絆きらめく恋いろは 二対の蒼銀 (AOS-5201 ひびき)
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交わる銀と鉄

初めまして、ひびきです
某SNSでめくいろを知ってプレイしてどハマりした結果書いてみたい衝動に駆られ筆を取りました
執筆なんてした事が無いので色々と至らない点もあると思いますが緩く見て頂けると

物語の始まりは本編より前からになります



─1年前─

 

住吉学府に建てられた「刃道」を学ぶ為の学園、叢雲学園

毎年多くの少年少女が受験しては、通るのは半数程という規模と難易度を誇るこの学園は武芸者(戦人(いくさびと)と言う人も居る)としてのイロハを学ぶ「武芸科」、刀を打ったり武芸者をサポートしたりする「技巧科」、鋼等の素材を仕入れたりする「主計科」の3つに分かれている。

多くの生徒は武芸科に入り、技巧科と主計科もそこそこの人数と言った割り当てとなっている。

 

 

 

 

 

刀鍛冶の家系の「神代家」の生まれの俺は幼馴染みが武芸科というのもあって技巧科に異例の特待生扱いで入学した。

神代の御先祖様が学園の設立や霊式機工刀「折紙(オリガミ)」の作刀方の確立に貢献したってのもあるらしいし、何より俺の母親が有名過ぎる故に叢雲学園としても手放したくないらしい。

 

…まあそんな裏話はどうでもいいんだが…今現在目の前にご立腹な幼馴染み「朱雀院椿」が仁王立ちしている。

怒ってる…みたいだが、子供の頃と変わらず頬を膨らませてるせいで威圧感は殆ど無いし、むしろ可愛いとしか言えない。

 

「龍月くん、どうして武芸科じゃないの?」

 

俺の母親を知る人からはみんなそう言われる、確かに母さんが父さんと結婚する前に爺ちゃんから教わったっていう神代家の剣技を俺も教わってはいるが…

刀鍛冶の家系なのに剣技が伝わってるのが不思議かもしれないが、ン百年昔は化妖や妖魔と呼ばれる異形を祓う退魔師として剣技を磨いて戦い続けた人も居たらしい、その剣技が密かに継承されて来た結果、偶然にも俺の代で刀鍛冶の技術と剣技両方を1人の人間が受け継ぐ事になった。

神代家は昔から不思議と双子が産まれやすい家系だった、それ故に刀鍛冶と戦人とそれぞれがなっていたのだが、産まれてきた時に片割れが大きな病気にかかって亡くなったらしい俺は今は一人っ子…母さんが養子として引き取った義妹は居るがある種ノーカンだろ。

と、まあ俺が一部の人から武芸科を希望されてたのもこういった経緯があるんだな。

 

「どうして…と言われてもな、家は元々(表向きは)鍛治職人の家系だしな」

 

これは間違ってない、化妖が殆ど出没しない(しても国の退魔師部隊が対処する)為にここ最近は刀を振るう機会も無かった。

試験の時に担当の教師と軽く1戦して適正を計られた時に久しぶり…ゆうに3年ぶりに振ったくらいだ。

イマイチ納得出来てない様子の椿、先程言っていたが、どうやら武芸科として演舞祭等で競えるのを楽しみにしていたらしい。

 

「久しぶりに龍月くんと試合したり出来るかなって思ってたのに…」

 

あぁ…これはちょっと不味いやつだ、さっぱりしてるように見えて椿は案外長々と引きずるタイプだ。

 

「わかったわかった…時間がある時に軽く手合わせならするから落ち着いてくれ」

 

椿と居ると昔からよく言われる、どっちが歳上なんだってね。

どう見ても椿だろ、基本的にしっかりしてるし人望もあるし…たまにポンコツなのも椿の可愛さの一つなってると思う。

中学の時も散々告白されてたしな、全部断ってたみたいだけど。

 

俺の言葉を聞いて分かりやすくご機嫌になる椿、本当に可愛い。

 

「じゃ、じゃあ今からとかは…」

「ん…鍛錬とかは良いのか?」

 

手紙とかで聞いてた話だとこの時間帯はいつも自己鍛錬をしているはず…

普段の鍛錬の代わりに俺と手合わせしたいって事なのか?

