波の尖兵の意趣返し (ちびだいず)
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転生したら波の尖兵だった件
プロローグ


「ん?」

 

 俺は紀伊国屋書店にラノベを買いにやってきていた。

 俺、菊池宗介は大学2年生だ。人よりも多少、オタクであると言う自覚はある。

 様々な漫画に小説、アニメ、オタク文化に出会ってから、人に【本の虫】と呼ばれるくらいには熱中して生きている。

 俺は絶賛一人暮らしをしており、漫研にバイトと忙しく暮らしていた。一応俺にも弟がおり、たまにLINEで連絡を取り合ったりする程度には仲が良い。

 弟は俺よりも勤勉で頭が良く、医学部を目指して絶賛勉強中である。そんな弟が、俺に紹介してくれた小説から、俺はオタク文化に染まっていったと言っても過言ではない。

 

「兄ちゃん、この小説面白いよ」

「ふーん、どんな?」

「盾の勇者の成り上がりってweb小説」

 

 当時はまだ連載中だったと思うが、今となってはアニメ化までされた有名な小説だった。それを読んでから俺はweb小説にハマっていった。

 そこからラノベにはまり、俺は見事にオタク文化に浸ったのだった。

 さて、話は脱線したが、その日、紀伊国屋書店にライトノベルを買いに来ていた。

【盾の勇者の成り上がり】の22巻が発売されたからなのだが、それを購入するためだ。

 バイトも塾講師をやっているので懐に余裕があるし、学費や家賃、水道光熱費は親が払ってくれているからな。お陰で趣味に使えるお金は自分でちゃんと稼いでいる。

 ネットゲームはPSO2ぐらいしかやっていないが、この時間に初めてもチームメンバーは誰もログインしていないからな。

 夏コミや冬コミは基本的に行かない質なので、基本漫研で小説を書いているかイラストを描いて漫研の同人誌の一ページに貢献するだけである。

 そんな充実した日常を送っている俺であるが、今日は珍しく1日何も無い日であった。他の部活も合気道サークルをやってたりするのだが、今日は稽古もなかった。

 そのため、絶賛リアルを持て余していた。

 で、問題はここからであった。

 事件はまさに、この後起こったのだった。

 俺は【盾の勇者の成り上がり22巻】を購入し、立ち読みをしながら帰宅の途についていた。これは俺の特技だが、本を読みながらでも周りをちゃんと見ることができる。真似してはいけないけれどね。

 だから、俺の不注意でトラックやダンプカーに引かれるなんて事は絶対ないし、むしろ車道を渡るときはちゃんと前を見て歩く。

 だから、俺は目の前を根暗な奴が歩いて車道に飛び出したのを、見てしまったのだ。

 

「おい、危ないぞ」

「は?」

 

 そいつは、車道を歩きながら俺に抗議した。

 

「誰テメェ超ウザいんだけど。俺様に話しかけないでくれるかな?」

 

 俺はそいつの言葉にイラッとした。

 しかし、次の瞬間にブブーっと音がした。振り向くとトラックが猛スピードでこちらに突っ込んできたのだ。

 

「おい、危ない!!」

 

 俺は思わずそいつを突き出した。それがいけなかったのだろう。

 そいつではなく、俺が、トラックに跳ねられたからだ。

 体に衝撃が走り、一瞬で意識が刈り取られたのだった。

 まさか、これが俺の不幸の始まりだなんて思っても見なかった。




読んでいただきありがとうございます!
リスペクトして書いていきたいと思います!


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王道的異世界転移

「菊池宗介さん、あなたは死んでしまいました」

 

 目の前に、美しい女性が立っていた。

 なんと表現したらいいのだろう? 

 アニメで例えるなら、そう、ミレリア=Q=メルロマルクを思い起こさせる姿をしている。

 過剰とも言えるレベルで豪勢な服を着た女だった。それはその女性に似合っており、女性の美しさを引き立てている……いや、むしろその飾りが脇役か端役であるような印象を受ける女性であった。

 

「こちらの不手際で、申し訳ありませんがあなたを死なせてしまいました」

 

 そう告げる女性であるが、ちっとも申し訳なさそうである。

 

「えっと、俺はさっきトラックに跳ねられて死んだということですか?」

「ええ、その認識で間違いありません」

 

 あの強烈な痛みを思い出せば、確かに俺は死んだのだろう。

 せっかく【盾の勇者の成り上がり22巻】を購入して、まだ40ページまでしか読んでいなかったというのに……。残念である。

 

「わかりました。手違いでも死亡は死亡。俺はこれからどうなるのですか?」

「はい、あなたには記憶をそのままに転生していただこうかと思っていますわ」

「転生?」

 

 嫌な予感がする。

 どうにも【盾の勇者の成り上がり】を読んでいたせいか、俺は転生というものは拒否感があった。いや、【盾の勇者】世界じゃないなら文句は言わない。

 だが、【盾の勇者】世界や【狩猟具の勇者】世界に転生でもしてみろ。

 きっと待っているのはDEADENDである。

 なので、俺はこう申告することにした。

 

「あのー、菊池宗介のまま転生……つまりは異世界転移ってできないですか?」

 

 そう、転生して【ソウルイータースピア】で突き刺されるよりはマシである。と結論づけて、俺は転移を望んだのだ。

 女神と思わしき女性は少し考えると、肯首する。

 

「ええ、可能ですわ」

「そ、そうか。それなら良かった」

 

 俺はホッとする。それならば見ただけで転移者とわかるし、【試しにソウルイータースピアで突いてみよう】とはならないはずだ。

 これは、【槍の勇者のやり直し】のフォーブレイ編での出来事であるが、転生者をあぶり出すためにソウルバキューマーと言う魔物に魂を吸わせて、転生者をあぶり出すと言う方法がある。この時、槍の勇者がソウルイータースピアで突き刺して魂を爆散させるエピソードがあるのだ。

 魂ごと消されるなんてたまったものではない! 

 

「では、そんな謙虚なあなたには、転生特典としてあるチートを授けます」

「いや、いらないです」

 

 俺はソッコーでお断りする。

 どう言うチートかしらないが、俺は努力を積み重ねて強くなる方が好きなのだ。

 だが、この女神様っぽい女性は話を聞かないタイプであった。

 

「気に入りましたわ! では、あなたには4つの【勇者の武器】を装備できるチートを授けましょう!」

「……え?」

 

 おい、【勇者の武器】と言わなかったか? 

 まさか、俺の目の前にいるのは■■■■・■■■・■■■■■じゃないのか?! 

 ちなみに伏せたのは俺の意思である。

 詳しくはweb小説版を見てね。

 さて、【勇者の武器】と言うのは、世界を守る精霊の力である。

 これが意味することは、すなわち。俺がこれから転移する先は、【盾の勇者の成り上がり】世界ということになる。

 そして、目の前で微笑むアレは【神を僭称する者】だ。

 つまり、俺は【波の尖兵】としてどこかの世界に送り込まれるのだろう。

 もしかしたら、これは俺の目の前にいたイラつく中年のオッサンを助けてしまった報いなのかもしれない。

 

「では、偉大なる勇者様! これからの人生に幸のあらんことを!」

 

 ことを─ことを─ことを─……。

 俺は拒否をする余裕もなく、何か黒い物を埋め込まれて、どこかの世界に飛ばされたのだった。

 

 スゥッと謎の空間から、俺は菊池宗介のまま草原に立っていた。

 服装も、死んだ時のままの服だし頭を触っても、亜人の耳が付いていたりはしない。

 どこだここは! 

 と言うか、現地人と話せるのか? 

 不安に思いつつ、俺は周囲を見渡す。

 

「うおっ!」

 

 風船みたいな姿をした魔物が現れた。

 そう、俺はこの魔物を知っている! 

 

「ば、バルーン……!」

 

 俺はとっさのことであったが、バルーンの攻撃を受け流す。

 これでも小学生の頃から合気道をやっていて、高校生で初段を取ったのだ! 

 体が覚えているものである。

 バルーンの飛びかかる勢いをそのまま右手に沿わせる。そのまま転換をして、体の向きを変えて、地面に叩きつける。

 くっ、やっぱりそうそう簡単には死にはしないか! 

 

「うりゃ!」

 

 俺は再び飛びかかってきたバルーンに当身を入れる。

 バチーンと音がして再びバルーンが吹っ飛ぶ。

 何度かバルーンとの攻防を繰り返すと、パンっとバルーンは割れてしまい、視界に【EXP 1 】と表示される。

 

「……マジかよ」

 

 俺は息を整えながら、視界の右下に意識を向けると、アイコンが存在するのを確認した。

 これはまさに【ステータス魔法】と言うやつである。

 アイコンを意識すると、視界に俺のステータスが表示される。

 うわ、効果音までアニメまんまじゃないか! 

 

「ここはマジで【盾の勇者の成り上がり】世界なんだな……」

 

 俺は愕然とする。

 それも、【波の尖兵】として【神を僭称する者】に転移させられたのだ。

 おそらくNG行為は、この事を誰かに打ち明ける行為だろう。

 万が一実行しようとすれば、頭が破裂して魂も破裂してしまう。

 文章で伝えるのもできないだろう。

 そう言う意思を持った途端にバーン、GAMEOVERだ。

 俺は恐ろしさにブルっとしてしまう。

 

「……現状確認はできた。それならば、生き残り続けるしかない!」

 

 俺は決意した。

 まあ確かに【やり直し】で赤豚姫スタートよりはマシだろう。

 若干詰みかかっているだけで、完全に詰んでいるわけではない。

【神を僭称する者】がいると言う事は、この世界は最初のループであると考えることができる。

 ならば、俺がやることは、冒険者として愚直に波と戦う事だけだろう。

 波の尖兵としては間違っているが、まあ、あの【神を僭称する者】の事である。【盾の勇者の成り上がり】本編を邪魔さえしなければ問題ないだろう。

 管理も分霊のクズ女に任せているだろうし、ヴィッチに転生者を殺す描写は無かった。

 

「……とにかくなんとかするしかない!」

 

 あえて転移を選んだのなら、自活できる環境を整え、生き残るために努力するだけである。幸いにして俺には、【盾の勇者の成り上がり】のweb版、小説版、書籍版の21巻、【槍の勇者のやり直し】、【真・槍の勇者のやり直し】の伝承のフィロリアル編までの知識はある。

 波が終わるまで、岩谷尚文が【神を僭称する者】を倒す存在になるまで、俺は生き延びる事を硬く胸に誓った。




前提知識は本文内に書いてます。


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ここはどこ

 さて、決意を固めた俺に次の問題が降りかかる。

 ここはどこだ? 

 万が一メルロマルクであるならば、バッドだろう。

 メルロマルクは【三勇教】と言う、剣、弓、槍の勇者を崇拝し、盾の勇者を悪魔とする宗教なのだが、実はこの【三勇教】は冒険者や所在不明な人間を厳しく監視するのだ。

 要するに、メルロマルク内で活動するのは非常に面倒臭いのだ。

 だからこそ、序盤で勇者たちは転生者に襲われないし、順当にレベル上げできたのだ。

 ラルク達【狩猟具の勇者】の世界の勇者達が冒険者としてこの国を訪れたのも、グラスと言う【扇の勇者】から【盾の勇者】の情報を聞いていたからもあるが、女王が復権し、【三勇教】が邪教として表舞台から姿を消したからこそメルロマルク内で活動をするに至ったのだろうと推測する。

 また、シルトヴェルトであるならば、最悪である。

 この国は逆に【盾教】であり、盾の勇者を崇拝している亜人国家だからだ。

 つまり、人間は奴隷狩りに会う可能性が高いと言う事である。

 最良のはゼルトブル、次点がフォーブレイだろう。真ん中がちょうどシルトフリーデンか。

 ゼルトブルならば、あの国は闇の深い国であるから活動しても何ら支障はないだろう。

 フォーブレイは、過ごしやすい国だがあの国は転生者があちこちにいる国だ。独善的でわがままで人の話を聞かないゲーム感覚連中の集まる国ならば、生き残るには問題ないかもしれない。だが、あの国にはタクトがいる。つまりはそう言う事だ。

 シルトフリーデンも同じ理由だ。あの国はネリシェンと言うアオタツ種のタクトのハーレムが治めている国だ。

 

「どちらにしても、人里を探さないとな……」

 

 俺は木の棒を装備する。太くて長くて頑丈そうなものを選んだ。

 すると、ステータスの攻撃力が+2される。

 勇者ではないので視界に映る項目はそこまで多くはない。

 スキルは確か、勇者専用だったっけ……? 

 ちなみに、服は【異世界の服】で防御力は0である。

 これは、わかっていたことではあるけれどね。

 

 しばらく歩いたが、たまにバルーンに遭遇する程度で安全に散策することができたのは行幸だろう。

 盾の勇者である尚文ならば、わんさか出てくるのだろうが、あいにく俺にはそう言う能力はない。あるのは【勇者の武器】を奪うスキルぐらいだろう。

 お酒も飲んだら普通に酔うしね。【弓の勇者】の世界で言う異能力だったか。そう言うものは俺の世界にはなかった。

 今の首相も安倍晋三だし、VRは普通に存在するが、Mixed Realtyレベルである。まだいわゆるVRMMOはあいにくと存在していない。

 最近はVtuberとか流行っていたし、まさに俺の住む世界は平均的日本なのだろう。

 

 そんな事を考えながら森を進んでいくと、一軒の小屋にたどり着いた。

 雰囲気から、人が住んでいそうである。

 

「すみませーん」

 

 俺は言って気づいた。アレ、日本語って通じなくないか? 

 案の定通じなかったらしく、よくわからない言葉で中に居た女性が話しかけてくる。

 

「%▽×◯□」

 

 オウフ……。仕方ない。

 海外で困ったらボディランゲージである! 

 幸いにしてここに住む女性は人間に見えた。

 

「スミマセン、ここは、どこ、ですか?」

「▽□××%◯」

 

 あー、全く分からなかった。

 相手の女性もそれに気づいたのか、少し考えると日本語の発音とは異なるがこう言った。

 

「メルロマルク」

「メルロマルク?!?!」

 

 俺は驚いて尻餅をついてしまった。これは最悪だ。なにせ、本編の舞台であるからだ。

 少しでも干渉すれば、波は解決どころの話ではなくなるからだ。

 それに、盾以外の四聖勇者にヘタに干渉しても不味いだろう。関わり合いにならないためにも、メルロマルクから早急に出た方が良かった。

 

「えっと、さ、サンキュー!」

「%$◯▽□▽!」

 

 女の子に腕を掴まれた。

 彼女もジェスチャーをしてくれるおかげで何を言いたいかが理解できた。

 

「これからすぐに暗くなるから、今夜はここに泊まっていって」

 

 と言っているのだろう。まあ、多分であるが。

 周囲を見渡すと、確かに暗くなり始めていた。

 しかし、女の子が一人でこんな小屋に何故暮らしているのだろうか? 

 疑問はすぐに解消された。

 家主である、女性のお父さんが帰ってきたのだ。

 

「はじめ、まして! 旅人です! えーっと、迷子、です! 今晩は、ここに、泊めてください!」

 

 ジェスチャーを交えながらなんとか相手に伝わり、家主のおじさんは首を縦に振ってくれた。

 勇者というのは精霊が翻訳してくれるらしいので言葉に困らないが、異世界転移の俺はそういうものはないらしく、言葉の壁にぶち当たっていた。

 俺は言葉の分からぬまま、部屋に案内された。

 ここで休めという事だろうか? 

 俺がジェスチャーをしながら確認をすると、首を縦に振ってくれた。

 伝わるまでに10分少々かかるのは不便である。

 だが、なんとなくではあるが法則性がみえては来ていた。メルロマルク語はおそらく英語に近いのだろう。ジェスチャーでやり取りするうちに、主語とか述語とかの位置と、一人称と二人称についてはなんとなくわかってきたぞ! 

 俺はこの優しい二人に言葉を習おうと決めた。それ以外に適任がいるだろうか。

 この機会を逃すすべはない。

 俺は女の子に色々と物を聞いて回ることにしたのだった。




最初にぶつかる壁はやはり言葉です。
ただ、話せないとどうしようもない状況なので、異様に習得が早いです。
ちなみに、チートを拒否らなければオマケで異世界言語解析/会話を覚えられました。


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言葉の壁

 言葉を話せるようになるまで、そう時間はかからなかった。

 と言っても、カタコトぐらいならわかるし話せる程度ではあるけれどもね。

 いや、【神を僭称する者】だったら翻訳ボーナスぐらいつけてよと思ったのだった。何故こんな事で苦労せねばならないのか。

 

「ソースケ、オハヨ」

「おはよう、レイファ」

 

 俺を泊めてくれた女の子、名前はレイファと言うらしい。

 父親の名前はドラルと言う。実際のフルネームが聞き取れるほど習熟はしてないからね。

 

「今日、言葉、学ぶ?」

「うん、お願い」

 

 というわけで、献身的にレイファは俺に言葉を教えてくれた。それがなんの得にもならないだろうに、教えてくれる彼女に俺は感謝でいっぱいだった。

 ドラルさんも言葉はあまり分からないが、ご飯と宿を分けてくれるのでありがたかった。

 

「言葉、わからない、仕事、できない。言葉、覚える、早く」

 

 とのお達しだったので、俺は力を入れて言葉の学習に励んでいた。

 流石に、家事はわかるので、レイファの手伝いをしながら言葉を覚えたんだけれどな。

 ちなみに、さっきのお達しはレイファのおかげで理解できた。

 それからおよそ8日も経過していた。おかげで、俺はメルロマルク語の会話が、幼稚園生レベルではあるけれどもできるようになっていた。

 

「おはよう、ソースケ」

「ああ、おはよう、レイファ」

 

 会話ができるってこれほど素晴らしい事だったのか! 

 俺は心が躍る。

 

「ふむ、これならようやく仕事を任せてもいいな」

 

 ドラルさんは俺と少し会話すると、そんな事を言った。

 そりゃまあ、働かざる者食うべからずである。

 異世界生活初日から言葉がわからないとかよくわからない状況だったしな。

 ドラルさんは俺に剣を渡してくれた。

 

「これは?」

「レベル必要、あー、魔物、狩る。素材、渡す。オーケー?」

 

 つまり、魔物を狩りながらレベル上げをして素材をドラルさんに渡せという事らしい。

 この世界では魔物の素材を売買する仕組みがあるから、それで稼ぐこともできるからな。

 一宿一飯の恩義は返すべきだろう。

 

「わかった」

「レイファ、%◯が心配だから、▽□しろ」

「わかった、お父さん」

 

 レイファは俺の方を向くとこう言った。

 

「私、一緒に、行く」

 

 と、レイファからパーティ申請が飛んできた。

 これがパーティ申請ねぇ。

 もちろん俺はパーティ申請を承認する。

 

「オーケー、行きましょ、ソースケ」

「わかった」

 

 俺は重たい剣を持って立ち上がる。

 片手剣とは言っても重いが、持てないこともない。

 構えは合気道寄りになるけれどね。

 さて、そんなこんなでレイファに連れられて、森の中へとやって来た。

 

「バルーン、いっぱい倒して」

「了解!」

 

 バルーンの残骸は10枚で銅貨2枚だったはずだ。それなりに倒せば、結構稼げるのだろう。

 剣を使っているおかげか、バルーンは容易く倒すことができる。

 重たい片手剣であるが、両手で持てば使えるし、合気道のように剣を力の流れに沿わせることで攻撃するのは容易かった。

 結局、今日一日頑張ってレベルが2になった。

 だが、使い慣れてない剣を使っていたせいか、手にマメができてしまった。

 

『力の根源たる私が命じる。理を今一度読み解き彼の者の傷を癒せ』

「ファスト・ヒール」

 

 レイファはそんな俺の手に回復魔法をかけてくれる。おかげで手の痛みはそこまで気にせずに戦うことができたのは幸いだった。

 ちなみに、魔法名は固有名詞なので聞いたままである。

 そして、詠唱も日本語で聞き取れた。

 設定だと、魔法文字というのはそれぞれに聞き取りやすい言葉で聞こえると言う設定がある。だからこそステータス魔法は俺が使うと日本語で書いてあるのだろう。

 俺はそんな日常を繰り返していた。

 日数にしておよそ10日、異世界に来てから18日が過ぎてしまったが、こう言った生活のおかげか、レベルは5、言葉は日常会話をできるまでになっていた。

 結構な量の魔物を、ウサピルなんかも含めて倒したけれども経験値が渋く、レベルは上がらない。

 そして、レベルアップ時のステータス上昇もそこまで無い。

 これが盾の勇者の世界の一般人かと直面する。

 

 ただ、俺はようやく言葉の壁を乗り越える事ができたのだった。




勇者でないのでハードモードです。


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文字を覚えてみよう

「ソースケ、ソースケは魔法使えないの?」

「いや、使えないぞ」

「ふーん、それじゃあ次は文字を覚えようか」

 

 メルロマルク語の読み書きか。確かに習得した方が良いのだろう。

 実際、盾の勇者も魔法を覚える際に苦労していたしな。

 

「と言っても、言葉を話せるようになったソースケなら、簡単に覚えられると思うけどね」

 

 確かに、簡単な文字程度ならば既に読めている現状である。

 後は単語を覚えていけば良いだろう。

 しかし、改めてレイファを見ると、ブロンズの髪に金色の瞳をした美少女である。年齢は16歳だったかな。俺の年齢が20歳だから、ちょうど良い年齢ではある。まあ、レイファとの関係は兄妹みたいな関係になっていると思う。

 レイファについて説明すると、レイファはドラルさんの娘である。母親は流行病で亡くなっており、父親とこの小屋で二人で生活をしているらしい。

 ドラルさんは木こりをしており、道中で魔物を刈ったりしてそれを売って生計を立てているのだそうだ。

 近くにはセーアエット領があり、領主のいる町で素材の売却をしているとか。

 セーアエット……。いや、わかっている。メルロマルクの過激派にとって目の上のタンコブみたいな場所だ。

 まだこの周辺ぐらいしか行動範囲はないから行ったことはないが。

 さて、話を戻そう。

 レイファは一冊の本を持ってきた。

 表紙を見れば、それが児童文学書であることがわかる。

 パラパラとめくると、剣の勇者様の物語が非常にわかりやすい単語で書かれているのがわかる。

 

「へぇー、確かにこれは読みやすいな」

「でしょ? 私もこの剣の勇者様の本で文字を覚えたのよ」

 

 内容としては、かつて召喚された剣の勇者が青龍と言う守護獣を倒した物語のようである。

 当代の剣の勇者である天木錬もドラゴンを倒しているので、改めて剣の勇者というのはドラゴンに因縁があるのだなと思った。

 そして、守護獣を倒した剣の勇者様はお姫様と末長く暮らしましたと続いている。

 何というか、ドラクエを思い起こさせる王道展開だ。

 イラストも児童向けのイラストだし、読みやすい。文章も綺麗に文法が整っているので、ハッキリとわかる。

 

「……あれ、全部読めちゃったぞ」

「これは結構簡単だもんね。この部屋の本棚に入っている本は読めるようになった方が良いよ」

「そうしたら魔道書も読めるかな?」

「うん、もちろん!」

 

 レイファの笑みに癒される。

 まさに妹といった感じだ。

 異世界に来て妹が出来るとは思っても見なかったが。

 

「あ、あとね、ソースケは勇者様と同じ世界から来たんでしょ?」

「あ、ああ」

 

 誰にまで言いそうになると死ぬから気をつけなければならない。

 

「なら、召喚される勇者様は魔力と言うのがわかんないらしいから、水晶玉で一個魔法を覚えた方が良いってお父さんが言ってた」

「そうなんだ。本当に助かるよ、ありがとう!」

「うん、魔法が使えるようになったら、もっと効率のいい仕事を任せられるってお父さん言ってた!」

「と言っても、俺は勇者の世界から来たとは言っても、勇者じゃないからなぁ……」

「流石にそこはお父さんもわかってるよ」

 

 その日はレイファと家事をしながら本を一日中読んでいた。

 翌日、ドラルさんは俺にこう切り出した。

 

「坊主、メルロマルク語は十分学習したようだな」

「ああ、まだちょっとわからない単語もあるけれど、会話をするのには十分だと思うぜ」

「そうか、ならばセーアエット領城下町に向かうとしよう」

 

 この小屋は別にセーアエット領内には無く、隣のアールシュタッド領内に存在するらしい。いや、聞いたことないんだけど。

 アールシュタッド領城下町よりもセーアエット領城下町の方が近いため、ドラルさんはよく素材や木材を売りに行くらしい。

 

「フィロリアルで3時間ほどだ」

 

 フィロリアルは知っている。

 基本的にドラルさんが世話をしているため、あまり見ることはないが、ライトグレー色のフィロリアルをドラルさんは飼っているのだ。

 名前はラヴァイトと言うらしい。

 確かにダチョウみたいな見た目をしており、健脚な感じがする。

 

「へぇー、コイツがフィロリアルなんだ」

「グアー!」

 

 俺は思わず撫でる。

 羽毛がフワフワしており、人懐っこいことがわかる。

 

「ほう、坊主はフィロリアルを知っているんだな」

「実際に見るのは初めてだけれどな。実際見てみると、結構可愛いんだな」

「グアー」

 

 うーん、フィロリアルの真実がわかる22巻は全て読み終えてないんだよなぁ。

 元になったのは先代の盾の勇者の婚約者だ。

 名前は……最新巻だし伏せておくとしよう。

 今更な気もしないでもないけれどな。

 

「おい、坊主。そろそろ出るぞ」

 

 どうやらドラルさんは荷物を積み終えたらしく、俺に声をかけてきた。

 

「ああ!」

 

 馬車に乗り込むと、ドラルさんが端綱をバンっと鳴らす。

 

「グアー♪」

 

 すると、馬車が進み出した。

 

「ソースケはフィロリアル好きなんだね!」

「うーん、まあね」

 

 どちらでもないけれど、俺はモフモフは好きだった。

 触り心地が良いからね。

 

「それじゃ、到着まで3時間だ。それまでゆっくりしてろ。レイファも坊主が酔わないように話し相手をしてやれ」

「はーい」

 

 と、そんな感じで俺たちはセーアエット領城下町まで向かったのだった。




受験勉強で書きながら読みながら英単語を覚えますからね。
剣の勇者のおとぎ話はオリジナル要素です。
23巻の内容によっては変えると思います。


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魔法を使ってみよう

 おええええ……。

 俺はフィロリアルの引く馬車で完全に車酔いをしていた。

 なんと言っても揺れが激しいのだ。

 いちいち揺れが激しい。

 馬車が安物だと言う点も、乗り心地の悪さに拍車をかけていた。

 

「ソースケ、大丈夫?」

「おええええええええ……」

 

 俺は嗚咽を漏らしながらうずくまっていた。

 

「坊主、慣れればなんと言うことはない。レイファ、坊主に酔いを治す魔法をかけてやれ」

「うん、お父さん」

 

 そう言うと、レイファは俺に手をかざす。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、彼の者の酔いを癒せ』

「ファスト・キュア」

 

 初めて聞く魔法である。

 盾の勇者の成り上がりには出てこないのかな? 

 かけてもらうと車酔いがかなり引いた。

 

「あ、ありがとう、レイファ」

「うん、お安い御用よ。私も初めてフィロリアルの馬車に乗ったとき、酔いつぶれちゃったもの」

 

 天使のように微笑むレイファ。この子を守らないとなと改めて思う。

 幸いにして現状俺は人の話を聞き入れることができるらしい。

 まあ、いわゆる【事前知識】……ゲームの世界と思い込み要素は無いし、その後の運命をある程度知っていると言うのもある。

 それに、俺の周りには現状ヴィッチが居ないのも、認識の阻害を受けるのを防いでいると言えるだろう。

 あのおっさんだったら、きっと今頃ヴィッチと合流して、傲慢なままゲームの世界と思い込んでいたに違いなかった。

 

「酔いが治ったのなら行くぞ」

「はい!」

 

 俺は再度フィロリアルの馬車に乗る。

 それから、しばらく馬車の旅を楽しんでいると、セーアエット領城下町が見えてくる。

 遠目に見た感じだと、バイオプラントの木もなさそうに見える。普通に石造りの西洋風の街並みだ。

 ……時期的にはいつぐらいだろうか? 

 

「あのさ、レイファ」

「どうしたの? ソースケ」

「セーアエット領って波は起きていないのか?」

「波……ああ、厄災の波ね。喫緊だとフォーブレイで発生したって聞いたけれど、メルロマルクではまだ起こっていないわ」

 

【波】と言うのは、世界融合現象の事だ。何らかの理由で世界と世界がぶつかると、【波】が発生する。

 ディメンションウェーブといった方が日本人の感覚に近いだろう。

 この世界では【災厄の波】と呼ばれる。

 はっきり言えば、web版なら俺を転生させたやつのせいなんだけどね。書籍版の世界だとちょっとわからない。他に黒幕いるらしいし。

 話を戻そう。

 現時点でメルロマルクでは波は発生していないらしい。

 と言うことは、時間軸的には四聖勇者達が召喚される前と言うことになる。

 

「ふーん、教えてくれてありがとう」

「うんん、大丈夫だよ」

 

 レイファは素直で可愛い。本当に理想の妹みたいだ。

 思わず俺はレイファの頭を撫でていた。

 

「えへへ」

 

 可愛い。

 この世界でレイファのために生きるのもアリかもしれない。

 レイファのお兄さんとして生きていくのだ! 

 基本好き勝手していいわけだしね。

 思惑通りでないと思うけれども、知らんな。

 

「魔法屋に行くぞ。坊主、付いて来い」

「ああ、わかった」

 

 魔法屋は男性の魔法使いが受付をしていた。

 所狭しと魔道書や水晶玉が並んでおり、魔法屋と言われて納得する。

 

「おお、ドラル。お前さんがこの店に来るとは珍しいな!」

「ああ、実はコイツの魔法適性を見てやって欲しくてな」

「銀貨1枚だ」

「ああ」

 

 ドラルさんと魔法屋のおじさんはどうやら顔見知りらしい。

 が、金銭のやり取りはキッチリする間柄でもあるようだ。

 

「さて、君は勇者様の世界から来た少年だね」

「実際どうかはわからないけど、一応そう言うことらしいですね。俺は菊池宗介と言います」

「ふむ、おとぎ話に出てくる勇者の命名法則と同じだね」

 

 それにしても、何で日本出身者ばかりが波の尖兵や勇者として送り込まれるのだろうか? 

 まだ明らかになってないまま来てしまったので、知る由はないんだがな。

 

「さて、この水晶で少年の適正魔法を占おう。手をかざしてごらんなさい」

「こ、こうか?」

 

 んー? 

 かざしたところで、俺からは何もわからなかった。

 

「ふむ、少年は雷と補助に適性があるようだね」

「雷と補助……」

 

 まあ、実感はわかないよな。

 

「補助は持っているが、あいにくと雷の魔道書は持っていないな」

 

 ドラルさんはそう言って、銀貨を追加で2枚机に置く。

 

「それじゃあ、ファスト・サンダーの水晶玉をくれ。魔法の感覚を覚えさせたいからな」

「んー、あいよ。まあそんなものか」

 

 魔法のおやじさんはそう言うと、水晶玉を取り出した。

 

「そいつを持ってみな」

「あ、ああ」

 

 水晶玉を持つと、何かが流れ込んでくる。

 ほうほう、なるほど。魔法はこうやって使うのか。

 確かに第三の手を操作するイメージである。

 合気道の身体の使い方と同じように、今までに使っていなかった筋肉を動かすような感覚だ。

 

「ここで試されても困るから、店の裏手の広場で試してきたらどうだい?」

「そうさせてもらう」

 

 俺は感覚を忘れないためにも、イメージをしながら店の裏手まで回る。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を読み解き、彼の者に雷の洗礼を与えよ』

 

 魔法を唱える。これは確かに自動で詠唱が出てくる感じだ。

 唱えた瞬間に見えるターゲットカーソルを広場の中央に指定する。

 

「ファスト・サンダー」

 

 バチンと小さな落雷が発生する。

 おお! これが攻撃魔法なんだ! 

 俺は感動して思わずガッツポーズをしてしまった。




なんだかんだ言って順調な異世界生活です。


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波の前のセーアエット領

 魔法を覚えた俺は、ドラルさん、レイファと一緒に街を歩いていた。

 

「坊主の狩った魔物の素材を売りに行く」

 

 との事で、俺たちは付き添いである。

 セーアエット領城下町はそれなりに栄えている。

 アニメで見たメルロマルク城下町ほどではないけれども、普通に都市として機能しているようだ。周囲を見渡せば亜人の冒険者や商人の姿を見ることができる。

 亜人と言うのは、この世界では人間に尻尾やケモミミなど人間にない部位が発現している種族の総称である。

 ちなみにレイファやドラルさんは、人間である。

 

「ああ、だから馬車に色々積み込んでいたのか」

 

 俺は納得する。

 ダッダッとラヴァイトが馬車を引いてこっちに向かってきていた。

 

「グアー」

「よしよし」

 

 ドラルさんはラヴァイトを撫でると、馬車に乗って荷物を降ろす。

 

「坊主、手伝え」

「あ、ああ」

 

 俺もドラルさんを習い、馬車に乗り込み積荷を降ろす。

 

「ドラル!」

「買取商か」

 

 買取商らしき、商人と言った出で立ちの恰幅のいいおじさんがやってくる。

 

「買い取って欲しい魔物の素材が溜まったのでな」

「ああ、連絡は聞いていたからな」

 

 買取商が声を出すと、店員っぽい服装をした人が下ろした積荷を店の中に運んでいく。

 

「しかし、たまにしか売りに来ないが今回はえらい量だな」

「ああ、そいつを世話しててな。武器を選ばず魔物を倒せるから、素材収集を任せている」

 

 おそらく俺のことだろう。俺はどの武器を使ってもしっくり来ない。一応、ドラルさんに言われて剣、槍、弓全てを使うようにしているが、どうにもしっくり来ない。

 単に鍛錬不足だろうがな。

 レベルさえ上げればだんだん武器が使いこなせるような気になってくるのが恐ろしいところである。

 そして、昔はそこまでではなかったのだけれども、つい調子に乗ってしまいがちになっている気がする。

 褒められて嬉しいのは当然だが、気をつけないと天狗になってしまいそうになる。

 

「……確かに、人手が増えたらできることも増えるからな。ここ最近だと波の影響か魔物が活性化しているにもかかわらず経験値は変わらない状態が続いているからな。そうやって地道に魔物を討伐するのは良いことだろうな」

 

 買取商はそう言いつつも運び込まれる魔物の素材をつぶさに観察している。

 

「おっと、あの素材は傷みが激しくて引き取れそうにないな」

 

 そう言って、ウサピルの毛皮を荷物から取り出す。

 確かに言われてみればあのウサピルの皮は他と比べて毛並みが悪く見える。

 

「そう言うのは捨ててもらって構わない」

「そうかい」

 

 しばらく馬車から荷物を降ろしていると、最後の荷物になっていた。

 

「ふむ、これで終わりだな」

「そうだな、疲れたー」

 

 俺は馬車の端で座って足をぶらぶらさせる。

 

「では、清算に1時間ほどかかると思うからそれまでの間は自由にしていたらいい」

「わかった。それではその間飯にでも行くとしよう」

 

 と言うわけで、俺たちは食事に向かった。

 向かったのは良くある飲食店だ。

 中世のレストランという感じがする。

 中に入ると、アニメで見たメルロマルク城下町の飲食店と似たような内装の店だった。

 

「へぇ……。なんかすごいな!」

 

 こう、改めて異世界に来たんだとワクワクする。

 

「そう? まあ、ソースケにとっては珍しいかも」

「まあな。味はなれないけれど、それなりには美味しいし」

 

 店売りの食べ物は初めてだけれどな。

 

「いらっしゃいませ」

「定食ランチ3」

「銅貨24枚です」

 

 チャリっとドラルさんは財布から銅貨を取り出す。

 

「はい、定食ランチ3人前ー!」

 

 しばらく待っていると、定食ランチというものが出てきた。

 食用のフィロリアルのモモ肉のステーキ、サラダにスープ、パンのセットである。

 なかなか美味しそうである。

 フィロリアルはアリア種はこうやって食用にされるんだっけな。

 フィーロたんも、魔物の卵ガチャで売れなかったら食用フィロリアルになるのだろう。

 味付けは、日本人の舌からすれば変わった味付けである。

 ステーキソースも、サラダにかかったドレッシングもスープの味も若干イメージと違う。

 

「どう? 美味しい?」

「ああ、美味しいよ」

「えへへ、それは良かった!」

 

 レイファはニコニコしながらご飯を美味しそうに食べる。

 その顔は幸せそうで、食事を楽しんでいるのだなと感じる。

 メシの顔と言う奴だな。

 俺はレイファの顔を見るだけで癒される。

 

「さて、坊主。清算にはまだ時間に余裕があるから、お前の武器を見繕うとしようか」

「ああ、ドラルさん、何から何までありがとう」

「ふっ、これも先行投資だ。強い獲物を狩って、よりいい素材を売れれば、俺としてもお前に投資した甲斐があるからな」

 

 どうやら俺はドラルさんから期待されているようである。

 何故だろうか? 

 

「勇者の世界から来た勇者様ってのは決まって優秀だからな。四聖勇者様はまだ召喚されていないし、七聖勇者様も杖、鞭、爪、投擲具以外はまだ召喚に至っていないと言われているから、坊主も七星勇者様の武具に呼ばれたのかもしれないと思ってだ」

 

 申し訳ない気がした。

 俺は、おそらくあの自己中おっさんと間違えられて、神を僭称する者に転移させられただけである。

 だが、期待を裏切るのは良くない。

 勇者の補正が受けれない分自力で頑張る以外に道はないだろう。

 

「じゃあ、新しい剣、槍、弓を見繕いに行くぞ」

 

 食事を終えた俺たちは、武器屋に移動するのであった。




アンケート設置しました!
良かったらお答えください!

ちなみに、菊池宗介はあの時点で波の尖兵を庇って死ななければ別の世界の聖武器に選定されてもおかしくは無い人物です。


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4つの武器

 武器屋はどうやら亜人のルーモ種と呼ばれる種族が営んでいた。

 イミアの叔父、トゥーリナだっけ? その人がどうやら営んでいるらしい。

 まだ、波が起こる前みたいだし、そう言うこともあるだろう。

 やり直しでも、ルーモ種はメルロマルクのセーアエット領にいた描写があるしね。

 

「いらっしゃい」

「すまないが、この坊主の武器を注文したい」

 

 ドラルさんはそう言って俺を指名する。

 

「ん? お前さんの斧じゃないのかい?」

「ああ、あの斧はまだまだ現役だ。買い替える必要は無いからな」

「そうか……。まあ、木を切り倒すだけなら大丈夫だろう」

 

 ルーモ種の鍛冶屋は俺を見る。

 

「ん? その少年は……?」

「ああ、拾った。勇者では無いから気にしないで構わない」

「いや、普通気になるだろう。人間だから奴隷では無いみたいだがな」

 

 やれやれと言ったジェスチャーをして、ルーモ種の鍛冶屋は俺にこう言った。

 

「それじゃあ、手を見せてくれないかな?」

「手?」

「ああ、手を見れば、どう言う武器が必要かはわかる」

「そういうものなの?」

「……」

 

 メルロマルク城下町の武器屋の親父さんと同じ技量を持っていたはずである。

 なので、俺は素直に手を見せた。

 

「ふんふん、なるほど。獲物は剣と槍、弓を使っているのか」

「ああ、コイツにあった武器を見繕ってもらえないかと思ってな」

「なるほど。と言っても、彼は4種類の武器を同時に扱うことに長けているんじゃ無いのか? 得意な武器と言うのは無いように思える」

 

 すごいな。そう言うのまでわかるのか。

 

「盾……は、この国だと嫌がられるだろうから、ドラルと同じく斧でも持ってみたらどうだ?」

「いや、流石に重くなりすぎないか……?」

「ふーむ、だったら、小手なんかはどうだ? ごちゃごちゃしている分、自分を守ることには弱いだろうからね。一撃必殺の斧か、隙を埋める小手のどちらかをお勧めするよ」

 

 俺は少し考える。

 バックラーみたいな盾は欲しいとは思っていた。

 ディルムットでは無いが、俺は剣と槍の二槍流で戦っている。距離が空けば弓で攻撃すると言ったスタイルだ。

 中近距離をカバーでき、遠距離も対応できるスタイルだ。俺は何故かこの戦い方がしっくりきている。

 普通では、こんなごちゃまぜな武器の戦い方は隙ができて扱いきれないのにである。

 

「じゃあ、小手で頼む」

「はいよ。それじゃ、小手のサイズを見繕うから、こっちにきてくれ」

 

 と、ルーモ種の鍛冶屋は俺の手の長さを計り、ちょうどいいサイズの小手を渡してくれた。

 ガントレッドと言えばいいのかな? 

 思ったよりも軽くて使いやすそうである。

 

「うん、なんかすごくしっくりきた」

 

 すると、左下に流れているログにメッセージが流れる。

 

 4つの武器を装備した事による装備ボーナス!

 

 ステータス魔法を見てみると4つの武器を装備した事によるステータスボーナスが付与されていた。

 どうやら、これがあの性悪女神から無理やり渡されたチートのようである。

 

「やっぱりね。君は武器の数が重要だと思ったんだ。もちろん、これらの武器は君のレベルに合わせているがね」

 

 そんな事までわかるのは、素直に感心せざるを得ない。

 

「ありがとう! 助かる」

「いえいえ。お代はドラルから貰っているから気にする必要は無いさ」

 

 しかし、武器も装備感も、4つも武器をてんこ盛りにしているのにしっくりくる。

 自分のポジションが正しい位置に収まったかのようなジャストフィット感とも言うべきだろうか。

 これは神を僭称する者から受けた呪いなのかもしれないがな。

 

「後は、防具だな。鎧は鎖帷子で大丈夫か? 皮の鎧よりは防御力があるからな」

「ああ、多分大丈夫だと思う」

 

 俺は剣を腰に収め、弓と槍を背中に背負う。

 ある意味三勇者を統合したと言った感じである。

 

「ま、これで坊主も初心者冒険者に見えるな」

「ソースケカッコいいよ!」

「へへっ、ありがとう」

 

 とは言え、しっくり来ると言っても使い慣れねば意味はない。

 魔物を倒す仕事の最中に武器が足りない気がして追加装備していた形ではあったが、クソ女神の呪いのせいだろうな。

 別に俺は勇者の武器を奪うつもりはない。

 奪えば話の本筋が変わるし、七星武器……この世界の眷属器を奪えば確実にタクトに殺されるからな。

 それに、俺をメルロマルクに転移させたクソ女神の思惑も図らなければならないだろう。

 ヴィッチから、メルロマルクの三勇教がメルロマルクで勇者召喚の儀式を行うと言うのは伝わっているだろう事は想像に難くない。

 と、考えるならば、俺の役目は四聖武器の簒奪なのだろう。

 4つも勇者武器を装備できると言う事から考えれば、自然とそこに行き着く。

 ならば、クソ女神の思惑を潰すならば、俺はメルロマルクで転生者狩りを行えば、筋書き通りになるはずだ。

 と、考えて思考を止める。

 

「坊主、そろそろ買取商のところに向かうぞ」

「ああ、わかった」

 

 俺は、自分が何のためにメルロマルクに転移させられたのか、与えられた力の目的は何なのかを考えながら、ドラルさんに着いていった。




宗介は4つの武器を装備するとステータスボーナスを得られます。
単体で装備して戦っても、何かしっくりきません。
また、本来召喚するべき波の尖兵代わりに転移させられているので、実は制約自体は重めです。


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冒険者をやってみよう

 それから、魔物の素材の買取金を受け取った後に俺たちはギルドに向かう。

 日本人的には冒険者ギルドと言った方が感覚的に理解しやすいが、要するに冒険者に国や個人からの仕事を斡旋する、役所みたいなところだ。

 俺の記憶に違いがなければ、メルロマルクのギルドは実質役場で間違いはない。

 セーアエット領は異なるが、基本的に国、ひいては三勇教が監視しているのがこの国の現状だ。

 

「坊主はギルドに登録してもらう。その仕事をこなしていくのが次の仕事だ」

「ああ、だから武器を新調したんだな……」

「そうだ。それに、ギルドに登録しておけばメルロマルク国内のどのギルドでも依頼を受けれるようになる」

「はぁー。便利っすねー」

「そうだ。レベルによって受けれる依頼の難度は決まっているから、無理さえしなければ金を稼ぐにはもってこいだろう」

 

 と言うわけで、俺はギルドに登録する事になった。

 この辺は尚文が使っていなかったせいか、非常に描写が少ない。

 俺が役場と表現したのも、国と深くつながっており、国の命令一つで斡旋するしないを決めるところにある。

 こういうのは、普通の波の尖兵なら面倒臭がってこないだろうなとは思う。

 実際、手続きも面倒臭かった。

 ドラルさんの紹介で冒険者としてギルドに登録するのが若干簡単なだけで、紹介なしや他国の冒険者のライセンスなしで登録するには面接やら色々と面倒な手続きが必要らしい。

 これじゃあ、この国出身の亜人は冒険者にもなれないし、盾の勇者がギルドを使用できるはずもなかった。

 

「ふぅ……ようやく手続きが終わった……!」

「ソースケ、おつかれさま」

 

 書類を何度か書き直したけれど、なんとか審査が通り、ギルドの使用許可と他国でも通用するライセンスが発行された。

 ギルド職員曰く、こういう書類は勇者様以外は基本的に代筆はしない方針らしい。

 

「割と早い方だったのではないか? 俺が登録するときはもう一時間くらい登録に時間がかかったからな」

「そ、そうなんだ……」

 

 こりゃ確かにメルロマルクで冒険者なんて最初の段階で躓くわけである。

 

「さて、今日は帰るには遅い時間だから、この街に泊まっていく。せっかくだから、坊主はレイファと一緒に、この依頼をやってみたらいい」

 

 ドラルさんが持ってきた依頼は、討伐系の依頼だった。MHを想起させるようなデザインの依頼書だなと思いつつ、内容を確認する。

 

「オオウサピルの討伐」

「ああ、レベル5なら問題ないだろう」

「ゴブリンとかファンタジー魔物じゃないんだな」

「ゴブリン?」

 

 反応からすると、ゴブリンは存在しないらしい。

 あまり魔物の描写はされないが、どうやらこの世界には居ないのだろう。

 むしろ、エルフやドワーフの存在がある【狩猟具の世界】の方にいそうではあるけれどもね。

 

「いや、勇者世界で有名な雑魚モンスターの名前さ。で、俺は今日はそれを狩ればいいわけ?」

「ああ、明日でも構わないが、お前の実力なら2時間ほどあれば大丈夫だろう。場所もそう遠くないからな」

「んー、わかった。ドラルさんがそう言うなら、俺にはできるんだろう。回復薬は何本か使って大丈夫か?」

「ああ、3本までなら黒字だな」

「よっし、それじゃ行きますか! レイファ、準備だ」

「うん、わかったわ」

 

 という感じで俺たちはオオウサピルを狩るために、テキパキと準備をして、現地に向かった。

 

 オオウサピルは巨大なウサピルである。名前の通りだな。

 ウサピルの成長先の一つで、強力な魔物である。

 ウサピルにも種族があるらしいけれど、俺には詳しくはわからなかった。

 

「ぴょ!」

 

 大量にいるウサピルを、俺は槍で突き殺していく。

 異様にウサピルが多く、歩いているだけで飛び出してくるほどエンカ率が高かった。

 とは言っても、通常のウサピルならばそこまで問題ではない。

 4つの武器装備補正もあるが、いい装備を装備したおかげか、かなり戦いやすいのだ。

 小手のお陰で合気道をかけて投げ飛ばした時のダメージも増えているらしく、レベルの割にはかなり戦えるようになっていた。

 

「お、レベル6に上がった!」

「ソースケ、おめでとう!」

 

 ちなみにレイファはレベルが9らしい。

 パーティを組んでいると左上のHP/MPゲージにアルファベットでレイファの名前と、HP/MPゲージが表示されるが、ステータスはわからない仕様である。

 若干遠目のウサピルを槍で、接近してきたウサピルを小手や剣で制圧しながら進んでいくと、でかいウサピルが出現した。

 

「ぴょ!!」

 

 出会い頭にオオウサピルは蹴りをかましてくる。俺は槍を両手で構えて、後ろに控えているレイファに当たらないように受け流す。

 

「くっ!」

 

 獲物が長い槍でうまく受け流すと、俺は槍を片手に持ち替えて剣を抜く。

 

「せりゃ!」

 

 ズバッとオオウサピルに攻撃が当たるが、上手く流されたのか大してダメージを負ってるようには見えない。

 距離を取られたので、すぐさま弓に持ち替えて矢を放つ。

 西洋弓なので、弓道のように胸を張って撃ったりはしないが、弦はちゃんと引き絞って撃つ。

 矢は腕の部分に刺さり、ダメージを与えたことがステータス魔法で確認できる。

 

『力の根源たる私が命ずる。理を読み解き、彼の者を風の力で薙ぎ払え』

「ファスト・ウインドショット!」

 

 レイファは魔法を唱えて、風の弾をオオウサピルに当てる。

 レイファは風魔法と回復魔法に適性があったのか。

 レイファの風の弾を受けたオオウサピルは吹き飛ばされてしまう。

 ちょうど俺の目の前にくる形になった。

 俺は剣に持ち変えると、レベルアップで覚えた必殺技を使う。

 

「必殺! 兜割!」

 

 飛び上がり、脳天を剣で割るように振り下ろした。

 グシャっと鈍い音を立ててウサピルの脳天をかち割る。

 頭部を大きく損壊したオオウサピルのHPはゲージが0になり絶命した。

 

「うーん、まあこんなものかな?」

 

 俺は剣を振り血を払う。

 ビュッと音を立てて、剣に着いていた血が地面に払われる。

 

「さて、解体してさばいた後、部位証明箇所を切り取って片付けますか」

「うん、わかったわ」

 

 俺たちはこうして、初めての依頼をこなしたのであった。

 もちろん、レベルアップにまではいかなかったけれど、それなりの経験値は得られたけれどね。




盾の勇者世界の魔物って強さごとのリストってないんですかねぇ?


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正しい波の尖兵のあり方

俺TUEEEかな?
宗介は対人戦は強さに補正が入ります。


 俺とレイファがウサピルを解体して内臓を焼き、肉を適当に切り分けて皮を剥いで、荷物として纏めた。

 その間にも当然ながら襲ってくることがあるので、俺が撃退しながら、レイファが解体する感じになった。

 と言っても、レイファは別に弱いわけではない。

 単に俺がレベル上げのために動いているだけである。

 実際、レベルは全く上がらないわけであるが。

 取得経験値と必要経験値の差が激しいのだ。

 ウサピル程度なら経験値が3しか入らず、オオウサピルで12程度なのだ。

 渋いどころの話ではない。

 

「ソースケ、これ以上は持てそうにないから、残りは捨てるね」

「ああ、頼む」

 

 皮は高値で売れるので、ほとんどは収集するが、肉は生肉なので、あまり高値で売れない。

 なので、内臓以外は地面に埋めたりして自然に返す。

 

「さて、そろそろ戻るか」

「そうね、荷物はどうする?」

「俺が持つよ」

 

 俺はそう言うと、紐で結んだウサピル達の皮を背負う。

 骨と肉は全て埋めて処分した。

 

 さて、俺たちは城下町に帰宅途中に奇妙な連中に遭遇してしまう。

 ソイツは、世の中を舐め腐った目をしており、不快な笑みを浮かべて女を侍っている奴であった。

 女冒険者を4人引き連れている。

 

「よぉ、お前、いい女連れてるなぁ」

「あ゛?」

 

 第一声、俺たちが交わした言葉はそれである。

 非常に不愉快な感じがして、意識しないと言葉が荒くなってしまいそうな感じがした。

 

「誰だ、テメェ……?」

 

 俺が睨むと、ソイツは嘲るように返答する。

 

「ハッ! 名乗る時は自分からってのが礼儀だろうが!」

「そうよ! あんたから名乗りなさいよ!」

 

 非常に不快な奴等だ。

 本来であれば、俺は相手しないはずである。

 しかしながら何故か、相手をしてしまった。

 

「は? いちゃもんつけてきたのはテメェだろうがスカタン! 要件と名前を名乗れよ」

 

 ムカつく。

 が、奴は俺の話など聞く耳が無いようであった。

 レイファがぎゅっと俺の服の裾を掴む。

 

「ソースケ、怖いよ」

 

 その言葉に俺はハッとした。

 いくらムカつく奴とは言っても、いきなり暴言は失礼だろう。

 それに、レイファを怖がらせてしまった。

 俺は深呼吸をして、自分の顔をパンパンと両手で叩く。

 

「……すまない、失礼だった。戦闘後で気が立っていたみたいだ」

 

 うーん、やっぱり、こいつらを見ていると不快である。

 が、奴はもっと不快なことをほざくのだった。

 

「なら、お前の女を寄越せよ。お前ごとき雑魚に侍られるなんて可哀想じゃないか!」

「あ゛?!」

 

 レイファは物じゃない! 

 レイファは俺の大切な妹みたいな存在だ! 

 俺の頭の中でブチンと音を立てて何かがキレる。

 沸点が異様に下がっていることは、俺も自覚している。

 だが、世の中には言っていいことと悪いことがあるだろうが! 

 

「ふざけるな! テメェ!」

「お? やるのか? 良いぜ、かかってきなよ!」

 

 ソイツは剣を抜く。当然ながら周りの女共もそれぞれ武器を装備した。

 俺は剣と槍を装備する。

 

「レイファ、下がっていてくれ。コイツを俺は許せん!」

「う、うん、わかった」

 

 レイファが怖がっているな……。

 アイツらがどう言う実力か知らないが、1対多だ。

 俺は呼吸を整える。

 

「行くぜぇぇぇ!」

 

 一直線にアイツが見え見えの攻撃をしてくる。

 正面打ちよりも無様な剣筋だ。

 なので、剣を剣に合わせて、相手の振り下ろしに沿わせる形で転換をして切り払う。

 む、腕を切り飛ばしたつもりだったが、あまり切れていない気がする。

 

「「「「──様!」」」」

 

 四人の声が重なって、コイツの名前が聞き取れなかった。

 どうでも良いけどね。

 

「ツヴァイト・アクアショット!」

「狙い撃ち!」

 

 魔法と矢が飛んでくる。

 しかし、俺は矢を槍で弾き、魔法は回避する。

 別にウサピルばかり狩っていたわけではないのだ。

 レベル差がありまくる野獣と戦うことだってあった。

 だから、そんな攻撃は見える範囲内ならなんとか避けれるようになった。

 

「はああ!」

 

 切りかかってくる女の剣を受け流し、俺は腕を取る。

 そして、くるっと回転しながら巻き込み、地面に頭を強打するように叩きつける。

 ゴシャッと良い音がした。

 

「1匹目」

 

 後遺症は残るだろうが、俺を攻撃した罰だ。

 

「ライシャああああああ!!」

 

 続けて攻撃をしてきたやつのナイフを槍で突き落とし、くるっと槍の穂先を回転させて腕を取る。

 そして、遠距離攻撃してくる女共のところにぶん投げる。

 

「きゃああああああ!!」

 

 ちょうど、遠距離組が攻撃を発射したタイミングに合わせたので、ナイフ女に攻撃が全て直撃した。

 遠くに飛ばされて木にぶつかり、完全に気を失ったように見える。

 

「2匹目」

「サアヤああああああ!!」

 

 女の名前を叫びながら突撃してくる阿保に、俺は槍を構えて迎え入れる。

 槍版の小手返しと言うものを見せてやる。

 振りかぶる剣に合わせて槍の穂先を沿わせる。

 振り下ろしと同時に、槍をうまく操作して、力を流す。

 流した方向に阿保が走るので、手元に引き寄せる。

 あとは、くるっと転換して、手の甲に剣を持った手を沿わせて、人差し指を地面に向けて捻るだけである。

 ゴキッと音がして、阿保の関節が外れる。

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「「──様あああああ!!」」

 

 阿保を無力化したので、装備を矢に切り替える。

 ビュッ、ビュッと矢を放ち、不正確ではあるが、杖と手元を狙い撃つ。

 まあ、ど素人の弓が正確に射ぬけるはずもなく、魔法使いの足と、弓使いの腹部に命中したわけだが、問題ないだろう。

 

「貴様あああああああ!」

「あれあれ? どうしたのかな? レベル6の雑魚一人相手になんで君は地に付しているのかな?」

 

 ムカつくので煽ってやる。

 自分でも悪い顔をしているのがよくわかるが、まあ良いだろう。

 

「クソがああああああああああ!」

 

 まだ叫ぶ余裕があるか。

 俺は阿呆の腕を足で押さえつけているが、さらに圧力をかける。

 メキメキっと関節が軋む音がする。

 

「がああああああ! ギブギブ!!」

「ギブアップは認められませ────ん!!」

 

 なんだか楽しくなってきた。

 なので、ついでにもう一本骨を折ることにした。

 ぐりっと足を捻る。

 ゴキンと骨が折れる音がした。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」

「はっはっは! 良い声で鳴くな! もっとだ! もっと聞かせろ!」

 

 ゴキキっと追撃をすると阿保は白目を剥いて気絶した。

 ふん、つまらないやつだ。

 

「ソースケ様!」

 

 と、魔法使いの女が俺の名前を言いながら擦り寄ってきた。

 

「私たちを許してください! ソイツに命令されていただけなんです!」

「そ、そうですわ! 悪どいその雑魚に、味方するように命令されていただけですわ!」

 

 なんだコイツら?? 

 と、ここでようやく、俺はこの阿保が波の尖兵であり、この二人の女がクソ女神の分霊である事に思い至った。

 どうやら、レイファを物のように寄越せと言われた事に対して頭に血が上っていたらしい。

 はぁー……。

 クソ女神の分霊なら、俺には無下に扱うことはできないし、どうしようかな? 

 俺は悩んでしまうのであった。




追記:波の尖兵・勇者相手には性格が悪くなってしまうのは呪いのようなものです。


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女神の警告その1

「……えーっと、アイツら手当てしないで良いの?」

 

 コイツら、よく見たら当てたはずの弓が刺さっておらず、回復までしている。

 さっすが、クズ女神の分霊だなぁ。

 顔がいいからアレだが、感心してしまう。

 

「私たちはあの雑魚に無理やり戦わされていただけなんですわ」

「……はぁ」

 

 ま、下手に相手にいちゃもんつけてくるやつなんてのたれ死んでも知らんが。

 

「……レイファ、帰ろう」

「え、でも……」

「あー、あとでギルドには報告するさ。そしたら誰かが回収してくれるだろ」

「う、うん……?」

 

 レイファも承服はしかねる感じではあるが、襲ってきた以上俺もアイツらを手当てする義理もない。

 そこは分かっているのか、レイファは大人しく俺についてきた。

 

「私達も付いて行きますわ!」

「……勝手にしてくれ」

 

 うーん、コイツらどうしようかな。

 仲間にでもしてみろ。

 レイファがライノのように娼館に売られる未来しかないだろう。

 つまり結局は俺の敵だ。

 ただ、殺すと制約に引っかかりそうな気がするので、どうするかは悩みどころである。

 それに、レイファの教育にも、俺の性格が歪みかねない懸念から考えても、一緒にいるのも悪い事だろうしな。

 正しい波の尖兵ならば「俺の正義に目覚めた」と思うところなんだろうが、俺にはやはりクズにしか見えない。

 本当に、なぜ俺が波の尖兵として送られたのだろうか? 

 

 さて、結局名前の分からなかった阿呆のことについてはギルドに報告して、クズ女神の分霊供とはなんとか穏便に別れた。

 

「ソースケ様と一緒に旅をしたいです」

 

 などと言っていたが、俺はすでに契約済みの冒険者である事、契約を切るつもりがない事を説明して、帰ってもらった。

 どうやら、この2人はメルロマルク国内のどこぞの領主のお嬢様らしかった。

 なんとか別れる際に舌打ちをされたが、分かっていた事なので流す事にした。

 

「へぇー、見知らぬ冒険者にレイファを寄越せね……。坊主、よくレイファを守ってくれた」

「当然だ。レイファは俺にとっても大切な人だしな」

 

 そう、言葉を覚えるのにも付き合ってくれたし、手取り足取りこの世界を教えてくれた大切な人の1人である。

 ドラルさんも同じく、俺にとってはかけがえのない人だ。

 この世界で言えば、父親のような存在だ。

 年齢的に言えば、ドラルさんは34歳なので、父親というには若いけれどな。

 

「フッ……。では、宿に行くぞ」

「ああ」

「うん!」

 

 と言うわけで、俺は宿に泊まる事になった。

 

 その晩、夢を見た。

 

「勇者よ、菊池宗介よ。お告げをしに来ました」

 

 その姿は、間違いなくクズ女神である。

 

「間も無く、あなたの国で第■■回ディメンションウェーブが開催されますわ。レベルを上げるのに好都合な設定にしておりますので、奮ってご参加ください」

「は、はぁ……」

「また、女性を侍らす事によって、貴方の冒険にとても有利になります。明日、1人の女性がセーアエット領城下町に到着しますので、仲間として迎え入れると良いでしょう」

「あの、あんたの呼んだ冒険者か何かをのしてしまったんだが、良かったのか?」

 

 俺が質問すると、にこやかに答える。

 

「勇者様候補の1人ですね。私としては候補のお一人ですので、別段倒してしまっても問題ありませんわ。より強い方が勇者となれば良いだけですからね」

「そんなものか……」

「はい、勇者争奪バトルロワイヤルと捉えていただいて結構ですわ」

 

 まあ、俺はあまりクソ女神の影響を受けていないみたいだし、夢で出てくるというのもあるだろう。

 で、こう忠告されたということは、その女を【必ず】仲間にしなければならないという事である。

 それに、回数が聞き取れなかったが、間も無くセーアエット領での厄災の波が発生するという事だろう。

 

「質問をお受けできるのは今回までですわ。ほかにありますか?」

 

 下手な事を聞いても、命を縮めるだけだろう。

 制約さえ守れば基本自由にして構わない方針なら、俺も自由にさせてもらうさ。

 

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

「そうですか。では、勇者様の異世界ライフが楽しいものである事を」

 

 ことを──ことを──ことを──。

 以前転移させられたように、スゥッと意識が遠のいた。

 余りにも唐突ではあるが、俺があの女達を拒んだせいだろう。

 いや、手のひらクルーな女は普通拒むって。

 とりあえず、嫌ではあるが、ヴィッチみたいな女を仲間にする必要があるようである。

 監視の目をつけたいという事なのだろうなと推察するが、合っているだろうか? 

 翌朝、起きた時も記憶はちゃんと持っていたので、俺はため息をついて、どうするべきか考える。

 重要なのはレイファを守る事である。

 あの真っ直ぐで良い子をクズ女とつるませて、性格を捻じ曲げてしまうのは、守ったとは言えない。

 だから、その女がセーアエット領に来る前に、策を考える必要があったのだ。




本来はこんな警告はしてくれません。
いっぱい送ってるから管理面倒臭そうだしね。
制約も基本違反したらオート発動でしょうね。


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ミナ=デティラ

 しばらく考えても、いい策は思いつかなかった。

 

「ソースケ、朝だよー」

 

 コンコンとノック音が聞こえてくる。

 

「ああ、起きてるよ、レイファ」

 

 俺は手近の服をサッと着る。

 インナーで寝ていたので、そのままだと問題だろうからな。

 扉を開けるとレイファがニコニコしながら待っていた。

 

「おはよう、ソースケ」

「ああ、おはよう、レイファ」

 

 天使がいた。

 まさにこの世の天使だろう。

 この天使を歪ませるのは、誰が許そうと俺が許せない。

 レイファの肉体も精神も、守るのは俺自身である。

 クソ女神の……メガヴィッチの制約に俺は負けてはならなかった。

 逆らえば頭と魂がパーンではあるが。

 

「朝ごはんできてるから、食べに行こう?」

「ああ」

「えへへ」

 

 うーん、こういう妹は最高やな! 

 だが、この妹を守るためにも、俺はヴィッチとレイファを会わせてはいけないと思う。

 あのクソ女がどういう人物かと言うのは【盾の勇者の成り上がり】で散々思い知っているからな。

 一番は、燻製……マルドみたいな同類に押し付けてしまう事だろう。

 類は友を呼ぶと言うしな。

()()()()()()()()()()ならば、制約には違反しないだろう。

 ……この国にはそう言う自分勝手な奴らは多数いるだろうから、押し付ける分にはそこまで問題ではないだろうな。

 最悪、錬を見習って普段は別行動にしてしまうのもアリかもな。

 俺はそんな事を考えながら、朝食を食べてしまった。

 

「坊主、仕事に行くぞ」

「ああ」

「私は?」

「レイファには今日は別の仕事を任せる予定だ」

「うん、わかった」

 

 と言うわけで、俺はドラルさんに連れられて、次の依頼を受けに行った。

 

「坊主、基本はお前にはギルドで仕事を受けてもらう」

「ああ、だから登録をしたんだな」

「そうだ。もちろん、お前が自立してやっていくのは構わない。人手が足らなければ、レイファを連れて行って構わない」

「報酬の分け前は?」

「家賃、食費、今回の武器代を払ってもらえれば良いさ」

 

 うーん、ドラルさんは人が良すぎないか? 

 なんだかんだ言ってメルロマルクはクソみたいな村人が多いからな。

 まあ、これでさようならなんて恩知らずなことはしないがな。

 

「わかった。じゃあ今日も簡単な依頼を受けて、戻る感じかな?」

「そうだな。俺は一度戻って木こりをするが、夕暮れになったらラヴァイトと共に迎えに来るとしよう」

「了解」

 

 という感じで、俺はドラルさんと別れて、ギルドのカウンターに向かった。

 さて、クソ女とどのタイミングで出会うやら。

 まあ、そう時間もかからなかったわけであるが。

 

「ねぇ、あなた、一人で依頼を受けるの?」

 

 声を掛けて来たのは、美女であった。

 直感でわかる。

 コイツ、メガヴィッチの分霊だ。

 ライトブルーの髪色に、若干のツリ目、見ればわかる。

 メガヴィッチに非常に似ている。

 

「ああ、そのつもりだけれど……」

「良かったら、私と一緒にその依頼、やってみない?」

 

 ニッコリと微笑むヴィッチ。

 ホント、本性さえわからなければ美人なのになぁ。

 性格ドブスとか、俺の好みではない。

 まあ、制約に引っかかって死ぬよりはマシだろう。

 

「良いのか?」

 

 なので、知らないふりを俺はすることにした。

 

「ええ、もちろん。私から提案したんだものね」

 

 服装は、少し装備が豪華な感じがする。

 きっと俺よりもレベルが高いのだろう。

 

「それは助かるな」

 

 魔物を狩る依頼なので、人手があったほうが早く終わるのも確かだしな。

 断ったら死ぬ以上、断る理由もない。

 

「ふふっ、よろしくお願いしますね。私はミナ、ミナ=デティラと言いますわ」

 

 ほう、スペイン語で地雷っすか。

 なんでマイン=スフィアと言い地雷を名乗るんだろうな? 

 

「ミナさんだね。俺は宗介、菊池宗介だ」

「へぇ、まるで伝説の勇者様みたいな名前なんですね!」

「ああ、よく言われる」

 

 俺は肩をすくめてそう言う。

 確か、分霊は記憶を共有してないんだっけな。

 だから、ミナが俺を波の尖兵として送り込んだ事を知る由がない。

 

「そうなんですね。剣と槍と弓と小手を装備しているみたいですけど、それを全て使うんですか?」

「ん、ああ。俺はこの武器を全部一人で使うぞ」

「ふーん、珍しい戦闘スタイルですね」

「まあな」

 

 俺からはあんまり仲良くなる気がない。

 明らかに媚びた態度であるが、こっちも無下にできない理由もある。

 なので、クールを装ってみることにする。

 

「それじゃ、早速依頼を達成しに行きましょうか! ソースケさん」

「ああ」

 

 と言うわけで、俺は冒険者ミナ=デティラと共に、魔物の討伐依頼をこなすことになったのだった。



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ミナの美人局

 さて、ミナと組んでの依頼ではあるが、ミナは基本的に後衛で魔法を撃ってくれる。

 俺が一人で前衛中衛後衛を果たせてしまうので、撃ち漏らしを魔法で攻撃する感じであった。

 ああ、もちろんパーティは組んでいる。

 現時点では猫を被っているのか、推測だけで俺がヴィッチだと決めつけている状態である。

 おかげさまで、俺はレベルを7に上げることが出来たので、まあ問題ないだろう。

 討伐が終わり、俺は街に戻る。

 

「今日はありがとうございました」

「いや、お陰でこっちも楽ができた。礼を言うのはこっちだろう」

 

 俺はそう言って礼を言う。

 

「良かったら、明日も組みません?」

「ああ、それは構わない」

「それなら良かった。ソースケさんはどちらに泊まっているんですか?」

「ああ、俺はお世話になっている人のところに泊まっているよ」

「……ふーん、そうなんですね」

 

 何処とは聞かなかった。

 こちらの信用を得ることを第一目標としているのだろうか? 

 ヴィッチは基本自分の利益になる行為しかしないからな。

 恐らく、俺を値踏みしているのだろう。

 

「じゃあ、明日も同じ時間にギルドに居る。そこで上手く落ち合えたら、またパーティを組もう」

 

 なので、俺は妥協案を提示する。

 別に俺はハーレムを望んではいない。

 どうせなら元の世界に帰りたいものである。

 だって、【盾の勇者の成り上がり22巻】は40ページまでしか読み終えていないのだ。

 レイファを守るのが重要だから、優先度の低い目標ではあるがな。

 

「……わかりました。それじゃあお待ちしていますね」

 

 と言うわけで、俺はミナと別れた。

 取り分はミナの方を若干多めにしてやった。

 黙らせるためでもある。

 

 と言うわけで、俺はドラルさんに迎えに来てもらい、家に帰ったのであった。

 一応、道中でミナと言う冒険者とともに、パーティを組むことになったことを告げた。

 

「好きにするといい。俺はそう言う女はあまり信用できないがな」

 

 と言っていた。

 俺もそう思います。

 こっちも事情があるから仕方ないけれどね。

 最悪全財産ギられてポイじゃないかなと思っているので、そこの管理は徹底するつもりだ。

 

 翌日から、俺とミナはパーティを組んで依頼に当たった。

 なんだかんだで戦いやすくはあるし、本性を隠しているからか、話しやすくはある。

 気をつけてはいるが、戦闘時のフォローに関しては信用できるだろう。

 それから3日経ったぐらいか、ギルド内で不穏な噂を聞いた。

 

「おい、メルロマルクでもついに【龍刻の砂時計】が落ちきるらしいぜ」

「マジかよ……。って事は、【厄災の波】が来るってことじゃん」

「場所はわかるのか?」

「いや、それは予測できないらしい。国は、発生した時点ですぐに軍を送るって言っているがな」

「でも、他国の話じゃ被害はかなりでかいんだろ? 小国だと滅んだ国もあるらしいじゃねぇか」

「メルロマルクは大国だから大丈夫だろ」

「それに、発生は明日らしいから、心配なら逃げる準備をしておけばいいんじゃないか?」

「何処で起きるかもわからないのに?」

「だからこそだろ」

 

 そんな話が聞こえてきた。

 

「【厄災の波】……ね」

「ソースケさんは参加されるんです?」

 

 ミナに聞かれて、俺は少し考えて答える。

 

「……まあ、そう言うことになるんだろうがな。セーアエット領か隣のアールシュタッド領で発生したなら、俺は挑まざるを得ないさ」

 

 勇者じゃないので、波に転移する事は出来ない。

 まあ、わかっちゃいるんだけどな。この波でルロロナ村……ヒロインであるラフタリアが住む村は壊滅するのだ。

 流石に、波ほどの災害を一人で収められるほどの勇者のような実力はない。

 俺では変えられないのだ。

 ならば、少なくともレイファやドラルさんを守るべきだろう。

 

「そうなんですね。それじゃあ、良かったら波の間も私と一緒に戦いませんか?」

「……そうだな」

 

 場所を考えれば、発生地点はルロロナ村である。

 今回の波の場所は意図的に決まっているのだ。

 距離的にはかなり離れているドラルさんの小屋は無事だろう。

 そもそも、ドラルさんはめっちゃ強い。

 今の俺が心配するだけ無意味である。

 

「ふふっ、それじゃ、よろしく頼みますわ」

「ああ、そうだな」

 

 ミナの戦闘能力はこれでも買っているのだ。

 ヴィッチ種の例ならば、そろそろ猫の皮がハゲるのではないかと踏んではいるけれどね。

 ミナのせいでレイファとともに戦えないのだけれど、それは仕方ない事だ。

 

「ソースケさん、今日は戻られるんですか?」

「いや、今日はこっちに宿を取る予定だ。迎えにも事前にそう伝えている」

 

 俺は一度もミナにドラルさんやレイファの名前を出していなかった。

 これもわざとではあるけれどな。

 

「どちらに泊まられるんです? 良かったら同じ宿に泊まりませんか?」

 

 俺は考える。

 どう言う意図でそう言う提案を発したんだ? 

 そこまで深く考える余裕がないので、俺は端的な理由を考える。

 

「同じパーティなら近い方が良いか……。わかった」

「ふふっ、それじゃあ案内しますね」

 

 俺はミナに連れられて、宿に向かう。

 宿に到着したミナは、俺を自分の部屋の前まで案内した。

 あー……。そう言うことね、はいはいなるほど、理解しましたわ。

 

「悪いけど、別の部屋でいいかな?」

「えー!」

「流石に同じ部屋に泊まれるほど、俺はミナさんを信用してるわけじゃないんでね」

「……チッ」

 

 うーわ、めっちゃ小ちゃく舌打ちしやがったぞ、この女。

 聞こえてないわけないだろうが、この至近距離で! 

 

「そ、そうですよね。あはは、冗談です!」

 

 ミナは笑顔で取り繕う。

 俺が普通の波の尖兵だったなら、これから熱い一夜を過ごしてしまうのだろうけれど、そうは問屋が卸さない。

 美人局など御免被りたいところである。

 と言うわけで、俺は鍵をガッチリと掛けて、波に備えて爆睡したのだった。




だんだんめくれてくるミナの本性。


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次元の波

 翌日、貞操を守った(と言っても俺は童貞ではないけど)俺は、ミナと一緒に依頼を受けていた。

 そしてそれはミナと一緒に依頼のための魔物を狩っている最中であった。

 

 ──パキン

 

 まるでガラスが割れるような音が聞こえて、辺り一面がワインレッドの光で染まる。

 

「波か!」

 

 俺が空を見上げると、南の方から絵の具を垂らしたように紫色と青色が混じった何かが広がっていく。

 と同時に、波の裂け目から魔物が溢れ出す。

 まさに、アニメで見たとおりの光景が、広がっていた。

 今の俺がいる位置は、ルロロナ村の近くだ。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に戦う力を与えよ!』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 俺は援護魔法を自分とミナにかける。

 ミナは……逃げ出そうとしていて、援護魔法を掛け直したことに驚いていた。

 

「ソースケさん?!」

「ここは波の発生源に近い! 戦うにしても逃げるにしても、戦闘は避けられないからな!」

 

 上を見上げると、この世界の法則的に確認できない動物系の魔物が降り立って来ている。

 例え、結末が変えられないとしても、俺にできる事はあるはずだ。

 彼女らの悲惨な結末を知っている以上、俺には見過ごすことなんて出来ない! 

 俺はルロロナ村の方に駆け出した。

 と言っても、走っても最短で1時間はかかる。

 尚文達が城下町と村を素早くいききできたのも、フィロリアルクイーンのおかげであると言えるだろう。

 

「ソースケさん、どちらへ?!」

「波の中心だ!」

「どうして?!」

 

 俺は少し考える。

 このヴィッチはメガヴィッチと繋がっている、と考えた方が良い。

 俺が波を鎮めにいく正当な理由を言わなければ、ミナは強引に止めるだろう。

 だから、俺はあえて傲慢な回答をする。

 

「俺が波を鎮めれば、俺の力が証明されるだろ? まさに勇者様ってな!」

「……」

 

 ミナは少し考えて、答える。

 

「それは良いですね。では行きましょうか、ソースケさん!」

 

 メガヴィッチからの承認は降りたようだ。

 本当に悲惨なのは、この波の後に来る奴隷狩りであるが……。

 恐らく、冒険者はあの時締め出されたのであろう。

 セーアエット領領主も、恐らく助ける事はできないだろう。

 領主は恐らく波のタイミングで暗殺されたとみるべきだ。

 それに、止めようにもこの位置からでは間に合わないし、領主の館にそもそも立ち入れない。

 波は3時間強継続すると考えたなら、どれだけ早く要の魔物を討伐するかが重要だろう。

 今のレベルは12まで上げている。

 俺なら、慢心しなければ出来るはずだ。

 

「はああああああ!!」

 

 俺は波の魔物を容赦なく切り捨てて行く。

 

 次元ノワーウルフ

 次元ノライガウルフ

 次元ノレッサーコカトリス

 

 魔物は動物系が多い印象を受けた。

 

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「ツヴァイト・ファイヤストーム!」

 

 魔法で蹴散らしつつ、俺とミナは波の魔物を討伐する。

 普通に狩る時と比較して、経験値が若干高いのが見て取れる。

 証拠に、ステータス魔法が入手経験値を教えてくれている。

【EXP +127】

 渋い経験値に慣れていた俺としては、これは確かに経験値を稼ぐチャンスだろう。

 

「アローレイン!」

 

 俺は弓に矢を複数つがい、放つ。

 ステータス魔法が示す範囲内に矢の雨が降り注ぐ。

 これは魔力を矢に乗せて放つ技だ。

 レベルアップで習得したものだが、なかなかに便利な技である。

 技もちゃんと口に出して宣言しないと発動しないのが厄介なところだろう。

 すぐに装備を切り替えて、近場の魔物を切り捨てる。

 槍で牽制して、剣で強敵を切り裂く感じで俺は波の魔物を討伐しながら、前に進んでいった。

 

「ソースケさん! 村が見えました!」

 

 次元の波の発生源に一応ボスがいない事を確認して、ミナに近くに村はないか尋ねたところ、近場に亜人どもの村があると白状したので案内させた。

 案の定、この波のボスと思わしき魔物が亜人の冒険者達と戦っている最中だった。

 

 次元ノケルベロス

 

 そいつはまさに、アニメでラフタリアが回想で見ていた犬型の魔物に違いなかった。

 

「恐らく、あの魔物がボスだ!」

「はい、ソースケさん!」

 

 切れかかっている援護魔法をもう一度俺はかける。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に戦う力を与えよ!』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 再び能力が上昇する。

 パーティメンバーではない亜人の冒険者達にも念のために対象にして魔法をかけた。

 太腿に装備している薬が入ったポーチから魔力水を取り出して俺は飲み干す。

 

「お前ら、状況は?」

 

 俺が聞くと、後衛の亜人の女性が答えてくれる。

 

「村の者はだいぶ殺されていました。現在は避難誘導中です!」

「お前らが波のボスを抑えているのか?」

「ええ、ですが、何人か犠牲に……」

「わかった」

 

 次元ノケルベロスの口元には、はっきりとわかる赤い血が付着している。

 既にラフタリアの両親は食い殺されてしまったのだろう。

 くっ……変えようがないとわかっていても心苦しい。

 

「ミナ、コイツを討伐するぞ!」

「わかりましたわ。援護します!」

 

 俺は剣と槍を構える。

 俺は波のボスと対峙していた。

 

「グルルルル……」

 

 コイツを倒さなきゃ、話が先に進まないだろう。

 だから、俺が倒す。

 

 俺は決意を持って次元ノケルベロスに剣を向けたのだった。




本当に次元ノケルベロスで良いのかなぁ?
犬系の頭が3つある魔物で思いついたのがケルベロスだっただけですけどね。

評価:+1


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vs次元ノケルベロス

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我に雷の如き速度を与え給え」

「ツヴァイト・サンダーファストアップ!」

 

 俺は手始めに自分の速度を上昇させる魔法を唱える。

 バチバチと電流が走り、足元に伝わる。

 雷系の援護魔法の一つだ。

 通常のファストアップに比べて雷を纏う分、速さの上昇が見込める。

 

 俺は次元ノケルベロスに近づく。

 

「せりゃ!」

 

 槍で突いてみるが、あまりダメージを受けた感じはしなかった。

 だが、皮膚ぐらいは切れたようではある。

 硬い。

 ステータスを見ると俺のレベルは15まで上がっているが、それでもダメージを与えた感じが薄かった。

 

「ワオーン!」

 

 次元ノケルベロスは俺に狙いを定めると、爪で引っ掻き攻撃をしてくる。

 見え見えの攻撃ならば、俺にだって回避は出来る。

 右、左、右と来る爪を回避する。

 

「っつえええい!!」

 

 槍で攻撃の合間を縫って突くものの、いまいち攻撃力が足りない。

 ならば、クリティカルダメージを狙うのが一番だろう。

 基本的に動物の一番脆い箇所と言うのは関節である。

 特に筋肉で鍛えようのない場所……股間や鳩尾を含めた正中線の部分は防御力が弱い傾向にある。

 実際、何度か試している中でも正中線に攻撃が入るとクリティカルヒットになりやすい事は確認している。

 剣の必殺技である兜割は、モーションが大きい一方で当たればほぼクリティカル確定だったりする。

 俺は槍で牽制しつつ、戦略を練っていた。

 

 次元ノケルベロスが噛み付いてくる。

 それを蹴り上げて口を無理やり防ぐ。

 だが、攻撃をしようにも他の首……3つもある首が邪魔だ。

 俺が剣で攻撃をしようとすると邪魔をしてくる。

 

「ブロオオオオオオオオオオオ!!」

 

 俺は剣を持った手で喧嘩殴りをする。

 真ん中の首を横殴りにする。

 そのまま、俺は剣に力を貯める。

 いわゆる魔神剣や空波斬と似たような、斬撃を飛ばす技だ。

 

「必殺! 空烈剣!」

 

 思いっきり袈裟斬りをすると、目に見える真空波が次元ノケルベロスを斬りつける。

 それなりにダメージになったようだが、まだまだHPが残っている。

 

「ツヴァイト・ファイアランス!」

 

 ミナも援護はしてくれるらしく、時々魔法が飛んでくる。

 ミナの方がレベルが高いため、若干効きがいい。

 

 俺は地面を蹴り、次元ノケルベロスまでの距離を詰める。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え』

「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」

「必殺! 雷大旋風!」

 

 俺は電気エネルギーの塊を飛ばす魔法を唱えて、それを槍先に纏わせる。

 片手で槍を回転させて、次元ノケルベロスの首に叩きつける。

 もちろん、ミナの打って弱らせた首を狙う。

 バチンッ!! バリバリバリバリ! 

