黒猫と死神 (雪宮春夏)
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序 白い仮面と
雪宮です。
うん。懲りない(-ω-;)
何が人生の分岐点となるか。その切欠は意外とそこら中に転がっているのかもしれない。
例えば、大学生となってから僅か数ヶ月しか経っていない俺は、生来の器用さも相成り、そこまで課題などに追われていなかったこと。
例えば、春の高校バレー……通称「春高」で物心ついてからのバレー人生をやりきった感覚が強かった俺は、全国に出場するレベルの選手であったにも関わらず、大学ではバレーのサークルには入らず……かといって、他のサークルにも入ろうと思うほどの熱意を持てず、ダラダラと高校生の帰宅部よろしく空いた余暇を謳歌していたこと。
同じく全国レベルのバレー強豪校に通っていた相手が、偶然同じ大学、同じ学部に所属しており、入学初日にあっさり見つかってしまったこと。
その事が原因で大学に長く留まることは居心地が悪く、授業が終わるや否や、大学の最寄り駅と一駅違いの町をぶらつくようになっていたこと。
……と、ここまで並べてみたものの、最大の切欠は、おそらくどれでも無く。
「なんだ……アンタ、スゲーうまそうな匂いするなぁ……!」
「……は?」
どくりと、俺の中の何かが跳ねた。
大きく見開かれた目に映るのは、俺より上背のある、四足歩行の巨大な何か。
白い仮面から覗く、本来ならば目があるはずの場所は空洞染みていて、濁った光が瞬いていた。
「人間か? まぁどちらにせよ……」
ニィィィと、それは笑った。
「喰えば同じだ……!!」
それは、捕食者の笑みだ。
言い忘れたが、最大の切欠……それはおそらく、俺が俗に言う「見える」人間だったからだろう。
(いやでも……ここまではっきり見えたの、スゲー久しぶりだわ)
原因は分からないが、俺は、生まれながらの「見える」人間だった。
……と言っても、その見え方はその日の天気やら体調やらによって差があるのが、はっきりと見えたり、薄らとしか見えなかったり結構落差が激しかったのだが。
しかし、肉体のない彼らにとっては、どれほど見えているかよりは認識できているか否かが重要だったらしく、その分別では間違いなく認識できていた俺は、物心つく前から、良く彼らのちょっかいを受けていた。
それこそ、大きなものから小さなものまで。
何もないところで転んだり、おかしな幻聴を聞いたり……小さなものでも結構なホラーであったが、それ以上に困ったことが自分以外をも巻き込んでしまう大きな事故だった。
大型トラックが原因不明で突っ込んできたのは勿論、近くの工事現場で不自然にものが崩れるなどの事故が起きれば、当然周りの子供達も遠巻きにしてくるようになる。
小さなものを起こす彼らは大体が普通の……と言っても、中には血塗れだったり体の一部分が欠けている相手もいたのだが。それでも生きている人間と、何ら変わりの無い姿をしていた。
それに反するように、大きなものを起こす奴らは皆どこか人間に見えないおかしな姿で……彼らは一様に、白い仮面をつけていた。
それは俺が九歳の時に、引っ越した先で幼馴染みに会うまで続いた。
(あぁ……そっか。あいつと離れて一人暮らしになったから、また出たのか……)
どこか他人事の様な心情で事態を分析しつつ、俺は、一歩も動けないまま、それを見据えていた。
走馬灯とやらは、見なかった。
ただ捕食者たる相手が大きく口を開く……それをどこか他人事のように眺めていた。
一人称にしたのが原因か。
主人公の名前無し。
他のキャラクターの登場無し。
ノロノロ連載が既に確定です。(悲報……?(゜ロ゜;))
こんなグダグダな作者ですが、興味が続くようならよろしくお願いします。m(__)m
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1 烏野十番(によく似た人物)は屋根を走る
連続と言っている時点で初ではないのですが、既に投稿している作品では初なので、初と言っておきます。
それでは、どうぞご覧下さい。
一応原作沿いになっていますが、はて……結局、この人物は誰だったのでしょうか?
