日本某所に存在する……発華高校の生徒や教師の身を震わす惨劇が起きた。
時は、6時限目の全校集会。
1年生から3年生までの各クラス学年全員が体育館に集り学年主任やら校長やらが校内風紀、生徒の問題行動、成績などを生徒達に説明し戒めるよう促すありきたりでつまらない話は、1つの血に濡れた死体が天井からグシャリと音を立て落下したことで場にいた全員の悲鳴と共に締めくくられた……。
なんとか場を落ち着かせようと考えた教師達は、生徒達にクラスに戻るよう指示を出した。
校内の重役教員の顔は、恐怖の他、学校側に突きつけられる疑惑を考え顔が真っ青となる。
学校側はこれより、校内で何故死体が確認されたのか?その原因を調査するという、重い課題を背負うこととなる。
「ピーチクパーチク喚くガキ共だけでも手一杯なのに……全く!とんでもない事態が起きたものだ!。坂間君!君は警察に連絡を、富山君は保護者会の方々に報告してくれ」
校長である久野の苛立ちを隠さない口調に教頭の坂間、生徒主任の富山はすっ飛んでった。
婦人会でせっかく邪魔な女房もいないから、晩酌しながら演歌でも聞く自分の予定は潰れそうだ。
=====
うるせぇ……。
達華高校3年1組の加藤晃は、クラス内の喧騒に耳を痛めていた。
皆が皆口を揃え、死人が落ちて来ただの、殺人だの、と大騒ぎだ。
確かに目の前で死体が落っこちれば度肝を抜くのは間違いないだろうが、だからといってこの騒ぎは正直鬱陶しい……死体騒ぎに託つけてはしゃぎたいだけなのではないかと思ってしまう。
「なんだなんだ晃、人が死んだってのに随分とお前は冷静だな」
一人の男子が軽快な声で晃に話しかけた。
彼は幼稚園からの幼馴染みの西川誠だ。
小さい頃からの付き合いだからか腹を割って本音まで語りあって話せるのは誠くらいだろう。
この高校に入り知りあって友達になった者もいるがやはり過去からの馴染みには勝てない。
小さい頃は何も考えずに出来る友達も、歳が大きくなれば考えることが増え難しいものとなっていく。
いや、それだけではない。
現代はスマホやネットが発達し、人が人と話し向き合う時間が大幅に減っている。
このクラスだけ見ても人と話さず、スマホに向き合う人間がちらほらと見受けられる。
スマホや携帯電話が疎遠だった親に聞いたら今の子達は生きることに楽しみを感じてるのか不安になるそうだ。
昔もポケベルとかあったようだが今程そのツールに時間を取られたりはしなかった。
「冗談よせそんな強い心臓を俺は持ち合わせてねぇ。ただ騒ぐ気にはなれねぇだけさ」
「まぁな。人が死んだのにガヤガヤするってのもぶっちゃけ亡くなった人間に失礼だよな」
「お前もそう考えてたのは意外だな」
「バーカ俺だって不謹慎や無礼の類ぐらい分かるっつーの。もしかしたら俺達以外にも同じ考えの奴も居るんだろうけど周りと同じ反応しなきゃ白けられたり仲間外れにされるからって必死になってるのかもしれないぜ」
「同調圧力か」
団結するには便利だが謝った方向に進んだ場合、船頭を失った船よろしく奈落の谷底へ船員は全員落ちることとなる。
「二人とも気難しい顔して何話してるの~?」
同クラスの女子蓬田莉愛がひょっとこちらへ駆け寄ってきた。
聞き上手に定評がありクラス内男女問わず人気が高い。
「あん?、いやぁあの死体がホラースプラッタ映画顔負けの迫力だった!って。な、晃」
話を振って来る親友に怒りながらもこいつは昔からこういう奴だからな。と呆れた。
「映画顔負けの迫力って……。実際ゲーム世界でも二次元でもなく現実にあんなの見たらそんじょそこらのスプラッタ系とか勝負にならないだろ。この世界は仮想じゃない」
「おまけに演出も凝ってたもんねぇ。……本当誰なんだろ。全校生徒が揃う中、生身の死体を床に落としたのは」