まあ確かに昔は鍛錬代わりに手合わせしてたこともあるが…

 

「オリガミも練習用のとか揃ってるし…ダメ、かな?」

「ん…流石にそこまで言われたら断れない…か」

 

言質は取ったと言わんばかりに俺の腕を引っ張って歩き始める椿、相変わらず距離が近い、他の生徒がめっちゃ見てるのに気付いてないんだろうか…気付いてないなこれは、まぁ…いつもの事か。

 

 

 

 

 

 

連れてこられたのはヨリシロ君と呼ばれるシステムのある競技室?体育館?みたいなところだった。普通に広い。

それに対衝性能も高そうではあるし、多少は思いっ切りやっても大丈夫…ん?誰かに見られてる気配が…?

 

ふと振り向くと喧嘩っ早そうな人が居た。誰だ?しかもなんか準備をしてる椿を若干ニヤついた表情で見てる気もする。

 

「椿、あの人は?」

 

手っ取り早く聞いてみる事にした。

 

「あの人?ぁ、葵来てたの?」

「よぅ、椿が男連れ込んでるって話聞いて来てみたんだよ、どんな奴なのかと思ってね」

 

男を連れ込むって…手合わせするだけでそう言われるのか…

いや、今まで1人でどうにかしてきてた椿を知ってればそうなる…か?

 

「ふふん、私の自慢の幼馴染み、神代龍月くんだよっ!」

 

何故かドヤ顔する椿、一方の俺は訓練用のオリガミの状態を見ていた、そんな俺を興味深げに眺めてくる葵と呼ばれた人…椿との会話を聞く限り椿と同い年…つまり先輩だろう、椿と仲がいい…のか?からかいの種を探しに来たようにも見えるが。

 

「ふ〜ん?中々いい男じゃん?」

「あげないからね!?」

「俺は物か…?」

 

ボヤきつつオリガミのチェックに戻る、訓練用と言うだけあって基本的な身体強化の天呪のようだ、これなら万人に使いこなせる…筈だ。

重さ、長さ共に基本に忠実…使い勝手は悪くなさそうだな。

1度鞘から抜いて刀身の確認も怠らない、有り得ないと思うが、もしも刀身に傷が入っていたり欠けていたりするとそこから一気に砕ける事もある、刀が砕けるという事は刀鍛冶のメンテ能力も剣士の技量も疑われるという事だ、故にみんなオリガミの扱いには慎重になる。

 

「こっちは準備出来たよ、龍月くんは?」

「ん、問題ない、これだけ基礎に忠実なら何とかなるだろ」

 

 

 

 

ヨリシロ君を起動し所定の位置に立つ俺と椿、習った剣技は同じなので試合前の礼も最初に取る構えもほぼ同じ、違うとすれば俺は身長と手足の長さがある分、椿は小柄で素早い分の利点があるという事だろう。

だが、それは俺と椿の試合にはほぼ影響は無い、何故か?それは簡単だ、やる事がお互いにわかり切ってるせいだろう。

オリガミを抜き、基本の中段で構えて椿を見据える、椿の構え方も同じだが、今にも飛び掛ってきそうな雰囲気を出しながら間合いを計っているようだ。

 

「相変わらず待ち型…か…椿らしいというかなんと言うか…」

 

だが予想は外れるものだ、一呼吸置いたその瞬間に椿は飛び込んできた、見る人が見れば剣気が迸っているのが見えてしまう程に力を込められた一閃。

 

─ガギン!─

 

鉄と鉄がぶつかる音がする。

反応が1拍遅れたが寸でのところで受け止める事に成功した…が、それで止まる訳もなく、立て続けに連撃を打ち込んでくる椿、だが連続的な攻撃は何度も見て来た、この速度なら捌ききるのは可能だろう。

 

キン!キン!と鉄を打ち合わせる音が部屋(?)の中に響く、椿の怒涛の連撃をただひたすらに捌き続けていく

椿の連撃が緩んだ一瞬を突いての薙ぎ払い一閃、距離を取る椿とそれを追う俺

椿は当然カウンターの構え、つまり居合の構えを素早く取って待ち構えているが、その椿に突っ込む俺もまた居合の構えである。

居合を放つ瞬間、周りの景色がスローモーションに見える事が多い、母さんには居合を放つ時の動きが速すぎるからじゃないかとはよく言われる。

話を戻そう、スローモーションな世界の中見えたのは、想定を上回られた時に見せる椿の驚愕の表情と葵と呼ばれた先輩の驚いた顔。

 

