波の尖兵の意趣返し (ちびだいず@現在新作小説執筆中)
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転生したら波の尖兵だった件
プロローグ


「ん?」

 

 俺は紀伊国屋書店にラノベを買いにやってきていた。

 俺、菊池宗介は大学2年生だ。人よりも多少、オタクであると言う自覚はある。

 様々な漫画に小説、アニメ、オタク文化に出会ってから、人に【本の虫】と呼ばれるくらいには熱中して生きている。

 俺は絶賛一人暮らしをしており、漫研にバイトと忙しく暮らしていた。一応俺にも弟がおり、たまにLINEで連絡を取り合ったりする程度には仲が良い。

 弟は俺よりも勤勉で頭が良く、医学部を目指して絶賛勉強中である。そんな弟が、俺に紹介してくれた小説から、俺はオタク文化に染まっていったと言っても過言ではない。

 

「兄ちゃん、この小説面白いよ」

「ふーん、どんな?」

「盾の勇者の成り上がりってweb小説」

 

 当時はまだ連載中だったと思うが、今となってはアニメ化までされた有名な小説だった。それを読んでから俺はweb小説にハマっていった。

 そこからラノベにはまり、俺は見事にオタク文化に浸ったのだった。

 さて、話は脱線したが、その日、紀伊国屋書店にライトノベルを買いに来ていた。

【盾の勇者の成り上がり】の22巻が発売されたからなのだが、それを購入するためだ。

 バイトも塾講師をやっているので懐に余裕があるし、学費や家賃、水道光熱費は親が払ってくれているからな。お陰で趣味に使えるお金は自分でちゃんと稼いでいる。

 ネットゲームはPSO2ぐらいしかやっていないが、この時間に初めてもチームメンバーは誰もログインしていないからな。

 夏コミや冬コミは基本的に行かない質なので、基本漫研で小説を書いているかイラストを描いて漫研の同人誌の一ページに貢献するだけである。

 そんな充実した日常を送っている俺であるが、今日は珍しく1日何も無い日であった。他の部活も合気道サークルをやってたりするのだが、今日は稽古もなかった。

 そのため、絶賛リアルを持て余していた。

 で、問題はここからであった。

 事件はまさに、この後起こったのだった。

 俺は【盾の勇者の成り上がり22巻】を購入し、立ち読みをしながら帰宅の途についていた。これは俺の特技だが、本を読みながらでも周りをちゃんと見ることができる。真似してはいけないけれどね。

 だから、俺の不注意でトラックやダンプカーに引かれるなんて事は絶対ないし、むしろ車道を渡るときはちゃんと前を見て歩く。

 だから、俺は目の前を根暗な奴が歩いて車道に飛び出したのを、見てしまったのだ。

 

「おい、危ないぞ」

「は?」

 

 そいつは、車道を歩きながら俺に抗議した。

 

「誰テメェ超ウザいんだけど。俺様に話しかけないでくれるかな?」

 

 俺はそいつの言葉にイラッとした。

 しかし、次の瞬間にブブーっと音がした。振り向くとトラックが猛スピードでこちらに突っ込んできたのだ。

 

「おい、危ない!!」

 

 俺は思わずそいつを突き出した。それがいけなかったのだろう。

 そいつではなく、俺が、トラックに跳ねられたからだ。

 体に衝撃が走り、一瞬で意識が刈り取られたのだった。

 まさか、これが俺の不幸の始まりだなんて思っても見なかった。




読んでいただきありがとうございます!
リスペクトして書いていきたいと思います!


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王道的異世界転移

「菊池宗介さん、あなたは死んでしまいました」

 

 目の前に、美しい女性が立っていた。

 なんと表現したらいいのだろう? 

 アニメで例えるなら、そう、ミレリア=Q=メルロマルクを思い起こさせる姿をしている。

 過剰とも言えるレベルで豪勢な服を着た女だった。それはその女性に似合っており、女性の美しさを引き立てている……いや、むしろその飾りが脇役か端役であるような印象を受ける女性であった。

 

「こちらの不手際で、申し訳ありませんがあなたを死なせてしまいました」

 

 そう告げる女性であるが、ちっとも申し訳なさそうである。

 

「えっと、俺はさっきトラックに跳ねられて死んだということですか?」

「ええ、その認識で間違いありません」

 

 あの強烈な痛みを思い出せば、確かに俺は死んだのだろう。

 せっかく【盾の勇者の成り上がり22巻】を購入して、まだ40ページまでしか読んでいなかったというのに……。残念である。

 

「わかりました。手違いでも死亡は死亡。俺はこれからどうなるのですか?」

「はい、あなたには記憶をそのままに転生していただこうかと思っていますわ」

「転生?」

 

 嫌な予感がする。

 どうにも【盾の勇者の成り上がり】を読んでいたせいか、俺は転生というものは拒否感があった。いや、【盾の勇者】世界じゃないなら文句は言わない。

 だが、【盾の勇者】世界や【狩猟具の勇者】世界に転生でもしてみろ。

 きっと待っているのはDEADENDである。

 なので、俺はこう申告することにした。

 

「あのー、菊池宗介のまま転生……つまりは異世界転移ってできないですか?」

 

 そう、転生して【ソウルイータースピア】で突き刺されるよりはマシである。と結論づけて、俺は転移を望んだのだ。

 女神と思わしき女性は少し考えると、肯首する。

 

「ええ、可能ですわ」

「そ、そうか。それなら良かった」

 

 俺はホッとする。それならば見ただけで転移者とわかるし、【試しにソウルイータースピアで突いてみよう】とはならないはずだ。

 これは、【槍の勇者のやり直し】のフォーブレイ編での出来事であるが、転生者をあぶり出すためにソウルバキューマーと言う魔物に魂を吸わせて、転生者をあぶり出すと言う方法がある。この時、槍の勇者がソウルイータースピアで突き刺して魂を爆散させるエピソードがあるのだ。

 魂ごと消されるなんてたまったものではない! 

 

「では、そんな謙虚なあなたには、転生特典としてあるチートを授けます」

「いや、いらないです」

 

 俺はソッコーでお断りする。

 どう言うチートかしらないが、俺は努力を積み重ねて強くなる方が好きなのだ。

 だが、この女神様っぽい女性は話を聞かないタイプであった。

 

「気に入りましたわ! では、あなたには4つの【勇者の武器】を装備できるチートを授けましょう!」

「……え?」

 

 おい、【勇者の武器】と言わなかったか? 

 まさか、俺の目の前にいるのは■■■■・■■■・■■■■■じゃないのか?! 

 ちなみに伏せたのは俺の意思である。

 詳しくはweb小説版を見てね。

 さて、【勇者の武器】と言うのは、世界を守る精霊の力である。

 これが意味することは、すなわち。俺がこれから転移する先は、【盾の勇者の成り上がり】世界ということになる。

 そして、目の前で微笑むアレは【神を僭称する者】だ。

 つまり、俺は【波の尖兵】としてどこかの世界に送り込まれるのだろう。

 もしかしたら、これは俺の目の前にいたイラつく中年のオッサンを助けてしまった報いなのかもしれない。

 

「では、偉大なる勇者様! これからの人生に幸のあらんことを!」

 

 ことを─ことを─ことを─……。

 俺は拒否をする余裕もなく、何か黒い物を埋め込まれて、どこかの世界に飛ばされたのだった。

 

 スゥッと謎の空間から、俺は菊池宗介のまま草原に立っていた。

 服装も、死んだ時のままの服だし頭を触っても、亜人の耳が付いていたりはしない。

 どこだここは! 

 と言うか、現地人と話せるのか? 

 不安に思いつつ、俺は周囲を見渡す。

 

「うおっ!」

 

 風船みたいな姿をした魔物が現れた。

 そう、俺はこの魔物を知っている! 

 

「ば、バルーン……!」

 

 俺はとっさのことであったが、バルーンの攻撃を受け流す。

 これでも小学生の頃から合気道をやっていて、高校生で初段を取ったのだ! 

 体が覚えているものである。

 バルーンの飛びかかる勢いをそのまま右手に沿わせる。そのまま転換をして、体の向きを変えて、地面に叩きつける。

 くっ、やっぱりそうそう簡単には死にはしないか! 

 

「うりゃ!」

 

 俺は再び飛びかかってきたバルーンに当身を入れる。

 バチーンと音がして再びバルーンが吹っ飛ぶ。

 何度かバルーンとの攻防を繰り返すと、パンっとバルーンは割れてしまい、視界に【EXP 1 】と表示される。

 

「……マジかよ」

 

 俺は息を整えながら、視界の右下に意識を向けると、アイコンが存在するのを確認した。

 これはまさに【ステータス魔法】と言うやつである。

 アイコンを意識すると、視界に俺のステータスが表示される。

 うわ、効果音までアニメまんまじゃないか! 

 

「ここはマジで【盾の勇者の成り上がり】世界なんだな……」

 

 俺は愕然とする。

 それも、【波の尖兵】として【神を僭称する者】に転移させられたのだ。

 おそらくNG行為は、この事を誰かに打ち明ける行為だろう。

 万が一実行しようとすれば、頭が破裂して魂も破裂してしまう。

 文章で伝えるのもできないだろう。

 そう言う意思を持った途端にバーン、GAMEOVERだ。

 俺は恐ろしさにブルっとしてしまう。

 

「……現状確認はできた。それならば、生き残り続けるしかない!」

 

 俺は決意した。

 まあ確かに【やり直し】で赤豚姫スタートよりはマシだろう。

 若干詰みかかっているだけで、完全に詰んでいるわけではない。

【神を僭称する者】がいると言う事は、この世界は最初のループであると考えることができる。

 ならば、俺がやることは、冒険者として愚直に波と戦う事だけだろう。

 波の尖兵としては間違っているが、まあ、あの【神を僭称する者】の事である。【盾の勇者の成り上がり】本編を邪魔さえしなければ問題ないだろう。

 管理も分霊のクズ女に任せているだろうし、ヴィッチに転生者を殺す描写は無かった。

 

「……とにかくなんとかするしかない!」

 

 あえて転移を選んだのなら、自活できる環境を整え、生き残るために努力するだけである。幸いにして俺には、【盾の勇者の成り上がり】のweb版、小説版、書籍版の21巻、【槍の勇者のやり直し】、【真・槍の勇者のやり直し】の伝承のフィロリアル編までの知識はある。

 波が終わるまで、岩谷尚文が【神を僭称する者】を倒す存在になるまで、俺は生き延びる事を硬く胸に誓った。




前提知識は本文内に書いてます。


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ここはどこ

 さて、決意を固めた俺に次の問題が降りかかる。

 ここはどこだ? 

 万が一メルロマルクであるならば、バッドだろう。

 メルロマルクは【三勇教】と言う、剣、弓、槍の勇者を崇拝し、盾の勇者を悪魔とする宗教なのだが、実はこの【三勇教】は冒険者や所在不明な人間を厳しく監視するのだ。

 要するに、メルロマルク内で活動するのは非常に面倒臭いのだ。

 だからこそ、序盤で勇者たちは転生者に襲われないし、順当にレベル上げできたのだ。

 ラルク達【狩猟具の勇者】の世界の勇者達が冒険者としてこの国を訪れたのも、グラスと言う【扇の勇者】から【盾の勇者】の情報を聞いていたからもあるが、女王が復権し、【三勇教】が邪教として表舞台から姿を消したからこそメルロマルク内で活動をするに至ったのだろうと推測する。

 また、シルトヴェルトであるならば、最悪である。

 この国は逆に【盾教】であり、盾の勇者を崇拝している亜人国家だからだ。

 つまり、人間は奴隷狩りに会う可能性が高いと言う事である。

 最良のはゼルトブル、次点がフォーブレイだろう。真ん中がちょうどシルトフリーデンか。

 ゼルトブルならば、あの国は闇の深い国であるから活動しても何ら支障はないだろう。

 フォーブレイは、過ごしやすい国だがあの国は転生者があちこちにいる国だ。独善的でわがままで人の話を聞かないゲーム感覚連中の集まる国ならば、生き残るには問題ないかもしれない。だが、あの国にはタクトがいる。つまりはそう言う事だ。

 シルトフリーデンも同じ理由だ。あの国はネリシェンと言うアオタツ種のタクトのハーレムが治めている国だ。

 

「どちらにしても、人里を探さないとな……」

 

 俺は木の棒を装備する。太くて長くて頑丈そうなものを選んだ。

 すると、ステータスの攻撃力が+2される。

 勇者ではないので視界に映る項目はそこまで多くはない。

 スキルは確か、勇者専用だったっけ……? 

 ちなみに、服は【異世界の服】で防御力は0である。

 これは、わかっていたことではあるけれどね。

 

 しばらく歩いたが、たまにバルーンに遭遇する程度で安全に散策することができたのは行幸だろう。

 盾の勇者である尚文ならば、わんさか出てくるのだろうが、あいにく俺にはそう言う能力はない。あるのは【勇者の武器】を奪うスキルぐらいだろう。

 お酒も飲んだら普通に酔うしね。【弓の勇者】の世界で言う異能力だったか。そう言うものは俺の世界にはなかった。

 今の首相も安倍晋三だし、VRは普通に存在するが、Mixed Realtyレベルである。まだいわゆるVRMMOはあいにくと存在していない。

 最近はVtuberとか流行っていたし、まさに俺の住む世界は平均的日本なのだろう。

 

 そんな事を考えながら森を進んでいくと、一軒の小屋にたどり着いた。

 雰囲気から、人が住んでいそうである。

 

「すみませーん」

 

 俺は言って気づいた。アレ、日本語って通じなくないか? 

 案の定通じなかったらしく、よくわからない言葉で中に居た女性が話しかけてくる。

 

「%▽×◯□」

 

 オウフ……。仕方ない。

 海外で困ったらボディランゲージである! 

 幸いにしてここに住む女性は人間に見えた。

 

「スミマセン、ここは、どこ、ですか?」

「▽□××%◯」

 

 あー、全く分からなかった。

 相手の女性もそれに気づいたのか、少し考えると日本語の発音とは異なるがこう言った。

 

「メルロマルク」

「メルロマルク?!?!」

 

 俺は驚いて尻餅をついてしまった。これは最悪だ。なにせ、本編の舞台であるからだ。

 少しでも干渉すれば、波は解決どころの話ではなくなるからだ。

 それに、盾以外の四聖勇者にヘタに干渉しても不味いだろう。関わり合いにならないためにも、メルロマルクから早急に出た方が良かった。

 

「えっと、さ、サンキュー!」

「%$◯▽□▽!」

 

 女の子に腕を掴まれた。

 彼女もジェスチャーをしてくれるおかげで何を言いたいかが理解できた。

 

「これからすぐに暗くなるから、今夜はここに泊まっていって」

 

 と言っているのだろう。まあ、多分であるが。

 周囲を見渡すと、確かに暗くなり始めていた。

 しかし、女の子が一人でこんな小屋に何故暮らしているのだろうか? 

 疑問はすぐに解消された。

 家主である、女性のお父さんが帰ってきたのだ。

 

「はじめ、まして! 旅人です! えーっと、迷子、です! 今晩は、ここに、泊めてください!」

 

 ジェスチャーを交えながらなんとか相手に伝わり、家主のおじさんは首を縦に振ってくれた。

 勇者というのは精霊が翻訳してくれるらしいので言葉に困らないが、異世界転移の俺はそういうものはないらしく、言葉の壁にぶち当たっていた。

 俺は言葉の分からぬまま、部屋に案内された。

 ここで休めという事だろうか? 

 俺がジェスチャーをしながら確認をすると、首を縦に振ってくれた。

 伝わるまでに10分少々かかるのは不便である。

 だが、なんとなくではあるが法則性がみえては来ていた。メルロマルク語はおそらく英語に近いのだろう。ジェスチャーでやり取りするうちに、主語とか述語とかの位置と、一人称と二人称についてはなんとなくわかってきたぞ! 

 俺はこの優しい二人に言葉を習おうと決めた。それ以外に適任がいるだろうか。

 この機会を逃すすべはない。

 俺は女の子に色々と物を聞いて回ることにしたのだった。




最初にぶつかる壁はやはり言葉です。
ただ、話せないとどうしようもない状況なので、異様に習得が早いです。
ちなみに、チートを拒否らなければオマケで異世界言語解析/会話を覚えられました。


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言葉の壁

 言葉を話せるようになるまで、そう時間はかからなかった。

 と言っても、カタコトぐらいならわかるし話せる程度ではあるけれどもね。

 いや、【神を僭称する者】だったら翻訳ボーナスぐらいつけてよと思ったのだった。何故こんな事で苦労せねばならないのか。

 

「ソースケ、オハヨ」

「おはよう、レイファ」

 

 俺を泊めてくれた女の子、名前はレイファと言うらしい。

 父親の名前はドラルと言う。実際のフルネームが聞き取れるほど習熟はしてないからね。

 

「今日、言葉、学ぶ?」

「うん、お願い」

 

 というわけで、献身的にレイファは俺に言葉を教えてくれた。それがなんの得にもならないだろうに、教えてくれる彼女に俺は感謝でいっぱいだった。

 ドラルさんも言葉はあまり分からないが、ご飯と宿を分けてくれるのでありがたかった。

 

「言葉、わからない、仕事、できない。言葉、覚える、早く」

 

 とのお達しだったので、俺は力を入れて言葉の学習に励んでいた。

 流石に、家事はわかるので、レイファの手伝いをしながら言葉を覚えたんだけれどな。

 ちなみに、さっきのお達しはレイファのおかげで理解できた。

 それからおよそ8日も経過していた。おかげで、俺はメルロマルク語の会話が、幼稚園生レベルではあるけれどもできるようになっていた。

 

「おはよう、ソースケ」

「ああ、おはよう、レイファ」

 

 会話ができるってこれほど素晴らしい事だったのか! 

 俺は心が躍る。

 

「ふむ、これならようやく仕事を任せてもいいな」

 

 ドラルさんは俺と少し会話すると、そんな事を言った。

 そりゃまあ、働かざる者食うべからずである。

 異世界生活初日から言葉がわからないとかよくわからない状況だったしな。

 ドラルさんは俺に剣を渡してくれた。

 

「これは?」

「レベル必要、あー、魔物、狩る。素材、渡す。オーケー?」

 

 つまり、魔物を狩りながらレベル上げをして素材をドラルさんに渡せという事らしい。

 この世界では魔物の素材を売買する仕組みがあるから、それで稼ぐこともできるからな。

 一宿一飯の恩義は返すべきだろう。

 

「わかった」

「レイファ、%◯が心配だから、▽□しろ」

「わかった、お父さん」

 

 レイファは俺の方を向くとこう言った。

 

「私、一緒に、行く」

 

 と、レイファからパーティ申請が飛んできた。

 これがパーティ申請ねぇ。

 もちろん俺はパーティ申請を承認する。

 

「オーケー、行きましょ、ソースケ」

「わかった」

 

 俺は重たい剣を持って立ち上がる。

 片手剣とは言っても重いが、持てないこともない。

 構えは合気道寄りになるけれどね。

 さて、そんなこんなでレイファに連れられて、森の中へとやって来た。

 

「バルーン、いっぱい倒して」

「了解!」

 

 バルーンの残骸は10枚で銅貨2枚だったはずだ。それなりに倒せば、結構稼げるのだろう。

 剣を使っているおかげか、バルーンは容易く倒すことができる。

 重たい片手剣であるが、両手で持てば使えるし、合気道のように剣を力の流れに沿わせることで攻撃するのは容易かった。

 結局、今日一日頑張ってレベルが2になった。

 だが、使い慣れてない剣を使っていたせいか、手にマメができてしまった。

 

『力の根源たる私が命じる。理を今一度読み解き彼の者の傷を癒せ』

「ファスト・ヒール」

 

 レイファはそんな俺の手に回復魔法をかけてくれる。おかげで手の痛みはそこまで気にせずに戦うことができたのは幸いだった。

 ちなみに、魔法名は固有名詞なので聞いたままである。

 そして、詠唱も日本語で聞き取れた。

 設定だと、魔法文字というのはそれぞれに聞き取りやすい言葉で聞こえると言う設定がある。だからこそステータス魔法は俺が使うと日本語で書いてあるのだろう。

 俺はそんな日常を繰り返していた。

 日数にしておよそ10日、異世界に来てから18日が過ぎてしまったが、こう言った生活のおかげか、レベルは5、言葉は日常会話をできるまでになっていた。

 結構な量の魔物を、ウサピルなんかも含めて倒したけれども経験値が渋く、レベルは上がらない。

 そして、レベルアップ時のステータス上昇もそこまで無い。

 これが盾の勇者の世界の一般人かと直面する。

 

 ただ、俺はようやく言葉の壁を乗り越える事ができたのだった。




勇者でないのでハードモードです。


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文字を覚えてみよう

「ソースケ、ソースケは魔法使えないの?」

「いや、使えないぞ」

「ふーん、それじゃあ次は文字を覚えようか」

 

 メルロマルク語の読み書きか。確かに習得した方が良いのだろう。

 実際、盾の勇者も魔法を覚える際に苦労していたしな。

 

「と言っても、言葉を話せるようになったソースケなら、簡単に覚えられると思うけどね」

 

 確かに、簡単な文字程度ならば既に読めている現状である。

 後は単語を覚えていけば良いだろう。

 しかし、改めてレイファを見ると、ブロンズの髪に金色の瞳をした美少女である。年齢は16歳だったかな。俺の年齢が20歳だから、ちょうど良い年齢ではある。まあ、レイファとの関係は兄妹みたいな関係になっていると思う。

 レイファについて説明すると、レイファはドラルさんの娘である。母親は流行病で亡くなっており、父親とこの小屋で二人で生活をしているらしい。

 ドラルさんは木こりをしており、道中で魔物を刈ったりしてそれを売って生計を立てているのだそうだ。

 近くにはセーアエット領があり、領主のいる町で素材の売却をしているとか。

 セーアエット……。いや、わかっている。メルロマルクの過激派にとって目の上のタンコブみたいな場所だ。

 まだこの周辺ぐらいしか行動範囲はないから行ったことはないが。

 さて、話を戻そう。

 レイファは一冊の本を持ってきた。

 表紙を見れば、それが児童文学書であることがわかる。

 パラパラとめくると、剣の勇者様の物語が非常にわかりやすい単語で書かれているのがわかる。

 

「へぇー、確かにこれは読みやすいな」

「でしょ? 私もこの剣の勇者様の本で文字を覚えたのよ」

 

 内容としては、かつて召喚された剣の勇者が青龍と言う守護獣を倒した物語のようである。

 当代の剣の勇者である天木錬もドラゴンを倒しているので、改めて剣の勇者というのはドラゴンに因縁があるのだなと思った。

 そして、守護獣を倒した剣の勇者様はお姫様と末長く暮らしましたと続いている。

 何というか、ドラクエを思い起こさせる王道展開だ。

 イラストも児童向けのイラストだし、読みやすい。文章も綺麗に文法が整っているので、ハッキリとわかる。

 

「……あれ、全部読めちゃったぞ」

「これは結構簡単だもんね。この部屋の本棚に入っている本は読めるようになった方が良いよ」

「そうしたら魔道書も読めるかな?」

「うん、もちろん!」

 

 レイファの笑みに癒される。

 まさに妹といった感じだ。

 異世界に来て妹が出来るとは思っても見なかったが。

 

「あ、あとね、ソースケは勇者様と同じ世界から来たんでしょ?」

「あ、ああ」

 

 誰にまで言いそうになると死ぬから気をつけなければならない。

 

「なら、召喚される勇者様は魔力と言うのがわかんないらしいから、水晶玉で一個魔法を覚えた方が良いってお父さんが言ってた」

「そうなんだ。本当に助かるよ、ありがとう!」

「うん、魔法が使えるようになったら、もっと効率のいい仕事を任せられるってお父さん言ってた!」

「と言っても、俺は勇者の世界から来たとは言っても、勇者じゃないからなぁ……」

「流石にそこはお父さんもわかってるよ」

 

 その日はレイファと家事をしながら本を一日中読んでいた。

 翌日、ドラルさんは俺にこう切り出した。

 

「坊主、メルロマルク語は十分学習したようだな」

「ああ、まだちょっとわからない単語もあるけれど、会話をするのには十分だと思うぜ」

「そうか、ならばセーアエット領城下町に向かうとしよう」

 

 この小屋は別にセーアエット領内には無く、隣のアールシュタッド領内に存在するらしい。いや、聞いたことないんだけど。

 アールシュタッド領城下町よりもセーアエット領城下町の方が近いため、ドラルさんはよく素材や木材を売りに行くらしい。

 

「フィロリアルで3時間ほどだ」

 

 フィロリアルは知っている。

 基本的にドラルさんが世話をしているため、あまり見ることはないが、ライトグレー色のフィロリアルをドラルさんは飼っているのだ。

 名前はラヴァイトと言うらしい。

 確かにダチョウみたいな見た目をしており、健脚な感じがする。

 

「へぇー、コイツがフィロリアルなんだ」

「グアー!」

 

 俺は思わず撫でる。

 羽毛がフワフワしており、人懐っこいことがわかる。

 

「ほう、坊主はフィロリアルを知っているんだな」

「実際に見るのは初めてだけれどな。実際見てみると、結構可愛いんだな」

「グアー」

 

 うーん、フィロリアルの真実がわかる22巻は全て読み終えてないんだよなぁ。

 元になったのは先代の盾の勇者の婚約者だ。

 名前は……最新巻だし伏せておくとしよう。

 今更な気もしないでもないけれどな。

 

「おい、坊主。そろそろ出るぞ」

 

 どうやらドラルさんは荷物を積み終えたらしく、俺に声をかけてきた。

 

「ああ!」

 

 馬車に乗り込むと、ドラルさんが端綱をバンっと鳴らす。

 

「グアー♪」

 

 すると、馬車が進み出した。

 

「ソースケはフィロリアル好きなんだね!」

「うーん、まあね」

 

 どちらでもないけれど、俺はモフモフは好きだった。

 触り心地が良いからね。

 

「それじゃ、到着まで3時間だ。それまでゆっくりしてろ。レイファも坊主が酔わないように話し相手をしてやれ」

「はーい」

 

 と、そんな感じで俺たちはセーアエット領城下町まで向かったのだった。




受験勉強で書きながら読みながら英単語を覚えますからね。
剣の勇者のおとぎ話はオリジナル要素です。
23巻の内容によっては変えると思います。


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魔法を使ってみよう

 おええええ……。

 俺はフィロリアルの引く馬車で完全に車酔いをしていた。

 なんと言っても揺れが激しいのだ。

 いちいち揺れが激しい。

 馬車が安物だと言う点も、乗り心地の悪さに拍車をかけていた。

 

「ソースケ、大丈夫?」

「おええええええええ……」

 

 俺は嗚咽を漏らしながらうずくまっていた。

 

「坊主、慣れればなんと言うことはない。レイファ、坊主に酔いを治す魔法をかけてやれ」

「うん、お父さん」

 

 そう言うと、レイファは俺に手をかざす。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、彼の者の酔いを癒せ』

「ファスト・キュア」

 

 初めて聞く魔法である。

 盾の勇者の成り上がりには出てこないのかな? 

 かけてもらうと車酔いがかなり引いた。

 

「あ、ありがとう、レイファ」

「うん、お安い御用よ。私も初めてフィロリアルの馬車に乗ったとき、酔いつぶれちゃったもの」

 

 天使のように微笑むレイファ。この子を守らないとなと改めて思う。

 幸いにして現状俺は人の話を聞き入れることができるらしい。

 まあ、いわゆる【事前知識】……ゲームの世界と思い込み要素は無いし、その後の運命をある程度知っていると言うのもある。

 それに、俺の周りには現状ヴィッチが居ないのも、認識の阻害を受けるのを防いでいると言えるだろう。

 あのおっさんだったら、きっと今頃ヴィッチと合流して、傲慢なままゲームの世界と思い込んでいたに違いなかった。

 

「酔いが治ったのなら行くぞ」

「はい!」

 

 俺は再度フィロリアルの馬車に乗る。

 それから、しばらく馬車の旅を楽しんでいると、セーアエット領城下町が見えてくる。

 遠目に見た感じだと、バイオプラントの木もなさそうに見える。普通に石造りの西洋風の街並みだ。

 ……時期的にはいつぐらいだろうか? 

 

「あのさ、レイファ」

「どうしたの? ソースケ」

「セーアエット領って波は起きていないのか?」

「波……ああ、厄災の波ね。喫緊だとフォーブレイで発生したって聞いたけれど、メルロマルクではまだ起こっていないわ」

 

【波】と言うのは、世界融合現象の事だ。何らかの理由で世界と世界がぶつかると、【波】が発生する。

 ディメンションウェーブといった方が日本人の感覚に近いだろう。

 この世界では【災厄の波】と呼ばれる。

 はっきり言えば、web版なら俺を転生させたやつのせいなんだけどね。書籍版の世界だとちょっとわからない。他に黒幕いるらしいし。

 話を戻そう。

 現時点でメルロマルクでは波は発生していないらしい。

 と言うことは、時間軸的には四聖勇者達が召喚される前と言うことになる。

 

「ふーん、教えてくれてありがとう」

「うんん、大丈夫だよ」

 

 レイファは素直で可愛い。本当に理想の妹みたいだ。

 思わず俺はレイファの頭を撫でていた。

 

「えへへ」

 

 可愛い。

 この世界でレイファのために生きるのもアリかもしれない。

 レイファのお兄さんとして生きていくのだ! 

 基本好き勝手していいわけだしね。

 思惑通りでないと思うけれども、知らんな。

 

「魔法屋に行くぞ。坊主、付いて来い」

「ああ、わかった」

 

 魔法屋は男性の魔法使いが受付をしていた。

 所狭しと魔道書や水晶玉が並んでおり、魔法屋と言われて納得する。

 

「おお、ドラル。お前さんがこの店に来るとは珍しいな!」

「ああ、実はコイツの魔法適性を見てやって欲しくてな」

「銀貨1枚だ」

「ああ」

 

 ドラルさんと魔法屋のおじさんはどうやら顔見知りらしい。

 が、金銭のやり取りはキッチリする間柄でもあるようだ。

 

「さて、君は勇者様の世界から来た少年だね」

「実際どうかはわからないけど、一応そう言うことらしいですね。俺は菊池宗介と言います」

「ふむ、おとぎ話に出てくる勇者の命名法則と同じだね」

 

 それにしても、何で日本出身者ばかりが波の尖兵や勇者として送り込まれるのだろうか? 

 まだ明らかになってないまま来てしまったので、知る由はないんだがな。

 

「さて、この水晶で少年の適正魔法を占おう。手をかざしてごらんなさい」

「こ、こうか?」

 

 んー? 

 かざしたところで、俺からは何もわからなかった。

 

「ふむ、少年は雷と補助に適性があるようだね」

「雷と補助……」

 

 まあ、実感はわかないよな。

 

「補助は持っているが、あいにくと雷の魔道書は持っていないな」

 

 ドラルさんはそう言って、銀貨を追加で2枚机に置く。

 

「それじゃあ、ファスト・サンダーの水晶玉をくれ。魔法の感覚を覚えさせたいからな」

「んー、あいよ。まあそんなものか」

 

 魔法のおやじさんはそう言うと、水晶玉を取り出した。

 

「そいつを持ってみな」

「あ、ああ」

 

 水晶玉を持つと、何かが流れ込んでくる。

 ほうほう、なるほど。魔法はこうやって使うのか。

 確かに第三の手を操作するイメージである。

 合気道の身体の使い方と同じように、今までに使っていなかった筋肉を動かすような感覚だ。

 

「ここで試されても困るから、店の裏手の広場で試してきたらどうだい?」

「そうさせてもらう」

 

 俺は感覚を忘れないためにも、イメージをしながら店の裏手まで回る。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を読み解き、彼の者に雷の洗礼を与えよ』

 

 魔法を唱える。これは確かに自動で詠唱が出てくる感じだ。

 唱えた瞬間に見えるターゲットカーソルを広場の中央に指定する。

 

「ファスト・サンダー」

 

 バチンと小さな落雷が発生する。

 おお! これが攻撃魔法なんだ! 

 俺は感動して思わずガッツポーズをしてしまった。




なんだかんだ言って順調な異世界生活です。


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波の前のセーアエット領

 魔法を覚えた俺は、ドラルさん、レイファと一緒に街を歩いていた。

 

「坊主の狩った魔物の素材を売りに行く」

 

 との事で、俺たちは付き添いである。

 セーアエット領城下町はそれなりに栄えている。

 アニメで見たメルロマルク城下町ほどではないけれども、普通に都市として機能しているようだ。周囲を見渡せば亜人の冒険者や商人の姿を見ることができる。

 亜人と言うのは、この世界では人間に尻尾やケモミミなど人間にない部位が発現している種族の総称である。

 ちなみにレイファやドラルさんは、人間である。

 

「ああ、だから馬車に色々積み込んでいたのか」

 

 俺は納得する。

 ダッダッとラヴァイトが馬車を引いてこっちに向かってきていた。

 

「グアー」

「よしよし」

 

 ドラルさんはラヴァイトを撫でると、馬車に乗って荷物を降ろす。

 

「坊主、手伝え」

「あ、ああ」

 

 俺もドラルさんを習い、馬車に乗り込み積荷を降ろす。

 

「ドラル!」

「買取商か」

 

 買取商らしき、商人と言った出で立ちの恰幅のいいおじさんがやってくる。

 

「買い取って欲しい魔物の素材が溜まったのでな」

「ああ、連絡は聞いていたからな」

 

 買取商が声を出すと、店員っぽい服装をした人が下ろした積荷を店の中に運んでいく。

 

「しかし、たまにしか売りに来ないが今回はえらい量だな」

「ああ、そいつを世話しててな。武器を選ばず魔物を倒せるから、素材収集を任せている」

 

 おそらく俺のことだろう。俺はどの武器を使ってもしっくり来ない。一応、ドラルさんに言われて剣、槍、弓全てを使うようにしているが、どうにもしっくり来ない。

 単に鍛錬不足だろうがな。

 レベルさえ上げればだんだん武器が使いこなせるような気になってくるのが恐ろしいところである。

 そして、昔はそこまでではなかったのだけれども、つい調子に乗ってしまいがちになっている気がする。

 褒められて嬉しいのは当然だが、気をつけないと天狗になってしまいそうになる。

 

「……確かに、人手が増えたらできることも増えるからな。ここ最近だと波の影響か魔物が活性化しているにもかかわらず経験値は変わらない状態が続いているからな。そうやって地道に魔物を討伐するのは良いことだろうな」

 

 買取商はそう言いつつも運び込まれる魔物の素材をつぶさに観察している。

 

「おっと、あの素材は傷みが激しくて引き取れそうにないな」

 

 そう言って、ウサピルの毛皮を荷物から取り出す。

 確かに言われてみればあのウサピルの皮は他と比べて毛並みが悪く見える。

 

「そう言うのは捨ててもらって構わない」

「そうかい」

 

 しばらく馬車から荷物を降ろしていると、最後の荷物になっていた。

 

「ふむ、これで終わりだな」

「そうだな、疲れたー」

 

 俺は馬車の端で座って足をぶらぶらさせる。

 

「では、清算に1時間ほどかかると思うからそれまでの間は自由にしていたらいい」

「わかった。それではその間飯にでも行くとしよう」

 

 と言うわけで、俺たちは食事に向かった。

 向かったのは良くある飲食店だ。

 中世のレストランという感じがする。

 中に入ると、アニメで見たメルロマルク城下町の飲食店と似たような内装の店だった。

 

「へぇ……。なんかすごいな!」

 

 こう、改めて異世界に来たんだとワクワクする。

 

「そう? まあ、ソースケにとっては珍しいかも」

「まあな。味はなれないけれど、それなりには美味しいし」

 

 店売りの食べ物は初めてだけれどな。

 

「いらっしゃいませ」

「定食ランチ3」

「銅貨24枚です」

 

 チャリっとドラルさんは財布から銅貨を取り出す。

 

「はい、定食ランチ3人前ー!」

 

 しばらく待っていると、定食ランチというものが出てきた。

 食用のフィロリアルのモモ肉のステーキ、サラダにスープ、パンのセットである。

 なかなか美味しそうである。

 フィロリアルはアリア種はこうやって食用にされるんだっけな。

 フィーロたんも、魔物の卵ガチャで売れなかったら食用フィロリアルになるのだろう。

 味付けは、日本人の舌からすれば変わった味付けである。

 ステーキソースも、サラダにかかったドレッシングもスープの味も若干イメージと違う。

 

「どう? 美味しい?」

「ああ、美味しいよ」

「えへへ、それは良かった!」

 

 レイファはニコニコしながらご飯を美味しそうに食べる。

 その顔は幸せそうで、食事を楽しんでいるのだなと感じる。

 メシの顔と言う奴だな。

 俺はレイファの顔を見るだけで癒される。

 

「さて、坊主。清算にはまだ時間に余裕があるから、お前の武器を見繕うとしようか」

「ああ、ドラルさん、何から何までありがとう」

「ふっ、これも先行投資だ。強い獲物を狩って、よりいい素材を売れれば、俺としてもお前に投資した甲斐があるからな」

 

 どうやら俺はドラルさんから期待されているようである。

 何故だろうか? 

 

「勇者の世界から来た勇者様ってのは決まって優秀だからな。四聖勇者様はまだ召喚されていないし、七ほし勇者様も杖、鞭、爪、投擲具以外はまだ召喚に至っていないと言われているから、坊主も七星勇者様の武具に呼ばれたのかもしれないと思ってだ」

 

 申し訳ない気がした。

 俺は、おそらくあの自己中おっさんと間違えられて、神を僭称する者に転移させられただけである。

 だが、期待を裏切るのは良くない。

 勇者の補正が受けれない分自力で頑張る以外に道はないだろう。

 

「じゃあ、新しい剣、槍、弓を見繕いに行くぞ」

 

 食事を終えた俺たちは、武器屋に移動するのであった。




アンケート設置しました!
良かったらお答えください!

ちなみに、菊池宗介はあの時点で波の尖兵を庇って死ななければ別の世界の聖武器に選定されてもおかしくは無い人物です。


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4つの武器

 武器屋はどうやら亜人のルーモ種と呼ばれる種族が営んでいた。

 イミアの叔父、トゥーリナだっけ? その人がどうやら営んでいるらしい。

 まだ、波が起こる前みたいだし、そう言うこともあるだろう。

 やり直しでも、ルーモ種はメルロマルクのセーアエット領にいた描写があるしね。

 

「いらっしゃい」

「すまないが、この坊主の武器を注文したい」

 

 ドラルさんはそう言って俺を指名する。

 

「ん? お前さんの斧じゃないのかい?」

「ああ、あの斧はまだまだ現役だ。買い替える必要は無いからな」

「そうか……。まあ、木を切り倒すだけなら大丈夫だろう」

 

 ルーモ種の鍛冶屋は俺を見る。

 

「ん? その少年は……?」

「ああ、拾った。勇者では無いから気にしないで構わない」

「いや、普通気になるだろう。人間だから奴隷では無いみたいだがな」

 

 やれやれと言ったジェスチャーをして、ルーモ種の鍛冶屋は俺にこう言った。

 

「それじゃあ、手を見せてくれないかな?」

「手?」

「ああ、手を見れば、どう言う武器が必要かはわかる」

「そういうものなの?」

「……」

 

 メルロマルク城下町の武器屋の親父さんと同じ技量を持っていたはずである。

 なので、俺は素直に手を見せた。

 

「ふんふん、なるほど。獲物は剣と槍、弓を使っているのか」

「ああ、コイツにあった武器を見繕ってもらえないかと思ってな」

「なるほど。と言っても、彼は4種類の武器を同時に扱うことに長けているんじゃ無いのか? 得意な武器と言うのは無いように思える」

 

 すごいな。そう言うのまでわかるのか。

 

「盾……は、この国だと嫌がられるだろうから、ドラルと同じく斧でも持ってみたらどうだ?」

「いや、流石に重くなりすぎないか……?」

「ふーむ、だったら、小手なんかはどうだ? ごちゃごちゃしている分、自分を守ることには弱いだろうからね。一撃必殺の斧か、隙を埋める小手のどちらかをお勧めするよ」

 

 俺は少し考える。

 バックラーみたいな盾は欲しいとは思っていた。

 ディルムットでは無いが、俺は剣と槍の二槍流で戦っている。距離が空けば弓で攻撃すると言ったスタイルだ。

 中近距離をカバーでき、遠距離も対応できるスタイルだ。俺は何故かこの戦い方がしっくりきている。

 普通では、こんなごちゃまぜな武器の戦い方は隙ができて扱いきれないのにである。

 

「じゃあ、小手で頼む」

「はいよ。それじゃ、小手のサイズを見繕うから、こっちにきてくれ」

 

 と、ルーモ種の鍛冶屋は俺の手の長さを計り、ちょうどいいサイズの小手を渡してくれた。

 ガントレッドと言えばいいのかな? 

 思ったよりも軽くて使いやすそうである。

 

「うん、なんかすごくしっくりきた」

 

 すると、左下に流れているログにメッセージが流れる。

 

 4つの武器を装備した事による装備ボーナス!

 

 ステータス魔法を見てみると4つの武器を装備した事によるステータスボーナスが付与されていた。

 どうやら、これがあの性悪女神から無理やり渡されたチートのようである。

 

「やっぱりね。君は武器の数が重要だと思ったんだ。もちろん、これらの武器は君のレベルに合わせているがね」

 

 そんな事までわかるのは、素直に感心せざるを得ない。

 

「ありがとう! 助かる」

「いえいえ。お代はドラルから貰っているから気にする必要は無いさ」

 

 しかし、武器も装備感も、4つも武器をてんこ盛りにしているのにしっくりくる。

 自分のポジションが正しい位置に収まったかのようなジャストフィット感とも言うべきだろうか。

 これは神を僭称する者から受けた呪いなのかもしれないがな。

 

「後は、防具だな。鎧は鎖帷子で大丈夫か? 皮の鎧よりは防御力があるからな」

「ああ、多分大丈夫だと思う」

 

 俺は剣を腰に収め、弓と槍を背中に背負う。

 ある意味三勇者を統合したと言った感じである。

 

「ま、これで坊主も初心者冒険者に見えるな」

「ソースケカッコいいよ!」

「へへっ、ありがとう」

 

 とは言え、しっくり来ると言っても使い慣れねば意味はない。

 魔物を倒す仕事の最中に武器が足りない気がして追加装備していた形ではあったが、クソ女神の呪いのせいだろうな。

 別に俺は勇者の武器を奪うつもりはない。

 奪えば話の本筋が変わるし、七星武器……この世界の眷属器を奪えば確実にタクトに殺されるからな。

 それに、俺をメルロマルクに転移させたクソ女神の思惑も図らなければならないだろう。

 ヴィッチから、メルロマルクの三勇教がメルロマルクで勇者召喚の儀式を行うと言うのは伝わっているだろう事は想像に難くない。

 と、考えるならば、俺の役目は四聖武器の簒奪なのだろう。

 4つも勇者武器を装備できると言う事から考えれば、自然とそこに行き着く。

 ならば、クソ女神の思惑を潰すならば、俺はメルロマルクで転生者狩りを行えば、筋書き通りになるはずだ。

 と、考えて思考を止める。

 

「坊主、そろそろ買取商のところに向かうぞ」

「ああ、わかった」

 

 俺は、自分が何のためにメルロマルクに転移させられたのか、与えられた力の目的は何なのかを考えながら、ドラルさんに着いていった。




宗介は4つの武器を装備するとステータスボーナスを得られます。
単体で装備して戦っても、何かしっくりきません。
また、本来召喚するべき波の尖兵代わりに転移させられているので、実は制約自体は重めです。


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冒険者をやってみよう

 それから、魔物の素材の買取金を受け取った後に俺たちはギルドに向かう。

 日本人的には冒険者ギルドと言った方が感覚的に理解しやすいが、要するに冒険者に国や個人からの仕事を斡旋する、役所みたいなところだ。

 俺の記憶に違いがなければ、メルロマルクのギルドは実質役場で間違いはない。

 セーアエット領は異なるが、基本的に国、ひいては三勇教が監視しているのがこの国の現状だ。

 

「坊主はギルドに登録してもらう。その仕事をこなしていくのが次の仕事だ」

「ああ、だから武器を新調したんだな……」

「そうだ。それに、ギルドに登録しておけばメルロマルク国内のどのギルドでも依頼を受けれるようになる」

「はぁー。便利っすねー」

「そうだ。レベルによって受けれる依頼の難度は決まっているから、無理さえしなければ金を稼ぐにはもってこいだろう」

 

 と言うわけで、俺はギルドに登録する事になった。

 この辺は尚文が使っていなかったせいか、非常に描写が少ない。

 俺が役場と表現したのも、国と深くつながっており、国の命令一つで斡旋するしないを決めるところにある。

 こういうのは、普通の波の尖兵なら面倒臭がってこないだろうなとは思う。

 実際、手続きも面倒臭かった。

 ドラルさんの紹介で冒険者としてギルドに登録するのが若干簡単なだけで、紹介なしや他国の冒険者のライセンスなしで登録するには面接やら色々と面倒な手続きが必要らしい。

 これじゃあ、この国出身の亜人は冒険者にもなれないし、盾の勇者がギルドを使用できるはずもなかった。

 

「ふぅ……ようやく手続きが終わった……!」

「ソースケ、おつかれさま」

 

 書類を何度か書き直したけれど、なんとか審査が通り、ギルドの使用許可と他国でも通用するライセンスが発行された。

 ギルド職員曰く、こういう書類は勇者様以外は基本的に代筆はしない方針らしい。

 

「割と早い方だったのではないか? 俺が登録するときはもう一時間くらい登録に時間がかかったからな」

「そ、そうなんだ……」

 

 こりゃ確かにメルロマルクで冒険者なんて最初の段階で躓くわけである。

 

「さて、今日は帰るには遅い時間だから、この街に泊まっていく。せっかくだから、坊主はレイファと一緒に、この依頼をやってみたらいい」

 

 ドラルさんが持ってきた依頼は、討伐系の依頼だった。MHを想起させるようなデザインの依頼書だなと思いつつ、内容を確認する。

 

「オオウサピルの討伐」

「ああ、レベル5なら問題ないだろう」

「ゴブリンとかファンタジー魔物じゃないんだな」

「ゴブリン?」

 

 反応からすると、ゴブリンは存在しないらしい。

 あまり魔物の描写はされないが、どうやらこの世界には居ないのだろう。

 むしろ、エルフやドワーフの存在がある【狩猟具の世界】の方にいそうではあるけれどもね。

 

「いや、勇者世界で有名な雑魚モンスターの名前さ。で、俺は今日はそれを狩ればいいわけ?」

「ああ、明日でも構わないが、お前の実力なら2時間ほどあれば大丈夫だろう。場所もそう遠くないからな」

「んー、わかった。ドラルさんがそう言うなら、俺にはできるんだろう。回復薬は何本か使って大丈夫か?」

「ああ、3本までなら黒字だな」

「よっし、それじゃ行きますか! レイファ、準備だ」

「うん、わかったわ」

 

 という感じで俺たちはオオウサピルを狩るために、テキパキと準備をして、現地に向かった。

 

 オオウサピルは巨大なウサピルである。名前の通りだな。

 ウサピルの成長先の一つで、強力な魔物である。

 ウサピルにも種族があるらしいけれど、俺には詳しくはわからなかった。

 

「ぴょ!」

 

 大量にいるウサピルを、俺は槍で突き殺していく。

 異様にウサピルが多く、歩いているだけで飛び出してくるほどエンカ率が高かった。

 とは言っても、通常のウサピルならばそこまで問題ではない。

 4つの武器装備補正もあるが、いい装備を装備したおかげか、かなり戦いやすいのだ。

 小手のお陰で合気道をかけて投げ飛ばした時のダメージも増えているらしく、レベルの割にはかなり戦えるようになっていた。

 

「お、レベル6に上がった!」

「ソースケ、おめでとう!」

 

 ちなみにレイファはレベルが9らしい。

 パーティを組んでいると左上のHP/MPゲージにアルファベットでレイファの名前と、HP/MPゲージが表示されるが、ステータスはわからない仕様である。

 若干遠目のウサピルを槍で、接近してきたウサピルを小手や剣で制圧しながら進んでいくと、でかいウサピルが出現した。

 

「ぴょ!!」

 

 出会い頭にオオウサピルは蹴りをかましてくる。俺は槍を両手で構えて、後ろに控えているレイファに当たらないように受け流す。

 

「くっ!」

 

 獲物が長い槍でうまく受け流すと、俺は槍を片手に持ち替えて剣を抜く。

 

「せりゃ!」

 

 ズバッとオオウサピルに攻撃が当たるが、上手く流されたのか大してダメージを負ってるようには見えない。

 距離を取られたので、すぐさま弓に持ち替えて矢を放つ。

 西洋弓なので、弓道のように胸を張って撃ったりはしないが、弦はちゃんと引き絞って撃つ。

 矢は腕の部分に刺さり、ダメージを与えたことがステータス魔法で確認できる。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、彼の者を風の力で薙ぎ払え』

「ファスト・ウインドショット!」

 

 レイファは魔法を唱えて、風の弾をオオウサピルに当てる。

 レイファは風魔法と回復魔法に適性があったのか。

 レイファの風の弾を受けたオオウサピルは吹き飛ばされてしまう。

 ちょうど俺の目の前にくる形になった。

 俺は剣に持ち変えると、レベルアップで覚えた必殺技を使う。

 

「必殺! 兜割!」

 

 飛び上がり、脳天を剣で割るように振り下ろした。

 グシャっと鈍い音を立ててウサピルの脳天をかち割る。

 頭部を大きく損壊したオオウサピルのHPはゲージが0になり絶命した。

 

「うーん、まあこんなものかな?」

 

 俺は剣を振り血を払う。

 ビュッと音を立てて、剣に着いていた血が地面に払われる。

 

「さて、解体してさばいた後、部位証明箇所を切り取って片付けますか」

「うん、わかったわ」

 

 俺たちはこうして、初めての依頼をこなしたのであった。

 もちろん、レベルアップにまではいかなかったけれど、それなりの経験値は得られたけれどね。




盾の勇者世界の魔物って強さごとのリストってないんですかねぇ?


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正しい波の尖兵のあり方

俺TUEEEかな?
宗介は対人戦は強さに補正が入ります。


 俺とレイファがウサピルを解体して内臓を焼き、肉を適当に切り分けて皮を剥いで、荷物として纏めた。

 その間にも当然ながら襲ってくることがあるので、俺が撃退しながら、レイファが解体する感じになった。

 と言っても、レイファは別に弱いわけではない。

 単に俺がレベル上げのために動いているだけである。

 実際、レベルは全く上がらないわけであるが。

 取得経験値と必要経験値の差が激しいのだ。

 ウサピル程度なら経験値が3しか入らず、オオウサピルで12程度なのだ。

 渋いどころの話ではない。

 

「ソースケ、これ以上は持てそうにないから、残りは捨てるね」

「ああ、頼む」

 

 皮は高値で売れるので、ほとんどは収集するが、肉は生肉なので、あまり高値で売れない。

 なので、内臓以外は地面に埋めたりして自然に返す。

 

「さて、そろそろ戻るか」

「そうね、荷物はどうする?」

「俺が持つよ」

 

 俺はそう言うと、紐で結んだウサピル達の皮を背負う。

 骨と肉は全て埋めて処分した。

 

 さて、俺たちは城下町に帰宅途中に奇妙な連中に遭遇してしまう。

 ソイツは、世の中を舐め腐った目をしており、不快な笑みを浮かべて女を侍っている奴であった。

 女冒険者を4人引き連れている。

 

「よぉ、お前、いい女連れてるなぁ」

「あ゛?」

 

 第一声、俺たちが交わした言葉はそれである。

 非常に不愉快な感じがして、意識しないと言葉が荒くなってしまいそうな感じがした。

 

「誰だ、テメェ……?」

 

 俺が睨むと、ソイツは嘲るように返答する。

 

「ハッ! 名乗る時は自分からってのが礼儀だろうが!」

「そうよ! あんたから名乗りなさいよ!」

 

 非常に不快な奴等だ。

 本来であれば、俺は相手しないはずである。

 しかしながら何故か、相手をしてしまった。

 

「は? いちゃもんつけてきたのはテメェだろうがスカタン! 要件と名前を名乗れよ」

 

 ムカつく。

 が、奴は俺の話など聞く耳が無いようであった。

 レイファがぎゅっと俺の服の裾を掴む。

 

「ソースケ、怖いよ」

 

 その言葉に俺はハッとした。

 いくらムカつく奴とは言っても、いきなり暴言は失礼だろう。

 それに、レイファを怖がらせてしまった。

 俺は深呼吸をして、自分の顔をパンパンと両手で叩く。

 

「……すまない、失礼だった。戦闘後で気が立っていたみたいだ」

 

 うーん、やっぱり、こいつらを見ていると不快である。

 が、奴はもっと不快なことをほざくのだった。

 

「なら、お前の女を寄越せよ。お前ごとき雑魚に侍られるなんて可哀想じゃないか!」

「あ゛?!」

 

 レイファは物じゃない! 

 レイファは俺の大切な妹みたいな存在だ! 

 俺の頭の中でブチンと音を立てて何かがキレる。

 沸点が異様に下がっていることは、俺も自覚している。

 だが、世の中には言っていいことと悪いことがあるだろうが! 

 

「ふざけるな! テメェ!」

「お? やるのか? 良いぜ、かかってきなよ!」

 

 ソイツは剣を抜く。当然ながら周りの女共もそれぞれ武器を装備した。

 俺は剣と槍を装備する。

 

「レイファ、下がっていてくれ。コイツを俺は許せん!」

「う、うん、わかった」

 

 レイファが怖がっているな……。

 アイツらがどう言う実力か知らないが、1対多だ。

 俺は呼吸を整える。

 

「行くぜぇぇぇ!」

 

 一直線にアイツが見え見えの攻撃をしてくる。

 正面打ちよりも無様な剣筋だ。

 なので、剣を剣に合わせて、相手の振り下ろしに沿わせる形で転換をして切り払う。

 む、腕を切り飛ばしたつもりだったが、あまり切れていない気がする。

 

「「「「──様!」」」」

 

 四人の声が重なって、コイツの名前が聞き取れなかった。

 どうでも良いけどね。

 

「ツヴァイト・アクアショット!」

「狙い撃ち!」

 

 魔法と矢が飛んでくる。

 しかし、俺は矢を槍で弾き、魔法は回避する。

 別にウサピルばかり狩っていたわけではないのだ。

 レベル差がありまくる野獣と戦うことだってあった。

 だから、そんな攻撃は見える範囲内ならなんとか避けれるようになった。

 

「はああ!」

 

 切りかかってくる女の剣を受け流し、俺は腕を取る。

 そして、くるっと回転しながら巻き込み、地面に頭を強打するように叩きつける。

 ゴシャッと良い音がした。

 

「1匹目」

 

 後遺症は残るだろうが、俺を攻撃した罰だ。

 

「ライシャああああああ!!」

 

 続けて攻撃をしてきたやつのナイフを槍で突き落とし、くるっと槍の穂先を回転させて腕を取る。

 そして、遠距離攻撃してくる女共のところにぶん投げる。

 

「きゃああああああ!!」

 

 ちょうど、遠距離組が攻撃を発射したタイミングに合わせたので、ナイフ女に攻撃が全て直撃した。

 遠くに飛ばされて木にぶつかり、完全に気を失ったように見える。

 

「2匹目」

「サアヤああああああ!!」

 

 女の名前を叫びながら突撃してくる阿保に、俺は槍を構えて迎え入れる。

 槍版の小手返しと言うものを見せてやる。

 振りかぶる剣に合わせて槍の穂先を沿わせる。

 振り下ろしと同時に、槍をうまく操作して、力を流す。

 流した方向に阿保が走るので、手元に引き寄せる。

 あとは、くるっと転換して、手の甲に剣を持った手を沿わせて、人差し指を地面に向けて捻るだけである。

 ゴキッと音がして、阿保の関節が外れる。

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「「──様あああああ!!」」

 

 阿保を無力化したので、装備を矢に切り替える。

 ビュッ、ビュッと矢を放ち、不正確ではあるが、杖と手元を狙い撃つ。

 まあ、ど素人の弓が正確に射ぬけるはずもなく、魔法使いの足と、弓使いの腹部に命中したわけだが、問題ないだろう。

 

「貴様あああああああ!」

「あれあれ? どうしたのかな? レベル6の雑魚一人相手になんで君は地に付しているのかな?」

 

 ムカつくので煽ってやる。

 自分でも悪い顔をしているのがよくわかるが、まあ良いだろう。

 

「クソがああああああああああ!」

 

 まだ叫ぶ余裕があるか。

 俺は阿呆の腕を足で押さえつけているが、さらに圧力をかける。

 メキメキっと関節が軋む音がする。

 

「がああああああ! ギブギブ!!」

「ギブアップは認められませ────ん!!」

 

 なんだか楽しくなってきた。

 なので、ついでにもう一本骨を折ることにした。

 ぐりっと足を捻る。

 ゴキンと骨が折れる音がした。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」

「はっはっは! 良い声で鳴くな! もっとだ! もっと聞かせろ!」

 

 ゴキキっと追撃をすると阿保は白目を剥いて気絶した。

 ふん、つまらないやつだ。

 

「ソースケ様!」

 

 と、魔法使いの女が俺の名前を言いながら擦り寄ってきた。

 

「私たちを許してください! ソイツに命令されていただけなんです!」

「そ、そうですわ! 悪どいその雑魚に、味方するように命令されていただけですわ!」

 

 なんだコイツら?? 

 と、ここでようやく、俺はこの阿保が波の尖兵であり、この二人の女がクソ女神の分霊である事に思い至った。

 どうやら、レイファを物のように寄越せと言われた事に対して頭に血が上っていたらしい。

 はぁー……。

 クソ女神の分霊なら、俺には無下に扱うことはできないし、どうしようかな? 

 俺は悩んでしまうのであった。




追記:波の尖兵・勇者相手には性格が悪くなってしまうのは呪いのようなものです。


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女神の警告その1

「……えーっと、アイツら手当てしないで良いの?」

 

 コイツら、よく見たら当てたはずの弓が刺さっておらず、回復までしている。

 さっすが、クズ女神の分霊だなぁ。

 顔がいいからアレだが、感心してしまう。

 

「私たちはあの雑魚に無理やり戦わされていただけなんですわ」

「……はぁ」

 

 ま、下手に相手にいちゃもんつけてくるやつなんてのたれ死んでも知らんが。

 

「……レイファ、帰ろう」

「え、でも……」

「あー、あとでギルドには報告するさ。そしたら誰かが回収してくれるだろ」

「う、うん……?」

 

 レイファも承服はしかねる感じではあるが、襲ってきた以上俺もアイツらを手当てする義理もない。

 そこは分かっているのか、レイファは大人しく俺についてきた。

 

「私達も付いて行きますわ!」

「……勝手にしてくれ」

 

 うーん、コイツらどうしようかな。

 仲間にでもしてみろ。

 レイファがライノのように娼館に売られる未来しかないだろう。

 つまり結局は俺の敵だ。

 ただ、殺すと制約に引っかかりそうな気がするので、どうするかは悩みどころである。

 それに、レイファの教育にも、俺の性格が歪みかねない懸念から考えても、一緒にいるのも悪い事だろうしな。

 正しい波の尖兵ならば「俺の正義に目覚めた」と思うところなんだろうが、俺にはやはりクズにしか見えない。

 本当に、なぜ俺が波の尖兵として送られたのだろうか? 

 

 さて、結局名前の分からなかった阿呆のことについてはギルドに報告して、クズ女神の分霊供とはなんとか穏便に別れた。

 

「ソースケ様と一緒に旅をしたいです」

 

 などと言っていたが、俺はすでに契約済みの冒険者である事、契約を切るつもりがない事を説明して、帰ってもらった。

 どうやら、この2人はメルロマルク国内のどこぞの領主のお嬢様らしかった。

 なんとか別れる際に舌打ちをされたが、分かっていた事なので流す事にした。

 

「へぇー、見知らぬ冒険者にレイファを寄越せね……。坊主、よくレイファを守ってくれた」

「当然だ。レイファは俺にとっても大切な人だしな」

 

 そう、言葉を覚えるのにも付き合ってくれたし、手取り足取りこの世界を教えてくれた大切な人の1人である。

 ドラルさんも同じく、俺にとってはかけがえのない人だ。

 この世界で言えば、父親のような存在だ。

 年齢的に言えば、ドラルさんは34歳なので、父親というには若いけれどな。

 

「フッ……。では、宿に行くぞ」

「ああ」

「うん!」

 

 と言うわけで、俺は宿に泊まる事になった。

 

 その晩、夢を見た。

 

「勇者よ、菊池宗介よ。お告げをしに来ました」

 

 その姿は、間違いなくクズ女神である。

 

「間も無く、あなたの国で第■■回ディメンションウェーブが開催されますわ。レベルを上げるのに好都合な設定にしておりますので、奮ってご参加ください」

「は、はぁ……」

「また、女性を侍らす事によって、貴方の冒険にとても有利になります。明日、1人の女性がセーアエット領城下町に到着しますので、仲間として迎え入れると良いでしょう」

「あの、あんたの呼んだ冒険者か何かをのしてしまったんだが、良かったのか?」

 

 俺が質問すると、にこやかに答える。

 

「勇者様候補の1人ですね。私としては候補のお一人ですので、別段倒してしまっても問題ありませんわ。より強い方が勇者となれば良いだけですからね」

「そんなものか……」

「はい、勇者争奪バトルロワイヤルと捉えていただいて結構ですわ」

 

 まあ、俺はあまりクソ女神の影響を受けていないみたいだし、夢で出てくるというのもあるだろう。

 で、こう忠告されたということは、その女を【必ず】仲間にしなければならないという事である。

 それに、回数が聞き取れなかったが、間も無くセーアエット領での厄災の波が発生するという事だろう。

 

「質問をお受けできるのは今回までですわ。ほかにありますか?」

 

 下手な事を聞いても、命を縮めるだけだろう。

 制約さえ守れば基本自由にして構わない方針なら、俺も自由にさせてもらうさ。

 

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

「そうですか。では、勇者様の異世界ライフが楽しいものである事を」

 

 ことを──ことを──ことを──。

 以前転移させられたように、スゥッと意識が遠のいた。

 余りにも唐突ではあるが、俺があの女達を拒んだせいだろう。

 いや、手のひらクルーな女は普通拒むって。

 とりあえず、嫌ではあるが、ヴィッチみたいな女を仲間にする必要があるようである。

 監視の目をつけたいという事なのだろうなと推察するが、合っているだろうか? 

 翌朝、起きた時も記憶はちゃんと持っていたので、俺はため息をついて、どうするべきか考える。

 重要なのはレイファを守る事である。

 あの真っ直ぐで良い子をクズ女とつるませて、性格を捻じ曲げてしまうのは、守ったとは言えない。

 だから、その女がセーアエット領に来る前に、策を考える必要があったのだ。




本来はこんな警告はしてくれません。
いっぱい送ってるから管理面倒臭そうだしね。
制約も基本違反したらオート発動でしょうね。


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ミナ=デティラ

 しばらく考えても、いい策は思いつかなかった。

 

「ソースケ、朝だよー」

 

 コンコンとノック音が聞こえてくる。

 

「ああ、起きてるよ、レイファ」

 

 俺は手近の服をサッと着る。

 インナーで寝ていたので、そのままだと問題だろうからな。

 扉を開けるとレイファがニコニコしながら待っていた。

 

「おはよう、ソースケ」

「ああ、おはよう、レイファ」

 

 天使がいた。

 まさにこの世の天使だろう。

 この天使を歪ませるのは、誰が許そうと俺が許せない。

 レイファの肉体も精神も、守るのは俺自身である。

 クソ女神の……メガヴィッチの制約に俺は負けてはならなかった。

 逆らえば頭と魂がパーンではあるが。

 

「朝ごはんできてるから、食べに行こう?」

「ああ」

「えへへ」

 

 うーん、こういう妹は最高やな! 

 だが、この妹を守るためにも、俺はヴィッチとレイファを会わせてはいけないと思う。

 あのクソ女がどういう人物かと言うのは【盾の勇者の成り上がり】で散々思い知っているからな。

 一番は、燻製……マルドみたいな同類に押し付けてしまう事だろう。

 類は友を呼ぶと言うしな。

()()()()()()()()()()ならば、制約には違反しないだろう。

 ……この国にはそう言う自分勝手な奴らは多数いるだろうから、押し付ける分にはそこまで問題ではないだろうな。

 最悪、錬を見習って普段は別行動にしてしまうのもアリかもな。

 俺はそんな事を考えながら、朝食を食べてしまった。

 

「坊主、仕事に行くぞ」

「ああ」

「私は?」

「レイファには今日は別の仕事を任せる予定だ」

「うん、わかった」

 

 と言うわけで、俺はドラルさんに連れられて、次の依頼を受けに行った。

 

「坊主、基本はお前にはギルドで仕事を受けてもらう」

「ああ、だから登録をしたんだな」

「そうだ。もちろん、お前が自立してやっていくのは構わない。人手が足らなければ、レイファを連れて行って構わない」

「報酬の分け前は?」

「家賃、食費、今回の武器代を払ってもらえれば良いさ」

 

 うーん、ドラルさんは人が良すぎないか? 

 なんだかんだ言ってメルロマルクはクソみたいな村人が多いからな。

 まあ、これでさようならなんて恩知らずなことはしないがな。

 

「わかった。じゃあ今日も簡単な依頼を受けて、戻る感じかな?」

「そうだな。俺は一度戻って木こりをするが、夕暮れになったらラヴァイトと共に迎えに来るとしよう」

「了解」

 

 という感じで、俺はドラルさんと別れて、ギルドのカウンターに向かった。

 さて、クソ女とどのタイミングで出会うやら。

 まあ、そう時間もかからなかったわけであるが。

 

「ねぇ、あなた、一人で依頼を受けるの?」

 

 声を掛けて来たのは、美女であった。

 直感でわかる。

 コイツ、メガヴィッチの分霊だ。

 ライトブルーの髪色に、若干のツリ目、見ればわかる。

 メガヴィッチに非常に似ている。

 

「ああ、そのつもりだけれど……」

「良かったら、私と一緒にその依頼、やってみない?」

 

 ニッコリと微笑むヴィッチ。

 ホント、本性さえわからなければ美人なのになぁ。

 性格ドブスとか、俺の好みではない。

 まあ、制約に引っかかって死ぬよりはマシだろう。

 

「良いのか?」

 

 なので、知らないふりを俺はすることにした。

 

「ええ、もちろん。私から提案したんだものね」

 

 服装は、少し装備が豪華な感じがする。

 きっと俺よりもレベルが高いのだろう。

 

「それは助かるな」

 

 魔物を狩る依頼なので、人手があったほうが早く終わるのも確かだしな。

 断ったら死ぬ以上、断る理由もない。

 

「ふふっ、よろしくお願いしますね。私はミナ、ミナ=デティラと言いますわ」

 

 ほう、スペイン語で地雷っすか。

 なんでマイン=スフィアと言い地雷を名乗るんだろうな? 

 

「ミナさんだね。俺は宗介、菊池宗介だ」

「へぇ、まるで伝説の勇者様みたいな名前なんですね!」

「ああ、よく言われる」

 

 俺は肩をすくめてそう言う。

 確か、分霊は記憶を共有してないんだっけな。

 だから、ミナが俺を波の尖兵として送り込んだ事を知る由がない。

 

「そうなんですね。剣と槍と弓と小手を装備しているみたいですけど、それを全て使うんですか?」

「ん、ああ。俺はこの武器を全部一人で使うぞ」

「ふーん、珍しい戦闘スタイルですね」

「まあな」

 

 俺からはあんまり仲良くなる気がない。

 明らかに媚びた態度であるが、こっちも無下にできない理由もある。

 なので、クールを装ってみることにする。

 

「それじゃ、早速依頼を達成しに行きましょうか! ソースケさん」

「ああ」

 

 と言うわけで、俺は冒険者ミナ=デティラと共に、魔物の討伐依頼をこなすことになったのだった。



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ミナの美人局

 さて、ミナと組んでの依頼ではあるが、ミナは基本的に後衛で魔法を撃ってくれる。

 俺が一人で前衛中衛後衛を果たせてしまうので、撃ち漏らしを魔法で攻撃する感じであった。

 ああ、もちろんパーティは組んでいる。

 現時点では猫を被っているのか、推測だけで俺がヴィッチだと決めつけている状態である。

 おかげさまで、俺はレベルを7に上げることが出来たので、まあ問題ないだろう。

 討伐が終わり、俺は街に戻る。

 

「今日はありがとうございました」

「いや、お陰でこっちも楽ができた。礼を言うのはこっちだろう」

 

 俺はそう言って礼を言う。

 

「良かったら、明日も組みません?」

「ああ、それは構わない」

「それなら良かった。ソースケさんはどちらに泊まっているんですか?」

「ああ、俺はお世話になっている人のところに泊まっているよ」

「……ふーん、そうなんですね」

 

 何処とは聞かなかった。

 こちらの信用を得ることを第一目標としているのだろうか? 

 ヴィッチは基本自分の利益になる行為しかしないからな。

 恐らく、俺を値踏みしているのだろう。

 

「じゃあ、明日も同じ時間にギルドに居る。そこで上手く落ち合えたら、またパーティを組もう」

 

 なので、俺は妥協案を提示する。

 別に俺はハーレムを望んではいない。

 どうせなら元の世界に帰りたいものである。

 だって、【盾の勇者の成り上がり22巻】は40ページまでしか読み終えていないのだ。

 レイファを守るのが重要だから、優先度の低い目標ではあるがな。

 

「……わかりました。それじゃあお待ちしていますね」

 

 と言うわけで、俺はミナと別れた。

 取り分はミナの方を若干多めにしてやった。

 黙らせるためでもある。

 

 と言うわけで、俺はドラルさんに迎えに来てもらい、家に帰ったのであった。

 一応、道中でミナと言う冒険者とともに、パーティを組むことになったことを告げた。

 

「好きにするといい。俺はそう言う女はあまり信用できないがな」

 

 と言っていた。

 俺もそう思います。

 こっちも事情があるから仕方ないけれどね。

 最悪全財産ギられてポイじゃないかなと思っているので、そこの管理は徹底するつもりだ。

 

 翌日から、俺とミナはパーティを組んで依頼に当たった。

 なんだかんだで戦いやすくはあるし、本性を隠しているからか、話しやすくはある。

 気をつけてはいるが、戦闘時のフォローに関しては信用できるだろう。

 それから3日経ったぐらいか、ギルド内で不穏な噂を聞いた。

 

「おい、メルロマルクでもついに【龍刻の砂時計】が落ちきるらしいぜ」

「マジかよ……。って事は、【厄災の波】が来るってことじゃん」

「場所はわかるのか?」

「いや、それは予測できないらしい。国は、発生した時点ですぐに軍を送るって言っているがな」

「でも、他国の話じゃ被害はかなりでかいんだろ? 小国だと滅んだ国もあるらしいじゃねぇか」

「メルロマルクは大国だから大丈夫だろ」

「それに、発生は明日らしいから、心配なら逃げる準備をしておけばいいんじゃないか?」

「何処で起きるかもわからないのに?」

「だからこそだろ」

 

 そんな話が聞こえてきた。

 

「【厄災の波】……ね」

「ソースケさんは参加されるんです?」

 

 ミナに聞かれて、俺は少し考えて答える。

 

「……まあ、そう言うことになるんだろうがな。セーアエット領か隣のアールシュタッド領で発生したなら、俺は挑まざるを得ないさ」

 

 勇者じゃないので、波に転移する事は出来ない。

 まあ、わかっちゃいるんだけどな。この波でルロロナ村……ヒロインであるラフタリアが住む村は壊滅するのだ。

 流石に、波ほどの災害を一人で収められるほどの勇者のような実力はない。

 俺では変えられないのだ。

 ならば、少なくともレイファやドラルさんを守るべきだろう。

 

「そうなんですね。それじゃあ、良かったら波の間も私と一緒に戦いませんか?」

「……そうだな」

 

 場所を考えれば、発生地点はルロロナ村である。

 今回の波の場所は意図的に決まっているのだ。

 距離的にはかなり離れているドラルさんの小屋は無事だろう。

 そもそも、ドラルさんはめっちゃ強い。

 今の俺が心配するだけ無意味である。

 

「ふふっ、それじゃ、よろしく頼みますわ」

「ああ、そうだな」

 

 ミナの戦闘能力はこれでも買っているのだ。

 ヴィッチ種の例ならば、そろそろ猫の皮がハゲるのではないかと踏んではいるけれどね。

 ミナのせいでレイファとともに戦えないのだけれど、それは仕方ない事だ。

 

「ソースケさん、今日は戻られるんですか?」

「いや、今日はこっちに宿を取る予定だ。迎えにも事前にそう伝えている」

 

 俺は一度もミナにドラルさんやレイファの名前を出していなかった。

 これもわざとではあるけれどな。

 

「どちらに泊まられるんです? 良かったら同じ宿に泊まりませんか?」

 

 俺は考える。

 どう言う意図でそう言う提案を発したんだ? 

 そこまで深く考える余裕がないので、俺は端的な理由を考える。

 

「同じパーティなら近い方が良いか……。わかった」

「ふふっ、それじゃあ案内しますね」

 

 俺はミナに連れられて、宿に向かう。

 宿に到着したミナは、俺を自分の部屋の前まで案内した。

 あー……。そう言うことね、はいはいなるほど、理解しましたわ。

 

「悪いけど、別の部屋でいいかな?」

「えー!」

「流石に同じ部屋に泊まれるほど、俺はミナさんを信用してるわけじゃないんでね」

「……チッ」

 

 うーわ、めっちゃ小ちゃく舌打ちしやがったぞ、この女。

 聞こえてないわけないだろうが、この至近距離で! 

 

「そ、そうですよね。あはは、冗談です!」

 

 ミナは笑顔で取り繕う。

 俺が普通の波の尖兵だったなら、これから熱い一夜を過ごしてしまうのだろうけれど、そうは問屋が卸さない。

 美人局など御免被りたいところである。

 と言うわけで、俺は鍵をガッチリと掛けて、波に備えて爆睡したのだった。




だんだんめくれてくるミナの本性。


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次元の波

 翌日、貞操を守った(と言っても俺は童貞ではないけど)俺は、ミナと一緒に依頼を受けていた。

 そしてそれはミナと一緒に依頼のための魔物を狩っている最中であった。

 

 ──パキン

 

 まるでガラスが割れるような音が聞こえて、辺り一面がワインレッドの光で染まる。

 

「波か!」

 

 俺が空を見上げると、南の方から絵の具を垂らしたように紫色と青色が混じった何かが広がっていく。

 と同時に、波の裂け目から魔物が溢れ出す。

 まさに、アニメで見たとおりの光景が、広がっていた。

 今の俺がいる位置は、ルロロナ村の近くだ。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に戦う力を与えよ!』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 俺は援護魔法を自分とミナにかける。

 ミナは……逃げ出そうとしていて、援護魔法を掛け直したことに驚いていた。

 

「ソースケさん?!」

「ここは波の発生源に近い! 戦うにしても逃げるにしても、戦闘は避けられないからな!」

 

 上を見上げると、この世界の法則的に確認できない動物系の魔物が降り立って来ている。

 例え、結末が変えられないとしても、俺にできる事はあるはずだ。

 彼女らの悲惨な結末を知っている以上、俺には見過ごすことなんて出来ない! 

 俺はルロロナ村の方に駆け出した。

 と言っても、走っても最短で1時間はかかる。

 尚文達が城下町と村を素早くいききできたのも、フィロリアルクイーンのおかげであると言えるだろう。

 

「ソースケさん、どちらへ?!」

「波の中心だ!」

「どうして?!」

 

 俺は少し考える。

 このヴィッチはメガヴィッチと繋がっている、と考えた方が良い。

 俺が波を鎮めにいく正当な理由を言わなければ、ミナは強引に止めるだろう。

 だから、俺はあえて傲慢な回答をする。

 

「俺が波を鎮めれば、俺の力が証明されるだろ? まさに勇者様ってな!」

「……」

 

 ミナは少し考えて、答える。

 

「それは良いですね。では行きましょうか、ソースケさん!」

 

 メガヴィッチからの承認は降りたようだ。

 本当に悲惨なのは、この波の後に来る奴隷狩りであるが……。

 恐らく、冒険者はあの時締め出されたのであろう。

 セーアエット領領主も、恐らく助ける事はできないだろう。

 領主は恐らく波のタイミングで暗殺されたとみるべきだ。

 それに、止めようにもこの位置からでは間に合わないし、領主の館にそもそも立ち入れない。

 波は3時間強継続すると考えたなら、どれだけ早く要の魔物を討伐するかが重要だろう。

 今のレベルは12まで上げている。

 俺なら、慢心しなければ出来るはずだ。

 

「はああああああ!!」

 

 俺は波の魔物を容赦なく切り捨てて行く。

 

 次元ノワーウルフ

 次元ノライガウルフ

 次元ノレッサーコカトリス

 

 魔物は動物系が多い印象を受けた。

 

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「ツヴァイト・ファイヤストーム!」

 

 魔法で蹴散らしつつ、俺とミナは波の魔物を討伐する。

 普通に狩る時と比較して、経験値が若干高いのが見て取れる。

 証拠に、ステータス魔法が入手経験値を教えてくれている。

【EXP +127】

 渋い経験値に慣れていた俺としては、これは確かに経験値を稼ぐチャンスだろう。

 

「アローレイン!」

 

 俺は弓に矢を複数つがい、放つ。

 ステータス魔法が示す範囲内に矢の雨が降り注ぐ。

 これは魔力を矢に乗せて放つ技だ。

 レベルアップで習得したものだが、なかなかに便利な技である。

 技もちゃんと口に出して宣言しないと発動しないのが厄介なところだろう。

 すぐに装備を切り替えて、近場の魔物を切り捨てる。

 槍で牽制して、剣で強敵を切り裂く感じで俺は波の魔物を討伐しながら、前に進んでいった。

 

「ソースケさん! 村が見えました!」

 

 次元の波の発生源に一応ボスがいない事を確認して、ミナに近くに村はないか尋ねたところ、近場に亜人どもの村があると白状したので案内させた。

 案の定、この波のボスと思わしき魔物が亜人の冒険者達と戦っている最中だった。

 

 次元ノケルベロス

 

 そいつはまさに、アニメでラフタリアが回想で見ていた犬型の魔物に違いなかった。

 

「恐らく、あの魔物がボスだ!」

「はい、ソースケさん!」

 

 切れかかっている援護魔法をもう一度俺はかける。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に戦う力を与えよ!』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 再び能力が上昇する。

 パーティメンバーではない亜人の冒険者達にも念のために対象にして魔法をかけた。

 太腿に装備している薬が入ったポーチから魔力水を取り出して俺は飲み干す。

 

「お前ら、状況は?」

 

 俺が聞くと、後衛の亜人の女性が答えてくれる。

 

「村の者はだいぶ殺されていました。現在は避難誘導中です!」

「お前らが波のボスを抑えているのか?」

「ええ、ですが、何人か犠牲に……」

「わかった」

 

 次元ノケルベロスの口元には、はっきりとわかる赤い血が付着している。

 既にラフタリアの両親は食い殺されてしまったのだろう。

 くっ……変えようがないとわかっていても心苦しい。

 

「ミナ、コイツを討伐するぞ!」

「わかりましたわ。援護します!」

 

 俺は剣と槍を構える。

 俺は波のボスと対峙していた。

 

「グルルルル……」

 

 コイツを倒さなきゃ、話が先に進まないだろう。

 だから、俺が倒す。

 

 俺は決意を持って次元ノケルベロスに剣を向けたのだった。




本当に次元ノケルベロスで良いのかなぁ?
犬系の頭が3つある魔物で思いついたのがケルベロスだっただけですけどね。

評価:+1


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vs次元ノケルベロス

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我に雷の如き速度を与え給え」

「ツヴァイト・サンダーファストアップ!」

 

 俺は手始めに自分の速度を上昇させる魔法を唱える。

 バチバチと電流が走り、足元に伝わる。

 雷系の援護魔法の一つだ。

 通常のファストアップに比べて雷を纏う分、速さの上昇が見込める。

 

 俺は次元ノケルベロスに近づく。

 

「せりゃ!」

 

 槍で突いてみるが、あまりダメージを受けた感じはしなかった。

 だが、皮膚ぐらいは切れたようではある。

 硬い。

 ステータスを見ると俺のレベルは15まで上がっているが、それでもダメージを与えた感じが薄かった。

 

「ワオーン!」

 

 次元ノケルベロスは俺に狙いを定めると、爪で引っ掻き攻撃をしてくる。

 見え見えの攻撃ならば、俺にだって回避は出来る。

 右、左、右と来る爪を回避する。

 

「っつえええい!!」

 

 槍で攻撃の合間を縫って突くものの、いまいち攻撃力が足りない。

 ならば、クリティカルダメージを狙うのが一番だろう。

 基本的に動物の一番脆い箇所と言うのは関節である。

 特に筋肉で鍛えようのない場所……股間や鳩尾を含めた正中線の部分は防御力が弱い傾向にある。

 実際、何度か試している中でも正中線に攻撃が入るとクリティカルヒットになりやすい事は確認している。

 剣の必殺技である兜割は、モーションが大きい一方で当たればほぼクリティカル確定だったりする。

 俺は槍で牽制しつつ、戦略を練っていた。

 

 次元ノケルベロスが噛み付いてくる。

 それを蹴り上げて口を無理やり防ぐ。

 だが、攻撃をしようにも他の首……3つもある首が邪魔だ。

 俺が剣で攻撃をしようとすると邪魔をしてくる。

 

「ブロオオオオオオオオオオオ!!」

 

 俺は剣を持った手で喧嘩殴りをする。

 真ん中の首を横殴りにする。

 そのまま、俺は剣に力を貯める。

 いわゆる魔神剣や空波斬と似たような、斬撃を飛ばす技だ。

 

「必殺! 空烈剣!」

 

 思いっきり袈裟斬りをすると、目に見える真空波が次元ノケルベロスを斬りつける。

 それなりにダメージになったようだが、まだまだHPが残っている。

 

「ツヴァイト・ファイアランス!」

 

 ミナも援護はしてくれるらしく、時々魔法が飛んでくる。

 ミナの方がレベルが高いため、若干効きがいい。

 

 俺は地面を蹴り、次元ノケルベロスまでの距離を詰める。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え』

「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」

「必殺! 雷大旋風!」

 

 俺は電気エネルギーの塊を飛ばす魔法を唱えて、それを槍先に纏わせる。

 片手で槍を回転させて、次元ノケルベロスの首に叩きつける。

 もちろん、ミナの打って弱らせた首を狙う。

 バチンッ!! バリバリバリバリ! 

 雷を纏った槍先がケルベロスの頭を直撃する。

 

「ギャイイィィイイィイン!!!」

 

 悲鳴をあげて、一つ目の首が沈黙した。焼き焦げて内部まで逝ってしまったのだろうか。

 兎にも角にも残り二つ! 

 注意を向ける数が減ったので、一気に戦いやすくなる。

 俺の攻撃はレベル差があるためかチマチマとしか入らないが、内部を攻撃する場合とクリティカルヒットの場合は大きいダメージが見込める。

 

「ミナ! 兜割を当てる! 魔法で援護を頼む!」

「わかりましたわ」

 

 俺は槍を背負い、剣一本にする。

 両手なら鋭く力強い反応ができるためだ。

 左手で殴ることもできるため、これはこれでありな戦法だ。

 その分、牽制ができなかったりするがな。

 

「はああああああああ!!」

「ツヴァイト・ファイアランス!」

 

 ミナの援護を背中に、剣を両手で構えてもう一度、次元ノケルベロスに攻撃を仕掛ける。

 噛みつき攻撃を回避しつつ、俺はケルベロスの頭をかち割るべく飛び上がる。

 

「必殺! 兜割!」

 

 全力で左端の頭を狙って振り下ろす。

 流石に真っ二つとはいかなかったが、グシャっと音を立ててケルベロスの左端の頭は地面に叩きつけられる。

 その影響で剣が食い込み、頭が歪んだ。

 ブオンっと音が聞こえる。

 次の瞬間、左脇腹に衝撃が走る! 

 

「グハッ!!」

 

 バゴーンっと俺は廃墟となった家の壁にぶつかっていた。

 い、今のでHPの半分が吹っ飛んだぞ……! 

 まだ意識はあるが、朦朧としている。

 頭の中で星が飛んでいるイメージだ。

 

「ソースケさん!」

 

 ミナの声が聞こえるが、急激にHPが減ったせいで動けない。

 ただ、直感で俺はその場から逃れる。

 直後、俺がいた場所が次元ノケルベロスによって薙ぎ払われた。

 

「ガハッ!」

「あの冒険者を助けるんだ!」

 

 他の亜人の冒険者が援護に入ったようだ。

 

「ファスト・ヒール!」

 

 他の冒険者がかけてくれた回復魔法のおかげで、グラついていた意識が回復する。

 

「はぁ、はぁ、ぽ、ぽーしょん……!」

 

 俺は太腿にあるポーチから、なんとか即時回復用のヒールポーションを取り出すと、口に含んだ。

 意識がなんとか回復する。

 HPのゲージも3/4まで回復した。

 うう……、恐らくさっきの一撃で内臓が逝ってしまったのかもしれない。

 すぐに回復できたおかげで、復活したようではあるが。

 唾を吐くと、血が混じっている。

 やはり、俺と次元ノケルベロスには決定的にレベル差があるのだろう。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我に戦う力を与えよ』

「ツヴァイト・ブースト!」

 

 タゲが他の冒険者に行っていたおかげか、なんとか体制を立て直した。

 身体中が痛む。

 骨折や内臓破裂は回復したが、痛みは残っている。

 目眩がしているが、戦闘中だ。

 俺はヨロヨロと立ち上がり、剣を構える。

 

「行くぞ! 俺!」

 

 気合いを入れて、俺はもう一度ケルベロスに向かう。

 

「必殺! 空烈剣!」

 

 俺は次元ノケルベロスの尻に向かって空烈剣を放つ。

 必殺技なら、多少ダメージは通るようで、すぐに俺の方にタゲが向く。

 

「ワオォォォォーン!!」

 

 まだ死んでなかったか、と言った態度で俺を殺しに走ってくる。

 力だ、力の流れを感じるんだ! 

 俺は、合気道の剣を持った構えをする。

 呼吸を整え、相手に集中する。

 

「危ない!」

「逃げて!」

 

 と声が聞こえるが、無視をする。

 既に一つ頭となったケルベロスはでかいだけの犬だ。

 走ってくるならば、力の流れは読める。

 俺はケルベロスの噛みつきに剣を合わせる。

 転換をして、力の方向を回転に持っていく。

 突進に使うパワーを剣で誘導するのだ。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 呼吸を吐き切り、余計な力みを全て捨てる。

 俺の転換に合わせて、次元ノケルベロスはまき糸のようにグルンと回転した。

 その力を俺は投げ飛ばす方向に解放する。

 先程俺が埋まっていた家の方に次元ノケルベロスを解放すると、ケルベロスはそのまま吹っ飛んでいった。

 

「行くぞ! 必殺! 兜割!」

 

 俺は追撃をする。

 今度は一気に力を溜めて、ケルベロスの中央の頭を破るために飛び上がる。

 

「はあああああああ!!」

 

 剣は、ケルベロスの中央の頭に命中する。

 グシャっという音とともに、ケルベロスの頭部が歪に歪んだ。

 クリティカルヒットしたようである。

 それと同時に、耐えきれなくなったのか俺の剣がポキンと折れて、剣身が飛んでいき、地面に突き刺さる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 俺は肩で息をしていた。

 次元ノケルベロスはピクピク痙攣しているが、動く気配は無かった。

 

「おおおお! やったぞ! 波のボスを倒したぞ!!」

「やったああああ!」

 

 と声が聞こえるが、俺は身体が震え出していた。

 恐怖、そう、死と隣り合わせだった事実に恐怖を感じていたからだ。

 

「は、ははは……」

 

 なんとか勝てはしたが、達成感よりも恐怖が俺を支配していた。

 

「だ、大丈夫ですか? ソースケさん?」

 

 ミナが慌てて寄ってきたが、若干失望感を感じていたように思えた。

 

「と、とと、とりあえず、ボスは倒したんだ。波はまだ治っていないし、他の冒険者と協力して、波を治めるんだ!」

 

 俺は気合いを入れ直して立ち上がるが、どうしようもない恐怖感に負けないように気を貼るので精一杯だった。




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謁見

 その後、波が治った後に、騎士団がやってきた。

 随分と遅い到着である。

 こんなに遅いと、セーアエット領は壊滅しているのではないか? 

 まあ、壊滅して喜ぶ連中が多い国だし、救援が遅れるのは仕方ないことか。

 

「おい」

 

 俺がルロロナ村跡地で瓦礫の上に座っていると、声をかけられた。

 誰だ? 

 俺が顔を上げると、立っていたのはどこかで見たことのある騎士であった。

 

「お前が、今回の波の魔物を討伐した冒険者か?」

「そうですわ」

 

 ミナが代わりに答えてくれた。

 

「ふむ、あの化け物をよくもまあ……。おい、お前、今回の波を治めた件について国より報奨金が出ることになった。ついてくるが良い」

 

 なんだか偉そうでムカつく奴だな……。

 こう、すっごい見たことあるけれど、思い出せない。

 何かあれば思い出しそうなんだけどなぁ。

 

「わかりましたわ。さ、ソースケさん、行きましょう」

 

 個人的にはレイファ達が無事であることを確認したいが、今は難しそうだ。

 それに、ミナがいる場所でレイファの話題を出すのはNGだろう。

 

「……わかった」

 

 俺は、メルロマルクの王城に向かうことになった。

 亜人の冒険者も一緒にである。

 馬車に乗せられて向かう最中に、今回の波の被害状況を聞くことができた。

 ちなみに、引っ張っているのは馬である。

 

 セーアエット領は壊滅だそうだ。

 城下町はもちろん、他の街も被害甚大で、波の残りの魔物も兵士が片付けているそうだ。

 俺や、俺の近くにいた冒険者は、波のボスを倒したとして事情が聞きたいということであった。

 

 フィロリアルほどは揺れが少なく、酔ったりはしなかった。

 

 2時間ほど馬車で待機していると、ようやく見えてきた。

 あれが、メルロマルク城である。

 そう、【盾の勇者の成り上がり】世界の象徴とも言うべき城であり、尚文がマイン……ミナと同じメガヴィッチ的存在に騙され、貶められる国である。

 

「メルロマルク城下町は初めてなのですか?」

 

 ミナにそう聞かれて、俺はうなづいた。

 

「ああ、初めてだよ。俺はセーアエット領しかいたことはないさ」

「そうなんですね。私はメルロマルク城下町は何度か足を運んだことがありますわ」

 

 育ちよさそうだもんねー。

 鎧もそこそこ豪華だし、良いところのご令嬢さんって感じ。

 メガヴィッチの分霊は基本的にそう言うお嬢様として生まれることが多いから、当たり前か。

 

「ふーん、どう言うところなんだ?」

 

 一応、アニメで見た範囲では雰囲気は知っているけれどね。

 

「そうですね……。この国の首都ですから、色々なものがありますよ。店も、他の城下町や領主の街と比べて良いものが置いてありますわ」

「……なるほどねぇ」

 

 俺としては、剣が折れたせいでステータスが下がって若干怠くなっている。

 やはり俺は4つ武器が無いといけないらしい。

 まあ、こう気だるそうにしていれば流石のミナでも気づいたようだった。

 

「メルロマルク城下町には良い武器屋がありますから、そこで剣を新調しましょう!」

「……ま、そうだな」

 

 メルロマルク城下町には、あの武器屋の親父さんがいるからな。

 腕も確かな武器屋なら、新調するのも良いだろう。

 どうせミナは報奨金でエステにでも行くだろうし、ミナの分を多めで渡して、必要な分は俺がもらうと言う形でいいだろう。

 

「ん? 私の顔に何か付いてます?」

「いや、メルロマルク城下町に着いたらエステ行きたそうな顔をしてたからな」

「あ、わかります?」

「ミナは好きそうだしな。報奨金があるなら多めに渡しておくから行ったら良いさ」

「良いんですか?」

「ああ、もちろん、俺の取り分はちゃんともらうがな」

 

 しかし、ミナと居るとだんだん心が荒んでくる気がする。

 傲慢ではなく、荒んでくる。

 言葉遣いもそれに引きづられて居る気がする。

 

 しばらくすると、街の城門をくぐる。

 おお、確かにアニメまんまだな! 

 街の配置とかは若干違う様子だが、細かいところはほとんど同じである。

 馬車が止まると、俺は城に案内してくれる。

 しかし、兵士の目は嫌な目をしている。

 後ろの亜人の冒険者に対してだろうけれども、俺にまで向けられているように見える。

 やだねー、こんなところにいたら嫌な気分になる。

 

「では、波のボスを撃った、冒険者ソースケ殿とミナ殿はこちらに。他の冒険者の方は別室で報奨金の受け渡しがありますので、こちらにどうぞ」

 

 俺は兵士の指示に従う。

 眼前には、謁見の間があることがわかる。

 アニメで見たまんまだしね。

 

「冒険者ソースケ殿、ミナ殿、入場!」

 

 ギギギと音を立てて、謁見の間の扉が開く。

 周囲は王族とか貴族が並んでいる。

 カーペットの周りには、兵士が等間隔で並んでおり、奥に2つの椅子があり王座だろう、向かって右側に王様……オルトクレイ=メルロマルク32世が座っていた。

 俺は、ミナに習って前に進み、ミナに習って王の眼前で膝をついて首を垂れる。

 

「ほう、そなたらが今回のメルロマルクの波を治めた冒険者か」

 

 アニメの声……とは若干違うし、そもそもメルロマルク語であって日本語では無いため、違って聞こえるが、オルトクレイそのものであった。

 

「はっ!」

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。冒険者共よ、顔を上げい」

 

 尚文に習ってクズと呼称するとしよう。

 クズがそう指示をしたので、俺とミナは従って顔を上げる。

 

「ほう、片方は美しい娘、もう片方は勇者の血を色濃く継いだ冒険者と見える。この者らがかの波を治めたと」

「はい、聴取した報告によりますと、冒険者ソースケ殿の活躍により、波のボスを討伐。冒険者ミナ殿はソースケ殿の援護をしていたと報告がございます」

「ふむ、なるほど。しかし、此度の波の被害も甚大だったと聞く」

「はい、死者は推定で1万人に上り、セーアエット領は壊滅状態でございます。また、帰省しておりましたウェルンハード=セーアエット卿は波の際に亡くなられたと報告が入っております」

「……痛ましいことだ。優秀なもの程早死にする。セーアエット領は波による復興を急がせるとしよう」

 

 ため息をつきつつも、サラッと流された感じで話が変わった。

 俺の記憶では、エクレールの父親はこの時期に強制的に領地に戻らせたはずである。

 どこで起きるかわからない以上は意図的ではないと言い逃れできるかもしれないが、ヴィッチが恐らく、何らかの方法でセーアエット領で波が起こることを事前に伝えていたはずである。

 だからこそ、大して感慨もない感じなのだろう。

 

「して、今回活躍をした冒険者諸君には報奨金が用意されておる。亜人の冒険者は一律銀貨300枚、冒険者ソースケ殿とミナ殿にはそれぞれ銀貨600枚を報奨金として授けよう」

「これが報奨金になります」

 

 大臣っぽい人がそう言うと、兵士が皮袋を目の前に出してくれる。

 何気に赤と黒の卒業証書を乗せるようなプレートの上に乗っている。

 俺はそれを受け取り、中を確認する。

 確かにこれは、結構な量が入っている。

 俺は無言で、腰のポーチに収める。

 あとで銀貨100枚をミナに渡せば良いかな。

 

「ありがとうございます、陛下」

「うむ、では、その方らの今後の活躍を祈ろう。下がって良いぞ」

「はっ!」

 

 そんな感じで、俺の初めての謁見は終わったのだった。

 なんか大臣が話しているだけで、俺は一体何のために呼ばれたのやらわからない感じだった。

 

「じゃあ、約束通り」

 

 俺はそう言って、銀貨が100枚入った袋をミナに渡した。

 

「ありがとうございます。さすがは波を治めた冒険者ソースケ様ですね」

「言ってろ。それじゃ、俺は武器屋に行くとしますか」

「それじゃあ、案内しますね」

「わかった」

 

 と言うわけで、俺はミナに連れられて武器屋に向かうのだった。

 




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お父ちゃんに勝手に名前をつけました。


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武器屋の親父さん

 城の正門から城下町の入り口までまっすぐと続くメイン通り、そこに居を構えているのが、尚文御用達の武器屋である。

 他にもメイン通りには武器屋はあるけれど、量販店って感じがするんだよね。

 扉を開けるとカランカランと呼び鈴の音がする。

 奥から頭のハゲた親父さんが出てきた。

 あーそうそう、こう言う感じだよ。

 まさに武器屋のおっさんって感じ。

 

「はい、いらっしゃい!」

 

 安心の武器屋の親父さんである。

 名前はエルハルトだったけな。

 

「ミナ、ここがおススメの武器屋か?」

「ええ、そうですわ」

 

 一応、確認である。

 とてもではないがミナは武器屋と縁があるとは思えない。

 ヴィッチと情報を共有しているのだろうなと俺は推測した。

 

「すみません、武器を購入したいんですが、おススメってあります?」

「ん? ああ、あんちゃんの武器を探してるのかい?」

「ええ、先の戦いで剣が折れてしまって、それで」

「なるほどねぇ。剣、槍、弓、小手を装備して戦ってるのか。普段なら、そう言う戦い方は良くないと言うか、武器を一つに絞れと説教するところだが、どうやらあんちゃんは4つ別種類の武器を取り扱うことに長けてるみたいだな」

「……すごいな。そんなことまでわかるのか」

「まあな。どの武器も使い込み具合が均等だし、身体つきもそれぞれの武器で特徴ってものが出るものだが、あんちゃんは満遍なく筋肉がついているように見える。それで推測はつくのさ」

 

 うーん、さすがは親父さんである。

 元康2号の弟子ってこんなに優秀なんだな。

 

「ま、俺が見た感じだと、折れちまった剣も、その槍も弓も、小手も防具も今のあんちゃんにはかなり物足りない感じになってるんだろうよ」

 

 確かに、今の武器はレベルにあった装備だとは思えなかった。

 剣が折れたのだって、剣の適正レベルと俺のレベルがあってない結果とも言えるだろうからな。

 

「で、あんちゃんは一式買い換えるのかい?」

「見積もりは?」

「そうだなぁ……。魔法鉄の装備一式に買い換えるとして、武器一式で装備を下取りして、おまけして銀貨320枚ってところだな。防具も含めると、430枚になる」

「じゃあ、武器だけかな。防具はしばらくやりくりして、お金が貯まったら買うさ」

「そうかい」

 

 一応、オーダーメイドもできるみたいだが、今日初めましてである以上、信用も無いだろう。

 本編にあまり深入りをしたくない俺としては、関わるのは今回限りかなと思う。

 

「なら、あんちゃんの武器を見せてみな。ちょうどいいものを見繕ってやるよ」

「助かる、ありがとう」

 

 俺は装備を外して、折れた剣、槍、弓、小手を机に置いた。

 

「んー、あんちゃんの場合、小手よりもバックラーみたいな盾の方が良さそうな気がするが、拳の先に殴った跡があるな。あんちゃんは格闘も使うのかい?」

「当身を入れる程度なら使うかな」

「なるほど、なら小手で良いか。ただでさえ複数武器を同時なんて戦法を取っているんだ。あんちゃんの戦闘スタイルを崩すのは良くねぇな」

 

 親父さんは商品棚から剣、槍、弓、小手を見繕って、台に置く。

 

「これぐらいが、今のあんちゃんにはちょうど良いだろ。持ってみな」

 

 言われて俺は武器をそれぞれ持ってみる。

 なるほど、今までの武器は若干心もとない感じがしていたが、この武器なら安心して使えそうだ。

 振ってみた感じはまだ若干重みがあるが、問題ないだろう。

 

「へぇ、ちょっと重いがいい感じだな!」

「そりゃ良かった。そっちの嬢ちゃんは……。必要なさそうだな」

「ええ、私は魔法職ですし、前衛はソースケさんに任せてるので大丈夫ですわ」

「へぇー、あんちゃんソースケって言うのか」

「ああ、菊池宗介だ。冒険者をやっている」

「キクチソウスケ……。まるで勇者様みたいな名前なんだな、あんちゃんは」

「まあ、よく言われる」

「ま、是非ともご贔屓にしてほしいものだぜ」

「それは考えておく」

 

 と言うわけで、俺は新しい装備を入手したのだった。

 しかし、本当に気持ちのいい親父さんだ。

 人を見る目もあるみたいだし、常連になってもいい気がする。

 アールシュタッド領からは距離があるのが問題だけどね。




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エピローグ

 それから、俺たちはメルロマルク城下町にしばらく滞在することになった。

 メルロマルク城下町の宿で一晩泊まった後にアールシュタッド領のドラルさんの小屋に戻ろうとしたら、入り口のところで止められたからだ。

 話を聞くと、波を治めた冒険者である俺たちにはしばらく滞在してほしいとの事で、国が宿代を出すから数日間ほど止まってほしいとの事であった。

 ギルドで仕事をしようにも、城下町内のお使い程度の依頼しかなく、仕方がないため俺たちはメルロマルク城下町に留まることになった。

 おおかた、セーアエット領で亜人狩りでもしている最中なのだろう。

 まあ、俺ごときが何をしようがタクトほどの影響力があるわけでもなし、大人しく従っておくことにする。

 ミナからの夜のお誘いは基本的に丁重にお断りしつつ、1週間ほどこの城下町に滞在することになった。

 

「ここが三勇教の教会です。ソースケさんが興味を持つなんて珍しいですね」

「そうか? 俺はこの世界については(生き残るために)興味津々だぞ」

 

 俺は肩をすくめて、教会に入る。

 そもそも俺の武器は三勇教にとっては象徴とも言うべき武器を取り扱っているので、快く迎え入れてくれる。

 それにしても、三勇教ねぇ……。

 この世界的には、イスラム教みたいなものか。

 いや、過激派と言った方がしっくりくるな、テロ的な意味で。

 ISILとかまさにそんなイメージだろう。

 さて、俺がここに来た理由は、龍刻の砂時計を見学しに来ただけである。

 

「へぇ……これが龍刻の砂時計か……」

 

 明らかにこの世界的にはオーバーテクノロジーな装置だ。

 と言うか、世界の危機を感じて動く装置なんて、俺の日本でも作れはしない。

 

「この場でステータスを確認すれば、その国の次の波がいつ起きるかがわかりますわ」

 

 ミナに言われた通り、ステータス魔法を確認すると、中心に次の波までの時間が正確に表示される。

 この時は、翌日だったため1月半だったと思う。

 

「45日ねぇ……。あんなの、どうやって被害なしで鎮めれるんだっての」

 

 独言る。

 やはり、四聖勇者を召喚しないと簡単には鎮められないと言うことなのだろう。

 波の尖兵的な意味でもレベル上げには適しているので、俺は積極的に参加した方がいいだろうな。

 

 数日後、メイン通りで兵士や三勇教のシスターや牧師の服を着た連中が、何かを大々的に運んでいるのが見えた。

 もしかしたら、あれが四聖勇者を召喚するための召喚具だったりするのかな。

 ギルドの仕事をちょくちょくこなしながら、メルロマルク城下町の散策をしていた。

 ミナはまあ、アイツエステとかに行っているからあまり一緒にいることはなかった。

 こうなると、レイファと会いたくなるが、俺はどうやらこの街から出ることができそうになかった。

 

 それから、四聖勇者が召喚されたという話が国中を駆け巡ったのは、この日から2日後のことであった。




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これにて序章の終了です。


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剣の勇者のソロプレイ
プロローグ


「ソースケ様」

 

 宿の一室で休んでいると、ノックもされずに扉が開く。

 どうやら国の騎士らしい。

 

「おお、ここに居ましたか!」

「何の用だ? 俺は大人しく街に滞在しているんだが……」

「今日はお願いがあって参上しました」

「お願い?」

 

 この腐った国が俺にお願い? 

 面倒臭そうなのでパスでいいだろう。

 

「断る。それよりいつになったらアールシュタッド領に戻れるんだ?」

「いえ、是非とも聞き入れていただきたいのです」

 

 どうやら、目の前の兵士は俺の言葉はYES以外聞く気はなさそうである。

 自分勝手な奴らめ……。

 

「本題ですが、是非ともソースケ様には勇者様の冒険を手助けする仲間となってほしいのです!」

 

 それを聞いて俺は、ようやくメルロマルクが俺を城下町から出したくない理由を悟った。

 なるほどね、そう言う理由だったのか。

 そう言えば、ギルドにもそう言うのを募集している張り紙があった。

 

「お断りしていいですか?」

「いえ、是非ともソースケ様には勇者様の仲間になっていただきたく!」

 

 いや、ホントそう言うのはやめてほしい。

 ここで俺が介入するとややこしい事になるからな。

 小説では仲間の描写が明確にされたのは、ヴィッチと燻製ぐらいなものであるが、少なくともアニメで剣、槍、弓を装備していたやつなんていなかったはずだ。

 少なくとも召喚当日には城内に燻製が居たはずなので、今日明日中には召喚されると思われる。

 

「なぜ俺なんだ!」

「それはもちろん、最初の波を鎮めた冒険者だからです」

 

 ああ、なるほどねぇ。

 波を鎮めるとこう言う弊害があるのか……。

 

「もちろん、盾の悪魔は召喚されないのでご安心ください。剣、槍、弓の勇者様を、このメルロマルクで召喚することになっています!」

 

 はい、ダウト。

 本来はフォーブレイから召喚していって、メルロマルクは3番目なはずだ。

 昨日運ばれていたのは召喚具で間違い無いだろう。

 

「はぁ、まあ、確かに波に対抗するんだったら、七星か四聖の勇者様に依頼をするのが適当だと思うけど、下手したら全部召喚されるんじゃないの?」

「そこはご心配なさらずとも大丈夫です。万が一召喚された場合は、他の勇者様が討伐する手はずになっています」

「はぁ……」

 

 何もわかっちゃいないんだなと、この三勇教兵士を見て思う。

 実際に波を目の当たりにした俺からしてみれば、とてもではないがコイツらの態度は脳内フラワーガーデンか、脳内ハッピーセットでしか無い。

 四聖が召喚される意味を全く理解していないのだろう。

 だからこそ、協力はしたく無い。

 面倒臭いな、ミナを通じてヴィッチに断らせるか。

 

「ミナはどうしたんだ?」

「ミナ様……ですか……」

 

 途端に目を泳がせる。

 

「どうしたんだ?」

「その……ミナ様……ミリティナ=アールシュタッド様は、現在アールシュタッド領に戻られています」

「ああ、やっぱり?」

 

 最近見ないなと思ったらそう言う事だったのか。

 

「城内でアールシュタッド卿に見つかり、先日アールシュタッド領に送り返されました」

 

 実際、ミナは夜に誘ってくる以外はそこまで邪魔になっていないせいか、悪い印象はない。

 ミナのせいでレイファに会えないと言う重大な障害ではあるけれど、それ以外はまあ役に立ってるし、冒険の間はいても居なくても正直どっちでも良かったりする。

 ま、父親に見つかって送り返されたなら、合法的に別れたので良い事だろう。

 思わぬところで解決して良かった良かった。

 

「アールシュタッド卿曰く、単に冒険者として活動するならともかく、勇者様と旅をするなどと言う危険な冒険に参加させるわけにはいかない、との事でした」

「……」

 

 あれ、これって俺が勇者のパーティに加わらずにアールシュタッド領に戻ったら監視再開されない? 

 

「はぁ……」

 

 頭が痛い。

 後ろ盾がない俺は半強制的に勇者パーティに参加じゃないだろうか? 

 うーん、だとしたら、剣の勇者……天木錬のパーティが一番良いだろう。

 菊池宗介なんて名乗ったらヤバいのはわかりきった話なので、偽名を使うことにしよう。

 確か、web版の記憶によると、メルロマルクの波の3波目の頃には燻製が抜け、一人が入れ替わってたんだっけ? 

 

「……わかった。協力しろと言うなら仕方のない事だ。どうせ王命だったりするのだろう?」

「……はい、助かります」

 

 と言うわけで、俺は渋々勇者パーティに参加することになった。

 

「なら、防具も新調しておくかな」

「わかりました。勇者様のパーティに入っていただけるのならば準備金として国が負担致します」

「そうか、助かる」

 

 俺は早速、()()()()()()()()()()()の購入をしに、騎士を同伴して武器屋に向かう。

 

「おう、いらっしゃい。あんちゃん、今日はどうしたんだ?」

 

 武器屋の親父さんはにこやかに対応してくれる。

 

「ああ、防具を調達したくてね。顔が隠れる防具が欲しい」

「となると、兜付きの防具だな。あんちゃんの戦い方にあったものなら……すぐに用意できそうだ。ちょっと待ってな」

 

 ごそごそと取り出されたのは、どこかで見たことのある鎧であった。

 

「あんちゃん動きが阻害されない作りになっている、市販の鎧に似た防具だ」

「これってカスタムオーダーメイドってやつじゃ……」

「ま、色々作っていて、これは試作品の一つだ。銀貨210枚であんちゃんに融通してやるよ」

 

 俺が城の兵士を見ると、うなづいた。

 

「では、こちらで受け持ちます」

「ん? 城の兵士じゃないか。どうしたんだ?」

「まあ、召喚される勇者様のパーティ? のメンバーをする事になるらしくてな。半強制だし、支度金で防具買ってくれるって言うからね」

「へぇー。ま、さすがは波を鎮めた冒険者ってところだな」

 

 親父さんは渡された銀貨を数える。

 

「よし、210枚だな。まいどあり!」

 

 と言うわけで、鎖帷子を引き取ってもらい(この分の料金は俺が受け取った)、一般的な鎧に見えるカスタムオーダーメイドの鎧を装備した。

 カシャカシャと音はするが、動きは確かに阻害されない。

 これはなかなか良いものである。

 

「では、ソースケ様、城の方に案内します」

 

 と、そんな感じで俺は城に案内された。

 そこで候補の控え室に案内されたのだった。




ミナとお別れ
でも奴はきっと戻ってくる(確信)


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勇者紹介

 控え室で特出すべき事は、燻製が煩かった事以外は特になかった。

 腰に差している剣以外は置いてきているし、黒髪も兜を被って見せないようにしているため、国の兵士と間違われてもおかしくない状態だからだ。

 気になったことと言えば、噂話である。

 

「聞いたか? 四聖勇者が全員召喚されたらしいぞ」

「マジかよ。それってマズくないか?」

「さあ、外交については何とも……」

「それよりも、盾まで召喚されたらしいぞ!」

「なんだって! なんで盾まで」

「これはマズいかもしれないな……」

 

 はは、お前らこれから盾を虐めるんだろう? 

 知っているぞ。

 とは思いつつも、俺はスルーすることにした。

 今頃は謁見中かな。

 俺は暇を持て余して、駐屯施設にある兵士の訓練場まで足を伸ばしていた。

 そこで木剣と木槍を振り回す。

 ここ最近城下町から出てなかったので、レベルは20でピタリと止まったままだ。

 毎日こうやって練習をしているおかげか、筋力とかのステータスは伸びてはいるんだけどな。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 槍の必殺技を繰り出し、マネキンを攻撃すると、マネキンが吹っ飛ぶ。

 いつのまにか技のキレは向上し、日本にいた頃とは比べ物にならないくらい筋肉がついていた。

 細マッチョと言っても良いだろう。

 

「精が出るな冒険者」

 

 俺に声をかけてきたのは、燻製だった。

 燻製は確か、国の兵士である。

 

「何の用だ? 俺は訓練中な訳だが」

「ふん、やはり冒険者は粗暴だな。波を鎮めただかなんだか知らないが、出の不明な貴様に勇者様の護衛は務まらぬ! 即刻去るが良い!」

 

 えらい傲慢だなこの燻製。

 やっぱり、早めに燻製にした方がいいんじゃないかな? 

 

「はっ、それが許されるなら、俺はサッサとアールシュタッド領に戻ってるっての」

 

 サッサと戻って、レイファと一緒に暮らしたい。

 なぜ俺が波の尖兵なんぞやらねばならないんだと言う話である。

 

「ぐぬぬ……」

 

 なーにがぐぬぬだ。

 やっぱり燻製は処すべきかな? 

 

「貴様! 勝負だ!」

「断る。アンタも勇者様の仲間になる人だろう? こんな事で争っても仕方ないんじゃないか?」

 

 俺がそう嗜めると、燻製はまた「ぐぬぬ……」と唸り顔を真っ赤にする。

 そう言えば、燻製と対面をしても腹がたたないな。

 性格悪いのは原来の性なのだろうけどな。

 波の尖兵ではなくて、現地人だからだろうか。

 

「ふんっ! まあ良い。腰抜けには用は無いのだ!」

 

 燻製はずんずんと不機嫌そうに城に戻っていった。

 わからない奴だ。

 サッサと燻製になれば良いんじゃないかな? 

 俺はそんなことを考えながら、訓練場でもう少しだけ体を動かしたのだった。

 

 部屋に戻って、休憩をしていると、兵士に呼ばれて一つの部屋……会議室に集められた。

 はじめに勇者の仲間になる12人が揃ったらしい。

 部屋を見渡してみると、ヴィッチ……マインがすまし顔で座っている。

 燻製は踏ん反り返っている。

 

「さて、今回の召喚で、剣、弓、槍の勇者様と、盾の悪魔、四聖勇者様全員が召喚された」

 

 会議室はざわついた。

 そりゃそうだ。

 もともとは、剣、槍、弓の三勇者しか召喚するつもりがなかったんだからな。

 

「そこで、くれぐれも盾の悪魔に加担しないように、事前通告をすることになった。これは王命である」

 

 しっかし、偉そうだな。

 まあ、尚文は優しい奴だから、普通に配分すれば2人は確実に仲間になるだろう。

 ヴィッチやクズの企みを考えれば、それは美味しくない。

 

「また、影からの報告によると、盾はこの世界に詳しくないとの事だ」

 

 また、会議室が騒然とする。

 確かに、四聖勇者はこの世界を熟知していると言う伝承があるのは事実だ。

 少なくとも、伝承に残る程度には、長い年月をかけてこの世界がメガヴィッチに侵攻されているのだろう。

 実際は、勇者達の遊んでいたゲームはメガヴィッチによってばら撒かれたのだがな。

 もしかしたら、俺の世界にもそう言うゲームがあるのかもしれないが、該当のものは思いつかない。

 強いて言うならば【盾の勇者の成り上がり】シリーズであるが、どう考えてもこれから起こる事の預言書だろう。

 

「あの、勇者様がたのお姿は拝謁できないのでしょうか?」

 

 慎重な感じがする騎士っぽいやつが質問をすると、兵士が水晶玉を持ってきた。

 

「本日召喚されて、謁見の間で自己紹介をする勇者様方の映像だ。どの勇者様を支援するか、よく観察して選ぶように」

 

 兵士がそう宣言すると、映像が流れ出す。

 どうやら音声も記録されているらしく、それぞれ声が聞き取れる。

 最初に聞こえてきたのは、クズの声だった。

 

『では勇者達よ。それぞれの名を聞こう』

 

 それに答える形で、最初に剣の勇者である天木錬が名乗り出る。

 

『俺の名前はアマキ=レンだ。年齢は16歳、高校生だ』

 

 メルロマルク語で聞こえる。

 映像水晶にはメルロマルク語で記録されるらしい。

 

 剣の勇者、天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来る。

 顔のつくりは端正で、体格は小柄の165cmくらいだったはずだ。

 女装をしたら女の子に間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。映像越しでは若干分かりにくいが。

 切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。

 細身の剣士という感じだ。

 実はコミュ障の中二病なだけであるがな。

 プレイしていたゲームは、ブレイブスターオンラインと言う。

 

『じゃあ、次は俺だな。俺の名前はキタムラ=モトヤス、年齢は21歳、大学生だ』

 

 槍の勇者、北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。

 錬に負けず、割と整ったイケメンって感じ。彼女の一人や二人、居そうなくらい人付き合いを経験している。イメージ通りだな。

 髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに妙に似合っているな。

 面倒見の良いお兄さんって感じだ。

 後に悲劇で人格が破壊される。

 プレイしていたゲームは、エメラルドオンラインと言う。

 

『次は僕ですね。僕の名前はカワスミ=イツキ。年齢は17歳、高校生です』

 

 弓の勇者、川澄樹。外見は、ピアノとかをしていそうな大人しそうなイメージがある少年だ。実際上手い。

 儚げそうな、それでありながらしっかりとした強さを持つ。あやふやな存在感があると言う印象を尚文は持ったはずだ。

 髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。

 大人しそうな弟分という感じ。

 ただの正義大好きの独善的な奴で、独裁者にいそうな性格に変貌する。

 プレイしていたゲームは、コンシューマゲームでディメンション・ウェーブ……直球どストレートだなおい。

 

『ふむ。レンにモトヤスにイツキか』

『王様、俺を忘れてる』

『おおすまんな』

 

 クズは分かりやすく尚文を無視する。

 ま、クズもクズで理由はあるにはあるが……ヴィッチのせいだとここでは断言しておこう。

 そこですまし顔で座っている、クソ女だ。

 

『最後は俺だな、俺の名前はイワタニ=ナオフミ。年齢は20歳、大学生だ』

 

 盾の勇者、岩谷尚文。外見はくしゃくしゃの黒髪に、少しお調子者そうな顔つきをしている。優しそうな雰囲気をまとった男性だ。

 どの勇者もそうだが、尚文もイケメンであるが、童貞っぽい感じはする。

 この世界の主人公的存在で、商魂たくましい。

 この後裏切られて最初に悲惨な目にあう。

 図書館で四聖武器書を読んでいる最中に召喚された。

 

 それぞれ特徴がある連中だ。

 どの連中も主人公属性の塊であり、正しく導く人がいれば、きっと世界を救ってくれるのは間違いようがない存在だ。

 そうはさせないのが、俺たち波の尖兵とヴィッチなんだがな。

 

「盾以外で気に入った勇者を支援するがいい。事前に話し合いの場をここに設ける!」

 

 と、そんな感じでモブ達の話し合いが始まったわけだ。

 俺とヴィッチはサッサと宣言してしまったわけだがな。

 そしてその夜、燻製のうるさい声が聞こえてきた。

 

「おい、ベッドが硬いではないか。もっと良いベッドは無いのか!」

 

 そのセリフを聞いて、俺は周囲を見渡した。

 もちろん、槍の勇者が居ないかの確認である。

 ただ、クローキングランスに、ドライファ・ファイアミラージュを使用しているから探すだけ無駄か。

 俺はサッサと戻ることにした。

 そう、すでに勇者は召喚されたのである。

 賽は投げられたのだ。




裏話やアニメの描写とか統合した結果がこれだよ!


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特別支援金

 翌日、午前10時頃に俺たちは謁見の間に通された。

 打ち合わせは完璧なので、特に言うこともない。

 どっちにしても、尚文はモブの顔なんて覚えないだろうし、そもそも【盾の勇者の成り上がり】に俺の名前が出てきたことは一度もないため、認識すらされないだろう。

 波の尖兵の存在に気づかれる前なら、まだ安全だろう。

 明確に気づくのは、タクト編だったっけな? 

 

「冒険者達はこちらへ並べ。王の到着までしばし待たれよ」

 

 と言うわけで、俺たちが待っていると、しばらくしてクズが入ってきた。

 うーん、何という舞台の裏側。

 

「その方達が、勇者殿を支援する冒険者達か」

 

 クズはそう言いながら、一人一人を観察する。

 

「ふむ、皆やる気に満ちているようだな。良いことだ」

 

 ヴィッチとはアイコンタクトを取っている。

 クズは俺の存在には気づかなかったようだ。

 まあ、今は特徴的な黒髪は兜の下に隠しているし、一度しか会ったことがない俺を覚えているはずもないか。

 

「四聖勇者様、入場!」

 

 クズが左側の王座に座った頃にちょうど、兵士の声が響く。

 扉が開き、昨日映像水晶で見たとおりの勇者4人がタラタラと歩いてきていた。

 顔はなんか期待に満ち溢れた顔をしているのがわかる。

 特に尚文が一番期待に胸を膨らませているように見える。

 

「勇者様のご来場」

 

 4勇者が並んだところで、兵士がそう宣言した。

 尚文は目で俺たちを数えている。元康は女に目がいっているな。錬は興味なさげにしながらも、こちらに様子を伺っている。樹は……よくわからない。

 すると、クズが早速話題を切り出した。

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」

 

 それに、4勇者は驚きの表情をする。

 自分たちが選ぶ側じゃないの? という顔だ。

 まあ、この状況なら誰だってそう思うよな。俺も、自分が勇者ならそう思う。

 

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 クズが指し示すように腕を勇者達に向ける。

 それが合図で、俺たちはそれぞれの勇者のもとに向かう。

 俺は、錬を選択した。

 まー、多分尚文と一緒に戦った方が楽なのはわかっているんだがね。

 やり直しでも無いのに、シナリオを変えるのはダメだろう。

 しかしまあ、実際に勇者達を見ると、イライラする。

 こう、前に波の尖兵と会った時ほどでは無いが、イライラする。ムカつく事を言われたら、つい喧嘩を売ってしまいそうだ。

 

 で、結果どうなったかと言うと。

 錬、5人

 元康、4人

 樹、3人

 尚文、0人

 知ってはいるが、胸糞の悪くなる結末だ。

 

「ちょっと王様!」

 

 尚文のクレームに、少し慌てたふりをするクズ。

 お前が仕組んだんだろう。

 と言うか、尚文の言葉は日本語として聞こえるんだな……。

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

「人望がありませんな」

 

 クズに呆れ顔で大臣が同意して切り捨てる。

 そこへローブを着た男……影がクズに内緒話をする。

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」

「何かあったのですか?」

 

 元康が微妙な顔をして尋ねる。

 尚文が苦虫を噛み潰したような表情をする。

 いや、申し訳ない。申し訳ないが、何故か同情の感情は湧いてこなかった。おかしいな。何故だ? 

 と思ったら、そう言えばこの部屋にはヴィッチがいたな。

 あいつの悪影響なのかもしれない。

 俺はどうやらヴィッチに何らかの影響を受けている可能性が高い。

 

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」

「はぁ!?」

「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 

 元康が尚文の脇を肘で小突きながら、何かを告げた。

 作品を思い出すと、こう囁いたのだろう。

 

「昨日の雑談、盗み聞きされていたんじゃないか?」

 

 尚文がだんだん機嫌が悪くなっているのは明らかだった。

 ま、異世界召喚早々にこののび太みたいな扱いだもんな。

 誰だって嫌だろう。

 

「つーか錬! お前5人も居るなら分けてくれよ」

 

 尚文が錬を指差して威嚇するので、燻製を含めた俺たちは錬の後ろにわざと隠れる。

 うっわ、燻製のやつ醜い顔してるな……。

 肩が笑いで揺れているぞ。

 錬もなんだかなぁとボリボリと頭を掻きながら見て。

 

「俺はつるむのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 

 と言うが、中二病でコミュ障を隠しているだけに過ぎない。

 俺から矯正することはないけれどね。

 

「元康、どう思うよ! これって酷くないか」

「まあ……」

 

 元康のメンバーはヴィッチに知らない女性2人、男性といった感じだ。

 

「偏るとは……なんとも」

 

 樹も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。

 

「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」

 

 樹の尤もな言葉にその場に居る者が頷く。

 

「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」

 

 尚文の尤もな悲痛に、燻製以外の他の3人も居た堪れない顔をする。

 てか、なんで燻製は俺がいるのに剣の勇者を選んだんだろうか? 

 場がシンと静まり返り、少し間を置いたところで、事態が動いた。

 

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 ヴィッチが片手を上げて立候補する。

 

「お? 良いのか?」

「はい」

 

 まるでミナを思い起こさせる。

 俺はあいつの事を戦闘面以外では信用していないので、綺麗なヴィッチモードのままだけどな。

 この状況で立候補したら、そりゃ誰だって信用してしまうだろう。

 ヴィッチはミナと比べても、そう言う陰謀が得意なのかもしれない。

 と、俺はヴィッチを見ながら評価していた。

 

 ヴィッチは一見すると、セミロングの赤毛の可愛らしい女の子だ。

 ミナと似たような顔だが、顔は結構可愛い方じゃないか? やや幼い顔立ちだけど身長は尚文と比較すると少し低いくらいだ。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 

 シーン……誰も手を上げる気配が無い。

 クズは嘆くように溜息を吐いた。

 

「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

「は、はい!」

 

 妥当な判断だ。

 まあ、残念なことにこの国で尚文の仲間をしたいなんて稀有な存在は、それこそ奴隷ぐらいしかいないだろう。

 後は現在投獄されているエクレールとかかな? 

 

「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」

 

 勇者達の前に四つの金袋が配られる。

 ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。

 その中で少しだけ大き目の金袋が尚文に渡される。

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」

「「「「は!」」」」

 

 俺達はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。

 謁見の間を勇者達について出て行くと、それぞれが自己紹介を始める。

 

「俺は剣の勇者の天木錬だ。さっきも言ったが、ついてこれないやつは置いていく。後は俺の指示に従ってもらう」

「わかりました、アマキ様。私はウェルトと言います。これから、剣の勇者様のお役に立てるよう誠心誠意お仕え致しますのでよろしくお願いします」

 

 ウェルトは礼儀正しい感じがする。

 装備も、この国から支給される鎧に武器なので、国の兵士なのかなと思う。

 

「我輩はマルドだ。よろしくな、剣の勇者殿」

 

 燻製がそう言って自己紹介をした。

 

「私はテリシアと言います。主に魔法で皆さんを支援するのが役目です。適性は水と回復です。よろしくお願いしますね」

 

 テリシアはにこやかに微笑む。

 魔法使いみたいな出で立ちだが、僧侶系の魔法も使えるのか。

 

「あたしはファーリーよ。攻撃魔法が得意よ。よろしくね、勇者様」

 

 ファーリーはテリシアと違い、色気のあるお姉さんといった感じだ。確実に元康がナンパしそうである。

 俺は流そうとしたが、錬の目が俺を見つめる。

 若干イラッとするな……。

 

「俺は、えーっと、ソースケだ。これでも一応近距離、中距離、遠距離、魔法での支援色々できる。よろしく頼む」

「ソースケ……? お前は日本人なのか?」

 

 一応発音もメルロマルク語風に言ったはずなのに、錬の奴が突っ込んできた。

 一応設定ではあるが、言っておいた方が良いかな。

 

「あー……、勇者様は細かいところは知らないかもしれないが、この世界では過去にも勇者様が召喚されたことがあってな。勇者様と似た名前を付けることがあるんだ」

「そうなのか……? そう言う設定はブレイブスターオンラインにはなかったと思うが……」

「お前、その、物語のサブキャラの細かい設定なんて知ろうとするのか?」

「……ふん、確かにそうかもな」

 

 なんとか上手く誤魔化せたかな? 

 一応、納得した表情をしているので、上手く誤魔化だろう。

 思わず、余計な単語を挟んでしまうところだったが、まあ良い。

 そんな感じで俺は、錬のパーティに潜り込んだのだった。




サブタイトルは原作準拠です。
剣の勇者の他の仲間はあまり性格や他の描写が無いので、好き勝手に描写させてもらいますね。


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勇者の武具

「ソースケのことは後回しにするとして、俺はこれから武器を買いに行く。お前らも必要な装備は買った方が良いだろう」

「支度金は銀貨600枚ですからね。まずはアマキ様の装備を整えるのが一番でしょう」

 

 実際、あの中で一番装備が貧弱だったのは、ヴィッチだろう。

 もちろん、ワザとであるだろうが。

 

「そうだな。この服では防御力がないようだ。剣を育てるにしても、まずは店売りの剣を使った方が良いだろう」

「ふむ、ではアマキ様、近場に武器屋がありますので、まずは先にそちらを確認しましょうか」

「……ん? この国の武器屋は一つだけだろ? それも、序盤でしかお世話にならない武器屋が」

「いえいえ、最近できた武器屋があるのです!」

「そ、そうか……」

 

 あれ、もうちょっとゲーム知識に固執すると思ったのだが、案外素直にウェルトの言う事を聞くんだな。

 最初の頃だからだろうか? 

 

「では、案内しますね、アマキ様」

 

 最初の指示は、国からの指示があるまで他の勇者を盾の勇者に近づけないことである。

 確か、やり直しでは盾の次に剣が親父さんの店に行くんだっけか。

 黙ってウェポンコピーしていっただけだと聞いていたが、実際どうなんだろうな。

 

 ウェルトの案内で俺たちは武器屋に来ていた。

 

「いらっしゃい」

 

 この店は、どちらかと言うと量販店みたいなイメージの店だ。

 親父さんの店とは異なり、綺麗すぎる。

 奥に工房もないみたいだし、ゼルトブルの流通武器を扱う店のようである。

 

「すまないが、剣を一本購入したい」

「お客様、では当店自慢の一品をお持ちしましょう」

 

 棚に丁寧に飾られている剣を店主が持ってきた。

 

「こちらはいかがですか?」

「……悪くはないんじゃないか?」

 

 今の錬は目利きスキルや鑑定スキルなど持っていないから、テキトーに格好つけただけだろう。

 あの剣は、微妙な出来であるのは見ればわかる。装飾過剰の鉄の剣だろう。

 

「お持ちになってみますか?」

「ああ」

 

 錬が装飾剣を持って振るうと、バチバチッと音がして、錬は装飾剣を取り落としてしまう。

 

「くっ、何が?!」

「アマキ様?!」

 

 と、空中で文字を読むように目線が動く。

 

「何? 《伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました》だと?」

「レン殿、どう言うことだ?」

 

 燻製も困惑している様子だ。

 

「どうやら勇者はこの武器以外には武器として使えないようだ」

 

 錬はそう言うと、装飾剣を拾う。

 お、動きが止まったぞ。

 

「ウェポンコピー……」

 

 錬はぼそりと呟くと、装飾剣を机に戻す。

 

「すまない。落としてしまって。他の剣も良ければ見せてもらえないか?」

「??? 構いませんが、装備できないのでは?」

「コイツらが装備するかも知れないだろう?」

「わかりました」

 

 錬は店員から色々な剣を受け取り、片っ端からコピーしていった。

 生産者からしてみれば、泥棒行為だなと呆れる。

 

「ソースケさんは、なんで呆れた顔してるのかしら?」

「えーっと、テルシアさん、だっけ?」

「そうよ。で、ソースケさんはなんで呆れたような顔をしてるのかなって思いまして」

「……さてな」

 

 まさか目の前で勇者が泥棒行為に近いことをやっているなんて、誰が悲しくて指摘してあげなければならないだろう。

 まあ、勇者は武器をいっぱい解放すれば強くなるので、誰も文句は言うまい。

 店主以外はな! 

 

「おい、行くぞ。やはり品質はあの店の方が良さそうだ」

 

 錬は剣を置くと、俺たちにそう告げた。

 どうやらこの店の品質はあまりよろしく無かった様子だ。

 結局俺たちは武器屋の親父さんのいる店に向かった。

 

「おう、いらっしゃい」

 

 相変わらず気のいい人である。

 

「お、あんちゃんじゃないか」

「おっす、親父さん」

 

 俺は知った仲ではあるので、挨拶をする。

 

「さっき盾の勇者様って奴が女連れできてたんだがよ。どーにも引っかかる感じの女を連れててやな感じだったぜ。ほら、お前が連れていたミナって嬢ちゃんに似た」

「あー、やっぱりそう見える?」

「ああ、あんちゃんの場合はそもそも信用してない感じだったが、盾のアンちゃんは信用しているみたいだったからな。気をつけてやんな」

「……善処するよ」

「で、さっきから剣を触ってる見慣れない服装の坊主は何者なんだ?」

 

 錬は黙々とウェポンコピーをしている最中だった。

 一応、紹介しておいた方がいいかな? 

 

「ああ、彼は天木錬って言って剣の勇者様だ」

「へぇー。って事は、四聖全員が召喚されちまったって噂は本当だったみたいだな」

「ああ、で、俺は剣の勇者様のパーティになったわけだ。不本意ながらな」

「あー、まあ、あんちゃんはそう言うのは好きじゃなさそうだもんな」

 

 なんか納得して言われたが、若干腑に落ちない。

 

「で、今日は何の用だ?」

「ああ、あの勇者様が使える防具を見繕って欲しいんだ」

 

 隕鉄の剣はまあ、良いだろう。

 

「はいよ。と言ってもまあ、見た感じだとあんちゃんと同じく軽装がいいだろうな」

 

 そう言うと、親父さんはアニメの一話で見たことがあるような錬の防具を取り出した。

 

「銀貨130枚と言ったところだ」

「おい、錬。防具はこれで良いか?」

「ん? あ、ああ」

 

 俺がメインで話しすぎたか。

 まあ、親父さんもあまり錬の方は覚えてなさそうではあった。

 最終的には弟子になるんだがな! 

 錬は鎧を手に取る。

 

「序盤だとそこそこ防御力が高い鉄の鎧の亜種か。いいんじゃないか?」

 

 錬はそう言うと、試着室に向かう。

 

「おい、冒険者!」

 

 燻製に胸ぐらを掴まれた。

 お、なんだこいつ? 

 燻製になりたいのか? 

 

「なぜ、剣の勇者様を呼び捨てにしているんだ?」

「ん? ……あ」

 

 年下だからすっかり忘れていたが、つい呼び捨てにしていた。

 いかん危ない危ない危ない……。

 燻製だけではなく、他のメンバーも若干睨んでいる感じがする。

 うーん、これは俺が悪いな。

 

「す、すまない。錬様、これで良いだろ?」

「波を鎮めたと言っても調子に乗るんじゃないぞ! 冒険者!」

「ああ、次からは気をつけるよ」

 

 俺が素直に謝ったからか、燻製は少し離れてくれた。

 

「おいおい、喧嘩は他所でやってくれよ」

 

 いかんいかん、確かにちょっとばかし傲慢になってしまっていたようだ。

 もう少し冷静に改めるとしよう。




つい、傲慢になってしまうのは、仕様です。


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剣の現実

 錬の装備を整えた俺たちは、錬のレベリングをすべく城下町を出ていた。

 

「アマキ様、パーティの申請を送っていただけないでしょうか?」

「パーティの申請……ああ、これか」

 

 錬から申請が来たので、俺は許可する。

 すると、ステータス魔法左上にあるメンバー一覧が更新される。

 錬がパーティリーダーなため一番上に表示され、次に自分、他のメンバーの順に続いていく。

 しかし、ゲーム脳の錬がパーティ申請を忘れるなんて、よほどワクワクしていたんだな。顔も何だかんだでワクワクを隠しきれていない。

 

 まず、俺たちは錬の指示に従い、錬のレベル上げをすることになった。

 錬曰く、剣ならばどの地域の魔物を倒せば最適にレベルを上げられるかと言うのがわかっているため、俺たちは錬に従い戦闘を行う。

 尚文とは異なり、バルーン程度なら一発で切り捨てられるんだな。

 そこはさすがは剣の勇者様と言ったところか。

 入手経験値も、勇者様のパーティメンバーと言う事もあってか若干高めである。

 まあ、バルーンの場合は入手経験値は1な事には変わらないけれどね。

 錬のレベルが10まで上がったところで(これは驚くほかなかったが)、錬がこう言い出した。

 

「お前らの戦闘方法が知りたい」

「そうですね! 連携を取ることが重要ですから」

「いや、お前たちもレベルを上げるべきだと思ってな。戦い方によって適した狩場があるから、お前たちは今の俺に付き合わずにレベルを上げるべきだ」

「……勇者様がそう言われるなら」

 

 若干不満そうなウェルトだが、勇者様の言うことだし素直に従う。

 

「私は主に勇者様と同じく剣で戦います」

「なるほど、アタッカーか。レベルは?」

「14です」

 

 錬はウェルトを観察しながらそう断言した。

 俺の戦い方とは違い、後衛を守るような動きをする片手剣使いがウェルトの特徴だ。盾でも持ってればより良いのではないだろうかと思うが、盾は宗教上の敵のため、所持していないらしい。

 

「吾輩は主に斧で戦う。レベルは16である」

「メインアタッカー兼タンクか」

 

 燻製は斧を使う。樹を殺したのも、確か斧だったっけな。

 立ち回りは一発が大きいメインアタッカーだろう。

 

「私は主に魔法で皆さんを支援するのが役目です。適性は水と回復です。レベルは13になりました」

「後衛の支援型だな」

 

 テレジアさんは自己紹介でも言った通りのことを繰り返した。

 実際、錬が怪我した時にすぐに回復魔法を唱えていたしな。

 

「あたしは攻撃魔法ね。土と風の魔法が使えるわ。あたしは一発が強い魔法を使うわよ。レベルは21ね」

「攻撃魔法使いか」

 

 ファーリーさんは、的確な攻撃魔法で殲滅するタイプの魔法使いアタッカーである。

 今はあまり魔法を使っていないが、錬の撃ち漏らしを確実に仕留めていた。

 

「……俺は、まあなんでもできる」

「なんでも……?」

「前衛、中衛、後衛、魔法の攻撃、支援魔法、それこそなんでもだな。器用貧乏なだけだが」

「そうか、ならばお前は中衛をやってくれ。あと、レベルは?」

「20だ」

 

 ムカっとしたが、ここで対立をしても意味はないだろう。

 俺は素直に従う事にした。

 

「では、お前たちはこれから俺の指示する狩場で魔物を討伐しろ。魔物の死骸は剣に吸わせるから確保しろ」

「アマキ様はどうされるので……?」

「俺は、レベル10の剣を鍛えるのに適切な狩場があるから、そこでレベル上げをする」

「は、はぁ……」

「では、ここから二つ先の村で夕方6時に落ち合う事にしよう」

「わかりました」

 

 と、そんな感じで錬は俺たちに狩場を指示する。

 錬の指示した狩場は確かに効率よくレベルを上げることができた。

 俺にもどうやら勇者の加護がかかっているらしく、レベル上げ自体は快適にできたが能力補正は発動していないことは確認できた。

 お陰でレベルが22まで上昇した。

 1日でそこまで上がるにのはなかなか凄いことではあった。

 

「おお! さすがはアマキ様!」

「勇者様って言うのは本当になんでも知っているのね」

 

 と大絶賛であった。

 しかし、魔物の分布までゲームで再現されているのか……。

 よほど調査したに違いがなかった。

 ま、メガヴィッチは因果律まで操れる存在だから、わかって当然なのだろうね。

 

 夕方には俺たちは錬の指定した村まで行き、宿を取る。

 錬は18時ごろに一度戻り、食事をすると俺たちの成果を確認したあと、もう少し近くの狩場で魔物を狩ってくると言い、俺たちが集めた魔物の死骸を剣に吸収させた後に再び出て行った。

 

「ぬぅー……何なのだ!」

 

 何故か燻製が憤慨している。

 

「どうされました? マルド様」

「あの剣の勇者は一体何を考えていられるのだと言いたい!」

「と、申されますと?」

「これでは、正義を成せないではないか!」

「正義……? 勇者様に従って強くなれば正義を成せると思いますよ」

「……ふんっ」

 

 それからしばらくして、錬が戻ってきた。

 燻製は先ほどの不満そうな態度から一転して錬に従う様子を見せる。

 ヴィッチ関係者じゃ無いにしても、燻製はさすがヴィッチと同類なのだなと改めて感じる一幕であった。




剣の勇者のソロプレイ、はーじまーるよー


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冤罪

さあ、ここからが盾の勇者の成り上がりの本編ですね!


 翌日未明、村の宿屋で休んでいると、兵士たちがやってきて叩き起こされた。

 

「剣の勇者様御一行、冒険の最中申し訳ありませんが、一度城までご同行お願いできませんか?」

「ん? 何故だ?」

「その、重要な事がございまして、勇者様にご覧になっていただきたい事態がありましたので……」

「……ふん、お前ら、行くぞ」

 

 ああ、そう言えばそうだったなと思い出す。

 おそらく、ここが第一の分岐点だろう。

 何のって? 

 もちろん、この世界が【成り上がり】の世界か、【やり直し】の世界のである。

 俺が【盾の勇者の成り上がり】の知識を持っているため、どの時空かと言うのがあやふやなのが現実である。

 メガヴィッチが生きている以上は【真・やり直し】の方では無いのが確定するけれどね。

 まあ、この時点で元康がきていないと言うことは少なくともフォーブレイ編では無いことは確定だが。

 なんて事を馬車に揺られながら考えていた。

 

「一体何の呼び出しでしょうね?」

「……さあな。くだらない事だったら俺はすぐに去るぞ」

 

 俺はそれを白々しく聞いていた。

 むしろ、この場で知らないのは錬だけである。

 本当のところであれば、俺が助けるべきなのだろう。

 だが、気持ち的には尚文がどうなろうとどうでもいいかなと言う感情が強いのも事実であった。

 おそらく、これは俺が波の尖兵となった時に植え付けられた呪いのようなものなのだろう。

 それに、ここで邪魔をした途端に俺の頭が破裂しそうな気がしていた。

 とりあえず、脳内でヴィッチを殺すことにして気を紛らわせるとしよう。

 

 城の前までやってくると、俺たちは樹のパーティと合流した。

 

「あれ、錬さんも呼ばれたんですね」

「……ああ、重要な事があると伝えられてな」

「僕も同じです。一体何なんでしょうね?」

「……さあな」

 

 しばらく進んでいると、謁見の間まで兵士に案内された。

 クズ始めとした連中は不機嫌そうな感じで立っており、楔帷子を着た元康と怯えるような演技をしているヴィッチが居た。

 

「……元康? それに尚文の仲間になった冒険者か。どうしたんだ?」

「これは不穏な空気ですね……。皆さん、行きましょう」

 

 俺たちは樹に言われ、錬の後を追って駆けつける。

 まあ、結果を知っている俺としては単に胸糞悪いだけだ。

 知らないのは父親であるクズと三勇者、冒険者達ぐらいだろう。

 

「……チッ」

 

 俺は舌打ちをする。見過ごすのはやはり不快でしか無い。

 だが、ヴィッチの企みである以上は俺はどうすることもできなかった。

 

「おい、どうしたんだ?」

「ああ、尚文がこの子……マインちゃんを襲おうとしたんだよ!」

 

 怒りに彩られる元康の声。

 ああ、これで確定だな。

 この世界は【成り上がり】の世界だ。

 次の分岐はリユート村での騒動になるかな。

 ここでweb版か書籍版か分岐する。

 

「何ですって!」

 

 怒りに彩られる樹。コイツ正義大好きだもんな。

 尚文の冤罪はまさに正義が正すべき案件だと思うんだが……。

 まあ、ここで俺が割り込んでも、意味なく無駄死にするだけだな。いや、この場で頭を破裂させて死ねば、三勇者の認識も変わって面白いかもしれないけれどな。

 俺は俺の命を無駄にするつもりはないのでしないけれどな。

 

 と、ここでようやく尚文の登場である。

 冤罪をかけられた過程については、割愛しても良いだろう。

 非常に気分が悪いとしか言いようがなかった。

 この馬鹿3人組にも、それに加担する連中にも、黙って見ているしかない俺にもだ。

 

「……ふん、気分が悪い」

 

 錬は、再召喚を行うためには四聖が死なねばならないと言う現実に動揺しているようであった。

 得てして、こう言う王道召喚ものは目的が達成しなければ帰れないことがほとんどである。

 復讐ものなんかは世界を救った後に化け物視されて討伐対象にされるなんてことも起きるが、勇者自体が神であるこの世界ではそう言うことは起きないだろう。

 

「アマキ様、これからどうします?」

「……ギルドで依頼を受けて、報酬を得つつ、しばらくはあの村近辺を中心にレベル上げをするぞ。最初の波の適正レベルは43だからな」

「そうなんですか! ではクラスアップが必要ですね」

「ああ、波までには全員40までは上げてもらう」

「わかりました」

 

 と、そんな感じで錬の今後の予定が淡々と決まっていく。

 と言うことは、最初の波の適正レベルは23とかそこらあたりだったのかなと考える。

 でなければ、波の魔物を冒険者や兵士で討伐しきれないだろう。

 と、胸糞悪い冤罪の光景を朝っぱらから見せつけられて、俺は気分が非常に悪かったが、錬のパーティとともにレンの指定していた場所で狩りをする事になったのだった。




冤罪部分は原作そのまんまのため割愛です。


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我慢の限界

燻製が生意気だと言う話


 あれから3週間ほど経った。

 基本的に俺たちはギルドの依頼を受けつつ、錬とは別行動でレベル上げをしていることが多かった。

 それこそ、錬でも手を焼きそうな魔物を相手にする時に、一緒に討伐する感じだ。

 今日受ける依頼も、強力なボスモンスターが出現する依頼らしく、俺たちは錬に同行することになっていた。

 俺と燻製以外のメンバーは、錬の知識量に感服してしまい、ウェルトは「レン様」と呼ぶようになった。いやまあ、俺の方が早く「錬様」と言っていた気がするけれどな。

 燻製は自分の思う通りに活動ができないためか、始終不機嫌で、錬の事は「剣の勇者」と言うようになっていた。

 

「今日の依頼は想定レベル37の強力なボスモンスターがいる依頼だ。最初に指示を出しておくから、その通りに動け」

「わかりました! レン様!」

 

 錬とはパーティは組んでいるが、一緒に戦うことはほとんどない。

 雑魚はウェルト達が率先して戦うし、ボスはウェルトや燻製がタゲを取りつつ錬がとどめ刺す形になるからだ。

 だからこそ、燻製の中にヘイトが溜まっていったのだろう。

 燻製が俺や他のメンバーに突っかかる回数も増えていき、俺も結構イライラが溜まっていた。

 

 錬は自分だけでゼルトブルに行き装備を整えてしまっており、アニメで見た装備を身にまとっている。

 一人で狩ってると思ったらいつのまにかと言う状態だ。

 

「今回のボスモンスターはラージファルガウルフと言う。ファルガウルフが大型化した魔物だ」

「ええ! ファルガウルフは滅多に出てこない魔物ですよ!」

「コイツはなかなか素早い。ウェルトとマルドは敵を引きつけてくれ」

「わかりました、レン様」

「……フン」

「テリシアは、主にウェルトとマルドを回復させつつ、適宜水魔法で攻撃しろ」

「わかりましたわ、レン様」

「ファーリーはいつものようにラストアタックは俺がとるから、それまでは全力で攻撃だ」

「承知しているわ、レン様」

「ソースケは、援護魔法をメインで切れないようにしてくれ。俺やウェルト、マルドがピンチの時は援護を、テリシアとファーリーが狙われた場合はタゲを取りに行ってくれ」

「あいよ」

「ファルガウルフの特徴は、その素早さだ。ラージファルガウルフともなると二足歩行で襲ってくる。今回の依頼もそのタイプだ」

 

 ファルガウルフ……俺は知らない魔物だ。

 というより、そもそも【盾の勇者の成り上がり】は現地の魔物については非常に描写の少ない作品だ。

 知らない魔物が居ても当然だろう。

 

 そして、俺達は依頼のあった洞窟に来ていた。

 ダンジョンとも言うべきこの手の洞窟は、結構あるらしい。

 メルロマルクだけでも有名なダンジョンは両手で数え切れないほどにはある。

 ダンジョンアタック自体は特に錬が一緒に潜ることの多い依頼だ。

 しかし、レイファは無事だろうか……。

 最近はレイファのことが気になって仕方なかった。

 

「ソースケさん」

「ん?」

「ボケっとしてる暇はないですよ。レン様を追いかけないと」

「あ、ああ」

 

 いかんいかん、レイファの事を考えててぼんやりしていた。

 どうやらこのダンジョンは巣になっているらしく、至る所からファルガウルフが飛び出してくる。

 そこまで苦戦しないけれどな。

 ウェルトと燻製が一匹潰す間に俺は3匹を槍で殺す。

 ここ最近ずっと槍ばかりを使っているせいで、槍の熟練度は上がる一方だ。

 ステータス魔法を見ても、槍の熟練度はかなり高い。

 剣と弓は使う機会が無く、せいぜい使う機会があるのは援護魔法と槍と小手ぐらいだろう。別の得物を使うと、ウェルトが錬に報告するので面倒なことになる。なので、最近はめっぽう槍ばかりだ。

 今度親父さんに『人間無骨』でも作ってもらおうかなと考えながら、俺は槍を振り回し、テリシアを襲うファルガウルフを薙ぎ払う。

 

「錬サマ、そろそろつかないのか?」

「もうすこし先だ」

 

 俺がそう言うと、錬はそう返してくる。

 レベルも34まで上昇し、ファルガウルフも片手間で排除できる状態になっていた。

 

「グルルルルル……!」

「出たな」

 

 錬は剣を構える。

 あれは確か、魔物のドロップで出た剣だったな。今はウェルトが装備している、ファングソード……だっけな。

 どうやら狼系の魔物を討伐すると稀にドロップするらしい。

 ちなみに、ファルガウルフのレアドロップの一つでもあるようだ。

 ラージファルガウルフは確定でファルガランページソードと言う狼特攻の装備を落とすらしい。

 

「行くぞ! はああああああ!」

 

 錬が突っ込む。

 

「レン様を援護するんだ!」

 

 ウェルトと燻製が後に続く。

 しかし、基本的に錬が突っ込んでいくのは仕様なのか? 

 俺はため息をつきながら、槍を構えて魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者らを守れ』

「アル・ツヴァイト・ガード」

 

 俺は基本的に魔道書を読んで覚えているが、錬は国から支給された水晶で魔法を覚えている。

 俺が錬に魔道書で覚える事をオススメした時、錬は少し魔道書を読んで、すぐに返してきたっけ。

 

「悪いが、『異世界言語解読』スキルを得るまでは読めない。お前が覚えろ」

 

 そんなスキルは実際確認されたことはない。

 結果的に俺が少しアドバイスをした程度では変わらないと言うことだろう。

 

「おっと」

 

 回想にふけっている場合ではないな。

 テリシアやファーリーに飛んでくる攻撃を槍でいなす。

 基本、錬は目の前の敵に集中してしまうため、こうして俺が後衛を守る必要があるのだ。

 ファルガウルフを槍で切り殺し、二人を守る。

 

「ツヴァイト・アースクエイク!」

「ツヴァイト・アクアショット!」

 

 後衛の二人は攻撃魔法を唱えて、錬の援護をする。

 流石に3週間一緒に戦っただけはあり、息はピッタリである。

 自分勝手に動く勇者様を除いてはであるが。

 一番攻撃力の高い燻製が一番囮にされているので、俺は燻製のヘイト管理をせざるを得ないのだ。

 燻製がいようがいまいが歴史は変わらないが、今死なれても困るだけである。死体の処理的な意味で。

 得物が斧なせいか、がむしゃら攻撃が多い印象なのだ。お前兵士だろうに……。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 なので、錬以上に無防備な燻製に変わり前線に出て燻製をかばう。

 

「貴様! 我輩の手柄を横取りする気か!」

「危ねぇから庇ってやったんだろが!」

「貴様……!」

 

 ちなみに、ウェルトが庇っても燻製は文句を言う。

 逐一偉そうだし、錬の指示は70%無視するしで、全員が全員、関わらない錬以外は燻製に対してヘイトを高めていた。

 互いの我慢の限界も、そろそろ近かった。

 そうそう、ラージファルガウルフはあっさりと討伐できたのは言うまでもなかった。



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龍刻の砂時計

完全に主人公が空気の回


 同じ事をしていると、描写する必要もなく、俺達は各地を巡ってレベルアップに勤めていた。

 俺はレイファやドラルさんが無事か情報を集めていたけれど、その情報が俺の手元に届くことはなかった。

 不安が募る。

 そんな中、俺のレベルは40に到達していた。

 もちろん、俺のステータス魔法にもレベルの横に★マークが付いている。

 

「そろそろ波も近い。お前らのクラスアップに行くぞ」

 

 錬がそう提案したのは、当然のことであった。

 刻限からいえば、確かにそろそろそんな時期である。

 

「あの、私はまだ35なのですが……」

「ふむ、だが波の刻限も近いからな。次の波の適正レベルは43なんだ。悪いが全員クラスアップをしてもらう」

「わ、わかりました!」

 

 適正レベルが43なのか。なるほどな、だから最初の波の時点で尚文以外の勇者全員がクラスアップをしたわけである。

 クラスアップをしなかった場合、経験値が無駄になってしまうわけだしな。ゲーマーとしては、自分の育てた仲間の経験値が無駄になるのは見過ごせないだろう。

 それに、波は通常よりも経験値が多めに手に入る。

 

「さすが錬サマだな。波での経験値を考えればここでレベルキャップを外しておかないとテルシアの経験値が無駄になるからな」

 

 なので、納得できない顔をするテルシアに対して、解説気味にそう言う。

 

「そうだ。そう言えばソースケは波の経験者だったな」

「まあな」

「自惚れるなよ、冒険者が。貴様の解説を聞かぬとも、剣の勇者が説明するはずだったのだ」

 

 なんでこう、この燻製は突っかかってくるのだろうか? 

 と言うか初めからではあるが俺に対する圧が強い。

 まるでさっさとこのパーティを辞めろと言っているかのようである。

 別にリーダーぶっているつもりはないんだがな……。

 

「と言うわけで、一度メルロマルク城下町に戻る。移動をするからお前ら付いて来い」

 

 と言うわけで、俺達はメルロマルク城下町に戻ったのだった。

 

 三勇教教会に入ると、教皇……ビスカ=T=バルマスだったけな、が迎えに出てきた。

 

「おお、剣の勇者様、弓の勇者様、よくぞお出でになられました。本日はどのようなご用ですかな?」

「樹も居たのか」

「錬さんもですか。奇遇ですね」

「樹もクラスアップか?」

「ええ、そろそろ波の刻限も近いと思いまして、その確認も含めてですね」

「なるほど、では剣の勇者様と弓の勇者様のお仲間のクラスアップが目的ですな」

「はい、そうです」

 

 バルマス教皇は偉そうな信者……司祭? と少し話すと、微笑みをたたえたまま奥に促す。

 

「もちろん構いませんよ。ちょうど、槍の勇者様と盾の勇者様もお出でになられております。少し会話をすると良いでしょう」

 

 シスターに龍刻の砂時計の間に案内してもらうと、早速ステータス魔法に波までの時間が表示される。

 

 19:59

 

 と、傲慢そうな女の声が聞こえてきた。

 

「何よ、モトヤス様が話しかけているのよ! 聞きなさいよ」

 

 これだけでヴィッチだとはっきりわかんだね。

 俺は兜から髪の毛が出てないか再度チェックし、問題ない事を確認する。

 しかしまあ、このタイミングな訳だね。

 

「ナオフミ様? こちらの方は……?」

「……」

 

 ラフタリアの声が聞こえる。

 ラフタリアは、何度か名前が出てきているが、尚文の仲間だ。

 タヌキが源流だとわかる尻尾にタヌキの耳を持つ、亜麻色の髪をした美少女がラフタリアだ。

 イメージはアニメそのままだろう。すでに17歳ぐらいに見える容姿をしており、改めて尚文が憎悪による認識障害を起こしている事を実感する。

 尚文は、蛮族の鎧に緑色のマントを羽織っており、顔がやさぐれている。目の下にクマができており、世界に対する憎悪が満ちているのが見ているだけでわかる。

 ぐっ……良心が痛む! 

 と言うか、ここまで憎悪に歪んだ顔をしているのに、なぜ元康も錬も樹もおかしいと気づかないのだろうか? 

 そうそう、当然ながら元康がいると言うことはヴィッチがいると言う事だ。つまり、俺の正常だった認識に若干曇りが入る、と言う事だ。

 

 尚文は不機嫌そうにラフタリアの手を握り、こちらに向かってくる。

 

「チッ」

「あ、元康さんと……尚文さん」

 

 樹は舌打ちをした尚文を見るなり不快な者を見る目をし、やがて平静を装って声を掛ける。

 

「……」

 

 錬はクールを気取っているため当然ながら無言だ。

 しかしまあ、この狭い空間に17人も居たら、鬱陶しい感じがするのはわかる気がする。

 

「あの……」

「誰だその子。すっごく可愛いな」

 

 戸惑いながら付いていくラフタリアに対して、元康がそう感想をつぶやき、キザったらしく近づいて自己紹介を始める。

 

「始めましてお嬢さん。俺は異世界から召喚されし四人の勇者の一人、北村元康と言います。以後お見知りおきを」

「は、はぁ……勇者様だったのですか」

 

 最初を知ってるだけに、笑える光景である。

 報酬よこせとか、色々要求してたのになー。

 おずおずとラフタリアは目が踊りながら頷く。

 

「あなたの名前はなんでしょう?」

「えっと……」

 

 困ったようにラフタリアは尚文に視線を向け、そして元康の方に視線を移す。困惑してるぞ、元康。

 

「ら、ラフタリアです。よろしくお願いします」

 

 ラフタリアは冷や汗を掻いて尚文の様子を見ている。

 

「アナタは本日、どのようなご用件でここに? アナタのような人が物騒な鎧と剣を持っているなんてどうしたというのです?」

「それは私がナオフミ様と一緒に戦うからです」

「え? 尚文の?」

 

 元康は本気で驚いているのか、ラフタリアと尚文を見比べる。

 

「……なんだよ」

「お前、こんな可愛い子を何処で勧誘したんだよ」

 

 元康は尚文を睨みつけながら、尚文を問いただした。

 ますます尚文の表情が歪む。

 

「貴様に話す必要は無い」

「てっきり一人で参戦すると思っていたのに……ラフタリアお嬢さんの優しさに甘えているんだな」

「勝手に妄想してろ」

 

 そもそも、盾でどうやって戦えと言うのかと。

 仲間もしくは奴隷を雇う以外無いだろう事は想像に難く無い。

 元康はこの中で一番頭がいいはずだけど……なんで思い浮かばないのかね? 

 

 尚文はこちらの方にある出入り口の方へ歩き出す。

 俺たちは道を開ける。

 

「波で会いましょう」

「足手まといになるなよ」

 

 ヴィッチがいるせいか、普段は気にすることの無い錬の言葉すらイラついてしまう。

 事務的でありきたりな返答をする樹と、勇者様態度の錬。

 目立たないように俺はしているが、内心心がザラついていた。

 

「行くぞ」

「あ、はい! ナオフミ様!」

 

 どうしたらいいのか迷っていたラフタリアは、尚文の声で正気に返ると慌てて尚文を追いかけていった。

 

「……くだらない茶番だな」

 

 俺がぼそりと呟いたのを錬が拾った。

 

「全くだ」

 

 うぐっ、同意されると俺まで中二病じみてる感じがして嫌だな。

 いや、高二病は治っていない自覚はあるけれども。

 チラリと周りを見ると、燻製以外の剣チームは苦笑いをしている。

 燻製は清々しい顔をしている。

 

「ふふん、正義がなされたのだ。盾の扱いなどこれで正しい」

 

 燻製の言うことなどをいちいち気にしていてもしょうがないだろう。

 俺は視線を戻して、元康達の方を見た。



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クラスアップ

感想、アンケート回答めっちゃ感謝です!


 さて、クラスアップである。

 この世界はレベルキャップが存在しており、40でレベルキャップとなる。

 龍刻の砂時計で儀式を行うことによって、レベルキャップを100まで外すことができるわけだ。

 

「それじゃあ、最初にクラスアップするのは俺の仲間だな」

 

 元康は軽そうな声でそう言うと、女3人のクラスアップを促す。

 

「マイン、レスティ、エレナは自分の思う通りにクラスアップしてくれ!」

「わかりましたわ、モトヤス様」

 

 この頃にはもう、このメンバーなんだなと思う。

 レスティからは案の定、ヴィッチと同じ感じがする。

 実際は言及されては居ないが、この感じは間違いなくメガヴィッチに似た気配である。

 エレナはまあ、知っての通りか。

 しかし、「モトヤス様に選んでほしい」なんて誰も言わないんだな。

 あっ……(察し)

 

 クラスアップの儀式はまあ、特に言及する必要もない。

 ピカーっとヴィッチ達の体が龍刻の砂時計から発せられた光に包まれて、おしまいである。

 

「モトヤス様、無事クラスアップが終わりましたわ」

「へぇー、みんな何を選んだの?」

「ふふ、それはあ・と・で、教えますわ」

 

 などと不毛な会話をしている。

 他の勇者がいるから教えたくないんだろうな。

 

「次は俺らだな」

 

 と錬が前に出る。

 

「良いですよ。どうぞ、お先に」

 

 樹は微笑みながら錬に順番を譲った。

 

「クラスアップで選ぶのは敏捷を重視しろ」

 

 錬の指示に従うウェルト達。

 奴隷でもない限りは相手のステータスを見る事はできないので、嘘をつく事も可能ではある。

 それぞれが龍刻の砂時計に近づき手を置くと、ステータスが強制的に開く。

 そして、龍刻の砂時計から光が溢れ、身体を包み込むと、ステータスにツリーが出現する。

 

「ああー、そう言う。なるほどねぇ」

 

 俺は思わず呟いた。

 クラスアップと言うのは、言うなればジョブチェンジだ。

 自分の可能性を選択できる、と言うのは間違いではない。

 おおよそ、条件としてはレベル40であるか、基礎ステータスが一定値以上であるかと言う感じだ。

 ゲームではおそらく、武器毎に決まったジョブにクラスアップしたのだろう。

 

「えーっと、確かオーダーは敏捷だっけな」

 

 俺はレベル40★のため、多くの可能性が選択できる。その上、日々の鍛錬……コソ練を続けてきたおかげか、基礎ステータスは高い。

 選べるジョブで素早さが高いのは、忍者、侍、シーフの3つだろう。

 うーん、でも、俺は基本槍ばっか使って何でも屋っぽい感じになっているしなぁ。

 ここは単純に敏捷の高さだけでなくて、戦闘スタイルとの兼ね合いも考えたほうがいいだろう。

 比較的素早さが上がりやすい中衛向けのジョブは……竜騎士? 

 竜騎士に変化すると、いくつかの専用の技と、龍騎乗A+と言うスキルがつくらしい。

 スキル……勇者専用じゃなかったのか。

 なので、俺はこれを選択する。

 光が俺の体に吸い込まれて、ステータスが若干伸びたように感じた。

 ふむ、ステータス魔法で確認をすると、攻撃力が1.5倍、素早さが1.2倍、それ以外のステータスが1.1倍伸びた。

 まあ、上々だろう。

 

「錬サマ、クラスアップが終わったぞ」

「敏捷が高いのを選択したか?」

「んー、流石にシーフや忍者を選ぶ勇気はなかったわ。今の戦闘スタイルから考えて、俺は竜騎士を選択した」

「……悪くはないな」

「レン様とソースケ殿は何を仰られているのだ?」

 

 ウェルトが話に入ってくる。

 

「クラスアップの話だが?」

「は、はぁ……シーフはわかりますが、ニンジャだのリュウキシだのよくわからない言葉で話されていたので、なんだと思いました」

 

 あー、忍者とか竜騎士ってメルロマルク語に無かったっけ。

 自然と、日本語を使ってしまっていたらしい。

 錬の言葉は俺には日本語にしか聞こえないからな……。

 

「……何を言っているんだ? ウェルトは」

 

 そして、自動で翻訳される錬にはわからない内容だったらしい。

 

「我輩はパワーこそ全てなのだ! 敏捷など我輩の戦い方に合わぬからな!」

 

 そして、声高らかに阿保を晒す燻製。それに、錬は若干呆れた表情をする。

 

「……ソースケ、マルドのフォローを任せた」

「……あいよ」

 

 その後、樹がそれぞれのメンバーに指示を出してクラスアップをさせた。

 後は、龍刻の砂時計の砂を入手するイベントだっけかな。

 そう思っていると、情報通の錬が一番はじめに声を出した。

 

「おい、シスター。龍刻の砂時計の砂を分けてもらえないか?」

「ええ、はい。勇者様のお望みでしたら」

 

 シスターが肯定すると、龍刻の砂時計の砂が採取されてそれぞれの勇者に分け与えられた。

 

「おお、ポータルスピアーか! 転移ができるスキルだな」

「ああ、これなら色々と移動が便利になる」

「こちらも出ましたよ。転送弓ですね」

 

 と、そんな感じで転送スキルをゲットした勇者たちなのであった。

 残り、波の刻限まで19時間。

 やり直しで元康は勇者たちがゼルトブルに行ったと言っていたが、ゼルトブルはなかなか遠い国だ。

 ポータルスキルで帰りに移動するにしても、行きで半日はかかるだろう。

 そんな事を考えていたら、錬が俺に耳打ちをした。

 

「ソースケ、俺はこれからゼルトブルに行く。……頼んだぞ」

「え、あ、マジ?」

 

 思わず素で反応してしまった。

 それから、三勇者は別々の馬車でゼルトブルに向かったらしい。

 全員仲間を置いて単独な点は、笑うところだろうか?




燻製は早く燻製にしたいなぁー
一応、書籍ルート(HardMode)なので、相当後になります。
残念!


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厄災の波

 ゼルトブルでウェポンコピーをしてきた勇者たちは、波の刻限の5時間前に自前に転送スキルで戻ってきた。

 

「ふっ……、隕鉄の剣を手に入れたぞ」

 

 よほど嬉しかったらしく、錬は隕鉄の剣のままにしている。

 あれは解放をしているのかな。

 流星剣は便利だもんな。

 

「こっちは任せたと言われたから、準備をしていたが……城の兵士から錬サマに渡してくれって言われたアイテムがあるから渡しておくぞ」

 

 俺は、信号弾を投げ渡す。

 信号弾はちょうど、銃のような形をしている。

 錬は片手でそれを上手くキャッチした。

 

「ふむ、これは……」

「信号弾だ。波が発生したら、それを天高く打ち上げて欲しいんだと」

「俺じゃなくてウェルトやテルシアでもいいんじゃ無いのか?」

「レン様、射撃系の支援具でもレベルによるステータスの差で飛距離が変わるんですよ。私たちの中ではレン様が一番ステータスが高いので、レン様にお願いしたいのです」

「……わかった」

 

 錬はそう言うと、自身の防具袋の中に信号弾をしまう。

 やはり、武器として使用する目的では無いならば、伝説の武器は弾いたりはしないようであった。

 

 00:03

 

 3分前。

 俺たちは武装を整えて、街中に立っていた。

 周りには武装した兵士が囲っている。

 勇者の出立を見送るのと無事を祈るためらしい。

 

「勇者様がた、どうか手早く波を鎮めてください!」

「もちろんだ。そのために俺たち勇者が呼び出されたんだからな」

 

 元康……道化様が自分の槍を振り回しながら、悠々とそう言う。

 

「ええ、僕たちの責務です。最善を尽くしましょう」

 

 樹が胸に手を当ててそう言う。

 

「ふん、やれるだけの事はやるさ」

 

 錬も応じる。

 しかし、全員が全員隕鉄シリーズなのな。

 現在解放中ってところか。

 ゼルトブルまで行かなくても、錬には入手する手段はあったと思うが、まあ、ヒミツだ。

 

 0:02

 

 俺たちの周囲が光に包まれる。

 まるでサーヴァントが去るときのような……ってFate/シリーズやってないとわからない例えだな……。

 

 今回、俺は全ての武器をフル装備している。

 槍は、錬が渡してくれたドロップであるニアフェリーランス。ニアフェリーボアと言うイノシシのような魔物を討伐した時のドロップである。

 剣は、親父さんの店で購入した短剣を装備した。アーマードナイフと言ったところだろう。短剣ほどある長さだが、ナイフである。扱い方は軍のコンバットナイフのような感じだろうか? 接近した時に使う。

 弓は、腰にクロスボウをぶら下げている。親父さんが作ってくれたもので、イメージを伝えただけで作ってくれるとはさすがであった。これは遠距離で牽制する時に使う。

 小手ももちろんアップグレードしている。錬から貰ったドロップ品でニアフェリーガントレッドだ。

 鎧もアップグレードしてあり、見た目は若干豪華になっている。

『人間無骨』は一応依頼したが、親父さん曰く、

 

「はぁ……、対人用のエグい構造の槍だな。まあ、防御貫通まで再現できるかわからねぇが、試してみるか。盾のアンちゃんの分もあるから少し時間がかかるが、大丈夫か?」

 

 という感じで、波の後に完成することになっている。

 

 0:01

 

 さて、俺は基本的には錬達の露払いだ。

 村は尚文達に任せることになる。

 波の中心でキメラを討伐するが、これは勇者に任せれば大丈夫なはずだ。

 

「勇者様ー!」

「波からお救いください!」

「勇者様ー!」

 

 と、大仰な見送りがあり、時刻が訪れた。

 

 0:00

 

 ──ビキン

 

 音が響き、一瞬で景色が変わった。

 お、尚文とラフタリアもいる。

 

「行くぞ!」

 

 錬の声に続いて、一斉に駆け出したので、俺は後を追って走り出した。

 

「リユート村近辺です!」

 

 ラフタリアが焦るように何処へ飛ばされたか分析する。

 

「ここは農村部で、人がかなり住んでいますよ」

「もう避難は済んで──」

 

 尚文はハッと気づいたが、もう遅かった。

 

「ちょっと待てよ、お前等!」

 

 そんな尚文の制止する声が聞こえたのは、それなりに離れた後であった。

 錬は信号弾を上に構えて放つと、その場から煙の柱が上がる。

 近くのリユート村だし、30分もあればこれるだろう。

 内心悪いなと思いつつ、早速湧いて出た波の魔物をクロスボウで撃ち落とす。

 戦う前に打ち落とせば、数は減らせるだろう。

 弓の勇者様はそんなことには気づかない様子である。

 誰が一番初めに波の麓に到着するか競っているように、目の前に現れる魔物を討伐していた。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 自分のパーティメンバーのみを対象に、俺は支援魔法をかける。

 どうせこいつらは、俺の話は聞かないだろう。

 なので、尚文のためにも露払いだけやっておく。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を今一度読み解き、彼の者等を打ち滅ぼす雷の嵐を呼びおこせ』

「ツヴァイト・サンダーストーム!」

 

 俺が魔法を発動させると、ファーリーが驚いたように俺を見る。

 

「ソースケ、アンタ何してんのよ! 魔力を消費して!」

「経験値稼ぎだ。気にするな」

「気にするわよ! 援護魔法をかける時に魔力が足りなかったらどうするのよ!」

 

 俺は太もものポーチを指差す。

 

「俺はここにポーションと魔力水は携帯しているから、気にするな。それより、波が近づいてきたせいか、魔物の数が増えているぞ。気をつけろ」

「むー、それもそうね。ソースケがブーストかけてくれたおかげで身体が軽いし」

 

 ファーリーは早速攻撃魔法を唱えて、襲ってくる魔物を討伐する。

 それぞれ、元康の女ども以外の仲間達は魔物に攻撃を開始したのだった。

 

「ほら攻撃が来るじゃないの! 守りなさいよ!」

「もう! 役に立たないわね!」

 

 今この場では、先頭に立って戦っている燻製の方が、喚き散らしているヴィッチ達よりも役に立っているなと感じる俺であった。




波のボスとの戦いは次回やります。


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vs次元ノキメラ

 さて、今回の波のボスは次元ノキメラである。

 おそらく、波の魔物と言うのは接続した世界の魔物が出てくる現象だ。

 まあ、推測だけどね。

 つまり、あの波の先はキメラやリザード系統、ゴブリン系統の魔物が存在する世界である。

 出てくる魔物はこの世界とは違い、よくあるファンタジー魔物と言ったらいいか、そう言う世界っぽい。

 

 魔物に妨害されて、2時間ほど時間がかかってしまったが、俺たちは次元ノキメラのところまでたどり着いた。既に魔物が多数取り巻いており、リユート村までかなり近いところまで接近していた。

 これは勇者が来なかったら、ルロロナ村の様に人里で大暴れしたに違いないな……。

 今地に伏して倒れている冒険者の亡骸が、この次元ノキメラの強さを雄弁に物語っていた。

 出現位置はリユート村にかなり近い位置である。

 

「一番槍は俺が貰った! エアストジャベリン!」

 

 次元ノキメラは獅子の頭、龍の頭、山羊の頭の蛇の尻尾を持っている。

 魔獣というのがふさわしいだろう。

 勇者たちが近づこうとすると龍の頭が炎のブレスを吐いてくる。

 エアストジャベリンはキメラの蛇の尻尾に弾かれる。

 

「行くぞ! 勇者殿をお助けするのだ!」

 

 燻製が走り出す。

 

「チッ!」

 

 俺は燻製の前に出ると、槍でキメラの爪攻撃を防ぐ。

 力の方向を見て、槍でその方向を変えるイメージだ。

 

「燻製! 前に出るな!」

「く……は?」

 

 俺のあだ名に困惑する燻製。

 そう言えば、俺は燻製のことを呼んだことが一度もなかったな。

 

「君、良い槍持ってるね! 後で見せてよ!」

 

 元康がそう言うと、尻尾と戦う俺を抜いて攻撃する。

 

「はああああ! 乱れ突き!」

 

 乱れ突きが命中し、キメラは怯む。

 

「行くぞ! エアストバッシュ!」

「エアストアロー!」

 

 錬の使う、いわゆる空波斬みたいなものである。

 樹も、冒険者としては強力な弓を放つ。

 

「我輩も行くぞ!」

 

 キメラが怯んだ隙をついて、燻製が斧で攻撃する。

 ダメージは、そこそこな感じかな? 