 雷を纏った槍先がケルベロスの頭を直撃する。

 

「ギャイイィィイイィイン!!!」

 

 悲鳴をあげて、一つ目の首が沈黙した。焼き焦げて内部まで逝ってしまったのだろうか。

 兎にも角にも残り二つ! 

 注意を向ける数が減ったので、一気に戦いやすくなる。

 俺の攻撃はレベル差があるためかチマチマとしか入らないが、内部を攻撃する場合とクリティカルヒットの場合は大きいダメージが見込める。

 

「ミナ! 兜割を当てる! 魔法で援護を頼む!」

「わかりましたわ」

 

 俺は槍を背負い、剣一本にする。

 両手なら鋭く力強い反応ができるためだ。

 左手で殴ることもできるため、これはこれでありな戦法だ。

 その分、牽制ができなかったりするがな。

 

「はああああああああ!!」

「ツヴァイト・ファイアランス!」

 

 ミナの援護を背中に、剣を両手で構えてもう一度、次元ノケルベロスに攻撃を仕掛ける。

 噛みつき攻撃を回避しつつ、俺はケルベロスの頭をかち割るべく飛び上がる。

 

「必殺! 兜割!」

 

 全力で左端の頭を狙って振り下ろす。

 流石に真っ二つとはいかなかったが、グシャっと音を立ててケルベロスの左端の頭は地面に叩きつけられる。

 その影響で剣が食い込み、頭が歪んだ。

 ブオンっと音が聞こえる。

 次の瞬間、左脇腹に衝撃が走る! 

 

「グハッ!!」

 

 バゴーンっと俺は廃墟となった家の壁にぶつかっていた。

 い、今のでHPの半分が吹っ飛んだぞ……! 

 まだ意識はあるが、朦朧としている。

 頭の中で星が飛んでいるイメージだ。

 

「ソースケさん!」

 

 ミナの声が聞こえるが、急激にHPが減ったせいで動けない。

 ただ、直感で俺はその場から逃れる。

 直後、俺がいた場所が次元ノケルベロスによって薙ぎ払われた。

 

「ガハッ!」

「あの冒険者を助けるんだ!」

 

 他の亜人の冒険者が援護に入ったようだ。

 

「ファスト・ヒール!」

 

 他の冒険者がかけてくれた回復魔法のおかげで、グラついていた意識が回復する。

 

「はぁ、はぁ、ぽ、ぽーしょん……!」

 

 俺は太腿にあるポーチから、なんとか即時回復用のヒールポーションを取り出すと、口に含んだ。

 意識がなんとか回復する。

 HPのゲージも3/4まで回復した。

 うう……、恐らくさっきの一撃で内臓が逝ってしまったのかもしれない。

 すぐに回復できたおかげで、復活したようではあるが。

 唾を吐くと、血が混じっている。

 やはり、俺と次元ノケルベロスには決定的にレベル差があるのだろう。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我に戦う力を与えよ』

「ツヴァイト・ブースト!」

 

 タゲが他の冒険者に行っていたおかげか、なんとか体制を立て直した。

 身体中が痛む。

 骨折や内臓破裂は回復したが、痛みは残っている。

 目眩がしているが、戦闘中だ。

 俺はヨロヨロと立ち上がり、剣を構える。

 

「行くぞ! 俺!」

 

 気合いを入れて、俺はもう一度ケルベロスに向かう。

 

「必殺! 空烈剣!」

 

 俺は次元ノケルベロスの尻に向かって空烈剣を放つ。

 必殺技なら、多少ダメージは通るようで、すぐに俺の方にタゲが向く。

 

「ワオォォォォーン!!」

 

 まだ死んでなかったか、と言った態度で俺を殺しに走ってくる。

 力だ、力の流れを感じるんだ! 

 俺は、合気道の剣を持った構えをする。

 呼吸を整え、相手に集中する。

 

「危ない!」

「逃げて!」

 

 と声が聞こえるが、無視をする。

 既に一つ頭となったケルベロスはでかいだけの犬だ。

 走ってくるならば、力の流れは読める。

 俺はケルベロスの噛みつきに剣を合わせる。

 転換をして、力の方向を回転に持っていく。

 突進に使うパワーを剣で誘導するのだ。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 呼吸を吐き切り、余計な力みを全て捨てる。

 俺の転換に合わせて、次元ノケルベロスはまき糸のようにグルンと回転した。

 その力を俺は投げ飛ばす方向に解放する。

 先程俺が埋まっていた家の方に次元ノケルベロスを解放すると、ケルベロスはそのまま吹っ飛んでいった。

 

「行くぞ! 必殺! 兜割!」

 

 俺は追撃をする。

 今度は一気に力を溜めて、ケルベロスの中央の頭を破るために飛び上がる。

 

「はあああああああ!!」

 

 剣は、ケルベロスの中央の頭に命中する。

 グシャっという音とともに、ケルベロスの頭部が歪に歪んだ。

 クリティカルヒットしたようである。

 それと同時に、耐えきれなくなったのか俺の剣がポキンと折れて、剣身が飛んでいき、地面に突き刺さる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 俺は肩で息をしていた。

 次元ノケルベロスはピクピク痙攣しているが、動く気配は無かった。

 

「おおおお! やったぞ! 波のボスを倒したぞ!!」

「やったああああ!」

 

 と声が聞こえるが、俺は身体が震え出していた。

 恐怖、そう、死と隣り合わせだった事実に恐怖を感じていたからだ。

 

「は、ははは……」

 

 なんとか勝てはしたが、達成感よりも恐怖が俺を支配していた。

 

「だ、大丈夫ですか? ソースケさん?」

 

 ミナが慌てて寄ってきたが、若干失望感を感じていたように思えた。

 

「と、とと、とりあえず、ボスは倒したんだ。波はまだ治っていないし、他の冒険者と協力して、波を治めるんだ!」

 

 俺は気合いを入れ直して立ち上がるが、どうしようもない恐怖感に負けないように気を貼るので精一杯だった。




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謁見

 その後、波が治った後に、騎士団がやってきた。

 随分と遅い到着である。

 こんなに遅いと、セーアエット領は壊滅しているのではないか? 

 まあ、壊滅して喜ぶ連中が多い国だし、救援が遅れるのは仕方ないことか。

 

「おい」

 

 俺がルロロナ村跡地で瓦礫の上に座っていると、声をかけられた。

 誰だ? 

 俺が顔を上げると、立っていたのはどこかで見たことのある騎士であった。

 

「お前が、今回の波の魔物を討伐した冒険者か?」

「そうですわ」

 

 ミナが代わりに答えてくれた。

 

「ふむ、あの化け物をよくもまあ……。おい、お前、今回の波を治めた件について国より報奨金が出ることになった。ついてくるが良い」

 

 なんだか偉そうでムカつく奴だな……。

 こう、すっごい見たことあるけれど、思い出せない。

 何かあれば思い出しそうなんだけどなぁ。

 

「わかりましたわ。さ、ソースケさん、行きましょう」

 

 個人的にはレイファ達が無事であることを確認したいが、今は難しそうだ。

 それに、ミナがいる場所でレイファの話題を出すのはNGだろう。

 

「……わかった」

 

 俺は、メルロマルクの王城に向かうことになった。

 亜人の冒険者も一緒にである。

 馬車に乗せられて向かう最中に、今回の波の被害状況を聞くことができた。

 ちなみに、引っ張っているのは馬である。

 

 セーアエット領は壊滅だそうだ。

 城下町はもちろん、他の街も被害甚大で、波の残りの魔物も兵士が片付けているそうだ。

 俺や、俺の近くにいた冒険者は、波のボスを倒したとして事情が聞きたいということであった。

 

 フィロリアルほどは揺れが少なく、酔ったりはしなかった。

 

 2時間ほど馬車で待機していると、ようやく見えてきた。

 あれが、メルロマルク城である。

 そう、【盾の勇者の成り上がり】世界の象徴とも言うべき城であり、尚文がマイン……ミナと同じメガヴィッチ的存在に騙され、貶められる国である。

 

「メルロマルク城下町は初めてなのですか?」

 

 ミナにそう聞かれて、俺はうなづいた。

 

「ああ、初めてだよ。俺はセーアエット領しかいたことはないさ」

「そうなんですね。私はメルロマルク城下町は何度か足を運んだことがありますわ」

 

 育ちよさそうだもんねー。

 鎧もそこそこ豪華だし、良いところのご令嬢さんって感じ。

 メガヴィッチの分霊は基本的にそう言うお嬢様として生まれることが多いから、当たり前か。

 

「ふーん、どう言うところなんだ?」

 

 一応、アニメで見た範囲では雰囲気は知っているけれどね。

 

「そうですね……。この国の首都ですから、色々なものがありますよ。店も、他の城下町や領主の街と比べて良いものが置いてありますわ」

「……なるほどねぇ」

 

 俺としては、剣が折れたせいでステータスが下がって若干怠くなっている。

 やはり俺は4つ武器が無いといけないらしい。

 まあ、こう気だるそうにしていれば流石のミナでも気づいたようだった。

 

「メルロマルク城下町には良い武器屋がありますから、そこで剣を新調しましょう!」

「……ま、そうだな」

 

 メルロマルク城下町には、あの武器屋の親父さんがいるからな。

 腕も確かな武器屋なら、新調するのも良いだろう。

 どうせミナは報奨金でエステにでも行くだろうし、ミナの分を多めで渡して、必要な分は俺がもらうと言う形でいいだろう。

 

「ん? 私の顔に何か付いてます?」

「いや、メルロマルク城下町に着いたらエステ行きたそうな顔をしてたからな」

「あ、わかります?」

「ミナは好きそうだしな。報奨金があるなら多めに渡しておくから行ったら良いさ」

「良いんですか?」

「ああ、もちろん、俺の取り分はちゃんともらうがな」

 

 しかし、ミナと居るとだんだん心が荒んでくる気がする。

 傲慢ではなく、荒んでくる。

 言葉遣いもそれに引きづられて居る気がする。

 

 しばらくすると、街の城門をくぐる。

 おお、確かにアニメまんまだな! 

 街の配置とかは若干違う様子だが、細かいところはほとんど同じである。

 馬車が止まると、俺は城に案内してくれる。

 しかし、兵士の目は嫌な目をしている。

 後ろの亜人の冒険者に対してだろうけれども、俺にまで向けられているように見える。

 やだねー、こんなところにいたら嫌な気分になる。

 

「では、波のボスを撃った、冒険者ソースケ殿とミナ殿はこちらに。他の冒険者の方は別室で報奨金の受け渡しがありますので、こちらにどうぞ」

 

 俺は兵士の指示に従う。

 眼前には、謁見の間があることがわかる。

 アニメで見たまんまだしね。

 

「冒険者ソースケ殿、ミナ殿、入場!」

 

 ギギギと音を立てて、謁見の間の扉が開く。

 周囲は王族とか貴族が並んでいる。

 カーペットの周りには、兵士が等間隔で並んでおり、奥に2つの椅子があり王座だろう、向かって右側に王様……オルトクレイ=メルロマルク32世が座っていた。

 俺は、ミナに習って前に進み、ミナに習って王の眼前で膝をついて首を垂れる。

 

「ほう、そなたらが今回のメルロマルクの波を治めた冒険者か」

 

 アニメの声……とは若干違うし、そもそもメルロマルク語であって日本語では無いため、違って聞こえるが、オルトクレイそのものであった。

 

「はっ!」

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。冒険者共よ、顔を上げい」

 

 尚文に習ってクズと呼称するとしよう。

 クズがそう指示をしたので、俺とミナは従って顔を上げる。

 

「ほう、片方は美しい娘、もう片方は勇者の血を色濃く継いだ冒険者と見える。この者らがかの波を治めたと」

「はい、聴取した報告によりますと、冒険者ソースケ殿の活躍により、波のボスを討伐。冒険者ミナ殿はソースケ殿の援護をしていたと報告がございます」

「ふむ、なるほど。しかし、此度の波の被害も甚大だったと聞く」

「はい、死者は推定で1万人に上り、セーアエット領は壊滅状態でございます。また、帰省しておりましたウェルンハード=セーアエット卿は波の際に亡くなられたと報告が入っております」

「……痛ましいことだ。優秀なもの程早死にする。セーアエット領は波による復興を急がせるとしよう」

 

 ため息をつきつつも、サラッと流された感じで話が変わった。

 俺の記憶では、エクレールの父親はこの時期に強制的に領地に戻らせたはずである。

 どこで起きるかわからない以上は意図的ではないと言い逃れできるかもしれないが、ヴィッチが恐らく、何らかの方法でセーアエット領で波が起こることを事前に伝えていたはずである。

 だからこそ、大して感慨もない感じなのだろう。

 

「して、今回活躍をした冒険者諸君には報奨金が用意されておる。亜人の冒険者は一律銀貨300枚、冒険者ソースケ殿とミナ殿にはそれぞれ銀貨600枚を報奨金として授けよう」

「これが報奨金になります」

 

 大臣っぽい人がそう言うと、兵士が皮袋を目の前に出してくれる。

 何気に赤と黒の卒業証書を乗せるようなプレートの上に乗っている。

 俺はそれを受け取り、中を確認する。

 確かにこれは、結構な量が入っている。

 俺は無言で、腰のポーチに収める。

 あとで銀貨100枚をミナに渡せば良いかな。

 

「ありがとうございます、陛下」

「うむ、では、その方らの今後の活躍を祈ろう。下がって良いぞ」

「はっ!」

 

 そんな感じで、俺の初めての謁見は終わったのだった。

 なんか大臣が話しているだけで、俺は一体何のために呼ばれたのやらわからない感じだった。

 

「じゃあ、約束通り」

 

 俺はそう言って、銀貨が100枚入った袋をミナに渡した。

 

「ありがとうございます。さすがは波を治めた冒険者ソースケ様ですね」

「言ってろ。それじゃ、俺は武器屋に行くとしますか」

「それじゃあ、案内しますね」

「わかった」

 

 と言うわけで、俺はミナに連れられて武器屋に向かうのだった。

 




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お父ちゃんに勝手に名前をつけました。


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武器屋の親父さん

 城の正門から城下町の入り口までまっすぐと続くメイン通り、そこに居を構えているのが、尚文御用達の武器屋である。

 他にもメイン通りには武器屋はあるけれど、量販店って感じがするんだよね。

 扉を開けるとカランカランと呼び鈴の音がする。

 奥から頭のハゲた親父さんが出てきた。

 あーそうそう、こう言う感じだよ。

 まさに武器屋のおっさんって感じ。

 

「はい、いらっしゃい!」

 

 安心の武器屋の親父さんである。

 名前はエルハルトだったけな。

 

「ミナ、ここがおススメの武器屋か?」

「ええ、そうですわ」

 

 一応、確認である。

 とてもではないがミナは武器屋と縁があるとは思えない。

 ヴィッチと情報を共有しているのだろうなと俺は推測した。

 

「すみません、武器を購入したいんですが、おススメってあります?」

「ん? ああ、あんちゃんの武器を探してるのかい?」

「ええ、先の戦いで剣が折れてしまって、それで」

「なるほどねぇ。剣、槍、弓、小手を装備して戦ってるのか。普段なら、そう言う戦い方は良くないと言うか、武器を一つに絞れと説教するところだが、どうやらあんちゃんは4つ別種類の武器を取り扱うことに長けてるみたいだな」

「……すごいな。そんなことまでわかるのか」

「まあな。どの武器も使い込み具合が均等だし、身体つきもそれぞれの武器で特徴ってものが出るものだが、あんちゃんは満遍なく筋肉がついているように見える。それで推測はつくのさ」

 

 うーん、さすがは親父さんである。

 元康2号の弟子ってこんなに優秀なんだな。

 

「ま、俺が見た感じだと、折れちまった剣も、その槍も弓も、小手も防具も今のあんちゃんにはかなり物足りない感じになってるんだろうよ」

 

 確かに、今の武器はレベルにあった装備だとは思えなかった。

 剣が折れたのだって、剣の適正レベルと俺のレベルがあってない結果とも言えるだろうからな。

 

「で、あんちゃんは一式買い換えるのかい?」

「見積もりは?」

「そうだなぁ……。魔法鉄の装備一式に買い換えるとして、武器一式で装備を下取りして、おまけして銀貨320枚ってところだな。防具も含めると、430枚になる」

「じゃあ、武器だけかな。防具はしばらくやりくりして、お金が貯まったら買うさ」

「そうかい」

 

 一応、オーダーメイドもできるみたいだが、今日初めましてである以上、信用も無いだろう。

 本編にあまり深入りをしたくない俺としては、関わるのは今回限りかなと思う。

 

「なら、あんちゃんの武器を見せてみな。ちょうどいいものを見繕ってやるよ」

「助かる、ありがとう」

 

 俺は装備を外して、折れた剣、槍、弓、小手を机に置いた。

 

「んー、あんちゃんの場合、小手よりもバックラーみたいな盾の方が良さそうな気がするが、拳の先に殴った跡があるな。あんちゃんは格闘も使うのかい?」

「当身を入れる程度なら使うかな」

「なるほど、なら小手で良いか。ただでさえ複数武器を同時なんて戦法を取っているんだ。あんちゃんの戦闘スタイルを崩すのは良くねぇな」

 

 親父さんは商品棚から剣、槍、弓、小手を見繕って、台に置く。

 

「これぐらいが、今のあんちゃんにはちょうど良いだろ。持ってみな」

 

 言われて俺は武器をそれぞれ持ってみる。

 なるほど、今までの武器は若干心もとない感じがしていたが、この武器なら安心して使えそうだ。

 振ってみた感じはまだ若干重みがあるが、問題ないだろう。

 

「へぇ、ちょっと重いがいい感じだな!」

「そりゃ良かった。そっちの嬢ちゃんは……。必要なさそうだな」

「ええ、私は魔法職ですし、前衛はソースケさんに任せてるので大丈夫ですわ」

「へぇー、あんちゃんソースケって言うのか」

「ああ、菊池宗介だ。冒険者をやっている」

「キクチソウスケ……。まるで勇者様みたいな名前なんだな、あんちゃんは」

「まあ、よく言われる」

「ま、是非ともご贔屓にしてほしいものだぜ」

「それは考えておく」

 

 と言うわけで、俺は新しい装備を入手したのだった。

 しかし、本当に気持ちのいい親父さんだ。

 人を見る目もあるみたいだし、常連になってもいい気がする。

 アールシュタッド領からは距離があるのが問題だけどね。




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エピローグ

 それから、俺たちはメルロマルク城下町にしばらく滞在することになった。

 メルロマルク城下町の宿で一晩泊まった後にアールシュタッド領のドラルさんの小屋に戻ろうとしたら、入り口のところで止められたからだ。

 話を聞くと、波を治めた冒険者である俺たちにはしばらく滞在してほしいとの事で、国が宿代を出すから数日間ほど止まってほしいとの事であった。

 ギルドで仕事をしようにも、城下町内のお使い程度の依頼しかなく、仕方がないため俺たちはメルロマルク城下町に留まることになった。

 おおかた、セーアエット領で亜人狩りでもしている最中なのだろう。

 まあ、俺ごときが何をしようがタクトほどの影響力があるわけでもなし、大人しく従っておくことにする。

 ミナからの夜のお誘いは基本的に丁重にお断りしつつ、1週間ほどこの城下町に滞在することになった。

 

「ここが三勇教の教会です。ソースケさんが興味を持つなんて珍しいですね」

「そうか? 俺はこの世界については(生き残るために)興味津々だぞ」

 

 俺は肩をすくめて、教会に入る。

 そもそも俺の武器は三勇教にとっては象徴とも言うべき武器を取り扱っているので、快く迎え入れてくれる。

 それにしても、三勇教ねぇ……。

 この世界的には、イスラム教みたいなものか。

 いや、過激派と言った方がしっくりくるな、テロ的な意味で。

 ISILとかまさにそんなイメージだろう。

 さて、俺がここに来た理由は、龍刻の砂時計を見学しに来ただけである。

 

「へぇ……これが龍刻の砂時計か……」

 

 明らかにこの世界的にはオーバーテクノロジーな装置だ。

 と言うか、世界の危機を感じて動く装置なんて、俺の日本でも作れはしない。

 

「この場でステータスを確認すれば、その国の次の波がいつ起きるかがわかりますわ」

 

 ミナに言われた通り、ステータス魔法を確認すると、中心に次の波までの時間が正確に表示される。

 この時は、翌日だったため1月半だったと思う。

 

「45日ねぇ……。あんなの、どうやって被害なしで鎮めれるんだっての」

 

 独言る。

 やはり、四聖勇者を召喚しないと簡単には鎮められないと言うことなのだろう。

 波の尖兵的な意味でもレベル上げには適しているので、俺は積極的に参加した方がいいだろうな。

 

 数日後、メイン通りで兵士や三勇教のシスターや牧師の服を着た連中が、何かを大々的に運んでいるのが見えた。

 もしかしたら、あれが四聖勇者を召喚するための召喚具だったりするのかな。

 ギルドの仕事をちょくちょくこなしながら、メルロマルク城下町の散策をしていた。

 ミナはまあ、アイツエステとかに行っているからあまり一緒にいることはなかった。

 こうなると、レイファと会いたくなるが、俺はどうやらこの街から出ることができそうになかった。

 

 それから、四聖勇者が召喚されたという話が国中を駆け巡ったのは、この日から2日後のことであった。




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これにて序章の終了です。


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剣の勇者のソロプレイ
プロローグ


「ソースケ様」

 

 宿の一室で休んでいると、ノックもされずに扉が開く。

 どうやら国の騎士らしい。

 

「おお、ここに居ましたか!」

「何の用だ? 俺は大人しく街に滞在しているんだが……」

「今日はお願いがあって参上しました」

「お願い?」

 

 この腐った国が俺にお願い? 

 面倒臭そうなのでパスでいいだろう。

 

「断る。それよりいつになったらアールシュタッド領に戻れるんだ?」

「いえ、是非とも聞き入れていただきたいのです」

 

 どうやら、目の前の兵士は俺の言葉はYES以外聞く気はなさそうである。

 自分勝手な奴らめ……。

 

「本題ですが、是非ともソースケ様には勇者様の冒険を手助けする仲間となってほしいのです!」

 

 それを聞いて俺は、ようやくメルロマルクが俺を城下町から出したくない理由を悟った。

 なるほどね、そう言う理由だったのか。

 そう言えば、ギルドにもそう言うのを募集している張り紙があった。

 

「お断りしていいですか?」

「いえ、是非ともソースケ様には勇者様の仲間になっていただきたく!」

 

 いや、ホントそう言うのはやめてほしい。

 ここで俺が介入するとややこしい事になるからな。

 小説では仲間の描写が明確にされたのは、ヴィッチと燻製ぐらいなものであるが、少なくともアニメで剣、槍、弓を装備していたやつなんていなかったはずだ。

 少なくとも召喚当日には城内に燻製が居たはずなので、今日明日中には召喚されると思われる。

 

「なぜ俺なんだ!」

「それはもちろん、最初の波を鎮めた冒険者だからです」

 

 ああ、なるほどねぇ。

 波を鎮めるとこう言う弊害があるのか……。

 

「もちろん、盾の悪魔は召喚されないのでご安心ください。剣、槍、弓の勇者様を、このメルロマルクで召喚することになっています!」

 

 はい、ダウト。

 本来はフォーブレイから召喚していって、メルロマルクは3番目なはずだ。

 昨日運ばれていたのは召喚具で間違い無いだろう。

 

「はぁ、まあ、確かに波に対抗するんだったら、七星か四聖の勇者様に依頼をするのが適当だと思うけど、下手したら全部召喚されるんじゃないの?」

「そこはご心配なさらずとも大丈夫です。万が一召喚された場合は、他の勇者様が討伐する手はずになっています」

「はぁ……」

 

 何もわかっちゃいないんだなと、この三勇教兵士を見て思う。

 実際に波を目の当たりにした俺からしてみれば、とてもではないがコイツらの態度は脳内フラワーガーデンか、脳内ハッピーセットでしか無い。

 四聖が召喚される意味を全く理解していないのだろう。

 だからこそ、協力はしたく無い。

 面倒臭いな、ミナを通じてヴィッチに断らせるか。

 

「ミナはどうしたんだ?」

「ミナ様……ですか……」

 

 途端に目を泳がせる。

 

「どうしたんだ?」

「その……ミナ様……ミリティナ=アールシュタッド様は、現在アールシュタッド領に戻られています」

「ああ、やっぱり?」

 

 最近見ないなと思ったらそう言う事だったのか。

 

「城内でアールシュタッド卿に見つかり、先日アールシュタッド領に送り返されました」

 

 実際、ミナは夜に誘ってくる以外はそこまで邪魔になっていないせいか、悪い印象はない。

 ミナのせいでレイファに会えないと言う重大な障害ではあるけれど、それ以外はまあ役に立ってるし、冒険の間はいても居なくても正直どっちでも良かったりする。

 ま、父親に見つかって送り返されたなら、合法的に別れたので良い事だろう。

 思わぬところで解決して良かった良かった。

 

「アールシュタッド卿曰く、単に冒険者として活動するならともかく、勇者様と旅をするなどと言う危険な冒険に参加させるわけにはいかない、との事でした」

「……」

 

 あれ、これって俺が勇者のパーティに加わらずにアールシュタッド領に戻ったら監視再開されない? 

 

「はぁ……」

 

 頭が痛い。

 後ろ盾がない俺は半強制的に勇者パーティに参加じゃないだろうか? 

 うーん、だとしたら、剣の勇者……天木錬のパーティが一番良いだろう。

 菊池宗介なんて名乗ったらヤバいのはわかりきった話なので、偽名を使うことにしよう。

 確か、web版の記憶によると、メルロマルクの波の3波目の頃には燻製が抜け、一人が入れ替わってたんだっけ? 

 

「……わかった。協力しろと言うなら仕方のない事だ。どうせ王命だったりするのだろう?」

「……はい、助かります」

 

 と言うわけで、俺は渋々勇者パーティに参加することになった。

 

「なら、防具も新調しておくかな」

「わかりました。勇者様のパーティに入っていただけるのならば準備金として国が負担致します」

「そうか、助かる」

 

 俺は早速、()()()()()()()()()()()の購入をしに、騎士を同伴して武器屋に向かう。

 

「おう、いらっしゃい。あんちゃん、今日はどうしたんだ?」

 

 武器屋の親父さんはにこやかに対応してくれる。

 

「ああ、防具を調達したくてね。顔が隠れる防具が欲しい」

「となると、兜付きの防具だな。あんちゃんの戦い方にあったものなら……すぐに用意できそうだ。ちょっと待ってな」

 

 ごそごそと取り出されたのは、どこかで見たことのある鎧であった。

 

「あんちゃん動きが阻害されない作りになっている、市販の鎧に似た防具だ」

「これってカスタムオーダーメイドってやつじゃ……」

「ま、色々作っていて、これは試作品の一つだ。銀貨210枚であんちゃんに融通してやるよ」

 

 俺が城の兵士を見ると、うなづいた。

 

「では、こちらで受け持ちます」

「ん? 城の兵士じゃないか。どうしたんだ?」

「まあ、召喚される勇者様のパーティ? のメンバーをする事になるらしくてな。半強制だし、支度金で防具買ってくれるって言うからね」

「へぇー。ま、さすがは波を鎮めた冒険者ってところだな」

 

 親父さんは渡された銀貨を数える。

 

「よし、210枚だな。まいどあり!」

 

 と言うわけで、鎖帷子を引き取ってもらい(この分の料金は俺が受け取った)、一般的な鎧に見えるカスタムオーダーメイドの鎧を装備した。

 カシャカシャと音はするが、動きは確かに阻害されない。

 これはなかなか良いものである。

 

「では、ソースケ様、城の方に案内します」

 

 と、そんな感じで俺は城に案内された。

 そこで候補の控え室に案内されたのだった。




ミナとお別れ
でも奴はきっと戻ってくる(確信)


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勇者紹介

 控え室で特出すべき事は、燻製が煩かった事以外は特になかった。

 腰に差している剣以外は置いてきているし、黒髪も兜を被って見せないようにしているため、国の兵士と間違われてもおかしくない状態だからだ。

 気になったことと言えば、噂話である。

 

「聞いたか? 四聖勇者が全員召喚されたらしいぞ」

「マジかよ。それってマズくないか?」

「さあ、外交については何とも……」

「それよりも、盾まで召喚されたらしいぞ!」

「なんだって! なんで盾まで」

「これはマズいかもしれないな……」

 

 はは、お前らこれから盾を虐めるんだろう? 

 知っているぞ。

 とは思いつつも、俺はスルーすることにした。

 今頃は謁見中かな。

 俺は暇を持て余して、駐屯施設にある兵士の訓練場まで足を伸ばしていた。

 そこで木剣と木槍を振り回す。

 ここ最近城下町から出てなかったので、レベルは20でピタリと止まったままだ。

 毎日こうやって練習をしているおかげか、筋力とかのステータスは伸びてはいるんだけどな。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 槍の必殺技を繰り出し、マネキンを攻撃すると、マネキンが吹っ飛ぶ。

 いつのまにか技のキレは向上し、日本にいた頃とは比べ物にならないくらい筋肉がついていた。

 細マッチョと言っても良いだろう。

 

「精が出るな冒険者」

 

 俺に声をかけてきたのは、燻製だった。

 燻製は確か、国の兵士である。

 

「何の用だ? 俺は訓練中な訳だが」

「ふん、やはり冒険者は粗暴だな。波を鎮めただかなんだか知らないが、出の不明な貴様に勇者様の護衛は務まらぬ! 即刻去るが良い!」

 

 えらい傲慢だなこの燻製。

 やっぱり、早めに燻製にした方がいいんじゃないかな? 

 

「はっ、それが許されるなら、俺はサッサとアールシュタッド領に戻ってるっての」

 

 サッサと戻って、レイファと一緒に暮らしたい。

 なぜ俺が波の尖兵なんぞやらねばならないんだと言う話である。

 

「ぐぬぬ……」

 

 なーにがぐぬぬだ。

 やっぱり燻製は処すべきかな? 

 

「貴様! 勝負だ!」

「断る。アンタも勇者様の仲間になる人だろう? こんな事で争っても仕方ないんじゃないか?」

 

 俺がそう嗜めると、燻製はまた「ぐぬぬ……」と唸り顔を真っ赤にする。

 そう言えば、燻製と対面をしても腹がたたないな。

 性格悪いのは原来の性なのだろうけどな。

 波の尖兵ではなくて、現地人だからだろうか。

 

「ふんっ! まあ良い。腰抜けには用は無いのだ!」

 

 燻製はずんずんと不機嫌そうに城に戻っていった。

 わからない奴だ。

 サッサと燻製になれば良いんじゃないかな? 

 俺はそんなことを考えながら、訓練場でもう少しだけ体を動かしたのだった。

 

 部屋に戻って、休憩をしていると、兵士に呼ばれて一つの部屋……会議室に集められた。

 はじめに勇者の仲間になる12人が揃ったらしい。

 部屋を見渡してみると、ヴィッチ……マインがすまし顔で座っている。

 燻製は踏ん反り返っている。

 

「さて、今回の召喚で、剣、弓、槍の勇者様と、盾の悪魔、四聖勇者様全員が召喚された」

 

 会議室はざわついた。

 そりゃそうだ。

 もともとは、剣、槍、弓の三勇者しか召喚するつもりがなかったんだからな。

 

「そこで、くれぐれも盾の悪魔に加担しないように、事前通告をすることになった。これは王命である」

 

 しっかし、偉そうだな。

 まあ、尚文は優しい奴だから、普通に配分すれば2人は確実に仲間になるだろう。

 ヴィッチやクズの企みを考えれば、それは美味しくない。

 

「また、影からの報告によると、盾はこの世界に詳しくないとの事だ」

 

 また、会議室が騒然とする。

 確かに、四聖勇者はこの世界を熟知していると言う伝承があるのは事実だ。

 少なくとも、伝承に残る程度には、長い年月をかけてこの世界がメガヴィッチに侵攻されているのだろう。

 実際は、勇者達の遊んでいたゲームはメガヴィッチによってばら撒かれたのだがな。

 もしかしたら、俺の世界にもそう言うゲームがあるのかもしれないが、該当のものは思いつかない。

 強いて言うならば【盾の勇者の成り上がり】シリーズであるが、どう考えてもこれから起こる事の預言書だろう。

 

「あの、勇者様がたのお姿は拝謁できないのでしょうか?」

 

 慎重な感じがする騎士っぽいやつが質問をすると、兵士が水晶玉を持ってきた。

 

「本日召喚されて、謁見の間で自己紹介をする勇者様方の映像だ。どの勇者様を支援するか、よく観察して選ぶように」

 

 兵士がそう宣言すると、映像が流れ出す。

 どうやら音声も記録されているらしく、それぞれ声が聞き取れる。

 最初に聞こえてきたのは、クズの声だった。

 

『では勇者達よ。それぞれの名を聞こう』

 

 それに答える形で、最初に剣の勇者である天木錬が名乗り出る。

 

『俺の名前はアマキ=レンだ。年齢は16歳、高校生だ』

 

 メルロマルク語で聞こえる。

 映像水晶にはメルロマルク語で記録されるらしい。

 

 剣の勇者、天木錬。外見は、美少年と表現するのが一番しっくり来る。

 顔のつくりは端正で、体格は小柄の165cmくらいだったはずだ。

 女装をしたら女の子に間違う奴だって居そうな程、顔の作りが良い。髪はショートヘアーで若干茶色が混ざっている。映像越しでは若干分かりにくいが。

 切れ長の瞳と白い肌、なんていうかいかにもクールという印象を受ける。

 細身の剣士という感じだ。

 実はコミュ障の中二病なだけであるがな。

 プレイしていたゲームは、ブレイブスターオンラインと言う。

 

『じゃあ、次は俺だな。俺の名前はキタムラ=モトヤス、年齢は21歳、大学生だ』

 

 槍の勇者、北村元康。外見は、なんと言うか軽い感じのお兄さんと言った印象の男性だ。

 錬に負けず、割と整ったイケメンって感じ。彼女の一人や二人、居そうなくらい人付き合いを経験している。イメージ通りだな。

 髪型は後ろに纏めたポニーテール。男がしているのに妙に似合っているな。

 面倒見の良いお兄さんって感じだ。

 後に悲劇で人格が破壊される。

 プレイしていたゲームは、エメラルドオンラインと言う。

 

『次は僕ですね。僕の名前はカワスミ=イツキ。年齢は17歳、高校生です』

 

 弓の勇者、川澄樹。外見は、ピアノとかをしていそうな大人しそうなイメージがある少年だ。実際上手い。

 儚げそうな、それでありながらしっかりとした強さを持つ。あやふやな存在感があると言う印象を尚文は持ったはずだ。

 髪型は若干パーマが掛かったウェーブヘアー。

 大人しそうな弟分という感じ。

 ただの正義大好きの独善的な奴で、独裁者にいそうな性格に変貌する。

 プレイしていたゲームは、コンシューマゲームでディメンション・ウェーブ……直球どストレートだなおい。

 

『ふむ。レンにモトヤスにイツキか』

『王様、俺を忘れてる』

『おおすまんな』

 

 クズは分かりやすく尚文を無視する。

 ま、クズもクズで理由はあるにはあるが……ヴィッチのせいだとここでは断言しておこう。

 そこですまし顔で座っている、クソ女だ。

 

『最後は俺だな、俺の名前はイワタニ=ナオフミ。年齢は20歳、大学生だ』

 

 盾の勇者、岩谷尚文。外見はくしゃくしゃの黒髪に、少しお調子者そうな顔つきをしている。優しそうな雰囲気をまとった男性だ。

 どの勇者もそうだが、尚文もイケメンであるが、童貞っぽい感じはする。

 この世界の主人公的存在で、商魂たくましい。

 この後裏切られて最初に悲惨な目にあう。

 図書館で四聖武器書を読んでいる最中に召喚された。

 

 それぞれ特徴がある連中だ。

 どの連中も主人公属性の塊であり、正しく導く人がいれば、きっと世界を救ってくれるのは間違いようがない存在だ。

 そうはさせないのが、俺たち波の尖兵とヴィッチなんだがな。

 

「盾以外で気に入った勇者を支援するがいい。事前に話し合いの場をここに設ける!」

 

 と、そんな感じでモブ達の話し合いが始まったわけだ。

 俺とヴィッチはサッサと宣言してしまったわけだがな。

 そしてその夜、燻製のうるさい声が聞こえてきた。

 

「おい、ベッドが硬いではないか。もっと良いベッドは無いのか!」

 

 そのセリフを聞いて、俺は周囲を見渡した。

 もちろん、槍の勇者が居ないかの確認である。

 ただ、クローキングランスに、ドライファ・ファイアミラージュを使用しているから探すだけ無駄か。

 俺はサッサと戻ることにした。

 そう、すでに勇者は召喚されたのである。

 賽は投げられたのだ。




裏話やアニメの描写とか統合した結果がこれだよ!


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特別支援金

 翌日、午前10時頃に俺たちは謁見の間に通された。

 打ち合わせは完璧なので、特に言うこともない。

 どっちにしても、尚文はモブの顔なんて覚えないだろうし、そもそも【盾の勇者の成り上がり】に俺の名前が出てきたことは一度もないため、認識すらされないだろう。

 波の尖兵の存在に気づかれる前なら、まだ安全だろう。

 明確に気づくのは、タクト編だったっけな? 

 

「冒険者達はこちらへ並べ。王の到着までしばし待たれよ」

 

 と言うわけで、俺たちが待っていると、しばらくしてクズが入ってきた。

 うーん、何という舞台の裏側。

 

「その方達が、勇者殿を支援する冒険者達か」

 

 クズはそう言いながら、一人一人を観察する。

 

「ふむ、皆やる気に満ちているようだな。良いことだ」

 

 ヴィッチとはアイコンタクトを取っている。

 クズは俺の存在には気づかなかったようだ。

 まあ、今は特徴的な黒髪は兜の下に隠しているし、一度しか会ったことがない俺を覚えているはずもないか。

 

「四聖勇者様、入場!」

 

 クズが左側の王座に座った頃にちょうど、兵士の声が響く。

 扉が開き、昨日映像水晶で見たとおりの勇者4人がタラタラと歩いてきていた。

 顔はなんか期待に満ち溢れた顔をしているのがわかる。

 特に尚文が一番期待に胸を膨らませているように見える。

 

「勇者様のご来場」

 

 4勇者が並んだところで、兵士がそう宣言した。

 尚文は目で俺たちを数えている。元康は女に目がいっているな。錬は興味なさげにしながらも、こちらに様子を伺っている。樹は……よくわからない。

 すると、クズが早速話題を切り出した。

 

「前日の件で勇者の同行者として共に進もうという者を募った。どうやら皆の者も、同行したい勇者が居るようじゃ」

 

 それに、4勇者は驚きの表情をする。

 自分たちが選ぶ側じゃないの? という顔だ。

 まあ、この状況なら誰だってそう思うよな。俺も、自分が勇者ならそう思う。

 

「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」

 

 クズが指し示すように腕を勇者達に向ける。

 それが合図で、俺たちはそれぞれの勇者のもとに向かう。

 俺は、錬を選択した。

 まー、多分尚文と一緒に戦った方が楽なのはわかっているんだがね。

 やり直しでも無いのに、シナリオを変えるのはダメだろう。

 しかしまあ、実際に勇者達を見ると、イライラする。

 こう、前に波の尖兵と会った時ほどでは無いが、イライラする。ムカつく事を言われたら、つい喧嘩を売ってしまいそうだ。

 

 で、結果どうなったかと言うと。

 錬、5人

 元康、4人

 樹、3人

 尚文、0人

 知ってはいるが、胸糞の悪くなる結末だ。

 

「ちょっと王様!」

 

 尚文のクレームに、少し慌てたふりをするクズ。

 お前が仕組んだんだろう。

 と言うか、尚文の言葉は日本語として聞こえるんだな……。

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

「人望がありませんな」

 

 クズに呆れ顔で大臣が同意して切り捨てる。

 そこへローブを着た男……影がクズに内緒話をする。

 

「ふむ、そんな噂が広まっておるのか……」

「何かあったのですか?」

 

 元康が微妙な顔をして尋ねる。

 尚文が苦虫を噛み潰したような表情をする。

 いや、申し訳ない。申し訳ないが、何故か同情の感情は湧いてこなかった。おかしいな。何故だ? 

 と思ったら、そう言えばこの部屋にはヴィッチがいたな。

 あいつの悪影響なのかもしれない。

 俺はどうやらヴィッチに何らかの影響を受けている可能性が高い。

 

「ふむ、実はの……勇者殿の中で盾の勇者はこの世界の理に疎いという噂が城内で囁かれているのだそうだ」

「はぁ!?」

「伝承で、勇者とはこの世界の理を理解していると記されている。その条件を満たしていないのではないかとな」

 

 元康が尚文の脇を肘で小突きながら、何かを告げた。

 作品を思い出すと、こう囁いたのだろう。

 

「昨日の雑談、盗み聞きされていたんじゃないか?」

 

 尚文がだんだん機嫌が悪くなっているのは明らかだった。

 ま、異世界召喚早々にこののび太みたいな扱いだもんな。

 誰だって嫌だろう。

 

「つーか錬! お前5人も居るなら分けてくれよ」

 

 尚文が錬を指差して威嚇するので、燻製を含めた俺たちは錬の後ろにわざと隠れる。

 うっわ、燻製のやつ醜い顔してるな……。

 肩が笑いで揺れているぞ。

 錬もなんだかなぁとボリボリと頭を掻きながら見て。

 

「俺はつるむのが嫌いなんだ。付いてこれない奴は置いていくぞ」

 

 と言うが、中二病でコミュ障を隠しているだけに過ぎない。

 俺から矯正することはないけれどね。

 

「元康、どう思うよ! これって酷くないか」

「まあ……」

 

 元康のメンバーはヴィッチに知らない女性2人、男性といった感じだ。

 

「偏るとは……なんとも」

 

 樹も困った顔をしつつ、慕ってくれる仲間を拒絶できないと態度で表している。

 

「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」

 

 樹の尤もな言葉にその場に居る者が頷く。

 

「だからって、俺は一人で旅立てってか!?」

 

 尚文の尤もな悲痛に、燻製以外の他の3人も居た堪れない顔をする。

 てか、なんで燻製は俺がいるのに剣の勇者を選んだんだろうか? 

 場がシンと静まり返り、少し間を置いたところで、事態が動いた。

 

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 ヴィッチが片手を上げて立候補する。

 

「お? 良いのか?」

「はい」

 

 まるでミナを思い起こさせる。

 俺はあいつの事を戦闘面以外では信用していないので、綺麗なヴィッチモードのままだけどな。

 この状況で立候補したら、そりゃ誰だって信用してしまうだろう。

 ヴィッチはミナと比べても、そう言う陰謀が得意なのかもしれない。

 と、俺はヴィッチを見ながら評価していた。

 

 ヴィッチは一見すると、セミロングの赤毛の可愛らしい女の子だ。

 ミナと似たような顔だが、顔は結構可愛い方じゃないか? やや幼い顔立ちだけど身長は尚文と比較すると少し低いくらいだ。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか?」

 

 シーン……誰も手を上げる気配が無い。

 クズは嘆くように溜息を吐いた。

 

「しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

「は、はい!」

 

 妥当な判断だ。

 まあ、残念なことにこの国で尚文の仲間をしたいなんて稀有な存在は、それこそ奴隷ぐらいしかいないだろう。

 後は現在投獄されているエクレールとかかな? 

 

「それでは支度金である。勇者達よしっかりと受け取るのだ」

 

 勇者達の前に四つの金袋が配られる。

 ジャラジャラと重そうな音が聞こえた。

 その中で少しだけ大き目の金袋が尚文に渡される。

 

「ナオフミ殿には銀貨800枚、他の勇者殿には600枚用意した。これで装備を整え、旅立つが良い」

「「「「は!」」」」

 

 俺達はそれぞれ敬礼し、謁見を終えた。

 謁見の間を勇者達について出て行くと、それぞれが自己紹介を始める。

 

「俺は剣の勇者の天木錬だ。さっきも言ったが、ついてこれないやつは置いていく。後は俺の指示に従ってもらう」

「わかりました、アマキ様。私はウェルトと言います。これから、剣の勇者様のお役に立てるよう誠心誠意お仕え致しますのでよろしくお願いします」

 

 ウェルトは礼儀正しい感じがする。

 装備も、この国から支給される鎧に武器なので、国の兵士なのかなと思う。

 

「我輩はマルドだ。よろしくな、剣の勇者殿」

 

 燻製がそう言って自己紹介をした。

 

「私はテリシアと言います。主に魔法で皆さんを支援するのが役目です。適性は水と回復です。よろしくお願いしますね」

 

 テリシアはにこやかに微笑む。

 魔法使いみたいな出で立ちだが、僧侶系の魔法も使えるのか。

 

「あたしはファーリーよ。攻撃魔法が得意よ。よろしくね、勇者様」

 

 ファーリーはテリシアと違い、色気のあるお姉さんといった感じだ。確実に元康がナンパしそうである。

 俺は流そうとしたが、錬の目が俺を見つめる。

 若干イラッとするな……。

 

「俺は、えーっと、ソースケだ。これでも一応近距離、中距離、遠距離、魔法での支援色々できる。よろしく頼む」

「ソースケ……? お前は日本人なのか?」

 

 一応発音もメルロマルク語風に言ったはずなのに、錬の奴が突っ込んできた。

 一応設定ではあるが、言っておいた方が良いかな。

 

「あー……、勇者様は細かいところは知らないかもしれないが、この世界では過去にも勇者様が召喚されたことがあってな。勇者様と似た名前を付けることがあるんだ」

「そうなのか……? そう言う設定はブレイブスターオンラインにはなかったと思うが……」

「お前、その、物語のサブキャラの細かい設定なんて知ろうとするのか?」

「……ふん、確かにそうかもな」

 

 なんとか上手く誤魔化せたかな? 

 一応、納得した表情をしているので、上手く誤魔化だろう。

 思わず、余計な単語を挟んでしまうところだったが、まあ良い。

 そんな感じで俺は、錬のパーティに潜り込んだのだった。




サブタイトルは原作準拠です。
剣の勇者の他の仲間はあまり性格や他の描写が無いので、好き勝手に描写させてもらいますね。


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勇者の武具

「ソースケのことは後回しにするとして、俺はこれから武器を買いに行く。お前らも必要な装備は買った方が良いだろう」

「支度金は銀貨600枚ですからね。まずはアマキ様の装備を整えるのが一番でしょう」

 

 実際、あの中で一番装備が貧弱だったのは、ヴィッチだろう。

 もちろん、ワザとであるだろうが。

 

「そうだな。この服では防御力がないようだ。剣を育てるにしても、まずは店売りの剣を使った方が良いだろう」

「ふむ、ではアマキ様、近場に武器屋がありますので、まずは先にそちらを確認しましょうか」

「……ん? この国の武器屋は一つだけだろ? それも、序盤でしかお世話にならない武器屋が」

「いえいえ、最近できた武器屋があるのです!」

「そ、そうか……」

 

 あれ、もうちょっとゲーム知識に固執すると思ったのだが、案外素直にウェルトの言う事を聞くんだな。

 最初の頃だからだろうか? 

 

「では、案内しますね、アマキ様」

 

 最初の指示は、国からの指示があるまで他の勇者を盾の勇者に近づけないことである。

 確か、やり直しでは盾の次に剣が親父さんの店に行くんだっけか。

 黙ってウェポンコピーしていっただけだと聞いていたが、実際どうなんだろうな。

 

 ウェルトの案内で俺たちは武器屋に来ていた。

 

「いらっしゃい」

 

 この店は、どちらかと言うと量販店みたいなイメージの店だ。

 親父さんの店とは異なり、綺麗すぎる。

 奥に工房もないみたいだし、ゼルトブルの流通武器を扱う店のようである。

 

「すまないが、剣を一本購入したい」

「お客様、では当店自慢の一品をお持ちしましょう」

 

 棚に丁寧に飾られている剣を店主が持ってきた。

 

「こちらはいかがですか?」

「……悪くはないんじゃないか?」

 

 今の錬は目利きスキルや鑑定スキルなど持っていないから、テキトーに格好つけただけだろう。

 あの剣は、微妙な出来であるのは見ればわかる。装飾過剰の鉄の剣だろう。

 

「お持ちになってみますか?」

「ああ」

 

 錬が装飾剣を持って振るうと、バチバチッと音がして、錬は装飾剣を取り落としてしまう。

 

「くっ、何が?!」

「アマキ様?!」

 

 と、空中で文字を読むように目線が動く。

 

「何? 《伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました》だと?」

「レン殿、どう言うことだ?」

 

 燻製も困惑している様子だ。

 

「どうやら勇者はこの武器以外には武器として使えないようだ」

 

 錬はそう言うと、装飾剣を拾う。

 お、動きが止まったぞ。

 

「ウェポンコピー……」

 

 錬はぼそりと呟くと、装飾剣を机に戻す。

 

「すまない。落としてしまって。他の剣も良ければ見せてもらえないか?」

「??? 構いませんが、装備できないのでは?」

「コイツらが装備するかも知れないだろう?」

「わかりました」

 

 錬は店員から色々な剣を受け取り、片っ端からコピーしていった。

 生産者からしてみれば、泥棒行為だなと呆れる。

 

「ソースケさんは、なんで呆れた顔してるのかしら?」

「えーっと、テルシアさん、だっけ?」

「そうよ。で、ソースケさんはなんで呆れたような顔をしてるのかなって思いまして」

「……さてな」

 

 まさか目の前で勇者が泥棒行為に近いことをやっているなんて、誰が悲しくて指摘してあげなければならないだろう。

 まあ、勇者は武器をいっぱい解放すれば強くなるので、誰も文句は言うまい。

 店主以外はな! 

 

「おい、行くぞ。やはり品質はあの店の方が良さそうだ」

 

 錬は剣を置くと、俺たちにそう告げた。

 どうやらこの店の品質はあまりよろしく無かった様子だ。

 結局俺たちは武器屋の親父さんのいる店に向かった。

 

「おう、いらっしゃい」

 

 相変わらず気のいい人である。

 

「お、あんちゃんじゃないか」

「おっす、親父さん」

 

 俺は知った仲ではあるので、挨拶をする。

 

「さっき盾の勇者様って奴が女連れできてたんだがよ。どーにも引っかかる感じの女を連れててやな感じだったぜ。ほら、お前が連れていたミナって嬢ちゃんに似た」

「あー、やっぱりそう見える?」

「ああ、あんちゃんの場合はそもそも信用してない感じだったが、盾のアンちゃんは信用しているみたいだったからな。気をつけてやんな」

「……善処するよ」

「で、さっきから剣を触ってる見慣れない服装の坊主は何者なんだ?」

 

 錬は黙々とウェポンコピーをしている最中だった。

 一応、紹介しておいた方がいいかな? 

 

「ああ、彼は天木錬って言って剣の勇者様だ」

「へぇー。って事は、四聖全員が召喚されちまったって噂は本当だったみたいだな」

「ああ、で、俺は剣の勇者様のパーティになったわけだ。不本意ながらな」

「あー、まあ、あんちゃんはそう言うのは好きじゃなさそうだもんな」

 

 なんか納得して言われたが、若干腑に落ちない。

 

「で、今日は何の用だ?」

「ああ、あの勇者様が使える防具を見繕って欲しいんだ」

 

 隕鉄の剣はまあ、良いだろう。

 

「はいよ。と言ってもまあ、見た感じだとあんちゃんと同じく軽装がいいだろうな」

 

 そう言うと、親父さんはアニメの一話で見たことがあるような錬の防具を取り出した。

 

「銀貨130枚と言ったところだ」

「おい、錬。防具はこれで良いか?」

「ん? あ、ああ」

 

 俺がメインで話しすぎたか。

 まあ、親父さんもあまり錬の方は覚えてなさそうではあった。

 最終的には弟子になるんだがな! 

 錬は鎧を手に取る。

 

「序盤だとそこそこ防御力が高い鉄の鎧の亜種か。いいんじゃないか?」

 

 錬はそう言うと、試着室に向かう。

 

「おい、冒険者!」

 

 燻製に胸ぐらを掴まれた。

 お、なんだこいつ? 

 燻製になりたいのか? 

 

「なぜ、剣の勇者様を呼び捨てにしているんだ?」

「ん? ……あ」

 

 年下だからすっかり忘れていたが、つい呼び捨てにしていた。

 いかん危ない危ない危ない……。

 燻製だけではなく、他のメンバーも若干睨んでいる感じがする。

 うーん、これは俺が悪いな。

 

「す、すまない。錬様、これで良いだろ?」

「波を鎮めたと言っても調子に乗るんじゃないぞ! 冒険者!」

「ああ、次からは気をつけるよ」

 

 俺が素直に謝ったからか、燻製は少し離れてくれた。

 

「おいおい、喧嘩は他所でやってくれよ」

 

 いかんいかん、確かにちょっとばかし傲慢になってしまっていたようだ。

 もう少し冷静に改めるとしよう。




つい、傲慢になってしまうのは、仕様です。


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剣の現実

 錬の装備を整えた俺たちは、錬のレベリングをすべく城下町を出ていた。

 

「アマキ様、パーティの申請を送っていただけないでしょうか?」

「パーティの申請……ああ、これか」

 

 錬から申請が来たので、俺は許可する。

 すると、ステータス魔法左上にあるメンバー一覧が更新される。

 錬がパーティリーダーなため一番上に表示され、次に自分、他のメンバーの順に続いていく。

 しかし、ゲーム脳の錬がパーティ申請を忘れるなんて、よほどワクワクしていたんだな。顔も何だかんだでワクワクを隠しきれていない。

 

 まず、俺たちは錬の指示に従い、錬のレベル上げをすることになった。

 錬曰く、剣ならばどの地域の魔物を倒せば最適にレベルを上げられるかと言うのがわかっているため、俺たちは錬に従い戦闘を行う。

 尚文とは異なり、バルーン程度なら一発で切り捨てられるんだな。

 そこはさすがは剣の勇者様と言ったところか。

 入手経験値も、勇者様のパーティメンバーと言う事もあってか若干高めである。

 まあ、バルーンの場合は入手経験値は1な事には変わらないけれどね。

 錬のレベルが10まで上がったところで(これは驚くほかなかったが)、錬がこう言い出した。

 

「お前らの戦闘方法が知りたい」

「そうですね! 連携を取ることが重要ですから」

「いや、お前たちもレベルを上げるべきだと思ってな。戦い方によって適した狩場があるから、お前たちは今の俺に付き合わずにレベルを上げるべきだ」

「……勇者様がそう言われるなら」

 

 若干不満そうなウェルトだが、勇者様の言うことだし素直に従う。

 

「私は主に勇者様と同じく剣で戦います」

「なるほど、アタッカーか。レベルは?」

「14です」

 

 錬はウェルトを観察しながらそう断言した。

 俺の戦い方とは違い、後衛を守るような動きをする片手剣使いがウェルトの特徴だ。盾でも持ってればより良いのではないだろうかと思うが、盾は宗教上の敵のため、所持していないらしい。

 

「吾輩は主に斧で戦う。レベルは16である」

「メインアタッカー兼タンクか」

 

 燻製は斧を使う。樹を殺したのも、確か斧だったっけな。

 立ち回りは一発が大きいメインアタッカーだろう。

 

「私は主に魔法で皆さんを支援するのが役目です。適性は水と回復です。レベルは13になりました」

「後衛の支援型だな」

 

 テレジアさんは自己紹介でも言った通りのことを繰り返した。

 実際、錬が怪我した時にすぐに回復魔法を唱えていたしな。

 

「あたしは攻撃魔法ね。土と風の魔法が使えるわ。あたしは一発が強い魔法を使うわよ。レベルは21ね」

「攻撃魔法使いか」

 

 ファーリーさんは、的確な攻撃魔法で殲滅するタイプの魔法使いアタッカーである。

 今はあまり魔法を使っていないが、錬の撃ち漏らしを確実に仕留めていた。

 

「……俺は、まあなんでもできる」

「なんでも……?」

「前衛、中衛、後衛、魔法の攻撃、支援魔法、それこそなんでもだな。器用貧乏なだけだが」

「そうか、ならばお前は中衛をやってくれ。あと、レベルは?」

「20だ」

 

 ムカっとしたが、ここで対立をしても意味はないだろう。

 俺は素直に従う事にした。

 

「では、お前たちはこれから俺の指示する狩場で魔物を討伐しろ。魔物の死骸は剣に吸わせるから確保しろ」

「アマキ様はどうされるので……?」

「俺は、レベル10の剣を鍛えるのに適切な狩場があるから、そこでレベル上げをする」

「は、はぁ……」

「では、ここから二つ先の村で夕方6時に落ち合う事にしよう」

「わかりました」

 

 と、そんな感じで錬は俺たちに狩場を指示する。

 錬の指示した狩場は確かに効率よくレベルを上げることができた。

 俺にもどうやら勇者の加護がかかっているらしく、レベル上げ自体は快適にできたが能力補正は発動していないことは確認できた。

 お陰でレベルが22まで上昇した。

 1日でそこまで上がるにのはなかなか凄いことではあった。

 

「おお! さすがはアマキ様!」

「勇者様って言うのは本当になんでも知っているのね」

 

 と大絶賛であった。

 しかし、魔物の分布までゲームで再現されているのか……。

 よほど調査したに違いがなかった。

 ま、メガヴィッチは因果律まで操れる存在だから、わかって当然なのだろうね。

 

 夕方には俺たちは錬の指定した村まで行き、宿を取る。

 錬は18時ごろに一度戻り、食事をすると俺たちの成果を確認したあと、もう少し近くの狩場で魔物を狩ってくると言い、俺たちが集めた魔物の死骸を剣に吸収させた後に再び出て行った。

 

「ぬぅー……何なのだ!」

 

 何故か燻製が憤慨している。

 

「どうされました? マルド様」

「あの剣の勇者は一体何を考えていられるのだと言いたい!」

「と、申されますと?」

「これでは、正義を成せないではないか!」

「正義……? 勇者様に従って強くなれば正義を成せると思いますよ」

「……ふんっ」

 

 それからしばらくして、錬が戻ってきた。

 燻製は先ほどの不満そうな態度から一転して錬に従う様子を見せる。

 ヴィッチ関係者じゃ無いにしても、燻製はさすがヴィッチと同類なのだなと改めて感じる一幕であった。




剣の勇者のソロプレイ、はーじまーるよー


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冤罪

さあ、ここからが盾の勇者の成り上がりの本編ですね!


 翌日未明、村の宿屋で休んでいると、兵士たちがやってきて叩き起こされた。

 

「剣の勇者様御一行、冒険の最中申し訳ありませんが、一度城までご同行お願いできませんか?」

「ん? 何故だ?」

「その、重要な事がございまして、勇者様にご覧になっていただきたい事態がありましたので……」

「……ふん、お前ら、行くぞ」

 

 ああ、そう言えばそうだったなと思い出す。

 おそらく、ここが第一の分岐点だろう。

 何のって? 

 もちろん、この世界が【成り上がり】の世界か、【やり直し】の世界のである。

 俺が【盾の勇者の成り上がり】の知識を持っているため、どの時空かと言うのがあやふやなのが現実である。

 メガヴィッチが生きている以上は【真・やり直し】の方では無いのが確定するけれどね。

 まあ、この時点で元康がきていないと言うことは少なくともフォーブレイ編では無いことは確定だが。

 なんて事を馬車に揺られながら考えていた。

 

「一体何の呼び出しでしょうね?」

「……さあな。くだらない事だったら俺はすぐに去るぞ」

 

 俺はそれを白々しく聞いていた。

 むしろ、この場で知らないのは錬だけである。

 本当のところであれば、俺が助けるべきなのだろう。

 だが、気持ち的には尚文がどうなろうとどうでもいいかなと言う感情が強いのも事実であった。

 おそらく、これは俺が波の尖兵となった時に植え付けられた呪いのようなものなのだろう。

 それに、ここで邪魔をした途端に俺の頭が破裂しそうな気がしていた。

 とりあえず、脳内でヴィッチを殺すことにして気を紛らわせるとしよう。

 

 城の前までやってくると、俺たちは樹のパーティと合流した。

 

「あれ、錬さんも呼ばれたんですね」

「……ああ、重要な事があると伝えられてな」

「僕も同じです。一体何なんでしょうね?」

「……さあな」

 

 しばらく進んでいると、謁見の間まで兵士に案内された。

 クズ始めとした連中は不機嫌そうな感じで立っており、楔帷子を着た元康と怯えるような演技をしているヴィッチが居た。

 

「……元康? それに尚文の仲間になった冒険者か。どうしたんだ?」

「これは不穏な空気ですね……。皆さん、行きましょう」

 

 俺たちは樹に言われ、錬の後を追って駆けつける。

 まあ、結果を知っている俺としては単に胸糞悪いだけだ。

 知らないのは父親であるクズと三勇者、冒険者達ぐらいだろう。

 

「……チッ」

 

 俺は舌打ちをする。見過ごすのはやはり不快でしか無い。

 だが、ヴィッチの企みである以上は俺はどうすることもできなかった。

 

「おい、どうしたんだ?」

「ああ、尚文がこの子……マインちゃんを襲おうとしたんだよ!」

 

 怒りに彩られる元康の声。

 ああ、これで確定だな。

 この世界は【成り上がり】の世界だ。

 次の分岐はリユート村での騒動になるかな。

 ここでweb版か書籍版か分岐する。

 

「何ですって!」

 

 怒りに彩られる樹。コイツ正義大好きだもんな。

 尚文の冤罪はまさに正義が正すべき案件だと思うんだが……。

 まあ、ここで俺が割り込んでも、意味なく無駄死にするだけだな。いや、この場で頭を破裂させて死ねば、三勇者の認識も変わって面白いかもしれないけれどな。

 俺は俺の命を無駄にするつもりはないのでしないけれどな。

 

 と、ここでようやく尚文の登場である。

 冤罪をかけられた過程については、割愛しても良いだろう。

 非常に気分が悪いとしか言いようがなかった。

 この馬鹿3人組にも、それに加担する連中にも、黙って見ているしかない俺にもだ。

 

「……ふん、気分が悪い」

 

 錬は、再召喚を行うためには四聖が死なねばならないと言う現実に動揺しているようであった。

 得てして、こう言う王道召喚ものは目的が達成しなければ帰れないことがほとんどである。

 復讐ものなんかは世界を救った後に化け物視されて討伐対象にされるなんてことも起きるが、勇者自体が神であるこの世界ではそう言うことは起きないだろう。

 

「アマキ様、これからどうします?」

「……ギルドで依頼を受けて、報酬を得つつ、しばらくはあの村近辺を中心にレベル上げをするぞ。最初の波の適正レベルは43だからな」

「そうなんですか! ではクラスアップが必要ですね」

「ああ、波までには全員40までは上げてもらう」

「わかりました」

 

 と、そんな感じで錬の今後の予定が淡々と決まっていく。

 と言うことは、最初の波の適正レベルは23とかそこらあたりだったのかなと考える。

 でなければ、波の魔物を冒険者や兵士で討伐しきれないだろう。

 と、胸糞悪い冤罪の光景を朝っぱらから見せつけられて、俺は気分が非常に悪かったが、錬のパーティとともにレンの指定していた場所で狩りをする事になったのだった。




冤罪部分は原作そのまんまのため割愛です。


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我慢の限界

燻製が生意気だと言う話


 あれから3週間ほど経った。

 基本的に俺たちはギルドの依頼を受けつつ、錬とは別行動でレベル上げをしていることが多かった。

 それこそ、錬でも手を焼きそうな魔物を相手にする時に、一緒に討伐する感じだ。

 今日受ける依頼も、強力なボスモンスターが出現する依頼らしく、俺たちは錬に同行することになっていた。

 俺と燻製以外のメンバーは、錬の知識量に感服してしまい、ウェルトは「レン様」と呼ぶようになった。いやまあ、俺の方が早く「錬様」と言っていた気がするけれどな。

 燻製は自分の思う通りに活動ができないためか、始終不機嫌で、錬の事は「剣の勇者」と言うようになっていた。

 

「今日の依頼は想定レベル37の強力なボスモンスターがいる依頼だ。最初に指示を出しておくから、その通りに動け」

「わかりました! レン様!」

 

 錬とはパーティは組んでいるが、一緒に戦うことはほとんどない。

 雑魚はウェルト達が率先して戦うし、ボスはウェルトや燻製がタゲを取りつつ錬がとどめ刺す形になるからだ。

 だからこそ、燻製の中にヘイトが溜まっていったのだろう。

 燻製が俺や他のメンバーに突っかかる回数も増えていき、俺も結構イライラが溜まっていた。

 

 錬は自分だけでゼルトブルに行き装備を整えてしまっており、アニメで見た装備を身にまとっている。

 一人で狩ってると思ったらいつのまにかと言う状態だ。

 

「今回のボスモンスターはラージファルガウルフと言う。ファルガウルフが大型化した魔物だ」

「ええ! ファルガウルフは滅多に出てこない魔物ですよ!」

「コイツはなかなか素早い。ウェルトとマルドは敵を引きつけてくれ」

「わかりました、レン様」

「……フン」

「テリシアは、主にウェルトとマルドを回復させつつ、適宜水魔法で攻撃しろ」

「わかりましたわ、レン様」

「ファーリーはいつものようにラストアタックは俺がとるから、それまでは全力で攻撃だ」

「承知しているわ、レン様」

「ソースケは、援護魔法をメインで切れないようにしてくれ。俺やウェルト、マルドがピンチの時は援護を、テリシアとファーリーが狙われた場合はタゲを取りに行ってくれ」

「あいよ」

「ファルガウルフの特徴は、その素早さだ。ラージファルガウルフともなると二足歩行で襲ってくる。今回の依頼もそのタイプだ」

 

 ファルガウルフ……俺は知らない魔物だ。

 というより、そもそも【盾の勇者の成り上がり】は現地の魔物については非常に描写の少ない作品だ。

 知らない魔物が居ても当然だろう。

 

 そして、俺達は依頼のあった洞窟に来ていた。

 ダンジョンとも言うべきこの手の洞窟は、結構あるらしい。

 メルロマルクだけでも有名なダンジョンは両手で数え切れないほどにはある。

 ダンジョンアタック自体は特に錬が一緒に潜ることの多い依頼だ。

 しかし、レイファは無事だろうか……。

 最近はレイファのことが気になって仕方なかった。

 

「ソースケさん」

「ん?」

「ボケっとしてる暇はないですよ。レン様を追いかけないと」

「あ、ああ」

 

 いかんいかん、レイファの事を考えててぼんやりしていた。

 どうやらこのダンジョンは巣になっているらしく、至る所からファルガウルフが飛び出してくる。

 そこまで苦戦しないけれどな。

 ウェルトと燻製が一匹潰す間に俺は3匹を槍で殺す。

 ここ最近ずっと槍ばかりを使っているせいで、槍の熟練度は上がる一方だ。

 ステータス魔法を見ても、槍の熟練度はかなり高い。

 剣と弓は使う機会が無く、せいぜい使う機会があるのは援護魔法と槍と小手ぐらいだろう。別の得物を使うと、ウェルトが錬に報告するので面倒なことになる。なので、最近はめっぽう槍ばかりだ。

 今度親父さんに『人間無骨』でも作ってもらおうかなと考えながら、俺は槍を振り回し、テリシアを襲うファルガウルフを薙ぎ払う。

 

「錬サマ、そろそろつかないのか?」

「もうすこし先だ」

 

 俺がそう言うと、錬はそう返してくる。

 レベルも34まで上昇し、ファルガウルフも片手間で排除できる状態になっていた。

 

「グルルルルル……!」

「出たな」

 

 錬は剣を構える。

 あれは確か、魔物のドロップで出た剣だったな。今はウェルトが装備している、ファングソード……だっけな。

 どうやら狼系の魔物を討伐すると稀にドロップするらしい。

 ちなみに、ファルガウルフのレアドロップの一つでもあるようだ。

 ラージファルガウルフは確定でファルガランページソードと言う狼特攻の装備を落とすらしい。

 

「行くぞ! はああああああ!」

 

 錬が突っ込む。

 

「レン様を援護するんだ!」

 

 ウェルトと燻製が後に続く。

 しかし、基本的に錬が突っ込んでいくのは仕様なのか? 

 俺はため息をつきながら、槍を構えて魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者らを守れ』

「アル・ツヴァイト・ガード」

 

 俺は基本的に魔道書を読んで覚えているが、錬は国から支給された水晶で魔法を覚えている。

 俺が錬に魔道書で覚える事をオススメした時、錬は少し魔道書を読んで、すぐに返してきたっけ。

 

「悪いが、『異世界言語解読』スキルを得るまでは読めない。お前が覚えろ」

 

 そんなスキルは実際確認されたことはない。

 結果的に俺が少しアドバイスをした程度では変わらないと言うことだろう。

 

「おっと」

 

 回想にふけっている場合ではないな。

 テリシアやファーリーに飛んでくる攻撃を槍でいなす。

 基本、錬は目の前の敵に集中してしまうため、こうして俺が後衛を守る必要があるのだ。

 ファルガウルフを槍で切り殺し、二人を守る。

 

「ツヴァイト・アースクエイク!」

「ツヴァイト・アクアショット!」

 

 後衛の二人は攻撃魔法を唱えて、錬の援護をする。

 流石に3週間一緒に戦っただけはあり、息はピッタリである。

 自分勝手に動く勇者様を除いてはであるが。

 一番攻撃力の高い燻製が一番囮にされているので、俺は燻製のヘイト管理をせざるを得ないのだ。

 燻製がいようがいまいが歴史は変わらないが、今死なれても困るだけである。死体の処理的な意味で。

 得物が斧なせいか、がむしゃら攻撃が多い印象なのだ。お前兵士だろうに……。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 なので、錬以上に無防備な燻製に変わり前線に出て燻製をかばう。

 

「貴様! 我輩の手柄を横取りする気か!」

「危ねぇから庇ってやったんだろが!」

「貴様……!」

 

 ちなみに、ウェルトが庇っても燻製は文句を言う。

 逐一偉そうだし、錬の指示は70%無視するしで、全員が全員、関わらない錬以外は燻製に対してヘイトを高めていた。

 互いの我慢の限界も、そろそろ近かった。

 そうそう、ラージファルガウルフはあっさりと討伐できたのは言うまでもなかった。



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龍刻の砂時計

完全に主人公が空気の回


 同じ事をしていると、描写する必要もなく、俺達は各地を巡ってレベルアップに勤めていた。

 俺はレイファやドラルさんが無事か情報を集めていたけれど、その情報が俺の手元に届くことはなかった。

 不安が募る。

 そんな中、俺のレベルは40に到達していた。

 もちろん、俺のステータス魔法にもレベルの横に★マークが付いている。

 

「そろそろ波も近い。お前らのクラスアップに行くぞ」

 

 錬がそう提案したのは、当然のことであった。

 刻限からいえば、確かにそろそろそんな時期である。

 

「あの、私はまだ35なのですが……」

「ふむ、だが波の刻限も近いからな。次の波の適正レベルは43なんだ。悪いが全員クラスアップをしてもらう」

「わ、わかりました!」

 

 適正レベルが43なのか。なるほどな、だから最初の波の時点で尚文以外の勇者全員がクラスアップをしたわけである。

 クラスアップをしなかった場合、経験値が無駄になってしまうわけだしな。ゲーマーとしては、自分の育てた仲間の経験値が無駄になるのは見過ごせないだろう。

 それに、波は通常よりも経験値が多めに手に入る。

 

「さすが錬サマだな。波での経験値を考えればここでレベルキャップを外しておかないとテルシアの経験値が無駄になるからな」

 

 なので、納得できない顔をするテルシアに対して、解説気味にそう言う。

 

「そうだ。そう言えばソースケは波の経験者だったな」

「まあな」

「自惚れるなよ、冒険者が。貴様の解説を聞かぬとも、剣の勇者が説明するはずだったのだ」

 

 なんでこう、この燻製は突っかかってくるのだろうか? 

 と言うか初めからではあるが俺に対する圧が強い。

 まるでさっさとこのパーティを辞めろと言っているかのようである。

 別にリーダーぶっているつもりはないんだがな……。

 

「と言うわけで、一度メルロマルク城下町に戻る。移動をするからお前ら付いて来い」

 

 と言うわけで、俺達はメルロマルク城下町に戻ったのだった。

 

 三勇教教会に入ると、教皇……ビスカ=T=バルマスだったけな、が迎えに出てきた。

 

「おお、剣の勇者様、弓の勇者様、よくぞお出でになられました。本日はどのようなご用ですかな?」

「樹も居たのか」

「錬さんもですか。奇遇ですね」

「樹もクラスアップか?」

「ええ、そろそろ波の刻限も近いと思いまして、その確認も含めてですね」

「なるほど、では剣の勇者様と弓の勇者様のお仲間のクラスアップが目的ですな」

「はい、そうです」

 

 バルマス教皇は偉そうな信者……司祭? と少し話すと、微笑みをたたえたまま奥に促す。

 

「もちろん構いませんよ。ちょうど、槍の勇者様と盾の勇者様もお出でになられております。少し会話をすると良いでしょう」

 

 シスターに龍刻の砂時計の間に案内してもらうと、早速ステータス魔法に波までの時間が表示される。

 

 19:59

 

 と、傲慢そうな女の声が聞こえてきた。

 

「何よ、モトヤス様が話しかけているのよ! 聞きなさいよ」

 

 これだけでヴィッチだとはっきりわかんだね。

 俺は兜から髪の毛が出てないか再度チェックし、問題ない事を確認する。

 しかしまあ、このタイミングな訳だね。

 

「ナオフミ様? こちらの方は……?」

「……」

 

 ラフタリアの声が聞こえる。

 ラフタリアは、何度か名前が出てきているが、尚文の仲間だ。

 タヌキが源流だとわかる尻尾にタヌキの耳を持つ、亜麻色の髪をした美少女がラフタリアだ。

 イメージはアニメそのままだろう。すでに17歳ぐらいに見える容姿をしており、改めて尚文が憎悪による認識障害を起こしている事を実感する。

 尚文は、蛮族の鎧に緑色のマントを羽織っており、顔がやさぐれている。目の下にクマができており、世界に対する憎悪が満ちているのが見ているだけでわかる。

 ぐっ……良心が痛む! 

 と言うか、ここまで憎悪に歪んだ顔をしているのに、なぜ元康も錬も樹もおかしいと気づかないのだろうか? 

 そうそう、当然ながら元康がいると言うことはヴィッチがいると言う事だ。つまり、俺の正常だった認識に若干曇りが入る、と言う事だ。

 

 尚文は不機嫌そうにラフタリアの手を握り、こちらに向かってくる。

 

「チッ」

「あ、元康さんと……尚文さん」

 

 樹は舌打ちをした尚文を見るなり不快な者を見る目をし、やがて平静を装って声を掛ける。

 

「……」

 

 錬はクールを気取っているため当然ながら無言だ。

 しかしまあ、この狭い空間に17人も居たら、鬱陶しい感じがするのはわかる気がする。

 

「あの……」

「誰だその子。すっごく可愛いな」

 

 戸惑いながら付いていくラフタリアに対して、元康がそう感想をつぶやき、キザったらしく近づいて自己紹介を始める。

 

「始めましてお嬢さん。俺は異世界から召喚されし四人の勇者の一人、北村元康と言います。以後お見知りおきを」

「は、はぁ……勇者様だったのですか」

 

 最初を知ってるだけに、笑える光景である。

 報酬よこせとか、色々要求してたのになー。

 おずおずとラフタリアは目が踊りながら頷く。

 

「あなたの名前はなんでしょう?」

「えっと……」

 

 困ったようにラフタリアは尚文に視線を向け、そして元康の方に視線を移す。困惑してるぞ、元康。

 

「ら、ラフタリアです。よろしくお願いします」

 

 ラフタリアは冷や汗を掻いて尚文の様子を見ている。

 

「アナタは本日、どのようなご用件でここに? アナタのような人が物騒な鎧と剣を持っているなんてどうしたというのです?」

「それは私がナオフミ様と一緒に戦うからです」

「え? 尚文の?」

 

 元康は本気で驚いているのか、ラフタリアと尚文を見比べる。

 

「……なんだよ」

「お前、こんな可愛い子を何処で勧誘したんだよ」

 

 元康は尚文を睨みつけながら、尚文を問いただした。

 ますます尚文の表情が歪む。

 

「貴様に話す必要は無い」

「てっきり一人で参戦すると思っていたのに……ラフタリアお嬢さんの優しさに甘えているんだな」

「勝手に妄想してろ」

 

 そもそも、盾でどうやって戦えと言うのかと。

 仲間もしくは奴隷を雇う以外無いだろう事は想像に難く無い。

 元康はこの中で一番頭がいいはずだけど……なんで思い浮かばないのかね? 

 

 尚文はこちらの方にある出入り口の方へ歩き出す。

 俺たちは道を開ける。

 

「波で会いましょう」

「足手まといになるなよ」

 

 ヴィッチがいるせいか、普段は気にすることの無い錬の言葉すらイラついてしまう。

 事務的でありきたりな返答をする樹と、勇者様態度の錬。

 目立たないように俺はしているが、内心心がザラついていた。

 

「行くぞ」

「あ、はい! ナオフミ様!」

 

 どうしたらいいのか迷っていたラフタリアは、尚文の声で正気に返ると慌てて尚文を追いかけていった。

 

「……くだらない茶番だな」

 

 俺がぼそりと呟いたのを錬が拾った。

 

「全くだ」

 

 うぐっ、同意されると俺まで中二病じみてる感じがして嫌だな。

 いや、高二病は治っていない自覚はあるけれども。

 チラリと周りを見ると、燻製以外の剣チームは苦笑いをしている。

 燻製は清々しい顔をしている。

 

「ふふん、正義がなされたのだ。盾の扱いなどこれで正しい」

 

 燻製の言うことなどをいちいち気にしていてもしょうがないだろう。

 俺は視線を戻して、元康達の方を見た。



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クラスアップ

感想、アンケート回答めっちゃ感謝です!


 さて、クラスアップである。

 この世界はレベルキャップが存在しており、40でレベルキャップとなる。

 龍刻の砂時計で儀式を行うことによって、レベルキャップを100まで外すことができるわけだ。

 

「それじゃあ、最初にクラスアップするのは俺の仲間だな」

 

 元康は軽そうな声でそう言うと、女3人のクラスアップを促す。

 

「マイン、レスティ、エレナは自分の思う通りにクラスアップしてくれ!」

「わかりましたわ、モトヤス様」

 

 この頃にはもう、このメンバーなんだなと思う。

 レスティからは案の定、ヴィッチと同じ感じがする。

 実際は言及されては居ないが、この感じは間違いなくメガヴィッチに似た気配である。

 エレナはまあ、知っての通りか。

 しかし、「モトヤス様に選んでほしい」なんて誰も言わないんだな。

 あっ……(察し)

 

 クラスアップの儀式はまあ、特に言及する必要もない。

 ピカーっとヴィッチ達の体が龍刻の砂時計から発せられた光に包まれて、おしまいである。

 

「モトヤス様、無事クラスアップが終わりましたわ」

「へぇー、みんな何を選んだの?」

「ふふ、それはあ・と・で、教えますわ」

 

 などと不毛な会話をしている。

 他の勇者がいるから教えたくないんだろうな。

 

「次は俺らだな」

 

 と錬が前に出る。

 

「良いですよ。どうぞ、お先に」

 

 樹は微笑みながら錬に順番を譲った。

 

「クラスアップで選ぶのは敏捷を重視しろ」

 

 錬の指示に従うウェルト達。

 奴隷でもない限りは相手のステータスを見る事はできないので、嘘をつく事も可能ではある。

 それぞれが龍刻の砂時計に近づき手を置くと、ステータスが強制的に開く。

 そして、龍刻の砂時計から光が溢れ、身体を包み込むと、ステータスにツリーが出現する。

 

「ああー、そう言う。なるほどねぇ」

 

 俺は思わず呟いた。

 クラスアップと言うのは、言うなればジョブチェンジだ。

 自分の可能性を選択できる、と言うのは間違いではない。

 おおよそ、条件としてはレベル40であるか、基礎ステータスが一定値以上であるかと言う感じだ。

 ゲームではおそらく、武器毎に決まったジョブにクラスアップしたのだろう。

 

「えーっと、確かオーダーは敏捷だっけな」

 

 俺はレベル40★のため、多くの可能性が選択できる。その上、日々の鍛錬……コソ練を続けてきたおかげか、基礎ステータスは高い。

 選べるジョブで素早さが高いのは、忍者、侍、シーフの3つだろう。

 うーん、でも、俺は基本槍ばっか使って何でも屋っぽい感じになっているしなぁ。

 ここは単純に敏捷の高さだけでなくて、戦闘スタイルとの兼ね合いも考えたほうがいいだろう。

 比較的素早さが上がりやすい中衛向けのジョブは……竜騎士? 