一閃

 

居合後の癖で納刀すると、視覚化されたジャケットの耐久値が互いに半分を切っていた、どうやら居合の瞬間にギリギリカウンターを貰ったらしい。

流石は椿、幼い頃母さんにみっちり仕込まれただけあって強い、だが俺だってブランクがあるとはいえ同じ師から学んだ身、簡単に負ける訳にはいかない。

 

一足飛びに踏み込みつつ胴を薙ぐ一閃、当然椿に阻まれるが…

 

花車(はなぐるま)!」

 

椿に受け流された横薙ぎの勢いを残したまま反転しての縦斬り、そのまま冷気を纏ったかのような突き「雪風(ゆきかぜ)」で追撃を入れる。

不意を突かれた椿は大きく距離を取るが、まだ俺の間合いから抜けきれてはいない。

 

「貰った…!紅蓮!」

 

全ての闘気を剣に乗せて放つ必殺剣「紅蓮」、これは椿も見た事が無いようで、着地した直後を狙ったのも相まってもろに直撃して吹き飛ぶ。と同時にバリアジャケットの耐久値が危険域に入った警告アナウンスが流れ、手合わせは終了した。

 

 

 

 

「ふぅ…大丈夫か椿?」

 

吹っ飛んで床に落ちたまま起き上がらない椿を抱き起こす、どうやら変な所を打ったりはしていないらしい、良かった。

 

「いやいや…お前強過ぎないか?椿は去年誰にも負けなかった無敗王者だぞ?それをあっさり…」

 

先輩が驚いているが、俺と椿はいつも一進一退の戦闘で五分五分に張り合う、片方が負けっぱなしって事は全く無いんだがな…

あぁでも、居合でのクロスカウンターからの連撃はほぼ一瞬だっただろうから、傍から見たら確かにあっさりかもしれないな。

 

とりあえず起きない椿を連れて寮に向かう、が、ここで致命的な事に気付く。

まず1つ、俺は椿の部屋の場所を知らない

2つ、分かったとしても4階以降は女子生徒フロア、男子生徒は立ち入り禁止だ

3つ、立ち入り禁止じゃなくても椿の部屋の鍵がわからん

詰んだなこれは、かと言ってロビーで寝かせとく訳にもいかないし…………いや、流石に俺の部屋はマズいだろ…交際してる訳でもないし…流石にガキの頃の約束を覚えてるわけでも無いだろうし…

仕方ない…起きるまでロビーで待っとくか…

椿を降ろし、適当な所に腰掛けつつかつて稀代の天才剣士と呼ばれた女性で俺の御先祖様の「神代真奈」が残したと言われる手記を解読する。

特殊な力、霊力で封印されていて、神代真奈と同質の霊力の持ち主じゃないと解読所か頁を捲ることすら出来ないらしい。

解読が済んだ部分に書かれていたのは取り留めもない日記みたいなものだった、随分と破天荒な人生を送っていたらしい。

が、この手記には昔真奈が使っていたとされる神降ろしの術と、真奈がいつか強大な悪鬼が蘇った時の為にと残した霊刀の設計図等が記されているらしい、いやホントかどうかは知らないけどな?解読出来るのは俺だけらしいし

 

「んぅ……?」

 

と、そうこうしている内に椿が起きた、正直足が痺れて来ていた所だった

後は部屋を整理してから続きを解読するかな、一年ぶりの椿とどこかで話してもいいし…これからやる事は多そうだ。

 

 




戦闘描写とかグダグダですね、はい
お気付きの方はいらっしゃるかもしれませんが、オリ主が使う技は基本的にFFXIVのジョブ、「侍」の技になります、他の刀技とかも出るかも…?
後多分他のヒロイン達も魔改造気味に強くなると思います()

絆きらめく恋いろは、この作品は私の1番のお気に入りの作品なので頑張って書いていこうと思います

気長〜に読んでいただけると幸いです


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桜と月

─1年後─

 

あれから1年が経った、椿と週一で手合わせしたり、それが無い日は葵(そう呼べって言われた、椿は呼び捨てなのに自分は先輩呼びは嫌らしい)に付き合わされて稽古をしたりと色々付き合わされていた1年だった。