 ちなみに、ウェルト達は他の魔物と乱戦状態であった。

 

「三段撃ち!」

 

 樹が技を放つ。

 吸い込まれる様に矢の軌道が変わり、弱点っぽい所に命中する。

 それに、怒ったのかドラゴンの頭が樹に噛みつきに行く。

 それにしても多彩な攻撃だ。

 隙という隙が無いのだ。

 こんな感じのこう着状態がしばらく続いてしまう。

 お互いダメージを与えあって、しばらく戦っていると、元康が槍を隕鉄の槍に変化させた。

 

「強化がまだだけど仕方ない! 流星槍!」

 

 元康が飛び上がり、槍を放つと星のエネルギーが出現して次元ノキメラに命中する。

 

「では、次は僕が、流星弓!」

 

 弓から放たれる矢に合わせて、星のエフェクトが出現し次元ノキメラに命中する。

 

「流星剣!」

 

 錬は接近して切りつけると星のエフェクトが召喚されて追加でダメージを与える。

 それぞれ、アニメで見た流星シリーズそのままである。

 俺が再現するには、魔法剣の様な感じですると良いだろうか? 

 俺の使う雷大旋風も、勇者なら合成スキルで出来そうではある。

 

「ソースケ! 魔法!」

 

 と、錬から指示が入る。

 ああ、合成スキルを使うんだな。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を放て』

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「合成スキル・エアストサンダーソード!」

 

 俺の放ったサンダーショットが錬の剣に集中する。そして、錬が天に剣を掲げると、雷の剣が空中に召喚されて、次元ノキメラに直撃する。

 これは俺が錬の前で雷大旋風を使ったことから思いついたらしい。

 ヘルプで確認すると、『合成スキル』の項目を見つけたらしい。

 

「グギャアアアアアアアア!!」

 

 ダメージを受けてキメラが悶絶をする。

 やはり、波の戦いは勇者がいてこそと言うことか。

 そこまで苦戦している様子を見せないのは流石だろう。

 

「ヒュー、カッコいい! だが俺たちも負けないぜ! マイン! エレナ! レスティ!」

 

 さっきから積極的に戦わず、近くに居た魔物のみ倒すエレナと、他の仲間に魔物を押し付けるヴィッチとヴィッチ2号が、元康の指示に足を止めて魔法を詠唱する。

 

『力の根源たる私が命ずる、理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす炎を放て』

「ツヴァイト・ファイアショット!」

「「ツヴァイト・エアーショット!」」

「みんなの力を借りた俺の合成スキル! くらえ! エアストバーストフレアランス!」

 

 炎と風の塊が槍から放たれて、キメラを燃やす。

 この頃はまだ『私』なんだな。

 既に『次期女王』とでも言うのかと思った。

 あの時はメルティを殺せると確信があったから言っていたんだろうなと思う。

 

「錬さん、元康さんに良いところを見せてもらいましたし、僕も続きましょう。皆さん!」

「はい、イツキ様!」

 

 樹の仲間の一人が魔法を唱える。

 

「ツヴァイト・エアーショット!」

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「行きます。合成スキル、エアストプラズマストームアロー!」

 

 樹の放った矢にエアーショットとサンダーショットが絡みつき、緑色のプラズマを放ちながら、キメラに直撃する。

 

「ギャオオオオオオオオオン! グルルルル……」

 

 次元のキメラは苦悶の声を上げて倒れた。

 1時間もかかってしまったが、なんとか倒せたのだ。

 次元ノケルベロスは思えばあれは弱い魔物だったのだろう。

 つまり、今回の波の脅威度は前回よりも高かったという証左である。

 

 仲間の方は同時並行で周囲の魔物を片付けていたわけだが、もちろん波のボスを倒したからと言ってすぐに波が鎮まるわけでもなく、魔物も減ったりはしない。

 かと言って勇者ほどの派手な技も見せ場もなく地味に処理出来てしまった。

 それでも到着までに2時間、キメラ討伐までに1時間は普通にかかっている。そして、波の亀裂まではさらに2時間かかってしまった。

 到着が遅れたことによって、被害はそれなりに拡大しており、幸いにして死者が出なかったことが唯一の良かった点だろう。

 

「それじゃ、波の亀裂まで無事到着できたことだし、波本体を攻撃しますかね」

 

 元康がそう言うと、錬と樹はうなづいた。

 そして、勇者たちがそれぞれの勇者スキルで波の亀裂を攻撃をすると、波の亀裂が治っていく。

 

 もちろん、既に出現してしまった魔物は消えないので、それを討伐しながら俺たちはキメラの元へと戻ったのだった。

 キメラの元に戻ると、錬はドラゴンの部位を収め、元康はライオンの顔を収め、樹は山羊の頭を武器に収めた。

 

「ま、こんな所だろ」

「そうだな、今回のボスは楽勝だった」

「ええ、これなら次の波も余裕ですね」

 

 そんな事を勇者たちがが話していると、騎士団を連れた尚文が登場する。

 しかし、尚文は何も語らずに睨んだ後に、舌打ちをする。

 

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 

 やっぱり、どこかで似た様な兵士がそう告げる。

 んー、このタイミングでこのセリフを言うって言うことは……。

 ああ! 思い出した! 

 この後亜人に消される兵士じゃん! 

 

 その兵士長の指示に従い、勇者達は移動することになった。

 俺がふと立ち止まり、尚文を見ると、ちょうどアニメの構造と被って見えた。

 

「あ、あの……」

 

 リユート村の人達だろうか? 

 尚文に駆け寄り話しかけた。

 

「なんだ?」

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います」

「なるようになっただろ」

「いいえ」

 

 尚文の返答に、首を振って応える。

 

「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです」

「そう思うなら勝手に思っていろ」

「「「はい!」」」

 

 村の連中は尚文に頭を下げて帰っていった。

 

「ソースケ」

 

 錬に声をかけられて振り向く。

 ちょうどラフタリアが尚文に話しかけるのと同じタイミングだった。

 

「行くぞ」

「……あいよ」

 

 こうして、勇者達によって波が鎮められた。

 正直、あの強さならばレベル100の冒険者の方が強いのではないのだろうかと思う。

 だが、今回は尚文が村の防衛役、錬たち他の勇者がキメラと戦ってちょうどいいバランスだった様に、俺には感じられたのだった。




やっぱり、勇者は弱いんじゃないかと言う。
キメラ戦の最後で合成スキルでとどめを刺したのは、隕鉄シリーズの解放が住んでいない+それぞれの強化が完了していないためです。

エアストサンダーソードは、宗介も雷轟剣として使えたりします。


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茶番な祝賀会

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 

 クズの不快な声が会場に響く。

 陽も落ち、夜になってから城で開かれた大規模な宴にクズが高らかに宣言したからだ。

 ちなみに死傷者は前回が1万人(亜人を含めるともっといたかな?)ほどであり、セーアエット領が壊滅したことに比べれば、今回の死傷者は一桁に収まる程度だったので、喜ばれるのも納得ではある。

 むしろ、前回はセーアエット領で発生したために余計に兵士の到着が遅かった疑いまである。

 今回の波だって領の兵士や冒険者だけでは到底防ぎようがなかっただろう。

 尚文が波から守らなければ、リユート村含めた周囲の村は滅んでいただろう。

 

 そんな感じで、祝賀会が開催された。

 勇者様方は貴族の女性に囲まれてちやほやされている。

 尚文は窓枠のところで真剣な表情でタッチスクリーンを操作するような手つきでステータス魔法を操作している。

 錬は煩わしそうな雰囲気を出しつつ、まんざらでもない表情をしている。

 

「ソースケさん!」

 

 不意に聞き覚えのある声を聞いた。

 げ、ミナだ。

 そう言えば、ミナはアールシュタッド領領主の娘だったな……。

 

「や、やあ」

「すみません、父が勇者様との旅を認めなかったので道中抜けてしまって」

 

 俺は嫌な奴にあったなぁと思う。

 まあ、確かに貴族として着飾っているミナは美人だろう。

 だが、中身はヴィッチである。

 つまりはそう言うことだ。

 

「今は剣の勇者様の仲間をしていらっしゃるんでしたね」

「ああ、そうだな」

「今度埋め合わせをさせていただきますね」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

 本当に大丈夫だから! 

 お前といるとなんか精神が蝕まれる感じがして嫌なんだよ! 

 とは口には出さないが思っていた。

 

「おい、冒険者! なんだその良い女は!」

 

 既に酒を飲んで顔が赤い燻製が絡んできた。

 ちょうどいい、押し付けてやるか。

 似た者同士気があうことだろう。

 

「おお、勇者ではない身であるにも関わらず、果敢にも攻撃を仕掛けた勇敢なマルド氏では無いか!」

 

 俺がキャラが変わったように褒め称えたが、それに乗る阿呆が目の前にいた。

 

「そうだろうそうだろう! 我輩の活躍に、ようやくお前も気づいたか!」

「ええ! まさに勇者と言っても過言では無い活躍でした!」

 

 誇大広告である。確かにアタッカーとして頑張ってはいたが、HPゲージ的には1mm程度の活躍だ。

 大部分は勇者達の成果である。

 そもそも、俺ら冒険者は基本的には勇者様の露払いが役目だ。

 俺は燻製の盾になったが、それでも魔法で雑魚殲滅の手伝いはしていた。

 

「そうだろうそうだろう! わぁっはっはっはっは!」

「ミナ、紹介する。この人は波で活躍されたマルド氏だ」

「え、あ、はい、そうなんですね。よろしくですわ」

 

 ニコニコと微笑むミナ。

 だが、名乗らなかった。

 

「わっはっは! よろしく頼むぞ、ミナ殿!」

 

 気分良さそうに酒を煽る燻製にヴィッチはお似合いだろう。

 やはり、俺は波の尖兵には向かないな。

 あんなに傲慢にはやはりなれない。

 と、威勢のいい声が聞こえて、会場がざわついた。

 

「おい! 尚文!」

 

 ああ、もうそんな時間なのか。

 俺は人を掻き分けて騒動の中心を鑑賞しに行く。

 いやだって、これが盾の勇者の成り上がりたるイベントだし、モブとしては見に行かないわけにはいかないよなぁ? 

 ちょうど元康が尚文に手袋を叩きつけているところだった。

 

「決闘だ!」

「いきなり何言ってんだ、お前?」

「聞いたぞ! お前と一緒に居るラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

 

 当のラフタリア本人は騒動など気にせずご飯を美味しそうに食べていた。

 

「へっ?」

 

 そんなラフタリアは置き去りにイベントが進行していく。

 

「だからなんだ?」

「『だからなんだ?』……だと? お前、本気で言ってんのか!」

「ああ」

 

 うーん、人間不信が極まって超がつくほどの説明不足感を感じるな。

 今の元康に聞く耳などないだろうが。

 

「アイツは俺の奴隷だ。それがどうした?」

「人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

「何を今更……俺達の世界でも奴隷は居るだろうが」

 

 ちゃんと元康に説明するならば、こうだろうか? 

『俺の盾は攻撃力がない。お前らのせいで仲間もできない。そんな状況に追い込んで置いて、奴隷すらも使うなだと? そもそも、この国は奴隷を認めている。仮にラフタリアが女じゃなかったらお前は声もあげなかっただろう?!』

 うーん、やはり今の俺では決闘する流れを変えることは不可能か。

 

「許されない? お前の中ではそうなんだろうよ。お前の中ではな!」

 

 相手が元康のせいか、完全に怒りに飲まれている尚文。

 側から見ればわかるが、完全に目が濁っている。

 それでも消えない優しさがあると言うことは、やはりやり直しの通り、元は優しい性格なんだろうな。

 

「生憎ここは異世界だ。奴隷だって存在する。俺が使って何が悪い」

「き……さま!」

 

 ギリッと元康は矛を構えて尚文に向ける。

 

「勝負だ! 俺が勝ったらラフタリアちゃんを解放させろ!」

「なんで勝負なんてしなきゃいけないんだ。俺が勝ったらどうするんだ?」

「そんときはラフタリアちゃんを好きにするがいい! 今までのように」

「話にならないな」

 

 交渉下手かな? 

 元あった状態から帰るなら、負けたらその代価を支払うべきだろう。

 今の元康に払える代価は金銭かな? 

 

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」

 

 尚文が去ろうとすると、クズの声が聞こえて、人垣が割れる。

 

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

「知るか。さっさと波の報酬を寄越せ。そうすればこんな場所、俺の方から出てってやるよ!」

 

 いやー、ほんとクズですわ。

 そんな事を言うならば、メルロマルクから亜人奴隷を一掃しろよと。

 クズはどうせ許可・推奨している側だろうに。

 

 クズは溜息をすると指を鳴らす。

 周囲で待機していた兵士達がやってきて尚文を取り囲んだ。

 見ればラフタリアが兵士達に保護されている。

 

「ナオフミ様!」

「……何の真似だ?」

 

 尚文は憎悪に濁った瞳でクズを睨みつける。

 

「この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

「……チッ!」

 

 女王様に聞かせたい言葉だな。

 万が一メルロマルク女王様に謁見する機会があれば、聞かせたいものだ。

 

「勝負なんてする必要ありません! 私は──ふむぅ!」

 

 ラフタリアが騒がないように口に布を巻かれて黙らされる。

 

「本人が主の肩を持たないと苦しむよう呪いを掛けられている可能性がある。奴隷の言う事は黙らさせてもらおう」

「……決闘には参加させられるんだよな」

「決闘の賞品を何故参加させねばならない?」

「な! お前──」

「では城の庭で決闘を開催する!」

 

 ちなみに、城の庭と言っても、あそこは決闘場だ。

 訓練で立ち行って、あそこで訓練してたしな。




宗介くん野次馬根性丸出しの回


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矛盾の実践

 城の庭は今、決闘会場と化していた。

 辺りには松明が焚かれ、宴を楽しんでいた者達がみんな勇者の戦いを楽しみにしている。

 しかし、決着がどう付くかは既に周知の事実となっているのだ。

 攻撃する手段の無い尚文と、槍の勇者である元康の戦い。

 盾の勇者一行と槍の勇者一行の戦い……ではなく、尚文と元康の一騎打ちになった。

 さすがに元康自身のプライドが許さなかったらしく、一対一になった。

 結果は誰だって想像くらい出来る。

 現にこの手のお約束である賭博行為をする声がまったく聞こえてこない。

 まあ城に居るのが貴族が多いと言うのもあるけれど、俺を含めた波で戦った冒険者だって居るのだ。

 普通であれば賭博が行われないはずが無い。

 つまりみんな分かっていて尚、尚文に敗北を要求している。

 錬は興味なさげに、樹は尚文を哀れむような表情で城のテラスから傍観している。

 ヴィッチ……ああ、赤豚ね、アイツがいる位置は普通に見てもやはり変な位置にいる。ちなみに、ミナの方はアールシュタッド領主の隣である。

 常識的に考えれば、アレでは戦闘に巻き込まれてもおかしくはない位置だ。

 原作にはないが、アニメ版には出現するバルマス教皇もいた。

 いやまあ、尚文が教皇を認識したのがドラゴンゾンビの後だから、認識外だったのかもだけれどね。

 

「では、これより槍の勇者と盾の勇者の決闘を開始する! 勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」

 

 しかし、この場の空気は非常に不快だ。

 燻製の顔もこれから起こる事を期待しているような、嫌な顔をしている。

 

「矛と盾が戦ったらどっちが勝つか、なんて話があるが……今回は余裕だな」

 

 元康舐めた感じでそう勝利宣言をする。

 自分の正義に酔っているのだろうけれども、客観視すると悪だろう。

 少なくとも、弱者をいたぶる事が正義だとは到底思えないな。

 

「では──」

 

 審判っぽい兵士が溜める。

 

「勝負!」

 

 さて、茶番が始まった。

 いやまあ、流れは変わってないから結末も同じだろう。

 なので、ここは基本的に決闘に参加しない連中を見たほうがいいかな。

 錬と樹は、尚文の戦い方に驚いている様子だ。

 

「……盾があんなに善戦するなんて」

「確かに、驚きだな」

 

 ゲームに詳しいとか言っているが、こいつらは戦いに詳しいわけではないからな。

 実際、他のネトゲでもタンク職は重要だったりする。

 ヘイト管理や前線職が戦いやすい状況を作り、魔法職に攻撃がいかないようにするのが役目だ。

 タンクが落ちれば戦線は決壊する。

 TRPGでもパーティを組んで遊ぶ時は俺がタンクをやっていたっけな。

 それほど重要な事を理解していないのは、ゲームオタクを名乗るものとしては不思議に思う。

 中衛をやっていても、ウェルトがタンクをやっていてくれるからやりやすいのもあるしな。

 

「きゃあああ! モトヤス様ー!」

「モトヤス様ー。頑張ってー」

 

 元康の仲間二人は、元康がもっと簡単に勝てると踏んでいたのかきゃあきゃあ言っている。言っているのだが、エレナの方は若干棒読み感を感じてしまった。

 

「おいおい! 槍! 情けないぞ! 冒険者の方が動きがいいではないか!」

 

 俺を引き合いに出してぎゃあぎゃあ言っているのが燻製だ。

 まあ、そう言う反応になるよね。

 お前を守っているのが俺だし。

 他の錬の仲間は、すごく申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 樹の仲間は、元康を普通に応援している。

 そう言えば、樹の仲間はクズ揃いだったっけ……。

 

 ミナは、俺が見ていないと思っているのか舐めた顔をしている。

 尚文がヴィッチの風魔法で吹き飛ばされた時はすがすがしい顔をしていたので、やっぱり同類だなと感じた。

 

「はぁ……はぁ……俺の、勝ちだ!」

 

 元康の辛そうな勝利宣言に、会場中が湧き上がる。

 いや、そこは喜ぶところなのかな? 

 弱い弱いと思っていた盾に苦戦しているんだぞ。

 明らかに勇者が弱いことの証左だろうが! 

 

 俺はこのクッソくだらない茶番を見ながら、呆れるしかなかった。




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知らなければならない現実

感想の方のコメントを一部採用しました!


「何が勝ちだ、卑怯者!」

 

 尚文は憤怒の形相で立ち上がり、元康を問い詰める。

 

「何の事を言ってやがる。お前が俺の力を抑えきれずに立ち上がらせたのが敗因だろ!」

 

 うっわ、流石にそのポジティブ解釈は引くわ。

 外から見てもヴィッチが魔法を使ったことは明らかだし、手をかざしてたしね。

 錬の顔を観ると、訝しむ顔をしている。

 

「お前の仲間が決闘に水を差したんだよ! だから俺はよろめいたんだ!」

「ハッ! 嘘吐きが負け犬の遠吠えか?」

「ちげえよ! 卑怯者!」

 

 虚しい茶番劇が繰り広げられる。

 

「ソースケ」

「ん?」

 

 錬の方から話しかけてきた。

 

「お前は気づいたか?」

「あの女の使った魔法にか?」

「ああ、お前が気づいたのなら間違いないな」

 

 錬は納得したようにうなづくと、樹の隣に戻り話し始める。

 

「そうなのか?」

 

 観衆に元康は目を向ける。

 だけどそっちの観衆は教皇や貴族が座っている側だ。当然ながら沈黙が支配する。

 

「罪人の勇者の言葉など信じる必要は無い。槍の勇者よ! そなたの勝利だ!」

 

 クズがそう宣言する。俺がここで楯突いても問題ないだろうが……。どっちみち錬や樹が動きそうな雰囲気を出している。

 聞き耳をたてると、

 

「なるほど、それは懲らしめなければなりませんね」

 

 と言う気の抜けるような樹の言葉が聞こえてきた。

 

「さすがですわ、モトヤス様!」

 

 事の元凶であるヴィッチが白々しく元康に駆け寄る。そして城の魔法使いが元康だけに回復魔法を施し、怪我を治す。

 尚文の周囲には誰もいなかった。

 

「ふむ、さすがは我が娘、マルティの選んだ勇者だ」

 

 と、クズは赤豚ヴィッチの肩に手を乗せる。

 その事実に驚愕の表情を浮かべる尚文。

 

「いやぁ……俺もあの時は驚いたよ。マインが王女様だなんて、偽名を使って潜り込んでたんだな」

「はい……世界平和の為に立候補したんですよ♪」

 

 嘘くさい言葉を並べるなこのヴィッチは。

 あ、尚文の盾から黒いモヤが溢れ始めたぞ。

 

「さあ、モトヤス殿、盾の勇者が使役していた奴隷が待っていますぞ」

 

 クズがそう言うと、人垣が割れ、ラフタリアが国の魔法使いによって奴隷の呪いを、尚文に見せつけるように、今まさに解かれようとしていた。

 魔法使いが持ってきた杯から液体が零れ、ラフタリアの胸に刻まれている奴隷紋に染み込む。

 ふと、視線を移すと、錬達二人はすでに席を外していた。

 

「ラフタリアちゃん!」

 

 元康がラフタリアの方へ駆け寄る。

 口に巻かれた布を外されたラフタリアが近付いてくる元康に向けて言葉を、涙を流しながら元康の頬を叩いた。

 パンッと結構強い力でビンタしたのか音が鳴り響く。

 

「この……卑怯者!」

「……え?」

 

 叩かれた元康が呆気に取られたような顔をする。

 

「卑怯な手を使う事も許せませんが、私が何時、助けてくださいなんて頼みましたか!?」

「で、でもラフタリアちゃんはアイツに酷使されていたんだろ?」

「ナオフミ様は何時だって私に出来ない事はさせませんでした! 私自身が怯えて、嫌がった時だけ戦うように呪いを使っただけです!」

 

 ラフタリアの涙の訴えに、困惑の表情を浮かべる元康。

 おいおい、現実を見ろよ。

 冒険者側はすっかり白けてしまったのか、俺以外すでに席を外し始めていた。

 

「それがダメなんだろ!」

「ナオフミ様は魔物を倒すことができないんです。なら誰かが倒すしかないじゃないですか!」

「君がする必要が無い! アイツにボロボロになるまで使われるぞ!」

「ナオフミ様は今まで一度だって私を魔物の攻撃で怪我を負わせた事はありません! 疲れたら休ませてくれます!」

「い、いや……アイツはそんな思いやりのあるような奴じゃ……」

「……アナタは小汚い、病を患ったボロボロの奴隷に手を差し伸べたりしますか?」

「え?」

「ナオフミ様は私の為に様々な事をしてくださいました。食べたいと思った物を食べさしてくださいました。咳で苦しむ私に身を切る思いで貴重な薬を分け与えてくださいました。アナタにそれができますか?」

「で、できる!」

「なら、アナタの隣に私ではない奴隷がいるはずです!」

「!?」

 

 ラフタリアは黒いモヤを掻き分けて、尚文の元へと駆けつける。

 

「く、来るな!」

 

 うずくまる尚文の声は大きかった。

 

「噂を聞きました……ナオフミ様が仲間に無理やり関係を迫った、最低な勇者だという話を」

「あ、ああ。そいつは性犯罪者だ! 君だって性奴隷にされていたんだから分かるだろう」

「なんでそうなるんですか! ナオフミ様は一度だって私に迫った事なんて無いんですからね!」

 

 えー……、まだ言っているのか。

 そろそろ現実を直視した方がいいんじゃないの? 

 元康は頭がいいんだろう? 

 俺は呆れながら、肩肘をついてその様子を見ていた。

 気分は傍観者ちゃんだな! 

 

「は、放せ!」

「ナオフミ様……私はどうしたら、アナタに信頼して頂けるのですか?」

「手を放せ! 俺はやってない!」

 

 ラフタリアは尚文の言葉を無視して、ぎゅっと抱きしめる。

 

「どうか怒りを静めてくださいナオフミ様。どうか、アナタに信じていただく為に耳をお貸しください」

「……え?」

「逆らえない奴隷しか信じられませんか? ならこれから私達が出会ったあの場所に行って呪いを掛けてください」

「う、嘘だ。そう言ってまた騙すつもりなんだ!」

 

 やっぱり、自殺防止機構が働いているらしい。

 ここまでくると自殺したくなるよな。

 国中が自分をいじめているのだ。

 

「私は何があろうとも、ナオフミ様を信じております」

「黙れ! また、お前達は俺に罪を着せるつもりなんだ!」

「……私は、ナオフミ様が噂のように誰かに関係を強要したとは思っていません。アナタはそんな事をするような人ではありません」

 

 黒いモヤの流出が止まった。

 ドライアイスみたいな感じで広がっていたので、ちゃんと二人の様子は見える。

 

「世界中の全てがナオフミ様がやったと責め立てようとも、私は違うと……何度だって、ナオフミ様はそんな事をやっていないと言います」

 

 ラフタリアの必死の呼びかけに、顔を上げる尚文。

 ここからではよく見えないが、あの濁った目は幾分か軽減したことだろう。

 

「ナオフミ様、これから私に呪いを掛けてもらいに行きましょう」

「だ、だれ?」

「え? 何を言っているんですか。私ですよ、ラフタリアです」

「いやいやいや、ラフタリアは幼い子供だろ?」

 

 ああ、やっぱり認識障害だったんだな。

 尚文の言葉で実感する。

 申し訳ないと言う気持ちと、どうでもいいと言う気持ちが半々ではあるけれどな。

 

「まったく、ナオフミ様は相変わらず私を子供扱いするんですね」

 

 困った表情をするラフタリア。

 うーむ、やっぱり美人だなぁ。

 レイファは天使だが、ラフタリアは別の方向で美人である。

 

「ナオフミ様、この際だから言いますね」

「何?」

「亜人はですね。幼い時にLvをあげると比例して肉体が最も効率の良いように急成長するんです」

「へ?」

「亜人は人間じゃない。魔物と同じだと断罪される理由がここにあるんですよ。確かに私は……その、精神的にはまだ子供ですけれど、体は殆ど大人になってしまいました」

 

 そしてラフタリアは尚文をぎゅっと抱きしめて告げる。

 

「どうか、信じてください。私は、ナオフミ様が何も罪を犯していないと確信しています。貴重な薬を分け与え、私の命を救い、生きる術と戦い方を教えてくださった偉大なる盾の勇者様……私はアナタの剣、例えどんな苦行の道であろうとも付き従います」

 

 いや、うん。このシーンを直接見ると、感動するなぁ! 

 

「どうか、信じられないのなら私を奴隷にでも何でもしてください。しがみ付いてだって絶対に付いていきますから」

「くっ……う……うう……」

 

 尚文は我慢しようとしたのだろう。だが、溢れ出る感情はそれを許さなかったようだ。

 

「ううう……うううううううううう」

 

 と、ここでようやく我らが勇者様の登場だ。

 

「さっきの決闘……元康、お前の反則負けだ」

「はぁ!?」

 

 錬と樹が人混みの間から現れて告げる。

 

「上からはっきり見えていたぞ、お前の仲間が尚文に向けて風の魔法を撃つ所が」

「いや、だって……みんなが違うって」

「王様に黙らされているんですよ。目を見てわかりませんか?」

「……そうなのか?」

 

 元康が観衆(貴族側)に視線を向けるとみんな顔を逸らす。

 

「でもコイツは魔物を俺に」

「攻撃力が無いんだ。それくらいは認めてやれよ」

 

 今更、正義面で錬は元康を糾弾する。

 

「だけど……コイツ! 俺の顔と股間を集中狙いして──」

「勝てる見込みの無い戦いを要求したのですから、最大限の嫌がらせだったのでしょう。それくらいは許してあげましょうよ」

 

 樹の提案に元康は不愉快ながらも、諦めたかのように肩の力を解く。

 

「今回の戦いはどうやらお前に非があるみたいだからな、諦めろ」

「チッ……後味が悪いな。ラフタリアちゃんが洗脳されている疑惑もあるんだぞ」

「あれを見て、まだそれを言えるなんて凄いですよ」

「そうだな」

 

 まだ納得していない表情の元康を、錬と樹が連行していく。

 貴族達も釣られて城に戻っていく。

 

「……ちぇっ! おもしろくなーい」

「ふむ……非常に遺憾な結果だな」

 

 クズとヴィッチも立ち去ったので、俺も立ち去ることにしよう。

 

「つらかったんですね。私は全然知りませんでした。これからは私にもそのつらさを分けてください」

 

 ラフタリアの優しい声が、俺の良心を傷つける。

 波の尖兵としてこの世界に来ていなければ、俺はきっと助けただろう。その結果が無残に殺されるとしてもだ。

 だが、それはできない。

 勇者に信頼されるのは問題ないが、勇者を仲違いさせるのがきっと俺の役目なのだろう。

 俺は唇を噛みながら、決闘場となった庭を後にした。




ほとんど本編なぞっているだけと言うね。


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夢はまだ覚めず、現実は遠く

 俺は兵士に部屋に案内された。

 もちろん、剣の勇者の仲間用にあてがわれた部屋だ。

 

「ふん、忌々しい盾め!」

 

 扉をあけて早々、憤慨している阿呆がいる。

 

「あ、ソースケさん」

「遅かったですね、何をしていたんですか?」

「ま、茶番を見終わった後だったしな。ちょっとトイレに行ってきた」

 

 ちょっとした映画を鑑賞した後の気分である。

 トイレで思いっきり泣いてきただけであるが。

 

「茶番って……」

 

 ファーリーさんが苦笑いする。

 

「茶番だろう。錬サマだって、こんなくだらないことに時間を使わせやがってって思ってるさ」

「まあ、確かにレン様ならそうかもだけどね……」

「ソースケさん、ここはメルロマルク城内ですよ!」

 

 ファーリーさんとテルシアさんが注意してくるが知ったことではない。

 俺はこれでも結構強い。傲慢かもしれないが、対人戦だと補正が効くので滅法強くなる。今のステータスと合気道と槍術を組み合わせた技なら対人相手ならでも余裕だという自信がある。

 まあ、しないがな。

 

「知らんな。だが、この城の阿呆共は現実をそろそろ知るべきだ。勇者がいてくれるおかげで、波を楽勝で超えられただけだという現実をな」

 

 今でも、俺はあの次元ノケルベロスが恐ろしくてたまらないのだ。

 あの、死と隣り合わせの感覚は、二度と味わいたくない。

 

「「……」」

 

 俺の実感のこもった言葉に、二人は言葉がなかったようだ。

 

「フン、波を勇者なしで乗り越えたからと言って偉そうにしおって!」

 

 燻製はそのままでいいよー。

 ミナは押し付けてやるから。

 

「ソースケくんの言っていることもわかる。だけど、これは世界の危機なんだ。私たちがしっかりして、レン様を……勇者様を支えればいい」

「そうですね」

「そうね」

 

 まあ、一番まともなこいつらに言っても仕方ないだろう。

 本当にしっかりして欲しいのは錬の方である。

 なんだかんだでちゃんと客観視出来ている錬が、一番の有望株なんだよ。まだゲーム世界だと思っているようだけどな。

 

 ……本当は、ウェルト、テルシア、ファーリーには死んでほしくはない。

 だが、俺はそれに関しては何も出来ないし、霊亀復活時点では俺は剣の勇者様のパーティメンバーではないのだ。

 未来の事を告げたとしても、それがきっかけで破裂して死ぬわけにもいかないし、そもそも信じてもらえる確証がない。やり直しでも元康が尚文に信じてもらえるように色々試行錯誤しているしな。

 俺がすべきことは何だろうか? 

 あのメガヴィッチに与えられた使命ではなく、俺が召喚された意味だ。

 この世界の歴史を改変することは許されない。それはおそらく、尚文に明確に認識されるのもアウトだろう。波の尖兵として殺されるからな。

 じゃあ、波の尖兵として動けばいいのか? 

 それをすると、おそらくタクトに殺されるだろう。

 

 死にたくない! 生きて、元の世界に戻るんだ! 

 

 俺の思いは、現状それだけだ。

 この一度きりしかない、どうあがいてもソルな状況から、どうにか脱出するのだ! 

 

 俺がそんな事を考えていると、部屋に錬が入ってきた。

 

「レン様。どうなさいましたか?」

「ああ、明日からの方針を話す」

 

 錬の中では次の行動は決まっていたらしい。

 

「この時期から、ドラゴン討伐のクエストが発生する。場所はミルソ村だ」

「おお! 我輩の出身の村ではないか!」

 

 燻製は確か、ミルソ村出身だったはずである。

 

「そうか。だが、すぐには討伐はしない。各地で発生するクエストを順にこなしていき、レベル60を目指す」

「ドラゴンの適正レベルは?」

「レベル63だ。だがまあ、今のお前たちならば、俺とともに戦えば苦戦することはないだろう。レベルさえ伴っていればな」

 

 錬は錬なりに仲間を信頼しはじめているらしかった。

 

「明日、報奨金を貰ったら、すぐに出発するぞ。ソースケは明日、武器屋から槍を購入するんだったな。それを待って出発することにしよう」

「わかりました、レン様」

 

 錬の提案に、ウェルトは応える。

 おそらく錬に対する忠誠度が一番高いのがウェルトだ。

 先の波での闘いぶりを見て、もう一段階忠誠度が上がった気がする。

 

「では、くだらない茶番があったが、ゆっくり休め。勇者は個室が与えられているから、俺はそちらに行く」

「わかりました!」

 

 そう言い残し、錬は部屋を出て行った。

 まだ、錬の目を見ると、ゲームの世界だと思っていることは伝わってくる。さながら俺たちはNPCなのだろう。

 あの、次元のキメラの周囲に転がっていた冒険者たちの無残な死体は、錬の目に留まることは無かったらしい。

 

 勇者たちが、夢から覚めるには、絶望を乗り越えるしかないようだ。

 全員思い込みが激しい性格をしているから、余計にそうなのだろう。

 

 錬の保身

 樹の独善

 元康の妄信

 

 勇者の認識をゲームの世界だと認識させるステータスの存在や、ゲーム通りのイベントの発生、そしてモンスターの配置。

 それらが全て、三人の勇者として未熟な点を補強しているような気がしていた。




一巻のエピローグに該当する話です。
二巻冒頭までは本編の流れをなぞりますが、道中は錬の描写は無いので、自由に書かせてもらいますね!


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分かち合う理不尽

web版と書籍版の異なる点を見落としていたため再掲です。


 翌朝、勇者たちの食事が終わった後に食事を取ることになった。

 案の定不機嫌顔の尚文を横目に、案内された席に座り食事をとる。

 ヴィッチはどうやら、勇者たちと食事をとったためか居なかった。

 

「おい! 貴様! いつまで兜を被っている! 冒険者は四六時中兜を被っててむせないのか?」

 

 何故か燻製に指摘された。

 まあ、野営で寝るときは基本いつも見張りを買って出てるし、その時に外していたりする。

 それに、親父さんの好意によって、この兜はむせないので、頭を洗う時以外はついついつけたままにしても問題ない高性能な兜なのだ。

 

「問題ないだろう」

 

 マナーなど知ったことではない。

 黒髪である事を勇者に知られる事の方が問題なのだ。

 メルロマルクは、実は黒髪の人間を見かけることはほぼない。

 黒髪の子供は勇者の血が濃く出たものとして、フォーブレイに送られるからである。

 そんな感じのせいで、転生者が生まれにくい土壌がメルロマルクには形成されているのだ。

 これは日頃の情報収集の賜物だな。

 何で、口の軽い燻製には絶対に知られたくないのだ。

 

「ぐぬぬ……」

「いいからさっさと食えよ。勇者様を待たせることになるぞ?」

「ふんっ!」

 

 燻製は自分の席にどかっと座ると、汚く食べ始めた。

 俺は、フォークとナイフでいつも通りに食べ進める。

 食器に関しては、メルロマルクは洋食に近いせいか、スプーン、フォーク、ナイフが主流だ。

 文化上での食器と言うのは、異世界でも変わらないのだなと思う瞬間である。

 俺たちが出る頃には尚文の姿はなかったが、どこか別の場所で待機しているのだろう。

 メルロマルクの連中は現実を直視できてないんだな。いや、主にクズが私怨でやっている事だったな。

 

 およそ10時頃、俺たちは勇者たちと共に呼び出された。

 

「あ、そこの君!」

 

 呼び止められたのは、元康だった。

 

「……なんだ、槍の勇者」

「あれ、俺って君に何かしたっけ?」

「……なんでもない。どうしたんだ?」

「貴方! モトヤス様になんて態度なのよ!」

 

 ヴィッチがなぜかこっちに寄って来た。面倒臭い奴め! 

 ヴィッチの服装は、王女のそれである。豪華絢爛なドレス姿だ。

 

「……槍の勇者、要件は何?」

「ああ、君の槍を見せて欲しくてね。結構いい槍だし、見せてもらえないかなって」

「ウェポンコピーしたいなら、そう言えばいいじゃないか。ほら」

 

 俺は呆れながら、槍を渡す。

 

「え、あ、ありがとうってなかなか強い槍だな!」

 

 元康は驚きながら俺から槍を受け取ると、ニアフェリーランスをウェポンコピーする。

 ウェポンコピーした槍は、聖武器特有の核がついたものになる。

 

「……ほい、サンキューな。君、ウェポンコピーについて知ってたんだ」

「錬サマから見せてもらったからな」

「……なるほど」

 

 聖武器を間近でしっかりと見たのは初めてだが、これは表層ですら俺には奪えないだろうことがわかる。

 聖武器を奪えるのはタクトの特権だからな。俺はどうやら眷属器4つが奪える最大の容量らしい。

 

「ほらよ、返すぜ」

 

 俺は槍を受け取る。

 

「しかし、錬の名前を正確に発音出来てるんだな。君、もしかして日本人だったり?」

 

 頭がピリッとする。

 ここで正しい答えを言わなければ、頭が破裂するのだろう。

 どちらにしても、答えは決まっている。

 

「これでもメルロマルク人だ。錬サマの発音を真似してるだけだよ」

「お、おう。……そりゃ残念」

「モトヤス様、こんな冒険者風情なんて相手にせずに行きましょう!」

「わかった。じゃな! 頑張れよ」

 

 道化様はそう言うと、颯爽と謁見の間に入っていった。

 俺達冒険者組は、勇者様が入場した後に脇に並ぶ感じで入場する。

 尚文とラフタリアは二人で並んで待機していた。

 

「では今回の波までに対する報奨金と援助金を渡すとしよう」

 

 報奨金と言う単語に対して、尚文がピクリと反応する。

 ギルドやクズから依頼があったりしたんだが、それに対するものだろう。

 錬が仲間と共に挑むクエストの大半は王家からの依頼だったりする。

 

「ではそれぞれの勇者達に」

 

 遠くからだからあまり見えないが、それぞれに銀貨の入った袋が渡される。

 最初は元康からみたいだ。

 

「モトヤス殿には活躍と依頼達成による期待にあわせて銀貨4000枚」

 

 あからさまな贔屓である。

 非常に不快でしか無い。

 周囲を見渡せば、貴族や大臣連中がニヤニヤしていやがる。

 

「次にレン殿、やはり波に対する活躍と我が依頼を達成してくれた報酬をプラスして銀貨3800枚」

「王女のお気に入りだからだろ……」

 

 錬は不快そうな表情をする。

 それもそうだ。

 錬はかなり精力的にギルドや王……クズの出す依頼をこなしていたからな。

 

「そしてイツキ殿……貴殿の活躍は国に響いている。よくあの困難な仕事を達成してくれた。銀貨3800枚だ」

「この辺りが妥当でしょうね」

 

 そうは言いつつも樹の表情は元康を羨む感じである。

 

「ふん、盾にはもう少し頑張ってもらわねばならんな」

 

 クズは偉そうにそんな事を宣う。

 勇者だからそこまで不快さを感じないが、常識で考えればおかしいだろう。

 

「奴隷紋の解呪代として援助金は無しとさせてもらう」

 

 あ、クズには常識がなかったな。

 袋をつかもうとしてスカした尚文は怒りの表情をクズに向ける。

 

「……あの、王様」

 

 ラフタリアが手を上げる。

 

「なんだ? 亜人」

「……その、依頼とはなんですか?」

 

 当然知る由の無いラフタリア達が質問をする。

 

「我が国で起こった問題を勇者殿に解決してもらっているのだ」

「……何故、ナオフミ様は依頼を受けていないのですか? 初耳なのですが」

「フッ! 盾に何ができる」

 

 場内が失笑で溢れる。

 勝手に見下し、勝手に評価して、勝手に失笑するとか、この国やばいな。

 知ってはいるが実際に目にすると、この末期感はヤバい。これは国が自滅により滅ぶ兆候だろう。

 女王が戻らなければ、確実にメルロマルクは亡国だ。

 それに気づかぬ無能な連中がこの場に揃っているのだ。

 

「ま、全然活躍しなかったもんな」

「そうですね。波では見掛けませんでしたが何をしていたのですか?」

「足手まといになるなんて勇者の風上に置けない奴だ」

 

 やはり、錬もその程度の認識かと思った。

 実際はまあ、評価を上げる要素を目撃していないことが原因だろう。

 当然ながら、尚文が反論する。もちろん、皮肉たっぷりだが。

 

「民間人を見殺しにしてボスだけと戦っていれば、そりゃあ大活躍だろうさ。勇者様」

 

 それに元康がスカした表情で答える。

 

「ハッ! そんなのは騎士団に任せておけば良いんだよ」

「その騎士団がノロマだから問題なんだろ。あのままだったら何人の死人が出たことやら……ボスにしか目が行っていない奴にはそれが分からなかったんだな」

 

 元康、錬、樹が騎士団の団長の方を向く。

 団長の奴、忌々しそうに頷いていた。

 

「だが、勇者に波の根源を対処してもらわねば被害が増大するのも事実、うぬぼれるな!」

 

 どちらも正論ではある。

 あんな怪物を普通の冒険者が討伐できるはずもない。

 今の弱っちい勇者なら、3人居てようやく一人前状態だろう。

 逆に、誰も防衛に行かなければ、リユート村は確実に滅んでいたのも事実である。

 

「はいはい。じゃあ俺達はいろいろと忙しいんでね。行かせて貰いますヨー」

 

 尚文は苦虫を噛み潰したような表情で立ち去ろうとする。

 

「まて、盾」

「あ? なんだよ。俺は城で踏ん反り返っているだけのクズ王と違って暇じゃないんだ」

「お前は期待はずれもいい所だ。消え失せろ! 二度と顔を見せるな」

 

 ははは、こりゃ傑作だ。

 勝手に呼んでおいて、散々いじめ倒してコレとか、マジで終わってるな。

 俺がちらっと他の冒険者を見ると、笑ってる連中がほとんどだった。

 ウェルト達は苦笑しているみたいだが。

 

「それは良かったですね、ナオフミ様」

 

 クズの言葉に満面の笑みでラフタリアが答える。

 

「……え?」

「もう、こんな無駄な場所へ来る必要がなくなりました。無意味な時間の浪費に情熱を注ぐよりも、もっと必要な事に貴重な時間を割きましょう」

「あ……ああ」

 

 尚文の表情が若干明るくなる。

 

「では王様、私達はおいとまさせていただきますね」

 

 ラフタリアはそう言うと軽やかな歩調で俺をリードし、尚文達は謁見の間を後にしようとした。

 が、ここで待ったがかかる。

 

「ちょっと待ってください」

 

 樹が自身の正義感に任せて手を挙げてクズに異論を唱える。

 

「なんじゃ弓の勇者殿?」

「昨日の事なのですが、尚文さんに対して行った不正に関する問題はどう考えているのですか? と尋ねているのです」

 

 ああ、あれは確かにただの不正行為……すなわち【悪】だ。樹としては看過出来る話では無いだろう。

 思わぬところから、思わぬクレームが入り、場の空気が固まる。

 

「どう、とは?」

「ですから、ラフタリアさんを賭けた勇者同士の戦いにおいて不正を行なったにも関わらず、勝手に奴隷紋でしたっけ? ……を、解いておきながら援助金を支給しないのはどうなのですかと聞いているのです」

 

 樹の目は、悪を断罪する目をしている。樹の正義感の強さが珍しく、正しく働く場面だろう。

 尚文もその様子に困惑している。

 

「そうだな、俺も見ていたが、明らかに尚文は元康にルール上は勝っていた」

「俺は負けてねぇ!」

 

 錬も便乗する。

 二人とも正義感は正しくあるからな。

 援助金を渡したのならいざ知らず、渡さないというのは勇者的に【無い】行為なのだろう。

 俺は、少しだけ安堵した。

 

「返答次第では尚文さんが本当に性犯罪を犯したのか? というところまで遡る事になります」

「あ、う……」

 

 クズは残念ながら、ヴィッチが尚文に強姦未遂にあったと信じている。ヴィッチの事だから証拠はすでに隠滅済みだとは思うが、遡った際に用いられた証拠が消えていたら? 

 面白いことになるだろうな。

 俺はその事を想像してしまい、ついにやけてしまった。

 

「違いますわイツキ様、レン様!」

 

 さっき元康と一緒に謁見の間に入っていったヴィッチが異論を唱える。

 おそらく、俺が考えた通りを想定したのだろう。

 尚文を追い詰めたあのネグリジェはすでに処分済みなのだ。

 証拠を処分した以上、【なぜ処分する必要があったのか?】【仮に見たく無いという王女の要望があったとしても、国が保管していないのはおかしいでは無いのか】と問い詰めればおしまいである。

 だから、ヴィッチはここで反論する必要があった。

 

「盾の勇者は一対一の決闘においてマントの下に魔物を隠し持っていたのです。ですから私の父である国王は采配として決着を見送ったのです」

 

 苦し紛れの言い訳だ。それなら、解呪した理由を問うことになる。

 決着がついていない以上、奴隷紋を解呪するのは当然保留になるべきだからだ。

 

「考えはわかりますけど……」

「納得は無理だな」

 

 所詮高校生か。

 それは仕方ないだろう。

 ここで邪魔してやりたい気持ちもあるが、こんなくだらないことで死にたくは無いので黙っていることにする。

 内心では馬鹿にするが。

 

「マインさん。それでもあなたが後ろから魔法を放ったことは反則です」

 

 樹は論点を戻した。

 まあ、イタチごっこだからねこういう奴は。

 論点戻して徹底的に追求してやるのが一番ヴィッチには効くだろう。

 

「仕事をしていないのは確かだろうが、見た感じだとギルドからの依頼も来ていないみたいだし、最低限の援助は必要なんじゃ無いか? 実際、騎士団の代わりに村を守ったんだろ?」

 

 ヴィッチは舌打ちをする。

 ここで援助金を渡さないのは、ただの藪蛇だろう。

 クズもそれをようやく理解できたのか、指示を出す。

 

「……しょうがない。では、最低限の援助金だけは支給してやろう。受け取るがいい」

 

 兵士の持った盆から尚文は援助金を奪い取る。

 

「では王様、私達はお暇させていただきますね。勇者様方、正しい判断に感謝いたします」

 

 尚文はラフタリアに先導されて、謁見の間を後にする。

 

「負け犬の遠吠えが」

 

 などと元康が意味不明な供述をしていたが、まあ置いておこう。

 この阿呆はすでにヴィッチとセックスしたにもかかわらず、未だに尚文が強姦魔などという夢を信じているからな。

 ま、錬も樹も及第点をやろう。

 あとで錬には突っ込みどころを教えてやってもいいかななんて考えながら、謁見は終了したのだった。




書籍版の方が後半部分の追求がある分マイルドなんですね。


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3つの依頼

「さて、勇者たちよ」

 

 盾の勇者が去ったからかクズは元の落ち着き払った声音に戻る。

 今更取り繕ってもな……。

 

「折り入って頼みたいことがある。聞いてはもらえんかな」

「クエストか」

 

 クエストの発生と聞いて怒気を緩める勇者たち。

 そうだよなー、どうせゲーム内のことだもんなー。

 

「勇者様方の言葉を借りればその通りです」

「今、3つの難題がこの国を蝕んでおる。既に勇者たちは知っておるかも知れんがな」

 

 クズは咳払いをすると、クエストの内容を開示した。

 

「先ずはモトヤス殿への依頼だ。南西の地域で飢饉により食糧不足が発生しておるようだ。原因の調査と解決を依頼したい。報酬についてはギルドを通じて渡そう」

「おう! 任せておけよな。俺が行って軽ーく解決して見せるぜ」

 

 元康は自信満々にそう言う。

 あー、あの尚文が尻拭いした件か。

 

「武に優れるレン殿には、ドラゴン退治の依頼を任せるとしよう。東のミルソ村近辺でドラゴンが生息をしていると言う。ドラゴンは生態系にも影響を及ぼす悪しき魔物だ。これを討伐していただきたい」

「フン、それぐらい朝飯前だ」

 

 錬はカッコつけてそう言う。

 昨日の夜に言っていた話だな。

 最弱の竜帝……ガエリオンの討伐だ。

 

「イツキ殿には調査依頼だな。何やら北部地域で不穏な動きがあるらしい。それの調査を依頼したい」

「調査ですか。……わかりました。受けましょう」

 

 錬は具体的であったが、三人ともクエストの内容はわかった顔をしている。

 これもゲーム知識なのだろうか? 

 アイツらがどういうゲームをやっていたのかは知らないんだがな。

 

「では、勇者諸君。この国の……世界の未来を頼んだぞ」

「任せとけ!」

「ふ、いいだろう」

「わかりました」

 

 各々、異なる返事をする勇者たち。

 でも、実際元康以外はメルロマルクを守る意味は薄いだろうなとは思う。

 

 と言うわけで、俺は武器屋に来ていた。

 単独行動のため、兜は外している。

 

「おう、あんちゃんじゃねぇか。あんちゃんの槍、完成してるぜ」

 

 気の良い親父さんが、槍を持ってきてくれた。

 十卦の槍で、穂先が開く仕掛けが施されている。

 

「穂先が開く機構は、あんちゃんが魔力を通すと起動するようにした。性能的には【対人攻撃力上昇中】と【無敵貫通】、穂先を開いた状態で【防御無視】ってのが付与されている」

 

 なかなかに凶悪な武器になってしまったようだ。

 装備して、槍に魔力を通すと、穂先がパカっと開く。

 

「すっげー……!」

 

 この槍は、俺はある目的のために作ってもらった。

 勇者パーティを抜けた後に俺がやるべき事だろう。主にそれに使う。

 

「じゃあ、この槍を下取りにして購入するよ。いくらだ?」

「へぇー、こいつもなかなか良い槍だな。そうだな、銀貨120枚だな」

「わかった」

 

 俺は料金を支払う。

 

「まいどあり! 他にもオーダーメイドで作ってやっても良いぜ」

「そうだな……小手とか頼めるか?」

「良いだろう。あんちゃんは格闘術を使うみたいだし、手首の関節が動きやすいものでも作っておくさ」

「まあ、しばらくは勇者様の護衛で来れないだろうから、気長に頼むさ」

「あいよ」

 

 という感じで、俺は新しい装備を入手した。

 銘は『人間無骨』。森可長が愛用した、人間を容易く殺す槍だ。

 流石にこの槍は、元康にウェポンコピーさせるわけにはいかないだろう。

 こう言った、勇者の世界にある伝説の武器というのはこの世界のとある場所に集められていたりする。

 22巻までしか読めていない現状、それを入手できるかどうかは知らんな。

 錬たちの元に戻ると、錬が俺の槍を見てギョッとする。

 

「……なんだその物騒な槍は」

「俺専用の武器だ」

「対人攻撃力上昇とか言うスキル、初めて見たぞ……」

「気にするな、敵以外には向けないからさ」

「……まあ良い」

 

 錬も鑑定スキルを持っているようである。

 そういうのは便利だなと思う。

 俺はあいにくと持っていないため、実際に装備して能力値の増減で測るしかないがな。

 

 俺たちは、こうしてメルロマルク城下町を後にしたのだった。




実質の第三幕の開始ですね。
この後は各地を転々としながら、ミルソ村を目指します。


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不吉の足音

 ミルソ村はアールシュタッド領から見ると反対側になる。

 メルロマルク城下町から見ればちょうど西側である。

 レイファたちの情報は未だに集まらなかった。

 そうやすやすとドラルさん達が死ぬことはないと思うんだが……。

 

「お前たち、今日の依頼はこれだ」

 

 と言ってギルドから依頼書を逐一持ってきては、錬は別の場所でレベル上げと言う方針は相変わらずであった。

 最近の変わったことと言えば、ウェルト、テルシア、ファーリーが俺に距離を置き始めたことか。燻製が当たりが強いのは変わらずであるが。

 俺を置いてウェルト達だけで錬の依頼をこなす事も増えてきて、微妙な距離感を感じていた。

 それが決定的になったのは、道中のウェソン村に到着した時のことであった。

 

「おお! 剣の勇者様、よくぞおいでくださいました!」

「ふん、御託はいい。ここで討伐依頼があると聞いたから、訪れただけだ」

「おお、さすがは勇者様であらせられる! では、詳しい話を致しますので、どうぞこちらに」

 

 と、案内された時であった。

 俺がウェルト達に続いて村に入ろうとすると、屈強な村の男が立ちふさがったのだ。

 

「……?」

 

 手で押しのけようとするも、固くどいてくれない。

 

「お前はこの村には入れさせない」

「は?」

 

 今回の依頼は錬から手伝うように言われていたので、俺も説明を聞く必要がある。

 俺が無理やり押し通ると、武器を構えた連中が立ちふさがった。

 

「……なんの真似だ? 俺は、剣の勇者様の仲間なんだけど?」

「ふん、嘘をつくな!」

「……?」

 

 訳がわからん。

 

「おい、ソースケ、何をしている!」

 

 錬が俺が遅いことを心配して戻ってきたらしい。

 

「ゆ、勇者様お待ちくだされ! 勇者様!」

「おい、どう言うことだ! なぜソースケを村に入れない! 俺の仲間だぞ!」

「勇者様……チッ。おい、ソイツを通してやれ。勇者様のご命令だ」

「チッ」

 

 どう言うことだ……? 

 不穏な空気を出すこの村に入ることはやめておいた方がいい気がした。

 

「いや、構わない。錬サマ、ここまで拒否られるなら、俺はお呼びではないのだろう。外でレベル上げでもしておくから、詳しい話はあとで聞かせてくれ」

「……ソースケがそう言うなら、わかった」

 

 俺は村から離れることにした。

 何だろう、この仕打ちは。

 錬の仲間として目立ったことはしないようにしていたんだがなぁ……? 

 

 俺はその日は結局、村の外で一人で野営をすることになった。

 

 翌日、野営を終えて片付けをする。

 村の方に戻ると、丁度良く出発するタイミングだったらしい。

 村の連中に錬が見送られる最中であった。

 はぁ、やれやれ。そう思い、合流しようとすると、武装した村の奴がやってきて俺を取り囲む。

 

「……なんだ?」

「お前を勇者様に同行させるわけにはいかない!」

「悪魔の手先め、ここで成敗してくれる!」

 

 殺気立った連中に取り囲まれてしまった。

 

「意味がわからないんだが、何? 俺は盾教じゃないんだけど?」

 

 俺はカマをかけることにしてみた。

 ただの村の連中がここまで敵対的なのは、そう言う宗教関連であると推測したからだ。

 この時期はまだフィーロもまだフィロリアル形態のままだし、レース騒動も起きてないだろう日にちだからだ。

 

「嘘をつくな悪魔め! 剣の勇者様を穢す盾の悪魔の使いだろう!」

 

 あー、やっぱりか。

 なぜ、そう言った噂が流れたのか知る由はない。

 俺は一度も尚文の味方をした記憶はない。

 なのに、そう言う話が流れていると言うことは、ミナと燻製が関わっている可能性が高かった。

 それならば、目の前にいる連中は敵だ。

 

「仕方ないな」

 

 俺はそう呟くと、槍を構える。

 

「槍の勇者様の真似事など笑止千万! やってしまえ!」

「死にたい奴からかかって来いよ!」

 

 俺は切りかかってきた奴を槍で合わせて力を搦めとる。

 降ってきた方向に力を流して腕をかち上げ、相手の背に回り投げる。

 合気道の技で言ったら四方投げと言う奴だ。

 

「次!」

 

 1対多は俺の得意とするところだ。

 剣を槍で受け流し。力の流れる先を作って誘導する。それだけで、素人に毛が生えた程度の連中を投げ飛ばすのには十分だった。

 

「つ、強い……!」

 

 俺は一度も人間無骨で切ることなく、相手が疲弊するまで槍を使った合気道でポンポンポンポン村人を投げ飛ばす。

 地面は土とは言え、やせた土地だ。石も転がっているので、受け身をとれない連中ならばあっという間に行動不能なレベルでダメージを負うことはわかりきっていた。

 

「うわあああああああ!!」

 

 これでも、手加減はしている。受け身が取りやすいように丁寧に投げてはいた。

 

「ん? どうした、もう終わりか?」

 

 しかし、この分だと村で寝ないで正解だったな。きっと俺は寝てる最中に殺されていただろう。

 

「ううぅ……」

「未知の技を使うのか……!」

「さすがは悪魔の使い……!」

「いや、俺が一体何をしたんだよ」

 

 俺が呆れながら入口の方を見ると、すでに錬達は居なくなっていた。

 戦いには勝ったが、勝負には負けたと言うことか。

 じゃあ、俺がすべきことは情報収集だろう。

 

「おい」

 

 俺は胸元にある短剣を抜き、一番近くにいた村人の頭を掴み首筋に剣先を当てる。

 

「どう言うことか、説明してもらえるんだよな?」

「ひ、ひいいいいいい!!」

 

 俺は笑顔でソイツから事情を聞き出すことにした。




早速トラブル発生!


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噂の策略

 俺が短剣を押し付けると悲鳴は上げるが、訳を話そうとしないので、プスっと剣先を刺す。

 

「早く答えろ」

 

 俺が脅すようにねっとりと言うと、

 

「や、やめてくれええええ! 話す! 話すから!」

 

 と言ったので、俺は顎で促した。

 

「その、噂が流れてるんだ。剣の勇者様の仲間の一人、4つの武器を持った冒険者は、実は亜人で隙を突いて剣の勇者様を殺そうとしていると……」

「はぁ?」

「盾の悪魔に与するのを悟らせないために、わざと剣、弓、槍を使っていると言う噂だ」

 

 俺はため息をついて、兜を脱ぐ。

 それを見て当然ながら驚く。

 この世界の亜人はほぼ全てが耳に特徴が出る。ラフタリアなんかを見れば明らかだろう。

 

「あ、あんた、勇者の末裔だったのか……」

「そうだよ。知られると色々面倒だと思ったんでね。隠してたんだよ」

 

 俺は、短剣を引っ込めて鞘に収める。

 もう襲ってくることはないだろうとの判断だ。

 

「だけどあんたはすでに三勇教から目をつけられてる」

「メルロマルクの人間が何で盾教を信じるんだよ」

「噂だが、あんたは盾の悪魔に同情的な目線を送っていたらしいじゃないか!」

「そりゃまあ、盾を装備しているとは言え、似たような見た目だ。黒髪に黒い瞳。俺と似た特徴のやつが国を挙げて虐められていたら、同情ぐらいするだろう」

 

 さて、どうするかな? 

 このタイミングで錬と別れるのはあまり得策ではないだろう。

 まあ、今更行っても今回の錬の依頼には間に合わないだろう。

 村に入ることもできないだろうしな……。

 フィーロが育ちきるまで、およそあと3日。元康レースまで、4日と言ったところだ。

 そこから行商を得て信用を得るまで、およそ2週間か? 

 神鳥の成人様が出現するまでは、これでは俺はろくに活動できないだろう。

 

「も、戻っていいか……?」

「あんた、薄情だな。寝てるやつは放置か?」

「ひ、一人でこの人数は運べないだろ!」

「次襲ってきたら、この槍の餌食だ。それで良いなら戻って良いぞ」

「ひ、ひいい」

 

 村人はダッシュで村に戻る。

 うーん、他の気絶してるやつとかどうしようかな? 

 とりあえず、蹴り起こすか。

 勿体無いが回復薬を一本軽く撒き散らし、軽く蹴り起こす。

 俺の黒髪と人間の耳を見て、気絶から回復した村人達は許しをこう。

 

「いい! 人間?! す、すまなかった! てっきり亜人だと」

「さっき聞いた。はぁ、なんだってんだ……」

 

 こりゃもう、俺は被り物をして外を出歩けないな……。

 ただまあ、そう言う噂が立っているのなら、メルロマルク内の人里を歩く事は出来なさそうである。

 僅か3日だが、ここまで噂が広がるのだ。

 そして、今回は実力行使も伴ってきた。

 人の噂も75日というが、宗教が関わっている場合はどうなんだろうな? 

 名指しで異端審問を受けた訳じゃないから、【冒険者ソースケ】として活動するのは問題ないだろう。要するに、【剣の勇者様の仲間のふりをした武器を4つ持つ男】がNG設定された訳である。

 正直、上手い手だと思ったね。

 噂は所詮噂。それを元に誰が実力行使をしたところで、張本人には責任が及ばない。三勇教が広めたにしても、噂を元に注意喚起を促したと言えば、引かざるを得ない。

 

「冒険者さんはどうなさるのです?」

 

 俺が考えにふけっていると、村人の一人が俺に尋ねて来た。

 

「あんたはどうしたらいいと思う?」

「僭越ながら申し上げると、冒険者さんはもう、剣の勇者様に付きまとわない方がいいかと……」

「抜けるにしてもこのままってわけにもいかないだろう? なんで俺がパーティからハブられた系の主人公やらなくちゃいけない訳」

 

 俺が元の日本にいた頃に流行っていたジャンルとして、なろう系で勇者パーティからハブられて成り上がる系のやつがある。

 能力が雑魚とか、理由は様々だけれど、勇者パーティから追放された主人公が成り上がる的な物語である。

 今まさに、俺の状態と一致するだろう。

 ここで錬のパーティから抜けなくても、いずれ燻製から糾弾されてパーティを抜けることになるのは明白である。

 

「ま、とりあえずは錬サマ達が戻ってくるのを待つしかないか……。おいお前、俺は今日はあの辺りに居るから、錬サマが戻ってきたら俺に知らせに来い」

「ははは、はい! わかりました!」

 

 俺を襲ったのだ。少し強めに脅しておく。

 

 それから暫くは魔物を狩ってレベル上げをしておいた。

 人間無骨はなかなか優秀で、一瞬で敵を解体できるが、万が一のために俺は短剣での攻撃にも慣れておくことにする。

 軍のナイフの使い方は、ミリオタの友達から見せてもらった扱い方の動画を思い出して戦う。

 今装備している短剣は魔法鉄の短剣(カスタム)である。イメージはアサルトナイフなのだが、刃渡り自体は短剣と言うべき長さになっている。

 この辺りの少し強めの魔物を討伐するのだが、小型の魔物ならば魔法鉄の短剣で始末してしまえる。

 

「はっはっはっせいっ!」

 

 ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら、ウサピルを始末する。

 通常のウサピルよりは強い個体だ。

 経験値も、120とそれなりに高めだ。

 しかしまあ、俺は対人ばかり強くなっている気がするな。

 そんな事を考えながら、俺は夜まで短剣の特訓をしつつ、レベル上げをしていた。




ヴィッチの腕の見せ所って感じですね。
ソースケくんは現在村レベルの中規模な集落までの入場が制限された状態になりました。


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新喜劇

BGMは吉本新喜劇のアレでも聴きながら、どうぞ


 しばらく訓練しつつ、魔物を討伐し料理を行う。

 サバイバルゲームみたいだが、まあ仕方ないだろう。

 これでも一人暮らしだったし、家事はそれなりにこなして来たほうだ。料理ぐらいなら問題ない。

 塩は常備している。これは汗をかいた時に舐める塩分が欲しかったから常備するようにしていたのだけれど、まさかこんな事で役に立つなんて思っても見なかった。

 捌いた骨つきの肉を、ファスト・サンダーで起こした炎で焼く。

 懐かしいな。

 臨海学校を思い出す。

 キャンプでカレーを作った時に火の番をやった経験が生きるとは思っても見なかった。

 肉を焼き、塩をかけて食べれば、普通に美味しくいただける。

 食事を取った後、しばらく待機していると、ようやく村人がやってきた。

 

「冒険者さん、勇者様がお戻りになられました」

「ん」

 

 俺は砂をかけて火を消し、村人と共に村まで向かう。

 流石に、兜は被っていなかった。被っていられる段階はすでに終わったからである。

 村に入る時に警戒されはするが、流石に亜人でないと見ればわかるからか、止められはしなかった。

 錬が滞在している家に通される。

 

「ソースケ! どこに行っていたんだ!」

 

 見れば、錬以外……特に燻製とウェルトはボロボロであった。

 怪我をしたのか包帯を巻いている。

 回復魔法はどうしたんだよ。

 テルシアを見ると顔が青い。魔力切れを起こしているな。

 

「ああ、この村の連中に妨害されてな。すまなかった」

「そうか……。しかし、ソースケ、その黒髪は……」

 

 うっ、頭がピリッとする。

 やはり日本人だと勇者に知られるのはNGか。

 宮地はオッケーにもかかわらず、なんでだろうな? 

 俺に対しての制約が厳しいとしか言いようがない。

 

「ああ、俺は勇者の末裔なんだ。隔世遺伝で勇者の特徴が色濃く出たらしくてな」

「……いや、どう見ても日本人だろ」

「さあな。俺もそこまでは分からん。だが、問題点はそこではないだろう?」

 

 どうやらセーフだったらしい。

 否定すればオッケーなのか? 

 そこらへんが曖昧である。

 波の尖兵だと明かそうとするのは一発アウトだけどな。

 

「そんな事より、錬サマ以外ボロボロじゃないか。……本当に大丈夫か?」

 

 燻製なんて特に可愛そうなほどにボロボロである。

 痛い痛いとずっと呻いている。

 四肢の欠損は無いみたいだがな。

 

「……ソースケさんの実力を侮っていた私達が悪いのです」

 

 どう言う事だ? 

 

「俺がソースケが来るまで待つべきだと言ったんだが、マルドが『あの冒険者などいなくても問題ない』と言い出してな。ソースケ無しでも何度か依頼をこなしていたし、大丈夫だと言っていたんだが……」

 

 KONO☆ZAMAであると言うことか。

 

「俺は、今回の依頼はソースケ含めた全体で戦ってようやく程度の依頼を受けた。だが、コイツらは大丈夫だと言ったからな。不安に思ったが、どうしてもという事だったので、行った結果こうなった」

 

 いや、錬も止めろよと思うんだが……。

 

「で、討伐は出来たのか? 錬サマが健在という事は倒せたと判断していいのか?」

「いや、残念ながらレッサーオロチは健在だ。マルドが大怪我をして逃げざるを得なかったからな」

 

 うーん、詳しく聞いた方が良さそうだな。

 

「ウェルト、戦況を詳しく教えてくれ」

「え、ええ、わかりました」

 

 ウェルトは詳しく話し始めた。

 

 今朝、俺がいくら待っても来なかったため、錬は俺が来るまで出発を延期にしようと提案した。

 

「……遅いな。近場にいると思ったんだがな」

「レン様、そろそろ行きましょう。ソースケを待っていると日が暮れてしまいますよ」

「いや、今回の敵であるレッサーオロチは強力な敵だ。全員でいかなければならない」

「大丈夫だ剣の勇者。我輩達も冒険者が居なくても大丈夫なように、連携の練習をしておる。冒険者無しでも剣の勇者から出された依頼はこなしておるからな!」

「そうよ! 問題ないわ」

「そうです! それに、参加できないのは遅刻するソースケさんが悪いのですから、問題ありませんよ」

「……だが」

「大丈夫です!」

 

 強く大丈夫だという仲間達に、錬は渋々俺抜きで行くことを決めたそうだ。

 

「……良いだろう。お前達の実力を見せてもらおう」

「「「はい」」」

「ふふふ、大船に乗ったつもりでいるが良い!」

 

 実際、レッサーオロチまでのダンジョン……森の中の探索は順調だったらしい。

 だが、レッサーオロチと戦う際は問題が発生したようである。

 

「アレがレッサーオロチ!」

 

 レッサーオロチは3頭の巨大な蛇である。

 色は赤色、三種の頭から毒、麻痺、眠りのブレスを吐く、強力な魔物だ。

 いやいや、状態異常ブレス3種ってかなりヤバイよね! 

 なんで援護魔法が使える俺を連れて行かないの? 

 テルシアのアンチポイズン、アンチパラライズ、アンチスリープだけじゃ絶対魔力的に間に合わないよね! 

 馬鹿なんですか?! 絶対馬鹿だよね?! 

 

「GISYAAAAAAAAAAAA!!」

「行くぞ、お前たち!」

 

 錬が飛び上がり攻撃を仕掛けると、早速レッサーオロチは毒のブレスを吐き出す。

 錬はステータスが高いため、避けるのは困難ではなかった。

 

「さすがはレン様!」

「我輩たちも剣の勇者に続くぞ!」

 

 だが、ここからが悪夢の始まりだった。

 直猛突進する阿呆は、毒のブレスが残っている場所に突っ込む。

 

「ぎゃああああああああ! 痛い痛い!」

「ファスト・アンチポイズン!」

 

 レッサーオロチは錬を尻尾でなぎ払おうとする。

 それに燻製が当たりそうになり、すかさずカバーに入るウェルト。

 

「ぐわああああああああ!!」

「ぎゃあああああああああああああ!!」

「ツヴァイト・ヒール!!」

 

 別に三つ首全てが錬を狙っているわけではない。

 麻痺のブレスがウェルトと燻製を狙う! 

 ウェルトはなんとか回避するが、直撃を受ける燻製。

 

「あがっ!」

「ファスト・アンチパラライズ!」

 

 あまりの醜態に、当然ながら錬は戦闘に集中できない。

 むしろ、攻撃に当たるたびにギャースカうるさい燻製の声にいちいち集中をかき乱される。

 

「おい、お前たち! 戦闘に集中しろ!」

 

 錬も注意するが、戦線は完全に決壊しており、ファーリーもレッサーオロチの爪の一撃をもらって吹き飛ばされて壁に叩きつけられる始末。

 

「はぁ……はぁ……ツヴァイト・ヒール……!」

 

 あまりの事態に、錬は撤退を決めた。

 

「お前たち、撤退するぞ!」

 

 だが、逃げる際もレッサーオロチは執拗に追ってきており、麻痺、毒、眠りのブレスを錬達が襲った。

 すでにボロボロでグロッキーな燻製、燻製や後衛を守るためにボロボロなウェルトは、吹き飛ばされて意識のないファーリーを背に抱える。そして、回復魔法の使い過ぎで魔力切れを起こしているとテルシア。

 錬以外ボロボロの状態で、錬以外命からがらレッサーオロチから逃げおおせたのだった。

 

「ばああああああぁぁぁああかじゃないのおおおおおおぉぉぉおぉお?!?!??!」

 

 俺は思わず大声で叫ぶことになったのだった。



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再戦

「……で、状態異常なら丸薬とか店売りの回復薬とか、武器が作ってくれるものとかあったはずだけど、どうした?」

「帰還時にかなり消費してしまってな。現在は村の方に依頼している最中だ」

 

 帰還時の戦闘中に、どうやら薬品とかは使い切ってしまったと言うことらしい。

 

「……はぁ。ほらよ、即効性の魔力水だ。これでも飲んでおけ」

 

 俺は足のポーチから魔力水を取り出す。

 薬の作り方はドラルさんに叩き込まれており、俺はある程度薬を自作することができる。

 足のポーチに常備しているものは全て即効性の戦闘用のものだ。

 テルシアは受け取ると、すぐに飲む。それだけでだいぶ顔色が落ち着いた。

 

 次に俺は雷系統の回復魔法を使う。

 さっきから呻いてる燻製を黙らせるためだ。

 

『力の根源たる俺が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者に雷による癒しを与えよ!』

「ドライファ・サンダーヒール」

 

 手から癒しの雷が発生し、燻製の体に電気ショックが走る。

 

「ぎゃっ!」

 

 燻製はビクンとすると、完全に気絶する。

 サンダーヒールの欠点は、回復するのに気絶してしまう点だ。

 ビリッと電気が体に走るため、実質電気ショックを受ける。

 利点は、心肺停止状態からでも回復する事である。電気だからね。AEDみたいなイメージだ。

 

「それじゃ、最大の戦犯は黙らせたし、反省会だな」

 

 俺はため息をついてそう言った。

 

「今回の敵がレッサーオロチだと知った段階は?」

「俺は事前に説明したはずだ」

 

 思い起こせば確かに言っていた。ただし、魔物名だけである。どう言う特徴のあり魔物で、攻撃方法は何なのかは言ってなかったはずだ。

 

「錬サマは情報共有をちゃんとしたほうがいい。今回みたいな状態異常てんこ盛りの敵の場合は、事前情報と準備が絶対に必要だ。勇者様的に好きな例えなら、そう言うゲーム? の場合、事前に必ず店で大量に状態異常を回復するための薬を買い込むだろう?」

「む……そうだな。わかった、今後はその情報について共有するようにしよう」

 

 流石の錬も、このどうしようもない惨状を見て、納得したらしい。

 

「話を聞いている限りじゃ、く……マルドの阿呆が脳筋的行動を取ったせいで大惨事になったみたいだが、お前らもなんで錬サマが頑なに俺を連れて行きたかったか意図を察しろよな」

「うぐっ……そ、そうですね」

「すみません……」

 

 ファーリーは寝ている。

 傷はもうないみたいだから放置しているけれどな。

 

「ま、なんか変な噂が流れているみたいだから、気持ちはわからんでもないが、時と場合、状況を考えろよな」

 

 はぁ、やれやれ。

 

「次は俺もちゃんと参加する。完治までおよそ3日はかかるかな?」

「そうだな。俺もそう見込んでいる」

「なら、ウェルト、く……マルド、ファーリーは治療に専念かな」

「俺とソースケ、テルシアはレベル上げだろう」

「あいよ」

 

 チラッとパーティメンバーの状況を確認すると、確かに悲惨な状況である。

 テルシアのMPは8%ぐらいで、回復するまで休憩かなと思った。

 あの魔力水は3回分程度魔法を使えるまでMPを回復させる代物なので、魔力量の多いテルシアならその程度かなと思った。

 遅効性のほうがやはり回復量は大きいしな。

 

「……テルシアはMPの回復を優先しろ。俺とソースケで先行してレベル上げをする」

「わかりましたわ」

 

 と言うわけで、俺と錬は素材収集と狩りを行うことになった。

 薬草を採取しつつ、レベル上げだ。

 2日目からはテルシア、3日目からはファーリーも加わりレベル上げをする。

 4日目でようやく全員が全回復したので、いよいよレッサーオロチ討伐にフルメンバーで向かうことになった。

 

 俺は自分で即効性のある解毒・耐毒・耐麻痺・不眠の丸薬を作成する。

 薬草に毒に効くハーブなどを調合したものだ。

 それをポーチに入れ、突撃する燻製やウェルトに渡す。

 ポーチには即効性のあるヒールポーション、魔力水を5本ずつ入れており、いつでも取り出せる状態だ。

 錬は錬で剣でアイテム作成をしているようであった。

 

 そんな感じで準備をした俺たちはレッサーオロチの目前にいた。

 

「行くぞ、お前たち!」

 

 錬が突撃する。基本アタッカーかつ一番攻撃力のある錬は遊撃させればいいだろう。

 

「我輩も続くぞ!」

 

 相変わらずこっちの話を聞かない燻製は、俺が盾をしつつ攻撃させてデコイにする。

 

「ウェルト、燻製のフォローを! ファーリー、テルシアは丸薬を飲め」

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に毒を防ぐ力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・リジェネ・アンチポイズン!」

 

 指示を出し、俺は継続効果のある耐毒支援魔法を全体にかける。

 そのおかげか、突撃して毒のブレスに巻き込まれた燻製が悲鳴もあげずに戦っていた。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に麻痺を防ぐ力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・リジェネ・アンチパラライズ!」

 

 耐麻痺用の魔法を唱え終え、俺は不眠の丸薬を噛み、魔力水と一緒に飲み込む。

 

「わはははは! 効かぬわぁ!」

 

 麻痺のブレスを浴びても突撃をやめない阿呆。

 

「ウェルト、錬サマを狙ってる首の一つを! ファーリーはウェルトの援護!」

 

 俺は駆け寄り、技を放つ。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 ひとまず、俺と燻製の周囲の麻痺霧が晴れる。すかさず地面に手を置き魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を読み解き、我の周囲を雷で噴き飛ばせ』

「ファスト・サンダーウェーブ」

 

 雷が地面から発生し、霧を消しとばす。

 

「無闇に突っ込むな!」

 

 俺は燻製に注意しつつ、向かってくる首に向けて俺は腰に下げているボウガンを使い矢を放つ。もちろん、目にである。

 目に直撃し、怯む顔。そんな隙を燻製が見過ごすはずはなかった。

 

「うはははは! 喰らいやがれえええ!」

 

 斧の攻撃がクリーンヒットする。

 切断面から血が噴出する。

 爪攻撃が来たので、俺はすかさず燻製の前に出て、槍で受ける。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を放て』

 

 詠唱を完成させつつ、俺は人間無骨を起動する。パカっと開いた穂先から凶悪な槍が出現する。

 俺は燻製の作った傷跡を槍で滅多斬りする。

 

「ソースケ! テルシア!」

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「ツヴァイト・アクアショット!」

 

 俺は錬からの指示を聞き、合成スキル用の魔法を放ち、そのまま距離を取る。

 

「合成スキル・エアストストームソード!」

 

 水と雷を纏った剣で、毒の首を切りつけると、局所的な嵐が巻き起こる。水で撹拌された雷が乱反射するようにレッサーオロチにダメージを与える。

 

「くっ、これで倒れないとはなかなか強いな……」

 

 少し楽しげにそう言うと、錬は毒の首と戦いを続ける。

 ブレスを回避し、切りつける。噛みつきを剣でうまく払い、切りつける。

 錬の剣の腕もだいぶ上達した。

 

 眠りの首は、ウェルトとファーリーがタゲを取っている。

 ウェルトはファーリーの魔法の援護を受けて善戦している。だが、決め手がない感じか。

 やはり、一番要である錬が必殺の一撃を出すことが勝利の鍵だろう。

 

「クソ! いい加減に死ぬがよい!」

 

 燻製の突撃に合わせて、爪が来る。

 俺はその爪を、槍で受け流す。

 邪魔だな。

 

「ツヴァイト・サンダーブリッツ」

 

 槍に雷を纏わせる。

 赤黒く変色した雷が、槍から放たれる。

 

「必殺! 雷裂風迅槍衝!」

 

 俺は槍を構えて力を溜め、一直線に突く。

 衝撃波が赤黒い雷を纏って放たれ、防御無視の衝撃波がレッサーオロチの腕を吹き飛ばした。

 レッサーオロチは悶絶する。

 その隙をついて、錬が毒の首を切り落とした。

 

「ムーンライトスラッシュ!」

 

 三日月を描くような斬撃を錬が放ち、それが決め手となったのだ。

 錬はそのまま、眠りの首に突撃する。

 

「ハンドレッドソード!」

 

 剣を10本ぐらい召喚し、一直線に飛ばす。

 それだけでも眠りの首にかなりダメージが与えられたようだ。

 

「我輩も勇者に続く!」

 

 燻製は相変わらず直猛突進でがむしゃらに斧を振り回している。

 どちらかと言うと、タゲは俺にあるみたいだがな。

 噛み付いてくるので、後ろに飛んでかわし、槍を脳天に突き立てる。

 防御無視・無敵貫通のこの槍は容易く麻痺の首の頭蓋を切り裂く。

 さすがに勇者みたいに切断はできないけれどね。

 槍で脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜてやると、痙攣して動かなくなる。

 そんな麻痺の首を燻製が斧でさらに攻撃する。

 

「ははははは! 我輩がやったのだ!! 打ち取ったぞおおお!」

 

 残った眠りの首は、俺たちが戦う前に錬によって切り取られて、戦いは終わったのだった。




宗介は防御が上手いため、ダメージを受けること自体が少ない。
燻製はそもそも宗介のお守りでノーダメージ。
ウェルトは不眠の丸薬を飲んでいたので、ブレスのダメージのみ。爪は正面から受け止めているので、それなりにダメージあり。
錬は回避でノーダメージ。
テリシアはウェルトの回復と、援護の水魔法だけなのでそこまで魔力消費はなし。
ファーリーはウェルトの援護のみのため、余裕。

結論、前回の大苦戦は主に燻製のせい。


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邪教徒達

「す、すごい! 前回はまともに戦うことすら出来なかったのに!」

「ま、ちゃんと準備すれば、強敵でもこんなものだな」

 

 俺はそう言いつつ、魔力水を飲む。

 これで残りあと1本になってしまった。

 偉そうに死体の首を切断した阿呆はこの際無視である。

 

「なるほど……。ソースケさんの戦い方は参考にさせていただきます」

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず……だっけな。早めに援護役を見つけたほうがいいな」

「フッ、ソースケがいれば十分だろう」

「勇者サマも、自分以外の戦略ぐらいちゃんと考えておけよ」

 

 信頼されるのは嬉しいが、燻製とミナの策略によって、いずれはこのパーティを近いうちに離れることだろう。

 早めにバクターを見つけてあげないとな。

 

 その後、錬はレッサーオロチの首を剣に収める。掻っ捌いて内臓も吸った。これは俺の指示ではなくて錬が自分からやったのだが……。

 凱旋とは行かないまでも、俺たちはウェソン村に戻ったのだった。

 その後、ささやかではあるが、宴が開かれる。

 錬の周りには村の美しい娘たちが侍り、錬にお酌をしている。

 

「フン、好きにしろ」

 

 と言いつつ、満更ではなさそうな顔をしている。

 次に燻製が自分の武勇伝を語っている。ウェルトやテルシア、ファーリーもチヤホヤされていた。

 俺は勇者様とは距離を取らされていたのだった。

 うーん、この。

 誰もお酒を注いでくれないから、エールも手酌だし、誰も話しかけてくれないので、若干寂しい。

 村長からの目線は「お前いつまでこの場にいるんだ。さっさとどっかいけ」と言わんばかりの視線を送ってくるし、三勇教の神官っぽい奴は、動きはしないが俺を睨んでくる。

 ああ、やはりメルロマルク。クソ野郎しか居ないのだな。

 

 俺は仕方なく、席を立つことにした。

 こんな所で酒を飲んでも不味いだけだ。

 

 遠目に宴が見える位置に行き、飲み直す。

 お酒を飲むと確かにMPが回復するので、面白いなと思いつつ飲んでいると、近くに気配を感じた。

 ああ、敵だな。

 俺はそう直感し、短剣を抜く。

 ギャリっと音がして、俺は短剣で二人の男に剣で襲われたことを知る。

 

「チッ、大人しく殺されてればいいものを……!」

 

 飲んでいたのでアルコールはそれなりに摂取はしていたが、楽しくなかったのでそこまでアルコールは回っていなかった。

 

「……マジかよ」

 

 俺は短剣と小手しか装備していない。宿に人間無骨とクロスボウは置いてきたのだ。

 つまり、剣かと思ったそれは、人間無骨であった。

 

「それ俺のだぞ! 返しやがれ!」

「いいや、これは我々が愚かな冒険者に盗まれた神聖な槍だ!」

「んな禍々しい神聖な槍があってたまるかってんだ!」

 

 魔力が通っていないのか、防御無視は働かなかったらしい。お陰で、剣で防御できたわけだ。

 つまり、あと一人は俺のクロスボウを持っているはずである。

 飛んでくる矢を回避する。が、一本腕に刺さる。

 焼けるように痛いが、我慢するしかない。

 

「くらえ! 冒険者!」

「誰が食らうか!」

 

 俺は槍の突きを受け流し、力を流す。

 そのまま相手の後ろに回り込み、顔面に当身を入れる。

 

「ぎゃっ!」

 

 そのままのけぞったので、短剣を首筋に当てて、その男を盾にするようにもう一方の男の方に向ける。

 

「貴様! 卑怯だぞ!」

「黙れスカタン! さっさと俺の武器を返しやがれ!」

 

 イライラする。

 だが、ここで消しても意味はないのだろう。

 

「これは我らのものだ! 貴様に返す道理はない!」

 

 ああ! もう、殺していいかな? 

 少し首を切っても動じないのだ。殉教する覚悟はあるのだろう。

 だが、理性がそれを押しとどめる。

 ここで殺したら、それこそミナの企みに乗るようなものだ。

 俺はそう判断し、武器を取り返す事に決めた。

 既に酔いなど吹き飛んでしまっている。

 俺は抵抗できない男の手首を捻る。そのままクルンと槍を奪い取る。

 そして、槍の穂先とは逆側……石突きの部分でぶん殴る。

 ズビしっと音を立てて頭部を強打すると、男は吹っ飛んだ。

 

「槍は返して貰った。次は弓だ」

 

 俺はそう言うと、弓を持っているやつに近づく。

 英霊召喚ゲームなら、ランサーの方がアーチャーに強いんだっけ。

 俺は短剣を鞘に収め、両手で槍を構える。

 槍の扱いはだいぶ慣れた。矢を弾きながら一気に間合いを詰めて、石突きで手元を殴る。

 

「ぎゃっ!」

 

 そのまま、槍を支柱にして、飛び回し蹴りをその男の顔面に食らわせる。

 男が吹き飛んだので、俺はクロスボウを拾い、矢を回収する。

 

「おい、ここで騒ぎが聞こえたぞ!」

 

 と、声が聞こえた。

 これを見られれば、俺はどの道指名手配である。

 ……本当に、腐ってるな! 

 俺はステータス魔法を操作して、パーティを脱退し、暗闇に紛れながらウェソン村を脱出したのだった。




アンケート見たら、皆さん燻製に成長は不要と思っているんですね笑
闇討ちをされておめおめと逃げ出した宗介の明日はどっちだ!


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エピローグ

 錬は、不意にソースケの名前がメンバー一覧から消えたことに気づいた。

 

「なっ!」

 

 錬は立ち上がり、周囲を見渡す。

 ソースケがいた位置には、別の村人が座っていた。

 

「おい、ソースケは何処に行った!」

「ソースケ? はて、そんな人物はいましたかねぇ……?」

「チッ!」

 

 錬は舌打ちすると、その場から出てソースケを探しに行こうとする。

 ソースケは役に立つNPCだ。

 せっかくの強キャラだし、錬が戦いやすい環境を整えてくれる重要なメンバーだった。

 何やら、メンバー同士でいざこざがあったようだが、錬の知る所ではない。だが、どのメンバーを優先するかと言われれば、ソースケを優先するに決まっていた。

 

「剣の勇者様! どちらに行かれるおつもりですか?」

「決まっている。大事な仲間を探しに行く」

「いえいえ、勇者様。あなたの大事な仲間は全員こちらにおられますよ? 何をおっしゃられているのですか?」

 

 なんだこれは。

 錬は非常に不快だった。

 なぜ、俺の強い仲間がこんな所で別れなければならないのか、錬には訳がわからなかった。

 

「邪魔だ! 退け!」

 

 錬の足に、美女の村娘がしがみつく。

 流石にそれを力づくで振り払うわけには行かなかった。

 

「おい、退けと言っている!」

「まあまあ、勇者様! ここは祝賀会の席です。お怒りをお鎮めになられてください」

「うるさい! 退けと言っているんだ!」

 

 錬は力をセーブして、なんとか振り払おうとするが、そうは問屋が卸してくれない。

 なんなんだ! 一体なんなんだ?! 

 錬は困惑していた。

 

 この、気持ち悪い何かの正体は、まだ高校生の錬にはわからずじまいであった。

 

 

 俺は、直感だけでなんとか生き残っていた。

 おそらく教会側の影だろうか。そいつらが攻撃してくるのだ。

 耐毒の丸薬を飲んでいたおかげで、倒れずに済んでいるが、影の執拗な毒吹き矢が容赦なく俺に突き刺さる。

 

「がぁっ!」

 

 すでに俺は血だらけであった。

 そして俺は無我夢中で逃げていた。

 斬り殺そうとしてきた影の首を俺は人間無骨で撥ねとばす。

 また、一人殺害した。

 

「はぁ、はぁ、ちくしょう……!」

 

 集中できないため魔法も唱えられない。

 俺はもう一個、耐毒の丸薬を飲み込んだ。

 と、目の前に影が出現する。

 目的は……俺のポーチらしい。

 素早く俺は合気道で対抗する。

 足捌きや腰の回転を使い、相手の力を利用して投げ飛ばす。

 

「死ね」

 

 俺はそのまま胸から短剣を取り出し、心臓をひと突きにする。

 

「がはっ!」

 

 影はビクンと反応して、動かなくなった。

 俺はすかさず、その場を後にする。

 このポーチを奪われたら、俺はただ殺されるだけであろう。

 

 逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ!! 

 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!! 

 

 あの、悪辣な燻製とミナを侮っていた! 

 

「ちくしょう!」

 

 俺は悪態をつきつつ、森の中を走り続けた。

 一晩中走り続けただろうか。

 だが、影の連中の攻撃がいつくるかわからないのだ。

 ヒールポーションを飲んで、体力を回復しつつ、走る。走る。走る。

 ひたすらに逃げ惑っていたので、もはや何処にいるのかはわからなかった。

 

「グア!」

 

 フィロリアルの声が突然耳に入った。

 

「グア!」

「グアグア!」

「グア!」

 

 俺は木に手をつき、立ち止まった。

 目の前には、空色の羽をしたフィロリアルがいた。

 

「な……!」

「グアー!」

 

 頭には3本の、王冠のような羽が生えている。

 そのフィロリアルが、俺に近づいて来た。

 

「グア! グア!」

 

 まるで、背中に乗れとでも言っているようであった。

 が、俺は、あまりに出来事に、腰が抜けてしまった。

 なぜ……なぜフィトリアがここに? 

 

 フィトリアは俺を羽で摘むと、背に乗せて走り始めた。

 

「グアー!」

 

 ドッドッドと何処かに俺を連れて行くフィトリア。

 俺は疲れていたのだろう。気がつけばフィトリアの背中の上で意識を失ってしまったのだった。




これで、剣の勇者のソロプレイは終了です!


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勇者パーティを追放されたので、英雄譚(笑)を謳歌する連中を皆殺しにします
プロローグ


アンケートの結果、フィロリアルの聖域に連行が決定しました!


「うぐっ……!」

 

 身体中の痛みで目が醒める。

 反射で俺は、ポーチを弄ろうとした。

 もっさりとしたものを鷲掴みする。

 

「ん?」

 

 目を開けると、俺はフィロリアルに埋まっていた。

 

「って暑苦しい!」

 

 俺はフィロリアルの群れの中なら這い出る。

 あ、身体めっちゃ痛い……! 

 

「無理に動いちゃダメ」

 

 幼い少女が現れて、俺を捕獲する。

 そして、瓦礫のそばに立てかける。

 

「お前は……」

「気にしないで。ただの気まぐれ。勇者の仲間の気配がするから助けた」

 

 フィトリアは俺の顔を覗き込む。

 

「でも変。勇者の仲間なのに、勇者の敵の気配もする」

 

 不思議そうな表情で俺を覗き込むフィトリア。

 

「あなたはどっち? フィトリアには判断できない」

「……さあな。俺にもわからん」

「そう。あなたにも判断できないの。変なの」

 

 そう言うと、フィトリアはひょこひょこ歩きながらうろつく。

 

「で、ここは何処だ?」

「ここはフィロリアルの聖域。普通の人間はここには来れないし、フィトリアも連れて来たりはしない」

 

 と言うことは、俺は普通の人間じゃないと言いたいのか。まあ、あたりではあるけれども。

 

「ここで傷が癒えるまで休んでもいいか?」

「構わない。ただ、奥には勇者しか入れない。フィトリアの気まぐれで連れてきた。だから傷が癒えるまでならいい」

「俺がフィトリアに見つかった場所は?」

「人間至上主義の国の東側。フィトリアは次の波の場所に向かっていた」

「邪魔しちゃった?」

「問題ない。すぐに鎮めた。そう言えば、あなたの名前を聞いていない」

「俺は……菊池宗介だ」

「ソースケ。フィトリアは忘れっぽいけど、これだけは覚えている。そう言う系統の名前は、勇者しか名乗らない。あなたは誰?」

「さあな」

「少し待って」

 

 フィトリアはそう言うと、遺跡の奥に言ってしまう。

 そして、黒い小瓶を持ってきた。

 うぐっ、俺の中の何かが過敏に反応している。

 

「本来は、人間に与えるものではない。フィトリアが次期女王に与えるもの。だけど、きっと、ソースケには必要」

「あ、あれだろ。そ、それは不死薬だろ! ち、近づけるな!」

「なんで知ってる? 不思議。だけど、飲ませはしない。こうするだけ」

 

 フィトリアはそう言うと、一滴を指に垂らして手に広げ、俺の傷口に塗りつけた。

 途端に、世界が暗転する。

 

「あ、が、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 俺は激痛に悶絶する。

 何かが、俺の、魂を、攻撃する!! 

 

「は、あ、があああああああああああああ!!」

 

 苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しいクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイ!!! 

 

 どれぐらい悶絶していただろうか。

 気がつくと、俺はフィトリア達から観察されていた。

 

「驚いた。人間の傷口に塗ると、こんな事になるなんて」

「……うぅ」

「大丈夫、身体には変化はない。ただ、驚く事があっただけ」

 

 一体何が起きたんだ?? 

 

「一体何が起きたのか、フィトリアにもわからない。何か黒いものが一部消滅しただけ」

 

 黒いもの……? 

 

「それが何かわからないけれど、きっといい事。今はゆっくりお休み」

 

 ああ、そうだな。眠たい。

 俺は再び意識を失った。

 

 

 翌日……なのか? とにかく俺はフィロリアル羽毛布団の中で目を覚ました。

 一部記憶が曖昧だが、俺がフィロリアルの聖域に来ている事は覚えている。

 俺はポーチからポーションを取り出して飲む。

 うん、HPはだいぶ回復した。

 状態異常も今はかかっていないようだ。

 

「ソースケ、起きた?」

 

 フィトリアがトコトコやってくる。

 

「ああ、なんかすごく気分がすっきりしている!」

 

 本当に、すごくすっきりした感じだ。

 まるで、初めてこの世界に来たときのようだった。

 

「そう、良かった。何もなくて。3日も目を覚まさないから心配した」

 

 ホッとした様子のフィトリア。

 俺はあれから3日も寝たままだったのか……。

 一体何があったのだろうか? 

 

「栄養は心配しなくていい。寝ながら食べさせた」

「どう言うこと?!」

 

 一体何をどうやって食べさせたのか、非常に気になってしまう。

 

「それじゃあ、ソースケを人里の近くまで送る。乗って」

「ああ、わかった」

 

 フィトリアはそう言うと、何処からともなく馬車を取り出した。

 俺はそれに従う。

 あの馬車は、眷属器だ。つまり、ポータルでどこかに連れて行ってくれるのだろう。

 

「ポータルキャリッジ」

 

 フィトリアがそう宣言すると、転送剣と同じ感覚がした。

 どうやら、何処かの森らしい。

 

「フィトリアはここまで」

「ああ、なんか助かった。ありがとうな。さようなら!」

「さようなら、ソースケ」

 

 恐らく、二度と会うことはないだろう。そう思ってさようならと言った。

 さて、まずはここが何処かを把握しなければならないだろう。

 レイファに会うためにも、そしてメルロマルクの他の波の尖兵を殺すためにも、俺は決意を新たにしたのだった。

 

「よし、今日も一日、頑張るぞい!」




宗介の女神の制約が軽くなった!
宗介が日本人とバレても死ななくなった!
これまでに溜まっていた女神の呪いが解除された!


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神鳥の馬車

 俺は、移動を開始した。

 何処に降ろされたのかが依然不明だったからだ。

 聞いておけばよかったかな。

 まあ、鳥にそこまで期待するのは酷だろう。

 

 なんとか森の中から街道まで出ると、遠くから馬車を引く音が聞こえてきた。

 行商かな。

 路銀はそれなりにあるし、ポーチの中の回復薬も心許なかった。

 

「すみませーん!」

 

 と言ったところで、俺ははたと気づいた。

 あのまんまるとしたフォルム、白い羽の中に混じったピンクの羽。そして、青い目。とてもではないがフィロリアルとは思えない姿。

 あれはフィーロたんじゃねーか! 

 

「はい、どうされました?」

 

 俺の目の前で、馬車が止まる。

 

「あー……。行商の方ですよね?」

 

 サッと、この馬車の持ち主が俺をチラッと見たことがわかる。

 

「チッ」

 

 舌打ちが聞こえたと言うことは、見覚えがあると言うことだろう。

 そして、馬車から尚文が姿を現した。

 

「お前は、錬の仲間だな」

「あー、まあ、元な」

「……? どう言うことだ? それに、驚かないんだな。盾の勇者が現れたと言うのに」

 

 ジロリと俺を見る。そして、俺の顔に目が止まった。

 

「お前……日本人か?」

 

 やっぱり聞いてくるか。

 ん? 今度は頭にピリッとくるものは無かったぞ。

 まあ良い、とりあえず誤魔化すか。

 

「俺はそうだな……勇者様の末裔と言うやつらしい」

「ごしゅじんさまーその人嘘を言ってるよー」

 

 ギロリと俺を睨む尚文。さすがフィーロたんである。

 

「あー、事情があるんだ。そう言うことにしておいてほしい」

「……ふん、良いだろう。次に聞きたいことがある……が!」

 

 尚文がブックシールドをキメラヴァイパーシールドに切り替えて、俺の後ろに駆け出す。

 ガンっと音がして、振り向くと兵士がいた。巡回の兵士だろうか? 

 恐らく、尚文を追っていた三勇教の影が俺を発見、近くで見回りをしていた兵士が来たのだろう。

 

「厄介ごとを抱えているみたいだな!」

「貴様、盾の勇者! 犯罪者を庇うか!」

 

 カシャカシャと音を立てて増援の兵士がやってくる。

 

「犯罪者……? どう言うことだ?」

「いや、わからんが心当たりはあるな」

 

 俺は槍を構え、短剣を抜く。ラフタリアも剣を手に馬車から飛び出す。

 

「ナオフミ様!」

 

 ラフタリアが攻撃しようとしたので、俺は手で制した。

 

「盾の勇者様、すまないがこれは俺の問題だ。俺一人で解決するさ」

「そうか、やってみろ」

 

 尚文はそう言うと、盾で剣をはじき返して後ろに下がる。

 

「と言うわけで、こいよスカタン! 八つ裂きにしてやる!」

「殺せ! 殺せー!」

 

 実際殺したら面倒だからな。

 すでにこの手で5人は殺したが、無駄な殺生はしない。

 優先度は俺が高いためか、尚文達は後ろで観戦する様子だ。

 

「ナオフミ様……」

「あいつの言い出したことだ。やばかったら助けるから心配するな」

 

 そんなやりとりを横目で見つつ、俺と兵士の乱戦が始まる。

 剣を受け止めるわけではないので、ガンと言う音ではなく、ギャリっと音がなる。

 兵士数人の剣を槍で受け流す。

 体勢が崩れた連中の尻を石突きで思いっきりぶっ叩く。

 

「あいたぁ!」

 

 剣も槍も、俺にとっては手の延長に過ぎない。

 兵士程度ならば、よほど熟練じゃない限り、受け流し、武器を奪うことすら容易かった。

 剣で受け止めて、俺は力を流して小手返しを決め、武器を奪い取り、地面に突き刺す。

 

「す、すごい……!」

「何かの武術か? 剣と槍を使う気にくわないやつだが、元康の奴とも戦い方が違うな」

 

 まあ、俺は対人能力が高いしな! 

 気づけば俺の周囲は剣の塚ができたいた。

 武器を全て奪い取り、地面に突き刺していただけである。

 

「まだやるか?」

「覚えてろよ!」

 

 俺がそう聞くと、悔しげな表情をして兵士達は逃亡した。

 

「息すら切らしてないか」

「まあな」

 

 尚文は俺が戦っていた場所をマジマジと見ている。

 そして、剣を回収しながら戻ってきた。

 ラフタリアと少し話をして、俺に話しかけた。

 

「おい、話を聞かせろ。代わりに希望する場所に送ってやる」

「運賃は?」

「情報料と等価だ。足りないなら請求するし、多過ぎたら払おう」

「それじゃあ、アールシュタッド領城下町まで頼む」

「……近いし良いだろう。それじゃあ乗れ。ラフタリア、剣は売っぱらうから回収しろ」

「はい、わかりました」

 

 と、なぜか俺は尚文一行に同行することになってしまった。

 

「で、なぜお前はここに居るんだ?」

「その前に、ナオフミ様に自己紹介をしてください。変なあだ名をつけられますよ!」

 

 ラフタリアがそう指摘する。とは言っても、俺は尚文に覚えてもらうつもりは無いので構わない。

 

「……じゃあ、錬の仲間その4で」

「長く無いか? まあ、そう命名してはいたが」

 

 あ、やっぱり? 

 

「あとはそうだな、弁慶だな。いろんな武器使うみたいだし」

「弁慶よりも長尾景虎の方がいいかなー」

「なんであだ名談義になっているんです!」

「てか、この歴史の話題が通じると言うことは、やはりお前は日本人なんだな」

 

 尚文は納得したようにそう言う。

 

「で、景虎。なぜ『元仲間』と言った? さっきの兵士もお前を犯罪者だと言っていたが、理由を話せ」

 

 結局、俺が言い出した景虎に落ち着いたらしい。自己紹介をする気がないからね、仕方ないね。

 

「そうだな……。錬と俺たちは東の村を目指していた」

「東? 西ではなく?」

「ああ、そうだ」

「ここはメルロマルクから西側だぞ? とてもでは無いが徒歩でたどり着ける距離じゃ無いな」

「まあ、俺はの事は置いておいて、錬達が東の村にいるのは事実だ」

「……色々と突っ込みたいところはあるが、後ほど聞くとしよう」

 

 話が通じるようで助かる。若干胡散臭いものを見るような目つきになったがな。

 

「で、その道中の村で、俺は罠にはめられて錬の仲間を強制離脱する事になったんだ。だから、元仲間な訳だな」

 

 途端に尚文の表情が陰る。

 

「……チッ、またか。この国の連中は……!」

 

 と呟いた。

 

「まあ、俺が邪魔だったんだろうな。錬の所で一番動いていた自覚はある。お陰で罠にはめられて、逃亡の最中に5人ぐらい殺してしまって、犯罪者と言うわけだな!」

 

 明るく言うと、尚文とラフタリアはドン引きする。

 正直、あの状況では殺さなければこっちが摩耗して殺されるだけだったからな。

 クソ野郎共を殺した所で、魔物を殺すのと大差はない。世間的ダメージが大きいだけである。

 

「……確かに、景虎ほどの実力者ならば可能だろうな。さっきの戦いも、お前なら殺そうと思えば出来ただろう?」

「ああ、出来なくはないかな。殺したらタイミング的に盾の勇者様に迷惑をかけるから、殺さなかったまでだしな」

 

 サイコパスを見るような目で俺を見る尚文達。

 まあ、できるかと問われたのだから答えたまでである。

 

「まあいい、とりあえず錬の状況を教えろ」

「構わないぞ」

 

 という感じで、俺は運送料がわりに錬の情報を尚文に伝えるのだった。




干渉しそうで干渉しない話。
顔見知りにはなるけれど、後になって思い出すかは謎。


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盾の勇者との対話

遅くなってすみません!


 しかし、フィロリアルの馬車に乗るのは久しぶりである。

 ラヴァイトよりも若干、馬車の揺れが激しい気がするな。

 そんな事を考えながら、俺は錬の情報を売った。

 さすがに、燻製やミナ、三勇教の名前は出さなかったがな。

 その情報を売るには、アールシュタッド領までの道のりは安すぎる。

 

「……なるほどな、ウェソン村か。俺たちもその村には絶対に近づかないようにしよう」

「そうですね……。決して近づかないようにします」

 

 小声で尚文が「滅んでしまえ」と呟く。

 俺は別に恨んではいない。まあ、好き好んで近付くことはないがな。

 

「しかし、その話を聞くと、錬が受けた依頼自体が罠だったとしか思えないな。錬の仲間はお前が活躍するのを妬んだんだろう? その中にあのビッチ王女のような奴が居て、錬に取り入る邪魔になるから、権力を使ってレッサーオロチって魔物の討伐を依頼したのだろう。お前なしでこのレッサーオロチを討伐できれば、景虎は不要だと言えるからな。錬をある程度信用させつつ追い出すことができる」

 

 尚文が推測を話す。

 

「だが、愉快なことにレッサーオロチは強すぎた。だから、計画第2弾を発動させて、村の連中と協力して景虎を消そうとしたんだ!」

「ナオフミ様……」

 

 尚文は語気を荒げる。

 かなりの怒りが籠っているのがわかる。

 

「景虎、復讐するなら俺はお前に手を貸すぞ!」

「それは嬉しい提案だ」

 

 普通に嬉しい。だけれども、どっちみち燻製は燻製される定めなのだ。

 それに、三勇教も尚文の活躍で壊滅する。

 残ったミナにお仕置きするのは俺の役目だ。

 だから、俺はこう言うしかない。

 

「だけれど、これは俺の復讐だ。俺自身で決着をつけるさ。そのためにアールシュタッド領に向かっているわけだしな」

「……? 恨む奴は東の村に居るんだろう?」

「アールシュタッド領には、俺がこの世界に居る意味と、片棒を担いだ奴がいる」

「!」

「まずはそいつから片付けようと考えている」

「なるほどな」

 

 尚文は少し考えて、こう言った。

 

「……景虎、お前は確かに強い。だが、勇者である俺が協力した方が確実だろう。だから、お前の戦いに協力させてくれ」

「……」

 

 ここまで言われて、拒む理由は無いだろう。

 原作で描写されなかった期間だし、その時のサブストーリーの一つだと思えばいいか。

 

「わかった。お願いする」

 

 ただまあ、もしかしたら波の尖兵もいるかも知れない。

 その時は、俺はそいつをこの人間無骨で殺害するだろう。その為の人間無骨である。

 ラフタリアには見せられない光景が展開するので、その場合は俺一人で対峙することになるだろう。

 

「ああ、お前が恨みを果たせるように援護する」

「……わかりました。ナオフミ様がそうおっしゃるなら、私も付き従います。カゲトラさん、よろしくお願いしますね」

「フィーロも行くー♪ よろしくねー、うーんと、いろんな武器の人ー」

 

 と言うわけで、尚文からパーティメンバー申請が来たので、承諾する。

 個人的にはまさか協力すると言われるとは思わなかった。

 俺だって、尚文が罠にハマるのを見過ごしてたのにな。

 と言うわけで、俺たちは夕方ごろにアールシュタッド領に入る。

 

「今日はここで野営だな」

 

 尚文はそう言うと、テキパキと野営の準備を始める。

 俺も手伝うが、こう言う馬車を伴った旅の野営の準備は楽でいいな。

 俺は焚き火で火を起こす。

 

「ファスト・サンダー」

 

 バチッと音を立てて、焚き火に火がつく。

 

「やっぱり、攻撃魔法は便利だな。俺は盾のせいで残念ながら使えないから、羨ましいな」

 

 おそらく、盾のせいではなく、尚文の資質自体が回復と援護なのだろう。

 俺は雷と援護なので、尚文からしてみれば確かに羨ましいのもわかる。

 

「その点は同情するよ」

「ま、ただ俺は魔力ってのがわからないから魔法はまだ使えないんだがな」

 

 そう言えばそうであった。まだ、アクセサリーの作成をしている様子はなかったのでアクセサリー商とはまだ出会っていない時期なのだろう。

 

「その内出来るようになるさ」

 

 俺はそう言いつつ、火を起こした。

 火種は燃え上がり、焚き火になった。

 

「コツとか無いのか?」

「そうだな、非常に感覚的で説明しにくいし、説明したところで人それぞれなところがあるから、俺では力になれないだろう。すまないな」

「……ラフタリアと似たようなことを言うんだな」

「似たようなアドバイスしか出来なくて申し訳ないな」

「いや、それなら自分で探すさ」

 

 尚文はそう言うと、焚き火に串を刺していく。

 その手つきは明らかに熟練の料理人のそれだ。

 

「わーい」

 

 ボフンと音がして、金髪幼女が出現する。

 改めて見ると驚くな。

 

「ごしゅじんさまのごはんー」

「フィーロ!」

「えー、どうせいろんな武器の人はわかってそうだから良いでしょー」

「……確かに、あまり驚いてない様子だな。武器屋の親父でも唖然としていたのに」

 

 フィーロの変身自体は知っている。

 そんなに驚いてなかっただろうか? 

 

「ま、召喚される時にある程度知識を得たんだよ」

「お前、聖杯戦争で召喚されるサーヴァントじゃ無いんだから……」

 

 呆れる尚文。

 

「セイハイセンソウ……ですか?」

「ああ、俺の世界にはそう言う題材の話があるんだよ。……景虎はもしかして、俺のいた世界の住人じゃ無いかと疑いたくなるな」

「は、はあ、ですが、ナオフミ様が楽しそうでなによりです」

 

 ラフタリアはそう言って微笑む。

 

「顔に出てたか? まあ、確かに景虎と話していると、昔のオタク心をくすぶられるのは確かだな」

 

 尚文は少し考えると、串の様子を見つつ、俺に聞いてきた。

 

「景虎、お前の知っている有名なオンラインゲームは?」

「あー、俺は一応メルロマルク人って設定なんだが?」

「嘘こけ。今更通じるか。早く言え」

 

 仕方ない。なんかあの薬を塗り受けられてから、制約が軽くなったみたいだし大丈夫だろう。少し話してみるか。

 

「……有名なFPSならバトルフィールド、MORPGならファンタシースターオンライン2だな」

「……知らないな。いや、バトルフィールドは知っているが。ファンタシースターオンラインは1がある事しか知らない。それに、お前の世界にはこの世界に似たゲームはないのか?」

「俺が知る中では無いな。似たweb小説ならあるがな」

「web小説か。……景虎も勇者として召喚されたのか?」

「さあな。ただ、俺は勇者では無いぞ」

「その禍々しい見た目の槍は、そう言う系統かと思ったんだがな」

 

 あー、やはり、人間無骨は禍々しいか。

 

「と言うか、まるで人間を殺すための槍だな。防御無視なんて恐ろしいスキルまで内包してやがる……」

「これを盾の勇者様に向けることはないさ。俺が殺すと決めた奴以外にこの槍は向けるはずかない」

「そうか。まあ、お前は俺とほとんど近い世界の住人だしな。そうならないことを祈るよ」

 

 尚文はそう言いつつ、串をひっくり返す。

 

「これは焼けたみたいだ。ほらよ」

 

 尚文が俺に串を渡してくれた。

 

「ありがとうな」

 

 俺は受け取り、一口食べる。

 

「うますぎる!!」

「スネークかよ」

 

 と、そんな感じで今日の夜は過ぎていったのだった。



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強襲

 深夜、俺は気配を感じて素早く槍を装備する。

 あの時武器を盗られた経験から、俺は武器を手元に置くようにしていた。

 

「敵か」

 

 直ぐに起き上がったのは尚文であった。

 尚文も裏切られた経験から、深く寝ずにいることが多いようだ。

 

「いいや、()()()()

 

 俺は槍を払うと、ガキンガキンと矢による攻撃を弾き飛ばした。

 

「ナオフミ様!」

「ごしゅじんさま!」

 

 流石に攻撃してくる気配で、ラフタリア達も起き上がったようであった。

 

「へぇー、なかなかやるじゃん。俺様のエリナの弓を切り払うなんてな」

 

 そいつは、冒険者の姿をしていた。

 転生者か! 

 俺の中で殺意が滾っているので間違いがないだろう。

 こう言う呪いはまだ健在のようであった。

 

「そっちから殺されにくるとは、殊勝な事だな」

 

 この呪いは恐らく、波の尖兵が個別に徒党を組むことを防ぐためにかけられたものだろう。

 それを逆に使えば、ソナーに出来る。

 相手もそうなのだろうがな。

 

「お前がソースケだな?」

「その周辺にいるのは……はっ、盾か」

「……チッ」

 

 尚文はイラッとした表情をする。

 

「ま、盾なんて防具はいらねぇしな。今回はそこの犯罪者を殺しに来たんだ。邪魔するなよ」

 

 阿呆のセリフに、尚文は指をさして俺に聞く。

 

「おい、景虎! なんだこのムカつく野郎は!」

「俺の敵だ。岩谷達は取り巻きの女を頼む」

「……」

 

 尚文は俺の顔を見て、うなづいた。

 

「わかった。クソ野郎は任せたぞ、景虎!」

「おうともさ!」

 

 俺は槍を解放する。

 俺の魔力を受け取り、槍は変形する。

 先端の槍が開き、十卦の槍になる。先端の槍は両方に展開した槍の穂先をカバーしていたもので、魔力により防御無視の槍が形成される。

 魔力剣と言ったらイメージが近いが、そんな生易しいものではない。

 この槍の恐ろしい点は、肉体も精神も切り刻む事だ。

 

「いくぜぇぇぇぇ! 嗤え! 人間無骨!」

 

 森長可の宝具解放からセリフを真似る。

 

「人間無骨って景虎じゃなくて森長可じゃねーか!」

 

 と言う尚文のツッコミは無視する。

 今は気が立っている。

 この目の前のゴミを始末しなければ気が済まない! 

 

「俺様の剣、受けてみるか?」

「シュッ!」

 

 俺は構わず槍を突き刺す。

 が、紙一重で回避される。

 

「決め台詞を邪魔されるとムカつくなああ!!」

 

 奴は回避した足で、そのまま剣を振ってくるが、甘い。

 槍を回転させて剣を石突きで弾く。

 ギインっと鉄のぶつかる音がするが、弾き飛ばすことはできなかった。

 俺は素っ首を狙い槍を回転させる。

 

「チッ! 雑魚が、イキがりやがって!」

 

 奴は剣で槍を受けようとする。

 そんな剣は、この槍には紙くずも同然のごとくスパッと切れる。

 

「はぁ?!」

 

 紙一重で回避して、奴は俺から距離を取る。

 チラッとみると、尚文達は取り巻きの女達を制圧中のようである。

 

「お前、その槍チートじゃねぇか! なんだよそれ!」

「なら、お前のチートを見せてみろってんだ!」

 

 俺はそう言うと、奴の元に駆け出す。

 奴は恐怖してダッシュで逃げ出した。

 もちろん、こんなところで逃がすわけがない。

 

「必殺! 裂風迅槍衝!」

 

 俺は槍に力を溜めて、突きを放つ。

 防御無視、無敵貫通の衝撃波が奴を襲う。

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

 巻き込まれて吹き飛ぶ奴を殺すため、俺は奴の元まで駆け抜け、地面に落ちる前に奴の首を跳ねる。

 

「ははははははは!! 成敗!!」

 

 非常に気分がスッキリした。

 首と体が泣き別れになり、信じられないものを見るかの様子の奴を、俺は槍でみじん切りにする。

 証拠隠滅である。

 

「必殺! 乱れ突き!」

 

 解放状態の人間無骨は奴の死体を紙くずのように消しとばした。

 ああ! やっぱりいいな! 世の中の敵を粉微塵に消し飛ばすのは! 

 制約がほとんどなくなった以上、ミナを消し飛ばすのもありだろう! 

 ふふふ、ははは、はははははははははははははははは!! 

 

 俺は槍に魔力を流すのを止める。

 すると、槍の穂先は自動で閉じる。

 ふと、槍を見ると、槍の装飾が変わった気がした。

 あれ、親父さんから受け取った時こんなデザインだったっけなぁ……? 

 

「景虎、終わったか?」

 

 尚文が駆け寄ってくる。

 俺はかなりスッキリした表情をしていたのだろう。

 

「ああ、片付けたよ」

 

 俺の言葉に、尚文は引いた顔をする。

 

「さ、消しとばしたとは言え、この血だまりをラフタリアさんに見せるわけにはいかないだろう」

「あ、ああ」

 

 尚文は帰り際に「死体すら消し飛ばすのか……。俺より酷い目にあったんじゃ……」とつぶやいていたが、否定も肯定もしなかった。

 奴とは初対面だしな。

 

 戻ると、女達3人が縄で縛られていた。

 必死に命乞いをしているようだ。

 

「あ、ナオフミ様。言われた通り縛っておきました」

 

 ラフタリアとフィーロが見張っていたらしい。

 女達はキャーキャーと命乞いをして非常に耳障りだ。

 尚文の表情が曇る。

 

「なんだこの女達は。あのビッチ王女を思い起こさせる!」

「ですね。あの方を彷彿とさせます……」

 

 尚文はそう言うと、俺の方を向いた。

 

「景虎、どうするかはお前に任せる」

「……このまま放置でいいんじゃないか」

「そうか、お前なら殺すと言うと思ったんだがな」

「殺すのは、クソ野郎だけだ。女に対してはあの女以外はどうなろうと知ったことじゃない」

 

 ただ、このまま放流すれば面倒なことには変わりないか。

 やっぱり消すか。

 

「そうだな、そこの貴族っぽい女は消す。それ以外の女は、この事を喋らないと誓うなら、殺さないで置いてやる」

「ひいいいいいいいい!!」

 

 俺が殺気を放つだけで、女どもは失禁したようであった。

 

「誓います! 誓いますううううう!!」

「何故あたしだけ!!! 嫌! いやあああああああ!!」

 

 俺は貴族っぽい女を消すために、縛られている紐を掴む。

 

「ふん、虎の尾を踏んだのが悪い」

「ナオフミ様……」

「自分たちが強いって思い込んでたんだねー。バカだよねー」

「フィーロ!」

 

 貴族っぽい女からはミナと同じ感覚を感じる。

 それ以外の女にはそれを感じなかった。

 判断基準はそれだけである。

 俺は二人から見えない位置に移動すると、首をはねて肉体を消しとばしたのだった。

 




何この景虎サイコパス!
まあ、レベル差もありますが、この波の尖兵はレベルが25ぐらいなんですよね。
宗介のレベルは錬のところでレベルを上げた結果、59になっています。
結果、粉微塵に消し飛ばされました。

フィーロの毒舌を追加しておきました。


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ラフタリア頑張る

 翌日、俺たちはアールシュタッド領の城下町にたどり着いた。

 俺は荷台に隠れて、領内に侵入する形になった。

 

「……それなりに警備が厳重だな。だが、盾の勇者である俺は警戒されていないようだ。やはり景虎……いや、()()()()か? 漢字はわからんが、お前が一番警戒されているらしい」

「いや、普通に考えれば、この馬車も警戒されるんじゃ……」

「守衛さんに聞いた感じだと、別行動をしている可能性が高いと言っていましたよ」

 

 ラフタリアの回答に、少しガックリする。

 抜けているのか、深読みのしすぎか……。

 とにかく、盾の勇者はこの時点では警戒対象では無いらしい。

 

「とりあえず、岩谷は俺の事を景虎と呼んでくれ」

「ああ、そのつもりだ」

 

 偽名にはちょうど良いだろう。

 

「ラフタリア、街の偵察を頼む。俺とフィーロは景虎と待機だ」

「わかりました」

「はーい」

 

 ラフタリアはローブを羽織ると、馬車から飛び出した。

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 私はナオフミ様に命じられて、アールシュタッド領の城下町を偵察に出ました。

 それにしても、カゲトラさんは普段は剣の勇者様と似たような雰囲気の方ですが、戦いになると人が変わったかのように荒々しくなります。

 持っている槍も、禍々しい形になりつつあり、何というか、槍の勇者を見るナオフミ様に似た雰囲気になってしまいます。

 話を聞く限りだと、ナオフミ様と同様にハメられて、この世界を憎んでいらっしゃるのでしょう。

 普段は出しませんが、対人戦の時にその憎悪を発露させているように見えます。

 

 おっと、いけない。

 私はギルドに向かい、情報収集をします。

 亜人の冒険者さん達もいるので、そこで情報収集をします。

 

「あの、すみません」

「あ? なんだ? ってこれはこれは盾の勇者様の……」

「聞きたいことがあるのですが、大丈夫でしょうか?」

 

 私は情報料として預かった銀貨を5枚渡します。

 

「ああ、()()()()聞いてくれよ」

 

 銀貨を貰った冒険者の方は、ニッコリと微笑んでくれました。

 これで情報が聞きやすくなりました。

 いくら亜人の冒険者でも、盾の勇者の仲間であるだけでは肝心な情報を話してくださらない時があります。

 その時は、ケチらないでお金を渡すと良いと、ナオフミ様はおっしゃっていました。

 なので、私は情報を集める際は必ず、ナオフミ様から情報料を受け取っていました。

 

「この街ですが、少々物々しくありませんか?」

「なんでも、指名手配の犯罪者が、この領内に現れたんだそうだ。噂によると、その犯罪者はアールシュタッド領の領主を狙っているらしいぜ」

「それで、警戒されているのですね」

「ああ、なんでもそいつは剣の勇者様のパーティにいたらしく、剣の勇者様に取り入るために無謀な敵のいる住処におびき出し、仲間を消そうとしたんだそうだ。それが看破されて、剣の勇者様の怒りを買って追放されたそうだぜ」

「……そうなんですね。それは恐ろしいですね」

 

 カゲトラさんの話からすると、真逆の噂です。

 カゲトラさんは何故か犯人をぼかすような言い回しをしていましたが、確信がある話し方をされていました。

 おそらく、ナオフミ様に余計な気使いをさせまいとしてだったのでしょうけれどね。

 ナオフミ様はお優しいですから、こうしてカゲトラさんの復讐を手伝っています。

 ……本来は、私が諌めるべきなのでしょうが、私にも恨むべき方がいるので、あまり強くは言えません。

 

「そういえば、女性連れの冒険者を多く見かけますが、理由はわかります?」

 

 私はふと気付いたことを聞いてみました。

 ギルドに屯している冒険者の多くが女性連れ……いや、パーティメンバーが女性のみの方々ばかりです。

 遠くから見ても、深夜に襲ってきた方々と似たような雰囲気を出している方々が多く見えます。

 

「ああ、なんでも、この街の領主様の娘であるミリティナ様が、直々に集めた腕の立つ冒険者らしいぜ。詳しいことは知らないが、何故か女性メンバーばかりなんだそうだ。英雄色を好むってヤツかねぇ?」

「は、はぁ……なるほど」

「その中でも、選りすぐりのメンバーは領主の家で警備をしているそうだぜ。中には、クラスアップをした連中もいるそうだ」

 

 クラスアップをした……。

 なるほど、確かにそれは厳しい状況でしょう。

 

「盾の勇者様に関して、何か知っていたりしますか?」

「あー、それについてはあまり噂は聞かないなぁ。第二の波を乗り切ってからはからっきしだ。だが、何か商売を始めたらしいと言うのは風の噂で聞いたことがあるな」

「そうですか」

 

 悪評があまり流れていないようでホッとする。

 

「ま、槍の勇者様と特に仲が悪いってのは専らの噂だな。こないだはレースをして盾の勇者様が勝利を収められたとか!」

 

 人間の方に聞くと、「盾の勇者は卑怯な手を使って槍の勇者様から勝利を奪い取った」などと言う話を聞きますが、そこが亜人の方に聞くのと大きな違いですね。

 

「ま、この街に滞在するならナンパには気をつけることだな。メルロマルクじゃ信じられないが、婦女暴行をやらかす連中もいるそうだ。相手が亜人なら、誰も文句は言いやしねぇからな」

「はい、ご忠告ありがとうございます」

 

 私はお礼を言って、ギルドを後にします。

 後は、物陰に身を潜めつつ、街の様子を見て回り、私はナオフミ様の元へと帰還しました。




上手くラフタリア感が出せているかな…?


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作戦会議

「なるほどな」

 

 尚文はラフタリアの話を聞いてそう呟いた。

 馬車を止めているスペースは人通りは少ないが、馬車が止まっていてもおかしくない場所に止めてあった。

 これは当然ながら尚文の提案である。

 

「腕利きの冒険者を集めて護衛ね。勇者じゃないところがポイントだな。樹が食いつきそうな案件だが、クズ王の依頼で北にいるのならば、駆けつけては来ないだろう」

「はい、実際に剣の勇者様以外には打診はしたらしいのですが、優先順位の問題で王の依頼を優先するそうですよ」

「錬には打診してないのか……。改めて、景虎のハメられた話が正しい事が分かってイライラするな」

「んー?」

 

 勇者が来ていないのならば、障害としてはそこまで大きくはなさそうだ。

 なんと言っても、俺はすでにクラスアップ済みで、阿呆を2人殺したせいかその分多くの経験値を得たからな。

 尚文達にはそこまで経験値が入っていないところを見ると、波の尖兵が波の尖兵を殺害した際のメリットと言ったところか。

 

「景虎の強さはわかっている。が、敵もそれを警戒して、戦力はかなりあるようだな。ターゲットはクソ女でいいんだな?」

「ああ、間違いない。ミリティナがミナ……俺をハメた女だな。そいつがターゲットだ」

「オーケー」

 

 と、そうだそうだ。

 勇者装備をパクれる波の尖兵達を尚文達に戦わせるわけにはいかなかった。

 まあ、聖武器を表層だけでもパクれるのはタクトだけであるから、そこまで心配する必要はないかなとは思うが。

 なので、提案する必要があった。

 

「そうそう、岩谷は基本的に女を相手にしてくれれば良い。男は俺が殺す」

「ん、何かあるのか?」

 

 当然疑問に思うよな。

 うまい具合に誤魔化すとしよう。

 

「ああ、岩谷達に使命があるように、ああいう傲慢な連中を殺すのが、俺がこの世界にやってきた使命なんだと思ってな」

「……この世界でもリア充爆発させるのか」

「ま、気に食わないのも認めるけどな」

 

 まあ、アイツらは基本ハーレムだしな。

 リア充爆発ってのは間違っていない。

 素っ首叩き斬ってミンチにするだけだから、爆発はしないがな。

 

「……是非ともあのクズ王も暗殺してほしいものだな」

「それは、勇者様の仕事だろう? 愚かな王は魔王も同然だからな。魔王を倒すのが勇者様の役目だ」

「ハッ、言ってろ」

 

 俺の勇者ジョークに、尚文は半笑いで肩をすくめる。

 クズは殺すわけにはいかない。

 それは、書籍版やweb版を読んだものの常識だろう。

 アニメしか見てない人にとってはただの邪魔なだけのゴミに見えるが、覚醒イベントを発生させると諸葛孔明に変貌するからな。

 

「それに、王様は岩谷の敵なんだろう? 岩谷が自分で決着をつけなきゃ、岩谷自身が前に進めないさ」

「わかってる。クズ王とあのビッチ王女は俺がギタギタにしてやらないと気が済まないからな!」

「カゲトラさんがナオフミ様と凄い勢いで意気投合していって、複雑な気持ちです……」

 

 この世界に復讐心を共有する剣みたいなものは存在しないので、それぞれお互いの敵と戦うのが一番である。

 ミナ……俺をここまでコケにしてくれたんだ。

 必ずぶっ殺す! 

 俺は決意を新たにする。

 この街に波の尖兵が集まっているせいか、俺は殺意が滾っていた。

 

「それじゃあ、作戦を話す。ラフタリア、フィーロ、景虎。上手く動けよ」

 

 尚文の作戦は、潜入作戦である。

 警戒されていない尚文達が潜入し、警戒されている俺が囮である。

 フィーロは俺と共に暴れる側で、尚文ラフタリアは屋敷へ潜入、敵を掃討して俺たちが侵入するための経路を確保する手はずになった。

 俺がいなければ、ミナの確保はできないため、当然のことだろう。

 

「顔の割れている景虎が囮には適役だ」

「うん、フィーロも武器の人と一緒に暴れるね!」

「ああ、フィーロ、頼む」

 

 フィーロは幼女形態で話を聞いていた。

 

「ラフタリア、俺たちは景虎の道を切り開く」

「お任せください、ナオフミ様。フィーロもカゲトラさんも気をつけてくださいね」

「うん、ラフタリアおねーちゃんも気をつけて!」

「ありがとう」

 

 俺たちは作戦を開始したのだった。




作戦は実は悩みました。
何が尚文らしい作戦かですね。
宗介の方針ではないのでアンケは無しです。

章タイトルは有名タイトルのパクリですね。


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戦い

 俺は、路地から出て街の中央に出る。

 このあたりでいいだろう。

 俺は被っていたローブを脱ぎ、宣言する。

 

「我は毘沙門天の化身! 菊池宗介! 我を悪と断じる悪がいると聞き推参した! 菊池宗介、推して参る!」

「びしゃもんてーん!」

 

 まあ、これでスルーされたら悲しいけどね。

 こんな目立つ場所で名乗りを上げれば、当然ながら色々と出現するのはわかっていたことである。

 

「居たぞー! 犯罪者だー!」

「ははは、悪が堂々と現れるか! 成敗してくれる!」

「「「きゃー頑張ってー! ──様ー!」」」

 

 ううん、やっぱり波の尖兵の名前は聞き取れなかった。

 まあいい、殺すか。

 と、思ったが、尚文からはなるべく戦闘不能で抑えるように指示があった。

 本格的に殺していいのは、元凶を捕獲した後の方が良いとの事だ。

 まあいい、殺そう。

 

「ははははははははは!!」

「ぎゃあああああ!!」

「フィーロも楽しい! はははははははー!」

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 俺とフィーロは暴れ回る。

 流石に衛兵や女は殺しはしないが、波の尖兵とヴィッチっぽい女は素っ首を刎ねて回る。

 兵士は石突きで叩きのめし、短剣やクロスボウで適度に痛めつける。

 合気道で地面に叩きつけたりもするがな。

 波の尖兵の冒険者はもちろん、起動させた人間無骨でバンバン首を刎ねていく。

 

「ははははははは!! 成敗!!」

「ははははははは! せーばい!」

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 フィーロは尚文の指示を守り、蹴り飛ばして遊んでいるだけだが、俺は明確に殺意を持って、波の尖兵をぶっ殺して回った。

 波の尖兵など所詮害悪だしな。

 なんだか楽しくなってきて、フィーロと暴れ回ったのだった。

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 俺たちはアールシュタッド領の館まで接近した。

 盾はすでにキメラヴァイパーシールドに変化させてある。

 俺は奇妙な縁で出会った復讐者の手伝いをしているところだ。

 そうすけ……漢字にすると宗介だろうか? 今は景虎と名乗っているが、アイツも俺と同じようにビッチ王女と似たような奴に貶められた奴だった。

 既に、その精神は破綻しており、まさにその血塗られた槍『人間無骨』の持ち主である森長可や偽名である長尾景虎……上杉謙信と同様に戦闘狂の殺人鬼と化していた。

 この国の連中は人を貶めないと気が済まないのだろうか? 

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ……」

 

 遠くから叫び声が聞こえる。

 景虎達は上手くやりすぎていそうである。

 その叫び声を聞いた衛兵が、わらわらと館から出てくる。

 

「キクチソウスケが現れたぞ!」

「謎の鳥と一緒に暴れまわっているらしい!」

「捕まえろ!」

 

 俺は隙をついて、ラフタリアと共に館に侵入をした。

 館は、スタンダードな洋館であった。

 敷地内を歩いていると、館の作りはまるで学校のように部屋が分かれているように見える。

 

「さて、まずは構造を把握することが先決だな。親玉は屋敷の奥、最上階に居ることが定番だが……」

 

 俺は周囲を見渡しながら、侵入できそうな場所を探す。

 もちろん、身を隠しながらであるが。

 

「ナオフミ様」

「どうした?」

「あちらを見てください」

 

 ラフタリアの指をさす方向を見ると、窓の中から何かが見える。

 近寄って覗き込むと会話が聞こえてきた。

 

「……全く、消したと思ったのになんで今更出てきますの?」

「申し訳ございません。我々も尽力しましたが、途中で行方知れずになってしまいまして……」

「ふん、どの道犯罪者になった彼には用はありませんわ。波のボスを討伐した時には使えるかなと思いましたのに……」

 

 この話し方はビッチ王女を彷彿とさせるものがある。

 声音は異なるものの、似た性格の奴なのだろう。

 この女が、景虎を陥れた奴と言うことか。

 

「ふ、そうカッカするな。可愛い顔が台無しだぜ? ミナ」

「ああ、──様素敵ですわ」

 

 丁度名前が聞こえるところで、外から騒音が入り、名前を上手く聞き取れなかった。

 装備を見る感じだと、おそらく錬や元康程には強いのだろうという事がわかる。

 金髪の腰までかかるロングヘアがボサボサな感じの髪型をしており、顔立ちは整っている。

 だが、嫌な目をしているのは遠くから見てハッキリとわかる。

 そして、そいつの取り巻きも女ばっかりだ。

 まるで元康を見ているかのようで非常に不愉快である。

 他の連中は別の場所に居るのだろう。

 

「ラフタリア、あの部屋までの経路を探るぞ」

「はい、わかりました」

 

 俺とラフタリアは移動する。

 現在の俺たちのレベルはこんな感じだ。

 

俺 Lv34

ラフタリア Lv37

 

 効率のいい狩場など知らない俺たちは、行商をしながらも着実に力をつけていた。

 盾の補正もあるし、油断さえしなければどんな苦境でも切り抜ける自信がある。

 俺達は見つからないように姿を隠しつつ、経路を探っているその時だった。

 

「なんだ、盾か。なんで盾がこんなところにいるんだ?」

 

 そいつは黒い鎧を着込み、黒い剣を装備した奴だった。

 明らかに強い。

 

「チッ」

 

 俺は舌打ちを打って、盾を構える。

 

「ナオフミ様!」

「ああ、敵だ」

 

 これが俺達が盗賊以外での初めての対人戦となった。




今回は尚文視点です。
上手くかけているかなぁ?

ちなみ、外では宗介が首を刎ねまくり、フィーロが蹴飛ばしまくっています。


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盾の戦い方

「俺は何人も殺してきた。お前達も俺の剣で切り刻んでやろう!」

 

 そいつは楽しそうにそう言うと、剣を構える。

 目には、狂気が宿っていた。

 

「ちぇえええい!!」

 

 ガンっと、俺は剣を盾で受け止める。

 

「いつっ……?!」

 

 少し痛かったぞ。

 どうやら、コイツの攻撃力が俺の防御力を若干上回ったらしい。

 と言っても、ダメージ1程度の痛みしかなかったが。

 

「ラフタリア、気をつけろ! コイツ、俺の防御力を超えてきやがったぞ!」

「!! わかりました、ナオフミ様!」

 

 俺とラフタリアは気を引き締める。

 俺でも1程度のダメージを受けると言うことは、ラフタリアが受ければ致命傷と言うことになるからだ。

 

「まあ、盾なら防御力無いと困るよな。試させてもらおう」

 

 ぐ、来る! 

 俺は盾を構える。

 

「ちぇええええええええええええええええええええええええええいいい!!」

 

 男は息もつかせぬ連続の斬撃を仕掛けてきた。

 俺はそれを読み、全てを盾で受け流す。

 この防御法のコツは景虎に教えてもらった。

 剣に合わせて盾で剣筋を逸らす方法だ。

 この方法だとダメージを受けずに捌くことができるみたいであった。

 ギャンギャンギャンと音を立てて、後ろに控えるラフタリアに攻撃が当たらないように防ぐ。

 

「せいやああああ!」

 

 ガキンっと音を立てて、俺は最後の一撃を正面から受け止める。

 キメラヴァイパーシールドの蛇の毒牙(中)と言う反撃スキルを期待しての事だ。

 当然ながら、発動する。

 キメラヴァイパーシールドの蛇の装飾が伸びて、剣士に噛み付いた。

 

「ぐっ! 毒か!」

 

 剣士は後ろに飛ぶ。

 

「ラフタリア!」

「はい!」

 

 俺とラフタリアは剣士との間合いを詰める。

 回復させる気は毛頭なかった。

 ラフタリアの攻撃に、剣士は舌打ちをして受け止める。

 

「ラフタリア、連撃で相手を惑わせ!」

「はあああ!」

 

 ラフタリアの攻撃は、剣士にとっては軽いだろう。

 それはレベルや装備の差もあるからだ。

 どう見ても、剣士のレベルは俺達よりも高いだろう。

 だからこそ、手数を増やして攻撃する必要がある。

 

「邪魔するなあああ!」

「エアストシールド!」

 

 ラフタリアと剣士の間にエアストシールドを設置して、ラフタリアへの攻撃を防ぐ。

 

「チェンジシールド!」

 

 盾は双頭黒犬の盾を選択する。

 盾についた犬の頭が剣士に噛み付く。

 

「チィッ!」

 

 ラフタリアはその隙を上手くついて剣士に攻撃を仕掛ける。

 

「っ! 硬い!」

「オラァ!」

「ふんっ!」

 

 俺は剣士とラフタリアの間に入り、剣を受け止める。

 やはり1ダメージを受ける。

 それほど重い攻撃だと言う事だろう。

 

「盾風情がやるじゃ無いか!」

「お褒めに預かり光栄だ」

 

 俺と剣士は剣と盾で鍔迫り合いをする。

 毒が効いているのか、顔色が若干悪い。

 

「ラフタリア!」

「はああああ!」

 

 ズバッとラフタリアの攻撃が入る。

 

「ぎゃああ! くそっ!」

 

 どうやら、クリティカルヒットだったらしく、ダメージが大きく入ったように見えた。

 

「つらあああああああああああああ!!」

「シールドプリズン!」

 

 耐久力のあるシールドプリズンでラフタリアを守る。

 剣士の攻撃は一撃一撃が重いため、シールドプリズンは徐々にヒビが入っていく。

 チッ、剣士の意識をこっちに向けなければな! 

 俺は石を拾い、複数個を上に大きく放り投げる。

 直接投げようとすると弾かれるが、上に複数個大きく投げるのはランダム性が伴うため、盾の制約に反せずに弾かれはしない。

 どうやら偶然、何個かが剣士に命中したようだった。

 

「邪魔だあああああ!」

 

 剣士の意識は俺に向く。

 どうやらタイマンで相手に集中するタイプのようだ。

 俺は連撃を捌く。

 剣と盾がぶつかるところが火花をあげ、逸らした攻撃の余波で地面が削れる。

 だが、俺はコイツと違い一人で戦っているわけでは無い。

 

「せい!」

 

 ラフタリアは背後から忍び寄ると、剣の腹で思いっきり剣士の頭部を殴り飛ばした。

 ゴイーンッと音がして、剣士は横に吹き飛ぶ。

 あの驚きの表情はなかなか見ものであった。

 剣士はそのまま、気絶したように倒れて動かなくなった。

 脳を揺さぶられたのだろう。

 そう言う軽い脳震盪は、この世界でもある事なのだ。

 

「ふぅ、手強い方でしたね」

「ああ、排除できたのは幸いだった。防具を引っぺがして縄で縛るぞ」

「はい、ナオフミ様」

 

 俺とラフタリアは剣士の装備を引っぺがして、縄で縛る。

 しかし、コイツの装備は非常に重たい。

 ラフタリアに剣を持たせてみたが、とてもじゃ無いけれども重すぎて扱いきれないとのことであった。

 まあいいだろう、とりあえず俺達は景虎と合流することに決めた。

 目的の女の居場所も分かったし、強敵の存在を景虎に知らせておくことも重要だろう。

 

「ラフタリア、一時撤退だ。先ほどの騒ぎを嗅ぎつけられたらまずいからな」

「わかりました。強敵を一人倒せましたし、成果としては十分ですね」

「ああ、一度戻ってフィーロ達と合流するぞ。その後再突入だ」

 

 俺達は、館から撤退した。

 この時、気づいていれば話はもっと簡単になったのだが、俺達に気付く余裕は無かった。

 ある女の子が一人、連行されて来ていることに気づいていれば。

 俺達が撤退できたのも、その女の子が搬送されたからであったらしい。




アンケート結果を反映させました!
尚文の戦い方は色々と考えさせられますね。


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館突入前

 俺は、誰も恐れて襲ってこなく無くなったので休憩をしていた。

 俺の周りには、首と死体、血液が散らばっている。

 フィーロには食べないように指示を出している。

 ははは、大虐殺だな。

 無関係な冒険者は石突きや短剣、クロスボウで怪我だけで済ませているし、あとはフィーロが蹴り飛ばしただけだ。

 俺の怒りのバロメーターは既にだいぶ治まっており、少し落ち着いている。

 挑発する気分でもないので、こうやって座って、携帯用の水筒で悠々と水分補給をしていた。

 

俺 Lv67

 

 それなりに経験値を獲得できており、うまあじである。

 何人殺したっけなぁ? 

 

「んー、フィーロ退屈ー。武器の人ー、いつまで待てばいいのー?」

「岩谷が帰ってくるまでだな」

「わかったー」

 

 フィーロはそう言うとフィロリアルクイーン形態のまま周囲の散歩を始めた。

 警戒しているが、衛兵も冒険者達も遠巻きに見つめて警戒しているだけである。

 暴れすぎちゃったかなぁ……? 

 尚文からはフィーロは人間の姿になるなと言明されているので、フィロリアルクイーンの姿のままである。

 

 と、視界の隅に光が見えた。

 ラフタリアのファスト・ライトの光だろう。

 

「フィーロ、行くぞ。岩谷が呼んでいる」

「ごしゅじんさまが! うん、わかったー」

 

 俺はフィーロに乗り、光が見えた方向に進む。

 人を飛び越える際に、俺はこう、喧伝しておく。

 

「ははははは!! 天誅! 毘沙門天の名の下に、世に悪が栄えた試しはないのだ! ははははははは!!」

 

 そうして、俺達は尚文の元に戻ったのだった。

 

「でねー、武器の人、いっぱい首を飛ばして遊んでたのー。だからフィーロもいっぱい蹴って遊んだのー。ごしゅじんさまにいわれてたから、死んじゃわないかんじで蹴ったのー」

 

 フィーロの話を聞いて、尚文は微妙な顔をする。

 どう言う顔だろうか? 

 

「景虎……。一応言っておいたはずだが、殺すなと言ったよな?」

「そうだな。だが、目の前に殺したいほど憎い奴がいて、殺せる状況で殺すなと言うのが難しくないか?」

「うん、武器の人は狙って首を飛ばしてたよ」

「……お前はマトモだと思ったんだがな」

 

 今はだいぶスッキリしているが、開始直後は殺意が滾っていて、自分でも制御できなかったのは事実だ。

 だいたい波の尖兵な冒険者の1/3殺したところでだいぶ落ち着いたけれどな。

 

「既に俺はマトモじゃないのは自覚しているさ。首を刎ねるのに、僅かな躊躇いすら無くなっちゃったしな」

 

 最初に遭遇したあいつは、骨を折ったが殺してはいない。

 俺の殺人への躊躇いや拒否感を破壊したのは、三勇教の連中だ。

 

「……普段の会話はマトモだから良いとしよう」

 

 尚文はため息をつくと、話を変えた。

 怒っても仕方ないと思ったのだろう。

 

「さて、俺たちの方は館の偵察だが、景虎の目的らしい女の居場所は突き止めた」

「ええ、ですが、かなり強い冒険者達がいることが分かっています」

「一人と戦って倒したんだが、あのレベルが複数人で来られたら、流石の俺達でも叶わなかっただろう。幸いにして、連中は連携するつもりはなさそうに見えたがな」

 

 ですよねー。

 

「まるで、自分の力を試したいと言った感じの方でした」

「なるほどな。まあ、アイツらはそう言う連中だから仕方ないね」

 

 俺は同意する。

 アイツらの事だ、恐らく人質をとったりする事だろう。

 タクトのように人質を殺そうとする場合もある。

 俺の場合はレイファやドラルさんが該当するな。

 可能性として見積もっておくべきだし、上手く立ち回る必要があるだろう。

 

「岩谷、もしかしたら人質がいる可能性がある」

「……ありえるな。あの女と似たような奴だったから、その可能性は高いだろう」

「んで、思った通りにいかなきゃ人質を殺す可能性がある」

「……流石に連中もそこまでアホじゃないだろう。だがまあ、最悪の事態は考えておくべきだな」

 

 とりあえず、尚文に忠告しておくのはこんなところだろうか。

 

「よし、それじゃあ、館に突入する。強敵が出た場合はお互いに連携する事。あと、景虎はくれぐれも殺してくれるなよ?」

「あいよ。まあ、ラフタリアさんもいるし、自重するさ」

 

 フィーロは楽しんでいたみたいだがな。




次回は長くなるんで短めで勘弁してください。


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宗介の苦戦

 館の正門前には、冒険者が数名配置されていた。

 アイツらが波の尖兵だということはビンビンに感じていた。

 波の尖兵は2名おり、取り巻きの女性が何名か侍っている。

 

「岩谷」

「ああ、誰が正面から入るんだよと言いたくなるな。こっちだ!」

 

 偵察していた尚文のお陰で、裏門から無事に潜入することができた。

 しかもこの門は、南京錠で鍵がかかっていたらしく、ラフタリアが切って解除できる程度には脆くなっていたらしい。

 地面には錆び付いた南京錠が落ちていた。

 

「普段は使われない入り口か……」

「ああ、見張りもいなかったからな。現に今も見当たらない」

「ま、余計な殺し合いをしなくて済むなら良いことだろう」

 

 どうやら、この館には強敵しか居ないようだからな。

 俺達は尚文の案内で、敵に会わずに館の内部へと侵入できた。

 

「さあ、ここからだ。前回は内部に侵入できなかったからな。あの女のいた部屋の位置はわかるが、場所はわかっている。内部を少し歩けばたどり着けるだろう」

 

 尚文がそう言った時だった。

 俺は殺気を感じて槍を取り出し、尚文への攻撃を防いだ。

 

「今ので死んでおけばいいものを」

 

 そいつは、尚文の言っていた奴だった。

 金髪の長髪をしており、なんかアニメやゲームのキャラを彷彿とさせる容姿をしている。

 鎧は白を基調とした青いラインや装飾が入ったもので、それがますます主人公アピールをしている。

 張り付いたニヤニヤ顔が、ウザい。

 槍で弾き落としたものは、矢であった。

 あの威力は尚文が食らえば確実にダメージを受けたほどであった。

 

「テメェ……」

「お前が盾と、ミリティナが言っていた犯罪者か。よくもまあノコノコとこんなところまで殺されに来たものだ」

 

 その白い奴の言葉と同時に、複数人の強そうな冒険者が出てくる。

 そして、ミナ……ミリティナ=アールシュタッドが出てきた。

 

「ミナ! テメェよくもハメてくれやがったな!」

「あら、私の好意を無下にして、自分勝手に剣の勇者様に取り入ろうとしたアナタが何を言っているのかしら?」

「あれはそもそも、国が強引に勇者の仲間になれって命令されたようなものだろうが!」

「私はアナタが勇者になるならと思って送り出しました。まさか、それが剣の勇者様に取り入り、国を自分の思うがままにするためだったなんて……。マルド様に聞かなければ、私は間違えてしまうところでしたわ」

 

 あー、やっぱ話は通じそうにない。

 

「おまけに、盾に協力してもらっているなんて、所詮は犯罪者。犯罪者は犯罪者同士消えて仕舞えばいいのですわ!」

「チッ!」

 

 尚文は舌打ちを打つ。

 ミナのその姿はまさに化けの皮が剥がれたヴィッチそのものだからね、仕方ないね。

 実際に言われると、もはや呆れを通り越して笑うしかないが。

 

「マルドの野郎に言っておけよ。脳筋のように突っ込むと、勇者様の邪魔になるだけだってな!」

 

 しかし、コイツら阿呆だな。

 確信はしていたが、ミナが協力していたのは推定でしかなかったのに、この証言で確定だ。

 心置きなくぶっ殺すことができる。

 俺は剣を抜き、槍と共に構える。

 

「しかし、あの亜人可愛くね?」

「盾殺してGETだな!」

「じゃあ、誰が最初に殺せるか勝負だな!」

 

 などとほかの冒険者どもがざわついている。

 それぞれ、豪華な装備を身につけており、目つきも怪しい。

 ここにいる全員、俺の殺戮対象のようだ。

 

「景虎!」

「俺はあの一番強そうなやつを殺す! 岩谷達はそれ以外の連中を無力化してくれ!」

「わかっているが……」

「いや、アイツは俺よりも強い。無力化は無理だ!」

「……わかった。無理はするなよ」

 

 相手は決まった。

 白い奴はニヤケながらこう宣言した。

 

「ミナを貶めた犯罪者は俺が殺すから、お前らは盾を消せ」

「良いだろう」

「命令されるのは癪だが、従おう」

「最初に盾を殺した奴があの亜人の女をGETだな!」

 

 白、緑、黄色、赤色の連中は戦う相手を決めたようだった。

 俺は槍に魔力を通す。

 グパァと槍が変形して、十卦形態になる。

 

「うっ、景虎、それはもはや呪いの装備だろ……」

 

 尚文のツッコミに、俺は何も返さなかった。

 白い奴を相手にして、そんな余裕はなかった。

 

 俺が走り出すとともに戦いが始まった。

 俺は走りながら魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 唱え切ったところで怖気がして、態勢を変える。

 ビュンと音がして、目の前を剣が通り過ぎた。

 俺はすかさず合気道で対応する。

 剣の流れた力を小手で加速させ、反対側の手で当身を入れる。

 

「おっと」

 

 が、首を傾けて回避される。

 態勢が崩れれば問題ないため、そのまま小手返しに移行する。

 クルッと技をかけるが、するっと回避されてしまう。

 

「変な技を使いやがる」

 

 剣を振るので、槍でそれに合わせて力を流す。

 だが、それすらも対応されてしまう。

 なので今度はこっちから攻撃を仕掛ける。

 槍は無敵貫通・防御無視なので、それを振るう。

 ギインっと音がして、白い奴は俺の槍を剣で受け止めた。

 

「流石に、柄の所は厄介なスキルはないだろ?」

「やるじゃない」

 

 俺は実戦で鍛えた槍術で白い奴を攻めるが、上手く剣でいなされてしまう。

 コイツ、強すぎないか? 

 俺も俺で、白い奴の剣を紙一重で回避しつつ、合気道で対応する。

 ギイン、ギャン、バンと、様々な効果音を出しながら、俺と白い奴は互いに攻める。

 明らかに遊ばれている。

 それほどの実力があって、なぜ波を鎮めるために戦わないのか疑問が出てくるほどだろう。

 波の尖兵とわかっていなかったら問いただしていた所である。

 

「そんなに弱いのに、よくもまあ生き残れたものだ。感心するよ」

「そいつはどうも」

「ふ、やはり、ミナは君には似合わないようだ。強く、美しい僕に相応しい」

「好きにしたら良いじゃねぇか」

「君が生きていると、ミナが悲しむからね」

「じゃあ、殺しあうしかねぇな!」

「君みたいな雑魚で僕を殺すなんて、寝言は寝てから言いたまえ。まあ、すぐに永遠に寝ることになるから、問題ないかもだけどね」

 

 白い奴の攻撃のスピードが上がり、さらに隙が無くなる。

 

「チッ!」

 

 俺もそのスピードに合わせる。

 剣の間合いの近接戦闘だが、剣と槍の二刀流に合気道の格闘術が合わさる事で対応できてはいる。

 

「必死だな」

「ぬかせ。一発も当てれてないじゃないか!」

「ふっ、これだから雑魚は」

 

 とてもではないが尚文達の状況を見ていられるほどの余裕は無かった。

 勝ってくれることを信じるほかない。

 不意に奴の闘気が膨らんだ、来る! 

 

「食らえ! 鏡面刹!」

 

 某ゲームの主人公の連撃を白い奴は使ってきた。

 兜、袈裟、突き、凪ぎ、全ての剣を槍と剣で払う。

 しかし、数カ所致命的ではないものの、俺はダメージを負ってしまう。

 

「ぐぅ!」

 

 肩や二の腕、右脇腹が熱い。

 血が出ているようであった。

 

「くくく……。僕のこの技を受けて生きているとは大したものだ」

 

 つ、強い! 

 波の尖兵としても奴が格上なのは感じるが、冒険者としてもかなり強い! 

 

「はあああ! 乱れ突き!」

 

 俺は技を放つ。

 右腕のみで乱れ突きを放ち、左手の剣は別の技を放つために準備する。

 

「ふっ、そよ風かな?」

 

 俺の技を全て回避してしまう。

 そんな事は分かっていた事だ。

 だからこそ、俺は魔法を詠唱する。

 

『力の根源たる俺が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を今ここに招来させよ』

「ドライファ・サンダーブレーク!」

 

 俺はあの必殺技を再現する。

 地面を思い切り蹴り間合いを作り、剣に雷エネルギーを充電する。

 バチバチと短剣から電気が迸る。

 

「今必殺の、サンダーブレーク!」

 

 俺は槍を奴に向ける。

 剣から槍に雷エネルギーが伝わり、ビームを放つ。

 雷エネルギーは赤黒く変貌し、奴に向かって飛んでいく。

 

「ふっ、そんな真っ直ぐな攻撃が通用するわけがないじゃないか」

 

 白い奴はそう言って余裕で回避する。

 

「真っ直ぐなわけがないだろ」

 

 そもそも、サンダーブレークは範囲攻撃だ。

 俺の魔力で構成された雷を、俺が曲げれないはずがない。

 

「なっ!」

 

 奴は初めて驚愕の表情を見せた。

 サンダーブレークが命中し、ダメージを与える! 

 バチバチと奴から電撃の流れる音がするが、奴は悲鳴をあげなかった。

 

「……!」

「「「──様!!」」」

 

 取り巻きの女どもと、ミナが悲鳴をあげるが、雷の音で俺は奴の名前が聞き取れなかった。

 

「……ふっ、美しい僕が汚い犯罪者に負けるわけがないだろう?」

 

 白い奴はそういうと、バチンと音を立てて俺の魔法を打ち消した! 

 打ち消した?! 

 

「なっ?!」

 

 妨害魔法を誰かが唱えた気配はなかった。

 なのに、白い奴はサンダーブレークを打ち消したのだ! 

 ドライファだぞ?! 

 

「不思議がっているようだね。ふふ、これが僕の力だ」

 

 そう言うと、奴は腰に剣を納めて、天に手を掲げる。

 

「君に見せるのは癪だけれど、僕が最強である証を示そう」

 

 奴の手に出現したのは、豪華で強そうな斧だった。

 斧の根元の部分に、聖武器の特徴である赤い宝石がハマっている。

 そして、斧の持ち手の末端にはアクセサリーがぶら下がっていた。

 

「マジかよ……」

 

 俺は改めて武器を構え直す。

 斧の眷属器の強化方法は、肉体改造! 

 奴はそれで、魔法防御のステータスを高めていたようだ。

 

「君はどうやら強敵らしい。雑魚かと思ったが、僕にこの斧を使わせたことがその証左だ。誇るが良い。そして、その誇りとともに、死ぬがよい」

 

 一瞬で奴は消えた。

 

「ぐはっ?!?!」

 

 そして、俺の腹部に斧が命中する。

 バキバキと骨の砕ける音と、鎧が破壊される音が聞こえる。

 意識が一瞬飛びかけるが、俺は生きているようだ。

 俺は吹き飛ばされて、壁に激突する。

 

「ふっ、まだ息があるか。このグレートキングアックスを耐えるとは驚きだね」

「「「きゃー! ──様ー!」」」

 

 やばい、スカしたアイツもムカつくが、ピンチだった。

 

「かはっ!」

 

 口と鼻から大量の血が出る。

 真っ二つになってないのは奇跡だろう。

 

「う、ぐ、かはっ!」

 

 俺はつい、チラリと尚文達の様子を見てしまう。

 いかんいかん、これは俺の戦いなんだ! 

 俺はポーチからヒールポーションを取り出し、素早く服用したのだった。




強すぎない?
マジで強すぎない?


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三勇者モドキ

先に尚文編をどうぞ!


 景虎が駆け出すのが、戦いの合図となった。

 赤い鎧を着た槍を使う奴、黄色い鎧を着た弓を使う奴、緑の鎧を着た剣を使う奴、まるで三勇者を相手にするような構図になり、俺は苛立ちを抑えられない。

 

「ナオフミ様、来ます!」

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 ラフタリアの声と、景虎の支援魔法は唱え終わるのはほぼ同時だった。

 支援魔法のおかげか若干ステータスが上昇する。

 

「亜人ちゃんを寄越しな! 盾えぇ!」

 

 槍の赤い奴……元康亜種が槍で俺を狙って攻撃してくる。

 槍を俺は盾で受け止める。

 キメラヴァイパーシールドの効果が発動し、装飾の蛇が元康亜種に噛み付く。

 

「毒かよ! 舐めんな!」

「フィーロ!」

「いっくよおおお!!」

 

 回復などさせる気は毛頭もなかった。

 思いっきり元康亜種をフィーロが蹴り飛ばす。

 

「あの人、なんか嫌い!」

「ああ、元康を連想させるからな!」

 

 ラフタリアは錬亜種と戦っている。

 戦闘自体はどちらかと言うと、錬亜種の方が優勢に見える。

 チッ! 

 樹亜種が矢を放ってきた。

 

「エアストシールド!」

 

 エアストシールドで俺はラフタリアを守る。

 ガンッと音を立ててエアストシールドに当たると、エアストシールドにヒビが入った。

 それほどの威力なのか! 

 

「フィーロ! 先に樹亜種を倒すぞ!」

「樹亜種ってどんなネーミングセンスだよバーカ! アローレイン!」

「セカンドシールド!」

 

 俺は最近習得したばかりのスキルを使って、空中に盾を設置して、矢の雨をやり過ごす。

 

「隙あり!」

 

 元康亜種が槍で突撃してくるが、景虎の方が槍の扱いは上手いだろう。

 若干扱い方の系統が違う気はするが、景虎の槍の使い方はまるで手の延長で、盾にもなるし、腕にもなる。

 俺は矛先を逸らすように受け流す。

 ガインと音がするが、ダメージはない。

 剣士の方が何倍も強いだろう。

 

「ふんっ!」

 

 こんな未熟な槍の使い方では、元康よりも弱いかもしれない。

 

「フィーロ!」

「はーい! はいくいっく!」

 

 フィーロの姿がブレて、元康亜種を蹴り倒す。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

 元康亜種の鎧が砕け散り、そのまま樹亜種の方に飛んでいく。

 

「はっはー! やるじゃねぇの! ま、そいつは雑魚だからな。今度はこっちの手番だ!」

 

 樹亜種はそう言うと、モーニングスターを取り出した。

 

「俺は弓も得意だが、本業はこっちでね!」

 

 樹亜種の宣言通り、モーニングスターで攻撃してくる。

 

「いいなー、あのじゃらじゃら。フィーロも欲しい!」

 

 そう言いながらも、フィーロはモーニングスターを回避して樹亜種に蹴りを入れる。

 

「あぶねっ!」

 

 樹亜種はフィーロの素早い動きに対応してやがる。

 なので、回避の邪魔をしてやる。

 

「エアストシールド!」

「何?!」

 

 エアストシールドにぶつかった樹亜種はそのままフィーロの連打にノックアウトされた。

 あれだけまともに喰らったのだ。

 しばらくは動けないだろう。

 

 ラフタリアの方を見ると、錬亜種と善戦をしていた。

 

「行きます! たあああ!」

「くっ、なかなかやる!」

 

 不意に殺気を感じて俺は盾を構えた。

 

「ふかああああつ!」

「チッ!」

 

 ギンっと音を立てて、元康亜種の槍を盾で受け止める。

 

「雑魚が! すっこんでやがれ!」

「雑魚じゃねええええ! 盾風情が偉そうにしやがって!」

 

 元康のスキルを真似た……乱れ突きだったか? 攻撃をしてくる。

 俺は盾で丁寧に槍を捌きながら、槍を掴む。

 

「なっ?!」

「フィーロ!」

「はーい!」

 

 フィーロは樹亜種の持っていたモーニングスターを元康亜種にぶん投げる。

 

「な、離せ!」

「誰が離すか! くたばれ!」

 

 俺は槍を固定して、頭に直撃するように誘導する。

 

「うわあああああああああ!!」

 

 ぐチャァ!! 

 俺の目の前で元康亜種は頭が砕け散った。

 良い様だ。

 

「わーい! すとらいくー!」

「フィーロ! 一応殺すなと言っただろう!」

 

 全く、フィーロのせいで見たくもないものを見てしまった。

 まあ、所詮は鳥だ。

 人間の価値観と異なるのは当然だろう。

 それに、撃ってもいいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。

 俺は怒鳴りつつも、持ち主のいなくなった槍を放り投げて、ラフタリアの援護に向かう。

 

「ナオフミ様!」

「援護に来た!」

 

 俺は盾を構えてラフタリアと錬亜種に割って入る。

 剣士に比べれば、こいつらなど雑魚同然である。

 ダメージも通らないし、動きは剣士に比べれば緩慢である。

 俺は白刃どりの要領で剣をキャッチする。

 

「ぐ、離せ!」

「ラフタリア!」

「はい!」

 

 ラフタリアは剣の腹で錬亜種の頭部を殴る。

 

「かはっ?!」

 

 そのまま吹き飛ばされて、地面に倒れこんだ。

 ん? 元康亜種を殺した時の経験値がかなり大きいぞ……。

 人を殺すと貰える経験値がでかいのか……嫌なことを知ってしまった。

 

「よくやった、ラフタリア、フィーロ」

「ごしゅじんさま! 武器の人、たいへん!」

 

 フィーロの指摘に、俺は景虎の方を向く。

 そこには、白い鎧のいけ好かないやつ……見た目だけは似てるから、昏倒野郎と呼ぶか、そいつが斧を掲げているところだった。

 

「……そして、その誇りとともに、死ぬがよい」

 

 そう宣言すると、昏倒野郎は一瞬で景虎を木を切り倒すように斧で凪いだ。

 景虎は吹き飛び、壁に激突する。

 

「景虎!!」

「カゲトラさん!!」

 

 俺たちはフィーロに乗り、景虎のところに急ぐように指示を出した。

 

「フィーロ!」

「うん!」

 

 あの強力な攻撃だ。

 最悪の場合を考えなければならないかもしれない! 

 俺たちは急いで景虎のもとに向かうのだった。




普通に尚文達は強キャラです。
信頼を受けると強くなる効果で基本的に硬いですしね。


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合気変幻無双術

「フーッ……」

 

 俺は立ち上がる。

 ヒールポーションを飲んだおかげで立ち上がるまで回復はできた。

 そして、()()()()()()()()

 剣と槍をその辺に投げ捨てる。

 クロスボウも邪魔だ。

 その辺に投げ捨てる。

 それだけで、俺の能力は若干下がるが問題ではなかった。

 

「ふふふ、やはり強敵とは言え、君は美しく無いね」

 

 俺には、全て、関係ない事だ。

 ただ力を抜いて、俺は構える。

 ()()()()()()()()()()

 そう思い込むことによりセルフイメージを上げる。

 アスリートなんかが試合前にやるアレだ。

 植芝盛平先生や、塩田剛三先生に比べたら、年季は浅いが、それでも実戦で積み上げてきていた。

 そして、この世界に来てから積み上げてきた戦闘の数々を思い起こす。

 どんな土壇場でも、役に立ってきたのは、合気道だった。

 あとは、それを自分の中で昇華させるだけだった。

 何度死にかけただろうか? 

 そのせいか、辺りに漂う何かを俺はつかみかけていた。

 

「スゥー……」

 

 息を吸って吐くたびに、俺の中にあるもう一つの何かを感じていた。

 

「立ち上がってくるなら仕方ない。美しくない君は用済みだ。死んでいいよ」

 

 白い奴は一瞬で消える。

 俺は、その気配に合わせて、手を置いた。

 バキャッと音がして、白い奴が吹っ飛ぶ。

 

「?!?!」

「「「キャー!!」」」

 

 合気道とはカウンター技だ。

 だが、誰も攻めないとは言っていない。

 それに、剣や槍は手の延長ではあるが、()()()()()()()

 

「ぐっ、き、貴様! 僕の美しい顔を殴ったな!」

「ハァー……」

 

 戯言など聞き飽きた。

 俺はただ、殺すのみだ。

 

「殺してやる! 僕の美しい顔を殴った貴様を殺してやる!!」

 

 再び白い奴は消える。

 俺は気配に合わせて、そこに拳を放つだけだ。

 当身とは、ただ相手に合わせて、そこに拳を置くだけだ。

 バキッ! 

 

「グハッ!」

 

 振りかぶった斧を、俺は優しく撫でるように力を誘導する。

 そのまま、俺は入り身投げに入る。

 こういうのをゾーンに入ったとでもいうのだろうか? 

 その時の入り身投げは、俺の中で一番冴えているように感じた。

 奴を後頭部から落ちるように誘導して、地面に叩きつける。

 

「がああああ!!」

 

 奴は後頭部を抑えて悶絶する。

 

「僕があああ、僕をおおお、貴様ああああ!」

 

 斧を振りかぶって攻撃してくる。

 俺はその斧に優しく触れる。

 それで、俺は繋がりを感じる。

 奴とつながったのならば、技をかけるだけだ。

 俺は俺の体内で何か言葉に言い表せないものを練り込みながら、手刀で斧を受け流す。

 そして入り身をして転換で相手の背後に回り込み、顔面に当身を入れる。

 スパアアアアアアン! 

 

「ぎゃあ!」

 

 仰け反るのでもう一度入り身投げをして、壁に投げつける。

 斧の勢いがそのまま、奴が吹き飛ぶ速度に加算されて壁に叩きつけられた。

 

「グハッ!」

 

 ビターンと音を立てて壁に叩きつけられた奴は、顔面に強烈な当身を3発入れたせいか腫れてボロボロになていた。

 

「くそッ! 貴様! 僕の! 僕の美しい顔を! よくも!」

 

 白い奴は斧を構える。

 

「エアストアックス!」

「エアストシールド!」

 

 斧のスキルを受け止めたのは、尚文の盾だった。

 

「大丈夫ですか?!」

 

 駆けつけてきたのはラフタリアとフィーロだ。

 

「あの技の系統! 一体何者なんだ、アイツは!」

 

 俺は、それすらも無視する。

 白い奴の方に歩みを進める。

 

「いい加減死晒せ! 大激震!」

 

 白い奴が地面に向かってスキルを放とうとする。

 俺は素早く近づき、斧に手を沿わせる。

 そして、スキルの方向を空中へと変化させる。

 

「なっ!」

 

 奴は驚愕に顔を歪める。

 

「スゥー……」

 

 俺は、練りこんだ何かを、奴の腹に押し付けた。

 こう、何かはわからないが、俺は知っているような何かを押しつけるように殴り抜く。

 

「ぐ、な、ぎゃああああああああああああ!!」

 

 叫ぶのがうるさいので、口を押さえて、地面に叩きつける。

 グシャッと音がしたが、まだ息はあるようだ。

 

「グフっ、後頭部ばかり狙いやがって……!」

「なんだ、あの技は?!」

「私も見たことがありません!」

 

 白い奴は立ち上がると、斧で連撃を仕掛けてくる。

 

「烈風神速斬!」

「ハァー……」

 

 俺は斧の連撃を全て手で受け流す。

 受け流しつつ、練りこんだ何かを使って殴る。

 周囲は斧の斬撃が刻み込まれる。

 だが、パンドカパンバキパンパンゴキパンと俺の拳が奴の身体中にめり込む音が鳴り響く。

 さながら、流水岩砕拳の様に俺は受け流しては殴り、受け流しては殴った。

 最後の一撃が振りかぶり攻撃だったので、俺は転換し懐に潜り込み、思いっきり斧の力の方向にぶん投げた。

 どかっと音をってて壁の激突する。

 斧の振るう威力そのままの投げだ。

 俺の攻撃で奴の鎧はボコボコに、顔はさらに酷い有様になっていた。

 

「ぼ、ぼくろおぉぉ……ぼくろうつぐじぃがほがはぁあぁあぁぁ……」

 

 瓦礫の中で奴はそう呟いた。

 血まみれの顔で何を言っているのだろうか? 

 興味がわかない。

 興味があるのは、奴がまだ死んでいないことだけだった。

 

「そこまでですわ!」

 

 ミナの声が響く。

 

「ソースケ!!」

 

 俺はその声に、ゾーンから復帰せざるを得なかった。

 まさか、まさかまさかそんな!! 

 

「レイファ?!」

「ソースケ! 助けて!」

 

 そこには、ミナに首にナイフを突きつけられたレイファの姿があった。




ようやくの出番のレイファちゃんです。


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決着ゥッッ!!

 俺の預かり知らぬ事だが、ミナがレイファを人質にしたちょうどその時、ある人物がアールシュタッド領に戻ってきた。

 

「……何事かね?」

「領主様!」

 

 死体の片付けと死者の身元解明、負傷者の手当てに騒がしかったアールシュタッド領城下町は、領主の帰還にようやく安心することができた。

 事情を聞いた領主は、苦虫を噛み潰した顔をして、こう呟いたそうだ。

 

「ミリティナめ……これで何度目だ!」

 

 俺とミナの宿命に、決着がつこうとしていたのだ。

 

「テメェ! どうしてレイファを!」

「もちろん、調べたのですわ」

「俺は一度も、お前の前でレイファのことを話したことはないぞ! 同じ部屋で寝ることすらなかったはずだ!」

 

 ネタ自体はわかっている。

 おそらくあの時だ。

 レイファと共に依頼を受けた帰りに遭遇した波の尖兵の取り巻きの女である。

 それ以外でレイファに繋がる伏線は、俺は用意していなかった。

 

「……」

 

 俺が口から吐かせようとした事を理解してか、忌々しい顔をするミナ。

 だが、少し考えて、鼻で笑う。

 

「アナタに初めてあった時に、近くにいた殿方……ドラル、でしたかしら? ふふ、強いお人でしたわね。ソースケさん?」

「ま、まさか?!」

「今ではウルフの餌になってますわね! ほほほほほほ!!」

「テメェ!!」

 

 奥歯がギリッと鳴る。

 

「動かないで!」

「ヒッ!」

 

 尚文が動こうとして、ミナはナイフをレイファの首筋に押し当てる。

 軽く血が流れるのが見える。

 

「チッ!」

「盾の勇者ごときが何をできるかは知りませんが、所詮は盾。今ここで、死んで仕舞えばいいのです」

 

 カツカツカツと足音を立てて、白い奴に近づくミナ。その手にはヒールポーションが握られていた。

 

「さ、アレックス様、今度こそその最強の力で、犯罪者と盾葬り去ってくださいまし。そうしたら、愛してあげますわ」

 

 流石に今回ばかりはちゃんと、奴の名前が聞き取れた。

 

「ふふ、ふはは、あはははははははは!」

 

 白い奴は突如笑い出すと、武器を変化させる。

 

「この僕に! こんな醜いラースアックスⅡを使わせるなんてね! 菊池宗介!!」

「なんだ! あの禍々しい斧は! しかも武器が形を変えたぞ!」

 

 そうか、尚文はまだ知らないんだな。

 カースシリーズは未開放だし、他にも勇者武器が存在することは。

 なので、黙っていることにした。

 

「菊池宗介ぇぇぇぇぇ!!!」

「不味い!」

 

 尚文がバッと前に飛び出して、白い奴の斧を受ける。

 空間が歪むほどの轟音を立てて、尚文は受け切った。

 

「ぐはっ! いてぇ! 斧には防御貫通の効果もあるのか?!」

「ナオフミ様?!」

「ごしゅじんさま!!」

 

 ダメージを負ったのか、尚文は口から血を流す。

 そんな尚文はすぐに指示を出した。

 

「ラフタリア! 頼む!」

「……! わかりました!」

「景虎、フィーロ! 持久戦だ!」

「ああ!」

「わかった! ごしゅじんさまを傷つける斧の人、許せない!」

 

 フィーロが攻撃しようとするたびミナが声をかけてくる。

 

「この子がどうなってもいいのかしら?」

「チッ!」

「ぶー!」

 

 結局は、防戦一方となってしまう。

 軽い攻撃は俺が前に出て受け流し、重い攻撃は尚文が盾で受け止めると言った連携した防御を行う。

 

「うざい! うざいうざいうざい! 君たちもあの連中のように! 僕の邪魔をするのか! それだけで万死に値する!!」

「何を言っている?!」

「ふふ、ふはははははは!! 僕の芸術をわからぬ奴は死ぬがよい!」

 

 白い奴は訳のわからない事を言うと、スキルを発動させた。

 

「チェーンバインド! チェーンニードル!」

「まずい! その鎖は避けろ!!」

 

 俺は尚文に指示をする。

 尚文も理解したのか、俺たちは全て避けることができた。

 

「チッ! 美しくない君たちに、美しい死に方をさせてあげようと言うのにね!」

 

 カーススキル・ギロチンを使わせるわけにはいかなかった。

 現時点での俺たちが、あのスキルを受ければ、確実に死ぬだろう。

 と、ラフタリアがミナにこっそりと近づき終えたらしい。

 なぜ気づかない。

 完全に俺たちが攻撃しないかに集中しているらしい。

 ちなみにほかの取り巻きの女は隅で震えていた。

 

「エアストシールド!」

「なっ?!」

 

 尚文がエアストシールドをミナとレイファの間に入り込ませるように出現させる。

 

「たああ!!」

 

 素早くラフタリアがレイファを救出すると、ミナから離れる。

 

「よくやったぞ、ラフタリア! フィーロ、景虎! 今だ!」

「武器の人! いっくよおおおお!」

「ああ!」

 

 俺とフィーロは尚文の前に出る。

 

『力の根源たる俺とフィーロが命ずる。理を今一度読み解き、大旋風を巻き起こせ!』

「「ハリケーン!!」」

 

 あれ、このタイミングでフィーロって魔法使えたっけ? 

