑き「河童」

異名「水中の賢者」 姉妹で「双水姫」

 

 河童を憑きとしている少女。三年生の姉がおり、姉は水虎を憑きとしている。その実力は水中に限らず、海に匹敵する。姉と揃えば学園で勝てる者は現時点で旭日のみ。

 

 

 

「左京 風夏」2-C(中等部)

女性 14才 出身地 京都 育ち 左京区

七月七日生まれ

 

・好きなもの 兄

・趣味 散歩、猫の飼育

憑き「烏天狗」

異名「辻斬りの風」

 

 烏天狗を憑きとしている翼の妹。翼がいなくなったのを自分のせいだと背負い込んだ結果、犯罪集団「色霊」に手を出す。それからは人殺しまではしないものの、犯罪に徐々に手を染めていく。本人曰く、七条の両親を殺していない。

 

 

 

「筑後 華」3-C

女性17才 出身地 福岡 育ち 転々

五月二十日生まれ

 

・好きなもの ケーキ

・趣味 水泳、スケート

憑き「水虎」

異名「学園の要」

 

 水虎を憑きとしており、凛の姉。学園では生徒会長を務めており、日々生徒たちの監視を怠らない。全校生徒から慕われる優等生でもあり、時には理事長の相談を受けたりもする。まさに学園の要。憑きが中国の妖怪なのは、中国での大会中に出現したため。徐々に憑きは世界に広まりつつある。

 

 

 

「藤原 伸介」理事長

男性 63歳 出身地 東京 育ち 東京

四月四日生まれ

 

・好きなもの 愛娘

・趣味 釣り、寒中水泳

 

 憑き学園の学園長。普段は忙しいため、愛娘に代理として仕事を任せている。元は政府の中枢を担う人物だったが、憑き者の出現により自ら施設を立ち上げる運動を起こした。尚、彼に憑きは存在しないが、常人を凌駕する身体能力の持ち主。一応、63才だ。

 

 

 

「藤原 桃子」理事長代理

女性22歳 出身地 憑き島 育ち 憑き島

三月日1生まれ

 

・好きなもの ぬいぐるみ

・趣味 ファッション、人間観察

憑き「???」

 

 憑き学園の理助長代理。生徒の前では威厳を保っているが、一人の時や数名と話す場合は委縮してしまうらしい。人付き合いが苦手なのに父が気付けなかったがための悲劇である。こちらも憑きは存在しない……と言ってはいるが、果たして…?

 

 

 

「加茂 壮呉」

男性 20歳 出身地 京都 育ち 不明

六月十日生まれ

 

・好きなもの 鍋料理

・趣味 殺人、無呼吸運動

憑き「朧車」

 

 憑き者によって構成された犯罪集団、通称「色霊」の一員。研究者たちに実験台にされていたところをリーダーに命を救われたのがきっかけで入団。以来、一度も元研究者たちを根絶やしにするために殺人を繰り返している。

風夏からは鬱陶しいと嫌われている。

 

 

 

「上川 霊子」

女性 32歳  出身地 山形 育ち 研究所

十二月二十四日生まれ

 

・好きなもの なし

・趣味 氷漬け(人)、子供の面倒

憑き「雪女」

異名「霊の親玉」

 

 憑き者によって構成された犯罪集団、通称「色霊」のリーダー。研究所で育ったため、研究者たちに強い憎しみを抱いている。自身の力で研究所を全壊させると、少しづつ同じ境遇の者を助けたり、小さい子供を保護するなどと、研究者以外には面倒見がいい。最近は過激になりつつある団内を心配しながら病床についている。

 

 

 

「土蜘蛛」

男性 42歳 出身地 不明 育ち 研究所

???生まれ

 

・好きなもの 絶望

・趣味 残虐なゲーム、蜘蛛の観察

憑き「土蜘蛛」

異名「土蜘蛛」

 

ネタバレ注意

 

 土蜘蛛、としか言われない男性。出生は不明だが、おそらく霊子と同じ研究所育ち。霊子の襲撃を気に脱走。以来、殺戮や残虐な行為(本人曰く、遊び)を繰り返している。翼の両親と妹を襲った張本人だが、風夏を犯罪集団に手引きしたのも彼である。また、瞳の家族が重傷を負ったところでとどめを刺したのも彼である。

 

 

 

「高砂(七条) 蕾」2-D

女性16才 出身地 新潟 育ち 高砂市

五月六日生まれ

 

・好きなもの パソコン

・趣味 人間観察、ゲーム

憑き「広目天」

異名「天才姫」

 

 七条 瞳の両親の隠し子。生まれてすぐ誘拐されてしまったが、自身の天才ぶりを発揮し、実の両親の存在を確認する。しかし、会う直前で両親が土蜘蛛に殺害されてしまったため、孤独な妹を陰から見守っている。憑きは日本で初めての神類。