おかしいな、俺は一応技巧科の筈なんだが…まあ刀輝と違って握れない訳じゃないし、それなりにはやれるし身体を動かすのは好きだからお呼びがかかるのは嫌では無いんだがな。

 

今年は一つ下の義妹、神代葉月と従妹の藍原しおんが入学して来た、どちらも武芸科だ、ついでに見た事ある筆跡で「近々そちらに伺います」と書かれた手紙も来てた、絶対「彼女」だよなぁ…ややこしい事になりそうだ…

 

ちなみに葉月は入学早々椿に試合申し込んで完敗してた、そりゃそうだろ…

しおんは相変わらず天呪の制御が上手くいかないらしくだいぶ落ち込んでたな、誰かが教えてやるしか無いんだろうが…本人がやる気を失いつつあるらしいから今教えると言っても強制になりそうで気が引ける。

 

懐かしい顔ぶれが叢雲学園に集まって来たせいか、また懐かしい夢を見た。

だいぶ昔の、まだ俺も幼く、刀輝や葉月と一緒にとある人の家に来ていた時の夢だ。

群馬の奥地に住む人で、そこの子供と俺達は仲が良かった、確か名前は…サクヤ?だったか?ずっと刀輝がそう呼んでいた気がする、サヤだったと思うんだが…うーん?

 

「どうかしたの?」

「うお!?」

 

寝付けないから夜に散歩をしていたら背後から声を掛けられた、ん?聞き覚えのある声のような…

振り向くとそこには吸い込まれそうな黒髪と鮮やかな赤い瞳の少女が立っていた。

声に聞き覚えもあるし夢で見た子の面影が…?

 

「龍月?だよね?随分大きくなってるから一瞬わからなかったよ」

 

あぁ…わかった、こいつはサヤだ、桜に夜で桜夜…刀輝が間違えて名前を覚えてたあの子だ。

俺を下の名前で呼び捨てにするのは都子の姉さんと桜夜だけだ…今は葵もか、とにかく、呼び方だけですぐ分かって良かった。

 

「あぁ…桜夜か…今朝お前の夢見たよ」

「ホント?それは嬉しいなぁ」

 

嬉しいのか…いや嬉しいんだろうな、10年近く合わなかった(手紙のやり取りはしてた)相手だしな、覚えて無いと思ってたんだろう。

いやまぁ一瞬わからなかった、当時は男にしか見えなかった桜夜がこれだけ女の子らしい体型になってたんだからな。

 

「桜夜も元気そうで何よりだ、それに、そっちも随分成長したようで」

「も、もう!どこ見てるの!」

 

身長とかのつもりだったんだが、まあ怒ってるわけでも無いみたいだし次から気を付けておこう。

去年の入学者の中には居なくてうちの制服を着てるって事は…編入か?編入の為の試験中々厳しいって聞いた事もあるんだが、それを通過して来たなら並々ならぬ努力をしたんだろうな。桜夜らしいっちゃらしいけども。

 

「んで、なんでこんなド真夜中にこんな所に居るんだ?迷子にでもなったか?」

「ま、迷子になんてならないよ!子供じゃないんだから」

 

それもそうだ、昔はよく迷子になってたが駅から学園まで来れたなら住吉学府で生活する分にはなんの問題も無いはず。

 

「さっき狐のお面被って木刀を2本持ってフラフラしてた刀輝と会ったんだよ、変わってなかったなぁ」

 

お面…?木刀…?あいつそんな趣味があったのか…初めて知った…

狐のお面にフラフラ…か、まるで真奈の手記にあった狐憑きみたいだが…まぁそんな事ないだろ、アレはン百年前に封印されたんだし、な。

 

にしても桜夜もよく覚えてるもんだな、あいつを見て1発で変わってないって言い切れるんだから大したものだ。

桜夜と刀輝は仲が良かったし、まぁそれ以外にも色々理由はあるが…一番は桜夜の観察力、だろうな。

刀輝が覚えてるかはわからんが、そのうち思い出すだろう、それまでは見守っとく事にしよう。

 

とりあえず帰るとするか…と、桜夜は何処で寝るんだろうか、まだ寮の部屋は割り当てられてない…のか?もしそうならホテルかどこかだろうか…

送って行くべきなのか?桜夜は強いが、女の子だし…うん、送って行くか。

 

「桜夜、今日は何処で寝るんだ?」

「…あっ、ホテルにチェックインするの忘れてた…」

「おいおい…もう日付け変わってるぞ?」

「ど、どうしよう…?」

 