 疑問に思いつつも、俺とフィーロは合唱魔法を唱える。

 雷と風でハリケーンか。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 雷と風の突風の嵐に巻き込まれ、白い奴は吹き飛ばされる。

 俺は魔力切れを起こさないように、魔力水をポーチから取り出して飲むと、落下地点まで走る。

 落ちてきていると言うことは、そこに大きなスキが生じると言うこと。

 そして、俺は小手を装備したままだ。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え』

「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」

 

 俺は雷を小手に纏わせる。

 ハリケーンが効いたと言うことは、魔法防御力がラースアックスに変化させて著しく下がっているからだろう。

 ならば、俺の魔法の通じるはずだ! 

 それに、このクソ野郎はもっとボコボコにしなければ俺の気が済まない! 

 

「必殺!」

 

 俺は呼吸を整える。

 ゾーンの入った時の何かはわからなくなってしまったが、この格闘術は使える! 

 

「雷」

 

 俺は構える。

 

「流水」

 

 合気道で鍛えた、力みを抜く方法と、小手で習得する必殺技が合わさり、新しい必殺技を編み出す。

 

「千打刻」

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドカァッ!! 

 

 

 

 

 一撃一撃を必殺の意思を持って放つ。

 もはや、突きが早過ぎて、殴っている音がドドドドとなっている。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 最後の一発で吹き飛ばされた白い奴は元気な声を上げながら、壁に激突した。

 ブシュゥっと耳元で音がする。

 

「あ……」

 

 傷口が完全に開いてしまったらしい。

 

「景虎!」

「カゲトラさん!」

「武器の人!」

「ソースケ!」

 

 俺は踏みとどまる。

 まだ、あいつは死んでいないし、ミナもまだ生きているからだ! 

 

「て、転送……」

 

 だが、白い奴は転送スキルを使って逃げてしまった。

 バァン! 

 と、扉が開いた。

 

「何事だね?!」

 

 大広間に声が響く。

 その小太りの偉そうな男は兵士の護衛をつけて、乗り込んできた。

 

「お、お父様?!」

 

 ミナの叫び声が響く。

 そう、俺はそいつに見覚えがあった。

 アールシュタッド領領主である、アーヴァイン=アールシュタッドであった。




やっぱり、俺TUEEEE感が出てしまうなぁ。

オラオラですかぁ?!
YES!!YES!!YES!!


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哀れなものの哀れな末路①

この話は斧の勇者の末路です。
この男の醜い本性と、胸糞展開が描かれます。

結論だけ言うと、斧はタクトに簒奪されました。

本当にこの話は閲覧注意です!!
読み飛ばしも可。


 斧の勇者は、転移スキルで自分のホーム……ゼルトブルに存在する、とある館に戻ってきていた。

 

「はぁ、はぁ、……ちくしょう! 美しく強いこの僕が負けるなんて! そんな結末は美しくない!」

 

 満身創痍の斧の勇者は、館の扉をゴンっと叩く。

 斧の勇者の顔は晴れ上がり、自慢の鎧は冒険者の拳でボコボコに凹まされており、装飾も酷い有様となっていた。

 

「僕は! ぼかぁ5000人の警官を皆殺しにしたんだぞぉぉ!」

 

 斧の勇者は自分をこんなみっともない姿にした冒険者を思い出すと、怒り狂う。

 部屋にあるものに八つ当たりをし、部屋は散乱して散らかる。

 

 斧の勇者の前世は、犯罪者であった。

 とある地方で、女性を誘拐する事件があり、何人……いや、何百人もの美しい女性や一見すると女性に見える男性を含めてこの男に拉致されて行方不明になったのだ。

 彼は、美しいものに目がなかった。

 そして、彼の性癖は、歪んだものであった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼は()()を迎えるのだ。

 そして、それを確認する時もまた、彼は絶頂するのだ。

 

 元々は彼は彫刻師であった。

 人間の美しさを残すと言う目的ではあったが、彼には確かにその才能があった。

 だが、彼はそれで満足しなかった。

 最初は、美しい幼子から始まった。

 彼は、美しいままに残すため、誘拐後に毒殺し、()()()()()()()()()()()()()()のだ!! 

 彼は、その時至福の時間と最大級の絶頂を迎えたのだ! 

 

 それから、彼は徐々に手を広げていった。

 時には有名グラビアアイドルまでも、彼の毒牙にかかって行方をくらませた。

 

 そう、彼自身もまた美しかったのだ。

 

 警官は彼の()()()に立ち入った時に悍ましいものを見て恐怖した。

 そして、彼の逆鱗に触れたのだ。

 

 果たして、彼がどのようにして5000人もの警官・自衛官を殺害したかは不明である。

 

 彼は最終的に狙撃により頭部を損傷し、死んだ。

 そして■■■■■■■■■■■■■■■■■により、この世界で斧の勇者となるべく転生したのだ。

 

 そして、そのような男が転生した結果、同じようなことをしないわけがないだろう。

 ゼルトブルにある斧の勇者の館の一室は、()()()となっていた。

 

「ふふふ、帰ってきたよ、僕の美しい美しい作品たち……!」

 

 彼は一体の蝋人形に頬ずりをする。

 美しい表情のまま裸体を晒す、彼の作品たち。

 これらは当然ながら、彼を慕った女達の亡骸でできた作品であった。

 

「はっ! 何が美しい作品たちだ! 女をこんなにしやがって、ヘドが出るな!」

「誰だ!」

 

 扉を蹴破って侵入してきたのは、鞭の勇者とその仲間の女たちのであった。

 

「タクト様、アレが斧の勇者です」

「あのボロっきれみたいなのが? はっ! 随分な趣味をしてやがるな!!」

「誰だ! 衛兵は? この屋敷に誰も入れるなと言っていたはずだ!」

 

 斧の勇者は激高する。

 鞭の勇者は嘲るように笑った。

 

「はっ! そんな連中、殺したに決まっているだろ?」

「ぐっ! 貴様!」

「ネリシェン、せめてもの情けだ。全て燃やし尽くしてやれ」

「わかったわ! レールディア」

「ああ、人間の屍であっても、タクトの女になるかもしれなかった者達だ。せめて燃やしてやるのが情けだろう」

 

 竜帝の言葉に、斧の勇者は守るように立ちふさがる。

 

「貴様ら! 何をする! やめろおおおおおおおお!!」

「「ツヴァイト・ファイアブレス」」

 

 蝋人形は熱で溶けて燃え上がる。

 

「あ、ああああああ! 僕の! 僕の美しい作品達があああああ!!」

「何が美しい作品だ! 女ってのはな! 生きて俺様に仕えることこそが美しいんだよ!」

「貴様ああああああ! 許さん!」

「は、かかってこいよドサンピン!」

 

 斧の勇者はラースアックスを構えて攻撃する。

 鞭の勇者はそれをひらりと回避すると、鞭で斧を撃った。

 バチンと音がすると、斧の勇者の斧が震えだした。

 

「なっ! 貴様! 何をした?!」

「はっ、犯罪者に教える義理はねぇな! だが、一つ言わせてもらうなら、その斧はこの世界で唯一の勇者であるタクト様のものだ。返してもらうぜ」

「うわあああああああああああ!!」

 

 斧は斧の勇者の手元から離れ、鞭の勇者の手元に宿った。

 

「じゃ、お前はもう用済みだ。死にな!」

 

 鞭の勇者は武器に爪を装備すると、唖然とする元斧の勇者にトドメをさす。

 

「ヴァーンズィンクロー!」

「ぐあっ!」

 

 鞭の勇者の爪の一撃は、元斧の勇者の心臓の位置に穴を穿つ。

 

「そ、んあ……」

 

 元斧の勇者は崩れ落ちるようにその場に倒れた。

 

「さ、行くぞ! みんな!」

 

 鞭の勇者はそう言うと、この館を去ったのだった。




思ったよりおぞましすぎて、タクトがむしろ正義の味方っぽくなってる!!


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哀れなものの哀れな末路②

「お、お父様?!」

 

 驚きの声を上げるミナ。

 

「な、なぜ領にお戻りに?!」

 

 噂では、領主様は俺に命を狙われているはずである。

 それならば、領主が戻ってくると言うのは明らかに矛盾だろう。

 

「ミリティナ、お前がまた変なことをやらかしていると聞いたからだ!」

 

 怒気を含む声音でこちらに歩いてくる領主。

 

「ふん、盾、いや、盾の勇者様とその一行か。おい、怪我をしている奴を治療しろ」

「で、ですが……」

「早くしろと言っておるのだ! 貴様もあやつのような阿呆か? ええ?」

「い、いえ、わかりました!」

 

 兵士は敬礼をすると、俺の周囲に来てヒール軟膏で怪我を回復させてくれた。

 渋々と言った表情だが、それでもありがたかった。

 

「して、ミリティナよ。何故お前は盾の勇者様に楯突いておるのだ?」

「そ、そこの犯罪者に手を貸したからですわ!」

 

 ミナは俺を指差してそう言った。

 やっぱりヴィッチの分霊はクソですわ。

 

「ふむ? 犯罪者? この冒険者は、最初の波を鎮めた功労者だろう? 何を根拠に言っておるのだ?」

「マルド様が言っておられましたわ! 剣の勇者様に取り入り、国を……」

「それのどこが犯罪だ? お前のやっている事と、一体何が違うと言うのだ?」

 

 確かに!! 

 的を射た指摘に俺は思わず唸ってしまった。

 

「いいえ、違いますわ!」

「いや、同じだ。昔からマルティ第一王女の影響を受けてか、陰謀ばかり考えおって! これでワシの頭を悩ますのは何度目だと思っておるのだ!!」

 

 完全に怒髪天である。

 やはり、ヴィッチとは懇意にしてたんだな……。

 

「ワシもお前は可愛い娘だと思っていた。だが、今回の失態はどう責任を取るつもりだ? ミリティナ」

「せ、責任、ですか……?」

「ああ、責任だとも。勝手に軍を動かし、勝手に民を扇動したのだ。失敗した以上は、責任を取るのが、政を司るものの使命だと、ワシが何度口すっぱく言ってきたと思っておるのだ?」

「わ、私に責任などありません! そもそも、襲ってくるそこの犯罪者と盾が悪いのです!」

 

 チラリと、領主は俺たちを見る。

 

「ふん、やはり、政治と宗教の癒着は看過できんな……」

 

 領主はため息をついて、そう呟いた。

 

「いいや、責任あるとも。お前が冒険者としてではなく、ミリティナ=アールシュタッドとして人を動かしたのだからな!」

「何故ですか?! お父様!」

「それに、前から常々言っておったはずだ。このような騒動を起こすのは、最後だと。だから、お前にはフォーブレイに行くことになったのだ!」

「フォー……ブレイ……? え、うそ、それはマルティ様の方では?」

 

 ミナの顔が明らかに恐怖で強張る。

 フォーブレイ……なるほど、豚王か! 

 ハハッ! コイツは愉快だな! 

 

「マルティ第一王女は現在槍の勇者様のパーティメンバーとして頑張っておられる。だからこそ、繋ぎが必要なのだよ!」

「い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ミナは絶叫する。

 そして、その場で逃げようとする。

 

「取り押さえよ! ミリティナを逃すな!」

 

 ミナのそばに居た兵士が速攻で捕獲してナイフを取り上げて猿轡を噛ませる。

 

「おい、景虎。どう言うことだ?」

 

 うーん、書籍版だと送られなかったんだっけか。

 ならば、少しだけネタバレしても大丈夫か。

 話の流れからすると書籍版の流れみたいだしな。

 

「噂しか聞いたことないんだが、フォーブレイで貴族の女性に与えられる処刑法があるらしい。多分それじゃねぇの?」

「……ほう」

 

 尚文の顔が愉快に歪む。

 ヴィッチがその刑に処される事を考えているのだろうか。

 

「ナオフミ様、変な事を考えてます?」

「なんでもない」

 

 定番のやり取りを見つつ、俺は意識を領主の方に戻す。

 

「ミリティナを連行せよ! フォーブレイに無事に送り届けるのだ!」

「「「はっ!」」」

 

 領主の指示に敬礼して、兵士はミナを連行する。

 俺はミナににこやかに手を振った。

 さよなら! さよなら! さよなーらー! 

 はっはっはっはっは! 

 

「さて、盾の勇者様と、そこの冒険者」

 

 領主が俺たちの方を向く。

 

「ワシはお主たちが好かん。だが、今回のミリティナの暴走を止めてくれたことには感謝しよう」

「ふん、どうだかな」

「ナオフミ様……」

 

 尚文の態度に呆れるラフタリア。

 

「なので、冒険者共を殺戮したことと、護衛の兵士を傷つけたことに関しては、今回は不問とする事にしてやろう」

「恩着せがましい事だ」

「まあ、今回殺害された冒険者どもは、我が国でも婦女暴行を働く不届きものどもだったからして、不問にしても問題ない案件であるがな」

 

 そんなことだろうとは思ったよ。

 聞いている感じだと、この人は政治の理を優先する人物何だろう。

 その方がよっぽど信用が置けると言うものだ。

 

「だが、盾とその仲間による死者が多数出たことも事実だ。だから不問とするのだ」

「……いいだろう。その方がお互いにとって利益はありそうだからな」

 

 尚文は同意した。

 今回の騒動の落とし所としてはそんなところだろうか。

 しかし、ミナの父親はマトモそうな人でよかった。

 これがクズなら、さらにひと騒動あったことが容易に想像できるからな。




ぼかしているのはわざとです。


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休息

 俺たちは、領主の兵士に案内されて、領内の宿の一室を貸し与えられた。

 

「ワシはお前らの相手をしている暇などないのだ。宿を一室貸すから即刻この屋敷から立ち去るがいい」

 

 という感じで、俺たちは追い払われたわけであった。

 あたりはすっかり暗くなってしまっていた。

 あの人も三勇教なのだろうが、話の通じる人物であるように感じた。

 

「景虎、お前はこれからどうするんだ?」

 

 改めて、俺は尚文に聞かれる。

 

「どう、とは?」

「お前の復讐対象の一人はこれで片付いたんだ。これからどうするつもりなのか気になってな」

「ああ、なるほどね……」

 

 尚文の言いたいことはわからんでもない。

 だが、俺には役目がある。

 もちろん、勝手に俺が設定したものだがな。

 

「俺は、旅を続けようと思う。俺は敵は多いからな。だから、勇者様の旅に同行することはできないのさ」

 

 俺の敵は、燻製と三勇教だ。

 燻製はいずれ自爆して燻製されるので、その時を待てばいいが、三勇教の連中は引き続き襲ってくるだろう。

 なんと言っても俺は神敵なのだ。

 噂の内容を正しいとするなら、政治的話では罪ではないが、宗教的話となると別なのだ。

 

「そうか、それは残念だ。同じ日本人だし、お前なら信用できるからと思ったんだがな」

「岩谷にも信頼の置ける仲間がいるじゃないか」

 

 そう、ラフタリアとフィーロさえいれば、尚文は最強だ。

 なんと言っても主人公様なんだからな。

 俺みたいなイレギュラーとは訳が違うだろう。

 

「まあな」

「そうです。私はナオフミ様の剣ですから!」

「フィーロも! ごしゅじんさまのために戦うよ!」

 

 ボフンと音を立てて、フィーロは幼女形態に変身して、尚文に抱きつく。

 

「ええぇぇえぇ?!」

 

 それに、レイファは目を白黒させる。

 ああ、レイファはそう言えば初めて見るんだったな。

 

「そう言えば、自己紹介がおざなりになっていましたね。レイファさん、でしたっけ。私は盾の勇者様であるナオフミ様の仲間の、ラフタリアと申します。よろしくお願いしますね」

 

 ラフタリアが改めて自己紹介する。

 

「俺は岩谷尚文だ。これでも盾の勇者をやっている。景虎……宗介だったか、同じ世界からやってきた。よろしくな」

 

 尚文も改めて自己紹介する。

 

「フィーロはフィーロだよ! よろしくね、キレイなおねーちゃん!」

 

 フィーロはニコニコしながら自己紹介をする。

 キレイなおねーちゃんって、なんだろう。

 確かにレイファは天使だからな。

 

「は、はぁ。あの、私はレイファって言います。アールシュタッド領の外れの森の小屋に住んで、お父さんと一緒に木こりをやっていました。ソースケとは、4ヶ月前に出会った感じです。よろしくお願いしますね、盾の勇者様、ラフタリアさん、フィーロちゃん」

 

 レイファがエンジェルスマイルを披露する。

 ドラルさんが亡くなったせいか、心配ではあったがもともと芯の強い子だ。

 その微笑みを見て、俺は安堵する。

 

「……この世界の人間にもこんな良い子が存在するんだな。ビッチ王女やクソ女ばかりだと思っていた。フィーロがキレイなと言った意味がなんとなくわかった」

 

 尚文はそう感想を述べる。

 

「うん、おねーちゃんね、すっごいキレイなの!」

 

 やはり、レイファは地上に降り立った天使で間違いないな。

 

「ソースケみたいに私を褒めちぎっても、何も出ませんよ」

 

 レイファは苦笑しながら、そう返す。

 

「ここが、領主様が貸し与えられた宿だ。領主様に感謝することだな」

「ふん、今回は素直に感謝してやろう」

「……チッ」

 

 兵士は不機嫌そうに舌打ちをすると、そのまま領の館に戻っていった。

 

「なんで兵士さんは盾の勇者様を変な目で見るのでしょう?」

「……さあな、それがわかったら苦労はしないさ。フィーロ、馬車を持ってこい」

「はーい!」

「では、私もフィーロについていきますね」

「ああ、ラフタリア、頼む」

 

 フィーロとラフタリアは馬車置いている場所まで向かった。

 部屋を確保して、俺たちはラフタリアたちを待つ事になった。

 

「えへへ、ソースケとまた会えて嬉しい!」

「俺もだ」

 

 本当は、ドラルさんも無事であって欲しかったが、仕方ないだろう。

 

「こうしてみると、まるで兄妹みたいだな」

 

 あきれた様子でそう評する尚文。

 俺もそう認識しているので、あながち間違いではない。

 

「そう言えば、レイファは最初の波の後はどうしていたんだ?」

 

 元々気になっていたことである。

 

「私とお父さんは、特に大きな被害もなくあの家で暮らしていたよ」

「最初の波……?」

 

 ああ、尚文は初耳だろう。

 

「一応聞いているかもしれないが、岩谷達勇者様が召喚される前に隣のセーアエット領で波が起きてな。レイファの住む小屋は、セーアエット領に近かったから心配していたんだ」

「……最初の波、か」

 

 尚文はきっと、ラフタリアの事を思い起こしているのだろう。

 

「たまに波の魔物? が襲ってくるから、お父さんが魔物を討伐してたの」

「さすがはドラルさんだな」

「で、お父さんが言っていたんだけれど、勇者が召喚されたって話を聞いたの。もしかしたら、ソースケが帰ってこれないのはそれに巻き込まれたからだって言ってた」

 

 あながち間違いではない。

 しかし、俺は安心した。

 錬のお供をしている時も、ずっとレイファ達が無事な事を心配していたからな。

 本当にレイファの笑顔は癒される。

 

「たっだいまー!」

「戻りました、ナオフミ様」

 

 と、ラフタリア達が戻ってきたようで、部屋に入ってきたのだった。




レイファは天使やな(確信)


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宗介の考察

 ラフタリア達が戻ってきたので、尚文の提案で一緒に食事をすることになった。

 しかし、尚文たちと出会って3日しか経ってないのにすっかり打ち解けてしまったのは、お互いが復讐者であるからだろうか? 

 それとも、時間軸的にはズレがあるがほぼ同じ世界の出身だからだろうか? 

 

「んー、やっぱりごしゅじんさまのご飯の方がおいしいね」

「フィーロ、気持ちはわかりますが、そう言う事は大声で言うものじゃありません!」

 

 宿屋の飯であるからか、そんな感じであった。

 確かに、尚文の作る飯は串焼きであろうと上手いのは確かである。

 叙々苑の焼肉とかレベルと言った感じ。

 話を聞く限りでは、ごくごく普通の家事が得意な一般男性的なキャラだと思うのだが、あの料理の腕は【才能】以外に例えようがないだろう。

 俺が大抵の武器をそれなりに扱えるのも才能かもしれないが、実は影でこっそり練習をしていたりする。

 それに、俺の戦い方の骨子は合気道なのだ。

 この世界に合気道と言う概念は存在しないので、毎日一人で練習する以外にはないのだ。

 それに、努力をするのは人一倍好きな方だが、ステータス魔法のお陰で努力の効果が数字で一目瞭然な事が大きいだろう。

 勇者モドキにも通用する強さは、日々の努力の差だと思っていた。

 

「それにしても、ソースケ変わったね。かっこよくなった!」

「そうか? ありがとうな」

 

 俺はポンポンと頭を撫でる。

 それに、なぜか羨ましそうな目でラフタリアが見ていた。

 流石に原作を全て読んでいる俺は、理由ははっきりとわかる。

 だけれども、尚文の今の精神状態では難しいだろうこともわかっている。

 

「本当に、ソースケ、盾の勇者様、ラフタリアさんにフィーロちゃん、助けてくれてありがとうございました」

 

 レイファのお礼に、気持ちがほっこりする。

 実際、原作には登場しない完全無欠の村娘キャラである。

 実はラフタリアのように……と言うのはない事は確認済みだ。

 代々あの土地で木こりを続けている家系だそう。

 母親は確か、病気で他界したんだっけな。

 

 夕食の間は、俺は話題には気をつけていた。

 ドラルさんの話は、食卓でする話じゃないからだ。

 

 部屋に戻り、俺はレイファに意を決して、ドラルさんの最後を聞くことにした。

 

「レイファ」

「ん、どうしたの、ソースケ」

「ドラルさんの最後は、確認できたのか?」

 

 ドラルさんは俺にとってのこの世界での父親的存在だ。

 そんな彼の最後を俺は知りたいと思った。

 

「……うん、あの人の一味に捕まった時に、私を守るために冒険者達の剣に貫かれて……」

 

 残酷な事だ。

 あの精神異常者どもはどうかしている。

 なぜ、この世界をゲームと認識して、容易く殺す事ができるのか、理解できなかった。

 まあ、首を刎ねまくっている俺が言えた義理ではないが、少なくとも俺は殺す覚悟を持って刎ねている。

 

「そうか、それは辛いな……」

「ううん、ソースケと会えたんだから、大丈夫だよ! お父さんも、ソースケに守ってもらえって言っていたし」

 

 レイファに細かい話を聞くと、その冒険者達は俺とレイファが依頼を受けている最中にあった冒険者と雰囲気が似ていたそうだ。

 まるで遊び感覚でこっちを追い詰めてくるし、ドラルさんも殺気がないから対処しづらいと言っていたそうだ。

 レイファがほぼ無傷でいた理由も、誰がレイファとヤるかを揉めた挙句に殺し合いになり、そうこうしているうちに迎えが到着してしまったからだそうだ。

 いや、それを本人の前でやらかすのか……。

 頭が腐っているのか、はたまたメガヴィッチによって腐らされたのか。

 一体全体どう言う環境で育てばあんな自分勝手な性格になるのか不思議である。

 

 それに、あの白い奴……尚文曰く昏倒野郎だっけ。

 確かにテイルズシリーズの主人公に見た目は似てたけどさぁ……。

 あいつは、タクトや他のヒキニート転生者とは何かが違う気がした。

 戦っている最中も、動きに無駄がないと言うか……。

 反撃した時に奴が激昂していなければ、確実に死んでいたのは俺だっただろう。

 あれが本当の波の尖兵なのだろうか? 

 勇者武器に頼らなくても恐ろしく強い連中なんて、カルミラ島攻略後の尚文達じゃないととてもではないが倒せないじゃないか。

 まあ、もしかしたら、そう言う連中をタクトが狩って行ったのかもしれないがな。

 コーラ……投擲具の眷属器を持った波の尖兵だって、結局はタクトが狩ったのだろう。

 現時点で生きているのかは知らないがな。

 昏倒野郎との再戦に向けて、俺もまた鍛える必要があるな。

 あの時に掴みかけたあの感覚……ものにできれば、レベル以上の強さを手に入れる事ができそうだ。

 そのためにも、実戦経験をもっと積んで、強くなる必要がある。

 そう考えると、居ても立っても居られなくなった俺は、夜中にこっそりと合気体操を始めるのであった。




クズを早く改心させてほしいとか、より良い結果になるように動いてほしいとかそう言う要望は宗介の方針に反するために聞けませんので悪しからず!
でも、そうしたくなるのはわかる!


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女神の警告その2

 俺は、再びあの空間にいた。

 俺とメガヴィッチの繋がりは薄れてしまったとはいえ、夢の中に出ることは出来るらしい。

 

「愚かな愚かな、菊池宗介よ」

 

 そこには、恐ろしい形相をしたメガヴィッチがいた。

 何を怒っているのだろうか? 

 メガヴィッチが怒ることは、現状なら進んでやるが。

 

「なぜ、あなたは自由にやらないのですか?」

 

 どう言う事だ? 

 

「あなたなら、岩谷尚文を冤罪から救うことなど容易かったでしょう。天木錬の目を覚まさせることも容易かったはずです。なぜ、あなたはそれをしないのですか?」

 

 なぜ、メガヴィッチがそれを推奨してくるのか、理由がわからなかった。

 

「なぜ、自由にしないのですか? その力があるのに、もっとより良い方向に行くように、なぜあなたは動かないのですか?」

 

 俺には、メガヴィッチが夢に出てまでなぜそれを聞いてくるのかわからなかった。

 

「あなたの中にあるおかしな薬のせいで、語りかけることしかできませんが、問いただしたい。あなたはもっと自由に生きるべきです。原作? など考えもせず、自由に救って、自由に栄誉を得るべきです。そう、次元ノケルベロスを倒した時のように」

 

 意味がわからない! 

 一体全体、メガヴィッチは何を俺に期待していると言うのだ?! 

 

「……菊池宗介、あなたにはもっと試練が必要ですね。そうすれば、あなたが真の主人公であると言うことに気づけるでしょう」

 

 何を言っているんだ、このメガヴィッチは?! 

 夢の中だからか考えがまとまらない。

 

「そうですね、そのためにも、あなたには一つ助言をする必要がありますね」

 

 メガヴィッチは、口元を三日月にように歪める。

 嫌な予感しかしない! 

 

「ふふ、心配しなくても、あなたにも利益のあることです。レイファ、でしたっけ? 彼女を守るためにも、あなたはこの助言を聞き入れざるを得ないのです」

 

 メガヴィッチは俺に囁いた。

 俺は驚愕する以外には無かった。

 なぜならば、それが尚文達と別れた後に取ろうと思っていた選択肢のうちの一つだったからである。

 

「ふふふ、あなたのその顔を見れただけでも、出てきた甲斐があったというものですね。安心なさい。ミリティナのような分霊をあなたにつけることはもうありません。つけたところで、あなたはそれを処分してしまうでしょうしね」

 

 それを聞いて安心していいのか、俺には判断しようがなかった。

 

「今回の働きは、多少影響はあるかと思ったのですがね。期待通りにはいかないものです」

 

 メガヴィッチはため息をつくと、俺の頭に手をかざした。

 

「それでは、菊池宗介さん、今後はレイファちゃんを守って、あなたの成したいことを自由に成してくださいね。それでは、では、宗介さんの異世界ライフが楽しいものである事を」

 

 ことを──ことを──ことを──。

 以前転移させられたように、再びスゥッと意識が遠のいた。

 

 俺は、ガバッと起きた。

 嫌な汗をかいているのがわかる。

 メガヴィッチが再び、俺の夢に出現したのだ。

 あの時塗り込まれた不死薬のせいであまり干渉できないと言っていたようではあるが、メガヴィッチである。

 あいつは俺に一体何を期待しているんだろうか? 

 それに、【盾の勇者の成り上がり】の世界で、自由にしろだなんて自爆行為を制限したのは、メガヴィッチの方だろうに何を言っているのだろうか? 

 だが、この夢でわかったことは、俺をこの世界に送り込んだ理由は、他の波の尖兵とは違うところにあると言うことだろう。

 何の目的だ? 

 

 もしかして、頭の中に爆弾が?! 

 ボルガ博士、お許しください?! 

 

 そんな事になったら嫌ではあるが、神様転生である事を話すと頭の中の何かが弾け飛ぶのはわかっている事なので、俺の今の状態はあんまり変わらない気がした。

 とにかく、俺の方針は決まった。

 メガヴィッチの助言通りなのは癪であるが、俺の中でも第一候補だったのだ。

 俺は汗を拭いて、再度就寝する事にしたのであった。




あの薬は強力ですねー
この話の感想には返信しません!
まあ、ここまで伏線を張っておいて、返信しないんじゃ回答を言っているのと変わりませんが笑


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エピローグ

 翌朝、俺は女神に言われたことを反芻しつつ、尚文たちと朝食を食べる。

 

「お前達は、これからどこに向かう予定なんだ?」

「俺は、北……アイヴィレット領に向かう予定だ」

「樹が居るところか……」

 

 北の飢饉のある地域なら、隣国に密入国も簡単だろうと考えたからだ。

 

「レイファはどうするんだ?」

「私はソースケについていきます。盾の勇者様に提案された通り、リユート村に移住するのも悪くない選択ですけれど、私の家族はソースケだけなので……」

「いや、レイファがそう決めたのならそれが良いだろう。差し出がましい申し出だった」

「いえ、盾の勇者様のお心遣い、感謝しかないです!」

 

 レイファの言葉に一瞬ではあるが、尚文はフッと微笑んだ。

 ラフタリア達は気づいてないように見える。

 対面で向き合って居なければ気づかないほどの一瞬だったし、レイファはそもそも尚文がほとんど笑うことがない事を知らないため突っ込まなかった。

 

「それにしても、盾の勇者様ってお優しい方なんですね」

「そうです! ナオフミ様はお優しい方なんですよ!」

「うん! ごしゅじんさまは優しいの!」

 

 レイファの言葉に激しく同意するラフタリアとフィーロ。

 あっという間に女子会が始まってしまう。

 

「あまり興奮するな。周りの客に迷惑がかかるだろう」

 

 尚文は諌めつつ、サクッとご飯を食べ終える。

 レイファとラフタリア達はなぜか自慢大会になり、俺と尚文の経歴が語られて居た。

 

「……へぇ、そう言えば宗介って普通にラフタリア達と会話して居て不思議に思って居たんだが、言葉を一から覚えたんだな」

「まあな」

 

 個人的に言わせて貰えば、聖武器のその異世界言語翻訳機能は本当に羨ましいところである。

 神様転生なら、本来付与されるべきスキルだとは思うんだがなぁ。

 

「全く……勇者どもには宗介を見習ってほしいものだ」

 

 錬は確かに多少マシだが、樹や道化様はさらにひどいからな。

 だが、この世界の連中は平然と他人の努力を裏切ってくる連中ばかりだから、どうしようもない世界だと思う。

 神様転生するならば、もっと別の世界の方が良かった。

 残念ながら、俺の世界は【盾の勇者の成り上がり】のweb版で語られた世界観の一部なのだけれどな。

 俺は知りとうなかった! 

 型月的世界観も嫌ではあるけれどな! 

 

 そんな感じで、俺たちは朝食を済ませた。

 そして、俺とレイファはあの小屋まで送って貰った。

 

「岩谷、運賃は?」

「構わないさ。流石に薬は料金をいただくがな」

 

 俺は尚文から即時回復ヒールポーションと魔力水を購入して居た。

 

「盾の勇者様、ありがとうございました!」

「ああ、お前達も気をつけろよ。行くぞ、フィーロ」

「はーい! またねー、武器の人、おねーちゃん」

「また会いましょう、ソースケさん、レイファさん。お二人ともお元気で!」

 

 フィーロの引く馬車は行商の旅を続けるために各地を巡る。

 あいつらが居たおかげで、俺は無事にミナを処刑台に送れたし、少なくともレイファにまた会うことができた。

 

「さて、ラヴァイトは元気かな?」

「ラヴァイト、戻っていると良いんだけれど……」

 

 俺は、小屋に戻る。

 改めて思うと小屋にしては大きいと思う。

 森の中にあるし、人里からかなり離れているので、ドラルさんの家系が建てた家なのだろうな。

 俺は、家を前にするとひどく懐かしい感じを受ける。

 実家のような安心感というのはこういう感じだなと改めて感じる。

 

「グアー!」

 

 ドッドッドと駆け足と鳴き声で、ラヴァイトと一発でわかる。

 

「ラヴァイト! 良かったー!」

 

 スリスリとレイファに頭を擦り付けるラヴァイト。

 レイファはラヴァイトを撫で回す。

 

「あ……」

 

 レイファは撫でる最中、ラヴァイトの魔物紋の場所で手を止める。

 魔物紋の場所を優しく撫で、レイファは涙を堪えたような声音で言葉を紡いだ。

 

「あ、お父さん死んじゃったから、魔物紋の再登録をしないとね」

「グアー……」

 

 二人とも悲しい目をしないでほしい。

 正直、俺は信じられないでいたしな。

 今でも実は生きているんじゃないかと思ってしまうぐらい、俺には現実感のない事であった。

 

「さて、この家に戻ることはほとんどないから、荷物整理をするかな」

「うん!」

「グアー♪」

 

 俺は、残念ながらメルロマルクでは命を狙われる身だ。

 だからこそ、女王が戻ってくるまでは生き延びなければならない。

 だからこそ、北へ向かうのだ。

 そして、メルロマルクが落ち着いて、三勇教が無くなった時に戻って来るためにも、部屋を綺麗にしておくのだ。

 

 だが、例え三勇教が壊滅したからと言っても、別の脅威が俺を待っている事には違いがない。

 霊亀、異世界の侵略者、波の尖兵、そして、タクト。

 そいつらが、俺の事を放っておいてくれるなんて考えは無かった。

 特にタクトは、レベル300超えの化け物である。

 生き残るためにも、ヴィッチじゃないけれども何か策を練る必要があった。

 

 どんな理不尽な世界でも、レイファと共に生き残る事を俺は決断するのであった。




これで、盾の勇者の編終了です!
宗介とレイファのイラストは完成次第アップロードします。


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影の正義のヒーローになりたくて!
プロローグ


新章突入です!


「ラヴァイト! もっと速度を上げるんだ!」

「グアー!」

「ソースケさん! すぐそこまで来ています!」

 

 俺たちは全力で逃亡していた。

 三勇教の連中ならば皆殺しにするし、波の尖兵も同様である。

 つまりは、殺してはいけない人物から追われているという事だ。

 

「待ちなさい! 菊池宗介!」

 

 流暢な日本語に聞こえるそいつは馬に乗って追って来る。

 弓を番えて放ってきた! 

 

「チッ!」

 

 俺は舌打ちをして、槍で矢を切り落とす。

 いくら()()()()()()()()()とは言え、切り落とせばその効果は失うみたいだった。

 そう、俺を追っているのは、弓の勇者である川澄樹だった。

 

「そうだ! イツキ様、あの犯罪者を討伐して正義を示すのだ!」

「黙れ燻製! いつのまにテメェ弓の勇者様の仲間になってんだ! ふんっ!」

 

 俺は矢を払う。

 切り落とさなければ、命中するまで飛んでくるのだからタチが悪い。

 

「黙るのはそっちの方だ! だいたいワシの名前はマルドだ! 燻製などでは無い! 前からお前は気に食わなかったのだ!」

 

 燻製はいつのまにか、樹の仲間になっていた。

 果たしてどのタイミングだろう? 

 

「ふえぇぇぇ!」

 

 この声は、リーシアだろうか? 

 つまり、北の問題はすでに解決済みなのだろう。

 

「いい加減に止まりなさい! そして、その女性を解放するんです!」

 

 俺に弓の攻撃が通じないと見てか、警察のように説得に入る。

 なぜ、こんなことになっているのかと言うと、話の始まりは1週間前に戻る。

 

 

 旅の準備を済ませて、家を戸締りした俺たちは早速、メルロマルク城下町に向かった。

 理由は簡単、俺の装備を整えるためである。

 もちろん、家のあったローブは俺だけが羽織る。

 尚文を見習って、レイファに御者をさせ、俺は馬車の奥に引っ込んで移動する。

 2日もあれば、メルロマルク城下町に到着した。

 

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。どんなご用で?」

 

 俺はいの一番に武器屋の親父さんのところにきていた。

 

「ん、そこのローブの野郎は……!」

「久しぶりだな、親父さん」

 

 俺はローブのフードを脱いだ。

 

「おお、あんちゃんじゃねーか! 無事でよかったぜ!」

「おかげさまでな」

「まさか、盾のあんちゃんと同じく犯罪者扱いになるとは思っても見なかったぜ」

「俺もだ」

 

 と、親父さんがレイファの方を見る。

 

「で、そこの嬢ちゃんは……?」

「俺の妹のレイファだ」

「ふふ、レイファです。ソースケがお世話になっていたみたいですね」

 

 親父さんは呆れたように俺を見つめてくる。

 レイファは俺の妹だ。

 異論は認めない。

 

「妹と言うには、似てなさすぎだろ……。盾のアンちゃんのように歪んじまったのか?」

「ソースケが私を妹扱いするのは元からですよ」

「まあ、歪んだのは否定しないさ」

 

 俺は肩をすくめる。

 人を殺す忌避感はとうに霧散している。

 例え波の尖兵やヴィッチじゃなくても、俺は俺に害する連中を殺したところで罪悪感など微塵もわかないだろう。

 そこまで歪んでいることは自認している。

 

「まあいいさ。お互い大切な存在なんだろ。で、あんちゃんは今日は何の用だ? 一応、指名手配されてるから、あんちゃんが店に居座るのは流石に困るんだが……」

 

 まあ、商売だもんね。

 なので、手短に要件を伝える。

 

「ああ、俺の防具はすでにボロボロなんで、修理と新しい武器の調達がしたいんだ」

「どれ、見せてみな」

 

 俺は、武器一式と鎧を置く。

 

「うーん、確かにあんちゃんにとって心許ない感じだろうな。うわ、鎧なんてほとんど使い物にならねぇじゃねぇか。こりゃ修理より新品作った方が安上がりだぞ」

「だろうな」

 

 鎧は三勇教の影に襲われた時に出来た穴や、白い奴と戦った時の切断部分でもはや鎧として機能していなかった。

 実際、防御力も+15とか元の数値から見ればかなり低い状態になっていた。

 

「なるほどねぇ。これだけであんちゃんが何度も死線をくぐり抜けてきたってのがわかるぜ。それじゃあ、あんちゃんには鎧もオーダーメイドで作ってやるか。短剣は打ち直し、小手は以前作っておいたオーダーメイド品で十分か。弓は少しカスタムすりゃよさそうだな。傷んだパーツを取り替えてやれば少しはマシになるだろ」

「お金はかなり稼いでるから糸目はつけないぞ」

「あんちゃんこれからの生活もあるだろ? ここはマケにマケといてやるよ。銀貨700枚ってところだな」

 

 さすがは親父さんである。

 それでも銀貨700枚は高いがな。

 

「ありがとう、助かるよ」

「ああ、指定する素材を持っているんだったら、もう少し安くしておくぜ。調達費も含んでいるからな」

 

 親父さんが指定した素材は、鉱物以外なら持っていた。

 くる途中に討伐した魔物の素材だったからね。

 

「なるほど、なら、銀貨530枚だな」

「あいよ」

 

 俺は前払いで銀貨を渡す。

 

「まいどあり! 量が量だけに2日はかかる。あんちゃん用の小手はもう出来ているから、それだけでも装備していきな」

「ああ」

 

 俺は小手を装備する。

 手首が今までのものとは異なり、かなり動かしやすい。

 

「そう言えば、槍はどうした? 槍も同じ時期に作ったから、そろそろチューンナップが必要だろ」

「あー……」

 

 人間無骨は、もはや別物へと変貌していた。

 呪いの槍だが、成長しているためか、俺が装備するのに丁度いい状態になっていたのだ。

 だが、見た目は禍々しい。

 

「とにかく見せてみな。見ないことにはどうしようもねぇからな」

 

 俺は、呪いの槍を親父さんに見せる。

 

「……おいおい、マジか。完全に呪いの装備に変貌しているじゃねぇか。この槍で何人殺したんだ?」

「さ、さぁ……?」

「となると、アールシュタッド領で起きた冒険者虐殺の主犯はあんちゃんだったんだな……」

 

 親父さんはため息をつく。

 

「まあ、冒険者をやっている以上は、賞金首を狙う以上は返り討ちにあっても文句は言えないからな。仕方ねぇことだが、やりすぎは良くないぜ?」

 

 まあ、確かに調子に乗っていたし、やりすぎ感が否めないのもある。

 刎ねた首の数なんて、覚えていないほどにはやらかしたのだろう。

 

「ふむ、だがこの槍、カスタマイズできそうだな。少し借りるが大丈夫か?」

「それは構わないぞ」

「なら、銀貨50枚だ」

「あいよ」

 

 俺は人間無骨と、銀貨50枚を渡す。

 一体全体、親父さんはあの槍をどう改修するのか見ものではあるな。

 

「じゃ、あんちゃんは官憲に気をつけて過ごしなよ」

 

 という感じで、俺たちはメルロマルク城下町に少し滞在することになったのだった。




今回は終始終われ続けます。


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かの有名な魔物商

 俺はメルロマルク城下町に2日滞在することになった。

 次に行くところは、魔物商のテントである。

 レイファは何度か足を運んだことがあるようで、案内されたのは大きなサーカスのテント小屋のようなところであった。

 

「ソースケ、ここが魔物商のテントよ。メルロマルクで一番質のいいフィロリアルを排出する魔物商として有名なの」

「あー……」

 

 頭の中でフィーロが過ぎる。

 確かにフィーロは……フィロリアルクイーンは珍しいからな。

 勇者が魔物紋の親になる事がキーになっていたっけか。

 つまり、俺が育ててもラヴァイトはフィロリアルキングにはならないという事であるが。

 しかし、あの癖のありそうな人か……。

 商才のある人や奴隷使いの才能がある人を気にいる質だっけか。

 そう言えば、合気道の先生にも商売をやっている人がいたな。

 まあ、いまの俺には関係のない話である。

 

「さ、行こう。ラヴァイト、おいで!」

「グアー」

 

 俺はレイファに手を引かれて、魔物商のテントの中に入場したのだった。

 

「これはこれは珍しいお客様だ。そのフィロリアルはドラル氏のラヴァイトでございますね。そして、貴女はドラル氏の娘のレイファ嬢でございますね!」

 

 ドラルさんは結構有名だったのだろうか? 

 ニヤニヤ顔の紳士……奴隷商は手を揉みながらそう言う。

 

「はい、お久しぶりです」

 

 そんな怪しい奴隷商に対しても、レイファは天使であった。

 

「そして、これはこれは驚きましたでございます。首刈りのソースケ、賞金金貨50枚お方がこのような純真なレイファ嬢と一緒とは……。もしかして……?」

「何を勘ぐっているのか知らないが、俺たちの用事はラヴァイトの魔物紋登録の更新だ。持ち主のドラルさんが亡くなってな。主人をレイファに移したい」

「ふむ……。そのようなご用件でございましたか、ハイ」

 

 なぜ残念そうなのだろうか? 

 

「てか待て、俺は賞金首なのか?!」

「ええ、首刈りのソースケ。数多の冒険者を返り討ちにし、悉く首を刎ねて殺害するその手口から、そう名付けられましたです、ハイ。屠った冒険者の数は50名にも及ぶとか」

「……あれ、そんなに少なかったっけ?」

 

 もう10人は殺した気がするんだがなぁー……。

 

「……恐ろしいお方です、ハイ」

 

 奴隷商に言われて、自分の感覚がずれている事に気付かされた。

 ふと見ると、レイファも苦笑をしていた。

 

「まあ、今回のお客様はレイファ嬢ですので、問題にはなりませんが、私共も信用で取引をしておりますので、ソースケ殿にはお売りすることはできないのです、ハイ」

 

 ん? その言い回しだと、俺になにかを売るつもりだったのだろうか? 

 俺がジトッと見ると、奴隷商はニヤニヤと俺を見つめる。

 

「いやはや、賞金首でなければ、私どものいいお客様になっていただける素質があると言うのに、残念でございます、ハイ」

 

 遠回しに、サッサと賞金首から復帰しろと言っているようなものだ。

 

「……とにかく、サッサと魔物紋の手続きを済ませてしまおう」

「わかりましたです、ハイ。では、こちらのインクにレイファ嬢の血を」

 

 部下に準備をさせていたのだろう。

 いつの間にか出ていた契約の魔法に用いるインクと、切るためのナイフが用意されていた。

 

「はい」

 

 レイファは指を少し切ると、血を垂らす。

 

「ソースケも一緒にね」

 

 レイファはそう言うと、俺の血もインクに混ぜてしまった。

 その、血の混じったインクに奴隷商が筆をつけて、ラヴァイトの魔物紋の部分にくるっと重ね書きをすると、ラヴァイトが少し苦しそうに鳴く。

 

「ふむ、いいフィロリアルですな。健脚で温厚。羽の具合もなかなか整っている。いい環境で育っている証拠です、ハイ。万一売る事になった場合は是非、私どもの方で銀貨350枚で引き取らせていただきますです、ハイ」

「売らないです!」

 

 レイファはピシャリと言う。

 持ち主はレイファだし、俺からは特に言うこともないかな。

 ラヴァイトは家族だし俺としても売るのはどうかと思うがな。

 

「はい、出来ました。お代は銀貨15枚になりますです、ハイ」

 

 俺が出す。

 ちなみにこの金は戦利品として俺が殺した連中の懐から奪ったものだ。

 レイファには言っていないがな。

 俺は生き残るためならなんだってするつもりだ。

 既に俺の両手は血に塗れているのだ。

 手段なんぞ選ぶ意味はなかった。

 

「ヘッヘッヘ、確かに頂きました! それでは、今度は魔物のご購入を頂けますよう」

 

 原作を読んでいても思ったが、気味の悪いおっさんである。

 ラヴァイトの再契約も終わったので、俺はフードを深く被り、レイファと共に宿の部屋を確保に向かった。

 

「私、あの人苦手かも……」

「いやー……得意な人なんて居ないと思うがな」

「ソースケは何故か気に入られたみたいだけれどね」

 

 多分、奴隷商的な直感なのだろう。

 今の俺なら奴隷を購入したら、どのようなプランで運用するかまで考えきれてしまう。

 日本にいた頃のような甘さは既にあの時に自らの手で殺してしまったのだろう。

 商人としてではなく、奴隷使いとして気に入られた気がするんだよなぁ。

 

「ああ、レイファ。そう言えば言うの忘れていたが、俺のことは街中では景虎と呼んでくれ」

「……賞金首らしいからね。わかったわ、カゲトラ」

 

 俺は小手を装備した両手で拳を作った。

 押し殺した殺気が俺の後を付いて回っていたのだ。

 テントを出てしばらくした後なので、奴隷商のところではないだろう。

 

「……レイファ、先に宿を確保しておいてくれないか? 野暮用ができた」

「……? わかったわ。遅くならないようにね!」

 

 レイファはうなづくと、ラヴァイトに乗って先に行ってしまう。

 さて、俺を追っている奴の正体を確かめますかね。

 俺はわざと人気の少ない裏路地へ足を踏み入れた。




今の非情に徹しきれる宗介は気にいるだろうなと思いました。

合気道を続けている人は資産家だとか公務員が多いイメージです。
経営やっている人もいるかな?
なので、その人たちと話す機会も多いイメージです。


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情報収集

 裏路地に入ると、俺を追っていた殺気が俺を追って入ってきた。

 やれやれだ。

 

「ヘッヘッヘっ……」

「えーっと、めんどくせぇなぁ……」

 

 気配は、普通の冒険者と言ったところだ。

 ゴロツキ冒険者か? 

 

「お前が【首刈りのソースケ】だな」

「大人しくお縄につけ。ヘッヘッヘ……」

 

 うん、ただのゴロツキだったわ。

 俺はボコボコのボコにしてやる。

 雑魚戦なんて省略してしまって良いだろう。

 

「つえぇぇぇ……」

「手も足も出ないとは……ぐふっ」

 

 やれやれ、面倒くさい事だ。

 俺はフードを被り直すと、急いでレイファを追う。

 まあ、俺はこんな感じで軽くあしらってしまっているが、賞金首であると言うことは、色々な奴等から命を狙われると言う事実であった。

 金貨50枚……銀貨5000枚の賞金首である。

 アールシュタッド領では法律的には不問にされたが、ギルドの方では冒険者を大量に失ったわけで、その損失もでかい。

 つまり、俺はギルドから指名手配される賞金首と言うわけである。

 そして、レベル68の俺を確保する難易度は高いため、当然ながら勇者案件になると言うのは自明の理であったことを、俺は完全に失念していたわけだ。

 

 俺はレイファと合流して、宿に入る。

 ラヴァイトはレンタルの鳥舎に泊まる事になっている。

 

「それにしても、すごい二つ名だよね。首刈りって……」

「確実に仕留めるために首を刎ねるのが一番手っ取り早いからなんだがな」

 

 ちなみに、首や心臓を狙ってもHPが残っていると切れない事がある。

 その場合は裂傷と出血のバステでスリップダメージを受けるので、苦しんで死ぬことになるようである。

 当然だが、人間無骨だと防御無視のため腕で防いでもすり抜けて攻撃が入るため、回避するか、白い奴みたいに柄の部分と鍔迫り合いをする以外に防ぐすべはない。

 無敵貫通は、防御結界をすり抜ける効果がある。

 すり抜けるだけで、破壊しないのがポイントである。

 シールドプリズンを貫通して攻撃できるし、おそらく流星盾なんかも貫通して攻撃できると言うイメージだと思ってもらえれば良いか。

 

「私としては、そう言う殺生は良くないと思うんだけれどね」

「……わかっちゃいるさ。なるべく無駄な殺生はしないようにしてる」

 

 もちろん、ボコボコにはするけれどな。

 命を狙ってくる以上は、当然ながらやり返す。

 しかし、賞金首ねぇ……。

 どうやったら解除されるのかねぇ? 

 やっぱ、冒険者として波と戦うとか? 

 だけれども、波の尖兵連中を皆殺しにするのは確定しているしな。

 難しいところである。

 

「しかし、ギルド的な賞金首って捕まえたらどうするんだろうな?」

「流石にそれはわからないよ。私は冒険者じゃないもの」

「それもそうか。流石に金貨50枚だと処刑かな?」

「ええっ! 嫌だよ!」

 

 不安そうな顔をするレイファ。

 あり得るのが困ったところである。

 もしくは、波に対抗させるための手段として行使するかだ。

 こっちは俺としても利害が一致するので、交渉するならこちらだろう。

 

「もしくは、波の戦いに強制参加かな。強い冒険者って人材だし、服役させるよりは良いだろう」

「そ、それも危ないよ!」

 

 どちらにしてもだ。

 波を鎮める冒険者として俺は手柄を立てる必要があるわけだ。

 そのためには、メルロマルクから出る必要があった。

 

「それじゃあ、情報収集にでも行きますか」

「うん、私、ソースケの分まで頑張るね!」

 

 と言うわけで、俺たちは情報収集をお互いにすることになった。

 レイファは表で雑談しながら、そして俺は何故かギルドに向かう。

 灯台下暗しって言うじゃない? 

 レイファには言ってないからセーフだよ。

 基本的にローブ深くかぶっているしね。

 ちなみに、メルロマルクだとローブを被った連中は基本的に亜人の冒険者だ。

 

 さて、俺は特に怪しまれることもなくギルドに入る事ができた。

 警備は居ないからね、仕方ないね。

 ざっとクエストボードを閲覧する。

 基本的には高い報酬のクエストだな。

 いや、受けないんだけれどね。

 単価が高いクエストは基本的に勇者専用のところがあるし、多少はね。

 ざっくり見ている中で目立ったのは、やはり賞金首だろうか。

 おおよそ普通の賞金首で、銀貨800枚とかその辺りだ。

 俺の手配書も貼ってあり、報酬レベルだと上位に当たる。

 

「うへぇ……」

 

 思わず変な声が出てしまった。

 人相書きは似ていないが、生死を問わずとある。

 完全に魔物扱いだ。

 よく読むと、自信のないものは出会ったら目を合わさずに逃げる事を推奨するとまで書かれている。

 猛獣かよ! 

 

 それなりに滞在していたが、俺がキクチ=ソースケだと案外気づかないものだなと思う。

 まあ、メルロマルクのギルドはほぼ使ったことないから仕方ないね。

 錬がギルドからとってくるのも依頼書だけだったし。

 耳をすませていると、色々な噂話が入ってくる。

 その中でも、一番聞く噂は剣と槍の勇者の噂か。

 あとは、神鳥の聖人の噂も聞く。

 剣の勇者の噂は、東の村でドラゴンの討伐をした他、強力な魔物の討伐をしたなどの、討伐系の噂がほとんどである。

 槍の勇者は、南西の飢饉を神聖な種で解決したと言う噂の他には、どこかの領地の問題を解決したとか、そう言う系の噂が多く、剣の勇者ほどは武勇伝は聞かなかった。

 神鳥の聖人の噂は勇者ほどではないけれど、耳にする。

 商売をしながら神の奇跡を各地に振りまいている、だとか、聖人が飲ませた薬でもう治らないと言われた病を治したとも聞いた。

 

 そして、弓の勇者の噂は、まるで耳にしなかった。

 

 それぞれ、勇者連中は頑張っているなぁと思いつつ、俺はギルドを後にしたのだった。



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噂は尾鰭がつくもの

 夜、レイファと情報の擦り合わせを行う。

 まあ、俺は耳を澄ましながら夜になるまでひたすらぼんやりしてただけだったから、レイファの方がしっかりとした情報を集めてきていたのは言うまでもなかった。

 さすが天使は出来る女でもあったようだ。

 と言っても、レイファの場合はお買い物ついでに色々と情報を仕入れてくる感じではあったが。

 一般市民の間では、勇者様の活躍の話題よりも神鳥の聖人の噂の方がメインのように感じた。

 薬品だけでなく、人物の運搬、手紙や荷物の運送や最近ではアクセサリーの販売もやっているらしい。

 他にも、冒険者では解決の難しい問題を有償で解決すると言ったこともしているようであった。

 書籍版よりも手広くやっているんだなと感心するが、フィーロの機動力なら可能だろう。

 メルロマルクにも郵便の仕組みはあるが、貴族や位の高い者しか使えないほど高額みたいだからね。

 だからこそ、口コミの力が強かったりするわけであるが。

 想定するに、村の人が次に行く村を聞いて、運送料と共に手紙を渡すのだろう。

 地道に信頼を積み重ねてマーケットを広げて行く。

 その後、店舗拡大すれば、ストック型の所得を得る仕組みが完成する。

 その収入を不動産投資に使えば完璧だろう。

 そう考えれば、尚文には商才があると見るのは間違いではないだろう。

 資産家の合気道の先生も、大学を卒業したらすぐに会社を立ち上げろと口すっぱく言っていたのを思い出す。

 残念ながら、俺は死んでこの世界に来て冒険者兼賞金首なんて状態になってしまっているがな……。

 

 勇者の方は悪い噂としては、魔物狩り過ぎによる生態系の変化で、強い魔物が減ったせいで弱い魔物……現実世界で例えるならば、熊の狩り過ぎで鹿が増え過ぎた結果、木の皮が齧られたりしているらしい。

 それで、木材の質が悪化していたりする害が出ているそうな。

 魔物はリポップしないもんなぁ……。

 俺は割と意識して、強い魔物を殺したらその分多めに雑魚を討伐していたけど……。

 人間の手では調整できない問題なので、難しい問題だろう。

 と言うか、ここまで生態系の変化があると言うことは、勇者たちがえらい勢いで魔物を倒しまくっているからだろうけど……。

 

 俺に関してだが、昨日ボコボコにした連中が話したからか、メルロマルク城下町に息を潜めているらしいと言う噂が流れていた。

 それと、女の子の人質を取って国外に逃亡しようとしているらしいと言う噂だ。

 噂ってのは尾鰭がつくのは当然だが、合っているのが癪である。

 国外逃亡してどこかの国で波を鎮めまくろうかと企んでいるのは事実だ。

 

「ありがとう、レイファ。助かったよ」

「えへへ、ソースケの役に立てて嬉しいよ!」

 

 さて、情報の擦り合わせを終える頃には随分と夜が更けてしまった。

 

「それじゃ、ご飯にしようか」

「そうだね。お腹空いちゃったもんね」

 

 俺は宿の食堂に向かう。

 当然ながら、俺は警戒を解くわけにはいかないため、周囲を見渡すと、見覚えのある槍を持った奴がいた。

 金髪ポニテで赤が特徴の鎧を身に纏った、道化様である。

 見慣れない女の子をナンパしているように見えるし、他のメンバーが見当たらないことからもまあ、推測がつく。

 対面に座っているのは美人であった。

 

「ソー……カゲトラ、どうしたの?」

「うん? まあ、見てはいけないものを見つけてしまった感じ。あの席にしようか」

「? わかったわ」

 

 俺はそれとなく道化様の声がギリギリ聞こえる位置の席を陣取る。

 道化様のナンパ術を聴きながらの夕食……我ながら最低だな。

 メニューを見てサクッと注文して、俺は聞き耳をたてる。

 

「……と言うわけで、俺は村を救ったわけだよ! いやー、中々大変だったね! 俺の機転が無ければもっと苦戦していたよ」

「そうなんですね、さすがは槍の勇者様ですね」

 

 自分の武勇伝を語って行くスタイルなのかな? 

 まあ、道化様の楽しみなんだろうね。

 

「君も大変だよね。わざわざ遠いこの街まで来ているんだろう?」

「いえ、そんな! 勇者様ほどでもありませんよ」

 

 なんて感じで、女の子から色々聴き出しつつ食事を進める道化様。

 別にそっちにばかり意識を向けているわけではないので、俺は普通にレイファとご飯を食べつつ聞き耳をたまにたてる感じだ。

 

「良かったら、今度一緒に冒険しようよ! 俺の仲間も紹介するからさ、ね?」

「は、はぁ……。そこまで仰られるのでしたら……」

 

 落ちたな(確信)

 これでヴィッチはエステ代ゲットである。

 明日か明後日には、あの子を娼館で見かけることになるのだろう。

 可哀想に、道化様の被害拡大中であった。

 ここで止めることも出来るのかもしれないが、騒ぎを起こすわけにはいかないので、残念ながらお見送りである。

 可哀想に、元康に目をつけられたばっかりに……。

 心の中で合掌しておこう。

 

「ん、どうしたの、カゲトラ?」

「ああ、明日はレイファと一緒に行動しようと思ってな。レイファのレベルもあげておく必要があるだろうしね」

「そうだね。一緒に旅をするなら、私も強くなる必要があるものね!」

 

 レイファがナンパなんてされたらたまらないからな。

 道化様の目線が一瞬レイファに向いていた気もするし、気をつけなければならないだろう。

 そんな感じに俺たちは一晩を明かしたのだった。



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宗介超強化

 翌日、俺とレイファはラヴァイトを伴い、レベル上げに向かう。

 レイファのレベルは10、ラヴァイトのレベルが21なので、とりあえずは経験値稼ぎである。

 こっそりと討伐系の依頼書を確認して、めぼしい魔物は見繕っていたので、ギルドに報告せずに討伐だけしてしまおうと言う算段だ。

 これは悪いことであることは認識しているけれどね。

 依頼書ってのは指標になるので、活用させてもらう。

 場所は、ラファン村……尚文が最初に行こうとした、初心者向けのダンジョンがある場所だ。

 依頼内容は、勇者たちによって生態系が変わった影響か、強い魔物が出現するようになったので、これを討伐してほしいと言う内容だ。

 前半の部分はボカされているけどね。

 

「グアー!」

「ファスト・ウインドショット!」

 

 俺は後方でレイファ達のレベル上げの様子を見ながら、周囲を警戒していた。

 ラヴァイトが積極的に攻撃してくれるからね。

 俺の出番はない感じである。

 

「ふふっ、ラヴァイトすごーい!」

「グアー♪」

 

 ラヴァイトも、レイファの事を妹のように思っているのだろうか? 

 依頼対象のアークルライガーの討伐も、レイファに一匹も近づける事なくラヴァイトが倒して行く。

 

「……ふんっ」

 

 なんとなく、俺も手近のアークルライガーをぶん殴ってみる。

 ブシャアァァと首が吹き飛んだ。

 

「…………」

 

 これがレベルによる補正の差かぁ……。

 吹き飛んだ首はベチャっと音を立てて、木に命中する。

 

「キャイィイイイン!!」

 

 ライガーなのにまるで犬のような鳴き声をしながら、俺から逃亡していった。

 

「………………」

 

 強くなりすぎた感じだな、こりゃ。

 

「グアー! グアグアグア!」

 

 なぜかラヴァイトに怒られる。

 何となく言いたいことが察せられるのがポイントだ。

 

「あー、ハイハイ、悪かったよラヴァイト。俺はもう攻撃しないよ」

「グア!」

 

 しかし、レイファやラヴァイトと居ると、心が洗われる感じがする。

 うんうん、やっぱり異世界冒険譚ってのはこうだよな! 

 何で中盤で巡り会うような陰謀なんかに巻き込まれなきゃならねぇっての! 

 だいたい、時期的に見ても2巻の中盤ごろだろ? 

 バイオプラントと戦っている時期なのではと推測する。

 道化様もメルロマルク城下町まで戻って来ているしな。

 

 そんな久し振りにゆとりある時間を俺は過ごしたのだった。

 

 レイファ達のレベル上げも終わりメルロマルク城下町に帰る。

 レイファのレベルは12に、ラヴァイトは変わらず21のままでレベル上げを終えた。

 夕暮れ時になり、レイファに宿を任せて俺は、武器屋に赴く。

 いや、すっかり常連だな。

 最初はそこまで使うつもりはなかったのだが、オーダーメイドだし何より品がいいのだ。

 

「お、あんちゃんじゃないか」

「親父さん、もう出来ている感じ?」

「おうよ。もちろん出来てるぜ」

 

 親父さんはそう言うと、武器と鎧を取り出した。

 鎧は、前のメルロマルク兵の装備する鎧を独自に発展させた形である。

 フルフェイスの兜はオミットされ、さらに動きやすいように再設計されていた。

 腕の部分は小手を装備するために何も無いが、全体的に防御力のたかそうな装備だ。

 短剣は、さらに鋭さや硬さが増した感じがする。

 

「隕鉄ってやつを使った短剣だ。以前試作品を作ってたのを思い出してな、材料を取り寄せて作成したんだ。今のあんちゃんなら使いこなせると思うぜ」

 

 握ってみると、確かに良さそうな感じだ。

 基本構造はアーマードナイフのままだが、隕鉄の刀身になっている。

 

「名付けて、隕鉄のアーマードナイフってな。まあ、ナイフにしては刀身は長めにしているがな」

 

 クロスボウは、黒い木を使ったものに変わっていた。

 

「そいつはフォーブレイで採取される黒トリネコで作られた木材を使っている。どんな奴が使ってもワンランク上の威力が期待できる代物になってるぜ」

 

 クロスボウの機構はちゃんと維持されているみたいで、簡単に引き絞れるし、ボタン一つで矢を発射できる。

 リロードはより簡単になっているのがポイントだろうか。

 

「すごいな……さすが親父さんだ」

「まあな、俺はそれが仕事なんでね、お客さんの望むものを提供するのが俺の仕事なのさ。で、次が問題児だ」

 

 そう言うと、真っ黒な槍を取り出した。

 見た感じだと、人間無骨? 

 

「なかなか厄介な代物だったが、カスタマイズをした結果、真っ黒になっちまった。スキルは『対人攻撃力上昇上』『無敵貫通』『首切断』『防御チャージ』、穂先の展開時は『防御無視』『防御力無視』『ブラッドチャージ』『ソウルアタック』だな」

「何というチート武器だ……」

 

 殺意が高すぎるだろ、この槍。

 しかし、『防御チャージ』や『ブラッドチャージ』とは一体? 

 槍には三つぐらいの穴が空いているが。

 

「『防御チャージ』はどうやら、防御するたびに攻撃力が上がるスキルみたいだな。『ブラッドチャージ』は名前からして血を吸ったら攻撃力が上がるとかそんなんだろ」

「もはや呪いの武器だな」

 

 ただ、あの禍々しいデザインが無くなり、黒くてシンプルな槍になったのはさすが親父さんである。

 刀身は鈍色に輝いており、持っただけでこの槍が血を欲しているのを感じる。

 うーん、この。

 ますますこの槍を道化様にコピーさせるわけにはいかなくなってきたぞ! 

 

「名前は、人間無骨+でいいだろ。まあ、呪いの反作用も収まったみたいだし、あんちゃんにとっては使いやすいと思うぜ」

 

 振るってみると、まるで羽のように軽く、思った通りに扱えるいい武器になっていた。

 

「こいつはすごいな……!」

「それ、本気で危ないからあまり店の中で振らないでくれよ」

「そうだな。とにかく親父さん、ありがとう!」

「おうよ! それであの嬢ちゃんを守ってやんな!」

 

 俺は装備して、サムズアップで武器屋を後にした。

 なんかますます人を殺害しやすくなってしまった気がするが、まあいいだろう。

 どっちみち、波の尖兵は皆殺しする予定だから、問題ない気はするけれどもな。



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邪魔な勇者達

 宿に帰ると、助かったという表情でレイファが駆け寄ってきた。

 

「ソースケ!」

 

 何かと思えば、道化様であった。

 あー、同じ宿に泊まってたのか……。

 

「えーっと、君がカレシ君かな?」

 

 ここはそう名乗った方がいいだろう。

 

「ああ、そうだが……」

「なるほど、だったら申し訳なかった。君のカノジョ……レイファちゃんがあまりにも美しかったから、つい声をかけてしまったんだ。申し訳ないね」

「そうか、それは仕方ないな」

 

 この道化様、男の姿はあまり気にしないたちなのかな? 

 ローブ姿でフードを深くかぶっているのに、それを気にしないのか。

 あの時、城でウェポンコピーさせた時よりもさらに馬鹿になっていないだろうか? 

 それとも、考えることを放棄してしまったのだろうか? 

 そんな無様な姿の道化様に、呆れるしかなかった。

 

「良かったら、今度ダブルデートしない? 俺って槍の勇者だからさ、こう見えても結構強いんだよね!」

 

 もはやただのチャラ男と化した無様な姿を晒す元康に、俺はただただ呆れるしかなかった。

 

「いえいえ、槍の勇者様のお手を煩わせるわけにはいきませんので。では、私どもはこれで」

「ああ、ちょっと!」

 

 俺はレイファの手を握って、道化様の元を立ち去る。

 元康が槍に触れないように、レイファを引っ張る形になったのは申し訳なかったが、仕方ないだろう。

 

「ソースケ、助かったよ」

「タイミングが悪かったな。あんなのがいるから気をつけるんだよ」

「うん! えへへ」

 

 うーん、天使だな。

 それにしても、勇者連中に会ってもすっかり怒りと言うか、そういうものが出なくなった。

 これは、あの薬の効果だろうか。

 

 とにかく、あの道化様が愛の狩人になった瞬間に、毎秒死亡フラグがついて回ることになるので、それまでには何とかしたいものである。

 

『宗介、お前は波の尖兵だったのですぞー! バーストランスX!』

 

 なんて落ちが付いて回るなんて嫌にも程がある。

 尚文も錬も俺を認識しているしな……。

 現状、どうしようもない流れとはいえ、勇者連中に認識されてしまうのはあまりよろしくないことである。

 そして、本来は目立ちたくない波の尖兵の連中に比べて、俺は明らかに目立ちすぎている気がする。

 斧の勇者を騙る尖兵もぶちのめしてしまったしな。

 

「……ま、考えても仕方がないか」

 

 俺はそう呟いて、部屋に向かう。

 実はこの時にはもう、事態が動き出していた事に気付いていれば良かった。

 間抜けにも、俺は()()()()()()()()()()()ため、そいつらの存在に気づくことができなかったのだった。

 

 

 翌日、俺たちは宿を後にした。

 どうやら道化様もこの宿に泊まっている様子なので、早めに出発する感じである。

 ラヴァイトを回収して馬車につなぎ、街の入り口まで行ったところで、妙な連中が立っていた。

 おいおい、あの鎧姿は燻製じゃねぇか! 

 

「そこの馬車! 止まれ! その馬車に犯罪者が乗っているのはお見通しだ!」

 

 と言うことは、あの地味な装備をした奴が樹か。

 俺はコソコソ隠れる。

 

「乗ってませんよ。言いがかりはやめてください」

 

 レイファが対応してくれて助かる。

 

「そうまで言うならば、その馬車の中身を改めさせるが良い! さあ! さあさあ!」

 

 燻製が無理やり入ってこようとするので、俺は蹴り飛ばした。

 

「ラヴァイト!」

「グアー!!」

 

 ラヴァイトは俺の声に応えて駆け出した。

 チッ面倒なことになりやがった! 

 しかも、燻製までいやがる! 

 まったくもって燻製は俺を邪魔するために生きているんじゃないだろうか?! 

 

「ソースケ?!」

「あいつらは俺の賞金目当ての冒険者だ。巻き込まれたら面倒だから全速力で逃げるぞ!」

「グアアアアアー!」

 

 ドッドッドと馬車を引きながら全力で駆けるラヴァイト。

 後ろを見ると、連中が馬の引く馬車で追いかけてきているのが見える。

 

「チッ!」

 

 俺は馬車の荷台の後部に出る。

 そして、クロスボウを構える。

 樹が弓を構えているのが見える。

 息を吐いて俺は、飛んでくる矢を射る。

 実際、これは精密射撃である。

 射撃攻撃は基本的に威力とスピードが比例する。

 ならば、今の樹の矢のスピードはまだ、現実的に対処のできる速度だろう。

 命中の能力は、妨害が効く特殊能力。

 ヒロアカみたいな世界観だと考えれば、腑に落ちる。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 俺は矢を放つ。

 俺の常識ならば、矢の軌道が逸れる方向に打った。

 だが、命中はしたが、想定よりそこまでそれはせず、馬車の縁に突き刺さった。

 

「クソっ! チートじゃねぇか!」

 

 やはり勇者だ。

 ならば、それぞれ切り払いをせざるを得ないだろう。

 俺は槍を装備する。

 馬車で安定しない足場なので、正直槍で対処はしにくかった。

 俺は的確に俺を狙って飛んでくる矢を切り落とす。

 さすがに切り落としたら特殊能力の発動は治るらしく、今度は馬車に当たることはなかった。

 

「む、やりますね……!」

 

 ラヴァイトの足と馬の脚ではやはり馬の方が早く、追いつかれてしまった。

 なので、樹の声が聞こえるわけである。

 結構な近距離に居るのに矢を飛ばしてくるので、俺は短剣の方で切り払う。

 非常に分が悪い。

 

「ははは! この距離ならば飛びのれますぞ! イツキ殿!」

「では、マルドさん、カレクさん、追い詰めてください!」

「わかりました、イツキ様! でりゃあああ!!」

 

 ビリビリと音を立てて、馬車の横の幕が破られる。

 

「グアァァアアアア?!?!」

 

 ラヴァイト、可哀想に。

 涙目なのがわかる。

 

「ふふふ、ようやく追い詰めたぞ、犯罪者」

「貴様はイツキ様の正義の前にひれ伏すのだ!」

 

 ああ、殺したい! 

 こいつら死ねばいいのに! 

 だが、物語上俺は、コイツらを殺すことはできないのだ。だから、槍を装備から外し、剣を構える。

 

「ははははは! そんな軟弱な短剣なんぞでワシらの相手が務まると思ったら大間違いだ!」

「イツキ様の名の下に斬り伏せてしんぜよう!」

「燻製! お前も剣の勇者様のところにいただろ! なんで弓の勇者様のところにいる!」

 

 俺は話をして時間稼ぎをする。

 話したがりのコイツなら、話さないわけがないと思ったからだ。

 当然、この窮地を死人が出ないように切り抜けるための策を考えるわけだが。

 

「ふん、剣とは正義の不一致で別れたのだ! せっかくドラゴンを倒したと言うのにな! 誰のおかげでドラゴンを倒せたと思っておる!!」

 

 燻製は憤慨してそう言った。

 

「へぇ、誰のおかげなんだ?」

「無論ワシの活躍のおかげに決まっておるだろう!」

「お前はせいぜい脳筋的に突っ込むことしか出来ないだろうが! 毎度毎度思ってたが、少しは戦闘にも頭を使え!」

「ふん! ワシが戦いやすいように環境を整えない剣が悪いのだ! その点、イツキ様はワシがピンチになったら的確に救ってくださる。そして、ワシとイツキ様の正義は一致しておるのだ!」

 

 阿呆だな。

 いまだにコイツは無闇矢鱈に突っ込む事を辞めてないと言う事らしい。

 あかん、コイツとここで戦うと、最悪馬車が破壊される。

 俺はどうにかしてコイツらを排除できないか考えるのだった。




燻製は変わらないのだ!


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この村はどこだ?!

 ガタガタと揺れる馬車の中で、俺は燻製に侍と対峙していた。

 お互いに得物を抜いて睨み合っている。

 こうなったら馬車から叩き落とすしかないと結論づける。

 燻製なら全身鎧だし大丈夫だろ。

 レイファはこちらをチラチラ見ながら、不安そうに手綱を握っている。

 ラヴァイトも全力で走っているので、足場も悪い。

 

「問答無用! いくぞ、マルド殿!」

 

 話が終わったと見てか、侍が刀を振りかぶってくる。

 いや、わかりやすい攻撃で結構。

 合気道がその分かけやすくて良い。

 俺は手刀を刀を持つ手に沿わせて、振りかぶる勢いを利用して四方投げを決める。

 ドンと音を立てて侍を寝転ばせる。

 侍の顔にはクエスチョンマークが浮かんでいた。

 

「カレク殿! おのれ犯罪者め!」

「今のはだいぶ優しめに投げたから、ダメージはないと思うんだがなぁ」

 

 燻製は俺が合気道(連中からすれば妙な体術)を使う事を知っているせいか、斧を構えたままである。

 いや、正確には思い出したか。

 

「どうした、かかってこないのか? 燻製!」

「誰が燻製だ!」

 

 燻製が近づいてきて斧を振りかぶる。

 さすがにレベル差があるため、侍よりも剣速が早い。

 恐らく、樹のメンバー内でレベルが一番高いのだろう。

 まあ、錬と共に居ればレベルが高くなるのは考えれば当然である。

 

「ふんっ」

 

 俺は当然ながら、燻製の斧に剣を沿わせる。

 あの白い奴に比べれば、燻製の斧など遅すぎてあくびが出る。

 ムカつくので顔も殴る。

 

「いったああああああああああ!!」

「マルドさん!」

 

 樹のホーミング弾が飛んでくる。

 俺はすぐに燻製の拘束を解除して、切り払いをする。

 命中率100%でも切り払いが発動したらノーダメージだしな! 

 しかし、痛がりな燻製と樹の相性は確かに良いらしい。

 

「はああああああ!!」

 

 侍が背中から切りかかってきたので、振り返らずに刀を振る手に触れて、左に半歩ずれてしゃがむ。

 

「のわああああ!」

 

 それだけで、侍はくるっと前跳び前転をして燻製に激突する。

 ギッシギッシと馬車が揺れる。

 

「グアー!! グアグア!!」

 

 自分の馬車が破壊されかけていることに、ラヴァイトが文句を言う。

 やはりさっさと追い出すべきか! 

 俺は侍の刀を回避しつつ、そう判断する。

 刀の振り出所である手に手刀を当てて、受け流しつつ馬車の外にポイする。

 

「のあああああああああああ?!」

 

 後ろにポイしたので、勢いよく転がっていく。

 

「カレク殿ぉぉぉ!」

「お前も後を終え!」

 

 俺は燻製を蹴り飛ばす。

 

「ぬぅ! なんの!」

 

 サクっと俺は短剣を刺す。

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「おらよ!」

 

 更に追撃で蹴りを入れる。

 刺したところは特に致命的になるところではない。

 お腹の鎧の隙間の部分である。

 燻製は叫び声とガラガラと鎧のなる音を立てながら道に転がっていった。

 

「マルドさん! くっ、覚えてなさい、菊池宗介! 必ず僕たちが捕まえてみせます!」

「知るか! 弓の勇者様はさっさと本分を果たせよな!」

「くっ……! マルドさん達を回収しますよ!」

 

 樹は悔しそうな表情をすると、馬車を引いて燻製達を回収しにいった。

 しかしまあ、侍の名前ってカレクだったんだ……。

 まるで『カクさん』みたいな感じだな。

 となると、あの嫌な雰囲気を出してる女が『スケさん』なのかな? 

 

 なんとか燻製達から逃れた俺たちは、少し離れた村に泊まることになった。

 近くの村に着くまでに、1日は経っていた。

 村に到着した俺たちは早速村の宿に宿代を払い、ここに泊まることにした。

 うーん、それにしても、なんかすごく見覚えのある村だった。

 

 ちなみに、移動の際の税はちゃんと納めている。

 商売をやっているわけじゃないしな。

 

「……はぁ、なんとかまけたかな?」

「でも、諦め悪そうだよね、あの人たち」

 

 ちなみに、ラヴァイトが涙目で馬車から離れなかったので、村の人たちに依頼して修理をしてもらっている。

 

「全くだ。クソっ、馬車を傷つけやがって」

「ラヴァイト泣いてたもんね」

 

 しかし、樹が俺の名前を知っているのはなかなか不味い状況かもしれなかった。

 連中はお互いに出し抜こうとしている感があるので、情報共有をしたりはしないが(錬の場合はそもそもウェルト達がワザと知らせないだろうが)、厄介なことには違いなかった。

 この村には張り紙は出ていないが、恐らく錬に知られる事を防ぐためなのだろう。

 俺の賞金首の張り紙は、結構目立たない位置にあったしな。

 

「それじゃ、この村がどこの位置にあるか、確認も兼ねて少し散歩するか」

「うん」

 

 ラヴァイトは全力で走らせたため休憩と言うのと、馬車の修理を依頼しているのでそれまでは休憩である。

 ランダムに道を蛇行して来たため、樹達も追いつくまでにそれなりの時間を要するだろう。

 夕暮れ時には出発かな、と考えながら歩いていると、突然声が聞こえた。

 

「おおおおおおおおおおお!! これはなかなかの逸材!!」

 

 うげっ、この声は! 

 俺が振り向く暇もなく、俺は見覚えのあるババアに拘束されていた。

 

「なかなかの素質じゃな! 素晴らしい!」

「な、なんなんですか、あなたは?!」

 

 レイファも驚いた様子である。

 

「おおっと、失礼。ワシはババアですじゃ。神鳥の聖人様に命を救われた、武術を得意とするものですじゃ」

 

 自分からババアと名乗っていくのか……。

 

「あ、私はレイファと言います。彼はカゲトラと言います」

「これでも冒険者をやっている。よろしくな」

 

 俺がそう挨拶をすると、じっくりと俺を観察した後に、こう言った。

 

「ふむふむ、ではカゲトラ殿、このババアと手合わせを願えませんかな? お主も何がしの武術を極めつつある模様。このババアと手合わせをする事で、何かが見えて来るやもしれませんぞ?」

 

 このババアは強い。

 身のこなしだけじゃない。

 圧倒的強者の感覚を感じる。

 

「拒否権は?」

「ふふふ、ワシはお主が拒否するとは思ってないから聴いておるのじゃ」

 

 俺は強さには貪欲な方だ。

 強くなければこの世界では生きていけないからだ。

 常日頃から鍛錬を怠ったことはないし、合気体操は毎日やっているほどである。

 

「……わかった。ご教授願おうか」

「ソー……カゲトラ?!」

「ふむ、ここではじゃなんですじゃ。ワシの家の前ならそれなりの広さがありますじゃ。そこで手合わせ願いましょうぞ!」

 

 こうして俺は、作中最強ババアと手合わせをすることになってしまったのだった。




出たよババア
そして、名乗らないババア


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変幻無双流

昨日投稿できなかった分、長めにしました。


「俺は小手は外した方が良いのか?」

「いえ、構いませぬですじゃ。このババアに気を使う必要はありません」

「そう言うならば遠慮なく」

 

 このババアは作中、勇者以外で最強なのだ。

 遠慮なんてしたらそれこそ失礼に値するだろう。

 俺が聞きたかったのは、どう言う形式かである。

 それにしても、俺の世界でも爺様は最強の人が多かった気がする。

 生身でトラックにぶつかって生きている人もいるくらいだ。

 あの時、俺が死んだ理由はトラックと壁に挟まれてミンチになったからだ。

 他の人間も巻き込まれたんじゃ無いかと思う。

 じゃなきゃ、俺は生きているはずだしな。

 おっと、思考がそれた。

 

「え、えええぇぇぇ?!」

 

 レイファだけが驚いているのはまあ、仕方ないだろう。

 レイファはこのババアが最強であると知らないのだ。

 

「では、行きますじゃ!」

 

 俺は脳内を戦闘モードに切り替える。

 先程は対応できなかったババアの動きも、目で捉えることができる。

 ババアのハイキックに俺は力の流れを見切り、一歩踏み込んで対処する。

 俺の当身は当然のことながら、ババアを捉えることができない。

 

「さすがですじゃ。これならどうかな?」

 

 くんっと足が動き、俺は足を払われる。

 

「ふっ」

 

 俺は合気道で鍛えた体幹で、足を移動させて対応する。

 ババアの正拳突きも、俺は片手で払い当身を入れる。

 

「なるほど、カウンターの武術ですじゃ。相手の力を利用して攻撃を入れる。これなら、相手の攻撃力に自分の攻撃力を上乗せしたダメージを与えられそうですじゃ」

 

 ババアはそう言うと、飛びのいて間合いを開ける。

 作中最強は伊達じゃねぇな! 

 全ての当身は払われているし、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「武術はなるほど、このまま鍛錬し続ければよろしいですじゃ。しかし、カゲトラ殿の武術はこの、変幻無双流に通ずるところがありますですじゃ」

 

 俺はカウンターをカウンターで返された。

 俺は上手い具合に受け身を取る。

 結構激しい音がしたが、ほぼノーダメージだ。

 

「では、行きますじゃ!」

 

 ババアはそう言うと、俺の胴体に向け突きを放つ。

 うがっ、グハッ! 

 身体の中を何かが暴れまわる! 

 意図的に弱い部分を作って逃すんだっけ? 

 ゴリゴリ削られるHPに焦りを感じるが、やるしかなかった。

 

「ブフゥ!」

 

 何とか、逃すことに成功した。

 

「ほう、やはりカゲトラ殿には才能があるようですじゃ。初見で気の攻撃である【点】でのダメージを抑えるとは、やはり戦闘センスずば抜けておりますな」

「かはっ、ぜぇ、ぜぇ……」

「ファスト・ヒール!」

 

 レイファのお陰で、なんとか落ち着いた。

 俺に戦闘センスなんて無い。ただの経験の積み重ねと、事前知識で知っているからだけだろう。

 

「さて、カゲトラ殿はこの気を使うセンスがある様子。例え対処法を知っていたとしても、それを実行できるかどうかはやはり才能ですじゃ」

「な、なぜ俺が知っていると……」

「動きですじゃ。ババアから【点】を受けた後、自分の弱点を作り出すように動いておったじゃろう?」

「知らなかったら?」

「そもそも、そこまで続くような量の気を込めておらんでな。体力が四分の一ほど削れる程度で霧散するようにしていましたですじゃ」

 

 つまり、そこまで読んで攻撃したと言うことね……。

 原作読んでいても思ったが、何だこのババア。

 さすが原作最強のババアと言わざるを得ない。

 俺では到底敵わないだろう事は、少し手合わせをしただけではっきりと理解できた。

 

「お主に時間があるならば、稽古をつけてやっても良いのじゃが、ババアも聖人様のお役に立ちたいと考えておる身じゃ。気の概念を身につける方法程度ならば伝授するがどうですかじゃ?」

「基本?」

「そうですじゃ。本来であれば山に1月ほどこもる必要はありますが、カゲトラ殿は既に掴みかけているように感じますじゃ。ならば、普段から行なっているその呼吸法に気の概念を交えるだけで基本の『き』の字程度ならば使えるようになるはずですじゃ」

「そ、そうなのか?」

 

 ババアはコクリとうなづく。

 合気道の『気』は確かに近いものがあるかもしれないからな。

 あの時、白い奴と戦っていた時も、俺は呼吸を深くしていた。

 あれに秘密があるのだろうか? 

 

「もちろんですじゃ。魔力とは違う力なので、違いをはっきりと意識する必要がありますが、呼吸法は『気』を扱う上で最も重要な基本ですじゃ」

 

 それは流石に理解できる。

 武術を嗜んでいるものは誰だって呼吸法は意識するからだ。

 正しい呼吸法が身体の体幹を整えるし、いざという時に力を発揮するための鍵になる。

 正しい呼吸法は全身に血液を、酸素を巡らせるための重要な方法なのだ。

 

「そう! その呼吸じゃ! 後は気を意識して、ババアの指示するリズムで呼吸を行うことを毎日続けてみることじゃ」

 

 それから俺は、呼吸トレーニングをババアに見てもらうことになった。

 簡単にタイミングと『気』を意識するためのトレーニングだったが、少し変えただけで身体に力がみなぎってくる気がした。

 ちなみに、レイファにはそこまでの才能はないとの事であった。

 俺も、恐らくリーシアはもちろんのこと、ラフタリアほどの才能ではないのだろう、ババアから門下生だとか、弟子だとか言われなかったので、そう言うことだと解釈した。

 

「ふむ、いい感じですじゃ。ある程度したらもう一度この村、メシャス村に来なさい。その時は門下生として、指導をさせていただきますじゃ」

「あ、ああ。それは助かる」

 

 メシャス村……確か、ラファン村の南東だっけか。

 無茶苦茶に逃げていたせいで、目的のアイヴィレット領からは離れてしまったみたいであった。

 

「母さん、そろそろ飯だよ!」

 

 ふと、空を見ると夕暮れ時になっていた。

 待たせていたレイファには申し訳がなかった。

 

「では、カゲトラ殿。また会いましょうですじゃ」

「では、冒険者様、失礼します」

 

 ババア達は立ち去る。

 俺はレイファのところに向かう。

 

「レイファ、待たせてすまなかったな」

「うんん? 私はソースケが稽古している間は村の散策をしていたから大丈夫だよ。必要な食料品の買い出しもできたし」

 

 レイファはしっかりしているな。

 俺はちゃんとこの子を守らないとなと改めて誓う。

 その為にも、早く北に行って、メルロマルクから脱出する必要がある。

 

「ソースケ、あの強いおばあさんから色々学べた?」

「簡単なことだけれど、ある程度は教わったさ」

 

 正直、web版のタクト戦で殿になって死亡したが、多勢に無勢ではなくタクトvsババアだと、ババアの方が勝つに違いないと改めて感じた。

 それほどまでに技は洗練されていたからな。

 変幻無双流……その『気』の概念と、俺の合気道を合わせたら、かなり強力な武術になりそうだなと改めて感じたのだった。

 

 

 さて、俺たちは樹から逃げる為にも、夜中に逃走する必要がある。

 西側に移動したいためだ。

 亜人の国なんかに逃げてもロクなことにならないのはわかっている。

 俺が逃げるべきは北西の国境地帯だ。

 ゼルトブルに逃げてしまう予定だ。

 

 メシャス村を出て、3日が経った頃、ついに樹に発見されてしまった。

 そして、冒頭の状態になったわけである。

 

「いい加減に止まりなさい! そして、その女性を解放するんです!」

 

 まるで警察官が立てこもり犯に説得するかのようなセリフに俺は呆れるしかなかった。

 

「私はソースケといたくて一緒にいるんです! それにソースケは犯罪者じゃない!」

「イツキ様、彼女はキクチ=ソースケにそう言うように脅されているんです!」

「でしょうね、助けてあげますから、我慢していてください!」

 

 まるで、あの時の道化様のような事を言いやがる! 

 

「ふぇぇ、イツキ様、あの子はそうじゃないと思うんですが……」

 

 リーシアがレイファを擁護するようなことを言うと、即座に燻製が否定する。

 

「リーシア、下っ端のお前がイツキ様に口答えするのか?」

「ふぇぇ、ち、ちがいますぅぅ!」

「ならば黙っていろ。イツキ様の行いこそ、絶対正義なのだ!」

「死ね! クソ燻製死に晒せ!」

 

 俺はそのやり取りを聞いて、燻製に中指を立てる。

 

「キサマ……! 許さんぞ!」

「何が正義だ! 独善野郎め! どうせお前のことだから、錬に見限られたんだろうが脳筋! いい加減俺とお前の縁を切りたくなってきたわ!」

「何だと!? キサマ……! 犯罪者風情が偉そうに!」

「はっ、事実だからキレるんだろこのスカタン! 少しは陰謀ばっかりに頭を使うんじゃなくて、戦闘中も考えろよボケ!」

 

 あまりにもムカついた為、言いたい放題である。

 

「ムッカアアアアアアアア!」

 

 地団駄を踏む燻製。

 やっぱり、追い出された様子だな。

 俺と燻製の応酬に、なぜか引き気味の独善の勇者様。

 

「マ、マルドさんとは因縁があるようですね。それならば、マルドさんが引導を渡してください。僕達はマルドさんの援護をします」

「ありがとうございます! イツキ様!」

「ふぇぇ」

 

 樹達の馬車が接近してくる。

 

「ラヴァイト! 近寄らせるな!」

「グアアアアアア!!」

 

 ラヴァイトはさらに加速する。

 前回、馬車の中で暴れたのがよほど嫌だったのだろう。

 馬とフィロリアルのレースの様相を呈していた。

 前回俺に蹴り落とされた事がトラウマになってか、なかなか飛び乗って来ない燻製。

 俺は飛び乗ってきた瞬間に撃ち落としてやろうとクロスボウを装備していた。

 またナイフを腹にさして蹴落としてやる。

 俺がそんな事を考えていると、レイファの悲鳴が聞こえたのだった。

 

「ソースケ! 前に人が!」

「スケアードさん、止めてください!」

 

 競っていた馬車二台が、人の近くで進みを止めた。

 

「覚悟しろ! 犯罪者!」

 

 燻製が当然のように馬車から降りると斧を構えて俺の馬車に乗り込んでくる。

 俺は当然蹴り飛ばすが。

 

 一方、馬車の前方では、樹が倒れている人を抱き起こしていた。

 

「大丈夫ですか?」

「……あ、……あ」

「スケアードさん、水を飲ませてあげてください」

「わかりました、イツキ様! おい、リーシア!」

「ふぇぇ、は、はい、すぐに準備しますぅ!」

 

 はてさて、この人物を助けたことはいい事だったのか悪い事だったのか、俺には判断付かなかった。

 だが、この件に女神が介入していることに気づいたのは、その途中のことであった。



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休戦協定

 俺は燻製のは阿呆を相手していたので、後でレイファから聞いた話だ。

 

「大丈夫ですか? 大変! 怪我してる!」

「ファスト・ヒール!」

 

 レイファが回復魔法を使って、その人物を回復させた。

 レイファの回復魔法によってダメージを回復させたその人物は、リーシアから渡された水を飲まされて、ようやく喋れるようになった。

 

「……あ、ありが……ございま……」

「大丈夫ですか? こんな道端で倒れているなんて、普通じゃありませんよ」

 

 樹はその人物に問いただそうとするが、意識を失ってしまったようだった。

 頬は痩せこけており、身体中に刃物による切り傷を負っていたようだ。

 誰かに追われているところを命からがらといった感じに見受けられた。

 

「おい! イツキ様が聞いているんだぞ! 勝手に気を失うな!」

 

 ペシペシと侍が叩くのを、レイファは止める。

 レイファのレベルが低い為、抑えることはできなかったが。

 

「待ってください! 怪我人なんですよ! 意識が回復するのを待って事情を聞いた方がいいと思います!」

「カレクさん、この子の言うとおりですよ」

「……チッ、失礼しました、イツキ様」

 

 樹が宥めて手を止めた侍に、レイファもなんだか怖気を感じたらしい。

 何というか、言葉にできない寒気を感じたそうだ。

 

「……ふむ、どうやらこれは、優先順位が高い案件ですね。このイベントは、作中でもなかなか高難易度かつランダム発生のイベントです。これを逃す手はありません。そこの貴女、菊池宗介に一時休戦を申し込みたいのですが、聞いてもらっても構いませんか?」

 

 レイファは樹の方から襲ってきたのだろうと呆れつつも、戦わなくて済むならそれが一番だと判断したらしい。

 

「……わかりました。ソースケにそう伝えますので、あの鎧の方を止めていただけますか?」

「わかりました。こちらから休戦を求めるのです。こちらも剣を引くのが道理ですからね」

 

 逐一偉そうな将軍様は、そう言うと、レイファや仲間たちとともに戦闘を繰り広げている俺達のところまでやってきた。

 

「ふんっ! はぁ! どりゃっ!」

「……お前やる気あるのか?」

 

 俺は一方で燻製と戦っていた。

 と言うよりも、燻製があまりにも見え透いた攻撃しかして来ないので、斧の軌道を全部逸らしてあげて、燻製に全力で空振りさせている、と言うのが正しい認識だろう。

 相変わらずの脳筋っぷりな戦い方である。

 

「ふんぬううう! 卑怯者め、避けるな!」

「何で避けるのが卑怯なんだよ阿呆。第1、当てるつもりの無い攻撃をするお前が悪い」

 

 しかし、燻製にも褒めるべきところはあるのは確かだ。

 その長時間斧を振っても切れないスタミナと、当たれば凄まじい攻撃力だけであるが。

『このすば』で言うならば、打たれ弱すぎるダクネスみたいな感じ? 

 ……例えて思ったけれど、本当にコイツ無能だなぁ。

 攻撃を当てる工夫をしないならば、攻撃を当てるつもりがないのと同じである。

 燻製の攻撃など鼻くそを穿っていても避けるのは容易い。

 

「ぬがああああ! 鼻くそほじりやがって! ワシを舐めるなあああ!」

「そんな当てる気のない攻撃をしながら言われてもな……」

 

 でも、一応レベルは燻製の方が高いはずである。

 何でこう、彼は弱いのだろうか? 

 あ、陰謀以外はパーチクリンだったな! 

 はっはっは! 

 

「マルドさん、武器を引いてください。菊池宗介も、マルドさんと戦うのをやめてください」

 

 と、樹の声が聞こえた。

 俺は無手で相手をしていたんだがな……。

 それに、喧嘩を売ってきたのはそちらの方だろうに、なぜそんな偉そうなのか? 

 

「しかし、イツキ様!」

「僕たちの正義を示す事件が起きているようです。彼よりも優先順位が高いですよ。それに、彼も僕たちと同行すれば、僕たちの正義が彼に伝わり、改心するかもしれません。彼女……レイファさんにも同行するよう話は通してあります」

「ぐっ……わかりました、イツキ様。ですが、コヤツが不埒な真似をしたら即刻ワシが懲らしめますぞ」

「ええ、それならば仕方のない事ですからね」

 

 樹にそう言われて、燻製は渋々斧を引っ込める。

 

「はっ、お前に俺が倒せるわけないだろうが。木こりでもしてたらいいんじゃないの?」

「キサマ!」

「マルドさん!」

 

 再び斧に手をかけようとした燻製を樹が制する。

 渋々斧を収めるあたり、今は樹のところで美味しい思いをしているのだろう。

 

 で、気になることが一点出てくる。

 協力とはどう言う事だ? 

 

「レイファ、どう言う事だ?」

「うん、ごめんね。何とか手を引いてもらうように交渉したら、同行する事になっちゃった。それに、あの人を見捨てるのはどうかなって思っちゃって」

「あの人?」

「うん、道で倒れていた人だよ。何か訳がありそうだったし、怪我の大部分が刃物で切られた跡っぽい感じだったよ」

 

 樹のあのはしゃぎようからすれば、レアイベント発生の合図なのだろう。

 しかも、将軍様の需要を満たすような、特殊なイベントである。

 

「……個人的には逃げてしまいたいが、レイファがそうしたいならば俺はそうするさ」

 

 俺はため息をつく。

 

「では、賞金首である菊池宗介……さん。一時的ではありますが、共闘しましょう。僕は冒険者の川澄樹と言います。よろしくお願いしますね」

「……よろしくな」

 

 すでに弓の勇者であることは指摘したんだが、この将軍様はそう言う設定らしい。

 と言うか、俺が日本人である事に対して何か思う節がないのだろうか? 

 疑問は尽きないが、おいおい聞いて行くとしよう。

 

 こうして、再び燻製と協力する羽目になってしまったのであった。



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【高難易度】ランダムエンカウントクエスト

 レイファの言っていたあの人と言うのは、男性であった。

 飢餓の状態が続いているせいか頬骨が出ており、あまり筋肉が付いていないことがわかる。

 そのかわり、お腹が出ており、栄養失調特有の体系をしていた。

 装備している武器はお粗末なものを装備している。

 領主に対してクーデターを狙っていたのだろうか? 

 こう言う場合は情報通に聞くのが確かだろう。

 俺たちの馬車は今はレイファと樹の仲間の回復魔法使いが男を看護しており、俺は樹の馬車に乗って待機していた。

 

「おい、弓の勇者」

「僕は冒険者です。樹と呼んでもらえれば良いですよ。その代わり僕も貴方のことを宗介さんと呼びますがね」

 

 何でこう、コイツは慇懃無礼なんだろうか? 

 

「……じゃあ、樹。どう言うイベントか、説明してもらえないか?」

「名前から思っていましたが、やはり貴方も僕たちと同じように日本からやってきた方だったのですね」

 

 樹は納得したようにそう言うと、答えてくれた。

 

「では、イベントのあらすじだけをお話ししますね。と言ってもこのイベントは発生率10%ほどしかないイベントで、第一の波と第二の波の間の時期に、この周囲を探索しているとエンカウントするイベントです」

「期間限定のランダムイベントか」

 

 パワポケ……とかそう言うのかな? 

 コンシューマゲームに仕込んであるイベントという事なのだろうか。

 PSO2ならばパラレルワールドの発生とか、アブダクションとかそう言うイベントが該当しそうである。

 

「そうです。ディメンションウェーブには、こうしたランダム発生のイベントや、分岐によるストーリーの一部変更・拡張があって、何周も周回しても飽きない作りになっているゲームでした」

 

 あ、なんかそう言うの聞いたことあるな。

 フェアクロだとか、ユグドラシルだとか、良くあるゲーム転生みたいな、あり得ないぐらい高性能設定の人間が作れるとは到底思えない、MMORPGに似た感じだ。

 あれは小説内であるから設定としてアリなだけで、実際存在したら運用コストだとか、膨大なデータを保管する場所とかに困りそうな代物である。

 2019年時点でも海外でそう言うゲームが作られているとは聞いたことがあるが、プレイするまでにはあと3年はかかりそうなやつだ。

 

「それで、このイベントは簡単に説明すると、悪徳貴族と戦うレジスタンスに加わり、囚われの姫を救助すると言うイベントですね。これだけ聞くと良くあるイベントの一つに過ぎないのですが、この時期にしては出現する敵のレベルが異様に高く、そして驚くようなどんでん返しが存在すると言うイベントになります」

 

 う、嫌な予感がするな。

 特に囚われの姫という辺りが。

 

「このイベントは推奨レベルが80、挑戦可能レベルが60と高難易度クエストになります。敵も歯ごたえがありますし、下手すれば波の魔物よりも強力な魔物と戦えるイベントですね。もちろん、そのルートに行くとバッドエンドなので、気をつける必要がありますがね」

 

 しかし、樹はペラペラとよく喋るな。

 自分の好きなゲームの話だから、当然といえば当然なのかもしれないけどさ、一緒にいる連中が首を傾げているぞ。

 

「もちろん、報酬はかなりいいものになります。弓なら、ベストエンドでアローレインの強化版であるアロースコールが使えるキム・クイが、バッドエンドで倒したボスが確定ドロップする必中の弓である与一の弓が入手できます。アロースコールはこの時点ではレアスキルなので、是非とも入手しておきたいスキルですね。もちろん、僕はベストエンドを目指しますけれど」

 

 得意げに話す樹の姿に、他の連中は若干驚きを隠せない様子だ。

 

「で、グッドエンドに行く方法は?」

「さすがにこのイベント自体に遭遇がほとんどありませんでしたので記憶がだいぶおぼろげになってはいますが、重要な分岐は攻略サイトで何度も見ていたので、それだけは覚えていますよ」

「ふーん、ならば俺は不要じゃないの? 樹だけで十分だろ」

「いえいえ、宗介さんを逃がすわけがないじゃないですか。一時休戦なだけです。それに、今回のクエストに限っては仲間NPC多いほど有利な選択肢を選べますからね」

 

 やはり、こいつが同行を提案したのは監視のためか。

 それに、仲間が多いほど有利と言うことは、そう言う裏切りや陰謀が渦巻くイベントであると言っても差し支えないのだろう。

 なるほど、樹が好きそうなイベントである。

 と、樹の方から話を振ってきた。

 

「そう言えば、宗介さんはこの世界と似たようなゲームはやっていないんですか?」

「俺のところはweb小説だったな。ディメンションウェーブって言う名前のな」

「なるほど、ではこのイベントについてエピソードが書かれていなければ知りようがありませんね」

 

 嘘であるが、事実は誰も知らないので問題なかった。

 実際、更新停止中ではあるが、書いているからな。

 実際、俺は原作の合間合間に起こった出来事については知らないし、盾以外の勇者が何をしていたのかも知らなかったのだ。

 

「ソースケ! あの人起きたよ!」

 

 と、レイファが馬車に顔を覗かせて教えてくれたので、俺と樹、なぜか燻製が代表して様子を伺いに向かった。

 

「……うぅ……ここは……?」

「良かった、目が覚めたんですね」

 

 レイファは安堵の表情を浮かべる。

 一緒に看病していた魔法使いの表情は硬いままなので、レイファ天使度が高いことを証明してくれる。

 

「うぐっ」

「あ、まだ横になっていてください。生命力が少ないのか、治りが遅いので」

 

 起き上がろうとして痛みに顔を歪めた男性に、レイファがそう言って再度横にさせる。

 これで看護服だったら、完全に白衣の天使だなと思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

「キサマ、何故行き倒れていたのだ?」

 

 何故か燻製が尋ねる。

 樹は微笑んだまま様子を伺っている。

 あー……これが将軍様プレイなのか……。

 俺は呆れる。

 

「その……。冒険者には関係のないことなので……」

「いえ、なんで貴方が剣などで切られた傷があるのか、もう私達には無関係では無いと思います」

 

 レイファが強い目で、男を見る。

 セリフを取られて舌打ちをする燻製は馬鹿なのかな? 

 

「……ですが、やはり我々のことなので」

「キサマ、助けてもらっておいた分際で……あいた!」

 

 セリフを間違っているのか、燻製は樹に足を踏まれる。

 

「ぬ、ぬぅ……。キサマ、そこの女が言う通り、キサマを助けた時点で関係ないとは言えなくなったからな。せめてワシらに事情を話すがいいぞ」

「それに、僕たちはこれでもクラスアップをしています。メルロマルクが保証する冒険者ですよ」

「そ、そうなんですか……!」

 

 樹の言葉に、希望の光を見たと言った様子の男性。

 いやー、やっぱり、誰が言うかってのは重要だなと思うね。

 どんな言葉でも自分というフィルターを通して伝わるからさ、樹と燻製では同じ言葉を言っても、伝わる意味は異なるだろう。

 

「……その、我々は隣国、アルマランデ小王国で、悪政を敷く国王を打倒するためのレジスタンスです」

 

 そのレジスタンスの男が言うには、アルマランデ小王国の現状はこんな感じらしい。

 現状、長期にわたる原因不明の飢饉により、世界中がやせ細っているのはどこも同じであるが、アルマランデ小王国は一人の女によって傾国の危機にあるらしい。

 マリティナと呼ばれる美しい女が突然、国王に就任した時から圧政が始まったそうな。

 メルロマルクとシルトフリーデンの間に存在する国なので、当然ながら亜人と人が混ざって生活する国だったが、マリティナは住む場所により格付けを行い、待遇に差をつけたそうだ。

 亜人は全員奴隷となり、農作物の栽培から鉱山で働かせるようになり、人間も人間で蝦夷地の人間は一定金額以上の取引を禁止し、毎年領地で一番の美男子を徴収、ブサイクと美女を処刑すると言う事を行なっているらしい。

 食事は全て王家に献上、ほとんどが粟や霞を食べて過ごすのが現状だそうだ。

 また、コロシアムで人間同士を殺し合わせる遊びもしているらしく、そんな状態ではまるでスパルタクス待ちみたいな状態を作り上げてしまっていたそうな。

 

「え、なにそれ思っていたより最悪じゃん」

 

 俺は思わず声が出てしまった。

 

「なるほど、流石に直で聴くとキツイものがありますね……」

 

 樹は眉を潜める。

 

「ふむ、では、ワシらはそのマリティナと言う女を倒してしまえば良いと言う事かな?」

 

 偉そうに燻製がそう聴くと、レジスタンスの男は首を横に振った。

 

「いいえ、どうか、我々をあの国から逃がしていただきたいのです!」

 

 どうやらこのイベントの最初のシナリオは、レジスタンスたちを別の国に逃がすところから始まる様子であった。




明日、明後日は更新できないかもしれないです。

マリティナ…あっ(察し)


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【高難易度】ミナゴロシ・タイム

二日間休んで気力全開です!


 アルマランデ小王国に到着した俺たちは、その瘦せぎすの男に案内を受けて、レジスタンスのアジトに向かっていた。

 国を出るときに口うるさく言われるかと思ったが、弓の勇者がいるおかげですんなりと通ることができたのは幸いだろう。

 それに、瘦せぎすの男とアイコンタクトをしているようにも見えた。

 おそらく関係者なのだろう。

 

「ふふふ、ヒミツですよ」

 

 と言って去るのは悪い癖だろうな。

 ラヴァイトが痛い人を見る目で樹を見ている。

 正直、このまま逃亡したいところではあるが、男性は馬が引く馬車、女性はラヴァイトが引く馬車に分かれているためそれはできなかった。

 当たり前ではあるが、こっちの馬車は空気が最悪だ。

 燻製と俺がいるのだ。悪くならない理由がない。

 

「まだ着かないのか?」

「は、はい、マルド様」

 

 ちなみに、燻製はマルド様などと呼ばせている。

 どんだけ傲慢なんだろうか。

 これもうわかんねぇな。

 一応、リーダーを燻製にしているらしく、図に乗っている感じがする。

 

「……おい、侍」

「俺はカレクと言う! カレク様と呼べ、犯罪者」

 

 やはりムカつく。

 なんでこいつらこんなに偉そうなのだろうか? 

 

「覚えてどうする。お前らって格付けあるよな、どうやって決めたんだ?」

 

 原作を読んでいる上で出てくる当然の疑問だろう。

 リーシアに関しては途中加入だから下っ端であると言う理屈ならば、燻製なんかは当然ながらリーダーと言うのはおかしな話であるからだ。

 

「マルド様が言い出した事だな。リーシアが入る前は、レベル順でつけていたぞ」

「ほーん、そうだったんだな、なるほどねぇ」

 

 燻製発案なら納得か。

 だが、普通に考えてこいつらが今の順位で納得しているとは思えなかった。

 ……何かこの連中が納得させる要素があるのだろうか? 

 燻製は一応、偉い貴族の息子らしいから、そう言うのもあるのかも知れないな。

 

「今は新入りはすべからく最低ランクからだな。イツキ様親衛隊に入りたいならいつでも歓迎するぞ」

「はっ、錬ならまだしもだな」

 

 正直、こんな連中とつるみたくない。

 なぜ、わがままで自己中な大人になりきれていない大人のクズと関わらねばならないのか。

 と言うか、本気でこの世界の連中は、こう言うクズが多すぎである。

 メガヴィッチの影響なのかな? 

 

 そんなこんなでしばらく進んでいると、外の様子が荒野になっている地帯に突入した。

 そもそも、メルロマルクを出てからしばらくしたら、皮の剥がされた枯れ木の森を抜けていたので今更であるが、完全に荒野である。

 枯れ草ぐらいしか生えておらず、とてもではないが、中世ヨーロッパですらこの光景はお目にかかれない程に何も生えていない。

 

 と、ぞろぞろとフルフェイスのヘルメットを被った連中が出てきた。

 国が変われば言葉が変わるのは通りであるが、どうやらこの国はメルロマルクと言語体系が近いのか、理解できたのは幸いだろう。

 

「貴様ら、何者だ!」

 

 マルドが出て、代表者面をする。

 

「我々はメルロマルクから来た冒険者である。お前たちこそ何者だ?」

「我々はマリティナ聖王国の騎士団だ! メルロマルクより入国は許可されていない! 即刻立ち去るが良い!」

 

 え、さっきの守衛さんは通してくれたけど……ってあれは弓の勇者の権力で通ったんだったな。

 それに、瘦せぎすの男と顔見知りだったし、レジスタンス側なのだろう。

 それにしても、マリティナ聖王国か……。頭悪いのかな? 

 

「マリティナ聖王国とはなんだ? ワシは聞いたことがないぞ? ここはアルマランデ小王国では無いのか?」

 

 燻製の質問に、騎士団は笑い始める。

 

「ハハハハハ、いや、すまない。メルロマルクはまだ知らされていなかったんだな。この国はアルマランデ王家の処刑を行い、先日マリティナ様が国王としてこの国を治めることのなったのだ」

「故に、マリティナ聖王国と国号を改められたのだ!」

 

 なるほどね。

 この国のヴィッチは国の掌握に成功したのだろう。

 陰謀に長けた魔女だからな。

 メルロマルクも現女王がいなければ、こうなってしまうことがよくわかる。

 

「……なるほど、これだけでもハッキリとわかりますね。ここは懲らしめておくべきでしょう」

 

 樹がそう言うと、侍と戦士が立ち上がる。

 

「待ってください。ここは、宗介さんの実力を測りたいので、宗介さんとレイファさんに任せましょう。良いですね?」

「は?」

「キサマ、イツキ様に口答えするのか?!」

「あー、ちょっと待ってくれ。レイファは非戦闘員だ。俺単独で行く。それで良いだろ?」

 

 実際、レイファには魔物退治以外をさせるつもりは無かった。

 人を殺すだけで、精神にドロッとした何かが溜まるのだ。

 今回の場合だと、偉そうなやつ以外は殺してしまう必要があるので、レイファにその手伝いはさせてはいけないだろう。

 

「……いいでしょう。では、マルドさんと共に懲らしめてください。既にマルドさんは戦闘に入っているようなのでね」

 

 樹の目線を追うと、既に燻製は斧を構えて一触即発な状態になっていた。

 

「わかった。情報収集する必要があるから偉そうな騎士だけ生かして、残りは殺すとしよう。では行ってくる」

「え、ちょ、待って」

 

 俺は樹の制止を無視して、馬車を飛び降りる。

 

「犯罪者!」

「樹からの指令だ。悪く思うな。皆殺しだ」

 

 俺は槍と剣を構える。

 

「ムカつく野郎だな! マリティナ様に逆らうなら、女以外殺せ! マリティナ様も俺たちが楽しむ分には美女でも問題ないと言ってたからな!」

 

 俺と騎士団10人との戦闘が始まった。

 

「燻製、その偉そうなやつ相手してろ。俺は他の連中を消す!」

「言われなくとも! はあああああ!!」

 

 燻製と騎士団の一番偉そうな騎士団が鍔迫り合いを始めたところで、戦闘開始の合図となった。

 

「生意気言いやがって! 死ね!」

 

 俺は突っ込んで来た間抜けの心臓を狙って槍を突き刺す。

 防御無視、防御力無視のこの槍は容易くそいつの心臓を抉る。

 

「ふん」

 

 横に薙ぐと、そいつは、胸から上と下に別れかけた格好になり、絶命した。

 

「アスマー!! キサマ!」

「次に死にたいやつからかかってこい。皆殺しだ」

 

 その後はつまらない虐殺劇となった。

 首を刎ね、心臓を穿ち、真っ二つに叩き斬る。

 

「ぎゃあああああああああ!」

「うわあああああああああああ!」

「た、助けっ!」

 

 俺は作業的に9人を殺した。

 楽な仕事である。

 手加減の方が難しいな、この槍は。

 

「ふぅ、おい、燻製、そっちはどうだ?」

 

 俺が見ると、案の定苦戦していた。

 拮抗している感じである。

 あの連中、まだクラスアップした感じはしなかったのだが、隊長は別なのだろうか? 

 

「キサマ、後で殺してやる!」

 

 俺を睨みながら良い勝負をする燻製と隊長。

 だが、時間がないので、俺は槍を構えると、隊長の手足を切断した。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 

 いや、良い声でなくな。

 ふふふ、はははははははは。

 

「おっと、いけない」

 

 俺はヒールポーションを切断面にかける。

 すると、血が止まり、肉が盛り上がる。

 回復すると言うことは、生きている証拠である。問題ないな。

 

「……」

「おい、どうした燻製」

「……な、なんでもないのである」

 

 燻製がドン引きしていた。

 俺をこうしたのはお前のせいだろうにな。

 呆れつつ、肉ダルマにした隊長を俺は蹴り起こす。

 

「おい、起きろ」

「ぎゃん! ひいいいいいいいいいいいいい!!」」

 

 起きて早々悲鳴をあげる阿呆。

 

「死ぬならせめて情報吐いて死ね」

「ひいいいい!! 助けてください! 助けてください! なんでも喋りますので!!」

「ん? 今なんでも喋るって言ったよね?」

「はいはいはいはいはい!」

 

 よし、これで情報がいくらでも引き出せるようになったな。

 

「樹、終わったぞ」

 

 俺が樹を呼ぶと、馬車からドン引きした樹と男性メンバーが出てきた。

 

「宗介さん、僕はここまでしろと言いましたっけ?」

「特に言わなかったから、裁量は俺の判断だ。逃すと面倒くさいから、情報持っているやつだけを残して殺したまでだ」

「……今度からなるべく、殺さないようにお願いしますね」

「ま、樹がそう言うなら善処しよう」

 

 呆れる樹に対して、俺はあっけらかんとそう答えるのだった。




独自解釈ですね。
公式で解釈が出たら変更すると思います。


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【高難易度】レジスタンス

「じゃあ、兜を取るか」

 

 俺がそう言って兜を取ると、イケメンの顔が現れた。

 まあ、顔はイケメンではあるものの、醜悪な根性が滲み出ている顔をしている。

 俺の殺意センサーには反応がないため、現地人だろうと推測ができる。

 今は俺に対する恐怖で涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているがな。

 

「……なかなか見目麗しい顔をしていますね。なるほど、レジスタンスの彼が言っていたことは本当のようですね」

 

 樹は納得したように答える。

 

「では、このカレクが質問しましょう」

「わかりました。カレクさんにお任せしましょう。僕とカレクさん、それに宗介さんは話を聞いて、お二人は女性メンバーがその惨たらしい死体を見ないように隠してください」

「「はっ! イツキ様!」」

 

 燻製も、樹の指示には素直に従うらしい。

 燻製は俺を睨んでいたが、知らんな。

 

「では、カレク様がお前に質問する。所属と名前を明かせ」

「お、おおお、俺はマリティナ聖王国騎士団、第2奴隷区の管理を任されている、ライシャン=エードルド先任曹長だ! こここ、殺さないでくれ!」

 

 先任曹長……騎士団を名乗っているけどどちらかと言うと軍じゃないかなと思う。

 確か、アメリカの軍位だっけか。

 

「では、お前の役目は何だ?」

「ここ、この地に、マリティナ様に刃向かうレジスタンスの根城の一つがあると聞き、哨戒していたんだ! あと、怪しい馬車が2台やって来ると言う情報を聞いて、レジスタンスへの協力者がやってきたと思い、これを殲滅する任務も仰せつかっている!」

 

 なるほどね。

 この地区を統括しているお偉いさんがいると。

 と言うか、レジスタンスはかなり追い詰められている様子である。

 これは確かに外国に亡命して態勢を立て直す必要がありそうであった。

 まあ、俺はあまりにも対人特化し過ぎてわからないかもしれないが、騎士団の技量はかなり高い方である。

 

「キサマらのレベルは?」

「お、俺は63、他は平均すると37だ!」

 

 この隊長、俺の方をチラチラと見て来る。

 しかし、燻製よりもレベルが低いのに苦戦するって……。

 ちなみに、この時点で燻製のレベルは68だったりする。

 さっきレベルが上がった俺と同じレベルなのは驚きである。

 なるほど、人間の雑魚はクラスアップ前だが、階級が付いている連中はクラスアップ済みなのか。

 そりゃ、攻略難易度も上がるはずである。

 

 他にも色々と内部情勢やわかっているレジスタンスの居場所、捕らえられたレジスタンスの収容所などを色々聞き出し、俺はその場に放置してやった。

 両手両足無しでどうやって生きていくんだろうな? 

 俺が置いていくと指示した時の顔は見ものだった。

 

「ソースケ、やりすぎ!」

 

 と、レイファには怒られたが、俺は反省する気は毛頭なかった。

 

 そして、ようやく俺たちはレジスタンスのアジトに到着した。

 道中の魔物はレベルが高い上に気性が荒く、かなり頻繁に襲って来る。

 中にはレベル76の魔物もおり、コイツはさすがに手抜きの勇者様でも手を抜かずに討伐するハメになったがな。

 

「ここが我々のアジトになります」

 

 アジトは、多数の男性達と美女、老人子供が居た。

 なんでも、老人は不細工筆頭のため毎月処刑されているそうだ。

 そして、この地区で美女ということは、案の定ガリガリに痩せていた。

 どうやら、マリティナが実権を握っておよそ3年でここまでなってしまったらしい。

 恐ろしいディストピアだな。

 

「冒険者様、まずは我々のリーダーに会ってください」

 

 瘦せぎすの男に案内されると、リーダーらしい精悍な男を紹介された。

 

「おお、ヴェドガー! 生きて戻ったか!」

「ええ、ラインハルトさん。こちらの冒険者様にメルロマルクで助けて頂きました」

「ふむ、冒険者様方、ヴェドガーを助けていただきありがとうございます」

 

 ラインハルトは礼儀正しく礼をする。

 

「いえ、こちらも偶然でした。助かって良かったですよ」

 

 樹が柔和な感じで対応する。

 燻製ではこう言う対応はできないから仕方がないだろう。

 燻製が話を切り出す。

 

「でだ、この男から助けてほしいと依頼されたわけだが、理由を話すがいいぞ」

 

 燻製の偉そうな物言いに、ラインハルトはヴェドガー……瘦せぎすの男の方を向く。ヴェドガーはうなづいた。

 

「彼らは強力な冒険者です。あのメルロマルクでクラスアップができるほど、信頼の置ける冒険者です!」

「ふむ……なるほど。これは弓の勇者様の天啓かも知れないな!」

 

 ふと、飾りを見ると弓をモチーフにした飾りが備え付けられている。

 この国は弓教なのかもしれないな。

 樹はその言葉に、ギクリと反応するが、バレたわけではなかったという事を理解してか、少しホッとした様子である。

 

「しかし、弓の勇者様は召喚されたという話だ。詳しい国際情勢はそこまで入っては来ないが、彼らはきっと弓の勇者様が使わした方々なのかもしれないな!」

 

 ラインハルトの言葉に、この場の雰囲気が高揚した気がする。

 だが、樹は相変わらず将軍様プレイを続行する様子であった。

 

「どちらにせよ、ワシ達が助けることには変わらんだろう。早く話せ」

「おおっと、そうだった。すまないな」

 

 ラインハルトは気を取り直すと、依頼内容を説明しだす。

 

「道中で見え来た通り、この国はもうおしまいだ。我々は奴隷のように虐げられるか、処刑されるかの道しか残っていない」

 

 ラインハルトは絶望するような表情でそう断言した。

 それほど、この国は状況が逼迫しているのだろう。

 

「最初はそんな悪政から人々を救うべく立ち上がった我らレジスタンスだったが、我々のリーダーであるジャンヌ=ダルクさんが1月前に捕まってしまい、その後は成すすべなく我々レジスタンスは壊滅の危機に陥ったわけだ」

 

 ジャンヌ=ダルクとはまた史実の人間を引っ張ってきたな。

 まあ、ビックネームだし、引き合いに出してもあり得る話だろう。

 

「なるほどな。そのジャンヌ=ダルクとか言う輩を助け出せばいいのだろう? あいた!」

 

 と、燻製が突然そんな事を言い出す。

 それに対して樹は燻製の足を踏んづける。

 

「ええっと、僕たちに何か手伝えることはありますか?」

 

 どうやら、ジャンヌ救出ルートは樹にとってうまあじでは無いらしい。

 

「え、ええ。そりゃもう助けてもらえるならありがたいですが……。その前に一度国外に出て、装備を整えてから攻めた方が良いかと思います。なんと言っても、ジャンヌさんはコロシアムに捕らえられていますから」

 

 コロシアム……ねぇ。

 俺は樹に囁いた。

 

「もしかして、バッドエンドルートってのはコロシアムに行くことなのか?」

「はい、ジャンヌ救出ルートはバッドエンドルートですね。救出しに行くと、ジャンヌは処刑されてしまい、そのせいで最悪の魔物が召喚されてしまいます」

「……なるほどね」

「いずれ救助しますが、今安直に向かうべきではありません。それに、イベントが発生しておよそ3日目に救助に向かうのがベストな選択肢ですよ」

 

 まあ、ゲーム知識があるならそれに従った方が良いのかもしれない。

 それに、お陰でこのイベントのシナリオが掴めた。

 囚われのお姫様と言うのはジャンヌの事だろう。

 彼女をうまく救助して、レジスタンスの革命を成功させるのがこのシナリオの趣旨だ。

 要するに、このシナリオの主人公はジャンヌなのだ。

 ゲームの主人公はそれこそ、影の立役者の立ち位置なのだろう。

 なるほどなー。

 PSO2でそれやって炎上した気がするんだが、特にEP4みたいな感じで。

 

「と言うわけで、我々から依頼したいのは、国境の突破の手助けです。正直、老人や子供の方が多く、このままでは逃げられなくて……」

 

 樹がチラリと見ると、燻製はうなづいた。

 

「良かろう。では、我々がお前達を守ってやるとしよう。感謝するといいぞ! はっはっは!」

 

 なんでコイツいちいち偉そうなんだろうな。

 俺は呆れるしかなかった。




影の立役者で、主人公と強力な敵に対して、協力して倒す展開って燃えるよね。
そんなイメージのシナリオです。


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【高難易度】カラテノタツジン

 そうと決まれば話は早い。

 俺たち冒険者は遊撃の護衛として、男連中とともにメルロマルクへと女性や子供達を護送することになった。

 護送には、彼らが育てていた馬を用いることになる。

 ラヴァイトは俺を乗せて移動し、他は馬に乗って戦うことになった。

 ちなみに、燻製は馬に乗ったところ馬が鎧の重さに耐えきれなかったため、馬車で待機することになった。

 

「やっぱり、ちゃんと軍用に育てた馬じゃないと重くて耐えられないみたいだねぇ」

 

 と、馬を育てていたおばさんは断言した。

 しかし、馬なんかよくもまあ育てられたものだと思っていると、この時のために育てていたらしく、人間よりも優先して餌を与えていたようだ。

 人間は雑食だからね。

 全員が栄養失調状態のため、俺ら以外には全員にデバフがかかっている状態であった。

 

 さて、日を改めずにすぐにアルマランデ撤退戦をする理由であるが、これは既にこの場所が敵に割れていると推測したためである。

 俺たちが到着するまでに時間がかなりあったはずだし、レジスタンスに協力する冒険者を殲滅すると言う事は、レジスタンスすらも飼い殺しにしていると考えるのが妥当だろう。

 マリティナはこの状況をわざと作り出して遊んでいるのだ。

 

 ならば、冒険者と合流したことが知れ渡れば、すぐに此処は殲滅させられるだろう。

 だからこそ、俺が皆殺しした事で情報の遅延が発生している現状で逃亡を即日実施した方がいいのは自明の理であった。

 

「では、行くぞ!」

「「「おおーっ!!」」」

 

 ラインハルトさんの合図とともに、俺たちは出発した。

 実際、樹もゲームでの最適解がその通りだったため、文句を言ってこなかった。

 

「あれ、NPCがこんな判断しましたっけ?」

 

 と疑問に思っていたがな。

 

「ラヴァイト!」

「グアー!!」

 

 俺は先行して、ラヴァイトと共に魔物を潰していた。

 魔物は進行の邪魔になるし、馬が怯んでしまうからな。

 しばらく進んだところで、俺は殺気を感じて止めるように促した。

 

「止まれ! 敵がいるぞ!」

 

 国境線には、豪華な装飾具を装備した騎竜にまたがるマリティナ聖王国騎士団が待ち構えていた。

 相変わらず紫色のフルプレートを装備している。

 俺の声に、樹やイツキ教の連中がやってくる。

 ちなみにレイファは怪我をしている人達を見ている。

 パーティなので、俺が殺人するとその経験値がレイファやラヴァイトにも入るんだよね。

 だからか、レイファのレベルは24まで上がっていたりする。

 

「来たな、レジスタンスども。よくも俺の部下を皆殺しにしてくれたな!」

 

 この軍団の中で一番偉そうな奴が騎乗槍を構えてそう言う。

 優しい俺は殺した理由をちゃんと教えてやる。

 

「ふん、俺を殺しに来るならば、殺される覚悟を持ってこいよ」

「キサマ……!」

「どうやら、敵のようですね。皆さん、懲らしめてあげなさい」

「「「はい、イツキ様の言う通り!」」」

 

 うーん、やはり宗教だよなぁ。

 しかも、本物の正義を信じている奴は此処にはいないというオチが付いている。

 

 今回は殺すなと言う指令が出ているので、俺は直槍モードで戦うことにする。

 と言っても、直槍モードですら殺意は高いため、トドメを刺さないように気をつける必要があるが……。

 槍が使い慣れ過ぎていて、基本槍ばっかりで戦っているからなぁ。

 剣の腕もボウガンの腕も磨く必要があるな、これは。

 俺はラヴァイトに乗り、不埒な輩が居ないか見て回る予定だ。

 あの連中のことだ、女子供を人質に取ればいいとでも考えてそうである。

 

「行くぞおおぉぉ!!」

「「おおー!」」

 

 侍の掛け声に合わせて、樹隊が先陣を切った。

 

「グアー!!」

「どうどう、ドラゴンは嫌いかも知れんが、レイファを守るためだ、落ち着け」

「グ、グアグア!」

 

 ラヴァイトは騎竜に反応して興奮しているのを抑える。

 ラヴァイトもやはり、レイファを守ることの方が優先順位が高いようだ。

 俺は集中して周囲の気配を探る。

 すると、案の定何人かで待機しているのがわかる。

 2チーム居るのだろうか? 

 その中に、俺の殺意センサーに反応する奴がいるのもわかる。

 

「ラヴァイト、あっちだ!」

「グア!」

 

 正面は樹達に任せて、俺は隠れている気配を殺しに向かう。

 

「そこだ!」

「グアー!」

 

 俺はラヴァイトから飛び降り、槍で攻撃する。

 

「必殺! 乱れ突き!」

「うわあああああああ!!」

 

 隠れていた奴に命中したらしい。

 流石に防御無視ではないため鎧まで切り裂くことはないが、ダメージは入るようだ。

 

「ラヴァイト、蹴散らせ!」

「グアアアアアア!」

 

 なんだかんだ言って、ラヴァイトのレベルも34にまで上がっているしな。

 俺ほどではないしにしても、雑魚ならばラヴァイトでも蹴散らせる。

 

「うわああああああああ!」

「この鳥、強いぞ!」

 

 俺は、リーダーを相手にする。

 

「おりゃ、はあああ!」

 

 短剣で切り刻む。

 鎧のおかげでダメージが軽減されているみたいであるが、鎧に傷が付く。

 

「ぐぬ、つ、強い!」

 

 相手の剣に合わせて、俺は受け流し、剣を奪い四方投げをかける。

 抵抗したせいか、相手の腕がゴキッと音を立てるが知らないな。

 

「あがあ!」

 

 当身を入れてそのまま後頭部を地面に叩きつける。

 グワンと音がなり、リーダーは手足を痙攣させて気絶した。

 

「ラヴァイト、次だ!」

「グアー!」

 

 俺は駆け寄って来たラヴァイトにまたがり、次の波の尖兵が居るところまで駆け寄る。

 ちょうど、馬車の護衛をしていた連中と戦っているところだった。

 

「うはははは! どけどけ! 女は全て俺様のものだ!」

 

 またもやロクデナシの転生者か。

 悪鬼羅刹しか転生させていないんじゃないだろうか? 

 そいつも、紫の鎧を着ているためわからないが、言動や放っている気は間違いないだろう。

 

「死ねええええええええ!!」

 

 俺は人間無骨+を起動させる。

 そして、首を刎ねる。

 

「あっぶね! 死ぬところだったじゃねぇか!」

「チッ!」

 

 どうやら避けられてしまった。

 

「おお、冒険者様!」

「俺がコイツの相手をするから、お前らはほかの騎士団の連中を抑えててくれ」

「わかりました!」

 

 俺はサクッと指示を出すと、そいつに穂先を向ける。

 

「お前、マリティナ様が言っていた危険人物だな!」

「それは光栄なことだ」

「どっちにせよ、お前みたいな奴は嫌いだ。殺してやんよ」

「やって見やがれ!」

 

 奴と俺の剣が交錯する。

 ギンギンと音を立てて刃と刃がぶつかり合う。

 コイツ……できる! 

 俺の戦い方の特性を理解しているのか、力の流れをちょくちょく変更してくるのだ。

 だから、合気道に技を繋げられず、剣戟となってしまっていた。

 

「俺は天才だからな! お前の身のこなしから、サブミッションがメインだと言うことはお見通しだ!」

「チッ!」

 

 俺と奴が数度打ち合う数度打ち合う。それだけで、コイツが何かしらの武術の達人では無いかと推測できた。

 それは、相手もなのか、奴はこう言って来た。

 

「貴様も武術の達人か。俺もそうだ。貴様相手ならば俺様も本気を出せると言うものだ。ふんっ!」

 

 奴は俺を突き飛ばすと、剣を鞘に納めた。

 そして、独特の構えをする。

 

「空手か……!」

 

 猫のように両手を上げて拳を作る。

 空手の構えに似たようなものがあったことを思い出した。

 

「俺の殺人空手で数多くの武術の達人を殺して来たものだ。貴様も俺の殺人空手の前に敗れ去るがいい」

 

 見ればわかる。アイツには武器を使う意味がないだろう。

 だからこそ、俺はクロスボウを装備した。

 ああいう危険な奴には遠距離攻撃が適切だからだ。

 俺が矢を打つと、奴は少ない動作で矢をひらりと回避してしまう。

 俺は走りながら、クロスボウを放つ。

 

「三段撃ち!」

 

 クロスボウから放たれた矢が3つに分かれる。

 魔力で生成された矢だ。

 

「ふんっ!」

 

 奴は矢を拳で払う。

 なんて強さだ! 

 あんな正拳突きを受けたら、内臓破裂どころじゃねぇぞ……! 

 俺は走りながら、クロスボウを打つ速度を上げる。

 奴は矢を払いながら、俺に食らいついてくる。

 

「そうら、もうおしまいか?」

 

 俺はとっさに、右手を出していた。

 それが奴の正拳突きをそらす結果になった。

 いつのまにか近づいた?! 

 俺はクロスボウを腰に下げて、奴の打撃を両手で受け流す。

 うう、ビリビリするぐらい強烈な突きである。

 もし、合気道をやっていなかったらこの時点で詰んでいたのではないだろうかと思うほど、技量が高い。

 

「せい! はぁ!」

「ふっ、ふっ、すぅ」

 

 カウンターで当身を入れるが、余裕で防がれてしまっている。

 俺も全ての突きを受け流しているので、なんとか無傷で済んでいるだけだ。

 

「いいな、お前面白い奴だ。今まで戦った中で強いほうかもしれない」

「それは光栄だな」

 

 だんだん突きの速さが増していく。

 対応できる速さであるが、だんだんキツくなって行く。

 

「スピード上げて行くぜオラあああ!!」

 

 俺は、どうやってこの状況を打破するか、脳みそをフル回転して考えていた。




難易度高めで敵を設置しています。


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【高難易度】セイギノミカタ

 正面、右、左、蹴り、全てを受け流しつつ、俺はババアの元で学んでいたことを思い出していた。

 コイツを倒すには、今の俺では力不足でしかない。ならば、今まで使ってこなかった力……気を使うしかないだろう。

 奴の攻撃を払いながら、俺は呼吸を整える。

 

「スゥ……」

 

 あの呼吸法を思い出す。

 そして、意識してそれを再現する。

 

「ハァ……」

 

 深く呼吸をすると、だんだん『気』と言うものを感じ始めていた。

 魔力とは異なる、生命に等しく宿る何かだ。

 

「はは、そんな付け焼き刃の呼吸法など何の意味がある!」

 

 奴は罵ってくるが、関係なかった。

 イメージは流水岩砕拳だ。

 一番イメージしやすいからな。

 空手に連打などなかった気がするが、奴は連打で攻撃してくる。

 整えた呼吸、そして『気』が活性化したことにより、俺はゾーンに入ったようであった。

 徐々に俺のカウンターが、奴に吸い込まれるように入って行くようになった。

 

「必殺、流水応烈打」

 

 自然とそう口にしていた。

 相手の突きに合わせて、強烈な当身と、『気』を織り交ぜた攻撃を放つ。

 

「う、ぐが! コイツ突然! ガハッ!」

 

 攻撃が入りかつ『気』の攻撃は鎧を貫通してダメージが入るのか、よろけながら奴は後退する。

 

「ミョウダイ様!」

「チッ……、ガハッ! 一旦引くぞ! 態勢を立て直す!」

 

 奴……ミョウダイと呼ばれた鎧はそう判断し、素早く騎士団を撤退させる。

 

「待て!」

「ふん、菊池宗介と言ったな。その名前、覚えておく。次に会った時が貴様の最後だ」

 

 ミョウダイはそう言うと、何かを地面に叩きつけた。

 ものすごい勢いで煙が発生する。

 煙幕か! 

 煙が腫れるころには、奴の部隊は撤収が完了していた。

 

「冒険者様、ありがとうございます!」

「すまない、取り逃がしてしまった」

「いえ、今回の作戦は撤退作戦ですから、問題ありません。先頭で戦っていた冒険者様達も、どうやら敵を撤退させたみたいですよ」

 

 言われて、俺が先頭の方を向くと樹達が戻っていた様子だ。

 被害状況の確認をしているようだ。

 

 しかし、ミョウダイだったか。アイツは傲慢ではあるが、頭がキレる奴のようだった。

 部隊を預かる将としての判断も、間違ってはいないだろう。

 不利を悟って逃亡したとも見えるが、俺や樹達の情報を集めると言う意味では生きて帰ることが重要だからだ。

 ……次に奴と見える時、さらに強力な敵として立ち塞がることが予想される。

 安定しない『気』の使い方をちゃんと我が物にしないと、次は負けるかもしれない。

 

「チッ、ここで奴を殺せなかったのは、大きな痛手かもしれないな……」

 

 俺は舌打ちをする。

 俺の格闘技……『流水』系統の技の習熟が俺の課題なのだろう。

 俺が『気』を用いた技を使うと、『流水』と頭に着く。

 おそらく、俺が流水岩砕拳をイメージしているからだろうけれどな。

 それに、課題も多く見えた。

 剣……ナイフの扱いや、弓……クロスボウの熟練度も上げる必要があることは明白だろう。

 俺は、トドメ以外は基本的に、ナイフとクロスボウを使うことを決めた。

 

 その後、俺たちは無事に国境を越えて、メルロマルクではなく、別の隣国のボウラルドと言う国に逃げのびていた。

 ボウラルドにはすでに先に拠点を作っていたレジスタンス達が待っており、女性や子供、老人達を受け入れてくれた。

 もちろん、レジスタンスとして戦う女性は別であるが。

 

「冒険者様方、ありがとうございます! 無事に脱出することができました」

「ワシらは当然の事をしたまでだ。感謝されるほどではない」

 

 そう言う燻製の顔は、正義を実行できた快感に酔っている顔ではあるがな。

 人に感謝される事よりも、自分の思い描く正義を実行できたことに喜びを感じるタイプなんだろうな、コイツは。救いようのない奴だ。

 

「それで、次の作戦はもう決まっているのですよね」

 

 樹が聴くと、ラインハルトはうなづいた。

 

「ええ、次は我々だけで突入して、各地区の解放を行なっていきます」

「この国のレジスタンスの連中が、武器や薬、食料なんかを集めていたので、これで反撃ができます」

 

 ボウラルドは比較的、食料には困っていない国だ。

 だからこそ、集めることができたのだろう。

 

「ふむ、今までは義理で逃亡作戦までは手を貸していたが、これ以降は依頼として受けるぞ」

 

 燻製がそう言うと、驚きの表情をする。

 

「それは、我々に協力してくれると言うことですか?」

「むろん、そのつもりであるが、報奨金は用意すべきだろう」

「……ふむ、そうですな。では、銀貨350枚でどうでしょうか? 我々に出せる限界なのですが……?」

「安くはないか? もっと……あいた!」

 

 樹が燻製の足を踏みつける。

 それ以上もらうのは正義ではないと判断したのか? 

 

「わかりました。ではその金額で良いでしょう。構いませんね?」

「わ、お、おう……」

 

 一応、リーダーは燻製だと見せかけるためだろうけれども、何だろうなこれは。

 ブレないその姿勢を褒めるべきなのか、何なのか。

 第二の波の後、真槍だとフレオンちゃんと対話するんだっけか? 

 一体どうやって対話するのか気になるな。

 あれ以降読めてないから気になる。

 

「ありがとうございます!」

 

 ラインハルトさんが樹の手を握る。

 感激している幹事である。

 

「やはり、弓を扱う冒険者様は正義の心の持ち主のようですね! 皆にも伝えてきます!」

 

 ヴェドガーはそう言うと、レジスタンス達が待機している場所まで走っていった。

 もう、樹が弓の勇者だってバレているんじゃないだろうか? 

 樹は自尊心を満たしているが、アニメ版の尚文が教皇戦で言っていた通り、勇者の威光を示したほうがいい気がする。

 まあ、俺は口出しはしないがな。

 俺の正義と樹の正義は全くもって異なるのだ。

 

 俺の正義は、もっと合理的なところにある。

 ミニマムだと、レイファが無事なことを前提とするがな。

 

 それでも、樹は結局は勇者様なのだ。

 樹の行いに誰もが感謝し、喜んでいる間は樹が自分の正義を疑うことはないし、燻製達に囲まれている間は傲慢で自分の承認欲求を満たす行為を止めることはないだろう。

 やはり、人間を構成するのは環境だなとしみじみ思う。

 

 誰とつるんでもブレない人間なんていないのだ。

 俺もレイファとともにいる間は穏やかでいられるのもそう言うことだしな。

 

「では、ラインハルトさん、冒険者様方、こちらにどうぞ。これより作戦会議を行います」

 

 俺たちはレジスタンスの一人に案内されて、会議室に向かうのだった。



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【高難易度】サクセン・タイム

 会議室は8畳間程度の広さのある部屋だ。

 ここに大部分が男がいるとどうなるかを考えてみよう。

 おっさんくさい部屋の完成である。

 銃がないため硝煙の匂いはしないが、物々しい雰囲気なのは言うまでもなかった。

 

「さて、では我が国アルマランデ奪還作戦の作戦を説明する」

 

 このレジスタンス基地の一番偉い人が端を発した。

 

「現在、アルマランデ小王国は、稀代の悪女マリティナを王とした政権が誕生している。王一族は皆処刑され、アルマランデ小王国の国体はすでに存在しない」

 

 暗い雰囲気である。

 そりゃ、王族ってのは国が脈々と続く、国の歴史の証明だ。

 俺の世界でも『国体』てのは重要で、イギリスなんかも民主主義国家だけれども、王族を大切にしている。日本もそれは同じだ。

 つまり、アルマランデ小王国は国体と権力を同時に失った状態……すなわち、国が完全に滅んだ状態となってしまったわけである。

 

「だが、あの土地は俺たちアルマランデ小王国の国民のものでもある! あんな悪女に良いようにされて、黙っていられるわけがない! 絶対に取り戻すんだ!」

「「「おおー!!」」」

 

 レジスタンスの連中は威勢良く拳を挙げる。

 樹はよくわかっていない顔をしているな。

 まあ、一般的日本人の感覚だとわからないんだろうけれどね。

 俺も、理屈でしかわからないからな。自分の国の滅ぶ様を見せつけられ、自分の国を好き勝手にする連中に対する怒りの感情は。

 だからこそ、ここまで熱を持っているんだろう。

 

「では、作戦会議を始める。と言っても、諜報部の方で国の情勢は聞いているし、ラインハルト達の生還によって、多くの内情に関する情報がもたらされた。それに……腕の立つ冒険者達の協力を得られている。これで、勝てる要素が出てきたわけだ」

 

 と言っても、連中は軍だ。

 正規の戦争を仕掛けても、倒すことは難しいだろう。

 およそ100人程度の規模では蹂躙されておしまいである。

 

「では、作戦の概要を説明する」

 

 司令官はそう言うと、地図にペンでマークをつける。

 

「現在、我々はアルマランデから見て北部に位置するボウラルドの南東部にいます。流石に100人の部隊が突入すると、バレますので、10班に分けて行動します」

「ふむ、それの目的は?」

「それぞれの地区のレジスタンスの救助です。ゆ……冒険者様は我々レジスタンスの中の2名を加えて10人でチームを組んで頂きたいと思っています」

 

 あれ、レイファが数から抜けているな。

 

「レイファさんは冒険者ではなく一般人の様ですので、こちらに残っていただき、回復魔法でけが人の様子を見ていただこうと思っています。構いませんよね?」

 

 燻製に確認する司令官。燻製がこっちを見たのでうなづいておく。

 俺としても、レイファには居残ってもらうしか選択肢はないのだ。

 レイファのレベルでは、流石にただの足手まといだしな。

 

「構わぬぞ」

「ありがとうございます」

 

 一応は、レイファにも合気道の稽古はつけていたりする。

 レイファは俺の足手まといになりたくないと一生懸命なのだ。

 と言っても、付け焼き刃な現状、レイファの合気道の実力は8級レベルなので、使い物にならないけれどな。

 俺ですら2段なのだ。最高段位が7段だし、7段の先生はそれこそ化物クラスだ。

 ちなみに、4段でようやく道場を持てるレベルなので、道は遠い。

 

「そういう訳で、代わりに地理に詳しいレジスタンス2名についてもらい、行動していただきます」

「良かろう」

「冒険者様には一番攻略難度が高いと見ている、レイシュナッド地方を任せます。解放後に我々と、ラインハルトのチームでコロシアムの解放を行います」

 

 レイシュナッド地方は、王城近くの地区だ。

 収容所も存在しており、収容所にはレジスタンスの偉い人が捉えられているらしい。

 ジャンヌもそこだろうか? 

 今回俺たちが襲うのは、この収容所である様だ。

 

「ちなみに、コロシアム収容の人は別の所に収容されています。我らがジャンヌさんを取り戻すためにも、レイシュナッド地方の収容所の解放は必須です。よろしくお願いします」

「うむ、ワシらに任せるが良い」

 

 そんな感じで、俺たちはレイシュナッド地方に向かうことになった。

 距離にして1日はかかる。

 王城までは、通常のフィロリアルで2日かかる位置であるので、それなりに距離があるのだろう。

 つまり、樹の言っていたベストエンドルートに沿っているという事だろう。

 どうせ、収容所でも分岐があるのだろうから、基本的には判断を樹に任せて、俺は雑魚を処分していけば良いかと考える。

 俺は収容所襲撃班の打ち合わせを聴きながら、そんな事を考えていた。

 俺も小説に思考を引っ張られているのかも知れないな。

 

 実際、今この話に関わってはいるが、本編とは相違が発生している気がしていたのだ。

 最初の波から次の波までに樹に関して具体的に語られているのは、リーシアが加入するイベントだけである。

 だが、リーシアはすでに仲間になっており、下っ端として動いていて俺と話す機会はない。

 だから、ズレていると確信を持って断定ができないし、俺の介入によって原作の改変が起きていないとは断言できないのだ。

 まるで、運命がそう定めているかの様に、俺は四聖勇者連中に認識されていっている。

 樹なんかも、関わることは無いだろうと思っていたのに、関わってしまっている。

 ……メガヴィッチと異なる理が俺に働いているのかもしれなかった。

 このままだと、元康達とも何か共闘をする事になりそうな予感がしている。

 

 世界は、俺に何をさせたいのだろうか? 

 それを問う日が徐々に迫ってきている、そんな気がしていた。

 

「ソースケさん、どうしましたか?」

 

 今回一緒に行く事になったレジスタンスのリノアさんが、考え事をしていた俺の肩をトントンと叩いた。

 しかし、リノアねぇ……。

 あたしのことが好きになーる好きになーる……ダメ? 

 

「ああ、少し考え事だ」

「そうですか。では集中して作戦を聞いてくださいね?」

 

 俺はリノアさんに言われてうなづいた。

 リノアさんは、髪の色こそ違うが、顔の作りはFF8のリノアに似ている。

 VCコンソールでやったっけか。懐かしい。

 FFなんてなさそうな樹はわからないだろうけれどな。

 髪の色、目の色は鮮やかな赤色をしていて、炎の力を持っている事が予想される。

 ファイヤー・エンジンだっけ? そんな感じの色である。

 

 俺はリノアさんを見ながら、そんなくだらない事を考えていた。



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【高難易度】コイスルオトメ

 さて、俺たちは馬車でそれぞれ別の地点からアルマランデに再突入する事になった。

 国境線の警備員はレジスタンス側なので、翌日ならば脱出に使った検問所以外は問題なさそうである。

 ボウラルドはなぜ協力してくれるのかという事に関しては、俺はアルマランデの実権を握りたいためだと考えている。

 それ以外にボウラルドには旨味無いしな。

 

 そんな事を考えながら、ラヴァイトの引く馬車に揺られていた。

 すでに国境の突破は完了しており、雑魚の騎士団を蹴散らした後なのは言うまでもない事か。

 

「ソースケさん、でしたっけ?」

「どうした?」

 

 リノアさんが聞いてきたので返事をする。

 

「ソースケさんはどうして、レイファさんと冒険者をやっているんです?」

「……さてな。俺もよくわからない。冒険者を始めたのは食っていくためだったけれどな」

 

 今の俺はただ、運命に翻弄されているだけだ。

 メガヴィッチの意図する物語の改変を行うつもりは毛頭なく、かと言って別に逃げるつもりもない。

 原作のストーリーが俺を逃さないかの様に重要人物と引き合わせてくるし、その中でなぜ、レイファとともに旅をしているのかと言うのは、正直よくわからないのが現状だ。

 逃げる選択肢もあるにはあるが、俺はレジスタンスの連中を見捨てる事出来ないし、マリティナは俺が殺す相手なのだろう。

 どっちにせよ、今のこの現状は俺ではなく、メガヴィッチや他の何かに与えられた試練の様に感じていた。

 

「レイファさんは恋人かしら?」

「家族だな。妹みたいなものだ。レイファがどう考えているかは、無視することにしている」

 

 レイファが俺に対して好意を抱いていることぐらいは、トーシローでもわかる事だ。

 レイファは俺とドラルさん、ペットのラヴァイト以外には敬語を使って話すし、レイファは結構べったりとひっついてくる。

 これで好意がないと言ったら嘘だろう。

 だが、俺はそれを受け止めるべきではない。

 それはレイファの幸せにはならないからだ。

 だから、俺の中では妹と定義している。

 

「無視する事にしているって……」

「俺にも事情があるのさ」

「ふぇぇ、レイファさん可哀想です……」

 

 何故か、ラヴァイトの馬車に乗っているのは、俺とリノアさん、それにリーシアであった。

 現場に到着したら、3班に分けてそれぞれで行動するためであるが、樹は燻製とシーフとレジスタンス、侍は魔法使いと剣士、で、俺はリノアさんとリーシアになった。

 樹曰く、

 

「レイシュナッド収容所の攻略には、班を3つに分ける方が効率がいいです。僕は攻略の要の部分をやりますので、カレクさん、宗介さんそれぞれで重要な役目を負ってもらいます」

 

 という事らしい。

 侍達の役目は、牢獄の解放と収容者の避難誘導だそうだ。

 俺たちは、脱出経路の確保と、看守の抹殺、それに樹の攻略に合わせてとある設備を確保することらしい。

 樹の役目は、時間制限のある収容者の回収と、ボスの討伐だそうだ。

 なんでも、その収容者は時間をオーバーすると処刑されてしまうらしい。

 で、その為にも、俺はとある設備を最速で確保する必要があるそうだ。

 

「宗介さん単独でも構わないかと思いましたけど、道案内にリノアさん、監視の意味合いでもリーシアさんをつけさせていただきますね。他の方だと、いざという時に連携できなさそうな気がしますからね」

「そいつは有難い」

 

 と二つ返事で請け負ったのだった。

 

「でも、ソースケさんが何で賞金首になっているのかわからないですぅ。話してみると、イツキ様と同じように正義感のある方の様に見えますし……」

「確かにね……。逃げる事だって出来たでしょうに、あたしたちを手伝ってくれているし」

「ま、俺はクソ野郎限定だが、冒険者を散々殺してきたからな。それで指名手配されてしまったんだろうな」

 

 それ以外に理由は分からなかった。

 襲ってくる以上は殺す以外にないだろう。

 下手に生かしておくと、後々困るからな。

 

「それに、俺がレジスタンスを手伝うのは、この国を支配している奴が気に食わないからだな。誰かさんと違って、正義感を満たすためではない」

「あはは……」

 

 リーシアは困った様な表情をする。

 

「ああ、あの感じの悪い鎧ね。あたしもあの鎧は好きじゃないわ。あの腐った目は、この国の騎士連中とよく似ているもの」

「ふぇぇぇ。あ、あまりマルドさんの悪口を言わないでください!」

 

 樹はまだ、ちゃんと正義を成そうとしているが、燻製はな。

 人を貶めても悪とも思わない、俺に逆らう奴は皆悪だって思ってそうである。

 樹の場合は片方の意見……ノイジーマイノリティだけを聞いて突撃してしまう、阿呆な連中と同じイメージだが、燻製は意図的にノイジーマイノリティを取り上げて、いう事を聞かなければレッテルを貼って侮辱する奴らと同じだと俺は思っている。

 樹の仲間連中は少なからずそう言う奴らが集まっている様に感じる。

 と言うか、燻製と侍達は仲がいいのだ。

 まるで旧知の仲である様にな。

 類友なのか、よく分からないがな。

 

「あんな奴、かばう必要はないでしょ。ま、強いみたいだし、利用させてもらうけれどもね」

 

 リノアは燻製が強いと思っているみたいだが、とんでもない。

 雑魚中の雑魚だろう。

 陰謀以外に脳細胞を使うつもりがないのだからな。

 

「ふぇぇぇ」

 

 まあ、こっちで組む分には問題ないだろう。

 リーシアはレベル70を超えないとステータスが低いままの雑魚だと言う点に注意をしておけば、問題はない。

 リノアはレベルは38だったりするのはまあ、仕方のない事だろう。

 世の中はクラスアップをすると言うのは相当難しい事なのだから。

 

「そういえば、リノアさんって耳は人間なのに猫の尻尾があると言うことは、半亜人ですか?」

 

 リーシアが指摘して初めて気がついた。

 そう言えば、確かにリノアは耳は人間だが、猫っぽい尻尾がある。

 瞳もよくみると猫っぽい。

 

「そうよ。メルロマルクでは見かけることは少ないかもだけれど、猫の半亜人ね。あたしみたいに人間の耳で、亜人の特徴の尻尾があるなんて、珍しいかもだけれどね」

「シルトヴェルトだと嫌悪される存在ですからね。下手すると、人間よりも扱いが低いとか」

「良く知っているわね。まあ、あたしはアルマランデ出身だし、シルトヴェルトには行ったことないから分からないけれどね。それに……」

 

 リノアはそう言うと、尻尾をスカートの中に隠す。

 

「こうすれば人間にしか見えないのだから、普通に暮らす分には問題ないわ」

 

 まあ、見た目で判断している以上はそうなるだろう。

 

「でも、リノアさんはなんでレジスタンスに参加されているんですか?」

「……あたしの生まれ故郷だからよ。アルマランデはあたしの様な半亜人の受け皿になってくれた国だしね」

 

 戦う理由は人それぞれである。

 故郷を取り戻したいと戦う人たちも俺の世界でも多くいたはずだ。

 東ティモールとか、チベットとかはそう言うイメージがある。

 

「リーシアちゃんは、なんであいつらの仲間をやっているの? リーシアちゃんみたいな純粋な子が所属する様なパーティじゃないと思うんだけどな、あたしは」

「ふぇぇ、私はその……イツキ様に助けていただいたので……その……」

 

 それだけで、何かを察するリノアさん。

 

「なるほどね、あの弓を持って戦う冒険者ね。……大変な道よね。進展がある事を祈るわ」

「あ、ありがとうございますぅ……」

 

 リノアはリーシアに同情する目線で肩をポンと叩いた。

 

「少し外を見る」

 

 俺はガールズトークに耐えられなくなり、外の様子を見ることにした。

 

「わかったわ」

「行ってらっしゃいですぅ」

 

 俺が出ると、ラヴァイトが退屈そうに馬車の後を追って馬車を引いているところだった。

 今は競争じゃないしな。

 

「ラヴァイト、退屈か?」

「グアー……」

「もうしばらくの辛抱だ。我慢してくれ」

「グアグア」

 

 俺たちは収容所に向かうために、樹の馬車を先頭に移動している感じである。

 しかし、一応森……いや、枯れ木しか無いのだが、森の中を進んでいると退屈であった。

 道なりに進んでいるとはいえ、こうも景色が変わらないと、眠くなってきてしまう。

 出てくる魔物も樹が弓で仕留めてしまうので、うまあじが無かった。

 

 その日は野営をして一晩明かすことになった。

 

 翌日もそんな感じで馬車の旅を過ごしていると、いよいよ異様な建物が見えてきた。

 まるで、某ゲームのドラキュラ城の様な見た目をしている。

 

「あれが、レイシュナッド収容所……!」

 

 リノアの声がしたので、振り返ってみると、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。



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【高難易度】センニュウ・ソウサ

R-15の内容が含まれるかな?


 レイシュナッド収容所は、まさに悪魔城のそれだった。

 魔王の城っぽい監獄と言ったところか。

 近づいてみると、高い壁に囲まれており、鼠返しまで付いている。

 侵入経路は、正面の入り口しかない徹底ぶりである。

 近場に馬車を止め、俺たちは樹と合流する。

 リーシアは樹の元に戻り、慌てた様子で下っ端作業をする。

 

「樹、これはどうやって入るんだ?」

「もちろん、入り口から入りますよ」

「……囮役をやれって事かよ」

「いえ、この程度の人数ならば、僕がパラライスアローを撃ちます。全員が効果時間中に突入すれば問題ないでしょう」

 

 いや便利だな、勇者スキルってのは。

 俺の使えるのは完全に『技』に分類されるからな。

 俺が使える『技』はソードブレイクができる短剣の技や、合気道を交えた『流水』系統の技、後は槍や弓の技ぐらいなのだが、麻痺や沈黙、毒と言った技は事前に薬を仕込む必要がある。

 

「オーケー、了解だ」

「では、突入準備が出来次第放ちますね」

「おい、リーシア!」

「ふえぇぇ、わかりましたー!」

 

 燻製の指示に従って物品を準備するリーシア。

 俺はポーチの中に今回分の薬品を入れているので問題ないが、他は準備が必要だからな。

 仕方ないので俺も手伝う。

 リーシアが入った馬車に入って、俺はリーシアの作業を見る。

 どうやら今更薬袋の作成らしい。

 自分たちで準備はするつもりはないのだな……。

 

「手伝う」

「ふえぇぇ? これは私の……」

「一人でやって樹を待たせるわけにもいかないだろ。こういうのは数人でやった方が早く終わるってもんだ」

 

 俺はテキパキと薬品の分類と人数分の袋を準備してそれに樹達が準備したものを仕舞う。

 自分の分でよくやるので、もはや慣れたものである。

 

「しかし、本当に学習しねぇな燻製の野郎は。勇者の調合する薬品だけじゃ状態異常対策は万全にはならねぇといつになったら理解するんだ?」

「ふえぇぇ、それ、私が準備しました」

「どっちにしても、リーダーなら準備する様に指示するのが当然だろ。責任者は燻製だから燻製が悪い。下請けするなら注文はちゃんと正確にするのが義務ってもんだろ」

 

 俺の中では燻製は悪だ。

 元の世界にもこういう奴は大量にいたが、実際目の当たりにするとな……。

 樹はもはや忠告を受け入れられる様な精神状態ではないだろうし、無駄だからしないがな。

 

「ふぇぇ……」

「まあ、燻製の奴らには状態異常対策なんて不要だろうから、永遠に買う必要はないがな」

 

 俺は笑いながら、連中のセットを整えてリーシアに袋を渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

「さ、さっさと配ってこい。時間が無いからな」

「は、はい!」

 

 リーシアはそう言って各々に回復薬一式を配りに行った。

 

「犯罪者! キサマ、何故リーシアを助けた?」

 

 馬車から出てくると、憤怒の表情の燻製が居たが、知ったことでは無い。

 

「時間短縮だ。相変わらずお前はこんなことやっているんだな」

「リーシアは下っ端だから当然のことだ」

「はっ、良いからサッサと収容所に突入するぞ」

「待て! キサマ!」

 

 声がでかいんだよな。本当に無能な働き者の見本である。

 幸いにして、見張りの兵は気づいていない様であった。

 

「パラライスアロー!」

 

 樹は麻痺の状態異常を引き起こす矢を飛ばす。

 矢は不思議な軌道を描いて、連中に命中し、ドサっと倒れた。

 

「皆さん、行きますよ」

「「「「はい、イツキ様」」」」

「了解です」

 

 各々返事をするが俺はうなづくだけにしておいた。

 樹と俺は麻痺で昏倒している騎士のところに近づくと、鎧を剥ぐ。

 こういう場合は怪しまれない様に敵と同じ格好をするのが定石だ。

 

「パラライスアロー」

 

 詰所の騎士も昏倒させて、俺たちは全員分の鎧を確保する。

 それにしても、剥いた騎士達は全員イケメンであるのがわかる。

 鎧は詰所に設置して、詰所の中に連中を紐で簀巻きにしてぶち込んでおく。

 殺した方が後ぐされなくていいんだけれどなぁ。

 と考える俺はもうダメかもわからんね。

 

「全員着ましたか?」

「ふえぇぇ、結構ぶかぶかですぅ……」

 

 男性用しか鎧がないのだから仕方のない問題である。

 一応、似た背格好の奴の鎧を確保したので(予備の鎧が詰所にあった)、背の一番低いリーシア以外はそこまで動きを阻害しないのだ。

 

「ふん。ではそれぞれ散開して、役目を果たすのだ。我々の正義を示すためにも、タイミングを見誤るなよ?」

 

 燻製の言葉に、全員了承するようにうなづいた。

 そして、各班別れて行動を開始した。

 

 俺たちの達成目標は脱出経路の確保と、看守の抹殺、それに樹の攻略に合わせてとある設備を確保すること。

 脱出経路の確保自体は移動しつつ使えそうな場所を探索すればいいだろう。

 最初にやるべきは、看守の抹殺である。

 これは、奴隷紋の関係だな。

 こういう犯罪者を収容する施設と言うのは、この世界では囚人が反抗しない様に奴隷紋を強制させて、奴隷契約を結んで拘束するのがこの世界の常識だ。

 そのため、奴隷紋の権限を持ている奴全員を皆殺しにする必要がある。

 樹が倒すこの収容所の長官はもちろん、看守連中も全員殺す必要があるのがミソだ。

 権限が残っていたら、この収容所を出た瞬間に死亡と言うのはあり得る話だからだな。

 侍達も、下位の看守を殺す必要があるため、俺たちがやるのは上位の看守の抹殺になる。

 まあ、侍達には魔法使いもいるし、重要人物分の解呪の儀式に必要なものは侍班が持っているので、要人救出は大丈夫だろう。

 

「こっちよ!」

 

 俺はリノアさんの案内に従って、上位看守の抹殺を行うために移動していた。

 もちろん、怪しまれないためにも走ったりはしないがな。

 騎士以外は基本的に素顔を晒して働いているため、奴隷紋オーナーを見分けるのはたやすそうであった。

 ちなみに、今の同行者設定はレイファ、リノア、リーシアとなっている。分隊で分隊リーダーが俺、本隊が樹となっている感じだ。

 しかし、フルフェイスは見えにくいな。もちろん、仮面ライダーの様に見えにくいアクションスーツ程ではなさそうだが、これで戦うのはなかなか難しいだろう。

 頭部は守れるので、安心感はあるが、視界が制限されるのが辛いところだ。

 

「居たわね……。アイツよ。奴隷紋のオーナーは」

 

 騎士に対して偉そうに講釈を垂れているおっさんがいた。

 燻製と同じような顔つきであるのが見て取れる。

 実際、偉いのだろう。

 

「オーケー、アイツね。しかし、よくわかったな」

「レジスタンスに協力してくれる人が居るからね。全員が全員マリティナを信望しているわけじゃないと言うことよ」

 

 まあ、聞く限りだとかなり悲惨な悪政だからな。

 取り立てたやつからマリティナが嫌われていたとしてもおかしくはない。

 だからこそ、レジスタンス達は活動できるのだろうがな。

 ジャンヌはそこまで熱い指示を集めていると言う証左でもある。

 

「なるほどね」

 

 俺はそう言いつつ、通り過ぎる。

 顔がわかれば、後は情報収集を行い行動パターンを把握して、一人のところを暗殺するだけである。

 

「ちょ、なんで見過ごすのよ!」

「今はタイミングが悪いからな。オーナー権限はアイツだけか?」

「そこまでは……」

「正確なことはわからないか。それじゃあまあ、アイツ長官っぽいし、アイツの部屋を見つけて、奴隷紋の管理権限の仕様を確認するのが先だな」

「そうね」

 

 と言うわけで、俺たちは聞き込みをする事にした。

 聞き込みの結果、長官の名前はガーフェル=ライラロック、37歳だと言うことがわかった。

 長年収容所の所長をやっていた人物で、いち早くマリティナに取り入った人物だそうだ。

 確かに所長の顔は豚の様に見える。

 残念ながらイケメンとは言えないだろう。

 レイシュナッド収容所の長官はアッシュ=ランゲトルージュと言うイケメンらしいがな。

 こっちは、樹案件なので無視する。

 で、俺たちは上手く所長の事務室に侵入することができたのだった。

 

「さすが、所長というだけあって豪華な部屋ね」

「ふぇぇぇ。私の実家よりお金持ちな感じですぅ」

 

 実際金を持ってそうだ。

 様々な勲章やトロフィーが並べられており、他にも成金趣味の自分の像があったりと趣味が悪い部屋だ。

 

「ん、なんだね君たちは?」

 

 どうやら、ご在宅であった様である。

 俺は、マリティナ聖王国式の敬礼をして、こう告げた。

 

「はっ! 定時報告の資料を代理でお届けに上がった次第でございます」

「……そうか。ならば、そこの書類入れに入れておきたまえ。ワシは忙しいのでな。ぐふふ……」

 

 何ともまあ、だらしのない声である。

 グポッグポッと音がするのは気のせいではないだろう。

 

「了解しました!」

 

 俺はそう言って、資料を箱に入れる。

 そして、人間無骨+でばっさりと首を刎ねる。

 呆気なく飛ぶ生首。

 一瞬見えた顔は醜く快楽に歪んだ顔であった。

 

「んはぁ、あれ、所長様、どうされ……」

 

 俺は素早く、女の口を塞ぐ。

 目を見開き、叫び声を上げる女。

 口を塞いだおかげで、そこまで大きい叫び声にはならなかったが。

 しかし、美女だしエロい格好をしている。

 

「おい、叫ぶな。助けに来た」

 

 俺はナニを丸出しの首なし死体を蹴り飛ばす。

 

「いいな?」

 

 俺が聴くと、女は首を高速で縦に振る。

 

「いいぞ」

 

 俺がそう言うと、固まったままだったリノアさんとリーシアが動き出す。

 

「ふ、ふぇぇぇぇ……」

「何の躊躇いも無く首を刎ねたわね……」

 

 リーシアは足をガクガクさせており、リノアさんはドン引きした様子だ。

 

「虫けらを殺すのにそんな躊躇いとかあるか? ああ、奴隷の子がいる様だから保護してやってくれ」

「ふぇぇぇ、わかりましたぁ」

 

 リーシアが奴隷の子を保護する。

 目に毒な格好をしているので、あまり見ない様にしよう。

 

「リノア、物色するぞ」

「わかったわ」

 

 俺たちは部屋の物色を始める。

 幸いにして、机の上はあまり血液が飛び散ってはいなかった。

 下腹部に血が入ってたのだろうか? 

 一通り漁っていると、規則マニュアルが出てきた。

 文字が若干異なるため、読み辛い。

 

「リノア、読めるか?」

「ん、任せて」

 

 リノアがマニュアルを読み始める。

 俺はリノアに資料を任せて、色々と部屋を物色し始めるのだった。




所長がナニをしていたのかは、ご想像にお任せします☆


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【高難易度】スクウベキ・ヒトビト

R-15な感じ??


 漁っていた資料を紙に図としてリノアさんに書き起こしてもらう。

 奴隷紋の統括はどうやら、さっき首を刎ねた所長がやっていた様で、下に13人の看守が権限を持っている様だ。

 

「なるほどな。この13人を殺せば、達成目標の1つが完了するのか」

「そうね。ただ、重要度の高い囚人は長官が直接管理しているみたいね」

「ま、長官は樹に任せれば大丈夫だろう。残りは俺らと侍で処理すれば問題なしか」

 

 まあ、連中なら自分の正義欲を満たすためなら殺しも躊躇わない連中だ。

 13人を消すのは問題ないだろう。

 俺がそんなことを考えていると、リノアさんが呼び名に対して呆れて言ってきた。

 

「サムライって……。あなた、結構変なあだ名付けて呼ぶのね」

「見たまんまだろ? 俺は奴らとは馴れ合うつもりはないからな」

「あー……。まあ、鎧のマルドとの様子を見ている限り、仲間だとは思っていなかったけれど、敵対関係なんだ」

「そういう事。事情があって殺せないが、その事情がなければ俺は全員殺すだろう程度には嫌っている奴らだ」

「……ソースケがそう言うって事は、そうなんでしょうね」

 

 やっぱりドン引きするリノアさん。

 虫を殺すのと違いがわからなくなっている俺としては、逆に引かれる方が理解ができない。

 やはり、俺はすでに狂っているのだろう。

 

「ソースケさん、この子はどうしますか?」

 

 リーシアが俺に聞いてきた。

 目に毒すぎる格好をした美少女だ。

 Fカップはある形の良い乳、スタイルは良く、性奴隷目的のせいか、食事とかは所長が気を配っていたのだろう、ムチムチな感じである。

 それをスリリングショットで隠しつつ、腰にはシースルーのスカートを履いていると言った感じの服装である。

 あー、ダメだエロすぎる。

 顔は、可愛い系の美女だし、うーん、エロ漫画の見過ぎレベルである。

 俺はすぐに顔をそらす。

 

「処遇はリーシアに任せる。とりあえず、その格好をなんとかしてくれ……」

 

 忙しすぎて禁欲生活が長引いている俺としては、非常に困る。

 と言うわけで、その奴隷の子に体が見えない様にローブをまとってもらう。

 

「そ、その、ありがとうございました」

「まだ解放されていないだろう? とりあえず、この部屋からアンタを連れて脱出する必要があるな」

「そうね。ただ、この服だとカレクたちに引き渡したらマズイことになりそうなのが問題よね」

 

 まさか、性奴隷と一緒にいるとは思わないもんな。

 

「で、アナタはなんて言うの?」

「アーシャです。私は美女だからという理由で投獄されました」

「なるほど」

 

 マリティナの被害者であった。

 

「それから、所長様や他の方にご奉仕をする事を条件に生かされ続けている感じです」

「……」

 

 なるほどな。

 アーシャは性処理係として使われ続けていたのか。

 リノアさんとリーシアは怒りで震えていた。

 

「ソースケさん、私、許せません!」

「そうよ! 到底許しちゃいけないわ!」

 

 しかし、女王が治めているはずなのにこの始末なのか。

 それもなんだかなといった感じである。

 

「私の他にも、そういう事をして生かしてもらっている方が居ます。その方々も助けてもらえないでしょうか?」

「もちろんよ! ねぇ、ソースケ!」

「助けますよ! ソースケさん!」

 

 力強い目を俺に向けてくる二人。

 これは、仕方ないかもしれなかった。

 

「わかってる。だが、優先順位はわかっているよな?」

「ええ、看守と言わず、皆殺しにしちゃいましょう!」

「ダメです! ちゃんと国を正しく戻してから、罪を償わせましょう! これは悪です!」

「どっちでも良いが、リノア、国を取り戻すのが先だ。殺すのは最小限にした方がよさそうだぞ」

 

 俺から注意すると、何故かお前がいうなという目線で俺を見るリノアさん。

 俺は一応、必要がなきゃ殺さないからね?! 

 口封じとかが有効だと思えば躊躇いなど無いが。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 何故かアーシャはギュッと俺を抱きしめてきた。

 鎧を着込んでいるためあんまり感じないけどね。

 

「はいはい、それじゃあ長居すると怪しまれるからな。とりあえず、看守連中13人の連中を殺すためにも、探索を再開するぞ」

「「おおー!」」

 

 俺たちは兜を再び被り、アーシャを連れて探索を再開した。

 普段からこの際どい格好を強制されているらしく、ローブを脱がせて連れまわすことになったのは、なかなかに辛い。

 連れ回していると、アーシャは身体を触られまくるし、その度にリノアさんとリーシアが怒るため、なだめるのに苦労した。

 だが、その甲斐あって、情報の収集が完了する。

 

 アーシャを連れて何故か気苦労が増えた気がするな。

 それほど、女子の怒りは怖いという事だろう。

 

 さて、アーシャには一度待機してもらうことにする。

 何処にと言うと、性奴隷の女性たちが監禁されている牢屋にだ。

 リノアさんとリーシアは反対したが、やはりアーシャがいると足手まといなのだ。

 

「ダメよ! そんなの!」

「いや、アーシャがいる事によってお前らが暴走するからなんだが? それに、木は森に隠した方がいいだろう?」

「うぐ、それを言われると……」

 

 リノアは言葉に詰まる。

 リノア達の暴走で、予定より時間が押しているのが現状である。

 

「私は大丈夫です。それよりも、この国を取り戻すために頑張っている皆さんの邪魔になりたくないですし」

「アーシャちゃん……」

 

 既に3人には友情が出来上がっていた。

 美しい友情である。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

 と言うわけで、俺たちは性奴隷を収容している牢屋に向かう。

 到着早々、俺は見張りに話しかける。

 

「所長から、この子を返してくるように言われた。開けてもらえないか?」

「ああ、構わないぞ。AD01203だな。鍵はこれを使ってくれ」

 

 俺は牢屋の鍵を受け取る。

 

「ありがとうな」

「仕事だしな。俺も遊びたいが、お偉いさん以外はお金払わないと使えないんだよね。俺も偉くなりたいものだぜ」

「はは、ご愁傷様」

 

 俺はそんな軽い会話をしつつ、中に入る。

 俺の会話に憤慨するリノア。

 

「何よ! なんで文句の一つも言わないのよ!」

「リノア、お前ここに何しに来たの?」

「う……」

 

 俺に言われて言葉が詰まるリノア。

 全く、優先順位を考えてほしいものである。

 

「さて、AD01203だったか」

 

 しかし、このフロアは目に毒な光景が広がっていた。

 個別に檻に入れられているが、肌色が非常に多い部屋だった。

 ご無沙汰なせいで童貞みたいな反応をしてしまう俺自身に悲しくなる。

 

「ここですね」

 

 リーシアの指摘に、俺は番号を確認する。

 

「それじゃ、アーシャはここで待機だ。必ず助けるから、大人しく待っているんだぞ」

「はい、ソースケ様」

 

 ゾッとした。

 そう言うのはやめてほしい。

 

「ソースケで良い。とにかく、事が終わったら解放しに向かうから、大人しくしておけよ」

「はい!」

 

 あー、クソ。

 全くもってやれやれである。

 アーシャが大人しく牢に入ったのを見届けて、俺たちはこの場を離れる事にした。

 これから血生臭い暗殺の開始である。

 それだと言うのに、俺はすっかり毒気を抜かれてしまった気分だった。



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【高難易度】ブラック・ウィドウ

 あの性欲女と別れてから、俺は順調に奴隷紋のオーナー連中を殺して回った。

 いやまあ、場所と行動パターンがわかれば、一人になった時にこっそりと殺害するのは難易度が低かったわけだが。

 当然ながら、ここまで殺害すると騒ぎが大きくなる。

 囚人が暴れ出したと大騒ぎになるのだ。

 俺たちはその流れに乗じて、脱出経路の探索を始めた。

 そう、奴隷紋のオーナーを全て殺したので、囚人達が暴れまわっているのだ。

 おそらく、侍達が先導しているのだろう。

 

「C地区、厄介な囚人が武器を持って暴れています!」

「所長はどうした! 何故奴隷紋が発動しないんだ?!」

「おい、誰か指揮が取れる奴はいないのか?!」

「看守は何をしている?!」

 

 と、絶賛大騒ぎ中である。

 大概スニーキングからの首刎ねで俺が殺したからなぁ。

 どったんバッタン大騒ぎである。

 ジャパリパークではなく収容所で、ケダモノは居るし除け者もいるがな。

 

「うまく行っているようね」

「そうだな。そろそろ時間だから移動するぞ」

 

 樹の言っていた例の場所に移動する俺たち。

 これは、転移魔法陣である。

 原作にはこう言うのあったっけか? 