 竜騎士に変化すると、いくつかの専用の技と、龍騎乗A+と言うスキルがつくらしい。

 スキル……勇者専用じゃなかったのか。

 なので、俺はこれを選択する。

 光が俺の体に吸い込まれて、ステータスが若干伸びたように感じた。

 ふむ、ステータス魔法で確認をすると、攻撃力が1.5倍、素早さが1.2倍、それ以外のステータスが1.1倍伸びた。

 まあ、上々だろう。

 

「錬サマ、クラスアップが終わったぞ」

「敏捷が高いのを選択したか?」

「んー、流石にシーフや忍者を選ぶ勇気はなかったわ。今の戦闘スタイルから考えて、俺は竜騎士を選択した」

「……悪くはないな」

「レン様とソースケ殿は何を仰られているのだ?」

 

 ウェルトが話に入ってくる。

 

「クラスアップの話だが?」

「は、はぁ……シーフはわかりますが、ニンジャだのリュウキシだのよくわからない言葉で話されていたので、なんだと思いました」

 

 あー、忍者とか竜騎士ってメルロマルク語に無かったっけ。

 自然と、日本語を使ってしまっていたらしい。

 錬の言葉は俺には日本語にしか聞こえないからな……。

 

「……何を言っているんだ? ウェルトは」

 

 そして、自動で翻訳される錬にはわからない内容だったらしい。

 

「我輩はパワーこそ全てなのだ! 敏捷など我輩の戦い方に合わぬからな!」

 

 そして、声高らかに阿保を晒す燻製。それに、錬は若干呆れた表情をする。

 

「……ソースケ、マルドのフォローを任せた」

「……あいよ」

 

 その後、樹がそれぞれのメンバーに指示を出してクラスアップをさせた。

 後は、龍刻の砂時計の砂を入手するイベントだっけかな。

 そう思っていると、情報通の錬が一番はじめに声を出した。

 

「おい、シスター。龍刻の砂時計の砂を分けてもらえないか?」

「ええ、はい。勇者様のお望みでしたら」

 

 シスターが肯定すると、龍刻の砂時計の砂が採取されてそれぞれの勇者に分け与えられた。

 

「おお、ポータルスピアーか! 転移ができるスキルだな」

「ああ、これなら色々と移動が便利になる」

「こちらも出ましたよ。転送弓ですね」

 

 と、そんな感じで転送スキルをゲットした勇者たちなのであった。

 残り、波の刻限まで19時間。

 やり直しで元康は勇者たちがゼルトブルに行ったと言っていたが、ゼルトブルはなかなか遠い国だ。

 ポータルスキルで帰りに移動するにしても、行きで半日はかかるだろう。

 そんな事を考えていたら、錬が俺に耳打ちをした。

 

「ソースケ、俺はこれからゼルトブルに行く。……頼んだぞ」

「え、あ、マジ?」

 

 思わず素で反応してしまった。

 それから、三勇者は別々の馬車でゼルトブルに向かったらしい。

 全員仲間を置いて単独な点は、笑うところだろうか?




燻製は早く燻製にしたいなぁー
一応、書籍ルート(HardMode)なので、相当後になります。
残念!


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厄災の波

 ゼルトブルでウェポンコピーをしてきた勇者たちは、波の刻限の5時間前に自前に転送スキルで戻ってきた。

 

「ふっ……、隕鉄の剣を手に入れたぞ」

 

 よほど嬉しかったらしく、錬は隕鉄の剣のままにしている。

 あれは解放をしているのかな。

 流星剣は便利だもんな。

 

「こっちは任せたと言われたから、準備をしていたが……城の兵士から錬サマに渡してくれって言われたアイテムがあるから渡しておくぞ」

 

 俺は、信号弾を投げ渡す。

 信号弾はちょうど、銃のような形をしている。

 錬は片手でそれを上手くキャッチした。

 

「ふむ、これは……」

「信号弾だ。波が発生したら、それを天高く打ち上げて欲しいんだと」

「俺じゃなくてウェルトやテルシアでもいいんじゃ無いのか?」

「レン様、射撃系の支援具でもレベルによるステータスの差で飛距離が変わるんですよ。私たちの中ではレン様が一番ステータスが高いので、レン様にお願いしたいのです」

「……わかった」

 

 錬はそう言うと、自身の防具袋の中に信号弾をしまう。

 やはり、武器として使用する目的では無いならば、伝説の武器は弾いたりはしないようであった。

 

 00:03

 

 3分前。

 俺たちは武装を整えて、街中に立っていた。

 周りには武装した兵士が囲っている。

 勇者の出立を見送るのと無事を祈るためらしい。

 

「勇者様がた、どうか手早く波を鎮めてください!」

「もちろんだ。そのために俺たち勇者が呼び出されたんだからな」

 

 元康……道化様が自分の槍を振り回しながら、悠々とそう言う。

 

「ええ、僕たちの責務です。最善を尽くしましょう」

 

 樹が胸に手を当ててそう言う。

 

「ふん、やれるだけの事はやるさ」

 

 錬も応じる。

 しかし、全員が全員隕鉄シリーズなのな。

 現在解放中ってところか。

 ゼルトブルまで行かなくても、錬には入手する手段はあったと思うが、まあ、ヒミツだ。

 

 0:02

 

 俺たちの周囲が光に包まれる。

 まるでサーヴァントが去るときのような……ってFate/シリーズやってないとわからない例えだな……。

 

 今回、俺は全ての武器をフル装備している。

 槍は、錬が渡してくれたドロップであるニアフェリーランス。ニアフェリーボアと言うイノシシのような魔物を討伐した時のドロップである。

 剣は、親父さんの店で購入した短剣を装備した。アーマードナイフと言ったところだろう。短剣ほどある長さだが、ナイフである。扱い方は軍のコンバットナイフのような感じだろうか? 接近した時に使う。

 弓は、腰にクロスボウをぶら下げている。親父さんが作ってくれたもので、イメージを伝えただけで作ってくれるとはさすがであった。これは遠距離で牽制する時に使う。

 小手ももちろんアップグレードしている。錬から貰ったドロップ品でニアフェリーガントレッドだ。

 鎧もアップグレードしてあり、見た目は若干豪華になっている。

『人間無骨』は一応依頼したが、親父さん曰く、

 

「はぁ……、対人用のエグい構造の槍だな。まあ、防御貫通まで再現できるかわからねぇが、試してみるか。盾のアンちゃんの分もあるから少し時間がかかるが、大丈夫か?」

 

 という感じで、波の後に完成することになっている。

 

 0:01

 

 さて、俺は基本的には錬達の露払いだ。

 村は尚文達に任せることになる。

 波の中心でキメラを討伐するが、これは勇者に任せれば大丈夫なはずだ。

 

「勇者様ー!」

「波からお救いください!」

「勇者様ー!」

 

 と、大仰な見送りがあり、時刻が訪れた。

 

 0:00

 

 ──ビキン

 

 音が響き、一瞬で景色が変わった。

 お、尚文とラフタリアもいる。

 

「行くぞ!」

 

 錬の声に続いて、一斉に駆け出したので、俺は後を追って走り出した。

 

「リユート村近辺です!」

 

 ラフタリアが焦るように何処へ飛ばされたか分析する。

 

「ここは農村部で、人がかなり住んでいますよ」

「もう避難は済んで──」

 

 尚文はハッと気づいたが、もう遅かった。

 

「ちょっと待てよ、お前等!」

 

 そんな尚文の制止する声が聞こえたのは、それなりに離れた後であった。

 錬は信号弾を上に構えて放つと、その場から煙の柱が上がる。

 近くのリユート村だし、30分もあればこれるだろう。

 内心悪いなと思いつつ、早速湧いて出た波の魔物をクロスボウで撃ち落とす。

 戦う前に打ち落とせば、数は減らせるだろう。

 弓の勇者様はそんなことには気づかない様子である。

 誰が一番初めに波の麓に到着するか競っているように、目の前に現れる魔物を討伐していた。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 自分のパーティメンバーのみを対象に、俺は支援魔法をかける。

 どうせこいつらは、俺の話は聞かないだろう。

 なので、尚文のためにも露払いだけやっておく。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を今一度読み解き、彼の者等を打ち滅ぼす雷の嵐を呼びおこせ』

「ツヴァイト・サンダーストーム!」

 

 俺が魔法を発動させると、ファーリーが驚いたように俺を見る。

 

「ソースケ、アンタ何してんのよ! 魔力を消費して!」

「経験値稼ぎだ。気にするな」

「気にするわよ! 援護魔法をかける時に魔力が足りなかったらどうするのよ!」

 

 俺は太もものポーチを指差す。

 

「俺はここにポーションと魔力水は携帯しているから、気にするな。それより、波が近づいてきたせいか、魔物の数が増えているぞ。気をつけろ」

「むー、それもそうね。ソースケがブーストかけてくれたおかげで身体が軽いし」

 

 ファーリーは早速攻撃魔法を唱えて、襲ってくる魔物を討伐する。

 それぞれ、元康の女ども以外の仲間達は魔物に攻撃を開始したのだった。

 

「ほら攻撃が来るじゃないの! 守りなさいよ!」

「もう! 役に立たないわね!」

 

 今この場では、先頭に立って戦っている燻製の方が、喚き散らしているヴィッチ達よりも役に立っているなと感じる俺であった。




波のボスとの戦いは次回やります。


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vs次元ノキメラ

 さて、今回の波のボスは次元ノキメラである。

 おそらく、波の魔物と言うのは接続した世界の魔物が出てくる現象だ。

 まあ、推測だけどね。

 つまり、あの波の先はキメラやリザード系統、ゴブリン系統の魔物が存在する世界である。

 出てくる魔物はこの世界とは違い、よくあるファンタジー魔物と言ったらいいか、そう言う世界っぽい。

 

 魔物に妨害されて、2時間ほど時間がかかってしまったが、俺たちは次元ノキメラのところまでたどり着いた。既に魔物が多数取り巻いており、リユート村までかなり近いところまで接近していた。

 これは勇者が来なかったら、ルロロナ村の様に人里で大暴れしたに違いないな……。

 今地に伏して倒れている冒険者の亡骸が、この次元ノキメラの強さを雄弁に物語っていた。

 出現位置はリユート村にかなり近い位置である。

 

「一番槍は俺が貰った! エアストジャベリン!」

 

 次元ノキメラは獅子の頭、龍の頭、山羊の頭の蛇の尻尾を持っている。

 魔獣というのがふさわしいだろう。

 勇者たちが近づこうとすると龍の頭が炎のブレスを吐いてくる。

 エアストジャベリンはキメラの蛇の尻尾に弾かれる。

 

「行くぞ! 勇者殿をお助けするのだ!」

 

 燻製が走り出す。

 

「チッ!」

 

 俺は燻製の前に出ると、槍でキメラの爪攻撃を防ぐ。

 力の方向を見て、槍でその方向を変えるイメージだ。

 

「燻製! 前に出るな!」

「く……は?」

 

 俺のあだ名に困惑する燻製。

 そう言えば、俺は燻製のことを呼んだことが一度もなかったな。

 

「君、良い槍持ってるね! 後で見せてよ!」

 

 元康がそう言うと、尻尾と戦う俺を抜いて攻撃する。

 

「はああああ! 乱れ突き!」

 

 乱れ突きが命中し、キメラは怯む。

 

「行くぞ! エアストバッシュ!」

「エアストアロー!」

 

 錬の使う、いわゆる空波斬みたいなものである。

 樹も、冒険者としては強力な弓を放つ。

 

「我輩も行くぞ!」

 

 キメラが怯んだ隙をついて、燻製が斧で攻撃する。

 ダメージは、そこそこな感じかな? 

 ちなみに、ウェルト達は他の魔物と乱戦状態であった。

 

「三段撃ち!」

 

 樹が技を放つ。

 吸い込まれる様に矢の軌道が変わり、弱点っぽい所に命中する。

 それに、怒ったのかドラゴンの頭が樹に噛みつきに行く。

 それにしても多彩な攻撃だ。

 隙という隙が無いのだ。

 こんな感じのこう着状態がしばらく続いてしまう。

 お互いダメージを与えあって、しばらく戦っていると、元康が槍を隕鉄の槍に変化させた。

 

「強化がまだだけど仕方ない! 流星槍!」

 

 元康が飛び上がり、槍を放つと星のエネルギーが出現して次元ノキメラに命中する。

 

「では、次は僕が、流星弓!」

 

 弓から放たれる矢に合わせて、星のエフェクトが出現し次元ノキメラに命中する。

 

「流星剣!」

 

 錬は接近して切りつけると星のエフェクトが召喚されて追加でダメージを与える。

 それぞれ、アニメで見た流星シリーズそのままである。

 俺が再現するには、魔法剣の様な感じですると良いだろうか? 

 俺の使う雷大旋風も、勇者なら合成スキルで出来そうではある。

 

「ソースケ! 魔法!」

 

 と、錬から指示が入る。

 ああ、合成スキルを使うんだな。

 

『力の根源たる俺が命ずる、理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を放て』

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「合成スキル・エアストサンダーソード!」

 

 俺の放ったサンダーショットが錬の剣に集中する。そして、錬が天に剣を掲げると、雷の剣が空中に召喚されて、次元ノキメラに直撃する。

 これは俺が錬の前で雷大旋風を使ったことから思いついたらしい。

 ヘルプで確認すると、『合成スキル』の項目を見つけたらしい。

 

「グギャアアアアアアアア!!」

 

 ダメージを受けてキメラが悶絶をする。

 やはり、波の戦いは勇者がいてこそと言うことか。

 そこまで苦戦している様子を見せないのは流石だろう。

 

「ヒュー、カッコいい! だが俺たちも負けないぜ! マイン! エレナ! レスティ!」

 

 さっきから積極的に戦わず、近くに居た魔物のみ倒すエレナと、他の仲間に魔物を押し付けるヴィッチとヴィッチ2号が、元康の指示に足を止めて魔法を詠唱する。

 

『力の根源たる私が命ずる、理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす炎を放て』

「ツヴァイト・ファイアショット!」

「「ツヴァイト・エアーショット!」」

「みんなの力を借りた俺の合成スキル! くらえ! エアストバーストフレアランス!」

 

 炎と風の塊が槍から放たれて、キメラを燃やす。

 この頃はまだ『私』なんだな。

 既に『次期女王』とでも言うのかと思った。

 あの時はメルティを殺せると確信があったから言っていたんだろうなと思う。

 

「錬さん、元康さんに良いところを見せてもらいましたし、僕も続きましょう。皆さん!」

「はい、イツキ様!」

 

 樹の仲間の一人が魔法を唱える。

 

「ツヴァイト・エアーショット!」

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「行きます。合成スキル、エアストプラズマストームアロー!」

 

 樹の放った矢にエアーショットとサンダーショットが絡みつき、緑色のプラズマを放ちながら、キメラに直撃する。

 

「ギャオオオオオオオオオン! グルルルル……」

 

 次元のキメラは苦悶の声を上げて倒れた。

 1時間もかかってしまったが、なんとか倒せたのだ。

 次元ノケルベロスは思えばあれは弱い魔物だったのだろう。

 つまり、今回の波の脅威度は前回よりも高かったという証左である。

 

 仲間の方は同時並行で周囲の魔物を片付けていたわけだが、もちろん波のボスを倒したからと言ってすぐに波が鎮まるわけでもなく、魔物も減ったりはしない。

 かと言って勇者ほどの派手な技も見せ場もなく地味に処理出来てしまった。

 それでも到着までに2時間、キメラ討伐までに1時間は普通にかかっている。そして、波の亀裂まではさらに2時間かかってしまった。

 到着が遅れたことによって、被害はそれなりに拡大しており、幸いにして死者が出なかったことが唯一の良かった点だろう。

 

「それじゃ、波の亀裂まで無事到着できたことだし、波本体を攻撃しますかね」

 

 元康がそう言うと、錬と樹はうなづいた。

 そして、勇者たちがそれぞれの勇者スキルで波の亀裂を攻撃をすると、波の亀裂が治っていく。

 

 もちろん、既に出現してしまった魔物は消えないので、それを討伐しながら俺たちはキメラの元へと戻ったのだった。

 キメラの元に戻ると、錬はドラゴンの部位を収め、元康はライオンの顔を収め、樹は山羊の頭を武器に収めた。

 

「ま、こんな所だろ」

「そうだな、今回のボスは楽勝だった」

「ええ、これなら次の波も余裕ですね」

 

 そんな事を勇者たちがが話していると、騎士団を連れた尚文が登場する。

 しかし、尚文は何も語らずに睨んだ後に、舌打ちをする。

 

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 

 やっぱり、どこかで似た様な兵士がそう告げる。

 んー、このタイミングでこのセリフを言うって言うことは……。

 ああ! 思い出した! 

 この後亜人に消される兵士じゃん! 

 

 その兵士長の指示に従い、勇者達は移動することになった。

 俺がふと立ち止まり、尚文を見ると、ちょうどアニメの構造と被って見えた。

 

「あ、あの……」

 

 リユート村の人達だろうか? 

 尚文に駆け寄り話しかけた。

 

「なんだ?」

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います」

「なるようになっただろ」

「いいえ」

 

 尚文の返答に、首を振って応える。

 

「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです」

「そう思うなら勝手に思っていろ」

「「「はい!」」」

 

 村の連中は尚文に頭を下げて帰っていった。

 

「ソースケ」

 

 錬に声をかけられて振り向く。

 ちょうどラフタリアが尚文に話しかけるのと同じタイミングだった。

 

「行くぞ」

「……あいよ」

 

 こうして、勇者達によって波が鎮められた。

 正直、あの強さならばレベル100の冒険者の方が強いのではないのだろうかと思う。

 だが、今回は尚文が村の防衛役、錬たち他の勇者がキメラと戦ってちょうどいいバランスだった様に、俺には感じられたのだった。




やっぱり、勇者は弱いんじゃないかと言う。
キメラ戦の最後で合成スキルでとどめを刺したのは、隕鉄シリーズの解放が住んでいない+それぞれの強化が完了していないためです。

エアストサンダーソードは、宗介も雷轟剣として使えたりします。


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茶番な祝賀会

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 

 クズの不快な声が会場に響く。

 陽も落ち、夜になってから城で開かれた大規模な宴にクズが高らかに宣言したからだ。

 ちなみに死傷者は前回が1万人(亜人を含めるともっといたかな?)ほどであり、セーアエット領が壊滅したことに比べれば、今回の死傷者は一桁に収まる程度だったので、喜ばれるのも納得ではある。

 むしろ、前回はセーアエット領で発生したために余計に兵士の到着が遅かった疑いまである。

 今回の波だって領の兵士や冒険者だけでは到底防ぎようがなかっただろう。

 尚文が波から守らなければ、リユート村含めた周囲の村は滅んでいただろう。

 

 そんな感じで、祝賀会が開催された。

 勇者様方は貴族の女性に囲まれてちやほやされている。

 尚文は窓枠のところで真剣な表情でタッチスクリーンを操作するような手つきでステータス魔法を操作している。

 錬は煩わしそうな雰囲気を出しつつ、まんざらでもない表情をしている。

 

「ソースケさん!」

 

 不意に聞き覚えのある声を聞いた。

 げ、ミナだ。

 そう言えば、ミナはアールシュタッド領領主の娘だったな……。

 

「や、やあ」

「すみません、父が勇者様との旅を認めなかったので道中抜けてしまって」

 

 俺は嫌な奴にあったなぁと思う。

 まあ、確かに貴族として着飾っているミナは美人だろう。

 だが、中身はヴィッチである。

 つまりはそう言うことだ。

 

「今は剣の勇者様の仲間をしていらっしゃるんでしたね」

「ああ、そうだな」

「今度埋め合わせをさせていただきますね」

「いや、大丈夫だ。気にしないでくれ」

 

 本当に大丈夫だから! 

 お前といるとなんか精神が蝕まれる感じがして嫌なんだよ! 

 とは口には出さないが思っていた。

 

「おい、冒険者! なんだその良い女は!」

 

 既に酒を飲んで顔が赤い燻製が絡んできた。

 ちょうどいい、押し付けてやるか。

 似た者同士気があうことだろう。

 

「おお、勇者ではない身であるにも関わらず、果敢にも攻撃を仕掛けた勇敢なマルド氏では無いか!」

 

 俺がキャラが変わったように褒め称えたが、それに乗る阿呆が目の前にいた。

 

「そうだろうそうだろう! 我輩の活躍に、ようやくお前も気づいたか!」

「ええ! まさに勇者と言っても過言では無い活躍でした!」

 

 誇大広告である。確かにアタッカーとして頑張ってはいたが、HPゲージ的には1mm程度の活躍だ。

 大部分は勇者達の成果である。

 そもそも、俺ら冒険者は基本的には勇者様の露払いが役目だ。

 俺は燻製の盾になったが、それでも魔法で雑魚殲滅の手伝いはしていた。

 

「そうだろうそうだろう! わぁっはっはっはっは!」

「ミナ、紹介する。この人は波で活躍されたマルド氏だ」

「え、あ、はい、そうなんですね。よろしくですわ」

 

 ニコニコと微笑むミナ。

 だが、名乗らなかった。

 

「わっはっは! よろしく頼むぞ、ミナ殿!」

 

 気分良さそうに酒を煽る燻製にヴィッチはお似合いだろう。

 やはり、俺は波の尖兵には向かないな。

 あんなに傲慢にはやはりなれない。

 と、威勢のいい声が聞こえて、会場がざわついた。

 

「おい! 尚文!」

 

 ああ、もうそんな時間なのか。

 俺は人を掻き分けて騒動の中心を鑑賞しに行く。

 いやだって、これが盾の勇者の成り上がりたるイベントだし、モブとしては見に行かないわけにはいかないよなぁ? 

 ちょうど元康が尚文に手袋を叩きつけているところだった。

 

「決闘だ!」

「いきなり何言ってんだ、お前?」

「聞いたぞ! お前と一緒に居るラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

 

 当のラフタリア本人は騒動など気にせずご飯を美味しそうに食べていた。

 

「へっ?」

 

 そんなラフタリアは置き去りにイベントが進行していく。

 

「だからなんだ?」

「『だからなんだ?』……だと? お前、本気で言ってんのか!」

「ああ」

 

 うーん、人間不信が極まって超がつくほどの説明不足感を感じるな。

 今の元康に聞く耳などないだろうが。

 

「アイツは俺の奴隷だ。それがどうした?」

「人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

「何を今更……俺達の世界でも奴隷は居るだろうが」

 

 ちゃんと元康に説明するならば、こうだろうか? 

『俺の盾は攻撃力がない。お前らのせいで仲間もできない。そんな状況に追い込んで置いて、奴隷すらも使うなだと? そもそも、この国は奴隷を認めている。仮にラフタリアが女じゃなかったらお前は声もあげなかっただろう?!』

 うーん、やはり今の俺では決闘する流れを変えることは不可能か。

 

「許されない? お前の中ではそうなんだろうよ。お前の中ではな!」

 

 相手が元康のせいか、完全に怒りに飲まれている尚文。

 側から見ればわかるが、完全に目が濁っている。

 それでも消えない優しさがあると言うことは、やはりやり直しの通り、元は優しい性格なんだろうな。

 

「生憎ここは異世界だ。奴隷だって存在する。俺が使って何が悪い」

「き……さま!」

 

 ギリッと元康は矛を構えて尚文に向ける。

 

「勝負だ! 俺が勝ったらラフタリアちゃんを解放させろ!」

「なんで勝負なんてしなきゃいけないんだ。俺が勝ったらどうするんだ?」

「そんときはラフタリアちゃんを好きにするがいい! 今までのように」

「話にならないな」

 

 交渉下手かな? 

 元あった状態から帰るなら、負けたらその代価を支払うべきだろう。

 今の元康に払える代価は金銭かな? 

 

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」

 

 尚文が去ろうとすると、クズの声が聞こえて、人垣が割れる。

 

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

「知るか。さっさと波の報酬を寄越せ。そうすればこんな場所、俺の方から出てってやるよ!」

 

 いやー、ほんとクズですわ。

 そんな事を言うならば、メルロマルクから亜人奴隷を一掃しろよと。

 クズはどうせ許可・推奨している側だろうに。

 

 クズは溜息をすると指を鳴らす。

 周囲で待機していた兵士達がやってきて尚文を取り囲んだ。

 見ればラフタリアが兵士達に保護されている。

 

「ナオフミ様!」

「……何の真似だ?」

 

 尚文は憎悪に濁った瞳でクズを睨みつける。

 

「この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

「……チッ!」

 

 女王様に聞かせたい言葉だな。

 万が一メルロマルク女王様に謁見する機会があれば、聞かせたいものだ。

 

「勝負なんてする必要ありません! 私は──ふむぅ!」

 

 ラフタリアが騒がないように口に布を巻かれて黙らされる。

 

「本人が主の肩を持たないと苦しむよう呪いを掛けられている可能性がある。奴隷の言う事は黙らさせてもらおう」

「……決闘には参加させられるんだよな」

「決闘の賞品を何故参加させねばならない?」

「な! お前──」

「では城の庭で決闘を開催する!」

 

 ちなみに、城の庭と言っても、あそこは決闘場だ。

 訓練で立ち行って、あそこで訓練してたしな。




宗介くん野次馬根性丸出しの回


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矛盾の実践

 城の庭は今、決闘会場と化していた。

 辺りには松明が焚かれ、宴を楽しんでいた者達がみんな勇者の戦いを楽しみにしている。

 しかし、決着がどう付くかは既に周知の事実となっているのだ。

 攻撃する手段の無い尚文と、槍の勇者である元康の戦い。

 盾の勇者一行と槍の勇者一行の戦い……ではなく、尚文と元康の一騎打ちになった。

 さすがに元康自身のプライドが許さなかったらしく、一対一になった。

 結果は誰だって想像くらい出来る。

 現にこの手のお約束である賭博行為をする声がまったく聞こえてこない。

 まあ城に居るのが貴族が多いと言うのもあるけれど、俺を含めた波で戦った冒険者だって居るのだ。

 普通であれば賭博が行われないはずが無い。

 つまりみんな分かっていて尚、尚文に敗北を要求している。

 錬は興味なさげに、樹は尚文を哀れむような表情で城のテラスから傍観している。

 ヴィッチ……ああ、赤豚ね、アイツがいる位置は普通に見てもやはり変な位置にいる。ちなみに、ミナの方はアールシュタッド領主の隣である。

 常識的に考えれば、アレでは戦闘に巻き込まれてもおかしくはない位置だ。

 原作にはないが、アニメ版には出現するバルマス教皇もいた。

 いやまあ、尚文が教皇を認識したのがドラゴンゾンビの後だから、認識外だったのかもだけれどね。

 

「では、これより槍の勇者と盾の勇者の決闘を開始する! 勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」

 

 しかし、この場の空気は非常に不快だ。

 燻製の顔もこれから起こる事を期待しているような、嫌な顔をしている。

 

「矛と盾が戦ったらどっちが勝つか、なんて話があるが……今回は余裕だな」

 

 元康舐めた感じでそう勝利宣言をする。

 自分の正義に酔っているのだろうけれども、客観視すると悪だろう。

 少なくとも、弱者をいたぶる事が正義だとは到底思えないな。

 

「では──」

 

 審判っぽい兵士が溜める。

 

「勝負!」

 

 さて、茶番が始まった。

 いやまあ、流れは変わってないから結末も同じだろう。

 なので、ここは基本的に決闘に参加しない連中を見たほうがいいかな。

 錬と樹は、尚文の戦い方に驚いている様子だ。

 

「……盾があんなに善戦するなんて」

「確かに、驚きだな」

 

 ゲームに詳しいとか言っているが、こいつらは戦いに詳しいわけではないからな。

 実際、他のネトゲでもタンク職は重要だったりする。

 ヘイト管理や前線職が戦いやすい状況を作り、魔法職に攻撃がいかないようにするのが役目だ。

 タンクが落ちれば戦線は決壊する。

 TRPGでもパーティを組んで遊ぶ時は俺がタンクをやっていたっけな。

 それほど重要な事を理解していないのは、ゲームオタクを名乗るものとしては不思議に思う。

 中衛をやっていても、ウェルトがタンクをやっていてくれるからやりやすいのもあるしな。

 

「きゃあああ! モトヤス様ー!」

「モトヤス様ー。頑張ってー」

 

 元康の仲間二人は、元康がもっと簡単に勝てると踏んでいたのかきゃあきゃあ言っている。言っているのだが、エレナの方は若干棒読み感を感じてしまった。

 

「おいおい! 槍! 情けないぞ! 冒険者の方が動きがいいではないか!」

 

 俺を引き合いに出してぎゃあぎゃあ言っているのが燻製だ。

 まあ、そう言う反応になるよね。

 お前を守っているのが俺だし。

 他の錬の仲間は、すごく申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 樹の仲間は、元康を普通に応援している。

 そう言えば、樹の仲間はクズ揃いだったっけ……。

 

 ミナは、俺が見ていないと思っているのか舐めた顔をしている。

 尚文がヴィッチの風魔法で吹き飛ばされた時はすがすがしい顔をしていたので、やっぱり同類だなと感じた。

 

「はぁ……はぁ……俺の、勝ちだ!」

 

 元康の辛そうな勝利宣言に、会場中が湧き上がる。

 いや、そこは喜ぶところなのかな? 

 弱い弱いと思っていた盾に苦戦しているんだぞ。

 明らかに勇者が弱いことの証左だろうが! 

 

 俺はこのクッソくだらない茶番を見ながら、呆れるしかなかった。




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知らなければならない現実

感想の方のコメントを一部採用しました!


「何が勝ちだ、卑怯者!」

 

 尚文は憤怒の形相で立ち上がり、元康を問い詰める。

 

「何の事を言ってやがる。お前が俺の力を抑えきれずに立ち上がらせたのが敗因だろ!」

 

 うっわ、流石にそのポジティブ解釈は引くわ。

 外から見てもヴィッチが魔法を使ったことは明らかだし、手をかざしてたしね。

 錬の顔を観ると、訝しむ顔をしている。

 

「お前の仲間が決闘に水を差したんだよ! だから俺はよろめいたんだ!」

「ハッ! 嘘吐きが負け犬の遠吠えか?」

「ちげえよ! 卑怯者!」

 

 虚しい茶番劇が繰り広げられる。

 

「ソースケ」

「ん?」

 

 錬の方から話しかけてきた。

 

「お前は気づいたか?」

「あの女の使った魔法にか?」

「ああ、お前が気づいたのなら間違いないな」

 

 錬は納得したようにうなづくと、樹の隣に戻り話し始める。

 

「そうなのか?」

 

 観衆に元康は目を向ける。

 だけどそっちの観衆は教皇や貴族が座っている側だ。当然ながら沈黙が支配する。

 

「罪人の勇者の言葉など信じる必要は無い。槍の勇者よ! そなたの勝利だ!」

 

 クズがそう宣言する。俺がここで楯突いても問題ないだろうが……。どっちみち錬や樹が動きそうな雰囲気を出している。

 聞き耳をたてると、

 

「なるほど、それは懲らしめなければなりませんね」

 

 と言う気の抜けるような樹の言葉が聞こえてきた。

 

「さすがですわ、モトヤス様!」

 

 事の元凶であるヴィッチが白々しく元康に駆け寄る。そして城の魔法使いが元康だけに回復魔法を施し、怪我を治す。

 尚文の周囲には誰もいなかった。

 

「ふむ、さすがは我が娘、マルティの選んだ勇者だ」

 

 と、クズは赤豚ヴィッチの肩に手を乗せる。

 その事実に驚愕の表情を浮かべる尚文。

 

「いやぁ……俺もあの時は驚いたよ。マインが王女様だなんて、偽名を使って潜り込んでたんだな」

「はい……世界平和の為に立候補したんですよ♪」

 

 嘘くさい言葉を並べるなこのヴィッチは。

 あ、尚文の盾から黒いモヤが溢れ始めたぞ。

 

「さあ、モトヤス殿、盾の勇者が使役していた奴隷が待っていますぞ」

 

 クズがそう言うと、人垣が割れ、ラフタリアが国の魔法使いによって奴隷の呪いを、尚文に見せつけるように、今まさに解かれようとしていた。

 魔法使いが持ってきた杯から液体が零れ、ラフタリアの胸に刻まれている奴隷紋に染み込む。

 ふと、視線を移すと、錬達二人はすでに席を外していた。

 

「ラフタリアちゃん!」

 

 元康がラフタリアの方へ駆け寄る。

 口に巻かれた布を外されたラフタリアが近付いてくる元康に向けて言葉を、涙を流しながら元康の頬を叩いた。

 パンッと結構強い力でビンタしたのか音が鳴り響く。

 

「この……卑怯者!」

「……え?」

 

 叩かれた元康が呆気に取られたような顔をする。

 

「卑怯な手を使う事も許せませんが、私が何時、助けてくださいなんて頼みましたか!?」

「で、でもラフタリアちゃんはアイツに酷使されていたんだろ?」

「ナオフミ様は何時だって私に出来ない事はさせませんでした! 私自身が怯えて、嫌がった時だけ戦うように呪いを使っただけです!」

 

 ラフタリアの涙の訴えに、困惑の表情を浮かべる元康。

 おいおい、現実を見ろよ。

 冒険者側はすっかり白けてしまったのか、俺以外すでに席を外し始めていた。

 

「それがダメなんだろ!」

「ナオフミ様は魔物を倒すことができないんです。なら誰かが倒すしかないじゃないですか!」

「君がする必要が無い! アイツにボロボロになるまで使われるぞ!」

「ナオフミ様は今まで一度だって私を魔物の攻撃で怪我を負わせた事はありません! 疲れたら休ませてくれます!」

「い、いや……アイツはそんな思いやりのあるような奴じゃ……」

「……アナタは小汚い、病を患ったボロボロの奴隷に手を差し伸べたりしますか?」

「え?」

「ナオフミ様は私の為に様々な事をしてくださいました。食べたいと思った物を食べさしてくださいました。咳で苦しむ私に身を切る思いで貴重な薬を分け与えてくださいました。アナタにそれができますか?」

「で、できる!」

「なら、アナタの隣に私ではない奴隷がいるはずです!」

「!?」

 

 ラフタリアは黒いモヤを掻き分けて、尚文の元へと駆けつける。

 

「く、来るな!」

 

 うずくまる尚文の声は大きかった。

 

「噂を聞きました……ナオフミ様が仲間に無理やり関係を迫った、最低な勇者だという話を」

「あ、ああ。そいつは性犯罪者だ! 君だって性奴隷にされていたんだから分かるだろう」

「なんでそうなるんですか! ナオフミ様は一度だって私に迫った事なんて無いんですからね!」

 

 えー……、まだ言っているのか。

 そろそろ現実を直視した方がいいんじゃないの? 

 元康は頭がいいんだろう? 

 俺は呆れながら、肩肘をついてその様子を見ていた。

 気分は傍観者ちゃんだな! 

 

「は、放せ!」

「ナオフミ様……私はどうしたら、アナタに信頼して頂けるのですか?」

「手を放せ! 俺はやってない!」

 

 ラフタリアは尚文の言葉を無視して、ぎゅっと抱きしめる。

 

「どうか怒りを静めてくださいナオフミ様。どうか、アナタに信じていただく為に耳をお貸しください」

「……え?」

「逆らえない奴隷しか信じられませんか? ならこれから私達が出会ったあの場所に行って呪いを掛けてください」

「う、嘘だ。そう言ってまた騙すつもりなんだ!」

 

 やっぱり、自殺防止機構が働いているらしい。

 ここまでくると自殺したくなるよな。

 国中が自分をいじめているのだ。

 

「私は何があろうとも、ナオフミ様を信じております」

「黙れ! また、お前達は俺に罪を着せるつもりなんだ!」

「……私は、ナオフミ様が噂のように誰かに関係を強要したとは思っていません。アナタはそんな事をするような人ではありません」

 

 黒いモヤの流出が止まった。

 ドライアイスみたいな感じで広がっていたので、ちゃんと二人の様子は見える。

 

「世界中の全てがナオフミ様がやったと責め立てようとも、私は違うと……何度だって、ナオフミ様はそんな事をやっていないと言います」

 

 ラフタリアの必死の呼びかけに、顔を上げる尚文。

 ここからではよく見えないが、あの濁った目は幾分か軽減したことだろう。

 

「ナオフミ様、これから私に呪いを掛けてもらいに行きましょう」

「だ、だれ?」

「え? 何を言っているんですか。私ですよ、ラフタリアです」

「いやいやいや、ラフタリアは幼い子供だろ?」

 

 ああ、やっぱり認識障害だったんだな。

 尚文の言葉で実感する。

 申し訳ないと言う気持ちと、どうでもいいと言う気持ちが半々ではあるけれどな。

 

「まったく、ナオフミ様は相変わらず私を子供扱いするんですね」

 

 困った表情をするラフタリア。

 うーむ、やっぱり美人だなぁ。

 レイファは天使だが、ラフタリアは別の方向で美人である。

 

「ナオフミ様、この際だから言いますね」

「何?」

「亜人はですね。幼い時にLvをあげると比例して肉体が最も効率の良いように急成長するんです」

「へ?」

「亜人は人間じゃない。魔物と同じだと断罪される理由がここにあるんですよ。確かに私は……その、精神的にはまだ子供ですけれど、体は殆ど大人になってしまいました」

 

 そしてラフタリアは尚文をぎゅっと抱きしめて告げる。

 

「どうか、信じてください。私は、ナオフミ様が何も罪を犯していないと確信しています。貴重な薬を分け与え、私の命を救い、生きる術と戦い方を教えてくださった偉大なる盾の勇者様……私はアナタの剣、例えどんな苦行の道であろうとも付き従います」

 

 いや、うん。このシーンを直接見ると、感動するなぁ! 

 

「どうか、信じられないのなら私を奴隷にでも何でもしてください。しがみ付いてだって絶対に付いていきますから」

「くっ……う……うう……」

 

 尚文は我慢しようとしたのだろう。だが、溢れ出る感情はそれを許さなかったようだ。

 

「ううう……うううううううううう」

 

 と、ここでようやく我らが勇者様の登場だ。

 

「さっきの決闘……元康、お前の反則負けだ」

「はぁ!?」

 

 錬と樹が人混みの間から現れて告げる。

 

「上からはっきり見えていたぞ、お前の仲間が尚文に向けて風の魔法を撃つ所が」

「いや、だって……みんなが違うって」

「王様に黙らされているんですよ。目を見てわかりませんか?」

「……そうなのか?」

 

 元康が観衆(貴族側)に視線を向けるとみんな顔を逸らす。

 

「でもコイツは魔物を俺に」

「攻撃力が無いんだ。それくらいは認めてやれよ」

 

 今更、正義面で錬は元康を糾弾する。

 

「だけど……コイツ! 俺の顔と股間を集中狙いして──」

「勝てる見込みの無い戦いを要求したのですから、最大限の嫌がらせだったのでしょう。それくらいは許してあげましょうよ」

 

 樹の提案に元康は不愉快ながらも、諦めたかのように肩の力を解く。

 

「今回の戦いはどうやらお前に非があるみたいだからな、諦めろ」

「チッ……後味が悪いな。ラフタリアちゃんが洗脳されている疑惑もあるんだぞ」

「あれを見て、まだそれを言えるなんて凄いですよ」

「そうだな」

 

 まだ納得していない表情の元康を、錬と樹が連行していく。

 貴族達も釣られて城に戻っていく。

 

「……ちぇっ! おもしろくなーい」

「ふむ……非常に遺憾な結果だな」

 

 クズとヴィッチも立ち去ったので、俺も立ち去ることにしよう。

 

「つらかったんですね。私は全然知りませんでした。これからは私にもそのつらさを分けてください」

 

 ラフタリアの優しい声が、俺の良心を傷つける。

 波の尖兵としてこの世界に来ていなければ、俺はきっと助けただろう。その結果が無残に殺されるとしてもだ。

 だが、それはできない。

 勇者に信頼されるのは問題ないが、勇者を仲違いさせるのがきっと俺の役目なのだろう。

 俺は唇を噛みながら、決闘場となった庭を後にした。




ほとんど本編なぞっているだけと言うね。


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夢はまだ覚めず、現実は遠く

 俺は兵士に部屋に案内された。

 もちろん、剣の勇者の仲間用にあてがわれた部屋だ。

 

「ふん、忌々しい盾め!」

 

 扉をあけて早々、憤慨している阿呆がいる。

 

「あ、ソースケさん」

「遅かったですね、何をしていたんですか?」

「ま、茶番を見終わった後だったしな。ちょっとトイレに行ってきた」

 

 ちょっとした映画を鑑賞した後の気分である。

 トイレで思いっきり泣いてきただけであるが。

 

「茶番って……」

 

 ファーリーさんが苦笑いする。

 

「茶番だろう。錬サマだって、こんなくだらないことに時間を使わせやがってって思ってるさ」

「まあ、確かにレン様ならそうかもだけどね……」

「ソースケさん、ここはメルロマルク城内ですよ!」

 

 ファーリーさんとテルシアさんが注意してくるが知ったことではない。

 俺はこれでも結構強い。傲慢かもしれないが、対人戦だと補正が効くので滅法強くなる。今のステータスと合気道と槍術を組み合わせた技なら対人相手ならでも余裕だという自信がある。

 まあ、しないがな。

 

「知らんな。だが、この城の阿呆共は現実をそろそろ知るべきだ。勇者がいてくれるおかげで、波を楽勝で超えられただけだという現実をな」

 

 今でも、俺はあの次元ノケルベロスが恐ろしくてたまらないのだ。

 あの、死と隣り合わせの感覚は、二度と味わいたくない。

 

「「……」」

 

 俺の実感のこもった言葉に、二人は言葉がなかったようだ。

 

「フン、波を勇者なしで乗り越えたからと言って偉そうにしおって!」

 

 燻製はそのままでいいよー。

 ミナは押し付けてやるから。

 

「ソースケくんの言っていることもわかる。だけど、これは世界の危機なんだ。私たちがしっかりして、レン様を……勇者様を支えればいい」

「そうですね」

「そうね」

 

 まあ、一番まともなこいつらに言っても仕方ないだろう。

 本当にしっかりして欲しいのは錬の方である。

 なんだかんだでちゃんと客観視出来ている錬が、一番の有望株なんだよ。まだゲーム世界だと思っているようだけどな。

 

 ……本当は、ウェルト、テルシア、ファーリーには死んでほしくはない。

 だが、俺はそれに関しては何も出来ないし、霊亀復活時点では俺は剣の勇者様のパーティメンバーではないのだ。

 未来の事を告げたとしても、それがきっかけで破裂して死ぬわけにもいかないし、そもそも信じてもらえる確証がない。やり直しでも元康が尚文に信じてもらえるように色々試行錯誤しているしな。

 俺がすべきことは何だろうか? 

 あのメガヴィッチに与えられた使命ではなく、俺が召喚された意味だ。

 この世界の歴史を改変することは許されない。それはおそらく、尚文に明確に認識されるのもアウトだろう。波の尖兵として殺されるからな。

 じゃあ、波の尖兵として動けばいいのか? 

 それをすると、おそらくタクトに殺されるだろう。

 

 死にたくない! 生きて、元の世界に戻るんだ! 

 

 俺の思いは、現状それだけだ。

 この一度きりしかない、どうあがいてもソルな状況から、どうにか脱出するのだ! 

 

 俺がそんな事を考えていると、部屋に錬が入ってきた。

 

「レン様。どうなさいましたか?」

「ああ、明日からの方針を話す」

 

 錬の中では次の行動は決まっていたらしい。

 

「この時期から、ドラゴン討伐のクエストが発生する。場所はミルソ村だ」

「おお! 我輩の出身の村ではないか!」

 

 燻製は確か、ミルソ村出身だったはずである。

 

「そうか。だが、すぐには討伐はしない。各地で発生するクエストを順にこなしていき、レベル60を目指す」

「ドラゴンの適正レベルは?」

「レベル63だ。だがまあ、今のお前たちならば、俺とともに戦えば苦戦することはないだろう。レベルさえ伴っていればな」

 

 錬は錬なりに仲間を信頼しはじめているらしかった。

 

「明日、報奨金を貰ったら、すぐに出発するぞ。ソースケは明日、武器屋から槍を購入するんだったな。それを待って出発することにしよう」

「わかりました、レン様」

 

 錬の提案に、ウェルトは応える。

 おそらく錬に対する忠誠度が一番高いのがウェルトだ。

 先の波での闘いぶりを見て、もう一段階忠誠度が上がった気がする。

 

「では、くだらない茶番があったが、ゆっくり休め。勇者は個室が与えられているから、俺はそちらに行く」

「わかりました!」

 

 そう言い残し、錬は部屋を出て行った。

 まだ、錬の目を見ると、ゲームの世界だと思っていることは伝わってくる。さながら俺たちはNPCなのだろう。

 あの、次元のキメラの周囲に転がっていた冒険者たちの無残な死体は、錬の目に留まることは無かったらしい。

 

 勇者たちが、夢から覚めるには、絶望を乗り越えるしかないようだ。

 全員思い込みが激しい性格をしているから、余計にそうなのだろう。

 

 錬の保身

 樹の独善

 元康の妄信

 

 勇者の認識をゲームの世界だと認識させるステータスの存在や、ゲーム通りのイベントの発生、そしてモンスターの配置。

 それらが全て、三人の勇者として未熟な点を補強しているような気がしていた。




一巻のエピローグに該当する話です。
二巻冒頭までは本編の流れをなぞりますが、道中は錬の描写は無いので、自由に書かせてもらいますね!


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分かち合う理不尽

web版と書籍版の異なる点を見落としていたため再掲です。


 翌朝、勇者たちの食事が終わった後に食事を取ることになった。

 案の定不機嫌顔の尚文を横目に、案内された席に座り食事をとる。

 ヴィッチはどうやら、勇者たちと食事をとったためか居なかった。

 

「おい! 貴様! いつまで兜を被っている! 冒険者は四六時中兜を被っててむせないのか?」

 

 何故か燻製に指摘された。

 まあ、野営で寝るときは基本いつも見張りを買って出てるし、その時に外していたりする。

 それに、親父さんの好意によって、この兜はむせないので、頭を洗う時以外はついついつけたままにしても問題ない高性能な兜なのだ。

 

「問題ないだろう」

 

 マナーなど知ったことではない。

 黒髪である事を勇者に知られる事の方が問題なのだ。

 メルロマルクは、実は黒髪の人間を見かけることはほぼない。

 黒髪の子供は勇者の血が濃く出たものとして、フォーブレイに送られるからである。

 そんな感じのせいで、転生者が生まれにくい土壌がメルロマルクには形成されているのだ。

 これは日頃の情報収集の賜物だな。

 何で、口の軽い燻製には絶対に知られたくないのだ。

 

「ぐぬぬ……」

「いいからさっさと食えよ。勇者様を待たせることになるぞ?」

「ふんっ!」

 

 燻製は自分の席にどかっと座ると、汚く食べ始めた。

 俺は、フォークとナイフでいつも通りに食べ進める。

 食器に関しては、メルロマルクは洋食に近いせいか、スプーン、フォーク、ナイフが主流だ。

 文化上での食器と言うのは、異世界でも変わらないのだなと思う瞬間である。

 俺たちが出る頃には尚文の姿はなかったが、どこか別の場所で待機しているのだろう。

 メルロマルクの連中は現実を直視できてないんだな。いや、主にクズが私怨でやっている事だったな。

 

 およそ10時頃、俺たちは勇者たちと共に呼び出された。

 

「あ、そこの君!」

 

 呼び止められたのは、元康だった。

 

「……なんだ、槍の勇者」

「あれ、俺って君に何かしたっけ?」

「……なんでもない。どうしたんだ?」

「貴方! モトヤス様になんて態度なのよ!」

 

 ヴィッチがなぜかこっちに寄って来た。面倒臭い奴め! 

 ヴィッチの服装は、王女のそれである。豪華絢爛なドレス姿だ。

 

「……槍の勇者、要件は何?」

「ああ、君の槍を見せて欲しくてね。結構いい槍だし、見せてもらえないかなって」

「ウェポンコピーしたいなら、そう言えばいいじゃないか。ほら」

 

 俺は呆れながら、槍を渡す。

 

「え、あ、ありがとうってなかなか強い槍だな!」

 

 元康は驚きながら俺から槍を受け取ると、ニアフェリーランスをウェポンコピーする。

 ウェポンコピーした槍は、聖武器特有の核がついたものになる。

 

「……ほい、サンキューな。君、ウェポンコピーについて知ってたんだ」

「錬サマから見せてもらったからな」

「……なるほど」

 

 聖武器を間近でしっかりと見たのは初めてだが、これは表層ですら俺には奪えないだろうことがわかる。

 聖武器を奪えるのはタクトの特権だからな。俺はどうやら眷属器4つが奪える最大の容量らしい。

 

「ほらよ、返すぜ」

 

 俺は槍を受け取る。

 

「しかし、錬の名前を正確に発音出来てるんだな。君、もしかして日本人だったり?」

 

 頭がピリッとする。

 ここで正しい答えを言わなければ、頭が破裂するのだろう。

 どちらにしても、答えは決まっている。

 

「これでもメルロマルク人だ。錬サマの発音を真似してるだけだよ」

「お、おう。……そりゃ残念」

「モトヤス様、こんな冒険者風情なんて相手にせずに行きましょう!」

「わかった。じゃな! 頑張れよ」

 

 道化様はそう言うと、颯爽と謁見の間に入っていった。

 俺達冒険者組は、勇者様が入場した後に脇に並ぶ感じで入場する。

 尚文とラフタリアは二人で並んで待機していた。

 

「では今回の波までに対する報奨金と援助金を渡すとしよう」

 

 報奨金と言う単語に対して、尚文がピクリと反応する。

 ギルドやクズから依頼があったりしたんだが、それに対するものだろう。

 錬が仲間と共に挑むクエストの大半は王家からの依頼だったりする。

 

「ではそれぞれの勇者達に」

 

 遠くからだからあまり見えないが、それぞれに銀貨の入った袋が渡される。

 最初は元康からみたいだ。

 

「モトヤス殿には活躍と依頼達成による期待にあわせて銀貨4000枚」

 

 あからさまな贔屓である。

 非常に不快でしか無い。

 周囲を見渡せば、貴族や大臣連中がニヤニヤしていやがる。

 

「次にレン殿、やはり波に対する活躍と我が依頼を達成してくれた報酬をプラスして銀貨3800枚」

「王女のお気に入りだからだろ……」

 

 錬は不快そうな表情をする。

 それもそうだ。

 錬はかなり精力的にギルドや王……クズの出す依頼をこなしていたからな。

 

「そしてイツキ殿……貴殿の活躍は国に響いている。よくあの困難な仕事を達成してくれた。銀貨3800枚だ」

「この辺りが妥当でしょうね」

 

 そうは言いつつも樹の表情は元康を羨む感じである。

 

「ふん、盾にはもう少し頑張ってもらわねばならんな」

 

 クズは偉そうにそんな事を宣う。

 勇者だからそこまで不快さを感じないが、常識で考えればおかしいだろう。

 

「奴隷紋の解呪代として援助金は無しとさせてもらう」

 

 あ、クズには常識がなかったな。

 袋をつかもうとしてスカした尚文は怒りの表情をクズに向ける。

 

「……あの、王様」

 

 ラフタリアが手を上げる。

 

「なんだ? 亜人」

「……その、依頼とはなんですか?」

 

 当然知る由の無いラフタリア達が質問をする。

 

「我が国で起こった問題を勇者殿に解決してもらっているのだ」

「……何故、ナオフミ様は依頼を受けていないのですか? 初耳なのですが」

「フッ! 盾に何ができる」

 

 場内が失笑で溢れる。

 勝手に見下し、勝手に評価して、勝手に失笑するとか、この国やばいな。

 知ってはいるが実際に目にすると、この末期感はヤバい。これは国が自滅により滅ぶ兆候だろう。

 女王が戻らなければ、確実にメルロマルクは亡国だ。

 それに気づかぬ無能な連中がこの場に揃っているのだ。

 

「ま、全然活躍しなかったもんな」

「そうですね。波では見掛けませんでしたが何をしていたのですか?」

「足手まといになるなんて勇者の風上に置けない奴だ」

 

 やはり、錬もその程度の認識かと思った。

 実際はまあ、評価を上げる要素を目撃していないことが原因だろう。

 当然ながら、尚文が反論する。もちろん、皮肉たっぷりだが。

 

「民間人を見殺しにしてボスだけと戦っていれば、そりゃあ大活躍だろうさ。勇者様」

 

 それに元康がスカした表情で答える。

 

「ハッ! そんなのは騎士団に任せておけば良いんだよ」

「その騎士団がノロマだから問題なんだろ。あのままだったら何人の死人が出たことやら……ボスにしか目が行っていない奴にはそれが分からなかったんだな」

 

 元康、錬、樹が騎士団の団長の方を向く。

 団長の奴、忌々しそうに頷いていた。

 

「だが、勇者に波の根源を対処してもらわねば被害が増大するのも事実、うぬぼれるな!」

 

 どちらも正論ではある。

 あんな怪物を普通の冒険者が討伐できるはずもない。

 今の弱っちい勇者なら、3人居てようやく一人前状態だろう。

 逆に、誰も防衛に行かなければ、リユート村は確実に滅んでいたのも事実である。

 

「はいはい。じゃあ俺達はいろいろと忙しいんでね。行かせて貰いますヨー」

 

 尚文は苦虫を噛み潰したような表情で立ち去ろうとする。

 

「まて、盾」

「あ? なんだよ。俺は城で踏ん反り返っているだけのクズ王と違って暇じゃないんだ」

「お前は期待はずれもいい所だ。消え失せろ! 二度と顔を見せるな」

 

 ははは、こりゃ傑作だ。

 勝手に呼んでおいて、散々いじめ倒してコレとか、マジで終わってるな。

 俺がちらっと他の冒険者を見ると、笑ってる連中がほとんどだった。

 ウェルト達は苦笑しているみたいだが。

 

「それは良かったですね、ナオフミ様」

 

 クズの言葉に満面の笑みでラフタリアが答える。

 

「……え?」

「もう、こんな無駄な場所へ来る必要がなくなりました。無意味な時間の浪費に情熱を注ぐよりも、もっと必要な事に貴重な時間を割きましょう」

「あ……ああ」

 

 尚文の表情が若干明るくなる。

 

「では王様、私達はおいとまさせていただきますね」

 

 ラフタリアはそう言うと軽やかな歩調で俺をリードし、尚文達は謁見の間を後にしようとした。

 が、ここで待ったがかかる。

 

「ちょっと待ってください」

 

 樹が自身の正義感に任せて手を挙げてクズに異論を唱える。

 

「なんじゃ弓の勇者殿?」

「昨日の事なのですが、尚文さんに対して行った不正に関する問題はどう考えているのですか? と尋ねているのです」

 

 ああ、あれは確かにただの不正行為……すなわち【悪】だ。樹としては看過出来る話では無いだろう。

 思わぬところから、思わぬクレームが入り、場の空気が固まる。

 

「どう、とは?」

「ですから、ラフタリアさんを賭けた勇者同士の戦いにおいて不正を行なったにも関わらず、勝手に奴隷紋でしたっけ? ……を、解いておきながら援助金を支給しないのはどうなのですかと聞いているのです」

 

 樹の目は、悪を断罪する目をしている。樹の正義感の強さが珍しく、正しく働く場面だろう。

 尚文もその様子に困惑している。

 

「そうだな、俺も見ていたが、明らかに尚文は元康にルール上は勝っていた」

「俺は負けてねぇ!」

 

 錬も便乗する。

 二人とも正義感は正しくあるからな。

 援助金を渡したのならいざ知らず、渡さないというのは勇者的に【無い】行為なのだろう。

 俺は、少しだけ安堵した。

 

「返答次第では尚文さんが本当に性犯罪を犯したのか? というところまで遡る事になります」

「あ、う……」

 

 クズは残念ながら、ヴィッチが尚文に強姦未遂にあったと信じている。ヴィッチの事だから証拠はすでに隠滅済みだとは思うが、遡った際に用いられた証拠が消えていたら? 

 面白いことになるだろうな。

 俺はその事を想像してしまい、ついにやけてしまった。

 

「違いますわイツキ様、レン様!」

 

 さっき元康と一緒に謁見の間に入っていったヴィッチが異論を唱える。

 おそらく、俺が考えた通りを想定したのだろう。

 尚文を追い詰めたあのネグリジェはすでに処分済みなのだ。

 証拠を処分した以上、【なぜ処分する必要があったのか?】【仮に見たく無いという王女の要望があったとしても、国が保管していないのはおかしいでは無いのか】と問い詰めればおしまいである。

 だから、ヴィッチはここで反論する必要があった。

 

「盾の勇者は一対一の決闘においてマントの下に魔物を隠し持っていたのです。ですから私の父である国王は采配として決着を見送ったのです」

 

 苦し紛れの言い訳だ。それなら、解呪した理由を問うことになる。

 決着がついていない以上、奴隷紋を解呪するのは当然保留になるべきだからだ。

 

「考えはわかりますけど……」

「納得は無理だな」

 

 所詮高校生か。

 それは仕方ないだろう。

 ここで邪魔してやりたい気持ちもあるが、こんなくだらないことで死にたくは無いので黙っていることにする。

 内心では馬鹿にするが。

 

「マインさん。それでもあなたが後ろから魔法を放ったことは反則です」

 

 樹は論点を戻した。

 まあ、イタチごっこだからねこういう奴は。

 論点戻して徹底的に追求してやるのが一番ヴィッチには効くだろう。

 

「仕事をしていないのは確かだろうが、見た感じだとギルドからの依頼も来ていないみたいだし、最低限の援助は必要なんじゃ無いか? 実際、騎士団の代わりに村を守ったんだろ?」

 

 ヴィッチは舌打ちをする。

 ここで援助金を渡さないのは、ただの藪蛇だろう。

 クズもそれをようやく理解できたのか、指示を出す。

 

「……しょうがない。では、最低限の援助金だけは支給してやろう。受け取るがいい」

 

 兵士の持った盆から尚文は援助金を奪い取る。

 

「では王様、私達はお暇させていただきますね。勇者様方、正しい判断に感謝いたします」

 

 尚文はラフタリアに先導されて、謁見の間を後にする。

 

「負け犬の遠吠えが」

 

 などと元康が意味不明な供述をしていたが、まあ置いておこう。

 この阿呆はすでにヴィッチとセックスしたにもかかわらず、未だに尚文が強姦魔などという夢を信じているからな。

 ま、錬も樹も及第点をやろう。

 あとで錬には突っ込みどころを教えてやってもいいかななんて考えながら、謁見は終了したのだった。




書籍版の方が後半部分の追求がある分マイルドなんですね。


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3つの依頼

「さて、勇者たちよ」

 

 盾の勇者が去ったからかクズは元の落ち着き払った声音に戻る。

 今更取り繕ってもな……。

 

「折り入って頼みたいことがある。聞いてはもらえんかな」

「クエストか」

 

 クエストの発生と聞いて怒気を緩める勇者たち。

 そうだよなー、どうせゲーム内のことだもんなー。

 

「勇者様方の言葉を借りればその通りです」

「今、3つの難題がこの国を蝕んでおる。既に勇者たちは知っておるかも知れんがな」

 

 クズは咳払いをすると、クエストの内容を開示した。

 

「先ずはモトヤス殿への依頼だ。南西の地域で飢饉により食糧不足が発生しておるようだ。原因の調査と解決を依頼したい。報酬についてはギルドを通じて渡そう」

「おう! 任せておけよな。俺が行って軽ーく解決して見せるぜ」

 

 元康は自信満々にそう言う。

 あー、あの尚文が尻拭いした件か。

 

「武に優れるレン殿には、ドラゴン退治の依頼を任せるとしよう。東のミルソ村近辺でドラゴンが生息をしていると言う。ドラゴンは生態系にも影響を及ぼす悪しき魔物だ。これを討伐していただきたい」

「フン、それぐらい朝飯前だ」

 

 錬はカッコつけてそう言う。

 昨日の夜に言っていた話だな。

 最弱の竜帝……ガエリオンの討伐だ。

 

「イツキ殿には調査依頼だな。何やら北部地域で不穏な動きがあるらしい。それの調査を依頼したい」

「調査ですか。……わかりました。受けましょう」

 

 錬は具体的であったが、三人ともクエストの内容はわかった顔をしている。

 これもゲーム知識なのだろうか? 

 アイツらがどういうゲームをやっていたのかは知らないんだがな。

 

「では、勇者諸君。この国の……世界の未来を頼んだぞ」

「任せとけ!」

「ふ、いいだろう」

「わかりました」

 

 各々、異なる返事をする勇者たち。

 でも、実際元康以外はメルロマルクを守る意味は薄いだろうなとは思う。

 

 と言うわけで、俺は武器屋に来ていた。

 単独行動のため、兜は外している。

 

「おう、あんちゃんじゃねぇか。あんちゃんの槍、完成してるぜ」

 

 気の良い親父さんが、槍を持ってきてくれた。

 十卦の槍で、穂先が開く仕掛けが施されている。

 

「穂先が開く機構は、あんちゃんが魔力を通すと起動するようにした。性能的には【対人攻撃力上昇中】と【無敵貫通】、穂先を開いた状態で【防御無視】ってのが付与されている」

 

 なかなかに凶悪な武器になってしまったようだ。

 装備して、槍に魔力を通すと、穂先がパカっと開く。

 

「すっげー……!」

 

 この槍は、俺はある目的のために作ってもらった。

 勇者パーティを抜けた後に俺がやるべき事だろう。主にそれに使う。

 

「じゃあ、この槍を下取りにして購入するよ。いくらだ?」

「へぇー、こいつもなかなか良い槍だな。そうだな、銀貨120枚だな」

「わかった」

 

 俺は料金を支払う。

 

「まいどあり! 他にもオーダーメイドで作ってやっても良いぜ」

「そうだな……小手とか頼めるか?」

「良いだろう。あんちゃんは格闘術を使うみたいだし、手首の関節が動きやすいものでも作っておくさ」

「まあ、しばらくは勇者様の護衛で来れないだろうから、気長に頼むさ」

「あいよ」

 

 という感じで、俺は新しい装備を入手した。

 銘は『人間無骨』。森可長が愛用した、人間を容易く殺す槍だ。

 流石にこの槍は、元康にウェポンコピーさせるわけにはいかないだろう。

 こう言った、勇者の世界にある伝説の武器というのはこの世界のとある場所に集められていたりする。

 22巻までしか読めていない現状、それを入手できるかどうかは知らんな。

 錬たちの元に戻ると、錬が俺の槍を見てギョッとする。

 

「……なんだその物騒な槍は」

「俺専用の武器だ」

「対人攻撃力上昇とか言うスキル、初めて見たぞ……」

「気にするな、敵以外には向けないからさ」

「……まあ良い」

 

 錬も鑑定スキルを持っているようである。

 そういうのは便利だなと思う。

 俺はあいにくと持っていないため、実際に装備して能力値の増減で測るしかないがな。

 

 俺たちは、こうしてメルロマルク城下町を後にしたのだった。




実質の第三幕の開始ですね。
この後は各地を転々としながら、ミルソ村を目指します。


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不吉の足音

 ミルソ村はアールシュタッド領から見ると反対側になる。

 メルロマルク城下町から見ればちょうど西側である。

 レイファたちの情報は未だに集まらなかった。

 そうやすやすとドラルさん達が死ぬことはないと思うんだが……。

 

「お前たち、今日の依頼はこれだ」

 

 と言ってギルドから依頼書を逐一持ってきては、錬は別の場所でレベル上げと言う方針は相変わらずであった。

 最近の変わったことと言えば、ウェルト、テルシア、ファーリーが俺に距離を置き始めたことか。燻製が当たりが強いのは変わらずであるが。

 俺を置いてウェルト達だけで錬の依頼をこなす事も増えてきて、微妙な距離感を感じていた。

 それが決定的になったのは、道中のウェソン村に到着した時のことであった。

 

「おお! 剣の勇者様、よくぞおいでくださいました!」

「ふん、御託はいい。ここで討伐依頼があると聞いたから、訪れただけだ」

「おお、さすがは勇者様であらせられる! では、詳しい話を致しますので、どうぞこちらに」

 

 と、案内された時であった。

 俺がウェルト達に続いて村に入ろうとすると、屈強な村の男が立ちふさがったのだ。

 

「……?」

 

 手で押しのけようとするも、固くどいてくれない。

 

「お前はこの村には入れさせない」

「は?」

 

 今回の依頼は錬から手伝うように言われていたので、俺も説明を聞く必要がある。

 俺が無理やり押し通ると、武器を構えた連中が立ちふさがった。

 

「……なんの真似だ? 俺は、剣の勇者様の仲間なんだけど?」

「ふん、嘘をつくな!」

「……?」

 

 訳がわからん。

 

「おい、ソースケ、何をしている!」

 

 錬が俺が遅いことを心配して戻ってきたらしい。

 

「ゆ、勇者様お待ちくだされ! 勇者様!」

「おい、どう言うことだ! なぜソースケを村に入れない! 俺の仲間だぞ!」

「勇者様……チッ。おい、ソイツを通してやれ。勇者様のご命令だ」

「チッ」

 

 どう言うことだ……? 

 不穏な空気を出すこの村に入ることはやめておいた方がいい気がした。

 

「いや、構わない。錬サマ、ここまで拒否られるなら、俺はお呼びではないのだろう。外でレベル上げでもしておくから、詳しい話はあとで聞かせてくれ」

「……ソースケがそう言うなら、わかった」

 

 俺は村から離れることにした。

 何だろう、この仕打ちは。

 錬の仲間として目立ったことはしないようにしていたんだがなぁ……? 

 

 俺はその日は結局、村の外で一人で野営をすることになった。

 

 翌日、野営を終えて片付けをする。

 村の方に戻ると、丁度良く出発するタイミングだったらしい。

 村の連中に錬が見送られる最中であった。

 はぁ、やれやれ。そう思い、合流しようとすると、武装した村の奴がやってきて俺を取り囲む。

 

「……なんだ?」

「お前を勇者様に同行させるわけにはいかない!」

「悪魔の手先め、ここで成敗してくれる!」

 

 殺気立った連中に取り囲まれてしまった。

 

「意味がわからないんだが、何? 俺は盾教じゃないんだけど?」

 

 俺はカマをかけることにしてみた。

 ただの村の連中がここまで敵対的なのは、そう言う宗教関連であると推測したからだ。

 この時期はまだフィーロもまだフィロリアル形態のままだし、レース騒動も起きてないだろう日にちだからだ。

 

「嘘をつくな悪魔め! 剣の勇者様を穢す盾の悪魔の使いだろう!」

 

 あー、やっぱりか。

 なぜ、そう言った噂が流れたのか知る由はない。

 俺は一度も尚文の味方をした記憶はない。

 なのに、そう言う話が流れていると言うことは、ミナと燻製が関わっている可能性が高かった。

 それならば、目の前にいる連中は敵だ。

 

「仕方ないな」

 

 俺はそう呟くと、槍を構える。

 

「槍の勇者様の真似事など笑止千万! やってしまえ!」

「死にたい奴からかかって来いよ!」

 

 俺は切りかかってきた奴を槍で合わせて力を搦めとる。

 降ってきた方向に力を流して腕をかち上げ、相手の背に回り投げる。

 合気道の技で言ったら四方投げと言う奴だ。

 

「次!」

 

 1対多は俺の得意とするところだ。

 剣を槍で受け流し。力の流れる先を作って誘導する。それだけで、素人に毛が生えた程度の連中を投げ飛ばすのには十分だった。

 

「つ、強い……!」

 

 俺は一度も人間無骨で切ることなく、相手が疲弊するまで槍を使った合気道でポンポンポンポン村人を投げ飛ばす。

 地面は土とは言え、やせた土地だ。石も転がっているので、受け身をとれない連中ならばあっという間に行動不能なレベルでダメージを負うことはわかりきっていた。

 

「うわあああああああ!!」

 

 これでも、手加減はしている。受け身が取りやすいように丁寧に投げてはいた。

 

「ん? どうした、もう終わりか?」

 

 しかし、この分だと村で寝ないで正解だったな。きっと俺は寝てる最中に殺されていただろう。

 

「ううぅ……」

「未知の技を使うのか……!」

「さすがは悪魔の使い……!」

「いや、俺が一体何をしたんだよ」

 

 俺が呆れながら入口の方を見ると、すでに錬達は居なくなっていた。

 戦いには勝ったが、勝負には負けたと言うことか。

 じゃあ、俺がすべきことは情報収集だろう。

 

「おい」

 

 俺は胸元にある短剣を抜き、一番近くにいた村人の頭を掴み首筋に剣先を当てる。

 

「どう言うことか、説明してもらえるんだよな?」

「ひ、ひいいいいいい!!」

 

 俺は笑顔でソイツから事情を聞き出すことにした。




早速トラブル発生!


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噂の策略

 俺が短剣を押し付けると悲鳴は上げるが、訳を話そうとしないので、プスっと剣先を刺す。

 

「早く答えろ」

 

 俺が脅すようにねっとりと言うと、

 

「や、やめてくれええええ! 話す! 話すから!」

 

 と言ったので、俺は顎で促した。

 

「その、噂が流れてるんだ。剣の勇者様の仲間の一人、4つの武器を持った冒険者は、実は亜人で隙を突いて剣の勇者様を殺そうとしていると……」

「はぁ?」

「盾の悪魔に与するのを悟らせないために、わざと剣、弓、槍を使っていると言う噂だ」

 

 俺はため息をついて、兜を脱ぐ。

 それを見て当然ながら驚く。

 この世界の亜人はほぼ全てが耳に特徴が出る。ラフタリアなんかを見れば明らかだろう。

 

「あ、あんた、勇者の末裔だったのか……」

「そうだよ。知られると色々面倒だと思ったんでね。隠してたんだよ」

 

 俺は、短剣を引っ込めて鞘に収める。

 もう襲ってくることはないだろうとの判断だ。

 

「だけどあんたはすでに三勇教から目をつけられてる」

「メルロマルクの人間が何で盾教を信じるんだよ」

「噂だが、あんたは盾の悪魔に同情的な目線を送っていたらしいじゃないか!」

「そりゃまあ、盾を装備しているとは言え、似たような見た目だ。黒髪に黒い瞳。俺と似た特徴のやつが国を挙げて虐められていたら、同情ぐらいするだろう」

 

 さて、どうするかな? 

 このタイミングで錬と別れるのはあまり得策ではないだろう。

 まあ、今更行っても今回の錬の依頼には間に合わないだろう。

 村に入ることもできないだろうしな……。

 フィーロが育ちきるまで、およそあと3日。元康レースまで、4日と言ったところだ。

 そこから行商を得て信用を得るまで、およそ2週間か? 

 神鳥の成人様が出現するまでは、これでは俺はろくに活動できないだろう。

 

「も、戻っていいか……?」

「あんた、薄情だな。寝てるやつは放置か?」

「ひ、一人でこの人数は運べないだろ!」

「次襲ってきたら、この槍の餌食だ。それで良いなら戻って良いぞ」

「ひ、ひいい」

 

 村人はダッシュで村に戻る。

 うーん、他の気絶してるやつとかどうしようかな? 

 とりあえず、蹴り起こすか。

 勿体無いが回復薬を一本軽く撒き散らし、軽く蹴り起こす。

 俺の黒髪と人間の耳を見て、気絶から回復した村人達は許しをこう。

 

「いい! 人間?! す、すまなかった! てっきり亜人だと」

「さっき聞いた。はぁ、なんだってんだ……」

 

 こりゃもう、俺は被り物をして外を出歩けないな……。

 ただまあ、そう言う噂が立っているのなら、メルロマルク内の人里を歩く事は出来なさそうである。

 僅か3日だが、ここまで噂が広がるのだ。

 そして、今回は実力行使も伴ってきた。

 人の噂も75日というが、宗教が関わっている場合はどうなんだろうな? 

 名指しで異端審問を受けた訳じゃないから、【冒険者ソースケ】として活動するのは問題ないだろう。要するに、【剣の勇者様の仲間のふりをした武器を4つ持つ男】がNG設定された訳である。

 正直、上手い手だと思ったね。

 噂は所詮噂。それを元に誰が実力行使をしたところで、張本人には責任が及ばない。三勇教が広めたにしても、噂を元に注意喚起を促したと言えば、引かざるを得ない。

 

「冒険者さんはどうなさるのです?」

 

 俺が考えにふけっていると、村人の一人が俺に尋ねて来た。

 

「あんたはどうしたらいいと思う?」

「僭越ながら申し上げると、冒険者さんはもう、剣の勇者様に付きまとわない方がいいかと……」

「抜けるにしてもこのままってわけにもいかないだろう? なんで俺がパーティからハブられた系の主人公やらなくちゃいけない訳」

 

 俺が元の日本にいた頃に流行っていたジャンルとして、なろう系で勇者パーティからハブられて成り上がる系のやつがある。

 能力が雑魚とか、理由は様々だけれど、勇者パーティから追放された主人公が成り上がる的な物語である。

 今まさに、俺の状態と一致するだろう。

 ここで錬のパーティから抜けなくても、いずれ燻製から糾弾されてパーティを抜けることになるのは明白である。

 

「ま、とりあえずは錬サマ達が戻ってくるのを待つしかないか……。おいお前、俺は今日はあの辺りに居るから、錬サマが戻ってきたら俺に知らせに来い」

「ははは、はい! わかりました!」

 

 俺を襲ったのだ。少し強めに脅しておく。

 

 それから暫くは魔物を狩ってレベル上げをしておいた。

 人間無骨はなかなか優秀で、一瞬で敵を解体できるが、万が一のために俺は短剣での攻撃にも慣れておくことにする。

 軍のナイフの使い方は、ミリオタの友達から見せてもらった扱い方の動画を思い出して戦う。

 今装備している短剣は魔法鉄の短剣(カスタム)である。イメージはアサルトナイフなのだが、刃渡り自体は短剣と言うべき長さになっている。

 この辺りの少し強めの魔物を討伐するのだが、小型の魔物ならば魔法鉄の短剣で始末してしまえる。

 

「はっはっはっせいっ!」

 

 ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら、ウサピルを始末する。

 通常のウサピルよりは強い個体だ。

 経験値も、120とそれなりに高めだ。

 しかしまあ、俺は対人ばかり強くなっている気がするな。

 そんな事を考えながら、俺は夜まで短剣の特訓をしつつ、レベル上げをしていた。




ヴィッチの腕の見せ所って感じですね。
ソースケくんは現在村レベルの中規模な集落までの入場が制限された状態になりました。


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新喜劇

BGMは吉本新喜劇のアレでも聴きながら、どうぞ


 しばらく訓練しつつ、魔物を討伐し料理を行う。

 サバイバルゲームみたいだが、まあ仕方ないだろう。

 これでも一人暮らしだったし、家事はそれなりにこなして来たほうだ。料理ぐらいなら問題ない。

 塩は常備している。これは汗をかいた時に舐める塩分が欲しかったから常備するようにしていたのだけれど、まさかこんな事で役に立つなんて思っても見なかった。

 捌いた骨つきの肉を、ファスト・サンダーで起こした炎で焼く。

 懐かしいな。

 臨海学校を思い出す。

 キャンプでカレーを作った時に火の番をやった経験が生きるとは思っても見なかった。

 肉を焼き、塩をかけて食べれば、普通に美味しくいただける。

 食事を取った後、しばらく待機していると、ようやく村人がやってきた。

 

「冒険者さん、勇者様がお戻りになられました」

「ん」

 

 俺は砂をかけて火を消し、村人と共に村まで向かう。

 流石に、兜は被っていなかった。被っていられる段階はすでに終わったからである。

 村に入る時に警戒されはするが、流石に亜人でないと見ればわかるからか、止められはしなかった。

 錬が滞在している家に通される。

 

「ソースケ! どこに行っていたんだ!」

 

 見れば、錬以外……特に燻製とウェルトはボロボロであった。

 怪我をしたのか包帯を巻いている。

 回復魔法はどうしたんだよ。

 テルシアを見ると顔が青い。魔力切れを起こしているな。

 

「ああ、この村の連中に妨害されてな。すまなかった」

「そうか……。しかし、ソースケ、その黒髪は……」

 

 うっ、頭がピリッとする。

 やはり日本人だと勇者に知られるのはNGか。

 宮地はオッケーにもかかわらず、なんでだろうな? 

 俺に対しての制約が厳しいとしか言いようがない。

 

「ああ、俺は勇者の末裔なんだ。隔世遺伝で勇者の特徴が色濃く出たらしくてな」

「……いや、どう見ても日本人だろ」

「さあな。俺もそこまでは分からん。だが、問題点はそこではないだろう?」

 

 どうやらセーフだったらしい。

 否定すればオッケーなのか? 

 そこらへんが曖昧である。

 波の尖兵だと明かそうとするのは一発アウトだけどな。

 

「そんな事より、錬サマ以外ボロボロじゃないか。……本当に大丈夫か?」

 

 燻製なんて特に可愛そうなほどにボロボロである。

 痛い痛いとずっと呻いている。

 四肢の欠損は無いみたいだがな。

 

「……ソースケさんの実力を侮っていた私達が悪いのです」

 

 どう言う事だ? 

 

「俺がソースケが来るまで待つべきだと言ったんだが、マルドが『あの冒険者などいなくても問題ない』と言い出してな。ソースケ無しでも何度か依頼をこなしていたし、大丈夫だと言っていたんだが……」

 

 KONO☆ZAMAであると言うことか。

 

「俺は、今回の依頼はソースケ含めた全体で戦ってようやく程度の依頼を受けた。だが、コイツらは大丈夫だと言ったからな。不安に思ったが、どうしてもという事だったので、行った結果こうなった」

 

 いや、錬も止めろよと思うんだが……。

 

「で、討伐は出来たのか? 錬サマが健在という事は倒せたと判断していいのか?」

「いや、残念ながらレッサーオロチは健在だ。マルドが大怪我をして逃げざるを得なかったからな」

 

 うーん、詳しく聞いた方が良さそうだな。

 

「ウェルト、戦況を詳しく教えてくれ」

「え、ええ、わかりました」

 

 ウェルトは詳しく話し始めた。

 

 今朝、俺がいくら待っても来なかったため、錬は俺が来るまで出発を延期にしようと提案した。

 

「……遅いな。近場にいると思ったんだがな」

「レン様、そろそろ行きましょう。ソースケを待っていると日が暮れてしまいますよ」

「いや、今回の敵であるレッサーオロチは強力な敵だ。全員でいかなければならない」

「大丈夫だ剣の勇者。我輩達も冒険者が居なくても大丈夫なように、連携の練習をしておる。冒険者無しでも剣の勇者から出された依頼はこなしておるからな!」

「そうよ! 問題ないわ」

「そうです! それに、参加できないのは遅刻するソースケさんが悪いのですから、問題ありませんよ」

「……だが」

「大丈夫です!」

 

 強く大丈夫だという仲間達に、錬は渋々俺抜きで行くことを決めたそうだ。

 

「……良いだろう。お前達の実力を見せてもらおう」

「「「はい」」」

「ふふふ、大船に乗ったつもりでいるが良い!」

 

 実際、レッサーオロチまでのダンジョン……森の中の探索は順調だったらしい。

 だが、レッサーオロチと戦う際は問題が発生したようである。

 

「アレがレッサーオロチ!」

 

 レッサーオロチは3頭の巨大な蛇である。

 色は赤色、三種の頭から毒、麻痺、眠りのブレスを吐く、強力な魔物だ。

 いやいや、状態異常ブレス3種ってかなりヤバイよね! 

 なんで援護魔法が使える俺を連れて行かないの? 

 テルシアのアンチポイズン、アンチパラライズ、アンチスリープだけじゃ絶対魔力的に間に合わないよね! 

 馬鹿なんですか?! 絶対馬鹿だよね?! 

 

「GISYAAAAAAAAAAAA!!」

「行くぞ、お前たち!」

 

 錬が飛び上がり攻撃を仕掛けると、早速レッサーオロチは毒のブレスを吐き出す。

 錬はステータスが高いため、避けるのは困難ではなかった。

 

「さすがはレン様!」

「我輩たちも剣の勇者に続くぞ!」

 

 だが、ここからが悪夢の始まりだった。

 直猛突進する阿呆は、毒のブレスが残っている場所に突っ込む。

 

「ぎゃああああああああ! 痛い痛い!」

「ファスト・アンチポイズン!」

 

 レッサーオロチは錬を尻尾でなぎ払おうとする。

 それに燻製が当たりそうになり、すかさずカバーに入るウェルト。

 

「ぐわああああああああ!!」

「ぎゃあああああああああああああ!!」

「ツヴァイト・ヒール!!」

 

 別に三つ首全てが錬を狙っているわけではない。

 麻痺のブレスがウェルトと燻製を狙う! 