 




 物語の進行具合に合わせて登場人物を更新しますが……自身の都合で入ることのない人物がいるかもしれません。



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入学編
一話「好敵手たちとの出会い」


 はい、一話目です。変な内容にならぬよう心掛けてはおきます。あと、タイトルが思いつかなかったんです、すみません。


 

 黒みがかった赤のサイドテール、ツリ目で瞳も赤…制服はきっちりと着こなされ、頭部からは想像もつかない清楚さがある。いや、人によってはつくか。

………しばしの沈黙の後、向こうから鋭い目で睨まれ、思わずたじろいでしまった。

 

「何か?」

 

少女は尚も眼光を緩めず、俺に警戒心を向けている。流石にここは何かを言わざるを得ないだろう。

俺は小さくお辞儀をし、「何でもないです」とだけ言って横を通り抜ける……あれ、選択肢ミスったのでは?

先程から会話を終了したはずなのに背後の視線が痛い。こういう場合はこちらも同じ言葉を返した方が良いのだろうか。

 

「あの…何でしょうか?」

 

俺は後ろを振り向き困った顔で言うと、後ろでは先程よりも細められた目で睨みつけてくる少女がいた。何この子、ハシビロコウみたい。絶対的支配者の飼育員でも居そう。

俺の言葉に少女は少し悩むような素振りをして答える。

 

「いえ、最近噂になったの工作員かと思っただけです。見た目怪しい上に高等部入学ですから……疑わしきは罰するべきかと。」

「あの、俺の人相に怪しい部分を確認できたの貴方だけですから。あとそれだったら、あそこでこっちに向かって、大声上げてダッシュしてくる男子の方が、よっぽど不審者っぽく見えるんですけど……」

 

丁度後ろから走ってきた知り合いを指さしながら俺は答える。何やら叫んでいるようだが、内容がさっぱり分からない。

俺もついに難聴になったのか、としみじみに感じていると、少女は深くため息を吐いて、アレに嫌悪の目を向ける。それ、俺の時よりまだ優しい方じゃないですかね。初対面なのに嫌悪を通り越して拒絶ってないわ。

 向こうから大声を上げて走ってきた変質者は、ぜぇぜぇと息を切らして俺の足元ですっ転んだ。何だろう、心なしか少女の目つきがさらに悪くなった気がする。

 

「昔より酷いものになっていますね、静道。もう少し、あの行動は自重するべきかと……周囲の視線が痛いですから。」

 

 少女に静道と言われた、この某有名ロボットアニメの死亡シーンを再現している男は「伏見 静道」。その名とは裏腹のうるささに俺は歩くメガホン又はスピーカーと呼んでいる。ちなみに、本当にうるさくて最近は鼓膜破壊神にしようかと思っていたりする。

 髪は珍しく灰に近い白色で、染めているのかと聞いてみたことがあったが、本人曰くこれは地毛とのこと。にしても、この少女は何故、伏見のことが分かったのだろうか。その辺は本人に聞いてみるとしよう。

 俺は寝たままの伏見に乗っかってみる。

 

「…重い、ふざけんなや、死ぬわ。」

「死なねーよ、で?この人と知り合いなのか。」

 

 伏見は乗っかったままの俺を強引にのかして少女を見る。すると、少し悩んでから手を打ち、頭をくしくしと掻いた。

 

「ああ、何や茨やんけ……久しぶりやの。」

「そうですね。そちらは相変わらず声も性格も……色々、鬱陶しいのは変わらないですね。」

「えーと、何だ…昔の同級生か?」

「あー、そういう訳とちゃうな。て、茨…行ってしもうた。」

 

 伏見が説明しようとすると、茨と呼ばれた少女はふと何かを思いでしたように講堂への通路を駆けて行った。あ、そういや式あるんだったな。

 俺は伏見の腕を引っ張って起こし、少女の後を追うように講堂へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

講堂の印象は、流石は政府たちが直々に設計しただけある、だ。講堂の広さはそこらの劇場なんかよりもだいぶ広い。そして、意外と生徒数が多い事にも驚きだ。何年か目を離しただけでこんなに増えるのか……

 俺は指定された席に座ると、壇上を注視した。一体どんな奴が生徒会長なのか、学園長があの時から変わったか、他にも色々あるのだが、さっきの少女が舞台袖にいるのが一番気になる。おそらくだが、在校生。とはいえ、自分と同級生のように思えたからなのだが……違ったか?

しばらくじっと見続けていると、後ろから声をかけられた。振り返ってみると、青みがかった黒髪ポニーテールの女子が、そこにはいた。

 

「やぁ、君は新入生かな?」

「はい、そちらは?」

「在校生の1年、筑後 凛。よろしくねー」

 

 そう言って、筑後は自身の右手を差し出してくる。……なんだろう、親切そうな気がするが、関わっちゃダメな気がする人だ。まぁ、握手位はした方がいいのだろうか?