莉愛の台詞に寒気が走る。
「思ったんだけどさ、あれ単独犯じゃなくて複数犯じゃね?。一人で天井に死体を設置するのって相当手間が掛かりそうだし」
「一人でも出来ないことはない。長い紐を使い鉄骨を経由して床の死体に巻き付ける。次に吊るした本人が天井から降下すればシーソー効果で死体は天井に上がるってわけだ」
晃の説明に二人はへ~。と唸る。
「やっぱ頭いいね。晃君は」
「あぁ。こいつがやったんじゃねぇかって思うくらいだ」
「アホか」
親友に突っ込みを入れたところで緊急用のチャイムが校内に響いた。
『全校生徒に連絡します。本日はこれで全行程を終了とします。掃除、部活は今日は行わずに速やかに帰宅してください』
放送内容を聞いたクラスメイトからは案の定歓喜の声が巻きおこった。
学校を早く終われ嬉しい気持ちは分かるが、喜んでいいことと悪いことがあるだろうに。
「生徒は邪魔だから早く帰れってことらしいぜ。僕は優等生だから先生の言うこと聞こうと!それじゃ諸君さらば!先行ってるからな晃!」
あれでどこが不謹慎や失礼の類が分かるのか気になる。
「行っちゃった。活発な親友ね」
「人に殺人の疑いをかけるただのデリカシーの欠片もない馬鹿だ」
晃も立ち上がり片付け帰宅の準備を始めた。
莉愛はそんな晃に邪魔にならないようやんわり話かける。
「晃君と誠君て面白いよね。幼馴染なのに性格は全く違うんだもん」
「あの馬鹿と一緒の性格だなんてやめてくれ。違うからこそ見えてくるものがあるんだ。だから今まで親友やれてるのかもしれないしな。じゃあな莉愛」
「あ、うん。じゃあね。晃君!」
案外友達思いなんだね晃君は。
フッと莉愛は微笑んだ。
しかしクラスメイト達が早く帰れることに歓喜してる光景の裏で二人の男女は神妙な顔付きで窓際で話をしていた。
「兄さん。今回の奴は直接その怨念で人を殺したわね」
「あぁ。今までにない憎悪と生者への執念を感じる……一刻も早く見つけなきゃな。俺達以外の過興者を。生者に化け騙し喰らう去霊の悪手から人を守るために」
カタカタと風がふいたわけでもないのに窓が揺れた。
いつもと変わらぬ、極普通の学校生活に最初の亀裂が生じた……。
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価値なき人生
人生に絶望する石川真海に……ある者が接触してきた。
自宅の前で、石川真海は溜め息を吐いた。
今日は学校で変死体が見つかり全生徒に帰宅命令……いつもより早く帰らなきゃならない。
その現実がただただ苦痛だ。
「ただいま」
あの人はいないのかな?。
安堵は直ぐ様裏切られる。
「お帰り、随分と早いんだね」
娘の帰りに、母親は睨み付けながら冷たい物言いで迎えた…。
恐らく帰宅が早いから学生風情がと蔑んでるのだろう。
真海に向けられた、嫌悪な感情がひしひし伝わる。
「学校で…死人が出たの。だから帰された」
「まぁ、なんて高校なんだい。死人が出た程度で」
え…?。
思わず、母親を凝視した。
「それくらいで馬鹿娘を帰さないでほしいね。あんたの顔なんか見たくもないのに、あー鬱陶しい。バイトもお前は今日休みだから寝るまで面を見合わさなきゃならないんだね。あーやだやだ」
真海は母に嫌われていた。
理由は過去に自分が原因で父親と別れたかららしい。
母はすぐにでも殺したかったがまだ小さな真海を殺すのは後味悪く一先ず高校迄は育ててやることにした。
以来女手1つで真海は母親に罵倒や暴力を受けながら育った。
過酷な環境の中で真海はどうすれば母親に殴られないか?どうすれば怒られないか?……どうすれば愛されるか?時に涙を流し必死に考えた。
勉強して100点を多くとったり、体育や図工だって必死で打ち込んだ。