 だが、ダンジョンのトラップなんかではよくある設定なので、存在するのかもしれない。

 この転移魔法陣は緊急脱出用の魔法陣らしく、樹達とここで合流してボスと戦う事になっている。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 俺はリノア達にブーストをかける。

 

「ここから敵が出現するのね」

「ああ、もう鎧は脱いで問題ないぞ」

「既に脱いでるわ」

 

 リーシアもリノアも、既に鎧は脱いでいた。

 俺は、鎧を二重に着るのは難しかったので、小手と一緒に小屋に置いたままだ。

 来る敵はゴーレムである。

 要人を連れ出そうとすると、出てくるボスでここにくるまでは何度破壊しても復活すると言う迷惑極まりないゴーレムである。

 いやもう、このイベントってなんかFF8っぽいよなー。

 ちなみに、ここで破壊しないとグッドエンドには行けず、要人が死んでしまうし、ここで出てくるゴーレム再出現してしまうそうである。

 

 と、しばらく待っていると魔法陣が輝いた。

 そして、樹達が現れる。

 燻製の奴ボロボロじゃねぇか。

 

「宗介さん、来ます!」

 

 樹の声で俺は槍を構えると、ドシーンと何かが着地して地響きが起きる。

 それは、カニのようなゴーレムであった。

 そう、FF8の序盤でトラウマになる追っかけてくるカニ型の機械! 

 それに似た姿をしている。

 

「KISHAAAAAAAAAAA!!」

「な、なによコイツ!」

「ふえぇぇぇ!!」

 

 カニが吠える。

 そして、リノアが驚きリーシアがふえぇする。

 しかし、でかいな! 

 

「皆さん、ここからダメージが通ります! 雷系の技が有効ですので、使える方はお願いします!」

 

 うーん、ガンブレード欲しいな。

 カニが爪を振りかぶる。

 リノアの武器はブーメランである。

 流石に、犬はいないみたいだけれど。

 イメージは飛来骨な感じだけれどね。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え!』

「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」

 

 俺は必殺技のために、手に雷を纏う。

 

「ツヴァイト・ウインドショット!」

 

 リーシアが魔法を放つが、あまり聞いていない様子だ。

 俺が槍に雷を纏わせると、赤黒い色に変わる。

 

「必殺! 雷大旋風!」

 

 攻撃が命中すると、バチバチと言う音とともに大ダメージが入る。

 なるほどな、俺なら結構簡単に倒せそうである。

 当然ながらカニの攻撃目標が俺の方に向く。

 ツメの攻撃がくるので、俺は槍で上手く受け流す。

 

「ツヴァイト・ファイアショット!」

「ツヴァイト・ウインドブラスト!」

 

 魔法攻撃も飛んでくるが、カニは俺を攻撃してくる。

 それにしても、燻製と樹は何をしているのだろうか? 

 

 俺は防御無視の十卦モードに変形させる。

 お、必殺技が使えそうである。

 

「必殺! カズィクル・ベイ!」

 

 どうも、必殺技の名称というのは俺の知識から命名されるっぽかった。

 カズィクル・ベイを宣言すると、俺は地面に槍を突き刺していた。

 すると、魔力で構成された槍がカニの足元から生えてきて、突き刺し、多段ヒットのダメージを与える。

 召喚した槍は血濡れの槍であり、形状は異なれど禍々しい槍であった。

 

「何ですか、そのスキルは?!」

 

 それに樹が驚いている。

 うーん、血を吸う事によって発動する必殺技一つかな? 

 槍を見ると、槍の穴に溜まっていた血が消費されているのがわかる。

 なるほど、『ブラッドチャージ』はあの禍々しい必殺技を発動するための血を集めるためのスキルなのだな。

 

「串刺し公の必殺技を再現しただけだ」

 

 俺としては、この技はカーススキルに似て非なるものじゃないかと思うんだよね。

 樹の犯されたカースを元康が発動した場合に発動しそうな感じ。

 俺の場合は代償は槍に溜まった血だろう。

 

 ガズィクル・ベイで負ったダメージで身動きが取れなくなるカニ。

 だが、HPはまだまだ十分に残っている。

 樹と燻製以外のメンバーが総攻撃を仕掛ける。

 前衛は樹に着いていったレジスタンスと俺しかいないのが残念であるが。

 シーフは撹乱しつつ、魔法攻撃をしてくれている。

 あ、リーシアは遠距離で魔法を唱えさせている。

 あいつ、弱いけれど全ての魔法が唱えられるからね。

 しかし、リノアのブーメランでの攻撃ってちゃんと効くんだな。

 当たったら戻ってくるようで、それを受け取りまた投げると言うのを繰り返している。

 総攻撃でだいぶダメージを受けたカニ。

 そろそろトドメを刺そうと俺が構えると、樹達が動き出した。

 

「わはははは! 喰らえ! ワシの斧!」

「サンダーシュート!」

 

 燻製が俺やレジスタンスの人を押しのけて攻撃を始める。

 カニは動けなくなっており、燻製の攻撃は普通に命中する。

 そして、樹の矢の一撃で大ダメージが入り、カニはスクラップになった。

 

「……」

 

 経験値は入らなかった。

 うーん、この。

 ラストアタックだけを綺麗に掻っ攫っていった感。

 リノアは唖然としており、レジスタンスの人も驚いていた。

 これが、勇者様かぁ……。

 何だかなぁと思わずにはいられなかった。




今回のシナリオの大元がFF8のパロです(´^ω^`)


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【高難易度】ブラッド・ウィドウ2回戦

 唖然としていても仕方ない。

 とりあえず、その要人と話す事にした。

 髪の毛がボーボーの男性がいた。

 

「あんたが、レジスタンスの要人か?」

「え、ええ。私はジル、ジル=ドゥレイと言います。助けていただき感謝致します」

 

 ジル・ド・レェか……。

 登場人物はオルレアンで、この国はガルバディアかよと突っ込みたくなるな。

 いや、例えやすいから良いけどさ。

 

「この方は、元騎士団の中将さんで、レジスタンスに協力してくださっている騎士団の統率を行なっていた方よ。ジル中将、お久しぶりです」

「ええ、リノアさんもご健勝のようで何よりです。事情はイツキさんから聞いています」

 

 なるほどね。

 リノアが信用していると言うことは、信用できる奴なのだろう。

 それに、重要参考人として捉えられていたのだ。

 あと、『イツキさん』と言ったと言うことは、樹は身分を隠したままらしい。

 

「他に重要参考人として捉えられている奴は居ないのか?」

「他は、処刑されたり、コロシアムに連れて行かれたりしました。我らがジャンヌ様も、コロシアムに10日ほど前に連れていかれています」

 

 と言うことは、ここで助けるべきはジル中将のみと言うことだろう。

 

「了解だ。今は囚人達が収容所内で暴れまわっている。その騒ぎに乗じてここを脱出するぞ。逃走経路は確保してあるから、俺たちについてきてほしい」

「わかりました。えーっと……」

「ああ、俺は菊池宗介だ。一応冒険者だ」

 

 俺が名乗ると、ジル中将は驚きの声を上げる。

 

「ええ??! 隣国で指名手配されている《首刈りの》ソースケですか?!」

 

 やっぱり、俺の悪名は轟いているらしい。

 

「あー、まあ、そうだ。お前らの味方だから、心配しなくても良いぞ」

「こ、これは確かに頼もしいですね……」

 

 ジル中将の驚き方に、リノアが納得していた。

 

「なるほど、ソースケは《首刈りの》ソースケだったわけね。ならあの強さは納得できるわ」

 

 リーシアはわかっているせいか、驚きはない。

 

「ま、そう言うことだ。訳あってお前達に協力している」

 

 俺が説明すると、訝しむような目で俺を見る。

 そんなに疑われても困るのだがな……。

 不意に視界の隅でカニが動いた気配がした。

 

「皆さん、撤退しますよ!」

 

 樹が急にそう指示をしつつ、逃亡を始める。

 それに燻製、シーフが続く。

 他の連中は訳がわからず、とりあえず樹の後をついて行く。

 俺はふと振り返ると、カニのHPバーが回復している事に気付いた。

 

「なっ?!」

 

 俺を殿(しんがり)に全員が転送魔法陣の部屋を出ると、後ろからガシャガシャと言う足音が響いてくる。

 そして、部屋の壁をぶち破って追いかけてくる。

 ミサイル基地の追いかけっこイベントじゃねぇか! 

 

「とりあえず、逃げます! 道中遭遇したら撃退して機能停止させます!」

「わ、わかりました! イツキ様!」

「なんだ! あのゴーレムは?! もう倒したのは3度目だと言うのに!」

「ふえぇぇぇ!! おそらく再生機能があるゴーレムですぅ!」

 

 慌てふためく樹組。

 

「きゃああああ! ちょっと、怖いんだけど! ソースケ、なんとかして!」

「ひええええええ?!?!」

「あれは重要な囚人が逃亡した時に確実に殺すためのゴーレムです! 急いで逃げてください!」

 

 レジスタンス側も慌てている。

 流石に、巨大なカニが追っかけてきているせいか、騎士達も囚人達も逃げる。

 

「うわああああああ!」

「ブラッド・ウィドウが出ているぞ! 皆避けろおおおお!!」

「ぎゃああああああああ!!」

 

 避けきれずに跳ねられる騎士や囚人達。

 俺としてはまさにFF8をリアルで体験している気分だ。

 と、カニが足に力を貯める。そして、飛んだ。

 

「飛んだ?!」

 

 天井を破壊して、カニは俺たちの進行方向に着地する。

 

「戦闘です!」

 

 樹が立ち止まり、弓を構える。

 カニがバンバンと、両脇に装備された銃から鉛玉を飛ばす。

 燻製に命中して、情けない悲鳴をあげた。

 鉛玉って?! 

 

「おい、銃あるのかよ!」

「アレはフォーブレイで開発されたゴーレムです!」

「なるほどな!」

 

 ジル中将の解説に納得する。

 アレは、おそらくタクトの野郎が開発した兵器の一つなのだろう。

 何故、カニかはわからないがな。

 俺は前に出て、前衛をする。

 先ほどの銃で撃たれた燻製が悶絶していた。

 

「痛いいいいいいいいいいいい!!」

 

 ツメが燻製に迫るのを、俺は槍で受け流す。

 

「ツヴァイト・サンダーショット!」

 

 リーシアが魔法を放つ。

 サンダーショットはさすがに効きがいい。

 

「たああああ!」

 

 リノアがブーメランで殴る。

 バババババババババっとリノアに向かって音を立てて、銃が放たれる。

 え、連射できるの?! 

 

「複式連射砲ですね。まさか実装されているとは……」

「ガトリングガン?!」

「人間が扱っても、大した威力になりませんが、強いゴーレムが使うとここまで脅威になるのですね」

「ふえぇぇ……。ジル中将って物知りなんですね」

 

 リーシアが感心した声を上げるが、感心している場合ではなかった。

 ガシッとレジスタンスの人が掴まれる。

 そして、口の部分に付いているヤバそうな装置でガリガリやり始めた。

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

「やばい!」

 

 俺は槍を十卦モードにして防御無視を発動させて、ツメと口元を攻撃する。

 ダメージを負ったせいか取り落としたが、攻撃力が足りなかったため切断できなかった。

 俺は落下したレジスタンスを掴んで、後方に投げ飛ばす。

 

「酷い!」

「うぅ、削れてる……!」

「ファスト・ヒール!」

 

 後ろから阿鼻叫喚が聞こえるが、それどころではない。

 なんて凶悪な性能のカニだろうか! 

 俺は捕獲されないように回避しつつ、攻撃を受け流し、ガトリングを回避する。

 不意に目が赤く煌めいた。

 

「ジル中将!」

「任せてください!」

 

 樹がジル中将を蹴ると同時に、カニからレーザーが発射された。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 遠くで断末魔が聞こえる。

 見ると、騎士の一人に命中して穴が開いていた。

 おい、こいつのレベルはどうなってやがる! 

 レベル80行っているんじゃないのか?! 

 

「サンダーアロー!」

 

 樹の雷を纏った矢が命中して、バリバリと電流が走る。

 

「必殺! 乱れ突き!」

 

 俺は本体に突きのラッシュを放って、ダメージを与える。

 直槍モードでもダメージは通るので、レベル60ぐらいか? 

 

「チッ!」

 

 俺は目の部分が赤く輝くのを見て、飛びのく。

 レーザー照射は発生がわかりやすいので回避はそこまで難しくない。

 レーザー着弾位置を見ると、当たった部分の床が溶けて穴が開いている。

 

「リノア! 目を狙え!」

「任せて!」

 

 リノアが投げたブーメランがレーザー発車用の目向かって飛ぶ。

 しかし、ツメでブーメランを弾き返した。

 このカニ、意外に頭いいぞ! 

 

「イーグルピアシングショット!」

 

 樹の放った矢が、鷹の形を象る。

 web版でしか披露しなかった、防御貫通の矢である。

 カニはツメで防御するが、それを貫通して目に直撃した。

 パアンと目が破裂する。

 

「さすがイツキ様!」

 

 感銘を受けるシーフ。

 だが、あと一本レーザーを発射する目が残っている。

 

「必殺! 疾風突き!」

 

 俺は飛び上がり、技を放つ。

 超光速で放つ突きで、レーザー発射の目を潰す。

 

「ぬおおおおお!」

 

 ダメージから復活した燻製がダメージを与えて、ようやくカニのHPが0になった。

 またもや経験値を取得できなかった。

 

「機能停止した今のうちに逃げますよ!」

「わかりました!」

 

 俺たちは再度、カニから逃亡する。

 もちろん、カニは復活して俺たちを追いかけ始めたのは言うまでもなかった。




FF8の要素を色々と混ぜてますよ。
ミサイル基地、ドリル収容所にドールの追いかけっこイベントですね。
次回で決着かな?


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【高難易度】ダッシュツカンリョウ

投稿が遅れて申し訳ないです!


 バババババババババ! 

 ガトリングの発射音が鳴り響き、俺たちは回避しながら脱出経路を進んでいた。

 今は俺が先頭に立ち、逃走経路を走っている。

 そして、カニは壁をかき分けて俺たちを追ってきていた。

 しかし、あのカニ倒せば倒すほど強化されている気がする……。

 今もチラリと見ると、さらに武装が解放されていた。

 なんかやばそうなカマが追加されているし、切り刻まれた囚人が「ぎゃああああ」とか叫びながら吹き飛んでいく。

 致命傷じゃないからか、HPが残っているからか、細切れになっていないのはポイントだろう。そこはステータス魔法様様である。

 俺の世界ならば、あれは輪切りになっている。

 ちなみに、俺が首を切っても切れない場合もある。HPが残る場合である。

 首刈りって多段ヒットするみたいだから、HPが普通だと残らないんだけどね。

 

「おい、樹! いつになったらアレ討伐できるんだ?」

「この城から出たところで仕留めます! 回数も4回目ですし、城から出ることによって再生力が落ちますからね。ここでコアを破壊します!」

「なるほどな! そういうのは先に言ってくれない?」

「いきなりネタバレとか味気ないではないですか」

 

 ああもう! 

 なんでコイツはゲーム脳なんだ! 

 命かかってんのにな! 

 勇者だから死んでも教会で復活できるってか?! 

 樹は楽しそうな表情をしている。

 まるでゲームでも楽しんでいるかのようである。

 

 最後の扉を開けて、俺たちは外に出た。

 ちょうど、侍達も待機していた。

 

「おお、イツキ様!」

「皆さん、敵が来ますので、戦闘準備です!」

「! わかりました!」

 

 侍達が、俺とリーシア以外に装備を渡す。

 燻製はいつもの鎧に着替えた。

 

「チッ!」

 

 俺は詰所に入り、素早く鎧を着替える。腰にクロスボウを装備し、小手を装備した。

 そうしている間にも、城の壁がドン、ドンっと音を立てる。

 その衝撃が伝わってくるので、焦っているわけである。

 俺が、樹達のところに戻ると同時であった。

 壁が破壊され、カニが這い出てきた。

 

「皆さん、全力で行きますよ!」

「「「はい!」」」

 

 樹達のパーティが戦闘態勢に入る。

 燻製、侍、戦士、シーフが前に出て、次に魔法使い、一番後ろに樹の並びだ。

 あれがいつものフォーメーションなのだろう。

 リーシアは……詰所で荷物回収してたっけな。

 まだ、リーシアは俺のパーティである。

 

 フルメンバーになった樹組は確かに連携が取れている。

 燻製、侍、戦士の3人ががむしゃらに責めるのでタゲが分散し、タゲが誰かに寄り過ぎたら樹が狙撃をしてタゲを逸らす。

 シーフはいい感じに撹乱しており、攻撃魔法と支援魔法でバックアップをしている。

 魔法使いは、火力支援と回復魔法で前衛を支援している。

 あー、確かにリーシアの入る隙は無さそうなパーティ構成なんだなと、戦い方を見て思う俺であった。

 

「カニは樹達に任せて良さげかな?」

 

 俺がそう言うと、リノアはうなづいた。

 

「そうね、私たちは収容者たちの誘導をしましょ」

 

 ちなみに、ジル中将は樹の隣にいる。

 あのカニはジル中将を狙っているので、正しい判断だろう。

 独善でもやるべき事はちゃんとやるのが樹なのだろうな。

 燻製は独善でやるべき事はやらないから死ねとしか思わないんだが。

 

「樹! 入り口から誘導できないか?」

「レジスタンス達が出るためですね、わかりました。皆さん、少し移動しますよ」

「「「はい、イツキ様!」」」

 

 樹に指示をすれば、言うことは聞いてくれるので助かる。

 さて、俺たちがレジスタンスの連中を誘導していると、アーシャが居るのを見つけてしまった。

 服装は、前のエロい格好ではなく他の囚人達と同じ普通の格好をしている。

 気づかれないように移動しようとしたら、どうやら気づかれたらしい。

 

「あ、ソースケ様!」

「うげ!」

 

 とっとっとと小走りで俺の所に来る。

 

「この度はありがとうございました」

「気にするな。早く行ったらいい」

「せっかく知り合ったんですし、お供したいです」

「全力でお断りだ!!」

 

 性欲女を近場に置いておくとかそれは嫌である。

 ヴィッチでも無いし、転生者でも無い感じなのになんなんだコイツは! 

 

「実は、私はレジスタンスのスパイなんですよ? この収容所の事について資料をわかりやすい位置に置いたり、色仕掛けで情報を引き出したりしていたんですよ!」

 

 性欲女は俺に褒めて欲しそうに暴露する。

 確かに、リノアに探させた時は重要そうな資料がかなりあっさりと見つかったわけだが、そう言うことだったのか。

 

「いや、そうなんだ、それは助かった」

「あの時はいきなり首が飛んだので、びっくりしましたけれどね」

 

 ピッタリとくっついてくる性欲女。

 ハニトラっぽい感じがして俺は警戒度を上げる。

 

「警戒しなくて良いですよ! 私は味方ですから。あの容赦なく首を綺麗に切りとばす姿と言い、あの暗殺術に惚れただけです!」

「こえーよ! そんなに元気ならレジスタンスの誘導を手伝えよ!」

「えぇー。まあ、仕方ないです。私はソースケ様に嫌われたく無いですしね。ではまた」

 

 渋々と言った感じで離れる性欲女。

 そのまま帰ってくるなよな、ぺっ。

 

「……ソースケも変な奴に目をつけられたものね」

「全くだ」

 

 俺はリノアに同意した。

 結局、樹達がフルメンバーならば、あのカニはちゃんと倒せたようであった。

 トドメは樹が刺したのか、ゴーレムのコアを樹が弓に吸わせていた。

 銃はゴーレム用のせいでウェポンコピーは出来なかったらしいがな。

 なんだかんだで内部の機構を見せてもらったが、やはりと言うか機械工学的な物と魔法のハイブリットで出来た代物であった。

 

 俺たちはラインハルトさん達の合流を待って、ジャンヌの居るコロシアムに向かうことになったのだった。



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【高難易度】ポスト・プロセス

「これで、レイシュナッド収容所は攻略完了ですね」

 

 カニを仕留めた俺たちは、騎士団の連中をレジスタンス達と共に締め上げていた。

 収容所に駐在している騎士団や所員の人数と比較すれば、囚人の数が圧倒的に多いのだ。奴隷紋という縛りがなくなった以上、殲滅するのにそう時間がかかることはなかった。

 ちなみに、ガチ犯罪者については牢屋に閉じ込めたままにしてある。

 収容所に侵入してから3時間程度しかかかっていなかったが、あっという間に収容所を占拠出来ていたのが行幸だろう。

 

「わっはっはっは! ワシらに感謝するが良いぞ!」

 

 燻製は得意げに高笑いをしている。

 目の前にはリンチされた騎士団や所員が縛られている。

 まるで自分の手柄みたいに言っているが、今更である。気にしたら負けだろう。

 解放られたレジスタンス達により、収容所の罠とかは解除されたので収容所の中を問題なく探索できるようになった。

 まあ、俺は興味がないから良いけど。

 

「いや、しかし冒険者様達の活躍で、かなり素早く攻略できました」

 

 お腹を削られて重症だったレジスタンスが回復薬のおかげで回復したらしく、朗らかに笑いながら樹に感謝を伝えている。

 ま、さすがは世界を救う勇者様だな。

 

「いえ、僕たちの使命なので、当然のことをしたまでです」

 

 樹本人は影から賞賛されることが好きらしく、嬉しそうに賞賛を受け入れていた。

 

「……ほんと、イツキって何者なのよ?」

「あー、本人は言いたがらないが、アイツ弓の勇者だぞ」

「え?!」

 

 リノアが困惑する。

 

「……確かに強いけれど、なるほどね。でも、勇者様ならあんなに弱いのはおかしいわよ。七星勇者様ですら召喚されてすぐでなければ相当強いのに……」

「あー、樹は正体隠して正義の味方をするのが好きなやつだからな」

「……は? 頭おかしいんじゃないの?」

 

 現地の人……メルロマルクじゃないまともな人から見れば、そうなのだろうな。

 

「確かに、弓の勇者様は正義を司る勇者様だけれど、それはおかしいわ。一体何がしたいのよ!」

 

 リノアは頭を抱える。

 こう言う思考の子が勇者に一人でもついていればまともになったんじゃないだろうか? 

 もう出来上がってるから遅いが。

 

「召喚されたのがメルロマルクだったからな」

「うーん、確かに盾の勇者様が迫害されていると言う話は聞くけれども、弓の勇者様がここまでおかしい思考回路になっているなんて異常よ。それに、メルロマルクで一斉召喚だなんてのもおかしな話だわ」

 

 リノアはため息をつく。

 

「弓を持っているからって勇者様って期待したけれど、あんまり期待できなさそうね。それなら、ソースケの方を期待したほうが良いわ。強いのはわかっているしね」

「あまり期待されてもな。一応アレでも、勇者様だけあって俺よりも強いしな」

 

 しかし、秘密主義も大概にしてほしいものである。

 カニは転移魔法陣のところで倒すと言う話だったのだけれどな。

 どうせ問い詰めても「ネタバレは良くありませんからね」と言われるに決まっているので、樹に展開を聞くのはやめたほうが良いかもしれなかった。

 

「……まあ、戦力になるなら私たちとしては構わないけれどね。ジャンヌさんも助けないといけないし、マリティナも打倒しないといけないし……」

 

 ま、あんまり将軍様を責めても仕方ないだろう。

 俺は話を変えることにした。

 

「で、次はコロシアムだが、ラインハルトさん達と合流してから攻めるんだったよな?」

「ええ、そうよ。ジル中将が戦える人たちを集めて、武器や鎧を配っているところね」

 

 つまり、解放した人たちを戦力としてそのまま加えると言うことである。

 まあ、それが目的の作戦だったわけだし仕方ないだろう。

 コロシアム攻略が完了すれば、いよいよ

 マリティナの攻略である。

 どう考えても、マリティナはメガヴィッチの分霊だ。

 すなわち、波の尖兵共を皆殺しにする必要がある。

 あの白い奴が出て来なければ良いんだがなぁ……。

 ボコボコに叩きのめしたが、生きている筈だ。

 もちろん、タクトに殺されていなければだがな。

 

「ソースケくん、リノアくん!」

 

 と、樹についていたレジスタンスの男性がこちらに走ってきた。

 

「どうしました、レイノルズさん」

「そろそろコロシアムに向かうことになるからね。馬車の準備も出来たから、君たちも準備を完了させてほしいと思ったんだ」

「わかりました。それじゃあ行こうか、ソースケ」

「はいよ」

 

 俺たちは、待たせていたラヴァイトの所に戻ることになったのだった。

 

 コロシアムまでおよそ半日はかかる。

 それに、王都に近いので、コロシアムでジャンヌを奪還したら、すぐに王都に向かうことになる。

 コロシアム攻略までに何時間かかるかわからないが、1日もあれば王都まで報告が行くだろうとの事であった。

 今回重要施設が落とせたのは大きいだろうとレジスタンスの男が興奮気味に言っていたので、果たして成功するやらといった感じである。

 

 そんな感じで、俺たちはすぐにコロシアムに向かって移動を開始したのであった。




アンケ結果で次の話を決めます。


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【高難易度】コロシアムにイクゾー

デンデンデデデデン(カーン


 それは少女の決意だった。

 突如発生した悪の王女マリティナに呼応するかのように、ひとりの女性が立ち上がったのだ。

 叛逆の狼煙を上げた、幼い少女はアルマランデ小王国の国旗と、決意を秘めた剣を腰に携えて戦った。

 果たして、その先に待ち受けるのが死であったとしても、少女は叛逆の旗を降ろすことはなかったのだ! 

 例えそれが、悪虐の女王を楽しませるためだけにあるコロシアムで、自分よりもレベルの高い魔物と戦うことになったとしても、彼女は決して旗を降ろすことはなかった。

 すでに体はボロボロで、満身創痍の身でありながらも、彼女は民草のために、旗を掲げ続けていた。

 

 

 翌日、俺たちはコロシアムのあるセヌティスに到着していた。

 すでに道中でラインハルトさん達と合流は完了していた。

 制欲女がラヴァイトの馬車に居たのは、残念ながら気のせいではなかった。

 アーシャ曰く、

 

「私はこれでも元影です。仮でアーシャと名乗っていますが、私には本名はありませんよ」

「だからなんだ」

「ソースケ様のお役に立つこと請け合いです!」

「いや、要らないから!」

「もちろん、夜のお相手だけでも構いませんよ!」

「擦り寄ってくんな!」

 

 という事らしい。

 正直、この上なく邪魔である。

 肉食系女子は俺は好きではないのだ。

 特に何かされたわけでもないけれどもな! 

 今は、リノアが引き剥がしてくれているので非常に助かる。

 

「ここが、コロシアムのある街ねぇ」

 

 俺はセヌティスの入り口を見てそう感じた。

 何というか、悪趣味な街並みである。

 レジスタンス部隊は潜入するために、先行部隊を残して近くの村で待機しているのだ。

 樹を始めとした冒険者に、ラインハルトさんの小隊と人数が多くなりすぎないようにしている。

 樹組はリーシア以外でパーティを組んでおり、リーシアは俺の方に派遣されていた。

 俺の方はレジスタンスの男とリノア、性欲女にリーシアと言うなかなかにカオスなメンバー構成になってしまった。

 ラインハルトさん達も5人のメンバーで情報収集を行う様子である。

 

 リーシア見事に厄介払いされちゃってるよなぁ……。

 リーシアには申し訳ない感じだ。

 

「ふぇぇ、イツキ様に信頼されている証です! 私、頑張ります!」

 

 とは言っていたが、やはり心配ではある。

 ここまで関わった以上逃げるなんてできはしないんだがなぁ……。

 

 セヌティスは本当に気持ちの悪い街であった。

 至る所にマリティナ……豪勢なドレスで着飾った悪女の石像が並んでおり、中心には金のマリティナ像が鎮座している。

 マリティナの権力の象徴のような街なのだろう。

 

「この街は、元々歓楽街だったの。王都の貴族達が遊ぶためのね。もうちょっとうるさくない感じだったけれども、この有様よ」

 

 とはリノアの言である。

 

「さて、じゃあ情報収集かな?」

 

 俺がそう言うと、ずいっと出てくるアーシャ。

 

「ならば私に任せてください、ソースケ様!」

「様をつけるな!」

 

 俺は鼻をつまむ。

 

「呼吸がしにくいです、ソースケ様。どうせならお尻を叩いてほしいです!」

「やめんか!」

 

 扱いにくいわ! 

 しかし、元影ならば情報収集はお手の物……か。

 

「じゃあ、裏の方を任せていいか? 今日中に集まる範囲でいい。集合は、あの大通りの宿屋に泊まる予定だから、そこで」

「わかりました! まずはソースケ様に信用してもらえるように頑張りますね❤️もちろん、ご褒美は……」

「ダメです」

「……うぅ、とりあえず頑張ってきます」

 

 そう言うと、アーシャはシュンっと消えた。

 その身体能力はさすが影ということか。

 まったく、せいせいしたな、うん。

 

「さて、それじゃあ俺たちも表の方の情報収集と行きますかね」

「……けっこう雑に扱うのね」

「ふえぇぇぇ」

「……羨ましいな」

 

 性欲女の扱いなどこんなものでいいだろう。

 

「じゃ、先ずはコロシアムに行くか」

「そうね……え?」

「ふえぇぇ?!」

 

 俺がそういうと、二人が驚く。

 レジスタンスの男も反対する。

 

「いきなりコロシアムに行くなんて、死にに行くおつもりですか?!」

「ちょっと、殴り込みに行くには早すぎない?」

 

 何を言うか。

 

「ああ言う施設ってのは、VIPと一般客の区別が明確にされているものだ。俺たちは一般客として、コロシアムがどんなものかを視察するんだ。だから全く問題ないよ」

 

 俺はそう言って、店に入る。

 チケット売り場と書いてあるから間違いないだろう。

 

「すみません、一般チケットを4枚ください」

「あいよ。当日券かい?」

「ええ、それで」

「なら、銅貨120枚だよ」

 

 俺は銀貨1枚と銅貨20枚を出す。

 

「メルロマルク通貨だが大丈夫か?」

「ふーん、まあ、構わないさね。どうやって入ったかは知らないけどね」

「刺激的なコロシアムがあると聞いてね。ゼルドブルから戻ってきたのさ」

「なるほどね。はいよ、チケット4枚だよ」

 

 そんな感じで俺はサクッとチケットを購入する。

 

「ほら、チケットだ」

「……アンタ、口先だけで生きていけそうね」

「これも身につけた技だ。気にするな」

 

 リノアはため息をついて、チケットを受け取る。

 リーシア、レジスタンスの男にも手渡す。

 

「……見事なお手並みで」

「ありがとさん」

 

 俺たち一行は、コロシアムに乗り込むことになったのだった。



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【高難易度】バトルコロシアム

 コロシアムは俺の想定通り、VIPと一般客の経路が完全に分断されている作りになっていた。

 俺たちは普通に並んで、普通に観客としてコロシアムに入る。

 それで普通に入れたのだから、一般客に対する警備体制はガバガバである。

 見せしめ的な意味もあるのだろうけれどね。

 逆らったらお前らもこうなるんだ、的な意味でね。

 

 コロシアムは、中央が闘技場、両端に魔物が通る程大きい入場口があり、それを取り囲むようにぐるりと一般席がある。その上にはめ込みガラスで囲われたVIP席があり、一部が豪華な感じになっていた。

 チラリと見ると、側近と思わしき尖兵が待機している。

 そして、そこにある椅子はまるで王の座る椅子であった。

 あそこにマリティナが座るのだろう。

 闘技場の4角にはマリティナの像が設置されている。

 

 いや、なかなかに悪趣味だなこれは。

 

 人々は賑わっており、娯楽としての機能も果たしていそうである。

 一般席は一人30銅貨と言うお手頃価格だしね。

 しかし、今日に限って言えば超満員である。

 

「おい、今日は何かのイベントか?」

 

 俺が隣の席に座っているやつに話しかけると、興奮気味に答えてくれる。

 

「お前知らずにきたのか? ああ、旅人か。なんでも、重罪人同士を殺し合わさせる新しい試みをされるそうなんだ。それで、賭けが盛り上がっているのさ。それに、この街に住む連中は必ずこの戦いを観るようにとのマリティナ様の御達しなんだぜ」

「ふぅん、なるほどな。ありがとうな」

 

 俺は情報料がわりに銀貨1枚を渡す。

 

「え、くれるの? わりぃな」

 

 ちなみに、対戦カードは事前にわかっている。

 ジャンヌvsレジスタンスの連中である。

 決着はどちらかが死ぬまでとなっている感じだ。

 マリティナから益を享受している連中にとっては見せしめであり娯楽なんだろうな、と思う。

 安全圏であるからこそ、楽しめるのだろうなと俺は感じた。

 

『さて、諸君!』

 

 コロシアムに声が響く。

 見上げると、銅像の女……マリティナが偉そうに立っていた。

 奴が居るのは例の王座の部屋である。

 まさに高みの見物だろう。

 気づけば、VIPの観戦席も人が歓談しながら見ていた。

 マリティナ派の貴族だろう。

 しかし、マリティナを見た瞬間に、心に黒いドロッとしたものが溢れてくる。

 声を聞くだけで、何かの呪いを発しているんじゃないかと思えるほどである。

 

『今日は諸君らに素敵なものを見せることになった! 愛らしく、強い剣闘士ジャンヌ=ダルクと人間の殺し合いだ! 魔物との殺し合いとは違って、楽しめる事は間違いないだろう』

 

 普通に美声の筈なのに、俺には耳が腐るような声にしか聞こえなかった。

 まさに、汚物・オブ・汚物だろう。

 さっきから感じていた殺意レーダーは奴を指していたのだ。

 

『さあ、殺し合いをお楽しみください。極上の狂気と悲鳴をご用意しています!』

 

 マリティナが宣言するとともに、角笛が鳴り響く。

 そして、巨大な扉が開き、それぞれ女性と男性が剣とバックラーのみを装備して舞台の上に上がる。

 

『さて、つまらない小細工が入らないように、それぞれ命の他に奪われたくないものを賭けている。ジャンヌは母親、ガインはそこに張り付けてある妹の命だ!!』

 

 胸糞悪い奴だ。

 遠くて見えにくいが確かに、女の子が貼り付けにされている。

 こちら側は、母親らしき女性だ。

 

「ジャンヌぅぅ!」

 

 マリティナの宣言に、コロシアムが歓声に包まれる。

 流石に人間無骨とクロスボウは持ち込めなかったので、手元にある剣だけで解決する必要があるな。

 

『では、始めよ!』

 

 殺し合いが始まった。

 

「ガインって、あのガインさん?! こんな、ひどい! ソースケ、助けなきゃ!」

 

 リノアが反応する。

 確かに、助けるべきである。

 だが、よく考えれば今すぐに動くわけにはいかなかった。

 奴隷紋のオーナーが誰かわからない、あの人質をどうやって助けるかもわからないのだ。

 

「……皆殺ししかないかな」

 

 俺はそう呟くと、立ち上がった。

 

「ソースケ?」

「リノアはリーシアやえーっと」

「レイノルズです」

「そうそう、レイノルズさんと一緒に人質が救出できないか調べておいてくれ」

「ソースケはどうするの?」

「皆殺しだ」

「え?!」

 

 そう、俺は置いてきた人間無骨+を取ってきて、VIP席側に侵入して皆殺しにするつもりだった。

 誰が奴隷紋オーナーかわからない以上、皆殺しする以外にないだろう。

 あの格闘家の尖兵やもう一人強力な波の尖兵がいるようだが、知ったことではない。

 こんな残酷な事を見過ごせるほど俺は人間ができてはいなかった。

 

「待って、ソースケ。私も行くわ」

 

 リノアがそう言うが、俺は手で制した。

 

「悪いが、それこそクラスアップでもしていない限りは足手まといだ。人質を解放する方を考えて欲しい」

「でも……」

「大丈夫。どうせ俺が暴れ出したらアーシャも出てくるだろうしな」

 

 正直言うと、これから俺が作る地獄をリノアに見せたくないと言うわがままである。

 俺はもう、堕ちるところまで堕ちたが、リノアはまだ堕ちていない。

 人間の命と言う重りを担がせるわけにはいかないだろう。

 

「……やっぱり私も行く」

 

 ぬーん、どうしよう。

 好きにしろとは言えないしなぁ。

 

「いや、だから……」

「ソースケが暗殺するのは見ているわ。だから大丈夫よ」

「どこがだ」

 

 俺とリノアの押し問答に、レイノルズさんが割って入る。

 

「時間がありません。20分程でしょう。その間に我々はやるべきことをやらなければ! リノアさんとソースケさんが奴隷紋の対処を、私とリーシアさんで人質の救助ができないか、探ります。良いですね?」

 

 そこまで言われたならば、俺が引き下がるしか無かった。

 

「わかった。リノア、地獄を作るが後悔するなよ?」

「任せて!」

 

 やれやれ、仕方ない。

 俺はリノアと共に、コロシアムの会場を抜け出たのだった。




樹達は樹達で、ジャンヌを救うために動いています。
ただし、救うのはジャンヌのみですが。


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【高難易度】ダンジョンマスターユータ

「さて」

 

 俺はVIP席入り口で槍を構える。

 俺の後ろにはリノアと、切り刻み、引き裂いた兵士の死体が転がっていた。

 

「皆殺しの始まりだ!! リノア、離れるなよ」

「う、うん。わかったわ……」

 

 俺は次から次へと襲ってくる兵士を、片っ端から殺していった。

 襲ってこない奴は無視だが、襲いかかってくるイコール死にたいという事だ。

 心臓を突き、胴体と下半身を泣き別れさせ、首を刎ねる。

 剣を持っている手を切断し、弓を打ってくる奴の目をクロスボウで撃ち抜く。

 頸動脈を切り裂き、喉を潰し、頭蓋をかち割る。

 俺の通った後は血溜まりと肉塊の地獄が出来上がっていた。

 

「ふふふ、ふはははは、あはははははははははは!!」

 

 楽しい楽しいタノシイ! 

 まさに、俺に取ってのボーナスステージである。

 斬首、斬首、斬首、斬首、斬首!! 

 騎士団全員を皆殺しにすべく、俺は殺して回る。

 当然ながら、恐れおののき命乞いをする連中には、命の対価として情報を提供してもらう。

 だが、後ろから撃とうという魂胆が見え透いている奴は容赦なく殺すがな。

 

「そ、ソースケ?」

「どうした、リノア」

「やり過ぎなんじゃ……?」

 

 リノアの顔色は青い。

 地獄を作ると言った以上は俺は辞めるつもりはないがな。

 さて、ついにVIPルームに到着した。

 

「な、なんだ貴様!」

「俺はぁぁ、死だぁぁ」

 

 見張りの二人は抵抗する間も無く、俺に殺された。

 

「ふん!」

 

 俺はVIP観戦ルームの扉をけ破る。

 バンっと大きな音を立てて、俺は乗り込んだ。

 

「な、なんだ貴様は!」

 

 ドスっと音を立てて、貴族っぽいブ男の頭にクロスボウの矢が突き刺さる。

 お、突き刺さったが息があるようだ。

 この辺りはステータス魔法の恩恵なんだよね。

 HPが残っていれば、よほどの状態ではない限り生き残ってしまうのだ。

 俺が殺した中にも、上半身と下半身を分断したにも関わらず息があった奴もいた。

 俺の攻撃はHPを削りきらなかったが、切断に至ってしまったパターンである。

 状態異常の切断になって、スリップダメージで結局死ぬけれどな。

 

「さて、全員殺される覚悟はできたか?」

 

 俺は歪な笑みを浮かべていたと思う。

 この醜い連中が、絶対安全から一転して、殺されるかも知れないと言う恐怖に変わった時の絶望の顔が見れて、俺は非常に心が踊った。

 

「では、死ね」

 

 次は、VIPの会場で屍山血河を築きあげる。

 この醜い連中は、波の尖兵と同様に醜い心の持ち主だ。

 メルロマルクなら忖度するが、ここはメルロマルクではない。

 

「ソースケ、その人は殺してはダメ!」

「あいよ」

 

 リノアの指示があった人物を残して俺は殺害する。

 残した人物はレジスタンス側の人間らしい、と言うのを後で聞いた。

 

「お、お前は何だ! お前はああああ!!」

「俺はぁぁ、死だぁあぁぁ……!」

 

 何気に気に入ったセリフだったりする。

 中二病再発だけれど、実際死を築き上げている俺は、連中にとってはまさに【死】だろう。

 目の前の豚を三枚におろす。

 

「何事だ!」

 

 と、波の尖兵様がご到着になられたようであった。

 ソイツは俺が作り出した地獄に顔をしかめると、剣を抜いた。

 

「き、貴様がやったのか?!」

「ん、ああ、そうだが?」

 

 俺がスマイルをすると、取り巻きの女達が後退りをする。

 

「む、無辜の民を虐殺するなんて許されない!」

 

 ソイツは俺を指差してそう宣言する。

 

「この、ユータ=レールヴァッツがお前の悪魔の所業を止めてみせる!」

 

 ん? 

 今何つった? 

 

「はあああああ!」

「「「頑張って! ユータ様!」」」

 

 眠くなる剣だ。

 俺は片手でヒョイっと力を流してやると、地面に剣が突き刺さりズバッと切れる。

 なるほど、攻撃力はなかなかのものなのか。

 

「せりゃあああああ!!」

「はいはいっと」

 

 俺はユータの剣をアーマードナイフで受け流す。

 酷く単調だし、当てる気のない攻撃にあくびが出てしまう。

 

「おい! なぜ欠伸する!」

「そんな眠くなる攻撃してたら、退屈だからだ」

「ぐっ!」

 

 俺はカウンターでナイフで切り裂く。

 首筋、手首、太ももを切り裂いたが、防御力が高いのか大したダメージは与えられなかった。

 

「うわああああああ!!」

「「ゆ、ユータ様ああああ!!」」

 

 ユータは尻餅をついた。

 情けない奴め。

 

「ユータ=レールヴァッツって最近有名な冒険者じゃない! 何でこんな所に?!」

「リノア、知っているのか?」

 

 リノアはうなづいた。

 

「いくつものダンジョンを踏破して来た冒険者よ。ソースケ相手だと雑魚にしか見えないけれど、かなりの実力者には違いないわ」

「ふーん。じゃ、殺しちゃおう」

 

 ま、本編に出てないし良いよね。

 俺はサクッと殺すことに決めた。

 波の尖兵は殺さなければ気が済まない。

 

「リネル!」

「わかりましたわ、ユータ様!」

 

 ユータは立ち上がると、リネルの所に駆け寄り、濃厚なキスを始める。

 

「ソースケ、気をつけて。ユータは女の子とキスをすると強くなるって噂があるの」

「そうかい」

 

 アイツの攻撃程度ならば、どんな武器が来ても避けられるだろう。

 だが、慢心はいけないからな。

 俺は槍を構え直す。

 

「プハッ! ありがとう、リネル!」

「ユータ様のお力になれれば幸いですわ」

「悪魔め、俺の本気を見せてやる!」

 

 ユータはそう言うと、手を天に掲げる。

 光り輝き、ユータの手にはアクセサリーのついた投擲用ナイフが握られていた。

 

「あー! そうか! なんか聞き覚えのあるなと思ったら、そうだったわ! お前コーラだな!」

 

 俺はようやく思い出した。

 コイツやり直しのフォーブレイ編で出てくる波の尖兵じゃねぇか! 

 ちょろっとしか出てこないし忘れていた。

 

「コーラ? 俺の名前はユータ、ユータ=レールヴァッツだ! この武器でお前を倒す!」

「俺は菊池宗介だ。覚えなくても良いぞ」

 

 俺が名前を告げると、コーラが驚いた顔をする。

 

「お前がお告げで言われた最低最悪の犯罪者、菊池宗介か!」

 

 コーラはどうやら女神が呼び寄せたらしい。

 

「俺は絶対にお前を倒してみせる!」

「好きにしな。俺はお前に死をくれてやるよ」

 

 こうして、俺は眷属器持ちの波の尖兵と再び相見えることになったのだった。




悪人度が上昇しまくる宗介。


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【高難易度】投擲具の勇者

「エアストスロー、セカンドスロー、ドリットスロー!」

「せりゃ!」

 

 早速結界を作るために投擲してくるコーラ。

 俺は即座に反応して、勇者スキルで生成されたそれを弾き飛ばす。

 

「甘い!」

 

 バシュンとクロスボウで矢を放つ。

 慣れれば連射もお手の物だ。

 ドスドスと何発か放ったうちの2発が腕と太ももに刺さる。

 

「くっ! このコンボが通用しないだと?!」

「PvPで【前提が多い】技を使うならなぁ! こうしろよ!!」

 

 俺は弓に魔力を込める。

 これはレベル65の時に習得した弓のスキルである。

 

「影縫い!」

 

 魔力を込めた矢がコーラの陰に刺さると、相手を拘束する。

 

「な、動けないだと?!」

 

 俺はコーラの目の前に移動すると、剣を構える。

 

「辞世の句でも読んでいろ。必殺! 双破斬!」

 

 俺は剣を切り上げる。

 俺の魔力は雷に寄っているせいか、多少雷っぽいオーラが出ている。

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 そのまま斬り下ろす。

 HPが高いのか、鎧に大きい傷と切られた際に吹き出た血液が出たぐらいで、叩き切られてはいなかった。

 ビチャっと地面にコーラの血液が飛び散る。

 

「くっそ! 卑怯だぞ! どんなチートを貰ったんだ!」

「んな事聞いている暇があるなら、さっさと俺を殺してみせろ」

 

 コーラごときに人間無骨を使うのもな。

 弓と剣の練習台にでもするか。

 こんな雑魚を簡単に斬首しても、色々と申し訳がないしな。

 

「エアストスロー! チェンジスロー!」

 

 投げた鉄球から、別の投げナイフが飛び散る攻撃をしてくるが、そんなもの避けるのはそう難しくない。

 フェイントも無いし、直線的なのだ。

 

「うわあああああ!」

 

 手投げ斧を投げてきたので、俺はそれを掴んだ。

 あれ、なんか奪えそうな気がする。

 

「俺が見せてやるよ! こうやるんだ!」

 

 クロスボウで矢を射出して、コーラの逃げ道を塞ぐ。

 そして、コーラの手元に戻ろうとするこの手投げ斧をぶん投げる。

 

「トマホォォォォクゥ!」

 

 戻る勢いに俺の投げた力が加わり、ビュンビュン音を立ててコーラに迫る。

 

「う、うわああああああああああああ!!」

 

 ドシュっと手投げ斧が突き刺さる。

 いやはや哀れなことで。

 

「く、くそ、素振りで鍛えたステータスで敵わないと言うのか?!」

 

 しぶとい奴め。

 

「すでに100人以上殺してきた俺に叶うとでも?」

 

 現時点で鎧は返り血で赤黒く染まっている。

 道中でもすでに25人殺している。

 お陰でレベルが2上がったんだがな。

 今はちょうどレベル70だ。

 

「う、うおおおおおお!!」

 

 お、持っている手斧が禍々しいナイフに変化したぞ。

 

「シャドウバインド! バインドスロー!」

 

 カーススキルか。

 喰らう道理もないので避けようとする。

 背後に陰で出来た壁が出来上がっているのを確認する。

 ガキンと投げナイフを剣で受け止めると、物理的におかしいがナイフに押し負けて背後に飛ばされて、陰の壁に拘束される。

 

「ははははははは! 喰らえ! ファラリスブル!!」

 

 陰の壁が浮き上がり、地面から現れた牛を象る容れ物に封じられる。

 なるほど、ファラリスの雄牛ね。

 容れ物内が急激に熱くなるが、これ長時間閉じ込めてないとそこまでダメージを負わないタイプの攻撃じゃ無いかな。

 炎は呪いの効果がついているせいか、最大HPにダメージを受けているが、大したダメージではなかった。

 確かに、皮膚が焼き焦げるように痛いが、それがなんだと言うのか。

 

「ふんっ」

 

 力を入れるだけで拘束が解除される。

 

「はぁっ!」

 

 人間無骨を数度振るうと、それだけでファラリスの雄牛を象ったものは破壊されてしまった。

 うーん、ちょっとだけ暑かったな。

 俺はもはや人間をやめているのでは無いだろうか? 

 HPが10%も減ってしまったがな。

 

「なっ! 俺の必殺スキルが?!」

「ソースケ! 大丈夫?!」

 

 部位欠損も無いし、呪いのせいで最大HPにダメージを受けているが、特に問題はないだろう。

 残りHPは90%も残っている。

 

「……こんなものか」

 

 レベル70はここまで人間をやめてしまうんだなと思った。

 たぶん、ブラッドサクリファイスレベルならば俺も瀕死のダメージを負うのだろうが、そもそも俺は呪いへの耐性が高いしな。

 伊達に殺してはいない。

 

「それじゃあ、そろそろお前に死を与えよう」

 

 俺は剣を構える。

 これも、レベル66で習得した必殺技だ。

 縮地という前提技能が必要だけれども、俺は既にそれは使える。

 滅多に使わないので、短距離しかできないけれどな。

 必殺技は本当に、俺の脳内から作られているのではないだろうか? 

 

「昔見た漫画の技だけれど、今ここで再現してやろう」

 

 俺はそういうと、剣を刀のように構える。

 縮地で俺は間合いをコーラに一気に詰める。

 

「け、剣が9つに?!」

「必殺、なんちゃって九頭竜閃!」

 

 ナイフみたいな剣で再現しているため、なんちゃってである。

 技名もそのまま。

 俺は飛天御剣流なんて使ったことはない。

 実際に俺が突いているのは鳩尾だけである。

 他は魔力で構成された残像だ。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

 コーラの身体に同時に9つの斬撃が入る。

 袈裟、逆袈裟、胴、逆胴、左右切上げ、唐竹、逆風、そして突き。

 剣の動きの全てを同時に放つのが、この技の肝であるが、俺の技量ではまだまだ再現できないので、魔力で代用した。

 

「が、は……」

 

 ドシャっと言う音とともに、バシャっと血溜まりに倒れる音がする。

 

「「「いやああああああ!! ユータ様あああああああ!!!」」」

 

 と、コーラの体から光の玉が飛び出し、俺に引き寄せられるようにぶち当たる。

 

七星武器、投擲具を入手しました。

 

 と、メッセージが出る。

 あー……、まあ、そうなるよねぇ。

 剣は……全然持てるし、武器として使うことを意識して振っても問題ないが。

 これは、コーラから勇者武器を簒奪したということなのだろうな。

 

「……マジか」

 

装備を勇者武器:投擲具に切り替えますか?

 

 と、メッセージが出る。

 どうやら、切り替え可能なようだ。

 まあ、今は必要がないからな。

 

「ソースケ、大丈夫だった?」

「余裕だな。所詮雑魚は雑魚か」

「でも、呪いが……」

 

 身体を見ると、確かに呪いが俺を蝕んでいる。

 

「治療は後回しで問題ない。さっさと残りの連中を殺しに行くぞ」

 

 俺はそう言いながら、ヴィッチの気配がする女に向かって矢を放ち撃ち殺す。

 他の女は知らない。邪魔してくるなら殺そう。

 

「ソースケが戦っている間に、協力してくれていた貴族から色々話を聞いていたわ」

「ま、少しばかり時間使っちゃったしな」

 

 騎士団程度ならば瞬殺できるが、コーラにはつい時間を使ってしまった。

 リノアによると、殺すべきターゲットは別の場所にいるらしい。

 一般でもなく、VIPでもない、すなわち、奴隷のいる場所に、奴隷紋の管理者が居るようだった。

 

「なら、すぐに向かうか」

「行かせると思うか?」

 

 俺がリノアにそう言うと、被せるように男の声が入る。

 見上げると、あの時の武術家がそこにはいたのだった。




波の尖兵扱いでゲットです。
ちなみに、宗介には投擲具の適性はありません。
波の尖兵扱いで無ければ弾かれますね。


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【高難易度】敗戦

多分盛り上がって来たところ?


「てめぇ、その声は……!」

「また会うとはな。はは、会いたかったぜぇぇ?」

 

 武術家はそう言うと、フェイスガードを脱ぐ。

 そこにはやはり、イケメンの……いや、正しく言おう。日本人の顔が現れた。

 

「俺と同じ転移者だったんだな、お前」

「ああ、だがまあ、俺様の方がお前よりも先輩だがな」

 

 俺はメルロマルク語でしゃべっているつもりだが、眷属器のせいかハッキリと日本語で理解できる。

 

「ソースケ……? 知り合いなの……?」

 

 そして、リノアの声まで日本語に聞こえる。

 

「いや、知らない奴だ。だが、俺と同郷のやつだろう」

 

 武術家は肩をすくめる。

 

「俺様は闇の武術家、殺人空手の使い手、金剛寺哲平だ。この世界に転移する際に若返らせてもらったが、俺様は元の世界では83歳だった」

 

 道理で強いわけだ。

 

「うくくくく、まさかこの世界で同郷の、達人級に出会えるとは思っていなかったぞ。しかも、この惨状! 俺様が裏切った依頼主の連中を皆殺しにしたのと似ている! うくくくく……」

 

 非常に愉快そうに、金剛寺は笑う。

 いやしかし、元年齢が83歳だと? 

 

「最近、弱い連中しかいないから退屈だった。お前との殺し合いは、久し振りに魂が揺さぶられたよ。しかも、殺すのになんの躊躇いも無いと来た!」

 

 スッと、金剛寺は構える。

 俺も、両手を広げて前に出して合気道の構えをする。

 

「今度は容赦も何もせぬぞ。存分に殺し合おう」

 

 殺気が凄まじい。

 鳥肌が立つほどだ。

 リノアが恐怖で腰を抜かして尻餅をつく音が戦いの始まりで合った。

 

 ──バシィィィン! 

 

 高速で放たれる突きに俺が対応して、カウンターで当身を放つ。その当身を金剛寺が手のひらで受け止めた音であった。

 息を吐く暇もなく繰り出される突きを、俺は全て受け流す。

 蹴りは重心をずらして回避する。

 カウンターは全て入れているが、やはり簡単に止められてしまう。

 コイツ、ビビらないせいか態勢が崩れないのだ。

 

「そらそら! 受け流すだけでは決着が着かんぞ!」

「くっ……!」

「あの技を使って見せよ! 俺様が攻略してやろう!」

 

 あの技と言うのは【気】の事だろう。

 流水岩砕拳の真似をすれば確かにコイツにダメージは与えられるだろう。

 だが、全力で攻撃を受け流さないとやばいのは、両手に感じる痛みで理解できた。

 あの拳は、間違いなく一撃必殺だ。

 拳圧だけで地面が抉れているのがわかる。

 目の前の男は本当に人間なのか? と、そんな疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「そらそらそらそら!」

 

 手数の多さ、そして、威力の高さにより、受け止める手に痺れがたまってくる。

 攻めなければ負ける! 

 

「ハァァァァ……」

 

 俺は息を全て吐くと、【気】を使う呼吸を始める。

 EPは盾の強化法だったか、勇者の武器を手にした俺は自然と気を扱っているのだろう。

 だが、知っている事と使える事に大きな差異があるように、気を使うと言うのは難しい。

 俺の場合は、呼吸でスイッチを入れるイメージだ。

 

 気を織り交ぜる事により、相手の防御を貫通してダメージが入り始める。

 さながら、ドラゴンボールのように俺と金剛寺は格闘戦を繰り広げる。

 

「チッ! 攻撃をすり抜けて突きが入って来やがる!」

 

 だが、回避時の手の痺れから、ダメージはあまり入っていない。

 

「わはははは! 久方振りの好敵手だ! 実に良い、実に良いぞ!」

 

 奴の攻撃は当たれば終わり。

 俺はそれを回避し、すり抜け、HPを削りきれば勝ち。

 そんなギリギリの戦いである。

 まるで、地上3000mのビルの間を鉄筋の上を歩いて渡り切るような感覚だ。

 完全なる膠着状態であるが、相手の方が有利である事には変わりがない。

 

「……試してみるか」

 

 俺はそう言うと、握りこぶしを作る。

 奴の拳を受け流す際に、腕に打撃を加える事にした。

 

 3回ほど受け流しの際に攻撃して、奴は俺との間に間合いを開けて下がる。

 

「ほう、なかなか面白いことをする」

 

 痛かったのか、手を振りながら金剛寺は拳を構え直した。

 

「武器破壊ならぬ、拳破壊か。なるほど、対抗手段としては悪くない、が」

 

 金剛寺の姿が揺らぐ。

 

「幻楼拳」

 

 ふっと、姿が消えて、俺はとっさに動いた。

 脇腹に衝撃が走る。

 

「がはっ!!」

 

 それだけで、HPの半分近くが削れてしまう。

 やばい! 

 これはまずい! 

 大きくHPを損傷すると、意識が持っていかれたりするからだ。

 再び、今度は鳩尾を守ってた腕に衝撃が走る。

 腕の痛みがひどい。

 もしかしたら骨折したかもしれなかった。

 

「そうらそらそらそら!!」

 

 俺は防御姿勢をとり、奴の技をなんとか防御する。

 しばらくボコボコにされてしまい、両腕の骨は折れて、腕が上がらなくなる。

 HPも残りわずかになってしまった。

 

「グアアアアアア!! あ、あがああああ!!」

「ソースケ!!」

 

 俺はその場に倒れてしまう。

 あ、これはダメかもしれない……。

 

「ハハハハハ! やはり俺様こそが最強! 無敵! 殺人空手に一切の陰りなし!」

 

 リノアか俺の元に駆け寄る。

 が、金剛寺がそれを止める。

 

「させんぞ、女!」

「きゃあ!」

 

 リノアの目の前の地面がえぐれる。

 

「うくくくく、女、亜人か」

 

 リノアの尻尾がスカートから飛び出していた。

 金剛寺はリノアの胸ぐらを掴むと、持ち上げる。

 

「離しなさいよ!」

「うくくくく、亜人の女は好きにして良いとマリティナ様は言っていたからな」

「ちょ、やめなさい!」

 

 金剛寺はニタっと笑うと、リノアの服を破る。

 

「リ……ノア……!」

 

 俺は、動きたくても動けなかった。

 身体中が痛みで悲鳴を上げている。

 口からは血が出て、両腕は完全に変な方向に曲がっている。

 

「いやあああああああああああ!!」

「うくくくく、ハハハハ! この凄惨な場で女を犯すのも一興よ。キサマは朽ち果てるまでそこで大人しく見ているが良い!」

 

 くそっ! くそっ! 

 俺は何もできないのか?! 

 身体は動かないし、拳を作ることもままならない。

 この現状をどうにかできないのか?! 

 

 と、そんな時に、声が聞こえた。

 

「イーグルピアッシングアロー!」

 

 鷹の姿を象った矢が、金剛寺に襲いかかったのだ。

 

「ちぃ!」

 

 金剛寺はリノアをどかして矢を殴り落とした。

 

「大丈夫ですか、宗介さん?」

 

 正体は樹であった。

 樹以外にもいつものメンバーに加え、ジャンヌの姿があった。

 

「おい、お前大丈夫か?」

「ジャンヌさん!」

 

 ジャンヌがリノアを助け起す。

 

「ジャンヌ? ……どう言う状況だ?」

 

 ジャンヌがいる事に困惑する金剛寺。

 

「もちろん、僕たちが助けたんですよ」

 

 ドヤ顔でそう言う樹。

 別に不利では無いだろうに、金剛寺はため息をつくと、構えを解いた。

 

「……ふん、興が削がれた。ジャンヌが脱走したことをマリティナ様にも伝えなければならん。殺すのは、また今度にしてやるよ、菊池くん」

 

 金剛寺はそう言うと、地面を思いっきり突いて破壊して、この場を去る。

 

「待て!」

「逃すか!」

 

 と、追おうとした燻製と侍を止めたのは、ジャンヌであった。

 

「待て、あいつは追ってはいけない!」

「どう言う事だ?」

「あいつは危険だ。レベル100ですら容易に殺す暗殺拳の持ち主であるスティール=ダイヤモンド。マリティナの右腕であり、対策を取らねば危険な奴だ」

 

 ジャンヌの鬼気迫る様子に、燻製も侍の追うのを止めた。

 

「ですが、間に合って良かった。宗介さんは無事とは言い難いですが、リノアさんも無事でしたしね。アーシャさんに伝えてもらわねば間に合わない所でした」

 

 樹はそう言うと、まだ意識のある俺にこうささやいた。

 

「しかし、助かりました。宗介さんが思った通りに動いてくれたおかげで、やりやすかったです。まあ、流石にやり過ぎだとは思いましたが」

 

 どうやら、コロシアム強襲の内容を俺に伝えなかったのはわざとだったらしい。

 

「ソースケ! ソースケ!!」

「ソースケ様!」

 

 と、リノアが涙目で俺にすがりついてくる。

 傍にアーシャもいる。

 

「無事なの? 死んじゃいやよ!」

「う……ごかさ……ない……で……くれ……」

 

 痛みで意識が飛びそうだから。

 

「ツヴァイト・ヒール!」

 

 魔法使いが俺に回復魔法をかけてくれたおかげで、痛みが和らぐ。

 

「とにかく、一度ここから離れましょう。宗介さんは任せましたよ」

 

 俺は、樹の言葉を最後に意識を失ってしまったのだった。




やはり、波の尖兵強スギィ!!


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【高難易度】リタイア

 ふと、気がつくと、目の前に投擲用のナイフが浮かんでいた。

 

「……ここは」

 

 周囲を見渡すが、暗く何も見えない。

 だが、不思議と暗く感じない空間だった。

 

 ステータス魔法に文字が表示される。

 

私は投擲具の眷属器の精霊。不正所持者よ。私を解放してほしい。

 

 不正所持者、ときましたか。

 まあ、投擲具の正当な所持者はリーシアだが、覚醒にはまだ遠いだろう。

 

「解放……ねぇ」

 

 あいにくと、そう言うわけにはいかない。

 こっちにも事情があるしな。

 

不正に所持をしても、正当所持者と比べて強くなれるわけでは無い。不正所持者よ。早急に解放しなさい。それが正義です。

 

 正義だの何だのを俺は議論する気はない。

 結局、正しい行いなんて時の流れや状況、立場によって変わってしまうのだ。

 だから、俺は精霊にこう答えるしか無い。

 

「あいにくと、いま解放するわけにはいかないからね。しかるべき時に、弓の聖武器から依頼が来るから、それまでは仲良くしようや」

 

 そう、おそらく、この武器は現時点でタクトに渡してはいけないのだろう。

 どのタイミングでコーラが奪われたのかは知らないが、投擲具は波の尖兵の間を渡って最終的にタクトに簒奪される宿命だ。

 解放したとして、結局タクトに渡るのは見え透いた話である。

 

──所持者よ。警告する! ──に解──のが──の──

 

 急にノイズが酷くなった。

 見ると、アクセサリーが怪しく輝いている。

 聖霊の干渉を阻害しているのだろうか? 

 

「まあ、しばらくは俺の中で眠っていると良いさ」

 

 コーラが生き延びていたのは秘匿して所持していたからだろう。

 ならば、俺もそれに習うのが一番である。

 

 さて、この空間を出る必要があるな。

 この空間はおそらく、眷属器が作り出した空間だろう。

 俺の体が目覚めれば、それで起きるはずである。

 言うなれば、夢の狭間。

 

 俺は、投擲具を掴む。

 ステータス魔法に投擲具のアイコンが追加された。

 まあ、起きるまでの間に、確認をするとしよう。

 

 投擲具は解放が進んでいる。

 どうやらこのアクセサリーには状態の保存機能が付いているみたいであった。

 ヘルプアイコンは追加されているが、強化方法のタブは存在しない。

 まさに序盤で説明されている内容のみしか表示されていなかった。

 

「うーん、俺も知識があるから多分ほかの聖霊具の強化方法を使えるんだろうけれどね。まあ、ひとつだけ試してみるか。このままだと弱すぎるし……」

 

 どうせ、リーシアに継承された時にリセットされるのだ。

 爪よりも強くしなければ問題ないだろう。

 

 俺は錬の強化方法を思い出す。

 精錬、エネルギー付与、レアリティアップだったか。

 ステータス魔法にノイズが入り、初心者用の投げナイフに項目が追加される。

 投擲具の強化方法は金銭によるオーバーカスタムだが、こいつはアクセサリーからの阻害で使用できなさそうであった。

 

初心者用の投げナイフ C

能力未解放……攻撃力+3、素早さ+1

熟練度23

 

 あ、解放されちゃったよ。

 しかし、殆ど使われてなかったんだな。

 基本的に解放されている武器は店売りのものばかりである。

 

「……てことは、改造しすぎると色々とマズイってことだよな。おそらく、このアクセサリーの強化データや解放済みのデータの保存サーキットみたいになっているから、気をつけないとな」

 

 と言うわけで、俺はひとつだけ……解放されている店売りの手斧であるランページアックス(青)を超強化する事にした。

 

ランページアックス(青) R

能力解放済……攻撃力+4、素早さ+4

専用効果……ランページバイト

熟練度0

 

 と言っても、熟練度が無さすぎて、ここまでしか強化できなかったが。

 ちなみに、元康や樹の分は解放自体が出来なかった。

 そりゃまあ、あの二人からは信頼も何もされていないし、樹については敵対すらされているから仕方がないだろう。

 他の七星武器の強化についても同様っだと思うので、試さなかったが。

 盾の強化方法であるエネルギーブーストについては、俺のステータス項目に追加されている。

 SPももちろん存在する。

 ちなみに、装備を解除するとその項目が消えるので、装備時限定らしい。

 後は、信頼と、武器強化方法の共有についてだが、これは正直わからないんだよね。

 と、俺は精神空間でも相変わらずであった。

 

 目が覚めると、馬車の中であった。

 両腕は添え木がされて固定されており、回復薬で回復中なのか地味に痛い。

 アーシャが膝枕をなぜかしており、リノアはラヴァイトを動かしているようだ。

 

「う、ぐ」

「ソースケ様!」

 

 アーシャが俺が起きた事に気付いた。

 

「ソースケさん、良かった、気がつかれたのですね」

 

 レイノルズさんが俺の顔を覗き込んだ。

 よくみると、両腕は添え木された上で回復薬につけ込まれている。

 修復される痛みが結構きつい。

 

「ささ、回復薬を飲んでください。脇腹にはヒール軟膏を塗ってますよ」

 

 アーシャに口移しで薬を飲まされる。

 両手が使えないせいで抵抗できなかった。

 

「んぅ?!」

 

 舌を入れてくるアーシャ。

 俺が噛み付くと、すぐに引っ込めた。

 

「じょ、冗談ですって!」

「ふざけるな……」

 

 俺は両手を動かしてみる。

 まだ回復していないのか、うまく握れなかった。

 

「ですが、良かったですよ。ソースケ様が生きていて」

 

 アーシャに安堵の表情が見られる。

 まあ、心配させたのは悪かった。

 しかし、HPと言うのは確かにすごいな。

 これならば医者いらずである。

 まあ、病気にかかったりした場合とか、そう言うのがあるため治療院はあるわけだがね。

 ちなみに、呪いは解除されていないため、即時回復はしないようであった。

 

「ソースケ、しばらく休んでいて大丈夫よ。ジャンヌさんも復帰したし、イツキも居るわけだから、これならばマリティナを倒せるわ」

「ええ、ラインハルトさん達と合流して、現在は首都に向かっているところです。スティール=ダイヤモンドのような強敵も、イツキ様が対処してくださるみたいですので、とりあえずは大丈夫ですよ」

 

 レイノルズさんはそう断定する。

 本当に大丈夫かねぇ? 

 正直、金剛寺という男はどうしようもないと思う。

 遠距離の飽和攻撃で骨まで溶かさないと死なないのではないだろうか? 

 正攻法では殺せないのは間違いないだろう。

 投擲具なんて慣れない武器でも使おうものなら瞬コロされかねない。

 

 だが、ここでジャンヌを助けたことは、レジスタンス側に大きく流れが傾いたことを意味していた。

 俺が後方でアーシャやリノアに守られつつ回復している間、レジスタンスと樹だけで問題なく王都に進行できたからだった。

 気がつけば、俺の手が動くようになるまでにはすでに、王城への突入直前までことが進んでいたのは驚くべきことだろう。

 現時点の経過日数は4日目。ジャンヌを救出した翌日のことである。




とりあえず、攻略自体は樹メインで進められますからね
最終決戦までに宗介は復帰できるのか?!
そして、金剛寺との決着は?!

そんな感じです。


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【高難易度】あっけない幕切れ

これで、弓の勇者編終了です!
ものすごく後味の悪い結末ですが、ご了承ください。


 さすがに、怪我が1日で完治するほど甘くはないのが事実である。

 回復薬のおかげで、骨は完全にくっついたが、打撲痕はまだまだ完治に時間がかかるし、呪いのせいで肉体損傷の治りが悪い。

 今は鎧や小手は装備解除されているが、ファラリスブルで焼けた呪い痕は黒くなっており、その部分の腫れは収まっていないのが現状だ。

 流石に聖水は持ってないんだよなぁ。

 最大HPも減ったままだし、嫌な感じである。

 しかし、身体が動かないと言うのはどうしようもない。

 意識の方は結構はっきりしているが、身体中に重りを乗せられたかのように動けず、言葉も内臓をやられてしまったためか、出しにくい。

 今はアーシャが膝枕をして、リノアに看病してもらっている状態だ。

 

「それにしても、コンゴウジ=テッペーだっけ? あの強さは異常よね。人間、あんなに強くなれるものなのかしら?」

 

 リノアの服は、予備のものを着ている。

 移動中に着替えたそうだ。

 

「ええ、私も調べてみたんですけれど、スティール=ダイヤモンドが初めて確認されたのは、およそ4年前ですね。マリティナが毒婦として権力の中枢に食い込む際の右腕として動いていたのが確認されています」

「4年……。あいつが言っていた事を考えると、どこかの国から呼び寄せたように聞こえたわ。それも、若返らせてね」

 

 金剛寺哲平、ね。その名前には聞き覚えがあった。

 実戦空手を提唱していた人物で、金剛寺流空手術の創始者である。

 マイナーなんだけれど門下生は恐ろしく強く、大会を荒らして回ったそうだ。

 もちろん、怪我人続出したため、オリンピックには出られなかったと言うニュースぐらいなら聞き覚えがあった。

 アイツ、同じ世界から来たやつだったのか……。

 

「若返らせて……。どうやってかは知りませんが、気になりますね」

「マリティナがそう言う魔法を持っているならば由々しき事態ね。気になるわ」

「ただ、私が集めた情報にはそう言う若返りに関するものはなかったんですよね」

 

 しかし、あれだけの情報を喋っておいて、金剛寺は頭が破裂しなかったのはなぜだろうか? 

 もしかしたら、見限った波の尖兵の粛清用として召喚された存在なのかもしれないな。

 ……今の勇者では太刀打ちできる気がしないが。

 

「うーん、顔や髪の色を見る感じだとソースケと同郷なのよね」

 

 リノア達にとっても、アイツは不思議な存在のようである。

 

「そうそう、話は変わるけれど、戦況は聞いてきたわよ」

 

 リノアは話を変える。

 

「現状は、レジスタンスが優勢ね。騎士団でもこちら側の人がかなりいたこともあって、混乱しているところを叩いている状態よ」

 

 あれほどの悪政だ。

 鬱憤が溜まっていてもおかしくないだろう。

 実際、クテンロウでもレジスタンスが頑張っている最中だろうしな。

 

「あと、イツキ達も頑張っているみたいね。主にマルドやカレクが敵を倒していってるみたいだけれど」

 

 まあ、あの将軍様プレイでも連携すればかなり強い事は分かっているからな。

 マッチポンプでも強いせいで、やめられなくなっているのだろうな。

 身体があまり動かせないので、リノア達の会話を聴きながら、そんな事を考察していた。

 

 果てさて、結論から言うと、この国を取り戻すことには成功した。

 結局、俺の回復が間に合うはずもなく、終わってしまったわけである。

 樹とジャンヌが頑張ってくれたようで、まあ、最後は完全に蚊帳の外になってしまったわけだ。

 マリティナは、残念ながら取り逃がしたらしい。

 これは金剛寺が関わっていたと言う事を、リーシアから聞いた。

 

 そして、現在俺はと言うと、樹に拘束されてレイファ、アーシャ、そして何故かリノアとともにメルロマルクへと戻ってきていた。

 

「ソースケ、大丈夫?」

 

 と、優しく声をかけてくれるレイファの天使度の高さに涙を禁じ得ない。

 ちなみに、リノアが付いてきた理由は聞かされていなかった。

 

「では、宗介さん。ギルドに連行します。まあ、その格好では抵抗は無理でしょうし、大人しくしていてくださいね」

「……」

 

 俺は首から下は袋に入れられて、ベルトで締め上げられていた。

 口には猿轡をされており、抵抗はできなかった。

 俺の武器、どこに行ったんだろう……? 

 

「わはははは! これが犯罪者の末路よ!」

 

 快活に笑う燻製がムカつく。

 

「ちょっと、ソースケをどうするつもりですか!」

 

 詰め寄るレイファに、樹は平然と答える。

 

「もちろん、罪を償ってもらうためです。今回は正義のために力を行使しましたけれど、彼はそもそも悪なのです。悪事の罪を償って、正義を為して始めて許されるんです」

 

 ドヤ顔で樹はそんな事を言うが、レイファが納得するはずがなかった。

 

「何でですか! ソースケは悪い人に追い回されたから、仕方なく撃退していただけです! それに、冒険者ならば賞金首を相手にする以上殺されても文句は言えないはずです!」

「何を言っているんですか? 罪の無い人たちを殺害するのは悪に決まっているじゃ無いですか。君もちゃんと勉強しなさい」

「なっ?!」

 

 樹の屁理屈に言いくるめられたレイファは憤慨して地団駄を踏む。

 結局、俺は引き渡されて、ギルド預かりになってしまったのだった。




ちなみに、金剛寺は樹達を見て興味なさげに
「ふっ、このような雑魚が勇者な訳あるまいて。戦う価値すらないわ。だが、仕事は果たさせてもらおう」
と言って、マリティナと数人の部下を連れてどこともなく消えてしまいました。


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エピローグ

 留置所内でも、俺は拘束されいていた。

 牢屋の中で、硬いベットの上でベルトに縛られて身動きが取れないのだ。

 HPは減った分を除いて90%ほど回復しており、順調には回復しているだろう。

 下手すればレベル1リセットされてしまいかねないので、ここは無抵抗を貫くことにする。

 奴隷紋も効かなかったしな! 

 留置所でも尋問が行われるが、俺は無抵抗にすらすらと答えるため、看守達は肩透かしだったようだ。

 

「キクチ=ソウスケ、何故冒険者達を殺した?」

「俺の首にかかった賞金を狙ってくる以上仕方ないだろう?」

「そうじゃない! アールシュタッド領での虐殺だ!」

「アレも同じだ。錬サマの冒険者パーティを無理矢理除外され、三勇教に意味不明に神敵扱いされてみたら良いさ。それで、冤罪で犯罪者扱いされた挙句、俺を殺そうと冒険者達が襲いかかってくるんだ。返り討ちにするしかないじゃないか」

「が、だが、殺害するのは……! それに、貴族の御令嬢まで殺害したんだぞ!」

「50組近くの冒険者パーティに命を狙われて、それが言えるなら大したものだと思うが。それに、御令嬢を冒険者パーティに入れるなよ……」

「……」

「それに、アールシュタッド領の件に関しては領主様から直々に不問にするとのお達しが出てるはずだ」

「……」

 

 と、俺はそんな不毛なやりとりを繰り広げていた。

 教会引き渡されなかったのは、俺が大人しく従っていたからだったようである。

 まあ、抵抗してもねぇ……。

 

 留置所に拘留されて3日目、面会という形で俺は面会室に通された。

 本来であれば奴隷紋の拘束があるけれども、何故か俺には効かなかったからね、仕方ないね。

 だから、看守をやっている兵士が両脇に立っている状態での面会となった。

 

「いよっ!」

 

 部屋に入って早々に俺は引き返したくなった。

 だって、道化様がいたんだからな。

 

「うむ……」

 

 猿轡がかまされていてうまく喋れなかった。

 看守が俺から猿轡を取り払う。

 

「えーと、槍の勇者様ですか。何の用ですか?」

「その声は、確か錬の仲間だったかな?」

 

 案外覚えていたようである。

 地頭は良いからね。

 

「元、ね。勇者様の女はどうした?」

「いやー、流石にこんな所まで来てもらうのは悪いからね。外で待機してもらってるよ」

 

 留置所と言っても、メルロマルク城下町内にある。

 裁判を経て罪が確定し次第、東の収容所に収監されるらしい。

 

「そうか。で、俺に何の用だ?」

「レイファちゃん、だっけ。君の彼女に頼まれてさ、マインに話したら、オルトクレイ王に話してみるって言ってたんだよね」

「?」

 

 俺が要領を得ない顔をしていると、元康はニッコリさわやかな笑みを浮かべてこう言った。

 

「君をここから出しに来たのさ。菊池宗介くん」

「……はぁ?」

 

 俺は、元康が何を言っているのか理解するまでに、少し時間がかかってしまった。

 

 ──すでに、物語は俺の知っている原作からズレ始めている事に、俺はまだ気づく余地が無かったのだった。




次回導入も含めて、弓の勇者編完了です。
弓の勇者は良い感じにヘイトを稼いでいて、感想を読んでいて面白かったです。
次回から、槍の勇者編になります。

徐々にズレを見せ始める物語を宗介は生き残りつつどうやって戻していくのか、原作知識を活かして、ハッピーエンドに繋がるハードモードの書籍版の話に戻せるのかが見ものですね!


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勇者になったので、女の子を囲ってハーレムしたい!
プロローグ


レイファ視点から開始です。


 ソースケが連行されてから3日、私達はどうしようかと途方に暮れていた。

 私、レイファと、リノアさんとアーシャさんである。

 ソースケはちゃんと関わると魅力的だから仕方がないとはいえ、なんで女の子ばかりなのかとは思う。

 

「どうやってソースケを助ける?」

「……どうしましょう」

 

 私達が面会に行ったところで、無理だと追い出されてしまった。

 アーシャさんも夜中に侵入を試みた所、影に妨害されてしまったらしい。

 

「しかし、どうしてソースケ様は指名手配になっているのかしら? レイファちゃん、教えてもらえない?」

「あ、はい」

 

 私は、ソースケからミリティナと言う女を始末するためと言っていた。

 私が囚われているなんて思っても見なかったみたいだけれど、救出された時に涙を流しながら無事でよかったと言っていたのが印象に残っている。

 ソースケは恥ずかしがりだからあまり言わないけれどね。

 

 で、諜報活動が得意なアーシャさんが色々情報を集めようとしても、影と言う教会の組織に妨害されて手詰まりになっているらしい。

 

「そもそも、なんで勇者達が全員メルロマルクに居るのよ。それに、勇者が滞在しているこの国でも、勇者の評判はあまり良くないし……」

「リノアさんも情報収集していたのですね」

「まあね。アイツ、心配だし、暴走したりするから、お目付役が必要だからね。レイファじゃいい子すぎて、ストッパーになりにくいだろうし」

「ええ、そんな事無いですよ。私だってつまみ食いぐらいならしたことがありますし……」

 

 リノアさんが「え、本気で言っているの?」と呟く。

 でも、悪いことはそれぐらいしかした事がないのは本当だ。

 後は、魔物を駆除したりだろうか? 

 今でもコックローチは苦手な魔物である。

 

「……なんでソースケの側にいるのかわからないぐらいいい子ね。アイツ、平気な顔で人を殺すヤバい奴だと思うんだけど」

「ソースケさんは、そこまで見境がないわけではないです。理由がないとそう言うことはしないですよ」

「まあ、そうなんだけどさ……」

 

 私はソースケを信じている。

 一緒に家で過ごした時から、ソースケは勇者のように輝いて見えたのだから。

 今は少し陰っているけれども、本当はもっと繊細で、だけど決めた事はまっすぐやり遂げる人だと私は知っているのだ。

 

「ソースケ様は素晴らしいですよね。あの容赦のなさ、戦っている時の姿勢と言い、ソースケ様の魅力を語ると1日では終わらなさそうです」

 

 うっとりとそんな事を言うアーシャさん。

 それに呆れた表情をするリノアさん。

 

「……そんな事より、アイツを助ける方法を考えないと! あの賞金額なら、下手すれば死刑なのよ!」

 

 私達がどうやってソースケを助けるか悩んでいる、聞いたことのある声が聞こえてきたのだった。

 

「あれー、レイファちゃんじゃん! 久しぶりだね!」

「ちょっと、モトヤス様!」

 

 彼が槍の勇者のキタムラ=モトヤスである。

 私にナンパをしてきた人で、隣にいるどこかで見た事がある女性に気をつけろと言われた事がある。

 

「お、お久しぶりです」

「久しぶり、久しぶり! 大丈夫だよマイン。困ってそうだったから話しかけただけだってば!」

「ですが、あと2日で波です。モトヤス様も準備をしないと……」

 

 マインさんと呼ばれる冒険者にしては豪華すぎる格好をした人と、キタムラさんが言い争う。

 

「で、君たち何を悩んでいるの? 良かったら教えてもらえないかな?」

 

 私達は顔を見合わせる。

 

「ねぇ、彼が槍の勇者様?」

「はい、そうですよ」

「……結構良い男よね。イツキに比べれば断然いいじゃない!」

 

 確かに顔はいいけれど、私には軽そうな印象しかない。

 でも、ソースケから事前に聞いていなければ、私もリノアさんと同じ反応をしたかも知れない。

 

「まあ、弓の勇者様に比べればですけどね」

「一番魅力的なのは、ソースケ様よ」

 

 アーシャさんは色々と間違っている気がする。

 

「……とりあえず、槍の勇者様に相談してみるのもありじゃないかしら。メルロマルクの王のオルトクレイ王は槍の勇者様の子孫だし、優遇していると思うわ」

「そうなんですね。うーん、わかりました」

 

 私はソースケを助けるためなら、と覚悟を決める。

 

「では、聞いていただけますか、槍の勇者様」

「オッケー」

 

 槍の勇者様はそう言うと、席を2つ準備する。

 先にマインさんを座らせて、隣に自分が座った。

 

「あ、先に自己紹介だな。俺は槍の勇者である北村元康。世界を厄災の波から救うために戦っているんだ。こっちはマイン。俺の仲間だ」

「皆さんよろしくお願いしますね」

 

 ニコニコと挨拶するマインさんは、ソースケの言う嫌な奴のようには思えなかった。

 まあ、ソースケの判断基準はよくわからないけれど、警戒しておくに越したことは無いだろうと私は判断した。

 

「私はレイファです。よろしくお願いします」

「私はリノアよ。ソースケの仲間をやっているわ」

「私はアーシャです。ソースケ様の愛人……候補です」

 

 私はアーシャさんを睨む。

 何というか、私にとって彼女は掴み所がないように感じた。

 そして、ソースケへの好意は本物である。

 

「ふーん、ソースケって確か、錬の仲間だったよな。という事は、錬とは別れたのか」

 

 槍の勇者様はそう言うと、「錬が一番信頼していたアイツだろ?」と考えを巡らせてこう言った。

 

「それじゃあ、君たちが何を悩んでいたのか聞かせてもらえるかな? 波まで時間がないから、そこまで時間がかかるものは出来ないけど、力になれると思うんだ」

 

 自信満々にそう言う槍の勇者様に、私は安心した。

 勇者様の言う事なのだ。

 ならば、出来るのだろう。

 

「その、ソースケが弓の勇者様に捕まえられて、留置所に連行されてしまったんです。ソースケをどうやって助けようかと悩んでいたんです」

「樹が? と言う事は、彼は賞金首にでもなったわけか?」

「はい。ソースケ曰く身に覚えはあんまり無いとか言っていました」

「なるほどねぇ……」

 

 槍の勇者様は渋い顔をする。

 普通に考えれば、犯罪者の脱獄を手助けしてほしいと言っているのだ。

 勇者様でも渋い顔をするのは道理だろう。

 

「その、ソースケは絶対そんな事をする人じゃ無いんです!」

「ええ、私達の故郷を弓の勇者と共に助けてくれたし、満身創痍になっても案じてくれた人よ。指名手配なんて絶対おかしいわ!」

 

 私とリノアさんが力説すると、槍の勇者様は私たちを値踏みするような目で見る。

 

「……君たちがソースケを信頼していると言うのはよくわかった。じゃあ、この元康お兄さんに任せておきなさい! 話してみて、悪い奴じゃなければ、条件付きだけれど解放してあげるよ」

「モトヤス様?!」

「マイン、ソースケは錬が一番信頼している仲間だった。と言う事は、波の戦いに参加させれば、尚文だけに任せる、なんて事にはならないだろう?」

「……」

「そうすれば、俺たちだって安心してボスを攻略できる! 錬が使っていた強いNPCを再利用してやるんだ。いいだろ?」

 

 マインさんはそう言うと、ため息をついてこう言った。

 

「仕方ありませんわ。モトヤス様の頼みですもの。お父様にも掛け合ってみますわ」

「サンキュー、マイン!」

 

 マインさんとの相談が終わったのか、槍の勇者様はこっちを向いてこうノリノリで言った。

 

「それじゃ、面接タイムだな。どう言う奴か見極めさせてもらうよ。本当に悪い奴だったら、申し訳ないけれどそのまま牢屋の中に残ってもらうからな」

 

 槍の勇者様はそう言うと、マインさんに留置所の場所を聞いていた。



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昨日もフィーロちゃんに引かれてしまった

「なるほどな、そんな事がな」

 

 元康の話を聞いて、改めてレイファとリノアに心配をかけた事を申し訳なく思う。

 アーシャ? あの性欲女は正直苦手だから、生きているなら割とどうでも良い。

 

「そう、で、俺はアンタを見極めにきたわけ。女の子3人から慕われるのを見る限りだと、問題はなさそうだけれどね」

 

 まあ、人がモテるにはそれなりの理由がある。

 俺はそう言うつもりは一切無いんだけどな。

 

「で、槍の勇者様は俺をどうやって見極めると?」

「こう言う時は、これだろう」

 

 元康はそう言うと、槍を木の槍に変化させた。

 

「模擬戦なんかをする時に役に立つ槍だ。アンタもこれで俺と戦ってもらう」

「俺、ベルトで超固定されてて、動けないんだけど……」

「看守、宗介の拘束を一時的に解いてやってくれ」

「いえ、流石に、奴隷紋が効かなかったのでこの拘束を外すわけには……」

「奴隷紋……」

 

 元康が嫌な顔をした。

 尚文に負けた事でも思い出したのだろうか? 

 それとも、奴隷を購入して速攻で解放して殴られたとかか? 

 

「まあ、何に使うかはおいて置いたとしても、コイツが使えるのか試す必要があるからな」

「わかりました。槍の勇者様がそこまでおっしゃるなら」

 

 看守によってベルトに掛けられた錠が解放される。

 ようやく自由になった。

 伸びをすると、体がバキバキと音がなる。

 同じ姿勢でずっと固定されていたからね。

 結構しんどかった。

 

「それじゃ、少し開けているところに行こうぜ。腕試ししてやる」

 

 元康はそう言うと、俺に木の棒を渡す。

 まあ、従うしかあるまい。

 看守の人に案内されて、運動スペースにやって来た。

 

「さあ、君の力を見せてくれ!」

 

 元康はそう言うが、全力は出せないだろう。

 もし、攻撃が当たりでもしたら、刑が伸びそうである。

 すなわち、接待プレイをする必要があると言う事だ。

 

「ぜやああああああ!!」

 

 元康の直線的な攻撃は、いなすのは容易かった。

 合気道でも杖術は存在するのだ。

 軽く捻りを入れて、元康の槍を巻き取るだけでも攻撃の流れを逸らすことは難しく無い。

 

「ふっ、よっ、はっ」

 

 俺は小気味よく杖を使って元康の槍を受け流す。

 

「君、なかなかやるね!」

 

 一瞬KNN姉貴の「なかなかやるじゃ無い」と言う幻聴が聞こえた。

 

「なら、これならどうだ! 乱れ突き!」

 

 スキル使ってきたよ。

 まあ、こんな程度の攻撃ならば、見切るのは容易かった。

 杖で俺に当たる本命だけ撃ち払い方向を変え、それ以外は体捌きで回避する。

 それだけの事なのに、元康は相当驚いた様子だった。

 

「えぇ?! ……君、凄いね!」

「そうか?」

「ああ、これでも、俺はかなりの槍の使い手だと自負していたんだがな……」

 

 元康はそう言うと頭を掻く。

 

「ま、魔物相手ならば十分だと思うけれどな。対人戦なら俺の方が部があるから仕方ないな」

 

 殺した数はそれこそすでに3桁なのだ。

 それも、手練れの冒険者ばかりである。

 否が応でも対人戦特化してしまうのは仕方ないだろう。

 もちろん、今は単にいなしただけであるが。

 

「これなら合格かな」

 

 元康はそう言うと、俺の肩をポンポンと叩いた。

 

「マインによると、保釈までそれなりに手続きかかるみたいだから、しばらく待っていてくれよな」

「そうか、わかった」

 

 元康離れると、看守が走ってきて俺を拘束する。

 ベルトがつけられて、俺は再び身動きが取れなくなった。

 

「それじゃあ、あんまり女の子を悲しませないようにな」

 

 そう言うと、元康は颯爽と去っていった。

 波の前々日だと言うのに呑気なものである。

 そんな俺も、こんな状態だがな。

 樹に拘束される際に武器も防具も全て没収されてしまった。

 

 しかしまあ、両手両足に口まで防がれて、何もできないのはなかなかに辛かった。

 たまに尋問されるが、自分の武勇伝を語るだけになってしまうのでどうしようもなく暇だ。

 レイファたちは大丈夫だろうか? 

 それが一番の気がかりであった。

 

 

 

 私達が槍の勇者様に指定されたカフェで待っていると、槍の勇者様がマインさんと、何故か兵士を連れてやって来た。

 

「よっ、おまたせ。レイファちゃん、リノアちゃん、アーシャちゃん」

「お待ちしてました、槍の勇者様」

「予定より若干遅いんじゃ無いの?」

「悪い悪い」

 

 と言いつつ、マインさんの席をさらっと準備して座らせて、その隣に槍の勇者様は座った。

 

「で、宗介くんと面会して来たよ」

「ソースケは元気でしたか?」

「両手両足にベルトが巻かれてて、猿轡までされているのを見た時はビビったけどね。彼はまあ、元気そうだったよ」

 

 とりあえず、ソースケが無事そうで私はホッとする。

 

「え、ちょっと待って、ベルトに猿轡って、SMプレイでもしているの?!」

 

 リノアさんのツッコミに兵士が答える。

 えすえむぷれいって何だろうか? 

 

「キクチ=ソースケは奴隷紋が効かなかったため、厳重に抵抗ができないように捕縛した状態であります。詳しい原因は不明のため、解明するまではこのまま拘束される予定になっています」

「……と言う事だそうだ」

「そうなの。で、ソースケはどうなるのかしら?」

 

 リノアさんが聞くと、マインさんが答えてくれた。

 

「キクチ=ソースケさんは、これまでの活躍や実力から、波と戦う場合のみ保釈されることが決まりましたわ。それに伴い、裁判とレベルリセットの延期と、逃亡を阻止するための監視をつける義務、波と戦う義務が課せられますわ」

「まあ、ソースケほどの実力者をこのまま牢屋に入れっぱなしと言うのもどうかと思うからね」

「これは、超法規的措置ですので、義務を果たさない場合は即刻の処刑になりますわ」

 

 え、つまり、どう言うことなのだろうか? 

 私が混乱してくれると、リノアさんが教えてくれた。

 

「つまり、ソースケは見張りをつけて波と戦う限りは牢屋にいなくて済むと言うことよ。ただし、逃亡しようとしたり、波との戦いから逃げたりしたら、即処刑ね」

「え、それじゃあソースケは……?」

「とりあえずは外に出れるわね」

 

 うーん、これは安心して良いのかわからない。

 ソースケは波と戦うと言っていたし、見張りをちゃんとつければ問題ないという事なのかな? 

 

「で、ソースケはいつ保釈されるのよ?」

「これから保釈されるのよ手続きに入るから、明日の朝には解放されますわ」

「一応、俺のパーティという事でついて来てもらう事になるな」

「そうですか」

「そうそう、嘆願したレイファちゃん達も、波の戦いには参加してもらう必要があるからよろしくな」

 

 波はお父さんと一緒にやり過ごしたことはあるけれども、私はよくわかっていない。

 ラヴァイトも一緒に戦えるのだろうか? 

 と、槍の勇者様からパーティ申請が届く。

 

「えっ?!」

「一緒について来てほしいからね。大丈夫、俺が守ってみせるからさ!」

「は、はぁ……」

 

 私はそれを承認する。

 

「よし、オッケー。それじゃあ明日からよろしくな!」

 

 という感じで、私とリノアさん、アーシャさんは槍の勇者様と行動を共にすることになった。

 マインさんはいい人そうだし、ソースケが言うほどでも無いかなと思って安心した。

 それにしても、王様に話を通せるなんて、マインさんは一体どういう人なのだろうか? 

 よくわからない人だなと感じたのだった。




さて、第二の波はこれで原作から外れてしまうのが確定しそうです。
どう回避するのか?!
そもそも、宗介は置かれている状況を知らされているのか?
そして、元康のパーティメンバーになったレイファ達の明日はどっちだ?!

時系列的におかしいところを修正しました。


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一気にハーレムが増えたぜ!

「それじゃ、俺の仲間を紹介するぜ」

 

 そう言って連れてこられたのは、メルロマルクでは高級な部類に入る宿屋であった。

 

「俺に近い方から、マイン。彼女はメルロマルクの第一王女でもあって、マルティ=メルロマルクなんだ。勇者と共に戦う事を選んだステキな女性なんだ」

「よろしくですわ」

 

 はぇぇぇ……なんかすごい人だったんだ。

 私は驚かざるを得なかった。

 王女様という割には気品? みたいなのはカケラも感じられないけれど、言葉遣い確かに偉そうな感じがする人だった。

 

「こっちはレスティ。彼女はマインの友達で風魔法が得意なんだ。同じく貴族出身で、結構物知りなんだぜ。特に国内事情なんかには明るいかな」

「ふふふ、よろしくね」

 

 魔法使いの格好をした女性である。

 彼女の方が若干、気品みたいなのを感じる。

 

「で、彼女はエレナ。ジョブ的にはシーフに該当するのかな。お父さんが商人をやっていて、そこの御令嬢さんだ。結構色々なところに気づいてくれる子で、助かっている」

「……よろしく」

 

 エレナさんは何故か私たちを哀れな目で見てくるのがすごく気になる。

 3人とも高貴な出の人ばかりで、私としては恐るばかりである。

 それに、3人とも美女なのだ。

 ソースケから聞いていたけれど、この槍の勇者様は女好きなのだろう。

 

「私はリノアよ。滅んじゃったけれど、アルマランデ小王国出身の元レジスタンスメンバー。ソースケの仲間よ。特技は、このブーメランで戦う事ね。よろしく」

 

 リノアさんは、ソースケ曰く元ネタと性格が違いすぎると言っていた。

 呟きなので詳しくは聞いていないけれど、どちらかというとキャルって子に似ているらしい。

 ……知り合いなのかな? 

 

「私はアーシャです。ソースケ様のあいじ……こほん、忠実なせいどれ……。痛い、リノアさん! ええ、右腕です。特技は諜報活動です。よろしく」

 

 アーシャさんは不敵に笑う。

 ソースケ曰く、彼女は純粋に性欲丸出しなところが嫌いらしい。

 アーシャさんが何故ソースケを慕うのか聞いたところ、危ないところを助けてもらったとだけしか聞いていない。

 リノアさんと同じレジスタンスの仲間で、収容所の情報を盗んではレジスタンスに流す仕事をしていたらしい。

 

「あ、はい。私はレイファです。ソースケの彼女……えへへ、で良いのかな? です。よろしくお願いします」

 

 自分で【彼女】と言うのはものすごく照れる。

 普段は妹の様にしか接してもらえないけれど、私はソースケが好きであった。

 

「あと一人、菊池宗介って言う俺と同郷の男が居るんだが、彼を留置所から出す交換条件の一つとしてパーティに加わって貰った。みんな、仲良くしてくれよ!」

 

 ニコニコしながら槍の勇者様はそう言った。

 キクチ=ソースケの名前を聞いて、ようやく驚くレスティさんとエレナさん。

 

「ええ?! もしかして、《首刈り》ソースケですか?!」

「ああ、彼女らはその宗介の仲間だよ」

「大丈夫何ですか?」

「俺自身も彼と話して、悪いやつじゃ無い事を確認したしな。それに、仲間である彼女たちを宗介が見捨てるとも思えない。だから、大丈夫さ」

「ええ、奴隷紋が効きませんでしたが、モトヤス様がちゃんと手綱を握っていますわ。それに、ちゃんと首輪はハマっていますしね」

 

 マインさんはそう言って、私を見る。

 え、どう言う事? 

 

「……なるほど。わかりましたわ、モトヤス様。それじゃ、私が彼女らの面倒を見るわね」

 

 エレナさんがニコニコしながらそう進言すると、槍の勇者様はうなづいた。

 

「ああ、それじゃあエレナに任せるよ。よろしく頼むな」

「お任せください」

 

 ど言う事なんだろう? 

 まあ、仲良くできるならば仲良くしておいた方が損はないのは確かである。

 

「それじゃあ、エレナ。後は頼んだわね。私はモトヤス様とのデートの続きをしたいから、これで失礼するわ」

「よろしくね。私はエステの予約が入っているの」

「はいはい、気をつけてくださいね」

 

 マインさんは槍の勇者様の腕を取り、出て行く。

 レスティさんも同様に後に続いた。

 二人が出て行ったのを見送って、エレナさんはため息をついてソファーに座った。

 

「面倒臭いのに目をつけられたわね」

 

 さっきまでの態度とは違うエレナさんがそこにいた。

 

「ふーん、それがアンタに本性ってわけ」

「そうよ。まあ、モトヤス様はおべっか使うだけで良いし、猫被るのは得意だからね。楽で良いわよ」

 

 え、何が起こったんだろう?! 

 

「アンタたち……じゃなくて、おそらくレイファだけね。人質にされたわね」

「それはソースケ様を留置所から出すために仕方の無い事なの」

「ふーん、《首刈り》ソースケがどんな奴か、噂にしか聞いたことがないけれど、アンタたちの様子を見ていると良いやつなのかもね。噂だととんでもない奴だけれど」

 

 エレナさんはゴロンと横になった。

 

「どんな噂なんです?」

「賞金を狙って行って帰ってきたのは首だけだった。一人で50人以上の冒険者を皆殺しにした。出会う=死……まあ色々よね。先日捕まったって話を聞いて安心している冒険者は結構多いんじゃないかしら?」

 

 うーん、大概合っていて私は反論できなかった。

 ソースケと夜営している時も冒険者が襲ってきたことがあったけれど、ソースケは即座に切り捨てていたのを覚えている。

 その時に吹き飛んで私の目の前に落ちてきた生首が一番恐ろしかった。

 それ以来、ソースケは人間と戦う時は私が見えない場所で戦う様になったっけ。

 

「とりあえず、ヒエラルキーは覚えておいた方がいいわ。あのマイン……マルティ様に逆らうのはあまり良くないわね。口答えもしてはダメよ。《首刈り》の人質だから、レイファには何もしないでしょうけれど、リノアは気をつけた方が良いわ。こないだもライノって子が娼館に売られてたもの」

「……き、気をつけるわ」

 

 確かにリノアさんは口答えしそうである。

 それぐらい骨がないとレジスタンスなんてできないだろうけれど。

 

「アーシャは……そもそも、空気を読むのが上手そうだし、大丈夫かもね」

「お褒めにあづかり恐悦至極」

 

 アーシャさんは掴み所のない人である。

 話していても、暖簾に腕押しする様に、のらりくらりと本質から外れてしまうのだ。

 

「で、そこの天然ちゃんは、まあ、マインとレスティの二人に近づかない方が良いわね。リノアといつも一緒にいた方が良いわ」

「は、はい!」

 

 エレナさんはそれだけ言うと、満足した様に目を瞑る。

 

「それじゃ、レスティかモトヤス様が戻ってきたら起こしてね」

 

 エレナさんはそう言うとあっという間に寝てしまった。




キャラクター紹介みたいな。
基本的に槍の勇者編はレイファ視点が多くなる予定です。


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マインとのデートは楽しいなぁ!

 リノアさんとアーシャさんは情報収集と買い物に出たため、私はエレナさんと一緒にみんなの帰りを待っていた。

 それにしても、エレナさんはよく眠る。

 普段からちゃんと睡眠は取れているのか心配になってしまう。

 とは言っても、私もリノアさんに心配されてしまったけれど。

 

「レイファはもうちょっと危機感を持った方が良いわよ。自分が人質だってこと、ちゃんと理解してる?」

 

 私もちゃんとしないとソースケの役に立ちそうにないもんね。

 私がそう考えていると、エレナさんがむくりと起き上がった。

 

「あれ、レイファちゃん一人?」

「はい、リノアさんとアーシャさんは情報収集に行きました」

「ふーん、まあ良いけれど」

 

 起き上がったエレナさんはそう言うと、設置されてある水の入った瓶からグラスに水を注いで飲む。

 

「戻ってくるならその間、好きにして良いわよ。私もまだ帰ってこないなら波に備えて色々買い込んでおきたいしね」

「良いんですか?」

「良いわ、気をつけてね。怪しい人に話しかけられてもついていかないようにね」

「わ、私は子供じゃありません!」

「子供よ子供。天然ちゃんもほどほどにね」

「むー……」

 

 私はそんなに天然だろうか? 

 そんなつもりは無いんだけれどなぁ。

 

 私は宿を後にして、ソースケに役に立つ情報を集めるためにうろつくことにした。

 お店でお買い物をしつつ、情報を収集する。

 それにしても、波が近いせいか城下町は物々しかった。

 

「レイファちゃん久しぶりねぇ! 元気にしてたかい?」

「ええ、お陰様で♪」

 

 私は商店を覗きながら挨拶をする。

 こう言う繋がりは、お父さんの得意とするところであった。

 

「カレシ君は今日は居ないのかい?」

「ソースケはちょっと色々あって捕まっちゃってて……」

「あの子がかい? 何かやったのかい?!」

「その、私を助けた結果、指名手配されちゃって、それで最近捕まっちゃったんです」

「ああ、《首刈り》だったね。話したことあるから噂とは違うのは知っていたけど、捕まったんだねぇ……」

「はい、どうにかして助けたいんですけれど……」

「女王様がいれば、嘆願すれば良いけれど、今の王様じゃあねぇ。嘆願書が必要なら、おばさんも協力するよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「うんうん、レイファちゃんはやっぱり笑顔が似合うからねぇ! そら、これを持って行きな」

「りんご、いいんですか?」

「カレシにも渡してやんな」

「ありがとうございます! なら、これとこれ、買いますね」

「はいよ。サービスして銅貨15枚だよ」

「ありがとうございます!」

 

 と、こんな感じで何故かサービスしてもらいつつ、ソースケへのお土産を購入する。

 そんな感じでうろついていると、知っている人から声をかけられた。

 

「お前は宗介の……。おい、レイファ!」

 

 盾の勇者様だった。

 今は防具は外しているのかマントと、まるで村人のような服を着ている。

 

「盾の勇者様。お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな。宗介は元気か?」

「あはは、今はちょっと、元気じゃ無いかもです」

 

 私がそう言うと、怪訝な顔をする。

 

「もしかして、捕まったか?」

「はい。()()()()に捕まってしまって、今は留置所にいます」

「わかった。すぐに助けに行こう」

「あ、待ってください!」

 

 とても頼もしい盾の勇者様であるが、一応ソースケは保釈されるのだ。

 私はその事を伝える。

 

「ソースケは波の戦いに参加する事を義務付けられますが、保釈されるんです。だから、大丈夫です」

「それが本当かどうかはわからないがな。この国の連中は信用ならない。特に権力者はな……」

 

 盾の勇者様は不機嫌な顔になる。

 よほど辛い目にあったのだろう。

 私は話を変えることにした。

 

「そういえば、ラフタリアさんやフィーロちゃんは?」

「ん? 二人は手分けして物資を集めている最中だ。俺はまあ、二人に渡すアクセサリーの仕上げに必要な道具を探していたところだ」

「そうなんですね。良かったら一緒に探しましょうか?」

「いや、それには及ばない。お前に声をかける前に買えたからな」

「そうですか、それは良かったです」

 

 盾の勇者様は少しだけ微笑むと、私の頭を撫でる。

 

「助けが必要ならいつでも呼んでくれ。宗介やレイファの頼みだったら、すぐにでも駆けつけてやるからな」

「ありがとうございます、盾の勇者様!」

 

 私はお礼を言う。

 やはり、盾の勇者様は優しい方だ。

 正直、弓の勇者にも見習ってほしい。

 ソースケを使うだけ使って、ひどい怪我のところを捕縛してギルドに引き渡すなんて、信じられなかった。

 

「とりあえず、宗介とは波で会えるか……。だが、どうやって行くんだ? 場所はわかるのか?」

「いえ、それは聞いていないです……」

 

 ソースケは知ってそうではあるけれど、私は聞いていなかった。

 そもそも、国外の波に挑む予定だったのだから、仕方ないだろう。

 

「まあいい、編隊機能を送っておくから入れ」

 

 盾の勇者様から編隊の勧誘が来る。

 盾の勇者様と槍の勇者様は不仲であるのは専ら有名なので、正直心苦しかった。

 

「それが、すみません。槍の勇者様と一緒に行くことになっていまして……」

「元康と?」

「はい、今日の昼頃に。それで、ソースケも保釈されることになったんです」

「なるほどな。さすがは女好きらしいな」

 

 盾の勇者様は顔に手を当てて、困ったような顔をする。

 

「レイファも波に参加する予定なのか?」

「はい、その予定です。もちろん、戦いませんし、避難誘導の方をやろうと思っています」

「わかった。なら、転送されたら俺たちの近くに来い。俺たちも波では近くの村を守る予定だしな」

「はい、わかりました!」

 

 私がそう言うと、盾の勇者様は私に忠告をしてくださった。

 

「それじゃあ、くれぐれも元康と、クソビッチのマインには気をつけろよ。レイファは騙されやすそうだからな。特にマインの奴は、人を貶めるのが好きなやつだ。気をつけろよ」

「ソースケにも言われてますので気をつけますね」

「ああ、気をつけろよ」

 

 私と盾の勇者様はこうして別れたのだった。

 やはり、盾の勇者様は優しい人だなと、改めて感じたのだった。




かなり原作とかけ離れてきている!
宗介は捕まっているからね、仕方ないね。


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最高の懇親会だったぜ!

「おまたせ」

 

 私達がお話をしていると、槍の勇者様がそんな事を言いながら入ってきた。

 ちなみに、部屋はマインさん達とは別室で隣の部屋である。

 

「どうされました、槍の勇者様」

「俺たち、これから一緒に戦うわけじゃん? だから、懇親会みたいなのを開こうかと思ってさ!」

「はぁ? 波の前日なのよ? 本気で言っているわけ?」

 

 槍の勇者様の考えに、早速口答えするリノアさん。

 実際、言いたい気持ちはわからないでも無い。

 だけれども、ソースケやエレナさん、盾の勇者様がマインさんを注意しろと言うのは非常に重たいだろう。

 だから、私はリノアさんを小突く。

 

「え、あ、そそそ、そうね。仲良くなるのも重要だものね」

 

 リノアさんの言葉を聞いて、良かったと安堵する槍の勇者様。

 リノアさんもエレナさんの忠告を思い出したらしい。

 

「で、どこに行くの?」

「ああ、メルロマルクの一流レストランを予約してあるんだ!」

 

 え、ええ! 

 そんな豪華なところなんか恐れ多くて入れないよ! 

 

「えー、あー……ドレスコードとかは大丈夫なわけ? 私やレイファはそう言う衣装は持っていないわ」

 

 リノアさんの最もな指摘に、槍の勇者様は親指をぐっと立てる。

 

「もちろん、お嬢さん方に合ったドレスをレンタルしてるよ」

「え……、サイズとかどうしたのよ……」

「企業秘密さ。それじゃあ先にお召し替えと行きますか!」

 

 私達が連れられてやってきたのは、ドレスを販売・レンタルするお店だった。

 リーシアさんみたいな貧乏貴族はドレスを購入するのが難しい場合もあるため、レンタルショップと言うのは重宝されるそうだと、リノアさんから教えてもらう。

 ……世の中、私の知らないことだらけだ。

 

 ドレスレンタルショップでメイクアップされる私とリノアさん。

 本当に寸法がぴったりで驚く以外無かった。

 ソースケがまだ牢屋の中なのに、こんな事をしている場合では無いと言うのが正直な意見であるが、槍の勇者様が囲いたいのは意見を鵜呑みにする女性なのだろう。

 はぁ、何というか、窮屈だなぁ。

 このドレスのように私は感じる。

 腰回りを細く見せるために、コルセットと言うものが入っていて、締め上げてくるので苦しいのだ。

 

「おお! 三人とも素材がいいから凄くピッタリ似合っているよ!」

 

 と槍の勇者様は褒めてくれる。

 確かに、メイクアップされた私は綺麗だし、ソースケに見てほしい。

 けれども、慣れないヒールやコルセットが苦しいやらでどうしようもなかった。

 

「うぅ……キツイです……」

「我慢しなさい。こんなの、すぐに慣れるわ」

 

 リノアさんは平気な顔でそんな事を言う。

 確かに、リノアさんは着慣れた感じがある。

 アーシャさんも、着慣れた感じである。

 

「しかし、レイファちゃんは着られている感じがするわね」

 

 アーシャさんの指摘は最もである。

 ドレスアップしたマインさん、レスティさん、エレナさんも似合っていて美しかった。

 

 槍の勇者様は意気揚々と私達を席に案内してくれる。

 私達が席に着くと、メルロマルク料理のフルコースが運ばれてくる。

 最初は前菜、次にスープ、魚料理、口直し、肉料理と出てくる。

 こんな高級店で食べたことがなかったので、私はリノアさんやマインさんを見よう見まねでマナーを真似して食事をした。

 正直、この時何を話したかなんて覚えていない。

 ソースケから安易に相槌をうたないようにと言われていたので、私は返答を慣れているリノアさんに丸投げして、緊張とマナーと戦っていた。

 味は高級店って感じだったことしか覚えていなかった。

 

 

 

 翌日、俺は保釈された。

 長い事拘束されていたため、身体はバキバキである。

 運動時間に一応運動はしていたけれどね。

 こう、ほとんどの時間がベルトで固められると、凝ってしまう。

 

「お前がキクチ=ソースケか」

 

 入り口で待っていたのは、ゴツい鎧を身に纏った男だった。

 

「えーっと、アンタが俺の見張り?」

「そうだ。俺の名はライシェル=ハウンド。王命により貴様の監視を仰せつかった」

「ライシェルさんね。まあ、退屈な任務だとは思うが、よろしく頼む」

「……」

 

 何故か、意外そうな表情で俺を見るライシェル。

 どうしたと言うのか? 

 

「どうしたんだ?」

「いや、てっきり狂気にまみれた人格破壊者だと思っていた」

 

 うーん、既に百数十人殺している殺人鬼が正常に問答できる方が狂気だと言うこともできると思うが。

 まあ、俺の場合はモンスターと変わらない認識だけどな。

 言葉は理解できても分かり合えない連中を同じ人間とは思いたくない。

 だから、こう答える。

 

「俺は自分を十分狂人だと思っているさ。狂っている方向性が、違うだけだ」

「ふむ……」

 

 ライシェルさんはそう言うと、俺にパーティ申請を飛ばしてきた。

 なので、俺はそれを承認する。

 

「では、槍の勇者様のところに案内する」

「よろしく頼む」

 

 こうして、保釈された俺は波と戦うために、元康のところに足を向けることになった。

 少なくとも、編隊を貰わないと波に挑めないしな。




レイファのイメージを描いてみました!
ルリアのイメージを少し改造した感じですね。


【挿絵表示】


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ハーレムパーティになったし、第二の波は俺の活躍で鎮めてやるぜ!

 しかしまあ、俺の武器はどうなったんだろうか? 

 ここ4日間の事情は全く分からなかった。

 現状、投擲具が指す波の時刻まで3時間も無い。

 メルロマルクの龍刻の砂時計に登録した記憶はないんだがなぁ……。

 

「そう言えば、俺の武器はどこにあるんだ?」

「お前の武器は国が管理している。どれも余人には使えない【魔剣化】を起こしているので、いずれは勇者様方に配る事になっていた」

「魔剣化……?」

 

 確かに、人間無骨は魔槍になっているが、親父さんに改造されて鳴りを潜めているはずだ。

 他の武器に関しては、そもそも魔改造しただけの武器に過ぎない。

 

「まるで、槍が他の武器に共鳴しているかの様だと、錬金術師が言っていたな」

 

 うーん、やはり俺の槍は呪いの魔槍だな。

 なんか納得である。

 もはやあの槍は俺でもよく分からない得体の知れないものと化していそうだ。目玉とか生えそう。

 そんな目玉が生えた気持ち悪い槍は流石に持ちたく無いけれど。

 

「……」

「なので、お前にはこの武器を使ってもらう」

 

 ライシェルはそう言うと、腰に差していた直剣を渡してきた。

 鞘から抜いて確かめる。

 これは兵士に一般的に支給されている剣だな。

 魔法鉄だろうか? 

 振ると、結構心許ない感じがする。

 

「え、これで?」

「そうだ。それがお前に許された武器だ」

「……拒否れば?」

「俺がその場で取り押さえ、お前はその命を捨てることになる。レイファと呼ばれる少女も、報いを受ける事になるだろう」

「……はぁ?」

「要するに、あの少女は人質という事だ。今回の出所も、彼女が槍の勇者様に嘆願した事により叶っているという事をゆめゆめ忘れるな」

「……チッ」

 

 これじゃあ確かに逆らえないだろう。

 レイファを失うことは、俺にとっても世界の終わりと同意義だからだ。

 クソッ! 

 リノアやレジスタンスの連中が心配だからって最後まで加担するんじゃなかった! 

 まあ、これも選択だ。俺にはレイファの期待を裏切ることは出来ないし、したくない。

 どちらにせよ、金剛寺に会ったことが運の尽きだったのだろう。

 

「もちろん、波の時以外にお前は彼女と会うことは禁じられている」

「……最悪だな」

 

 つまり、レイファは波の戦いに強制参加するということだし、戦場では会話など満足にできるはずもないので、実質国が強制的に俺とレイファを別れさせるということだろう。

 レイファが生きている限り、メルロマルクは俺という戦力を使うことができるし、仮に死んだとしても、メルロマルクは俺に嘘をついて延々と戦わせるだろう。

 ……ああ、最低だな。

 

「……君には同情するよ。だが、これが今までのツケだ。勇者様方が波からこの世界を救った暁には、君は釈放されるだろうな」

「……嫌な国だな。吐き気がする」

「……」

 

 裁判を受けていないので、これでも被疑者ではある。

 日本では、指名手配された人物が私人逮捕されたのと同意義だ。

 つまり、本来であれば保釈金を払えば裁判までの間は自由が保障されるべきだろう。

 封建社会ならではという事か。

 

「さて、モトヤス様とはここで待ち合わせだ」

 

 メルロマルク城前の門である。

 他の兵士が鎧を用意していた様である。

 

「貴様はそれに着替えると良い。そこの兵士が着替えを手伝ってくれる」

「はいよ」

 

 しかし、ライシェルさんは、あのアニメで出ていた傷の兵士の部下なのだろうか? 

 話は通じそうである。

 

「そういえば、鼻に傷のある兵士は……?」

「ん? 副団長の事か? それならば、マルティ様の護衛をしているぞ」

「……なるほどね」

 

 色々と混じってる気がする。

 書籍ルートであるのは間違いないみたいだが、アニメのみ登場の人物もいれば、web限定の人物もいる。

 まあ、今いる世界がどう言う世界なのかは分からないが、どちらにしても盾の勇者の成り上がりの世界に違いはなかった。

 

「うーん、動きにくい……」

 

 標準的な兵士の鎧は動きにくかった。

 ガシャガシャと音を立てている。

 やはり、親父さんの鎧の出来の良さを感じる。

 

「お、居るね!」

 

 と、元康とヴィッチが姿を現した。

 ヴィッチは興味なさげに()()()()()()

 そう、見ているのだ。

 

「……」

 

 正直、このナンパ野郎に任せるのは不安しかない。

 真・槍の可能性は未だに消えていないのだ。

 愛の狩人になった瞬間、レイファ達が抹殺されかねない不安がある。

 

「それじゃ、編隊だっけ、それを送るぞ」

「では、私にお願いします」

「オッケー」

 

パーティリーダーライシェル=ハウンドが北村元康のパーティと編隊を組みました。

 

 メッセージが表示される。

 

「よし、これで大丈夫だな」

「モトヤス様、他の兵士を勧誘しても大丈夫でしょうか?」

「ん? どうせ直ぐにこれるから不要じゃね?」

 

 次の波はババアの村だ。

 ここからならフィロリアルで2日、馬で1.8日、フィーロで1日ぐらいなはずだ。

 つまり、間に合うわけがない。

 だが、ここは黙っている方がいいだろう。

 沈黙は金だしな。

 

「……わかりました。モトヤス様のおっしゃる通りに」

 

 ライシェルが礼をすると、元康達は立ち去ろうとする。

 

「それじゃ、波でな」

「行きましょ、モトヤス様!」

 

 原作とは少しズレが生じるなと、俺はふと思い至った。

 1点目、第二の波にレイファ達が参加する事。

 これは明確な描写がないからなんとも言えないが、レイファを尚文が見たら、話の展開が若干変わる事になるだろう。

 2点目、もちろん、俺が勇者達と共に波に参加する事だ。

 錬、尚文が俺と会うと、それこそ一番態度が変わってしまう人物がいる。

 

 そう、錬だ。

 

 間違いなく、錬がなぜ俺が捕まっているのか、問いただすだろう。

 その場合、尚文が近くにいる以上、錬の暴走が始まってしまうだろう。

 そう、明らかに俺は物語に介入しすぎている。

 つまり、今回が一番のターニングポイントになりかねなかった。

 

「……頭がいたいな」

 

 ここを上手く乗り切らねば、極めてマズいだろう。

 俺が推察するメガヴィッチの目的を達成してしまうかもしれないからな。

 そう考えると、あのクエスト樹と共に受けざるを得なかったのはまさにメガヴィッチの策略だったのだろう。

 ここが転換点だ。

 ここを乗り切らなければいけない。

 

 俺は一人、策を練り続ける。

 錬がこの国にあまり不信を持たないようにし、書籍ルートに舵を戻せるタイミングはここなのだ。

 俺がこの先生き残り続けるためにも、是が非でも書籍ルートに辿り着かなければならない。

 例え、()()()()()()()()()()()、例え()()()()()()()()()()()()、この世界を守るため、メガヴィッチを消滅させるため、優先順位を見極めなければならなかった。




宗介のイメージ画像は次の更新で!
挿絵描いてもいいかもねー

質問の詳細
1、理不尽に負けず、理性を保って書籍の世界に行き着くようにする
2、何かの手違いが起きてweb化
3、考えを放棄して何もしない
4、カースシリーズの侵食を受け入れ、世界の破壊者になる
5、愛の狩人召喚


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せっかくレイファちゃんに良いところを見せるチャンスだったのに……尚文め!

00:05

 

 私達はソースケに会えないまま、間も無く波の時間を迎えようとしていた。

 

「槍の勇者様、ソースケは無事だったんでしょうね?」

「ああ、共に戦う事になっているよ。ちゃんと無事なことは俺の目でも確認してきたから大丈夫大丈夫!」

 

 リノアさんが焦るのも仕方ないだろう。

 昨日の夜、懇親会の後でマインさんが私達に話した内容が、衝撃を与えていたからだ。

 

「バカな小娘。お前達があの、《首刈り》に再会できると思っているのかしら?」

 

 マインさんの嘲るようにリノアさんに言った一言である。

 

「どう言うことよ!」

「そのままの意味ですわ。確かに生かして差し上げるわ。それはモトヤス様との約束ですもの。ただし、会わせるとは一言も言っていないわ」

「……!」

 

 リノアさんが物凄い形相で睨む。

 

「そもそも、私も《首刈り》を生かしておくなんて反対なの。モトヤス様が仰るから、有効活用してやろうと言うだけのお話ですわ」

「……マルティ王女、何故今このタイミングでその事を私達に教えたのですか?」

「ふっ」

 

 アーシャさんの詰問に鼻で笑うマインさん。

 

「小さな希望に縋っているのが余りにも滑稽だったからですわ。私は親切にも、貴女達の現状を教えてあげただけですの」

 

 何という人だろう。

 いいや、人でなしと言った方が正しい。

 この国の……私の国の第一王女がこんな人だったなんて信じられなかった。

 小馬鹿にして私達を笑う悪魔がそこにいた。

 

「せいぜい、モトヤス様のお役に立てるように頑張ることね」

 

 彼女はそう言うと、私達の元を去る。

 

「……まるで、マリティナね。いいや、そのものな感じがするわ」

「リノアに同感ね。髪の色も顔の形も違うのに、そっくりだったわ」

 

 リノアさんとアーシャさんはマインさんに対してそう感想を述べる。

 私は、目の前で起きた出来事を信じられずに呆然としていた。

 ああ、確かに、こんな性格の人が第一継承権を持っているはずがなかった。

 女王さまが幼いメルティ第二王女殿下に第一継承権を指名したのも納得であった。

 そのマルティ王女は槍の勇者様に寄り添っている。

 

 私は、この人を早く槍の勇者様から遠ざけなければ大変な事になるのではないかと思ったのだった。

 

00:01

 

 間も無く転送される。

 私は、戦力外なのですぐに盾の勇者様のところまで走る予定だ。

 本当に死んでしまえば、ソースケに会う機会がないからだ。

 

00:00

 

 その時、3度国中に響くほどのガラスの割れるような大きな音が木霊する。

 そして、一瞬で景色が切り替わる。周囲を見渡すと、空にはワインレッドの亀裂が広がり、勇者様とその仲間達が状況を把握しようとしていた。

 

「ここは……メシャス村?!」

 

 私とソースケが逃亡している最中に立ち寄った村である。

 

「盾の勇者様!」

 

 何故かいるメルロマルクの若い兵士達が、盾の勇者様のところまで走って行っている。

 

「フィーロ! 槍を蹴って亀裂に向かおうとする奴らにぶつけろ。加減はしろよ」

「はーい!」

 

 私は唖然としていたので、被害はなかったけれど、フィーロちゃんがフィロリアルクイーンの姿で槍の勇者様のところまで走って行き、蹴り飛ばす。

 

「え──?」

 

 蹴り飛ばされた槍の勇者様がリノアさんや他の勇者様を巻き込んで、引き飛ばした。

 

「「「わああああああああああ!」」」

 

 私は思わずめを瞑ってしまった。

 そして、盾の勇者様の周囲に集まっていた。

 

「キレーなおねーちゃん、乗って」

 

 フィーロちゃんが私のところに来たので、私はうなづいてフィーロちゃんに乗り、勇者様方のところに近づいた。

 

「な、何をするんだ!」

「それはこっちのセリフだ馬鹿共!」

 

 槍の勇者様の糾弾に対してそう答える盾の勇者様。

 

「いきなり……?!」

「いきなりなんです! 僕達は波から湧き出る敵を倒さねばいけないのですよ!」

 

 剣の勇者様と思わしき少年は、文句を途中で止めて、信じられない物を見るように動きが止まった。

 弓の勇者は相変わらずである。

 

「ソースケ!」

 

 剣の勇者様はそう言うと、向いていた方向に駆け出す。

 私もフィーロちゃんの上から、ソースケを見つけて思わず顔がほころんだ。

 

「あー、マジか。いや、錬サマ、先に尚文の話を聞いてくれないか?」

「……? あ、ああ、話したいことはいっぱいある。待っていろ」

 

 困ったような顔をするソースケ。

 ……何か、雰囲気がおかしかった。

 

「ああ、まずは話を聞け。敵を倒すのはその後だ」

 

 盾の勇者様は目線で兵士たちにアイコンタクトを取ると、兵士達はメシャス村の方へ走っていった。

 

「さては……僕達への妨害工作ですね!」

「違う!」

 

 弓の勇者が戯言をほざく。

 本当に黙っていてほしい。イライラする。

 弓の勇者は盾の勇者様の否定に驚き、目を見開いた。

 

「落ち着け、そして考えろ。俺は援助金を貰えないから波の本体とは戦わない。せいぜい近隣の町や村を守るのが仕事だ。そこは理解したか?」

「ああ」

「勇者としては失格ですね」

 

 剣の勇者様が相槌を打ち、弓の勇者が余計な事を言う。

 と言うか、盾の勇者様が報奨金を貰えないなんて初耳である。

 

「次に、錬、樹、元康、お前等は波の大本から湧き出る的の撃破が仕事だ。大物を倒せば何は収まるのか、亀裂に攻撃をするのかはやってないから知らない」

「ボスとリンクしているのですよ!」

 

 ソースケ曰く、早めに波を抑えたいならば、亀裂を攻撃するのが有効だとも言っていた。

 

「だけどもな、俺達にはそれ以外に重要な仕事があるの……わかってない?」

「なんだ?」

 

 剣の勇者様が首を捻る。

 その様子に、盾の勇者様はため息をついた。

 

「あのな、騎士団はどうしたんだよ!」

「そんなものは後から来る」

 

 剣の勇者様の仲間が撃った、場所を知らせる魔法弾を指差す。

 メシャス村は馬やフィロリアルでも1日半かかる遠い場所だ。後から来ると言うのは楽観が過ぎるだろう。

 

「ここは城下町から馬やフィロリアルで一日半の距離があるんだぞ! 間に合うかボケ!」

「じゃ、じゃあどうすれば良いんだよ!」

「情報通のお前らが言うのか?!」

 

 狼狽える剣の勇者様に、盾の勇者様が解説する。

 盾の勇者様は兵士たちを指差した。

 

「そう言えば……あの方々はどうやって転送を? 

「編隊機能を使ったんじゃね?」

 

 と、槍の勇者様が割り込んだ。

 

「6人以上は経験値効率が下がるのはみんなも知っての通りだよな。宗介と、そこのおっさんを連れて来る際に何か方法がないか探したらあったんだよ」

 

 槍の勇者様の回答に、全員が驚く。

 ソースケはため息をついて、そう言うことかと呟いた。

 

「なるほど、そう言う機能があるんですね」

 

 弓の勇者も納得のようである。

 

「わかっている元康が何で他の兵士を連れてきていないのかは置いておくとして、とりあえず確認だ。誰か波での戦いについて、ヘルプなどの確認を行ったもの」

 

 盾の勇者様が手を挙げながらそう言うと、勇者様方全員がキョトンとした顔をする。

 

「熟知しているゲームのヘルプやチュートリアルを見る必要なんてないだろ?」

「そうだ。俺達はこの世界を熟知している」

「ええ。ですから、早く波を抑えることを最優先にしましょう!」

 

 三人の勇者様の回答に、盾の勇者様は呆れた表情をする。

 

「じゃあ波の戦いはお前等……他のゲームでなんて言う?」

「は?」

「何のことだ?」

「それよりも早く行きましょう!」

 

 弓の勇者は人をイラつかせる天才ではないだろうか? 

 私の弓の勇者への心象はどんどん悪くなっていく。

 リノアさんを見ても、呆れた表情をしていた。

 弓の勇者とその仲間達は、波の大本へと駆け出していった。

 

「元康、お前は俺の質問の意味がわかるだろ?」

「まあ……インスタントダンジョン?」

「違う。タイムアタックウェーブだろ?」

「ギルド戦、またはチーム戦、もしくは大規模戦闘だよ!」

 

 いまいち、私は勇者様の話している言葉の意味が掴めなかったが、どうやら戦い方の話をしているらしい。

 

「……お前等、ゲームのシステムを完全に理解していても大きなギルドの運営をした事が無いんじゃないか?」

 

 盾の勇者様の指摘に、槍の勇者様が反論する。

 

「俺はチームの運営をしていたぞ」

「じゃあ何で理解できない」

「必要ないだろ。それに、宗介を連れてきたのは俺だ。それで十分だろ?」

「はぁ!?」

「どうにかなるもんさ」

 

 ソースケは沈黙してただ、この流れを傍観しているだけだ。

 さっきから、ソースケの様子は明らかに変である。どうしたのだろう? 

 

「フィーロちゃん、下ろして」

「んー、ごしゅじんさまからキレーなおねーちゃんは村に着くまで守れって言われているから、後で降ろすよー」

 

 どうしよう。ソースケがおかしい。

 

「俺はそう言うのに興味がなかった」

「……とにかく、今回は俺達がどうにか頑張ってみるが、次はちゃんと騎士団と連携を取れよ」

 

 盾の勇者様がシッシと追い払うように波の大本に行くように促すが、二人は立ち去らない。

 

「その前に、ソースケ……いや、宗介と話をさせてくれ」

「好きにしろ」

「それと、レイファちゃんを離せよな!」

「彼女は完全非戦闘員だ。こちらで預かる」

「だが、俺のパーティだ!」

「くどい!」

 

 槍の勇者様は舌打ちをする。

 

「……槍の勇者、行きましょ。盾の勇者様、レイファをお願いするわ」

 

 リノアさんが槍の勇者様を促して、諦めるように波の大元に向かった。

 アーシャさんは既にソースケのところに待機している。ブレないなぁ。

 

「と言うわけだ。俺達も近隣の村へ行くぞ! ラフタリアとフィーロ、レイファもな」

「はーい!」

「はい!」

 

 私はソースケのところに行きたかった。

 だけれども、剣の勇者様と話があるようであった。

 だから、私はフィーロちゃんに手足を羽毛で絡め取られたまま、なすがままについていくことになったのだった。

 

「ソースケ……」



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暴走

錬目線です。


「宗介、久しぶりだな。元気にしていたか?」

「ああ」

 

 まさか、こんな所で失った仲間と会えるとは思えなかった。

 俺のパーティだった頃とはすっかり違っているが、やはり宗介は宗介だった。

 だが、俺が近づくと、なぜか宗介は短剣を構えた。

 腰に装備したものではなく、どこかで見たことがあるような宝石の装飾がされた短剣だった。

 

「何を考えている?!」

 

 騎士が俺を守るように、宗介に立ちはだかった。

 どうしたと言うのだろうか? 

 

「ぐあああああああああああああ!!」

 

 そして、一瞬で血飛沫をあげて倒れた。

 

「ソースケさま?!」

「宗介?!」

 

 宗介は、嫌な笑みを顔に貼り付けている。

 な、何が起こった?! 

 

「クックック……。なぁ、錬。お前は、世界を守ることはどう言うことだと思う?」

 

 な、なんだこれは?! 

 

「……どう言うことだ?」

 

 俺は剣を構える。

 それも、今一番強いサンダーソードだ。

 

「なあオイ、教えてくれよ錬。クックック……。世界をお前は守れるのか?」

「もちろん、守ってみせる!」

「滑稽だな。こんなゴミクズみたいな世界、滅んでしまえば良いだろう?」

「宗介……?」

「ソースケ様、何を?!」

 

 宗介はそう言うと、()()()()()()()

 

「エアストスロー、セカンドスロー、ドリットスロー、コンボ、サウザンドスロー」

 

 宗介の手につき次とナイフが出現する。

 

「俺を殺せなければ、錬、お前に世界は救えない。さあ、戦え!」

 

 ふっと宗介が消える。

 一瞬でHPが削れる。

 痛い、なんだこれは?! 

 見ると、身体中にナイフが突き刺さっていた。

 

「なっ?!」

「弱い。が、さすがは精霊具の勇者様だ。硬いな。だが、次で終わりだ」

 

 俺は負けるのか?! 

 それになぜ、俺が宗介に攻撃されているのかわからなかった。

 

「おやめください! 何を考えているのですか?!」

「勇者殺しだ。この世界を破壊する」

「なっ?!」

 

 ダメージを負った騎士が立ち上がり、再び宗介の前に立ちはだかる。

 

「何を考えている?! キクチ=ソースケ!!」

「クックック……。何を? はっはっは、わかっているだろう?」

 

 宗介は明らかにおかしかった。

 まるで、魔王を彷彿とさせた。

 

「なぜ、俺にこの選択をさせたのか、お前達メルロマルクの連中ならばわかるだろう? なあオイ!」

 

 再び宗介の手元のナイフが消えて、鎧の男の身体中に突き刺さる。

 

「ファスト・ヒール!」

 

 宗介を慕う女が慌てて彼を回復させる。

 

「クックック……。そんな強さもないくせに、何が守るだ。そもそも錬。お前は一体何を守っているんだ?」

「うをおおおおおおおおお!!」

 

 騎士が剣で攻撃するが、宗介は最小限の動きで的確に避ける。

 

「チェインブレイク」

 

 宗介は武器を鎖鎌に変形させると、騎士を鎖鎌の鎖で巻きつけて、鎖を爆発させた。

 

「う、ガハッ……!」

 

 再び倒れ臥す、騎士。

 

「お前は何も守れはしない。人も! 世界も! そして、お前の心もだ! あははははは! はははははははははは!!」

「くっ! 何をわかったような口を!」

 

 俺は、宗介を敵として認識する。

 ここで奴を倒さなければならない! 

 

「さぁぁぁぁぁぁ! この菊池宗介を止めてみろぉぉぉぉ! 俺は世界を殺すぅぅぅぅ!!!」

「俺がお前を止めてみせる!」

 

 俺は宗介の間合いに近づく。

 

「遅い」

 

 振りかぶった剣は受け流され、顔面にナイフが突き刺さる。

 剣の加護のおかげで、頰に切り傷ができただけで済んだが、完全に俺を殺す攻撃だった。

 

「遅い」

 

 宗介の姿が消えると、一瞬で周囲にナイフのドームができ、俺に向かって飛んでくる。

 

「はああああああ!!」

 

 俺は180度埋め尽くされたナイフを剣でなんとか防ぐ。

 足や腕に刺さるが、剣の加護のおかげで大きい怪我にはなっていなかった。

 

「遅いぃぃ!!!」

 

 宗介は武器を手斧に変化させる。

 

「トマホォォォォォゥクゥ!!」

 

 そして、斧を投擲する。

 

「レン様!」

 

 ウェルトが盾で宗介の投擲した斧を防ぐ。

 

「ぐっ! ソースケさん!」

「ウェルトォォォォ! お前はここで殺してやるかぁぁ!」

「あの時はすまなかったと思っている! だが、今は波の時だ!」

「だから殺すんだよオォォ!!」

 

 もはや、宗介は話の通じる状態ではなかった。

 

「ウェルト、テルシア、ファリー! あの時俺を嵌めた罪、今ここで断罪してやる。どうせ死ぬんだ。ここで俺が殺してやる! はははははははははは!!」

 

 宗介は再びスキルを使うと、また消える。

 

「うわあああああああああ!!」

「きゃああああああああああ!!」

「ウェルト! テルシア! くそおおおおお!」

 

 俺は宗介を殺すために剣を振るう。

 宗介は平然と俺の剣を紙一重で回避して、手痛い反撃を食らわせてくる。

 

「流星剣!」

「流星投擲!」

 

 俺が必殺スキルの流星剣を放つと、それに合わせて宗介も流星シリーズの技を使ってきた。

 全て相殺される。

 おかしい、まるで、宗介が勇者の武器を持っているかのようであった。

 

「もしかして、あの武器は七星武器の投擲具では?」

「……どう言うことだ?」

 

 ファリーがそう推察する。

 

「でも、なんでソースケさんが投擲具を? 投擲具の勇者様は他の国にいるはずなのに?」

「そう言う推察は地獄でしていろ」

 

 宗介はそう言うと、再び一瞬で消えて、ナイフのドームを作り出す。

 そして、一斉に降り注ぐ。

 剣でなんとか打ち払うものの、ダメージが蓄積していく。

 あの攻撃は一体なんだ? 

 俺たちは地面に倒れ伏した。

 

「クックック……。さあ、トドメだ!」

 

 宗介はそう言うと、武器を禍々しいナイフに変化させた。

 俺の胸ぐらを掴み、首筋にナイフを突きつける。

 ぐ、まさかのゲームオーバーか。

 やはりあの時、宗介が離脱したのがフラグだったのだろうか? 

 だが、宗介の動きがピタリと止まる。

 

「う、ぐ、が! な、何を……!」

 

 宗介はそう言って頭をかきむしる。

 ナイフの柄から手を離しているにもかかわらず、ナイフは地面に落ちない。

 

「レン様! 今のうちに!」

「だが、宗介が!」

「いつ、再び殺しにくるかわかりません! 早く波を鎮めるのが勇者様の役目です!」

 

 バクターに諭され、俺はそうだったと思い至る。

 まるで何かに洗脳されたようにしか見えない宗介を置いて、俺たちは撤退した。

 くそっ! 俺は強いんじゃなかったのか? 

 宗介にまるで歯が立たなかった事に俺は悔しい思いを抱き、波の本体の方向に撤退した。




宗介は、時を止めるスキルを使っています。


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憎悪の世界

 ああ、憎い。

 なぜ俺がこんな理不尽な選択を強いられる? 

 

 ──なぜ我慢をしなければならない? 

 

 憎い。

 俺にこんな理不尽を押し付ける連中が憎い。

 

 ──なぜ絶望しなければならない? 

 

 この世界が憎い。

 女神が憎い! 

 弓のクソ野郎が憎い!! 

 この国の連中が憎い!!! 

 憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

 

 ──ならばどうする? 

 

 世界を壊そう。

 この、最低最悪な、憎悪の蔓延る世界を壊そう。

 

 ──どうやって? 

 

 勇者を殺そう。

 敵を殺そう。

 いつもやっている事だ。

 

 ──ただ殺すだけでは意味がないぞ。

 

 波の時間に殺そう。

 一人ずつ殺そう。

 それで、何もかもが無くなっても、それは仕方のない事だ。

 

 ──お前の力では勇者に勝てないぞ。

 

 ならば、力を貸せ。

 

 ──良いだろう。憎悪に身を任せ、全てを滅ぼすが良い!! 

 

 両手両足が黒い炎で焼けこげる。

 目の前に人間無骨が出現する。

 俺がそれを掴むと、その力の流れが投擲具に吸収される。

 ビシビシッパキンと、付属されていたアクセサリーが粉々に砕け散った。

 

 ──その血塗られた道に祝福を!! 嗚呼、災いが今こそ降臨せり!! 

 ──世界よ、祝福せよ! 血に塗れた勇者の誕生だ!! 

 

「ふははははは、あはははははははははははは!!」

 

カースシリーズ

憤怒の短剣の条件が解放されました。

 

グロウアップ

ラースダガーⅠの条件が解放されました! 

 

グロウアップ

ラースダガーⅡの条件が解放されました! 

 

グロウアップ

ラースダガーⅢの条件が解放されました! 



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くっ!クラーケンを倒せば良いはずなんだ!

尚文視点です。


「フィーロ! 急ぐぞ!」

「うん!」

 

 俺たちは、フィーロに跨り波の本体に移動していた。

 いっこうに来ない宗介を探したいからという事で、レイファも同行している。

 すでに3時間が経過したにもかかわらず、波が収まる気配がなかったため、兵士の連中やババアの後押しで俺たちは波の本体に向かっていた。

 

危険! 

 

 突然メッセージに表示された言葉に、俺はフィーロに止まるように指示を出す。

 

「フィーロ!」

「う、うん!」

 

 木々の間から現れたのは……

 

「そ、ソースケ……?」

 

 宗介だった。だが、その手に持っている武器は、どこかで見たことのある宝石が装飾された、竜の描かれた禍々しい短剣であった。

 両手両足が黒い炎で発火している。

 

危険! 危険! 危険! 危険! 

 

 空気が重い。以前戦ったドラゴンゾンビのそれよりも圧倒的にヤバい。俺はそう直感していた。

 さっきからメッセージの警告が煩わしいほどに出ている。

 

「宗介……なのか……?」

「ああ、尚文。盾の勇者」

 

 違う。コイツは宗介ではない! こんな邪悪な笑みを、狂気に濁った瞳をするような人物ではなかった! 

 

「ソースケ!」

「レイファさん、危ないです!」

 

 宗介のところに走り出しそうになるレイファを、ラフタリアが引き止める。

 

「宗介、急いでいるんだ。悪いが退いてもらえないか?」

「そういう訳にはぁぁ、いかねぇなぁぁ」

 

 宗介はそう言うと、俺に短剣を向ける。

 あの禍々しさは、見覚えがある! 

 

「尚文ぃぃ、お前に恨みは無いし、むしろ感謝しかないが……」

 

 俺は咄嗟に盾を構えた。

 

「ぐあっ!」

 

 俺が守っている範囲がわかるほどの無数の斬撃が俺を襲う。

 

「悪いが世界を破壊するためにぃぃ、死んでくれぇぇ」

 

 まるで、いや瞬間移動をしながら攻撃してくる宗介に、俺はラフタリア達に攻撃が来ないように防ぐだけで精一杯であった。

 

「エアストスロー、セカンドスロー、ドリットスロー、コンボ、サウザンドスロォォ」

 

 勇者スキル特有のスキルを使い、禍々しい短剣を分裂させて投げてくる。

 その攻撃は、俺が防がなければ、ラフタリアやフィーロ、それにレイファを殺すには十分な威力と、人体の急所を狙った攻撃であった。

 

「宗介! お前はどうしたんだ!?」

「尚文ぃぃぃ! お前と同じだぁぁぁ!」

「どう言う事だ!」

「わからねぇならぁぁ死ねぇぇ!」

 

 その瞳は完全に狂気と憎悪に彩られている。

 

「ぐっ!」

 

 攻撃力が高いのか、かなり重く感じる。

 受けるだけでもダメージだ。

 

「ラフタリア、フィーロ、宗介を取り押さえるぞ!」

「わかりました!」

「いっくよー!」

「レイファは俺の後ろに!」

「はい!」

 

 ラフタリアとフィーロが宗介に攻撃を仕掛ける。

 あの奇妙な体術……本人曰く合気道をさらに実戦で研ぎ澄ませた格闘術を織り交ぜながら、ラフタリアとフィーロを相手に互角に渡り合っている。

 

「邪魔するならぁぁ、先に死ぬかぁぁ」

 

 すでに殺意と憎悪によって、宗介は染まっている。

 あの武器はまるで、俺の所持するカースシリーズの憤怒の盾のようだった。

 ラフタリアも気がついたのか、こちらに戻ってくる。

 

「ナオフミ様!」

「ああ、あの短剣はおそらく憤怒の盾と同じカースシリーズのものだ」

 

 だとしたら、相当強いのも納得である。

 ただでさえ戦い慣れた宗介がカースシリーズを持つ勇者の武器を持っていると仮定するならば、こちらも殺す気で行かないと対応できそうにない。

 

「ラフタリア、殺す気で行け。俺も憤怒の盾を使う!」

「ナオフミ様?!」

「そうしないと、アイツは止められない!」

「……わかりました」

 

 俺はレイファに顔を向ける。

 

「すまない、アイツを止めるために少し危険を冒してもらうことになると思う」

「いいえ、ソースケの為なら、何も問題はありません」

 

 俺はレイファの覚悟を聞いて意識を集中する。

 

「来い! 憤怒の盾!」

 

 憎悪が侵食してくる。だが、この程度ならば耐えられる。

 盾に呪いの炎が張られる。

 俺は憤怒の盾に切り替わると同時に走り出す。

 宗介はラフタリアとフィーロが翻弄しているが、宗介はまるで読んでいるかのように的確に対処している。

 

「宗介ぇぇぇ!」

「尚文ぃぃぃ!!」

 

 叫んではいるものの、宗介は冷静に対処する。

 セルフバーニングカースが近接攻撃のカウンターである事を知っているように、俺には遠距離から投擲攻撃しかして来ない。

 近接で距離を縮めると、ナイフを使った格闘術に切り替えてくるため厄介だ。

 

「ナオフミ様!」

「チィッ!」

 

 宗介の両腕は黒い炎で轟々と燃えている。

 どうやらアレにもこの憤怒の盾の炎と同様の呪いのある炎らしかった。

 

「ラフタリア!」

「はい、行きます!」

 

 俺はラフタリアと二人掛かりで攻撃する。

 流石に俺たちの連携攻撃は回避しきれなかったのか、宗介はダメージを追った。

 

「ぐっ! さすがは世界を救う勇者様ってところか!」

 

 俺ですら憤怒の盾の憎悪に飲み込まれまいと必死なのに、宗介はそれを制御できているように感じる。

 攻撃の判断が冷静で正確なのだ。

 

「フィーロ!」

「はいくいっく!」

 

 よろめいた瞬間にフィーロの攻撃を受けて、宗介は吹き飛ばされる。

 しかし、受け身を取りすぐに起き上がる。

 

「ごしゅじんさまー、武器の人、ほとんど避けたよ!」

 

 フィーロの攻撃をほとんど避けただと?! 

 

「遅い! 遅い遅い遅おおおおおい!」

 

 一瞬、場の空気が固まった気がした。

 

「ラフタリア、フィーロ!」

「はい!」

「うん!」

 

 直後にナイフのスコールが発生した。

 盾で防がなければ、不味いレベルだ。

 防いでいるのが盾の部分なのでダメージは負っていないが、憤怒の盾でなければ受けきれなかっただろう。

 

「さすが盾の勇者! 現時点でこの強さか! ハハッ! 殺しがいがあるなぁぁ!!」

 

 宗介が構え、こちらに走り出そうとした時、宗介をレイファが抱き留めた。

 

「ソースケ! 元に戻って!」

「ぐっ、離せ! 俺はこの世界を破壊するんだ!」

「なんでよ! ソースケはいつだって、みんなの事を考えてきたじゃない!」

「離せ! お前も殺すぞ!」

「レイファ!」

 

 宗介は本当にレイファを短剣で切り刻んでいる。

 

「ナオフミ様!」

「ああ」

「待ってください!」

 

 俺たちがレイファを救おうと、宗介に近づこうとすると、レイファが止める。

 

「お願い、ソースケ。どうかその怒りを、憎しみを、私にも教えて? なんでそんなに怒っているの? 私にもちゃんと話してよ! ソースケ!」

「なんだこれは! やめろ! 聞きたくない! 離せ! 殺すぞ!」

「絶対離さない! ソースケは私の一番大切な人だから! 絶対離さない!」

「離せ! 離せぇぇ!! はな……dhjkcうvjぎdjkづいどんくxkjdがいkdksgぼえう!!!」

 

 宗介はまるでパソコンから出るようなバグった声を出す。

 そして、そのまま気絶した。

 短剣はまるで宗介の中に消えるように消失してしまった。

 

「終わった……のか……?」

「どうやらそう見たいですね……」

 

 俺とラフタリアはその場にへたり込んでしまった。

 憤怒の盾をキメラヴァイパーシールドに戻して、宗介の様子を見る。

 完全に気絶しているようで、意識はなかった。

 

『彼の者を癒せ!』

「ファスト・ヒール!」

 

 俺はすぐさま、レイファに回復魔法をかける。

 やはり、ラフタリアと同様に傷の治りが遅い。

 

「ありがとうございます。盾の勇者様」

「いや、例には及ばない。レイファのおかげだしな」

 

 宗介の両腕は真っ黒に焼き焦げている。

 治るかどうかわからないが、魔法を宗介にもかける。

 

『彼の者を癒せ!』

「ファスト・ヒール!」

 

 やはり、呪いの炎のせいか、治りは良くない。

 

「仕方ない。フィーロ、レイファと宗介を村の避難所に!」

「うん、わかった!」

「俺たちはフィーロが戻るまで待機した後に、波の本体に向かうぞ」

「わかりました、ナオフミ様」

 

 しかし、どういう事だ? 

 宗介はなにかを知っているような感じがする。

 だが、まずはこの波を収めることが先決だ。

 俺はそう判断をして、フィーロを見送るのだった。




レイファはヒロインやなって、改めて思ったんだ。

実は100話目だったのか…
web原作からすると遅れているのかなー
カルミラ島編の中頃だっけ?


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流星槍が決まったはずなのに……!

 私達はフィーロちゃんに乗って、村の避難所に到着した。

 入り口では盾の勇者様と共に来ていた騎士さん達が見張りをしていた。

 

「じゃあ、おねーちゃん行くね」

「うん、ありがとう、フィーロちゃん」

「武器の人、よろしくね!」

 

 フィーロちゃんはそう言うと、ものすごい勢いで盾の勇者様のところに戻っていった。

 

「大丈夫ですか!? 二人ともひどい怪我だ……!」

「私は大丈夫ですから、ソースケをお願いします!」

 

 ソースケはひどい状態だ。

 両手両足は呪いの炎で焦げており、真っ黒である。

 盾の勇者様達との戦いでの怪我もある。

 私は不安でいっぱいだった。

 

「二人とも、十分酷いです。さあ、中に入って。男性の方は私達が運び込みます」

「ありがとうございます……」

 

 私とソースケは兵士さんに連れられて、避難所の治療院に運び込まれた。

 

「これは酷い! 二人ともかなり強い呪いに侵されています!」

 

 治療師さんは信じられないものを見るかのように私達を見る。

 

「特に、その男性の両手両足は酷い。どうしてこんな事になったんですか?」

「その、ソースケが呪いの装備に侵されていたみたいで……」

「呪いの装備……? どうしてそんな物を?」

 

 正直、状況は良くわからない。

 ただ、あの竜を象った禍々しい短剣が、ソースケをおかしくしていた事だけはわかった。

 

「さ、さあ……? 盾の勇者様の見解なので、私には良くわからないです」

「ふむ、とりあえず、この村に備蓄してあるありったけの聖水で浄化してみましょう。もちろん、お嬢さんの分も確保しますのでご安心を」

「私のことは良いので、ソースケをお願いします!」

 

 治療師さんは首を横に振った。

 

「いいや、お嬢さんがそんな怪我だと、お連れさんが目覚めた時に心配しますよ。お嬢さんも治療に専念なさい」

「は、はい……」

 

 私は治療師さんの指示に従う事にした。

 ふと、ステータス魔法でパーティの状況を確認すると、槍の勇者様はじめとしたメンバーの体力がゴッソリと減っていた。

 リノアさんは無事みたいだけれど大丈夫だろうか? 

 アーシャさんもHPはあまり残っていない。

 私は不安になった。

 

「おい! 勇者様の仲間が大怪我で運ばれてきたぞ!」

 

 その言葉に、避難所は騒然とする。

 運ばれてきたのは、ソースケと一緒に来ていたゴツい鎧の騎士さんと、ところどころが黒く変色して大怪我を負ったアーシャさんだった。

 

「アーシャさん!」

 

 私はアーシャさんのところに駆け寄る。

 

「アーシャさん、大丈夫ですか?!」

「……さすがに……大丈夫じゃない……わ。レイファは……無事で良かった……」

 

 アーシャさんは怪我で苦しそうだ。

 傷や呪いのせいで黒く変色しているところを見ると、アーシャさんもソースケにやられたのだろう。

 

「ソースケ……様は……?」

「今、治療院で治療中です。盾の勇者様に鎮めて貰いました」

「そう、良かった……わ……」

「アーシャさん!」

 

 アーシャさんは完全に気絶したようであった。

 

『力の根源たる私が命じる。理を今一度読み解き彼の者の傷を癒せ』

「ファスト・ヒール」

 

 私はアーシャさんに回復魔法を試みる。

 傷の治りはあまり良くないが、少しは回復したようである。

 

「すまないが、私にもかけてもらえないかな?」

 

 アーシャさんを引きづっていた騎士さんも苦しそうだったので、私は回復魔法を試みる。

 

『彼の者の傷を癒せ』

「ファスト・ヒール」

 

 騎士さんは「ありがとう」と感謝の言葉を述べると、アーシャさんとともに治療院に運ばれていった。

 騎士さんもまた、呪いのせいか少し黒ずんでいた。

 

「君が、レイファか」

 

 騎士さんにそう言われて、私はうなづいた。

 

「ええ、そうですけれど……」

「すまなかった。おそらく、私がキクチ=ソースケが暴走するキッカケを作ってしまったのだ」

 

 いきなりそんな事を言い出す騎士さんに、私は慌てるしかなかった。

 

「え、え、どうされたんですか?」

 

 騎士さんは私に向き直ると、治療を受けるために鎧を脱ぎながら、語り始めた。

 

「私はライシェル=ハウンドと言う。メルロマルクの騎士だ」

「え、ええ」

「私が国王……オルトクレイ=メルロマルク32世から仰せつかった任務は、キクチ=ソースケの監視だった」

 

 それから、私は黙ってライシェルさんの懺悔を聞いていた。

 ライシェルさんの任務は、保釈されたソースケの監視であった。

 理由は、ソースケには奴隷紋が通用しなかったためである。

 そして、ソースケを私達……リノアさんやアーシャさんから引き剥がすことも任務の一つだったと言う。

 波での戦いの時以外は決して近づけるなと言う命令だったらしい。

 これは、マルティ第一王女が言っていたことと符合する。

 ライシェルさんがその事をそれとなく告げるとともに、ソースケ雰囲気が変わったらしい。

 従順から、無反応に変化したそうだ。

 一応、呼びかけには反応するが、薄かったらしい。

 ライシェルさんは諦めにも似た感情を抱いたのだとその時思ったそうであった。

 そして、転移後、剣の勇者様と対峙した時に暴走が始まったらしい。

 どこからともなく禍々しい短剣を取り出し、憎悪と狂気に彩られた表情に一変した。

 ライシェルさんはすぐさま、剣の勇者様を守るために動いたが、神の如き強さでライシェルさんを一蹴、剣の勇者様を追い詰めたらしい。

 それから、剣の勇者様を見逃したと思ったら、突然メシャス村に足を向けたらしい。

 こんなデタラメな強さを持つソースケが村に到着すれば、村人全員を殺害するのは容易い。

 そう感じたライシェルさんは、アーシャさんとともにソースケを止めるために戦ったそうだ。

 持てる力を全て使っても、口での足止めが精一杯だったそうで、アーシャの言葉でなんとか3時間は持ったらしい。当然、その間はアーシャさんもライシェルさんもソースケに蹂躙されながらな状態だったらしいが。

 

「アーシャさん……」

 

 アーシャさんはふざけているのかと思ったけれど、ソースケの事を本気で慕っているんだなと彼女を見直すとともに、感謝するしかなかった。

 あの状態のソースケならば、避難しきれていない村人を虐殺する恐れがあったのは確かだからだ。

 そうでなくても、盾の勇者様を妨害する事になるので、余計な被害が出ていたのは確実であった。

 

「レイファ嬢、私の方からも、キクチ=ソースケとレイファ嬢を引き剥がす事の危険性について具申させていただくよ」

「い、いえ。それに、ソースケは危険じゃないです! 悪いのは、あの王女様です!」

 

 そう、そもそもの元凶はあのマルティ王女である。

 ソースケはきっと、絶望し、世界を憎悪したのだろう。

 私も、ソースケに会えないと思ったら、こんな世界なんて要らないと思ってしまうもの。

 お父さんだけでなく、ソースケまで居なくなってしまったらと考えると恐ろしい以外の何者でもなかった。

 だからこそ、あの王女様は許せなかった。

 

「……私からは何も言えない。だが、盾の勇者様やソースケくんには申し訳ないと思っているがね」

「いえ、騎士様は職務を果たしているだけですので、その言葉が聞けただけで十分です」

 

 そう、盾の勇者様が迫害される理由もおかしかった。

 盾の勇者様と一度でも話してみれば、女性を強姦なんてするような人間でない事は誰だって理解できるだろう。

 実際、メルロマルク城下町の人も、「可哀想ね、盾に選ばれたばっかりに」と言っていた事を覚えている。

 私はお父さんの方針で一応は三勇教ではあるけれども、ニュートラルに見れるように教義には触れてこなかった。

 お父さんは常々「偏見こそが人間の悪の根源だ。自分が正義だと言う立ち位置に立てば、人間は平気で悪を成す。それを正義と信じて」と言っていたのを覚えている。

 だからこそ私は弓の勇者が嫌いだった。

 

「ただ、ソースケが起きたら謝ってください」

「……そうさせてもらおう」

 

 私は、ライシェルさんにそれだけはやってほしかった。

 例え命令でも、ソースケを傷つけた事には違いないのだから。



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グフフ……フィーロちゅわぁん……

 不意に、空が素の青い空に戻った。

 どうやら、波は無事に抑えられたらしい。

 私が避難所から外に出ると、空の割れ目がスゥッと消えて行くところだった。

 

「おお、勇者様が波を収められたぞ!」

「おおお!」

「やったああああ!」

 

 村人の方々が喜びの歓声を上げる。

 私も、ホッと一息をつくことができる。

 

「それじゃあ、村の復興に向かうぞ!」

「おお!」

「男衆が先頭に立つのだ! ラグラロックの婆さんがいるとは言っても、討ち漏らしの魔物がいるかもしれないからな」

 

 私はそれに同行する事にした。

 ソースケも心配だけれども、今の私には何もできない。

 だから、ソースケの代わりに目になるのが私にできる事だ。

 

「私もついていきます!」

「え、お嬢ちゃんは大丈夫だよ。避難所で待ってなさい」

「これでも、魔物となら戦えます!」

 

 村人たちは困った顔をしたが、私は押し通した。

 村は、大体の魔物は討伐されており、魔物にやられて怪我をしている兵士さんが治療を受けていたりした。

 村の治療院には、建物はそこまで破壊されていないが倒された勇者様とその仲間が、運び込まれていた。

 

「盾の勇者様!」

「レイファか。無事で何よりだ」

 

 道中で村の復興を手伝っている盾の勇者様に出くわしたので、声をかけた。

 怪我をしていたのか、包帯を巻いているが全然元気そうであった。

 

「はい、おかげさまで。ソースケは無事とは言い難いですが……」

「仕方ないだろう。だが、騎士団の連中が来る前に去ったほうがいいだろうな」

「そうですね」

 

 私は同意する。

 この国は、ソースケには厳しすぎるのだ。

 正直、あんなソースケはもう見たくなかった。

 

「そういえば、他の勇者様方は?」

「ああ、元康と樹は治療院行きだな。錬は……あそこにいる」

 

 盾の勇者様が指差す方に居たのは、剣の勇者様だった。

 確かに包帯をしているし重症だが、剣を振り回している。

 

「宗介に負けたのがよほど応えたらしい。復興の邪魔だし、村の外で魔物狩りなんてされたら色々面倒だから、素振りをしてもらっている。まあ、アイツの仲間も重症で治療院にいるがな」

「そうなんですね……」

「それに、波のボスが人型だったせいか、錬だけ怖じ気付いてしまったらしくてな。アイツだけ比較的軽症だったんだ」

 

 剣の勇者様は険しい顔をして剣を振っていた。

 盾の勇者様の情報は、恐ろしい話である。

 事実ならば、勇者が波に勝てないかもしれないと言う事なのだから……。

 

「その、勇者様が波に負けた情報はあまり口外しないほうが良いです」

「……まあ、そうだな。下手にパニックが起きると厄介だしな。村の連中にもそう伝えておくか」

 

 ラフタリアさんやフィーロちゃんは木材の運搬をしているようだ。

 

「しかし、勇者どもがこんな体たらくじゃ、先が思いやられるな……」

 

 盾の勇者様はため息をつく。

 

「正直、勇者どもに変わって、宗介が勇者をやってくれれば話が早くて済むんだがな」

「あはは……」

 

 私は苦笑するしかない。正直、ソースケにはこれ以上勇者様と関わって欲しくなかった。

 どう考えてもその先には辛い戦いしか待っていないからだ。

 ただ、この世界規模の厄災である。力のあるソースケは求められてしまうのだろう。

 

「だが、気になるのが人型の波のボスのグラスの目的だ。宗介が言っていた、『世界を破壊するために、勇者を殺す』と言う言動からして、グラスの狙いはそれか?」

 

 盾の勇者様がよくわからない事を言い出した。

 私が分からないことが顔に出ていたのか、盾の勇者様は解説してくれる。

 

「ああ、グラスと言うのは、波から出てきた人型の敵だ。宗介が持っていた武器と似たような宝石のついた扇の武器を持っていた」

「はぁ……」

「こいつの目的が、『勇者を殺す事』だったんだ。暴走した宗介の行動と一致しないか?」

「た、確かに……」

 

 ただ、やはりよくわからない。

 そもそも、波から人が出てくるなんて聞いたことがなかった。

 

「だが、グラスは錬たちを勇者だとは思っていなかった。『眷属器』とも言っていたな。どう言うことかわかるか?」

「い、いえ。すみません、お役に立てず」

「ああ、すまなかった。レイファや宗介はラフタリアやフィーロ、武器屋の親父の次に信用がおけるやつだから、聞いてしまった」

 

 そう言われると照れるものがある。

 

「いえ、ただ、波って謎が多いんですね」

「ああ、もしかしたら、波の正体を探る必要があるのかもしれないな」

 

 盾の勇者様は厳しい顔でそう仰っていた。

 その日の夜、私は旅立つ事になった。

 同行者はソースケ、リノアさん、アーシャさん、そして、3人の意識が回復するまでライシェルさんが同行する事になった。

 

「レイファと言ったな」

「えーと、剣の勇者様でしたっけ」

「そうだ。天木錬と言う。宗介の事を頼む」

 

 剣の勇者様もどうやらソースケの事を聞いたようであった。

 呪いで暴走状態であった事、両手両足が今でも、真っ黒に焦げている事をである。

 

「もちろんです」

「そして、今度は俺の仲間を失わないよう、お前を超えて見せると伝えておいてくれ」

「わかりました」

 

 剣の勇者様は、自分の強さに真摯な人のように感じた。

 その真摯さがソースケ以外の仲間にも向けばもっと良いんじゃないかなとは思うけれど、私は口にしなかった。

 だって、ソースケも自分一人で抱え込んでしまうのだから。

 だから、ソースケと似た剣の勇者様に言えるアドバイスはこれだけである。

 

「早く、信頼できる仲間ができると良いですね」

「……? ああ、そうだな。アンタみたいな人がいるから、宗介も強かったのだろうしな」

「うーん? まあ、頑張ってくださいね!」

 

 剣の勇者様は私と同じくらいの年齢なので、師匠と呼べるような人を見つけるのが良さそうではあるけれど……。これ以上は聞かなそうなのでやめておいた。

 

「じゃあな、レイファ。今度は捕まるなよ」

「はい!」

「それは私が同行しているから大丈夫だろう」

 

 馬車の中からライシェルさんがそう答えてくれた。

 

「まあ、気をつける事には越した事ないさ」

 

 ライシェルさんは盾の勇者様の連れてきた兵士さん達と仲よさそうだったので、なんとかしてくれそうである。

 

「我が弟子候補の一人を頼んだぞ」

「はい!」

 

 ソースケに【気】と言うものの使い方を教えてくれたおばあさんも見送りに来てくれた。

 

「それでは、お先に失礼しますね」

 

 私は馬車と馬を借りて旅立つ事になった。

 目指すは、女王さまのいる東の国である。

 ラヴァイトも連れて行きたかったけれど、残念ながらメルロマルク城下町に立ち寄ることはできない。

 

 そうして、私達はメジャス村を出発したのだった。

 

 だけれども、槍の勇者様との騒動はこれで終わったわけではなかった。




まだまだ槍の勇者編は終わりませんよ!


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ネタバレ

宗介の内面世界でのおはなし。


 ──なぜ殺さなかった。

 

 ……さてな、俺もわからん。

 錬も尚文も、気に入っていたからか? 

 

 ──剣の勇者は殺せたはずだ。

 

 そうだな。

 あの時はまるで、何かに止められたようだった。

 俺の意思とは別の何かにだ。

 あと少しで殺せたのにな。

 

 ──精霊か。

 

 なるほどな。

 投擲具は元々剣の聖武器の眷属器だったけかな? 

 あれ、槍だったか? 

 だから、止められたんだろう。

 

 ──くだらぬ。

 

 くだらない。

 まったくもってくだらない。

 この世界を破壊すれば、メガヴィッチの思惑である経験値は入手できないのにな。

 

 ──まったくもってくだらぬ。

 

 今回が実質最期のチャンスだった。

 残念だ。

 

 ──お前もくだらないのだ。

 

 はっ、悪かったな。

 レイファは流石に、俺には殺せないよ。

 無理なものは無理なのさ。

 

 ──世界を破壊する事は、あの女を殺すのと同じなのにか? 

 

 違いはあるさ。

 あの子だけが希望だ。

 パンドラの箱に残っている、かすかな希望の光がレイファなのさ。

 

 ──くだらぬ。所詮はその程度の人間か。

 

 そうだよ。

 俺は自分の大切なものを切ることは出来ない、情けのない人間さ。

 そう言うお前は一体誰だ? 

 まさか、人間無骨に意思があるわけ無いしな。

 

 ──我は竜。竜帝のカケラの一つ。お主の前任者に殺された竜だ。

 

 あー……なるほど。

 じゃあ、この投擲具とおさらばすれば、アンタともおさらばなわけだ。

 

 ──そんな訳なかろう。我は既に貴様に巣食っているのだからな。

 ──貴様の憎悪が気に入った。

 ──故に、貴様自身に巣食うことにした。

 

 え、やめてよね! 

 ドラゴンって勇者のカースと相性が良いけどさ、俺は波の尖兵だよ?! 

 

 ──関係なかろう。我は貴様に期待しているのだ。

 ──故に、我を失望させるな。

 

 はぁ? 

 勝手に期待して、勝手に絶望するのやめてくんないかなぁ? 

 俺は俺のやりたいようにやる。

 俺の憎悪や俺の絶望は俺自身のものだ。

 アンタにくれてやる気はないよ。

 

 ──それも良いだろう。

 ──貴様が、貴様の知る【盾の勇者の成り上がり】の世界をどう変えていくのか、楽しみにしているとしよう。

 

 やめろスカタン! 

 俺は元々変えるつもりは無い! 

 破壊がもう無理な以上は元に戻すための方法を模索するだけだ! 

 

 ──だが、剣は変わってしまったぞ? 

 ──貴様との出会いが変えてしまったのだ。

 ──剣が強くなれば、次の【霊亀との戦い】での立ち回りも変わるだろう? 

 

 俺の記憶を読むな! 

 

 ──ははは、なかなかの退屈しのぎにはなるな。まるで預言書を読んでいるようだ! 

 

 やめんか! 

 

 ──また、適宜貴様に話しかけるとしよう。

 

 おい、待て。

 俺の記憶で【盾の勇者の成り上がり】を、ネタバレを読むなあああああああああああ!!! 

 

 ──ははははははは!




あれ、この竜愉快なやつでは?
ガエリオンでは無いです。

ちなみにあの薬の影響で、竜帝の塊とは相性が悪いはずですが、宗介の憎悪と絶望が中和剤的な感じになっていると思ってもらえれば良いです。


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レイファちゃんが居なくなって寂しい……

 私達は村に立ち寄りながら、東へと移動していた。

 時間としては、既に2日は経っていた。

 リノアさんもアーシャさんも回復して、私達は既に槍の勇者様のパーティを抜けていた。

 道中の教会で聖水購入し、ソースケの両手両足を浸している聖水を取り替えながら進んでいた。

 ソースケは一向に目を覚まさなかった。

 栄養は、盾の勇者様からいただいた栄養水を適宜摂取しているけれど、やはり心配であった。

 聖水の効果があってか、宗介の両手は若干肌色の部分が出ている程度には回復していた。

 

「しかし、散々な目に遭ったわ」

 

 リノアさんはそう振り返る。

 

「クテンロウでしか見られない服を着た黒髪の女が舞い降りてきたかと思ったら、勇者様共々吹き飛ばすんですもの。他の人を盾にして直撃は防いだけれども、大ダメージよ。ひどい目に遭ったわ!」

 

 今でもヒール軟膏を塗って包帯を巻いているので、治りきっていないのだろう。

 

「それにしても、ソースケが暴走するなんてねぇ……。やっぱり、あの時の光の玉をソースケが吸収しちゃったせいかしら?」

「リノアさん、どう言うことですか?」

 

 リノアさんが何かを知っている感じなので、深く聞いて見ることにした。

 

「ユータ=レールヴァッツって言う有名な冒険者が居たんだけれど、ソースケがそいつを殺しちゃったのよ」

 

 それは、特に驚くことではなかった。

 ソースケは自分と敵対するものは理由がないと殺してしまう。

 前に、何故弓の勇者一行を殺さないのか聞いた際に、勇者一行だから無理。ただの冒険者なら容赦はしないさと答えたことがあった。

 

「で、そいつが死んだ後に、光の玉が飛び出したのよね。すぐに逃げ出すような動きをしたけれども、まるで吸収されるようにソースケに引きづられてしまったのよ。今思い返しても不思議な光景だったわ」

「リノアさん、それってもしかして、投擲具ではありませんでしたか?」

 

 アーシャさんが聞くと、リノアさんはうなづいた。

 

「そうね。ユータは投擲具を使っていたわ。まあ、ソースケが一蹴しちゃった訳だけれど……」

「つまり、ソースケ様はユータから()()()()()()()?」

「アーシャ殿、それはどう言うことか説明していただこうか?」

 

 馬の行者をしているライシェルさんが話に入ってきた。

 

「憶測なのだけれど、ソースケ様は今、()()()()()()だと思われます」

「……どう言うことだ?」

 

 ライシェルさんが険しい顔をする。

 

「ソースケ様の強さは、本来は4つの武器を使った距離を問わない戦闘スタイルです。武器を使わない場合は格闘術も使います」

「よく知っているわね……」

「これでも元影ですから」

 

 アーシャさんの言う通りだ。

 ソースケは殺すと決めた相手には人間無骨と言う槍で首を狩る。

 魔物との戦いでは、短剣と弓をメインで戦闘を行い、強敵相手だと格闘術を使う。

 

「ですが、今回はソースケ様は短剣はもちろん、鎖鎌、手投げ斧、投げナイフ、と言った武器に変化する武器を使っていました。変化する武器なんてそれこそ、勇者様の持つ武器以外にあり得ません」

「メルロマルクでは、かつて勇者の武器を再現したものがあったはずだ」

「ですが、その武器は失われていますし、そもそも出力には大勢の人間の魔力が必要と聞いています。ソースケ様はそんな魔力量を持っているとは思えません」

「ふむ……確かに」

 

 勇者武器をソースケはどこで入手したかが問題ということだろうか? 