なんと言うか、若干抜けてる所は全く変わらなかったな、うん。

じゃなくて、時間的にキャンセルになってる可能性は高いが…連絡来てると思うんだがな…

 

「携帯は?」

「先に学園に送った荷物の中…」

 

詰んでないか?いや、学園に送ったならもしかしたら部屋の割り当てはされている可能性も…お小言覚悟で管理人の人に聞くか、そうと決まれば急がないとな、椿が言ってたが寝不足は肌に良くないらしいからな。

 

桜夜の手首を掴んで寮に向かって走る(当然桜夜のペースに合わせてはいる)、が、寮に着いてみると、管理人室の電気は既に消えていた(当たり前だわな)。

 

「うん、詰んだなこれは」

 

申し訳なさそうに縮こまってる桜夜、昔から刀輝相手だと自信たっぷりな態度なのになんでこうも違うんだ??

とりあえず自室の明かりをチェック、ついてないな、つまり葉月は自室か、なら良し。

 

「本当はダメなんだが、桜夜は俺の部屋の布団使ってくれ」

「龍月は?」

「外で時間潰して明け方に戻ってくる、早朝トレーニングのフリでもするさ」

 

オタオタしてる桜夜を部屋に放り込んで簡単に使い方を説明して外に出た。

が、この時の俺は桜夜が機械音痴だということをすっかり失念していたのだった。

 

 

 

 

─数時間後─

 

あれから徹夜で外を彷徨いて明け方の5時、早起きな桜夜ならもうそろそろ起きているだろうと見当をつけて寮の部屋に窓から戻る。

部屋に入ってみると…布団、基毛布が山になっていた、まだ寝てるのか?まぁ環境が変わると寝付けない人もいるからな、そこは仕方ないところだ。

 

「桜夜?そろそろ起きた方がいいぞ」

 

とりあえず起こす、山がもぞもぞ動いて中から眠そうな桜夜が出て来た、下着姿で…ん?下着姿?

 

「おまっ!なんで服着て!?」

「んん…制服が皺になるといけないかなって…あとシャワーだけ浴びようかと思ったら使い方分からなくて…」

「そうだった…お前機械音痴だったな…」

 

毛布にくるまって顔だけ出してる桜夜を見ていると思わずため息が出る。

とはいえ部屋に放り込んでそのまま出たのは俺だ、責任はある。

一人分の服くらいなら1時間もあれば終わるはずだし…うん、桜夜次第だな。

 

「桜夜、汗流したいよな?」

「え?うん、それはまぁ…」

「おっけ、使っていいぞ、その間に洗濯諸々済ませてやる」

 

バスタオルやら男物ではあるがとりあえず着れるものを渡してユニットバスに行かせる。空調もついてなかったしとりあえず何となく取り付けたユニットバスの制御用のパネルの使い方を説明しておく。

流石にこれなら使えるようで、すぐにシャワーの音が聞こえ始めた。その間に桜夜の服をバッグに詰めて駅前のランドリーまでひとっ走りするか、往復と全行程含めても1時間ちょっとで終わるはずだ。

 

早目に戻る為にもキーと財布とバッグだけ持って窓から飛び出す。

 

 

 

─約1時間後─

 

午前6時過ぎともなるとちらほらと起きて来ている生徒も居る、流石にこの状況で窓から入ったら不審者間違いなしだ、それを見越してキーを持ち出してるわけだが…パスワードも一時的に変えてあるし葉月も勝手には入れんだろ…

自室のロックをキーで解除して入り、もう一度ロックをしておく。

 

「桜夜、出てるか?」

「うん、ありがとね」

 

サイズはある程度合ってはいるはず…男物だからアレだが…と、思っていたら、やはり体格のせいか随分ダボダボだった。

 

「…ぁ〜…すまん、やっぱデカかったか」

「ぇ?あ、ううん、大丈夫、丁度いいよ」

 

思いっ切り余ってる袖(萌え袖と言うらしい)をパタパタしている桜夜、以前椿も同じことしてたな…

バッグを桜夜に投げ渡して後ろを向く、それだけで察したのだろう、着替える音がして来た。

平常心平常心…このくらいなら葉月や椿で慣れてる…うん、慣れてる…

素直に外に出ても良かったんだが、何で廊下に居るのか聞かれたら不味いしな…ここの生徒の大半は7時半には学園に着いてる…一部寝坊勢も居るがそれでも10〜20分は間が空くからその間に学園の職員室まで案内すれば後は佐々木先生がどうにかしてくれるはず…