 ウェルトはなんとか回避するが、直撃を受ける燻製。

 

「あがっ!」

「ファスト・アンチパラライズ!」

 

 あまりの醜態に、当然ながら錬は戦闘に集中できない。

 むしろ、攻撃に当たるたびにギャースカうるさい燻製の声にいちいち集中をかき乱される。

 

「おい、お前たち! 戦闘に集中しろ!」

 

 錬も注意するが、戦線は完全に決壊しており、ファーリーもレッサーオロチの爪の一撃をもらって吹き飛ばされて壁に叩きつけられる始末。

 

「はぁ……はぁ……ツヴァイト・ヒール……!」

 

 あまりの事態に、錬は撤退を決めた。

 

「お前たち、撤退するぞ!」

 

 だが、逃げる際もレッサーオロチは執拗に追ってきており、麻痺、毒、眠りのブレスを錬達が襲った。

 すでにボロボロでグロッキーな燻製、燻製や後衛を守るためにボロボロなウェルトは、吹き飛ばされて意識のないファーリーを背に抱える。そして、回復魔法の使い過ぎで魔力切れを起こしているとテルシア。

 錬以外ボロボロの状態で、錬以外命からがらレッサーオロチから逃げおおせたのだった。

 

「ばああああああぁぁぁああかじゃないのおおおおおおぉぉぉおぉお?!?!??!」

 

 俺は思わず大声で叫ぶことになったのだった。



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再戦

「……で、状態異常なら丸薬とか店売りの回復薬とか、武器が作ってくれるものとかあったはずだけど、どうした?」

「帰還時にかなり消費してしまってな。現在は村の方に依頼している最中だ」

 

 帰還時の戦闘中に、どうやら薬品とかは使い切ってしまったと言うことらしい。

 

「……はぁ。ほらよ、即効性の魔力水だ。これでも飲んでおけ」

 

 俺は足のポーチから魔力水を取り出す。

 薬の作り方はドラルさんに叩き込まれており、俺はある程度薬を自作することができる。

 足のポーチに常備しているものは全て即効性の戦闘用のものだ。

 テルシアは受け取ると、すぐに飲む。それだけでだいぶ顔色が落ち着いた。

 

 次に俺は雷系統の回復魔法を使う。

 さっきから呻いてる燻製を黙らせるためだ。

 

『力の根源たる俺が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者に雷による癒しを与えよ!』

「ドライファ・サンダーヒール」

 

 手から癒しの雷が発生し、燻製の体に電気ショックが走る。

 

「ぎゃっ!」

 

 燻製はビクンとすると、完全に気絶する。

 サンダーヒールの欠点は、回復するのに気絶してしまう点だ。

 ビリッと電気が体に走るため、実質電気ショックを受ける。

 利点は、心肺停止状態からでも回復する事である。電気だからね。AEDみたいなイメージだ。

 

「それじゃ、最大の戦犯は黙らせたし、反省会だな」

 

 俺はため息をついてそう言った。

 

「今回の敵がレッサーオロチだと知った段階は?」

「俺は事前に説明したはずだ」

 

 思い起こせば確かに言っていた。ただし、魔物名だけである。どう言う特徴のあり魔物で、攻撃方法は何なのかは言ってなかったはずだ。

 

「錬サマは情報共有をちゃんとしたほうがいい。今回みたいな状態異常てんこ盛りの敵の場合は、事前情報と準備が絶対に必要だ。勇者様的に好きな例えなら、そう言うゲーム? の場合、事前に必ず店で大量に状態異常を回復するための薬を買い込むだろう?」

「む……そうだな。わかった、今後はその情報について共有するようにしよう」

 

 流石の錬も、このどうしようもない惨状を見て、納得したらしい。

 

「話を聞いている限りじゃ、く……マルドの阿呆が脳筋的行動を取ったせいで大惨事になったみたいだが、お前らもなんで錬サマが頑なに俺を連れて行きたかったか意図を察しろよな」

「うぐっ……そ、そうですね」

「すみません……」

 

 ファーリーは寝ている。

 傷はもうないみたいだから放置しているけれどな。

 

「ま、なんか変な噂が流れているみたいだから、気持ちはわからんでもないが、時と場合、状況を考えろよな」

 

 はぁ、やれやれ。

 

「次は俺もちゃんと参加する。完治までおよそ3日はかかるかな?」

「そうだな。俺もそう見込んでいる」

「なら、ウェルト、く……マルド、ファーリーは治療に専念かな」

「俺とソースケ、テルシアはレベル上げだろう」

「あいよ」

 

 チラッとパーティメンバーの状況を確認すると、確かに悲惨な状況である。

 テルシアのMPは8%ぐらいで、回復するまで休憩かなと思った。

 あの魔力水は3回分程度魔法を使えるまでMPを回復させる代物なので、魔力量の多いテルシアならその程度かなと思った。

 遅効性のほうがやはり回復量は大きいしな。

 

「……テルシアはMPの回復を優先しろ。俺とソースケで先行してレベル上げをする」

「わかりましたわ」

 

 と言うわけで、俺と錬は素材収集と狩りを行うことになった。

 薬草を採取しつつ、レベル上げだ。

 2日目からはテルシア、3日目からはファーリーも加わりレベル上げをする。

 4日目でようやく全員が全回復したので、いよいよレッサーオロチ討伐にフルメンバーで向かうことになった。

 

 俺は自分で即効性のある解毒・耐毒・耐麻痺・不眠の丸薬を作成する。

 薬草に毒に効くハーブなどを調合したものだ。

 それをポーチに入れ、突撃する燻製やウェルトに渡す。

 ポーチには即効性のあるヒールポーション、魔力水を5本ずつ入れており、いつでも取り出せる状態だ。

 錬は錬で剣でアイテム作成をしているようであった。

 

 そんな感じで準備をした俺たちはレッサーオロチの目前にいた。

 

「行くぞ、お前たち!」

 

 錬が突撃する。基本アタッカーかつ一番攻撃力のある錬は遊撃させればいいだろう。

 

「我輩も続くぞ!」

 

 相変わらずこっちの話を聞かない燻製は、俺が盾をしつつ攻撃させてデコイにする。

 

「ウェルト、燻製のフォローを! ファーリー、テルシアは丸薬を飲め」

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に毒を防ぐ力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・リジェネ・アンチポイズン!」

 

 指示を出し、俺は継続効果のある耐毒支援魔法を全体にかける。

 そのおかげか、突撃して毒のブレスに巻き込まれた燻製が悲鳴もあげずに戦っていた。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我等に麻痺を防ぐ力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・リジェネ・アンチパラライズ!」

 

 耐麻痺用の魔法を唱え終え、俺は不眠の丸薬を噛み、魔力水と一緒に飲み込む。

 

「わはははは! 効かぬわぁ!」

 

 麻痺のブレスを浴びても突撃をやめない阿呆。

 

「ウェルト、錬サマを狙ってる首の一つを! ファーリーはウェルトの援護!」

 

 俺は駆け寄り、技を放つ。

 

「必殺! 大旋風!」

 

 ひとまず、俺と燻製の周囲の麻痺霧が晴れる。すかさず地面に手を置き魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を読み解き、我の周囲を雷で噴き飛ばせ』

「ファスト・サンダーウェーブ」

 

 雷が地面から発生し、霧を消しとばす。

 

「無闇に突っ込むな!」

 

 俺は燻製に注意しつつ、向かってくる首に向けて俺は腰に下げているボウガンを使い矢を放つ。もちろん、目にである。

 目に直撃し、怯む顔。そんな隙を燻製が見過ごすはずはなかった。

 

「うはははは! 喰らいやがれえええ!」

 

 斧の攻撃がクリーンヒットする。

 切断面から血が噴出する。

 爪攻撃が来たので、俺はすかさず燻製の前に出て、槍で受ける。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を放て』

 

 詠唱を完成させつつ、俺は人間無骨を起動する。パカっと開いた穂先から凶悪な槍が出現する。

 俺は燻製の作った傷跡を槍で滅多斬りする。

 

「ソースケ! テルシア!」

「ツヴァイト・サンダーショット!」

「ツヴァイト・アクアショット!」

 

 俺は錬からの指示を聞き、合成スキル用の魔法を放ち、そのまま距離を取る。

 

「合成スキル・エアストストームソード!」

 

 水と雷を纏った剣で、毒の首を切りつけると、局所的な嵐が巻き起こる。水で撹拌された雷が乱反射するようにレッサーオロチにダメージを与える。

 

「くっ、これで倒れないとはなかなか強いな……」

 

 少し楽しげにそう言うと、錬は毒の首と戦いを続ける。

 ブレスを回避し、切りつける。噛みつきを剣でうまく払い、切りつける。

 錬の剣の腕もだいぶ上達した。

 

 眠りの首は、ウェルトとファーリーがタゲを取っている。

 ウェルトはファーリーの魔法の援護を受けて善戦している。だが、決め手がない感じか。

 やはり、一番要である錬が必殺の一撃を出すことが勝利の鍵だろう。

 

「クソ! いい加減に死ぬがよい!」

 

 燻製の突撃に合わせて、爪が来る。

 俺はその爪を、槍で受け流す。

 邪魔だな。

 

「ツヴァイト・サンダーブリッツ」

 

 槍に雷を纏わせる。

 赤黒く変色した雷が、槍から放たれる。

 

「必殺! 雷裂風迅槍衝!」

 

 俺は槍を構えて力を溜め、一直線に突く。

 衝撃波が赤黒い雷を纏って放たれ、防御無視の衝撃波がレッサーオロチの腕を吹き飛ばした。

 レッサーオロチは悶絶する。

 その隙をついて、錬が毒の首を切り落とした。

 

「ムーンライトスラッシュ!」

 

 三日月を描くような斬撃を錬が放ち、それが決め手となったのだ。

 錬はそのまま、眠りの首に突撃する。

 

「ハンドレッドソード!」

 

 剣を10本ぐらい召喚し、一直線に飛ばす。

 それだけでも眠りの首にかなりダメージが与えられたようだ。

 

「我輩も勇者に続く!」

 

 燻製は相変わらず直猛突進でがむしゃらに斧を振り回している。

 どちらかと言うと、タゲは俺にあるみたいだがな。

 噛み付いてくるので、後ろに飛んでかわし、槍を脳天に突き立てる。

 防御無視・無敵貫通のこの槍は容易く麻痺の首の頭蓋を切り裂く。

 さすがに勇者みたいに切断はできないけれどね。

 槍で脳をぐちゃぐちゃにかき混ぜてやると、痙攣して動かなくなる。

 そんな麻痺の首を燻製が斧でさらに攻撃する。

 

「ははははは! 我輩がやったのだ!! 打ち取ったぞおおお!」

 

 残った眠りの首は、俺たちが戦う前に錬によって切り取られて、戦いは終わったのだった。




宗介は防御が上手いため、ダメージを受けること自体が少ない。
燻製はそもそも宗介のお守りでノーダメージ。
ウェルトは不眠の丸薬を飲んでいたので、ブレスのダメージのみ。爪は正面から受け止めているので、それなりにダメージあり。
錬は回避でノーダメージ。
テリシアはウェルトの回復と、援護の水魔法だけなのでそこまで魔力消費はなし。
ファーリーはウェルトの援護のみのため、余裕。

結論、前回の大苦戦は主に燻製のせい。


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邪教徒達

「す、すごい! 前回はまともに戦うことすら出来なかったのに!」

「ま、ちゃんと準備すれば、強敵でもこんなものだな」

 

 俺はそう言いつつ、魔力水を飲む。

 これで残りあと1本になってしまった。

 偉そうに死体の首を切断した阿呆はこの際無視である。

 

「なるほど……。ソースケさんの戦い方は参考にさせていただきます」

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず……だっけな。早めに援護役を見つけたほうがいいな」

「フッ、ソースケがいれば十分だろう」

「勇者サマも、自分以外の戦略ぐらいちゃんと考えておけよ」

 

 信頼されるのは嬉しいが、燻製とミナの策略によって、いずれはこのパーティを近いうちに離れることだろう。

 早めにバクターを見つけてあげないとな。

 

 その後、錬はレッサーオロチの首を剣に収める。掻っ捌いて内臓も吸った。これは俺の指示ではなくて錬が自分からやったのだが……。

 凱旋とは行かないまでも、俺たちはウェソン村に戻ったのだった。

 その後、ささやかではあるが、宴が開かれる。

 錬の周りには村の美しい娘たちが侍り、錬にお酌をしている。

 

「フン、好きにしろ」

 

 と言いつつ、満更ではなさそうな顔をしている。

 次に燻製が自分の武勇伝を語っている。ウェルトやテルシア、ファーリーもチヤホヤされていた。

 俺は勇者様とは距離を取らされていたのだった。

 うーん、この。

 誰もお酒を注いでくれないから、エールも手酌だし、誰も話しかけてくれないので、若干寂しい。

 村長からの目線は「お前いつまでこの場にいるんだ。さっさとどっかいけ」と言わんばかりの視線を送ってくるし、三勇教の神官っぽい奴は、動きはしないが俺を睨んでくる。

 ああ、やはりメルロマルク。クソ野郎しか居ないのだな。

 

 俺は仕方なく、席を立つことにした。

 こんな所で酒を飲んでも不味いだけだ。

 

 遠目に宴が見える位置に行き、飲み直す。

 お酒を飲むと確かにMPが回復するので、面白いなと思いつつ飲んでいると、近くに気配を感じた。

 ああ、敵だな。

 俺はそう直感し、短剣を抜く。

 ギャリっと音がして、俺は短剣で二人の男に剣で襲われたことを知る。

 

「チッ、大人しく殺されてればいいものを……!」

 

 飲んでいたのでアルコールはそれなりに摂取はしていたが、楽しくなかったのでそこまでアルコールは回っていなかった。

 

「……マジかよ」

 

 俺は短剣と小手しか装備していない。宿に人間無骨とクロスボウは置いてきたのだ。

 つまり、剣かと思ったそれは、人間無骨であった。

 

「それ俺のだぞ! 返しやがれ!」

「いいや、これは我々が愚かな冒険者に盗まれた神聖な槍だ!」

「んな禍々しい神聖な槍があってたまるかってんだ!」

 

 魔力が通っていないのか、防御無視は働かなかったらしい。お陰で、剣で防御できたわけだ。

 つまり、あと一人は俺のクロスボウを持っているはずである。

 飛んでくる矢を回避する。が、一本腕に刺さる。

 焼けるように痛いが、我慢するしかない。

 

「くらえ! 冒険者!」

「誰が食らうか!」

 

 俺は槍の突きを受け流し、力を流す。

 そのまま相手の後ろに回り込み、顔面に当身を入れる。

 

「ぎゃっ!」

 

 そのままのけぞったので、短剣を首筋に当てて、その男を盾にするようにもう一方の男の方に向ける。

 

「貴様! 卑怯だぞ!」

「黙れスカタン! さっさと俺の武器を返しやがれ!」

 

 イライラする。

 だが、ここで消しても意味はないのだろう。

 

「これは我らのものだ! 貴様に返す道理はない!」

 

 ああ! もう、殺していいかな? 

 少し首を切っても動じないのだ。殉教する覚悟はあるのだろう。

 だが、理性がそれを押しとどめる。

 ここで殺したら、それこそミナの企みに乗るようなものだ。

 俺はそう判断し、武器を取り返す事に決めた。

 既に酔いなど吹き飛んでしまっている。

 俺は抵抗できない男の手首を捻る。そのままクルンと槍を奪い取る。

 そして、槍の穂先とは逆側……石突きの部分でぶん殴る。

 ズビしっと音を立てて頭部を強打すると、男は吹っ飛んだ。

 

「槍は返して貰った。次は弓だ」

 

 俺はそう言うと、弓を持っているやつに近づく。

 英霊召喚ゲームなら、ランサーの方がアーチャーに強いんだっけ。

 俺は短剣を鞘に収め、両手で槍を構える。

 槍の扱いはだいぶ慣れた。矢を弾きながら一気に間合いを詰めて、石突きで手元を殴る。

 

「ぎゃっ!」

 

 そのまま、槍を支柱にして、飛び回し蹴りをその男の顔面に食らわせる。

 男が吹き飛んだので、俺はクロスボウを拾い、矢を回収する。

 

「おい、ここで騒ぎが聞こえたぞ!」

 

 と、声が聞こえた。

 これを見られれば、俺はどの道指名手配である。

 ……本当に、腐ってるな! 

 俺はステータス魔法を操作して、パーティを脱退し、暗闇に紛れながらウェソン村を脱出したのだった。




アンケート見たら、皆さん燻製に成長は不要と思っているんですね笑
闇討ちをされておめおめと逃げ出した宗介の明日はどっちだ!


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エピローグ

 錬は、不意にソースケの名前がメンバー一覧から消えたことに気づいた。

 

「なっ!」

 

 錬は立ち上がり、周囲を見渡す。

 ソースケがいた位置には、別の村人が座っていた。

 

「おい、ソースケは何処に行った!」

「ソースケ? はて、そんな人物はいましたかねぇ……?」

「チッ!」

 

 錬は舌打ちすると、その場から出てソースケを探しに行こうとする。

 ソースケは役に立つNPCだ。

 せっかくの強キャラだし、錬が戦いやすい環境を整えてくれる重要なメンバーだった。

 何やら、メンバー同士でいざこざがあったようだが、錬の知る所ではない。だが、どのメンバーを優先するかと言われれば、ソースケを優先するに決まっていた。

 

「剣の勇者様! どちらに行かれるおつもりですか?」

「決まっている。大事な仲間を探しに行く」

「いえいえ、勇者様。あなたの大事な仲間は全員こちらにおられますよ? 何をおっしゃられているのですか?」

 

 なんだこれは。

 錬は非常に不快だった。

 なぜ、俺の強い仲間がこんな所で別れなければならないのか、錬には訳がわからなかった。

 

「邪魔だ! 退け!」

 

 錬の足に、美女の村娘がしがみつく。

 流石にそれを力づくで振り払うわけには行かなかった。

 

「おい、退けと言っている!」

「まあまあ、勇者様! ここは祝賀会の席です。お怒りをお鎮めになられてください」

「うるさい! 退けと言っているんだ!」

 

 錬は力をセーブして、なんとか振り払おうとするが、そうは問屋が卸してくれない。

 なんなんだ! 一体なんなんだ?! 

 錬は困惑していた。

 

 この、気持ち悪い何かの正体は、まだ高校生の錬にはわからずじまいであった。

 

 

 俺は、直感だけでなんとか生き残っていた。

 おそらく教会側の影だろうか。そいつらが攻撃してくるのだ。

 耐毒の丸薬を飲んでいたおかげで、倒れずに済んでいるが、影の執拗な毒吹き矢が容赦なく俺に突き刺さる。

 

「がぁっ!」

 

 すでに俺は血だらけであった。

 そして俺は無我夢中で逃げていた。

 斬り殺そうとしてきた影の首を俺は人間無骨で撥ねとばす。

 また、一人殺害した。

 

「はぁ、はぁ、ちくしょう……!」

 

 集中できないため魔法も唱えられない。

 俺はもう一個、耐毒の丸薬を飲み込んだ。

 と、目の前に影が出現する。

 目的は……俺のポーチらしい。

 素早く俺は合気道で対抗する。

 足捌きや腰の回転を使い、相手の力を利用して投げ飛ばす。

 

「死ね」

 

 俺はそのまま胸から短剣を取り出し、心臓をひと突きにする。

 

「がはっ!」

 

 影はビクンと反応して、動かなくなった。

 俺はすかさず、その場を後にする。

 このポーチを奪われたら、俺はただ殺されるだけであろう。

 

 逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ!! 

 死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!! 

 

 あの、悪辣な燻製とミナを侮っていた! 

 

「ちくしょう!」

 

 俺は悪態をつきつつ、森の中を走り続けた。

 一晩中走り続けただろうか。

 だが、影の連中の攻撃がいつくるかわからないのだ。

 ヒールポーションを飲んで、体力を回復しつつ、走る。走る。走る。

 ひたすらに逃げ惑っていたので、もはや何処にいるのかはわからなかった。

 

「グア!」

 

 フィロリアルの声が突然耳に入った。

 

「グア!」

「グアグア!」

「グア!」

 

 俺は木に手をつき、立ち止まった。

 目の前には、空色の羽をしたフィロリアルがいた。

 

「な……!」

「グアー!」

 

 頭には3本の、王冠のような羽が生えている。

 そのフィロリアルが、俺に近づいて来た。

 

「グア! グア!」

 

 まるで、背中に乗れとでも言っているようであった。

 が、俺は、あまりに出来事に、腰が抜けてしまった。

 なぜ……なぜフィトリアがここに? 

 

 フィトリアは俺を羽で摘むと、背に乗せて走り始めた。

 

「グアー!」

 

 ドッドッドと何処かに俺を連れて行くフィトリア。

 俺は疲れていたのだろう。気がつけばフィトリアの背中の上で意識を失ってしまったのだった。




これで、剣の勇者のソロプレイは終了です!


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勇者パーティを追放されたので、英雄譚(笑)を謳歌する連中を皆殺しにします
プロローグ


アンケートの結果、フィロリアルの聖域に連行が決定しました!


「うぐっ……!」

 

 身体中の痛みで目が醒める。

 反射で俺は、ポーチを弄ろうとした。

 もっさりとしたものを鷲掴みする。

 

「ん?」

 

 目を開けると、俺はフィロリアルに埋まっていた。

 

「って暑苦しい!」

 

 俺はフィロリアルの群れの中なら這い出る。

 あ、身体めっちゃ痛い……! 

 

「無理に動いちゃダメ」

 

 幼い少女が現れて、俺を捕獲する。

 そして、瓦礫のそばに立てかける。

 

「お前は……」

「気にしないで。ただの気まぐれ。勇者の仲間の気配がするから助けた」

 

 フィトリアは俺の顔を覗き込む。

 

「でも変。勇者の仲間なのに、勇者の敵の気配もする」

 

 不思議そうな表情で俺を覗き込むフィトリア。

 

「あなたはどっち? フィトリアには判断できない」

「……さあな。俺にもわからん」

「そう。あなたにも判断できないの。変なの」

 

 そう言うと、フィトリアはひょこひょこ歩きながらうろつく。

 

「で、ここは何処だ?」

「ここはフィロリアルの聖域。普通の人間はここには来れないし、フィトリアも連れて来たりはしない」

 

 と言うことは、俺は普通の人間じゃないと言いたいのか。まあ、あたりではあるけれども。

 

「ここで傷が癒えるまで休んでもいいか?」

「構わない。ただ、奥には勇者しか入れない。フィトリアの気まぐれで連れてきた。だから傷が癒えるまでならいい」

「俺がフィトリアに見つかった場所は?」

「人間至上主義の国の東側。フィトリアは次の波の場所に向かっていた」

「邪魔しちゃった?」

「問題ない。すぐに鎮めた。そう言えば、あなたの名前を聞いていない」

「俺は……菊池宗介だ」

「ソースケ。フィトリアは忘れっぽいけど、これだけは覚えている。そう言う系統の名前は、勇者しか名乗らない。あなたは誰?」

「さあな」

「少し待って」

 

 フィトリアはそう言うと、遺跡の奥に言ってしまう。

 そして、黒い小瓶を持ってきた。

 うぐっ、俺の中の何かが過敏に反応している。

 

「本来は、人間に与えるものではない。フィトリアが次期女王に与えるもの。だけど、きっと、ソースケには必要」

「あ、あれだろ。そ、それは不死薬だろ! ち、近づけるな!」

「なんで知ってる? 不思議。だけど、飲ませはしない。こうするだけ」

 

 フィトリアはそう言うと、一滴を指に垂らして手に広げ、俺の傷口に塗りつけた。

 途端に、世界が暗転する。

 

「あ、が、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 俺は激痛に悶絶する。

 何かが、俺の、魂を、攻撃する!! 

 

「は、あ、があああああああああああああ!!」

 

 苦しい、苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しいクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイクルシイ!!! 

 

 どれぐらい悶絶していただろうか。

 気がつくと、俺はフィトリア達から観察されていた。

 

「驚いた。人間の傷口に塗ると、こんな事になるなんて」

「……うぅ」

「大丈夫、身体には変化はない。ただ、驚く事があっただけ」

 

 一体何が起きたんだ?? 

 

「一体何が起きたのか、フィトリアにもわからない。何か黒いものが一部消滅しただけ」

 

 黒いもの……? 

 

「それが何かわからないけれど、きっといい事。今はゆっくりお休み」

 

 ああ、そうだな。眠たい。

 俺は再び意識を失った。

 

 

 翌日……なのか? とにかく俺はフィロリアル羽毛布団の中で目を覚ました。

 一部記憶が曖昧だが、俺がフィロリアルの聖域に来ている事は覚えている。

 俺はポーチからポーションを取り出して飲む。

 うん、HPはだいぶ回復した。

 状態異常も今はかかっていないようだ。

 

「ソースケ、起きた?」

 

 フィトリアがトコトコやってくる。

 

「ああ、なんかすごく気分がすっきりしている!」

 

 本当に、すごくすっきりした感じだ。

 まるで、初めてこの世界に来たときのようだった。

 

「そう、良かった。何もなくて。3日も目を覚まさないから心配した」

 

 ホッとした様子のフィトリア。

 俺はあれから3日も寝たままだったのか……。

 一体何があったのだろうか? 

 

「栄養は心配しなくていい。寝ながら食べさせた」

「どう言うこと?!」

 

 一体何をどうやって食べさせたのか、非常に気になってしまう。

 

「それじゃあ、ソースケを人里の近くまで送る。乗って」

「ああ、わかった」

 

 フィトリアはそう言うと、何処からともなく馬車を取り出した。

 俺はそれに従う。

 あの馬車は、眷属器だ。つまり、ポータルでどこかに連れて行ってくれるのだろう。

 

「ポータルキャリッジ」

 

 フィトリアがそう宣言すると、転送剣と同じ感覚がした。

 どうやら、何処かの森らしい。

 

「フィトリアはここまで」

「ああ、なんか助かった。ありがとうな。さようなら!」

「さようなら、ソースケ」

 

 恐らく、二度と会うことはないだろう。そう思ってさようならと言った。

 さて、まずはここが何処かを把握しなければならないだろう。

 レイファに会うためにも、そしてメルロマルクの他の波の尖兵を殺すためにも、俺は決意を新たにしたのだった。

 

「よし、今日も一日、頑張るぞい!」




宗介の女神の制約が軽くなった!
宗介が日本人とバレても死ななくなった!
これまでに溜まっていた女神の呪いが解除された!


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神鳥の馬車

 俺は、移動を開始した。

 何処に降ろされたのかが依然不明だったからだ。

 聞いておけばよかったかな。

 まあ、鳥にそこまで期待するのは酷だろう。

 

 なんとか森の中から街道まで出ると、遠くから馬車を引く音が聞こえてきた。

 行商かな。

 路銀はそれなりにあるし、ポーチの中の回復薬も心許なかった。

 

「すみませーん!」

 

 と言ったところで、俺ははたと気づいた。

 あのまんまるとしたフォルム、白い羽の中に混じったピンクの羽。そして、青い目。とてもではないがフィロリアルとは思えない姿。

 あれはフィーロたんじゃねーか! 

 

「はい、どうされました?」

 

 俺の目の前で、馬車が止まる。

 

「あー……。行商の方ですよね?」

 

 サッと、この馬車の持ち主が俺をチラッと見たことがわかる。

 

「チッ」

 

 舌打ちが聞こえたと言うことは、見覚えがあると言うことだろう。

 そして、馬車から尚文が姿を現した。

 

「お前は、錬の仲間だな」

「あー、まあ、元な」

「……? どう言うことだ? それに、驚かないんだな。盾の勇者が現れたと言うのに」

 

 ジロリと俺を見る。そして、俺の顔に目が止まった。

 

「お前……日本人か?」

 

 やっぱり聞いてくるか。

 ん? 今度は頭にピリッとくるものは無かったぞ。

 まあ良い、とりあえず誤魔化すか。

 

「俺はそうだな……勇者様の末裔と言うやつらしい」

「ごしゅじんさまーその人嘘を言ってるよー」

 

 ギロリと俺を睨む尚文。さすがフィーロたんである。

 

「あー、事情があるんだ。そう言うことにしておいてほしい」

「……ふん、良いだろう。次に聞きたいことがある……が!」

 

 尚文がブックシールドをキメラヴァイパーシールドに切り替えて、俺の後ろに駆け出す。

 ガンっと音がして、振り向くと兵士がいた。巡回の兵士だろうか? 

 恐らく、尚文を追っていた三勇教の影が俺を発見、近くで見回りをしていた兵士が来たのだろう。

 

「厄介ごとを抱えているみたいだな!」

「貴様、盾の勇者! 犯罪者を庇うか!」

 

 カシャカシャと音を立てて増援の兵士がやってくる。

 

「犯罪者……? どう言うことだ?」

「いや、わからんが心当たりはあるな」

 

 俺は槍を構え、短剣を抜く。ラフタリアも剣を手に馬車から飛び出す。

 

「ナオフミ様!」

 

 ラフタリアが攻撃しようとしたので、俺は手で制した。

 

「盾の勇者様、すまないがこれは俺の問題だ。俺一人で解決するさ」

「そうか、やってみろ」

 

 尚文はそう言うと、盾で剣をはじき返して後ろに下がる。

 

「と言うわけで、こいよスカタン! 八つ裂きにしてやる!」

「殺せ! 殺せー!」

 

 実際殺したら面倒だからな。

 すでにこの手で5人は殺したが、無駄な殺生はしない。

 優先度は俺が高いためか、尚文達は後ろで観戦する様子だ。

 

「ナオフミ様……」

「あいつの言い出したことだ。やばかったら助けるから心配するな」

 

 そんなやりとりを横目で見つつ、俺と兵士の乱戦が始まる。

 剣を受け止めるわけではないので、ガンと言う音ではなく、ギャリっと音がなる。

 兵士数人の剣を槍で受け流す。

 体勢が崩れた連中の尻を石突きで思いっきりぶっ叩く。

 

「あいたぁ!」

 

 剣も槍も、俺にとっては手の延長に過ぎない。

 兵士程度ならば、よほど熟練じゃない限り、受け流し、武器を奪うことすら容易かった。

 剣で受け止めて、俺は力を流して小手返しを決め、武器を奪い取り、地面に突き刺す。

 

「す、すごい……!」

「何かの武術か? 剣と槍を使う気にくわないやつだが、元康の奴とも戦い方が違うな」

 

 まあ、俺は対人能力が高いしな! 

 気づけば俺の周囲は剣の塚ができたいた。

 武器を全て奪い取り、地面に突き刺していただけである。

 

「まだやるか?」

「覚えてろよ!」

 

 俺がそう聞くと、悔しげな表情をして兵士達は逃亡した。

 

「息すら切らしてないか」

「まあな」

 

 尚文は俺が戦っていた場所をマジマジと見ている。

 そして、剣を回収しながら戻ってきた。

 ラフタリアと少し話をして、俺に話しかけた。

 

「おい、話を聞かせろ。代わりに希望する場所に送ってやる」

「運賃は?」

「情報料と等価だ。足りないなら請求するし、多過ぎたら払おう」

「それじゃあ、アールシュタッド領城下町まで頼む」

「……近いし良いだろう。それじゃあ乗れ。ラフタリア、剣は売っぱらうから回収しろ」

「はい、わかりました」

 

 と、なぜか俺は尚文一行に同行することになってしまった。

 

「で、なぜお前はここに居るんだ?」

「その前に、ナオフミ様に自己紹介をしてください。変なあだ名をつけられますよ!」

 

 ラフタリアがそう指摘する。とは言っても、俺は尚文に覚えてもらうつもりは無いので構わない。

 

「……じゃあ、錬の仲間その4で」

「長く無いか? まあ、そう命名してはいたが」

 

 あ、やっぱり? 

 

「あとはそうだな、弁慶だな。いろんな武器使うみたいだし」

「弁慶よりも長尾景虎の方がいいかなー」

「なんであだ名談義になっているんです!」

「てか、この歴史の話題が通じると言うことは、やはりお前は日本人なんだな」

 

 尚文は納得したようにそう言う。

 

「で、景虎。なぜ『元仲間』と言った? さっきの兵士もお前を犯罪者だと言っていたが、理由を話せ」

 

 結局、俺が言い出した景虎に落ち着いたらしい。自己紹介をする気がないからね、仕方ないね。

 

「そうだな……。錬と俺たちは東の村を目指していた」

「東? 西ではなく?」

「ああ、そうだ」

「ここはメルロマルクから西側だぞ? とてもでは無いが徒歩でたどり着ける距離じゃ無いな」

「まあ、俺はの事は置いておいて、錬達が東の村にいるのは事実だ」

「……色々と突っ込みたいところはあるが、後ほど聞くとしよう」

 

 話が通じるようで助かる。若干胡散臭いものを見るような目つきになったがな。

 

「で、その道中の村で、俺は罠にはめられて錬の仲間を強制離脱する事になったんだ。だから、元仲間な訳だな」

 

 途端に尚文の表情が陰る。

 

「……チッ、またか。この国の連中は……!」

 

 と呟いた。

 

「まあ、俺が邪魔だったんだろうな。錬の所で一番動いていた自覚はある。お陰で罠にはめられて、逃亡の最中に5人ぐらい殺してしまって、犯罪者と言うわけだな!」

 

 明るく言うと、尚文とラフタリアはドン引きする。

 正直、あの状況では殺さなければこっちが摩耗して殺されるだけだったからな。

 クソ野郎共を殺した所で、魔物を殺すのと大差はない。世間的ダメージが大きいだけである。

 

「……確かに、景虎ほどの実力者ならば可能だろうな。さっきの戦いも、お前なら殺そうと思えば出来ただろう?」

「ああ、出来なくはないかな。殺したらタイミング的に盾の勇者様に迷惑をかけるから、殺さなかったまでだしな」

 

 サイコパスを見るような目で俺を見る尚文達。

 まあ、できるかと問われたのだから答えたまでである。

 

「まあいい、とりあえず錬の状況を教えろ」

「構わないぞ」

 

 という感じで、俺は運送料がわりに錬の情報を尚文に伝えるのだった。




干渉しそうで干渉しない話。
顔見知りにはなるけれど、後になって思い出すかは謎。


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盾の勇者との対話

遅くなってすみません!


 しかし、フィロリアルの馬車に乗るのは久しぶりである。

 ラヴァイトよりも若干、馬車の揺れが激しい気がするな。

 そんな事を考えながら、俺は錬の情報を売った。

 さすがに、燻製やミナ、三勇教の名前は出さなかったがな。

 その情報を売るには、アールシュタッド領までの道のりは安すぎる。

 

「……なるほどな、ウェソン村か。俺たちもその村には絶対に近づかないようにしよう」

「そうですね……。決して近づかないようにします」

 

 小声で尚文が「滅んでしまえ」と呟く。

 俺は別に恨んではいない。まあ、好き好んで近付くことはないがな。

 

「しかし、その話を聞くと、錬が受けた依頼自体が罠だったとしか思えないな。錬の仲間はお前が活躍するのを妬んだんだろう? その中にあのビッチ王女のような奴が居て、錬に取り入る邪魔になるから、権力を使ってレッサーオロチって魔物の討伐を依頼したのだろう。お前なしでこのレッサーオロチを討伐できれば、景虎は不要だと言えるからな。錬をある程度信用させつつ追い出すことができる」

 

 尚文が推測を話す。

 

「だが、愉快なことにレッサーオロチは強すぎた。だから、計画第2弾を発動させて、村の連中と協力して景虎を消そうとしたんだ!」

「ナオフミ様……」

 

 尚文は語気を荒げる。

 かなりの怒りが籠っているのがわかる。

 

「景虎、復讐するなら俺はお前に手を貸すぞ!」

「それは嬉しい提案だ」

 

 普通に嬉しい。だけれども、どっちみち燻製は燻製される定めなのだ。

 それに、三勇教も尚文の活躍で壊滅する。

 残ったミナにお仕置きするのは俺の役目だ。

 だから、俺はこう言うしかない。

 

「だけれど、これは俺の復讐だ。俺自身で決着をつけるさ。そのためにアールシュタッド領に向かっているわけだしな」

「……? 恨む奴は東の村に居るんだろう?」

「アールシュタッド領には、俺がこの世界に居る意味と、片棒を担いだ奴がいる」

「!」

「まずはそいつから片付けようと考えている」

「なるほどな」

 

 尚文は少し考えて、こう言った。

 

「……景虎、お前は確かに強い。だが、勇者である俺が協力した方が確実だろう。だから、お前の戦いに協力させてくれ」

「……」

 

 ここまで言われて、拒む理由は無いだろう。

 原作で描写されなかった期間だし、その時のサブストーリーの一つだと思えばいいか。

 

「わかった。お願いする」

 

 ただまあ、もしかしたら波の尖兵もいるかも知れない。

 その時は、俺はそいつをこの人間無骨で殺害するだろう。その為の人間無骨である。

 ラフタリアには見せられない光景が展開するので、その場合は俺一人で対峙することになるだろう。

 

「ああ、お前が恨みを果たせるように援護する」

「……わかりました。ナオフミ様がそうおっしゃるなら、私も付き従います。カゲトラさん、よろしくお願いしますね」

「フィーロも行くー♪ よろしくねー、うーんと、いろんな武器の人ー」

 

 と言うわけで、尚文からパーティメンバー申請が来たので、承諾する。

 個人的にはまさか協力すると言われるとは思わなかった。

 俺だって、尚文が罠にハマるのを見過ごしてたのにな。

 と言うわけで、俺たちは夕方ごろにアールシュタッド領に入る。

 

「今日はここで野営だな」

 

 尚文はそう言うと、テキパキと野営の準備を始める。

 俺も手伝うが、こう言う馬車を伴った旅の野営の準備は楽でいいな。

 俺は焚き火で火を起こす。

 

「ファスト・サンダー」

 

 バチッと音を立てて、焚き火に火がつく。

 

「やっぱり、攻撃魔法は便利だな。俺は盾のせいで残念ながら使えないから、羨ましいな」

 

 おそらく、盾のせいではなく、尚文の資質自体が回復と援護なのだろう。

 俺は雷と援護なので、尚文からしてみれば確かに羨ましいのもわかる。

 

「その点は同情するよ」

「ま、ただ俺は魔力ってのがわからないから魔法はまだ使えないんだがな」

 

 そう言えばそうであった。まだ、アクセサリーの作成をしている様子はなかったのでアクセサリー商とはまだ出会っていない時期なのだろう。

 

「その内出来るようになるさ」

 

 俺はそう言いつつ、火を起こした。

 火種は燃え上がり、焚き火になった。

 

「コツとか無いのか?」

「そうだな、非常に感覚的で説明しにくいし、説明したところで人それぞれなところがあるから、俺では力になれないだろう。すまないな」

「……ラフタリアと似たようなことを言うんだな」

「似たようなアドバイスしか出来なくて申し訳ないな」

「いや、それなら自分で探すさ」

 

 尚文はそう言うと、焚き火に串を刺していく。

 その手つきは明らかに熟練の料理人のそれだ。

 

「わーい」

 

 ボフンと音がして、金髪幼女が出現する。

 改めて見ると驚くな。

 

「ごしゅじんさまのごはんー」

「フィーロ!」

「えー、どうせいろんな武器の人はわかってそうだから良いでしょー」

「……確かに、あまり驚いてない様子だな。武器屋の親父でも唖然としていたのに」

 

 フィーロの変身自体は知っている。

 そんなに驚いてなかっただろうか? 

 

「ま、召喚される時にある程度知識を得たんだよ」

「お前、聖杯戦争で召喚されるサーヴァントじゃ無いんだから……」

 

 呆れる尚文。

 

「セイハイセンソウ……ですか?」

「ああ、俺の世界にはそう言う題材の話があるんだよ。……景虎はもしかして、俺のいた世界の住人じゃ無いかと疑いたくなるな」

「は、はあ、ですが、ナオフミ様が楽しそうでなによりです」

 

 ラフタリアはそう言って微笑む。

 

「顔に出てたか? まあ、確かに景虎と話していると、昔のオタク心をくすぶられるのは確かだな」

 

 尚文は少し考えると、串の様子を見つつ、俺に聞いてきた。

 

「景虎、お前の知っている有名なオンラインゲームは?」

「あー、俺は一応メルロマルク人って設定なんだが?」

「嘘こけ。今更通じるか。早く言え」

 

 仕方ない。なんかあの薬を塗り受けられてから、制約が軽くなったみたいだし大丈夫だろう。少し話してみるか。

 

「……有名なFPSならバトルフィールド、MORPGならファンタシースターオンライン2だな」

「……知らないな。いや、バトルフィールドは知っているが。ファンタシースターオンラインは1がある事しか知らない。それに、お前の世界にはこの世界に似たゲームはないのか?」

「俺が知る中では無いな。似たweb小説ならあるがな」

「web小説か。……景虎も勇者として召喚されたのか?」

「さあな。ただ、俺は勇者では無いぞ」

「その禍々しい見た目の槍は、そう言う系統かと思ったんだがな」

 

 あー、やはり、人間無骨は禍々しいか。

 

「と言うか、まるで人間を殺すための槍だな。防御無視なんて恐ろしいスキルまで内包してやがる……」

「これを盾の勇者様に向けることはないさ。俺が殺すと決めた奴以外にこの槍は向けるはずかない」

「そうか。まあ、お前は俺とほとんど近い世界の住人だしな。そうならないことを祈るよ」

 

 尚文はそう言いつつ、串をひっくり返す。

 

「これは焼けたみたいだ。ほらよ」

 

 尚文が俺に串を渡してくれた。

 

「ありがとうな」

 

 俺は受け取り、一口食べる。

 

「うますぎる!!」

「スネークかよ」

 

 と、そんな感じで今日の夜は過ぎていったのだった。



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強襲

 深夜、俺は気配を感じて素早く槍を装備する。

 あの時武器を盗られた経験から、俺は武器を手元に置くようにしていた。

 

「敵か」

 

 直ぐに起き上がったのは尚文であった。

 尚文も裏切られた経験から、深く寝ずにいることが多いようだ。

 

「いいや、()()()()

 

 俺は槍を払うと、ガキンガキンと矢による攻撃を弾き飛ばした。

 

「ナオフミ様!」

「ごしゅじんさま!」

 

 流石に攻撃してくる気配で、ラフタリア達も起き上がったようであった。

 

「へぇー、なかなかやるじゃん。俺様のエリナの弓を切り払うなんてな」

 

 そいつは、冒険者の姿をしていた。

 転生者か! 

 俺の中で殺意が滾っているので間違いがないだろう。

 こう言う呪いはまだ健在のようであった。

 

「そっちから殺されにくるとは、殊勝な事だな」

 

 この呪いは恐らく、波の尖兵が個別に徒党を組むことを防ぐためにかけられたものだろう。

 それを逆に使えば、ソナーに出来る。

 相手もそうなのだろうがな。

 

「お前がソースケだな?」

「その周辺にいるのは……はっ、盾か」

「……チッ」

 

 尚文はイラッとした表情をする。

 

「ま、盾なんて防具はいらねぇしな。今回はそこの犯罪者を殺しに来たんだ。邪魔するなよ」

 

 阿呆のセリフに、尚文は指をさして俺に聞く。

 

「おい、景虎! なんだこのムカつく野郎は!」

「俺の敵だ。岩谷達は取り巻きの女を頼む」

「……」

 

 尚文は俺の顔を見て、うなづいた。

 

「わかった。クソ野郎は任せたぞ、景虎!」

「おうともさ!」

 

 俺は槍を解放する。

 俺の魔力を受け取り、槍は変形する。

 先端の槍が開き、十卦の槍になる。先端の槍は両方に展開した槍の穂先をカバーしていたもので、魔力により防御無視の槍が形成される。

 魔力剣と言ったらイメージが近いが、そんな生易しいものではない。

 この槍の恐ろしい点は、肉体も精神も切り刻む事だ。

 

「いくぜぇぇぇぇ! 嗤え! 人間無骨!」

 

 森長可の宝具解放からセリフを真似る。

 

「人間無骨って景虎じゃなくて森長可じゃねーか!」

 

 と言う尚文のツッコミは無視する。

 今は気が立っている。

 この目の前のゴミを始末しなければ気が済まない! 

 

「俺様の剣、受けてみるか?」

「シュッ!」

 

 俺は構わず槍を突き刺す。

 が、紙一重で回避される。

 

「決め台詞を邪魔されるとムカつくなああ!!」

 

 奴は回避した足で、そのまま剣を振ってくるが、甘い。

 槍を回転させて剣を石突きで弾く。

 ギインっと鉄のぶつかる音がするが、弾き飛ばすことはできなかった。

 俺は素っ首を狙い槍を回転させる。

 

「チッ! 雑魚が、イキがりやがって!」

 

 奴は剣で槍を受けようとする。

 そんな剣は、この槍には紙くずも同然のごとくスパッと切れる。

 

「はぁ?!」

 

 紙一重で回避して、奴は俺から距離を取る。

 チラッとみると、尚文達は取り巻きの女達を制圧中のようである。

 

「お前、その槍チートじゃねぇか! なんだよそれ!」

「なら、お前のチートを見せてみろってんだ!」

 

 俺はそう言うと、奴の元に駆け出す。

 奴は恐怖してダッシュで逃げ出した。

 もちろん、こんなところで逃がすわけがない。

 

「必殺! 裂風迅槍衝!」

 

 俺は槍に力を溜めて、突きを放つ。

 防御無視、無敵貫通の衝撃波が奴を襲う。

 

「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 

 巻き込まれて吹き飛ぶ奴を殺すため、俺は奴の元まで駆け抜け、地面に落ちる前に奴の首を跳ねる。

 

「ははははははは!! 成敗!!」

 

 非常に気分がスッキリした。

 首と体が泣き別れになり、信じられないものを見るかの様子の奴を、俺は槍でみじん切りにする。

 証拠隠滅である。

 

「必殺! 乱れ突き!」

 

 解放状態の人間無骨は奴の死体を紙くずのように消しとばした。

 ああ! やっぱりいいな! 世の中の敵を粉微塵に消し飛ばすのは! 

 制約がほとんどなくなった以上、ミナを消し飛ばすのもありだろう! 

 ふふふ、ははは、はははははははははははははははは!! 

 

 俺は槍に魔力を流すのを止める。

 すると、槍の穂先は自動で閉じる。

 ふと、槍を見ると、槍の装飾が変わった気がした。

 あれ、親父さんから受け取った時こんなデザインだったっけなぁ……? 

 

「景虎、終わったか?」

 

 尚文が駆け寄ってくる。

 俺はかなりスッキリした表情をしていたのだろう。

 

「ああ、片付けたよ」

 

 俺の言葉に、尚文は引いた顔をする。

 

「さ、消しとばしたとは言え、この血だまりをラフタリアさんに見せるわけにはいかないだろう」

「あ、ああ」

 

 尚文は帰り際に「死体すら消し飛ばすのか……。俺より酷い目にあったんじゃ……」とつぶやいていたが、否定も肯定もしなかった。

 奴とは初対面だしな。

 

 戻ると、女達3人が縄で縛られていた。

 必死に命乞いをしているようだ。

 

「あ、ナオフミ様。言われた通り縛っておきました」

 

 ラフタリアとフィーロが見張っていたらしい。

 女達はキャーキャーと命乞いをして非常に耳障りだ。

 尚文の表情が曇る。

 

「なんだこの女達は。あのビッチ王女を思い起こさせる!」

「ですね。あの方を彷彿とさせます……」

 

 尚文はそう言うと、俺の方を向いた。

 

「景虎、どうするかはお前に任せる」

「……このまま放置でいいんじゃないか」

「そうか、お前なら殺すと言うと思ったんだがな」

「殺すのは、クソ野郎だけだ。女に対してはあの女以外はどうなろうと知ったことじゃない」

 

 ただ、このまま放流すれば面倒なことには変わりないか。

 やっぱり消すか。

 

「そうだな、そこの貴族っぽい女は消す。それ以外の女は、この事を喋らないと誓うなら、殺さないで置いてやる」

「ひいいいいいいいい!!」

 

 俺が殺気を放つだけで、女どもは失禁したようであった。

 

「誓います! 誓いますううううう!!」

「何故あたしだけ!!! 嫌! いやあああああああ!!」

 

 俺は貴族っぽい女を消すために、縛られている紐を掴む。

 

「ふん、虎の尾を踏んだのが悪い」

「ナオフミ様……」

「自分たちが強いって思い込んでたんだねー。バカだよねー」

「フィーロ!」

 

 貴族っぽい女からはミナと同じ感覚を感じる。

 それ以外の女にはそれを感じなかった。

 判断基準はそれだけである。

 俺は二人から見えない位置に移動すると、首をはねて肉体を消しとばしたのだった。

 




何この景虎サイコパス!
まあ、レベル差もありますが、この波の尖兵はレベルが25ぐらいなんですよね。
宗介のレベルは錬のところでレベルを上げた結果、59になっています。
結果、粉微塵に消し飛ばされました。

フィーロの毒舌を追加しておきました。


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ラフタリア頑張る

 翌日、俺たちはアールシュタッド領の城下町にたどり着いた。

 俺は荷台に隠れて、領内に侵入する形になった。

 

「……それなりに警備が厳重だな。だが、盾の勇者である俺は警戒されていないようだ。やはり景虎……いや、()()()()か? 漢字はわからんが、お前が一番警戒されているらしい」

「いや、普通に考えれば、この馬車も警戒されるんじゃ……」

「守衛さんに聞いた感じだと、別行動をしている可能性が高いと言っていましたよ」

 

 ラフタリアの回答に、少しガックリする。

 抜けているのか、深読みのしすぎか……。

 とにかく、盾の勇者はこの時点では警戒対象では無いらしい。

 

「とりあえず、岩谷は俺の事を景虎と呼んでくれ」

「ああ、そのつもりだ」

 

 偽名にはちょうど良いだろう。

 

「ラフタリア、街の偵察を頼む。俺とフィーロは景虎と待機だ」

「わかりました」

「はーい」

 

 ラフタリアはローブを羽織ると、馬車から飛び出した。

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 私はナオフミ様に命じられて、アールシュタッド領の城下町を偵察に出ました。

 それにしても、カゲトラさんは普段は剣の勇者様と似たような雰囲気の方ですが、戦いになると人が変わったかのように荒々しくなります。

 持っている槍も、禍々しい形になりつつあり、何というか、槍の勇者を見るナオフミ様に似た雰囲気になってしまいます。

 話を聞く限りだと、ナオフミ様と同様にハメられて、この世界を憎んでいらっしゃるのでしょう。

 普段は出しませんが、対人戦の時にその憎悪を発露させているように見えます。

 

 おっと、いけない。

 私はギルドに向かい、情報収集をします。

 亜人の冒険者さん達もいるので、そこで情報収集をします。

 

「あの、すみません」

「あ? なんだ? ってこれはこれは盾の勇者様の……」

「聞きたいことがあるのですが、大丈夫でしょうか?」

 

 私は情報料として預かった銀貨を5枚渡します。

 

「ああ、()()()()聞いてくれよ」

 

 銀貨を貰った冒険者の方は、ニッコリと微笑んでくれました。

 これで情報が聞きやすくなりました。

 いくら亜人の冒険者でも、盾の勇者の仲間であるだけでは肝心な情報を話してくださらない時があります。

 その時は、ケチらないでお金を渡すと良いと、ナオフミ様はおっしゃっていました。

 なので、私は情報を集める際は必ず、ナオフミ様から情報料を受け取っていました。

 

「この街ですが、少々物々しくありませんか?」

「なんでも、指名手配の犯罪者が、この領内に現れたんだそうだ。噂によると、その犯罪者はアールシュタッド領の領主を狙っているらしいぜ」

「それで、警戒されているのですね」

「ああ、なんでもそいつは剣の勇者様のパーティにいたらしく、剣の勇者様に取り入るために無謀な敵のいる住処におびき出し、仲間を消そうとしたんだそうだ。それが看破されて、剣の勇者様の怒りを買って追放されたそうだぜ」

「……そうなんですね。それは恐ろしいですね」

 

 カゲトラさんの話からすると、真逆の噂です。

 カゲトラさんは何故か犯人をぼかすような言い回しをしていましたが、確信がある話し方をされていました。

 おそらく、ナオフミ様に余計な気使いをさせまいとしてだったのでしょうけれどね。

 ナオフミ様はお優しいですから、こうしてカゲトラさんの復讐を手伝っています。

 ……本来は、私が諌めるべきなのでしょうが、私にも恨むべき方がいるので、あまり強くは言えません。

 

「そういえば、女性連れの冒険者を多く見かけますが、理由はわかります?」

 

 私はふと気付いたことを聞いてみました。

 ギルドに屯している冒険者の多くが女性連れ……いや、パーティメンバーが女性のみの方々ばかりです。

 遠くから見ても、深夜に襲ってきた方々と似たような雰囲気を出している方々が多く見えます。

 

「ああ、なんでも、この街の領主様の娘であるミリティナ様が、直々に集めた腕の立つ冒険者らしいぜ。詳しいことは知らないが、何故か女性メンバーばかりなんだそうだ。英雄色を好むってヤツかねぇ?」

「は、はぁ……なるほど」

「その中でも、選りすぐりのメンバーは領主の家で警備をしているそうだぜ。中には、クラスアップをした連中もいるそうだ」

 

 クラスアップをした……。

 なるほど、確かにそれは厳しい状況でしょう。

 

「盾の勇者様に関して、何か知っていたりしますか?」

「あー、それについてはあまり噂は聞かないなぁ。第二の波を乗り切ってからはからっきしだ。だが、何か商売を始めたらしいと言うのは風の噂で聞いたことがあるな」

「そうですか」

 

 悪評があまり流れていないようでホッとする。

 

「ま、槍の勇者様と特に仲が悪いってのは専らの噂だな。こないだはレースをして盾の勇者様が勝利を収められたとか!」

 

 人間の方に聞くと、「盾の勇者は卑怯な手を使って槍の勇者様から勝利を奪い取った」などと言う話を聞きますが、そこが亜人の方に聞くのと大きな違いですね。

 

「ま、この街に滞在するならナンパには気をつけることだな。メルロマルクじゃ信じられないが、婦女暴行をやらかす連中もいるそうだ。相手が亜人なら、誰も文句は言いやしねぇからな」

「はい、ご忠告ありがとうございます」

 

 私はお礼を言って、ギルドを後にします。

 後は、物陰に身を潜めつつ、街の様子を見て回り、私はナオフミ様の元へと帰還しました。




上手くラフタリア感が出せているかな…?


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作戦会議

「なるほどな」

 

 尚文はラフタリアの話を聞いてそう呟いた。

 馬車を止めているスペースは人通りは少ないが、馬車が止まっていてもおかしくない場所に止めてあった。

 これは当然ながら尚文の提案である。

 

「腕利きの冒険者を集めて護衛ね。勇者じゃないところがポイントだな。樹が食いつきそうな案件だが、クズ王の依頼で北にいるのならば、駆けつけては来ないだろう」

「はい、実際に剣の勇者様以外には打診はしたらしいのですが、優先順位の問題で王の依頼を優先するそうですよ」

「錬には打診してないのか……。改めて、景虎のハメられた話が正しい事が分かってイライラするな」

「んー?」

 

 勇者が来ていないのならば、障害としてはそこまで大きくはなさそうだ。

 なんと言っても、俺はすでにクラスアップ済みで、阿呆を2人殺したせいかその分多くの経験値を得たからな。

 尚文達にはそこまで経験値が入っていないところを見ると、波の尖兵が波の尖兵を殺害した際のメリットと言ったところか。

 

「景虎の強さはわかっている。が、敵もそれを警戒して、戦力はかなりあるようだな。ターゲットはクソ女でいいんだな?」

「ああ、間違いない。ミリティナがミナ……俺をハメた女だな。そいつがターゲットだ」

「オーケー」

 

 と、そうだそうだ。

 勇者装備をパクれる波の尖兵達を尚文達に戦わせるわけにはいかなかった。

 まあ、聖武器を表層だけでもパクれるのはタクトだけであるから、そこまで心配する必要はないかなとは思うが。

 なので、提案する必要があった。

 

「そうそう、岩谷は基本的に女を相手にしてくれれば良い。男は俺が殺す」

「ん、何かあるのか?」

 

 当然疑問に思うよな。

 うまい具合に誤魔化すとしよう。

 

「ああ、岩谷達に使命があるように、ああいう傲慢な連中を殺すのが、俺がこの世界にやってきた使命なんだと思ってな」

「……この世界でもリア充爆発させるのか」

「ま、気に食わないのも認めるけどな」

 

 まあ、アイツらは基本ハーレムだしな。

 リア充爆発ってのは間違っていない。

 素っ首叩き斬ってミンチにするだけだから、爆発はしないがな。

 

「……是非ともあのクズ王も暗殺してほしいものだな」

「それは、勇者様の仕事だろう? 愚かな王は魔王も同然だからな。魔王を倒すのが勇者様の役目だ」

「ハッ、言ってろ」

 

 俺の勇者ジョークに、尚文は半笑いで肩をすくめる。

 クズは殺すわけにはいかない。

 それは、書籍版やweb版を読んだものの常識だろう。

 アニメしか見てない人にとってはただの邪魔なだけのゴミに見えるが、覚醒イベントを発生させると諸葛孔明に変貌するからな。

 

「それに、王様は岩谷の敵なんだろう? 岩谷が自分で決着をつけなきゃ、岩谷自身が前に進めないさ」

「わかってる。クズ王とあのビッチ王女は俺がギタギタにしてやらないと気が済まないからな!」

「カゲトラさんがナオフミ様と凄い勢いで意気投合していって、複雑な気持ちです……」

 

 この世界に復讐心を共有する剣みたいなものは存在しないので、それぞれお互いの敵と戦うのが一番である。

 ミナ……俺をここまでコケにしてくれたんだ。

 必ずぶっ殺す! 

 俺は決意を新たにする。

 この街に波の尖兵が集まっているせいか、俺は殺意が滾っていた。

 

「それじゃあ、作戦を話す。ラフタリア、フィーロ、景虎。上手く動けよ」

 

 尚文の作戦は、潜入作戦である。

 警戒されていない尚文達が潜入し、警戒されている俺が囮である。

 フィーロは俺と共に暴れる側で、尚文ラフタリアは屋敷へ潜入、敵を掃討して俺たちが侵入するための経路を確保する手はずになった。

 俺がいなければ、ミナの確保はできないため、当然のことだろう。

 

「顔の割れている景虎が囮には適役だ」

「うん、フィーロも武器の人と一緒に暴れるね!」

「ああ、フィーロ、頼む」

 

 フィーロは幼女形態で話を聞いていた。

 

「ラフタリア、俺たちは景虎の道を切り開く」

「お任せください、ナオフミ様。フィーロもカゲトラさんも気をつけてくださいね」

「うん、ラフタリアおねーちゃんも気をつけて!」

「ありがとう」

 

 俺たちは作戦を開始したのだった。




作戦は実は悩みました。
何が尚文らしい作戦かですね。
宗介の方針ではないのでアンケは無しです。

章タイトルは有名タイトルのパクリですね。


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戦い

 俺は、路地から出て街の中央に出る。

 このあたりでいいだろう。

 俺は被っていたローブを脱ぎ、宣言する。

 

「我は毘沙門天の化身! 菊池宗介! 我を悪と断じる悪がいると聞き推参した! 菊池宗介、推して参る!」

「びしゃもんてーん!」

 

 まあ、これでスルーされたら悲しいけどね。

 こんな目立つ場所で名乗りを上げれば、当然ながら色々と出現するのはわかっていたことである。

 

「居たぞー! 犯罪者だー!」

「ははは、悪が堂々と現れるか! 成敗してくれる!」

「「「きゃー頑張ってー! ──様ー!」」」

 

 ううん、やっぱり波の尖兵の名前は聞き取れなかった。

 まあいい、殺すか。

 と、思ったが、尚文からはなるべく戦闘不能で抑えるように指示があった。

 本格的に殺していいのは、元凶を捕獲した後の方が良いとの事だ。

 まあいい、殺そう。

 

「ははははははははは!!」

「ぎゃあああああ!!」

「フィーロも楽しい! はははははははー!」

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 俺とフィーロは暴れ回る。

 流石に衛兵や女は殺しはしないが、波の尖兵とヴィッチっぽい女は素っ首を刎ねて回る。

 兵士は石突きで叩きのめし、短剣やクロスボウで適度に痛めつける。

 合気道で地面に叩きつけたりもするがな。

 波の尖兵の冒険者はもちろん、起動させた人間無骨でバンバン首を刎ねていく。

 

「ははははははは!! 成敗!!」

「ははははははは! せーばい!」

「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 フィーロは尚文の指示を守り、蹴り飛ばして遊んでいるだけだが、俺は明確に殺意を持って、波の尖兵をぶっ殺して回った。

 波の尖兵など所詮害悪だしな。

 なんだか楽しくなってきて、フィーロと暴れ回ったのだった。

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 俺たちはアールシュタッド領の館まで接近した。

 盾はすでにキメラヴァイパーシールドに変化させてある。

 俺は奇妙な縁で出会った復讐者の手伝いをしているところだ。

 そうすけ……漢字にすると宗介だろうか? 今は景虎と名乗っているが、アイツも俺と同じようにビッチ王女と似たような奴に貶められた奴だった。

 既に、その精神は破綻しており、まさにその血塗られた槍『人間無骨』の持ち主である森長可や偽名である長尾景虎……上杉謙信と同様に戦闘狂の殺人鬼と化していた。

 この国の連中は人を貶めないと気が済まないのだろうか? 

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ……」

 

 遠くから叫び声が聞こえる。

 景虎達は上手くやりすぎていそうである。

 その叫び声を聞いた衛兵が、わらわらと館から出てくる。

 

「キクチソウスケが現れたぞ!」

「謎の鳥と一緒に暴れまわっているらしい!」

「捕まえろ!」

 

 俺は隙をついて、ラフタリアと共に館に侵入をした。

 館は、スタンダードな洋館であった。

 敷地内を歩いていると、館の作りはまるで学校のように部屋が分かれているように見える。

 

「さて、まずは構造を把握することが先決だな。親玉は屋敷の奥、最上階に居ることが定番だが……」

 

 俺は周囲を見渡しながら、侵入できそうな場所を探す。

 もちろん、身を隠しながらであるが。

 

「ナオフミ様」

「どうした?」

「あちらを見てください」

 

 ラフタリアの指をさす方向を見ると、窓の中から何かが見える。

 近寄って覗き込むと会話が聞こえてきた。

 

「……全く、消したと思ったのになんで今更出てきますの?」

「申し訳ございません。我々も尽力しましたが、途中で行方知れずになってしまいまして……」

「ふん、どの道犯罪者になった彼には用はありませんわ。波のボスを討伐した時には使えるかなと思いましたのに……」

 

 この話し方はビッチ王女を彷彿とさせるものがある。

 声音は異なるものの、似た性格の奴なのだろう。

 この女が、景虎を陥れた奴と言うことか。

 

「ふ、そうカッカするな。可愛い顔が台無しだぜ? ミナ」

「ああ、──様素敵ですわ」

 

 丁度名前が聞こえるところで、外から騒音が入り、名前を上手く聞き取れなかった。

 装備を見る感じだと、おそらく錬や元康程には強いのだろうという事がわかる。

 金髪の腰までかかるロングヘアがボサボサな感じの髪型をしており、顔立ちは整っている。

 だが、嫌な目をしているのは遠くから見てハッキリとわかる。

 そして、そいつの取り巻きも女ばっかりだ。

 まるで元康を見ているかのようで非常に不愉快である。

 他の連中は別の場所に居るのだろう。

 

「ラフタリア、あの部屋までの経路を探るぞ」

「はい、わかりました」

 

 俺とラフタリアは移動する。

 現在の俺たちのレベルはこんな感じだ。

 

俺 Lv34

ラフタリア Lv37

 

 効率のいい狩場など知らない俺たちは、行商をしながらも着実に力をつけていた。

 盾の補正もあるし、油断さえしなければどんな苦境でも切り抜ける自信がある。

 俺達は見つからないように姿を隠しつつ、経路を探っているその時だった。

 

「なんだ、盾か。なんで盾がこんなところにいるんだ?」

 

 そいつは黒い鎧を着込み、黒い剣を装備した奴だった。

 明らかに強い。

 

「チッ」

 

 俺は舌打ちを打って、盾を構える。

 

「ナオフミ様!」

「ああ、敵だ」

 

 これが俺達が盗賊以外での初めての対人戦となった。




今回は尚文視点です。
上手くかけているかなぁ?

ちなみ、外では宗介が首を刎ねまくり、フィーロが蹴飛ばしまくっています。


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盾の戦い方

「俺は何人も殺してきた。お前達も俺の剣で切り刻んでやろう!」

 

 そいつは楽しそうにそう言うと、剣を構える。

 目には、狂気が宿っていた。

 

「ちぇえええい!!」

 

 ガンっと、俺は剣を盾で受け止める。

 

「いつっ……?!」

 

 少し痛かったぞ。

 どうやら、コイツの攻撃力が俺の防御力を若干上回ったらしい。

 と言っても、ダメージ1程度の痛みしかなかったが。

 

「ラフタリア、気をつけろ! コイツ、俺の防御力を超えてきやがったぞ!」

「!! わかりました、ナオフミ様!」

 

 俺とラフタリアは気を引き締める。

 俺でも1程度のダメージを受けると言うことは、ラフタリアが受ければ致命傷と言うことになるからだ。

 

「まあ、盾なら防御力無いと困るよな。試させてもらおう」

 

 ぐ、来る! 

 俺は盾を構える。

 

「ちぇええええええええええええええええええええええええええいいい!!」

 

 男は息もつかせぬ連続の斬撃を仕掛けてきた。

 俺はそれを読み、全てを盾で受け流す。

 この防御法のコツは景虎に教えてもらった。

 剣に合わせて盾で剣筋を逸らす方法だ。

 この方法だとダメージを受けずに捌くことができるみたいであった。

 ギャンギャンギャンと音を立てて、後ろに控えるラフタリアに攻撃が当たらないように防ぐ。

 

「せいやああああ!」

 

 ガキンっと音を立てて、俺は最後の一撃を正面から受け止める。

 キメラヴァイパーシールドの蛇の毒牙(中)と言う反撃スキルを期待しての事だ。

 当然ながら、発動する。

 キメラヴァイパーシールドの蛇の装飾が伸びて、剣士に噛み付いた。

 

「ぐっ! 毒か!」

 

 剣士は後ろに飛ぶ。

 

「ラフタリア!」

「はい!」

 

 俺とラフタリアは剣士との間合いを詰める。

 回復させる気は毛頭なかった。

 ラフタリアの攻撃に、剣士は舌打ちをして受け止める。

 

「ラフタリア、連撃で相手を惑わせ!」

「はあああ!」

 

 ラフタリアの攻撃は、剣士にとっては軽いだろう。

 それはレベルや装備の差もあるからだ。

 どう見ても、剣士のレベルは俺達よりも高いだろう。

 だからこそ、手数を増やして攻撃する必要がある。

 

「邪魔するなあああ!」

「エアストシールド!」

 

 ラフタリアと剣士の間にエアストシールドを設置して、ラフタリアへの攻撃を防ぐ。

 

「チェンジシールド!」

 

 盾は双頭黒犬の盾を選択する。

 盾についた犬の頭が剣士に噛み付く。

 

「チィッ!」

 

 ラフタリアはその隙を上手くついて剣士に攻撃を仕掛ける。

 

「っ! 硬い!」

「オラァ!」

「ふんっ!」

 

 俺は剣士とラフタリアの間に入り、剣を受け止める。

 やはり1ダメージを受ける。

 それほど重い攻撃だと言う事だろう。

 

「盾風情がやるじゃ無いか!」

「お褒めに預かり光栄だ」

 

 俺と剣士は剣と盾で鍔迫り合いをする。

 毒が効いているのか、顔色が若干悪い。

 

「ラフタリア!」

「はああああ!」

 

 ズバッとラフタリアの攻撃が入る。

 

「ぎゃああ! くそっ!」

 

 どうやら、クリティカルヒットだったらしく、ダメージが大きく入ったように見えた。

 

「つらあああああああああああああ!!」

「シールドプリズン!」

 

 耐久力のあるシールドプリズンでラフタリアを守る。

 剣士の攻撃は一撃一撃が重いため、シールドプリズンは徐々にヒビが入っていく。

 チッ、剣士の意識をこっちに向けなければな! 

 俺は石を拾い、複数個を上に大きく放り投げる。

 直接投げようとすると弾かれるが、上に複数個大きく投げるのはランダム性が伴うため、盾の制約に反せずに弾かれはしない。

 どうやら偶然、何個かが剣士に命中したようだった。

 

「邪魔だあああああ!」

 

 剣士の意識は俺に向く。

 どうやらタイマンで相手に集中するタイプのようだ。

 俺は連撃を捌く。

 剣と盾がぶつかるところが火花をあげ、逸らした攻撃の余波で地面が削れる。

 だが、俺はコイツと違い一人で戦っているわけでは無い。

 

「せい!」

 

 ラフタリアは背後から忍び寄ると、剣の腹で思いっきり剣士の頭部を殴り飛ばした。

 ゴイーンッと音がして、剣士は横に吹き飛ぶ。

 あの驚きの表情はなかなか見ものであった。

 剣士はそのまま、気絶したように倒れて動かなくなった。

 脳を揺さぶられたのだろう。

 そう言う軽い脳震盪は、この世界でもある事なのだ。

 

「ふぅ、手強い方でしたね」

「ああ、排除できたのは幸いだった。防具を引っぺがして縄で縛るぞ」

「はい、ナオフミ様」

 

 俺とラフタリアは剣士の装備を引っぺがして、縄で縛る。

 しかし、コイツの装備は非常に重たい。

 ラフタリアに剣を持たせてみたが、とてもじゃ無いけれども重すぎて扱いきれないとのことであった。

 まあいいだろう、とりあえず俺達は景虎と合流することに決めた。

 目的の女の居場所も分かったし、強敵の存在を景虎に知らせておくことも重要だろう。

 

「ラフタリア、一時撤退だ。先ほどの騒ぎを嗅ぎつけられたらまずいからな」

「わかりました。強敵を一人倒せましたし、成果としては十分ですね」

「ああ、一度戻ってフィーロ達と合流するぞ。その後再突入だ」

 

 俺達は、館から撤退した。

 この時、気づいていれば話はもっと簡単になったのだが、俺達に気付く余裕は無かった。

 ある女の子が一人、連行されて来ていることに気づいていれば。

 俺達が撤退できたのも、その女の子が搬送されたからであったらしい。




アンケート結果を反映させました!
尚文の戦い方は色々と考えさせられますね。


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館突入前

 俺は、誰も恐れて襲ってこなく無くなったので休憩をしていた。

 俺の周りには、首と死体、血液が散らばっている。

 フィーロには食べないように指示を出している。

 ははは、大虐殺だな。

 無関係な冒険者は石突きや短剣、クロスボウで怪我だけで済ませているし、あとはフィーロが蹴り飛ばしただけだ。

 俺の怒りのバロメーターは既にだいぶ治まっており、少し落ち着いている。

 挑発する気分でもないので、こうやって座って、携帯用の水筒で悠々と水分補給をしていた。

 

俺 Lv67

 

 それなりに経験値を獲得できており、うまあじである。

 何人殺したっけなぁ? 

 

「んー、フィーロ退屈ー。武器の人ー、いつまで待てばいいのー?」

「岩谷が帰ってくるまでだな」

「わかったー」

 

 フィーロはそう言うとフィロリアルクイーン形態のまま周囲の散歩を始めた。

 警戒しているが、衛兵も冒険者達も遠巻きに見つめて警戒しているだけである。

 暴れすぎちゃったかなぁ……? 

 尚文からはフィーロは人間の姿になるなと言明されているので、フィロリアルクイーンの姿のままである。

 

 と、視界の隅に光が見えた。

 ラフタリアのファスト・ライトの光だろう。

 

「フィーロ、行くぞ。岩谷が呼んでいる」

「ごしゅじんさまが! うん、わかったー」

 

 俺はフィーロに乗り、光が見えた方向に進む。

 人を飛び越える際に、俺はこう、喧伝しておく。

 

「ははははは!! 天誅! 毘沙門天の名の下に、世に悪が栄えた試しはないのだ! ははははははは!!」

 

 そうして、俺達は尚文の元に戻ったのだった。

 

「でねー、武器の人、いっぱい首を飛ばして遊んでたのー。だからフィーロもいっぱい蹴って遊んだのー。ごしゅじんさまにいわれてたから、死んじゃわないかんじで蹴ったのー」

 

 フィーロの話を聞いて、尚文は微妙な顔をする。

 どう言う顔だろうか? 

 

「景虎……。一応言っておいたはずだが、殺すなと言ったよな?」

「そうだな。だが、目の前に殺したいほど憎い奴がいて、殺せる状況で殺すなと言うのが難しくないか?」

「うん、武器の人は狙って首を飛ばしてたよ」

「……お前はマトモだと思ったんだがな」

 

 今はだいぶスッキリしているが、開始直後は殺意が滾っていて、自分でも制御できなかったのは事実だ。

 だいたい波の尖兵な冒険者の1/3殺したところでだいぶ落ち着いたけれどな。

 

「既に俺はマトモじゃないのは自覚しているさ。首を刎ねるのに、僅かな躊躇いすら無くなっちゃったしな」

 

 最初に遭遇したあいつは、骨を折ったが殺してはいない。

 俺の殺人への躊躇いや拒否感を破壊したのは、三勇教の連中だ。

 

「……普段の会話はマトモだから良いとしよう」

 

 尚文はため息をつくと、話を変えた。

 怒っても仕方ないと思ったのだろう。

 

「さて、俺たちの方は館の偵察だが、景虎の目的らしい女の居場所は突き止めた」

「ええ、ですが、かなり強い冒険者達がいることが分かっています」

「一人と戦って倒したんだが、あのレベルが複数人で来られたら、流石の俺達でも叶わなかっただろう。幸いにして、連中は連携するつもりはなさそうに見えたがな」

 

 ですよねー。

 

「まるで、自分の力を試したいと言った感じの方でした」

「なるほどな。まあ、アイツらはそう言う連中だから仕方ないね」

 

 俺は同意する。

 アイツらの事だ、恐らく人質をとったりする事だろう。

 タクトのように人質を殺そうとする場合もある。

 俺の場合はレイファやドラルさんが該当するな。

 可能性として見積もっておくべきだし、上手く立ち回る必要があるだろう。

 

「岩谷、もしかしたら人質がいる可能性がある」

「……ありえるな。あの女と似たような奴だったから、その可能性は高いだろう」

「んで、思った通りにいかなきゃ人質を殺す可能性がある」

「……流石に連中もそこまでアホじゃないだろう。だがまあ、最悪の事態は考えておくべきだな」

 

 とりあえず、尚文に忠告しておくのはこんなところだろうか。

 

「よし、それじゃあ、館に突入する。強敵が出た場合はお互いに連携する事。あと、景虎はくれぐれも殺してくれるなよ?」

「あいよ。まあ、ラフタリアさんもいるし、自重するさ」

 

 フィーロは楽しんでいたみたいだがな。




次回は長くなるんで短めで勘弁してください。


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宗介の苦戦

 館の正門前には、冒険者が数名配置されていた。

 アイツらが波の尖兵だということはビンビンに感じていた。

 波の尖兵は2名おり、取り巻きの女性が何名か侍っている。

 

「岩谷」

「ああ、誰が正面から入るんだよと言いたくなるな。こっちだ!」

 

 偵察していた尚文のお陰で、裏門から無事に潜入することができた。

 しかもこの門は、南京錠で鍵がかかっていたらしく、ラフタリアが切って解除できる程度には脆くなっていたらしい。

 地面には錆び付いた南京錠が落ちていた。

 

「普段は使われない入り口か……」

「ああ、見張りもいなかったからな。現に今も見当たらない」

「ま、余計な殺し合いをしなくて済むなら良いことだろう」

 

 どうやら、この館には強敵しか居ないようだからな。

 俺達は尚文の案内で、敵に会わずに館の内部へと侵入できた。

 

「さあ、ここからだ。前回は内部に侵入できなかったからな。あの女のいた部屋の位置はわかるが、場所はわかっている。内部を少し歩けばたどり着けるだろう」

 

 尚文がそう言った時だった。

 俺は殺気を感じて槍を取り出し、尚文への攻撃を防いだ。

 

「今ので死んでおけばいいものを」

 

 そいつは、尚文の言っていた奴だった。

 金髪の長髪をしており、なんかアニメやゲームのキャラを彷彿とさせる容姿をしている。

 鎧は白を基調とした青いラインや装飾が入ったもので、それがますます主人公アピールをしている。

 張り付いたニヤニヤ顔が、ウザい。

 槍で弾き落としたものは、矢であった。

 あの威力は尚文が食らえば確実にダメージを受けたほどであった。

 

「テメェ……」

「お前が盾と、ミリティナが言っていた犯罪者か。よくもまあノコノコとこんなところまで殺されに来たものだ」

 

 その白い奴の言葉と同時に、複数人の強そうな冒険者が出てくる。

 そして、ミナ……ミリティナ=アールシュタッドが出てきた。

 

「ミナ! テメェよくもハメてくれやがったな!」

「あら、私の好意を無下にして、自分勝手に剣の勇者様に取り入ろうとしたアナタが何を言っているのかしら?」

「あれはそもそも、国が強引に勇者の仲間になれって命令されたようなものだろうが!」

「私はアナタが勇者になるならと思って送り出しました。まさか、それが剣の勇者様に取り入り、国を自分の思うがままにするためだったなんて……。マルド様に聞かなければ、私は間違えてしまうところでしたわ」

 

 あー、やっぱ話は通じそうにない。

 

「おまけに、盾に協力してもらっているなんて、所詮は犯罪者。犯罪者は犯罪者同士消えて仕舞えばいいのですわ!」

「チッ!」

 

 尚文は舌打ちを打つ。

 ミナのその姿はまさに化けの皮が剥がれたヴィッチそのものだからね、仕方ないね。

 実際に言われると、もはや呆れを通り越して笑うしかないが。

 

「マルドの野郎に言っておけよ。脳筋のように突っ込むと、勇者様の邪魔になるだけだってな!」

 

 しかし、コイツら阿呆だな。

 確信はしていたが、ミナが協力していたのは推定でしかなかったのに、この証言で確定だ。

 心置きなくぶっ殺すことができる。

 俺は剣を抜き、槍と共に構える。

 

「しかし、あの亜人可愛くね?」

「盾殺してGETだな!」

「じゃあ、誰が最初に殺せるか勝負だな!」

 

 などとほかの冒険者どもがざわついている。

 それぞれ、豪華な装備を身につけており、目つきも怪しい。

 ここにいる全員、俺の殺戮対象のようだ。

 

「景虎!」

「俺はあの一番強そうなやつを殺す! 岩谷達はそれ以外の連中を無力化してくれ!」

「わかっているが……」

「いや、アイツは俺よりも強い。無力化は無理だ!」

「……わかった。無理はするなよ」

 

 相手は決まった。

 白い奴はニヤケながらこう宣言した。

 

「ミナを貶めた犯罪者は俺が殺すから、お前らは盾を消せ」

「良いだろう」

「命令されるのは癪だが、従おう」

「最初に盾を殺した奴があの亜人の女をGETだな!」

 

 白、緑、黄色、赤色の連中は戦う相手を決めたようだった。

 俺は槍に魔力を通す。

 グパァと槍が変形して、十卦形態になる。

 

「うっ、景虎、それはもはや呪いの装備だろ……」

 

 尚文のツッコミに、俺は何も返さなかった。

 白い奴を相手にして、そんな余裕はなかった。

 

 俺が走り出すとともに戦いが始まった。

 俺は走りながら魔法を唱える。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 唱え切ったところで怖気がして、態勢を変える。

 ビュンと音がして、目の前を剣が通り過ぎた。

 俺はすかさず合気道で対応する。

 剣の流れた力を小手で加速させ、反対側の手で当身を入れる。

 

「おっと」

 

 が、首を傾けて回避される。

 態勢が崩れれば問題ないため、そのまま小手返しに移行する。

 クルッと技をかけるが、するっと回避されてしまう。

 

「変な技を使いやがる」

 

 剣を振るので、槍でそれに合わせて力を流す。

 だが、それすらも対応されてしまう。

 なので今度はこっちから攻撃を仕掛ける。

 槍は無敵貫通・防御無視なので、それを振るう。

 ギインっと音がして、白い奴は俺の槍を剣で受け止めた。

 

「流石に、柄の所は厄介なスキルはないだろ?」

「やるじゃない」

 

 俺は実戦で鍛えた槍術で白い奴を攻めるが、上手く剣でいなされてしまう。

 コイツ、強すぎないか? 

 俺も俺で、白い奴の剣を紙一重で回避しつつ、合気道で対応する。

 ギイン、ギャン、バンと、様々な効果音を出しながら、俺と白い奴は互いに攻める。

 明らかに遊ばれている。

 それほどの実力があって、なぜ波を鎮めるために戦わないのか疑問が出てくるほどだろう。

 波の尖兵とわかっていなかったら問いただしていた所である。

 

「そんなに弱いのに、よくもまあ生き残れたものだ。感心するよ」

「そいつはどうも」

「ふ、やはり、ミナは君には似合わないようだ。強く、美しい僕に相応しい」

「好きにしたら良いじゃねぇか」

「君が生きていると、ミナが悲しむからね」

「じゃあ、殺しあうしかねぇな!」

「君みたいな雑魚で僕を殺すなんて、寝言は寝てから言いたまえ。まあ、すぐに永遠に寝ることになるから、問題ないかもだけどね」

 

 白い奴の攻撃のスピードが上がり、さらに隙が無くなる。

 

「チッ!」

 

 俺もそのスピードに合わせる。

 剣の間合いの近接戦闘だが、剣と槍の二刀流に合気道の格闘術が合わさる事で対応できてはいる。

 

「必死だな」

「ぬかせ。一発も当てれてないじゃないか!」

「ふっ、これだから雑魚は」

 

 とてもではないが尚文達の状況を見ていられるほどの余裕は無かった。

 勝ってくれることを信じるほかない。

 不意に奴の闘気が膨らんだ、来る! 

 

「食らえ! 鏡面刹!」

 

 某ゲームの主人公の連撃を白い奴は使ってきた。

 兜、袈裟、突き、凪ぎ、全ての剣を槍と剣で払う。

 しかし、数カ所致命的ではないものの、俺はダメージを負ってしまう。

 

「ぐぅ!」

 

 肩や二の腕、右脇腹が熱い。

 血が出ているようであった。

 

「くくく……。僕のこの技を受けて生きているとは大したものだ」

 

 つ、強い! 

 波の尖兵としても奴が格上なのは感じるが、冒険者としてもかなり強い! 

 

「はあああ! 乱れ突き!」

 

 俺は技を放つ。

 右腕のみで乱れ突きを放ち、左手の剣は別の技を放つために準備する。

 

「ふっ、そよ風かな?」

 

 俺の技を全て回避してしまう。

 そんな事は分かっていた事だ。

 だからこそ、俺は魔法を詠唱する。

 

『力の根源たる俺が命ずる。真理を今一度読み解き、彼の者を打ち滅ぼす雷を今ここに招来させよ』

「ドライファ・サンダーブレーク!」

 

 俺はあの必殺技を再現する。

 地面を思い切り蹴り間合いを作り、剣に雷エネルギーを充電する。

 バチバチと短剣から電気が迸る。

 

「今必殺の、サンダーブレーク!」

 

 俺は槍を奴に向ける。

 剣から槍に雷エネルギーが伝わり、ビームを放つ。

 雷エネルギーは赤黒く変貌し、奴に向かって飛んでいく。

 

「ふっ、そんな真っ直ぐな攻撃が通用するわけがないじゃないか」

 

 白い奴はそう言って余裕で回避する。

 

「真っ直ぐなわけがないだろ」

 

 そもそも、サンダーブレークは範囲攻撃だ。

 俺の魔力で構成された雷を、俺が曲げれないはずがない。

 

「なっ!」

 

 奴は初めて驚愕の表情を見せた。

 サンダーブレークが命中し、ダメージを与える! 

 バチバチと奴から電撃の流れる音がするが、奴は悲鳴をあげなかった。

 

「……!」

「「「──様!!」」」

 

 取り巻きの女どもと、ミナが悲鳴をあげるが、雷の音で俺は奴の名前が聞き取れなかった。

 

「……ふっ、美しい僕が汚い犯罪者に負けるわけがないだろう?」

 

 白い奴はそういうと、バチンと音を立てて俺の魔法を打ち消した! 

 打ち消した?! 

 

「なっ?!」

 

 妨害魔法を誰かが唱えた気配はなかった。

 なのに、白い奴はサンダーブレークを打ち消したのだ! 

 ドライファだぞ?! 

 

「不思議がっているようだね。ふふ、これが僕の力だ」

 

 そう言うと、奴は腰に剣を納めて、天に手を掲げる。

 

「君に見せるのは癪だけれど、僕が最強である証を示そう」

 

 奴の手に出現したのは、豪華で強そうな斧だった。

 斧の根元の部分に、聖武器の特徴である赤い宝石がハマっている。

 そして、斧の持ち手の末端にはアクセサリーがぶら下がっていた。

 

「マジかよ……」

 

 俺は改めて武器を構え直す。

 斧の眷属器の強化方法は、肉体改造! 