 俺も右手を差し出すと、向こうがガっと俺の手を掴んできた。そこそこ握力ある人だな。腕持っていかれそうになる。ちくしょう…もっていかれた。あと、プールのにおいがする。髪も湿っているようだし…水泳部?

 

「私も1年だけど、在校生だから分かんないことあったら聞いてね。私はDクラスになったから。」

「あ、はい…」

(ていうか、この人昔見たことある気が……)

 

 俺が思い出そうとすると同時に、筑後はその場から去ってしまった。ていうか、あの人何しに来たんだ。でも待てよ…筑後…ああ、思い出した。確か水泳でオリンピック候補まで行ってた人だ。急にテレビから消えたから多少、気になりはしたのだが、憑きが出たのか…まぁ、仕方ないな。

 そう思い、さっきまで続けていた観察を再開しようとすると、今度は向こうがこちらを観察していたらしい。何だろう、この筒抜けな感じ……

 俺も対抗策として見つめ返すと、相手はキッと睨みつけてから、フイッとそっぽを向いてしまわれた。いや、何なんだあいつ……ツンデレ?違うか…ホント何…てか誰だよ。

 見ず知らずの人に対してそんなことした嫌われるのは当然のこと、と今思い浮かんだので寝ようとした。が、それも鬱陶しいのに阻まれた。

 

「説明したるわ。」

「お前の席ここじゃねえだろ…」

てか、何で人の心読んでんだよ。お前の憑きの能力とは全然違うだろ。

「ええやん、大体の奴は席無視しとるし。」

「まぁいいけど、それで…あいつは?」

「うーん、少し長くなりそうやなぁ…まぁ初めに言うんやったら…」

 

 そこから伏見はさっきの女子「摂津 茨」について、生まれて間もない時の出来事など、当の本人が聞いたら赤面、完全にダウトっていうエピソードなどを暴露した。こいつ無自覚だけど、結構鬼だわ。

 そして、伏見から得られた摂津の情報、小学校に入ったのと近い頃に憑きが出現。妖怪の中の「鬼」…しかも茨木童子と来たもんだから、すぐさま転校、今の学校で過ごしているらしい。それ以来、たまに連絡は取ることがあったものの今では干渉ゼロ、少し心配だったらしい。今は安心だそうだ。

で、ここからは風の噂らしく、摂津はこの学園で1,2を争うほどの憑き者らしい。その実力を買ってか、生徒会に無理やり書記にさせられたんだと。

 頭の中で話の内容をまとめてみれば、実力が高いと生徒会に強制参加ってことしか分かんねえわ。何それ、どこの罰ゲーム?

 

「……あ」

「なんだ?」

 

 伏見は何か思い出したらしく、スマホを弄り出す。音ゲーとかじゃねえよな。こいつのスマホ開けた瞬間に可愛い女の子たちが映ってタイトル名言うのはびっくりした、主に伏見の趣味に。

 しかし、伏見が今この式が始まる直前にそんなことをするはずもなく、画面に写った写真を見せてきた。

 

「こいつは例外でな、生徒会に入っとらん。」

「ん、強いのか?」

「そりゃ、学園最強やし。」

 

何その学園都市再今日みたいな……あれ、最強なら生徒会長行けそうなもんだが……

 俺が悩む様子を見てか、伏見が軽く説明、しようとしたところに、茶髪ワンカールボブのいかにも活発そうな女子が割って入ってきた。

 

「正確には、中三の時に高校レベルよりも強いのがいたら書記になれるんよ。ただ、それが複数人だと、実力化譲り合いかって話。あ、うちは…私は与謝 海、よろしく。」

「お、おう…」

「何やこいつ…」

 

 伏見が口からそう漏らしてしまったため、与謝はムッと頬を膨らませて、睨んでくる。おれにも被害が来るから止めて欲しかった。あと、こいつ絶対関西出身だろ。

 何か言っておこうかと思ったが、式開始の合図があった。つーか、入学式なのか始業式なのかわけわかんねーなこれ。

 与謝もすぐ隣の席に座り、式が幕を開ける。…今思ったけど、会った奴等、多分結構実力あるんだよなぁ。

 そう思って俺は、ながーい式を軽く流しながら、今後の方針を再確認していった。

 




反省点
・プロローグと一話を一緒に出せなかった。


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二話「曇り空の下で」

 どうも、二話目です。プロローグに新キャラを逐一追加していきます。…なんかすみません、次のキャラ一応ヒロイン候補なんです。


 始業式、幾つかの疑問点を残したまま、俺は数十名の生徒と共に教室へと向かう。てか、始業式だったのな。

 