 

「龍月、もう終わったよ」

 

桜夜の声に振り向くと、制服に着替えてバッグに貸してた服を詰め込んでる桜夜が居た。

 

「ん?なんで俺の服を詰めてるんだ?」

「洗って返そうかなって」

 

そこまで気を使わなくていいんだがな…というか自分のだし洗うだけならすぐ終わるし…まぁいいか、変に否定して意固地になられたり落ち込まれるよりは好きにさせる方がいいって母さんも言ってたしな。

 

7時を回った頃に窓から外を見てみると、丁度刀輝が眠そうに歩いていてその後ろから椿が声をかけている所が見えた。

刀輝のやつ、寝不足か?いや俺も眠いは眠いんだが。

しかしやはり7時頃は人が多い、今桜夜が部屋から出たらよからぬ噂が立ってしまうかもしれない。そうなったら桜夜が学園生活を送るのに支障が出てしまうかもしれん。

葉月は…椿を追いかけて行ったか、ロックが開かないから居ないと思ったか?

なんにせよ、知ってる顔が少なくなれば動きやすくなる。

 

何となく桜夜に目を向けると、うちの道場の指南書を読んでいた、そう言えば似た系統ではあるけど速さを活かして打ち合う桜夜の流派と居合を基本として立ち回るうちの流派とで違いがあるから興味があるって言ってたっけか。

教えてもいいんだが、たぶん桜夜は居合に適正あまりないと思うんだよな…、居合は自分から攻め込むのに向かない型だし。

 

っと、ぼーっとしてたら半を回ってるな、この時間なら多少人は減るから今のうちに桜夜を行かせよう。

 

「桜夜、バッグは後で管理人に渡しておくから、学園に行くぞ」

「え?あ、うん、すぐ行くね」

 

指南書を棚に戻して立ち上がる桜夜、今度貸してやるか。

先に桜夜を外に出させ、荷物を管理人に預けて俺自身も外に出る。

桜夜を連れて職員室に向かうと丁度佐々木先生に遭遇したので桜夜を預けて工房にでも行こうとすると、唐突に呼び止められた。

 

「おい龍月、お前、あまり夜中に出歩くなよ?」

「バレてましたか、気を付けます」

 

流石にバレてたらしい、まぁ寮にはカメラあるしな…確認出来るのは教師と管理人だけだから管理人にもバレてるなこれは、まあいいさ桜夜を野宿させるよりは遥かにいい。

ちなみに俺が出歩くなと言われる理由は単純で、異質な物を引き寄せやすい体質だかららしい、昔に退魔師から普通の人間の精神感応波係数とは別に霊力と呼ばれる力を持ち、その霊力が異常に高くて神力の域に至ってると言われたこともある、昔はその神力を用いて神降ろしをしたりしていたらしいが…そこらは詳しくは知らん。

その力が化妖や妖異を引き寄せる事があるらしい、寮にはそれらに感知されない為の結界が張ってあると以前聞いた気もする。

まぁ、実際半年程前に椿と駅前で買い物した時、帰りが遅くなって襲われた事があるから疑う余地も無いんだが。

 

そのまま旧工房に向かい、学園側から頼まれている訓練用オリガミの修復と再調整作業に入る。

特待生として入学して以来、長く使われてるオリガミの中でも損傷が大きい物の修復を頼まれてる、武芸科の特待生は専属のコーチを付けて専用のメニューで訓練したりするらしいが、技巧科の特待生は異例なせいでやらせる事が殆どないらしい。

そんな訳で、自分が思い付いた刀を打つ傍らで訓練用オリガミの修復をしたりしている。

作刀数自体はそこそこあるが、ぶっちゃけこれと言えるものは出来てない、ざっくり言うなら汎用的過ぎて椿や葵みたいな「デキる」タイプの人の力を引き出しきれるオリガミが出来ないって事だな。

神代の家に産まれたからには何か形として残したいとは思うが…相変わらず閃かない、椿との鍛錬もオリガミ作りの一環なんだが…まぁ、中々出来ないからこその名刀なんだけどな。

 