 奴はそれで、魔法防御のステータスを高めていたようだ。

 

「君はどうやら強敵らしい。雑魚かと思ったが、僕にこの斧を使わせたことがその証左だ。誇るが良い。そして、その誇りとともに、死ぬがよい」

 

 一瞬で奴は消えた。

 

「ぐはっ?!?!」

 

 そして、俺の腹部に斧が命中する。

 バキバキと骨の砕ける音と、鎧が破壊される音が聞こえる。

 意識が一瞬飛びかけるが、俺は生きているようだ。

 俺は吹き飛ばされて、壁に激突する。

 

「ふっ、まだ息があるか。このグレートキングアックスを耐えるとは驚きだね」

「「「きゃー! ──様ー!」」」

 

 やばい、スカしたアイツもムカつくが、ピンチだった。

 

「かはっ!」

 

 口と鼻から大量の血が出る。

 真っ二つになってないのは奇跡だろう。

 

「う、ぐ、かはっ!」

 

 俺はつい、チラリと尚文達の様子を見てしまう。

 いかんいかん、これは俺の戦いなんだ! 

 俺はポーチからヒールポーションを取り出し、素早く服用したのだった。




強すぎない?
マジで強すぎない?


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三勇者モドキ

先に尚文編をどうぞ!


 景虎が駆け出すのが、戦いの合図となった。

 赤い鎧を着た槍を使う奴、黄色い鎧を着た弓を使う奴、緑の鎧を着た剣を使う奴、まるで三勇者を相手にするような構図になり、俺は苛立ちを抑えられない。

 

「ナオフミ様、来ます!」

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 ラフタリアの声と、景虎の支援魔法は唱え終わるのはほぼ同時だった。

 支援魔法のおかげか若干ステータスが上昇する。

 

「亜人ちゃんを寄越しな! 盾えぇ!」

 

 槍の赤い奴……元康亜種が槍で俺を狙って攻撃してくる。

 槍を俺は盾で受け止める。

 キメラヴァイパーシールドの効果が発動し、装飾の蛇が元康亜種に噛み付く。

 

「毒かよ! 舐めんな!」

「フィーロ!」

「いっくよおおお!!」

 

 回復などさせる気は毛頭もなかった。

 思いっきり元康亜種をフィーロが蹴り飛ばす。

 

「あの人、なんか嫌い!」

「ああ、元康を連想させるからな!」

 

 ラフタリアは錬亜種と戦っている。

 戦闘自体はどちらかと言うと、錬亜種の方が優勢に見える。

 チッ! 

 樹亜種が矢を放ってきた。

 

「エアストシールド!」

 

 エアストシールドで俺はラフタリアを守る。

 ガンッと音を立ててエアストシールドに当たると、エアストシールドにヒビが入った。

 それほどの威力なのか! 

 

「フィーロ! 先に樹亜種を倒すぞ!」

「樹亜種ってどんなネーミングセンスだよバーカ! アローレイン!」

「セカンドシールド!」

 

 俺は最近習得したばかりのスキルを使って、空中に盾を設置して、矢の雨をやり過ごす。

 

「隙あり!」

 

 元康亜種が槍で突撃してくるが、景虎の方が槍の扱いは上手いだろう。

 若干扱い方の系統が違う気はするが、景虎の槍の使い方はまるで手の延長で、盾にもなるし、腕にもなる。

 俺は矛先を逸らすように受け流す。

 ガインと音がするが、ダメージはない。

 剣士の方が何倍も強いだろう。

 

「ふんっ!」

 

 こんな未熟な槍の使い方では、元康よりも弱いかもしれない。

 

「フィーロ!」

「はーい! はいくいっく!」

 

 フィーロの姿がブレて、元康亜種を蹴り倒す。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

 元康亜種の鎧が砕け散り、そのまま樹亜種の方に飛んでいく。

 

「はっはー! やるじゃねぇの! ま、そいつは雑魚だからな。今度はこっちの手番だ!」

 

 樹亜種はそう言うと、モーニングスターを取り出した。

 

「俺は弓も得意だが、本業はこっちでね!」

 

 樹亜種の宣言通り、モーニングスターで攻撃してくる。

 

「いいなー、あのじゃらじゃら。フィーロも欲しい!」

 

 そう言いながらも、フィーロはモーニングスターを回避して樹亜種に蹴りを入れる。

 

「あぶねっ!」

 

 樹亜種はフィーロの素早い動きに対応してやがる。

 なので、回避の邪魔をしてやる。

 

「エアストシールド!」

「何?!」

 

 エアストシールドにぶつかった樹亜種はそのままフィーロの連打にノックアウトされた。

 あれだけまともに喰らったのだ。

 しばらくは動けないだろう。

 

 ラフタリアの方を見ると、錬亜種と善戦をしていた。

 

「行きます! たあああ!」

「くっ、なかなかやる!」

 

 不意に殺気を感じて俺は盾を構えた。

 

「ふかああああつ!」

「チッ!」

 

 ギンっと音を立てて、元康亜種の槍を盾で受け止める。

 

「雑魚が! すっこんでやがれ!」

「雑魚じゃねええええ! 盾風情が偉そうにしやがって!」

 

 元康のスキルを真似た……乱れ突きだったか? 攻撃をしてくる。

 俺は盾で丁寧に槍を捌きながら、槍を掴む。

 

「なっ?!」

「フィーロ!」

「はーい!」

 

 フィーロは樹亜種の持っていたモーニングスターを元康亜種にぶん投げる。

 

「な、離せ!」

「誰が離すか! くたばれ!」

 

 俺は槍を固定して、頭に直撃するように誘導する。

 

「うわあああああああああ!!」

 

 ぐチャァ!! 

 俺の目の前で元康亜種は頭が砕け散った。

 良い様だ。

 

「わーい! すとらいくー!」

「フィーロ! 一応殺すなと言っただろう!」

 

 全く、フィーロのせいで見たくもないものを見てしまった。

 まあ、所詮は鳥だ。

 人間の価値観と異なるのは当然だろう。

 それに、撃ってもいいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ。

 俺は怒鳴りつつも、持ち主のいなくなった槍を放り投げて、ラフタリアの援護に向かう。

 

「ナオフミ様!」

「援護に来た!」

 

 俺は盾を構えてラフタリアと錬亜種に割って入る。

 剣士に比べれば、こいつらなど雑魚同然である。

 ダメージも通らないし、動きは剣士に比べれば緩慢である。

 俺は白刃どりの要領で剣をキャッチする。

 

「ぐ、離せ!」

「ラフタリア!」

「はい!」

 

 ラフタリアは剣の腹で錬亜種の頭部を殴る。

 

「かはっ?!」

 

 そのまま吹き飛ばされて、地面に倒れこんだ。

 ん? 元康亜種を殺した時の経験値がかなり大きいぞ……。

 人を殺すと貰える経験値がでかいのか……嫌なことを知ってしまった。

 

「よくやった、ラフタリア、フィーロ」

「ごしゅじんさま! 武器の人、たいへん!」

 

 フィーロの指摘に、俺は景虎の方を向く。

 そこには、白い鎧のいけ好かないやつ……見た目だけは似てるから、昏倒野郎と呼ぶか、そいつが斧を掲げているところだった。

 

「……そして、その誇りとともに、死ぬがよい」

 

 そう宣言すると、昏倒野郎は一瞬で景虎を木を切り倒すように斧で凪いだ。

 景虎は吹き飛び、壁に激突する。

 

「景虎!!」

「カゲトラさん!!」

 

 俺たちはフィーロに乗り、景虎のところに急ぐように指示を出した。

 

「フィーロ!」

「うん!」

 

 あの強力な攻撃だ。

 最悪の場合を考えなければならないかもしれない! 

 俺たちは急いで景虎のもとに向かうのだった。




普通に尚文達は強キャラです。
信頼を受けると強くなる効果で基本的に硬いですしね。


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合気変幻無双術

「フーッ……」

 

 俺は立ち上がる。

 ヒールポーションを飲んだおかげで立ち上がるまで回復はできた。

 そして、()()()()()()()()

 剣と槍をその辺に投げ捨てる。

 クロスボウも邪魔だ。

 その辺に投げ捨てる。

 それだけで、俺の能力は若干下がるが問題ではなかった。

 

「ふふふ、やはり強敵とは言え、君は美しく無いね」

 

 俺には、全て、関係ない事だ。

 ただ力を抜いて、俺は構える。

 ()()()()()()()()()()

 そう思い込むことによりセルフイメージを上げる。

 アスリートなんかが試合前にやるアレだ。

 植芝盛平先生や、塩田剛三先生に比べたら、年季は浅いが、それでも実戦で積み上げてきていた。

 そして、この世界に来てから積み上げてきた戦闘の数々を思い起こす。

 どんな土壇場でも、役に立ってきたのは、合気道だった。

 あとは、それを自分の中で昇華させるだけだった。

 何度死にかけただろうか? 

 そのせいか、辺りに漂う何かを俺はつかみかけていた。

 

「スゥー……」

 

 息を吸って吐くたびに、俺の中にあるもう一つの何かを感じていた。

 

「立ち上がってくるなら仕方ない。美しくない君は用済みだ。死んでいいよ」

 

 白い奴は一瞬で消える。

 俺は、その気配に合わせて、手を置いた。

 バキャッと音がして、白い奴が吹っ飛ぶ。

 

「?!?!」

「「「キャー!!」」」

 

 合気道とはカウンター技だ。

 だが、誰も攻めないとは言っていない。

 それに、剣や槍は手の延長ではあるが、()()()()()()()

 

「ぐっ、き、貴様! 僕の美しい顔を殴ったな!」

「ハァー……」

 

 戯言など聞き飽きた。

 俺はただ、殺すのみだ。

 

「殺してやる! 僕の美しい顔を殴った貴様を殺してやる!!」

 

 再び白い奴は消える。

 俺は気配に合わせて、そこに拳を放つだけだ。

 当身とは、ただ相手に合わせて、そこに拳を置くだけだ。

 バキッ! 

 

「グハッ!」

 

 振りかぶった斧を、俺は優しく撫でるように力を誘導する。

 そのまま、俺は入り身投げに入る。

 こういうのをゾーンに入ったとでもいうのだろうか? 

 その時の入り身投げは、俺の中で一番冴えているように感じた。

 奴を後頭部から落ちるように誘導して、地面に叩きつける。

 

「がああああ!!」

 

 奴は後頭部を抑えて悶絶する。

 

「僕があああ、僕をおおお、貴様ああああ!」

 

 斧を振りかぶって攻撃してくる。

 俺はその斧に優しく触れる。

 それで、俺は繋がりを感じる。

 奴とつながったのならば、技をかけるだけだ。

 俺は俺の体内で何か言葉に言い表せないものを練り込みながら、手刀で斧を受け流す。

 そして入り身をして転換で相手の背後に回り込み、顔面に当身を入れる。

 スパアアアアアアン! 

 

「ぎゃあ!」

 

 仰け反るのでもう一度入り身投げをして、壁に投げつける。

 斧の勢いがそのまま、奴が吹き飛ぶ速度に加算されて壁に叩きつけられた。

 

「グハッ!」

 

 ビターンと音を立てて壁に叩きつけられた奴は、顔面に強烈な当身を3発入れたせいか腫れてボロボロになていた。

 

「くそッ! 貴様! 僕の! 僕の美しい顔を! よくも!」

 

 白い奴は斧を構える。

 

「エアストアックス!」

「エアストシールド!」

 

 斧のスキルを受け止めたのは、尚文の盾だった。

 

「大丈夫ですか?!」

 

 駆けつけてきたのはラフタリアとフィーロだ。

 

「あの技の系統! 一体何者なんだ、アイツは!」

 

 俺は、それすらも無視する。

 白い奴の方に歩みを進める。

 

「いい加減死晒せ! 大激震!」

 

 白い奴が地面に向かってスキルを放とうとする。

 俺は素早く近づき、斧に手を沿わせる。

 そして、スキルの方向を空中へと変化させる。

 

「なっ!」

 

 奴は驚愕に顔を歪める。

 

「スゥー……」

 

 俺は、練りこんだ何かを、奴の腹に押し付けた。

 こう、何かはわからないが、俺は知っているような何かを押しつけるように殴り抜く。

 

「ぐ、な、ぎゃああああああああああああ!!」

 

 叫ぶのがうるさいので、口を押さえて、地面に叩きつける。

 グシャッと音がしたが、まだ息はあるようだ。

 

「グフっ、後頭部ばかり狙いやがって……!」

「なんだ、あの技は?!」

「私も見たことがありません!」

 

 白い奴は立ち上がると、斧で連撃を仕掛けてくる。

 

「烈風神速斬!」

「ハァー……」

 

 俺は斧の連撃を全て手で受け流す。

 受け流しつつ、練りこんだ何かを使って殴る。

 周囲は斧の斬撃が刻み込まれる。

 だが、パンドカパンバキパンパンゴキパンと俺の拳が奴の身体中にめり込む音が鳴り響く。

 さながら、流水岩砕拳の様に俺は受け流しては殴り、受け流しては殴った。

 最後の一撃が振りかぶり攻撃だったので、俺は転換し懐に潜り込み、思いっきり斧の力の方向にぶん投げた。

 どかっと音をってて壁の激突する。

 斧の振るう威力そのままの投げだ。

 俺の攻撃で奴の鎧はボコボコに、顔はさらに酷い有様になっていた。

 

「ぼ、ぼくろおぉぉ……ぼくろうつぐじぃがほがはぁあぁあぁぁ……」

 

 瓦礫の中で奴はそう呟いた。

 血まみれの顔で何を言っているのだろうか? 

 興味がわかない。

 興味があるのは、奴がまだ死んでいないことだけだった。

 

「そこまでですわ!」

 

 ミナの声が響く。

 

「ソースケ!!」

 

 俺はその声に、ゾーンから復帰せざるを得なかった。

 まさか、まさかまさかそんな!! 

 

「レイファ?!」

「ソースケ! 助けて!」

 

 そこには、ミナに首にナイフを突きつけられたレイファの姿があった。




ようやくの出番のレイファちゃんです。


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決着ゥッッ!!

 俺の預かり知らぬ事だが、ミナがレイファを人質にしたちょうどその時、ある人物がアールシュタッド領に戻ってきた。

 

「……何事かね?」

「領主様!」

 

 死体の片付けと死者の身元解明、負傷者の手当てに騒がしかったアールシュタッド領城下町は、領主の帰還にようやく安心することができた。

 事情を聞いた領主は、苦虫を噛み潰した顔をして、こう呟いたそうだ。

 

「ミリティナめ……これで何度目だ!」

 

 俺とミナの宿命に、決着がつこうとしていたのだ。

 

「テメェ! どうしてレイファを!」

「もちろん、調べたのですわ」

「俺は一度も、お前の前でレイファのことを話したことはないぞ! 同じ部屋で寝ることすらなかったはずだ!」

 

 ネタ自体はわかっている。

 おそらくあの時だ。

 レイファと共に依頼を受けた帰りに遭遇した波の尖兵の取り巻きの女である。

 それ以外でレイファに繋がる伏線は、俺は用意していなかった。

 

「……」

 

 俺が口から吐かせようとした事を理解してか、忌々しい顔をするミナ。

 だが、少し考えて、鼻で笑う。

 

「アナタに初めてあった時に、近くにいた殿方……ドラル、でしたかしら? ふふ、強いお人でしたわね。ソースケさん?」

「ま、まさか?!」

「今ではウルフの餌になってますわね! ほほほほほほ!!」

「テメェ!!」

 

 奥歯がギリッと鳴る。

 

「動かないで!」

「ヒッ!」

 

 尚文が動こうとして、ミナはナイフをレイファの首筋に押し当てる。

 軽く血が流れるのが見える。

 

「チッ!」

「盾の勇者ごときが何をできるかは知りませんが、所詮は盾。今ここで、死んで仕舞えばいいのです」

 

 カツカツカツと足音を立てて、白い奴に近づくミナ。その手にはヒールポーションが握られていた。

 

「さ、アレックス様、今度こそその最強の力で、犯罪者と盾葬り去ってくださいまし。そうしたら、愛してあげますわ」

 

 流石に今回ばかりはちゃんと、奴の名前が聞き取れた。

 

「ふふ、ふはは、あはははははははは!」

 

 白い奴は突如笑い出すと、武器を変化させる。

 

「この僕に! こんな醜いラースアックスⅡを使わせるなんてね! 菊池宗介!!」

「なんだ! あの禍々しい斧は! しかも武器が形を変えたぞ!」

 

 そうか、尚文はまだ知らないんだな。

 カースシリーズは未開放だし、他にも勇者武器が存在することは。

 なので、黙っていることにした。

 

「菊池宗介ぇぇぇぇぇ!!!」

「不味い!」

 

 尚文がバッと前に飛び出して、白い奴の斧を受ける。

 空間が歪むほどの轟音を立てて、尚文は受け切った。

 

「ぐはっ! いてぇ! 斧には防御貫通の効果もあるのか?!」

「ナオフミ様?!」

「ごしゅじんさま!!」

 

 ダメージを負ったのか、尚文は口から血を流す。

 そんな尚文はすぐに指示を出した。

 

「ラフタリア! 頼む!」

「……! わかりました!」

「景虎、フィーロ! 持久戦だ!」

「ああ!」

「わかった! ごしゅじんさまを傷つける斧の人、許せない!」

 

 フィーロが攻撃しようとするたびミナが声をかけてくる。

 

「この子がどうなってもいいのかしら?」

「チッ!」

「ぶー!」

 

 結局は、防戦一方となってしまう。

 軽い攻撃は俺が前に出て受け流し、重い攻撃は尚文が盾で受け止めると言った連携した防御を行う。

 

「うざい! うざいうざいうざい! 君たちもあの連中のように! 僕の邪魔をするのか! それだけで万死に値する!!」

「何を言っている?!」

「ふふ、ふはははははは!! 僕の芸術をわからぬ奴は死ぬがよい!」

 

 白い奴は訳のわからない事を言うと、スキルを発動させた。

 

「チェーンバインド! チェーンニードル!」

「まずい! その鎖は避けろ!!」

 

 俺は尚文に指示をする。

 尚文も理解したのか、俺たちは全て避けることができた。

 

「チッ! 美しくない君たちに、美しい死に方をさせてあげようと言うのにね!」

 

 カーススキル・ギロチンを使わせるわけにはいかなかった。

 現時点での俺たちが、あのスキルを受ければ、確実に死ぬだろう。

 と、ラフタリアがミナにこっそりと近づき終えたらしい。

 なぜ気づかない。

 完全に俺たちが攻撃しないかに集中しているらしい。

 ちなみにほかの取り巻きの女は隅で震えていた。

 

「エアストシールド!」

「なっ?!」

 

 尚文がエアストシールドをミナとレイファの間に入り込ませるように出現させる。

 

「たああ!!」

 

 素早くラフタリアがレイファを救出すると、ミナから離れる。

 

「よくやったぞ、ラフタリア! フィーロ、景虎! 今だ!」

「武器の人! いっくよおおおお!」

「ああ!」

 

 俺とフィーロは尚文の前に出る。

 

『力の根源たる俺とフィーロが命ずる。理を今一度読み解き、大旋風を巻き起こせ!』

「「ハリケーン!!」」

 

 あれ、このタイミングでフィーロって魔法使えたっけ? 

 疑問に思いつつも、俺とフィーロは合唱魔法を唱える。

 雷と風でハリケーンか。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 雷と風の突風の嵐に巻き込まれ、白い奴は吹き飛ばされる。

 俺は魔力切れを起こさないように、魔力水をポーチから取り出して飲むと、落下地点まで走る。

 落ちてきていると言うことは、そこに大きなスキが生じると言うこと。

 そして、俺は小手を装備したままだ。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え』

「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」

 

 俺は雷を小手に纏わせる。

 ハリケーンが効いたと言うことは、魔法防御力がラースアックスに変化させて著しく下がっているからだろう。

 ならば、俺の魔法の通じるはずだ! 

 それに、このクソ野郎はもっとボコボコにしなければ俺の気が済まない! 

 

「必殺!」

 

 俺は呼吸を整える。

 ゾーンの入った時の何かはわからなくなってしまったが、この格闘術は使える! 

 

「雷」

 

 俺は構える。

 

「流水」

 

 合気道で鍛えた、力みを抜く方法と、小手で習得する必殺技が合わさり、新しい必殺技を編み出す。

 

「千打刻」

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドカァッ!! 

 

 

 

 

 一撃一撃を必殺の意思を持って放つ。

 もはや、突きが早過ぎて、殴っている音がドドドドとなっている。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 最後の一発で吹き飛ばされた白い奴は元気な声を上げながら、壁に激突した。

 ブシュゥっと耳元で音がする。

 

「あ……」

 

 傷口が完全に開いてしまったらしい。

 

「景虎!」

「カゲトラさん!」

「武器の人!」

「ソースケ!」

 

 俺は踏みとどまる。

 まだ、あいつは死んでいないし、ミナもまだ生きているからだ! 

 

「て、転送……」

 

 だが、白い奴は転送スキルを使って逃げてしまった。

 バァン! 

 と、扉が開いた。

 

「何事だね?!」

 

 大広間に声が響く。

 その小太りの偉そうな男は兵士の護衛をつけて、乗り込んできた。

 

「お、お父様?!」

 

 ミナの叫び声が響く。

 そう、俺はそいつに見覚えがあった。

 アールシュタッド領領主である、アーヴァイン=アールシュタッドであった。




やっぱり、俺TUEEEE感が出てしまうなぁ。

オラオラですかぁ?!
YES!!YES!!YES!!


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哀れなものの哀れな末路①

この話は斧の勇者の末路です。
この男の醜い本性と、胸糞展開が描かれます。

結論だけ言うと、斧はタクトに簒奪されました。

本当にこの話は閲覧注意です!!
読み飛ばしも可。


 斧の勇者は、転移スキルで自分のホーム……ゼルトブルに存在する、とある館に戻ってきていた。

 

「はぁ、はぁ、……ちくしょう! 美しく強いこの僕が負けるなんて! そんな結末は美しくない!」

 

 満身創痍の斧の勇者は、館の扉をゴンっと叩く。

 斧の勇者の顔は晴れ上がり、自慢の鎧は冒険者の拳でボコボコに凹まされており、装飾も酷い有様となっていた。

 

「僕は! ぼかぁ5000人の警官を皆殺しにしたんだぞぉぉ!」

 

 斧の勇者は自分をこんなみっともない姿にした冒険者を思い出すと、怒り狂う。

 部屋にあるものに八つ当たりをし、部屋は散乱して散らかる。

 

 斧の勇者の前世は、犯罪者であった。

 とある地方で、女性を誘拐する事件があり、何人……いや、何百人もの美しい女性や一見すると女性に見える男性を含めてこの男に拉致されて行方不明になったのだ。

 彼は、美しいものに目がなかった。

 そして、彼の性癖は、歪んだものであった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、彼は()()を迎えるのだ。

 そして、それを確認する時もまた、彼は絶頂するのだ。

 

 元々は彼は彫刻師であった。

 人間の美しさを残すと言う目的ではあったが、彼には確かにその才能があった。

 だが、彼はそれで満足しなかった。

 最初は、美しい幼子から始まった。

 彼は、美しいままに残すため、誘拐後に毒殺し、()()()()()()()()()()()()()()のだ!! 

 彼は、その時至福の時間と最大級の絶頂を迎えたのだ! 

 

 それから、彼は徐々に手を広げていった。

 時には有名グラビアアイドルまでも、彼の毒牙にかかって行方をくらませた。

 

 そう、彼自身もまた美しかったのだ。

 

 警官は彼の()()()に立ち入った時に悍ましいものを見て恐怖した。

 そして、彼の逆鱗に触れたのだ。

 

 果たして、彼がどのようにして5000人もの警官・自衛官を殺害したかは不明である。

 

 彼は最終的に狙撃により頭部を損傷し、死んだ。

 そして■■■■■■■■■■■■■■■■■により、この世界で斧の勇者となるべく転生したのだ。

 

 そして、そのような男が転生した結果、同じようなことをしないわけがないだろう。

 ゼルトブルにある斧の勇者の館の一室は、()()()となっていた。

 

「ふふふ、帰ってきたよ、僕の美しい美しい作品たち……!」

 

 彼は一体の蝋人形に頬ずりをする。

 美しい表情のまま裸体を晒す、彼の作品たち。

 これらは当然ながら、彼をしたった女達の亡骸でできた作品であった。

 

「はっ! 何が美しい作品たちだ! 女をこんなにしやがって、ヘドが出るな!」

「誰だ!」

 

 扉を蹴破って侵入してきたのは、鞭の勇者とその仲間の女たちのであった。

 

「タクト様、アレが斧の勇者です」

「あのボロっきれみたいなのが? はっ! 随分な趣味をしてやがるな!!」

「誰だ! 衛兵は? この屋敷に誰も入れるなと言っていたはずだ!」

 

 斧の勇者は激高する。

 鞭の勇者は嘲るように笑った。

 

「はっ! そんな連中、殺したに決まっているだろ?」

「ぐっ! 貴様!」

「ネリシェン、せめてもの情けだ。全て燃やし尽くしてやれ」

「わかったわ! レールディア」

「ああ、人間の屍であっても、タクトの女になるかもしれなかった者達だ。せめて燃やしてやるのが情けだろう」

 

 竜帝の言葉に、斧の勇者は守るように立ちふさがる。

 

「貴様ら! 何をする! やめろおおおおおおおお!!」

「「ツヴァイト・ファイアブレス」」

 

 蝋人形は熱で溶けて燃え上がる。

 

「あ、ああああああ! 僕の! 僕の美しい作品達があああああ!!」

「何が美しい作品だ! 女ってのはな! 生きて俺様に仕えることこそが美しいんだよ!」

「貴様ああああああ! 許さん!」

「は、かかってこいよドサンピン!」

 

 斧の勇者はラースアックスを構えて攻撃する。

 鞭の勇者はそれをひらりと回避すると、鞭で斧を撃った。

 バチンと音がすると、斧の勇者の斧が震えだした。

 

「なっ! 貴様! 何をした?!」

「はっ、犯罪者に教える義理はねぇな! だが、一つ言わせてもらうなら、その斧はこの世界で唯一の勇者であるタクト様のものだ。返してもらうぜ」

「うわあああああああああああ!!」

 

 斧は斧の勇者の手元から離れ、鞭の勇者の手元に宿った。

 

「じゃ、お前はもう用済みだ。死にな!」

 

 鞭の勇者は武器に爪を装備すると、唖然とする元斧の勇者にトドメをさす。

 

「ヴァーンズィンクロー!」

「ぐあっ!」

 

 鞭の勇者の爪の一撃は、元斧の勇者の心臓の位置に穴を穿つ。

 

「そ、んあ……」

 

 元斧の勇者は崩れ落ちるようにその場に倒れた。

 

「さ、行くぞ! みんな!」

 

 鞭の勇者はそう言うと、この館を去ったのだった。




思ったよりおぞましすぎて、タクトがむしろ正義の味方っぽくなってる!!


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哀れなものの哀れな末路②

「お、お父様?!」

 

 驚きの声を上げるミナ。

 

「な、なぜ領にお戻りに?!」

 

 噂では、領主様は俺に命を狙われているはずである。

 それならば、領主が戻ってくると言うのは明らかに矛盾だろう。

 

「ミリティナ、お前がまた変なことをやらかしていると聞いたからだ!」

 

 怒気を含む声音でこちらに歩いてくる領主。

 

「ふん、盾、いや、盾の勇者様とその一行か。おい、怪我をしている奴を治療しろ」

「で、ですが……」

「早くしろと言っておるのだ! 貴様もあやつのような阿呆か? ええ?」

「い、いえ、わかりました!」

 

 兵士は敬礼をすると、俺の周囲に来てヒール軟膏で怪我を回復させてくれた。

 渋々と言った表情だが、それでもありがたかった。

 

「して、ミリティナよ。何故お前は盾の勇者様に楯突いておるのだ?」

「そ、そこの犯罪者に手を貸したからですわ!」

 

 ミナは俺を指差してそう言った。

 やっぱりヴィッチの分霊はクソですわ。

 

「ふむ? 犯罪者? この冒険者は、最初の波を鎮めた功労者だろう? 何を根拠に言っておるのだ?」

「マルド様が言っておられましたわ! 剣の勇者様に取り入り、国を……」

「それのどこが犯罪だ? お前のやっている事と、一体何が違うと言うのだ?」

 

 確かに!! 

 的を射た指摘に俺は思わず唸ってしまった。

 

「いいえ、違いますわ!」

「いや、同じだ。昔からマルティ第一王女の影響を受けてか、陰謀ばかり考えおって! これでワシの頭を悩ますのは何度目だと思っておるのだ!!」

 

 完全に怒髪天である。

 やはり、ヴィッチとは懇意にしてたんだな……。

 

「ワシもお前は可愛い娘だと思っていた。だが、今回の失態はどう責任を取るつもりだ? ミリティナ」

「せ、責任、ですか……?」

「ああ、責任だとも。勝手に軍を動かし、勝手に民を扇動したのだ。失敗した以上は、責任を取るのが、政を司るものの使命だと、ワシが何度口すっぱく言ってきたと思っておるのだ?」

「わ、私に責任などありません! そもそも、襲ってくるそこの犯罪者と盾が悪いのです!」

 

 チラリと、領主は俺たちを見る。

 

「ふん、やはり、政治と宗教の癒着は看過できんな……」

 

 領主はため息をついて、そう呟いた。

 

「いいや、責任あるとも。お前が冒険者としてではなく、ミリティナ=アールシュタッドとして人を動かしたのだからな!」

「何故ですか?! お父様!」

「それに、前から常々言っておったはずだ。このような騒動を起こすのは、最後だと。だから、お前にはフォーブレイに行くことになったのだ!」

「フォー……ブレイ……? え、うそ、それはマルティ様の方では?」

 

 ミナの顔が明らかに恐怖で強張る。

 フォーブレイ……なるほど、豚王か! 

 ハハッ! コイツは愉快だな! 

 

「マルティ第一王女は現在槍の勇者様のパーティメンバーとして頑張っておられる。だからこそ、繋ぎが必要なのだよ!」

「い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 ミナは絶叫する。

 そして、その場で逃げようとする。

 

「取り押さえよ! ミリティナを逃すな!」

 

 ミナのそばに居た兵士が速攻で捕獲してナイフを取り上げて猿轡を噛ませる。

 

「おい、景虎。どう言うことだ?」

 

 うーん、書籍版だと送られなかったんだっけか。

 ならば、少しだけネタバレしても大丈夫か。

 話の流れからすると書籍版の流れみたいだしな。

 

「噂しか聞いたことないんだが、フォーブレイで貴族の女性に与えられる処刑法があるらしい。多分それじゃねぇの?」

「……ほう」

 

 尚文の顔が愉快に歪む。

 ヴィッチがその刑に処される事を考えているのだろうか。

 

「ナオフミ様、変な事を考えてます?」

「なんでもない」

 

 定番のやり取りを見つつ、俺は意識を領主の方に戻す。

 

「ミリティナを連行せよ! フォーブレイに無事に送り届けるのだ!」

「「「はっ!」」」

 

 領主の指示に敬礼して、兵士はミナを連行する。

 俺はミナににこやかに手を振った。

 さよなら! さよなら! さよなーらー! 

 はっはっはっはっは! 

 

「さて、盾の勇者様と、そこの冒険者」

 

 領主が俺たちの方を向く。

 

「ワシはお主たちが好かん。だが、今回のミリティナの暴走を止めてくれたことには感謝しよう」

「ふん、どうだかな」

「ナオフミ様……」

 

 尚文の態度に呆れるラフタリア。

 

「なので、冒険者共を殺戮したことと、護衛の兵士を傷つけたことに関しては、今回は不問とする事にしてやろう」

「恩着せがましい事だ」

「まあ、今回殺害された冒険者どもは、我が国でも婦女暴行を働く不届きものどもだったからして、不問にしても問題ない案件であるがな」

 

 そんなことだろうとは思ったよ。

 聞いている感じだと、この人は政治の理を優先する人物何だろう。

 その方がよっぽど信用が置けると言うものだ。

 

「だが、盾とその仲間による死者が多数出たことも事実だ。だから不問とするのだ」

「……いいだろう。その方がお互いにとって利益はありそうだからな」

 

 尚文は同意した。

 今回の騒動の落とし所としてはそんなところだろうか。

 しかし、ミナの父親はマトモそうな人でよかった。

 これがクズなら、さらにひと騒動あったことが容易に想像できるからな。




ぼかしているのはわざとです。


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休息

 俺たちは、領主の兵士に案内されて、領内の宿の一室を貸し与えられた。

 

「ワシはお前らの相手をしている暇などないのだ。宿を一室貸すから即刻この屋敷から立ち去るがいい」

 

 という感じで、俺たちは追い払われたわけであった。

 あたりはすっかり暗くなってしまっていた。

 あの人も三勇教なのだろうが、話の通じる人物であるように感じた。

 

「景虎、お前はこれからどうするんだ?」

 

 改めて、俺は尚文に聞かれる。

 

「どう、とは?」

「お前の復讐対象の一人はこれで片付いたんだ。これからどうするつもりなのか気になってな」

「ああ、なるほどね……」

 

 尚文の言いたいことはわからんでもない。

 だが、俺には役目がある。

 もちろん、勝手に俺が設定したものだがな。

 

「俺は、旅を続けようと思う。俺は敵は多いからな。だから、勇者様の旅に同行することはできないのさ」

 

 俺の敵は、燻製と三勇教だ。

 燻製はいずれ自爆して燻製されるので、その時を待てばいいが、三勇教の連中は引き続き襲ってくるだろう。

 なんと言っても俺は神敵なのだ。

 噂の内容を正しいとするなら、政治的話では罪ではないが、宗教的話となると別なのだ。

 

「そうか、それは残念だ。同じ日本人だし、お前なら信用できるからと思ったんだがな」

「岩谷にも信頼の置ける仲間がいるじゃないか」

 

 そう、ラフタリアとフィーロさえいれば、尚文は最強だ。

 なんと言っても主人公様なんだからな。

 俺みたいなイレギュラーとは訳が違うだろう。

 

「まあな」

「そうです。私はナオフミ様の剣ですから!」

「フィーロも! ごしゅじんさまのために戦うよ!」

 

 ボフンと音を立てて、フィーロは幼女形態に変身して、尚文に抱きつく。

 

「ええぇぇえぇ?!」

 

 それに、レイファは目を白黒させる。

 ああ、レイファはそう言えば初めて見るんだったな。

 

「そう言えば、自己紹介がおざなりになっていましたね。レイファさん、でしたっけ。私は盾の勇者様であるナオフミ様の仲間の、ラフタリアと申します。よろしくお願いしますね」

 

 ラフタリアが改めて自己紹介する。

 

「俺は岩谷尚文だ。これでも盾の勇者をやっている。景虎……宗介だったか、同じ世界からやってきた。よろしくな」

 

 尚文も改めて自己紹介する。

 

「フィーロはフィーロだよ! よろしくね、キレイなおねーちゃん!」

 

 フィーロはニコニコしながら自己紹介をする。

 キレイなおねーちゃんって、なんだろう。

 確かにレイファは天使だからな。

 

「は、はぁ。あの、私はレイファって言います。アールシュタッド領の外れの森の小屋に住んで、お父さんと一緒に木こりをやっていました。ソースケとは、4ヶ月前に出会った感じです。よろしくお願いしますね、盾の勇者様、ラフタリアさん、フィーロちゃん」

 

 レイファがエンジェルスマイルを披露する。

 ドラルさんが亡くなったせいか、心配ではあったがもともと芯の強い子だ。

 その微笑みを見て、俺は安堵する。

 

「……この世界の人間にもこんな良い子が存在するんだな。ビッチ王女やクソ女ばかりだと思っていた。フィーロがキレイなと言った意味がなんとなくわかった」

 

 尚文はそう感想を述べる。

 

「うん、おねーちゃんね、すっごいキレイなの!」

 

 やはり、レイファは地上に降り立った天使で間違いないな。

 

「ソースケみたいに私を褒めちぎっても、何も出ませんよ」

 

 レイファは苦笑しながら、そう返す。

 

「ここが、領主様が貸し与えられた宿だ。領主様に感謝することだな」

「ふん、今回は素直に感謝してやろう」

「……チッ」

 

 兵士は不機嫌そうに舌打ちをすると、そのまま領の館に戻っていった。

 

「なんで兵士さんは盾の勇者様を変な目で見るのでしょう?」

「……さあな、それがわかったら苦労はしないさ。フィーロ、馬車を持ってこい」

「はーい!」

「では、私もフィーロについていきますね」

「ああ、ラフタリア、頼む」

 

 フィーロとラフタリアは馬車置いている場所まで向かった。

 部屋を確保して、俺たちはラフタリアたちを待つ事になった。

 

「えへへ、ソースケとまた会えて嬉しい!」

「俺もだ」

 

 本当は、ドラルさんも無事であって欲しかったが、仕方ないだろう。

 

「こうしてみると、まるで兄妹みたいだな」

 

 あきれた様子でそう評する尚文。

 俺もそう認識しているので、あながち間違いではない。

 

「そう言えば、レイファは最初の波の後はどうしていたんだ?」

 

 元々気になっていたことである。

 

「私とお父さんは、特に大きな被害もなくあの家で暮らしていたよ」

「最初の波……?」

 

 ああ、尚文は初耳だろう。

 

「一応聞いているかもしれないが、岩谷達勇者様が召喚される前に隣のセーアエット領で波が起きてな。レイファの住む小屋は、セーアエット領に近かったから心配していたんだ」

「……最初の波、か」

 

 尚文はきっと、ラフタリアの事を思い起こしているのだろう。

 

「たまに波の魔物? が襲ってくるから、お父さんが魔物を討伐してたの」

「さすがはドラルさんだな」

「で、お父さんが言っていたんだけれど、勇者が召喚されたって話を聞いたの。もしかしたら、ソースケが帰ってこれないのはそれに巻き込まれたからだって言ってた」

 

 あながち間違いではない。

 しかし、俺は安心した。

 錬のお供をしている時も、ずっとレイファ達が無事な事を心配していたからな。

 本当にレイファの笑顔は癒される。

 

「たっだいまー!」

「戻りました、ナオフミ様」

 

 と、ラフタリア達が戻ってきたようで、部屋に入ってきたのだった。




レイファは天使やな(確信)


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宗介の考察

 ラフタリア達が戻ってきたので、尚文の提案で一緒に食事をすることになった。

 しかし、尚文たちと出会って3日しか経ってないのにすっかり打ち解けてしまったのは、お互いが復讐者であるからだろうか? 

 それとも、時間軸的にはズレがあるがほぼ同じ世界の出身だからだろうか? 

 

「んー、やっぱりごしゅじんさまのご飯の方がおいしいね」

「フィーロ、気持ちはわかりますが、そう言う事は大声で言うものじゃありません!」

 

 宿屋の飯であるからか、そんな感じであった。

 確かに、尚文の作る飯は串焼きであろうと上手いのは確かである。

 叙々苑の焼肉とかレベルと言った感じ。

 話を聞く限りでは、ごくごく普通の家事が得意な一般男性的なキャラだと思うのだが、あの料理の腕は【才能】以外に例えようがないだろう。

 俺が大抵の武器をそれなりに扱えるのも才能かもしれないが、実は影でこっそり練習をしていたりする。

 それに、俺の戦い方の骨子は合気道なのだ。

 この世界に合気道と言う概念は存在しないので、毎日一人で練習する以外にはないのだ。

 それに、努力をするのは人一倍好きな方だが、ステータス魔法のお陰で努力の効果が数字で一目瞭然な事が大きいだろう。

 勇者モドキにも通用する強さは、日々の努力の差だと思っていた。

 

「それにしても、ソースケ変わったね。かっこよくなった!」

「そうか? ありがとうな」

 

 俺はポンポンと頭を撫でる。

 それに、なぜか羨ましそうな目でラフタリアが見ていた。

 流石に原作を全て読んでいる俺は、理由ははっきりとわかる。

 だけれども、尚文の今の精神状態では難しいだろうこともわかっている。

 

「本当に、ソースケ、盾の勇者様、ラフタリアさんにフィーロちゃん、助けてくれてありがとうございました」

 

 レイファのお礼に、気持ちがほっこりする。

 実際、原作には登場しない完全無欠の村娘キャラである。

 実はラフタリアのように……と言うのはない事は確認済みだ。

 代々あの土地で木こりを続けている家系だそう。

 母親は確か、病気で他界したんだっけな。

 

 夕食の間は、俺は話題には気をつけていた。

 ドラルさんの話は、食卓でする話じゃないからだ。

 

 部屋に戻り、俺はレイファに意を決して、ドラルさんの最後を聞くことにした。

 

「レイファ」

「ん、どうしたの、ソースケ」

「ドラルさんの最後は、確認できたのか?」

 

 ドラルさんは俺にとってのこの世界での父親的存在だ。

 そんな彼の最後を俺は知りたいと思った。

 

「……うん、あの人の一味に捕まった時に、私を守るために冒険者達の剣に貫かれて……」

 

 残酷な事だ。

 あの精神異常者どもはどうかしている。

 なぜ、この世界をゲームと認識して、容易く殺す事ができるのか、理解できなかった。

 まあ、首を刎ねまくっている俺が言えた義理ではないが、少なくとも俺は殺す覚悟を持って刎ねている。

 

「そうか、それは辛いな……」

「ううん、ソースケと会えたんだから、大丈夫だよ! お父さんも、ソースケに守ってもらえって言っていたし」

 

 レイファに細かい話を聞くと、その冒険者達は俺とレイファが依頼を受けている最中にあった冒険者と雰囲気が似ていたそうだ。

 まるで遊び感覚でこっちを追い詰めてくるし、ドラルさんも殺気がないから対処しづらいと言っていたそうだ。

 レイファがほぼ無傷でいた理由も、誰がレイファとヤるかを揉めた挙句に殺し合いになり、そうこうしているうちに迎えが到着してしまったからだそうだ。

 いや、それを本人の前でやらかすのか……。

 頭が腐っているのか、はたまたメガヴィッチによって腐らされたのか。

 一体全体どう言う環境で育てばあんな自分勝手な性格になるのか不思議である。

 

 それに、あの白い奴……尚文曰く昏倒野郎だっけ。

 確かにテイルズシリーズの主人公に見た目は似てたけどさぁ……。

 あいつは、タクトや他のヒキニート転生者とは何かが違う気がした。

 戦っている最中も、動きに無駄がないと言うか……。

 反撃した時に奴が激昂していなければ、確実に死んでいたのは俺だっただろう。

 あれが本当の波の尖兵なのだろうか? 

 勇者武器に頼らなくても恐ろしく強い連中なんて、カルミラ島攻略後の尚文達じゃないととてもではないが倒せないじゃないか。

 まあ、もしかしたら、そう言う連中をタクトが狩って言ったのかもしれないがな。

 コーラ……投擲具の眷属器を持った波の尖兵だって、結局はタクトが狩ったのだろう。

 現時点で生きているのかは知らないがな。

 昏倒野郎との再戦に向けて、俺もまた鍛える必要があるな。

 あの時に掴みかけたあの感覚……ものにできれば、レベル以上の強さを手に入れる事ができそうだ。

 そのためにも、実戦経験をもっと積んで、強くなる必要がある。

 そう考えると、居ても立っても居られなくなった俺は、夜中にこっそりと合気体操を始めるのであった。




クズを早く改心させてほしいとか、より良い結果になるように動いてほしいとかそう言う要望は宗介の方針に反するために聞けませんので悪しからず!
でも、そうしたくなるのはわかる!


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女神の警告その2

 俺は、再びあの空間にいた。

 俺とメガヴィッチの繋がりは薄れてしまったとはいえ、夢の中に出ることは出来るらしい。

 

「愚かな愚かな、菊池宗介よ」

 

 そこには、恐ろしい形相をしたメガヴィッチがいた。

 何を怒っているのだろうか? 

 メガヴィッチが怒ることは、現状なら進んでやるが。

 

「なぜ、あなたは自由にやらないのですか?」

 

 どう言う事だ? 

 

「あなたなら、岩谷尚文を冤罪から救うことなど容易かったでしょう。天木錬の目を覚まさせることも容易かったはずです。なぜ、あなたはそれをしないのですか?」

 

 なぜ、メガヴィッチがそれを推奨してくるのか、理由がわからなかった。

 

「なぜ、自由にしないのですか? その力があるのに、もっとより良い方向に行くように、なぜあなたは動かないのですか?」

 

 俺には、メガヴィッチが夢に出てまでなぜそれを聞いてくるのかわからなかった。

 

「あなたの中にあるおかしな薬のせいで、語りかけることしかできませんが、問いただしたい。あなたはもっと自由に生きるべきです。原作? など考えもせず、自由に救って、自由に栄誉を得るべきです。そう、次元ノケルベロスを倒した時のように」

 

 意味がわからない! 

 一体全体、メガヴィッチは何を俺に期待していると言うのだ?! 

 

「……菊池宗介、あなたにはもっと試練が必要ですね。そうすれば、あなたが真の主人公であると言うことに気づけるでしょう」

 

 何を言っているんだ、このメガヴィッチは?! 

 夢の中だからか考えがまとまらない。

 

「そうですね、そのためにも、あなたには一つ助言をする必要がありますね」

 

 メガヴィッチは、口元を三日月にように歪める。

 嫌な予感しかしない! 

 

「ふふ、心配しなくても、あなたにも利益のあることです。レイファ、でしたっけ? 彼女を守るためにも、あなたはこの助言を聞き入れざるを得ないのです」

 

 メガヴィッチは俺に囁いた。

 俺は驚愕する以外には無かった。

 なぜならば、それが尚文達と別れた後に取ろうと思っていた選択肢のうちの一つだったからである。

 

「ふふふ、あなたのその顔を見れただけでも、出てきた甲斐があったというものですね。安心なさい。ミリティナのような分霊をあなたにつけることはもうありません。つけたところで、あなたはそれを処分してしまうでしょうしね」

 

 それを聞いて安心していいのか、俺には判断しようがなかった。

 

「今回の働きは、多少影響はあるかと思ったのですがね。期待通りにはいかないものです」

 

 メガヴィッチはため息をつくと、俺の頭に手をかざした。

 

「それでは、菊池宗介さん、今後はレイファちゃんを守って、あなたの成したいことを自由に成してくださいね。それでは、では、宗介さんの異世界ライフが楽しいものである事を」

 

 ことを──ことを──ことを──。

 以前転移させられたように、再びスゥッと意識が遠のいた。

 

 俺は、ガバッと起きた。

 嫌な汗をかいているのがわかる。

 メガヴィッチが再び、俺の夢に出現したのだ。

 あの時塗り込まれた不死薬のせいであまり干渉できないと言っていたようではあるが、メガヴィッチである。

 あいつは俺に一体何を期待しているんだろうか? 

 それに、【盾の勇者の成り上がり】の世界で、自由にしろだなんて自爆行為を制限したのは、メガヴィッチの方だろうに何を言っているのだろうか? 

 だが、この夢でわかったことは、俺をこの世界に送り込んだ理由は、他の波の尖兵とは違うところにあると言うことだろう。

 何の目的だ? 

 

 もしかして、頭の中に爆弾が?! 

 ボルガ博士、お許しください?! 

 

 そんな事になったら嫌ではあるが、神様転生である事を話すと頭の中の何かが弾け飛ぶのはわかっている事なので、俺の今の状態はあんまり変わらない気がした。

 とにかく、俺の方針は決まった。

 メガヴィッチの助言通りなのは癪であるが、俺の中でも第一候補だったのだ。

 俺は汗を拭いて、再度就寝する事にしたのであった。




あの薬は強力ですねー
この話の感想には返信しません!
まあ、ここまで伏線を張っておいて、返信しないんじゃ回答を言っているのと変わりませんが笑


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エピローグ

 翌朝、俺は女神に言われたことを反芻しつつ、尚文たちと朝食を食べる。

 

「お前達は、これからどこに向かう予定なんだ?」

「俺は、北……アイヴィレット領に向かう予定だ」

「樹が居るところか……」

 

 北の飢饉のある地域なら、隣国に密入国も簡単だろうと考えたからだ。

 

「レイファはどうするんだ?」

「私はソースケについていきます。盾の勇者様に提案された通り、リユート村に移住するのも悪くない選択ですけれど、私の家族はソースケだけなので……」

「いや、レイファがそう決めたのならそれが良いだろう。差し出がましい申し出だった」

「いえ、盾の勇者様のお心遣い、感謝しかないです!」

 

 レイファの言葉に一瞬ではあるが、尚文はフッと微笑んだ。

 ラフタリア達は気づいてないように見える。

 対面で向き合って居なければ気づかないほどの一瞬だったし、レイファはそもそも尚文がほとんど笑うことがない事を知らないため突っ込まなかった。

 

「それにしても、盾の勇者様ってお優しい方なんですね」

「そうです! ナオフミ様はお優しい方なんですよ!」

「うん! ごしゅじんさまは優しいの!」

 

 レイファの言葉に激しく同意するラフタリアとフィーロ。

 あっという間に女子会が始まってしまう。

 

「あまり興奮するな。周りの客に迷惑がかかるだろう」

 

 尚文は諌めつつ、サクッとご飯を食べ終える。

 レイファとラフタリア達はなぜか自慢大会になり、俺と尚文の経歴が語られて居た。

 

「……へぇ、そう言えば宗介って普通にラフタリア達と会話して居て不思議に思って居たんだが、言葉を一から覚えたんだな」

「まあな」

 

 個人的に言わせて貰えば、聖武器のその異世界言語翻訳機能は本当に羨ましいところである。

 神様転生なら、本来付与されるべきスキルだとは思うんだがなぁ。

 

「全く……勇者どもには宗介を見習ってほしいものだ」

 

 錬は確かに多少マシだが、樹や道化様はさらにひどいからな。

 だが、この世界の連中は平然と他人の努力を裏切ってくる連中ばかりだから、どうしようもない世界だと思う。

 神様転生するならば、もっと別の世界の方が良かった。

 残念ながら、俺の世界は【盾の勇者の成り上がり】のweb版で語られた世界観の一部なのだけれどな。

 俺は知りとうなかった! 

 型月的世界観も嫌ではあるけれどな! 

 

 そんな感じで、俺たちは朝食を済ませた。

 そして、俺とレイファはあの小屋まで送って貰った。

 

「岩谷、運賃は?」

「構わないさ。流石に薬は料金をいただくがな」

 

 俺は尚文から即時回復ヒールポーションと魔力水を購入して居た。

 

「盾の勇者様、ありがとうございました!」

「ああ、お前達も気をつけろよ。行くぞ、フィーロ」

「はーい! またねー、武器の人、おねーちゃん」

「また会いましょう、ソースケさん、レイファさん。お二人ともお元気で!」

 

 フィーロの引く馬車は行商の旅を続けるために各地を巡る。

 あいつらが居たおかげで、俺は無事にミナを処刑台に送れたし、少なくともレイファにまた会うことができた。

 

「さて、ラヴァイトは元気かな?」

「ラヴァイト、戻っていると良いんだけれど……」

 

 俺は、小屋に戻る。

 改めて思うと小屋にしては大きいと思う。

 森の中にあるし、人里からかなり離れているので、ドラルさんの家系が建てた家なのだろうな。

 俺は、家を前にするとひどく懐かしい感じを受ける。

 実家のような安心感というのはこういう感じだなと改めて感じる。

 

「グアー!」

 

 ドッドッドと駆け足と鳴き声で、ラヴァイトと一発でわかる。

 

「ラヴァイト! 良かったー!」

 

 スリスリとレイファに頭を擦り付けるラヴァイト。

 レイファはラヴァイトを撫で回す。

 

「あ……」

 

 レイファは撫でる最中、ラヴァイトの魔物紋の場所で手を止める。

 魔物紋の場所を優しく撫で、レイファは涙を堪えたような声音で言葉を紡いだ。

 

「あ、お父さん死んじゃったから、魔物紋の再登録をしないとね」

「グアー……」

 

 二人とも悲しい目をしないでほしい。

 正直、俺は信じられないでいたしな。

 今でも実は生きているんじゃないかと思ってしまうぐらい、俺には現実感のない事であった。

 

「さて、この家に戻ることはほとんどないから、荷物整理をするかな」

「うん!」

「グアー♪」

 

 俺は、残念ながらメルロマルクでは命を狙われる身だ。

 だからこそ、女王が戻ってくるまでは生き延びなければならない。

 だからこそ、北へ向かうのだ。

 そして、メルロマルクが落ち着いて、三勇教が無くなった時に戻って来るためにも、部屋を綺麗にしておくのだ。

 

 だが、例え三勇教が壊滅したからと言っても、別の脅威が俺を待っている事には違いがない。

 霊亀、異世界の侵略者、波の尖兵、そして、タクト。

 そいつらが、俺の事を放っておいてくれるなんて考えは無かった。

 特にタクトは、レベル300超えの化け物である。

 生き残るためにも、ヴィッチじゃないけれども何か策を練る必要があった。

 

 どんな理不尽な世界でも、レイファと共に生き残る事を俺は決断するのであった。




これで、盾の勇者の編終了です!
宗介とレイファのイラストは完成次第アップロードします。


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影の正義のヒーローになりたくて!
プロローグ


新章突入です!


「ラヴァイト! もっと速度を上げるんだ!」

「グアー!」

「ソースケさん! すぐそこまで来ています!」

 

 俺たちは全力で逃亡していた。

 三勇教の連中ならば皆殺しにするし、波の尖兵も同様である。

 つまりは、殺してはいけない人物から追われているという事だ。

 

「待ちなさい! 菊池宗介!」

 

 流暢な日本語に聞こえるそいつは馬に乗って追って来る。

 弓を番えて放ってきた! 

 

「チッ!」

 

 俺は舌打ちをして、槍で矢を切り落とす。

 いくら()()()()()()()()()とは言え、切り落とせばその効果は失うみたいだった。

 そう、俺を追っているのは、弓の勇者である川澄樹だった。

 

「そうだ! イツキ様、あの犯罪者を討伐して正義を示すのだ!」

「黙れ燻製! いつのまにテメェ弓の勇者様の仲間になってんだ! ふんっ!」

 

 俺は矢を払う。

 切り落とさなければ、命中するまで飛んでくるのだからタチが悪い。

 

「黙るのはそっちの方だ! だいたいワシの名前はマルドだ! 燻製などでは無い! 前からお前は気に食わなかったのだ!」

 

 燻製はいつのまにか、樹の仲間になっていた。

 果たしてどのタイミングだろう? 

 

「ふえぇぇぇ!」

 

 この声は、リーシアだろうか? 

 つまり、北の問題はすでに解決済みなのだろう。

 

「いい加減に止まりなさい! そして、その女性を解放するんです!」

 

 俺に弓の攻撃が通じないと見てか、警察のように説得に入る。

 なぜ、こんなことになっているのかと言うと、話の始まりは1週間前に戻る。

 

 

 旅の準備を済ませて、家を戸締りした俺たちは早速、メルロマルク城下町に向かった。

 理由は簡単、俺の装備を整えるためである。

 もちろん、家のあったローブは俺だけが羽織る。

 尚文を見習って、レイファに御者をさせ、俺は馬車の奥に引っ込んで移動する。

 2日もあれば、メルロマルク城下町に到着した。

 

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。どんなご用で?」

 

 俺はいの一番に武器屋の親父さんのところにきていた。

 

「ん、そこのローブの野郎は……!」

「久しぶりだな、親父さん」

 

 俺はローブのフードを脱いだ。

 

「おお、あんちゃんじゃねーか! 無事でよかったぜ!」

「おかげさまでな」

「まさか、盾のあんちゃんと同じく犯罪者扱いになるとは思っても見なかったぜ」

「俺もだ」

 

 と、親父さんがレイファの方を見る。

 

「で、そこの嬢ちゃんは……?」

「俺の妹のレイファだ」

「ふふ、レイファです。ソースケがお世話になっていたみたいですね」

 

 親父さんは呆れたように俺を見つめてくる。

 レイファは俺の妹だ。

 異論は認めない。

 

「妹と言うには、似てなさすぎだろ……。盾のアンちゃんのように歪んじまったのか?」

「ソースケが私を妹扱いするのは元からですよ」

「まあ、歪んだのは否定しないさ」

 

 俺は肩をすくめる。

 人を殺す忌避感はとうに霧散している。

 例え波の尖兵やヴィッチじゃなくても、俺は俺に害する連中を殺したところで罪悪感など微塵もわかないだろう。

 そこまで歪んでいることは自認している。

 

「まあいいさ。お互い大切な存在なんだろ。で、あんちゃんは今日は何の用だ? 一応、指名手配されてるから、あんちゃんが店に居座るのは流石に困るんだが……」

 

 まあ、商売だもんね。

 なので、手短に要件を伝える。

 

「ああ、俺の防具はすでにボロボロなんで、修理と新しい武器の調達がしたいんだ」

「どれ、見せてみな」

 

 俺は、武器一式と鎧を置く。

 

「うーん、確かにあんちゃんにとって心許ない感じだろうな。うわ、鎧なんてほとんど使い物にならねぇじゃねぇか。こりゃ修理より新品作った方が安上がりだぞ」

「だろうな」

 

 鎧は三勇教の影に襲われた時に出来た穴や、白い奴と戦った時の切断部分でもはや鎧として機能していなかった。

 実際、防御力も+15とか元の数値から見ればかなり低い状態になっていた。

 

「なるほどねぇ。これだけであんちゃんが何度も死線をくぐり抜けてきたってのがわかるぜ。それじゃあ、あんちゃんには鎧もオーダーメイドで作ってやるか。短剣は打ち直し、小手は以前作っておいたオーダーメイド品で十分か。弓は少しカスタムすりゃよさそうだな。傷んだパーツを取り替えてあげれば少しはマシになるだろ」

「お金はかなり稼いでるから糸目はつけないぞ」

「あんちゃんこれからの生活もあるだろ? ここはマケにマケといてやるよ。銀貨700枚ってところだな」

 

 さすがは親父さんである。

 それでも銀貨700枚は高いがな。

 

「ありがとう、助かるよ」

「ああ、指定する素材を持っているんだったら、もう少し安くしておくぜ。調達費も含んでいるからな」

 

 親父さんが指定した素材は、鉱物以外なら持っていた。

 くる途中に討伐した魔物の素材だったからね。

 

「なるほど、なら、銀貨530枚だな」

「あいよ」

 

 俺は前払いで銀貨を渡す。

 

「まいどあり! 量が量だけに2日はかかる。あんちゃん用の小手はもう出来ているから、それだけでも装備していきな」

「ああ」

 

 俺は小手を装備する。

 手首が今までのものとは異なり、かなり動かしやすい。

 

「そう言えば、槍はどうした? 槍も同じ時期に作ったから、そろそろチューンナップが必要だろ」

「あー……」

 

 人間無骨は、もはや別物へと変貌していた。

 呪いの槍だが、成長しているためか、俺が装備するのに丁度いい状態になっていたのだ。

 だが、見た目は禍々しい。

 

「とにかく見せてみな。見ないことにはどうしようもねぇからな」

 

 俺は、呪いの槍を親父さんに見せる。

 

「……おいおい、マジか。完全に呪いの装備に変貌しているじゃねぇか。この槍で何人殺したんだ?」

「さ、さぁ……?」

「となると、アールシュタッド領で起きた冒険者虐殺の主犯はあんちゃんだったんだな……」

 

 親父さんはため息をつく。

 

「まあ、冒険者をやっている以上は、賞金首を狙う以上は返り討ちにあっても文句は言えないからな。仕方ねぇことだが、やりすぎは良くないぜ?」

 

 まあ、確かに調子に乗っていたし、やりすぎ感が否めないのもある。

 刎ねた首の数なんて、覚えていないほどにはやらかしたのだろう。

 

「ふむ、だがこの槍、カスタマイズできそうだな。少し借りるが大丈夫か?」

「それは構わないぞ」

「なら、銀貨50枚だ」

「あいよ」

 

 俺は人間無骨と、銀貨50枚を渡す。

 一体全体、親父さんはあの槍をどう改修するのか見ものではあるな。

 

「じゃ、あんちゃんは官憲に気をつけて過ごしなよ」

 

 という感じで、俺たちはメルロマルク城下町に少し滞在することになったのだった。




今回は終始終われ続けます。


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かの有名な魔物商

 俺はメルロマルク城下町に2日滞在することになった。

 次に行くところは、魔物商のテントである。

 レイファは何度か足を運んだことがあるようで、案内されたのは大きなサーカスのテント小屋のようなところであった。

 

「ソースケ、ここが魔物商のテントよ。メルロマルクで一番質のいいフィロリアルを排出する魔物商として有名なの」

「あー……」

 

 頭の中でフィーロが過ぎる。

 確かにフィーロは……フィロリアルクイーンは珍しいからな。

 勇者が魔物紋の親になる事がキーになっていたっけか。

 つまり、俺が育ててもラヴァイトはフィロリアルキングにはならないという事であるが。

 しかし、あの癖のありそうな人か……。

 商才のある人や奴隷使いの才能がある人を気にいる質だっけか。

 そう言えば、合気道の先生にも商売をやっている人がいたな。

 まあ、いまの俺には関係のない話である。

 

「さ、行こう。ラヴァイト、おいで!」

「グアー」

 

 俺はレイファに手を引かれて、魔物商のテントの中に入場したのだった。

 

「これはこれは珍しいお客様だ。そのフィロリアルはドラル氏のラヴァイトでございますね。そして、貴女はドラル氏の娘のレイファ嬢でございますね!」

 

 ドラルさんは結構有名だったのだろうか? 

 ニヤニヤ顔の紳士……奴隷商は手を揉みながらそう言う。

 

「はい、お久しぶりです」

 

 そんな怪しい奴隷商に対しても、レイファは天使であった。

 

「そして、これはこれは驚きましたでございます。首刈りのソースケ、賞金金貨50枚お方がこのような純真なレイファ嬢と一緒とは……。もしかして……?」

「何を勘ぐっているのか知らないが、俺たちの用事はラヴァイトの魔物紋登録の更新だ。持ち主のドラルさんが亡くなってな。主人をレイファに移したい」

「ふむ……。そのようなご用件でございましたか、ハイ」

 

 なぜ残念そうなのだろうか? 

 

「てか待て、俺は賞金首なのか?!」

「ええ、首刈りのソースケ。数多の冒険者を返り討ちにし、悉く首を刎ねて殺害するその手口から、そう名付けられましたです、ハイ。屠った冒険者の数は50名にも及ぶとか」

「……あれ、そんなに少なかったっけ?」

 

 もう10人は殺した気がするんだがなぁー……。

 

「……恐ろしいお方です、ハイ」

 

 奴隷商に言われて、自分の感覚がずれている事に気付かされた。

 ふと見ると、レイファも苦笑をしていた。

 

「まあ、今回のお客様はレイファ嬢ですので、問題にはなりませんが、私共も信用で取引をしておりますので、ソースケ殿にはお売りすることはできないのです、ハイ」

 

 ん? その言い回しだと、俺になにかを売るつもりだったのだろうか? 

 俺がジトッと見ると、奴隷商はニヤニヤと俺を見つめる。

 

「いやはや、賞金首でなければ、私どものいいお客様になっていただける素質があると言うのに、残念でございます、ハイ」

 

 遠回しに、サッサと賞金首から復帰しろと言っているようなものだ。

 

「……とにかく、サッサと魔物紋の手続きを済ませてしまおう」

「わかりましたです、ハイ。では、こちらのインクにレイファ嬢の血を」

 

 部下に準備をさせていたのだろう。

 いつの間にか出ていた契約の魔法に用いるインクと、切るためのナイフが用意されていた。

 

「はい」

 

 レイファは指を少し切ると、血を垂らす。

 

「ソースケも一緒にね」

 

 レイファはそう言うと、俺の血もインクに混ぜてしまった。

 その、血の混じったインクに奴隷商が筆をつけて、ラヴァイトの魔物紋の部分にくるっと重ね書きをすると、ラヴァイトが少し苦しそうに鳴く。

 

「ふむ、いいフィロリアルですな。健脚で温厚。羽の具合もなかなか整っている。いい環境で育っている証拠です、ハイ。万一売る事になった場合は是非、私どもの方で銀貨350枚で引き取らせていただきますです、ハイ」

「売らないです!」

 

 レイファはピシャリと言う。

 持ち主はレイファだし、俺からは特に言うこともないかな。

 ラヴァイトは家族だし俺としても売るのはどうかと思うがな。

 

「はい、出来ました。お代は銀貨15枚になりますです、ハイ」

 

 俺が出す。

 ちなみにこの金は戦利品として俺が殺した連中の懐から奪ったものだ。

 レイファには言っていないがな。

 俺は生き残るためならなんだってするつもりだ。

 既に俺の両手は血に塗れているのだ。

 手段なんぞ選ぶ意味はなかった。

 

「ヘッヘッヘ、確かに頂きました! それでは、今度は魔物のご購入を頂けますよう」

 

 原作を読んでいても思ったが、気味の悪いおっさんである。

 ラヴァイトの再契約も終わったので、俺はフードを深く被り、レイファと共に宿の部屋を確保に向かった。

 

「私、あの人苦手かも……」

「いやー……得意な人なんて居ないと思うがな」

「ソースケは何故か気に入られたみたいだけれどね」

 

 多分、奴隷商的な直感なのだろう。

 今の俺なら奴隷を購入したら、どのようなプランで運用するかまで考えきれてしまう。

 日本にいた頃のような甘さは既にあの時に自らの手で殺してしまったのだろう。

 商人としてではなく、奴隷使いとして気に入られた気がするんだよなぁ。

 

「ああ、レイファ。そう言えば言うの忘れていたが、俺のことは街中では景虎と呼んでくれ」

「……賞金首らしいからね。わかったわ、カゲトラ」

 

 俺は小手を装備した両手で拳を作った。

 押し殺した殺気が俺の後を付いて回っていたのだ。

 テントを出てしばらくした後なので、奴隷商のところではないだろう。

 

「……レイファ、先に宿を確保しておいてくれないか? 野暮用ができた」

「……? わかったわ。遅くならないようにね!」

 

 レイファはうなづくと、ラヴァイトに乗って先に行ってしまう。

 さて、俺を追っている奴の正体を確かめますかね。

 俺はわざと人気の少ない裏路地へ足を踏み入れた。




今の非情に徹しきれる宗介は気にいるだろうなと思いました。

合気道を続けている人は資産家だとか公務員が多いイメージです。
経営やっている人もいるかな?
なので、その人たちと話す機会も多いイメージです。


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情報収集

 裏路地に入ると、俺を追っていた殺気が俺を追って入ってきた。

 やれやれだ。

 

「ヘッヘッヘっ……」

「えーっと、めんどくせぇなぁ……」

 

 気配は、普通の冒険者と言ったところだ。

 ゴロツキ冒険者か? 

 

「お前が【首刈りのソースケ】だな」

「大人しくお縄につけ。ヘッヘッヘ……」

 

 うん、ただのゴロツキだったわ。

 俺はボコボコのボコにしてやる。

 雑魚戦なんて省略してしまって良いだろう。

 

「つえぇぇぇ……」

「手も足も出ないとは……ぐふっ」

 

 やれやれ、面倒くさい事だ。

 俺はフードを被り直すと、急いでレイファを追う。

 まあ、俺はこんな感じで軽くあしらってしまっているが、賞金首であると言うことは、色々な奴等から命を狙われると言う事実であった。

 金貨50枚……銀貨5000枚の賞金首である。

 アールシュタッド領では法律的には不問にされたが、ギルドの方では冒険者を大量に失ったわけで、その損失もでかい。

 つまり、俺はギルドから指名手配される賞金首と言うわけである。

 そして、レベル68の俺を確保する難易度は高いため、当然ながら勇者案件になると言うのは自明の理であったことを、俺は完全に失念していたわけだ。

 

 俺はレイファと合流して、宿に入る。

 ラヴァイトはレンタルの鳥舎に泊まる事になっている。

 

「それにしても、すごい二つ名だよね。首刈りって……」

「確実に仕留めるために首を刎ねるのが一番手っ取り早いからなんだがな」

 

 ちなみに、首や心臓を狙ってもHPが残っていると切れない事がある。

 その場合は裂傷と出血のバステでスリップダメージを受けるので、苦しんで死ぬことになるようである。

 当然だが、人間無骨だと防御無視のため腕で防いでもすり抜けて攻撃が入るため、回避するか、白い奴みたいに柄の部分と鍔迫り合いをする以外に防ぐすべはない。

 無敵貫通は、防御結界をすり抜ける効果がある。

 すり抜けるだけで、破壊しないのがポイントである。

 シールドプリズンを貫通して攻撃できるし、おそらく流星盾なんかも貫通して攻撃できると言うイメージだと思ってもらえれば良いか。

 

「私としては、そう言う殺生は良くないと思うんだけれどね」

「……わかっちゃいるさ。なるべく無駄な殺生はしないようにしてる」

 

 もちろん、ボコボコにはするけれどな。

 命を狙ってくる以上は、当然ながらやり返す。

 しかし、賞金首ねぇ……。

 どうやったら解除されるのかねぇ? 

 やっぱ、冒険者として波と戦うとか? 

 だけれども、波の尖兵連中を皆殺しにするのは確定しているしな。

 難しいところである。

 

「しかし、ギルド的な賞金首って捕まえたらどうするんだろうな?」

「流石にそれはわからないよ。私は冒険者じゃないもの」

「それもそうか。流石に金貨50枚だと処刑かな?」

「ええっ! 嫌だよ!」

 

 不安そうな顔をするレイファ。

 あり得るのが困ったところである。

 もしくは、波に対抗させるための手段として行使するかだ。

 こっちは俺としても利害が一致するので、交渉するならこちらだろう。

 

「もしくは、波の戦いに強制参加かな。強い冒険者って人材だし、服役させるよりは良いだろう」

「そ、それも危ないよ!」

 

 どちらにしてもだ。

 波を鎮める冒険者として俺は手柄を立てる必要があるわけだ。

 そのためには、メルロマルクから出る必要があった。

 

「それじゃあ、情報収集にでも行きますか」

「うん、私、ソースケの分まで頑張るね!」

 

 と言うわけで、俺たちは情報収集をお互いにすることになった。

 レイファは表で雑談しながら、そして俺は何故かギルドに向かう。

 灯台下暗しって言うじゃない? 

 レイファには言ってないからセーフだよ。

 基本的にローブ深くかぶっているしね。

 ちなみに、メルロマルクだとローブを被った連中は基本的に亜人の冒険者だ。

 

 さて、俺は特に怪しまれることもなくギルドに入る事ができた。

 警備は居ないからね、仕方ないね。

 ざっとクエストボードを閲覧する。

 基本的には高い報酬のクエストだな。

 いや、受けないんだけれどね。

 単価が高いクエストは基本的に勇者専用のところがあるし、多少はね。

 ざっくり見ている中で目立ったのは、やはり賞金首だろうか。

 おおよそ普通の賞金首で、銀貨800枚とかその辺りだ。

 俺の手配書も貼ってあり、報酬レベルだと上位に当たる。

 

「うへぇ……」

 

 思わず変な声が出てしまった。

 人相書きは似ていないが、生死を問わずとある。

 完全に魔物扱いだ。

 よく読むと、自信のないものは出会ったら目を合わさずに逃げる事を推奨するとまで書かれている。

 猛獣かよ! 

 

 それなりに滞在していたが、俺がキクチ=ソースケだと案外気づかないものだなと思う。

 まあ、メルロマルクのギルドはほぼ使ったことないから仕方ないね。

 錬がギルドからとってくるのも依頼書だけだったし。

 耳をすませていると、色々な噂話が入ってくる。

 その中でも、一番聞く噂は剣と槍の勇者の噂か。

 あとは、神鳥の聖人の噂も聞く。

 剣の勇者の噂は、東の村でドラゴンの討伐をした他、強力な魔物の討伐をしたなどの、討伐系の噂がほとんどである。

 槍の勇者は、南西の飢饉を神聖な種で解決したと言う噂の他には、どこかの領地の問題を解決したとか、そう言う系の噂が多く、剣の勇者ほどは武勇伝は聞かなかった。

 神鳥の聖人の噂は勇者ほどではないけれど、耳にする。

 商売をしながら神の奇跡を各地に振りまいている、だとか、聖人が飲ませた薬でもう治らないと言われた病を治したとも聞いた。

 

 そして、弓の勇者の噂は、まるで耳にしなかった。

 

 それぞれ、勇者連中は頑張っているなぁと思いつつ、俺はギルドを後にしたのだった。



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噂は尾鰭がつくもの

 夜、レイファと情報の擦り合わせを行う。

 まあ、俺は耳を澄ましながら夜になるまでひたすらぼんやりしてただけだったから、レイファの方がしっかりとした情報を集めてきていたのは言うまでもなかった。

 さすが天使は出来る女でもあったようだ。

 と言っても、レイファの場合はお買い物ついでに色々と情報を仕入れてくる感じではあったが。

 一般市民の間では、勇者様の活躍の話題よりも神鳥の聖人の噂の方がメインのように感じた。

 薬品だけでなく、人物の運搬、手紙や荷物の運送や最近ではアクセサリーの販売もやっているらしい。

 他にも、冒険者では解決の難しい問題を有償で解決すると言ったこともしているようであった。

 書籍版よりも手広くやっているんだなと感心するが、フィーロの機動力なら可能だろう。

 メルロマルクにも郵便の仕組みはあるが、貴族や位の高い者しか使えないほど高額みたいだからね。

 だからこそ、口コミの力が強かったりするわけであるが。

 想定するに、村の人が次に行く村を聞いて、運送料と共に手紙を渡すのだろう。

 地道に信頼を積み重ねてマーケットを広げて行く。

 その後、店舗拡大すれば、ストック型の所得を得る仕組みが完成する。

 その収入を不動産投資に使えば完璧だろう。

 そう考えれば、尚文には商才があると見るのは間違いではないだろう。

 資産家の合気道の先生も、大学を卒業したらすぐに会社を立ち上げろと口すっぱく言っていたのを思い出す。

 残念ながら、俺は死んでこの世界に来て冒険者兼賞金首なんて状態になってしまっているがな……。

 

 勇者の方は悪い噂としては、魔物狩り過ぎによる生態系の変化で、強い魔物が減ったせいで弱い魔物……現実世界で例えるならば、熊の狩り過ぎで鹿が増え過ぎた結果、木の皮が齧られたりしているらしい。

 それで、木材の質が悪化していたりする害が出ているそうな。

 魔物はリポップしないもんなぁ……。

 俺は割と意識して、強い魔物を殺したらその分多めに雑魚を討伐していたけど……。

 人間の手では調整できない問題なので、難しい問題だろう。

 と言うか、ここまで生態系の変化があると言うことは、勇者たちがえらい勢いで魔物を倒しまくっているからだろうけど……。

 

 俺に関してだが、昨日ボコボコにした連中が話したからか、メルロマルク城下町に息を潜めているらしいと言う噂が流れていた。

 それと、女の子の人質を取って国外に逃亡しようとしているらしいと言う噂だ。

 噂ってのは尾鰭がつくのは当然だが、合っているのが癪である。

 国外逃亡してどこかの国で波を鎮めまくろうかと企んでいるのは事実だ。

 

「ありがとう、レイファ。助かったよ」

「えへへ、ソースケの役に立てて嬉しいよ!」

 

 さて、情報の擦り合わせを終える頃には随分と夜が更けてしまった。

 

「それじゃ、ご飯にしようか」

「そうだね。お腹空いちゃったもんね」

 

 俺は宿の食堂に向かう。

 当然ながら、俺は警戒を解くわけにはいかないため、周囲を見渡すと、見覚えのある槍を持った奴がいた。

 金髪ポニテで赤が特徴の鎧を身に纏った、道化様である。

 見慣れない女の子をナンパしているように見えるし、他のメンバーが見当たらないことからもまあ、推測がつく。

 対面に座っているのは美人であった。

 

「ソー……カゲトラ、どうしたの?」

「うん? まあ、見てはいけないものを見つけてしまった感じ。あの席にしようか」

「? わかったわ」

 

 俺はそれとなく道化様の声がギリギリ聞こえる位置の席を陣取る。

 道化様のナンパ術を聴きながらの夕食……我ながら最低だな。

 メニューを見てサクッと注文して、俺は聞き耳をたてる。

 

「……と言うわけで、俺は村を救ったわけだよ! いやー、中々大変だったね! 俺の機転が無ければもっと苦戦していたよ」

「そうなんですね、さすがは槍の勇者様ですね」

 

 自分の武勇伝を語って行くスタイルなのかな? 

 まあ、道化様の楽しみなんだろうね。

 

「君も大変だよね。わざわざ遠いこの街まで来ているんだろう?」

「いえ、そんな! 勇者様ほどでもありませんよ」

 

 なんて感じで、女の子から色々聴き出しつつ食事を進める道化様。

 別にそっちにばかり意識を向けているわけではないので、俺は普通にレイファとご飯を食べつつ聞き耳をたまにたてる感じだ。

 

「良かったら、今度一緒に冒険しようよ! 俺の仲間も紹介するからさ、ね?」

「は、はぁ……。そこまで仰られるのでしたら……」

 

 落ちたな(確信)

 これでヴィッチはエステ代ゲットである。

 明日か明後日には、あの子を娼館で見かけることになるのだろう。

 可哀想に、道化様の被害拡大中であった。

 ここで止めることも出来るのかもしれないが、騒ぎを起こすわけにはいかないので、残念ながらお見送りである。

 可哀想に、元康に目をつけられたばっかりに……。

 心の中で合掌しておこう。

 

「ん、どうしたの、カゲトラ?」

「ああ、明日はレイファと一緒に行動しようと思ってな。レイファのレベルもあげておく必要があるだろうしね」

「そうだね。一緒に旅をするなら、私も強くなる必要があるものね!」

 

 レイファがナンパなんてされたらたまらないからな。

 道化様の目線が一瞬レイファに向いていた気もするし、気をつけなければならないだろう。

 そんな感じに俺たちは一晩を明かしたのだった。



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宗介超強化

 翌日、俺とレイファはラヴァイトを伴い、レベル上げに向かう。

 レイファのレベルは10、ラヴァイトのレベルが21なので、とりあえずは経験値稼ぎである。

 こっそりと討伐系の依頼書を確認して、めぼしい魔物は見繕っていたので、ギルドに報告せずに討伐だけしてしまおうと言う算段だ。

 これは悪いことであることは認識しているけれどね。

 依頼書ってのは指標になるので、活用させてもらう。

 場所は、ラファン村……尚文が最初に行こうとした、初心者向けのダンジョンがある場所だ。

 依頼内容は、勇者たちによって生態系が変わった影響か、強い魔物が出現するようになったので、これを討伐してほしいと言う内容だ。

 前半の部分はボカされているけどね。

 

「グアー!」

「ファスト・ウインドショット!」

 

 俺は後方でレイファ達のレベル上げの様子を見ながら、周囲を警戒していた。

 ラヴァイトが積極的に攻撃してくれるからね。

 俺の出番はない感じである。

 

「ふふっ、ラヴァイトすごーい!」

「グアー♪」

 

 ラヴァイトも、レイファの事を妹のように思っているのだろうか? 

 依頼対象のアークルライガーの討伐も、レイファに一匹も近づける事なくラヴァイトが倒して行く。

 

「……ふんっ」

 

 なんとなく、俺も手近のアークルライガーをぶん殴ってみる。

 ブシャアァァと首が吹き飛んだ。

 

「…………」

 

 これがレベルによる補正の差かぁ……。

 吹き飛んだ首はベチャっと音を立てて、木に命中する。

 

「キャイィイイイン!!」

 

 ライガーなのにまるで犬のような鳴き声をしながら、俺から逃亡していった。

 

「………………」

 

 強くなりすぎた感じだな、こりゃ。

 

「グアー! グアグアグア!」

 

 なぜかラヴァイトに怒られる。

 何となく言いたいことが察せられるのがポイントだ。

 

「あー、ハイハイ、悪かったよラヴァイト。俺はもう攻撃しないよ」

「グア!」

 

 しかし、レイファやラヴァイトと居ると、心が洗われる感じがする。

 うんうん、やっぱり異世界冒険譚ってのはこうだよな! 

 何で中盤で巡り会うような陰謀なんかに巻き込まれなきゃならねぇっての! 

 だいたい、時期的に見ても2巻の中盤ごろだろ? 

 バイオプラントと戦っている時期なのではと推測する。

 道化様もメルロマルク城下町まで戻って来ているしな。

 

 そんな久し振りにゆとりある時間を俺は過ごしたのだった。

 

 レイファ達のレベル上げも終わりメルロマルク城下町に帰る。

 レイファのレベルは12に、ラヴァイトは変わらず21のままでレベル上げを終えた。

 夕暮れ時になり、レイファに宿を任せて俺は、武器屋に赴く。

 いや、すっかり常連だな。

 最初はそこまで使うつもりはなかったのだが、オーダーメイドだし何より品がいいのだ。

 

「お、あんちゃんじゃないか」

「親父さん、もう出来ている感じ?」

「おうよ。もちろん出来てるぜ」

 

 親父さんはそう言うと、武器と鎧を取り出した。

 鎧は、前のメルロマルク兵の装備する鎧を独自に発展させた形である。

 フルフェイスの兜はオミットされ、さらに動きやすいように再設計されていた。

 腕の部分は小手を装備するために何も無いが、全体的に防御力のたかそうな装備だ。

 短剣は、さらに鋭さや硬さが増した感じがする。

 

「隕鉄ってやつを使った短剣だ。以前試作品を作ってたのを思い出してな、材料を取り寄せて作成したんだ。今のあんちゃんなら使いこなせると思うぜ」

 

 握ってみると、確かに良さそうな感じだ。

 基本構造はアーマードナイフのままだが、隕鉄の刀身になっている。

 

「名付けて、隕鉄のアーマードナイフってな。まあ、ナイフにしては刀身は長めにしているがな」

 

 クロスボウは、黒い木を使ったものに変わっていた。

 

「そいつはフォーブレイで採取される黒トリネコで作られた木材を使っている。どんな奴が使ってもワンランク上の威力が期待できる代物になってるぜ」

 

 クロスボウの機構はちゃんと維持されているみたいで、簡単に引き絞れるし、ボタン一つで矢を発射できる。

 リロードはより簡単になっているのがポイントだろうか。

 

「すごいな……さすが親父さんだ」

「まあな、俺はそれが仕事なんでね、お客さんの望むものを提供するのが俺の仕事なのさ。で、次が問題児だ」

 

 そう言うと、真っ黒な槍を取り出した。

 見た感じだと、人間無骨? 