まず一つ目、学園長が変わっていた。風格のある男性(歳にして50~60だろうか。)の学園長から、威厳は有りそうながらも新米教師とそう大差ない年齢と思しき金髪ツインテールの女性になっていたのだ。ラノベとかによく出てくるキャラみたい。後から聞いたが、代理らしい。

 

 次に生徒会長、青みがかった白のロングヘア―で、名前を聞いた瞬間、少し驚いた。過去に、最小年齢ながらも水泳世界大会女子の自由形で優勝していた人だったのだ。山籠もりをしていたとはいえ、度々降りるし、テレビとかネットも使っていたからな。ちなみに、俺に学園についていつでも聞いていいと言った筑後と同じ苗字だった。……そういや、俺名乗ってねえな。

 

 最後、新学年の式辞を務めたのが、あの摂津だったのだ。まぁ、分からなくはないのだが……それにしたってトップは目立つの嫌いすぎませんか。しかし、式辞は思っていたよりも良いもので、もうナンバーワンはこいつなんじゃないのと思った。

 

 以上が俺の始業式の見解なのだが……話が長くて途中から伏見に八つ当たりをして眠気覚ましに利用した。相手が寝ているから、気づかれない。WinWinの関係を築くことができる。(俺が一方的にそう思っているだけだし、実際俺しか得してない。)

 

 そう脳内整理して伏見の面倒な話をスルーし続けたことで、意外にも教室に着くのが一瞬の出来事のように思えた。始業式でどんな考察をしているんだ、俺は。そしてそれを深く考えすぎだろ。

 

 俺は指定された席に着くと、自然と伏見の位置を確認する。俺は何とか端の方になったのだが……伏見は中央付近。やはり、若干苦い顔を浮かべている。名簿ってやだね。

 すると、ふいに後ろのから声をかけられて。

 

「ね、君は新入生かな?」

「ん、ああ、うん。」

 

 急だったからか思わずたじろいでしまう。後ろの奴は女子、いかにも真面目そうな子だった。綺麗に伸びた黒髪を後ろで一つに束ね、整った顔立ち、気になるところと言えば、両眼をつむっていことだろう。瞬きならこんな長くない。

すると、その女子はゆっくり瞼を開いて苦笑する。何か変なところがあったのだろうか。あと目を閉じていたのは何故?

 

「すまない、君じゃなかったようだ。」

「ん、いや…状況が理解できていないんだが。」

「まぁ、後で話すさ。そろそろ担任から説明があるだろうからね。」

 

 そう言ってそいつは欠伸をして窓の外をじっと見つめ始める。

 

「おう…お前、名前は?」

「そういうのは、聞いた側から言うのが筋じゃないかな。」

「…鞍馬 翼だ。」

「鞍馬……ふぅん。僕は七条 瞳。たぶん君、「それじゃぁ、学園について説明していくぞ。」また、後でね。」

 

 七条がそう言うと、俺も前を向いて教師の説明を軽く聞き流し、窓の外の曇り空をちらりと目をやりため息を吐く。不吉な予感がするんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 担任から諸注意と説明がある程度され、チャイムが鳴る。俺は早速寮に戻ろうかと思ったが、七条のことを思い出したため、踏みとどまる。

 振り返れば、ジトっと睨まれていた。ジト目って色々あるけど、これは呆れ、あと軽蔑がちょっとだけ入ってそう。本当、ごめんって…

 七条は手の仕草だけで、座ればと促す。

 

「いや、忘れてたわ。」

「だろうね。君、途中何度も寝ようとしていただろう。僕が起こさなければ職員室まで呼び出しを喰らうことになっていただろう、初日で。」

「う、確かにそれはそうだが……」

「まぁ、そんなことはいいんだ。君にいくつか質問…その前に話さなければならないことがあるね。」

 そう言って、目を閉じた。それがどうかしたのかと、言いかけた途端、手の目に気づいた。……成程な。これがこいつの憑きか、と言うことは…

 俺は昔、研究員どもに受けた説明にふと、思い当たるものがあった。憑きの発生?(まぁ、出現とでも言うことができるが)には三つのグループで分けられる。

 

 一つ目、これは俺が属しているのだが、突発的に憑きが出現した例だ。本当にこればっかりは急だからなぁ。二つ目は生まれた時から憑きが現れたもの。ただし、憑きが強すぎると、周囲にそこそこ被害を出してしまう。危険な例、といったところだろうか。最後、おそらく彼女が属しているのであろう。

 

 七条は目をゆっくり開き、少しばかりか苦笑した。こいつのことを深く聞く気にはなれない。こっちが無理に聞いても七条は不快感しか持たないだろう。

 

「君は、「色霊」と言う犯罪集団を知っているかな?」

「一般的な知識ならな。」

「そう、なら…そいつらの情報を手に入れたら、教えて欲しい。」

 七条は、何かしら外部からの働きかけで憑きを宿した例だろう。これにはいくつかあるのだが、一番の例は何らかの事故や犯罪によるショックで起きるものだ。そして、犯罪関連だと憑きの力が…復讐に最適なものとなる。