それは言うなれば青天の霹靂。
画面越しのその姿をみて、黒尾は我知らず息を吞んだ。
「……そんなはずはねぇ!」
思わず零したそれは、否定の意を強く含んでいた。
「
時は、その数分前に遡る。
燦々と、まるで夏かと問いかけたくなる程の熱を発する昼前時。
くわっと欠伸を漏らした俺は、不自然に途切れた昨日の事を考えていた。
昼日中、幼い頃に見ていた仮面の化け物とおよそ十年ぶりに会った早々、あの頃の大きなものとはくらべものにならない危険……即ち命の危機に瀕した……筈の俺は、気が付いたら道の真ん中にぼけっと突っ立っていた。
(やべぇ……自分で思い返してみても訳分かんねぇ)
一人で自分のボケにツッコミながら、溜息一つで思考を切り上げた。
若い身空で痴呆など笑えないことこの上ないが、分からないものは悩むだけ無駄である。覚えていないものは仕方がないだろう。
(うんまぁ……命の危険がなさそうならそこまで思い悩むことでもないか)
そう割り切る俺の本日の予定は実のところはほとんど終わっていた。
大学の授業は必須科目と選択科目からなる必要単位数の修得によって成り立つ。本日の時間割は朝一から授業に出ている分、俺の必要単位数分の科目は全て受け終わっていた。
「さて昼飯……学食の方が得か……」
購買か食堂か。
思考を巡らせるでも無く決断を下した俺は、のんびりとした足取りで校内を進む。
入学して一月が経とうとしているだけあり、毎日のように使用している施設の中で迷うことはほとんど無くなっていた。
「くぅーろ、ねぇーこ、ちゃーん?」
最もそれは、俺に限って言える事でも無い。
「もう帰っちゃうの?」
ぽんと、勢いよく肩を叩くのは、入学初日から己の存在を感知した全国大会出場経験のある元バレー部員。
春高では全国出場を果たせなかった故に、個人的には対戦経験は無いが、彼と俺のバレー人生にはある共通点があり……それ故に彼には、一方的に俺の存在を認知されていた。
「そりゃあ、授業は終わりましたし? 昼飯食ったら帰るよ? 俺は」
一度話しかけられた手前、無視をすれば翌日がうるさくなると既に何度か体感している俺は、クルリと背後に視線を向けて、懲りずに俺にちょっかいをかけ続ける同い年の彼を見つめた。
「お前だって授業は終わりだろう? ゲス君」
ツンツンと尖った……昨年までよく共に練習していたミミズクを思いおこさせる髪型をした男は、しかし彼とは髪の色が事なり、赤色だ。
ぎょろりと、見開くと心なし飛び出ているかのような、やや特徴的な目をこちらに向けながら、いつものお決まりのように誘いを向けてくる。
「バレーやらない? 黒猫ちゃん」
サラリと、軽い調子で行われるその誘いは、既にルーティーンと化した決まり文句となっている。
「やんねぇよ。俺はもう止めてんの」
サラリとこちらも同じ調子で返すと、いつも彼は引き下がる。そうしてそのまま所属しているバレーサークルの練習に入るのだろう。そこまでが予定調和の筈だった。しかし。
「うーん……残念。じゃあ、一緒にご飯食べようか?」
おいちょっと待て。
思わず口から出かかった言葉は呑み込んだものの、不審な色は十分に表情に表れていたのだろう。
目の前のゲスモンスターはおかしくてたまらないと言うようにケラケラと笑っている。
笑いが収まるまで待っている義理は無いものの、このまま放置したとしてもこれから向かう先が食堂である以上、追いかけられるのは目に見えている。
(だからって、俺からわざわざ食事をする場所を変えるって言うのもなんか嫌なんだよなぁ)
何故こちらがわざわざ変えなければならないのかと、矜持と呼ぶには小さな拘りが、胸の内に引っかかるのだ。
結果として、いろんな感情が過ぎりながらも、律儀に彼が笑い終わるのを待っていた俺は、連れだって二人、食堂へ向かう。
「つぅか、練習はどうしたよ? お前はサークル入っているんだろうが」
改めて問いかける俺に「今日はお休み~」と、戯けた調子で答える彼が、既にバレー中心生活を止めた俺にこうして話かけ続ける真意は実のところよく分からない。
元より、春高において全国大会へ出場した俺と、出場しなかった彼との接点は、実のところたった一つしか無い。
俺たち二人の高校バレー生活、その最後の試合相手が同じ学校だった。
たったそれだけの縁の筈だ。