 

「なかなか厄介な代物だったが、カスタマイズをした結果、真っ黒になっちまった。スキルは『対人攻撃力上昇上』『無敵貫通』『首切断』『防御チャージ』、穂先の展開時は『防御無視』『防御力無視』『ブラッドチャージ』『ソウルアタック』だな」

「何というチート武器だ……」

 

 殺意が高すぎるだろ、この槍。

 しかし、『防御チャージ』や『ブラッドチャージ』とは一体? 

 槍には三つぐらいの穴が空いているが。

 

「『防御チャージ』はどうやら、防御するたびに攻撃力が上がるスキルみたいだな。『ブラッドチャージ』は名前からして血を吸ったら攻撃力が上がるとかそんなんだろ」

「もはや呪いの武器だな」

 

 ただ、あの禍々しいデザインが無くなり、黒くてシンプルな槍になったのはさすが親父さんである。

 刀身は鈍色に輝いており、持っただけでこの槍が血を欲しているのを感じる。

 うーん、この。

 ますますこの槍を道化様にコピーさせるわけにはいかなくなってきたぞ! 

 

「名前は、人間無骨+でいいだろ。まあ、呪いの反作用も収まったみたいだし、あんちゃんにとっては使いやすいと思うぜ」

 

 振るってみると、まるで羽のように軽く、思った通りに扱えるいい武器になっていた。

 

「こいつはすごいな……!」

「それ、本気で危ないからあまり店の中で振らないでくれよ」

「そうだな。とにかく親父さん、ありがとう!」

「おうよ! それであの嬢ちゃんを守ってやんな!」

 

 俺は装備して、サムズアップで武器屋を後にした。

 なんかますます人を殺害しやすくなってしまった気がするが、まあいいだろう。

 どっちみち、波の尖兵は皆殺しする予定だから、問題ない気はするけれどもな。



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邪魔な勇者達

 宿に帰ると、助かったという表情でレイファが駆け寄ってきた。

 

「ソースケ!」

 

 何かと思えば、道化様であった。

 あー、同じ宿に泊まってたのか……。

 

「えーっと、君がカレシ君かな?」

 

 ここはそう名乗った方がいいだろう。

 

「ああ、そうだが……」

「なるほど、だったら申し訳なかった。君のカノジョ……レイファちゃんがあまりにも美しかったから、つい声をかけてしまったんだ。申し訳ないね」

「そうか、それは仕方ないな」

 

 この道化様、男の姿はあまり気にしないたちなのかな? 

 ローブ姿でフードを深くかぶっているのに、それを気にしないのか。

 あの時、城でウェポンコピーさせた時よりもさらに馬鹿になっていないだろうか? 

 それとも、考えることを放棄してしまったのだろうか? 

 そんな無様な姿の道化様に、呆れるしかなかった。

 

「良かったら、今度ダブルデートしない? 俺って槍の勇者だからさ、こう見えても結構強いんだよね!」

 

 もはやただのチャラ男と化した無様な姿を晒す元康に、俺はただただ呆れるしかなかった。

 

「いえいえ、槍の勇者様のお手を煩わせるわけにはいきませんので。では、私どもはこれで」

「ああ、ちょっと!」

 

 俺はレイファの手を握って、道化様の元を立ち去る。

 元康が槍に触れないように、レイファを引っ張る形になったのは申し訳なかったが、仕方ないだろう。

 

「ソースケ、助かったよ」

「タイミングが悪かったな。あんなのがいるから気をつけるんだよ」

「うん! えへへ」

 

 うーん、天使だな。

 それにしても、勇者連中に会ってもすっかり怒りと言うか、そういうものが出なくなった。

 これは、あの薬の効果だろうか。

 

 とにかく、あの道化様が愛の狩人になった瞬間に、毎秒死亡フラグがついて回ることになるので、それまでには何とかしたいものである。

 

『宗介、お前は波の尖兵だったのですぞー! バーストランスX!』

 

 なんて落ちが付いて回るなんて嫌にも程がある。

 尚文も錬も俺を認識しているしな……。

 現状、どうしようもない流れとはいえ、勇者連中に認識されてしまうのはあまりよろしくないことである。

 そして、本来は目立ちたくない波の尖兵の連中に比べて、俺は明らかに目立ちすぎている気がする。

 斧の勇者を騙る尖兵もぶちのめしてしまったしな。

 

「……ま、考えても仕方がないか」

 

 俺はそう呟いて、部屋に向かう。

 実はこの時にはもう、事態が動き出していた事に気付いていれば良かった。

 間抜けにも、俺は()()()()()()()()()()()ため、そいつらの存在に気づくことができなかったのだった。

 

 

 翌日、俺たちは宿を後にした。

 どうやら道化様もこの宿に泊まっている様子なので、早めに出発する感じである。

 ラヴァイトを回収して馬車につなぎ、街の入り口まで行ったところで、妙な連中が立っていた。

 おいおい、あの鎧姿は燻製じゃねぇか! 

 

「そこの馬車! 止まれ! その馬車に犯罪者が乗っているのはお見通しだ!」

 

 と言うことは、あの地味な装備をした奴が樹か。

 俺はコソコソ隠れる。

 

「乗ってませんよ。言いがかりはやめてください」

 

 レイファが対応してくれて助かる。

 

「そうまで言うならば、その馬車の中身を改めさせるが良い! さあ! さあさあ!」

 

 燻製が無理やり入ってこようとするので、俺は蹴り飛ばした。

 

「ラヴァイト!」

「グアー!!」

 

 ラヴァイトは俺の声に応えて駆け出した。

 チッ面倒なことになりやがった! 

 しかも、燻製までいやがる! 

 まったくもって燻製は俺を邪魔するために生きているんじゃないだろうか?! 

 

「ソースケ?!」

「あいつらは俺の賞金目当ての冒険者だ。巻き込まれたら面倒だから全速力で逃げるぞ!」

「グアアアアアー!」

 

 ドッドッドと馬車を引きながら全力で駆けるラヴァイト。

 後ろを見ると、連中が馬の引く馬車で追いかけてきているのが見える。

 

「チッ!」

 

 俺は馬車の荷台の後部に出る。

 そして、クロスボウを構える。

 樹が弓を構えているのが見える。

 息を吐いて俺は、飛んでくる矢を射る。

 実際、これは精密射撃である。

 射撃攻撃は基本的に威力とスピードが比例する。

 ならば、今の樹の矢のスピードはまだ、現実的に対処のできる速度だろう。

 命中の能力は、妨害が効く特殊能力。

 ヒロアカみたいな世界観だと考えれば、腑に落ちる。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 俺は矢を放つ。

 俺の常識ならば、矢の軌道が逸れる方向に打った。

 だが、命中はしたが、想定よりそこまでそれはせず、馬車の縁に突き刺さった。

 

「クソっ! チートじゃねぇか!」

 

 やはり勇者だ。

 ならば、それぞれ切り払いをせざるを得ないだろう。

 俺は槍を装備する。

 馬車で安定しない足場なので、正直槍で対処はしにくかった。

 俺は的確に俺を狙って飛んでくる矢を切り落とす。

 さすがに切り落としたら特殊能力の発動は治るらしく、今度は馬車に当たることはなかった。

 

「む、やりますね……!」

 

 ラヴァイトの足と馬の脚ではやはり馬の方が早く、追いつかれてしまった。

 なので、樹の声が聞こえるわけである。

 結構な近距離に居るのに矢を飛ばしてくるので、俺は短剣の方で切り払う。

 非常に分が悪い。

 

「ははは! この距離ならば飛びのれますぞ! イツキ殿!」

「では、マルドさん、カレクさん、追い詰めてください!」

「わかりました、イツキ様! でりゃあああ!!」

 

 ビリビリと音を立てて、馬車の横の幕が破られる。

 

「グアァァアアアア?!?!」

 

 ラヴァイト、可哀想に。

 涙目なのがわかる。

 

「ふふふ、ようやく追い詰めたぞ、犯罪者」

「貴様はイツキ様の正義の前にひれ伏すのだ!」

 

 ああ、殺したい! 

 こいつら死ねばいいのに! 

 だが、物語上俺は、コイツらを殺すことはできないのだ。だから、槍を装備から外し、剣を構える。

 

「ははははは! そんな軟弱な短剣なんぞでワシらの相手が務まると思ったら大間違いだ!」

「イツキ様の名の下に斬り伏せてしんぜよう!」

「燻製! お前も剣の勇者様のところにいただろ! なんで弓の勇者様のところにいる!」

 

 俺は話をして時間稼ぎをする。

 話したがりのコイツなら、話さないわけがないと思ったからだ。

 当然、この窮地を死人が出ないように切り抜けるための策を考えるわけだが。

 

「ふん、剣とは正義の不一致で別れたのだ! せっかくドラゴンを倒したと言うのにな! 誰のおかげでドラゴンを倒せたと思っておる!!」

 

 燻製は憤慨してそう言った。

 

「へぇ、誰のおかげなんだ?」

「無論ワシの活躍のおかげに決まっておるだろう!」

「お前はせいぜい脳筋的に突っ込むことしか出来ないだろうが! 毎度毎度思ってたが、少しは戦闘にも頭を使え!」

「ふん! ワシが戦いやすいように環境を整えない剣が悪いのだ! その点、イツキ様はワシがピンチになったら的確に救ってくださる。そして、ワシとイツキ様の正義は一致しておるのだ!」

 

 阿呆だな。

 いまだにコイツは無闇矢鱈に突っ込む事を辞めてないと言う事らしい。

 あかん、コイツとここで戦うと、最悪馬車が破壊される。

 俺はどうにかしてコイツらを排除できないか考えるのだった。




燻製は変わらないのだ!


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この村はどこだ?!

 ガタガタと揺れる馬車の中で、俺は燻製に侍と対峙していた。

 お互いに得物を抜いて睨み合っている。

 こうなったら馬車から叩き落とすしかないと結論づける。

 燻製なら全身鎧だし大丈夫だろ。

 レイファはこちらをチラチラ見ながら、不安そうに手綱を握っている。

 ラヴァイトも全力で走っているので、足場も悪い。

 

「問答無用! いくぞ、マルド殿!」

 

 話が終わったと見てか、侍が刀を振りかぶってくる。

 いや、わかりやすい攻撃で結構。

 合気道がその分かけやすくて良い。

 俺は手刀を刀を持つ手に沿わせて、振りかぶる勢いを利用して四方投げを決める。

 ドンと音を立てて侍を寝転ばせる。

 侍の顔にはクエスチョンマークが浮かんでいた。

 

「カレク殿! おのれ犯罪者め!」

「今のはだいぶ優しめに投げたから、ダメージはないと思うんだがなぁ」

 

 燻製は俺が合気道(連中からすれば妙な体術)を使う事を知っているせいか、斧を構えたままである。

 いや、正確には思い出したか。

 

「どうした、かかってこないのか? 燻製!」

「誰が燻製だ!」

 

 燻製が近づいてきて斧を振りかぶる。

 さすがにレベル差があるため、侍よりも剣速が早い。

 恐らく、樹のメンバー内でレベルが一番高いのだろう。

 まあ、錬と共に居ればレベルが高くなるのは考えれば当然である。

 

「ふんっ」

 

 俺は当然ながら、燻製の斧に剣を沿わせる。

 あの白い奴に比べれば、燻製の斧など遅すぎてあくびが出る。

 ムカつくので顔も殴る。

 

「いったああああああああああ!!」

「マルドさん!」

 

 樹のホーミング弾が飛んでくる。

 俺はすぐに燻製の拘束を解除して、切り払いをする。

 命中率100%でも切り払いが発動したらノーダメージだしな! 

 しかし、痛がりな燻製と樹の相性は確かに良いらしい。

 

「はああああああ!!」

 

 侍が背中から切りかかってきたので、振り返らずに刀を振る手に触れて、左に半歩ずれてしゃがむ。

 

「のわああああ!」

 

 それだけで、侍はくるっと前跳び前転をして燻製に激突する。

 ギッシギッシと馬車が揺れる。

 

「グアー!! グアグア!!」

 

 自分の馬車が破壊されかけていることに、ラヴァイトが文句を言う。

 やはりさっさと追い出すべきか! 

 俺は侍の刀を回避しつつ、そう判断する。

 刀の振り出所である手に手刀を当てて、受け流しつつ馬車の外にポイする。

 

「のあああああああああああ?!」

 

 後ろにポイしたので、勢いよく転がっていく。

 

「カレク殿ぉぉぉ!」

「お前も後を終え!」

 

 俺は燻製を蹴り飛ばす。

 

「ぬぅ! なんの!」

 

 サクっと俺は短剣を刺す。

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!」

「おらよ!」

 

 更に追撃で蹴りを入れる。

 刺したところは特に致命的になるところではない。

 お腹の鎧の隙間の部分である。

 燻製は叫び声とガラガラと鎧のなる音を立てながら道に転がっていった。

 

「マルドさん! くっ、覚えてなさい、菊池宗介! 必ず僕たちが捕まえてみせます!」

「知るか! 弓の勇者様はさっさと本分を果たせよな!」

「くっ……! マルドさん達を回収しますよ!」

 

 樹は悔しそうな表情をすると、馬車を引いて燻製達を回収しにいった。

 しかしまあ、侍の名前ってカレクだったんだ……。

 まるで『カクさん』みたいな感じだな。

 となると、あの嫌な雰囲気を出してる女が『スケさん』なのかな? 

 

 なんとか燻製達から逃れた俺たちは、少し離れた村に泊まることになった。

 近くの村に着くまでに、1日は経っていた。

 村に到着した俺たちは早速村の宿に宿代を払い、ここに泊まることにした。

 うーん、それにしても、なんかすごく見覚えのある村だった。

 

 ちなみに、移動の際の税はちゃんと納めている。

 商売をやっているわけじゃないしな。

 

「……はぁ、なんとかまけたかな?」

「でも、諦め悪そうだよね、あの人たち」

 

 ちなみに、ラヴァイトが涙目で馬車から離れなかったので、村の人たちに依頼して修理をしてもらっている。

 

「全くだ。クソっ、馬車を傷つけやがって」

「ラヴァイト泣いてたもんね」

 

 しかし、樹が俺の名前を知っているのはなかなか不味い状況かもしれなかった。

 連中はお互いに出し抜こうとしている感があるので、情報共有をしたりはしないが(錬の場合はそもそもウェルト達がワザと知らせないだろうが)、厄介なことには違いなかった。

 この村には張り紙は出ていないが、恐らく錬に知られる事を防ぐためなのだろう。

 俺の賞金首の張り紙は、結構目立たない位置にあったしな。

 

「それじゃ、この村がどこの位置にあるか、確認も兼ねて少し散歩するか」

「うん」

 

 ラヴァイトは全力で走らせたため休憩と言うのと、馬車の修理を依頼しているのでそれまでは休憩である。

 ランダムに道を蛇行して来たため、樹達も追いつくまでにそれなりの時間を要するだろう。

 夕暮れ時には出発かな、と考えながら歩いていると、突然声が聞こえた。

 

「おおおおおおおおおおお!! これはなかなかの逸材!!」

 

 うげっ、この声は! 

 俺が振り向く暇もなく、俺は見覚えのあるババアに拘束されていた。

 

「なかなかの素質じゃな! 素晴らしい!」

「な、なんなんですか、あなたは?!」

 

 レイファも驚いた様子である。

 

「おおっと、失礼。ワシはババアですじゃ。神鳥の聖人様に命を救われた、武術を得意とするものですじゃ」

 

 自分からババアと名乗っていくのか……。

 

「あ、私はレイファと言います。彼はカゲトラと言います」

「これでも冒険者をやっている。よろしくな」

 

 俺がそう挨拶をすると、じっくりと俺を観察した後に、こう言った。

 

「ふむふむ、ではカゲトラ殿、このババアと手合わせを願えませんかな? お主も何がしの武術を極めつつある模様。このババアと手合わせをする事で、何かが見えて来るやもしれませんぞ?」

 

 このババアは強い。

 身のこなしだけじゃない。

 圧倒的強者の感覚を感じる。

 

「拒否権は?」

「ふふふ、ワシはお主が拒否するとは思ってないから聴いておるのじゃ」

 

 俺は強さには貪欲な方だ。

 強くなければこの世界では生きていけないからだ。

 常日頃から鍛錬を怠ったことはないし、合気体操は毎日やっているほどである。

 

「……わかった。ご教授願おうか」

「ソー……カゲトラ?!」

「ふむ、ここではじゃなんですじゃ。ワシの家の前ならそれなりの広さがありますじゃ。そこで手合わせ願いましょうぞ!」

 

 こうして俺は、作中最強ババアと手合わせをすることになってしまったのだった。




出たよババア
そして、名乗らないババア


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変幻無双流

昨日投稿できなかった分、長めにしました。


「俺は小手は外した方が良いのか?」

「いえ、構いませぬですじゃ。このババアに気を使う必要はありません」

「そう言うならば遠慮なく」

 

 このババアは作中、勇者以外で最強なのだ。

 遠慮なんてしたらそれこそ失礼に値するだろう。

 俺が聞きたかったのは、どう言う形式かである。

 それにしても、俺の世界でも爺様は最強の人が多かった気がする。

 生身でトラックにぶつかって生きている人もいるくらいだ。

 あの時、俺が死んだ理由はトラックと壁に挟まれてミンチになったからだ。

 他の人間も巻き込まれたんじゃ無いかと思う。

 じゃなきゃ、俺は生きているはずだしな。

 おっと、思考がそれた。

 

「え、えええぇぇぇ?!」

 

 レイファだけが驚いているのはまあ、仕方ないだろう。

 レイファはこのババアが最強であると知らないのだ。

 

「では、行きますじゃ!」

 

 俺は脳内を戦闘モードに切り替える。

 先程は対応できなかったババアの動きも、目で捉えることができる。

 ババアのハイキックに俺は力の流れを見切り、一歩踏み込んで対処する。

 俺の当身は当然のことながら、ババアを捉えることができない。

 

「さすがですじゃ。これならどうかな?」

 

 くんっと足が動き、俺は足を払われる。

 

「ふっ」

 

 俺は合気道で鍛えた体幹で、足を移動させて対応する。

 ババアの正拳突きも、俺は片手で払い当身を入れる。

 

「なるほど、カウンターの武術ですじゃ。相手の力を利用して攻撃を入れる。これなら、相手の攻撃力に自分の攻撃力を上乗せしたダメージを与えられそうですじゃ」

 

 ババアはそう言うと、飛びのいて間合いを開ける。

 作中最強は伊達じゃねぇな! 

 全ての当身は払われているし、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「武術はなるほど、このまま鍛錬し続ければよろしいですじゃ。しかし、カゲトラ殿の武術はこの、変幻無双流に通ずるところがありますですじゃ」

 

 俺はカウンターをカウンターで返された。

 俺は上手い具合に受け身を取る。

 結構激しい音がしたが、ほぼノーダメージだ。

 

「では、行きますじゃ!」

 

 ババアはそう言うと、俺の胴体に向け突きを放つ。

 うがっ、グハッ! 

 身体の中を何かが暴れまわる! 

 意図的に弱い部分を作って逃すんだっけ? 

 ゴリゴリ削られるHPに焦りを感じるが、やるしかなかった。

 

「ブフゥ!」

 

 何とか、逃すことに成功した。

 

「ほう、やはりカゲトラ殿には才能があるようですじゃ。初見で気の攻撃である【点】でのダメージを抑えるとは、やはり戦闘センスずば抜けておりますな」

「かはっ、ぜぇ、ぜぇ……」

「ファスト・ヒール!」

 

 レイファのお陰で、なんとか落ち着いた。

 俺に戦闘センスなんて無い。ただの経験の積み重ねと、事前知識で知っているからだけだろう。

 

「さて、カゲトラ殿はこの気を使うセンスがある様子。例え対処法を知っていたとしても、それを実行できるかどうかはやはり才能ですじゃ」

「な、なぜ俺が知っていると……」

「動きですじゃ。ババアから【点】を受けた後、自分の弱点を作り出すように動いておったじゃろう?」

「知らなかったら?」

「そもそも、そこまで続くような量の気を込めておらんでな。体力が四分の一ほど削れる程度で霧散するようにしていましたですじゃ」

 

 つまり、そこまで読んで攻撃したと言うことね……。

 原作読んでいても思ったが、何だこのババア。

 さすが原作最強のババアと言わざるを得ない。

 俺では到底敵わないだろう事は、少し手合わせをしただけではっきりと理解できた。

 

「お主に時間があるならば、稽古をつけてやっても良いのじゃが、ババアも聖人様のお役に立ちたいと考えておる身じゃ。気の概念を身につける方法程度ならば伝授するがどうですかじゃ?」

「基本?」

「そうですじゃ。本来であれば山に1月ほどこもる必要はありますが、カゲトラ殿は既に掴みかけているように感じますじゃ。ならば、普段から行なっているその呼吸法に気の概念を交えるだけで基本の『き』の字程度ならば使えるようになるはずですじゃ」

「そ、そうなのか?」

 

 ババアはコクリとうなづく。

 合気道の『気』は確かに近いものがあるかもしれないからな。

 あの時、白い奴と戦っていた時も、俺は呼吸を深くしていた。

 あれに秘密があるのだろうか? 

 

「もちろんですじゃ。魔力とは違う力なので、違いをはっきりと意識する必要がありますが、呼吸法は『気』を扱う上で最も重要な基本ですじゃ」

 

 それは流石に理解できる。

 武術を嗜んでいるものは誰だって呼吸法は意識するからだ。

 正しい呼吸法が身体の体幹を整えるし、いざという時に力を発揮するための鍵になる。

 正しい呼吸法は全身に血液を、酸素を巡らせるための重要な方法なのだ。

 

「そう! その呼吸じゃ! 後は気を意識して、ババアの指示するリズムで呼吸を行うことを毎日続けてみることじゃ」

 

 それから俺は、呼吸トレーニングをババアに見てもらうことになった。

 簡単にタイミングと『気』を意識するためのトレーニングだったが、少し変えただけで身体に力がみなぎってくる気がした。

 ちなみに、レイファにはそこまでの才能はないとの事であった。

 俺も、恐らくリーシアはもちろんのこと、ラフタリアほどの才能ではないのだろう、ババアから門下生だとか、弟子だとか言われなかったので、そう言うことだと解釈した。

 

「ふむ、いい感じですじゃ。ある程度したらもう一度この村、メシャス村に来なさい。その時は門下生として、指導をさせていただきますじゃ」

「あ、ああ。それは助かる」

 

 メシャス村……確か、ラファン村の南東だっけか。

 無茶苦茶に逃げていたせいで、目的のアイヴィレット領からは離れてしまったみたいであった。

 

「母さん、そろそろ飯だよ!」

 

 ふと、空を見ると夕暮れ時になっていた。

 待たせていたレイファには申し訳がなかった。

 

「では、カゲトラ殿。また会いましょうですじゃ」

「では、冒険者様、失礼します」

 

 ババア達は立ち去る。

 俺はレイファのところに向かう。

 

「レイファ、待たせてすまなかったな」

「うんん? 私はソースケが稽古している間は村の散策をしていたから大丈夫だよ。必要な食料品の買い出しもできたし」

 

 レイファはしっかりしているな。

 俺はちゃんとこの子を守らないとなと改めて誓う。

 その為にも、早く北に行って、メルロマルクから脱出する必要がある。

 

「ソースケ、あの強いおばあさんから色々学べた?」

「簡単なことだけれど、ある程度は教わったさ」

 

 正直、web版でタクトの殿なって死亡したが、多勢に無勢ではなくタクトvsババアだと、ババアの方が勝つに違いないと改めて感じた。

 それほどまでに技は洗練されていたからな。

 変幻無双流……その『気』の概念と、俺の合気道を合わせたら、かなり強力な武術になりそうだなと改めて感じたのだった。

 

 

 さて、俺たちは樹から逃げる為にも、夜中に逃走する必要がある。

 西側に移動したいためだ。

 亜人の国なんかに逃げてもロクなことにならないのはわかっている。

 俺が逃げるべきは北西の国境地帯だ。

 ゼルトブルに逃げてしまう予定だ。

 

 メシャス村を出て、3日が経った頃、ついに樹に発見されてしまった。

 そして、冒頭の状態になったわけである。

 

「いい加減に止まりなさい! そして、その女性を解放するんです!」

 

 まるで警察官が立てこもり犯に説得するかのようなセリフに俺は呆れるしかなかった。

 

「私はソースケといたくて一緒にいるんです! それにソースケは犯罪者じゃない!」

「イツキ様、彼女はキクチ=ソースケにそう言うように脅されているんです!」

「でしょうね、助けてあげますから、我慢していてください!」

 

 まるで、あの時の道化様のような事を言いやがる! 

 

「ふぇぇ、イツキ様、あの子はそうじゃないと思うんですが……」

 

 リーシアがレイファを擁護するようなことを言うと、即座に燻製が否定する。

 

「リーシア、下っ端のお前がイツキ様に口答えするのか?」

「ふぇぇ、ち、ちがいますぅぅ!」

「ならば黙っていろ。イツキ様の行いこそ、絶対正義なのだ!」

「死ね! クソ燻製死に晒せ!」

 

 俺はそのやり取りを聞いて、燻製に中指を立てる。

 

「キサマ……! 許さんぞ!」

「何が正義だ! 独善野郎め! どうせお前のことだから、錬に見限られたんだろうが脳筋! いい加減俺とお前の縁を切りたくなってきたわ!」

「何だと!? キサマ……! 犯罪者風情が偉そうに!」

「はっ、事実だからキレるんだろこのスカタン! 少しは陰謀ばっかりに頭を使うんじゃなくて、戦闘中も考えろよボケ!」

 

 あまりにもムカついた為、言いたい放題である。

 

「ムッカアアアアアアアア!」

 

 地団駄を踏む燻製。

 やっぱり、追い出された様子だな。

 俺と燻製の応酬に、なぜか引き気味の独善の勇者様。

 

「マ、マルドさんとは因縁があるようですね。それならば、マルドさんが引導を渡してください。僕達はマルドさんの援護をします」

「ありがとうございます! イツキ様!」

「ふぇぇ」

 

 樹達の馬車が接近してくる。

 

「ラヴァイト! 近寄らせるな!」

「グアアアアアア!!」

 

 ラヴァイトはさらに加速する。

 前回、馬車の中で暴れたのがよほど嫌だったのだろう。

 馬とフィロリアルのレースの様相を呈していた。

 前回俺に蹴り落とされた事がトラウマになってか、なかなか飛び乗って来ない燻製。

 俺は飛び乗ってきた瞬間に撃ち落としてやろうとクロスボウを装備していた。

 またナイフを腹にさして蹴落としてやる。

 俺がそんな事を考えていると、レイファの悲鳴が聞こえたのだった。

 

「ソースケ! 前に人が!」

「スケアードさん、止めてください!」

 

 競っていた馬車二台が、人の近くで進みを止めた。

 

「覚悟しろ! 犯罪者!」

 

 燻製が当然のように馬車から降りると斧を構えて俺の馬車に乗り込んでくる。

 俺は当然蹴り飛ばすが。

 

 一方、馬車の前方では、樹が倒れている人を抱き起こしていた。

 

「大丈夫ですか?」

「……あ、……あ」

「スケアードさん、水を飲ませてあげてください」

「わかりました、イツキ様! おい、リーシア!」

「ふぇぇ、は、はい、すぐに準備しますぅ!」

 

 はてさて、この人物を助けたことはいい事だったのか悪い事だったのか、俺には判断付かなかった。

 だが、この件に女神が介入していることに気づいたのは、その途中のことであった。



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休戦協定

 俺は燻製のは阿呆を相手していたので、後でレイファから聞いた話だ。

 

「大丈夫ですか? 大変! 怪我してる!」

「ファスト・ヒール!」

 

 レイファが回復魔法を使って、その人物を回復させた。

 レイファの回復魔法によってダメージを回復させたその人物は、リーシアから渡された水を飲まされて、ようやく喋れるようになった。

 

「……あ、ありが……ございま……」

「大丈夫ですか? こんな道端で倒れているなんて、普通じゃありませんよ」

 

 樹はその人物に問いただそうとするが、意識を失ってしまったようだった。

 頬は痩せこけており、身体中に刃物による切り傷を負っていたようだ。

 誰かに追われているところを命からがらといった感じに見受けられた。

 

「おい! イツキ様が聞いているんだぞ! 勝手に気を失うな!」

 

 ペシペシと侍が叩くのを、レイファは止める。

 レイファのレベルが低い為、抑えることはできなかったが。

 

「待ってください! 怪我人なんですよ! 意識が回復するのを待って事情を聞いた方がいいと思います!」

「カレクさん、この子の言うとおりですよ」

「……チッ、失礼しました、イツキ様」

 

 樹が宥めて手を止めた侍に、レイファもなんだか怖気を感じたらしい。

 何というか、言葉にできない寒気を感じたそうだ。

 

「……ふむ、どうやらこれは、優先順位が高い案件ですね。このイベントは、作中でもなかなか高難易度かつランダム発生のイベントです。これを逃す手はありません。そこの貴女、菊池宗介に一時休戦を申し込みたいのですが、聞いてもらっても構いませんか?」

 

 レイファは樹の方から襲ってきたのだろうと呆れつつも、戦わなくて済むならそれが一番だと判断したらしい。

 

「……わかりました。ソースケにそう伝えますので、あの鎧の方を止めていただけますか?」

「わかりました。こちらから休戦を求めるのです。こちらも剣を引くのが道理ですからね」

 

 逐一偉そうな将軍様は、そう言うと、レイファや仲間たちとともに戦闘を繰り広げている俺達のところまでやってきた。

 

「ふんっ! はぁ! どりゃっ!」

「……お前やる気あるのか?」

 

 俺は一方で燻製と戦っていた。

 と言うよりも、燻製があまりにも見え透いた攻撃しかして来ないので、斧の軌道を全部逸らしてあげて、燻製に全力で空振りさせている、と言うのが正しい認識だろう。

 相変わらずの脳筋っぷりな戦い方である。

 

「ふんぬううう! 卑怯者め、避けるな!」

「何で避けるのが卑怯なんだよ阿呆。第1、当てるつもりの無い攻撃をするお前が悪い」

 

 しかし、燻製にも褒めるべきところはあるのは確かだ。

 その長時間斧を振っても切れないスタミナと、当たれば凄まじい攻撃力だけであるが。

『このすば』で言うならば、打たれ弱すぎるダクネスみたいな感じ? 

 ……例えて思ったけれど、本当にコイツ無能だなぁ。

 攻撃を当てる工夫をしないならば、攻撃を当てるつもりがないのと同じである。

 燻製の攻撃など鼻くそを穿っていても避けるのは容易い。

 

「ぬがああああ! 鼻くそほじりやがって! ワシを舐めるなあああ!」

「そんな当てる気のない攻撃をしながら言われてもな……」

 

 でも、一応レベルは燻製の方が高いはずである。

 何でこう、彼は弱いのだろうか? 

 あ、陰謀以外はパーチクリンだったな! 

 はっはっは! 

 

「マルドさん、武器を引いてください。菊池宗介も、マルドさんと戦うのをやめてください」

 

 と、樹の声が聞こえた。

 俺は無手で相手をしていたんだがな……。

 それに、喧嘩を売ってきたのはそちらの方だろうに、なぜそんな偉そうなのか? 

 

「しかし、イツキ様!」

「僕たちの正義を示す事件が起きているようです。彼よりも優先順位が高いですよ。それに、彼も僕たちと同行すれば、僕たちの正義が彼に伝わり、改心するかもしれません。彼女……レイファさんにも同行するよう話は通してあります」

「ぐっ……わかりました、イツキ様。ですが、コヤツが不埒な真似をしたら即刻ワシが懲らしめますぞ」

「ええ、それならば仕方のない事ですからね」

 

 樹にそう言われて、燻製は渋々斧を引っ込める。

 

「はっ、お前に俺が倒せるわけないだろうが。木こりでもしてたらいいんじゃないの?」

「キサマ!」

「マルドさん!」

 

 再び斧に手をかけようとした燻製を樹が制する。

 渋々斧を収めるあたり、今は樹のところで美味しい思いをしているのだろう。

 

 で、気になることが一点出てくる。

 協力とはどう言う事だ? 

 

「レイファ、どう言う事だ?」

「うん、ごめんね。何とか手を引いてもらうように交渉したら、同行する事になっちゃった。それに、あの人を見捨てるのはどうかなって思っちゃって」

「あの人?」

「うん、道で倒れていた人だよ。何か訳がありそうだったし、怪我の大部分が刃物で切られた跡っぽい感じだったよ」

 

 樹のあのはしゃぎようからすれば、レアイベント発生の合図なのだろう。

 しかも、将軍様の需要を満たすような、特殊なイベントである。

 

「……個人的には逃げてしまいたいが、レイファがそうしたいならば俺はそうするさ」

 

 俺はため息をつく。

 

「では、賞金首である菊池宗介……さん。一時的ではありますが、共闘しましょう。僕は冒険者の川澄樹と言います。よろしくお願いしますね」

「……よろしくな」

 

 すでに弓の勇者であることは指摘したんだが、この将軍様はそう言う設定らしい。

 と言うか、俺が日本人である事に対して何か思う節がないのだろうか? 

 疑問は尽きないが、おいおい聞いて行くとしよう。

 

 こうして、再び燻製と協力する羽目になってしまったのであった。



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【高難易度】ランダムエンカウントクエスト

 レイファの言っていたあの人と言うのは、男性であった。

 飢餓の状態が続いているせいか頬骨が出ており、あまり筋肉が付いていないことがわかる。

 そのかわり、お腹が出ており、栄養失調特有の体系をしていた。

 装備している武器はお粗末なものを装備している。

 領主に対してクーデターを狙っていたのだろうか? 

 こう言う場合は情報通に聞くのが確かだろう。

 俺たちの馬車は今はレイファと樹の仲間の回復魔法使いが男を看護しており、俺は樹の馬車に乗って待機していた。

 

「おい、弓の勇者」

「僕は冒険者です。樹と呼んでもらえれば良いですよ。その代わり僕も貴方のことを宗介さんと呼びますがね」

 

 何でこう、コイツは慇懃無礼なんだろうか? 

 

「……じゃあ、樹。どう言うイベントか、説明してもらえないか?」

「名前から思っていましたが、やはり貴方も僕たちと同じように日本からやってきた方だったのですね」

 

 樹は納得したようにそう言うと、答えてくれた。

 

「では、イベントのあらすじだけをお話ししますね。と言ってもこのイベントは発生率10%ほどしかないイベントで、第一の波と第二の波の間の時期に、この周囲を探索しているとエンカウントするイベントです」

「期間限定のランダムイベントか」

 

 パワポケ……とかそう言うのかな? 

 コンシューマゲームに仕込んであるイベントという事なのだろうか。

 PSO2ならばパラレルワールドの発生とか、アブダクションとかそう言うイベントが該当しそうである。

 

「そうです。ディメンションウェーブには、こうしたランダム発生のイベントや、分岐によるストーリーの一部変更・拡張があって、何周も周回しても飽きない作りになっているゲームでした」

 

 あ、なんかそう言うの聞いたことあるな。

 フェアクロだとか、ユグドラシルだとか、良くあるゲーム転生みたいな、あり得ないぐらい高性能設定の人間が作れるとは到底思えない、MMORPGに似た感じだ。

 あれは小説内であるから設定としてアリなだけで、実際存在したら運用コストだとか、膨大なデータを保管する場所とかに困りそうな代物である。

 2019年時点でも海外でそう言うゲームが作られているとは聞いたことがあるが、プレイするまでにはあと3年はかかりそうなやつだ。

 

「それで、このイベントは簡単に説明すると、悪徳貴族と戦うレジスタンスに加わり、囚われの姫を救助すると言うイベントですね。これだけ聞くと良くあるイベントの一つに過ぎないのですが、この時期にしては出現する敵のレベルが異様に高く、そして驚くようなどんでん返しが存在すると言うイベントになります」

 

 う、嫌な予感がするな。

 特に囚われの姫という辺りが。

 

「このイベントは推奨レベルが80、挑戦可能レベルが60と高難易度クエストになります。敵も歯ごたえがありますし、下手すれば波の魔物よりも強力な魔物と戦えるイベントですね。もちろん、そのルートに行くとバッドエンドなので、気をつける必要がありますがね」

 

 しかし、樹はペラペラとよく喋るな。

 自分の好きなゲームの話だから、当然といえば当然なのかもしれないけどさ、一緒にいる連中が首を傾げているぞ。

 

「もちろん、報酬はかなりいいものになります。弓なら、ベストエンドでアローレインの強化版であるアロースコールが使えるキム・クイが、バッドエンドで倒したボスが確定ドロップする必中の弓である与一の弓が入手できます。アロースコールはこの時点ではレアスキルなので、是非とも入手しておきたいスキルですね。もちろん、僕はベストエンドを目指しますけれど」

 

 得意げに話す樹の姿に、他の連中は若干驚きを隠せない様子だ。

 

「で、グッドエンドに行く方法は?」

「さすがにこのイベント自体に遭遇がほとんどありませんでしたので記憶がだいぶおぼろげになってはいますが、重要な分岐は攻略サイトで何度も見ていたので、それだけは覚えていますよ」

「ふーん、ならば俺は不要じゃないの? 樹だけで十分だろ」

「いえいえ、宗介さんを逃がすわけがないじゃないですか。一時休戦なだけです。それに、今回のクエストに限っては仲間NPC多いほど有利な選択肢を選べますからね」

 

 やはり、こいつが同行を提案したのは監視のためか。

 それに、仲間が多いほど有利と言うことは、そう言う裏切りや陰謀が渦巻くイベントであると言っても差し支えないのだろう。

 なるほど、樹が好きそうなイベントである。

 と、樹の方から話を振ってきた。

 

「そう言えば、宗介さんはこの世界と似たようなゲームはやっていないんですか?」

「俺のところはweb小説だったな。ディメンションウェーブって言う名前のな」

「なるほど、ではこのイベントについてエピソードが書かれていなければ知りようがありませんね」

 

 嘘であるが、事実は誰も知らないので問題なかった。

 実際、更新停止中ではあるが、書いているからな。

 実際、俺は原作の合間合間に起こった出来事については知らないし、盾以外の勇者が何をしていたのかも知らなかったのだ。

 

「ソースケ! あの人起きたよ!」

 

 と、レイファが馬車に顔を覗かせて教えてくれたので、俺と樹、なぜか燻製が代表して様子を伺いに向かった。

 

「……うぅ……ここは……?」

「良かった、目が覚めたんですね」

 

 レイファは安堵の表情を浮かべる。

 一緒に看病していた魔法使いの表情は硬いままなので、レイファ天使度が高いことを証明してくれる。

 

「うぐっ」

「あ、まだ横になっていてください。生命力が少ないのか、治りが遅いので」

 

 起き上がろうとして痛みに顔を歪めた男性に、レイファがそう言って再度横にさせる。

 これで看護服だったら、完全に白衣の天使だなと思ってしまうのは仕方ないだろう。

 

「キサマ、何故行き倒れていたのだ?」

 

 何故か燻製が尋ねる。

 樹は微笑んだまま様子を伺っている。

 あー……これが将軍様プレイなのか……。

 俺は呆れる。

 

「その……。冒険者には関係のないことなので……」

「いえ、なんで貴方が剣などで切られた傷があるのか、もう私達には無関係では無いと思います」

 

 レイファが強い目で、男を見る。

 セリフを取られて舌打ちをする燻製は馬鹿なのかな? 

 

「……ですが、やはり我々のことなので」

「キサマ、助けてもらっておいた分際で……あいた!」

 

 セリフを間違っているのか、燻製は樹に足を踏まれる。

 

「ぬ、ぬぅ……。キサマ、そこの女が言う通り、キサマを助けた時点で関係ないとは言えなくなったからな。せめてワシらに事情を話すがいいぞ」

「それに、僕たちはこれでもクラスアップをしています。メルロマルクが保証する冒険者ですよ」

「そ、そうなんですか……!」

 

 樹の言葉に、希望の光を見たと言った様子の男性。

 いやー、やっぱり、誰が言うかってのは重要だなと思うね。

 どんな言葉でも自分というフィルターを通して伝わるからさ、樹と燻製では同じ言葉を言っても、伝わる意味は異なるだろう。

 

「……その、我々は隣国、アルマランデ小王国で、悪政を敷く国王を打倒するためのレジスタンスです」

 

 そのレジスタンスの男が言うには、アルマランデ小王国の現状はこんな感じらしい。

 現状、長期にわたる原因不明の飢饉により、世界中がやせ細っているのはどこも同じであるが、アルマランデ小王国は一人の女によって傾国の危機にあるらしい。

 マリティナと呼ばれる美しい女が突然、国王に就任した時から圧政が始まったそうな。

 メルロマルクとシルトフリーデンの間に存在する国なので、当然ながら亜人と人が混ざって生活する国だったが、マリティナは住む場所により格付けを行い、待遇に差をつけたそうだ。

 亜人は全員奴隷となり、農作物の栽培から鉱山で働かせるようになり、人間も人間で蝦夷地の人間は一定金額以上の取引を禁止し、毎年領地で一番の美男子を徴収、ブサイクと美女を処刑すると言う事を行なっているらしい。

 食事は全て王家に献上、ほとんどが粟や霞を食べて過ごすのが現状だそうだ。

 また、コロシアムで人間同士を殺し合わせる遊びもしているらしく、そんな状態ではまるでスパルタクス待ちみたいな状態を作り上げてしまっていたそうな。

 

「え、なにそれ思っていたより最悪じゃん」

 

 俺は思わず声が出てしまった。

 

「なるほど、流石に直で聴くとキツイものがありますね……」

 

 樹は眉を潜める。

 

「ふむ、では、ワシらはそのマリティナと言う女を倒してしまえば良いと言う事かな?」

 

 偉そうに燻製がそう聴くと、レジスタンスの男は首を横に振った。

 

「いいえ、どうか、我々をあの国から逃がしていただきたいのです!」

 

 どうやらこのイベントの最初のシナリオは、レジスタンスたちを別の国に逃がすところから始まる様子であった。




明日、明後日は更新できないかもしれないです。

マリティナ…あっ(察し)


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【高難易度】ミナゴロシ・タイム

二日間休んで気力全開です!


 アルマランデ小王国に到着した俺たちは、その瘦せぎすの男に案内を受けて、レジスタンスのアジトに向かっていた。

 国を出るときに口うるさく言われるかと思ったが、弓の勇者がいるおかげですんなりと通ることができたのは幸いだろう。

 それに、瘦せぎすの男とアイコンタクトをしているようにも見えた。

 おそらく関係者なのだろう。

 

「ふふふ、ヒミツですよ」

 

 と言って去るのは悪い癖だろうな。

 ラヴァイトが痛い人を見る目で樹を見ている。

 正直、このまま逃亡したいところではあるが、男性は馬が引く馬車、女性はラヴァイトが引く馬車に分かれているためそれはできなかった。

 当たり前ではあるが、こっちの馬車は空気が最悪だ。

 燻製と俺がいるのだ。悪くならない理由がない。

 

「まだ着かないのか?」

「は、はい、マルド様」

 

 ちなみに、燻製はマルド様などと呼ばせている。

 どんだけ傲慢なんだろうか。

 これもうわかんねぇな。

 一応、リーダーを燻製にしているらしく、図に乗っている感じがする。

 

「……おい、侍」

「俺はカレクと言う! カレク様と呼べ、犯罪者」

 

 やはりムカつく。

 なんでこいつらこんなに偉そうなのだろうか? 

 

「覚えてどうする。お前らって格付けあるよな、どうやって決めたんだ?」

 

 原作を読んでいる上で出てくる当然の疑問だろう。

 リーシアに関しては途中加入だから下っ端であると言う理屈ならば、燻製なんかは当然ながらリーダーと言うのはおかしな話であるからだ。

 

「マルド様が言い出した事だな。リーシアが入る前は、レベル順でつけていたぞ」

「ほーん、そうだったんだな、なるほどねぇ」

 

 燻製発案なら納得か。

 だが、普通に考えてこいつらが今の順位で納得しているとは思えなかった。

 ……何かこの連中が納得させる要素があるのだろうか? 

 燻製は一応、偉い貴族の息子らしいから、そう言うのもあるのかも知れないな。

 

「今は新入りはすべからく最低ランクからだな。イツキ様親衛隊に入りたいならいつでも歓迎するぞ」

「はっ、錬ならまだしもだな」

 

 正直、こんな連中とつるみたくない。

 なぜ、わがままで自己中な大人になりきれていない大人のクズと関わらねばならないのか。

 と言うか、本気でこの世界の連中は、こう言うクズが多すぎである。

 メガヴィッチの影響なのかな? 

 

 そんなこんなでしばらく進んでいると、外の様子が荒野になっている地帯に突入した。

 そもそも、メルロマルクを出てからしばらくしたら、皮の剥がされた枯れ木の森を抜けていたので今更であるが、完全に荒野である。

 枯れ草ぐらいしか生えておらず、とてもではないが、中世ヨーロッパですらこの光景はお目にかかれない程に何も生えていない。

 

 と、ぞろぞろとフルフェイスのヘルメットを被った連中が出てきた。

 国が変われば言葉が変わるのは通りであるが、どうやらこの国はメルロマルクと言語体系が近いのか、理解できたのは幸いだろう。

 

「貴様ら、何者だ!」

 

 マルドが出て、代表者面をする。

 

「我々はメルロマルクから来た冒険者である。お前たちこそ何者だ?」

「我々はマリティナ聖王国の騎士団だ! メルロマルクより入国は許可されていない! 即刻立ち去るが良い!」

 

 え、さっきの守衛さんは通してくれたけど……ってあれは弓の勇者の権力で通ったんだったな。

 それに、瘦せぎすの男と顔見知りだったし、レジスタンス側なのだろう。

 それにしても、マリティナ聖王国か……。頭悪いのかな? 

 

「マリティナ聖王国とはなんだ? ワシは聞いたことがないぞ? ここはアルマランデ小王国では無いのか?」

 

 燻製の質問に、騎士団は笑い始める。

 

「ハハハハハ、いや、すまない。メルロマルクはまだ知らされていなかったんだな。この国はアルマランデ王家の処刑を行い、先日マリティナ様が国王としてこの国を治めることのなったのだ」

「故に、マリティナ聖王国と国号を改められたのだ!」

 

 なるほどね。

 この国のヴィッチは国の掌握に成功したのだろう。

 陰謀に長けた魔女だからな。

 メルロマルクも現女王がいなければ、こうなってしまうことがよくわかる。

 

「……なるほど、これだけでもハッキリとわかりますね。ここは懲らしめておくべきでしょう」

 

 樹がそう言うと、侍と戦士が立ち上がる。

 

「待ってください。ここは、宗介さんの実力を測りたいので、宗介さんとレイファさんに任せましょう。良いですね?」

「は?」

「キサマ、イツキ様に口答えするのか?!」

「あー、ちょっと待ってくれ。レイファは非戦闘員だ。俺単独で行く。それで良いだろ?」

 

 実際、レイファには魔物退治以外をさせるつもりは無かった。

 人を殺すだけで、精神にドロッとした何かが溜まるのだ。

 今回の場合だと、偉そうなやつ以外は殺してしまう必要があるので、レイファにその手伝いはさせてはいけないだろう。

 

「……いいでしょう。では、マルドさんと共に懲らしめてください。既にマルドさんは戦闘に入っているようなのでね」

 

 樹の目線を追うと、既に燻製は斧を構えて一触即発な状態になっていた。

 

「わかった。情報収集する必要があるから偉そうな騎士だけ生かして、残りは殺すとしよう。では行ってくる」

「え、ちょ、待って」

 

 俺は樹の制止を無視して、馬車を飛び降りる。

 

「犯罪者!」

「樹からの指令だ。悪く思うな。皆殺しだ」

 

 俺は槍と剣を構える。

 

「ムカつく野郎だな! マリティナ様に逆らうなら、女以外殺せ! マリティナ様も俺たちが楽しむ分には美女でも問題ないと言ってたからな!」

 

 俺と騎士団10人との戦闘が始まった。

 

「燻製、その偉そうなやつ相手してろ。俺は他の連中を消す!」

「言われなくとも! はあああああ!!」

 

 燻製と騎士団の一番偉そうな騎士団が鍔迫り合いを始めたところで、戦闘開始の合図となった。

 

「生意気言いやがって! 死ね!」

 

 俺は突っ込んで来た間抜けの心臓を狙って槍を突き刺す。

 防御無視、防御力無視のこの槍は容易くそいつの心臓を抉る。

 

「ふん」

 

 横に薙ぐと、そいつは、胸から上と下に別れかけた格好になり、絶命した。

 

「アスマー!! キサマ!」

「次に死にたいやつからかかってこい。皆殺しだ」

 

 その後はつまらない虐殺劇となった。

 首を刎ね、心臓を穿ち、真っ二つに叩き斬る。

 

「ぎゃあああああああああ!」

「うわあああああああああああ!」

「た、助けっ!」

 

 俺は作業的に9人を殺した。

 楽な仕事である。

 手加減の方が難しいな、この槍は。

 

「ふぅ、おい、燻製、そっちはどうだ?」

 

 俺が見ると、案の定苦戦していた。

 拮抗している感じである。

 あの連中、まだクラスアップした感じはしなかったのだが、隊長は別なのだろうか? 

 

「キサマ、後で殺してやる!」

 

 俺を睨みながら良い勝負をする燻製と隊長。

 だが、時間がないので、俺は槍を構えると、隊長の手足を切断した。

 

「ぎゃあああああああああああああ!!」

 

 いや、良い声でなくな。

 ふふふ、はははははははは。

 

「おっと、いけない」

 

 俺はヒールポーションを切断面にかける。

 すると、血が止まり、肉が盛り上がる。

 回復すると言うことは、生きている証拠である。問題ないな。

 

「……」

「おい、どうした燻製」

「……な、なんでもないのである」

 

 燻製がドン引きしていた。

 俺をこうしたのはお前のせいだろうにな。

 呆れつつ、肉ダルマにした隊長を俺は蹴り起こす。

 

「おい、起きろ」

「ぎゃん! ひいいいいいいいいいいいいい!!」」

 

 起きて早々悲鳴をあげる阿呆。

 

「死ぬならせめて情報吐いて死ね」

「ひいいいい!! 助けてください! 助けてください! なんでも喋りますので!!」

「ん? 今なんでも喋るって言ったよね?」

「はいはいはいはいはい!」

 

 よし、これで情報がいくらでも引き出せるようになったな。

 

「樹、終わったぞ」

 

 俺が樹を呼ぶと、馬車からドン引きした樹と男性メンバーが出てきた。

 

「宗介さん、僕はここまでしろと言いましたっけ?」

「特に言わなかったから、裁量は俺の判断だ。逃すと面倒くさいから、情報持っているやつだけを残して殺したまでだ」

「……今度からなるべく、殺さないようにお願いしますね」

「ま、樹がそう言うなら善処しよう」

 

 呆れる樹に対して、俺はあっけらかんとそう答えるのだった。




独自解釈ですね。
公式で解釈が出たら変更すると思います。


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【高難易度】レジスタンス

「じゃあ、兜を取るか」

 

 俺がそう言って兜を取ると、イケメンの顔が現れた。

 まあ、顔はイケメンではあるものの、醜悪な根性が滲み出ている顔をしている。

 俺の殺意センサーには反応がないため、現地人だろうと推測ができる。

 今は俺に対する恐怖で涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているがな。

 

「……なかなか見目麗しい顔をしていますね。なるほど、レジスタンスの彼が言っていたことは本当のようですね」

 

 樹は納得したように答える。

 

「では、このカレクが質問しましょう」

「わかりました。カレクさんにお任せしましょう。僕とカレクさん、それに宗介さんは話を聞いて、お二人は女性メンバーがその惨たらしい死体を見ないように隠してください」

「「はっ! イツキ様!」」

 

 燻製も、樹の指示には素直に従うらしい。

 燻製は俺を睨んでいたが、知らんな。

 

「では、カレク様がお前に質問する。所属と名前を明かせ」

「お、おおお、俺はマリティナ聖王国騎士団、第2奴隷区の管理を任されている、ライシャン=エードルド先任曹長だ! こここ、殺さないでくれ!」

 

 先任曹長……騎士団を名乗っているけどどちらかと言うと軍じゃないかなと思う。

 確か、アメリカの軍位だっけか。

 

「では、お前の役目は何だ?」

「ここ、この地に、マリティナ様に刃向かうレジスタンスの根城の一つがあると聞き、哨戒していたんだ! あと、怪しい馬車が2台やって来ると言う情報を聞いて、レジスタンスへの協力者がやってきたと思い、これを殲滅する任務も仰せつかっている!」

 

 なるほどね。

 この地区を統括しているお偉いさんがいると。

 と言うか、レジスタンスはかなり追い詰められている様子である。

 これは確かに外国に亡命して態勢を立て直す必要がありそうであった。

 まあ、俺はあまりにも対人特化し過ぎてわからないかもしれないが、騎士団の技量はかなり高い方である。

 

「キサマらのレベルは?」

「お、俺は63、他は平均すると37だ!」

 

 この隊長、俺の方をチラチラと見て来る。

 しかし、燻製よりもレベルが低いのに苦戦するって……。

 ちなみに、この時点で燻製のレベルは68だったりする。

 さっきレベルが上がった俺と同じレベルなのは驚きである。

 なるほど、人間の雑魚はクラスアップ前だが、階級が付いている連中はクラスアップ済みなのか。

 そりゃ、攻略難易度も上がるはずである。

 

 他にも色々と内部情勢やわかっているレジスタンスの居場所、捕らえられたレジスタンスの収容所などを色々聞き出し、俺はその場に放置してやった。

 両手両足無しでどうやって生きていくんだろうな? 

 俺が置いていくと指示した時の顔は見ものだった。

 

「ソースケ、やりすぎ!」

 

 と、レイファには怒られたが、俺は反省する気は毛頭なかった。

 

 そして、ようやく俺たちはレジスタンスのアジトに到着した。

 道中の魔物はレベルが高い上に気性が荒く、かなり頻繁に襲って来る。

 中にはレベル76の魔物もおり、コイツはさすがに手抜きの勇者様でも手を抜かずに討伐するハメになったがな。

 

「ここが我々のアジトになります」

 

 アジトは、多数の男性達と美女、老人子供が居た。

 なんでも、老人は不細工筆頭のため毎月処刑されているそうだ。

 そして、この地区で美女ということは、案の定ガリガリに痩せていた。

 どうやら、マリティナが実権を握っておよそ3年でここまでなってしまったらしい。

 恐ろしいディストピアだな。

 

「冒険者様、まずは我々のリーダーに会ってください」

 

 瘦せぎすの男に案内されると、リーダーらしい精悍な男を紹介された。

 

「おお、ヴェドガー! 生きて戻ったか!」

「ええ、ラインハルトさん。こちらの冒険者様にメルロマルクで助けて頂きました」

「ふむ、冒険者様方、ヴェドガーを助けていただきありがとうございます」

 

 ラインハルトは礼儀正しく礼をする。

 

「いえ、こちらも偶然でした。助かって良かったですよ」

 

 樹が柔和な感じで対応する。

 燻製ではこう言う対応はできないから仕方がないだろう。

 燻製が話を切り出す。

 

「でだ、この男から助けてほしいと依頼されたわけだが、理由を話すがいいぞ」

 

 燻製の偉そうな物言いに、ラインハルトはヴェドガー……瘦せぎすの男の方を向く。ヴェドガーはうなづいた。

 

「彼らは強力な冒険者です。あのメルロマルクでクラスアップができるほど、信頼の置ける冒険者です!」

「ふむ……なるほど。これは弓の勇者様の天啓かも知れないな!」

 

 ふと、飾りを見ると弓をモチーフにした飾りが備え付けられている。

 この国は弓教なのかもしれないな。

 樹はその言葉に、ギクリと反応するが、バレたわけではなかったという事を理解してか、少しホッとした様子である。

 

「しかし、弓の勇者様は召喚されたという話だ。詳しい国際情勢はそこまで入っては来ないが、彼らはきっと弓の勇者様が使わした方々なのかもしれないな!」

 

 ラインハルトの言葉に、この場の雰囲気が高揚した気がする。

 だが、樹は相変わらず将軍様プレイを続行する様子であった。

 

「どちらにせよ、ワシ達が助けることには変わらんだろう。早く話せ」

「おおっと、そうだった。すまないな」

 

 ラインハルトは気を取り直すと、依頼内容を説明しだす。

 

「道中で見え来た通り、この国はもうおしまいだ。我々は奴隷のように虐げられるか、処刑されるかの道しか残っていない」

 

 ラインハルトは絶望するような表情でそう断言した。

 それほど、この国は状況が逼迫しているのだろう。

 

「最初はそんな悪政から人々を救うべく立ち上がった我らレジスタンスだったが、我々のリーダーであるジャンヌ=ダルクさんが1月前に捕まってしまい、その後は成すすべなく我々レジスタンスは壊滅の危機に陥ったわけだ」

 

 ジャンヌ=ダルクとはまた史実の人間を引っ張ってきたな。

 まあ、ビックネームだし、引き合いに出してもあり得る話だろう。

 

「なるほどな。そのジャンヌ=ダルクとか言う輩を助け出せばいいのだろう? あいた!」

 

 と、燻製が突然そんな事を言い出す。

 それに対して樹は燻製の足を踏んづける。

 

「ええっと、僕たちに何か手伝えることはありますか?」

 

 どうやら、ジャンヌ救出ルートは樹にとってうまあじでは無いらしい。

 

「え、ええ。そりゃもう助けてもらえるならありがたいですが……。その前に一度国外に出て、装備を整えてから攻めた方が良いかと思います。なんと言っても、ジャンヌさんはコロシアムに捕らえられていますから」

 

 コロシアム……ねぇ。

 俺は樹に囁いた。

 

「もしかして、バッドエンドルートってのはコロシアムに行くことなのか?」

「はい、ジャンヌ救出ルートはバッドエンドルートですね。救出しに行くと、ジャンヌは処刑されてしまい、そのせいで最悪の魔物が召喚されてしまいます」

「……なるほどね」

「いずれ救助しますが、今安直に向かうべきではありません。それに、イベントが発生しておよそ3日目に救助に向かうのがベストな選択肢ですよ」

 

 まあ、ゲーム知識があるならそれに従った方が良いのかもしれない。

 それに、お陰でこのイベントのシナリオが掴めた。

 囚われのお姫様と言うのはジャンヌの事だろう。

 彼女をうまく救助して、レジスタンスの革命を成功させるのがこのシナリオの趣旨だ。

 要するに、このシナリオの主人公はジャンヌなのだ。

 ゲームの主人公はそれこそ、影の立役者の立ち位置なのだろう。

 なるほどなー。

 PSO2でそれやって炎上した気がするんだが、特にEP4みたいな感じで。

 

「と言うわけで、我々から依頼したいのは、国境の突破の手助けです。正直、老人や子供の方が多く、このままでは逃げられなくて……」

 

 樹がチラリと見ると、燻製はうなづいた。

 

「良かろう。では、我々がお前達を守ってやるとしよう。感謝するといいぞ! はっはっは!」

 

 なんでコイツいちいち偉そうなんだろうな。

 俺は呆れるしかなかった。




影の立役者で、主人公と強力な敵に対して、協力して倒す展開って燃えるよね。
そんなイメージのシナリオです。


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【高難易度】カラテノタツジン

 そうと決まれば話は早い。

 俺たち冒険者は遊撃の護衛として、男連中とともにメルロマルクへと女性や子供達を護送することになった。

 護送には、彼らが育てていた馬を用いることになる。

 ラヴァイトは俺を乗せて移動し、他は馬に乗って戦うことになった。

 ちなみに、燻製は馬に乗ったところ馬が鎧の重さに耐えきれなかったため、馬車で待機することになった。

 

「やっぱり、ちゃんと軍用に育てた馬じゃないと重くて耐えられないみたいだねぇ」

 

 と、馬を育てていたおばさんは断言した。

 しかし、馬なんかよくもまあ育てられたものだと思っていると、この時のために育てていたらしく、人間よりも優先して餌を与えていたようだ。

 人間は雑食だからね。

 全員が栄養失調状態のため、俺ら以外には全員にデバフがかかっている状態であった。

 

 さて、日を改めずにすぐにアルマランデ撤退戦をする理由であるが、これは既にこの場所が敵に割れていると推測したためである。

 俺たちが到着するまでに時間がかなりあったはずだし、レジスタンスに協力する冒険者を殲滅すると言う事は、レジスタンスすらも飼い殺しにしていると考えるのが妥当だろう。

 マリティナはこの状況をわざと作り出して遊んでいるのだ。

 

 ならば、冒険者と合流したことが知れ渡れば、すぐに此処は殲滅させられるだろう。

 だからこそ、俺が皆殺しした事で情報の遅延が発生している現状で逃亡を即日実施した方がいいのは自明の理であった。

 

「では、行くぞ!」

「「「おおーっ!!」」」

 

 ラインハルトさんの合図とともに、俺たちは出発した。

 実際、樹もゲームでの最適解がその通りだったため、文句を言ってこなかった。

 

「あれ、NPCがこんな判断しましたっけ?」

 

 と疑問に思っていたがな。

 

「ラヴァイト!」

「グアー!!」

 

 俺は先行して、ラヴァイトと共に魔物を潰していた。

 魔物は進行の邪魔になるし、馬が怯んでしまうからな。

 しばらく進んだところで、俺は殺気を感じて止めるように促した。

 

「止まれ! 敵がいるぞ!」

 

 国境線には、豪華な装飾具を装備した騎竜にまたがるマリティナ聖王国騎士団が待ち構えていた。

 相変わらず紫色のフルプレートを装備している。

 俺の声に、樹やイツキ教の連中がやってくる。

 ちなみにレイファは怪我をしている人達を見ている。

 パーティなので、俺が殺人するとその経験値がレイファやラヴァイトにも入るんだよね。

 だからか、レイファのレベルは24まで上がっていたりする。

 

「来たな、レジスタンスども。よくも俺の部下を皆殺しにしてくれたな!」

 

 この軍団の中で一番偉そうな奴が騎乗槍を構えてそう言う。

 優しい俺は殺した理由をちゃんと教えてやる。

 

「ふん、俺を殺しに来るならば、殺される覚悟を持ってこいよ」

「キサマ……!」

「どうやら、敵のようですね。皆さん、懲らしめてあげなさい」

「「「はい、イツキ様の言う通り!」」」

 

 うーん、やはり宗教だよなぁ。

 しかも、本物の正義を信じている奴は此処にはいないというオチが付いている。

 

 今回は殺すなと言う指令が出ているので、俺は直槍モードで戦うことにする。

 と言っても、直槍モードですら殺意は高いため、トドメを刺さないように気をつける必要があるが……。

 槍が使い慣れ過ぎていて、基本槍ばっかりで戦っているからなぁ。

 剣の腕もボウガンの腕も磨く必要があるな、これは。

 俺はラヴァイトに乗り、不埒な輩が居ないか見て回る予定だ。

 あの連中のことだ、女子供を人質に取ればいいとでも考えてそうである。

 

「行くぞおおぉぉ!!」

「「おおー!」」

 

 侍の掛け声に合わせて、樹隊が先陣を切った。

 

「グアー!!」

「どうどう、ドラゴンは嫌いかも知れんが、レイファを守るためだ、落ち着け」

「グ、グアグア!」

 

 ラヴァイトは騎竜に反応して興奮しているのを抑える。

 ラヴァイトもやはり、レイファを守ることの方が優先順位が高いようだ。

 俺は集中して周囲の気配を探る。

 すると、案の定何人かで待機しているのがわかる。

 2チーム居るのだろうか? 

 その中に、俺の殺意センサーに反応する奴がいるのもわかる。

 

「ラヴァイト、あっちだ!」

「グア!」

 

 正面は樹達に任せて、俺は隠れている気配を殺しに向かう。

 

「そこだ!」

「グアー!」

 

 俺はラヴァイトから飛び降り、槍で攻撃する。

 

「必殺! 乱れ突き!」

「うわあああああああ!!」

 

 隠れていた奴に命中したらしい。

 流石に防御無視ではないため鎧まで切り裂くことはないが、ダメージは入るようだ。

 

「ラヴァイト、蹴散らせ!」

「グアアアアアア!」

 

 なんだかんだ言って、ラヴァイトのレベルも34にまで上がっているしな。

 俺ほどではないしにしても、雑魚ならばラヴァイトでも蹴散らせる。

 

「うわああああああああ!」

「この鳥、強いぞ!」

 

 俺は、リーダーを相手にする。

 

「おりゃ、はあああ!」

 

 短剣で切り刻む。

 鎧のおかげでダメージが軽減されているみたいであるが、鎧に傷が付く。

 

「ぐぬ、つ、強い!」

 

 相手の剣に合わせて、俺は受け流し、剣を奪い四方投げをかける。

 抵抗したせいか、相手の腕がゴキッと音を立てるが知らないな。

 

「あがあ!」

 

 当身を入れてそのまま後頭部を地面に叩きつける。

 グワンと音がなり、リーダーは手足を痙攣させて気絶した。

 

「ラヴァイト、次だ!」

「グアー!」

 

 俺は駆け寄って来たラヴァイトにまたがり、次の波の尖兵が居るところまで駆け寄る。

 ちょうど、馬車の護衛をしていた連中と戦っているところだった。

 

「うはははは! どけどけ! 女は全て俺様のものだ!」

 

 またもやロクデナシの転生者か。

 悪鬼羅刹しか転生させていないんじゃないだろうか? 

 そいつも、紫の鎧を着ているためわからないが、言動や放っている気は間違いないだろう。

 

「死ねええええええええ!!」

 

 俺は人間無骨+を起動させる。

 そして、首を刎ねる。

 

「あっぶね! 死ぬところだったじゃねぇか!」

「チッ!」

 

 どうやら避けられてしまった。

 

「おお、冒険者様!」

「俺がコイツの相手をするから、お前らはほかの騎士団の連中を抑えててくれ」

「わかりました!」

 

 俺はサクッと指示を出すと、そいつに穂先を向ける。

 

「お前、マリティナ様が言っていた危険人物だな!」

「それは光栄なことだ」

「どっちにせよ、お前みたいな奴は嫌いだ。殺してやんよ」

「やって見やがれ!」

 

 奴と俺の剣が交錯する。

 ギンギンと音を立てて刃と刃がぶつかり合う。

 コイツ……できる! 

 俺の戦い方の特性を理解しているのか、力の流れをちょくちょく変更してくるのだ。

 だから、合気道に技を繋げられず、剣戟となってしまっていた。

 

「俺は天才だからな! お前の身のこなしから、サブミッションがメインだと言うことはお見通しだ!」

「チッ!」

 

 俺と奴が数度打ち合う数度打ち合う。それだけで、コイツが何かしらの武術の達人では無いかと推測できた。

 それは、相手もなのか、奴はこう言って来た。

 

「貴様も武術の達人か。俺もそうだ。貴様相手ならば俺様も本気を出せると言うものだ。ふんっ!」

 

 奴は俺を突き飛ばすと、剣を鞘に納めた。

 そして、独特の構えをする。

 

「空手か……!」

 

 猫のように両手を上げて拳を作る。

 空手の構えに似たようなものがあったことを思い出した。

 

「俺の殺人空手で数多くの武術の達人を殺して来たものだ。貴様も俺の殺人空手の前に敗れ去るがいい」

 

 見ればわかる。アイツには武器を使う意味がないだろう。

 だからこそ、俺はクロスボウを装備した。

 ああいう危険な奴には遠距離攻撃が適切だからだ。

 俺が矢を打つと、奴は少ない動作で矢をひらりと回避してしまう。

 俺は走りながら、クロスボウを放つ。

 

「三段撃ち!」

 

 クロスボウから放たれた矢が3つに分かれる。

 魔力で生成された矢だ。

 

「ふんっ!」

 

 奴は矢を拳で払う。

 なんて強さだ! 

 あんな正拳突きを受けたら、内臓破裂どころじゃねぇぞ……! 

 俺は走りながら、クロスボウを打つ速度を上げる。

 奴は矢を払いながら、俺に食らいついてくる。

 

「そうら、もうおしまいか?」

 

 俺はとっさに、右手を出していた。

 それが奴の正拳突きをそらす結果になった。

 いつのまにか近づいた?! 

 俺はクロスボウを腰に下げて、奴の打撃を両手で受け流す。

 うう、ビリビリするぐらい強烈な突きである。

 もし、合気道をやっていなかったらこの時点で詰んでいたのではないだろうかと思うほど、技量が高い。

 

「せい! はぁ!」

「ふっ、ふっ、すぅ」

 

 カウンターで当身を入れるが、余裕で防がれてしまっている。

 俺も全ての突きを受け流しているので、なんとか無傷で済んでいるだけだ。

 

「いいな、お前面白い奴だ。今まで戦った中で強いほうかもしれない」

「それは光栄だな」

 

 だんだん突きの速さが増していく。

 対応できる速さであるが、だんだんキツくなって行く。

 

「スピード上げて行くぜオラあああ!!」

 

 俺は、どうやってこの状況を打破するか、脳みそをフル回転して考えていた。




難易度高めで敵を設置しています。


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【高難易度】セイギノミカタ

 正面、右、左、蹴り、全てを受け流しつつ、俺はババアの元で学んでいたことを思い出していた。

 コイツを倒すには、今の俺では力不足でしかない。ならば、今まで使ってこなかった力……気を使うしかないだろう。

 奴の攻撃を払いながら、俺は呼吸を整える。

 

「スゥ……」

 

 あの呼吸法を思い出す。

 そして、意識してそれを再現する。

 

「ハァ……」

 

 深く呼吸をすると、だんだん『気』と言うものを感じ始めていた。

 魔力とは異なる、生命に等しく宿る何かだ。

 

「はは、そんな付け焼き刃の呼吸法など何の意味がある!」

 

 奴は罵ってくるが、関係なかった。

 イメージは流水岩砕拳だ。

 一番イメージしやすいからな。

 空手に連打などなかった気がするが、奴は連打で攻撃してくる。

 整えた呼吸、そして『気』が活性化したことにより、俺はゾーンに入ったようであった。

 徐々に俺のカウンターが、奴に吸い込まれるように入って行くようになった。

 

「必殺、流水応烈打」

 

 自然とそう口にしていた。

 相手の突きに合わせて、強烈な当身と、『気』を織り交ぜた攻撃を放つ。

 

「う、ぐが! コイツ突然! ガハッ!」

 

 攻撃が入りかつ『気』の攻撃は鎧を貫通してダメージが入るのか、よろけながら奴は後退する。

 

「ミョウダイ様!」

「チッ……、ガハッ! 一旦引くぞ! 態勢を立て直す!」

 

 奴……ミョウダイと呼ばれた鎧はそう判断し、素早く騎士団を撤退させる。

 

「待て!」

「ふん、菊池宗介と言ったな。その名前、覚えておく。次に会った時が貴様の最後だ」

 

 ミョウダイはそう言うと、何かを地面に叩きつけた。

 ものすごい勢いで煙が発生する。

 煙幕か! 

 煙が腫れるころには、奴の部隊は撤収が完了していた。

 

「冒険者様、ありがとうございます!」

「すまない、取り逃がしてしまった」

「いえ、今回の作戦は撤退作戦ですから、問題ありません。先頭で戦っていた冒険者様達も、どうやら敵を撤退させたみたいですよ」

 

 言われて、俺が先頭の方を向くと樹達が戻っていた様子だ。

 被害状況の確認をしているようだ。

 

 しかし、ミョウダイだったか。アイツは傲慢ではあるが、頭がキレる奴のようだった。

 部隊を預かる将としての判断も、間違ってはいないだろう。

 不利を悟って逃亡したとも見えるが、俺や樹達の情報を集めると言う意味では生きて帰ることが重要だからだ。

 ……次に奴と見える時、さらに強力な敵として立ち塞がることが予想される。

 安定しない『気』の使い方をちゃんと我が物にしないと、次は負けるかもしれない。

 

「チッ、ここで奴を殺せなかったのは、大きな痛手かもしれないな……」

 

 俺は舌打ちをする。

 俺の格闘技……『流水』系統の技の習熟が俺の課題なのだろう。

 俺が『気』を用いた技を使うと、『流水』と頭に着く。

 おそらく、俺が流水岩砕拳をイメージしているからだろうけれどな。

 それに、課題も多く見えた。

 剣……ナイフの扱いや、弓……クロスボウの熟練度も上げる必要があることは明白だろう。

 俺は、トドメ以外は基本的に、ナイフとクロスボウを使うことを決めた。

 

 その後、俺たちは無事に国境を越えて、メルロマルクではなく、別の隣国のボウラルドと言う国に逃げのびていた。

 ボウラルドにはすでに先に拠点を作っていたレジスタンス達が待っており、女性や子供、老人達を受け入れてくれた。

 もちろん、レジスタンスとして戦う女性は別であるが。

 

「冒険者様方、ありがとうございます! 無事に脱出することができました」

「ワシらは当然の事をしたまでだ。感謝されるほどではない」

 

 そう言う燻製の顔は、正義を実行できた快感に酔っている顔ではあるがな。

 人に感謝される事よりも、自分の思い描く正義を実行できたことに喜びを感じるタイプなんだろうな、コイツは。救いようのない奴だ。

 

「それで、次の作戦はもう決まっているのですよね」

 

 樹が聴くと、ラインハルトはうなづいた。

 

「ええ、次は我々だけで突入して、各地区の解放を行なっていきます」

「この国のレジスタンスの連中が、武器や薬、食料なんかを集めていたので、これで反撃ができます」

 

 ボウラルドは比較的、食料には困っていない国だ。

 だからこそ、集めることができたのだろう。

 

「ふむ、今までは義理で逃亡作戦までは手を貸していたが、これ以降は依頼として受けるそ」

 

 燻製がそう言うと、驚きの表情をする。

 

「それは、我々に協力してくれると言うことですか?」

「むろん、そのつもりであるが、報奨金は用意すべきだろう」

「……ふむ、そうですな。では、銀貨350枚でどうでしょうか? 我々に出せる限界なのですが……?」

「安くはないか? もっと……あいた!」

 

 樹が燻製の足を踏みつける。

 それ以上もらうのは正義ではないと判断したのか? 

 

「わかりました。ではその金額で良いでしょう。構いませんね?」

「わ、お、おう……」

 

 一応、リーダーは燻製だと見せかけるためだろうけれども、何だろうなこれは。

 ブレないその姿勢を褒めるべきなのか、何なのか。

 第二の波の後、真槍だとフレオンちゃんと対話するんだっけか? 

 一体どうやって対話するのか気になるな。

 あれ以降読めてないから気になる。

 

「ありがとうございます!」

 

 ラインハルトさんが樹の手を握る。

 感激している幹事である。

 

「やはり、弓を扱う冒険者様は正義の心の持ち主のようですね! 皆にも伝えてきます!」

 

 ヴェドガーはそう言うと、レジスタンス達が待機している場所まで走っていった。

 もう、樹が弓の勇者だってバレているんじゃないだろうか? 

 樹は自尊心を満たしているが、アニメ版の尚文が教皇戦で言っていた通り、勇者の威光を示したほうがいい気がする。

 まあ、俺は口出しはしないがな。

 俺の正義と樹の正義は全くもって異なるのだ。

 

 俺の正義は、もっと合理的なところにある。

 ミニマムだと、レイファが無事なことを前提とするがな。

 

 それでも、樹は結局は勇者様なのだ。

 樹の行いに誰もが感謝し、喜んでいる間は樹が自分の正義を疑うことはないし、燻製達に囲まれている間は傲慢で自分の承認欲求を満たす行為を止めることはないだろう。

 やはり、人間を構成するのは環境だなとしみじみ思う。

 

 誰とつるんでもブレない人間なんていないのだ。

 俺もレイファとともにいる間は穏やかでいられるのもそう言うことだしな。

 

「では、ラインハルトさん、冒険者様方、こちらにどうぞ。これより作戦会議を行います」

 

 俺たちはレジスタンスの一人に案内されて、会議室に向かうのだった。



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【高難易度】サクセン・タイム

 会議室は8畳間程度の広さのある部屋だ。

 ここに大部分が男がいるとどうなるかを考えてみよう。

 おっさんくさい部屋の完成である。

 銃がないため硝煙の匂いはしないが、物々しい雰囲気なのは言うまでもなかった。

 

「さて、では我が国アルマランデ奪還作戦の作戦を説明する」

 

 このレジスタンス基地の一番偉い人が端を発した。

 

「現在、アルマランデ小王国は、稀代の悪女マリティナを王とした政権が誕生している。王一族は皆処刑され、アルマランデ小王国の国体はすでに存在しない」

 

 暗い雰囲気である。

 そりゃ、王族ってのは国が脈々と続く、国の歴史の証明だ。

 俺の世界でも『国体』てのは重要で、イギリスなんかも民主主義国家だけれども、王族を大切にしている。日本もそれは同じだ。

 つまり、アルマランデ小王国は国体と権力を同時に失った状態……すなわち、国が完全に滅んだ状態となってしまったわけである。

 

「だが、あの土地は俺たちアルマランデ小王国の国民のものでもある! あんな悪女に良いようにされて、黙っていられるわけがない! 絶対に取り戻すんだ!」

「「「おおー!!」」」

 

 レジスタンスの連中は威勢良く拳を挙げる。

 樹はよくわかっていない顔をしているな。

 まあ、一般的日本人の感覚だとわからないんだろうけれどね。

 俺も、理屈でしかわからないからな。自分の国の滅ぶ様を見せつけられ、自分の国を好き勝手にする連中に対する怒りの感情は。

 だからこそ、ここまで熱を持っているんだろう。

 

「では、作戦会議を始める。と言っても、諜報部の方で国の情勢は聞いているし、ラインハルト達の生還によって、多くの内情に関する情報がもたらされた。それに……腕の立つ冒険者達の協力を得られている。これで、勝てる要素が出てきたわけだ」

 

 と言っても、連中は軍だ。

 正規の戦争を仕掛けても、倒すことは難しいだろう。

 およそ100人程度の規模では蹂躙されておしまいである。

 

「では、作戦の概要を説明する」

 

 司令官はそう言うと、地図にペンでマークをつける。

 

「現在、我々はアルマランデから見て北部に位置するボウラルドの南東部にいます。流石に100人の部隊が突入すると、バレますので、10班に分けて行動します」

「ふむ、それの目的は?」

「それぞれの地区のレジスタンスの救助です。ゆ……冒険者様は我々レジスタンスの中の2名を加えて10人でチームを組んで頂きたいと思っています」

 

 あれ、レイファが数から抜けているな。

 

「レイファさんは冒険者ではなく一般人の様ですので、こちらに残っていただき、回復魔法でけが人の様子を見ていただこうと思っています。構いませんよね?」

 

 燻製に確認する司令官。燻製がこっちを見たのでうなづいておく。

 俺としても、レイファには居残ってもらうしか選択肢はないのだ。

 レイファのレベルでは、流石にただの足手まといだしな。

 

「構わぬぞ」

「ありがとうございます」

 

 一応は、レイファにも合気道の稽古はつけていたりする。

 レイファは俺の足手まといになりたくないと一生懸命なのだ。

 と言っても、付け焼き刃な現状、レイファの合気道の実力は8級レベルなので、使い物にならないけれどな。

 俺ですら2段なのだ。最高段位が7段だし、7段の先生はそれこそ化物クラスだ。

 ちなみに、4段でようやく道場を持てるレベルなので、道は遠い。

 

「そういう訳で、代わりに地理に詳しいレジスタンス2名についてもらい、行動していただきます」

「良かろう」

「冒険者様には一番攻略難度が高いと見ている、レイシュナッド地方を任せます。解放後に我々と、ラインハルトのチームでコロシアムの解放を行います」

 

 レイシュナッド地方は、王城近くの地区だ。

 収容所も存在しており、収容所にはレジスタンスの偉い人が捉えられているらしい。

 ジャンヌもそこだろうか? 

 今回俺たちが襲うのは、この収容所である様だ。

 

「ちなみに、コロシアム収容の人は別の所に収容されています。我らがジャンヌさんを取り戻すためにも、レイシュナッド地方の収容所の解放は必須です。よろしくお願いします」

「うむ、ワシらに任せるが良い」

 

 そんな感じで、俺たちはレイシュナッド地方に向かうことになった。

 距離にして1日はかかる。

 王城までは、通常のフィロリアルで2日かかる位置であるので、それなりに距離があるのだろう。

 つまり、樹の言っていたベストエンドルートに沿っているという事だろう。

 どうせ、収容所でも分岐があるのだろうから、基本的には判断を樹に任せて、俺は雑魚を処分していけば良いかと考える。

 俺は収容所襲撃班の打ち合わせを聴きながら、そんな事を考えていた。

 俺も小説に思考を引っ張られているのかも知れないな。

 

 実際、今この話に関わってはいるが、本編とは相違が発生している気がしていたのだ。

 最初の波から次の波までに樹に関して具体的に語られているのは、リーシアが加入するイベントだけである。

 だが、リーシアはすでに仲間になっており、下っ端として動いていて俺と話す機会はない。

 だから、ズレていると確信を持って断定ができないし、俺の介入によって原作の改変が起きていないとは断言できないのだ。

 まるで、運命がそう定めているかの様に、俺は四聖勇者連中に認識されていっている。

 樹なんかも、関わることは無いだろうと思っていたのに、関わってしまっている。

 ……メガヴィッチと異なる理が俺に働いているのかもしれなかった。

 このままだと、元康達とも何か共闘をする事になりそうな予感がしている。

 

 世界は、俺に何をさせたいのだろうか? 

 それを問う日が徐々に迫ってきている、そんな気がしていた。

 

「ソースケさん、どうしましたか?」

 

 今回一緒に行く事になったレジスタンスのリノアさんが、考え事をしていた俺の肩をトントンと叩いた。

 しかし、リノアねぇ……。

 あたしのことが好きになーる好きになーる……ダメ? 