 俺はも七条に似たものを質問する。

「土蜘蛛について、知ってないか」

「……君も、なの?」

「いや、別に…」

「ふぅん…残念だけど、君と同じようで、指名手配されてる事しか知らないかな。」

 

 そう言って、七条は席を立つ。どうやら、もう帰るらしい。そういえば、もうお昼時だったか。伏見は飯が第一だからか、もういない。

 俺も席を立つが、昼食ぐらいは購買とかで済ませる、と考えているので、次に伏見と会うのは寮ぐらいだろう。

 そう考えていると、七條がジッと見つめていた。なんだよ。

 

「君、この後時間は空いてるかな。」

「まぁ、一応……」

「そうか、では食堂まで行こう。購買だと栄養バランスに偏りが出てしまうからね。」

 

 何故分かったし…顔に出てたんだろうなぁ。

 俺は七条と並行して食堂へと向かった。でもなんかなぁ…今日の天気、雨も降ってないのにこんなどんよりするっけ?

 俺は多少の疑問は抱きながらも、それを気のせい、として脳内から払拭してしまった。

 

 

 

 

 

 はるか上空、私は兄のいるであろう憑き島へ向かう途中だ。今日はいつもなら鬱陶しい透明がいないから気分がいい。そういえばあの【白】、生きていたな。一応始末したが、ある程度知られてしまったかもしれない。

 

「はぁ……」

 

 面倒は承知だが、ここは大胆に攻めてみるとしよう。例えば……

 

学園の強者どもをつぶす、かな。

 

 私はさらに加速し、徐々に力も溜めて、憑きが作り出したの防壁を破った。今日は勧誘だけのはずなんだけどな…

 




 こんな感じです。挿絵を描きたいですが絵が下手くそなのでもう少し上達してからお見せできたらいいなと思っています。場合によっては、知り合いに描いてもらいます。
 あと、次は戦闘描写を書くのですが、そのあたりを勉強中なのでかなりかかる、かもです。


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三話「曇りのち嵐」

 戦闘描写、ほんの少しです……すいません、反省はしてます。次はちゃんと書きます。
書けないと、進まないです、物語が。


 食堂はかなり混んでいたが、何とか空席を見つけ出しては交替で席を死守することにした……ただし隣が面倒くさい奴だった。

 俺の嫌悪感をものともせず左の席でワーワー騒ぎ立てるのは伏見。右は……えーと、ああ与謝か。何でいんだよ。というか、本当に伏見がうるさい。やれ「いつから女子を口説いたんだ。」だの「あの人ちょっと地味だけど可愛いよな。」と、与謝から…いや、周囲の女子からどんな視線を向けられているのか気づいているのだろうか。ほんと自重してどうぞ。

 

 七条が戻ってきたのと同時に伏見が食いつ、こうとした。正確には視線の先にいる女性からすごい目で睨まれ、気圧されたのだろう。

 

「……僕は君ともう少し話したいから連れてきたわけだが、すまないね。」

「いや、こっちが謝りてえぐらいだよ。まぁ、お隣のお陰で何とかなったんだが。」

「いえ、幼馴染があんなのだと思われたくないですから。」

「酷くね!?」

 

 そう、あの阿保を一睨みで抑えたのは摂津だ。どうやら、与謝と食事をする予定だったらしい。伏見?あいつはボッチ食い。

 

 俺が自分の飯を取りに席を立つと、与謝も席を立ってついてくる。たぶんこいつも俺らと同じ考えだったんだろうけど。

 

「ねぇねぇ、伏見とはどんな仲なの?」

「別に、向こうが勝手に友達宣言してるだけだ。」

「ふーん…じゃあ瞳ちゃんとは?」

「いや、初対面だから何とも。」

 

 今日会ったばかりだから言うことなんて本当にないのだが…ていうか、何だこいつは…このまま誘導尋問されたらどうしよう。

 

「じゃあさ!今度うちのクラスに来てよ。君、おも…によく合うと思うよ!」

「面白そう、とか考えてねえだろうな。」

「へ…い、いやいやあ、そんなことは全く考えてないよ。うん。」

 

 俺がそう口にした途端、与謝は目を泳がせながらも否定しだした。心なしか口が早口になりかけている気がする。本当に大丈夫だろうな。ていうか、これで会話は二回目。こんなのでよく合うなんて言えないのだが…

 食堂のメニューを眺めながら、多少の不安を寄せた。

 

 

 

 

 

 俺と与謝が戻ってくる頃には三人とも完食してお喋りタイムだった。伏見の野郎…あることない事吹き込んでねえだろうな。

 すると、俺に気づいた七条が「助けてくれ」とでも言いたげな視線を俺に送る。なんだ、何があった。

 