(あっちが全国大会まで行った夏のインターハイはこっちが予選落ちしているし……やっぱり試合の経験も無いはずだよなぁ)
如何せん、あちらの高校は全国でも有力視されるほど強豪校だったのだ。
たとえ一年、二年時だとしても、練習試合を組んでいれば、おそらく記憶に残っている筈だが。
とりとめもない会話を続けるゲス男を横目に考えてみるも、やはりこちらとしてはそこまで関心を持たれる心当たりがない。
いっその事本人に問うた方が楽では無いかと考えかけていた所で、視界に入った学生食堂の姿に、自然と口を噤んでしまうのは、良くも悪くもこの場所は人通りがありすぎるせいだろう。
内緒話をする点では利点にはなるが、人目の多い場所では大なり小なり注目を集めやすい。
連れ立つのがこのゲス男となれば尚更だ。
バレーの強豪校ではないこの学校では、そちらの……バレー部員としての知名度はあくまでサークル内で留まっている。それは本人がまだ入学間もなく、大学自体特筆すべき実績も持たないからだろう。
しかし、彼の元来の性格がかなりあくが強いためどちらにせよ、周りからは浮いてしまったのだ。
よく言えば目立つ。悪く言えば奇人変人。
そんなことをつらつらと考えながら注文していると、当然とした顔で傍らに座るゲス男に、自然と顰め面に変わる。
「……ゲス男くん……俺君の琴線に触れるようなこと、何かしたかね?」
思わず神妙な丁寧語になってしまったのは、彼から底知れ無い何かを感じるせいかもしれない。
内心戦々恐々とする俺の心情を知ってか知らずか、ううんと、否定の意を示してから、何かを考え込むように押し黙る。
しかしそれは、数分と続かなかった。
「んー……特に何も」
へらっと、気負いの欠片もない笑みで答えられ、対応する俺は溜息を返すしか無い。
俺と彼の対応は、万事がこのような状態である。
溜息を零す黒尾を横目で眺めながら、ゲス男と呼ばれる彼は、何が面白いのかへらへらと笑う。
その様子に自然と溜息をつくも、対面の人物への効果はどう考えても期待できなかった。
(他人を気にしないのか、打たれ強いのか……)
両方だなと、密かに一人納得する。
そうでなければ全国大会常連校などという重圧に平然と出来る精神など作れないだろう。
自分たちが全国へ出場したのは三年の春高だけであったが、それでも強者との戦いは一試合一試合が緊張の連続であったのである。
中には紙一重であった相手もいたのだから、もう一度同じ相手と戦えと言われれば、今度の勝敗は分からないと言うのが本当のところだ。
(……まぁそれが、面白いところでもあるんだけどねぇ)
ほんの数ヶ月前まで己も闘志を燃やしていた競技に懐かしく思いを馳せれば、当然思いおこすのはその中で競ってきた他校の強者や同校の仲間達であろう。対面の人物の、どこか気の抜けた声に反応してしまったのは、そのせいかもしれない。
「…………あれ? あれって烏野の?」
「……は?」
見ると、食堂の中に設置されている大型テレビ。それが映す東京都内のものと思われるニュース番組で、一枚の写真を背景に、アナウンサーが滔々と内容を読み上げていた。
曰く、屋根の上を走る男性の姿が云々……。
しかし、黒尾もゲス男も、そんな話の内容よりも……その写真に視線を向けていた。
「……ねぇ、黒猫ちゃん……あれってさぁ……」
「……いや、そんなわけねぇ」
恐る恐ると写真を示す男を前に、否定を口にしながらも、黒尾は我知らず震えていた。
「……そんなはずはねぇ!」
否定を断言しながらも、僅かなもしかしてを捨てきれない己がいる。
「
否定しきれない理由は、分かっていた。
黒尾のいう
そこから黒尾がとった行動は、珍しく悪手だった。それは、彼もまた、顔に出さなかっただけで密かに混乱していたのである。
まだしばしの時間があるとは言え、ゴールデンウィークを過ぎればインターハイ予選が都内地方問わず始まる。
既に引退したとはいえ、いや、ここは引退したからこそ、次代もまた、全国で因縁の相手との対決が見たいという思いがあるのだ。
それは勿論、相手も同じ筈である。
(いくら何でもインターハイ予選前の大事な時期に、東京にいるわけ無い。ならばあれは、単なる他人の空似と言うことになるんだが……)
「それにしちゃあ、似てるよねぇ」
タイミング良く、まるで心の裡を読んだかのような掛け合いに、黒尾の眉は自然と寄せられる。