 

「ああ、少し考え事だ」

「そうですか。では集中して作戦を聞いてくださいね?」

 

 俺はリノアさんに言われてうなづいた。

 リノアさんは、髪の色こそ違うが、顔の作りはFF8のリノアに似ている。

 VCコンソールでやったっけか。懐かしい。

 FFなんてなさそうな樹はわからないだろうけれどな。

 髪の色、目の色は鮮やかな赤色をしていて、炎の力を持っている事が予想される。

 ファイヤー・エンジンだっけ? そんな感じの色である。

 

 俺はリノアさんを見ながら、そんなくだらない事を考えていた。



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【高難易度】コイスルオトメ

 さて、俺たちは馬車でそれぞれ別の地点からアルマランデに再突入する事になった。

 国境線の警備員はレジスタンス側なので、翌日ならば脱出に使った検問所以外は問題なさそうである。

 ボウラルドはなぜ協力してくれるのかという事に関しては、俺はアルマランデの実権を握りたいためだと考えている。

 それ以外にボウラルドには旨味無いしな。

 

 そんな事を考えながら、ラヴァイトの引く馬車に揺られていた。

 すでに国境の突破は完了しており、雑魚の騎士団を蹴散らした後なのは言うまでもない事か。

 

「ソースケさん、でしたっけ?」

「どうした?」

 

 リノアさんが聞いてきたので返事をする。

 

「ソースケさんはどうして、レイファさんと冒険者をやっているんです?」

「……さてな。俺もよくわからない。冒険者を始めたのは食っていくためだったけれどな」

 

 今の俺はただ、運命に翻弄されているだけだ。

 メガヴィッチの意図する物語の改変を行うつもりは毛頭なく、かと言って別に逃げるつもりもない。

 原作のストーリーが俺を逃さないかの様に重要人物と引き合わせてくるし、その中でなぜ、レイファとともに旅をしているのかと言うのは、正直よくわからないのが現状だ。

 逃げる選択肢もあるにはあるが、俺はレジスタンスの連中を見捨てる事出来ないし、マリティナは俺が殺す相手なのだろう。

 どっちにせよ、今のこの現状は俺ではなく、メガヴィッチや他の何かに与えられた試練の様に感じていた。

 

「レイファさんは恋人かしら?」

「家族だな。妹みたいなものだ。レイファがどう考えているかは、無視することにしている」

 

 レイファが俺に対して好意を抱いていることぐらいは、トーシローでもわかる事だ。

 レイファは俺とドラルさん、ペットのラヴァイト以外には敬語を使って話すし、レイファは結構べったりとひっついてくる。

 これで好意がないと言ったら嘘だろう。

 だが、俺はそれを受け止めるべきではない。

 それはレイファの幸せにはならないからだ。

 だから、俺の中では妹と定義している。

 

「無視する事にしているって……」

「俺にも事情があるのさ」

「ふぇぇ、レイファさん可哀想です……」

 

 何故か、ラヴァイトの馬車に乗っているのは、俺とリノアさん、それにリーシアであった。

 現場に到着したら、3班に分けてそれぞれで行動するためであるが、樹は燻製とシーフとレジスタンス、侍は魔法使いと剣士、で、俺はリノアさんとリーシアになった。

 樹曰く、

 

「レイシュナッド収容所の攻略には、班を3つに分ける方が効率がいいです。僕は攻略の要の部分をやりますので、カレクさん、宗介さんそれぞれで重要な役目を負ってもらいます」

 

 という事らしい。

 侍達の役目は、牢獄の解放と収容者の避難誘導だそうだ。

 俺たちは、脱出経路の確保と、看守の抹殺、それに樹の攻略に合わせてとある設備を確保することらしい。

 樹の役目は、時間制限のある収容者の回収と、ボスの討伐だそうだ。

 なんでも、その収容者は時間をオーバーすると処刑されてしまうらしい。

 で、その為にも、俺はとある設備を最速で確保する必要があるそうだ。

 

「宗介さん単独でも構わないかと思いましたけど、道案内にリノアさん、監視の意味合いでもリーシアさんをつけさせていただきますね。他の方だと、いざという時に連携できなさそうな気がしますからね」

「そいつは有難い」

 

 と二つ返事で請け負ったのだった。

 

「でも、ソースケさんが何で賞金首になっているのかわからないですぅ。話してみると、イツキ様と同じように正義感のある方の様に見えますし……」

「確かにね……。逃げる事だって出来たでしょうに、あたしたちを手伝ってくれているし」

「ま、俺はクソ野郎限定だが、冒険者を散々殺してきたからな。それで指名手配されてしまったんだろうな」

 

 それ以外に理由は分からなかった。

 襲ってくる以上は殺す以外にないだろう。

 下手に生かしておくと、後々困るからな。

 

「それに、俺がレジスタンスを手伝うのは、この国を支配している奴が気に食わないからだな。誰かさんと違って、正義感を満たすためではない」

「あはは……」

 

 リーシアは困った様な表情をする。

 

「ああ、あの感じの悪い鎧ね。あたしもあの鎧は好きじゃないわ。あの腐った目は、この国の騎士連中とよく似ているもの」

「ふぇぇぇ。あ、あまりマルドさんの悪口を言わないでください!」

 

 樹はまだ、ちゃんと正義を成そうとしているが、燻製はな。

 人を貶めても悪とも思わない、俺に逆らう奴は皆悪だって思ってそうである。

 樹の場合は片方の意見……ノイジーマイノリティだけを聞いて突撃してしまう、阿呆な連中と同じイメージだが、燻製は意図的にノイジーマイノリティを取り上げて、いう事を聞かなければレッテルを貼って侮辱する奴らと同じだと俺は思っている。

 樹の仲間連中は少なからずそう言う奴らが集まっている様に感じる。

 と言うか、燻製と侍達は仲がいいのだ。

 まるで旧知の仲である様にな。

 類友なのか、よく分からないがな。

 

「あんな奴、かばう必要はないでしょ。ま、強いみたいだし、利用させてもらうけれどもね」

 

 リノアは燻製が強いと思っているみたいだが、とんでもない。

 雑魚中の雑魚だろう。

 陰謀以外に脳細胞を使うつもりがないのだからな。

 

「ふぇぇぇ」

 

 まあ、こっちで組む分には問題ないだろう。

 リーシアはレベル70を超えないとステータスが低いままの雑魚だと言う点に注意をしておけば、問題はない。

 リノアはレベルは38だったりするのはまあ、仕方のない事だろう。

 世の中はクラスアップをすると言うのは相当難しい事なのだから。

 

「そういえば、リノアさんって耳は人間なのに猫の尻尾があると言うことは、半亜人ですか?」

 

 リーシアが指摘して初めて気がついた。

 そう言えば、確かにリノアは耳は人間だが、猫っぽい尻尾がある。

 瞳もよくみると猫っぽい。

 

「そうよ。メルロマルクでは見かけることは少ないかもだけれど、猫の半亜人ね。あたしみたいに人間の耳で、亜人の特徴の尻尾があるなんて、珍しいかもだけれどね」

「シルトヴェルトだと嫌悪される存在ですからね。下手すると、人間よりも扱いが低いとか」

「良く知っているわね。まあ、あたしはアルマランデ出身だし、シルトヴェルトには行ったことないから分からないけれどね。それに……」

 

 リノアはそう言うと、尻尾をスカートの中に隠す。

 

「こうすれば人間にしか見えないのだから、普通に暮らす分には問題ないわ」

 

 まあ、見た目で判断している以上はそうなるだろう。

 

「でも、リノアさんはなんでレジスタンスに参加されているんですか?」

「……あたしの生まれ故郷だからよ。アルマランデはあたしの様な半亜人の受け皿になってくれた国だしね」

 

 戦う理由は人それぞれである。

 故郷を取り戻したいと戦う人たちも俺の世界でも多くいたはずだ。

 東ティモールとか、チベットとかはそう言うイメージがある。

 

「リーシアちゃんは、なんであいつらの仲間をやっているの? リーシアちゃんみたいな純粋な子が所属する様なパーティじゃないと思うんだけどな、あたしは」

「ふぇぇ、私はその……イツキ様に助けていただいたので……その……」

 

 それだけで、何かを察するリノアさん。

 

「なるほどね、あの弓を持って戦う冒険者ね。……大変な道よね。進展がある事を祈るわ」

「あ、ありがとうございますぅ……」

 

 リノアはリーシアに同情する目線で肩をポンと叩いた。

 

「少し外を見る」

 

 俺はガールズトークに耐えられなくなり、外の様子を見ることにした。

 

「わかったわ」

「行ってらっしゃいですぅ」

 

 俺が出ると、ラヴァイトが退屈そうに馬車の後を追って馬車を引いているところだった。

 今は競争じゃないしな。

 

「ラヴァイト、退屈か?」

「グアー……」

「もうしばらくの辛抱だ。我慢してくれ」

「グアグア」

 

 俺たちは収容所に向かうために、樹の馬車を先頭に移動している感じである。

 しかし、一応森……いや、枯れ木しか無いのだが、森の中を進んでいると退屈であった。

 道なりに進んでいるとはいえ、こうも景色が変わらないと、眠くなってきてしまう。

 出てくる魔物も樹が弓で仕留めてしまうので、うまあじが無かった。

 

 その日は野営をして一晩明かすことになった。

 

 翌日もそんな感じで馬車の旅を過ごしていると、いよいよ異様な建物が見えてきた。

 まるで、某ゲームのドラキュラ城の様な見た目をしている。

 

「あれが、レイシュナッド収容所……!」

 

 リノアの声がしたので、振り返ってみると、苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。



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【高難易度】センニュウ・ソウサ

R-15の内容が含まれるかな?


 レイシュナッド収容所は、まさに悪魔城のそれだった。

 魔王の城っぽい監獄と言ったところか。

 近づいてみると、高い壁に囲まれており、鼠返しまで付いている。

 侵入経路は、正面の入り口しかない徹底ぶりである。

 近場に馬車を止め、俺たちは樹と合流する。

 リーシアは樹の元に戻り、慌てた様子で下っ端作業をする。

 

「樹、これはどうやって入るんだ?」

「もちろん、入り口から入りますよ」

「……囮役をやれって事かよ」

「いえ、この程度の人数ならば、僕がパラライスアローを撃ちます。全員が効果時間中に突入すれば問題ないでしょう」

 

 いや便利だな、勇者スキルってのは。

 俺の使えるのは完全に『技』に分類されるからな。

 俺が使える『技』はソードブレイクができる短剣の技や、合気道を交えた『流水』系統の技、後は槍や弓の技ぐらいなのだが、麻痺や沈黙、毒と言った技は事前に薬を仕込む必要がある。

 

「オーケー、了解だ」

「では、突入準備が出来次第放ちますね」

「おい、リーシア!」

「ふえぇぇ、わかりましたー!」

 

 燻製の指示に従って物品を準備するリーシア。

 俺はポーチの中に今回分の薬品を入れているので問題ないが、他は準備が必要だからな。

 仕方ないので俺も手伝う。

 リーシアが入った馬車に入って、俺はリーシアの作業を見る。

 どうやら今更薬袋の作成らしい。

 自分たちで準備はするつもりはないのだな……。

 

「手伝う」

「ふえぇぇ? これは私の……」

「一人でやって樹を待たせるわけにもいかないだろ。こういうのは数人でやった方が早く終わるってもんだ」

 

 俺はテキパキと薬品の分類と人数分の袋を準備してそれに樹達が準備したものを仕舞う。

 自分の分でよくやるので、もはや慣れたものである。

 

「しかし、本当に学習しねぇな燻製の野郎は。勇者の調合する薬品だけじゃ状態異常対策は万全にはならねぇといつになったら理解するんだ?」

「ふえぇぇ、それ、私が準備しました」

「どっちにしても、リーダーなら準備する様に指示するのが当然だろ。責任者は燻製だから燻製が悪い。下請けするなら注文はちゃんと正確にするのが義務ってもんだろ」

 

 俺の中では燻製は悪だ。

 元の世界にもこういう奴は大量にいたが、実際目の当たりにするとな……。

 樹はもはや忠告を受け入れられる様な精神状態ではないだろうし、無駄だからしないがな。

 

「ふぇぇ……」

「まあ、燻製の奴らには状態異常対策なんて不要だろうから、永遠に買う必要はないがな」

 

 俺は笑いながら、連中のセットを整えてリーシアに袋を渡した。

 

「あ、ありがとうございます」

「さ、さっさと配ってこい。時間が無いからな」

「は、はい!」

 

 リーシアはそう言って各々に回復薬一式を配りに行った。

 

「犯罪者! キサマ、何故リーシアを助けた?」

 

 馬車から出てくると、憤怒の表情の燻製が居たが、知ったことでは無い。

 

「時間短縮だ。相変わらずお前はこんなことやっているんだな」

「リーシアは下っ端だから当然のことだ」

「はっ、良いからサッサと収容所に突入するぞ」

「待て! キサマ!」

 

 声がでかいんだよな。本当に無能な働き者の見本である。

 幸いにして、見張りの兵は気づいていない様であった。

 

「パラライスアロー!」

 

 樹は麻痺の状態異常を引き起こす矢を飛ばす。

 矢は不思議な軌道を描いて、連中に命中し、ドサっと倒れた。

 

「皆さん、行きますよ」

「「「「はい、イツキ様」」」」

「了解です」

 

 各々返事をするが俺はうなづくだけにしておいた。

 樹と俺は麻痺で昏倒している騎士のところに近づくと、鎧を剥ぐ。

 こういう場合は怪しまれない様に敵と同じ格好をするのが定石だ。

 

「パラライスアロー」

 

 詰所の騎士も昏倒させて、俺たちは全員分の鎧を確保する。

 それにしても、剥いた騎士達は全員イケメンであるのがわかる。

 鎧は詰所に設置して、詰所の中に連中を紐で簀巻きにしてぶち込んでおく。

 殺した方が後ぐされなくていいんだけれどなぁ。

 と考える俺はもうダメかもわからんね。

 

「全員着ましたか?」

「ふえぇぇ、結構ぶかぶかですぅ……」

 

 男性用しか鎧がないのだから仕方のない問題である。

 一応、似た背格好の奴の鎧を確保したので(予備の鎧が詰所にあった)、背の一番低いリーシア以外はそこまで動きを阻害しないのだ。

 

「ふん。ではそれぞれ散開して、役目を果たすのだ。我々の正義を示すためにも、タイミングを見誤るなよ?」

 

 燻製の言葉に、全員了承するようにうなづいた。

 そして、各班別れて行動を開始した。

 

 俺たちの達成目標は脱出経路の確保と、看守の抹殺、それに樹の攻略に合わせてとある設備を確保すること。

 脱出経路の確保自体は移動しつつ使えそうな場所を探索すればいいだろう。

 最初にやるべきは、看守の抹殺である。

 これは、奴隷紋の関係だな。

 こういう犯罪者を収容する施設と言うのは、この世界では囚人が反抗しない様に奴隷紋を強制させて、奴隷契約を結んで拘束するのがこの世界の常識だ。

 そのため、奴隷紋の権限を持ている奴全員を皆殺しにする必要がある。

 樹が倒すこの収容所の長官はもちろん、看守連中も全員殺す必要があるのがミソだ。

 権限が残っていたら、この収容所を出た瞬間に死亡と言うのはあり得る話だからだな。

 侍達も、下位の看守を殺す必要があるため、俺たちがやるのは上位の看守の抹殺になる。

 まあ、侍達には魔法使いもいるし、重要人物分の解呪の儀式に必要なものは侍班が持っているので、要人救出は大丈夫だろう。

 

「こっちよ!」

 

 俺はリノアさんの案内に従って、上位看守の抹殺を行うために移動していた。

 もちろん、怪しまれないためにも走ったりはしないがな。

 騎士以外は基本的に素顔を晒して働いているため、奴隷紋オーナーを見分けるのはたやすそうであった。

 ちなみに、今の同行者設定はレイファ、リノア、リーシアとなっている。分隊で分隊リーダーが俺、本隊が樹となっている感じだ。

 しかし、フルフェイスは見えにくいな。もちろん、仮面ライダーの様に見えにくいアクションスーツ程ではなさそうだが、これで戦うのはなかなか難しいだろう。

 頭部は守れるので、安心感はあるが、視界が制限されるのが辛いところだ。

 

「居たわね……。アイツよ。奴隷紋のオーナーは」

 

 騎士に対して偉そうに講釈を垂れているおっさんがいた。

 燻製と同じような顔つきであるのが見て取れる。

 実際、偉いのだろう。

 

「オーケー、アイツね。しかし、よくわかったな」

「レジスタンスに協力してくれる人が居るからね。全員が全員マリティナを信望しているわけじゃないと言うことよ」

 

 まあ、聞く限りだとかなり悲惨な悪政だからな。

 取り立てたやつからマリティナが嫌われていたとしてもおかしくはない。

 だからこそ、レジスタンス達は活動できるのだろうがな。

 ジャンヌはそこまで熱い指示を集めていると言う証左でもある。

 

「なるほどね」

 

 俺はそう言いつつ、通り過ぎる。

 顔がわかれば、後は情報収集を行い行動パターンを把握して、一人のところを暗殺するだけである。

 

「ちょ、なんで見過ごすのよ!」

「今はタイミングが悪いからな。オーナー権限はアイツだけか?」

「そこまでは……」

「正確なことはわからないか。それじゃあまあ、アイツ長官っぽいし、アイツの部屋を見つけて、奴隷紋の管理権限の仕様を確認するのが先だな」

「そうね」

 

 と言うわけで、俺たちは聞き込みをする事にした。

 聞き込みの結果、長官の名前はガーフェル=ライラロック、37歳だと言うことがわかった。

 長年収容所の所長をやっていた人物で、いち早くマリティナに取り入った人物だそうだ。

 確かに所長の顔は豚の様に見える。

 残念ながらイケメンとは言えないだろう。

 レイシュナッド収容所の長官はアッシュ=ランゲトルージュと言うイケメンらしいがな。

 こっちは、樹案件なので無視する。

 で、俺たちは上手く所長の事務室に侵入することができたのだった。

 

「さすが、所長というだけあって豪華な部屋ね」

「ふぇぇぇ。私の実家よりお金持ちな感じですぅ」

 

 実際金を持ってそうだ。

 様々な勲章やトロフィーが並べられており、他にも成金趣味の自分の像があったりと趣味が悪い部屋だ。

 

「ん、なんだね君たちは?」

 

 どうやら、ご在宅であった様である。

 俺は、マリティナ聖王国式の敬礼をして、こう告げた。

 

「はっ! 定時報告の資料を代理でお届けに上がった次第でございます」

「……そうか。ならば、そこの書類入れに入れておきたまえ。ワシは忙しいのでな。ぐふふ……」

 

 何ともまあ、だらしのない声である。

 グポッグポッと音がするのは気のせいではないだろう。

 

「了解しました!」

 

 俺はそう言って、資料を箱に入れる。

 そして、人間無骨+でばっさりと首を刎ねる。

 呆気なく飛ぶ生首。

 一瞬見えた顔は醜く快楽に歪んだ顔であった。

 

「んはぁ、あれ、所長様、どうされ……」

 

 俺は素早く、女の口を塞ぐ。

 目を見開き、叫び声を上げる女。

 口を塞いだおかげで、そこまで大きい叫び声にはならなかったが。

 しかし、美女だしエロい格好をしている。

 

「おい、叫ぶな。助けに来た」

 

 俺はナニを丸出しの首なし死体を蹴り飛ばす。

 

「いいな?」

 

 俺が聴くと、女は首を高速で縦に振る。

 

「いいぞ」

 

 俺がそう言うと、固まったままだったリノアさんとリーシアが動き出す。

 

「ふ、ふぇぇぇぇ……」

「何の躊躇いも無く首を刎ねたわね……」

 

 リーシアは足をガクガクさせており、リノアさんはドン引きした様子だ。

 

「虫けらを殺すのにそんな躊躇いとかあるか? ああ、奴隷の子がいる様だから保護してやってくれ」

「ふぇぇぇ、わかりましたぁ」

 

 リーシアが奴隷の子を保護する。

 目に毒な格好をしているので、あまり見ない様にしよう。

 

「リノア、物色するぞ」

「わかったわ」

 

 俺たちは部屋の物色を始める。

 幸いにして、机の上はあまり血液が飛び散ってはいなかった。

 下腹部に血が入ってたのだろうか? 

 一通り漁っていると、規則マニュアルが出てきた。

 文字が若干異なるため、読み辛い。

 

「リノア、読めるか?」

「ん、任せて」

 

 リノアがマニュアルを読み始める。

 俺はリノアに資料を任せて、色々と部屋を物色し始めるのだった。




所長がナニをしていたのかは、ご想像にお任せします☆


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【高難易度】スクウベキ・ヒトビト

R-15な感じ??


 漁っていた資料を紙に図としてリノアさんに書き起こしてもらう。

 奴隷紋の統括はどうやら、さっき首を刎ねた所長がやっていた様で、下に13人の看守が権限を持っている様だ。

 

「なるほどな。この13人を殺せば、達成目標の1つが完了するのか」

「そうね。ただ、重要度の高い囚人は長官が直接管理しているみたいね」

「ま、長官は樹に任せれば大丈夫だろう。残りは俺らと侍で処理すれば問題なしか」

 

 まあ、連中なら自分の正義欲を満たすためなら殺しも躊躇わない連中だ。

 13人を消すのは問題ないだろう。

 俺がそんなことを考えていると、リノアさんが呼び名に対して呆れて言ってきた。

 

「サムライって……。あなた、結構変なあだ名付けて呼ぶのね」

「見たまんまだろ? 俺は奴らとは馴れ合うつもりはないからな」

「あー……。まあ、鎧のマルドとの様子を見ている限り、仲間だとは思っていなかったけれど、敵対関係なんだ」

「そういう事。事情があって殺せないが、その事情がなければ俺は全員殺すだろう程度には嫌っている奴らだ」

「……ソースケがそう言うって事は、そうなんでしょうね」

 

 やっぱりドン引きするリノアさん。

 虫を殺すのと違いがわからなくなっている俺としては、逆に引かれる方が理解ができない。

 やはり、俺はすでに狂っているのだろう。

 

「ソースケさん、この子はどうしますか?」

 

 リーシアが俺に聞いてきた。

 目に毒すぎる格好をした美少女だ。

 Fカップはある形の良い乳、スタイルは良く、性奴隷目的のせいか、食事とかは所長が気を配っていたのだろう、ムチムチな感じである。

 それをスリリングショットで隠しつつ、腰にはシースルーのスカートを履いていると言った感じの服装である。

 あー、ダメだエロすぎる。

 顔は、可愛い系の美女だし、うーん、エロ漫画の見過ぎレベルである。

 俺はすぐに顔をそらす。

 

「処遇はリーシアに任せる。とりあえず、その格好をなんとかしてくれ……」

 

 忙しすぎて禁欲生活が長引いている俺としては、非常に困る。

 と言うわけで、その奴隷の子に体が見えない様にローブをまとってもらう。

 

「そ、その、ありがとうございました」

「まだ解放されていないだろう? とりあえず、この部屋からアンタを連れて脱出する必要があるな」

「そうね。ただ、この服だとカレクたちに引き渡したらマズイことになりそうなのが問題よね」

 

 まさか、性奴隷と一緒にいるとは思わないもんな。

 

「で、アナタはなんて言うの?」

「アーシャです。私は美女だからという理由で投獄されました」

「なるほど」

 

 マリティナの被害者であった。

 

「それから、所長様や他の方にご奉仕をする事を条件に生かされ続けている感じです」

「……」

 

 なるほどな。

 アーシャは性処理係として使われ続けていたのか。

 リノアさんとリーシアは怒りで震えていた。

 

「ソースケさん、私、許せません!」

「そうよ! 到底許しちゃいけないわ!」

 

 しかし、女王が治めているはずなのにこの始末なのか。

 それもなんだかなといった感じである。

 

「私の他にも、そういう事をして生かしてもらっている方が居ます。その方々も助けてもらえないでしょうか?」

「もちろんよ! ねぇ、ソースケ!」

「助けますよ! ソースケさん!」

 

 力強い目を俺に向けてくる二人。

 これは、仕方ないかもしれなかった。

 

「わかってる。だが、優先順位はわかっているよな?」

「ええ、看守と言わず、皆殺しにしちゃいましょう!」

「ダメです! ちゃんと国を正しく戻してから、罪を償わせましょう! これは悪です!」

「どっちでも良いが、リノア、国を取り戻すのが先だ。殺すのは最小限にした方がよさそうだぞ」

 

 俺から注意すると、何故かお前がいうなという目線で俺を見るリノアさん。

 俺は一応、必要がなきゃ殺さないからね?! 

 口封じとかが有効だと思えば躊躇いなど無いが。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 何故かアーシャはギュッと俺を抱きしめてきた。

 鎧を着込んでいるためあんまり感じないけどね。

 

「はいはい、それじゃあ長居すると怪しまれるからな。とりあえず、看守連中13人の連中を殺すためにも、探索を再開するぞ」

「「おおー!」」

 

 俺たちは兜を再び被り、アーシャを連れて探索を再開した。

 普段からこの際どい格好を強制されているらしく、ローブを脱がせて連れまわすことになったのは、なかなかに辛い。

 連れ回していると、アーシャは身体を触られまくるし、その度にリノアさんとリーシアが怒るため、なだめるのに苦労した。

 だが、その甲斐あって、情報の収集が完了する。

 

 アーシャを連れて何故か気苦労が増えた気がするな。

 それほど、女子の怒りは怖いという事だろう。

 

 さて、アーシャには一度待機してもらうことにする。

 何処にと言うと、性奴隷の女性たちが監禁されている牢屋にだ。

 リノアさんとリーシアは反対したが、やはりアーシャがいると足手まといなのだ。

 

「ダメよ! そんなの!」

「いや、アーシャがいる事によってお前らが暴走するからなんだが? それに、木は森に隠した方がいいだろう?」

「うぐ、それを言われると……」

 

 リノアは言葉に詰まる。

 リノア達の暴走で、予定より時間が押しているのが現状である。

 

「私は大丈夫です。それよりも、この国を取り戻すために頑張っている皆さんの邪魔になりたくないですし」

「アーシャちゃん……」

 

 既に3人には友情が出来上がっていた。

 美しい友情である。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

 と言うわけで、俺たちは性奴隷を収容している牢屋に向かう。

 到着早々、俺は見張りに話しかける。

 

「所長から、この子を返してくるように言われた。開けてもらえないか?」

「ああ、構わないぞ。AD01203だな。鍵はこれを使ってくれ」

 

 俺は牢屋の鍵を受け取る。

 

「ありがとうな」

「仕事だしな。俺も遊びたいが、お偉いさん以外はお金払わないと使えないんだよね。俺も偉くなりたいものだぜ」

「はは、ご愁傷様」

 

 俺はそんな軽い会話をしつつ、中に入る。

 俺の会話に憤慨するリノア。

 

「何よ! なんで文句の一つも言わないのよ!」

「リノア、お前ここに何しに来たの?」

「う……」

 

 俺に言われて言葉が詰まるリノア。

 全く、優先順位を考えてほしいものである。

 

「さて、AD01203だったか」

 

 しかし、このフロアは目に毒な光景が広がっていた。

 個別に檻に入れられているが、肌色が非常に多い部屋だった。

 ご無沙汰なせいで童貞みたいな反応をしてしまう俺自身に悲しくなる。

 

「ここですね」

 

 リーシアの指摘に、俺は番号を確認する。

 

「それじゃ、アーシャはここで待機だ。必ず助けるから、大人しく待っているんだぞ」

「はい、ソースケ様」

 

 ゾッとした。

 そう言うのはやめてほしい。

 

「ソースケで良い。とにかく、事が終わったら解放しに向かうから、大人しくしておけよ」

「はい!」

 

 あー、クソ。

 全くもってやれやれである。

 アーシャが大人しく牢に入ったのを見届けて、俺たちはこの場を離れる事にした。

 これから血生臭い暗殺の開始である。

 それだと言うのに、俺はすっかり毒気を抜かれてしまった気分だった。



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【高難易度】ブラック・ウィドウ

 あの性欲女と別れてから、俺は順調に奴隷紋のオーナー連中を殺して回った。

 いやまあ、場所と行動パターンがわかれば、一人になった時にこっそりと殺害するのは難易度が低かったわけだが。

 当然ながら、ここまで殺害すると騒ぎが大きくなる。

 囚人が暴れ出したと大騒ぎになるのだ。

 俺たちはその流れに乗じて、脱出経路の探索を始めた。

 そう、奴隷紋のオーナーを全て殺したので、囚人達が暴れまわっているのだ。

 おそらく、侍達が先導しているのだろう。

 

「C地区、厄介な囚人が武器を持って暴れています!」

「所長はどうした! 何故奴隷紋が発動しないんだ?!」

「おい、誰か指揮が取れる奴はいないのか?!」

「看守は何をしている?!」

 

 と、絶賛大騒ぎ中である。

 大概スニーキングからの首刎ねで俺が殺したからなぁ。

 どったんバッタン大騒ぎである。

 ジャパリパークではなく収容所で、ケダモノは居るし除け者もいるがな。

 

「うまく行っているようね」

「そうだな。そろそろ時間だから移動するぞ」

 

 樹の言っていた例の場所に移動する俺たち。

 これは、転移魔法陣である。

 原作にはこう言うのあったっけか? 

 だが、ダンジョンのトラップなんかではよくある設定なので、存在するのかもしれない。

 この転移魔法陣は緊急脱出用の魔法陣らしく、樹達とここで合流してボスと戦う事になっている。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、我らに戦う力を与えよ』

「アル・ツヴァイト・ブースト!」

 

 俺はリノア達にブーストをかける。

 

「ここから敵が出現するのね」

「ああ、もう鎧は脱いで問題ないぞ」

「既に脱いでるわ」

 

 リーシアもリノアも、既に鎧は脱いでいた。

 俺は、鎧を二重に着るのは難しかったので、小手と一緒に小屋に置いたままだ。

 来る敵はゴーレムである。

 要人を連れ出そうとすると、出てくるボスでここにくるまでは何度破壊しても復活すると言う迷惑極まりないゴーレムである。

 いやもう、このイベントってなんかFF8っぽいよなー。

 ちなみに、ここで破壊しないとグッドエンドには行けず、要人が死んでしまうし、ここで出てくるゴーレム再出現してしまうそうである。

 

 と、しばらく待っていると魔法陣が輝いた。

 そして、樹達が現れる。

 燻製の奴ボロボロじゃねぇか。

 

「宗介さん、来ます!」

 

 樹の声で俺は槍を構えると、ドシーンと何かが着地して地響きが起きる。

 それは、カニのようなゴーレムであった。

 そう、FF8の序盤でトラウマになる追っかけてくるカニ型の機械! 

 それに似た姿をしている。

 

「KISHAAAAAAAAAAA!!」

「な、なによコイツ!」

「ふえぇぇぇ!!」

 

 カニが吠える。

 そして、リノアが驚きリーシアがふえぇする。

 しかし、でかいな! 

 

「皆さん、ここからダメージが通ります! 雷系の技が有効ですので、使える方はお願いします!」

 

 うーん、ガンブレード欲しいな。

 カニが爪を振りかぶる。

 リノアの武器はブーメランである。

 流石に、犬はいないみたいだけれど。

 イメージは飛来骨な感じだけれどね。

 

『力の根源たる俺が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に雷の衝撃を与え給え!』

「ツヴァイト・サンダーブリッツ!」

 

 俺は必殺技のために、手に雷を纏う。

 

「ツヴァイト・ウインドショット!」

 

 リーシアが魔法を放つが、あまり聞いていない様子だ。

 俺が槍に雷を纏わせると、赤黒い色に変わる。

 

「必殺! 雷大旋風!」

 

 攻撃が命中すると、バチバチと言う音とともに大ダメージが入る。

 なるほどな、俺なら結構簡単に倒せそうである。

 当然ながらカニの攻撃目標が俺の方に向く。

 ツメの攻撃がくるので、俺は槍で上手く受け流す。

 

「ツヴァイト・ファイアショット!」

「ツヴァイト・ウインドブラスト!」

 

 魔法攻撃も飛んでくるが、カニは俺を攻撃してくる。

 それにしても、燻製と樹は何をしているのだろうか? 

 

 俺は防御無視の十卦モードに変形させる。

 お、必殺技が使えそうである。

 

「必殺! カズィクル・ベイ!」

 

 どうも、必殺技の名称というのは俺の知識から命名されるっぽかった。

 カズィクル・ベイを宣言すると、俺は地面に槍を突き刺していた。

 すると、魔力で構成された槍がカニの足元から生えてきて、突き刺し、多段ヒットのダメージを与える。

 召喚した槍は血濡れの槍であり、形状は異なれど禍々しい槍であった。

 

「何ですか、そのスキルは?!」

 

 それに樹が驚いている。

 うーん、血を吸う事によって発動する必殺技一つかな? 

 槍を見ると、槍の穴に溜まっていた血が消費されているのがわかる。

 なるほど、『ブラッドチャージ』はあの禍々しい必殺技を発動するための血を集めるためのスキルなのだな。

 

「串刺し公の必殺技を再現しただけだ」

 

 俺としては、この技はカーススキルに似て非なるものじゃないかと思うんだよね。

 樹の犯されたカースを元康が発動した場合に発動しそうな感じ。

 俺の場合は代償は槍に溜まった血だろう。

 

 ガズィクル・ベイで負ったダメージで身動きが取れなくなるカニ。

 だが、HPはまだまだ十分に残っている。

 樹と燻製以外のメンバーが総攻撃を仕掛ける。

 前衛は樹に着いていったレジスタンスと俺しかいないのが残念であるが。

 シーフは撹乱しつつ、魔法攻撃をしてくれている。

 あ、リーシアは遠距離で魔法を唱えさせている。

 あいつ、弱いけれど全ての魔法が唱えられるからね。

 しかし、リノアのブーメランでの攻撃ってちゃんと効くんだな。

 当たったら戻ってくるようで、それを受け取りまた投げると言うのを繰り返している。

 総攻撃でだいぶダメージを受けたカニ。

 そろそろトドメを刺そうと俺が構えると、樹達が動き出した。

 

「わはははは! 喰らえ! ワシの斧!」

「サンダーシュート!」

 

 燻製が俺やレジスタンスの人を押しのけて攻撃を始める。

 カニは動けなくなっており、燻製の攻撃は普通に命中する。

 そして、樹の矢の一撃で大ダメージが入り、カニはスクラップになった。

 

「……」

 

 経験値は入らなかった。

 うーん、この。

 ラストアタックだけを綺麗に掻っ攫っていった感。

 リノアは唖然としており、レジスタンスの人も驚いていた。

 これが、勇者様かぁ……。

 何だかなぁと思わずにはいられなかった。




今回のシナリオの大元がFF8のパロです(´^ω^`)


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【高難易度】ブラッド・ウィドウ2回戦

 唖然としていても仕方ない。

 とりあえず、その要人と話す事にした。

 髪の毛がボーボーの男性がいた。

 

「あんたが、レジスタンスの要人か?」

「え、ええ。私はジル、ジル=ドゥレイと言います。助けていただき感謝致します」

 

 ジル・ド・レェか……。

 登場人物はオルレアンで、この国はガルバディアかよと突っ込みたくなるな。

 いや、例えやすいから良いけどさ。

 

「この方は、元騎士団の中将さんで、レジスタンスに協力してくださっている騎士団の統率を行なっていた方よ。ジル中将、お久しぶりです」

「ええ、リノアさんもご健勝のようで何よりです。事情はイツキさんから聞いています」

 

 なるほどね。

 リノアが信用していると言うことは、信用できる奴なのだろう。

 それに、重要参考人として捉えられていたのだ。

 あと、『イツキさん』と言ったと言うことは、樹は身分を隠したままらしい。

 

「他に重要参考人として捉えられている奴は居ないのか?」

「他は、処刑されたり、コロシアムに連れて行かれたりしました。我らがジャンヌ様も、コロシアムに10日ほど前に連れていかれています」

 

 と言うことは、ここで助けるべきはジル中将のみと言うことだろう。

 

「了解だ。今は囚人達が収容所内で暴れまわっている。その騒ぎに乗じてここを脱出するぞ。逃走経路は確保してあるから、俺たちについてきてほしい」

「わかりました。えーっと……」

「ああ、俺は菊池宗介だ。一応冒険者だ」

 

 俺が名乗ると、ジル中将は驚きの声を上げる。

 

「ええ??! 隣国で指名手配されている《首刈りの》ソースケですか?!」

 

 やっぱり、俺の悪名は轟いているらしい。

 

「あー、まあ、そうだ。お前らの味方だから、心配しなくても良いぞ」

「こ、これは確かに頼もしいですね……」

 

 ジル中将の驚き方に、リノアが納得していた。

 

「なるほど、ソースケは《首刈りの》ソースケだったわけね。ならあの強さは納得できるわ」

 

 リーシアはわかっているせいか、驚きはない。

 

「ま、そう言うことだ。訳あってお前達に協力している」

 

 俺が説明すると、訝しむような目で俺を見る。

 そんなに疑われても困るのだがな……。

 不意に視界の隅でカニが動いた気配がした。

 

「皆さん、撤退しますよ!」

 

 樹が急にそう指示をしつつ、逃亡を始める。

 それに燻製、シーフが続く。

 他の連中は訳がわからず、とりあえず樹の後をついて行く。

 俺はふと振り返ると、カニのHPバーが回復している事に気付いた。

 

「なっ?!」

 

 俺を殿(しんがり)に全員が転送魔法陣の部屋を出ると、後ろからガシャガシャと言う足音が響いてくる。

 そして、部屋の壁をぶち破って追いかけてくる。

 ミサイル基地の追いかけっこイベントじゃねぇか! 

 

「とりあえず、逃げます! 道中遭遇したら撃退して機能停止させます!」

「わ、わかりました! イツキ様!」

「なんだ! あのゴーレムは?! もう倒したのは3度目だと言うのに!」

「ふえぇぇぇ!! おそらく再生機能があるゴーレムですぅ!」

 

 慌てふためく樹組。

 

「きゃああああ! ちょっと、怖いんだけど! ソースケ、なんとかして!」

「ひええええええ?!?!」

「あれは重要な囚人が逃亡した時に確実に殺すためのゴーレムです! 急いで逃げてください!」

 

 レジスタンス側も慌てている。

 流石に、巨大なカニが追っかけてきているせいか、騎士達も囚人達も逃げる。

 

「うわああああああ!」

「ブラッド・ウィドウが出ているぞ! 皆避けろおおおお!!」

「ぎゃああああああああ!!」

 

 避けきれずに跳ねられる騎士や囚人達。

 俺としてはまさにFF8をリアルで体験している気分だ。

 と、カニが足に力を貯める。そして、飛んだ。

 

「飛んだ?!」

 

 天井を破壊して、カニは俺たちの進行方向に着地する。

 

「戦闘です!」

 

 樹が立ち止まり、弓を構える。

 カニがバンバンと、両脇に装備された銃から鉛玉を飛ばす。

 燻製に命中して、情けない悲鳴をあげた。

 鉛玉って?! 

 

「おい、銃あるのかよ!」

「アレはフォーブレイで開発されたゴーレムです!」

「なるほどな!」

 

 ジル中将の解説に納得する。

 アレは、おそらくタクトの野郎が開発した兵器の一つなのだろう。

 何故、カニかはわからないがな。

 俺は前に出て、前衛をする。

 先ほどの銃で撃たれた燻製が悶絶していた。

 

「痛いいいいいいいいいいいい!!」

 

 ツメが燻製に迫るのを、俺は槍で受け流す。

 

「ツヴァイト・サンダーショット!」

 

 リーシアが魔法を放つ。

 サンダーショットはさすがに効きがいい。

 

「たああああ!」

 

 リノアがブーメランで殴る。

 バババババババババっとリノアに向かって音を立てて、銃が放たれる。

 え、連射できるの?! 

 

「複式連射砲ですね。まさか実装されているとは……」

「ガトリングガン?!」

「人間が扱っても、大した威力になりませんが、強いゴーレムが使うとここまで脅威になるのですね」

「ふえぇぇ……。ジル中将って物知りなんですね」

 

 リーシアが感心した声を上げるが、感心している場合ではなかった。

 ガシッとレジスタンスの人が掴まれる。

 そして、口の部分に付いているヤバそうな装置でガリガリやり始めた。

 

「ぎゃあああああああああ!!!」

「やばい!」

 

 俺は槍を十卦モードにして防御無視を発動させて、ツメと口元を攻撃する。

 ダメージを負ったせいか取り落としたが、攻撃力が足りなかったため切断できなかった。

 俺は落下したレジスタンスを掴んで、後方に投げ飛ばす。

 

「酷い!」

「うぅ、削れてる……!」

「ファスト・ヒール!」

 

 後ろから阿鼻叫喚が聞こえるが、それどころではない。

 なんて凶悪な性能のカニだろうか! 

 俺は捕獲されないように回避しつつ、攻撃を受け流し、ガトリングを回避する。

 不意に目が赤く煌めいた。

 

「ジル中将!」

「任せてください!」

 

 樹がジル中将を蹴ると同時に、カニからレーザーが発射された。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 遠くで断末魔が聞こえる。

 見ると、騎士の一人に命中して穴が開いていた。

 おい、こいつのレベルはどうなってやがる! 

 レベル80行っているんじゃないのか?! 

 

「サンダーアロー!」

 

 樹の雷を纏った矢が命中して、バリバリと電流が走る。

 

「必殺! 乱れ突き!」

 

 俺は本体に突きのラッシュを放って、ダメージを与える。

 直槍モードでもダメージは通るので、レベル60ぐらいか? 

 

「チッ!」

 

 俺は目の部分が赤く輝くのを見て、飛びのく。

 レーザー照射は発生がわかりやすいので回避はそこまで難しくない。

 レーザー着弾位置を見ると、当たった部分の床が溶けて穴が開いている。

 

「リノア! 目を狙え!」

「任せて!」

 

 リノアが投げたブーメランがレーザー発車用の目向かって飛ぶ。

 しかし、ツメでブーメランを弾き返した。

 このカニ、意外に頭いいぞ! 

 

「イーグルピアシングショット!」

 

 樹の放った矢が、鷹の形を象る。

 web版でしか披露しなかった、防御貫通の矢である。

 カニはツメで防御するが、それを貫通して目に直撃した。

 パアンと目が破裂する。

 

「さすがイツキ様!」

 

 感銘を受けるシーフ。

 だが、あと一本レーザーを発射する目が残っている。

 

「必殺! 疾風突き!」

 

 俺は飛び上がり、技を放つ。

 超光速で放つ突きで、レーザー発射の目を潰す。

 

「ぬおおおおお!」

 

 ダメージから復活した燻製がダメージを与えて、ようやくカニのHPが0になった。

 またもや経験値を取得できなかった。

 

「機能停止した今のうちに逃げますよ!」

「わかりました!」

 

 俺たちは再度、カニから逃亡する。

 もちろん、カニは復活して俺たちを追いかけ始めたのは言うまでもなかった。




FF8の要素を色々と混ぜてますよ。
ミサイル基地、ドリル収容所にドールの追いかけっこイベントですね。
次回で決着かな?


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【高難易度】ダッシュツカンリョウ

投稿が遅れて申し訳ないです!


 バババババババババ! 

 ガトリングの発射音が鳴り響き、俺たちは回避しながら脱出経路を進んでいた。

 今は俺が先頭に立ち、逃走経路を走っている。

 そして、カニは壁をかき分けて俺たちを追ってきていた。

 しかし、あのカニ倒せば倒すほど強化されている気がする……。

 今もチラリと見ると、さらに武装が解放されていた。

 なんかやばそうなカマが追加されているし、切り刻まれた囚人が「ぎゃああああ」とか叫びながら吹き飛んでいく。

 致命傷じゃないからか、HPが残っているからか、細切れになっていないのはポイントだろう。そこはステータス魔法様様である。

 俺の世界ならば、あれは輪切りになっている。

 ちなみに、俺が首を切っても切れない場合もある。HPが残る場合である。

 首刈りって多段ヒットするみたいだから、HPが普通だと残らないんだけどね。

 

「おい、樹! いつになったらアレ討伐できるんだ?」

「この城から出たところで仕留めます! 回数も4回目ですし、城から出ることによって再生力が落ちますからね。ここでコアを破壊します!」

「なるほどな! そういうのは先に言ってくれない?」

「いきなりネタバレとか味気ないではないですか」

 

 ああもう! 

 なんでコイツはゲーム脳なんだ! 

 命かかってんのにな! 

 勇者だから死んでも教会で復活できるってか?! 

 樹は楽しそうな表情をしている。

 まるでゲームでも楽しんでいるかのようである。

 

 最後の扉を開けて、俺たちは外に出た。

 ちょうど、侍達も待機していた。

 

「おお、イツキ様!」

「皆さん、敵が来ますので、戦闘準備です!」

「! わかりました!」

 

 侍達が、俺とリーシア以外に装備を渡す。

 燻製はいつもの鎧に着替えた。

 

「チッ!」

 

 俺は詰所に入り、素早く鎧を着替える。腰にクロスボウを装備し、小手を装備した。

 そうしている間にも、城の壁がドン、ドンっと音を立てる。

 その衝撃が伝わってくるので、焦っているわけである。

 俺が、樹達のところに戻ると同時であった。

 壁が破壊され、カニが這い出てきた。

 

「皆さん、全力で行きますよ!」

「「「はい!」」」

 

 樹達のパーティが戦闘態勢に入る。

 燻製、侍、戦士、シーフが前に出て、次に魔法使い、一番後ろに樹の並びだ。

 あれがいつものフォーメーションなのだろう。

 リーシアは……詰所で荷物回収してたっけな。

 まだ、リーシアは俺のパーティである。

 

 フルメンバーになった樹組は確かに連携が取れている。

 燻製、侍、戦士の3人ががむしゃらに責めるのでタゲが分散し、タゲが誰かに寄り過ぎたら樹が狙撃をしてタゲを逸らす。

 シーフはいい感じに撹乱しており、攻撃魔法と支援魔法でバックアップをしている。

 魔法使いは、火力支援と回復魔法で前衛を支援している。

 あー、確かにリーシアの入る隙は無さそうなパーティ構成なんだなと、戦い方を見て思う俺であった。

 

「カニは樹達に任せて良さげかな?」

 

 俺がそう言うと、リノアはうなづいた。

 

「そうね、私たちは収容者たちの誘導をしましょ」

 

 ちなみに、ジル中将は樹の隣にいる。

 あのカニはジル中将を狙っているので、正しい判断だろう。

 独善でもやるべき事はちゃんとやるのが樹なのだろうな。

 燻製は独善でやるべき事はやらないから死ねとしか思わないんだが。

 

「樹! 入り口から誘導できないか?」

「レジスタンス達が出るためですね、わかりました。皆さん、少し移動しますよ」

「「「はい、イツキ様!」」」

 

 樹に指示をすれば、言うことは聞いてくれるので助かる。

 さて、俺たちがレジスタンスの連中を誘導していると、アーシャが居るのを見つけてしまった。

 服装は、前のエロい格好ではなく他の囚人達と同じ普通の格好をしている。

 気づかれないように移動しようとしたら、どうやら気づかれたらしい。

 

「あ、ソースケ様!」

「うげ!」

 

 とっとっとと小走りで俺の所に来る。

 

「この度はありがとうございました」

「気にするな。早く行ったらいい」

「せっかく知り合ったんですし、お供したいです」

「全力でお断りだ!!」

 

 性欲女を近場に置いておくとかそれは嫌である。

 ヴィッチでも無いし、転生者でも無い感じなのになんなんだコイツは! 

 

「実は、私はレジスタンスのスパイなんですよ? この収容所の事について資料をわかりやすい位置に置いたり、色仕掛けで情報を引き出したりしていたんですよ!」

 

 性欲女は俺に褒めて欲しそうに暴露する。

 確かに、リノアに探させた時は重要そうな資料がかなりあっさりと見つかったわけだが、そう言うことだったのか。

 

「いや、そうなんだ、それは助かった」

「あの時はいきなり首が飛んだので、びっくりしましたけれどね」

 

 ピッタリとくっついてくる性欲女。

 ハニトラっぽい感じがして俺は警戒度を上げる。

 

「警戒しなくて良いですよ! 私は味方ですから。あの容赦なく首を綺麗に切りとばす姿と言い、あの暗殺術に惚れただけです!」

「こえーよ! そんなに元気ならレジスタンスの誘導を手伝えよ!」

「えぇー。まあ、仕方ないです。私はソースケ様に嫌われたく無いですしね。ではまた」

 

 渋々と言った感じで離れる性欲女。

 そのまま帰ってくるなよな、ぺっ。

 

「……ソースケも変な奴に目をつけられたものね」

「全くだ」

 

 俺はリノアに同意した。

 結局、樹達がフルメンバーならば、あのカニはちゃんと倒せたようであった。

 トドメは樹が刺したのか、ゴーレムのコアを樹が弓に吸わせていた。

 銃はゴーレム用のせいでウェポンコピーは出来なかったらしいがな。

 なんだかんだで内部の機構を見せてもらったが、やはりと言うか機械工学的な物と魔法のハイブリットで出来た代物であった。

 

 俺たちはラインハルトさん達の合流を待って、ジャンヌの居るコロシアムに向かうことになったのだった。



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【高難易度】ポスト・プロセス

「これで、レイシュナッド収容所は攻略完了ですね」

 

 カニを仕留めた俺たちは、騎士団の連中をレジスタンス達と共に締め上げていた。

 収容所に駐在している騎士団や所員の人数と比較すれば、囚人の数が圧倒的に多いのだ。奴隷紋という縛りがなくなった以上、殲滅するのにそう時間がかかることはなかった。

 ちなみに、ガチ犯罪者については牢屋に閉じ込めたままにしてある。

 収容所に侵入してから3時間程度しかかかっていなかったが、あっという間に収容所を占拠出来ていたのが行幸だろう。

 

「わっはっはっは! ワシらに感謝するが良いぞ!」

 

 燻製は得意げに高笑いをしている。

 目の前にはリンチされた騎士団や所員が縛られている。

 まるで自分の手柄みたいに言っているが、今更である。気にしたら負けだろう。

 解放られたレジスタンス達により、収容所の罠とかは解除されたので収容所の中を問題なく探索できるようになった。

 まあ、俺は興味がないから良いけど。

 

「いや、しかし冒険者様達の活躍で、かなり素早く攻略できました」

 

 お腹を削られて重症だったレジスタンスが回復薬のおかげで回復したらしく、朗らかに笑いながら樹に感謝を伝えている。

 ま、さすがは世界を救う勇者様だな。

 

「いえ、僕たちの使命なので、当然のことをしたまでです」

 

 樹本人は影から賞賛されることが好きらしく、嬉しそうに賞賛を受け入れていた。

 

「……ほんと、イツキって何者なのよ?」

「あー、本人は言いたがらないが、アイツ弓の勇者だぞ」

「え?!」

 

 リノアが困惑する。

 

「……確かに強いけれど、なるほどね。でも、勇者様ならあんなに弱いのはおかしいわよ。七星勇者様ですら召喚されてすぐでなければ相当強いのに……」

「あー、樹は正体隠して正義の味方をするのが好きなやつだからな」

「……は? 頭おかしいんじゃないの?」

 

 現地の人……メルロマルクじゃないまともな人から見れば、そうなのだろうな。

 

「確かに、弓の勇者様は正義を司る勇者様だけれど、それはおかしいわ。一体何がしたいのよ!」

 

 リノアは頭を抱える。

 こう言う思考の子が勇者に一人でもついていればまともになったんじゃないだろうか? 

 もう出来上がってるから遅いが。

 

「召喚されたのがメルロマルクだったからな」

「うーん、確かに盾の勇者様が迫害されていると言う話は聞くけれども、弓の勇者様がここまでおかしい思考回路になっているなんて異常よ。それに、メルロマルクで一斉召喚だなんてのもおかしな話だわ」

 

 リノアはため息をつく。

 

「弓を持っているからって勇者様って期待したけれど、あんまり期待できなさそうね。それなら、ソースケの方を期待したほうが良いわ。強いのはわかっているしね」

「あまり期待されてもな。一応アレでも、勇者様だけあって俺よりも強いしな」

 

 しかし、秘密主義も大概にしてほしいものである。

 カニは転移魔法陣のところで倒すと言う話だったのだけれどな。

 どうせ問い詰めても「ネタバレは良くありませんからね」と言われるに決まっているので、樹に展開を聞くのはやめたほうが良いかもしれなかった。

 

「……まあ、戦力になるなら私たちとしては構わないけれどね。ジャンヌさんも助けないといけないし、マリティナも打倒しないといけないし……」

 

 ま、あんまり将軍様を責めても仕方ないだろう。

 俺は話を変えることにした。

 

「で、次はコロシアムだが、ラインハルトさん達と合流してから攻めるんだったよな?」

「ええ、そうよ。ジル中将が戦える人たちを集めて、武器や鎧を配っているところね」

 

 つまり、解放した人たちを戦力としてそのまま加えると言うことである。

 まあ、それが目的の作戦だったわけだし仕方ないだろう。

 コロシアム攻略が完了すれば、いよいよ

 マリティナの攻略である。

 どう考えても、マリティナはメガヴィッチの分霊だ。

 すなわち、波の尖兵共を皆殺しにする必要がある。

 あの白い奴が出て来なければ良いんだがなぁ……。

 ボコボコに叩きのめしたが、生きている筈だ。

 もちろん、タクトに殺されていなければだがな。

 

「ソースケくん、リノアくん!」

 

 と、樹についていたレジスタンスの男性がこちらに走ってきた。

 

「どうしました、レイノルズさん」

「そろそろコロシアムに向かうことになるからね。馬車の準備も出来たから、君たちも準備を完了させてほしいと思ったんだ」

「わかりました。それじゃあ行こうか、ソースケ」

「はいよ」

 

 俺たちは、待たせていたラヴァイトの所に戻ることになったのだった。

 

 コロシアムまでおよそ半日はかかる。

 それに、王都に近いので、コロシアムでジャンヌを奪還したら、すぐに王都に向かうことになる。

 コロシアム攻略までに何時間かかるかわからないが、1日もあれば王都まで報告が行くだろうとの事であった。

 今回重要施設が落とせたのは大きいだろうとレジスタンスの男が興奮気味に言っていたので、果たして成功するやらといった感じである。

 

 そんな感じで、俺たちはすぐにコロシアムに向かって移動を開始したのであった。




アンケ結果で次の話を決めます。


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【高難易度】コロシアムにイクゾー

デンデンデデデデン(カーン


 それは少女の決意だった。

 突如発生した悪の王女マリティナに呼応するかのように、ひとりの女性が立ち上がったのだ。

 叛逆の狼煙を上げた、幼い少女はアルマランデ小王国の国旗と、決意を秘めた剣を腰に携えて戦った。

 果たして、その先に待ち受けるのが死であったとしても、少女は叛逆の旗を降ろすことはなかったのだ! 

 例えそれが、悪虐の女王を楽しませるためだけにあるコロシアムで、自分よりもレベルの高い魔物と戦うことになったとしても、彼女は決して旗を降ろすことはなかった。

 すでに体はボロボロで、満身創痍の身でありながらも、彼女は民草のために、旗を掲げ続けていた。

 

 

 翌日、俺たちはコロシアムのあるセヌティスに到着していた。

 すでに道中でラインハルトさん達と合流は完了していた。

 制欲女がラヴァイトの馬車に居たのは、残念ながら気のせいではなかった。

 アーシャ曰く、

 

「私はこれでも元影です。仮でアーシャと名乗っていますが、私には本名はありませんよ」

「だからなんだ」

「ソースケ様のお役に立つこと請け合いです!」

「いや、要らないから!」

「もちろん、夜のお相手だけでも構いませんよ!」

「擦り寄ってくんな!」

 

 という事らしい。

 正直、この上なく邪魔である。

 肉食系女子は俺は好きではないのだ。

 特に何かされたわけでもないけれどもな! 

 今は、リノアが引き剥がしてくれているので非常に助かる。

 

「ここが、コロシアムのある街ねぇ」

 

 俺はセヌティスの入り口を見てそう感じた。

 何というか、悪趣味な街並みである。

 レジスタンス部隊は潜入するために、先行部隊を残して近くの村で待機しているのだ。

 樹を始めとした冒険者に、ラインハルトさんの小隊と人数が多くなりすぎないようにしている。

 樹組はリーシア以外でパーティを組んでおり、リーシアは俺の方に派遣されていた。

 俺の方はレジスタンスの男とリノア、性欲女にリーシアと言うなかなかにカオスなメンバー構成になってしまった。

 ラインハルトさん達も5人のメンバーで情報収集を行う様子である。

 

 リーシア見事に厄介払いされちゃってるよなぁ……。

 リーシアには申し訳ない感じだ。

 

「ふぇぇ、イツキ様に信頼されている証です! 私、頑張ります!」

 

 とは言っていたが、やはり心配ではある。

 ここまで関わった以上逃げるなんてできはしないんだがなぁ……。

 

 セヌティスは本当に気持ちの悪い街であった。

 至る所にマリティナ……豪勢なドレスで着飾った悪女の石像が並んでおり、中心には金のマリティナ像が鎮座している。

 マリティナの権力の象徴のような街なのだろう。

 

「この街は、元々歓楽街だったの。王都の貴族達が遊ぶためのね。もうちょっとうるさくない感じだったけれども、この有様よ」

 

 とはリノアの言である。

 

「さて、じゃあ情報収集かな?」

 

 俺がそう言うと、ずいっと出てくるアーシャ。

 

「ならば私に任せてください、ソースケ様!」

「様をつけるな!」

 

 俺は鼻をつまむ。

 

「呼吸がしにくいです、ソースケ様。どうせならお尻を叩いてほしいです!」

「やめんか!」

 

 扱いにくいわ! 

 しかし、元影ならば情報収集はお手の物……か。

 

「じゃあ、裏の方を任せていいか? 今日中に集まる範囲でいい。集合は、あの大通りの宿屋に泊まる予定だから、そこで」

「わかりました! まずはソースケ様に信用してもらえるように頑張りますね❤️もちろん、ご褒美は……」

「ダメです」

「……うぅ、とりあえず頑張ってきます」

 

 そう言うと、アーシャはシュンっと消えた。

 その身体能力はさすが影ということか。

 まったく、せいせいしたな、うん。

 

「さて、それじゃあ俺たちも表の方の情報収集と行きますかね」

「……けっこう雑に扱うのね」

「ふえぇぇぇ」

「……羨ましいな」

 

 性欲女の扱いなどこんなものでいいだろう。

 

「じゃ、先ずはコロシアムに行くか」

「そうね……え?」

「ふえぇぇ?!」

 

 俺がそういうと、二人が驚く。

 レジスタンスの男も反対する。

 

「いきなりコロシアムに行くなんて、死にに行くおつもりですか?!」

「ちょっと、殴り込みに行くには早すぎない?」

 

 何を言うか。

 

「ああ言う施設ってのは、VIPと一般客の区別が明確にされているものだ。俺たちは一般客として、コロシアムがどんなものかを視察するんだ。だから全く問題ないよ」

 

 俺はそう言って、店に入る。

 チケット売り場と書いてあるから間違いないだろう。

 

「すみません、一般チケットを4枚ください」

「あいよ。当日券かい?」

「ええ、それで」

「なら、銅貨120枚だよ」

 

 俺は銀貨1枚と銅貨20枚を出す。

 

「メルロマルク通貨だが大丈夫か?」

「ふーん、まあ、構わないさね。どうやって入ったかは知らないけどね」

「刺激的なコロシアムがあると聞いてね。ゼルドブルから戻ってきたのさ」

「なるほどね。はいよ、チケット4枚だよ」

 

 そんな感じで俺はサクッとチケットを購入する。

 

「ほら、チケットだ」

「……アンタ、口先だけで生きていけそうね」

「これも身につけた技だ。気にするな」

 

 リノアはため息をついて、チケットを受け取る。

 リーシア、レジスタンスの男にも手渡す。

 

「……見事なお手並みで」

「ありがとさん」

 

 俺たち一行は、コロシアムに乗り込むことになったのだった。



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【高難易度】バトルコロシアム

 コロシアムは俺の想定通り、VIPと一般客の経路が完全に分断されている作りになっていた。

 俺たちは普通に並んで、普通に観客としてコロシアムに入る。

 それで普通に入れたのだから、一般客に対する警備体制はガバガバである。

 見せしめ的な意味もあるのだろうけれどね。

 逆らったらお前らもこうなるんだ、的な意味でね。

 

 コロシアムは、中央が闘技場、両端に魔物が通る程大きい入場口があり、それを取り囲むようにぐるりと一般席がある。その上にはめ込みガラスで囲われたVIP席があり、一部が豪華な感じになっていた。

 チラリと見ると、側近と思わしき尖兵が待機している。

 そして、そこにある椅子はまるで王の座る椅子であった。

 あそこにマリティナが座るのだろう。

 闘技場の4角にはマリティナの像が設置されている。

 

 いや、なかなかに悪趣味だなこれは。

 

 人々は賑わっており、娯楽としての機能も果たしていそうである。

 一般席は一人30銅貨と言うお手頃価格だしね。

 しかし、今日に限って言えば超満員である。

 

「おい、今日は何かのイベントか?」

 

 俺が隣の席に座っているやつに話しかけると、興奮気味に答えてくれる。

 

「お前知らずにきたのか? ああ、旅人か。なんでも、重罪人同士を殺し合わさせる新しい試みをされるそうなんだ。それで、賭けが盛り上がっているのさ。それに、この街に住む連中は必ずこの戦いを観るようにとのマリティナ様の御達しなんだぜ」

「ふぅん、なるほどな。ありがとうな」

 

 俺は情報料がわりに銀貨1枚を渡す。

 

「え、くれるの? わりぃな」

 

 ちなみに、対戦カードは事前にわかっている。

 ジャンヌvsレジスタンスの連中である。

 決着はどちらかが死ぬまでとなっている感じだ。

 マリティナから益を享受している連中にとっては見せしめであり娯楽なんだろうな、と思う。

 安全圏であるからこそ、楽しめるのだろうなと俺は感じた。

 

『さて、諸君!』

 

 コロシアムに声が響く。

 見上げると、銅像の女……マリティナが偉そうに立っていた。

 奴が居るのは例の王座の部屋である。

 まさに高みの見物だろう。

 気づけば、VIPの観戦席も人が歓談しながら見ていた。

 マリティナ派の貴族だろう。

 しかし、マリティナを見た瞬間に、心に黒いドロッとしたものが溢れてくる。

 声を聞くだけで、何かの呪いを発しているんじゃないかと思えるほどである。

 

『今日は諸君らに素敵なものを見せることになった! 愛らしく、強い剣闘士ジャンヌ=ダルクと人間の殺し合いだ! 魔物との殺し合いとは違って、楽しめる事は間違いないだろう』

 

 普通に美声の筈なのに、俺には耳が腐るような声にしか聞こえなかった。

 まさに、汚物・オブ・汚物だろう。

 さっきから感じていた殺意レーダーは奴を指していたのだ。

 

『さあ、殺し合いをお楽しみください。極上の狂気と悲鳴をご用意しています!』

 

 マリティナが宣言するとともに、角笛が鳴り響く。

 そして、巨大な扉が開き、それぞれ女性と男性が剣とバックラーのみを装備して舞台の上に上がる。

 

『さて、つまらない小細工が入らないように、それぞれ命の他に奪われたくないものを賭けている。ジャンヌは母親、ガインはそこに張り付けてある妹の命だ!!』

 

 胸糞悪い奴だ。

 遠くて見えにくいが確かに、女の子が貼り付けにされている。

 こちら側は、母親らしき女性だ。

 

「ジャンヌぅぅ!」

 

 マリティナの宣言に、コロシアムが歓声に包まれる。

 流石に人間無骨とクロスボウは持ち込めなかったので、手元にある剣だけで解決する必要があるな。

 

『では、始めよ!』

 

 殺し合いが始まった。

 

「ガインって、あのガインさん?! こんな、ひどい! ソースケ、助けなきゃ!」

 

 リノアが反応する。

 確かに、助けるべきである。

 だが、よく考えれば今すぐに動くわけにはいかなかった。

 奴隷紋のオーナーが誰かわからない、あの人質をどうやって助けるかもわからないのだ。

 

「……皆殺ししかないかな」

 

 俺はそう呟くと、立ち上がった。

 

「ソースケ?」

「リノアはリーシアやえーっと」

「レイノルズです」

「そうそう、レイノルズさんと一緒に人質が救出できないか調べておいてくれ」

「ソースケはどうするの?」

「皆殺しだ」

「え?!」

 

 そう、俺は置いてきた人間無骨+を取ってきて、VIP席側に侵入して皆殺しにするつもりだった。

 誰が奴隷紋オーナーかわからない以上、皆殺しする以外にないだろう。

 あの格闘家の尖兵やもう一人強力な波の尖兵がいるようだが、知ったことではない。

 こんな残酷な事を見過ごせるほど俺は人間ができてはいなかった。

 

「待って、ソースケ。私も行くわ」

 

 リノアがそう言うが、俺は手で制した。

 

「悪いが、それこそクラスアップでもしていない限りは足手まといだ。人質を解放する方を考えて欲しい」

「でも……」

「大丈夫。どうせ俺が暴れ出したらアーシャも出てくるだろうしな」

 

 正直言うと、これから俺が作る地獄をリノアに見せたくないと言うわがままである。

 俺はもう、堕ちるところまで堕ちたが、リノアはまだ堕ちていない。

 人間の命と言う重りを担がせるわけにはいかないだろう。

 

「……やっぱり私も行く」

 

 ぬーん、どうしよう。

 好きにしろとは言えないしなぁ。

 

「いや、だから……」

「ソースケが暗殺するのは見ているわ。だから大丈夫よ」

「どこがだ」

 

 俺とリノアの押し問答に、レイノルズさんが割って入る。

 

「時間がありません。20分程でしょう。その間に我々はやるべきことをやらなければ! リノアさんとソースケさんが奴隷紋の対処を、私とリーシアさんで人質の救助ができないか、探ります。良いですね?」

 

 そこまで言われたならば、俺が引き下がるしか無かった。

 

「わかった。リノア、地獄を作るが後悔するなよ?」

「任せて!」

 

 やれやれ、仕方ない。

 俺はリノアと共に、コロシアムの会場を抜け出たのだった。




樹達は樹達で、ジャンヌを救うために動いています。
ただし、救うのはジャンヌのみですが。


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【高難易度】ダンジョンマスターユータ

「さて」

 

 俺はVIP席入り口で槍を構える。

 俺の後ろにはリノアと、切り刻み、引き裂いた兵士の死体が転がっていた。

 

「皆殺しの始まりだ!! リノア、離れるなよ」

「う、うん。わかったわ……」

 

 俺は次から次へと襲ってくる兵士を、片っ端から殺していった。

 襲ってこない奴は無視だが、襲いかかってくるイコール死にたいという事だ。

 心臓を突き、胴体と下半身を泣き別れさせ、首を刎ねる。

 剣を持っている手を切断し、弓を打ってくる奴の目をクロスボウで撃ち抜く。

 頸動脈を切り裂き、喉を潰し、頭蓋をかち割る。

 俺の通った後は血溜まりと肉塊の地獄が出来上がっていた。

 

「ふふふ、ふはははは、あはははははははははは!!」

 

 楽しい楽しいタノシイ! 

 まさに、俺に取ってのボーナスステージである。

 斬首、斬首、斬首、斬首、斬首!! 

 騎士団全員を皆殺しにすべく、俺は殺して回る。

 当然ながら、恐れおののき命乞いをする連中には、命の対価として情報を提供してもらう。

 だが、後ろから撃とうという魂胆が見え透いている奴は容赦なく殺すがな。

 

「そ、ソースケ?」

「どうした、リノア」

「やり過ぎなんじゃ……?」

 

 リノアの顔色は青い。

 地獄を作ると言った以上は俺は辞めるつもりはないがな。

 さて、ついにVIPルームに到着した。

 

「な、なんだ貴様!」

「俺はぁぁ、死だぁぁ」

 

 見張りの二人は抵抗する間も無く、俺に殺された。

 

「ふん!」

 

 俺はVIP観戦ルームの扉をけ破る。

 バンっと大きな音を立てて、俺は乗り込んだ。

 

「な、なんだ貴様は!」

 

 ドスっと音を立てて、貴族っぽいブ男の頭にクロスボウの矢が突き刺さる。

 お、突き刺さったが息があるようだ。

 この辺りはステータス魔法の恩恵なんだよね。

 HPが残っていれば、よほどの状態ではない限り生き残ってしまうのだ。

 俺が殺した中にも、上半身と下半身を分断したにも関わらず息があった奴もいた。

 俺の攻撃はHPを削りきらなかったが、切断に至ってしまったパターンである。

 状態異常の切断になって、スリップダメージで結局死ぬけれどな。

 

「さて、全員殺される覚悟はできたか?」

 

 俺は歪な笑みを浮かべていたと思う。

 この醜い連中が、絶対安全から一転して、殺されるかも知れないと言う恐怖に変わった時の絶望の顔が見れて、俺は非常に心が踊った。

 

「では、死ね」

 

 次は、VIPの会場で屍山血河を築きあげる。

 この醜い連中は、波の尖兵と同様に醜い心の持ち主だ。

 メルロマルクなら忖度するが、ここはメルロマルクではない。

 

「ソースケ、その人は殺してはダメ!」

「あいよ」

 

 リノアの指示があった人物を残して俺は殺害する。

 残した人物はレジスタンス側の人間らしい、と言うのを後で聞いた。

 

「お、お前は何だ! お前はああああ!!」

「俺はぁぁ、死だぁあぁぁ……!」

 

 何気に気に入ったセリフだったりする。

 中二病再発だけれど、実際死を築き上げている俺は、連中にとってはまさに【死】だろう。

 目の前の豚を三枚におろす。

 

「何事だ!」

 

 と、波の尖兵様がご到着になられたようであった。

 ソイツは俺が作り出した地獄に顔をしかめると、剣を抜いた。

 

「き、貴様がやったのか?!」

「ん、ああ、そうだが?」

 

 俺がスマイルをすると、取り巻きの女達が後退りをする。

 

「む、無辜の民を虐殺するなんて許されない!」

 

 ソイツは俺を指差してそう宣言する。

 

「この、ユータ=レールヴァッツがお前の悪魔の所業を止めてみせる!」

 

 ん? 

 今何つった? 

 

「はあああああ!」

「「「頑張って! ユータ様!」」」

 

 眠くなる剣だ。

 俺は片手でヒョイっと力を流してやると、地面に剣が突き刺さりズバッと切れる。

 なるほど、攻撃力はなかなかのものなのか。

 

「せりゃあああああ!!」

「はいはいっと」

 

 俺はユータの剣をアーマードナイフで受け流す。

 酷く単調だし、当てる気のない攻撃にあくびが出てしまう。

 

「おい! なぜ欠伸する!」

「そんな眠くなる攻撃してたら、退屈だからだ」

「ぐっ!」

 

 俺はカウンターでナイフで切り裂く。

 首筋、手首、太ももを切り裂いたが、防御力が高いのか大したダメージは与えられなかった。

 

「うわああああああ!!」

「「ゆ、ユータ様ああああ!!」」

 

 ユータは尻餅をついた。

 情けない奴め。

 

「ユータ=レールヴァッツって最近有名な冒険者じゃない! 何でこんな所に?!」

「リノア、知っているのか?」

 

 リノアはうなづいた。

 

「いくつものダンジョンを踏破して来た冒険者よ。ソースケ相手だと雑魚にしか見えないけれど、かなりの実力者には違いないわ」

「ふーん。じゃ、殺しちゃおう」

 

 ま、本編に出てないし良いよね。

 俺はサクッと殺すことに決めた。

 波の尖兵は殺さなければ気が済まない。

 

「リネル!」

「わかりましたわ、ユータ様!」

 

 ユータは立ち上がると、リネルの所に駆け寄り、濃厚なキスを始める。

 

「ソースケ、気をつけて。ユータは女の子とキスをすると強くなるって噂があるの」

「そうかい」

 

 アイツの攻撃程度ならば、どんな武器が来ても避けられるだろう。

 だが、慢心はいけないからな。

 俺は槍を構え直す。

 

「プハッ! ありがとう、リネル!」

「ユータ様のお力になれれば幸いですわ」

「悪魔め、俺の本気を見せてやる!」

 

 ユータはそう言うと、手を天に掲げる。

 光り輝き、ユータの手にはアクセサリーのついた投擲用ナイフが握られていた。

 

「あー! そうか! なんか聞き覚えのあるなと思ったら、そうだったわ! お前コーラだな!」

 

 俺はようやく思い出した。

 コイツやり直しのフォーブレイ編で出てくる波の尖兵じゃねぇか! 

 ちょろっとしか出てこないし忘れていた。

 

「コーラ? 俺の名前はユータ、ユータ=レールヴァッツだ! この武器でお前を倒す!」

「俺は菊池宗介だ。覚えなくても良いぞ」

 

 俺が名前を告げると、コーラが驚いた顔をする。

 

「お前がお告げで言われた最低最悪の犯罪者、菊池宗介か!」

 

 コーラはどうやら女神が呼び寄せたらしい。

 

「俺は絶対にお前を倒してみせる!」

「好きにしな。俺はお前に死をくれてやるよ」

 

 こうして、俺は眷属器持ちの波の尖兵と再び相見えることになったのだった。




悪人度が上昇しまくる宗介。


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【高難易度】投擲具の勇者

「エアストスロー、セカンドスロー、ドリットスロー!」

「せりゃ!」

 

 早速結界を作るために投擲してくるコーラ。

 俺は即座に反応して、勇者スキルで生成されたそれを弾き飛ばす。

 

「甘い!」

 

 バシュンとクロスボウで矢を放つ。

 慣れれば連射もお手の物だ。

 ドスドスと何発か放ったうちの2発が腕と太ももに刺さる。

 

「くっ! このコンボが通用しないだと?!」

「PvPで【前提が多い】技を使うならなぁ! こうしろよ!!」

 

 俺は弓に魔力を込める。

 これはレベル65の時に習得した弓のスキルである。

 

「影縫い!」

 

 魔力を込めた矢がコーラの陰に刺さると、相手を拘束する。

 

「な、動けないだと?!」

 

 俺はコーラの目の前に移動すると、剣を構える。

 

「辞世の句でも読んでいろ。必殺! 双破斬!」

 

 俺は剣を切り上げる。

 俺の魔力は雷に寄っているせいか、多少雷っぽいオーラが出ている。

 

「ぎゃあああああああ!!」

 

 そのまま斬り下ろす。

 HPが高いのか、鎧に大きい傷と切られた際に吹き出た血液が出たぐらいで、叩き切られてはいなかった。

 ビチャっと地面にコーラの血液が飛び散る。

 

「くっそ! 卑怯だぞ! どんなチートを貰ったんだ!」

「んな事聞いている暇があるなら、さっさと俺を殺してみせろ」

 

 コーラごときに人間無骨を使うのもな。

 弓と剣の練習台にでもするか。

 こんな雑魚を簡単に斬首しても、色々と申し訳がないしな。

 

「エアストスロー! チェンジスロー!」

 

 投げた鉄球から、別の投げナイフが飛び散る攻撃をしてくるが、そんなもの避けるのはそう難しくない。

 フェイントも無いし、直線的なのだ。

 

「うわあああああ!」

 

 手投げ斧を投げてきたので、俺はそれを掴んだ。

 あれ、なんか奪えそうな気がする。

 

「俺が見せてやるよ! こうやるんだ!」

 

 クロスボウで矢を射出して、コーラの逃げ道を塞ぐ。

 そして、コーラの手元に戻ろうとするこの手投げ斧をぶん投げる。

 

「トマホォォォォクゥ!」

 

 戻る勢いに俺の投げた力が加わり、ビュンビュン音を立ててコーラに迫る。

 

「う、うわああああああああああああ!!」

 

 ドシュっと手投げ斧が突き刺さる。

 いやはや哀れなことで。

 

「く、くそ、素振りで鍛えたステータスで敵わないと言うのか?!」

 

 しぶとい奴め。

 

「すでに100人以上殺してきた俺に叶うとでも?」

 

 現時点で鎧は返り血で赤黒く染まっている。

 道中でもすでに25人殺している。

 お陰でレベルが2上がったんだがな。

 今はちょうどレベル70だ。

 

「う、うおおおおおお!!」

 

 お、持っている手斧が禍々しいナイフに変化したぞ。

 

「シャドウバインド! バインドスロー!」

 

 カーススキルか。

 喰らう道理もないので避けようとする。

 背後に陰で出来た壁が出来上がっているのを確認する。

 ガキンと投げナイフを剣で受け止めると、物理的におかしいがナイフに押し負けて背後に飛ばされて、陰の壁に拘束される。

 

「ははははははは! 喰らえ! ファラリスブル!!」

 

 陰の壁が浮き上がり、地面から現れた牛を象る容れ物に封じられる。

 なるほど、ファラリスの雄牛ね。

 容れ物内が急激に熱くなるが、これ長時間閉じ込めてないとそこまでダメージを負わないタイプの攻撃じゃ無いかな。

 炎は呪いの効果がついているせいか、最大HPにダメージを受けているが、大したダメージではなかった。

 確かに、皮膚が焼き焦げるように痛いが、それがなんだと言うのか。

 

「ふんっ」

 

 力を入れるだけで拘束が解除される。

 

「はぁっ!」

 

 人間無骨を数度振るうと、それだけでファラリスの雄牛を象ったものは破壊されてしまった。

 うーん、ちょっとだけ暑かったな。

 俺はもはや人間をやめているのでは無いだろうか? 

 HPが10%も減ってしまったがな。

 

「なっ! 俺の必殺スキルが?!」

「ソースケ! 大丈夫?!」

 

 部位欠損も無いし、呪いのせいで最大HPにダメージを受けているが、特に問題はないだろう。

 残りHPは90%も残っている。

 

「……こんなものか」

 

 レベル70はここまで人間をやめてしまうんだなと思った。

 たぶん、ブラッドサクリファイスレベルならば俺も瀕死のダメージを負うのだろうが、そもそも俺は呪いへの耐性が高いしな。

 伊達に殺してはいない。

 

「それじゃあ、そろそろお前に死を与えよう」

 

 俺は剣を構える。

 これも、レベル66で習得した必殺技だ。

 縮地という前提技能が必要だけれども、俺は既にそれは使える。

 滅多に使わないので、短距離しかできないけれどな。

 必殺技は本当に、俺の脳内から作られているのではないだろうか? 

 

「昔見た漫画の技だけれど、今ここで再現してやろう」

 

 俺はそういうと、剣を刀のように構える。

 縮地で俺は間合いをコーラに一気に詰める。

 

「け、剣が9つに?!」

「必殺、なんちゃって九頭竜閃!」

 

 ナイフみたいな剣で再現しているため、なんちゃってである。

 技名もそのまま。

 俺は飛天御剣流なんて使ったことはない。

 実際に俺が突いているのは鳩尾だけである。

 他は魔力で構成された残像だ。

 

「ぎゃああああああああああああ!!!」

 

 コーラの身体に同時に9つの斬撃が入る。

 袈裟、逆袈裟、胴、逆胴、左右切上げ、唐竹、逆風、そして突き。

 剣の動きの全てを同時に放つのが、この技の肝であるが、俺の技量ではまだまだ再現できないので、魔力で代用した。

 

「が、は……」

 

 ドシャっと言う音とともに、バシャっと血溜まりに倒れる音がする。

 

「「「いやああああああ!! ユータ様あああああああ!!!」」」

 

 と、コーラの体から光の玉が飛び出し、俺に引き寄せられるようにぶち当たる。

 

七星武器、投擲具を入手しました。

 

 と、メッセージが出る。

 あー……、まあ、そうなるよねぇ。

 剣は……全然持てるし、武器として使うことを意識して振っても問題ないが。

 これは、コーラから勇者武器を簒奪したということなのだろうな。

 

「……マジか」

 

装備を勇者武器:投擲具に切り替えますか?

 

 と、メッセージが出る。

 どうやら、切り替え可能なようだ。

 まあ、今は必要がないからな。

 

「ソースケ、大丈夫だった?」

「余裕だな。所詮雑魚は雑魚か」

「でも、呪いが……」

 

 身体を見ると、確かに呪いが俺を蝕んでいる。

 

「治療は後回しで問題ない。さっさと残りの連中を殺しに行くぞ」

 

 俺はそう言いながら、ヴィッチの気配がする女に向かって矢を放ち撃ち殺す。

 他の女は知らない。邪魔してくるなら殺そう。

 

「ソースケが戦っている間に、協力してくれていた貴族から色々話を聞いていたわ」

「ま、少しばかり時間使っちゃったしな」

 

 騎士団程度ならば瞬殺できるが、コーラにはつい時間を使ってしまった。

 リノアによると、殺すべきターゲットは別の場所にいるらしい。

 一般でもなく、VIPでもない、すなわち、奴隷のいる場所に、奴隷紋の管理者が居るようだった。

 

「なら、すぐに向かうか」

「行かせると思うか?」

 

 俺がリノアにそう言うと、被せるように男の声が入る。

 見上げると、あの時の武術家がそこにはいたのだった。




波の尖兵扱いでゲットです。
ちなみに、宗介には投擲具の適性はありません。
波の尖兵扱いで無ければ弾かれますね。


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【高難易度】敗戦

多分盛り上がって来たところ?


「てめぇ、その声は……!」

「また会うとはな。はは、会いたかったぜぇぇ?」

 

 武術家はそう言うと、フェイスガードを脱ぐ。

 そこにはやはり、イケメンの……いや、正しく言おう。日本人の顔が現れた。

 

「俺と同じ転移者だったんだな、お前」

「ああ、だがまあ、俺様の方がお前よりも先輩だがな」

 

 俺はメルロマルク語でしゃべっているつもりだが、眷属器のせいかハッキリと日本語で理解できる。

 

「ソースケ……? 知り合いなの……?」

 

 そして、リノアの声まで日本語に聞こえる。

 

「いや、知らない奴だ。だが、俺と同郷のやつだろう」

 

 武術家は肩をすくめる。

 

「俺様は闇の武術家、殺人空手の使い手、金剛寺哲平だ。この世界に転移する際に若返らせてもらったが、俺様は元の世界では83歳だった」

 

 道理で強いわけだ。

 

「うくくくく、まさかこの世界で同郷の、達人級に出会えるとは思っていなかったぞ。しかも、この惨状! 俺様が裏切った依頼主の連中を皆殺しにしたのと似ている! うくくくく……」

 

 非常に愉快そうに、金剛寺は笑う。

 いやしかし、元年齢が83歳だと? 