……しかし賞を見せても母は笑ってくれない。
どころか、いちいち賞を取ったと煩い子だね!と怒鳴られ……破かれごみ箱に捨てられたこともあった。
以後、真海は中学や高校でも高成績や賞をたくさん取ったが母親に見せることは無くなった……。
だって破かれてしまうから。
無意味どころかマイナスな結果になるのだ。
「……お母さんにとって私は邪魔だもんね。ごめんね」
「なんだい急に。自殺でも考えてるなら勝手にやりな。むしろそっちのが好都合よ。あたしゃあんたなんて死んでくれれば嬉しいんだから」
「……」
無表情で、階段を昇り自室に入ると普段着に着替え逃げるように家を飛び出した。
「……ふん馬鹿娘が。ああいうところは私にそっくりだね」
娘の姿と過去の自分が重なり思わず笑っている母がいた。
そう言えば、そろそろ真海の18の誕生日だ。
あの子も大人になるんだね。
ーーーーー
「ハァ、ハァハァ……」
宛もなく道路を走った。
無理だよ……私にはもう限界だよ。
生きていたくない。
疲れ、河川が流れる土手に腰掛け川を見降ろした。
この河川の景色だけは真海が小さな時から変わらない……川を見るのが唯一の彼女の趣味となっていた。
ここにいる間だけは嫌なことも忘れられる。
だけど今日は別だ。
結局自分が馬鹿に思える、母親を喜ばそうと頑張ってもあっちは喜ぶどころか自分に暴力を振るってくるのだから。
……なんのための人生よ。
母親の御機嫌取りに徹底し、理不尽を押し付けられただけじゃない。
母親の言う通り、私が死んでも母親は苦しまない……どころか笑うかも。
「……だったら。もう死のう、凄く疲れたもの」
幸か不幸か回りに人はいない。
真海はポケットから果物ナイフを取り出し、自分のお腹の前に持ってきた。
「さようなら。惨めな私」
勢いよく振り下ろしナイフは腹を貫通する筈だったが、見えない壁みたいなものに止められてその先へ進もうとしない。
「どうなってるの……私は死にたいだけなのに。誰が止めてるの……!」
「私ー」
背後から若い女の声が聞こえた、振り向くと少し古風な格好の少女が立っていた。
「あなたはだれ?」
「知らない方がいいと思うけど、今から90年前に死んだ人間よ」
90年前に死んだ人間?。
1929年となる、だから格好も古いのか。
すると、この少女は……。
「幽霊、なの?」
「まぁ、そうね。この格好がお気に召さないなら。今風の格好にもすぐなれるしね」
一瞬で姿が、髪を染めふんわりとした化粧の現代風へ変わった。
幽霊というよりかは奇術師だ。
「この姿なら集団に溶け込んでも違和感ないわね。ねぇ、自殺なんてやめて楽しいことしに行こうよ。死んだ私が言うのもあれだけど、人生は一回しかないんだから」
「……言われなくても分かってる。でももう私は限界なの。……耐えられない」
「そう、じゃあ。楽しくなれる力を渡してあげるわ♪」
「え……きゃあああああああああ!」
幽霊の少女の目が赤く発光した瞬間真海の身体に激痛が走った。
立ってられず地面へ倒れた。
「な、にをしたの……?」
「あなたが自分の人生を楽しめるようにしてあげたのよ。……人間から見れば悪魔の力かしら?。おめでとうあなたは理不尽から解放されたわ」
「ちょっと、わけが分からないんだけど」
「分からなくていい。知らなきゃいいこともこの世にはたくさんあるの……例えば私の正体とかね」
ゾクリと震えが走った。
「また会いましょうね。真海ちゃん」
90年前の少女の幽霊は姿を消した。
初対面の者の名前を知っていたり、力を渡すだの……。
あの幽霊を自称する少女は何者なんだろう。
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