黒尾の表情からその心情を理解したのかニッと笑う顔はどこか自慢げだった。
「どうすんの? これ本当にあの子だったら、今頃烏野、大騒ぎだよねぇ?」
「仕方ねぇな」
一つ溜息をついて、黒尾は覚悟を決めた。
「ちょっと本人にまで繋ぎとるわ」
「えっ?! 黒猫ちゃんあの子と連絡取り合ってんの? 他校の後輩と!?」
「……いや、正確には、連絡とってる本人は俺じゃねぇんだけど」
僅かに言い淀んだのは巻き込もうとしている相手が現役だからだ。
新入生が入り、インターハイ予選が始まるまでの期間は長いようで短い。しかも相手は今年が三学年。最後のインターハイと言って良い。
受験を控え、勉強の方も忙しなくなる学年だが、そこはうまく手を抜くことを幼なじみである黒尾は知っているので、そこまで心配はしていないが、部活において足を引っ張るのだけは御免被りたかった。
しかし、既に卒業している自分では情報の入ってこない部活動のこと。加えて相手は因縁が……交流と言い換えても良いが、あると言っても他校生だ。
詳細を知るには連絡を取るしかないのである。
思い込みとは恐ろしいことで、この時この場にいる二人はそのニュースで取り上げられている人物が、自分たちの知る人物と全く関係の無い第三者……つまり自分たちの単なる思い違いと言う可能性を完全に除外してしまっていた。
「……は?」
かけられた電話に出た、狐爪研磨の応対は、絶対零度を思わせるほど冷ややかな物だった。
その心当たりは黒尾には分からない物だったが、取りあえず一言目の声音から、間違いなく会話の相手が不機嫌であることは明白である。
「クロ、疲れてるの? 卒業して、独り立ちしてから初めてかけてきた個人的な電話の内容がそれってどういう事? クロってそんなに翔陽の事が嫌いだったっけ?」
しかし黒尾が不機嫌の理由を問いかける前に容赦なく降り注いだ疑問という名称を借りた侮蔑の数々。
あからさまでないだけマシと言うべきか、婉曲に言って俺が分からずとも気にする必要がないと思うくらいに俺に体する関心がなくなったのか、どちらがマシであったのだろう。
二の句を告げられぬ俺に遂にはぷつっと電話は音をたててきれた。
あまりの怒濤の言葉の数々に俺が動けなかったのは、まぁ仕方ないと思っていてほしいものだ。
結局、この話の真偽は分からなかった。
しかし、夜が明けたこの日、俺はそれ以上の異常事態を知ってしまう事となる。
「え?……烏野の十番君らしき人が屋根の上を走るニュース?……ないよ? そんなの。どうしたの黒猫ちゃん?」
まさかもう五月病?と、揶揄しながら笑うゲス男に、俺を目を見開いたまま、携帯の中のニュースサイトに目を通した。
昨日の昼間には速報としてでていたその記事は……今は完全な空欄となっていたのである。
果たしてデータも消えるのか……それは「彼ら」の裏工作と言うことで。
多分スクリーンショットでもしていれば残っていたかもしれないですが、それを取った記憶がなければ自然と「変な画像」の一言で消しそうですね。
それではまた。
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2 雨
今の処は書きかけを仕上げているという形ですがどこまで行けるかな?と言うところです。
それではどうぞ。
ご覧下さい。
再び見え始めた、白い仮面の化け物達。
周囲の人々にある、おかしな記憶の欠落。
そろそろ目を逸らすことは、限界なのかも知れない。
それでも俺は、出来ることなら、目を瞑ったまま、知らない振りをしておきたかったんだ。
5月のゴールデンウィークが終わったら、全国で僅かなズレはあるものの、運動系の部活においては、夏のインターハイに向けた地区予選が始まる。
大学生となり、サークルにも入っていない俺には直接は関係無いものではあるが、それでも高校までに培ってきた人との関わりは早々消えるものではなく、情報はわりかしすぐに入ってきた。
俺達の母校である音駒高校も、「ゴミ捨て場の決戦」と呼ばれる因縁を持つ、ライバル校、宮城の烏野高校も、どちらも地区予選で敗退した。
彼らの夏の結果は、これで全てだ。
「と言うわけで! 残念会やろうぜ!!」
「何がというわけだ? 傷口に塩塗り込むような真似しようとすんじゃねぇよ!」