「おま、このわからずや!あいつの良さってもんはやなあ!」

「あなたみたいな人とつるんでる時点で異質な人、とは想像がつきます。ですが、あのじめっとしたナメクジにも似たような負のオーラは間違いなく不審者そのもの。今すぐにでも尋問を開始する必要がある存在なのです。ついでで殺菌も。」

「…………」

 

 七条が苦笑していた。

 

「なぁ、与謝…だっけ?俺のもそうだが、あんたの知り合い…真面目過ぎるどころじゃねえと思うぞ…」

「あー、ちょっと待っててね。」

 

 与謝が二人の間に割って入った。何やら二人とも口喧嘩を止め、正座をする……訂正、伏見だけだったわ。そのまま説教が始まったが、その隙に俺は日替わり定食をささっと平らげた。我ながら、早食いには相当の自信がある。

 

「うーん、遅いね。」

「あ?」

「君の食事のスピードさ。他時間を有効活用するためにも、とろくてはいけない…だから三分で完食する必要があるんじゃないかな。その量なら尚更、ね。ちなみに僕はさっきの食事二分で終わらせたよ。君は五分だったね。」

「……いや、早食い勝負とかしてないんだが?」

「まぁ、その話はどうでもいい。君に聞きたい事、質問が山ほどあるからね!そのためにも食事の時間がどうしても邪魔なのさ。」

 

 とんでもねえなこいつ…俺の食事の時間まで管理してくるのか…しかも初対面で。

 俺は質問がまだあることよりもそっちのことの方が脅威に思えてきた。世の男子にとっての脅威。こいつに夫ができたら、そいつは一生尻に敷かれるのだろう、可愛そうに。

 

「……失礼なことを考えていそうだが、まぁいい。それで、質問なのだが、君はもしかしてあの鞍馬さんのお弟子さんか息子さんなのかな?」

 

 七条はその質問をすると急に眼を輝かせてきた。あの爺さん、世の人からそんな憧れの存在だったのか、といま改めて実感した。やべぇ、クソジジイって滅茶苦茶言った気がする。謝ろう、謝らないけど。

 

「……一応、弟子だ。でもそんな「やっぱり!ねぇ、修業は?あの人の思想は?聞きたいことが本当に山ほどになったよ!」……」

 

 俺は静かに決意し、立ち上がる。バランスを崩さぬよう、食器類を持ち返却口へダッシュした。これこそ、修業の成果…初めて役に立ったわ。

 

 

 

 

 

 全く、逃げる必要なんか何処にもないだろう。確かに早口だったし、少し惹かれるくらいの圧はあったと思うが……しかしまぁ…彼の表情が見たかったからね。仕方ない。

 

 僕はさっきから気にも留めていなかった説教の様子に一瞬だけ目をやってから、席を立ち上がる。これから寮に帰るか、校内を散策でもするかと考える。すると、急に目頭が熱くなり、咄嗟に能力を発動してしまう。何のことはない。昔、一度だけ経験した……一度、経験した?

 

「あいつ、あいつが……近くにいる。」

 

 気づけば足が動いていた。周囲の驚く声、特に茨の声が聞こえてきたが、余程高揚していたのだろう、全く聞き取ることができず、食堂から飛び出す。ようやく来たチャンス……やっとだ。やっと、殺せる。

 

私は常人よりも高められた脚力と持ち前の目を使用し、敵の捜索を開始した。

 

 

 

 

 

 曇り空の下、俺は食堂を後にして校庭の隅で突っ立っていた。本来なら寮まで戻っている所だが、嫌な予感がしたから足を止めたのだ。一雨来そう、なんてものが甘く感じられる。

 

 ふと、飛行機雲の様なものが見えた。ような、ものだ。そもそも曇り空でそんなもの滅多にみられないし、あんなに……?黒くない。

 

ふいに、風鈴の音がした。

突如、自身の脇腹に途轍もない衝撃が走ったのに気が付いた。しかし、もう遅い。受け身を取ろうとしたが失敗。一度地面をバウンドした俺は校舎周辺の木々に激突した。………これが無かったら重症だな。実際、見た目ほどダメージはない。

 

 フッと、校庭中央に降り立つ少女の姿が見えた。髪は何処かメイドさんらしいショートボブの黒、体格は…少し小さいが実際、中学二年生そこらだ。やはり、か…彼女が組織に手を出したという報告があったのはここ二、三年前。

 少女は幼い、とはいえ、狂気じみた笑みを向けて、こちらへと突進してくる。黒い風を纏い、久々の再会を喜ぶように、俺を殺しに来る。いや、正確には殺す気で、か。

 

「…………お兄ちゃん。」

 

少女の瞳が、そう言っているように感じた。

(さぁて、少しお説教してやりますか…)