刃こぼれしたオリガミの手入れや機巧パーツの調整等をしていたらいつの間にか夕方になっていた。

人の気配が近付いて来てるが…刀輝か?にしては足音が二人分…葉月では無いはず、あいつなら走ってくる、しおんは…そもそも滅多にここに来ないしな…椿が刀輝と一緒にここに来る理由も特に無いはず。

気配が隣の工房で止まった、という事は1人は間違いなく刀輝…となると消去法で桜夜か?案内で連れて来た可能性はあるしな。まあこっちには来ないだろ、来ても話せる事何もないしな。

 

思考を切り替えて打ち直したオリガミの刃を研ぐ、研いでいる間はそっちに気を集中してるせいで周りで何が起きてるかは全く分からない状態になるんだが、桜夜と刀輝がこっちの工房に入って来たのに気付いたのは一本分の研ぎを終わらせてからだった。

 

「あ、終わった?」

「うお!?」

 

横からとはいえいきなり声をかけられて死ぬ程驚いた、最近不意打ち多くないか…?

 

「で、なんでここに居るんだ?」

「上和…桜夜が龍月の作業場見てみたいって言うからさ」

 

いや刀輝の所と変わらんだろ、設備も同じだし…強いて言うならここに籠ることが多いからそこそこ大き目の冷蔵庫を置いてるくらいだぞ…小さいサイズなら刀輝の所にもある筈だし。

まぁ違いを探しても意味は無いしな、とりあえず時間もアレだし出るか…

研ぎを終えたオリガミを鞘に収めて担ぐと、察したのか刀輝がドアを開ける。

一応自力で開けれるようにしてはあるんだがな、今回は想像以上に多くて手間だったから助かった。

 

「龍月っていつもこういう事してるの?修理とか」

「ああ、あいつ特待だしね」

 

後ろで桜夜と刀輝が話してるのが聞こえる、普通に考えたら生徒が学園の備品を修繕してるなんて思わないわな。

 

「椿は…まだトレーニングか」

「いやなんで毎度毎度分かるんだよ…」

「この1年、トレーニングしてるかそうじゃない時は俺の居る工房に顔を出してたからな」

 

納得したと言わんばかりの刀輝、桜夜は首を傾げている。

俺の工房を見せるくらいならヨリシロ君の案内とかしてやればいいのにな。

どちらにせよ俺の目的地は競技場だ、訓練用オリガミを所定の場所に置いておかないと授業で使う分が不足したりしてクレームが入るからな…俺が受ける筋合いは無いはずだが…まあ修復を請け負ってる以上は期日は守らないとな。

話してる内容的にも2人は新工房の方に向かうっぽいし、このまま別れて行くか。

 

 

 

 

研ぎの入れたオリガミは教官室に置いといて…メンテを済ませたダミーデバイスは競技場の各部屋に配置…何部屋あんだよマジで…

慣れたこととはいえかなりの数の束だ、肩が痛い。

見た感じ空いてる部屋は1つ…か、他は誰かしら使ってるらしい。

頼まれ事の最後の仕上げとして振り心地が変わったりしていないかのチェックを始める、これは並の技巧科の生徒じゃ出来ないからこそ俺にお鉢が回ってきたって訳だな。

 

 

ダミーデバイスを一つ一つ振るいながら感触を確かめる、概ね問題はなさそうだ。

と、他の案内を終えたらしく桜夜と刀輝が来ていた、使用中にして無かったから空きだと思って来たらしい、まあ空きではあるんだが。

 

「相変わらず技巧科とは思えない動きだな」

「そうか?そうなのかもな」

 

きっと刀輝が刃道の体験をさせる為に連れてきたんだろうな、なら俺は邪魔はしないでおくか。

ダミーデバイスを所定の場所に置いてると、ヨリシロ君の説明をしたりしている声が聞こえてくる、試合となると桜夜はイキイキとしてる気がするな。

不意に景色が変わる、刀輝が設定を変えたらしい。

ふむ…係数は90ちょい、か…並…かな、等と考えていると桜夜はあっという間にヨリシロ君を斬り伏せた、系統も高めで技術もある…いい選手になりそうだ。

 

「この学園で一番強い人と戦ってみたい」

 

そんな発言が聞こえて一瞬耳を疑った、刀輝も悩んでいる様子だ。

 

「一番強い…か…」

「無理…かな?」

 