 

「勇者武器をユータから奪ったって言うこと?」

「はい、恐らくですが」

「それが何か問題があるのかしら?」

 

 リノアさんは断言した。

 

「私は、ソースケなら勇者武器に選ばれてもおかしくないと思うわ。最近だと、斧の勇者が行方不明になっちゃったらしいと言う話も聞くし、どうも七星勇者辺りは胡散臭い話が飛び交っているのよね。それに、レジスタンスの頃に仕入れた噂なんだけれど、七星武器は奪い合いが行われているらしいわ。斧の勇者様は元々異世界人だったとも聞くし、投擲具の勇者様も異世界人だったらしいのよね」

「つまり、ソースケ様は勇者武器の奪い合いに参加している一人であると……」

「そこまではわからないわ。ただ、七星勇者はあまり信用できないみたいね。上層部はごまかしているみたいだけれど」

 

 リノアさん独自の情報だろう。私はそんな話は聞いた事がなかった。

 

「一応、他の国の波は、フォーブレイの鞭の勇者様が有償で対処しているらしいけれども、他の国ではすでに波によって滅んだ小国もあるのよね。その点でも、メルロマルクが四聖を独占している事が問題になっているはずよ」

「そうだったんですか……」

 

 ライシェルさんもうなづいたと言うことは、事実なのだろう。

 

「それで、我が国の女王様は外交に出ていらっしゃるのだ。国王様の方が得意分野であったのだが……、今はすっかり耄碌されておられる」

 

 ライシェルさんはそう言うと、ため息をつく。

 

「で、アーシャ殿。このタイミングでその話をする意図は何だ?」

 

 確かに、それは気になる。

 

「いえ、いつものソースケ様ならば大丈夫とは思いますが、もし仮に『勇者の武器をその様に弄んでいる、偽勇者』と言われた際にソースケ様が世界を敵に回す可能性があります。なので、ソースケ様に同行する意味をきちんと考えた方がいいかと思いました。もちろん、私はソースケ様に忠誠を誓った身ですので、たとえ世界を敵に回したとしてもソースケ様のお供をしますがね。レイファさんはともかく、リノアさんは身の振り方を考えた方がよろしいかと」

「アンタ、そう言って私をソースケから遠ざけようとしているわね……!」

「なんのことかしら?」

 

 睨み合う二人に私は苦笑いをするしかなかった。

 

「ふむ、ソースケくんは慕われているのだな。勇者様方の反応も好意的だった」

「はい、ソースケは教会が言うような神敵ではないですし、絶対間違っています!」

「……まあ、ソースケが人殺しなのは間違いないけれどね。今でも、ソースケが人を輪切りにして笑っている光景を思い出すだけで震えてくるわ」

 

 ソースケは最初から、……あの時冒険者に襲われた時でも【敵】に対しては容赦の無い性格だったように思う。

 もちろん、ソースケの良いところはいっぱい知っているし、優しくて大好きだけれども。

 何故、あそこまで容赦なく人を殺せるようになったのかは、未だに聞けていなかった。

 

「うっ……!」

「ソースケ!」

 

 ソースケが苦悶の声をあげたので、そちらに意識を向けると、ソースケが目を開けた。

 

「レイファ、か。……リノアにアーシャ、それにライシェルさんもいるのか」

「ソースケ、大丈夫?」

「ソースケ様?」

 

 手には別に投擲具を持っている感じでは無い。

 それに、この感じはいつものソースケである。

 

「ああ、すまなかったな。迷惑をかけたみたいだ。特にアーシャとレイファには申し訳ない」

「そんな、全てはソースケ様のためです」

「うんん、ソースケが元に戻ったんだから問題ないよ」

 

 ソースケは物凄く気まずそうな表情をする。

 あの表情は、何かを誤魔化そうとする顔色だ。

 ……何を誤魔化そうとしているのだろうか? 

 

「……ソースケ?」

「……はあ、レイファには後で話すよ。それより、波が終わってから何日経った?」

 

 起きて早々であるが、意識ははっきりしているようだ。

 両手も普通に動いているので、芯までは燃えていなかったのだろう。

 現状、真っ黒でとてもではないが動かせるようには見えないのだけれど。

 

「2日です」

「そうか、なら、今すぐ近くの村に寄った方がいいな」

「どうしたの?」

「ま、確認したい事があるんだよ」

 

 こうして、私達はメシャス村から西に真っ直ぐ言ったところにある村、ロッソ村に立ち寄ることになったのだった。




ちなみに、ブラッドサクリファイスを使った後レベルの呪いを受けています。
常時両手両足を呪いの炎で焼いてましたしね…。
そんな呪い程度で宗介はへこたれませんが。


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尚文の野郎、どこに行きやがった……?

 私達はソースケの提案でロッソ村に到着していた。

 ソースケは見た目が酷すぎるため、馬車で休んでもらっている。

 ライシェルさんが、見張りをしてくれるとの事で、私達3人で情報収集と聖水の購入を行うことになった。

 ただ、村の中央で集会があるのか賑わっていた。

 私達はそれとなく近づき、様子を見る。

 

「──この様に、兵士達を惨殺し、盾の悪魔はメルティ第二王女を誘拐したのだ!」

 

 映像水晶で投影された映像は、ラフタリアさんやフィーロちゃんが凶悪な笑みを浮かべて、兵士達を殺害する映像であった。

 だけれども、ソースケが散々冒険者達を殺害する光景を見てしまった私としては、兵士の倒れ方は切られて倒れていると言うよりも殴られて倒れている様にしか見えなかった。

 

「リノアさん、これって……?」

「さあ? こんなことをして、メルロマルクは滅びたいのかしら?」

 

 リノアさんはため息をつく。

 

「だいたい、人間至上主義の国内だけならば盾の勇者様がこんなことをしましたと言って大義名分が立つだろうけれども、そもそも盾の勇者様は亜人国の勇者様よ。シルトヴェルトに『攻め滅ぼしてください』とお願いしている様にしか見えないわ」

「た、確かに……!」

 

 よく考えればわかることである。

 亜人のシルトヴェルトにとって、人間を殺すことは、何も問題ないのである。

 もし、()()()()()()()()()()()()()()()()()、亜人達にとってはメルロマルクは神に見捨てられた国と同意義である。

 すなわち、【メルロマルク滅ぶべし】と盾の勇者様が宣言したことに他ならない! 

 

「あのロザリオ……。メルロマルクの国教である三勇教ですね」

 

 アーシャさんが水晶を持っている神官の胸元を見て断言した。

 

「なるほどね。ソースケはこれを見せたかったか、確認したかったのね」

「どういう事ですか?」

「カンタンなことよ。私達が動きやすくなるの」

「は、はぁ……」

「盾の勇者様に注目が集まる以上、私達が国外に逃げたところで何も問題ないという事ね」

「でも、どうしてこんな事に……」

 

 盾の勇者様は優しい人だ。

 神鳥の馬車を引く聖人様と同一視されている人物だ。

 実際、神鳥と言うのはフィーロちゃんの事を指すのだろうとは思う。

 

「恐らく、この国での盾の勇者様の信頼度が高くなったためと推測されますね」

 

 私の呟きに、アーシャさんが答える。

 

「逆に、他の四聖勇者様の支持が落ちています。表の噂を集めただけですけれども、盾教や四聖教を信じ始めるメルロマルク国民も徐々に増えている感じですね」

「ま、弓の勇者様だけ見てもロクな奴じゃないし、仕方のないことかもしれないわね」

「そもそも、弓の勇者様の活躍は噂すら無いですよ?」

 

 噂すら無いと言うのは、どう言うことだろうか? 

 

「むしろ、他の冒険者の狩りを邪魔しただとか、魔物の討伐のしすぎで生態系を破壊しただとか、そう言うマイナスの噂ばかりが聞こえてきますね」

「それ、聞いたことあります……」

 

 私が情報収集をするとき、ソースケから言われて他の勇者様の情報も集めていたけれど、そう言う話はよく耳にした。

 剣の勇者様は東の村で疫病を流行らせた。

 槍の勇者様は南西の村で植物の魔物を復活させて、村を崩壊寸前まで追いやったり、女性をナンパして娼館に売りつけていると言う噂だ。

 正直、心象が悪くなる噂ばかりが流れている。

 そして、弓の勇者はそんなに大きい噂は無いが、アーシャさんの言う細々とした嫌がらせをした系統の噂が流れているのだ。

 

「……なるほどね。なりふり構って居られなくなったと言うわけね」

 

 リノアさんは納得した様だ。私もここまでヒントを出されれば、流石に理解できる。

 

「なら、なおの事動きやすいわね。今、国中がソースケよりも盾の勇者様を優先しているわ。こんな国、さっさとオサラバしてゼルトブルかフォーブレイにでも身を隠した方が良いわね」

「……そうですね」

「それじゃ、ソースケ様用に教会で聖水を購入しましょう」

 

 私達は教会で聖水を購入して、ソースケ達の待つ馬車に戻った。

 ソースケの両手を癒す聖水を交換しながら、ソースケに仕入れた情報を話す。

 

「ああ、なるほどね。思ったより変化がなくて良かった」

 

 ソースケは安堵した様にそう言うと、少し考えて方針を決める。

 

「そうだな、恐らく、国境は容易く抜けることはできなくなっているんじゃ無いか? 尚文を絶対に国外に出したく無いだろうしな。尚文はシルトヴェルトの方に向かっているだろうから、そっち方面は行かないほうがいいだろうが、基本的に今のタイミングじゃ国境線は超えられないだろう」

「私もソースケくんの意見に同意だな。緊急警戒網が敷かれているはずだ。こっそり亡命も無理だろう」

「つまり、まだメルロマルク国内に待機すると言うこと?」

「そうなるな。近場に俺たちの家もあるし、そこに避難するのもアリかもしれないな」

 

 ソースケがそう提案した。

 私はすぐに思い至る。

 

「確かに、それはいいかもしれない! うん!」

「だろう?」

 

 ソースケの提案というのは、私の家でしばらく身を隠すと言うことだ。

 あそこならば、滅多に人が来ない場所だしちょうど良かった。

 

「……どう言うこと?」

 

 リノアさんが訝しむので、私が説明する。

 

「私の住んでいた家は、身を隠すのに丁度いいんですよ。行けばわかります。そこで、ソースケや私達の怪我の治療をしつつ、様子見をするんです」

「なるほどね。良いわ、その方針で行きましょ。ライシェルさんもその方針で大丈夫かしら?」

「構わない」

「それじゃ、決まりですね」

 

 と言うわけで、私達は私の家に向かうため、移動を開始したのだった。




ロッソ村はセーアエット領内の村ですね。
他国の一般人目線で見れば、この愚行って何の大義名分にもなって居ないんですよねー。
メルロマルクが内政しか気にして居ないことがわかるお話ですね。


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ここがレイファちゃんの家かぁ……

 私達は、私の家に到着した。

 長いこと開けて居たせいか埃がたまって居たけれど、掃除すれば問題なさそうである。

 なので、全員で部屋の掃除を行う事になった。

 ソースケは明らかに手足が呪いで真っ黒であるが、ピンピンしているのが不思議である。

 ソースケ曰く、3ヶ月程度の回復遅延のデバフだけだし平気と言っていたが、見た目が気になってしまう。

 

 部屋の掃除も終わり、片付いたところで、ノック音が聞こえた。

 

「ねぇ、ノックされているわよ」

「うーん? 来客なんてソースケが来たとき以来なかったはずだけれど……」

 

 私は玄関まで走っていく。

 そして家の玄関を開けると、何故か其処には槍の勇者様が居た。

 

「やあ、レイファちゃん。元気?」

 

 バタン

 思わず私は閉めてしまった。

 

「ちょっと! モトヤス様が訪ねて来たのよ! なんで締めるのよ!」

 

 すぐさまマルティ第一王女が開けてしまう。

 多分、私は顔が引きつって居たと思う。

 

「へぇー、ここがレイファちゃんの家ねぇー」

「あ、あの、どうしてここが……?」

 

 私が疑問を言うと、槍の勇者様はあっけらかんと答えた。

 

「ああ、ライシェルって奴が編隊組んでいるだろ? それで場所がわかったんだ」

「そ、そうなんですね。それで、なんのご用ですか?」

「ああ、レイファちゃんこれ、知っている?」

 

 槍の勇者様はそう言うと、3枚の指名手配書を私に渡した。

 其処には凶悪な目つきで盾の勇者様、ラフタリアさん、フィーロちゃんの人化形態が描かれている。フィーロちゃんの元の姿も描かれている。

 

「は、はぁ……」

「良かったら、一緒に尚文の野郎を探し出して、メルティ王女を助けないか? レイファちゃん」

 

 爽やかな笑みを浮かべてそう勧誘してくる槍の勇者様に、私はどうしたらいいかわからなくなってしまった。

 

「え、えと、その、ちょっと相談して来ます!」

 

 私は慌ててソースケ達のいる部屋に逃げた。

 

 

 

 俺の目の前に、元康が座っている。

 小さいソファーには、マルティとレスティが、エレナは腕を組んで柱に寄りかかっている。

 レイファは慌てた様子で、リノアは呆れた表情をしている。

 アーシャは、動じて居ない。

 ライシェルさんは、どっしり構えている。

 

「えーっと、元康。なんで来た」

「ちょっと! 何呼び捨てしてるのよ!」

「黙れスカタン! ……で、何の用だ?」

 

 ま、別に元康には恨みはない。マルティは即刻この場で斬首したいが、物語の登場人物なので押さえておく。

 どうせロクなことをしないのだろう? 殺して仕舞えばよかろうと、竜帝のカケラが囁いているが却下だ。

 

「ああ、尚文の居場所を探っているんだが、心当たりないかと言うことと、一緒に探さないかと思ってな!」

「……またなんで」

「人手が足りないんだ。もちろん、協力してくれたら、宗介、お前の嫌疑をなかった事にしてもらえるように王様に頼むつもりだ」

「ちょっと、モトヤス様?!」

 

 なるほどね。交渉材料としては正しい選択だ。

 恐らく、俺ならば半日とかからずに尚文を見つける自信はある。

 だが、人海戦術ならば、国の兵士で十分ではないか? 

 

「錬も樹も協力しているんだろ? アイツらそう言うの好きそうだし」

「ああ、錬は少しだけ説得したが、樹は喜んで協力してくれているよ」

「なら、勇者様総出で探しているんだったら要らないだろ?」

「いや、多い方がいいに決まっているじゃないか! 君は、メルティ王女がどうなっても良いのか? アイツは強姦魔なんだぞ!」

 

 チラッとヴィッチを見ても、白けた顔をしてやがる。良い度胸だ。気に入った。殺すのは最後にしてやる。

 

「お前は俺が尚文に協力するとは思わないのか?」

「なんで? お前は尚文を殺そうとしたんだろ?」

 

 どうやら、この元康には都合のいい情報だけが伝わっているようである。

 ふぅー……。やれやれ。道化だなぁ……。道化にもなりきれてないから、サーカスの雑用か? 

 

 どちらかにしても、元康にはつきまとわれそうである。

 諦めて乗るしかないか……。

 

「……わかった。協力しよう」

「「ソースケ?!」様?!」

 

 レイファ、リノア、アーシャが驚きの声を上げるが、仕方ないだろう。

 それに、俺が聞いた条件は【探す手伝い】だ。見つけられなくても約束は守ってもらう。

 

「よし! じゃあ、前金として、この最高品質の聖水をプレゼントだ。呪われたままだと、色々辛そうだしな」

 

 元康が投げ渡したボトルを受け取る。

 

「サービスとして受け取っておく」

 

 鑑定技能が働いて、この聖水が確かに高品質であることが確認できる。

 

聖水 最高品質

 

 俺は早速原液を飲み干す。

 結構痛いが、両手の黒アザがジュウウゥっと音を立ててみるみる引いていく。

 足も同じように痛かったので、足の呪いも引いたのだろう。

 ……ステータス上では10%程度軽くなったかな程度だけれど。

 まあ、痛々しい見た目が改善しただけでもマシだろう。

 

「それじゃ、依頼を受けた以上はやろう」

「じゃあ、人員を均等に分けた方が良いな!」

「……?」

 

 元康の意図の掴めない発言に、一瞬疑問が浮かんだ。

 

「レイファちゃんは俺たちが面倒見よう。宗介は残りの4人で探してく感じで」

 

 あー、コイツ、レイファを自分のハーレムに引き込みたいのか……。

 

「……却下だ。それならば、俺とライシェルさんが二人で組んで、残りはそっちの方がマシだな」

「俺は別にそっちでも構わないぞ。ただ、人数的には7人になるから、アーシャちゃんは宗介の方で持ってくれるとありがたいかな」

 

 俺はリノアを見るとリノアはうなづいた。

 レイファは不安そうな目で俺を見る。

 仕方ないだろう。引き受けないと言う選択肢がないのだからな。

 

「わかった。じゃあレイファとリノアを貸そう。ただ、レイファは一般人だからその点だけは注意してほしい」

「任せとけって! 俺は槍の勇者様だぞ!」

 

 不安しかないな。

 尚文よりも弱い現状を見るとね。

 まあ、俺も政治的な立場は雑魚すぎるからな。

 あんまり眷属器は使いたくないが、現状持っている武器がそれと腰の魔法鉄の剣しかない。

 

「先に色々と話しておきたいことがあるから、外で待っててくれないか? 5分程度時間をくれれば良い」

「? まあ、それなら構わねーよ」

 

 と言うわけで、元康が出て行った後、簡潔にレイファに意図と理由、そしてやってほしいことを伝えたのだった。



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突然変異!!

 俺たちは元康に頼んで、ポータルでメルロマルク城下町まで訪れた。

 クソヴィッチは不服そうだが、実際見つけられていないので仕方ないのだろう。

 

「で、足をここで調達って言っていたな」

「ああ、俺とレイファが管理しているフィロリアルを待たせてある」

 

 フィロリアル舎に入ると、騒然としていた。

 何を騒然としているんだ……? 

 

「ソソソソ、ソースケ!!」

 

 先にフィロリアル舎に入っていたレイファが慌てて飛び出してきた。

 

「ラヴァイトが! ラヴァイトが!」

「……ラヴァイトがどうした?」

 

 嫌な予感がする。

 いや、だが、オーナー登録はしていなかったはずだ! 

 そんな事は……。

 

「ラヴァイトがフィーロちゃんみたいになっちゃった!」

 

 ははははは、面白いことになったな血濡れの勇者! ラヴァイトなんてフィロリアルがフィロリアルクイーンあるいはキングになるなんて、物語には出てこないぞ! 

 爆笑している竜帝のカケラは置いておいて、想定外であったのは確かだ。

 

「クエー!」

 

 そこには、まん丸になった……ライトグレーのフィロリアルキングの姿になったラヴァイトがいた。

 

「レイファ、俺、別にオーナー登録してなかったよな……?」

「え、私と一緒にしてたよ!」

「えっ?!」

 

 ステータス魔法で確認すると、使役魔物の項目にラヴァイトの名前が記載されていた。

 

「あの時、ボンヤリしてたから覚えてなかったんだ! ソースケも一緒にって魔物商の人にもお願いしたんだよ!」

「あれ、そうだっけ……?」

「クエークエー!」

「えっ、なんで?!」

 

 一番驚いていたのは、元康だった。

 

「俺のフレオンちゃんはフィロリアルクイーンになれずに死んだのに!」

 

 あー……。

 フレオンちゃんって確か今は鳥臭いから嫌と言って付いてきていない、ヴィッチが殺したんだっけか。

 

「あー、その、ご愁傷様」

「聞いてくれるか! 宗介!」

 

 ガシィっと俺の両手を取って、元康が涙ながらに話し始めた。

 

「つい昨日の事だったんだ。フレオンちゃんを城のフィロリアル舎で育て出してちょうど一週間だったんだ」

 

 あー、うん、やり直しの証言とも合致するな。

 

「尚文が連れている天使ちゃん! フィーロって言うんだけど、尚文曰くフィロリアルを勇者が育てるとあんな可愛い天使ちゃんになるって聞いて、育てていたんだ!」

 

 お前天使萌えだもんなー。

 

「だけど、昨日! 成鳥になったばかりのフレオンちゃんが苦しみ出して……」

 

 逝ってしまったと。

 ふむ、【槍の勇者のやり直し】で語られている通りだな。喜べ血塗れの勇者よ。と、竜帝のカケラがうるさい。

 黙れ! 

 

「そこで、尚文がメルティ王女を騎士たちを殺害して誘拐したと聞いて許せなかったんだ! 俺を騙しやがって……!」

 

 しかし、コイツ感情表現が豊かだな。百面相とはこう言う事か。

 

「……まあ、ラヴァイトはそもそも成鳥だったし、そう言うこともあるんじゃ無いのか? 他のフィロリアルで試してみたら良いんじゃないのか?」

「……そうだな。確かにこう言うのはトライアンドエラーだしな。ありがとう、試してみるよ!」

 

 元康があっという間に元気になった。

 うーん、良かったのか? 

 ははははは、改変するつもりがないと言いつつ改変してしまう血塗れの勇者! やはり面白いな。と竜帝のカケラが笑う。

 ちくしょう! 反論できない! 

 

「とにかく、フィロリアルキングに進化してしまったラヴァイトはどうしようもないか。……はぁ」

「クエー♪」

 

 て言う事は、ラヴァイトも中二病になるのか、と不安に思いつつ、俺は足をゲットしたのだった。

 恐らく、俺が投擲具のカースを発動させたことに伴い、投擲具が俺を所有者と認めてしまったのだろう。

 強化方法はロックされたままだが、勇者のパッシブスキルが使えるし、勇者武器が任意装備となっている点は尖兵の技能だろうけどな。

 基本的に元康のパーティはポータルで移動するらしいので、ここでお別れとなった。

 俺たちはラヴァイトに乗って移動するためだ。

 ちなみに俺の武器であるが、呪いの武器化しているらしく厳重に保管・封印されており、使用は認められないと言う事だった。

 なので、武器屋の親父さんの店に寄り、武器を調達する。

 

「いらっしゃい。あんちゃん。色々大変そうだな」

 

 第一声に察してくれたこの人はやはりいい人である。

 

「いや、まあ、まだ大変な状況は変わらないんだけれどな」

「そうかい。で、今日は何の用だい? 武器をでも没収されたか?」

「その通りだ。とりあえず、剣と弓が欲しい」

「急ぎの用事っぽいからな。出来合いのものだが、あんちゃんが扱えそうな奴を見繕ってやるよ。盾のアンちゃんのおかげで色々とインスピレーションが湧いて色々作ってたしな」

 

 そう言って、剣とクロスボウを取り出す親父さん。

 流石に没収されたものレベルでは無いが、良いものだ。

 兵士用の剣に比べてしっくりくる。

 

「相変わらず良い仕事するなぁ」

「そんなに褒めても何も出ないぞ?」

 

 クロスボウも、カスタマイズした俺のものに比べたら装填速度は若干劣るが扱いやすい。

 俺は早速料金を支払う。防具に関しては、この兵士の鎧で十分かな。

 

「まいど! あんちゃん防具はそのままでいいのかい?」

「ああ、ラヴァイトがえーっと、フィーロ化してしまったんでな。それで結構お金が出て行ったんだよ」

「なるほどねぇ。じゃあ、ツケで良いぜ。その防具、あんちゃんに合ってないだろ。ちょいと調整してやるよ」

「え、良いのか?」

「もちろんだ。その代わり、盾のアンちゃんをよろしくな」

 

 という事で、メルロマルク兵士の鎧はカスタマイズされて帰ってきた。

 元がメルロマルク兵士の鎧であることが辛うじてわかる程度で、大胆なカスタマイズが施されている。

 何というか、RPGに登場する主役級イケメン戦士っぽい感じだ。

 勇者スキルの鑑定で見ると、

 

ライトアーマー

速度上昇 格闘威力上昇

 

 と、接近戦時の俺の戦い方がわかっているかのようなスキルが付与されていた。

 

「え、実施オーダーメイドレベルじゃ無いか!」

「色々作ったって言っただろ? 盾のアンちゃんほどでは無いが、贔屓にしてくれているんだ。それぐらいだったらサービスするぜ」

 

 なんだこの人は、腕がよすぎだろう! 

 

「ま、ツケは早めに返してくれよ。次の武器の新調の時で構わねえからさ」

「ありがとう!」

 

 俺は素直に礼を言う。

 これなら、百人力だ! 

 そんな感じで、新しい武器と鎧を入手した俺は、ライシェルさんとアーシャと、フィロリアルキング化したラヴァイトとともにメルロマルク城下町から北東に向かって出発したのだった。




ラヴァイトが成長を始めた段階は、宗介の想定通り、カースに目覚めた段階です。
また、ソースケはあと3つまでならば通常の武器も使えます。
尖兵特権のチートですね。
あまり、投擲具は使いたがりませんが。

マッスルショタ…やはりビィくん!


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盾の勇者は魅力的だが、血塗れの勇者は面白い

「ポータルスピア!」

 

 私たちは一瞬で、森の中に転送された。

 ここはどこだろう……? 

 

「ここはシルトヴェルトの国境に接した森よ。盾の勇者なら、シルトヴェルトかシルトフリーデンのどちらかに行く可能性があると言うことで、この近辺を探しているのよ」

 

 エレナさんが解説してくれる。

 確かにそれなら納得である。

 とは言っても、私ではただの足手まといなのになぜ私を連れて行こうとするのだろうか? 

 それに、基本的に私たちは固まって行動するし、兵士と一緒に動くマルティ王女以外は基本的に槍の勇者様の周りにいるだけで良いらしい。

 

「リノアさん」

「ん? 何よ。どうしたの?」

「私達っている意味あるんです?」

「さあ……? 知らないわ。とりあえず、喋らずに従っていれば良いんじゃないかしら?」

 

 確かに魔物退治の姿を応援するだけだったり、盾の勇者様を探すだけだけれど一緒にいるだけだったりと、ソースケの役に立ちたい私としては、退屈であった。

 

 

 

 俺たちは、俺の先導に従い尚文の捜査を開始していた。

 とは言っても、尚文に接触したりするつもりはない。

 それっぽい感じで探している振りをするためである。

 だけれども、そういう時に限って見つけてしまうんだよなぁ。

 おおよそ3日目だったか、意外に先に進んでおらず、メルロマルク城下町から南東の交易街で物資の補給をしている最中にばったりと出くわしてしまった。

 

「あ、ソースケさん」

「ふぁ?」

 

 フードを被っているが、間違いなくラフタリアだった。

 えー……。

 俺は見なかったフリをして立ち去ることにした、が、ラフタリアに腕を取られる。思ったよりもがっしりと掴まれてしまった。逃がすつもりは無いらしい。

 

「ちょうど良かったです。折角ですし、お話ししていきませんか?」

「……あー。まあ良いけど」

「では、あちらです」

 

 という感じで、俺は連行されてしまった。

 どうせ、影のアーシャは見ているだろうから、大丈夫だというハンドサインだけをしておく。

 

「……よお、元気そうだな、宗介」

「おかげさまでな」

 

 不機嫌そうな表情をした尚文の姿があった。

 

「……盾の勇者様、その人は?」

 

 青いツインテールの少女が出てきた。

 ヴィッチに似た姿の幼いが美少女とわかるその姿は、メルティ=メルロマルクその人だった。

 

「冒険者の菊池宗介。《首刈り》と言ったら通じるか?」

「《首刈り》……!」

 

 メルティ王女は俺に敵意を向ける。

 

「大丈夫だ。コイツは信頼のおける奴だからな」

「そ、そう?」

「うん、メルちゃん。武器の人はいい人だよー」

「……フィーロちゃんがいうなら」

 

 メルティ王女からの敵意は引いたように感じた。

 で、尚文が俺の方に向き直る。

 

「さて、前々から聞きたいことがあったんだが、機会を逸してなかなか話せなかったな」

「聞きたいこと?」

「ああ、お前の持っている投擲具……だったか? その武器とか、お前の知っている前提知識について共有して欲しい」

 

 それは、俺も聞かれても困る内容であった。

 何をどう答えれば良いか困るような質問の仕方だ。

 ここで洗いざらい吐けば良かろう。その方が面白い展開になりそうだ。と竜帝のカケラ。お前は黙ってろ! 

 

「……はあ、まあ良い。何が聞きたい?」

「そうだな。最初に聞きたかったのは、お前がどこの世界から来たかという事だな。どう言う世界で、どんな常識があって、そしてこの世界と似たようなゲームのタイトルは何かを話せ」

 

 うーん、まあそれぐらいならば整理するために話しても良いか。

 

「……対価は?」

「そうだな、悪いが情報を聞いてから判断させてもらう。嘘だったら俺の凶暴な魔物が暴れだすと思って貰えば良い」

「んー?」

「……わかった。商売のお得意な尚文にこれ以上交渉をしても無駄だな」

 

 さて、俺の世界は自分にとっては尚文の世界と大差がないと思っている。

 第二次世界大戦の戦勝国はアメリカと習っているし、2019年時点での総理大臣は安倍晋三である。

 

「2019年……?!」

「何を驚いているんだ?」

「俺が召喚されたのは、2012年だ!」

 

 驚きはない。

 web版の盾の勇者の成り上がりの連載開始は、2012年10月29日だ。

 

「なるほどな、同じ世界だと思っていたが、少し先の未来から召喚されることもあるのか……」

「ま、俺の場合は召喚されたと言うよりかは、転移に近いものなんだがな」

 

 メルティ王女が首を捻っているようなので、少しだけ話すか。

 もちろん、女神転生の事は話さないがな。

 はははは、別に話しても良いぞ? 我に知られて魂が消滅しない時点でその呪いとやらはほぼ残っておらぬからな! え、そうなの?! 

 そうだ。それに例え砕けるような事態になったとしても我がいるのだ。問題なかろう。

 竜帝のカケラの話が本当だとしても、それを言うのはどっちみちアウトだ。

 

「この世界は基本的に異世界人が訪れるには勇者武器による召喚が一般的だ。それ以外の方法は存在しない。とされている」

「そうなのか?」

「ええ、その人が言っていることは本当よ」

 

 メルティ王女が肯定する。

 伝承に詳しいもんね。

 まあ最近だと、女神による転移者や、転生者、波による侵略者が居るからそうでもないだろうけれどな。

 

「俺は、簡単に言えば元の世界で死ぬ際に、転移してしまったらしい。次元の狭間にでも落ちたんじゃないかと推測している」

 

 これは、嘘だ。

 だが、推測である以上はフィーロも指定ができなかったようであった。

 

「んー、嘘っぽいけどホント見たいな?」

 

 と言っているから、多分臭いか何かで嗅ぎ分けているかもしれない。

 

「……まあ良い。錬の世界はVRMMOの世界だった。樹と元康は俺たちの世界に近い世界だと推測している」

「まあ、概ねそうだな」

「……で、お前の世界はどうなんだ? 俺は格闘漫画の世界だと推測しているが」

「はえ?! なんでまた」

 

 俺は驚くほか無い。

 俺は俺の世界が標準的な世界だと思っているからだ。

 ……まあ、それを言うのは野暮だろうが。

 FGO的に言うならば、それぞれの日本と言うのは並行世界なんだと思っている。

 可能性や時間軸の異なる世界から勇者たちは呼ばれるのだ。

 日本人限定である謎は、まだ語られて無いけれども。

 

「そりゃ、お前の武術だ。確かに俺の世界にも……大学にも合気道部は存在したが、お前の格闘家としての戦い方はそれこそ、異常だ。まるで、格闘術の漫画に出てくる主人公のように感じたんだよ」

「ケンイチみたいな?」

「……そんな漫画もあったな。あれは連載中だったはずだがな」

 

 やはり、尚文と俺の世界は並行世界論的には近い世界の異世界なのだろう。

 隣にあるレベルの近い世界だと思われる。

 しかし、格闘家が出てくる漫画なんて心外である。

 刃牙じゃあるまいしね。

 

「で、お前の世界にはどんなゲームがあったんだ?」

「……俺の世界は書籍だった」

「書籍?」

「ライトノベルだよ。悪いがゲームではなかった」

 

 尚文は四聖武器書だっけか。

 そこが俺と尚文の違いだろう。

 

「ラノベ……ねぇ。2019年に存在するのか?」

「ああ、この間もアニメ化されたりしたな」

「……どう言う話か教えて貰えないか?」

「それはNGだな。元の世界に帰ってから読んでくれ。俺はネタバレするのは好きじゃないんだ」

 

 尚文がチラリとフィーロを見る。

 フィーロは「んー?」と尚文に答える。

 

「……はぁ。じゃあ次の質問だ。投擲具の勇者武器を持っていることについて説明をしてくれないか?」

「断る」

 

 俺は笑顔でそう答えた。

 流石にこの事について話すのはネタバレにも程がある。

 だけれども、それを許さない人物がもう一人いた。

 

「この人、投擲具の勇者様なの……? お母様から聞いていた容姿とは全然違うんだけれど」

 

 メルティ=メルロマルク第二王女である。

 

「第二王女、詳しく頼む」

「ええ、投擲具の勇者様は投擲具の七星武器に選ばれた人よ。確か、異世界から召喚されたと聞いていたわ。修行好きで修行に行ったまま帰ってきていないとは聞いていたけれど……」

 

 メルティ王女が俺をジトーっと見つめる。

 

「でも、本当に持っているの? 勇者武器は基本的に外せないはずよ。それに、この人……《首刈り》のメイン武器は特殊な槍だと聞いているわ! ……今は持ち合わせていないみたいだけれど」

「そう言えばそうだな。人間無骨はどうしたんだ?」

 

 尚文が話題を脱線してきたので、便乗するとしよう。

 

「どうやら、メルロマルク城で封印されているらしいな。触ったものの血を吸う魔槍となっているそうだ。本当かどうかは疑わしいけれどな」

 

 尚文はメルティを見るが、メルティは首を横に振った。

 知らないと言うことらしい。

 

「捕まった時にアーシャが持っていたんだが、没収されたそうだ。問答無用だったそうだ」

「そりゃ、殺人鬼から武装を剥奪するのは当然でしょう」

 

 だろうなー。

 すでに3桁の人間をぶっ殺した凶器の槍だしなー。

 よく考えないでもやり過ぎな気がしてきた。

 まあ、基本クズか邪魔なやつしか殺してないからダイジョーブダイジョーブ。

 

「で、問題を戻すと、このひとが投擲具の勇者武器を持っているのは本当なの? 盾の勇者様、ラフタリアさん」

「ああ、事実、その装備のカースシリーズに操られた宗介と交戦した」

 

 あれは、操られたわけではない。

 ヤケになったと言うのが正直正しい。

 ムカつく連中が多いのは事実だけれどな。

 まあ、言わぬが花、沈黙は金だけれど。

 

「宗介、出せるか?」

 

 出せると言えば出せるが、出したくなかった。

 

「断る。今までの情報料に20%上乗せするならば話すけれどな」

「……それほどの価値があるのか?」

「なければ吊り上げないさ」

 

 実際、尚文からすれば攻略のヒントである。

 お金を出すには当然の話である。

 

「……わかった。別の話を聞くとしよう」

 

 流石に金銭のやり取りなので、引いてもらえたようである。

 

「盾の勇者様! この情報は締め上げてでも聴きだすべきよ!」

「第二王女、流石に今、指名手配されている段階だ。聞けることを聞いたほうがいい」

「でも……!」

「それに、コイツは話そうと思っている事については聞けば話してくれるが、絶対に話さないと決めている事については拷問しても口を割らない質だ」

「……そこまで言うなら」

 

 なんで尚文はそこまで俺のことがわかっているんですかネェ……? 

 

「じゃあ、次だ。お前はどこまでわかっているんだ?」

「……!」

「前々から思っていたんだ。お前の態度は、未来を知っているんじゃないかと思えるような態度を取ることがある。お前が2019年……俺よりも後の時代の人間だと聞いて、より確信が深まった」

 

 たぶん、尚文が一番聴きたい情報はそこなのだろう。

 俺は尚文の口調から察する。

 

「だから、あえて聞くぞ。どこまで知っている? お前は何を俺たちに望んでいるんだ?」

 

 これは、たぶん積み上げても尚文はその金額を支払うのだろう。

 そう言う確信があった。

 

「……そうだな、この情報については30%上乗せだ」

「良いだろう。話せ」

 

 俺はため息をついて説明する事にした。

 

「……ま、この先6、7ヶ月分ぐらい、どう言うことが起こるかについては具体的に話せるよ。もちろん、元康や錬、樹すら知らない情報を持っているさ。逆に、元康、錬、樹しか知らない情報もあるがな。ただ、核心的な情報は俺が圧倒的に持っているだろう。攻略本ありで攻略したいならば、情報を買うかい?」

 

 俺は尚文を茶化すようにそういった。




ネタバレ回かな?

今気づいた。
尚文は錬がVRMMOだと言う事しかしらねぇよ!!
というわけで該当箇所のセリフ変更しました。


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やはり我を飽きさせぬ男よ

「ナオフミ様……」

「ああ、先に聞きたいのは次の敵だ。俺たちは今、メルロマルクの連中に追われている。あのビッチ王女の手先だということは間違いないが、どうだ?」

「逆だな。あのクソ女は単純に今の状況が美味しいから便乗しているだけだ。お前らの敵は、メルティ王女ならわかるんじゃないのか?」

 

 俺がそう指摘すると、メルティ王女は驚いた表情をする。

 

「え、なんでわかったの?!」

 

 ああ、自己紹介してなかったもんな。

 それで名前を当てられれば、そりゃ驚くだろう。

 

「お前の知る登場人物に第二王女が出てくるんだな?」

「ああ、まあ、でもこの国の第二王女と言えばメルティ王女しか居ないから、推測可能な話だろう」

「そう言えば、盾の勇者様が私をそう呼んでいたわね……」

 

 メルティ王女はため息をついて、尚文の敵について話し始めた。

 

「そう、私たちの敵は三勇教よ。これは盾の勇者様も推測していた通りだけれどね」

「となると、正解ということか」

「ああ、お前達は近々勇者供に見つかり、西へと向かう事になる。そこで、この章のボスである、三勇教教皇ビスカ=T=バルマスと戦う事になるな」

「なるほど、あの教皇とな……」

 

 尚文はそう言うと次の質問をする。

 

「次の質問だ。《波》とは何だ?」

「俺からは話すことはないかな。ただ、探す際のヒントは売ろう。《次元の波》を超えて、別世界に行けば良い。ま、これは尚文も次の波で知る事になるだろうけれど」

「次元の……波……!」

 

 それだけで何かを推察する尚文。

 ちょっと情報料に対して多めの情報だったかなー? 

 

「どういう事なの?」

「いや、確信は持てないがな。だが、推察はできる」

 

 尚文はそう言うと、自身の考察を始める。

 

「波が《次元の波》で、別世界に通じているのだとすると、波の戦いの意味が変わってくるんだ。グラスも、恐らく次元の波を渡ってこちらの世界にやってきた別世界からの敵だ。奴の言うこととも符合する」

 

 ここまでは、盾の勇者ならば推察ができる範囲だろう。

 

「じゃあ、何故《次元の波》が発生するのかと言う原因を考える必要がある。勇者が呼ばれると言うことは、《次元の波》は自然に発生しない現象だろう。伝承として残っている厄災ならば、過去にも起きたと考えられるはずだ」

 

 芋づる式に出てくる推理に、俺は舌を巻かざるを得ない。

 

「つまり、波は人為的に起きていると考えるのが自然だ。つまり、【波】は人災、それも犯人が何らかの意図を持って起こしている犯罪だと考えられる!」

 

 おお、そこまで行くのか! 

 まあ、実際にこの3ヶ月でもヒント自体は無数に存在していた。

 樹の遊んでいたゲームのタイトルは【ディメンションウェーブ】である。

 

「だが、動機についてはわからないな……。何故世界を破滅する事を起こすんだ?」

 

 動機が無いと犯罪は起きない。

 こう言う人知を超えた犯罪は……つまり魔術師・魔法使い・神の犯罪なんかは【どうやってやったのか】よりも【何故やったのか】が重要になる。

 ロードエルメロイ2世の事件簿のアニメ、見たかったなぁ……。

 つまりは、今起きている現象と【ホワイダニット】が重要なのだ。

 

 と、尚文がこっちを見ている。

 まあ、知っているんだけれどね。

 ここまで推理させておいて何だが、本当に俺の頭は破裂してないよね?! 

 マジで心臓がバクンバクン言っているんだが! だが! 

 我を信じるが良い。何故お前を信じる必要があるのか? 

 

「さてね」

 

 俺は答える気のない態度で返答する。

 それで察したのか、尚文は次の話題を振る。

 

「次だ。お前は波の最中に俺を殺そうとしたが、何故だ? グラスも同じことを言っていた」

 

 あー、まあ、気になるよね。

 

「波の最中に四聖が死ねば、その世界は崩壊するからな。つまりは、それが目的だった」

「?!」

 

 尚文が警戒し、ラフタリアが剣を構える。

 俺は両手をヒラヒラさせてこう言った。

 なんか、エボルトを演じている気分だ。

『チャオ』とか言っちゃう? 

 

「ああ、今はもう諦めているから。警戒しなくて良いよ。どっち道、あの波が最後のチャンスだったわけだしな」

 

 最終期限を言うならば、女神が降り立った時点でアウトである。

 俺の目的は、クソ女神の思う通りにさせないことだ。

 それならば、経験値をグラスの世界に与えたほうがいいだろう。

 あのクソ女神の目的は経験値の獲得と世界をおもちゃにして遊ぶ事なのだからな。

 

「宗介、お前の目的はなんだ?」

「俺の目的はそうだな……。気にくわない奴がいるから、そいつの思い通りにさせないことだ」

「それは、波を起こしている犯人か?」

「ご想像にお任せするよ」

 

 ミナ……ミリティナの顔を思い浮かべながらそう言った。

 この返答で死なないのならば、竜帝のカケラが言う通り、女神の呪いの大半が解けているのだろう。

 いや、この身に竜帝のカケラを宿しているせいか? 

 フハハハハ、さすがは我! 褒めるが良い! 

 黙れ! 地の文に入ってくるな! 

 

「……まあ良い。とりあえずはこれまでだ。これ以上は質問が思いつかないからな」

 

 尚文はそう言うと、金貨を3枚渡してきた。

 ま、尚文の今の所持金としてはカツカツだろうから、素直に受け取っておくとしよう。

 

「毎度!」

 

 しかしまあ、俺はほとんど知識を話したわけではないので、そのまま貰うのも気が引ける。

 なので、サービスとしてひとつだけ話してやっても良いだろう。

 

「ああ、それじゃサービスにひとつだけ、確実に未来で得る知識をを一つ話そう」

「……なんだ?」

「盾の強化方法だ」

「……? 普通に素材を入れて、解放していくことによって強化されるものだろう?」

 

 ま、クテンロウで入手する知識だけれども、盾の勇者が強くなることには何も問題がないからな。

 ひとつだけ、情報をあげることにした。

 

「四聖武器には特徴的な強化方法が3つ、存在する。まあ、尚文は知らないだろうけれどね。そのうち、盾の勇者の強化方法の一つは、『信頼を受ける事・信頼を与える事』だ」

「何だと?!」

「どっちにせよ、尚文は知る事になるからな。少し先の未来だけれど、尚文が強くなることは悪い事じゃない。まあ、役に立てて欲しい」

 

 俺が尚文にそう話すと、尚文はステータス魔法を使って強化方法を検索し始めたようだ。

 目の動きを見ればさすがにわかる。

 

「ナオフミ様、信じて良いのでしょうか? ソースケさんの事ですから嘘ではないと思うのですか……」

「宗介が諦めたような表情でそう言っているんだ。試してみる価値はある」

 

 しばらく待っていると、尚文はため息をついて、腰を下ろした。

 

「どうやら事実だったようだ。ヘルプに項目の説明とステータスに信頼の数値項目が出現した。それに、盾の全体的な能力値が軒並み上昇してやがる……!」

 

 それと同時に、俺のステータス魔法にも同様の信頼値が出現した。

 ……悲しくなった。

 

「……それで、ソースケさんはどうしてこの街へ?」

 

 ラフタリアの問いに、俺は率直に答えた。

 

「想像はつくだろう? お前達を探しにだよ。ま、俺が捕まえる義理は無いがな。()()()()()()と言われただけだし」

「……ふっ、なるほどな」

 

 そもそも、司法取引? とは言え、俺に散々煮え湯を飲ませてきたメルロマルクに対して、いや、三勇教に対して利することをする義理は無い。

 物語に関わらない人物ならば、俺にとっては粛清対象だ。

 

「ま、尚文達がこの街を出てしばらくしたら此処にいたと知らせるだけで良いのさ」

「そうか。それは助かる」

「どちらにせよ、一度東の国境線まで向かうと良いさ。俺としてはその三勇教のロザリオを錬に渡してくれればそれでいいからな」

「……わかった。むざむざこの状況で会いに行くのも気が引けるが、宗介の言葉に乗ろう」

「助かるよ」

 

 尚文達には物語の通りに動いてもらいたい。

 それが俺が達成すべき道だ。

 まあ、多少のズレは許容範囲内だろう。

 大筋が変わらなければ良いのだ。

 

「宗介、お前はどうするんだ?」

「レイファが元康に狙われているからなぁ。しばらくは探すふりをするさ」

「レイファさんが?!」

「……なるほど、レイファが元康の性癖にぶっ刺さったわけか」

 

 いやー、1を聞いて10を理解されるのも困りものだよね。

 ヘイトを高めるつもりはなかったんだがなぁ。

 

「まあ、言うてもその信頼値が指すように、道中の人間は基本尚文の味方だ。兵士に見つからないように慎重に行動しさえすればいいさ」

「ああ、そのつもりだ」

 

 俺は尚文の言葉を聞いて立ち上がる。

 

「じゃあな、俺はしばらくこの街にいるが、さっさと出たほうがいいぞ」

 

 俺はそう忠告をして、この場を去る。

 はぁぁあぁぁぁ……。

 どうしよう。このままじゃあ、槍の勇者のやり直しじゃないか……。

 わははははは! 面白い! 面白いぞ! やはりお前に憑いたのは間違いではなかったな! 

 そう笑う竜帝のカケラに、俺は何も反論することができなかった。




実際、やっている事は思考にくるヒントだけですけどね!
すでにやけっぱちの宗介君でした。

ちなみに、盾の勇者の強化方法はクテンロウまで本来お預けだったかな?


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うーん、尚文の奴どこにいやがる……?

 私達は北東の国境沿いの関所に居た。

 色々な情報から、盾の勇者様がこの近くにいるのは間違いないと言う事から、勇者様方が集められていた。

 

 そんな中、私は剣の勇者様とお話しする機会があった。

 

「レイファ、と言ったな。俺は剣の勇者である天木錬だ」

「は、はあ。剣の勇者様ですね。どうかされましたか?」

「その、宗介について話がしたいんだが、時間あるか?」

 

 剣の勇者様にそう言われて、私はうなづいた。

 

「さて、お前に聞きたいのは、宗介の事についてだ」

 

 案内された天幕で、私は剣の勇者様と向かい合っていた。

 

「そ、そのなんだ。宗介とはどういう関係なんだ?」

「……家族であり、恋人……だったらいいなぁ……。こほん、お互いに大切な人です」

 

 少しだけ私の願望もあるけれど、それでもソースケが私を大切にしてくれているのはわかる。

 

「……そうか。他に何か聞いていないか?」

「他にと言いますと……?」

「アイツが強くなった理由だ。どこでチートを身につけたのか気になってな」

「ちぃと??」

 

 私が疑問に思っていると、剣の勇者様は咳払いをする。

 

「いや、すまない。アイツの強さはそれなりに見てきたし、頼れる奴だとは思っている。だが、波の時にアイツに負けた。俺だって強くなる努力はしてきたつもりだった。だから、宗介の事を一番理解しているアンタに話を聞きたかったんだ!」

「……ソースケは強く無いですよ」

「……?」

 

 そう、宗介は強くなんか無い。

 確かに、鍛え上げてきた実力は折り紙つきだろうけれども……。

 

「たぶん、勇者様の欲している力と、ソースケの力は異なるものだと思います。きっと、ソースケの力は信頼できる人、愛している人がいるから、強いんだと思います!」

 

 いつだって、ソースケは私を守るために一生懸命だった。

 だからこそ、命を狙われても戦ってこれたし、強くなってきたんだと思う。

 だけれども、心は無敵では無いのだ。

 

「……わからないな。一緒に戦ってくれる奴なら俺にだっている。それよりも、あのチート武器をどうやって手に入れたのかが知りたい」

 

 チート武器と言うのは、あの竜を象った恐ろしい呪いの武器の事だろうか? 

 

「……私が入ったほうがよさそうね」

 

 天幕の近くで待機していたリノアさんが話に入ってきた。

 

「お前が知っているのか?」

「ええ、アレは、勇者様の剣よりも弱い七星武器の投擲具よ」

「しちせいぶき?」

 

 どうやら、剣の勇者様は七星武器について知らない様子であった。

 

「そう。外伝の勇者の武器とも呼ばれる、7つの武器を指すわ。異世界から召喚された人や、実力のある冒険者が武器に選ばれるとなることができるの。勇者なのにそんなことも知らないの?」

「ブレイブスターオンラインではあまり人気じゃ無い武器だったな。斧や鞭みたいなわかりやすい武器はそれなりに人気があったはずだ」

 

 私とリノアさんは言っている意味がわからずに首を捻ってしまう。

 

「ぶれいぶすたぁ?」「おんらいん?」

「ああ、と言っても、NPCにはわからないか。仕方ない」

 

 剣の勇者様はそう言うと、ため息をついて自分の推測を語り出した。

 

「つまり、宗介は投擲具の武器を使うプレイヤーだったんだな。しかも、途中から武器を入手したのか? 俺とともに戦っているときは使っていなかったから、強制離脱させられた後に入手したのか? だが、最初から武器を使っていた俺たちに比べて、宗介は圧倒的に強かった。やはりチートか? 宗介に会ったら、直接聞いてみたほうが早いか……」

 

 なんか、勝手に自己完結してしまっている気がする。

 弓の勇者ほどひどくは無いけれども、この勇者様も何か問題を抱えている気がした。

 

「尚文もチートを使っていたし、どこかで入手できるか、チートコードが存在するのか? ……どちらにしても、宗介から直接聞き出したほうが早いな」

 

 剣の勇者様はそう言うと立ちあがり、何も言わずに天幕から出て行ってしまった。

 

「……感じの悪い勇者様ね、剣の勇者様って。一番マシなのが盾の勇者様と槍の勇者様って感じね。まあ、性悪女がいる時点でマトモなのは盾の勇者様だけれど」

「あははー……」

 

 それにしても、剣の勇者様はよくわからないことを話す勇者様だ。

 ただ、剣の勇者様が目指す強さはきっと、今の剣の勇者様ではたどり着けないだろうなと感じた。

 彼にはきっと、信頼できる仲間なんていないのだ。

 きっと、あの呪いの武器を使わなくても、剣の勇者様よりもソースケが強いなと、私は改めて確信したのだった。

 

「なるほどね。こりゃメルロマルクも勇者を外には出せないわよねぇ。さすがにソースケよりも弱いんじゃ、外に出してもどうしようもないわね」

 

 リノアさんは呆れながらそう言った。




次回は原作に一部改変が入る感じかな?
宗介の出番はないです。


各勇者の評価
宗介:尚文>>錬>>>>元康>>>>|超えられない壁|>>>樹
レイファ:尚文>>>元康>錬>>>>|超えられない壁|>>>樹
リノア:尚文>元康>>>錬>>>>|超えられない壁|>>>樹
アーシャ:宗介以外不要
ライシェル:錬>元康=>尚文>>>>>樹


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説得

 私達は槍の勇者様に連れられて、馬車の荷台の確認を手伝わされていた。

 と言っても、魔法使いの人がそれぞれ魔法を使って中身を透視して確認するらしい。

 女の身としては嫌な魔法だ。

 

「いました! そこの荷車です!」

 

 魔法使いの言葉に反応して、槍の勇者様と弓の勇者が駆け出す。

 そして、荷車から布を取り払って盾の勇者様が姿を現した。

 背後にはラフタリアさんと、青い髪の少女……メルティ第二王女がいる。

 白いフィロリアルも、フィーロちゃんに変身した。

 

「やはりいたか!」

 

 剣の勇者様も、盾の勇者様のところに駆け出す。

 

「見つけましたよ! メルティ王女を解放しなさい!」

「解放も何も、別に拘束してないぞ!」

「白々しい! 証拠は上がっているんだぞ!」

 

 弓の勇者とその仲間たちが攻撃を仕掛ける。

 逃亡する盾の勇者様を追って行くと、少々の攻防があって盾の勇者様一行を崖のところまで追い込んだ。

 

「尚文さん、あなたに正義はありません!」

「正義……ねぇ?」

 

 私は白い目で弓の勇者を見る。

 この人の戯言は聞き飽きた。

 そもそも、ソースケのために付き合わされているだけで私はこの行いになんの正しさも見いだせていなかった。

 

「お前らの言っていることは本当に正しいと、正義だと言えるのか?」

「どう言うことだ?」

「第二王女はこの通り、怪我一つなく生きている」

 

 メルティ王女は心配そうに盾の勇者様を見上げると、同意するように大きくうなづいた。

 

「剣の勇者様、槍の勇者様、弓の勇者様。盾の勇者様は無実です。むしろ私の命を守ってくれています」

 

 メルティ王女の言葉に、動揺する3勇者。いや、剣の勇者様はこの状況に疑問を感じているように見えた。

 

「どうか信じてください。此度の騒動は大きな陰謀が隠されています」

「しかし、メルティ王女はその男に連れ回されているではありませんか」

「それこそ、私の命を守ってもらう為に、わたしからお願いしています」

 

 メルティ王女本人の口から説明されて弓の勇者はたじろいだ。

 

「不自然ではありませんか。盾の勇者様がわたしを誘拐する事に何の得があるのですか?」

「そ、それは……」

 

 私のいる位置からは弓の勇者の表情は見えないけれど、きっと難癖のように自分が正義である理由を探しているに違いなかった。

 

「だが、コイツは──」

「勇者様方はメルロマルク国が盾の勇者様だけ扱いがおかしいと考えませんでしたか?」

「確かに……」

「母上が仰っていました。今は人と人とが手を取り合い、一致団結して災いを退ける時だと……勇者様方にこの様な不必要な時間の浪費をさせる余裕はこの世界には無いのです。どうか、武器をお納めください」

 

 勇者二人は武器を持つ手を弱める。

 そもそも、剣の勇者様は腰に剣を収めたままだった。

 盾の勇者様に指摘されて、こんな事に時間をかけている暇なんてないと自覚したのだろうか? 

 

「わかったか? これは陰謀だ。これから俺の知る限りの真相を話す。戦うか否かはそれからでも良いだろう?」

 

 盾の勇者様が話そうとするところを、性悪王女のマルティが出てきて言葉を遮る。

 

「盾の悪魔の言葉を聞いてはなりません!」

 

 この人は一体何を考えて生きているのだろうか? 

 私には全く理解できない次元である事しかわからなかった。

 

「今回の事件が明るみになった時に説明されたではありませんか! 盾の悪魔は洗脳の力を持っていると!」

「姉上?!」

 

 槍の勇者様と弓の勇者様以外誰も信じていない戯言である。

 その戯言を本気で信じているとするれば、ソースケの言葉を借りるならば【阿呆】である。

 だけれども、熱心な三勇教の信者はそう信じている人も多い。

 熱心な兵士さんが私やリノアさんに一生懸命に説明していたしね。

 リノアさんが「私、そもそも四聖教なんですけど」と言って唾を吐かれるのがオチであったが。

 

「洗脳の盾、という邪悪な力を持った盾の話ですね。眉唾物の話だったのですが……」

「いつ覚醒したかは解りませんが、教会の推測では一月程前からだそうです」

 

 弓の勇者が驚愕したように言う。

 それに性悪王女が解説を挟む。

 時期的には、私がアールシュタッド領でソースケ達に助けられた頃だろうか? 

 

「状況が証明しているじゃないですか。行く先々で情報が混濁していて、まるで彼に力を貸している様な行動をしているじゃないですか。一般人の彼等が犯罪者相手に、こんな一致団結したりするものですか?」

「国中の奴等がおかしい。盾の勇者がそんな事をするはずがないなんて言うし、元気なお婆さんまで盾の勇者を崇拝の如く絶賛してたもんな……」

 

 あのおばあさんの姿が頭をよぎる。

 

「……くだらんな」

 

 剣の勇者様だけがそう吐き捨てた。

 

「おそらく、近くに居て話をするだけで自らの思うように相手を洗脳する力を持っています。現在、国の教会関係者が力を合わせて洗脳を解く準備を進めております」

「んな力あるかボケ!」

 

 性悪王女の解説に、盾の勇者様が声を荒げて反論する。

 

「だが、宗介の力もそうだが、チートコードを入力すれば手に入るかもな」

「錬、お前どっちだよ!」

 

 私は剣の勇者様が何を言いたいのかイマイチ理解できなかった。

 普通に考えれば、そんな便利な能力があるならば、こんな事態になる事は無いと思うのだけれどなぁ……? 

 私が三勇教の兵士さんにそう指摘をしてあげると、よくわからない誤魔化しをされた。

 私が「話すだけで洗脳されるなら、オルトクレイ王も洗脳されているのでは?」と指摘すると、「貴様! 叩き斬ってやる!」と激怒して、槍の勇者様が諌めるという事があった事を思い出す。

 その後にお礼を言ったら、「話を聞いていなかったからよくわかんないけれど、君を守るのが使命だからさ!」と格好つけられたっけ。

 

「ラフタリアちゃんやフィーロちゃんもアイツの力で洗脳されているって事だよな!」

「違います! 私達は洗脳なんてされていません!」

「俺達が君達を救い出してあげるからね」

「フィーロはごしゅじんさまと居たくているんだもん!」

 

 ……やっぱり、私達がなんで言い争っていたか聞いていなかったんだなぁ。

 

「どうでも良いから話を聞け! 事と次第によっては第二王女はお前達に渡してもいい」

「え!?」

 

 メルティ王女が意外そうな声を出した。

 この状況でも交渉するのは流石としか言いようがない。

 ソースケなら嬉々として戦い始めそうだ。

 

「……話を聞こうか」

 

 剣の勇者様が話を聞こうとする。

 

「まず前提として洗脳の力なんて物はない。そこから──」

「信じられませんね!」

「うるせえ! お前には言ってないんだよ、副将軍!」

 

 副将軍は軍隊の階級だったかな? 

 なぜ弓の勇者が盾の勇者様にそう呼ばれているかは理解できなかった。

 

「とにかく、これは陰謀だ。王かそこの女か教会の連中が、第二王女を俺にけしかけて暗殺未遂をした」

「……話は分かった。じゃあお前達の身柄を拘束する代わりに俺達に同行してもらおう。その代わりに他の奴に絶対被害を負わせないと約束する。調べる時間をくれ」

「信じるのか!? このフィーロちゃんを洗脳した悪人の話を?!」

「そうですよ! 僕は信じられません!」

「剣の勇者様! 悪魔の言葉に耳を傾けてはいけません!」

 

 信じていない人たちがそれぞれ文句を剣の勇者様に言う。

 リノアさんがちょんちょんと突いてきて、

 

「槍の勇者様って本当に盾の勇者様が嫌いなのね。話すら聞こうとしないなんて、ちょっと異常よ」

 

 と言ってきた。

 女性に優しい槍の勇者様の様子を見れば、『冒険者仲間を盾の勇者様が強姦した』と言う噂に関連がありそうである。

 

「戦わずに済むのなら、それが良いだろう。真偽は後で確かめる」

 

 剣の勇者様の案は、普通の国ならば通用したかもしれない。

 だけれども、ソースケがどうなったかを考えれば、この案も愚策である。

 剣の勇者様はこの国がアルマランデ小王国のように狂ってしまっている事を知らないらしい。

 私もリノアさんと話して気づいたんだけれどね。

 

 盾の勇者様の様子を見ると、メルティ王女と何かを相談しているようである。

 メルティ王女が盾の勇者様のマントをぎゅっと握りしめる。

 

「……約束しただろう」

「えっ?!」

 

 少しの逡巡の後、盾の勇者様はこう宣言する。

 

「悪いな。どうもお前等を信じられない。ここで第二王女を渡しても、きっとお前等は守りきれない。俺はコイツと約束しているんだ。絶対に守るってな」

 

 盾の勇者様はそう言うと、フィーロちゃんにメルティ王女、ラフタリアさんを乗せて大きく跳躍した。

 

「フィーロ、イヤだろうが荷車を放棄して、コイツ等から逃げろ!」

「はーい!」

「じゃあな」

 

 崖の岩場をうまく利用して跳躍するフィーロちゃん。

 それを追いかけるように槍の勇者様が懐から何かを取り出した。

 

「あ、待って──」

「はいくいっく!」

「させるか!」

「な──」

 

 槍の勇者様が投げた輪っかが足に装着されたフィーロちゃんは人型に変化すると、盾の勇者様一行と共に落下する。

 盾の勇者様はメルティ王女とラフタリアさんをうまく受け止める。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

「いてて……」

 

 そして、落下したフィーロちゃんは足枷を取ろうと躍起になる。

 

「くぬ……! えい! 取れない! 取れないよごしゅじんさま!」

 

 こうして、機動力の封じられた盾の勇者様一行は、他の勇者様との戦闘に突入してしまった。




剣の反応だけ微妙に変わっただけですね。
大きく変えるにはやはり槍を変えるのが一番か…!

実は錬のセリフの幾分かを樹が言ってます笑


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イレギュラー

割と大きい改変ですね。
イレギュラーが2人紛れていたので…。


 戦闘が始まると同時だっただろうか。

 

「死ねぇ!」

「危ない!」

 

 剣を構えて切りかかってきた兵士の剣を、リノアさんがブーメランで受け止めた。

 

「きゃあああ!」

 

 思わず恐怖で声が出てしまった。

 

「アンタ達、どう言うつもりよ!」

「盾の悪魔に洗脳された貴様らに問答など不要!」

 

 兵士達が私を殺そうと、剣を向けてくる。

 

「何をしている?!」

 

 ザンッと私を切り捨てようとしていた兵士が逆に切られて吹き飛ばされた。

 

「お前たち、何をしている!」

「これはこれは剣の勇者様。その少女たちはすでに盾の悪魔に洗脳されたようでして、排除しようとしたまでです」

「なん……だと……?!」

 

 剣の勇者様は驚愕の表情を浮かべる。

 

「あ、あの時の村の奴らと同じ目だ……!」

 

 剣の勇者様の剣が震えだした。

 私とリノアさん、そして剣の勇者様が兵士たちに囲まれていた。

 

「さあ、剣の勇者様。彼女たちをこちらに引き渡してください」

「くっ……!」

 

 兵士たちが剣の勇者様を無視して私に攻撃してくる。

 散々ソースケからアイキドーを習ってきたはずだけれども、恐怖で体が動かなかった。

 

「だから、何をしている!」

 

 ギインと音を立てて、兵士と剣の勇者様が鍔迫り合いをしている。

 

「そもそも、彼女らは今は元康の仲間だろう!」

「ふっ、許可は下りているのだ! 邪魔をしないでいただきたい、剣の勇者様」

 

 剣の勇者様は防戦一方である。

 攻撃をしないのだ。

 

「やめろ! くっ、逃げるぞ!」

 

 剣の勇者様はそう言うと、私の手を引いて駆け出した。

 リノアさんも一緒に走り出す。

 

「待て! ええい! 剣の勇者を追え!」

 

 兵士達が私達を追ってくる。

 

「崖を降りるぞ!」

 

 剣の勇者様がそう言うと、崖を降りる。

 

「きゃあああああ!!」

 

 剣の勇者様に手を引かれるまま、盾の勇者様の落ちた地点まで滑り降りた。

 

「そこの娘を殺せえええ!!」

 

 崖の上から兵士が号令を出すと、崖下に待機していた兵士達が一斉に私に剣を向ける。

 

「くっ、一体何が起きているんだ?! 尚文を捕まえるんじゃなかったのか?!」

 

 剣の勇者様は困惑しながら、周囲を見渡していた。

 

「お前との因縁もこれまでだ! 喰らえ、アイアンメイデン!」

 

 盾の勇者様の声が聞こえる。

 

「まずい! 流星剣!」

「やはり貴方が悪でしたか! 流星弓!」

 

 咄嗟にはなった剣の勇者様の技と、弓の勇者の技が重なって、空中に出現した女性を模した処刑器具アイアンメイデンを破壊する。

 

「みなさん、今のうちに破壊しましょう」

 

 弓の勇者が音頭を取って、アイアンメイデンを破壊するように指示を出す。

 

「ひゃあ!」

 

 私とリノアさんはそんな光景を横目に、兵士の攻撃を回避していた。

 剣の勇者様はスキルを放ち終えると、すぐに加勢してくださる。

 すでに状況は二分されていた。

 あちらでは、マルティ王女にメルティ王女が捕縛されている。そして、槍の勇者様と弓の勇者が盾の勇者様と戦っているところだ。

 こっちは、剣の勇者様と私とリノアさんが兵士に囲まれて動けないでいる。

 

「レイファ、リノア、この場から脱出するぞ!」

 

 剣の勇者様がそう言うと、パーティ申請が私達に届く。

 私とリノアさんは顔を見合わせて、槍の勇者様のパーティを脱退して、剣の勇者様のパーティに加わる。

 

「逃すな!」

「転送剣!」

 

 こうして、あの混迷とした場所から私達は脱出したのだった。

 光に包まれて、再び目を開けると、北東の関所に一番近い村に来ていた。

 

「はぁ、はぁ、お前たち、無事か?」

「は、はい、ありがとうございます、剣の勇者様」

「助かったわ、剣の勇者様」

「錬で良い。宗介も名前で呼んでいるんだろう?」

 

 剣の勇者様はそう言うとへたり込んだ。

 

「尚文は気になるが、それよりも宗介の大事な人を失わせるわけにはいかないからな」

 

 剣の勇者様の手は震えていた。

 

「くっ、しかしどう言うことだ! あの兵士の目、宗介が強制離脱した時の村人の目と同じだった!」

 

 剣の勇者様は地面を殴る。

 

「その……。多分理由なら話せると思います、剣の勇者様」

「錬だ」

「レン様」

「……まあいい。一度宿屋に向かうぞ」

 

 私達は剣の勇者様……レン様に連れられて、村の宿屋にお邪魔する事になった。

 

「で、理由は何だ? なぜお前達が狙われるんだ?」

 

 レン様は早速話題を切り出してきた。

 

「それは、私が四聖教だと言う事、そして、レイファがおかしい事をおかしいと言ったことが原因ね」

「しせいきょう……?」

 

 レン様は首を傾げる。

 

「あれ、勇者様は宗教については詳しくない感じ?」

「ああ、そう言うNPCの事については興味が湧かなかったからな」

 

 確かに、レン様はそう言う事に興味なさそうだもんね。

 宗介曰く、【修羅道に行きたいチューニビョー患者だけどチューニビョーであるが故に修羅道には堕ちれない残念くん】【絶対あいつ、スコールとキリト混ぜてるだろ】と特徴を話していた。

 

「レン様、で良いのかしら? そのえぬぴぃしいとかよくわからない単語使うのやめてもらえないかしら? 意味としては勇者以外を指すで正しい?」

「……ああ」

 

 どうやら、正しかったようだ。

 

「それじゃあ、宗教について説明するわ。と言っても、基本的に勇者っていうのは神様の使いまたは神様そのものの化身とされているわね」

 

 これは、確か宗派の違いとかで解釈が変わってくる。

 三勇教は後者だったはずだ。それで統一されている。

 リノアさんは四聖教だけれど、前者の解釈をしている宗派に属しているらしい。

 

「で、この国は三勇教……盾の勇者を悪魔と同一視している宗教の国よ」

 

 リノアさんの言葉に、レン様は驚愕で目を開く。

 

「…………なるほどな。手のひらで泳がされていたのは俺の方だったか」

 

 レン様は愕然とした表情をする。

 

「なら、あの時に尚文が強姦の罪を裁判するまもなく決めつけたのは、そう言う宗教関連のイベントだった訳か」

「レン様? 一人で納得してないで、ちゃんと説明してくれないかしら?」

「……すまない。だが、もう少し話を聞かせてほしい」

「……まあ良いけれど」

 

 リノアさんは説明を続けた。

 三勇教の動き、今回の事態が変な点、様々だ。

 

「……なるほど。ならば、調べてみる必要があるな」

 

 テーブルの上に置かれた、私の三勇教のロザリオを見ながら、レン様は断言した。

 

「本当の悪はどっちかを、ちゃんとな」

 

 ただ、レン様の表情は冷静を装ってはいるものの、手は震えていた。

 その後、噂によると盾の勇者様は再びメルティ王女を取り返して再度逃亡を開始したらしい。




宗介が知ったら腸が引きちぎれそうだ!!

ちなみに、錬が不在なため、錬役は燻製が改悪してやっています。
尚文はロザリオを渡すために探しましたが、いなかったので諦めました。
なので、80%は原作まんまですかね。

どちらにしても、錬が樹を誘って三勇教の調査を開始するので、大きい変化はあまり無いですかね?


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楽しい夜

宗介のターン!


 今頃は尚文達がバレて逃走している頃かな、なんて思いながら俺はラヴァイトの馬車に乗りながら移動していた。

 ラヴァイトは未だにクエクエしか鳴かないので、人化はレイファと合流してからだろう。

 

 無駄な尚文探しをしつつ、どうやってレイファと合流するかを考えていた。

 やはり、南西にある関所の砦近辺か。

 元康の奴は確実にあそこに出現するし、女王陛下も出てくるので、確実だろう。

 

 そんな感じで俺は南西の方角を目指していた。

 その道中、情報収集のために酒場に入ると、どこかで見たことあるような気がする二人組がいる事に気付いた。

 髪を逆立てて右側を垂らした赤い髪の青年と、青い髪を後ろで三つ編みにした髪型の女性が仲よさそうに飲んでいる。

 この時期にはもうこっちに来ていたのか……。

 

 俺はウィスキーと酸味のある炭酸水(レモンっぽい果物の果汁が入っている)を注文してハイボールを自分で割って飲んでいる。

 ちなみに、炭酸水は普通に売ってあって驚きだった。

 学生の頃からお酒は自作していて、カクテルなんかも一応色々と作れたりするんだが、そんな暇は一度もなかった。

 こっちではほとんどの大衆酒がルコルの実を希釈したものばかりだしなぁ。

 ワインやスピッツ、ブランデーとかそう言うお酒は若干値が貼るか、そもそも存在しないものもあるようだ。

 ルコルの実が一般的なお酒の原料なので、エールやラム酒っぽいやつの方が値が張る。

 まあ、穀物類や果実なんかは確認した感じだと普通に存在するみたいだし、落ち着いたら色々なお酒を作ってみたいものである。

 シェイカーなんかも親父さんに依頼すれば作ってくれそうだし、今度頼んでみるかなぁ? 

 キッカケは20歳の誕生日に友人から貰ったスコッチ・ウォッカだった。バランタインの20年物だったっけ。あれが美味しくて、お酒に一気にハマってしまったのだ。

 カクテルを自作するようになったのもその1月後だったっけ。

 正直、お酒研究会みたいなサークルを立ち上げようか迷っていたんだよなぁ。

 合気道サークルの稽古やバイトと被らないようにする必要はあったが。

 そんな時期にトラックに跳ねられて死亡だからやるせないよな。

 

 などと思いを馳せながらハイボールを片手に店の中をうろつく。

 見たことある二人にはもちろん、近づかないようにするけれどな。

 

 そこで情報を収集していると、俺の知っている通りに北東の砦付近に厳重な検問が敷かれており、シルトヴェルト方面に行くのは困難であるみたいな情報があった。

 大筋が変わってなければ誤差ですよ誤差! 

 しかし、今思い返してみると、やはり次元ノケルベロスを俺の手で討伐したことが間違いの始まりだったのではないだろうかと改めて感じる。

 俺が介入することによる歪みが、結果として今のズレに影響を及ぼしている気がするんだよなぁ。

 

 そんな事を思案しながら自分の席に戻ると、俺の席に見覚えのある二人が座っていた。

 

「悪いな。勝手に座ってるが、お前さんと話がしたくてな。席で待たせてもらったぜ」

「すみませんね。ですが、盾の勇者を探しているとのことで、お話が聞きたかったのです」

 

 さて、どうしようかな? 

 いる事が分かった時点で撤退しなかった俺の落ち度ではあるが、酔いが丁度いい感じに回ってて、そこまで頭が回らなかったのも事実だった。

 

「あー……。情報には対価が欲しいな……」

「なら、その高そうなウィスキーを奢りにさせてくれ。な?」

 

 男はそう言うと、ジャラッとボトル一本分の銀貨と銅貨を机に置いた。

 

「……ま、良いだろう」

 

 俺は金を受け取る。

 

「で、何が知りたいんだ?」

「ああ、その前に自己紹介かな? 俺はラルク、ラルクベルクってのが本名だが、ラルクって呼んでくれ。こっちはテリスだ。冒険者をやっている。よろしくな!」

「よろしくお願いします」

 

 あー、これは俺も自己紹介する必要があるのか? 

《首刈り》なんて二つ名があるから、あんまり自己紹介とかしたくないんだけどなぁ。

 

「……俺は、景虎だ」

「カゲトラ、ね。よろしくな、坊主」

 

 相変わらず屈託の無い笑みを浮かべるな。

 そこらへんは原作と変わりなさそうだ。

 俺はハイボールを作りながら、話を進めることにする。

 

「で、あんたらは盾の勇者の情報が欲しいと」

「ああ、なんでも悪魔みたいな奴らしいからな。俺たちでとっちめてやろうと思ってよ」

 

 やっぱり、目的はそんな感じか。

 

「……なるほど。で、欲しい情報ってなんだ? 正確な場所は流石にわからないぞ?」

「そうだな……。坊主から見た盾の勇者を知りたい」

「俺から見た?」

「そうだ。坊主も盾の勇者の情報を集めてただろう? それだったら、俺たちよりも情報を持っていると踏んでな」

「……ま、構わんが、そこいらで話を聞けばただで手に入ると思うぞ」

 

 まあ、聖人君子化されてしまっているので、若干歪んでいる気がしないでも無いがな。

 

「いや、あんな崇拝者の話じゃなくて、ニュートラルな坊主の話を聞きたいな」

「ええ、村の人は盾の勇者を尊敬している感じですからね。とてもじゃ無いけれど、人物像が一致しないのよ。良かったら教えていただけないかしら?」

 

 ふーん、この人たち、無意識ではあるけれど、俺に情報を垂れ流しているな。

 それとも、情報を教えてくれているのか? 

 何にしても、この二人がラルクベルクとテリスならば、知りたい情報を推察するのは容易いだろう。

 

「そうだな、盾の勇者は特殊な盾以外での攻撃が一切できない奴だな。自分の配下に代わりに攻撃させている。当然、その連帯は熟練の腕前を持つ兵士よりも強いな」

「あー、いやまあ、そっちもありがたいんだが、人となりをな?」

「あったこともない奴の人となりがわかるわけがないだろう?」

 

 俺は嘘つきだと自覚している。

 ただ、嘘のつき方と言うものがある。

 ハッタリやブラフは情報を引き出したり、逆に情報を与えないために有効なのだ。

 だが、当然ながら見破ってくる奴もいる。

 

「ははは、坊主、そりゃないぜ。嘘は良くねぇよ嘘は」

 

 ニヤリと笑うラルク。

 こう言う鼻が効く奴もいるのだ。

 面倒臭いな。

 

「ふっ、どうして嘘だと思うんだ?」

「そりゃ勘って奴だ。お前さんは盾の勇者に詳しい。そう俺の勘が告げているんだ」

 

 俺はため息をついて、カウンターを指差してこう言った。

 

「……対価」

「なるほどね。分かった分かった。何を奢って欲しいんだ?」

 

 そうだな、人の金で酒を飲むのだ。

 今回の情報料は高めで良いだろう。

 ……あのウィスキーで良いか? 

 

「ラーレグレイ30年物のボトル、銀貨13枚だな」

「うげっ! あの酒そんなにするの?!」

「あれは間違いなく美味いな。それが対価だ」

 

 ラルクはチラッとテリスを見る。

 テリスがうなづいた。

 

「……坊主、一口ぐらいよこせ!」

 

 ラルクはそう言いながら、カウンターに行き、ラーレグレイ30年物ウィスキーを購入してきた。

 あと、グラスを3つと氷も持ってきてくれた。

 

「ほらよ」

 

 ドンっと、ウィスキーを机に置く。

 俺は瓶を開封して、早速ロックのウィスキーを注ぐ。

 おお! これはなかなか! 

 タルの匂い、木の匂いが良い感じに香ってくる。アルコール臭がキツ過ぎないのも良い感じだ。

 口に含むと、芳醇な香りが鼻を通り抜ける。味も、まろやかで上品な味わいの中でも高級感がある。なるほど、こいつはなかなか美味しいウィスキーだった。

 安物のキャンディを口に含んで飲むと、更に良い感じだった。

 

「お、おい、俺も飲んで良いか?!」

「その前に、情報を聞かなくて良いのか?」

「う、そ、そそそ、そうだな。クソぅ!」

 

 と言うわけで、大雑把な特徴を話す。

 俺のイメージだけどな。【守銭奴で偽悪的行動をする奴。奴隷を調教する奴。あと、料理のプロで、ご飯がめっちゃ美味い、料理店を出したら繁盛しそうだ】と言う情報を伝えた。

 外見的特徴も伝えてある。

 まあ、実際に会った時のイメージとは違うけれど、間違いではないので良いだろう。

 ご飯が美味いの下りはラルク達にはどうでも良かったみたいではあったが。

 

「なるほど、確かにその情報は役に立ちました」

「そうかい、そりゃどうも」

 

 ラルクは早速ボトルからウィスキーをグラスに注ぐと、ぐいっと一気に飲み干す。

 

「くあぁぁぁぁ!! ウメェ!!」

 

 更にもう一杯注ごうとした手を止めて、俺はキャンディを握らせる。

 

「そいつを舐めて飲めよ」

「おお、いいのか?」

 

 俺がうなづくと、ラルクはキャンディを一つ口に頬張る。

 そして、ウィスキーを飲む。

 

「なっ?! ウィスキーが安物のキャンディでここまで美味くなるとは!」

 

 そのあと、ラルクが大惨事になったのは言うまでもなかった。

 いや、良いウィスキーを飲ませてもらった。

 一応、止めたんだけどなぁ? 

 

 テリスは飲んでもいなかったので、情報はテリスがちゃんと覚えているだろうけれどさ。




ウィスキー美味しいよね


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それは不穏と不信の始まり

錬パートとレイファパート


 俺、天木錬が北東の村の宿屋のフロントで柱に寄りかかって待機していると、樹が戻ってきた。

 俺のパーティメンバーの4人も付いてきていた。

 元康の方は此処とは別の町の高級な宿に宿泊しているので、王女がいることによる差別にイライラする。

 

「錬さん! どこに行っていたんですか! お陰で取り逃がしてしまいましたよ!」

「すまない。そうだ、勇者同士で話したいことがある。少し空けてくれないか?」

 

 俺がそう言うと、マルドとウェルトが困惑した表情をする。

 

「しかし、イツキ様もお疲れでは……?」

「レン様もお休みになられた方が……」

 

 それに、俺は強権を使う。あまり好きではないがな。

 

「勇者同士での連携に必要なことだ! お前達は宿で休憩していろ」

「……わかりました。錬さんがそこまで言うなら、きっと大事なことなんですね。皆さん、明日からの正義のためです。先に休んでいてください」

 

 俺と樹がそう言うと、あまり強く出れないのか理解を示してくれた。

 

 俺と樹は外に出ると、近場にある定食屋に入る。

 

「で、なんのお話ですか?」

「ああ、俺たちの明日からの方針についてだ」

「尚文さんを追いかけるのでは?」

 

 俺は、レイファから借りた【三勇教のロザリオ】を机の上に置いた。

 

「ん? 剣と槍、弓が象られたロザリオですね。これがどうかしました?」

「……何か足りないとは思わないか?」

 

 俺の指摘に、樹は少し考えると、何かを閃いた表情をした。

 

「確かに、盾がありませんね。ですが、どうしたのですか?」

「……お前の好きそうなイベントだ」

 

 俺がそう言うと、樹は眉毛をピクリと動かした。

 

「つまりは、このロザリオに悪の陰謀が絡んでいると?」

「ああ、そのロザリオは、この国の宗教である、三勇教のロザリオだそうだ」

「……確かに、町の教会でもよく見かけるシンボルですね」

「で、こっちが世界的な宗教である四聖教のロザリオだ」

 

 俺は、リノアから借りた【四聖教のロザリオ】を並べる。

 

「……なるほど、それで尚文さんの悪行が帳消しになると思っているんですか?」

「それは知らん。だが、尚文がここまで差別される理由になると思わないか?」

 

 俺の問いかけに、樹は少し考えると肯定の意を見せる。

 

「……確かに。思い起こせば尚文さんの扱いは最初からどこかおかしかったですからね」

「もしかしたら、あの強姦自体が尚文を陥れるための冤罪だった可能性もある」

「……それは被害者がいるのでわかりませんが、裁判もなしに決めつけていたのは気になりますね」

 

 と、此処で飯が運ばれてきたので中断する。

 ロザリオは素早く回収した。

 

「なるほど、錬さんの考えはわかりました。確かに僕の好きなイベントです。ただ、尚文さんを放置しておくことも問題だと思うんですよ」

「それは同意だ。ちゃんと訳を聞かなければ納得できないからな」

 

 尚文は盾のくせに強い。

 宗介と同じ種類のチートを使っているからな。

 だから、元康に任せきりと言うことはしない方がいいだろう。

 もしかしたら、元康だけが尚文のチートを手に入れるかもしれないからな。

 抜け駆けは許されない。

 

「お前の仲間と俺の仲間を半々で出し合って、尚文を追う班と三勇教を調査する班に分けよう。俺は調査の方をしたいが、お前はどうする?」

「僕も調査の方ですね。信頼できる仲間なので、任せて大丈夫でしょう」

 

 勇者が二人とも調査か。

 まあ、こればかりは仕方ないだろう。

 俺には、宗介の仲間二人を預かっている。

 つまり、このことに関して俺が逃げるのは許されない。

 

「……そうだな。では明日、班分けをして王都に向かうとしよう」

「ですね。少しワクワクしてきました」

 

 ……樹は楽しそうだな。

 俺は正直こんな面倒なことはしたくはない。

 だが、現状このままにしておくのも気持ちが悪い。

 武器の性能も若干落ちている気がするし、色々と気になることが多すぎる。

 それに、宗介に貸しを作れば、チートコードを教えてもらえるかもしれないからな。

 強くなるには地道な経験値稼ぎが重要だが、チートコードがあるならば俺も活用したい。

 そんな事を考えながら、樹と何処から調べるかを相談するのだった。

 

 

 

 翌朝、私はリノアさんと同じ部屋のベッドで目を覚ました。

 

「おはよう、レイファ。うなされていたけれど大丈夫だった?」

「おはようございます、リノアさん。うなされていました?」

 

 リノアさんがベッドを指差すと、汗でグッチョリになっていた。

 

「……お風呂入ってきますね」

「わかったわ。私が対応するから、レイファはゆっくりしてくるといいわよ」

 

 私はリノアさんの言葉に甘えて、お風呂に入らせてもらう。

 と言っても、カルミラ島のような立派なものではなく、ソースケ曰くゴエモン風呂だそうだけれどね。

 

 しかし、私はあの時の、兵士に斬られそうになった時の恐怖が蘇る。

 ソースケはあんな裏切りにあってまで、この世界を救うために動いているのだ。

 ソースケはレン様と同じような世界から来た、異世界人である。

 私だったらあの時のソースケみたいに、救うことを諦めるかもしれない。

 そう考えると、ソースケは本当の意味で勇者だと思う。

 ソースケの事を想うだけで、私の震えは止まる。

 

「側にいなくても、私を救ってくれるんだね」

 

 ソースケに斬られた跡を見る。

 呪いのせいかまだ完全に治りきって居ない。

 それにしても、私たちはどうなってしまうのだろう? 

 とりあえずはレン様についていく事になると思うけれど、大丈夫だろうか? 

 そんな漠然とした不安を考えながら、ぼんやりとお風呂に入っているとリノアさんが入ってきた。

 

「レイファ、レン様が呼んでるわ」

「はーい」

 

 私は返事をすると、すぐに体を拭いて、髪を魔法で乾かし、着替えてしまう。

 生活に使う魔法程度ならば適性がなくても使えるのは便利だろう。

 

「ファスト・ドライウィンド」

 

 熱風がふわりと私を包み、表面の水分を蒸発させる。

 サッと着替えた後、私はリノアさんと共に宿屋の食堂に向かった。

 

 

 

「では、マルドさん、カレクさん、ウェレストさん、スケーリアさんは尚文さん捜索班、ロジールさん、リーシアさんが僕とともに調査班として同行してもらいます」

「「「「わかりました、イツキ様!!」」」」

 

 どうやら、樹のところの班分けは出来たようだ。

 

「俺とレイファ、リノアは調査班確定だから、テルシアが調査班として同行してもらう。ウェルト、バクター、ファリーはあの連中と一緒に尚文の捜索をしてくれ」

「「「わかりました、レン様!」」」

 

 俺はウェルト、バクター、ファリーをメンバーから除外、ウェルトに編隊の申請する。

 なるほどな、確かにこれは便利である。

 

「では、よろしくお願いしますね、マルドさん」

「ワシに任せるが良い! イツキ殿!」

 

 しかし、マルドは追い出したとは言え樹との相性は良さそうだった。

 思い起こせば、マルドは傲慢でどうしようもない人物だった。

 ドラゴンとの戦いでも、何も考えないで突っ込んで行くので、俺までフォローをするハメになったのだ。

 しばらくして、依頼料の横領をしていることが発覚して追い出したんだが、樹のパーティでは上手くやっているようだ。

 

「ウェルト、頼んだぞ」

「はい! レン様!」

 

 俺たちはこうして別れた。

 まずは、メルロマルク城下町……王都の図書館からだな。

 この調査でくだらない事に時間を割く必要がなくなれば良いのだが……。




本来は班分けは起きない事象ですね!


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さあ、浄化を開始しよう!

遅れて申し訳ないです!


 メルロマルク大図書館。

 メルロマルク城に併設された図書館である。

 一般市民では使うことが許されない図書館であるが、勇者様が調べたいことがあると押し通り、入館が許可された。

 そこで私たちは三勇教についての調査を行う事になった。

 三勇教の歴史はまさにメルロマルクの歴史そのものだと言うレベルの歴史があった。

 

 勇者伝説発祥の地『フォーブレイ』、その地には四聖勇者を平等に崇める『四聖教』という宗教の聖地が存在する。

 この宗教は各国にも広まっており、メルロマルクも元々は四聖教が国教であった。

 しかしメルロマルクと長年敵対するシルトヴェルトが盾の勇者を信仰する『盾教』に改めたため、 「敵の国の神など我が国の悪魔だ」という事で盾の勇者を悪魔とする『三勇教』に国教を改めたと言う経緯がある。

 

 これは、単純に驚いた事だけれども、そうなんだと言った感じである。

 たまに行く教会の巡礼でも盾の勇者様が悪く言われるのは私も聞いたことがあった。

 

 その中でも私みたいな一般信者では知る事のない情報があった。

 

 それが、四聖武器の模倣品の作成であった。

 意図としては、勇者の力を量産して軍事利用しようと言うのが目的だったらしい。

 威力は山を割り、湖の水を蒸発させるほどの威力であった。

 だが、それでも、勇者単体の攻撃力には遠く及ばなかったらしい。

 それに、1回の使用にも膨大な魔力を必要とするようで、とても兵器としては扱えない伝説の武器である。

 そして、現在では所在不明になっている国宝だと言う。

 

 他にも、三勇教とは関係なさそうではあるが、国宝・国宝級のお宝が消えていたりしている記録があったりする。

 それも、メルロマルクがシルトヴェルトとの戦争で勝利を収めて以降顕著になっている。

 

「……消えたお宝と、宗教ですか。これは臭いますね」

 

 弓の勇者はワクワクしながら、私たちが集めた情報を確認している。

 

「確かにな。やはり、教会自体を調査した方が良さそうだな」

「広場の龍刻の砂時計に併設されてるあの施設ですね。早速行ってみましょう」

 

 ある程度三勇教の基礎知識が集まったところで、私たちは教会の方に足を伸ばした。

 

「……変だな。人の気配が無いぞ?」

「ですね。普段なら入って来たら早々に教皇の出迎えがあるはずなんですが……」

 

 実際、教会には人っ子一人居なかった。

 一応受付係のシスターさんが居たけれど、それだけである。

 

「レイファ、もしかしたら、盾の勇者様を殺す算段が……」

「もしくは、ここで倒さないといけなくなったとかですかね?」

 

 私とリノアさんはうなづいた。

 つまり、何らかの方法で盾の勇者様を倒せる方法を三勇教が所持していると言う事である。

 そして、私の脳裏にさっきの兵器が過ぎる。

 

「……レン様」

「どうした、テルシア」

「もしかして……」

「……その可能性は考慮している。証拠を探すぞ」

 

 私たちは教会の奥に踏み込む。

 いくつか仕掛けが施されているが、弓の勇者がいとも簡単に解除してしまう。

 そして、厳重な仕掛けの施された部屋には、色々な文献だけでなく、高そうなツボや、絵画、そして武器が丁寧に収められている。

 勇者様は何も言わずに自分の持っている武器と似た系統の武器をタッチしていく。

 何をやっているのだろう? 

 

 ここも図書館同様に私たちが調査をして報告する事になった。

 わかりやすい位置に、伝説の武器の安置場所の資料と、恐ろしい事に魔王に関する資料が置いてあった。

 

「魔王……だと……!」

「やはり、三勇教が伝説の武器を隠し持っていましたか」

 

 リノアさんは罠だと言う。

 私もそう指摘されてそう感じた。

 

「レン様、これは罠なんじゃないですか?」

「……まあ、ここまで無警戒だとそう考えざるを得ないな。だが、どちらにしても行く必要はある」

 

 レン様は魔王の資料を握りつぶす。

 

「魔王…。勇者の武器を媒介に生み出せる可能性があると…。ここの連中、一体何を考えているんだ?」

「人工的に魔王を作る目的、ですね。確かに動機が気になるところですね」

 

 魔王の研究……。

 盾の勇者様が魔王になれば、三勇教は喜んで盾の勇者様を討伐するだろう。

 もし、相手の意思に関係なく魔王化が出来るとしたら……。

 とても恐ろしい話である。

 

「ここに置いてあると言うことは、もう少し研究は先に進んでいるはずね。恐ろしいカルト宗教じゃない。一体何を考えてるのよ」

 

 リノアさんはため息をついた。

 

「そして、そんなところに召喚される勇者様も勇者様よね」

「……俺は召喚される場所を選んだ覚えはないぞ?」

 

 リノアの文句にレン様はそう答える。

 盾の勇者様の様子を見る限りだと、勇者様本人は召喚に応じるとかそう言うことは無さそうである。

 

「それじゃあ、ここからは二手に別れましょう。錬さん、僕は伝説の武器の方を確認しに行きますが、錬さんは魔王研究施設の調査で大丈夫ですか?」

「ああ、これまでの調査で俺たちが踊らされていたことは充分理解できた。後は決定的な証拠を抑えるだけだ」

「ですね! やっぱりアドベンチャーパートはこうでなくてはいけませんね!」

 

 弓の勇者は本当に楽しそうだ。

 そんな感じで人のいない教会を後にして、それぞれが移動を開始した。

 どうにも嫌な予感しかしなかったが、私たちは前へ進むしかなかった。



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まずは弓の偽勇者を浄化致しましょう!

 愚かな偽勇者がまんまと騙されて建物内に侵入したのを確認した。

 我々魔術部隊は一番効果的なタイミングで、神を騙る偽勇者を浄化せしめるのだ!! 

 嗚呼、教皇様の仰られていたことは真実だったのだ! 

 

 弓の偽勇者は、自分が弓の勇者に選ばれたと言う傲慢から愚かにも権威を示さず、勇者の偉大さを民草に知らしめなかった。

 そもそも、弓の偽勇者が懲らしめていたほとんどの貴族は敬虔なる三勇教の信徒である。

 弓の勇者様の権威を知らしめる贄となるならば本望であるが、そうでないならば話が違うのだ! 

 

 私も、弓の偽勇者に討伐された貴族の一人であるが、その点が一番納得できなかった。

 弓の偽勇者は己の手柄を隠すのだ! 

 なんと愚かな事か! 

 嗚呼、弓の勇者様のためにと我が身を差し出した妻子供使用人達に面目が立たぬ。

 ただただ、無駄に懲らしめられたのでは何の意味も無いではないか! 

 

 私が涙を拭ってバルマス教皇様に相談したところ、教皇様はこう説いてくださった。

 

「アレは弓の偽勇者です。伝承に伝えられし強さでは、その弓は一度放つと大地を割き、争う人々の間に境界を定め、天地を創造するとされています。そして、世界に真の正義を知らしめるとされています。嗚呼、可哀想に、弓の偽勇者にやられてしまったのですね。我々もかの偽勇者には困らせられているのです。どうかその時のために堪えてください。そして、祈りを捧げようではありませんか」

 

 嗚呼、泣き寝入りしか無いと思っていたが、偽物ならば何も問題はない! 

 私は教皇様の教えに感謝の涙を流し、一方的に悪と決めつけられ、偽者とその仲間に蹂躙され、そして最終的には妻子に逃げられた顛末に対して、偽物に正当に復讐できることに、感激の涙を流した。

 おお、神よ! 

 真の勇者様よ! 

 私を見放しはしなかったのですね!! 

 

 私は弓の偽勇者一行が施設に入ったのを確認する。

 私の仕事は、偽勇者が愚かにも三勇教を調べた際に、確実に浄化するために祠の一番奥に到着したことを伝える役目である。

 

 ここは人里離れた僻地に存在する、過去に三勇教が遺棄した祠の一つである。

 そこを少しばかり体裁を整えて、使っているように見せかけただけの、何もない祠なのだ。

 真の勇者であれば、看破するはずだと教皇様も仰っていたので、何の警戒も無く祠に突入した彼らが偽物であるのは、もはや疑いようがなかった。

 私は弓の偽勇者が祠の中央に侵入したことを確認すると、合図を送った。

 

 それで、『裁き』が下る。

 

 最後に愚かな偽者の……勇者を騙る愚か者の顔を拝むのも一興だろう。

 気づかれないように、気づかれない位置どりで、私は愚か者の顔を拝むために移動する。

 

「なっ?! 何も入っていません!!」

 

 嗚呼、その間抜け面が拝めただけでも最高だった。

 光が降り注ぐ。

 偽物を裁く光が降り注ぐ。

 

「イツキ様! 上を!」

「?! アレは……! 不味い! 逃げないと!」

 

 仲間から指摘され、ようやく自身の危機を察知した愚か者は、弓を構える。

 

「転送弓! あれ、何で?! 何で?! 転送弓!! 転送弓!!!」

 

 愚かな偽者の断末魔が心地よかった。

 その焦り、その絶望、その恐怖に歪む顔!! それが!! 私が見たかったものだ!! 

 

「うわあああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁああぁぁ!!!」

「イツキ様! 何とかしてください! イツキ様あぁぁぁ!!」

 

 次第に光は強くなっていき、そして私の意識も含めて、偽者もこの祠も、何もかもを光へと帰していった。

 

「嗚呼、三勇者様に、教皇様に栄光あれ──」

 

 そして、私の意識も──

 

 巨大な爆発音が鳴り響く。

 天空から降り注ぐ、神聖魔法。

 

 高等集団合成儀式魔法『裁き』

 

 直撃を受けた祠は溶けて消え、熱によって溶けてマグマ化した地面と、爆風により抉れたクレーターのみが残るだけとなった。

 弓の勇者がどうなったかを知るものは、この場にはもう居なかった。




フ────
スッとしたぜ

何故だろう?


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次は、剣の偽勇者の浄化をしましょう!

 私達は、魔王の研究施設と思われる場所に到着した。

 

「……明らかに破棄されて久しいって感じかしら」

 

 リノアさんの指摘に、レン様はうなづいた。

 

「確かに、研究した痕跡がある。だが、遺棄されたのは相当前に見えるし、残っている資料も残して問題ないものしか残っていないようだ」

「レン様の仰る通りですね。資料もざっくりと目を通しましたが、企画書や計画書ばかりです。……私の信じていた宗教がこんな事をしていたなんて恐ろしいですね……」

 

 テルシアさんも私と同様に衝撃を受けているようである。

 施設を探索していくと、まるで誘導されるように奥へ奥へと道が続いていた。

 罠だと理解している私達は慎重に先に進んでいく。

 

「……こう、屋内に何も罠が無いと、逆に不安になってくるわね」

「罠が無いのは良いことでは?」

「こう言った施設には情報漏洩を抑えて、外からの侵入者に対して罠が仕掛けられているものよ。その証拠に」

 

 リノアさんが破壊された機材を持ち上げる。

 

「これ、結構旧式の罠なんだけれども、人為的に破壊されているわ」

「なるほどな。俺たちを奥に誘導したいと考えているということか」

「正直、ここで得られる情報なんて無いに等しいと考えているわ。他を探した方が賢明じゃ無いかしら?」

 

 リノアさんの提案に、レン様は少し考えて肯首した。

 

「……そうだな。優秀なスカウトのお前が言うのならばそれが正解だろう。わかった、調査はここで中断して撤退しよう」

 

 レン様がそう決断した直後であった。

 リノアさんとレン様が私とテルシアさんを守るように前に飛び出した。

 カンカンカンと金属音がして、地面に投擲ナイフが散らばった。

 

「何者だ!」

 

 シュババッと数人の人が出現した。

 

「影か!」

「偽勇者に答える筋合いは無い!」

 

 そう言うと、影と呼ばれる人達がレン様とリノアさんに襲いかかる。

 鍔迫り合いの音が施設に響く。

 殺陣が繰り広げられて、机や椅子が倒れ、紙が散らばる。

 

「レイファさん、援護しますわよ!」

「はい!」

 

 私達はすぐに魔法を唱える。

 

「ツヴァイト・ウォーターショット!」

「ファスト・エアーショット!」

 

 私たちが唱えた魔法をすぐさま返してくる。

 

「アンチ・ツヴァイト・ウォーターショット!」

「アンチ・ファスト・エアーショット!」

 

 それにテルシアさんは舌打ちをする。

 

「手練れですわね……!」

 

 テルシアさんはそう言うと、次の魔法を繰り出す。

 

「ツヴァイト・ウォーターソード!」

 

 テルシアさんは杖に水の剣を纏わせると、近接攻撃をしてきた敵の剣を受け止める。

 だが、テルシアさんは魔法使いの回復役だ。

 手練れの攻撃は受け止めるだけで精一杯だった。

 

 私の方にも来る。

 

「はああああ!」

 

 今度は冷静に対処できる。

 ソースケに教わった基礎通り、剣を振る速度に合わせて両手を斬り下ろす。

 

「?!」

 

 そのまま手をスライドさせて当身を入れると、体勢を崩すので、転換をして入り身投げを仕掛ける。

 何というか、上手く入った感じがした。

 地面に激突して、痛そうな音が鳴る。

 

「ファスト・エアーショット!」

 

 倒れて麻痺している敵に、私は魔法を使って吹き飛ばす。

 他の人たちは接戦という感じだった。

 

「……! 嫌な予感がするわ! 早く逃げるわよ!」

 

 リノアさんがそう指示を出すも、まるで逃がさないかのように敵に立ち回られる。

 

「そうは言っても、敵さんはこちらを逃がすつもりがなさそうですわ!」

「ああ! 普通に強いぞ……! さすがは影か!」

 

 私達は逃げるために、敵は私達を逃がさないために、戦う。

 その中で、一人の敵がレン様を挑発した。

 

「私の村はお前のせいで疫病で滅びかけた!」

「!!」

「盾の悪魔をのさばらせる原因になった! 許せない!」

「ぐっ!」

 

 途端に、レン様の剣の冴えが鈍る。

 あの噂に責任を感じているのだろう。

 ソースケ曰く、「ああ、あの件は全面的に燻製が悪いからな」と言っていた。レン様が魔物の肉を処分しようとしたところ、燻製とソースケが呼ぶマルドさんが「村のために残しておこう」と提案したため起きた参事らしく、そうなるまで放置した村の自業自得と言っていた。

 本来は責任感が強い人なのだろう。

 

 と、リノアさんが戦いを中断して、上を見上げた。

 

「!!」

 

 と、リノアさんがいつもは隠している尻尾を逆立てた。

 

「亜人?!」

「みんな! ヤバイのが来るわ!」

 

 リノアさんの声音は戦々恐々と言った感じだった。

 

「ヤバイの?」

「ああもう! こんなところじゃ絶対防げないわ! とにかく! 逃げるのよ!!」

「逃すか!」

「なんで逃げないの?! あんた達も死んじゃうのよ!!」

 

 リノアの様子に、鍔迫り合いをしている敵を蹴り、レン様は剣を掲げる。

 

「ならば、転送剣!」

 

 レン様はスキル名を叫ぶが、何も起きなかった。

 

「……転送不可範囲内のため転送できませんだと?」

 

 レン様の驚きに、敵がゲラゲラ笑いだした。

 

「ハハハハハ!! 正義は我にあり! 剣の偽勇者、異端者の女と異教徒の亜人諸共死ぬがいい!!」

 

 異端者の女……私のことだろうか? 

 テルシアさんが当てはまるとは思えなかった。

 

「なんだ?? 何が起ころうとしている! リノア!」

「ヤバイ魔法が来るの! 三勇教ということは、『裁き』?!」

「『裁き』ですって?!」

「知っているのか、テルシア!」

「高等集団合成魔法ですわ! 対軍用の殲滅神聖魔法です! 直撃範囲は何もかもが跡形も残りませんわ!」

「なんだと!」

 

 レン様がスキルを唱える。

 

「エアストソード! セカンドソード! 防御結界のスキル、ソードフィールド!!」

 

 レン様が生み出した剣が地面に突き刺さり、結界を生み出す。

 

「気休めね。無いよりはマシだけど!」

「させるか!」

 

 私達が結界に入るのを阻止するように動く敵。レン様は結界を維持するために動けなくなったのか、敵の攻撃を空いている手で払うようにしている。

 あたりが白んで行く! 

 

「早く!!」

「ハハハハハ、三勇者様に、教皇様に栄光あれ!!」

「いやあああああああ!!」

「うおぉぉぉおおぉぉおぉおおおお!!」

 

 私達は光に包まれた。




僕が書く錬って割りかしちゃんと勇者してますよね
樹は外道ですが


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ついでに目障りな冒険者も浄化しましょう!

 俺たちが西の方に移動していると、明確な殺気が近づいてきた。

 

「ラヴァイト!」

「クエ!」

 

 ラヴァイトは俺の掛け声に、馬車を停車させる。

 

「そこの馬車、止まりたまえ」

 

 どうやら、向こうの馬車から降りてきたのはメルロマルクの兵士だった。

 

「私が行こう」

 

 ライシェルはそう言うと、俺の方をポンと叩き馬車を降りる。

 

「メルロマルク軍所属ライシェル=ハウンド部長だ。どうされましたか、デメル分団長」

「ライシェル部長か。お前が見張っている冒険者の処分が決定した。身柄を引き渡すが良い」

「?!」

 

 おいおい、雲行きが怪しくなってきたな。

 

「具申いたしますがデメル分団長、現在は我々は盾の悪魔を捜索している最中です。その決定は承服し兼ねます」

「貴様の意見など聞いていない。やれ!」

「くっ!」

 

 ライシェルは剣を抜く。

 ま、この時期なら勇者の殺処分が決定した時期だからな。

 俺は剣とボウガンを装備して飛び出す。

 アーシャとラヴァイトもそれに習う。

 

「おらっ!」

「キクチ=ソースケが出たぞおおおお殺せええええ!!」

「ソースケ様!」

「皆殺しだ! どうせ奴らは三勇教の手先だからな!」

「了解しました!」

 

 俺は剣で相手の剣を受け流し、素早く小手返しをして首を掻っ切る。

 まずは一人目! 

 

「ソースケくん!」

「うるさい! 殺意を持って俺を殺そうとしてくる以上は殺されても文句の言いっこは無しだ!」

 

 ライシェルさんにそういうと、俺は戦いを続行する。

 アーシャは本当に俺の指示通りに的確に暗殺して行く。

 姿が見えるのに暗殺するっていうのもアレだがな。

 ラヴァイトはフィロリアルキングの姿のまま、兵士でリフティングをする。

 気絶させるだけまだ優しいな。

 

「やはり《首刈り》! 貴様は我等三勇教に楯突くか! 邪教徒め!」

「はっ! テメェらカルト宗教に言われたくねぇな!」

 

 思ったよりも敵の練度が高いのか、殺害前に割って入られたりして思うように殺せていなかった。

 やはり、人間無骨は人を殺すのに最適化された槍だったなと改めて思う。

 

「あの女は危険だ! 殺せー!」

「連携して攻撃を妨害するんだ!」

 

 などと喚いているが、俺はそんなに長期にとどまるつもりは無かった。

 

「テメェらの目論見はわかってるんだよ! テメェらと無理心中なんてゴメンだね!」

 

 俺はそう言うと、腰に剣を収めた。

 そして、投擲具のナイフを装備する。

 

「ソースケくん?!」

「安心しな。カースは使わないから」

 

 アクセサリーが無いのに装備されたままの投擲具に、精霊は一体何を考えているのかわからないが、使えるものはなんでも使う主義だ。

 

「タイム・フリーズ」

 

 俺がスキルを行使すると、全ての時が止まる。

 この中では呼吸が出来ないので、30秒ちょいが俺が時の止まった世界で動ける時間だ。

 また、使用中は声を発することができないし、常時SPを消費するデメリットもある。

 俺は素早く動いて兵士共の首を掻っ切れる位置に投擲具のナイフを設置する。

 

「そして、時は動き出す」

 

 そう宣言する必要はないけれど、宣言すると、俺が首を掻っ切った兵士が首から血を噴出させて倒れて行く。

 

「は? は?」

 

 ライシェルさんと鍔迫り合いをしている分団長が困惑した表情で周囲を見渡す。

 ラヴァイトにリフティングされて気絶した兵士、アーシャに暗殺された兵士、俺に首を掻っ切られた兵士、死屍累々の光景が広がっていた。

 

「あ、悪魔……!」

「お前も死ぬか?」

 

 分団長を残した理由は簡単である。情報収集のためだ。

 俺はナイフを首筋に突き立てる。

 

「わ、私は悪魔になんぞ語る口は持たない!」

「そっか、じゃあ死ね」

 

 俺は投擲用ナイフで首を掻っ切る。

 まさか本当に殺されるとは思わなかっただろう分団長は、驚愕の表情を浮かべながら、血の泡を拭いて絶命した。

 

「ソースケくん……。やはり敵には容赦の無いのだな」

「そうしなきゃ生き残れなかったのでな」

 

 投擲具を装備から外すと、スゥッと投擲具が光の玉になって体内に吸収された。

 どうなっているんだこれ? 

 

「ははっ、私も、なんだか裏切られた気分だよ。まさかここまで酷い有り様だとは思わなかった」

「そうかい。とりあえず乗りなよ。そろそろここに『裁き』が落ちてくるぜ」

「『裁き』……か、どこまで腐っているんだ! 女王さまに会わせる顔がないぞ、オルトクレイ王……!」

 

 愕然とするライシェルさん。

 まあ、クズは良いように三勇教に使われているだけの哀れな道化に過ぎないからな。

 憎しみに目が昏み、叡智の賢王としての資質が眠っている状態だ。

 家族のためと言う盲信で暴走している可哀想なやつなのだ。

 だからこそ、こんな状態でもクズの命令に兵士が従っている程のカリスマを持ち合わせているわけだしな。

 

「ソースケ様、移動の準備ができました」

「ああ、ありがとうアーシャ」

「いえ、ご褒美は夜に宿の中でいただければ」

「あのさぁ、そのネタいつまで引っ張るわけ?」

「もちろん、いつまでもですわ」

 

 俺は呆れつつ、馬車に乗り込む。

 ライシェルもそれに続いた。

 

「……しかし、ここまで強硬手段に三勇教が出るとは……」

「とにかく、西の砦に向かうぞ。ラヴァイト!」

「クエー!」

 

 俺たちはそうして難を逃れた。

 後ろで物凄い音がしたと思ったら、『裁き』が先ほど俺たちがいた場所を焼き尽くしていた。

 あーあ、お仲間の死体があったのになー。

 俺にはもはや関係のない話だがな。

 

「まさか、本当に……!」

「それだけ俺の存在は奴らにとって邪魔なんだろうな」

「もしかして、他の勇者様の身にも同様のことが……?!」

 

 そこに行き着くとは天才か? 

 

「どちらにしても、今は確認のしようがないだろ。行くぞ」

 

 落ち込むライシェルを放置して、俺たちの南西の砦への旅は続くのであった。

 明確に三勇教が敵になった以上は、俺はもう、立ち向かって来るならば躊躇うことなく皆殺しにしてしまうつもりで行動した。

 

 俺が狙われると言うことは、道化様に同行しているレイファ達にも危険が及んでいるはずである。

 俺は焦燥感を感じながら歩みを続けるのであった。




宗介くんのチートスキルが発動!


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それぞれの決意

 さて、野営をしていると気配を感じた。

 三勇教の影は向かって来るやつは手当たり次第にアーシャと俺が殺しているので、最近は監視以外の動きがなくなってしまった。

 死にたくないよな、そりゃ。

 で、この気配は敵対の感じがしなかったので待っていると、俺の前方に影が現れた。

 

「《首刈り》のソースケ様ですね」

「誰だ?」

「私は、女王陛下が遣わした影でございます」

 

 俺のところにも来るのか……。

 いやまあ、最近重要人物っぽい感じがしているので、来るかもしれないなーなんて思ってはいたけれどね。

 

「陛下の!」

 

 ライシェルさんは驚いた声を出す。

 

「それで、メルロマルク女王陛下の影がソースケ様に何の用です?」

「はい、ソースケ様を保護したく参上しました……が、道中の活躍を見る限りはそれも不要と判断しましたので、女王陛下からの依頼をお願いしたいと思い参上しました」

「陛下から?」

「はい」

 

 影はうなづいた。

 ライシェルがこちらを見るので、俺の許可を求めているのか? 

 別に害がなければ問題ないのでうなづいた。

 

「では、ソースケ殿への依頼です。盾の勇者様の援護をお願いしたいのです」

「援護、ねぇ」

「西南の砦に現在、三勇教の信者およびオルトクレイ王直属の兵士が集結しています。おそらく、そこが決戦の地となると予想されます。そこに、ソースケ殿が勇者様の援護に入って欲しいのです」

 

 いやまあ、行く予定だったけれども、それは先回りしてレイファとリノアを回収するためである。

 戦いに介入するつもりはなかった。

 

「俺が勇者同士の戦いに介入しろと? 無理を言わないでほしいな」

「報告によると、お一人で剣の勇者様や盾の勇者様のパーティと善戦する程の実力を持っているとのこと。相応の実力は持っていると女王陛下は判断しておられています」

「……」

 

 いやまあ、確かに投擲具を使えば勇者に匹敵すると言うか、尚文含めた今の勇者を倒すのは難しい話ではないのは確かだ。

 フィトリアが嘆くレベルで今の勇者連中は弱いからな。

 

「もちろん、介入していただくのは邪教『三勇教』との戦いのみで問題ありません。如何でしょうか?」

「……対価は?」

「これまでの冒険者や貴族令嬢、我が国民である三勇教徒や兵士の殺害を特例として罪を免除いたします」

「……ああ、つまり、命令って訳ね」

「そう思っていただいて構いません」

 

 と言うことは選択の余地無しという事か。

 ……嫌な流れだな。

 まるで世界が俺に原作に介入せよと言ってきているかのようである。

 俺は愛の狩人ではない。

 俺は、俺の手に抱え切れる分しか守れない。

 抱え切れる盾の勇者様に全部丸投げしたいところだ。

 

「……わかった」

「ご理解いただけて幸いです。アーシャ様とライシェル部長は別命がございます」

「私にですか?」

 

 アーシャがこちらを見る。なので、うなづいておく。

 

「はぁ、仕方ありません。私はソースケ様以外の命令はあまり聞きたくないのですが」

 

 ライシェルを見ると、普通に答えてくれた。

 

「私はそもそもメルロマルクの騎士だ。オルトクレイ王からのソースケくんの監視の任務よりも、女王陛下からの任務の方が優先されるよ」

 

 ですよねー。

 アーシャは影に同行して、勇者達の救出の任務が与えられた。

 勇者達の向かっているそれぞれのポイントで三勇教が怪しい動きをしているらしく、三勇教所属の魔術師が集まっているそうだ。

 時系列的にそろそろかと思ったら、俺の方が処分が先だったのか。

 その怪しい施設に、それぞれ弓の勇者一行と剣の勇者一行が向かっているらしい。

 アーシャは優秀な元影だ。だから力を借りたいそう。

 

「では、剣の勇者様の方に行きますわ。ソースケ様が信頼されているようですし、そもそも弓は私は助けたいとは思いませんもの」

 

 という事で、アーシャは錬の方に向かうことになった。

 

「ライシェル部長は女王陛下と合流して三勇教討伐任務の指揮に当たってください」

「はっ!」

 

 ラヴァイトは俺とともに行くことになる。

 まあ、俺も一応オーナーだしな。

 

「では、ソースケ様、ご健勝を」

「ソースケくん、任せたぞ」

 

 ライシェルさんは影が連れてきた迎えの早馬に乗って、アーシャは影とともに、俺の元を去る。

 

「ここからだと、西南の砦はもうすぐか。早馬で向かったライシェルの方が先に到着するかな。ま、時間的にもここからラヴァイトなら急ぎで1日程度だし、ゆっくり行くか」

「クエー!」

 

 と言うわけで、俺たちはゆっくり向かうことにした。

 まあ、当たり前の権利のように道中で三勇教騎士が襲ってくる訳であるが、俺は殺さずにしばき倒して許してやることにした。

 

 

 

 俺、北村元康はマインから報告を聞いて衝撃を受けていた。

 

「なんっ!」

「……本当のことですわ、モトヤス様。盾の悪魔はあの盾であのレイファと言う少女を人質に取り、助けようとした二人の勇者様を殺害したのです!」

「……そんな! 錬と樹を! あいつらを尚文が殺したと言うのか! それにいつのまにか行方不明になっていたレイファちゃん達を人質にだと?!」

「はい、勇者様達を殺害した後用済みになったとして、亜人の女に命じて殺害しましたわ」

「!!」

 

 俺の心に尚文に対する憎悪が募る。

 なんでだ! やっぱり、あいつは盾の悪魔だったと言うのか!! 

 許せない! 錬や樹を、世界を救うと誓った勇者仲間である二人を殺した挙句に、レイファちゃん達を殺害するなんて!! 

 

 俺の目の前がちらつく。

 

カースシリーズ

──の槍の条件が解放されました。

 

 メッセージが出現する。

 俺の目の前が真っ暗になる。

 ああ、尚文め……! 

 絶対に! 絶対に許せない!! 

 常に冷静で、強敵と戦ってみんなを救ってきた錬! 

 正義に燃えて、みんなを悪の手から解放していた樹! 

 天使みたいな穢れのない純真なレイファちゃん! 

 ツンデレで素直じゃないけれど、元気で可憐なリノアちゃん! 

 勇者と共に世界を救おうとした仲間たち! 

 

 なぜ殺されないといけない!! 

 そんな暴虐! 許されてはいけない! 

 

 尚文に対する怒りで視界が歪む。

 

「モトヤス様?」

「マイン、尚文を……盾の悪魔を倒そう! そしてきっと、メルティちゃんを取り戻そう!」

「ええ!」

 

 今の俺を支えているのは尚文への怒りだった。

 俺はアイツの理不尽を決して許しはしない! 

 俺が、俺こそが勇者なんだ!!




くっせぇなお前!
人間の屑がこの野郎!


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傲慢な槍

80〜90%は原作そのままです
でも、話を繋げるためには必要なので許してください!


「もう少しだというのに……」

 

 今、俺たちの視界には国境を見張る石造りの砦……関所があった。

 宗介の言によると、俺はここで戦うらしい。

 見張りが砦の上で辺りを監視している。

 行き交う人々はそんなにいない……関所にいる見張りが馬車の積荷をチェックしている。

 

「まったく、妙に監視が厳重だな」

「わたし達がいるからでしょ? 北東の関所よりは兵士が少ないから良いじゃない」

「そうなんだがな」

 

 何故か元康が関所前いる。放火魔も一緒だ。

 これも宗介の予言通りでうんざりする。錬や樹ならまだマシだろうにな。お前は話を聞かないだろ。

 とは思うが、俺の思い込みの所為で会話が成立しないのかもしれないとフィトリアに言われたばかりだ。

 まあ当人であるビッチがいるから会話にならないのかもしれない。

 だけどここは正面から挑まないと抜けられそうにない。

 フィーロやメルティ、ラフタリアの話なら少しは聞いてくれるかもしれないと淡い期待をしておこう。

 ここからさらに迂回すると、それだけ日数がかかるし……目的地は目の前でもあるんだ。

 何より元康だ。今までだってどうにかなったじゃないか。もしも会話が成立しなくても関所を突破していけばいい。

 そう──強行突破だ。

 

「メルティ、ゴールが近いんだ。悪いが関所を強引にでも突破するぞ。まあ、その最中に元康と話をするがな」

 

 ピーチクパーチク騒ぎそうだけれど、念は押しておこう。

 

「わかったわ」

「ん? どうしたんだ?」

「何が?」

「印象が悪くなるからやめろとか言うかと思った」

「……」

 

 サッとメルティは視線を逸らしてバツが悪そうにつぶやく。

 

「あんなことしちゃうほど、国が荒れているなら荒療治も必要よ」

 

 アレか、盾に負けるぐらいなら封印された化け物の封印を解いて街を滅ぼしたって良いとか思うあの領主のことを言っているんだな。

 メルティは決断力があるんだな。これは好印象だ。

 このまま逃げ続けるくらいなら正面突破して被害を減らすのも手だ。

 

「よし、じゃあ行くぞ! 準備はいいか?」

「万全です」

「フィーロ、体が軽いよ」

「わたしも全力で行くわ」

「……よし!」

 

 俺が手を挙げるとフィーロが荷車を強く引いて走り出した。

 そのまま関所に突入する。

 

「盾の悪魔が現れたぞ!」

 

 相変わらずご挨拶な連中だな。

 こっちは妥協して話をしようと考えているのに、これだ。

 フィトリアに言われて考えを改めたが……宗介の言う通り戦いは避けられそうにない。

 

「車止めを展開させろ!」

 

 関所の扉の前に尖った杭が何重にも絡んだ車止めが設置される。

 荷車でこれを超えるのは厳しい。

 それでもフィーロは速度を緩めない。

 

「尚文いぃぃぃいいぃぃ!!」

 

 元康がこちらに向けて槍を構える。

 お前はフェミニストだからな。フィーロに手など出せないだろ。

 そう思ったところで、元康の槍が輝く。

 

「マイン!」

「はい!」

 

 ビッチが魔法を詠唱する。

 

「ツヴァイト・ファイア!」

「エアストジャベリン! そして──」

 

 マインの唱えた魔法を追いかけ、元康がスキルで生み出された光り輝く槍を俺たちに投げつける。

 

「合成スキル、エアストファイアランスだああぁぁぁああぁぁ!!」

 

 炎の槍が俺たちに向かって飛んできた。

 やばい! 

 俺は咄嗟にフィーロの背中に飛び乗ってスキルを唱えた。

 

「エアストシールド! セカンドシールド!」

 

 スキルで作り出された盾が元康の放ったスキルを受け止める。

 しかし、どうやら一歩及ばなかったようで炎の槍をフィーロは荷台から飛び出す形で避け、ラフタリアはメルティと手を繋いで荷車から脱出した。

 あの元康が何の遠慮もなくスキルをぶっ放してきた? 

 しかも何だそれは。魔法とスキルが合わさって合成スキルになるのかよ。

 アレだ。魔法剣とかそう言う類の攻撃だ。

 今までやってこなかったのは手加減していたからなのか? 

 

「いきなり何をするんだ!」

 

 逃げる前に話ぐらいはしようと思ったが問答無用で攻撃するとか。

 

「マイン!」

「わかっていますわ!」

 

 ビッチな王女が兵士共に視線を送る。

 するとバチバチと俺たちを中心に魔法で構成された檻が現れる。

 

「キャ!?」

「なーに? これ?」

「な、なんだ?」

 

 大きさは40メートル四方。かなり大きな雷で構成された檻だ。

 魔法……なのか? それとも何かしらの道具で作られたモノか? 

 

「やっと、やっと見つけたぞぉぉおぉ! 尚文ぃぃいぃいいぃい!」

 

 元康の様子が明らかにおかしかった。その様子はまるで宗介が暴走した時を思い起こさせる。

 

「元康……」

「絶対に逃がさない!!」

 

 元康の表情は、明らかに怒りの表情であった。いつもの余裕があるような表情ではなかった。

 なんだ? 普段の元康にある軽い感じがない。

 

「ナオフミ、これは捕縛の雷檻って言う魔法道具だったはずよ」

 

 メルティが檻の方を見て教えてくれる。

 

「設置型の罠で、術者と対象を閉じ込めるの」

「術者もか? この罠は何が目的なんだ?」

「対象を逃がさないことを目的としている」

 

 なるほど、俺達がフィーロの脚力に頼って逃亡を図るから逃げられないようにしたのか。

 

「わたしでも壊すことはできるけど、ちょっと時間がかかると思うわ」

「罠を正しく解除する方法は?」

「道具を使用した相手から鍵を奪えば……」

 

 俺はフィーロから降りて元康を睨む。

 

「戦うのですか?」

「その前に交渉するつもりだが、十中八九そうなるな」

 

 ラフタリアも剣を取り出して構える。

 

「ラフタリア、お前は防具が心もとない。できれば下がっていてくれ」

「ですが……」

「フィーロが戦う?」

「そうだな。戦いが始まったら任せる」

 

 元康はなんだかんだで美少女に弱いからな。先程は遠慮なく攻撃してきたが、避けることを前提にしていたのかもしれない。

 

「メルティは檻を壊せないか?」

「やってみるけど……期待しないでね」

「じゃあ、ラフタリアはメルティを守りながら様子を見ていてくれ」

「はい!」

 

 俺はみんなを代表して歩き出す。

 

「尚文、作戦会議は終わったか?」

「元康、話を聞け」

 

 フィトリアに注意されたから、なのかも知れない。

 元康は何も知らされず、ビッチな王女に騙されている。

 そうでなければ、ラフタリアを助けようとか思わないはずだ。

 元々考えが軽いだけで、本気で俺を嵌めようと思っていたわけじゃないと仮定しよう。

 

「お前の話を聞くつもりはない!」

 

 まったく、コイツは未だに洗脳の盾が実在すると信じてしまっているのか。

 むしろこの考えなしの方が洗脳されているんじゃないかと疑いたくなる。

 しかしこいつは槍の勇者。俺が異世界から召喚される時に読んでいた本である四聖武器書を参考にするなら槍の勇者は仲間想いという事になる。

 仲間想い=仲間を疑わない。

 そしてコイツの後ろにはビッチとクズ王がいる。盲目的に仲間を信じるなんて実にバカな奴だ。

 

「モトヤス様、早くメルティと、盾の悪魔に洗脳されたもの達を救うのです」

 

 ビッチに至っては火に油を注いでいる。どこまでも心が醜い女だ。

 

「今回は手加減なんてしてやらない。お前を全力で倒す!」

「……それはこっちの台詞だ」

 

 思えば異世界に召喚されて二日目と一ヶ月目に元康には辛酸を舐めさせられてきたんだ。

 ここらで一矢報いるのも一興か。

 って、またこのパターンかよ! 学習しろ、俺! 

 

「とにかく話を聞け、勇者同士で争っている場合か? 錬や樹はどうしたんだよ。お前だけしか追ってこない理由を考えないと完全に道化だぞ!」

 

 俺は悪だと思うのなら、俺を追ってこない錬や樹を話題に出そう。

 そうすれば元康も何かがおかしいと思ってくれるかも知れない。

 

「お前が殺したくせに! お前の甘言なんて誰が信じるものか!」

「は?」

 

 殺した? 何を言っているんだ? 

 錬と樹を殺す? 俺達が? どうやって? 

 

「おい元康、何を言っているんだ? 殺したってどういう事だ?」

「そうやって錬や樹を騙して殺したんだな!」

「は? どういう事か説明しろ!」

「とぼける気だな! 俺は聞いたんだぞ! お前が近くの街に封じられた魔物を解き放った後、レイファちゃんを人質にして錬と樹の不意をついて殺したって!」

 

 俺達がフィトリアの聖域にいた頃、メルロマルク国内ではそんな事件が? 

 考えられるのは事件の強引さに疑いを持ち、調査していた錬と樹を都合が悪いから消した。

 クズの王か三勇教の連中かわからないが、罪を俺になすりつけ、元康に囁いた奴がいる! 

 

「誤解だ! 気付け、俺が錬や樹を殺す理由が無い」

「うるさい! レイファちゃん達も用済みだと言って殺した殺人鬼のくせに! 俺はお前を信じない! もはやお前に対する慈悲すら残っていない! たとえ女の子を盾にしようとも、錬や樹、レイファちゃんのためにも手を汚してみせる!」

「はぁ? レイファを? それこそ俺が殺す理由がないだろう!」

「うるさい! 黙れ! その口を開けるな!!」

 

 ……ダメだ。話が通じない。元康の中では錬や樹、レイファを殺した犯人が俺だと確定してしまっている。

 くそ、先手を打たれた。

 フィトリア、すまないな。どうやらこの国の連中は世界の事なんてどうでもいいみたいだ。

 世界の危機とやらに立ち向かう四聖勇者はもう二人だけになってしまったらしい。

 元康のこの様子じゃ、俺を殺さない限り納得しないだろう。

 だけど俺は死ぬわけにはいかない。

 俺は盾をキメラヴァイパーシールドに変化させて元康に向かって構える。

 元康はビッチ、そして女二人の仲間がいる。さらに関所から兵士がやってくる。檻のおかげで入ってくることができないみたいだけど、それだけで逃げづらくなる。

 対してこっちは俺とフィーロが前線に立ち、メルティは罠の解除、ラフタリアは守りに入らせている。

 

「尚文、お前を倒すと誓った時に出現した強力な槍を見せてやる」

 

 元康はそう言うと、グリフィンが象られた禍々しい槍に変化させた。

 あれは、カースシリーズか?! 

 くそっ、厄介なものに目覚めてやがる。

 

「傲慢の槍。この槍でみんなの仇を撃たせて貰う!」

「はっ、『傲慢』なんて槍はお前の事をわかっているじゃないか。自分が道化であることを知りやがれ!」

 

 良いだろう。今は前とは違う。

 メルティは戦えないが、俺にはラフタリアとフィーロがいる。

 宗介に教えてもらった盾の強化方法の信頼ブーストもある。

 盾が本気を出せる状況ならば、たとえカースシリーズだろうが負けはしない。

 いざ、尋常に……どちらが強いかをここで見せつけてくれる! 

 

「「うおおおおおおおおおおおおお!」」

 

 俺た達は各々の未来を懸けた戦いを始めた。




元康さんが憤怒を発現するわけがないでしょ!
自分こそが勇者なんて傲慢にもほどがありますねー


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槍と盾の戦い

原作率80%


「尚文を倒すために生まれた槍の専用効果を見せてやる! セルフカースブロウイング!」

 

 元康がカーススキルを発動すると、槍から黒い風が舞い上がり槍に黒い風を纏う。

 おそらく、名称からして憤怒の盾Ⅱのセルフカースバーニングと同系統のスキルだろう。思えば宗介の両手両足が燃えていたのもセルフカースバーニングの炎と同じものだった。

 

「フィーロ、お前は元康を──」

 

 俺はすぐさまフィーロに指示を出す。

 女であろうと容赦しないと決断した元康はフィーロにも殺気を放って、槍を構えている。

 

『力の根源たる次期女王が命ずる。(森羅万象)を今一度読み解き、彼の者等に炎の雨を降らせ』

「ツヴァイト・ファイアスコール!」

 

 随分と傲慢な詠唱をしたビッチが炎系範囲魔法を放ってくる。

 

「ナオフミ、フィーロちゃん!」

『力の根源たるわたしが命ずる。理を今一度読み解き、彼の者等に降り注ぐ炎の雨を妨害せよ』

「アンチ・ツヴァイト・ファイアスコール!」

 

 メルティが檻の解除を行う前に、ビッチの詠唱した中級魔法を相殺する。

 しかし、完璧に相殺しきれず、俺たちに向けて火の雨が降り注いだ。

 辺りが一瞬にして火の海のなった。幸い、前線にいた俺とフィーロにしか直撃していない。

 

「そう何度も、モトヤス様を蹴らせたりしませんわ」

 

 ビッチの奴、本気で俺たちに向かって魔法を唱えやがった。

 メルティも魔法は得意なのだろうが、相手が悪い。

 ビッチとではLVと言う大きな差がある。

 

「フィーロ、大丈夫か?!」

「うん、大丈夫!」

 

 火の雨を受けても、フィーロはダメージを受けていないようだ。

 俺は……まあ、波の時に騎士団から魔法の洗礼を受けても無傷だったわけだし、痛くもかゆくも無い。

 

『力の根源たるわたしが命ずる。理を今一度読み解き、恵みの雨を降らせよ』

「ツヴァイト・スコール!」

 

 メルティが自信とラフタリアを守る雨を降らす。

 

「さあ! モトヤス様は盾の悪魔に意識を集中してください! 鳥は私達が魔法で近づけさせません」

 

 ビッチは配下と共に魔法の詠唱を始めた。

 

「いっくよー!」

 

 詠唱を気にせずフィーロは元康に向けて駆け出す。

 

「待てフィーロ──」

 

 むやみに突撃したら、あの傲慢の槍から何が飛んでくるかわからない! 

 

「ウィング・タックル!」

 

 風邪で作られた大きな塊が元康を蹴り飛ばそうとするフィーロに向かって飛んでいく。

 

「ほっ!」

 

 ボフンと人型になったフィーロがグローブを即座に手に嵌めてツメにして元康に切りかかる。

 

「そうか、洗脳されているとはいえ、この勇者である俺に向かってくるか!」

 

 元康の槍がフィーロを狙って攻撃する。

 あれは間違いなく殺すための軌道だ! 

 フィーロはフィトリアから人型時での戦い方を学んだおかげか、槍を上手く避けてツメで切りつける。

 

「行くよ! たあああああああああああ!」

 

 フィーロが素早くツメを元康に向かって振りかぶる。まるでネコ科の戦い方のようなヒット&アウェイ。敏捷なフィーロ独自の戦い方だ。元々は強靭な足による力技が常だったのに、フィトリアから教わった戦い方でここまで成長したと言うのか。

 

「フィーロちゃん! この勇者である俺に挑むならば、相応の報いを与えねばならん」

 

 元康の言動が、カースのせいかおかしい。

 なんだその偉そうな態度は! イライラする! 

 元康の槍が煌めく。

 

「小手調べだ。羅刹・流星槍!」

 

 させるか! 俺はフィーロを守るように前に出て盾を突き出す。元康が高らかに跳躍したかと思うと槍が黒く光り輝き、俺たちに向かって投げられる。

 槍の形をした、エネルギーで構成された攻撃が俺に降り注ぐ。

 

「ぐぅ……?!」

 

 一番防御力の高い盾の部分で受ける。

 信頼ブーストがあるはずなのに、ずしんと体の奥に響くような重い一撃が盾を通じて俺に降りかかった。

 全身の骨がミシリと嫌な音を立てる。いきなり必殺技とか何を考えているんだ! 

 まあ、現実の戦いだったら出し惜しみなんてするも必要ないか。

 

「ほう、さすがは盾の悪魔だ。では、次だ。往生・乱れ突き! 厭離穢土・昇竜槍!」

 

 カースの入ったスキルを次々と繰り出してくる。俺のキメラヴァイパーシールドの専用効果、蛇の毒牙なんて目もくれず打ち込んでくる。

 カースの影響か、受けた俺に回復遅延の呪いの状態異常にまでかかる。

 くそ……Lvが高いからって調子に乗りやがって! 

 

「マイン、皆の者!」

「はい! ツヴァイト・ファイア!」

「「ツヴァイト・エアーショット!」」

「受けるが良い! 炎と風と俺のスキルによる合成スキル! エアストカースバーストフレアランス!」

「ぐぅぅぅぅ……!!」

 

 防御しきれなかった所から激しい痛みが走る。

 あの元康の異様に傲慢そうな態度は確実に、カースシリーズに飲まれてやがる。

 蛮族の鎧に炎耐性と風耐性が無かったらどうなっていたかわからないな。フィトリアが加護をしてくれたおかげだ。

 血が吹き出ているのが見ていなくても分かった。

 回復魔法を……かける余裕を元康は与えてくれるつもりはなさそうだ。

 

「シールドプリズン!」

 

 盾の檻が元康を中心に展開される。

 

「緩いわ! 降魔・大風車!」

 

 槍をブンブンとバトンのように振り回し、出現した盾を元康は、薙ぎ払う。

 く……信頼ブーストがあるにも関わらず、元康の攻撃力が俺の防御力を大きく上回っていて止めることができない。

 これでスキルのクールタイムが無くなったらまた連続でスキルを放ってくる。

 さすがに防戦一方では勝機はないに等しい。

 

「ごしゅじんさま!」

 

 フィーロが腕を交差させて元康に駆け寄る。

 

「フィーロちゃん、勇者でない君が勇者同士の戦いに割って入るなど笑止千万よ」

 

 だから誰だお前は! 

 元康の普段の言動や態度とはかけ離れすぎている。

 だが、今の元康はその傲慢な言動を実現できるだけの力がある! 

 近づいてくるフィーロの腹に向けて槍の柄の部分で薙ぎ払う。

 その前に俺は魔法を唱えた。

 

『力の根源たる盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ』

「ツヴァイト・ガード!」

 

 ガツンと大きな音を立てて、元康の一撃はフィーロに刺さることなく跳ね返された。フィーロはフィトリアとの戦いで人型時の服に高い防御力を宿らせるのを知ったからな。

 さすがにファストだと防ぎきれたか怪しいが、ツヴァイトならば元康の攻撃も相当耐えれるはずだ。

 

「ほう、やるでは無いか」

「フィーロ、負けない!」

 

 その隙を逃さず、フィーロは元康に切りかかる。

 

「小癪な。フィーロちゃんでは俺を止めることなど叶わないと言うのにな」

 

 攻撃を余裕の表情で避け反撃するフィーロにバックステップをして魔法を唱える。

 

『力の根源たるフィーロが命ずる。ことわりを今一度読み解き、かの者を激しきしんくうの竜巻で噴き飛ばせ』

「ツヴァイト・トルネイド!」

『力の根源たる次期女王が命ずる。(森羅万象)を今一度読み解き、真空の竜巻を霧散せよ』

『『力の根源たる私が命ずる。理を今一度読み解き、真空の竜巻を霧散せよ』』

「「「アンチ・ツヴァイト・トルネイド!」」」

 

 フィーロの魔法も三人がかりの相殺によってただのつむじ風になる。

 更にフィーロは意識を集中させる。俺は元康の腕を掴んで動きを止めた。

 

「触るな下郎!」

「誰が離すか! フィーロ!」

「うん! はいくいっく!」

 

 フィーロが高速で移動し、俺が捕まえている元康の背後に立つ背後に立つ。

 ザシュっと切り裂く音とガキンと防ぐような音が聞こえる。

 

「俺に当てたことは賞賛してやろう」

 

 なっ! フィーロのハイクイックを一部防いだだと! 

 俺の拘束を解き放ち、槍を回転させて、槍を回転させて俺の顔をめがけて突いてくる。

 速い! 首を横にずらして避けたが、槍にまとわりつく風が俺にダメージを与える。

 

「ぐぅぅ……!」

 

 俺は元康から距離を取る。

 

「は!」

「うわあああああ!」

 

 ラフタリアによって檻の中にいた一人の兵士が切り倒された。

 兵士共が隙あらばラフタリアとメルティに向けて攻撃しようとしているが、この二人だって馬鹿じゃない。身を守ることぐらいできる。だが、それもどこまで持つか……。

 どうする? 元康さえ倒せば切り抜けられそうではあるが、傲慢のカースシリーズによって強化された挙句に、ビッチ達が邪魔だ。

 ジリ貧だ。俺の体力が尽きるのが先かビッチ達の魔力が尽きるのが先かで結果が大きく変わる。

 

「ん?!」

 

 ビッチ共……魔力を回復させる魔力水を飲んでいる。

 やばいぞ……これじゃあ、あの魔力水が切れるまで俺は耐え続けなければならなくなる。

 

「やるではないか。その力で錬や樹を殺したか!」

「だから違うと言っているだろうが! 話を聞けっての!」

 

 スキルを何度もはなっているのに余裕の表情を崩さない元康。こっちはかなりのダメージを受けてるよ! 

 血が体から滴っているのを感じる。

 

「それにこの強さは、情報通とは違ったタフな育ちをしているからだ。お前のような異世界万歳俺TUEEEをしたいわけじゃねぇ」

 

 これまでこの世界に来て、色々と試行錯誤を繰り返してきた。

 強くなるために手段を選んだつもりはない。解放できる盾の装備ボーナスは貪欲に埋めてきたつもりだし、宗介のお陰で盾の強化方法の一つである信頼ブーストもかかっている。それでも……負け職では勝てないのか? 

 

「無礼者!」

 

 ビッチの叫び声がして、元康がそちらの方を向く。俺も元康の見いている方角に目を向ける。

 元康の仲間の一人の肩に魔力剣が突き刺さっていた。

 おお、これで奴等は魔法を使いづらくなったぞ。

 ラフタリアが防戦一方になっていた俺たちのために援護してくれたのだ。

 メルティの方は……檻の破壊をこなしつつ、近寄ってくる兵士を魔法で撥ね飛ばしている。

 だが、それでも近寄ってくる兵士がいる。

 

「第二王女! 覚悟!」

「メルちゃん!」

「ぐわあああ!」

 

 メルティが対処しきれない状況にフィーロがフィロリアル・クイーン形態に戻って兵士共を薙ぎ払う。ハイクイックほどじゃないが素早く動いている。フィトリアとの戦いのおかげだ。

 

「ナオフミ様とフィーロにだけ注意を向けすぎて隙だらけです!」

「この!」

 

 仲間をやられてビッチが剣を振りかざしてラフタリアに斬りかかる。

 

「前にも剣で戦い合いましたよね。貴女は私に勝てません!」

 

 キンと音を立ててラフタリアはビッチの突きを受け止めて弾く。

 うん。かなり善戦している。後はメルティがこの檻を破壊してくれることを祈ろう。

 

「下郎が! マインに触れるな! く……」

 

 元康がビッチの元に駆け寄ろうとするのを俺が阻む。

 

「聞け、元康。全てはお前の周りにいるビッチな王女と三勇教の陰謀だ。錬や樹、レイファを殺したのは俺達じゃない」

「聞かぬといったであろう下郎が! 俺の道を阻むか!」

 

 何度も会話を試みるが、カースに侵された元康に聞く耳はない。仲間想いなんて言うが裏を返せば盲信しているようなもんだ。頭が固くて信じない相手の言葉は耳に入らない。

 どうする。俺に攻撃手段はないし、フィーロに攻撃してもらうにしてもメルティを守るために離れてしまっている。もちろん、呼べばくるだろうが……。

 

「ナオフミ様!」

 

 ラフタリアが尻尾を膨らませながら俺を呼んだ。それだけで何を伝えたいのかわかった。

 なるほど、さっき見本を見せてくれたのは元康だもんな。

 俺はビッチの元へ駆け寄る隙を伺っていた元康を敢えて通し、同時にラフタリアと呼吸を合わせる。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、姿を隠せ』

「ファスト・ハインディング!」

 

 意識を集中させた瞬間、俺の視界にスキル名が浮かび上がる。

 なるほど、こうするのか。

 

「ハインディング・シールド! チェンジシールド!」

「俺のマインに何をする! パラライズスピア!」

 

 元康がラフタリアに向けてスキルを放つ……が。

 

「何!?」

 

 ラフタリアの目の前に突然、盾が出現した。

 そう、これが俺とラフタリアの合成スキル。

 ハインディング・シールド。見えない魔法の盾を作り出すスキル見たいだ。

 その盾をチェンジシールドでカウンター効果のある盾にする。

 俺が変えたのはソウルイーターシールド。カウンター効果はソウルイート。

 

「ぐあ!」

 

 ソウルイーターシールドが元康に食らいつき、なにかを奪って光の玉になって俺に飛んでくる。

 

「俺のSPを奪っただと!」

 

 やはりそうか。ソウルイーターシールドのカウンター効果は相手のSPを奪う。

 元康のSPがどれほどのものかわからないが、これである程度戦えるはずだ。

 

「ナオフミ様を弱いと思わないことです」

 

 ラフタリアはそう言うとハイド・ミラージュで姿を隠して移動する。

 

「どこに行った!」

「モトヤス様! お任せを」

 

 ビッチがラフタリアの潜伏魔法を消そうとしたが、既にラフタリアは十分距離を取っている。

 

「小癪な真似を!」

 

 今度は俺に向かって元康がイノシシのように駆けてくる。

 

「羅刹・──」

 

 元康が安堵する俺に向かってスキルを放つ。確か、このモーションは流星槍だったはず。

 強化された鎧によって良くなった動体視力なら……行ける。

 俺は黒く光り輝く槍の柄……風をまとっていない位置を力強く掴む。

 

「俺の流星槍を掴んだか!」

「さっきから馬鹿のひとつ覚えみたいにスキルをバカスカぶっ放しやがって! もう完全に見えるんだよ! ノロマ!」

 

 キメラヴァイパーシールドのカウンター効果、蛇の毒牙(中)が元康に食らいつく。

 

「う……体が」

 

 やっとの事で毒が回り始めたか。

 元康が槍からどうやったのか薬を取り出す。

 え? 今どこから出した? 

 

「させるか!」

「一足遅かったな」

 

 邪魔しようと手を伸ばすが、呆気にとられた隙に飲まれてしまった。

 

「ふう……下郎にしてはなかなかの策だが、通用すると思うなよ?」

 

 槍から解毒薬を出すってなんだよ。やり方がわからん。

 

「毒が効かない……ねぇ? 他にも効く手段は色々とある事は既に証明済みだと思うんだがな」

 

 とは言っても、カースシリーズのせいか能力値に補正が入っている元康にとってはハッタリでしかない。

 

「いい加減、少しは人の話を聞け! 俺達は錬や樹、レイファ達に手なんて出してねぇよ! 全てはお前の背後にいる女の陰謀だと何度言えば理解する」

「黙れ外道! 貴様の話は聞かないと言っただろうが! 俺は俺の女の言葉以外を聞くつもりなどない!」

 

 傲慢になって余計に話が通じなくなっている。

 とにかく、これでフィトリアの頼み通り、最大限譲歩したつもりだ。

 奴が傲慢の槍を使っている最中でも、憤怒の盾に頼らない方法でな。

 

「交渉決裂だな。できればこの手段は使いたくなかったが」

 

 もったいぶって盾に手をかざす。このままじゃジリ貧なのは確かだ。

 メルティがこの魔法の檻を破壊することができない限り、増え続ける増援の兵士にいずれ俺たちは押し切られかねない。その前に逃げなければ終わる。

 

「フィーロも忘れちゃダメだよー」

 

 俺はラフタリアの援護をするように指示を出す。

 

「さっきの攻撃方法を見て、お前も警戒するんじゃないか?」

「くだらん。見え透いた考えだ」

「メルティ」

「何よ?」

「わかるだろ?」

「……わかったわよ」

 

 俺の考えは一つだ。

 ラフタリアの魔法によって見えない盾を出現させ、元康が動いたところでカウンター効果の盾にフィーロやメルティの魔法を合成させてダメージを与える。

 下手に魔法を使うと妨害されるが、この方法はどうなんだろうな? 

 

「お前の仲間も、その槍も、攻撃方法は炎か風が多いみたいじゃないか。俺には効果が薄いことぐらい……わかってんだろ?」

 

 なにが幸いするかわからないものだ。フィトリアの加護で対等に戦うことができる。

 

「それと、俺にもま奥の手があることぐらい理解できないわけじゃないだろ?」

 

 憤怒の盾を元康は一度見ている。

 あの傲慢の槍よりも強化されている盾だ。

 まだその盾を使っていない状況で、対等に戦っている状況だ。このまま憤怒の盾を使ったらどうなるんだろうな? 

 まあ、フィーロが暴走するだろうがその程度は目を潰れる。

 

「ふふふ、ははははははは!」

 

 突然、元康が笑い出した。

 

「なにがおかしい」

「切り札! 切り札か! そうだな、俺も似たような切り札を持っている」

 

 やはり、既にⅡにグロウアップしていたのか?! 

 

「お前で実験するのも悪くないだろう、なあ、尚文!!」

 

 元康はそう言うと、地面に槍を突き刺した。

 

「バインドランス!」

「な?!」

「ナオフミ様!」

「ナオフミ!」

「ごしゅじんさま!」

 

 まるで俺をあの日、ビッチ共の前にインナーのみで拘束されたときのように槍が俺の身体を拘束した。

 空中の至る所から槍が出現して俺を拘束する。

 

「デディケートランス」

「がっ!」

 

 腹部に衝撃を受けると、俺を空中に押し上げるように地面から槍が突き出していた。

 

「憤怒の盾!」

 

 俺はとっさに憤怒の盾に切り替える。

 逃げようにも動けない! 

 来る!! 

 

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は聖なる十字架に供物として捧げられる苦しみ也。叫びすら供物として捧げられ、激痛に身を委ねるがいい!』

「トーチャーステークス!」

 

 背後に出現した禍々しく装飾された十字架に、槍によって両手両足が縛られる。

 やばい! これはまずい! 

 目の前に心臓を穿つ杭が出現する。

 ガーン! 

 一度打ち付けられるだけで俺は吐血した。

 

「ガハッ!」

 

 次が来る! 憤怒の盾でも防ぎきれないダメージだ! 

 何度も受けてしまうと俺のHPが尽きてしまう! 

 

「させません!」

 

 ラフタリアが飛び上がり、杭を剣で防ぐ。

 

「ごしゅじんさまを傷つけるなんて、許せない!」

 

 なぜか暴走していないフィーロが杭を蹴り、破壊した。

 杭が破壊されると同時に、両手両足の拘束が解除される。

 

「す、すまない、助かった」

 

 俺は何とか地面に降り立った。

 

「ほう、トーチャーステークスを耐えるとはさすがは盾の悪魔だな」

 

 と、不意に元康が苦しみだす。そして元康の槍が元に戻った。

 

「ぐ……、これ以上はさすがにキツイ……!」

「モトヤス様! 大丈夫ですか?」

 

 あの系統のカーススキルはSPを全て消費するからな。それに長いこと使用していると精神が侵される。俺も即座にキメラヴァイパーシールドに戻した。

 元康も、傲慢の槍の後遺症で精神にダメージを負っている今がチャンスだった。

 ボフンとフィーロが人型に変化する。

 

「フィーロちゃん! 今よ!」

「うん、メルちゃん!」

「呼吸を合わせて!」

「わかったー!」

 

 メルティとフィーロが二人で息を合わせて魔法を唱え始めた。

 

『力の根源たるわたし(フィーロ)達が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を──』

「合唱魔法?!」

 

 ビッチ達の顔色が変わる。

 何だそれは? ……いや、魔法書で読んだ覚えがある。

 高位魔法の中には術者が協力して、魔法を唱えることがある。

 合唱魔法はその一つだ。

 最低二人必要なその魔法は一人で唱えるよりも複雑な魔法が唱えられる。

 この合唱魔法の上位が儀式魔法と言われ、それはもう高威力の戦争でも使われる大規模魔法を発動できる……らしい。

 

『暴風雨で薙ぎ払え』

「「タイフーン!」」

 

 メルティとフィーロが合わせた手から魔法が紡がれ、小さな、それでいて威力の高そうな水気を含んだ竜巻が元康達の方へ飛んでいく。

 さすがに魔法を無効化することができず、元康達はそのまま耐えることになる。

 

「く……俺が守ってみせる!」

 

 精神的にボロボロでありながらも、その前に立って仲間を守る姿勢は評価されるべきだろう。

 槍を横にしてメルティとフィーロの唱えた水竜巻を受ける。

 

「ぐあああああああああああ!」

 

 既にカースシリーズでない元康は堪えきれずに宙を舞う。

 だが、メルティとフィーロの魔法もそれが限界なのか、水竜巻は消え去った。

 ドサッと元康が地に倒れる。しかし、即座に起き上がった。

 

「俺は……俺はここで負けるわけにはいかないんだ。ここで負けたらメルティ王女も、ラフタリアやフィーロちゃんも盾の悪魔のものになってしまう」

 

 ……ここまで来て正義を確信しているコイツにはある意味、賞賛の感情が浮かんでくる。まさに、傲慢だろう。

 というか、何で俺が悪役のような扱いを受けているんだ。

 まさか、元康には俺がゲームでいう中盤のボスのように映っているのか? 

 何という不愉快な扱い。誰がボスキャラだ。

 

「絶対に、助けるんだ。錬や樹、レイファちゃんのためにも」

「女好きの道化も、ここまでくると哀れだな」

 

 洗脳なんてしていないのが見ていてわからないのか。

 この執念をもっと別の方向に向ければいいのに……もったいない。

 

「く……」

 

 既にカースシリーズを使うわけにもいかない。決定打を俺たちに与えられない。仲間が蹂躙されかかっている。

 そこまで考えて、まだ闘志を失わない精神は、確かに勇者だ。

 だが、盲目的に自分の正義を主張し、身内を疑わないというのはどうなんだ。だからこそ傲慢のカースが発動するんだ。

 

「諦めろ、カースのないお前は俺たちには勝てない。素直に話を聞いてくれ」

 

 もはや意地だ。この石頭をどうにかしないと先に進めない。

 ……逃げるまではな。

 

「メルティ、さっきから援護してくれるのはありがたいが、早く魔法の檻を壊してくれ」

「今、やってるところ!」

「モトヤス様! 早く盾の悪魔を倒さないと逃げられてしまいます! さあ、早く私に盾の首と妹のメルティを助けて差し出してください!」

「わかっている!」

 

 その味方が実は全ての黒幕だと言うのを知らない。欲しいのはメルティの首だろ。

 元康、本当の悪が目の前にあるのを理解しろよ。

 しかし、ビッチも諦めが悪い。

 ラフタリアに視線を向けるとコクリとうなづく。

 ハイド・ミラージュで隠れて、今度こそビッチを黙らせて欲しい。

 前回使った魔力剣なら容易いだろう。ビッチを昏倒させたら今度こそ逃げよう。

 ……ついでに殺してやりたいという感情は多大にある。

 だけど、ここで俺の無実を証明するためには殺すわけにはいかない。

 殺すのは俺の無実が証明されあのクズ王をどうにかしてからでなければならないだろう。

 そうでなければ、俺はあのクズと同格になってしまう。

 気に入らない相手に対しては身内であろうとも犠牲にし、手を緩めない。

 そんなので良いのか? 否、俺は無実を証明してみせる! 

 

「まだだ……まだ俺は負けられないんだぁああああああああああああああ!」

 

 元康が玉砕覚悟なのか、槍を俺に向けて突進してくる。

 

「フィーロ!」

「待って!」

 

 俺の指示に待ったをかけたのはメルティだった。

 メルティは周りを見渡すと、俺のこう告げた。

 

「さっきまでいた兵士が見当たらないわ。何が起ころうとしているの?」

 

 メルティの指摘に呼応するように、ピクリとフィーロは背中の羽毛を逆立てて、フィロリアル・クイーン形態に変身し、メルティを背に乗せ、潜伏しようとしていたラフタリアに手を伸ばす。

 

「え──」

「メルちゃん!」

「ど、どうしたの、フィーロちゃ──」

「きゃあああああああああああああ!」

「わ、私は王女よ、魔物風情が何の権利があってそんな無礼を──」

 

 その足でハイクイックしたのか姿をぶらせながら元康、ビッチとその仲間を俺の方に乱暴に蹴り飛ばして近寄らせる。

 

「な、フィーロちゃ──ぶべ!」

 

 なんだ、思いのほか簡単に元康を倒すことはできるんじゃないか。

 と、思ったが肩で息をしている。

 しかも、元康をはじめ、ビッチ達に対してダメージを与えていない。

 フィーロをはじめとした敵味方全員が俺の足元に集まった状態だ。

 

「ごしゅじんさま! 全力で防御! あの黒い盾にして! じゃないと無理!」

「い、いきなり──」

「いいから早く! 上にいっぱい盾出して!」

「くっ! わかった!」

 

 フィーロの剣幕に押され、咄嗟に憤怒の盾に変化させ、シールドプリズンを張り、エアストシールドとセカンドシールドを発動させる。

 プリズンが出現するのと同時だっただろうか、空から巨大な光の柱が俺たちに向けて降り注いだ。

 

「ぐう……!」

 

 ズシンと体の芯まで響く思い攻撃だった。




ちなみに、魔法の詠唱が原作時点でイマイチ統一されてないので、波の尖兵の意趣返し独自ですが統一しています。

理を読み解き:ファスト
理を今一度読み解き:ツヴァイト
森羅万象を今一度読み解き:ドライファ

ビッチはドライファの詠唱を唱えてますが、習得していないのでルビになっています。

傲慢元康はまあ、誰を下書きにしているかわかるよね?

トーチャーステークはオリジナルカーススキルですね。
苦しみの杭と言う処刑です。

盾:アイアンメイデン
剣:ギロチン
弓:ファラリスの雄牛

と来てるので、槍はこれしかないかなと。


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血塗れの勇者

ただ宗介が虐殺するだけのお話


 ズンっと地面が揺れた。

 おそらく『裁き』が発動したのだろう。

 

「行こう、宗介」

「行きましょう。正義を執行する時です」

「……え、それ決め台詞なの?」

 

 俺たち3人……錬と樹、そして俺は西南の砦の近くまで到着していた。

 レイファはまあ、さすがにあの状態では連れて行くわけにはいかなかった。

 怖かったらしく、ラヴァイトのいる馬車で思いっきり慰めてあげたよ。ギリギリまでね。

 今は落ち着いて寝ているので、リノアとアーシャに任せている。

 

 光の柱は天高く伸びており、その威力は錬や樹、俺を消すために放たれたものとは威力がダンチなのははっきりと見て取れる。

 あれを耐え切れるのはやはり、盾の勇者である尚文しか居ないだろうな。

 光の柱はしばらくすると消えた。

 まだ少し到着まで時間がかかりそうである。

 なので、今の状況を説明するとしようか。

 

 まあ、無事に勇者達は影に助けられたそうだ。

 どちらもなかなかシビアなタイミングだったらしい。

 結果、二人の勇者は俺のところに案内されて合流したというわけだ。

 

 あ、元康、俺はお前を許さないからな。

 守り切れなかったどころか、守る対象から目を離してそっちのけした以上は俺から許されるなどと思わないことだ(ニッコリ)。

 ま、愛の狩人に堕ちる前まで責任を取らせるがね。

 樹も平然と味方ヅラしてるが、あとで泣かす。

 

 と、だいぶ近づいたところ、メルロマルク騎士が待ち構えていた。

 

「なっ! 剣の偽勇者、弓の偽勇者! 浄化されたはずでは?!」

「ふざけるな! 俺たちがあんなところでゲームオーバーになるはずがないだろう!」

「そうですよ。世界を救うために活動している僕たちに対してあの仕打ちですからね。これでは弁解の余地はありません」

 

 ……いやーん、死にそうだったのにまだゲーム感覚とか信じられない! 

 ふざけてないと呆れすぎて死んでしまいそうだ。

 

「ま、どうでも良いが、お前ら三勇教か? 違うやつは間違えて殺してしまわないように、この集団から出ていくことをお勧めする」

 

 勇者を押しのけて、俺は前に出る。

 

「《首刈り》……!」

「宗介さん、協力していただけるのはありがたいですが……」

「まあ、ここは俺に任せてお前ら先に行ってろ」

 

 死亡フラグ? 

 ははは、おかしな事を言う。

 人数の差など俺には関係ないね。

 

「……行こう、樹。宗介なら大丈夫だ」

「ですが、思いっきり死亡フラグですよ」

「死亡フラグはこういう台詞だろ。『別に倒してしまっても構わんのだろう?』」

「そうですそうです! よく知っていますね!」

 

 俺はため息をつく。

 

「とりあえず、勇者様二人は、先に行って教皇を倒してくれ。俺はこいつらを皆殺しにしてから行くからさ」

「皆殺し……」

レイファを殺そうとした罪はブラックホールよりも重い

「う、わ、わかりました。やり過ぎないようにお願いしますよ」

 

 俺の殺意に威圧されてか、樹は早々に従うことにしたらしい。

 

「任せた」

 

 錬は俺の事を信頼しているのか、サッと出発した。

 

「行かせると思うの──」

 

 錬達の行く手を阻もうとした騎士の首を切断する。

 首がどさりと落ち、立ったままの胴体は首から血を噴水のように噴出させて倒れた。

 

「……行きましょう」

「ああ」

 

 錬達は出発した。

 首を容赦なく刎ねた事にリアクションは無いのか。そうですか。

 俺は、メルロマルク騎士団に向き直る。

 

「ひっ!」

 

 誰かが恐れる声を上げた。

 俺は醜悪な笑みを浮かべ、すしざんまいのように両手を広げて、死亡宣告を告げる。

 これからこいつらに八つ当たりが出来ると思うと、嬉しくて仕方なかった。

 

「さあ、レイファを、リノアを、勇者どもを己のエゴによって殺そうとした罪深い罪人共! ここから先は死だ! R-18G、ゴア表現マシマシの地獄を、お前達の屍によって作り上げよう! お前らの未来はたった今ここで尽きた!」

 

 俺は投擲具のナイフの刃の部分を舐める。

 さっき切り飛ばした罪人の首の血の味がする。

 

「さあ、死の始まりだ!」

 

 俺は早速、『タイム・フリーズ』を使う。

 そして、全力で首を刈っていく。

 時間を戻す度に、10人近くの首が跳ぶ。

 

「ひ、怯むな! 奴は一人だ! たお──」

「分団ちょ──」

「なんだ、なにがおこ──」

 

 タイム・フリーズのクールタイムは、使用時間×10秒。

 時が動いていても、俺は関係なく首を刎ねる。

 俺を殺そうとする武器を持つ手首を刎ねる。

 

「ぎゃああ──」

 

 俺を撃とうとする弓を持つ奴の目を、投擲で潰す。

 

「ぎゃああああああ!! 目が! 目が!」

 

 首を刎ねる。手首を刎ねる。直接刈る、投擲して刈る。刈って刈って刈りまくる。刎ねて刎ねて刎ねまくる。

 

「はははははははははははははは!!」

 

 このゴミクズ共が1分1秒足りとも長生きしていることが許せない。

 

「あああああああああ! 助け! 助けて! 勇者様ああああ──」

「おお、神よ、本物の悪魔が──」

 

 くだらない事を言う。だから、俺がちゃんと教えてやらねばならない。

 

「悪魔はお前たちだ♪」

 

 我ながら、良い笑顔だったと思う。

 

「他所の世界から勝手に勇者を召喚したくせに、差別する理不尽!」

「ぎゃああ──」

「ひぃぃ──」

 

 ああ、説教って心地いいんだな。

 

「思い通りにならなかったら偽物だと断定する独善性!」

「や、やべ──」

「腕がああああ──」

 

 なるほど、当麻さんが敵に説教するのもわかる。

 

「あまつさえ、自分が神になり代わろうだなんて言う救いのなさ!」

「あああああ──」

「お母さん! おかあ──」

 

 ああ♪ 気持ちいい。

 

「お前らこそが悪魔! 悪鬼羅刹の魑魅魍魎共だ! お前らは悪! 俺も悪! 悪が悪を裁くのもまた道理! 悪はより強い悪に屈するのが定めなんだよ!」

 

 平原の草は血で染められ、そこら中に刎ねた首や手首足首胴/体が転がっている。

 おっと、ここにいる連中は全員殺してしまったか。

 少しは気分が晴れると言うものだ。

 

「んんー、やっぱやりすぎか? でもまあ、勇者様を殺そうとした、この世界にとっての裏切り者だ。だから大丈夫だよね♪」

 

 時間としては、20分ほどしか経っていない。

 それだけで一個師団を皆殺しにした俺がすごいのか、勇者武器が強いのか……。

 ちなみに、すでに弓の強化方法は解放されている。

 その分の強化はすでにしているのだ。

 

「しっかし、お前もまあ、アクセサリーが破壊されたのに、なんで逃げないんだ? いいけど」

 

 俺は投擲具を装備から外す。

 わはははは、さすがは血塗れの勇者! 清々しい殺し具合だったな! 

 いちいち話しかけるのをやめてくれない? 

 カースを使わずともこの強さ。勇者とは恐ろしいものよ。

 地の文じゃなくてだなー……。

 

「とりあえず、錬たちを追いかけますかね。あいつらだけじゃやっぱり心配だしな」

 

 俺は、そう独りごちると、錬たちの向かった方角に走り出した。




ちなみに、錬から問い詰められたので、カースシリーズの解放方法は話してはいます。

錬「おい、宗介。チートコードを教えろ」
宗介「え、なんで?」
錬「あの禍々しい武器の出し方だ!尚文も使えると言うことは、俺も使えるはずだ!」
宗介「隠しパラメータであるカルマ値を一定以上貯めたら出るよ」
錬「は?隠しパラメータ?」
宗介「好感度なんて普通数値化されないだろう分かれよ」
錬「隠しパラメータ…。それは確かに盲点だった」

こんな感じです。


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聖邪決戦

今回も大ボリューム!


 俺が会場に到着すると、凄まじい光景が目に入ってきた。

 まるで隕石でも落ちた後のようなクレーター、その余波で完全に崩壊した関所、そして、神父やシスターの集団と護衛の騎士たち。そして

 クレーターの淵に立つのは、ビスカ=T=バルマス。

 俺を散々苦しめてきた三勇教の教皇であり、【盾の勇者の成り上がり】第1部のラスボスだ。

 俺の手で始末をつけたいと言う欲望はあるが、まあ、ブラッドサクリファイスで死ぬ様はやはり、アニメを見ていてもカタルシスがあるため、尚文に任せて問題ないだろう。

 俺が淵に到着すると、

 

「行くぞ、ラフタリア、フィーロ、メルティ!」

「「「はい!」」」

 

 と言う尚文達の声が耳に入った。

 しかしなんで、錬も樹もクレーターに降り立っているんですかねぇ? 

 そこがわからない。

 しかし、今一番盛り上がっているところか。ならば俺の出る幕ではないかな。

 俺はそう考えて、覗くのを止めようとした。

 

「おや、そこに居るのは邪教を信仰する殺人鬼、《首刈り》ですかな?」

 

 いの一番に気づいたのは、教皇だった。

 

「よっ」

 

 俺は右手のヒラを見せるように気軽に手を挙げた。

 

 エボルトォォォォ! 

 お前余計なものも見過ぎだろう! なんで記憶の中で特撮見てるんだよ! 

 かめんらいだーとやらも面白いではないか! 

 ああもう! 

 

 俺が竜帝のカケラと内心でそんなやりとりをしつつ、黒幕と相対する。

 

「宗介!」

「ソースケさん!」

「よっ、尚文。盛り上がっているところ悪いな。無事ここまで来れて何よりだ」

「……どう言うつもりだ?」

 

 何故か尚文から睨まれる。

 まあ、色々と隠し事多いからね、俺は。

 信用はしてもらえても、怪しいやつだろう。

 

「ま、お前ら勇者の援護に来たんだ。あいにくと、俺もそいつらに散々辛酸を舐めさせられてきたんでね。ここいらで後腐れなく皆殺しにでもしようかとね」

「レイファは?」

「生きてるさ。元康、あとで後悔させてやるから覚悟しておけよ」

 

 俺は元康を指差しながらそう宣言した。

 元康は負い目があるからかバツの悪そうなさそうな表情をする。

 

「ほう、さすが悪魔を信仰する邪教徒ですね。ですが、偽勇者ですらない貴方に何が出来ると言うのでしょう?」

 

 教皇が嘲るようにそう指摘するので、俺は対象を指摘してやろう。

 

「そうだな……、お前の後ろにいる、邪教徒連中の皆殺しかな」

「はっはっは、邪教徒とは心外な。……させると思いますか?」

「むしろ、出来ないと思っているのか?」

 

 さっきまで、兵士を皆殺しにして来たところだ。

 俺の精神がここまで歪んだ報いをここで果たす時だろう。

 俺は腰から剣を抜く。

 さっきのは時間がなかったから使ったが、俺は別に投擲具を使わなくても強い。

 

「いいえ、貴方ほどの実力ならばおそらく可能なのでしょう。ですが、一足遅かった」

「チッ」

 

 教皇の微笑みに、俺は後ろに大きく飛ぶ。

 書籍版では使用しなかった、あの防御魔法を使うつもりか?! 

 確かこの後裁きの詠唱に入るだろうにな! 

 

「いやはや、やはり盾の悪魔と共闘とは、やはり偽勇者らしい愚行。やはり、浄化するしかないですね。……それも、徹底的に」

 

『力の根源たる我らの神に願い、奉る。真理を今一度読み解き、奇跡を起こして祝福されしもの達を守りたまえ』

「集団高等合成防御魔法『大聖堂』!」

 

 ゴーンと、どこからともなく鐘が鳴り響く。

 すぐさま効果範囲から出ようとしたが、透明な壁にぶつかった。発動した時点で閉じ込められるらしい。

 しくじったな。

 

「な……!」

 

 構成されていく『大聖堂』を見上げながら、勇者達が唖然と空を見上げる。

 

「はっはっははははは! 我が大聖堂へようこそ! ここがあなた方の終着点です!」

 

 メガネを光らせながらそう宣言する教皇。

 遠くてあんまり見えないけれどな。

 うーん、これは仕方ないのか? 

 つかなんで俺が巻き込まれているんだ。

 まあ、書籍版だと思ってうっかり踏み込んだのが悪いか。

 

「しゅ、終着点……!」

 

 元康がそう呟く。

 巻き込まれてしまった以上は仕方がない、か。

 まさかここでアニメ版の展開になるとは思っても見なかった。

 わざわざあんなクレーターに降りる必要性は感じないため、俺はそのまま上に残っている。

 

「雷鳴剣!」

「サンダーシュート!」

 

 錬と樹が結界破りの雷系統のスキルを使用する。

 当然ながら、一時的に教皇の展開していた魔力障壁が破られる。

 

「ラフタリア、フィーロ!」

「いっくよー!」

「はい!」

 

 フィーロとラフタリアが崖を駆け上り、教皇に近接攻撃を仕掛ける。

 え、俺は何しているのかって? 

 観戦しているだけである。

 だって、俺が戦ったら一瞬で首チョンパだぞ。

 さっきステータス魔法で確認したけれども、俺のレベルは既に105に到達している。明らかに殺害しすぎた。

 なので、この大聖堂の調査を開始する。呑気? 余裕だからな。

 

「はいくいっく!」

「ぐぅ……!」

「せいっ!」

 

 大聖堂は、雷檻と同じように術者と対象を閉じ込める防御結界のようだ。発動が確定した瞬間に、魔力で構成された透明な壁が展開し、術者と対象を封じ込めるようだ。

 本体が構成されて完成すると、術者にステータスボーナスが付与され、呪いや状態異常が無効化されるようだ。

 おまけに、外から回復魔法を常時受けているのか、多少の傷はすぐに回復してしまうようだ。

 

「フィーロ、もう一度だ! 元康もだ!」

「えっ?」

 

 尚文の指示にフィーロがクレーターの中に戻る。ラフタリアは縁に残って、教皇と鍔迫り合いをしている。

 尚文が戻ってきたフィーロにまたがり、フィーロが駆け出した元康を嘴で咥える。

 

「モトヤス様!」

 

 ラフタリアとの戦いで飛び火した攻撃が、ヴィッチの方向に飛んでいく。

 

「ツヴァイト・アクアシェル!」

 

 それをすかさずメルティ王女が防御する。

 

「姉上、よそ見をしないで!」

 

 うーん、やっぱり、俺いらないよね? 

 一方でフィーロと尚文、元康組が教皇に接近する。

 

「元康、教皇に近づいたら俺を攻撃しろ!」

「はぁ? 何言って──」

「行くぞ!」

 

 フィーロが大きく元康を投げ捨てる。

 

「今だ!」

「わかったよ!」

 

 ガキンと大きな音を立てて、元康が尚文の憤怒の盾を攻撃すると、呪いの炎が吹き出る。

 

「喰らええええええ!」

 

 その炎を、尚文はうまくコントロールして、教皇に投げつける。

 着弾と同時に爆発炎上するが、まあ、効いてないよね。

 教皇は涼しい顔をしている。

 

「あの呪いを一瞬で……!?」

「この大聖堂の中では呪いなど無意味。ここは、神に祝福されし聖域なのですから」

 

 余裕の表情の教皇。そのまま模倣品の剣で突風を起こしてクレーター内部を攻撃する。

 ラフタリアは、尚文の攻撃を読んで下がっているようだ。

 

「なんて強さなの!」

 

 メルティ王女がそう感想を述べる。

 うーん、まあ、確かに強いかもね。

 

「おい、宗介! お前も加われ!」

 

 錬に注意される。いつの間に近づいていたのか。

 首根っこを掴まれて、クレーター内部にひきづり降ろされる。

 

「え、いや、だって、俺みたいなよそ者がボス戦に加勢するのもね」

「宗介さん、ここまできた以上は協力すべきですよ」

 

 えー、だって、あんな雑魚本来一人の勇者ですら叶わない存在なんだよ? 

 取るに足らない存在なんだよ? 

 弱いお前らが悪いんじゃん。

 まあ、口にはしないが。

 

「え、じゃあ何すればいいの? 援護魔法でもかける?」

 

 俺は速攻で全員に援護魔法をかける。

 

「アル・ツヴァイト・ブースト」

 

 全員に強化魔法をかける。

 みんな忘れているようだけれども、俺の魔法適性は雷と援護だからね! 

 

「それも助かるが、攻撃に参加しろ!」

「はぁ、まあ、剣でなら良いか」

 

 俺は腰に収めた剣を抜く。

 そして、痛めつける算段をする。

 

「聞こえますか司教。神の意向を示すため、皆の更なる祈りが必要です」

 

 教皇は、外にいる司教と会話をしているようだ。

 

『ですが、既に三割近くのものが魔力の限界に来ています。これ以上使えば、命にも関わるかと……』

「何か問題でも?」

『?!』

「これは、神と悪魔との戦い。三勇教信徒としてここで殉教するのは何よりの誉れではありませんか」

『……仰せのままに』

 

 ヒュー! 

 さすがはカルト宗教ですね! 

 

「自分を信じてついてきてくれた人にあんなことを言うなんて……!」

「でも、彼らはきっと付き従ってしまうわ」

 

 ラフタリアがみんなの気持ちを代弁してくれる。

 あと、3割ねぇ。

 

「じゃ、行きますか。錬、お前も協力するよな?」

 

 俺は仕方なく手伝うことにした。

 ブラッドサクリファイスであむあむされるまでをここで観戦しても良いけれども、あと少し魔力を減らす必要があるだろう。

 俺は、邪教の信徒が死のうが何も思わない。俺の手で首を刎ねられるか、魔力が尽きて死ぬかのどちらかだからだ。

 

「ああ、行こう宗介」

 

 俺と錬は前に出る。

 

「宗介、錬……!」

「ま、巻き込まれた以上は手伝うさ。俺は勇者でもなんでもないがね」

「無駄口を叩くな、行くぞ!」

 

 俺と錬はクレーターを駆け上がり、教皇に接近する。

 

「偽勇者と何を企んだか知りませんが、いいでしょう。相手をしましょう」

 

 教皇は槍を構える。

 

「宗介!」

「おうよ」

 

 俺と錬のコンビネーション剣技だ。あいつら(燻製達)がコソコソ何かを企んでいた時に、錬と二人で強敵と戦っていた時に編み出した連携技だ。

 久しぶりで息が合うかな? 

 

「せりゃあああああ!!」

「シッ!」

 

 俺が槍を剣でいなし、錬がダメージを与える。

 対人を鍛えすぎたためか、俺には教皇の動きが手に取るようにわかる。

 所詮は付け焼き刃のど素人だ。

 

「ぐあ!」

 

 ダメージを受けると、信徒が回復魔法で回復する。

 たくさん回復すれば、魔力が尽きる。

 そうすれば、大聖堂も崩壊し、武器に供給する魔力もおじゃんという考えだ。

 

「せい!」

「スキル!」

「エアストバッシュ!」

 

 タイミングバッチリで錬のスキルが命中する。

 錬は未だに集中すると一つのことだけに意識が向くが、あの時編み出した連携技は覚えていたらしい。

 ボコボコに叩きのめして、PSの重要性は教えたしな。

 

「雷鳴剣!」

「小癪な……!」

「三歩!」

 

 俺は、動きから教皇がスキルを使うのを察して下がらせる。

 

「大風車!」

 

 教皇が槍を振り回す。それだけで物凄い風圧が生じるが、そんな隙だらけの技を使うとか、戦いを舐めてるんだろうか? 

 

「必殺! 連続剣!」

 

 少しカスタマイズしてもらった魔法鉄の剣で俺は槍の動きを阻害して、剣で切り刻む。

 しかし、必殺技を使ったのは何気に久しぶりじゃないか? 

 

「ソードラッシュ!」

 

 錬も俺に続いて教皇を連続で切りつける。

 かなりダメージを負ったようで、流石に回復が追いついていない様子だ。

 

「やるな、宗介」

「まあな」

 

 俺と錬は拳を合わせる。

 しかし、こう言うのも懐かしいものだ。

 最近は俺単独で敵を倒していたせいですっかり忘れていた感覚だ。

 

「おのれ、偽勇者……!」

「たあああああああああああ!」

 

 俺たちの後に続いて、元康が攻撃を仕掛ける。

 

「乱れ突き!」

「ふん!」

「のわああああああああ!」

 

 そして吹き飛ばされた。

 馬鹿ですかね? 