 俺は若干キレ気味で、妹の「左京 風夏」に笑みを向ける。俺の目と鼻の先で風夏は動きを止めた。俺の覇気とかそんなんじゃない。ていうか、俺に覇気はない。

 

「へぇ、君はあの時の……」

「やぁやぁ、さっそくだが…死んでくれないか?」

 

 振り返ってみれば七条が目をつむっていた。しかし分かる、あいつ結構な目で睨んでんだろうなぁ。

 

一瞬、紫色の閃光が走った、と同時に七条が消える。風夏の方を向くと、互いに激しく力をぶつかり合っていた。風が衝撃波と共に俺を吹き飛ばす。何回俺は吹き飛ばされんだよ。

 俺が最後に見た光景は、もう一度力を衝突させる二人の姿だった。

 




 キャラクターの更新をプロローグにするものではないだろうなぁ、と思ったため、一話との間に新しく登場人物紹介を挟みます。
 では、また。


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四話「烏天狗」

さぼっていました。夏って怖いですね……
戦闘描写もそこまでな気がしますし、本当何してんだろ。

(脳内で色々なSS考えててこうなったとは言えない。)


「うう、あ?どうなってんだ……」

 

 目が覚めると校庭が悲惨な光景になっていた。しかし、この程度なら学園のスーパー用務員さんにとっては雑草が数本生えてきたのと何ら変わらんだろう。二人の少女による戦闘を除いて……ほんと何してんの。

 目の前で現在進行形で行われているものは流石のスーパー用務員さんでも止めるのは無理だろう。いや、出来ないわけではないか。

 

……しかしまぁ、流石にどうにかしないといけないらしい。

主な理由は起き上がったと同時に後ろから凍てつく視線を向けられているから。十中八九、生徒会書記の摂津さんだろう。振り返ると、さらに後ろに何人か教職員がいた。

 

「俺のせいではない、と言いたい。」

「なるほど、起きた原因が自分であるという自覚はあるのですね。」

「で、これって何?非難する案件なの?」

「当たり前ですよ、本来は職員が片づける予定なのですが……あのバカは何をしているのでしょう。」

 

 怒り半分呆れ半分といった目で七条の方へと目をやる。と言ってもその目から読み取れるのは怒りしかない。矛盾してるぞ、俺。

 

(そういえば……)

 

 この人と会ってから思うのだが、いつも不機嫌なのだろうか。もう少しカルシウムを摂った方が良い。どっかのヤンデレゲームで習った。どうでもいいけどカルシウムだけじゃ背は伸びないらしい。

 

 摂津を見つめていて気付かなかったが、七条はかなり劣勢だ。何も考え無しに突っ込んでいったのだろうか、それだと風に煽られて体力を消耗するだけだが。敵の力は俺のとほとんど同じ……てか、何であいつ一人なんだよ。

 

 これは七条にも言えることなのだが………何故放置したままなのだろうか。何となく、妹が仇なのは分かるが、それでも誰か手を貸すべきではないだろうか?

 

『復讐など考えとる阿保に手出しするわけがなかろう。』

 

 ふと、師匠の言葉が頭をよぎった。あの時の俺の返答は何だったろうか。確か、師匠の考えには半分賛同した気がするが……

 

『でも……止めるぐらいのことはするだろ?爺さんでも』

 

 あ、そういやこんな小生意気なこと言ってたな。そん時のあいつの阿保を見る目……なんかイラっと来た。でも、あの発言自体、師匠は止めに入ってくれたと言えるのかもしれない。

 

「摂津、これどうすんの?」

「……放置かしら。そもそも力の使用自体、教師の許可がない限り行えないものなのよ……一部を除いて。」

「へー、緊急事態でもか?」

「ええ「いえ、その結果次第で処分がない場合もあります。」あの、生徒会長。」

 

 俺ににっこりと微笑む彼女は摂津から言われていたように生徒会長、名前は確か……

 

「筑後 華、生徒会長です。それと、皆さん…何を眺めているのですか?」

 

 一瞬悪寒がした。生徒会長…実力はかなり上だろう。たぶん戦って勝てるかなんてものでもない気がする。これより上の学園最強ってもう、ほんとヤバそう……ほら、摂津足震えてるし。膝が笑うのって基本二択だからなぁ。

 すると、生徒会長は不思議そうにこちらを見つめる。俺はそんなに異様ですか。

 

「適当に圧を送れば大体の人は何か反応があるんですけどね。」

「え、あーゾクッとはしましたね。さすが生徒会長と言うべきか。」

「ふーん……」

 

 適当に流すのに失敗した。この人とはもう二度と絡まれたくない。なんだか面倒ごとが起きる予感がする。

 幸いまだ先のことなのか何もしてこなかった。ただ、一つ些細な問題ができた。

 