悩みに悩んだ末、刀輝は俺を指さして来た。

待て、何故俺?一番強い奴なら椿じゃないのか…と言おうと思ったが、強い人としか言っていない、武芸科に限定しなければ俺も候補に上がるのはまぁ仕方ない事だった。

 

「龍月が一番強いの?」

「正確には椿さんとどっこいどっこい、よく2人で手合わせしてるらしいけど、戦績がこの間ので50戦25勝25敗って椿さんが言ってたかな」

 

合ってる、先週した手合わせで戦績はまた五分五分になった、型が同じ故にお互いの隙を突いた戦いになるからな…

 

「じゃぁ…まずは龍月とやってみたいな」

「なぁ刀輝…何で俺の周りの女性陣は皆俺と戦いたがるんだ?」

「類友ってやつじゃないか?強い人ってそれだけ何かを呼び込むって聞いたぞ」

 

お前がそれを言うか…なんて言う訳にもいかず、流れで桜夜と試合をする事になった…さっさと帰っとけばよかったな、まったく…

 

 

「桜夜、龍月は本気で強いから心してかかるんだぞ」

「うん、龍月の強さは少しは知ってるつもりだから…大丈夫」

 

知られてるらしい、戦ってるところ見せたこと無いはずなんだが…

オリガミを起動してバリアジャケットを展開する、俺のバリアジャケットは耐久性がかなり高いらしい、椿が削り落とすのに四苦八苦している事も多いくらいには…とはいえ速度にも自信はあるんだがな。

さっきのヨリシロ君とのシミュレートを見る限り桜夜はスピードファイター、それなら速度同士のぶつかり合いになる…はずだ。

 

 

ダミーデバイスを構えた桜夜と向き合い、シミュレートモードを起動する。

桜夜は少しの間様子を見ていたが、此方が居合の構えを取ると抜刀させないと言わんばかりに斬り込んできた。

 

「やあぁ!」

 

袈裟斬り、逆袈裟と連続的な斬撃、からの突き、薙ぎ払いと此方に行動させる隙を与えないようにしているようだ。

とはいえ…

 

「そこ!」

 

薙ぎ払いで生じた隙に居合を打ち込む、手応えは合った…咄嗟に身を引いて躱したみたいだが体感半分は削れただろうな。

緊張した面持ちで対峙する桜夜、恐らく次貰えば終わる…そんな顔だ。

…仕方ない、此方からも攻め込むか。

 

「すぅ…ふっ!」

 

軽く息を吸い込んで納刀したまま踏み込む。

小手調べに正面からの居合斬り、これは流石に防がれる。

続けて剣圧を乗せた突き「震天」を放つ、直線的故に避けられやすい技だ、案の定桜夜も回避している…が、横移動ではなく後ろに避けてしまっている。

 

「それは隙だ!早天!」

 

一足飛びに踏み込み、一閃しつつ切り抜ける、斬撃は辛うじて防いだようだが衝撃は大きかったようで、桜夜は体勢を崩していた。

俺が再度居合の体勢に入ると、立て直した桜夜が再び踏み込んで来る。

居合に重点を置いた流派故に対処法としては正解だ。ただの居合(・・・・・)、ならな。

桜夜の打ち下ろしを柄の底の部分で打ち上げ、そのままダミーデバイスによる居合と鞘を使った逆手居合を立て続けに打ち込む。通常の居合は寸での所で飛び退って躱したものの、追撃の逆手居合はモロに直撃し、桜夜のジャケットが規定値を下回ったアナウンスが流れた。

 

 

 

 

 

 

「うぅ…負けたぁ」

「だから言ったろ?龍月は強いって」

 

自分が使っていたデバイスを片付けながら桜夜と刀輝の会話に耳を傾ける。

刃道は初めてなのもあって動きはぎこちなかったが、慣れて実力をフルに発揮出来れば椿にも迫る武芸者になるんじゃないだろうか?

もしそうなった場合…椿は耐えれるのだろうか、何とかして支えてやりたい所だが…

 

まだ続けてヨリシロ君を使うらしい桜夜と刀輝を残して帰路に着いた。

 

 




2話目を読んでいただきありがとうございます(*・ω・)*_ _)ペコリ

桜夜がポンコツ化しているような元からだったような…?
独自設定マシマシな上にオリ主に対する好感度が高めですが、楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m


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