 

「ふふふ、やはり所詮は偽勇者。私と信者の皆さんの力を合わせれば、どうと言うことはありません」

 

 教皇はそう言うと、槍を防御に構える。

 

「彼らの力と、聖なる武器の最強の力を持って、あなた方を真なる浄化へと導きましょう」

 

 魔力を溜めているようだ。

 

「神が与えたもう、究極の慈悲です」

「ははは、面白いな」

 

 俺はつい、笑ってしまった。

 いやごめん、ただの寝言を言われてもね。

 

「魔力を溜めているんだわ」

「フィーロ! ラフタリア! 奴の思い通りにさせるな!」

 

 メルティ王女の指摘に、尚文はすぐに指示を出す。

 

「わかったー!」

「行きます!」

 

 ラフタリアがフィーロに乗って、駆けつけてくる。

 

「錬、一旦引くぞ」

「? なぜだ?」

「あの馬鹿回復してやらないとな」

「……わかった」

 

 俺と錬は元康のところに駆けつけて、俺の即席回復薬を元康にぶっかける。

 

「す、すまない!」

「そのかわり、あとで殴らせろよ?」

 

 ラフタリア達が戦っている間に態勢を立て直すため、尚文のところに戻る。

 俺は錬とはうまく連携できても、ラフタリアやフィーロと連携したことないからな。邪魔になると困る。

 戻って早々、元康が尚文に聞く。

 

「なあ、魔力が溜まりきったらやっぱり」

「大技が来る、と思います。メルティさん、そうですか?」

「ええ、あの天井いっぱいに光が満たされたら、きっと……!」

「なあ、なんとかできないのか? お前の盾」

 

 おいおい、なんで元康は尚文に聞いているんだよ。一貫性のない奴め。

 

「はぁ?」

「だって、お前が一番あの、カースシリーズ、だっけ、使いこなせてるし……」

「お前だって使えるだろう?」

「いや、なんか、俺のは、ね。ははは……」

 

 歯切れが悪い元康の様子に疑問を抱く。

 

「そうですね、確かに僕らより低いレベルなのに、普通に戦えるのも、その盾のおかげですよね?」

 

 樹の言葉に、露骨に嫌そうな顔をする尚文。

 まあ、信頼ブーストって実は強化方法を知らなくても有効だからな。

 信頼値が落ちた他の勇者が弱くなってしまうのは道理だろう。

 

「何か特殊スキルとかないのか?」

 

 錬が尚文の盾の宝石を覗き込む。

 あれ、ガエリオンじゃないのか? 弱虫ガエリオンの気配がするぞ。

 

「ふぇ?!」

 

 突然話しかけてくるものだから、思わず声に出てしまった。

 あの盾からだ。濃厚な好ましい憎悪の気配に混じって、ガエリオンの気配がするな。

 ガエリオン……。

 そうだ、我のような他の竜帝に叶わないからと、人里に逃げたあの、弱虫ガエリオンだ。

 ガエリオンェ……。

 

「そんなものあるわけ……うぐっ?!」

 

 尚文が突然胸を押さえて苦悶の声を出した。

 

「尚文……?」

「……かなりの博打だが、こいつならあるいは……」

 

 どうやら、何かのスキルに目覚めたらしい。

 勇者の武器は心の力。ガエリオンは錬に殺されたからな。その憎悪が影響を及ぼしたのだろう。

 我もあの小僧に殺されるのはごめんだな。ま、全盛期の我ならばあの小僧に負ける道理など無いがな! 

 黙れ竜帝! 面白いあだ名つけるぞ! おしゃべり竜! 

 

「ほらみろ!」

 

 嬉しそうに言う馬鹿。

 尚文の苦悶の声を聞いたのか、駆けつけてきたラフタリアとフィーロが尚文に駆け寄る。

 

「ナオフミ様……。またあの力を使われるのですか……?」

 

 尚文はうなづく。

 

「前も大丈夫だったんだ。帰って来られる」

 

 おいおい、教皇がお留守になっているぞ。

 仕方ない。俺が行くか。

 

「ファスト・サンダーファストアップ」

 

 俺は魔法を唱えると、素早く教皇に近づく。

 

「またですか! 邪教徒風情が!」

「お前の魔力を貯める邪魔をしてやるよ!」

 

 尚文のパワーアップイベントを邪魔してはいけない(戒め)

 教皇は剣に変化させて、攻撃を仕掛けてくる。槍よりは多少動きがいいものの、素人だな。

 

「紅蓮剣!」

 

 スキルを使うタイミングが遅い。技はこう使うんだよ。

 俺は振りかぶった剣を受け流し、入り身投げを仕掛ける。

 グルンと回転して、ドシャッと地面に倒れる教皇。

 

「ははっ、間抜けだな。俺は常々、俺を殺すように指示を出した元締のお前を痛めつける方法を考えていたんだ」

「ぐ……!」

 

 俺は剣を鞘に収める。

 

「ほら、来いよ。今からお前はサンドバッグだ!」

 

 攻撃してくる教皇の攻撃をいなし、思いっきり当身を入れる。壊しても、外の邪教徒が回復させてくれるので、サンドバッグだな。

 

「ぬおおお! フェニックスブレイド!」

「遅い」

 

 掌底を入れる。

 そもそも、それは遠距離攻撃だろうに。

 コメカミ、鳩尾、金的、他人間の弱点多数を編み出した流水系の技で攻める。

 

「コオオオオオオォォォ!!」

「ぬおおおおお!!」

「必殺! 流水千打刻!」

 

 どうせ回復するならば、思いっきりぶん殴ろう。思う存分ぶん殴ろう。まさかこんな機会が訪れるなんて思ってもみなかった♪ 

 激しい打撃音が響く。流石に伝説の模倣品を破壊するほどの威力はないが、大ダメージは与えられたようだった。

 ちらっと、尚文達の様子を観ると、尚文の鎧が言葉に表せないほど禍々しく変化し、ラフタリア、フィーロ、メルティ王女が尚文にすがりついていた。

 ようやくパワーアップ完了かな? 

 

「ぐううううう! 貴様、どれほどの力を……!」

 

 教皇が焦りの表情を見せる。その顔を見れただけで十分かな。ふふふふふ……。

 

「おい、宗介!」

 

 尚文に呼ばれたので、戻ることにする。残念ながら、魔力が溜まるのを遅延はできなかったようだ。

 殴っている時魔力障壁でなかったもんなー。

 戻るとちょうど、元康が恥ずかしいセリフを言っている最中であった。

 

「友情と絆が勝つことを証明しなきゃだしな」

「ぶふっ」

「な! おい、宗介、笑うなよ!」

 

 思わず吹き出してしまった俺に、元康が恥ずかしそうにそう言った。

 いや、お前らに友情なんて存在しないし、肝心の絆も【勇者である】点以外に存在しないだろ。

 と、周囲を照らす大聖堂の光が強くなる。魔力が溜まったらしい。うーん、時間稼ぎにもならなかったか。まあ、教皇は防御よりも魔力を貯めることを優先していたようだし、仕方ないか。

 

「なにやら小細工を弄していたようですが、準備は整いました。これにてお別れです、盾の悪魔!」

 

 剣のビームが発射された。そこはちゃんと技名を言えよ! 剣ビームは【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】と言うのが決まりだ!! 

 尚文が前に出て、剣ビームを防ぐ。物凄い風圧だ。

 

「いかに盾の悪魔と言えど、大聖堂全開の攻撃を受け止められるとは……!」

 

 教皇も間違っているんだよなぁ。

 今はラースシールドだが、本当にフル強化の盾の勇者ならば、防御技すらなしに『裁き』を「なんか暑い」で済ませてしまうからな。

 

「強い力には代償がいる。お前の神の力の代償が信者達だと言うのなら、お前一人の命では安いな!」

 

 グロウアップしてラースシールドに変化した。後ろから見てもその盾は禍々しく、強いのがわかる。

 

「ぬぅ! その盾は……!」

 

 歴史上、実際に盾の悪魔が……いや、魔王が存在した時がある。

 その時の盾が、ラースシールドだったのだろう。

 レイファとドラルさんと暮らしている時に歴史書で読んだ記憶がある。

 

「行くぞ!」

「「はい!」」

 

 尚文の掛け声に、フィーロとラフタリアが答える。

 

「「「おう!」」」

 

 そして、勇者達も応える。

 

「……え、俺も?」

「早く行きなさいよ! 《首刈り》!」

 

 メルティ王女に蹴飛ばされて、俺は仕方なしに教皇の元に走り出す。

 うーん、仕方ないか。俺は投擲具を装備する。

 

「サンダーシュート!」

 

 樹の弓が再度張られた魔力障壁にダメージを与える。

 

「まだまだ! ウインドアロー!」

 

 盛り上がっている感じかな。

 俺もアニメで見たときは、ようやく盛り上がってきたものだと思ったものだ。

 

「ツヴァイト・アクアショット!」

「「ツヴァイト・エアーショット!」」

 

 メルティ王女、レスティとエレナが魔法を唱える。魔力障壁の破壊ね。俺も加勢したほうがいい? 

 俺は投擲具を上に投げる。ブワッと投擲具のナイフが分裂する。

 

「ナイフレイン」

 

 物凄い音を立てて、魔力障壁を破壊していくナイフ。

 思ったより高威力で、俺は驚くしかなかった。一応、手加減して弱めのナイフで攻撃しているんだがな。

 

「良いぞ! このまま敵に隙を与えるな!」

 

 尚文の指示に従って、フィーロとラフタリアが近接攻撃を仕掛ける。

 

「はいくいっく!」

「せいや!」

 

 ガキンと鍔迫り合いをした音が響く。

 

「同じ手は効きません!」

「私達は囮です!」

 

 背後に錬が出現し、スキルを放つ。

 

「流星剣!」

 

 尚文の指示は、俺や樹の遠距離攻撃可能なメンバーは魔力障壁の破壊をすることになっている。錬やラフタリア、フィーロの近接組は接近戦で教皇の動きを撹乱する。そして、元康の役目は、教皇に決定的ダメージを与えることだった。

 

「ツヴァイト・パワー!」

 

 ヴィッチが元康に援護魔法をかける。あれ、ヴィッチの適正って炎と援護だったんだ。すっかり忘れていた。

 パワーはブーストと異なり、ファストアップと同じように単一系統強化魔法だ。この場合は、炎との相性が良いとより効果が高かった筈だ。

 すなわち、攻撃力が上昇する。

 

「俺が言い出したことだが……、やっぱり尚文の言いなりだなんて……! くそっ!」

 

 何を喚いているんですかね? 

 

「この怒り! 食らいやがれ! エアストジャベリン!」

 

 元康の投擲した槍は、魔力障壁に防がれるものの貫いて直撃する。

 

「『友情と絆は勝つ』、だったか?」

「うるせぇ! 良いからぶちかませ!」

 

 尚文に茶化されて文句を言いつつも、激励を飛ばす元康。

 やれるなら最初から連携しておけっての。

 尚文とフィーロはトドメ役だ。

 

「聖なる炎で一片残らず浄化する! フェニックスブレイド!」

「エアストシールド! セカンドシールド!」

 

 フィーロは尚文の出した盾を足場に、フェニックスブレイド(二発目)を回避する。

 

『力の根源たる盾の勇者と眷属が命ずる。真理を今一度読み解き、炎を食いて力と化せ』

「「ラースファイア!!」」

 

 フェニックスブレイドを尚文の盾が吸収し、その炎を盾が噴出する。

 竜を象った炎は、教皇を襲撃する。

 

「ぬわああああああああああああああああ!」

 

 ダメージを負ったのか? 教皇は叫び声をあげる。

 この後の展開、知っているからなー……。

 

「やったぜ!」

「このまま一気に!」

「ああ!」

 

 三馬鹿は疑いもせずに、トドメをさすために駆け出す。

 

「《首刈り》は行かないのかしら?」

 

 メルティ王女が話しかけてくる。

 

「はは、これで終わるならば、誰も苦労はしませんよ」

「それってどう言う……?」

 

 俺がそうメルティ王女に指摘したときだった。尚文も気づいたようだった。

 

「おい待て! 何か様子が──」

「乱れ突き!」

 

 元康が一番乗りで教皇に接近し、スキルを放つ。

 炎の中から姿を見せた教皇は、スキル名を唱えた。

 

「──無我の境地」

 

 教皇は槍で乱れ突きをカウンターする。全て回避され返された乱れ突きをモロに食らった元康は、再び吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐあああああああああああああ!」

「元康さん!」

「はあああああああ!」

 

 入れ替わりで錬が攻撃するも、槍で全ていなされて、石突きで殴られて吹き飛ばされる。

 

「ぐ、なんだ、まるで宗介と戦っているような……!」

「あ、あれは槍の上級スキル……! カウンター技だ!」

 

 スキルでカウンターなんて便利だな! 

 

「あの武器は……上級スキルすら使えるようになるのか……!」

 

 錬が驚いたように言う。

 はは、あれこそがチートだろうな。弱いが。

 

「じゃあ、俺の攻撃を受けてみるか?」

 

 俺は接近して、投擲具の斧で攻撃する。

 槍の使い方は慣れている俺は、斧の二刀流で教皇を攻める。

 

「また貴方ですか!」

 

 むう、流石にオートでのカウンターは突破するのが難しい。

 カウンターにカウンターで返すが、さらにカウンターが帰ってくる感じ。ラチがあかない。

 投げ技に移行しようにも、それもカウンターで返される。

 

「チッ」

 

 俺は舌打ちをして引き下がる。

 タイム・フリーズを使えばまあ、余裕で殺せるけれどね。錬にいちいちうるさく言われるのも面倒なので、今回はパスだ。

 

「神への反逆! その大罪! 浄化では生ぬるい!」

 

 槍を弓に変形させて、大聖堂の中心に矢を放った。瞬間、雰囲気が変わる。

 ミラージュアローだっけ。至る所から矢が飛んでくる。

 

「うぅ……こないでー!」

 

 フィーロが叫ぶ。元康はあらぬ方向へ槍を振る。

 

「ミラージュアロー」

 

 俺がヒントを出してやると、あらぬ方向を向いている樹がハッとする。

 ラフタリアも気づいたようだ。

 

「これは幻影です!」

「ええ、ミラージュアローと言う幻影を見せる攻撃です! 気をつけてください!」

 

 俺は矢の雨の中、平然としていた。投擲具を装備しているせいか、見えてしまうのだ。

 教皇は向こうの方でひたすらにアローレインを放っている。ミラージュアローのフェイクと威力のあるスキルを織り交ぜた攻撃だ。

 こっちは大聖堂内の壁から教皇が顔をのぞかせて弓を放ってくる気色の悪い映像を見せられているというのにな。

 

「そのスキルは幻影で惑わし、対象を誤認させるスキルです! 気をつけて!」

 

 樹の声が虚しく響く。

 

「神の慈悲など欠片も無い、圧倒的絶望! その幻想に押し潰されろ!」

 

 しかし、厄介だ。敵は見えているのに照準が定まらない感じ。

 ……少し吐き気がしてきた。

 

「灰さえ残さなぬ完全なる消滅を! 存在した証など残させはしない!」

 

 弓の強力なスキルがくる。そんな時であった。

 

『力の根源たる女王が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者等を氷結の檻で捉え、拘束せよ』

『アル・ドライファ・アイシクルプリズン!』

 

 大聖堂に干渉するような冷気が教皇を襲う。そのまま、教皇が氷漬けになり、ミラージュアローの効果が消失した。

 

「馬鹿な……! 大聖堂の中にまで魔力を通すだと!」

 

 驚愕の表情を露わにする教皇。さあ、最後の時だ! 本来だったら止めるべきだろうがな。

 

『早く彼の者を!』

 

 おそらく女王の声だろう。

 その声と同時に、尚文から暗い詠唱の声が響く。

 

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神の生贄たる絶叫! 我が血肉を糧に生み出されし竜の顎により激痛に絶叫しながら生贄と化せ!』

「ブラッドサクリファイス!」

 

 一瞬、時が止まる。

 

「──ガハッ!」

 

 先に血を吹き出したのは尚文だった。

 アニメじゃそこまででは無かったが、実際見るとかなりゴア表現だった。

 鎧の至る所から血を噴出させ、目や鼻、耳や口から血を吐き出す光景は、誰がどう見ても尚文の死を連想させるのに相応しい有様だった。

 

「なっ……!」

「ひっ!」

 

 その場にいたその凄惨な光景に全員が息を飲んだ。

 地面には尚文の大量の血痕が撒き散らかされ、とてもでは無いが致死量以上の血を噴出しているように見える。

 教皇はその光景を見て、あざ笑う。

 

「さすがは盾の悪魔。最後は己の力に食い殺されましたか」

 

 そう言うと、教皇は自信を覆っていた氷を破り、スキルの準備を始めた。

 

「そ、宗介!!」

「くっ! 尚文が倒れた今、俺たちがなんとかするしか!」

「ナオフミ様! ナオフミ様!!」

「ナオフミ! しっかりして!!」

「ごしゅじんさま!!」

 

 こっちはこっちで大慌てだ。

 俺はすぐに即時回復薬を取り出して、全部ぶっかける。

 

「汚らわしき悪魔の身でありながら、神の浄化を受けられる慈悲に感謝なさい!」

 

 その、最後の言葉を述べた瞬間であった。

 教皇の足元から血が噴出する。そして、赤黒い錆びたトラバサミ……龍の顎のようなアニメで見たそのままのものが教皇を咥え、上空に伸びる。

 普通のトラバサミとは違って嚙みあわせる部分が多重構造になっており、一言で言うならばそう、地面から生えたドラゴンであり、口内は肉食獣の歯がサメのように並んだものだと思えばいい。クリーチャーの口内でもいいだろう。

 

「うおあはぁ! 何故だ! 何故私がこんな! 私は神の代行者!」

 

 ギシギシと音を立てて伸びていくトラバサミ。いや、ギシギシ鳴っているのは伝説の模倣品の方か? 

 

「どぉぉこぉぉがぁぁぁぁ、こんなあああああああああああ!」

 

 内部構造の顎が開き、教皇を捕食しようとする。

 ──バキンっ

 それが、最後だった。

 

「うおああああああああああああああああああああ──」

 

 グシャグシャバキボキゴリっと音がする。肉や骨を砕く音が響く。トラバサミの横から教皇の血が噴出する。三段構造になった顎が順に閉じ、教皇を肉塊へと変貌させる。

 断末魔は途中で止まり、血の雨が降る。

 

 ──ああ、これを見て、この光景を生で見て心地いいと感じてしまった俺はもう、壊れているのだろうな。

 

 トラバサミは肉塊を血溜まりに引き摺り込む。

 それで、処刑は終了した。

 

「勝った……のか……?」

 

 あまりの凄惨な光景に、顔を青くした元康がそう呟いた。

 同時に、魔力の基盤となる教皇が死んだことにより、大聖堂が崩壊する。

 

「きょ、教皇様が悪魔に負けてしまった……」

 

 絶望したかのように三勇教徒達が呟く。

 兵士たちがそんな三勇教の連中を捕縛していく。

 

「ごしゅじんさまあああああああああ!」

「ひどい傷! それにあのスキル、血肉を糧にするって……。そんな! じゃあナオフミは……!」

 

 この状況、先の展開を知っていると非常に居心地が悪い。

 俺はさっき治療薬をかけたせいで近くにいるため、余計にね。

 

「母上!?」

 

 物凄い美人の司令官が近づいてきたので、俺は距離をとった。

 いや、だって、ここはヒロインの見せ場じゃん? 

 俺みたいな野次馬には居場所がないんだよ。

 

「此度の活躍、目を見張るものでした。盾の勇者様」

 

 すぐに女王陛下は指示を出す。

 

「皆の者! 盾の勇者様の治療を最優先にするのです! これは王命である。必ず盾の勇者様を生かしなさい!」

「「「ハッ!」」」

 

 治療師達が尚文を取り囲む。

 これで、ようやく俺も肩の荷が降りるってものだ。

 

「ソースケくん」

「ん、ライシェルか」

 

 話しかけてきたのは、討伐軍に居たライシェルだった。

 

「無事でよかった。レイファちゃんやリノアちゃんも無事だと聞いている」

「ああ、もう、こんな目はこりごりだよ……」

 

 俺はため息をついた。

 しかし、これでようやく第4巻の終了である。

 いい運動したな! 

 尚文は大変なことになってしまったが、今の話の流れならば、原作再現度は80%以上は維持できているはずだ。

 あとはこのままメルロマルクをオサラバして、原作に関わらないようにひっそりと暮らせばいいだろう。

 俺はウキウキ気分で今後のことについて想いを馳せていたのだった。

 

 もちろん、運命はそんな事を許してはくれなかったわけであるが。




アニメ版を改良した?物を基準に書いてみました。
最後の最後、結末は書籍版になりますので、ご安心を。


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エピローグ

 バキッ! 

 俺は元康をぶん殴っていた。

 ちなみに、ヴィッチは女王が回収した後なので、お察し。

 

「ぐはあ!」

 

 渾身の一発なので、まあ吹き飛ぶよな。

 

「これで今回のことは水に流してやる。守ると言うなら最後まで守り通せよスカタン!」

「う、ぐ、すまなかった」

 

 元康は土下座して謝る。

 

「レイファちゃんも、リノアちゃんも、本当にすまなかった!」

 

 元康は女の子には誠実らしい。

 レイファは困惑した表情をしている。

 

 現状、俺は女王に従ってメルロマルク城下町へと戻って来ていた。移動して2日、尚文は眠ったままである。

 ラフタリア、フィーロ、メルティ王女は尚文に付きっ切りで看病しているあたり、本気で慕っていることがわかるだろう。

 

「ま、まあレン様のおかげで難を逃れられましたし、良いんですけれどね」

 

 これで許すレイファはやっぱり天使だなぁ。

 ぶん殴ったのは俺だけである。

 呪いを受けていた俺、レイファ、元康……傲慢のカースを発動しており、MP回復が遅延する呪いを受けていた……は儀式魔法『聖域』で尚文とともに呪いの浄化をされて解呪してもらったりしていた。

 尚文の呪いは『聖域』ですら解呪が不可能だったらしく、HP回復遅延、MP回復遅延の呪いのみ解呪されたと言った感じであった。

 

 樹や錬の仲間は、半数の助けられた方はレイファとリノアを守ってもらったが、半分の捜査していた方は北西の砦で待機していたようだった。

 むしろ、兵士の大半は北西の砦で待機していたのを考えると、三勇教は初めから南西の砦を決戦の地に選んだようにも思える。

 南西に配備した人数よりも北西の方が圧倒的に多いのだ。

 三勇教の連中は国家反逆罪および国家転覆罪未遂の容疑で捕縛されている。俺が殺した連中も全員その容疑がかかっていたらしい。ま、誤差だよね。

 ちなみに、あまりにも凄惨な光景で、処理が(精神的な意味で)大変だったらしい。

 

 尚文が目覚めるまでの間、俺たちはメルロマルク城下町内での休息が許可された。俺は、今回の教皇討伐に協力した報酬としてこれまでの全ての殺人による罪を免除された。

 なお、俺もしばらくはメルロマルクに滞在してほしいとライシェルさんに言われたので、半分強制なのだろうな。

 勇者枠ではなく、冒険者枠だから期待はしてないが。

 

「ほんっと、お疲れね。ソースケ」

「……良い運動になった程度だったんだがなぁ。むしろ、金剛寺の方が怖いわ」

「まあ、アンタの場合は戦いよりもそれ以外の場面でお疲れって事よ」

 

 俺とリノアはお茶をしていた。

 レイファは、メルロマルク城下町の人たちに無事を伝えるために、店を回っている。

 アーシャは、面倒なので情報収集をさせていた。

 当然、国外の情報である。

 これから、カルミラ島でのイベントが発生するが、俺たちのいく先はまだ決まっていないのだ。だからこそ、アーシャに任せた。対価を払うつもりはないけどなー。

 

「しかし、レベル105なんて初めて見たわ。人間の限界って100までじゃなかったっけ?」

「ああ、あの生意気な冒険者から奪ったこのナイフ、七星武器の投擲具だからな」

「あ、なるほど……え!」

 

 驚いた表情をするリノア。気づいてなかったのか? 

 

「いやー、それっぽいよなーっては思っていたけれど、やっぱりそうだったんだ……。はぁ……。あの噂が本当だったなんてね」

「ああ、七星武器の奪い合いって話か」

「そうそう。本来であればありえない事なんだけれどね。雲隠れした本来の投擲具の勇者様、それに、あんたの話によるボコボコにした斧の勇者様も、現在行方不明らしいわ」

 

 タクトに殺されたか? 

 相性悪そうだし、仕方ないだろうが……。

 今の俺ならば、斧の偽勇者程度ならそこまで時間をかけずに殺すのは難しくないだろうな。

 

「現在無事が確認されている七星勇者は、杖、爪、鞭の3つね。小手はまだ所有者が居ないし、投擲具はソースケが持っているのがわかっているから、行方が分からない勇者は斧と槌になるわ」

 

 タクトが現時点で持っている七星武器は4つと言うことか。

 鞭、爪、槌、斧。

 つまり、現時点でタクトのターゲットは俺と言うことになる。

 面倒だな。やはり運命は俺を逃してくれないらしい。

 

「……面倒だな」

「そうね。ソースケが持っていることが判明したら国際問題よ。出来るだけ隠した方がいいわ」

「そうだな。まあ、どこまで効果があるかは分からないがな」

 

 すでに散々、俺はメルロマルク国内で投擲具を使っている。

 人の口には戸をたてられないからな。いずれタクトの耳にも入り、簒奪しに来るのだろう。

 タクトの女は全員クズしかいないから、皆殺しにして問題ないけれどな。

 

 ステータスを開示すると、すでに槍の強化方法と、投擲具の強化方法が開示されていることがわかる。

 投擲具の強化方法は、それこそ国家予算ほどの金が必要なので実行はしないがな。金銭によるオーバーカスタムってなぁ……。

 

「ま、これ以上は人殺しなんてしなくて済めばいいわね」

「いや、必要ならするぞ?」

「え?!」

 

 リノアが驚く。

 

「この世界を荒らそうとしている奴は、容赦なく殺すさ。間違いなくそれが俺の役目だからな」

「……ふーん。まるで勇者ね」

「今はな。どうやら運命ってやつは、俺を逃がすつもりはないようだしな」

 

 俺がため息をつくと同時に、伝令の兵士が俺の元にやって来た。

 ライシェルではないようだ。

 

「冒険者、《首刈り》のソースケ殿。いや、投擲具の勇者様。女王陛下がお呼びです。ご同行願えませんでしょうか?」

 

 この、原作とは少し異なる世界で、俺は何をすれば良いのだろう? 

 間違いなく、人殺しではないのは確かではあるが。

 まあ、もはや皆殺しは趣味みたいなところもあるのは否定はしないが。

 俺はため息をついて、同行することにした。

 

「わかったよ。行くぞ、リノア」

 

 俺は、メルロマルク城に足を向けてのだった。




これにて、槍の勇者編完結です!
次回は裁判とかになりますねー。
大幅に変わっているわけではないので、基本的に同じ流れですが、宗介はどうやってタクトの魔の手から逃れるのか!
ご期待ください。


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幕間
主要人物まとめ


ごっちゃごちゃしてきたのでここでまとめてどうぞ。
フヨウラ!なら次回更新まで待ってね!


菊池宗介 20歳

種族:異世界人(日本人)

性別:男性

レベル:105

職業1:波の尖兵??

職業2:投擲具の勇者(仮)

装備1:投擲具のナイフ

装備2:カスタム魔法鉄の直剣

装備3:クロスボウ

装備4:

防具:カスタム兵士の鎧

スキル1:合気道2段(流水系統武術)

スキル2:武器4つ装備で能力アップ

スキル3:勇者武器簒奪能力(3/4)

スキル4:竜騎乗+

スキル5:気の使い手

称号1:《首刈り》

魔法適正:雷/援護

必殺技:流水千打刻

魔法:ドライファ・サンダーブレーク

すでに形骸化しているが、一応波の尖兵。呪いはもうない。

盾の勇者の成り上がりは22巻まで読んでいる。

竜帝のカケラが体内に潜伏している。

やることなすこと全て裏目に出る、巻き込まれ主人公体質の持ち主。

合気道と武器を駆使した戦闘方法で戦う。全体的に状況を判断する能力が高く、近距離、中距離、遠距離、援護全て可能。

殺人狂で、敵対者の首を刎ねて皆殺しする事に喜びを感じる。

人を褒める時は男女関係なしに頭を撫でてあげる癖がある。

基本的に普通に付き合えば気の良い奴で、なんだかんだで懐は深い。

暗殺系努力主人公。

 

レイファ=アーティモンド 16歳

種族:ヒューマン

性別:女性

レベル:40★

装備1:

防具:村人の服

魔法適正:風/回復

他称天使。純真可憐な女の子。なぜメルロマルクに生息するのか不明。

宗介が好きで、宗介にだけタメで話す。夢は宗介のお嫁さん。

若干天然だが、決める時は決める質。

三勇教信者であるが、あんまり信じてない。矛盾点を指摘したら背信者にされた。

正史では、ドラルさんと共に平和に暮らしている。

清純派純真系ヒロイン。

 

リノア=ハーティレイ 17歳

種族:半亜人(猫)

性別:女性

レベル:40★

装備1:大型ブーメラン・カマイタチ

装備2:短剣

防具:レジスタンスの制服

魔法適正:炎/風

見た目FF8のリノアで性格はプリコネのキャル。

ネコミミは無いが尻尾はあるよ。

亜人國では差別の対象のため、両親はアルマランデ小王国に引っ越した。

両親は存命で、たまに手紙を出している。両親は資産家。

人物に対する観察眼が高く、ツッコミ役。

正史だと革命に失敗した余波で、処刑されてしまう。

ツンデレヒロイン。

 

アーシャ 不明

種族:ヒューマン

性別:女性

レベル:76

装備1:暗殺者の短剣

防具:冒険者の鎧(スカウト)

魔法適正:水/風

sex大好き暗殺者。元アルマランデ小王国の影で、王に忠誠を誓っていたが守れなかったことがトラウマ。その後レジスタンスの諜報員として情報収集のために収容所に収監される。

宗介の首刈りに惚れた。宗介に忠誠を誓う。

ヴィッチ種だと読者から断定される。

生まれは孤児で捨て子、名前は捨てた。実は、娼婦と行きすがりの男の子供。

特技は諜報活動とsex。好きな体位は背面騎乗。だけれども、宗介はやらせてくれないので悲しい。

正史ではタクトハーレムの一人で、処刑される。

 

ライシェル=ハウンド 26歳

種族:ヒューマン

性別:男性

レベル:63

装備1:魔法鉄の剣

装備2:タワーシールド

防具:メルロマルク兵の鎧

魔法適正:土/闇

メルロマルクの騎士、階級は部長。

女王派の騎士で、仕事人間。でも、思考は柔軟で、上に立つ人間としての資質がある。

完全タンクで、前線に立ち味方を守るか、後衛で作戦を指揮するのが得意。

マルティ王女、オルトクレイ王の暴走を快く思っていなかった。

エクレールとはちゃんと面識があり、反逆者として捉えられるまでは上司だった。エクレールが投獄されたことにより降格された。

正史では、普通にメルロマルク兵として指揮をしており、最後まで生きている。

 

ラヴァイト 5歳

種族:フィロリアル・キング

性別:オス

レベル:36

魔法適正:闇/金

ドラルさんが飼っていたライトグレーのフィロリアル・アリア種。

温厚な性格で人好きがする性格。

レイファの保護者を気取っている。

よく、忘れられる一人。人化すると、幼い顔立ちのマッスルになる。なんだこのナマモノ。

宗介は「ソースケ」、レイファは「ゴシュジンサマ」と呼ぶ。でも保護者気取り。

正史ではフィロリアルのまま生涯を終える。

 

その他登場人物

岩谷尚文:盾の勇者

ご存知我らが主人公。宗介は信頼はしているが信用はしていない。

まだ隠し事がありそうだと疑っている。

 

天木錬:剣の勇者

この物語で一番優遇されている勇者。宗介は信頼している。

でもやっぱり、ゲーム感覚は残っているし、ブレイブスターオンラインだと思っている、頭が硬い人物。

 

北村元康:槍の勇者

いつも通りの元康さん。女ばっかり追いかけているのね。

フィーロとレイファが好みのタイプ。追う恋派。

『傲慢』のカースに目覚めるが、二度と使いたくないと思っている。

 

川澄樹:弓の勇者

ついにはレイファにまで見損なわれた、ヘイト収集装置。宗介からはクソガキだと思われている。

逆に、宗介の事は何も思っていない。強いて言うなら強いNPC。

独善と自己承認欲求の塊。原因は樹の仲間。ある意味被害者。

読者から相当嫌われている。

 

ミナ=ディテラ(故)

宗介敵対者1号。一応仲間だったが、豚送りにされて無事犯されて死にました。

メガヴィッチの分霊で宗介担当だった。

 

アレックス(故)

宗介敵対者2号、斧の偽勇者。

扱いは一応、斧の勇者で本来の斧の勇者を「美しくない」と言って殺した危険人物。

『美術館』と称して美しい女性を殺して蝋人形に変える生粋の犯罪者。

宗介にボコボコにされた後、タクトに斧を奪われて、焼却された。

 

コーラ(故)

投擲具の偽勇者。魔物との戦いは強かったが、対人戦は雑魚だった。宗介に瞬殺される。

波の尖兵なんですけどねー、弱かったですねー。

 

ドラル=アーティモンド 36歳

懐の深いレイファの父親。

最後に見たのは、レイファを守って波の尖兵から惨殺される姿だった。

筋肉お化けで斧を武器としている。

相当顔が広く、商売人としての才覚があったが結婚を機に商売を畳み、山奥で暮らしていた。

奥さんとは死別している。

 

武器屋の親父

メルロマルクに居を構える武器屋の親父さん。

宗介のことは「あんちゃん」、尚文を「アンちゃん」と呼び分けている。もちろん、ニュアンスが違う言葉を使っているため。

人間無骨を作った人。鍛治の天才で、その武器は宗介も愛用している。

 

魔物商

盾の勇者様からは奴隷商と呼ばれてますです、ハイ。

ソースケ様とはあんまり関わることはないですね、ハイ。

ドラル氏とはそこそこ古い付き合いでございます、ハイ。

ラヴァイトを購入されたのもドラル氏でございます、ハイ。

 

竜帝のカケラ

宗介に取り付いたカケラ。

オタ竜。面白いあだ名募集中。

コーラに襲われたのは、後継者を選別しようとしている時だったため敗北する。全盛期はたしかに強かったんだが、肉体の老化には勝てなかったよ…。

盾の勇者の成り上がりは22巻まで読書済みで、今は暇だから宗介の記憶からアニメや特撮を鑑賞している暇人。

 

ジャンヌ=ダルク

マリティナの独裁に異を唱え、レジスタンスを纏め上げた少女。

バラバラだったレジスタンス組織をまとめ上げるカリスマは、人間のものではない。

現在は、自分に政治は向かないと言って故郷に戻っているが、国民からの熱い支持は根強い。

闘技場で生き残っていたため当然ながら戦闘能力は高い。

 

ガイン

MOB、作者に忘れられてた人。

妹を人質に取られてジャンヌと戦うことになった人。

涙を流しながら「できない、できない」とがむしゃらにジャンヌを攻撃していた。

樹に助けてもらい、感謝している。

 

金剛寺哲平

この物語で最強の男。

波の尖兵の粛清役。

宗介の世界出身で80歳のボディで殺人空手で暗殺を行ってきた人物。

20歳の体になり、ますます技に磨きがかかっているため、とてもではないが常識的な強さでは瞬殺される。

変幻無双流ババアはギリ拮抗するかなレベルのクレイジーじじい。

現在はマリティナを連れて逃走中。

ミョウダイは偽名。名代は「人の代理をつとめること。それをする人。」の意味。

 

マリティナ

アルマランデ小王国を征服した悪女。メガヴィッチの分霊。それ以外は不明。金髪縦ロール。

リノアとアーシャにとってのラスボスで、二人が宗介に同行する理由の一つ。

 

燻製(マルド)

ゴミクズ卑怯者最低最悪の人物。

とにかく生きているだけで迷惑をかけるゴミ人間の鑑。

吐き気を催す邪悪にもなれない小物界の大物で人を不快にさせるスペシャリスト。

戦い方は斧を持って突撃するだけの脳筋。結果、剣のパーティのときは周囲に迷惑をかけまくって、宗介が抜けた後は燻製のせいでクエスト失敗がそこそこあった。

依頼料のちょろまかしや、樹パーティでは弓の勇者を語って依頼料の横領をしている。やっぱり小物。

 

タクト=アルサホルン=フォブレイ

宗介の絶対的な敵。レベルがこの時点だと329はあると推測される。

だけれど、実は宗介の敵ではなかったりする。

宗介の中で強いと思い込まれているだけの悲しい人。

女はモノだと思っている。

転生者で、前世でも当然クソ野郎だったと思われる。

金剛寺の粛清対象にそろそろなりそう。




追加して欲しい人がいたら連絡ください!


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チートコードを教えろ

宗介と勇者たちが合流した時のお話


 傷ついた勇者達が、俺のいる馬車に集まってきた。

 時期は、教皇のところに向かう前の話である。

 俺がラヴァイトと共に南西の砦に向かっていると、影が出現する。女王陛下の影を名乗る影だけど、ごじゃる口調では無い。

 

「《首刈り》のソースケ様」

「うおっ! ビックリしたー」

「勇者様を確保しましたので、迎えにきていただけないでしょうか?」

 

 あー、そう言う時期だったなと思う。今はちょうど一人だったので、それは問題ないだろう。

 

「わかった、どこに行けばいい?」

「こちらのポイントに」

「わかった。ラヴァイト、右に向かってくれ」

「クエー!」

 

 俺は影の指定するポイントに移動する。

 すると、その地点には樹と錬、そしてレイファにリノアがいた。

 

「レイファ?! リノア!」

「クエー?! ゴシュジンサマ?!」

 

 俺とラヴァイトは二人の元に駆け寄った。

 ややこしいのでラヴァイトが喋ったのは無視する。

 レイファは身体を縮めて震えている。

 

「おい、錬! なんでレイファとリノアが?」

「ああ、宗介か。レイファとリノアが兵士に襲われたんで俺が助けて同行させてるんだ」

「? ……あー、細かくきくぞ。レイファとリノアが襲われたタイミングはどのタイミングだ?」

「元康とともに北西の関所で検問をして、尚文を追い詰めたタイミングだ」

「襲われた理由は?」

「許可されたそうだ」

「許可された、ね。誰にかわかるか?」

「いや、言っていなかった」

 

 おそらくヴィッチか? 

 

「近くにマルティ王女はいたか?」

「ああ、メルティ王女を救いたいと言っていた」

 

 なるほど、状況が飲み込めてきたぞ。

 

「どのタイミングで錬のパーティになったんだ?」

「レイファとリノアと俺が兵士達に囲まれたから、逃げるためにパーティ申請をしたんだ」

「理由は?」

「転送スキルを使うためだ」

 

 あー、おおよそわかった。

 つまり、尚文がフィーロに乗って逃げるタイミングに、どさくさに紛れて元康に見えないようにレイファ達を消そうとしたんだろう、ヴィッチが。

 純粋なレイファは奴の好みだし、それがヴィッチには邪魔者に映ったか。

 それを目撃した錬が、レイファ達を助けるために介入して、転送剣で逃げたのだろう。つまり、尚文からは三勇教の調査依頼を受けていないと言うことになる。

 次だ。

 

「お前らはなんで、三勇教の施設にいたんだ?」

「怪しかったからだ」

「怪しいと思ったタイミングは?」

「レイファに三勇教のロザリオを見せてもらった時だな」

「三勇教のロザリオを見てどう思った?」

「盾が無い事を疑問に思ったな。レイファやリノアの話を聞いて、きな臭いと思ったんだ。尚文だけが優遇されない理由も、察した」

 

 なるほどなるほど。それで調査を開始したんだな。

 

「オーケー、事情は大体把握した」

 

 俺がそう言うと、樹が信じられないものを見る目で俺を見ていた。

 

「宗介さん、凄いんですね」

「ん? 何がだ?」

「錬さんからそこまで情報が引き出せる事ですよ!」

 

 そうか? 

 

「……とにかく、樹は錬から誘われて調査に乗り出したんだろ。お前の好きそうなイベントだって言ってさ」

「……当たりです。なんでわかるんですか?」

「お前について行ってアルマランデ小王国で活動してたからな」

「コミュ力の塊ですね、……羨ましいです」

 

 樹が珍しく褒めてくるので気持ちが悪かった。

 

「ソースケ様」

「アーシャ、よくやった」

 

 俺は頭を撫でてやる。ま、絶対にヤらないが、これぐらいならな。

 

「勿体ないお言葉です」

 

 で、レイファの方に戻る。

 

「レイファ、大丈夫か?」

「うぅ……ソースケぇ……怖かったよぉ……」

 

 俺は抱きしめてやる。そして安心させるように頭を撫でてやる。

 

「そ、ソースケ! 私も怖かったわ!」

「ああ、リノアもご苦労様」

 

 俺は空いた手でリノアも撫でてやる。

 うーん、なんだこれ? 両手に華やん? 興奮なんて全くしないが。アーシャが後ろから抱きしめてくるのはぞわぞわする。

 ラヴァイトもフィロリアル・キングのまま俺たちを抱きしめてくるので暑い。

 

「そう言えば、宗介、聞きたいことがあったんだ」

「お、おう。なんだ?」

「さすが錬さん……」

 

 真剣な表情で聞いてくる錬。何が聞きたいんだ? 

 

「お前や尚文が使える、あのチート武器を使えるようになるチートコードを教えてくれ。知っているんだろう?」

「チートコード?」

 

 思わず素で返してしまったので、詳細を聞くことにする。

 もちろん、レイファとリノアを撫でながら。

 

「あのチート技ってのは、具体的には何を指すんだ? 勇者の武器ってのはチートの塊だからどんな形状か言わないとわからないぞ」

「何を言う? あの禍々しい、竜の掘られたデザインのナイフのことだ。尚文は黒い竜の模様の描かれた炎を出す盾だったがな」

「ああ、憤怒の盾ね。あれのシリーズが欲しいと」

「ああ、そうだ。宗介のその言い方ならば、憤怒の剣か? 出すためのチートコードが知りたい」

 

 つまり、あのカースシリーズを錬も使いたいという事か。

 どう説明しよう。

 

「あー……。お前、三勇教に対して怒っているか?」

「もちろんだ」

「どれぐらい?」

「勇者である俺を嵌めようとしたんだ。許されない」

「……お前、この世界はブレイブスターオンラインだと思っているのか?」

「そうだろう。……ん? 待て、何で宗介が知っているんだ?」

「それは置いておいては、殺されかけたことに対してどう考えている?」

「……そりゃイラッとは来るが、倒されても復活するだろう? 現在登録されているメルロマルク城下町の龍刻の砂時計前に復活するはずだ」

「ははは、死んで復活する訳ないだろ。なるほどなるほど、その認識なら『憤怒』は難しいな」

「どう言うことだ?」

 

 錬は眉を潜めている。よくわからないのだろうな。

 

「お前らがゲームだと思っているから、それ以上怒るわけがないだろ。恨むわけがないだろ。だから、錬は手に入れられないさ」

「??? ゲームだろう? 入手方法はあるはずだ。正規入手手段があると宗介は言っているが、不正な入手手段もあるだろう? チートやバグを使った裏技みたいな」

 

 訳のわからないと言った顔をしているな。

 ワザップジョルノするか? 

 

「おいおい……」

 

 リノアを撫でていた手で錬を指差す。

 

「あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが皆をこんなウラ技で騙し、セーブデータを破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! 貴方は犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね!」

「?!?!」

「ワザップジョージですか……。錬さんはわかってないみたいですよ?」

「えぇー。って、錬はVRMMOの世界から来たんだったな」

 

 てか、樹が反応したって言うことは、樹は知っているのかよ……。

 名前が若干違うってことは、似たようなネタがあるという事か。

 

「まあ、そんな感じで訴えられても困るんでね。訴える機関は無いし、仮にあったとしてそのチートコードを入力する方法も無いはずだ。確かに武器はまるでゲームのように育成されるし、ステータスなんて閲覧できるから勘違いするが、現実だぞ」

「……宗介が言いたいことがわからないな。何が言いたい?」

「この世界は現実だ。ライフは1つだけ。まずはそれを認識しろと言う話だ」

「いや、ゲームだろう? 現実ならばステータスなんて存在しないからな」

 

 あー、こっち方面で理解はできないっぽいな。

 認識の壁を破壊するには、もっと強烈なインパクトが必要だ。

 

「お前、他のゲームとかするか?」

「他のゲーム?」

「ブレイブスターオンライン以外のネトゲでもいいしコンシューマゲームでもいい」

「……ああ、それはあるぞ」

「そのゲームで、ヒロインが出てくるよな。好感度って見る方法があるゲームと見ることができないゲームがあると思うんだが、どうだ?」

 

 錬は少し考えて、何か思い当たったのか、顔を赤らめてうなづいた。

 

「……そんなゲームもあるな」

「お前今エロゲの事を考えたな?」

「うっ、くっ……! そりゃ好感度を観れるゲームって普通はエロゲーが殆どだからな! やるだろう?!」

 

 幼馴染がいるのにエロゲもやるのか……。高校生だと買うのはNGだが、実際に購入する際は誰も気にしないからな。

 

「じゃあ、普通の大作RPGは好感度は見れるか?」

「見れるわけがないだろう? 何が言いたい?」

 

 こう言うのって樹の方が察しがいいらしかった。

 

「隠しパラメータ、ですか……」

「正解だ。ステータス魔法で確認できるステータス値以外にも、隠しパラメーターが存在する。憤怒の剣が欲しいなら、隠しパラメータのカルマ値である『憤怒値』を一定以上貯める必要がある」

「……! なるほど。隠しパラメータは盲点だったな」

「ええ、確かに。よくよく考えれば、存在して当然ですね。ゲームならば変数やフラグの管理は当然しますし、RTAをやる場合は隠しパラメータが何をすればどう貯まるのかも気にしますからね。失念していました」

 

 謎の納得が起きる。うーん、さらにゲーム認識が固着化している気がする……。

 なので、これだけは忠告しておいた方がいいだろう。

 

「お前ら、仮にこの世界がゲームだとしても、残機の存在しないデスゲームだから、もっと真剣になった方がいいぞーって聞いてないな……」

 

 さっきまで殺されそうだったにもかかわらず、怒るでもなしにゲームだと認識しているその感覚のズレには驚くしかない。

 こう言う話って、主人公ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろうにな。つまり、自分たちが主人公だと思っている脇役の立ち位置にいる事に気付かないのだろうか? 

 そろそろ、命がけで……ゲームだと認識しててもいいから、真剣に、真摯に取り組んで欲しいものである。

 俺はため息をついて、撫でるのを再開した。

 レイファは死の恐怖でこんなにも震えているんだ。

 レイファの体温、呼吸、命の熱量がゲームだなんて否定はさせない。

 だが、ラヴァイトのせいでクソ暑い! 

 

「ラヴァイト! 馬車もってこい!」

「クエ! ソースケ、わかったよ」

 

 ラヴァイトはそう言って、馬車を取りに行った。

 俺たちは馬車に乗り、南西の砦……関所に向かって進み出したのだった。



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剣の勇者と冒険者ソースケ

アンケートが最新話にあるので、登頂お願いします!


 これはまだ、俺が錬とパーティを組んでいた頃の話だ。

 まだ、人を殺したことのないただの冒険者だった頃、精神が破綻する前の俺の記憶だ。

 

「ん、お前らどこに行くんだ?」

 

 俺がどこかに行こうとするウェルトや燻製達を呼び止めると、微妙な笑みを讃えてこう答えた。

 

「いえ、我々もソースケさんにばかり頼るわけにはいかないので、訓練をして来ようと思っているにですよ」

「そうか。まあ、そうしたいならそれが良いんじゃないか? お前たちが強くなるのは錬サマにとってプラスだしな」

「ええ、ええ、そうですよね。では行ってきますね」

「ああ、頑張ってこいよ」

 

 燻製は一言も喋らなかったのが怪しかったが、気にしてもしょうがないだろう。アイツと話していてもイラつくだけだからな。

 ウェルト達が出て行った後でしばらくして、錬が戻ってきた。狩が終わったのだろうか? 

 

「む、ソースケだけか。他は?」

「俺がいなくても機能するように訓練をするらしい」

「そうか。これから依頼を受けようと思ったんだがな……」

 

 そう言うと、錬は俺に依頼書を見せてきた。

 クレイジートロールの討伐……どうやら、第二の波の時にこの世界に居着いた魔物のようだった。この世界にはゴブリン、オーガと言った人型の魔物は居ない。亜人国ですら存在が確認されていないのだ。

 

「非常に珍しい魔物だ。この時期以降しか出現しないアップデートで追加されたモンスターだな。これを討伐しに行こうと思ったんだが……」

 

 錬はそう言って困った表情をする。

 

「ソースケ、お前と俺二人で行くか?」

「構わない。燻製がいない分楽になるだろうしな」

「ならば早速出発するか。ウォーミングアップも終わったしな」

 

 と言う訳で、訓練に行ったウェルトや燻製を置いて、俺と錬はクレイジートロールの出現する森まで来ていた。

 馬車でしばらく行った先の森なので、日帰りは余裕だろう。

 

「さっそくお出ましか」

 

 錬がそう言うと、ゴブリンっぽい敵が出現した。

 

「クライゴブリン。雑魚だが集団で出てくる厄介な魔物だ」

 

 錬はそう良いながら一刀のもとに斬りふせる。

 こう言う解説の時は、饒舌になるのが癖だな。

 

「そうか、まあ、この程度ならば特に問題はないかな」

 

 俺も錬に負けじと槍で斬りふせる。

 人間無骨はなかなか良い槍だ。直槍モードでも十二分に魔物の討伐が出来る。

 片手で軽々と槍を振り回しながら、剣で飛び道具を弾く。中距離の敵は槍で、近接距離は剣で斬り伏せる。

 俺と錬はそう苦戦することもなく、クライゴブリンの集団を一掃した。

 

「ふむ、経験値がなかなか美味しいな」

「まあ、他の魔物に比べればな」

 

 同程度の強さのデルヤマヌシと言うヤマアラシの化け物に比べれば、経験値が10%程度は高い。

 

「先を急ぐぞ」

「あいよ」

 

 俺と錬は特に苦戦することもなく、敵を排除して先に進む。

 森はダンジョン化しており、至る所から魔物が出現する代わりに、希少な薬草やらが収集できるため、そちらも回収しながら攻略していく。

 人数が少ないので持てる数が少なくなってしまうのは、現実でもゲームでも一緒か。

 それはゲームによりけりだな。

 

「ぜいやああああ!」

 

 ズバッとエルモオーガを錬が切り裂く。

 あんなゴア表現が凄まじいのになんでゲームの世界だと認識できるんだろうな。内臓とかなかなかグロテスクだ。

 

「ふぅ、そっちはどうだ? そろそろ最深部も近いはずだが……」

「そうだな。思っていたよりもさっくり進めちゃったもんな」

 

 しかし、今日本語で話しているが、気づかないもんなんだなぁ。

 まあ、わかっててやっている訳だが。

 

「ん、どうやら発見したようだ。あそこにいるのがクレイジートロールだな」

 

 見た目はウィザードリィに出てくるトロールそのままで、腹の出た大男って感じだ。

 耳は尖っており、亜人……人間でないことがはっきりわかる。その目には理性が宿っておらず、知性のない亜人が魔物視されてしまうのは仕方ないかもしれなかった。

 

「行くぞ!」

「おうよ」

「GAAAAAAAAAAAA!!」

 

 剣を腰に収め、槍のみを構える。

 錬が切り捨てるが、HPに余裕があるのか平気そうである。

 槍で切っても皮膚が硬いので刃が通りにくい。

 

 ゴウンっと音を立てて棍棒が俺に迫るので、槍で受け流す。

 インパクトの瞬間に力の方向を変化させると、思いっきり空ぶったようにずっこける。

 

「はああああ!」

 

 すかさず錬が追撃する。

 しかし、この異様にHPと防御力の高いトロールはなかなか倒せない。

 こりゃウェルト達がいたら足手まといだったなと思いつつ、俺は槍で攻撃を受け流し受け流し、隙をついて切る。

 

「GUOOOOOOOO!」

 

 しぶとい奴だな。

 

「魔力解放、第2段階」

 

 俺は槍に魔力を流し込んで、十卦モードに変形させる。

 人間無骨は十文字槍になると、防御無視の効果が付与される。

 

「ツヴァイト・サンダーブリッツ」

 

 俺は魔法を詠唱し、手に雷を纏う。

 接近戦用の雷の魔法で、殴って発動する系統の魔法だ。

 雷を付与して殴るので、威力が見込める魔法で、ショットに比べれば自分の武器に魔法を付与しやすい。

 俺がその手で槍を掴むと、槍が青白い雷を纏う。

 すると、ステータス魔法で確認できる俺の必殺技の名称の頭に雷系統の名称が付与される。

 

「必殺! 雷鳴乱れ突き!」

 

 バチバチと青白い雷を纏った槍を高速でランダムに敵に突き刺す。

 手数を稼ぐ時に使うが、十卦モードだと全て防御無視のためクリティカルヒットする。

 ドシュドシュっと音を立てて槍が硬い皮膚を突き破り、肉に雷を流し込む。

 

「GAAAAAAAAA!!」

 

 トロールは叫び声をあげる。

 

「雷鳴剣!」

 

 錬が雷を纏った剣で切るつける。

 雷系統は結界破壊の効果がある。最近鍛えているらしい。

 よろめくトロールにチャンスだと感じた俺は、槍から剣に装備をスイッチさせる。

 

「シュッ!」

 

 槍で破壊した皮膚の部分を狙って皮膚を削ぐように剣を振るう。

 メリメリと音を立てて皮膚が剥がれ落ち、肉が露わになる。

 

「ソースケ!」

「行くぜ!」

 

 錬とは呼吸が合っている気がした。

 その剣でのコンビネーションは極めて自然に出来たと言っても過言ではなかった。

 それは、錬が集中している事と、俺が全体に意識を向けて錬の集中を削がないように動いていることも関係しているかもしれない。

 俺と錬の攻撃によってあっという間に鎧の皮膚を全身剥がされて、肉が露わになるトロール。

 

「トドメだ! エアストバッシュ、セカンドソード! はああああ! 紅蓮剣!」

「必殺! 抜剣・獅子孫々!」

 

 錬がスキルで、俺が抜刀術で切り裂くと、全身なます切りにされたトロールは声すらあげずに絶命した。

 

「ふん、楽勝だったな」

「皮膚が硬かったけどな」

 

 錬は俺に拳を向けてきたので、俺はそれに答える。

 トンっと拳を合わせて錬と喜びを分かち合った。

 

 宿に戻ると、すでに空は日が落ちかけていた。

 ウェルト達も訓練が終わったのか戻ってきていた。

 

「ああ、レン様、どちらに行っていたのですか?」

「お前達がソースケ抜きで立ち回れる訓練をしていると聞いてな。手が空いたソースケとともにクレイジートロールを討伐してきたところだ」

「は、はぁ……」

「ギルドに報告はしてある。俺は飯を食べたら経験値を稼いでくるから、お前らも飯を食べたら自由にしていいぞ。すでにこの村の近辺のスポットは教えてあるからな」

「わ、わかりました」

 

 錬はそう言うと、さっさと食堂に行ってしまう。

 

「ふん、いい気にしていられるのも今のうちだぞ、冒険者!」

 

 燻製がそう言って、錬の後に続く。

 

「では、我々も勇者様と共にしましょうか」

 

 ウェルトの声とともに、俺たちは夕食にすることにしたのだった。

 

 これは、ウェソン村に到着するかなり前の話だ。

 既に連中はこの時から動いていたのだが、俺は気にも留めなかった。

 いずれ、俺は離脱する運命だと理解していたからだ。

 だが、命まで狙われることになるなんて、思っても見なかったわけで……。



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どうでもいいから放っておいてください!
プロローグ


 メルロマルク城。

 何気に訪れるのも久しぶりである。

 前回はいつだったか……? 

 今までの数ヶ月間が濃密すぎてまるで大昔のように感じる。

 

「投擲具の勇者様一行、入場!」

 

 途中で回収したレイファとリノアと俺で謁見の間に入る。

 久しぶりに見る光景だな。

 玉座には女王陛下が座っている。メルティ王女はこの場にいないようだった。

 クズが座っている位置とは逆の椅子に座っている。

 

「ようこそおいでくださいました。投擲具の勇者様。私はメルロマルク女王、ミレニア=Q=メルロマルクです」

 

 鋭い眼光だ。萎縮しちゃうよね。

 俺とリノア、レイファは首を垂れる。

 

「お恥ずかしながら具申いたしますが、私は単に投擲具の精霊様よりこの武器を預かっている身。真の投擲具の勇者ではありませんので、どうか《首刈り》とお呼びください」

 

 俺がそう言うと、謁見の間がざわつく。まあ、ありえない事なんだから仕方ない。

 コイツは俺を正当な所持者とは認めていないが、俺から出ていかない以上は預かっていると言った方が正しいだろうからな。

 

「……面をあげなさい。わかりました、ソースケ=キクチ殿。では、単にソースケ殿と呼びましょう」

「はっ!」

 

 俺たちは顔を上げる。

 

「では、ソースケ殿、此度は四聖勇者様方と協力しての逆賊ビスカ=T=バルマスの討伐、誠にご苦労様でした。女王である私からも直接感謝を述べたいと思います」

「いえ、当然のことをしたまででございます」

「また、調査の結果我が国の国教である三勇教の企みで、強制的に剣の勇者様のパーティを離脱させられ、暗殺されそうになったことをお詫び申し上げます」

「こちらこそ、貴国の国民を、襲われたとはいえ殺害したこと、深く謝罪致したいと申し上げます」

 

 女王陛下からお詫び? 恐れ多すぎるわ!! 

 

「ふむ、報告に上がってきていた人物像とは若干乖離があるようですね。もっとこう、狂気に彩られた殺人鬼を想定していました」

 

 だから、護衛の兵士が多いのだとわかった。

 

「否定は致しかねます」

 

 間違いではない。その自覚はある。

 そもそも、容易く首を刎ねるなんて、常人の感覚から逸脱しているしな。

 悪人にお前のやって来たことは悪だと教え、蹂躙をする事は好きだし、それこそ、その時は間違いなく俺は狂気に彩られた殺人鬼に違いない。

 

「ふむ、そうですか。現状は理性的で冷静な人だとお見受けします。ソースケ殿、我が国メルロマルクは七星武器の権利を全て放棄しています。ですので、これ以降はメルロマルク国外に出る自由を保障いたします」

 

 女王陛下がそう言うと、兵士が人数分の書状を渡してくれた。

 

「こちらは、メルロマルクの渡航許可証となっております。関所に見せれば、自由に国を行き来できます」

「ありがたき幸せ。頂戴させていただきます」

「それと、盾の勇者様が起きた後、祝賀会を開くことになっております。よろしければ、しばらく滞在して構いませんので、ご参加いただけないでしょうか? 勇者様方もソースケ殿と積もる話もあるようですし、有意義な時間になるかと思います」

「はい、参加させていただきます」

「よかった。では、此度の報奨金の授与を」

 

 女王陛下がそう指示を出すと、例の高級プレートにお金の詰まった袋が乗せられたものを、兵士が目の前で捧げる。

 

「あの……、申し上げにくいのですが、刑を免除するのが報酬では?」

「いえ、調査の結果、ソースケ殿がその行為を行う原因となったのはこちらに非があります。ですので、お気持ちですがこれからのご活躍に期待して、報奨金の銀貨1000枚を追加報酬としてお支払いいたしましょう」

 

 チラッとリノアを見ると、受け取りなさいよって顔をしている。レイファはまあ、怯えている。

 

「それに、お仲間の二人にも迷惑料として銀貨300枚をそれぞれ用意してあります」

「はっ、ありがたく頂戴いたします」

 

 受け取ると、安堵したような表情をする女王陛下。

 これは受け取った方が罪悪感がないな。

 

「では、ソースケ殿、レイファさん、リノアさん、祝賀会までごゆるりとお過ごしください」

「投擲具の勇者様一行には、メルロマルク城に滞在許可が降りている! 詳細は左官により指示があるので、謁見の間の外で詳細を伺うように! 以上!」

 

 そんな感じで、色々とあっけにとられた女王陛下との謁見は終了した。

 うーん、なんだかなぁ。先立つものが色々と急に手に入って、驚くほか無かった。

 だが、改めてこの国は救われたんだなと実感することになった。

 

「はうぅぅ……。緊張したあぁぁ……」

「私なんてそもそも他国民よ! 色々と驚きね……」

 

 俺たちは案内された部屋に到着した。

 宿を取っていたんだけどなー。

 まあ、それはいい。

 なんでダブルベッドの部屋なんですかねぇ……? 

 いや、めっちゃ豪華だけどさ! 

 

「まあ、それだけソースケが活躍したんですよ!」

「そうね。ソースケは自分は不要だったって言うけれど、他の勇者にも負けないくらい活躍していたわ」

 

 いやー、俺がやったのって、兵士を一個師団虐殺しただけなんですがねぇ……。教皇戦では遠慮してたしなぁ……。ボコボコにできて気分は良かったが。

 今でもあの肉が潰れる感触は思い出しただけでもなかなか……おっと、やめておこう。

 とにかく、俺は無罪放免! やったぜ。それで十分だろう。

 死んだ彼らも地獄で反省していることだろう。

 いずれ俺もそっちに向かうから、恨み言は後で聞くぜ! 

 

「それにしても、ふかふかのベッドなんて久しぶりー! 実家を思い出すわ」

 

 リノアはゴロンとベッドに横になる。

 パンツはピンクだった。

 

「リノア、パンツ見えてるぞ。デリカシー無いな」

「見せてんのよ。欲情しないの? 魅力的な女の子二人と相部屋なのよ?」

「妹相手に欲情するか!」

「……はぁ」

 

 リノアはため息をついた。そして、俺に近づくと頬をつねる。

 

「アンタの妹フィルターはどうやったら外せるのかしらー??」

 

 さあな。今はそう言うことに興味がとんと湧かない。精神的に追い詰められたままなんだろうな、俺は。心に余裕がない。

 だからこそ、殺人狂になってしまったとも言えるが。

 

「さあな。アーシャには黙っておけよ。あいつ絶対夜這いしてくるからな」

 

 俺はソファーに横になる。

 考えなくてもレイファもリノアも魅力的なのは理解できる。だが、欲情はしなかった。

 あの時以来、心が休まることは無かった。

 今、休めと言われても心の休め方なんてもう、忘れてしまった。

 

 その日は、そんな感じで1日を過ごしたのだった。



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呪具

 ふと、目がさめると俺はソファーの上ではなく、城の宝物庫の前に立っていた。

 何故俺がメルロマルク城の宝物庫の前に突っ立っていたのがわかったのかと言うと、

 

「投擲具の勇者様! どうされたんですか? 宝物庫の前に立って」

 

 見張り番をしていた兵士にそう声をかけられて、気づいたからだ。

 

「……う? 俺は……」

「なんだか虚ろな目でフラーっとここへきたのでびっくりしましたよ。一体何のようです?」

 

 用ねぇ……。何故宝物庫の前に立っているのかを考える必要があるだろう。

 まるで夢遊病のようにここへ来たと言うことは、竜帝のカケラの仕業か、カースシリーズラースダガーのどちらかの仕業だろう。

 いや、待てよ。

 俺の装備は没収された挙句に呪いの装備として封印されてしまったはずだった。

 

「……なあ、中に入っていいか?」

「いえ、流石にそれはご遠慮いただきたいです」

「たぶん、俺はこの先に用があるんだ。それが解決しない限り、俺はきっとまたふらっとここにやってくることになると思う」

「は、はぁ……。ですが」

「ここに俺の装備が封印されてるはずだ。それが呼んでいるんだ」

「……少々お待ちください」

 

 俺の懇願に、見張りの兵士はそう言うと、誰かを呼びに行った。

 戻ってきた兵士は、錬金術師を連れてきたのだった。

 

「こんな夜中に何の用でしょうか、投擲具の勇者様」

「すまないが、俺の装備にどうやら呼ばれててな」

「投擲具の勇者様の……?」

「ああ、捕まった時に没収されたやつだ」

「! なるほど。あの呪いの魔槍の持ち主は投擲具の勇者様でしたか! あれは大変危険なものなので、封印処理を施して奥深くに厳重に保管してあります。後日でも構いませんか?」

「いや、悪いが今すぐがいい。どうもあの槍に呼ばれている気がするからな」

 

 じゃないと無意識に来たこともないはずの宝物庫に無意識で来るわけがなかった。

 しかし、封印処理を施して厳重に保管ってどうなっているんだ? 

 俺が最後に見たときは、そんな呪いの槍みたいな状態じゃなかったんだがなぁ。

 しばらく待っていると、鍵を持った兵士がやってきた。

 

「では、行きますよ」

 

 俺を連れ立って、兵士と錬金術師で宝物庫の奥に進んでいく。

 宝物庫の一角に到着すると、厳重に封印されたそれが見つかる。

 槍サイズの箱に札が張られ、鎖でしっかりとロックされている。

 

「ええ、なんで人の武器をここまでする?」

 

 驚いて俺はそう言葉を漏らす。

 

「それでは、ロックを解除します。気をつけてくださいね、その槍は触れるだけで人間の血を吸いますよ」

 

 ガチャリと音を立ててロックが解除された。

 蓋を開けると瘴気がむわっと溢れてくる。

 見ると、見たこと無いような不定形の槍が一本収められていた。

 人間無骨+の面影はあるが、装飾や機能自体が不定形な感じだ。

 

「……?」

 

 だが、その槍は間違いなく俺のものであるのは直感でわかる。

 

「ああ! ちょっと!」

 

 怪訝な顔をしながら、柄を掴むと、その不定形の槍は収縮し、一つのキューブへと形を変えた。

 え、なにこれ。

 鑑定すると、次のように表記される。

 

無骨 菊池宗介専用武器

持ち主の想像した武器に変化する呪いの武器。菊池宗介以外のものが持つと、呪いにより様々な状態異常になる。

 

 無骨……。

 俺が槍を想うと、そのハコを中心にズルリと槍が生えた。それは本来の人間無骨の形をしている。

 短刀を思うと、ドスみたいな形状に変化する。

 弓を思えば弓に、拳銃を思えば拳銃に変化する。

 面白い武器だなとは思うが、なんだこれは。

 

「おい、他にも俺から没収した武器があっただろう? それはどこに行った?」

「同じ箱に封印していたはずです!」

 

 封印されていた箱は空だ。

 どうやら、この謎の箱『無骨』に統合されてしまったらしい。

 ちなみに、箱じゃ持ちにくいなと思った瞬間にカードケースサイズになったので、形はなんだっていいのだろう。

 

「い、一体なにが……?」

「さあ……?」

 

 俺としてもよくわからない。

 溶けて再構成されたのか? 

 

「その箱はまるでこの世の呪いが全て、濃縮されたような箱ですな」

 

 それは、持っているだけでわかる。

 おそらく俺が、『憤怒』のカースを使えるのもこいつのせいだろう。いや、下手すれば全てのカースを使えるようになるかもしれない、それほどの呪いの武器だった。

 そして、持っているだけでわかるほど血を欲している。

 

 俺が投擲具を取り出すと、メッセージウィンドウに【危険】と言う文字が浮かぶ。

 おい、竜帝、こいつの呪いはどうにかできないのか? 

 ふむ、血塗れの勇者と接続された呪具か。お前の七つの罪を濃縮した、特大の呪いを持つ呪具。怒りだけなら我も制御できるが、他の呪いはそれぞれ担当の魔物でなければ制御できぬな。

 うへぇ……。

 ただ、お主が望めばその【危険】のメッセージを抑えることは出来よう。お主から生まれた呪いだからな。

 ふーん。

 それに、その呪具には女神の呪いも移してある。真実を告げようとすると魂を破壊する呪いもそこに封じ込めてある。故に、お主以外が触れると死ぬのだ。これは我の仕業なのだがな。

 なんてことを……。

 その武器で敵を殺害すれば、別の世界線であっても同じタイミングで死ぬだろう、それほどの呪いだ。

 

「……これ、再封印したほうが良く無いか?」

 

 もはや人間無骨とは別物である。

 俺を使って世界に呪いを振りまきたい災害じゃ無いか。

 

「そうですよね……。我々もそう思います」

「勇者様は平気なのですか?」

「ああ、人間無骨は元々俺のだしな。あー、親父さんにもう一回作ってもらうしか無いか。こんな呪具、流石に手に余るぞ……」

 

 だが、手から離そうとすると、その意識がぶれて行動できなくなる。

 箱に戻そうとしても戻せないのだ。

 くっ……! 意識が逸れる……?! 

 

「勇者様……?」

「どうやら、破棄・封印はできないようだな。仕方ない。持っているしか無いか……」

 

 俺はポケットに入れる。

 こんなもの、武器としても使えないし、どうしろと。

 親父さんにでも見せてみるかな……? 

 こうして、人間無骨+は何かよくわからない呪具に変貌してしまっていたのだった。




色々言いたいことがある人がいるだろうけれども、これ以外の結論はなかったんや!
そもそも、宗介は武器は殺すための道具であって執着があるわけでも無いので…。


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『三千大千天魔王』

武器の強化??????


 翌日、俺は武器屋の親父さんの店に来ていた。

 新しい武器を作ってもらう目的もあるし、この呪具を鑑定してもらうためでもある。

 

「お、あんちゃん、いらっしゃい。色々大変だったな」

 

 どうやら俺の噂は耳にしている様子だった。

 

「ああ、盾の勇者様が目覚めるまでは自由時間だ」

「盾のアンちゃんも大変だな。で、何の用だ? 防具でも新調するか? 勇者様ってのはその武器以外を装備できないんだろ?」

 

 よく知っているなぁ。

 まあ、まだ波の尖兵としての能力は残っているんで、出したり引っ込めたりはできるから俺は装備できるんだがな。

 

「ああ、新しい槍と、この呪具の鑑定をして欲しいんだよね」

 

 俺はそう言って、無骨を机の上に置いた。

 どうやら俺が所持したことによりある程度制御はできるようで、今はその呪いが発動していないらしい。便利なことで。

 

「なんだそりゃ? どれどれ、見てやろうじゃ無いか」

 

 親父さんはそう言うと、鑑定を行う。

 

「ふむふむ、なるほどね。盾のアンちゃんの宝石ほどでは無いが、よくわからない代物だな。オーパーツの塊のように感じる。特定の人物以外が持つと呪われる代物……? っておい、なんでそんな危険なものを持ってるんだよ!」

 

 どんっと呪具を机に置く。

 

「俺が呪う相手自体は制御できるっぽいからな。大丈夫だぞ」

「……まったく、盾のアンちゃんと言いあんちゃんと言い、難題を持ってくる天才だな」

「親父さんの腕を信頼しているからな」

「……そう言われたら、ま、何も言えないんだがよ」

 

 親父さんが鑑定を続行する。

 

「見たこともない材質だが、かすかにうちで扱っている比率の魔法鉄が使われているな。それに、隕鉄も混じっている。あんちゃん、もしかしてこれって……」

「ああ、どうやら俺の人間無骨が元になって出来たものらしい」

 

 それを聞いて驚きの表情をする親父さん。

 

「……どうやったらこんなになるんだよ」

「うーん、それで人間を何百人も斬り殺したからか?」

「……あんちゃん、戦争でもやっているのか? 俺の武器で何百人も斬り殺しただなんて聞きたくなかったよ」

「すまない。一応、止むに止まれぬ事情があるにはある」

 

 主に襲ってくるやつを後腐れなく切り飛ばしていたり、魂の腐った奴の首を刎ねていただけだが。

 

「《首刈り》は嬉々として人の首を刎ねる怪物だと噂されているんだがな。あんちゃんみたいなのがねぇ……」

「今後はもう、そこまで殺すことはないと思うから安心してくれよ」

 

 親父さんはため息をつく。

 

「ま、あんちゃんとは長い付き合いだし、悪い奴じゃない事は分かっている。武器は所詮武器だ。今は平時だから波の魔物に対して使われるが、戦争の時は人を殺すのに使われるからな」

 

 親父さんはそう言って、目の前で工具を出していじり始めた。

 

「あー、こいつは少し改造できそうだな。少し弄らせてもらうから、少し待ってろ」

「お任せするよ」

 

 と、そんな感じで改造された結果、黒い箱に宝石をはめる穴が7個空いたものが完成された。

 

「よしよし。だいたいこんな感じだな。これで呪いとかの制御がしやすくなったはずだぜ。まあ、あまり使わない方がいいのは確かだがな」

 

 渡された呪具は、さっきよりもすっきりとまとまった感じがする。

 鑑定を行うと、見えなかったスキルが見える。

 

特殊技能……防御無視、無敵貫通、一撃必殺、高次予測、因果律攻撃、概念攻撃、並行世界攻撃

専用効果……ブラッドチャージ(0/100)

必殺技能……「傲慢」、「嫉妬」、「憤怒」ラースオブハーム、「怠惰」、「強欲」、「暴食」、「色欲」

この装備は菊池宗介専用です。他の人物が武器として使用した際、複数の呪いが発動します。必殺技能はブラッドチャージが全て溜まっている時に発動するスキルです。

発動呪詛……最大HP1、最大MP1、呪いダメージ、回復効果1%、視界制御、暴走、認識障害、沈黙

 

 魔神パワーかな? 

 グレーアウトしているのは今は使えないという事だろうか? 

 確実に対女神用の殺戮兵器ではないだろうか? 

 てか、なにこれ。

 俺以外が使うと発動する呪いも凶悪なものばかりを併発するようだ。

 なにこれ??? 

 

「……これ、対人用?」

「いや、人間に使っちゃダメだろこれ」

 

 まったくだ。どう考えても、対女神、対波の尖兵用やん。

 金剛寺とかにも使えるかもな。

 

「名前は、三千大千天魔王とかどうかな? 森くんって信長の家臣だし、神を殺しそうだし」

「いいんじゃ無いか? どっちみちお前さん専用だ。好きにするといいさ」

 

 俺が握ると、赤い宝石が穴に出現した。

 憤怒を解放した証だろうか? 

 

「うぅ……こんな禍々しい呪具なんて封印した方がいいだろ……」

 

 俺はそう呟いて、ガックリする。

 いや、なんであれはどうしてこうなったし。

 

「ま、あんちゃんが死ぬ前になんとかすればいいんじゃ無いか? 幸い、それはどう見ても武器には見えないしな」

 

 と言うわけで、俺は新しい槍の発注と、女神を倒すための呪具を手に入れたのだった。




名前の元ネタは魔王信長の宝具です。
能力の元ネタはマジンガーZEROの魔神パワーです。

最凶最悪の呪殺兵器が出現しました。
ちなみに、親父さんの改造のお陰で見やすくなっただけで、改造する前と能力もスキルも変化していないです。
HP1、MP1の効果で血を吸っているように見え、呪詛のスリップダメージで殺す感じです。


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弾劾裁判

 俺は現在城の中央広場にいた。

 先日、尚文が目を覚ましたわけで、全治1ヶ月だそうだ。一応知り合いだし、治療院にお見舞いには行っている。

 その日のうちに、城下町には重大な発表があるため城下に集まるようにと御触れが出る。

 俺は投擲具の勇者として謁見の間に来るように言われたが、流石に弾劾裁判まで参加はしたくなかったからな。ヴィッチはまあ色々思うところはあるが、クズは俺にとって不利益になることはしてこなかったので、特に感慨もない。

 と言うわけで、俺は城下に行き、映像を見ていた。

 

「何故我々は城内へ入れないのだ! 盾の勇者の従者だけとはどう言うことだ!」

「マ、マルドさん落ち着いて!」

「ええい! うるさい!」

「ふぇぇぇぇ!」

 

 と言う燻製とリーシアのやりとりが聞こえる。

 俺を毛嫌いしているアイツのことだ、見つかったら面倒臭いのでそっと離れておく。

 映像水晶が映し出す光景には、アニメとまったく同じ展開が繰り広げられていた。

 

『それでは始めましょうか、愚かな王配と第一王女の弾劾裁判を!』

 

 女王陛下がそう宣言すると、広場はざわめく。

 

「裁判だって?!」

「王様とお姫様のか?」

 

 俺はアニメもちゃんとチェックしていたため展開を知っている。

 まあ、茶番だし別に重要なことを考えている方がいいだろう。

 そう思いながら、俺は呪具ポケットから取り出した。

 

『マルティには酷い虚言癖がありますので』

『そんなぁ、私、素直で誠実な良い子でしょう?』

 

 ヴィッチの懇願にリノアが

 

「どこがよ」

 

 と呟いた。さすがはヴィッチ。喋るだけで他人を不快にするのか。

 

『や、やめてぇ……ママァ! う、ぐ、うわああああああああ!』

 

 奴隷紋……多分王族であるから高位奴隷紋だと思うが、それが刻まれたらしい。

 ざまぁないな。流石に胸がスッとするね。

 ヴィッチはまあ、俺の因縁の相手ではないし、これから先も出番があるので俺は殺すことはないがな。

 本気で消すなら呪具の機能を全開放した上で消すのが一番だろう。

 並行世界攻撃まで開放したら、魔神化的な意味でとんでもないことになりそうな気はしないでもないが、目標としては悪くないだろう。

 愛の狩人に殲滅される前にグリフィンにでもあった方が良いかもしれないな。

 

 七つの大罪には司る魔物というのが存在する。

 これは普通にWikiに載っているんだがね。

 興味で調べてことがある。

 俺の記憶が正しければ、こうだったはずだ。

 

 傲慢……グリフォン、ライオン、孔雀、フクロウ、コウモリ

 憤怒……ユニコーン、オーガ、ドラゴン、狼、猿

 嫉妬……マーメード、蛇、犬、猫、土竜

 怠惰……フェニックス、熊、牛、ロバ、ナマケモノ

 強欲……ゴブリン、狐、ハリネズミ、カラス、クモ

 暴食……ケルベロス、豚、トラ、リス、蝿

 色欲……インキュバス、サキュバス、山羊、サソリ、ウサギ、鶏

 

 竜帝の予測では、俺はこれらの種族のうち7種を取り込む必要があるらしい。もちろん、知的生命体になるわけだが。

 しかも、性質上は亜人はNGらしく、魔物でなくてはならないそうな。マーメードはどうするんだよ。

 と言うわけで、ドラゴンと同様の感じである知的生命体な魔物を探して取り込むと言うタスクが俺に加わったのだ。

 

 我の知識では、グリフィンの王なら傲慢に該当するのは間違いないな。だが、我はあいつらが嫌いだ。我の縄張りをしょっちゅう荒らしてきた故にな。

 

 はいはいそーですか。

 

 フェニックス、ゴブリン、ケルベロス、サキュバスと言う種族の魔物はこの世界には存在せぬ。代替となる知性を持つ魔物もおらぬ。

 もしかしたら別の世界に渡る必要があるかもしれぬな。大罪を司る魔物はドラゴンを除き各世界に2体存在すると記憶にある故にな。

 

 竜帝が持っている記憶がそれなのか……。

 

 ほぼほぼお主の記憶している書物と被るのだ! 仕方なかろう。

 妲己……狐の魔物種は、この世界の何処かに生息するのは確かだな。我の記憶には、存在することまでしか記憶にないがな。司る魔物故に非常に強欲な種族だったはずだ。

 

 という事らしかった。

 しかし、ヴィッチの叫び声は汚いな。女が発して良い声じゃないよ。

 メルティ王女を殺そうとしてた事を知られて、クズはかなり驚愕の表情を浮かべた。クズが狂ったのはマルティおよびシルトヴェルトのヴィッチが第一皇子をウロボロス劇毒を使用して殺害したからだったな。

 

『マイン、君はあの夜尚文に犯されそうになった、そうだよな?』

『そうよ元康様! 私は……ぎゃあああああああああああああああああああ!!』

『マイン!』

 

 元康の純粋な確認行為にすら奴隷紋発動でダメージを受けるってなぁ……。

 

「……あの王女様、嘘しかつかないんだ……」

 

 レイファが唖然としていた。

 

「そりゃ、マリティナにそっくりの性格じゃない。世界のゴミであるマリティナと同じ性格って、マルティ王女は傾国の悪女よね。今後のためにきちんと処刑したほうがいいわ」

「リノアさんに同意です。ソースケ様、サクッと首を刈っちゃいましょう!」

 

 あー、うるさいうるさい。ヴィッチを処刑しない合理的な理由が見つからないので、俺はスルーすることにした。

 物語を改変しないのは、こちらの都合なのだ。

 すでに俺が投擲具を持っている時点でやばいぐらいにズレが発生している気がするが、気にしてはいけない、気にしたら心が折れる。

 

 まあ、結果としては、尚文にかけられた容疑は全て冤罪、強姦の罪はマルティ王女が盾の勇者をおとしいれるための自作自演、便乗したオルトクレイも同罪。三勇教は国家反逆罪および国家転覆準備罪、マルティ王女およびオルトクレイはその邪教三勇教に加担した罪で大逆罪、国家反逆罪で廃嫡および王権の停止となる。

 女王に追求されて、クズはその内心を吐露した。

 

『確かにワシは王族としてあるまじき事をしたのかもしれん。だが、それも皆、我が愛する国のため家族のために! そのためにワシは盾を排除しようとしたのだ! 盾は悪魔だ。かつて我が家族が受けた災いを此度も必ずもたらす! そんな事は断じて許さん! 断じてな!』

 

 迫真と言うか、本気でなのだろう。それで目が曇ってしまい、三勇教の暴挙を悉く見逃してしまったのはどうかと思うがな。

 

『判決を言い渡します。オルトクレイ=メルロマルク32世およびマルティ=メルロマルクは、大逆罪および国家反逆共謀罪によりその王位を剥奪しかる後に死刑に処す!』

 

 女王陛下の処断に、広場がざわめいた。

 

「死刑だって」

「本当かよ!」

『陛下、それはあまりにも!』

「そうだ! 死刑はあんまりだ!」

「姫さま可哀想」

 

 王様は、確かに可哀想だけれど、ヴィッチは死んで良いよ。

 俺が関わらずに死ぬなら、助ける義理もないし、レイファを殺そうとしたのだ。むしろ死んでしまえと思う。

 ちなみに、レイファを襲った兵士の顔は教えてもらえなかったため殺していない筈だ。いや、もしかしたらあの一個師団の中にいたかもしれないが、あの集団の輪から出た数人以外皆殺しにしたしなぁ……。

 しかし、兵士200人近く殺害はやりすぎかな? 

 どうでも良いな。

 

『刑の執行は即日、今この時! 大罪人たちの最期を我が国民に見せしめるのです!』

 

 刑の執行が決まった。




狐に変更でオッス、おねがいしまーす。


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尚文の凱旋

タイトルだけね。


 場所を移して、決闘場に使った広間に移動した。

 中央にはギロチンが設置されている。

 

「ギロチン……ねぇ。アントワーヌ・ルイが考案した、受刑者が痛みすら感じずに処刑するための、人道的な処刑器具だったか」

 

 こちらでの発生はおそらく、勇者のカーススキルの模倣だろう。

 中世と言えばギロチンだが、他の異世界ではどうしてギロチンが発明されたんだろうな? 

 機能として言えば、木の拘束具で頭を垂らして、兵士が叩き斬る手法の方が現実的だと言うのにな。ギロチンを作成するコストやらを考えれば、斬首刑の方が普及しそうではある。

 別に受刑者が苦しむから、それを回避するためという意味で導入されたわけでもなさそうである。数ある処刑手段の一つ、みたいな。

 まあ、直接肉を断つ感覚は、常人であれば罪の十字架を抱えるほど重たいものだろうが。

 

「誰よそれ」

「俺の世界でギロチンを最初に考案した人だ」

「そうなんだ。処刑器具を開発するって引くわね……」

 

 引かれても困る。まあ、アントワーヌ・ルイはアイアンメイデンやギロチンの前身のハリファックス断頭台なんかを考案している処刑具マニアの外科医なので、俺と同じような狂人であるのは違いないだろうが。

 

「いずれ、ギロチンを巡る悲しい物語を教えてやろう」

「……アンタの世界の話なら、聞いてあげなくもないけれど、処刑道具の逸話は別に良いわよ」

 

 えー、聞いてくれても良いじゃん、面白いし! 

 まあ、置いておいて、目の前では喜劇が進行していた。

 流石に、王族が処刑されるだけあり大々的に取り仕切られている。

 レイファはもちろん、女王陛下、メルティ王女も顔が青い。処刑場は活気にあふれている。

 処刑台の上では、ヴィッチがぎゃーすか喚いているが、どうでも良いだろう。

 ちらりと見ると、尚文も顔が青い。

 まあ、俺はもう感性が壊れているので、清々しい気分しかしないのだが、一般的な感覚で考えれば、誰かの処刑を見るのは嫌だろう。例えそいつの自業自得であったとしてもだ。

 

「……ねぇ、ソースケ」

「どうした、レイファ」

「どうして、公開処刑なんてあるのかしら?」

 

 優しいレイファは、そう俺に問いかけてきた。

 レイファにとっては辛い光景だろう。だからこそ、意味や意義を解説するのは必要だろう。

 

「そうだな……。じゃあ、なんで俺が殺すと思う?」

「……身を守るため?」

「そうだ。公開処刑って言うのは国が自分が崩壊しないように身を守るためにある制度だ。こう言うことをするとこうなりますよって言う宣伝効果もある」

「そうなんだ」

「だけど、俺は女王陛下は執行しないと思うぞ?」

 

 俺がそう断言すると、レイファやリノア、アーシャがキョトンとした表情をする。

 

「は?」

「……ソースケ様?」

 

 何で俺が睨まれるんですかねぇ? 

 

「クズ……オルトクレイ王は杖の勇者だし、ヴィッチは死ぬと困るんだよ。フォーブレイ王に気に入られているらしいからな」

 

 俺がそう言うと、リノアとアーシャはすごく納得した表情をした。

 そう、杖の勇者を処分するわけにはいかないし、ヴィッチはフォーブレイがメルロマルクを許すための交換条件だ。だから、この公開処刑はただの茶番である。

 

「……なるほどね。盾の勇者様に伝えなくて良いのかしら?」

「必要はないさ。あのお人好しが、こんな残酷な事を看過できるはずがない。俺じゃないしな」

 

 俺が断言するのと、ヴィッチの懇願はほぼ同時だった。

 

「な、ナオフミさまぁ……! お願い助けて! ナオフミさまぁあぁぁ……! ナ゛オ゛ブミ゛ざま゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 ヴィッチの顔面は涙や鼻水でぐしゃぐしゃで、メイクも溶けて凄まじい形相だった。

 俺ならば、クズは情状酌量の余地があるから別の刑を与え、ヴィッチはそのまま斬首をするがな。お優しいことに、尚文は処刑場にまで降りてきた。

 

「待て!」

 

 まるで演劇でもするかのように、声を響かせる。

 

「そんなやつらには死刑なんて生ぬるい! 死ねばそこで終わりだ。こんな奴らがそれで済んでいいのか?」

 

 尚文の問いかけに、会場がざわつく。

 尚文の登場に、女王陛下が安堵したような表情を一瞬浮かべたのが目に入った。うーん、なかなか目敏くなってしまったな。

 

「奴隷紋も反応しなかった。さんざん貶めてきた相手に本気で命乞いをするような面の皮の厚い奴らだ! それだけ厚いとギロチンの刃も通らないかもな!」

 

 尚文は二人を嘲るように言う。アニメ版そのまんまの展開だなと改めて思った。

 

「だから俺から提案だ! 王はこれから『クズ』、第一王女は『ビッチ』と名前を改めろ!」

「く、クズ……!」

「び、ビッチですってぇ?!」

 

 クズは悔しそうに、ヴィッチは顔を赤らめて恥ずかしさと驚きでそう言った。

 

「これから一生その名で生きていくんだ! それがいやなら死刑にでもなんでもなればいい!」

 

 書籍版でも最終的な着地点はそこだったな。

 すでに俺は呼んでいたがな。

 

「ちなみに、マルティには冒険者名として『マイン=スフィア』と言う名もあるようです。そちらは?」

「じゃあ、ビッチの冒険者名は……『アバズレ』だ♪」

 

 アニメそのままに、楽しげに指を鳴らしてそう命名する。クズもヴィッチも文句は言えないだろう。会場は笑いが起こる。

 

「今回の事件において一番の功労者である盾の勇者様から、最大級の温情がかけられました。よって、以降はオルトクレイ王を『クズ』、マルティ王女を『ビッチ』冒険者名を『アバズレ』と改名させます」

 

 クズは唖然と、ビッチは羞恥で顔を歪めている。ま、落とし所としてはこんなものだろう。ここでヴィッチを処刑しても、悪霊として復活するタチの悪い奴なのでな。

 人間無骨があったなら、魂をズタズタに傷つけるため粉砕することができるが、今は封印の解かれていない呪具と成り果ててしまったからな。

 

「そして、事件最大の原因である『三勇教』は、これを持って廃止。メルロマルク国は新たに『四聖教』を国教とします」

 

 女王陛下の宣誓により、ロザリオが相撲の座布団のように会場に投げ込まれる。レイファも、万感の思いを込めてロザリオを見ると、会場に投げ捨てた。

 

「……本当に良かったの? これで」

「仕方ないんじゃないか。それに、今はまだ殺すべき時ではないしな」

「……時々、ソースケってまるで未来を見てきたかのような事を言うわよね」

「まあな」

 

 むすっとするリノア。

 対してレイファは安堵したような表情をする。

 

「でも、盾の勇者様がお優しくて良かった。やっぱり、こう言うのは見ていて良い気がしないものね」

「……ま、殺すなら自分の手で殺したほうがいいさ」

 

 実際、この手で殺したほうが、処刑なんかよりもずっと気が晴れるしな。

 

「マリティナは公開処刑以外ないけれどね。アイツは皆んなを不幸にしたんだから……!」

「ヴィッチもそうだろ。それに、勇者を仲違いさせるように動いたのも罪だしな。まあ、いずれツケは払う事になるさ」

 

 俺は立ち上がると、三人の方を向く。

 

「悪は栄えた試しがないからな」

 

 俺もその点で言えば、悪である。

 悪によって悪を挫く、ダークヒーローみたいな立ち位置に立ってしまっている。

 錬が羨ましがりそうだな。

 

「……そうね。マリティナを捕まえないと!」

「どこまでもお伴しますわ、ソースケ様」

「私もついていくよ!」

 

 レイファ、リノア、アーシャ、それにライシェルにラヴァイト。それに我。頼もしい仲間がいる。

 さて、ここからはカルミラ島編だな。俺はどう動いたら正解なのか、改めて考える必要があった。



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凱旋、その後

 あの後、再び四星……尚文以外とビッチ、クズが謁見の間に召集されて事情説明と、ビッチとクズの今後について説明がなされた。

 尚文には事前に治療院で説明済みだったらしい。

 勇者には今回の騒動の謝罪と説明、戦争が起ころうとした事、世界情勢の話が行われた。

 

 本来であれば、フォーブレイから順番に一人ずつ四聖は召喚されるはずだった事。

 メルロマルク国は4番目に召喚する予定だった事。

 尚文がメルロマルク国で差別される理由。

 本来の後任が第一の波で死んでしまった事。

 三勇教が有能な人物を暗殺して回った事。(多分俺も含まれる)

 

 ヴィッチの借金返済と、クズは国の将として波の前線で戦うか、冒険者に身を落とすかの選択を迫られる。

 

 なんで俺がこんな場に居るんだろうな? 

 完全に七星の投擲具の勇者扱いである。

 ちなみに、俺が三勇教から狙われた理由も説明された。

 どうやら、俺の存在は錬に【いい影響】を与える存在だったらしい。

 愚かなほうが操りやすいので、有能な俺は追放処分にしてついでに殺してしまおうと考えたそうだ。

 だが、俺はしぶとく生き残った。三勇教の影や追っ手の騎士を殺して生き残った。俺が壊れたのはやはり三勇教のせいだったんだな。

 で、行方不明になったと思ったら、アールシュタッド領で問題行動ばかり起こす事で有名な冒険者どもを抹殺したと。俺が惨殺した令嬢の中には当然ながら三勇教に寄付をしている悪徳領主もいたわけで……。結果、俺は賞金首になったそうだ。

 まあ、確実に三勇教にとって目障りな存在だったんだな、俺は。

 

 支援金については、今後は盾の勇者を多めにするが、これは不当な差別を行った結果の謝罪も含めているため、これまでの分を受け取るものだと言うふうに言われた。

 まあ、納得せざるを得ないようだった。

 

「ソースケ様はどうされますか?」

 

 女王陛下が聞いてきた。

 

「どう、とは?」

「我が国は七星勇者様に頼る権利を放棄しています。ですので、残られる場合は我が国としても支援金を支給するのが良いかと」

「では、メルロマルク国内で活動する最低限の支給で構いません。後は、騎士の一人であるライシェル=ハウンドを連れて行っても構いませんか?」

「構いませんよ」

「ありがとうございます」

 

 ライシェルが居るだけで、安心感がぐっと上がる。やはりタンクは偉大なのだ。

 錬は何かを言いたそうに俺を見ているがね。

 

「では、勇者様方、祝賀会の時間までごゆるりとおくつろぎください」

 

 こうして、事後説明会は御開きとなったのだった。

 

 

 

 俺は、レイファとリノアのクラスアップの為に、龍刻の砂時計まで来ていた。

 我に任せれば特別なクラスアップが出来るぞ。フィロリアル如きに負けはせぬ! 

 などと言うものだから、なんだかなとは思う。

 ちなみに、既に俺は仲間の投擲具シリーズが出現している。

 

 投擲具のツリーは基本的に同一だ。

 素材による解放系、心の変化による解放系は例えば、リーフ投擲具と言う項目があって、そこから投げナイフ、手斧なんかに変化するといった形だ。強化値は共有である。

 ウェポンコピーは、アイアンナイフをコピーすればアイアンナイフが解放される。アイアンアックスをコピーするとアイアンシリーズで統括されるといった感じだ。武器のステータスはコピーした武器に依存する。

 カースシリーズも素材系と同一だ。ラースダガーを所持しているが、ラースアックスに変化できるし、ラースチャクラムにも変化できる。

 変化できる投擲具は、ウェポンコピーのが優先されるかな。

 ナイフ、アックス、クナイ、鎖鎌が基本で、チャクラムや投石用具……パチンコとかはウェポンコピーするとほかの素材系武器でも使えるといった感じだ。

『狩猟具』や『投擲具』みたいなジャンル系は基本こんな感じなのだろう。まあ、それを言うなら『斬撃具』である剣、『刺突具』である槍みたいな形で認識さえすれば、槍でレイピアなんかを使えたりしそうである。

 

 まあ、そんな武器の解説はいい。

 とにかくクラスアップだ。

 

「わぁ! 龍刻の砂時計って初めて見るよ! ソースケ!」

「まあ、なかなか見る機会は無いものね」

「一般人がここに立ち入ることはまず無いからな。仕方ないことだ」

 

 現在は、四聖教が管理する予定になっており、すでに教会の紋章は四聖教のものに置き換わっていた。現在はフォーブレイから司教を呼んでいる最中なんだそうで、現在はメルロマルク騎士が常駐して監視をしている。

 

「えーっと、龍刻の砂時計に手を乗せれば良いんだよね?」

「ああ、それでできるはずだ」

 

 リノア、レイファの順に龍刻の砂時計に触れると、龍刻の砂時計本体と俺の体が光る。そして、その光がレイファとリノアに降り注ぐ。

 

「わわわっ! 勝手に選ばれちゃったよ!」

「……凄いわ! ステータスが2倍近くになってる!」

 

 ふふふ、さすが我であるな。

 お前がいてくれて初めて役に立ったと思ったよ。

 

 俺が感心していると、アーシャとライシェルが驚く。

 

「2倍だと?!」

「普通は、どれかのステータスが1.5倍になればいいほうですのに……」

「確か、特殊な道具を用いることによって、特別なクラスアップが出来たはずだ。俺はその道具を持っているからな」

 

 俺が解説すると、納得した様子だった。

 

「なるほど、そう言うことか」

「あの時、龍のアイコンが出たのはそう言うことだったんだね」

 

 リノアはてっきり、フィロリアル系統かと思ったんだがな。龍って事は地脈関連のクラスアップか。

 物知りよな。歴代の勇者の中でもここまで物知りでかつ現実だと認識しているものは居らんだろうよ。

 龍のクラスアップならば、龍脈法の適性がレイファとリノアにはあると言う事か。

 そうだ。なんなら我が祝福してもいいぞ? 

 ま、時期が来たらな。

 

 竜帝との会話もそこそこにしつつ、俺たちは用事が済んだので龍刻の砂時計を後にする。

 今後も俺とともに居るつもりのレイファとリノアはここで補正をかけておかないと厳しいからな。

 いずれは異世界を渡る必要があるが、少なくともこの世界にいる間は俺が面倒を見ることになる。ならば、強い方が生き残る確率が高いからな。



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勇者の仲間たち①

「私、ミレリア=Q=メルロマルクは此度の事件を鎮めるために尽くして頂いた方々に多大な感謝を致します。此度の祝宴、皆様、存分にお楽しみください!」

 

 俺たち、所謂投擲具の勇者組が戻ってくるとすぐに宴が始まる。

 ライシェルは王命で俺たちの支援を行うことになった。

 一緒に旅をした仲間だからな。意味のわからないハーレムよりはマシである。

 祝宴はバイキング形式とレストラン形式で、俺達は来賓席で食事が運ばれてくる。前回の第二の波の宴よりも豪華なのは、やはり主催が女王陛下であるからだろうか。

 個人的にはこういう扱いは苦手だ。それは、レイファやリノアも同様である。

 

「うーん、なんか居にくいよ」

「今まで賞金首だったりしてたわけだしな……」

「やっぱり、ドレスコードがあったんじゃ無いの? そのままでいいとは言われてたけれども!」

「ドレスコードが無いのは女王陛下のお達しだ。気にすることはないさ、リノアさん」

 

 しかし、マナーだけ見れば諜報員をやっていたアーシャがダントツでマナーが良い。続いてお嬢様のリノア、ライシェルがマナーが良いだろう。

 所詮村人のレイファや、異世界人の俺はまあ、悲しくなるよな。

 

 ふと、会場を見渡していると錬と樹、そのパーティが入ってくる。

 錬はウェルト達と会話をした後、こっちに向かって歩いてきた。

 

「宗介も参加していたのか」

「ああ、どうしてもと言うことだったんでな。どうした?」

「お前も俺の仲間だからな、挨拶をしにきた。レイファもリノアも無事で何よりだ」

「レン様こそ、ご健勝で何よりです」

「レン様が元気で良かったです」

 

 リノアが丁寧に、レイファはいつもの通りに挨拶をする。

 

「アーシャに助けてもらって助かった。改めて礼を言う」

「いえ、ソースケ様のご命令でしたのでお気になさらず」

 

 アーシャはなんで俺をそこまで崇拝しているのかな? 意味不明だ。そんなにやってもセックスはしてやらないぞ? 

 

「剣の勇者殿の話は聞いています。実際の噂はともかく、凶悪な怪物を倒していただき助かっております。私はソースケくんの仲間になったライシェル=ハウンドです。お見知り置きを」

「そうか」

 

 ライシェルには素っ気ないな。まあ、元々はそんな感じであるが。

 

「宗介、戻ってくるならいつでも歓迎する。ではな」

 

 錬はそう言うと、今の仲間の近くの席に一人で座る。相変わらずの様子だな。ウェルト達も大人しいのが悪いが。アイツは割と積極的に絡んで行かないと心を開かないんだよな。

 

 ざっと見渡してみると、顔ぶれは冒険者の方が多い。アールシュタッド領の領主の姿は確認できた。奥さんっぽい人と幼い娘を連れているのが確認できるが、ミナ……ミリティナの姿はなかった。豚箱に送られたのかな? 

 女王陛下は尚文達としばらく話をしている。その間には貴族達がダンスパーティーをしているようだった。やはり、こう言う会ってのは貴族の社交場でもあるから仕方ないだろう。

 こんな救いのない世界に公爵令嬢とかに転生した阿呆とか居るのかな? ……いそうだ。

 まあ、今すぐに殲滅はしてやらないがな。レーダーには反応がないためこの場にいる人間には俺以外の波の尖兵は居ないが。

 

 さて、そうこうしていると、俺のところに錬と樹を連れた女王陛下が参上した。

 

「ソースケ様」

「どうされましたか、女王陛下」

「これから、勇者様同士で会議を致します。よろしければ是非、ご参加ください」

 

 ナズェ俺が……? 

 あ、投擲具の勇者だったっけ。

 俺装備外せるから忘れるところだった。

 

「はっ、了解しました!」

 

 丁寧なのは、俺は一般人であると言う自覚からだ。

 

「ご理解いただけたようで、ありがとうございます。では、ナオフミ=イワタニ様の所に参りましょうか」

 

 と言うわけで、錬に樹、ついでに俺を連れて尚文に所に向かう。

 女王陛下はそのままステージの上に登った。

 

「なんだ? どうしたんだ?」

「女王が集まってほしいって言うからさ」

「ええ、何でしょうね? 元康さんもいませんし」

「うーん、なぜ俺が……」

 

 樹の言葉に尚文は鼻で笑い元康のことを教えてくれた。

 

「俺を毒殺しようとした女の容体を気にして治療院に行ったんだと」

「毒殺?!」

「わかるだろ? 奴だ」

「……ああ、本当だったのか」

「女王が毒を飲ませたのでは?!」

 

 樹の推理は飛躍しすぎだろう。流石に顔に出てしまった。

 このやり取りは分かっていたんだけどなー。

 

「……宗介さん、何ですかその顔は?」

「いや、流石に飛躍しすぎだろう。動機がない」

「む、そうですね……」

「ああ、その通りだ。それに、その時間、俺と一緒にいたし、奴が運んだ料理を奴に食わせただけだそうだ。だからアリバイがある」

「なるほど……」

 

 なんて話していると、女王陛下が振り向いて勇者達に告げる。

 

「さて、勇者様方。此度の宴はどうでしょうか?」

「悪くない」

「ええ、達成感はあります」

「無罪が証明できて一安心ってところだ」

「……。え、俺? ご飯が美味しいです」

 

 黙っていると錬や樹や尚文が見てきたので、そう答える。やっぱり勇者カウントなのね。投擲具手放したくなってきた。

 こいつ、ほんとなんではなれないんですかねぇ……? 

 

「それは何よりです」

 

 扇子で口元を隠しそう告げる女王陛下。

 女王陛下は何度もうなづいた後扇子を畳んで高らかに宣言した。

 

「この度は私共の国の者達が問題を起こし、勇者様方には多大なご迷惑をお掛けしました。その補填をしたいと私共は思っております」

 

 カルミラ島活性イベント。あと、書籍版なら波が発生するな。ちょうど、グラス達……絆の世界と繋がる波だ。

 まあ、仮に行くとするならばだが、レイファやリノア、ラヴァイト達のレベルを上げるにはちょうどいいだろうな。レイファは護身術の他にも魔法を使ってもらう必要がある。レイファだけ先行して龍脈法を鍛えるのもありだろう。

 

 いいぞ。ならばそのカルミラ島に到着して、頃合いになったら我を呼ぶといい。

 

 だが、行くとは言ってない。

 

「近々この国の近海にある……カルミラ島が活性化するようです。勇者様方には奮ってご参加くださるようお願いいたします」

 

 尚文は頭にクエスチョンマークが浮かんだような顔をしている。まあ、知らないのは当然だろうな。

 

「本当か!?」

 

 錬が喜んでる。感情をあまり表に出したがらない子なのに出すと言うことは、それほど嬉しいのだろう。

 

「何だそれ?」

「まさかのボーナスフィールドですか!?」

 

 樹も喜んでいるな。俺は知っているが、すでに島のレベルキャップは超えている。レベリングするならば尖兵共を虐殺した方が効率がいいだろうな。

 ……既に尖兵共は俺にとって魔物と同一の存在なんだな。経験値タンク。

 

「イワタニ様はご存知ないようですので説明しますね。活性化と言うのは10年に一度、その地域で手に入る経験値が増加すると言う現象です」

 

 詳細はまあ、知ってるだろうけれど解説するか。

 カルミラ島ってのは、ハワイやグアムみたいな島だ。ルルハワみたいなものかな? 

 色々な魔物が生息しているので、レベリングにも最適。特に活性化の時期はそりゃもう冒険者で溢れる島になると言う話だ。

 補填と言うのは、この島に行ける優先権である。レベル上げを妨げてしまった補填だと言うことだ。

 

「もちろん、宿の手配、入島の手配は済んでおります。皆さま奮ってご参加ください」

 

 え、俺も?! 

 俺が自分を指差すと、女王陛下は頷き返してくれた。

 どうやらカルミラ島行き確定のようだ。

 

「それから」

 

 女王陛下は四聖勇者に提案をした。四聖勇者にだ! 

 

「勇者様方には島に行く前に情報交換をなさってはいかがかと私共は提案いたします」

「情報交換……ですか?」

「はい。徐々に厳しくなる波を乗り越えるため、勇者様方にはもっと連携して臨むことが必要不可欠かと思います」

「……そうかもな」

 

 錬の反応にびっくりする樹。

 

「俺はお前に強くなると誓ったからな。貪欲に行こうと思う」

「僕は不要だと思いますがね」

 

 樹は相変わらずである。

 

「ですが私共はメルロマルク第三の波の時に勇者様方の連携がなっていなかったと聞いております。その辺りの話し合いは重要かと思うのですが?」

「宗介と連携ならできる」

「俺とだけ連携できてもだな……」

 

 いやまあ確かに一番過ごした時間は長いからね? 

 むしろウェルトとかと連携できてない方がまずいと思うよ? 

 

「他にも、勇者同士で合同演習を行なったり、仲間同士の話し合いも重要かと思われますが?」

「……そうですね。これからの波を越えるためには必要な手順かもしれません」

 

 樹はまあ、そのままクソガキのままなら死ねばいいんじゃないかな? おっと、死んだら不味いので痛い目にあうといいよ。仲間に見捨てられて放置されれば少しはマシになるんじゃないかな? 

 

「では、宴の最中に、話し合いの席を設けるとしましょう。ささ、勇者様方は改めて自己紹介をしながら付いてきてください」

 

 勇者達は顔を見合わせた。

 おい、何で俺の方を見る! 

 

「だとさ」

「連携は重要ですね。まずはどうしましょうか?」

「それぞれの仲間を紹介すればいいんじゃないか?」

「そうですね。では僕に仲間から紹介しましょう」

 

 まあ、それだけで嫌な予感がしたのは、言うまでもなかった。

 

 

「貴様! なぜイツキ様と共にいる! 犯罪者!」

「黙れ燻製! 今ここでお前の首を刎ねてやろうか?」

 

 バチバチと睨み合いをする燻製と俺。

 他の樹メンバーは尚文と錬に挨拶をする。

 

「この方々が僕の仲間をしてくださっている人達です」

「自己紹介は初めてですね。盾の勇者さん。そして……何度か話はしましたね、剣の勇者さん」

「……ああ」

「それにしても、マルド殿とソースケさんは本当に仲が悪いですね」

 

 ロージルが俺と燻製をそう言って諌める。カレクの奴は偉そうに座ってメイドの給餌を受けている。樹パーティは全体的に偉そうだ。

 

「盾の勇者の岩谷尚文だ。……よろしく頼む」

 

 尚文が自己紹介をすると、燻製が「貴様に構っている暇などないのだ」と捨て台詞を吐いた。

 

「ええ、よろしくお願いします。我等イツキ様親衛隊は世界のために戦う所存です!」

「「親衛隊!?」」

「ブッフー! 親衛隊とか草生える!」

「黙れ犯罪者! 我等を侮辱するか!」

「燻製、テメーを嘲ってるんだよ!」

 

 俺につられて錬と尚文は笑っている。

 

「あー……。宗介の事は?」

「ええ、よく知っていますよ。《首刈り》のソースケはメルロマルクの冒険者の中で知らないものは居ないでしょう」

「すみません! 頼まれた料理を持ってくるのに時間がかかってしまいました!」

 

 皿に盛りきれないほどの料理を抱えたリーシアが戻ってきた。

 

「あ──」

 

 尚文は落としそうになった皿をキャッチする。

 

「す、すみません!」

「遅いぞリーシア! ほら、自己紹介に加われ」

「ふ、ふぇえ……は、はい!」

 

 リーシアが加わってフォーメーションを整える。もちろん燻製も加わっている。

 

「「我等、イツキ様親衛隊六人衆! 今後ともよろしくお願いします!」」

「……あの子が来るまで待たなかったぞ?」

「言ってやるなよ。察してやれ」

 

 普通に呆れる以外ないがな。

 

「どうですか? 頼もしいでしょう?」

「とりあえず言いたいことは山ほどある気はするが、……まあ良いんじゃないか?」

 

 燻製が俺を睨んでいるので中指を立てる。「ふぬっ!」と反応するが、我慢しているようだ。そのまま死ね! 

 

「あんまり関わってなかったけれど、変わった仲間を連れているんだな」

 

 錬は言葉を選びながら感想を述べた。俺の感想は、教育に悪そうな連中を連れているな、だ。

 

「そうですか? 普通だと思いますが」

 

 常識は多数決だ。樹チームの常識が親衛隊なのだろう。

 燻製の目つきが気になったのか、イラッとした表情をする尚文。

 

「樹」

「なんですか?」

「ソイツの目つきと態度をどうにかしろ。宗介ともすぐに喧嘩をするし、改善は必要だろう」

「……そうですね。宗介さんもこれからは勇者仲間ですし、仲良くしましょう。良いですね、マルドさん」

「……わかりました!」

 

 喧嘩と言うわかりやすい態度が目に余ったのか流石に注意される燻製。

 

「あと、俺への態度もだ。俺の事をまだ犯罪者だと思っているんだろう?」

「それは尚文さんの心の持ち方ではないですか? 僕は特には気になりませんが」

「む!」

 

 樹の命中が発動したのか、不機嫌な顔になる尚文。

 

「そりゃあ、お前を見ている時とは目つきが違うんだよ」

「気のせいでは有りませんかな? 盾の勇者さん」

「お前の話をしているんだよ。横から入ってくるな!」

「気持ちの悪い猫なで声である」

「なんだと! 犯罪者!」

「良いから喧嘩するな!」

 

 呆れた表情をする尚文。

 

「さっきから気になっていたんだが」

 

 錬が手を上げて発言する。

 

「なんですか?」

「マルドは仕方ないにしてもだ。樹のことは『様』付なのに、なんで俺や尚文は『さん』付なんだ?」

「剣の勇者さんや盾の勇者さんはイツキ様より活躍の面で格下。ですから私達はさん付けで呼んでいるのです」

「……何を言うかと思えば」

 

 錬は呆れの声を出した。視野狭窄だな。笑ってやろう。ブッフー! 

 

「活躍? 一番地味な勇者って評判の樹がか? 弓の勇者がどこでどう活躍したとか俺の耳には入ってこないな」

「う……で、ですが宗介さんなら僕の活躍を知っていますよ!」

 

 樹は俺を指差した。そりゃまあ、アルマランデ小王国を救ったのは確かに樹だろう。それは俺も見届けた。ドナドナされたが。

 

「俺を捕まえたことが活躍ならそうじゃないか?」

 

 擁護して欲しいなら、俺の好感度を上げておくべきだったな。

 

「犯罪者! イツキ様を愚弄するか!」

「おお? やる気か? お前の首だったらいくらでも刎ねてやるぜ? 何メートル吹き飛ぶんだろうなぁ?」

 

 樹が俺と燻製の間に入って止める。

 

「ふぇえ……」

「やめてください、宗介さん!」

「樹、どうやら俺たちはもう少し話をする必要がありそうだな」

「……」

 

 錬が不快そうに吐き捨てた。仲間を愚弄されたと思ったのか? 

 

「とにかく、錬さんや尚文さん、宗介さんは僕と同じ勇者なのですからもう少し敬意を持って接してください。マルドさんは宗介さんを挑発しないでください」

「……善処します!」

 

 と、燻製たちは敬礼するが、そもそもメルロマルク語で『善処』と言われてもなぁ……。それはしないのと同じ意味だ。

 

「じゃあ、次は俺の仲間たちを紹介するか」

 

 錬がポツリと呟いてスタスタと勝手に歩いていく。

 俺はなぁ……、バクター以外知っているしなぁ……。

 そんな事を考えながら、錬の後に続いたのだった。




分割しますね。
燻製と宗介の絡みはスラスラ出てきますね。
まさに水と油。

ちなみに、宗介を捕獲したことはマジで大金星だったりするので、宗介が言っていることは間違っていないと言う。
これも燻製が手柄を横取りしてますが…。


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勇者の仲間たち②

「ようこそいらっしゃいました。ソースケさん、盾の勇者様、弓の勇者様」

「相変わらずだな、ウェルト」

「いえ、ソースケさんも御健勝で何よりです。三勇教からの提案とはいえソースケさんを追い出してしまったのは我々ですからね」

「お、おう……」

 

 尚文と樹は別の意味で驚いている様子だ。

 そりゃまあ、樹の仲間を見た後だもんな。拍子抜けするのは仕方ない。

 

「盾の勇者の岩谷尚文だ」

「弓の勇者をしています、川澄樹です。何度かお会いしたことありますね」

「あー、色々あって投擲具の勇者? に選ばれてしまった菊池宗介だ。初めてのやつもいるし一応自己紹介しておく」

 

 まあ、羨ましいよな。七星武器は冒険者がなれる勇者だし。ま、俺の場合は方法が不正だからなんとも言い難いが。

 

「よろしくお願いします。盾の勇者様、弓の勇者様。それに、ソースケさん」

「久しぶりだな、テルシア。生きてて何よりだ」

「レン様はいつもソースケさんをいつ戻すのかと考えていましたよ。私達も、ソースケさんの指示で戦う戦いはどんな強敵と戦っても負ける気がしなかったので、戻ってきて欲しいです」

「悪いが俺にも仲間がいるんでな。波の時は一緒に戦うとしようか」

 

 同窓会的な雰囲気である。

 仕方ないじゃん、何ヶ月ぶりに話したと思ってんの? 

 

「そうだ、盾の勇者様には謝罪をしなければなりませんね。あの時は申し訳ありませんでした」

 

 ウェルト、テルシア、ファリーが頭を下げる。

 

「へ?」

「何分、メルロマルク国王がいる場で盾の勇者様の味方をしたらどんなお咎めを受けるかわからなかったもので」

「……宗介から随分前に話は聞いている」

「都合のいい話ではありますが、どうかお許しください」

「わ、わかった」

 

 ウェルトたちの対応が丁寧すぎて引いている感じだ。

 

「緊張してる?」

「そりゃまあ、勇者様が勢ぞろいしてたら誰だって緊張するよ」

「ふーん」

「緊張してないソースケの感覚が図太いだけだって……」

 

 ファリーがガックリとする。

 

「それでレン様、何かあったのですか?」

「ああ、さっき勇者同士で連携をしろって言われたからな、お前たちの紹介に来たんだ」

「そうだったんですか。ソースケさんを連れてきたのでてっきりパーティに戻ってくるかと……」

「……交渉中だ」

 

 まあ、今はリノアにレイファ、アーシャにライシェル、ラヴァイトがいる。パーティメンバーとしてはいっぱいいっぱいなのだ。

 ラヴァイトはまだ人化せず、フィロリアルキングの姿のままなので、フィロリアル宿舎で待機している。

 

「期待していますね」

 

 ウェルトはそう言うと、スケジュール帳を取り出した。紹介は終わり! という事か。

 

「ところでレン様、明日からの日程の確認ですが、どのようなご予定でしょうか? 私達はどこで何をしてればいいでしょう?」

「「はい?」」

「ウェルト、まだそんな秘書みたいな事やってたのか」

「勿論ですよ。ソースケさんが居なくなってから、しっかりつけていますからね!」

 

 呆れる。まあ、錬の話から情報を引き出すのは俺が大概やってしまっていたため、俺が抜けた後はウェルトがやるだろうなと思ってはいたが……。

 他の勇者もスケジュールを確認し始めたウェルトの行動に驚きを隠せないでいる。

 

「近々カルミラ島へ行くらしい。そこで狩る事になる。準備を整えておけ」

「わかりました」

 

 俺はため息をついて、スケジュール帳に書き込む阿呆に突っ込む。

 

「ウェルト! そんだけじゃ何もわからねぇだろうが! わかりました! じゃねぇよ! 手本見せてやる!」

 

 ビッと俺は錬に指を指す。

 

「おい、錬。近々というが、今日から何日後の予定だ?」

「それはまだ聞いていないな。宗介も知っているだろう?」

「じゃあ、とりあえず2、3日後の予定で良いな?」

「ああ、恐らくそうなるだろう」

「じゃあ、わかったらウェルトに日程教えておけよ」

「わかった」

「次だ。狩る魔物の種類は覚えているか?」

「ああ、もちろん覚えている」

「必要な回復薬の量、状態異常薬はどれぐらい準備しておけば足りる?」

「ふむ……、そうだな。回復薬は2箱、状態異常薬は麻痺を使う厄介な奴がいるから、1箱は欲しいな」

 

 錬から情報の聴取が完了して、俺はウェルトに伝える。

 

「聞いたか? 2、3日後カルミラ島出発。回復薬は2箱、状態異常薬は麻痺多めで1箱準備だ。船は港町ロラから出るから移動までの時間を考慮しておけよ」

「あ、は、はい! さすがソースケさんですね」

 

 目を輝かせるウェルト。

 と、尚文が突っ込む。

 

「おい、宗介。お前の手際は凄かったがそれ以前の問題に突っ込んでいいか?」

「ん? どうした」

「お前たちは何の話をしているんだ? 錬ではなく、ウェルトと宗介に聞きたい」

 

 あー、錬パーティはこれが普通なんだよね。すっかり忘れていたが、他人の前でスケジュール確認は明らかに変だろう。失念していた。

 

「はぁ……えっと、私達がレン様とは別のパーティでどのようなスケジュールでどこで魔物を狩ってレベルを上げていればよろしいでしょうかという話です」

「錬は、自分一人でレベルを上げるんだよ。で、ウェルト達パーティは錬の指示した効率のいい狩場でレベルを上げるんだよ」

 

 俺とウェルトの解説に、ますます頭にクエスチョンマークを浮かべる尚文と樹。おかしいのはわかっている。だってねぇ……それでどうやって信頼を得るのだよと。幸いにして俺は錬と二人で戦う機会があったが、ウェルト達はそれが無さそうだった。

 

「何かあるか?」

「うーん……。宗介さんが戻った方がいい感じだということぐらいですけど……」

「そうだろうそうだろう」

 

 樹の言葉にめっちゃ同意する錬。

 

「錬さんとは別行動が常なんですか?」

「はい。基本的に私達は……ソースケさんが仲間だった時もですが、レン様とは別のパーティを組んで、レン様が指示する効率のいい狩場でレベルを上げていました」

「たまにアイツが強敵と戦う時、一緒に戦ったがな」

「ええ、その方針に変更はありません」

「無いのかよ!」

 

 俺は思わず突っ込んでしまう。仲間というより従者だよな、正直。

 

「後は、敵の攻撃は絶対に受けないように気をつけろといつも注意して頂いております」

 

 いや、ウェルトはタンク何だから受けるのが仕事だろうに……。

 

「そうですか……錬さんは一人で戦っているんですか……」

 

 樹が遠い目で錬を見ている。

 尚文も呆れた様子だ。

 

「次は尚文さんの番ですよ」

「……そうだな」

 

 尚文頭を抱えて、俺たちを案内した。

 

「じゃあ、付いて来い」

 

 

 

「お帰りなさいナオフミ様、どうしたんですか?」

「ああ、とりあえず勇者同士の連携を強化して欲しいって話で、それぞれの仲間を紹介して回っているんだ」

「なるほど……では自己紹介をしますね。私の名前はラフタリアと申します」

 

 相変わらず丁寧な子だな。他の勇者に比べて明らかに教養があるぞ! 

 まあ、殺人狂の俺に言われたくは無いだろうがな。

 

「剣の勇者をしている天木錬だ」

「弓の勇者の川澄樹です。これからは一緒に戦うことも多くなると思います。よろしくお願いします」

「あー……何の因果か知らないが、改めて自己紹介する。武器の人こと現投擲具の勇者の菊池宗介だ。長尾景虎でも良いぞ。改めてよろしく」

 

 しかしながらなんて因果だよおい。別に投擲具に選ばれたわけでも無いんだがなぁ……。

 フィーロはこの場には居ないようだ。あっちでビュッフェを食べているのがそうだろう。

 

「あまり足を引っ張らないなら頼りにするかもしれないな……あいてっ!」

 

 失礼な事を言う子にはお仕置きだ。スパーンとどこからともなく取り出したスリッパのような何かで叩く。

 どこから出したかは企業秘密だ。

 

「おい、その言い方は失礼だぞ」

「むぅ……」

「足手まといになった覚えは無いのですけれど……」

「錬さんは別に悪口を言ったり馬鹿にしているつもりは無いですよ。アナタ達の強さは戦った僕たちが知っていますから」

 

 錬がスリッパもどきで殴ったところをさすりながら、樹に同意する。

 

「そうだな……思ったより強くはある」

「そうですね。そこも気になっていましたけれど……背中に羽の生えた女の子は居ませんでしたか? 確か魔物に変身する子だったと思うのですが」

「ああ、フィーロの事か。多分あそこだ」

 

 フィーロは案の定ビュッフェでご飯を貪っている。バイキング状態だなぁ。

 

「フィーロ」

「んー?」

 

 フィーロは食べ物を飲み込み、ぐしぐしと服で口を拭うとてってってーとこっちまで走ってくる。

 

「どうしたのごしゅじんさまー?」

「ああ、知った顔だとは思うが、俺と同じく勇者をやっている連中を紹介することになったんでな」

「えー?」

 

 フィーロは困ったようは表情をして後ずさる。

 

「槍の人みたいな人たち?」

「違う違う。あんな女と見れば節操なしじゃねぇよ。なあ?」

「ええ、そこは同意します」

「そうだな。同類に見られたら心外だ」

 

 勇者間でも道化様はヤリチンなのは公認なようで。

 

「そんなわけで、お前も自己紹介しろ」

「うん、フィーロの名前はフィーロ!」

 

 尚文が馬鹿っぽいなぁと言う顔をしている。ある程度親しくなると、アイツの感情が表情に出ているのが丸わかりなのが面白いな。

 それぐらい顔に出ている。

 

「ごしゅじんさまの馬車を引くのがお仕事なの!」

 

 俺はそもそも乗せてもらった事もあるので不思議にも思わないが、一般的な感覚からすれば幼女がそんな事を言うなんて、事案だろう。

 錬と樹が微妙な表情をしている。

 

「僕は川澄樹と言います。よろしくお願いしますね」

「天木錬だ。足手まといには……ならないか。期待している」

「うん、よろしくね。弓の人! 剣の人!」

 

 まあ、フィーロの他人の呼び方はこんなものだ。俺も武器の人って呼ばれているしな。

 どうやら気づいたらしい。

 

「武器の人は自己紹介しないのー?」

「フィーロは知ってるだろう? あとで俺の仲間も紹介するよ」

「うん、わかったー」

 

 フィーロはそう言うと、椅子にちょこんと座った。

 まあ、会話が止まるのもアレだし、聞いておくか。

 

「なあ、尚文」

「何だ?」

「尚文の戦い方を聞いておきたい。もちろん、あの盾は除外してな」

「……まあ、それなら」

 

 と少しだけ尚文から盾の戦い方を教えてもらう。

 色々と発見があって有意義だったな。

 

「ほかに質問はあるか?」

 

 そんな尚文に、樹があの質問をした。

 

「ラフタリアさんは奴隷でしたよね」

「ええ」

「主従関係ですが、尚文さんの事はどう思っているのですか?」

 

 まるでサーヴァントの会話2の内容を聞くな。

 

「そういえば……そのような関係でしたね。あまり意識していませんでした」

 

 ラフタリアの回答に、肩透かしを食らったような表情をする樹。

 

「何分、ナオフミ様に無茶な命令をされた事はほとんどありませんの。頼られていると思うと頑張りたくもあるので」

「戦いを嫌だと思う事は? 自由になりたいとか思わないのですか?」

 

 安直な奴隷反対をやりたいのだろうな。そう言うアングラなものが無くなるわけがない。

 

「ありません。自由になったとしても、行く当てもありません……私の故郷はもうありませんし、私はナオフミ様と一緒に戦いたいと思っています」

「……そうですか」

 

 流石に地雷を踏んだと思ったのか、これ以上は無理だと思ったのか、樹は諦める。

 

「どうしてお前は不満を言わせようとする質問ばかりをしているんだ?」

「そもそも元康が尚文に決闘を申し込んだ時にこの件は解決しただろ」

「残念だったな。安直に奴隷解放を訴えられなくて」

「うぐっ! ……そうでしたね。すみませんでした」

 

 俺の言葉に、尚文はものすごく納得した表情をした。と同時に「やっぱり副将軍だな」と呟く。

 

「次は宗介の番だな」

「え、んー、俺のパーティは俺一強なんだけれど?」

「挨拶ぐらいはしておきたいからな。紹介してくれ」

「んー、はいよ」

 

 尚文はラフタリア達に他の仲間と交流するように指示を出して、俺に続いてレイファ達のもとに戻った。

 

 

「あ、ソースケ! それに、盾の勇者様、レン様、弓の勇者。こんばんは」

 

 レイファがぶちかました。

 

「あの、何で僕だけ『様』が無いんですか?」

「ソースケを酷い目に合わせたからです!」

「……」

 

 レイファ強い! 樹を黙らせた。

 

「えっと、一応俺も勇者パーティらしいから、勇者同士の連携のために仲間を紹介することになった。自己紹介よろしく」

 

 俺がそう言うと、最初にレイファが自己紹介をする。

 

「私はレイファと言います。ソースケのお役に立てるように頑張ってます!」

「私はリノアです。盾の勇者様、レン様、弓の勇者、よろしくお願いします」

「私はアーシャ、ソースケ様の影です。よろしくですわ」

 

 女性陣はサクッと自己紹介してしまう。

 

「私はライシェル=ハウンド。ソースケくんの旅に同行するメルロマルクの騎士だ。よろしく、勇者様!」

「後は、尚文と同様にフィロリアルキングのラヴァイトがいる。俺のパーティメンバーはこんな感じだ」

 

 俺が紹介を終えると勇者達も自己紹介をする。

 

「俺は盾の勇者をしている岩谷尚文だ」

「俺は剣の勇者の天木錬だ」

「僕は弓の勇者をしている川澄樹です。なんだかんだでライシェルさん以外は顔見知りですね」

 

 なんだかんだ言って、勇者連中には関わりがある。全員が全員では無いが、顔見知りということななるだろう。

 原作改変を阻止するって無かったな。悲しい事だ。

 

「基本的、俺が殲滅担当で一強になっているが、万が一の時にライシェルにレイファを守ってもらえる。身軽なリノアとアーシャも前衛で戦うと言った感じだな。後衛が少ないのが不安だが……。そこは俺がフォローに入ることになる。戦術はそんな感じだ」

 

 俺がそういうと、樹と錬がレイファを見ていた。

 

「やっぱり、宗介さんの強さの秘密って……」

「守るべき者の存在か……」

 

 いや、まあ間違いではないけれどもな。

 これで、自己紹介は終了した。

 

「後は仲間たちで話し合いをして俺たちは女王のところへ行くか」

「そうですね。行きましょう」

「と言うわけで、後よろしくな」

「うん、行ってらっしゃい、ソースケ!」




自己紹介はこんな感じですねー


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勇者会議【上】

 俺たち……勇者達と俺は女王陛下に連れられて、会場の別室に向かった。

 案内されたのは塔の頂上のような部屋だった。

 その部屋は円卓の置いてある部屋で、十三拘束解放円卓会議開始(シールサーティーン・デシジョンスタート)みたいな感じだ。いや、その要素は無いな。俺がやりたかっただけである。

 入り口の近くが尚文と女王陛下が座るので、上座なのだろう。

 時計回りに女王陛下、空席、空席、錬、樹、尚文、と座ったので、俺は女王陛下の隣に座った。

 

「じきに槍の勇者様であるキタムラ様も来ます。どうかしばしのお待ちを」

 

 錬と樹はステータスを確認し始める。それに習って尚文もステータスを確認し始めた。

 俺も投擲具を装備して、ステータスを確認する。

 前回の波の前にある程度強化をしていたし、道中で倒した魔物は逐一投擲具に吸わせていたので、能力としてはなかなかに高いのではないだろうか? 

 まあ、金銭によるオーバーカスタムは若干してある。何故課金要素? 

 痒いところに手が届かなかったからと言うのもあるけれどね。

 

 およそ5分後、元康が戻って来るなり尚文を睨みつける。

 

「キタムラ様、娘に確認したかと思いますが? イワタニ様に毒を盛ろうとした罰ですよ」

「そう言えばそんな話をしていたな」

 

 錬が腕を組んでいつものようにぶっきらぼうに答える。

 

「キタムラ様がお怒りになるかと思い、配下の者に我が娘マr……ビッチから直接白状するように命じました」

 

 しかし、コイツは何に固執しているんだろうか? 

 奴隷紋の制約のせいで、元康と女王陛下には嘘を吐けないのにな。

 

「ま……アバズレは悪くない! 尚文が悪いんだ!」

「お前なにその超理論?? 良いよなぁ、人のせいにすれば、思考放棄に正当性を持たせられるもんな」

 

 ボソッと呟いたのが聞こえたらしい、元康は驚いていた。

 

「な、なんで宗介が?!」

「宗介も勇者だからだ。七星……とか言ったか? 宗介もそれに選ばれてしまったらしい」

「え、あ、ふーん。そうなんだ。ま、よろしくな。一緒に世界を救おうぜ」

 

 握手をしてきたので、まあ、返してやる。

 話が逸れたせいか、元康はそのまま椅子に座って尚文を睨む。

 

「ではこれより、四聖勇者様と七星勇者の投擲具の勇者様による情報交換を始めます。司会進行は私、ミレリア=Q=メルロマルクが務めます。どうぞよろしくお願いします」

「ああ」

「よろしくお願いしますね」

 

 そして、何故かいの一番に全員が俺を見る。え、何?! 

 

「情報交換か……」

「まずは、宗介さんに話を聞かないといけませんね」

 

 それに、全員が同意する。

 

「え、ナズェ……?」

「僕たちよりも色々と知っているんではないですか? 時折まるで未来を知っているかのような言動をしていましたし」

「ああ、俺もそれが気になった。特に前の波で俺たちを暴走して攻撃してきたときは顕著だった」

「宗介、腹を割って話す時だ。対価は女王が出すから、全部話せ」

「え、そうなの? 知っているなら教えてくれよ、な?」

「いやいやいや、俺だけなんでこう責められるんですかねぇ……?」

 

 全員がずいっと顔を寄せて来る。

 

「カースシリーズ、でしたっけ? 尚文さんが使っているチート武器の解放方法も知っているみたいでしたし」

「だが、まだ解放できないでいる。実際のところはどうなのかを知りたい」

「アレは使っちゃいけない!!」

 

 と、元康が大声を出した。

 取り乱している? 

 

「いいか、お前ら。言っておくが、あの武器には手を出しちゃいけないんだ! 正直、制御できている尚文が異常なんだ!」

 

 どうしたと言うのだ? 

 

「……元康もカースシリーズを解放している。『傲慢の槍』だったか? 精神でも犯されそうになったか?」

「ああ、アレは使い続けると元の人間じゃなくなるからな! お前ら絶対に使うなよ!」

 

 ものすごい剣幕だ。それほど真剣と言うことなのだろう。

 

「……まあ良い」

「それ以外に僕の知りたい情報は無いですね」

 

 元康はどかっと椅子に座った。

 

「……では、話が止まってしまいましたので司会進行である私が各国の反応や配下の者達の声を伝えようと思います」

 

 全員が女王陛下の言葉に耳を傾ける。

 

「正直に述べましょう。各国の伝承や波の記述、その他を総合するとイワタニ様、次にソースケ様以外の勇者様方に関して、強さに難があるのではないでしょうか? との意見が出ています」

「「「何?!」」」

 

 三人の勇者がそれぞれ不快そうな声を上げる。

 

「どう言う意味ですか?」

 

 樹の言葉に錬と元康が同意する。

 

「宗介はまだわかる。元が《首刈り》なんて二つ名がつくくらいの冒険者だからな」

「ええ、宗介さんの強さには疑問を挟む余地はありません」

「だが、よりにもよってなんで尚文が一番強いような事を言うんだよ!」

「ではお聞きいたします。三勇教の強行に対して、一番効果的な攻撃をなさったのは誰ですか? その前の波でもイワタニ様以外の御三方は敗れたと聞いていますが」

「う……」

 

 うーん、これでは聞く耳を持たなくなるだろうな。正論で叩き潰しても人間納得はしない。相手をその気にさせるようにエンロールメントするのが一番だ。

 これまで頑張ったのに、評価されないという事は、努力の方向性が間違っているだけなのだ。別に三勇者がサボっていたわけじゃ無いだろう。効率よく強くなろうとしているに過ぎない。

 ただ、こういう育成系のゲームに『効率』をどの按分で追求するかは重要だろう。『効率的』過ぎるとステータスを犠牲にすることになる。尚文は効率よりも泥臭く解放していった結果なのだろうな。

 現時点で強化方法を共有していない勇者の差異はそこだろう。

 もちろん、言う気は無かった。

 

「この世界の者達は勇者様方が連携する事を提案しているのです。趣旨をご理解いただけたでしょうか?」

「……わかりました」

「そうだな」

「……わかったよ」

 

 やっぱり、納得はしてない表情だな。

 

「……やはり、ここは宗介さんに聞くべきだと思うんですよ。もともと勇者になる前から恐ろしく強いキャラではありましたが、教皇戦前に兵士を一人残らず殺害した強さはただ事ではありません」

「そうだな。投擲具の勇者にいつなったのかは知らないが、宗介は俺のパーティにいた時から強かった。その秘密を知りたい」

「そういえば、いつも持ってる強そうな槍はどうしたの? あれコピーさせてよ!」

 

 三者三様に聞いてくるな! 

 

「あーあー、最初に基本事項確認した方がいいんじゃないかなぁ? ほら、尚文は知らないかもしれないしさ! もしかしたら基本的なことに隠された重大な秘密があるかもしれないぜ?」

「今更確認しても……」

「ヘルプを見ろ」

「うーん、まあ確かに、カースシリーズなんて元々ヘルプにも載ってなかったしな……」

 

 気まずそうに各々が答える。

 まあ、円滑に進めるためにも、俺が口火を切った方がいいだろう。

 

「じゃあ、基本のキからな。勇者武器は素材の数やレベル、後は所有者の心理的状況……ゲーム的にいうならカルマ値とか友好度とかそんな感じの条件を満たすと、固有の武器が解放される。武器には固有技能があるものもあり、時間経過で解放される。習得した技能があった場合はステータスアップに置き換わる。オッケー?」

「ああ、その通りだ」

「間違いないな。ブレイブスターオンラインとは仕様が違ったが、問題ないだろう」

「僕たちもそうやって素材を吸収させてますしね。ディメンションウェーブとの違いは前の武器が残っていることですね」

「ヘルプに載ってることだな。まあ、心理状態によるってのは初耳だが……」

 

 他の勇者も同意する。

 

「じゃあ次は俺かな? 武器は同じ系統の武器を持つことで入手できるウェポンコピーシステムがあるよな」

「……は?」

 

 尚文が素っ頓狂な声を出す。

 

「ええ、これは大きな相違点でしたが、タダで強い武器が手に入って助かりました」

「ああ、俺たちは勇者だ。そういうこともある」

「みんなわかっていると思うけど傭兵の国ゼルトブルの首都にある武器屋の品揃えが良い」

「宗介はどうなんだ?!」

 

 尚文が聞いてきたので答えてやるか。

 

「投擲具はそもそもウェポンコピーが出来ないと使える武器種が増やせないからな。当然実装済だよ」

「なんだそれは?!」

 

 驚いた様子の尚文。まあ、この時点では知らないもんな。

 

「尚文さん。そんなことも知らなかったんですか? よく生きてられましたね」

 

 樹が煽る。尚文の表情筋がピクっと動いたのが見えた。言葉に命中を乗せるのやめてくれませんかねぇ……? 

 

「お前ら、自分で見つけたのか?」

「と言うよりも、店売りの武器を使うのは当たり前だろ? 最初は弱い武器だったし、強くしていくと言われても最初はな……」

 

 元康の言葉に頭を抱える尚文。そりゃ、盾で試すわけがないよな。

 

「規則事項で弾かれはしたけど、ウェポンコピーが出来て装備できたんだよな」

「ああ」

「ですね」

 

 尚文が苦虫を噛み潰したような表情をする。

 煽り以前に自分が気づかなかったことに対する悔しさだろうけどね。

 

「……話を続けてくれ」

「魔物は武器の素材になると同時に、武器の項目内で調べるとドロップアイテムが出る」

「!!」

 

 錬の解説に、驚きの声をあげる尚文。目が泳いで動揺しているのが見ているだけでわかる。

 

「なんか店じゃすごく高いアイテムもあるよな。在庫もあるようだし、この辺りは異世界って感じだよな」

「そうだな」

「ですね。魔物のドロップ頼りのものもありますよね」

 

 俺はアイテムエンチャント……元康の強化方法のほとんどにドロップアイテムを突っ込んでいる。

 ちなみ、ドロップにはG……つまりお金のドロップもある。と言うか、お金によるオーバーカスタムを知っているからこそドロップするのだろうけれど、それを使っての無課金強化ならしてはいる。

 

「後は道具の作成だよな」

「技能系ですね。これは元からありますよね」

「……一応詳しく」

 

 ちなみに俺はこれは活用していない。

 自分の手で作った方が品質がいいからだけれどな。

 これでも上級レシピの一部までなら自作できる。

 

「技能のレシピとスキルを習得したら武器に材料を吸わせてシステムで作るんですよ。しばらくすると武器から出てきます」

 

 ダメージを受けまくっている尚文。

 まあ、別に知らなくても強くなれることを尚文が証明しただけである。

 

「難点はドロップとか作ったアイテム以外取り出せないところだよな」

「そうだな。出し入れが簡単に出来ないのが問題だ」

 

 ため息をつく尚文。尚文にはかなりの収穫になったっぽいな。

 

「狩場に関しては一概に言えませんよね」

「そうだな……これは一覧を作れば良いが、このレベル帯だと適正な魔物を狩る事さえ守ればどこも同じになってくる」

「そうですね」

 

 全員が意見が一致するようだった。

 

「宗介さんはどこで狩りをしてるんです?」

「え、うーん、俺は人間を狩ってレベルが上がった口だしなぁ……」

「……聞いたのが間違いでした」

 

 なぜガックリするんだ? 

 一応狩る人間の経験値には傾向があるんだぞ! 

 クラスアップ前の人間の経験値はあまり高くない点、高レベルであるほど経験値の倍率が高い点、あと、俺特有だが波の尖兵はさらに倍率が高いのだ! 

 ……よく考えたら誰もやらないよなぁ。

 

「じゃあ、他に何かあるか?」

 

 尚文は俺をスルーして尋ねた。

 

「では、尚文さんは理解していないようなので特別に強くなる秘訣を教えてあげましょう」

 

 いつになく自信ありげな樹。

 

「この世界はですね、武器のレア度が全てなんですよ。付与とかはついでです。元が強くないと意味がないんです」

 

 あー、なんかそう言うのあったなぁ。

 確か、共有できない強化方法である。弓独自な感じかな? 

 むしろ、こっちとしては付与の方が重要である。

 

「ユニーク武器とかレジェンド装備とかそんな感じ?」

「はい。認識は間違っていません」

 

 少し試してみるか。

 信じてみるが、ダメでしたー。

 

「堂々と嘘を言うな!」

「最初は本当のことを言って途中で嘘を混ぜるなんて最低だぜ」

 

 毎回思うが、なんでこいつらここで怒るのかね? 

 武器独自の強化方法だと言う考え方はないのかね。

 

「な、何を言っているのですか! これが真実ではないですか!」

「いいや、嘘だ」

「そうだぞ。お前は嘘を吐くんだな」

「い、いや! 嘘なんて言っていませんよ!!」

「宗介もそう思うよな!」

「え、俺に振らないで。ご自由に続きを、どうぞ」

 

 俺の反応に、二人は気勢が削がれたのか、興奮して立っていたのに椅子に座った。

 

「宗介さん! どうなんですか?」

「え、いやー、だってねぇ。ゲーム違うなら強化方法も違うの普通じゃない? 逆に嘘をついてるって騒いでるお前達の方が滑稽だぜ?」

 

 ニヤニヤしながら言う。

 

「基本は同じなのに応用が異なるって言うのも変だと思いますが……」

「じゃあ、同一規格で異なる強化方法がある理由を考えたら良いんじゃないの?」

「ああ、宗介の言うことにも一理あるな。それじゃあ一応最後まで聞いておこうじゃないか」

 

 尚文が樹を促す。

 

「え、ええ。他には武器によってまちまちですが、鉱石を使って強化をするんですよ」

 

 鉱石強化はよく使うな。武器によって鍛えられる強さの限界値が変わってくるのだ。

 樹の強化にはアイテム必須で、アイテムからエネルギーを抽出して使用する系統が多いが、基礎能力を強化できるジョブレベルはオススメだな。

 

「最大数まで強化するのが鉄板です」

「失敗のリスクがあるだろ。そんな危険な嘘を教えるなよ」

 

 元康の強化はグラインダーで強化する旧生武器といったところだな。

 失敗すると入れの脳内で「ふむ、失敗じゃないかな」と幻聴が聞こえる。ちなみに大失敗で「素晴らしく運がないなぁ、君は」と聞こえる。

 樹の鉱石強化はモンハンの武器の強化だが、元康の精錬はPSO2だ。

 

「失敗なんてありませんよ!」

 

 尚文が混乱している。

 

「何いっているんだ? 強化に鉱石は必要ないだろ」

 

 うーん、俺が諌めたにも関わらず、やはりいざこざになってしまう。

 どうしようもないな、コイツら……。

 

「さっきから否定ばかり! アナタはどうなんですか、錬さん!」

「俺か? そうだな、正しい強化方法を教えてやろう。この世界はレベルが全てだ。何だかんだでレベルさえ高ければどうにかなる」

「錬」

「……武器を使えば熟練度と経験値が溜まる。武器のレベルさえ上げていれば強くなるんだ」

「嘘は良くないぞ」

「ええ! 澄ました顔で嘘を言うのはやめてください!」

 

 錬はやれやれといった表情で、なぜか俺を向いた。

 

「あの嘘吐きどもとは違ってちゃんとした強化方法を教えよう。武器にはさっきも言った通り、熟練度がある。この熟練度を変換するんだ」

「熟練度?」

 

 尚文が代わりに答える。俺は知ってるからなぁ……。しかも、実践済みだし。

 

「ああ、同じ武器を使っているとその武器は強くなるんだ。で、その武器が役に立たなくなった頃に熟練度をエネルギーに変換させる。そして新しい武器に付与すると秘められた力が解放される」

 

 これ、実はレアリティアップだけでは無くて技能の習得なんかにも使えるんだよね。『タイム・フリーズ』はまさにそれで習得したスキルだ。

 

「何を調子の良い嘘を言っているんですか!」

「気にするなよ。後は武器のレアリティを増加させれば完璧だ。失敗すると本来はなくなるんだがな。伝説の武器は大丈夫らしい」

 

 ちなみに、今までのものを全て実践するだけでもスモールナイフは恐ろしいほどに強くなる。スモールナイフは実験で色々と強化しちゃったからね。消費するライト鉱石もアルファ鉱石も少ないし、課金する金額も一番低い。

 SO4で鉄パイプを最強になるカスタマイズをして鉄パイプでラスボスを倒した俺としては、スモールナイフを強化するのは当然だった。

 

「なんて奴だ。クールな顔で外道だな。尚文と変わらねえ」

「なんだと?!」

「ええ、信じてはいけませんよ。嘘なんですから」

「見分けが付かん! どうやるんだ? 後俺は外道じゃねぇよ!」

「いや、この中で一番の外道は俺じゃ……」

「まずはツリーを開いて、使っている武器をチェックし熟練度を見るんだ」

 

 錬も必死なのか、いつも以上に丁寧に解説するな。

 普段からそれぐらいちゃんと説明しろよ! 

 

「何も起きないのだが……」

「そんな訳ない! 知っていて俺に嘘吐きの烙印を押すつもりだな!」

「俺もそんなものはないぜ」

「僕もですよ。ヘルプにありません!」

「な……もういい! 話した俺が馬鹿だった!」

 

 そりゃ、あると信じてないからな。

 尚文も疑っているため出ないんだろうな。

 錬は不快そうに腕を組んで椅子に座った。

 

「まだ僕の話は途中でしたね。武器の強化には他にもアイテムからエネルギーを取り出して武器に武器にパーセントを向上させるエンチャントを確立で行うんです」

「攻撃力10%みたいな?」

「ええ、これは振れ幅が大きいのですけれどね。失敗すると0になってしまいます」

 

 スモールナイフには、素早さ30%のエンチャントを付与している。首刈りが捗るのはだいたいこのエンチャントの所為だったりする。

 

「嘘だな。まったく。別のゲームの知識を尚文と宗介に教え込むなよ」

「だから嘘じゃありませんよ! 後は魔物やアイテムの力を武器に与えることでステータスがアップします。これは全ての武器に共通する、別枠のジョブレベルのようなものです」

「アイテムや魔物のエネルギーを使った基礎資質向上みたいな感じだな」

「そう捉えてもらっても構いません」

 

 なぜ、俺が口を挟むと「わかってくれるか」みたいな顔をするのかね? 

 

「はいはい、いい加減なことを言う樹と錬は置いておいて、次は俺だ」

「あんまり期待していないが……」

 

 と言っても、特化武器を作成するならば元康の強化方法は外せないからな。

 スモールナイフが首刈りナイフになったのも、この強化方法のおかげだ。

 

「ぶっちゃけこの世界は武器の精錬強化とステータスの高さこそ全てなんだ」

 

 ステータスの高さは共有できない強化方法だな。

 

「レベルよりも性能を最大限引き出せる特化したステータスがあれば問題ない。最悪、初期の武器だってちゃんと精錬すれば強い! 俺の装備ボーナスは全て攻撃力に特化させている」

 

 あー……コイツも俺と同じく初期の槍を強化してたのか。だから槍直しでレベルを1にされた時にも初期の槍で凄まじい強さを叩き出していたのか。

 でも、武器を鍛えられるなら初期の武器を最強武器と並び立つほどに鍛えたりしない? え、しない? そうですか……。

 

「大嘘だ!」

「ええ、尚文さん。騙されないでください!」

 

 元康は確信があるためどこ吹く風と言った感じだな。

 

「武器によって変わるがまずは精錬用の鉱石を調達して精錬することが重要だ。ただし、失敗すると本来のエメラルドオンラインじゃ武器の消失……ロストだ。だけど伝説の武器は精錬の値が0になるだけで済む」

「そんなのありませんよ!」

「ああ!」

 

 この精錬は、マジでアイツの顔が浮かぶ要素だ。強化値が上昇すればするほど成功度が下がる。10%が下限だ。「失敗じゃないかな?」

 

「後は目玉のスピリットとステータスのエンチャントだ。武器に吸わせた魔物の魂のかけらとアイテムによって効果は変わる。様々な恩恵が施されるんだ。例えば、宗介、お前の好きな対人用にするんだったら人間に与えるダメージアップを限界まで貼り付ける」

 

 スモールナイフには実践済みだ。

 ちなみに、魔物の死骸本体を入れた方がスピリットのエネルギーは高く入手できる。

 

「樹のに似たのが無かったか?」

「貼れる個数が決まっている。パーセントも固定だ」

 

 これは、スモールナイフだと結構枠が少ない。追加の枠は課金して購入しました。

 

「いい加減にしてください!」

「そうだ。別のゲームの話はうんざりだ!」

 

 最早会議どころではない感じだが、樹が俺を見る。

 

「そう言えば、宗介さんの話は聞いていませんね。参考までに聞かせてくださいよ。宗介さんの武器の強化方法」

「んー、必要?」

「僕たちだけ話してそれで終わりなんて無しですよ!」

「……じゃあ話すが、笑うなよ?」

 

 おそらく、笑われるな。俺の強化方法は()()()()()()()()()()()()()()()()からな。

 

「俺の強化方法は、課金だ。課金によるオーバーカスタム。例えば、枠を増やしたり失敗をなかったことにできたりする。この知識を知っている場合、ステータスの項目にGという武器に課金するための金額が表示されるようになり、モンスタードロップからもGを入手できるようになる。知らない場合はそもそもヘルプに記載されることもないし、Gの確認をすることもできない。それに、最大の欠点は、それ以外の強化方法がないため、ただの貯金箱と化してる点だ!」

 

 いやほんと、投擲具の勇者だけだと、本当に頭一つ抜けただけの冒険者にしかならないんだよなぁ……。

 俺の説明に、嘘だと糾弾される以前に哀れな目で見られてしまった。

 

「か、課金要素だけなのか……」

「しかも、課金対象が存在しないと……」

「……なあ、宗介。それでどうやって強くなるんだ?」

「知らんな」

 

 武器強化方法共有ぐらい自分で気付けって話。

 ちゃんと言っただろう? 同じ規格の武器で強化方法が異なる理由を考えろと。

 エクゼイド的にいうなら、錬がタドルクエスト、樹がバンバンシューティング、元康がマイティアクション、尚文が爆走バイクみたいなものだ。

 

「宗介、そう言えば、お前は盾の強化方法を知っていたな。四聖勇者の武器がそれぞれ4つあったが、そのうちの一つを教えてくれた。という事は知っているのか?」

「ははは、いずれその時になったらな」

 

 俺はお茶を濁す。

 知っているが教えるつもりは無いと言う意思表示だ。

 

「おい!」

「まあいいからいいから。最後は尚文だぞ?」

「宗介さん、そう言って誤魔化そうとしていますね!」

「そうだ。宗介は他にも知っているだろう? 宗介から情報を聞くのが一番重要な事だ。尚文は次でいい」

「それには俺も同意だ。宗介、お前が一番この中で秘密主義だからな。今日こそは腹を割って話してもらう」

「そうだぞ! 今こそ協力する時! なんじゃ無いかな?」

 

 お前ら、あんだけ嘘だヘチマだと罵り合っていたくせに、なんだこの協力関係は! 

 

「……俺の強化方法についてはちゃんと話したぞ?」

「なら、なぜ尚文の強化方法を知っている?」

「そりゃ俺が未来から……正確にいうならば、尚文が2012年の日本から来ているが、俺は2019年の日本から来ているからだな」

「本当か?!」

 

 尚文はうなづいた。

 

「ああ、宗介は俺とほとんど同じ世界から来ている。少しだけ差異はあるが、流通しているゲームも、漫画もほぼ全てが共通していた。連載終了になった漫画も、俺が期待していたアニメも宗介の世界ではすでにDVDで観れるようになっているそうだ」

「なるほど、宗介さんは尚文さんにとっての未来人なんですね」

「で、コイツもお前らと同じようにゲームじゃ無いが事前知識がある」

「ゲームじゃない?」

「ああ、小説らしい。だから、俺はお前に聞きたい。その小説では色々と先の展開が書かれてあるはずだ。それを話せ」

「……」

 

 周囲を見渡すと、全員の目が俺を見ている。

 うーん、話したく無いなぁ……。

 

「じゃあ、ネタバレ料金を請求します! みんなネタバレ嫌いだよね! 終了! 解散!」

「逃がさないぞ! 宗介!」

「ええ、メルロマルク女王としても、聞き捨てなりません。ソースケ様、お代はいくらでも出しますので、どうかお話になってください」

「グゲっ!?!?」

 

 変な声出た。

 身体中から変な汗が噴き出す。

 俺は脳をフル回転させて、ゼロ知識証明をするためにどうしたらこの場を切り抜けられるかを模索する。

 

「……じゃあ、4つだけだ。それ以上は何も答えない!」

「4つだけですか……」

「勇者一つずつって事だな」

「チッ! おい、絶対に致命的な内容を聞き出すぞ!」

「あ、もちろん、知らないこともあるから、その場合は答えられないって言うよ。もちろん質問権は消失します」

「はぁ? 全部話せよ!」

「全部話したとして、アンタら信じるの? ほら、早く質問してよ」

「ぐっ……」

 

 言葉に詰まる元康。

 シンキングタイムがスタートしたのだった。

 今こそ言おう! 四質問考案(フォークエスチョン・)円卓会議開始(シンキングタイムスタート)




宗介のせいで幾分か罵りタイムが減ってます。

アンケートがある程度行くまで更新待ってねー
127話に幕間を公開してます!


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勇者会議【中】

 しばらく、勇者四人で話し合う。何を話し合っているのだか知らないが、尚文が文句を言われているように見える。

 

「ソースケ様、私からも質問いいでしょうか?」

「ダメです」

「そこをなんとか! もちろん、一つの質問につき一つの回答で、金貨1枚をお渡しします」

「え、塵みたいな回答でもとっちゃうけど構いませんか?」

「はい、構いません」

「……うぐっ、お腹が痛くなってきた」

 

 一体何を聞かれるというのか。

 

「一つ目の質問は、オル……クズのその後です。彼はあのままなのでしょうか?」

「え、それ聞くの? う、ん、そうですね。ちゃんと『叡智の賢王』に再覚醒致しますよ。このまま行けばという条件が付きますが」

「そうなのですか! それは良かったです……」

 

 後ろから兵士が目の前に金貨を一枚置く。

 

「二つ目の質問です。マル……ビッチのその後です。あの子は更生しますか?」

「しません。無理です。諦めてください」

「そう……ですか……」

 

 途端に落胆する女王陛下。

 後ろから兵士が目の前に2枚目の金貨を積み上げる。

 

「最後の質問です。この世界は救われるのでしょうか?」

「知りません」

「なるほど、わかりました」

 

 後ろから兵士が三枚目の金貨を積み上げた。

 web進行ならわかるが、書籍+アニメ版進行だからね。流石に保証はできない。

 俺はお金を受け取ると、ゼニ袋に収納する。

 

「決まりました」

 

 樹を先頭に、勇者達が戻ってきた。

 

「結局決まりませんでしたので、それぞれ気になることを聞くことになりました」

「ふーん、で、どうするの?」

「それじゃ、まずは俺からだな」

 

 ドヤ顔で出てきたのは、元康だった。元康はどんな質問なのだろうか? 

 

「お前は何年先までの展開を知っているんだ?」

「小説の内容だから、正確に経過年数が描写されているわけじゃないけどいいか?」

「ああ、構わないぜ」

 

 しかし、なかなかにいい質問だな。やはり頭のいい大学に通っていた事はある。

 霊亀編までが1月、鳳凰が3ヶ月、タクト編で半月、それから、村の転移までが半月だと仮定するならば……。

 

「これからこの世界の時間で言うならば、5ヶ月後までならわかるかな」

「5ヶ月ですか……」

「意外と短いんだな」

「なるほどね。『この世界の時間で言うならば』ね」

 

 俺の回答に各自それぞれ感想を述べる。

 普段は完全無欠の馬鹿だが、こう言う事には頭が冴えるらしい。

 これで、錬や樹、尚文の質問の幅が狭くなったと言える。

 

「じゃあ次は僕が行きますね。僕の正義の行いは人々に良い影響を与えますか?」

 

 ブフッ! 

 おっと、失敬。

 元康の絶妙なパスを別な方向に蹴り飛ばす奴がいて、思わず吹き出してしまった。

 

「な、なんですか?」

「取り消しは聞かない。敢えて言うが、むしろ影響があると思っているの? ないよそんな物。せいぜい仲間から寝首をかかれないように気をつけるんだな」

「ぼ、僕の仲間を侮辱するんですか!」

「……ありえるな」

「ああ、特に宗介と仲の悪いアイツなんてその筆頭になりそうだ」

「尚文さん、元康さんまで!」

 

 まあ、樹の頭の悪い質問は置いておいて、次だ次! 

 

「次は俺だ。俺たちが強くなる方法を教えろ」

「んー、ちょっと微妙な質問だな。ふわっとした質問だから、ふわっとした回答をするぞ。武器を信じろ。相手じゃなくて、伝説の武器をね」

 

 これなら、正史に影響がなさそうな回答だな! 

 玉虫色の回答というやつだ! 

 

「……」

 

 俺の玉虫色の回答に、思わず顔が不快そうに歪む錬。おっと、これでもかなり重要なヒントだったんだぜ。許せサスケ。

 

「最後は俺だな。以前にも聞いたが勇者連中が居るから再度聞こう。波とはなんだ? 誰が何の目的でこんな事をしている?」

「ん、ああ、尚文は以前ある程度察してたっけか」

 

 俺が何かいう前に、樹が口を挟む。

 

「波とは世界を滅ぼす災厄ですよ。何を言っているんです?」

「波から世界を守る為に勇者が召喚されたんだ」

「そうそう、まあ、知らない尚文が聞くのもわかるがな」

「……」

 

 あー、まあ別にいいけど。

 

「うーん、『誰が』については俺もよくわからないんだよね。色々居るらしいから」

「色々居る?」

「それは尚文が頑張って解き明かしてくれ。俺もよくわからない」

 

 今回の犯人はまあ、わかってはいるが根本的解決にならないんだよね、アイツ強すぎるし。戦うべき相手ではない。

 そもそも、世界の守り方って、倒せる奴がやってくるまで耐え忍ぶことだし。

 

「で、目的なんだが『遊び』だな。暇つぶし、娯楽、まあ、なんでもいいけど、そういうもののために俺たち駒は弄ばれているのさ」

「はぁ?」

「……何を言っているのかよくわかりませんね」

「尚文は推理できているから言っちゃうけれど、波って『次元の波』だからね。世界と世界が激突した際に発生する世界の悲鳴が波で溢れる魔物な訳だな。俺もそのせいでこの世界に転移するハメになっちゃったしな」

 

 と言っても、尚文以外には伝わっていない様子だ。

 そりゃ、『自分がゲームのプレイヤーじゃなくって、キャラクターだ』って言っているようなものだしね。

 目にものを見せてやる兵器は俺は持っているが、色々と足りないしな。

 

「要領を得ませんね。何が言いたいんです?」

「尚文だけでなく俺たちにもわかるように説明しろ」

「一言で言うなら、『暇を持て余した、神々の、遊び』かな」

「え、つまり、ラスボスは神様って事?」

「こう言う勇者系統のお話だと、悪の神様を倒すのはありふれていると思うけれどね」

 

 そう、ありふれた職業で〜も世界をおもちゃにして遊ぶ神様がラスボスだしな。

 

「つまりは、俺たちはその神様を倒すために選ばれたって事か! ますます強くならなきゃな!」

「……宗介の話を信じるならば、だがな」

「……ええ。ですが、事実ならばもっと強くなる必要がありますね」

 

 まあ、勇者達が強くなる決意をしてくれればいいんじゃないかな? 

 

「じゃ、ネタバレ終了ね! あとは頑張って自分たちで情報を集めてね!」

 

 俺はサムズアップする。

 

「チッ、あの表情から見ると、核心情報は引き出せなかったみたいだな……」

「まま、これ以上はお金を積まれても話さないよ。どうせ自分たちで頑張れば入手できる情報しか喋っていないんだしね」

「ですが、ラスボスがどう言う感じなのかがわかっただけでも進展ですね。それを倒せるように強くなればいいだけですし」

「そうだな」

「ああ」

 

 決意を新たにする三馬鹿に、尚文はため息をつく。

 

「お前らさ、強くなる決意は良いが波で一回負けていることを自覚しろよ。下手をしたら死んでいたんだぞ」

 

 あー、ここでそれ蒸し返されちゃうわけ? 

 せっかく流したのになぁ。

 

「何を言っているんですか。あれはイベント戦闘ですよ。ソウルイーター戦までは普通の戦闘でしたが、あれは絶対に負けるんです」

「は?」

「いや、俺たち勇者とその仲間は負けたら治療院に運ばれるだけで済むんだよ。死にはしない。そう言う加護があるんだ」

「その証拠に、教皇の不意打ちを受けた時も僕達を治療院に運んでくれました」

「……俺は一度も負けてないからなんとも言い難いがな」

 

 改めて驚きの認識である。

 死んだら「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」と言って復活するイメージだろうか? 

 あと、錬は致命傷は追っていないし気絶していないみたいだが、負けは負けだからな。

 

「なんのことを言っているのでしょう? イワタニ様の言葉も時々分からないことがありますが、これはどう言うことですか?」

 

 女王陛下も目を白黒させていらっしゃるな。

 

「一応、俺がお前らの倒せなかった教皇を倒したんだが……」

「「弱職の尚文(さん)が倒せるわけがない。あのカースの盾のおかげだ」」

「あの盾を使えることを威張ってもダメだぜ。あんなの実力の内にはいらねぇからな」

「……」

 

 俺? まあ、憎悪の制御なんて難しくはない。

 目標を達成するコミットメントがあれば、例え憎悪に目が眩んでも強固な意志で行動できるからな。最後はレイファに諭されてバグってしまったが。

 

「そんなのどうでも良いから、最後に尚文が情報を開示する番じゃないのか?」

「その前にお前達に聞いておきたい。この世界はゲームじゃないんだぞ? 死んだら終わりだぞ!」

「ですから、僕達には加護があるんですよ」

「そうだぜ」

「……多分な」

 

 なんで錬だけ曖昧なんだろうか? 

 

「……そんな状況で俺を殺そうとしたよなお前ら? その場合はどうなるんだ?」

「どうって……死ぬんじゃないですか?」

 

 コイツらの理屈ってどうなっているんだろうか? 

 これは頭部に脳が入っているのか確認が必要ですね……! 

 

「俺はおかしいと思っていた。殺せないだろとかな。……そう考えると、奴らのやろうとしたことは無駄だったな」

「元の世界に追放だろ? やっぱ」

「元康! お前を追放してやろうか!」

 

 尚文が元康を威嚇した後にため息をつく。

 

「宗介はどう考えているんだ?」

「質問は受け付けてませんので」

「くっ、徹底してるな……」

 

 ま、人間楽して情報は得られないのだ。

 それに、一応槍直しの知識もあるが錬の道中や樹のクエストみたいに全く知識が役に立たない場面もある。

 安易にひけらかすものじゃないだろう。

 

「……とにかく、ゲーム感覚はいい加減やめろ! お前らが生き残れたこと自体奇跡なんだよ!」

「はいはい」

 

 元康の態度に苦虫を噛み潰したような表情をする尚文。

 必死度が足りてないよなぁ。

 カースシリーズを使う事を否定した元康はどこ行った? 

 

「とにかく、尚文さんの番です。こっちも手札を出したのですからちゃんと答えてくださいね」

「……嘘だと思っても責任を持たないからな」

 

 尚文は腕を組んで座り直した。

 

「まずは何が聞きたい?」

「ラフタリアちゃんとフィーロちゃんの強さの秘密だ」

「ああ、それは奴隷使いの盾と魔物使いの盾と言うシリーズにある装備ボーナス、奴隷と魔物の成長補正、ステータス補正と言う効果が強く関わっている。フィーロは他にフィロリアルの盾シリーズと言うので出た装備ボーナスの補正があって伸びている」

 

 盾専用の強化方法の一つになるかな。

 盾の仲間を補正する装備ボーナスが他の武器に比べてさらに数値が大きいのは、俺が投擲具を装備して実感した事だ。

 仲間シリーズが出てはいるが、レイファやリノアのステータスの伸びはラフタリア程ではないと思われる。

 俺は一時期剣の勇者の仲間だったのもあるし、日々の努力で基礎ステータスは伸ばしているので補正が入ったように見えるだけである。

 俺は勇者武器を使わなければ、今のラフタリアとはトントンぐらいだろう。

 

「そんな便利な力を俺の知るゲームの盾職は持っていない」

「些か信じられませんね。そんな便利な……言ってはなんですがチート性能の盾をどこで手に入れたんですか?」

 

 チートかな? 単に試していなかっただけだろう。

 樹や錬の世界には検証班って居なかったのかな? 

 運営だってバランスを取るために盾もそれなりに使えるようにしているはずだろうにな。

 

「奴隷使いの盾は奴隷の文様を刻む時に使うインク。魔物使いの盾はフィーロが生まれた時の卵の殻から出た」

 

 俺の推測を言うならば、奴隷の身体の一部で奴隷使いシリーズ、所有する魔物の一部で魔物使いシリーズが出現すると思われる。

 ちなみに、ラヴァイトの羽を吸収して魔物使いのナイフが出現している。

 

「ま、出どころが特定できているのなら試すのが手だよな」

「お前らにも出るとは限らないけどな」

「嘘かもしれませんよ」

「なんとでも言え。それこそ盾独自の強化方法かもな」

「それにしたってフィーロちゃんは不自然に強くなりすぎだ。前々から強かった気はするが、その次元を超えていきなり強くなった気がしたぞ。何があったんだよ」

「ああ、それは元康、お前から逃げている最中に、三勇教に所属している貴族が封印されていた魔物を解き放ってな……」

「そう言う話を聞いたな。尚文がやったと聞いたが……」

 

 ちなみに、俺は聞かなかったかな。

 女王陛下が口を挟んでくる。

 

「いいえ、調査の結果、その地を任せていた悪政を敷く貴族がイワタニ様に敗れた現実を認められずに解き放ったとの話です」

 

 ああ、そんなことがあったんだっけか。噂自体は入ってはきていたが、兵士とかから全く情報が入ってこなかったのは、俺が教会の敵だったからだろう。

 

「女王、隣町の貴族はどうなった?」

「事件解決によって、現在は領地へと帰還しようとしている最中です。僅か数日の事でしたが、体力が落ちているので療養させようと思っております」

「そうか……」

 

 女王陛下も尚文の汚名をそそぐと誓約しているからな。口を挟まずにはいられないのだろう。

 

「その解き放った魔物がなんなんですか?」

「その魔物を人がいない場所に誘導してから戦っているとフィロリアルの女王、フィトリアという奴がやってきて魔物を倒した後、不思議な力で俺達を安全な場所に転移させたんだ」

「転移ですか?」

「道理で……突然、足取りが掴めなくなったと思った。が、怪しいな」

 

「ですが、転移スキルならあるじゃないですか。尚文さんが知らないのは逃げ方を見た感じでわかりましたけど、どこかで調達したのかと思いました」

「俺はあの後捜索に加わってないからな。詳しくは知らないが、樹の言う通りじゃないのか?」

「う、む……まあ、尚文の足取りが突然消えたのは事実だしな……」

 

 樹の言葉に錬がうなづき、元康も渋々といった様子で了承する。

 

「え? あるのか?」

「ええ、ありますよ。僕のは転送弓というスキル名ですが。登録した場所にパーティーメンバーと一緒に飛べます」

「俺のは転送剣だな。効果は同じ」

「ポータルスピアだ。そんなことも知らないのか?」

「……未開放だ。どっちにしても俺は習得は無理だな」

「初耳だよ!」

 

 波は世界各地で起こっている都合上、知っていれば自然と想定がつきそうではある。

 

「武器の解放条件はレベル50とやや高めですけど」

 

 と、尚文が渋い顔をする。この頃はレベルがまだ39とかそこらだったはず。

 

「素材は?」

「龍刻の砂時計の砂」

「そう……、って、んな重要そうなもの、よくくれたな!」

「頼んだらくれたぞ」

 

 と、尚文は苦笑いをする。いや、百面相ですな。

 

「で? 転移先で何があったんだ?」

「そこでフィーロに対して戦闘の稽古をつけてもらった後、フィーロは大幅に能力が上昇する力を授けられたんだよ。あと、勇者同士は仲良くしろとか説教をされた。守れなかったら殺しに来るらしいぞ」

 

 ふむふむ、俺が関わらないと原作通りに物語が進行するんだな。

 

「そうそう、宗介。お前も会っていたんだな。次裏切ったら殺すと伝えてくれと言われたぞ」

「ふぁっ?!」

 

 変な声が出た。

 

「宗介も会っていたのか……」

「目撃者が二人もいるんだ、それでも嘘だというのならフィーロと戦うか? クラスアップして能力はさらに上がったからもっと強いぞ?」

 

 フィーロはすでに化け物クラスだしなぁ……。特に盾の勇者が育てた魔物だ。恐ろしく強いことが想像に難くない。

 

「いや……そこまでは……」

「ほかに聞きたいことはあるか?」

「そうですね、では、盾の強化方法を教えてください。僕たちだけ教えたのに、尚文さんが言わないのは不公平ですからね」

「……俺の強化方法は宗介曰く3つあるらしい。そのうちの一つが『信頼ブースト』だ」

「信頼ブースト?」

「ああ、ヘルプによると、その勇者をどれだけの人間が信じ、勇者はどれだけの人間を信じているかがステータス画面で見れるようになる。その数値に合わせて武器の強さに強化値として加わるらしい」

 

 そう言われて、確認をする勇者達。そもそも、信頼していない・自分の強化方法はそれしかないと思い込んでいる以上は無理だろう。

 

「そんな項目無いぞ?」

「俺も宗介に教えられるまではそんな項目はなかった。知ることがキーになったんだろうな」

「知ることが? 宗介が言ったことだと思うが、到底信じられないな」

「おそらく嘘ですよ。そんな下手くそな嘘で僕たちを騙せると思わないことです。嘘をつくなら元康さんや錬さんみたいに上手く嘘をついてください」

「宗介」

「俺は言ったはずだ。それ以上はないよ」

「お前がいうのか! この大嘘吐きの偽善者!」

「なんですか! それを言ったらアナタはクールを気取ったカッコつけではありませんか!」

「そうだそうだ!」

「「お前は女好きの馬鹿じゃないか! また女で身を滅ぼす気か!」」

「なんだと!」

「お前ら! いつまでゲーム感覚で勇者ごっこをしているつもりだ。死んだらおしまいなんだよ!」

 

 ここから先は、ただの暴言大会だった。

 黙って見守っていたら、なぜか俺まで槍玉に挙げられ、情報を教えろと吊るし上げられてしまった。

 喋るわけないじゃん。

 女王陛下も止めようと口を挟んだがすでにヒートアップしたこの罵詈雑言大会を止められる筈もなく、と言うか女王陛下って正論しか言わないのでますます火に油を注いでしまい……。

 言い争いは、ドンっと音を立てて切迫した様子の兵士が部屋に入ってくるまで続いた。

 あーあ結局もう滅茶苦茶だよ。

 

「どうしました?」

 

 突然の登場に勇者達はポカーンと、一瞬だけ頭が冷静になったらしい。

 苦しいからヘッドロックするのやめてくれませんかねぇ、元康! 