「透明人間って楽でいいよなぁ。」

「………」

「確かに、公共機関の一部が無料、一部が使用不可になりますからね。」

「生徒会長…そういう話ではないと思います。」

 

 薄い風の膜に入ってきた瞬間、誰か合流したのかと思ったが、何より存在を確認できなかった。このご時世……そういう力の持ち主がいても不思議ではない。

 

「んじゃ、あとは任せますね。アレのお世話で忙しいんで。」

「……近づけるんですか?」

「あ?あーあいつ膜張ってんのか。見えなかったし気付かなかったけど、そりゃ会長も突っ込まないのが気になるか。」

 

 俺はそう言って今までの疑問を自分の中で勝手に解決し、黒い翼を展開させる。と、同時にに黒い風を周りに発生させる。いつも思うのだが、この翼はどうにかならないのだろうか?妖怪ウォ〇チの烏天狗とそう大差ないが、邪魔でしかないのも事実。

 

「それが君の……烏天狗の力ね。」

「………」

 

 生徒会長は興味津々、摂津は片腕の包帯に手をかける 。臨戦態勢、いつでも近くの敵に対応できるという訳か。それにしちゃ会長は不用心すぎませんかね。

 会長は俺の肩を軽く叩いて微笑みを見せてくる。その表情から妙な親しみやすさが伝わる。俺にはそんなコミュニケーション能力がありません。

 

 俺は正面に向き直って全力で地を蹴った。周囲に砂ぼこりが舞い上がり木々が騒めく。今までで最もいい飛び出し方だったかもしれない。見栄えがね。

 一時停止をする気のない俺は、そのままこちらに気づいた二人へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 僕は今、親の仇を前に苛立ちを感じている。仇である目の前の少女、よりも自分自身にイラついているのだ。必ず敵を討つ、と両親の墓前で誓ったのに……目の前の敵に遊ばれたままなのだ。

さっきからこちらの攻撃をのらりくらりと躱し、たまに攻撃を衝突させてくるが力の差は向こうの方が上だ。何とか耐えているが……

 

「ふわぁ。……そろそろ飽きてきたかなぁ。」

「何を…ッ!」

 

 奴の突然の竜巻に一瞬たじろぐが、持ち前の身体能力を生かして躱す。が、それも相手の手の内。躱した方向に既に奴が動いていた。

 

「くッ…」

「せっかく兄さんと再会できたのに……残念だなぁ。もう時間が近い、や!?」

 

 突如として暴風が巻き起こり、僕と奴に数十メートルほど間隔ができるができる。遠方から黒い風が弾丸のようにこちらへと飛来してきたのだ。

 その風は僕と奴との間隔の丁度ど真ん中で数秒ほど停滞、のちに消滅した。替わりについさっき会ったばかりの青年がぺたんと尻もちをついていた。

 

「いってえ…数週間動かなかっただけでこうなるか?」

「鞍馬…」

「あー七条、お前はあとだ。先に聞き分けのない馬鹿を片づける。」

「へぇ、私は兄さんからそんな風に思われて、たん…だ!」

 

 通常の竜巻は縦にまっすぐ縦に、空に向かって伸びるのだろう。しかし、奴の竜巻は鞍馬に向かって独特な軌道を描いて伸びていった。

 このままでは直撃する……と思われたが、その直前で何事もなかったかのように消滅する。

 

「同じ力を持つ憑き者が、力のみで衝突した場合…相殺されるんだっけか。」

「兄さんの風、見えないんだけど……」

「ハッ、お前みたいに独学やってるとそうなるんだよ。京都にUターンして山のジジイにしごかれてろ。」

「言わせておけば!……クソッ時間みたいだ。君のせいで予定を狂わされてしまったよ、七条の令嬢さん。」

 

 そう言って奴は風を纏い始めた。少し癇に障る言われようだったが、私は少しはしゃぎすぎて手出しできない。何度も手足を動かそうとしたが、体が思うように動かない。

 彼は、どうするのだろう……

 

「俺とお前、どっちが速いんだろうなぁ?」

「……兄さん、今はまだ…捕まるわけにはいかないんだよ。」

「何を……チッ消えたか。」

 

 風をまとっていた奴はまるでSF映画とかによくある透明人間のような逃げ方をした。予想外の出来事に頭が追い付かなかったが、そういう力の持ち主がいてもおかしくはない。

 僕は彼から、学ばなければならない。奴から兄と言われていたこと、天狗なりの修業……想像で胸を膨らませてしまう。しかし、それも束の間…面倒ごとが起きそうだ。

 

 

 

 

 

「鞍馬翼、生徒会と島内警備隊の者です。少し、お話をさせてくれませんか?」

 

本当は彼、悪い人ではないんだけどなぁ…

 




以上です。……まず戦闘描写?なのかなという疑問が生まれてしまいました。
個人的にあまりにも少ないので……

次回「クーとツンが合わさると」


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