携帯越しの溌剌とした、最後にあった3月の頃と変わらない元気すぎるミミズクの声に、俺は溜息をついた。
「……だいたいテメェの所の梟谷は、予選突破しただろうが。下手したら嫌みにとられるじゃねぇか」
三年であるあの面々はもしかしたら気にせずに礼を述べるかもしれないが、二、一年の精神がどう捕らえるのかは分からない。
特に入ったばかりの一年は彼の本質を知らないのだから尚更だ。
「じゃあ黒尾達ならいいのか? でも海と夜久って都合つくの?」
「まずそう言うのは、身内で細々とやるもんだろうが。OBが手を出すもんじゃねぇよ」
嘘っと、驚愕を露わにする声が思った以上に大きく、心なしか携帯と耳朶との距離を離す。
この容赦の無い大声は、時折一般常識を欠如させる相手が良くも悪くもどんなときも全力投球な為に、注意したところで治らない癖だ。
指摘するのも諦めて等しい。
電話越しの相手に溜息をついていると、こちらの心情など意に返さない明るい声は、こちらの近況を問いかけてくる。
プロのバレーボール選手を目指し、未だ本気のバレーを続ける男とこちらでは、生活習慣もまるで違っているだろうに、お構いなしとはこの事だろう。
(……おおらかと言うか考え無しと言うか……どっちだろうな)
ギャーギャーと高校の頃と変わらない喧しい彼の声をBGMよろしく聞き流していたら、彼の話は予想外の方向に飛び火していた。
曰く、夏休み前に一度会おうと。
「ちょっと待てぇ! 夏にはテメェも大会あるだろ!? って言うか、大学には単位ってもんあんの、自覚してんだよなぁ!? おい!!」
なんせこの男、高校三年になって「悩み」と言う漢字が書けないと言われていたほど頭の出来が残念な男なのだ。
高校時代は同期の血の滲むような努力と一学年下の世話焼き体質のセッター兼、副部長の献身で何とか部活と学業を両立してきた男なのだ。
じゃあ楽しみにしてるなー等と言い置いて早々に電話を切ってしまった相手は絶対にこちらの言い分を聞いていないに違いない。
断言したっていい。
「スポーツ推薦でも、プロから声かけられても、必要最低限の単位は取得しねぇと卒業できねぇって、あいつ分かってんだよなぁ?」
肩を落として溜息をつく俺は、やはり甘いのだろうが、元々の性格上、治るものでも無いのだろう。
「……不安しかねぇ」
一人呟いて肩を落とす。
その部屋の向こうには、パラパラと雨が降っていた。
「もしもーし。……とりあえず黒尾にはアポとったけど、そこまで気にすることなのか?」
パラパラと落ちる雨を窓越しに眺めながら、その男は携帯の向こうの人物へと唇を尖らせる。
「現に「その中にいる奴」って、今までずっと、黒尾の中で大人しくしているんだろう?……今更黒尾に何かするとは思えないんだけどよぉ」
彼の不満の声に、携帯の向こうから放たれる声は答えているのだろう。やや間を置いて彼の表情は呆れの混ざったものに変わる。
「だから、気にしすぎだって! 重霊地って言っても、あいつの大学からは二駅ぐらい離れてんだろ?……あのサトリ君だって見張りについてんだし……あー、もうっ!」
ガリガリと特徴的な逆立った髪をぐしゃぐしゃと崩す男は、元々気が長い方では無いのだろう。
フーッと自らの気を落ちつかせるために息を吐き出して、分かったと頷いて決断を下す。
「確かめに行くから良いだろ! それで、もしも本当にヤバそうならそこで手を打つ!! なんならお前も来ればいいからっ!!」
良いよなと、最後は言い逃げるようにぷつりと切る。
そのまま衝動的に携帯を投げそうになるが、流石に床に向けて投げたら壊れるかなと一瞬働いた理性によって、投擲場所はふかふかな寝床の上で、次いで己もダイブしていた。
「はぁ…………」
ゴロリと、仰向けになって、見上げたのは見慣れた天井だが、思い出すのは話題にしていた彼と過ごした今までの月日だ。
「……秘密とかそう言うの、柄じゃねぇんだけどなぁ」
自嘲を混ぜた独り言を漏らして、男……木兎光太郎は空を眺める。
雨はまだまだ、止みそうに無かった。
今回もBLEACHのキャラクターはほとんど出てきません(苦笑)
そして何やら不吉な展開が……。
そこまでしっかりと書けるように頑張ります!
それではまた、機会があればよろしくお願いします。
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