 

「勇者様の仲間達が言い争いを始めました!」

「何?!」

 

 また、燻製か……。壊れるなぁ。

 俺達は急いで階下に向かった




台風やばいですね
みなさん気をつけてくださいね。


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勇者会議【下】

 勇者様方とソースケが会議に行っている最中、私達は連携して戦う為の話し合いをすることになっていた。

 弓の勇者の仲間からの自己紹介が始まり、レン様、私達の順に(つつが)無く進行する。リノアさんは尻尾を隠しているのは、ここが人間至上主義の国だからという事らしい。リノアさんは獣耳ではないので尻尾さえ隠して仕舞えばわからないのは事実だ。

 私達のパーティはソースケだけが突出して強い。

 ソースケは勇者武器を装備している場合はそれこそ鬼神のように強いし、装備していない場合でも今の勇者様方よりも強いのは確かである。

 リノアさんの役目はブーメランを使って近接・遠距離攻撃で、亜人だからか反応もすごい。元がレジスタンスで頑張っていたお陰か、判断力もある。

 アーシャさんは元影と言う感じで、消えるように動くし、暗殺が得意だ。

 ライシェルさんは理想的な前衛といった感じで、盾を使い攻撃を受け流し、剣でトドメを指すと言った戦い方をする。熟練した腕前の持ち主だ。

 私は主に回復魔法での支援と、風魔法での攻撃をしているけれど、ソースケに大切にされすぎている感じはする。

 嬉しいんだけれど、私は私でソースケの役に立ちたいから、ちょっと思うところはある。

 

 次に、槍の勇者様の仲間が自己紹介する。

 槍の勇者様に連れられて、ま……ビッチ王女が戻ってきた為だ。

 あれだけの醜態を晒して処刑を免れたのに、すぐに盾の勇者様を毒殺しようとするのは、人として少しおかしいのではないだろうか? 正直、異常だと思う。常識が無いどころの話ではない気がする。

 エレナさんはビッチ王女やレスティさんに合わせた感じで自己紹介している。

 

 そして、問題が起きたのはラフタリアさんが挨拶をしたときだった。

 

「私はラフタリアです。盾の勇者であるナオフミ様の剣です」

「ふん、汚らわしい亜人風情が何ができるというのだ。ポンコツ勇者の盾如き、怯えて隠れて居れば良いというものをな! 世界はイツキ様が救われるのだ。盾の席など無い!」

「なっ?!」

 

 マルドさんは傲慢というには異常だと私は思う。

 普通の感性を持っているとは到底思えなかった。

 確かに亜人を排斥する思想は、メルロマルク国民は幼い頃から教会で教えられるけれど……。

 

「それに、お前ら亜人や魔物どもと連携などできるわけがなかろう。人間様に知能で劣っておるくせになんの実りもないわ」

「そうよ。彼の言うとおりですわ。盾の悪魔などこの世の害悪! 眷属の亜人如きと連携など無理ですわ。いつ背後から襲われるとも知れません!」

「そうだそうだ! それにあの犯罪者の仲間の女どももムカつく。なぜイツキ様を崇拝せずにあんな犯罪者を慕っておるのだ? 感性が常人とは思えんな!」

「たしか、ルルロナ村だったかしら。どうせ汚らわしい亜人共の住んでいた村です。滅んで正解でしょうに。肥溜めのような匂いがしていたに違いないわ!」

「そうよ! ま……アバズレの言うとおりよ!」

「それに、鳥。まったく、モトヤス様の気に入るような容姿をしているなんて多少は考えたようだけれども気色悪いわ。鳥は鳥らしくグアグア鳴いて人間に使われているのがふさわしいのよ!」

「そうだそうだ! 王女の言う通りだ、亜人の娘!」

「メルティも、私よりママの顔色を見て取り入るのが上手かっただけのクズですわ。そう、ビッチという名はメルティの方が相応しいわね!」

「マ……ビッチ王女、マルド殿、おやめください!」

 

 ライシェルさんが割って入るが二人の暴言は続く。

 

「それにしても、あんな盾の悪魔のような不細工が好みなんて品性もありませんのね! 流石は亜人ですわ!」

「そうだそうだ! 弱職の盾如きがたかが一つ手柄を立てたからと言って偉そうにしおって! 世界を救うのはイツキ様と決まっておるのだ!」

「……言わせておけば!」

 

 ラフタリアさんが反論し出す。

 

「ナオフミ様を悪く言うなんて! 訂正してください!」

「ハッ! 誰が!」

「弱職の盾は身の程を弁えればいいのだ!」

 

 私は反論しないのかと言われたら、この人たちを既に見限っている為、怒りすら湧かないと言うのが正直なところである。

 マルドさんは、最早話なんて通じる人じゃ無いし、マ……ビッチ王女も同じような人だ。

 正直、関心が湧かない。

 少し前だったらラフタリアさんのように反論をしたかも知れないけれどね。

 

「今すぐ訂正してください!」

「イヤよ。あんな不細工、アイツは世界の害悪よ。私の目に狂いはないわ」

「それは貴女では無いのですか!?」

「ふん、流石は弱職の盾の仲間の亜人よ! 流石は弱職の癖に傲慢な奴の配下だな! 程度が知れるわ!」

「ナオフミ様を悪く言うのは許せません!」

 

 ついに、ラフタリアさんは剣を抜く。

 合わせてマルドさんも斧を構える。

 

「今すぐ訂正しなさい!」

「ぬかしおる! ぐおっ!」

 

 ついに乱闘が始まってしまった。

 当然ながら便乗するビッチ王女とレスティ、弓の勇者の仲間はなぜか私たちの方に攻撃を仕掛けてきた。

 

「犯罪者の仲間などここで懲らしめて、イツキ様の素晴らしさを叩き込んでやりましょう!」

「ちょ! 何考えてんのよ!」

 

 リノアさんが剣士の方を、ライシェルさんがカスクさんの剣を受け止める。

 ちなみに、アーシャさんは無視されている。強いのがわかっているからだろうか? 

 それからもう、完全に盾&ソースケVS槍&弓の様相になってしまった。

 私はレン様の仲間に守ってもらいつつ、怪我したらいつでも回復魔法を出せるように準備していた。

 

「ふん。汚れた亜人と魔物の娘との連携なんてしていたら、命がいくつあっても足りないわ!」

「じゃあ今すぐ死にますか? 騒ぎを起こした罰です」

 

 女王様の声が聞こえると同時にビッチ王女の胸の奴隷紋が浮かび上がる。

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

 ビッチ王女の叫びと女王様の声で、乱痴気騒ぎとなっていた会場は静まり返った。

 ビッチ王女は痛みで床を転げ回る。その様子にマルドさんが驚き、女王様を見て青ざめる。

 

「まったく……どうして騒ぎを起こすのですか……」

 

 女王様は痛みで転がるビッチ王女を見下ろしている。

 

「退け、間抜け!」

 

 ソースケはリノアさんに斬りかかっていた剣士を蹴り飛ばし、頭を地面に押さえつけてナイフを突きつけていた。

 

「てめぇ、何やっている? ロージル」

「ひぃ?!」

「涼しい顔して何やってると聞いてるんだ!」

「ぐっ……!」

 

 ソースケはガイーンっと、鎧が響くように兜を鳴らす。

 

「ぎゃああああああ!」

「リノア、ライシェルさん、大丈夫だったか?」

「う、うん。あ、ありがと。助けてくれて……」

「ああ、いや、すまない。こうなる前に止められればよかったのだがな」

 

 私はソースケのところに駆け寄る。

 

「レイファ、無事だったか」

「うん、ウェルトさん達に守ってもらったから大丈夫だよ」

 

 ソースケは私の頭を撫でる。

 流石に恥ずかしいけれど、ソースケの癖みたいなものだろうか? 

 と、ここでソースケに追いついた弓の勇者が仲間に注意をする。

 

「ダメですよ。この方々は世界を救うための勇者仲間なんですから!」

 

 流石の弓の勇者も、自分の仲間が問題を起こしたことに困惑しているのか本気の口調で注意をする。

 

「ですがイツキ様、この者たちは各地で問題を起こしているではありませんか。特に犯罪者は!」

「尚文さんについては無罪が証明されましたし、宗介さんに関しては恩赦で赦されています。ですから、宗介さんは仕方ないにしても仲良くしてください」

 

 マルドさんとソースケが仲良くなることは、弓の勇者でも諦めている様子だった。

 

「……わかりました」

「マイ──アバズレ! 娘になんて仕打ちをするんだ!」

「問題を起こしたから処罰しました。ただそれだけですよ。もちろん、マルド殿にも騎士としての給与を減俸いたします。話を聞く限り、我が娘とマルド殿の方に問題があるようですからね」

「うぐっ!」

 

 女王様は口元を扇子で隠して答える。槍の勇者様は不快感を露わにして思いっきり睨んだ。

 

「おい、元康。リノアやレイファも狙われたんだが」

「ええっ!?」

「モトヤス様、それはマイ──アバズレではなく、弓の勇者様の仲間が狙ったようでした」

「そうなのか! ……くっ!」

 

 ソースケの煽りに槍の勇者様は何を思ったのだろうか、苦虫を噛み潰したような表情をする。

 

「キタムラ様、よくお考えください。治療院から帰ってきたその足で、こんな騒ぎを起こしたのですよ?」

「……」

「先ほどの言葉をお聞きになりましたか? どちらが悪いかは明白かと思いますが?」

「……」

 

 槍の勇者様はビッチ王女をお姫様抱っこすると、私のところにやってくる。

 

「……レイファちゃん、リノアちゃん。巻き込んでしまって申し訳ない。今度埋め合わせをさせてもらうね」

「は、はぁ……」

「それじゃ」

 

 槍の勇者様はそれだけ言うと、会場を去っていった。槍の勇者様の仲間も後に続く。

 弓の勇者は自分の仲間をなだめている。

 女王様はその様子にため息をつくと、こう宣言した。

 

「今宵は一旦、宴を取りやめましょう。後日、余裕があるときにでも再度連携に関して話を進めるとしましょう。勇者様方が同席しているときに」

「そうだな」

「概ね同意だ」

 

 盾の勇者様とレン様は女王様の言葉に同意する。

 弓の勇者も頷いて、仲間を押しながら会場を去る。

 

「……俺としちゃ、このまま第2回は絶対無理だな。燻製がいる時点で同意できない」

 

 ソースケはそう言って私の頭から手を離し、ウェルトさん達にお礼を言いにいった。

 

 

 こうして、第一回勇者会議は大失敗の様相を呈して終了したのだった。

 

 

 夜、ノックがしたので出ると、錬が訪ねて来た。

 

「宗介、聞きたいことがある」

「どうした? こんな夜中に」

 

 俺がそう聞くと、答えてくれた。

 

「今日言っていた俺の強化方法は試したか? 一応、確認をしておきたくてな」

「どうしてまた?」

「他の連中の強化方法は嘘だと思っている。だが、課金しかできないお前なら俺の強化方法を実践することは可能じゃ無いかと思ってな。試してみたらどうだと忠告に来た」

 

 あっさり断言するなコイツ。

 まあ、俺の事を気にかけてくれているんだろうけれども。

 

「錬は課金は試したか?」

「課金か……。確かにブレイブスターオンラインにも課金システムはあったが、1ヶ月1050円だぞ。追加購入はしなかった」

「ああ、そうなんだ。基本プレイ無料じゃなかったんだ」

「ああ、システムがその分凝っていたしな」

 

 しみじみと答える錬。

 

「だが、課金ならば最初に試しはしたさ。メダルの剣が出ただけだったがな」

「素材として吸収されたのね……」

「ああ、でだ、宗介。お前は俺の強化方法は実践したのか?」

「ああ、既にしてあるぞ」

「やはりな。宗介の武器なら一つぐらいだったら使えるだろうと言う予測は当たりだな」

「錬も課金ぐらいもう一回試してみたらどうだ?」

「検討しておく。それじゃあな、強くなれよ。俺は追いついて見せるから」

「お、おう……」

 

 勝手にライバル宣言をして去っていく錬。

 なんだかなぁと思いつつ、俺は部屋に戻ったのだった。

 

 ちなみに、俺たちが乗る船は4日後の港町ロラの定期便である事は会場を去ってしばらくした後に兵士から教えてもらった。




風邪で寝込んでました。
アニメ版の乱痴気騒ぎと書籍版の展開を混ぜた感じにしています。

次回からはいよいよカルミラ島編!
レイファとリノアの強化を頑張りましょう!

ロラからの出港の時間を錬から教えてもらうのはいくら考えてもおかしかったので「この時に」は「ちなみに」に戻して追記しました。


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エピローグ

「さて、今後の方針について話し合うとしますか」

 

 俺がそう提案すると、部屋にいる全員がうなづいた。

 メンバーはもちろん、レイファ、リノア、アーシャ、ライシェルだ。

 

「と言っても、我々は基本的にソースケくんに着いて行くので、話し合う意味はないかと思うのだが……」

「んー、まあそうだよね。とりあえずは勇者達と共にカルミラ島に行って、レイファとリノアの特訓をする事になると思う」

 

 特に、レイファにはちゃんと動ける必要がある。

 一応、合気道の稽古はつけているけれども、逃亡生活やら何やらで腰を据えてやってきてはいなかったので、魔物との戦い方も含めて練習する必要があった。

 

「特訓って、私、人を殺したいなんて思わないんだけれど……」

「ああ、まあ基本的にレベル上げだよ。勇者のパーティメンバーだと経験値に補正が入ってレベルが上がりやすくなっているから、カルミラ島の上限である80までは普通に頑張れば届くと思うし」

「そ、そうなんだ。まあ、魔物なら問題ないわ。レイファも一緒に上げるの?」

「ああ。俺だって強いけれど万能じゃない。今回みたいにパーティを分ける必要がある場合が起きたら、俺じゃ守りきれないからな。だから戦い方を含めて、二人には特訓してもらうつもりだ」

「うん、わかった! 頑張るよ!」

 

 レイファの意気込みがすごいな。

 やる気のある事は喜ばしい事だ。

 元々ドラルさんと共に狩りもやっていたし、魔物を殺すことにも抵抗がないしね。

 どっちみち俺は波とも戦う必要がある。絆の世界には行かないだろうが、他の世界には行く必要があった。その為にも仲間にはちゃんと力をつけてもらう必要がある。

 

「うん、で、レイファには俺と共に新しい魔法を覚えてもらうことになる」

「新しい魔法?」

「そう、魔物の魔法である竜脈法だ」

「魔物の……魔法……?」

 

 まあ、嫌な顔するよね、うん、わかっていた。

 

「と言っても、昔の人は使えたらしいんだけれどね。失われた魔法と言った方が正しいかな」

 

 普段の魔法がオドを使う魔法ならば、竜脈法はマナを使う魔法だ。人間ならば竜帝からの祝福を得て使用できる魔法である。

 

「これは俺も習得する予定だから、レイファにも覚えて欲しいんだ」

「うーん……、そう言う事ならわかった」

「私は?」

「リノアも覚えたいなら」

「それなら私も付き合うわ」

「ソースケ様、私はどうでしょうか?」

 

 アーシャは正直、今のままでも十分強い気がする。

 だが、この勇者の成長補正も期間限定だ。

 

 隠密の娘はあまり得意にはならないだろう。地ではなく天の属性を持つゆえにな。

 

 なるほど。

 

「アーシャはどうやら習得難易度が高いらしい。だからアーシャには戦い方をレイファに教えて欲しい」

「わかりましたわ。ソースケ様の命ずるままに」

 

 うーん、なんでこうなった。

 正直、アーシャにここまで忠誠を誓われる謂れはない。

 

「ライシェルさんは、リノアの方を見て欲しいかな。熟練の騎士だし前衛の知識をうまく教えれる気がする」

「良かろう。で、ソースケくんはどうするのかな?」

「うーん、俺はこのチームでの連携の練習かな。と言っても、俺は中衛向きの性格しているし司令塔をしながら適宜動くことになりそうだな」

「……そうだな。ふむ、ならばボス戦……と勇者達が言うが大物と戦う時にでもその連隊を確認して、小物は俺たちで戦ってレベルを上げるのがいいだろうな」

 

 俺はうなづいた。

 俺がオールラウンダーなのはそうだが、それ以外のメンバーは役目がある程度決まっている。

 ライシェルとアーシャが前衛、リノアが中衛、レイファが後衛兼後方支援となる。

 ならば、チームの連携を確認するのは重要だろう。

 

「オッケー。それじゃあカルミラ島でやることは決まったな。後はレイファとリノアは装備の新調が必要になりそうだから、親父さんの店に行こう。アーシャは、……今のところ必要な情報は国外の、それもフォーブレイの皇子であるタクトの動きぐらいだな。こいつをメルロマルク国内で軽めに集めてきてくれ。最長でロラに4日後に到着してればいい。最短で今日中だ。盾の勇者の尚文が出発した後に俺らも出る」

「わかった!」

「いいわ」

「かしこまりました」

「ライシェルは……そうだな、仕事があるだろうし、引き継ぎが終わったら合流という感じで」

「私は既に引き継ぎは終えているんだがな。……そうだな、元部下の様子を見に行くとしよう。現在は治療院にいるはずだから、見舞いに行くことにするか」

「うん、それじゃあメルロマルク出発は15:00予定だ。それまで各自必要な準備をしてくれ。解散」

 

 そんな感じで俺たちは、各自行動をすることになった。

 眷属器は四聖に近づいても経験値が入らないという弊害は無いんだよね。だから、どの島で経験値を稼いでも問題はない。

 ただ、樹や元康と一緒に狩るのは俺の精神衛生上ダメだろう。

 樹には燻製が居るし、そもそもあいつらは横取りするからな。

 元康のそばにはヴィッチが居る。

 すなわち、近くに居るべき勇者は決まっているだろう。

 

 さて、親父さんの店だが昨日来たばかりだな。

 

「いらっしゃい。あんちゃんか。今日はどんな用だ?」

「仲間の武器を見繕って欲しくてね」

「いいぜ。ブーメラン使いの嬢ちゃんと、お嬢ちゃんだな」

「私はリノアよ。よろしく」

「レイファです! ソースケがいつもお世話になっています」

 

 レイファ達がそれぞれ自己紹介をする。

 

「おう、それじゃ、手を見せてみな」

 

 親父さんに言われて、リノアとレイファはそれぞれ手を見せる。

 

「ふーん、なるほどね。ブーメランの嬢ちゃんはそれなりに熟練、お嬢ちゃんは武器すら握ったことが無いと。ならば、ブーメランの嬢ちゃんは店売りだがこっちのブーメランを使った方がしっくりくるかもな」

 

 親父さんはそう言うと、大型の魔法鉄製ブーメランを取り出す。

 

「エアウェイク加工がしてあるから、軽いし扱いやすいはずだ」

 

 俺が受け取ると、装備が投擲具に切り替わりウェポンコピーが作動する。

 詳細は伏せるが、なかなかいい装備のようだ。

 まあ確かに、ブーメランって投擲具だしね。

 

「ふーん、やっぱり親父さんは腕がいいんだな」

 

 俺が渡すと、リノアは軽く振って見て、驚く。

 

「確かに……すごくしっくりくるわ!」

 

 親父さんは次に魔法杖を取り出した。

 赤黒い木が複雑に、意味ありげに絡み合い、先端にエメラルドの宝石が取り付けられている。絡み合っている木にはそれぞれ紋様が刻まれており、魔力をブーストする機構なのだろうということを予測させる。

 結構スマートな見た目をしており、インテリアとしてもおしゃれな感じだ。モダンアートみたいな造形をしている。

 

「んで、お嬢ちゃんにはこっちの魔法の杖なんてどうだ? 魔法屋の婆さんのところでも取り扱っているが、ここで作っているんでね。木の絡み具合と先端の宝石が魔法をブーストする仕組みになっている。エメラルドを使っているから、風魔法と相性が良いはずだぜ」

「ありがとうございます!」

 

 うーん、レイファが途端に魔法少女に見えてきた。

 服装は村娘のそれなんだけれどね。

 

「後は、軽めに防具を着たらいいだろう。サイズを教えてもらえれば、調整しておくぜ」

「それじゃあお願いするわ」

「おうよ」

 

 リノアは親父さんにサイズを言うと、新しい防具を購入した。

 要所要所は固く守られているが、かなり動きやすそうな防具である。

 

魔法鉄の胸当て

 

「もうちょっとレベルが高くなるとオーダーメイドが良いんだけれどな。カルミラ島に行くんだろ? 時間がある時にでも注文してくれよな」

「ああ、いつもありがとう」

「良いってことよ。それじゃあお代を頂こうか」

 

 俺は親父さんに今回の料金を支払い、武器屋を後にした。

 防具やブーメランは、リノアから下取りに出して良いと言われたので(あっても荷物だしね)引き取ってもらう。

 

「ありがとよ。またのお越しを待ってるぜ」

 

 次は、龍刻の砂時計に向かった。

 そこで砂をもらい入れると、スキル、ポータルスローが内包された龍刻シリーズが解放される。

 こうして俺たちは、カルミラ島へ向かう準備を進めたのだった。




こんな感じで一旦区切りにします。
しないと章的に長くなりそうですしね笑
次回からカルミラ島編です。


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オイラはドラゴンじゃねぇ! フィロリアルだ!
プロローグ


ラヴァイト編開始!


 さて、俺には……俺とレイファには飼っているフィロリアルが居る。

 ラヴァイトだ。

 ライトグレーの色をして、元がフィロリアル・アリア種の馬車を引くのが大好きな鳥……。

 遠い昔の爪の勇者の遺伝子から生まれた子の末裔の一羽である鳥だ。

 人懐っこくて、優しい性格をしたそいつが、何の因果かフィロリアル・キングになってしまった。

 俺は四聖勇者が主人となったフィロリアルがキング・クイーンになるものと思っていたが、どうやら間違っていたらしい。

 

 そもそも俺は投擲具の正当な所有者ではない。

 波の尖兵……勇者武器の不正所持者を殺した結果手に入れただけの、勇者武器の不正所持者である。

 実際、不正入手した直後のラヴァイトはフィロリアルのままであった。

 それがフィロリアル・キングになったのは、俺がカースシリーズの憤怒を発現させて以降であった。

 

 これは、俺が正式な所有者になってしまったと言うことだろうか? 

 黙して語らない投擲具の精霊は、一体何を考えているやら。

 話の始まりは、そんなラヴァイトが人化をした時に始まった。

 

「ゴシュジンサマー! ソースケー!」

 

 裸の、天使の羽を生やした筋肉ムキムキマッチョマンの変態が、ライトグレーの天使の羽を背負い、俺たちの前に姿を現したのだ! 

 

「きゃああああああああああああ!」

「ひあああああああああああああ!」

「……」

 

 首から下はマッスル。まるでボディビルを極めたような肉体と、キングサイズのナニをぶら下げた大男。だが顔は幼く、くらぶるっ! のビィ君を人間の顔に変化させたような感じの顔をしている。髪の毛はライトグレーだが、髪型のイメージはグランか。そして声は釘●理恵を想起させるような声質をしている。

 不気味なナマモノがそこには存在していた! 

 

「ラヴァイトか?」

 

 俺が聴くと、そいつは首を縦に降る。

 

「うん、オイラ、いつまで経ってもゴシュジンサマやソースケが迎えに来てくれないから、探していたんだ! 元の姿じゃ通れない道とかあったから、この姿で探してたんだよ!」

 

 俺の脳内でビィ君が……るっ! のビィ君が飛び回っていた。

 

「お、おう。とりあえず、元の姿に戻れ。二人が怯えているだろう?」

「はーい!」

 

 ボフンっと元のフィロリアル・キングの姿に戻るラヴァイト。

 

「え、ら、ラヴァイト?!」

「うん、ゴシュジンサマー。オイラ、寂しくて探したんだよー?」

 

 元の姿になったと言うのに、レイファやリノアは怯えたままだ。

 

「そ、ソースケ! ソースケよりデカかったわよ!」

「は? 待てリノア、何を言っているんだ?」

「お◯ん◯んが! お◯ん◯んが! おっきかったわ!」

「落ち着け!」

 

 バシンとリノアの頭を叩く。

 レイファは撫でて欲しそうに頭をスリスリしてくるラヴァイトに固まっている。

 

「ラヴァイト」

「なーに? ソースケ」

「とりあえず、レイファから離れようか?」

「ソースケが撫でてくれるのー?」

「ああ、撫でてやるから離れようか」

「わかったー」

 

 ラヴァイトはそう言うと、レイファから離れる。

 

「リノア、レイファのケアを頼む」

「ねぇ、ソースケ! 殴るなんてひどいじゃない!」

「リノア!」

「うー、わかったわよ」

 

 俺はラヴァイトを撫でながら、どうしようかと考えるのだった。

 まあ、行き着く先は魔法屋の婆さんのところに行く事だったが。

 

「リノア、とりあえず、何で俺のよりデカい事を知ってるか詳しくな?」

「え、も、黙秘権を行使するわ!」

 

 リノアは恥ずかしそうにそう言った。

 いや、眠姦されたの? 

 アーシャは警戒しているので夜這いしてきたらすぐに起き上がれるが、リノアは盲点だった。ブラックリストにぶち込んでおく事を決めた。

 

 さて、魔法屋に入り早速相談をする。

 

「あらまあ、盾の勇者様のフィーロちゃんと同じような子も居たんだね。それじゃあ魔法の糸を早速だけれど紡いじゃおうかね」

 

 話が早くて助かる。

 代金として銀貨10枚を支払い、早速ラヴァイトに糸を紡いでもらう。

 ラヴァイトには、人化しないように言っている。

 何故ならば、俺よりデカいので隠せるものがないのだ。

 それに、ラヴァイトが人化すると、特に女性がヤバいことになる。

 

「オイラ、こう言うのは好きだぜー。だけどなんか力を吸われるみたーい」

「我慢しろ。とりあえずそれでお前の服を作ってもらうから」

「んー、よくわかんないけど、みんなが体を覆っている布のことー?」

「そうだ。お前用の服を作ってもらう」

「わーい。なら、かっこいいのがいいな!」

 

 しばらく待っていると、十分な量の糸が出来上がったので、次は裁縫屋に行く。

 婦女子感満載のメガネの裁縫屋に頼むのもなぁ……。

 しかし、背に腹は変えられなかった。

 

「それじゃ、変身後の姿を見せて欲しいな!」

 

 などと言うので、俺はどうしようかと思った。

 ボフンと変身する筋肉ムキムキマッチョマンの変態。おい待て何でサイドチェストのポーズしてるの?! 

 

「おおおおおおおおおお!! これはすごい! なにこの筋肉のアンバランスさとその上に乗っかるショタ顔!!」

 

 と、メガネを光らせて大興奮な様子だった。

 結果、服は1日待ってほしいとの事であった。

 まあ、ギリギリの到着になるが仕方ないだろう。

 と言うことで、俺たちはラヴァイトの服のために1日待機することになった。

 もちろん、アーシャとライシェルには事情を話したし、レイファが正気に戻るまで結構時間がかかってしまった。

 リノアにはお説教をしておいた。

 

 翌日、裁縫屋からラヴァイトの服を受け取ると、早速着替えさせる。

 うーん、これは……。

 幼い顔にはち切れんばかりの筋肉! 

 それを余すところなく表現する服だった。

 いや、別にタンクトップだとかオーバーホールでは無いのだがね。

 普通にオシャレだし、似合っているんだけれど、やはりビィ君を……深い闇を連想させる、主人公然とした服装であった。

 

「どう? オイラ似合ってるか? オイラ気に入ったぜ!」

「うん、似合ってるよ、ラヴァイト!」

「やったあ! ありがとうゴシュジンサマにソースケ!」

 

 まあ、喜んでいるようだしいいのか……? 

 うーん、やっぱり、何だろうこのナマモノは……。

 フィロリアルは業に生きる生き物なのだと改めて思うのだった。



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マッスルとフィトリア

 俺たちは勇者達の1日遅れで港町ロラに向かって出発した。

 ラヴァイトの首にはチョーカーがついており、変身するとここから服が出現する。

 いや、うん、なんでラヴァイトが屈指のネタキャラになっているんだろうか? 

 何だろうあのナマモノ変化は?? 

 俺はラヴァイトの引く馬車に揺られながらそんなことを考えていた。

 フィロリアル・キング形態のラヴァイトは素直で大人しい。

 それが、あのマッチョでオイラァ! ……。

 レイファも、あの記憶を無かったことにしたいのか、何も語らない。

 

 ちなみに、あの件についてリノアには白状させたところによると、どうやら一緒に寝ていた際に勃っていたらしく、それでサイズを知ったそうな。触ったけれどもズボンは下ろしてないと本人証言だがね。

 気をつけようと思いました。

 

 ロラまではなかなかの距離があるので、だいたい夕方には途中の村に泊まる予定だったが、時間がないため夜8:00ごろまではラヴァイトに働いてもらうことにした。

 そんな移動中のこと。

 

「ゴシュジンサマー、ソースケー。近くに行くよって」

 

 とラヴァイトが起き上がって反応した。

 なるべくあのふざけたナマモノの姿は見たく無かったのでフィロリアルでいろと言ったら、「わかったー。オイラもほんとうの姿の方が好きだし、いいぜー」と言っていたため基本的にはラヴァイトにはフィロリアル・キングの姿でいてもらっている。

 

「あー……、フィトリアか」

「多分そう」

「フィトリア……? 知り合いなの?」

「ああ、以前死にそうなところを助けてくれたフィロリアル・クイーンだ」

「それじゃあお礼を言わないとね」

 

 俺としては、尚文から聞いているのであんまり会いたくない相手だった。

 しばらく進んでいると、周囲に霧が立ち込める。と同時にフィロリアルの鳴き声が周囲から聞こえてくる。

 

「はぁ……」

 

 俺は、いつのまにか馬車の中で座っていたフィトリアを見つけてため息をする。

 

「久しぶり、ソースケ」

「ああ、まさかまた会う事になるとは思っていなかったよ、フィトリア」

 

 俺が返答をすると、全員が彼女……フィトリアを見て驚く。

 

「ええ?! 女の子?!」

「い、いつの間に?!」

「気配すら感じさせませんでしたわ!」

 

 フィトリアは相変わらずのマイペースな感じで、トンッと馬車から降りる。

 俺たちもフィトリアに習って馬車から降りた。

 外には、フィトリアの武器である馬車が待機していた。

 

「はじめまして、投擲具の眷属器の勇者一行。わたしはフィトリア。フィロリアルの女王。そっちは?」

 

 自己紹介をしろと言うことらしい。

 

「わ、わたしはレイファです!」

「リノアよ」

「アーシャです」

「ライシェルだ」

「オイラはラヴァイト! ゴシュジンサマとソースケのフィロリアルだぜ」

 

 ボフンとマッチョに化けるラヴァイト。

 さすがのフィトリアも、そのラヴァイトの容姿に驚いている。

 

「……そ、その、もう少し普通の格好は出来ない?」

「普通ー? オイラはこの姿が好きでなってるんだぜ?」

 

 サイドチェストをキメるラヴァイト。

 うーん、キレてるよキレてるよ! 眠れない夜もあっただろう。

 

「そ、そう……。へんなフィロリアル・キング。フィトリア、困惑してる」

 

 想像するに、きっとドラルさんになりたいのだろうか? 

 ドラルさんも筋肉ムキムキのマッチョマンだった。

 で、ラヴァイトはレイファの保護者のような感じで守っている。

 だから、本来の容姿である幼い顔の下が筋肉ムキムキマッチョマンの変態になってしまったのではないだろうか? 

 

「フィトリアは、ラヴァイトも王候補としての試練を与えに来たのか? フィーロもそうだったように」

「そう。そのつもりで来た。ラヴァイト。フィトリアと一対一で戦って。もちろん、この姿で」

 

 ラヴァイトがチラリとレイファを見る。

 

「ラヴァイトなら大丈夫だよ」

「ラヴァイト、合格すればレイファをがっちり守れるぞ」

「うん、オイラやってやるぜ!」

 

 俺がそう指摘すると俄然やる気を出すラヴァイト。

 フロントダブルバイセップスをしながら、フィトリアと対峙する。

 大胸筋が歩いてる! 

 と同時に、フィトリアが風の結界を張る。邪魔するなと言うことだろう。

 

「それじゃあ始める。ラヴァイトが負けたら、……特に何もない」

 

 チラッと俺を見るフィトリア。何だって言うんだ。

 

「いくぜぇ! オイラの強さを見せてやる!」

 

 ラヴァイトは、やはりあのマッチョなボディとは到底思えないほどの速さで動く。あれはハイクイックだろうか? 

 

「遅い」

「まだまだ!」

 

 ラヴァイトのマッスルな両腕から繰り出されるラッシュパンチ。

 それは、拳の壁であった。ヒェ……。

 

「当たらない」

「うわぁ!」

 

 それもフィトリアに回避されて蹴り飛ばされる。

 ズササッと耐えたラヴァイトの足から土煙が出る。

 

「はあ!」

「ふんっ!」

 

 そこには、幼い子供がマッチョマンを責め立てる異様な光景が繰り広げられていた。

 マッチョマンとは思えないスピードと、マッチョなボディを生かした野性味溢れる攻撃のラヴァイトに対して、フィトリアの冴え渡る無駄のない攻撃は、何というかやはり異様な光景である。

 俺たちは何とも言い難い表情で、その光景を眺めていた。

 

 しかし、ラヴァイトが殴った地面は抉れている……。

 戦い方は徒手戦闘といった感じか。

 

「ツヴァイト・ダークネス」

 

 ラヴァイトは魔法を唱える。闇魔法だろうか? 

 イメージはガッシュベルで言うところのリオル・レイスのような感じで、両腕から闇ビームで周囲を薙ぎ払う。

 その合間を縫って、フィトリアがラヴァイトに近づき殴る蹴る。ラヴァイトも回避をするが、結局ボコボコにされていた。

 

「ツヴァイト・ダークブースト」

 

 ラヴァイトは闇をまとって攻撃をする。

 おっと、なかなかえぐい攻撃だな。殴った地点に魔力の残滓が残っている。あれが地雷みたいになるのだろう。肉体強化でもあるのか、能力も補正がかかっているようだ。

 だが、それでも傷つけることができないフィトリアは間違いなく化け物なのだろうな。

 俺だったら、当てるだけならば……出来そうだけど……。

 

「どうした? その程度では守れない」

「オイラは! オイラァ!! オイラは負けない!」

 

 バカアンと激しい殴り合いが勃発する。

 もはや見た目がフィロリアルの戦いではない。

 筋肉マンが幼女に負ける異様な光景だ。

 

「オイラはゴシュジンサマを守るんだああああああ!」

 

 ラヴァイトの渾身の一撃が、フィトリアに入る。

 掠っただけに過ぎなかったが、一撃は一撃だった。

 ラヴァイトは拳を振り上げたポーズのまま膝をついた。

 

「ふっ、合格」

 

 こうして、幼女になぶられる筋肉マンと言う異様な戦いは終了した。

 いや、正直ビビったね。ラヴァイトの強さにだけれど。




ちょっとギャグテイスト研究中なので遅くなるかもです。


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マッスルと世界

 フィトリアはボロボロになったラヴァイトと回復させると、俺のところに近づいてきた。

 

「ソースケ。投擲具の勇者。何であの時、勇者を殺そうとした?」

「この世界を救うことを諦めようと思ったからだな」

「……!」

「おっと待て、これ以降はもうタイミングも無いから別の可能性を探っているんだ。それに……」

 

 俺はチラッとレイファ達を見る。

 それに、フィトリアは同意した。

 

「わかった。港町にはフィトリアが送るから、少しゆっくりしたらいい。フィトリアはソースケ、投擲具の勇者と話がある」

「わ、わかりました」

 

 フィトリアの圧に負けて、レイファ達はラヴァイトのところに駆け寄る。

 

「……で、言いわけを聞こうか、ソースケ?」

「言い訳する事は何も無いけれどな。事情なら説明するさ」

「ん」

 

 と言うわけで、俺は事情を話すことにした。

 お喋り竜帝が茶化して来ないのは、きっと目の前にフィロリアル・クイーンがいるからだろうか? 

 試しに包み隠さずに喋ってやった。女神については、やっぱり怖いのでちょっとぼかしたが。

 俺の話を聞いたフィトリアは、なにかを納得したような表情をした。

 

「……フィトリアには難しいけれど、ソースケの言う【描かれた書物の世界】を表とするならば、この世界は裏……可能性の世界の一つと言うことになると思う」

「可能性の世界……」

「そう。誰かが選んだ可能性、誰かが選ばなかった可能性。それが積み重なった世界が今の世界」

「難しい言葉を知ってるんだな」

「フィトリアは長生きだから。忘れたことも多いけれど、覚えていることも多い」

 

 Fate的な世界線の考え方で良いのだろうか? 

 剪定事象があるかはともかくとしてね。

 そう考えるならば、俺が昔読んだ事のある盾の勇者の二次創作世界も別の並行世界としてありえると言うことになるが……。

 

「この世界は可能性の一つか。なら、この世界を滅ぼすとどうなるんだ?」

「わからない。それは予想のつかない事。どちらにしても、この世界が滅ぶのはフィトリアも困る」

「マアソウデスヨネー」

 

 どっちにしても、今この世界を滅ぼせば俺も滅ぶだろう。

 本気で滅ぼすならば、尚文が強くなる前のあのタイミング以外にはなかったと言う事は間違えようがないだろう。

 

「どちらにしても、世界は滅させるわけにはいかない。それがフィトリアがした勇者との約束。ソースケの言う事は難しいけれど、それだけは間違いない。今のソースケを見て確信したけれど、ソースケはすでにフィトリアでは殺せないほど強い。だからこそ、今の弱い四聖を……強くなるように導いて欲しい」

「まあ、あいつらがこの世界をゲームだと勘違いしたままなのが問題だろうがな。強烈な出来事……霊亀乗っ取り事件が起きるまでは俺は静観するつもりだ」

「……すでにわかっていると思うけれど、この世界には四聖を遊ばせている余裕なんてない。覚醒は早い方がいい。波の尖兵……? はフィトリアも見つけ次第殺す。だからお願い」

 

 とは言っても、尚文以外は現実逃避をしている状態だ。それに、俺の考えが正しいのならば、クソ女神が俺を生かしている目的は……。

 だからこそ、見極める必要がある。

 

「ダメです」

 

 フィトリアが驚いた顔をする。

 ブリブリブリブリブリ(ry

 俺の脳内で竜帝が脱糞音を喋る。黙れ! いや、考えたけどさ! 

 

「なんで!」

「俺に与えられた役目は、この世界を本来の流れから変えることだ。……言葉にしてしっくりきたな。だからこそ、俺は本来は干渉するべきでは無いだろう。まあ、ゴミ処理は俺もやるがな。もう世界を救う以外の選択肢は残っていないからな」

「……そう、ソースケの考えはわかった」

「それに今、現実を直視しないまま強くなったとしても、連中にいいように扱われるか訳もわからず死ぬかのどちらかだろうしな。悪いが、連中には痛みが必要だ」

「……」

 

 フィトリアもそこはわかっているのか、何も言い返して来なかった。

 

「……じゃあ、ソースケは霊亀の暴走……本当に起こるのかは疑わしいけれど、起こった際は協力して」

「……できる状態だったらな」

「できる状態?フォーブレイの愚かな勇者に関係する事?」

「…まあな」

 

 俺のことに関しては、先が全くわからないのが実際のところであった。

 タクト、奴にはこの投擲具をくれてやる必要があるからな。アイツが強ければ命からがらになるだろうが、弱ければ奪わせてからおさらばすれば良い。

 俺はすでに勇者の武器によってレベルキャップがない状態だ。

 そもそも俺はこんなものがなくても強い。

 

「ソースケ、投擲具の勇者はこれから活性化の島に行く?」

「ああ、その予定だな」

「ならば、四聖によろしく。強くなるように期待する。今の四聖は弱すぎるから」

「ははは、断るが」

「ぶー」

 

 そんな感じで俺たちはフィトリアと邂逅をしたのだった。

 ラヴァイトは冠羽をもらい、ショタ顔マッチョにアホ毛が立つと言う、さらに奇妙なナマモノに進化してしまったのは言うまでもなかった。

 そして、投擲具のフィロリアルシリーズが全て解放される。

 まあ、レベル105だからね、仕方ないね。

 そして、俺たちはロラまで送ってもらい、出航時刻に余裕で到着するのだった。



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マッスルと勇者魔法

 ロラに到着後俺たちはすぐに定期便に乗船することになった。

 俺たちは尚文と同様に一般客室の案内となったのはまあ、仕方ないだろう。道中で色々と道草を食っていたからな。

 ちなみに、アイテム図鑑は開放させてもらった。別にフィトリアに聞かなくても知っているしな。後は念じれば良い。あと、馬車の強化方法の一つである転移スキルの拡張についてはまあ、やっていない。こちらも念じればできるけれどな。

 しかし、馬車は2つ共有できる強化方法があるのに、投擲具がひとつなのは気になるところだ。

 ……これは俺が正式な所有者ではないからだろうけれどな。

 

 相席したのは普通の冒険者で、俺のことを非常に恐れていたのが印象的だった。まあ、《首刈り》なんて二つ名を頂戴しているもんな。仕方ないだろう。

 

「相部屋にしてもらって申し訳ないな」

「い、いえ……。そんな恐れ多いです」

「ソースケ、なんか怯えちゃっているよ?」

 

 レイファの指摘に、俺はため息をつく。

 

「あー、別にあんたらの首を刈ったりしないから安心してくれ」

「いや、えー、は、はい……」

「ソースケ、余計緊張させてどうするのよ!」

 

 んー? 

 なんで緊張してるんだこいつら? 

 

「オイラ、お腹すいた」

「ラヴァイト、我慢しておけ」

 

 チラッと見ると、冒険者の目線がラヴァイトに行っている。

 

「……ん?」

「そ、そのお方はどういう方ですか?!」

「え、そっち?!」

 

 冒険者は全力でうなづく。

 なんでや! マッスル怖くないやろ! 

 

「あー……コイツは無害だ。気にしないでくれ」

「おいおい、オイラを無視しようってのか? そうはいかねぇぜ!」

 

 ラヴァイトはそんな事を言いながら、サイドチェストを決める。

 ナイスバルク。

 

「ラヴァイトはちょっと黙ってて」

「えぇー、まあ、ゴシュジンサマが言うなら仕方ねぇな!」

 

 しかし、コイツは人化してから性格が変わったと言うか、大人しい印象が吹っ飛んでしまった。

 フィーロもフィロリアルの時と人化後の性格は大きく異なっているし、そんなものかなぁ? 

 

「とりあえず、これからしばらくの間は共に部屋を使うのだろう? 仲良くなっておくのが一番だろう」

 

 ライシェルの鶴の一声で、冒険者たちは落ち着きを取り戻した。

 メルロマルクの鎧を着ているからね、やっぱり騎士がいると安心するものなのだろう。

 尚文達と共にいるラルクやテリスとは結局会わず、船酔いもせずに俺は船室でぼんやりと過ごした。

 レイファたちは甲板に出ているが、おかしなことになってなければ良いが。

 窓の外を見ていると、白いフィロリアルクイーン……フィーロが泳いでいる。潜ってしばらくすると何かを蹴り上げる。相変わらず凄いよな、あの鳥。正直、フィトリアと同様に勝てる気がしないのは確かだ。投擲具なしだと負けるだろう。

 それほど、盾の仲間補正の凄さが窺える。

 フィトリアが倒せる気がしないと言ったのは、投擲具による能力補正及び逃げ足に関してだろう。俺だけならば、フィトリアから確実に逃げ切れるだろうしな。

 

 俺はぼんやりと外を見ながらそんな事を考えていた。

 夜に船が右往左往する大嵐が来たが、ハンモックを人数分作ってそれで寝たので、俺とレイファ、アーシャ大丈夫だった。

 リノアとライシェル、冒険者は信じなかったので可哀想なことになってしまったが。

 

 

 カルミラ島に到着した。

 この部屋にも案内のものがやってきて、勇者たちと一緒に上陸する事になった。

 尚文がラルク達と別れてこちらに合流する。

 勇者連中は酷い状態だ。リノアもぐったりしている。「私もハンモックに寝ておけば良かったわ……」なんて言っているが、時すでに遅しだ。

 

「おい、お前のフィロリアル、ありゃなんだ?! なんであんなにマッチョなんだ?!」

 

 尚文に早々詰め寄られる。

 

「いや、知らないが」

「元康があの筋肉マンを見て余計に船酔いをこじらせたぞ!」

 

 ラヴァイトはフロントラットスプレッドのポーズをしている。

 それに引いている勇者の仲間一行。

 レイファも気まずい顔をしている。

 

「フィロリアルは本人が望んだ姿に人化するんだろう? たぶんあいつが……ラヴァイトが望んだ姿だ」

「……マジか」

 

 尚文はドン引きしている。

 フィーロは楽しそうにラヴァイトの腕に引っかかって遊んでいる。

 あの姿を見ていると、どう見てもフィーロの方が弱そうだが、実際はフィーロの方が強いと言う矛盾が起きている。

 尚文はそんなフィーロとラヴァイトを見比べて、ため息をついた。

 

「そういえば宗介……なんで酔ってないんだ?」

「ハンモックで寝てたからな」

「なるほど」

 

 尚文がチラッと勇者連中を見る。

 ヴィッチが顔真っ青で吐きそうな感じの様子を見て、口元が歪む。

 

「お前達、乗り物に弱過ぎないか?」

「尚文……お前が変なんだよ」

「沈むかと思った!」

 

 俺はまあ、わかっていたから準備していたが、あの大嵐はやはり珍しいらしい。

 部屋が何度か回転してたので、現実ではありえない状況だったしな。なんであの船無事なんだろうな? 

 

「船が沈んで無人島生活が始まるとかではなかったのが幸いか」

「とんでもない事を言っているぞ」

「冗談じゃありませんよ」

「とにかく、今日は早めに宿へ行こうぜ? 時間がもったいない」

 

 と、そこで俺たちに話しかけてくる軍人っぽい奴が登場した。

 

「ようこそいらっしゃいました、四聖の勇者様、投擲具の勇者様とその一行の皆様」

 

 あー、今更だからもう突っ込まないぞ! 

 その貴族は観光案内みたいな旗を持っている。メルロマルクの軍服姿の初老のおじさんだが、うん、旗が似合わないな。

 

「私、このカルミラ諸島の地を任されておりますハーベンブルグ伯爵と申します」

「は、はぁ……」

「以後、お見知り置きを」

「ああ……よろしく」

「よろしくー」

「よろしく頼む」

「よろしくな!」

「よろしくお願いしますね」

 

 尚文に続いてそれぞれ挨拶をする。

 

「では、勇者様方にはこのカルミラ諸島の始まりから知っていただきましょう」

 

 尚文だけではなく他の勇者もグロッキーなので嫌な顔をする。

 

「別に俺たちは観光できたわけじゃないんだが……」

「まあまあ、古くは伝承の四聖勇者がここで体を鍛えたというのが始まりでして──」

 

 俺たちは案内されながら観光案内を聞くことになった。

 さすがに省略するが、小説では書かれていない内容は実際に感心するかというとそういうものでもなく、単純につまらない観光案内でしかなかったのが残念である。

 見回していると、町の中心に礼のトーテムポールがあるのがわかる。先頭を歩いている尚文が怪訝な顔をすると、それに気づいたハーベンブルグ伯爵が嬉しそうに解説を始めた。

 

「お? 盾の勇者様はお目が高い。あれはこの島を開拓した伝説の先住民であるペックル、ウサウニー、リスカー、イヌルトです」

 

 まるでサンリオかなんかのマスコットキャラにいそうな名前である。こういうマスコットって基本的には安直な名前だしな。フィーロだって安直だろう。

 

「ちなみに名前の由来は勇者様の世界基準で一番近い動物の名前を聞いて、自ら名付けたそうです」

 

 自分で名乗ったのか……。知性が高い魔物だったのかな? 

 

「じゃあこの島に、あんなのがいるのか?」

「いえ、開拓を終え、新たな地へ旅立ったそうです。その後、姿を見た者はいません」

 

 いまだに出てきていなかったはずだが、その後24巻以降で登場予定とかあるのだろうか? ほかのドラキュリア山脈だとかも開拓済みのため、きっと他の世界で開拓でもしているんだろう。知らんが。

 

「へー……なんか美味しそうだね。ラヴァイトもそう思うよね?」

 

 フィーロが涎を垂らしながらラヴァイトに同意を求めている。

 

「オイラの好みは三段目のイヌルトってやつだな! じゅるり」

「ラヴァイト、め!」

 

 ラヴァイトはレイファに怒られる。

 まあ、仕方ないな。しかし、ラヴァイトもしょせんはフィロリアルか。

 

「あれはなんだ?」

 

 尚文がトーテムポールの隣にある石碑に気づいた。

 

「四聖勇者が残した碑文だそうです」

「ほう、宗介は知っているか?」

「ん? ああ、勇者専用の魔法を覚えられるポイントだな」

 

 俺がそういうと、さっきまでグロッキーだった勇者どもが石碑に駆け寄る。

 現金だなぁ……。

 

「おい、偽物だこれ!」

 

 一番に確認した元康がそう告げる。

 

「確かに、読めませんね……」

「……宗介は読めないのか?」

 

 なんで錬は俺を見るんですかねぇ? 

 

「えー、なになに? 【この魔法は勇者専用の魔法である。勇者以外は覚えることは叶わない】……だってさ」

「投擲具の勇者様は七星勇者様ですからね。しかしおかしいですねぇ……新たな勇者が現れた時に備えて記したと伝承があるのですが……」

「……ふざけているのか? この世界の魔法の文字だぞ」

 

 魔法文字の解説は面倒だからざっくりでいいか。

 自分の魔力によって読む文字で、当然ながらメルロマルク語で書かれたものはメルロマルク文字を読めないと解読できない。そして、魔法文字にも属性があり、適性がないと読めないという特徴がある。

 ドライファ・サンダーブレークみたいな独自開発の魔法はまあ、一度魔法文字で呪文を書き出して作ったりする。

 当たり前だが、メルロマルク文字の読解をできない奴は読めないため、三馬鹿勇者は習得が出来ないということになる。

 

「お前、読めるのか?」

「水晶頼りのお前らじゃ読めないだろうが、俺はクズの所為で不遇だったからな。読めなきゃ、魔法を覚えられなかったんだよ」

 

 俺は単純に、そもそも翻訳機能がない環境にいたから覚えざるを得なかっただけであるが。

 習得までに4か月はかかっているんだが、早いほうだろうか? 

 

「なんて書いてあるんだ?」

「えっと……」

 

 尚文が手をかざして魔法を読み取る。

 

『力の根源たる……盾の勇者が命ずる。伝承を今一度読み解き、彼の者の全てを支えよ』

「ツヴァイト・オーラ……」

 

 フィーロを指定した結果、フィーロが淡く輝く。

 

「わ! なんか力がみなぎる!」

 

 ぴょんぴょんとフィーロが跳ね回る。人型だが飛ぶ高度は明らかに高い。

 

「オーラ……伝説の勇者が使用する、全能力値上昇魔法です」

 

 リーシアがボソッとつぶやいた。

 

「すげぇ! 俺たちも覚えようぜ!」

「まて、お前ら魔法言語理解していないだろ?」

 

 尚文が止めると、樹が物欲しそうな顔で尚文に向き合う。

 

「尚文さん」

「なんだ?」

「魔法言語理解に効果のある盾はどこで手に入れるのですか?」

「自力で覚えたんだよ! なんでも武器に頼るな!」

「出し惜しみですね!」

「そうだそうだ! 教えろ!」

 

 錬は俺のほうにきてじっと見つめる。

 

「錬、悪いが俺はレイファに言葉を教えてもらったんだ。この武器を入手する前から俺は魔法文字を読めるよ」

「……そうだった。忘れていた!」

 

 当てが外れたのか、がっかりする錬。

 お前には前々から忠告していたんだがなぁ……。

 

「俺はオーラって魔法を覚えたが、お前らが同じ魔法を覚えるとは限らないぞ。宗介は……残念だったが」

「それもそうですね。僕達の場合……宗介さんには悪いですが、もっといい魔法かもしれません」

 

 ちらりと俺を見る樹。えー、樹の魔法ってなんだっけ? 

 

「樹が覚えるのは確か、『ダウン』だったっけな?」

 

 ボソッと言うと、リーシアがそれを拾ってしまったらしい。

 

「ダウン……伝説の勇者が使用する、全能力値下降魔法です」

「ふむ、尚文さんの魔法とは対極の魔法なんですね。これはワクワクしてきました!」

 

 余計な一言だった。やってしまった……。

 

「「宗介!」」

 

 二人が俺を見るので、仕方がない。俺は答える。

 

「たとえ魔法の名前を知ったところで使えるわけじゃないからな。はぁ。錬は『マジックエンチャント』、元康は『アブソーブ』だ」

 

 すぐに二人はリーシアを見る。

 

「ふぇえ……! え、えーっと、マジックエンチャントは魔法を剣に付与できる魔法で、アブソーブは魔法を無効化・吸収できる魔法です!」

「「おお!」」

 

 二人ともー、一生懸命石碑とにらめっこを始めるが、自力で魔法文字を覚えないと習得できないからな? 

 俺はあきれつつ、勇者の様子を見ていた。

 

「はぁ、ほどほどにしておけよ。次に行くか。他に何があるんだ?」

「では宿に行くまでの間にカルミラ諸島での注意事項についてと移動手段を──」

 

 まあ、ここについてはいわゆるマナー講座であったため、本編参照ということで十分だろう。

 マナー違反を平然とする鬼畜野郎がいるが、話を聞いているのかわからなかった。

 俺も口を滑らせないように気を付けないとな……。そう思ったのであった。



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マッスルと稽古

 女王陛下が用意した部屋は、俺たちのものも最上級のリゾートホテルだった。

 温泉設備も整っており、ベッドはふかふかの最高クラス。日本ではこんなホテルに泊まれることはなかった。

 部屋もかなり広く、エステの施設もあったりと至れり尽くせりな感じである。

 俺の勝手なイメージで日本旅館的なものをイメージしていたが、城を改造したと思わしきこのホテルはどちらかというとプリンスホテルやそういったものを連想させた。

 

「……なんか、すごいね、ソースケ……」

「そうだな、さすがは最高級ホテル」

「きゃー!! 久しぶりのふっかふかのベッド! ゆっくりできそうね!」

 

 俺とレイファは唖然としているが、リノアは普通に荷物を置いてベッドに飛び込んだ。

 ボフンと音を立ててベッドに横になるリノア。

 

「ふむ、さすがはカルミラ諸島で名高いリゾートホテルだな。俺もこんなホテルに泊まるのは初めてだ」

「ライシェルさんは要人警護とかされないんですか?」

「城下町のスウィートホテルならば警護の関係で何度か使用したことはあるが、カルミラ島みたいな完全なリゾート地のホテルは無いな」

 

 アーシャをちらりと見ると、にっこり微笑んで俺のほうを見る。

 

「私は影でしたので、王族の方が使われる際に出入りはしましたが泊まるということはありませんでしたよ」

「ふーん、そうなんだな」

 

 俺はつい、緊張してしまう。

 こういうホテルに自力で泊まれるようになったら一番だろうな。

 カルミラ諸島で経験値稼ぎが終了したら、世界に打って出るのだ。魔物は全員で、尖兵共は俺とアーシャで皆殺しする予定なので、しっかりと鍛えておく必要があるだろう。

 

「それじゃあ荷物整理が終わったら、適当に狩りでもしに行くか。俺も仲間の斧を出しておくからレベル上げの時の補正は働くはずだしな」

「わかったわ」

「わかりました」

「行こう!」

「了解だ」

 

 というわけで、俺たちはラヴァイトを連れて狩りに向かった。

 経験値は確かに普段より高い。

 レイファが魔法で吹き飛ばし、ライシェルが的確に守っては敵を切り裂く。リノアのブーメランは思っていた以上に威力があり、ぶつかった魔物は粉みじんになる。

 アーシャは本当に暗殺するため、俺に魔物の死骸をそのままプレゼントしてくるため、俺はそれを投擲具に吸わせてドロップを確認したりしていた。

 ラヴァイトは人型での戦いを練習中のためか、マッスルパンチを繰り出して、魔物を粉砕していた。

 このパーティはこのメンバーである程度完成されている感じだ。

 俺は中衛に入り、仲間に的確に指示を出していくだけでいいから楽ではある。

 だって、錬のように集中しすぎるわけでもなく、燻製のように脳筋なわけでもないのだ。ライシェルがタンクをしてくれているおかげで、全員安全に戦えている。

 

「リノア、リカバー」

「わかってるわ!」

「レイファ、五時方向」

「ツヴァイト・エアーショット!」

「ラヴァイト、左のほうを殲滅」

「オイラに任せとけ!」

 

 ライシェルが漏らした敵はアーシャが暗殺する。

 姿が見えているのに暗殺できるほど、アーシャは技量が高い。

 

「敵が弱いのに恐ろしいほど経験値が入るわね。それに、レベルが上がった時の能力値の上がりが大きくなっているわ」

「仲間の斧の補正だな」

「うーん、さすがは勇者武器ってところね」

「私も戦えてる気がするよ」

 

 俺はレイファに魔力水を手渡す。

 

「ソースケくんの指示は的確で動きやすいな。戦場全体を俯瞰してみているかのようだ」

「まあ、錬と仲間だった時にな」

 

 主に燻製と錬の動きを見て、全員が力が出せるように指示をして動いてきた成果だろう。

 そういう部隊長的な指示は、すっかり得意になっていた。

 ちなみに、俺は指示だけで一回も攻撃をしていない。もちろん、動こうと思えば動けるけれどな。

 

「経験値の入りはどうだ? 勇者の仲間だと、通常よりも多く入るはずだ」

「ああ、それは確かだ。これならば明日にはレベルが80は行くだろうな」

 

 ならば、ラヴァイトのクラスアップも考えておいたほうが良いだろう。

 尚文がカルミラ島の砂時計を見つけるはずだから、クラスアップはその神殿の砂時計を使えばいいだろう。

 

「それじゃ、適度に狩ったら休憩だな。そのあとは稽古をしよう」

「「はーい」」

 

 そんな感じで平和に俺たちは狩りを続けたのだった。

 

 

 昼休憩が終わり、俺たちはホテルの運動施設を借りて戦闘訓練を始めた。

 ライシェルがリノアの稽古をつけて、俺がレイファに合気道を教えている感じだ。

 ラヴァイトは好きにさせているが、レイファを見守っている感じだ。

 

 と言っても、俺は所詮2段だから、教えられるほどうまくはない。道場を持てるのは4段になってからだ。

 だけれども、付け焼刃でも護身術を覚えておくことは悪いことではないだろう。

 

「はっ、はぁぁぁ!」

 

 リノアを横目で見ると、動きが格段に良くなっているのがわかる。

 ブーメランを使った戦闘が上達している。それにライシェルの指摘があり、徐々に改善している感じだ。

 ブーメランを武器に接近戦で戦う近接戦法、ブーメランを投げて攻撃する遠距離・中距離の戦法それぞれのノウハウをライシェルから教えられる。

 

「いいぞ、その動きだ!」

「そりゃあああ!」

 

 キンキンという金属音が響く。

 リノアの強化はうまくいってそうな感じだな。

 で、レイファのほうはというと、

 

「も、もう一度お願い!」

「はいよ」

 

 合気道の基礎稽古をつけているところだった。

 四方投げ、小手返し、入り身投げの三つを教えている感じだ。

 小手返しと入り身投げは俺も戦闘でそれなりに使うので、割と重点的に教えている感じだ。

 座技は体幹を鍛えるにはいいが、こんな畳やマットのないところでやっても膝をやってしまうだけなので、さすがにそれはしないがな。

 

 合気道の稽古が終わったら、休憩をはさんで龍脈法の訓練に入る。

 

 我の出番だな。少し体を貸すが良い。祝福は血塗れの勇者ならば出てくる必要がないが、さすがに他の物に習得させるには我が表に出る必要がある。

 うげ、まあそんなことだと思ったよ。

 

「それじゃあ、龍脈法を使うための儀式みたいなのをするからちょっと待ってくれ」

 

 俺はレイファとリノアにそれを告げて、主導権を竜帝に渡す。

 おお、なんか動けなくなった感じがするぞ。

 

「ソースケ?」

「……ふむ、久方ぶりの外だな」

「ぶー! なんでソースケがドラゴンになってやがるんだ!」

 

 あ、ラヴァイトが反応している。

 

「ふん、龍脈法を授けるために表に出ただけだ。気にするなよフィロリアル」

「ぶー!」

 

 レイファとリノアは困惑している。後で理由を話したほうがよさそうだな。

 

「さて、我の加護を受けた少女たちよ。血塗れの勇者に頼まれた故にお主らに龍脈法を授けよう」

「え、ど、どういうこと?」

「我は竜帝。今はこの血塗れの勇者の体を借りておるのだ。お主らに龍脈法を指導するためにな」

「ソースケは?」

「無論起きておるぞ。ふふ、慕ってくれるものがこんなにおって、血塗れも幸せ者だな」

 

 いいからさっさと教えろよオモシロドラゴン。

 

「わ、我の名前はオモシロドラゴンではない! まあいい。では、さっそく始めるとしよう」

 

 竜帝は俺の体とレイファとリノアに手をかざす。

 

『我、竜帝サティオンが天に命じ、地に命じ、利を切除し、繋げよう。ここに我、新たな祝福として力を授けようと大地に願う。祝福されしものに龍脈の加護を』

「ドラゴン・ブレスシール!」

 

 俺の体を中心に、ふわりと何かが広がってレイファ、リノア、そして俺を包む。

 

「うむ、これでお主らに龍脈の加護を与えることができた。後は魔力の操作と力の引き出し方を学べば使えるようになっていくだろう」

「そうなんだ……そんな実感ないけれど」

 

 俺もそんなに感じはしないがな。今は竜帝が表に出ているおかげか、魔力の流れみたいなものが見えるようになっている。こう、物から湯気みたいな感じで魔力の流れが出ているのだ。

 

「そうだな、では、あの池の水を使って魔法を見せてしんぜよう。血濡れの、よく見ておけよ」

 

 そう言うと、竜帝は池のほうに手をかざした。

 

『我ここに水の力を導き、具現を望む。地脈よ。我に力を』

「アクアシール」

 

 池の水がふわりと浮き上がり、俺の体を優しく包む。池の水だが、どうやら魔法に使う分は浄化された水のようできれいな水であった。

 

「はぁ……。なんだか難しそうな魔法ね」

「覚えられる気がしないです」

 

 だろうな。俺も見ていたけれど、かなり難しい感じを受けた。

 普段魔法で使っているパズルのようなものの難易度が高い。できなくはないけれどもね。

 

「ほう、ならば試してみるか? 血濡れの」

 

 突然、竜帝は俺に主導権を戻した。

 おい、いきなりでびっくりするじゃねぇか! 

 いいから、試してみるが良い。魔力の流れは、我が目となろう。

 

「はぁ……。試してみるか」

 

 俺は手をかざしてみる。

 え、何これ難しくない?! 

 感覚とかイメージは知っているが、それを実現できない感じ。

 右利きなのに左手で文字を書くような、そんな難易度を感じる。

 

「ソースケ?」

「ごめん、ちょっと集中させて」

 

 俺はレイファに謝り集中する。

 そうら、魔力がこもっておるぞ! 

 うぐ、意識するとつい魔力を込めてしまう。

 確か、魔力を出さないで他から魔力をもらうイメージだったな。完全にマナを使う感じか。

 だが、うんともすんとも言わない。こりゃ、めっちゃ練習するしかないな! 

 

「……だめだ。うんともすんともいわない」

「それじゃあ、私が試してみるわ」

 

 リノアが今度は試してみる。

 

「龍脈法は魔力を他から抜いて使うイメージだ。我が指導するから、上達するまで付き合うぞ」

 

 いきなり主導権を奪うな! 

 

「わ、私もやってみます!」

 

 レイファも水に手をかざした。

 そんな感じで俺たちは、一生懸命に龍脈法を習得する訓練を開始したのだった。



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マッスルと酒場

お酒は20を過ぎてから!


 夜になり、俺たちは酒場に来ていた。

 ライシェルは何か用事があるのか席を外していたが。

 

「勇者の飲み代は国持ちらしい」

「へぇー。気前がいいじゃない」

「そうですね。私、お酒飲むのは初めて!」

 

 俺の前には、ブランデーのボトルが置いてある。いや、メルロマルク語では『ブランデー』ではないんだけれどね。ルコルの実で作られたお酒を蒸留しているので、ルコル・ブランデーと言ったら正しいだろうか。今日はウィスキーではなくブランデーな気分だ。

 勇者武器は基本的に食べ物はそれに近い日本語に翻訳してくれるらしい。

 リンゴっぽい木の実はリールの実というんだけれど、味はリンゴで触感はなしと言うものもある。

 これのブランデーはリール・ブランデーと言うんだけれど、リンゴ・ブランデーと味は変わらないのでなかなかおいしいのだ。

 

 ちなみに、ルコルの実の酒はワインに近い味わいになる。

 そもそも果実酒だからな。ピノ・ノワールに近い味わいの果実酒になる。

 渋みがなく、すっきりした味わいが癖になる感じだ。ガメやマスカット・ベリーとは違う感じ。

 味はプシャール・ペール・エ・フィスに近いんじゃないだろうか? 

 個人的にはローラン・ペリエ ロゼのシャンパンなんかは女性でも楽しめる逸品だと思う。果物の味がさわやかに広がり、後味もいいし香りも最高だ。

 

 ちなみに、スパークリングワインは残念ながら提供されていないようであった。

 

「ラヴァイトも飲むか?」

「オイラ、お酒は苦手だぜ」

「そうか」

「あっちで音楽引いているやつがいるから、そっちに混ざってくるぜ」

「……ほどほどにしておけよ」

 

 ラヴァイトは吟遊詩人が曲を弾いているテーブルにおとなしく座って鼻歌を歌っている。

 

「……こうして、ソースケとお酒を飲むのは初めてじゃない?」

「そうだな、結局国を解放した後の祝賀会には参加できなかったしな」

「ソースケ、あの時死にそうだったもんね……」

 

 確かに、ひどい重体だったため、回復薬を飲んでも治りきらなかった。

 そのため、俺は祝賀会に参加できず、結局樹に拘束されることを許してしまった。

 

 ちなみに、レイファやリノアが飲んでいるのはルコルの実のお酒である。

 俺はルコル・ブランデーをストレートでちびちび飲んでいる感じだ。

 

「うーん、ルコルの実のお酒、やっぱり苦いです」

「アルコール独特の苦みがあるからな。慣れないうちはカクテルにしたりするといいかもな」

「カクテル?」

「そうそう、ジュースと炭酸水を混ぜて飲む飲み方だ。この世界にも普通にある飲み方だけれどね」

 

 俺は店員を呼んで、ハチミツとレモン……シトロンのしぼり汁、炭酸水とロックの氷を準備してもらう。

 で、レイファの飲んでいるルコル・ワインにハチミツを小さじ一杯、シトロンのしぼり汁を小さじ一杯、炭酸水を半分になる程度に入れて棒で混ぜて氷を入れる。

 

「ほい、簡単なワインサワーの完成」

「わあ、ありがとう!」

 

 レイファはさっそく飲んでみると、驚きの声を上げる。

 

「すごい! すっきりさわやかで飲みやすいかも」

「え、ちょっと、どれどれ?」

 

 リノアも飲んで驚く。

 

「ほとんどジュースじゃない! 炭酸水が飲み口をさわやかにしている感じね。ソースケ、バーを開いたら儲かりそうじゃない」

「そりゃ、お褒めに預かり光栄ですね」

「さすがソースケ様です」

 

 アーシャはこう、褒め方が心酔している感じがして、褒められてもうれしくないのが特徴だ。

 

「麦酒……エールなんかは肉体労働した後だとかだとおいしく感じるんだけれどね。この世界ではルコル・ワインの方が一般的なんだな」

「メルロマルクではそうね。そもそも、ルコルの実自体がメルロマルクの特産品だものね。麦酒よりも一般的なのはその通りだわ」

「エールはゼルトブルが有名です。最近はラガーなるものが開発されているとか」

 

 エールは麦汁を上面発酵したものを指す。常温~やや高温で発酵させたもので、3~4日発酵させて2週間熟成させたものがエールだ。この時エールは浮いてくる感じで作成される。だから上面発酵と言うんですね。

 ラガーは麦汁を下面発酵させたもので、5度前後の温度で発酵させる。10日ぐらい発酵させて、1月ほど熟成させたものがラガーだ。麦汁に沈む感じで作成されるので下面発酵という。

 ラガーのほうは温度の維持が難しいのか、開発が遅れたんだよね。低温発酵だから、雑菌が繁殖しないメリットもあるので、今の日本ではもっぱらラガーが流通しているけれど。

 エールは芳醇で濃厚な味わいがするのが特徴で、ラガーはすっきりした喉越しが特徴になる。

 どっちも労働者に好まれるお酒ではあるんだけれどね。

 

「ラガー……無いのか。それは悲しい」

「噂では、貴族の一人がびぃると言うものがない事を嘆いて研究が始まったそうです」

「あー……。マジか」

 

 でも、日本から転生したら飲みたくなるよね、ビール。

 俺は、そのビールを提唱した波の尖兵を殺すことができないかもしれないなと思った。

 どうせ作り方なんてわからないため研究中なんだろうけれどね。

 しかし、この世界では食文化の侵略が起きていなくて驚く。ワインやブランデー自体はそもそも自然発生して然るべきだし、カクテルなんかも、飲みやすいお酒を追求していれば自然発生する。

 だが、米や醤油、お味噌なんかがこの世界に存在しないのは不可解でしかなかった。

 いやまあ、クテンロウには米だとかありそうだがね。

 

「そう言えば、ソースケが飲んでいるお酒って美味しいの? ちびちび飲んでいるけれど……」

「ん? ああ、ルコル・ブランデーのストレートはレイファには不味いだけだから飲まない方がいいよ。もうちょっとお酒になれてからな」

「うーん、そうなんだ。わかったわ」

 

 俺たちがそんな感じで飲んでいると、見慣れた一行が酒場に現れた。

 勇者共だ。

 

「お、レイファちゃんにリノアちゃん、アーシャちゃんも来ていたんだな」

「宗介さんが一番乗りでしたか」

 

 そう言えば、この店の間取りはどこかで見たことある気がしていた。

 

「ああ、お先にいただいているよ」

 

 俺が軽く挨拶をすると、勇者達はそれぞればらけて座る。

 元康はヴィッチやハーレムに囲まれ、樹は薫製達と共に、錬は一人で座る。

 と言うことはだ。尚文が来て面倒なこと……ルコルの実騒動が発生するだろうから、そろそろ出るのがいいかな? 

 俺がそんな事を考えていると、最初に絡んできたのは元康だった。

 

「やっほー、レイファちゃん、リノアちゃん、アーシャちゃん。飲んでる?」

 

 うーん、この軽い感じ。

 

「は、はあ……」

「モトヤス様、私達と飲みましょうよ」

 

 相変わらずヴィッチがベタベタとくっ付いているんだな。

 -1145141919点

 

「お、宗介は美味そうなブランデー飲んでるんだな!」

「飲むか? ストレートだが」

「俺はソーダ割のほうが好きだね。炭酸水あるなら割ってくれよ」

「配分は?」

「5:5で」

 

 俺は仕方なく、ブランデーを炭酸水で割る。

 5:5で割ってロックアイスを入れると、シュワーっと炭酸がいい感じに弾ける。それを元康に渡す。

 

「おお、いい感じ! お前バーテンやったほうが向いてるんじゃないか?」

「平和になったら考えておくよ」

 

 俺は単に酒好きなだけである。

 それも、別に専門書じゃなくてwikiとかそこら辺から引っ張ってきた怪しい知識ではあるけれどな。

 

「しかし、異世界でもお酒は結構しっかりとした文化があるんだな。これでビールがあったら言うことなしなんだが……」

「エールなら頼めば出してくれるんじゃないか?」

「エールねぇ……。俺としてはクルヒの辛口ドライが好きだったんだが……」

 

 クルヒのドライ? 

 似たニュアンスだと、アサヒィスゥーパァードルゥァァイ! みたいな感じだろうか? 

 個人的にはキリンの一番搾りなんかが好きだったが。

 

「ラガーは無いよ。我慢するんだな」

「マジかー。何でないんだろうな?」

「製法的に難しいんじゃないか?」

「ああ、そうなんだ? 知らないけれど」

 

 残念そうな元康であるが、無いものはないで仕方がないだろう。

 元康はすぐに切り替えると、レイファ達に話しかける。

 

「レイファちゃんたちは今日はどこで狩りしてたの? 良かったら明日、俺たちと一緒に狩に行かない?」

 

 俺の目の前でナンパを始めるスットコドッコイ。

 その打たれ強さはさすが、ギャルゲー世界の主人公と言ったところか。

 

「あー、俺たちは明日も訓練するからスケジュールを合わせるのは難しいぞ」

「そうか……だったら、仲間交換しないか? 俺の仲間と宗介の仲間を交換するんだ。勇者同士の交流にもなるしな!」

「モトヤス様?!」

 

 え、何言っているんだこいつ。

 

「別に宗介は俺の仲間たちと仲が悪いわけでも無いだろう? だったら問題ないはずだな」

 

 この強引感。有無を言わさないつもりだな! 

 

「何を考えている?」

「何もお前の強さの秘訣を知りたいのは、錬や尚文だけじゃないって事だ」

「なるほど、私やレスティたちが投擲具の勇者様について、強さの秘訣を観察しろと言う事ですね」

「そういうことだ。もちろん、逆に俺の強さの秘訣をレイファちゃんたちが観察して宗介に教えてもいい。どうだ? 面白い案だろ?」

 

 ええー、それって俺に何の得があるんですかねぇ……? 

 

「単に元康がレイファ達とデートしたいだけでは……?」

「おほん! もちろん、狩にはちゃんと行くさ」

 

 咳払いしやがったぞこいつ! 

 

「もちろん、訓練の時間はそれぞれって感じにするさ。どうだ?」

 

 どうだ? って言われてもなぁ……。

 レイファ達にをチラリと見る。

 

「ソースケに任せるわ」

「私はソースケと一緒がいいけれど……」

 

 レイファは引く気がなさそうな元康を見て諦めている感じだ。

 

「……やはりダメだ。お前はレイファ達を守りきれなかったからな」

 

 俺が当たり前の指摘をすると、元康は驚いた顔をする。

 いや、当たり前だろうにな。

 

「いやいや、あの時はまさか兵士がレイファちゃん達を襲うなんて思わないだろ!」

「思わなくても、だ。錬が守らなければ殺されていたかもしれないんだぞ?」

 

 あの時の話は今思い出しても腹が立つ。

 おそらく、俺が皆殺しにした連中も含まれるだろうが、主犯格の奴は牢獄行きになったらしい。

 

「……いや、すまなかった」

「ちょっと、モトヤス様に無礼じゃないの?!」

 

 ムカッ! 

 

「おい、ビッチさんよぉ? 『誰の許可を得てレイファ達を殺そうとしたか』をここで詳らかにしてもいいんだぞ……?」

「うっ……」

 

 流石に不利を悟ったのか、口出しを止めるヴィッチ。

 自覚があるのか、そうか。

 現在は推定無罪だから手を出していないだけだ。

 物語上影響がないならば俺が殺してしまうだろう。

 残念ながら、奴は殺しても死なないタチの悪い悪霊だからな。

 

「……今度こそ! 今度こそは守ってみせる!」

「……はぁ」

 

 どうにも引きそうにない。

 まあ、ヴィッチ達は俺と居るし、元康だけならばまあ、まだマシだろう。

 

「……はぁ、わかった。1日だけ、1日だけ名誉挽回するチャンスをやるよ」

「おっしゃあ! 話がわかる! ま──アバズレもそれで良いか?」

「まあ、モトヤス様がどうしてもと言うのであれば構いませんわ」

「ま──アバズレはしっかりと宗介の強さの秘密をパクってきてくれよ」

「しょうがありませんわね」

 

 うーん、嫌な予感しかしないな! 

 ヴィッチのそばにいるとこう、なんだか心が暗くなる感じがするので、そばに居たくない。

 

「しっかし、美味いな。このブランデー」

「ルコル・デ・メルロマルクの10年ものだしな。結構有名なブランデーメーカーが作ってるから美味しいんだと思うぞ」

「へぇー。宗介ってお酒に詳しいんだな」

「まあ、元の世界にいた時の趣味だしな」

 

 そんな感じで、俺たちは元康と仲間交換をする羽目になってしまったのだった。




作者はそこまで詳しくないです。

少し追記しました。


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マッスルと仲間交換

 元康はヴィッチに連れられて、元のテーブル席に戻って行った。

 しかし面倒なことになったな。仲間交換などと面倒くさい状況だ。Web版の展開だっけ。いや、あっちの方は強制だったが。

 まあ、実際錬は意味がないし、樹の場合は俺と燻製の殺し合いが勃発するので実行できないだろうが、現状元康パーティーと俺には蟠りはない。

 俺に旨味がないこと以外は断る理由がないのだ。

 ……俺のパーティ、普通に男もいるんだけどなぁ? ライシェルとラヴァイトの一人と一羽だが。

 

 ふむ、そろそろ退散するかな。

 

 そう思っていると尚文達が入ってきた。

 夜のレベル上げにでも行っていたのだろう。

 そこにはラルクやテリスの姿が見える。やはり基本は書籍版進行なのだな……。

 

「ふふふ……いいきぶーん」

「なんでソースケは私を女の子として扱ってくれないのよー!」

 

 レイファはすでに出来上がっている。

 チェイサーを注文していたけれど、ワインサワーをごくごく飲んでしまったらしい。

 リノアは俺の腕に纏わり付きながらグダを巻いている。バシバシ俺を叩くので地味に痛い。

 うーん、俺はまだほろ酔いなんだけどなぁ……。

 

「……やっぱりもう帰るか」

 

 俺はそう言うと、アーシャに指示を出す。

 アーシャは酔っているようには見えない。俺と同様に飲み方を心得ているのだろう。

 

「アーシャ、宿に戻るぞ。レイファを頼む」

「わかりました。ほら、レイファ。宿に戻るわよ」

「リノアも行くぞ、ラヴァイトは……?」

「オイラはもうちょっと聞いていくぜ」

「そ、そうか……」

 

 ラヴァイトは結局普通の魔物紋のままだったりする。

 我が儘も言わないし、放置していたが、高位魔物紋に直すのもありだなとふと思った。

 

「まあ、あまり遅くならないようにな」

「もちろんだぜ」

 

 という感じで、結局尚文達と絡む事無く俺たちは酒場を後にすることになったのだった。

 どうやらラヴァイトが居たことによるズレがあったらしいが、そこは気にしてもしょうがないだろう。なんと言ってもあのマッスルは目立つからな……。

 そんな感じで俺たちは、1日目を終えたのだった。

 

 

 翌日、午前中に軽めに稽古と龍脈法の訓練をした後、俺たちは元康のパーティと合流した。

 

「よ! 来たんだな」

「あの後ルコルの実を食べて大変な目にあったという割には元気そうじゃないか」

「あはは……。まあ、ま──アバズレ達の看病のおかげだな! ……朝はキツかったけれど」

「あん?」

 

 後半の方がよく聞き取れなかった。まあ、表情を見れば言いたいことは想像がつく。昨日の急性アル中の状態よりはマシになったのだろう。

 よく見るとまだ若干顔が青い。

 

「それじゃあ、仲間交換だな。ま──アバズレ、レスティ、エレナだ」

「ん、よろしく頼む」

 

 レイファとリノアが不機嫌そうな表情でヴィッチを見ているのが気になるな。

 まあ、王位剥奪されたし、以前のように権限はないから有害度は現時点では物語上一番低い状態だろう。有害度は霊亀編後に極大になるわけだが……。

 今のうちに始末してしまいたい気分になるが、俺が自分の意思で破棄するわけにはいかないだろうから抑えておく。

 

「よろしくお願いしますわ、勇者様」

「よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 明らかに作り笑な三人。

 ミナと同じような扱いで問題ないだろう。

 

「まあ、こっちは知っての通りだとおもうが、レイファ、リノア、アーシャ、ライシェル、ラヴァイトだ。ラヴァイトはフィロリアルだが、マッスルだ」

「ええ?! フィロリアルだったのか……。ショタ顔にマッスルなんて、あの漫画を思い起こさせるな……」

 

 ダンベル何キロ持てる? 

 今の俺ならベンチプレスで120キロは行けそうだけど。

 

「よろしくです、槍の勇者様」

「よろしくね」

「……よろしくお願いしますわ」

「よろしく頼む、勇者殿」

「オイラはラヴァイト! よろしく頼むぜ、槍の兄ちゃん!」

 

 しかし、ずいぶん賑やかになったなぁ。

 フルメンバーでの戦闘経験自体はあまりないけれども。

 

「ああ、よろしく頼むぜ」

 

 と言うわけで、俺はヴィッチ達にパーティ申請を出す。無事承認される。

 

「それじゃ、夕方までレベル上げだな。お互いがんばろうぜ」

「そうだな」

 

 と言うわけで、俺と元康は別の島で狩る事になった。ヴィッチは完全に猫を被った態度である。

 

「勇者様はどうされる感じですか?」

「……普段はどうしているんだっけ?」

「私たちはモトヤス様の応援をしていますわ」

「ふーん、じゃあそれで良いよ」

 

 別に俺は連携する必要もない。

 投擲具でなら、ここにいる魔物は全員一撃で仕留められるからだ。

 投擲具を縛っても余裕なので、軽く肩慣らしをする程度で良いだろう。

 俺は、早速狩りを始める。

 スキルは縛っても問題なさそうだった。まあ、複製スキルである『エアストスロー』は使うがな。

 

「エアストスロー、セカンドスロー、トリッドスロー、コンボ、サウザンドスロー」

 

 俺は基本的にナイフを投げまくる戦法が主なので、大量の投擲具が必要になる。

 トルネードスローもコンボスキルであるが、俺はもっぱらサウザンドスローを使用する。

 複製したナイフを、魔物の首や心臓、頭を目掛けて投げる。

 

「つ……強い……」

「これが七星勇者様……」

 

 レスティとエレナが驚いている。

 俺としてはただの肩慣らしに過ぎないんだがなぁ。

 

「すごいですわ、さすがは勇者様ですね」

「ん」

 

 しかし、ヴィッチの様子は猫被ったミナそのものだな。

 特に俺に害はないから無視で大丈夫だろう。

 元康が書籍でどれだけレベルを上げていたか知らないが、それぐらいまでならあげても良いかな。

 ちなみに、投げて戦うと言う概念がある武器ならばなんでもコピーできる。

 槍しかり、斧しかり、チャクラムしかりだ。

 

「さて、どれだけレベルが上がった?」

「5ですわ」

 

 レスティの回答に、全員がうなづく。

 

「それじゃまあ、全員が70行き程度まで上げておきましょうかねー」

 

 俺はそう言うと、作業を再会する。

 結局、俺は大して運動量もなく、レベルも上がることはなかったが、ヴィッチ達をレベル70近くまで上げておいてやったのだった。

 ほとんど本気なんて出してないので、ヴィッチは俺の強さの秘密を盗むなんてできなかっただろうけれどね。

 どちらにしても、勇者とその仲間はこの島でレベル80になるのはどうしようもないのだ。だから、レベルを上げてやっても問題はないだろう。そう思わないとやってられなかった。




遅れて申し訳ない。

少し追記しました。


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マッスルと槍の勇者

遅くなりました!



 サクッとレベル上げを終わらせた俺たちは早々に解散した。

 まあ、俺は圧倒的強さを見せつけただけな気もするが、気にしてもしょうがないだろう。

 

「投擲具の勇者様」

「……ん、俺か?」

 

 戻ろうとしたところ、エレナの声をかけられた。

 しかし、勇者様呼ばわりはなれないね。初めからそうではなかっただけにね。

 

「強さの秘訣は教えていただけないのでしょうか?」

「んー。強さの秘訣ねぇ……」

 

 そう言われても、そもそも技量自体は努力で積み重ねてきた結果だしな。

 投擲具の戦い方だって、完全にスキル頼りだ。まあ、直接切りつける場合や狙いをつける偏差投げは俺の技量になるが。

 

「ええ、ステータスを上げる方法だったりですね。投擲具の勇者様がそこまで強いと言うことは、モトヤス様も強くなると言うことですしね」

 

 エレナの表情は完全に営業スマイルである。

 こう言ったところで差を埋めておきたいのだろうな。

 

「……参考にならないと思うんだがな。技量に関しては冒険者時代に培った戦闘経験や、これまで襲ってくる連中を皆殺しにした経験から来ているんじゃ無いか」

 

 皆殺しと言うキーワードに、エレナの表情が引きつる。

 

「俺は元々《首刈り》のソースケだ。何の因果か知らないが、たまたま投擲具の勇者武器を入手したに過ぎないよ。まあ、俺は一応武器の強化方法については教えている。信じるか信じないかは元康次第だな」

「そ、そうなんですね……」

「まあ、出し抜こうとしている間は無理なんじゃ無いの?」

「は、はぁ……」

「四聖の本気は俺みたいな七星なんかよりも圧倒的に強いから、早く強くなってくれるといいな」

 

 俺はそれだけ言うと、エレナに手を振ってレイファ達のところに向かった。

 ヴィッチもヴィッチ2も元康の強くなるための話を聞きに来なかったな。まあ、どうでも良いが。

 実際、錬ですら強くなった感じを受けないから、よほど強い衝撃を与えなければ固定観念の破壊は出来ないのだろう。

 ブラックサンダーやフレオンぐらい強烈な存在か、霊亀による失敗か、それとも最初から尚文が国に嵌められるのを見せつけるかのどれかの選択があいつらを正気? にするのだと俺は思う。

 専属フィロリアルをつけた後はどうなるかは知らないが。

 

 さて、レイファ達のところに戻ると、レイファとリノアが眉を潜めて不満そうな表情をしており、ライシェルがこまった様子をしていた。

 元康も困惑の表情をしている。リノアに詰め寄られて。

 

「……どうしたんだ?」

「あ、ソースケ!」

 

 レイファは俺のところに満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

 

「あのね、槍の勇者様ったら酷いのよ! 私だって戦えるようになったのに、見ているだけで良いって……!」

「ああ、あいつはそう言う奴だから気にしないほうがいいよ」

「むー……」

「で、リノアは何で詰め寄っているんだ?」

 

 気になって事を指摘すると、レイファはポケットから一枚のチケットを取り出した。

 なになに? ……美容エステ券? 

 

「これは?」

「槍の勇者様が戦いづくめだと美容にも悪いって事でくれたんだよ。こんな高いところに行けるわけないじゃん!」

 

 そのチケットには高級エステの店の名前が書かれてある。

 

「これを貰って憤慨しているのか?」

「うん、そんな感じ」

 

 レイファが抱きついたままだが、俺は元康の近くまで寄る。

 

「……あんた、本気でどういうつもりよ!」

「だから、女の子には危ないことはさせられないんだって! 男だけでちゃんと狩れたんだし問題ないだろ?」

「それって本当に仲間なの? ただの取り巻きじゃない!」

 

 リノアの指摘に元康は慌てて否定する。

 

「いや、仲間だって! 信頼し合う仲間!」

「一緒に戦わないで、何が仲間よ! 女の子は飾りじゃないのよ! こんなアクセサリーなんかもらってもうれしくないんだからね!」

 

 リノアは例のあのアクセサリーを元康につき返した。

 

「ふんっ!」

「え、あ、ちょっと!」

 

 俺はその様子に、何があったのかをだいたい把握することができた。

 

「……だいだいわかった」

「ソースケはどうだったの?」

 

 レイファが聞いてきたので、答える。

 

「まあ、元康……槍の勇者様の在り方に従ったさ。一人で魔物を狩ってたよ」

 

 俺が肩をすくめると、レイファが怒り出す。

 

「やっぱり、あの王女様……元王女様だったわね。あの人はとんでもないわ!」

 

 レイファもどうやらヴィッチの本性を知っているようだった。

 

「ま、元康も召喚される前に思うところがあったんだろうよ」

 

 とりあえず、成果を話すために元康のそばまで近づく。

 

「やあ」

「……宗介か」

 

 なんか、すごく困惑している様子だ。

 まあ、元の世界からしてみれば主人公である元康に対する女の子の好感度は高かったはずだ。

 この状況は、ギャルゲーの世界でないこの世界は元康にとってみれば当たり前でないことが起こってしまうのは当たり前だろう。

 

「盛大にどぎついこと言われていたみたいだが、問題なかったか?」

「……まあな。そっちのほうはどうだ?」

「とりあえず、全員が70までは上げておいてやった。感謝しろよ?」

「お、おう……。サンキューな」

 

 元康は困惑した表情のまま感謝の言葉を述べる。

 これで改心したら愛の狩人なんてものに変貌しなくてすんだんだろうがな。

 自分でも自覚があるが俺も人格が歪んでしまっている。

 

「まあ、だいたい何が起きたのかは分かっているがな。とりあえず、リノアを宥めに行こうか」

「うん、そうだね」

 

 ちなみに、アーシャは最初から元康についていかず、俺を遠くから見守っていた事が発覚したのだった。

 ストーカーかよ! 

 

 何が起きたのかをリノアの愚痴に付き合って聞き出した所、やはりと言うか案の定と言うか、デートから始まったらしい。

 デートで高級エステのチケットをプレゼントされたり、詐欺商から例のアクセサリーを購入してプレゼントされたり、挙句にライシェルとラヴァイト以外は見守っててくれ宣言。

 アーシャはこの時点で消えるように俺のストーキングに向ったらしい。

 

「あの男はきっと、女の子をブランドもののバッグか何かと勘違いしているのよ! そりゃ、あの性悪女に気に入られるのも理解できるわ! 勇者様が聞いて呆れる!」

 

 リノアは怒り心頭であった。

 

「アイツら、世界を救う気あるのかしら? 勇者に選ばれたのならばその気概を見せて欲しいものだわ」

 

 その言葉は俺にも刺さる。やめてくれ、とは言える雰囲気ではなかった。




書いてて、レイファ視点も面白みもなかったので悩みに悩んだ末こんな感じになりました。
そして遅くなると言うね。


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マッスルと現状確認

 カルミラ島ではちょくちょく勇者連中を見かけるが、特にこれと言って特筆するようなことはなかった。

 温泉の時間も修行でずらしていたのもあるし、兵士としての仕事もあるのかライシェルの表情に疲れが見えてくる。

 

「どうしたんだ、さすがに疲れて来たか?」

「いや、勇者たちが各地で問題行動を……特に弓の勇者殿とその仲間が問題行動を起こすので、その対処に追われてな」

「あ、あはは……」

 

 きっと、ライシェルは本来の流れでもカルミラ諸島での問題に対応していた兵士なのだろうな。最近はリノアの訓練が終わったら兵士としての仕事のほうに向かうことがほとんどであった。

 

「剣の勇者殿はほとんど一人で戦っているので問題はなく対処は楽なんだが、盾の勇者殿はよくわからない商品を売り出して、そのクレームの対応が起きている。槍の勇者殿はナンパだな。それで苦情が来る。弓の勇者殿に至っては、他の冒険者の狩っている魔物の横取り、狩場の荒らし行為、それに市場でも権威や脅しを使った弓の勇者殿の仲間の強引な値切りと言ったことに対して苦情が乱発していてな……。すでに兵士の手が足りてない現状でな、私も駆り出されてしまっていると言った感じなのだ」

 

 まあ、錬は問題を起こしようがないだろうな。

 やっぱり、詐欺商の問題は苦情が来るよなと思った。

 だって、目利きをすればあのアクセサリーにろくな効果もないことがわかるのだ。

 レイファやリノアには買わないように伝えてあるので、購入していない……はずである。リノアがアクセサリーをしていたのは無視することに決めた。

 

「……俺は?」

「ソースケくんはそもそもレベル上げと訓練しかしていないだろう? 特に問題になってはいないぞ」

「そりゃよかった」

 

 ちなみに、樹のいる島には冒険者が行かないように規制がかかるようであった。

 そんなんだから弓の勇者には悪い噂しか存在しないわけで……。

 やれやれだな。

 

 ちなみに、龍脈法については俺はようやく水を浮かせることに成功した。

 レイファに至ってはすでに習得完了しており、竜帝はレイファには才能があるなと関心をしていた。

 

「で、ソースケくんは今日はどうするんだ?」

「これからレベル上げをしてから、午後から訓練だな」

 

 カルミラ島に来てから基本はこんな感じである。レベルも、ラヴァイト以外はすでに74になっているが、経験値の入りは悪くなってきているようである。

 ちなみに、レベルの上昇が34も上がっていることにリノアは驚いているが、勇者の仲間の特権であることは伝えておいた。

 ライシェル曰く、レベル40から俺のペースでレベル上げをすると、56まで上げて良いほうらしい。

 経験値収集装置の影響だろうけれどもさ。

 

「そうか。リノアくんの動きもかなり良くなってきたし、今日は私は仕事のほうに集中させてもらおうと思う」

「ん、そうなのか」

「ああ、龍脈法……だったか? 私はそれを覚えることができないようだしな」

 

 龍脈法は竜の加護を得られない者は習得できなかったっけか。

 俺は龍脈法を使えるみたいだけれど、果たしてどちらの加護を得るのやら。

 ちなみに、フィロリアルシリーズは一応全部開放されている。

 

「なら、仕事を頑張ってくれ。今日か明日あたりに盾の勇者が例のものを見つけるだろうから、それもよろしくな」

「ああ、水中神殿だったか? 一応は調査させたが見つからなかったが……」

「まあ、期待してろって。それじゃ、レイファ達と訓練に行くからよろしくな」

 

 今日は狩場の奥の方に行く予定だ。集中特訓したおかげかとレイファの合気道も2級レベルまで習得することができているし、パーティの連携もだいぶできるようになった。リノアの技量が上がり、前衛がかなり安定感のある動きができるようになったのはかなりの進歩だろう。

 カルミラ諸島を出たら俺は、メルロマルクを出て旅をする予定だ。

 グリフォンと狐を確保するためにも、シルトヴェルト方面に向かう必要がある。

 ……東、なんだよなぁ……。霊亀国も東……。確実に巻き込まれそうではある。

 いや、今ネガティヴなことは考えないようにしよう。今考えてもどうしようもないしな。

 

 と、そんな感じで訓練をしていると、慌てた様子の伝令の騎士が訓練施設に飛び込んできた。

 

「投擲具の勇者様! 投擲具の勇者様は居られますか?!」

「……あ、俺だった」

 

 普段ソースケ呼ばわりなので、自分が投擲具を持っている事を忘れがちである。

 だいたい、投擲具を装備した状態で合気道を素手ですると、バチッと弾かれるから普段から装備しないようにしているのもあり余計にね。

 

「どうしたんだ?」

「盾の勇者様から急ぎの報告があるとの事で勇者様方は集まってほしいそうです!」

 

 ああ……やっぱり、この世界は基本的には書籍・アニメ版が中心なんだな。

 見つけた時間から考えれば、残り48時間ぐらいだっけか? 

 俺はレイファ達と顔を見合わせる。

 

「ソースケ!」

「わかった。案内してくれ」

「畏まりました!」

 

 俺は騎士……若い騎士に案内されて、尚文達のところに向かったのだった。



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マッスルと金槌

「水中神殿に龍刻の砂時計があった!?」

 

 尚文に招集された俺たちは尚文から報告を受けて、驚きの声をあげた。

 

「まさか……」

「信じられないなら案内するぞ?」

「別に嘘を言っているとは思っちゃいねぇよ」

「海の中にですか……ゲームだとかなりレアなクエストだった覚えがありますね」

 

 すなわち、書籍版ルートは樹からすればレアルートと言うことになる。実際、他の可能性の世界的にはWeb版が正規ルートなのだろうがな。

 二次創作小説なんかを読むと、多くがWeb版……いや、アニメが放送された後だし、よく設定なんか見ずに書いちゃったりするのも可能性の一つとして考えれば、盾の勇者世界の可能性の世界はより複雑に分岐しそうではある。

 例えば、他の神様による転生とかもあり得るだろう。

 メガヴィッチも元はアーク側の存在と聞く。ならば、メガヴィッチの不正を見抜いた神的存在がメガヴィッチの愚行を止めるために、気づかれないように転生者を送り込むなんて言うパターンも考えられるな。

 まあ、今考えたが。

 

「どうする? 俺は参加する予定だが……」

「レベルアップの成果が試せるのですから僕は拒みませんよ?」

「俺もだぜ。腕がなるぜ。もちろん、本当ならな」

「嘘なんて言っていない。後で案内する」

 

 そこで、拒否する奴が出てくる。錬である。

 

「ふんっ、くだらないな」

 

 カナヅチだっけ。

 まるで興味がない風を装っているようだが、額には脂汗が浮かんでいる。

 いやまあ、錬をよく知る奴じゃないと気づかないだろうけどさ。

 

「おい。世界のために戦ってくれと頼まれているんだろ? 戦えよ」

 

 尚文が引き止めるために錬の腕を掴むと錬は尚文の手を振り払った。

 

「触るな。俺は馴れ合いをしたくてここにいるんじゃない。勇者が4人も居れば問題ないと思ったから俺は島を出ようと思っているだけだ」

 

 すると、尚文が錬を羽交い締めにする。一瞬バチンと弾かれたのは、若干関節が決まったからだろう。

 

「離せ!」

 

 錬は思いっきり暴れる。

 

「宗介! 元康、樹! 尚文を止めろ! 俺は無理強いをされた戦いをするつもりはない!」

 

 その反応で、全員が察したらしい。

 元康がニヤリと笑い、錬に指摘する。

 

「錬。お前……金槌だったのか」

「な──違う! おい、宗介からもなんか言ってやれ!」

「錬サマは一度も水辺のクエストを受けたことがなくて──」

「わかった。参加すればいいんだろ? お前らがそんなに言うなら参加してやる。ありがたく思えよ」

 

 こうして錬をある程度理解していると、反応が可愛く思えるな。

 改心した錬はきっと、お姉様に人気のキャラになるだろう。

 錬はますます暴れる力を入れる。

 

「く……尚文、いい加減にしないと力を入れるぞ」

「入れるがいいさ」

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 錬は必死に尚文を振り解こうとするものの、尚文は涼しい顔をしている。これがステータスの差なのか……。

 

「どうする?」

「金槌じゃないんだろ? 尚文、錬を押さえて海へ行こうぜ」

「おう」

 

 必死に金槌を否定するからそうなる。

 まあ、水に関しては苦手な奴は本当に苦手なので、催眠療法でも使わないと克服は難しいだろうけれど。

 

「お、おい! 悪ふざけは止めろ! 俺は泳げる! だから早く離せ!」

「はいはい」

「あー、錬はガチ目の金槌だからやめたほうが……」

「ここで確かめておかないと、戦力になるかも確認できないだろう? それに、嘘をつく奴にはそれ相応の報いを受けてもらう」

 

 こりゃ言っても聞かないな……。

 結局俺たちは錬を港まで連行していた。

 

「樹は泳げるよな」

「ええ、泳げますよ」

「錬みたいに泳げないのに嘘を言ったりするなよ? ちゃんと泳げるか試すからな」

「わかってますって」

「放せぇえええええ!」

「錬、普段クールぶっているくせに泳げないとか。かっこわりー」

「とりあえず、着衣水泳は普段泳げるやつでも難しいから少し脱がすぞ」

 

 暴れる錬を俺も簡単に押さえつけると、重そうな装備をホイホイ解除する。

 とりあえず、尚文が押さえつけてても解除できる部分は装備を外して、首を通す必要のある鎧以外は外した。

 

「く……俺は泳げる」

「じゃあ頑張れよ」

 

 尚文がそう言うと、錬を離してやる。すかさず元康が錬を海に蹴り落とした。

 

「あ?!」

 

 この世の終わりみたいな表情をした錬が真っ逆さまに海に落ちる。

 水飛沫が上がったので、覗き込むと、およそ首まで浸かる程度の深さだろう。

 もがいているのが見えるが、ありゃ溺れているな。

 

「…………」

「…………」

「……浮かんできませんね」

「はあ……しょうがないな」

「俺が行くよ」

 

 俺は飛び込んで錬を起こしてやる。

 ぷはっと顔を上げて、尚文たちを睨む。……涙目で。

 

「はぁ……はぁ……! お前ら! 悪ふざけはいい加減にしろ!」

「溺れるの早すぎだろ。宗介、深さはどれぐらいだ?」

「足がつくな。肩ぐらいまでの深さだ」

「……マジかよ。筋金入りの金槌じゃねぇか」

 

 元康が哀れむような表情で錬を見る。

 一応、擁護するならば、突き落とされれば誰だってこの程度でも溺れるんだけれどなぁ……。

 特に錬はパニックも相まってヤバいことになる。

 

「一応擁護してやるといきなり海に突き落としたら誰だって溺れるからな」

「それでも、錬さんは戦力にならなそうですね」

「それじゃ困るんだがな」

 

 俺は錬を連れて、海から上がる。

 うーん、ここはやっぱり水泳の練習をさせたほうがいいんじゃないかな? 

 溺死とかされても正直ね……。

 

「俺は金槌じゃない!」

「これだけ状況証拠があってまだ言うか」

 

 頑なに否定する錬に、尚文たちは呆れるのだった。




分割します。


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マッスルと戦略

 尚文は水平線を眺めながらこう切り出した。

 

「波に参加するときの転送って船とか乗り物も持っていけるのか? 波の時に船の上で待機させるしかなさそうだよな」

 

 アイテムを運ぶための道具なら持っていけるはずだが、人間を載せるための道具……馬車とかは確か無理だったように思う。

 

「一か八かになるが隊列を組む時にはこの案で行くとしよう」

「わかりました」

 

 尚文は影に指示を出しつつ、元康と樹、錬を見る。あ、俺もか。

 

「それでお前ら? さすがに編隊を組むことぐらい理解したよな?」

 

 尚文の指摘に元康と樹がムッとした表情をした。

 

「わかっていますよ」

「ああ! それぐらいやるに決まっているだろ?」

「じゃあ作戦は? どのような陣形で挑むか考えているか? 状況次第だが、どう対処するかパターンは決めているのか?」

 

 魔物に対する殲滅陣形か。

 俺はそういう戦略系のゲームはやったことがないため想像しかできないのだが、勇者を支援する船1隻を先頭に立たせて、大型帆船を並の中心からカルミラ諸島を守るように配備、小型帆船を大型帆船の周囲に配備して大型を守りつつ攻撃して魔物を殲滅するのが一番ではないだろうか? 

 大型帆船を守る小型帆船は1隻につき5隻は付けたいところである。

 

「みょ、妙に詳しいですね。尚文さん。まるで知っているようじゃないですか」

「お前さ……こういう大規模戦闘が自分の知るゲームだけだと思っているのか?」

 

 SLG(シュミレーションゲーム)とかそうだよな。

 スパロボの場合もエースを突撃させたりするが、補給・回復ユニットを近くに配備してそれを守るユニットを近くに配置したりする。

 レベリングが目的ならばわざとエースをひっこめたりするが。

 RTSTG(リアルタイムストラテジーゲーム)とかはさすがにやったことがないけれどもさ。いや、FEZはそうだったっけな。スカウトで戦場をかく乱してばかりだったが。尚文はそういうゲームの経験が豊富なのだろう。

 

「完全に同じゲームの経験はないが、大規模戦闘があるようなゲームぐらいはやっていた。お前らはないみたいだけどな」

「俺はあるって前に話したろ」

「元康、お前の経験はあくまで参加していた程度だろ? 50人……100人以上規模のギルド経験はあるか?」

 

 ちなみにFEZは50vs50なので、尚文から言わせれば中規模なのだろう。

 

「う……尚文はあるっていうのか?」

「あるが?」

 

 俺の世界でもそんな200人以上の大規模戦闘PvPのあるゲームなど限られてしまう。50vs50のFEZでも大規模戦闘と称されるのだ。

 俺が聞き及んでいる程度ならば、ROとかTERAがギルド戦があったように思う。

 改めて尚文の世界には2012年でもそんな増強サーバーを用いた大規模戦闘のできるMMORPGがあったんだなぁ……。

 

「本当ですか?」

「嘘だというのなら前回の波を思い出せ。仕事は完遂したし、死傷者はほとんど出してないぞ?」

 

 何故か悔しそうににらむ元康と樹。

 正直、経験が無いならば勉強してパクリとって次回から自分ができるようになればいいだけの話なんだがなぁ……。

 今回は勇者としての立ち位置で参加するので、指揮ができるようにするつもりである。

 

「ある程度は指揮できるぞ? まあ、この世界に適任の奴らがいるのなら任せるのが一番だけどな」

 

 とはいっても、尚文の戦略はゲームの仕様に沿ったものになる。現実での戦闘経験や指揮能力がある奴なんて日本だと自衛官ぐらいしかいないだろうと思われるので、俺たちが即席でできるはずもない。

 ならば、それができるやつに……この世界の軍人であるライシェルとかに任せてしまうのが一番効率がいいだろう。

 自分たちができるようになるためには、できるやつに弟子入りしてパクリとって自分ができるようになるしかない。

 

「メルロマルクからの応援で詳しい奴が来ればそいつに任せるのが一番だ。そいつらを参加させるために編隊は必要なんだよ」

「なるほど、話は分かりました」

「難しく言っているが、結局城の連中に頼るんだな」

 

 元康が悔し紛れにそんなことを言っているが、尚文の眼はあきれている色をしたまま変わらない。

 

「とにかく、俺たちがやることはゲームで言うところのエースプレイヤーとして波との戦いで先陣を切ることだろ? 有能な奴が切ることのできる切り札が俺たちだと思って行動する。それでいいな?」

「ええ、わかりました」

「尚文に言われると不服だが筋は通っているな」

「了解」

「俺は泳げる!」

「錬、まだ言っているのか! いいから水中神殿に行くぞ! 泳げるかどうかは、そこで見るとしようじゃないか」

 

 尚文の提案に、錬は心底嫌そうな表情をする。

 

「何?! 俺も行くのか?! 編隊で呼べるんじゃないのか?」

「できるとは思うが勇者同士は反発するんだろ? できない可能性があるから念のために登録するんだよ。ほら、この着ぐるみを着ろ、3着ある」

「ぶ?! なんだその着ぐるみ?!」

 

 ペックルの着ぐるみ……俺は出なかったんだよなぁ。

 ウサウニー着ぐるみが出た。

 

「ふざけた見た目だけど水中では優秀な装備なんだぞ。というかお前ら、島の一番奥にいるボスクラスの奴からドロップを手に入れただろ?」

「……そうですね。ですが僕はリスーカ着ぐるみというものでしたよ?」

「俺はウサウニー着ぐるみだったぜ」

「俺もだ」

「……俺はイヌルト着ぐるみだった」

 

 尚文は眉を寄せて難しい顔をする。

 若干噴き出したのは、勇者全員が着ぐるみ装備を装備して戦う姿を思い浮かべたからか? 

 ペックルは負けないペン! 

 ウサウニー着ぐるみも例にもれず優秀な装備だけどな。俺は着ることをためらわないが、レイファやリノアにやめてほしいとお願いされたから着るのはやめている。

 足がめっちゃ速くなるんだよな。俺が着るとクロックアップかアクセルフォームのような速度で動くことができる。

 

「他にも色々とドロップしましたが三着も稼げていませんよ?」

「確かに出現頻度は低いが……あいつら雑魚だろ?」

 

 まあ、俺にとっても投擲具を使うまでもなく雑魚である。なんなら俺単体でも行ける。レイファ達のパーティだとそれなりに苦戦するけれども、倒せないことはない。

 結果、俺は4着程度ウサウニー着ぐるみを持っている。

 

「地味に強くありませんか? 一応ボスクラスの魔物ですし」

「は?」

 

 尚文は疑問に思っているようだが、俺はこれで勇者たちの強さが大体把握できた。

 俺はどうやら素の状態でもラフタリアと同程度の強さであり、勇者たちはレイファ達と同じ程度の強さなのだろう。

 ……改めて聞くと、なかなかに絶望的な状況ではないだろうか? 

 

「とにかく、出発しよう」

 

 尚文が指示を出し、俺たちはそれに従う。

 

「くっ……俺は行かなくても大丈夫だろう!」

「ほら、行くぞ。ほらほら」

「やめろ! 宗介! くっ!」

 

 いじめでもやっている気分だが、錬が泳げないとはいっても勇者である。戦いを強要されているので、ある程度戦えるように水を克服してもらう必要はあるだろう。

 

「錬は泳げるんだろ? なら怖がる必要はないじゃないか」

「くっ……!」

 

 海岸まで錬をひぱってきて、いよいよ水中神殿まで潜るとなって、ついに錬は泳げないことを認めた。

 

「……俺は泳げない! くそっ! 認める!」

「……やれやれ」

 

 尚文があきれていると、ライシェルがやってきた。

 

「勇者殿、水中神殿の調査に向かわれるので?」

「ああ、だが、錬の奴が泳げなくてな。どうしようかと悩んでいたところだ」

「でしたら、水中で呼吸ができる魔法がありますので、それをかけましょう」

 

 ライシェルが指示をすると、魔法使いが錬に魔法をかける。

 

「ファスト・アクアブレスシール」

 

 ほわっと青い光が錬を包み込む。

 アクアブレスシールね。援護魔法っぽいから俺にも使えそうだ。

 

「これで、1時間程度は水中でも呼吸ができます。戦闘用の魔法ではないので急な動きには対処できませんし、流れが急だったり水深が深いところでは効果がなくなりますが、気休めにはいいかもしれません」

「いや、助かる」

「確認のために我々も同行します。剣の勇者様も心配ですし……」

「そうしてもらえると助かる」

 

 尚文はそう言うと、錬にペックル着ぐるみを渡す。

 

「ほら、これを着ろよ」

「ぶふっ! やっぱだせぇ!」

「ふふっ、ですが、水中戦用の装備としては優秀だと思いますよ」

「宗介は?」

「俺はブレスシールがあれば大丈夫だろう」

 

 というわけで、水中神殿まで潜ることになった。

 酸素ボンベ代わりに容器に空気を封入したものを持参して潜る。

 アクアブレスシールの効果は水中神殿が見えてきたところで切れて、錬は溺れかけた。

 多分パニックになるんだろうな。

 こうして俺たちは水中神殿の龍刻の砂時計に登録することになった。

 せっかくだし、俺はこのタイミングで砂時計の砂を入手してポータルを使えるようにしたのだった。



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マッスルと海の波

大変遅くなってしまって申し訳ないです。
ようやく捻り出せたので、更新します。


 さて、尚文は波の準備のために東奔西走し、勇者達もそれぞれ準備をするのだろう。

 俺たちはと言うと、もう一度ラヴァイトを連れて水中神殿まで行き(ポータルで移動)ラヴァイトのクラスアップをしてから再度ラヴァイトのレベル上げをしていた。

 

「オイラを舐めんじゃねぇ!」

 

 マッスルパンチが魔物を粉砕する。

 うむ、ナイスバルク。

 

「しかし、ポータルスキルってのは便利よね。ちょっと沖合まで行かないと使えないみたいだけれど」

「活性化中は転送無効地域になるみたいだからな」

 

 転送不可なのは、サンクチュアリ系統の魔法の範囲内、儀式魔法の効果範囲内、活性化中の地域範囲内だったか。行きはホイホイ帰りは不可能って感じか。

 

「しかし、あのようなところに龍刻の砂時計が存在するなんてな……」

「うん、気付いてよかったですね」

 

 俺は知ってはいたが場所までは把握していない。

 描写もされていなかったしな。

 ちなみに、実際の位置はかなり沖合で深い場所であった。よくもまああんな場所を見つけられたなと思うような場所である。

 明確な人工物だったので、地殻変動でも起きて沈んでしまったのだろうか? 謎は尽きないがこの二日間は波に向けて準備をすることが先決だろう。

 実際、この辺りの謎は書籍では放置されているしな。

 

 とりあえず、俺たちは波に向けて準備を進めた。

 せっかく使えるのだから、勇者のドロップ機能を利用してメンバー全員の装備を一新する。

 まあ、基本的にはカルマー系統になってしまうわけであるがそれは仕方のない事だろう。

 俺も一応勇者判定をもらっているので、投擲具で戦うことになってしまう。

 仕方のない事だけれども、やはり使い慣れた剣や槍、拳や弓で戦うのがやりやすいと思うのであった。

 使えないにしても、一応装備しておくことに越したことはないだろう。

 

 そんな感じで、俺たちの準備は整ったのであった。

 

 2日後、俺たちは勇者たちと共に船に乗り、戦場に立つことになった。

 ウサウニーの着ぐるみを着て「ウサウニーだぴょん♡」とやっても良かったけれども、やっぱり却下されてしまったので仕方がない。

 とりあえず、俺はどう動こうかな、なんて事を考えながら周囲を見渡すと、冒険者で賑わっている。

 レイファたちもこの波の戦いに参加するつもりらしくやる気に満ちている。

 

──00:20

 

 尚文達のパーティは女王様のいる船にいるのだろう。

 俺がいるのは比較的冒険者の多い船であった。

 他の勇者は兵士がいる船であるという事を考えれば、七星勇者に対する扱いの差と言うものだろう。

 

「おおー!」

 

 遠くから士気の高揚する声が聞こえる。

 チラッと周囲を見ると、みんなの目線が俺を期待するように見ていることに気づく。

 ……あれ、俺もやるのか? 

 レイファを見ると、うなづき返してくるし、リノアを見ると「期待しているわよ」と微笑んでくる。

 ……ええい! ままよ! 

 

「お前ら、この波を乗り越えて稼ぐぞ!!!」

「「「おおー!」」」

 

 冒険者が多いということもあり、俺はこのセリフを選んだ。

 参加すればメルロマルクで報奨金が出るし、活躍したものにはさらに報奨金が出るのだ。

 勇者が5人もいる現状、他の冒険者にとってもこの波は稼ぎ時だったし、カルミラ島でのレベル上げの成果を試す場でもあった。

 だからこそ、こんな言葉でも士気が上がるのだろう。

 

00:10

 

「それにしても、海での戦いね……。私の攻撃って通用するのかしら?」

 

 リノアが不安そうにそう呟いた。

 リノアの武器は巨大なブーメランである。

 水中の敵を葬るには直接ブーメランで切りつける接近戦闘が有効なのだろう。

 

「ああ、大丈夫。基本的には俺たちは船の上で戦うことになるはずだからな」

 

 今回出てくる敵はサハギンのような水陸両用の敵がほとんどだったはずである。

 海に引き摺り込もうとしてくるので、その攻撃を警戒して戦えば良いのだろう。

 

「そうなの?」

「ああ、水中に引き摺り込もうとしてくるから、それに注意すれば良い。まあ、雑魚散らしは他の冒険者と協力してやれば良いさ」

「ソースケはどうするの?」

「俺は、期待されている仕事がこの波の大ボスを倒すことだろうけれどね。尚文達の邪魔をするわけにもいかないから、後方でレイファ達を守るさ」

 

 グラスとの因縁だとか、勇魚の討伐だとかは最低限砲撃の協力さえすれば十分だろう。

 ここでのグラスと尚文達の戦いは、今後の大きなフラグになるだろうし、アニメでいえばエンディングテーマが流れるようなボス戦である。

 遠くから傍観者のように眺めるならともかく、あまりわって入るのは俺の好みではないのだ。

 ラルクやテリスとも因縁を持たないために、わざと避けてきたわけだしね。

 やられ役になるのもゴメンだし、それならば俺にとって優先順位が高いレイファやリノアを守るのは当然と言えるだろう。

 

「それに、この投擲具は本当の勇者から預かっているものだしな」

 

 俺はあの気弱な少女の顔を思い出しながら、その時を待つのであった。



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マッスルと次元ノ勇魚

 

00:00

 

 残り時間が0になった。

 その瞬間、景色が切り替わり、一瞬だけ身体が宙に浮く感覚を覚える。

 ギシッと船が音を立てた。

 俺はまっすぐと次元の波を見遣る。

 世界と世界がぶつかる際の反応であるぶつかっている部分がバイオレットに染まる現象から、改めて次元の波である事を再確認する。

 

「勇者様は他の勇者様と合流されないのですか?」

 

 メルロマルクの兵士の一人にそう問われる。

 前方にある大きな帆船に勇者のパーティが集まっているのが見える。

 

「ああ、あっちは四聖勇者様に任せて、七星の俺は他の連中の支援をするとしよう」

「なるほど! わかりました!」

 

 まあ、四聖勇者がいれば常識で考えると火力は十分だからな。

 一番の問題は、防御力以外がヘナチョコすぎるという事だけれどね! 

 錬ですら、強化方法を実践しているようには見えないのが哀しいポイントだ。

 

「ソースケ!」

 

 俺はすぐさま短剣に切り替えて、目の前の魔物を切り刻む。

 投擲具なだけあってリーチが短いのは仕方ないだろう。

 すれ違いざまに敵の急所を斬り、戻ってくる特性を生かして投擲具を急所を狙って投擲する。

 頭に当たれば攻撃力の差から魔物の頭部が破裂していたりするが、まあ気にしてもしょうがないだろう。

 尚文達の方を見ると、大型の帆船の上で戦っているのが見える。

 そして、別の船の上では鎌を持った冒険者が魔物を蹴散らしているのも視認できる。

 

 ──ブオォォォォォ

 

「ルコル爆弾が来るぞー! 一帯から避難しろー!」

 

 螺貝のような音がなると、兵士が海に向かって冒険者に叫ぶ。

 と同時に樽が海に投擲される。

 爆発音と同時に海の周囲が紫色に染まったと思ったら、波の魔物の死骸がプカリと浮かぶ。

 急性アルコール中毒で死亡したのだろうか。

 そう考えると恐ろしい兵器である。

 

 しばらく船に上がってくる魔物を船を移動しながら勇者達と合流しないように掃討していると、突然船が揺れ出した。

 

「な、なんだ?!」

「船が揺れてるぞ!」

 

 すると、突然船の地面を突き破って角が飛び出してきた。

 冒険者の一人が腹部を貫かれているのを目の当たりにしてしまう。

 と同時に船体が持ち上がり、船が破れて俺たちは空中に投げ出された。

 

「っ!」

 

 どうやら、俺が移動して戦っている最中に勇魚の犠牲になるはずの船まで移ってきていたらしい。

 ──ブオオオオオオォォォォォォォォ!! 

 

「ラヴァイト!」

「うん!」

 

 ラヴァイトがマッスルモードからフィロリアルに戻り、俺と近くの冒険者数名を確保して近くの……レイファ達に任せていた船へと飛び移った。

 

「ソースケ! ラヴァイト! 大丈夫だった?」

 

 レイファとリノア、アーシャが駆け寄ってくる。

 

「ああ、だが他の冒険者が巻き込まれてしまったみたいだ」

 

 勇魚が出現した影響か、船はかなり揺れていた。

 特に近いこの船は他と比べても小型のため、足場がかなり不安定になっていた。

 

次元ノ勇魚

 

 全長でおよそ50メートルのマッコウクジラをアルビノのように真っ白に染め上げて、船を貫き破壊したドリルのような角が頭部に生えている見た目をしている。

 所々にコブができているのか、そのせいで輪郭が歪んでおり、化物感が出ている。

 まあ、今の俺にとっては倒すというのはわけない事だろう。

 

「すごい……」

「ちょっと、ソースケ! あんなのどうやって倒すのよ!」

 

 レイファは勇魚を唖然として見上げており、リノアは慌てた様子でおれの服の裾を摘む。

 

「ん、ああ。四聖に任せておけば問題ないだろうさ。俺たちは海に落ちた冒険者達を助けるとしよう」

「え……盾の勇者様以外弱いんじゃないの? ソースケが協力した方が早く終わらない?」

 

 早く終わってもらっても困るんだけれどね。

 ここはちゃんとラルクとテリスに向こうの世界に帰ってもらわなければならないのだ。

 そうでなければ意図的にラルクを避けてきた意味がなくなるからな。

 

「ま、そうかもしれないが、ここでちゃんとフラグを回収しておきたいからね。俺の出る幕ではないのさ」

「……何か考えがあるなら良いけれど」

「そういう事。それじゃあ、あの船に乗ってた冒険者を助けに行こう」

 

 リノアの指摘を流しつつ、俺とラヴァイトは海に潜って海に投げ出された冒険者を回収していく。

 魔物をラヴァイトに蹴散らしてもらいつつ、小型船に乗ったレイファとリノアに回収した冒険者を託しながら回収して回った。

 ちらりと勇魚の方を見ると、尚文が盾で勇魚の突撃を受けているのが見えた。

 いやー、物理法則なんてあったものじゃないですね。

 そんな感想を漏らしつつ、水中で襲いかかってくる魔物を三枚に卸す。

 

 いやだって、片腕でツノを掴んだ尚文に対して巨大な勇魚が海中でジタバタしている光景はどう考えてもギャグの類だろう。

 

「流星槍! ライトニングスピア!」

「てい! えい! やあ!」

 

 元康とフィーロがそれぞれ各々で攻撃をしているが、遠くから見ても明かにフィーロの攻撃の方がダメージが入っているように見える。

 と、鎌を構えた(激ウマギャグ)ラルクが他の船から飛び降りて、スキルで勇魚の尾をぶった斬る。

 

 ──ブオオオオオオォォォォォォォォ!? 

 

 続けてフィーロも左側のフリッパーを蹴り飛ばすと、ブシュッと音を立てて吹き飛ばしてしまう。

 そして、ラルクとテリスが合体スキルを、フィーロが強力な技で勇魚にとどめを刺したのだった。

 

 ──ブオオオオォォォォォ……! 

 

 軋むような鳴き声を上げて、勇魚は絶命する。

 バシャーンと水しぶきと波を立てて、勇魚は大海原へその巨体を横たえたのだった。




ラヴァイトくんあまり活躍書けてないっすねー


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マッスルとラルクベルク

 その場の空気が変わったのは、勇魚が倒された直後であった。

 

「あ、始まったか」

「ソースケ?」

「なにが始まったって言うのよ?」

「世界の命運を決める戦い?」

「はぁ?」

 

 レイファやリノアと冗談を交えながら話していると、ここまで聞こえるほど大きなガキンと言う金属がぶつかる音が聞こえてきた。

 

「なっ?!」

「盾の勇者様と冒険者が戦ってる……?」

 

 レイファ達の載っている小舟に手をかけつつ俺は、勇魚の死骸がある方向に顔を向けた。

 

「盾の勇者であるイワタニ様への攻撃という暴挙に出た冒険者に制裁を!」

 

 旗艦からは結構距離があるにも拘らず、女王様の声がここまで聞こえてきた。

 そう言う魔法でも使っているのだろうね。

 それと同時に近くの船から呪文を唱える声が聞こえる。

 

「勇者様!」

 

 船が一隻此方に近づいてきた。

 兵士が乗っているのがわかる。

 

「ん?」

「投擲具の勇者様! ここにおられましたか!」

「えーっと、何のようですか?」

「盾の勇者様の支援をお願いしに参りました!」

「支援……?」

 

 ちらりと見ると、空に魔力が集まりつつある。

 そして、尚文達が流星盾……青い半透明のバリアを形成しているのが見える。

 

「集団合成儀式魔法『裁──」

 

 言い終わる前に巨大な炎の玉が雨のように降り注ぐ。

 

「きゃあああああああああああああ!!」

「わああああああああああああああ?!」

 

 大きい船に直撃して、爆炎が上がる。

 これがテリス──テリス=アレキサンドライトの魔法『輝石・流星炎雨』だった。

 このバカみたいな威力なのも、此方の世界と彼方の世界が一時的に結合してレベルが統合されているためだろう。

 あれ、ライシェルさんは無事かな? 

 一応メルロマルクの兵士という事で、女王様の護衛に向かってたはずだけれど……。

 

 まあ、何方にしても気にする必要はないだろう。

 

「で、俺はどちらを気にすればいいのかな? 救助活動? それとも……」

「……盾の勇者様の支援をお願いします」

「……はいよ」

 

 俺は海中から飛び上がり、レイファの乗ってる方の小舟に上がる。

 

「私たちも手伝ったほうがいいかしら?」

「いや、リノアはレイファと一緒に救助活動をお願いするよ。今発生している海の渦もすぐに消え去るだろうしな」

 

 俺がそう断言するのと同時に、テリスの魔法が原因で発生していた海の荒れが鎮まった。

 

「……なんか、この先の展開を知っているような感じね。ソースケって時たまそう言う言動をする事があったけれど、今回はバッチリ当ててくるわよね」

「ああ、まあ、知ってるからね。俺が助けに入ると展開が変わっちゃうだろうけれどもな」

「あの話のこと……?」

 

 俺は頷いて、背を向ける。

 

「じゃあ、あとは任せた」

 

 俺はラヴァイトにまたがる。

 

「行くぞ、ラヴァイト」

「うん! オイラに任せとけ!」

 

 俺はラヴァイトと共に、戦場へと向かったのだった。

 俺が尚文達のところに到着するとちょうど、元康が吹き飛ばされるところだった。

 

「一ノ型・風薙!」

 

 ラルクの鎌が巻き起こした風が元康を吹き飛ばす。

 

「ぐわぁああああああああああああああああああ──」

 

 元康はまるで木の葉が吹き飛ばされるように吹き飛んで海に落ちて行った。

 俺たちとはちょうど反対側に落下したのでどうしようもないだろう。

 

「どうやらまだ戦う元気があるようよ?」

「しょうがねぇな。加減が難しいがやるか」

「そうね」

 

 俺たちがラルクとテリスが見える位置まで到着すると、ちょうど合成技を放つタイミングだったらしい。

 

「ラヴァイト!」

「うん!」

 

 俺は短剣を仕舞って拳を構える。

 

「輝石・爆雷雨!」

「合成技! 雷花火!」

 

 テリスの魔法を受けたラルクの鎌が雷を纏い、鎌が帯電する。

 そして、ラルクが鎌を回転させると鎌から無数の光が打ち出される。

 その光は周囲の連中を貫いていく。

 俺は俺の方向に飛んでくる光をことごとく手で払う。

 雷エネルギーの制御ならば俺自身慣れているから、撃ち落とすのはそう難しいことでは無かった。

 

 まあ、錬や樹、その仲間達や他の冒険者は撃たれてしまい倒れてしまった。

 

「な……馬鹿な──」

「ぐ……そんな?!」

 

 ここまで手加減された攻撃……いわゆる雑魚散らしを受けて行動不能になるとか、どんだけって驚くのと、強化方法を共有していない勇者はこんなものかと、実際に目にして呆れるのだった。

 

「死なねぇ程度に加減したつもりだぜ。だが、ナオフミとの戦いを邪魔するなら死なないように手加減する余裕は……ないぜ」

 

 ラルクの言葉に周囲を見渡す尚文。

 そして、目があった。

 

「なんという力……彼らは一体……」

「まて、女王……決定打がないなら、下手に手を出すな。こいつ等は……どうやら俺にだけ用があるようだ」

「物分かりの良いのは尚文の良いところだぜ?」

「僅か数日で俺の事を理解したみたいに言うんじゃねぇよ」

「そうか? 少しでも一緒にいれば相手の性格ぐらいはわかるぜ?」

 

 言葉でラルクを牽制しつつ、尚文は盾を構えた腕と反対側の腕を後ろに回して手でサインを送ってくる。

 その手の向きはラフタリアではなく、あきらかに俺の方を向いていた。

 あれは、野球のサインかな? ハンドサインを俺に向けて尚文が送っていた。

 

「ナオフミが倒れた奴から道具を奪ったってのは何か理由があるんだろ? お前は理由もなく悪事を働いたりはしない奴だと思っている」

「ナオフミ様が今までで一番理解されている気がします」

「言うな……悲しくなるだろ」

 

 サインでなにが伝えたいかはあんまりわからないが、まあ、何を言いたいのかは察する事ができる。

 要するに、待機していろと。

 タイミングを見て乱入しろと言うサインらしかった。

 

「とにかく、降りかかる火の粉は払うまでだ! ラフタリア、フィーロ! 知らない相手じゃないが、あいつ等を倒すぞ!」

「正直戦いづらいですが、わかりました!」

「えー……あの人たちが戦いたいならフィーロも頑張るよ!」

「と言うわけだ。じゃあ、尋常に勝負と行こうじゃないか」

「尋常……確か正々堂々だったか? 戦いは奇策の連続だと思うからうなづきたくないな」

「ナオフミらしいな。じゃあ、いつでもやってくれば良い。俺は……お前の命を狩る事を目的にこの世界に来たんだからよ!」

 

 それが戦いの始まりの合図だった。




次回の戦闘はオリジナル展開になると思います。


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マッスルと勇者の戦い

「輝石・爆雷雨!」

 

 テリスの唱えた魔法がラルクの鎌に向けて雷を放ち、それが集まる。

 そして、鎌を大きく構えると、尚文に向かって振りかぶる。

 バチバチと言う放電音が少し離れた位置にいる俺にまで聞こえてきた。

 

「合成技! 雷電大車輪!」

 

 鎌の剣先が尚文の出した結界……流星盾に当たると、結界にヒビが入りバキンと音を立てて割れる。

 そのまま振り下ろされた鎌を、尚文は盾で受け止める。

 

「はぁああああああ!」

 

 俺は後ろ手で合図をしながら、ラヴァイトと共に女王の方に回り込む。

 バチバチと放電する音がするが、尚文は表情を変えずに受け止め切る。

 鎌から放電された雷は尚文の背後には届いていないようであった。

 

「おうおう、雷電大車輪を余裕で耐え切っちまうか」

 

 そのセリフと同時に、尚文の盾が動いてラルクの腕をかじる。

 ソウルイーターシールドのカウンター効果だったっけか? 

 今回の切り札の盾だ。

 

「うお!? なんだ!? 痛くねぇ……」

 

 ラルクは思わず尚文から距離を取る。

 その様子を横目に俺は、女王様の側まで近寄った。

 

「ああ、投擲具の勇者様。来ていただけたんですか!」

「……盾の勇者の実力ならば、俺の手助けは必要ないと考えますけれどね」

「いえ、是非ともイワタニ様をご支援していただきたく思います。投擲具の勇者様」

 

 俺が話している間にも、ラフタリアとフィーロがラルクたちに攻撃を仕掛けていた。

 俺は尚文にとって切れるジョーカー的な存在なのだろう。

 後ろ手でまだ出るなと指示を出しているのが目に入る。

 

「まあ、想定外のことが起こらない限りは俺の役割は後詰ですよ」

 

 そう答えつつも、俺は尚文達から目を離さない。

 俺の実力ならばラルクを制圧するのは容易いだろうけれども、それが原因でハッピーエンドを逃すというのも釈然としないものがあるしな。

 それにしても、さっさとこの投擲具をタクトに渡したいものである。

 そうすればようやく、俺は安心してこの「盾の勇者の成り上がり」から退場できるというのにな。

 

「ラフタリア! フィーロ! 俺が隙を作るからラルクに攻撃を仕掛けろ!」

「はい」

「うん!」

 

 そのタイミングで、尚文のサインが変わる。

 タイミングを見てテリスを攻撃しろと、そう言うことみたいだった。

 

「ラヴァイト、この人達を守ってやってくれ」

「オイラに任せとけ!」

 

 俺はため息をついて、短剣を取り出す。

 別に眷属器以外を使ってもいいけれども、レベル差でステータスが足りないなんて場合もあるからね。

 

 俺は後をラヴァイトに任せると、俺は気配を殺しながらテリスの方まで近づく。

 と言っても、別に暗殺技能を持っているわけでもなく、戦いに集中しているところを狙うわけだから相手が意識すれば見通しの良い子の船の上ではバレバレであるけれどね。

 

「エアストシールド! セカンドシールド!」

 

 尚文がラフタリアとフィーロの攻撃にのけぞった瞬間にスキルを発動させる。

 ラルクや魔法を詠唱するのに集中しているテリスの意識の外にいる俺は、テリスの詠唱を中断させるように腹部を狙ってぶん殴る。

 

「っ?!」

 

 テリスは直前で気づいたのか、間一髪で俺のは腹パンを回避した。

 

「テリス?!」

「大丈夫です!」

 

 テリスはそう言いつつ、俺に敵意を向ける。

 

「どなたかは存じ上げませんが、私たちの戦いに乱入するのはどう言うつもりなのかしら? 死にたいのですか?」

 

 どうやら顔は割れていないらしい。

 

「……」

 

 俺はそれに返答せずに、投擲具をチャクラムに変える。

 

「……ラルク、申し訳ありませんが、こちらはこちらで対応が必要そうです」

「伏兵か?!」

「奥の手ってのは切れる時に切るものさ」

「なるほどな、ナオフミ、お前の奇策の2つ目って事かよ! 案外頼れる仲間が居るじゃねぇか!」

「お褒めにあずかり光栄だな。宗介、魔法使いの女は任せたぞ」

 

 俺はうなずいて返す。

 あまり、敵に情報を与えたくないので俺は喋らないことにした。

 

「エアストスロー」

 

 チャクラムを複製、テリスが魔法に集中できないようにチャクラムを投擲する。

 そもそも、投擲具は中距離〜遠距離のレンジで戦う武器だ。

 当然遠距離で戦う魔法使い職との相性はこっちの方が上で、前衛を無視してダイレクトアタックができる。

 とまれ、戦術レベルの相性と、個人の相性は違ってくるけれどね。

 

「輝石・業火!」

「セカンドスロー」

 

 煌めくような炎が俺を襲うが、俺は構わず投擲具のナイフを複製して投げる。

 目標は、テリスのブレスレットだ。

 宝石を砕けばそれで、魔法の威力が落ちる。予備に複数持ち歩いているだろうけれども、俺が装備を入れ替えさせるような暇を与えるわけがない。

 投擲したナイフに回転力を加えて投げると、炎を突き破りテリスに向かって飛ぶ。

 

「くっ!」

 

 紙一重で回避されてしまった。

 まあいい、戻ってきたチャクラムを移動するテリスに投擲する。

 絶対に移動させるつもりなので、簡単に回避できるけれど、当たれば大ダメージの位置にピンポイントに投げる。

 

 ラルクと尚文達は、それでも互角の戦いをしていた。

 俺は、テリスの魔法の援護ができないように牽制しつつテリスの様子を窺っていた。

 

「あなた、どう言うつもりですか?」

 

 流石に、俺に攻撃を何度か回避してテリスは勘付いたようだった。

 

「私を倒すつもりがあるのですか?」

「……」

 

 答える義理は無い。

 大人しく踊って貰うのがいいだろう。

 実際、俺が参戦した時点で、詰みである。

 

「あなた、もしかして眷属器の勇者ですか? その強さは尋常じゃありません!」

 

 やはり、異世界の人間は勘がいいな。

 

「ラルク! 彼はこの世界の眷属器のようです!」

「なんだと?! そりゃ、テリスが遊ばれてるのも納得がいくなっと!」

「よそ見をしている暇はあるのか?」

「とおー!」

 

 向こうでは、本編通りの戦いを、繰り広げているようだった。

 フィーロの攻撃を鎌で受け流し、スキルを放つ。

 既に防御比例攻撃を看過していたらしく、攻撃を回避していた。

 

「テリス、すまねぇがこっちはこっちで手一杯だ! そっちの眷属器の方は何とかしてくれ!」

「分かってます!」

 

 テリスはそう言いつつ、詠唱の短い炎の魔法で俺に攻撃してくる。

 意思を持った魔法なので、回避が非常に難しいようだが、そこは投擲具を投げて撃ち落としていた。

 何度かブレスレットにも命中していたし、武器破壊できそうなんだけれどなぁ……。

 テリスも俺の狙いに気づいているらしく、なかなか命中しないというのもあるのだろう。

 戦局は、ラフタリアがテリスの妨害に入らなくて済んでいる分、尚文側が優勢のようであった。

 

 こっちもこっちで、膠着状態なんだけれどね。

 

 戦いが大きく動いたのは、ラルクがフィーロのスパイラルストライクを受け切った後だった。

 

「勝てると思ったんだがなー……どうやら俺じゃナオフミには勝てそうにないぜ」

「ここまで追い詰められて、まだ余裕を見せられるお前を素直に称賛する」

「はは、ナオフミらしいな。だけど俺だって負けられないんだよ」

 

 原作小説を22巻まで読んでいるから知っているが、この二人は……いや、あの和装の女勇者が間違っているんだよな。

 その辺の追求は、主人公ではない俺の役目じゃないけれどな。

 

 と、近場で水しぶきが上がる。どうやら、この章のボスがお出ましになったようだ。

 

「いつまで時間をかけているのですか?」

「お前は?!」

 

 整った顔立ち、長い黒髪に透明感のある肌……いや、実際見てみると生気のないと言ったほうが相応しいか? 

 喪服のように黒い、柄が艶やかな着物を見に纏い、眷属器の扇を持つ女性が現れたのだった。

 そう、彼女こそがグラス……尚文たちにトラウマを植え付けた人物であった。




遅くなってすみません。

次回は6/13に更新します


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マッスルと決戦

「おお、グラスの嬢ちゃんじゃねえか。そっちはどうなんだ?」

「すでに撃破したから乗り込んできたのでしょう?」

 

 ラルクはグラスと親しげに会話している。そりゃ旧知の仲であるし同じ勇者のパーティメンバーであるのだから当然であるけれどもね。

 尚文を見ると、戦々恐々と言った表情をしている。

 グラスは鋭い目つきを尚文に向ける。

 

「さて、ナオフミでしたか、また会いましたね」

 

 グラスは初めて見るが一見すると黒髪に赤い瞳の和装美人であった。

 精霊具独特の赤い宝石が飾られた黒い戦扇を持っている、扇の勇者と言うやつだった。

 全体的に剣のように鋭い印象を受ける女性だった。

 アニメで見る以上に鋭い殺気を持った印象である。

 

「できれば会いたくなかったがな」

「ラルクをここまで追い詰めるとは……しかも、その盾を見る限り本気ではないようですね」

「何?! ナオフミは本気じゃないだと?」

 

 グラスの言葉にラルクは驚く。

 カースシリーズのことを指しているというのは、原作を読んでいれば推測をする必要すらないけれどね。

 

「ええ、あれが本気で戦うときに使っている盾は、現在の盾とは大きく異なります」

「そうか……じゃあさすがにこの劣勢を逆転するのは難しいかもな」

 

 俺がいるせいか、ラルクのセリフが若干違う気もしなくもないが状況はさほど変わっていないようだった。

 

「ふん。防御比例攻撃なんて厄介な攻撃をしてくる相手に、一番硬い盾で相手できるかっての!」

「……なるほど」

 

 グラスが戦扇を広げて、尚文に向ける。俺は眼中にないといった感じかな? 

 

「では、私も此度の戦いに参加させていただきましょうか」

「できれば戦いたくないが……やるしかないみたいだな」

 

 尚文は盾をしっかり構えてグラスを見据える。

 

「波のボスから数えて……第三ラウンドの始まりだな」

 

 さて、うんざりした顔をしながらグラスとラルクを相手に尚文は戦い始めた。

 俺はどうしようか? 

 

「あなたは戦わないのですか?」

「んー……。テリスはどうしたらいいと思う?」

「はぁ?」

 

 テリスはいぶかしげな顔をする。

 

「俺の目的としては、タイムアップなんだけれど、どうやったらいい感じに介入出来ていい感じにタイムアップまで持っていけるかって悩んでてね。どうしたらいいと思う?」

「……よくわかりませんが、私たちの目的とは相いれませんね。だから、あなたの介入を阻止させていただきます!」

「……そうかい」

 

 俺は武器をナイフとトマホークに変更する。

 タイムアップまでの時間は自分のステータス画面右上に赤い砂時計とともに表示されている。

 はっきり言って、俺とテリスの実力の差は圧倒的と言わざるを得ない。

 少なくとも勇者の武器をメインに据えている場合は対等ですらないのだ。

 ……そろそろ、タクトにこの武器を渡す必要があるんだけれども、勇者としては武器縛りをやめるわけにもいかないからね。

 

 俺はけん制するようにナイフを投げる。

 テリスは素早くナイフを回避して魔法を唱える。

 

「輝石・業火!」

 

 詠唱短縮なのか、腕の宝石がきらめいたと思ったら炎が噴き出してくる。

 俺はトマホークで炎を切り払う。

 

「なっ?!」

 

 別にここからトマホークを投擲すればダメージを与えることができるだろうけれども、目的は時間稼ぎなので一直線にテリスに向かって走る。

 

「あまり使いたくありませんが、仕方ありません」

 

 テリスはそう言うと、宝石を周囲にまき散らした。

 これは、あの宝石群を爆発させる攻撃だな。

 そう判断した俺は、ナイフを複製して投擲する。

 

「仲間たちよ。最後の輝きを……願う。貴方の礎によって私達の未来を開け。輝石・収縮爆!」

 

 宝石が輝きだし、虹色の光を放つと爆発する。

 轟音が響くが、宝石をいくつかナイフで弾いていたおかげで、テリスまでの道はある程度空いている。

 爆風が肌を焦がすが、たいしてダメージになった感じはしない。

 一気に走り抜けてテリスに接近する。

 

「さすがは眷属器の勇者と言ったところですか……!」

 

 そのまま接近戦となり、格闘戦が始まる。

 俺としては組手のノリだ。

 テリスは無手でも俺の攻撃を受け流せるだけの技量はあるらしく、トマホークで切りかかってもうまく往なされる。

 

「やるじゃん」

「それはどうも!」

 

 テリスはそう言うと、俺の腕を取り投げる体制に入る。

 だけれども、合気道家の腕を取るというのは相手に対して攻撃チャンスを与えるということと同義だ。

 俺は体制を転換で反転させて、つかまれた腕ごと自分の重心の近くにテリスの手を誘導する。

 

「なっ?!」

 

 だが、そのまま投げようとするとばちっと電流が走って俺はテリスから弾き飛ばされてしまう。

 

『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』

 

 そういえば、そんな設定あったななんて思いながら、俺は素早く体勢を整える。

 まったくもって不便な縛りだな。

 

「異世界人特有の、特殊な武術ですか……」

「残念ながら使えないみたいだけれどね」

 

 俺は内心肩をすくめながら、武器を構える。

 それにしても、こっちも手加減をしているとは言えテリスはなかなか善戦するな。

 あっちの世界とこっちの世界が統合してレベルが統合している影響だろうか? 

 どちらにしても、支援系の魔法使いに足りないことが多い近接攻撃に対する対処方法も彼女は身に着けているようであった。

 

「テリス!」

「!」

 

 不意に男の……ラルクの声が聞こえて、俺はその場を飛びのく。

 俺のいた場所に鎌が突き刺さる。

 

「大丈夫か? テリス!」

「ええ、私は大丈夫です。それよりも、グラスさんのほうは大丈夫なのですか?」

「ああ、テリスはグラスの嬢ちゃんの支援に回ってくれ。こっちの厄介なのは俺が引き受ける」

 

 ラルクはそう言うと、俺をにらみつける。

 ああ、そういえばラルクはテリスのことが好きなんだっけ? 

 ちらりと尚文のほうを見ると、グラスは尚文相手に善戦しているように見える。

 とまれ、ソウルイーターシールドを装備した状態なので、距離を取ってカウンターを受けないようにしているが。

 

「グラスさんは?」

「嬢ちゃんからの指示だ。眷属器ならば同じ眷属器相手じゃないと分が悪いからな。だから、テリスはグラスの嬢ちゃんのほうに行ってくれ」

「わかりました」

 

 テリスはうなづくと、魔法を唱える。

 

「遍く宝石の力よ。私の求めに応じ、顕現せよ。私の名前はテリス=アレキサンドライト。 仲間たちよ。彼の者の強固たる守りを衰えさせよ。輝石・粉守!」

 

 テリスは守備力を上げる魔法をラルクにかけると、グラスの方向に走っていった。

 

「さて、話が終わるまで待っててくれるなんて余裕そうだがこれからはそうはいかねえぜ……」

 

 ラルクはそういって俺をにらみつけるが、不意に疑問を顔に浮かべる。

 

「あれ、お前さん、どっかで会ったことないか?」

「気の所為じゃないか?」

「そうかい。まあいい、ナオフミとの戦いに水を差したんだ。手加減なんてしないぜ。お前さんも勇者ならば、覚悟を決めろよ」

 

 こうして、俺とラルクは戦うことになってしまうのだった。




またまたお久しぶりです。

今日の16時に次の内容を投稿しますので、お待ちください。


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マッスルと決着

「飛天大車輪!」

 

 いきなり鎌を大きく振り回して投げ飛ばしてくる。

 さすがに中近接で戦いなれているだけあり、スキルを放った後にラルクは移動を行って接近している。

 俺は鎌を回避して次に来るラルクに備える。

 

「おらあ!」

 

 一気に接近してきたラルクは戻ってきた鎌をつかむと、そのまま切り殺そうとしてくる。

 

「はっ」

 

 トマホークで受け止めると、手がびりっとする。

 

「そらそら! これならどうだ!」

 

 ラルクの連撃を俺はトマホークとナイフですべて受け流す。

 合気道が武器によって封じられているので、受け流しだけに用いる。

 

「円月陣!」

 

 ぐっとラルクが構えてスキルを放つ。

 範囲攻撃らしく、俺は距離を取って攻撃範囲外に出る。

 

「やるじゃねぇか。ナオフミにも負けないぐらい実力があるみてえだな!」

 

 受け流して回避しただけで実力がわかるのか。

 まあ、一番戦い方が出るのが自分が攻撃した内容に対してどう対処するかというのだけれどね。

 俺は投擲具を投げる。

 

「影縫い」

 

 ラルクの影に向かってナイフを投げると、ラルクは影に当たらないように回避する。

 スキル名が効果を表しているからね。さすがに感づいたらしい。

 

「ふう、危ない危ない。拘束スキルか。距離を取るのはお前さん相手には不利のようだな」

 

 さすがに簡単には捕まらないか。

 それじゃあ、こっちのほうを試してみるかな。

 

「セカンドスロー、ドリットスロー、コンボ、サウザンドスロー」

 

 手元のナイフとトマホークが一気に分裂していく。

 そして、時間を停止させるスキルを発動させた。

 チートそのもののスキルであるが、直接切ることはできないという制限があるスキルだ。

 俺は止めた時間の中で分裂させたナイフやトマホークをラルクに向かって投げるように設置していく。

 投擲具の勇者としての俺の必殺技と言ったところだろうな。

 そして、時間が解除されてラルクに向かって武器の雨が降り注ぐ。

 

「なっ?!」

 

 案の定というか、ラルクはすぐさま状況を理解して、スキルを放つ。

 

「一ノ型・風薙ぎ!」

 

 鎌のスキルによって発生した風が投擲具の軌道を変更してほとんどが地面に突き刺さり消えていく。

 だが、一部はラルクに命中したらしく、ダメージを受けたようだった。

 

「卑怯な技を使いやがって!」

「投擲具だからな。それらしく中距離で戦うのが戦法ってやつだよ」

 

 ただ、少し戦ってみて思ったのは、俺とラルクの相性は悪いということだった。

 鎌の攻撃範囲と投擲具の攻撃方法の相性が悪すぎる。それはもちろん、近接戦闘においても同じことが言えた。

 考えて投げなければ、鎌で切り払いされてしまうのは明らかだった。

 ラルクもそれに気づいたらしく、すぐに接近戦を仕掛けてくる。

 

「へへっ、どうやら俺のほうが有利なようだな!」

 

 大ぶりの攻撃は攻撃の軌道が読みやすく、回避したりするのはそこまで難しくない。

 しかしながら、武器のレンジが鎌のほうが長いため、投擲具では防戦一方になってしまう。

 ナイフで防御すれば火花が飛び散り、防御貫通攻撃のためかダメージを受けてしまう。

 

「ぐっ」

 

 やはり攻撃力が高いため、防御力の低い俺ではそこそこいいダメージをもらってしまう。

 俺はラルクの鎌を回避しつつ、分裂させたナイフを投げる。

 

「おっと!」

 

 カウンターで入るナイフをよける際に隙ができるが、安易には攻撃することができない。

 さすがはラルクと言ったところだろうか。

 これは、手加減なんてしていたら逆に追い詰められかねないな。

 

「っあ!」

 

 俺は懐に潜り込もうとナイフを投げる。

 しかし、そのたびにラルクが攻撃をして妨害が入る。

 一進一退の戦いになっていた。

 

「エアストスロー! セカンドスロー!」

「円月陣! 飛天大車輪!」

 

 激しい金属音と、戦いの余波で破損する甲板。

 レベル差ではなく、実力の差では完全に五分五分と言った感じであった。

 

「ぐああああああああああああああああ!」

 

 俺とラルクの戦闘が中断したのは、激しい閃光と同時に聞こえたグラスの悲鳴だった。

 

「グラスの嬢ちゃん!」

 

 俺とつばぜり合いをしていたラルクが目だけを声のほうに向けて声を上げた。

 つられて俺も、そっちのほうに目を向けると、ちょうどその方向には煙が巻き起こっていた。

 煙が晴れると同時に、満身創痍のグラスの姿があった。

 

「はぁ……はぁ……問題……ありませんよ」

 

 魔法剣で貫かれた腹の部分を手で押さえ、グラスは肩で息をしていた。

 

「グラスさん、ここは一時撤退を」

「いえ……まだです。私はここで引き下がるわけにはいきません!」

「グラスのお嬢! クソ! どけ!」

 

 俺はラルクに蹴り飛ばされる。

 道中フィーロが邪魔に入るが、ラルクに往なされてしまう。

 なんというか、歴史の修正力だろうか? フィーロの代わりを俺が担う状況だったらしい。

 ただ、フィーロの手が空いていたせいか若干尚文側のほうが有利だったように見える。

 

「グラスのお嬢、ジッとしてろよ」

 

 ラルクが鎌からアイテムを取り出して、グラスに振りかけた。

 確か、あれは魂癒薬だったはずだ。

 スピリットにとっての回復薬である魂癒薬をかけられたグラスは不思議な表情を浮かべて立ち上がった。

 

「エネルギーが……急速に回復した?!」

「ナオフミ、そこの投擲具の眷属器の兄ちゃん。お前たちはすげえよ。もはや手段を選んでいる暇はねえ。できれば節約しておきたかったが、俺も切り札を切らせてもらうぜ」

 

 ラルクは俺たちをにらみながら、グラスに魂癒薬をどんどん振りかける。

 

「ラルク……これはどういうものなのですか?」

「俺にとっては技に使う力を回復させるもんだけどよ。グラスのお嬢には驚異的な強化道具だろ?」

「……ええ、そう、ですね」

 

 スタッと立ち上がったグラスは尚文を睨みつける。

 

「行きます」

 グラスがそう言うと、目にもとまらぬ速さで尚文の目の前まで移動すると鈍い音がした。

 

「はあああああ!」

「うわ!」

 

 尚文は何とか耐えられたようだった。

 俺が食らったら確実にノックアウトされるだろう威力の攻撃だった。

 場所が悪ければ即死だろう。

 タゲが尚文に向いていてよかったと、思わず安堵してしまう。

 

「ナオフミ様!」

「ごしゅじんさま!?」

 

 尚文の後ろに控えていた二人が悲鳴のような声を上げる。

 完全に観戦モードに入ってしまった俺は、右上の砂時計を意識する。

 そろそろタイムアップだな。

 俺は回復薬を取り出すと、口に含む。

 

「輪舞破ノ型・亀甲割!」

 

 あんな超高威力の攻撃が飛び交う戦闘に割って入れるほど、俺の防御力は高くなかった。

 フィーロはともかく、ラフタリアはタイミングを見計らいつつ尚文の盾に守られている状態だからだ。

 

 ……あとは、俺が出張ることなく本編通りに状況が進んでいった。

 尚文とグラスの一進一退の攻防、女王の放った奇策と言い、まさにアニメを直接目の前でやっている状態が繰り広げられていた。

 そして、ラースシールド。

 あれを見るのは2度目だった。

 

 そうこうしているうちに、視界に大きく数字が表示された。

 

00:59

 

 状況は尚文が優勢だったが、グラスたちの表情には焦りが見えた。

 

「どうやら……本当に後先なんて考える余裕はないようですよ。ラルク」

 

 グラスが戦扇に手を翳す。

 

「まさか、グラスさん!?」

「お嬢!」

 

 渾身の一撃を放とうとしたグラスをラルクが羽交い絞めにする。

 

「何をしているのです! 邪魔をしないでください!」

「それだけはしちゃいけねぇ。そんなことをしたら、その先はどうするつもりなんだ!」

「ですが、あれだけの力を持っている相手。倒すには相応の代償を支払う覚悟が必要です」

「お嬢、そのことだが──」

 

 いつでも参戦できる位置で見ていた俺では、完全にラルクの顔が隠れていて読唇術があってもセリフは聞き取れなかった。

 

「……わかりました。今回は一旦撤退するとしましょう」

「逃がすと思うか?」

「逃げ切って見せましょう。ナオフミ、次こそは私達が勝利します」

 

 グラスはそう言うと、周囲を攻撃して尚文たちを近寄らせないようにする。

 

「というわけで今回はお前等の勝ちだ。じゃあな、ナオフミ、投擲具の勇者。……やっぱ呼びづれぇから坊主でいいか」

「なんでだ!」

 

 ラルクは爽やかな顔で別れの挨拶みたいに手を軽く振って、波の亀裂に飛び込んでいった。

 俺も軽く手を振る。

 

「それでは今回はお暇させていただきます。さようなら」

 

 テリスは魔法で吹き飛ばされた兵士たちを助けたのちに宝石をばらまいて閃光弾のように光らせて逃げて行った。

 アニメのように上空に飛んでいくので、追いかけようにも追いかけられそうになかった。

 

「待て!」

 

 尚文は彼らに向かってそう叫ぶが、すでに並の向こう側に行ってしまった後だった。

 

「くそ! あと少しだったのに!」

 

 尚文の主人公らしい慟哭は、波の亀裂にむなしく響くだけだった。

 満身創痍の俺たちは、時間が来て波の亀裂が閉じる様子をじっと見ていることしかできなかったのだった。




マッスルが関係なさ過ぎて草生えます

あとは、エピローグで5巻分の内容が終了ですね。
遅くなって申し分けありません。

なんというか、原作部分が強く出すぎるとどう演出したらいいかをすごい悩んじゃうんですよね。
次章からはオリジナル色がかなり強めになると思います。
霊亀と戦うかは、アンケートにしようと思いますが、ラスボスはタクトにすることだけは決めてます。


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エピローグ

 俺たちは、尚文たちとは離れたところで合流していた。

 

「お疲れ、ソースケ。大丈夫だった?」

「ああ、なんとかね」

 

 レイファに心配されて、俺は自分の体をよく見ると、結構傷だらけであることに気づく。

 回復薬を飲んだにもかかわらず、傷が残っているということはそれだけラルクが強敵だったということだった。

 

「だいぶ強敵だったみたいじゃない、あの冒険者。ソースケがここまで怪我をするなんて、相当な実力者ね……」

「勇者の戦いと言うものは、メルロマルク女王のような奇策を用いることのできる戦略家でなければ介入できないのだなと思い知らされましたわ」

 

 リノアとアーシャはそれぞれあの戦いを見ての感想を述べていた。

 ラフタリアやフィーロのように四聖勇者の仲間ならともかく、不正な眷属器の仲間だとどうなのだろうか? 

 俺の仲間は奴隷ではないため、どのようなステータスなのかは確認できないためどうしようもないが、そもそもこの世界の標準があまりわからないので、参考にもならないか。

 

「なんにしても、波は乗り越えられたんだ。それで良しとしよう」

「あの偉そうにしていた勇者様方があっけなくやられちゃったのは、やばいと思うんだけどね」

 

 リノアは「勇者様方」をからかうような感じのイントネーションでそう告げた。

 

「盾の勇者様以外役立たずって、どうしようもないと思うわ。……本当にあいつらって勇者なのかしら?」

「……正直、疑いたくなる気持ちはわかります」

 

 と言うか、周囲の兵士や冒険者たちの言葉に耳を貸せば、三勇者(馬鹿)に対する不信感は出ているようである。

 波に対抗するためにわざわざ異世界召喚したにもかかわらずあの弱さはなんだ。

 真の勇者様は盾の勇者様だけじゃないか。

 そんな感じの声が嫌でも耳に入ってくる。

 あいつら、ラルクたちにも勇者として認定されていなかったしな。

 

「ソースケ、どうにかできないのかな?」

「正直、俺じゃあ無理かな。錬ですら俺の話を聞かない状態だし……。ここまでくると正直お手上げかな」

「そうなんだ……」

 

 残念ながら、ここまで時間が経過してしまうと、彼ら自身が本当に痛い目に遭って価値観を変えざるを得ない状態になるまでどうしようもないと思う。

 いや、実際あいつらの意識や価値観を変えずに強化させる方法なんていくらでもあるけれど、この世界のストーリーの大筋を変えたくない俺としては、このままの状態が非常に都合がよかった。

 あいつらの内面を変えずに強化してしまうと、きっとひどい目に遭うのが先延ばしになるだけだと思うので、あいつら自身のためにも失敗をちゃんとさせたほうが良いだろうというのが俺の判断でもある。

 

 俺の目的は変わらないのだ。

 

 今回だって、大筋が変わっていないことに安堵しているところだしね。

 

「投擲具の勇者様」

 

 不意に話しかけられて、俺はそっちのほうを見る。

 そこには青い髪のツインテールの女の子……確か、メルティ王女が兵士達を連れてきていた。

 

「あっ!」

 

 レイファ達は深々と頭を下げる。

 

「こちらにいらしたのですね。女王陛下がお呼びです。よろしければお仲間の皆様とともにこちらにいらしてください」

 

 要するに、ついて来いということらしい。

 

「わかりました、メルティ姫様。それじゃあ行こうか」

「うん」

「わかったわ」

「わかりました」

 

 ライシェルさんはきっと女王様のそばにいるのだろうな。

 そう判断して俺たちは女王様のところまで案内される。

 

「召喚に参上していただきありがとうございます、投擲具の勇者様」

 

 女王陛下のところに来るなり、そう歓迎される。

 そばでは尚文が難しい顔をしながら、ラフタリアたちと何か話しているのが見えた。

 

「投擲具の勇者様、此度のご活躍、真に称賛に価します。ぜひとも世界のため、共に波を、様々な困難を乗り越えていきましょう」

「女王陛下のお言葉、真にありがたく拝聴させていただきます」

 

 俺は恭しく、メルロマルク式の最敬礼をする。

 

「それで、投擲具の勇者様の今後の予定はどうなっていますでしょうか? 我々の見解としたしましては、他の四聖勇者様方と異なり修行の必要はないかと存じます」

「そうですね。現状、彼らの強さは盾の勇者様に大きく後れを取っているというのが現状だと愚考いたします」

 

 俺の言葉に、女王陛下はため息をついて同意した。

 

「やはり、投擲具の勇者様から見てもそのように見えますか……」

 

 悩ましげな表情は、やはり美人だなと改めて思う。本当に経産婦か? 

 

「我々の予定では、今後世界を巡りながら各地の波を抑えていきたいと考えております」

「わかりました。我々メルロマルクは七星勇者様に関する権利をすべて放棄しておりますので、勇者様のご意志のままになさってください」

「わかりました」

「お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。此度のご活躍、誠にありがとうございました。報奨金については後ほどご連絡させていただきます」

 

 俺は再び礼をして下がる。

 やはり、現状危機感を持っているのは勇者以外といった印象だった。

 

 ……まあ、自分たちのやっていたゲームが実は黒幕の罠だなんて、気づくほうが無理と言うものだろう。

 ただ、実際のところは多くの差異があるだろうに、そのあたりはどう考えているのか気になるっちゃ気になる。

 なろう系俺TUEEEEでも、敵のほうが強いなんてことになったら、多くの主人公は努力をするだろうにな。

 いやまあ、そもそも自分よりも強い敵を出さない話もあるだろうけれど。

 

「あー、ドキドキした」

「どうせ対応するのはソースケだけなんだから、そこまで緊張する必要ないわよ、レイファ」

 

 そんなことを後から続いてくるレイファとリノアの会話を聞きながら、久しぶりにライトノベルをゆっくり読みたいななんて思う俺であった。

 残念ながら、オモシロドラゴンでないので、俺の世界の小説を俺自身が読むことはできないのだが。

 まあいい、次だ。

 霊亀にどう対応するのか、対応しないのか。

 そして、どのタイミングでこの投擲具をタクトに譲渡するのか。

 考えることはそれほどあるわけではないが、どちらの問題も難しい問題であるため選択は慎重にする必要があった。

 

「ソースケ、難しい顔をしてどうしたの?」

「ああ、世界を救うって大変だなって思ってな」

「そりゃ、世界を救うって大変に決まっているじゃない。そんなことより疲れたわ。帰って休憩しましょ」

「そうですね。ソースケ様も一緒にお風呂に入りましょう」

「却下だ。……まあ、疲れたしカルミラ島から出れるようになるまで時間がかかるし、それまではゆっくり休むとしようか」

「うん!」

 

 女王陛下との面会を終えて、俺たちは宿に戻りゆっくりと休むことにした。

 さすがに、ラルクとの戦いは非常に疲れたのだ。

 勇者たちの問題を解決させるのは、尚文に任せればいいので、俺は俺のすべきことをしよう。

 もはや波の尖兵だとか、そこら辺からずいぶんと離れてしまった気がするが、考えることは明日、ゆっくり考えることにしよう。

 

 こうして、俺は第5巻までのストーリーの大筋を変えずに済んだのだった。




これで、5巻の内容はコンプリートです。
え、温泉騒動の話?
需要があったら書きますけれど、宗介は覗かない派になるので、たぶん書かないと思います。

アンケート設置しましたので、回答をお願いしますね。

上から
参加度100
参加度80
参加度50
参加度20
参加度0
です。


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残念勇者ってそれは無いでしょう?!
プロローグ


6巻の内容の開幕です。
あと少し原作に沿った動きになりますがご了承下さい。


 思えば、この世界に来てから明確な休暇と言うものは存在しなかった。

 思い返すとずっと戦い続けてきた記憶しかない。

 こうして、ゆっくりと波の音を聞きながらやわらかい椅子に体を任せてゆったりする機会なんて、転移前でも存在しなかったけれどね。

 転移前だったら、きっとスマホで携帯小説を読んだり、ラノベを読んだり、合気道の稽古をしたりと忙しくしていたのだろうけれども、今は何か気が抜けてしまって何もする気が起きなかった。

 

 しかし、プライベートビーチねぇ。

 

 まるで富豪にでもなった気分である。

 元の世界に帰ることができたのならば、俺は元の生活に戻れるのだろうか? 

 人を殺すのに何のためらいもなくなってしまったし、むしろ悪辣な奴なら嬉々として殺せる自信があるような今の俺が、現代日本社会に帰ったところで社会適合できるのかどうかは正直不安しかない。

 だからと言って、元の世界に残してきた両親や兄弟は絶対に心配しているだろうし……。

 

 こう、何もすることがなくただ漫然と休んでいると余計な事ばかりが思い浮かんで俺を悩ませる。

 

「……はぁ」

 

 血濡れの勇者、何を悩んでおるのだ? 

 

 脳内にオモシロドラゴンの声が響く。

 

「ああ、何もすることがないといろいろと考えちゃうんだよ」

 

 実際、海は沖のほうが折れているのが目視できるし現状メルロマルクに戻るというのは難しいという話だった。

 

 そうか。我は長い時を生きている故に定命の者の考えを理解するのは難しいが、貴様のように生き急ぐものの憐憫には共感を覚えるな。

 

「そうかい」

 

 まあ、なぜこうぼんやりと休んでいるかと言うと、勇者を集めた反省会をこの後やるということで招集されていて、時間までの間の微妙な空き時間をどう過ごそうかと悩んだ結果であった。

 レベル上げをしようにも、現状カルミラ島で上がる上限値の80に全員が近いので別に経験値を稼ぐ必要もないうえにそんな時間もなく、かといって修行をしようにもそこまでの時間はない。

 レイファもリノアも自由時間にしているが、勇者である俺だけは招集に応じて集まる必要があったのだ。

 アーシャ? 彼女は近くにいると性的アピールをしてくるので、離すためにも情報収集をさせている。

 他の勇者のメンバーが何をやっているのかとか、そういう内容だけれどね。

 

「しかし、アイツと遭遇するタイミングがいつになるのかなぁ? 俺から向かったほうが手っ取り早いか?」

 

 正直、投擲具はさっさと手放したかった。

 勇者認定されてしまっている以上、この投擲具以外を武器として扱うというのは憚られるのだ。

 俺の戦い方が完全に制限されてしまっており、得意の合気道も、流水系の必殺技も使えないというのは不便でしかなかった。

 ラルクと戦ってみて思ったのだが、槍とボウガンが使えれば勇者のステータス補正がなくても有利に戦えた印象があった。

 ガントレットも防具ではなく武器扱いされて装備できない現状、投擲具で戦うほうがリスクであると言わざるを得ないなと、改めて思ったのがあの戦いだった。

 改めて、俺には投擲具は適正武器ではないのだなと感じる。

 

「どちらにしても、アイツと会うならば、ライシェルさんしか連れていけないわけだが……」

 

 タクトはたとえ夫が居ようと洗脳して強引に自分の妾にする危険人物だ。

 そして、従わない女性はごみのように消してしまうのも、事前知識として知っている。

 俺が倒すべき敵ではないが、洗脳術を使う狐には気を付ける必要があるのは言うまでもなかった。

 

 あと、最近原作の知識が記憶が薄れつつあった。

 重要なところはしっかりと記憶しているが、やはり書籍版独自展開なんかはだいぶ記憶がおぼろげになってきている。

 これはまあ、仕方のないこととはいえども下手な動きをすれば致命的なことになりかねないということを指していた。

 少なくとも、霊亀戦までの展開ははっきりと記憶しているので、それまでに勇者武器を手放して、表舞台から退場できればいいかななんて思ってはいるけれどね。

 

「おお、ソースケ君。ここにいたのか」

 

 色々と考えていた俺に声をかけたのは、ライシェルさんだった。

 

「あ、ライシェルさん。そろそろ時間か?」

「ああ、ソースケくん、陛下と勇者様がお待ちだ」

 

 俺はよいしょと身を起こすと、投擲具を装備する。

 体の中から投擲具のナイフが出てきて、身体に張り付く。

 なので、腰の鞘にナイフを突っ込む。

 伝説の武器は身体から離すことができない制約付きの面倒臭い武器だ。

 挙句に他の武器が使えないまであるため、特典はあれど俺にとっては迷惑でしか無い。

 

「それじゃ、着替えるからちょっと待っててくれ」

「ああ」

 

 俺は一応、今のグラサンにビーサンなアロハな格好から普段の冒険者然とした格好に着替える。

 鏡を見て思ったが、そろそろ髪を切りたいぐらいには伸びてきていた。

 床屋は王都で探せばあるんだろうけれどね。

 今まで犯罪者として逃げ回っていたので、前の方はナイフでざっくり切れていたが後ろは見えないので紐でまとめてポニーテールにしていた。

 メルロマルクに戻ったらちゃんと髪を切って整えたいものである。

 

 装備一式を見に纏い、武器は投擲具一つで俺はライシェルさんに案内されて勇者達が待つ会議室に通されたのだった。




とりあえず、かけるところは書きながらプロット立てていきます。


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第二回勇者会議(前編)

 俺が会議室に入ると既に天木 錬(あまき れん)が座っていた。

 非常に不満そうな表情を隠していないのは、やはり昨日冒険者に一蹴された事を気にしているのだろうか? 

 カルミラ島沖での海戦はweb版には無いルートなので、ブレイブスターオンラインでも無かったイベントだったりしたのだろうか? 

 まあ、カナヅチの錬が気に食わなかったのは仕方が無いだろう。

 

「……ソースケか」

 

 それだけポツリと呟くと、フイッとそっぽを向いてしまう。

 嫌われたかな? 

 俺はライシェルさんに案内された席に座る。下座なのは、俺が七星勇者……眷属器の勇者扱いだからだろう。

 

 続いて入ってきたのは、川澄 樹(かわすみ いつき)だった。

 

「錬さん、宗介さん、早いですね」

 

 樹の方は表情が読めなかった。

 昨日負けたことについては気にしていなかったように見える。

 ディメンションウェーブにはカルミラ島沖の波はあったのだろうか? 

 どちらにしても彼のゲームはコンシューマーソフトだ。条件を満たしたら発生する特殊イベント程度の認識なのかもしれない。

 ただ、俺を見る目は何か値踏みをするような嫌な感じであった。

 

「お、揃ってるじゃん。後は尚文と女王様が不在なんだな」

 

 北村 元康(きたむら もとやす)は気軽にそう言うと、軽薄そうな表情のまま案内された椅子に座る。

 元康の事なのでナンパでもしてたのだろうか? 服装は他の勇者に比べてラフな格好だった。

 

「どこをほっつき歩いてるんですかね」

「フン……。呼び出しておいて遅れるとはどう言うつもりなんだろうな」

 

 俺としては、5分前行動ができたぐらいでいばり散らしている方が問題だとは思うが、面倒くさいので黙っておく。

 岩谷 尚文(いわたに なおふみ)達は時間ちょうどにやってきた。

 尚文は部屋に入ると周りを見渡す。

 

「やっと来たか」

「どこをほっつき歩いてるんですか?」

「ナンパでもしてたんだろ? 一番活躍したもんな」

 

 全員が尚文に対して悪い心象を持っているのが明らかだった。

 正直、この辺りはいわゆる『主人公以外の知能指数が著しく落ちている状態』に見えてて、残念な部分というか、気になる部分ではある。

 客観的にみても自分たちが弱いのは明白だし、弱いならば強くなる様にゲームであっても努力するのは当然である。

 この世界をゲームだと思うならば、アクションRPGに分類されるわけだしプレイヤースキルを磨いておくのは当然と言えるだろう。

 なぜそう言うことに思い至らないのか全くもって謎な点であったが……実際に現場を見ると、強さに貪欲だとかそういうことではなさそうである。

『お前だけ俺TUEEEEEできてずるい!』

 と言う嫉妬に狂っている様に見えた。だからこそ、ここまで目が曇ってしまったのだろうか? 

 どちらにしても、人間としても正常な精神状態であるとは言い難いだろう。

 正直、解決できるならば手を伸ばしても良いのではないかと俺の中の良心が囁くが、話の流れを曲げてしまうことになるので、どうしようか悩んでしまっていた。

 

「ふん……お前が言うな」

「元康さん、貴方が言わないでください」

「そうだ、お前が言うな」

 

 勇者たちからそうツッコミを受ける元康。まあ、ギャルゲーの主人公が成長して大学生になったのが元康なので、女の子好きなのは仕方ないだろう。

 槍の勇者ではなくて、ヤリチンの勇者……何て小説やアニメを見ている時は思ったものだった。

 

「まあ、尚文が遅れてきた理由を聞こう」

 

 俺が促す必要もないだろうが、尚文に発言を促すと、あっさりと答えてくれた。

 

「海岸で海を見てたんだよ」

 

 実際は、詐欺商人に説教をかました後で女王陛下に発見されて連行されたと言うのが正しいかなと思うが、この尚文も最初の出来事のせいで性格がねじ曲がっており、他人に対しての警戒心が凄まじいことになっている。

 まあ、この中で一番勇者らしい勇者であることには変わりないだろうが。

 

「ああ……まだ荒れてて島から出られないもんな」

「LV上げやドロップ稼ぎでもして時間潰しでもするしかないだろ」

「そうですね」

 

 尚文はふんっと鼻を鳴らすと残っていた席に着席する。

 これで、メルロマルクにいる勇者が全員揃った形になる。

 

「で? 今回は何の会議をするんだ?」

「わかっているだろ?」

 

 尚文の悪い癖だ。

 いや、この世界で他人に貶められたが故の防衛反応と言ってもいいだろうが、尚文はこの性格になってから敵に対しては特に説明を省く癖がある。

 頭の中ではいろいろな事を考えているのだろうけれどね。

 なので、俺が捕捉しておくことにした。

 

「強くなり続ける波の魔物、異世界からの勇者を狙った侵略者。そして、現状対抗できる勇者が盾の勇者……尚文だけと言う現実と、負けイベントだと思って現実から目を逸らす他の勇者達……。ドラクエみたいなRPGじゃなくて、アクションRPG何だから、プレイヤースキルを磨くべき時がきた、と言うことだと思うんだけれど? と言うわけで、勇者単体の能力をあげるための方法の共有ということかな? 知らないけれど」

 

 俺の言い回しに女王陛下は少し眉を潜めるが、概ね同意ということなのだろう。

 頷いてから後を引き継いでくれた。

 

「ではこれから二度目の四聖勇者と投擲具の勇者による情報交換を始めます。司会と親交はまた私、ミレリア=Q=メルロマルクが務めます」

 

 女王陛下の宣言に対して、尚文以外の勇者はやる気なさそうに椅子にもたれかかる。

 露骨にやる気がなさそうな態度である。

 

「情報交換か」

「十分話したと思うがな」

「ええ……尚文さん以外は」

 

 三人の言葉に尚文はため息をついた。

 

「だから何度も言っているだろ。お前等それぞれの強化方法は正しかった。その強化方法を実践したから俺はカルミラ島で起こった波で戦えたんだよ」

 

 正直、この点に関して言えば俺としては盾の勇者であるからこそステータスが大事なのだろうという認識だ。

 攻撃する俺からすれば、弱点を的確に突きさえすれば相手を殺すのにはそう苦労はしない。

 あの勇魚の様な大型の魔物であったとしても、勇者の力なしに倒すことなど俺には出来たという確信がある。

 はっきり言って、尚文以外は戦闘中の戦い方に問題があると言わざるを得ないと思っていた。

 しかしながら、彼らにとっては低レベル攻略など眼中にないようで、高レベルかつ高火力で楽チンプレイをしたい方だったらしい。

 だから、駄々っ子の様に文句ばかり言うのだろう。

 

「また嘘を言って、どこかでチート能力を得たに決まっているじゃないですか! 早く白状してください」

「そうだ不正者め! こんなこと許されないぞ!」

「自分の強化方法を話し切ってないんだろ! 卑怯者が! アバズレを貶めて何が楽しいんだ!」

 

 そもそも、尚文が不正チートを使っていたとして、再現性がなければ知ったところでどうするつもりなんだろうか? 