 

「最近、弱い連中しかいないから退屈だった。お前との殺し合いは、久し振りに魂が揺さぶられたよ。しかも、殺すのになんの躊躇いも無いと来た!」

 

 スッと、金剛寺は構える。

 俺も、両手を広げて前に出して合気道の構えをする。

 

「今度は容赦も何もせぬぞ。存分に殺し合おう」

 

 殺気が凄まじい。

 鳥肌が立つほどだ。

 リノアが恐怖で腰を抜かして尻餅をつく音が戦いの始まりで合った。

 

 ──バシィィィン! 

 

 高速で放たれる突きに俺が対応して、カウンターで当身を放つ。その当身を金剛寺が手のひらで受け止めた音であった。

 息を吐く暇もなく繰り出される突きを、俺は全て受け流す。

 蹴りは重心をずらして回避する。

 カウンターは全て入れているが、やはり簡単に止められてしまう。

 コイツ、ビビらないせいか態勢が崩れないのだ。

 

「そらそら! 受け流すだけでは決着が着かんぞ!」

「くっ……!」

「あの技を使って見せよ! 俺様が攻略してやろう!」

 

 あの技と言うのは【気】の事だろう。

 流水岩砕拳の真似をすれば確かにコイツにダメージは与えられるだろう。

 だが、全力で攻撃を受け流さないとやばいのは、両手に感じる痛みで理解できた。

 あの拳は、間違いなく一撃必殺だ。

 拳圧だけで地面が抉れているのがわかる。

 目の前の男は本当に人間なのか? と、そんな疑問を抱かずにはいられなかった。

 

「そらそらそらそら!」

 

 手数の多さ、そして、威力の高さにより、受け止める手に痺れがたまってくる。

 攻めなければ負ける! 

 

「ハァァァァ……」

 

 俺は息を全て吐くと、【気】を使う呼吸を始める。

 EPは盾の強化法だったか、勇者の武器を手にした俺は自然と気を扱っているのだろう。

 だが、知っている事と使える事に大きな差異があるように、気を使うと言うのは難しい。

 俺の場合は、呼吸でスイッチを入れるイメージだ。

 

 気を織り交ぜる事により、相手の防御を貫通してダメージが入り始める。

 さながら、ドラゴンボールのように俺と金剛寺は格闘戦を繰り広げる。

 

「チッ! 攻撃をすり抜けて突きが入って来やがる!」

 

 だが、回避時の手の痺れから、ダメージはあまり入っていない。

 

「わはははは! 久方振りの好敵手だ! 実に良い、実に良いぞ!」

 

 奴の攻撃は当たれば終わり。

 俺はそれを回避し、すり抜け、HPを削りきれば勝ち。

 そんなギリギリの戦いである。

 まるで、地上3000mのビルの間を鉄筋の上を歩いて渡り切るような感覚だ。

 完全なる膠着状態であるが、相手の方が有利である事には変わりがない。

 

「……試してみるか」

 

 俺はそう言うと、握りこぶしを作る。

 奴の拳を受け流す際に、腕に打撃を加える事にした。

 

 3回ほど受け流しの際に攻撃して、奴は俺との間に間合いを開けて下がる。

 

「ほう、なかなか面白いことをする」

 

 痛かったのか、手を振りながら金剛寺は拳を構え直した。

 

「武器破壊ならぬ、拳破壊か。なるほど、対抗手段としては悪くない、が」

 

 金剛寺の姿が揺らぐ。

 

「幻楼拳」

 

 ふっと、姿が消えて、俺はとっさに動いた。

 脇腹に衝撃が走る。

 

「がはっ!!」

 

 それだけで、HPの半分近くが削れてしまう。

 やばい! 

 これはまずい! 

 大きくHPを損傷すると、意識が持っていかれたりするからだ。

 再び、今度は鳩尾を守ってた腕に衝撃が走る。

 腕の痛みがひどい。

 もしかしたら骨折したかもしれなかった。

 

「そうらそらそらそら!!」

 

 俺は防御姿勢をとり、奴の技をなんとか防御する。

 しばらくボコボコにされてしまい、両腕の骨は折れて、腕が上がらなくなる。

 HPも残りわずかになってしまった。

 

「グアアアアアア!! あ、あがああああ!!」

「ソースケ!!」

 

 俺はその場に倒れてしまう。

 あ、これはダメかもしれない……。

 

「ハハハハハ! やはり俺様こそが最強! 無敵! 殺人空手に一切の陰りなし!」

 

 リノアか俺の元に駆け寄る。

 が、金剛寺がそれを止める。

 

「させんぞ、女!」

「きゃあ!」

 

 リノアの目の前の地面がえぐれる。

 

「うくくくく、女、亜人か」

 

 リノアの尻尾がスカートから飛び出していた。

 金剛寺はリノアの胸ぐらを掴むと、持ち上げる。

 

「離しなさいよ!」

「うくくくく、亜人の女は好きにして良いとマリティナ様は言っていたからな」

「ちょ、やめなさい!」

 

 金剛寺はニタっと笑うと、リノアの服を破る。

 

「リ……ノア……!」

 

 俺は、動きたくても動けなかった。

 身体中が痛みで悲鳴を上げている。

 口からは血が出て、両腕は完全に変な方向に曲がっている。

 

「いやあああああああああああ!!」

「うくくくく、ハハハハ! この凄惨な場で女を犯すのも一興よ。キサマは朽ち果てるまでそこで大人しく見ているが良い!」

 

 くそっ! くそっ! 

 俺は何もできないのか?! 

 身体は動かないし、拳を作ることもままならない。

 この現状をどうにかできないのか?! 

 

 と、そんな時に、声が聞こえた。

 

「イーグルピアッシングアロー!」

 

 鷹の姿を象った矢が、金剛寺に襲いかかったのだ。

 

「ちぃ!」

 

 金剛寺はリノアをどかして矢を殴り落とした。

 

「大丈夫ですか、宗介さん?」

 

 正体は樹であった。

 樹以外にもいつものメンバーに加え、ジャンヌの姿があった。

 

「おい、お前大丈夫か?」

「ジャンヌさん!」

 

 ジャンヌがリノアを助け起す。

 

「ジャンヌ? ……どう言う状況だ?」

 

 ジャンヌがいる事に困惑する金剛寺。

 

「もちろん、僕たちが助けたんですよ」

 

 ドヤ顔でそう言う樹。

 別に不利では無いだろうに、金剛寺はため息をつくと、構えを解いた。

 

「……ふん、興が削がれた。ジャンヌが脱走したことをマリティナ様にも伝えなければならん。殺すのは、また今度にしてやるよ、菊池くん」

 

 金剛寺はそう言うと、地面を思いっきり突いて破壊して、この場を去る。

 

「待て!」

「逃すか!」

 

 と、追おうとした燻製と侍を止めたのは、ジャンヌであった。

 

「待て、あいつは追ってはいけない!」

「どう言う事だ?」

「あいつは危険だ。レベル100ですら容易に殺す暗殺拳の持ち主であるスティール=ダイヤモンド。マリティナの右腕であり、対策を取らねば危険な奴だ」

 

 ジャンヌの鬼気迫る様子に、燻製も侍の追うのを止めた。

 

「ですが、間に合って良かった。宗介さんは無事とは言い難いですが、リノアさんも無事でしたしね。アーシャさんに伝えてもらわねば間に合わない所でした」

 

 樹はそう言うと、まだ意識のある俺にこうささやいた。

 

「しかし、助かりました。宗介さんが思った通りに動いてくれたおかげで、やりやすかったです。まあ、流石にやり過ぎだとは思いましたが」

 

 どうやら、コロシアム強襲の内容を俺に伝えなかったのはわざとだったらしい。

 

「ソースケ! ソースケ!!」

「ソースケ様!」

 

 と、リノアが涙目で俺にすがりついてくる。

 傍にアーシャもいる。

 

「無事なの? 死んじゃいやよ!」

「う……ごかさ……ない……で……くれ……」

 

 痛みで意識が飛びそうだから。

 

「ツヴァイト・ヒール!」

 

 魔法使いが俺に回復魔法をかけてくれたおかげで、痛みが和らぐ。

 

「とにかく、一度ここから離れましょう。宗介さんは任せましたよ」

 

 俺は、樹の言葉を最後に意識を失ってしまったのだった。




やはり、波の尖兵強スギィ!!


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【高難易度】リタイア

 ふと、気がつくと、目の前に投擲用のナイフが浮かんでいた。

 

「……ここは」

 

 周囲を見渡すが、暗く何も見えない。

 だが、不思議と暗く感じない空間だった。

 

 ステータス魔法に文字が表示される。

 

私は投擲具の眷属器の精霊。不正所持者よ。私を解放してほしい。

 

 不正所持者、ときましたか。

 まあ、投擲具の正当な所持者はリーシアだが、覚醒にはまだ遠いだろう。

 

「解放……ねぇ」

 

 あいにくと、そう言うわけにはいかない。

 こっちにも事情があるしな。

 

不正に所持をしても、正当所持者と比べて強くなれるわけでは無い。不正所持者よ。早急に解放しなさい。それが正義です。

 

 正義だの何だのを俺は議論する気はない。

 結局、正しい行いなんて時の流れや状況、立場によって変わってしまうのだ。

 だから、俺は精霊にこう答えるしか無い。

 

「あいにくと、いま解放するわけにはいかないからね。しかるべき時に、弓の聖武器から依頼が来るから、それまでは仲良くしようや」

 

 そう、おそらく、この武器は現時点でタクトに渡してはいけないのだろう。

 どのタイミングでコーラが奪われたのかは知らないが、投擲具は波の尖兵の間を渡って最終的にタクトに簒奪される宿命だ。

 解放したとして、結局タクトに渡るのは見え透いた話である。

 

──所持者よ。警告する! ──に解──のが──の──

 

 急にノイズが酷くなった。

 見ると、アクセサリーが怪しく輝いている。

 聖霊の干渉を阻害しているのだろうか? 

 

「まあ、しばらくは俺の中で眠っていると良いさ」

 

 コーラが生き延びていたのは秘匿して所持していたからだろう。

 ならば、俺もそれに習うのが一番である。

 

 さて、この空間を出る必要があるな。

 この空間はおそらく、眷属器が作り出した空間だろう。

 俺の体が目覚めれば、それで起きるはずである。

 言うなれば、夢の狭間。

 

 俺は、投擲具を掴む。

 ステータス魔法に投擲具のアイコンが追加された。

 まあ、起きるまでの間に、確認をするとしよう。

 

 投擲具は解放が進んでいる。

 どうやらこのアクセサリーには状態の保存機能が付いているみたいであった。

 ヘルプアイコンは追加されているが、強化方法のタブは存在しない。

 まさに序盤で説明されている内容のみしか表示されていなかった。

 

「うーん、俺も知識があるから多分ほかの聖霊具の強化方法を使えるんだろうけれどね。まあ、ひとつだけ試してみるか。このままだと弱すぎるし……」

 

 どうせ、リーシアに継承された時にリセットされるのだ。

 爪よりも強くしなければ問題ないだろう。

 

 俺は錬の強化方法を思い出す。

 精錬、エネルギー付与、レアリティアップだったか。

 ステータス魔法にノイズが入り、初心者用の投げナイフに項目が追加される。

 投擲具の強化方法は金銭によるオーバーカスタムだが、こいつはアクセサリーからの阻害で使用できなさそうであった。

 

初心者用の投げナイフ C

能力未解放……攻撃力+3、素早さ+1

熟練度23

 

 あ、解放されちゃったよ。

 しかし、殆ど使われてなかったんだな。

 基本的に解放されている武器は店売りのものばかりである。

 

「……てことは、改造しすぎると色々とマズイってことだよな。おそらく、このアクセサリーの強化データや解放済みのデータの保存サーキットみたいになっているから、気をつけないとな」

 

 と言うわけで、俺はひとつだけ……解放されている店売りの手斧であるランページアックス(青)を超強化する事にした。

 

ランページアックス(青) R

能力解放済……攻撃力+4、素早さ+4

専用効果……ランページバイト

熟練度0

 

 と言っても、熟練度が無さすぎて、ここまでしか強化できなかったが。

 ちなみに、元康や樹の分は解放自体が出来なかった。

 そりゃまあ、あの二人からは信頼も何もされていないし、樹については敵対すらされているから仕方がないだろう。

 他の七星武器の強化についても同様っだと思うので、試さなかったが。

 盾の強化方法であるエネルギーブーストについては、俺のステータス項目に追加されている。

 SPももちろん存在する。

 ちなみに、装備を解除するとその項目が消えるので、装備時限定らしい。

 後は、信頼と、武器強化方法の共有についてだが、これは正直わからないんだよね。

 と、俺は精神空間でも相変わらずであった。

 

 目が覚めると、馬車の中であった。

 両腕は添え木がされて固定されており、回復薬で回復中なのか地味に痛い。

 アーシャが膝枕をなぜかしており、リノアはラヴァイトを動かしているようだ。

 

「う、ぐ」

「ソースケ様!」

 

 アーシャが俺が起きた事に気付いた。

 

「ソースケさん、良かった、気がつかれたのですね」

 

 レイノルズさんが俺の顔を覗き込んだ。

 よくみると、両腕は添え木された上で回復薬につけ込まれている。

 修復される痛みが結構きつい。

 

「ささ、回復薬を飲んでください。脇腹にはヒール軟膏を塗ってますよ」

 

 アーシャに口移しで薬を飲まされる。

 両手が使えないせいで抵抗できなかった。

 

「んぅ?!」

 

 舌を入れてくるアーシャ。

 俺が噛み付くと、すぐに引っ込めた。

 

「じょ、冗談ですって!」

「ふざけるな……」

 

 俺は両手を動かしてみる。

 まだ回復していないのか、うまく握れなかった。

 

「ですが、良かったですよ。ソースケ様が生きていて」

 

 アーシャに安堵の表情が見られる。

 まあ、心配させたのは悪かった。

 しかし、HPと言うのは確かにすごいな。

 これならば医者いらずである。

 まあ、病気にかかったりした場合とか、そう言うのがあるため治療院はあるわけだがね。

 ちなみに、呪いは解除されていないため、即時回復はしないようであった。

 

「ソースケ、しばらく休んでいて大丈夫よ。ジャンヌさんも復帰したし、イツキも居るわけだから、これならばマリティナを倒せるわ」

「ええ、ラインハルトさん達と合流して、現在は首都に向かっているところです。スティール=ダイヤモンドのような強敵も、イツキ様が対処してくださるみたいですので、とりあえずは大丈夫ですよ」

 

 レイノルズさんはそう断定する。

 本当に大丈夫かねぇ? 

 正直、金剛寺という男はどうしようもないと思う。

 遠距離の飽和攻撃で骨まで溶かさないと死なないのではないだろうか? 

 正攻法では殺せないのは間違いないだろう。

 投擲具なんて慣れない武器でも使おうものなら瞬コロされかねない。

 

 だが、ここでジャンヌを助けたことは、レジスタンス側に大きく流れが傾いたことを意味していた。

 俺が後方でアーシャやリノアに守られつつ回復している間、レジスタンスと樹だけで問題なく王都に進行できたからだった。

 気がつけば、俺の手が動くようになるまでにはすでに、王城への突入直前までことが進んでいたのは驚くべきことだろう。

 現時点の経過日数は4日目。ジャンヌを救出した翌日のことである。




とりあえず、攻略自体は樹メインで進められますからね
最終決戦までに宗介は復帰できるのか?!
そして、金剛寺との決着は?!

そんな感じです。


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【高難易度】あっけない幕切れ

これで、弓の勇者編終了です!
ものすごく後味の悪い結末ですが、ご了承ください。


 さすがに、怪我が1日で完治するほど甘くはないのが事実である。

 回復薬のおかげで、骨は完全にくっついたが、打撲痕はまだまだ完治に時間がかかるし、呪いのせいで肉体損傷の治りが悪い。

 今は鎧や小手は装備解除されているが、ファラリスブルで焼けた呪い痕は黒くなっており、その部分の腫れは収まっていないのが現状だ。

 流石に聖水は持ってないんだよなぁ。

 最大HPも減ったままだし、嫌な感じである。

 しかし、身体が動かないと言うのはどうしようもない。

 意識の方は結構はっきりしているが、身体中に重りを乗せられたかのように動けず、言葉も内臓をやられてしまったためか、出しにくい。

 今はアーシャが膝枕をして、リノアに看病してもらっている状態だ。

 

「それにしても、コンゴウジ=テッペーだっけ? あの強さは異常よね。人間、あんなに強くなれるものなのかしら?」

 

 リノアの服は、予備のものを着ている。

 移動中に着替えたそうだ。

 

「ええ、私も調べてみたんですけれど、スティール=ダイヤモンドが初めて確認されたのは、およそ4年前ですね。マリティナが毒婦として権力の中枢に食い込む際の右腕として動いていたのが確認されています」

「4年……。あいつが言っていた事を考えると、どこかの国から呼び寄せたように聞こえたわ。それも、若返らせてね」

 

 金剛寺哲平、ね。その名前には聞き覚えがあった。

 実戦空手を提唱していた人物で、金剛寺流空手術の創始者である。

 マイナーなんだけれど門下生は恐ろしく強く、大会を荒らして回ったそうだ。

 もちろん、怪我人続出したため、オリンピックには出られなかったと言うニュースぐらいなら聞き覚えがあった。

 アイツ、同じ世界から来たやつだったのか……。

 

「若返らせて……。どうやってかは知りませんが、気になりますね」

「マリティナがそう言う魔法を持っているならば由々しき事態ね。気になるわ」

「ただ、私が集めた情報にはそう言う若返りに関するものはなかったんですよね」

 

 しかし、あれだけの情報を喋っておいて、金剛寺は頭が破裂しなかったのはなぜだろうか? 

 もしかしたら、見限った波の尖兵の粛清用として召喚された存在なのかもしれないな。

 ……今の勇者では太刀打ちできる気がしないが。

 

「うーん、顔や髪の色を見る感じだとソースケと同郷なのよね」

 

 リノア達にとっても、アイツは不思議な存在のようである。

 

「そうそう、話は変わるけれど、戦況は聞いてきたわよ」

 

 リノアは話を変える。

 

「現状は、レジスタンスが優勢ね。騎士団でもこちら側の人がかなりいたこともあって、混乱しているところを叩いている状態よ」

 

 あれほどの悪政だ。

 鬱憤が溜まっていてもおかしくないだろう。

 実際、クテンロウでもレジスタンスが頑張っている最中だろうしな。

 

「あと、イツキ達も頑張っているみたいね。主にマルドやカレクが敵を倒していってるみたいだけれど」

 

 まあ、あの将軍様プレイでも連携すればかなり強い事は分かっているからな。

 マッチポンプでも強いせいで、やめられなくなっているのだろうな。

 身体があまり動かせないので、リノア達の会話を聴きながら、そんな事を考察していた。

 

 果てさて、結論から言うと、この国を取り戻すことには成功した。

 結局、俺の回復が間に合うはずもなく、終わってしまったわけである。

 樹とジャンヌが頑張ってくれたようで、まあ、最後は完全に蚊帳の外になってしまったわけだ。

 マリティナは、残念ながら取り逃がしたらしい。

 これは金剛寺が関わっていたと言う事を、リーシアから聞いた。

 

 そして、現在俺はと言うと、樹に拘束されてレイファ、アーシャ、そして何故かリノアとともにメルロマルクへと戻ってきていた。

 

「ソースケ、大丈夫?」

 

 と、優しく声をかけてくれるレイファの天使度の高さに涙を禁じ得ない。

 ちなみに、リノアが付いてきた理由は聞かされていなかった。

 

「では、宗介さん。ギルドに連行します。まあ、その格好では抵抗は無理でしょうし、大人しくしていてくださいね」

「……」

 

 俺は首から下は袋に入れられて、ベルトで締め上げられていた。

 口には猿轡をされており、抵抗はできなかった。

 俺の武器、どこに行ったんだろう……? 

 

「わはははは! これが犯罪者の末路よ!」

 

 快活に笑う燻製がムカつく。

 

「ちょっと、ソースケをどうするつもりですか!」

 

 詰め寄るレイファに、樹は平然と答える。

 

「もちろん、罪を償ってもらうためです。今回は正義のために力を行使しましたけれど、彼はそもそも悪なのです。悪事の罪を償って、正義を為して始めて許されるんです」

 

 ドヤ顔で樹はそんな事を言うが、レイファが納得するはずがなかった。

 

「何でですか! ソースケは悪い人に追い回されたから、仕方なく撃退していただけです! それに、冒険者ならば賞金首を相手にする以上殺されても文句は言えないはずです!」

「何を言っているんですか? 罪の無い人たちを殺害するのは悪に決まっているじゃ無いですか。君もちゃんと勉強しなさい」

「なっ?!」

 

 樹の屁理屈に言いくるめられたレイファは憤慨して地団駄を踏む。

 結局、俺は引き渡されて、ギルド預かりになってしまったのだった。




ちなみに、金剛寺は樹達を見て興味なさげに
「ふっ、このような雑魚が勇者な訳あるまいて。戦う価値すらないわ。だが、仕事は果たさせてもらおう」
と言って、マリティナと数人の部下を連れてどこともなく消えてしまいました。


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エピローグ

 留置所内でも、俺は拘束されいていた。

 牢屋の中で、硬いベットの上でベルトに縛られて身動きが取れないのだ。

 HPは減った分を除いて90%ほど回復しており、順調には回復しているだろう。

 下手すればレベル1リセットされてしまいかねないので、ここは無抵抗を貫くことにする。

 奴隷紋も効かなかったしな! 

 留置所でも尋問が行われるが、俺は無抵抗にすらすらと答えるため、看守達は肩透かしだったようだ。

 

「キクチ=ソウスケ、何故冒険者達を殺した?」

「俺の首にかかった賞金を狙ってくる以上仕方ないだろう?」

「そうじゃない! アールシュタッド領での虐殺だ!」

「アレも同じだ。錬サマの冒険者パーティを無理矢理除外され、三勇教に意味不明に神敵扱いされてみたら良いさ。それで、冤罪で犯罪者扱いされた挙句、俺を殺そうと冒険者達が襲いかかってくるんだ。返り討ちにするしかないじゃないか」

「が、だが、殺害するのは……! それに、貴族の御令嬢まで殺害したんだぞ!」

「50組近くの冒険者パーティに命を狙われて、それが言えるなら大したものだと思うが。それに、御令嬢を冒険者パーティに入れるなよ……」

「……」

「それに、アールシュタッド領の件に関しては領主様から直々に不問にするとのお達しが出てるはずだ」

「……」

 

 と、俺はそんな不毛なやりとりを繰り広げていた。

 教会引き渡されなかったのは、俺が大人しく従っていたからだったようである。

 まあ、抵抗してもねぇ……。

 

 留置所に拘留されて3日目、面会という形で俺は面会室に通された。

 本来であれば奴隷紋の拘束があるけれども、何故か俺には効かなかったからね、仕方ないね。

 だから、看守をやっている兵士が両脇に立っている状態での面会となった。

 

「いよっ!」

 

 部屋に入って早々に俺は引き返したくなった。

 だって、道化様がいたんだからな。

 

「うむ……」

 

 猿轡がかまされていてうまく喋れなかった。

 看守が俺から猿轡を取り払う。

 

「えーと、槍の勇者様ですか。何の用ですか?」

「その声は、確か錬の仲間だったかな?」

 

 案外覚えていたようである。

 地頭は良いからね。

 

「元、ね。勇者様の女はどうした?」

「いやー、流石にこんな所まで来てもらうのは悪いからね。外で待機してもらってるよ」

 

 留置所と言っても、メルロマルク城下町内にある。

 裁判を経て罪が確定し次第、東の収容所に収監されるらしい。

 

「そうか。で、俺に何の用だ?」

「レイファちゃん、だっけ。君の彼女に頼まれてさ、マインに話したら、オルトクレイ王に話してみるって言ってたんだよね」

「?」

 

 俺が要領を得ない顔をしていると、元康はニッコリさわやかな笑みを浮かべてこう言った。

 

「君をここから出しに来たのさ。菊池宗介くん」

「……はぁ?」

 

 俺は、元康が何を言っているのか理解するまでに、少し時間がかかってしまった。

 

 ──すでに、物語は俺の知っている原作からズレ始めている事に、俺はまだ気づく余地が無かったのだった。




次回導入も含めて、弓の勇者編完了です。
弓の勇者は良い感じにヘイトを稼いでいて、感想を読んでいて面白かったです。
次回から、槍の勇者編になります。

徐々にズレを見せ始める物語を宗介は生き残りつつどうやって戻していくのか、原作知識を活かして、ハッピーエンドに繋がるハードモードの書籍版の話に戻せるのかが見ものですね!


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勇者になったので、女の子を囲ってハーレムしたい!
プロローグ


レイファ視点から開始です。


 ソースケが連行されてから3日、私達はどうしようかと途方に暮れていた。

 私、レイファと、リノアさんとアーシャさんである。

 ソースケはちゃんと関わると魅力的だから仕方がないとはいえ、なんで女の子ばかりなのかとは思う。

 

「どうやってソースケを助ける?」

「……どうしましょう」

 

 私達が面会に行ったところで、無理だと追い出されてしまった。

 アーシャさんも夜中に侵入を試みた所、影に妨害されてしまったらしい。

 

「しかし、どうしてソースケ様は指名手配になっているのかしら? レイファちゃん、教えてもらえない?」

「あ、はい」

 

 私は、ソースケからミリティナと言う女を始末するためと言っていた。

 私が囚われているなんて思っても見なかったみたいだけれど、救出された時に涙を流しながら無事でよかったと言っていたのが印象に残っている。

 ソースケは恥ずかしがりだからあまり言わないけれどね。

 

 で、諜報活動が得意なアーシャさんが色々情報を集めようとしても、影と言う教会の組織に妨害されて手詰まりになっているらしい。

 

「そもそも、なんで勇者達が全員メルロマルクに居るのよ。それに、勇者が滞在しているこの国でも、勇者の評判はあまり良くないし……」

「リノアさんも情報収集していたのですね」

「まあね。アイツ、心配だし、暴走したりするから、お目付役が必要だからね。レイファじゃいい子すぎて、ストッパーになりにくいだろうし」

「ええ、そんな事無いですよ。私だってつまみ食いぐらいならしたことがありますし……」

 

 リノアさんが「え、本気で言っているの?」と呟く。

 でも、悪いことはそれぐらいしかした事がないのは本当だ。

 後は、魔物を駆除したりだろうか? 

 今でもコックローチは苦手な魔物である。

 

「……なんでソースケの側にいるのかわからないぐらいいい子ね。アイツ、平気な顔で人を殺すヤバい奴だと思うんだけど」

「ソースケさんは、そこまで見境がないわけではないです。理由がないとそう言うことはしないですよ」

「まあ、そうなんだけどさ……」

 

 私はソースケを信じている。

 一緒に家で過ごした時から、ソースケは勇者のように輝いて見えたのだから。

 今は少し陰っているけれども、本当はもっと繊細で、だけど決めた事はまっすぐやり遂げる人だと私は知っているのだ。

 

「ソースケ様は素晴らしいですよね。あの容赦のなさ、戦っている時の姿勢と言い、ソースケ様の魅力を語ると1日では終わらなさそうです」

 

 うっとりとそんな事を言うアーシャさん。

 それに呆れた表情をするリノアさん。

 

「……そんな事より、アイツを助ける方法を考えないと! あの賞金額なら、下手すれば死刑なのよ!」

 

 私達がどうやってソースケを助けるか悩んでいる、聞いたことのある声が聞こえてきたのだった。

 

「あれー、レイファちゃんじゃん! 久しぶりだね!」

「ちょっと、モトヤス様!」

 

 彼が槍の勇者のキタムラ=モトヤスである。

 私にナンパをしてきた人で、隣にいるどこかで見た事がある女性に気をつけろと言われた事がある。

 

「お、お久しぶりです」

「久しぶり、久しぶり! 大丈夫だよマイン。困ってそうだったから話しかけただけだってば!」

「ですが、あと2日で波です。モトヤス様も準備をしないと……」

 

 マインさんと呼ばれる冒険者にしては豪華すぎる格好をした人と、キタムラさんが言い争う。

 

「で、君たち何を悩んでいるの? 良かったら教えてもらえないかな?」

 

 私達は顔を見合わせる。

 

「ねぇ、彼が槍の勇者様?」

「はい、そうですよ」

「……結構良い男よね。イツキに比べれば断然いいじゃない!」

 

 確かに顔はいいけれど、私には軽そうな印象しかない。

 でも、ソースケから事前に聞いていなければ、私もリノアさんと同じ反応をしたかも知れない。

 

「まあ、弓の勇者様に比べればですけどね」

「一番魅力的なのは、ソースケ様よ」

 

 アーシャさんは色々と間違っている気がする。

 

「……とりあえず、槍の勇者様に相談してみるのもありじゃないかしら。メルロマルクの王のオルトクレイ王は槍の勇者様の子孫だし、優遇していると思うわ」

「そうなんですね。うーん、わかりました」

 

 私はソースケを助けるためなら、と覚悟を決める。

 

「では、聞いていただけますか、槍の勇者様」

「オッケー」

 

 槍の勇者様はそう言うと、席を2つ準備する。

 先にマインさんを座らせて、隣に自分が座った。

 

「あ、先に自己紹介だな。俺は槍の勇者である北村元康。世界を厄災の波から救うために戦っているんだ。こっちはマイン。俺の仲間だ」

「皆さんよろしくお願いしますね」

 

 ニコニコと挨拶するマインさんは、ソースケの言う嫌な奴のようには思えなかった。

 まあ、ソースケの判断基準はよくわからないけれど、警戒しておくに越したことは無いだろうと私は判断した。

 

「私はレイファです。よろしくお願いします」

「私はリノアよ。ソースケの仲間をやっているわ」

「私はアーシャです。ソースケ様の愛人……候補です」

 

 私はアーシャさんを睨む。

 何というか、私にとって彼女は掴み所がないように感じた。

 そして、ソースケへの好意は本物である。

 

「ふーん、ソースケって確か、錬の仲間だったよな。という事は、錬とは別れたのか」

 

 槍の勇者様はそう言うと、「錬が一番信頼していたアイツだろ?」と考えを巡らせてこう言った。

 

「それじゃあ、君たちが何を悩んでいたのか聞かせてもらえるかな? 波まで時間がないから、そこまで時間がかかるものは出来ないけど、力になれると思うんだ」

 

 自信満々にそう言う槍の勇者様に、私は安心した。

 勇者様の言う事なのだ。

 ならば、出来るのだろう。

 

「その、ソースケが弓の勇者様に捕まえられて、留置所に連行されてしまったんです。ソースケをどうやって助けようかと悩んでいたんです」

「樹が? と言う事は、彼は賞金首にでもなったわけか?」

「はい。ソースケ曰く身に覚えはあんまり無いとか言っていました」

「なるほどねぇ……」

 

 槍の勇者様は渋い顔をする。

 普通に考えれば、犯罪者の脱獄を手助けしてほしいと言っているのだ。

 勇者様でも渋い顔をするのは道理だろう。

 

「その、ソースケは絶対そんな事をする人じゃ無いんです!」

「ええ、私達の故郷を弓の勇者と共に助けてくれたし、満身創痍になっても案じてくれた人よ。指名手配なんて絶対おかしいわ!」

 

 私とリノアさんが力説すると、槍の勇者様は私たちを値踏みするような目で見る。

 

「……君たちがソースケを信頼していると言うのはよくわかった。じゃあ、この元康お兄さんに任せておきなさい! 話してみて、悪い奴じゃなければ、条件付きだけれど解放してあげるよ」

「モトヤス様?!」

「マイン、ソースケは錬が一番信頼している仲間だった。と言う事は、波の戦いに参加させれば、尚文だけに任せる、なんて事にはならないだろう?」

「……」

「そうすれば、俺たちだって安心してボスを攻略できる! 錬が使っていた強いNPCを再利用してやるんだ。いいだろ?」

 

 マインさんはそう言うと、ため息をついてこう言った。

 

「仕方ありませんわ。モトヤス様の頼みですもの。お父様にも掛け合ってみますわ」

「サンキュー、マイン!」

 

 マインさんとの相談が終わったのか、槍の勇者様はこっちを向いてこうノリノリで言った。

 

「それじゃ、面接タイムだな。どう言う奴か見極めさせてもらうよ。本当に悪い奴だったら、申し訳ないけれどそのまま牢屋の中に残ってもらうからな」

 

 槍の勇者様はそう言うと、マインさんに留置所の場所を聞いていた。



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昨日もフィーロちゃんに引かれてしまった

「なるほどな、そんな事がな」

 

 元康の話を聞いて、改めてレイファとリノアに心配をかけた事を申し訳なく思う。

 アーシャ? あの性欲女は正直苦手だから、生きているなら割とどうでも良い。

 

「そう、で、俺はアンタを見極めにきたわけ。女の子3人から慕われるのを見る限りだと、問題はなさそうだけれどね」

 

 まあ、人がモテるにはそれなりの理由がある。

 俺はそう言うつもりは一切無いんだけどな。

 

「で、槍の勇者様は俺をどうやって見極めると?」

「こう言う時は、これだろう」

 

 元康はそう言うと、槍を木の槍に変化させた。

 

「模擬戦なんかをする時に役に立つ槍だ。アンタもこれで俺と戦ってもらう」

「俺、ベルトで超固定されてて、動けないんだけど……」

「看守、宗介の拘束を一時的に解いてやってくれ」

「いえ、流石に、奴隷紋が効かなかったのでこの拘束を外すわけには……」

「奴隷紋……」

 

 元康が嫌な顔をした。

 尚文に負けた事でも思い出したのだろうか? 

 それとも、奴隷を購入して速攻で解放して殴られたとかか? 

 

「まあ、何に使うかはおいて置いたとしても、コイツが使えるのか試す必要があるからな」

「わかりました。槍の勇者様がそこまでおっしゃるなら」

 

 看守によってベルトに掛けられた錠が解放される。

 ようやく自由になった。

 伸びをすると、体がバキバキと音がなる。

 同じ姿勢でずっと固定されていたからね。

 結構しんどかった。

 

「それじゃ、少し開けているところに行こうぜ。腕試ししてやる」

 

 元康はそう言うと、俺に木の棒を渡す。

 まあ、従うしかあるまい。

 看守の人に案内されて、運動スペースにやって来た。

 

「さあ、君の力を見せてくれ!」

 

 元康はそう言うが、全力は出せないだろう。

 もし、攻撃が当たりでもしたら、刑が伸びそうである。

 すなわち、接待プレイをする必要があると言う事だ。

 

「ぜやああああああ!!」

 

 元康の直線的な攻撃は、いなすのは容易かった。

 合気道でも杖術は存在するのだ。

 軽く捻りを入れて、元康の槍を巻き取るだけでも攻撃の流れを逸らすことは難しく無い。

 

「ふっ、よっ、はっ」

 

 俺は小気味よく杖を使って元康の槍を受け流す。

 

「君、なかなかやるね!」

 

 一瞬KNN姉貴の「なかなかやるじゃ無い」と言う幻聴が聞こえた。

 

「なら、これならどうだ! 乱れ突き!」

 

 スキル使ってきたよ。

 まあ、こんな程度の攻撃ならば、見切るのは容易かった。

 杖で俺に当たる本命だけ撃ち払い方向を変え、それ以外は体捌きで回避する。

 それだけの事なのに、元康は相当驚いた様子だった。

 

「えぇ?! ……君、凄いね!」

「そうか?」

「ああ、これでも、俺はかなりの槍の使い手だと自負していたんだがな……」

 

 元康はそう言うと頭を掻く。

 

「ま、魔物相手ならば十分だと思うけれどな。対人戦なら俺の方が部があるから仕方ないな」

 

 殺した数はそれこそすでに3桁なのだ。

 それも、手練れの冒険者ばかりである。

 否が応でも対人戦特化してしまうのは仕方ないだろう。

 もちろん、今は単にいなしただけであるが。

 

「これなら合格かな」

 

 元康はそう言うと、俺の肩をポンポンと叩いた。

 

「マインによると、保釈までそれなりに手続きかかるみたいだから、しばらく待っていてくれよな」

「そうか、わかった」

 

 元康離れると、看守が走ってきて俺を拘束する。

 ベルトがつけられて、俺は再び身動きが取れなくなった。

 

「それじゃあ、あんまり女の子を悲しませないようにな」

 

 そう言うと、元康は颯爽と去っていった。

 波の前々日だと言うのに呑気なものである。

 そんな俺も、こんな状態だがな。

 樹に拘束される際に武器も防具も全て没収されてしまった。

 

 しかしまあ、両手両足に口まで防がれて、何もできないのはなかなかに辛かった。

 たまに尋問されるが、自分の武勇伝を語るだけになってしまうのでどうしようもなく暇だ。

 レイファたちは大丈夫だろうか? 

 それが一番の気がかりであった。

 

 

 

 私達が槍の勇者様に指定されたカフェで待っていると、槍の勇者様がマインさんと、何故か兵士を連れてやって来た。

 

「よっ、おまたせ。レイファちゃん、リノアちゃん、アーシャちゃん」

「お待ちしてました、槍の勇者様」

「予定より若干遅いんじゃ無いの?」

「悪い悪い」

 

 と言いつつ、マインさんの席をさらっと準備して座らせて、その隣に槍の勇者様は座った。

 

「で、宗介くんと面会して来たよ」

「ソースケは元気でしたか?」

「両手両足にベルトが巻かれてて、猿轡までされているのを見た時はビビったけどね。彼はまあ、元気そうだったよ」

 

 とりあえず、ソースケが無事そうで私はホッとする。

 

「え、ちょっと待って、ベルトに猿轡って、SMプレイでもしているの?!」

 

 リノアさんのツッコミに兵士が答える。

 えすえむぷれいって何だろうか? 

 

「キクチ=ソースケは奴隷紋が効かなかったため、厳重に抵抗ができないように捕縛した状態であります。詳しい原因は不明のため、解明するまではこのまま拘束される予定になっています」

「……と言う事だそうだ」

「そうなの。で、ソースケはどうなるのかしら?」

 

 リノアさんが聞くと、マインさんが答えてくれた。

 

「キクチ=ソースケさんは、これまでの活躍や実力から、波と戦う場合のみ保釈されることが決まりましたわ。それに伴い、裁判とレベルリセットの延期と、逃亡を阻止するための監視をつける義務、波と戦う義務が課せられますわ」

「まあ、ソースケほどの実力者をこのまま牢屋に入れっぱなしと言うのもどうかと思うからね」

「これは、超法規的措置ですので、義務を果たさない場合は即刻の処刑になりますわ」

 

 え、つまり、どう言うことなのだろうか? 

 私が混乱してくれると、リノアさんが教えてくれた。

 

「つまり、ソースケは見張りをつけて波と戦う限りは牢屋にいなくて済むと言うことよ。ただし、逃亡しようとしたり、波との戦いから逃げたりしたら、即処刑ね」

「え、それじゃあソースケは……?」

「とりあえずは外に出れるわね」

 

 うーん、これは安心して良いのかわからない。

 ソースケは波と戦うと言っていたし、見張りをちゃんとつければ問題ないという事なのかな? 

 

「で、ソースケはいつ保釈されるのよ?」

「これから保釈されるのよ手続きに入るから、明日の朝には解放されますわ」

「一応、俺のパーティという事でついて来てもらう事になるな」

「そうですか」

「そうそう、嘆願したレイファちゃん達も、波の戦いには参加してもらう必要があるからよろしくな」

 

 波はお父さんと一緒にやり過ごしたことはあるけれども、私はよくわかっていない。

 ラヴァイトも一緒に戦えるのだろうか? 

 と、槍の勇者様からパーティ申請が届く。

 

「えっ?!」

「一緒について来てほしいからね。大丈夫、俺が守ってみせるからさ!」

「は、はぁ……」

 

 私はそれを承認する。

 

「よし、オッケー。それじゃあ明日からよろしくな!」

 

 という感じで、私とリノアさん、アーシャさんは槍の勇者様と行動を共にすることになった。

 マインさんはいい人そうだし、ソースケが言うほどでも無いかなと思って安心した。

 それにしても、王様に話を通せるなんて、マインさんは一体どういう人なのだろうか? 

 よくわからない人だなと感じたのだった。




さて、第二の波はこれで原作から外れてしまうのが確定しそうです。
どう回避するのか?!
そもそも、宗介は置かれている状況を知らされているのか?
そして、元康のパーティメンバーになったレイファ達の明日はどっちだ?!

時系列的におかしいところを修正しました。


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一気にハーレムが増えたぜ!

「それじゃ、俺の仲間を紹介するぜ」

 

 そう言って連れてこられたのは、メルロマルクでは高級な部類に入る宿屋であった。

 

「俺に近い方から、マイン。彼女はメルロマルクの第一王女でもあって、マルティ=メルロマルクなんだ。勇者と共に戦う事を選んだステキな女性なんだ」

「よろしくですわ」

 

 はぇぇぇ……なんかすごい人だったんだ。

 私は驚かざるを得なかった。

 王女様という割には気品? みたいなのはカケラも感じられないけれど、言葉遣い確かに偉そうな感じがする人だった。

 

「こっちはレスティ。彼女はマインの友達で風魔法が得意なんだ。同じく貴族出身で、結構物知りなんだぜ。特に国内事情なんかには明るいかな」

「ふふふ、よろしくね」

 

 魔法使いの格好をした女性である。

 彼女の方が若干、気品みたいなのを感じる。

 

「で、彼女はエレナ。ジョブ的にはシーフに該当するのかな。お父さんが商人をやっていて、そこの御令嬢さんだ。結構色々なところに気づいてくれる子で、助かっている」

「……よろしく」

 

 エレナさんは何故か私たちを哀れな目で見てくるのがすごく気になる。

 3人とも高貴な出の人ばかりで、私としては恐るばかりである。

 それに、3人とも美女なのだ。

 ソースケから聞いていたけれど、この槍の勇者様は女好きなのだろう。

 

「私はリノアよ。滅んじゃったけれど、アルマランデ小王国出身の元レジスタンスメンバー。ソースケの仲間よ。特技は、このブーメランで戦う事ね。よろしく」

 

 リノアさんは、ソースケ曰く元ネタと性格が違いすぎると言っていた。

 呟きなので詳しくは聞いていないけれど、どちらかというとキャルって子に似ているらしい。

 ……知り合いなのかな? 

 

「私はアーシャです。ソースケ様のあいじ……こほん、忠実なせいどれ……。痛い、リノアさん! ええ、右腕です。特技は諜報活動です。よろしく」

 

 アーシャさんは不敵に笑う。

 ソースケ曰く、彼女は純粋に性欲丸出しなところが嫌いらしい。

 アーシャさんが何故ソースケを慕うのか聞いたところ、危ないところを助けてもらったとだけしか聞いていない。

 リノアさんと同じレジスタンスの仲間で、収容所の情報を盗んではレジスタンスに流す仕事をしていたらしい。

 

「あ、はい。私はレイファです。ソースケの彼女……えへへ、で良いのかな? です。よろしくお願いします」

 

 自分で【彼女】と言うのはものすごく照れる。

 普段は妹の様にしか接してもらえないけれど、私はソースケが好きであった。

 

「あと一人、菊池宗介って言う俺と同郷の男が居るんだが、彼を留置所から出す交換条件の一つとしてパーティに加わって貰った。みんな、仲良くしてくれよ!」

 

 ニコニコしながら槍の勇者様はそう言った。

 キクチ=ソースケの名前を聞いて、ようやく驚くレスティさんとエレナさん。

 

「ええ?! もしかして、《首刈り》ソースケですか?!」

「ああ、彼女らはその宗介の仲間だよ」

「大丈夫何ですか?」

「俺自身も彼と話して、悪いやつじゃ無い事を確認したしな。それに、仲間である彼女たちを宗介が見捨てるとも思えない。だから、大丈夫さ」

「ええ、奴隷紋が効きませんでしたが、モトヤス様がちゃんと手綱を握っていますわ。それに、ちゃんと首輪はハマっていますしね」

 

 マインさんはそう言って、私を見る。

 え、どう言う事? 

 

「……なるほど。わかりましたわ、モトヤス様。それじゃ、私が彼女らの面倒を見るわね」

 

 エレナさんがニコニコしながらそう進言すると、槍の勇者様はうなづいた。

 

「ああ、それじゃあエレナに任せるよ。よろしく頼むな」

「お任せください」

 

 ど言う事なんだろう? 

 まあ、仲良くできるならば仲良くしておいた方が損はないのは確かである。

 

「それじゃあ、エレナ。後は頼んだわね。私はモトヤス様とのデートの続きをしたいから、これで失礼するわ」

「よろしくね。私はエステの予約が入っているの」

「はいはい、気をつけてくださいね」

 

 マインさんは槍の勇者様の腕を取り、出て行く。

 レスティさんも同様に後に続いた。

 二人が出て行ったのを見送って、エレナさんはため息をついてソファーに座った。

 

「面倒臭いのに目をつけられたわね」

 

 さっきまでの態度とは違うエレナさんがそこにいた。

 

「ふーん、それがアンタに本性ってわけ」

「そうよ。まあ、モトヤス様はおべっか使うだけで良いし、猫被るのは得意だからね。楽で良いわよ」

 

 え、何が起こったんだろう?! 

 

「アンタたち……じゃなくて、おそらくレイファだけね。人質にされたわね」

「それはソースケ様を留置所から出すために仕方の無い事なの」

「ふーん、《首刈り》ソースケがどんな奴か、噂にしか聞いたことがないけれど、アンタたちの様子を見ていると良いやつなのかもね。噂だととんでもない奴だけれど」

 

 エレナさんはゴロンと横になった。

 

「どんな噂なんです?」

「賞金を狙って行って帰ってきたのは首だけだった。一人で50人以上の冒険者を皆殺しにした。出会う=死……まあ色々よね。先日捕まったって話を聞いて安心している冒険者は結構多いんじゃないかしら?」

 

 うーん、大概合っていて私は反論できなかった。

 ソースケと夜営している時も冒険者が襲ってきたことがあったけれど、ソースケは即座に切り捨てていたのを覚えている。

 その時に吹き飛んで私の目の前に落ちてきた生首が一番恐ろしかった。

 それ以来、ソースケは人間と戦う時は私が見えない場所で戦う様になったっけ。

 

「とりあえず、ヒエラルキーは覚えておいた方がいいわ。あのマイン……マルティ様に逆らうのはあまり良くないわね。口答えもしてはダメよ。《首刈り》の人質だから、レイファには何もしないでしょうけれど、リノアは気をつけた方が良いわ。こないだもライノって子が娼館に売られてたもの」

「……き、気をつけるわ」

 

 確かにリノアさんは口答えしそうである。

 それぐらい骨がないとレジスタンスなんてできないだろうけれど。

 

「アーシャは……そもそも、空気を読むのが上手そうだし、大丈夫かもね」

「お褒めにあづかり恐悦至極」

 

 アーシャさんは掴み所のない人である。

 話していても、暖簾に腕押しする様に、のらりくらりと本質から外れてしまうのだ。

 

「で、そこの天然ちゃんは、まあ、マインとレスティの二人に近づかない方が良いわね。リノアといつも一緒にいた方が良いわ」

「は、はい!」

 

 エレナさんはそれだけ言うと、満足した様に目を瞑る。

 

「それじゃ、レスティかモトヤス様が戻ってきたら起こしてね」

 

 エレナさんはそう言うとあっという間に寝てしまった。




キャラクター紹介みたいな。
基本的に槍の勇者編はレイファ視点が多くなる予定です。


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マインとのデートは楽しいなぁ!

 リノアさんとアーシャさんは情報収集と買い物に出たため、私はエレナさんと一緒にみんなの帰りを待っていた。

 それにしても、エレナさんはよく眠る。

 普段からちゃんと睡眠は取れているのか心配になってしまう。

 とは言っても、私もリノアさんに心配されてしまったけれど。

 

「レイファはもうちょっと危機感を持った方が良いわよ。自分が人質だってこと、ちゃんと理解してる?」

 

 私もちゃんとしないとソースケの役に立ちそうにないもんね。

 私がそう考えていると、エレナさんがむくりと起き上がった。

 

「あれ、レイファちゃん一人?」

「はい、リノアさんとアーシャさんは情報収集に行きました」

「ふーん、まあ良いけれど」

 

 起き上がったエレナさんはそう言うと、設置されてある水の入った瓶からグラスに水を注いで飲む。

 

「戻ってくるならその間、好きにして良いわよ。私もまだ帰ってこないなら波に備えて色々買い込んでおきたいしね」

「良いんですか?」

「良いわ、気をつけてね。怪しい人に話しかけられてもついていかないようにね」

「わ、私は子供じゃありません!」

「子供よ子供。天然ちゃんもほどほどにね」

「むー……」

 

 私はそんなに天然だろうか? 

 そんなつもりは無いんだけれどなぁ。

 

 私は宿を後にして、ソースケに役に立つ情報を集めるためにうろつくことにした。

 お店でお買い物をしつつ、情報を収集する。

 それにしても、波が近いせいか城下町は物々しかった。

 

「レイファちゃん久しぶりねぇ! 元気にしてたかい?」

「ええ、お陰様で♪」

 

 私は商店を覗きながら挨拶をする。

 こう言う繋がりは、お父さんの得意とするところであった。

 

「カレシ君は今日は居ないのかい?」

「ソースケはちょっと色々あって捕まっちゃってて……」

「あの子がかい? 何かやったのかい?!」

「その、私を助けた結果、指名手配されちゃって、それで最近捕まっちゃったんです」

「ああ、《首刈り》だったね。話したことあるから噂とは違うのは知っていたけど、捕まったんだねぇ……」

「はい、どうにかして助けたいんですけれど……」

「女王様がいれば、嘆願すれば良いけれど、今の王様じゃあねぇ。嘆願書が必要なら、おばさんも協力するよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「うんうん、レイファちゃんはやっぱり笑顔が似合うからねぇ! そら、これを持って行きな」

「りんご、いいんですか?」

「カレシにも渡してやんな」

「ありがとうございます! なら、これとこれ、買いますね」

「はいよ。サービスして銅貨15枚だよ」

「ありがとうございます!」

 

 と、こんな感じで何故かサービスしてもらいつつ、ソースケへのお土産を購入する。

 そんな感じでうろついていると、知っている人から声をかけられた。

 

「お前は宗介の……。おい、レイファ!」

 

 盾の勇者様だった。

 今は防具は外しているのかマントと、まるで村人のような服を着ている。

 

「盾の勇者様。お久しぶりです」

「ああ、久しぶりだな。宗介は元気か?」

「あはは、今はちょっと、元気じゃ無いかもです」

 

 私がそう言うと、怪訝な顔をする。

 

「もしかして、捕まったか?」

「はい。()()()()に捕まってしまって、今は留置所にいます」

「わかった。すぐに助けに行こう」

「あ、待ってください!」

 

 とても頼もしい盾の勇者様であるが、一応ソースケは保釈されるのだ。

 私はその事を伝える。

 

「ソースケは波の戦いに参加する事を義務付けられますが、保釈されるんです。だから、大丈夫です」

「それが本当かどうかはわからないがな。この国の連中は信用ならない。特に権力者はな……」

 

 盾の勇者様は不機嫌な顔になる。

 よほど辛い目にあったのだろう。

 私は話を変えることにした。

 

「そういえば、ラフタリアさんやフィーロちゃんは?」

「ん? 二人は手分けして物資を集めている最中だ。俺はまあ、二人に渡すアクセサリーの仕上げに必要な道具を探していたところだ」

「そうなんですね。良かったら一緒に探しましょうか?」

「いや、それには及ばない。お前に声をかける前に買えたからな」

「そうですか、それは良かったです」

 

 盾の勇者様は少しだけ微笑むと、私の頭を撫でる。

 

「助けが必要ならいつでも呼んでくれ。宗介やレイファの頼みだったら、すぐにでも駆けつけてやるからな」

「ありがとうございます、盾の勇者様!」

 

 私はお礼を言う。

 やはり、盾の勇者様は優しい方だ。

 正直、弓の勇者にも見習ってほしい。

 ソースケを使うだけ使って、ひどい怪我のところを捕縛してギルドに引き渡すなんて、信じられなかった。

 

「とりあえず、宗介とは波で会えるか……。だが、どうやって行くんだ? 場所はわかるのか?」

「いえ、それは聞いていないです……」

 

 ソースケは知ってそうではあるけれど、私は聞いていなかった。

 そもそも、国外の波に挑む予定だったのだから、仕方ないだろう。

 

「まあいい、編隊機能を送っておくから入れ」

 

 盾の勇者様から編隊の勧誘が来る。

 盾の勇者様と槍の勇者様は不仲であるのは専ら有名なので、正直心苦しかった。

 

「それが、すみません。槍の勇者様と一緒に行くことになっていまして……」

「元康と?」

「はい、今日の昼頃に。それで、ソースケも保釈されることになったんです」

「なるほどな。さすがは女好きらしいな」

 

 盾の勇者様は顔に手を当てて、困ったような顔をする。

 

「レイファも波に参加する予定なのか?」

「はい、その予定です。もちろん、戦いませんし、避難誘導の方をやろうと思っています」

「わかった。なら、転送されたら俺たちの近くに来い。俺たちも波では近くの村を守る予定だしな」

「はい、わかりました!」

 

 私がそう言うと、盾の勇者様は私に忠告をしてくださった。

 

「それじゃあ、くれぐれも元康と、クソビッチのマインには気をつけろよ。レイファは騙されやすそうだからな。特にマインの奴は、人を貶めるのが好きなやつだ。気をつけろよ」

「ソースケにも言われてますので気をつけますね」

「ああ、気をつけろよ」

 

 私と盾の勇者様はこうして別れたのだった。

 やはり、盾の勇者様は優しい人だなと、改めて感じたのだった。




かなり原作とかけ離れてきている!
宗介は捕まっているからね、仕方ないね。


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最高の懇親会だったぜ!

「おまたせ」

 

 私達がお話をしていると、槍の勇者様がそんな事を言いながら入ってきた。

 ちなみに、部屋はマインさん達とは別室で隣の部屋である。

 

「どうされました、槍の勇者様」

「俺たち、これから一緒に戦うわけじゃん? だから、懇親会みたいなのを開こうかと思ってさ!」

「はぁ? 波の前日なのよ? 本気で言っているわけ?」

 

 槍の勇者様の考えに、早速口答えするリノアさん。

 実際、言いたい気持ちはわからないでも無い。

 だけれども、ソースケやエレナさん、盾の勇者様がマインさんを注意しろと言うのは非常に重たいだろう。

 だから、私はリノアさんを小突く。

 

「え、あ、そそそ、そうね。仲良くなるのも重要だものね」

 

 リノアさんの言葉を聞いて、良かったと安堵する槍の勇者様。

 リノアさんもエレナさんの忠告を思い出したらしい。

 

「で、どこに行くの?」

「ああ、メルロマルクの一流レストランを予約してあるんだ!」

 

 え、ええ! 

 そんな豪華なところなんか恐れ多くて入れないよ! 

 

「えー、あー……ドレスコードとかは大丈夫なわけ? 私やレイファはそう言う衣装は持っていないわ」

 

 リノアさんの最もな指摘に、槍の勇者様は親指をぐっと立てる。

 

「もちろん、お嬢さん方に合ったドレスをレンタルしてるよ」

「え……、サイズとかどうしたのよ……」

「企業秘密さ。それじゃあ先にお召し替えと行きますか!」

 

 私達が連れられてやってきたのは、ドレスを販売・レンタルするお店だった。

 リーシアさんみたいな貧乏貴族はドレスを購入するのが難しい場合もあるため、レンタルショップと言うのは重宝されるそうだと、リノアさんから教えてもらう。

 ……世の中、私の知らないことだらけだ。

 

 ドレスレンタルショップでメイクアップされる私とリノアさん。

 本当に寸法がぴったりで驚く以外無かった。

 ソースケがまだ牢屋の中なのに、こんな事をしている場合では無いと言うのが正直な意見であるが、槍の勇者様が囲いたいのは意見を鵜呑みにする女性なのだろう。

 はぁ、何というか、窮屈だなぁ。

 このドレスのように私は感じる。

 腰回りを細く見せるために、コルセットと言うものが入っていて、締め上げてくるので苦しいのだ。

 

「おお! 三人とも素材がいいから凄くピッタリ似合っているよ!」

 

 と槍の勇者様は褒めてくれる。

 確かに、メイクアップされた私は綺麗だし、ソースケに見てほしい。

 けれども、慣れないヒールやコルセットが苦しいやらでどうしようもなかった。

 

「うぅ……キツイです……」

「我慢しなさい。こんなの、すぐに慣れるわ」

 

 リノアさんは平気な顔でそんな事を言う。

 確かに、リノアさんは着慣れた感じがある。

 アーシャさんも、着慣れた感じである。

 

「しかし、レイファちゃんは着られている感じがするわね」

 

 アーシャさんの指摘は最もである。

 ドレスアップしたマインさん、レスティさん、エレナさんも似合っていて美しかった。

 

 槍の勇者様は意気揚々と私達を席に案内してくれる。

 私達が席に着くと、メルロマルク料理のフルコースが運ばれてくる。

 最初は前菜、次にスープ、魚料理、口直し、肉料理と出てくる。

 こんな高級店で食べたことがなかったので、私はリノアさんやマインさんを見よう見まねでマナーを真似して食事をした。

 正直、この時何を話したかなんて覚えていない。

 ソースケから安易に相槌をうたないようにと言われていたので、私は返答を慣れているリノアさんに丸投げして、緊張とマナーと戦っていた。

 味は高級店って感じだったことしか覚えていなかった。

 

 

 

 翌日、俺は保釈された。

 長い事拘束されていたため、身体はバキバキである。

 運動時間に一応運動はしていたけれどね。

 こう、ほとんどの時間がベルトで固められると、凝ってしまう。

 

「お前がキクチ=ソースケか」

 

 入り口で待っていたのは、ゴツい鎧を身に纏った男だった。

 

「えーっと、アンタが俺の見張り?」

「そうだ。俺の名はライシェル=ハウンド。王命により貴様の監視を仰せつかった」

「ライシェルさんね。まあ、退屈な任務だとは思うが、よろしく頼む」

「……」

 

 何故か、意外そうな表情で俺を見るライシェル。

 どうしたと言うのか? 

 

「どうしたんだ?」

「いや、てっきり狂気にまみれた人格破壊者だと思っていた」

 

 うーん、既に百数十人殺している殺人鬼が正常に問答できる方が狂気だと言うこともできると思うが。

 まあ、俺の場合はモンスターと変わらない認識だけどな。

 言葉は理解できても分かり合えない連中を同じ人間とは思いたくない。

 だから、こう答える。

 

「俺は自分を十分狂人だと思っているさ。狂っている方向性が、違うだけだ」

「ふむ……」

 

 ライシェルさんはそう言うと、俺にパーティ申請を飛ばしてきた。

 なので、俺はそれを承認する。

 

「では、槍の勇者様のところに案内する」

「よろしく頼む」

 

 こうして、保釈された俺は波と戦うために、元康のところに足を向けることになった。

 少なくとも、編隊を貰わないと波に挑めないしな。




レイファのイメージを描いてみました!
ルリアのイメージを少し改造した感じですね。


【挿絵表示】


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ハーレムパーティになったし、第二の波は俺の活躍で鎮めてやるぜ!

 しかしまあ、俺の武器はどうなったんだろうか? 

 ここ4日間の事情は全く分からなかった。

 現状、投擲具が指す波の時刻まで3時間も無い。

 メルロマルクの龍刻の砂時計に登録した記憶はないんだがなぁ……。

 

「そう言えば、俺の武器はどこにあるんだ?」

「お前の武器は国が管理している。どれも余人には使えない【魔剣化】を起こしているので、いずれは勇者様方に配る事になっていた」

「魔剣化……?」

 

 確かに、人間無骨は魔槍になっているが、親父さんに改造されて鳴りを潜めているはずだ。

 他の武器に関しては、そもそも魔改造しただけの武器に過ぎない。

 

「まるで、槍が他の武器に共鳴しているかの様だと、錬金術師が言っていたな」

 

 うーん、やはり俺の槍は呪いの魔槍だな。

 なんか納得である。

 もはやあの槍は俺でもよく分からない得体の知れないものと化していそうだ。目玉とか生えそう。

 そんな目玉が生えた気持ち悪い槍は流石に持ちたく無いけれど。

 

「……」

「なので、お前にはこの武器を使ってもらう」

 

 ライシェルはそう言うと、腰に差していた直剣を渡してきた。

 鞘から抜いて確かめる。

 これは兵士に一般的に支給されている剣だな。

 魔法鉄だろうか? 

 振ると、結構心許ない感じがする。

 

「え、これで?」

「そうだ。それがお前に許された武器だ」

「……拒否れば?」

「俺がその場で取り押さえ、お前はその命を捨てることになる。レイファと呼ばれる少女も、報いを受ける事になるだろう」

「……はぁ?」

「要するに、あの少女は人質という事だ。今回の出所も、彼女が槍の勇者様に嘆願した事により叶っているという事をゆめゆめ忘れるな」

「……チッ」

 

 これじゃあ確かに逆らえないだろう。

 レイファを失うことは、俺にとっても世界の終わりと同意義だからだ。

 クソッ! 

 リノアやレジスタンスの連中が心配だからって最後まで加担するんじゃなかった! 

 まあ、これも選択だ。俺にはレイファの期待を裏切ることは出来ないし、したくない。

 どちらにせよ、金剛寺に会ったことが運の尽きだったのだろう。

 

「もちろん、波の時以外にお前は彼女と会うことは禁じられている」

「……最悪だな」

 

 つまり、レイファは波の戦いに強制参加するということだし、戦場では会話など満足にできるはずもないので、実質国が強制的に俺とレイファを別れさせるということだろう。

 レイファが生きている限り、メルロマルクは俺という戦力を使うことができるし、仮に死んだとしても、メルロマルクは俺に嘘をついて延々と戦わせるだろう。

 ……ああ、最低だな。

 

「……君には同情するよ。だが、これが今までのツケだ。勇者様方が波からこの世界を救った暁には、君は釈放されるだろうな」

「……嫌な国だな。吐き気がする」

「……」

 

 裁判を受けていないので、これでも被疑者ではある。

 日本では、指名手配された人物が私人逮捕されたのと同意義だ。

 つまり、本来であれば保釈金を払えば裁判までの間は自由が保障されるべきだろう。

 封建社会ならではという事か。

 

「さて、モトヤス様とはここで待ち合わせだ」

 

 メルロマルク城前の門である。

 他の兵士が鎧を用意していた様である。

 

「貴様はそれに着替えると良い。そこの兵士が着替えを手伝ってくれる」

「はいよ」

 

 しかし、ライシェルさんは、あのアニメで出ていた傷の兵士の部下なのだろうか? 

 話は通じそうである。

 

「そういえば、鼻に傷のある兵士は……?」

「ん? 副団長の事か? それならば、マルティ様の護衛をしているぞ」

「……なるほどね」

 

 色々と混じってる気がする。

 書籍ルートであるのは間違いないみたいだが、アニメのみ登場の人物もいれば、web限定の人物もいる。

 まあ、今いる世界がどう言う世界なのかは分からないが、どちらにしても盾の勇者の成り上がりの世界に違いはなかった。

 

「うーん、動きにくい……」

 

 標準的な兵士の鎧は動きにくかった。

 ガシャガシャと音を立てている。

 やはり、親父さんの鎧の出来の良さを感じる。

 

「お、居るね!」

 

 と、元康とヴィッチが姿を現した。

 ヴィッチは興味なさげに()()()()()()

 そう、見ているのだ。

 

「……」

 

 正直、このナンパ野郎に任せるのは不安しかない。

 真・槍の可能性は未だに消えていないのだ。

 愛の狩人になった瞬間、レイファ達が抹殺されかねない不安がある。

 

「それじゃ、編隊だっけ、それを送るぞ」

「では、私にお願いします」

「オッケー」

 

パーティリーダーライシェル=ハウンドが北村元康のパーティと編隊を組みました。

 

 メッセージが表示される。

 

「よし、これで大丈夫だな」

「モトヤス様、他の兵士を勧誘しても大丈夫でしょうか?」

「ん? どうせ直ぐにこれるから不要じゃね?」

 

 次の波はババアの村だ。

 ここからならフィロリアルで2日、馬で1.8日、フィーロで1日ぐらいなはずだ。

 つまり、間に合うわけがない。

 だが、ここは黙っている方がいいだろう。

 沈黙は金だしな。

 

「……わかりました。モトヤス様のおっしゃる通りに」

 

 ライシェルが礼をすると、元康達は立ち去ろうとする。

 

「それじゃ、波でな」

「行きましょ、モトヤス様!」

 

 原作とは少しズレが生じるなと、俺はふと思い至った。

 1点目、第二の波にレイファ達が参加する事。

 これは明確な描写がないからなんとも言えないが、レイファを尚文が見たら、話の展開が若干変わる事になるだろう。

 2点目、もちろん、俺が勇者達と共に波に参加する事だ。

 錬、尚文が俺と会うと、それこそ一番態度が変わってしまう人物がいる。

 

 そう、錬だ。

 

 間違いなく、錬がなぜ俺が捕まっているのか、問いただすだろう。

 その場合、尚文が近くにいる以上、錬の暴走が始まってしまうだろう。

 そう、明らかに俺は物語に介入しすぎている。

 つまり、今回が一番のターニングポイントになりかねなかった。

 

「……頭がいたいな」

 

 ここを上手く乗り切らねば、極めてマズいだろう。

 俺が推察するメガヴィッチの目的を達成してしまうかもしれないからな。

 そう考えると、あのクエスト樹と共に受けざるを得なかったのはまさにメガヴィッチの策略だったのだろう。

 ここが転換点だ。

 ここを乗り切らなければいけない。

 

 俺は一人、策を練り続ける。

 錬がこの国にあまり不信を持たないようにし、書籍ルートに舵を戻せるタイミングはここなのだ。

 俺がこの先生き残り続けるためにも、是が非でも書籍ルートに辿り着かなければならない。

 例え、()()()()()()()()()()()、例え()()()()()()()()()()()()、この世界を守るため、メガヴィッチを消滅させるため、優先順位を見極めなければならなかった。




宗介のイメージ画像は次の更新で!
挿絵描いてもいいかもねー

質問の詳細
1、理不尽に負けず、理性を保って書籍の世界に行き着くようにする
2、何かの手違いが起きてweb化
3、考えを放棄して何もしない
4、カースシリーズの侵食を受け入れ、世界の破壊者になる
5、愛の狩人召喚


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せっかくレイファちゃんに良いところを見せるチャンスだったのに……尚文め!

00:05

 

 私達はソースケに会えないまま、間も無く波の時間を迎えようとしていた。

 

「槍の勇者様、ソースケは無事だったんでしょうね?」

「ああ、共に戦う事になっているよ。ちゃんと無事なことは俺の目でも確認してきたから大丈夫大丈夫!」

 

 リノアさんが焦るのも仕方ないだろう。

 昨日の夜、懇親会の後でマインさんが私達に話した内容が、衝撃を与えていたからだ。

 

「バカな小娘。お前達があの、《首刈り》に再会できると思っているのかしら?」

 

 マインさんの嘲るようにリノアさんに言った一言である。

 

「どう言うことよ!」

「そのままの意味ですわ。確かに生かして差し上げるわ。それはモトヤス様との約束ですもの。ただし、会わせるとは一言も言っていないわ」

「……!」

 

 リノアさんが物凄い形相で睨む。

 

「そもそも、私も《首刈り》を生かしておくなんて反対なの。モトヤス様が仰るから、有効活用してやろうと言うだけのお話ですわ」

「……マルティ王女、何故今このタイミングでその事を私達に教えたのですか?」

「ふっ」

 

 アーシャさんの詰問に鼻で笑うマインさん。

 

「小さな希望に縋っているのが余りにも滑稽だったからですわ。私は親切にも、貴女達の現状を教えてあげただけですの」

 

 何という人だろう。

 いいや、人でなしと言った方が正しい。

 この国の……私の国の第一王女がこんな人だったなんて信じられなかった。

 小馬鹿にして私達を笑う悪魔がそこにいた。

 

「せいぜい、モトヤス様のお役に立てるように頑張ることね」

 

 彼女はそう言うと、私達の元を去る。

 

「……まるで、マリティナね。いいや、そのものな感じがするわ」

「リノアに同感ね。髪の色も顔の形も違うのに、そっくりだったわ」

 

 リノアさんとアーシャさんはマインさんに対してそう感想を述べる。

 私は、目の前で起きた出来事を信じられずに呆然としていた。

 ああ、確かに、こんな性格の人が第一継承権を持っているはずがなかった。

 女王さまが幼いメルティ第二王女殿下に第一継承権を指名したのも納得であった。

 そのマルティ王女は槍の勇者様に寄り添っている。

 

 私は、この人を早く槍の勇者様から遠ざけなければ大変な事になるのではないかと思ったのだった。

 

00:01

 

 間も無く転送される。

 私は、戦力外なのですぐに盾の勇者様のところまで走る予定だ。

 本当に死んでしまえば、ソースケに会う機会がないからだ。

 

00:00

 

 その時、3度国中に響くほどのガラスの割れるような大きな音が木霊する。

 そして、一瞬で景色が切り替わる。周囲を見渡すと、空にはワインレッドの亀裂が広がり、勇者様とその仲間達が状況を把握しようとしていた。

 

「ここは……メシャス村?!」

 

 私とソースケが逃亡している最中に立ち寄った村である。

 

「盾の勇者様!」

 

 何故かいるメルロマルクの若い兵士達が、盾の勇者様のところまで走って行っている。

 

「フィーロ! 槍を蹴って亀裂に向かおうとする奴らにぶつけろ。加減はしろよ」

「はーい!」

 

 私は唖然としていたので、被害はなかったけれど、フィーロちゃんがフィロリアルクイーンの姿で槍の勇者様のところまで走って行き、蹴り飛ばす。

 

「え──?」

 

 蹴り飛ばされた槍の勇者様がリノアさんや他の勇者様を巻き込んで、引き飛ばした。

 

「「「わああああああああああ!」」」

 

 私は思わずめを瞑ってしまった。

 そして、盾の勇者様の周囲に集まっていた。

 

「キレーなおねーちゃん、乗って」

 

 フィーロちゃんが私のところに来たので、私はうなづいてフィーロちゃんに乗り、勇者様方のところに近づいた。

 

「な、何をするんだ!」

「それはこっちのセリフだ馬鹿共!」

 

 槍の勇者様の糾弾に対してそう答える盾の勇者様。

 

「いきなり……?!」

「いきなりなんです! 僕達は波から湧き出る敵を倒さねばいけないのですよ!」

 

 剣の勇者様と思わしき少年は、文句を途中で止めて、信じられない物を見るように動きが止まった。

 弓の勇者は相変わらずである。

 

「ソースケ!」

 

 剣の勇者様はそう言うと、向いていた方向に駆け出す。

 私もフィーロちゃんの上から、ソースケを見つけて思わず顔がほころんだ。

 

「あー、マジか。いや、錬サマ、先に尚文の話を聞いてくれないか?」

「……? あ、ああ、話したいことはいっぱいある。待っていろ」

 

 困ったような顔をするソースケ。

 ……何か、雰囲気がおかしかった。

 

「ああ、まずは話を聞け。敵を倒すのはその後だ」

 

 盾の勇者様は目線で兵士たちにアイコンタクトを取ると、兵士達はメシャス村の方へ走っていった。

 

「さては……僕達への妨害工作ですね!」

「違う!」

 

 弓の勇者が戯言をほざく。

 本当に黙っていてほしい。イライラする。

 弓の勇者は盾の勇者様の否定に驚き、目を見開いた。

 

「落ち着け、そして考えろ。俺は援助金を貰えないから波の本体とは戦わない。せいぜい近隣の町や村を守るのが仕事だ。そこは理解したか?」

「ああ」

「勇者としては失格ですね」

 

 剣の勇者様が相槌を打ち、弓の勇者が余計な事を言う。

 と言うか、盾の勇者様が報奨金を貰えないなんて初耳である。

 

「次に、錬、樹、元康、お前等は波の大本から湧き出る的の撃破が仕事だ。大物を倒せば何は収まるのか、亀裂に攻撃をするのかはやってないから知らない」

「ボスとリンクしているのですよ!」

 

 ソースケ曰く、早めに波を抑えたいならば、亀裂を攻撃するのが有効だとも言っていた。

 

「だけどもな、俺達にはそれ以外に重要な仕事があるの……わかってない?」

「なんだ?」

 

 剣の勇者様が首を捻る。

 その様子に、盾の勇者様はため息をついた。

 

「あのな、騎士団はどうしたんだよ!」

「そんなものは後から来る」

 

 剣の勇者様の仲間が撃った、場所を知らせる魔法弾を指差す。

 メシャス村は馬やフィロリアルでも1日半かかる遠い場所だ。後から来ると言うのは楽観が過ぎるだろう。

 

「ここは城下町から馬やフィロリアルで一日半の距離があるんだぞ! 間に合うかボケ!」

「じゃ、じゃあどうすれば良いんだよ!」

「情報通のお前らが言うのか?!」

 

 狼狽える剣の勇者様に、盾の勇者様が解説する。

 盾の勇者様は兵士たちを指差した。

 

「そう言えば……あの方々はどうやって転送を? 

「編隊機能を使ったんじゃね?」

 

 と、槍の勇者様が割り込んだ。

 

「6人以上は経験値効率が下がるのはみんなも知っての通りだよな。宗介と、そこのおっさんを連れて来る際に何か方法がないか探したらあったんだよ」

 

 槍の勇者様の回答に、全員が驚く。

 ソースケはため息をついて、そう言うことかと呟いた。

 

「なるほど、そう言う機能があるんですね」

 

 弓の勇者も納得のようである。

 

「わかっている元康が何で他の兵士を連れてきていないのかは置いておくとして、とりあえず確認だ。誰か波での戦いについて、ヘルプなどの確認を行ったもの」

 

 盾の勇者様が手を挙げながらそう言うと、勇者様方全員がキョトンとした顔をする。

 

「熟知しているゲームのヘルプやチュートリアルを見る必要なんてないだろ?」

「そうだ。俺達はこの世界を熟知している」

「ええ。ですから、早く波を抑えることを最優先にしましょう!」

 

 三人の勇者様の回答に、盾の勇者様は呆れた表情をする。

 

「じゃあ波の戦いはお前等……他のゲームでなんて言う?」

「は?」

「何のことだ?」

「それよりも早く行きましょう!」

 

 弓の勇者は人をイラつかせる天才ではないだろうか? 

 私の弓の勇者への心象はどんどん悪くなっていく。

 リノアさんを見ても、呆れた表情をしていた。

 弓の勇者とその仲間達は、波の大本へと駆け出していった。

 

「元康、お前は俺の質問の意味がわかるだろ?」

「まあ……インスタントダンジョン?」

「違う。タイムアタックウェーブだろ?」

「ギルド戦、またはチーム戦、もしくは大規模戦闘だよ!」

 

 いまいち、私は勇者様の話している言葉の意味が掴めなかったが、どうやら戦い方の話をしているらしい。

 

「……お前等、ゲームのシステムを完全に理解していても大きなギルドの運営をした事が無いんじゃないか?」

 

 盾の勇者様の指摘に、槍の勇者様が反論する。

 

「俺はチームの運営をしていたぞ」

「じゃあ何で理解できない」

「必要ないだろ。それに、宗介を連れてきたのは俺だ。それで十分だろ?」

「はぁ!?」

「どうにかなるもんさ」

 

 ソースケは沈黙してただ、この流れを傍観しているだけだ。

 さっきから、ソースケの様子は明らかに変である。どうしたのだろう? 

 

「フィーロちゃん、下ろして」

「んー、ごしゅじんさまからキレーなおねーちゃんは村に着くまで守れって言われているから、後で降ろすよー」

 

 どうしよう。ソースケがおかしい。

 

「俺はそう言うのに興味がなかった」

「……とにかく、今回は俺達がどうにか頑張ってみるが、次はちゃんと騎士団と連携を取れよ」

 

 盾の勇者様がシッシと追い払うように波の大本に行くように促すが、二人は立ち去らない。

 

「その前に、ソースケ……いや、宗介と話をさせてくれ」

「好きにしろ」

「それと、レイファちゃんを離せよな!」

「彼女は完全非戦闘員だ。こちらで預かる」

「だが、俺のパーティだ!」

「くどい!」

 

 槍の勇者様は舌打ちをする。

 

「……槍の勇者、行きましょ。盾の勇者様、レイファをお願いするわ」

 

 リノアさんが槍の勇者様を促して、諦めるように波の大元に向かった。

 アーシャさんは既にソースケのところに待機している。ブレないなぁ。

 

「と言うわけだ。俺達も近隣の村へ行くぞ! ラフタリアとフィーロ、レイファもな」

「はーい!」

「はい!」

 

 私はソースケのところに行きたかった。

 だけれども、剣の勇者様と話があるようであった。

 だから、私はフィーロちゃんに手足を羽毛で絡め取られたまま、なすがままについていくことになったのだった。

 

「ソースケ……」



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暴走

錬目線です。


「宗介、久しぶりだな。元気にしていたか?」

「ああ」

 

 まさか、こんな所で失った仲間と会えるとは思えなかった。

 俺のパーティだった頃とはすっかり違っているが、やはり宗介は宗介だった。

 だが、俺が近づくと、なぜか宗介は短剣を構えた。

 腰に装備したものではなく、どこかで見たことがあるような宝石の装飾がされた短剣だった。

 

「何を考えている?!」

 

 騎士が俺を守るように、宗介に立ちはだかった。

 どうしたと言うのだろうか? 

 

「ぐあああああああああああああ!!」

 

 そして、一瞬で血飛沫をあげて倒れた。

 

「ソースケさま?!」

「宗介?!」

 

 宗介は、嫌な笑みを顔に貼り付けている。

 な、何が起こった?! 

 

「クックック……。なぁ、錬。お前は、世界を守ることはどう言うことだと思う?」

 

 な、なんだこれは?! 

 

「……どう言うことだ?」

 

 俺は剣を構える。

 それも、今一番強いサンダーソードだ。

 

「なあオイ、教えてくれよ錬。クックック……。世界をお前は守れるのか?」

「もちろん、守ってみせる!」

「滑稽だな。こんなゴミクズみたいな世界、滅んでしまえば良いだろう?」

「宗介……?」

「ソースケ様、何を?!」

 

 宗介はそう言うと、()()()()()()()

 

「エアストスロー、セカンドスロー、ドリットスロー、コンボ、サウザンドスロー」

 

 宗介の手につき次とナイフが出現する。

 

「俺を殺せなければ、錬、お前に世界は救えない。さあ、戦え!」

 

 ふっと宗介が消える。

 一瞬でHPが削れる。

 痛い、なんだこれは?! 

 見ると、身体中にナイフが突き刺さっていた。

 

「なっ?!」

「弱い。が、さすがは精霊具の勇者様だ。硬いな。だが、次で終わりだ」

 

 俺は負けるのか?! 

 それになぜ、俺が宗介に攻撃されているのかわからなかった。

 

「おやめください! 何を考えているのですか?!」

「勇者殺しだ。この世界を破壊する」

「なっ?!」

 

 ダメージを負った騎士が立ち上がり、再び宗介の前に立ちはだかる。

 

「何を考えている?! キクチ=ソースケ!!」

「クックック……。何を? はっはっは、わかっているだろう?」

 

 宗介は明らかにおかしかった。

 まるで、魔王を彷彿とさせた。

 

「なぜ、俺にこの選択をさせたのか、お前達メルロマルクの連中ならばわかるだろう? なあオイ!」

 

 再び宗介の手元のナイフが消えて、鎧の男の身体中に突き刺さる。

 

「ファスト・ヒール!」

 

 宗介を慕う女が慌てて彼を回復させる。

 

「クックック……。そんな強さもないくせに、何が守るだ。そもそも錬。お前は一体何を守っているんだ?」

「うをおおおおおおおおお!!」

 

 騎士が剣で攻撃するが、宗介は最小限の動きで的確に避ける。

 

「チェインブレイク」

 

 宗介は武器を鎖鎌に変形させると、騎士を鎖鎌の鎖で巻きつけて、鎖を爆発させた。

 

「う、ガハッ……!」

 

 再び倒れ臥す、騎士。

 

「お前は何も守れはしない。人も! 世界も! そして、お前の心もだ! あははははは! はははははははははは!!」

「くっ! 何をわかったような口を!」

 

 俺は、宗介を敵として認識する。

 ここで奴を倒さなければならない! 

 

「さぁぁぁぁぁぁ! この菊池宗介を止めてみろぉぉぉぉ! 俺は世界を殺すぅぅぅぅ!!!」

「俺がお前を止めてみせる!」

 

 俺は宗介の間合いに近づく。

 

「遅い」

 

 振りかぶった剣は受け流され、顔面にナイフが突き刺さる。

 剣の加護のおかげで、頰に切り傷ができただけで済んだが、完全に俺を殺す攻撃だった。

 

「遅い」

 

 宗介の姿が消えると、一瞬で周囲にナイフのドームができ、俺に向かって飛んでくる。

 

「はああああああ!!」

 

 俺は180度埋め尽くされたナイフを剣でなんとか防ぐ。

 足や腕に刺さるが、剣の加護のおかげで大きい怪我にはなっていなかった。

 

「遅いぃぃ!!!」

 

 宗介は武器を手斧に変化させる。

 

「トマホォォォォォゥクゥ!!」

 

 そして、斧を投擲する。

 

「レン様!」

 

 ウェルトが盾で宗介の投擲した斧を防ぐ。

 

「ぐっ! ソースケさん!」

「ウェルトォォォォ! お前はここで殺してやるかぁぁ!」

「あの時はすまなかったと思っている! だが、今は波の時だ!」

「だから殺すんだよオォォ!!」

 

 もはや、宗介は話の通じる状態ではなかった。

 

「ウェルト、テルシア、ファリー! あの時俺を嵌めた罪、今ここで断罪してやる。どうせ死ぬんだ。ここで俺が殺してやる! はははははははははは!!」

 

 宗介は再びスキルを使うと、また消える。

 

「うわあああああああああ!!」

「きゃああああああああああ!!」

「ウェルト! テルシア! くそおおおおお!」

 

 俺は宗介を殺すために剣を振るう。

 宗介は平然と俺の剣を紙一重で回避して、手痛い反撃を食らわせてくる。

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