 彼らの言葉を聞いて不意にそう思った。

 そんな彼らの様子に、尚文は呆れてため息をついた。

 

「俺の話を全く信じず……その癖、チート……不正な力で出し抜いたと思っているのか?」

 

 俺以外の全員が同意した。

 もはや、誰もが冷静さを失っている様に見える。

 

「ライシェルさん」

「……どうしたソースケくん?」

「俺、帰ってもいいかな?」

「ダメに決まってるだろう?」

「ですよねー」

 

 俺は言い合う勇者達を背に、ライシェルさんとそんな事を話していた。

 

「あのさー……お前等、俺ばかりを詰問しているが、宗介の方は疑問に思わないのかよ?」

「宗介さんはチートを手に入れた過程が明白ですからね。それに、もともと冒険者としても強い方ですし、僕たちにとって参考になるとは思えません」

「そうだな。ソースケは俺の仲間だった頃から強かった印象がある。それに、俺たちとは規格が違うだろうし参考にならないだろう」

「そうなのか?」

 

 樹と錬が俺を詰問しない理由を教えてくれる。まあ、元康だけはわかっていないみたいだったが。

 

「……ッチ。なら、逆に聞くが、攻撃ができない、防御力しかない勇者が他者を出し抜いて何の得があるんだ?」

「それは……」

 

 尚文の逆質問に、三人が顔を見合わせる。

 そして、追求ポイントを思い出したのか、逆転裁判で追及するなるほどくんの様に樹が指摘をする。

 

「あるじゃないですか! 攻撃手段が!」

「それはアイアンメイデンとブラッドサクリファイスのことを指しているのか?」

「そうです! あんな強力な攻撃があるのですから、出し抜くことに意味があります!」

 

 尚文はそんな樹の姿に不機嫌そうな表情を浮かべながら、ため息をついて解説をする。

 

「アイアンメイデンはシールドプリズンで相手を囲み、チェンジシールドってスキルで攻撃してからSPを全て支払ってから放つスキルだ。問題があるのは一度破壊したことのあるお前等ならわかるんじゃないか?」

「何がですか!」

 

 樹は頭に血が上っていて、考える事を放棄している。

 答えたのは、錬だった。

 

「前提が面倒だな」

「そうだ。シールドプリズンが破壊されたらチェンジシールドを放てない。もちろん素早く放てばいいかもしれないが、前提が面倒なんだよ。しかもお前等は一回、アイアンメイデンを破壊しているだろ」

 

 まあ、アイアンメイデンと言いギロチンと言い、代償が少ないカーススキルは基本的に前提条件が面倒くさいのだ。

 

「じゃあブラッドサクリファイスはどうなんですか!」

「もう忘れたのか? アレは一回使ったら俺の方が致命傷を受けるのはもとより、呪いでステータスが三割までダウンするんだぞ。そんな代償ばかり支払う面倒くさいスキルしか俺には攻撃手段がないんだよ。ラースシールドだっていつまでも変えていられるほど便利な盾じゃない」

「他に……ほら、黒い炎を撒き散らす攻撃があるじゃないですか!」

「アレは反撃でしか出せないぞ? しかもラースシールドだから常時使えない」

 

 とは言っても、尚文は十二分に使いこなしている様に見えるのだけれどね。

 尚文のプレイヤースキル……戦い方は盾使いとしては洗練されていると言って問題ないだろう。

 受け流し、受け止め方、フェイント、俺と同様に実戦で身につけてきたが故の強さに違いはなかった。

 我流であるがゆえに未熟なところもあるだろうけれども、おおよそスタイルとしてしっかりと確立しているのだ。

 それに対して、錬の戦い方は俺がパーティメンバーだった頃と何一つ変わっていない。非常に直線的な戦い方なのだ。

 他の二人は一緒に戦ったことがないから遠巻きに見ているだけだったが、樹は自分の能力である『命中』に頼り切っている節がある。そして、元康は単純に棒を振り回しているだけだ。

 槍の使い方はそうじゃないのだ。斬ってよし、突いてよし、叩いてよしの万能武器が槍という武器なのだ。スキル任せに振り回す様な武器ではない。

 

「わかるか? あくまで最低限の攻撃手段しか俺にはないんだよ」

「嘘つけ!」

 

 元康の声に、尚文が拳で元康の顔面を殴りつける。ペチンと、その尚文の拳の勢いからは想像もできないほどの軽い音が鳴った。

 尚文が拳を引いて座ると、元康は愕然とした表情で自分の顔に手を当てている。

 

「おま……」

「わかるか? 俺が果てしない強さを得たとお前等は思っているみたいだが、どんなに防御力が上がったからと言って攻撃力まで伸びたわけじゃないんだよ。お前等が自分から突撃してきたらダメージを負わせられるかもしれないな。突撃してみるか?」

 

 尚文の説得にようやく三馬鹿は黙る。

 こりゃリノアもそう判断するなと呆れるしかなかった。

 特に元康は、結構頭の良い大学に通っているはずだ。なのにこんなにもおバカなのは、学力と頭のバカさ加減というものは関係ないのだなという証明になっており、それはそれで面白くはあった。

 

「俺がお前等を出し抜いても得なんてない。前回の戦いで……一人でも俺と同じ強さを持っていたら結果はどうなっていたと思う?」

 

 俺はまあ、若干手加減してたからなぁ。まあ、ラルクとの戦いは手加減のしようがなかったが。アレは本当に相性が悪かったとしか言いようがなかった。

 

「お前等流でいうなら……負けイベントがこんなにも続くか?」

「く……」

 

 忌々しそうに錬がうめいた。

 俺はこんな武器、力はさっさと捨ててしまいたいんだけれどね。

 そんな事を思いながら他の二人を見ると、悔しそうに拳を握りしめている。

 てか、そんなに悔しいならちゃんと戦い方を教わって、ライバルが強くなる方法を教えてくれているんだから素直に受け取って強くなればいいのにな。……正直、ここまで頭が硬いと俺には理解できる範疇から外れてしまうなと感じたのだった。



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第二回勇者会議(後編)

 それから、三馬鹿は尚文を延々と罵り、尚文の話を受け入れることはなかった。

 俺としては特にいうこともないので、何も言わずに静観して居たが、見るに見かねた女王陛下が呆れ顔で諫める。

 パンっと大きな音を立てて、テーブルの真ん中に氷の塊を落としたのだ。

 

「落ち着いてください! 今は争っている場合なのですか?」

「ふん。チート野郎と手を組む奴の話を聞いても何の意味もない」

 

 俺は、錬の物言いに呆れるしかなかった。

 俺は情けなくって、両手で顔を覆ってしまう。

 

「勇者様方が強くなるために我が国は最大限協力いたします。どうか冷静になってください」

 

 若干疲れた様な声音で女王陛下がそう告げると、話題を変えようと提案をする。

 

「今は勇者様方が強くなる話は後に致しましょう。それよりも今回戦った相手に関して話し合いを致しましょう。詳しく知っておられる投擲具の勇者様からお話を伺いたいのですがよろしいでしょうか?」

 

 不意に俺に振られても困る。

 

「そうだな。ラルク……ラルクベルクやグラスの正体をお前は知っているのか?」

 

 全員の目線が俺に集まる。

 

「ん? ああ、彼らは異世界の七星勇者だ。尚文なら気付いているだろうけど、俺たちの勇者武器と同じ宝石がハマっているからね」

「異世界の七星勇者……?」

「そうそう。まあ、似た様なルールの世界が複数存在するってのは、俺らの存在が証明しているからね。彼らの目的は、彼らに聞けばいいと思う。俺からいうべきことは以上かな」

 

 俺の話に、尚文はぶつぶつと何か考え込む様に眉を潜める。

 これでも十分すぎるほど情報を提供したと思うので、これ以上は話さなくていいだろう。

 さて、尚文が思考の海に落ちてしまう前に、原作通りの話の内容に持っていた方がいいので、俺は三馬鹿に話を振る。

 

「錬達はあの強すぎる冒険者について、何か知っているか? ゲームに出てきたNPCとか、持っていた武器の特徴とかさ」

 

 俺が話題を振ると、錬が首を横に振る。

 

「……いや、思い返してみてもあんなキャラはいなかったな」

「そうですね。あの方は鎌を使っていましたが、その様なキャラクターはいなかったかと」

「ああ、武器としてはあるがマイナーだったな」

「むしろ尚文さんはあの方々と知り合いっだった様ですが……どの様な関係だったので?」

「ん? ああ……お前等がカルミラ島へ来る船の部屋を独占した時、そのツケを支払った俺と相部屋だった連中だよ。その縁で、島で一度一緒に魔物を退治して回った」

「顔見知りですか?」

「ああ」

「一緒に戦っておかしな点はありましたか?」

「そうだな……ラルクベルク……ラルクの鎌は勇者の武器と同じく魔物を吸い込むことができた」

「宗介の言うとおり、異世界の勇者ということか」

 

 あれ、言いすぎてしまったのかな? 

 なんか若干記憶と違う感じに会話が進んでいる。

 まあ、ここに俺がいる時点でおかしいと言う話ではあるが。

 

「俺はこの世界に詳しくないし、変わった武器だと尋ねたら当たり前の様に『よくあるだろ?』と答えられたぞ」

「この世界ではそれが一般的なのですか?」

 

 樹の質問に女王陛下は首を横に振る。

 

「そのような武器は勇者の武器以外に存在しません」

「近い性質の武器とかも無い?」

「はい。魔物を吸いドロップ品を出す武器など再現されたとは聞いていません」

 

 樹は考えているような仕草をしながら、呟いた。

 

「おかしな武器ですよね」

「ああ、勇者は四聖しか存在しないはずなのに、宗介もそうだがそれ以外の武器が……」

「勇者様は気付いて無かったのでございますね。投擲具の勇者様が何度もおっしゃられているように、四聖の他に7つ、投擲具も含めた伝説の武器が存在するのですよ」

「「は?」」

 

 尚文と錬以外がびっくりした表情を浮かべる。

 

「なるほどな。女王が宗介の事を『投擲具の()()()』と言っていたのはそう言う事だったのか」

「その様子だと、イワタニ様は投擲具以外にも伝説の武器が存在する事をご存知の様子でございますね」

「心当たりなら1人あるな。宗介が倒した戦斧を持った奴だ」

「そうなのですか……。斧の勇者様がメルロマルクに来訪していたと言う記録はないのですが」

 

 記録に残っていないと言うのは、恐らくミナの野郎が密かに呼び寄せたからなのだろう。

 忘れられない、死ぬかと思った酷い戦いだった。

 

「あの時は、不思議な戦斧を使う奴だと思ったが、なるほど。ラルクの鎌と同じように不思議な宝石みたいなのが装飾されていたな」

 

 結構前の事だけれども、よく覚えてるなぁと感心する。

 

「なるほど、こちらでも斧の勇者様について調べてみましょう。ともあれ、他の勇者様はご存知ないようですので説明させていただきます」

 

 そう言った女王陛下の目が輝く。

 やはり、原作通りに伝承が好きな人物らしい。

 

「最も有名なのは四聖勇者の伝説ですが、次に有名なのは七星勇者の伝説ですね」

「七星勇者?」

「ええ、四聖勇者と同じく七つの武器に選ばれた勇者の伝説です」

 

 まあ、俺の場合は選ばれたわけでは無いが。

 投擲具の精霊からは不正所持者だと罵られてるわけだしね。

 だが、あのアクセサリーは破壊したにも関わらず俺の手元から離れないのは何故だろうか? 

 どちらにしても、俺に取っては便利だから利用しているにすぎないわけなのだけれどね。

 俺の戦闘スタイルにはあってないわけだが。

 

「クズや三勇教のせいで問題が起こった我が国ですが、七星勇者に関する全権を放棄したおかげで目を瞑って貰ったところもあるのですよ」

「へー……」

「七星勇者は四聖勇者と深い関わりがあるとも、外伝の勇者とも言われていますが──」

 

 女王陛下は七星勇者についての大まかな伝承というか、どういうものかについてのあらましを語り始めた。

 原作でも確かそこまで触れられてなかったけれども、言ってしまえはどの国でどう言う風に活躍した伝承だとか、アーサー王伝説みたいに選ばれた勇者が国を起こし蛮族と戦った伝承だとか、このファンタジー世界でファンタジーな内容のお話を長々と語っているだけだった。

 なるほどね、そりゃ割愛されるわけである。

 

「じゃあ俺たちの様に召喚された勇者が七人もいるのか?」

「俺は召喚されてないけど……」

「そんなに沢山の異世界人がこの世界に来ている?」

「勇者のバーゲンセールだな」

「これだけ広い世界を五人で救うよりは遥かにマシだろ」

 

 尚文の指摘に、他の勇者は視線を逸らす。

 何気に俺も勘定に入っているのか……。

 

「いえ」

「違うのか?」

「七星勇者に関してはむしろ冒険者が憧れる職種として有名でもあります。七星勇者は召喚に応じて勇者になるものもいますが、投擲具の勇者様の様に冒険者として名を挙げた末になるものや、この世界の者が成ることができる場合もあります」

 

 俺の場合は異世界転移者にも関わらずこの世界の連中と同様に選ばれたと言うことになるらしい。

 厳密には少々違うんだけれども、まあ、そこは沈黙は金というやつだろう。

 

「一応、その伝説の武器を使って召喚は行いますが、勇者召喚が失敗した場合は選ばれたものが出現するまで、武器は一般人が触れることができるように解放されます」

「……地面に刺さった伝説の剣みたいな感じか?」

「剣は四聖の勇者の武器なので違いますが、地面に刺さっていると言うのは間違いではありませんね。投擲具の勇者様もご覧になったことはあるでしょう?」

「あ、ああ……」

 

 思わず、言い澱んでしまった。

 樹は不思議そうな顔でこっちを見るが、むしろここは堂々としておくべきだろう。ハッタリというやつだ。

 ふと考えると、俺はなかなか危険な橋を渡っているかもしれなかった。

 俺は不正入手者だ。調べれば、簡単に足がつくだろう。

 

「四聖の勇者よりも武勇伝の数自体は多いですよ。少しでも戦乱が起こると七星勇者は出現する可能性があるので」

「ほー……」

「波が出現した後は、七星勇者も大半が選定されました」

「それだけ危機ということか」

「はい」

 

 と、女王陛下と尚文が俺の方を見やる。

 

「となると、宗介がどうやって投擲具を入手したのか疑問が湧いてくるわけだが……」

「そうですね。ただ、投擲具の勇者としてのお力は確かなものの様ですので、不問としてきましたが……」

 

 嫌な流れだ。

 ここは話を逸らすとしよう。

 

「それよりも先に、鎌の勇者について話した方がいいんじゃないのか?」

「……それもそうだな。宗介についてはまあ、勇者として真っ当な部類になるしな」

 

 尚文の物言いに、「なんだと?」と元康が言うが、「宗介の方が活躍しているからな。していないお前等と比べるまでもない」と尚文は鼻で笑う。

 それに言い返せなかった元康は不満げな表情で着席した。

 

「で? その七星勇者の中に鎌の勇者はいるのか?」

「生憎と存在いたしません」

「そうか」

「なのであのもの達の謎はさらに増したことになります」

 

 尚文は眉を潜めて考えると、何かを思い出した様に告げた。

 

「そういえばラルク達は『俺たちの世界のために死んでくれ』と言っていた。つまりは宗介の言う『異世界の七星勇者』って言うのはラルクやグラスの事を指すのだろうな」

「なるほど、それならば確かにあり得るかもしれません」

「だとしたら、波の先は奴らの世界で、何かしら理由があって俺たちの世界を侵略しようとしている……か?」

 

 まるで正解を確認するかの様に俺を見る尚文。

 俺は大筋は知っているので、グラス達の行いが根本的解決にならない事を知っているので、なんとも言いようがないが……。

 と言うわけで、俺は肩を竦めることにした。

 

「説明する気はないか。まあいい、で、女王。グラスの武器はこっちの世界にも存在するのか?」

「いえ、こちらも私共の世界には存在しませんね」

「全部でどの様な武器があるのですか?」

「では説明いたしましょう」

 

 女王陛下は立ち上がると、七星武器の詳細を語り出した。

 

「まずは杖」

 

 杖と聞いて、尚文がぼんやりする。

 

「イワタニ様?」

「あ、ああ。続けてくれ」

「次に投擲具、槌、小手、爪、斧、鞭です」

「えっと……」

「投擲具とは大雑把ですね」

「そうですか?」

 

 樹の疑問点はわかる。だが、女王陛下は逆にこっちが疑問に思った点に首を傾げる。

 

「宗介さんの戦い方を見る限りでは、『投げる武器』に変化する様に見えますけれど、合ってますか?」

 

 樹が俺に質問をしてきたので、素直に答えるとする。

 

「ああ、俺は主に使いやすさの観点で投げナイフ、投げ斧、チャクラムを使っているが、他にも手裏剣だったりクナイ、円月輪、投槍と言った投げる武器全般に変化する武器だな。エアストスロー、セカンドスローで分裂させることができる」

 

 投げる前提故にリーチが短いため、近接戦闘ではなかなか苦しい状況になることが多い。

 投槍ですら、ロングソードサイズのリーチにしかならないので、正直非常に使いがってが悪いのだ。

 限定的に時を止めるスキルなんかも俺は使えるが、カースシリーズが発言した際に解放された別の投げナイフに付属していた謎スキルのため、解放手段は不明である。

 

「小手と爪の違いはなんだ? 同じ武器じゃないのか?」

「そうだな。俺もそう思うぜ」

「そこまでは……わかりかねます」

 

 基本的に眷属器は特定の属性を持っていればOKと言った節がある。

 四聖武器が概念そのものならば、眷属器はそこから派生したものだ。

 こういう、常識の違いというのはまさに異世界ものと言った感じがする。

 

「鞭ねー」

「伝承では鎖にも変化できる武器だそうです。フレイルにもなれると聞いたことがあります」

「それって槌と変わらないんじゃ……」

「槍と矛が同じ武器なんだから被るものはあるのかもしれないな」

「……そうだな。投げナイフは俺も出たことがある」

 

 出るとは言っても、錬が投げナイフを使った事を見たことはないけれどね。

 コンバットナイフ見たいな大型のナイフはどうやら投げナイフジャンルには入らないので使えないのが投擲具の大きな欠点だろう。

 後、スキルも投げることで使えるものしかない。

 そういうわけで、俺はそこまでスキルを使わないのにはそう言った理由があった。

 俺、得意な距離が中近接距離だからね。

 

「鞭は大きな違いとして、魔物の力を引き出すことができるそうです」

「尚文の言っていた魔物の盾見たいな感じか?」

「特化系なんじゃないのか? 俺の持つ成長補正よりも上の力を秘めてるとか」

 

 尚文がそんな事を言いながら、とても不躾な事を考えている表情をしている。ラフタリアがいなくてよかったな。

 

「槌と斧も似た様な武器だよな」

「そうですか?」

 

 尚文の言葉に、不思議な表情をする女王陛下。

 

「で? その七星勇者に宗介以外にあったことがないな」

「他の七星勇者は四聖勇者の皆様とは別のところで戦っております。それにまだ所持者が見つかっていない武器もあるので」

「そうなのか?」

「はい」

「そいつらに波を任せればいいんじゃないか?」

「世界は広いので、七星勇者達では守りきれません」

 

 まあ、当然の話だ。

 というか、召喚されたのに波を他人任せとか、そもそも、一つの波に対して四人がかりでようやくとか、本来は話にならないだろう。

 

「で? 話は戻るがラルクやグラスの持つ武器は存在しないと?」

「はい」

「問題はラルク達は当たり前の様に答えていたところだ」

「というと? 

「仮にアレが伝説の武器に似ているだけで、奴らの世界じゃ当たり前の技術だったら……どうなる?」

 

 これは、この後の展開にもつながる話だけれど、そういう異世界がこの世界に攻めてくる話は出てくるだろう。

 グラスの世界……と借りに言っておくが、そこでも聖武器の解析が結構進んでいたはずである。

 なので、尚文の指摘はグラスの世界に関しては杞憂である。まあ、備えておくぶんには問題ないだろう。

 

「なるほど……これは可及的速やかに事態への対処を考えていかねばなりませんね」

「そういうことだ」

「では付け焼き刃的なモノになりますが、勇者様方に戦闘訓練を経験していただいた方が……いいかもしれませんね」

 

 俺としては、これに参加するつもりはなかった。

 俺自身、人を殺すのに一切の躊躇いがなくなってしまったし、そのための技術もこれまでの戦いで研ぎ澄まされてきた。

 他のバカ三人組は嫌な顔をしている。

 

「今は次の波に備えてできる限りのことをしていきましょう。イワタニ様、どうか他の勇者様方とのすり合わせをお願いします」

「……」

 

 尚文は嫌そうな表情をする。

 まあ、正直言って尚文には同情するよ。

 全員が全員……俺を含めても問題児しかいないからな。それを統率しろというのはむつかしい話だろう。

 事実、訓練が嫌すぎて逃げ出すしな。

 

「私共も騎士団や冒険者の猛者を募ります」

「そうだな。グラスとの戦い、女王の援護のおかげで有利に動くことができた」

「カワスミ様の仲間であるリーシアさんのおかげで閃いた案でございます。彼女がいなければ今頃どうなっていたことやら、影の功労者は彼女でしょう」

「……そうですか」

 

 樹が面白くなさそうな表情を一瞬だけ浮かべた。

 嫌な目をしながらうなづく。

 

「リーシアさんが……なるほど」

「カワスミ様もリーシアさんをお褒めください。此度の波を乗り越える案が出たのですから」

「ええ……そうしましょう」

 

 この後の展開を知っているから、安堵している尚文が滑稽に見える。

 仕方ないといえば仕方ないのだけれどね。

 

「それでは、メルロマルクに帰還するまで勇者様方は自由行動と致します。ありがとうございました」

 

 こうして、俺たちは会議室から解散することになった。

 尚文が女王陛下に呼び止められていたけれど、俺たちは呼び止められなかったので続々とそれぞれの部屋に戻ることになったのだった。




これで原作再現部分の大半が終了ですね!
と言っても、ここの部分はわりかし勇者たちが宗介の存在に疑問を持つ展開になったわけですが……。
リーシアの話には宗介が関わらないのでダイジェストになるかと思います。


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女王陛下からの依頼

「……俺は知っていた」

「何だよ突然」

 

 錬が別れる前に俺にそう宣言した。

 

「レイファから聞いていたからな」

「ああ、そう……」

「俺は知っていたからな!」

 

 錬はそう宣言すると、自分のパーティのいるはずの部屋とは別方向にスタスタと去ってしまった。

 一体何なんだろう? 

 俺は疑問に思いつつ、自分にあてがわれた部屋に戻ったのだった。

 

 それから、俺は少しした後に女王陛下に呼び出しをくらう。

 ライシェルさんに案内されて、簡易の謁見の間のような場所で俺は女王陛下と謁見する。

 アーシャが同伴しているのは、仕方ないだろう。

 簡易の王座には女王陛下が座っており、近くにはメルティ第二王女、周囲には護衛の騎士(全員女性)がいる。

 

「投擲具の勇者様、お越しいただきありがとうございます」

「いえ。陛下、何用でございますか?」

 

 俺は早速、用件を聞き出す。

 余計なことを勘繰られたくなかった。

 

「ええ、投擲具の勇者様には近隣の国で発生しそうな波の対処を依頼したいと思いまして、呼び出させていただきました」

「なるほど、それは確かに勇者案件ですね」

 

 女王陛下はうなづく。

 

「ご存知の通り、現状盾の勇者であるイワタニ様以外の勇者様方は、忌憚なく言うと伝承の四聖勇者と比較して明らかに弱いと判断しております」

 

 だろうなと思う。

 普通の冒険者よりは強いレベルでは、はっきり言ってこの世界で言う『勇者』と名乗るのもおこがましいだろう。

 正直言って、四聖武器の強化方法と投擲具の強化方法全てを実践している俺よりも弱いのは明確である。

 ラルクには完全に相性負けだが、正直殺そうと本気になれば殺せるのは間違いなかった。時を止めて首を跳ねれば終了だからな。

 

「これでは、四聖勇者を派遣したところで我が国は『偽物の勇者を派遣した』との罵りを受けるのは火を見るよりも明らかと言うのが現状でございます」

 

 これは原作でも尚文に言っていた事である。

 現状、メルロマルクは盾の勇者が改革中、他の四聖勇者を盾の勇者が鍛えていると言う状況なのだろう。外国に対する建前という意味で。

 俺に関してはどうなんだろう? 

 本来の投擲具の勇者はコーラに殺されているだろうしね。

 そのコーラを俺が殺したから、俺が投擲具保有者になっているわけだが。

 

「なるほど、わかりました。それでは私が他の四聖勇者に変わり他国の波を抑えるよう努めることにしましょう」

「ええ、ありがとうございます。我が国としても依頼する以上、支援と報酬をお支払いいたします。メルロマルク金貨150枚と、戦力としてライシェル=ハウンドを連れて行くことを許可します」

「ありがとうございます」

「場所は、メルロマルクより東側、霊亀国の南の国のウォーランになります」

 

 俺は、霊亀国と聞いて顔が引きつったと思う。

 運命はどうやら俺を本編に絡めたがるらしかった。

 

「おや? どうされました?」

「い、いえ。承りました」

「ありがとうございます。対処を確約していただき、こちらとしてもありがたい事でございます。では、報奨金の前払いをさせていただきます」

 

 女王陛下がそう言うと、ライシェルさんが金貨袋を俺の前に出す。

 俺はそれを受け取る。

 

「では、お願い致しますね」

 

 女王陛下はにこやかな笑みを浮かべて、俺に依頼を出した。

 その笑顔はさすが美人だなと思うには十分なものであった。

 

 俺がライシェルさんとアーシャを連れて部屋に帰ると、レイファとリノアとラヴァイトが待っていた。

 

「あ、ソースケ、お帰り」

「勇者会議はどうだったのかしら?」

 

 うん、レイファの笑顔は眩しいな。

 守りたい、この笑顔。

 

「ああ、まあ、相変わらずだったよ。盾の勇者だけが強くなり、他の勇者は弱いまま据え置きって感じ」

 

 俺は遠慮なくそう言うと、ライシェルさんがため息をついて同意する。

 

「ああ、ソースケくんの言う通りだ。正直言うと、私は彼らの思考が理解できないよ。何故、強くなる事に興味があるにもかかわらず、実際に強くなった盾の勇者様の結果報告を受け入れることをしないのか……」

「まあ、あの性格だしね。極悪王女のビッチ、だっけ? そいつが仲間の槍や胸糞悪い弓はまあ、痛い目合えばいいけれども、剣の勇者様が受け入れないことについては若干疑問が湧くけれどもね」

 

 リノアはビッチの名前を吹き出しつつそう言った。

 もはや様がついているのは錬だけであった。

 それほど、他国出身のリノアにはそう見えるのだろう。

 

「錬は変にプライドだけは高いからな。……敵からのアドバイスは受けたく無いんじゃ無いの? そもそも、あいつらお互いをライバルだと思っているみたいだしね」

 

 俺がそう言うと、リノアは鼻で笑う。

 

「ふーん、くっだらないプライドね。頭悪いんじゃ無いかしら?」

 

 リノアの忌憚なき言葉に俺やレイファは苦笑する。

 

「あ、ソースケ。そういえばお土産買ってきたんだよ。このアクセサリーなんだけど……」

 

 レイファがそう言って取り出したのは、どこかで見たようなアクセサリーだった。

 

「なんか、これを身につけてカルミラ島で魔物を倒すと経験値が増えるお守りなんだって!」

 

 ……あの詐欺商か。

 早速レイファ達は引っかかってしまったらしい。

 俺が鑑定スキルを使うと、粗悪品と出る。

 いやまあ、そう言う事だよね。

 だが、俺はレイファの思いやりを無碍にすることはできなかった。

 

「ああ、レイファ。ありがとう、大切にするよ」

 

 俺はにこやかにそれを受け取ると、ポケットに仕舞う。

 

「それじゃあ、アーシャ、調べたことを報告してくれ」

「はい、わかりました。ソースケ様」

 

 俺はアーシャから勇者の仲間連中が何をしていたかの報告を受けるのだった。




アンケートの結果、波の場所が霊亀国のちかくになりました!
アンケートの回答ありがとうございました!


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船旅

 他の勇者はもう少しレベル上げをするつもりらしく、俺と尚文は先にカルミラ島を後にすることになった。

 案の定ペックルの着ぐるみを着たリーシアがいたが、原作同様の流れなので俺は気にもしなかったが、レイファやリノアはそうではなかったらしい。

 樹に捨てられて悲しむリーシアを船の中で慰めていた。

 

「リーシアと知り合いだったのか」

「まあ、近くの国のクーデターを手伝った関係で樹に協力する羽目になった事があってな」

「なるほど、()が好きそうなお題目だな」

 

 普段なら『あいつ』と言うはずだが、尚文は樹を指す二人称を『奴』と言った。

 それだけ腹立たしかったのだろう。

 俺はことの顛末を尚文から聞いたが、原作通りすぎてやっぱりなと言った感じの感想を抱いたのは言うまでもなかった。

 俺の反応を見て、尚文が

 

「この事も()()()通りの展開か?」

 

 と聞いてきたので、「さあな」と答えておく事にする。

 それに対して尚文は

 

「だったら先回りして助けてくれるように動いてくれてもいいんじゃないか?」

 

 と言うので、俺は

 

「まあ、できたらな」

 

 と答える。俺は話の大筋を変えるつもりはないのだ。

 この後起こる事も教えろと言われても、教えるつもりはなかった。

 霊亀の対策、倒し方、黒幕やグラス達の動向……。

 話せばどれも尚文の易になる話ばかりだが、対策をされては俺の望む展開にならない。

 尚文も諦め気味にため息をつくと、話を変える。

 

「で、お前に国外の波を任せる事になったが、大丈夫か?」

「ああ、俺も女王陛下やフィトリアから手伝うように依頼されたからな。尚文と違って攻撃力はあるから問題ないさ」

「そうか。どおりでお前のフィロリアルもフィロリアルクイーン……? になって頭に王冠みたいな羽が付いているわけだ」

 

 ラヴァイトは正確に言えば俺が所有しているわけではない。

 レイファとの共同所有者と言う設定にしてある。

 なので、ラヴァイトが中継地点となってフィトリアとの更新ができるのだ。

 

「ラヴァイトは雄だから、フィロリアルキングだな」

「なるほど。うちのフィーロと交換して欲しいほどに大人しい奴だな」

 

 尚文がそう言うと、フィーロが人間姿でこっちにやってきて文句を言い始めた。

 

「ごしゅじんさま酷いこと言ったー! ぶー!」

「……ラヴァイトはレイファのフィロリアルだから無理だろ」

「そうか、それは残念だ」

 

 尚文は苦笑しながらフィーロの頭を撫でる。

 天真爛漫な性格は尚文が原因なのだが、気付いていないのだろう。

 俺自身が育てるとどう言う性格になるんだろうな? 

 ラヴァイトはどちらかというとドラルさんを思い起こさせるので、育ての親に似るのだろう。

 確か、厨二に目覚めやすい性質だっけか? 

 

 すでにだいぶ22巻までの記憶があやふやだ。

 はっきり覚えているのが、霊亀編のあたりであり、それ以降が大筋しか覚えていない。

 そのため、それ以降はどう動くとまずいのかが見えていなかったりする。

 生き急いできたせいか、思い返すことが直前のことばかりで、その先の内容が漏れている気がするのだ。

 ただのモブならば、俺がいるせいで話が大きく変わることはないだろうが、どうやら俺の動き如何によって話の内容が変わってしまうのは確かな事実だった。

 例えるならば、転生したら悪役令嬢だった的なレベルで、動きに気を付けなければ簡単に話が変わってしまう気がしていた。

 

「しかし、宗介の話を聞いていると物語の世界に入ってしまった様に聞こえるな」

「ああ、まさにそんな気分だよ」

「ま、俺に関してもたいして変わりないがな。四聖武器書って書物を図書館で見つけたらこの異世界に転移していたんだ」

「ん」

「知ってるって顔だな。一度お前が読んでいた小説を俺も読んでみたいモノだな。どんなことが書かれているか多少気になる」

 

 実質、尚文の自伝な小説を読みたいとか……ってそれは知らなかったな。

 

「で、俺たちは他の勇者どもを鍛えるために準備をするが、お前はすぐに発つのか?」

「ああ、そのつもりだ」

「そうか」

 

 俺たちの会話なんてこんなものだ。

 俺も尚文も憎悪によって人格が狂ってしまった。

 そんな二人が会話したところで、話が弾むわけでもない。

 尚文は必要なことしか話さないし、俺は情報をあまり出したくないからね。

 

 そんな感じで俺たちは船旅を終え、メルロマルクまで戻ってきた。

 預けていた馬車を回収して、俺たちはメルロマルクより東の国、ウォーランへと旅を開始したのだった。



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宿敵?登場

 メルロマルクから国外に出るまでは特に特出した出来事は起こらなかった。

 そりゃそうである。

 現状、メルロマルクでの大きな波乱はひと段落したのだ。

 むしろ巻き込まれたらびっくりである。

 

 という訳で俺たちは何事もなく隣の国に行くことができたのだった。

 まだまだ先は長いが、俺たちは道中の宿屋で休む事にしたのだった。

 

「結構すんなり通してくれましたね」

「ああ、女王陛下からの許可証があるからな」

 

 女王陛下から旅立つ前に貰ったいわゆるパスポートのような物をライシェルさんが持っており、俺たちはメルロマルクを何事もなく出国できていた。

 今は、宿の食事スペースで5人で食卓を囲んでいるところだった。

 

「私、こうやってちゃんと海外に出たのは初めてかもです」

「ん? ああ、私の国に入国した時は弓と一緒だったもんね」

「アルマランデ小王国……今はどうなってるか知らないが、密入国みたいな形で侵入したからな」

「うんうん」

 

 少し前の話なのに、ずいぶんと懐かしい話である。

 金剛寺との出会いもあの時だった。

 結局、マリティナは殺せてないんだよな。

 下手に殺してもヴィッチみたいな状態になるだろうけれども。

 

「……君たちはなかなか濃い日々を送っているんだな。話には聞いていたが、他国のクーデターに密入国をしてまで参加したのか」

「そうなるな」

 

 ライシェルさんと出会ったのはその後だが。

 

「弓の勇者がクエストがあるって言って、道端で倒れていたアルマランデ小王国のクーデター派の人を助けたのが始まりでしたね」

 

 なんて、リノアとアーシャとの出会いを話していると、不意に俺の中の殺気メーターが反応する。

 近くに()()()()()()()がいるらしい。

 

「よお、女囲って楽しそうだな?」

 

 そう言って声を掛けてきたのは、日本人風の何処かで見たことがあるような男だった。

 

「……なんだ、テメェ?」

 

 俺が睨む。

 うーん? なんかすっごく見たことがある奴だった。

 どこで見たのだろう? 

 髪が緑色だから余計にわからないが、すっごく見覚えがある。

 

「ソースケ! 口が悪いよ!」

 

 レイファに注意されてしまう。

 なので、俺はライシェルさんに任せることにした。

 

「わかった。では私が話すことにしよう」

「なんだこのおっさん?」

「……君は冒険者かな?」

 

 その見覚えのある冒険者の男は、案の定ハーレムのようであった。

 後ろに女性を3人も連れている。

 装備は金がかかってそうな防具を身に纏っており、チンピラな態度を除けば貴族の坊ちゃんが冒険者に憧れた結果のように見える。

 

「ああ、そうだぜ? 見りゃわかるだろ?」

「そうですわ! ダイマ・エクレスト様を知らないなんて、ニワカですわね!」

 

 ダイマ・エクレストねぇ。

 後ろのダイマを自慢する女は、気配から行って分霊か。

 殺してもいいが、ここで殺ると面倒だな。

 そもそも、今はライシェルさんがいるので他の武器を使うというのは難しかった。

 投擲具の勇者と言うことで活動しているからね。

 投擲具で殺すと、魂を傷つけることができないので、面倒くさいことになる。

 

「すまないが、我々は今日、入国してきたばかりなんだ。情報収集はまだ行っていないので、知らなかった事は申しわけがなかった。で、ダイマくんは一体我々に何の用かな?」

 

 ライシェルさんが理由を尋ねると、ダイマの代わりに分霊の女が答える。

 

「それはもちろん、ダイマ様にふさわしい武器をそこの不躾な冒険者が持っているからですわ!」

 

 どうやら、狙いは投擲具だったらしい。

 ライシェルさんは頭にはてなマークを浮かべながら対応する。

 

「ん? ソースケくんの武器? 投擲具は七星武器だから他人に譲渡できないはずだが……」

 

 しかしながら、リノアとアーシャは警戒の目でダイマ達を見る。

 

「あんたら、もしかして七星武器の簒奪者?」

「ど、どういうことだ?」

 

 ライシェルさんはアーシャに理由を聞く。

 

「違うね。俺様の武器をお前が勝手に使っているだけだ。返してもらおうって話だよ? ついでにお前の女共はいい女だから俺様のハーレムに加えてやってもいいぜ?」

 

 俺はため息をついて、提案する。

 

「はぁ、相手してやるから表出ろ。アーシャ、ライシェルさんに説明をよろしく」

「わかりました、ソースケ様」

「リノア、手伝ってくれる?」

「任せて」

 

 俺たちは武器を手にとり立ち上がる。

 国を出て早速かよ。予想はしていたが。

 

「ソースケ……」

「安心しろ、レイファ。すぐに終わらせるからさ」

 

 俺たちは自信満々なダイマを連れて、宿の外に出た。

 宿の外はすっかり暗くなっており、月明かりと宿から漏れる光の中俺たちは対峙する。

 

「よほど自信満々みたいだな! 俺様に敵うと思っているのか?」

「黙れ転生者。さっさと殺されろよ」

 

 俺は、投擲具のナイフを構える。

 それに、ダイマは舌打ちをする。

 

「ルイーナ。あの武器はなんだ? なんか弱そうなんだが」

「投擲具のナイフですわ。勇者の武器に違いないですわ」

「ふーん。俺様、剣が良いんだけど」

 

 この世界の常識からすれば頓珍漢なことを言うダイマは確実に転生者だった。

 

「……ねえ、ソースケ。アイツなんなの? 七星武器の争奪戦参加者よね?」

「ああ、間違い無いな」

「剣は四聖武器よ? それを欲しがるっておかしくない?」

「アイツらにとって、一番欲しい伝説の武器って剣なんだよ」

「……わからないわね。あれは勇者召喚に応じた勇者様だけが使える武器なんだけど……。まあ、レン様が相応しいとは思えないけれども」

 

 俺たちがそんな会話をしているうちに、ダイマは説得されたらしい。

 

「まあ良いや。どっち道最強武器なんだろ? 寄越せや!」

 

 ダイマはそう言うと、剣を構えて突進してくる。

 直線的すぎるなぁ。

 こりゃ、少し手を抜いても殺すのは難しくなさそうだった。

 

「うりゃああああああ!」

 

 ダイマは剣を振りかぶってくる。

 それを数歩足を動かして、斬撃の中心ラインから少しずれるだけで空振りが確定する。

 そのまま、首にナイフを入刀すると、ダイマの首がスポーンととんでいってしまった。

 

「うっわ、雑魚じゃん」

 

 どさっと、ダイマに身体はその場に倒れ伏してしまう。

 うーん、それにしても、なんかすっごく見たことがある奴だった。

 本当に誰だろう? 

 まあ、殺しちゃったしどうでも良いか。

 

「恐ろしく早い殺人を見た気がするわ」

 

 リノアは呆れながらそう言った。

 俺が睨むと女達は「ひいいいいいいいいいい!」と言いながら慌てて退散したので、分霊女を放っておくのはシャクだが、無視することにした。

 

「じゃあ、この死体ここに放置してると面倒だし、適当なところに捨ててくるわ。リノアはライシェルさんによろしく伝えておいてくれ」

「わかったわ。なんで一緒について行ったのかわからないわね」

「ああ、女どもが何かしたら手が足りないじゃん? その時リノアに手伝ってもらおうと思ったんだけど、コイツが突っ込んでくるからすぐ終わっちゃっただけなんだよね」

「そう、まあ、わかったわ。伝えておくわね」

 

 俺は、リノアと別れるとダイマの死体を村の外れまで持っていき、草むらに捨てる。

 完全に首は無くなっており、死亡確認するまでもないと俺は思ってそのまま宿に帰った訳だが、俺はこの時、ダイマの死体を粉砕しておけば良かったと後悔することになったのだった。

 

「クックック……」

 

 近くにこの世界の人間じゃない奴が居たが、俺は気付かなかったのだった。




この章のライバル波の尖兵登場です!

とはならなかったので、少し追記しました。(アンケートの結果話の展開が変わったとも言う)


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チャイニーズウォーラン

前の話の最後に追記してるので、それを確認しておいたら幸せになるかと


 道中、波の尖兵に妨害されながらも、俺たちはウォーランに到着した。

 いや、話に出すほど特出すべき波の尖兵はおらずあっさりと殺害できたのだけれどね。

 ライシェルさんには正当防衛として納得してもらってるが、メルロマルクを出た瞬間にこれだから、どれだけメルロマルクから異世界人が駆逐されてたのやら。

 いやまあ、メルロマルクはもともと三勇教のせいで異世界人にとっては厳しい環境だし、仕方ないけれど。

 ウォーランあたりは文化圏的に古代中国をイメージさせる文化圏だった。

 霊亀国も文化圏的には中国っぽいからそこは文化圏の違いなのだろう。

 服装も、いわゆる古代中国を連想させる服装が一般的で、中世ヨーロッパファンタジー世界の服装でいる俺たちの方が違和感があるほどだった。

 

「本当に他の国に来たって感じだよねー……」

 

 レイファも感慨深くそう言うので、俺は同意する。

 

「メルロマルクの言葉は通じる感じなのか?」

「メルロマルクは人間語と呼ばれる言語を使っているのだ。汎用人類共通語とでも言った方がいいかな? 国による訛りはあるが、人間主体の国ならば言葉は問題ない。現にこれまでの道中でも我々が言葉に困ったことはないだろう?」

 

 ライシェルさんの話になるほど納得する。

 たしか、俺の記憶によるとシルトヴェルト、シルトフリーデンとメルロマルクは言葉が違ったはずだし、尚文の仲間になる亜人のキールの事を『人間国の言葉を話す奇妙な亜人』と称されていたことからも、国による言葉の違いは『訛り』程度で人種による言葉の違いが顕著な世界観なのだろう。

 だから、獣人国に近いリノアの出身国であるアルマランデ小王国はメルロマルクと言葉が若干異なったのだ。

 

 店なんかを見れば、文字はメルロマルクで習得したそれと全く変わらないし、数字の表記の仕方も同じである。

 会話は武器の便利機能で翻訳されているけれどね。

 

 そんなこんなで俺たちは、ウォーランの王族に会うための面会を行うことにした。

 ウォーランの王宮は、平屋建ての豪邸でやはり中国を意識させるようなデザインの宮殿だった。

 投擲具の勇者一行である事を告げると、身分の確認の後すぐに王宮に通される。

 小国とはいえきっちりとしている国だった。

 

「お主らが、投擲具の勇者一行か?」

「はい、左様にございます、帝」

 

 帝と呼ばれたこの国の王様は大臣にそう言われると、「ふむ」と言って言葉を告げる。

 この国のしきたりとして、下賤のものが偉大なる帝と口を聞くのは御法度のようである。

 ただし、勇者は例外らしい。

 なので、帝の問いに答えるには大臣に全てを任せる必要があった。

 

「なるほど、その方が我が国の波を抑えてくれると申すか」

「そのためにこの国に訪れた模様でございます」

「よい、許す。では、龍刻の砂時計に案内するがいい」

「偉大なる帝よ、この者らは波に対処するために兵を借りたいと申しておりますが、問題ないでしょうか?」

「よい、許す。特に我が国の問題であるからな。波を抑えた暁には成功報酬を渡そう」

 

 それだけの謁見であったが、この国では帝がどのような扱いなのかがはっきりとわかったのであった。

 それから、龍刻の砂時計が安置された宮殿に案内される。

 一応、四聖教の施設らしいが、西洋感は無く宗教設備感が全くなかった。

 そして、龍刻の砂時計はメルロマルクと同じくファンタジー色の強い物なので、違和感がすごい。

 投擲具をかざすと、宝石から赤い光が伸びて登録される。

 

「お、出た」

 

 視界の右上の赤い砂時計の表示がメルロマルクのものからウォーランのものへと変更される。

 

「あと3日か……」

 

 意外に時間がなくて思わず呟いた。

 それでも、できる準備というのはほとんど済ませてしまっているので、あとは兵士を分隊に指定して共に波で戦えばいいだけである。

 

「それじゃあ、協力してくれる兵士のところに行こうか」

「そうだな。すまないが兵舎まで案内してくれないか?」

 

 ライシェルさんが案内してくれた人に伝えると、

 

「かしこまりました」

 

 と深々と礼をして、下級士官に伝える。

 なかなかに面倒臭い国のように思えた。

 

「では、案内いたしますのでついてきてください、投擲具の勇者様ご一行様」

 

 俺たちは兵舎に案内される。

 本当に古代中国の印象まんまな国である。

 赤を基調とした目に悪そうな建物といい面倒臭い仕組みと言い、本気で中国を意識させるお国柄だった。

 

 兵舎についても同じ印象で、兵士を見た瞬間に「古代中国やん」と思わず呟くほどには中国だった。

 俺は兵士長に分隊の隊長権限を渡して、激励をして準備完了となった。

 こうして、俺たちはウォーランの国を準備の名目で観光をする事を許可されて、決まった範囲の観光を行うことになったのだった。




7/11で1周年になるので、何か書きます
アンケートを設置するので、回答をお願いしますね


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ウォーラン観光

 俺たちは宿泊するホテルに案内される。

 勇者であるからか、最高級のホテルであり、男女それぞれでスィートルームに無料で宿泊することができるそうな。

 ホテルに向かう道中で、一般人の声が耳に入る。

 

「投擲具の勇者様が来てくれたそうよ」

「マジか! それは良かった。今まで自然と閉じるのを待つほかなかったからなぁ……」

「まだ選ばれていない小手の勇者様や、フォーブレイで活躍されている鞭の勇者様はともかく、四聖勇者様や他の勇者様は一体何をしているんだろうねぇ……?」

「四聖勇者様はメルロマルクで修行中だそうだけれど、もう既に四聖勇者が召喚されて一年近く経つじゃ無いか! それでメルロマルクで修行中とか何を考えておられるんだか……」

「他の勇者様もとんと噂も聞かないからねぇ……。世界がこんな状況なのに、メルロマルクも早く勇者を出してもらわないと困るんだけど」

 

 そんな市民の声を拾いつつ、ホテルに入ったのだった。

 

「ふむ、なかなかいい感じのホテルじゃ無いか」

 

 ライシェルさんは旅の荷物を整理しながらそう言った。

 俺としてはこの中華風のホテルはケバケバしく感じるのだが……。

 ライシェルさんも観光気分かな? 

 

「ライシェルさんはこれからどうする予定なんだ?」

「私はこの国の武器の確認と、兵力の確認をしようと思っているよ」

「なるほどな」

 

 俺は納得する。

 まったくもって彼は勤勉な人間なようだ。

 

「ソースケくんはどうするのかな?」

「俺は、レイファと観光でもしようと思うよ。情報収集も兼ねるがね」

「……リノアくんも連れて行ったらどうだね?」

「……まあ、考えておくとしよう」

 

 正直、レイファはまだしもリノアが俺に好意を寄せている理由がわからなかった。

 俺は彼女の前で虐殺や惨めな敗北を繰り返していると言うのに、なぜ慕うのだろう? 

 まあ、他人の心の中なんて俺にはわからないけれど、推測はできるはずだった。

 アーシャはまあ、理由はわかるが理屈はわからない。

 

「アーシャくんはどう動かす?」

「もちろん、俺とは別のベクトルでの情報収集だな。どうにも俺はこの国が胡散臭い。面倒ごとに巻き込まれる前に波を抑えたらさっさと脱出したいからな」

「なるほど。ここはメルロマルクとは違った文化圏の国だしな。そのほうがいいだろう」

 

 ライシェルさんは同意する。

 

「それじゃあ、行動開始しますか」

 

 俺はそう言うと、部屋を後にして、レイファとリノアを誘うために女子用の部屋に訪れる。

 ノックをすると、リノアが出てきた。

 

「うん? ソースケ、どうしたの?」

「情報収集に行くぞ。レイファやアーシャはいるか?」

「お呼びでございますか、ソースケ様」

 

 アーシャは素早く駆けつける。

 なので、アーシャに指令を与えておく。

 

「アーシャ、これから情報収集をする。この国の勇者の取り扱いについて裏の情報を集めておいてくれないか?」

「わかりました。では、部屋の整理が終わりましたら早速取り掛かりますね」

「ああ、頼む」

 

 これでおおよそ欲しい情報は手に入るだろう。

 ならば俺も、動く必要がある。

 

「レイファやリノアも部屋の整理が終わったらでいいぞ。観光ついでに情報収集だ」

「色気ないわね……。まあ、わかったわ。レイファにも伝えておくわ」

「ああ、頼む」

 

 それからしばらく待っていると、3人が出てくる。

 

「ウォーランの観光だっけ。楽しみ!」

 

 レイファは無邪気に喜んでいるが、俺とリノアは真剣である。

 ともあれ、レイファの楽しい気分を害するつもりはないので、雰囲気は観光って感じにするがな。

 

「アーシャ、頼む」

「かしこまりました」

 

 アーシャはそう言うと、俺たちと別れてホテルの外に出た。

 

 さて、ウォーランは観光できる範囲が決まっている国だ。

 首都でも、観光客が立ち入れる範囲とそうでない範囲が決まっている。

 吉原みたいな風俗街も観光として立ち入ることができるみたいだが、女の子連れで立ち入るところではないので今回はパスだ。

 ウォーランと言う国の完全な表舞台について俺たちは観光することができた。

 

「なんて言うか、すごい国だね」

 

 レイファがそう漏らす程度にはカッチリとした国だ。

 村になったら話は違うかもしれないが、首都としては計画都市と言うのがしっくりくるほどきれいに区画整備がされていた。

 

「そうね、雑多な私の国やメルロマルクとは趣が完全に違うわね」

「食べ物も、メルロマルクじゃ絶対に食べないような食材が置かれてますしね」

 

 国が違えば特産物が違う程度には、売っているものがメルロマルクとは異なる。だが、完全に異世界というほどメルロマルクとは離れていない。

 メルロマルクで売っているような食品も売っているからだ。

 

 俺たちは買い物をしつつ、情報を集めていく。

 やはり、四聖勇者を独占しているメルロマルクには明確に不満が溜まっているようである。

 だが、他にも七星勇者についても不満が溜まっているようである。

 波のせいで故郷の村を無くした人もいれば、国を追われた人もいるからだ。

 国外に出て改めて、裏側を知ることができた感じだ。

 俺たちは喫茶店で席を取り、集めた情報を確認する。

 

「七星勇者は杖の勇者であるオル……クズ王様がメルロマルクで君臨しているはずなので、それ以外の勇者について不満があるみたいね」

「そうだな。特に行方不明の爪、槌、斧の勇者に関しては、なぜ派遣されないのかと言う意見が多いな」

「今回の波に投擲具の勇者様……ソースケが対応するから安心だとも聞きましたね」

 

 勇者に関してはおおよそ、俺が道中で耳に挟んだ情報に相違はなかった。

 

「レイファ、ウォーランについてはどう思った?」

 

 俺が聞くと、レイファは少し考えた後に答える。

 

「ちょっと堅苦しい感じがするかなぁって。なんて言ったら良いんだろう……? 枠に嵌められてるみたいな印象を受けたかな?」

 

 レイファの言葉に、リノアも同意する。

 本当に古代中国と言う印象の強い国だなと改めて感じる。

 

「ただ、メルロマルクにはない感じですごく楽しかったよ。本当に外国に来たんだなって感じでワクワクしてる」

「そうか、それは良かった」

 

 俺はレイファの頭を撫でる。

 

「リノアはどう感じた?」

「私? そうね、なんて言ったら良いかわからないけど、()()()()()わね」

「ん、やはりか」

 

 常に目線が俺たちに向いていたように感じたのはやはり気のせいではなかったようだ。

 どうやら、俺たちの動向は見張られていると思って間違いないようだった。

 こりゃ、何かに巻き込まれる前に波を諫めたらすぐさまこの国を去ったほうがいいだろう。

 俺はそう判断したのだった。



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タクト

 時間になり、俺たちと兵士たちは波の現場へと飛ばされることになった。

 

0:00

 

 この時間の表記が出た瞬間に俺たちは波の発生場所に飛ばされる。

 同時に、空がワインレッドに染まり、世界にヒビが入る。

 どこの世界と接続したのだろうか? 

 まあ、そんな事はどうでも良かった。

 

「……このタイミングでか」

 

 俺は呆れつつも、武器を構える。

 そう、目の前には少し長めの癖なしの金髪にバンダナを巻き、黒い革ジャケット・ジーパン、レザーブーツといった、米国ドラマによくいそうなアウトローバイカーめいた服装をした偽物勇者である、タクト=アルサホルン=フォブレイがそこにはいたからだ。

 もちろん、獣っ子っぽいタクトの取り巻きもいることが確認できる。

 

「お前が俺様の武器を持つ偽勇者だってな?」

 

 転移と同時に俺とタクトは睨み合っている。

 

「あ、あんた、いったい誰よ!」

 

 リノアがそういうと、タクトはイケメンぶった感じの仕草をしながらこう答えた。

 

「俺様か? 俺様はタクト=アルサホルン=フォブレイ。フォーブレイの天才王子様で、真の勇者様だ。よろしくな、お嬢さん達」

 

 ウインクをするタクト。

 いや、本物を見るのは初めてだけど、なんかウザいな。

 

「鞭の勇者様?! いったいどういう事なのよ?!」

 

 リノアが困惑する。

 この時期はゼルトブルの闘技場で戦っているイメージだったが、なんでこんなところにいるんだろうか? 

 

「わからんが、あいつも勇者武器争奪戦の参加者じゃないのか?」

 

 俺はとぼけつつも、全員を守るように前に出る。

 

「どういう事だ……?」

 

 ライシェルさんの言葉に、俺は周囲を見回す。

 分隊はすでに解散しており、兵士たちは俺たちを取り囲んでいる。

 これは……! 

 

「ハメられたか……!」

 

 一緒に転移してくる状況と言い、そうとしか考えられない状況だった。

 

「投擲具の偽勇者め! 帝を騙すとは言語道断だ! 今すぐ死をもって償うといい!」

 

 兵士の先頭に立つ男がわざとらしくそう宣言する。

 近くに村があるだろうに、それを守らずに俺たちに矛先を向けているのは、そういう事なのだろう。

 

「ど、どうするのよ!」

「逃げるしかないだろ。なんとかしてね」

「ソースケ様……!」

「ライシェルさん、レイファを頼む。ラヴァイトに乗って脱出してくれ。俺は鞭の勇者どもをなんとかする。リノア、アーシャはライシェルさんと一緒にこの場を脱出してくれ」

 

 俺は最低限の指示を出す。

 

「君一人で鞭の勇者の軍勢をか?」

「あれは、俺でも苦しいかもしれない連中だ。敵対する以上ライシェルさんもレイファも命はないだろう。洗脳されるかもだがな。だったら逃げる以外ないだろう?」

「……わかった」

 

 ライシェルさんはそう言うと同意する。

 

「でも、ソースケ、私も手伝った方が……」

「いや、撤退だ。俺も機を見て撤退するからな」

「……わかったわ」

 

 リノアは反論しようとするも、俺の焦りの表情から不満はあるが飲み込んでくれる。

 

「作戦タイムは終わったか? なら、始めようか!」

 

 タクトはそう言うと、武器を禍々しい爪に切り替える。

 ……来る! 

 

「ヴァーンズィンクロー!」

 

 俺はリノアを突き飛ばし、タクトの攻撃を回避する。

 黒い呪いの爪が俺とリノアの間を通り抜ける。

 

「行け!」

 

 俺は指示を出すと、タクトのところに駆け出す。

 これは俺の宿命だ。

 

「へぇ……やるじゃねぇか。おい、エリー!」

「わかりました。鉄砲隊!」

 

 銃を持ったメイド部隊が銃を構える。

 この世界ではレベルとステータスによって銃の威力がダイレクトに影響してくるわけだが……。

 ──ドンッ! 

 音がすると同時に、現実世界での鉛玉のスピードと変わらないスピードで発射される弾。俺はスキルを使って時間をとめて、それを全て避けて移動する。

 

「なっ?!」

 

 銃を持ったメイド部隊が困惑する。

 まあ、そりゃ時が止まった側からしてみればおどろくことだろう。

 俺は投擲具をチャクラムに変化させ、スキルを発動させる。

 

「エアストスロー、セカンドスロー、タイフーンスロー!」

 

 俺は死なない程度にメイド部隊を風で吹き飛ばす。

 その際切り刻まれるが、手加減を加えた攻撃だ。死ぬ事はないだろう。

 

「エリー! みんな! クソ! 卑怯だぞ!」

「?」

 

 卑怯も何も、攻撃してきたから仕返しただけだが……。

 ああ、そう言うやつだったな。

 なら、この言葉を送ろう。

 

「出てこなければ、やられなかったのに!」

 

 そう言いつつ俺はチャクラムを投げて、メイド部隊の銃を切り落としていく。

 銃にチャクラムが命中すると、使えないように真っ二つに切り裂かれていく。

 

「タクト、あやつには遠距離攻撃が通用しないようだ」

「レールディア?」

「それに、奴は竜帝のかけらを取り込んでいる。故に我が相手をしよう」

「わかったぜ。俺らはサポートしよう」

 

 俺はそう言って出てきたレールディア……竜帝に足を止める。

 

 レールディア……現在竜帝に最も近い竜だな。

 お前の体内の我を狙っているようだぞ! 

 

「知ってる。手加減しないといけないが、手加減なんてできる相手じゃないこともね!」

 

 レールディアは手を竜の形に変化させると、襲いかかってくる。

 

「勇者武器ならず、竜帝のかけらまでも……! 全て没収してやる!」

 

 ギャンっと音を立てて、ナイフに変化させた投擲具と竜の爪がぶつかる。

 物語上殺せない相手なので、死なない程度に痛めつけるしかないのが辛いところだ。

 

「やってみろよ……な!」

 

 俺とタクト軍の戦いは始まったばかりだった。




タクト登場です。
ラスボスと言ったな、あれは嘘だ。
うわああああああああああああああああああああああああ!


ラヴァイト忘れてたので追記w


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奪われた武器

 はっきり言って、レールディアとの戦闘は俺にとって死闘と言って過言ではなかった。

 

「はあああああああああ!」

 

 人間形態とは言え、レールディアの爪の連撃は人間が目で追える速さを超えていた。

 一撃一撃が必殺だと言うのが、受けている投擲具から伝わってくる。

 直撃を受けていないにもかかわらず、まるでスリップダメージでも受けているようにHPが徐々に削られていた。

 竜の鱗は硬く、弱いナイフでは傷一つつけることができない。

 

「くっ……!」

 

 そのレールディアの爪を全て捌き切れていたのは、俺の実力だけではなかった。

 確実に勇者武器の補正がなければ俺は切り刻まれていただろう、そう連想できるほどに凄まじい攻撃だった。

 目は追いついても、体が追いつかなければ意味がない。

 これがステータスの恩恵と言うものだろうか。

 

「ツヴァイト・ウインドブラスト!」

 

 そんなレールディアとの戦闘中、横槍が当たり前のように入る。

 

「ふっ!!」

 

 俺は魔法の方向に的確に投擲具を投げる。

 左手を開けて、右手だけでレールディアの攻撃を全て捌いている理由がこれだ。

 

「苦戦しているようね、レールディア!」

「ネリシェンか、邪魔をするな! 我の獲物だ」

「タクトをお待たせするのも悪いでしょう? 私も加勢してやるわ」

「……ふん、好きにせよ」

 

 ネリシェンはレールディアの許可を得ると、グローブを装備して殴りかかってくる。

 はっきり言って、ネリシェンの攻撃の方が受け流すのは容易かった。

 

「せりゃあああああ!」

 

 レールディアのドラゴンの爪攻撃を目で追いつつ、右手の投擲具のナイフでいなしながら、ネリシェンの拳を左手で受け流す。

 流石に受け流すのは勇者武器的にNGではないらしい。

 

「はぁ!」

 

 受け流した拳を俺の中心に持っていき、大勢が崩れたネリシェンの腹部に膝を入れる。

 

「ぐはっ!」

 

 ネリシェンはそのまま崩れ落ちる。

 関節技はNGなのに、格闘術はオッケーなのか? 

 基準がわからない。

 

「邪魔だ、ネリシェン。役立たずが!」

 

 蹲ったネリシェンをレールディアが横に蹴り飛ばし、レールディアは再び爪を構える。

 

「俺様も手伝ってやるぜ」

 

 タクトはそう言いながら、俺とレールディアの間に入ってくる。

 

「チッ!」

 

 タクトの攻撃は、はっきり言って簡単に読める。

 直線的すぎるのだ。

 一撃をもらえばヤバいだろうが、フェイントすら入っていない爪の攻撃なんて見てさえいれば避けるのは容易かった。

 だが、レールディアとの連携攻撃となると話が違ってくる。

 

「うぐっ……!」

 

 なんとか、タクトの攻撃は回避できるが、レールディアと連携することでタクトの攻撃がちゃんと生かされているのが辛い。

 何度かレールディアの爪が俺の身体を掠めて切り裂いたのだ。

 こんな戦いの最中に投擲具を失うのはキツいので、タクトの攻撃は避けるしかなかった。

 

「エアスト・スラッシュ!」

 

 だが、ついに俺はレールディアとタクトのラッシュに耐えきれずに投擲具でタクトの攻撃を受けてしまった。

 

「チッ!」

 

 投擲具が震える。

 自分の中から勇者としての力が消滅していくことがはっきりと認識できた。

 投擲具は抵抗しているみたいだが、結局は俺の手元を離れて俺の中から光の球が飛び出してしまった。

 

「くそっ! やっぱりか!」

 

 俺は後ろに後退して、元々の武器である剣を腰から抜く。

 

「それじゃあ、返してもらうぜ」

 

 タクトがそう言うと、投擲具の光を掴み取り入手してしまう。

 

「……あれ? 弱いな? まあ良いや」

 

 タクトは投擲具に武器を変化させると、例のアクセサリーを投擲具に装着する。

 

「レールディア、俺様がとどめを刺す。良いよな?」

「タクトがそうしたいならば仕方あるまい」

 

 タクトはニヤニヤしながら、俺に投擲具のナイフを向ける。

 

「お前の得意技で、お前を殺してやるよ」

「エアストスロー、セカンドスロー、サウザンドスロー!」

 

 俺とは違う形で、様々な投擲具がタクトの背後に浮かぶ。

 王の財宝じゃあるまいし、なんだこの技は! 

 

「死ね! サウザンドシュート!」

 

 王の財宝のように投擲具が射出される。

 全てが俺を狙って飛んできているので、俺は走って回避を試みる。

 実際、こうして久しぶりに生身になってみると体が重たく感じるな! 

 

 お主、何を呑気に構えておるか! 

 ギリギリではないか! 

 

 どうやら、オモシロドラゴンは俺の中に残留しているらしい。

 回避しているその間に俺は『三千大千天魔王』……長いので魔王を取り出す。

 手に握って魔力を込めると、槍の形状にモーフィングして変化した。

 しかし、タクトやレールディアから距離をとったせいか銃撃や魔法までもが俺に飛んできており、回避に結構意識がとられていた。

 

 ……殺すか? 

 

 タクトハーレムのモブ女の一部なら殺しても差し障りないだろう。

 正直、うざい。

 そう考えると、俺の口元が歪に歪む。

 自分でもわかるほど、にやけている。

 

 決めた。殺すか。

 

 俺は決めると、タクト主要メンバーではないモブの女のところまで近づく。

 その女の表情は恐怖に歪んでいた。

 手元にある銃を乱射にながら俺の接近を拒むが、そもそも現状ほとんどの攻撃をギリギリとは言え避けることができる俺にとって、接近するのは容易かった。

 

「く、くるなああああああ」

「死ね」

 

 俺はその女の首を跳ね飛ばした。

 レベル差が凄まじいはずで、そのレベル差を埋めるチートがないにも関わらず、首はあっさりと切り飛んだ。

 魔王の槍で切り落としたからだろうか? 

 

「リリシスぅぅぅぅ!!! てめぇえええええええええ!!!」

 

 タクトが何か叫んでいるが、久しぶりの感覚に背筋がゾクゾクしていた。

 汚らわしい波の尖兵の首を刎ねるのとは違うこの感覚……! 

 

「ふふふ、ククククククク……ははははははは!」

 

 俺は悪役のように笑いながら、モブ女の死体を踏みつけてタクトに剣先を向ける。

 

「お前のハーレム、一部殺すわ」

 

 そうそう、これこれ、これだよ。

 勇者となって、大義名分がないとできなかったが、俺の破綻した精神は敵対者の殺しを求めていたのだった。




みんなお待たせ!
《首刈り》ソースケの復活だよ!

なんだかんだでみんな望んでたんやなって感想見て思いました笑


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鮮血の結末

 俺は、死体から銃を拾う。

 

「てめええええ!」

 

 ドパン! 

 俺は銃をタクトに向けて撃つ。

 俺の銃の速度ははっきり言えばそこまで速いわけではなかった。

 今俺の足元で死んでいる女の方がはっきり言って速いだろう。

 だが、それでも普通じゃ避けられない速度だった。

 

「ぎゃん!」

 

 玉は命中し、タクトはダメージを負う。

 クロスボウで鍛えた命中精度から言えば、右肩を狙ったはずだが狙い通りに当たったらしい。

 

「なるほどね」

 

 俺は銃を捨てると、近場の女どもを殺害するために動き出す。

 全員美女だが、そんなのに興味はなかった。

 

「やめろおおおおおおお!!」

「くっ! 引きなさい! 集団でいると狙えないわ!」

「助けっ──」

「や──」

 

 容赦なく、俺は首を刎ねる。

 攻撃してくる殺してはいけなさそうな女はそこらへんに落ちている銃を拾って撃って牽制する。

 マスケット銃なのでいちいち装填し直すのは面倒なので、使い捨てる。

 グリフィンの女が見当たらないが、どこにいったのだろうか? 

 とにかく、シャテやエリーは殺さないように銃をぶっ放して牽制しつつ、他のメイド服の女を虐殺していく。

 

「ゆ、ゆるし──」

「もうしな──」

 

 俺が嬉々として殺して行く様に、女達は恐怖で逃げ出すが、そんなのは関係なかった。

 俺が殺したくて殺しているのだ。

 逃げるなど、許されるわけがない。

 

「ヴァーンズィンクロー !!」

 

 俺はとっさにその爪の光線を避ける。

 避けたせいで女が死ぬが、俺は知らない。

 

「貴様あああああああああ!!」

「黙れ」

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 ドパン! 

 再びタクトに銃を撃ち込む。

 すでに俺の足元で転がる死体は13体になっていた。

 おかげで、レベルがもりもり上がる。

 気づけば153まで上がっており、勇者の力が抜けた分の補完が出来つつあった。

 だが、殺したりない。もっと殺させろ! 

 

「タクト、ここは一時撤退するぞ!」

「な、ネリシェン?!」

「あいつは異常よ! それに、女達を倒して経験値を稼いで、ステータスを強化しているようにも見えるわ……。ここは一度撤退した方がいいわ。目的の武器は手に入ったんでしょう?」

 

 ネリシェンの説得に、レールディアが「臆病風に吹かれたか」と言ったが、指揮官としてネリシェンの対応は正しいだろう。

 その間にも俺は槍で女を一人真っ二つに叩き切っていた。

 

「た、タクト様あああああああ!」

「助けてください!! あんな化け物、私たちには……!」

「ひいいいいい!! 来たああああああああああ!!」

 

 タクトの女どもが絶叫する。

 心地い! なんと心休まる音だろうか?! 

 やはり、世界のゴミ掃除は楽しいなぁ♪ 

 

「それに、あいつは私やレールディアが攻撃に参加できないようにうまく他の女を盾に動いているのよ。こんな乱戦では損害が増えるだけだわ!」

「ぐ……わかった! 宗介と言ったな! 覚えていろ!」

 

 タクトが何か言っているが知らない。

 逃げ出すならば好きにすればよかった。

 女性達が撤退すると同時に、ウォーランの兵士たちが立ち塞がる。

 

「に、偽勇者め! わ、我々の手で……!」

 

 声が震えている。

 いや、全身震えている。

 

「おいおい、声が震えてるじゃねぇか? なあ?」

「ひぃっ! か、構え!」

 

 ああ、今度はこいつらが殺して欲しいんだな。

 俺をハメた奴らだ。後腐れもなく全滅プレイで良いだろう。ああ、一番偉そうな奴だけは、情報を引き出すために、腕だけ捥いでおくか。

 

 そうして、霊亀の前にウォーランの兵士の多くが俺の手にかかり殺されたのだった。

 俺を止めれる奴は存在せず、無慈悲に、平等に、殺していった。気づけば波の魔物も殺していたと思う。

 波はいつのまにか収まっており、主に俺の手で甚大な被害が出たことは言うまでもなかった。

 たぶん、波はタクトが収めたのだろうな。

 俺はそんなことを考えながら、死体の山の上で腰を下ろして周囲を眺めていた。

 

「ゆ、許してください……ギャッ!」

 

 いつの間にか聴き慣れていたウォーラン鈍りの人間語で話す指揮官は、涙ながらに懇願していた。

 聴きたい情報は聞けたのだ。慈悲深く首を刎ねてやった。

 流石に皆殺しはできなかったが、まあ良いだろう。

 

「そろそろ、レイファ達とも合流しなきゃな。ラヴァイトの場所はわかるから、そこまで行けば良いかな?」

 

 俺は、疲労回復ポーションを飲んで立ち上がると、ラヴァイトのところに向かってゆっくりと歩き出したのだった。




まあ、勇者の枷から解き放っては行けない人物を解き放ったらこうなるよねって言うお話。

まだ、体が勇者状態のステータスを引きずっているので、弱体化しているので全員を殺すことはできませんが、そもそも宗介は対人特化した殺しの技量が高いので、異様に殺害してます。

グリフィンのアシェルと化けギツネのトゥリナが居ないのは、レイファ達を追いかけたからですね。
次回はそこを描写しようと思います。


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絶望の戦い

 レイファはラヴァイトに乗って、逃亡を図っていた。

 ソースケは鞭の勇者との戦闘中で、手が出せなかった。

 

「逃すなあああ!」

「囲めええええ!」

 

 ライシェルは盾を構えるとその大きな体とラージシールドで敵のウォーレン兵士の集団に突撃する。

 ライシェルほどの巨大な肉塊が突進力を持って、ラージシールドを持って突撃してくるのだ。

 構えが遅れた兵士はまるでダンプカーにでも弾かれるかのように吹き飛ばされる。

 

「ラヴァイト! 私の周囲に敵を近づけさせるな!」

「う、うん、わかった! オイラに任せておけ!」

 

 ライシェルの指令が本能的に正しいと認識したラヴァイトは、ライシェルを囲もうとする敵兵士達を蹴り飛ばす。

 ラヴァイトも、フィロリアルキングと言うだけあり、その攻撃力はフィーロにも劣らないほどあった。

 ラヴァイトに蹴り飛ばされた兵士はもはや再起不能だろう。紙屑のように吹き飛ばされて、そのまま動かなくなる。

 

「死にたくなければ退きなさい!」

 

 リノアはブーメランを投擲して周辺の兵士達を遠距離から斬り伏せていく。

 ブーメランを手にすると、そのブーメランを兵士に叩きつけ、気絶させていた。

 アーシャは相変わらず人混みに紛れて敵を暗殺していく。

 ライシェルの妨害になるような兵士を的確に殺していく。

 

 レイファはラヴァイトに捕まりながらも、魔法を唱えて兵士達を吹き飛ばしていた。

 

「ウインドストーム!」

 

 レイファの放つ魔法は龍脈法の魔法だった。

 風の突風が兵士達を巻き込んで吹き飛ばしていく。

 もちろん、兵士たちもただやられているわけではない。

 だがしかし、レベル80近くのライシェル達に対して彼らは30程度しかレベルが無かったのだ。

 多勢に無勢とは言っても、一点突破を狙う彼らを止めるのは力不足だった。

 

 結局はライシェルの突破力に負けてしまい、包囲網からの脱出を許してしまった。

 

「くっ……波の魔物か!」

 

 囲いを抜けると待っていたのは波の魔物だった。

 兵士達はライシェル達を追う余裕もなく個別に波の魔物と戦っていた。

 

「波の魔物を放置するなんてできやしないのにね!」

 

 リノアはそう言いつつ、離脱するためにも波の魔物を切り捨てていく。人間相手には手加減をしていたと言うことがよくわかるほど、リノアは波の魔物を的確に倒していった。

 

「まったくだわ。ソースケ様がたとえ偽の勇者だったとしても、その行いは勇者そのものだというのに……!」

 

 アーシャは普段のリノア達と一緒にいる時の口調で、文句を言いつつも魔物を倒していく。

 暗殺術ではなく、普通に魔物を倒していく。

 

「勇者を騙ると言うことは、それほど重い罪なんだ! そら、そろそろ抜けるぞ!」

 

 ライシェルさんはそう言うと、波の魔物の包囲網からも脱出することができた。

 いや、脱出したと思ったのは、単に周辺に波に魔物がいなかっただけであるせいだ。

 まるで、ライシェル達を待っていたかのように、幼い鳥系女性亜人と、妖艶な狐の亜人が佇んでいた。

 

「おんしら、逃すと思ったかえ?」

「フィロリアル……! 逃がさない!」

 

 ライシェル達は立ち止まる。

 明らかに、ライシェル達には手に負えない、魔人と言っても差し支えないような女性だった。

 

「くっ、強敵か……!」

「ええ、それも、かなりのね……!」

 

 アーシャは無言で武器を構える。

 

「アイツ、グリフォンだぜ!」

「グリフォン……。たしか、シルトフリーデン方面に生息している魔物だったな。人間形態になることもできるのか!」

 

 ライシェルさんは驚愕しつつも、シールドをしっかりと構えている。

 

「女は殺さない。フィロリアルと男だけ殺す……!」

「ふふ、おんしら、タクトのモノになるなら見逃してあげても良いわよ」

 

 殺気を向けるグリフォン少女に狐女。

 このまま戦えば、確実に負けるであるだろうことはリノア達もわかっていた。

 あの、レールディアと言う化け物と比べたらまだ可愛い方ではあるが、どちらにしてもライシェル達には化け物には変わりなかった。

 

「……お断りよ! なんであんなイケスカない奴のハーレムにならなきゃならないのかしら?」

 

 リノアはそう啖呵を切った。

 

「どちらにしても、ライシェルさんもラヴァイトも殺すと言うような人たちについて行く訳がないじゃないですか!」

 

 レイファもリノアの意見に同意する。

 

「そう……なら、そうなるように幻術をかけてあげるわ」

「フィロリアル……! 殺す……!」

 

 こうして、ライシェル達とタクトハーレムメンバーの二人との戦いが始まったのだった。




遅れました!
結局一周年記念どうしようかなぁ?
端折りすぎて読みにくい…。


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同士討ち

 ライシェル達はグリフィンのアシェルと、化け狐のトゥリナと戦闘を行なっていた。

 トゥリナはライシェルとアーシャが、アシェルはラヴァイトとレイファ、リノアが対応していた。

 

「ぐっ!」

「ふふふ、わらわの術が盾如きに防がれる筈がなかろう!」

「行きます!」

「ふふふ、それは幻覚じゃ」

 

 ライシェルとアーシャは苦戦していた。

 トゥリナの幻術は現実と幻の境界をぼやけさせ、アーシャはライシェルを攻撃しようとするし、ライシェルはすかさずそれを防ぐ。

 完全に同士討ち状態に陥っていた。

 どちらもダメージが無いのは、互いの技量が高いため偶然ではあるが噛み合わせよく互いの攻撃を回避できていただけにすぎない。

 アーシャはライシェルを、ライシェルはアーシャをトゥリナと思いこまされていた。

 

 一方、ラヴァイトはグリフィン形態になったアシェルと戦っていた。

 空中戦ができるわけでないラヴァイトはレイファを載せて走り回る。

 レイファは隙を見て、魔法を発動させてアシェルに攻撃するも、ヒラリと回避されてしまう。

 リノアもブーメランを投げて攻撃するが、アシェルは羽ばたいて風を起こしてブーメランの起動を変えてしまう。

 

「ああ、もう! どうやったら倒せるのよ!」

 

 リノアは悪態をつきつつも、ブーメランを投擲する。

 アシェルのターゲットは完全にラヴァイト及びそれに騎乗しているレイファに固定されており、リノアの事は歯牙にもかけていないが、攻撃だけはついでと言わんばかりに余裕で回避する。

 

「チクショウ! オイラの攻撃がかすりもしないなんて……!」

「フィロリアル如きの攻撃をくらってたまるか! 絶滅しろ! フィロリアル!」

 

 執拗に狙ってくるアシェルに、なんとか攻撃を受けないように回避し続けるラヴァイト。

 やはり、圧倒的なのはレベルの差だった。

 詰将棋のようにジリジリと追い詰められるラヴァイト達に、リノアは戦況を見極める。

 

「レイファ!」

「何ですか?」

 

 リノアはラヴァイトを魔法で支援しているレイファに声をかける。

 さすがにレイファが乗ったままの戦いはラヴァイトが難しかったので、どさくさに紛れて降ろしたのだ。

 

「龍脈法の魔法って、結構応用が効くのよね?」

「はい、できますけど……」

「私たちの目的は戦場からの離脱。だからあいつらを倒す必要はないはずよ」

 

 レイファは「確かに」と、リノアの話を聞く。

 

「あのグリフィン、風の魔法でどうにか出来ないかしら? アイツ、空を飛んでるから墜落させることができるんじゃ無いかなって」

「うーん、難しいと思いますけど……。グリフィンって空の王者ですし」

「だからこそよ! このままじゃあ地上から攻撃するしか無いラヴァイトが負けちゃうわ。何かできることやらないと!」

「……わかりました、やってみます」

 

 レイファはうなづくと、魔法を唱え始めた。

 

「我、レイファ=アーティモンドが天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ、膿みを吐き出させよう。風よ、荒れ狂い空を飛ぶ者から翼を奪え!」

「竜巻・風龍迅!」

 

 レイファの魔力をきっかけにして、空中に風が集いだす。そしてあっという間に空中におおきな空気の渦が発生した。

 

「なっ?! うわあああああぁぁぁぁぁあああぁあぁぁ!!!」

 

 アシェルは突如発生した風の渦に巻き込まれる。

 龍脈法を使った魔法は、レイファの思っていた以上に巨大な竜巻を発生させてしまい、レイファが一番驚きの表情をしていた。

 

「やるじゃ無い! それにしても凄まじい風ね!」

「う、うん。想定以上です……!」

 

 上空まで吹き飛ばされたアシェルは、その乱気流に乗ることができずに舞い上がる。

 

「チッ! アシェルの奴、下手をこいてしまうとは情けないのう!」

 

 トゥリナはそう舌打ちをすると、敵意をレイファ達にも向ける。

 

「ふむ、面倒な魔法使いから無力化するのが一番か」

 

 トゥリナはそう言うと、指を鳴らす。

 すると、今まで同士討ちしていたライシェルとアーシャがレイファ達の方を向いた。

 そして、レイファ達に襲いかかる。

 

「この! 狐め!」

「分身をするとは面妖な!」

 

 二人とも完全に幻術にかかってしまっているようだった。

 

「ちょっと! チッ!」

 

 リノアはレイファに襲いかかる二人相手に前に出る。

 ラヴァイトもレイファを守るためにマッチョになってライシェルを食い止める。

 

「やー!」

「目を覚ましなさいよ!」

「邪魔をするな! グリフィンの女!」

 

 ライシェルとラヴァイト、アーシャとリノアとの戦いが始まってしまう。

 レイファは戦闘自体は魔法以外できないので、戦闘職の二人に近づかれたらアウトだった。

 レイファは少し考えると、覚悟を決めてリノアにこう言った。

 

「リノア! 二人を抑えててください! 私、魔法でなんとかしてみます!」

「レイファ?! ……わかったわ! なんとか抑えてみるわ!」

 

 リノアはレイファの提案にうなづくと、ブーメランを構える。

 

「どうするの?」

「幻術は光と闇の属性の魔法です! 視覚、聴覚が狂わされているから、そこをなんとかします!」

「詳しいわね! わかったわ!」

「解除するには接触した方がいいので、お願いします!」

 

 リノアはうなづくと、アーシャを無力化するために動き出した。




遅くなりました。
新キャラは出さないことにしました。
と言うかこのタイミングで出してもなっと思ったので、先延ばしです。
決着したら霊亀編に入ると思います!

アニメ2期楽しみですね!


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エピローグ

 アーシャの戦闘スタイルは暗殺者だった。

 リノアは一緒に旅をする中でその戦い方を知らなければ、あっという間に殺されていただろうなと、実際に戦ってみて感じた。

 

「アーシャ! 目を覚ましなさいよ!」

 

 リノアは声をかけながら、アーシャの鋭い攻撃をブーメランで受け流す。

 ここまでの戦闘経験と、自分とアーシャのレベル差がそこまで無いからこそ、リノアはしのげていた。

 

(これはなかなか難しいわね……。けど、このままじゃ幻術使いがこっちに襲ってくるのを指を咥えてみてるしか無くなるわ!)

 

 リノアはそう考えていたが、幻術使いの女はその場から一歩も動かずに、ニヤニヤとこちらの様子を伺っているだけであった。

 自分で戦う気がないのは一目瞭然である。

 

(意地汚い女ね……! まあ良いわ。お陰で操られている二人をなんとかすれば良いだけで済んでいるんだもの)

 

 リノアはそう切り替える。

 今はアーシャを制圧するのが先決なのだ。

 しかし、アーシャは錯乱状態とは言えめっぽう強かった。

 アーシャの武器である暗器には当然ながら掠めるだけでも死に至るレベルの毒が塗られているため、攻撃は全て回避するしか無い。

 ライシェルもよくもまあアーシャと殴り合って生きているものだと感心する。

 まあ、ライシェルは盾の……タワーシールドの扱いは、盾の勇者よりも長けていたので(勇者の補正は除いても)それで受けるべき攻撃と受けるべきで無い攻撃を感覚で判断していたのだろうけれど。

 リノアにはその判断はつかないので、攻撃全てをブーメランで受け流し、回避する必要があった。

 

(このままじゃジリ貧ね……!)

 

 リノアがそう考えていると、ラヴァイトが筋肉ムキムキな姿で声を出した。

 

「ゴシュジンサマ! 盾のおじさん抑えたよ!」

「わかったわ!」

 

 レイファはすぐにライシェルに駆け寄る。

 ライシェルは人形になったラヴァイトに制圧されていたのだった。

 

「行きます!」

 

 レイファはそう言って詠唱を行う。

 

「我、レイファ=アーティモンドが天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ、膿みを吐き出させよう。彼の者の精神を癒やし、その幻覚を打ち破る力を与えてよ!」

「破幻想!」

 

 レイファの接触した手から緑色の淡い光が伝い、ライシェルを癒す。

 幻覚によって狂った認識と精神を癒す魔法が、ライシェルに正気を取り戻させたのだった。

 

「はっ?! レイファくん?」

「良かったです! 正気に戻ったんですね!」

「お、俺は幻覚を見せられてたのか……!」

 

 レイファによって回復させられたライシェルは頭を左手で抑えて、自分の正気を確認する。

 

「はい、なので龍脈法の魔力操作の応用でライシェルさんの魔力の流れを強引に正常になるように戻しました。神経とか傷んでいるかもしれないので回復魔法も使ったんですが、具合はどうですか?」

「……ああ、悪くない。むしろこれまでよりもスッキリしているまである」

「そうですか、良かったです!」

 

 そんな事を呑気に話す二人に、リノアが助けを求める。

 

「ちょっと! 回復したなら手伝いなさいよ!」

「ん、ああ、すまない」

 

 ライシェルは立ち上がると、アーシャの制圧の手伝いにリノアの元へと駆け寄る。

 

「ふむ、面白ろないわねぇ」

 

 そんな、リノアたちの様子を見て、眉をひそめるトゥリナ。

 最終的には幻覚を見ていたアーシャも取り押さえられて、レイファによって回復させられてしまった。

 そんな折、ちょうど良く通信魔法によってタクト軍撤退の話が伝えられる。

 

「…… 役立たずのグズめが。タクトの手ぇ煩わせるとは愚か者め」

 

 トゥリナはそう吐き捨てると、タクトたちに合流すべく踵を返した。

 気に入らないレールディアの判断ではあるが、タクトがその意見を飲んだのならば従うべきだと判断したからだ。

 これ以上遊んでいても面白く無さそうなので、トゥリナは撤退することにした。

 

「あんたら運良かったわね。今回は見逃したるわ」

「なっ……!」

「ふふふ、ほならね」

 

 そう言って、トゥリナは姿を消した。

 塵と消すのもトゥリナには容易かったが、興が乗らなかったので見逃すことにしたのだった。

 

「た、助かった……?」

 

 残されたリノアたちは、その場にへたり込んだ。

 すでに周辺は魔物の気配もなく、空はいつもの空に戻っていた。

 

「レイファくん、リノアくん、急いでソースケくんと合流してこの国を脱出しよう。悪い予感がするからね」

 

 ライシェルの指摘に、レイファはうなづいた。

 

「そうですね。国境沿いに移動しながらソースケと合流しましょう」

「そうね。それが良いわね」

 

 レイファの判断に全員がうなづいた。

 ソースケたちはすでにこの国ではお尋ね者なのだ。

 だからこそ脱出する必要があった。

 だが、すでに、世界的な異変は始まっていた。

 勇者でない者たちはそれに気づくのが遅くなってしまうのだった。




次回から宗介視点での霊亀編ですね!


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無職迷走
プロローグ


新章開幕……!


 世界が犠牲を求める時が訪れた。

 俺は無事にレイファ達に追いつき、ウォーレンから逃げるために国境沿いに差し掛かった時だった。

 亀の甲羅を背負った奇妙な魔物に遭遇したのだった。

 

「ギュアアアアアアアア!」

 

 飛行型の魔物は熱戦をこちらに向かって照射してくる。

 当たると手痛いダメージを負うことはわかるので、俺とリノア、アーシャ、ラヴァイトは迎撃をしてライシェルさんとレイファはサポートをする。

 そこまで苦労することなくサクッと討伐できたが、タネを植え付けられないように死骸は焼いておく。

 

「これで何度めだ? こんな魔物は見たことがないぞ」

 

 ライシェルさんは呆れたようにそう言った。

 

「ソースケくんが勇者の力を失ってから3日しか経っていないにもかかわらず、だ」

「ああ、霊亀が復活の兆しを見せているんだな」

「霊亀……伝説に語られる厄災の魔物か」

「ああ、そう言うこと。だからウォーレンから早く逃げ出さなきゃならないんだがな」

 

 俺は肩をすくめる。

 東の国が霊亀によって真っ先に滅ぼされるのだ。

 この使い魔達は予兆に過ぎない。

 

「ソースケは倒さないの?」

 

 レイファにそう聞かれるが、アレは俺が単独で戦って倒せるようなものでもない。

 しっかりと訓練された人員で……そう、例えば軍でも率いて戦うべきものだ。

 勇者ですら無いこの身では、戦死の可能性が高い。

 

「いや、アレは勇者の力を奪われた俺では難しいと思う。少なくとも純粋に火力が足りないかな」

「確かに。霊亀と言えば伝承でも勇者が鎮めたとされているはずだ。早く女王陛下に報告して、盾の勇者様に対応してもらうのが先決だろう」

 

 ライシェルさんはそう同意する。

 確かに俺のレベルは164まで上がってはいるが、投擲具の勇者武器を手にしていた時のステータスと比較しても圧倒的に弱くなっているのは事実だった。

 俺がわざわざレールディアを相手にしないように女どもを盾に戦ってたのは、勇者武器があったのならば五分五分といったところだったが、今の俺では9割の確率で俺が殺されるからだ。

 ともあれ、どっちにしてもこの国を出るのが先決だろう。

 この魔物の群れは予震みたいなものだ。本格的に暴れ出すのは3勇者を取り込んだ後からだろうけれどね。俺たちはこんなところで死ぬわけにはいかなかった。

 

 

 

「ふぅ、今日はここで一泊するか」

 

 あれから数日が経った。

 俺がそういうと、全員でキャンプの準備をする。

 すでに俺は勇者ではないので、ステータスからいろいろな情報が消えているし、スキルなんかも閲覧ができなくなっていた。

 というわけで、俺のできることも勇者になる前まで戻ってしまったわけである。

 まあ、特に料理スキルを鍛えていたわけでもないのでそうそう変わるわけでもないが。

 得意料理が酒のツマミばかりなのも、変わりがない。今はお酒、飲めないんだけれどね。

 ただ、実際全員がずっと続く野宿につかれているのは事実だった。

 俺の思考も疲れているのか幾分ずれたことを考えているのが現状だ。

 

「あ~……お風呂に入りたいわ」

「ここ数日はお風呂も借りれませんでしたしね」

「仕方がないだろう。我々は追われている身だ。一刻も早くメルロマルクに戻る必要があるからね」

 

 そう、俺たちはライシェルさんの提案でメルロマルクに戻る道中だった。

 実際、霊亀から逃げるならば西の国ゼルトブルに逃げるのが一番だろうしね。

 

「それに、鞭の勇者……いや、簒奪の勇者タクトについても陛下に報告せねばならないしね。ソースケくんの投擲具の聖武器が奪われたことは知らせねばならないからな」

「……う、ん。まあ、そうだよな」

 

 歯切れが悪いのは、あれが俺が女神の能力で別の奴から簒奪したものだったからだ。

 俺しかそれを知らないし、話しても信じないだろうしな。

 

 まあ、我は知っているがな! 

 

 オモシロドラゴンはそんなことを言いながら笑う。

 すでに何度もやり取りをしているので、すっかり慣れてしまった。

 

「とにかく、レイファ君とリノア君は寝てて構わない。夜の見張りは私とソースケくん、アーシャ君ですることにするからね」

「あ、はい、ありがとうございます」

「私は別に見張りをしててもかまわないんだけれどね」

「アーシャ君はそもそもソースケ君を守るために寝ないだろうから除外しているが、女の子がこんなことで遠慮してはいけないよ」

 

 ライシェルさんは相変わらず紳士だった。

 ともあれ、俺もライシェルさんも連日の夜の見張りで疲れているのは事実だ。

 ラヴァイトはすでに寝ているけれどね! 

 ご飯を食べたらすぐに寝てしまったのだった。

 

「はーい」

「まあ、交代したかったら言ってよね。ソースケもライシェルさんも疲れているみたいだしね」

 

 そう言って二人は馬車で眠ってしまう。

 そんな感じの日々をずっと、ウォーランで繰り返していたのだった。

 

 そして、何度目かの国境への偵察。

 何やら騒ぎが起きているようであった。

 

「ソースケ! 国境の検問付近で何か起きているみたい」

 

 そう、リノアに言われたので、望遠鏡を貸してもらってみてみると、どうやら騒ぎの中心にいるのは元康のパーティだということが確認できた。

 

「元康……!」

「槍、ね。どうしてメルロマルクじゃなくってここにいるのかしら?」

 

 リノアが疑問に思うが、俺たちからすればチャンスに違いなかった。

 混乱に乗じて国境を抜けるのだ。

 

「アーシャ、いるか?」

「はい、ソースケ様」

 

 まるで陰にでも隠れていたんじゃないかというほど素早くアーシャが姿を現した。

 

「あの元康達の騒ぎに乗じて俺たちはこの国を脱出する。元康が検問で騒いでいるのを代わりに見張っておいてくれ。何かあったら報告をしてくれ」

「わかりました。ソースケ様は?」

「ライシェルさんたちに知らせる。すぐに戻ってくるから、そしたら合流するぞ」

「わかりました」

 

 こうして、俺たちは元康たちを利用してこの国を脱出することにしたのだ。

 モタモタしていたら、霊亀復活までウォーレンに居座る羽目になってしまうからな! 

 勇者じゃない俺たちは格好の生贄になってしまう。

 霊亀のような怪物と戦うすべを俺は持たないのだ。

 なので、復活させに向かう元康の起こす騒ぎを利用することにしたのだった。



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元康参上!(惨状)

 俺たちの作戦はこうだ。

 元康達が騒いでいる中を、俺だけ隠れて検問をやり過ごす。

 ライシェルさんならばそもそもメルロマルクの騎士という立場もあるし、正直俺やアーシャについてこなければ普通に国境を抜けられるだろうからだ。

 

「正直、うまくいくなんて思っちゃいないけどね」

 

 俺の提案だけれども、ぶっちゃけ成功率はかなり低いと思っていた。

 大抵の物語に置いて、こういう場面で失敗しないはずがないからだった。

 

「だが、その方法しか無いだろうな。何せ槍の勇者様の来訪と言う、一大イベントだ。悪いが指名手配犯が逃げ出すにはいいタイミングだと思う。やるだけやってみて損はないと思うぞ?」

 

 ライシェルさんはそう言って、同意してくれる。

 まあ、あそこで元康が捕まっているのも、俺たちに対する警戒に元康が引っかかったからだと思われる。

 それに、やってみないことにはわからないだろう。

 

「ラヴァイト。普通のフィロリアルモードに変身できるか?」

「うん、できるよー」

「なら、フィロリアルモードで馬車を引いてもらっていいか?」

「うん、わかったー」

 

 フィロリアルの馬車に偽装した俺たちは、早速国境に向かう。

 俺とアーシャは隠れ、ライシェルさんとレイファとリノアが表に出ていた。

 

「すまないが、通してもらっても構わないかな?」

 

 ライシェルさんが流暢なウォーレン語で見張りの兵士に尋ねる。

 ほとんどの兵士は、元康の説得に当たっているようで、こっちの関所は人数が少なかった。

 

「こんな時によく通ろうと思いますね?」

「こんな時とは?」

「国内で偽勇者が現れたんですよ。それに、今は槍の勇者様がいらしてらっしゃる。それで色々とごたついててですね」

「なるほど。ならば、メルロマルク女王陛下にお伝えせねばなりますまい」

「……ふむ。確かにあんたはメルロマルクの騎士のようだ。こんなウォーレンまで任務で来ていたのか」

「ええ、偽勇者に逃げられたので、追跡をと思いましたが、メルロマルク国民が人質として連れられていたので、そちらの救助を優先したのです」

 

 このライシェルさん、なかなかに口が回る。

 様子は見えないが、うまく抜けられそうだ。

 

「なるほど。じゃあ、とりあえずは荷物を改めさせて貰いますかね」

「ええ、構いませんよ」

 

 兵士たちが馬車の荷台の確認に入った音が聞こえる。

 俺とアーシャは息を潜め、気配を殺した。

 ガタガタと物を移動する音が聞こえ、しばらくすると何もないことを確認した兵士たちが降りていく足音が聞こえた。

 

「よし、怪しいものは特になかった。通ってよし」

「ありがとうございます」

 

 こうして、ライシェルさんが馬車を動かし出すのと同時に、嫌な声が聞こえてきた。

 

「あれ? レイファちゃんじゃん!」

 

 元康の声だった。

 

「げっ! 槍の勇者!」

「な、なんでこっちに……?」

 

 外で一体何が起きているのか、様子をうかがうことができないが、どうやら余計な奴が余計な事に気がついたようだった。

 

「あれ? 宗介は居ないのか?」

「ソースケくんはどこかに逃げてしまってな……」

「逃げた? そこにいるのにか?」

「!」

 

 そして、余計な事に気がついた奴は、俺たちがいる場所を指さしたらしい。

 俺たちは慌てて馬車の床から飛び出ると、すぐさまライシェルさんに指示をする。

 

「急いで出してくれ!」

「了解!」

「いっくよー!」

 

 ラヴァイトはボフンとフィロリアルキングの姿に戻り、駆け始める。

 

「なっ!」

「槍の勇者様! 奴は偽勇者でございます! あの一行を逃してはなりません!」

「急ぎの用事があるが、乗り掛けの船だな、仕方がない!」

「エイミングランサー!」

 

 元康がホームングスキルを放つ。

 絶対必中の槍が、ロックオンをした俺を狙う! 

 

「コォォォォォォォォォォォォ……」

 

 俺は、合気道をするための呼吸を整える。

 そして、飛んでくる槍を手を沿わせる。

 

「!」

 

 違う! この槍は俺を狙っては居ない! 

 触った瞬間に、俺はこのエイミングランサーの標的に気がついた。

 

「ちぃっ!」

 

 俺は軌道を変える。

 だが、しかし、本当の狙いであるライシェルさんに命中するのは逃れたが、それた先にラヴァイトの左足があった! 

 

「痛ああぁい!!」

 

 流石に、ラヴァイトはフィーロほど強くはない。

 盾の勇者の成長補正も無いラヴァイトは、明らかにフィーロよりも弱いのだ! 

 ラヴァイトが盛大に転けると同時に、俺たちの載っている馬車も転倒する。

 

「「きゃああああああ!!」」

「のわぁ!!」

 

 俺は咄嗟に馬車を脱出する。

 リノアとレイファを抱えてだ。

 ライシェルさんは落馬するが、その鎧のおかげか無事なようだった。

 そして、アーシャも普通に脱出していた。

 ズサァ! 

 足元に土煙が上がる。

 

「ラヴァイト!」

 

 レイファはラヴァイトの元に急いで駆け寄る。

 

「少し狙いは逸れたが、ナイスゥ!」

「流石元康様ですわ!」

 

 誇らしげに槍を掲げる元康に、クソビッチどもが追いつく。

 その見た目は、長距離移動のためか若干疲れたように見えた。




とりあえず、結末までお付き合いください!

水曜日更新分なんで、書き上がった今投稿しますね!


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vs槍の勇者

「元康ぅ……!」

 

 俺は元康を睨みつける。

 

「こう言うシチュエーションは2度目だが……。宗介、お前何やったんだ?」

 

 案の定元康は状況が分かっていなかったらしい。

 うーん、この。

 なので、クソビッチ王女が元康に説明をする。

 

「元康様、彼は偽勇者だそうですわ! 勇者を騙るのはこの世界では許されざる罪です!」

「偽勇者ぁ? 確か、宗介は投擲具の勇者じゃあ……?」

「彼は鞭の勇者様が正統なる勇者でないことを詳らかにした偽勇者でございます! 勇者を侮辱する愚か者は、倒さなければなりません!」

 

 余計な事をほざくウォーレン兵士。

 

「くっ……槍の勇者殿に説明をしようにも、彼の頭では理解が難しいだろうな……!」

 

 ライシェルさんは元康を阿呆扱いをする。

 本来はあそこまで阿呆じゃあ無いんだけどなぁ……。

 まあ、俺もやり直しの吹っ切れた元康を基準としてついついみてしまうが……。

 

「とにかく、捕まったら面倒だ! なんとか切り抜けるぞ!」

 

 俺は普通の槍を構えながらみんなに指示を出す。

 

「ライシェルさんはラヴァイトとレイファを守ってくれ! リノアは逃走経路の確保! アーシャは俺と共に元康どもを抑える!」

「任せてくれ!」

「わかったわ!」

「了解しましたわ」

 

 流石に、元康はタクトほど容易くならないだろう。

 

「来るか! 向かってくるだけ尚文とは違うな!」

「元康様! 援護しますわ!」

「させないわ」

 

 ほぼ同時に、俺と元康の槍が撃ち合い、クソビッチを守るために商人ビッチのエレナが前に出て、アーシャのナイフと撃ち合う。

 

「なんで私が前に出なきゃならないのよ!」

 

 エレナはそう悪態をつきつつも、アーシャとの近接戦闘を始める。

 俺の方も、元康に集中する必要がありそうだった。

 撃つもよし、切るも良し、突くも良しの万能武器の槍だ。

 狂う前の元康ならば、純粋な技量による近接戦闘ならばなんとか対処できるはずだ。

 元康にとっては槍は武器だが、俺にとっては手の延長だ。

 勝利条件はリノアの逃走経路の確保とラヴァイトの立て直しまでの時間を稼ぐ事。

 ならば十分対処できるだろう。

 元康の攻撃は、正直言って鋭い。下手な素人よりは上手いだろう。

 だがしかし、人を殺す訓練を受けた兵士よりは劣るし、そもそも槍に殺気は篭っていなかった。

 

「うげ、気持ち悪い槍捌きだな……!」

 

 俺は槍を元康の槍に合わせて全て受け流していた。

 

「しかし、槍を普通に使っているってことは、本当に勇者武器をなくしたんだな!」

「元々俺は、投擲具なんて使い勝手が良くなかったのさ!」

「そうかよ!」

 

 しかし、改めて久しぶりにまともな日本語を聴くと奇妙な気持ちになってくるな。

 

「乱れ突き!」

 

 元康はスキルを放つ。

 例え殺気が乗っていないにしても、そのスキルは殺すためのものだ。

 だから、正確に打ち払い、流す必要があった。

 

「流水合気杖術」

 

 スキルなのか、特に口にするつもりもなかった技名が口から漏れる。

 スキルとして認識されたのか? 

 俺は元康の槍を全て自分の槍で捌き切る。

 流れた攻撃は全て、俺ではなく別の方向に逸れていき、地面を抉る。

 

「なんて奴だ! 少し本気を見せる必要がありそうだな!」

「やってみろよ」

「エアストランス!」

 

 聞いたことがないスキルだった。

 普段使うエアストジャベリンは槍を複製して投擲するスキルだったはずだ。

 こんな近接で使うスキルじゃない。

 

「お、驚いてるな? これは一時的に攻撃力を上げるスキルなんだ。こんなふうにな!」

 

 元康が槍を突いてくる。

 俺は咄嗟に受け流そうとしたが、槍の実態とは別の槍が逸らす前の方向に飛び出してきた。

 

「何?!」

 

 俺は咄嗟に身体を捻って回避する。

 つまり、エアストランスは実体の槍と重ねることにより、攻撃力が増加するスキルらしい。

 だからこそ、実態を逸らしたとしても、複製したエネルギーが俺を攻撃してきたわけだった。

 

「なんて厄介な……!」

 

 その効果に、元康自身も驚いている様子だった。

 

「へぇ……そんな効果もあるのか! なかなかに便利なスキルだな」

「チッ!」

 

 俺も、勇者は殺せない。

 だが、防戦一方と言うわけにはいかなくなってきたようだった。

 俺は腰から剣を抜く。

 元康相手には距離を取るのは圧倒的に悪手なのだ。だからこそ、前に出る。

 

「うおぉぉおおぉぉ!」

 

 元康の攻撃を身体を捻りながら回避しつつ、懐まで接近する。

 

「うおっ!」

「喰らえ!」

 

 俺は元康を容赦なく斬りつける。

 

「ガッ!」

 

 ダメージは受けたように見えたが、やはりと言うか傷ついたように見えなかった。

 中に着込んでいる鎖帷子に刃が当たったのを感じた。

 

「くっ! PvP得意か?」

 

 元康が横凪に斬りつけてくる。

 流石にそれをやられると間を取らざるを得なかった。

 

「元康様! ツヴァイト・ファイヤ!」

 

 クソビッチが俺に向かって炎を放ってくる。

 

「すまない、マイン!」

 

 ツヴァイト程度の炎、俺は気を巡らせた槍で受け流す。

 穂先に炎を纏った槍を回転させながら構える。

 

「私の炎を……!」

「利用させてもらう!」

 

 本来ならば、合成スキルなのだろうが、口から出たのは別のスキル名だった。

 

「火炎飛影槍!」

 

 勢いよく突くと、炎が穂先から飛び出す。

 

「炎の槍か……。俺も得意だぜ!」

「ツヴァイト・ファイヤ! そして単独合成スキル、炎の流星槍!」

 

 炎を纏った槍が空間に複数出現する。

 そして、流れ星のようにそれらが俺を襲撃してきた。

 厄介であることには変わりないが、こんな短調な攻撃は流石に俺に当たるはずがない。

 俺は地面を蹴って、元康に接近を試みる。

 

「マジかよ! あの中を駆け抜けてくるのかよ!」

 

 ギャリン! 

 剣と槍の刃が当たり、火花を散らす。

 

「おおお! 乱れ突き!」

「っらああああああぁあぁぁあぁああ!!」

 

 元康の槍と俺の武器が何度もぶつかり合う。

 その度に金属音が鳴り響く。

 今度は防ぐためではない、殺すつもりで元康に攻撃していた。

 

「ゆ、勇者様と対等に戦うなんて……! なんて奴だ……!」

「良いから! 元康様に加勢なさい!」

「あ、あんな戦いに我々程度ではとてもじゃないけど手出しできませんよ!」

 

 外野がうるさいが、俺は乱れ突きの合間に何度か元康にダメージを与えた。

 逆にこっちも、防御を捨てた分小さいダメージを負ってしまったが、仕方がないことだろう。

 

「グフっ!」

 

 先に膝をついたのは元康だった。

 少し、流血しているが、問題ないだろう。仲間(笑)が回復してくれるだろうしな。

 

「ふぅー! ふぅー!」

 

 俺は荒げている呼吸を整えつつ、周囲を見渡す。

 リノアはまだ、脱出経路を確保できてなかったし、ラヴァイトはまだレイファから回復魔法を受けている最中だった。

 あの戦い、そう時間がたっていなかったのだった。




土曜日の分ね、遅れて申し訳ない


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元康の提案

「つ、強い……!」

 

 元康はそう言うと、槍から回復薬を取り出して飲み干す。

 

「チッ、しまった!」

「勇者同士のPvPってのも熱いが、俺たちもイベントが始まりそうだから急ぐんでね。悪いが遊びはここまでだ!」

 

 元康は槍を構え直すと槍の形状を変化させた。

 まるで火炎を象ったような槍は、その赤い鎧と見た目の統一感が良いように見えた。

 そして、変化した瞬間から炎を纏っていた。

 

「こいつは俺のとっておきの槍だ。フレアランス。魔物からのレアドロップだが、武器専用の特殊効果が俺と相性がいいんだ。本当は尚文とのリベンジマッチに使うつもりだったが、ここで使わせてもらう!」

 

 原作には無い展開に武器。

 俺は驚愕するしか無かった。

 まだ大筋は歪んでいないことを感謝するほかないだろう。

 

「行くぞ! 死んでも恨むなよ!」

 

 元康が突進してくる。

 俺は槍を合わせて受けようとするが、俺の槍がドロリと溶ける! 

 

「ッ!?」

 

 俺は咄嗟に、身をかがめて回避する。

 頭の上を掠めた槍は、かなりの高温を纏っており、ヤバいのがわかる。

 

「防御無視効果付きかよ!」

「へっ当たりだ!」

 

 手にした槍の穂先は完全に溶けてしまい、使い物にならなそうだった。

 勇者武器なら受け止められただろうが、ただの鉄の塊である俺の武器では、溶かされてしまうだけだろう。

 なので、俺は槍を捨て、剣を捨てて構える。

『魔王』は流石に使うわけにはいかなかった。

 勇者を殺すわけにはいかないからだ。

 そして、俺は構える。呼吸を整える。

 

「おいおい、武器なしで俺と戦おうってのか?」

「──コォォォォォォォォォ……」

 

『気』を両腕に纏わせるイメージだ。

 

「ビビっちまったか? 素直に投降するって言うんだったら、勘弁してやってもいいぜ?」

「来い!」

「──ああもう! このぉ!」

 

 元康は槍で突いてくる。

 このまま何もしなければ、土手っ腹に穴が開くであろうことは確実な突きだった。

 俺はその槍を両手で捉える。

 ジュウウウウウウゥゥゥゥ!!! 

 肉の焼ける音がするが、俺は気にせずに槍を受け流す。

 ステータスのHPバーは多少減った程度だった。

 

「なっ?!」

 

 そのまま流した勢いのまま突っ込んでくる元康の顔面に当身を入れる。

 

「ブフゥ!」

 

 かなりいいのが入ったらしく、吹っ飛ぶ元康。

 

「ま、マジかよ……!」

 

 俺の焼け爛れた両手を見て、起き上がりながら引いた顔をする。

 両手から肉を焼いた匂いがするが、気にしている場合じゃ無い。

 素の世界じゃ治せないだろうが、ここは異世界でHPがある世界だ。

 それに、手はまだ十分に動く。表面が焼けただけだった。

 

「行くぞ!」

「ま、待った待った! 俺の降参だ!」

 

 槍を元に戻しながら、元康は待ったのポーズを取る。

 どうやら、マジでビビっちまったのは元康自身だったらしい。

 

「元康様?!」

「いや、マイン。仕方ないだろ? 流石に人間を殺す……それも、別の世界とはいえ同じ日本出身の奴だ。な?」

「……仕方がありませんわね」

 

 一瞬舌打ちをしたよな、コイツ。

 

「なら、逃してくれるってか?」

「いや、そいつはできないかなぁ。ただ、代案がある」

「代案?」

 

 また、元康は碌でも無い事でも考えているんだろうか? 

 

「最近、変な魔物が出るだろ? 亀みたいな甲羅を背負った化け物だよ」

「……ああ」

「俺、それの原因知ってるんだよねぇ。宗介、手伝ってくんね?」

 

 元康は、まるでMMORPGで別のパーティに協力を依頼するかのような気安さで俺にそう言ったのだった。

 

「……なんでまた」

「イベントだよ、イベント。どうせ知ってるんだろ? 討伐イベント」

「……ああ」

 

 俺はそれから逃げているんだがな。

 あんな化け物、ただの人間じゃあ倒すことなど到底難しいだろうからな。

 まだ、勇者じゃ無い時に使える技の確認は終わってないが、俺でも霊亀の体の一部を吹き飛ばせる技を持っている。

 使ったことはないが。

 だが、レイファを危険な目に遭わせるのはダメだ。

 だからこそ逃げているのだ。

 

「俺たち勇者さえいれば問題ないと思うが、宗介、お前もプレイヤーなら戦力になるだろう? それにほら、この問題を解決すれば前みたいに恩赦が貰えるかもしれないしな!」

 

 断ろうと声を出そうとした時、後ろからライシェルさんの声が聞こえてきた。

 

「ソースケくん、いい案だと思うがどうだろうか? このままでは、我々もジリ貧だった。槍の勇者様とソースケくんの戦いが中断したから戦闘が止まっているのだ」

 

 ライシェルさんにそう言われたら、断ることは難しいだろう。

 ……あまり乗り気ではないが。

 

「だったらさ、お前のその両手も治してやるぜ?」

「……ああもう、わかった!」

「元康様、本気?!」

 

 ビッチが驚いている様子だったが、他の二人は、特にエレナはホッとしているように見えた。怠け豚め。

 

 結果、俺の両手は元康が槍から取り出した回復ポーションをかけて完治した。

 回復薬をかけたら、時が戻るように怪我が治っていくのはやはりビビる。

 

 こうして、ウォーレンの追跡を回避した代償として、元康に同行することになったのだった。




若干のジョジョ要素は許してください!
最近第五部見てハマってしまったんです!


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霊亀国:リングィー到着

 ついに霊亀国まで到着してしまった。

 ため息しか出ない。全くもってやれやれって気分だった。道中ビッチに悩まされた点も含めてな! 

 霊亀国はウォーレンと同じ文化圏で、まさに古代中国って感じの国だった。

 霊亀国と言うが、正確に言うならばリングィーと言うのが正しい国名だ。

 勇者武器なら翻訳で『霊亀国』と聞こえるのだろうが、翻訳機能を無くした俺にはそう聞こえる。

 メルロマルクとは完全に言葉が異なるが、人間共通語も使える人は普通にいるので、会話にはそこまで困りはしなかった。

 

 俺たちの扱いは、槍の勇者の仲間一向と言う扱いなおかげで、悪い扱いを受けることはなかった。

 俺としては表に出るべきではないと思い、ほとんど前に出ることはなかったけれどね。

 

「よーい、ようやく着いたぞ」

 

 元康の声が聞こえた。

 俺はラヴァイトが止まってから、馬車から降りる。

 

「ここが、霊亀の封印の一つなのか?」

「ああ、とは言っても、簡単なダンジョンを攻略する必要があるけれどな」

 

 見た感じ、ダンジョンと言うのは森のダンジョンと言う奴だった。

 この奥に、封印の祠があるらしい。というのは元康の言だ。

 

「本当に、あの霊亀のしもべ、だったかしら? あの化け物をなんとかできるの?」

「元康様の言葉を疑うのかしら? 亜人風情が!」

「「そうよそうよ!」」

 

 リノアの疑問に煩い取り巻き。

 道中誰かさんのように売られる可能性もあったので、俺はリノアとレイファから目を離さないようにしていた。

 もちろん、ライシェルさんにも情報は共有済みで、半信半疑だったが、一度リノアが売られかけて抵抗したと言う事件があってから、ライシェルさんと二人係でガッチリガードしている。

 まあ、ビッチはシラを切っていたが。証拠も不十分だったしね。

 なので、リノアもかなり警戒していた。

 

 ちなみに、レイファはラヴァイトがいつもそばにいるのでビッチに近づく隙がないし、アーシャはそもそも論外だったようだ。

 

「黙れクソビッチ!」

「……ッチ」

 

 俺が睨むと、ビッチは舌打ちをする。

 

「まあまあ。とりあえず、この先のダンジョンを攻略するぞ。霊亀のしもべ系統の魔物がかなり出てくるけど、まあ、俺に任せておけば大丈夫さ!」

 

 基本的に、元康は道中のほとんど全ての魔物を一人で倒してしまっていた。

 霊亀のしもべも、基本的に絶対に自分のメンバーはもちろんのことリノアやレイファすら手出しをさせないように上手くタゲを自分に集中させていたし、そう言うところはさすが勇者っぽいなと思うところではあった。

 俺は『気』の使い方の練習で、適当に合気道と併用して敵を撃破していたけれどね。

 

「……まあ良いわ。元康様、ダンジョンは私たちだけで攻略しましょう?」

「それでも余裕だからなぁ。ただまあ、宗介とアーシャちゃんがいれば、もっと楽に攻略できる! ライシェルのおっさんは二人と一緒に馬を見張っておいてもらえないか?」

「私は構わないが、ソースケくん?」

「勇者様に従おう」

 

 俺は元康の提案に乗ることにした。

 逃げるチャンスではあるが、俺も正直力を持て余していたところだった。

 元康のおこぼれの処理だけじゃあ、正直修行にならなかったのは事実だった。

 俺が肩をすくめてそう答えると、ライシェルさんは「わかった」とうなづいてくれる。

 

「わかったわ。正直、あのお姫様と一緒にいるのは嫌だったし、ちょうどよかったわ」

「うん、あまり良い感じがしないものね。ソースケも気をつけてね?」

「ああ、と言っても、これから超危険生物の封印を解くんだ。危険を感じたら俺たちを置いてすぐに逃げてくれよ」

「ソースケくんやアーシャ殿を置いてか?」

 

 俺はうなづく。

 

「俺とアーシャなら、大抵の危険は問題ないからな。レイファとリノアは守りが専門のライシェルさんのそばにいた方がいいだろう。ラヴァイトと一緒に任せた」

「ああ、任された」

 

 ライシェルさんはうなづいてくれた。

 

『おい、俺は知っているが、この世界の連中は霊亀に関して無知なんだな』

 

 我も知らぬからな。

 まあ、魂を集めるための装置だ。

 封印を解こうとしている勇者どもの気がしれんが、少なくともうぇぶ版? だったか? その程度の規模の災厄ならば普通に起きることだろう。

 

『ま、そうだな。とは言っても、勇者でなければ襲われるんだ。俺やアーシャも襲われそうだな』

 

 竜帝のかけらを内包するお前は大丈夫だろうよ。

 竜帝のかけらを狙うのは竜帝のかけらを持つドラゴンだからな。

 ただ、アーシャに関しては、放っておけば間違いなく殺されるだろうな。

 

『……今すぐレイファ達も逃した方が良さそうだが』

 

 お前もわかっているだろう? 

 あの色情狂の勇者はそれを認めないだろう。

 お前を連れて行くと言うのも、ある意味お前を人質にして離れさせないためだろうしな。

 

『……』

 

 俺はオモシロドラゴンとの会話を終えて、元康の所に向かう。

 書籍版でもweb版でも描写されなかったダンジョンを攻略するのだ。

 気合を入れて取り掛かる必要があった。




何というか、霊亀国と呼ばれているってのもなんか変だなと思ったので、『リングィー』って呼ばれていることにしました。
ただ、リングィーは中国語で『霊亀』なので、勇者武器の翻訳で『霊亀国』と呼ばれているように聞こえると言う感じで脳内補完オナシャス!


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封印崩壊

 森のダンジョンは、特にギミックがありそうな感じではなかった。

 ただし、至る所に霊亀のしもべが徘徊しており、厄介なダンジョンであることには変わりなかった。

 

「行くぜ! 炎の流星槍!」

 

 そしてなるほど、元康が楽勝でこのダンジョンを攻略できた理由もわかる。

 あの広範囲の炎の雨に貫かれれば、いくら耐久力の高い魔物も容易く殲滅できるだろう。

 

「ツヴァイト・サンダーブレーク!」

 

 俺も、広範囲を殲滅できる魔法で元康を援護する。

 直接対面で撃破する戦闘は、皆無だった。

 なのでやることは援護射撃ぐらいなものだった。

 

「きゃー! 元康様ー!」

 

 羨ましくない黄色い声援に後押しされて、どんどん突き進む元康。

 俺は撃ち漏らしを、魔法で潰していった。

 いや、確かにこれは元康だけで十分だろう。

 

「ふぅ、MP切れだ。ちょっと休憩だな」

 

 元康はそう言うと、人数分の切り株の椅子を槍で作る。

 切り倒した木で長椅子を作り、当たり前のように3人のビッチは座る。

 感謝の言葉もないのか……。

 

「ほらよ、お前も座れよ」

『あ、ああ。ありがとうな』

 

 俺はつい、日本語で返してしまう。

 まあ、元康が日本語で話しているのだ。ついつられてしまうのは仕方がないだろう。

 

「ん? ソースケ様、何を?」

「あ、ごめんごめん、つられてな」

 

 俺はアーシャに軽く謝る。

 やはり、元康一人だけ日本語を話している光景は、変な気分がするな。

 他の連中にはその一番理解できる言葉で聞こえるのは、妖精の加護ってのの凄さがわかる。

 俺と投擲具は完全にリンクが切れてしまっているので、翻訳機能は完全に失われている。

 盾の勇者のような、一時的に失われている状態とは違うのだ。

 ステータスも、勇者補正は成長補正の分は残っているが、結局は装備の基礎ステータスが異常に高い勇者装備には劣ることがよくわかる。

 四聖武器の補正を考えれば、おそらく尋常じゃない補正の差があるだろう。

 なるほど勇者はこの世界ではチートそのものだなと改めて感じる。

 

「宗介、お前も飲むか?」

 

 元康はそう言うと、MP回復薬である魔力水を放り投げる。

 それ自体はありがたかったので、俺は魔力水を口に含めた。

 

「よし、それじゃあこっから後半戦だ。ちょっとばかし敵が強くなるから覚悟しておけよ!」

 

 そう言って、元康は立ち上がる。

 俺も、腰から剣を抜く。魔物の殺気が近づいていたのは、アーシャも同様だった。

 

「ソースケ様」

「ああ」

 

 突然殺気を出した俺たちにビビったビッチどもが、騒ぎ出す。

 

「ちょっと、何なのよ? 元康様?」

「敵だ!」

 

 元康が槍を素早く戦闘用に変化させて、突然出現した霊亀のしもべとの戦闘に入った。

 

 ──戦闘自体は特に苦労はしなかった。

 元々俺は1対多での戦闘が得意だったからだ。

 全員無事に、種を植え付けられることなく切り抜けた俺たちは、たやすく最奥の祠までたどり着いたのだった。

 

「ボス魔物のは出ないのか?」

「ああ、戻りが本番だからな」

「……へぇ」

 

 俺の質問に、元康は気安く答える。

 元康にとって俺は別に敵じゃあないようだった。

 ま、俺にとっても今はまだ敵じゃあ無いけれども……。

 万が一、やり直しの元康が憑依したら、バーストランスで消滅させられてしまうだろうけれどね。

 この世界が可能性の世界であるならば、元康がやり直し憑依もあり得るのだ。

 

「あれ?」

 

 元康が素っ頓狂な声を上げる。

 

「どうしたんですの? 元康様」

「すでに封印の祠が壊れてやがる……? 錬か樹がこっちの方を先に壊したのか?」

 

 俺も、祠に入ると、封印の施された石碑が大きく割れていた。

 いや、今もヒビがバリバリと入っている! 

 

「なーんだ、じゃあ次の場所に……」

 

 元康がそう言って、石碑から離れて距離が離れた途端、まるでタイミングを見計らったかのように石碑が粉々に砕け散った! 

 

「石碑が!」

 

 それと同時に、激しい地震が発生する。

 とてもじゃあないけれども、立っていられない! 

 

「のぅあ?!」

「ぐっ!」

「「「きゃああああああああああ!!」」」

 

 それぞれが悲鳴を上げる。

 全員がその場にしゃがみ込み、地震に耐えていた。

 

「なるほどね! 霊亀がボスだと!」

「いいや、違う! 勝手に封印が解けたんだ!」

「元々解くつもりだっただろうが!」

 

 霊亀の封印が完全に解けたな。

 

『オモシロドラゴン?』

 

 オモシロドラゴンが割って入る。

 

 いや、我の名前は『サティオン』だぞ。

 一回名乗ったであろう!

 

『オモシロドラゴンはオモシロドラゴンだろう! いい加減にしろ!』

 

 ……! 我悲しい……! 

 

「元康、立てるか? 行くぞ!」

「お、おう! みんなも行こう! 霊亀を倒して尚文やメルロマルクの奴等を見返すんだ!」

「そ、そうですわね、元康様!」

 

 揺れがだいぶマシになったので、俺たちは祠を出て、外に出る。

 霊亀のしもべは雑魚しか出てこなかったので、森のダンジョンから出るのはそんなには苦労しなかった。

 ただし、ダンジョンの入り口には霊亀のしもべのキメラ体が待ち受けていたわけだが。




宗介にとってオモシロドラゴンは、オモシロドラゴンのままです。

そろそろ仲間になるグリフィンでも出そうかな?
案としては、グリフィン族の姫様の妹かなぁって考えてる感じ。
ただ、ラヴァイトに文句言うだろうけどなぁ。


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霊亀始動

「元康、こいつがボスか?」

「ああ、霊亀が活性化したから、強い魔物が出現するんだぜ」

 

 俺の記憶だと確か、霊亀の使い魔(寄生混合統括型)だったか? 

 ともかく、キメラゾンビが亀の甲羅を背負っている気色の悪い魔物だった。

 漫画とは若干ではあるが、デザインが違っているのは元となった魔物が違うせいなのだろう。

 

「早く行かねぇと被害が拡大しちまうからな! そっこーで蹴りをつけるぜ!」

「確かあれは、切り口から蝙蝠型を噴出するんだったな」

「ああ、だからこそ、俺とは相性がいいのさ!」

 

 元康が槍を構えると、ビッチが魔法を唱える。

 

「ツヴァイト・ファイヤーアロー!」

「ツヴァイト・エアロブラスト!」

「行くぜ! 風炎の流星槍!」

 

 確かに、風炎の流星槍ならば破壊した切り口を焼けば、分裂を防げそうだった。

 

「アーシャ、撃ち漏らしの対応を頼む」

「わかりました。ソースケ様は?」

「俺も試してないが、強力そうなスキルを覚えたんでね。試し打ちさせてもらうのさ」

 

 俺は、新しく覚えたスキルがあった。

『流水気孔波』

『気』を練り込み、相手に直接『気』を流し込んで破壊する技だ。

 この頃ならばラフタリアやフィーロにも、強力な必殺技スキルを習得しているはずだった。

 ならば、そのレベルをさらに超えている俺にも習得できてなきゃ可笑しいだろう。

 

「コォォォォォォォォォォォォ……」

 

 呼吸を整える。

 気を練り込む。

 そして、前へと走り出す。

 俺が気の攻撃を行うには、武器はまだ使えなかった。無手での攻撃が一番気を扱える。

 火と風の雨を体捌きで回避しつつ、霊亀のしもべのキメラゾンビに接近する。

 体を焼かれてもなお、接近する俺に対して攻撃を仕掛けてくるキメラゾンビ。

 

「ソースケ様!」

 

 その攻撃をアーシャが斬り払う。

 が、間に合わない分は俺が全て受け流す。

 

「流水!」

 

 目の前に到達した俺は、スキルの使用を宣言する。

 

「気孔波!」

 

 崩壊の気を込めた両手を、キメラゾンビの体に触れさせる。

 

 ドムォ! 

 

 キメラゾンビの身体が弾けて飛び散る。

 身体に無数に寄生していた蝙蝠型のしもべも、弾けて飛び散る。

 

「ナイスだぜ! 宗介!」

 

 俺の後をついてきていた元康が、槍を残った部分に突き刺した。

 

「バーストランス!」

 

 残った部分はバーストランスで粉々に砕け散った。

 戦いはあっという間だったが、俺たちには急ぐ理由があった。

 

「よし、急ぐぞ! みんな!」

 

 元康を先頭に、ダンジョンから脱出する。

 そして、そこには、あまりにも巨大な、山が動き出しているのが見えた。

 

「ウヒョオ! でっけぇ!」

「……」

「ソ、ソースケ様、あれを倒すんですか……?」

 

 元康以外がその霊亀の巨大さに圧倒されていた。

 すでに勇者でないが故に、ステータスには自分の能力値と、小隊設定しているアーシャやレイファ達のHPとMP、レベル、そして元康達のHP、MP、レベルしか見えないのが残念だが、そんなものを見なくてもわかるぐらいの危機が、目の前に広がっていた。

 

「ソースケ!」

「ソースケくん!」

「ソースケ! あ、あれどうなってるのよ!」

 

 無事だった3人が駆け寄ってくる。

 ここはそれなりに離れているから、幸にして土砂災害の影響は受けなかったようだ。

 

「あれが、霊亀だよ」

「はぁ? なんであんなものの封印を解かなくちゃならないのよ!」

「槍の勇者殿、なんとかできるのか?」

 

 ライシェルさんが聞くと、元康は楽勝な雰囲気を出してうなづいた。

 

「ああ、今の俺のレベルならば、ソロでも余裕だぜ!」

「さ、さすが元康様ですわ!」

 

 さすがのビッチもドン引きしてるが。

 

「で、何か策は……」

 

 俺が言いかけた時、霊亀に対して攻撃が仕掛けられたらしい。

 爪楊枝よりも小さな何かが霊亀に当たるのが見えた。

 

「あ! ちくしょう! あいつら先に攻撃を! おい、宗介! 行くぞ!」

「え、ちょっ! 」

 

 元康は俺の襟首を掴むと、霊亀の元に駆け出す。

 ビッチ達は元康についていくようだった。

 なので、指示を出す。

 

「レイファ達は出来るだけ逃げてくれ! これから霊亀が魔物を出すだろうから、とにかく逃げてくれ!」

 

 伝わったかわからなかった。

 だが、ライシェルさんならば全員を守り抜けると信じることにした。

 霊亀の近くは地獄でしかない。

 だから、そんな場所にレイファ達を近づけたくはなかったのだ。

 

 だが、残念ながら彼らはついてきた。

 

「ソースケだけ行かせるわけにはいかないよ!」

「そうね、できるだけのことはやってやるわ!」

「ソースケくんは安心して前に出るといいさ。槍の勇者殿と協力して、この局面を打開するのだ」

「おいらもがんばるよー!」

「私はソースケ様に付き従うだけです」

 

 心強い仲間だと思う。

 だけれども、その危険性は、さらに跳ね上がることを俺は知っていた。

 だが、みんなの決意を無駄にはできないだろう。

 

「ヘヘッ、いい仲間だな!」

 

 そんな呑気している元康に、イラッと来たことは言うまでもなかった。




若干、ビッチ達が空気なのは仕方がないね。
描写してないだけで、一応何か喋ってますよ。

描写する必要がないだけだけどね!


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霊亀の元へ!

 霊亀に近づく度に、酷い光景が通り過ぎて行った。

 しもべに襲われている村、土砂の崩落によって壊滅した街。

 見るも無惨な光景というのは、まさにこの事を言うのだろう。

 

「ひどい……!」

 

 レイファはそう呟く。

 それほどの蹂躙が行われているのだ。

 俺としては、すでに見慣れた光景だったが、他の仲間には辛い光景なのは言うまでもなかった。

 

「そらよ!」

 

 元康は、気にしていないのか、それでも勇者らしく霊亀のしもべ達をバッタバッタと薙ぎ倒していく。

 俺も、競ってはいないが殲滅しつつ霊亀に近づいていく。

 

「近づく度に攻撃が酷くなっていくな……!」

「だが、蹴散らしてやるさ! 流星槍!」

 

 元康が発生させたスキルが、敵を蹴散らしていく。

 弱いと言っても、普通の冒険者に比べれば圧倒的に強いのは確かなのだ。

 

「必殺! 飛空剣!」

 

 俺は右手に持った剣で斬撃を飛ばす。

 剣先に込めた魔力で真空刃を生成、飛ばす技だ。

 

「おおおおお! プロテクトウォール!」

 

 ライシェルさんもタワーシールドのスキルを発動させる。

 お陰で全員の防御力が上昇した。

 

「ツヴァイト・ファイアランス!」

「「ツヴァイト・エアロブラスト!」」

 

 ビッチ達も、自分たちに攻撃が来るので、流石に攻撃に参戦する。

 

「竜巻・風龍迅!」

 

 レイファも、龍脈法を使って魔法を放つ。

 ラヴァイトに乗りながら、器用に魔法をコントロールして、周囲の魔物を吹き飛ばしていく。

 

「はああああ!」

 

 リノアもブーメランを投擲して、魔物達を一掃していく。

 アーシャも、その暗殺に長けた能力を遺憾無く発揮して、進路を妨害する魔物を殲滅していく。

 そんな感じでしばらく進んでいくと、霊亀の攻撃範囲に入ったらしい。

 身体が重くなる感じを受けた。

 

「うっ、身体が……!」

 

 最初に悲鳴を上げたのは、レイファだった。

 

「元康」

「おうさ!」

 

 元康は早速、槍を構える。

 

「流星槍!」

 

 元康が放った流星槍が霊亀に向かって飛んでいく。

 しかし、当たった……? それにしては、爆発は小さかった。

 霊亀は無視して進んでいく。

 

「もう一度だ! 流星槍!」

 

 ヒュ────────────────ン……ボカン

 それはまるで、ダメージになっていなかった。

 

「あれ? なんでだよ! 適正レベルは80なはずだぜ!」

 

 元康は憤慨しているが、先ほどから錬や樹の攻撃がないのが気になった。

 もう捕獲されてしまったのか? 

 まあ、俺も手伝わないてはない。

 魔力を練る。俺の遠距離で一番威力のある魔法を放つための詠唱をする。

 

『力の根源たる俺が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を今ここに招来させよ』

「ドライファ・サンダーブレーク!」

 

 雷が一度、天空に舞い上がる。

 そこから、雷雲が発生して、ものすごい勢いで雷雲が広がる。

 バチバチと高圧電流が迸りながら広がっていく雷雲。

 以前のドライファ・サンダーブレークとは異なり、更に高圧な電流である青い稲妻が形成されていた。

 それに、亀の頭がこっちを向いた。

 俺が、剣を掲げると、そこに雷が落ちてくる。

 

「ソースケくん?!」

 

 ライシェルさんの驚きの声が聞こえてきた。

 だが、不思議と俺は無事なのだ。

 俺は剣先を亀の頭に向ける。亀の頭は口を開いて、何かを発射する体制だった。

 

「サンダー・ブレェェェェェェェェクゥ!」

 

 電撃の本流が剣先から飛び出す。

 それと同時に、亀も光線を発射したのだ! 

 

 バチバチバチと激しい魔力のぶつかり合いが発生する! 

 まさか、こっちに向かって砲撃してくるとは! 

 

「ソースケくん!」

「逃げろ! こっちが押し負ける!」

「!」

 

 ライシェルさんにそう指示を飛ばす。

 

「あれは『裁き』と同じか、それ以上の威力だ!」

「! わかった! 無事で!」

「ごしゅじんさま! 逃げるよ!」

「う、うん、ラヴァイト、お願い……!」

 

 元康達も、どうやら逃げた様子だった。

 俺は腰のポーション袋から魔力水を取り出して口に含む。

 負けるわけにはいかなかった。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 俺は、白い光に包まれたのだった。




みんなキョウは早く始末したいんですね笑笑

とりあえず、元康達はこれで退場になりました。


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本の勇者登場!

 一瞬、意識が飛んでいた。

 

「カハっ!」

 

 俺は血を吐き出す。

 身体中が熱を持っているように熱いが、なんとか生きていたようだ。

 

「ぐふぅ……!」

 

 ギシギシとぎこちなく動く体をなんとか動かして、俺は腰のポーションケースに手をやる。

 どうやら、あの熱線の中なんとか無事だったらしい。

 俺はヒーリングポーションを口に含み、飲み干すと10%を切っていたHPが回復する。

 ついでに残りのポーションも、火傷跡にぶっかける。

 身体にかける場合はヒーリング軟膏の方が効果が高いのだけれども、そっちの方はレイファに持たせていたのであいにく持っていなかった。

 

「っあ……!」

 

 ジューっと音がして、痛みが来る。

 火傷から回復する際の痛覚が戻ることによる痛みだった。

 それほど深く火傷を負っているようだった。

 だが、なんとか動けるようになった。

 ガレキを押しのけて立ち上がると、一直線に熱線で抉れた跡が見えた。

 地面は焼け焦げており、よくもまあ、なんで無事だったのかわからない状況だった。

 

「武器は……ダメだな、こりゃ」

 

 今まで使っていた剣は、今まで握っていた塚の部分以外が蒸発していた。

 仕方がないので、『魔王』を取り出し、いつでも使えるように装備する。

 ボウガンも先程の攻撃で吹き飛ばされて下敷きになったせいか、重要部分の鉄が曲がってしまい使い物にならなくなっていた。

 なので、頼れる武器はこの拳と『魔王』だけになってしまった。

 

「……また出やがったな。トドメを刺しにきたか」

 

 俺が視線を向けると、そこには簀巻きにされて気絶している元康を肩に担いだ霊亀の使い魔(親衛型)と、本の勇者……波の尖兵のキョウがいた。

 久しぶりに感じる俺の中の波の尖兵レーダーがビンビンに感じるほどには、ムカつく野郎の登場だった。

 

「へぇ、あの攻撃の中生きてたんだ。普通の人間だったら消し飛ぶはずなんだがな?」

「はぁ……はぁ……」

 

 ニヤニヤしたメガネの陰険野郎は、余裕そうな表情で俺を観察する。

 

「御同類ってわけでもなさそうだしな。霊亀はまだ目覚めたばかりなんだ。邪魔されるのも面倒なんでここで潰させてもらうぜ」

 

 キョウが軽く手を振ると、剣と弓を持った霊亀の使い魔(親衛型)が、俺に対して攻撃を仕掛けてくる。

 俺は即座に呼吸を整える。

 

「『三千大千天魔王』!」

 

 俺は『魔王』を起動させると、ズリュっと形がモーフィングで変化して槍に姿を変える。

 

「ツヴァイト・ブースト! ツヴァイト・ライトニングスピード!」

 

 身体能力を上昇させる。速度も上昇させる。

 俺の魔法適正は雷と補助。だからこそ、コイツらと単独で戦うには必要だと判断した。

 

「その死に体でまだ戦うつもりなのか? 抵抗しない方が楽に死ねるのにな」

 

 嘲笑うキョウ。

 だが、そんなものは関係がなかった。

 死にかけて意識が朦朧としていたのもあるが、俺はヤツを殺さねばと言う殺意に呑まれていた。

 剣を振るう霊亀の使い魔(親衛型)が接近してくる。

 俺は、その剣の軌跡に沿わせるように、槍の穂先を合わせる。

 剣の動き、勢いをそのまま操作して、霊亀の使い魔(親衛型)の体制を崩す。

 補助魔法のおかげか、なんとかコイツらの動きについていける。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 俺はその霊亀の使い魔(親衛型)の剣を盾にして、弓を持っているやつに接近する。

 そしてそのまま、『魔王』で2体を貫いた。

 手から感覚として、『防御無視』で貫いたことがわかる。

 

ラースオブハーム!」

 

 俺の声ではない声が、口から出た。

 途端に黒い、光さえ通さない漆黒の炎のような何かが槍から吹き出して、霊亀の使い魔(親衛型)を焼却する。

 

「な、なに?!」

 

 キョウは驚いた声を上げる。

 だが、そんなことはどうでも良かった。

 俺はギロリとキョウを見据える。

 

「な、なんでお前はそんな焼け爛れて肌が炭のようになりながらも、そんな殺気を放てるんだ?!」

「……死に晒せ」

「チッ! 理性は残ってねぇか! お前ら! 俺様を守れ!」

 

 キョウはそう言うと、霊亀の使い魔(親衛型)を複数体召喚する。

 

「ま、俺様はお楽しみの準備があるんで、これで失礼するがな。もう会うことはないだろうが、ここで死んでな!」

 

 襲いかかる霊亀の使い魔(親衛型)と乱戦を繰り広げる俺に、キョウはスキルを唱えた。

 

「プレゼントだ、とっておきな」

「文式一章・火の鳥!」

 

 キョウの手元にある本のページが捲られると同時にページが離脱して、火の鳥が形取られる。

 それは、霊亀の使い魔(親衛型)達を巻き添えにして俺を殺すために放たれたスキルだった。

 

「じゃあ、あばよ! 名前も知らない冒険者!」

 

 キョウと元康を抱えた霊亀の使い魔(親衛型)はキョウの出したページに紛れるように消えてしまった。

 転移スキルだろう。

 そんなことよりも、俺はこの状況を打開する必要があった。

 今のHPではとても受け切れない。

 だが、手を止めれば、霊亀の使い魔(親衛型)に殺されるだろう。

 火の鳥は炎を発して俺に狙いを定めて飛んできていた。

 そんな俺は、ひどく冷静に状況を把握していた。

 

ラースオブハーム!」

 

 黒い炎を出して、『魔王』で霊亀の使い魔(親衛型)を薙ぎ払う。

 あのスキルは自動追尾型だろう。

 避けれないならば、防げば良い。

 俺は霊亀の使い魔(親衛型)を強引に掴むと、『魔王』を突き刺して気を送り込む。

 破壊する気ではなく、盾にするために防御の気だ。

 

「コォォォォォォォォォォォォ!」

 

 特殊な、武術特有の呼吸をすることで、呼吸が整う。

 そして、練った気を霊亀の使い魔(親衛型)に送り込む。

 ビクンビクンッと痙攣して、硬直したのがわかる。

 向かってくる火の鳥を俺は盾で受け流す! 

 火の鳥の嘴が盾に触れた瞬間、まるで手にとるように力の流れがわかった。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!」

 

 俺は息を吐き出しながら、力の流れをコントロールして、火の鳥を振り回す。

 そのまま、俺を中心に回転する。

 すると、残っていた霊亀の使い魔(親衛型)を巻き込んで、火の鳥が燃える。

 そのまま力を流して地面に叩きつけると、爆発が発生する。

 俺は飛び上がっていて、爆心地は上空は範囲外となっていたおかげで無事、逃れることができたのだった。

 俺はあの時、斧の野郎に殺されかけた時の感覚を思い出していた。

 

「はぁ…………はぁ…………」

 

 俺はその場に膝をついた。

 HPもMPもほとんど残っていない。

 だがしかし、なんとか命の危機から逃れることができたのだった。




一回戦かな?

まあ、宗介くんが満身創痍だったのでこんなものです。


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道中

「ソースケ!」

 

 不意にレイファの声が聞こえてそっちの方を見る。

 どうやら、無事だったらしい。

 リノアも、アーシャも、だいぶボロボロだがライシェルさんも、無事で良かった。

 

「ひ、酷い! 皮膚が炭化してる!」

「あの霊亀の砲撃をマトモに受けたからな……」

「その状態で、また別の敵と戦ってたみたいね……。ちょっとソースケ、怖いわ」

「流石ソースケ様です」

 

 レイファはツヴァイト・ヒーリングを唱えて回復してくれる。

 お陰で先程の限界ギリギリの状態からだいぶ回復する。

 

「表面が炭化しているなら、ヒーリング軟膏よりもポーションを掛けた方が効果があるだろう。レイファくん、これを使いなさい」

「ありがとうございます!」

 

 レイファはライシェルさんからヒーリングポーションを受け取ると、俺の身体全体にぶっかける。

 ジューっと音がして全身に激痛が走る。

 

「痛い痛い痛い痛い!」

「痛覚が復活しているんだ。我慢してくれ。とりあえず、まだ霊亀はそばにいるんだ。他の勇者様方は戦っているのかわからないし、とにかくこの場所を離れよう!」

 

 ライシェルさんはそう言うと、ラヴァイトの馬車に俺を乗せる。

 拍子でボロボロと炭化した皮膚が取れるが、それに対して痛みは感じなかった。

 

「ソースケ……大丈夫……?」

「ほんと、よく生き残れたわね。それに、あの後誰か強敵と戦ってたんでしょ? よくやるわ」

 

 レイファとリノアは心配そうに俺の顔を覗き込む。

 正直、今も意識がはっきりしている方が驚きだろう。

 回復の影響で身体中が痛いが、本来であれば皮膚移植しないとどうしようも無い怪我を回復薬ひとつで回復するのだから、世界の法則の違いを実感させられるものである。

 

「ラヴァイト、メルロマルクまで走れるか?」

「ちょっと遠いけれど、オイラに任せて! シェルシェル!」

 

 そう言って、ラヴァイトは走り出した。

 

「ソースケ、あんたは寝てなさい。私とアーシャで見張っておくわ。レイファはソースケの回復、任せても良い?」

「はい、大丈夫です!」

「わかりましたわ。ソースケ様、安心してお休みくださいね」

 

 リノアとアーシャは馬車の後部に座る。

 休めと言われても、身体中が痛いので、そうそう休めるものではなかった。

 だが、たしかに身体を動かさない状況というのは楽ではあったので、身を任せることにしたのだった。

 

 霊亀から離れるように移動していても、あのでかい図体は遠くからでもバッチリ見える。

 だが、これだけ霊亀から離れていても、見える範囲であると言うことは、霊亀の攻撃範囲内であると言うことらしい。

 所々で使い魔が虐殺していた痕を見かける。

 ライシェルさんはそれに目を瞑り、とにかくメルロマルクへの道を急いだのだ。

 

 まだ、メルロマルクへの道中の国で、盾の勇者によって霊亀が倒されたと言う話を聞いたのは、しばらくしてからだった。




今回はちょっと少なめです。

次回から盾の勇者に合流して霊亀2回戦と戦う事になります。

なんか二重投稿になってたっぽい。
ごめんね!


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帰還

 メルロマルクまですんなりと戻れたのは意外だったと言う他なかった。

 関所は霊亀の出現でそれどころではなく、槍の勇者の行方を知っているということで、俺たちはメルロマルク城へと案内されたのだ。

 まだ、霊亀の再起動の話は聞いていないので、尚文たちは周辺の捜索中の時期だろうか? 

 どちらにしても、ここまできた以上はあの化け物と戦う必要がありそうだった。

 

「ソースケ様、よくぞお戻りになりました」

 

 メルロマルク女王と謁見をする。

 投擲具の聖武器を持っていないので、大丈夫か不安になったが、なんとかお目通りすることができた。

 

「投擲具の聖武器が奪われた事はすでに耳に入っております」

 

 ライシェルさんをみると、うなづき返してくれる。

 どうやらライシェルさんが報告してくれたようであった。

 

「ええ、なのでこの身はもはや勇者ではありません」

 

 俺は首を垂れる。

 まさか、こうして報告する羽目になるとは思っても見なかった。

 

「いえ、ライシェルからの報告は聞いております。どうやら、あの噂は事実のようですね」

 

 そう言うと、女王陛下はため息をつく。

 まあ、頭の痛くなるような問題が増えたと言う事だろう。

 

「タクト=アルサホルン=フォブレイ。フォーブレイ王国の王子ですが……。あまり良い噂を聞かないのは事実です。が、彼もまた、七星武器の奪い合いの参加者なのですね。彼は鞭の聖武器に選ばれているはずですが……」

 

 ライシェルさんからの情報だけでここまで推測できるのは、やはり頭の良さからだろう。

 てか、この人にここでバレてしまって良かったのだろうか? 

 

「何にしても、ソースケ様が勇者で無くなったのは、この時期にとっては頭の痛い問題です。槍の勇者様と同行をしていたようなので、そちらの情報は助かりますが、霊亀との戦闘中にはぐれて行方不明になったとも聞いております。それに、あの子も足取りが掴めなくなったようですね」

 

 女王陛下の眉間に皺が寄る。

 

「とにかく、霊亀はイワタニ様が鎮めてくださいました。現在はイワタニ様が中心となり行方不明の勇者様方の捜索を行なっているところです」

 

 ジロリと女王陛下が俺を見る。

 だいたい言いたい事は察することができた。

 

「ソースケ様にも、霊亀探索の支援をお願いしたいと思います」

 

 ですよねー。

 そう来ると思っていた。

 ちなみに、怪我はもう完治している。

 メルロマルクまでかなりの時間が掛かったからね。

 そう、霊亀が再起動するには十分な時間が経っていた。

 

「伝令!」

 

 慌てた様子のメルロマルク兵士が謁見の間に駆け込んできた。

 

「失礼、いかが致しましたか?」

 

 女王陛下は他の兵士が止めるまでもなく、伝令の兵士に発言を許した。

 

「霊亀が! 霊亀が復活しました!」

「な、何ですって?!」

 

 謁見の間が騒然とする。

 そりゃそうだ。

 なんと言っても、霊亀は途方もない被害を出しているのだ。

 道中聞いた話によると、ウォーレンは既に霊亀によって滅ぼされてしまったらしい。

 いくつもの小国が滅ぶほどの厄災だ。

 それが活動を再開すれば、騒然とするのは当たり前であった。

 

「ソースケ様は驚かれていないみたいですね」

「そうなのですか? 陛下」

 

 全く動じていない俺に目敏く指摘する女王陛下。

 

「と言う事は、この展開も未来の描かれた書物……と、勇者様方から聞いておりますが、それに書かれていると言う事ですね」

「……そうですね」

「いいでしょう。では、対策をとります。イワタニ様をこちらに戻ってくるように連絡をお願いします」

「はっ!」

「それから、会議室の準備を」

「かしこまりました!」

 

 テキパキと指示をしていく女王陛下。

 そして、俺の方を見る。

 

「ソースケ様、緊急事態でございます。以前のような出し惜しみはおよしになってくださいね」

「……わかりました」

 

 これは逃げられないだろうな、と思った。

 それに、あのクソ野郎はさっさと始末したいのが本音だ。

 多少ショートカットしても問題はないだろうなと、そう考えたのだった。

 

「正直、助かります。霊亀の進路を考えれば、おそらくメルロマルクにまでやってくる事は明白でしたからね」

 

 女王陛下はそう言って、謁見の間を後にした。

 ライシェルさんがやってきて、俺たちに着いてくるように促したので、俺たちは女王陛下の後を追って、会議室に向かったのだった。




遅くなって申し訳ないですう


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霊亀の再動

 霊亀の再討伐に、俺たちも加わることになった。

 女王陛下には、道案内は出来ないことを前提として、霊亀の討伐方法について全て話した。

 いや、正確に言うならば、暴走霊亀の討伐方法だな。

 心臓と頭の両方をほぼ同時に潰す必要があるのは変わらず、霊亀を暴走させている原因が心臓のその先、コアに当たる部分にいる事は話した。

 

「なるほど。そうなのですね。とは言っても、私たちには暴走しているかなんてわからないのですけれども……」

「盾の勇者の尚文様が、来賓を連れて来ます。それで理解していただけると思います」

 

 実際、暴走霊亀は人類で対処できるレベルを超えた災厄だ。

 波はまだ、人類でも対処可能だが、暴走霊亀はそれを遥かに超えている。

 俺だけでは無理だし、流水気孔波で頭を吹き飛ばせるのが関の山だろう。

 

「それでは、出立の準備を致しましょう。場内の庭園でメルティを中心に準備をさせております。ふふ、メルティも成長していて嬉しいのですよ。ご容赦くださいませ」

 

 女王陛下はそんな娘自慢をしつつ、情報を吐き出した俺を連れて、城の庭に案内してくれた。

 そこでは、リーシア、メルティ第二王女殿下、エクレールとレイファ達が準備をしていた。

 

「おか……陛下! いらしてたのですね」

「ええ、準備の方はどうかしら?」

「はい、再調査から再討伐へと変更になったので、準備に少し時間がかかりましたが、先程完了しました」

 

 俺はそんな二人を横目に、レイファ達の元へ向かう。

 

「ほんと、大変なことになったわね」

 

 リノアはため息をついて、肩をがっくし落とす。

 

「ともあれ、アレを討伐するのは俺たちの役目じゃ無い。盾の勇者の仕事だ」

「ソースケはそれで良いの?」

 

 レイファにそう聞かれる。

 何を察してかは知らないけれども、レイファはレイファで俺を勇者だと見ている節がある。

 そもそも俺は元々は勇者の……世界の敵なんだけどね。

 

「……ああ、流石に暴走霊亀を倒せるわけがないさ」

「……うん」

 

 俺はレイファの頭を撫でる。

 そういえば、レイファの頭を撫でるのも何か久しぶりな気がするな。

 やはり、妹的な存在の頭を撫でると気持ちが落ち着くのは、姪っ子の頭を撫でた時に似ているからだろうか? 

 

「ソースケ様は霊亀再討伐でどのような役割を?」

「おそらくだが、霊亀の内部に突入して、心臓の破壊を行うことになるだろう。俺の想定通りならば、8人目の七星勇者が手助けしてくれるだろうしな」

「8人目……? ソースケってたまに訳のわからないことを言うわね」

「まあ、頭は援軍に任せて、内部に侵入するのが役目になるだろう。龍脈法が使えるレイファは、多分こっちになると思うが……」

「うん、大丈夫だよ。任せて」

「そうか」

 

 レイファも強くなっているんだ。

 そこまで心配する必要はないだろう。

 

「ライシェルさんは……?」

「ライシェルさんは、エクレールさんと一緒に行くそうよ」

「まあ、あの人はメルロマルク騎士だからな。仕方がないか」

「ラヴァイトもついてくるし、心配しすぎよ。レイファはそこまで弱くないわ」

 

 リノアの言葉に、俺がレイファを心配しすぎていたことに気づく。

 まあ、後衛とは言え、装備はしっかりとしているし、前衛にならなければそこまで心配しなくても大丈夫なほど強くなっていたのは確かだった。

 それに、レイファは龍脈法に適性があったのか、ハッキリ言って俺なんかよりも扱いが上手い。

 

 と、不意に庭の地面に魔法陣が展開して、青白く発光すると、盾の勇者……岩谷尚文一行が出現した。

 尚文は周囲を見渡すと状況を把握しようとしているところだった。

 

「これはイワタニ様。報せを受け取っていただけたでしょうか?」

「ああ、霊亀が活動を再開したんだったか」

「はい。イワタニ様がご帰還されたならば再調査を私どもで行おうとしていた矢先だったのですが……」

「運が良いのか悪いのか……」

 

 尚文は頭を抱える。

 

「連合軍の方はどうなっている?」

「霊亀の周囲を探索していた者達は急いで退避しましたが、一部では間に合わなかったのか……。連絡が取れていません」

 

 この会話を聞いて、ずいぶん昔に読んだ小説の内容を、今更ながら思い出していた。

 流石に、何ヶ月もこの世界で戦い続けているのだ。

 だいぶ小説の内容も忘れてきてしまうものだった。

 

 と、女王陛下がオスト=ホウライに気づいたようだった。

 

「ところでそちらの方は……あの国で王の妾であられたオスト=ホウライ妃ではありませんか?」

「はい。何度かお会いしたことがありますね。メルロマルクの女王……」

 

 深々と頭を下げて、頭を上げないオストの様子に、女王陛下は驚きを隠せない様子だった。

 

「これはどういった事でしょうか? 貴方が私にそのように頭を下げるなど、考えつきもしませんでしたよ」

「知り合いか?」

 

 あれ、なんかちょっとだけ女王陛下の台詞が違うような気がする。

 

「世界会議の時に彼の国の王や使者と共に何度かお会いしました……」

「言うなれば……政治的な敵の立場で争っていました」

 

 二人のやりとりに、俺は目を向けていた。

 俺たちの準備に関しても、城の兵士がテキパキとやってくれているので、することが無いのだ。

 あ、そう言えば親父さんに挨拶してなかったなぁ……。

 顔ぐらい見せておくかな。

 

「鎖国をしている国ですが、上層部は他国との会議に出る事はありましたからね。こう……正直に言いますと嫌な女を演じておりました」

 

 霊亀国は入国の時は面倒くさかったのは事実だ。

 元康が槍の勇者だと名乗ってようやく入国が認められたのだからね。

 今となっては死骸しか残ってないが。

 

「そう、彼の国の妾が此度の霊亀について知っているのですね」

「流石はメルロマルクの雌狐と呼ばれた聡明な女王……。そこまで把握しているのでしたら話が早いですね。盾の聖武器の所持者と協力体制にある貴方もどうかお聞きください」

「それならば、彼の力も役に立つかもしれません」

 

 そう言うと、女王陛下が俺に目配せをする。

 来い、と言う事だろう。

 

「どうやら、お呼びらしい」

「人気者ね……。あんまりこう言う状況じゃ羨ましくないけど」

「違いないな」

 

 俺はリノアに軽口を叩きながら、女王陛下のところに馳せ参じる。

 

「宗介……!」

「彼は、現在は投擲具の勇者ではありませんが、相応の実力を持つ者です」

「……何だと?」

「イワタニ様、仔細は後ほどソースケ様からお聞きになられてください」

「……良いだろう」

 

 尚文が俺を見るが、俺は肩をすくめる。

 

「《首狩り》のソースケですね。冒険者としては私の国まで噂は聞き及んでいます。問題ないでしょう」

 

 オストはそう言うと、自己紹介をする。

 自らが霊亀の使い魔である事、霊亀の本体が何者かに乗っ取られた事を告げる。

 そして、霊亀としての役目が果たせないことも話した。

 おおよそ俺の話した通りなので、女王陛下も何か納得するようにオストの話を聞いていた。

 

「元より我等は霊亀の狙いを阻止するのが目標です。信頼はできませんが、拒否も致しません」

「同意見だな。だから話を戻すが、ポータルで霊亀を倒した場所には飛べそうにない。ここから皆んなで出発すべきだろう」

「イワタニ様の考えの通り……私たちも行くしかないようですね」

「行くまでの間に作戦会議でもするか。準備はできているのか?」

「既に、出発の準備は完了しております」

 

 どうやら、親父さんには会えなさそうだった。

 まあ、槍も剣もボウガンも、城で用意してくれたものがあるので戦えないこともない。

 

「俺も大丈夫だ」

 

 俺がそう言うと、尚文はうなづいた。

 

「じゃあ出発だ」

 

 尚文の……盾の勇者の声に、その場にいた兵士たちが歓声を上げるのだった。




ここからは原作合流ルートになりますね。
なので、文章量が多くなり、更新も少し遅めになります。

宗介くんのせいで色々と話が前倒しになりそうですね!


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菊池宗介の闇

 ほんの3週間、ほんの3週間でここまで変わるのかと驚いた。

 投擲具の武器を失う前は、ここまでで無かったはずだった。

 目の光は消え失せ、生気を感じさせない濁った目をしている。

 壮絶な戦いをしたのか、服装はボロボロで、皮膚も少しだが焼け爛れている。

 だが、彼の目には漆黒に染まった殺意が秘められており、それに敏感なリーシアはすっかり怯えてしまっていた。

 ……これで、彼に何があったのか、聞く必要があると、尚文は思ったのだった。

 

 

 

 作戦会議のためにフィーロが引く馬車に俺は乗っていた。

 なんか、フィーロの着ぐるみを着たリーシアはなんだか俺を遠巻きにしているが、気にしてもしょうがないだろう。

 作戦会議の最中も、被害状況は定期的に報告される。

 暴走霊亀は今まで以上の猛威を奮っており、とてもではないがどうしようも無いと言う話だった。

 

「さて、作戦会議もひと段落したわけだが……。宗介の事情を聞こう。確か、宗介達は俺たち四聖勇者とは別行動を取っていたはずだな。そこからこれまでの事情を話せ」

 

 まあ、正直タクトに関しては今更感がある。

 ここで喋ったところで、大きく変化はないだろう。

 そう判断して、今回は嘘偽りなく話すことにした。

 

「七星武器を奪い合う冒険者達……。女王、聞いたことはあるか?」

「ええ、イワタニ様。噂程度には聞いたことがございました。ソースケ様の話を聞くまでは確証はございませんでしたが」

「どう言うことだ?」

「……発端は、斧の勇者様が行方不明になったと言う話でございますね。斧の勇者様の屋敷が燃え落ち、斧の勇者様が行方不明になった。ですが、神殿では斧の勇者様は今も生きていて行方不明とされております。他にも、七星武器を持った冒険者の噂は各地で点在しておりました。翌日には別の人物が似たような武器を持っていたと言う話も、噂程度には」

「……なるほど。宗介はそれに巻き込まれたと言うわけか。災難だったな」

 

 俺は肩をすくめる。

 

「でだ、お前はまだまだ秘密を抱えているだろう? いい加減一人で抱え込むのはやめろ」

 

 尚文はそんな事を言い出した。

 

「少なくとも、お前は俺にとっては数少ない味方だ。秘密主義は気に食わないが、な。ただ、もうその秘密を一人で抱え込むのはやめろ。お前のためにも話したほうがいい」

「……」

「そうですよ、ソースケさん。私たちで良ければ力になります」

 

 尚文もラフタリアも何を言っているのだろう? 

 ちょっと理解できなかった。

 

「いや、今回は結構正直に話したと思うぞ?」

「いや、そうじゃない。お前の抱えている闇、それを共有しろと言っているんだ」

「私たちで解決できる事でしたら、協力させてください!」

「……そう言われてもなぁ」

 

 心当たりは無い。

 一体どうしたと言うのだろう? 

 

「急にどうしたんだ?」

「お前……。その死んだような目をしていて、自分でも気づいていないのか?」

「?」

 

 死んだような目と言われてもね。

 確かに、この世界に来てから【殺意】以外の感情の大部分は死んだ気がするけれども、ちゃんと取り繕えているはずだ。

 レイファを撫でているときに優しい気持ちになれるから、まだ大丈夫だと思っている。

 なので、なんで尚文やラフタリアに心配されるかは意味がわからなかった。

 

「ヒィッ?!」

 

 一瞬、リーシアが俺の顔を見て悲鳴をあげる。

 なんだと言うのだろうか? 

 

「まあ、今は霊亀との戦いの前だ。きっと熾烈な戦いになるし、早く寝たほうがいいんじゃないかな?」

 

 俺は話題を切り替えるために、そう話を切り出した。

 そろそろ日も暮れてきた頃だった。

 

「……そうですね、そろそろ3度目の休憩を行いましょうか。霊亀はまもなくメルロマルクまで突入するはずです。イワタニ様、ソースケ様も今夜はゆっくりお休みになられて、英気を養ってくださいませ」

 

 女王陛下がそう言って合図をすると、同乗していた兵士が笛を鳴らす。

 こうして、3度目の休憩を行うことになったのだった。

 

 

 

 ……菊池宗介の精神は、破綻の一歩前の状態だと、岩谷尚文はそう感じた。

 宗介が見せた、一瞬の虚無の表情がそれを雄弁に物語っていた。

 本人は全く気が付いていないが、そもそも戦いの世界に身を置いていなかった日本人が、あれだけの大量殺人をおこなっておいて、まともな状態のはずがないのだ。

 

 宗介の破綻はレイファも、リノアも気が付いていた。

 いつも通りに接するようにしていたのは、宗介本人が気が付いていないから、そして、それをケアするには十分な時間がないからだった。

 レイファ達も追われる身となり、その後すぐに霊亀との戦いになったのだ。

 

 とは言っても、宗介は貴重な戦力である事に変わりはなかった。

 単身で一騎当千の活躍ができるからこそ、この崩壊に瀕した世界では、必要とされるのだ。

 

 

 メルロマルク城を出発して1日。

 宗介の精神状態は置き去りに、事態は着々と動いていくのであった。




オリジナルです。
まあ、ここで挟んでおいたほうが良いかなと思いました。


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暴君霊亀

 いよいよ持って報告からメルロマルク王国の領内にまで霊亀は進撃していた。

 現在、霊亀は人の多い地域を重点的に回っているらしい。

 わかっていたことではあるが、前回よりも強力な攻撃を放っていて、被害が甚大になっているようである。

 

「現在、霊亀はメルロマルク国内に侵入、少しずつ城に向かって移動しているとのことです」

「そうですか……」

 

 馬車の中で女王陛下が地図を広げて霊亀の所在と進行先を指し示す。

 それは現在地点から近く、まもなく目視できるであろう位置まで接近していた。

 

「既に国内でも相当の被害が出ています」

 

 悔しそうに女王陛下が告げる。

 まあ、あんな攻撃、一般人が耐え切れるほどHPを持っているわけじゃ無いからな。

 俺でも瀕死になるレベルならば、一般人なら一瞬で蒸発するだろう。

 

「で? 霊亀は正しい倒し方でないと止まらないんだったな」

「はい」

「前回は頭を飛ばして仕留めたが、心臓と同時に頭を消しとばす必要があると?」

「方法については失伝していますので、確かとは言えません」

「しかし、頭を飛ばしても再生するのか……」

「連合軍からも同様の報告が上がっていますね。切断された霊亀の胴体から頭が生えて起き上がったと言う話です」

 

 尚文は女王陛下の報告にため息をつく。

 

「で、他の七星勇者の方はどうなっているんだ? わかっているやつ……例えばタクトだったか? も居るんだろう?」

「霊亀が封じられた国で調査をしていたために、こちらに駆けつけるには時間がかかるとのことで……」

「役に立たないな……」

 

 タクトはともかく、この頃の七星は小手と馬車以外は何をしていたんだろうね? 

 タクトはどうせ、知ったこっちゃないと言うか、この頃に他の七星武器の回収でもしていそうだけれどね。

 なので俺も首を横の振る。

 

「なあ女王」

「なんでしょうか?」

「投擲具以外の七星勇者はどれぐらい強いんだ?」

 

 尚文の問いに女王陛下は考え込んだ。

 現時点で言うならば、尚文が一番強いだろう。

 タクトもまあ、雑魚だけれども、麒麟を一撃で仕留められるので、それなりの強さはありそうだ。

 対人戦はあまりにもお粗末で、金剛寺と戦ったとしたら、一瞬で粉砕されるだろうけれども……。

 おや、金剛寺と比べたらダメだな。次元が違いすぎる。

 

「正直に申し上げてよろしいでしょうか?」

「ああ」

「イワタニ様ほどの強さは、私が見た限りではありません。匹敵しそうだったのがソースケ様でしたが、現在では七星勇者ではありませんので除外させていただきますが……。もちろん、全ての実力を見たわけではないのでわかりかねますが」

「……そうか」

「少なくとも、ラフタリアさんやフィーロさんほどの強さはあるかと思われます」

 

 タクトに関してそうならば、俺はどれぐらい強いのだろうか? 

 まあ、俺は対人戦特化だし一概に比較するのは難しいのだろうけれどね。

 ……ラフタリアと戦うのを想像して、少しワクワクしてしまった。

 いかんいかん。

 

「前回と同じく──」

 

 と、尚文が切り出そうとしたところ、フィーロが声をあげる。

 

「ごしゅじんさま! あれ!」

「なんだフィーロ?」

 

 おそらく、霊亀ミサイルが発射されたのだろう。

 全員が馬車からフィーロの指さす方向を見る。

 ……それにしても、この馬車広いなぁ。

 あたりの森から鳥型の魔物が羽ばたく音が聞こえる。

 ヒュ────────っと音がしたかと思うと、何かが着弾した音が聞こえる。

 そして、その衝撃で馬車が揺れる。

 数瞬後、連続で

 ドムゥォ────────────────

 と、まるで核爆弾でも爆発したかのような音が響いてくる。

 

「な、何が起こっているんだ?」

 

 個人的には、ゲッターミサイルや地のディノディロスの攻撃を思い出させる。

 

「ふぇぇ……怖いですぅ」

「リーシア、脅えてはダメだぞ」

「そうですじゃ、どうやらワシ達はあの爆発が起こったところへ行くようですじゃ」

「ふぇえええ!」

 

 リーシア、エクレール、婆さんが話している。

 婆さん、俺を見た瞬間に悲しそうな目をして、「気の修行は十分ですじゃ」と寂しそうに呟いたのは、なんだったのだろうか? 

 

「なあ……もしかして、アレって霊亀の攻撃か?」

 

 俺を見て、聞いてくる。

 そんな俺の回答を遮るように、女王陛下が見解を述べる。

 

「ええと……集団合成儀式魔法に『隕石』と呼ばれるものがあります。先行した連合軍が行ったものだと思われます」

 

 女王陛下は冷や汗を流しながら、そう誤魔化すような回答をした。

 その回答に、俺は首を横に振る。

 そそて、フィーロも違うと指摘する。

 

「んー? あのね、ごしゅじんさま」

「なんだ?」

「多分、違うと思うよ。魔法とは何か違う感じがするよ」

「いやいや、幾らなんでもアレが魔法じゃないならなんだってんだ。俺の世界でも重兵器クラスだぞ!」

「まさか……」

 

 オストがワナワナと震える。

 言いにくそうなので俺が端的に答えるとしよう。

 

「その通りだ、尚文。アレはそう言うものだ。あの兵器で、爆撃した地点の命を刈り取っているんだよ」

 

 全員が、オストは顔を青くしていたが、全員が驚愕の表情をしていた。

 ついてきているレイファ達を連れてきて大丈夫かなと、少し不安になった。

 やはり、あの時逃さずにキョウをぶち殺すべきだったよなと思う。

 満身創痍だったので、正直アレが限界だったが。

 

 馬車が開けて見晴らしのいい場所に辿り着いたので、全員が降りて被害状況の確認をする。

 そこには、綺麗に空いたクレーターは複数、まるで本当に何度も隕石が落下したかのように、ぽっかりと出来ていた。

 そこにあったはずの村や街は当然ながら蒸発していることだろう。

 魔物の集落さえ、消滅していた。

 

「おい。霊亀ってあの山のように大きな……ただ歩くだけで災害を起こしているような魔物じゃなかったのか?」

「私の本体は乗っ取られております……。どうか盾の勇者様、私を倒してください」

 

 クレーターの間を悠々と歩く霊亀。

 その姿は、悍ましいものに変貌していた。

 まるで狂犬病にでもかかったかのように口を開けてよだれを垂らしながら、目を赤く光らせてドスンドスンと地鳴らしをしている。

 背中の甲羅には、霊亀ミサイルが多数搭載されており、トゲが覆っていて元々あった遺跡は殆どが剥がれ落ちてしまっていた。

 

 勝てる見込みは無いだろうね。

 少なくとも、全ての質量兵器の回避前提なら勝機はあるだろうが。

 

 全員が唖然としてみていると、暴走霊亀が不意に立ち止まる。

 

「なんだ……?」

 

 その直後、霊亀の背中からミサイルが放たれる。

 こんな遠く離れた場所でもヒュ────────ンと音がして着弾し、周辺を爆散させていく。

 ビリビリと音の衝撃がものすごい。

 アレは直撃を貰えば消滅するな……。

 

「よし! 連合軍はどこだ?」

 

 尚文は気持ちを切り替えたのか、女王陛下にそう尋ねる。

 

「あちらです!」

 

 女王陛下が指さす方を見ると、連合軍は霊亀を遠巻きにして分散陣形を取り移動しているようだった。

 おそらく優秀な奴が、霊亀の命の多いところを狙う習性を見抜いて、分散してターゲットが固まらないようにしているようだ。

 

「とりあえず合流を急ぐ。フィーロ!」

「うん!」

 

 俺達は各自馬車に乗り込み、急いで連合軍の陣地まで移動を開始したのであった。




これ、ほとんど原作まんまやん!!
て思った方、おおよそその通りです…
とは言っても、地の文は宗介目線だけどね!!!


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被害甚大

「ちょっと! ソースケ! アレどうすんのよ!」

 

 ラヴァイトの馬車に戻ったところ、リノアが大慌てで詰め寄ってきた。

 連合軍の馬車では、再度作戦会議が開かれている。

 移動しながら、情報を整理すると言うことらしい。

 俺ができることは特に何もないので、自分の馬車に戻ってきたと言うことだった。

 

「落ち着け、リノア」

「落ち着いてらんないわよ! あんなの、どうやって倒すって言うのよ!! 死ぬ! 本当に死んじゃうわよ!」

 

 リノアが泣きじゃくりながら騒いでいるおかげで、他の全員が少なくとも冷静になれているようだった。

 とは言っても、この馬車に乗っているのは俺とレイファ、リノアとアーシャだけだが。

 

「大丈夫だ。盾の勇者様が何とかしてくれるって。まあ、俺も微力ながら手伝うけれどね」

「……ソースケ」

 

 俺の言葉に、リノアは眉を顰めて忠言する。

 

「ソースケ、あんたは別に休んでも良いのよ? 盾の勇者様に全部任せて、逃げたって誰も文句は言わないと思うわ」

「うん、私もそう思うよ、ソースケ」

 

 流石の今回はどうしようも無い。

 こんなのリアルで見れば諦めの雰囲気が出るのもわかる。

 だが、力あるものの責務と言うものも存在するのだ。

 確かに、盾の勇者に任せてしまっても問題ないだろう。

 そう、何も問題は無い。

 だが、逃げた奴はどう思われるだろうか? 

 ただでさえ、《首狩り》のソースケと呼ばれるほどには有名なのだ。

 それに、俺の存在意義は戦いの中にある気がする。

 逃げると言う選択肢は俺には無かった。

 ただ、レイファ達を逃すのは、それは問題ないと思う。

 

「……じゃあ、レイファ達だけで逃げるか?」

 

 俺がそう言うと、3人とも否定する。

 

「それはダメだよ! ソースケを見捨てるなんて!」

「そうよ! ソースケ、一人にしておくなんてできるわけないじゃ無い!」

「私も、ソースケ様の側を離れるつもりはありません」

「お、おう……」

「それに、ライシェルさんもソースケの事を心配していたよ?」

 

 うーん、何故だか心配されすぎている気がする。

 それこそ、俺を見捨てて逃げても問題ないのにね。

 

「オイラも、ソースケをまもるよ! ゴシュジンサマといっしょにね!」

 

 ラヴァイトも馬車を引きながら、そう言う。

 まったく、お節介だなぁなんて思いながらも、俺が守ると改めて決める。

 恩には恩で返すのだ。

 そして、改めてあの戦いでキョウをぶち殺そうと決める。

 だが、運命的には結局最後の最後で取り逃しそうな気もしないでも無いが、最低でも腕の1本は切断するつもりだった。

 

「わかった、頼りにしているよ」

 

 なので、俺はこう返す他なかった。

 と、フィーロの引く馬車が近づいてきた。

 

「宗介、作戦を伝えるからこっちに乗ってくれ」

 

 作戦会議が終わったらしい尚文が、俺に声をかけたのだった。

 

「ああ、わかった」

「私も行くわ」

 

 俺はうなずいて、フィーロの方の馬車に乗りうつった。

 リノアも、身軽さを利用して飛び移る。

 

「それでは、私とレイファはこちらに残りましょう」

「よろしく頼む」

「うん、任せて!」

 

 ラヴァイトの馬車をアーシャとレイファに任せて、俺は尚文達と打ち合わせをすることになった。

 尚文に作戦を軽く説明を受ける。

 まあ、何も決まっていない事が改めてわかっただけだったが。

 それにしても、またまたこんなにも本編に食い込んでしまったな……。どうなっているんだ、俺の運命は? 

 

「もう少し進んだところで挑むことになった。次に霊亀が歩き始めるのが作戦開始の合図だな」

 

 尚文は霊亀の様子を馬車の中から確認しながら、最終的なまとめに入った。

 俺が盾の勇者の馬車にお邪魔していると言うことは、つまり俺も先制攻撃隊の一員なのだろう。

 霊亀が立ち止まった周囲で起こっている事をオストが開示する。

 

「大地の力を吸収して、あの攻撃を放つための準備をしているようです。ご注意ください」

 

 完全に尚文に向かってそう言うオストは、誰がこの物語の主人公であるかを理解しているように感じた。

 そうなんだよ。俺はこの物語の異物、二次創作のオリ主的立ち位置なんだよ。

 

「あの攻撃って背中の棘を射出するやつか?」

「はい」

「今のうちに打って出たほうがいいか?」

「……すぐに打って出られるなら望ましいですが、無理ならやるべきではありません」

「なんでだ?」

「もう少し移動すれば大地の力が少ない場所です。そこなら補充されることも少ないからです」

「ほう……ところで大地の力とやらはなんだ?」

「人間の言葉で言うならば経験値……そして大地に溶け込む魔力の二つです」

「じゃあ、待ったほうが得策だな?」

「はい、できる限りこちらも準備をしていった方がいいかと思います」

「わかった」

 

 そんな、重要そうな会話を尚文とオストはしていた。

 リノアは、二人の話を聞いて身震いする。

 

「……ホント、世界の危機じゃなかったら、こんな戦いに参加するのはごめん被りたいわね」

「まったくだ。勇者の力も無くなった今、俺にできることなんて高が知れているだろうにな」

「……そんな事は無いと思うけど」

 

 リノアがなんでそんな事を言ったのかわからないが、ここまできた以上は俺たちはどう足掻いても暴走霊亀との前哨戦を生き残る必要があった。

 あんな核ミサイルを乱発してくる相手に、戦う必要があるのである。

 フィトリアが来るまでの時間稼ぎとはいえ、俺にとって苦しい戦いになるのは間違い無いだろう。

 俺は焦燥を感じながら、尚文の馬車の中で霊亀のいる方角を見るのだった。




遅くなりました!
今後は不定期に更新しますが、最低月1は更新しますのでご了承をば!


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